魔法少女リリカルなのは Stream (ふんわり)
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第1話 歪

やばい……あらすじの所の注意事項くっそ長くて自分でドン引き
序章無しでいきなり本編いきます。気が向いたら、そのうち三人称に編集し直すかもしれません(たぶんやらない)


イリスさんとアミティエさん達の、切ないすれ違いの事件……無事にイリスさんもエルトリアに戻って、やっと今回の事件は一区切り。マリーさんとシャーリーがエルトリアの技術を解析してることを除けば、あとはもういつもの日常……私たちは、それぞれの日常に戻っていきました。

それからは目立った事件はほとんど無くて。学校に魔導師にてんてこ舞いになってるうちにあっという間に時間は流れて……今日はいよいよ入学式がありました。おめでたい式、皆笑顔で幸せそう。

でも、私は最近悩んでいます。最近じゃなくて、魔法を手にしたときからずっとかもしれないけれど、最近は特に心のモヤモヤが晴れません。これは、そんな中学一年生の時に起きた事件。辛くて、悲しい……私の迷いの物語。

 

 

 

表- 高町なのはの日常 -

 

入学式の後、アリサちゃん達にお茶に誘われてたんだけど、身体検査があったからまた今度ねってして……今は本局。少し長めの身体検査が、ちょうど終わったところ。

「はい、終わりですよ。結果も異常無し。お大事にどうぞ」

「ありがとうございました!」

イリスさんの事件で大怪我してから、私は定期検査を欠かしてない。今日の結果も異常無しだったから、これからちょっと練習でも……

「念のため言っておきますが……今日は安静にしていてくださいね?」

「にゃはは……ダメ、ですか?」

「ダメです。高町さんは体への負担が大きい魔法を使う上に、加減もしませんから。シュートコントロールも、魔力で体に負荷をかけるのも一切禁止します」

「はーい……ライト先生、ありがとうございました」

ちょっぴり怖い女医さんにバレちゃってたから、練習は無し。でもせっかくだから……マリーさんのところに顔を出しておこうかな?

そう考えて研究室まで向かっていると、偶然マリーさんとすれ違って。ちょっと疲れた顔で心配だから、「無理しないでくださいね」って声をかけたら「なのはちゃんには言われたくないなぁ」って言われちゃったから、まだオーバーワークなのかも。

「そう言えば……フォーミュラシステムとヴァリアントシステムの実践配備ってまだまだ先なんですよね?」

「今、まさにそれで難航しててね……ナノマシンに、大火力。それに加えて異世界の技術だから、研究するだけでも一苦労。今のところなのはちゃんの体の中のナノマシンだけが手がかりだから、研究自体にもストップかかりそうで……」

「そう、ですか……。実現可能なら、もっと大勢の人を助けられると思ったんですけど……難しいですね」

「一応、ストライクカノンとフォートレスの方はカートリッジシステムを応用するって方向なら、何とかなると思うんだけど……それならそうで稼働時間の問題もあるし、一般配備って意味だと燃費が開発費用と釣り合わないから……ごめんね、なのはちゃん」

「いえ、ありがとうございます。それじゃあ、お医者さんに絶対安静って言われちゃってるので。マリーさんもお大事にしてください」

マリーさんと別れてから、今度こそまっすぐ帰ってる途中で……ストライクカノンやフォートレスに思いを馳せる。

あの事件で私が使った武装……火力は出るけど、正直なところ課題も多かった。稼働時間、出力限界、重量。それと防御面にデバイス管理。片手で扱える重量じゃないから、魔法はレイジングハートにお任せの最低限くらい。武装の耐久を上げないと、長期戦闘とか一対多を想定した戦闘では正直お話にならない。でも可能性は感じるから、実践配備できればデータを取ってデバイスにも流用できたりすると思うけど……現実はそう簡単にはいかない。

不安定だから、レイジングハートからフォーミュラシステムは外してもらった。その代わりにちょこっと改良を加えてもらって、総合的な戦闘力は外す前には劣ってない。どちらかと言えば短期決戦よりも長期戦向けになったってだけの話。でも、きっと全然足りない、私自身もだし……やっぱり、局員全体が底上げされないと万が一には備えられない。

「武装隊だけど志望は戦技教導官だから、ここまで気にしなくていいのかもしれないけど……でも、今度こそ私が皆を守れるように準備しておかないと……」

転送ゲートを通って、家に帰ってる途中でもこんなことを考えてる。イリスさんの事件からずっとそう。私はあの時、思ってたよりも何もできなかった。あの時まではまだ小学生だからって見てもらえたかもしれないけど、それも悔しくて。十分だよって言われても、手が届かなかった所ばかりに目が行っちゃう。火力に火力で対抗して、技術には技術で対抗して。そうやって力を力で打倒するしかできないことが限界なのが悔しくて。

プレシアさんもリインフォースさんも、フェイトちゃんもはやてちゃんも。本当ならシュテルもレヴィちゃんもディアーチェちゃんも、その他の人もみんなみんな、私にもっと力があれば、私がもっと上手く対処できてれば悲しませなくても良かったかもしれない。私が力不足だったから、流れなくていい涙が流れちゃったのかもしれない。

そう思うのは傲慢だってわかってるけど、でも思わずにはいられない……力を持つからこその、責任……

「おかえり、なのは。検査、よくなかったのかい?」

考え事ばっかりしてたから、いつの間にか家に着いてるのにも気づいてなかった。玄関を開けてリビングに着いたところでお父さんから声をかけられて、やっと自分がどこにいるのか気づけたくらい。

「ただいま、お父さん……。検査の結果は異常なしで健康そのものだったんだけど……あの、ちょっと聞きたいことがあるの……」

「聞きたいこと?そうだな……さしずめ、強くなりたいのに上手くいかない。そもそも強くなっていいのかどうかも分からない……そんなところかな?」

「わかるの?」

「父親だからね……って言いたいところだけど、残念ながら武人としての勘だよ。なのはは守るために武器を手にした。でも、本来なら武器は相手を傷つけ、場合によっては殺すためのものだ。それを理解しているからこそ、小学四年生の頃からずっと悩んでいる……違うかい?」

お父さんの目は鋭い……ううん、目は全然鋭くないんだけど、心が鋭い。刃みたいに心臓を貫かれて見透かされるような……そんな感覚。隠そうと思っても何も隠せない。

「違わない……ねえ、お父さんは力ってなんだと思う?小学生でも色々あって、中学生ではどうなっちゃうのかな……私、これからどうしたらいいのか分からなくて」

「その答えは自分で見つけなくちゃいけないよ、なのは。確かになのははこの数年で急に大人にならなくちゃいけなかった。悩む暇なんてなかっただろう?だからこそ、新しい階段を上る前に考えなくちゃいけない。わかるね?」

「うん……」

お父さんのおかげで少しすっきりしたけど、でもやっばり解決なんてしない。魔法の道を進むって決めたけど、だからこそ……私はこれから自分の身の振り方を考えなくちゃいけない。

ごちゃごちゃした頭をすっきりさせたくて、明日の学校の準備とか色々する前に私はベッドに飛び込むことにした。

 

 

 

裏- クロノ・ハラオウンとユーノ・スクライアの密会 -

 

完全個室であらゆるネットワークを遮断した部屋。無限書庫の仕事をしながらクロノに頼んでいたことがあり、その結果をクロノが直接伝えに来た。こんな部屋まで用意して、予想はできているけど、いい知らせじゃない。

「なのはの調子はどうだい、クロノ」

「ああ……良くはない。マリーから聞いているかもしれないが、かなり焦っている」

「本人も気づいていないほど……ということだね?」

「ああ。おそらく、なのは本人の自覚以上の焦りがある。ストライクカノンにフォートレス、さらにヴァリアントシステムにフォーミュラシステムの実用化の提案……結果から言えば、上層部の怪しい動きに拍車をかけている」

1年と8ヶ月前に起こった事件。なのはが小学5年生の夏に起こった事件は、思ったよりもなのはに影響を与えていた。魔法を分解する技術に、質量兵器の危険性。どちらも苦戦させられたし、後者ではなのはは右手を欠損する重傷を負って死にかけた。それに対抗する手段として使ったのが、半分質量兵器の武装。魔法で足りない事実に、表面上には出さなかったけどなのはは苦しんでた。だから……研究チームにエルトリアの技術の解析やカレドヴルフ社製品の研究を依頼したんだと思う。

なのはにとっては必要なこと。でも、それが良しとされるかは別の話。なのはを魔法の道に連れ出したボクには、なのはの安全を保証する責任がある。

「なのはは今の立場的には権力はそれほど無い……でも、PT事件に闇の書事件、おまけに1年と8ヶ月前の事件となれば、話題性からの影響力は十分すぎる。それになのは自信は気づいてない。違うかい?」

「よく分かっているな、ユーノ。なのはのことが好きだからか?」

「からかうのはやめてくれ、クロノ。そうじゃない……ボクとなのはは、そういう関係じゃないんだ。お互い望んでもいない」

「まだ罪悪感を抱えていると?少々傲慢だと思うが」

「罪悪感……違うよ。責任感だ。ボクはあの時、ジュエルシードの封印でなのはを頼ってしまった。どうもあの時、大きすぎる事をしたように思ってる。何か世界の運命を変えるような……とは言わないけど、少なくとも人一人……いや、なのはの家族の運命は変えたような気がしてるんだ」

