東方氷精紀 (鬼如月)
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第一話

初めてのスマホでの投稿作品です。多分エタる


 

 

 

…『東方project』というゲームを知っているだろうか。様々な妖怪、妖精等―――勿論人間も―――の少女達が弾幕ごっこという遊びを通して異変を起こしたり、それを解決したりする弾幕シューティングゲームだ。そのゲームのキャラの中でも僕が好きなのはチルノ。冷気を操る程度の能力を持っていて…ってそんなことはどうでもいい。なぜいきなりこんな説明染みたことを言っているかというと、だ。

 

「どこなの…ここ…」

 

現在僕がいるところは全くもって見覚えの無い湖。周囲には霧が漂っていて視界が少し悪く感じる。近くに人の気配はせず、ただ霧が見えるだけである。

 

「わけがわかんない…」

 

現状の理解ができず頭を抱えようとして、はて、と首をひねる。自分の声はこんなに高かったであろうか。それと殆ど同時に、え、と呟く。―――視点が低い。普段ならば今自分が立っている位置からなら湖の表面位は見えるはずである。

体からどっと嫌な汗が吹き出す。見覚えの無い湖。見覚えの無い―――――本当に?

弾かれたように湖に向かって走り出す。踏み出す時に足を滑らせて転びそうになったが構わず走る。湖に足を突っ込む寸前に急停止。湖に落ちそうな程身を乗り出す。

 

――――透き通るように細やかで、絹のように艶やかな水色の髪。

―――――宝石のように輝く、淡くやわらかい青色の瞳。

――――――青色のワンピースを着た体の後ろには、太陽の光を反射してキラキラと光っている氷が見える。

 

 

「………チルノ?」

 

その呟きと水面に写った顔の口が小さく開かれる。それは湖に写っている者が自分であるということを理解させるのに十分なものであった。

 

体を起こし、改めて周囲を確認する。この状況を考えればここはチルノの本拠地である霧の湖。霧で見えづらいが、目を凝らすと赤い…いや、紅い館の様な建物がおぼろげに見える。アレは恐らく東方projectの作品の一つ、東方紅魔郷の舞台である紅魔館だろう。と、いうのも、紅魔郷ではチルノが2面ボスとして登場しているため、紅魔館と霧の湖の距離はそこまで遠く無いだろうと考えての推測である。

 

―――ふと、何かが近づいてくる気配がした。今誰かと遭うのはまずい。そう判断し、何かが近づいてくる方向とは反対に向かって走り出す。飛ぶことはしない。…いや、しないというより出来ないのだ。肉体はチルノだといっても中身は一般人。そこらの妖精や妖怪の様に楽々と空を飛べるわけがない。後ろから誰かの声が聞こえるが無視して走る。

しばらく走ると前に先程見ていた紅魔館の門が見えてきた。どうやら逃げた方向が運良く紅魔館の位置する方だったのであろう。とにかくとりあえずここの中に逃げ込もうと門を通ったところでおや、と疑問が浮かぶ。

東方紅魔郷では、舞台である紅魔館の門番として紅美鈴という妖怪が存在する。するはず…なのだが。

周りを見渡す限り人影は見えない。が、今はそんなことを考えている暇も無いので浮かんだ疑問についての思考を止め、急いで紅魔館内部へ入り込む。

 

――中に入って目に入るのは紅、紅、紅。とにかく紅い物が多く、床なんかは血で塗ったかの様な濃い紅が続いている。初めて見る本物の紅魔館に興味が湧いてくるが、今はそれどころではない。なにせ自分は不法侵入者。門番がいなくても不法侵入は不法侵入。見つかったら面倒くさいことになるのは想像に難くない。ということでどこかに隠れてしばらくしたら脱出、が現状とるべき行動だろう。まずは誰にも気づかれないように隠れる場所を――――――――

「あなた、侵入者ね?」

―――――探すことは無理そうだ。

後ろからの殺気を受け、体が蛇ににらまれた様に固まる。ああ、神様。私を助けてください…などと普段全く祈っていない神に祈りを捧げていると、背中に受ける殺気が強まる。

 

