気がついたらアキレウスだった男の話 (とある下級の野菜人)
しおりを挟む

その他
ステータス


ぼくのかんがえたかっこいいあきれうす。
こんなに評価されると思ってなかったので、取り敢えずステータスでお茶を濁しておく。

ただでさえ公式チートがさらに増量されてるので、苦手な人はご注意を。


2020.4/28 さらに強化。もうだめかもわからんね 


真名:アキレウス

 

クラス:ライダー

 

性別:男性

 

身長:185cm

 

体重:97kg

 

好きなもの:平和 ケイローン アタランテ

 

嫌いなもの:運命 無意味な争い ヘラクレス

 

天敵:ケイローン アタランテ

 

出典:ギリシャ神話

 

属性:秩序・善

 

 

ステータス

 

 

筋力:A 耐久:A

 

敏捷:A+ 魔力:C

 

幸運:D-  宝具:A+++

 

 

クラススキル

 

 

対魔力:C

二節詠唱以下の魔術を無効化する。生半可な魔術では、アキレウスを害せない。

 

 

騎乗:A+

竜種を除く、あらゆる乗り物を乗りこなす才能。たまにバイクを乗り回したくなるとか。

 

 

保有スキル

 

 

戦闘続行:A+

戦争中、弱点の踵を射抜かれ、追い詰められたアキレウスだったが、その後は文字通り死ぬまで戦い続けた。たとえ致命的なダメージを負ったとしても、アキレウスの戦闘能力が落ちることはない。

ヘラクレスとの戦いの経験により、本来の彼よりしぶとくなっている。

 

 

勇猛:A+

自身の運命を呪わず、立ち向かったアキレウスは、最高峰の勇猛さを誇る。あらゆる精神的干渉をカットし、格闘能力が向上する。

 

 

女神の寵愛:B+++

母である女神テティスの祝福。魔力、幸運以外のステータスを上昇させる。

トロイア戦争に赴く際に、彼の母テティスはアキレウスのために神獣二頭立ての戦車をポセイドンから譲り受け(奪い取り)、鍛冶神ヘパイストスに頼んで(脅して)武具を作らせた。まさにモンスターペアレント。

 

 

神性:B+

英雄ペレウスと女神テティスの間に生まれたアキレウスは、高い神性を宿している。

また、女神テティスの予見の力を受け継いでいたとされ、他の様々な活躍から一部の地域では信仰の対象となっている。

 

 

予見:C+

女神テティスの力を受け継いでいたとされるアキレウスは、これから起こるであろう出来事を見通すことが出来る。

特に、“自身に関わりが深いこと”ほど、精度が高まる。

元々は持っていなかった、と本人は思っているが、異常に鋭い勘など、兆し自体はあった。それが、後世の解釈などによって強化された、稀有なスキル。

 

庇護者:B

誰よりも理不尽を許さず、弱き者たちの盾となり、矛となったアキレウスは、守るという行為を好とする。『何かを守るために戦う』際に、自身のステータスにプラス補正を与える。

 

 

先駆けの紳士:C+

男尊女卑の時代にあって、どこまでも公平さを持つ彼は、一説にはレディーファーストという概念の先駆けともされる。直接戦闘に役立つ効果は無いが、異性からの印象を良いものとする。ハーレム系主人公みたいなスキル。魔術的なものではないため、対魔力等では防げない。

 

本来は同性相手でも発動するはずだったが、女性に対して紳士的であったことが有名になりすぎた為、女性に対するそれよりも効果は低くなっている。

 

 

善の体現者:A++

アキレウスという英雄の生涯が、スキルに昇華されたもの。

あらゆる者を救い、どこまでも善としてあり続けたアキレウスは、その存在そのものが善なる者、人の善性を証明する者となった。

彼の偉業は、強大な怪物を打ち倒したことでも、あらゆる、戦いに勝利し続けたことでもない。

ただ、一度も悪行を行わず、結果的な悪にさえ陥らなかった英雄。それこそが、アキレウスなのだ。

 

彼の所属する陣営は「善」。敵対するあらゆる存在は「悪」と判定され、彼の陣営の者たちに、「悪」に対する特攻を付与する。

 

 

 

 

 

宝具

 

 

疾風怒濤の不死戦車(トロイアス・トラゴーイディア)

ランク:A 種別:対軍宝具

レンジ:2~60 最大捕捉:50人

 

アキレウスが戦場で駆った三頭立ての戦車。アキレウスがライダーとして召喚される由縁。

トロイア戦争へ行くアキレウスへの餞別として譲り受けた二頭の神馬『クサントス』と『バリオス』、トロイア戦争中、エーエティオーンの街を“壊さない条件”として譲り受けた稀代の名馬『ペーダソス』からなる。

ただ駆け抜けるだけで戦場を蹂躙、一気呵成に敵陣を粉砕する。速度の向上に比例して追加でダメージを与え、最高速度となると大型ジャンボ機ですら瞬時に解体する。

 

 

彗星走法(ドロメウス・コメーテス)

ランク:A+ 種別:対人宝具

レンジ:0 最大捕捉:1人

 

“あらゆる時代、あらゆる英雄の中で最も迅い”とされるアキレウスの伝説が宝具として昇華されたもの。

どれほど広大な戦場であろうと一呼吸のうちに駆け抜け、如何なる障害物であろうとも、その走りを妨げることは敵わない。その速度はもはや瞬間移動並みの速さであり、目に写る視界の全てが間合いだという。

弱点の踵を貫かれれば効果は消失し、速度は7割減少するが、“神がかった腕前”でもない限りまず不可能な話だ。

 

 

勇者の不凋花(アンドレアス・アマラントス)

ランク:B 種別:対人宝具

レンジ:0 最大捕捉:1人

 

女神テティスがアキレウスの体を聖なる火で炙った際に体得した不死の肉体を、宝具として昇華したもの。

踵を除く全身に不死の祝福を授けられており、神性持ち、または神造兵器を除いたあらゆる攻撃を無効化する。神に愛された者でなければ、アキレウスの前に立つことすら許されない。

また、神性や、神造兵器持ちであろうとも、“ランクB以上”のものでなければ、攻撃は減衰する。

弱点の踵を貫かれた場合、彗星走法と共に消滅する。

 

 

宙駆ける星の(ディアトレコーン・アスティール)穂先(・ロンケーイ)

ランク:B+ 種別:対人宝具

レンジ:2~10 最大捕捉:1人

 

アキレウスの師、賢者ケイローンがアキレウスの為にあつらえた青銅とトネリコの槍。元々は、持ち主の元へと戻る機能と、相手に与えた傷の治療を阻害する機能がついている。

しかし、ライダーで召喚された場合は、アキレウス自身が作成した大魔術を発動するための触媒として機能する。

槍を地面に突き立てると、それを基点にドーム状に空間を切り取り、一対一の戦いを強制する闘技場を作り出す。空間内は時間が静止しており、他者の介入は許されず、如何なる偶然も起き得ない。相手はもちろん、アキレウス自身のスキルと宝具が使用不可能となり、完全な実力勝負でのみ決着をつけられる。

しかしこれは、アキレウス自身が難敵だと認めたものにしか、使われることはない。

 

 

蒼天囲みし小世界(アキレウス・コスモス)

ランク:A+ 種別:結界宝具

レンジ:0 最大捕捉:1人

 

アキレウスの母、女神テティスが彼の為に鍛冶神ヘパイストスに作らせた盾。全面に渡って凄まじく精微な意匠が施されている。

アキレウス自身の見た世界を象徴する大盾であり、真名解放を行うことで極小の世界を展開し攻撃を防ぐ。この盾を破壊するには、文字通り世界を壊すほどの攻撃力が必要。

またこの盾は─────“閲覧不可”

 

 

怒れる勇者(スィモス・デカ・ヘーメラ)

ランク:B+++ 種別:対英雄宝具

レンジ:0 最大捕捉:1人

 

賢者ケイローンを殺されかけた際に見せた、アキレウスの唯一の激情。アキレウスの狂暴性が誇張され、宝具となったもの。

ギリシャ屈指の大英雄ヘラクレスと引き分けた、という逸話から昇華されたもので、ステータスが上昇し、ヘラクレスに優位をとれるようになる。

ヘラクレスの宝具“十二の試練(ゴッド・ハンド)”のBランク以下の宝具の攻撃を無力化、同じ手段では殺せなくなる、という効果を無効化し、無理矢理ダメージを通す。ただし、蘇生の呪いを消すことは出来ないため、キッチリ12回殺さなければならない。

弱点として理性が飛び、属性も秩序・狂へ変化。最低限の言うことは聞くが、ヘラクレスを見たとたんに怒り狂い、大英雄を殺すことのみに執着する悪鬼と化す。

普段は任意発動型であり、自制も出来る。

バーサーカーで召喚された場合は常時発動型の宝具として機能するが、相手にヘラクレスがいる場合でないとまず召喚はされない。

 

 

⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

ランク:A+++ 種別:対人宝具

レンジ:? 最大捕捉:?

 

───宝具開帳時に解放───

 

 

 

 

 

設定

 

 

ギリシャ神話の誇る大英雄の一人、として生まれた、現代日本の記憶を持つ男。原典のアキレウスの粗暴さを嫌悪し、この世界の仕組みを悟り、せめて“ぼくのかんがえたかっこいいえいゆー”になろうと思い、実行した。

さっぱりとした気質をしており、余程話の通じない相手でもない限り、大抵の者と仲良くなれる。また情に厚く、身内と認めた者は心の底から信じ、敵だとしても敬意を払う。

 

救える者は全て救い、無用な争いはしないよう心掛けたが、あまりに好戦的な古代ギリシャの人々に、若干グロッキーになったりしていた。

アキレウスとしての性格面が強くなってからも、日本人としての気質は消えず、女性には優しく、目上の人物には丁寧に接していたら褒め称えられて困惑したり、そのことが後世に残っているのを知り頭を抱えたり、意外と苦労性。

そして、殺し、と言うものを嫌悪しており、必要に迫られた時以外は不殺を心掛けた。

 

ケイローンが殺されかけた件を根に持っており、ヘラクレスに関しては、彼の矜持は適応されない。ただしつけもの、テメーはダメだ。ヘラクレスを相手取ることになったら嬉々として殺しに行き、「ヘェラクレスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」と叫ぶ暴走特急と化す。

エルバサのフラグを叩きおっていたと思ったらテイクアウトしただけだったでござる。

 

ケイローンとアタランテのことは、生前における唯一の後悔として、今でも気にしている。もし二人と出会うことがあれば、許されずとも謝り倒し、二人に処分を任せようと決めている。




Q.街壊されなかったん?

A.鼠の様に逃げおおせるかぁ、こぉのばで死ぬかぁ…!どぉちらかぁぇらべぇぇぇい!!(平和的交渉)したからね。是非も無いネ。


Q.チートガン積み過ぎぃ!

A.すまん、手が滑った。


Q.ヤンデレかーちゃん

A.(ヤンデレじゃ)ないです。愛情がおっきなだけです(優しい表現)。


Q.男版エルバサ?

A.ああ!



その内トロイア戦争編やら他の人視点を書こうかなと思ってる今日このごろ。
基本的にその場のノリで書いているから、矛盾が出てきたりしても気にするんじゃないゾ。キャットがこたつでスイカを食べる羽目になる(あーぱー感)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幼少期
気がついたらアキレウスだった男の話


マジか先生

※誤字報告ありがとうございます!


俺には、生まれたときから意識があった。

いや…記憶があった、と言うべきか。

 

建ち並ぶ巨大な鉄の塔。馬も牛も無しに走る車。精密な像を映し出す光る箱。エトセトラ…

 

 

そんな記憶が突然頭に放り込まれ、俺が生まれた。

 

あんときゃ死ぬかと思ったなぁ…何せ、生まれた瞬間に訳の分からん記憶を頭に植え付けられたんだ。割れるように頭が痛むってのはマジだったんだな…

 

とにかく俺には、いわゆる前世の記憶ってのがあったわけだ。

 

お陰さんで、碌に泣きもしない、妙に理解力のある赤ん坊の完成だ。普通だったら不気味がられて捨てられそうなもんだが…俺の生まれた時代は普通じゃない。むしろ稀に見る神童だと喜ばれた。その辺は感謝したな。

 

 

もっとも、すぐに撤回したが。

 

突然頭から火の中に突っ込まれたんだ。文句の一つも言いたくなるだろう。全くもってイカれてる。この時代じゃなけりゃ、児童虐待で訴えられてるだろうよ。

 

…本物の神を裁ければ、の話だがな。

 

 

そう。俺を火の中にくべたのは俺の実の母であり、本物の神様ってやつだ。ここまで言やぁ、ある程度のヤツは、俺が誰だか分かるだろう。

 

 

我が名はアキレウス。英雄ペレウスと、女神テティスの間に生まれ、賢者ケイローンに教えを授けられた、人類最速の大英雄。それが、今生における俺だ。

 

 

実に奇々怪々な話だ。この前世の記憶が俺の妄想の類いじゃないなら、俺は古代ギリシャ、それも神話の世界に転生してたわけだ。

まぁ、お前らの世界じゃあ、よくある話だろう?当事者の俺としては冗談じゃないが。

だってそうだろう?

俺にとって、この世界は完全にアウェーだ。

 

まず価値観が違う。ここは、鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス、が常識の世界だ。腹が立つヤツは殺す。イラついてたら殺す。八つ当たりに殺す。そんな連中がゴマンといやがる。

 

次に環境が違う。遥か未来。発達した科学で悠々自適に暮らしていた記憶がある俺からしたら、この世界の暮らしはあまりに不便だ。この体のスペックが悪かったら、余計そう思ってたとこだろう。

 

最後に、俺が転生した先が問題だ。

 

話は変わるが、俺は父に連れられ、これから自分を養育してくれる人物がいるという森に向かった。

間違いなく、賢者ケイローンの場所だと思ったし、実際その通りだった。だが…

 

 

「貴方がアキレウスですね?本日より貴方の教育を任された、ケイローンと言うものです。これより私は、貴方に知恵と武を授けましょう。」

 

 

我が師、ケイローンの姿を見て、俺は確信した。

 

 

 

 

 

ここ型月時空じゃねぇか!!!

 

 

 

 

 

それに気づいたとき、俺は色々と諦めた。

 

この世界が型月の世界ってことは、間違いなく俺は死ぬ。そう運命付けられている。よしんば生き残ったとしても、抑止力が無理矢理辻褄を合わせにくるだろう。この身は確かに英雄だ。だが、世界を相手にするには、俺はあまりにちっぽけだ。

 

 

 

 

あぁ、だが。運命は変えられなくとも、過程を変えることぐらいは出来るはずだ。

 

神話におけるアキレウスは、はっきり言ってクソ野郎だ。身内には良いヤツだったかもしれないが、それでもあまりに野蛮すぎる。自分と一騎討ちをした相手の死体を二度に渡って辱しめ、死後になってさえ、自身の女々しい欲望によって、一人の女を殺しやがった。あぁ、全くもって胸糞悪い。

 

だから俺は、せめて恥じることの無い人生を送りたい。例え死は避けられなくとも、誇りある死を。自らの人生に後悔なんぞ無かったのだと、そう生きられれば、幾らか上等な人生を歩めたと、笑って死ねるだろう。

 

 

 

 

 

それから、俺の地獄の日々が始まった。正直、なんであんな決意しちまったんだと何度も思った。

 

戦闘訓練での話だ。速さで翻弄しようとすれば、「貴方の動きの癖を見切れば、移動先を予測するなど容易です。」と言われ見事に腹に一発入れられた。ならばと真正面から戦おうとすれば、「勇気と無謀を履き違えているようでは、私に傷ひとつ付けられませんよ。」と言われ、関節をバキバキに折られた。おまけに、いくら傷を付けられても治癒の魔術で治され、「治りましたね?さぁ続きです。」となり、そのままサイヤ人方式の修行がエンドレス…やめろぉ先生!人の関節はそんな方向に曲がらねぇよぉ!!

