妖気依代。 (ぺけすけ)
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ようこそ素敵な楽園へ。【博麗神社】
1話 迷子の迷子の信くん


 

 

 

 

 

ふと、思い出すのは小さい頃話してもらったお伽話。

 

そこでは古来の妖達と人々が住み、全てを受け入れてくれる、そんな忘れ去られたモノのみが行き着く事が出来る楽園。

 

そんな話だったかな、確か?

 

"僕"が妖怪やら歴史的文献が好きになって、引きこもって本やらなんやらを漁って、インドア派になった原因も、今の"俺"が考えるとそこが原点だっんじゃないかなーと考える。

 

さて、思い出せないのはそんな原点を語ってくれたのは誰だったのだろうか?

分かるのは父や母と言った肉親ではなく、何処か憂いを帯びた人だったかな?くらい。

 

そんなちょびっと引きこもり気質で、歴史オタクな一面もある俺に起きた不思議な出来事。

 

それは確か俺が16歳の高校2年生で、ほんのちょっとの思春期に突入した修学旅行先の物語。

 

ああ、ホントにあの時に"出会うなら無機物より美少女が良かった"とか思ったからあんな事になったんじゃないかと後悔の念もあるけれど、今は良かったんじゃないかな、うん。

 

 

______________________________

 

 

ざくざく……と歩くたびに気持ち良い音を鳴らす雪原の雪をBGMに顔を上げて空を見上げれば、森の木々の隙間から、ほんの少しの太陽光が見え隠れし、まだ昼前なのがわかる。

周りを見渡せば、木と木とそれから木が生え、下の地面を見れば一面の雪と雪。

 

ああ、本当に……

 

「どうしてこうなったぁぁぁぁ!!!」

 

俺の声がこだまのように響き、少しの雪が落ちて来て頭にかかる。

バサッと白い冷気の塊とも言える雪が、身体からドンドンと熱を奪っていくのに耐えられず、ぶんぶんと犬の様に頭を振り、雪を落とす。

 

「最悪だ、本当に今日は人生最悪の日だ……」

 

そもそも、なんでこんな事になったかと言えば、修学旅行とか言うリア充のクソイベントに参加したのがそもそもの間違いだったんだ……。何をトチ狂ったのか、休む前提のこの行事を両親の「いい加減にちゃんと学生らしい生活をして、修学旅に行くらいはしなさい、しなきゃ部屋の古書全部燃やす」

という脅し兼説得によって、強制的に参加させられ、この西の地方に行かされた訳で。

 

「なーんで、勝手に歩きまわっちゃったのかなぁ、俺」

 

ハァ……と溜息をつけば白い息と共に空に上がる自分の吐いた二酸化炭素を見上げながら、1人自己嫌悪する。

 

思い返せば、学校ではそこそこ猫を被り、学校という社会に適応するために色々と話を合わせていた結果、それなりに友人もいた訳でして。この修学旅行ではその友人達と班が一緒に編成されて、何とか心の中の面倒くさいという気持ちと怠い気分を誤魔化しつつ、1日目の散策をしていた訳なんだが。

 

この京の都は思った以上に難解な道構造をしていたというか、元々俺自身が方向音痴な所もあったところと見事にベストマッチ。街中に居たはずなのに、興味本位で歩いていたら気づけば冬の森の中にポツンといた訳でして。

 

「ブァックション!!!」

 

寒ッ!2月に入ったばかりの真冬に、昨日は大雪だったこの場所は死ぬほど寒むく、引きこもりの我には辛いのだ。

こんちくしょう……柄にもなく、新しく来た土地に浮かれて、一人でチョロチョロと歩くんじゃなかったと後悔しつつ、歩き回っているのが今の現状な訳です、はい。

 

ガタガタと震えながらリュックサックと肩にかけた大きめのスポーツバックを背負い直し、ポケットの携帯を取り出せば、あいも変わらず"圏外"の2文字に深い憤りを感じつつも、取り敢えずは何処かに腰掛けようと見渡す。

 

「………?」

 

