デート・ア・グリムノーツ (☆桜椛★)
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第1話とか……めどい

……なんか周りが凄くうるさい。

 

人が気持ち良く寝てるのに、さっきからずっとサイレンみたいなのが鳴りっぱなしでウザい。

しかもなんかダルい……別に体調が悪いって感じじゃないんだけど、動くのがすっごく面倒に感じる。私ってこんなに面倒臭がり屋だっけ?

 

 

ウゥゥゥゥゥ!!ウゥゥゥゥゥ!!ウゥゥゥゥゥ!!

 

 

……あれ?私の一人称、『俺』じゃなかったっけ?

なんか普通に『私』って言っちゃってるけど……もう考えるのもめんどいから『私』でいいや。

 

 

ウゥゥゥゥゥ!!ウゥゥゥゥゥ!!ウゥゥゥゥゥ!!

 

 

そういえば、なんかベッドが硬い気がする。元からフカフカのベッドって訳じゃなかったけど、今はなんと言うか……まるで公園とかのベンチの上で寝てる様な硬さ。

 

もしかしてベッドから落ちちゃった?でもこのまま寝れそうだし、このまま寝ちゃお。今日は日曜日で学校もバイトもない筈だし……あれ?なんでだろ?急に学校もバイトも面倒に感じて辞めたくなった。

………もういいや、考えるのめんどいし、今は寝よ。

 

 

ウゥゥゥゥゥ!!ウゥゥゥゥゥ!!ウゥゥゥゥゥ!!

 

 

・・・・・(イラッ)

 

 

うるさい!ウザい!消えろ!

ドガァァァァァン!!!

 

 

私はさっきからうるさくてウザい警報機が付いた電柱に無意識に(・・・・)手を向けると、紫色の魔法陣的な何かが手の前に現れて、トランプの様なものが含まれた紫色の光が放たれて警報機をぶっ壊した。

ふぅ、やっと静かになった。ホントあの警報機ウザかった。これでゆっくりと眠れ…る……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・今、私なにやった?)

 

 

考えるのがめんどいけど、今はそれどころじゃない。今なんか手から出たよね?それに声が聞き慣れた()の声じゃなくて、可愛らしい女の子(・・・)みたいな声じゃなかった?

 

私は嫌な予感を感じつつ、ダルい体をちょっとだけ頑張って起こした。私が寝ていたのはどっかの小さな公園のベンチだった。でもこの公園には見覚えがない……って言うか、そもそも私の家の近くに公園すらない。

しかもそれだけじゃない。なんか視界が低いし、私の服装が寝る前はジャージだった筈なのに、今は女の子が着るワンピースみたいなものになってる。

 

益々嫌な予感がしてきた私は、取り敢えず何か自分の体を確認出来そうなものを探す。公園を出て、鏡とか置いてありそうな店とかを探すけど、殆どのお店がシャッターを閉めてた。何でだろ?……まぁ関係ないし、気にするのもめんどいからいいや。

 

 

「………あ、見つけた」

 

 

しばらくシャッターが閉まりまくってる街中を歩いてると、一軒だけシャッターが閉まってない服屋らしき店を見つけた。私は無人の店の中に入り、置いてあった姿見で自分の姿を確認した。

 

 

 

「……うっわ。嫌な予感的中」

 

 

姿見には自分の見慣れた高校生の男の姿は無くて、代わりに気怠げな表情をした女の子の姿が写ってた。手を振ったり、足を上げたりすると、鏡の中の女の子も同じ動きをする。つまりこの女の子は『()』だ。

 

まるで人形の様な可愛らしい容姿をしており、瞳は右が赤、左が翡翠色のオッドアイ。髪は長い金髪のツインテールで、髪を結っているリボンがウサギの耳みたいになってる。服装は可愛らしいワンピースの様なもので、これに付いた胸元のリボンや履いているソックスとかの色は、瞳と同じ様に右側が赤色、左が翡翠色になってる。

 

後、背中になんか宝石みたいなのが埋め込まれた羽みたいなのがある。試しに羽に意識を集中してみたら、動いたしなんか浮いた。

……あ、これ歩くより体力使わないし楽。ちょっと意外。

 

 

「……あれ?この姿………もしかして、【グリムノーツ】のカオス・アリス?」

 

 

カオス・アリスっていうのは、【グリムノーツ】っていう私が好きでやってた様々な童話や昔話がモチーフにされているスマホアプリゲームに登場するキャラの1人だ。

 

なんで私はゲームのキャラクターになってんの?もしかして小説とかでやってる“TS転生”ってヤツ?だとしたらすっごくめどい。誰?私をカオス・アリスにしたのは?

 

 

 

「………ま、いーか。別に…」

 

 

しばらくその事を考えてたけど、段々面倒になって来たから、取り敢えず今の私はカオス・アリスって事にした。カオス・アリスは好きなキャラだったし、元に戻ろうにも戻り方知らないから別にいいや。これからはカオス・アリスとして生きよう。取り敢えずさっきの公園に戻って昼寝でもしよ…眠いし。

 

そう思って公園に引き返そうとお店を出たら、なんかメカっぽいぴっちりしたボディースーツ着た空を飛ぶ痴女が沢山いた。なんだろアレ?

 

 

「隊長!精霊を発見しました!」

 

「やっぱり新種…!何をするか分からないわ!気を付けなさい!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

 

精霊?新種?……何言ってるか全然分かんないけど、すっごく面倒な事になったのは分かる。

 

 

「ほっといてくれない?私、眠いんだけど……」

 

「攻撃開始!!」

 

 

ッ!?痴女達が私の話を無視して銃とかを構えた!何考えてんのこの痴女達!?危ないじゃん!そんなの当たったら死……なない?

 

あれ?なんだろ?全然怖くない。しかもなんか頭の中に戦い方みたいな知識の数々が一瞬で脳裏に刻まれた。ついでに能力みたいなヤツの使い方も。

 

……うっわ、これマジ?なかなかのチート能力だけど、これホントに私使えんの?…ま、使えるなら使えばいいや。使っちゃえ。

 

 

「〈アリス・アンダーテール〉……」

 

 

私がそう呟くと、私の目の前に紫色の表紙に少女や家の絵が金色で書かれた分厚い本が出現した。家や森などの絵が飛び出して見える飛び出す絵本だ。

他にもチェスの駒や、積み木、トランプとかが私の周囲をふわふわと漂い始めた。

おぉ〜……なんか凄い。

 

 

「ッ!天使を出したわ!総員、警戒!」

 

 

リーダーっぽい人がそう叫ぶと、痴女達全員が銃やミサイルを撃って来た。でもやっぱり怖くない。でも当たると痛いだろうから、防御はする。

………めどいけど。

 

 

「トランプ兵……」

 

 

そう呟くと、私の周りに紫色の煙っぽいのが立ち昇って、6体の盾と槍を持ったトランプ兵が現れた。見た目は『♣︎』のマークが書かれた巨大なトランプに、西洋甲冑の手足と頭がくっ付いた感じ。

 

召喚したトランプ兵達は私の前に立って盾を構えると、痴女達の攻撃を防ぎ続ける。おぉ……なかなか優秀。

 

 

「何あれ!?トランプの……兵隊?」

 

「あれがヤツの天使の能力?」

 

 

痴女達は攻撃を防いだトランプ兵達を見てびっくりしてる。ホント、なんなんだろうこの痴女達?いきなり撃って来て、ウザいし、うるさいし。私はもう眠いし、疲れたし、ダルいのに……。

あぁ〜……めんどいめんどいめんどいめんどい!!

 

 

「ほっといてって言ってんじゃん……めんどいけど、手加減はしてあげる」

 

「ッ!何か仕掛けて来るわ!気を付け…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“わたしだけのせかい”……」

 

 

次の瞬間、私を中心に薄い紫色の膜みたいな世界がドーム状に広がった。この世界は怠惰の極み。向かってくる弾丸は威力を無くしてポトリと落ちて、光は輝きを失い、時さえ止まる。

 

ドームに呑み込まれた痴女達はゆっくりと落ちて来ると地面に倒れ込んだ。全員目から光が無くなって、ピクリとも動かないけど、呼吸はしてるし、心臓も動いてる。

今は手加減してるからこの程度だけど、本当ならこの痴女達は生きることすら諦めてる

 

 

「4時間くらいはずっとこのままだけど……死ぬよりマシでしょ?はぁ…手加減するの、ホントにダルい……」

 

 

私はそのまま痴女達を放置して帰る事にした。さっさと家に帰ってベッドで寝よ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・そう言えば、私の家どこ?



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第2話とか……めどい

「はぁ……うっざい」

 

 

私は最初に目が覚めた公園にあった滑り台の上に座って、夕日に染まった町を眺めながらこれからどうしようかをめんどいけど考えていた。

 

あの後、ダルいのを我慢して自分の家を探したけど、結局見つからなかった。それどころか、この町そのものが私の知らない場所だった。多分、ここは日本に似た別の世界なんだと思う。だから住む家も、お金も、お菓子も、ふかふかのベッドも無い……最悪。

 

 

「………もう、ここでいいや」

 

 

この公園、水飲み場あるし、なんかドーム型の遊具とかもあるから、今日くらいならここで過ごしてもいいかな。他に寝れそうな場所探すのもめんどいし……うん、もうここでいいや。

 

 

「ふぁ〜………眠いし、今日はもう寝よ…」

 

 

私は滑り台を滑り降りて、ドーム型の遊具の中に入る。中の地面はコンクリートだから、服とかに土が付かないから、ラッキ〜。

私はそこにゴロンと横になって、ゆっくりと目を閉じた。

 

 

「お休み……ぐぅ……」

 

 

 

 

 

 

ドオォォォォォォン……!!!

 

「むにゃむにゃ……ふぇ?何?今の……?」

 

 

いきなりでっかい爆発音みたいなのがして目が覚めた。あぁ〜あ、なんか無理矢理起こされた感じがしてウザい。

 

もしかしてまたあの痴女達がまた誰かにミサイルでも撃ってるのかな?じゃ、やっぱりここは別世界で決定。だって私の知ってる日本はミサイル撃って来る空飛ぶ痴女軍団なんていないもん。

 

 

「ふぁ〜……ダルい」

 

 

そう呟きながら、私はダルい体を頑張って起こしてドームの外に出る。公園にあった時計を見上げると、もうお昼の時間を過ぎていた。

一応何度か目が覚めた記憶はあるけど、その度に起き上がるのがダルかったからそのまま寝たから……まぁ、そうなるか。

 

 

「……あれ?あの建物、あんな形だっけ?」

 

 

喉乾いたから水飲み場で水飲んで、もう1回寝ようと思ってドームに戻る途中、遠くの方に見えてた学校っぽい建物の形が変わってるのに気付いた。なんかスプーンでくり抜いた感じになってる。

 

あ、もしかしてさっきのウザい爆発音の原因ってアレ?あの痴女達が出たのかな?

 

 

「………ま、いいや」

 

 

別に私が通ってる学校じゃないし、例えそうだったとしても今の私はカオス・アリスだから行く必要はない。

それに何よりめどいから行きたくない。

 

 

「………眠い……寝よ」

 

 

さっきはあの爆発音の所為で気持ちいい目覚めじゃなかったから、もっかい寝る事にする。また私の眠りを邪魔するようならまたブッ飛ばせばいいし……ダルいから多分やらないけど。

 

 

「お休み……ぐぅ……スピ〜……」

 

 

 

 

 

 

〜翌日〜

 

昨日はあの後また変な爆発音に睡眠を邪魔される事なくゆっくり寝れた。偶に喉が渇いて飲みに行くとか以外はずっと寝てたけど、後悔はしていない……んだけど。

 

 

「………すっごくお腹空いた。体痛い……ダルい」

 

 

目が覚めてから私のお腹が空腹を訴えて来てダルい。しかもコンクリートの上にそのまま寝転がって寝てたから、身体中が痛くてウザい。

 

 

「なんか食べたいけど……今、お金無い……クソ……」

 

 

お金がないとお菓子もジュースもフカフカのベッドも買えない……でもお金を稼ぐにはなんか仕事しないとダメ……それはめどいからヤダ。というかそもそも仕事出来るかも疑問……ウザ。

 

 

「はぁ……誰か私にお金くんないかなぁ」

 

 

叶わない願いを口にしながらぼんやりと雲1つ無い空を見上げる。うっわ、日差し眩しい……ダル。

 

 

「はぁ……ん?は?えぇ!?」

 

 

なんか急に周りの家がガシャンガシャンってスライドして動き始めたり、家がなくなったと思ったら地面からなんか別の建物が生えて来た。私のいる公園は動かなかったけど、周りの建物がどんどん変わってく。

 

どうなってんの?なんで町が急に変形し出したの?意味が分からない。あーもう考えるのも面倒になって来たからもういいや。

 

 

「……!……くんくん」

 

 

なんか新しく生えて来た建物からいい匂いがする。試しにダルいけど歩いて公園を出ると、さっきまで住宅街だった場所が、屋台や飲食店でいっぱいの商店街になってた。

 

 

「何コレ……?お金の無い私への嫌がらせ?うっざい」

 

 

お腹空いてる時に、こんな美味しそうな匂いを漂わせて……ウザい。こんな数のお店が出て来ても、お金がないと意味ないっての……ばーか。

 

 

「おぉ!シドー!このたこ焼きとやらは美味いぞ!」

 

 

あ、あのたこ焼き美味しそう……カップルかな?はぁ…あの女の子が美味しそうに食べてるのを見てたら余計にお腹空いて来た……早くどっか行かないかな?

 

 

「見ろシドー!あれも美味そうだぞ!あっちも!…あー!あっちも!凄いぞ!ホラァ!」

 

「はいはい、分かったから好きなだけ食えよ。どうせタダ(・・)なんだから」

 

「…………!!?」

 

 

私はその女の子の彼氏くんが言った言葉を聞いてダルいのを気にせず歩み寄った。

 

 

「ねぇ……ちょっといい?」

 

「え!?あ、えっと……な、何かな?」

 

 

彼女がハンバーガーショップに入って行くのを見ていた彼氏くんに話し掛けると、彼は私の姿を見てびっくりしながらも返事をした。

 

 

「今聞き間違いじゃなかったら………この商店街の食べもの、全部タダって言った?」

 

「あ、いや。これは……ッ!?………」

 

 

……?何か言おうとしたかと思ったら急に黙り込んだ。しかもボソボソと小さな声で何か言ってる。なんか誰かと話してるっぽいけど、そんなの今はどうでもいい。気にするのもダルいし、今私が聞きたいのはこの商店街の食べもの全部タダかどうかって事だし。

…………それにしても遅い。早く答えてくれないかな?

