インフィニット・ストラトス ~IS用筋肉玩具タクヤ~ (桃次郎)
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キミが、まさよし君だね。
春、それはあらゆる物事が始まる芽吹きの季節。太陽の熱度は夏の、例えばそれこそ灼熱と形容されるような万物を焼き焦がす熱さではなく。慈しみ、やさしく包み込むかの様な暖かな陽気だ。
程よい温かさと温もりは人々に自然と笑みを浮かばせる。些細な誤りや間違い、違和感など軽く笑って流せてしまうものだ。
「………」
そんな春の陽気では軽く流せない強烈な違和感の塊の様な存在がこの新入生を迎えたIS学園1年1組の教室に居た。
やや痛み気味のセミロングの茶髪にサングラスを掛け、日焼けした肌と鍛え抜かれた上半身を網タンクトップに包み、そしてやけに細い下半身を黒いショートレザーパンツが覆う。
一目見かけたら長く脳裏に刻まれるであろう強烈なファッションをした男だった。それこそ今まさに同じ教室に居る1人目こと『織斑一夏』が霞む程に。
(予想以上に浮いている………)
通夜かと疑われる程に静まり返った教室を教壇からクラス担任、織斑千冬と副担任山田真耶が見下ろす。未だ一言も言葉を発しない男は泰然とした態度を崩すことはない。その底知れない胆力に千冬は一目置くのだった。
(あの人が例の…アレ?)
(うん、ISを動かせる男子の2人目っていう)
(確か漫画家で歌手でサーフ系ボディビルダーで悶絶………なんだっけ?)
「___________悶絶少年専属調教師」
その言葉を発したのは他でもないサングラスの男本人だった。成人男性としては少し高い声だった。
「_________________S役の」
「お、おい…!?」
男は席を立つとゆっくりとした足取りで教壇に歩み寄る、男の突然の行動に千冬と真耶は思わず仰け反った。二人をそうさせる程の気迫と臭気がこの男には存在した。
千冬と真耶、二人の足が壇上から教室の床に下りた瞬間、教室の支配権はこの男の手により簒奪された。
「______________拓也と申します」
一足早く勝手に自己紹介を終えた拓也は席に深く腰を降ろし、クラスメイト達の自己紹介を聴いていた。本来ならこのような勝手を千冬は許しはしない、出席簿の角で死ぬ寸前まで痛めつけられるのが定跡だが拓也の王者の風格と臭気が千冬に寛容な心を与えたのだった。
実際の所は拓也の余りに突然の奇行に千冬も対処が出来なかっただけなのだが。
「あ、えっと織斑くん!」
「ア、ハイ」
先程から拓也を横からチラチラ見ていた一夏が副担任の真耶からの呼び掛けにワンテンポ遅れて生返事をした、一夏はまだ思春期真っ盛りの15歳の少年なのだ、拓也の圧倒的な存在感と網タンクトップの下からでも見える見事なまでに鍛え抜かれた胸筋と乳首に視線を奪われるのは無理もない事だ。
「しっかりと返事をせんか馬鹿者」
「いってえ!?」
案の定千冬が手に持った出席簿で一夏を折檻する、拓也は揉め事はキライだけど揉むのはすき、みんな愛し合って生きようね。
その後のクラスメイトたちの自己紹介はつつがなく終了し、1年1組最初のHRはお開きとなった。
「………」
そして再び教室に静寂が訪れた、幾ら拓也が自己紹介を済ませた所で彼が、彼らが異物である事は変わりがないのだから。そしてその異物同士が繋がりを持つかどうかすらわからないのだ。
一夏は悲しかった、何故こんな事になってしまったのかと。何故あんな訳の分からない色黒筋肉ダルマと一緒に女子校に放り出される事になったのか。一色々と思考を巡らせ結局導き出された答えは自分がISを動かしてしまったからという自業自得としか言いようのない答えに一夏は再度頭を抱えた。
「オッス」
そして思考の海に沈みかけていた一夏の意識を男の声が引っ張りあげた。一夏が顔を見上げるとそこに立っていたのは先程壇上で『拓也』と名乗ったあの漫画家で歌手のサーフ系ボディビルダーだった。
思わず息をのむクラスメイトたち、片や爽やかジャニ系イケメンと、片や正体不明のサーフ系ボディビルダー。この二人が接触したら一体どんな化学反応が起こってしまうのかと彼女たちは遠巻きに二人を見守る。
「君が、まさよし君だね?」
「…一夏です」
織斑一夏とサーフ系ボディビルダー拓也。ISを動かせる男子二人のファーストコンタクトは片方の名前間違えから始まった。
ネタがないねん、誰かたすけて(泣)
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お、なんだよ?トオルか?