ふと、他の地面より1メートル程度はある大きさの雪を被った何かを見つける。

何だろうこれ?と近寄ってみれば、それは木と石で作られた所謂"祠"に似たものの様だ。

 

うーむ……これは何とも俺の中の浪漫と男心を刺激してくるな。近くにスポーツバックとリュックをおろし、祠を軽くクルクルと回りながら見て回ると、かなり古くロクな手入れもされていないモノだとぱっと見で分かる程度には所々痛んでいた。

正面であろう場所に戻り、祠の扉あたりに積もった雪を軽く手で落としつつ、観察してみる。

外づくりの骨子は木製で、屋根は石かな?そんでもって扉には……鍵をかける様な物はないけど、お札が一枚ペタリと貼られているが、先ほど雪を落としたせいか剥がれ掛かっていた。……お札?何かしら封印でもされてるのか、これ?つまりこの祠は何かを封じ込められる為に作られて、この札で風を閉じてるが、開きかけている……と。

 

「……」

 

キョロキョロと周りを見渡し、誰もいないことを再確認。ここは人知れずの森の中、そんでもって目の前には明らかに何かが入ってますよーと主張する様なびっくりボックスがある。

ここで俺の取れる行動は以下の2つ。

 

1.勝手に開けるのは良くないよね!お札をキチンと貼り直してさよならバイバイ!

 

2.誰もいないし、見てないならちょっとくらい開けて見ても……いいんじゃね?

 

「ははは……いやいや、清く正しい俺がそんな事する訳ないよね、うん。」

 

そんな訳で。

 

「はーい、オープン」

 

ベリっとな、とお札を剥がして取り敢えずはぽいっとカバンの上に放り投げる。

さてさて、中身はなんじゃらほいな?と手をスリスリと合わせながら扉開いてみればそこには……

 

「………木箱?」

 

祠の中は地下に空洞になっていて、なにやら古めかしい1メートルちょいはある木箱が縦に納められていた。

少し中の物に対してがっかりしつつも、おっかなびっくり木箱を引っ張り出してみれば、結構重い。しかも

 

「またお札?」

 

木箱の側面にはさっきの祠の封にも使われていたのに似た札が上下右左と4枚それぞれ貼られており、厳重に紐まで止められていた。

 

「ここまで来ると少し怖くなってきたけど……」

 

逆に後には引けないよね!好奇心は猫を殺す?知らんがな。

いったれ!とそのまま札を外し、紐も解いてぱかっとな……ってこれ?

 

「日本刀……だよね、どうみても」

 

手に持ってみれば、それはうちの爺さんの家にも飾ってあるものより古めかしい古刀だった。

というか、何となく材質がおかしい気がする。爺さんの家で触ってたモノより、軽いし、鞘の質感が金属に近しいような気もするのに違うと頭が否定して来る。

 

ふーむ、と刀を持ったままリュックだけを背負い直し、スポーツバックの上に座ってよく見てみる。

 

「……なーんか見覚えあるような無いような」

 

10分ほど刀を見回して少し満足したのだが次に出てきたのは何処見覚えのある感覚とこの刀自体が何かを求めてる様な直感。決して高二病では無いと信じたいと思いつつ、そう言えばと、まだ刃を見てない事に気づく。

 

「よっと……」

 

ガチャという音ともに抜刀してみれば、サビ一つなく、太陽光を反射する刃が現れた。

 

「…………」

 

つい、その美しさに見惚れてしまう。

何処か碧みを帯びたこの劔(つるぎ)は一体何なのだろうか?なぜこんな祠に?なんて考えが巡るが、それ以上に気になるのは

 

「名はなんていうだろ……この刀」

 

不思議とその事だけがひたすらに気なる。

 

ボーッと刀の刃を見つつ考えていると、バサっと何かが倒れる音が近くで聞こえる。

何だろうと、顔を向けようと横を見ればそこは真っ白な雪の地面。

 

え、なんで地面がこんな近くに?

