ガンバライダーロード000 (覇王ライダー)
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1話

ガンバライジング(GRZ)社

ここは様々な並行世界と繋がりを持ち、世界を束ねる一つの会社である。

ここでは常に並行世界の観測が行われており、各世界では彼らが生み出した模擬的な仮面ライダー「ガンバライダー」が世界の平和のために戦っている。

では、仮面ライダーという存在はご存知だろうか?

遥か昔より人類を守り、自由と平和のために戦ってきた所謂"ヒーロー"というやつである。

様々な並行世界でその目撃は確認されていてその世界ごとに守っているライダーも違うようだ。その種族も多種多様でバッタをモチーフにしていて格闘をメインにしているライダー、それとは対照的に魔法などの不可思議な力を用いて戦う仮面ライダーも存在する。

閑話休題。GRZ社に話を戻すとしよう。

そんなガンバライダーを生み出したGRZ社の技術とポリシーは世界政府にも認められており、各世界では彼らを称賛する声が常に上がり続けている。

彼らは現在も少し先の未来でも英雄を作る企業として各世界から注目を集め続けている。

という表向きの情報は皆さんご存知だろう。では、その裏ではどんなことが行われているかご存じか?

裏では人体実験・少年兵・使えない素体の抹殺などやりたい放題のトンデモ悪徳企業だ。

毎日何人もの老若男女が連れて来られて悪質な実験ばかり行われている。ある子供は永遠に戦わされ、ある老人は電撃を流されて死んでしまう。そんな毎日だ。

使えぬ素材はすぐに殺され、使える素材はいつまでも長く使えるように戦闘訓練を受け続ける。そんな世界だ。

鉄檻に閉じ込められた兵士たちは今日もそんな実験や訓練を受けさせられている。

このお話はそんな訓練を受けさせられている一人の少年について描いた話である。

 

今日もまた一人戦闘訓練を受けている少年少女が実験室へと呼ばれて銃や剣を携えていた。

そんな中で一際異彩を放っていたのがこの少年である。

-コードネーム ロード-

ロードは訓練を受け続けた兵士の中でも優秀だったそうで、研究員達が作り出した模擬戦闘用のマシンを次々に破壊する。ということでちょっとした有名人だったりもする。

そんな彼は今日も研究員の作ったマシンを破壊していた。

「また壊された!」

膝をつき叫ぶ研究員をよそにロードは粉々になった鉄くずをもう一度踏み潰した。踏み潰されたマシンはそのまま火花を上げて二度とそこから音を出さなかった。

ロードはそっと泣き崩れる研究員を見た。研究員もその視線に気づいたのかロードと目を合わせる。

「何だよ・・・お前は自分が壊すことで快楽を得てるんだろうな!このバケモノが!!」

研究員の負け惜しみの声を聞いたロードは無言でそのままその場を後にした。

「クソ!破壊王!冷血動物!!」

研究員が立ち上がりロードへと殴りかかろうとした時だった。他の研究員が走って彼の両腕をつかんだ。羽交い締めにされた彼は何かを叫んでいたがロードの耳には届かなかった。

毎度のことである。壊された本人達からの罵詈雑言、そして破壊王とまで呼ばれるまでの徹底のなさ。研究員のメンタルごと破壊する彼にとって破壊王は最も的確な言葉かもしれない。

しかし、冷血動物はそうかというとそうではない。彼をそう言わしめているのはあくまで戦いの中だけで彼の本性ではない。

そんな彼に人間の部分を見せられる人間も何人かいる。

 

-メディカルルーム-

傷ついた兵士や使えなくなった兵士達を引き取るのがこのメディカルルームである。

勿論傷の手当てやメディカルチェックなども行うが、死者を出すこの場所では死者の後処理、埋葬などの全てを任されている。

GRZ社のメディカルルームはここにしかない為、生き残った少年兵や実験台などにとっては唯一陽射しを見られる唯一の時間でもあった。

鉄くずを砕いたロードはメディカルルームへと入り、椅子へと座った。

「どうもロード。元気だった?あと寝癖直してね。」

そう話しかけたのは環(たまき) 真紀(まき)だった。環はロードの腕などを慎重に見ていく。

「え?寝癖ついてる?あとで直そうかな。」

ロードは少し明るい表情を浮かべて環へと言った。環はここの医務官であり、ロードの診察をしている。もうかれこれ十年ほど彼のことを診察していることになるだろう。

「あなたはすぐ怪我する子だから丁寧見ないとね。」

「環さん言い方が酷いよ。俺だって怪我したいわけじゃないし。」

環の言葉にロードは少し笑いながら環へと話す。本当に落ち着いた声で、先程まで破壊王とまで罵られた人間と同じと思えないほどだ。

環が一つずつ丁寧に見ていっていると、ロードの足へと差し掛かった。

「あっ、環さん待って。」

「ん?」

ロードはさっきよりも作ったような穏やかな表情で右足を後ろに下げた。何かを察したのか環は呆れたような表情でロードの足を握った。

「痛い痛い痛い!!!環さん待って!!」

ロードが後ろへと下がるが環もそれについて行く。壁へと差し掛かった時に環が聞いた。

「・・・また鉄壊したの?」

「は・・・はい。」

ロードが気まずそうに答えると環はため息をついてロードの椅子を元いた場所へと引っ張っていく。

「研究員の人たち泣き喚いてたよ?またロードに壊されたー!って。」

だって彼らに非があるじゃないか。自分は戦わされる兵器として作られて、彼らは知りもしないくせに自分のことを罵り傷のある言葉を飛ばしてくる。そんな彼らに当てつけをしてはダメなのか?

