アイドルマスターシンデレラガールズ 月明かりに照らされし姫々 (茄子林檎柘榴)
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第1話 はじまり

デレステのSSです。


オタク界隈には変身ヒーローという概念がある。

何かしらのアイテムを使って変身、特別な力で”悪”を討ち滅ぼす。

戦隊ヒーロー、改造人間、そしてアイドルの衣装のようなものに身を包む魔法少女。

 

四月も半ば、冬の肌を刺すような寒さも引いてきた頃。

赤城みりあはアイドルを夢見て事務所に所属し日々シンデレラのような綺麗で甘美なアイドルとしてステージに立つことを目標に日課のトレーニングに興じていた。

休日の朝は肉体に過剰な負担をかけない程度のランニングをこなしていた、その日の帰り道。

有酸素運動特有の息切れで酸素が頭に行かない、そんな中で、道端に不思議なものを見つける、ピンクのハートの刻印が中央部に刻まれたベルトのバックルのようなもの。

それは白を基調としたデザインで、変身ヒーロー物のアイテムを想起させるものだった。

「誰か小さな子が、落としたのかな。」

落し物ならば、交番へ届けるのが道理だろう。みりあは優しい少女で困っている人がいるなら放っておけないというタチの人間なので、そのままにしておくという選択肢は無かった。

みりあはそれを手に取りジャージのポケットに押し込む、小ぶりなサイズなので思いの外余裕があった。

ここから交番までは凡そ2km通学路と同じくらいの距離だ、と大まかな距離を概算し家とは正反対の方向へ駆け出す。

 

みりあの頭上には蜘蛛のようなフィルムをした、黒い何かが四肢を躍動させている。

その何かは紅い瞳の中の縦長の瞳孔でかけていくみりあの後ろ姿をなぞっている。

 

一通りの多い住宅街を走っていては人が障害となるのでみりあは一通りの少ない田舎周辺をチョイスしていた、早朝なのも相まって人影はあまり見当たらない。

しばらくして、みりあは後ろポケットで振動するそれに気が付く。

「もしかして、携帯電話の類いなのかなぁ」

バックルのような何かを手に取り弄ってみる、しかし振動の収まることはない、ボタンのようなものはなく、玩具に共通して存在するオンオフの機能もないのだろうか。

ハートの装飾以外にはテレフォンカード一枚入るぐらいの隙間といったものくらいしかこれといった特徴は見当たらない。

しばらく振動を止めるに検討したがまるで効果はなし。

「もしかしたら、壊れてるのかも」

交番へと運んでいた足が少し早くなる。

 

 

 

「きゃっ」

刹那、みりあの眼前に巨大な蜘蛛が現れる。

蜘蛛は紅い瞳をみりあの手に握られたそれに集中し、黒い四肢を躍動させている。

みりあは元来より虫や動物を怖がる人間ではないが、その蜘蛛は明らかに異質だ、体長は2mを優に超え、明らかにこちらに敵意を向けているのだ。

みりあは動くに動けずその場に固まってしまう。

未知への恐怖から顔は顔面蒼白、という具合で真っ青だ。

蜘蛛の「ウジュル…」という鳴き声を合図にしたように、みりあは先来た方向へ駆け出す。

そして蜘蛛は獣の慟哭のような低い唸り声を上げみりあを追うのだった。



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第2話 変身

みりあは逃げた、2mを優に超す蜘蛛など普通ではない、着ぐるみ、妖怪、お化けその何れかでも形容できない異形。それにあの蜘蛛の紅い瞳は明らかにみりあに敵意を向けていた。

「ハッ…はぁはぁ」

もう体が言うことを聞かなくなるまで走って角を見つけては曲がってを繰り返してどれくらい経過しただろうか、これ以上走ったら死ぬとまで思われた。

「流石に、撒けたかな?」

しかしそれは希望的観測に過ぎなかった。

刹那、歪な咆哮とともに上から蜘蛛がみりあ目掛けて飛び降りてくる。脚が頬を削る、薄ら傷の付けられた頬には濁った赤黒い血が伝う。

「だっ、だ…か」

恐怖で矮小した風にかき消されそうな弱々しい声は満足に言葉として出すことすらまたならない。殺される、そう思った瞬間。

 

手に握られていたバックルのハートが光り出す、それはおもちゃのような安っぽい光ではなく、本物の、例えるならば暗闇の中凛として輝く月のような光。

その不思議な光景に魅せられたみりあは蜘蛛を忘れほとんど動かされるみたいにしてバックルを中腹部にあてがう。

 

視界が”白”に染まる。眩しいのだ。瞼を閉じてもしっかりと発光しているのが分かるくらいに、それは明るい。

 

「なに…これ」

瞼をゆっくり開け光の引いたのを確認したみりあは自分の姿に驚愕する。

野暮なジャージはアイドルのような衣装に変わり、驚きから強く握られた手には魔法少女みたいな綺麗なステッキが握られていた。

蜘蛛は光に目をくらましたのか、それとも何か別の忌々しい理由があるのか。変身したみりあを凄まじい形相で睨みつけている。蜘蛛はみりあの立ち上がるのを合図にしたように飛びかからんとする。

みりあはその蜘蛛に向けて反射的に手に握られたステッキを向ける。ステッキの先端が光り出す。

杖はパァーという華やげな音を上げると、蜘蛛の体を焼いた。

「まさか、本当…に」

みりあは慟哭を上げる蜘蛛から後退しながら言葉をこぼす。そう可愛らしいな衣装に身を包み杖で化け物を成敗するなんてまさしく

 

魔法少女

 

だと。

 

蜘蛛は歪な慟哭を上げると完全に動きを停止してしまった。どうやら死んだみたいだ。

「あれ、これどうやって変身解くんだろ〜」

関心は眼前の脅威から自分に向いた。どうやら下着から何から服装の変わっている様子。

これから、どうしよう。このバックルは交番に届ければいいのだろうか。等々次の問題へ思考を走らせている、と。

 

刹那、活動を停止したはずの蜘蛛がみりあに覆い被さる形で倒れ込んでこようとして、いた。

 

 

思わず目を瞑ってしまう、いきなりすぎる状況についていけなかったのだ。

パァン。と、乾いた音が響く。恐る恐る目を開ける、どうやら自分は生きているみたいだ。

眼前には体を崩し塵状になりかけている蜘蛛と、煙の上がった銃口をみりあに向ける少女が一人。

「あなたは私の敵ですか?それとも味方ですか?」

蜘蛛を殺したであろう少女ら実に端的に、あっさりと、そう言った。



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