気が付けばテロ牧師 (変人28號)
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気が付けばテロ牧師

書くに当たりニコ兄とグレイヴと無双鉄神インペライザーとで迷ったけどニコ兄にしました。
パニッシャーはロマン。
ケルベロスもロマン。
デス・ホーラーもロマン。
インペライザーもロマン。

全部ロマン。(確信)


 某地区。鉄血によって占領された地方都市。

 人気など制圧された頃より無く、機械が跋扈する無人のゴーストタウン。

 

 その街の一画、破壊痕が目立ちながらも辛うじて原形を保った酒場の前を大多数の鉄血人形が戦列を展開する。袋の鼠とでも言うかのように過剰に銃口が列をな成し、部隊を統率する上級人形『代理人』は酒場の中へと呼びかける。

 

「出て来なさい。中にいるのは分かっています。()()()()()熱感知の一発で発見可能。蜂の巣になりたくなければ投降なさい」

 

 酒場より返答はない。

 

「5秒の猶予を与えましょう。それ以上の沈黙は投降の拒否とみなし、その建物ごと吹き飛ばします」

 

 五つのカウントが空間に木霊する。しかし酒場からは相も変わらず静寂が突き返されるのみ。

 

「……0。警告はしました。やれ」

 

 その二文字の命令より多くは語られず、また受理した人形たちも機械的に実行する。

 破壊の荒波が酒場に殺到する。辛うじて保っていた原型はその波に呑み込まれて遂に消え去る。

 時間にして1分。銃弾の雨とロケット弾の暴風による嵐は60秒間続き、酒場だった場所は一瞬にして更地と化した。

 

「……!」

 

 ただ一部分を除いて。

 

「……本当に人間ですか?」

 

 高度なAIを搭載した上級人形である己の演算処理を持ってしても、その思考回路には理解不能の四文字が叩き出される。

 生きている筈がないのだ。

 あれほどの攻撃の波にさらされて、戦術人形……ましてや人間など。

 

 しかし、事実はそうではなかった。

 結果はそうではなかった。

 

 酒場の、カウンター席があった場所。

 一人の客がショットグラス片手に座っていた。

 

 カウンターも吹き飛び、席は銃弾で粉々、全ての酒瓶が割れて地面にぶち撒けられ最早何と何の酒が混ざり合ってるかも分からない。人がいたならば同じように肉片が混ざり合い、ペーストのようになっていただろう。

 しかしその()だけは五体満足で無事だった。()()()の背にいた男だけは。

 男は黒い衣装に身を包み、その表情はサングラスで遮られて読めない。

 十字架はその身を白布で覆い、黒ベルトで梱包され、穴だらけとなった白布の奥から銀のボディが伺える。

 十字架中央部分より見え隠れする意匠。元より開けられた穴は髑髏のようで、隔てた先にいる男がこちらを見据えている気がした。

 

「その十字架……一体何なのです? 明らかに既存の、鉄血の技術すら超越している……!」

 

 男はショットグラスを飲み干しどこかへ放り捨てると十字架の拘束を解く。

 

「あなたは何者ですか?」

 

 鈍色に輝く鋼鉄のボディが白布の下より露わになる。瞬間、装甲が展開し砲身が露出する。

 

 砲口は人形共へと向けられた。

 

「答えなさい処刑人(パニッシャー)!」

 

「ただの牧師や」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付いたらテロ牧師やった。

 いやタイトル回収とかじゃなくて目が覚めたらTRIGUNのテロ牧師ことニコラス・D・ウルフウッドになっとったわ。しかもパニッシャーまで完備してるご親切仕様。

 

 Why? なぜ? なんでこないなことになっとるん? 

 しかも適当にそこら辺ほっつき歩いてたらなんかよう分からん機械に襲われるしぃ? なんか世界荒廃してますしぃ? なんかめっちゃキモいモンスターとかもいますしぃ? 

 なんなんこれ? これなんなん? なにがしたいんやこれ! なんでこんないきなりハードな世界に放り込まれとんのワイ? なんかもう腹立つわ! 

 

 と、初日から数日は怒りのままパニッシャーぶん回してガラクタどもをぶっ壊しまくってたワイ。

 そしてふと「このままではアカン……腹が減るだけや」と立ち戻り、冷静になってこの状況を鑑み、この世界の事を独自調査するに至ったのだった。

 当てもなくフラフラと歩き回って金と飯に困りながらもなんとか食いつなぎ、襲ってくるガラクタ共はニコ兄の超スペックな肉体とパニッシャーで蹴散らす孤独な珍道中。

 そしてやっと辿り着いた人類生活圏では原作通り巡回牧師(真似事やけど)としてを周り、この世界について情報を集めて回った。

 

 そして手に入れた情報を分かりやすくまとめると、

 

 なんか凄いヤバいモン見つける→それを巡って争う(愚かポイント1)→なんかヤバい事件起きる→あのキモいモンスターが大量発生→第三次大戦だ(愚かポイント2)→国家衰退(せやろなぁ)→人型の機械「人形」が兵器として普及する(あ、ふーん……(察し))→機械の反乱(知 っ て た )→反乱を起こし全人類抹殺を行う人形「鉄血」と人類の熾烈な戦争(ターミネーターやんけ)←今ココ

 

 ざっくりするとこんな感じらしい。はえー乱世乱世。なんちゅう世界に来てしもうたんやワイ……。こっからどないしよ……なんか元の世界の事もよう思い出せへんし名前も思い出せん。つかそもそも帰れるかもわからん。

 

 ………………。

 

 ま、ナントカなるやろ。(思考放棄)

 適当になんかやってっればいつか帰れるやろ。多分。

 わはっははーパニッシャーぶっぱなすのたーのしいー! 