 

 

「あー……えっと……そ、そうなんだ。今この商店街はなんかの記念日らしくてさ、ここにある食べものは全部タダなんだ」

 

「………そっか、ありがと」

 

 

やった!やっぱり聞き間違えじゃなかった。よし、そうと決まれば何か食べよう。どれがいいかな?たこ焼き、お好み焼き、ハンバーガー、お寿司、ラーメン、クレープ、焼きそば、ケーキ………うん、選ぶのダルいしめどいから適当に近いやつから食べよ。

 

私は早速近くにあった肉まんのお店に向かうが、さっき話し掛けた彼氏くんが私を呼び止めた。

 

 

「あ、君!ちょっと待ってくれない?」

 

「………何?私、早く食べたいんだけど…?」

 

 

ホントは無視したかったんだけど、一応質問に答えてもらったから、ちょーめどいけど、少しだけ話を聞いてあげることにした。

彼氏くんはなんか視線を泳がせまくったり、深呼吸したり、咳払いしたりした後、何かを決心した様な表情で私に向き直った。もうなんでもいいから早くしてくんない?そろそろお腹空き過ぎてウザくなってきたんだけど……?

 

 

「お…俺の名前は五河 士道!俺とすっごく楽しい事をしないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………なんか予想の斜めどころか真上な事を言い出した。いきなり何言ってんのこの人?もしかしてナンパってヤツ?さっきの大食い女の子はあんたの彼女だよね?なのになんで私をナンパし始めたの?意味分かんない。しかもあってまだ少ししか経ってないのに……ひょっとして何人も女の人と付き合ってるの?だとしたら凄い。

 

でも私、今は確かに女の子の姿だけど……ちょっと前まであんたと同じ男だったから、男の人と付き合うのはちょっと……いや、絶対にヤダ。

 

 

 

 

 

 

 

 

……つーか、そんな事の為に私を呼び止めたの?

 

 

「……あ、あれ?ちょっと…?」

 

 

こっちはカオス・アリスになってから何も食べてなくてお腹ぺこぺこな時に、無料でいきなり出来た商店街の食べ物を食べれるって知って、ダルい体を頑張って動かしてお店に向かおうとしてたのに……それを呼び止めて、何かと思えばいきなりナンパ?

……うん、控えめに言うとしたら……。

 

 

「………うっざい」

 

・・・え゛?

 

 

私はなんかオロオロしてた彼氏くんに控えめにそう言った後、石化したみたいに動かなくなった彼氏くんを放置して改めて肉まんのお店に向かう。店員さんはさっきの光景見てたのか、苦笑いをしながら肉まんをくれた。

 

んじゃ、いただきま〜〜す…………あ、美味しい。



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第3話とか……めどい

青年…五河(いつか) 士道(しどう)はこの日、“空間震”という突発性広域災害を引き起こす原因とされている精霊…十香(とおか)という名の夜色の髪と水晶の瞳を持つ絶世の美少女とデートをしていた。

そんな彼は今………。

 

 

はぁ〜〜〜………

 

 

酷く落ち込んでいた。しかも心なしかちょっと泣きそうな顔になっているのはきっと気の所為……ではないだろう。

 

彼がこうなった経緯には、聞くも涙、語るも涙の…………抱腹絶倒大爆笑な出来事があったのであるwww

 

 

 

 

 

〜数十分前〜

 

「おぉ!シドー!このたこ焼きとやらは美味いぞ!」

 

「そっか、十香の口に合ったみたいで良かったよ」

 

 

士道は初めてのたこ焼きにご機嫌な十香を見て顔に笑みを浮かべると同時に、この商店街をあっという間に作ってしまった“ラタトスク”という組織に内心驚愕していた。

 

“ラタトスク”とは、“空間震”の原因とされている十香の様な精霊との対話による空間震災害の平和的な解決を目指して結成された秘密組織の事だ。“フラクシナス”と呼ばれるラタトスク機関が誇る全長252m、全幅120mもする最新鋭空中艦を拠点としており、精霊の保護の名の下に様々な有志が集まって結成されている。

 

士道はまぁ色々あって半ば強制的に精霊との交渉役に抜擢されてしまい、現在その為に精霊である十香とデート中なのである。

因みに十香は『デート』の意味をちゃんと理解していないが、今は目の前にある美味しそうな食べ物達に夢中になっている。

 

 

「見ろシドー!あれも美味そうだぞ!あっちも!…あー!あっちも!凄いぞ!ホラァ!」

 

「はいはい、分かったから好きなだけ食えよ。どうせタダなんだから」

 

 

それを聞いた十香はたこ焼きとお好み焼きをペロリと平らげた後、次はあそこだ!と言ってハンバーガーショップへ突撃して行き、士道は苦笑しながらその姿を見送った。

 

 

「ねぇ……ちょっといい?」

 

「え!?」

 

 

そろそろ自分も後に続こうと思っていた士道は、突然背後から掛けられた聞き覚えのない女性の声に驚きながら振り返った。

 

すると彼の背後には、気怠げな表情をした金髪ツインテールの少女……お腹を空かせたカオス・アリスが立っていた。

 

 

「あ、えっと……な、何かな?」

 

「今聞き間違いじゃなかったら………この商店街の食べもの、全部タダって言った?」

 

 

そう聞かれた士道は、どう答えようか迷った。何故ならこの商店街は“ラタトスク”が用意した場所であり、一応この商店街に訪れた10万人目のお客様って事で士道と十香の2人は無料で飲み食い出来ているのだ。

だから今回のデートに関係の無い彼女もタダで食べていいのかと問われると、どう答えればいいのか分からないのである。

 

少し考えた士道は、取り敢えず自分達がタダで食べれる理由を答える事にした。もちろん、設定の方を説明する。

 

 

「あ、いや。これは…『ちょっと待ちなさい士道』…ッ!?」

 

 

答えようとしたら、彼の耳のインカムから気の強そうな女の子の声が聞こえて来たので、士道は言われた通り話を中断した。

 

声の主は五河 琴里(ことり)。士道の義妹にして、何がどうしてそっなったのか、“フラクシナス”の艦長である。

 

 

『いい?今貴方の前にいる彼女は、つい最近確認された新種の精霊よ。識別名はまだ決まってないみたいね』

 

「精霊!?この子が…?」

 

『えぇ、でもホントに最近確認されたばかりだから、情報が少ないのよね。彼女がそこに来たのは想定外だけど、これはチャンスよ。士道、彼女から出来るだけ情報を引き出しなさい』

 

「ひ、引き出せって言ったって……」

 

『取り敢えず今は彼女を引き留めなさい。彼女もタダで食べていいって教えればいいから』

 

「わ、分かった…」

 

 

士道はずっと返答を待っていて若干イライラしているカオス・アリスに向き直った。

 

 

「あー……えっと……そ、そうなんだ。今この商店街はなんかの記念日らしくてさ、ここにある食べものは全部タダなんだ」

 

「………そっか、ありがと」

 

 

タダで食べていいと知ったカオス・アリスは、その気怠げな表情の顔に小さく笑みを浮かべ、辺りにある店をキョロキョロ見回し始めた。

すると再び琴里から連絡が来た。

 

 

『士道、選択肢が出たわ』

 

 

琴里の言う選択肢とは、よくギャルゲーとかでやってるアレである。そんなもので大丈夫か?と問いたくなるが、この選択肢によって士道は十香と今デートが出来ているのだから、性能は折り紙付きだ。

 

 

①俺の名は士道。君の天使について知りたい。一緒に話をしないか?

 

②お金をあげるから一緒に話をしないか?

 

③俺の名前は五河 士道!俺とすっごく楽しい事をしないか?

 

『各自選択!………ふむ、3番が1番多いわね』

 

「おい!これホントに大丈夫なんだろうな!?明らかにナンパで使う言葉だろ!」

 

 

・・・ただ、変な選択肢が出る事がままある。

 

 

『いいから早く言いなさい!ホラ、彼女がどこかへ行っちゃうわよ?』

 

「へ?…あ、君!ちょっと待ってくれない?」

 

 

士道は肉まんを売っている店に向かおうとしていたカオス・アリスを呼び止めた。彼女はその言葉に反応して面倒臭げな表情をしながら士道の方を振り向いた。

 

 

「………何?私、早く食べたいんだけど…?」

 

「(うぅ…言えばいいんだろ?言えば!)お…俺の名前は五河 士道!俺とすっごく楽しい事をしないか?」

 

 

士道は覚悟を決めて先程の選択肢通りのセリフをカオス・アリスに向けて言いながら頭を下げた。士道は言ってしまったと思いながらも、カオス・アリスの返答を待った。

 

しかし、幾ら待っても返答は返って来ない。

 

 

「……あ、あれ?ちょっと…?」

 

 

なんの返答もない事に内心ちょっと焦りながらカオス・アリスの様子を窺っていると、カオス・アリスは士道の事をこの世の全てのゴミの集まり見る様な目(カオス・アリスは無意識)でこう言った。

 

 

「………うっざい」

 

・・・え゛?

 

 

士道はショックで石化したかの様に固まり、カオス・アリスはそんな彼を置いて肉まんを食べに行った。

 

 

 

 

 

 

『まさかあんな反応をするとはね……完全に想定外だわ』

 

「いや、想定出来ただろ……」

 

 

士道は先程のカオス・アリスの目と言葉を思い出しながらそう言い、持っていたジュースを飲んだ。

十香は両手に団子を持ってはしゃぎまくっている。

 

 

「おーいシドー!なにやら福引とやらが引けるみたいだぞ!早く来い!」

 

『まぁいいわ。彼女と話が出来なかったのは残念だけど、今は十香とのデートに集中しましょう』

 

「………そうだな。分かったよ十香。すぐ行く」

 

 

士道は空になったジュースの缶をゴミ箱に捨てると、十香の下へ走って行った。

 

さて、士道の話はこれまで!カオス・アリスはどうしているのかな?

 

 

 

 

 

 

「あーむ……もぐもぐ」

 

 

私はドーム型の遊具の上に座ってクレープを口に頬張る。うん、苺やストロベリーもいいけど、チョコバナナクリームも絶品♪ホントに今日はラッキー。

なんかウザいナンパやろーがいたけど、お菓子がドームいっぱいになる程タダで手に入った。ペットボトルだけど紅茶も手に入ったし、これで2週間くらいはドームの中で私だけの食っちゃ寝パーティーが開ける。

 

 

「もぐもぐ……ん?雨?」

 

 

なんかいきなり雨が降り始めた。さっきまでムカつく程いい天気だったくせに……うっざ。

 

めんどいけど、仕方ないから私はドームの中に避難して、中に置かれてるビニール袋の中からシュークリームを取り出して食べる。う〜ん♪これも美味しい。

 

 

……パシャッ!

 

「……んむ?」

 

 

しばらくシュークリームを食べてゴロゴロしてると、なんか水溜りの上を跳ねるような音がした。こんな雨の中で誰だろうと思って、チラッと外を見ると、水溜りの上をパシャパシャと飛び跳ねてる女の子がいた。

薄い水色のレースの上 に緑色をベースに模様の付いたレインコートを羽織って、ピンクのボタンと縫い目のついた大きなウサ耳付きフードを着てる。

 

 

パシャッ!パシャッ!ズルッ!ベッタァァァァン…!!

 

「……あ、こけた」

 

 

女の子が盛大にこけた。うっわ、痛そう……顔面とお腹を思いっきりぶつけてるじゃん。

そう思ってると、水飛沫と一緒に私の目の前に眼帯が付いた真っ白なウサギのパペットが降って来た。

 

何これ?もしかしてあの子のヤツ?えぇ〜……なんでこっち飛んで来るの?これ私が拾って返さないとダメなヤツじゃん。ホラ、あの子もこのパペット探してるっぽいし……はぁ、ダルい…めんどい……。

 

 

「………はぁ…かったるい」

 

 

私はパペットを拾い上げて、ザーザー降ってる雨を鬱陶しく思いながらその子に近付いた。あー……めんどくさいめんどくさいめんどくさい。

あ、こっちに気付いたっぽい。早く取りに来てよ。そっちまで行くのもダルいんだから。

 

 

「……はい、コレ。貴女の「ヒィ…!?」えぇー……?」

 

 

なんか声掛けたらすっごく怯えられた……何?私がそんなに怖いの?

あーもうこうしてる間も濡れちゃうし……ダルい、ウザい。

 

 

「こ、来ないで…ください。痛く…しないでください……」

 

 

彼女は涙目になりながらこんな事言って来た。私が何をしたって言うのさ…?はぁ………チョーめんどーい。



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第4話とか……めどい

「……ねぇ、コレ貴女のでしょ?もう動くのダルいから、取りに来てくれない?」

 

「……ッ!」

 

 

私がウサギのパペットを見せると、女の子は目を見開いて駆け寄って来た。でも後少しの所で足を止めちゃった。

 

 

「……何してんの?早く取りに来てくんない?」

 

「……ッ!……ッ!」

 

 

なんか近付いては離れるをずっと繰り返してる……あ、もしかしてパペットは返して欲しいけど、私が怖いから近寄らない感じ?うっわ〜……めどい。

 

 

「……あー…もうめどいから、そっちに投げる。ちゃんとキャッチしてよね……ホイ!」

 

 

私はパペットを女の子に向けて放り投げた。女の子は慌てた様子だったけど、ちゃんとパペットをキャッチして、左手に嵌めた。これで良し。

 

 

「……もう落とさないでよね。あーダルい……しんどい」

 

 

私はちょっと濡れた服を鬱陶しく思いながらドームの方へ向かう。服はほっとけばその内乾くだろうし……次は何を食べようかな?ポテチ、ケーキ、ドーナツ、たこ焼き、焼きそば……あーでも選ぶのめどいから、テキトーに目に入ったヤツでいっか。

 

 

『いやぁ〜、よしのんを拾ってくれてありがとうね!オネーサン!』

 

「……んあ?」

 

 

なんか妙に甲高い声が背後から聞こえた。振り返ってみると、さっきの女の子が左手に嵌めたパペットを動かして、腹話術やってた。

 

 

「……お礼とか、めどいから別にいい。でも、もう落とさないでよね。……拾って渡すの、ダルいし……疲れるから」

 

『おぅ……なんと言うか、君って結構な面倒屋さんだったり?お礼を言って面倒臭がれるのはよしのん初めての経験だよ』

 

 

面倒屋なのは否定しない。それがカオス・アリスの特徴だし、否定するのはダルいし…めどいから。

 

