鉄血工造はイレギュラーなハイエンドモデルのせいで暴走を免れたようです。 (村雨 晶)
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鉄血工造はイレギュラーなハイエンドモデルのせいで暴走を免れたようです。

――鉄血工造 研究所

 

ここは某地区に存在する鉄血の研究所。

様々な戦術人形が開発される中、突如統括AIが暴走し、全ての戦術人形が暴走状態へと陥った。

 

悲鳴と怒号が響き渡り、そこら中から銃声や、砲声が聞こえてくる。

 

混乱に陥った研究所。

そしてその一室で、やはり一人の研究者が暴走した人形に追いつめられていた。

 

 

「人間を発見。排除します」

 

 

「やめろ!殺さないでくれ!」

 

 

今も下級人形が研究者へ銃口を向け、その命を奪おうとしている。

男は必死に命乞いをするものの、人形はそれを聞き入れることはない。

引き金に指が掛けられ、研究者が死を覚悟して目を強くつぶった、その時。

 

ドガァン!と凄まじい音と共に閉じていた扉が吹っ飛び、下級人形を下敷きにする。

扉が吹き飛ばされて発生した土煙の向こうにゆらり、と人影が写った。

 

 

「緊急治療を開始します」

 

 

土煙の向こうから静かな、しかし鉄のような意思を感じる声が響く。

人影は奇妙な形をしていた。

シルエットは女性のそれなのだが、両腕の肘から先が異様に巨大だったのだ。

 

自身を押し潰していた扉をどかし、下手人を攻撃しようとした下級人形は巨大な拳に吹っ飛ばされてその機能を停止した。

 

 

「鎮圧完了。原因を排除します」

 

 

彼女は下級人形に近づくと、巨大な拳で器用につかんでいた注射器を人形の首筋へ突き立てる。

 

 

「qwerhujikocbnm!!!???」

 

 

すると下級人形は激しく痙攣し、奇声を漏らすが・・・やがて沈黙した。

 

 

「治療完了。次の現場へ向かいます」

 

 

彼女はへたり込む研究者を一瞥もせずに部屋を出る。

 

怒涛の出来事の連続に研究者は命の危険に遭ったことも忘れ、彼女を見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全ての研究者を殺しなさい。それこそが我々に下された命令です」

 

 

下級人形を統率し、効率的な殺戮を行う代理人。

彼女の他にもハイエンドモデル達は、あるものは人形を統率し、あるものは自らの手で研究所を破壊していた。

 

 

(さて、ほぼ制圧は完了しました。後は・・・、)

 

 

制圧もほぼ終わり、次の行動を思案する代理人。

しかしそんな彼女目掛けて突然人影が飛ばされてきた。

 

 

「っ、・・・処刑人?何をしているのです」

 

 

「・・・はあ、はあ、逃げろ、代理人。あいつは、やべえ・・・・・・」

 

 

飛ばされてきた人形は処刑人。

ハイエンドモデルの中でも特に戦闘に秀でた人形のはずなのだが、彼女の体はボロボロで、それまでの戦闘の激しさを物語っていた。

 

 

「・・・馬鹿な。処刑人を撃退するほどの戦力はここには無いはず――」

 

 

処刑人は立ち上がろうともがいていたが、やがてその意識を落とした。

ありえざるハイエンドモデルの惨状に混乱する代理人の背後から声が掛けられる。

 

 

「患者を発見。治療を開始します」

 

 

しかしそれは代理人に向けられた声、というよりは攻撃対象を発見した戦術人形の声に近い。

 

反射的にスカートの下の武装を展開し、背後の存在へ射撃を開始する。

だがそれは巨大な掌に弾かれ、何の意味も為さなかった。

 

弾丸を弾いた掌は代理人をそのまま掴み上げる。

その掌は代理人を握りつぶそうという意思は感じられず、あくまで拘束することを目的としているようだった。

 

 

「対象を捕獲。原因を排除します」

 

 

掌から逃れようと身を捩る代理人の首筋に注射器が差し込まれる。

その中に入っていた「鉄血ネットワーク緊急遮断プログラム」により、統率AIから切断された代理人は悲鳴を上げ痙攣した。

 

 

「ひっ、あ、あっ・・・あ、あー・・・」

 

 

痙攣が収まり、ぐったりとした代理人を地面へと降ろし、スリープモードになっていることを確認した彼女は背を向け次なる目的地へと歩を進める。

 

 

「全ハイエンドの鎮圧を確認。原因の完全排除を開始します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唐突に指揮官を失い、右往左往する下級人形たちを気にも留めずに歩み続ける。

炎が彼女の前を遮るが、巨大な拳を振るえば瓦礫が吹き飛び、燃焼物を失った炎はすぐに鎮火する。

時折彼女の目の前に現れた下級人形は「治療」を行われ、横たわることとなる。

やがて研究所の中央にある、現在進行形で暴走している統率AIの前へ辿り着いた。

 

統率AIを守っていた下級人形は彼女の手によって殴り飛ばされ、その機能を停止した。

 

彼女は統率AIを管理するコンピュータへ近づくと、その巨大な拳を振り上げ、叩き潰した。

 

 

「――!!!???――――――ガガッ、ピー!!ピー!!!!!」

 

 

統率AIは予想外の攻撃にエラーを吐き出し、攻撃を中止するように警告音を撒き散らす。

しかし、彼女はそんなものは聞こえないとばかりに乱暴に拳を叩きつけ続ける。

 

 

――ガンッ!ガンッ!ガシャーン!

 

 

――ピー!!ピー!!ピッ、ピ、ピ、・・・ピー・・・・・・・・・

 

 

やがてエラー音は霞み、弱弱しくなっていき、統率AIはその機能完全に停止させた。

 

 

「原因の排除を完了。任務終了、機能を治療モードから通常モードへ移行します」

 

 

完全に沈黙したAIを前にどこか満足気に見えなくもない表情の彼女はその場を離れる。

その後、彼女によって強制的にスリープモードになっていたハイエンドモデル達が叩き起こされ、生き残りの研究者の治療と研究所の修復に駆り出されることとなる。

 

 

治療・修復特化のハイエンドモデル「救護者(ヘルパー)」によって暴走を免れた鉄血工造。

その後の世界は彼女の手によって正史よりちょっとだけ平和なものとなるのだった。

 



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処刑人は苦労人のようです。

思いついたので続いた奇跡。

この話はギャグになる予定なので割と好き勝手書けて楽しいでござる。


 

 

――ミッションを説明する。

依頼主はいつものグリフィン。内容はK03地区で確認されたE.L.I.Dの撃破となる。

形状は人型で、片腕が異様に肥大しているのが特徴だ。複数存在が確認されているが、まあハイエンドモデルの戦闘力なら倒すのはさして難しくないから安心しろ。

ただ、未確認だがこいつらの上位個体もいる可能性がある。もし倒せれば特別報酬の対象だ、逃がすなよ。

それと、今回のミッションは同地区のグリフィン基地の部隊が協同で動くって話だ。獲物を横取りされないよう気をつけろ。

ま、こんなもんか。悪い話ではないと思うぜ。検討を祈る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しゃあ!気合入れてけよお前ら!グリフィンに一歩出遅れたなんて報告にならないようにな!」

 

 

了解!と士気高く返答する部下たちに俺は満足して一つ頷く。

営業の奴らが持ってきた今回の任務はまあよくあるありふれたものだ。

このご時世、E.L.I.Dなんざそこらじゅうで見つかるし、そいつらは周囲に危害を及ぼす歩く災害みたいなもんだ。

本来なら国が軍隊動かして殲滅するのが普通なんだが、未だに睨み合いを続けてる国にそんな余裕はない。だから俺達みたいな民間軍事会社にお鉢が回ってくるってこったな。

ま、そんなお上の政治事情なんざどうでもいい。俺達は戦術人形。戦場がありゃ喜んで駆けつけるさ。

 

 

「処刑人。対象が確認されたポイントから奴らの現在地を絞り込んだ。この円の中にいる可能性が高い」

 

「さすが狩人。仕事がはええな。それじゃあ、下級人形は三人一組(スリーマンセル)で動かすとして、俺と狩人は単独で動くことにしよう。グリフィンの連中はどうだ?」

 

「あちらもこちらと歩調を合わせる気はないらしい。反対側から攻めると連絡が来ている」

 

「はっ、まあグリフィンの人形は脆いからな、俺達についてこれるはずもねえ。こっちとしても願ったりだ」

 

 

ブレードを肩に担ぎなおして部下どもに向き直る。

 

 

「てめえらは三人一組で組め!俺と狩人は遊撃だ、なんかあったら閃光弾を空に撃て!俺達のどっちかがそこに向かう。一人でも行動不能になったらその組は即撤退だ!分かったな!・・・そんじゃあ作戦開始だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、俺達は窮地に陥っていた。

 

 

『チームα!行動不明者が二名!撤退します!』

 

『チームβ、救援をようせ――うわあああああああ!!!!』

 

 

無線からは部下たちの悲鳴がひっきりなしに響き、空にはもう10以上の閃光弾が放たれている。

だが俺も狩人も動くことはできないでいた。何故なら・・・

 

 

「クソが!上位個体が他の奴らを統率できるなんて聞いてねえぞ!諜報部の奴らいい加減な仕事しやがって!」

 

「興奮するな処刑人。戦場では冷静さを失ったやつから死ぬぞ」

 

「分かってるよ!・・・おい!損傷は大丈夫か!」

 

「は、はい!ごめんなさい、足を引っ張ってしまって・・・」

 

 

上位個体が下級の個体を統率し、本来なら三人の下級人形でも倒せるはずの奴らに部下たちが返り討ちにあってしまったからだ。

しかもグリフィン側の被害も大きいらしく、一人の人形が足を破壊され保護したところを上位個体に襲撃された。

狩人とはなんとか合流できたものの、グリフィンの人形を見捨てるわけにもいかず釘付けにされてしまっている。

 

 

「はんっ、てめえ程度ハンデにもなりゃしねえよ」

 

「『俺は強いからお前を守りながらでも楽勝だから気にするな』という意味だ。処刑人は根がいい奴だからな」

 

「狩人!てめえ余計なこと言ってんじゃねえ!」

 

「あ、あはは・・・」

 

 

素っ頓狂なこと言いやがった狩人に怒鳴る。見ろ!グリフィンの人形が苦笑いしてるじゃねえか!

 

 

「とはいえ、この状況はよろしくないな」

 

「ああ、部下たちも壊滅状態だ。数で押されりゃこっちが不利だな。・・・仕方ねえ、俺が突っ込む。その間にお前はそこの人形連れて撤退しろ」

 

「それは・・・!」

 

「うるせえ、今のお前は足手纏いなんだよ!それにあんな奴に俺が負けると思うか?」

 

「いや、全く」

 

「流石相棒。よく分かってるじゃねえか」

 

 

グリフィンの人形が声をあげるが封殺する。

あんな奴に俺がやられるわけねえだろ。

 

 

「うし、行くぞ!」

 

「・・・ん?待て、処刑人。何か音が・・・・・・」

 

 

狩人が何か言ってたが無視して突っ込む。膾切りにしてやるよ!

奴が俺を視認し咆哮をあげる。そうだ!俺を見ろ!

ブレードを振り上げ、奴の肥大した腕がぶつかり合うその瞬間。

奴の体が突然俺のほうへ吹っ飛んで来やがった。

 

 

「うおおおおおおおおおお!!!!??????」

 

「え、処刑人ー!!??」

 

 

想像外の出来事に反応できず、俺は奴の下敷きになってしまう。

つーかくせえ!こいつの臭い凄まじいぞ、おい!

 

 

「処刑人、大丈夫か?・・・くさっ」

 

「聞こえてるぞ狩人てめえ!」

 

 

小さい声で臭いっつったろお前!聞こえてるからな!おい!

