ヤミヤミの桜 (超高校級の切望)
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転生

思いつき投稿

いや、導師ちゃん書いてたらつい


 ティーチはヤミヤミの実を手に入れた!

 と、ゲームみたいに少し考え、はぁぁ……とため息を吐く。

 俺の名はマーシャル・D・ティーチ。ONE PIECEに登場する敵キャラであり、憑依系転生者だ。困ったことに、ヤミヤミの実を奪ってから憑依した。

 つまり白髭に殺される。ふざけんな死ね。いや死ぬ。エースに燃やされるか白髭に吹っ飛ばされるか海軍に殺されるか………てか記憶を覗く限り黒ひげ海賊団もう集まってんのか。後は合流するだけ。

 黒ひげは極悪人だから体奪っても罪悪感とか無いからまあ良いけど、彼奴等が納得するかどうか………。うん、逃げよう。

 取り敢えず実は食った方がいいよな。この世界、能力者にでもならなきゃやってけねぇ。実際名の知れた実力者は基本的に能力者だし。

 というわけで、いただきます。

 

「う、まっず!ゲロマズ!」

 

 笑えるほど不味いな。くそ不味い。だが何とか飲み込む。

 

「ふぅ、これで俺にも闇の力が……なんか中二くさ────っ!?」

 

 突如全身を激しい熱が襲う。熱い、苦しい!

 体が溶けるような激痛が走り、胸を押さえる。その手も何かに押し出され始める。

 数分続いた熱は少しずつ収まっていく。ふぅ、とため息を吐く。何だったんだ、まさか悪魔の実って悪魔の力を体内に入れる時あんなことが起きるのか?いや、原作だと皆普通に喰ってたが……。

 

「………ん?」

 

 何か、服がでかくなった?うん、明らかにデカい。というか俺が小さくなってねぇか?

 毛むくじゃらで日に当たり浅黒くなっていた肌は産毛が僅かに生える程度で、白い。といっても白人よりはやや濃いアジア圏内の黄色人の肌。そこに赤黒い血管のような模様が走っている────ん?

 何かこの腕、やけに丸みを帯びてるな。まるで女性の腕……と、先ほど胸を押さえていた手を押した何かがあったことを思い出し胸に触る。

 

 ふに

 

「……っあ!?」

 

 なんだこの感覚。すっげぇ敏感……。

 というか、あるよな?うん、間違いなくある。胸が…………恐る恐るまたの方に手を伸ばす。サイズ違いのズボンはとっくに落ちていたので脱ぐ必要はない。

 

「………ない」

 

 男の象徴が、無い。間違いなく。え、何で女になってんの?まさかヒトヒトの実モデル女、とかそういうのを間違って喰った?いやいやそんな馬鹿な!

 

「……………」

 

 もう少し、胸を触ってみる。おお、やあらけぇ……しかし、肌が男のより薄いからか?かなり敏感なんだが………。

 取り敢えず鏡鏡………お、ちょうど良いところに川が。

 覗き込む。白髪赤目の美少女と目があった。首を傾げる。向こうも首を傾げる。

 

「─────ふぁ!?」

 

 桜じゃん!完全に黒桜じゃんこの容姿!え、え?どゆこと、何でヤミヤミの実食って桜になっとるんだ俺!?思い出せ、転生する前の事を!

 

 

──転生特典は世界を選べるだけ?その世界のどれになるかは運?ええっと、じゃあfateで

 

「………えっと、まさか………えぇ」

 

 まさか、それで桜になって、この世界で違和感ないようにヤミヤミの実を喰うって形を取ったのか?いや、だからって女にする理由よ……くそぅ、まだ彼女も居なかったのに!

 

「ま、いっか!」

 

 これで少なくとも白ひげ海賊団に命が狙われることはない。ヤミヤミの実を持ってるから黒ひげ海賊団が少し不安だが、たぶん大丈夫だろう。こんな見目麗しい薄幸美少女(自画自賛)にやられる大男にそこまで愛着が沸くとも思えない。

 取り敢えず服だな。さすがに黒ひげのは大きすぎる。上着だけ借りて腕に通す。下は、黒ひげの服を千切って結んでおく。

 

「………何かこの格好、メルトリリスに近い気がしてきた。ま、俺は胸あるけどな!」

 

 コートがデカすぎて腕がでてないし、前を閉じると歩きにくくなるから解放してる。どう見ても痴女だな。

 まあワンピースにゃ上は水着で、なんてキャラもいるしどうでも良いか。元男だし上半身見られても恥ずかしいとは思わないし………。

 黒ひげの記憶もあるからかこのコート意外と気に入った。ところでここはどこだろう?

 少し考え、力んでみる。闇があふれ出した。それをこう───ぎゅっとするイメージで押し固めると帯のような形になる。触る。うん、触れる。それを数本作り蛸のように纏めその上に乗り、上に持ち上げる。

 こりゃ良いや。てか、闇を頭上に出現させて自分を引っ張らせると出来ねぇかな?

 

「────出来た」

 

 けど何か味気ないな──そうだ、どうせ黒桜なんだからカーマが出してた天輪型にしよう。うまく出来た。白じゃなくて黒だけど。

 

 

 

 街に奇妙な女が現れた。白い髪に赤い目。ここまでなら珍しいで済むのだが入れ墨なのか頬に赤黒い血管のような模様が走っている。おまけにその格好は、腰に布を巻き後はサイズが明らかにあっていないコートを羽織っているだけ。全開のコートから豊満な胸の谷間がよく見える。

 そんな女に男が近づく。馴れ馴れしく肩を組み、殴り飛ばされた。

 

 

 

「………おー」

 

 結構飛んだな。確かに全力で殴ったが、飛びすぎじゃあないだろうか?女の細腕で?いや、たぶん俺身体能力は黒ひげのままなんだろう。仮にも白ひげ海賊団の隊長の一人を殺せるほどの力だ。ここはたぶんジャヤなんだろうな。そんな初番の登場キャラが将来四皇になる黒ひげスペックの俺に勝てるわけがない。

 

「あ、あの女!処刑人ロシオの一味に手ぇ出しやがった!」

 

 ん?何?ロデオ?

 

「よお、俺の部下をかわいがってくれたみてえだな…………許してほしけりゃ一晩付き合ってもらおうか?」

 

左半身全体に入れ墨を施している、バンダナ巻いたロン毛が現れた。バンダナに描かれてるのは首を吊られた人間のシルエット。

 

「はぁ……あなたがロデオさん、ですか?」

「ロシオだ!」

「それはそれは失礼しました………それでロシオさんは、私に愛されたいのですか?この体を一晩抱きしめ、快楽を味わいたい、と?」

 

 右手を胸の中央に置き左手で臍辺りを撫でる。ロシオとかいう男はゴクリと唾を飲む。周りの男達も似たような顔をして、中にはロシオを羨ましそうに見ているのもいる。

 

「へ、へへ……何だよ物わかりが良いじゃねぇか………あんたもそのつも──」

「お断りします」

「………あ?」

「私は誰も彼も愛したいわけではないので………強いて言うなら、可愛い女の子を愛したいので」

 

 中身は男だしな。まあでも脳みそは女だろうから男に惚れるのかもしれんが、少なくともこいつに惚れるなんてことは無さそうだ。

 

「て、てめぇ!俺は懸賞金4200万ベリーだぞ!」

「え、小物じゃないですか!そんな賞金でよく強気になれますねぇ?せめて一億いったらどうなんですかぁ?」

 

 クスクス嘲ると顔を真っ赤にしてキレるロシオ。切りかかってきたので、かわす。

 

「黒渦」

「うお!?」

 

 攻撃をかわして、闇を渦のように動かし引き寄せる。身長差があるから首をつかんで持ち上げるとかはできねぇが、掴むことなら出来る。

 

「──!?な、なんだ、能力者か………!?」

「あは……」

 

 地面を踏み込み、投げる。木製の道がバゴン!と砕け陥没するほどの踏み込みは、ロシオを砲弾に変えるレベルの力を腕に伝える。

 

「………う、嘘だろ?彼奴、4000万越えの海賊だぞ………」

 

 おおそうだった。4000万4000万。海軍に届けて懸賞金もらおっと。と、吹っ飛んだロシオの下に向かおうとすると崩れた建物が吹っ飛んだ。

 

「くそが!誰の仕業だ!」

 

 金髪を短く切りそろえたこのマッチョマン……何か見覚えがあるな。誰だっけ?ま、良いか。無視してロシオの下に行く。取り敢えず手足をへし折り首根っこを抱える。黒ひげの記憶があるからかその辺は不快感を感じないな。しかし、黒ひげの記憶………サッチとは本当に友達だったんだな。俺が黒ひげになって桜になってと何か変な感じになってるし、ひょっとしたら生きてるかも?生きてたら謝ろう。黒ひげの記憶もそう言ってる。

 『悪かったなサッチ。どうしても欲しかったんだよ、許してくれよぉ。友達だろ?ゼハハハ!』って……。

 

「おいてめぇ!今のはてめぇの仕業だってなぁ!」

「さて、行くか」

「おいまちやが───と、飛んだ!?」

 

 ん?何か下が騒がしい………さっきのマッチョマンだ。あ、思い出した彼奴ベラミーじゃん。この後ルフィにやられるカマセだけど後々かっこよくなる奴だ。見逃してやろう。お前はルフィの相手してな。と、なんか跳んできた。

 

「───全く困ったちゃんですね」

 

 はぁ、とため息一つ。そういや口調が何か変わってる………大した問題じゃないな。取り敢えず攻撃をかわす。ベラミーの強みはバネを活かした高速移動。建物より高く飛んだ俺相手にはいちいち速度がなくなり、また速度を上げている間にさっさと離脱する。

 

 

 

 

「さてと、4200万ベリーで何が買えるかな、と………」

 

 海軍基地がある島に移動して金の入った財布を片手でお手玉する。どうせなら船を買いたい。普段は闇に沈めて空を移動して、寝る時とかに出すタイプ……。あ、ログポースも買っとかないと………ん?

 誰かつけてきてるな。俺は路地裏に向かう。

 

 

 

 

「す、すいませんでしたぁ!」

 

 土下座するボコボコの男達。海賊だ。俺を襲おうとしたらしい。二重の意味でな。

 海軍基地に届けてログポースと船だけは俺がいただく。船で留守番してた奴等は闇に飲み込み潰して海に捨てた。

 どうせなら色んな島を見てみたいな。この世界は島によっちゃ恐竜がいたり観光名所があったりと様々だからな。ああ、楽しみだな。




さて、海賊団はどんな風にしようかな


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雪原での出会い

アンケート協力ありがとうございます。

まずは最初の仲間から


 ログポースは次の島を指す。その島にたどり着き、ある程度経てば次の島を指す。

 なら島に滞在せずにいればその島の方角を延々と指し続け、そこからほかの島の位置を逆算することも出来るはず。

 あの海賊達が持っていた手書きの地図を見ながらだいたいこの角度だろうって方角を飛ぶ。あ、島みっけ。やっぱりこのやり方正解だな。

 このままこの島に滞在し続けたらそれはそれでどれかの島への道を指すんだろうが……。

 しかし、砂だらけの島だな。あ、ひょっとしてアラバスタ?

 七武海に目を付けられんのはイヤだな。さっさと次の島に行こう。って、この地図ひょっとしてルフィが通った道と同じだったりするのだろうか?だとしたら、この島は冬島?

 

黒ひげ(わたし)がここにいますからワポルも逃げ出してないでしょうし、うまくすれば船医が手にはいるかもしれませんね」

 

 と、なれば善は急げだ。こんな世界、やはり仲間が欲しい。イッシー20の誰かが誘拐できれば御の字か。なんならDr.クレハでも良い。むしろクレハが良い。

 ログポースが指す方向と地図を照らし合わせる。こっちだな。

 頭上に天輪を生み出し自身を引き寄せる。浮かび上がり、俺は空を飛び冬島に向かった。

 …………あれ、方角だけならジャヤで鳥捕まえてればよかったんじゃ………ま、良いか。

 

 

 

 

「ヘクチ………!」

 

 寒!

 当然といえば当然か。今の俺の格好は裸コートという球磨川先輩が提案しそうな格好だし……。取り敢えず服屋で服を買う。服屋まで向かう途中あり得ないモノを見る目で見られてたな。まあ良いけど。

 ふぅ、しかし……あんな格好を続けてたからだろうか?何か、着込んでいると落ち着かない。ま、良いか。俺は基本的に危険がない限り気にしないたちなのだ。

 さて、それじゃあまずDr.クレハ探すか。木にすんでるんだったか?てか、黒ひげって覇気使えないのかな?使えたら便利なんだが記憶にねぇし……見聞色があれば探すの楽なのにな。

 ん?待てよ、確か今はワポルのせいで医者が王宮抱えになってるから見せられず、代わりにDr.クレハが見てるんだよな?法外な値段で……。

 

「ヘクチ……!」

 

 つまり病気の奴に張り込めばいずれ会えると言うこと。そうと決まれば情報収集!

 後、何か俺と同じようなこと考えたであろうドラム王国の兵士が居たので闇に沈めて潰しておく。来るかな、来るかな?

 と、視線を感じる。振り返るとサッと隠れる影。チョッパーか?病人の周りに兵士が張り込んでないか確かめにきたのだろうか?

 取り敢えず、闇の中に沈む。

 先程何かが隠れた方にゆっくりと進む。やはり見聞色の覇気ほしいな。上の様子が全くわからん。ただ、ガサガサと音は聞こえる。

 

「こんにちは」

「ふやぁ!?」

 

 闇から這い出て挨拶すると叫ばれた。ん?チョッパーじゃないな、女の子だ。俺のように色が抜け落ちたような白髪とは違う、周りの雪原よりもなお白く美しい白髪に、ルビーのような赤い瞳。アイヌ風の格好をした………って、あれ?

 

「あ、怪しい者じゃありません!びょ、病人を捜しに来たんです!」

「ふーん」

「あ、これ言っちゃ駄目なんだ………」

 

 チラリ、と此方を恐る恐る見てくる。やっぱりこの娘、あれだよな?

 

「……イリヤ?」

「はい?え、っと……私はシトナイですけど」

「そう、シトナイ……」

「は!?」

 

 あっさり名乗り、しまったと口を押さえるシトナイ。うん、やっぱりシトナイだよな。またはイリヤ……何でここに?いや、神霊にしちゃ年相応に見える。そっくりさん?俺のような転生者だとしたら、俺の姿に何の反応も見せないのは気になる。

 

「病気の子ならあの家にいたましたよ」

「え?あ……ありがとうございます!」

「ふふ。気にしないで。あなたはお医者さん?」

「はい!あ、いえ……まだ見習いだけ……ですけど」

「敬語は苦手ですか?別に良いですよ。気にしないので」

「そう?なら助かるけど……私はこの島一番の……いいえ、世界一の医者、Dr.クレハの弟子の一人よ!」

 

 えっへん、と胸を張るシトナイ。可愛い。しかし、クレハ?クレハと言ったな今。彼女の弟子はチョッパーだけのはず。バタフライエフェクト?な、訳ないか。最近なのに過去に影響がでるとかあり得ない。そういや転生特典、fateの力、だったな。力…………サーヴァントもある意味マスターの力だ。つまり、その影響か?

 

「?………あの」

「ああ、ごめんなさい」

 

 少し考え事をしすぎたようだ。訝しむシトナイに笑顔で返す。

 

「私、そのクレハって人に用事があるんです。よかったら一緒に行って良いですか?」

「え!?もしかして、誰か病気なんですか!?」

「ううん。私に連れは居ないわ」

「え?じゃあお姉さん?でも、お姉さん健康そうですけど」

「実は私、海賊なんです」

「えぇぇ!?」

 

 目を見開いて距離をとるシトナイ。かわいい。

 

「といってもまだ仲間が一人もいなくて、それでほら、新世界では未知の病気とかもあるし、船医がほしくて……」

「ああ、なるほ──え、仲間が一人も居ない海賊?なにそれ」

「ふふ。駆け出しですから……でも過去の海賊王も最初は二人、次の海賊王なんて最初は一人なんですよ?だから私だって海賊を名乗って良いはずです」

「普通に旅人名乗れば?」

「ロマンがありません。やはりお宝を探して、時にあくどいことをする海軍とも戦ってこそ冒険でしょう?」

「う、うーん?まあ、確かに島の外は私も見てみたいけど……お父さんが言ってたサクラとか見てみたいし」

「ん?私?って、ああ……植物の桜ですか」

「え?お姉さんサクラって名前なの?」

「はい。ふふ、素敵な偶然ですね」

 

 ニコニコ微笑むとキラキラした瞳を向けてくるシトナイ。かわいい。うん、クソかわいい。ん?桜を見たことがある、お父さん?Dr.クレハが引き取り育てるような娘……まさか此奴、Dr.ヒルルクの娘か!?

