逃げ出した少女 (みっくん)
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1話

他の作者のSS読んでたら勢いで書いてしまった。


少女は逃げていた。自身を取り巻く環境や家族、その全てから。

 

自身の家の特徴である真紅のような髪を振り回しながら何処を目指すこともなく走り逃げる。

 

親の領地である森だから直ぐに摑まると頭の冷静な部分で考えながらも逃げるのだ。

 

彼女の名はリアス・グレモリー。グレモリーと言えば冥界において慈愛の一族とまで呼ばれている者たちだ。

 

悪魔らしく狡猾でありながらも身内には甘い。その姿から慈愛と呼ばれている。

 

リアスの兄であるサーゼクスは現在名を変えサーゼクス・ルシファーと名乗っている。

 

悪魔社会においてルシファーは魔王を指す言葉だ。彼の他にも三人ほど魔王がいるので四大魔王と呼ばれ冥界を統治している。

 

彼女の家族は慈愛の一族らしく彼女に甘い。魔王となった兄ですらリーアたんと自身を呼び何かと世話を焼いてくれる。

 

彼女にとってそれらは煩わしかった。当然のことながら家族の事が嫌いなわけではない。しかし、迷惑なのだ。

 

リアスに宿るグレモリー特有の滅びの魔力。かなりの密度でその血を受け継いでおり、リアスの扱う滅びの魔力は魔王であるサーゼクスですら目を見張るもの。

 

ならば家庭教師や何やらを付けて成長を促すと考えるのだが、リアスにとってはいい迷惑だった。

 

確かに自身の扱う魔力に付いて力を伸ばせる事は嬉しい。彼女も悪魔である以上力を求める。しかし、家族とはいえ自分以外の

考えで伸ばしたくないのだ。

 

何をするにも周りが世話を焼き彼女の意思は其処に存在しなくなる。故に彼女は逃げた。

 

着の身着のまま家を飛び出し、グレモリー家の領地である森に逃げ込んだ。

 

時刻は既に遅く暗がりの森の中立ち止まってしまったら最後だ。幼い彼女にとって人気の無い薄暗い森の中は恐怖以外の何物でもない。足を止めてしまってからは其処から動けなくなりぱっちりと開いた瞳からは雫が零れる。

 

 

少女が泣いている時、少女と同様に森を歩いている一人の男が居た。

 

灰色の髪を適当に切り彼方此方に跳ね返っている。背丈は高く、服から覗く腕や脚の筋肉はかなりのモノ。

 

グレモリーの領地だというのに我が物顔で歩く男には知らぬ人が見れば頭が可笑しいのではと考えるが、生憎と森の中には他者がいない。

 

誰にも邪魔されることなく彼は森の中を闊歩する。

 

「相変わらず此処の森は良い……疲れた心を癒してくれる」

 

男は疲れが混じった声を漏らす。しかし、疲れたという割には彼の纏う雰囲気は生気に満ち溢れている。

 

最近は机での仕事ばかりで体を碌に動かしていなかった。首を横に振りながら何をすることもなく歩く。

 

そんな彼の目に木を背に体育座りをしている少女が止まった。

 

「……?こんな時間にこの森に少女が……おい嬢ちゃんどうしたんだ?」

 

思わず声を掛けてしまう。普段男を慕ってくれる子供たちにも困っていたら声を掛けてしまうレベルにはお人好しな男だ。

 

只ならぬ雰囲気を纏う少女を見て声を掛けるのは自然の事だった。

 

「……あ、なたは?」

 

「ああ、そうだった自己紹介からか。んんっ……俺の名はグルド、グルド・バルバトスだ」

 

「バルバトス?……何故そんな人がこの森に……」

 

「この森には癒しを求めてきてるんだ。静かだし休むには良いんだよ」

 

「そう、ですか……あたしはリアスです」

 

「リアス?その名前どっかで聞いたような……ってグレモリーの姫さんじゃないか。どうしてそんな子がこの時間に」

 

「家出です。全てが嫌になったので……」

 

「家出か。君の事は詳しくは知らないが、君位の歳の子がこの時間にこの森は危ない。グレモリーの姫さんだとは分かってけどお兄さんで良ければどこか安全な場所に移動しよう」