一夏と拓也、ジャニ系イケメンとサーフ系ボディビルダーの未知との遭遇はまさかの名前間違えという最悪の事態から始まってしまった。しかしそこは我らの筋肉玩具タクヤ。ウリセ…営業(意味深)で培ったトーク術で何とかその場をカバーしてみせる。
(話してみると案外気さくというか……優しそうな人だな…)
一夏の拓也に対する第一印象はお世辞にも良いものではなかった、ノンケとして普通に暮らしていればまず生涯関わることのないであろうアバンギャルドなファッションをした男だ。無理もない。
しかし実際に話してみるとどうだ、話し方からその言葉選び、周囲は女だらけという異常環境に立たされながらも他者を気遣う優しさ。気づけば一夏は拓也の鍛え上げられた躰の内に秘められた拓也の性根の暖かさに絆されていた。
(この人と一緒なら…この先上手くやっていける気がする…!)
吊り橋効果って怖いね。
「ちょっとよろしくて?」
一夏が拓也に対する認識を改めつつある中、1人の少女が男同人の間に割って入った。豊かな金髪と制服をロングスカートに改造した美しい少女だった。
「えっと…誰?」
「まあ!なんですのその気の抜けた返事は?わたくしが態々話しかけたというのに!」
少女は目の前の男二人に対するあけすけな侮蔑の感情を隠そうともしない。
昨今の世に蔓延するISは女しか操縦出来ない、つまり女は男より強くて偉いという小学校二年生並の知性の欠片もないゴリラみたいな脳筋思想、誰が言ったか『女尊男卑主義』というものである。流石にここまでコテコテのものは一夏自身初めて遭遇したが。
「いや俺、キミのことまだよく知らないからさ?クラスも今日一緒になったばかりだし」
「知らない?この英国代表候補生でありセシリア・オルコットを知らないですって?」
「お、なんだよ?トオルか?」
「セ、シ、リ、ア、オ、ル、コ、ッ、ト、です!!!」
拓也の名前間違えに憤慨するセシリア、彼女の怒りを他所に張り詰めていたクラスの空気はいつの間にかゆるりと弛緩していた。
「あはは、拓也さん面白いなぁ」
一夏の笑顔に吊られてか自然とクラスの雰囲気も明るくなっていた、その雰囲気に取り残された格好のセシリアは一人ワナワナとガタイを震わせる。セシリアはその矛先を一夏から拓也に向けようとした所で次の授業を報せるチャイムが鳴った。
「あ……後で覚えてらっしゃい!」
なろう小説の序盤に出てくるような三下丸出しの捨て台詞を吐いてセシリアは自分の席に戻っていった。間もなくして千冬と真耶が教室に入ると、先程までより些かクラスの雰囲気が明るくなっている事に少し顔を綻ばせた。
「クラス代表を決めたいと思う」
拓也と一夏が同級生たちと打ち解けた矢先、千冬が唐突にそんな話を話し始めた。千冬がかくかくしかじかと話すが要はクラスの雑用係である。
「自薦他薦は問わない、今週中には決めなくてはならないから…」
「はい!織斑くんが良いと思います!」
命知らずにも千冬の話を遮り元気よく挙手する生徒。え、俺?といった顔で一夏はキョロキョロと辺りを見渡した。拓也は微笑みを携えながらそんな一夏の初々しい反応を見ていた。拓也のその余裕は自分を推す人間はまず居ないだろうという気の緩みから生じたものだった。
「織斑くんに1票!」
「私は拓也さんが良いと思う!」
「わたしも!」
「たった2人の男子だもんねー担がないと」
自分には余り関係がないと思っていた拓也は自分の名前が出た瞬間にサングラスの奥の瞳を見開いた。そして以外にも接戦だ、人気投票じみてきたクラス代表決めに待ったをかけたのはあのセシリアだった。
「ちょっ!ちょっとお待ちになって!」
更にかくかくしかじか。代表候補生たる私がクラス代表をやるべきだとか文化的にも後進的だの極東の猿どもがなど溜まっていた鬱憤もあったのかグチグチとヒステリックにセシリアは叫ぶ。その物言いが頭にきた一夏はセシリアに対して異議を唱えようと立ち上がろうとした。
しかし、それは阻まれる事となる。
「オイにゃんにゃんにゃん!!」
セシリアの言動に憤慨していたのは一夏だけではなかった、心優しきサーフ系ボディビルダー拓也は義憤にその身を焦がす。
「なんですこの北京原人が!!」
その言葉に一夏の中に出火するタイミングを一度は失った怒りの火が再度燃え上がる。