 

なんて考えてみれば、すぐに気づく。

 

「……倒れたの……俺か……」

 

 

すぅーと、ナニカが身体から抜ける、いや入ってくる?様な感覚を覚えながら俺は意識を手放した。

 

 

 




リハビリ兼息抜きにゆっくり投稿ですが、よろしくお願いします。


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2話 コスプレ?いいえ巫女さんです。

 

 

 

 

 

ふと、こんな話を隣に座る友人に振られたことがある。

 

「依白って、萌え属性なに持ってんの?」

 

それに対して答えた俺の回答は

 

「は?」

 

これが俺と萌え文化の出会いだったのは今では笑えるが、当時の中坊の俺からすれば未知との遭遇すぎて戸惑ったのを今でも覚えている。

 

そこからはソイツに連れられて、あらゆるオタク文化を叩き込まれ、気づけば俺自身もその手のネットスラングやらを理解できる程度には進化?した。

 

そして最初の質問、俺の萌え属性……それは妖怪っ娘が3位、メイドさんが2位そして、第1位は………

 

 

______________________________

 

 

ツンツン、と何かで頬やら頭やらを突かれる感覚がする。

何だ何だ……体のダルさを考えてもまだ寝てても余裕がある時間帯のはずだ。

クルッと寝返りを打ち、また意識を沈めようとすると

 

「ちょっと」

 

不機嫌そうな少女の声と共に後頭部にそれなりの衝撃が走る。

なんなんだよ、と目を開けてみれば目の前には赤い大きな鳥居が見え、頭が混乱する。

 

「は?え?」

 

あれ、俺は確か迷子になって……それから?

なんとか混乱する頭を整理しようとするがそれ以上に混乱させる声がかかる。

 

「ちょっと、無視しないでくれる?」

 

「…………はい?」

 

後ろから不機嫌そうな声をかけられて振り向いてみれば、脇が開いた赤と白の巫女?服を見に纏い、大きな赤いリボンで黒髪を纏めた少女が箒を片手にしゃがみ込んで起き上がった俺をジト目で見ていた。

そんな少女を相手に俺はつい

 

「……エロゲかなんかのコスプレ?」

 

と、口走った俺に巫女コスプレ少女はニッコリと笑い、バシンッ!!という箒の持ち手部分の打撃がお見舞いされた。

 

「いってぇ!!!」

 

「意味はわからないけど、なんか失礼な事でしょ、今の」

 

おぅ…おぅ…と頭を抑えて悶絶する俺に零度プラス見下しの目線を追加した少女からそう言われて、確かに今のは無いなと冷静になり始める。

取り敢えず、ごめんと言おうとするとそれより先に少女の方が口を開く。

 

「で、アンタはここで寝泊まりしてたわけ?なら料金払いなさい、料金」

 

「え、寝泊まりって言うか、そもそもここは……」

 

と、冷静になってあたりを見回してみると自分が寝ていた場所には俺のリュックがあり、地面は石造りの道で、そのまま少女の方の後ろに目を向ければ、かなり大きな神社が見えた。

 

「あー……もしかして本物の巫女さん?」

 

「それ以外に何に見えるのよ」

 

コスプレです。

 

「ふんっ!」

 

「いって!!」

 

また小突かれる。なんなん?なんで心で考えた事までわかるの?

 

「ってそんなことはどうでもよくて!そもそもなんで俺はここにいるのさ!?」

 

「はぁ?私が知るわけないじゃない」

 

途轍もなくメンドくさそうな物を見る目と溜息を吐きつつ、クルッと踵を返し神社の方に歩いていく……なんて呼称しよう?取り敢えず巫女さんに思わず声をかける。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

「……なによ?」

 

うわ、メンドくさそうな顔した。

 

「いや、その……助けてくれたりとか……」

 

「イヤよ、メンドくさい」

 

ついに口に出して面倒と言われてしまい、凹む。

な、なんだこの子?見た目は凄い大和撫子って感じの美人なのに中身がビックリするぐらい残念じゃないか。そんな俺に興味を失ったのか中に入って行ってしまう巫女さん。

そして神社の中央にポツンと佇む俺。

 

「えぇ……」

 

なんなんすか、コレ。

 

 

 

______________________________

 

 

 