 

 

 

…すまん、取り乱した。

まぁ、武術に関しちゃ鬼神もかくやな人だったが、それ以外に関しちゃぁ本当に良い師匠だった。正直、この時代の人間の誰よりも人格者だったぜ。

まさかこの世界で、人として当たり前の一般教養や道徳を習うことになるとは思わなかった。お陰で、前より随分と、心に余裕が出来た気がする。

 

覚えられることは全て覚えた───どっちかっつーと叩き込まれたんだが───本当に様々な事を教わった。先生には、感謝してもしきれない。

 

…ただ…この時代では一般的なんだろうがよぉ…俺の貞操を狙うのは勘弁してほしかったぜ先生…

 

 

そんなわけで、色んな意味で必死に駆け抜けた甲斐もあり、それなりには強くなったと思う。

 

卒業祝い、っつーには豪勢だが、先生から短槍を戴いた。青銅とトネリコの木を合わせて作られているから、軽すぎず重すぎないし、柔軟性を維持しているから下手に固い槍よりも余程頑強。俺好みの良い槍だ。

いや、アンタじゃなくて槍の事だよ先生!

 

 

 

何はともあれ、先生の元を離れた俺は、観光がてら世界を見て回った。正直不安ではあったが、自分の脚で旅をするのも、思いの外楽しいもんだ。

おまけにこの体はアキレウス。あらゆる英雄の中でも最も迅いと言われるだけあり、下手な車よりずっと迅い。自分の思う通りに体が動くっていうのは、気持ちいいもんだ。

 

ただ、行く先々で勝負を挑まれるのは、少々参ったが。

こちとら頭の中には前世の価値観が染み付いてるからな。あまり波風たてないようにしたかったんだが、周りから見ると臆病者に見えるらしくて、すぐに喧嘩を吹っ掛けられる。まぁ、尽く打ち払ってやったが。

 

 

 

旅の途中、俺はトンでもない人と出会った。

金から翡翠へと、グラデーションのかかった美しい髪。翠緑の衣にしなやかな肢体を包んだ、気品の中に野生の如き荒々しさを孕んだ女性。

 

どうみてもアタランテの姐さんだわ…

 

なんでも、色んな連中からの求婚が鬱陶しくて逃げ回っている最中らしい。なんと言うか…御愁傷様だ。俺も気持ちは分かる。

 

自慢になっちまうが、俺もモテる。この世界は基本的に、顔が良くて腕が立てばモテるからな。俺の場合、女に対する偏見が無いってのもあるんだろう。

 

 

なんやかやと意気投合した俺たちは、しばらく共に旅をする事になった。誰かと旅をするってのは良いもんだ。話し相手に事欠かないのが良い。おまけに、姐さんも俊足を謳われた人だ。速駆けをするときも難なく共に走れた。姐さんは驚いてたが。

…もっとも、襲撃者は増えちまったがな。姐さんみたいな美人と旅をしてんだから、有名税、とはちょい違うが、まぁ仕方ないか。

…何赤くなってんだ、姐さん?

 

 

姐さんとの旅をし始めてかなり経ったころ、女神アルテミス(スイーツ脳)が降臨した。いや、なんでさ。

「貴方がウチのアタランテちゃんを誑かしてる悪い子ね~!」とか言われた後にアホかと思うほど矢を射たれた。いや、本当になんで?

狩猟の女神と言われるだけあり、全力疾走しても紙一重でかわせる程度だった。なんであんな出鱈目な射ち方で正確にこっちに飛んでくるんだよ…ミサイルか何かかよ…

 

しばらくした後、なぜか固まってた姐さんが再起動して、女神アルテミスを止めてくれたんだが…今度は「アタランテちゃんをよろしくね!泣かせたら、天罰下しちゃうゾ⭐」とか言って去っていった。それ冗談じゃ済まねぇから…

 

 

女神襲撃事件からしばらくした後、俺は猛烈に嫌な予感を覚えた。何故かは分からなかったが、今すぐ先生の下へ行かなければならないと思った。

ダメで元々、姐さんに頼み込むと、呆れながらも共に来てくれる事になった。これほど心強いことはない。俺たちは早速、あの懐かしの森へ駆けた。

 

 

 

 

本当に肝が冷えた。予感通り、先生はあと一歩のところで死ぬところだったんだ。

森へ来た俺の目に飛び込んで来たのは、森の中へと猛スピードで飛来する一本の矢だった。その時のことは、あまり記憶に無い。ただ必死に駆け抜け、気付いたら先生の前に立ち、地面には巨大な矢が突き刺さっていた。

 

これをやった犯人は分かってる。ヘラクレスだ。最高峰の知名度を誇り、十二の難業を成し遂げた、万夫不当の大英雄。

 

 

 

 

 

だが、それがどうした。

野郎は、よりによって先生を殺そうとしやがった。

それも取るに足らん、あまりにもくだらん理由で、我が師父を殺そうとしやがった!!

 

今思い出すだけでも(はらわた)が煮えくり返りそうだ。

 

 

 

 

 

そこからはまた記憶が飛んでるが、野郎と一戦交えたことは確からしい。気がついたら、幼少期を過ごした懐かしの小屋の、これまた懐かしい俺の部屋にいた。

アタランテの姐さんが運んでくれたらしく、先生は俺に飯を作ってくれているとのことだった。それを伝えたときの姐さんの顔は、とてつもなく微妙な顔をしていたのを覚えてる。

 

それもそのはず。飯を持ってきたのは、先生に似た美女だった。というか女体化した先生だった。マジか先生。

 

自身の神としての権能を使ったとかなんとか言ってた気がしたが、正直あまり覚えていない。というか覚えられるわけ無いだろ!

長年師として、親の様に慕ってた先生が、突然女になるとかどうなってんだよ!なんで女になったんだって聞いたら、「それを私に言わせるのですか。」とか頬を赤らめながら、親同然の人に言われるとかどういう心境で聞きゃいいんだ!しかも無駄に様になってるのが余計に嫌だよ!

 

一頻り(ひとしき)混乱したあと、姐さんに肩をポン、と叩かれた。その時の姐さんは、やっぱり微妙な顔をしていた。

 

 

 

それからしばらくは姐さん共々、先生の家で厄介になることになった。思い起こすと、この辺りが俺の人生で一番楽しかった時期だと思う。

 

理知的な見た目に反して意外と無茶苦茶やらかす先生と、粗野な見た目とは裏腹に割と常識人な姐さん。この二人と平和に過ごしていたあの頃が、俺にとって一番楽しかった。

 

 

 

 

 

その後はどうなったかって?

 

 

───なんのこたぁ無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり俺は、運命には勝てなかった───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何が不味かったんだろうな。

 

 

いや、何も不味くなかったんだろう。

 

 

実際、過程は変えられた。

 

 

アガメムノンとの確執は未然に防いだ。

パトロクロスも死ななかった。

ヘクトールのおっさんとは強敵(とも)として渡り合ったし、

ペンテシレイアのヤツとは、互いに誇りある戦士として、尋常なる戦いをすることも出来た。

 

 

だが、こうなっちまったのは…そうだな。

 

 

 

───()()()()()()。ただ、それだけなんだろう。

 

 

 

 

 

あぁ、目の前が霞んできやがった。いよいよ、限界ってヤツが来たんだろう。

 

 

父上、母上、パトロクロス、ヘクトール、ペンテシレイア、先生、アタランテの姐さん…

 

 

本当にすまねぇ。

 

 

俺はとんでもない大馬鹿野郎だ。

 

 

 

まぁ、せめて最後まで、全力で抗ってみせよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オリュンポスの神々よ。願わくば、我に栄誉ある死を与えたまえ───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキレウス。

 

ギリシャ神話最大の英雄の一人であり、人体の一部、アキレス腱の語源ともなった人物。世界最速の英雄としても知られ、駿足のアキレウスと称された。

 

英雄ペレウスと女神テティスとの間に生まれ、トロイア戦争においては獅子奮迅の活躍を見せた。

 

 

生まれた瞬間から言葉を発した、と言われており、ペレウスとテティスは神の如き子を授かったと喜び、三日三晩宴を催したと言う。

 

非常に公明正大な人物であったとされ、決して不当な戦いを起こすことはなかったが、誰からの挑戦も断ることはなく、その全てにおいて勝利を収めた。

また、男尊女卑の風潮が強い古代において、誰よりも女性を尊重したとされ、現代においてもレディ・ファーストを実践する紳士的な男性を「アキーリオス(アキレウスの如く紳士的な人)」と称する。

 

戦いにおいては正々堂々を良しとする一方、戦場に立つ者は誰であれ、戦士として敬意を払った。

彼にとって最高の好敵手と謳われる、ヘクトールのあらゆる手段を使った立ち回りに対して「なんて機転の利く男だ!あれほど知恵の回る男を、自分は片手の指の数ほども見たことがない!」と評し、ヘクトールの死後、アキレウスは誰よりもその死を悼み、篤く弔ったという。

また、アマゾンの女王ペンテシレイアとの戦いでも、見目を気にせず、最後まで一人の戦士として接し、彼女の死後も、彼女の遺体が弄ばれることが無いように、彼女の遺体が弔われる間、常に敵味方の誰からも目を離すことは無かった。

 

 

アキレウスを語るうえで欠かせないのは、その恋愛模様であり、あらゆる題材にも取り上げられている。

それが、アキレウスの養育者であった半人半馬(ケンタウロス)の賢者ケイローンと、ギリシャ最高の狩人と名高いアタランテとの悲恋だ。

 

アタランテは、高まった名声により迫り来る求婚者たちから逃れるために放浪していたところ、旅をしていたアキレウスと出会い、仲間として共に過ごしていたが、アキレウスの何処までも実直な性格に惹かれた。アキレウスはその際、アタランテの信仰していた月女神アルテミスに襲撃を受けたが、その俊足で以て、アルテミスの放つ幾万もの矢をかわしてみせた。その見事さにアルテミスは感服し、アタランテとアキレウスの交際を認めた。

 

この逸話から、男性が女性との付き合いを親に認めてもらうために、一つの試練を出すことがヨーロッパでの慣例となっており、これを「アルテミスへの宣誓」と言われている。

 

 

ケイローンは、アキレウスの教育者であり、アキレウスの幼年期は彼と共にあった。驚異的な早さで自身の知慧と武技を学んでいくアキレウスに、ケイローンは誇らしく思っていた。この時点ではまだケイローンは彼であったし、アキレウスを弟子として見ていた。

 

しかしある日、ケイローンの住む森の近くにギリシャ神話の誇るもう一人の大英雄、ヘラクレスが来た。十二の難業の一つ、エリュマントスの大猪の狩猟のためだ。

ヘラクレスは、エリュマントスの大猪を狩猟をする際に、ケンタウロスのポロスの助力を請い、見事に成し遂げた。しかしこの時ヘラクレスは、ポロスの持っていたケンタウロス族の秘酒を誤って飲んでしまった。それに大層怒りを懐いたケンタウロス一族とヘラクレスが戦うこととなったのは知っているだろう。

この時ヘラクレスは、ヒュドラを退治した際に手に入れた、神ですら死に至らしめるほどのヒュドラの毒を用いた矢を使っていた。

 

ここでヘラクレスにとっての誤算が生じる。なんとヘラクレスの放った毒矢が、自身の武術の師であるケイローンのいる方向に飛んでいってしまったのだ。

あまりの速さで迫り来る毒矢を前に、ケイローンは死を覚悟した。

 

それを救ったのが、かつての弟子、アキレウスである。

 

アキレウスは、旅先で嫌な予感を覚え、その駿足の足で以て、恩師ケイローンの下まで駆け抜けたのだ。

この事からアキレウスには、母である女神テティスの予言の力を受け継いでいたとも言われている。

 

自身の恩師を殺されかけたアキレウスは激怒し、矢を射ったヘラクレスと戦った。

大英雄たる二人の戦いは周囲に天変地異を巻き起こした。

嵐が起こり、大地が抉れ、森の一角は吹き飛んだ。余りの衝撃に、神々ですら眺めることしか出来なかった。それほどまでに、アキレウスの怒りは凄まじかったのだ。

少なくとも、彼らの死闘の後らしきクレーターは、現在でもヨーロッパのとある森の近くで確認されている。

 

アキレウスが本当に怒ったのは、後にも先にも、この一回のみと言われている。

 

二人の死闘は十日間にも及び、結果は両者相討ち。アキレウスはケイローンの小屋に運ばれ、九日間に渡り眠り続けた。

 

この時ケイローンは、自身を救ったアキレウスに恋情を感じ、自身を男から女へと変じた。これ以降、彼は彼女となったのだ。

このことから、現代ヨーロッパは同性愛に寛容であり、結婚も可能となっている。

 

 

この後、アキレウス、ケイローン、アタランテの三人は、しばらくケイローンの小屋で過ごした。

 

しかし、平和な日々も長く続く事はなく、ある日アキレウスたちの下にギリシャ軍からの使者が来た。アキレウスをトロイア戦争に参加させようとやって来たのだ。

 

ケイローン、アタランテはこの使者を追い返したが、戦争に参加すると言ったのは、他でもないアキレウスだった。

アキレウスは知っていた。いずれ自分が戦争に参加することを。そしてその戦争で自分は命を落とすことを。

それが自身の運命であると語るアキレウスを、ケイローンとアタランテは止めようと、アキレウスに勝負を挑んだ。

しかし、ギリシャ最大の英雄であるアキレウスに敵うことはなく、二人は気絶させられ、それ以降、三人が共に出会うことはなかった。

 

その後予言通り、アキレウスはトロイア戦争にて戦死。その最後はどこまでも誇り高く、堂々とした仁王立ちのままの死であったという。

 

その事に深く嘆き悲しんだケイローンとアタランテ。

 

ケイローンは己の不死性をゼウスに頼んでプロメテウスに譲り渡し、アキレウスの後を追うように死を選んだ。

その事を残念に思ったゼウスは、ケイローンの姿を星の形として象ったという。これが、射手座の由来だ。

 

アタランテはその後の詳しいことは書かれていない。ケイローンと同じく、アキレウスを追って死んだとも、実はアキレウスの子供を身籠っており、その子を産んで育てたとも。諸説ある。

 

ただ一つ確かなのは、彼女たちにとって、アキレウスの存在は非常に大きなものだったということだろう。




色々書いてないので補足。


原作との相違点
・女装イベント回避。
・内輪揉めを回避。
・お友達の死亡フラグポッキリ。
・ヘクおじとお友達(仲良死)に。
・エルバサさんの恋愛フラグ建築。
・アルケイデスさんと死闘(ガチ)
・姐さんと遭遇。
先生がTS


Q.J(´ー`)し「私の出番は?」

A.すまない…原作とほとんど立ち位置変わらんかったし、話の都合上出なくても問題なかったんだ…本当にすまない…


Q.女装イベなんで抜かしたん?

A.テティスさんて(アキレウスくん限定で)子煩悩っぽいし、ヤダヤダすればしょうがないにゃ~ってなると思うの(偏見)


Q.お友達の死亡フラグとかどしたのよ。

A.アルテミスさんとかが何とかしてくれたんだよ(震え声)


Q.結局憑依なのか何なのかハッキリしろや。

A.日本語って曖昧な表現多いやん?(目そらし)


Q.先生TSってどういうことじゃオラァン!