「不審な行動はしないでちょうだい。両手をあげてゆっくりこちらを向きなさい。抵抗の素振りを見せた瞬間、あなたの頭は体と一生のお別れをすることになるわ」

 

…まずい。祈るポーズが癪にさわったようだ。相手に警戒されないようにゆっくりと、声の主の方へ振り向く。

 

そこにいたのは銀色に輝く髪を持ち、メイド服を着ている少女―――この紅魔館のメイドであり、『完全で瀟洒な従者』の二つ名を持つ―――名を十六夜咲夜。東方紅魔郷の5ボスがこちらを睨みながらナイフを構えていた。

 

 

 



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第二話

それなりに忙しく毎日が過ぎていく。


背中に嫌な汗が滲む。十六夜咲夜―――――2面ボスのチルノとは違いその登場面は5。更に時間を操る程度の能力を持つという優秀さ。自分が憑依する前…オリジナルのチルノでも勝てる確率が殆ど無い。なので今ここで咲夜と闘っても負けるのが目に見えている。

 

――よって、今取るべき行動は対話。ただの迷子の妖精ということを話せば、幾分かマシな処遇になるかもしれない。

 

こちらを睨んでいる咲夜に、あの、と声をかける。

 

「ここはどこでしょうか…?」

 

その言葉に咲夜の顔が一瞬キョトンと呆けた顔になる。が、それもすぐ真面目な顔に戻る。

 

「どういうことかしら?あなたはここに無断で侵入してきたんじゃなくて?」

 

こちらへくる殺気が少し弱くなる。チャンスだ。そう思い、言葉を続けようとした時―――――――

 

「あら、惰弱な妖精風情がこの館に何の用かしら?」

 

――――空気が変わった。体が恐怖に包まれて動けない。本能が『逃げろ』と全力で警報を鳴らす。今の自分はどうやってもこの人には勝てない。そう確信してしまう程この場に現れた者は強く、それでいて美しい。

 

――――レミリア・スカーレット。この紅魔館の主である吸血鬼で、東方紅魔郷の6面ボス。その齢は500を超え、しかしそれでもなおその種の中では幼いとされる。その外見も幼い子供に見える。が、それでも吸血鬼は吸血鬼。生まれもったカリスマ性と妖怪特有の力の強さを含有する。

 

「悪いけど、私は今気が立っているのよ。誰かさんの侵入で目覚めがとても良かったから、ね。」

 

先程の咲夜なんて比べ物にならない程の濃密な殺気が体を包み込む。怖い、怖い、怖い!

恐怖に体が震え、しかしそれでも睨まれて逃げることの出来ない状況に涙が出てくる。

 

「あの、お嬢様…」

 

と。眉を少し下げた咲夜がレミリアに声をかける。

 

―――レミリアの注意が咲夜に逸れた一瞬。その機会を逃すかとばかりに後ろを振り返り扉に手をかけようとする。

 

「あら?どこへ行こうとするのかしら?」

 

腕が動かない。レミリアに掴まれたのだ。嫌だ!死にたくない!こんなところで――――――――

 

『死んで堪るかッ!』

 

熱い感情とは裏腹に、腕に冷気が灯る。咄嗟に手を引いたレミリアがまた腕を伸ばしてくるが、もう遅い。扉を開け、その扉に向かって冷気を集める。

 

――何よりも冷たく。硬く。

 

その思いを込めた氷は、扉を覆う程の大きさになり、扉から追うことを許さない。

 

紅魔館に背を向けて走り出す。紅魔館から出来るだけ遠くへ。妖精がいるところは避けて。とにかく遠くへ。

 

 

 

 

 

 

――

 

 

 

「……咲夜。」

 

紅魔館の当主、レミリア・スカーレットがそのメイド長、十六夜咲夜に言葉を告げる。

 

「私の腕を氷付けにした氷精。必ず見つけ出して始末、あるいは捕縛して来なさい。絶対にだ。」

 