 

「お姉さんはサクラ、見たことある!?」

「はい。ありますよ、とても綺麗なんです」

「良いな良いな!どんな感じ………あ、それより早く帰って師匠に病人のこと伝えないと!」

 

 そういって駆け出すシトナイ。俺らその後を追いかける。流石、この島に住んでいるだけあり行道をスイスイ駆け抜ける。と、感心していると───

 

「まっはっはっはっ!捕まえたぞ!」

 

 シトナイが雪の中から飛び出したカバに捕まった。さらに雪の中から次々兵士と変なのが現れる。変なのは二人だけだが兵士は十数人居るな。

 

「雪国名物「雪化粧」!油断したなカバめ!」

「わ、ワポル!は、放しなさい!」

「国王様と呼ばんかクソガキめぇ!ふん、まあ良い、あの婆の元に案内してもらおうか」

「────ッ!シロウ!」

「グオオオオ!」

「ぐべぇ!?」

 

 と、シトナイの叫び声に現れたシロクマがワポルを吹っ飛ばした。熊の名前まで一緒なのか。

 

「うぐぐ、チェス!クロマーリモ!やれぇ!」

「「はっ!」」

 

 生きてた。熊の張り手食らって、頑丈だな。と、アフロが熊に向かって殴りかかる。

 

「ビックリマーリモ!」

「グア!?」

 

 シャキン!と刃物が手に着けてるアフロから飛び出し技名通り吃驚するシロウ。その隙に変なのが矢を放とうとしたがシトナイが氷の矢で変なのの矢を打ち落とす。

 名前からしてアフロがクロマーリモで変なのがチェスか……いや、どっちも変だけど……。てか今の

 

「シトナイ、その矢は何ですか?」

「私は超人(パラミシア)系悪魔の実、コチコチの実を食べた氷結人間。氷を生み出すことが出来るの」

 

 へぇ、青キジの下位互換か。

 

「お姉さんは逃げて、ここは私が──!」

「エレキマー───ぶへぇ!?」

 

 取り敢えず、シトナイに付くか。クロマーリモを殴り飛ばすと兵士達も此方に意識を向ける。

 

「な、何だ貴様はぁ!?」

「初めまして、クロ・D・サクラと申します。以後、お見知り置きを」

「あ、これはご丁寧に………って、ちがーう!俺様に丁寧にするのは当たり前!貴様、何のつもりでそのガキを庇う!?」

「まだ会ったばかりですけど、私はシトナイと仲良くしたいと思ったので……」

「仲良くぅ?いいか、よぉく聞け!そのガキは俺に逆らい勝手に医療行為をするDr.クレハの弟子、つまり大罪人だ。それを庇うと言うことは、貴様も犯罪者の仲間入りと言うことだ!」

「お姉さん!私のことは良いから、逃げて!」

「犯罪者、ですか……」

「その通り!」

 

 ふふん、と鼻を鳴らすワポルに、はっと笑う。

 

「犯罪者上等です。私は海賊ですので……シトナイと言う友達のためなら、王族だってぶん殴ります」

「お姉さん………」

「ぬ、ぬ……ぬぅ!」

 

 俺の言葉にワポルはプルプル震え出す。

 

「良いだろう!ならば、大罪人として牢に閉じこめてやる!者共、捕まえろ!」

「────ふぅ───面倒ですね」

 

 と、黒帯を生み出し兵士達を纏めて吹き飛ばす。チェスが矢を放ってきたが闇の中に飲み込み消滅させ、驚愕で目を見開く顔に絡み付け近くの木に叩きつける。

 

「な、何だとぉ!?我が国の精鋭が、こんな……!」

 

 うん、普通に弱い。本当、序盤の敵は基本的に弱いな。俺が一歩近付くとひぃ!と後ずさる。

 

「ま、待て!話し合おう!そ、そうだ、そんなに強いんだ、戦士長の座をやろう!」

 

 無視して歩く。

 

「な、なら大臣の………ふ、副王の座をぉぉ……」

「圧縮した空気が、戻るとどうなるか知ってますか?」

「………へ?」

 

 闇に大量の空気を吸い込ませる。そして、拳を構える。

 

「ホワイトショット!」

 

 技名はホワイトホールが由来。闇の中で圧縮された空気が衝撃波となり放たれワポルが吹き飛んでいく。途中あった雪も木々もまとめて吹き飛ぶ。

 

「「「ワ、ワポル様ぁぁぁぁっ!!」」」

 

 兵士達が慌てて追いかけていく。と、同時にズズズと地鳴りが響く。後、何か風が吹く。見れば今の衝撃で雪崩が起きていた。

 

「ちょっ!?やりすぎよ!どうするのよ!?」

「慌てる必要はありませんよ」

 

 そういうと闇を広げ雪崩を飲み込む。闇の中には温度はないから雪が溶けることはないだろうが、とりあえず闇の一部を海まで伸ばして海に捨てておいた。

 

「それじゃあシトナイ、Dr.クレハの下に案内してくれますか?」

「へ?あ、うん……あれ、一応王様なのに………良いのかなぁ?」

 

 シトナイは吹き飛んだ雪原を見てポツリと呟いたのだった。それと、ワポルはさっさと逃げ出してしまった。




というわけで、最初の仲間(まだだけど)はシトナイちゃんでした!


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船医入団

「先生~、戻りました~!」

 

 シトナイの案内の下、木で出来た家にたどり着く。シトナイが扉を開けると顔はシワシワ体はピチピチの老婆が出迎える。

 

「戻ったかいシトナイ。で、金蔓は居たかい?」

 

 金蔓って、いや確かにこの人めっちゃ貰う人だけど。と、俺が呆れていると老婆……おそらくDr.くれはが俺に気づく。

 

「ん?なんだい、客かい?」

「こんにちはDr.くれは。私はクロ・D・サクラです」

「サクラ………サクラ、ねぇ」

「………サクラ?」

 

 チラリ、と机の影から狸っぽい角が生えた青鼻の珍獣がのぞき込んでくる。あれがチョッパーか。生で見ると可愛いな。撫で回したい。

 

「えっと、このお姉さんはワポルに襲われたところを助けて」

「ワポルに!?だ、大丈夫なのか姉ちゃん!」

「う、うん……私は大丈夫だよ、チョッパー……」

 

 と、チョッパーが飛び出してきた。何処かに怪我がないか周りをぐるぐる回って探す。

 

「グルア」

「えぇ!?シ、シロウ……それ本当なのか!」

「シロウは何て言ってんだい?」

「この姉ちゃんがワポルをパンチで森ごと吹き飛ばしたって」

 

 へぇ、と俺を見てくるDr.くれは。いや、あれは正確にはただのパンチじゃないんだが……実際は圧縮した空気を放ってるだけで、俺のパンチ力だと……どうなんだろ?どれぐらいの威力が出るのかわかんねぇや。

 

「まさかあのバカをぶん殴るとはねぇ。あれでもこの国の王だ。お前は犯罪者になっちまった訳だよヒーヒッヒッヒッ」

 

 そう楽しそうに言うDr.くれは。ワポルが殴り飛ばされたと聞いて良い気味だ、とでも思っているのだろう。

 

「ふふ。私は海賊ですよ?気にしません。それにしても、あのワポルという人、きっと愛されていたんでしょうね」

「?」

「父親に愛されて甘やかされて、心も脳もとろけてしまって………羨ましいですね。あんな風にわがままを言えるように育てられるなんて」

 

 こっちは無限の剣製とか王の財宝とか魔術王の力とか欲しいの沢山あったのに選ぶ権利なく桜だぞ。しかも女に変えられるし……。

 と、不意に扉が勢いよく叩かれる。すぐに構える俺とシトナイにチョッパーとシロウ。Dr.くれはは落ち着いて酒を飲んでいる。

 

「Dr.くれは、居るなら開けてくれ!」

「………開けてやんな」

「え?う、うん……」

 

 シトナイは困惑しながら扉を開ける。そこには息を乱した大男がいた。

 

「ドルトンかい……どうしたんだい?」

「避難してくれ」

「はぁ?」

 

 大男、ドルトンの言葉に首を傾げるDr.くれは。避難?まさかワポルにこの場所が見つかったのか?原作じゃそんな話はなかったが、描写されてねーか俺やシトナイみたいなイレギュラーが居るから起こったってとこか?

 

「海賊が現れた。その海賊が行ったという破壊行為のあった森を見たが、酷いものだった。ワポル達は既に国を捨てて逃げたが、海賊はまだこの島にいるらしい。一度、避難を……」

「「「……………」」」

 

 Dr.くれは、シトナイ、チョッパーの視線が俺に突き刺さる。ドルトンは釣られ俺を見て、君は?と首を傾げる。そして髪と目の色を確認すると何かに気づいたような顔をする。

 

「シトナイ君の姉、かい?」

「「………え?」」

 

 確かに改めてみれば髪の色や目の色は一緒だ。顔の造形は当然異なるが、珍しい髪と目の色を持ってるとなれば似てない姉妹と思えなくもない。

 

「違うわ。この人はサクラ、ドルトンさんが探してる海賊」

「…………へ?」

「こんにちは、海賊です。海賊名は………そういえば決めてなかった」

 

 黒桜海賊団?いや、何かなぁ……漆黒海賊団、もあまり語呂がよくない……ヤミヤミ……闇……

 

「闇夜海賊団船長、クロ・D・サクラです」

「では、君があの破壊を?いったい、何の目的で」

「目の前でこんな幼気な子供が襲われていたんですよ?国王と名乗っていましたが、つい……」

「何だと!?ワポルめ、王妃を娶らないから実はそちらの趣味ではないかと疑っていたが、まさか本当に……!」

 

 くっ!と歯軋りするドルトン。シトナイはえ?と此方をみる。何だよ、嘘は言ってないだろ?

 

「病人を見つけ、Dr.くれはの下に向かおうとするシトナイを隠れて襲い、いきなり抱きしめていたんです。複数の部下も用意して………シロウが居なければどんな目にあっていたか」

 

 片方の手で涙を拭う降りをしながらあいた手でシロウの頭を撫でてやる。おお、フワフワ……。

 

「本当なのかい、シトナイ君………」

「へ?ええっと……まあ、嘘ではないけど、なんか…違う、ような………いや、確かにサクラの言うとおりだけど」

「やはり!おのれ、ワポル!今まで見過ごしてきたが、もはや許せん!帰ってくれば即行海に沈めてくれる!」

 

 おお、ドルトンが燃えてる。ま、俺は嘘はいっさいついてないから責められる要素は何にもないな!

 

「では、島民達には安全だと伝えてこよう。ワポルを追い出してくれてありがとう」

「?責めないのですか?」

「ふ、奴が居なくなって困るような奴は、奴と一緒に逃げてるよ」

 

 

 

 ドルトンが去るとDr.クレハは俺の世話をシトナイに任せ病人の下に向かった。シトナイは片付けが終わるとお茶を持ってきてくれた。

 

「ところでシトナイ」

「ん?なあに?」

 

 シロウにしなだれながらふぁ、と欠伸したシトナイは目を擦りながら顔を此方に向ける。

 

「私と一緒に海に出ませんか?」

「!?良いの……!?………あ」

 

 と、口を押さえるシトナイ。海には出たい、けどここから離れたくないといったところだろうか?

 

「外は楽しいですよ?空に浮かぶ島だってあります」

「空島?本当にあるの!?」

「何時か本物の桜も見れるかもしれません………それに、チョッパーと、あまり仲良くできてないみたいだし」

「……………」

 

 さっきチョッパーが心配してよってきた時、何とも言えない顔をしていた。原作を思い返せばDr.ヒルルクはチョッパーが持ってきた毒キノコをチョッパーの為に食べて、チョッパーの毒キノコで死なないために自殺したからな。

 

 

 

 

 

 

「あの、師匠……」

 

 サクラが宿を取りに行って、戻ってきたDr.くれはに話しかけるシトナイ。チョッパーは寝てる。

 

「あの女に海に誘われたかい?」

「………わかるの?」

「何年アンタ等を見てると思うんだい。それぐらい解るさ」

「…………」

「行ってくりゃ良いさ。あんただってあの男に聞かされたいろんなものを見たいんだろ?それに、チョッパーとは一度離れた方がいい」

「………うん」

「行くんなら早朝にするんだね。チョッパーがついて来ちまうよ」

 

 

 

 

 ワポルを追い出したことで感謝され宿代はただになった。ついでに昨日の夜に城から高く売れそうなもん全部かっぱらっといた。

 さて、船医はどうするかな。原作キャラNTRはしたくないし、シトナイみたいな原作にいないキャラか、原作でルフィの仲間にならなかったキャラがいいんだけど……。

 と、その時扉が叩かれる。こんな早い時間に、何だ?

 

「はーい………あ」

「お、おはよう」

 

 シトナイだった。屈んで視線を合わせる。

 

「あの、私も……ついて行って良い?」

「もちろん!大歓迎です……けど、何でこんな早く?」

「………チョッパーも来たがるから。あの子も、海に憧れてる」

「そっか……じゃあ、急がなきゃね」

 

 一応この島では英雄扱い。時間が時間なら間違いなく見送りが大量に来る。なら、チョッパーに気づかれるな。

 外に出るとシロウが待っていた。シトナイはシロウに乗ると振り返る。

 

「………乗る?」

「良いんですか?」

「うん!」

「では……ほわぁ」

 

 フカフカ。気持ちいい。シトナイはふふん、と誇らしげな顔をする。

 

 

「……船は?」

 

 港にたどり着くと船がないことに首を傾げるシトナイ。俺は闇を広げる。

 

「ここにある」

「───へ?」

 

 闇の中から船を取り出す。シトナイもシロウも顎がはずれそうな程大きく開く。

 

「……お姉さんも、能力者なの?」

「ええ。それと私のことはサクラで構いませんよ。それか船長でお願いします」

「あ、うん……じゃあ、これから宜しくねサクラ!」

 

 

 

 闇の引力で引っ張らされる俺の船は風があろうと無かろうと関係ない。帆の調整も必要ないから楽だ。時折ログポースを確認すればいい。

 

「そろそろ冬島も見えなくなります。最後に一目みては?」

「そうね……」

 

 まあ、大砲を移動させる都合とチョッパーにバレないように、って考えると桜は咲かないだろうな。見たかった。

 

「ね、ね……それで、次はどんなところに行くの?」

「空島です……せめて見聞色だけでも覚えたいんですけど……」

 

 と、冬島も見えず気候の外に出たのか暖かくなってきた。防寒コートを脱ぎ捨て黒ひげコートを羽織る。

 

「………サクラ、何その格好」

「私の普段着ですが?」

 

 ついでに下には水着をつけている。下だけ……。

 

「その格好恥ずかしくない?」

「恥ずかしくないですよ?」

「や、私は恥ずかしいんだけど」

「そうですか……じゃあ仕方ないですね」

 

 と、コートを脱ぎ捨て闇で作った帯を纏う。これで完全に黒桜だな、見た目は。

 

「………それ、今能力で作ったよね?」

「ですね」

「じゃあサクラって今全裸なんじゃ………」

 

 細かいところに気づくな。と、その時、何かが飛んできたので黒帯で飲み込む。

 

「ほら、こう言う時便利じゃありません?」

「いやそれより攻撃されてる事に気づこうよ!」

 

 ああ、そういえば。振り返ると海賊船が見えた。海賊旗は、若干斜め横を左右にそれぞれ向いた二つのドクロ。片方はウインクしており片方はウサ耳が生えている。交差した骨の代わりに交差したカトラスとマスケット銃が描かれている。

 

「か、かか、海賊ぅ!!」

「落ち着いてくださいシトナイ。私達も海賊ですよ?まだ海賊旗つけてないけど」

「それって……商船とかと間違えられて襲われたんじゃ」

「海賊同士が争うことも珍しくないでしょう。大丈夫、此方には能力者が二人もいるんです。相手してやりましょう……賞金首だったら、首を切り落としてお金に換えれますしね」

「私が想像してた海賊より血生臭い!」

 

 と、文句を言いながらも氷の弓矢を構えるシトナイ。しかし、あの海賊旗………何かを連想させるような?