A.気付いたら書いていた。後悔も反省もしていない。




こんな感じで。
多分まだまだ書いてないのもあるけど、今はこれで許してちょ。
気が向いたら続きとか他の人視点を書く気がする。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ある狩人の最期(アタランテ視点)

おや?姐さんの様子が…


私にとって転機があったとすれば、きっと、あのとき旅に出たことだろう。

 

 

私の名声を聞きつけやってきた、数々の求婚者たち。私は、女神アルテミス様を信仰し、純潔であることを誓った身。結婚などしないと、何度言っても引き下がらない連中に辟易としていた私は、遠くに逃げようと思った。私に追い付ける者など、彼奴を置いてそうはいない。

無論、連中は私に追い付くことなど無かった。

 

しかし考えてみれば、宛ての無い旅、というものをするのは初めての経験だった。

 

アルゴー船への参加、カリュドーンの討伐、どちらも大元の目的があったが、今回は単なる逃避だ。何をどうすればいいのか分からない。しかし今さら、あの連中の相手をするのも御免だ。

 

そんな頃だった。若草色の髪と、琥珀色の瞳を持った、あの馬鹿者と出会ったのは。

 

 

 

始まりはただの気紛れだった。

 

女を見る男の目、というのは、大抵が欲望に塗れている。しかし、彼奴からはそういった、邪な類いのモノが感じられなかった。

だからだろうか。彼奴に話しかけられたときも、特に拒もうとは思わなかった。

 

アキレウスと名乗った其奴は私の名を聞くと、何やら得心がいった様な顔をしていた。彼奴の父がペレウスだと知った時は驚いたものだ。まさかあの時私が負かした者の息子だとは。

 

その後はあれやこれやと話をした。私はあまり饒舌な方ではないが、それでも興が乗り、中々話し込んでしまった。きっと、彼奴が驚くほど話上手だったからだな。

姐さんなどと気安く呼びおって…全く…

 

 

 

 

彼奴は、私の知るどの男とも違っていた。

 

 

まず、自分の武勇を誇ることはあれど誇示はしない。戦う者、というのは、大なり小なり自分を強く見せようという者が多い。さも自身が最強であるかのように話を誇張し、無駄に偉ぶるのが普通だ。

しかし、この男は自身の今までの戦いを語ろうとはしなかった。何故かと聞くと「餓鬼の喧嘩を自慢する馬鹿がどこにいる。」と答えた。

自分が自慢をすることがあるとすれば、自身に武を授けてくれた師匠の話と、これから先、尋常なる戦いをした時。無意味な争いを自慢するほど馬鹿馬鹿しいものはない、と。

 

…アルゴー船にはその手の馬鹿が大勢いたな…

 

 

そして…そうだな…根本的に考え方がズレている、と言えば良いのだろうか。

無闇に暴力を振るってはならない、力無き者たちに理不尽を強いてはならない、女は守るべき者であると同時に対等な者、そんなことを、当たり前の事だと信じている。

力こそ正義、というのがこの世の真理だ。あらゆる人間がそう考えているだろうし、私自身そう思っている。

しかし、あの男にとって、力のある無しは問題にはならない。ただ生きているだけで、彼奴にとっては価値があったのだろう。

 

 

一晩語り明かした吾々は、自分でも驚く程にあっさりと、共に旅をする事になった。全くもって可笑しな話だ。男から逃げていた私が、皮肉にもその男と旅をするのだから。

 

 

 

 

自覚したのは随分後だったが、もしかしたら私はこの時から、既に彼奴に惹かれていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

共に旅をして分かったが、彼奴は私と会ってから、ただの一度も虚言を吐いていなかった。

その言葉通りに、自身の武をひけらかす事無く、然れど卑屈になることも無い。理不尽を許さず、あらゆる者と対等に接する。

まるで、世直しの旅でもしているのかと呆れたものだ。彼奴からすれば、ただ当たり前のことをしていただけなのだろうが。

 

そして驚いたのは、彼奴の速さだ。

私も脚にはかなり自信があった。森と共に生きてきた私は獣と同等の速さで駆けられる。事実、それまで私に着いてこれた者はいなかった。

だが、彼奴は私にアッサリと追い付いただけでなく、時には私が追う側に回らざるを得なかった。

悔しい、という思いを抱くのは初めての経験だった。結局、一度も勝つことは出来なかったな。

 

 

 

 

鍛え抜かれた肉体、洗練された武術、誇り高い精神。これだけのものを揃えているアキレウスだったが、唯一の弱点として、彼奴は酷く甘い心根をしていた。

 

 

彼奴は人を、何かを殺す、ということを疎んでいた。

 

腕に自信のある者たちは、こぞって彼奴との死闘を臨み、彼奴もまた断らなかった。しかし、彼奴は決して相手を殺さなかった。

 

 

「甘い、と言いたきゃ好きにすればいいさ。俺からすれば、平気で命を奪えるアンタら(・ ・ ・ ・)の方がよっぽど恥知らずに見えるぜ。」

 

 

尋常なる戦いを臨んだというのに情けを掛けるとは自分を侮辱しているのか、と宣った輩に、彼奴はこう言い放っていた。

だが不思議と、彼奴の言葉は私の耳に酷く残った。

 

 

 

なぜ、そうも殺しを忌避するのか。

ある日の野営の最中に、私は問いかけた。

 

 

「戦争で殺すなら、それは納得できる。相手も殺す気で来るんだ。殺らなきゃこっちの仲間が殺られる。」

「狩猟で動物を殺すのも分かる。肉も皮も骨も、生活するにはかかせないからな。」

「だが、そうでもなけりゃ、殺しなんざ冗談じゃねぇ。その殺した相手の家族は?友は?残された者たちは、死んだ者を一生背負っていかなければならなくなる。」

 

「…まぁ、そうだな…何だかんだと言ってはみたが、これは単なる俺の弱さ。もっと言えば、エゴってヤツなんだろうさ。」

 

 

そう語っていたあの男の顔は、焚き火の暖かな光に照らされながら、自嘲的な笑みを浮かべていた。

 

確かに、甘い思想だろう。

結局のところ、この世は弱肉強食。強者が支配し、弱者はただ隸属するしかない。どこに行こうとも、それは変わらない。

しかし私は、彼奴の言う弱さを好ましく思った。

 

私とて、好き好んで悪逆を為そうとは思わない。何よりも、理不尽な目に合う子供たちを、見捨てることなど出来はしない。

 

 

私は生誕を望まれなかった身だ。別に、両親を恨む何てことはない。顔も見たこともない連中。何か思いを抱けというのが、無理な話だ。

 

───しかし、だからこそ、せめて他の子供たちは。

周りに脅かされず、何にも利用されず、ただ親に愛され、健やかに育つ。そんな幸せ(当たり前)を掴んでほしい。

 

…私のような、人でなしになる前に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

共に旅を始めてから随分と経った頃、私は信じられない…いや…信じたくない出来事に直面した。

 

 

「貴方がウチのアタランテちゃんを誑かしてる悪い子ね~!」

 

「ちょっと待て、突然出てきて一体なんの話…危なッ!?」

 

 

うん…いや…今でも信じたくない。私が信仰していた神が、あんな…アレな性格だったなんて誰が思う?

月と狩猟の女神アルテミス様と言えば、もっとこう…いや、それにしたって、せめて威厳を…

 

 

 

私がアルテミス様の誤解を解いたのは、随分と時が過ぎてからだ。

…もう少し早く止めれば良かったのだが、いつの間にか、時が過ぎていたのだ。許せ、アキレウス。

 

いやしかし…結果的に見れば、アルテミス様の誤解は、実質誤解では無かったというか…むしろ私の方が拐かす側というか…うむ…私は、あの馬鹿者にいつの間にやら…惹かれていた。

 

 

自分でも自分が信じられなかったさ。彼奴と私、一体幾つ年が離れていると…そもそも、私はアルテミス様に純潔を誓った身。愛だの恋だのに浮かれている場合は…

 

 

「別に大丈夫よ~?そりゃあ体裁としてちょっとした罰は必要だけど、好きなら好きって言えば良いんじゃない?」

 

 

 

 

「てっきりアタランテちゃんを騙して手籠めにしようとしてる悪い子なのかと思ったけど、アタランテちゃんの方が好きなら話は別よ。たっぷり祝福してあげる!」

 

 

いや、その

 

 

「いい、アタランテちゃん?恋をしたなら、とにかくゴーゴーゴーよ!私の矢をあんなに避ける勇士なんてそうそう居ないんだから、きっとあの子もダーリンみたいにモテモテに違いないわ!」

 

 

あ、はい、それはもう

 

 

「やっぱり!他の女に取られる前に、既成事実なりなんなりつくちゃいなさい?アタランテちゃんが迫れば、大体の男はイチコロよ!」

「そうだ!これを機に、アタランテちゃんにもい~っぱい祝福をあげるわ!初めての恋だもの、叶わなくっちゃ嘘よね!ついでに、弓矢の腕もマシマシにしてあげる!」

 

 

あ、はい、ありがとうございます

 

 

「罰は…そうだわ、獣人っぽくなる感じがいいわね!これなら奥手なアタランテちゃんも、発情期になったら強引にイケるし、より身体能力も上がる。なによりとっても可愛らしいわ!」

 

 

ア、ハイ、ソレデイイデス

 

 

「それじゃあね、アタランテちゃん!絶対、ぜ~ったい、恋を叶えるのよ~!」

 

 

ハイ、サヨウナラ

 

 

 

 

 

 

 

 

はっ…頭が痛い…何か胃も痛い…これ以上考えるのは止めておこう。さらに酷いことになりそうだ。

 

 

 

ま、まぁ、こうして、私は獣の如き耳と尾を付けられた。アルテミス様の仰っていた通り、身体能力もより上がっていた。

 

…ただ、私が何より、その…嬉しいと感じたのは…彼奴の態度が変わっていなかったことだ。

 

 

 

「どんな姿だろうと、姐さんは姐さんだろ?俺が好きな姐さんは、何にも変わっちゃいないさ。」

 

 

 

…本当に、彼奴と共にいると、驚くことばかりだ。

以前の私であれば、姿が変わろうと何も思わなかった。彼奴の言葉も、きっと一笑に伏していた。

 

それがまるで生娘の様に、一人の男の反応を不安に思い、今はこうして安堵している。

 

そして、好き、という言葉に、こうも心を揺り動かされる…

 

 

考えてみれば、必然だったのかもしれない。

私よりも強く、迅く、英雄にありがちな傲慢さも持ち合わせていない。弱き者を守るために戦う優しさがあり、時おり見せる子供の様な表情は愛らし…ごほん…

 

とにかく、これだけの魅力が揃っているのだ。一人の女として、惹かれるのも当然だろう。

 

 

だが…彼奴が私に向けている感情は、親愛。あくまでも友に向けるそれだと、分かっている。

 

アルテミス様の仰っていた様に、子を成してしまう方が早いだろう。誠実な彼奴の事だ。きっと、共にいてくれる…が…何故だろうな…あまり、良い気分はしない。

それに、今の関係に安心している私もいる。

 

…恋というのは、こうも人を臆病にするのだな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、幾分か時が経った。

 

ある日、彼奴は不吉な予感がするから恩師の下へ行く、と言い出した。これは単なる自分の我が儘だ。私が付き合う道理は無い。今まで世話になった、と。

 

無論断った。

理由が勘、というのは些か呆れたが、余程焦っているであろうことは見てとれた。ならば私も行った方が何らかの助けになる、と。

…それに、私は存外、執着的な女だったようでな。今さら彼奴と離れようとは、どうしても思えなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

そして共に、彼奴の故郷であるという森に着いた───生家は別にあるが、彼奴にとっての故郷はここらしい。

 

 

…そして私はそこで、懐かしい顔と、知らない顔を同時に見ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

「がああぁぁ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛!!!!!」

 

「ぐっ、おぉおぉおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

まるで暴風、地震、嵐。考えうる災害をまとめてこの場にひっくり返した様な。地獄が作り上げられる光景を見せられているような。それほどの闘いが繰り広げられていた。

 

 

思いがけず、懐かしい顔を見た。

 

かつて私が出会った、アルゴー船に集いし英傑たちの中にあって、一際大きく、強き者。ギリシャ中にその名を轟かせる、巌の如き英雄。ヘラクレスが、そこにいた。

 

私とて、奴の活躍は耳にしていた。無双の獅子を打ち倒し、不死身の毒竜を殺し、他にも様々な冒険をしているという。

ギリシャのあらゆる英雄の中でも、まさしく最強だといえる、万夫不当の大英雄。

 

 

 

 

 

そんな奴が、()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思えば私は、彼奴の怒る姿を、一度も目にしていなかった。

 

 

 

ギリシャの男というのは、総じて気が荒い。

酒が入れば乱闘騒ぎ、目が合えば取っ組み合い、何となくで殴り合う者もいる。

 

彼奴には、そんなギリシャ男児特有の躁急さが皆無なのだ。

 

大抵の者とはすぐに打ち解けるし、相手側が怒りを見せようものなら宥めすかして、いつの間にやら煙に巻いている。

 

 

 

そんな彼奴が────ああも怒りを露にしている。

 

 

 

 

 

 

 

その時は、一瞬だった。

 

森に着いた時に見えた、一条の光。彼奴の姿が一瞬にして掻き消えた。

私も全速力で向かったが、既に矢は叩き落とされ、彼奴はその場で立ち尽くしていた。彼奴の後ろには、一人の男が庇われる様に立っている。

彼奴があの矢を止めなければ、恐らく─────

 

 

 

 

 

 

 

「…………………す………」

 

 

 

 

 

突如、体が酷く重くなった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ろす…………」

 

 

 

 

 

あまりにも濃いそれに、意識すら遠退き…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────殺す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

息をすることすら忘れていたことを思いだし、視界が戻ってくる。そうして気づいたら、今の惨状だった。

 

ヘラクレス(懐かしい顔)は苦悶の表情で、アキレウス(知らない顔)は怒り狂い、我を忘れたかのような形相で、相争っていた。

 

 

私に向けられたものではなく、距離も離れているというのに、肌に突き刺さるような濃密さ。

 

 

信じられなかった。あのヘラクレスが。アルゴナウタイに集った者たちが、敵わないと認めたあの男が、ああも追い詰められている。

 

信じられなかった。あのアキレウスが。殺しを嫌悪し、誰よりも生を尊重しているあの男が、ああも殺気を纏って刃を振るっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし私は心の内で、もうひとつ別のことを考えていた。

 

 

 

 

 

もし、

 

 

 

 

─────もしも、私が同じような状況に陥っていたら、彼奴は…同じように怒りを見せるだろうか─────。

 

 

 

 

 

 

 

そのとき、空には美しい三日月が昇っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あらそ)いが終わったのは10日後のことだった。

 

私は、二人が争っている間、ケイローンの小屋に避難させてもらっていた────まさか彼奴の師が、音に聞こえし人馬(ケンタウロス)の賢者だとは、驚いたものだ────。

 

 

「彼はきっと…私たちの森を傷つけることはしないでしょう。」

 

 

その言葉通り、あれほどの激闘の後だとは思えないほど、小屋の周囲は小綺麗なままだった。周辺の森も、穏やかなものだ。

 

 

だが、あの二人を見つけることは容易かった。

二人の通ったであろう箇所には、何一つとして無かったから。

 

岩も、木々も、草も、最初から何も無かったかのように。

 

道というには荒れた戦いの跡を辿っていくと、一際大きく、地面が陥没した箇所に着いた。中心には人影が見える。

 

 

 

 

 

「久しいな。俊足の狩人。」

 

───そうだな、ヘラの栄光。

 

「その小僧は、お前の知り合いか?」

 

───そうだ。私の、友だ。

 

「そうか…まさかこれほどの猛者がいるとはな。しかもこの若さで…純粋な闘いの末に体が動かなくなる、など、初めての経験だ。」

 

───私も驚いている…これほどまでに、強かったのだな…

 

「あぁ…私は、この者に礼を言うべきなのだろうが…恐らく、また同じようになってしまうだろう。私は、それほどのことをしてしまった…」

 

───…そうか。

 

「さぁ、連れていくといい。私は、今しばらくここにいよう。正直に言うと、話すのがやっとなのだ。こうしているのも、先達としての矜持の様なものだ。」

 

───フッ…そうか。

 

「それと、言伝てを頼みたい、ケイローン師に。謝って許される問題ではないが、すまなかった、と。今の私は、業を清算している身。全てを終わらせ、顔向けが出来るようになれば、必ず謝罪に伺う。そう、伝えてくれないか。」

 

───共に旅をした(よしみ)だ。必ず伝えよう。

 

「ありがたい。それから…いや、やめておこう。いずれ、もしも巡り合う機会があれば、その小僧自身の口から名を聞きたい。私をこれ程までに追い詰めた、最大の強敵よ。」

「…それではな、アタランテ。」

 

───あぁ。達者でな、ヘラクレス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの闘争より数日。彼奴が遂に目を覚ました。

 

最初に気づいた時には驚いていた様だが、すぐに状況を理解したのか、私に礼を言ってきた。別に気にすることでも無いというのに、律儀な奴だ。

 

…ケイローンのことを聞かれたときは…なんと説明すればいいのか困ったな…まぁ、タイミングよく来たお陰で、手間は省けた。が、彼奴は完全に固まっていた。

 

それは…そうだろうな。私とて驚いたのだ。

だが、私はケイローンと接した期間はまだ短い。女になられても、驚きこそすれ、困惑は無かった。

それに、ギリシャでは大して珍しいことでもない。男が女に、女が男にと、意外と男女の境目が曖昧だったりする。なら、うん。そういうこともあるんじゃないか?