取り敢えずと、現場を確認する為に荷物等を確認してみて、コレまたびっくりする事が。

俺のスポーツバックだけ消えている。

キョロキョロと周りを見渡しても、あるのはリュックとあの日本刀だけ。

 

「はぁ……誰かに持ってかれたか?」

 

と言うか此処はどこなんだ?神社って言うのは分かるけど他の情報が少なすぎる。

リュックを背負い、刀を制服にあるベルトに通して、この神社を見回ること10分。

鳥居の上に名前らしきものがあり、其処には"博麗神社"と書かれていた。

名前知れてコレはラッキーと携帯で検索しようと取り出して見ると圏外の二文字。もう携帯なんて嫌いだ。

 

深い溜息を吐きつつ、神社の賽銭箱の横に座り、このまでの事を纏めて考えて見る。

 

1つ、俺は修学旅行中に迷子になった。

2っ、変な祠を見つけて日本刀ゲット。

3つ、気を失った。

4つ、目が覚めたら神社の中で巫女さんに突かれてた。

 

このことから導き出される答えは……!!

 

「なんもわからん……」

 

ちゃんちゃん。なんてギャグ漫画風の効果音を口遊むが残るのは虚しさのみ。

 

はぁ、とポケットに手を突っ込めば、其処には修学旅行先の地図と携帯に財布。

ふと横に目を移せば、賽銭箱。

 

自分の財布と賽銭箱を交互に見て、立ち上がり、正面に立つ。

 

「神様助けて!!!!」

 

自分のことながら情けない願い事を大声で叫びながら、バイトで稼いだ一番大きなお札と硬貨を一枚づつ神社の賽銭箱に投げ入れパンッパンッ!と手を合わせる。

 

……………………………………………………はぁ。

 

「虚しい……?」

 

何やら本堂の方からドタドタと駆けるような音がしてふと顔を上げると、其処には目を少し見開き、口をポカーンと開けている先程の巫女さんがいた。

 

「え、と?」

 

「……………たの?」

 

「え?」

 

小さく、ボソッと何かを言った巫女さんに思わず聞き返す。

 

「いくらいれたの!!??」

 

「い、一万円と500円です、ごめんなさい!!」

 

何で謝ってんの俺?

ガバッと頭を下げてそう思った俺、しかし取り敢えず謝っとけの精神を小さな頃から叩き込まれた俺には、もはや反射的な反応だった。

この巫女さんに何を言われるんだろうと内心ガクブルしていだが、一向に言葉が返ってこず、チラッと前を見て見ると。

 

「……………」

 

固まったまま、お賽銭箱の中を見つめる巫女さんという何ともいい難い光景が広がっていた。えと、どうしたんだろうか?

取り敢えずと、声をかけてみる。

 

「あー、あの?」

 

「貴方、名前は?」

 

「へ?」

 

「名前」

 

突然ガバッと顔を上げ、俺の方へと詰め寄り、名前を聞いてくる巫女さん。

ちょ、近い近い近い!!

 

「わかった!わかったから離れて!」

 

「?」

 

なに焦ってんの?とでも言いたそうな顔をしながら少し離れてくれる。

焦った、まじ焦った。

 

「で?」

 

「あ、ごめん。俺は依白 信(よりしろ しん)。」

 

「そ、私は博麗 霊夢よ、此処で巫女をやってるの」

 

ふむ、と手を顎に当てて考え始める巫女さん、もとい博麗さん。……さっきまでと態度違いすぎない?

 

「取り敢えず、ウチ上がって。お茶くらい出すから」

 

「そりゃどうも、ご丁寧に……」

 

そう言って再び中に戻っていく博麗さんの後ろに着いて行きながら、ついキョロキョロと神社内部をみてしまう。こういう建物が好きな人間としてはこの建造物に何処かズレを感じる訳でして……何というか、"俺自身が知ってる神社"の造りやコンセプトが違う、みたいな?