い、いったい何処の海賊なんだ(すっとぼけ

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二度あることは三度ある

「海賊が撃ってきた!どうするのサクラ!」

 

 慌てるシトナイかわいい。けど既に氷の矢を放つ準備をしているあたりは流石だ。

 

「取り敢えず私達の船には金目のモノはないと伝えてみますか。それで駄目なら、倒しちゃおう。そして傘下に加えてみよ?」

 

 そう言って闇で砲弾を飲み込む。空気と一緒に。

 

『解放』(リベレイション)

 

 吸い込んだ空気と共に砲弾を放つ。先程より遙かに速い砲弾は海賊船のマストに向かい、二つに切り裂かれた。

 切り裂いたのは男物の黒いコートを羽織り、その下は白のハイレグ、頭には黒いウサ耳。

 

「なんですか、あの珍妙な格好は。恥ずかしくないんですかね?」

「さっきまであれより大概だったし今に至っては実質全裸のサクラには言われたくないと思うけど」

「ま、まさかシトナイ、私が脱いだり見せたりするのが大好きと思ってません?」

 

 違うの?と首を傾げるシトナイ。心外だ、見せたいなら隠さない。

 

「これは攻撃への対策ですし。いえ、攻撃そのものに対する対策、かな。私の体は、人一倍痛みに敏感なので」

「対策?って、また撃ってきた!」

 

 シトナイが不思議がっているとまた爆音が聞こえてきて、砲弾が飛んでくる。狙いは俺。狙撃手、いい腕してるな。欲しい。というかさっきの女の子を見るに、そういうことなんだろうなぁ。

 今度は防御しない。シトナイが慌てて撃ち落とそうとするが手で制する。砲弾は、俺の纏う闇に飲まれた。

 

「………へ?」

「ヤミヤミの実は他の自然(ロギア)系と違い、体を食べた実によって得る能力その物にしてかわす、なんて事は出来ないけれど、応用は意外と利くんですよ?」

 

 ようするに全てを飲み込む闇を纏って全ての攻撃を飲み込む状態な訳だ。まあ原作黒ひげが街全体に広げても直ぐに飲み込まなかったように、普段は本当に纏っているだけ。飲み込むには意識しなくてはいけない。そういえばこれ、覇気にはどんな反応をするんだろ?覇気はあくまで流動する体の実体を捉える力であって、悪魔の実の無効化能力はない。

 これは悪魔の実の力を発動している状態で実体を解いている訳ではない。流石に覇気使って炎を散らせても消し去る、なんてどこかの不幸少年の右手みたいな事は出来ないだろうし───

 

「サクラサクラ!さっきから撃たれまくってるよ!?」

「あ」

 

 考え事しすぎていた。放たれた砲弾は全てシトナイが矢で撃ち落としてくれていたらしい。俺の顔に向かって飛んできた砲弾は黒帯を動かし飲み込む。

 

「しかしここまで撃って効かないのに引く様子がありませんね。余程の自信家か、ただのバカか、あるいは……」

「あるいは?」

「死も恐れない狂人か───」

 

 狂人、なんだろうな。彼女達は前の世界では有名な女海賊。私掠船の襲撃を受けていた。船長を始めとする男連中が最後まで戦わずに怯えて隠れている中、最後まで戦い続けた女傑だ。本人ではないのだろうが、シトナイのようにそっくりさんなんだろうが、本質は同じはず。

 というわけで、会おう。袖を伸ばして向こうの船の一部に引っかけ、パチンコのように飛んでいく。ヤミヤミのロケット!なんちゃって──

 

「──おっと」

 

 かなりの速度で飛んでいる筈の俺に向かって銃弾が飛んでくるが体勢を変え上に飛び、乗っていた二人の頭上を飛び越えマストに足を着ける。そのまま跳ねる………なんて事はせずに闇を足の裏に生み出し吸い込むことでマストに垂直に立って見せた。

 

「能力者?」

「の、ようですわね」

 

 感情の起伏と体の凹凸が乏しい先程見た少女と、赤い海賊コートを着たドエロい体型の色っぽく、それでいて上品さを感じさせる女性。間違いなくネットを与えたら堕落するアン・ボニーとメアリー・リードだ。此方で言うならボニー・アンとリード・メアリー、か?

 

「なんか今、失礼なこと考えられた気がする」

「奇遇ねメアリー、私もよ」

 

 銃とカトラスを向けてくる2人に警戒を解こうと笑顔で手を振ってみる。警戒は解けない。当たり前か。

 

「あの船の護衛ですか?」

「いえ、船長です。闇夜海賊団船長クロ・D・サクラ。宜しくお願いします」

「………僕は、メアリー……こっちはアン。それにしても、同業者?今は近くに島ないけど、偽装してた?」

「いいえ。まだ発足して間もなくて、海賊旗が決まっていないんです」

「あら駆け出しですの?私達と一緒ですわね……ではあの船にはお宝ない、と?」

「ある、と言ったらどうするんですか?」

 

 その言葉に2人はニコリと笑う。メアリーは微笑だが。

 

「「海賊らしく、略奪」ですわ」

「じゃあ、あります」

「「…………」」

 

 その言葉に二人はキョトンとする。顔を見合わせ、アンが口を開く。

 

「そこは普通、無いと言うべきでは?」

「ええ、まあ……実際お金と食料ぐらいしかありませんけど、あったと言った方がお二人もここに残ってくれるでしょ?」

「生憎と私たちも食料とお金ぐらいしか持ってませんわ」

「私が欲しいのはお二人ですよ。なにせまだ船長と船医しかいない小さな海賊団。船員が欲しいんですよ」

 

 と、顔の横を弾丸が通過する。敢えて外されたな。

 

「お前が欲しい、だなんて何とも情熱的なお誘いですこと。確かに私達も船員は欲しいですし……では海賊らしく行きましょう」

「戦って、勝った方がボス」

 

 その言葉と同時に銃弾が放たれる。頭に向かって……。即座に闇の中に取り込み、先程飲み込んだ砲弾を取り込んだ空気と共に放つ。メアリーはカトラスを振り切り裂く。

 鉄を切るとかこの時点のゾロより強くね此奴?

 

「やぁ!」

「──ッ!」

 

 速い!

 切りかかってくるメアリーのカトラスを避けて黒帯を伸ばすがアンの銃弾が向かってくるので防御行動に切り替えざるを得ず逃げられる。

 マスケット銃だから連発式ではない筈なのに連射してる。何かの能力か?

 

「何で、そんなに、連射できるんですか──!」

「ふふ。何でもジュウジュウの実を食べさせた銃という、よく解らない道具でして、弾を何度でも撃てますの」

 

 何それ分けわかんない。ていうかそれ、Dr.ベガパンク製だよな?此奴、海軍のお偉いさんの娘か……。

 

「面倒くさいですね………黒渦」

「「───っ!?」」

 

 両手に黒渦を生み出しメアリーとアンを引き寄せる。アンは即座に体勢を整えながら切りかかってくるが無数の黒帯でどちらも縛り付ける。

 じたばた暴れるがふりほどけるはずもなく、アンが銃を撃とうとするが悪魔の実の力である以上闇に触れている間は能力は発動できない。

 

「なかなか面白かったですよ。私の力が初見じゃなければ、もっと苦労してたでしょうね」

 

 さん、と乾いた音が聞こえた。見ればメアリーが黒帯を切り裂いていた。って、嘘!?

 慌てて足下に闇を流すが距離を取られる。ので、船全体を覆う闇を生み出した。甲板も手摺りもマストも、だ。慌ててマストに立てかけている網にぶら下がるが闇から大量の黒帯が伸びる。

 

「───こーさん」

 

 メアリーはそう言うとカトラスを放り投げる。チラリとアンを見るとムグムグ唸っていたが、肩を落とし引き金から指を外す。俺は闇を解除する。服以外のな。

 

「能力者の厄介さは話に聞いていましたが、これほどとは……お父様のコレクションから海楼石の弾丸を持ってくるべきでしたか」

「あー、そういうの知ってるってことは、海軍の?」

「正確には世界政府と繋がりがある貴族の、武器コレクターの娘、ですわ……駆け落ちで飛び出たんですけど、彼ったらだめだめで、別の男を見つけたんだけどそれも、ね……だからメアリーと一緒に海賊団を作ろうってなったのですわ」

「ん……初戦、敗北だけどね」

「まあ私が強すぎたと思って諦めてください」

 

 なにせ痛みに人一倍弱い設定があるくせに白ひげの攻撃ゼロ距離で食らって生きてるような黒ひげスペックだ。能力を消すとはいえ白ひげの拳も受け止めるし、駆け出し海賊にやられるほど弱くない。

 取り敢えず食料や火薬、砲弾などを闇に飲み込んだ後、天輪を二つ作り俺と二人を浮かせる。二人の上には少し巨大なの。上から引っ張られるという妙な感覚に戸惑っていたが暴れはしないのでやりやすい。

 

「空を飛ぶのもなかなか悪くない」

「そうね。ねえ船長、これ夜にやってくださらない?」

「その日の夜私と寝てくれるんなら考えてあげますよ」

「あらやだ、船長だからって変なことしないでくださいまし?」

 

 と、顔をしかめるアン。メアリーはそっちの趣味?と首を傾げる。船に戻るとシトナイが警戒を解かず矢を弓につがえていた。

 

「シトナイ、彼女たちは仲間になりましたから、安心してください」

「見てアン、おっきい熊」

「本当。それに真っ白な毛……この船、白い毛の人多すぎません?肩身が狭いんですが……」

 

 と、おちゃらけるアン。確かにシトナイも俺もメアリーも白髪なのにアンだけ金髪だ。

 

「ふふーん、シロウは可愛いでしょ!」

「うん。すごく……撫でて良い?」

 

 幼い少女達が仲睦まじそうに笑い合う姿に俺もアンもにっこり。しっかし、四人集まって全員女か………いっそ女だけの海賊団とか作るか?

 

 

 

「「「クォウ!」」」

「そうではない。槍を穿つ時、槍先よりもまず槍を握る手を意識しろ」

 

 物資の補給に近くの島、アラバスタ王国がある砂漠だらけのサンディ島の海岸、その二人は居た。

 

「「「クワァ!」」」

「はい、そうです。それがパンクラチオンです」

 

 クンフージュゴンに槍を教える白髪のイケメンと格闘技を教えている長髪のイケメン。此奴等絶対仲間にしよう。




いったい何処の英雄と英雄の師匠なんだ!?(白目


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二人の指南役

「ここが他の島かぁ、ドラム王国とは全然違うんだね」

 

 シトナイが砂をサラサラとすくっては落としてを繰り返していた。冬島出身だもんな、乾いた砂を見たこと無いのかもしれない。

 ちなみにシロウは直ぐ近くにいる。シロクマだからな、ここは暑いし、氷結人間のシトナイの側にいた方が良いのだろう。ちなみにシトナイはひんやりしていて暑い夜は抱き枕にぴったりだったと補足しておく。

 

「クオゥ!」

「ん?わ、何あれ可愛い~」

 

 と、不意に飛び出してきた亀の甲羅みたいなのをつけた小さなジュゴンっぽいのを見つけて駆け寄るシトナイ。あれ、あの珍獣って………

 

「クオォ!」

「きゃあ!?」

 

 いきなり襲いかかってきた珍獣。とっさに剣を抜き防御するシトナイ。子供で小柄とはいえ自分よりでかいシトナイに襲いかかったこの珍獣の名は、クンフージュゴン。

 

「それ、結構強いですよ?」

 

 じっさいシトナイ少し足が浮いていた。

 

「グオゥ!」

「クォ!?クオォン!」

「ガウ!?」

 

 シロウがキレて襲いかかるが流石はクンフージュゴン。爪をかわし顎に一発。シロウの体が大きく仰け反る。

 

「シロウ!?もう、怒ったんだから!」

 

 と、シトナイは何やら赤い丸薬を取り出しシロウに向かって投げ、シロウがそれを飲み込む。ランブルボールかな?それともシロウが赤くなるのか?

 ワクワクしてたらシトナイはクンフージュゴンを剣の腹で殴りつけ浮かせる。シロウは大きく息を吸い込み、吹雪を吐き出した。

 

「………へぇ」

「ふふーんだ!見た!?シロウの特技!私の血を媒介に作った薬で、一時的に能力者みたいになれるのよ!」

 

 凍りついたクンフージュゴンを背に此方に振り返りふふん、と薄い胸を張るシトナイ。この子やばい。何がやばいって、人工悪魔の実の研究してるドフラやガス、それ買ってるカイドウに知られたら誘拐間違いなしって事実がやばい。

 まあでも、この不思議世界なら吹雪吐く熊なんてそこまで気にされないか。クンフージュゴンなんて珍妙な生き物も居るし海王類なんて生物の原則に逆らったような巨大な怪物もいる世界だしな。

 

「でも、それをあまり公言しては駄目ですよ?」

「え、どうして?」

「捕まって変な男に変なガスをかがされて、何でも言うこと聞く人形にされちゃいます」

「ええ!?わ、解ったわ。仲間以外に誰にも言わない…」

 

 と、砂漠の気候で溶けやすい氷がピシリと砕ける。ジュゴンのような見た目だが砂漠だらけのサンディ島に住む生物。寒さに弱いのか暫くガチガチ震え、警戒するシトナイにゆっくり近付くと両手……両鰭を広げお辞儀する。

 

「クォゥ!」

「……へ?何、今度は……」

「クンフージュゴンは自分を負かした相手に弟子入りするんです。さらなる強さを求めて」 

「何その求道者精神!?」

 

 シトナイが距離を取ろうとすると普通について来る。仕方ないのでシロウを呼び食料をやるから離れろと伝えさせる。シロウは人の言葉を理解するからな。こっちは理解できないけど、シトナイならだいたい解る。

 交渉の末三日分の食料を与えた。

 

「…ご飯で離れるなんて、意外と俗物?」

「んー、結局は野生動物ですし、餌をとるために強さを欲してたんじゃありませんの?」

 

 メアリーとアンがそんなクンフージュゴンの生態について話していた。泣く泣く俺たちを見送るクンフージュゴンに手を振り、街を目指す。

 

 

「───っ」

 

 不意に俺が立ち止まる。アンとメアリーもマスケット銃とカトラスを構え、シトナイが首を傾げるもシロウが唸り出すと即座に剣を抜く。

 ボバッ!と砂の中から槍を持ったクンフージュゴンが二匹、無手のクンフージュゴンが二匹現れる。

 

「クオォゥ!」

「クオォ!」

 

 ヒュン!を槍で付いて来るクンフージュゴン。速いっ!首を逸らし回避し、黒帯を放つ。二匹目が槍を回転させながら絡めようとしたので実体化から飲み込む闇へと変化させる。

 

「クオォ!?」

 

 能力者と戦うのは初めてか。このまま飲み込んで──

 

「クアン!」

「───ッ!?」

 

 無手のクンフージュゴンの一匹が拳………前鰭を放つ。黒帯を円を書くように動かし拳を受け流す。クンフージュゴンは大きく上に飛び、尻尾をググッと仰け反らせる。

 

「クゥククゥ!」

「───へ!?」

 

 尻尾から風の刃が放たれる。黒帯で防御し飲み込み、闇から逃れようとしているクンフージュゴンに向けて吐き出すが、今の、まさか──。

 

「この──!」

 

 と、アンが発砲する。普通なら野生の獣程度なら貫く威力がある銃弾だが──

 

「クックァイ!」

 

 が、ガキキィン!と鉄と鉄がぶつかったような音を立てて弾かれる。そのままピクリとも動かなかったので地面に広がっていた闇に飲み込んだが……。

 

「クアン!」

 

 と、残った無手のクンフージュゴンが再び放つ拳。今度は黒帯に飲み込もうとするが槍が二本向かってくる。先程逃した槍持ちのクンフージュゴン達の攻撃だ。俺自身を闇の中に沈め背後に移動すし、そのまま頭を掴み闇に押しつける。

 

「クオオ!」

「させない!」

「グオォ!」

 

 シトナイが氷の矢を連続で放ちシロウが爪を振るう。クンフージュゴンはクネクネと回避する。メアリーもカトラスを振るうがやはり避けられる。

 

「ホワイトショット!」

「クオ!?」

 

 拳を放ち、やはり回避されると同時に飲み込んでいた空気を放つ。予期せぬ広範囲に広がる衝撃バランスを崩すクンフージュゴンを帯で捕らえ闇に引きずり込み、中で圧力をかける。建物だって闇の中で潰すヤミヤミの実の力で押しつぶし、吐き出す。

 

「クオウクウオウ!」

「クウクウ!」

「「クオオ!」」

 

 と、傷だらけになりながらも逃げ出すクンフージュゴン。あっと言う間に見えなくなった。

 

「あれ、弟子入りしない?」

「どういうことですか?」

「……今の師匠が、私達より強いと言うことでしょうね……というか、今のまさか……六式?」

 

 六式?と首を傾げるメアリー。可愛いが答えるのは後だ。六式使いのクンフージュゴン。つまり、六式使いの師匠。

 俺は空飛べるけどアンやメアリーはもちろん泳げないシトナイにも月歩覚えさせたい!というわけで彼奴等を追うぞ!