ロードがそう話そうとした時、環がロードの肩を持った。

「私はロードが怪我するようなことはしてほしくないし、あなたにこれ以上人の物や心を傷つけるような人になってほしくないんだ。」

ロードは神妙な面持ちで頷く。彼が目の奥に映していたのはこれまで破壊していたマシンやそれを壊されて嘆く研究者たちの姿だった。もしかしたら彼らに申し訳ないことをしたのかもしれない。自分は何とも思っていなかったとしても彼らは心の奥底から傷ついて挫けそうになっても作ったマシンをあんな淡々と壊してしまった。

もし見えていなかった否、見ぬふりをしていたのであれば彼らに謝罪しなければならない。

 

翌る日の昼間のことだ。ロードは再び実験室へと呼び出され、そこへと連行された。

ドアが自動で開くと、そこにいたのは六人の研究員だった。男の一人は前に出てロードの胸ぐらを掴んだ。

「今日こそはお前を叩きのめしてやるからな!」

そう言い放つとロードを突き飛ばして地面へと叩きつけた。

コイツら如きに負けるわけがない。こんな機械ごと叩き潰してやる。

そう思った瞬間に環の言葉が頭をよぎる。

「あなたにこれ以上人の物や心を傷つけるような人になってほしくないんだ。」

あの人はそう言っていた。そうだ、壊さぬように彼らへの最大の配慮を。そう思って見たマシンからは黒いヘドロのようなものが広がり、そこから何体もの黒い物質を生み出していた。その黒い物質は姿形を変えて動物や人間の形へと変わっていく。

「・・・気味が悪いな。」

「何だと!?」

ロードの一言に研究員は顔を真っ赤にして怒った。しかしヘドロが物質へと形を変えているのだから彼の言うこともわからなくはない。

ロードは顔を真っ赤にして憤怒する研究員をよそに周囲を眺めた。ざっと五十人ほどでマシンへは十歩あれば届くであろう。あとはー

"開始"

戦いの合図が鳴ると、ロードは腰から上ナイフを二本取り出して影を切り裂いていく。影は空中で黒い粉となって地に落ちていく。しかし

「・・・どうなっている?」

ロードはアーマーナイフで次々に切り裂いていくが、その数は減るどころか増えていく。粉の一つ一つが再生するかのように消えては増えるという活動を繰り返していた。

ロードは一気に駆け抜けて何体も何体も切り裂くが、その破片は地に落ちて新たな影を生み出していく。

「その粉は分裂と再生を繰り返し、無限地獄を生み出す兵器だ。これなら貴様も破壊できまい!」

コイツらそういうのは実戦に投入して適当に使ってろよ。ロードは心の中で愚痴はこぼすものの、それを知られまいと表情に出すことはなかった。今はそれどころではなく敵を切り裂いて今目の前にいる敵をどうにかしなければと精一杯だった。

考えろ。こんな時でも逆転の手立てはあるはずだ。そう考えていた時だった。

「ッ!!」

ロードは斬撃を鮮やかに空中で回避した。彼は天井へと大きくジャンプしてそれを回避する。その時だった。

「・・・?」

見た先には消火用のスクリンプラーがあった。恐らくは実験などで火災があった際の手段の一つなのだろう。どこにあってもおかしくないようなものだ。

「・・・そうだ。」

ロードは銃を取り出して周囲へと放った。薬莢の煙は空へと上がっていく。ロードは上がっていった煙をショルダーにつけていた非常用の袋に詰め込んだ。

「何をするつもりだ!!」

研究員の判断は遅かった。ロードは高く飛び、その煙の入った袋をスプリンクラーへとぶつけた。袋から出ていった煙はスプリンクラーを鳴らしてゆっくり地へと落ちていった。

鳴ったスプリンクラーはその場に雨をもたらし地面を濡らした。影たちには何の影響も出ておらずただただ滴る雨に当たり続ける。

しかし彼の奇怪なこうどうはこれにとどまらない。

ロードは一気にマシンへと駆け寄ると、銃で見事に配線を撃ち抜いた。配線から漏れ出したした電流が外へと吹き出し、それは雨の水とぶつかり合って電撃が広がっていく。

「こいつまさか!!?」

「そのまさかだよ。」

電撃の付与された雨は周囲に広がりやがて地に落ちた影たちへと襲いかかった。影たちは電撃を喰らって倒れこんでいく。だが、倒れ込んだだけなので斬撃のように分裂はしない。そして倒れ込んだ影たちは電撃の強さからか死んだように立つこともなかった。

「これでおわ・・・ッ!?」

ロードが立ち上がろうとした瞬間だった。彼の体が動かないのだ。その体は痺れていき、やがて地へと伏せた。

電撃を受けるのは影だけではなくロード自身もそうであり、受けた電流が全てロードへと流れていく。身体全ての血から何までの全てに電撃が流れて死ぬほどの苦しみが彼を襲う。麻痺して叫ぶこともできず、立ち上がることすら出来ない。撃ち抜かれた獣のように彼の身体から全てを奪っていく。

「ぁ・・・ぁ。」

息をするのがやっとの状況でスプリンクラーは止み、やがて電撃への痛みも治まってきた。しかし

「どうだ!我々の勝ちだ!」

ロードの目には喜んでハイタッチする研究員たちの姿が見えた。こんな奴らのために俺は脳内を張り巡らせて戦っていたのか。馬鹿馬鹿しい。こんな奴らの機械なんて壊れてしまえ。

「何だ!?おい何してる!」

ロードの体は無自覚に動き出して一気に駆け抜けた。そして持っていたアーミーナイフを装置へと突き刺して、一気に蹴飛ばした。そして銃を持ち一気に撃ち抜いた。

撃ち抜かれたマシンは爆発して再び煙を生んだ。煙の奥には慌てふためき泣き叫ぶ研究員たちの姿があった。

「テメェらの為に動く体なん・・・ざ」

言葉は途切れてロードは地に伏せた。今のは一体何だったのか。まるで自分じゃない誰かが自分を操ってマシンへと突き動かしたような感覚だった。今は彼もわからない、そのまま地に伏せて倒れることしかできなかった。



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2話

ロードが目覚めた時、目に見えたのは天井だった。

白く塗られた天井には小さな無数の穴が開いていて数えるのにも億劫になる。少なくとも彼が倒れた実験室とは違うことは明らかであろう。

じゃあ一体ここはどこなのか?彼はあの時何があったのか?最後は感電して笑っている研究員達がいたことは思い出せる。しかし不思議なことにその後のことを何も思い出せない。なぜ?何があった?何一つとして記憶から這い出てこない。

「起きた?ずっと寝てて心配だったんだから。」

ロードが声がした方向に驚いて見ると、そこにいたのは環だった。普段見慣れていなかったから気付かなかったがそうか、ここは医務室だったのかとようやく理解できた。そのまま黙って起き上がると目の前には時計が見えた。彼が実験を行ってから早十二時間程が過ぎていた。

こんなに睡眠を取ったことなんて初めてかもしれない。いや、恐らく致死レベルのことでもなければここまで寝ていることなんてないだろう。ということは自分は致死レベルの何かが起きてここまで眠っていたという推測になるのか?