PT事件……なのはがいなかったらどうなっていただろう。もしもあの時、なのはが魔法に足を踏み入れなかったら……きっとなのはは翠屋の手伝いをしながら将来に頭を悩ませていただろうし、それこそ年相応に恋もしていたように思える。その代わり……フェイトやはやて達が笑顔でいられるなんてことはあり得なかったかもしれない。もちろんクロノの能力やアースラチームの力を低く見ている訳ではないけど、遥かに暗い事件になっていたことは、きっと間違いない。

それくらいに……きっとなのはは愛されている。魔法にはもちろん、世界そのものに……と言っている勢力があるって話は噂程度に聞いてる。でも、あながちそれが間違っているとは思えない。

「それを言い出したら、僕だってロッテ達の運命を変えた。誰にだってそういうことはある。もちろん、なのはにもだ」

「それは分かってるつもりだよ、クロノ。なのはのことなら、フェイト以上に理解してる自信はある。だからこそ……心配なんだ」

「なのはの異常性……そういうことだな?」

「そう。なのはは、この道に誘い込んだ張本人のボクが言うのもなんだけど、はっきり言って異常だ。魔法に愛され過ぎてる……良からぬことに利用されかねないくらいに」

そう、なのはは愛されている……というよりも、きっと望まれている。勝利をじゃなく、強くなることをでもなく、魔法に触れることを。そうでも思わない限りは説明なんてつかない。

「フェイトやはやても似たようなものに見えるが……そういうことじゃないんだろう?」

「ああ……まず、フェイトは小さい頃から訓練を積んでる。魔力の変換資質は天性だけど、実力は細かい努力の積み重ねだ……しかも長い時間をかけての。次にはやてだけど、もちろん夜天の書に選ばれたという異常性もあるけど……純粋な戦闘能力って事で言えば、夜天の書やリインフォースⅡのサポートの部分が大きい。もちろんそれも十分並外れた才能だけど、なのはとはベクトルが違う」

「なのはの特別な要素は、強いて言えば空間把握能力のみ。後は……感覚的な魔法操作か」

「ああ。確かにそこはなのはの能力として挙げられるけど、ボクが言いたいのはそこじゃない。戦闘センス、ってことだよ」

確か、なのはの実家は何らかの武術をやってるって話を聞いたことがあるから、その血が関係しているとも言えるかもしれない。でも、そうじゃない。限界を簡単に越えてみせる能力、文字通り死力を尽くすことができるという才能、そして……学習能力と戦闘での頭の回転の早さ。

運動が苦手ななのはが、空戦魔導師としては破格の能力。模擬戦や試合じゃなくて「戦闘」って場面なら、なのはを打倒することは難易度が高すぎる。

「フェイトのような幼少期からの訓練でも無ければ、守護騎士のような豊富な実践経験でもない。はやてのように融合管制機とツーマンセルということでもない。それにも関わらず、こと『戦闘』という面で言えば、その能力値があれほど突出しているのは間違いなく異常、だな」

「しかも、なのはは基本的にはミッドの遠距離タイプ。近接戦闘でベルカの騎士と互角以上に渡り合い、エルトリアの事件では『何回か見た』というだけで、ナノマシン操作……『アクセラレーター』を習得してる。第一、レイジングハートの支援ありとはいえ、魔法を使いはじめてすぐに砲撃を使えるのは信じられない。今ではディバインバスターを片手で扱うのなんて朝飯前だしね」

「おまけにユーノ、お前が発掘した制止作者不明、出自不明の高性能インテリジェントデバイス……レイジングハート。僕からすれば、そして一般論で言っても……あれも十分に信じられない物だ。でもそんなわからないことだらけだからこそ……プロパガンダにはちょうどいい」

「なのはが利用されるとでも言うのかい?」

それは……正直に言えば想定していなかった話じゃないし、実際に聞いていなくもない。だけど、ダメ元でクロノに疑問を投げ掛けて……その苦々しい表情から、悪い話でしか無いことはわかった。いや、元から分かっていたけど、現実を突きつけられた。

「わかってるだろ、ユーノ。今まさに、管理局内外問わず、そういう動きが出てきている。フェイトやはやても少しは対象になっているが、やはり圧倒的になのはだ。エルトリア事件でストライクカノンとフォートレスを使いこなして事件収集に導いたことも、一部の勢力を活気づけてしまう結果にもなった」

「質量兵器推進派……だね。あの2つは、かろえじてグレーライン……基本的には質量兵器と言っていい物なんだろ?」

「ああ。もっとも、その勢力は管理局への反抗勢力で、比較的対処も簡単だ。もっと面倒なのは上層部……それに、地上本部だ。未知の技術によって魔法を無力化されたところでの、カレドヴルフ社だ。局内のどこの勢力がいつなのはに手を出すか、正直に言って予断を許さない」

「地上本部からすると、なのはは是非とも欲しい逸材だっていうのは、書庫に籠りきりのボクでも想像できる。でも上層部って言葉を素直に捉えるなら……正直に言って想定を越えてたよ」

「だろうな。僕だってこんなことは想定していなかった。なのは本人の預かり知らぬ所でここまで事態が複雑化している。早く手を打たないと、最悪色々と手遅れになる」

手遅れ……なのは自身の安否もだけど、クロノが想定しているのは局事態の混迷と一般市民への被害範囲のことだろう。なのはは中学に入学して、これからまさに思春期。悩みにつけ込まれたら……想像なんてしたくない。無理かもしれないとは思っているけど、なのはにはなるべく平和に過ごしてほしい。

「そうか……ありがとう、クロノ。踏み込んではいけないところまで踏み込んだだろう?」

たぶん、ここまで深く調べるには想像以上の手間と危険があったはず。危ない橋の1つや2つは渡っているはずだ。

「いいさ。無限書庫には果てしないほど無茶振りをしているからな。手間賃の先払いだと思ってもらってくれ。あと、このキナ臭い動きは母さんだけじゃなく、はやて達にも共有するつもりだ」

「なのは本人にはどうするつもりだい?」

「言わない方がいいだろうな……少なくとも今は。ただでさえ焦りと迷いを抱えてる時に、わざわざ刺激もしたくない」

それにはボクも同意する。なるべくなのはは危険から遠ざけたい。只でさえ自然と危険に巻き込まれるタイプだから、日常に近いところでは安心して暮らしていてほしい。

「わかった。なら、なのはに伝わらないようボクも注意はしておくけど……権力的な根回しは引き続きお願いするよ。その代わり、クロノからの依頼は目立たない程度に優先的にやるからさ」

「分かっている。もしなのはに何かあったら、フェイトも悲しむからな」

「クロノもすっかりいいお兄ちゃんになったね」

「やめてくれ……さては、さっきのお返しか? 依頼はとびきり面倒なものを送るからな」

「ごめんごめん。謝るよ」

最後に軽い冗談を交わしながら、今日のところは解散になる。ボクは再び無限書庫の仕事に戻りながら……なのはに久し振りに連絡して、お祝いメールを送ることにした。

 

ちなみに、クロノからの依頼はいつもの5倍は面倒だった。



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第2話 平穏

続けて2話目。プロットは6割できてるので、多分モチベは完結まで続くはず。


表- 高町なのはと八神はやての日常 -

 

「やっほー。なのはちゃん、検査結果どうやったん?」

お夕飯を食べてお風呂に入って、今から寝ようかなって思ってた時に携帯が鳴った。出てみたら元気すぎる声で、ちょっと悲鳴上げちゃうくらいには驚いちゃった。でも、今はこれくらいの方が嬉しくて……自然と私まで元気になれる。

「全然大丈夫!バッチリ健康だったから、帰りに練習していこうかと思ったら、先生に止められちゃったくらい」

「それはまた、なのはちゃんらしいなぁ。一生懸命なんもええけど、ちゃんと休まんと……わたしが無理矢理ベッドに縛り付けてまうよ?」

はやてちゃんの手でベッドに……それはイヤだなぁ。もっと雰囲気があるところでとかならまだしも、オーバーワークのお仕置きでってなると、いたずらされ放題なのは間違いないもん。

「にゃはは……それは、ちょっとイヤかも。大丈夫っ、今日はお夕飯の前までグッスリだったから!」

「うんうん、そのくらいが健康的や。でも、明日の小テストの勉強はええの?」

て、すと……?テスト、テスト……全然記憶にない。今日は入学式だけだったし、いくら大学の附属だからってそんな急に……はやてちゃんが嘘言ってる可能性もあるし。でも、聞き逃してるかもしれない……特に帰りの時間とか。

「えっ……!?し、小テスト……何の科目っ?え、それよりもいつ言ってたの!?」

「なんや、やっぱり聞いてなかったんか……HRのとき、担任の先生が言っとったよ?科目は数学。小学校のときにやった範囲の確認やったかな?」

「うそうそうそっ!何でもっと早く教えてくれなかったのっ!」

はやてちゃんが言うタイミング……あったはず!終わった後とか、メールでとか、いくらでも……なんでなんで!あれ、でも聞いてないなんて思わないかな?そんなこと無いよね?HR中とか授業中とかにイメージトレーニングしたりとか、それに熱中してうっかり授業聞き漏らすなんて魔導師と学生兼業してたらみんなあるはず……!

