がんばれカオスさん (ちゅーに菌)
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カオスさん誕生


 皆様まずは挨拶をば、ちゅーに菌or病魔と申します。不慣れではありますが、暇潰しにでも楽しんでいただければ幸いです。不定期更新となりますが、それなりに早い更新を心掛けたいと思います。

 この小説の投稿動機としては、色々考えた結果、束さんの奴隷になりたいと思ったので小説を始めました。





 

 

 

――――年――月――日

 

 施設の奴らに隠れて日記ぐらいは書けるようになったので、書いてみることにした。まあ、俺はめんどくさがりやなので、気が向いたときに記録するだけになりそうだが、別にいいだろう。

 俺が転生という眉唾なモノを経験してから約10年が経つ。まさか、来世の自分が"完璧な人間"だか"最高の人類"だかを造り出す施設の人造人間に生まれ変わるなんて思うわけもあるまい。文面にするとより意味がわからないな。

 とはいっても俺自身この地下工場と研究室が合わさったような部屋に生まれからずっと軟禁されて、施設の奴ら――長いからまとめてアイツらでいいか。アイツらのために兵器を作ったり、他の人造人間を作ったりするだけの生活をしているのでこの施設の地下区画以外のことはさっぱりわからん。

 ちなみに今世の俺は無茶苦茶頭がよかったりするが、それは別に前世でもそうだったわけでなく、俺は"完璧な頭脳を持つ人間"ということで唯一成功した人造人間らしい。そんなわけでやろうと思ったことは、素材と時間さえあればなんでも機械やら生体やらで再現出来てしまうぐらい頭がいいのだ。

 いつか、前世のアニメやゲームの知識から色々作りたいものである。

 

 

 

――――年――月――日

 

 アイツらに助手が欲しいとか、材料が重くて運べないとか弱音を吐いていたら人造人間をひとり助手につけてくれた。しかも東洋系の黒髪美少女だったので、内心小躍りしたのはナイショだ。

 しかし、ソイツが中々くせ者だった。"完璧な肉体を持つ人間"の成功例なだけはあり、軽々と鉄骨や生きてない人造人間を持ち上げる姿は大変頼もしいのだが、全く生活能力がなかったのである。お陰で少し目を離すと部屋の一角がごみ溜めのようになり、そこからバイオハザードが発生してもおかしくない。

 残念な美人というかなんというか、道徳心的な問題かと思って、倫理観やら慈愛やら人間に必要なことを色々教えてみたが、全く変わる様子がないので、性格的な問題なのだろう。

 それと色々教えたせいで人間らしくなったのはいいのだが、小生意気になってきたのはいただけない。だが、頭脳しかない俺が、化け物染みた身体能力をしている彼女には、逆立ちしても勝てないので何も出来ないのである。年下なのに、ぐぬぬ。

 

 

 

――――年――月――日

 

 最近、助手ちゃんの様子が少しおかしいので、話を聞いてみると、同じく人造人間の弟だけでも連れて、この施設から逃げたいという話が聞けた。どうやら助手ちゃんは思った以上に人間らしくなっていたようだ。

 ならば答えてやるのが世の情け、俺はその日のうちに助手ちゃんと弟――そして"妹"の3人が、事故死したように見せ掛ける脱出計画を立案して助手ちゃんに聞かせ、範囲は狭いが空間ごと抉り取るタイプの小型爆弾を渡した。

 助手ちゃんが目を丸くしてとても面白い顔をしていたのを見れただけでも収穫だったといえよう。『お前は行かないのか?』なんてことを言われたので、助手ちゃんが消えた後に事後処理をする者が必要などと適当なことを言って納得させた。本当は仕事さえしていれば、3食昼寝つきな生活がそこそこ気に入っているためなのだが、言わぬが花である。

 最後に助手ちゃんが部屋から出ていく姿を見送ったとき、とても悲壮な顔をしていたので、かなり後ろ髪引かれたことは記しておこう。

 

 

――――年――月――日

 

 インフィニット・ストラトス、白騎士事件、アラスカ条約。助手ちゃんが出ていってから数年内に起きた時代の変化である。

 インフィニット・ストラトス――長いからISなる宇宙空間での活動を想定したマルチフォーム・スーツの登場と、それに纏わる事件、それから条約の制定。あっという間に世界のパワーバランスは変化したと言える。

 これまではアイツらは俺に自律型のガードマシンや人造人間の製造をさせていたが、ガードマシンはほとんど作られなくなり、人造人間の製造に関してはほぼ完全になくなってしまった。まあ、後者は時代というよりも、完璧な人間を作る計画そのものが破綻したらしいが、詳しくは聞かされていないので知らん。

 そんなことよりも俺はISの方に興味津々なのである。女性にしか乗れないらしいが、宇宙用のロボットスーツなんて夢がひろがりんぐ。男の子はそういうものに弱いのです。

 

 

 

――――年――月――日

 

 アイツら、無理難題を押し付けてきやがった。ISのコアを幾つか持ってくるなり、"コレを実用化しろ"とのことだ。いや、流石にアホだろ。幾らコアが人間にとって、真の意味でのブラックボックスな上、ISの開発が実用化レベルで手探りだからといって丸投げして出来るわけねーだろ!

 と、普通なら思うかもしれないが、俺にとってはお茶の子さいさいな話である。資材が足りなくて作れなかっただけであり、前世で知っていたロボットや兵器を再現する構想を練ることだけはしていたからな。実力化ぐらいなら簡単な話だ。

 しかし、それとなく渋い顔をしつつ1か月の猶予を貰った。1か月でこのオーパーツ染みた物体を実用レベルまで引き上げられるならアイツらとしては儲けものだろう。

 ちなみにやろうと思えば2日3日で終わるソレになぜ、そこまでの猶予が必要かと言えば単純な話。アイツらに気づかれないようにISコアの構造を解析して、模造品を造るためだ。いい加減、俺もこの暗く鉄臭い部屋からお暇することにしたのである。ISというものがある世界なんて、とても楽しそうじゃないか。

 男には乗れない代物ならば、自律型にすればいいし、幸いにもこの施設では生体部品には困らないのでそちらで誤認させたって構わないだろう。ちなみにだが、どんな自律型ISを作るのかは、もう決めていたりする。

 

 むふふふ、ようやく俺の前世の2次元の知識を存分に発揮してエンジョイ&エキサイティング出来るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、思ってたんだけどなぁ……」

 

 俺は部屋の外で戦っているガードマシンの反応が次々と消えていくのを部屋のモニターで確認しながら溜め息を吐いた。

 

 どうやらアイツらにとって俺は最早、用済みらしい。あるいはISの実用化を1か月で済ませたことに対して今更ながら危機感を覚えられたのか。まあ、どっちでもそう変わらない話だ。

 

 モニターをカメラ映像に切り替えると、俺が製作してアイツらに渡したISのうち3機が、制御権を乗っ取ったガードマシンを破壊しながらこの部屋を目指している様子だった。

 

 うーん、我ながら自律型ISの製作に追われて、アイツらに渡した方のISに何も細工をしなかったのはアホとしか思えないなぁ。でもまさか、真っ先に俺を狙って来るとは思ってもみなかったぞ。

 

「お前もそう思うだろ?」

 

『………………』

 

 培養槽に浮かぶ、俺と同じ金髪でアメジストの瞳を持った小さな少女に対してそう問い掛けるが答えはない。それもそのはず、この少女の形をしたモノこそが自律型ISである。

 

「後、数日あれば完成したんだけどな……」

 

 俺は誰に言うわけでもなく溜め息を吐くと、大袈裟に肩を竦めて見せる。しかし、俺の身体は血濡れであり、未だに血が溢れ出ているため、不格好なものだ。

 

 自律型ISの心臓には模造したISコアを、素体には俺の細胞から培養した始めから生きていないモノを、武装は"オンリーワン"のモノを搭載し、無駄に再現度の高いクオリティを実現した。見た目は人造人間そのものなので、アイツらにも怪しまれることはない。そこまではよかった。

 

 だが、自律行動を出来るようにする"頭脳と心"に当たる部分は最後に作ろうと、ショートケーキのイチゴ気分で取っておいたら、肝心なときに起動できずこの様だ。バカと天才は紙一重と言うが、俺は満場一致でバカの方だろう。

 

 本当ならこの可愛らしくて強いちみっこが俺を守ってくれるハズだったんだがな……。

 

 そんなことを考えていると、目が少し霞み始め、寒さと眠気に襲われる。ああ、死ぬなコレ。前世でも1回体験したので確信を持って言える。というか、部屋の外にいるISが到達する前に死ぬぞこれ。

 

「仕方ない……」

 

 俺は遠隔操作で自律型ISを起動した。光のない目をした少女が培養槽から這い出てくるが、作業用の機能なので戦闘などは出来ない。ラジコン操作のようなものだ。

 

 モニターは少女の視界を映しており、少女の前に立つ俺の姿が映る。既に死にかけで肩で息をしており、痩せ我慢だけは一丁前だということがよくわかった。

 

「まさか、また死ぬハメになるとはな……」

 

 すると俺の目の前に立つ全裸の金髪の少女の背に、主武装である"鋭利な刃物のように禍々しい形状の3対の紫色の翼"が展開された。

 

 理論は完璧なハズだ。それに魂がないからこそ成功するハズだ。分の悪い賭けだがこれ以上に良い方法は、この無駄に頭だけはいい身体でも思い付かない。

 

 そして、自律型ISの紫色の鋭利な翼の切っ先は俺を囲むように向けられた。

 

「………………押したくねぇなぁ……」

 

 後、ワンプッシュであるが、ここで躊躇なく押せるほど強靭な精神はしていない。心の方は依然として一般人とそう変わらないのだ。

 

 しかし、それでも俺が押せた理由はたったひとつ――。

 

 

 

「まあ、死んだらまた来世があるかもな」

 

 

 

 そんな諦めの境地と共に、最期のボタンを押した瞬間、自律型ISの翼は俺の全身を刺し貫き、激痛と共に速やかな死を与えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたとき、俺が真っ先に感じたのは濃厚な血の臭いだった。それも口の中が一番強く、爽やかさからは程遠い動物系の脂っぽい味も口一杯に広がっている。

 

「うぇ……」

 

 思わず、口の中のモノを出しそうになるが、出したら出したで問題になっても困るので飲み込む。そして、立ち上がって床を見ると――獣に食い荒らされたような俺だったモノの僅かな残骸と大量の血液が広がっていた。

 

 

