それいけ!硫黄島鎮守府 (クロマ)
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とある艦娘の業務日誌~物資強奪事件①~
―海軍軍令部検閲済―
とある艦娘の業務日誌より抜粋
初めにお断りしておきますが、この記録を残すことで私の愛すべき仲間たちを破滅に追い込みたいというわけではありません。
正直なところ、この事件の記録を公式記録に残すかずいぶん悩みましたが
軍事における兵站の重要性を後世に教授する意味でも、たとえそれが愛すべき硫黄島鎮守府の仲間たちを陥れる結果となったとしても、やはり、この件に関しては語らざる負えないでしょう。
恥多き硫黄島鎮守府艦隊の歴史において公開されるべきではない記録の一端を…
某月某日
事件の発端は、ある一通の伝令文からでした。そこに記載されていた内容は以下の通りでした。
『発 日本海上防衛軍司令部
至 硫黄島鎮守府並司令部
本日早朝、横須賀鎮守府発硫黄島鎮守府行定期便ガ深海棲艦二強襲サレリ
当週ノ物資輸送ハ困難、貴鎮守府二於イテハ次回ノ定期便マデノ善処ヲ期待スル』
つまり、深海棲艦の通商破壊による物資の収奪でした。
硫黄島鎮守府は本土から遠く離れた孤島にある旧自衛隊の施設に艦娘艦隊の運用に必要な施設を増設した、
まさに僻地という言葉がふさわしい鎮守府でした。
その食糧事情も本土の鎮守府と違い、その食糧物資の供給は主に本土からの海上輸送と空輸に頼ってきました。
所属艦娘や、整備班有志による食糧自給も行われていましたが艦娘のみならず艦娘が使用する各種艤装の整備・運用を行う整備班を含む後方支援要員も含めるた総勢200名からなる人員に供給するには、
やはり、その生産能力は焼け石に水程度のものでした。
この通達を私は直ちに提督に報告に向かいました。
島の中心を貫く滑走路を挟んで南のヘリポート・航空機駐機場のさらに南に広がる官舎棟、さらにその先、硫黄島の南海岸に建設された艦隊基地があり、そこには海域移動用の高速艇ポート、装備の整備区画、傷ついた艦娘を修理(治療)するためのメディカルセンター通称「ドック」、兵器開発センター、資源倉庫などが広がる区画があり、
その建物の一角に艦隊司令部があります。
司令部施設の提督執務室の扉を開けると、椅子の上で足を組み、朝の日課である水虫の薬を足に塗る提督の姿がありました。
やや細面の死んだ魚のような眼をした、この一見やる気のなさそうな提督ですが、これでも本土にいたころは「剃刀」と言われたほどの切れ者だったとか…。
そんな提督に咳ばらいをして注意をこちらに向けます。
「どしたの、そんなに急いで」
提督は気の抜けた声で私に声を掛けます。
「提督、緊急事態です!本土からの物資が深海棲艦に強奪されました!」
わたしは、提督に伝令文を差し出します。
提督は伝令文を受け取り、内容を読むと顔をしかめてこちらを見つめてきます。
「そんなに見つめられても、何も出ませんが…」
「知ってる。ところで、この内容知ってるのって自分だけ?」
「はい、今のところは私だけです」
提督の問いに答えると提督は背もたれにもたれかかり、思考を巡らせている様子でした。
「善処されたしって言われてもなぁ・・・」
しばしの空白ののち
「とりあえず、間宮さん呼んできて。その間に本店に問い合わせるから」
起き上がってこのように指示を受けた私は執務室を後にして、この鎮守府の裏ボスの一人といわれる間宮さんを呼びに、施設内の食堂へ向かいます。(朝のこの時間ならまだいるはずです…)
このとき、私はまだ予想もできていませんでした。
この事件が、これほど大きなものに、そしてあれほどばかばかしいオチが待っているなんて…。
とりあえず、業務日誌という割にはずいぶん説明が多くなっておりますが、導入のため致し方なし!