「聞いてると思ったわ……なのはちゃん、ちゃんと起きとったし」

「あ、あの時は……イメージトレーニングでユーリちゃんと戦ってて……」

「じゃあ自業自得やん?それで、相手が相手やからなのはちゃんが熱中するくらいの難易度なんは分かるけど……勝ったん?」

「もっちろん!今日はエクセリオンモードで勝ったの!」

あの時はガチガチに武装してたからだし、イメージトレーニングだから実際に戦ったら分からない。でも、少なくとも経験値にはなるはず。本音で言えばもっと強い人とじゃなくちゃなんだけど、さすがにあの時のユーリちゃん以上ってなるとデータがほとんど無いし……ユーリちゃんは魔導師だから、今のところは一番有効な特訓のはず。

「エクセリオンモード?それって、もしかしかくても……強化改修1段階目のときのあれやろ?」

「……?うん、そうだよ?」

「イメトレなのに、デバイスはダウングレードしてやってるん?」

「うん。縛ってできるなら、それに越したこと無いでしょ?さすがにバスターモードまでだと落とせなくて……私もまだまだかなぁ」

そう、私はまだまだ修行が足りない。たぶん、ユーリちゃんをバスターモードまでで倒せるくらいにならなくちゃ、この先の事件は乗り越えられない。はやてちゃんは基本的に範囲攻撃だし、フェイトちゃんは近接。私のポジションは代わりができる人はいないから……私が誰よりも強くならなくちゃいけない。まだまだ、まだまだ足りない。

「なのはちゃん……相変わらずやなぁ。ほどほどにしないと、今度はテスト範囲聞き漏らしてまうよ?」

「にゃああっ!そ、そうだった……はやてちゃん、また明日!勉強しないとっ」

でも今はテスト勉強が優先かも。早く勉強始めないと、さすがに無いとは思うけど居残りとかになったら嫌だし……点数もなるべく高くないと、みんなと比べたときにビリなのはもっとやだ。

「あははっ、早く寝るんよ?どことは言わへんけど、フェイトちゃんに成長追い抜かれてまうから。あ、もう結構前から追い抜かれとったね」

「もーっ、はやてちゃんっ!!」

言葉の端々でちょっとずつ一言足しておちょくるのははやてちゃんちょくちょくやるけど……今のは反則!次の模擬戦でボコボコに……って言おうとしたら電話切れてた。仕方ないから明日はやてちゃんにお仕置きしないと……!だいたい、私だってまだまだこれから……きっとフェイトちゃんにだって絶対負けないくらい……!

あぁっ!そ、そうじゃなくて勉強しないとっ!

 

翌朝、結局テストは合格できたけど……点数ではやてちゃんにもフェイトちゃんにも、アリサちゃんにもすずかちゃんにも皆に負けちゃった。でもそれ意外は基本的に順調で、英語も現代文も、中学の出だしは悪くないはず。体育以外、体育以外は。それと、今日の小テスト。ちょっと凹むなぁ……。

今はもう下校中だけど、学期始めから失敗しちゃって落ち込みぎみです。

「なのは、まだ気にしてるの……?」

「たまたまだと思うし、気にしない方が……」

「うー、でも……」

「なのはならどうせ次は満点取れるわよ」

「そうかなぁ……」

すずかちゃんは励ましてくれてるし、フェイトちゃんも元気付けてくれてるけど……アリサちゃんはトップだったから、余裕見せて言ってるだけだと思うの。負けたら誰よりも悔しがるし。

「そうやでー?あまり気にしてると……こうやっ!」

「ふにゃっ!?ち、ちょっと、はやてちゃ……んんっ……」

「はやて、公衆の面前で何してるのよっ!ここは……大通りでしょうがっ!!」

そういえばはやてちゃんはどこに……って思ったら、揉まれちゃう。はやてちゃんって、かなりテクニシャン……こんな才能をはやてちゃんにあげた神様を私は恨む、恨む、うら……めないかもしれない。

それにしても、怒ってるアリサちゃんかわいいなぁ……怒ってるからこその魅力って、アリサちゃんにしか無いと思う。有り余ってる元気をここぞってばかりに発散してるところなんて、すっごくかわいい。

「あいだっ……!ちょっとしたジョークやん……そういうアリサちゃんも、意外に揉みごたえがありそうな……」

「やめんか!」

みんな楽しそう。私の隣を歩いてるフェイトちゃんも、空気を明るくしてくれるはやてちゃんも。アリサちゃんは突っ込み役ですずかちゃんはお母さんかな?苦笑いするすずかちゃんの周りをはやてちゃんが逃げてアリサちゃんが追いかけて……。

あ、はやてちゃん頭かかえてる。アリサちゃんのチョップ、そんなに痛かったのかな……なんて思ってフェイトちゃんに目を向けてみたけど、「気にしなくてもいいんじゃないかな。いつものだよ」って顔してたから、きっと平気。いつも通り毎日平和。

「待ちなさい、はやてーっ!!」

「いややーっ!鬼さんこちら、手のなる方へ〜」

「こ、んのぉぉぉっ!」

「にゃはは……」

ちょっと騒がしいかもだけど、平和で賑やかな毎日。この日常を私は守らないといけない。何があっても、みんなが笑っていられる日常だけは守り抜かないと。その為にはもっと強くならないといけなくて……でも、力が無いと守れないけど、力があっても争いは起こって……今はどうすればいいのか分からないけど、きっとまた答えを出さなくちゃいけない時は来るから。その時までに、答えを出せる強さを身に付けておかないと……そんな事を考えながらみんなと別れた。また考えちゃったけど、バレてないといいなぁ。

あ、はやてちゃんにお仕置きするの忘れてた。明日こそお仕置きしなくちゃ。

 

 

裏- 八神はやてとクロノ・ハラオウンの密会 -

 

みんなと別れた後わたしは一旦家に帰る。今日はシグナム達が帰ってくるのも遅いから、目立たない服に着替えてお出かけ。そう、目立たない服で、散歩を少ししてからいつもの買い物。いつも通りに身支度をしていつも通りに家を出て、いつも通りに買い物のリストを確認したら……いつもとは違う路地に入る。

そうしたらそこには、いつもとは少しだけ違う世界。人気がない暗がりに、お互いの顔が見えないくらいの明るさの空間に、クロノ・ハラオウン……たぶん執務官……と二人きり。変な関係じゃなく怪しい関係。秘密の関係じゃないけど、秘匿している関係。今は……友人じゃない。

「それで、なのははどんな調子だ?」

「なのはちゃんはいつも通りや。良くも悪くもいつも通り。友達として言うなら……ちょっと心配やけど」

「友達としてなら、か……局員としてなら、どう思ったか聞かせてくれないか?」

客観的に見れば親しげな会話に見えるはず。でもそれは見えるだけ。仲が悪いわけではないし、不信感を抱いてるわけでもないけど、でも無防備にさらけ出すには相手が悪い。昨日の夕方に連絡をもらったときから仕事だとは気づいているから、それ相応に応対する。

「意地悪やなぁ……その聞き方、相手はわたしじゃない方がええんやない?」

「そうか?案外はやては『こっち』側かと思っていたんだが。だからフェイトじゃなくはやてに連絡した理由は、分かってるだろう?」

ふーん、なるほど。ユーノ君から連絡は受けてるし、クロノ君もそれは知ってるはずや。それを踏まえて、話せる相手……おそらくはそういうこと。確かにフェイトちゃんには荷が重いし……真面目すぎるうちの子らには不向きやね。なのはちゃん絡みの話やから、なのはちゃんに話を振るのは論外。3人目にわたし以上の適任はいないってことや。でも、これは素直に言わない方がええ。ちょっと搦め手で様子見やね。

「『こっち』側がどっちを指すのかはわからへんけど、わたしはわたし、いつもどんな時でも『八神はやて』や。そこに変わりはないよ。それに、わたしのこと買いかぶりすぎだと思うんやけどなぁ?」

「なるほどな……少なくとも正当な評価をしているつもりだが。まあいい。意見交換といこう。昨日直接伝えた情報、役に立ててもらえたか?」

話は短く正確に。変に探り合うつもりは無いってことみたいやね。全部は話すつもりはないけど、話した内容に嘘は入れない。入れてもユーノ君に看破されるのは間違いない。

正直に言えば、昨日もらった情報はわたしが欲しかったものやった。フェイトちゃんは生まれも育ちも特殊すぎて、どこかの勢力が隠れて利用するには目立ちすぎ。かと言ってわたしも同じやし、となれば問題はなのはちゃん。3つの事件に大きく関与して、しかも事件解決の功労者が、管理外世界の元一般人。利用するにはうってつけやし、もしもうちならまず狙う。このタイミングの良さからすると、3人とも考えてることは同じやったってことやね。