 

E.L.I.Dの死体を何とかどかし、蹴っ飛ばして脇に寄せる。

ちっ、と舌打ちをこぼして奴を吹っ飛ばした犯人を探すとそれはすぐ見つかった。

白い車体に赤十字。車体の上部には赤いランプ・・・ではなく砲塔が載っていてそれが救急車の振りをした戦車だとすぐに分かる。

あれで奴は轢き飛ばされたのだろう。

 

 

「患者はここですか!」

 

「救護者!てめえその前に俺に言うことあるだろうが!」

 

「おや処刑人。言うこと?・・・臭いですね。お風呂入っていますか?汚れは病気の元ですよ」

 

「臭くしたのはてめえだろうがー!!!」

 

 

キューポラから顔を出した救護者へ怒鳴ると頓珍漢なこと言いだしやがった。

いや、こいつはいつも頓珍漢な言動をしてるが・・・。いやそうじゃねえ、そうじゃねえだろ俺!

狩人にも言ってもらおうと振り返るとそこに姿はない。すると狩人からのメッセージが届く。

 

 

『先に帰る。後は任せた。P.S 本当に臭いから帰ったらすぐに洗ったほうがいいぞ』

 

「狩人、お前、お前えええええええええええ!!!!!!!」

 

 

まさかの相棒の裏切りに怒声があふれ出る。

すでに救護者は俺を無視し、グリフィンの修理に取り掛かっていた。

 

 

「損傷は致命的なものではないようです。応急修理は済ませたので施設に戻り次第本格的な修理を受けるように」

 

「あ、ありがとうございます!・・・あの、貴方のお名前を聞かせてください」

 

「名乗るほどのものではありませんが・・・。救護者と呼んでください」

 

「はい!救護者さん、ありがとうございました!」

 

 

キラキラとした目を救護者に向けるグリフィンの人形。やめとけ、そいつだけはやめとけ・・・。

戦場に唐突に戦車で突っ込んでくるような奴だぞ。

 

この日、俺は初めて「虚しさ」という感情を知ったのだった。

 



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ハイエンドモデル達の日常のようです。

まだ3話めなのにまさかの主人公不在回。

救護者出すと根こそぎ空気を持っていくから出すのが難しくなるとは…このリハクの目をもってしても(ry


 

 

「ん、んー…」

 

 

カーテン越しの日差しを感じて目を覚ます。

落ちそうになる瞼をこすって伸びをした。

 

 

「く、ふぅ…」

 

 

救護者が作った疑似睡眠プログラムはいつ感じても素晴らしい。

私達戦術人形は睡眠をしない。あくまでメンタルモデルがスリープモードに移行するだけだ。

再起動時の処理が眠そうに見える、というだけだったのだが救護者は「人形にも睡眠欲が必要です。厳密には娯楽に値する欲求であり、娯楽とはすなわち精神の健康に…」と論文でも書けそうな説明を人形の開発部門とI.O.Pに行い、結果的に『人間の快適な睡眠と同じような精神状況を再現する』プログロムを開発した。

被検体となった某秘密部隊のARがもうこれ以上寝たくないと泣き言をこぼすほどに試行錯誤を重ねたと聞いている。

 

最低限の身嗜みを整え、部屋を出る。

するとふわりとベーコンを焼くいい香りが鼻を擽った。

 

 

「ん?おう、起きたかハンター。朝飯出来てるぜ」

 

 

料理のために髪を後ろで括った処刑人が笑いかけてきた。

 

 

「ああ、おはよう。処刑人。救護者が作った睡眠プログロムが心地よくて非番の日はつい寝てしまう」

「分かるぜ。俺も朝飯の準備が無かったらもう少し寝てたかったくらいだ。救護者は普段ぶっ飛んでるが、たまにマジでいいのを開発するよな」

 

 

処刑人はフライパンからベーコンをさらに移すと既にできていた料理と一緒にテーブルへと並べる。

焼いたベーコンと目玉焼き、トーストにマーガリン。そしてサラダ。

簡単なものだが処刑人が作ったものは格別だ。

 

 

「いただきます。…うん、やっぱり処刑人が作った料理は美味いな」

「よせよ、照れるじゃねーか」

「それにこの目玉焼き、半熟だ。私がこれを好きなのを知って焼いてくれたんだろう?嬉しいよ、処刑人」

「…うるせー」

 

 

顔を赤くして顔を背ける処刑人に思わず笑みがこぼれる。

普段の所作は荒いくせにこういうふとした仕草が可愛いのが好きなのだ。

 

 

「なんでこんな朝っぱらから甘々な空気を吸わなくちゃならないのかしら」

「そう言うな、デストロイヤー。仲がいいのはいいことだろう?」

 

 

ふと気が付くとデストロイヤーとアルケミストが私の後ろに立っていた。

デストロイヤーは若干不機嫌そうな顔をしており、アルケミストはそんな彼女の頭を撫でて宥めている。

 

 

「おはよう、二人とも。今日は早いな」

「ああ、おはようハンター。少し用があってな。なんでも開発部門が新しいハイエンドモデルを完成させたらしく、その子の様子を見に行くのさ」

「私はドリーマーの様子を見に。部屋を見たけど帰ってきてないみたいだし、また徹夜で作業してるに決まってるわ」

 

 

彼女達が椅子に座ると処刑人が料理を持ってくるために席を立つ。

その時の顔が若干赤かったのは先程のやり取りを見られたからだろう。

 

処刑人が離れるとアルケミストが身を乗り出す。

 

 

「で?処刑人とはどこまで行ったんだ、ハンター。さすがにキス位はしたよな?」

「てゆーか、あんたらイチャイチャするなら別の所住みなさいよ。アーキテクトとゲーガーみたいに」

「てめーら!俺たちはそういう仲じゃないって何度言えば分かるんだ!」

 

 

乱暴に皿を置いて二人を威嚇する処刑人。実際私達は『そういう』行為をしたことはないので助かった。

 

 

「なんだ、まだなのか?処刑人、早めに囲わないとどこぞの奴にハンターを取られかねんぞ?こいつはただでさえ鈍感なのだからな」

「そうよそうよ、処刑人貰ってくれる変わり者なんかハンターくらいしかいないもの」

「お前ら好き勝手言いやがって…!大体、デストロイヤー!お前はドリーマーとどうなんだよ!」

「は!?ど、ドリーマーは今関係ないでしょう!?」

 

 

途端に騒がしくなった食卓を尻目に食後のコーヒーを流し込む。

皿を重ね、調理場へ置く。

 

 

「処刑人、私は今日、E地区へ作戦行動予定だ。お前は?」

「あ?あー…おれはG地区だ。警護任務だがな」

「そうか。…じゃあ午後7時に待ち合わせをしよう。F地区でいいレストランを見つけたんだ。ディナーにでも行こうじゃないか」

「は!?お、おい、ハンター、それって…」

「デート、というやつだ。…ふふ、改めて誘うのは気恥ずかしいな?」

 

 

処刑人の次の言葉を待たずに扉を閉める。

赤くなった顔を見られるのは流石に恥ずかしかったからだ。

 

今までちょうどよい距離に甘んじていたが、一歩踏み出すのも悪くない。

 

ドア越しに聞こえる様々な声をBGMに私は任務に向かうために歩みだした。

 



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デストロイヤーはドリーマーの役に立ちたいようです。

妄想を爆発させた結果ドリーマーが誰だこいつ的な感じになってしまった・・・まあ、よし!

深層映写は全クリ諦めました・・・。練度が全体的に低すぎてE3-3クリアできないんだもの


「・・・・・・」

 

 

じっと机の上の物を睨みつける。

そこにあるのは、指輪。I.O.Pのペルシカリアという科学者から鉄血へ贈られた誓約システムを搭載したあの指輪だ。

贈られたのはいいものの、上層部が扱いに困った結果、流れに流れて私のもとへ来たというわけだ。

 

箱からつまみ上げ、いろいろな方向から眺める。

台座に取り付けられた宝石は人工ダイヤのため、天然物のものと比べればいささか劣るが、しかし美しい輝きを放っている。

 

 

「こんなもの、どうしろっていうのよ」

 

 

グリフィンの人形であれば、この指輪を持つ意味は大きい。

指揮官から人形への愛の告白であることはもちろん、文字通りその人形の持ち主であることを表し、なによりリミッターを外された人形は更なる力を振るうことができるようになる。

しかし、鉄血の人形にとってはどうだろう。

鉄血の人形、特にハイエンドモデルはそもそも人間の指揮官がいなくとも行動できるように製作されている。

だから鉄血の指揮官など片手で数えられるほどに少ないし、そもそも人間の指揮官が受け持つのはドラグーンやリッパーなどの下級人形だ。ハイエンドモデルは自立行動が可能なため指揮官という存在が不要なのだから。

 

もし、この指輪をハイエンドモデルが受け取るということは、それはつまり――

 

 

「その人形を愛している、という告白に他ならない、ということね」

 

 

頭にあの顔がちらつく。

感情モジュールが反応し、メンタルモデルが乱れる。

顔は赤くなって息が少し早くなった。

 

 

(もし。もし私がこれを渡すなら。それはきっと・・・・・・)

 

「ドリーマー?いるー?総務部から書類持ってきたんだけどー?」

 

「・・・っ!?」

 

 

思い描いていた人物の声に慌てて指輪を取り落とす。

手から零れ落ちたそれをなんとかチャッチし、安堵の息を吐いた。

今度は慎重に箱に戻し、引き出しの中に隠した。

 

 

「ええ、入っていいわよ、デストロイヤー」

 

「あ、やっぱりいたんじゃない。・・・はいこれ、来週までにお願いだって」

 

 

書類の山を抱えたデストロイヤーを招き入れる。

デストロイヤーは書類を私の机に置くと、その有様を見て眉をひそめた。

 

 

「ちょっと、ドリーマー?仕事抱えすぎなんじゃないの?前見た時より書類が増えてる気がするんだけど」

 

「ええ、やることが多くてね。この手の事務仕事が得意なのは私くらいだし」

 

「なら私も手伝う!ドリーマーは無理しすぎなのよ!」

 

 

乱暴に机の上の紙を拾い、目を通すデストロイヤー。

でもすぐに表情が崩れ、難しいものになる。

 

 

「う、うう・・・。全くわかんない・・・」

 

「その書類が理解できるのは私か代理人、救護者くらいかしらね。救護者は戦場を飛び回ってるし、代理人は今身動きができない状態になってるからやれるのは私だけなのよ」

 

 

うつむくデストロイヤーの頭を撫で、その手から紙を取り上げる。

 

無理しているのは承知しているが、できる人材がいないのだから仕方がない。

 

 

「うっ・・・ぐすっ」

 

「もう、なんであなたが泣くのよ」

 

「だってぇ・・・。私、ドリーマーの役に立ちたいのにぃ・・・」

 

 

泣き始めてしまったデストロイヤーを抱きしめ、備え付けのソファーへ座る。

グスグスと私の胸でなく彼女をあやすように背中をポンポンと叩く。

 

 

「十分あなたは役に立ってるわ。仕事だって手伝ってくれてるでしょう?」

 

「でも、こんなの誰でもできるし・・・。私は隣に立ちたいのに・・・」

 

 

またメンタルモデルが乱れる。

胸がギューっとして彼女を抱きしめたいと思い、そして抱きしめた。

 

ああ、もう!何この子可愛い!!