 

内心で乗るわけがないよなと愚痴る。

 

グルドからするとグレモリー家は苦手だ。悪魔社会において慈愛という相反する肩書を持った一族。グルドも領民からは慕われており、分からなくはないがサーゼクスを輩出して以来距離を置いている。

 

サーゼクス・ルシファーは今でこそ魔王と呼ばれているが、その実前魔王を実力で追い出し魔王の席に座った男だ。

 

幾ら悪魔社会が実力主義とは言えもう少しやり方がなかったのだろうか。確かに前魔王であるルシファーの事は好かなかった。それでも彼は立派に魔王らしく他種族との戦争で猛威を振るっていた。

 

今日の悪魔が生きていられるのは彼のお蔭でもある。そんな考えをしているからグルドはサーゼクスの生家であるグレモリーが苦手なのだ。何時自身に魔王の力を振るわれるのか気が気でないのだ。

 

「……いいの?迷惑をかける、よ」

 

「嬢ちゃんのような歳の子は遠慮なんていらん。お兄さんが良いって言ってるんだ。それともお兄さんが怖いかな?まぁ、鍛えてるから筋肉がすごいとは思うけど」

 

「んーん、大丈夫。お兄さんが良いなら付いてく、いや連れて行ってください。あたしはグレモリー家から離れたい……」

 

その言葉を最後にリアスの意識は闇に沈んでいった。

 

幾ら親の領地と言えど普段よりつかない森の中を木々を避けながら走るとなればそれは疲れる。首を落としスースーと気持ちよさそうな寝息だけがグルドの耳に入る。

 

「はぁ、またグレイフィアに怒られるなぁ……子供を連れて帰ってきてって」

 

寝入ったリアスを背負うと彼の足元に紫色の魔法陣が現れる。

 

魔法陣の中心にはバルバトス家の証である剣と剣が重なる紋様が浮かんでいる。バルバトス家は前魔王から領地を頂いておりそれは新魔王の体制になってからも続いている。重なる二つの剣はバルバトス家の象徴であり、バルバトス家が武力を誇る家だと他者に伝えるためにある。

 

魔法陣に身を任せるとグルドとリアスは森から姿を消すのだった。

 

☆☆☆

 

グルドとリアスが出会ってから10年以上の月日が経った。

 

リアス以外の後継ぎがいないグレモリー家は必死になってリアスの消息を追った。魔王であるサーゼクスの力すらも借りて。

 

その結果リアスは森で姿を消し去って以降その行方は分からないとなり、一族は酷く落ち込んだ。

 

彼女の扱う滅びの魔力は上手く鍛え上げればサーゼクスすらも上回ると期待されていただけに落ち込みは大きい。

 

一族が沈んでいる中、予想外の方向からリアスからの連絡が届いた。

 

グレモリー家が慈愛の一族と呼ばれるに対し、バルバトス家は絶武の一族と呼ばれている。バルバトス家の治める領地では頻繁に武力を競う大会が開かれる。

 

種族の生き残りをかけた戦争から幾年もの日が経った今でも血が滾る者たちを発散させるためだ。バルバトス家において武力は象徴であり、武力で物事を決めることが多い。

 

例外としては領地法などの事は話し合いで決めるが大多数は武力だ。次期当主と呼ばれていたグルド・バルバトスが当主になってからもそれは変わらなかった。

 

故にグレモリー家とは反りが合わなかったバルバトス家からリアスの連絡が届いたことに驚きを隠せなかったのだ。

 

さらに驚くのはその連絡の内容だ。簡潔すると、

 

『リアス・グレモリーは本日をもって名をリアス・バルバトスと改めます。同時にグレモリー家とは距離を置くことにします』

 

事実上の絶縁状だった。

 

サーゼクスを中心に困惑した。何をどうすればリアスがバルバトスになるのか。またどうしてリアスはグレモリーを離れるのか。

 

色々なことが頭をよぎるが、何度読み直しても送られてきた手紙の内容は変わらない。

 

