UMPでいず! (なぁのいも)
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お昼寝スパイラル

 とある基地にはUMP45、UMP9、UMP40の三人と誓約を交わした指揮官がいる。

 

 それぞれの持つ気難しさ、抱えているものを受け入れ、認めあい、心を通わせた指揮官が。

 

 それ故、時には指揮官では無く、UMPシリーズの戦術人形の特徴を候補生に教育する講師ともなっているのだが、それはまた別のお話。

 

 この物語は、指揮官に深く心を許した三人の戦術人形と、三人と心を通わせ続けている指揮官の日常の一コマを切り抜いた物語である。

 

 

 

「ふわぁ~」

 

 口元に手を当てて大きくあくびをする指揮官。口元に当てた手を目元に持ってきてぼやけた視界を取り戻すように目を擦る。

 

 半分閉じた眼からは生気を感じづらい。

 

 それもそのはず、指揮官は人形指揮だけで無く、基地の兵站の管理、申請の承認、会議の運営、と言った指揮官に任されている業務だけで無く、最近は候補生に戦術人形への接し方を教授する講師として指揮官候補育成施設に出向いている。

 

 元々、講師の真似事も一回切りの筈であったのだが、どういうわけか候補生の話題を呼び、もう一度と呼ばれ、これで最後かと思いきやもう一度呼ばれ、それを繰り返して一定の周期で育成施設で講座を開くことになってしまったのだ。

 

 ともかく、元々忙しかった指揮官としての仕事以外に講師としてやるべき事が増え、指揮官としての仕事の合間に講師としての仕事をやることになったのだ。

 

 一度大きく腕を伸ばし、パキパキと関節部から小気味いい音を出す。ズキリと関節部から感じる痛みが、指揮官の意識を現実世界に繋ぎ止める。

 

「よし……」

 

 もう一回だけ目を擦って再びパソコンと向き合う指揮官。

 

 そんな彼を面白くなさそうに見つめながら、自分に任された書類仕事を片手間でやる副官が一人。

 

「んん〜〜」

 

 彼の副官を務めているのはUMP40。

 

 副官は45、9、40のローテーションであり、本日はたまたま40であったのだ。

 

彼女は考えていた。どうしたら指揮官を休ませることが出来るかと。

 

仕事が溜まって早く消化したいのはわかるが、先程から目を擦ったり体を伸ばしたりと眠気を誤魔化す様な動作が増えてきている。それに、指揮官は先程から休憩を全然とっていないのだ。40には適度に休憩を挟ませるのに。

 

40は書類を机の上に置いて考えた。顎に手を置いて小さく唸りながら。

 

「う〜ん……」

 

隣に座っていた40が唸るのが聞こえたので、今にも閉じそうな瞼のまま彼女の方を向いてみる指揮官。

 

「どうしたー?」

 

気怠そうに語尾を伸ばしながら彼女に聞くと同時に、

 

「よし!」

 

40は突如として立ち上がった。

 

「うん?」

 

何がよしなのだろうか?40の考えが読めず、小さく首を傾げる指揮官。そんなに指揮官に40は手首を下から上に動かして立つようにジェスチャーを送る。

 

40の思惑が相変わらず読めないまま、指揮官は促されるままに立ち上がる。

 

40はうんうんと満足したように頷きながら、指揮官の手を掴んで、

 

「指揮官!」

 

「うん?」

 

「お昼寝しよう!」

 

「……うん!?」

 

40は指揮官の手を引いて駆け出す。指揮官が言葉の意味にはっきりと気付いてしまう前に。40の思惑通り、指揮官が意味に気づいた頃には指揮官の足も動き出し簡単に止まることを許してくれなくなった。

 

「よ、40!?」

 

「ふっふ〜ん♪」

 

困惑が混じった指揮官の呼び声には40は知らないふりをして、二人は執務室から駆け出た。

 

 

 

 

 

40に強引に手を引かれて、二人が辿り着いた場所は基地にあるガーデンスペース。草花を育てることに興味がある人間や人形が思い思いに植物を育てている場所。

 

本当に配置などを気にせずに思い思いに植物を植えているので、赤い花の隣に青い花が植えてあると思えば、そのまた隣には黄色い花と、整頓された美しさは無いが、その自由さにはどこか懐かしさを呼び起こされる。

 

そんなガーデンスペースに来たのは、二人で花を見るというような風情のあることをしに来たわけではない。

 

「よっと」

 