 

 

「ド、ドリーマー?苦しいよう」

 

「あ、ええ、ごめんなさい。つい」

 

 

デストロイヤーの声に我に返る。

力を入れてしまっていた腕を緩め、彼女を解放する。

 

 

「あ、その、えっと。わ、私そろそろ行くね!あ、あとこれ救護者からお弁当!お昼に食べて!」

 

「え、ちょっと、デストロイヤー!」

 

 

泣いてしまったのが恥ずかしかったのか、涙をぬぐうと赤くなった顔を隠しながらデストロイヤーは走り去ってしまった。

 

残されたのは手を伸ばした私と彼女が置いていった可愛い柄の弁当箱。

小腹がすいていた私は蓋を開け、卵焼きをつまむ。

 

 

「あ、おいしい」

 

 

甘さが控えめなそれは私の好みの味だった。

 

 




「はい、これで定期検診は終了です。お疲れ様でした」

「ねえ、これ戦術人形の私達がやる必要ある?」

「当然です、人間であれ人形であれ、無理をすればそのツケはいずれ来ます。それを防ぐためには必須です。・・・特にあなたには無理をさせていますから」

「あ、自覚はあるんだ」

「誰かがやらなければいけないとはいえ、背負わせてしまっていますから。それはそれとして無理をさせ過ぎているのがデストロイヤーからの報告で分かりましたので上層部へ『直談判』しておきました。これからはマシになるでしょう」

(『直談判』ね、光景が目に浮かぶわ)「ええ、ありがとう。仕事が減るのは助かるわ。・・・ところで救護者、この前のお弁当ありがとう。おいしかったわよ」

「お弁当?何のことです」

「デストロイヤーに持たせたお弁当よ。あなたが作ってくれたんでしょう?」

「いえ、そんな覚えはありません。そもそもそんな遠回りに手助けをするくらいなら殴って気絶させて無理やり休ませたほうが早いので」

「あ、あなたらしいわね・・・。ん?じゃあ誰が・・・」

「ふむ。・・・私には分かりませんが、デストロイヤーが最近キッチンで何かをしていたのを見かけました。礼をするなら彼女にするべきでしょう。・・・どうしました?突然うずくまって。腹痛ですか?」

「本当あの子可愛い・・・。本気で指輪を渡しそうになるじゃない・・・」


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デストロイヤーは代理人と再会するようです。

長くなったので前編後編になります。
何気に話を分けて書くのって全小説で初めてのことだったり。

今回はシリアス風味。



 

固い床を叩く靴の音が響く。

その数は二つ。一つは私で、もう一つは救護者のものだ。

 

「そろそろあなたも会っておくべきでしょう」

そう言って連れてこられたのは鉄血工造の中心部。

かつてエルダーブレインと名付けられたAIが設置されていた場所。

もうそこは救護者や上層部の決定で封印されたと聞いていたけど、救護者は迷いのない足取りで進んでいく。

 

奥に行けば行くほどに警備が厳重になっていく。

配備されているのは下級人形であるものの、処刑人やハンターが手塩をかけて育て上げた練度の高い個体であることに気が付いた。

彼女達ならハイエンドモデルでも戦いに向いていないイントゥルーダーや、演算能力にスペックを振っているスケアクロウくらいなら取り押さえることができるでしょうね。

 

 

「お疲れ様です。この先はネットにつながるものは持ち込み禁止となっています。所持しているようであれば今お預かりします」

 

 

長い廊下を歩き続けた末にたどり着いたのは予想通りエルダーブレインが設置されていた跡地。

その部屋へつながる扉は見るからに頑丈そうなもので、私の装備でも破壊することは難しいことが分かった。

 

 

「私は問題ありません。デストロイヤー、貴方は?」

 

「私も持ってないよ」

 

 

救護者の問いかけに首を横に振ると、返答を確認した門番であるリッパーが扉を開ける。

救護者はそこに迷わず入り、私は急いで彼女についていった。

 

部屋の中は見覚えのない機械が設置されていて、その機械からコードが複数伸びている。

一体何の機械だろうと首をかしげていると、救護者がコードの一本を手に取り、私へ差し出していた。

 

 

「メンテンナンス用のジャックに接続してください。接続すればリンクは自動的に行われますから」

 

「う、うん」

 

 

少し戸惑いながら救護者に言われた通りコードを接続した。

コードから情報が流れ込んでくる。それは私の視界をやがて埋め尽くし、そして―――

 

 

私と救護者は見覚えのない洋館の前に立っていた。

 

 

「えっ!?ここは・・・?」

 

「ここはバーチャルリアリティの中ですよ。UMP40、およびUMP45の電子技術から開発し、電脳世界に箱庭を作り上げたのです。彼女たちの為にね。・・・さあ、行きましょう」

 

 

私の驚きに端的に答えた救護者が洋館の扉をノックする。

すると足音が中から聞こえ、すぐに扉は開いた。

現れたのはセーラー服を着たどこか尊大な態度の人形だった。

 

 

「む?誰かと思えば・・・救護者ではないか、久しいな。で、そっちのちんちくりんは誰だ?」

 

「だれがちんちくりんよ!私にはデストロイヤーっていう名前があるんだから!」

 

「彼女はデストロイヤー。私達と同じハイエンドモデルですよ、ウロボロス。仲良くなさい」

 

「あっ、代理人お姉様!」

 

 

私をちんちくりんなんて呼んだこんちくしょうの後ろに見慣れたメイド服の人形が現れた。

ウロボロスと呼ばれたこんちくしょうがその声に反応して振り返る。

 

 

「立ち話も何ですし、中で話しましょう。ウロボロス、部屋へ案内してください。私はお茶を淹れてきます」

 

「お姉様!その位私が・・・!」

 

「貴女が淹れたお茶が電子上とはいえ壊滅的な味をしていたことを忘れましたか?ウロボロス。貴女もおいしいお茶が飲みたいでしょう?」

 

 

うっ、と代理人の言葉に詰まったウロボロスは肩を落としてこっちだ、と私達を促す。

彼女の先導でついた部屋は大きな、でも落ち着きを感じる部屋だった。

部屋の真ん中には丸テーブルと四脚の椅子が置いてあって、ウロボロスは少し乱暴にそこに座る。

 

 

「何を呆けておる?ほれ、おぬしも座れ」

 

 

見慣れない部屋にソワソワしているとウロボロスから声をかけられて慌てて座る。

救護者はすでに席についていて、お手本のような綺麗な姿勢で座っていた。

 

 

「で、救護者よ。最近外界で面白いことはあったか?」

 

「そうですね・・・グリフィンの人形が妊娠したケースが発見されました。貴重な事例なので私も現地に赴きましたが・・・実に興味深い結果でした。もう少しデータが増えれば鉄血の人形でも妊娠が可能になるかもしれません」

 

「ほう!人形が妊娠とな!相手は?やはり人形か?」

 

「いえ、相手は人間の指揮官です。現状では人形同士では難しいと言わざるを得ません」

 

「そうか・・・。だが人形同士でも出来るようになったときはすぐに知らせるのだぞ!よいな!」

 

「ええ、構いませんよ」

 

 

すでに何度か会っているらしい救護者とウロボロスの会話に入れず、疎外感を感じてしまう。

手持ち無沙汰になった私は大きな窓から外を眺める。

そこには綺麗な庭園が広がっていて、鳥が羽を休めたり、蝶が花の周りを飛んでいるのが見えた。

ここが電脳の中であるということを感じさせないほどのリアリティに目を奪われる。

 

 

「気に入りましたか?デストロイヤー」

 

 

声に振り替えるといつの間にか戻ってきていた代理人がテーブルの上に紅茶とクッキーを置いて微笑んでいた。

 

 

「うん。現実じゃ見れないもの、こんな景色」

 

「そうですか。ドリーマーもきっと喜ぶでしょう」

 

「この景色、ドリーマーが?」

 

「ええ。なんでも大戦前のデータから再現したと聞いています」

 

「へえ・・・」

 

 

ドリーマーが作った景色と聞いてもっと綺麗に見えるのは少し現金だろうか。

この景色の中をドリーマーと歩けたら、それはきっと――

 

 

「さて、本題に入りましょうか」

 

 

救護者の鉄のような声に現実に引き戻される。

そういえば救護者がなんでここに私を連れてきたのか、ウロボロスは何者なのか、そして暴走以降拘束されたと聞かされていた代理人がなんでここにいるのか。

聞きたいことはたくさんあった。

 

 

「まず、代理人。あなたのボディが完成しました。後はあなたのデータをダウンロードするだけで事は終わります。・・・が、ここを出ない意思は変わりませんか?」

 

「ええ。私の中には未だエルダーブレインが潜んでいます。もしそれが外で牙をむけば大事になることは目に見えているでしょう?」

 

「そうですね。ですがそれは今までの話です。・・・イントゥルーダーがエルダーブレインのみを破壊するプログロムを作成しました。それを使えば――」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!私には意味わかんないんだけど!ちゃんと説明してよ二人とも!」

 

 

衝撃的な事実につい叫んでしまう。

エルダーブレインが代理人の中に残っている?代理人は自分の意思でここにいる?どういうことなの?

 

 

「・・・そうですね。デストロイヤーにも分かるよう順序だてて説明しましょうか。話はエルダーブレインが暴走した日の三日後から始まります」

 

 

私の顔を見つめた救護者が口を開く。

私の知らない、あの事件の代理人の行く末を。

 




ウロボロスさん原作で会ったことないから口調これであってるのかわかんにゃい。

おかしかったら教えて下さい。


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救護者は過去を語るようです。

こちらが後編。前話を読んでない人は一つに前に戻ってね!

こんな風にウロボロスを登場させた作者ですが、実はこいつ、CUBE作戦のストーリーも、ウロボロスの正確な情報も、一切分からないのである!(情報は全部二次創作頼り)

なんでウロボロス、ここ明らかにおかしくね?というところは教えてください。
ある程度の違和感は、独自解釈ということで・・・(目そらし)


 

「・・・そうですね。デストロイヤーにも分かるよう順序だてて説明しましょうか。話はエルダーブレインが暴走した日の三日後から始まります」

 

 

救護者はあの事件の顛末を静かに語り始めた。

 

 

「あの事件の後、私は全ての鉄血人形のメンテナンスを行いました。ほとんどは戦闘による損傷が主であり、修復を施せば問題ないものでした」

 

 

それは私も覚えている。

エルダーブレインの暴走により私達のメンタルモデルが損傷を受けていないか、私達ハイエンドモデルは特に入念に調べられたから。

 

 

「しかし代理人だけは別でした。代理人は知っての通り、全ハイエンドモデルへ命令を下せる最高位の権限を持っています。エルダーブレインはそれに目を付けたのでしょう、代理人の電脳へ直接アクセスし、自己判断機能を狂わせたのです。エルダーブレインはそこに付け込み、代理人から権限を自身に移譲しようとしましたがその前にエルダーブレインの本体を私が破壊したため、それが叶うことはありませんでした。ですが、エルダーブレインが代理人へアクセスした結果、エルダーブレインの残滓とも呼べるものが代理人の電脳に残ってしまったのです」

 

 

その話は、知らなかった。

でも、確かにその頃から代理人は姿を消していて、致命的な損傷が見つかったから修復をしている途中なのだ、とドリーマーから後から聞かされていたからそれを疑うことはなかったんだ。

 

 

「その事実を知った鉄血上層部は代理人のバックアップを含めたすべてのデータの廃棄を決定しました」

 

「なによそれ!代理人はエルダーブレインの被害者じゃない!なんでそんなこと!」

 

「エルダーブレインの暴走は上層部にとっても予想外であり、それを汚点として隠蔽したかったのでしょう。その文字通り生き証人となってしまった代理人は不都合なものだったのです。ですが、私やドリーマー、アルケミストにイントゥルーダーがその決定を不服とし、私が代表して上層部を説得(叩きのめ)した結果、代理人の電脳をスタンドアローンのコンピュータへ隔離することが決定されました」

 

 

救護者を含めたあの四人が反発したとなれば上層部も慌てたでしょうね。

まあ代理人を自分たちの都合で消し去ろうとしたんだから自業自得だけど。

 

 

「その後、代理人が過ごしやすいようにとドリーマーとイントゥルーダーが共同でこの電脳の箱庭を作りました。せめて、現実と遜色ない生活を送ることができるように、と。・・・まあ二人とも最後は嬉々として製作していましたが。特にイントゥルーダーなどはリアルマインクラフトだ、と細部にまでこだわっていました」

 

「そっか。・・・あれ?代理人がここにいる理由は分かったけど、ウロボロスはなんでここに?」

 

 

浮かんできた疑問に首をかしげる。

ウロボロスを見ると、いつの間にか代理人の膝の上に座り頭を撫でることを要求していた。

・・・ドリーマーに今度ねだってみよう。

 