バルバトス家に抗議を送ってもリアスの意思は変わらず、結果としてリアスの要望通りとなった。

 

そんなリアスだが今は寝室に身を置いていた。

 

キングサイズはあるベッドに一人横になっている。グルドと出会った頃は起伏の少なった体も今では見間違うほどに育った。

 

男なら二度見はするであろう大きな乳房。服を纏っていても盛り上がりがハッキリと確認でき、男の目を止めてやまない。

 

臀部も乳房同様に大きく丸みを帯びており、その二つだけで世の女どもは羨むのに肝心のウエストは引っ込んでいる。男と女の理想を体現するかのような肉体となった。

 

「んっ……朝?」

 

体をゆっくりと起こすと目に入るのは朝日と風に揺れる白いカーテン。

 

グルドに相談して買ったカーテンはリアスのお気に入りだ。カーテンを見て思わず頬が緩む。

 

リアスの歳の割に豊かに育った肉体を包んでいるのは薄いネグリジェ。リアスの好みもあるが一番は思い人であるグルドに自身を意識してもらう為だ。

 

グルドは見た目こそ好青年だが中身は既に何百年もの月日を生きる悪魔だ。それ故歳若いリアスを異性として意識されることがなく、恋する乙女としては複雑な気持ちなのだ。

 

グルドと出会ってからグレモリー家にいた頃では得られなかった多くの経験を得た。武力を重んじるバルバトスの領地では自身の力を伸ばすことが出来た。

 

嘗ては飛ばすことしか頭になかった滅びの魔力も身に纏ったり、武器に纏わせたりと多くの者と戦う中で磨き上げた。

 

まだまだ発展途上だが、自分でもびっくりするぐらいに成長出来ていると思う。

 

昨日も誘惑したのに反応がなかったと残念に思いながら制服に手を通す。

 

バルバトス家に入ってからは戦い方や統治者としての知恵などを教え込まれたが、肝心の領民の心までは教えてもらえなかった。

 

グルドに無理を言ってバルバトス家の有する領地で一学生として過ごしている。

 

人界の日本と言う国にある駒王町。リアスはその町に拠点を置き、駒王学園へと通っている。

 

駒王町の管理はバルバトス家が行っており、リアスの通う三年間の間領主代行として経験を積みなさいとグルドから言われている。

 

自身にとって都合の良いグレモリー家に居たままでは出来なかったであろう料理をし、身嗜みを整えていく。

 

教材を詰め込んだ鞄を手に取ると家を飛び出した。

 

駒王町はバルバトス家が所有していると宣伝はされているのものの日夜多くの他種族が侵入を試みてくる。

 

しかし、その多くが夜に活動することが多いので学校に通う昼間は使い魔を町全体に放ち監視している。勿論、リアス以外にも派遣されているグルドの眷属たちも協力して見回りをしている。

 

「おはようございます!リアスお姉さま!」

 

「ええ、おはよう」

 

校内を歩くリアスを見かけると男女問わず生徒が挨拶をしてくる。それに笑顔で返すリアス。

 

見た目が良いだけでなく性格も良く成績が良いリアスは駒王学園のお姉さまとまで言われている。駒王学園は最近まで女子校だった事もあり生徒の多くは女生徒だ。

 

女の怖さを同性である以上知っているリアスは外行きの仮面を学校では被っている。誰にでも優しいお姉さまと言う仮面だ。実際は年上の男に恋する我儘なお姫様なのだが。

 

「今日も人気ねリアス」

 

「嫌われるよりは良いわよ。おはようソーナ」

 

「ええ、おはようございます」

 

教室に入ったリアスに声を掛けたのはメガネを掛けた知性を感じさせる顔つきの女生徒。生徒の名は支取蒼那。

 

本来の名をソーナ・シトリーと言いリアスと同様悪魔だ。グレモリー家と同様新魔王を輩出したシトリー家の次期当主だ。

 

ソーナの夢を叶えるための一歩として駒王学園に通い日本の教育を学んでいる。

 

シトリー家がバルバトス家に借りを作る形で駒王町への出入りを許可されている。しかし駒王町にいる間は対等だとリアスが伝えておりソーナとリアスは良き友人だ。

 