 

───まぁ、気を強く持てよ、アキレウス。

 

 

 

 

 

それからの日々は…あぁ、楽しかった。こうまで穏やかに過ごした日が、かつてあっただろうか。

好いた男と共に過ごし、同じ男を好いた者とも、睦まじく過ごす。私にとってあの時間は、何よりも、かけがえのない宝だ。

 

三人での遠駆けは胸が弾んだ。共に行う狩りに心が踊った。いつまでも、こんな時間が続けばいいのにと、心から願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────だが、その願いは叶わなかった。他ならぬ、彼奴自身の手によって。

 

 

 

 

 

何故、こうなってしまったのだろう。何が悪かったのだろう。

 

私はただ、同じ時を共に過ごす。

 

それだけで良かった。良かったのだ。

 

 

もう、あの爽やかな風の様な男は、私たちの好いた男は、この世のどこにもいない。

 

共に駆けることも、狩りをすることも、語らうことも、出来ない。

 

あの賢者も既に逝ってしまった。あの悲嘆が、慟哭が、耳からいつまでも離れない。

 

 

私も出来ることなら投げ出したかった。しかし、獣としての本能が、自死など許さぬと警鐘を鳴らす。

 

まさしく、この姿は罰となった。愛しい男も、親しき友も失い、それでもなお、死ぬことが出来ない。

 

 

せめて、この想いの一欠片でも、彼奴に伝えたかった。

 

あの時伝えていたら…何かが変わっただろうか?

 

今となっては、もう分からない。

 

 

 

 

 

 

なぁ、アキレウス。

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、どうすれば良かったのだ?

 

 

 

 

 

 

 

私は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたし、は…──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘラクレスは十二の難行以外にも、様々な冒険や、死闘を繰り広げた。その中に、ぺリオン山の麓の森の怪物を打ち倒した、というものがある。

 

その森は、かつてヘラクレスが武術を学んだ場であり、恩師ケイローンがかつて住んでいた場所だ。

 

たまたま森近くの町に立ち寄ったヘラクレスは、町の住人に怪物の噂を聞き、これでは師の森と町の人間が危ないと思い、勇んで討ち取りに出向いた。

 

そこでヘラクレスが見たのは、全身が真っ黒いモヤの様なもので覆われた、世にも恐ろしき魔獣であったという。

 

その魔獣はヘラクレスと打ち合える程の凄まじい怪力の持ち主で、鋭い針状のモノを幾つも飛ばし、翼の様なモノで空を高速で飛び回り、ヘラクレスを苦しめた。

 

無論、ヘラクレスはこの怪物を仕留めたが、そこまでで記述は終わっている。

 

ヘラクレスの師、ケイローンが住んでいた森の下に突如として現れた、ヘラクレスを苦しめる程の怪物の話だというのに、詳しい内容が見当たらないのだ。

 

一体、この怪物はなんだったのか。ぺリオンの魔獣と呼ばれるこの怪物の正体は、未だに謎に包まれている────。




四周年ありがとう!(大遅刻)
推しの大量増加と連続星5召喚でテンション上がりすぎておかしくなってた野菜人です。
追加低レアたちには、一つの共通項がある…それは、顔の良い変態…ということだ…!(生贄不可避)


次はトロイア編を書くといったな?あれは嘘だ。

というか、トロイア書こうと思ったら姐さんと先生視点を先にやっとかないと違和感あるやん、と思いましてね。一先ず、姐さん視点を納めに来ますた( ´_ゝ`)

シリアス苦手なりに、意外となんとかなったんじゃないかと思いますが…後半になると雑になる癖をなんとかせねば…

それと、ヘラクレスさんの口調は原作での一瞬の台詞と、作者の妄想で補完してるので、こんなん違ぇよ!ってなったらすみませぬ…


先生視点の方は、カリクロさんの扱いに悩み中です…fateではしっかり言及されてるので、全く居ないものにするのはさすがに無いですが…いるのならTS先生とかなんやねんってなる…ウゴゴゴ…


それでは、水着イベント頑張りましょう!

マーリン引いた(感謝の素振り)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ある賢者の慟哭(ケイローン視点)

あれ?もしかして原典よりハードモード?


妻が亡くなりました。

 

まるで、体の半分を失った様な感覚でした。

 

 

 

本当に些細なことだったのです。偶然私が遠出をしていたときに、我が家の付近に気性の荒い魔獣が現れた。そして妻は、その魔獣にたまたま襲われてしまった。

 

えぇ、よくある話です。ゼウスとヘラの痴話喧嘩くらいには、よくある話です。

 

傲りがあったのでしょう。

私の身は不死。妻はニュンペー。死からは縁遠いものだと高を括っていた。寿命以外で死ぬことなど、まず無いと思い込んでいた。この世に、絶対など無いと分かっていたのに。

 

 

 

あらゆる経験は学びであり、人生を豊かにするために必要なもの、と思っていますが…この経験だけは、もう二度と味わいたくない…そう、思っていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「森の大賢者ケイローン殿。どうか、私の息子の養育を頼めないだろうか。」

 

 

妻を失くし、気を落としていた私にとって、ペレウスの提案は有難いものでした。誰かにモノを教えるというのは、私にとって好ましいものですし、気持ちの整理にも繋がります。

旧知の仲でもあった私は喜んで頼みを受けましたが、不安もありました。

 

子供というのは、時に大人以上に心の機微に敏感です。そして、今の私の気持ちは、言うまでもなく…

しかし、今さら考えたところで後の祭り。ペレウスの子が来るまでに、多少はマシにしておかなければ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタ…いや…貴方が、俺の先生…?」

 

 

最初に会ったときは、酷く驚かれたことを覚えています。

 

それから私とアキレウスは、共に学ぶ間柄となったのです。

 

 

 

 

 

 

「先生、次の課題は何ですか?」

 

 

神童、という言葉がこれほど似合う子もそうはいないでしょう。

それほどに、アキレウスは優秀でした。

一を教えれば十を知り、幼さ故に出てくる閃きと、それとは正反対ともいえる深い洞察には、私も驚かされました。

武術に至っては、まさしく天賦の才と言えるでしょう。私が教えたあらゆる技を磨き、さらに昇華させる。彼自身戦いが好きな様で、特に教えを請われました。

 

 

同時に彼は、とても優しい子でした。

確かに彼は戦いを好んではいましたが、殺戮を行うことは嫌悪していました。誰も傷付かずに済むのなら、それに勝るものは無いと。

それよりも花を愛で、動物と戯れることを好とし、料理を教えた時にも、喜んでやるような子でした。上手く作れるようになったら、私にも食べさせてやりたいのだと、笑顔を浮かべて。

 

 

そして彼は、とてもちぐはぐな子供でもありました。

見目は少年ですし、実際、子供らしく目を輝かせながら、様々な事を学びたいと言う様子は非常に可愛らしい。

 

しかし時おり彼は、智慧を備えた賢人の様にも振る舞う。振る舞えてしまう。

無邪気に笑っていた顔は、諦観にも似た平静さを纏い、好奇心を湛えていた瞳は、まるで歳を重ねた智者のよう。

 

そして彼は、子供特有の我が儘を言わない。甘える、ということをしないのです。

分からないことがあれば聞きますが、それだけ。大抵の事は一人でこなし、それを当たり前のことだと考えている。

成人した大人の様な考え方を、彼はしている。

 

えぇ。とても早くから彼は、()()()()()()()()()()

 

 

 

「俺は強くならねばならない。運命に抗うために。」

 

 

 

本来は、喜ぶべき事なのでしょう。子供が大人になるのは当然の事。彼自身、違和感は感じていない様でしたし、きっとそれが、彼にとって自然なことだったのでしょう。

しかしそれは決して、良いこととイコールではありません。

 

早すぎる成長。育ちすぎた心。それは、ある意味では歪みと言えるでしょう。見過ごしてしまえば、何れなんらかの形で綻びが生まれる。

 

 

故にアキレウスの養育は、情操教育を主幹としていくことにしました。

無論、普段の鍛練で手は抜きません。彼は聡い子です。手加減をすれば、すぐに分かってしまう。ストレスを与えてしまっては、むしろこの子の成長を阻害してしまうでしょう。

 

今の彼に必要なのは、さらなる成長よりも心を養うこと。その胸の裡にある重荷を、僅かにでも降ろさせること。それが、今の私の役割です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生。今まで、本当にお世話になりました。」

 

 

───何度経験しても、この瞬間は嬉しさと寂しさがない交ぜになった、不可思議な気持ちになります。

 

 

立派に成長したアキレウスは、晴れ渡った青空の様な笑顔を見せて、旅立ってくれました。

 

幸いなことに、私のしてきたことは無駄ではなかったようです。

 

 

 

 

彼には、人間としてするべきこと、言うなれば道徳を主として教えてきました。その甲斐あってか、途中から気になっていた焦燥は消え、穏やかな顔を見せてくれるようになりました。

迷いの晴れたアキレウスの成長速度は目覚ましく、今までに教えてきた生徒たちの中でも最速だと言えるでしょう。

 

お陰で、予定よりも早く、出立の日を迎えました。

 

 

 

誰よりも強く、疾くなったアキレウスですが、一つ心残りがあります。それは、結局愛の営みについては教えられなかったことです。

将来的にそういった行為を行う場合、自身にも相手にも恥を掻かせない様に教えようと思ったのですが、その度に彼は逃げ回りました。もしかすると、鍛練の時以上に。

 

 

「初めては俺が愛した女性とするので大丈夫です。いや、ホントに、マジで。」

 

 

男同士でこういったことをする、というのは、別に不思議なことではありません。しかしアキレウスにとって、それはとても信じられないことのようでした。

 

実に彼は不思議な子です。私が教えていない、それどころか知らなかったことさえ知っているというのに、時にごく当たり前のことにすら驚く。

どこか浮世離れしていて、目の離せない少年。

 

 

───えぇ。正直に言うと、私は未だに彼のことが心配なのです。

 

 

確かに彼には私の全てを教え、彼は見事にそれを学び終えました。並みの者たちにはまず負けはしないほど、強くしたつもりです。

 

 

しかし彼は、優しすぎる。

 

 

無論、彼は負けることは無いでしょう。決して油断せず、どこまでも相手に真摯に対応する。そんな高潔な戦士として成長してくれました。

 

しかし、ギリシャの人々は血の気が多い。平和を願う彼の言動は…もしかしなくとも目を付けられるでしょう。酷ければ、理不尽な悪意に晒されるかもしれない。

 

それに彼の様な男は、女性にとってまさしく理想を体現したような存在でしょう。確実に放ってはおかれないでしょうし、優しい彼では、情に流されて行きずりの者と───

 

 

 

 

───失礼。取り乱しました。

 

 

結局のところ私は、きっと寂しいのです。

妻を亡くし、心の疲弊していた私にとってアキレウスとの生活は…えぇ。とても穏やかなものでしたから。この生活が長く続いてほしいと、願わなかったと言えば嘘になります。

彼にとっての私以上に、私は彼に救われていたのです。

 

 

しかし、子は何れ親を離れ、一人で立てるようになるものです。私たちの助けが無くとも、立派に。

たとえ寂寥の念があろうとも、それ以上に、成長した姿に喜びを感じるのも、また事実。

 

ならば、笑顔で送り出してあげるのが、私たちの仕事です。

 

 

 

 

 

 

 

 

アキレウスが旅立ち、幾年が過ぎたでしょうか。

 

結論から言えば、私の心配は杞憂だったようです。

 

 

曰く、何よりも強き無双の者。

 

曰く、誰よりも優しさを知る者。

 

曰く、今イケてるギリシャ人(男部門)No.1。

 

曰く、曰く、曰く────。

 

 

我が子の様に育てた弟子の活躍を聞くのはやはり、いくつになっても嬉しいモノです。それが、私にとって恩人の様な子でもあるから、尚更に。

しかし、彼の活躍を聞くたび、私は不安に駆られました。

 

 

 

神とは気紛れなモノです。

興味を惹いた者には祝福(呪い)を、怒りを覚えれば天罰(癇癪)を。自分がその時やりたいと思ったことをやり、後に起こるであろう問題には見向きもしない。

遥かなる時を生きるが故に、刹那的に物事を見てしまう。

 

彼の活躍を聞くたびに、いつ神々に目を掛けられてしまうか、気が気ではありませんでした。

無論、私とて神の末席、他の神々も尊敬してはいますが、それとこれとは話が別です。我が子同然に育てた弟子に危険が迫るというのなら、黙っているわけにはいきません。

 

ヘラクレス、イアソン、アスクレピオス…他の者たちも、神々にその運命を翻弄されました。せめて、アキレウスだけは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、突然のことでした。

 

 

 

 

 

最初に聞こえたのは、同族(ケンタウロス)たちの怒声でした。

 

 

───我々の秘宝が奪われた!

 

 

そして響く、雄叫びと悲鳴。

どちらが劣勢かは、その声で聞いてとれます。

 

まぁ、それも無理のないこと。

件の盗人は、あのヘラクレスだったのですから。

 

 

ヘラクレス。

 

数々のギリシャ英雄の中でも、間違いなく最強だと言える人物。そして、私の元教え子。もっとも、私が教られたことなど、そう多くはありませんでしたが。

 

 

彼もまた、ギリシャの中では紳士的なほうです。秘宝を奪ったというのも、おそらく故意ではないのでしょう。

しかし、同族たちには、気性の荒い者たちが数多くいます。ただヘラクレスが詫びるだけでは、済まさないでしょうね。

 

 

 

 

 

せめて、同族たちの怒りを僅かなりとも鎮めようと、私が小屋を出たときでした。

 

 

 

 

───

 

 

 

 

その言葉と共に、私の未来()、そして過去(これまで)を幻視しました。

 

 

 

 

───“先生!”