 

 

 

 そこで見つけたクンフージュゴンが師事する二人。どうみてもケイローンとカルナだ。是非仲間に加えたい!此奴等いれば新世界でもやってけそうだしな。

 と、そんな二人を観察していると先程のクンフージュゴンがクォクォ二人に縋る。と、ケイローンの視線が此方に向いた。

 

「それは彼処に隠れている者達ですか?」

「「「───ッ!!」」」

 

 気配を消していたつもりだったがあっさりばれた。まあ俺は予想の範囲だけど三人は驚いていた。取り敢えず前に出る。クンフージュゴン達が警戒してくる。 

 

「私の弟子が迷惑をかけたようで、申し訳ありません」

「───いえ、クンフージュゴンの性質は知っていたのに縄張りに近付いてしまったのは此方ですから」

「いえいえ、旱魃の影響で海水が逆流して、彼等の住処も広がってますから仕方ないですよ」

 

 にこやかな笑みを浮かべるケイローンらしき人。無手のクンフージュゴンの師事してたのはこっち………。

 

「あなたがクンフージュゴンに六式を教えたのですか?」

「おや、六式を知っているのですか?」

「ねえサクラ、さっきも言ってたけど六式ってなんなの?」

 

 六式という単語に反応するケイローンとクイクイ袖を引っ張ってくるシトナイ。不思議そうなシトナイにケイローンが答える。

 

「六式は海軍に伝わる武術です。指銃、鉄塊、紙絵、剃、月歩、嵐脚……これらを総じて六式。すべて使える者を「六式使い」と呼び、海軍でも使えるのは本部の中尉や少尉以上が殆どですね」

「へぇ、船長はそれを知ってたんですね」

「船長、物知り……ん?海軍?」

 

 と、メアリーとアンが僅かに警戒する。

 

「……それで、私に何か?私の弟子達を見て、師が気になったのでしょうが……」

「あ、と……すいません長々とお話ばかり。まずは自己紹介を……私はクロ・D・サクラと申します」

「………D?」

 

 と、ケイローンが僅かに反応した。が、直ぐに笑みを浮かべ直す。

 

「私はケイローン。元海軍所属で兵の育成をしていました。今は退役して旅をしていますが………ああ、ちなみに彼はここサンディ島で知り合った───」

「カルナだ」

「「「……………」」」

「……………」

 

 三人ともえ、それだけ?と言いたげな顔してるな。それだけだよ、この人は。そういう奴だ。

 

「あ、えっと……シトナイです」

「リード・メアリー」

「ボニー・アンですわ……」

「私達四人はつい最近海賊として旗揚げしたのですが数も四人で実力も伴っておらず、クンフージュゴンに彼処まで武を教えたあなた達に仲間兼指南役になってもらえると助かるのですが……」

「「「───!?」」」

 

 後ろで三人が驚いた気配が伝わる。まあ元海軍を海賊に誘っているわけだしな……。

 

「サクラが男の人を誘った!?」

「私やメアリーを見る目がたまに男が私達を見る目でしたし、そっちの趣味なのかと」

「全部女の子で構成すると思ってた」

 

 おいこら。

 ケイローンは楽しそうに笑っていた。

 

「面白い方達だ。それに、元海軍の私を物怖じせず誘ってくるとは……しかし、やはり海賊を育てるというのは」

「私は基本略奪はしないつもりです。お金はお宝を探す方が良い……略奪するとしても、それは同業者のみに限定するつもりです」

「海賊らしくありませんね。いっそ冒険家と言われた方が納得できますが」

「冒険家では皇帝を名乗れないでしょう?」

「ほう、貴方はあの高みに至る、と?彼等は並の実力者ではありませんよ?」

 

 興味深い、というように此方を見るケイローン。そして、追加で聞いてくる。

 

「しかし、王は目指さないのですか?」

「海賊王には別の者がなりますよ……私自身は、それほど興味は………まあ、私は彼を愛してますから、彼が海賊王になった姿を見たいというのもありますし」

 

 一読者として、キャラ達を愛する身として、ルフィが海賊王になる瞬間はこの目で見てみたい。大好きなキャラだしな。

 

「なるほど、やはり面白い人だ………略奪をしないというなら、私自身断る理由はないのですが…………ええ、海軍の英雄の後は海賊の英雄を育てるのも一興ですかね」

 

 おお、乗ってくれた。となると後はカルナだが………

 

「俺は断る。行くなら、お前だけでいけ。十分だろう」

「…………………」

 

 

 

「全くなんですのあの態度、もう少し言い方というものがあるでしょうに」

 

 カルナの先程の態度に不機嫌なアン。俺はその間に食料を買いあさる。シロウが荷物持ちを手伝ってくれた。いい子だ、後で鮭やろう。

 

 

 

 

 食料をクンフージュゴンに渡す。

 

「これでついてきてくれますか?」

「良いだろう。もとより俺も、力を貸して欲しいと乞われ断るのは本意ではない」

「「「………え?」」」

 

 カルナの対応の違いに困惑する一同。ケイローンは解っていたのか相変わらずにこやかな顔だ。

 

「えっと、だってさっき断るって……」

「今、俺は彼等に教えを乞われていた。俺はケイローン程指南が得意というわけでなし、彼等が望むほどの強さをまだ与えられていないからな」

「つまり、自分はクンフージュゴン達を鍛えなきゃいけないから、ケイローンさんだけ行ってくれ、と?」

「それで、ケイローンは教えるの上手いから僕たち全員教えるのに十分、と?」

「ああ。先程もそう言ったろう?」

 

 言ってねぇよ。たぶん、俺以外の全員もそう思ったはずだ。

 

「それで、次はどこに向かうのですか?」

「空島を目指そうかと思ってます」

「空島ですか……良いですね。彼処は空気も薄く、鍛えるのには最適かと」

 

 そういえばこの人の鍛え方ヤバかったような………。いや、たぶん死なないよね?この人の場合死ぬ気でやれば死にませんよ、とか言いそうなんだけど。

 

「空島?驚いたな、そのような夢物語を信じている者が居るのか」

「馬鹿だと思いますか?」

「まさか。俺はまだこの世界の全てを見たわけでなし、たとえ他者に笑われるようなことであろうと、己が信じたことを信じていると貫く者を馬鹿になどできまい」

「今の馬鹿にしてたんじゃないんだ……」




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空へ

「ケホ……ハァ、ハァ………」

「──っ、疲れた」

「海、軍って……こんな、修行してるの?」

「私達が知ってる海兵、駆け出しばかりだったんですのね」

 

 息を切らせ床に突っ伏す俺達4人。ケイローン…先生は朝はこれぐらいにしますか、と呟く。え、昼もやんの?

 取り敢えずどの程度戦えるかみましょう、そんなケイローンが取った訓練内容は、組み手。

 

「一番見込みがあるのはサクラですね。身体能力がずば抜けている」

 

 そりゃ未来の四皇だ。多少はね?

 しかし、この男俺達四人と一匹を同時に相手取り息一つ乱れてないとはどういう事だ、これが海兵育成係か。

 

「解りきっていた結末だ、恥に感じる必要はない」

 

 と、カルナ。たぶん「駆け出しの海賊と長年軍に所属していた男とではそもそも地力が違う、勝てないことを悔しいと思う必要はない、これから精進すればいい」的な事を言っているのだろう。

 

「ていうかなんなのこの人、離れれば矢、近づけば肉弾戦って、弱点とかないの?」

「私にだって弱点ぐらいありますよ。能力者なので泳げないんです」

「………それって、ウマウマとか?」

「詳しいですね。ウマウマの実、モデルケンタウロス。それが私の食べた悪魔の実ですよ」

 

 ケンタウロス……幻想種の悪魔の実か。ケンタウロスは弓矢や槍、棍棒を使うと言われているが、何処からともなく矢を取り出したのもその幻想(伝説)としての在り方だからなのかね?

 

「え、てことはこの海賊船の海賊、半分が泳げないんですの?」

「いや、ケイローン、シトナイ、サクラだけではない。俺も能力者だ」

「半分以上がカナヅチの海賊団……斬新」

 

 アンの言葉にカルナが自身も能力者であると伝え、メアリーが感心する。なんだこの海賊団、半分以上が泳げないって………。

 

 

 

 明日には島に着く。取り敢えず買っておく物をリストアップする。

 

「いっそ街で浮き輪も買いますか?」

「まあ海楼石を嵌められたならともかく、海に溺れただけならやりようはありますよ」

 

 そうなの?能力者って基本海に沈んだらアウトのイメージだけど。

 

「海楼石と違い、海の中に一部が浸かってるだけなら能力は使えますしね」

 

 そういやルフィ海の中でも伸びてたな。ロビンもたしか白海の中に手を伸ばしていた。体質が変化するルフィならともかく腕を生やすという発動系のロビンも力を使えたのだから、まあ能力は使えるのだろう。

 

「水を全部吸い込め、とか?」

「凍らせるとか?」

 

 凍らせる、か。シトナイはそういう方法があるからな。

 

「いえ、水面から空中に飛び出て後は月歩で飛んでください」

「その水面から出るのが大変なんじゃ」

「確かに我々能力者は浮力が少なく、海の中では力も入らない。ですが気合いで数秒は何とかなります」

「えっと……」

「まあ要するに月歩で直ぐに水から飛び出ると言うことですね。息が出来ず、力が抜ける状況下ですが水深10メートルまでなら何とかなります」

 

 そりゃまあ、ルフィだって海楼石に慣れてきたら馬鹿力や覇気も使ってたから純粋な身体技術は使えるのだろうが、それ水の中で直ぐに上下を把握しないとダメじゃ……。

 

「まあいきなり水の中に入れられてはパニックになりますからね。そこは鍛えて……」

「鍛えるって、どうやって?」

「─────」

 

 シトナイが首を傾げた時点でなんとなく嫌な予感がしたのでそっとその場から逃げようとして、ガシリと捕まる。そのまま海に向かって投げ捨てられた……。

 

 

 

 

「あ、あの人容赦ない───っ!」

「すいませんアン、メアリー、ご迷惑を………」

 

 あの後海に向かって投げられること10数回。このメンバーの中で泳げるアンとメアリーが救助班で、俺達が水面に手を伸ばせるようになるまで続いた。

 

「月歩を覚えるまでに今の感覚をマスターしておくこと。解りましたね?」

 

 ケイローン先生はニコニコしてる。この人に育てられた海兵が海軍にいると思うと、めっちゃ怖いんだけど。

 

「ねえサクラ、私生きてる?幽霊じゃない?」

「生きてますよ。これから天国に向かいますけど」

「天国かぁ………でもあの悪魔は付いてくるんだよね」

「シトナイ、この船には悪魔を宿した者が大半です」

 

 シトナイが現実逃避し始めたのでよしよしと頭を撫でる。動かす手に合わせてユラユラ力なく揺れるシトナイ。

 

「お疲れさまです。迷惑ではありませんよ」

「ん、僕たちは仲間だからね」

「………アン、メアリー………一緒に寝ましょう」

 

 何言ってんだ俺。駄目だ、相当疲れてる。

 

「いいよ…」

「仕方ありません、まとめて抱きしめて差し上げます。今夜はこのまま眠りましょう」

 

 マジですか。

 

 

 

 翌日。アンの抱擁ですっかり回復した俺だがケイローン先生の早朝訓練でまたバテた。

 

「うぅ、せっかくいい気分で起きたのに……ちょっと強気になってちょっと調子に乗ってちょっと対応を間違えただけなのに……」

「いえ、別にやる気に満ちていたから厳しくした、などではありませんよ?これからも同じようにやるつもりです」

「こんなのってないですぅ……」

 

 でもなぁ、強くなるにはこの人の教えは間違いなく役立つしな。

 

「ていうかサクラ本当に元気になってたよね。私の時も…何なの、可愛い女の子なら誰でも良いの?」

「いえ、愛する者達の添い寝なら別に誰でも良いですよ?」

 

 大好きなキャラの声が至近距離で聞けるのだ。添い寝ボイスとか生前は買わなかったけど結構良いものだな。

 

「というわけでシトナイ。今夜は一緒に寝ましょう」

「何がというわけ!?やだよ、どうせ女の子なら誰でも良いんでしょ!」

「断言しないでください!誰でもじゃありませんってば。愛する人たちだけですよ」

「余計やだよ!私にそっちの趣味はない!」

「私だって同性愛………は、あるかもしれませんが」

「聞きまして、メアリー。船長はそちらの気があるらしいですわ」

「大丈夫。僕もアンとよく……色々教えられる」

「生々しい!もうやだこの海賊船!」

 

 あー、まぁ、二人一緒に英霊になるほどの仲良しだしなぁ、そういうこともあるのだろう。しかし、色々………ゴクリ………いや、やめとこ。なんか女としての快楽知ったら色々戻れなくなりそう。

 快楽と言えば快楽天ビーストで検索すると最近あの人よく出るよね。

 

 

 

 さて、食料も買い終えいよいよ上に向かう。いちいち突き上げる海流を探す必要がないから楽だ。

 

「そういえば、今更だけど空島に向かう理由はなんなの?」

 

 と、シトナイ。確かにログを溜めるだけならジャヤで十分だ。

 

「資金集めです。特殊な貝や、黄金を集めに………そろそろ新しい船が欲しいですしね」

 

 なにせ地上にはない貝達。それだけで十分な価値があるし、空の主の腹の中には黄金がたっぷり………エネルは……どうしようかな。ぶっちゃけ、空島の戦いが誰かの成長になったり、とかは無かったような気がする。よく覚えてないな、アラバスタではゾロが成長してたけど……。

 それに、エネルの在り方をカルナが黙認するとは思えないし………。確かマクシムは黄金だらけの船………うーん、別に良いよね、貰っちゃっても。海賊だもの、早い者勝ち!

 

「さて、それではいきましょうか、空島へ………天輪」

 

 闇で形成された天輪が船の頭上に浮かび上がる。それは周囲の空気や、水を吸い寄せ始め、やがては船を浮かべる。

 

「全てを引きずり込む闇が、使い方次第で俺たちを天へと導くか」

「発想力は武器ですよ。貴方のような自然(ロギア)は特に………」

 

 カルナとケイローン先生の賛辞………賛辞?賛辞だよな。賛辞を受け暫く上り、雲に到達する。ここから先は一応海の中なんだよな。確か海楼石に含まれるなんちゃらって成分を含んだ………。

 

「カルナ、ここから先は海なので、穴空けてくれませんか?」

「了解した、船長……」

 

 え?とシトナイ達が首を傾げる中、カルナは上を向く。

 

「真の英雄は眼で殺す!」

 

 カッ!とカルナの瞳から光線が発射され、それは雲に吸い込まれる。即座に雲に巨大な穴が空いた。

 

「「「えぇ!?」」」

「グオゥ!?」

 

 シトナイ、アン、メアリーが目を見開く。シロウの口があんぐり開く。穴が閉じる前に、船を一気に雲海の上まで引き上げた。

 

 

「………ほ、本当に船が雲の上に………これ、サクラの力ではないのですよね?」

「私の力は引き寄せるだけですからね。浮かせるには上に闇を作る必要がありますよ」

 

 話に聞いていてもやはり実際見ると信じられないのか唖然と周りを眺めるアン。シトナイは雲の上に船が浮かぶというある種メルヘンな光景に目を輝かせている。ケイローン先生は空魚を速攻で仕留めて捌きだした。

 

「ん?見て、なんかまた来た」

「あら本当、雲の上を滑ってますわ。空の国の水馬かしら?」

 

 アメンボ?メアリーとアンの言葉に振り向くと確かに何か向かってくる。よく見るとアフリカ部族みたいな大きな仮面を付けた男だ。

 バズーカ持ってる。そして、飛び上がり───

 パァン!と炸裂音が響く。アンがなんの躊躇も戸惑いもなく発砲した。男はのけぞり仮面が砕ける。

 

「───フッ!」

「チィ!」

 

 雲海に着水した男に向かってメアリーがカトラスを振るう。片手には縄。男がかわすと振り子のように勢いそのまま進み船の上に戻ってきた。

 

「敵で良いの?」

「確認せずに撃ったの!?」

「まあ、敵でしょう。殺気向けてきてましたし」

「敵だろうな。だが、良い闘志だ。奴は戦士だ、生半可な思いで相手するのは推奨しない」

 

 要するに敵で、覚悟を持った奴だから全力で当たれって事だよな?何かこの言い方だとお前達は中途半端だ、彼には勝てない、何て言われてる気がする。

 まあ良い。あれ、ワイパーだよな?取り敢えず倒して、彼奴等と協力関係結ぶか……。と、闇を溢れさせたその時だった……

 光が雲海を貫く。ワイパーは横に避けかわす。光は上から降ってきた。上を向けば、翼を広げた影が見えた。

 

「そこまでですワイパー。我が神の名の下に、それ以上の狼藉は認めません」

「チッ、前神の飼い犬か───!」

 

 ワイパーは忌々しげな顔をする。そして、アンがやはり何の躊躇もせず発砲。ワイパーが目を見開きバズーカを咄嗟に盾にして、翼の生やした女も目を見開いて固まっていた。

 

「くそ──!」

 

 と、何かを雲海に投げるワイパー。ボフ!と爆発し雲海がそのまま煙幕になる。煙が晴れるとワイパーの姿はなかった。

 残るはあの翼の少女。アンが銃口を向けると手に持っていた槍を構えるも、直ぐに構えを解く。敵意はなさそうだ。俺はアンを手で制する。

 