冷静になっても何も思い出せない。自分に何が起こったか思い出すべきだ。しかし何も・・・。

環は寄り添ってロードの手を握った。冷たかったロードの手に少しずつ温度を与えていくようだった。

「途中までは精神が安定してたんだけど電気ショックの後から精神状態が不安定になって暴走したって聞いた。ロードは何か覚えてることある?」

ロードは首を横に振る。環は頷いてロードへと問いかける。

「・・・ねぇ、二重人格って知ってる?」

「二重人格?」

環はロードの手を離して立ち上がった。ベッドに寝たままのロードは環の方へと体を翻した。

「自分の中にもう一人の自分がいる人が偶にいて、その時の記憶が無い人もいるらしいの。」

自分がそうだと言いたいのか?ロードの中には否定の気持ちもあるが、もしそうだとするなら今回のことは全て納得がいく。機材を破壊したことも電気ショックの後を覚えていないことも全て自分じゃない"もう一人の俺"がやったとするなら・・・。

様々なことを考えてしまうと頭がパンクしそうになる。険しい表情を浮かべるロードへと環は再び声をかける。

「ねえ、ロード。」

「えっ?あ、はい?」

慌てふためくロードにまあまあと宥める。

「今度、お休みに街に行かない?」

ロードは黙った、いや黙らざるを得ない。

この人は何を言っているのか?ここで俺がはいそうですね行きましょう。なんてことを言ったところで通るはずがないだろ。

整理して話そうとした時環が畳み掛けてくる。

「あぁ、ロードの休みに関しては私が申請を出して社長には言ってるから。」

「言ってる!?」

そんなことが可能だなんて聞いたことがないし出来る人なんて聞いたことがないぞ。余計に混乱して話を切り出せないロードへと環は寄って囁く。

-ロードも外の世界を知りたくない?-

 

メディカルチェックが終わるとロードは付き人の研究員と自分の部屋へと戻る。腕に手錠のような枷をつけられて歩くため歩きにくくて仕方がない。二人は無言で無言のままエレベーターに乗りそのまま降りていく。

地下では殆ど清掃などもされていないからコンクリートの悪臭と人々の汗や色んなもの混じったような臭いが鼻を刺激する。

自分がもっとマトモな人間ならこの臭いだけで倒れていただろうによくこんなところで生きていけるもんだ。

研究員とともに歩いて行くとロードの部屋へとついた。部屋のロックが開くと研究員はロードを投げ飛ばして部屋に放り込んだ。その流れるままロードは投げ飛ばされて壁に叩きつけられた。ドアが閉まるまで研究員の影が映る。顔までは見えないがおそらく惨めだと、愚かだと笑っているのだろう。マシンを破壊することしか出来ないようなお前は兵器だと笑っているのだろう。

ドアが閉まると、ロードは思い切り壁を蹴った。

「俺は・・・どうして。」

こんなはずじゃなかったのかもしれない。幼い頃から訓練してきて傷ついてきた。でもこんな感情は初めてだ。悔しくて辛くて歯を食いしばらなきゃ抑えられない。

何がいけなかったのか。何故こうなってしまったのか自分でさえもわからない。

「でも・・・。」

外の世界に行けば何故自分が戦うのか。何のための今なのか、分かる気がしているのかもしれない。

 

GRZ社の研究室では日々ガンバライダーたちの機器の開発、そしてガンバライダーをアシストする研究者たちの研修が行われている。

部屋自体はこじんまりとしているのだが、周囲には機器や何やら難しそうな文章の並んだ書類が重なっている。

環はそこにある人を探して尋ねていた。

「あぁ、シルバくん。それに・・・」

「九重ですよ。そろそろ覚えてください?」

環がそう九重に注意を受けると、シルバへと駆け寄った。

シルバはここに勤めて二年目の研究員であり、九重とは同期で研修の頃からの仲なのだ。

「二人はいつも一緒だよね。」

「そりゃまあ、俺たちの研究が似たところにありますからね。」

環にシルバがそう明るく返す。

彼らの研究しているのはガンバライダーの成分から得た情報を具現化する研究だった。

九重は眼鏡を上げると、データをじっくり見つめる。そこに映っていたのは以前模擬戦を行ったロードの戦闘だった。

「これロード?」

九重はうなずいてじっくりと見つめる。

「この泥の成分は物質をなんらかの形で形成してその姿へと変える物質。つまりこれをライダーに適応させれば仮面ライダーを擬似的に作り出せるというわけです。」

泥は人や様々な形へと変化する。これを利用すれば確かに仮面ライダーの形に変えることは可能だ。しかし

「そんなことが可能なの?」

環の質問に嬉しそうな笑みを二人は浮かべた。

「不可能を可能にする。それだけの科学力が今のGRZ社にあると分かれば世界はGRZ社や僕らにがぜん注目する。それだけでもワクワクしますよ。」

二人の研究オタクは止まりそうにないな。そう環が諦めに近いため息をついたあと、シルバの肩を触る。シルバは集中して気づかなかったのか肩を少し震わせる。

「ビックリした・・・。どうしたんですか?」

環は笑顔でシルバへと寄り添う。

「それより、"アレ"は完成した?」

「あぁ・・・"アレ"ですか?」

三人は同時に液体の入ったボトルへと目を向けた。その中にはリンゴを模した紋章が刻まれた錠前が入っていた。

"リンゴロックシード"