 そう楽観的に考えてその時のワイは勝手にブラブラしだした。

 

 その時のワイを今はめっさこのパニッシャーでフルスイングしたい。

 勝手に気ままにブラブラして過ごしていたらなんか最近鉄血に執拗に狙われ始めよった。

 そう。自由好き勝手に、時には戦場を渡り歩き、そして偶々鉄血に出くわせばパニッシャーと超スペックの肉体で蹴散らし「俺TUEEE」「消化試合で草」「ヌルゲーやわマジでwww」と調子に乗ってたら……やっぱ人間、一時のテンションに身を任せる身を亡ぼすんだな、と。ヤムチャになるんだな、て。銀さんは正しかったんや……。

 そう自覚し、自重し始めた時は既にお寿司(あー寿司食いてー)。案の定鉄血にマークされ、今日まで狙われる羽目になった。

 なんという自業自得。身から出た錆とは正にこの事。

 これからは身の振り方も考えよう、そう思った。すんごい今更。

 やっぱ決まり手はあれかなぁ……なんか鉄血人形に首絞められてる女の子を颯爽と助けた時なんかなぁ……。見るからに鉄血の上級っぽくてボロボロだったから「グヘヘヘ、手負いなら好都合やでぇ。捕食者は標的を仕留めようとした時が一番隙だらけなんやで! アチョー!」と瞬時に後ろからパニッシャーをフルスイングして頭をホームランしたのが原因なんかなぁ……。

 そのあと適当に鉄血蹴散らしてそそくさと逃げたけど……やっぱアカンかったか……。いやそもそも上級とか抜かしてた人形をぶち壊しまくってたのが原因かもしれん。

 ……うん、止めよう。今更悔やんでもしゃーないしゃーない。

 

 お、酒場発見。やったぜ。

 こういう時は酒を飲んで忘れよう。なんかあちこちぶっ壊れてるけど酒残ってるかなぁ。……お、ラッキー! 結構生きとる。こりゃ当分酒には困らんで。

 よぉし! 当分はここを拠点にしよう! 

 廃屋となった酒場を拠点とする牧師。なんかハードボイルドっぽくてイイ……。(ウットリ)

 テロ牧師はBARにいる、題名はこれで決まりや。(ドヤァ)

 

 おっと、中々強い酒やな。あ、パニッシャーはこっちに立てかけとこ。

 さあじゃんじゃん飲もう! 今夜はワイのおごりや! ワイしかおらんけど! 

 ワッハッハッハッハッハ! 

 

 

 

 

 

 数分後、全て跡形もなく吹き飛んだ。

 

 




この小説もまた気が向いたら続きを書くかもしれません。
具体的には感想とか評価とか感想とか感想とか(露骨ゥ!)

あぁ^~ガングレイヴの新作が待ち遠しいんじゃぁ^~


感想・誤字脱字報告などあれば気軽にどうぞ。

5/24 ちょっと気になったところを色々修正。関西弁マシマシに。


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宣戦布告

誰か似たような感じでガングレイヴの小説書かねーかなぁ?(チラッチラッ


とまあ筆と気分が乗ったので続きです。


 銃撃戦。時代が近代へと移り変革化した主的戦闘手段(メインコンバット)

 軍、警察、非合法組織。ある程度の資金力を持つ集団、あるいは個人が持ち得る近代兵器は例え女子供であろうと容易く人の命を奪え、または自衛・護衛を成し得る。故にこそ細心の注意を払わねばならない現代を象徴する複雑器械。

 その主武装の座は人形が人間の代わりに戦うようになっても変わらない。使用者が人間より人形であることが多くなっただけで、主武装の立ち位置は変化しない。強いて言えば人形とワンセットになった、というところだろう。

 

 機械が器械を扱い、機械を撃つ。知らぬ者が見ればさぞ奇怪に写ることだろう。あるいは合理的であると考えるかもしれない。

 機械である以上人間より誤差は少なく、またデータの積み重ねで学習も早い。高い製造技術は生命体では無理がある過酷な環境に身を置いても問題なく動け、AIの思考回路は人形個体の融通も利かせ、また人形であるならば替えも利く。多少の損傷による性能の低下は人間より軽い。

 消耗という点では人命以上に理想的なのだ。まさに合理的と言えよう。新時代の用兵術の完成だ。

 故に人間は徐々に後ろに下がる。人形では限界のある部分を補い、指揮や補給、整備など後方支援に従事する。

 なぜならそこまでする必要はないから。合理的とは言えないから。

 一定量の血を失えば死に、撃たれれば痛みに悶えて性能の著しい低下を招き、死ねば替えが利かない。

 実に無駄がある。生物故の弊害という他ない。

 故にそれらの配慮を必要としない新技術と需要が確立すればそちらに乗り換えるのが大局的な判断というものだろう。

 

 何故ならば人間には限界があるから。

 戦場において人間より人形の方が適正が高いから。

 機械が人間より上回っているから。

 

 故に、それが一般的であるこの世界では()()()()は例外的であり異質そのものとなる。

 

 人間が機械を圧倒する。

 そんな漫画で見られるような、カタルシスが湧いてきそうな展開。

 一般的見解が、機械的情報処理の演算結果が、当たり前のような現象が、そんな根底にある価値観と常識が覆された時、おそらくは……

 

 

「こうもしつこいと流石にうんざりしてくるでホンマ」

 

「そんな……有り得ない……この上級人形であるわたしが……! 人間に敗れるなんて……!」

 

 

 人も機械も思考を止めるのかもしれない。

 

 

 

 時間は意外にもそう多くはかからなかった。

 

 包囲殲滅は兵法の基本。数世紀前より既に確立された戦術はその時点で洗練され今日まで使われる程だった。それ程までに有効な手段ならば敵も味方も使用し、むしろそれを成すためにまた別の戦いが発生し読み合いと戦術が繰り返されるほどだ。

 であるならば機械である彼女たちが使用するのもまた道理であり必然だろう。

 建物を早期に包囲した鉄血人形たちには戦術的有利(タクティカルアドバンテージ)が発生し、勝利は目前だった。

 

 だが結果は望んだものとはならなかった。

 

 

 初撃は建物を吹き飛ばした。

 だが標的は健在だった。

【傷一つなく佇むその十字架はあまりにも頑丈だった】

 