「はじめまして清海の方々。私はワルキューレ、オルトリンデと申します」

「私達の仲間になってくれませんか!?」

「………へ?」

「やっぱり可愛い女の子なら誰でも良いんじゃない!」

「違いますシトナイ。この子達も、私にとって愛する者です」

「へ?あ、愛……?あの………」

「この変態!もう添い寝してあげないんだからね!」




というわけでオルトリンデちゃんも登場。

皆さん海賊団アンケートありがとうございます。募集は何時までも……しかし、特にルールを決めてないのにfateキャラだけなるとは


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神の国スカイピア

「それで、オルトリンデさん、でしたか?色々と聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」

「は、はい……でも、あの……この状態で?」

 

 ケイローン先生の言葉に戸惑うオルトリンデ。やっぱ可愛いな。ワルキューレの中で一番話しやすいのはヒルドだけど一番可愛いのはオルトリンデだな。抱き心地も最高だ。

 

「サクラ、まだ敵が味方かも解らないんだからやめなさいよ……」

「大丈夫ですよ、こんなにおとなしく抱き締めさせてくれるんですから」

「何よ、添い寝なら私だってしてあげたじゃない!」

 

 もう!と頬を膨らませるシトナイ。

 

「では代わりにシトナイを抱きしめましょう」

「し、仕方ないなぁ」

 

 オルトリンデの代わりにシトナイを抱き締める。腕にすっぽり収まる良いサイズ。それと、ひんやりしてる。

 

「グオウ」

 

 さらに俺たちをシロウが抱き締めた。これ良いな。今度これで寝よう。

 

「ふぅ………では私はこれで。今後、私達に用があったら笛を吹いてください。1ホイッスル500万エクストルで私達姉妹か、私達の主である空の騎士が駆け付けます」

「エクストルって……?」

「………え?エクストルですよ、空島の通貨………ハイウエストの頂から来たのなら、他の島を幾つか通ったのではないのですか?」

「ハイウエスト?」

「空島への正規のルートですよ。ただ、100人乗った船の何人かが生き残る、そういうルートですが……」

 

 ケイローン先生が説明してくれる。流石、物知りだなこの人。

 

「まあ私ならその100人が全員生き残れるように鍛えますが」

「そ、それは酷と言うものでは………」

 

 ケイローン先生の言葉にオルトリンデが引いてる。つまり正規のルートを全員生きて渡れるようにするにはそれだけ危険と言うことか。

 

「私達は彼女の能力で船を浮かせて来たのですよ」

「それがなかったら“突き上げる(ノ ッ ク ア ッ プ)海流(ストリーム)”で来ましたがね」

「あのバケモノ海流を……0か100の賭を、わざわざ選ぶんですか?」

「え、0って全滅するかもしれないって事………あ、でも他のルートだと誰か死んじゃうのか」

 

 シトナイが顔を青くしてんーんー唸る。危険は怖いけど仲間が死ぬのは船医として容認できないのだろう。

 

「………勇敢な方々ですね」

 

 と、目を丸くして見てくるオルトリンデ。しかし興味を持ったのか此方をジッと眺める。

 

「………では、その勇気を称えて1ホイッスルは無料で助けましょう」

「それは、空の騎士や貴方の姉妹に聞かなくて良いのですか?」

「ええ。姉妹達も、主もその勇気を称えるでしょうから……」

「姉妹は何人居るのですか?」

「普段は三人ですね」

「………普段?」

 

 まるで普段じゃなければ増えるような言い方にアンが訝しむ。

 

「私はフエフエの実を食べた分裂人間。自身の同一個体を増やせるんです」

「貴方が何人もいるって事?」

「はい。とはいえ、個性は多少分かれますが」

「貴方自身も分身体?」

「全員本体です。1人でも生き残ればまた増やせます。生命力を共有してるので、三人以上に増えるのはかなり疲れますが」

 

 へぇ、便利な能力。ただ、増えると弱体化するらしい。

 

「三人までなら強さを変えずに済みますが」

 

 そうなのか。なら、ヒルドやスルーズは居ると見るべきか。

 

「では笛はシトナイが」

「え、良いの?」

「この中で一番弱いですし」

「………う」

「それと、最後の質問なんですが」

「はい、何でしょう?」

「白海人は翼を持っていても飛べないはずでは?」

 

 そう、空島の民は翼こそあれど飛べることはないはず。しかし彼女は間違いなく空を飛んでいた。

 

「私は主と同じく翼を持たぬ個体で、これは翼ではありません。これは神官に伝えられる特殊な装備です。エネルの襲撃で残ったのはこれ一つですがフエフエの実は身に着けた物も増やすので私に託されたのです」

 

 これもこの世界にfate……というか型月が混じった結果か。

 

「では、私は見回りに戻ります」

 

 オルトリンデはそう言うと空を飛んでいった。

 

「それで、私達は何処に向かいますの?」

「あの滝へ……」

 

 と、俺が指さしたのは滝が存在する場所。彼処に天国の門があるはずだ。近付いていけば海雲の上に浮く雲。こっちは島雲で、確か乗れた筈。飛び乗る。フカフカしてる。

 

「わ、わ、その雲乗れるの?」

「フカフカ……」

 

 シトナイとメアリーも飛び乗ってきた。ポンポン雲の上で跳ねる。

 

「三人とも、そこから向こうへ行くルートを見つけてください」

 

 ケイローン先生の言葉で3人でルートを探す。

 

 

 

 

 そして、天国の門にたどり着いた。海雲が流れる滝というのは中々壮観だ。白一色で味家がないような来もするが、美しくもある。

 

「見て、門が……」

「『天国の門』………物騒な名ですわ」

「僕達海賊だから天国にはいけないだろうし、むしろ喜べば?」

「………なるほど、確かに」

 

 アンが天国の門などと言う自殺名所の異名にでもなりそうな名前に肩をすくめ、メアリーの言葉に納得する。

 確かに海賊だもんな。海の悪人だ。天国にはほど遠い生業だろう。

 

「そう考えると縁起のいい名ですわね」

「でも門なら門番が居るはず」

「悪人が天国にこないように?では、その時は門番を殺してしまいましょう」

 

 物騒なことを言うな此奴等。海賊らしいと言えばらしいが。

 

「天国に向かうために、その門番を殺す、と?その様なことは容認できんな」

「ま、冗談ですけど。地獄?上等ですわ」

「ん。いずれ地獄に落ちる覚悟なんて海賊になったときから出来てる」

 

 カルナの言葉にジョークですわ、と肩をすくめるアンとメアリー。その間、門に近付いていくと人が出てきた。梅干しみたいにしわしわの老婆だ。

 

「観光かい?それとも…戦争かい?」

 

 カシャカシャとシャッター音を響かせる老婆。此奴も此奴で物騒だな。

 

「どっちでも構わない。上層に行くなら1人入国料1人十億エクストル置いてきなさい。それが法律だよ」

 

 金、ねぇ。どのみち払ったところで犯罪者に仕立て上げられてジャヤに連れてかれるだろうし、仮に普通に観光するとしても俺の目的はエネルと黄金だしなぁ。

 

「では入国で、お金は……手持ちはありますけど払いません。後で迎えをお願いしますね。私達は、神の住まう禁忌の地にこそ用事があるので」

「────」

 

 あ、目に見えて震えだした。

 

「では勝手に行かせてもらいますね」

 

 と、船の前方に闇を出現させ船を引き寄せる。慌てて再びカシャカシャ音を立て始める老婆………名前確か、アマゾンとかいったけ?どうでも良いか。

 

 

 雲の川を伝っていくと『神の国スカイピア』という文字が書かれた看板のある出口……いや、入り口を抜けビーチについた。雲の海と雲の陸地。シトナイやアン達がおお、と感心する。俺も少し感動した。絵としては知ってるけど生でみると中々違うな。

 

「ふむ、懐かしい。変わってませんね、あの時と」

「ケイローン先生は昔来たことが?」

「ええ。一度」

 

 ふーん、まあケイローン先生だしな。

 とりあえず錨を降ろし上陸する。と、人を見つけた。

 

「やあどうも、へそ」

「へそ」

「何言ってるのケイローン先生」

 

 ケイローン先生が挨拶すると向こうも返してきた。その珍妙な挨拶にシトナイは呆ける。が、相手もへそ、と返してきた。要するに挨拶なんだろうな、と認識した。

 あ、この人コニスだ。雲狐のスーも居るし。この人もこの人で美人だな。

 コニスから原作ルフィ同様コナッシュの味わい方を聞いている内に彼女の父であるパガヤが空島特有の乗り物ウェイバーでやってきた。その後食事をいただくことになった。残念ながらスカイロブスターは無かったが、彼から空島の技術について説明された。原作と一緒だな。唯一違うところがあるとすれば

 

「そうそう、青海からいらした女性で、(ダイヤル)について研究している方が居るのですよ。よろしければ会ってみますか?」

 

 とても美しい方ですよ、とパガヤが言ってたが、貝について研究とな?それは是非欲しい。ウソップ枠だ!

 

「是非!その人と会わせてください!」

「ま、また貴方は綺麗って聞いて………この女好き!」

 

 シトナイに蹴られた。げせぬ。

 

 

 

 

 空島唯一の土が存在する聖地。アッパーヤードで1人の男が逃げていた。追うのは巨大な犬を操るサングラスをかけたスキンヘッドの男に、巨大な鳥に乗った男、蜘蛛のような髪型をした男と玉のような体型の男。

 そして──

 

「まあそのように傷ついて、可哀想に」

「───うぅ!?」

 

 男の前に現れたのは美しい女。その格好は神に仕えるとされる修道女(シスター)によく似ているが、本来肌を隠すべきその衣装には大きなスリットが入っており生足を晒す。その顔も、清純な筈の尼と言うにはあまりに色気に満ちていた。

 

「う、うわぁぁぁ!」

 

 と、男は発狂し剣を女の腹に突き刺す。長い剣だ。しかしその剣は女の背から突き出ることはない。

 

「まあ、なんて激しい──」

「──ひっ!」

 

 女の腹は、開いていた。そこから覗くのは黒い無数の棒状の生物。体中についた瞳が男を見据え、次の瞬間男の姿が消える。女は己の腹を撫でた。

 

「ちっ、先を越されたか」

「ほほう。俺の獲物を横取りしたか」

「馬鹿を言うな、俺の獲物だった」

「んんんん、んんんんんん!」

 

 と、男達に殺気を向けられる中女はアラアラ、と頬に手を当てる。

 

「神官様達の手を煩わせるのもどうかと思い、手を貸したのですがどうやらお気に召さなかったようですね……残念です」

「ふん、同じ青海人だからてっきり逃がすのかと思ったがな」

「神の見張るこの地で?その様な反逆行為などいたしません。ましてや、彼を逃がすことに何の意味が?何もかもが塵芥。無惨に散らす事に何の痛みがありましょう」

「………ふん、神は何故このような怪しげな女性(にょしょう)を招いたのか」

「さあ……神の御心を理解しようなどと、それこそ不敬と言うものではないでしょうか」

 

 女の言葉にチッ、と舌打ちしたスキンヘッドの男。女は気にせず笑っている。

 

「そうそう、新しい不法入国者が現れたそうですよ。数は6人。少ないので、前回の生き残りも合わせて再び試練をするそうです」

 

 

 

「ほほう!?その話は本当だろうね?アッパーヤードに、絶滅種の貴重な貝があるというのは」

「ええ、本当です。宜しければ取ってきましょうか?」

「いやいやそれなら私も行くよ。それで?その情報はもちろん、ただじゃないんだろ?」

「ええ、私達の仲間になって欲しいんです」



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空島の秘密

 (ダイアル)の研究をしているという女性の拠点に赴く。

 (ダイアル)は空島終了後でも色々役立つアイテムだ。それを研究している技術者となれば当然欲しい。

 

「ここです。レオナルドさん、失礼します」

 

 …………今レオナルドって言った?

 

「やあやあパガヤ君、コニス君。どうしたんだい?」

「こんにちはレオナルドさん。実は貴方が(ダイアル)の研究をしてると聞いて、この方達が会ってみたいと」

 

 と、パガヤの言葉に視線を俺達に移すレオナルド。ふむ?と此方を見る。

 物凄い美人だ。左腕にはメタリックな籠手をして、肩には金属製の鳥。じっと此方を見たレオナルドは唐突に手を伸ばし───

 

「───ほぉ」

「………へ?」

 

 俺の胸を揉んだ。

 

「───!?な、何を!?」

 

 慌てて胸を押さえ距離を取る。いきなり胸を揉まれた!何なの此奴!?

 

「いやすまない。そのいっさい光を反射しない謎の布に興味があってね……ふむ、布ではない。かといって、皮でもない……感触的には皮膚に近いような、それでいて靄でも触ってるような……」

「これは、能力で造ってますから」

「ほう、能力?いったいどんな?」

「ヤミヤミの実です」

 

 ヤミヤミ?とオウム返しで首を傾げるレオナルド。

 

「闇って、あれだろ?光がない状態……それが物質か?悪魔の実というのは、本当に理不尽だね」

「この闇は光をも吸い込む、らしいですが」

「ああ、光が無くなる闇じゃなくて光を飲み込む故の闇なのか。確かにそれなら、引力が発生する以上質量が存在しても不思議ではないか……となると君は所謂全てを飲み込む闇粒子とも呼ぶべき物を操ると考えて良いのかな?普段は光を吸い込むだけのようだけど」

 

 と、俺の腕を持ち上げ腕に絡まる黒帯を眺める。

 

「吸い込んだモノを収納も出来るみたいですけど」

「ほう?では、この闇は引き寄せ、その空間に飲み込む入り口でもあるのか。ますます興味深い……」

 

 ズズイと近付いてくるレオナルド。いい匂いがする。

 

「………と、すまないね。興奮しすぎた。改めて、私の名はレオナルド・ダ・ヴィンチ。気軽にダ・ヴィンチちゃんと呼びたまえ」

「よろしくお願いしますダ・ヴィンチちゃん。それで、貴方はここで1人(ダイアル)の研究を?」

「元々仲間が居たんだけど、何か、何時の間にか居なくなってた……」

 

 あはは、と頭をかくダ・ヴィンチちゃん。置いてかれたな。

 

「まあこの島での研究はだいたい終えたんだけど、帰るタイミングに恵まれなくてね。暇つぶしに発明なんかしてみたんだけど……ダ・ヴィンチちゃん印のウェイバー、買ってくかい?」

「研究は終えたと言いましたが、噴風貝(ジェットダイアル)斬撃貝(アックスダイアル)の研究は?」

「絶滅種に希少種じゃないか、流石に市販に出回っていない物の研究は出来てないよ」

「私、ある場所知ってますよ?」

「………何だって?」

「アッパーヤードにあるんですよ」

 

 嘘ではない。すでに神官や神兵の持ち物になってる、という言葉が足りないだけだ。いっさい嘘は吐いてない。

 ダ・ヴィンチちゃんの目がキラキラ輝く。

 

「ほほう!?その話は本当だろうね?アッパーヤードに、絶滅種の貴重な貝があるというのは」

「ええ、本当です。宜しければ取ってきましょうか?」

「いやいやそれなら私も行くよ。それで?その情報はもちろん、ただじゃないんだろ?」

「ええ、私達の仲間になって欲しいんです」

 

 ふむ、と顎に手を当て考え出すダ・ヴィンチちゃん。

 

「君は旅人なのかな?」

「海賊です。だから、政府が禁止するようなことでも出来ますよ」

「それを貫き通すだけの強さが、君達海賊団にある、と?」

「…………さあ」

「………へ?」

 

 肯定しなかった俺にきょとんとするダ・ヴィンチちゃん。まあだけど、肯定しようがないしな。

 

「私はこの世界全ての強さを知るわけじゃない。能力を知る者も、過去を知る者も多いけど、直接戦ったこともない相手を必ず倒せるなんて言えない。それに、海賊ですよ?好き勝手生きて、敵対されたら自分の責任。仲間ですから守りますが」

「ははは。危険な目に遭うのは自己責任か、いやいや全くその通り。適当な言葉で飾らないのは気に入った。良いよ、君の仲間になろう。中々面白そうだ………それで、君たちの海賊団の名前は?」

「さっきまで夜桜海賊団だったんですが………この顔ぶれ………そうですね。どうせまだ名も知られていないわけですし、名前を変えましょう。構いませんか?」

 

 ここまで仲間になった面子が全員英霊そっくりさんだ。なら、名乗る名は一つしかあるまい。超

 

「カルデア海賊団。それが新しい、私達の名です」

 

 

 

「さて、それではそろそろ空島の憲兵が来るので、適当に痛めつけましょう」

「何故だ?」

「そうするとアッパーヤードに向かえるので」

 

 俺の発言に訝しむカルナにそう説明する。抽象的だが間違いではないはずだ。と、その時匍匐前進する変な集団が現れた。

 

