世界はいつから壊れていたんだろう。
『カバネ』
アイツ等はいつからこの地上にいたんだろう。
どこぞの国で現れたカバネのせいで世界は崩壊を始めた。
カバネに噛まれた人間は死んでカバネになり生きている人間を襲う。
『負の連鎖』
カバネになったらもう戻れない。
人を襲い続けカバネを増やす。
誰だろうと関係なく襲う。
男、女、老人、子どもだろうと。
例えそれが自分にとって大切な親、妻、恋人、己が子どもであってもだ。
俺はそんな狂った世界で生まれた。
生まれたと言っても故郷がどこか、親の顔も知らない、そして自分の名前も歳も。
物心ついた時、知らない男と一緒に生活していて、『駿城』に乗って日ノ本の『駅』を旅していた。
男は旅をする中で俺にカバネを殺す手伝いをさせ、それと同時にカバネを殺す技術を教えた。
男は強かった。
男は人間だが、カバネを殺す技術は凄まじかった。
『心臓被膜』に覆われた心臓を一撃で貫き、時には男が作った特製の糸でカバネの身体を括り一瞬で断ちとどめを刺す。
そして、旅をする中で更に技術を上げ、戦う為の道具を改良し新しく作っていった。
俺はそんな男から身体を鍛えられ技術を学んだ。
そして、気づいた時には俺は男と一緒にカバネを狩るモノになっていた。
感情もなくカバネを見つけてはカバネを殺し、カバネを殺すための技術、知識を深めていった。
だが…その生活は急に終わった。
駅に入ってきたカバネの群。
群と言っても30もいない位だった。男と俺、駅にいる侍だけで片付けることができた。いつもと変わらず侍達が討ち漏らしたのを影に隠れて誘き寄せて殺す。只、それだけいつもと変わらない。そして、その中で学び新しい戦略を見つける。と言っても今回は収穫なかった。
『つまらねえ…』
俺はそう思いながら、目の前にいるカバネの心臓に向かって右手首の下にある仕込み刀で刺し、カバネの心臓から光が発したの同時に絶命した。
「おい。こっちは終わ」
俺は死んだカバネから仕込み刀を抜き振り向きながら手首に戻し、男の方を見て声をかけるが、その声は途中で止まった。
男が襲ってくる頭に花の簪を着けた少女のカバネを見ながら動きを止めてしまっていたからだ。
今までそんなことはなかった。相手が女、子どものカバネでも躊躇なく殺していた男が目の前のカバネを見て動きを止め、少し身体を震わしているように見えた。
俺は男を襲うとするカバネに向かって走りだすが、それよりも先にカバネが男の首に噛みつき、大量の血が噛まれたところから吹き出し、男はカバネと一緒に仰向けに倒れた。
「あ………」
「おい!何やって」
俺は男の首に噛みつくカバネを殺そうと、男の元に走りながら仕込み刀を手首から出したが、
「来る……な!!これは…俺のケジメだ。オマエには………殺らせねえ!!」
「何を言」
一度俺は動きを止めたが、男の上にいるカバネを殺そうと動き出すとするが、
「来るなと言っているだろうが!!」
死にかけてまともに話せない男が大きな声を上げて言い俺は動きを止めた。男は噛みつくカバネの頭を撫で、簪のところで手を止めると、
ドス!!