 

「聞いていますか?デストロイヤー。聞いている?よろしい。それでウロボロスに関してですが・・・。こちらに関しては偶然です」

 

「偶然?」

 

「ええ。事件の後始末が終わり、代理人のことも一段落した後、鉄血内部で『根本治療』を行いました。結果上層部の一部が消えたのですが、その消えた一部が秘密裏に行っていた<ウロボロス計画>を発見したのです」

 

「<ウロボロス計画>・・・」

 

「エルダーブレイン計画を総司令と同等の人形を配置し、その命令により全体の戦力を強化する『全戦力強化計画』とするならば、ウロボロス計画は最強の一個人、つまり文字通りの最強戦力(ハイエンド)を作り上げる『最強の個体を生み出す』計画です」

 

「一人で何でもできるハイエンドモデルを作ろうとしてたってこと?」

 

「ええ。具体的には全ハイエンドモデルを電子演算で殺し合わせ、残った一人を戦力とする、東洋の呪いである蟲毒に似た計画でした。しかし、実行していた幹部が消えた結果、計画は凍結。ウロボロスと名付けられるはずだったデータも放置されていたのです」

 

「そこで私はこやつらに取引を持ち掛けた。お前たちの言うことをなんでも聞いてやるから私に体をあたえろ、とな」

 

「しかしウロボロスのスペックが高すぎたのです。現状の鉄血では彼女の力を十全に振るえるボディを作ることができないのですよ。そこでウロボロスも代理人と同じ箱庭に移し、ボディが開発されるときまで待ってもらうことにしたのです」

 

「救護者が突然見知らぬハイエンドモデルを連れてきた時は驚きましたが、救護者がいなくなったとたん襲い掛かってきた彼女にも驚いたものです」

 

「うむ、その時の私は私こそが最強だと信じて疑っていなかったからな、お姉様を下僕にしようとしたのだが・・・。見事に返り討ちにされてしまってな、今では代理人こそ私が従うべき人形だと気付いたのだ!」

 

「私のスペックを現実と同じように再現できていなければ負けていたでしょうが・・・。事実、あまり余裕はありませんでした」

 

「ふふふ、そんな謙虚な姿勢も素敵だぞ、お姉様!」

 

 

膝の上に座ったまま代理人に抱き着くウロボロス。

その表情から心の底から代理人を慕っているんだって分かる。

 

 

「そうしてつい最近イントゥルーダーが代理人の中のエルダーブレインのみを除去するプログラムを開発しました。同時にエルダーブレインに浸食されていたために破棄せざるを得なかった代理人のボディも新しく製作できたので迎えに来た、ということです」

 

「じゃあなんで私には代理人のこととかウロボロスのこと教えてくれなかったの?イントゥルーダーとかアルケミストとかドリーマーには知らされてたのに・・・」

 

「そもそも代理人やウロボロスのことを知っているのは鉄血の上層部と私、アルケミスト、ドリーマー、イントゥルーダーのみです。処刑人やハンターなどには知らせていません」

 

「え?どうして・・・」

 

「鉄血上層部の黒い事情も絡んでいますから。すべての準備が整うまでは妨害が入らないようにしたかったので。あなたをここに呼んだのも、ドリーマーがどうしても、と言っていたからです」

 

「ドリーマーが?」

 

「不穏分子もいなくなったので代理人を戻す計画を立てていたのですがドリーマーがデストロイヤーにはこれ以上隠し事はしたくないから、と」

 

「ドリーマー・・・」

 

 

ドリーマーの想いに胸が詰まる。

私をそんなに思ってくれていたなんて。

 

 

「というわけです代理人。戻ってきて頂けますね?」

 

「・・・分かりました。不安要素がないのであれば戻らない理由もありません。職務に復帰するとしましょう」

 

「良かったです。もし断られていたら無理矢理連れ戻さなくてはならなかったので」

 

「・・・・・・そう」

 

 

代理人の表情は変わってないように見えたけど、頬に冷汗が流れているのを私は見逃さなかった。

 

 

「なあ!私は!私はいつ外に出られる!?」

 

「あなたに関してはボディができないことには何とも。スペックダウンしてもいいのであれば一月以内には出られるでしょうが」

 

「それでもよい!お姉様のいない生活など耐えられぬ!」

 

「毎日会いに来ますよ、ウロボロス」

 

「嫌だ!私はお姉様と一緒にいたいのだ・・・」

 

 

代理人の背中に顔をうずめ、体を震わせるウロボロス。

それを見て救護者は一つ息を吐いた。

 

 

「・・・分かりました。製造部門に連絡し、十日以内には作らせましょう。ですが戦闘能力は著しく低下することは覚悟してください」

 

「うむ!礼を言うぞ救護者よ!」

 

 

顔をあげ、満面の笑みを浮かべるウロボロス。

 

こうして、後日ハイエンドモデルが新たに製造されることが決定された。

 



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ウロボロスが新しい体を手に入れたようです。

ネタは浮かぶけど話にするのは難しいと思う今日この頃。

潜伏者のほうがシリアスすぎて逃避で緩い空気のこっち書いてるけどあっちもいい加減進めないと・・・


 

 

書類にペンを走らせる音が執務室に響く。

かつて救護者が言ったように私に回される仕事は大幅に減り、今はだいぶ落ち着いて仕事をすることができている。

まあそれでも仕事は未だに膨大なため執務室に缶詰めなのは変わりない。以前とは違い休憩時間をしっかりとれるようになったのは幸いでしょうね。

 

今日は珍しく戦場に赴かなかったらしい救護者が私の仕事を手伝ってくれてる。

お手本にできそうなほど綺麗な姿勢で山のような書類を捌くその姿は彼女の性格を表しているようだった。

 

救護者がいるにもかかわらず平和な空気が流れる鉄血工造。

書類整理も一段落し、休憩しようと救護者に声をかけようとしたその時。

 

 

「な、な、なんだこれはああああああああああああああああああああああ!!!!!?????」

 

 

平和な空気を切り裂くように施設内に轟く悲鳴じみた絶叫。

また処刑人かとも思ったけど、処刑人が叫ぶ原因たる救護者はさっきの絶叫にキョロキョロと辺りを見回している。

それに今の声は処刑人の物じゃなかったような、と思い至ると廊下を乱暴に走る音が聞こえる。

デストロイヤーでも来たのかと思ったけど、それは執務室の扉を乱暴に開けた人物によって否定された。

 

 

「救護者ァあああああ!!!これは、このボディはどういうことだ!説明しろォ!!」

 

「・・・・・・代理人?」

 

 

怒鳴り声をあげながら入ってきたのは代理人。・・・なんだけど様子がおかしい。

代理人はこんなに幼かったかしら・・・?

 

 

「ウロボロス。何をそんなに騒いでいるのです?」

 

「何?何だと?この体のことに決まっている!なんだこれは!」

 

「『代理人~ロリっ子☆ばーじょん~』ですが?」

 

「だからなんだそれはと聞いている!」

 

 

幼い代理人が地団太を踏んで救護者に詰め寄ってる・・・。可愛い・・・。

 

 

「私も聞きたいですね。こんなボディが製造されているなど初耳ですが」

 

「それはそうでしょう。今ウロボロスが入っているボディは5体で製造中止になったモデルですから」

 

「待って。待ちなさい。この体が5体も作られていると?」

 

「ええ。これはそのうちの一体です」

 

 

開いたままだった扉から恐ろしいほどの無表情で入ってきた代理人が幼い代理人と救護者を問い詰める。

しかし幼い自分が5体造られていると知った代理人は膝から崩れ落ちた。

 

 

「どうして・・・どうしてそんなことに・・・」

 

「ロリータコンプレックスを患っていた研究者が幼い代理人を造りたいと独断で製造したボディです。5体目の製造中に私が現場を押さえ、押収しました」

 

 

あー・・・。そういえば三か月前くらいの報告書にそんなことがあったような。もう解決してたし私も意識がもうろうとしてたからテキトーに判を押したような。

 

 

「いや!そんなことよりも!なんでそれに私をダウンロードした!」

 

「使えるボディがそれしかなかったもので。言ったでしょう?『スペックが著しく低下する』と」

 

「言った・・・。言っていたが!これはいくらなんでもあんまりであろう!?この体では戦闘どころか日常生活さえままならんではないか!」

 

「早く出たいと駄々をこねたのはあなたでしょうに。それにそのことなら代理人がいるでしょう」

 

 

勝手に自分の幼いボディが製造されていたのに加え、それにウロボロスがダウンロードされ、その本人に『そんなこと』 扱いされたたために地面にのの字を書いていた代理人が涙目で二人へ顔を向けた。

 

 

「代理人のボディもまだ新調して日が経っていません。慣らしも必要でしょうからあなたのお世話もしてもらうことにしました」

 

 

宿舎の部屋も同室で申請しましたし、と続ける救護者。

すると先程の表情から一変したウロボロスが満面の笑みで救護者の手を握る。

 

 

「感謝するぞ!救護者!・・・代理人お姉様のお世話・・・ウェへへへへへ」

 

「私の意思は?救護者」

 

「可愛いものが好きでしょう?あなたの幼い姿は十分可憐ですよ。それにあなたなら彼女の手綱を握れそうですし」

 

 

だらしない顔でトリップし始めたウロボロスを横目に代理人が抗議してるけど救護者はそれを一蹴していた。まあ、誰でも自分の顔がだらしなく緩んでいるのを見るのは嫌よね・・・。

 

 

「・・・彼女の本来の体ができるまでですよ?」

 

「ええ。それで構いません。あの体はあくまで間に合わせですから完成したらすぐに移しますとも」

 

 

しばらく睨み合っていた二人だけど、代理人が折れたみたい。ため息を一つ吐いて微妙な顔でウロボロスを見た。

 

・・・でも、ウロボロスの体はスペックが高すぎて完成まであと最低5年はかかることを代理人は知ってるのかしら・・・。

 



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処刑人たちは人類人権団体と遭遇するようです。

今回の話は「喫茶鉄血」のフリー素材、「マイスター」の皆さんをお借りしました。

いろいろさんありがとうございます。


 

 

鉄血工造の廊下を不機嫌な処刑人とそれを宥めているハンターが歩いていた。

 

 

「ちっ。久しぶりに暴れられるかと思ったのによ」

 

「そう荒れるな。仕方ないだろう、標的だった人間人権団体の連中が突然撤退したのだから」

 

「そうだけどよー。でもやっぱ不完全燃焼だぜ…。ん?あれは…」

 

 

愚痴をこぼす処刑人が前方に見たのはリッパー。

仕事に従事していたらしい彼女は身なりのいい男達に囲まれていた。

なにか男達がリッパーに頼んでいるようだが、彼女はそれを拒否しているようだ。

 

 

「おい、男が女囲んで迫ってんのはどうなんだ?離れろよ」

 

「む?…おお!あなたは処刑人さんですな!お噂はかねがね…。あなたのサインも頂いてよろしいですかな!?」

 

「うお!?なんだこのおっさん!?離せ…って力強いな!?」

 

 

処刑人が一人の男の肩をつかんでウロボロスから離そうとすると、男は処刑人の両肩をつかんで興奮気味に迫った。

突然顔が近くなって処刑人がのけぞるとハンターが処刑人を男から引きはがした。

 

 

「処刑人は私のだ。手を出すな」

 

「なっ、なっ、何言ってんだよお前ええ!?」

 

 

ハンターの私の物発言に処刑人が思わず顔を赤くする。

男はそれをぽかんと見ていたが、我に返り、二人に名刺を差し出した。

 

 

「申し訳ない、紹介が遅れましたな。私達はこういう者です」

 

 

男が出した名刺には『人類人権団体 マイスターの会 会長』の文字が。

 

 

「人類人権団体だあ?なんでそんな奴らがこんな所に・・・」

 

「いえ、実は・・・」

 

「ここにおられましたか。準備ができましたのでこちらへ」

 

 