 二撃目は集中砲火。

 だがそれよりも早く薙ぎ払われた。瓦礫ごと粉砕され、装甲が一瞬にして蜂の巣と化していく。

【並のMGの威力ではない】

 

 三撃目はそのまま制されて不発。

 十字架は反転しロケット弾を数発発射。大規模な爆発を起こしキノコ雲を形成した。

【その武装は複合兵装である十字架の規格(スケール)のどこに収まるというのか】

 

 そこからはまるで残党狩りように残った鉄血兵を処理していく。

【そもそもなぜその規格(スケール)で弾切れを起こさないのか】

 

 初撃以降油断をしていたつもりはなかった。そもそも初の邂逅で頭部を吹き飛ばされて以来兵を動員し、戦闘を仕掛け、情報を集めて対策を練っていた。

 そして集めた情報を統合し計算して導き出した解は『通常の人間よりは手こずるが殺せない相手ではない』というものだった。

 だが結果は御覧の通り。代理人の計算より牧師と名乗る処刑人の実力が上回り、十手にも満たない手で戦況を覆された。人間相手に。

 その事実が鉄血上級人形である代理人のプライドを粉々に砕いた。

 

 一先ず撤退を。

 そう行動しようとしたところで代理人は背後の気配に気づいた。()()()()()()()()()()()()()

 スカート下のサブアームは展開する前に一瞬で破壊され、四肢は十字架に潰され、その美貌に砲口を突きつけられる。

 

 手足を封じられ地に伏せる。

 その姿はこれより処刑される罪人のようでもあった。

 

 正体不明ゆえ便宜上として付けた処刑人(パニッシャー)の名、彼へと送り込んだ尖兵を上級下級問わず全て破壊していくその姿に畏怖の念を込めて名付けたが……成程こうしてみるとピッタリなコードネームだった、と代理人は思考する。

 

「……どうやら私たちはあなたを過小評価していたみたいですわね」

 

 同時に目の前の人物をグリフィンよりも、他の何よりも脅威であると、自分たち鉄血の最大の敵であると認識した。

 

「あなたを最優先事項とします。あなたを排除せねば我々鉄血に未来はない。故に我が鉄血の総力を挙げて全力で排除させてもらいます。そのように彼女に進言します。覚悟なさい」

 

 断罪前の罪人の最後の言葉のように、代理人はそう宣告した。

 

「……そーかい。ま、身から出た錆やし元々売られて買った喧嘩やさかい、こうなったら最後まで付き合うたるわ。とりあえず御山の大将潰せば少しは大人しくなるやろ」

「徹底抗戦すると? 愚かですわね」

「フッかけたんわそっちやろがい」

「フフッ、そうでしたわね。 私の名はエージェント。巷では代理人と呼ばれておりますわ。 最後にお名前を伺っても? ミスター」

 

 その言葉に牧師は数秒の間逡巡すると、

 

「ニコラス・D・ウルフウッドや。覚えんでもええ」

 

 そう名乗った。

 

「そうですか。ではまた会いましょうニコラス・ザ・パニッシャー」

「ああ。一先ず今はサヨナラや」

 

 代理人は皮肉気に微笑んでその名をニコラスへ送り、

 ニコラスはその名を受けて代理人へ別れを告げて、

 

 

「御機嫌よう──」

「Amen」

 

 

 無慈悲に破壊されて、無慈悲に破壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 は~ホンマどないしよ。代理人とかいうやつから完全にロックオンされたわ……

 これってあれやろ? 「テメどこ校だよコノヤロー? うちに手ぇ出したからにゃタダで済むと思ってんじゃねぞコノヤロー!」ってお礼参りに来たらボコボコに返り討ちにされて、「テ、テメェその面ァ覚えたかんな! 全校上げてテメェをぶっ潰してやる! 誰に喧嘩を売ったか思い知らせてやるからな! 明日から安心して表歩けると思うなよ! テメェはもうお終いだ!」って捨て台詞吐いて去っていく……いやいやどこのヤンキー漫画やねん。いやノリノリで喧嘩買ったワイもあれやけど。

 というか他に考えつかんかったからニコ兄の名前名乗っちゃったよ。うーん……まあこの世界で知ってる奴居らんやろうし、別にええか。ゲームの主人公に好きなキャラの名前入れてなりきるようなもんや。ロールプレイやロールプレイ。ゲームと違って死んだら終わりやけど。

 しかし名乗ったからにはそれっぽいことするしかないわな。

 ちゅうわけで漢ニコラス、パニッシャー片手に魔王倒すためこの世界を駆ける! テロ牧師のロマン武器が世界を救うと信じて!! 

 ご愛読ありがとうございました! 

 

 いやまだ始まってすらしてないけど……

 

 あ、やべ!間違ってロケット弾撃っちゃった。

 飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで♪ …………落ちたわ。……あ、なんか吹っ飛んでる。鉄血兵? うわっなんか戦闘始まった!? あ~あ現場めっちゃ混乱してる。

 

 ………………。

 ………………。

 ………………。

 

 

 知~らね。(ダッシュ)

 

 




誰かハカイダーで書いてくれてもええんやで?(チラッチラッ


感想とかが沢山来ればモチベーションが上がって「仕方ねえなあ!そこまで言うなら書いてやるかぁ!」と調子に乗って有頂天でまた書くかもしれない。(露骨なアプローチ)

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廃屋のNot Found〜お悩み相談〜

特に感想は来なかったけど妄想が止まらないので投稿じゃー!
妄想が止まらなくて投稿とか割とあるあるな気がする。

キャラに違和感あったらすいません。


 代理人の襲撃から数日。依然、鉄血と人類の争いは続いたままで見える範囲では情勢にあまり進展はない。自分を最優先とした鉄血は兵力と策を練ってるのか、統率が見られる襲撃は今のところはない。精々そこら辺でうろつく下っ端の鉄血兵に偶に出くわすぐらいや。

 まあいつもの、ってやつやな。……こんな殺伐とした慣れとか冷静に考えて嫌過ぎる……! 