あと、語り口でなんとなく誰の業務日誌かわかってもらえるかな?
無理だろうな、たぶん(^^;)
今回のストーリーの下敷きはいつぞやのおにぎりの材料集めと「特車二課、壊滅す」からヒントをもらっています(丸パクリって言っても文句言えない…)。
次回、たぶん赤城さんが暴れます。
以上、駄文を失礼しました!
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とある艦娘の業務日誌~物資強奪事件~②
あれは嘘だ。
すみません。まだ動きません。
当鎮守府の台所番たる、間宮さんがおっしゃることには
「今週、いえ、来週くらいまでなら何とか持たせることはできると思います。ですが、それ以降は保障できかねます。」
と、まるでどこかの帝国海軍大将のようなことをおっしゃっていました。
また、提督が本部に問い合わせたところによれば、
「今回は新規艦娘が訓練航海を兼ねた任務中に潜水艦に襲われたらしい。まぁ、輸送船自体は無事だったみたいだから来週は来るんじゃないの?」
と暢気に構えていました。
しかし、この人はこの人で何を考えているかわからない人ですので、なにか別の情報をつかんでいる可能性もありますが・・・。
間宮さんとの協議の結果、当座は緘口令を敷くことと、一部大食艦娘をけん制することで様子を見ることに決定しました。
この時、私はある艦娘の存在を忘れていました。
そう、青葉です。
鎮守府のトラブルメーカーの一角を担う彼女は、
彼女は私が早朝、急いで提督執務室に向かう姿を目撃し、跡をつけてきたようでした。
「人の口に戸は立てられぬ」とはよくいったものです。
彼女が無断で入手した情報は直ちに鎮守府のLANを通じて、あっというまに拡散しました。
この後、提督に訓告と1か月の減給処分が言い渡されていましたが、すでに後の祭りでした。
ただ、提督との面談直後の青葉の表情は忘れられません。
司令部地下の尋問室から出てきた彼女は憔悴しきっており、いつもの快活な表情は消え、うつろな目をして出てきました。
そういえば、いつか整備班長の朝日が何か言っていたような…
話がそれました。
その日の昼の緊急集会で事の顛末が提督から説明がなされ、また次のような布告がなされました。
一つ、食料資源節約のため、過度なお代わりの禁止(「特に赤城。何そんな恨めしい顔してんの。そんな顔しても何も出ないって、ホントにないんだから」と提督と赤城さんの間で一触即発になりましたが…)
一つ、酒保からの嗜好品供給を制限する。(この勧告に一部酒飲み勢から怒号が上がったことは言うまでもありません)
各所で不満はあったものの、事態が事態のためしぶしぶ受け入れる形で一応はこの形でこの週は運用を開始しました。
この週に関してはもともとの食糧備蓄と間宮さんの名采配、そして一部有志艦娘による赤城さんの制御が幸いし、被害を最小限に抑えることに成功しました。
しかし、本当の悪夢はここから始まるのでした。
あけて、次の定期便入港の日が来ました。
さすがに二週連続で物資が届かないということはないでしょう。
そう考えていた私たちがおろかでした。
私はいつものように提督執務室へ行く前に複写機室へ今日届いた電信を確認しに行きました。
室内に置かれた一台の複合機に一通の電信が届いていました。
私はこの時、唐突に既視感を覚えたのです。
なにか、先週も同じようなことがあったような…
私は恐る恐る電信を表に向けました。
そこにはこう書かれていました。
『発 日本海上防衛軍司令部
至 硫黄島鎮守府並司令部
本日未明、横須賀鎮守府発硫黄島鎮守府行定期便ガ深海棲艦二強襲サレリ
当週ノ物資輸送ハ不可能、貴鎮守府二於イテハ次回定期便マデノ善処ヲ期待スル』
…
私は夢ではないかと思い、文章を読み直しましたが内容に変わりはありませんでした。
「ア”ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
おそらく、生まれて初めてこのような醜い悲鳴を上げたと思います。
次回、『南西諸島沖の死闘、前編』
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