こいつ、今なんて言った?北京原人?拓也さんを北京原人だと?あんな暖かな優しさを持った人を北京原人だと?ふざけるな、ふざけんな馬鹿女が!そのクソみてぇな髪型引きちぎってやろうか!?」
最後の辺りからはもう言葉に出てしまっていた。
「なんですの………!なんなんですの次から次へと男風情が生意気な!」
「取り消せよ…!今の言葉…!」
売り言葉に買い言葉、ヒートアップしていく二人を千冬が宥める。
「そこまでにしておけお前たち!では今週の金曜日、織斑、オルコット、そして拓也の三名によるクラス代表決定戦を行う、それで異論はないな?」
かくして拓也は入学早々、騒動に巻き込まれる事になるのだった。
ちょっと強引だけどここで区切ります、拓也は一体どうなってしまうのか…
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ISで狂ったあと
ジャニ系イケメン一夏と即惚れ系チョロイン美少女セシリアとそして我らが性…筋肉玩具拓也はクラス代表の座を賭けて争う事に。三つ巴の戦いの火蓋は静かに切って落とされた。
話題性充分のこの戦いは年頃の少女たちの格好のネタとなりその日のうちに全学年の生徒の耳に入る事となった。
「うーん…」
翌日、学園から宛てがわれた寮の自室にて一夏はゆっくり欠伸をしながらベッドから起きた。寝ぼけまなこを擦りながら首筋を這うように垂れる寝汗がセクシー…エロいっ。
「おはよーございまーす…拓也さん…って、あれ?」
一夏の寝ていたベッドの左隣のベッドには既に拓也の姿はなかった。同居人の不在に一夏は思わず周囲を見渡す、まさか失踪か。それとも過激な女性至上主義者による誘拐か。
「あーっ!おぅううっす!おーっ!うーっす!」
突如部屋に響いた激エロの悶え声に驚く一夏。声のする方へ、ベッドから起きて寝室からリビングに脚を運ぶとそこには朝から競パン姿で筋トレに励む拓也が居た。
「拓也さん!起きてたんですか」
一夏を起こしてしまったかという申し訳なさと汗だくの裸をみられた恥ずかしさからか舌をペロりと出して照れる拓也、かわいい。そんな朝からチャーミングな拓也に思わず笑みを零す一夏。
ダンベルやバーベル、その他素人には名前もよく分からない筋トレマシンの数々がリビングを埋め尽くす光景は知らない人が見たらもはやちょっとしたトレーニングジムと誤解するだろう。これらの器具の数々は拓也が昨晩の内に寮へ持ち込んだ私物だった。
(拓也さん…かっこいい……!)
誰よりも早く起き、黙々と鍛錬を続ける拓也に惚れ惚れとする一夏。拓也の肉体は、人体の極地と言える程に鍛え上げられていた。
鋼の様に逞しい上腕二頭筋。厳しくも優しさを内包した、母性すら感じさせる大胸筋。その上に鎮座する、念入りに研がれた刃を思わせるエッジの効いた鋭い乳首。あらゆる打撃を跳ね返すであろう巌の如く隆起した腹筋。
シュワちゃんのような、バリバリにパンプアップした肉体美は同性ならば誰もが憧れるだろう。それが年頃の男子ならば尚更だ。
もはや一夏が拓也に投げかける視線は幼い子供がテレビに映る仮〇ライダーやウル〇ラマンを見るような、羨望の眼差しだった。吊り橋効果って怖いね。
「拓也さん一緒に学食行きませんか!」
一夏は胸の高鳴りを抑えつつ、拓也を朝食に誘う。このまま拓也が仕上がっていく様をずっと眺めているのも悪くはないが、こんなかっこいい男と一緒に飯が食えると思うと一夏は思わず頬を染めた。まるで恋する乙女のような一夏、かわいい。
そんな一夏の気持ちを知ってか知らずか、拓也は快く一夏の誘いを快諾する。シャワーを浴びても良いがその間一夏を待たせておくのも悪いと拓也は汗に濡れた、仕上がったガタイをいつものレザーファッションに包み一夏を連れて部屋を出た。
その後ろを健気について行く一夏、羨望の混じったその目はまるで親にくっついて歩く仔犬のようだった。
「ねぇ、あれ…」
「あれが今年入学したISを使える男子二人だよね」
「うん、織斑先生の弟と漫画家で小説家で作曲家でサーファーでボディービルダーの拓也さんだ」
拓也と一夏が食堂に向かうとやはりというか、生徒たちは一斉に二人へと視線を遠巻きに浴びせる。初日は1学年だけだったが、朝の食堂という全学年が顔を揃える場所に現れた二人はここでも注目の的だった。 二人が食堂の自動食券販売機の前に脚を運ぶと二人を避けるかの様に人混みが左右に別れた。