「聞いたかしらあの話」

 

「話?」

 

「うちの学園を乏しめる変態三人組がまた迷惑をかけたそうよ」

 

「相変わらずなのねあの人たちは……」

 

余りの話に頭痛を感じ頭を抱えてしまう。

 

駒王学園に在籍する変態三人組。名を兵藤、松田、元浜と言う。駒王学園が元女子校の事もあり学校に通う女子生徒のレベルは日本全域を見てもトップクラスだろう。

 

変態の名に恥じないというか彼らはあの手この手で女生徒の裸をその目に焼き付けようとしている。その行動と人数から変態三人組と呼ばれている。

 

リアスとしては代行とはいえ無事に治めている領地に困らせる輩がいるのが目の上のたん瘤だ。

 

しかし相手は人間との事もあり手を出すことは出来ない。他の悪魔なら話は変わるのだろうがバルバトス家は別だ。

 

武力派でありながら他種族に迷惑をかけることを良しとしない。そもそも駒王町を統治しているのも日本政府、日本神話勢との交渉を踏んでいる。

 

結果として悪魔を代表とする天使、堕天使の三大種族がちょっかいを掛けてきた場合の対処を条件に統治の許可が下りている。

 

「彼らは分かっているのかしらね。次に迷惑を掛けたら退学処分を受けることを」

 

「学園長を通して伝えてあるわよ一応。まぁ、私としてもああいう感じの子は嫌ね。そもそも私にはグルド様がいるもの」

 

「あーまたリアスの病気が始まった……」

 

げんなりとした顔をしながらもリアスの言葉に反応を返す。

 

グルド様はカッコイイだの、グルド様は優しいなどグルドを褒め称える言葉ばかり言ってる気がする。知能の下がったような文字を並べ勢いよく捲し立てるリアスを見てソーナはため息を一つ付く。

 

お姉さまだの言われているリアスだが、実態を知っているソーナからすればそこらの生徒と何ら変わりのない少女だ。

 

変態の事を話していた時とはうって変わり笑顔で話すリアスをソーナは見つめるのであった。




作者はHSDDの原作を持っておらず、アニメすら視聴しておりません。

知識はWikiと二次創作だけなので結構適当設定です。今話も地の文というか説明ばかりでセリフが少ないのが悲しみ。

設定厨だから仕方ないと大目に見てください。頭に浮かんだ設定を文字に次々と起こしているとこうなってしまうんです。

オリ主であるグルド君はタグにある通りハーレムにする予定です。具体的にはリアス、グレイフィア、アーシア、レイヴェルの四人ですかね。

そもそも続く事すら作者にも分からないので現状は短編にしてあります。


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2話

短いです。


 

駒王町には人には見えない結界が町の形に沿うように張られている。

 

管理者代行であるリアスが現在は夜中に見て回っているが、基本的にこの結界を越えて侵入することが出来る異形のモノは少ない。というのもこの結界を張ったのが冥界でも名が知れているグレイフィアだ。

 

グレイフィア・ルキフグス。先代の魔王に従っていた一族の娘で現在はグルドに仕えるメイドだ。狼などの主には忠実な動物を彷彿させるような銀髪を腰まで伸ばしており、身に纏うのはグレイフィア自身が考案して手を加えられたバルバトス家のメイド服。

 

歳以上の肉付きを見せるリアスの起伏に富んだ身体よりも肉付きが良く、寧ろ他の男に唾を掛けられないかと心配になる程の美人だ。

 

先代魔王に従う程の実力の持ち主で定期的に人界に顔を出しては結界を調整している。日本政府や日本神話勢との密約を守るために駒王町の人々を危険に晒すつもりはない。万が一異形のモノが侵入に成功しても大幅なパワーダウンをさせられるおまけ付きだ。

 

「今日も結界の封印はバッチリね。流石はグレイフィアというべきかしら」

 

夜中に一人で結界を確認するリアス。この町には他にグルドの眷属がいるが、みな忙しい。リアスも管理者代行の身分で処理する事が出来る書類のみを捌くとすることはもうない。

 