「うわぁ……」

 

 ドン引きといった様子の声を上げる俺の声は、まるで小さな少女のようなものであり、視線の高さから随分縮んでしまったこともわかった。

 

 そして、部屋にある姿鏡の前に行くと――俺が自律型ISと呼んでいた少女が絶妙な半笑いを浮かべながら肩を竦めていた。

 

 まあ、最早言うまでもなく、俺の新しい身体である。

 

 俺は鏡の隣に掛けてある修道服を着て、再び鏡に戻る。

 

「うんうん、"Pandora(パンドラ)"は正常に稼働しているな」

 

 そこには鋭利な刃物のように禍々しい形状の3対の紫色の翼を持ち、修道服を着た金髪でアメジストの瞳をした幼女の外見の存在――"そらのおとしもの"という作品に登場する、第二世代エンジェロイド・タイプε(イプシロン)"Chaos(カオス)"そのものが居た。

 

 俺は構想に3年。製作に1か月掛けてそれをISで再現したのである。

 

 とはいっても流石にエンジェロイドほど頑丈な身体ではない。機械と人造人間の細胞を組み合わせて、この資源の資源から作れる限りの性能の身体であり、生身でISとやや有利に渡り合えるのが精々だろう。

 

 再現したのは主に機能面――Pandora(パンドラ)だ。

 

 パンドラはそらのおとしものに登場する自己進化するシステムそのものであり、原作とアニメのどちらでも他を喰らって自らの機能に加えるようなことや、喰らって身体を再生させることをやってのけている。

 

 俺の意識――心や魂がこの身体に移ったのも、俺を補食したためだ。もしもの時のために、カオスに俺が食われた場合、こうなるように設定していたのが役に立ったわけだ。

 

「"ごはん"が必要だな」

 

 補食する役割を持つ背中の翼(可変ウィング)を動かしながらそんなことを呟く。

 

 はっきり言って今のカオス擬き()は弱い。確かに電子戦能力、遠距離兵装、機動力はこの時点でも既存のISとは比べ物にならないほど高いが、それでもニュータイプみたいな奴らに囲まれれば負ける自信がある。何せ、中身は俺だしな。戦いの才能なんてあるわけもない。

 

 というわけで早いところ、更なるスペックの強化と武装の充実化を図りたい。まあ、具体的に何がしたいかと言えば――ISを食べたいのだ。

 

 そんなことを考えていると入り口の鉄扉が吹き飛び、部屋の中に3機のISが雪崩れ込むように入ってきた。

 

 ISに乗った者たちは困惑している様子だ。まあ、ほとんどを食われた男の死体と機械の翼を持つ1mと少しの背しかない少女がいるだけだ。何が起きたのかわかる筈もないだろう。

 

 しかし、油断は禁物、先手必勝。俺はスペックを存分に活かしてISに迫ると可変ウィングを広げて襲い掛かった。

 

「いただきます」

 

 きっと俺の表情は、無意識に笑みを溢していただろう。ある意味、俺の新しい人生は、この日から始まったのだから。

 

 

 

 





 ちなみに主人公はあくまでもエンジェロイドっぽい自律型ISです。エンジェロイドほどの性能はありません。そらのおとしものの不思議アイテムもかなり頑張らないと作れませんので悪しからず。

 後、これだけ言っておきますが、そらのおとしものはクッソエロ――面白い作品なので皆さん読みましょう。作者のバイブルです。アニメもあります。



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愛玩用エンジェロイドカオスさん

 どうもちゅーに菌or病魔です。連続投稿になります。

 他の小説も投稿もありますが、今大変リアルが忙しく息抜きが必要なので、許してくださいなんでもしますから!(ホモは嘘つき)

 後、感想は作者の養分になりますので、貰えるととても喜びます(驚きの図々しさ)




 

 

 

 カオスの身体を得て、颯爽と研究施設から脱出した俺は現在――。

 

「うっ……ぐぅ……」

 

 研究施設からかなり離れた山岳地帯で見つけた小さな窪みの中で、痛みに悶えながら這いつくばっていた。金髪幼女がそうなっている光景は事案ものだが、中身が俺なのでどうでもいい。

 

 本来はあれだろ!? 3機のISを吸収してより強力になってさ! 元いた施設を破壊し尽くしてから逃げ出すというのが当たり障りのない筋書き通りだったハズだ。

 

 だというのにあの3機のISの武装に――。

 

 ACFAのワンダフルボディの散弾バズーカ(GAN02-NSS-WBS)を両手に持たせて、両肩にホワイト・グリントの分裂ミサイル(SALINE05)を再現してつけやがったバカは……ッ!

 

 

「俺だよ……ッ!?」

 

 悲しいかな俺である。渡した方の第1世代型(IS)もそこそこ個人的に納得の行く仕上がりで納品したことをさっぱり忘れていたのだ。何物も余念や手抜きを許さない精神こそが職人だろう。

 

 ちなみに作ったISは、全身装甲(フルスキン)の中量二脚、散バズにグリミサ。ぜったい、つよい。ストーリー なら無双出来る。

 

 初撃は当てられたが、至近距離からの散弾バズーカ6つによる反撃というタンクでも即オチ2コマになりそうな反撃を受け、たまらず後退したら一斉にグリントミサイルをぶちこまれて爆破されたのである。腹立たしいほど、統率の取れた攻撃に伊達に下らない研究をしていた施設ではないことを思い知らされた。

 

 奇跡的に生き残ったのは、室内かつ近距離だったせいで、分裂ミサイルが分裂せずに当たったからだろう。屋外なら多分死んでた。

 

 どうにか電子攻撃でISの機能を一部停止させ、その隙にステルスモードに切り替えて施設を脱出したが、この様だ。全身がボロボロな上に左腕の肘から先と、右足の膝から先が吹き飛んでいる。

 

「う……痛い……いだい……」

 

 想像を絶する激痛が全身を苛む。流石は俺、痛みのフィードバックも完璧である。お陰で涙や鼻水が止まらない。 いっそ死ねた方が遥かにマシである。

 

 すると徐々に痛みが弱まっていき、夢でも見ているかのようにふわりと浮く感覚を覚える。そして、視界の端から少しづつ白く染まり、途方もない眠気に目蓋が下がっていった。

 

 これ確実にヤバい奴だと思いながら、ふと眠りに落ちる前に空を見ると小さく笑ってしまった。

 

(空からニンジンが落ちてくる幻覚とか、いよいよ終わりだな……)

 

 せめてお迎えはエンジェロイドみたいな天使がよかったなと考えつつ、俺は意識を手離した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ましたことに気がつき、微睡みから頭を覚醒させていった。どうやら俺はまだ死んではいないらしい。

 

 真っ先に視界に入ったモノは施設の部屋に似た飾り気のない鉄壁だったため、施設に連れ戻されたのかと考えたが、微妙に配色が違い、施設よりも鉄壁の質が随分よく見えたため違う。

 

 ならばどこなのだろうと頭を悩ませながら身体を見ると、全身から幾つかのコードが伸びている上、手術台のようなベッドに寝かされいることに気づいた。

 

 突然のアプダクションに驚いていると、枕元から女性の話し声が聞こえ、そちらに意識を向ける。

 

「ウェヘヘ……なにこれスゴい……。ISの実用化(第1世代)どころか、後付武装で用途の多様化(第2世代)イメージ・インターフェイス(第3)を用いた特殊兵器(世代)をとっくに超えて、私の構想とは別のアプローチで装備の換装無しでの全領域(第4)・全局面展開運用能力の獲得(世代)まで踏み込んでる……自己進化プログラム"Pandora(パンドラ)"? どうしたらこんなとんでもない発想を実用化まで漕ぎ着けられるの? 展開装甲よりよっぽどオーパーツじゃん……束さんわからないなぁ……全然わかんなぁい……楽しい……楽しいなぁ! こんなに楽しいのはいつ以来だろう……? あははは!」

 

 ひとりでぶつぶと呟きながら宙に浮いたディスプレイを眺め、指を忙しなく動かしている女性。普通に考えて怖すぎる光景である。

 

 かなりお近づきになりたくない感じの女性だと考えていると、女性の指が止まっており、声も止んでいることに気づく。そして、恐る恐る女性をよく見ると、こちらを血走った瞳でじっと見つめている女性と目があった。

 

「ヒイッ!?」

 

 思わず声を上げてしまったが、仕方のないことだろう。そんなことは構わず、女性は見事な体捌きで滑り込むようなに俺の枕元まで来ると口を開いた。

 

「ハロハロー! 私、天才の束さんだよ! 突然だけと君、ちょっと分解(バラ)していいかな!? いいよね!? あ、その前にもし知っているなら君の開発者について知ってることを話して欲しいんだけどいいかな!?」

 

 全く息継ぎせずに言葉を吐く女性の背には、いつの間にか沢山のアームと工具が浮かんでおり、この後に俺がどうなるかなんてアホでもわかった。なにこの人、こわい。おうちかえりたい。

 

 ああ、束ってあれか。ISの開発者の篠ノ之束とかいう女性か。ただのキチガイじゃねーか、チクショウ!?

 

 抵抗しようと身体を動かすが、身体の損傷が酷い上に、制限を掛けられているのか武装が起動できず頭の中にアラートが響き渡るばかりだ。移動や身体能力にも制限が掛けられており、これでは見た目通りの幼女である。

 

 そんな最中でも女性はいい笑顔でジリジリと迫ってくる。背中の工具の駆動音が非常に煩く絶望的に見えた。

 

 あ、死ぬわこれ。

 

 そう考えたらプライドのへったくれもない俺は即座に洗いざらい吐いてしまうことにした。

 

「い、いや……その……開発者は俺だよ」

 

「へー…………………………ん?」

 

 その返答に篠ノ之博士は固まる。そして、首を傾げて暫く考え込むと、どこかから綿棒を取り出して両耳を掃除し、それを終えてから口を開いた。

 

「もう一度聞いていい?」

 

「開発者本人が、この身体に入っているんだ」

 

 そういうと篠ノ之博士は俺に詰め寄り、両肩を掴みながら嬉々とした表情で言葉を吐いた。

 

「その話、kwsk!」

 

「アッハイ」

 

 これが本物の天才かと思いながら、俺はこれまでの経緯を洗いざらい吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはははは! 自分をその"カオス"に食べさせて、自分自身がISになっちゃうなんてなに考えてるのさ!」

 

「それしかなかったんだから仕方ないだろ」

 

「そこまで追い込まれた理由は、有象無象に実用化したISを与えちゃったせいでしょ? こんなの笑うしかないよ!」

 

「ぐぬぬ……」

 

 話を終えた頃には何故か、篠ノ之博士――もとい束の膝の上に乗せられており、色々な意味で恥辱的な気分を味わっていた。こんなことならデフォルトを成長した身体にすればよかったと思うが、全ては後の祭りである。

 

 一頻り笑い終えた束は、マイナスドライバーで俺の頬をぷにぷにしながら呟く。

 

「ところで君をバラしてもいい?」

 

 こやつめ、ハハハ!