 

 そんなこんなでこれからどうしたものかと今後の方針について考えを巡らしている。

 

「で、一応拘束したけどどうするの45?」

「そうね……」

 

 絶賛簀巻きにされて。

 

「おーい嬢ちゃんたちー? ワイは別に怪しいモンじゃあらへんよー?」

 

 いやあごっつ油断してたわ。久々に上質なベッド発見して早速ダイブしたらここ最近の緊張感からかぐっすり寝てもうた。

 そして起きてみればこの様や。

 

「まったく……ベッドの魔力とは末恐ろしいもんやで……! 良いモンだけに魅力倍増や……!」

「うん、それすっごい分かる。この感触、質感……これは並のベッドじゃない」

「なんや、えらく眠そうな嬢ちゃんやな」

「その通り。私は眠りのスペシャリストG……あ、もうダメ寝る……グゥ」

「……」

 

 ……え、マジで寝たん? 

 この寝落ちの早さ……TRIGUN世界でも通用しそうな某駄眼鏡小学生を彷彿させる……! 

 

「起きろ」

「ぎゃっ!」

 

 と思ったのも束の間、水色ぱっつんロングの嬢ちゃんに早々はたき起こされた。南無。

 あ、ワイ牧師やった。

 

「45姉~他の部屋には誰もいなかったよ~ホントにその人だけみたい」

「そう。ご苦労様」

「だから言うたやろ? 怪しいモンやないって?」

「怪しい者じゃない?」

「せやせや」

「ほんとぉにぃ~?」

「な、なんや……疑うんかいな」

 

 四人のリーダー格っぽい左目に傷がある嬢ちゃんに迫られて思わずのけ反る。

 笑顔が怖いなこの嬢ちゃん……。

 

「こんなどこから鉄血人形が出てくるか分からない場所にたった一人で、しかも銃も持たずにあんな大きくて目立つ物持って私は怪しくないって、無理があると思わなぁい?」

「せ、せやろか? いやーどうなんやろなー? 事実ワイむっちゃ潔白やしぃ? 鉄血に出会わないのもこう日頃の行いがええからかもしれんなぁ? アハハハハ……」

『………………』

 

 アカン、めっちゃ怪しまれとる……。四人の視線が痛いでホンマ。

 ……いや、三人やな。一人だけ目ぇ半開きで寝とるわ。あ、またはたかれた。十字切っとこ……ワイ今簀巻きやん! でけへんわ! 

 なんとかこう上手い感じに逸らせへんやろか……あ、そうや! 

 

「しゃ、しゃーないやろ! これも商売のためなんや!」

「商売?」

「牧師や。さあはよ解放してくれや。聖職者苛めるとバチ当たるでホンマ?」

 

 そう、牧師ならば十字架持ってても違和感なし。そして聖職者やから先入観で清らかで徳の高さを感じるはず。せやから運の良さに説得力が出るわけや。

 実際巡回牧師やってるし嘘は言うてへん。

 ……酒とか煙草とか銃とかぶっ放すけど。……生臭坊主も甚だしいなコレ。

 さあ反応は如何に!? 

 

「いや牧師は商売じゃないでしょ」

「ダイイチそんなカッコの聖職者なんていないわよ」

「牧師に見えなーい」

「眠い。寝る」

 

「主よ 世間は偏見と思い込みに満ちています」

 

 うん、もう打つ手なし。ダメだこりゃ。

 煮るなり焼くなり好きにせーい! 

 

「……はぁ、9 拘束を解いてあげなさい」

「はーい」

「……ええんか?」

「怪しいのは確かだけど悪人ではなさそうだし、そもそも鉄血が人間を見つけて五体満足で生かしておくとも思えないわ。もしかしたら本当に運が良いだけの人間かもしれないわ。ま、それはそれで笑い話だけどね。そうは思わない? 牧師様?」

 

 そう言ってリーダー格の嬢ちゃんは薄ら笑いを浮かべる。皮肉かなんかやろうか? 

 間髪入れずに水色の嬢ちゃんが喋りだす。

 

「でもこの区域を一人で出歩くのは感心しないわね。それこそ死ぬ気?」

「……巡回牧師やからな。居らんとこに回らなあかんねん」

「そう……変なモノね人間って」

「こんなご時世やしな」

 

 真似事とはいえ、やってる以上そういった人間を数多く見る。兼ねてより信心深かったり、何かを失ったりした者。

 祈ることしかできない、それしかやることがなくなった人間……穴の開いた者たち。

 その身に何が降りかかったのかは知る由もないが大方に察せる。

 

「人間、みな強いヤツばかりやあらへん。何かに縋りたい奴は出て来る。 それは人形も同じやないか?」

「っ! 私は完璧よ!」

「……そうかい。悪かったな」

「っ……外の見張りしてくるわ」

 

 そう言って水色の嬢ちゃんは部屋を出て行った。

 

「ごめんなさいね」

「気にせんでええ。悪いのはワイの方や。気に障ったらしいからな」

「あの子、ちょっと神経質なとこあるから」

「みたいやな。 あいつだけやなくて嬢ちゃんたちもみんな腹に一物抱えてるちゃうか?」

「さあ? どうでしょうね……?」

「……」

 

 要領を得ない返答、果たして……

 ……アカン、なんか辛気臭くなってしもうたわ。まあワイのせいなんやけど。

 こんな時は……せや! 

 

「ウルフウッドや」

「え?」

「自己紹介、してなかったやろ? ニコラス・D・ウルフウッド。ヨロシク!!」

 

 そう言って手を差し出す。親睦を深めるにはまずお互いを知るところからや。

 手を差し出したまま握り返してくれるまでニッコニコして待つ。

 

「……UMP45よ」

 

 根負けしたのか、そう名乗った嬢ちゃんは差し出した手を握り返した。

 ここで笑顔で大きくブンブン振って友好アピール! 