「全隊、止まれ~~~!!」

 

 止まった変な奴らは立ち上がり人差し指と小指を立てて頭の後ろに持って行き角のように見立てる。

 

「へそ!」

「へそ」

「どうも、へそ」

「やあ、へそ」

 

 相変わらず変な挨拶だ。ダ・ヴィンチちゃんは空島生活が長いからか普通に挨拶してるけど。と、変人の隊長が俺達に向き直る。

 

「貴方達ですね!?青海からやってこられた、不法入国者6名というのは!」

「ええっ!?不法入国!?」

「おや君達不法入国者だったのか」

 

 パガヤとコニスが驚きダ・ヴィンチちゃんはどうでも良さそうに言う。カルナは何を考えているのかジッと男達を眺める。

 

「…………まさか!そんな馬鹿な!何かの間違いではマッキンリー隊長!!彼等はそんな悪い人には──!」

「まあ海賊だから悪くはあるんだけどね」

 

 と、ダ・ヴィンチがクスリと笑う。見た目は超絶美人で、こういうどこか子供っぽいと言うか自分に素直というか、こういった態度が可愛いな。

 

「妙なものだ」

「………何がでしょう?」

 

 不意につぶやかれたカルナの言葉に隊長が反応する。

 

「俺達が犯罪者だと言うことは解った。それは認めよう。で、あるならば、お前達は何を恥に思う」

「───っ!」

「お前達の目は、民を守ろうとする兵士の目ではない。己の所行の浅ましさに耐えきれず、しかしその罪を告白する勇気もない、そう言った者達の目だ。お前達は犯罪者である俺達を捕らえに来たのだろう?ならばそれは国を守る誇るべき行いだ。罪悪感など覚えず、誇りを持って職務をまっとうすればいい」

「────ぐ、うぅ」

 

 カルナ、悪気はないんだろうけど自分の行いを今まさに恥じているホワイトベレーの連中にそれは完全に煽ってるようにしか聞こえんな。と、マッキンリーが片手をあげる。

 

「今のは間接的に神官侮辱罪に当たり、()5()()()()に値している………“(ゴッド)・エネル”の御名に置いてお前達を雲流しに処す!」

「………そうか。恥を貫くか、残念だ」

「「「────!?」」」

 

 カルナの言葉とともに風が吹き抜けた。次の瞬間ホワイトベレー達は全員気絶した。

 

「────覇王色?」

「おや、博識ですねサクラ」

「へぇ、話には聞いていたけど、実際使用されたのを見るのは初めてだ。カルナ、今度私にもやってみてくれないかな?」

「船員に、か?気乗りはしないな……船長にやってもらえ」

「え、私も持ってるんですか?」

「ああ……」

 

 それは、黒ひげとして?それとも俺として、か?わっかんね。まあ良いか。しかしダ・ヴィンチちゃんよ、そんなにキラキラした瞳を向けてくるのに悪いんだが……

 

「私、使い方解りませんよ?」

「そうなのかい、残念だ………」

「そう言えば覇気についてまだ教えていませんでしたね。能力の特性上、自然系(ロギア)にも有効だから忘れてました。修行に組み込まなくてはなりませんね、何せ新世界を目指す海賊なのですから」

「………………」

「はは。どうしたのですか変な顔をして。何、目隠しして私の矢を避けさせたり、覇気を纏わせた矢を生身で受けさせたりするだけです」

 

 おぅ……。

 

「カ、カルナは教えてくれますか?」

「俺は……初めてやったら出来た。参考にはならないと思う」

 

 畜生天才め。そう言やこの先には生まれた時から見聞色………心網(マントラ)が使える奴とかもいるんだっけ?羨ましい。

 今に思うと映画のお祭り島の末っ子も生まれつき見聞色が使えたのか?それも心の声が聞こえるレベルの……。

 

「まあこれで私達も第2級犯罪者。そのうち迎えがきますから、準備だけすませておきましょう」

「あ、なら私の発明品を持って行こう。きっと役に立つ」

「じゃあ私達は船で待ってるね~」

「船長が帰ってきしだい、迎えに関係なく向かいませんこと?」

「ん、黄金が僕達を待ってる」

 

 船に残るのはシトナイ、シロウ、アン、メアリー、ケイローン先生。ダ・ヴィンチの荷物取りにダ・ヴィンチちゃん本人と荷物運びが便利な俺と護衛のカルナ。

 

 

 

 

「あれ、船が出航してる」

 

 ダ・ヴィンチちゃんの宿に向かう途中、ダ・ヴィンチちゃんが不意に呟く。本当だ、超特急エビに捕まり運ばれている。

 

「あれが船長の言っていた迎えか」

「はい。まあ、運ばれている途中は手出しされませんよ。私達も私達で向かう足を見つけましょう」

「あ、あの……それなら私が船を用意できます」

 

 

 

 

「……………」

 

 エンジェル島の船着き場に向かう俺達。周りの視線になにを思ったのかカルナはしきりに無言で彼等を見つめ、カルナの目を見た者達は皆見透かされたくない何かを見透かされたかのように視線を逸らす。

 

「カラス丸です」

「はっは!見事な小船だ、こんな事なら私も船を造っておくべきだったかな。ダ・ヴィンチ印の改造ウェイバー乗れるの私ぐらいだからね」

 

 カラス丸を見て笑い出すダ・ヴィンチちゃん。皮肉でも馬鹿にしてるでもなく、単純に楽しんでるなこの人。

 コニスは二番ゲートから出て巨大なミルキーロードに乗ればいいと教えてくれる。と、不意にカルナが口を開く。

 

「コニス、感謝しよう。お前のおかげで仲間達を迎えにいける。助かっている、これは紛れもない本心だ。故に聞かせてほしい、何を悲しむ」

「────ッ!」

 

 カルナの言葉に唇をかむコニス。核心つくな此奴。

 

「………おかしいと、思わなかったんですか?「試練」のルートを丁寧に説明したり、ここに自ら案内したり……まるでここへ貴方達を誘導しているみたい」

 

 と、コニスの言葉に周りの白海人達が目を見開き慌て出す。

 

「貴方!おやめなさい!馬鹿なことを口にするもんじゃない!」

「………ああ、なるほど。彼等全員……何となく距離があると思っていたが、てっきり私が変人として見られてるのかと」

 

 ダ・ヴィンチちゃんの事だからそれもあったりして、と目の前で泣き出したコニスがひざを突く。

 

「……逃げてくれませんか……?」

 

 また、周囲の者達がざわめく。中には既に距離を取り始める者でいる。

 

「ごめんなさい……!!」

「よせ!」

「何を言うんだ!」

「超特急エビを……皆さんの船を運んだエビを呼んだのは、私なんですよね!」

 

 周りの騒ぎがピークに達した。カルナは、相変わらずコニスを見ている。

 

「犯罪者を確認したら裁きの地に誘導しないと、私達が殺されてしまう!」

「やめたまえ君!自分が何を言っているか解っているのか!?神への冒涜だぞ!」

「あの女を抑えろ!」

「──これが国民の義務なんですよね!ごめんなさい!!……おかしいですよね?何も、かも…」

「………そうか」

 

 カルナはコニス慟哭が終わるとポツリと呟く。

 

「その自白に免じて、お前を許そうなどとはとても言えん」

「っ!───はい」

 

 コニスは絞り出すように呟く。と、周りの白海人達はもはや止めようとする者も無く全員が距離を取った。神の裁きとやらが来るのだろう。

 空が光り───

 

 バチィィン!!と言う音と共に降ってきた光が弾け飛び遅れて爆風が吹き荒れる。

 

「………え、何………が」

「だが、良く話してくれた」

 

 何て事はない、カルナが槍の一振りで人一人簡単に消滅させる威力を持った雷を消し飛ばしたのだ。ダ・ヴィンチもおー、と口を開けて呆けている。

 

「………なんと」

「あ、空の騎士………」

 

 不意に聞こえた声に振り返ると鎧を着たおじいさんが翼の生えた馬に跨がり目を大きく見開いていた。ていうかダ・ヴィンチちゃんは知ってるのか。

 

「御老人。今この瞬間現れた貴方は、神とやらに敵対する者と見て構わないか?」

「あ、ああ………スルーズから聞いておる。来たばかりの、青海人」

「いえ、オルトリンデでした」

「あ、そうじゃったすまん………」

「で、あるならこの娘を任せたい。守ってやってはくれまいか?」

「うむ、そのつもりだ。お主等はどうするのかね?」

「船長の判断に従うまでだ」

 

 と、カルナ。

 

「もちろん仲間を迎えに行きます」

「あ、そうだ。そのウェイバー、調整がまだなんだ、後で直しておきたいから預かってくれないか?」

 

 元神をパシりにしてるダ・ヴィンチちゃん。空の騎士も戸惑いながら、それでも運んでくれるらしい。良い人だ。

 

「ところでカルナ、さっきの許すとは言えない、というのは………もしかして攫われたシトナイ達が許すか断言できないという意味で、貴方自身は許してたりします?」

「?許すも何も、俺は彼女の行動に怒りなど覚えていない」

「………ですよね」




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神官

 ミルキーロードを下っていると巨大な木々の森が見えてきた。

 

「大きな木だねぇ。樹齢何年なんだろ?これも空島の環境によるものかな?」

「動物も巨大化してますよ」

「へえ、楽しみだね」

 

 本当に楽しそうに笑うダ・ヴィンチちゃん。これから向かうアッパーヤードに一切の恐怖を覚えてなさそうだ。既に入り口付近に差し掛かる。

 

「カルナ、向かってくるもの全て焼き払ってください」

「了解した」

 

 その言葉と同時に向かってきた巨大な振り子が焼かれ、鎖が溶け雲の川に落ちる。ドボォォン!と水面が揺れ船も揺られる。

 一つが動けば他のも動く仕掛けなのかどんどん動き出すが進行先に動いてるのはちょうど良い。全てが重なった瞬間、カルナの放った目からビームが貫いた。

 

「凄いね、能力者かい?」

「ああ。オレはサンサンの実を食べた、太陽人間だ」

「太陽って、あの空に浮かぶ火の塊の?凄いね、推定何億年と光り続けるエネルギーの塊じゃないか」

 

 ダ・ヴィンチちゃんが感心する。この世界、太陽について詳しく解ってるのか知らんが少なくともカルナは数億年分のエネルギーを宿したモノの化身というのは解るだろう。

 

「しかし太陽か、間違いなく炎熱系最強の悪魔の実だろうね……何で有名じゃないんだろ?」

「サンサンの実に関する文献はオレの国に残っていた。大抵は、その力を扱えず焼け死ぬそうだ……」

「つまりカルナ君の才が歴代を上回っていたわけか」

「………ところで、その鎧もその能力に関係あったりします?」

 

 fate……というか原作インド神話においてカルナの纏う黄金の鎧は太陽神スーリヤから授けられた鎧だ。この世界では、どうなのだろう?

 

「船長と似たようなものだ。オレは自然系(ロギア)だが、太陽とは常にそこに存在して、形を変えたりはしない。オレの身体は他の自然系(ロギア)のように攻撃を受け流すなど出来ない。故に、こうして力を固めて鎧にしている」

「へぇ、でも君覇気が使えるんだろう?その覇気を突破されたことはあるのかい?」

「…………ないが」

 

 此奴鎧着てる意味あんのか?まあサーヴァントじゃないからマスターの魔力なんて必要としない完全姿なんてレアだが…………此奴四皇に勝てんじゃね?

 

「しかし太陽と闇、か。何とも奇妙な組み合わせだ………おや?」

 

 お、試練の入り口が見えてきた。沼、鉄、紐、玉の試練。生存率は確か沼から順に50、0、3、10だったか?

 まあカルナが居る以上生存率100%の気がする。さてどれにするか。取り敢えず衝撃(インパクト)が欲しいな。玉にしよう。見た目も面白いし………そう言えば今頃シトナイ達はどうしているだろうか?ここ、湿地帯みたいに少し空気が湿ってるし、シトナイ抱いて寝たい。

 

 

 

「───ひ!?」

 

 ビクン!とシトナイが震える。グルゥ?とシロウが心配そうにすり寄ってきた。

 

「な、何でもないよシロウ……なんか、ちょっといやな予感がしただけ」

 

 シトナイはキョロキョロと周囲を見回す。何だったんだろう、今の悪寒。単なる気のせいだと良いのだが……。

 

「皆何処かに行っちゃうし………この船も底に穴が空いちゃうし……そろそろ換え時かなぁ」

 

 まあ愛着がわくほど乗ってもいないし、今回黄金が大量に手に入るらしいからそのお金でさっさと次の船を買おう。なんか、仲間がどっか行っちゃったし……黄金を持ってくると信じよう。

 

「…………」

 

 チラリと笛を見る。これを吹けばオルトリンデか彼女の姉妹達、もしくは主が飛んでくるそうだが……と、不意に影が差す。

 ゆっくりと振り返る。そこには───

 

「───何処に消えた?」

「白目むいてる!?」

 

 蜘蛛みたいな髪型をした白目をむいた男が立っていた。何で白目向いてるんだろう、前が見えないのに。変な奴だ……。

 

「……白目?はっ!うっかり白目をむいてしまっていた!」

「………………」

「娘、おれは『空番長』ゲダツ!全能なるんんんん、んんんんんん!!」

「………………」

 

 ピィィィッ!と、笛の音が響き渡った。

 

 

 

 

「これはこれは、玉雲か……随分な量だね。けど、これ加工雲は大した面白味もないんだよなぁ」

 

 周囲に無数に浮かぶ玉雲を見てダ・ヴィンチちゃんがつまらなそうに言う。まあ加工雲なんてスカイピアでも確認できるしな。とはいえこの玉雲は中に何か色々入ってるびっくり雲だけどな。

 

「カルナ、進行の邪魔なので全部消しとばしちゃってくれません?」

「それは出来ない。あの玉の中には、生物が居るものもある。彼等の巣だ…縄張りに進入しているのは此方なのに、彼等を脅かすのは道理にあわん」

 

 まあカルナならそう言うわな。予想してたから特にショックとかはない。

 と、その時カルナが上を見上げる。

 

「ほーう!ほほう!青海にも心網(マントラ)の使い手が居たか。ほっほほう」

 

 その声にカルナの視線を追うように上を見上げると、玉のような体型の男が居た。

 

「ほっほほう。へそ!よくぞ我が玉の試練を選んで───」

「ケイオスタイド」

「────ほ?」

 

 俺は闇を津波のように放つ。台詞?聞いてないよ。如何に攻撃が読めるからといって、雷の速度で動けるエネルでもないんだ。範囲攻撃ではい終わり。が、慌てた気配を感じない。

 

「アイイイイイイイッ!!」

 

 ドプンと突き出された腕が飲み込まれた。

 

「───へ?」

「残念ながら、それに衝撃(インパクト)は効きませんよ」

 

 だって実体のない闇だしね。驚愕したデブは、そのまま闇に飲み込まれた。

 

 

 

 

「や、闇が───」

 

 デブの精神が壊れた。そういやインペルダウンで飲まれた奴もこんな感じになってたような、なってなかったような。

 

衝撃(インパクト)かぁ、珍しくもない………」

 

 ダ・ヴィンチちゃんは残念そうだった。

 

 

 

 

「沼雲バーガー!」

「わ、とと!剃!」

 

 シトナイはゲダツが放つ沼雲という沼のような性質を持った雲をかわす。さっきシロウが食らった。沼雲を凍らせて引っ張り出したけど。

 相性は、一応良い。雲……水分の塊である以上凍らせてしまえば最早雲として成立しない。だからゲダツの沼雲は効かないし噴風貝(ジェットダイアル)とやらから放たれるジェットパンチも剃擬きで何とかかわせる。

 

(ありがとうケイローン先生!鬼とか悪魔とか鬼畜とか思ってごめんな───や、そっちは事実か──)

 

 彼の修行が無ければ今頃やられていたと言う自覚はあるが、修行内容が修行内容なので素直に喜べない。

 

「えい!」

「ふぬん!」

 

 氷の矢を放つが弾かれる。やはり致命打にかける。というか───

 

「助けはまだなのぉぉぉ!?」

 

 笛を吹いてからだいぶ経つ。まだ助けはこないのだろうか。と、シロウがゲダツに向かって爪を振るう。

 

「ぬお!己、畜生風情が邪魔を!」

「……っ!危ない、シロウ!」

 

 と、ゲダツがジェットパンチを放とうとしたのを見てシトナイが叫ぶ。如何に強靱な肉体を持つ熊のシロウでもあの一撃は危険だ。

 

「ジェ───ぬぅ!?」

 

 が、その拳は放たれることはなかった。空から現れた騎士が放ったランスの一撃をかわすためだ。

 

「少々待たせた」

「知らない人!」

「我が輩、空の騎士である」

「え、じゃあオルトリンデさんの上司?」

「ガン・フォール!」

 