 

 

 

浮かんでは消えていく映像の最後に見えたのは、私の最後の教え子の、笑顔。

 

 

 

 

 

あぁ、せめて、最後に一目だけでも会いたかった────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつまでも訪れない痛みに、ふと瞼を開ける。

 

 

するとそこには、先の追憶のそれより見違えるほど大きくなった、アキレウス(英雄)の背中がありました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外では、絶え間無く轟音が響き渡っている。

魔術で補強していなければすぐに倒壊するであろう小屋には、猛烈な衝撃が伝わってくる。

いや、伝わる()()()()()()()()

さすがは、私の自慢の弟子たちです。

あれだけの激闘の最中、私たちを気にしながら戦っている。

 

 

 

アキレウスの友だという女性、アタランテを小屋に招き入れ、私たちはしばらく共に過ごしました。私が見られなかった、アキレウスとの旅でのエピソードを聞きながら。

 

彼女が彼に、友愛以上の感情を抱いているのは、すぐに分かりました。表情の変化は乏しいですが、耳と尾は非常に感情豊かでしたからね。

 

以前の私であれば、純粋に喜び、祝福したでしょう。しかしそれはもう、無理な話。

 

 

 

やはり私も、神の血族なのでしょう。

 

強い戦士、取り分け英雄と言われる存在には、惹かれずにはいられない。それが、自身の命の恩人であるならば、尚更に。

 

なにより、彼が私を助けた際に見せた、強い怒り。

あの時私が最初に感じたのは悲しみではなく、喜びでした。

 

 

───あぁ、貴方は私の為にそんなに怒ってくれるのか。

 

 

思えば彼は、感情の制御が上手い子でした。

どれほど嬉しくても、どれほど悲しくても、その感情に流されず、常に自分を見失うことをしなかった。

 

 

そんな彼が、自分を想い、猛っている。自分の為に、我を忘れるほど怒っている。

その事実が、堪らなく嬉しかった。

 

 

 

 

 

彼らの戦いが終わってから五日。

アキレウスは未だに目を覚まさない。

 

 

同じ弓使い、同じ男性に好意を持つ者同士。根本的に気が合ったのでしょうか。その頃には、私とアタランテは友と言って差し支えない間柄になっていました。

ただ同時に、私は迷いを抱きました。

 

彼の恋愛対象は女性。しかし、私の体は男のそれです。このままでは、彼と伴にあれない。

無論、私とて神の一柱。体の性別など、あって無い様なものです。

しかし、長年この体で過ごしてきたのです。何よりも、亡くなった妻に対して、不誠実ではないかと思いました。

彼のことが好きなことに変わりはありません。しかし、彼女への愛もまた、本物でした。

 

 

きっと私は、焦っているのでしょうね。

 

アタランテは素敵な女性です。

少女の様な瑞々しさと、麗しさと可憐さを併せ持った顔。均整の取れたしなやかな肢体。蜂蜜色と翡翠色のグラデーションの掛かった美しい髪。獣の耳と尾ですら、彼女の可愛らしさを引き立てる様。

そして裏表の無い、実直で生真面目な性格。

此だけのモノを持ちながら、強さも兼ね備えている。

 

正直な話、彼女を見た時に最初に抱いた感情は、嫉妬でした。

彼の情人なのでは。そう思ってしまう程に、アタランテは素敵な女性でした。

 

 

故に私は、焦り、惑っている。

自覚したこの想いを留めておくほど、私は賢しくなれない。しかし、自身の今までを捨てるほど、私は薄情にもなれない。

 

 

そんな想いを胸に秘め、眠りについたある日の夜。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────“あなた”

 

 

 

声が聞こえた。

 

 

 

────“いいのよ、あなた”

 

 

 

もう聞こえない筈の、彼女の声。

微睡む思考を切り捨て、意識を向ける。

 

 

“私は幸せだった。十分に、愛して貰ったわ。”

───けれど、私は…

“忘れて、なんて言わない。苦しまないで、なんて言えない。そうしたら、あなたはもっと困ってしまうものね?”

 

“だから、これだけ。”

 

“どうか、どうか────”

 

 

 

 

 

 

─────幸せになってください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

起きた時には、私の身体は既に、女性のそれへと変貌していた。

 

 

前と変わらず、優しく微笑みを湛えていた、彼女。

 

 

あれは、ただの夢だったのか。それとも、私の思い込みで見た、都合の良い幻想だったのか。

 

 

少なくとも私の心は、晴れ渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明くる日、彼は目を覚ました。

私の姿を見た時の彼は、初めて出会った時よりも驚愕していました。まぁ、当然の反応でしょう。

しかし彼はすぐに、

 

「先生が、無事で良かった。」

 

そういって笑ってくれました。

本当に、彼は優しい子です。

 

 

アタランテとも、良き友人となれました。

 

「彼奴にとって、汝は間違いなく特別だ。私がどれだけ汝の自慢話に付き合わされたと思う?」

 

私が抱いていた焦りを彼女に打ち明けたら、何でもない様な顔で、「私もだ」と言われ、こう返された。

焦っていたのは私だけでなく、彼女も同じだった…その事実になんとなく嬉しさを覚えました。

 

 

 

 

 

それからは、夢の様な日々でした。

愛する男性、親しい友人と共に、騒がしくも、穏やかに過ごす日々。彼女の言っていた様に、私は間違いなく、幸せに過ごしていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────そう。幸せ()()()のです。

 

 

 

 

 

なのに…嗚呼。

 

 

 

何故、彼が戦わなければならない。

 

 

 

何故、彼が死なねばならない。

 

 

 

何故、何故、何故、何故、何故─────。

 

 

 

授かった智慧から、この答えは出ない。

 

何も、分からない。

 

 

 

私たちは、ただ彼と居たかった。

 

ただ、彼と語らい、伴に生きたかった。

 

ただ、それだけだったと言うのに…!

 

 

 

 

嗚呼、()()()()()

 

 

また私の知らない所で、私の愛する人が死んだ!

 

 

 

 

 

 

 

ごめんなさい、カリクロ、アタランテ、アキレウス。

 

 

 

 

私は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────()()()()()()()()()()()




叛逆(挨拶)!

アトランティスでの新生アルゴノーツやら、オリオンからアルテミスへの愛やら、我らがアキレウスさんと先生の対決やらで発狂してました。
最近FGO頑張りすぎ…いや、元々だったか…


今回も今回で、気付いたら先生が絶望していた。
決して愉悦を求めてのモノではないので、そこはビミョーな作者心をよく分かる様に!(クソザコ感)


次に投稿するのはトロイア戦争編を予定していますが、作者は神話にも歴史にも詳しくないクソにわか野郎なので、詳細な話やら期待しないでネ!
…オデュッセウスくんどないしょ…








あ、マーリン来ました(叛逆スマイル)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トロイア戦争
友との語らい


ストック切れた(


突き抜ける青空の下、土の海が生まれていた。

 

 

 

 

「ウオォォォォォォ!!!」

「蛮族どもを押し戻せぇ!!!」

「おい、誰か矢ぁ持ってこい!!」

「クソッ、剣が折れちまった!!」

「テメェで持ってこいタコ!!」

 

 

 

 

響く怒号。吹き付ける熱気。

金属がぶつかり合う音。肉が裂ける音。

 

人の根源が、そこには広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オォラァァアァァッッ!!!」

 

 

雄叫びの直後、轟音と共に大地が捲れ上がる。その場に居た者たちは、例外なく砂と土の波に呑み込まれた。

 

 

「死にたくない者は逃げるがいい!我が武威に恐れを抱かぬ愚か者は掛かってこい!尽く、我が槍の錆としてくれよう!!」

 

 

威風堂々たる、傲慢とも取れる宣言。しかし、それを揶揄う者はいない。彼が、この場にいる者全員を敵にしても勝つであろう強者であることは、純然たる事実だと知っているからだ。

 

 

「さぁ、立ち塞がってみろ!!この───」

 

 

ギリシャの誇る大英雄、ヘラクレスに比肩する勇者。

誰よりも迅く、何よりも強く。天より降り注ぐ流星の如き一生を駆け抜けた、優しき紳士。

 

彼の名は─────。

 

 

 

 

 

「───アキレウスの前に!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、宴だ!!今日の勝利を、我らが神に捧げるのだ!!」

 

 

大将アガメムノンの号令に合わせ、精強なるイリアスの兵士たちが鬨の声を上げる。彼らの手には、一様に並々と注がれた酒杯が掲げられ、意気揚々と酒を酌み交わしている。

 

 

 

 

「どうかしたかい?我が友、アキレウス。」

 

「…パトロクロスか。」

 

 

陣幕から少し離れた森の中。遠くからは兵士たちの喧騒が聞こえる。

そこには、二人の青年がいた。

一方は若草色の髪を持ち、黄金に輝く鎧に身を包んだ美丈夫、アキレウス。もう一方は水浅葱の髪に、鋼色の鎧を着た好青年、パトロクロス。

 

 

「今日の勝利は…いや、今日の勝利も、立役者は間違いなく君だぞ?あっちで仲間も待ってる。何をそんなに浮かない顔をしてるんだい?」

 

 

パトロクロスは人好きのする笑みを浮かべながら、自らの友と言って憚らないアキレウスにそう問い掛けた。

 

 

「…別に、なんてことない。ただ気分が乗らないだけだ。お前こそ、俺に構ってないであっちに───」

「私の目を誤魔化せると思わない方がいい。友が気を病んでいるんだ。放っておく者がどこにいる?」

 

 

そう言うパトロクロスの顔は、先程とはうって変わって真剣そのものだった。そんな友の顔にアキレウスは目を丸くし、呆れた様に笑う。

 

 

「───ったく、お前は変わらねぇな、パトロクロス。」

 

「もちろん。そう決めたからね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アキレウス!アキレウスだろう!?』

 

『お前…パトロクロス、か!?』

 

 

 

彼の城で共に過ごした時間はホンの数ヶ月だったが、互いのことを認識するには充分だった。

それほどに、彼らの仲は深いものだったのだ。

 

互いの無事と再会を喜び、共に語らった。

城で過ごした日々の思い出。別れてから今までの経験。

そして、これから参加する戦争について。

 

 

『やっぱり君も参加するのかい?』

 

『あぁ。それが、俺の運命ってヤツなんだろうさ。』

 

『そうか。それなら、私も同行させてもらうよ。』

 

『…いいのか?』

 

『当然さ。それが私、いや、()()の運命だから。』

 

 

───そんな簡単に分かるもんか?

 

───もちろんだとも。だって今決めたからね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話すことで楽になることもある。まずは話してみてくれないか?それとも、友人である私にすら、言えないことかい?」

 

「……………」

 

 

しばし、沈黙。

 

アキレウスとて、パトロクロスのことを友だと思っている。しかし、わざわざ言うほどのことか、とも考えていた。

アキレウスの抱えている問題は、単なる自分の生来の気質、自分で折り合いを付けねばならないモノであったからだ。

 

 

───言ったところで、どうにかなるのか。

 

 

ふと、彼は友の顔を見る。

深いターコイズの双眸が、じぃっと彼を見ている。彼が、悩みを打ち明けてくれることを、見守る様に。

 

 

 

「………はぁ。わぁーったよ。俺の負けだ。」

 

 

溜め息を吐き、「お前にとっちゃ、下らないことかもしれねぇぞ?」と前置いて、アキレウスは口を開いた。

 

 

「…お前は…誰かを殺すことに、躊躇はあるか?」

 

「え?」

 

「俺は、ある。悩まない日はない。」

 

 

 

「戦い自体は好きだぜ?あの刺すような空気、全力で駆け抜けた時の爽快感、そして槍を交えた時の高揚。

どれもこれも、俺にとっちゃ新鮮で、得難いモンさ。」

「けどよ…………殺しは、キツいもんだ。

俺が起こした流砂に呑み込まれた連中の顔が、頭に焼き付いてる。肉を抉った時の感触は、未だに手から離れない。」

「アイツらにだって、待っている友が、家族がいただろう。そう考えると、どうしても…な。」

 

 

予想外の友の悩みに、パトロクロスは閉口した。

 

それは、パトロクロスにとって初めてみる、アキレウスの弱々しい姿だった。

いつも先頭に立ち、皆に勇気を与えてくれる。

そして、自分を救ってくれた英雄の、悔恨の顔だった。

 

パトロクロスには、アキレウスの心は分からない。

彼にとって、敵は須らく倒すべきモノである。幼い頃より培った、戦士としての心構えが根付いているからだ。

 

 

「理屈じゃあ分かってるさ。こんな事を考えんのは、傲慢だってことくらい。

けどよ………やっぱ、簡単には割り切れねぇよ…情けねぇ話だがな。」

 

 

アキレウスは分かっていた。自分がこうも相手を気にしてしまうのは、日本人としての気質、そして、自身の力の問題だと。

 

 

彼に宿っている、2000年代日本人としての前世の記憶。

争いとは無縁の世界で生きていた彼にとって、殺しとは、最も忌避する事柄の一つだった。

そして、日本人として当たり前に善良であった彼は、どうしても他者の痛みを想像し、共感してしまう。痛ましいと思う。

 

これで、自分の事で精一杯な状態であれば、こういったことを考えることも無かっただろう。

しかし彼は、アキレウスなのだ。

 

女神に祝福されし不死身の肉体。

鍛治神によって鋳造されし鎧と盾。

海神より賜った神馬の引く無敵の戦車。

韋駄天をも超えるであろう俊足の脚。

師より学んだあらゆる武術。

 

アキレウスにとって戦場は、危険とは言えないものだった。

 

槍を振るう。敵は倒れる。

地をたたく。大地は隆起する。

戦車を引く。戦場は蹂躙される。

 

アキレウスは、あまりに強すぎた。

 

 

戦っている最中は良い。戦うことに没頭し、余分な情報を遮断するように努めているから。

しかし、戦いが終われば、考えずにはいられない。自身が殺した人間を。その人間に、置いていかれた者たちを。その者たちの悼みを、嘆きを。

 

それを与えているのは自分自身なのだと、アキレウスという男は、正しく理解してしまうのだ。

 

 

 

「そうか…………君は、優しいな。」

 

「俺は…優しくなんかねぇよ。本当に優しい人間なら、誰も傷付けることなく、戦いを終わらせられるだろうよ。

俺のコレは、単なる自己満足さ。」

 

「いいや、君は優しいとも。」

 

 

アキレウスの卑下を、パトロクロスは切って捨てる。

 

パトロクロスにとって、アキレウスは真に英雄であった。再会した今も変わらず在るアキレウスに、より憧れと思いは強くなった。

 

───今でも覚えている。自分を救ってくれた、あの背中を。思い、焦がれ、隣に立ちたいと願った、英雄の姿を。

 

 

「そんな君だから、ボクは憧れたんだ。君という、誰よりも強く、優しい英雄に。」

 

「パトロクロス………。」

 

「ボクは、君みたいに強くない。敵を気にしてる余裕なんて無いし、そういうものだと、割り切っている。」

「君のその、他者を思いやる心は、ボクたちは忘れてしまった…尊いモノだ。そんな心を持ってる君だから、ボクは、いやボクたちは、君に着いていきたいと思う。」

「知ってるかい?今回の戦争の参加者たちは、君と共に戦いたくて着いてきた者たちも多いんだ。

君に接して、君に諭され、君に救われて…君のために何かをしたくて集まった者たちが大勢いる。」

 

 

アキレウスが戦争に参加すると聞き、駆け付けてきた者たちがいた。

 

魔獣から助けてもらった者。

夫婦仲を取り持ってもらった者。

在り方を諭された者。

絶望から、掬い(救い)上げてもらった者。

 

理由は数あれど、目的は一つ。

 

───我らが英雄の助力に来た。

 

 

「いいかい、我が友よ。たとえそれが君の言う通り、単なる自己満足だったとしても、それは、決して無意味じゃない。

ボクたちがここにいるのは、君の優しさに救われたからだ。」

 

 

たとえ気紛れでも、偽善でも、彼らにとっては救いだった。

アキレウスの行動の結果は、こうして結実している。

 

 

「ボクらは、君の優しさの証明だ。

もし君が折れそうになっても、ボクたちが支える。」

 

 

これから先、きっとこうして惑い、悩み、苦しむだろう。

しかし彼には、こうして共に在る(ともがら)がいる。

 

 

「────クッ、ハハハハハ!