「あー、それなぁ……ユーノ君に依頼されたっていう情報やろ? 仮に全部真実だとするなら、杞憂っていうのが感想やね。今のところは」

「そうか……今のところは、か。どのくらいだ?」

「感覚で言うなら……あと1回は最低でも。2回目は分からへんなぁ……その時は対応しきれるかどうか」

もらった情報自体はあり得る話やし、なのはちゃんの焦りも気づいてる。だけど、正直に言えば今すぐにどうこうなるって話やない。何もなければ、取り越し苦労で終わる話で、そうあってほしい。でも……万が一近いうちに1つでも何か起これば、なのはちゃんは耐えきれなくなる。溜め込んできた不安も悲しみも破裂する……かもしれない。

だからこそ、具体的な対応は早いうちにしておく必要がある。新生活から始まる1年間、感情が不安定なこの時期だからこそ、何が起こるか分からない。対策は……早く立てるに越したことはない。

「万が一のときは、はやてはなのはの方に向かってくれ。守護騎士がどう動くかが不安だが」

「シグナム達は動けへんよ。そもそも、わたしが動けるかどうかも怪しいくらいゆうんは知ってるやろ?あれから時間は経っとるけど……私たちは未だに警戒されとる。辛うじて身の回りには鼻つまみものにされてないのがやっとや」

万が一が地球で起きれば、高い確率でわたしかフェイトちゃんが対応できる。でも……その時に正式な捜査ってなれば、間違いなく身内に近い人材は極力排除される。ましてやフェイトちゃんもわたしも過去の事件の重要参考人。なのはちゃんに何かあれば、管理局が関わらせたくない人物の1位2位や。

「はやて一人くらいなら僕が何とかできる。守護騎士は、局が押さえてくれるくらいの方が僕にとってはありがたい」

「はぁ……難儀やなぁ。なら、クロノ君は他方面の足止めお願いや。はぁ……フェイトちゃんにバレたら何て言われるか」

わたし1人……そう。もしも何かあった時でも力業で事件に対応させてもらえる一人に選ばれたのは、それ相応の責任がある。友達のことを騙しながら、疑いながら……信じて、慕って、関わる必要がある。

フェイトちゃんに知られたら、間違いなく何発か殴られてまうなぁ……絶交されなければいいんやけど。それに、フェイトちゃんは確実になのはちゃんに伝えてまう。あくまでもまだIFの話。もしもの時には、フェイトちゃんにはちゃんと活躍してほしい場面がある。

「それはそれで利用するタイプだと思っていたが。そのくらいの度量はあるだろう?」

「そういうクロノ君こそ、ユーノ君とは『いい関係』なんやろ?」

「ふっ……お互い面倒な立場だな。心配しなくてもフェイトにはまだ伝えてない」

「まったくやね。なら、わたしもエイミィさんには何も言わないでおく。でも、クロノ君が面倒なのは性格のせいでもあるんやない?」

知り合いとこの手のやり取りをするのはいい気分やない。でもこれはなのはちゃんの為や。なのはちゃんにもしもの事なんて何も無いように、先回り先回りして対処するための大前提。だから……これはわたしの仕事や。

「君は僕のことを何だと思っているんだ……そのまま返してもいいんだが?」

「それは勘弁やね。ユーノ君は無限書庫、クロノ君は信頼の厚い執務官、わたしはなのはちゃんの友人として。これからも『いい関係』でいられたらええなぁ、クロノ・ハラオウン執務官」

「ああ……こちらこそよろしく頼む、八神はやて特別捜査官候補生」

話を締め括ってから、わたしが先に大通りに出る。いつもとは違う時間が、これからはいつも通りの時間になる。お互い不自然じゃない程度に、いつも通りの時間。誰にも話せないし、不審にすら思われてはいけない。家族にも、友達にも、職場の先輩にも。だから無反応で大通りに出ると、いつも通り夕飯のお買い物をしてから、いつも通りに帰宅。きっとこれからパラパラとみんなが帰ってきて、なるべく全員揃ってから夕飯。

この「いつも通り」が続くかは分からないから……私は常に先を読もうとする。何があってもいいように、心を平衡に保てるように、「今まで」をお腹の中に飲み込んだまま、客観的に見つめ続ける。




日常回苦手だー。永遠にシリアスとバトルシーンと恋愛シーンだけ書いていたい。


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第3話 響応

バトルシーン書いてるの楽しい(上手いとは一言も言ってない)


表- 高町なのはとフェイト・テスタロッサ・ハラオウンの日常 -

 

「ふぅっ…はぁ……んっ!」

左から散弾、上から斬撃……足元を固定しないままディバインバスターを左手で打って、反動で吹き飛びながらシューターセット。

「シュート!」

発射したらすぐに動く。2発はフェイトちゃん用の牽制にしながら、8発ははやてちゃんに飛ばす。

「Master!」

「わかってる。ストライクフレーム展開」

はやてちゃんの砲撃と、フェイトちゃんの追撃。砲撃はギリギリまで引き付けながら、回避運動を取らせまいと発射されたプラズマランサーはストライクフレームで相殺。爆風に紛れて逃げようとするけど、フェイトちゃんはまだ追撃してくる。このままだと逃げられない……でも……背後ってフェイントかけてから……あえて正面から斬撃。ここは読みきった。

「Restrict Lock」

「レイジングハート、モードリリース!」

片足だけでいい。強度もそんなにいらない。躓かせる程度のバインド。砲撃はすぐそこまで来てる。モードリリースしながらバリアジャケットもオフ。

「きゃあぁぁっ!」

砲撃は何とか腕に当たっただけ。衝撃で飛ばされたけど……距離は稼げた。ここからは速度が大事。フェイトちゃんは砲撃から逃げ切れなかったはず。はやてちゃんの空間制圧魔法に囲まれてるけど、発動の瞬間に…!

「レイジングハート!」

「Alright. Set up and protection」

強引すぎるけど……セットアップの時の保護フィールドでダメージ軽減しながら、プロセス完了し次第障壁で防御。そっちはレイジングハートに任せて……

「く、ぅぅぅっ!あぁぁぁっ!!!」

衝撃で両腕が震えながら集束魔法。でも、まとめる必要は無い。それに……集束させるのもここじゃない。

手からちょっと離れたところにでも、集束はできる。シューターは必ずしも手元に展開するわけじゃないから、これも同じ。それに、砲撃するわけでもない。

「く、ん……ふぅ……はぁっ……!」

準備はできた。ちょっと無茶しちゃってボロボロだけど、爆風に紛れながら……ダメ、これは間に合わない……

 

「にゃあぁ……だめだぁ……」

撃墜アラートが出たところでシミュレーションは終わり。これから使った魔法と戦術、使われた魔法と戦術を復習しながらレイジングハートと念話で反省会。フェイトちゃんが休憩でお茶を入れて帰ってきちゃうまでに何とか……。宿題やりながらこっそり練習してて、休憩時間にしてもらったのに練習してるなんて秘密にしておかないと、また怒られちゃう。

えと、今日の点数は……

「15 out of 100. (15点ですね、100点中)」

「にゃはは……厳しいなぁ、レイジングハート」

「For your sake. (あなたのためです)」

「うー、わかってるけど……」

「Don't worry. You'll get better, me too.(心配しなくとも、まだまだ飛べますよ。私も)」

「ありがと。一緒に飛ぼうね……もっと速く、もっと高く」

「Alright……definitely.(ええ……絶対に)」

会ったときから、レイジングハートは優しくて厳しい。確かに今回のシミュレーションは変化球というか……突拍子も無いことを試してみたかったから、その分点数も悪いけど……確かに中身は最悪だったかも。

裏目に出てたとは思わないけど……役には立ってない。もっと魔法の幅も広げて戦術の幅も広げないと、未知の相手どころか一人で高ランク魔導師複数人相手するのも……。

「やっぱり、バインドとか転送魔法みたいな補助魔法の練習が先かなぁ……あ、でも新しい魔法の方ももうちょっと詰めたいし……ね、どっち先にやろうか」

「なのははその前に休憩です!」

「ふぇ、フェイトちゃん……!?いつから……」「今さっき。なのは……今日の練習は終わりって約束したよね?ほんの一時間くらい前に」

気づけなかった……さすがフェイトちゃん。でもやっぱり迂闊だったなぁ……念話にするべきだったかも。シミュレーションが終わったとは言っても気が抜けすぎ……実戦だったら堕ちてた。気を付けないと。

「そ、そんなに怒らないで……ね?」

「別に怒ってないよ?せっかく訓練終わって宿題一緒にやってたのに、今度はシミュレーションやってるなんて……なのははいつもの事だから」

「な、何のことかなぁ……」

あれ、もしかしてバレてる……? 時間さえあればシミュレーションしてたり魔法の練習してたりとか、いまだに日常生活に魔力負荷かけながら生活してたりしてること……昔クロノ君に聞かれたことはあるけど、最近は話してないはずなのに……。

「授業中、登下校、お昼ごはん、買い物。心当たりは……?」

「あ、あります……」

バレてた……全部じゃないけど。それ以外にもお風呂とか寝る前とかちょっと時間空いた時とかもやってるけど。むしろ、寝る時以外は基本的に魔力負荷かけてるけど。でもバレちゃってるなんて……これから、フェイトちゃんがいる所ではシミュレーションはやりにくくなっちゃうかなぁ……。