河を割ってみせたモーゼの奇跡を彷彿とさせる光景に思わず苦笑いする一夏と、その割れた人混みの真ん中を泰然と歩く拓也。大人の余裕を感じさせる拓也のその態度に一夏は更に拓也への尊敬を更に深めた。
それぞれ食券を食堂のおばちゃんに渡すと二人は適当な場所に座り、料理を待つ。待つ間も拓也の軽快な話術で一夏は退屈することがない。まるで年の離れた兄弟みたいだなと少し離れた所で観察するように遠目でみている生徒たちは思った。
「あー!おりむーとたっくんだー!」
そんな二人におじけること無く近づく三人組。一夏たちのクラスメイト達だった。突然の来訪を二人は邪険に扱うことなく、なし崩しに5人で食事をとることに。最初は拓也の異様な風体にやや引いていた彼女たちも拓也の人なりを知ることで警戒心は紐解かれむしろ積極的に交流をしていた。
仕上がったエロ筋肉がそうさせるのか、自然と拓也は人々の輪の中心になっていく。そうなってしまう星のもとに産まれた男なのだろう、拓也という男は。
「えー…授業を始めようと思うが…突然だが織斑、そして拓也。お前たち二人には専用機が支給されることになった」
朝食を済ませ朝のホームルームの終わり際の事だった。便乗する事しか能のない主体性皆無の空手部の先輩のような唐突さで千冬は二人の専用機受領の話をした。
「うそ!?織斑くんと拓也さん専用機貰えるんだ!」
「いいなぁ…」
クラス中の羨望の眼差しを向けられる二人。専用機とはその名の通り、特定の人物が乗ることを前提に開発されるオートクチュール。それらの受領は全ISパイロットにとって一つの目標である。勿論それを手にすることが出来るのは極一部の限られた者たち、例えば国家代表やその候補生といった、替えのきかない特別な存在にのみ与えられる。
ISを動かせる男という世界に二人しかいない存在にそれらがもたらされるのは必然と言えた。
「フンッ、これで一応は対等というわけですわね!」
セシリアが美しいブロンドの髪を優雅にかき上げながら、一夏と拓也に絡んでくる。一夏は相変わらずクソみてぇな髪型して何気取ってんだよみたいな表情を隠そうともしない。現時点での一夏がセシリアへ抱く感情はあまりポジティブなものではなかった。それもそうである、だってセシリアは一夏のヒーローである拓也を北京原人と罵ったのだ。面白い訳がない。
「吠え面かくんじゃねーぞこの野郎、オレが勝ったら拓也さんを侮辱した事、謝ってもらうからな!」
「威勢の良い事、ではこうしましょう。貴方がたのどちらかがわたくしに勝てたら、其方の方の言う通りに謝罪いたしましょう…ただし、わたくしが貴方がたに勝利した場合は…」
「な、なんだよ!」
「貴方がたにはわたくしの奴隷になってもらいますわ!!」
声高らかに宣言するセシリア。絶句する一夏と、奴隷というワードに少しワクワクしている拓也。彼は重篤なMだった。セシリアが言い放った『奴隷』という単語が拓也のガタイに流れる血潮を熱くさせる。
年若くも流石は貴族。言葉だけで歴戦の筋肉玩具たる拓也を昂らせるとは。この少女、やるな。と拓也は勝手にセシリアへの評価を高めた。
「ざけんじゃねェ!」
そんな拓也のセシリアに対する評価の向上なぞ露知らずの一夏はセシリアに掴みかからんばかりの勢いだ。
「ぜってェおめェの奴隷になんてなってやんねェ…!」
元々一夏は、人一倍正義感の強い少年だ。仮にこの場で彼の四肢を拘束しても彼ならばきっと抵抗心溢れる眼光でセシリアを射抜くだろう。なにより一夏は怒っていた。自分はもとより、拓也を奴隷にするという発言にだ。
「ふん!黄色い猿が!私が貴方を奴隷にしたら、雨の中手足を縛って鞭で私の気の済むまで叩いてさしあげますわ!」
奴隷化した後の具体的なプレイ内容まで提示され拓也は更に胸の高鳴りを感じた。自然と口角がゆっくりと上がり、笑みを作る。
「な、なんですの…?」
「拓也さん…!」
不敵な笑みを浮かべ(たように見える)る拓也にセシリアは訝しみ、一夏はオトナの余裕を見せつけた(ように見えた)。
かくして時は過ぎ、決闘当日を迎えるのであった。
リハビリも兼ねて1145242929810931割完成していた文を載せました。そして本当に遅くなって申し訳ありません!この作品遅延の責任は冨岡義勇が腹を斬ってお詫び致します!
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