 ゲダツが叫ぶ。どうやら空の騎士の名はガン・フォールというらしい。

 

「なかなかの相手だ。不足はない、少々手荒に行こうぞピエール」

「ピエ~~!!」

「老いぼれめが、んんん、んんんんんん!!」

「唇を噛んでいては何と言いたいのか伝わらんぞ」

「────ッ!」

 

 雲を放出する靴で空を飛ぶゲダツはガン・フォールの言葉にはっとする。あれはうっかりというか、最早単なる馬鹿だ。あんなのに負けたくない。

 氷の弓に氷の矢をつがえ、力を溜める。

 

「おのれ!姿を消すとは卑怯なり!」

 

 白目を向いて何を寝言言っているんだろうこの馬鹿は。だが、丁度良い。まずは一発。

 氷の矢が飛んだ軌跡に巨大な氷柱が生まれる。

 

「無駄だ!姿が見えずとも心網(マントラ)がある!」

「なら、こう言うのはどう!?」

 

 氷柱の上をシロウがかける。その背中にはシトナイ。

 

「……ぬ!?」

 

 シロウの速度が上がる。ゲダツの予想を超えて……。

 

「ジェットパンチ!」

「きゃあ!?」

 

 氷が砕かれる。投げ出されたシロウとシトナイ。ゲダツがさらにジェットパンチを放とうとする。

 

「させぬ!」

「邪んん!」

 

 ガン・フォールが間に張り込み、殴り飛ばされる。だが、十分。

 

吼えよ我が友、我が力(オプタテシケ・オキムンペ)!」

 

 再び放たれる氷の矢。ゲダツはかわすが矢の軌跡が凍り付き足が固まる。シロウがシトナイの足場となりシトナイが跳ぶ。

 動きが読めようと、動けなければ意味がない。シトナイの手の平がゲダツの顔に触れ、ゲダツが凍り付く。そのまま陸地に向かって蹴りつけた。

 

「お、とと………あ、あの人どうしよ……」

 

 近くの蔓を掴むシトナイ。ゲダツのジェットパンチを食らったガン・フォールは雲池に落ちた。この中には大量の雲ザメの巣だ。そうでなくともシトナイは泳げない。さて、どうするか、と………

 

「ジョー!」

「………へ?」

 

 迷っていると変な鳥が雲池に突っ込みガン・フォールを咥えて浮かび上がってきた。




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合流

 シャンディア達の里、雲隠れの村で大戦士カルガラの血を引く戦士ワイパーはガン・フォールがアッパーヤードに入ったという報告を聞き、今こそ攻め込むべきだと主張した。

 ガン・フォール。それは先代の神。エネルに神の座と部下の神隊を奪われ国を追われた男だ。

 シャンディアと空の民の戦争を終わらせたいなどと()()()()()()老人。

 ワイパーは共存など認めはしなかった。アッパーヤード……あそこは本来シャンディアの民が暮らしていた場所。不幸な事故で空まで飛ばされ、その上不当に奪われた。

 共存などは出来るはずもない。死にたくないと願う空の民100の首と、アッパーヤード全ての返上を以てして漸く休戦できる、というのがワイパーの考えだ。

 逆にラキなどはそう思っていない。ガン・フォールはエネルの下から逃げ出した神隊やそれに間違えられた青海人をシャンディアが襲う時に邪魔をするが傷つけたことはない。

 ワイパーは知ったことかと切り捨てる。敵の敵は味方ではない。神として空島に君臨する以上等しく敵だと。

 

「んー……お姉さんとしてはガン・フォールさんとも仲良くしたいけどねー」

「……………」

 

 ワイパーの言葉に堂々と反論する一人の女。ワイパーがギロリと睨み付けるもその殺気に小揺るぎもしない。

 

「ふざけるのは見た目だけにしろ」

「なにぉう!?アタシの何処がふざけてるって言うのさ!?」

「どっからどう見てもだ!何だその虎は!?」

「タイガーっていうな!ジャガーはどっからどーみてもジャガーでしよぉ?」

「いえ、どっからどう見ても虎よ姉さん」

「…………?」

 

 その言葉に()()()()()()を被り着た女性が首を傾げる。その顔は何言ってんのこの人と雄弁に語っているが、誰もがおまえこそ何してんだと言いたい。

 

「つーか仮にもジャガーの着ぐるみだったとして、何でジャガー……動物の格好するんだよ」

「え?そりゃアタシ、ジャガーの戦士だし」

「シャンディアの戦士だろうが………」

 

 その後、アイサという生まれながら心網(マントラ)が使えるシャンディアの少女が聞いた声によると、アッパーヤードで神官と思われる声()()とガン・フォールと思わしき声の計4つが消えた。

 好機と見たシャンディアは、アッパーヤードに攻め入った。

 

 

 

 

「………ふむ」

 

 ケイローン達は木の幹にめり込んで気絶している男を見つける。特徴的なひげを持ったゴーグルをつけた男。その隣には巨大な鳥。どちらも拳の跡を残している。

 そして、その近くの木の根。かなり大きな木で、根も太い。その根が焼け焦げており、その上に寝っ転がった男。ここだけ雷が落ちたような、そんな跡の上に寝っ転がっているのだから雷にでも撃たれたのだろうか?いびきかいて寝てるけど……。

 

「………んごご………ん、ふぁ………あん?誰だお前ら」

「カルデア海賊団戦闘顧問ケイローンと申します。貴方は?」

「俺はベオウルフってもんだ。ハイウエストを通って来たんだが、全滅してな。金もなかったから入国料払わなかったらここに送られてよ」

 

 はっはっはっ!参った参ったと豪快に笑うベオウルフ。アンはチラリと木にめり込んだ人と鳥を指す。

 

「あれは貴方が?」

「ん?ああ、何か摩訶不思議な試練だとか言いながら人巻き付けてきてよ………取り敢えず殴った。んで、昼寝してたら何か変な音して………まあ眠かったら眠ったが」

「その音って、木の根っこがこうなった原因だよね絶対……寝てたの?」

「ん?おう……」

 

 メアリーはもう一度焼け焦げた根を見る。この人、本当に人間だろうか?

 

「で、お前等は何でこんな所に?」

「我が船の船長がこの島にある黄金を手に入れようとしてましてね。敢えて神の裁きとやらを受けに」

「ほお、黄金ね。ま、頑張れよ」

「………興味なさそうですね」

「ん?ああ、まあ……基本的にゃ強い奴と殴り合い出来りゃ良いしな……ああ、でも船は欲しいな。俺の船ぶっ壊れちまって」

「なら、私達に協力してくれません?そうすれば、船に乗せるぐらいはしますが」

 

 と、アンが提案する。少なくともこの男はかなりの実力者だろう。人を拳一つで木にめり込ませるのだから間違いない。

 

「あん?そりゃ助かるが、協力ってのは何すりゃ良いんだ?」

「そうですわね。私やメアリーは、そこまで強いわけではないんですよね。カルナさんやケイローン先生に比べたら……というわけで、強い敵が出た時に代わりに戦ってもらいたいのです」

「おお、良くわからねぇが強ぇ奴と殴り合えばいいのか?任せろ!」

 

 

 

 ベオウルフを連れ一同は生け贄の祭壇に戻る。と、シトナイが見覚えのない老人を治療していた。近くには氷の枷をはめられた蜘蛛みたいな頭の男。何があったのだろうか?

 

「あ、皆お帰りなさい」

「シトナイ、彼は?」

「空の騎士さん。オルトリンデさんの上司だって……」

「彼が、それでは此方は?」

 

 老人はどうやらオルトリンデの言っていた空の騎士らしい。つまり、シトナイが笛を吹いたという事。笛を吹くような事態に陥ったという事。

 

「申し訳ありません、気づかずに………ではその方は相打ちに?」

「ううん。隙が出来たから私が止め刺した」

「ほう、それは……良くできましたね。これなら修行をもう少し厳しくしても良さそうです」

「…………え」

 

 ふっふーん、と胸を張っていたシトナイはケイローンの言葉にピシリと固まりアンとメアリーがぷっ、と笑う。

 

「お二人もシトナイには負けれませんね。少し厳しくしますよ」

「「………え」」

「お?何だ、修行か?良いじゃねえか、今より強くなれんだろ?」

「それは、そうなんだけど………ねぇ?」

「ええ……強くなれは、するんですが」

「…………?」

 

 遠い目をする二人に首を傾げるベオウルフ。と、不意にケイローンが池につながるミルキーロードに向かって振り向く。船が見えた。乗っているのはサクラ、カルナ、ダ・ヴィンチだ。

 

 

 

 

「おお!これが絶滅種噴風貝(ジエットダイヤル)!早速レアモノにお目にかかれるとはね………」

 

 ダ・ヴィンチちゃんはゲダツの肘から引っ剥がした噴風貝(ジエットダイヤル)を見て目をキラキラ輝かせている。

 

「シトナイ、やりましたね。流石です……」

「ま、まあね……でも修行が厳しくなって………」

「……え、今まで以上?」

 

 シトナイがコクリと頷く。ケイローンを見ると微笑まれた。マジのようだ。畜生。と、落ち込む俺に話しかける影があった。

 

「よお、お前が船長か?強いのか?よし、殴り合おう」

「ベオウルフ……?」

「お?俺のこと知ってんのか?あ、そういや俺賞金首だったな」

 

 ベオウルフ。懸賞金9800万8000B(ベリー)……らしい。海軍の鼠みたいな奴を殴り飛ばして部下達も全員ぶっ飛ばして指名手配されたそうだ。

 

「取り敢えずあれだ。協力するから船に乗せてくれよ。島から出れなくてな」

「……いっそ私達と冒険しませんか?」

「ん?冒険、強い奴らはいんのか?」

偉大なる航路(グランドライン)は進めば進むほど実力者が揃ってますよ……運だけで越えられる海でもありませんし」

「おう、解った。よろしくな船長」

「軽い!!」

 

 ベオウルフのあっさりした返答にシトナイが叫ぶ。まあ此奴強敵と戦うのが目的らしいからな。ベオウルフはカルナを見る。

 

「お前強そうだな。よし、殴り合おうぜ」

「………オレとお前は既に仲間………とはいえ、強さを競いたいと言う者の言葉も無為にはしたくない………だが、この槍はサクラの命令で振るう相手を決める。サクラ、許可をくれないか?」

「やめてください、死んでしまいます」

 

 余波だけで死人が出るわ。ベオウルフがまあ船長命令ならしゃーねぇかと諦めてくれた。と、不意に気配を上から感じる。

 

「ガン・フォール様!」

「ご無事ですか!?」

「あ、貴方達は……」

 

 空から美少女が三人降ってきた。

 金髪の美少女は俺達を見て一瞬だけ警戒するも治療されたガン・フォールを見て霧散させる。

 

「お騒がせして申し訳ありません。この方の治療は、貴方達が?」

「ええ、シトナイが」

「そうですか……ありがとうごさいます」

「助かったよー」

「ありがとうごさいます」

 

 金髪、ピンク、黒髪の順に礼を言う。

 

「申し遅れてしまいましたね。私はスルーズ、ワルキューレの1人です」

「ヒルドだよ、よろしくね」

「改めまして、オルトリンデです」

 

 ワルキューレ達に自己紹介されたので改めて俺達も名乗る。

 

 

「さて、それでは今後の作戦について話し合いましょう」

 

 と、俺は地図を広げながら話を始める。原作知識を頼りに描いた地図だ。

 

「この中心にある大きな蔓、この頂点の近くに黄金の鐘があります」

「黄金の鐘?」

「これを鳴らせばシャンディアと天の戦争も終わらせられるでしょうね。エネル達は別ですが………そう言うわけでエネルの相手を、カルナにお願いしたいのですが」

「了解した」

「月までふっ飛ばしちゃってください」

「相手の実力も知らぬ内から可能だ、などとは言わないが、善処しよう」

 

 勝ったな。風呂入ってこよう……。

 

 

 

「はっはっはっ!なかなかいける口だなお前等!」

「ウオウオ~~!!」

 

 ベオウルフが豪快に笑い、雲ウルフが吼える。

 キャンプファイヤーしてたら、何か、集まってきた。今はキャンプファイヤーを囲みながらシロウやヒルドと一緒に踊っている。

 

「そうか……やはり、無理か?」

「はい、私達の役目は貴方の身を守る事です」

 

 俺達の手伝いをしろというガン・フォールの命令に対してそれでは傷ついた貴方を守れないとスルーズが拒否する。ヒルドやオルトリンデも同様の答えのようだ。

 何故か個性が分かれても、本質は変わらないという事か。というか何で増える実の能力で個性が分かれた個体になるのだろうか?

 

「お前達の姉のように、自由に生きてよいのだぞ」

「………しかし」

「エネルさえ倒せば我輩は役目を終える。姉を追い、青海に降りるのもお主等の自由だ」

「え、3人とも青海に来るんですか?だったら、是非とも私の海賊団に」

 

 楽しいですよ~、と誘う。迷っているみたいだな。姉とやらに会いたいのだろう。姉って、やっぱりあの人だよね?

 ま、まあ絆レベル上げなければ安全な人だしな…………カルナの身が危険かも。いや、カルナなら大丈夫か。

 

 

 

 

 

「サバイバル、ですか?」

 

 尼のような格好をした女は長い耳朶を持った坊主のような男の言葉に首を傾げる。その隣ではサングラスを付けたスキンヘッドの男が涙を流していた。

 

「ヤハハハ、その通り。青海人どもの狙いは黄金。明日動くだろうしシャンディアも攻めてくるだろう。神官もお前を除きやられているし、アッパーヤード全域を開放する。お前も、好きにするが良い」

 

 スキンヘッドの男と女に好きに動けと命じる坊主。

 

「あっさりやれるとは、神に仕えるものでありながら何と力の足らぬ連中よ………悲しい事だ」

「ええ、特にサトリ様は……一度反応が消えたと思ったら、途轍もない恐怖を覚えていたようですね。ゲダツ様は、寒そうでしたね。ガン・フォール様もゲダツ様の一撃で、死にはしなくても肋に罅が入り、内臓も圧迫され今も苦しそう。シュラ様は………一撃でしたから良く」

「ヤハハハ。お前の心網(マントラ)か……痛みまで関知するとは難儀なものだ。サバイバルは辛いモノになるだろう。だからといって止める気はないがな」

「辛い?いいえ、そんなことはありません。だって、50人の神兵と神兵長様にオーム様、21人のシャンディア……それに青海人8名。ガン・フォール様は戦えないとしてもその部下ワルキューレ達3名総勢85………その痛み、全てがわたくしの元に流れてくるのだなんて………こんなに()()()()()()()などそうはありましょうか」

「不気味な女め」

「ふむ、計算を間違えているぞ。お前を含めぬのだからな………それとも、ヤハハ。私を含めているのではあるまいな」

「うふふ……」




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空の主

 カルデア海賊団は二手に分かれる。船を島の外に出し、近くに待機させておく班と黄金探索班だ。

 船に残ったのは怪我で動けないガン・フォールとガン・フォールの様子を見るのと船の操作のためにシトナイ。ガン・フォールの護衛のワルキューレ三人組に新しく仲間になったベオウルフ、そしてガン・フォールの鳥ピエールだ。

 

「そうか、シュラを倒してくれていたのか」

「おお、大して強くなかったがな」

 

 ガン・フォールの言葉に肉を喰いながらガハハ、と笑うベオウルフ。

 あのサクラがわざわざ仲間にした男なのだ。それはつまり、それだけの実力者という事。

 ……………いや、もしかして単純に強い男が好きなのだろうか?サクラ、あの見た目で有り得ないほどの膂力を持ってるし、自称四皇の一人の顔に傷を残せる身体能力らしいし……。

 だから自分より強い男に会えず女に走ったとか?なら、明らかに強いカルナなケイローンをどう思っているのだろうか。いや、でも寝所に誘われるのは女だけだし、安心か?いや、安心じゃない……。

 

「ていうか何で私サクラの交際関係気にしてるの!?」

 

 絆レベルさ、と三頭身の目をかっぴらいた赤毛の女の子みたいな物体が一瞬見えた気がした。

 突然叫んだシトナイを訝しむ一同。冷静になったシトナイは顔を赤くしてシロウの毛皮に顔を押し付ける。

 

「船長殿か………彼女は(ダイアル)についても詳しかったな。何者だ?」

「さあ、サクラがどこで知識を得たかなんて私達は知らないし、興味もないから。私は海に憧れてて、サクラが私を誘って、私がついて行くって決めた。それだけの関係だもん」

 

 改めて、自分は本当に彼女を知らないのだと思わされる。

 初めて会った時から何となく好意を向けられていたような気はする。女の子が好きみたいだし、見た目が好みなのかと思えばタイプの違うアンまで対象だったし。

 そんな、彼女について考えているシトナイ。その頃のサクラと言えば………

 

 

 