 

「ちなみにバラされたら俺はどうなんの?」

 

「……んー、再利用できるパーツは他のISに回せるかな? だってたぶん、君スッゴく複雑だから束さんでも戻し方わからないし」

 

「愛がない!?」

 

 ホントにとんでもない奴だなコイツ!? 馬鹿と天才は紙一重の馬鹿の方じゃねーか!?

 

「これは科学の発展のための致し方ない犠牲だよ!」

 

「はいはい、コルテラルコルテラル。で、本音は?」

 

「私の趣味と好奇心!」

 

「デスヨネー」

 

 まあ、話してみてわかったが、束はそれなりに話になり、冗談も通じる人間であった。今のも冗談であり、もう本気で分解する気はない……と思いたい。

 

「まさか、ちーちゃんと別アプローチの人造人間の完成体で、ちーちゃんの想い人がこんな面白いことになっているとはね。その上、前世の記憶かぁ……ファンタジーだねぇ。何か思い当たる節とかある?」

 

「俺が一番知りたいわそんなの」

 

 バラされるのは嫌過ぎたので、生まれてからこれまでの全てを束に話してしまった。まあ、言ったところで特に不利益になるようなことでもないから問題なかろう。まあ、流石にそらのおとしものとかARMORED COREとかまでは話してないけどな。

 

 ん? ちーちゃん?

 

「それより、ホイっと」

 

 すると頭の中で解除音が響く。試しに手をかざすと黒紫色のエネルギー球が作れたので、エネルギー球は握り潰して消した。どうやら俺に掛けていた全ての制限を解いたらしい。

 

「よかったのか?」

 

「いいのいいの! ちーちゃんを辱しめ――辱しめる材料が手に入ったしね!」

 

「なんで言い直したんだよお前」

 

 よくわからんが、ちーちゃんとかいう奴には合掌である。

 

 ちなみに束が俺を見つけた理由は、彼女が製造したものではないが、よく似たISコアの反応をキャッチしたかららしい。なので、ニンジン型の空飛ぶロケットで飛び回って探していると、地図にない施設を発見し、そこから飛び立っていく俺を見つけたとのことである。

 

 まあ、それはどうでもいい。制限を解除されたのなら千切れた手足を治すとするか。

 

「束。俺を海に落としてくれないか?」

 

「え? 君のボディ圧潰深度8000m以上でしょ? 自殺は無謀だと思うよ」

 

「違うわい。生物を喰って身体を治すんだよ」

 

 Pandoraによって身体の再生や、他の兵装を取り込んだり出来るカオスそのままの能力を持つから出来る荒業である。原作のように深海生物を食べるのは、深く潜らなければならないのでマグロでも狙うとしよう。

 

「ふーん……Pandoraって食べたモノを取り込んで自分のものにするんだよね?」

 

 そう言うと束は何を思ったのか、注射器を取り出して自らの血を抜くと俺に差し出してきた。

 

 ………………まさかとは思うがそれを摂取しろと? いや、そういうプレイは望んでないというか、絵面が事案過ぎるぞ束。

 

「これ飲んだらどうなる?」

 

「…………いや、俺は吸血鬼じゃな――もが」

 

「束さんの一番絞りだよ!」

 

 言い終わる前に口に捩じ込まれる。こんなもの足しになるハズがないと思いつつ仕方なく、注射器ごと咀嚼して飲み込んだ次の瞬間、ぶしゃりと音を立ててピッコロ大魔王の如く手足が生えた。

 

 半ば放心しながら手足の感覚を確かめてみるが、ちゃんと擬似神経が通っており、感覚のフィードバックが起こる。紛れもなく俺の手足である。

 

「ええ…………うっ!?」

 

 次の瞬間、全身が熱に侵され、インフルエンザの身体中の痛みを更に強くしたような痛みに襲われた。そして、それが終わると、身体の性能が倍以上に跳ね上がったことがわかった。

 

 瞬く間に俺の身体を作っていた人造人間の細胞は、より強い束の細胞に置換されてしまったらしい。更に頭の方もスッキリして電算能力まで上がったようだ。

 

 後、髪がピンク色になった。束と同じグラデーションである。地毛なのかよそれ!?

 

「えへへ、細胞レベルで天才な束さんをちゃんと取り込んだみたいだね! これで君は私の血を分けた妹みたいなものだね!」

 

 そう言いながらとても嬉しそうに俺を抱き締めてくる束――束さん。

 

 え、なにこの人こわい。天才ってそういう意味なの? 頭の出来がどうのとかそういう次元の話じゃないの? この世界の天才ってみんなこんな感じなの? やだ、おうちかえる。

 

「後はこれだけさ! 君が寝てる内に機能の方は全部把握したんだ。自律型ISの制御を想定して、面白い機能付けたよね」

 

 そう言いながら束さんは俺の首に付いている鎖に手で触れた。ヤバいと思ったが、次の瞬間には既に不自然に伸びた鎖が束さんの手に絡み付いている。

 

「じゃあ、束さんと契約(インプリンティング)しようか!」

 

 その言葉によって俺の身体は束さんを主人(マスター)に刻み込む。そして、束さんに対して主人と奴隷に近い主従関係が結ばれた。

 

 当然、その機能を取り付けた俺は誰よりもそのことを知っていた。それはこの身体にとって何よりも抗いがたいことであり、決して破れないものである。

 

 俺の意思とは無関係に頭と身体を束さんの方に向け、せめて恨み言のひとつでも言おうと、睨み付けたつもりだが、表情は柔らかく微笑みながら勝手に口を開いた。

 

 

「せ、戦闘用エンジェロイド・タイプ"ε(イプシロン)""Chaos(カオス)"です……たば――マスター、どうか好きなように使ってください……」

 

「うわぁ……中々いい趣味してるね君。色んな意味でさ」

 

「うるせぇ! 俺になんてことしやがるマスター!」

 

「うーん、身体が女の子なら俺じゃなくて、私って言った方がいいんじゃないかな?」

 

「ちょ、止め――」

 

 次の瞬間、バチリと頭の中に電気が駆け巡るような感覚を覚えて頭を押さえる。

 

 そして、()は自分の中を価値観が変えられてしまったことにいち早く気づいた。

 

「わ、私――はは、なんで私、私って言って……私は私なんだから……戻らな……ぐぅ……私で遊ぶなぁ!?」

 

「あっはっはっはっ! 本当に君最ッッ高だよ! こんなに楽しくなるなんて思わなかったなぁ!」

 

 そんなこんなで私は束さ――マスターの奴隷になりました。

 

 ちなみにマスターの実年齢を聞いたところ、私の実年齢よりも年下だった。泣いた。

 

 ああもう、どうにでもな~れ。

 

 

 




Q:このカオスって何かに例えるとどれぐらいの性能で、どんな能力があるの?
A:デビルガンダム

Q:主人公アホなの?
A:アホの子だよ いいのは頭だけだよ 性能だけは悪魔の兵器だよ

Q:主人公ってどれぐらい頭いいの?
A:ドラゴンボールで例えるとドクターゲロぐらい

Q:主人公って回りからどう見えるの?
A:イキリ幼女(身長:107cm 体重:19kg) 




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介護用エンジェロイドカオスさん


どうもちゅーに菌or病魔です。そらのおとしものが終わってから約5年経ったという現実を受け止めきれない作者ですが、中々ご好評なようで何よりです。


 

 

 

 束さん(マスター)がマスターになってから少し経ち、私の生活が確立されてきた。そんなわけでマスターのラボ、我輩は猫である~名前はまだない~での1日の生活を追っていこうと思う。

 

 その前にそもそもエンジェロイドとは何かという説明が必要かもしれない。

 

 エンジェロイドとはそらのおとしものに登場し、背中に羽が生え天使のような見た目で鎖のついた首輪をしたガイノイドである。

 

 首輪の鎖を主人(マスター)に繋いで、契約(インプリンティング)したマスターに対して服従する関係になるという夢が広がる存在なのだ。

 

 また、用途としては愛玩用、戦闘用、介護用等、様々な種類のエンジェロイドが存在する。そして、マスターの命令には基本的には逆らえなかったり、羽が水を吸うので水に浮かなかったり、基本的には眠れなかったりと色々な制限を持つ。そして、特に戦闘用のエンジェロイドに関しては、仮にドラゴンボールの人造人間と戦わせても特に劣らないレベルの戦闘力を持つスーパーマシンと言えよう。

 

 まあ、要するに――。

 

 束さんはマスターで、私は奴隷のようなものなのである。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「Zzzz――」

 

「………………」

 

 まず、起床して私を抱き枕にしつつ眠るマスターを引き剥がす方法を考えるところから始まる。カオスの設定なので、夢を見れるようにしたのは幸いだったな。寝れない身体は個人的に辛い。

 

 マスターは私が来るまで睡眠なんて不要という、とんでもない生活リズムをしていたのでそれを正すところから始まった。結果は睡眠は世界の損失だの、凡人には必要で束さんには不要だのと小癪なレパートリーに富んだ反論を、隈の深い眼でしてきた。

 

 そのため、もうどうしたら寝てくれるのかと逆に聞いたところ、私を抱き枕にすれば寝てもいいという大変迷惑なことを言われたが、仕方がないのでそのようにした。

 

 こんな美少女と眠れることに最初はどぎまぎしていたが、そんなものは淡い現実であった。

 

「おぉぉぉ……!」

 

「Zzzz――」

 

 万力だってもう少し可愛いげのある締め付けだと確信するほど、ガッチリとしたマスターのホールドをどうにか抜ける。馬鹿力とかそんな次元じゃない。腹立たしいことに私の身体が小さいので抜けれていたりする。

 

 ちなみに寝る前はきっちり3時間だけ寝るとか言っているクセに、朝は起こさないとぜったいに起きない。放っておくと10時間以上そのまま寝て、起きたら寝過ぎたと言って私に泣きついてくるのでウザい。

 