本来なら見回りは他の者がするべきモノなのだが、捌ける書類が多くない為リアスが請け負っている。

 

今夜も無事に平穏だ。

 

☆☆☆

 

翌日リアスが校内に入ると不思議な噂を耳にした。

 

かの変態三人組が一人である兵藤一誠が恋人が出来たという。多くの者は他校の者だから一誠の悪行を知らないのだと同情の声を混ぜている。

 

リアスは不思議に思った。駒王町はさほど大きな町ではない。だからこそバルバトス家―悪魔が人界を学ぶに持って来いと管理する事を選んだ土地だ。

 

故に兵藤一誠の駒王学園での噂位は女子高生であれば一度は耳にしたことがあるのではなかろうか。少なくとも接点のないリアスですら知っている以上は他校にも広まっていても不思議ではない。

 

調べる必要がある。女子トイレに入ると他の生徒にバレない様に使い魔を放ち、かの女子生徒と街を監視している仲間に連絡を入れておく。

 

昔の自分であればグレモリー家に対する反発心から我儘を発揮し自分一人で解決に動くと思うが今は違う。少なくとも頼れる仲間がいるからこそ頼ることが出来る。

 

学校に通うリアスが出来る手はこれで終わりだ。用を終えてトレイを後にする。

 

リアスの通う教室がある三年のフロアは兵藤一誠の話題で盛り上がっていた。これほど話題性のある人物だったのかと頭の片隅で考える。

 

彼女の興味ある人物はグルドだけで他者にはさほど興味を持たない。外行きの仮面をかぶっている限りは人当たりは良くしている。

 

教室に入り今日も授業が始まる。

 

☆☆☆

 

結界の確認に足を運んでいたグレイフィアの耳にリアスから齎された情報が入る。

 

メイド服に身を包み町を歩くグレイフィアは注目の的だ。しかしその瞳は冷たさを帯びており、声を掛ける勇者は現れない。

 

簡単に整備を済ませると、スカートを翻す。ふわりと舞い肉付きの良い脹脛が覗く。

 

グレイフィア・ルキフグスにとってメイドとは主人の剣であり盾であると考えている。かつての主人はあまりにも化け物じみた実力を持っており、グレイフィアの助けなど必要とされなかった。

 

今の主人―グルド・バルバトスも実力の持ち主だが、魔王と呼ばれるほどではない。彼女からすれば絶好の主人だ。彼の剣となり盾となる。その傍らに世話を焼く。グレイフィアは満たされていた。

 

心がポカポカと温まるのを感じながら表情は変わらず無表情。熟練のメイドと呼ぶべきかポーカーフェイスが上手い。

 

「リアスの情報が正しければあの少女が件の変態の彼女さんでしょうか」

 

見回りを兼ねた散歩で寄った公園で一人佇む少女を見つけた。艶々と輝く黒髪を肩まで伸ばし、季節が夏に移行しようとしている時期だからか幾らか肌の露出が目立つ服装。

 

ただグレイフィアにはその少女の正体に一目で気が付いた。かの大戦中に幾度となく戦った敵それも堕天使の気配だ。

 

相手もグレイフィアに気が付いたのか此方を忌々し気に睨んできた。

 

「メイド服を着た悪魔……はっ!こんな時間によくもまあ平気な顔をして歩けるわね」

 

「それは此方のセリフでございます。如何に巧妙に隠しておれどもその溢れ出る力は堕天使のモノ。もう少し悟られない様になさっていは如何でしょうか」

 

「んぐっ!言ってくれるわね。丁度人もいない事だし、此処であんたには消えてもらうわ」

 

一瞬で服装を変え体のラインをこれでもかと主張するボンテージとなる。

 

右手にデカデカと輝く光の槍を作り上げるとグレイフィア目がけて投擲をする。堕天使の多くは天使と名の付く通り光属性を基本とし闘う。堕天使となったのは欲望の結果であり、彼らの根底は天使だ。

 

故に悪魔の天敵である光属性で仕留めたと慢心をしてしまう。悪魔だけでなくどの種族も自身の種族を誇りに持っており、明確な格上以外には見下す傾向を持っている。

 