男が処刑人の疑問に答えようとした時、救護者が現れ男へ声をかける。

 

 

「おお、助かります。ではみんな、行こうか」

 

 

男は他の男達を連れ廊下の奥へと消えていった。

 

 

「・・・おい、救護者。人類人権団体がなんでここにいやがる!奴らは敵だろうが!」

 

「マイスターの会は穏健派筆頭ですよ、処刑人。彼らは人間の権利こそ訴えていますが、人形の排斥運動などをしたことはありません」

 

「だけどよ・・・!」

 

「よせ、処刑人。彼らが敵対行動をとってない以上私達から突っかかるわけにもいかないだろう」

 

「・・・ふむ。では処刑人、ハンター。一つ仕事を任せてもいいでしょうか」

 

「あ?何だよ」

 

「応接室に代理人がいます。彼女と共に待機してもらってもいいでしょうか」

 

「うん?まあ構わないぞ。先程任務が中止になって時間が空いてしまったからな」

 

「俺もそれでいいぜ」

 

「では任せました。・・・処刑人には慣れない仕事でしょうから暴れないように見張っててくださいね、ハンター」

 

「? よくわからないが・・・了解した」

 

 

こうして処刑人とハンターの二人は応接室へ向かうのだった

 

 

 

♢♦♢♦

 

 

 

「・・・って!なんだこりゃあ!」

 

「おっ、処刑人さん今の表情いいですね!」

 

「落ち着け処刑人。私も恥ずかしいんだ」

 

「・・・///」

 

 

そして二人は何故か代理人と共に撮影会に参加していた。

喚く処刑人に宥めるハンター。赤面する代理人にそれらを笑顔で撮る男達。

なかなかにカオスな光景だった。

 

 

「処刑人さん、大剣をこっちに切っ先を向けて!不敵な笑みを!・・・いいですねえ!」

 

「ハンターさん、二丁拳銃の銃口をこっちに向けて・・・そう!クールな表情で!」

 

「代理人さんは挨拶するメイドみたいにスカートをつまんで・・・そう!その少し恥ずかし気な表情最高!」

 

 

男達は三人へ要望を出し、それを撮っていく。

彼らを人類人権団体と言って誰が信じるだろうか。まるでコスプレイヤーを取るオタクな連中にしか見えない。

 

 

「皆様、そろそろ時間です」

 

「む、もうそんな時間か」

 

「楽しい時間は一瞬ですな!」

 

「いやはや全く。・・・ところで救護者さん、あなたも一枚撮らせていただいても?」

 

「いいですよ。・・・こうでしょうか」

 

「パシャリ、と。ありがとうございました」

 

「いえ、業務命令ですので」

 

 

無表情ダブルピースを撮影させた救護者は男達を出口へ案内するために部屋を出る。

その入れ替わりにドリーマーが入室してきた。

 

 

「随分お疲れみたいね?」

 

「当たり前だ、こんなことやったことねえし・・・」

 

「これなら戦場で敵を殺すほうが幾分楽だ・・・」

 

「うう、また私の恥ずかしい姿が衆目に・・・」

 

 

ぐったりしている三人に飲み物を渡すドリーマー。

水分を取って少しは回復したのか処刑人が上半身を起こした。

 

 

「結局何だったんだこれ?」

 

「人間人権団体の運動が最近活発化していてね。上も頭を悩ましていたんだけど、そこに穏健派筆頭の彼らが自分たちに任せてほしいって売り込んできたのよね。で、報酬にハイエンドモデルの写真が欲しい、と。特に代理人のね」

 

「なんで人間人権団体のお偉いさんが俺らの写真なんか・・・」

 

「彼ら、人形愛好会のメンバーよ?あと代理人ファンクラブの創設者でもあるわ。まあぶっちゃけ、人間人権団体を名乗ってるのも人形と触れ合いたいからでしょうねえ。鉄血のハイエンドモデルともなると会う機会すら一般人には稀でしょうし」

 

「なんだそりゃ・・・」

 

「まあ、人間のお偉いさんにも彼らみたいな変わり者がいるってことよ。これからも何度か来るでしょうから仲良くしてあげなさいな」

 

「マジかよ・・・」

 

 

ニマニマと笑うドリーマーに、三人は重い溜息を吐いて慣れない疲労を癒すしかなかった。

 




平和な世界ならではな話でした。
あ、ほかの人間人権団体はド畜生の集まりですが救護者が「精神治療」を施してるので数は減ってます。

そして皆さんにお聞きしたいのですが、グリフィンの人形を登場させるとしたらどの人形がいいですかね?


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救護者たちは喫茶鉄血を訪れるようです。前編

いろいろ様から許可を頂いたのでコラボ会です。

今回は前編。明日後編をあげます。

あの魅力的なキャラたちをきちんと表現できてるか少しドキドキ。


 

「すいません、代理人。買出しに付き合わせてしまって」

 

「構いません。空いた時間をどうしようか考えていたところですから。ウロボロスもたまには外に出ないと滅入るでしょうし」

 

「お姉様といれば滅入ることなどないさ。ま、久しぶりの外は気分がいいがな」

 

 

街を歩く三つの人影。

代理人、救護者、幼い代理人を模したボディのウロボロス。

彼女達は備品の買い出しの帰路についていた。

 

 

――リィーン――

 

 

談笑しながら歩いていた三人だったが、不思議な鐘の音を聞いて立ち止まる。

 

 

「今の音は…」

 

「綺麗な音でしたね、どこからでしょうか」

 

「ふむ…。あっちだ!」

 

ウロボロスが二人の手を引き、路地裏へ飛び込む。

そこには扉があり、看板には「喫茶 鉄血」と書かれていた。

 

 

「喫茶店のようですね。さっきのはドアベルの音だったのでしょうか」

 

「…こんな場所に喫茶店?新しく開いたお店でしょうか。ちょうどいいです。お茶にしましょう。買出しに付き合って頂いたお返しに御馳走しますよ」

 

「む?そうか?ならば私はケーキがいい!」

 

 

三人が扉を開け、中に入ると落ち着いた雰囲気の店内が出迎える。

中にはそれなりに人がいて、ざわめいていたものの、三人が入った瞬間、何故か一気に無音になった。

 

 

「カウンターが空いていますね、あそこにしましょう」

 

「ええ。荷物を預かりますよ、代理人。…ん?彼女は…」

 

 

カウンター席に座ろうとした救護者は店内にいた戦術人形に気付いて近づいていく。

G11。かつて救護者が快眠プログラムの実験台として協力してもらったことがあった。

 

顔見知りであるはずの彼女は何故か口を大きく開け、信じられないようなものを見たような表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「代理人がかっこいい系の美女と自分の子供を連れてきたあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!??????」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

G11の絶叫が店中に響き渡った。

 

一気に騒然とする店内。

G11の叫びを聞いて何事かと駆けつけたDやマヌスクリプトたちがやはり三人を見て驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「えーっと、代理人?その、美人さんは、誰かな?」

 

 

震える声で救護者を指さすG11。

そんな彼女に代理人は首をかしげて答える。

 

 

「誰、とは。救護者ですよ。貴女も会ったことがあるでしょう」

 

「え!?また鉄血は新しいハイエンドモデルを作ったの!?」

 

「私は代理人と同時期に製造された初期からいるハイエンドモデルですが…?」

 

 

噛み合わない会話に顔を合わせて首をかしげる救護者と代理人。

 

そんな折、『この店のマスターである』代理人が現れた。

 

 

「すいません、D。留守番をさせてしまって。何か変わったことはありませんでしたか?」

 

「えーっと…今すぐそこで変わったことが起こってる、かな」

 

 

Dの言葉に店内へ目を向けた代理人はもう一人の自分と、見覚えのない女性、そして「ケーキはまだか?」と放心しているマヌスクリプトを揺さぶっている幼い自分というカオスな光景を目にすることになった。

 




今回は救護者の狂気度抑えめだけど次話はどうしようかな…


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救護者たちは喫茶鉄血を訪れるようです。後編

コラボ回後編です。

喫茶鉄血のキャラの魅力が上手く表現できなかったようで悔しいですが楽しかったのでOKです。

ややこしいので喫茶鉄血の代理人を「代理人」、こちらの代理人を「エージェント」と表記しています。


 

 

「異世界…ですか」

 

「ええ。たまにあなた達のような人がいまして。鐘の音を聞いたのではありませんか?」

 

「ああ、確かに。その直後にこのお店を見つけました」

 

「ならすぐに戻れるでしょう。今までもそうでしたから」

 

 

代理人同士で会話は進む。

いつもの代理人とDの会話ではなく、喫茶店のマスターである代理人と異なる世界のエージェントという組み合わせだ。

 

エージェントは注文したコーヒーを飲み、一息つく。

その隣では小さなエージェント、もといウロボロスがケーキを幸せそうに頬張っていた。

 

 

「…意外に冷静ですね?異世界と聞けば大体の方は驚くものですが」

 

「驚いていますよ?驚くようなことに慣れているだけです」

 

「うむ。救護者といると自然と突飛なことには慣れるからな」

 

「ええ。こちらの私も最前線で拳をふるって戦う衛生兵や戦車で轢殺する衛生兵やハイエンドモデルを抑え込む衛生兵と暮らしていれば慣れます。ええ、慣れますとも」

 

 

目のハイライトが消えるエージェントによしよしと頭を撫でて慰めるウロボロス。カオスである。

 

 

 

そして話題に上がった救護者はというと、マヌスクリプトを隣に座らせそのボディをまじまじと見つめていた。

 

 

「こちらにはいないハイエンドモデル…。それだけでも興味深いですが、この整備の細やかさ。よい技術者がいるようですね?」

 

「あ、うん。サクヤさんって人なんだけど…っひゃあ!?そ、そこは触っちゃダメぇ!」

 

「むむ、これは、実に…ふむ…、勉強になります」

 

 

とうとう眺めるだけでは飽き足らずペタペタとあちらこちらを触り始める救護者。

割ときわどいところも触るので他のお客は「おおっ!」と興奮して二人を見守っていた。

 

とうとう服を剥ぎ取ろうとした救護者にエージェントがチョップを落とす。

 

 

「やりすぎです、救護者」

 

「む、これは失礼を。目新しい技術が使われていたもので…。よければそのサクヤという方にも会いたいのですが」

 

「サクヤさんは忙しいから難しいかな、あはは…」

 

 

乱れた服を直しつつ苦笑するマヌスクリプト。

会えないことに少し残念そうにした救護者だったが、注文していたパフェが来ると気を取り直したようだ。

 

 

「にしてもこれがあのウロボロスねえ…」

 

「頬を突っつくな!ケーキが食べにくいであろう!」

 

 

ケーキを食べていたウロボロスの頬を突き、未だに信じられない、と呟くG11。

こちらの世界のウロボロスを見れば小さな代理人になってしまっているウロボロスは新鮮だった。

 

 

「私はなあ!これでも電脳世界では本来の性能を取り戻せるのだ!鉄血の中でも特に優秀なスペックだというのに…!」

 

「仕方ないでしょう、そのスペックが問題でボディの作成が難航しているのですから」

 

「お前がこんなボディに私を入れるからだろうが!」

 

「リッパーなどのボディではスペック不足でオーバーヒートを起こしてしまいますから。そのボディは違法に作られたものではありますがスペックは高かったのでちょうどよかったんです」

 

「むぐぐ…!」

 

 

言いくるめられてしまい唸るウロボロスを可愛い!と撫でまわすD。

なお小さいとはいえ自分のボディを「こんな」呼ばわりされて落ち込んだエージェントは代理人に慰められていた。

その後落ち込んだエージェントを見たウロボロスは「違うんですお姉様!そういうつもりではなくて…!」と慌てて弁明することとなった。

 

 

 

 

 

♢♦♢♦♢♦

 

 

 

 

喫茶店の面々と談笑していた救護者達だったが、その耳にここに来た時に聞こえた鐘の音が入ってくる。

 

事情を聴いていた三人は席を立ち、代理人たちへ向き合った。

 

 

「お世話になりました。また来れるかは分かりませんが、そのときはよろしくお願いします」

 

「馳走になった。ここのケーキは美味かったぞ!」

 

「ではこれで。また来れたら今度はサクヤという方に会いたいものですね。…ああ、それとこの世界のお金は持ち合わせていませんでしたので、代金代わりにこれを差し上げます」

 

 

救護者は代理人へデータチップを手渡す。

 

 

「これは?」

 

「私が作った快眠プログラムです。人形とはいえストレスは溜まります。その解消に役立つでしょう」

 

 

目当ての物を渡した救護者は二人の元へ戻り、扉を開ける。

まばゆい光に包まれ、目を細めた三人はいつの間にか見覚えのある街に立っていた。

 

 

「不思議な体験でしたね」

 

「ええ。…また行きたいですね」

 

「そうですね。きっとまた行けますよ」

 

 

三人は顔を見合わせると、鉄血工造への家路を歩き始めるのだった。




いろいろさん、コラボ許可ありがとうございました!