氷付けにされた腕がワナワナと震える幼き紅い吸血鬼。その目はその憤怒を表すようにギラギラと輝く。が、咲夜の目に怯えの色は見えない。ただ命令をこなすだけの冷たく蒼い目がレミリアを捉える。

 

「仰せのままに、お嬢様。」

 

軽く令をして咲夜の姿が消える。時を止めて移動したのだろう。レミリアは凍っていない腕で頬杖をつき、先程の氷精について考える。

 

「―――――運命が2つ。本来ならあり得ない事象……でも、必ずあなたは殺すわよ―――――」

 

『運命を操る程度の能力』

 

レミリアの持つ能力であり、ありとあらゆる者の事象を操ることができる―――――程の便利能力ではないが、運命の大筋は視ることができ、自分が動くことで運命に介入することができる。それでも運命を自由に操れる、とは言い難いが。

 

この時レミリアに視えていたのは2つの運命。1人が持つ運命は1つ。それは多重人格者でも変わらない。今まで何人もの運命を視てきたレミリアから言わせれば氷精の運命は『異質』。更に奇妙に思うことといえば氷精の紅魔館への侵入。レミリアは毎日まず起きると自分の運命を視る。その日に紅魔館へと訪れる者を把握しておき、一日のスケジュールを決めている。が、…氷精が来るということはレミリアの運命には無かった。それなのに事実、氷精は紅魔館に侵入し、レミリアとのエンカウントも果たしている。

 

――――奇妙な妖精、これに尽きる。ふぅ…とため息を吐き、自分の今日一日の予定をぶち壊しにした氷精をどうやって捕まえ、痛め付け、殺すかを考える。残虐な殺し方を思い付いてクスクスを笑うその姿は、紛れもない妖怪の品をもち、まさしく『鬼』の名を冠する吸血鬼に相応しいものだった。

 

 

 

 

 

 



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第三話

 

―――――逃げる。

とにかく遠くへ。

 

そう夢中で走って、ふと周りを見回した時に気付く。

 

―――周りを見回せば木、木、木。

いわゆる森だ。所々に禍々しい模様のキノコが生えており、さらにそのキノコの周囲には瘴気が漂い、視界が遮られる。この瘴気のせいで近くの木しか見ることができず、開けた所がどこにあるのかがわからない。迷子だ。完全に。

 

とりあえず直進してみる。瘴気を放つキノコはなるべく避けながら、木々を掻き分け進んでいく。

 

 

 

 

「で、出れない…」

 

長い間森をさ迷っていた様で、空を見上げると丸い月が自分を見下ろしていた。

疲労も大分溜まり、瞼が重くなる。森に来るまで走っていた上、何時間も森をさ迷っていたので、当然の結果だということはわかるが、ここで寝るのはまずい。

一旦休憩、と、近くの木の幹に寄っ掛かるように座り込み、息をつく。

と、同時に、先程まで歩いていた疲れが一気に押し寄せてくる。吐き気も出てくる。そういえば、と。少し前から息苦しい感じがしていたことを思い出す。

 

あ、コレ、やばい―――――

 

そう考えるが既に行動を起こすには手遅れで、意識が深い闇に沈んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――「ちょっとあなた!大丈夫!?」

 

 

――――女性の声で目が覚める。どうやら倒れてしまったらしい、体が動かせず、なんとか動かすことのできる目で声の主を追うと、倒れているので顔までは見ることが出来ないが、茶色いブーツを履いた脚が見える。とりあえず助けを求めようとするが口も動かせない。

ああ、南無三。僕の命はここで尽きてしまうのか。と、悲観的になるが、ふとある疑問が頭に浮かんでくる。―――『森』『ブーツの女性』―――東方projectの登場人物にこの単語が当てはまる者はいなかっただろうか。

 

 

―――一人、該当する人物がいた。

東方projectの作品の一つであり、東方紅魔郷の次にリリースされた作品、『東方妖々夢』の三面ボスで、種族を魔法使い。七色の人形使いの二つ名を持つ洋風な衣服を見に包んだ少女。確か名前は―――――――