「うーん……今日は和風かな。あっ、マヨネーズ切れてる……キュウリもなくなってる……夜食にしたなアイツ(マスター)

 

 どうにかラボにある台所についた私はエプロンを付けてから冷蔵庫を開ける。中身を確認して朝だけでなく、今日1日の献立や、買い足さなければいけないものを考える。

 

 ちなみに来た当時はラボにキッチンどころか、流し台や冷蔵庫すら無かったので、ラボでの初仕事は最新式のシステムキッチンを建築することになったという経緯があったりする。

 

「~♪」

 

 そして、背が107cmしかないので踏み台に登って料理をする。もちろん、髪が邪魔になるので後ろで結ぶことも忘れない。

 

 ちなみに料理をしながら特に理由なく歌っている曲はRing My Bell。

 

「さてと……」

 

 お味噌汁の匂いに釣られて起きるような奴なら苦労はしない。再び、束が眠るベッドへと向かった。

 

「Zzzz――」

 

「起きろー、マスター」

 

 そこでにはヨダレを滴ながら眠っているマスターの姿があった。試しに揺すってみるが全く起きる気配がない。

 

「………………(つんつん)」

 

「Zzzz――」

 

 可変ウィングを展開して、鋭利な先端でそこそこ強くつついてみるが、払い除けることさえしないレベルで反応がない。ジャパン・コーマ・スケール(JCS)、300かよコイツ。

 

「ふぅ……」

 

 仕方なく手元にハート型の手榴弾を出現させる。これは攻撃する対象を絞ってそれだけにダメージを与える識別効果という摩訶不思議なモノが掛けられた手榴弾だ。つまりは部屋やベッドには一切傷をつけず、マスターだけを吹き飛ばすというギャグ時空に足を踏み入れた爆弾なのである。

 

 基本的にマスターには逆らえないように設定されている私だが、こういった裏をかく大義名分さえあれば日頃の仕返しを出来ちゃったりするのだ。

 

 まあ、その辺りはそらのおとしもので、智樹くんもイカロスに壁に埋められたりしているからな。

 

「………………(ポイッ)」

 

 俺は眠るマスターに手榴弾を投げつけるとダッシュで部屋から出て扉を閉めて耳を手で塞で目を瞑る。そして、ワクワクする面持ちで爆発する時を待った。

 

「…………?」

 

 しかし、いつまで経っても爆破音が聞こえない。不審に思って目を開けると、眼下にさっきマスターに投げつけた手榴弾が転がっていた。しかも貼り紙が付いており、こう書いてあった。

 

《君を対象にしておいたよ!》

 

 次の瞬間、手榴弾は吹き飛び私は軽く宙を舞って壁に叩き付けられた。ちゃんと識別効果は機能しており、床や天井には一切ダメージを与えていない。

 

「ぐぇッ!?」

 

「おはよー、かーちゃん!」

 

 叩き付けられた衝撃で潰れたカエルのような声を上げていると、いつの間にか起床したマスターが私の側にいた。ピコピコ揺れる機械のウサミミが勝ち誇っているようで癪に障る。

 

 私の呟く言葉は決まっていた。

 

おはようございますマスター(いつかシバいてやるクソウサギ)

 

「ちょっと逆!? 副音声漏れてるよ!?」

 

 なんでコイツのいる空間は何をしてもギャグ時空になるんだ……いや、身体能力やら頭脳やらがギャグの領域まで達しているんだよこの天才は……。

 

 ちなみにかーちゃんというのは私の愛称らしい。というのも前世の名前を思い出そうとしたが、名無しの人造人間でいた期間が長過ぎたせいなのかは不明だが、全く思い出せなかったので、仕方なくイプシロンか、カオスを名前にすることにしたのである。

 

 マスター曰く、"イプシロンだといっくんと響きが被るからかーちゃんね!"とのこと。よくわからん。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「~♪」

 

 朝ごはんを食べた後、私はいつもの修道服を着て、ラボの近くの商店街を歩いていた。勿論、冷蔵庫やら日用品やらを買い足しに来たのである。

 

 ちなみになんとなく歌っている曲は俺のベルッが鳴る。

 

「お、カオスちゃん今日もおつかいかい?」

 

「あ、八百屋さんのおじさん! こんにちわ!」

 

 私は全力で猫を被りながら商店街の住民との会話に興じていた。日本の年齢別平均身長で言うと、5歳児以下の身長であるこの身体は、周りから見ればいつでもはじめてのおつかい状態なのである。

 

 100cmで5歳というワードに驚く人間は、きっとクレヨンしんちゃんの頭身の見過ぎであろう。まあ、頭身と言えば私の頭身もどう見ても5歳児ではないので、もう少し上に見られていると願いたいものだ。

 

「よし、これはオマケだ」

 

「えへへぇ、ありがとう!」

 

 ちなみに全力で猫を被っている理由は、たまにオマケしてくれたりするからだったりする。人間は無料(タダ)のためならば、どこまでも姑息になれる生き物なのだ。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「~♪」

 

 買い物から帰ってからお昼前まではラボの掃除の時間である。マスターはお世辞にも片付けが得意とは言い難い状態であり、ラボ全体が巨大な物置小屋のような状態だったので少しずつ片付けている。この時間は割烹着姿に箒が標準装備である。

 

 ちなみに掃除しながら歌っている曲はハートの確率。

 

「ふんッ!」

 

 リサイクルしようもない粗大ゴミはエネルギー球で跡形もなく粉砕するので地球にも優しい。ちなみにマスターも粗大ゴミなのではないかと思ってエネルギー球を向けたことがあったが、撃ち出せなかったのでマスターは粗大ゴミには分類されないらしい。

 

「うーん……やっぱりこうじゃないなぁ……」

 

「………………」

 

 すると重たい音を立てて新たな鉄屑がラボに放置される。どうやらマスターの満足のいく出来ではなかったらしく破棄された物体らしい。こうして目の前でゴミが増えていくため、いつまでも掃除が終わらないのである。

 

 色々言いたいことはあるが、健気な私は逆らうことも出来ず、ジト目でマスターの背中を見るばかりであった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 昼食を作り、マスターに食べさせてからの午後は、私が一番楽しみにしている時間でもある。

 

「かーちゃんは雪片(ゆきひら)を担当してね」

 

「はい、マスター」

 

 それはマスターの研究やら開発などの手伝いだ。今は"暮桜"というISの製作を行っている最中である。なんでもこの暮桜は、第1世代型ISという名の実質第3.5世代型ISという反則もいいところのISらしい。

 

 これをモンド・グロッソなるISの世界大会で実際に使用するというのだから酷い話である。まあ、ISの実用化に躍起になっている世界からすればマスターの技術なんて雲を掴むような話なので、ルールもクソもないのだろう。

 

「ん……? かーちゃん雪片になにしてるの?」

 

「ブレードから光波が飛ぶように改造している。なのでまず出力を上げることで、緑色のエネルギー刃を持つ大剣の形態を取れるようにし、その状態で更に出力を高めることで更なる緑光を纏い、光波を撃ち出すのだ」

 

「かーちゃん待って、手を止めて、ステイ! ダメだってばぁ!?」

 

 ムーンライトソードみたいに! 月光の聖剣みたいに!

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「ふぃー、今日も疲れたねぇ」

 

「マスターは気ままに機械弄りしてただけだろうに……」

 

 勿論、私が作った夕食後。マスターと私はお風呂に入っていた。私はかつて普通に男性だった筈なのだが、何故かマスターは当たり前のように共に湯船に入ることを強要するので仕方なく、一緒に入っている。

 

 最初は美少女とのお風呂に心踊らせていた私だったが、よく考えれば1000年の恋も冷めるようなダメ人間のマスターである。なので2日目か3日目で急に気分が冷え、疲れるという感覚の方がよほどに感じるようになり、それからは特になんとも思わなくなってしまった。自分の身体も、そもそも自分の身体だし、その上ここまでツルペタに興奮するほどロリコンでもない。

 

 それはそれとして雪片のムーンライトソード化計画はマスターに止められた。解せぬ……そちらの方がぜったいカッコいいのに。

 

「いや、あんなの実際にやったら一撃で暮桜のシールドエネルギーが空になるからね!?」

 

「ぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶく(ロマンの前に効率や勝ち負けなど不要)」

 

「モンド・グロッソは勝ち負けがあるんだよ!?」

 

 湯船に口を付けて話しているのに当たり前のように聞き取れるマスター。最早、聴力とかそういう次元の話ではない気がするが、マスターなので仕方ないと諦めの境地に達するぐらいは、マスターが細胞レベルで天才だということが理解できるようになっていた。

 

 元々、あんな産廃機体にしておいて何を言うのか。よくよくスペックを見てみれば、確かに機動力は最高クラスだが、武器は展開中にエネルギーを喰らい続けるブレード1本(ブレオン)とかアホか。あんなのドミナントしか乗れん。

 

 それならいっそ、ネタにしても更に突き詰めてしまえばいいと思って、月光にしようとしたのに……したのに……。

 

 まあ、別にそんなに惜しんでもないんですけど。私が乗る訳じゃないし。

 

「さて、マスター。髪洗ってやるから湯船から出ろ」

 

「はーい!」

 

 返事だけはいい私のマスターは、湯船から出て椅子に座った。座高なら私の背でも届くのでマスターの頭を洗う。マスターは気持ち良さそうに目を細めており、時より声を上げていた。

 

「あ゛ー、気持ちぃー」

 

お客さん(マスター)、痒いところはありませんか?」

 

「うーん、つむじと生え際」

 

「はいはい」

 

 住んでいてわかったが、なんというかこのマスター。大きな子供なのだ。よほどに今よりも子供時代に親に叱られなかったのか、社会生活を拒絶したのか、果てしない引きこもりだったのか、まあ兎に角、そういう何かがあったのだろう。

 

 私が子供のような身体で、マスターに比べればまだ大人な中身をしているので不思議なものである。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。寝る時間になり、私はパジャマ姿で抱き枕のようにマスターに抱かれていた。私の身長はちょうどSサイズの抱き枕と同じぐらいなので抱き心地がいいのか、背中からガッチリとホールドされている。気分はテディベアである。

 

 こんな感じで私の1日は終わるのだが、何故こんな生活に甘んじているかと言えば単純なこと。エンジェロイドの設定の通りに設計してしまったせいで、主人(マスター)への奉仕活動そのものが、このまま溺れてしまいと思うほど幸福に感じるのである。ハッキリ言って薬物系の多幸感レベルだ。

 

 そんなこんなで、よほどに問題のある待遇でもされない限りは、マスターに対しての反骨心ぐらいしか抱けない始末だ。我ながらとんでもないモノを作ってしまった。

 

「ねぇねぇかーちゃん!」

 

「なんだマスター?」

 

 どうせまた下らないことだろう。その時はそう思っていたため、話し半分に受け流す気満々であった。

 

 

 

「モンド・グロッソに出てみない?」

 

 

 

 …………………………ゑ?