そんな堕天使―レイナーレは目を見開くこととなる。自身の渾身の一撃を軽く右手を動かしただけで弾かれた。光の槍は公園の砂場に音を立て刺さると消え去る。

 

「なっ!あんた……」

 

言葉を最後まで言えずにレイナーレは体を真っ二つにされる。グレイフィアの右手にはナイフが握られておりそれで斬り捨てたのだろう。

 

それでもナイフで人体を切り裂くとはどれ程の実力なのか。ナイフに付いた血液をハンカチで綺麗に拭うと指を鳴らす。

 

少し間を開けてやって来た人間が想像するようなチビデビル達がグレイフィアの元に集る。簡単に指示を伝えるとチビデビル達はレイナーレの遺体を何処かへと運んで行った。勿論飛んでいく際には隠蔽魔法をかけ一般人には見つからない様に配慮している。

 

「一応これでリアスからの依頼は終わりかしらね。さっきの堕天使の仲間がいるかもしれないし警戒はしておきましょう。それに奴らがどうやって結界を超えてきたのかもね」

 

グレイフィアが張っている結界をグレイフィアに悟らせることなく破り侵入していた。何かしらの魔道具でも使用したのだろうか。少なくとも先程の戦闘でそこまでの力を持っているようには思えなかった。

 

 




レイナーレが退場しましたが、一誠が悪魔になるのは確定なのでご安心ください。まぁ、私としてはかのキャラ好きじゃないですけど。



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3話

 

「ふむ……リアスの治めている領地に堕天使か……最近はちょっかいが無くて安心してたのだが」

 

リアスから送られてきた書類を読みながら思案するグルド。結構な量の書類で一人で読みには時間がかかりそうだ。

 

要点をまとめているページに目を通すと納得する。

 

堕天使は複数いたようで彼女らの目的はアーシアと呼ばれる聖女だった少女の神器を確保することが目的だと捕虜にした堕天使から聞いたようだ。

 

グルドの記憶が確かだと件の少女は現在日本の駒王町に向けて移動中な筈だ。リアスたちに保護をさせるのもいいが、自分が出た方が確実だろう。都合よく戻っているグレイフィアを呼びつける。

 

「グレイフィアすまないが、代行を頼んで良いだろうか」

 

「リアスの所へ向かうのですね。かしこまりました。領地に関しては私たちにお任せを」

 

「ああ頼んだ」

 

何も言わずに了承してくれる眷族を持ててうれしいものだ。

 

上級悪魔と呼ばれる以上の存在は眷族を持つことを許される。四大魔王が一人アシュカ・ベルゼブブが開発した悪魔の駒(イーヴィル・ピース)によって他種族、或いは純粋な悪魔が上級悪魔の眷属となる。

 

この駒の良い点では転生悪魔と呼ばれる他種族から悪魔の駒によって悪魔になった者たちが増えることで悪魔の総数が増える事。先の大戦で数を大幅に減らした悪魔は存続のためにこの駒を作り上げた。

 

悪い点はこの駒を利用して神器と呼ばれる今は亡き聖書の神が力を持たない人間が対抗できるようにと人間に宿らせたものを不届き物が狙う事。悪魔に限った話ではないが神器を狙う者は数多い。神器はそれだけの魅力を秘めておりモノによっては神をも殺せるとまで言われている。最も神が作ったものが神を殺せるとは限らないのだが。

 

悪魔の都合で転生悪魔にさせられたものの多くははぐれ悪魔と呼ばれる主に反旗したものとなることが多く、彼らは捕まれば処刑される。

 

グルドも悪魔の駒を使用して眷族を従えている。グレイフィア・ルキフグスには女王の駒をリアス・バルバトスには騎士の駒を。

 

駒にはそれぞれに役割があり、女王は女王を除く全ての駒の力を扱うことが出来る。騎士の駒はスピードが上がる。スピードと言っても一概に理解できるものではなく、移動速度や思考速度はてには体の動かす速度など様々に渡る。リアスに騎士の駒を与えた理由は彼女の得意とする滅びの魔力の連射速度を考慮してだ。

 