ガーデンスペースの中にある芝生に寝転ぶ40。寝転びながら伸びをして、青空の向こうにある太陽の光を全身に浴びる。いつもは気にしている日焼けのことなど、今は気にして無いように振舞っている。

 

「ほらほら!指揮官も!」

「あ、あぁ……」

 

 

体に浴びた太陽光を反射するような明るい笑みを浮かべる40に誘われて、指揮官も芝生に腰を下ろして寝転ぶ。

 

「あっ……」

 

後頭部が芝生に着いた瞬間、指揮官は思わずホッとしたように声を漏らす。太陽の光に温められた芝生が指揮官の髪にその熱を伝えて、彼に心地よさをもたらしたのだ。

 

40は指揮官の顔を覗き込む。彼女の意図が分からず、懐疑に眉を寄せていた指揮官のそれが解れたのをみて、彼女も口角を緩める。

 

「指揮官、仕事が忙しいのはあたいもよくわかるけど、そう言う時こそ、こうやって立ち止まって余裕を取り戻すのも大事だって思うなー」

 

40がここに連れてきた意図は本当にそう言うことだろう。眠気を誤魔化して余裕を無くしたまま仕事を続けるよりも、ここで一度寝て眠気を誤魔化したりしなくていいような余裕を持てと。

 

「ははつ、まさか40からそういうことを言われるのはな」

 

普段はお調子者な一面が目立つ40から、余裕に関しての言葉を言われるとは思わなかった指揮官は思わず笑ってしまった。

 

「むぅ、あたいだって色々と考えてるんだよ?」

 

「ははっ、そうだよな……。あぁその通りだよなぁ……」

 

頬を膨らまして反論する40に指揮官は誤魔化すよに頬を掻く。そう、彼女は天真爛漫な一面が目立つが、45と肩を並べるくらいの策士な一面だって持ち合わせてる。そっちも、愛すべき彼女の一面なのだから忘れるはずが無い。

 

指揮官の言葉尻が弱々しくなる。晴天に輝く太陽と芝生の温かさに体をじんわりと温められてきた証拠だ。

 

指揮官重くなる瞼をまだ開いては横目で40を伺う。まるで自分はこのまま寝てしまってもいいのかと、彼女に許可を伺うように。

 

そんな彼の顔を覗き込むようにして40は微笑むと、彼の頭に手を置いて優しく撫ぜる。

 

「45みたいに本当に自分を甘やかすの下手なんだから。いいんだよ、寝ちゃって」

 

40からの許可を受けて、やっと眠ろうとする自分を受け入れることにした指揮官。

 

「ありがとう……」

 

「おやすみ、指揮官」

 

40の手が指揮官の視界をふんわりと覆い隠す。指揮官は40がくれた暖かな闇に包まれて、自分の体を黒い世界に委ねた。

 

 

 

 

その日の後方支援が終わり、休憩をとる余裕ができたUMP9は基地内のガーデンスペースへと向かっていた。

 

理由は単純。彼女は花が好きだから。汚染された大地では、花が咲ける場所ですら限られている。基地に咲いている草花は管理された環境のもと咲いてるものだが、色とりどりに花を咲かせ、葉をいっぱいに伸ばして太陽光を浴びる姿を見れば、そんなことは些細なことだ。

 

厳しい環境の中でも、精一杯咲く花が9は好きなのだ。

 

仕事の疲れを花々を見て癒されようとしていた9。

 

「〜♪」

 

咲き誇る花々に癒されながらガーデンの中を歩いていると、芝生スペースに寝っ転がる赤い制服の人物と蒼色のジャケットをまとった人物の姿が。

 

 この二つの組み合わせは9には心当たりがある。様子をうかがうように足音を殺しながら寝っ転がる人物に近づく9。

 

「すー……」

 

「くぅ……」

 

 案の定と言うべきか、芝生の上で寝ていたのは指揮官とUMP40。

 

 仰向けに寝る指揮官に、寄り添うようにして40が寝ている姿は何とも微笑ましい。

 

 40がここに指揮官を連れ出したことは容易に想像できる。最近の指揮官は忙しくて中々休みを取れてなかったから、見かねた40が無理矢理ここに連れ出して一緒に寝たのだろう。

 

 9は45よりも40と一緒に居た歴は短いが、姉妹故か彼女の行動はわかってしまうものだ。

 

 もっとも、普段は天真爛漫だからか、あるいは隠れた策士なのか、45と9をびっくりさせるような行動を起こすことはあるのだが。

 

 幸せそうに寝る二人。9はそんな二人のことを微笑みながら見守ると、

 