「それで、何やってたの?」

「えっとね、フェイトちゃんとはやてちゃんタイプの魔導師を1度に相手した場合のシミュレーション」

フェイトちゃんの顔が呆れ始めてる……やっぱりフェイトちゃんは優しいなぁ。まだ見放さないで一緒にいてくれるなんて。でも、だからこそそんなフェイトちゃんも守るために、負荷をかけたトレーニングしなくちゃいけない。

「はぁ……なのは、今日の訓練内容言ってみて?」

「基礎訓練の後に久し振りにフェイトちゃんと合同訓練だったから模擬戦やって、その後に反省会とフォローアップ」

厳密に言うと基礎訓練はこっそり負荷かけながらだったし、訓練始まる前にも練習してたんだけど……教官に陰で怒られちゃったからフェイトちゃんには言わなくてもいいよね。ごめんなさい、フェイトちゃん。なのはは悪い子です。紅茶が冷めないように魔力で温度を保ってくれてるくらいフェイトちゃんは優しいのに、私はフェイトちゃんに秘密を持っちゃう悪い子です。

「そう。結構ハードな内容だったよね?なのはも結構疲れてたと思うんだけど……なんで今もそんなシミュレーションしてたの?」

「えっと……模擬戦でフェイトちゃんのデータ更新できたから」

これは本当。せっかくだから実戦の感覚が残ってるうちにやらないと勿体ないし、それだったらはやてちゃんのデータも合わせて2対1の特訓した方が幅も広がるし……やりたいことも色々あるから時間は有効に使わないと。対集団用トレーニングに多人数の高ランク魔導師用のトレーニング、それに極端に強い1人を打倒するトレーニングに……本当に色々有りすぎて、時間はいくらあっても足りないくらい。

「なのは、帰りまでレイジングハート没収」

「なんでぇっ!?」

あぁっ、フェイトちゃんずるいっ! こんなところで加速魔法使うなんて……そこまで信用無いかなぁ……確かにこっそり反省会やるつもりだったけど。でも、そうでもしないと時間は足りないし……あ、でもさすがにこれ以上はフェイトちゃんに見捨てられちゃうかも……それは嫌だなぁ。でも、時間は無駄にしたくないし……こうなったら!

「理由が分からないなら返してあげません!」

「あ、ちょっとフェイトちゃんっ……! レイジングハート、今のシミュレーションの反省点とか、対応した訓練メニューとか……色々お願い!」

「Alright, my master. 」

「なのはぁ!!」

今度こそ怒られた! レイジングハート助け……あ、ダメかも。睨まれてる……角とか牙とか生えてそうなくらい怖い顔で。こんなに怖いフェイトちゃん見たこと……あ、先週も見たかも。あれ、3日前だっけ。でも、怒ってるのに紅茶冷めないようにしてくれてるフェイトちゃん、やっぱり天使。

「ひっ……!あ、あの、その……ね、フェイトちゃん」

「ふんだ。もういいよ……なのははオーバーワークで倒れて私に看病されなくちゃ分からないみたいだし」

あ、でも看病してくれるんだ……優しい。それに、いじけてるフェイトちゃんかわいい。さすがに空気読んでやらないけど、抱き締めてあげたいくらいかわいい。顔をそっぽ向けちゃってほっぺ膨らませちゃって……そのほっぺを指でつつきたい……!やらないけど。

「うぅぅ……ごめんなさい」

「でも、直すつもりないんだよね?」

「寝る前はやめて朝起きてからにするね?」

あ、ダメだったみたい。嬉しそうな顔じゃなくて諦めた顔してる。あれ、でも諦めてくれたならこれからもシミュレーションできるから結果オーライ?

あ、レイジングハートもちょっと嬉しそう。レイジングハートはフェイトちゃんほど厳しくないけど……本当は私のこと止めなくちゃいけないんだろうなぁ……。さっきまでバルディッシュに怒られてたように見えたし。

「もういいよ……紅茶飲んだら、数学の問題集の続き一緒に解こう?一緒に、ね」

「じゃあその後は現代文一緒にやろ?宿題、分からないところあるでしょ?」

「ありがとう、なのは。漢字は分かるようになったけど、熟語はまだ難しくて……」

「にゃはは…仕方ないよ。日本人でも難しいから」

フェイトちゃんに嫌われたくないから、帰るまではトレーニングはおしまい。せっかくだから天使フェイトちゃんに癒されながら勉強しよっと。そうしたら、家に帰ってから元気溌剌で憂いなくシミュレーションできるし、早起きして早朝訓練もできる! あ、教官にトレーニングプランの提案書送っておかないと……。

 

 

裏- フェイト・テスタロッサ・ハラオウンの独白 -

 

なのは、前よりも忙しいのかな……自分では取り繕えてるつもりかもしれないけど、全然そんなこと無い。クロノも母さんもみんな心配してるけど、なのははたぶん気づいてない。もっと、もっと……って気持ちが強すぎて周りが見えなくなってるんだ。

だから……バレて無いって思って一日中無茶ばっかりしてる。でも、私には止められない。私の言葉はなのはに聞こえるけど届ききってない。私だって強くならなくちゃいけないけど、それがなのはをより焦らせるから。こういう時ははやてとかアリサに任せるしかできないのは歯がゆいけど……その分、私はなのはの側でなのはを安心させてあげられる。

なのはは正直に言って凄い。もともと才能はあるけど、それ以上に……一日中戦闘のことを考えていられるのが凄い。それも毎日。凄いって言うより……時々少し怖くなる。小さいときから……プレシア母さんやリニスと一緒に暮らしてた時から魔法の練習をしてた私でも、1日の半分も集中していられない。

でも横で見てれば分かるけど……なのはは魔法に没頭……違うかな。執着してる。運動は苦手だけど魔法戦闘は得意で、人間関係は正面突破だけど戦闘は詰め将棋みたいに細かい所を詰めて逃げ道を無くす……確実に決められるタイミングでしか大技は撃たないけど、必要なら強引な手段も使うし、柔軟な対応もしてくる。正々堂々が好きなのに、それはそれとして勝ちに拘れる。

だからこそ、模擬戦でこそなのはに勝ったり負けたりだけど……仮になのはと対立することになったら、私はなのはに敵わない……と思う。一対一なら勝てる気がしない。

はやては天才って言うし、クロノは才能って言うけど……私から見たら全然違う。なのはは誰よりも執着が強い。執着できるから、いつまでもどこまでも上を目指せるし、諦めないでいられる。

同じ局員でなのはに嫉妬してる人は『インテリジェントデバイスだから』って言う人もいるけど、きっと違う。例えばなのはがレイジングハートじゃなくてただのストレージデバイスと出会ってたら……きっと戦闘スタイルが変わっただけ。レイジングハートがいたから『砲撃戦魔導師』としてのなのはがいたけど、いなかったら『近接戦魔導師』のなのはがいたはず。士郎さんの剣術を習いながら魔法に昇華して……また別の強さを持ったなのはがいたと思う。

言い過ぎ?違うよ、バルディッシュ。それがなのはだから。折れない心……でも、それ以上に折れないことへの執着。『不屈の心』じゃなくて『不屈の執着』。だからって私がなのはから離れることは絶対に無いけど。クロノは最近忙しいみたいだし、はやてもたまに疲れた顔をしてる。だから私がなのはから目を離しちゃいけないんだ、絶対に。なのはが傷1つ負わないように、2度となのはが危険な目に会わないように……私がなのはを守る。管理局員だから難しいかもしれない……けど、私個人は絶対になのはを守りたい。

 

「その時は手を貸してくれる?バルディッシュ」

「Yes, sir. (了解しました)」

あ、ちなみに女の人に『sir』って使っちゃいけないって知ってた?女の人には『ma'am』って使わなくちゃいけないんだって。

「……Yes, ma'am」

ふふっ、変な感じだね。今まで通りでいいよ、バルディッシュ。

「Yes, sir.」

 

 

狭間- 蠢く者 -

 

「それで、手筈はどうなのかね?」

「順調です、元帥。高町なのはの監視、及び周辺人物の行動は隈無くチェックしております」

そこは何も見えない空間。光の一筋も入らない空間に声だけが反響して、やがては消える。しかし静寂が訪れることはない。推測するに50歳ほどの男性の機嫌が良さそうな笑い声。恐らく男性の手駒だろうと想像できる人物の、冷徹な反響。

事前に情報を掴んで天井裏に待機していたとはいえ、顔までは見えないか……でも、会話は十分に聞ける。バレはしない……はずだ。

「クロノ・ハラオウンはどうだ」

「使えそうです。母親共々こちらの手の内にありますので、今頃は偽の情報を流して内部から撹乱している頃かと」

姿を見られぬよう闇に紛れて秘密の会合。お互いですら相手の姿は見えておらず、しかし意思疏通はしっかりとできているようだ。かなり親密な関係そうにも見え、そうでも無さそうにも見える。