 

『おっと!自己紹介をするのを忘れてたよ〜!よしのんの名前はよしのん!可愛いっしょ?可愛いっしょ?』

 

 

よしのんねぇ……多分、それってあのパペットの名前で合ってるよね?今腹話術やってる最中だし、なんか人形とかに付けそうな名前だし。

 

 

『それでそれで〜?背中に羽みたいなのを生やしたオネーサンの名前は?』

 

「えぇー……私も自己紹介するの?……ダルい…めどい」

 

『自己紹介までめんどくさがるの!?よしのんが自己紹介したんだから、オネーサンも名前くらい教えてよ〜!』

 

 

そっちだって人形の名前しか名乗ってないじゃん。……あーでも、自己紹介しないとなんかこのウサギがもっとうるさくなりそう……めんどいなぁ。

 

 

「……カオス・アリス。はい、自己紹介終わり」

 

『カオス・アリス?変わった名前だねぇ』

 

「うっさい……貴女には言われたくないっつーの」

 

『ちょっとそれどーゆー意味!?』

 

 

よしのんがうるさい……つーか、なんでこの子さっきからずっと腹話術で話してんの?なんか人形落とした時と雰囲気違うし……何?二重人格みたいなヤツ?人形のテンション高くてウザい。

 

 

ぐぅ〜〜……。

 

「…………」

 

 

よしのん……って言うか、よしのんを持ってる女の子のお腹からそんな音がした。彼女は無表情だった顔を赤くして、恥ずかしそうに右手でレインコートのフードを深く被って顔を隠した。

……ちょっと可愛い。

 

 

「……お腹空いてるの?」

 

『あ、あはは〜…何の事かなぁ〜?よしのんは全然お腹空いてないよ?』

 

 

よしのんはちょっと焦った様子でお腹空いてるのを否定してる。女の子の方も首を左右に振ってる。その度にレインコートのウサ耳や、女の子の綺麗な水色の髪が揺れる。

 

 

ぐぅ〜〜……。

 

 

でもお腹は正直みたい。さっきより大きな音が女の子のお腹から聞こえた。これにはよしのんも黙り込んで両手で目を覆って、女の子の方は右手でお腹を押さえてる。やっぱりお腹空いてるんじゃん。

 

………はぁ、しょーがないなぁ。

 

 

 

 

 

 

『おぉ〜!このケーキすっごく美味しーよ!』

 

「……美味しいのはいいけど、次は貴女の番。早くして」

 

 

あれから数時間後、今私はよしのんと一緒にドームの中でお菓子とかを食べながらチェスをして遊んでいた。1人で食っちゃ寝パーティーもいいけど、誰かと一緒にゲームをしながらお菓子を食べるのも悪くない……もう少し、よしのんが静かだったら良かったけどね。

あ、因みにチェスの駒とボードは、めどいけど私が能力で出した。他にもトランプとか、積み木とか出せる。

 

 

『はいはい!じゃあねぇ〜……ホイ!』

 

「……チェックメイト。……私の勝ち」

 

『あ!?ちょ、ちょっと待って!』

 

「……もう2回待った使ったからダメ」

 

『うぅ……また負けちゃったかぁ』

 

 

よしのんは残念そうにしてるけど、どこか楽しげな雰囲気を醸し出してる。お菓子とかを食べてもいい代わりに、一緒にゲームして遊ぼって誘った時は凄く警戒したけど、今はその警戒もある程度解いてくれてるみたい。

 

後、ゲームしてる途中に聞いたんだけど、この子は人間じゃなくて精霊って存在らしい。ほら、あのめんどい痴女軍団が私を見て言ってたアレ。でも精霊って割には見た目は普通の人間の美少女っぽい。

 

 

『……ッ!おやぁ?どうやら時間みたい。アリスちゃん、よしのんはそろそろ帰るよ』

 

「……そうなんだ。痴女軍団に見つかったら面倒になるから、気を付けて帰ってね」

 

『うん!バイバ〜イ!』

 

 

よしのんはそう言うとドームの外へ出て行った。外はさっきの雨が嘘みたいに晴れていて、もう夕方になってた……今日は朝から起きてたし、お腹がいっぱいになったから、今すっごく眠い。

 

……よしのんかぁ。なんか意味分かんないし、うるさいし、テンション高くてウザかったけど、今度会えたらまた一緒にお菓子を食べながらゲームして遊ぶのもいいかな?

 

 

「……ふぁ〜……眠いし、今日はもう寝よ」

 

 

私は出していたチェスの駒とボードを消すと、そのまま横になって目を閉じた。食べ物やお菓子や飲み物はまだまだ沢山あるから、明日はダラダラと1人で食っちゃ寝パーティーを開こう。あぁ……そう考えると段々と心地いい眠りに……。

 

 

ズドォォォォォォォン!!!

ウゥゥゥゥゥ!!ウゥゥゥゥゥ!!ウゥゥゥゥゥ!!

 

「……つけねーじゃん。……ばーか」

 

 

なんかまたうっざい爆発音みたいなのとサイレンが鳴り始めた。何?この町は常日頃から爆発音とかサイレンとか鳴りまくってんの?治安悪過ぎじゃない?あー……サイレンの音がうるさくてウザい。

 

 

「……まぁいいよ。今日は食べ物や飲み物やお菓子を沢山手に入れたし、よしのんと遊んで楽しかったから……ウザいけど……めどいし、今回だけは許してあげる」

 

 

それに今はいつもより眠いから、このくらいならウザいけどまだ我慢出来る。これでまたあのウザい痴女軍団とか、ナンパ彼氏くんが邪魔しに来たら……問答無用でぶっとばーす……ぐぅ。

 

 

「ぐぅ……ぐぅ……スピ〜……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドォォォォォォォォォォォン!!!!

 

「いった!!?何!?何が起きたの!!?」

 

 

なんか寝てたら凄い音と一緒になんかに叩かれたみたいな痛みを感じて、私は飛び起きた!いやホント何!?しかもなんか煙いしウザい!

 

 

「ケホッ!ケホッ!………は?」

 

 

煙が晴れて目に入った光景に、私は唖然とした。だってさっきまでドームの中で寝てたのに何故か()が見えるし、滑り台やブランコが滅茶苦茶に破壊されてるし、なんか公園を分断する感じに地面が抉れてるし……。

 

 

「……全然意味分かんない」

 

 

なんで寝てる間に公園が滅茶苦茶に破壊されてるの?これもあの痴女軍団の仕業?でもミサイルや銃でこんな跡は出来ないし……じゃあよしのんみたいな精霊?精霊はなんか特殊能力的なヤツ持ってるってよしのんが言ってたし、可能性はあるのかな?……あーまた考えるのがめんどくなって来た……ダルい……しんどい。

 

 

「……ん?…あ。……あああぁぁぁぁ!!」

 

 

今、私は大変な事に気付いた。私が居るこの公園は今、遊具全てを含めて滅茶苦茶にに破壊されてる。もちろん私が寝てたドーム型の遊具も木っ端微塵になっちゃってる。

 

……その中に置いてあった沢山の食べ物やお菓子や飲み物も全部一緒に。

 

 

「……うっざい」

 

 

ウザいウザいウザいウザい!!なんなの?空飛ぶ痴女に襲われるし、帰る家もお金も失ったし、変な爆発音やサイレンに眠りを邪魔されるし、ウザいナンパ彼氏にナンパされるし、折角手に入った食べ物全部木っ端微塵になるし……あーウザい!めどい!ダルい!

 

 

ズドォォォォォォォン!!

 

 

すると少し離れた場所にある丘の上の方で紫色の光と爆発が起きた。今更気付いたけど、さっきからあそこでずっと爆発が起きてる。

 

 

「……もしかして、あれが犯人?」

 

 

なんかよく見たら紫色の光が通った後に爆発が起きてるし、その紫色の光があちこちに飛んでって、丘を抉ったり、鉄塔をぶっ壊したり、偶にこっちの方に飛んで来て、近くに建ってた建物もぶっ壊してる。

………うん、あれが犯人で間違いなさそう。

 

 

「……めどいし、ダルいけど……今だけ、本気出す!」

 

 

あの犯人は1回ぶっ飛ばさないと気が済まない。私はダルいけど能力で〈アリス・アンダーテール〉を片手に出現させて、更にもう片方の手に綺麗な装飾が施された1つの()を出現させた。

 

………ホントはこれ使った後、疲れるからあんまり使いたくなかったんだけど、食べ物の恨みは恐ろしいんだから。

 

私は〈アリス・アンダーテール〉にその栞を挟んだ。すると私の体は紫色の煙っぽいのに包まれる。そして煙が晴れると、私の姿は変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、世界の全てをカラフルに!」



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第5話とか……めどい

夕日に染まった町を一望出来る丘の上にある公園に、何故か歯型があちこちにあるきなこパン型のクッションを抱いた十香と、カオス・アリスにウザがられたナンパ彼氏こと士道の2人がデートで訪れていた。

 

十香は公園から見える景色にはしゃいでいたが、それを自分が現れる度に壊してしまっていると思うと、笑顔を消して悲しげな表情を浮かべた。

 

 

「私はこの世界に現れる度に、こんな美しいものを……壊していた」

 

 

十香はゆっくりと士道に向き直ると、やはり自分はこの世界にいない方がいいなと悲しげな笑みを浮かべながらそう言った。それを聞いた士道は思いを爆発させ、「そんな事ない!」と力強く言った。

 

戻ってまたこの世界に来る時に“空間震”を起こしてしまうかも知れないなら、帰らずにこの世界にいればいい!

 

十香が知らない事が多過ぎるなら、俺がそれ等を教えてやればいい!

 

寝床や食べ物は俺がなんとかするし、予想外の事が起きたらその時考えればいい!

 

他の奴等が十香を否定するなら、俺はそれよりずっと強くお前を肯定する!そんな士道の言葉と思いを聞いて、十香はもしかしたら彼と一緒なら出来るんじゃないかと強く思い始めた。

 

 

「“握れ”。今はそれだけでいい!」

 

 

自身に差し出された手に、十香はゆっくりと手を伸ばした。士道ならば信頼出来る。士道と一緒ならば頑張れると思って。

そして、十香の手が士道の手に触れようとした。

 

その時……。

 

 

ダァァンッ!!

 

「十香ッ!!」

 

 

公園に1発の銃声が鳴り響き、十香は士道に突き飛ばされた。突き飛ばされた十香は何をするのだと士道に文句を言おうとしたが、体に大穴を開け、血を吹き出しながら倒れていく士道の姿を見て言葉を失った。

 

 

「………シドー?」

 

 

十香はゆっくりと立ち上がると、地面に倒れて血溜まりを広げている士道に歩み寄り、悲しげな表情で彼の名前を呼んだ。

だが、士道は返事を返すどころか、ピクリとも反応しなかった。理解したくなかったが、彼が死んでしまったと理解してしまった十香は自分が着ていたブレザーを脱ぐと、士道に被せた。

 

 

「……士道がいてくれたらもしかしたらと……凄く大変で難しくても、出来るかも知れないと思った。……でも、ダメだった。やはり、ダメだった!

 

 

世界は、私を否定した!!

 

 

十香はキッ!と夕日に染まる空を睨むと、自身の霊装の名を叫ぶ。

 

 

神威霊装・十番(アドナイ・メレク)〉!!

 

 

すると彼女の服装は士道の通う学校の制服から、紫色の鎧とドレスを混合させた様なものに変わっていた。霊装を纏った十香は、狙撃手がいるであろう場所を睨む。

そしてガツンと地面を強く踏むと、地面に亀裂が走り、そこから紫色の光と共に巨大な石の玉座…十香の天使が出現した。十香は玉座に飛び乗り、そこに納められている巨大な剣を抜いた。

 

 

鏖殺公(サンダルフォン)〉!!

 

 

十香はその剣…〈鏖殺公〉を持ったまま玉座を飛び降り、今度はその玉座を真っ二つに斬った。

斬られた玉座はガラスが砕けたかの様に破片を飛ばし、その破片は十香の持つ〈鏖殺公〉に集まって一体化し、〈最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)〉という名の更に巨大な剣となった。

 

 

「よくも…よくも…よくもよくもよくもよくもぉ!!」

 

 

十香は〈鏖殺公〉の切っ先を狙撃手がいるであろう場所に向け、怒りと殺気を込めて斬撃を放った。その斬撃の威力は凄まじく、軌道上にあった木や硬い岩や丘の一部を容易く斬り裂いた。

 

そして十香は剣を持ったまま空を飛び、狙撃手の下へ向かった。そこには地面に座り込んで動けずにいる白髪の少女がおり、近くにライフル銃が落ちている事から、十香は彼女が士道を撃ったと確信する。

 

 

「貴様だな?我が友を…我が親友を…士道を殺したのは…貴様だな?」

 

 

白髪の少女…鳶一(とびいち) 折紙(おりがみ)は何も答えなかったが、十香は彼女に今まで抱いたことがない程の怒りと殺気をぶつける。

 

 

「殺して殺して殺し尽くす……死んで死んで、死に尽くせ…ッ!!」

 

 

そう言うと十香は彼女に向けて先程の斬撃を連続で放った。斬撃は折紙を斬り裂く……と思われたが、バリアの様なもので弾かれてあらぬ方向へ飛んで行った。弾かれた斬撃は鉄塔、山の木々、街の建物、そして小さな公園を破壊していくが、十香は士道を殺された怒りでそんな事は気にせず斬撃を放ち続けた。

 

そんな斬撃の中、折紙は自分が士道を殺してしまった事にショックを受けて、動く事が出来なかった。

 

 

「うおぉぉぉおおおおおおお!!!」

 

ズガァァァアン!!