かつて仮面ライダーバロンが使用したロックシードというアイテムで、北欧神話に伝わる"黄金の果実"、万物を司る力を秘めた力を誰かが何かしらの形で擬似化させたものだ。

九重とシルバはうーん。頭を掻いた。

「試験的に使用可能ではあるんですけどね」

「まだまだ本家には出力が劣るようでして。」

環は二人の言葉にふーん。と頷く。

「何が足りないの?」

九重はデータを見せた。

「リンゴロックシード、もといその元にあるゴールデンロックシードはヘルヘイムの森の力や人の闇を食らってその出力を上げていたと考えられます。」

「つまり、そこまでに出力を出せる物質が無いって話?」

シルバは頷いて話を続ける。

「たとえ人の闇を食らったとしても環さん一人の力でどこまでの出力を出せるか・・・。」

環はリンゴロックシードを眺めた。

黄金の果実、ヘルヘイムや心の闇の力、もっと知るべきところはこの会社にもあると言うことか。

 

目覚ましのアラームが鳴るとロードは飛び起きて立ち上がった。

彼がそうなるのも無理はあるまい、彼にとって初めて今日が外に出る日なのだから。

支度をすませると、研究員と共にエレベーターへと乗る。今日は仏頂面の研究員の顔も笑っているように見える。そうか、俺が外に出ることを喜んでいるのか、そう錯覚をしてしまうくらいだ。

エレベーターから降りると、そこで環が出迎えてくれた。

「ロード、行こうか。」

ロードは頷いて歩いて行った。研究員はその後ろ姿を見送った。

研究員はため息をついてエレベーターへと乗る。

「よくあの人が許可を出したもんだな。」

-檀 黎斗-

GRZ社の社長であり、ゲンムコーポレーションという大手ゲーム会社の社長を父に持つエリート中のエリートだ。

彼の規制は厳しく、社員たちでさえ来た瞬間緊張感が漂う厳格な人間があんな兵器を外に軽々と出すだなんてとても思えない。

何か裏があるはずだ。あの女医は何を隠し持っている?研究員の頭では整理しきれないほどの推測が頭を過ぎていくのだった。

 

街へと着くと、二人は環の車から出た。

環が用意していたのは大きなワンボックスカーで恐らく二人の買い物くらいでは満タンにならないだろう。

ロードには周囲の光景が新鮮なのかあたりを何度も見渡す。

「そうよね、あなたにとっては初めて外の世界だもんね。」

ロードは環の言葉に頷く。

「外がこんな広くて大きいと思ってなかったよ!それに空気も美味しい。」

はしゃぐロードの手を取って環は歩き出した。ロードもそれについていくように足を進める。

ロードは普段の服装じゃまずいと環が用意してくれた白いシャツの上に青いジャケットを着ていた。これもまた新鮮なのか何度も手に取って触っていた。

「ほらほら、色んなところ行こう!」

「そうだね!俺も色んなところに行きたい!」

環がそういうとロードはそう返した。

環もこんな明るいロードの笑顔を見るのは初めてかもしれない。見慣れない笑顔に環は少し笑みを返した。

「環さんどうしたの?」

ううん。と環は返した。彼自身が喜んでいる。それで今は良いのかもしれない。

 

-GRZ社-

檀の元に訪れたのは研究員の九重、そしてシルバだ。檀は大きなデスクチェアに座って二人を見た。

「どうしたんだい?」

九重は大きく息を吸って檀へと問いかけた。

「環さんに緊急用の戦極ドライバーを渡したのはあなたですか?」

檀は不敵な笑みを浮かべる。九重とシルバはさらに問い詰める。

「ライダーシステムの危険性はあなたが一番わかっているはずだ。認識が必要ない戦極ドライバーでも危険」

「君たちは私がなんの考えもなしに彼女に力を託したと言いたいのかい?」

二人は黙り込む。檀は机に肘をついて話を続ける。

「君たちが研究する以前からガンバライダー及び仮面ライダーの力を研究していたのは存じ上げているね?」

二人は頷いて檀の話を聞く。檀はゆっくりと立ち上がる。

「その中でも戦極ドライバーは認証の必要ない黒影トルーパーがいることから注目されていた。そして開発者である戦極凌馬でさえ作れなかったライダーを我々は作り上げた。」

二人の前にプロジェクターから映像が流れる。そこに書いてあった文字は

-プロジェクト セレジオン-

 

ロードと環の買い物が終わると二人は疲れたのかゆっくりと車に乗り込んだ。

ロードの服やアクセサリーなど沢山のものを後ろの荷台に詰めていた。

「疲れたね!」

ロードの嬉しそうな顔に環は手を伸ばす。ロードは動かずそのまま凍ったように止まった。

「ソース付いてるよ。」

ロードの口に付いていたソースを指で取ると、環はソースの付いた手をティッシュで拭き取った。

ロードもごめん。と少し照れたように言った。

「ロードも楽しそうでよかった。休暇を取った甲斐もあったわね。」

「あぁ!ホントに外の世界ってこんなに明るくて楽しいんだね!」

ロードの嬉しそうな横顔を環は見つめた。

彼とは医者として十年近く見てきたつもりだったが、こんな表情をするのは初めてだ。本当に純粋な子供のような明るくて光った目、普通に暮らしている子供達と何も変わらない本当に純粋な子供だ。

こんな子供でさえ戦いに向かい死んでいく。そんな現実がふと過ぎると環の表情は少し陰った。だが

「環さん?」

ロードがそう問いかけると環はふと我に返って笑顔を戻した。

「ううん、今日楽しかったね!」

そう言い、車を発進させようとした時だった。

「ッ!?」

目の前に暗い緑色の虫のような生物が蔓延っていた。大きさはおそらく人間と同じくらいだろうか、ロードと環はすぐさま車から降りた。

"インベス"