「偽の情報の割合は?」

「真実が8割、嘘が2割と言ったところです。内容の報告は受けています」

「よろしい。これで奴らは動けまい。我々の邪魔をする者はいない、ということだ」

奴ら……邪魔者……何のことだ?まだ知らないことがある、ということか。さすがに簡単にはいかないな。

「はたして、高町なのはが我々の味方をするでしょうか」

「するさ。彼女を影で崇める者が多い一方で、疎む者も多い。そいつらを利用する」

やはり狙いはなのはか。過去3回の事件で目立ちすぎだとは思っていたが、ここまで上層部の人間にも狙われているとなると……もう少し身長に動く必要があるな。武装隊や魔導師だけじゃなく一般職員にも注意しておく必要がある……か。

「なるほど……それでクロノ・ハラオウンを」

「そう言うことだ。奴は有能だが、他の奴等は使い方を間違えている」

「さすがです、元帥。それでは我々はそろそろ時間ですので」

時間……何かするつもりか。でも元帥から目も離せない……人手不足は否めないな。さすがに無理があったか。でも仕方ない。取り敢えず長期的な危険を考えて元帥を優先しよう。

「ああ、最高評議会の老害共を引きずり下ろすぞ、同士よ」

なるほど、最終的な狙いは最高評議会か……帰って情報を精査するか。ペラペラ喋ってくれて感謝するよ、元帥と誰か。




なのはの頭脳労働者陣はかなり有能だと思ってる私。


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第4話 安穏

書くのが楽しくて長くなりました。1.5倍くらいですね。お気に入り付けてくださった方、評価付けてくださった方、どうもありがとうございます。もちろん読んでくださっている方も、感謝感激です。
あと、若干オリジナル要素入ってます。教導官のイケオジとか、レイハさんの新形態とか。イメージ的には、ケリュケイオンとリボルバーナックル(両手)を足して2で割ったくらいのゴツさかな……?


表- 八神はやての戯れ -

 

今日は出勤の日。放課後に友達のお誘いを断るのは辛いけど、小学校からの子が多いから忙しいの分かってくれてて、少し安心できる。執務官試験の対策にデスクワーク、今日は無いけど戦闘訓練もあるし……なのはのことはいつも気になる。色々な部署に出向して回ったりもするから時間はいくらあっても足りない。

それでもちょっとした時間はできるから、そういう時はカフェで休憩……でも今日はいつもの席に先客がいた。

「あれ、フェイトちゃんやん。今日はなのはちゃんのお世話はええの?」

いたのははやてだけど、リインは一緒じゃないみたいで今日は1人。開口一番にからかってくるのがはやてらしいけど、反応してたら切り無いからまともに対応しちゃうのが実は一番。

前に「お節介なお母さんみたいに言って……!」って怒ってみたけど、「はいはい、ラブラブやね」って返されちゃったからって言うのは内緒。

「うん。今日はシグナムが見てくれてるから」

「あー、そういえば言っとったなぁ」

「はやてこそ、リインはいいの?」

リインははやてのデバイスって扱いになってる筈だから、一緒にいることは多いって聞いてるけど今は違うみたい。一人だけだと、はやては何となく寂しそうに見える。

「今日はヴィータのところで研修や。うちの子ら皆、まだ部署が安定せえへんのや。フェイトちゃんもやろ?」

「さすがに私は収まってきたけど、まだ少しは……。なのはは基本武装隊だけど捜査官もするし、色々な色々な高ランク魔導師さんと戦闘訓練もしてるって」

戦技教導官になるために勉強も頑張ってるみたいだけど、なのははやっぱり訓練の方が多い。私はむしろデスクワークの方が多いけど、その分執務官試験との両立は厳しい……次こそ受かりたいなぁ。

「なのはちゃんは、やっぱり戦闘要員みたいやなぁ……フェイトちゃんはどっちかって言えばデスクワーク中心なんやない?」

「半々くらいかな。今は落ち着いては来たけど色々なところをたらい回しになってるのは本当だし。アルフは……そろそろ前線は引退するつもりかも。家で母さんの家事のお手伝いしてることも多いし」

中学生が近づいてきた頃からアルフは前線にはあまり出なくなってて、家で働くことも多くなってる。ずっと一緒だったから、仕事の忙しさ以上にそれが寂しい。今度の日曜日はちゃんと子犬モードから解放してあげて、色々発散させてあげないと……。

「なかなか一緒っていうのは無理なんやね……わたしらも家族バラバラ……っていうよりも、なるべく一緒にならへんようにされとる」

それはありそう……なのはが右腕無くなったときも、主治医はシャマルさんから早々に変わったし……。なるべく関係者を同じ部署には置きたくないけど、機嫌を損ねたくはない……そういうことかな?

データは定期的に取りたいみたいだから訓練って名前の模擬戦だけはやるし、色々な武装の実験台にもされるから意外に寂しくは無いけど。

「あー、平気?もし何かあったら私でも誰にでも……」

「平気や平気。よっぽど家に帰れば一緒やし、メリハリが付いてええくらいや」

平気って言ってても、はやてはなのはとは違うベクトルで無理してることが多いから、少し信用できない。ただでさえ敵視されてることが多いから……。

「それよりもなのはちゃんなんやけど……シグナムと一緒で平気やろか」

「どういうこと……?一応、無茶はさせないようお願いはしてきたけど」

「シグナムがなぁ……今朝、凄く機嫌良かったんや」

機嫌がいいシグナム……それは少し不味いかもしれない。シグナムはいつも冷静でいてくれるけど、戦うことってなると時々抑えが効かなくなることもあるから。だから予め朝に連絡しておいたんだけど。

「だ、大丈夫だと思うよっ! シグナムも『加減はする』って言ってたし……」

「フェイトちゃん……シグナムの『加減』ほど信用できひん言葉はないよ?」

シグナムの加減……言われてみれば確かに。10から9に減らして加減って言ってそうな気もするし……その気になったら12くらい出しそうな気もする。

そこに関しては人のことを言えないけど。

「で、でもさすがになのはだって、シグナム相手に接近戦は避けるんじゃ……」

「近接戦闘のプロフェッショナルと真剣勝負できる機会……なのはちゃんが見逃すと思えへんなぁ」

確かに、2年前のなのはならともかく……デバイスの改造とか近代ベルカ式のデータ取りに協力してる、今のなのはなら……本気のシグナムに果敢に接近戦を挑むかもしれない。そうなったらちょっと危ない。たたみかけるようにはやてが口を開く。

「シグナムを煽って乗せて、空いてる人にデータも取ってもらいながら、好きな距離、嫌いな距離を色々試してできるだけ手札を引き出して……なのはちゃんならやりそうやない?」

あ、あぁぁ……ダメ、それはダメ。絶対にやる気がしてきた。なのはならやりかねない。止めなきゃ……でも仕事が…でも止めなきゃ……でも仕事が……でも止めないと何が起こるか……。

「い、今からでも合流した方が……!」

「無理……っていうよりも無駄やね。まあ、さすがに本気1回2回でどうにかなるほどなのはちゃんの体も負担はかかってないやろうし……止めても止まるような性格でもないし。それに、今日の仕事も残ってるんやない?」

こういうところははやては鋭い。鋭いし、よく見てる。シャマルさん経由でなのはの体調のこともたまに聞いてるって言ってたし……心配性なところがあるからかも。

「なら、お互いに仕事はできるだけ早めに切り上げて二人のフォロー、だね」

「そうやなぁ……。今日は桃子さん達も忙しい言うとったから、わたしの家でお食事会やね。お説教しながらリフレッシュや」

ああ、明るいなぁ……はやては明るいから、元気をもらえるし、安心させてくれる。私にはできない方向で皆のことを支えてくれるから尊敬してる。でも、それだけに抱え込みすぎることもあるんだけど。

「平気? 急に二人も増えたらはやても大変なんじゃ……」

「それがな?今日は急にシャマルとザフィーラがお仕事入って食卓が少し寂しかったんよ。っと……桃子さんとリンディさんの許可も今取れたよ」

「そうなんだ……っていつの間に。母さんだけじゃなくて、桃子さんの許可なんてどうやって……」

「だって、わたし2人とメル友やし」

はやてらしい……凄く。母さんがはやてとメールしてるなんてこと知らなかったし……なのはも知らないと思う。こういう風に知らない間に人脈を広げるのが、はやては上手い。

「そ、そうなんだ……それじゃあお願いできる?私は一刻も早く仕事を終わらせないと……!」

「なんや、もう行ってまうん?まだ休憩時間残ってるやろ?もう少しだけお話ししてったらええのに」

「だけど、早くしないとなのはが無茶しすぎちゃうから。私が見てないとすぐに無茶するし……レイジングハートは意外と止めないし」

せっかくのお誘いだけど……なのは達は止めても止まらないのに、止めないと無茶が加速していく。こう言うところはバルディッシュとはやっぱり違う子なんだって感じる。

インテリジェントデバイスは、ちゃんと個性が根付いてる。

「I'm annoyed. (困ったものです……本当に)」

「なんや、2人とも結構心配性やなぁ。そんなに心配なん?」

「当たり前だよ。今度何かあったら、腕じゃ済まないかもしれないし」

腕だけじゃなくて脚とか……お腹とか……想像しただけで怖い。

「We don't want to lose my friend. (親友を失いたくはありませんから)」

「なんや、バルディッシュえらい入れ込んどるなぁ……そんなにレイジングハートのこと好きなん?」

あれ、珍しい。はやての矛先がバルディッシュに……でも止めない方がいいかも。普段は無口な子だから、正直私もすごく興味ある……。ていうか、そうじゃなくても興味ある……インテリジェントデバイスの……恋愛事情!