 

 

――――アリス・マーガトロイド」

 

アリスがぎょっとして此方を見る。どうやらいつの間にか口が動くようになっていたらしい。

 

「体が、動かないんです」

 

口が動くと理解してすぐにアリスへ助けを求める。

 

「口と目、しか、動かなくて」

 

必死に助けを求める。ここで置いていかれたら御陀仏だ。

 

「だか、ら、助、け、」

 

ポン、と、頭に手がのせられる。

一瞬体が強ばるが、その手付きに悪意が無いことを理解し、力を抜く。

 

「そんな必死にならなくても助けるわよ。むしろ知能のある妖怪だとそんな状態のあなたを無視して歩いていく奴の方が少ないわ」

 

その言葉に安心感を感じ、同時に睡魔が襲う。目を細める自分を見て、アリスはフフ、と微笑み自分をなでる。

 

その行動に微かに残っていた力も抜け、意識が再び闇へ沈んでいく――――――――

 

 

 

 

 

 

 

―――――「なぜあの妖精は私の名前を知っていたのかしら…」

 

私――――アリス・マーガトロイドは先程の妖精を家に運びながら考える。

 

確かに『アリス』自体はお伽噺等でよく知られているし、洋風な服を着ている自分を不思議の国のアリスだと思ってもおかしくはない、と思う。恐らく。

だが、『マーガトロイド』の姓を知る人は少ない。そもそも"不思議の国のアリス"からマーガトロイドという姓は出るわけが無いだろう。その上、マーガトロイドという姓を持つ人物も殆ど聞いたことが無い。誰かと間違えたということも考えにくいだろう。

 

そもそもまだ幻想郷に来てから一、二ヶ月程度で、ここでできた友人も片手で数えられる人数の上、自分のことを無駄に広めようする人物は友人にいない。

 

だとすると一体全体何故彼女は自身の名を知っていたのだろうか。自分の家の扉を開き、抱いていた彼女をとりあえずと自身が使っているベッドへ寝かせる。彼女は今も苦しそうで、身体中から汗が出ている。恐らくこの森、『迷いの森』に漂っている瘴気の作用だろう。瘴気の抗体を作る作用の薬を調合しながら思考を続ける。

 

彼女が妖精だということ、その中でも主に氷を使う妖精であることはその氷で出来た羽根で理解できる。

 

だが、妖精であるならばある程度は魔法の森の瘴気には耐えられるはずであり、少なくとも森の中で全力疾走する位では全く害がないはずだ。その上、妖精というものは死への恐怖が薄い。妖精は自然の中から生まれる精霊である。身体活動が停止したとしても、明確な死の瞬間の記憶を忘れ、また自然の中から復活する。あり得ないのだ。妖精が死に対して強い恐怖を感じることなど。

 

薬を調合し終わり、彼女に飲ませて一息つく。…まあ、どんな考察をしようにも、まずは彼女が目覚めないと話が進まないだろう。そう考え、ひとまず彼女が起きるのを待つ。

 

…そういえばそもそも何でこんなところに居たのかしら。



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第四話

―――――――頭が痛い。

それが何によるものなのかもわからず、鈍い痛みが頭を駆け巡る。

 

いったいこの痛みはなんなんだろうか―――――――――

 

それを考えようとするも、痛みで思考が纏まらない。

 

と、自分の視界が真っ暗なことに気付く。目を開いている感覚はある。が、視界が闇に包まれているのである。一先ずこの場が何処かを確認しようと腕を動かそうとして気付く。腕の感覚も無い。脚も無い。四肢を動かそうにもまるで自分の魂だけが肉体から飛び出てしまったかのように目、口、両手足、首…全て動かせない。

 

動けない状態の自分へと大きな恐怖感が襲う。――――怖い、怖い、怖い、怖い!