 

「わーなんかたのしそう」

「ZZZ……」

 

 その後自己紹介タイムとなった。

 ワイの拘束を解いたのが45に瓜二つで妹のUMP9。45とは反対に右目に傷がある。二人とも人形であるのにその傷を残してるということは何かしら事情があるのだろうから、話題に触れないでおく。

 常時眠そうな嬢ちゃんはG11。ワイが寝ていたベッドを占領しよった。おのれ……。

 今日はもう遅いので明日の朝までこの廃屋で一緒に一夜を明かすことになった。

 

 

 

「よう。夜の見張りご苦労さん」

「……」

 

 外で見張りを続ける水色の嬢ちゃんに声をかける。

 

「……何しに来たの?」

「ちょっと吸いとうなってな」

 

 言いながら懐から取り出して火を点ける。口部周りの暗闇に仄かな色が着いて熱を感じる。

 

「聖職者のくせにタバコ? とんだ生臭坊主ね」

「ハハッ神様には内緒やで?」

「そんないるかもわからない存在、あなたは信じてるの?」

「どうやろなぁ……会ったことないからなぁ」

 

 いるならまぁなかなか面白そうな話ではある。

 

「……神様って万能なのよね」

「さあな。ワイらがそう信じ込んでるだけかもしれん」

「……」

 

 自然の偶像化。

 力及ばない現象を畏敬の対象として認識の内に引きずり下ろす。そうして人は安心してきた。漠然とした恐怖に形を与えることによって和らげてきたのだ。

 虚ろだ。無いモノを有るように扱う、酷くゆらめく像。

 

 そしてそれは自分にも言えることだった。『ニコラス・D・ウルフウッド』という()()を与えられた偽物。

 過去も曖昧でただガワの通りに演じているだけのナニカ。もしかした自分の本質は()()()()()()()なのかもしれない。

 前後の因果は不明だが、それこそ自然発生の産物で紡ぐ台詞に説得力はなくて、まるであったことのように語る詐欺師。自分でもわかってないピエロなのかれない……と、最近密に考えるようになった。

 

(……それでも、今のワイはワイや。それ以上でもそれ以下でもあらへん)

 

 故に、今は我思う、故に我在り(コギト・エルゴ・スム)

 そうあれかし(AMEN)、と唱える。

 

 今は……それでいい。

 

「……私は完璧でなければならない」

「……」

 

 自分のことに一応の区切りを付けていると、416の嬢ちゃんはまるで自分に言い聞かせるように言葉を紡いだ。

 

「完璧でいれば私は証明される。あいつらより優秀だと、あいつら以上の存在だと……! そうよ……あいつらなんて必要ない。完璧な私がいればあいつらの出る幕なんてない! それなのになんであいつらばかり──」

「そこまでにしとき」

「っ!」

 

 その一言で嬢ちゃんは我に返る。彼女の方を見ずタバコを吹かす。

 

「一つだけハッキリしとることがある。ワイも嬢ちゃんも神サマやないってことや」

 

 口から吐く煙は夜の闇に消えていく。

 

「……じゃあ、私はどうすればいいの……」

 

 416の嬢ちゃんは気落ちしたように声のトーンが下がる。

 

「……そればっかりは自分の問題や」

 

 そんな嬢ちゃんにワイは気の利いたこと一つ言えず、何様かのような御託を並べる。

 それでも気休めになれば……と、心の端で都合のいいことをほざきながら。

 

「勝手に悩んで適当な答え正解だと思い込みながら進み続ける、それが人生や。そんなんばっかや」

「……」

 

 正解なんて誰にも分らない。それこそ神サマでもなければ。

 

「……でも私は、完璧であることが私なの。今までの自分を捨てて別の生き方なんてできない」

「…………ガキが……それもまたひとつの大事な生き方や」

「私は人形よ」

「動いてて喋れるならみんな生きてるようなもんや」

「屁理屈ね」

「理屈は理屈や」

「それこそ屁理屈よ」

「口の減らんガキやな」

「あなたもでしょ生臭坊主」

 

 お互い鼻で笑い合う。調子出てきたやんけ。

 

「あーあほくさ。ワイはもう寝る。嬢ちゃんも程々に切り上げてさっさと寝ろや。夜更かしは美容の大敵やで?」

「人形にそんな悩みあるとでも?」

「あーそうかいそうかい。なら勝手にせや。ったく可愛い気がないでホンマ」

 

 そう言ってタバコも吸い終わったので踵を返す。背中越しに嬢ちゃんの声がかかる。

 

「HK416よ。あなたは?」

 

 その言葉に歩みは止めず、振り向きもせず、ただ手を振って返す。

 

「ウルフウッドや。以後ヨロしゅう」

 

 そう返して廃屋へと入る。「風邪ひくんじゃないわよ」とか聞こえてきたけど「おどれはワイのオカンか!」と返しといた。

 あーあ、ベッドも取られたし、まーた固い床で寝るんかいな。

 

 

 その後何事もなく一夜が明け空模様は朝から快晴。早々に目覚めたワイらはここを発つ運びとなった。45の嬢ちゃんから人間がいる場所を聞く。

 

「ここから西に向かえば生活圏が見えてくるわ」

「おおきに」

「普通の人形なら保護するところなんでしょうけど、私たちは優先する任務があるから一緒には行けないわ」

「えぇ えぇ。気負う必要なんかあらへん、自己責任っちゅうやつや。嬢ちゃんたちは嬢ちゃんたちの仕事をしたれ」

「そう。あなたがそう言うなら気が楽だわ」

「あっそやそや」

「?」

 

 言うてゴソゴソ、と箱のようなものを取り出して45の嬢ちゃんに被せる。

 

「……なにこれ?」

「45姉~、……あれ? 何被ってるの? 教会?」

 

 45の嬢ちゃんが頭から取り外してそれを見てると9の嬢ちゃんも来る。二人ともそれをマジマジと見るが意図が読めないようだ。

 しゃーないな、説明したるわ。

 