え、でもそこまでプログラムされてるの?ただの友達かもしれないし……。

「She's good "friend." Nothing more, nothing less.(『親友』です。それ以上でも以下でもありません)」

「あははっ、そんなに必死にならなくてもええんやない? そんなに『友達』として大好きなん?」

なんだろう……お互いに難しい駆け引きしてるような……。あ、でも心なしか友達の部分だけバルディッシュも強調したような……あれ、ひょっとして、ひょっとする?

「Are you tease me?(……騙しましたね?)」

「わたしは何も騙しとらんよ?あれ、何と勘違いしたのか教えてもらえへんかなぁ?」

ああ、はやてすっごくいい顔してる。これ以上無いくらいのオモチャを見つけたみたいな……。でも、こんなバルディッシュ見たこと無いから新鮮……もっと聞きたいけど、そろそろ限界かな?

「I don't know.(知りません)」

「あらら、嫌われてしもた。それじゃあわたしは仕事に戻らなあかんから、また後でなぁ」

あぁぁ、残念……でも得した気分かも。これからはバルディッシュとこういう話をしていけたら楽しいのかな?

でも、バルディッシュ……敵が強大すぎるよ。

「She's lively…as usual. (騒がしい方ですね、相変わらず)」

「あれでもかなり心配性なんだよ? それに優しいし、面倒見もいいし。他のところで色々台無しにしてるのは否定しないけど……」

家庭的だし仕事もできるし、モテてもおかしくないのに損をしてると思う。よくよく話してみると意外に乙女なのになぁ……。

「By the way……the otherday, she groped……(そういえば先日も胸を……)」

「そうそう、胸を…って、バルディッシュ!?そ、それ以上はだめ!って、何で知ってるのっ!?」

「She provide the video for me now.(八神はやてから映像を提供してもらいました)」

これ絶対にバレてた……庇わずに面白がってたこと。普段は怒らない分、意外に根に持つんだよね……。それにしても、あの時のお風呂場でのことがまさか録画されてて……しかも、バルディッシュに送るなんて……!

「はやてぇっ!!」

うぅぅ……はやての癖はどうしたら治るんだろう。自分だって大きいんだから、自分のを、その……揉めばいいのに。そんな事言っても、「自分でやっても楽しくないんや!」とか言いそうだけど。

「Also, I received a e-mail from her.(それと、彼女からメールを受信しています)」

「開いてくれる?」

どうせ、またからかわれるんだろうけど……

 

なのはちゃんのことを一番知っとるんは、フェイトちゃんやないよ?だから、もうちょっと肩の力抜いてこう?

八神はやて

 

「バルディッシュ、これだけ?」

「Yes」

どういう意味だろう。流れで考えてからかわれるのかと思ったけど……心配されてる?でも、心配されてるような…挑発されてるような……でもやっぱりからかわれてる?

どっちにしても、はやてはきっと私の気を紛らわせようとして言ってくれてるんだと思う。でも何だろう……ちょっとモヤモヤするような、そうでもないような。弄ばれてるようで、本気のようにも見えるのが少し不可解かも…しれない。

 

 

烈- 戦闘狂の宴:高町なのはの場合 -

 

結界が張られたトレーニングルームの空を舞いながら、牽制のシューターを撒いていく。シグナムさんに接近されないよう弾幕を絶やさないようにながら、アクセルとコントロールを使い分けて隙を見据えて……

「はぁぁっ……!」

それでもシグナムさんは蛇腹剣でシューターを一掃してから突っ込んで来る。左右のフェイント……正面……違う。右の……下段!?

「っ…、くぅぅ…!レイジングハート!」

「Break Mord」

踏み込みの鋭さに注意しながらギリギリのところで杖の部分で受け止める。でも受け止めた次の瞬間には、もう刃はそこに無い。視線で追いながら誘導弾の生成……は間に合わないから考え方を変える。

今は新形態の試運転も兼ねた模擬戦。試したいのは新形態だけじゃないけど、とりあえず今日の目標はシグナムさんに近接で勝つこと。振り下ろされる剣を、レイジングハートが形を変えたアーマーグローブの甲で受け止めて凌ぐ。

「ほぅ……新形態か。面白いっ!」

「まだお試し……ですけどねっ!!」

「構わんっ!」

「Explosion」

レヴァンティンが炎を纏って破壊力が上がる。 やっぱり正面からだと押しきられるかな……。でも、威力が発揮される前に止める!

「レイジングハート!」

「Hoop bind」

「バスターっ!」

「Short Buster」

拘束してから最速砲撃。バインドをかけたまま、集束も何もしない単純な砲撃。発射速度の分、威力は削ってるからすぐに離脱。一応ダメージは最小限で離脱できたから、今のは及第点。

でも間違いなくダメージはあまり通ってない。寸前で相殺されてる。

「今のは良かったぞ、高町。並の騎士なら撃墜できる」

「ありがとうございます。でもシグナムさんに通すには今一つ、ですね」

煙が晴れると、少し甲冑を汚しただけ。手応えはあまり無かったから当たり前だけど、多少不意は突けた。誘導弾を生成しようと思ったけど、休憩のブザーが鳴ったから最低限の警戒だけ残して一休み。

「ところで、そのデバイスの形態は何だ?」

「カノン用のモードをオミットする代わりに搭載してもらったんです。杖だと手が塞がっちゃいますから」

そういえば、あまり会えてなかったからシグナムさんには初お披露目だったかもしれない。杖を介して魔法を使うよりも、できることは自分でできた方が幅は広がる。単純な砲撃くらいなら杖からじゃなくても撃てるし、デバイスが無くても何とかなる。

そうすれば、レイジングハートには私が得意じゃない精密な魔力操作の補佐とか補助魔法の手伝いとかしてもらえて、戦術が広がる。装甲もつければ、いざとなったら近接戦闘にも転用できる。

「なるほどな……それで使えるようになったから、私相手に試運転か?」

「はい、何とか戦術に組み込めるくらいには使いこなせてきましたから」

半年くらいはかかったかもしれないけど、一応実用段階くらいにはなった。少しずつ模擬戦には入れてたんだけど、今の感じだとベルカ式の人にも対応しやすくなった……かな?

「レイジングハートでは、接近戦を想定した耐久に難があると思うが」

「本来の使い方は補助なんです。アームドデバイスの志向も取り入れて近接戦闘もできるようにしたんですけど、正直オマケ程度で」

「ふむ……それならもう少し付き合おう」

訓練終わってからワガママ言って付き合ってもらって……これで5戦目。さすがに疲れてきたし、さっきは引き分けだったけど……次こそは!

「はい。よろしくお願いします、シグナムさん」

 

 

炎- 戦闘狂の宴:シグナムの場合 -

 

テスタロッサとは違った駆け引き……正直そそる物があるな。あの距離で砲撃を放っておきながら、私が防いだことに気付いて距離を取る賢さ、剣撃に反応する反射神経……やはり面白い。砲撃の他にも鍛練を積んでいることは知っていたが、つまみ食いでもこの感触……少しばかり本気を出してしまってもいいか。

「手心は加えずにいくぞ、なのは」

「大丈夫です。勝つのは私ですから」

向き合ったところで開始のブザーが鳴り響く。瞬間に飛んでくる誘導弾は……突っ込みながら衝撃波で破壊する。最短距離で切り込むことが砲撃魔導師を制する手段の1つ。そしてもう1つが

「レヴァンティン!」

「Schlangeform」

「ふぇっ!?きゃあっ……!」

先手を取り続けること。後手に回って空間を制圧されては面倒が多い。牽制させる隙も罠を仕掛ける隙も与えずに制圧すること。連結刃に魔力を乗せて、誘導弾を破壊しながら攻める。だが、狙いは攻めることではない。

「レイジングハート、いくよっ!」

「そこだっ!!」

この形態の欠点は足が止まる事だが……その分狙いを定められる。空を舞う高町を刃で追いながら鞘を呼び出し……砲撃を仕掛けようとした瞬間に、鞘を投擲する。

作る隙は一瞬でいい。ほんの一瞬で、ミドルレンジを必殺の間合いに変えられる。

「えっ……?鞘だけ!?」

「一手遅いっ!」

レヴァンティンを剣に戻しながら、最短距離を駆け抜ける。高町はまだ攻める体勢ではないし、バインドを仕掛ける素振りも無い。つまり……ここが攻め所。剣を振りかぶり……

「紫電……」

「今っ!!」

「いっせ…ぐぅっ!」

後方からの衝撃。ダメージはほとんど無いから誘導弾1発……隠しておいたものを脳波コントロールか。だが、付与した魔力は残っている。

「このまま斬るっ!」

「させ、ないっ!!」

体に突き付けられる砲撃の先端。こちらが斬るのが早いか、砲撃が発射されるのが先か……

「レヴァンティン、カートリッジ……!」

「ロードしないでくださいっ!!」

ブザーは鳴っていない……が、響き渡る大音量のマイク音声に反射的に動きが止まる。この声は……

「テスタロッサ……?」

「フェイトちゃん……?」

 

 

裏- フェイト・T・ハラオウンの逡巡 -

 

思ってたよりも仕事に時間がかかったけど、取り敢えず一区切りつけてから退勤手続きをして、シグナム達の所に向かってみた。予定よりも一時間以上過ぎてるし、もう終わらせてるとは思うけど……終わらせてないかもしれない。

心配が抜けきらないまま近くまで行くと、案の定の爆音と衝撃。急いで入ってみたら、データ記録の職員さんもいつもの初老の指導教官さんも呆れた様子で画面の向こうを見ていたから、聞いてみたら、

「模擬戦やりたいって言い出しちまったんだよ。もちろん基礎訓練に戦闘訓練の後だ。俺は止めたんだが……」

ってことらしい。話を聞いている間も衝撃は響いていて、思ったよりも本気でやってるみたい。はやての不安が当たっちゃったみたいだね……。

「聞かなかったんですね……すみません」

「いいや、嬢ちゃんは気にしないでくれ。あー、でもそろそろ止めてくんねえか?ボチボチ不味いことになってらぁ」

「えっ……あっ!!」

シグナムが紫電一閃で斬りかかって……一瞬妨害されたけど、すぐに体勢を建て直してる。でもなのはも……砲撃!?シグナムもカートリッジ追加で使ってるし……止めなきゃ本当に怪我する!