 

「カハッ!?」

 

 

十香が折紙を守るバリアの様なものごと〈鏖殺公〉を叩きつけた。流石に衝撃を防ぎ切る事は出来なかった様で、折紙は口から血を吐いて苦しげな表情になった。そしてとどめを刺すために再び〈鏖殺公〉を振り下ろそうとする十香を見て、折紙は諦めた様に目を閉じた。

 

 

(父さん……母さん……)

 

「シドー…今、仇を……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見ぃ〜つぅ〜けたッ!!」

 

「な!!?」

 

 

すると突然、どこからともなく十香の背後に1人の少女が現れ、片手に持ったステッキの様なもので十香を殴り付けた。それに気付いた十香は振り下ろそうとしていた〈鏖殺公〉でその攻撃を防ぎ、距離を取った。

 

 

「あら?結構強めにやったのに……防がれちゃったわ」

 

「貴様……何者だ?どこから現れた?」

 

 

十香は突然現れた少女に鋭い視線を向けて警戒する。紅い瞳に茶髪の三つ編みツインテールをしており、服装はピンクや白、水色が使われたフリルの付いたエプロンドレスの様なものを着ており、銀色のブーツを履いている。右目辺りに黒い翼の様な形のマスクを付けており、頭には動物の耳を思わせる飾りが付いた頭巾の様なものを被り、片手にはハートを象ったステッキを持っていた。

 

まるでテレビでやってる魔法少女的な服装の少女は、手に持ったステッキをバトンの様にクルクル回しながら名乗った。

 

 

「私?今の(・・)私はカオス・ドロシー!よろしくね♪」

 

 

 

 

 

 

うーん、やっぱりなんだか体や喋り方、性格まで全くの別人(・・)になるのって不思議な感じね。元のカオス・アリスの姿の時みたいにダルく思わないし、全ての事が面倒だとも全然感じないわ。

 

おっと!説明が遅れたわね。私は今、能力でカオス・ドロシーの姿になっているの。この能力はあの栞を〈アリス・アンダーテール〉に挟むと、好きなカオステラーの姿になって、そのカオステラーの能力を自由に使う事が出来るみたいなの♪

 

例えばさっきいきなりあの鎧…あれ?ドレスかな?まぁ兎に角あの剣を持った少女の背後に現れたのは、(カオス・ドロシー)が履いているこの銀の靴の魔法の力!この靴の踵を3回鳴らすと、世界中のどこへでもあっという間に連れてってくれるの♪まぁ鳴らす時に自分が行きたい場所を念じてないと変なとこに現れるらしいけどね。さっきは『あの斬撃を放ってる者の背後』って念じてたの。

だから移動した瞬間に私が持ってるこの魔杖…〈エンド・オブ・オズ〉を叩き込んであげたんだけど……思ったより簡単に防がれちゃったわ。

 

 

「カオス・ドロシーとやら!貴様、何故私の邪魔をする!?」

 

 

うふふ♪何故貴女の邪魔をするですって?そんなの決まってるじゃない!

 

 

「貴女の斬撃の所為で妨害された安眠と、木っ端微塵になった私の食料とお菓子と寝床(公園)の恨みを晴らしに来たのよ!」

 

「………?」

 

 

……何よ?なんでそんな意味が分からないって顔してるのよ!あの斬撃を放ってる者の背後って念じて銀の靴が連れて来てくれたのは貴女の背後!だから犯人は貴女でしょう!

 

 

「貴様の食料や寝床を攻撃した覚えはない!邪魔をするな!」

 

「な、なんですって!?貴女が先に私の安眠を邪魔したんでしょう!人が寝てる時に斬撃をぶつけておいて、邪魔をするなとは何よ!」

 

 

もう許さない!だったら私も全力で貴女の邪魔をしてあげるわ!見た感じ理由は知らないけど、この子はそこで倒れてる白髪の少女を攻撃しようとしてるみたいね……だったらそれを全力で邪魔してあげる!

 

 

「さぁおいで!ヴィラン達!」

 

「「「「「クルルルゥ!!」」」」」

 

「ッ!?な、なんだこいつ等は!?」

 

 

私が〈エンド・オブ・オズ〉を掲げながらそう叫ぶと、私の周りに紫色の煙が立ち上って、その中から黒いウサギと小鬼を混ぜ合わせた様なモンスター達が現れた。

 

この子達はヴィランって言う【グリムノーツ】に出て来る敵モブ。私は能力でちょっと魔力を使うけど、このヴィラン達を生み出せるの。ヴィランにも色々種類があって、種類によって使う魔力のコストも変わるわ。今回生み出したのは1番コストが低いけど沢山生み出せるブギーヴィランって言う種類よ。

 

ホントは白髪の少女と一緒に銀の靴の魔法で逃げちゃえば楽で早いんだけど、それだけだと私の気が済まないわ!ボコボコにしてから銀の靴で逃げてやるわ!

 

 

「行くわよ!見せてあげる、魔法の力!」



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第6話とか……めどい

「「「「「クルルルルゥゥ!!」」」」」

 

 

私が生み出したヴィラン達が、一斉に剣を持った少女に襲い掛かる。これでボコボコにされちゃえば良かったんだけど、襲い掛かったヴィラン達は次々と彼女の剣に斬られて消滅して行く。確かに1番コストが低いヴィランだけど、一気に40匹以上が襲い掛かれば一撃ぐらい当てられると思ったんだけどなぁ?完璧に不意打ち決まりそうだった個体も真っ二つにされちゃったわ。

 

 

「はぁああああ!!」

ザンッ!!

 

「「「クルルガガッ!!?」」」

 

「あらら……もう30匹はやられちゃったわ」

 

 

元々彼女の剣を奪うか、動きを封じられればいいかな程度の期待しか持ってなかったけど、やっぱり魔力ケチらずに空を飛べるウィングヴィランの方にしとくべきだったかしら?……ま、いっか♪あの子達はあの子達でちゃんと役に立ってくれてるし♪

 

私は再び心の中で『あの剣を持った少女の背後』って念じながら銀の靴の踵を3回鳴らす。すると私は一瞬で彼女の背後に移動して、そのままヴィランを斬り続けてる彼女を背後から〈エンド・オブ・オズ〉で殴り付ける。

 

 

「ッ!!?クッ!!」

ガキィンッ!!

 

「ムゥ……!結構やるわね!貴女」

 

 

あと少しで当たる所でまた剣で防がれちゃったわ。ヴィラン達もみんなやられちゃったみたいだし、やっぱり自分でやった方が良さそうね。

……って、あら?よく見たらこの子、商店街で凄い量の食べ物を食べてたナンパ野郎の彼女じゃない?服装と雰囲気が全く違うから気付かなかったわ。あのナンパ野郎の…確か、士道って言ったっけ?あの子はどうしたのかしら?

 

 

「うおぉぉおおおおおお!!」

 

「おっとっと!」

 

 

考え事してたら彼女が斬撃を放って来たから、すぐさま横に跳んで斬撃を躱す。紫色の斬撃は私が立っていた場所を通って背後にあった遊具を破壊する。

今のはちょっと危なかったわね。もう考え事は後よ後!今は戦闘に集中しないとね!

 

私は今度は銀の靴の力を使わずに彼女に接近して〈エンド・オブ・オズ〉を振り下ろす。けど彼女は今度は剣で受け止めずに空を飛んで私の攻撃を躱した。攻撃は当たらなかったけど、これはこれで好都合!

 

 

 

「私の色に染まりなさい!“マジシャンズ・トルネード”!!

 

 

私が〈エンド・オブ・オズ〉をバトンの様にクルクル回しながらそう叫ぶと、まるで天地をつなぐ巨大な柱の様な大竜巻が発生して、空を飛ぶ彼女に向かって直進する。

 

 

「な、何だコレは!!?」

 

「カンザスの大平原に吹き荒れる、全てを吹き飛ばす大竜巻!貴女は無事でいられるのかしら?」

 

 

彼女は距離を取ろうと後ろに退がるが、大竜巻は公園の遊具や周囲の木々を巻き込みながら進み続ける。そして私が出したこの大竜巻には巻き込まれたカンザスの家々が含まれているの。

だからそのまま竜巻から逃げてるだけだと〜?

 

 

「ッ!?しまっ……グッ!!」

 

 

彼女は竜巻に含まれていた家の残骸にぶつかって、そのまま大竜巻の中に呑まれちゃったわ。あははははは♪思い知ったかしら?コレが食べ物とお菓子と寝床の恨みよ!そのまま大竜巻が消えるまでグルグル回されてなさい!大丈夫!威力は少しだけ弱めてるから多分死にはしないわ!

 

……あ、いけないいけない!こんな大竜巻だとあの白髪の少女まで巻き込まれちゃうわ。

 

 

「えぇ〜っと……あ、いたいた。うっわ、結構酷い怪我ね」

 

 

私は風に飛ばされそうになっていた白髪の少女の所に駆け寄る。私の近くにいれば魔法の力で風の影響は受けないからね。それで改めて容態を診たんだけど、思ったより酷い怪我を負っているわ。でもあの斬撃を受け続けてコレだったらまだマシな方かしら?

次いでだし、彼女の怪我も治してあげましょう!私の職種、ヒーラーだし♪

 

そう思って白髪の少女の怪我を治そうとすると、私の背後で凄い音がした。慌てて振り返ると、私の大竜巻が消え、肩で息をしつつも剣を振り下ろした体勢で私の方を睨んでいるあの子がいた。

 

 

(ま、まさか……私の大竜巻を斬ったの!?確かに威力は控えめにしてたけど、剣で斬れる様なものじゃないわよ!?)

 

 

私が驚いていると、竜巻に含まれていた家が彼女に向かって落ちて来た。私のこの必殺技は直進する大竜巻と3連続で落下して来る家でワンセットなの。でも彼女はそれ等を真上に放った1発の斬撃で全て破壊し尽くした。

 

 

「嘘ぉ!?」

 

「ハァ…!ハァ…!これで、消えろ!!」

 

 

彼女が剣を構えると、彼女から…と言うより彼女の持つ剣から感じる魔力に似た力が一気に高まって行くのを感じた。そして彼女が剣を振り下ろすと、今まで以上の威力の斬撃が飛んで……って!

 

 

「ヤバッ!!」

 

 

私は急いで白髪の少女を抱き上げて、『私が寝ていた公園跡地』って念じながら銀の靴の踵を3回鳴らした。私の目の前まで斬撃が迫っていたけど、なんとかギリギリで公園跡地に移動出来たわ。

 

 

ズドオォォォォォォォォン!!!

 

「あ、危なかったわね……あれ食らってたら流石にヤバかったかも」

 

 

さっきまでいた丘の上の公園の所で凄まじい轟音と粉塵が舞い上がり、私はそれを見て冷や汗をかいちゃった。

ま、ちょっと危なかったけど、あの子に私の必殺技を一応当てられたし、この子連れて逃げられたから、結果オーライよね♪

 

 

「さて、恨みを晴らせたのはいいけど……」

 

「う、うぅ……」

 

「この子、どうしようかしら?」

 

 

私は負っていた怪我が完治(・・)して寝ている白髪の少女をどうするか考えた。彼女の怪我は私のスキルの“リジェネ・傲慢”の効果で治した…と言うより、治ったの方が正しいかしらね。

このスキルの効果は私が静止時と移動時のみ、周囲の仲間のHPを1秒毎に超回復すると言うもの。だから彼女の怪我は私が丘の上の公園の方を見ているうちに怪我が完治したの。

 

 

「うーん……この子はこのままにしておきましょうか。怪我は治したし、格好からしてこの子もあの痴女軍団の仲間っぽいから、その内仲間が探しに来るでしょ」

 

 

あ、だったら私も早くここを離れた方が良さそうね。あの剣を持った女の子の邪魔をする為にこの子を助けたけど、目が覚めたらこの子やこの子の仲間がまた私を精霊と勘違いして襲って来そう。

 

 

「(それに新しい寝床探さないとなぁ…)じゃ、さっさと行きましょうか。さようなら〜♪」

 

 

私は白髪の少女をその場に残して、新しい寝床を探しに行った。何処かにちょうど良さそうな場所はないかしら?

 

 

 

 

 

 

「………逃したか」

 

 

十香は今は自分の斬撃によって地面が抉れている先程までカオス・ドロシーと負傷した折紙がいた場所を悔しそうな顔で睨んでいた。

 

 

「シドー……すまない。私は、仇を……取れなかった」

 

 

十香は今は亡き親友、士道に仇を取る事が出来なかった事を詫びた。すると彼女の耳に、聞き覚えのある悲鳴らしきものが聞こえて来た。

 

 

うわあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

「ッ!?こ、この声は……まさか!?」

 

 

十香は声のする方に顔を向けると、そこには何故か上空から涙を流し、絶叫を上げながらパラシュート無しのスカイダイビングをしている死んだ筈の親友……士道の姿があった。

 

 

「シ、シドー!?」

 

 

十香は信じられないと自身の目を疑ったが、すぐに空を飛んで落ちてくる士道を空中でキャッチした。

 

 

「シドー……ほ、本物か?本物のシドーなのか?」

 

「あぁ……だと思う」

 

 

十香の問いに士道は苦笑いを浮かべながらもそう答えた。その声と表情で本物だと理解した十香は、涙を溢れさせながら彼に強く抱き着きついた。

 

その後、十香が嬉しさのあまり〈最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)〉の制御を誤って、かなりヤバい状況になったが、士道が十香にキスをすると彼女の霊装と天使が解除され、なんとか危機は去ったのであった。

 

 

 

 

 

 

「ああぁ〜……ダルい〜……しんどい〜」

 

 

能力を解除してカオス・ドロシーからカオス・アリスに戻った私は、新しい寝床に決めた神社の拝殿の中で凄まじい疲れと怠さを感じながらグッタリしていた。

 

私のこの他のカオステラーになる能力……凄く強力で便利だけど、色々めんどい制限があるんだよね。

例えばこの能力はなりたいカオステラーをイメージしながらあの栞…〈混沌の栞〉でいっか。それを〈アリス・アンダーテール〉に挟んで発動するんだけど、1つの栞で変身出来るのは2人まで。だからその2人以外のカオステラーになるには、一度能力を解除してカオス・アリスに戻ってからもう一度栞を出して挟む必要があるの。そして能力を解除すると、凄い疲れと怠さを感じるんだよね。しかもカオス・アリスの時に感じるから、余計に疲れる……ダルい。

 

 

「うぅ〜……かったるい……今日はもう寝よ」

 

 

もう動くのもダルいから、私はそのままの体勢で目を閉じた。今日は結構能力使ったし、この場所を見つけるのに時間が掛かって今は夜だから、すぐに睡魔が襲って来た。

 

 

「お休み〜……ぐぅ…ぐぅ…」



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第7話とか……めどい

遅れてしまって申し訳ありません。仕事の方が忙しくてなかなか時間が取れませんでした。


「はぁ〜……ダルい……しんどい……お腹空いた」

 

 

翌朝、私は目が覚めてからずっと鳴りっぱなしでウザいお腹を押さえながら、新しい寝床の神社の拝殿の中でゴロゴロしていた。あの銃刀法違反精霊が私の家(公園)をお菓子や食べ物ごと壊さなかったら、今頃1人食っちゃ寝パーティーをしていたのに……ウザい。

 

 

「ムゥ……どうしよう?」

 

 