 

とか考えてるうちに、生活スペースであろう場所に通された。

 

「そこ、座布団あるから適当に座ってて」

 

「あ、はい」

 

明らかに歳下の女の子につい敬語になってしまうあたり自身の小心者さがよくわかる。……凹んだ。

 

「はい、おまたせ」

 

と湯呑みを二つ持ってきて一つを目の前に置いてくれる。頂きます、一口飲んでみるとこりゃびっくり、美味しい。緑茶の淹れ方をちゃんとわかってる人の味がするが、こんな若い少女が入れるには美味しすぎる気もする。

 

「さて、それで?」

 

「?」

 

「何か困ってたんでしょ?」

 

そう言ってお茶を啜る博麗さん。何というか巫女さんに湯呑みか。絵になるなぁ。

………じゃなくて、何で事情を聞いてくれる気になったんだ?

 

「え、まぁそうだけど、何で急に……」

 

「お賽銭いれたからよ」

 

お賽銭効果!?これは神様が俺のことを助けてくれたのか!神様ありがとう!大好きだ!

なんて心の中で舞い降りつつ神様に感謝してると、博麗さんがニッコリと笑い

 

「だって世の中お賽銭が一番よ」

 

「神様なんて大嫌いだ」

 

二度と信用しねぇ。

 

 

 

______________________________

 

 

 

「〜〜〜〜って言うわけで、気づいたら博麗さんに頬を突かれてた」

 

「ふーん……」

 

ずず……とお茶を啜りつつ興味なさそうに相槌を打つ巫女さんになんだかなぁ…….となりつつも最後まで話切る。

 

「あ、あと私の事は呼び捨ての霊夢でいいわ」

 

「うぇ?」

 

つい変な声を出してしまった俺は悪くないやい。彼女いない歴=年齢の俺にいきなり下の名前呼びはキツイものがあるんだけど……

 

「あんまり苗字の方で呼ばれるの得意じゃないのよ」

 

あと、さん付けもなんか気持ち悪いと言われ少し動揺しつつも頷く。

 

「わ、わかった」

 

明らかに深い意味が無いことがわかり安心しつつ了承。とは言え慣れるかなぁ……

 

「それじゃ、外来人の信に簡単に説明するわよ?……って何で顔を抑えてるわけ?」

 

「何でも無いんで続けて……」

 

そう?と言いながら話を続ける霊夢。

 

ここで霊夢に説明されたのは以下の通り。

 

1.迷子はアンタの自業自得。

2.その刀は見た感じ業物で忘れ去られてここにきた。

3.信は巻き込まれただけ。

4.御愁傷様。

 

……ちょくちょく馬鹿にされてるような?

 

「ってちょっと待ってくれ、ここって結局、どこなんだよ?日本の何処かってのは分かるけど」

 

「日本?よくわからないけど、ここの名前は『幻想郷』よ」

 

「……………は?」

 

げ、幻想郷?

幻想郷ってあの?

 

ガツンとハンマーで頭を叩かれた感じだった。

 

「まぁ、迷い込んだって事ね。稀にあるのよ」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!幻想郷?それって妖怪と人間が住んでるって言うあの楽園の事か!?」

 

「あら、知ってるの?」

 

少し驚いたように目を見開く霊夢。しかし内心の俺はそれどころではない。

 

「ひゃ……」

 

「ひゃ?」

 

「ヒャッホーーーイ!!!!!!!!!」

 

「煩っ!」

 

 

 

 



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3話 すきまスキマ隙間

 

 

 

小さい頃から憧れていたものがあった。

それは空想の中でしか存在を許されていない妖怪や魔法使い、勇者なんていう非科学的な存在。

 

そしてその存在が住んでいると聞いたとある楽園『幻想郷』。

 

もし願いが叶うなら、僕はそこに行って見たいって話した時、その場所を教えてくれた人は確か

 

"幻想郷は全てを受け入れるわ"

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

「ヤポポーイ!!」

 

「はぁ……」

 

どうも、テンション爆上がり中の俺です。

なんとここがあの幻想郷と言われてちゃえばそりゃテンションも上がるってもんよ!!