「カートリッジ……」

「ロードしないでくださいっ!二人とも終わりですっ!」

ギリギリ、本当にギリギリの所で止められた。突き飛ばしちゃった指導教官の人には謝らなくちゃだけど、今は二人にお説教が先。

「不思議そうな顔してもダメです!なのは、オーバーワークは禁止だって昨日言ったよね?」

「あ、あー……にゃはは…忘れちゃってた」

嘘だ。絶対に忘れてない。レイジングハート隠しながら焦ってるし……誤魔化すつもりだったに違いない。後でお仕置き決定。

「シグナムも!本気でやらないで、無理もさせないようにお願いしましたよね!」

「本気と言ってもお互いに少しだけだ。それに、私は無理をさせていない」

「止めてくださいって意味で言ったんです!」

「そうか。すまなかった」

この人はこの人でもう……!はやての言ってたことが当たってた。悪気が無さそうなところとか、怒ってるのに気づいたら簡単に謝るのに、多分次も同じ事をやりそうなところとか……本当に戦いには目がないっていうか……!

私も人の事は言えないんだけど……

「すまなかったって、そんな簡単に……はぁ。もういいです。戻ってきてください」

「え……!フェイトちゃん、今いいところだから後少しだけ……」

「なーのーはー?レイジングハート没収だけじゃなくて、訓練も暫く禁止にされたい?」

「にゃあぁぁっ!ごめんなさぁい!」

なのはのごめんなさいも、絶対に分かってない。周りの人がどれだけ心配してるのかも、あまりよく分かってないんだと思う……自分が守ればいいって思ってるから。

それは確かに、強くなることも必要だけど……でも、オーバーワークは意味無いのに。

「嬢ちゃんも苦労すんなぁ……」

「ありがとうございます……あの、機材壊したりとかは……」

「そりゃあ大丈夫だ。一応開始と休憩のブザーは守ってくれたし、威力自体も抑えてたみたいだからな」

この人は頼りになる。それは知ってる。1年前になのはの訓練担当になった人だ。若い人じゃなくて最初は不安に思ったけど、初老でも現場で動いてるだけあって、余裕がある教導をしてくれるから安心できる。ワガママに弱いところはたまにキズだけど。

でも、これ以上はって所の一線は絶対に越えさせない人だ。さっきも、私がいなかったら自分で止めてたはず。私の顔を立ててくれただけ。

「そうですか……あの、次からはバインドで拘束してでも止めてください……特になのはを」

「わぁったよ。共有しとく」

「ご迷惑おかけします……」

「いいってことよ。未来の……っつーか、今現在も管理局のエース達だからな。嬢ちゃんも含めて」

カッコいいおじさんだなぁ……余裕あって、まさに大人って感じがする。ベテラン、年の功を地で行ってる人だから、なのはの教導を続けられる。それでもなのはは、見えないところで無茶するけど。

「そんなこと……」

お父さんって、たぶんこういう感じなのかもしれない。

「謙遜するな。テスタロッサにはそれだけの実力はある」

「シグナム……ごまかされませんよ?」

いつの間にかシグナムが戻ってきてたけど……やっぱり、堂々としてる。

過保護気味だって分かってはいるし、シグナムはシグナムの考え方げあるのも分かるけど、なのはには過保護な人がいた方がいいから、私はこのスタンスを変えるつもりはない。

「それはすまなかったと言っているだろう?だが、高町には実戦経験をできるだけ多く積ませることが必須だと考えているのも事実だ」

「シグナム……!」

「あー、そりゃああるかもな」

「教官さんまで……!」

少し、聞きたくないかもしれない。正論な予感がするから。こういうのって何て言うんだっけ……良薬は口に苦し?

「まあ大人しく聞け。話程度でしか知らないが、たぶん嬢ちゃんは訓練を積み重ねてくタイプだろ?それで長所を伸ばしてくタイプだ。たぶん、良い師がいたんだろ」

「はい……一応、その方向性でやって来ました。変換資質と適正もハッキリしていましたし、魔法の先生も、特別な人が……」

あの時も思ってたけど、今改めて考えればリニスは先生としてバランスがよかったんだと思う。家族として接してくれたけど、先生のときはそういうこと関係なしで厳しく優しかった。バルディッシュを近接用に作ってくれたのも、私の適正を分かってくれてたから。

「だろうな。だが、高町の嬢ちゃんは違う。ありゃあ必要に駆られて実戦の中で磨かれてったタイプだ。強いて言うならシグナムタイプだな。詳しい事情なんざ興味ねえが……お前さんも恐らく実戦で磨いたタイプだろ?」

「はい。日々の鍛練は欠かしませんが、数多くの戦場で磨かれた物はいくつもあります」

それはよく分かってる。シグナムの戦闘の勘には私は敵わない。身のこなしも攻めの鋭さも、まだまだ足下にも及ばない。

だから色々な技術を使うんだけど……なのはも、私に近いと思ってた。

「まあ、そりゃそうだな。見りゃあ分かる。んで、高町の嬢ちゃんだが……あの子も勘が働くタイプだな。なんつーか、本能的に危険を察知できるっつーか、戦ってるときに視野が狭まらねえっつーか。ありゃあどう化けるか分かんねえな」

「あなたは教導においてかなり経験豊富だとお見受けしますが、それでも分からないと?」

「ああ、分からねえよ。砲撃を極めるってんなら推測できんだけどよ。大方、体に爆弾抱えながら無茶ばっかして、後遺症なんか抱えながら30前には引退するか堕ちてただろ。砲撃ってのはそんだけ負担がでけえ。だが……今の嬢ちゃんはあらゆるものを吸収するつもりだ。遠近補助の枠に捕らわれず、必要なもんを必要以上に取り入れて備えようとする奴の先なんざ分かるかよ」

なるほど……言われてみれば納得できる。前までのなのはは完全に砲撃が中心の組み立て。でも砲撃は……一撃が大きい代わりに負担が大きい。なのはみたいに無茶ができちゃうタイプだと、相性は最高だけど最悪。

でも、魔法が決定打にならない相手と戦ってから……なのはは力押しだけじゃなくて搦め手も積極的に覚えるようになった。ユーノに補助魔法を習いにも行ってたし、私のところにも高速移動について聞きに来てた。はやてのところに広域魔法聞きに行ってたし、クロノに戦術を習いにも行ってた。色々……積極的になった。

「だから、実戦経験を増やして取捨選択をしやすくさせる……そういうことだ。もうすぐ高町も戻ってくる。そうしたら帰るぞ」

そっか……選択肢を増やしたからこそ、取捨選択をできる能力が必要不可欠。でもそれは実戦の中で磨くしかない。

強くなるには実戦が必要だけど……実戦を増やすのは、長期的に見て体に負担がかかる。これは、難しい問題なんだ……最終的にはなのは次第にしかならない。

「あ、はい……そうだ、シグナム。今夜は……」

「二人ともうちに来るのだろう?先ほど主はやてから連絡は受けた。高町にも伝えてある」

「ありがとうございます、シグナム」

こう言うところは頼りになる。シグナムは模擬戦では対等に向き合ってくれるけど、視野とか気づかいとか、出来ることもやってることも大人で、私はやっぱり敵わない。

「きぃつけて帰れよ」

自分の管理はできているつもりだったし、だからなのはのことも気にかけられてるつもりだった。でもまだまだ考えが足りなくて…でもオーバーワークは絶対にさせないのも間違ってないはず。私は……どうすればいいんだろう。少し分からなくなったかもしれない。

 

何となく……何でだかはやてはそういうことが分かってる上で行動してる気がして、無性に羨ましくなった。




デバイスの会話書くのって意外と楽しい。ちなみに、まだ使っていませんが念話をしてるときは『』を使う予定です。
カップリングはまだまだ決定されていませんし……想像の余地を残したまま焦らし続けるのは作者的には凄く楽しいです(笑)

戦闘シーンって難しいんですけど、やっぱり書いてて楽しい。


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