神社の賽銭箱の中身を貰っちゃおうって手もあるけど、ここの賽銭箱はキチンと鍵掛かってるし、鍵壊して取り出すのはダルいからやりたくない。仮にやったら警察とか来て絶対めんどい事になるだろうし。

 

はぁ…やっぱり働かないとダメかぁ。でもダルいしめどいから働きたくない。つーか住所も印鑑も何も無いから、履歴書すら書けないじゃん……めどい。

 

 

「……いっそ能力使っちゃおうかなぁ?」

 

 

他のカオステラーの能力……例えばカオス・アラジンの魔法のランプの力なら、一瞬で世界一のお金持ちになれるし、この町のど真ん中におっきなお城を建てさせる事だって出来る。他のカオステラーの能力でも魔法のランプ程ではないけど、今の問題くらいなら解決出来ると思う。

ただこれにもかなりめどい制限があるんだよね。なんかこの能力、変身したカオステラーの能力の使用度合いによって解除した時に感じる疲労感が変化するっぽい。

 

変身するだけならあんまり疲れないんだけど、そのカオステラーの能力…例えば銀の靴や魔法のランプなんかを使う回数が多かったり、規模とかが大きい程、解除した後に感じる疲労感が大きくなってくんだよね……ダルい。

 

あ〜あ、なんか疲れないで楽にお金がいっぱい手に入る方法とかないかなぁ?……まぁ、そんな方法があるならもうとっくにやってるけど。

 

 

「はぁ………あ、そうだ」

 

 

あれ(・・)なら上手く行けばあまり疲れず楽にお金が手に入らないかな?うん、ダルいけどこのままだと飢え死にしそうだし、やってみよう。

よし、それじゃあ先ずは………。

 

 

「箱とか何か入れるもの探さないと……はぁ、ダルい」

 

 

 

 

 

 

夕日に染まり始めた天宮市のとあるスーパーから、両手に食材やら日用品やらが入ったビニール袋を両手に持った士道が少々疲れた表情をしながら出て来た。

 

 

「ふぅ……結構ギリギリだったけど、なんとか買えてホントに良かったぁ〜」

 

 

士道は左手に持った袋の1番上に乗っている卵のパックを見ながら安堵した。

実はつい1時間程前…彼は義妹の琴里に「今日はオムライスが食べたいのだ!」とお願いされ、仕方なく作ろうとしていた夕飯メニューを変更してオムライスにする事になったのだが、偶々冷蔵庫の卵を切らせていた為、このスーパーに買いに来たのだ。

だが不運な事に今日は卵の特売日で、士道は半額になった卵を狙う奥様&おばちゃん軍団と戦い(笑)ながらなんとか卵をゲットしたのだ。つい昨日お腹に大きな風穴が開いたと言うのによくやるねホント。

 

 

「さて、早く帰って夕飯の支度しないと……ん?」

 

 

すると士道は少し離れた場所に凄い人集りが出来ているのを見つけた。来る時はあんな人集りはなかったので、彼がスーパーで奥様&おばちゃん軍団と格闘している間に出来たものだろう。

 

 

「なんだ?有名人でもいるのか?」

 

 

ちょっとだけ気になった士道は、その人集りの方に近付いて行った。近くまで来るとその人集りは子供からお年寄りまで含まれており、皆が皆同じ方向を見ながら歓声を上げていた。

 

 

「いいぞ〜嬢ちゃん!もう一曲だけ歌ってくれ!」

 

「もう1回お姉ちゃんのお歌聞かせて〜!」

 

「アンコール!アンコールじゃ!」

 

「な、なんだコレ?ホントに有名人でもいるのか?」

 

 

まるで超有名アイドルを前にした熱烈なファン達の様な人集りに驚いた士道は、いったいどんな人物がいるのだろうと興味が湧いて皆の視線が集まる方向を見る。

 

そこには1人の美しい少女がいた。絹糸の様な薄紫色の長い髪をツインテールにしており、腰辺りにヒラヒラとしたベールの様な装飾が施された紫色を基調とした神秘的なドレスを身に纏っており、頭には魚のヒレの様な形の飾りが付いたカチューシャ、左手には様々な色のキラキラと輝く宝石が埋め込まれた杖の様なものを持っている。

 

その姿はまるで、海の底のお姫様を思わせた。

 

 

「みんさ〜〜ん!私の歌をここまで聞いてくれてありがと〜〜!!」

 

「「「「「ワァァァァァァァァァ!!」」」」」

 

 

心が安らぐ様な美しい声が彼女の口から発せられ、彼女の声を聞いて集まった人々は皆歓声を上げた。少女はその歓声を聞くと嬉しそうに頷き、士道も一瞬ドキッとする程の笑顔を浮かべた。

 

 

「ふふふ♪初めての路上ライブだったけど、こんなに沢山の人達が私の歌を聞いてくれて、とっても嬉しいわ♪」

 

「「「「「イエェェェェェェイ!!」」」」」

 

 

少女の側にはちょっとボロボロではあるが、沢山のお金が入った箱が置かれていた。ただでさえ既に何枚か万札が入っているのに、少女の笑顔を見た人々は更に小銭などを箱に入れて行った。

 

 

「それじゃあ、ちょっと残念だけど次が最後の歌!では聞いてください!ラストナンバー!“輝きに手を伸ばすなら”!」

 

「「「「「ウオォォォォォォォォ!!」」」」」

 

 

再び凄まじい歓声が上がり、少女が歌い出した。その歌声は一瞬で人々を虜にした。子供達は楽しそうに歌う少女をキラキラした目で見つめ、大人達はうっとりとその歌声に耳を傾け、老人達はそっと目を閉じてその歌声に集中する。誰もが羨む様なその美しい歌声に、士道もさっきまで感じていた疲れもすっかり忘れてその歌に聞き入った。

そしてしばらくその祝福の時間は続き、やがてその魔法の様な歌は終わりを迎えた。

 

 

「〜〜〜♪……ありがとうございました〜!」

 

「「「「「ワァァァァァァァァァ!!!」」」」」

 

 

歌が終わると同時に、今まで以上の歓声が上がり、彼女の側にある箱に更にお金が投げ込まれる。士道も気付けば皆と一緒に歓声を上げ、自身の財布の中にあった500円玉を箱目掛けて投げていた。

だがその場にいる全員は後悔はしていない。それ程までに彼女の歌は素晴らしく、何より心が癒されたからだ。

 

 

「ありがとう♪ありがとう♪残念だけど今日はこれでお終い!またいつか会えるのを楽しみにしてるよ☆」

 

 

少女はそう言うと、お金でいっぱいになった箱を抱え、自身の歌を聞いてくれた人達に手を振りながらその場を去って行った。彼女の歌を聞いていた人々は皆拍手で彼女を見送り、姿が見えなくなると解散して行った。

 

 

「凄い人だったなぁ……あんないい歌は聞いた事がない」

 

 

士道は家に向かって歩きながら先程聞いた少女の路上ライブを思い出しながらそう呟いた。今回は楽器などの演奏は無かったが、もしあったら間違いなく先程以上に素晴らしいライブになっただろうと士道は確信する。

 

 

「今度は琴里や十香達も一緒に聴けるといいな」

 

 

士道は2人も絶対に彼女の歌を気に入るだろうなと思いながら家に帰って行った。

 

 

 

 

 

 

「ふん♪ふん♪ふ〜ん♪……思ったより沢山集まったわねぇ〜♪流石は海の魔女も羨む人魚姫の歌声!」

 

 

私は神社の拝殿の中で鼻歌を歌いながらさっきの路上ライブで稼いだお金を数えているの。側にはさっきライブの帰りにあったコンビニで買った大量のジュースとお菓子やケーキがぎっしり詰まった袋が複数置かれてるわ。

 

もう分かってるかも知らないけど、今の私は〈混沌の栞〉を使ってカオス・人魚姫の姿になっているわ。私が思い付いたあまり疲れず楽にお金を稼ぐ方法は、この姿(カオス・人魚姫)になって路上ライブをするってものだったの。

 

正直、人前で歌を歌うなんてあまりやった事無かったから凄く不安だったけど、カオス・人魚姫になった瞬間頭の中に歌の知識が入って来たから問題無かったわ。それにカオス・人魚姫になったからか分からないけど、私の歌を聞いて喜んでくれる人達を見るのは気分が良かったわ。

……まぁ、帰り道に私の歌を聞いた人が「アイドルになりませんか?」ってスカウトして来るとは思わなかったけどね。

 

 

「え〜っと……合計12万8750円!凄いわ!これでしばらくは何もしなくても過ごして行けるわね♪あ、そろそろ元の姿に戻らないと…余計な疲れを感じたくないし」

 

 

私は〈アリス・アンダーテール〉を出現させると、挟まれている〈混沌の栞〉を取った。そしたら私の体を紫色の煙が包んで、煙が晴れると少し気怠い感じと疲れを感じながら元のカオス・アリスの姿に戻った。

ちょーダルいけど、カオス・人魚姫の歌声は能力的なヤツじゃないから、カオス・ドロシーの時よりかは疲れてない。けど、やっぱり少し疲れる……めどい。

 

 

「ふぁ〜……眠い……しんどい……お腹空いた。もうお菓子とか食べてお腹いっぱいになったら寝よ……ダルい」

 

 

私はめどいけどお菓子が入った袋からジュースとお菓子を取り出す。そしてゴロゴロ寝転びながらそれ等を食べてそのまま寝る。そしてまたお腹が空いて目が覚めたら食べてまた寝る。

おぉ……これぞ夢の食っちゃ寝パーティー。ちょっとだけ夢が叶った……最高……ぐぅ……。



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第8話とか……めどい

路上ライブで大儲けをしてから何日か経った。正確な日数は知らない……だって数えるのダルいし、1日のほとんどを拝殿の中で寝るかお菓子食べるかのどっちかで過ごしてる私には日にちとか関係ないもん。

 

 

「ん〜♪……このクッキー美味しい」

 

 

そして私は今日もフカフカの布団(・・・・・・・)の上に寝転びながらクッキーを頬張る。そして側に設置されている小型冷蔵庫(・・・・・)からキンキンに冷えたジュースの缶をダルいけど取り出して、乾いた喉を潤す。

 

 

「ぷはぁ〜♪……食っちゃ寝生活サイコ〜♪」

 

 

あ、勘違いされるとめどいから一応言っとくけど……この布団や冷蔵庫とかは盗んだ訳じゃないから。ちゃんとお金は払ってあるから、盗んでない……買いに行くのめんどかったから、生み出したヴィラン達にお金を持たせて買いに行かせたけど。

 

 

「そう言えば……あの日はやたらとパトカーのサイレンがうるさくてウザかったなぁ……まぁどうでもいいけど」

 

 

お陰で今はこうして快適に1人食っちゃ寝パーティー生活を満喫してるから、サイレンが鳴るくらいなら許せる。それに今回はちょっと疲れたけど、この神社全体を2つの特別な結界で覆った。

1つは斬撃とか爆発とかを防ぐ結界。これでこの前みたいにあのウザい斬撃とかに寝床を消し飛ばされる心配もない……思い出したらムカついてきた……クソ。

そしてもう1つは時間を巻き戻す結界。これは結界内に入ろうとする人間の時間を1分くらい前に巻き戻すもの。1回だけじゃただ巻き戻すだけだけど……何回か巻き戻しが続くと神社に入ろうとする事が無意識にめんどくなって、ダラダラしたり、ぐだ〜ってしたり、家に帰ろうと思うようになる。だからこの神社に人間がやってくる事は絶対にない……あ〜、説明するのダルい。

 

 

(つーか、誰に説明してるの私?……ん?)

 

……パシャッ!……パシャッ!

 

 

なんかまた外から水溜りの上を跳ねる様な音が聞こえてくる。なんで?さっき誰に向けてか知らないけど、結界の説明したばかりなんだけど?言ったそばから異常とか発生しないで欲しい……はぁ、めどい。

 

 

「……あ、もしかしてよしのんかな?あの子精霊だし、この結界疲れるからちょっと魔力ケチって人間にしか効果が無いようにしちゃったし」

 

 

よしのんだったら別にいいかな?あの子のパペットはテンションが高くてウザいし、うるさいけど……一緒にお菓子を食べたり、ゲームしたりするのは楽しかったし……よし、ちょっとかったるいけど誘っちゃおう。

 

 

……パシャッ!ズルッ!ベッタァァァァン…!!

 

「あ、またこけたっぽい……」

 

 

私は前と同じ様にこけたのかな?と思いながら、しんどいけど布団から出て拝殿の襖を開けた。そしてそこには私が予想した通り、前と同じ緑色のウサ耳付きフードのレインコートを着たよしのんがいた。

・・・あのウザいナンパやろーに怯えてるけど

 

 

「……トランプ兵」

 

「へ?え!?ちょ、ちょっと!?」

 

 

私は能力を発動して、片手に剣を持った『♥︎』のマークのトランプ兵を4体生み出して、あのウザいナンパやろーを包囲させた。トランプ兵達に剣の切っ先を向けられたナンパやろーは、ビックリしながら両手を上に上げた。

 

なんでこいつがここ(結界内)にいるの?

 

 

 

 

 

 

カオス・アリス曰くウザいナンパやろーこと五河 士道は、突然発生した紫色の煙の中から出て来たトランプ兵に剣を突き付けられて内心滅茶苦茶焦りながら必死に両手を上に上げていた。

 

 

(ト、トランプの兵隊!?これは確かあの子(精霊)の……なんでこんな所に!?)

 

 

士道は自分に剣を向けているトランプ兵達が、カオス・アリスが生み出したものだと理解していた。以前自身の義妹である琴里にカオス・アリスが痴女軍団…もといASTと戦っている映像を見せてもらった事があるからだ。

 

 

(てか、なんで俺はこいつらに囲まれて剣を向けられてるんだ!?俺何もしてないだろ!?……あ、いや…なんか女の子を怯えさせちゃったけどさぁ)

 

 

士道は少し離れた場所で目を見開いて口をポカンと開けたまま固まっている緑色のレインコートを着た女の子…よしのんをチラリと見た。

士道は学校から帰る途中に突然雨が降って来たので、仕方なくこの神社の境内にある木の下で雨宿りをしていた。そこに水溜りの上を跳ねて遊んでいたよしのんが現れ、士道の目の前で派手にころんだ。

それを見た士道は彼女に大丈夫かと尋ねたが、ころんだ拍子にパペットを落としたよしのんは士道に怯えて後退った。そこにカオス・アリスのトランプ兵達が現れたのだ。

 

 

(待てよ?このトランプの兵隊がいるって事は、もしかしてあの子も……?)