 

 

 

 

 






~登場人物紹介その1~

かーちゃん
 正式名称:スピリット・オブ・マザーウィル。ARMORED CORE for Answerに登場するBFF社保有のアームズ・フォートの愛称。代替えの利くハードウェアと人員によって動く、圧倒的スケールの超巨大兵器。PVやOPにいるため、パッケージのアンサラーよりも有名かもしれない。
 しかし、見た目とは裏腹に、機体に付いているミサイルハッチや砲台を破壊すると、弾薬が誘爆し、内部から自壊するというとんでもない弱点を持つ。また、分かりにくいが、マザーウィルにも幾つかの秘孔が存在するため、アームズ・フォートの例に漏れずとっつき数発で倒せなくもない。




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モンド・グロッソ

 どうもちゅーに菌or病魔です。

 皆さんそらおとのカオスちゃんが好きなのようで何よりです。このカオスさんもお楽しください。お気に入り、評価、感想などありがとうございます。個人的にとても励みになります。



 

 

 

 モンド・グロッソ。

 

 アラスカ条約に参加している国を中心に行われるIS同士での対戦の世界大会。格闘・射撃・近接・飛行など、部門ごとにさまざまな競技に分かれ、各国の代表が競うことになる。

 

 しかし、第1回大会となる今回のモンド・グロッソは難航していた。

 

 理由は至極当然のこと。開発者の篠ノ之束を除けば、誰もISについて深い知識を持たないことだ。それも開発や実用化段階から、ISのレギュレーション、競技の定義やルールなどの細かなところまで、ありとあらゆることが手探りなのである。

 

 それもそのはず、技術の推移で言えば、それまで戦国時代で刀を手に取り戦っていた者たちが、突然第二次世界大戦の真っ只中に放り込まれて零戦に乗せられるレベルの変化である。しかもそれが男性ではなく、女性で起きたのだから混迷を極めるだろう。

 

 それでもどうにか開催まで漕ぎ着けたモンド・グロッソ。そして、熱狂と歓喜の中、送られる筈であった開会式典(オープニングセレモニー)は――。

 

 

 

『ハロハロー! 世界各国のみんな! 天才の束さんからの挑戦状だよ!』

 

 

 

 突如として、モンド・グロッソ会場の中心に現れたアリス服を纏い、ウサミミのカチューシャをつけたインフィニット・ストラトスの開発者こと、篠ノ之束が乱入してきたことによって波乱の幕開けとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 篠ノ之束。

 

 ISを製作し、世界のパワーバランスを粉々にした張本人である。また、神出鬼没なため、友人の織斑千冬ですら全く足取りが掴めない奇っ怪な女性でもある。

 

 

 

『じゃあ、早速、束さん枠の出場者をここに呼ぶね!』

 

 

 

 モンド・グロッソ会場の音声機器をジャックしながら世界に向けて高らかに叫ぶ篠ノ之博士。

 

 ちなみに大会委員会に対して、あらかじめ篠ノ之博士から大会参加の特別枠を1つ設けて欲しいという主旨の相談があった。そのため、一応これも大会側としては想定の範囲内ではあるが、今の今まで篠ノ之博士には一切の動きがなかったため、大会側としては寝耳に水であろう。

 

 

 

『これが()()自律型IS――"カオス"だよ!』

 

 

 

 そして、それは空から降ってきたかのように篠ノ之博士の隣へと降り立ち、その全容が露になる。

 

 それは修道服を着て、金髪の長髪にアメジストの瞳をしており、篠ノ之博士と()()()()()()()()()()()()()()()()の外見をしていた。

 

 また、最も特徴的なのは、背中から生える身の丈以上の大きさの翼であり、それは鋭利な刃物のように禍々しい形状の3対の紫色をしている

 

 そして、女性の首には無骨な首輪がはめられており、そこから伸びる異様に長い鎖が篠ノ之束の手に巻きついていることがわかる。それは主人と奴隷のような関係性を想起させた。

 

 

 

『彼女は世界初の自律型ISにして、感情を持ったガイノイドなのさ!』

 

 

 

 ガイノイドとは人間の女性に似せて作られた人間のようなもの(ヒューマノイド)のこと。アンドロイドとも呼ばれ、篠ノ之博士の言葉を信じるのならば、彼女はまた新たな偉業を達成したことになる。

 

 会場が騒然となる中、篠ノ之博士の隣にいるガイノイド――自律型ISカオスが動いた。

 

 カオスの瞳がアメジストから血のような赤に染まり、瞳孔がカメラレンズのように散大した上、瞳そのものが妖しく発光する。明らかに人間のそれではない。

 

 そして、カオスは服の端を掴み、恭しく挨拶をすると口を開く。

 

 

 

『ごきげんよう皆様。私は自律型ISのカオスと申します。この度は私の稼働テストを兼ねての参加と相成りました。どうぞ、お好きなように私を攻略してみてください』

 

 

 

 口の端をつり上げて妖艶に笑うそれは、まるで人間のようにしか見えなかった。

 

 時はモンド・グロッソ開催前まで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私を世界に公表したい……?」

 

「そうそう! 束さんはそっちの方が後々いいと思うんだよね!」

 

 マスターの話をまとめるとこういうことであった。

 

 今のところ、私を客観的に見ると無所属かつオーパーツ染みた自律型ISである。そのため、仮にポッと出の私の存在が何かの拍子に露呈すれば、世界各国から狙われることは目に見えている。

 

 なので、天才科学者である篠ノ之束(マスター)が開発した自律型ISだということにしつつ公表すればいい。何せ、人類で類を見ない天才であるマスターが造り上げたものであり、凡人には模すことすら烏滸がましい天上の技術で作られたということになり、逆に狙われないとのことである。

 

 マスターが私のことをわりと考えていたことに驚きであった。

 

「ちょ!? 普通に酷くない!? そ、そりゃあ、初めての()になる友達なんだし、それぐらい考えて――兎も角! "おっきい姿"で参加してね!」

 

 徐々に言葉が尻すぼみになったと思えば、突然元気になったマスター。それは置いておき、やはりインプリンティングを知られていたため、他にも付けたカオスの機能を知っているようだ。

 

「どっこいしょっと」

 

 そう呟き、機能から数値を設定すると、瞬く間に私の身体は幼子のようだった姿から、豊満な体つきの美少女へと変貌した。着ていた修道服ごと成長しており、依然としてしっかりとシスターのような佇まいである。

 

 今はそらのおとしもののアニメ版で、カオスが深海魚を食べて成長した姿そのままの見た目をしている。まあ、髪だけはマスターのせいでピンク髪なので、後で金髪に染め直しておこう。

 

 アニメではPandoraによる間違った進化だったが、個人的にどちらの姿も甲乙つけがたいので、いっそのこと機能に落とし込んで、身体を可変できるようにしたのだ。幼女モードと、美少女モードになれるのである。これには小さいモノ好きの大きなお友達も、大きなモノ好きの大きなお友達も満足であろう。

 

 ただ、一見、非常に便利に見えるこの機能なのだが、ひとつ大きな欠点がある。というのもやはり身体の主は幼女モードの方なので、美少女モードはちょっと無理があるのだ。

 

 具体的には……あ、やべ……目眩が――。

 

 

「きゅぅ……」

 

「ちょ!? デメリットの"お腹が空く"って、そのレベルなの!?」

 

 

 私は空腹で倒れた。

 

 美少女モードは、脂肪を作ってエネルギー溜めれないため、1日に尋常じゃないカロリーを摂取しなければ死んでしまうラッコ並みにクッソ燃費が悪いのである。

 

 お陰で基本的には幼女モードなのだ。誰だこんな無駄に洗練された無駄のない無駄なこだわりをつけやがった奴は。バカじゃないか……バカじゃないかッ! ひぐっ……お腹すいた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「束……これはどういうことだ……?」

 

「いやー、ちーちゃん顔がこわいよ」

 

 時は戻り、現在、篠ノ之束はモンド・グロッソ日本代表の控え室におり、日本代表であり、束の友人でもある織斑千冬の目の前で正座させられていた。

 

 束はひきつった笑みを浮かべており、千冬の背には鬼や阿修羅が見えるようであった。

 

「えーと……その手に持ってるIS用実体剣は何かな? バット感覚で持つようなモノじゃ――」

 

 次の瞬間、見事なまでの踏み込みからの抜刀が炸裂し、束がいた場所を薙いだ。当然のように束は正座の姿勢から跳び退いて回避するが、髪の毛が数本舞い落ちていた。

 

「ひっ!? カスった!? 束さんのキューティクルヘアを切っ先がカスったよ今!?」

 

「どういうことだと聞いている」

 

 千冬の視線の先にあるソファーには、とてもいい笑顔で束と千冬のレベルが高過ぎるコントのような光景を眺めている世界初の自律型IS――カオスが大人しく座っていた。

 

「ちょっと! かーちゃん!? 説明してよ!? このままじゃ束さんはちーちゃんに3枚下ろしにされちゃうよ!? せめて主人を守らないの!?」

 

「うふふ、私はマスターの忠実な僕。マスターのご意向に口を挟むことはいたしません。それに見たところ親しい間柄のご様子。ならば私のような浅慮の輩が出る幕はありません」

 

「日頃の復讐!?」

 

 ドロイドの反乱だー!とよく分からないことを叫ぶ束をよそに嫌みったらしい笑みを浮かべているカオス。2人の何とも言えない関係に千冬は自分だけ構えているのが馬鹿らしくなり始めて剣を下ろした。

 

 時を同じくして、束も真面目な話を始める気なのか、幾らか真剣な表情になり、カオスへと口を開いた。

 

「さーて……かーちゃん"命令"だよ。ちーちゃんとの話が終わるまでちょっと席を外してて」

 

「……? 了解しました」

 

「おい、待て――」

 

 不思議そうに首を傾げながらもそのまま控え室から出ていくカオス。千冬はそれを止めようとしたが、それより早く束の口から呟かれた言葉に千冬の動きが止まる。

 