「懺悔箱。あったやろ教会にそない部屋が。その携帯版や。何ぞあるやろ バチかぶりーなコトとか道ハズレーなコトとか 無料にしとくさかい、ゆーてみ!? な!?」

「「…………遠慮しとく」」

「なんやつれないのー」

 

 しかも揃って言いよった。

 はぁ…これじゃ商売あがったりやで。

 

「大変だね。これも修行とか?」

「言ったやろ? あくまでお仕事や」

「ふーん……じゃあ懺悔はできないけどこれは貰っておくね~ それじゃ」

「あっオイ!? 待たんかい! 今商売言うたやろが! チップちゃうぞコラ!」

「底に板でも付けて貯金箱にでもするね~」

「人の話聞かんかい!」

 

 9の嬢ちゃんは勝手にぶん取ると奥に行ってしまった。

 商売道具取られた……

 

「ごめんなさいね。ああいう子なの」

「やんちゃが過ぎるで……どんな教育しとんねん……」

「フフ。 あぁそうそう、それと──」

 

 ん? まだあるんかいな? 

 

「416のこと一応礼を言っておくわ」

 

 なんだその事か……ってうん? 知っとるいうことは……

 

「聞いとったんか」

「まあね。いつでも戦闘できるように常日頃繋いであるのよ」

「便利なもんやのう」

「多分9とG11も聞いてると思うわよ」

「前言撤回、プライバシーもクソもないわ」

「フフッいいお悩み相談だったわよ。やっぱり牧師様だからそういうのは得意なのかしら?」

 

 そうやって45の嬢ちゃんはまたあの笑みを浮かべる。

 その笑顔はなんちゅうか…あれやな……。

 

「G11さっさと起きなさい!」

「う~ん、あと24時間……」

「風穴ぶち開けられたい?」

「2.4秒で起きましたマム!」

「お~新記録じゃない?」

「眠りはもっと早いよ?」

「自慢にするな!」

 

 と、ワイが言いかけたところでなんか三人にがわちゃわちゃとコントし始めた。

 11の嬢ちゃんにガミガミ怒る416の嬢ちゃんを見てると、なんて言うか……

 

「ホンマにオカンやな……」

「何か言った? 生臭坊主?」

「おおっ!?」

 

 しまった…いつの間にか口に出してもうた。うわめっちゃ睨んだる…おー怖っ。目合わせないでおこ。

 

「ねえウルフウッド~? そのオカン? ってなに〜?」

 

 視線を合わせないでいると9の嬢ちゃんが尋ねてきた。

 果たして言っていいものか……だが純真無垢な目には勝てず、416の嬢ちゃんには聞こえないようにボソッと言うのだった。

 

「……母ちゃんって意味や」

「へぇ〜」

「誰が誰の母親ですってぇ!」

「聞こえんのかーい! 喩えや喩え! 本気にすな!」

 

 地獄耳か! 

 

「うんうん。416がお母さんかぁ…となるとお姉さんは45姉で決まりだから〜じゃあウルフウッドはお兄さんね! あ、G11はペットね!」

「なんでワイが家族になっとんねん!」

「っていうか私ペット!?」

「え~いいじゃん。家族になろうよ! ね? ニコ兄~♪」

「……」

 

 流石に何かしら心配になってきた……

 

「なあ大丈夫なんか? メルヘンにドタマぶっ込んどらんか?」

「フフ、気に入られたみたいね」

「なんやねんそれ……」

 

 45の嬢ちゃんに尋ねてみるがそんな答えが返ってきた。

 マジで大丈夫なんこれ? 勝手に家族認定されて殴って来たりせえへんよな? 

 

 と、そこでふと45の嬢ちゃんの表情を見る。

 視線の先の光景(「駄犬には躾が必要よね?」「良ぉお~~~~~~しッ! よしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし」「ぐええっ! 両サイドから地獄!」)を見て静かに微笑んでいる。

 

 それはこれまで見せてきた仮面のような笑顔ではなく、本当に、心から出たような、静かで柔らかな笑顔。

 

「なんやそんな笑い方もできるんやないけ」

「え?」

 

 不意打ちだったのか、意外という感じで返事をする。

 というか、「え?」も何も──

 

「心配しとったんや 嬢ちゃんいつもニコニコ愛想ええけど笑い方がカラッポで胸が痛なるんや ツラくてしゃあないクセにやせガマンだけで笑っとる」

「……!」

 

 そんなふうに──

 

「そんなふうに 見えとったで」

 

 昨日45の嬢ちゃんははぐらかしていたが、HK416が「完璧」に拘るように、UMP45も……いや、もしかしたらこの小隊全員がその胸の内に酷く重っ苦しいモノを抱えてるのがなんとなく想像できた。それが何なのかを聞くことなど、そんなデリカシーのないことはしない。誰だって踏み込まれたくない領域はあるものだ。それは人間も人形も変わらないだろう。

 

「……やっぱり牧師様は悩みとかには敏感なのかしら?」

「職業柄ってやつやな」

「フフ、お勤めご苦労様」

「愚痴聴いて相槌打ってるだけや」

「それだけでもちょっぴり楽になる人もいるわ」

「そうかい…………時間が解決してくれることもある。身を任せるのも手やで?」

「……うん。そうかもね」

 

 そう頷くUMP45の表情は仮面の笑顔ではなく、心からの笑顔でもない。様々な感情がないまぜになったような絶妙にして複雑な、けれどもどこか噛み締めるような表情だった。

 ここらが潮だろう。

 

「ほなら、ワイはそろそろ行くで。一晩だけやったが世話になったな」

「そうね。……最後に一つ聞いていいかしら?」

「なんや?」

 

 まだ何かあるのか返事しながら煙草に火を点ける。

 

「『代理人』っていうメイドのような人形見かけなかったかしら?」

「ぶっ!? えっほ、えっほ、うぉっへ、あっへ、はっは!!」

 

 突然のキーワードに驚いてむせる。

 今吸ったばかりの煙が肺の二酸化炭素ごと口外にぶち撒けられる。

 