本来ならヘルヘイムの森に住む怪物で人々を傷つけかねない凶暴な性格だ。

ロードが向かおうとした瞬間、環はロードを止めた。

「私が行くから大丈夫だよ。」

「環さん・・・?」

そう言って環は車の中からベルトを取り出して腰に装填する。そして腰元からロックシードを一つ取り出した。

"オレンジ"

インベスたちへと環は突撃していく。

「久しぶりに力を借りるよ-セレジオン-」

-変身-

環は空中から現れた橙色の塊を蹴飛ばしてインベスへとぶつけた。塊は環の元へと戻ってきて頭へと被り物のようにくっついた。

"オレンジアームズ 花道オンステージ"

環が変身した戦士は一気に駆け抜けてインベスたちを切り裂いていく。ロードはそれをただ見つめていた。

「すげえ・・・。」

呆然としているとあっという間に最後の一体を切り裂いて爆発させた。

爆炎と煙の中、彼の目の前にいたのは橙の鎧を纏った白銀の騎士である。



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3話

ーあれから三日ほどの時が経つー

環がセレジオンとして戦ってからそれだけの時が経っていた。ロードと彼女の間には少しではあるが変化が見られた。

「ロード・・・。」

「ん?」

ロードは呼びかけに空返事で返したが環はううん、と一言だけ返した。環はロードの傷を見ながら静かに手を握った。その手のぬくもりはどこか温かいようで冷たい、そんな感覚だ。

「はい、これで大丈夫だからね。」

「ああ、ありがとう。」

治療が終わると、ロードはそう返してそっと医務室を出た。ドアの閉まる音がすると環は小さくため息をついた。心の重みは吐き出されたと息とともに出ていくことはなかった。

わかっている。自分がセレジオンとして変身して戦ったことにより彼に本当の実戦へ足を踏み入れさせてしまったことへの後悔と責任、その気持ちと裏腹にこうするしかなかったという言い訳、そんな気持ちだけが心の片隅から噛みついてくる。

兵士として育てられたロードがいずれは通る道だと理解している。そんなことはわかっている。わかっているつもりなのだ。

白い天井を見つめて再び天井を見つめた。こんなことではいけない、そんなことは自分が一番わかっているのだ。

そんなことを考えている時に外から声が聞こえてきた。声の主は九重とシルバだった。耳を澄ませて聞くと二人はこれから行う実験について話していた。

「・・・。」

環は声が聞こえなくなるとそっと医務室を去っていった。

 

エレベーターを降りてそのまま道なりへと進まされていく。ロードの後ろには白衣の男が二人ほど並んで歩いていた。そんなことは構いなくロードは前に進む。ロードの脳裏に浮かぶのは目の前の道ではなくあの化け物を切り裂いた白い戦士だった。

-セレジオン-彼女はそう名乗っていた。白衣を着た環さんが何故?疑問は止まぬままどこか不満に近いものに変わっていく。

薄暗い場所を進む三人だったが、一人の男はその薄暗さと落ちている死人の残骸などを見て耐え切れなくなったのかこんな話を始めた。

「なぁ、今回のプロジェクトにシルバさんと九重さんがチーフに選ばれたってマジ?」

「お前ここでその話をするな。」

この廊下も含めてGRZ社に監視されている故にどこで漏洩の罪に問われてここを去ることになるかわからない。そんなことお構いなしにか男は話を続ける。

「いやだってさ、ライダーの模倣に成功させた二人とはいってもそれを凌駕するスペックなんだろ?頭おかしいよほんと・・・って痛い!!」

男に煩いとばかりにその頭を引っ張った。引っ張られる男をよそにロードは前へと進んでいく。ロードが周囲を見渡していると、一人の少年がこちらへと歩いてきた。少年は無言でロードの横を通り過ぎていく。

GRZ社のものだろうか?しかしあんな奴はこれまで見たことない。なら同じ少年兵?しかしなら一人で?白衣の男たちに問いかけようと後ろを見た時だ。

「どういうことだ・・・?」

白衣の男たちは不思議そうにロードを見た。ロードも不思議そうに男たちを見返した。聞こうかと思ったがロードは聞き返さないことにした。

あの数秒間で彼は自分の目から姿を消したのだ。どういう仕組みなのかそしてなぜ自分の前に現れたのかさっぱりわからない。ただの見間違いか将又は・・・。それ以上は考えても無駄なのかもしれない。自分にとっても相手にとっても

 

ーGRZ社社長室ー

小さなデスクと広い応接間が置かれたこの部屋では社長である檀黎斗が指令や資料の編集などしている。薄暗い部屋ではあるが彼にとってはそんな薄暗さも心地いいんだそうだ。

そんな中でも今彼は一大プロジェクトのための資料についてまとめられた書物を閲覧していた。難しい資料ではあるがそれを理解できるのもおそらく社長まで渡り歩けた彼の頭脳と才能故だろう。

そんな時だった。ドアのノックが鳴った。どうぞ、というとドアが開いて一人の女性が入ってきた。勿論檀もよく知る人物だった。

「珍しいですね環さん。」

入ってきたのは医務官として働いている仮面ライダーセレジオン、環真紀だった。檀は少しふてぶてしそうに環を見た。

環は檀に詰め寄っていく。映していたプロジェクターの映像が彼女の影の形で消えた。

「あの時インベスを呼んだのはあなたですか?」

檀は黙って環から目を背けた。環はさらに詰め寄り首元をつかんだ。

「どういうつもりですか?子供を危険に遭わせるそのやり方が正しいと思いですか!?」

檀は目を背け続ける。環はそっとその手を離した。檀は襟を直しながら彼女へと背を向けた。

「私にとっては危険の可能性を持ってでもあなたのセレジオンのシステムを見たかったんですよ。何より彼に実戦を覚えてもらわないと困りますし。」

「彼はまだ子供です!!それに・・・」

「それに?」

その先は環の口から出ることはなかった。環の手は強く握りしめられていた。檀はその様子を見かねてかこんなことを言い始めた。

「次のガンバライダーと兵器の実験をロード組んで行うことになったんですよ。それに医務官として立ち会っていただけませんか?」

「えっ?」

思わず驚きの声が出た。医務官として最も止めるであろう自分を立ち会わせるなどどういうつもりだ。嫌味のつもりかそれとも別の理由か、どちらにせよ彼女の答えは一つしかなかった。