「――――――」

 

 それは簡素な数字と英語の短い羅列であった。しかし、その羅列の意味を誰よりも知っている千冬は束を睨む。

 

「なぜそこで"アイツ"が出てくる……?」

 

 それは千冬を造った研究施設で、彼女とは別アプローチで生み出された成功体の型番であった。

 

 千冬はかつてクロステストを兼ねて、その成功体の男の助手を務めていた時期があり、またその男のお陰で今の自分があると言い切れるほど、彼女にとって大切な者だった。

 

 しかし、その男は少し前に殺されたという報告を誰でもないこの束から聞かされたのである。

 

 それを聞かされたとき、千冬は子供のように泣いた。彼は千冬にとって、とても強く大きな存在であり、彼が他者に殺されるなど想像すら出来なかったのだ。

 

 それは言うなれば、篠ノ之束が誰かに殺されるようなもの。あり得ない出来事に他ならなかった。

 

 そんな男の死を無闇に掘り返されれば千冬は黙ってはいないだろう。

 

「うん、実はね。あの自律型ISは、その人が造ったモノなんだよ」

 

「なに……? だが、お前は開会式典で――」

 

「んー? 私は一言も自分が造っただなんて言った覚えはないよ?」

 

 千冬は開会式典での束の言動を振り返る。彼女は自分の自律型ISを披露したが、それを自らが開発したとは1度も言っていなかったことに気づく。

 

「…………仮にそうだとして今さら私になんだというのだ?」

 

 死者は戻らない。当然の話だ。故に最早、千冬にとって彼が残した自律型ISであろうと意味のないことである。

 

 すると束は悲壮な面持ちで眉を顰めながら、何の変哲もないブルーレイディスクを何処からともなく取り出し、中央に空いた穴に指を絡めた。

 

「ところでここにさ。彼が死ぬまでの一部始終が映った映像を、私が独自に入手したんだけどちょっと見てみない? かなり興味深いものが映ってるよ? ああ、でもゴメンね! 束さんものすごーく……頑張ったけど! "音声"は入手出来なかったんだ……ぐすん」

 

 そう言って束は間を開けずに再生プレイヤーにブルーレイディスクを挿入し、映像を再生し始める。

 

 そして、この後の展開を思い描きながら束は心の中で2人に謝罪した。

 

 

 

(ゴメンね! ちーちゃん! かーちゃん! でも束さんは好奇心が抑えられないのさ!? こんな機会はそうないだろうからね! "完璧な肉体"と"完璧な頭脳"。同じ土俵で()()で戦ったら……いったいぜんたいどっちが勝つんだろうねー?)

 

 

 

 篠ノ之束――彼女はどこまで行っても善悪の区別のない純粋な探究者なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 

 モンド・グロッソの選手及び関係者用の食堂にて、選手及び大会関係者は唖然とした表情で一様に角の席に座っている人物を見ていた。

 

 

「~♪」

 

(あ、アンドロイドなのにご飯食べてる……)

 

(しかもあんなに沢山……それも超大盛!?)

 

(スッゴい幸せそうな顔してるし……)

 

(あっ! 今、羽で食べた!?)

 

 

 カオスに自身を喰わせ、カオスとなった天才は、へにゃりと情けない笑みを浮かべながら、何も知らずに飯を喰らっていたのであった。

 

 

 

 

 

 








※作者の中の束さん像はこんな感じの方です。


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カオス

 どうもちゅーに菌or病魔です。忙しさが半分終わったので少しだけ楽になりましたが、まだ8月頃まで忙しいので死にそうですが、私は元気です(タスケテ)。


 

 

 

 第1回となるモンド・グロッソにエントリーしている機体(IS)の姿を見ると、国ごとに面白いほどに、まるで異なった様相をしていることがわかる。

 

 例えば水着姿に手甲足甲をつけて武器を持たせただけのように見える機体がある一方で、全身装甲(フルスキン)で肌ひとつ出さず腕と一体の砲身を持つ機体があり、両方とも同じ競技に出場するというのである。

 

 そのようなことになっている理由は、現在では実用化段階(第1世代)のISがこの世界大会のほぼ全てを占めるため、どういった方針で機体構成そのものを作っているのか、全く異なるのだ。

 

 その上で極論だが、ISに求められる技能を射撃・近接・飛行の3つに分類するとする。その場合、現状のISではそもそも3つのうち、ふたつを満たすことが精一杯であり、部門優勝(ヴァルキリー)ならば兎も角、そのような機体で総合優勝(ブリュンヒルデ)を目指すこと自体が非常に難しい。

 

 そして、そんなモンド・グロッソの現状で、抜きん出た者が2体いた。

 

 片方は日本代表である織斑千冬とそのISの"暮桜"。

 

 暮桜は武装が特殊なブレード1本のみかつ超加速型という異様な特化の仕方をしており、一瞬で相手との間合いを詰めて一撃で相手を沈めるという絵に書いたような超人のプレースタイルで、近距離戦闘と短距離飛行の競技を総なめにしていった。

 

 それに対するのは世界初の自律型IS"カオス"。

 

 こちらは武装どころか、固定ユニットの翼以外の装甲すら見当たらない見た目にも関わらず、手元どころか、自身の周囲にすらエネルギー弾を瞬時に生成でき、あり得ない弾速と破壊力を持つ"Chimaira(キマイラ)"という名の武装で射撃部門に挑んだ。それに加えて、マッハ20を軽く超える飛行速度により、中距離~遠距離戦闘と長距離飛行の競技を総なめにしていたのである。

 

 互いにこれまでの競技では戦う土俵が異なり、1度も競い合うことはなかったが、点数上は得意レンジの広さから参加している競技が多いカオスが一歩リードしており、現状1位の得点を持つ。

 

 ハッキリ言って、既に総合優勝は織斑千冬とカオスの二択になるほど3位との点差が開いているため、決着はモンド・グロッソの最終競技でありメインイベント。無差別級のIS同士のトーナメントで決するだろう。

 

 また、互いに決勝でしか当たれないブロックにいるため、モンド・グロッソをあらゆる媒体を通して見ている人間は、1人と1機による頂上決戦を今か今かと待ち望んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在、トーナメントにて自律型ISカオスとアメリカ代表のISが対峙していた。カオス側のブロックの決勝であり、トーナメントの準決勝に当たる試合である。

 

「よろしくお願いいたします」

 

 カオスは張り付けたような笑みのままそう呟くと、試合が開始され、先手を取ったのは、開始の合図と共にカオスへと飛び込んだアメリカ代表だった。

 

 アメリカ代表のISは軽量化された装甲に、エネルギー刃の鉤爪とショットガンで武装した近距離特化型だ。また、開始時に行った行動は、ISの後部スラスター翼からエネルギーを放出、その内部に一度取り込み、圧縮して放出して爆発的に加速するものであり、後に"瞬時加速(イグニッション・ブースト)"と名がつくIS技能である。

 

 未だ発展途上のISに、瞬時加速を使いこなせる機体とパイロットは稀であり、それだけでも賞賛されるべきものである。また、カオスは今のところ近距離型のISを相手にしておらず、参加競技から見ても得意レンジの差から距離を詰めてしまえば分があるのではないかと思われていた。

 

 しかし、カオスは迫るビームクローに対して拳を引き絞り、攻撃に合わせて放った。

 

「――――!?」

 

 瞬間、カオスの拳はビームクローを軽々と粉砕した。威力はそれだけに止まらず、腕部装甲にすら亀裂を入れている。

 

 単純な話だ。カオスは大会の参加競技や何もかもを主人(マスター)の指示通りにこなしているだけである。故に近距離戦が出来ないわけでもなければ、別段苦手にしているわけでもない。

 

 せめてもの切り返しにとアメリカ代表が放ったショットガンは、到達する前にカオスの背中から生える刃のような翼が目の前で交差することで防がれる。

 

 カオスから距離を取ろうとするアメリカ代表だったが、開かれた翼の奥には、黒紫色のエネルギー球――"Chimaira(キマイラ)"を形成したカオスがいた。

 

「ありがとうございました」

 

 次の瞬間、アメリカ代表とそのISを容易く飲み込んでしまうほど極大の光線が放たれ、その有り余る威力はただの一撃で全てのシールドエネルギーを削りきった。

 

 ただの暴力による機械的な処理。凡人が必死に培ったものを土台から蹴飛ばすような所業。それこそが、篠ノ之束の自律型ISカオスである。

 

 まさに天災から凡人への挑戦状に相応しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハロー、君が俺の助手か。これからよろしくね』

 

『名前……って言っても両方無いものな。じゃあ、俺は助手ちゃんって呼ぶからそっちも適当に呼んでくれ』

 

 

 彼に会った最初の印象はあまりよいものではなかったことを覚えている。今にして思えば不気味なほどに雰囲気が軽かったのだろう。そのせいで、束とはまた違った苦手意識を持っていた。

 

 

『部屋は……女の子なんだから個室がいいよな』

 

『助手ちゃんさ……少しは自分で片付けしようよ。嫁の貰い手が無くなるぜ?』

 

 

 その上、同じ人造人間だから名前すら無かったというのに妙に人間臭い。だからこそ、様々な人間らしさを説いて、私を人間にしてくれたんだとも思う。

 

 

『んー? 弟だけでも連れてここを出たい?』

 

『ほほう、どうしてまたそんな?』

 

 

 彼に話を切り出した時も、彼はいつもの調子で私の話を聞いてくれた。その頃の彼は職員らとの長年の取り引きによって、監禁状態にも関わらず、幹部に近い待遇を受けていたため、メリットなど何もないというのに。

 

 

『今日のアイツらの動きはこれにある通りだ。極力見つからないように、この順路で行動し、この爆弾を起爆しろ。そうすればお前らだけが死んだ不慮の事故に見える』

 

『俺は行けない。事後処理をする人が必要だし、ここ気に入っ――なんでもない』

 

 

 その1日後、脱出計画を彼から教わり、爆弾を手渡された。我が儘にも私はこれだけしてもらっているにも関わらず、彼は来ないのかと言ってしまった。当然、それは叶わなかった。

 

 その頃はわからなかったが、きっと私は彼とずっと一緒にいたかったのだろう。

 

 

『ああ、そうそう。ほれ、忘れ物だ』

 

『じゃあな、達者で暮らせよ』

 

 

 そして、忘れ物と言って私のクローン――円夏(マドカ)を渡してきた。そして、笑いながら別れとは思えないほど簡単な挨拶で私たちを見送った。

 

 

 

 それが私が彼を見た最後の記憶。

 

 いつかまた彼に会えたときに、今度は言えなかったことを伝える。それが誰にも言えない私の小さな夢だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モンド・グロッソ決勝戦。

 

 広大なアリーナでは暮桜に搭乗する織斑千冬と、自律型ISカオスが対峙していた。

 

(随分、美人に成長したなぁ……)

 

 開始まで僅かに時間があるため、カオスは千冬を眺めながらそう思っていた。彼女の幼少時代を知るため感慨深いというものだろう。

 

『…………ひとつ、聞きたい』

 

『――――――はい?』

 

 すると千冬から突如、プライベートチャンネルでの通話が来たため、カオスは少々滑稽に呆けた声をあげながら反応する。

 

『お前は……どうして殺したんだ?』

 

(どうして殺した……?)