 

 

士道はこのトランプ兵達がいるなら彼女(カオス・アリス)もいるのではと思い、トランプ兵達を刺激しない様に視線だけを動かしてカオス・アリスを探した。そして士道の予想通り、カオス・アリスは初めて出会った時と同じ気怠げな表情を浮かべながら拝殿の襖を開けて出て来た。

 

 

「……めどいから動かないでよ?はぁ……雨ウザい」

 

 

降り続ける雨をウザがりながら、カオス・アリスは落ちていた白いウサギのパペットを拾い上げ、よしのんに投げ渡した。よしのんはいきなり飛んで来た自分のパペットに驚きつつも、上手にキャッチすると左手に嵌め、パペットをピコピコ動かして腹話術で話し始めた。

 

 

『ヤッハー!久しぶりだねーアリスちゃん♪こんな所で会うなんて奇遇だねぇ?』

 

「……相変わらずテンション高くてウザい……ダルい」

 

『あはは〜……アリスちゃんこそ相変わらずの面倒臭がり屋さんだねぇ〜』

 

 

よしのんはこれから先も一生変わらないであろうカオス・アリスの面倒臭がり屋な性格に少し呆れた様に言った。その口調にカオス・アリスは少しだけムッとした表情を浮かべる。

 

 

「……うっさい、バーカ。そっちだって、また水溜りの上を跳ねて遊んでてこけてんじゃん……ダッサ」

 

『ちょっとそれは酷くない!?』

 

「事実だし、別にいーじゃん……それより、またゲームして遊ばない?お菓子やジュースもある」

 

『ムムム……なんだか納得いかないけど、お腹もペコペコだし、そうさせてもらうよ!』

 

 

カオス・アリスの誘いに乗ったよしのんは、拝殿に向かって歩き出したカオス・アリスに付いて行く。

 

 

「って!ちょっと待ってくれよ!俺はこの後どうなるんだ!?」

 

「……あ、忘れてた。よしのんは先に中入ってて、私はめどいけど、このロリコン犯罪者とちょっとだけ話してくる」

 

『ロリ……?よく分かんないけど、分かったよ〜♪』

 

 

よしのんはコテンと首を可愛らしく傾げながらも、カオス・アリスに言われた通りに拝殿の中へ入って行った。士道は「誰がロリコン犯罪者だ!」とツッコミたかったが、トランプ兵に剣を突き付けられたので、納得いかないが仕方なく黙った。

 

 

「はぁ……で?貴方はここで何してるの?まさかまたナンパ?彼女とは別れたの?」

 

「い、いや……ナンパはしてないって。俺はただ雨宿りする為にこの神社に来て、そしたら水溜りの上を跳ねて遊んでいたあの子がころんだから、大丈夫か?って聞きに言っただけだよ」

 

「ふ〜ん……で、近付いたら怯えられたってこと?はぁ〜……ダッル。つーか、貴方どうやってこの神社に入って来たの?」

 

「え?どうやってって……普通に入ったんだけど?」

 

 

士道はカオス・アリスの質問に疑問を抱きながらも自分がどうやって入って来たのか答えた。それを聞いたカオス・アリスは首を傾げながらジッと士道を見詰めた後、もう1つの質問を投げかけた。

 

 

「……貴方、ホントに人間?」

 

「は?そ、そうだけど?」

 

 

士道は少しだけ自信なさげに頷いた。ホントは「当たり前だろ?」と言いたい所だったが、普通の人間がお腹に大きな風穴を開けられて生きていられるとは思えなかったので、士道は自分でも本当に人間なんだろうかと少し心配になった。

 

 

「………まぁ、いいか。じゃあさっさと帰ってよね。私これからあの子と遊ぶんだから……邪魔とかナンパとかされるのウザいし」

 

 

カオス・アリスはトランプ兵達を退がらせると、さっさと帰れとでも言いたげな視線で士道を見詰めた。

士道は何故カオス・アリスがここにいるのか?何故精霊があの子と一緒にゲームする程の仲になっているのかと色々聞いてみたかったが、トランプ兵が剣を構えて一歩近づいて来たので、士道は後で琴里に報告しようと決めて全速力で神社を出て行った。

 

 

「あーあ……後で結界の修正とかしとかないと……はぁ、ダルい」

 

 

カオス・アリスはトランプ兵達を消すと、自分も神社の拝殿の中へ入って行った。



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第9話とか……めどい

ウゥゥゥゥゥ!!ウゥゥゥゥゥ!!ウゥゥゥゥゥ!!

 

「うるさい……ウザい……しんどい……眠い」

 

 

ロリコン犯罪者を追い払って、よしのんとお菓子を食べながらゲームして遊んだ日から2日経ったある日。最近あまり聞かなかったあのウザいサイレンがまた鳴り出した。せっかく気持ち良く寝てたのに……クソ。

 

 

ウゥゥゥゥゥ!!ウゥゥゥゥゥ!!ウゥゥゥゥゥ!!

 

「はぁ……お菓子食べよ」

 

 

私は小さく溜息を吐くと、お菓子が入った買い物袋の中から大っきなペロペロキャンディを取り出して舐め始めた。うん、甘くて美味しい♪

 

 

ドオォォォォォォン……!!!

 

「んぁ?」

 

 

なんかキャンディ舐めてたら外からまた爆発音がした。神社が少し揺れるくらいだから、結構近いのかな?少し気になった私は、ちょっとダルいけど布団から出て、襖を少し開けて外を見た。

 

 

「うっわ……今日も雨降ってるし。つーか、ここ最近毎日雨じゃん……ウザ」

 

 

ザーザー雨が降ってるのを見てウザく感じながら、私は襖の隙間から外の様子を伺う。外はまるでゴーストタウンみたいに人どころか車も走ってないけど、別に煙が上がってる訳でもないから、爆破テロとかじゃないのかな?

 

 

「それともここからじゃ見えないだけで、爆破地点は凄い事になってるとか?……ちょっと見てみたいけど、雨降ってるし、行くのめどいから別にいいや」

 

 

そう呟きながらぼんやりと灰色の雲に覆われた空を見上げてると、久々に見るあの痴女軍団が神社の上を通り過ぎてビルの向こう側まで飛んで行って、ここからじゃ見えないビルの向こう側に向かって銃を撃ち始めた。『また誰かが痴女軍団に襲われてるなぁ〜』って思っていると、痴女軍団が撃ってるビルの向こう側から空に向かって、小さくて見づらいけど、なんか見覚えのある緑色の人影が飛んで行くのが見えた。

 

 

「……つーか、よしのんじゃん」

 

 

嘘でしょ?なんであの子あの痴女軍団に襲われてるの?しかも空飛んでるし、結構な速さだし。一応私も本気出したらあれくらいなら出来るけど……めどいし、ダルいし、疲れるから絶対やんない。

 

 

ドガガガガガガガガガ!!!

ドガァァァン!!

 

「……ちょっと、アレ大丈夫なの?」

 

 

なんかよしのんメッチャ銃弾やミサイルに当たってる。ちょっと大丈夫か心配になったけど、一応ちゃんと飛べてるから問題なさそう。よしのんはそのまましばらくあの痴女軍団から逃げ回ると、神社から少し離れた建物……確かデパートだったかな?アレ。そこに逃げ込むのがギリギリ見えた。はぁ……説明するのちょーダルい。

 

 

(つーか、なんであの子反撃とかしないんだろ?精霊ならあの銃刀法違反精霊みたいな能力持ってそうだけど?)

 

 

もしかして争い事嫌いとか?パペットあるとウザいくらいテンション高いけど、なんかあの子が人に攻撃するイメージ湧かないし。だから反撃しないのかな?

 

はぁ……しょーがないなぁ。

 

 

「この世界に来て初めて一緒に遊んだ仲だし……ダルいし、かったるいけど、助けに行ってあげようかな」

 

 

私は拝殿から外に出て、よしのんが入って行ったデパートに向かって飛んで行った。あ、もちろんデパートの周りのビルの上から見張ってる痴女軍団に見つかるとめどいから、地面から少し足を浮かせた程度で、ダルい建物の陰を利用しながらデパートに向かった。

 

 

 

 

 

 

ちょー疲れたけど、なんとか痴女軍団に見つからずにデパートの中に入れた。ただ入口シャッター閉まってて、他の場所探すのめんどかったから、ダルいけどあのトランプが含まれてる紫色の光をぶつけて無理矢理開けたから、誰かが中に入った事はもうバレてると思う。中まで入って来ないのはラッキーだけど……めどい。

 

 

「さてと、入れたのはいいけど……よしのん何処にいるの?捜すのめんどいんだけど……」

 

 

私は辺りを見回してよしのんを探す。取り敢えずよしのんは屋上から中に入ってたから、吹き抜けになってる部分から疲れるけど一気に上の階に上がったけど、電気点いてなくて暗いから見えにくい……ウザい。

 

 

「………あ」

 

「へ?」

 

『おぅ?』

 

 

考えるのがめんどかったから、なんとなく子供が行きそうな場所って事でおもちゃ売り場を捜してみると、案外早く見つかった。でもなんでよしのんの側でロリコン犯罪者が尻餅ついてるの?

 

 

『おやぁ?誰かと思えばアリスちゃんじゃな〜い!こんな所で会うなんて、すっごい偶然だねぇ〜♪』

 

「……偶々よしのんが痴女軍団に襲われてるのを見たから、ダルいけど助けに来ただけ。……それより大丈夫?そこのロリコン犯罪者に何かされてない?」

 

「誰がロリコン犯罪者だ!!」

 

 

ロリコン犯罪者がなんか言ってるけどダルいから気にしない。つーか、そう言えばなんでこいつはここにいるの?あのサイレン鳴ったら町で人を痴女軍団以外見なくなるのに……まさか痴女軍団の仲間?でも銃とか持ってなさそう……あー、考えるのダルい。

 

 

『よしのんは全然大丈夫だよ〜!これでも精霊だからさぁ、見ての通り怪我もしてないよ!』

 

「……ならいい。あったら治すのダルくてめんどいし」

 

『そこは思ってても言わない方が良かったんじゃないの?』

 

 

だって私一応ヒーラーだけど治せるの自分限定だから、自分以外の回復は他のカオステラーに変身しないと出来ないんだもん。でも怪我がないなら良かった。あ、でも今外はあの痴女軍団に囲まれてるんだよね……めどい。

 

 

『あーでもキスはしちゃったかなぁ〜』

 

「………は?

 

 

私はゆっくりとロリコン犯罪者の方を見る。そしたらロリコン犯罪者はビクッ!って肩を震わせると汗をダラダラ流しながら視線を逸らした。どうやら本当みたい。

 

 

「………取り敢えずめどいから警察に行こうか」

 

「いやいやいや!ち、違うんだよ!誤解なんだ!」

 

「ふ〜〜ん……誤解ねぇ?じゃあ、なんであの子はあんなに怒ってるの?」

 

「………あの子?」

 

 

私が指を差した方を見てロリコン犯罪者は顔を青褪めた。実はめんどいから無視してたんだけど、私が来る前からずっとよしのんとロリコン犯罪者をなんか視線だけで殺せそうな目付きで睨んでるどっかの制服姿の銃刀法違反精霊がいるんだよね。しかも最初は2人だけだったのに私が来た途端、私にも睨んで来てる……ウザい。

 

 

「シドー……今、何をしていた?」

 

「と、十香……なんでここに?」

 

「あれだけ心配させておいて、女とイチャコラしているとは……何事かぁぁぁ!!

ズガァァァァァァァァン!!!

 

 

銃刀法違反精霊が床に足を打ち付けると、打ち付けた位置を中心に床が陥没した上に、蜘蛛の巣みたいに亀裂が入った。つーかあんな細い足の何処にこんな馬鹿力があるの?

私がそんな疑問を抱いていると、銃刀法違反精霊……もう無駄に長くてめんどいし、仕返し済ましたから普通に名前で呼ぼ。確か……十香ちゃんだっけ?彼女は黙って私達に近付いてくると、ロリコン犯罪者に視線を向けて、私とよしのんに向かって指を差した。

 

 

「シドー!お前の言っていた大事な用とは、この娘達に会う事だったのか!?」

 

「い、いや〜……それは……」

 

「……やっぱり浮気だったんだ。しかも彼女にバレてやんの……プププッ♪ダッサ」

 

「お願い!お願いだから!今はちょっと黙っててくれないかなぁ!?」

 

 

うっさい……だったら最初から彼女出来た時点でナンパとかしなかったらいいじゃん。後、こんな近くでそんな大きい声出すなっつーの……バーカ。

 

 

『へぇ〜?オネ〜サンとオニ〜サンはそ〜いう関係なのねぇ?』

 

 

するとさっきからずっと黙ってたよしのんが声を出して、パペットの顔に悪戯を思い付いた子供みたいな笑みを浮かべさせた。なんとなくだけど、めんどくさい予感がする。

 

 

『オネ〜サァン……え〜っと?』

 

「…十香だ」

 

『十香ちゃん悪いんだけど〜♪士道くん君に飽きちゃったみたいなんだよねぇ♪』

 

 

なんかよしのんが見掛けに寄らず結構凄い事言いだした。十香ちゃんとロリコン犯罪者はビックリして、ロリコン犯罪者は結構面白い顔してる。

 

 

『話を聞いてると、どうやら十香ちゃんとの約束すっぽかしてよしのん()の所に来ちゃったみたいじゃない?コレってもう、決定的じゃない?』

 

「お、お前何言ってムガッ!!?」

 

「シドー…少し黙っていろ」

 

 

うわぁ〜……十香ちゃんに口元掴まれたロリコン犯罪者がなんか死にそうになってる。十香ちゃんどんだけ力込めて掴んでるんだろ?それより何気によしのん私も巻き込んでる。めどいから巻き込まないで欲しいんだけど?