「えぇ、勿論ですとも。」

そう言って環は社長室を去っていった。出ていくときに檀がほくそ笑んでいることなど気付くはずもなかっただろう。

 

部屋に戻ったロードは汚い牢獄のような部屋で床に丸まり込んだ。

「何だったんだろう・・・。」

転がり込んで早一時間というところだろうか。時計なんてないが彼の体内時計はしっかりしているつもりだ。

その一時間の間ずっと考えていた。あの少年のことだ。

少年は自分の前に現れて監視員に見られずすぐさま姿を消した。どういう手品でそれを可能にしたのかは極めて謎であるがあれが幻覚とはとても思えない。

ロードは丸まりながら考えてはみるがどれも非化学で不可能と言わざるを得ないものばかりだ。

考えが纏まらず頭を抱えていたその時だ。

・・・えますか?

「!!」

ロードは声の方向を見るが誰もいない。幻覚かと思ってもう一度丸まった時だ。

「今君の脳に話している。聞こえているか?」

先ほど通りすがった男であることはロードにはすぐわかった。とはいえどうしたらいいか分からずロードは取り敢えず頷いた。少年は良かったと話を続ける。

「よかった。今から重要なことを話すから聞いてほしくてね?静かに聞いてくれ。」

ロードはどこから見ているのかと周囲を見渡す。自分の心をすべて読まれているのかと焦りに焦るが向こうも時間がないようだ。取り敢えず頷いた。

「僕はこれからこのGRZ社を脱走することにしたんだ。だがどうも君に会っておかねばならない気がしたんだ。」

ちょっと待って脱走!?しかも自分に会っておかねばならない!?知らないやつにそう思われる覚えはないぞ。そんな混乱したロードをよそに話を続ける。

「目的までは言えないが僕と君は間違いなく出会う。その時まで君は僕のことを覚えていてくれるか?」

覚えておくことは容易いがどうして?何のために?疑念だけが募る中ロードは頷いた。

「ありがとう・・・。僕は生涯で友人が出来たことがなくてね・・・きっとこれが友情というものなんだろうな。」

ロードはその言葉を聞いたときふと環のことが頭を過った。彼女に何も言えなかった。あの人は自分を守ってくれたことを分かっていながら礼の一つも言えない自分が情けなく感じる。

ロードがうなずくと男は一息安心した声で彼へと言った。

「僕は君の名を知らないが、僕は君に会ったとき友だと言って見せよう。これは僕からの約束だ。」

そう言うと去るように脳への音が消えていった。不思議な体験だ。ロードは瞼が重くなっていく。安心したのかそこから眠りに落ちていくのはそう遅くはなかった。

 

深夜になったこの時間でもGRZ社の研究員たちは研究を続ける。明日に実験を控える九重とシルバもその一人だ。九重は眠そうにPCの何やら難しそうな羅列を見つめ、シルバは難しそうな設計図を見ていた。

-ロードシステム-

裏切り者の対処として作られたシステムであり、対ガンバライダーのスペックを持ち合わせながら多種多様なシステムを備えた汎用兵器だ。悪用されないための防衛とはいえそんなプロテクトが必要か問われるとあいまいな返ししかできなさそうだが。

「あー疲れた。」

「九重はすぐ弱音はくよなぁ。俺なんて昇格がかかった大事な時期だぞ?」

シルバは九重を軽く笑った。九重はそうだったと少し笑いながらごまかした。

シルバは副支部長という立ち位置でこれが成功した支部長に昇格する大事な時期なのだ。同僚のそんなことも忘れていたとは情けない。

「明日の実験、環さんも付き添うらしいな。」

ぼやくように小さな声で言ったシルバの言葉に九重は小さく空返事した。社長の指示でわざと前回のセレジオンの運用試験の話を医務室前でしてくれとは言われたがまさか環が参加することになろうとは彼らですら予想できなかった。これが目的なのかもっと別の理由があるのか、それは不確かだが彼なりの考えあってのことなのだろう。

シルバは肩までかかった長い髪をかき分けながらPCをじっと見つめた。九重は横目でそんなシルバの姿を横目で見ていてふと思ったことがある。

昇格したら彼とは別の道を歩むことになるのだろうか。彼は支部長として別の世界へと行き、自分はここに取り残されるのだろうか。同じ道を歩んできた友人がここでいなくなると思うと些か寂しいものがある。

「九重」

「・・・え?」

シルバの呼びかけでハッと前を向いた。いけないいけないと再度PCに集中する。シルバも少し心配そうに見てからPCに視線を戻した。

同僚が上を目指すのだ。それを祝福するのはまだ早い。そうまだ



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4話

八月に差し掛かった今朝、実験は行われた。

重そうな鉄のドアが開きロードと引率した研究員が実験室へと入った。そこで待っていたのはシルバや九重を含んだ研究員と医務官として呼ばれた環だった。ロードはそんなことも気にせず、一歩前に出た。シルバも一歩前に出てロードへと近づいた。