一人で狂喜乱舞していると、ちょっと!と霊夢から声をかけられる。

 

「ん?どした?」

 

「……私の知ってる外来人は幻想郷の事を話すと最初に頭おかしんじゃないかって目で見てくるか、からかうなって怒ってくるはずなんだけど」

 

「あ、そりゃそうか。からかってるんだろ!」

 

「はぁ……」

 

え、なんでため息?こういう反応が欲しかったんじゃなかったの?

 

「アンタが入れたお賽銭がもっと少なかったらとっくに追い出してたわ」

 

「すみませんでした舞い上がりすぎましたごめんなさい」

 

うん、落ち着こう俺。

 

「で、知ってるなら早いわね。さっさと返すわよ」

 

「え?」

 

「え、じゃないわよ。外の世界に帰りたいんじゃないの?」

 

………んー、確かにさっきまではどうにかして帰ろうとしてたんだけど、なんだろう凄く、物凄く勿体無い気がする。

 

「うーん……」

 

「何?まさか帰りたくないとでも言うつもり?」

 

「え、いや。そんな事は無いけど……」

 

「この幻想郷を見て回りたい……かしら?」

 

「そう!それ!!……え?」

 

突然、俺でも霊夢でも無い声がしたような?

 

「気のせい?」

 

「信、後ろよ」

 

「へ?」

 

凄く嫌そうな顔をした霊夢が俺の後ろを指差す。後ろも何もそこには壁しかない……はず……

 

「はぁーい」

 

果たしてどうなっているのだろうか?俺より少し年上であろう金髪の美女が壁にぽっかりと開いた穴のような所から顔を出してウィンクと挨拶をしてきた。

 

果たしてそんな相手に俺はどんな返しと反応を見せたか?それは

 

「ど、どうも?」

 

脳内処理が追いつきませんでした☆

するとその女性は少し驚いた様に俺の顔を見てくる。

 

「あら、もっと驚くと思ったのだけれど。案外図太いのね?貴方」

 

「え、え?」

 

「そんな霊夢と私の顔を見比べても何も出てこないわよ?」

 

クスクスと笑うこの人は一体?ていうかどうなってるんですか、それ。じーっと見てみると穴の端にはそれぞれリボンの様なものがあり、そこから口の様にぱかっと開いていた。中には目玉の様なものがうじゃうじゃと……こりゃ怖いな、うん。

 

「紫、何の用?何も無いなら帰って」

 

「辛辣ねぇ……でも今日用事があるのはコッチよ」

 

ピシッと扇子を俺の方へと向ける、えっと紫さん?はニッコリと笑う。あら美人。

 

「何赤くなってるのよ…………年増趣味?」

 

ヒキっと顔を怖ばせた霊夢。

 

「いやいやいや、年増ってどう見積もっても20代前半だろう!!」

 

「あら、嬉しい事言ってくれるじゃない?」

 

ふふっと上品そうに笑うこのお姉様は一体……?

 

そんな俺を見かねたのか霊夢が口を開ける。

 

「ソイツは八雲紫。スキマ妖怪よ」

 

「……へ?妖怪?」

 

「ええ、そうよ。よろしくね?」

 

パチンっとウィンクをされるが、それよりも俺の中の妖怪という存在がガラガラと崩れていく。

 

「妖怪……妖怪……?」

 

「ええ、そんな見た目してるけど軽く千年は生きてるわよ、ソイツ」

 

「はぁ!!??」

 

「あら、女性の年齢の話はタブーよ?」

 

少し不機嫌そうに霊夢を咎める八雲さん。年齢詐欺ってレベルじゃねぇぞ!!??

 

「それより、話を戻しましょうか?」

 

パチンと扇子を畳み、俺の目をじっと見てくる八雲さん。な、なんだろう、少し胸が高鳴ってる様な?病気か?