 

 何をという疑問がカオスに浮かぶ。そして、特に殺した相手に思い当たる節がなかったために少々考え込んだ。

 

(えーと……私のことはお喋りなマスターが()()()教えてくれているだろうから私のことだよな? というと――ああ、カオスに私を殺させたことか……いや、でも言ったら助手ちゃん怒るよなぁ……)

 

 返答を決めたカオスは言葉を返す。

 

『そうすることが最善でした』

 

『どういうことだ……?』

 

『あの場にあったものを最大限有効活用したまでです』

 

『――ッ!? お前は……お前は!』

 

(お、おう……やっぱり助手ちゃん怒ってらっしゃる)

 

 仕方のないことであったが、自らを喰わせてこのような身体になったことを知られたら当然の反応だとカオスは閉口する。

 

 そして、なんと言ったものかとカオスが考えていると、試合開始を告げるブザーが鳴り響いた。

 

(ほぇ?)

 

 その次の瞬間、既に千冬は瞬時加速を遥かに上回る速度でカオスの目の前におり、雪片を振り上げていた。考え事をしていたカオスは呆けていたが、戦闘用にプログラミングされている身体は自動的に回避を選択する。

 

 しかし、既に攻撃体勢に入っている千冬から逃げることは叶わず、雪片はカオスの片腕と1枚の翼を半ばから断ち切った。

 

(え……ちょ……)

 

 身体が自動的に千冬から離れる中でカオスは困惑する。そして、思考よりも先に――痛みのフィードバックがカオスを襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……ああ……あぁぁぁ……」

 

 千冬から大きく距離を取ったカオスはその場で顔を伏せて佇みながら千切れた腕の断面を押さえる。

 

 今大会でカオスがダメージを受けたことはこれが初めてのであり、観衆からは大きなどよめき声が上がっていた。

 

 千冬は追撃はせずに何か言ってやろうと言葉を探したが、カオスの腕の断面から溢れ始めた血のような真っ赤な液体と身を震わせ始めた様子に言葉が詰まる。

 

 そして――。

 

 

 

「痛い痛い……痛いイダイいだい痛い痛い痛い゛――!?」

 

 

 

 カオスは絶叫した。両目からは止めどなく涙が溢れており、到底これ以上戦闘が可能な状態には見えない。

 

 自律型ISが訴えている非常に人間的であり、当然の様子に観衆の熱気は冷めていった。あれほど強い機械だから問題ないと誰しもが考えていたが、現実はそのようではない。

 

「クソクソッ……!? ふ、ふざけんなッ!? あ――」

 

 カオスが叫びながら痛みを訴え続ける最中、突如としてカオスが完全に動きを止める。まるで人形のようにその場に佇んだまま動かないため、淡く輝いている瞳のみが起動していることを示している。

 

《機体状況を確認――完了。想定以上のダメージのフィードバックにより、プライマリAIを緊急停止しました。再起動まで11分42秒》

 

 口を開かずに無機質なマシンボイスが響き渡る。それに驚いていると千冬のプライベートチャンネルに束からの通信が入った。

 

『うふふ、やっぱりこうなっちゃったかー。来るよちーちゃん。彼が作ろうとしていた()()のカオスがね』

 

『おい、束! お前何を隠して――』

 

《敵対反応尚も健在。再起動まで緊急防衛機構を起動します。プライマリAI内の"記憶(データ)"をISコアに転写し、セカンダリAIを構築――完了しました》

 

 千冬が束を追求する前に、カオスから駆動音が響き渡り、ブラズマボールのように身体から赤黒い何かが絶えず発生する。

 

《殲滅用エンジェロイド・タイプ"ε(イプシロン)""Chaos(カオス)"――限定起動します》

 

 そして、それが終わるとそこには――。

 

 

 

 

 

「ねぇ……おしえて、おねぇちゃん――"愛"ってなぁに?」

 

 

 

 

 

 一桁の年齢に見える姿になり、酷く無邪気で狂ったような笑みを浮かべるカオスの姿があった。

 

 

 

 





※緊急事態でもなければ普通は腕飛ばされて泣き喚かない人間なんてそうはいません。カオスさんは中身は普通の人なのです。カオスな主人公ですが、カオスを出さないとは一言も言っていないので悪しからず(謎の文面)



Q:カオス場違い過ぎじゃね?

A:第1回のモンド・グロッソにカオスがいる状態を例えると、最強のヒヨコを決める会場に、1匹だけ狼がいる感じです。狼の名前がヒヨコなので出場出来ました。





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どうもちゅーに菌or病魔です。

次は日常話を挟みつつ第2回モンド・グロッソまで飛ぶと思います。


 

 

 

 気づくと千冬は広い草原の上に立っていた。空は澄みきった青で、陽射しが降り注ぐにも関わらず、不思議と暑くはない。

 

「なんだここは……?」

 

 辺りを見渡してもどこまでも続く草原の景色があるばかりで、他には何も見当たらない。そして、心地好い風が千冬の髪を撫でた直後――。

 

 

 

「よう、助手ちゃん」

 

 

 

 背後からまた聞きたいと思っていた男の声が響く。

 

 驚いた様子で千冬が振り返ると、そこには金髪にアメジストの瞳をした彼女がよく知る男の姿があった。

 

「少し、久し振りだな。元気だったか?」

 

「あ……ああ……」

 

 束に見せられた映像と同じ姿で佇む彼は、以前と変わらぬ笑みを浮かべながら懐かしむような様子で千冬を見ていた。

 

 思わず呆けた様子で答える千冬だったが、彼は目を細めて笑う。

 

「それならよし……で? ここはどこだ? 助手ちゃんわかる?」

 

「知らんな。こんなは場所見たことがない」

 

「うーん、そうなるとお手上げだな」

 

 彼は大袈裟に肩を竦める。その様子からは困っているようには感じられず、特に気にしているようにも見えない。

 

 彼は千冬の前に立つと再び口を開く。

 

「少し話さないか? 色々と積もる話もあるだろう?」

 

「ああ……そうだな」

 

 そして、その答えと共に千冬は――彼の顔を片手で掴み、あらん限りの力を加える。だというのに彼は身動ぎひとつせず、どこかで見覚えのある無邪気な笑みを浮かべていた。

 

「……えーと、何をしているんだ? 助手ちゃ――」

 

「夢は終わりだ」

 

「………………そうなの残念」

 

 途端に彼の姿が切り替わる。そこには千冬に顔を掴まれた自律型ISカオスの姿があった。カオスは笑みを浮かべながらもどこか不服そうな声を上げる。

 

「おかしいなぁ……記憶からおねぇちゃんの知ってる"おとうさん"を再現したハズなのに……なんで破れるの?」

 

「阿呆が……アイツなら是が非でも自分の置かれている状況を確認しようとする。私のことなど二の次だ」

 

 それだけでなく最初から最後まで彼との関係は鉄壁に囲まれた研究室での出来事だった。その上、彼はもう死んでいる。だからこんなものは夢でしかない。そして、儚い夢に溺れるほど彼女は弱くはなかった。

 

「わかった! それが愛なのね? ねぇ、愛なの?」

 

 するとカオスは嬉しそうに声を上げる。

 

「私愛が知りたいの! 愛が愛が愛が愛が愛が愛が愛が愛が愛が愛が愛が愛が愛が愛が愛が!」

 

 カオスは掴まれたまま千冬に手を伸ばし、それに合わせて背中の翼が千冬に迫る。その様子は鬼気迫るものであり、人間のようでありながら到底人間と呼べるものではないことを思わせた。

 

「寝言は寝て言え」

 

 千冬はいつの間にか持っていた暮桜の雪片を振ってカオスを斬りつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何かを切り捨てた感覚と共に、暮桜に巻き付いていた触手状に伸ばされたカオスの翼の一部が地に落ちる。カオスの翼は6枚あり、1枚は二股に割れているため、これで2枚の翼を斬ったことになる。

 

 また、カオスの片腕は千切れたままであるが、それに対して今まで特に気にしている様子はない。

 

「クスクス……クスクス……」

 

 自分の翼が落とされることを目にしても、10mほど距離を空けて対峙しているカオスは不敵な笑みを浮かべるばかりであった。

 

 それを目にしながら千冬は、小さくなったカオスと戦闘を繰り広げる中、突如として触手のように伸ばされた翼を迎撃仕切れずに触れられたことを思い出す。それからあの夢を見たのだ。

 

「人に夢にまで見せるのか……アイツの作ったロボットは……」

 

 次の瞬間、千冬は空に飛び上がり、それに並走するようにカオスも空を駆けた。超加速型の暮桜の飛行に、カオスは特に苦もない様子でついてきており、恐るべきスペックの高さを感じさせる。

 

「やっぱり愛なのね! おねぇちゃんは愛を知ってるんだわ! ねえ、教えて愛を! 私知りたいの!」

 

「くっ……!?」

 

 壊れたように愛だけを叫びながらもカオスは翼を剣のように伸ばして千冬を攻撃する。10本のそれを千冬はいなしているが、縦横無尽に動き回る翼を捌き続けることで手一杯であった。

 

 手数と機体性能の差により、千冬は防戦一方となっていた。そして、雪片を発動する度に暮桜のシールドエネルギーは削れていく。このままやっていてもやがて、暮桜が先に力尽きることは明白だろう。

 

「あははは! 壊れちゃうよ!」

 

「な……」

 

 それに加え、カオスは身体と翼の回りに大量の小さな"Chimaira(キマイラ)"を展開する。その数は数十に及び到底暮桜だけで捌き切れるものではない。

 

 だが、次の瞬間に全てのChimaira(キマイラ)が発射される。

 

「がっ!?」

 

 千冬は後退しながら雪片を最大稼働させて、ビーム兵器であるChimaira(キマイラ)を防いだ。しかし、面攻撃に近いそれを線である剣で防ぎ切るのは不可能であり、幾つかのChimaira(キマイラ)が命中すると共に手から雪片が弾き飛ばされた。

 

 全ての光景がスローモーションのように千冬は感じながら、Chimaira(キマイラ)を放った直後に再び、暮桜との距離を詰めて翼を伸ばすカオスの姿が見えた。

 

(ここまでか……)

 

 剣を失った状態では最早抵抗のしようがない。千冬が諦めようとした次の瞬間――暮桜から武装のロックが解除されたことに対する報告が入る。

 

(これは……?)