「今回実験を担当するガンバライジング社で支部長を勤めるシルバだ。よろしく頼む。」

「こちらこそよろしく。」

ロードは差し出された手を握った。どよめく周囲をよそにシルバは説明を続ける。

「今回行うのはロードシステムというシステムの実験だ。システム上完璧だし君の身体能力でオーバーフローまで向かわないように制御してある。」

自分の名が付けられているのは皮肉かそれとも意図はないのか。ロードは静かに話を聞く。

「そして相手はアレだ。」

指さしたそこに装置が置いてある。ロードも見たことがある機械だった。

「アレって俺がぶっ壊した泥のやつか。」

シルバはうなずいて映像を映した。そこには数字やら難しい設計図やらが書かれていた。

「以前のシステムから改良を加えて出力の向上と仮面ライダーの形成に成功した。出力もきっと君に似合う相手になるはずだ。」

ロードはわかったようなわかってないような顔でシルバの言葉を頷く。シルバも難しかったかと苦笑いした。

「まあ戦えばわかるから早速取り掛かっていこう。そこのベルトを持って試験場へ入ってくれ。」

ロードは頷いて置いていたベルトと呼ばれてたマシンのようなものを手に取り実験室へと足を踏み入れた。環がいたので話しかけようとも思ったが後で看護してくれるだろうしその時でも謝罪は遅くない。

環はロードに一言かけようかと歩こうとした。九重はその足を止めた。

「実験の後でも遅くないですよ。僕らの実験は成功します。」

環は不安げな表情を浮かべて頷いた。これは親心なのかもっと違う感情なのか、九重にはそれを見分けることはできなかったがおそらくは前者だろう。

ロードが入ったことを確認するとシルバはマイクを使ってロードへと指示を送る。

「では実験を始める。腰にそれを当ててくれ。」

ロードは指示通り先ほどのマシンを腹部にあてた。するとベルトのようなものがロードの腰に巻き付いてマシンを腹部に固定した。なるほど、ベルトと言っていたのはこういうことか。

すると体が光に包まれて彼の体に鎧を纏った。赤い複眼と赤いアーマー、目つきの悪いその目は裏切り者を狩る悪役そのものだ。ロードはその手を見て驚愕する。皮生地のようなそのアーマーは触っていて心地がいい。これがこの会社お墨付きのガンバライダーというやつだろう。

「よし、始めてくれ。」

シルバがそう指示するとマシンが動き出し、泥よりも黒いその影は人の形を成してロードの前に立った。これが先ほど言っていた仮面ライダーというやつだ。

「では開始!!」

そうスピーカーから声が聞こえると影はロードへと襲い掛かる。襲い掛かる影をロードは回し蹴りで叩き落した。影はロードへ殴り掛かるがそれを前蹴りで押し出し、そのままとびかかってその影の顔面目掛けて左ストレートをふるった。

前を見ると影は増えて六体ほどに増えていた。ロードが殴り掛かろうとするとスピーカーからシルバの声が聞こえた。

「その手から君の思い描く武器を作り出すことができるからやってみてくれ。」

ロードは握ったその手を開いて前へ突き出した。するとその手から粒子が流れ出し、大きな斧へと姿を変えた。その斧を手に取って一気に影へと振りぬいた。

シルバはその数値を見ながらロードの戦うその姿を見ていた。九重もその姿を見ながら安堵の声を上げる。

「出力こそ不十分だけどこれなら他のガンバライダーとも戦える出力だ。」

「あぁ・・・出力の安定もよし、これなら何とかなりそうだ。」

恐らくロードの戦闘センスもあるのだろうが他のライダーの攻撃を確実に回避しながら戦っている。ガンバライダーの複眼についているモニターが優秀なのもあるのだろうが、彼の戦いの読みの高さと動くスピードが他よりも断然高い。恐らく聞いていた数値以上の力を引き出しているのだろう。

もう少し彼の戦いを見ていたいところだがこの数十分でデータも取れたことだしそろそろ切り上げようとしたその時だ。

「なんだ・・・これ?」

周囲のモニターが青く光る。そこにはAKU-TOの文字が刻まれていた。

「アクー・・・ト?」

「アラート発生!!なんだこれ・・・ウイルス?」

九重の椅子退けてすぐさまモニターを見た。制御されていたシステムのロックが外れて暴走の域まで数値が上っていた。こんな数値が出てしまうとマシン自体が壊れてしまうはずだ。シルバはすぐ試験室のモニターを見た。そこには圧倒されて胸倉を掴まれるロードの姿があった。

「第二次アラートが発生!!社全体に向けられたものです!!」

「なんだ!!!」

そのアラートはESCAPEと映していた。こんな時に脱走者なんて何をやっているんだ・・・。シルバは頭を抱えて倒れ込んだ。九重はすぐシルバの肩を支えた。

「もし何かあれば僕が出る。君は実験を続けるんだ。」

シルバをゆっくり持ち上げると、九重はすぐPCへと目を向けた。

一方でロードは増える影に防戦一方を強いられていた。

「なんなんだこの強さ・・・。」

斧を振りぬいては攻撃をよけての繰り返しだが数は一向に減らずこちらの体力だけが削られていく。

ロードはすぐさま盾を召喚して銃撃を防ぐがこの数では押し切られることなど目に見えていた。

"wake up

"ファイナルベント"

ロードへと二つの蹴りが飛びそのパワーは盾を打ちぬいた。そして衝撃がロードを吹き飛ばして壁へたたきつけた。

「クソ・・・ッ。」

立ち上がろうとするが力がうまく入らない。手から落ちた斧を拾って力の限り投げたが敵に届かぬまま地面へと落ちた。黒い影は群をなしてロードへと近づいていく。その時スピーカーからシルバの声が聞こえた。アラートの音がうるさいがかろうじて聞こえる。

「ロード君、システムがハックされてこちらも今は身動きが取れない。今すぐそこを離脱してくれ!!」

とは言われてもこっちももう力が入らず立ち上がることすらままならない。実験にも役立たずただ死ぬだけのゴミだったのだ。自分はもう・・・そう思った時だ。

"力が欲しいか?"