ハァ…全くよ…案外、楽になるもんだな。」

 

「だろう?もっとも、君がしてくれたことだがね。」

 

「そうだったか?」

 

「そうだったとも!」

 

 

そうして二人は、また可笑しそうに笑い声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキレウスの武勇は凄まじいものだった。

普段は非常に穏やかな彼だが、一度戦場にでれば、まさしく一騎当千、古今無双。彼一人で戦局を左右する恐るべき強さであり、あまりの強さに軍師は揃って口をつぐんだという。

軍略を立てる必要が無いほど、アキレウスの強さは度を超していたのだ。

 

また、彼の強さが伺えるエピソードとして、

『エーエティオーンの無血勝利』がある。

アキレウスの武勇は、旅をしている間にもギリシャ中に広まっていたが、トロイア戦争への参加で、より爆発的に広がった。

 

エーエティオーンの街も例外ではなく、街にギリシャ遠征軍(アキレウス)が来ることに戦々恐々していた。

 

そして、ついにギリシャ軍は、エーエティオーンの街に到着。しかし、街の防備は、あまりにも薄かった。

あまりの手薄さに疑問を持ったアキレウスは、アガメムノンに進言。単独で偵察に向かった。

 

そこには、白旗を掲げる街の住民たちがいた。

アキレウスの強さに恐れをなし、戦わずして勝利を投げたのだ。

 

 

また、この『エーエティオーンの無血勝利』は、アキレウスの人格の高潔さを伺わせるエピソードとしても語られる。

 

“街も、食料も、宝も明け渡すから、どうか命だけは。”

 

そう言って頭を下げる住民たちに、アキレウスはこう返したのだ。

 

“ならば、そこにいる立派な馬を一頭頂こう。”

“さて、お前たちは俺にこの様な駿馬を献上してくれた。であれば、褒賞としてこの街をやろう。我々もしばし滞在することになるが、構わんな?”

 

破格の待遇に、街の住民たちは歓喜した。

 

街の者たちはギリシャ軍を歓待し、アキレウスを讃えた。

一部の者たちは、アキレウス目当てに、そのまま軍に合流する者たちまでいたという。

 

 

このように、アキレウスには他の英雄たちと違い、暴力・性的なエピソードが極めて少なく、まるで現代のヒーローの様だと言われている。




ナギコチャンカワイイヤッター

ついに、あらゆる人たちが尊死する(鼻)血のバレンタインデーがやって来ましたね…
今回の新規鯖勢に何度殺されたか…ちなみに、まだマイフレンドやら怒りマンやら、見てない人がたくさんいるのでこれからも、死ぬ予定はバッチリです☆
逝くぞ、バレンタイン───命のストックは充分か。

星5三人とか、明日死ぬのかな…?



今回の話は、本当はもっと短く、ちょっとした幕間みたいな話の予定でしたが、気付いたら結構な長さになってたので、一話扱いにしました。
後半のいつものWik◯的な文はついでです。
ペーダソスくんごめんね?

パトロクロスくんは、アキレウスに似た見た目で、ちょっと優しげな顔をしてるイメージです。完全に勝手な想像なので、あんまり深読みしないでね?オニーサンとの約束だぞぅ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二人の英雄

オデュッセウス召喚祈願(手遅れ)


「一体どういうことだ!!」

 

 

男の怒声が響き渡る。

あまりの迫力に、怒りを向けられたであろう人物は、すっかり萎縮している。

 

 

「し、しかし、そう神託を授かりまして…私では、どうすることも…」

 

「畜生が!!神々は一体何を考えておられるんだ!!」

 

 

ドン!、と男は机を叩く。振動でグラスは地に落ちた。中身は無論、言うに及ばず。

 

この男の名は、アガメムノン。ミュケナイの王にして、ギリシャ軍総大将である豪傑。彼が先ほどから怒りを向けているのは、ギリシャ軍に随行している神官の一人である。

 

では、何故彼が怒っているのか───。

 

 

「何故アキレウスを下げねばならんのだ!!」

 

 

アキレウスを戦わせるな、という、神託を受けた為だ。そうしなければ、ギリシャ軍を災いが襲う、とも。

 

 

「アキレウスの有用性は、神々も承知しているだろうに!ヤツがいれば、我々は無駄な労力を消費することなく、この戦争に勝てると言っても過言ではないのだぞ!!」

 

 

これまで、ギリシャ軍は常勝であった。人的被害をほぼ出さずに。

音に聞く兜輝くヘクトールは、まだ前線に出てきていないとはいえ、ギリシャ側がほとんど損害を受けていないのは、ひとえにアキレウスの活躍に依るものだった。

アキレウスが出撃するだけで敵方は総崩れになる。寝返ってきた者たちも少なくない。

 

しかしここにきて、理由も無くアキレウスを下げろという神の気紛れ。元より短気なアガメムノンは、神の理不尽に怒りを隠せない。

 

 

「オレは私室に戻る!!後は貴様らでどうにかしろ!!!」

 

 

会議場より出ていくアガメムノンだが、怒りは未だに収まっておらず、怒声が響いている。

 

 

「……はぁ、アガメムノン様の短気にも困ったものですな。」

 

「仕方ありますまい。あの方は王族。思い通りにならぬ事態など、経験がないのでしょう。」

 

「しかし、アキレウス殿の退陣は実に頭の痛い問題です。彼一人のお陰で、どれだけの者たちが救われているか…」

 

 

後に残された軍師、並びに将たちも、神々の神託に頭を悩ませていた。

戦場で活躍しているのは、決してアキレウスばかりではない。しかし、アキレウスのお陰で、軍全体の士気が向上しているのだ。

 

アキレウスが出陣している。この事実が、兵たちの支えとなり、実力以上の力を発揮出来ていた。

 

 

「しかし、これからはアキレウス殿に頼れない…もっとも、今までが頼りすぎだったのだが。」

 

「然り。たった一人に支えられた軍など、あまりに脆い。良い機会なのかもしれませんな。」

 

 

確かにアキレウスに頼れば、後1年と経たない内にこの戦争は終結するだろう。しかしこのまま、たった一人に頼って得た勝利では、とても誇って帰る気にはなれない。

 

実を言うと、体が疼いて仕様がなかった。

軍師・将、という立場に身を置いていても、彼らは皆ギリシャ男児。根本的に武人(脳筋)気質なのだ。

栄誉ある戦いを。血沸き肉踊る戦いを。

 

自らの手で武功を立てたいと奮い立つのは、

当然の帰結であった。

 

 

「ようやく我らも、マトモな戦働きが出来るというもの。」

 

「うむ。アキレウス殿は働き過ぎなのだ。ちょっとした休暇だと思い、休んでいただきましょう。穴は我らで埋めれば良い。」

 

 

しかし、将たちの熱気の中にあって、まるで温度を感じさせない男が、一人いた。

 

 

「…………………」

 

 

全身を鋼鉄の鎧で覆い、一人思案に暮れている男。

 

彼の名は、オデュッセウス。

イタケーの王にして、策略高き智将。後に冒険(オデッセイ)の語源ともなり、あらゆる困難を乗り越え、愛する妻の元へと帰った、一途な男。

 

彼は、今の状況を冷静に見ていた。

 

 

(……アガメムノンに同意する訳ではないが、このままでは不味いな。)

 

 

ギリシャ軍とトロイア軍の兵力差だけで見れば、ギリシャ側に軍配が上がるだろう。エーエティオーンを始め、ギリシャ側の軍門に下ってきた者たちも少なくない。

 

 

(しかし、我々は攻め入る側。長い遠征による疲労や、個々人の足取りの違い、兵力の増加に伴った兵站の確保…どうしたって、不足する点は出てくる。)

(それに伴い、アキレウスの後退による、全体の戦力の低下………オマケに、これから参戦してくるであろう、兜輝くヘクトール、か……)

 

 

彼は、これからの戦いこそ、アキレウスが出なくてはならない局面になっていくと確信していた。

もはやトロイアは目前。ならば、彼のヘクトールが出てこない筈がない。そして、もしもその武勇が、噂に違わぬものであったなら────。

 

 

「……………ダメで元々、だな。」

 

 

鋼鉄の男は決断する。最善の一手を。

 

 

 

 

 

 

 

「────と、言う訳なのだ。なんとか、コンタクトを取れないだろうか。」

 

「あぁ、なるほど……多分、いける、か?」

 

 

軍議が終わった後、オデュッセウスはすぐさま、アキレウスの元へと直行した。表向きは、戦線からの離脱指示のために。

しかし、オデュッセウスの思惑は、別のところにあった。

 

 

()()なら、おそらく直ぐにでも反応してくださると思う。まぁ、神々が了承してくださるかどうかは…文字通り神のみぞ知る、ってとこだが。」

 

「私とて、かなりの博打であることは分かっている。しかし、これ以外に手は無い…いや、手の打ちようが無い。なら、多少の冒険は覚悟しなければな。」

 

「ハハッ、違いない。」

 

 

二人がまともに話すのは、今回が初めてのことだ。

しかしお互い、妙に()()()()()。会って間も無く、気安い会話をする程度には、互いに良い関係を築けていた。

 

 

「ただなぁ……母上かぁ……」

 

「?……何か問題か?」

 

「問題っちゃ問題なんだが………いや、これは俺個人の問題だからな。母上にはしっかり話しとくよ。」

 

「…そうか?」

 

「おう。さっさとこんな戦争は終わらせないとな。」

 

「─────フッ、そうか。」

 

 

 

 

 

 

───Side Odysseus───

 

 

 

はっきり言って、今回の戦争に対するモチベーションは、最悪の一言だった。

 

元々、争いは好まないというのに無理矢理駆り出され、この戦争に参加してしまえば、愛する妻の元へ戻るのは遥か遠い話しになるという。やる気になれと言うのが無理な話。

 

事実、俺はこれまで、今回の戦争には積極的に参加してこなかったし、これからもすることは無いだろうと思った。

 

しかし、今回のことで、黙っている訳にはいかなくなった。

このままでは予言通り、ペーネロペーの元へと帰ることは難しくなるだろう。それだけは、断じて許容出来ない。

 

 

(故に、こうして彼に話を持ち掛けたが……)

 

 

当初俺は、アキレウスの噂を、そこまで信じてはいなかった。

あらゆる者に平等に接し、不当を許さず、弱き者の盾となる。そんな者が、本当にいるのかと。

 

こうして戦争に参加し、まずは強さを知った。

なるほど。戦場で活躍する様は、正しく一騎当千。仮想敵として考えてみた場合、間違いなく俺では勝てん。神々より戴いた武具を持ってしても、勝率は少なくとも4…いや、3割は下回るだろう。逃亡するか、潔く降参する方が妥当だ。

 

次に、人徳を知った。

エーエティオーンでの出来事は、記憶に新しい。

相手の降伏を受け入れ、それに対する反対が起こらない様に条件を掲示し、双方を納得させる知恵とカリスマ性。

敵味方どちらも慮るその在り方は、初めて見るものだった。

 

そして、こうして話し、その精神を知った。

 

 

(こんな戦争はさっさと終わらせよう、か………)

 

 

おそらく彼も、戦争というものが嫌いなのだろう。

もっとも、俺は妻に要らぬ手間を掛けさせてしまう、ということが主なのだが、彼は……おそらく、人が死ぬことに嫌悪を感じている。

顔も知らぬ誰かを、案じている。

 

実に、優しい男だ。

 

 

「貴殿は間違いなく、この戦争を終結させる鍵だ。故に俺も、本腰を入れるとする。」

 

「おう、そりゃ頼もしい!…しばらく、前線は任せたぜ。」

 

「あぁ。やってみせるさ。」

 

 

俺の予言を覆す。

そう予感させる男の為に。

そして何より、愛する妻の元へと帰る為に。

 

俺も、この戦争を終わらせよう。

 

 

 

 

「なぁ、オデュッセウス。」

 

「何だ?」

 

()()()()、無事に帰ってやれよ。」

 

「フッ、当然だ。」

 

「────あぁ。それでこそだ。」




と言うわけで、流れに乗ったぜオデュッセウス!
その割に性格がビミョーにおかしい気がするけど、その辺は…ほら…二次創作だから…(震え声)
途中の被害予想が適当なのも、全部二次創作ってヤツの仕業なんだ!!(集中線)
さて、オデュッセウスさんがアキレウスさんに持ち掛けた話は一体何なのか?………まぁ、分かっちゃうと思うけど、その辺は知らないふりしといてくだちゃい;;

ちなみに、今回の話短けぇ!と感じたアナタ。実に良い感性してますねぇ!………え?いつもこんなもん?言うな!
ぶっちゃけ、後半の展開を今回の話に持ってくるのは詰め込みすぎだなーっと思ったので、次の話に回した結果こうなりました。
プロットとかフローチャートとか事前に考えたら、こういうのも無くなるかしら…ちょっと考えてみよう(実行するとは言ってない)

そういえば、次の話で一人称視点にするか三人称視点にするか迷ってるんですよね…気が向いたら、参考意見をお願いします。(*- -)(*_ _)ペコリ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

親と子

実質3人目のヒロインなのでは…?


オデュッセウスとの出会いの夜。

アキレウスは一人、海の側まで来ていた。

 

 

「母上!母上はおられるか!!」

 

 

アキレウスがそう叫ぶと、海からブクブクと泡が浮き上がり、やがて美しい女性が姿を現した。

彼女こそ、女神テティス。内海の女神にして予見の神。神々の救済者とも言われる偉大なる女神。

 

うっすらと、彼女が目を開ける。その様な所作だけでも万人がみほれることは、想像に難くない。

 

そんな彼女は、穏やかな(アクア)を思わせる瞳を潤ませ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アキレウスちゃ~~~~~~ん!!!」

 

「ぶふぅぅぅぅぅ!!!??」

 

 

大英雄にタックルをかました。

 

 

「大丈夫?どこか怪我してない?病気に掛かってたりは?他の人にいじめられたりしてない?アキレウスちゃんに何かあったらと思うと、ママはもう心配で、心配で…もちろん、そんなことは万が一にも起こらない様に、お義兄様(ポセイドン)からは神馬を頂いた(奪った)し、ヘパイストスには武具の鋳造を急がせたのだけど…あぁ!私の可愛いアキレウスちゃん…今からでも遅くないわ、戦争なんて止めましょう?アキレウスちゃんは穏やかな生活を送った方が、絶対に幸せになれるんですから。

ね?ね?ね?」

 

「母上……ギブ、ギブ……極ってる……完全に極ってるから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───アキレウス、ケイローン塾以来の死の予感である。

 

 

 

閑話休題(それはともかく)

 

 

 

「あー…母上。まずはお久しぶりです。」

 

「まぁ、アキレウスちゃん。そんなに他人行儀にしないで?親子なんだもの。それに、母上だなんて…ううん、嬉しいの。とっても嬉しいのだけど…どうせなら、ママって呼んでほしいなぁ。」

 

(これだから、この人苦手なんだよなぁ…)

 

 

アキレウスの言った問題とは、これだ。

 

単純な話アキレウスは、ことあるごとに自分を甘やかそうとする母が苦手だった。

いや、親愛は抱いているし、感謝もしている。

 

────しかし、この歳(精神年齢も換算)になって、母親に甘やかされてるってどうなの?絵面ヤバくね?

 

アキレウスにとって女神テティスは、大切な母親であり、感謝すべき恩人でもあり…非常に絡みづらいタイプの女性であった。

 

 

「コホン…母上。実は、折り入って頼みがあります。」

 

 

アキレウスがそう言うと、テティスは少し停止したがすぐに…

 

 

 

「………まぁ、まぁ、まぁ!アキレウスちゃんが、私に頼み?