他の駒は現在空いているが、兵士の駒でもいいからと眷族にしてほしいと歳若い悪魔に言われているので現在悩んでいる。

 

駒王町へと転移する魔法陣を敷いてある部屋に入り魔法陣に身を任せた。本来冥界から駒王町のある人界へ訪れるには二つの世界を繋いでいる列車を使用する必要があるのだが、大事があった場合を想定して駒王町のリアスが暮らす家や、眷族が拠点にしている家などにグルドの屋敷から通じる魔法陣を敷いてあるのだ。

 

その為、移動に時間を掛けずに駒王町へグルドはやって来れた。今回はリアスの家に転移したので、グルドの前にはリアスが待っていた。

 

「お久しぶりです、グルド様」

 

「ああ久しぶりだねリアス。いや、今は二人だしリアスちゃんかな」

 

「……もう、そうやって私を子ども扱いをするんですから。これでも人間の年齢でいえば大人みたいなものです」

 

「ははっ、俺にとってリアスちゃんは子供みたいなもんだからね。一応親父の養子だから妹だけどさ」

 

彼女がグレモリーからバルバトス家に姓を変えた際にリアスはグルドの父親の養子という枠組みでバルバトス家に入った。おかげで血の繋がりはないがグルドとは歳の離れた兄妹という扱いになっているが、二人の間にある年齢という壁の前には親と子の差がある。

 

故にグルドはリアスを我が子のように慈しんでいる。彼女を駒王町管理代理にさせたのも親として娘に箔を付けてやりたかったのと同時に、領地経営の大変さを触りでも学んで欲しかったのだ。

 

「報告は読ませてもらったよ。あれから進展はあったかな?」

 

「ええ、ありました。何でもシトリー家の次期当主であるソーナ・シトリーが赤龍帝を眷族にしたようです。先日学校で秘かに聞かされました」

 

「ほう……赤龍帝か……龍は強い実力を持っているが同時に災いも呼び寄せる。悪魔全体で見れば嬉しい事だろう。堕天使には白龍皇が所属しているからね。政府も焦っていただろうね。万が一でも戦争が起きた場合苦戦は必至だから。そう考えると赤龍帝を手に入れた意味はある。しかし個人的に言わせて貰うと悪手だ」

 

かつての大戦時に三種族に大打撃を与えた二天龍と呼ばれる赤龍帝と白龍皇。

 

歴代の力を見る限り倍加の力と半減の力を互いに持っており、二龍の実力は拮抗。宿主の才能や努力によって覆るだろう。どういうわけか二天龍は互いをライバルと認識しており神器に封印された今でも宿主同士を争わせ、凌ぎ合っているらしい。

 

シトリー家を通して厄介ごとを冥界に持ってきてほしくないのがグルドの偽りなき心情だ。過去の出来事を見る限りに二天龍の争いは大地すら抉り地図を塗り替える。為政者としては避けたい事項だ。

 

「では本題のアーシア嬢はどうだろうか。現在は移動中だと認識しているが」

 

「グレイフィアからの報告で駒王町入りしたそうです。現在グレイフィアが後ろを付け、堕天使の動きを警戒しています」

 

「了解した。俺は今からアーシア嬢に接触を図る。その間リアスちゃんはそのシトリーって子を見張っててくれないかな。赤龍帝を眷族にしたをみるに調子に乗ってアーシア嬢に手を出してくる恐れがある」

 

「畏まりました」

 

情報を纏めるとグルドはリアスの家を後にする。グルドが家を出たのを確認するとリアスは使い魔を放つ。勿論ソーナを見張る為だ。万が一を考え使い魔には隠蔽魔法をかけ見つかりにくくする。リアスの見解ではソーナ・シトリーの保有する眷族は主であるソーナを見るにそこまでの実力は持っていない。それでも万が一を考え魔法を掛けておくのだ。

 

☆☆☆

 

家を後にしたグルドは眷族相手に通じる念話でグレイフィアに連絡を取る。件の少女の場所を聞くと真っすぐに向かう。

 