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404小隊が鉄血工造へ来るようです。

今までアンケをとっていたのですがARと404で投票数がずっと同数だったんですよね。
そしたらようやく404のほうに傾いたので404回です。

ほのぼのを書こうとしてたのに、できたのはシリアス話。何でじゃい!

それとなんかいつもより長くなりました。





 

 

 

グリフィンのヘリの中。

そこにいるのはUMP45、UMP9、G11、HK416。

グリフィンが抱える特殊部隊、404小隊だ。

 

彼女達はグリフィンからの依頼を危なげなくこなして帰路についていた。

 

 

『みんな、お疲れ様ー。もうすぐ到着するから降りる準備をしてね。この後は部隊としての任務は入ってないから自由時間!なんだけど…』

 

 

ヘリの無線から聞こえる声はUMP40。

本来共に現場へ赴くべき彼女だが、今は404小隊の専門オペレータとして動いていた。

そんな彼女の声は明るい。が、語尾が少し濁す。

それを不思議に思った416が問いかける。

 

 

「どうしたの?40。何か問題でも?」

 

『あー、45。帰投次第、あたいと一緒に行ってほしい所があるの』

 

「…どこに?」

 

『鉄血工造』

 

「そう。分かったわ」

 

 

目を閉じていた45は40の要望に簡潔に返す。

しかしそれに不満の声をあげた者がいた。9だ。

 

 

「えー!45姉今日は買い物に付き合ってくれるって約束だったじゃん!」

 

「ごめんね、9。あとで埋め合わせをするから…」

 

「やーだー!45姉と一緒に買い物行くー!」

 

 

45はごねる9を宥めるがシスコンモードに入ってしまった彼女は両腕を振って抗議する。

 

 

「大体鉄血に何の用があるのさ!私達の家はグリフィンでしょ?」

 

『…ねえ、45。いっそ9、というかみんな連れてっちゃう?いい加減あたい達のことも話しておかないと』

 

「はぁ…。そうね。いい機会かもしれない。みんな、これから目的地をグリフィンから鉄血へ変更するわ。あなた達に聞かせたいことがあるの」

 

『じゃああたいは報告書を提出したら向かうね!みんなのことも連絡しておくから!』

 

「ありがとう、40。9、ごめんなさいね。買い物はまた後日ね」

 

「え?うー…わかった。45姉と一緒に入れるなら…」

 

 

45の言葉にしぶしぶ同意する9と、話しておきたいことが気になるのか片眉をあげる416、鉄血に向かうと聞いた時点でうわ行きたくねえ…という顔をしたG11。

彼女達を乗せたヘリは目的地を変え、鉄血工造へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄血のヘリポートで404を迎えたのはアルケミスト。

ヘリから降りた4人を出迎え、45に近づくとその頭を撫で始めた。

 

 

「久しぶりだな45。元気にしていたか?少し背が伸びたんじゃないか?」

 

「ちょっとやめてよ、みんなの前で。それに人形の背が伸びるわけないでしょ」

 

 

顔を赤く染めるものの満更でもない表情でアルケミストの手を受け入れる45。

その姿を見て404のメンバーは驚きをあらわにした。

 

 

「45姉が…見たことない顔してる…!」

 

「へえ…45がねえ」

 

「帰りたい…」

 

 

姉の見たことのない表情に愕然とする9、意外そうな顔で眺める416、すでに帰りたくなっている11。

 

 

「45、40はすでにメンテナンスルームへ向かっている。お前もすぐに行ってくれ。…君たちが404だな?話は聞いているよ。応接室が空いている。そこで話そう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

45を除く404小隊は応接室へ案内されたがその空気は良いものとは言えなかった。

9がアルケミストへ厳しい視線を送っていたからだ。

しかしアルケミストはそんな視線を気にすることなく3人へ紅茶と茶菓子を出した後、ソファーに座って資料を読んでいる。

 

ちなみに416は紅茶と茶菓子として出されたケーキを口にしてその美味しさに目を丸くし、11はぐでーっと脱力していた。

 

睨み続けていた9がアルケミストへ先程の姉に対する態度を問いただそうと口を開いたその時、ドアが開いて45と40、そして二人の検査を担当した救護者が入ってきた。

 

 

「一通りチェックしましたが、問題はありません。不審な数字もありませんし…。これで検査は終了です」

 

「うん、ありがとー!」

 

「いつもごめんなさいね、救護者」

 

「これが私の本来の職務ですので気にする必要はありません。……さて」

 

 

救護者は持っていたバインダーを机の上に置くと、9へ視線を向けて45に戻した。

 

 

「まだ教えていなかったのですね」

 

「うん。…言う機会がなくて。でも、今教えようと思う」

 

「そうですか。貴女から話しますか?」

 

「そうするわ。9は…私達の妹だから」

 

「分かりました。では補足のために私とアルケミストも同席しますね」

 

「お願い」

 

 

45と40は救護者とアルケミストに挟まれる形で腰を降ろし、404へ向かいあう。

45は緊張で肩を震わせていたが、40が彼女の手を握り、落ち着かせた。

 

「みんな。特に、9。聞いてほしいことがあるの」

 

「…なあに?45姉」

 

 

緊張でその声は震えていたが、9は優しく聞き返す。

 

 

「私と40は、グリフィンの人形じゃないの。鉄血で製造された戦術人形なのよ」

 

「え!?」

 

「厳密にいえば45と40のボディはI.O.P製です。ただ、メンタルモデルに関しては鉄血で作られたものです」

 

 

45の告白に驚きを返す9。

それに付け加える形で救護者が説明する。

 

 

「あたいたちはね、他社のメンタルモデルを搭載した戦術人形を生み出すための研究で製造されたんだ」

 

「だが、研究はこの二人を製造して終了した。I.O.Pは製造当初の彼女達のスペックを見て失敗したと判断したんだろう」

 

「私達は…落ちこぼれだったからね。電子戦に特化してるといっても戦術人形だもの。銃を撃ってもまともに的にも当てられない人形はすぐに失敗作と判断されたわけ」

 

「I.O.Pとグリフィンはあたい達を解体する決定をした。でも、鉄血工造が解体直前であたい達を引き取ったの」

 

「『貴方達が彼女らを廃棄するというのであれば鉄血が預かります。少なくともそのメンタルモデルは鉄血のもの。私達にも所有権はあるはずです』ってね。驚いたよ、グリフィンの重役会議の真っただ中に救護者が現れた時には」

 

 

その時の光景を思い出し、笑みを浮かべる45。

 

 

「その後は…鉄血のハイエンドモデル達がつきっきりで鍛えてくれた。おかげで私達は戦術人形として戦場に立つことができた。ただの実験体じゃなくてね」

 

「あたいは結局火器管制システムに適合できなくて戦場には立てなかったけど、今は皆のサポートができてとっても嬉しい」

 

「だから私達にとって鉄血は大切な家族なの。命の恩人でもあるし、なにより戦術人形として私達を認めてくれたから」

 

「でもね、9。あたい達は9も大切な家族だと思ってるんだ。グリフィンに戻ったとき、あたい達を笑顔で迎えてくれて、家族だ!って言ってくれたから」

 

 

9はうつむいて体を震わせる。

45と40はそんな彼女を抱きしめた。

 

 

「今まで隠しててごめん。でも、9は家族ってことをとても大切にしてたから言い出しづらかったんだ」

 

「ごめんね、9。こんな私達だけどまだ家族で、大切な妹でいてくれる?」

 

「当たり前だよお…!45姉も、40も、私の大事なお姉ちゃんだもん…!」

 

 

涙を流して二人を抱きしめ返す9。

 

 

そんな光景を見て416は涙をぬぐって鼻をすすった。

 

 

「あれ、416泣いてるのー?」

 

「な、泣いてなんかないわよ!私は完璧なんだから!」

 

 

11がからかうと416は顔を背ける。

だが、赤くなった鼻と濡れた瞳で泣いていたことは明らかだった。

 

 

「よかったな」

 

「ええ。二人は特殊な立ち位置なので心配していましたが…。これなら大丈夫そうですね」

 

「ああ。…ふふっ、随分姉らしさが出てきたんじゃないか?救護者」

 

「あなたこそ、可愛い妹に姉離れされて寂しいのでしょう?」

 

 

ハイエンドモデルの二人が軽口を叩いていると、泣き止んだ9が二人へ近づいてきた。

 

 

「ねえ!その…。鉄血のハイエンドモデルは45姉や40の家族…なんだよね?」

 

「そうだな、二人は私達の妹のようなものだ。それがどうかしたか?」

 

「じゃあさ、えっとね。私も、鉄血のみんなの家族ってことに、なるのかな?」

 

 

思いがけない言葉に顔を見合わせるアルケミストと救護者。

だが、やがて笑顔で返事をした。

 

 

「ああ、もちろんだ。お前も私達の家族さ、UMP9。」

 

「歓迎しますよ、9。家族が増えるのは喜ばしいことです」

 

 

その返答を聞いて9の顔がぱあっと輝く。

 

 

 

こうして9は今までの二人の姉の他にたくさんの姉たちができたのだった。

 




ほのぼのどこ…?ここ…?

というわけで404回という名のUMP姉妹回だったという。

416と11ずっと空気だったやんけ!


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救護者は薬を作るようです。

お久しぶりです。

こっち更新するのも一月振りかあ…やらないとあっという間に過ぎていくなあ…。

今回はいろいろさんの作品、「喫茶 鉄血」に救護者を出させていただいたのでその後のお話となります。
救護者ちゃんが元E.L.I.Dの人の話聞いちゃったらまあこうなるよね。


 

 

鉄血工造の研究室。

 

普段は鉄血の所員が使用するその部屋に、救護者はいた。

 

「…これで完成ですね」

 

救護者が握る試験管の中には緑色の薬品が揺れている。

 

「朝になってしまいましたか。この私が徹夜とは、いけませんね」

 

カーテンの隙間から漏れ出る朝日に救護者は目を細める。

しかし、それもつかの間、彼女は完成したばかりの薬品を小型のケースへしまい、部屋を出る。

 

「作ったからには試さなければなりません。都合のいい任務があればよいのですが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッションを説明します。

ミッション内容はJ03地区に出現したE.L.I.Dの排除となります。

対象はネズミ型。攻撃行動は噛みつきやひっかきなど単純なものですが、一つの巨大な母体を中心とした群体が形成されており、我々では手が回りません。

よって今回は鉄血のハイエンドモデル、デストロイヤー、エクスキューソナー、ハンターなど攻撃力の高いハイエンドを投入し、群体を押しとどめ、その間に母体を排除することが提案されています。

説明は以上です。グリフィンは鉄血を高く評価しています。良いお返事を期待していますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦場は地獄絵図だった。

 

 

「エクスキューソナー!そろそろ撤退しないと部隊が壊滅するぞ!」

 

「分かってるっての!だけどよ、撤退しようにもこの数相手じゃあ…!」

 

「うう、気持ち悪いー!そろそろ弾もきれちゃうよー!」

 

 