えぇ、えぇ、もちろんよ。ママに何でも言って頂戴な。

疲れちゃったならマッサージしてあげるし、いじめる子がいるなら天罰でもいいのよ?あ、ただ、あんまり強いのはダメよ。ちゃんと反省させる程度にしてあげないと。あ、それとも祝福かしら?それならもちろん大歓迎よ!アキレウスちゃんの為なら、ママ、頑張っちゃうわ!」

 

「あ、いえ…そう言うのではないので…。」

 

 

中々会わないせいか、一度口を開くと矢継ぎ早に話すテティスに、これ以上話が延びる前に、と、アキレウスは本題を切り出した。

 

 

「俺に、戦争に介入するな、と神託が下ったことは、知っておられますか?」

 

「えぇ、もちろんよ。それがどうかしたの?」

 

「母上に頼みたいことというのは、神々にこの神託を受ける、条件を提示していただきたいのです。」

 

「…………………。」

 

 

アキレウスがそう言うと、先まで柔和に微笑みを浮かべていたテティスの顔は、鋭く引き詰められた。

 

 

「不躾な願いだということは重々承知です。しかし、戦陣に加われながら、戦に出られぬなど、どうにも納得いきません。

俺とて、戦士の端くれ。仲間が、友が。命を掛けて戦っているというのに、自分だけ安全な場所でのうのうとしているなんて…」

 

「違うの。」

 

「え?」

 

「違うの。違うのよ。私は別に、怒っている訳ではないの…」

 

 

そう言うテティス()の顔は、悲痛に歪んでいた。

 

 

「あぁ、私の可愛いアキレウスちゃん…私は、貴方が傷付くのが堪えられない…。貴方は私の最後の子供…あの人との間に生まれた、大切な子。」

「なのに……この戦争に参加し続けてしてしまえば、貴方は……あぁ、そんなの堪えられない。もう、大切な子を喪うのは嫌ぁ……。」

 

「母上…。」

 

 

 

 

 

女神テティスと英雄ペレウスの間には元々、たくさんの子供たちがいた。しかし今は、アキレウスしかいない。

なぜなら、彼女は()()()()()()

 

 

『あぁ、私の可愛い子供たち。けれど、アナタたちに何かあったら…いいえ!私たちの子供だもの…大丈夫…きっと、大丈夫…』

 

 

彼女は心配で堪らなくなった。もしも、子供たちの身に何かあったら。そう考えると背筋が凍る様だった。

故に、確認しなければならないと思った。

 

それだけだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『そんな…!嫌、嫌ぁ!!!』

 

 

 

テティスは女神である。

故に、人の子の脆さを知らなかった。

 

気づいた時には、子供たちは皆、息絶えていた。

 

愛しい我が子を、自らの手で殺めてしまった。

その事実は、テティスの心を苛んだ。

 

 

『せめてこの子は……この子だけは……!』

 

 

そうして、後に生まれたアキレウスを、神の火で炙った。

 

決して傷付くことの無いように。何モノにも脅かされないように。どうか、幸せになってほしいと、願いを込めて。

 

しかし結局、アキレウスを完全な不死身にすることは叶わなかった。

また子供を殺されると思ったペレウスにアキレウスを取り上げられ、二人は別れてしまったから。

 

だが、たとえ自分が側にいられなくても、幸せに暮らしてくれるのなら、それで良いと思っていた。

 

しかし…………。

 

 

 

───英雄アキレウスはトロイアの地にて、名誉の死を遂げる。

 

 

女神テティスは、予見の神でもある。

そして彼女が見た未来は、彼女にとって、正しく悪夢であった。

 

なぜ?どうして?

ただ我が子に、平和で穏やかな、普通の生活を送ってほしい。それだけの願いが、どうして聞き入れられないのか。

 

 

本当はアキレウスを引き留めたかった。しかし、海の女神である彼女は、そう簡単には海を離れられない。

 

ならば、アキレウスの死ぬ可能性を無くせば良いのではと、最高の防具を与えようと考えた。

 

ヘパイストスに頼んで、考えうる限り最高の物を仕上げてもらった。ポセイドンに頼んで、何者にも捉えられぬであろう神馬をもらった。

 

 

しかし、それでも予知は変わらず、愛する我が子の死を、指し示していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アキレウスちゃん、ママと一緒に、どこか遠くへ行きましょう?今ならまだ引き返せるから……だから……」

 

「………………。」

 

 

テティスは、何とかアキレウスに、幸せに過ごして欲しかった。自分が殺してしまった子供たちの分まで、愛を、幸せをあげたかった。

 

 

 

「………ありがとうございます。母上。」

 

「!、アキレウスちゃん!」

 

「しかしそれは、出来ません。」

 

 

アキレウスにも分かっていた。母がどれだけ、自分を想ってくれているか。そして、この提案に乗れば、確かに自分は幸せになれるであろうことも。

しかしそれは、問題の先延ばしに過ぎないことも、分かってしまっていた。

 

 

「俺は、この戦争で死ぬ。そう定められている。

母上も、お分かりなのでしょう?」

 

「そ、れは……」

 

 

そう。既に、運命は定まっていた(アキレウスは決めていた)

 

 

「無論、俺も全力で抗うつもりです。

しかし俺は、このトロイアの地で死ぬ。それは、どうしようもない。避けられぬ運命、というものなのでしょう。」

 

「ならばせめて、俺は俺の生を、全力で駆け抜けたい。」

 

「俺はアキレウス。英雄ペレウスと、女神テティスの間に生まれし、ギリシャ最強の英雄なのだと。そう、胸を張って死にたいのです。」

 

 

 

 

 

───最初は、後世でカッコ良く伝わればいいなと思っただけだった。英雄らしすぎる英雄ではなく、理想の英雄として。

 

しかし、いつしか彼には、英雄としての自負が生まれていた。自身は、英雄(アキレウス)なのだ、という意思が。

そんな思いが生まれたのは、なんてことはない。

 

 

 

───父と母に、無様な自分は見せられない。

 

そんな、単純なものだったのだ。

 

 

「俺にとって父上と母上は、俺を生んでくれた以上に、俺という存在を、最初に認めてくれた、大切な人たちなんです。」

 

 

泣かず、くずらず、何かを静かに見据えている、不気味な赤子。そんな子供でも、ペレウスとテティスは、大層喜んだ。

生まれてきてくれて、ありがとう。と、ただ祝福した。

 

それが、アキレウスという存在を確立させる、重要な因子となった。

 

 

「きっと、父上と母上との間に生まれなかったら、俺は浮わついたまま、どこかで野垂れ死んでいたと思います。

父上が、俺の誕生を喜んでくれたから。母上が、俺を愛してくれたから。俺はここに立てています。」

 

 

そして、アキレウスは頭を下げた。

 

 

「どうか俺に、最期の親孝行を、させて下さい。」

 

 

 

頭を下げ続けているアキレウスを、テティスはじっと見つめていた。

 

─────そして……

 

 

 

 

「…顔を上げて、アキレウスちゃん。」

 

 

顔を上げたアキレウスの頭に、ふわりと、手が乗せられる。

 

 

「……もう、こんなに大きくなってたのね。」

 

 

丁寧に、頭を撫で付ける

 

 

「…もう、ただの可愛いアキレウスちゃんじゃ、ないのね。」

 

 

そして、ほんの少し、目を閉じる。

 

すぐに開かれた海色の瞳は、揺るぎなく輝いていた。

 

 

「……分かりました。ゼウス様には、私から進言しておきます。今回の件は、適当な理由もない神の気紛れに依るものですから、恐らく受け入れられるでしょう。」

 

「ありがとうございます。母上。」

 

 

テティスは、アキレウスの思いと、覚悟を知った。

故にテティスも女神として、母として、覚悟を決めた。

 

 

「……アキレウスちゃん。頑張ってね?ママはいつまでも、貴方の幸せを願っています。」

 

 

テティスが、帰ろうとした。その時。

 

 

「母上。今までありがとうございました。」

 

「!」

 

「俺を認めてくれて。俺を、愛してくれて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴女の息子として生まれて、俺は、幸せでした。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小波の音が響く海辺で、二人の親子を、月が見守っていた。




もっとハチャメチャなマッマになる予定が、普通に良い母親になっていた…まぁ、いいや(ポイ投げ)
それにしても、今回の話は三人称オンリーで大変でした…何度一人称にしようと思ったことか…唯一の救いは、実質トロイア戦争のダイジェストだから、話数自体は少なくて済むことですね。
え?アポにぐだ?…その話は一旦持ち帰らせてもらおう(返却拒否)

話が進んできて、どんどん矛盾やらにわか知識が露呈してきて悲しみが鬼なる。誰かジュースを奢ってくれ。9本でいい(謙虚)



全然関係ないけど、最近タイタンフォール2というゲームを買ったんですよ。PSstoreでセールをやってまして。驚きの400円以下ですよ。

やってみたらハマっちゃいましたね。スピード感が半端無いし、三次元的な動きするのが楽しいのなんの。
たまに、壁走って攻撃を避けつつ相手に一方的にやられる痛さと怖さを教えてやると脳汁溢れます。ざまぁないぜ!

まぁ、滅多に成功しないし、その前に殺られるんですけど。
フザケルナァッ!フザケルナァッ!!バカヤロォー!!!

ストーリーモードも楽しかったです。BTさんだいしゅきぃ…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

予定調和

運営を称えよ(グルグルおめめ)


アキレウスが前線を離れてから数ヶ月。

戦況は、膠着状態に陥っていた。

 

 

「やはり、手強いな……。」

 

 

智将、オデュッセウスは一人ごちる。

トロイア側の守備の堅牢さに、彼は手こずっていた。

 

 

「兜輝くヘクトール。やはり噂に違わぬか。」

 

 

武器を取れば一流の戦士。

盤面を見れば一流の軍師。

治世をすれば一流の為政者。

 

ヘクトールという男は、まさしく万能の男である。

あらゆる部門をこなし、全てにおいて秀でている、トロイア最強の英雄。

 

さしものオデュッセウスも、彼を相手には攻めきれずにいた。

 

 

(アキレウスの抜けた穴は、やはり大きい。

一点突破して、一部でも防備を突き崩せれば勝算はあるが…今のトロイア軍に対してそれを行えるであろう彼は、今は出られない。

 

ヘクトール……たった一人で、戦局をこうも大きく左右するとは…まるで、こちらにとってのアキレウスだな。)

 

 

無論、ギリシャ軍に強い兵が居ないわけではない。

 

アイアス。

ディオメデス。

パトロクロス。

 

他にも強き英雄たちが、この戦いに集っている。

しかし、今のトロイア軍を相手するには、足りなかった。

 

 

「ふぅむ──────。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや…こりゃあ厳しいねぇ…」

 

 

トロイア陣営。

報告書の束を眺めながら、男が溜め息を吐いていた。

 

 

「予想していたより、与えた被害が少ない。反対に、こちらの被害は予想より多い………こりゃあ、向こうさんには相当な切れ者がいるな。」

「全く…オジサンあんまし、働きたくないんだがなぁ…」

 

 

この男こそ、ヘクトール。

トロイアの王子にして、最強の英雄。

 

彼もまた、動きが変わったギリシャの兵たち。即ち、オデュッセウスの戦術に、頭を悩ませていた。

 

 

(いくら()()()()()()()()()()()()とはいえ、それでも強敵揃い。オマケに、ここに来て突然動きが変わる兵たち……主力が居なくなったことで、むしろやる気になった奴でもいるのかねぇ?)

 

 

────神様方も余計な事をして下さったもんだ。

 

そう言って、また一つ溜め息を吐く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───Side Hector───

 

 

 

 

アキレウスという英雄の噂は、前々から耳にしていた。

 

弱きを助け、悪しきを挫く。

古今無双の勇者にして、誰よりも善を体現する英雄。

 

俺は、コイツは敵に回した時点でアウト、って部類だと確信した。

なんでかって?

 

 

まず、噂っていうのには大概、大なり小なり尾ひれが付いてるもんだろうが、噂が立つ時点で只者じゃないっていうのは確定してるからさ。

火のない所に煙は立たず。

 

武力なり、知恵なり、魔術なり。ソイツには何かしら、目を見張るモノがあるからこそ、周囲を惹き付ける。興味を抱かせる。

 

オマケに、聞こえてくる噂は、尽くがアキレウスの勝利。少なくとも力量に関して、警戒し過ぎということは無い、と考えた。

 

 

しかし、何よりも厄介だと思ったのは、奴が“善の体現者”だと言われている点だった。

 

善の体現者。即ち、善であることが約束された者。

 

要は、アキレウスのいる側が正義。トロイアは悪。そう取られても不思議じゃあないって話。

悪に加担したいか、正義の為に戦いたいか、なんて聞かなくても分かること。ぶっちゃけ、オジサンだってそう思う。

 

しかし、何の因果か、俺たちはアキレウスとやらを敵に回しちまってるってことで……

 

 

「はぁ……全くさぁ…何で戦争になるかねぇ…」

 

 

今さら何を言っても仕様がないんだがなぁ……それでも愚痴の一つや二つ、三つ、四つ……そんくらいは出ても良いでしょうよ。

 

 

 

 

 

 

 

そもそもの話、だ。

今回の戦争の原因は、何を隠そう神々の争いに依るものだ。

 

誰が最も美しい女神か、なんて、どうでもいいと思うんですがねぇ…人によって美醜の価値観なんざ違うし、オジサンだったらアンドロマケーが一番だと思うかんね。

 

それはともかく。

ヘラ様、アテナ様、アフロディーテ様の三柱の中から、最も美しい女神を選ぶことになり、白羽の矢が立ったのが、我が愚弟たるパリス。

 

まぁ、なんやかんやとあって、結局あのバカリスは、選べば絶世の美女を与えるというアフロディーテ様を選び、現在に至る、と。

 

 

 

なーんでよりによってアフロディーテ様なのかねぇ…まぁ、誰を選んでも厄介だったろうけどさ。せめてヘラ様を選んでくれてれば、少なくとも戦争とまではならなかったか、なっても勝てる見込みが大分あったんだがなぁ…

 

 

…まぁ、しかし。確かにパリスは馬鹿だったが、間違ったことをしたとは思っちゃいない。

結果的に戦争になっちまっただけで、正しいことをした、と胸を張って言える。だからこそ、このまま黙って滅びるよりはと、戦争に踏み切ったんだ。

 

なにより…

 

 

 

『僕、ヘレネーさんを助けたいんです!』

 

 

 

あの真っ直ぐな目を見ちゃあ、嫌とは言えんわな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて、弱音はここまでにして、そろそろ真面目に考えますか。」

 

 

前線に来て数ヶ月。今の状態が続いても…まぁ、負けはしないだろう。

確かに、想定よりも相手側の損害は少ないが、無い訳じゃない。戦力比を考えれば、むしろこっちの方が削ってる。このままチクチクと攻めていけば、いずれこちらに軍配が上がる。

 

しかしその間に、こっちの被害がえらいことになりそうなんだよなぁ…全くもって、厄介な奴がいるもんだ。

 

必然的に早期解決が望ましいわけだが…

 

そうなると────。

 

 

 

 

 

───Side Out───

 

 

 

 

 

 

 

 

「このままでは、互いの戦力を無駄に消費する泥戦になる。」

 

 

 

「そいつを避ける方法は…まぁ、色々とあるが…」

 

 

 

「和平の交渉による円満な解決。」

 

 

 

「もしくは手っ取り早く────。」

 

 

 

 

 

 

 

─────最高戦力同士の一騎討ち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある部屋の前で、パトロクロスは立ち止まっていた。

 

 

「ふぅ…─────よし。」

 

 

意を決した様な表情で、ドアを開ける。

 

 

「やぁ、我が友よ!いるかい?」

 

 

ドアを開けた先には…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む………もう少し濃い目がいいか…?」

 

 

 

 

戦闘装束(エプロン)を身に纏い、煮えたぎる大鍋(今晩の夕食)を前に悪戦苦闘する、大英雄の姿があった。

 

 

「いつ見ても違和感がすごいなぁ…」

 

「お、なんだ、パトロクロス。夕飯の心配か?