「……大丈夫?」

「わ、悪い悪い! ちょっと一気に吸い込んでしもうただけや……! 気にすんなや!」

 

 危ねー……いきなりつい最近ぶっ壊した人形について聞かれたからむせてもうた。思えばその代理人のせいで鉄血に着け狙われとるんやっけな……

 半分自分のせいやけど。

 

「そ、そう」

「んでそ、その人形がどうかしたんか? 探しもんとかかいな?」

「まあそんなところ。最近微かな目撃情報があって、私たちはその調査を命じられたの」

「それワイに言うてええんかいな?」

「聴取みたいなものだから無問題(ノープロブレム)よ。それに……」

「それに?」

 

 そこまで言って45の嬢ちゃんは唇に人差し指を当てて、まるでイタズラが成功した子供のように言うのだった。

 

「牧師様は人の懺悔を言いふらしたりなんかしないでしょ?」

「……」

 

 ……ハァ、参ったわ。そう言われたら守秘義務にせなアカンわ。

 

「こりゃ一本取られたで。つかこれ懺悔なんかい」

「隠し事や悩みだからセーフよ。で、答えは?」

 

 どうしたもんか……正直に話したらまたぞろ面倒そうやし誤魔化しとくか。

 

「いや会ったことあらへんな。そんなオモロイ奴知っとったらこっちから話題にするわ」

「……そう。ま、そうよね」

 

 うん? セーフか? セーフなんかコレ? もうちょっと探ろ。

 

「で……その人形見かけたらどうすりゃええんや 何ぞ伝言でもあるんかい」

「……いや、ないわ。というか鉄血の上級人形の中でも高い地位にいる人形だから、そこらの鉄血人形の比じゃない強さよ。並の人形じゃ敵わないくらいレベルだから見かけたら全力で逃げなさい」

 

 マジかいな、つい最近ぶっ壊したんやけど……? あいつそんな偉い奴やったんか……。

 ん? そうなると嬢ちゃんたちの任務って実質終了? ……これってワイのせい? 

 

「……肝に銘じとくわ」

 

 知らんフリしよ。というかさっさと出発しよ。立つ鳥跡を濁さず、犯人現場に帰らずや! 

 

「この前は手掛かりが掴めそうなところまで近づけたのだけど、私たちが状況把握できる頃には戦闘終了しててね。現場には無数の鉄血兵の残骸と代理人のモノと思われる生体パーツがいくつか見つかって、誰かと戦闘してたみたい。鉄血の上級人形を落とすなんて相当な手練れよ。だからそれも探るために他に手掛かりがないかその場で探ってたんだけど、先の戦闘に引き寄せられたのかそこらを徘徊してた鉄血兵とバッタリ出くわしちゃってね。戦闘になると思ったんだけどどこからか飛んできたロケット弾が丁度鉄血兵たちの中心に落ちて大打撃を与えたの。だから戦闘自体は楽に終わったんだけど当然味方なんてその時はいないから援護なわけないし、だからもしかしたら先の戦闘で代理人と戦ってたナニカがいるんじゃないかと思って追跡を続けていたところ昨日あなたと出会ったってワ──」

 

 あー! あー! 知ーらね! 知ーらね! ワイは何も知ーらね! 

 

「ワイは先に行くで。ありがとな 楽しかったわ」

「え、あっうん」

 

 45の嬢ちゃんの手を勝手に取ってブンブン握手するとパニッシャーを背負ってすぐに背を向ける。

 

「ええ風が吹けばまた会うこともあるやろ 神のご加護がお前らと一緒にあらんことを」

 

 そのまま振り向きもせず手を振ってその場を去る。逸る気持ちを抑え下手に勘繰られないように絶妙な歩調で。

 うおおおおおおおおっ! 気持ちだけが先走りよる!? (優雅に歩くフリをしながら)

 

 

 

「45姉~そろそろ……あれ? ニコ兄は?」

「今しがた発ったところよ。ほらあそ……ってもう見えないし」

「う~眠い……もうウルフウッドが犯人でいいんじゃないかな? その方が早く終われて…眠れる!」

「寝言は寝て言いなさい。あの生臭坊主に代理人なんて倒せるわけないでしょ。というかそれあんたがさっさと寝たいだけじゃない」

 

 ウルフウッドがその場を去った直後、404小隊は集まり今後について話し合う。

 

「で、これからどうするの45。まだ件の処刑人を探すの?」

「そうね。そろそろ追跡も限界だからこの先の区域でも手掛かりが無かったら打ち止めにして帰投しましょう」

「それにしても45姉、一体何なんだろうね鉄血がいう処刑人(パニッシャー)って?」

「分からないわ。でもハッキリしてるのは……」

「してるのは?」

「その処刑人は鉄血と敵対してるってことよ」

「ふーん。じゃあもしかしたら人間の、私たちの味方になってくれるかもしれないね! どんな人形なんだろう~ニコ兄みたいだったらいいな~」

「だからさぁもうウルフウッドってことでいいじゃん? こんなところにいる人間なんて異常だよ異常。多分実はすんごいスーパーマンであのでっかい十字架で鉄血をバッタバッタ倒してるんだよきっと……………グゥ」

「そんな一昔前の漫画じゃあるまいし、第一そんな報告したら即スクラップ行きよ駄犬。つか寝るな!」

「うぎゃっ!」

「ま、とりあえず現在把握してるとこまでの報告でいいでしょう。憶測を話したってしょうがないわ ……で、G11。何体?」

 

 UMP45は言葉を区切るとその眼光が戦闘用へと切り替わる。

 

「ひっ……10体かな? 3時の方向。まあ雑魚でしょ」

「ふん、とっとと殲滅して任務を終わらせるわよ。完璧にね」

「アハハ! 今日は何体ぶち壊せるかな?」

「油断は禁物よ。全員配置に着きなさい」

 

 404小隊はUMP45の指示を聞くと素早く物陰に身を潜める。間もなく複数の物音が廃屋へ近づいてくる。

 それはG11の言った通り10体の鉄血兵だった。鉄血兵はまだ404小隊に気づいていないのか廃屋近くを徘徊している。UMP45は物陰より鉄血兵の戦力を分析する。

 

強打者(ストライカー)×2 (ジャガー)×3 ネメアの獅子(ニーマム)×2 毒持つ獣(マンティコア)×1 神の盾(イージス)×2 ……どう見ても斥候に出す戦力じゃないわね)

(十中八九、処刑人絡みね)

(え~マジで相手するの? キツくない?)