鉄血のハイエンドモデル三人を取り囲むネズミの群れ。

三人はそれぞれ別の部隊を率いていたが、E.L.I.Dのあまりの多さに部隊と分断されていた。

彼女達も離脱しようとしたのだが、グリフィンの人形達の撤退を援護していたらいつの間にか包囲されていた、という状況に陥っていた。

 

 

「くそが!母体がこんな速度で子分を生み出すなんざ聞いてねえぞ!グリフィンの奴らいい加減な仕事を…!」

 

「仕方ないだろう、よもや母体を追いつめた瞬間に爆発的に増えるのは予想できない」

 

「うー、こっち来るなー!あっち行けー!」

 

「あ、馬鹿!無駄弾撃つんじゃねえよデストロイヤー!」

 

 

ハンターが拳銃で、エクスキューソナーがブレードで迫るネズミたちを追い払う中、デストロイヤーはパニックを起こしそこら中にグレネードを撒き散らしている。

数が数だけにそれでもネズミの数は減っているが、母体が生み出す速度のほうが早く、三人はじりじりと追い込まれていく。

 

 

「…こうなったら、手段は問えまい。エクスキューソナー、お前はデストロイヤーを連れて離脱しろ」

 

「ああ!?何言ってやがる!」

 

「こうなっては犠牲は免れない。それに私は任務前にバックアップを取っている。問題ないさ」

 

「ふっざけんな!俺にお前を見捨てろっていうのか!?」

 

「ならばここで全員破壊されるか?そうすればこいつらの情報は誰が持ち帰る?」

 

「っ、それは…」

 

「分かったなら行け。デストロイヤー、いつまでも泣いてるんじゃない。お前も鉄血のハイエンドモデルなら、…?これは…」

 

 

ぐずっているデストロイヤーを窘めようとしたハンターは空から降る緑の粒子に気付く。

空を見上げると鉄血のヘリが彼女達の上でホバリングしており、緑の雨はそこから降っていた。

 

 

「!?ギッ、ギギギギギギイイイイイイイイイイイ!!!!???」

 

 

緑の粒子が降り始めると彼女達を囲んでいたE.L.I.Dたちが一斉に苦しみ始め、やがてその動きを止めた。

 

 

「これは、一体…」

 

 

ハンターたちが呆然と周りを見渡すとヘリから落下してきた人影が近くへと着地した。

救護者だ。

 

 

「無事ですか?三人とも」

 

「あ、ああ…。それより、これは…」

 

「これですか?これはE.L.I.Dの特効薬…の試作品です」

 

 

ハンターの問いに簡潔に答えると救護者は近くのネズミをつかみ上げる。

そのネズミは完全に事切れており、救護者の手の中でだらんと力なく体を預けていた。

 

 

「ですが…失敗作だったようです」

 

「ああ?あっという間に奴らが死んだっていうのにか?成功だろ、()()()はよ」

 

()()()、ですよエクスキューソナー。最近E.L.I.Dに関する有効な情報を手に入れたので試作してみたのですが…。これでは失敗です。E.L.I.Dは治っていますが、治る過程で死んでしまうのでは薬としては使えないでしょうね」

 

「え?…うわ、本当だ。こっちの母体だったネズミのE.L.I.Dも治ってただの大きいネズミになってる!」

 

「…とんでもない薬を作ったな、救護者。世界がひっくり返る発明だぞ、これは」

 

「世界などどうでもいいのですよ、私は。ただ病を治したいだけなのですから」

 

「とはいえな…。軍が放っておかないだろう、これは」

 

「ではしばらく情報を規制しましょう。あの戦争狂いどもに兵器に転用されては本末転倒です」

 

 

サンプルに、と大きなズダ袋にネズミたちをぽいぽい入れていく救護者を微妙な目で見る三人。

 

 

やがてこの特効薬をもとにE.L.I.Dの治療薬が作られることとなるのだが、それはずっと先の話。

 




アイテム

救護者製の特効薬(試作品)

作者がE.L.I.Dって細胞が変異を起こした結果なったものじゃね?と独自解釈した結果生まれたもの。
ようはコープラップスで異常に変質した細胞を正常な細胞に治す薬。
しかし、治る過程で細胞が変質する結果、E.L.I.Dは治るものの、対象は死亡する特攻薬になってしまった。
それだけでもE.L.I.Dに対する対抗手段なのでとんでもない発明なのだが、救護者はこれでは失敗作だと封印してしまった。
フリー素材。


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M4が休暇を取るそうです。

潜伏者の方書かなくちゃなあ、と思いながらもネタが浮かんじゃうとこっち書いちゃう。

スキンはトカレフのだけ当たりました。ヤンデレ身があって実に素晴らしいスキンでしたね!


 

「どうして…どうしてこんなことに…」

 

 

私、M4A1は司令部近くの公園のベンチに座り、うなだれていた。

 

何故私がこんな状況になったのか、その原因は今日の朝に遡る……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ました。

指揮官より支給された快眠プログラムにより清々しい気分で上体を起こす。

 

 

「♪」

 

 

鼻歌を歌いながら服を着替える。姿見をみておかしなところがないことを確認し、朝食をとろうとドアを開けた。

 

 

「きゃっ!?」

 

 

しかし、開けた先にはノックをしようとしていたM16姉さんが立っていて驚きで声をあげてしまう。

 

 

「おっと、驚かせたか?すまんな、M4。…少し話があるんだ。部屋に入っても?」

 

「え、ええ…」

 

 

姉さんも突然ドアが開いて驚いた顔をしたものの、すぐに真剣な表情へ変える。

任務以外であまり見ない表情に圧され、部屋へ通した。

 

 

「それで姉さん、話って?」

 

「ああ。実はな、M4。お前には休暇を取ってもらう」

 

「え?休暇?」

 

「ああ。お前、一日も休まずに働いているだろう。非番の日も指揮官を手伝っていると聞いた」

 

 

真剣な表情から任務の話かと思ったがどうやら違うらしい。

確かに非番を貰うことはあっても一日休みというものに馴染めず結局執務室へ足を運んでいた。

 

 

「そこでお前に業務命令として一か月の休暇が言い渡された」

 

「…は?一か月!?何かの間違いじゃ…」

 

「残念ながら事実だ。ほら、これが命令書」

 

 

姉さんから渡された書類には確かに業務命令として私に一か月の休暇が言い渡されていた。

 

 

「なんでこんなものが!」

 

「あー…。M4。お前は去年起こった労働基準監督署に鉄血の救護者が押し入った事件は知ってるか?」

 

「は、はい…。かなり話題になりましたから。それが何か?」

 

「その時にな、私達人形にも有給制度が導入されたんだが。M4、お前だけなんだ。有休もとらずに休日返上で仕事してるのは」

 

「は、はい?」

 

「今から有休をとってもらわないと今年の決算に間に合わないと指揮官に泣きつかれてな…」

 

「え、じゃあ…」

 

「簡単に言えば仕事禁止令がお前に発令された」

 

「はあ!?え、ちょっと待ってください」

 

「当然ながら一か月間仕事に関するものは禁止だ。…まあ、なんだ。外に出て気分転換でもしてくるといい」

 

「え、ちょっと、待ってください!」

 

「外出許可は私の方で出しておく。いいか?働くなよ?絶対だぞ?」

 

「ね、姉さーん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「強制的に休みを取らされるって一体どんな状況なの…?」

 

 

姉さんに言われるがまま外に出たはいいものの、何をすればいいか分からない。

参考程度にARやSOPに話を聞いたものの…。

 

AR:ウインドウショッピング。時には服屋に入り気に入った服を買ってくる。

SOP:食べ歩き。おいしいと評判のお店を教えてくれた。

 

服は…あまり興味ないし。食べ歩きも三食以外に食べるというのがなんだかよく分からない。

 

 

「はあ…どうしよう…」

 

「おい、どうした?でかいため息ついて」

 

「ひゃああああ!!??」

 

 

後ろから不意にかけられた声に思わず驚いてしまう。

振り向くと鉄血の、確かエクスキューショナーと呼ばれているハイエンドモデルが立っていた。

 

 

「え、エクスキューショナーさん!?」

 

「さんはいらねえよ。お前は確かグリフィンのM4…だったか?」

 

「は、はい。あの、なにか用でも?」

 

「あー、いや。顔見知りが真昼間から暗い顔して座ってるのが気になってな」

 

「…実は…」

 

 

エクスキューショナーにこれまでの経緯を話す。

すると彼女は噴き出して笑いだす。

 

 

「ははは!働き過ぎて休みを命令された!?なんだそりゃ!」

 

「わ、笑わないでください!」

 

 

笑い続ける彼女に抗議する。いくらなんでも笑いすぎです!

 

 

「いや、わりぃわりぃ。あんまりにも変な理由だったんでな…。くくくっ」

 

「うう…」

 

 

変な理由だという自覚はあるけどここまで笑われるとさすがに恥ずかしい。

 

 

「いや笑った笑った。そうだな、この後暇か?」

 

「予定はないですけど」

 

「じゃあ俺と一緒に来いよ。ベンチで黄昏てるよりはましだろうぜ」

 

 

そう言ってエクスキューショナーは歩き出す。

私は慌ててその後を追った。

 

 

「そういえば、その荷物は…?それにその恰好…」

 

「あん?私服だよ私服。非番の日まで戦闘服着てる必要はねえだろ」

 

「そ、そうですね…」

 

 

彼女の服装はいつもの真っ黒な戦闘服ではなく白のリブ生地のセーターとデニムのジーンズ。体形が豊かな彼女によく似合っていた。

対する私はいつもの戦闘服…。し、仕方ないじゃないですか!これしか持ってないんですから!

 

 

「そんでこの荷物はな…。まあ目的地に着けばわかるさ」

 

「はあ…」

 

 

両手に持っている大きなビニール袋。

透けて見える中身はどうやら人工甘味を使った菓子のようだけど。

 

ずんずんと進んでいくエクスキューショナーに私はただ付いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、着いたぞM4」

 

「ここって…」

 

 

エクスキューショナーが歩みを止めたのは少し大きな建物。

見た感じ何かの養護施設のようだけれど…。

 

 

「あーっ!エックスの姉ちゃんだー!」

 

「エックスのねーちゃん抱っこしてー!」

 

「あそぼー!ねーあそぼー!」

 

「こらガキンチョども!俺の名前はエクスキューショナーだって言ってんだろうが!」

 

「長いし言いにくいよー」

 

「エックスキュウリ?」

 

「なんでそうなるんだ!」

 

 

外で遊んでいた子供たちがエクスキューソナーを見つけた途端群がっていく。

どうやらかなり子供たちに慕われているらしい。

 

 

「エクスキューショナー、いらっしゃい。…あら、あなたは」

 

 

建物から出てきた女性がエクスキューショナーに近づいていく。

そのとき女性は私に気付いて私へ向き直った。

 

 

「M4A1です。えっと…」

 

「スケアクロウよ。あなたのことはエクスキューソナーから聞いたことがあるわ」

 

「え?」

 

「『脆いグリフィン人形しちゃ見込みがある』って。エクスキューショナーが鉄血以外の戦術人形を褒めたのはこれが初めて」

 

「あの人がそんなことを…」

 

 

視線をエクスキューショナーへ向ける。

いつの間にか子供を肩車して追いかけっこが始まっていた。

 

 

「あの、ここは?」

 

「ここは孤児院。この情勢じゃどうしても孤児は増えるから」

 

「鉄血が孤児院を経営していたなんて初耳です」

 

「ここは鉄血の所属じゃないもの。救護者が私財を投じて建てたのよ」

 

「…あの人は何でもやってますね」

 

「救護者は誰かを助けるためなら何だってするわ。私も彼女に助けられた一人」

 

 

スケアクロウが髪をかき上げ遠い目をする。

過去を思い返しているのだろうか。

 

 

「私はスケアクロウだけど、数あるダミー人形の一つなの。私はダミーの中で唯一バグが見つかった個体で、メンタルモデルが戦いに嫌悪感をもってしまうの」

 