 

 

『いやぁ〜ごめんね〜?これもよしのん達が魅力的過ぎるのがいけないのよねぇ?別に十香ちゃんが悪いって言ってるわけじゃないのよぅ?たぁだぁ、十香ちゃんを捨ててよしのん達の下に走っちゃった士道くんを責めることもできないっていうかぁ♪』

 

「むがぁぁぁ!!うるさ〜い!黙れ黙れ黙れ!ダメなのだ!そんなのはダメなのだ〜!!」

 

『えぇ〜?駄目って言われてもねぇ?ほらほらぁ、士道くんもはっきり言ってあげなよぅ♪十香ちゃんはもういらない子だって』

 

「……ッ!わ、私はいらない子などではない!」

 

 

等々怒った十香ちゃんがパペットの胸ぐらを掴んで持ち上げた。パペットを取られた……えっと、少女は一瞬キョトンとしてたけど、次第に顔を蒼褪めて、目尻に涙を浮かべ始めた。

十香ちゃんはなんかパペットがホントに喋ってたと思ってるのか、パペットに向かって怒鳴ってる。パペットがホントに喋るわけないじゃん……バーカ。

 

 

「シドーが…シドーが私に、ここにいていいと言ってくれたのだ!それ以上の愚弄は許さんぞ!おい!なんとか言ったらどうだ!?話せ!」

 

 

胸ぐらを掴まれてグラグラ揺らされてる自分のパペットを見て、少女が今にも泣きそうな顔になり、レインコートのフードを深く被ると、ビクビク震えながら十香ちゃんに歩み寄って行った。十香ちゃんの方もそんな彼女に気付いて、パペットの胸ぐらを掴んだまま視線だけを少女に向けた。

 

 

「……?なんだ?私は今、こいつと」

 

「か…えして……ください」

 

 

少女はパペットを取り返そうと必死に手を伸ばしながらその場でピョンピョン飛び跳ねてるけど、身長差がありすぎて全然届いてない。つーか、もうそろそろウザいからいい加減にして欲しい。私だってずっとここに居たくないし、早く戻って布団の上でゴロゴロしながらお菓子食べたいし。

 

私は小さく溜め息を吐くと、めんどいけど2人の側に近寄って、少女の頭に手を置いて撫でながら十香ちゃんに話しかけた。はぁ……なんで私がこんな事しないといけないんだろ?……かったるい。

 

 

「ねぇ、そのウサギのパペット、この子に返してあげてくれない?泣かれるとめどいし」

 

「ッ!うるさいうるさい!私は今こいつと話をしているのだ!邪魔をするな!」

 

 

取り敢えずパペット返してくれるよう頼んでみたけど、十香ちゃんは全然聞く耳持たない。はぁ……ちょ〜めんどい。なんかいい方法ないかな?ぶっ飛ばしたらなんか今の十香ちゃんじゃ死んじゃいそうだし、ロリコン犯罪者に頼んでも絶対余計にややこしくなるだけだし。はぁ……めどいけど、しょ〜がないなぁ。

私は少女から少し離れて、私と十香ちゃんだけが中に入るくらいの大きさに凄くめどいけど調整した“わたしだけのせかい”をかなり弱めにして発動した。威力かなり弱めたから、世界の色が薄くて殆ど見えないけど、ちゃんと十香ちゃんは世界の中に入った。

 

 

「おい貴様!早くなんとか言ってみろ!なん……と……か………はぁ……もう疲れた……めんどくさいのだ」

 

 

私が作った小さな世界に入っている十香ちゃんは、さっきまでの怒り様が嘘みたいに凄く疲れた様な表情になって、パペットを掴んでた手もだらんと下ろしてその場に座り込んじゃった。

 

 

「ッ!?と、十香!?おい!十香に何をしたんだ!?」

 

「答えんのめんどいから自分で考えて……はい、パペット」

 

「ッ!よ、よし……のん!」

 

「もう調子に乗って怒らせないでよね……めどいから」

 

「は…いっ……!」

 

 

ダルいけど座り込んで動かない十香ちゃんからパペットを取り上げると、少女にめどいけど注意しながらパペットを返した。少女は返したパペットを左手に嵌ると、嬉しそうにパペットを抱き締めた。

 

 

「はぁ…これからどうしよう?……めんどくさい」




ちょっと切り方無理矢理過ぎましたかね?


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第10話とか……めどい

私はパペットが戻って喜んでるよしのんを眺めながらこれからどうやって帰るかをめんどいけど考えている。このデパートの中に入って、おまけ付きだけどよしのんを見つけたまでは良かったけど、この後どうやってよしのんを連れてここから逃げるかをめんどかったから考えてなかったの。

 

 

(私だけならまたカオス・ドロシーになって銀の靴の力で神社まで転移すればいいんだけど、今回はよしのんもいるしなぁ……ダルい)

 

 

この前めんどかったから説明省いてたけど、カオス・ドロシーの銀の靴は自分以外の生物や自分より重くて大きいものと一緒に転移したら、解除した時に感じる疲れがすっごく大きくなるんだよね……めどい。

 

 

「(う〜ん……どうしよう?)……うん?」

 

「シド〜…疲れた〜…お腹も空いた〜……」

 

「おい十香しっかりしろ!お前そんなダラ〜ってした感じじゃなかっただろ!?どうしたんだよ!?」

 

 

なんか騒がしいと思ったら、“わたしだけのせかい”の影響でダラ〜ってしてる十香ちゃんの肩をロリコン犯罪者が揺すって正気に戻そうとしてた。

 

 

「頑張ってるとこ悪いけど、その子は後1時間くらいはそのままだから。ほっとけば治る。だから静かにして……うるさい」

 

「い、1時間って……それまで十香をどうすりゃいいんだよ」

 

「シド〜……きなこパン〜……」

 

「あーもう帰ったら食わせてやるから!頼むからしっかりしてくれよ!」

 

 

きなこパン……食べた事無いけど、あんな風になっても食べたがる程美味しいのかな?ダルいけど、興味湧いたから今度買って食べてみよ。パン屋さんで買えるよね?

 

私は十香ちゃんが食べたがるきなこパンっていう食べ物を今度食べようと思っていると、急にロリコン犯罪者が耳に手を当ててボソボソ話し出した。

 

 

なんだよ琴里?今十香の事で忙しいんだよ。……え?ASTが?……なんだって!?

 

 

なんかボソボソ話してると思ったら、今度はいきなり驚いた様な表情で大きな声を出した。その声に驚いてさっきまで喜んでいたよしのんはビクッと肩を震わせて私の背中に隠れちゃった……めどい。

 

 

(つーかよく見たらこいつの耳、なんかスパイ映画とかで見そうな耳に付けるアレっぽいのがあるじゃん。しかも誰かの名前とか、ASTとかどっかの組織名っぽいの呟いてたし……ホントにこいつ何なの?)

 

 

私がダルいけどロリコン犯罪者を少し警戒してると、いきなりこの階の窓ガラスが割れて幾つもの銃声と一緒に弾丸の嵐が向かって来た。私は凄く疲れるけどすぐに『♣︎』のトランプ兵を3体生み出して私とよしのんを守らせた。ホントは十香ちゃんの分も含めて3体だったんだけど、ロリコン犯罪者が十香ちゃんを引っ張って物陰に隠れたから、1体無駄に出しちゃった……ダルい。

 

 

ドガガガガガガガガガガガ!!!

「あーもうめどい!なんなのいきなり!?」

 

 

トランプ兵達の盾の隙間からチラッと割れた窓の方を見てみると、痴女軍団達が私達に向かって銃を撃ちまくってた。しかも柱の陰に隠れたロリコン犯罪者と十香ちゃん達の方じゃなくて、私達を集中的に狙ってる……ウザい。

 

 

ドガガガガガガガガガガガ!!!

ドガガガ!!!ドガガガガガ!!!

 

 

つーか室内だから銃声が響いてうるさい!周りの柱や商品とかに弾が当たって飛んで来る破片とかがウザい!ダルい!しんどい!あぁ〜……めんどいめんどいめんどいめんどいめんどいめんどいめんどい!!!もう頭に来た!

 

 

「めどいけど………ちょっとだけ、本気出す!〈アリス・アンダーテール〉!」

 

 

私は片手に〈アリス・アンダーテール〉を出現させると、もう片方の手に〈混沌の栞〉を出現させた。よしのんとロリコン犯罪者は私のいきなりの行動にビックリしてるみたいだけど、そんな事は気にせず私は〈アリス・アンダーテール〉に〈混沌の栞〉を挟んだ。すると私は紫色の煙っぽいのに包まれた。

 

 

『え!?え!?何これ!?ちょっと何したのアリスちゃん!?』

 

「こ、これは!?おい琴里!一体何が……!?」

 

 

………まだ晴れない煙の中で、御二人の驚きの声が聞こえて来ます。確かに、突然私が紫色の煙に包まれれば、私の能力を知らない御二人は驚く事でしょう。少し申し訳ない気持ちになりますね。

 

 

(さて、私も私のやるべき事をやりましょう)

 

 

私は煙の中で右手に()を、左手に軍旗(・・)を持ち、煙を薙ぎ払う様に剣を振りました。

 

 

『え!?お、オネーサン……誰?』

 

「な!?」

 

 

煙が晴れた事で見える様になった私の姿を見て、よしのんさんと……確か五河さんでしたか?御二人は驚いた表情を浮かべて私を凝視しています。無理もありませんが、そんなに見つめられると少々照れますね。ですが、今はそれどころではありません。

 

 

「申し訳ありませんが、今は説明する時間はありません。私がこれから言う事をよく聞いて下さい」

 

 

 

 

 

 

識別名《ハーミット》と呼ばれる精霊が逃げ込んだデパートの外で待機していた痴女軍d…ゴホン!AST達の隊長である日下部(くさかべ) 燎子(りょうこ)は、送られて来たとある報告を聞いて驚きの声を上げた。

 

 

「なんですって!?精霊が2体!?それは確かなの?」

 

「「「「「えぇ!!?」」」」」

 

 

思ったより声が大きかった為、彼女の近くにいた部下達も報告の内容を聞いて驚きの声を上げながら思わず自分達の隊長を見る。その間も日下部は報告を聞き、何度か驚いた表情を浮かべながらも、最後には「了解」と言って通信を切った。

 

 

「今報告があったわ。周囲の防犯カメラの映像を調べた所、あのデパートの中にいるのは《ハーミット》の他にもう1体、以前私達を一瞬で全滅させたあの精霊がいるらしいわ」

 

「『「『「ッ!!!」』」』」

 

 

日下部の言葉を聞いて、直接聞いていた隊員と通信機越しに聞いていた隊員達の間に緊張が走った。まぁその精霊はカオス・アリスの事なのだが、ASTのメンバー達は彼女を特に警戒していた。

 

初めてカオス・アリスと交戦したあの日、彼女達は怠惰の世界を経験した。精霊の討伐と言う目的の為に武器を持った彼女達の戦う意思は、カオス・アリスが作り出した世界に入った瞬間、完全に消え失せた。精霊に並々ならぬ敵意を抱いていた折紙でさえ、『精霊と戦うなんて面倒…』と思って武器を下ろし、地面に座り込んでしまう程だった。全ての事が面倒に感じ、次第にその世界にいる事が心地良く感じ始め、カオス・アリスの“わたしだけのせかい”の効果が完全に切れる頃には、折紙以外の隊員全員がしばらく医務室のベッドから出る事を拒否する程で、彼女達の上司もカオス・アリスの力を危険視していた。

それをカオス・アリスは「手加減はする」と言って行った。なら、手加減無しだったら、いったい自分達はどうなっていたのだろう?そう考えるとASTの隊員達はブルリと体を震わせた。

 

 

「上からも攻撃の許可は下りたわ。総員、《ハーミット》と例の精霊の姿を確認次第攻撃開始!特に例の精霊には注意しなさい!」

 

「『「『「了解!!」』」』」

 

 

日下部の指示に従い、隊員達は気を引き締めてそれぞれの武器を構えて配置に着いた。そして1人の隊員がデパートの窓から《ハーミット》……よしのんと側にいるカオス・アリスの姿が見えたのを確認した。その部下の報告を聞いた日下部は頷くと、他の隊員達をそこに集結させ、攻撃の号令をかけた。

 

 

「撃ち方始めぇ!!」

 

ドガガガガガガガガガガガ!!!

ドガガガ!!!ドガガガガガ!!!

 

 

日下部の号令がかかった直後、隊員達は一斉に射撃を開始した。放たれた弾丸の嵐はデパートの中にいるカオス・アリス達に向かっていくが、トランプ兵達が防御するのを見て射撃を続行する。

 

 

(このままやられてくれたら楽なんだけど……)

 

 

日下部は部下達と一緒に射撃を行いつつ、攻撃を受けている精霊がどう動くかを警戒していた。この程度で精霊が倒されるとは思っていないからだ。そしてしばらく射撃が続いたその時……。

 

 

ドガァァァァァァァァァァン!!!

 

「「「「「ッ!!?」」」」」

 

 

突如攻撃していたフロアが爆発炎上し、滞空していたAST達を爆風で吹き飛ばした。突然の爆発に驚きつつも、日頃訓練を受けていた彼女達は空中で上手く態勢を立て直すと、先程まで自分達が攻撃していた場所に視線を向ける。

するとそこには、爆発を起こしたであろう凛とした表情の1人の女性が、燃え盛る炎の中でこちらを見上げていた。

 

彼女は右目に紫色の薔薇を模したアイパッチを付けており、肌は白く、膝辺りまで届く長い髪は上から金、オレンジ、水色の順に色が変わっている。服装は背中が開いた黒いドレスと鎧を混合させた様なものを身に纏い、両腕にはガントレットを嵌めている。右手には剣、左手には風に靡く真紅の軍旗を持っており、その姿は御伽噺などに出て来る姫騎士を思わせた。

 

 

「……本来ならば、私は祖国を守る為に戦っている貴女方と敵対する事はしたくはありません。貴女方にも守るべきものがあり、貫くべき正義があり、やり遂げなければならない使命があるのでしょう。ですが……」

 

 

彼女が一度話を区切ると、彼女の周りに幾つもの紫色の煙が立ち昇り、その中から盾と槍、もしくは弓矢を持った仮面を付けた昆虫の様なモンスター……ウィングヴィランと呼ばれるヴィラン達が現れた。

AST達が突然現れたヴィラン達に驚く中、ヴィラン達は盾と槍を構え、弓を引く。そしてヴィラン達を生み出した彼女は左手の軍旗を掲げて叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の私の使命は、貴女方の使命を妨害する事!私の名はカオス・ジャンヌ!貴女方が今倒すべき敵!さぁ……私を殺して正義を示しなさい!!」



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第11話とか……めどい

お待たせしまくってしまって、大変申し訳ありませんでしたぁ!!