眼付きは優しいものの、がっしりと鍛えている肉体は凄まじく歩いているとヒソヒソと声が聞こえる。冥界でも結構言われているのでグルドは慣れているので無視だが。

 

周りの声を無視しながら歩くと前方に今の時代に似合わない恰好で白昼の下歩く少女を目にする。

 

清楚さを強調する白色の聖職者の服。ベールを被る頭は陽によって反射しキラキラと輝くような金色の髪。歳相応な肉付きをしている太腿が歩くときに目に入りその手の趣味を持つ人には涎モノだ。

 

ただ不安げにキョロキョロと辺りを見渡しながら歩く様子を見れば寧ろ庇護欲が沸く。聖職者の服装から覗く胸元のロザリオが彼女が本物のシスターであることを示している、

 

『初めましてお嬢さん』

 

冥界で目にした報告書が正しければ目の前の少女、アーシア・アルジェントはイタリア人だ。日本に単身で訪れ言葉が伝わらず不安なのだろう。

 

少しでも不安が和らぐように聞きなれているであろうイタリア語で話しかける。悪魔には自動翻訳と呼ばれる力があるがグルドはどういう訳か人界に存在する各国の言語を学んでいる。

 

『は、はい!?こ、言葉が通じる人です!』

 

キラキラと大きな瞳を輝かせ返事を返してくれる。

 

グルドが次の言葉を口にしようとしたその瞬間、

 

『きゃっ』

 

道端の石にでも躓いたのかグルドの方向へと転びそうに来る。ふわりとベールが宙を舞うも今はそれよりも少女のみの方が大事だ。

 

悪魔の力を使わず周囲に不自然さを見せないように一気に少女に近づく。転ぶと分かったのか目をぎゅっと閉じている少女は見ているだけでも不思議と愛らしい。

 

場に似つかわしくない感情を抱きながらもグルドはアーシアを優しく抱き留めた。

 

『大丈夫かな?』

 

『あ、ありがとうございます』

 

聖職者故か男とであるグルドに抱きしめられたアーシアは顔をリンゴのように真っ赤にしながらも礼を口にする。

 

昨今では悪魔人間関係なしに礼を言える人が減ってると感じているグルドにとってはアーシアの何気ない感謝の言葉が好感度アップに触れる。

 

『君はこんな所に来てどうしたのかな?見たところ観光目当てではなさそうだけど』

 

アーシアが引いていたキャリーバッグを見る。女子らしくピンク色のキャリーバッグはアーシアに似合う。

 

『えっと……私はこの服の通りシスターです。この町の教会に派遣されたのですが、言葉も通じず道も分からなくて……』

 

『なるほど。でも一つ付け加えると、この町の教会は無人だよ。寧ろ所々壊れていて人の入れる場所ではないかな』

 

『え?本当ですか?私は司祭さんに言われてきたのですが……どうしましょう』

 

しょんぼりと肩を落とすその姿は小動物を彷彿させる。庇護欲を何処までも書きたてるその姿には動物が好きなグルドの心を何処までも擽る。

 

バルバトス家の所有する森の中には彼が様々な国や街で集めた動物が沢山生息している。勿論けんかをしないように言い聞かせているので争いの心配はない。

 

『……ふむ。此処であったのも何かの縁だ。私の家で良ければ招待しよう』

 

『で、ですがご迷惑では?家族さんにも』

 

『あぁ、気にしないでくれ。娘みたいな子がいるが、君と歳は近い。寧ろ君が来てくれるとリアスにも友達が出来て俺として安心かな』

 

『えっと……その、お名前を聞いていいですか?』

 

『そうだったね、肝心の挨拶をしていなかった。俺はグルド。グルド・バーバルだ』

 

『グルド……さん。私はアーシア、アーシア・アルジェントと言います。そ、その不束者ですがよろしくお願いします』

 

そういう挨拶はまだ早いよとグルドが大声で笑う。釣られて恥ずかしそうに頬を染めながらもアーシアも小さく笑う。

 

何はともあれグルドとしては目的の少女と接触に成功したのだった。




ヒロインが一人アーシアちゃんが出てきました。
HSDDのヒロインの中では一番好きな子ですね。シスターって響きが良いと思います。


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