鈍い音と共にカバネの背中から男の仕込み刀の先が出て、刺したところから光が出て消えていった。
それを見て俺は走りだし男の元につき、男の上に乗っていたカバネを退かして男の胸ぐら掴み上げた。
「おい!何やってんだよ!!あんな餓鬼のカバネに手こずって!!どんなカバネでも躊躇するなってアンタが教えたんだろうが!!何で教えたアンタが躊躇して」
俺は今まで出したことが無いほどの声で男に言った。
「フフ……ガハァ!!…ハァ…ハァ…オメエそんくらい…デケエ声……出んじゃねえ…かよ…」
男は口から血を流しながらも笑いながら言った。
「躊躇するな……か。出来ると……思っていた………。感情を無くし…カバネを殺すただそれだけ考えていれば。だが…現実はそうではなかった……。人は……何処まで行っても…人なのだと。」
「おい!何言ってんだ!!」
俺は自分の服を破り男の噛まれた首元を服を当てて抑えた。
ゆっくりと流血は治まって行ったが、抑えている首元から男の肌の色が紫色に変わりはじめる広がっていった。
男は自分の手を首元を抑えている俺の手に置いた。
「もう……いい。俺……は助からん。このまま………カバネになる。だが………オマエに…渡しとくものがある。」
俺が手を退かすと男は右手首の下の仕込み刀を外し俺の目の前に出した。
「これを…持っていけ。オマエには必要…………になるだ…ろう。」
「……」
俺は無言でそれを受け取るが、その手に何かが落ちた。
「フ…。何だオマエ……泣けるのかよ………。」
「泣く……?え?」
俺は自分の目元を触ると確かに涙が流れていた。
「オマエにも……感情があったんだな。感情を無くせ…。そう、オマエには…教えていたが…やはり人は感情を無くせにようだな。」
男は俺に仕込み刀を渡すと、血を流しながらも這いつくばって噛み付いたカバネの元に行き、自分の上半身を起こしながらカバネを抱き上げた。
「気づいていた……。人は感情を無くすことはできない。感情を無くせば全てを忘れることができると思っていたが、感情を無くすがあまりに暗い闇に落ちカバネと一緒になる。」
男は抱き上げたカバネの頭を再び撫でた。
「オマエには『技』、『体』は教えたが『心』は教えられなかった。オマエは俺のようになるな!!感情を無くし闇に落ちカバネになるな!!」
「感情………」
「今は難しいだろう……。………これから……多くの人に会い…自分の感情を呼び起こせ………。そして……人として生きろ!!」
「人として…。俺にそんな生き方が……」
「オマエなら出来る……。さあ行け……俺の荷物は全てオマエにくれてやる。色々新しい物があるから自由に使え………。悪いが最後に頼みがあるんだが…」
俺は手で目を拭き涙を止めながら答えた。
「何だ?」
「まだ……オマエ特性の炸裂……爆弾あるか?」
俺は腰に着けているポーチに手を入れて残り1つの炸裂爆弾を出して男に投げ男はカバネを撫でていた手を離して受け取った。
「戦闘で使っちまったから残りの1個だ。」
「わりいな。さあ行け……………。」
「ああ。」
俺は男に背を向け歩き始めた。
「オマエは今日から俺の名を継ぎ『月影』と名乗れ!!俺のように闇の中だけで生きるな!!光を発し闇の中でもオマエの光で人々を導く存在になれ!!」
「ああ!!」
俺は右手を挙げて答えた。
「生きろよ……。」
それを見た男は空を見上げた。空は茜色に染まっていた。
「あれから……何年経った………。オマエと鈴が死んで…………………。俺は……………お前たちを殺したカバネの復讐の為……感情を殺しカバネを狩ることだけで生きていた…………。だが…
それは虚しく、寂しかった…………一人で生きることが…………。そして……気づいた時には………人でありながら………カバネのようになっていた……。」
男は炸裂爆弾を自分の心臓の上に置いて導線を脱いた。
「だが…拾った薄汚い餓鬼なのに………。いつかカバネの囮に使おうとしたのに…。アイツといる時……俺は人に戻れた気がしていたんだ………。オマエたちと生活していた時のように………。」
死んだカバネを空いた手で抱きしめた。
「鈴………。カバネになってたんだな……。ごめんな…
父さん助けられなくて……。だけど…………今から一緒に母さんのところに行くから……………。また……皆で一緒に居ような。…………茜………今……オマエの……ところに………………………鈴…と…行くからな……」
その直後、デカイ爆発音が鳴り、爆弾によって男とカバネの姿は消えた。
「!!……今までありがとう月影。………いや…ありがとう…親父。」
俺は振り向くことなく歩き、親父から受け継いだ仕込み刀を左手首の下に着けた。
『月影』
闇を照らす光。
その光は弱く小さいかもしれない。
だが、その光は変わる生き方が変われば更に変る。
小さく弱くも大きく強くも。
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