今日のは自信作なんだぜ。」

 

「あぁ、いや。それは、全く心配してないよ。いつも美味しく頂いてます…」

 

 

アキレウスは、自身が戦いから外されてから、戦いに参加する以外のことを積極的に行っていた。

 

人が多ければ多いほど、それを維持するには相応の苦労がある。ましてや、彼らは戦う者たち。費用はもちろん、食事や衛生管理などが、普通の人より何倍も手間が掛かる。

無論、小間使いはいるが、軍の大規模さ故に、手の回らないことも出てくる。

 

そこでアキレウスは、その神速で以て、あらゆる労働をこなしているのだ。───因みに、森での経験と、前世の記憶からの知識により、彼の作る料理はまるで天上の料理だと評判である。───

 

 

「なんというか…人は見掛けによらないってこういうことなんだね…」

 

「ん?なんか、変なところあるか?」

 

 

別におかしいところなんか無いだろ?と言わんばかりに小首を傾げるアキレウスに、パトロクロスは肩を竦める。

 

 

(むしろ堂に入ってるから困るんだよなぁ…)

 

「?……よく分からんが、夕飯の話じゃないんなら、何か相談事でもあるのか?」

 

「おっと、そうだった。」

 

 

アキレウスの言葉により、ここに来た理由を思い出したパトロクロスは、真剣な面持ちで、話を切り出した。

 

 

 

「不躾で済まないが、実は君に、折り入ってお願いがある。」

 

 

一度、深呼吸。そして、本題を話す。

 

 

「私に、君の武具を貸してほしいんだ。」

 

「おう、別にいいぞ。」

 

「あぁ、どれだけ無茶な願いかは分かってる。あの神ヘファイストスが自らの手で鋳造した神鎧に、君の思い出の品である槍を、一時的にとはいえ貸してほしいだなんて。しかし、これは、とても大きな意義があるもので───へ?」

 

「いや、だからいいって。」

 

 

意を決した嘆願は、実にあっさりと承諾された。

 

 

「ほ、本当にいいのかい?」

 

「構わねぇさ。」

 

「いや、しかし…」

 

 

戦士にとって武具とは、己の手足の延長。なにより、自分の命を預ける大切なモノ。当然愛着は湧くし、長く使った物となれば尚更。

 

おまけに、アキレウスの武具は、普通の物とは訳が違う。

あの鍛治神ヘファイストスが手ずから造り上げた鎧。そして、あらゆる智慧を修めたケンタウロスの賢者、ケイローンが作った青銅とトネリコの槍。

どちらも神が造りし神造兵装。

そしてどちらも、大切な人たちから送られた武具なのだ。

 

普通の戦士であれば、自身の愛用の武具を、一時的にとはいえ他人に貸し出すなど、ありえない話だ。

 

 

「俺は生憎と戦いには出られねぇ。腕が鈍らない様に鍛練するときにしたって、大仰すぎて使えねぇし。今のままじゃあ、宝の持ち腐れってやつだ。」

「だったら、友の為に使う方が、よっぽど有意義だろうさ。ヘファイストス様も、母上も、我が師も、きっと許して下さる。」

 

「アキレウス…」

 

 

しかし、アキレウスはあっさりと貸し出す。

 

それは決して、自身の武具に愛着が無いわけでも、母や師を軽んじているわけでもない。(ひとえ)に、友の為だった。

 

 

「それに、お前のことだ。ちゃんと理由もあるんだろ?」

 

「…うん。情けない話なんだけどね。」

 

 

 

そして、パトロクロスは語る。今の戦況を。

 

戦局が膠着状態にあること。トロイア兵の動きが変わり、以前よりもずっと手強くなったこと。アキレウスが出られなくなったことで、ギリシャ軍の士気が落ちていること。

 

 

「このままだと、下手をすればこちら側が敗北しかねない。だから、見た目だけでも君が出陣した様に見せれば、盛り返せると思うんだ。」

「まぁ、一時的なものだろうし、結局は、君に頼ってしまっているんだけど…」

 

 

そう言って、パトロクロスは自嘲気味に笑う。

 

彼は、自分が自分で情けなかった。

心底の友であり、恩人であるアキレウスの役に立ちたくて、子供のころから鍛練を積んできた。

しかし現状は、アキレウスに頼らざるを得ない。

それが、パトロクロスは堪らなく悔しかった。

 

 

「すまない、アキレウス。私、いや、僕たちは…」

 

「それ以上は言うな、パトロクロス。」

「俺は一人で戦ってると思ったことは、一度たりとも無い。お前らが居るから、戦えてるんだ。こう見えて、俺は寂しがりなんだぜ?」

「それによ。お前らは気づいてないだけで、俺は何度もお前らに助けられてる。むしろ、俺の方が礼を言いたいんだ。」

 

「アキレウス…」

 

「俺が助けられた分、俺は何度だってお前らを助ける。

だからお前は、もちっとドーンと構えとけ。」

 

 

そう言ってアキレウスは、爽やかに笑う。

その顔は、幼い頃に見た、あの笑顔そのもので。

 

 

「────全く。変わらないね、君は。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ。せっかくだし、飯の味見してくか?」

 

「…もちろん!君の料理は最高だからね。役得ってやつさ!」




話がごちゃごちゃしてる気がするけど気にするな!(魔王感)

ということで今回の話は、ちょっと歴史の修正ぢからが動いてるところを書いてみた、という話です。えぇ、決してアキレウスとパトロクロスのイチャイチャ回ではありません(固い意志)

それにしても戦争中の話なのに戦闘シーンまるでないな…次回も、あるにはあるけど雀の涙程度だし…戦争とは?(哲学)



それにしてもFGO、神ってますね。☆5配布とかいうトンデモイベント。実に、最高です!
皆さんは誰を呼ぶか決めました?
私はもちろん、長年居留守決め込んでる大軍師です。何が三顧の礼じゃ!こちとら四年の礼やぞ(血涙)


しかし、新型ウィルスが猛威を奮っていますし、皆さんもどうか、体調には気をつけて下さい。

某ネコ型ロボット漫画のヒロインばりにお風呂に入って、婦長に殺菌(物理)してもらいましょう。
そうすれば、99.9%除菌完了ですΣb( `・ω・´)グッ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

宣誓

戦闘シーン(笑)


トロイア首都、イリアス正面の平原にて。

トロイア王子ヘクトールは、戦場を一瞥し溜め息を吐いた。

 

 

「やっぱ出来るヤツがいるのな…あー、やだやだ。もう少し手加減してくれんもんかねぇ…

ま、無理だろうけどさ~。」

 

 

そう言って、彼は朗らかに笑う。

果たして、その笑顔の裏に何を考えているのか。それは、彼しか分からないだろう。

 

 

「王子、ご報告が…!」

 

「おろ?」

 

 

一人の兵士が、彼の私室に飛び込んできた。

 

 

「そう慌てなさんな。まずは息を整えて───」

「前線に、アキレウスが現れました!!」

 

 

アキレウス。

 

今は前線に出ていない筈の、ギリシャ軍最強の英雄。トロイアにとって目の上のこぶである最速の男が、また前線に出てきているのだという。

 

 

「このままでは、前線が崩壊する恐れが───」

 

 

神々の()()()により、アキレウスが前線から離れた。それによって、トロイア側は一気に優勢になった。しかし、アキレウスが出てきては、押し切られる可能性がある。

 

若き兵士は、急ぎこの事を伝えに来たのだが…

 

 

 

 

「いいよー。()()()()。」

 

「は?」

 

「ん~…アキレウス。アキレウスねぇ…」

 

「あの、王子。知っているとは…」

 

「そりゃあ、さっき視たからね~。」

 

「しかし、知っているなら…!」

 

「まぁ、そう慌てるなって。まずは、報告ご苦労さん。少し休んでいたまえ~。オジサンは、ちょっくら出てくるから。」

 

 

ヘクトールは、いつもと変わらぬ調子で部屋を出た。

まるで、少し散歩でもするかのような気楽さで。

 

 

 

 

「さーて。これで決着になりゃいいんだがねぇ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦場を、流星が(はし)る。

戦場を蹂躙し、どこまでも駆け抜けていく。

 

 

「アキレウスだァァァァァ!!!!」

 

 

その男は走り続ける。

戦場を、駆け続ける。

 

 

「おお、アキレウスだ!アキレウスが来てくれたぞぉ!!」

 

 

怒号。歓声。悲鳴。嬌声。

流星が流れる度に、敵が、味方が、声を上げて称える。

 

アキレウスが。我らの英雄が来たのだと。

 

 

 

 

 

男は、知らず口角を上げる。

 

 

────そうだ。それでいい。

 

 

彼らの声に呼応するように、さらに速度を上げる。

こんなものではない。アキレウスは、もっと(はや)い。

 

そうして、()()流星は、戦場を駆け回る。

 

まるで、己の姿を見せ付けるように。

 

 

────あぁ、そうとも。私は此処に居る。

 

 

 

「アキレウスは、此処に居るぞ───!!!!!」

 

 

 

()()()()()()は猛る。

 

仲間の為。友の為。

 

ただ、ひたすらに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────ヒュンッ。

 

 

「っ!?」

 

 

 

 

 

「あらら。さすがに避けられるか。」

 

 

小さな風切り音。

 

パトロクロスがその俊足を以て避けた、直後に轟音が響く。

 

パトロクロスの居た地点は、完全に粉砕されていた。

中央にあるものは───。

 

 

 

 

 

「小石…!?」

 

 

 

小さな掌サイズの小石。

魔術的な強化も、神秘も、特別なものは何一つとして込められていない、ただの石。それが、巨大なクレーターを作り出していた。

 

 

 

「おうよ。

人間(英雄)を殺すのに、わざわざ強力な武器を使う必要なんざない。棒切れでも、こういう小石でも、充分な凶器になるからな。」

 

 

 

戦場には似つかわしくない、飄々とした声が響く。

しかしその内容から、この惨状を生み出した人物であることも、また確かだった。

 

 

 

「あぁ、どうも。オジサンがヘクトールです。よろしくねぇ。」

 

 

 

兜輝くヘクトール。

トロイア最強の英雄が、出陣した。

 

 

 

 

「それにしても、お前さんがアキレウスねぇ…」

 

「…………」

 

 

そう言ってヘクトールは、目を細めた。

 

その視線に、思わずパトロクロスは身を竦める。

言い様も無い寒気が、全身を包んでいた。

 

 

「いやいや。さすがはギリシャの最高戦力。こうもあっさり避けられると、オジサン自信無くしちゃうわ。」

 

 

どこまでも気楽なヘクトールに対しても、パトロクロスは警戒を緩めない。否、緩められない。

 

 

(これは…正真正銘の怪物だな…)

 

 

 

パトロクロスとて、一流の戦士である。

そこらの兵士にはまず負けることは無いし、英雄級の者たちとも渡り合えるほどの実力は備えている。

そしてアキレウスの鎧を身に付けてから、身体の調子がすごぶる良い。まるで、アキレウスが乗り移ったかの様な錯覚を覚えるほどに。

 

しかし、いや、だからこそ分かった。

目の前の男は、今のパトロクロスでも間違いなく倒せない。そう確信出来るほどに、実力差が歴然であった。

 

 

(少しでも気を抜いたら、喰われる…!)

 

 

その、いっそ軽薄であるとさえ感じる雰囲気は、相対した相手をだまくらかし、一息に殺す為の演技でしかないのか。

少なくとも彼にとって、パトロクロスはこの雰囲気を装える程度の相手であり、本気を出すほどでは無い、ということは事実なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

(ほーん、案外乗ってこないもんだな。近づいてこようもんなら速攻で首を落とすつもりだったんだが…)

 

 

一方ヘクトールもまた、パトロクロスの評価を上方修正していた。

 

ヘクトールは、目の前にいる者がアキレウスに扮した何者か、ということは分かっていた。

 

 

 

様々なアキレウスに関する噂。大なり小なり尾ひれが付いているであろうそれらだが、共通するものが一つあった。

 

 

“気がついたら目の前に来ていた”

“瞬きもしていないのに消えた”

“誰も彼の走る姿を知らない”

 

 

言い方は様々だが、これらが指し示すものはただ一つ。

アキレウスの速さだ。

どれだけ荒唐無稽な話があろうと、この一点だけは決してぶれることなく、様々な噂の中に織り混ぜられていた。

 

当然ヘクトールも、この噂を耳にしていた。故に、戦場を見ていた時に気が付いた。

あれが本当にアキレウスなのか?、と。

 

 

確かに速い。そこらの連中では捉えることなどまず不可能だろう。

確かに強い。精強なるトロイア兵を一撃で沈めていく様は、確かに英雄の名に相応しい。

 

 

────だが、()()()()()()

 

 

たった一人で戦局を左右する無双の英雄が、自身より弱いものなのか?その一点が、ヘクトールに気付かせた。この男は、アキレウスではないと。

 

 

しかし、今はその態度こそ崩しているものの、決して油断なくパトロクロスを見据えている。

彼我の差を判断し、迂闊に攻め込むことなく、勝ちを諦めない戦士。それが如何に厄介な者か、ヘクトールは理解しているからだ。

 

 

(おまけにあの武具…元々自分の持ち物か、それとも他人に譲られた物かは知らないが、間違いなく神々の造った物だな。

…俺の不毀の極槍(ドゥリンダナ)なら貫けるだろうが…)

 

 

 

 

 

「全くもって、最近の若者は怖いねぇ…っと。」

 

「ッ!?」

 

 

突然、緋色の一閃が走った。

 

 

「ありゃりゃ、これも避けられるか。完全に意表を突いたハズなんだが…いやはや、やっぱし油断ならんねぇ。」

 

 

反応出来たのは運が良かった。

 

殺気もなく、視線を向けることもせず、極めて自然に振るわれた名槍。避けられたことは、奇跡に近かった。

 

 

「…なる、ほど。奇襲、不意討ち、何でもありってことか…」

 

「オジサンってば臆病なんでね~。こうでもしないと怖くて怖くて…大立回りなんかしたら、腰にもくるでしょ?」

 

 

───臆病?これのどこが臆病だと言うのか。

 

 

奇襲、不意討ち、騙し討ち。なるほど、慎重な者であれば、こういった作戦は常套手段だろう。しかし、彼は別に慎重を期した訳でも、臆病風に吹かれた訳でもない。

 

ただ、その方が()()()()()()()から行ったに過ぎない。面倒事は迅速に、且つ楽に処理するに限る。

生まれながらの強者にして、生粋のリアリスト。トロイアを守る為ならば、後ろ指を指されようと構わない。それこそが、ヘクトールという男であった。

 

 

「一体どこの世界に、小石だけで地形を変えたり、会話の最中、事も無げに片手で槍を振るう臆病者がいるんだか…」

 

「ハッハッハ。」

「…しかし、そいつは二度とも防がれた。」

 

 

 

───スッ。

 

 

突如、ヘクトールは、槍を天に掲げた。

 

 

 

「我はトロイア王プリアモスが第一子、ヘクトール!!」

 

戦場に、ヘクトールの声が勇ましく、高らかに響き渡る。

 

続けて紡がれたその声に、双方の兵たちは沸き上がった。

 

 

 

 

 

 

 

「────我はここに、駿足のアキレウスとの、一騎討ちを望む!!!!」




反逆!!!!!(挨拶)


どうも、私です。
やっとこさ戦闘に入れそうですね。

えぇ、()()()()、です( ´_ゝ`)
前回、戦闘シーンは雀の涙ほど入ってる、と言ったと思うんですが、実質皆無というね…その癖、文を考えるのに死ぬほど時間が掛かるという…まぁ、あらゆる意味で素人なので、温かい目で見守ってくだされ(震え声)


次回は、ヘクおじとアキレウスさんの戦闘回!
…にする予定ですが、多分まーた難産になると思います。

更新するまで暇になってしまう…
そ ん な み な さ ま の た め に ぃ ~(走者風)

実は、今回の話と同時に書いていた別視点(割りとどうでもいい)の話があるので、多分そっちを投稿することになります。
ゆっくり待っていってね!



FGOでのカッツ実装嬉しい…想像以上に姉上強化要員で良き…残りの織田サーとマックスウェルもはよ来いや(血涙)
あと、一ちゃん大勝利~!お米娘が来なかったのは残念でしたが、実質プラスです!(お目目ぐるぐる)
Wキャストリアで一ちゃん歩かせるの楽しい…楽しくない?ボイスのテンションの落差もしゅき…やっぱ新撰組は乙女ゲーやったんやなって(勘違い系)


それでは。

圧政(さようなら)!!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。