 

あまりもの恐怖に叫び声を上げようとするが、口も動かず、軽いパニックに陥っていることを自覚しながらも、それをどうやっても除くことができない現実に恐怖心が大きく膨れ上がる。

 

――――ふと、違和感を感じた。自分以外誰もいないように思える空間。自分以外に誰もいない。自分がいた(・・・・・)。自分がいたのだ。何も感じないが、自分が存在していることはわかる。今思考を続けている"僕"以外に"チルノ"がいる。その存在を感じ取ることができる―――――

 

白いシャツの上に青いワンピースを着た、その少女がこちらへと視線を向けて立っている。真っ暗な空間に一人だけ。

 

 

 

 

 

―――その"チルノ()"がこちらへと語りかける―――――いや、語りかけるというよりは脳内に直接言葉を送り込んでいるといえばいいのか。言葉一つ一つが脳に響き渡る。

 

 

 

 

 

―――――最強に、なりなさい。アタイになったのなら―――――

 

 

―――――――きっと、アンタはなれる――――――――

 

――――――だから――――――

 

 

 

 

 

――――きっと、最強(サイキョー)に―――――

 

 

 

 

 

「ッ!?~~~~~!?」

 

身を起こす。じっとりとした倦怠感に体中が包み込まれる。

汗によって背中に張り付いた服に嫌悪感を覚えながら周りを見渡す。

 

―――ここはどうやら誰かの家の中らしい。洋風な造りであり、西洋のお菓子だろうか、天使の輪のような幻想的な見た目をしているケーキがテーブルに置かれている。

 

自分はいつの間にかこの家のベッドに寝かせられていたようで、ベッドのシーツには自分がかいていたのだろう汗がびっしょりと染み込んでいて酷くうなされていたことがわかる。

誰か人はいないのだろうか、とベッドから起き上がり、部屋を探索しようと足を踏み出すと、突然視界が暗くなる。

 

一体全体なにが起こっているんだ。と、ここで気づく。大量の汗、それに突然の眩暈。熱中症か脱水症状の類だろう。そう判断し、すぐに立つのをやめ、ベッドに腰掛ける。ふと、疑問が浮かぶ。"何故自分は熱中症になっているのか"についてだ。自分が意識を失っていた間のことはわからないが、その前はたしかそこまで暑くない――――むしろ涼しいくらいの気候だった筈。恐らく秋か冬あたりだろうか。そもそも記憶の最後に残っているのは森の中で散策していることぐらいであり、森の木々の青々とした葉が風で揺られていて――――ん?青々とした葉?

 

と、思考の海に沈んであまりまわっていない頭で考え込んでいると、テーブルの近くにあった扉から大きな音が鳴った。突然のことに頭の中が真っ白になり、音の元へと顔を向けると、小さく開いた扉と、そこから、ウェーブのかかった金髪の少女が気まずそうにこちらを覗き込む顔が見えた。

 

―――気まずい空気があたりを包み込む。彼女はここの家主だろうか、ならば自分を救助してくれたお礼をしなければと考え、再び立ち上がるが、またもや眩暈が襲い掛かり、たまらず片手で頭を抑えてベッドに座り込む。

 

その姿を見た先程の少女があわてたような仕草で扉を開け、自分へと駆け寄る。

 

「大丈夫!?まだ起きたばかりなんでしょう?大量の汗を掻いているのだからまずは水を飲みなさい!森の瘴気の影響で体の水分が抜かれているでしょう?」

 

そうまくし立てて、いつの間にかテーブルにおいてあった水入りのコップを手にして自分に手渡す。反射的に受け取ってしまい思わずその少女の方を向いてみれば、彼女が目で"飲みなさい"と訴えてくる。

 

彼女の言葉に従い水を一気に飲むと、途端に体中に水が染み渡るような感覚を覚える。と、同時に思考がクリアになる。

 

あ、と思わず声が出る。改めて目にしたその少女には見覚えがあった。自分が気絶する前に微かに見えた少女。七色の魔法使い、アリス・マーガトロイドがそこにいた。

 

 

―――この物語はまだ序章だ。だが、この出会いが大きなターニングポイントになったと。そう、僕は自信を持って言えるだろう―――



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