「ジュララ~♪ジュラジュラジュ~ラ~ラ♪」

 

 と、歌う蛇の頭にいた。こんな光景を見ればシトナイはさらに混乱することだろう。

 

 

 

 遡ること20分。

 黄金を探しに森を歩くサクラ、アン、メアリー、ケイローン、カルナ、ダ・ヴィンチ。

 不意にカルナが振り返る。

 

「カルナ?どうしました?」

 

 サクラが尋ねると、カルナはいや、と向き直る。

 

「70名程人がこの地に入り込んだようだ」

「ん?そんなのカルナ君の覇気でちゃちゃっと始末してくれたまえよ」

 

 始末って、別に死ぬわけじゃなかろに………。まあそれですむなら楽で良いのだが。

 

「それは出来ない…」

「?何故ですの?」

「やりたくないからな」

「そんな理由?」

 

 アンとメアリーが何とも言えない顔をする。恐らくだが、今回の敵はホワイトベレーと違い全員己の行いに恥を持たず実行する()()とか、そう言う理由だろう。カルナの性格的に覚悟を持ってきた相手を脅して気絶させる、などというやり方は好まないのだろうが本当に必要なこと喋んないな此奴。

 

「では何手かに分かれましょう。敵の狙いをわかりやすくする理由もないですからね」

 

 

 

 

 さて、そんなこんなで仲間と別れたサクラは絶滅種持ちのワイパーにあいたいなぁ、と思っているとメキメキと枝が折れる音がした。

 

「ジュララ───!!」

「あ、ノラ」

「………ジュラ?」

 

 襲ってきた巨大な蛇に対処しようとしたサクラだがつい口から出た言葉。その言葉に、蟒蛇の動きが止まり首を傾げる。

 そのままジーっとサクラを見つめる。見覚えがない、が……目の前の獲物は、確かに自分の名を呼んだ。

 

「あれ、止まった………どうしたんですか?」

「………ジュラァ、ジュラララ」

「…………もしかして、覇王色に目覚めた?いえ、仮にも空の主が目覚めたての覇気に驚くなんて…………あ、もしかしてですけど、ノラって名前ですか?」

「ジュラララ」

 

 コクコク頷く空の主こと大蛇のノラ。サクラはジーと眺め続けすぐそばに来たノラの顔に触れる。

 

「私は色々知ってますよ。黄金の鐘の、貴方が大好きなあの音の鳴らし方も」

「ジュラ?ジュララァ!」

 

 サクラの言葉を理解するだけの知能があるらしい。嬉しそうになくノラはサクラに甘えようと鼻先を押し付ける。海王類もかくやというサイズのノラだ。押しつぶされそうになるも、頭に移動し巨大豆蔓(ジャイアント・ジャック)を目指す。

 

「メ〜〜! 空の主を従えるとは面妖な! しかし、隙だらけぶぅ!?」

 

 飛び出してきた神兵がノラの尻尾で吹き飛ばされる。

 

「よしよし、いい子ですねノラは。目指すは黄金の船……黄金は丸ごと頂いて、船は改造して私達の船にでもしましょうか」

「ジュラァ♪」

 

 頭を撫でられ上機嫌のノラと共に、サクラは黄金を目指した。




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サバイバル1

 神の社。

 

「3時間後に何名残るか………おいお前、当ててみろ」

 

 エネルは暇なのか、侍従の一人に問いかける。

 

「そ、そうですね。青海人は神官の方々もやられる程の実力者ですし……しかし3時間となると、40人と言う事で……」

「ヤハハハハ! なる程な……40人か。だがそれでは少し甘いんじゃあないか? お前はこの戦いをなめている」

「では……(ゴッド)はどうお考えで?」

「よし、私がズバリ答えてやろう。3時間後、この島に立っていられるのは、7人だ」

 

 

 シャンディアの一団が雲の川(ミルキーロード)を走る。スケートタイプのウェイバーで高速に移動する戦士達は、常に周囲を警戒している。

 

「神官達の動きがない………3人やられたってのは本当のようだな」

「それだけの実力者が今回の侵入者ってわけか」

「おくすな、たとえ相手が何者だろうと、やることは変わらない」

 

 

 

 

 ノラの背に乗りながらふぁ、と欠伸をするサクラ。並の神兵相手ならノラが対処してくれるし、する事がない。

 

「にゃ〜はっはっ!まさか空の主と一緒に移動してるなんてにゃあ!」

「───ッ!誰です?」

 

 気怠げに目元を擦っていると不意に聞こえてきた笑い声。上体を起こし警戒する。ノラもシュルル、と唸る。

 

「ワタシが誰かって!? ん〜、なんだろ。謎の美女かなぁ?」

「ああ、さては馬鹿ですね?」

「カバじゃねーし!」

 

 と、木の上から謎の影が降りてきた。虎のキグルミを来た、変な女だ。

 

「………ジャガーマン?」

「大・正・解! 我こそは戦士の化身、ジャガーの戦士、ジャガァァァァマン!」

 

 ビシッ! とポーズを取るジャガーマンと呼ばれた女性に、サクラの目はなんだか疲れを帯び始める。

 

「んん? 何やらダウナー? コラコラ、勝手に人の庭に土足で入り込んでやる気がないってどういう事なの」

「人の庭?」

「そう! ここは、ジャガーの土地! またはシャンディアの地! まあどっちも似たようなものニャ」

 

 なる程さてはこいつ、話が通じないな? これでクラスがランサーなのだから笑えない。

 

「まあ別に私は何時でもウェルカム何だけどね? 大地(ヴァース)はほら、皆のモノだから。でも最近反抗期のワイパーが五月蝿いニャア」

 

 ヤレヤレ、と肩を落とすジャガーマン。彼女自身の考え方は穏健派よりということだろう。

 

「ま、でも今回ばかりは挨拶も菓子折りもなく侵入した自分の浅はかさを恨むんだニャ!」

「なる程………では、どうもお邪魔します。コチラ、昼餉にと持ってきた食料です」

 

 と、闇の中から取り出した弁当を見せるサクラに、ジャガーマンはフッ、と笑う。

 

「シャンディアへようこそ、何もない所だけどゆっくりしていってね!」

「ゆっくりさせるなぁ!」

「あ、ワイパー」

 

 ドーンと言う効果音が聞こえてきそうな切り返しをしたジャガーマンに、何処からともなく現れたワイパーが叫ぶ。

 

「ほらノラ、あれが貴方の大好きなカルガラの血を引くシャンディアの戦士ですよ」

「ジュラ? ジュララァ〜♪」

「っ! 空の主!!」

 

 カルガラの子孫と聞いて嬉しそうに擦り寄ろうとするノラにワイパーがバズーカをぶっ放すが効いた様子はない。

 

「え〜っと、ノラちゃん? ちょ〜っと落ち着く………ニャ!」

「ジュラ!?」

 

 ワイパーを押しつぶしかねないノラを、ジャガーマンが手に持つ猫化動物の肉球をもしたハンマーのような物体で殴って止めた。余りの衝撃に上に乗ってたサクラが落ちそうになった。

 

「ジュラァァ!」

「わ、元気!」

「………はぁ。ノラ、落ち着きなさい。あのままじゃカルガラの子孫を潰しそうだったから止めてくれたのよ」

「ジュラ?」

 

 本来の歴史において、未来では子供たちと遊んでたりもするノラ。大昔の人間の声も言葉もしっかり覚えているだけあり知能は高く、サクラの言葉を理解し止まる。

 

「………お前、なぜ大戦士の名を知っている」

「知っていますよ、色々と。例えばこの子はカルガラの大親友モンブラン・ノーランドが殺した蛇神の子でありカルガラに殺された大蛇の子、ノラ。モンブラン・ノーランドと大戦士カルガラの出会いの切欠となった生贄を求める神の孫です」

 

 ジャガーマンに叩かれたところをヨシヨシと撫でてやりながら説明するサクラ。カルガラだけでなく、ノーランドの名まで出て来て、ワイパーは目を見開き固まる。

 

「本当は、ノーランドの子孫と約束した人が来るんでしょうが………エネルが私達を狙い、ダ・ヴィンチちゃんの存在も考えれば彼女の研究結果だけでも完成が早まるであろうあの船のことなんかも合わせるとさっさと行動したほうが良いでしょうしね。この子との約束もありますし、私は黄金の鐘を鳴らしに行きます」

「ジュラァ! ジュララ、ジュラ〜ラ〜〜♪」

 

 ノラは嬉しそうに頭を左右に揺らす。

 

「おえっぷ………き、気持ち悪い」

 

 彼からすれば少しの動きもちいさな人間からすれば大きな揺れ。口元を押さえ吐き気に耐えるサクラにノラが慌てて止まる。

 

「待て! それはカルガラの血を引く俺達の役目だ!」

「私は別に、どっちでもいいですよ。貴方がキチンと青海に残されたシャンディアの故郷の一部に住まうノーランドの子孫に届く程、鐘を鳴らしてくれるのなら」

「お前は………会ったのか? ノーランドの子孫と」

「いいえ? 存在は知ってますが、この目で見た事はありません」

「………なら、鐘を鳴らすのはやはり俺だ」

 

 と、背を向けるワイパー。

 

「私を殺さなくて良いんですかぁ?」

「…………ふん」

 

 ワイパーはそれだけ言って、走り去った。隣でジャガーマンが「ツンデレだ」とこぼすとバズーカが飛んできたが普通に打ち返した。

 

「さて、他はどうなってるかな?」

 

 見聞色の覇気は、まだ覚えていない。覚えておけば良かったと思ったが、口に出したら地獄の特訓が待っている事だろう。

 

「ほほーう」

「ほっほっほーう」

「…………?」

 

 と、不意に聞こえた妙な鳴き声に振り返る。

 

 

 

 

「ふむふむ、古代遺跡か。私は別に考古学者ってわけじゃあないけど、これはこれで心が踊るね」

 

 と、シャンディア古代遺跡にやってきたダ・ヴィンチ。他の面々はまだここに来ていないらしい。

 遺跡を観察していると、バキリと枝をふむ音が聞こえてきた。

 

「誰かな?」

「これはこれは……可愛らしいお嬢さん。その容姿、もしや青海の学者様?」

「ん〜。少し違うけど、まあ空島の皆にはそう言うふうに思われてた、かな………?」

「それはそれは……貴方の出した論文のおかげで『船』の完成が早まったと、(ゴッド)もお喜びでした。しかし聖地に入ったのならしかたありません。罪人として、私が始末しましょう! メ〜〜〜!!」

 

 

 

 

「空には存在しない鉄の威力に万能性を感じてしまうのは仕方ないですが、世界には鉄より硬くなる技もあります。それを使える人間もごまんといますからね……それに頼りきりでは、私には勝てませんよ」

 

 [カルデア海賊団]ケイローンVS[シャンディア]ゲンボウ。

 勝者、ケイローン。

 

 

 

 

「その程度の光では、太陽たる俺の目は眩まない。褒めるべきは、射撃の腕だけだ」

 

 [カルデア海賊団]カルナVS[シャンディア]ブラハム。

 勝者、カルナ。因みに本気で褒めてるつもりです。

 

 

 

 

「ヒルド! スルーズ! オルトリンデ!」

 

 その頃、島外の雲の川(ミルキーロード)を進んでいたシトナイ達の所に突如現れた上半身裸の坊主、背中に複数の太鼓が付いた輪を生やした男が武器を構えたワルキューレ姉妹を一瞬で戦闘不能にしていた。

 

「ヤハハハハ。相変わらず、血の気の多い小娘共だ……別に私は、お前達に危害を加えに来た訳ではないというのに」

「ならば何をしに来た!?」

 

 敵意を込めた視線を向け叫ぶガン・フォールに、しかしエネルは笑みを絶やさない。

 

「ヤハハ……冷たい言い草じゃないか。実に6年ぶりの再会だぞ! 先代(ゴッド)ガン・フォール」




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サバイバル2

 旧(ゴッド)と現(ゴッド)

 人徳の王と力の王の対面に、ベオウルフは敢えて手を出さない事を選択。これは当人達の問題だろう。

 シトナイは警戒しつつも、及び腰だ。オルトリンデ達の攻撃を透過したのを見るに、自然(ロギア)系の能力者。僅かに見えた紫電から察するにその中でも最強候補の雷の力を手に入れる『ゴロゴロの実』だろう。

 

「貴様一体何を企んでおるのだ!」

「………6年前、我等がこの島に攻め込んだ時捕らえたお前の部下達は元気に働いてくれているぞ。腕力もある、実にいい人材だ」

 

 ガン・フォールの言葉に応えず、エネルは一方的に話し始める。元より会話する気など無かったのだろう。この6年間の働きも、終盤に入ったと彼はいう。直にこの土地を去るから、前神にして6年間働かせ続けた彼等の上司であるガン・フォールに別れの挨拶をしに来たのだと嘯く。

 

「───しかし、このスカイピアの住人共はつくづくめでたい奴等だ。この土地をただの“大地(ヴァース)”の塊としてしか見ていないのだから」

「!? どういう事だ……」

「我々がこの島を強硬に奪い取った理由、青海のハエ共がこの地に足を踏み入れる理由。そしてシャンディアが帰郷に固執する理由も相違あるまい。つまり、誰もがこの島に求めることは1つ!全ては遠い過去青海に栄えた伝説の「黄金都市」、シャンドラの()()を欲するが故だ!」

 

 黄金と聞き反応するのは青海人のイリヤとベオウルフ。逆にガン・フォールは困惑していた。黄金を知らぬのだろう。そんな彼の様子にエネルは嘲る様に笑った。

 

「ヤハハ……だからめでたいと言っている。黄金の存在もその価値も、知らぬはこの国に住まう当人達ばかりよ!」

 

 嘲るように、ではなく、事実嘲笑っているのだろう。そんなエネルの態度に怒気を滲ませるガン・フォール。オウゴンだかオーゴンだかどうでも良い。そんなもののために捕まった嘗ての部下達の安否を聞きたい。

 

「くしくもゲームは最終戦。このサバイバルを制したものが莫大な黄金を手に入れる。ヤハハ、聞こえるか?賑やかな祭りの騒ぎが。何を隠そう私も参加者なのでね……では、ゆかねば」

「待て!神隊は解放するのか!?」

 

 去ろうとするエネルの背に向かい叫ぶガン・フォール。エネルはやはり、嘲るような笑みを浮かべる。

 

「………それは神のみぞ知る事だ」

「待てエネル!」

 

 そのような答えでは納得せぬと叫ぶガン・フォールだったが、エネルはそのまま紫電を残し消えてしまった。

 

「…………悪魔の実。それも、自然系(ロギア)………そ、そんなのどうやって勝てば」

 

 シトナイが思わず呟く。身体を非実態化させる自然(ロギア)系の悪魔の実の能力者には、基本的に勝ち目はない。それがこの海の常識。

 

「あん? んなもん気合で殴りゃなんとかなるだろ」

「なるわけないじゃない!」

「俺はできたけどな………」

 

 と、ベオウルフが頭をかいていた。

 

 

 

 

 サクラは目の前に現れた横から見ても前から見ても上から見てもまんまる体型の二人組を見て首を傾げる。

 

「貴方達、私に何か用ですか?」

「『何か用ですか?』じゃなーい! 良くも兄貴を! 俺達は『副神兵長』! 良くもサトリの兄貴を!」

「ほっほほーう!」

 

 ああ、と思い出すサクラ。確か、ケイオスタイド……というか闇に飲み込んだ神官には弟が二人いたっけ、その二人だ。原作では船の方に行ったが、今回はこちらに来たらしい。原作ではサンジとウソップもいたし、そっちを狙っていたのだったか? そして、こちらではサクラが片付けたからサクラを狙って来たのだろう。

 

「まあ、どうでもいいですけど」

「ん? 何だこの黒い球雲」

 

 サトリの弟達の片方の周囲に黒い球体が複数現れる。サクラが指を鳴らすと無数の棘を生やし体を貫く。

 

「ほごぉ!?」

「ホトリ〜〜!?」

 

 片割れがやられ、しかし直ぐにサクラに敵意を向ける残されたデブ。

 

「喰らえ! 衝撃(インパクト)!!」

「………………」

「……………ほう?」

 

 サクラの腹に触れ、(ダイヤル)から衝撃を放つが、何も起きない。まるで衝撃を吸い込まれたかのように………まさか、服の下に(ダイヤル)を?

 

「次は私の番………優しくしてあげますよ」

 

 ニコリと微笑み、次の瞬間地面から噴き出すような現れた紐状の闇が数本、渦を巻きながら天に昇る。

 

「ほげぇ!?」

 

 超重力の塊に肉を引き千切られながら吹き飛ばされたコトリの落ちる先に居るのは、ジャガーマン。

 

「ジャガー…………ホームラン!!」

「ぶえほぉ!!!」

 

 コトリはそのまま遠くへ飛ばされ、あっと言う間に見えなくなった。




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