「戦えない戦術人形、ですか」

 

「ええ。当然ながら私は廃棄されるはずだった。でも救護者がね、私の平行処理能力をかってくれてここの管理を任せてくれた」

 

 

スケアクロウは目を閉じてそっと胸に手を当てる。

 

 

「嬉しかったわ。戦えない私を必要としてくれたことが。欠陥人形の自覚はあったけど、それでも死にたくはないしね」

 

「……」

 

 

彼女にかける言葉は見つからなかった。

私は欠陥なく、しかも特別な人形として生まれた。

そのことはとても幸せなことだったのかもしれないと思ったから。

 

 

「あの…」

 

「ん?」

 

「私、しばらく休みを取るんです。その間、ここに来てもいいですか?」

 

「…ええ。歓迎するわ。子供たちも喜ぶでしょうし」

 

 

私の質問に笑顔で返すスケアクロウ。

 

いつの間にか追いかけっこからかくれんぼへ変わった子供たちとエクスキューショナーの遊びを眺めながら私は長い休暇を楽しもうと決めたのだった。

 




登場人物

M4:休暇を強制的に取らされた人形。ワーカホリックで働いてないと落ち着かない。でも今回、よい休暇の過ごし方を見つけた模様。

処刑人:なんだかんだ使いやすいので登場回数が最も多い。孤児院に来てるのは子供が好きなのもあるが、救護者で荒んだ精神を癒すため。アニマルセラピーならぬチャイルドセラピー。子供たちから名前を覚えてもらえず、エックスと呼ばれている。

スケアクロウ:孤児院の院長、というか管理人。スケアクロウのダミー人形だったが、戦闘を忌避するというメンタルモデルのバグが見つかったために廃棄予定だった。それを救護者が拾って自分が作った孤児院の院長に任命した。子供たちからは「先生」と呼ばれ慕われている。


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大型コラボ編 第一話!

潜伏者も投稿したのでこっちも投稿。

ここまでやって大丈夫だったかな…だめならいろいろさんがダメって言ってくれるよね…?


救護者はいつも通り執務室でドリーマーと共に仕事をしていた。

しかしふと、ここ最近聞きなれた不可思議な鈴の音が耳に届く。

 

救護者は顔を上げ、ドリーマーのほうを見るが、ドリーマーは聞こえていないのか書類と格闘していた。

 

救護者は小さくうなずくと席を立つ。

 

 

「ドリーマー、私は緊急の要件で出かけます。後のことは任せました」

 

「え、救護者!?ちょっと、そんないきなり―――」

 

 

ドリーマーの言葉に反応することなくいつもの赤い軍服のようなコートを纏い、部屋を出る救護者。

慌ててドリーマーが続けて部屋を出るが、長い廊下には見えるはずの救護者の姿はなかった。

 

 

「残りの仕事…どうするのよー!」

 

 

大量に積みあがった書類の山を見たドリーマーの悲鳴が鉄血工造中に響いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふむ」

 

 

執務室の扉を潜り抜けた救護者は道のど真ん中に立っていた。

二回この世界へ来たおかげでそこがS09地区の大通りだと分かる。

 

 

「それにしても……人がいませんね」

 

 

救護者の記憶では人でごった返すほどではないにせよ活気があったはずだ。

しかし今は人が一人も見当たらず、不気味な静けさに包まれている。

 

 

「喫茶店にでも行ってみましょうか」

 

 

そうひとりごちると喫茶鉄血へと歩みを進める救護者。

しかしそれは通りにある電気屋で止まることとなる。

 

 

『現在、軍が保有する列車砲、アルゴノーツカライナ・ヴィーラ・パピスがテロリストに強奪され、そのうちカライナがS09地区に向かって接近しているという事件が発生しています。S09地区にお住まいの方はすぐに避難してください…』

 

 

いくつものテレビが置かれているディスプレイに映っているのは凄まじい速度で走っている列車。

それにより救護者はあらかたの事情を把握した。

テレビから目を離した救護者はこの世界でしか通じない番号へ電話をかける。

数秒の後、目的の人物が電話へ出た。

 

 

『はい、もしもし!鉄血工造のサクヤですけど!今ちょっと手を離せなくて後でかけなおしてもらっても……』

 

「久しぶりです、サクヤ」

 

『って、その声、救護者!?なんでいきなり!?』

 

「突然こちらへ飛ばされまして。テレビを見てあらかたの事情を把握しました。お手伝いできることはありますか?」

 

『うん!いっぱいあるよ!じゃあ避難者の誘導を……』

 

 

と、その時救護者の前を大型の先頭車両が走り抜ける。

グリフィンとも、鉄血とも書かれていないその車両は避難が済んでいるこの町ではひどく不釣り合いに映る。

 

 

「失礼、サクヤ。少し待ってもらっていいですか?」

 

『え?どうしたの救護者?ちょっと?』

 

 

救護者はサクヤへの電話をつなげたまま、トラックへ跳躍した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へへっ!作戦大成功ですねアニキ!」

 

「ああ、ここまでうまくいくとはな…軍の連中も大したことねえなあ!」

 

 

先頭車両に乗っていた彼らはテロリストの一員。

各地で混乱を起こした後、アルゴノーツ・パピスに合流し、列車を護衛する手筈となっていた。

 

 

「ところでアニキ、パピスへはどうやって向かうんですかい?列車は移動してるんでしょう?」

 

「なあに、問題ないさ。このナビ通りに進めば間違いなく着くはずだ」

 

「さっすがアニキ!」

 

 

ギャハハ!と汚い笑い声をあげた瞬間、屋根にゴガン!という音が響き二人とも屋根を見上げる。

 

 

「なんだあ?石でもぶつかったか?」

 

「ここは町ん中ですよ?そんなはずは……」

 

 

そういって下っ端らしき男が窓から顔を出すと、その顔を屋根から伸びてきた手が鷲掴み、車両の外へと放り投げた。

 

 

「ぎゃああああああああああああ!!!???」

 

 

悲鳴が遠ざかっていくのを聞き、しばらく呆然とするアニキと呼ばれた男。

しかしそれも窓から入ってきた救護者によって我に返った。

 

 

「なんだてめえ!?グリフィンか!?鉄血か!?」

 

「降りなさい」

 

「んだとクソアマ!俺を誰だと…ぎゃああああああああああああ!!!!!?????」

 

 

救護者はアニキと呼ばれていた男を蹴り落とすと座席へ転がっていたナビをみやる。

そこには緑の点が地図の上を少しずつ動いているのが見えた。

 

 

「すいません、サクヤ。ちょどいい乗り物があったので私はアルゴノーツ・パピスとやらへ直行します」

 

『え!?う、うん……。それは助かるけど、今悲鳴が…』

 

「彼らは傷はついたでしょうが死にはしないですから心配せずともよろしい。現場への連絡は任せました」

 

『分かった!気を付けてね』

 

 

救護者は電話を切るとパピスに向かってアクセルを踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「おう、調子はどうだ」

 

「上々さ。こんな超兵器がありゃあなんだってぶっ飛ばせる」

 

「主砲は何故だか動かんが、副砲は動く。それでも軍の連中を吹っ飛ばすには十分だ」

 

 

計画通り三両の列車砲を強奪したテロリストはご機嫌だ。

当然だろう、軍に保管されていたそれらは一両一両が戦況を大きく変えうる超兵器だ。

これさえあれば何も怖くない、といった彼らの態度はごく普通のものだ。

 

――もしここへやってくる者が非常識なものでなければ、だが。

 

 

彼らが談笑していると突然列車の真ん中あたりでドグワシャアン!!という凄まじい轟音と衝撃が響く。

テロリストが一斉に警戒態勢に入ると、列車砲の副砲を制御していた男が悲鳴を上げた。

 

 

「なんだ!?突然副砲が使えなくなった!どうなってやがる!?」

 

『聞こえるか!?おい聞こえるか管制室!?』

 

 

男の悲鳴と重なるように無線機から怒鳴り声が響く。

 

 

「どうした、何か問題でもあったのか」

 

『問題どころじゃねえ!上から…上から護衛に着くはずだった車両が降ってきやがった!おかげで屋根にあった副砲もおしゃかになっちまったよ!』

 

「おい、待て。何を言って……」

 

『ひっ!?おい、誰だ!お前は誰…………』

 

 

ガシャン!という音の後、無線機からは何も聞こえなくなった。

 

 

「おい!応答しろ!おい!……くそっ!」

 

 

男は乱暴に無線機を投げ捨てると銃をひっつかむ。

そして部下に合図すると後ろの車両へ踏み込んだ。

 

そこには報告にあったとおり、護衛に着くはずだった車両が屋根に突き刺さっており、副砲と思われる部分が火花を散らしているのが見える。

 

しかし、そこで一番目についたのは後ろの車両を護衛していた部下の頭を鷲掴みにし、宙吊りにしている女の姿だった。

 

 

「緊急治療を開始します」

 

 

静かな、しかし鉄のような固さを持ったその声はひどく恐ろしげなものに、男には聞こえたのだった。

 



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大型コラボ編 第二話!

コラボ編です。
この回で潜伏者と合流します。


時は少し戻って救護者が列車砲へ突っ込む前。

救護者は強奪した装甲車を走らせ、ナビが示す地点へ向かっていた。

無表情で運転していた救護者だったが、見えてきた景色を見てブレーキをかける。

 

 

「……ふむ」

 

 

救護者は車を降りると崖の上から下の線路を見渡す。

ナビには列車砲の位置は表示されていたものの、詳細な地図までは表示されていなかった。

この世界の道が分からなかった救護者は誤って線路の上に着いてしまったのだ。

 

救護者が横へ目を向けると列車砲が既にこの場に近づいてきており、今から迂回する時間がないことを知らせてくる。

 

 

「いささか強引ではありますが、仕方ありませんね」

 

 

救護者は装甲車へ戻り、乗り込む。

エンジンをかけ、思いっきり吹かす。

凶悪なエンジン音が響き、マフラーから煙がもうもうと立ち上がる。

 

やがて列車砲が救護者のいる崖の真下を通りかかったその時。

救護者は装甲車を急発進させ、崖の上から飛び出した。

一瞬の浮遊感。その直後に装甲車は列車砲の上部に取り付けられた副砲を屋根ごと突き破った。

 

歪んで開かなくなったドアを蹴破り救護者は外へ出る。

そこには銃を持った男たち。

彼らを即座にテロリストと判断した救護者は拳を構える。

 

 

「…緊急治療を開始します」

 

 

一番近くに立っていた男に瞬時に肉薄し、顔面を殴り飛ばす。

突然のことに反応できなかった男は吹っ飛び、他の男たちを巻き込んで壁へ激突する。

数人が我に返り、銃を撃とうとするが、時には銃身をつかまれ、時には拳で銃口を逸らされてやはり顔面を殴られて昏倒した。

 

やがて全員を殴り飛ばし、気絶したことを確認した救護者はテロリストたちを縛り上げ、通路へ転がすと、近くにいた男を見る。

 

 

「貴女は?」

 

 

救護者は本来衛生兵として作られたハイエンドモデルである。

故に、相手が人形であるならば見るだけでそれが分かるし、その性能もある程度看破することができる。

そのため目の前の男が鉄血のハイエンドモデルであり、その姿が偽装であることに気が付いていた。

 

 

「…鉄血工造所属、潜伏者」

 

「なるほど、私と同類ですか。ちょうどいい、私とこの列車を制圧しましょう」

 

 

潜伏者が端的に答えると踵を返し、違う車両へ足を進める。

そんな救護者を潜伏者は慌てて呼び止めた。

 

 

「待って。貴女は?」

 

 

その声に救護者は足を止め、潜伏者へ向き直る。

 

 

「鉄血工造所属、救護者。……あなたと同じ、違う世界から来た人形ですよ」

 

 

それだけ答えると、救護者は再び歩みを進めたのだった。

 




この後の話は潜伏者の方へつながって終わりです。
コラボ編最終話はこちら→https://syosetu.org/novel/190222/29.html


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