その声は紛れもない自分の声だ。だがその声は自分よりも威圧的で荒々しかった。なにかはわからないが考えてる暇はないと思い頷いた。

"分かった。なら俺に代われ"

意識が消えていく。深い海に落とされるように少しずつ自分が消えていく。俺は・・・僕は・・・

ゆっくりロードは立ち上がると一気に加速して影を切り裂いた。そのスピードは影を圧倒して追いつけないスピードだ。

「なんだこの数値・・・。」

九重とシルバは呆気に取られた。瞬間的に数値は先ほどの数倍に上がった。傷だらけになりながら攻撃を続けるその姿は先ほどのロードを人とするならまるで獣だ。数値は見る見るうちに上昇していく。九重はあることに気づく。

「セーフティーが作動していない・・・。自ら外したのか?」

「暴走・・・。」

シルバの言葉に九重は頷く。シルバがすぐスピーカーを繋いでマイクを持った。

「ロード君聞こえてるなら答えてくれ!!今すぐそのベルトを外してこちらへ戻ってこい!!」

ロードはシルバたちのほうを向いた。聞こえたのかと安心した時だ。

「危ない!!!!」

九重はシルバを抱いて後ろへ飛んだ。言葉をかけたその瞬間ロードはこちらに向けて盾を投げたのだ。ガラスは割れて周囲の研究員は血だらけになって倒れていた。立ち上がった九重とシルバは辺りを見渡した。そこに環の姿はなかった。

「まさか・・・。」

外を見るとそこにはベルトを装填して立つ一人の仮面ライダーがいた。環の変身するセレジオンだ。しかしその姿は以前変身したオレンジアームズではなく赤い鎧に盾と剣を備えていた。

「まさか・・・。」

そう、あれは以前から実験を進めていたリンゴのロックシード、実験段階では成功しているがここで使うなど無茶だ。

セレジオンはゆっくりロードへと近づく。ロードは剣を生成してセレジオンへと襲い掛かった。セレジオンはその剣を盾で受け流しながら持っていた剣を肩へぶつけた。ロードの肩からは火花が散り、鎧が削れる鈍い音が響いた。

倒れて退いたロードはもう一度剣をふるう。セレジオンはそれを剣で止めて防いだ。

「そうだよね。」

こんな筈じゃなかった。この子は兵士として戦うために生まれたんじゃなく普通の子供として世間を知りもっと広い世界へ飛び立つべきだ。大人のエゴがロードという兵器を生み出し、彼を傷つけた。何も悪くない、悪いのはすべて自分を含めた大人たちだ。なのになぜ彼が傷つく必要があるのか?大人がそういう世界を作ったからだ。

「もしこのロックシードが人の闇を喰らうなら・・・。」

今いる自分の大人としての汚さや闇を喰らって強くなるなら今は

「私を殺してでも君を止めるよ。」

セレジオンは壁へと追い込んだ後、つばぜり合いをした剣を弾き飛ばしてロードのベルトへと剣を突き刺した。ロードはその剣ごと壁へ突き刺さって身動きを取ろうにもとれない。

セレジオンは剣と盾を捨ててベルトのナイフ部分を下ろした

"リンゴスパーキング"

放った一撃はロードごと壁を打ち抜いていく。壁へとめり込んだロードは変身解除してそのまま眠るように倒れた。

変身解除した環はロードへと近づこうとするが自分の体へ異変が起きていることに気づく。

「・・・そっか。」

彼女の体から光が漏れて掌が消えていく。恐らく実験段階のロックシードを使った副作用だろう。消えていく光は空で飽和していた。

「ごめんね。」

もっと広い世界を見せてあげたかった。大人になる君を見届けたかった。そんな思いがこみ上げて静かに涙がこぼれてきた。

「環さん!!」

九重は環へと叫ぶ。環は九重へと何か言ったが九重には聞こえない。

環はリンゴロックシードへと近づいて蹲った。これを握る手すらもうない。

「あとはお願いね・・・九重くん、シルバくん。」

暴走した悪魔を止めた儚い騎士は光となって消えていった。少年とロックシードはその場へと残った。

 

あの実験から一ヶ月が経った

ロードが起こした実験は極秘として行われた実験だったと檀を含む関係者に通達され、失敗した事件として闇に葬られることとなった。

ロードシステムはプロトタイプとして実験が進み、暴走した同型のタイプはロードアナザーという呼称で呼び進められることとなった。

製作者のシルバは暴走したガンバライダーの処理と追及の果てにGRZ社を追放された。唯一の生存者となった九重はリンゴロックシード含めてただ一人残り事件の真相について研究している。副支部長には新しく配属された研究員が担当となって進められている。

逃げたガンバライダーは現在も失踪を繰り返していて現在も捜索中とのことだ。暴走事件の際に使われていたマシンのデータが一部ハックされていて、逃亡したガンバライダーはそれが目的だったなんて話も出ている。

ロードは以前と同じく戦闘訓練に参加できるレベルまで回復したが

「うらぁ!!!!!」

「またマシン破壊しやがった!!!!」

以前のような静かな冷血動物とは違い荒々しい獣のような破壊へと向かっていた。破壊されたマシンは残骸一つ残さず粉砕されて粉々となった。

彼に聞くと記憶がないらしく消えた環のことやその時の事件、その前のことも覚えていないらしい。当初それを聞いた研究員たちも驚きを隠せなかったが、証明する方法もなくその言葉通り迷宮入りである。

あの時環は九重に何を残し、ロードに何を与えたのかまでは分からない。しかし彼女はあの地で戦い、後にロード達に何を託すのか。それはまだまだ先の話である。




ガンバライダーロード000話を読んでいただいてありがとうございました
これを書き始めたとき、皆からオリストが欲しい!ということだったので制作した次第です。もちろんロードの正統な外伝でもありエピソード0でもあるわけなんですが。
実はこの最終話、最後音楽をかけながら配信したりして書いていたんですが、エグゼイドBGMのTo heartだったり島谷ひとみさんの深紅だったりと泣ける曲が続きながら書いたりしてたものです(苦笑
印象に残っているのはやはり最後の環の言葉でしょうかね。僕自身親とか大人ってなんだかんだああいう生き物なんだろうなと思いながら環のセリフを書いていました。結局のところ子供や次の世代に対してこんなはずじゃなかった。もっと良くしてあげたかった。皆さんにもきっと経験があることだと思います
僕はこの作品が好きですし外伝という形でロードのこういう姿を描けたのは大きな成長であり感謝なのかなと思ってます。


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