「う~ん♪」

 

 一度伸びをして身体をリラックスさせ空いてる方の指揮官の隣に腰を下ろすと、ゴロンと寝転んだ。

 

「ふふっ、40姉だけ指揮官と一緒にお昼寝するなんてズルイもんね♪」

 

 それは決して嫉妬から出た言葉じゃ無い。9も40と同じように指揮官と誓約を結んだ関係だ。

 

 これは共有。指揮官と一緒に暖かい日差しと温まった芝生の上で寝れるという幸せの共有。

 

 9は力が完全に抜けて重みのある指揮官の腕を抱きしめる。指も絡めてつないで、寝ている指揮官に自分が来たことを意識させるように。

 

 偶然かあるいは9が来たことを察知してくれたのか、指揮官の指先が9の手の甲に触れるように動く。

 

 それだけで、胸の内に火が灯ったような暖かさを彼女は感じ取る。

 

 その喜びを伝えるように、指揮官に向かって笑みを浮かべる。

 

「おやすみ指揮官っ!」

 

 これから眠るとは思えないくらい様な溌剌とした声を出してから、9も二人の眠りの世界へと混じるようにスリープモードへと移行した。

 

 

 

 

 哨戒任務が終わり、司令室へと向かったUMP45であったが、司令室に指揮官と副官の40の姿が無い。

 

 また40が突拍子も無いことをしたのかと思い監視カメラの記録を盗み見てみると予想通り、40が指揮官の手を引いてガーデンスペースに駆け込む姿が映っていた。

 

「はぁ……」

 

 相変わらず元気いっぱいな彼女の振る舞いに疲れたように――しかし、嬉しそうに頬を持ち上げながらガーデンスペースの芝生へと急行すると、そこには指揮官と40だけで無く、9も二人と共に寝入っていた。

 

「はぁ……」

 

 そんな三人の様子を見てもう一度ため息をつく45。仕事をさぼって何をしているのか、疲れたら自分も9も手伝ってあげるのに。辛いときは支え合う、それが今の私達では無いか。色々と言いたいことは確かにある。

 

 が、顔を上げた45の顔は確かに笑みを湛えていた。

 

「しょうが無いんだから……」

 

 疲れた身体を押してでも仕事をする指揮官、自由な40、すぐに乗っかる9。

 

 それぞれに向けた言葉ではあるが自分へもかかっている言葉でもある。

 

 その理由は、

 

「うん……」

 

 彼女も、二人に倣うようにして指揮官と共に寝ようとしているからだ。

 

 自分へとかかる意味は、三人が揃うと非情に徹しきれなくなってしまった今の自分へ、だ。

 

 姉妹と指揮官が作り出す、この幸せな空間には、自分も身を寄せたくなってしまう。頭脳部では、三人を起こして仕事へと戻すべきだと言う結論を出力しているのはよくわかっている。

 

 でも、彼女のメンタルはこう言っているのだ。自分も混ざってしまえと。

 

 だから、45は合理的な判断では無く、筋の通らないメンタルの判断に従い、指揮官の胸元に耳を寄せるようにして重なった。

 

 彼女の聴覚センサにはトクントクンという指揮官の落ち着いた心音を解析する。

 

 人間は人の心音を聞くとリラックスが出来るらしい。戦術人形が人を模した存在であるならば、指揮官の心音を聞くと45のメンタルが安定するのは仕様通りの動作と言えるだろう。

 

「うふふっ」

 

 彼の心音を聞きながら寝られるのは貴重だ。起きてる指揮官に乗っかって寝てもいいかと聞くと、寝苦しいからと断られてしまう。それ故に、四人で寝るときは指揮官の両側スペースの取り合いとなるのだが、彼が寝ている今なら彼の承諾も気にする必要も無いし、二人が眠っているのなら、この特別なスペースの取り合いにもならない。

 

 ここは特等席なのだ。特別な状況のみに解放される、指揮官の心音という上質な子守唄を聴きながら眠れる特等席。

 

「すー……」

 

「くぅ……」

 

「すぅ……」

 

 トクンットクンッ。

 

 三人の寝息と指揮官の心音。特等席でのみ堪能できるカルテットが、45の意識をスリープモードへと移行させる。

 

「……ありがとう、40、9、しきか~ん」

 

 舌足らずで甘えるような声で、姉妹と指揮官と過ごせることを三人に感謝して、45も眠りの世界への招待状を受け取るのであった。

 

 

 

 



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