「全軍!攻撃開始!彼女達を、誰一人この場から逃がしてはなりません!」

 

「「「「「クルルルァ!!!」」」」」

 

 

燃え盛る炎の中、(カオス・ジャンヌ)の号令に従い、我が軍の兵士達は雄叫びを上げ、未だに空中で動かずにいる敵の兵士達に攻撃を開始しました。弓兵達は次々と矢を放ち、槍盾兵達は自身の翅を羽ばたかせ、槍と盾を構えて彼女達向かって突撃して行きます。

 

 

「ッ!総員!回避行動!」

 

 

しかし、彼女達もまた訓練された兵士。いち早く我に返った彼女達の部隊長らしき女性の声にしっかりと反応し、動揺しつつも襲い来る矢や槍盾兵達の鋭い突きを躱し、又は手に持つ武器で防いで見せました。続いての2撃目、3撃目も防ぎ切りました。なかなか練度が高いですね。

 

 

「新種の精霊!?どうして!?ここには《ハーミット》と例の精霊しか居ない筈じゃ!?」

 

「落ち着きなさい!総員!目標を目の前の新種の精霊と、虫の様な生物に変更!各自攻撃開始!」

 

「「「「「りょ、了解!!」」」」」

 

 

敵の部隊長が指示を出すと、彼女達は銃身が複数本束なっている巨大な機関銃や、刀身が青白い光の集合体の様な不思議な剣を駆使して我が軍の兵士達と交戦を始めました。兵士達は力と数では彼女達に勝っていますが、扱う武器の性能や仲間同士の連携等では彼女達に敵わず、徐々に我が軍の兵士達が討ち取られ始めました。

 

 

「ふむ……兵士達よ!1対1の戦闘は避け、複数で1人の敵と戦いなさい!敵に反撃の余地を与えぬよう、絶えず仲間と交互に攻撃し続けるのです!」

 

「「「「「クルルルゥ!!」」」」」

 

 

ならばとこちらも兵士達に指示を出すと、兵士達は雄叫びを上げて指示通りに1人の敵に対して3〜4名程で襲い掛かりました。すると不思議な剣を使って戦っていた者は回避する事に手一杯となり、次第に距離を取って巨大な機関銃で攻撃する者が増え始めました。

 

 

「よ、避け切れな……きゃあ!?」

パキィィーン!!!

 

「…………おや?」

 

 

未だ距離を取れていなかった1人が遂に避け切れなくなり、弓兵が放った1本の矢が当たると思ったのですが、まるで見えない透明な壁にぶつかったかの様に、矢が数メートル手前で弾かれました。その後他の者にも矢や槍の穂先が当たりそうになりますが、その全てが同じ様に弾かれてしまいます。衝撃はあるのか、当たる度に少し後ろに飛ばされていますが、傷1つ付いていません。

 

 

(バリア……の様なものでしょうか?この世界の科学がかなり進んでいるのは、あの空を飛ぶ女性達の武器や装備から分かっていた事ですが、まさか御伽噺の様なものまで存在するとは……驚きですね)

 

 

しかし彼女達の放つ無数の弾丸も、槍盾兵の持つ大楯を貫く事が出来ていません。互いに攻撃による損害を与える事も受ける事もない拮抗状態に近い状態になりましたが、彼女達は弾や体力を消耗するのに対し、兵士達には矢が尽きる事も体力が削られる事も無いので、こちらが有利に立っています。

 

 

(しばらくはこの状態を維持しましょう。無理に倒す必要はありませんからね)

 

 

私の使命は、彼女達の使命…精霊(よしのんさん)を討つと言う使命を妨害する事。故に彼女達を倒さずとも、狙いを私に向けさせてさえいれば問題は無いのです。今頃よしのんさんは、別動部隊の兵士達に護衛されながら、五河さんと十香さんと共に、安全な場所まで逃げている筈ですから。

 

……正直なところ、お付き合いしている女性が居るのに年下の少女と口付けをする方と一緒にするのはかなり心配ですが、この状況で彼等を置き去りにする事はどうしても出来ませんでした。やはりカオスを身に纏ってカオステラーとなったとは言え、元聖女としての(カオス・ジャンヌ)の心がそれを許しはしなかったのでしょうね。

一応護衛の兵士達も居ますし、五河さんは十香さんの面倒も見なければならないので、手を出したりしないとは思いますが……心配が消えた訳では有りません。やはり念の為、早めに合流した方が良さそうです。

 

 

「その為にも、少しでも早くこの場を片付けなければなりません………ねっ!!!」

 

ガキィィィン!!!!

 

「………くっ!!」

 

 

私は背後から迫っていた不思議な刀身の剣を、私の愛剣である魔剣…〈否定の劫焔〉で振り向きながら弾き返す。私に斬り掛かって来たのは白髪の少女。彼女は弾き飛ばされながらも空中で見事に体勢を立て直して着地し、油断なく剣を構えながら私を睨み付けています。

 

 

「………おや?どなたかと思えば、あの時の少女ではないですか。お元気そうで何よりです」

 

「………私は貴女と会った覚えは無い」

 

 

?そんな筈は……あぁ、そう言えばあの時彼女は気を失って居ましたし、私はカオス・ドロシーの姿でしたね。それなら会った覚えが無くて当然でしょう。

 

 

「すみません。こちらが一方的に知っているだけですので、お気になさらず」

 

「………貴女の目的は何?何故《ハーミット》と例の精霊の討伐の邪魔をする?」

 

「先程言った筈ですよ?私の使命は、貴女方の使命の妨害。今貴女方が倒さねばならないのは、貴女方が《ハーミット》と呼ぶあの子(よしのんさん)ではなく、この場で貴女方に剣を向けているこの私です。さて、貴女は私を殺して、正義を示す事が出来ますか?」

 

 

彼女の問いに軽く笑みを浮かべながらそう返すと、彼女はそれ以上何も言わず、私に再び斬り掛かって来ました。

どうやら彼女達の中では上位の腕をお持ちの様ですが、私の言葉に怒りを抱いているのか、太刀筋が分かり易い。剣が来るであろう場所に〈否定の劫焔〉を構えて置くだけで彼女の攻撃を容易に弾けてしまいます。

 

 

「どうしました?その様な剣では、私を殺す事など叶いませんよ?ほら、隙だらけです!」

 

「ウグッ!?」

 

 

再び剣を弾き、隙だらけとなった彼女のお腹に蹴りを入れる。当たる直前にバリアで身を守った様ですが、衝撃を殺しきれなかったのか、彼女はそのまま吹き飛ばされてボロボロとなった床の上を転がり、元は商品を並べる棚であったであろう残骸にぶつかって止まりました。

 

 

「折紙!?あんた、また無茶して……!」

 

「ハァ……ハァ……問題ない」

 

 

ふむ、あの白髪の少女は折紙さんと言う名前なのですね。敵の部隊長の言葉から察するに、どうやらよく無茶をして部隊長を困らせている様ですね。以前お会いした時も無茶をして大怪我を負ってしまったのでしょうか?

 

おっと、今は余計な事を考えている場合ではありませんでしたね。もう十分時間は稼げたでしょうし、そろそろ私も撤退するとしましょう。

 

 

「兵士達よ。我々の使命は果たしました。戻りなさい」

 

 

私は生き残っている兵士達を消して魔力に戻しました。負傷度合いによって戻る魔力の量は変化しますが、こうする事で、使用した魔力を回復……と言うより、回収する事が出来るのです。このまま兵士達にこの場を任せて私だけ撤退する手段もありますが、元の姿(カオス・アリス)に戻った時に感じる疲労感を少なくする事が出来るので、こちらの方が得があります。

 

 

「あれ?化物達がどんどん消えていく……?」

 

「精霊が天使を解除した?でもなんで……?」

 

「………どう言うつもり?」

 

 

敵の兵士達が次々と紫色の煙の様なものに包まれて消えていく我が軍の兵士達に困惑している中、折紙さんだけが私から視線を外さず、剣を構えて問い掛けてきました。

 

 

「時間は十分稼げたので、そろそろ私も撤退させてもらう事にしたのです」

 

「……逃しはしない」

 

「えぇ、貴女方が見逃すとは思っては居ません。ですので、少々強引に行かせて貰います!絶望をもたらす万象を砕き散らす我が魔剣の力!お見せしましょう!」

 

 

左手に持つ軍旗を掲げ、右手に持つ〈否定の劫焔〉に魔力を込めると、我が魔剣は全てを虚無に還す力を持つ炎に包まれ、それは次第に軍旗の旗棒へと移って行く。私がこれから行うのは(カオス・ジャンヌ)の必殺技。本来炎が可視化する程の魔力を込める必要はありませんが、範囲を広げる為に今回は少し多めに魔力を込めます。

 

 

「ッ!?………炎!?」

 

「そ、総員警戒!何か仕掛けて来るわ!折紙も早くその場から退がりなさい!」

 

 

敵の部隊長は慌てて味方に指示を出し、速やかに私から距離を取らせる。折紙さんは何やら驚いた様子で動きませんでしたが、軍旗が纏う凄まじい炎の熱を感じてハッ!と我に帰ると、すぐに他の方々の後を追って、少し遅れながらも距離を取りました。あれだけ離れてくれれば、巻き込まれる心配はないでしょう。

 

さぁ、準備は整いました。

 

 

「全てを燃やし尽くす!“希望を護る聖女の剣”!!

 

 

そして私は前へ跳び、着地と同時に炎を纏った軍旗を勢い良く地面に突き立てる!

 

 

みんな灰になれ!!

 

ドガァァァァァァァァァァン!!!

 

 

瞬間、まるで火山が噴火した様な大爆発と、天を衝く様な巨大な火柱が立ち、このデパートのフロアを更に2階吹き飛ばしました。

 

これで後は………。

 

 

「〈アリス・アンダーテール〉……」

 

 

 

 

 

 

「へぇ〜……あの子(精霊)の名前、カオス・アリスって言うのか」

 

 

時は少し遡り、カオス・ジャンヌの軍隊とASTの隊員達が空中で激戦を繰り広げている頃、デパートからこっそり逃げ出した士道と、彼に背負われている未だにやる気を失っている十香、そしてよしのんの3人は、護衛として生み出された悪魔を象った不気味な鎧を着たヴィラン…悪魔兵達に守られながら、人目につかない路地を2人で話しながら進んでいた。

 

 

『そうそう!でもアリスちゃんってすっごく面倒臭がり屋さんだから、自己紹介も最初は面倒臭がってしなかったし、したらしたで名前しか言わないんだよ〜!』

 

「そ、そうなのか……なんか、容易に想像出来る」

 

 

士道に対しての警戒心が薄れているのか、デパート内の時よりも仲良さげに話すよしのんと士道。何故パペットが居るとは言え、こんなにもよしのんと士道の仲が良くなっているのか?答えは簡単である。

 

 

『面倒臭がり屋な性格ねぇ……?確かにこれまでの会話記録を見ても『めどい』とか『ダルい』って感じの言葉が必ずと言っても良い程会話に含まれてるわね。だから選択肢で選ばれた誘いにも乗って来なかったのかしら?』

 

 

そう!ラタトクス機関のギャルゲーの選択肢的なアレの力である。カオス・アリスに『うっざい』と言わせてしまったこのギャルゲーの選択肢的なシステムであるが、その後のデートでは十香やよしのんに対して絶大な効果を発揮したのだ!

これには一度信用しなくなっていた士道もびっくりである。

 

 

『およ?どうやら目的地に着いたみたいだよ〜?士道くん!』

 

「あれ?ここって………」

 

 

右へ左へと狭い路地を抜けた先には、よしのんと士道が初めて会った場所であり、現在カオス・アリスが住み着いているあの神社があった。

 

 

「よしのんと初めて会った場所だよな?カオス・アリスも雨宿りしてた……」

 

『いやぁ〜それがアリスちゃん。ここに住んでるみたいなんだよねぇ』

 

「はぁ!?住んでる!?」

 

『そうそう!お布団や冷蔵庫なんかもあって結構快適なんだよ〜♪』

 

 

続くよしのんの言葉に士道は更に驚いた。てっきり雨宿りだと思っていたのに、冷蔵庫や布団なんかも持ち込んで住んでいるとは思わなかったのだ。

 

 

『士道くんと初めて会った後も、ここでお菓子やジュースを貰ったり、一緒にトランプをして遊んだのよぅ♪』

 

「いや大丈夫なのかよそれ?そんな事して、この神社を管理してる人が何て言ぁ!?住んでる!?」

 

『………ほへ?』

 

 

ちょうど鳥居を潜ったその時、隣を歩いていた十香を背負った士道が消え、後方に少し前に発した言葉と同じ台詞を言って驚いている士道を見て、よしのんは驚いてつい変な声が出た。

 

 

『し、士道くん?今何したの?』

 

「え?あれ!?いつの間にそんな所まで行ったんだ!?」

 

 

よしのんに気付いた士道は、まるでよしのんが瞬間移動(・・・・)したかの様に驚くと、小走りでよしのんの元へやって来る。

 

 

「凄いな。瞬間移動ってヤツか?そんな事も出来ぁ!?住んでる!?」

 

『えぇ!?し、士道くん!?』

 

 

しかしやはり鳥居を潜った瞬間、士道と彼に背負われた十香は消え、先程と同じ場所で、同じ台詞を言って驚いている。目の前で起きる怪奇現象に、よしのんを嵌めた少女も大きな目をパチクリと瞬かせている。

 

 

「あれ?いつの間に鳥居潜ったんだ?どうかしたのか?」

 

『いやいや!士道くんがどうしちゃったの!?』

 

「?どうしたってぁ!?住んでる!?」

 

『ちょっと待ってホントに怖いんだけど!?』

 

 

そして不思議そうな表情で歩いて来た士道が再び鳥居を潜って境内に足を着いた瞬間、彼はまた先程と同じ場所で同じ台詞を言って驚く。そんな不気味な現象を目の当たりにしたよしのんは恐怖を感じ、パペットを嵌めた少女も顔を青褪めてプルプル震えている。

 

 

「はい!とうちゃ〜く♪」

 

「…………ッ!?」

 

 

そして突然背後から聞こえて来た聞き覚えのない声に驚いてビクッ!と肩を震わせて振り返るよしのん。そこに居たのは、紫色の煙の様なものからふらふらと出て来た、気怠そうなカオス・アリスだった。彼女の姿を見てよしのんは少し安堵した。

 

 

『アリスちゃん!無事だったんだねぇ!よしのん助かったよ〜♪……ってそれどころじゃなかった!士道くんがおかしな事になっちやったのよぅ!』

 

「あぁ〜〜………アレね。アレは……もう説明めんどいから別にいいや。じゃ、疲れたから寝る……おやすみ」

 

『え!?ちょ、ちょっと!待ってよアリスちゃ〜〜ん!』

 

 

ふぁ……と小さく欠伸をしてふらふらと拝殿の襖を開けて中へ消えて行くカオス・アリスを、よしのんは慌てて追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!ちょっと待ってくれよしぁ!?住んでる!?」

 

 

相変わらずバグった士道と背負われている十香をその場に残してwww



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