 

 そして、暮桜の武装情報が更新されていることに気がつき、千冬はサブウェポンとして登録されていたその剣を展開すると同時にカオスへと振う。

 

 勝負はたった一太刀で決した。

 

「え……?」

 

 その剣は雪片と比べ物にならない出力をしており、一瞬にして10m以上のエネルギー刃を形成することにより、斬った軌道にあったカオスの翼を全て切断した。

 

 当然、千冬に接近していたカオスは肩口から大きく斬り裂かれる。自律型ISと言えども致命傷足りえる損害であろう。

 

「なんでそれが……」

 

 カオスは驚きに目を見開きながら、桜色に輝く剣身をした西洋剣のように見える武装を見つめる。

 

 暮桜の武装情報に示されている正式名称は超振動光子剣"chrysaor(クリュサオル)"。武装として登録されている名はシリエジオ――桜という名前を冠する剣。カオスの武装と同等の性能を持ち、カオスが父と呼ぶ存在によって作られたものであった。

 

 どうやら雪片を失った時の保険として無理矢理積み込んでいたらしい。そのため、雪片かシリエジオのどちらかしか起動出来ず、雪片が暮桜から離れたことで使用可能になったようだ。

 

「あ……」

 

 翼の大半を失い、身体に大きな損傷を受けたカオスは崩れ落ちるように真っ逆さまに降下していく。その最にカオスは千冬に手を伸ばしたが、それが届くことはない。

 

「っ――!?」

 

 しかし、最後に目を合わせたカオスのすがるような瞳は年相応の幼子のように見え、また自身の弟や妹と重なって見えたことに千冬の心にチクリと傷を付けた。

 

 思わず千冬は暮桜のブースターを吹かし、地面に衝突する寸前のカオスを腕に抱えた。抱き締めたことで初めて、ただの幼子のような感触に気がつく。

 

 怨敵だったハズのカオスを抱き止めたことに自分自身で千冬は驚く一方、カオスも目を丸くして千冬を見ていた。

 

 そして、自分から千冬に少しだけ抱き着くと、どこか嬉しそうに顔を綻ばせてカオスは呟いた。

 

「……これが愛?」

 

「そうかもな……」

 

「そっかぁ……そうなんだぁ……あったかいなぁ」

 

 カオスは小さな手を握り締めながら目を細めていた。それはどこか子猫を思わせるような様子である。

 

 しかし、それでも割り切ることは出来ず、千冬はカオスに問い掛けた。

 

「お前は殺した自身の父親のことについてどう思っている……?」

 

「……?」

 

 するとカオスは小首を傾げながら質問の意味がわからないといった様子をする。そして、暫く考え込んだ末に自身の胸に手を当てて口を開いた。

 

「おとうさんはずっとここにいるよ?」

 

(ああ……なんだ)

 

 千冬は理解した。このカオスという存在は、狂気に染まっているのではなく、善悪もわからないほど幼いだけだと言うことを――。

 

「うん! だから今入れ替わるね!」

 

「は……?」

 

 千冬がカオスの言っている意味がわからずにいると、カオスの目から光が消え、直ぐに再び光が灯った。

 

「んあ……」

 

 微睡みから醒めたかのようにカオスは首をもたげると、キョロキョロと辺りを見回す。そして、抱えられていることに気づいたのか、身を震わせ、最後に千冬と目を合わせた。

 

 千冬はなんとなくさっきまでのカオスとは目付きが異なることに気づく。

 

 そんな中、カオスは居心地が悪そうに目を泳がせ、手で頭を掻きながら口を開いた。

 

「………………えーと、"助手ちゃん"? これどういう状況なのさ?」

 

 こっちが聞きたい。千冬はそう思いながらも、妙に聞き覚えのある抑揚と、見覚えのある様子をしているカオスを見て自然と頬を綻ばせる。

 

 その直後、勝敗の判定を告げるブザー音が鳴り響き、第1回モンド・グロッソの総合優勝者は織斑千冬となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はウサギ鍋だな……」

 

「助けてかーちゃん! 束さん釜茹では流石に死んじゃう!?」

 

「私、ウサギ食べたことないから楽しみ」

 

「かーちゃん!?」

 

 モンド・グロッソ終了後。閉会式や表彰式などが終わった後で選手に与えられたホテルに私とマスターと助手ちゃんはいた。

 

 また、現在助手ちゃんにマスターは簀巻きにされて天井から吊るされており、下にはグツグツと煮え滾るラーメン屋に置いてあるような鍋が設置されていた。ルームサービスで頼んだら用意してくれたらしい。まあ、鍋に落ちても100度ぐらいじゃ、火傷もしない気がするが、本人が必死そうなので熱いは熱いんだろう。

 

 助手ちゃんはマスターが吊るされているロープにナイフを投げつけ、それをマスターが器用に避けることが暫く続いていた。

 

 何でもマスターは同じ人造人間の完成体の私と助手ちゃんを本気で戦わせて、結果を見たかったそうだ。実にマッドな考えである。C級映画でも撮りたいんだろうか?

 

「まあ、それぐらいにしてやったらいいんじゃないか? 負い目はあるみたいだしさ、悪気も悪意もないんだけど」

 

「それが問題だろう!? 私はお前を本気で殺そうとしたんだぞ!?」

 

 私のことをかつて、研究施設で助手をさせられていた男だったことに気づいた織斑千冬こと助手ちゃんは声を荒げるが、個人的には大した問題だとは思っていない。

 

 いや、問題ではあるんだけどさ。経験上というか、個人的にマスターの考えもわからなくはないんだよな。発明は些細な疑問から生まれるものだし、疑問を覚えてそれがわかる方法があるならやってみたいという純粋な考えもわかる。

 

 なにより――。

 

今回(モンド・グロッソ)程度の規模ならよかっただろ。仮に止めていたら次は世界大戦を引き起こして、そこでやらされかねん」

 

「………………なるほど」

 

「てへっ☆」

 

「ふんっ!」

 

「あぶなっ!?」

 

 助手ちゃんは暮桜の籠手と桜色のchrysaor(クリュサオル)を部分展開して、マスターを薙ぎ払った。それをミノムシのような状態で器用に回避するんだから、このマスターは最早どうしたら死ぬんだろうか?

 

「ちょっと!? というかなんで暮桜に勝手にソレ乗っけてるの!?」

 

「ブレオンでブレード1本とかアホだろ。せめて予備武装ぐらいは必要じゃん?」

 

「理論上、カオスを一撃で殺し切れる威力の武装は予備って言わないよ!?」

 

「しかし、このシリエジオという剣は便利だな。お前の雪片とは似ても似つかん」

 

「辛辣!? そんな兵器と束さんのISを比べないでよ!?」

 

 chrysaor(クリュサオル)のエネルギー刃を伸縮させながらそんなことを呟く助手ちゃん。

 

 Δ(デルタ)の持つchrysaor(クリュサオル)の試作品を作ったは良いが、使いどころが無かったので、ちょっと暮桜用に調整した上でマスターに黙って搭載していただけである。

 

 まあ、暮桜の雪片がMOONLIGHTだとすると、chrysaor(クリュサオル)は002-Bのブレードぐらい差があるので仕方ない感想だろう。IS用とエンジェロイド用ではそもそもの規格が違うのだ。雪片を競技用だとすると、chrysaor(クリュサオル)は軍用だと言ってしまえるぐらいに差がある。

 

 ちなみにだが、マスターと私の頭脳を比べると基本的にはマスターの方が上である。私が1ヶ月掛かることをマスターは半月でやってしまえるほどの差だ。しかし、元々そのように作られた人造人間だからなのか、兵器作りに関しては私の方が何枚も上手なのである。

 

 要はマスターが万能型の頭脳、私は兵器特化型の頭脳といったところだろう。

 

「それよりさ……」

 

「なんだ?」

 

 私は顔を上げて助手ちゃんを見た。助手ちゃんは嬉しげに微笑み返してくる。大変美しく育ったとは思うがそれどころではない。

 

「どうして私は助手ちゃんに抱っこされているんだ……?」

 

 これ無茶苦茶恥ずかしいんですけど……?

 

「こんな姿になって迷惑を掛けた罰だ」

 

 むう……それを言われてしまうと返す言葉がない。107cmしかない身長が恨めしい。大人の姿になるのも禁止されているため、ただの幼女である。

 

(Zzz――)

 

 恥ずかしいので、いつの間にか出来上がっていた本来の人格のカオスちゃんに変わろうとしたが、スヤスヤ眠っている様子だったのでそっとしておいた。なんか、私が気絶していたところでモンド・グロッソはとんでもないことになっていたらしいが、カオスちゃんが生まれたのでよしとするか。

 

「今度のモンド・グロッソはスポーツとして本気で戦おう……」

 

 助手ちゃんは少し顔を赤くしてぽつりと呟く。

 

 ………………ああ、それは残念だったなぁ。

 

「あー……ちーちゃんそれはちょっと難しいかな」

 

「なぜだ?」

 

 忍者のように簀巻きから抜けて出したマスターはとある書面を助手ちゃんに渡した。

 

「…………自律型ISカオスの殿堂入り?」

 

 モンド・グロッソで優秀な成績がうんぬん、次回出場時には特別枠を設けるかんぬん等々長ったらしいことが書いてあるが、要約するとただの一言で済む。

 

「モンド・グロッソを"出禁"にされました」

 

「やり過ぎたから――ちょっ!? 止めてちーちゃん!? chrysaor(クリュサオル)は無言で人に向けていいモノじゃないよ!?」

 

 好き勝手にやり過ぎたからね。仕方ないね。

 

 そんなこんなで馴染みの助手ちゃん、私、助手ちゃんの友人のマスターの3人はこうして一堂に会するようになったのだった。

 

 

 

 



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