(でも放っといたらニコ兄が……)

(そうね。倒せないまでも足止めするくらいはしてあげましょうか。本来ならやり過ごすところだけど、もう見えないとはいえウルフウッドに危険が及ぶかもしれないわ。ま、今度会った時のための恩でも売っておきましょうか)

(オッケ~! じゃあ私頑張っちゃう!)

(あ”~ウルフウッドが処刑人だったらこんな苦労しなくてもいいのになぁ)

(じゃあ突っ立ってなさい。弾除けに使ってあげるわ)

(ご遠慮させていただきます……)

(無駄話はそこまでにしときなさい)

 

 45の指示よりそれ以降会話がピシャリと止む。無音の緊張が場を包み込み、今なら1km先の針の音さえ聞こえそうだった。

 

 有効射程距離まであと僅か……。

 

(………………)

 

 3。……トリガーに指がかかる。

 

(………………)

 

 2。……敵はまだ気づいていない。

 

(………………)

 

 1。……あともう1m。

 

(………………)

 

 0。………………………………待てよ……? 

 

((((……!))))

 

 何か音が聞こえる。

 

 遠くから、だんだん近くに。

 

 それは鉄血兵も同じで辺りを見回している。

 なら鉄血兵ではない? 

 

 

 ではこれは………………………………何だ? 

 

 

 この近づいてくる違和感、ただ漠然と「ここから動いてはならない」とUMP45は直感した。

 

(この感じ……どこかで……前にもあったような……)

 

 ごく最近。そう。確かあの時も鉄血と出くわして……

 

 そこまで思考してUMP45は気が付けば仲間へと叫んでいた。

 

「全員衝撃に備えて!!」

「「「!?」」」

 

 染み付いた経験か、はたまた学習機能か。何故か? と、問う前に404小隊はその場で耐衝撃姿勢を取った。

 

 そしてそれは正しい判断だった。

 

 雲一つない快晴の空を三本の雲が尾を引く。それは飛行機ではなく戦闘機でもない。

 もっと単純な……弾頭だった。

 

 三つの弾頭は芸術とも言える軌跡を描き、吸い込まれるように鉄血兵の中心に落ちる。

 

『!!!?!!????!??!!!』

 

 瞬間、爆ぜる。

 爆風と熱量、吹き飛ぶ瓦礫がの即席榴弾、それら全てが顎となって鉄血兵の装甲を食い千切り吹き飛ばす。

 いくら堅牢な装甲を身に纏うとも、それをあざ笑うかのようにへしゃげて破壊する様はまるで……無慈悲。

 電気椅子を前にして泣き叫ぶ死刑囚など「今更遅い」という他無く、無駄である。何故なら判決は既に言い渡されて刑の執行は決まっている。

 

 今更足搔こうなど無駄極致であり見苦しい、お前は死ぬ運命なのだ。そう無慈悲に突き放すような一撃……いや三撃か。

 

「くぅ……!」

 

 空気の振動がUMP45の体を叩く。熱波が身を射す。周りは爆風による砂塵で把握できない。

 仲間は大丈夫だろうか? そんな思考が回り始めた頃に目の前に装甲が融解しかけている鉄血兵の残骸が飛んでくる。目に当たる部分がまだ光って……まだ生きている! 

 

「っ!」

 

 それを確認した瞬間トリガーを引いていた。

 ダメ押しと言わんばかりに()()()()()残骸に銃弾が撃ち込まれる。部品の破片が飛び散り、弾痕を残して鉄血兵は沈黙する。完全破壊だ。

 

「し、死ぬかと思った……!」

「ホントよ……クソっ」

「45姉! 大丈夫!?」

「……どうやら全員無事みたいね」

 

 小隊全員の無事に安堵しつつ先程まで鉄血兵がいた場所を見る。

 まだ黒煙が立ち昇っているがやはり爆心地であり、瓦礫と廃墟があったそこは見事に更地と化していた。

 恐らく先程の鉄血兵は全て破壊されただろう。よしんばさっきのように部分的に生きてたとしても身動きできず、間も無く機能停止することだろう。

 

(これほどの火力を個人で携行している、とでもというの?)

 

 だとしたらそれは人形から見ても脅威と言わざるを得ない。

 件の処刑人とはどうやら相当な戦力を保持している。一人軍隊(ワンマンアーミー)と鼻で笑えない……本物のバケモノ。

 

「……予定変更よ。任務終了、このまま帰投するわ」

『了解』

 

 恐らく近くにいるのだろうが敵味方も不明のまま、何より長期の調査で消耗もしている状態で探るのは流石に危険が大きい。もしかしたらこの砲撃も警告かもしれない。

 収穫は十分、用心してここは退くのが得策だろう。

 

 ふとUMP45は砲撃が飛んできた方向を見やる。

 

「まさか……」

 

 まさか、あるいは、もしかして、万が一……そんな思考が過るが、すぐに切り上げてUMP45は帰投のための連絡を入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お悩み相談のサービスや ツケといたるわ」

 

 白布から覗く砲口より白煙を立ち昇らせる十字架を背負いながら、牧師は歩を進める。

 サングラス奥の瞳は煙草の紫煙のみぞ知る。

 

 

 

 




多分内心巻き込んでないかどうかでビクビクしてると思う。

感想・誤字脱字報告などあれば気軽にどうぞ。
6/1 いろいろ修正旧サブタイ「廃屋のNot Found」


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