 

「……ふぅ、やっぱり貴方の中に混ざっちゃってるわね」

 

「え?」

 

混ざる?何が?八雲さんがどこか咎める様に霊夢さんに視線を当てる。

 

「霊夢、貴女も気づいていたのでしょう?」

 

「まぁね、でも何かまではわからないし特に害もなさそうだから平気でしょ」

 

「はぁ……」

 

「え、あの?八雲さん、混ざってるってのは一体……」

 

「あら、そんな他人行儀じゃなくて、ゆかりんって呼んでね?」

 

「……歳考えなさいよ」

 

パシンッと霊夢の頭の上に何か落ちてくる。………ハリセン?あ、霊夢青筋立ってる。

 

「えっと、それで紫さん?」

 

「ええ、混ざってるっていうのはね?それよ」

 

スッと紫さんが指した先にはあの日本刀が、あった。

 

「霊夢から聞いてると思うけど、この幻想郷は忘れ去られた人やモノが来る場所。その刀もそのはずだった……のよね」

 

そう言いつつ気づけば刀は紫さんが手に持っていた。

いつの間に?なんて考えてると刀を見ていた紫さんの顔が少しずつ驚愕に変わっていく。

 

「……驚いた、まだこんな物が忘れ去られずの外の世界にあったのねぇ……。はい、大事になさいな」

 

スッと刀を渡してくる紫さんから受け取る。

え、そんなに凄いものなんですかこれ?

 

「というかこれ俺のじゃないですけど……」

 

「何言ってんのよ?もうそれはアンタから離れないわよ?言ったじゃない"御愁傷様"って」

 

「???」

 

我混乱。

 

「さて、それでは信さん?」

 

「は、はい」

 

急に真面目な感じの空気と口調の紫さんに緊張する。

 

「申し訳ないのだけれど、貴方を外の世界へと返すわけには行かなくなりました」

 

「はぁ……」

 

「今日からここが貴方の居場所になるわ、ようこそ、幻想郷へ」

 

「はぁ……はぁ!?」

 

どういう事!?

 

 

 

______________________________

 

 

 

さて、ここで紫さんと霊夢(凄く面倒な顔をしていた)が説明してくれた俺が外の世界に戻れなくなった理由について、長かったんで簡潔に端折って説明しよう。

 

まず、俺がここにきてしまった訳について。俺が封印を解いたこの日本刀、名前は知らんが余程ヤバ目のモノだったらしく、所謂"妖刀"とかそっちの類に属するらしい。

そしてソレの担い手、使い手に選ばれるのはこの刀の意思次第であり、運良く?悪く?俺が選ばれた結果、一種のパスが俺とこの刀に通じており、そこから外の人間、現代人には無いはずの霊力が俺に微力ながら流れ込み、それによって開くはずのない回路が開いて、俺には今幻想に成り得る存在になってしまっているとの事。

 

完全に自業自得です、本当にありがとうございました。

 

「その刀、多分何処かに忘れても気付いたらアンタの側にあるわよ?」

 

「何それこわい」

 

と、軽口を叩いたがどうやら本当のことらしく、先ほど厠を借りた時、気づけば手元にあって情けない悲鳴を上げたのは内緒だ。

 

「それで、その……どうしても帰れないんですか?俺」

 

「ええ、申し訳ないのだけれどね。こちらの決まりごとなの。ただ、例外を言うならその刀が貴方を拒絶すれば、なんて言うのも無くはないわ」

 

帰れる可能性あるやんけ!

 

「どうすればいいんですか!?」

 

つい食い気味に質問すると笑みのはずなのに何処か黒い雰囲気を纏った紫さん。

 

「そうね、その刀をへし折ったりとかね。……ただ、言ったと思うけどそれは"こっち"側の刀よ?タダで済む保証はないわ」

 

「辞めときます」

 

「へたれ」

 

へたれちゃうわい、命を大事にしてるんです、ぼかぁね。

 

「あら、それはよかったわ。それに貴方もここに居ることは別に満更でもないんじゃないかしら?」

 

「……まぁ、そりゃ憧れの場所ですから」

 

「ふふ、そう」

 

何処か嬉しそうに笑う紫さんに何か見覚えが?なんだっけか?こう言うの、デジャヴ?

 

「それで、あの俺は何処に住めば……?」

 

「そうねぇ……ここでいいんじゃないかしら?」

 

「ちょっと、紫?」

 

「へ!?」

 

なんと仰いましたか?

 

「いいじゃない別に?……結構なお金入れてもらってるみたいだしね?」

 

「……はぁ、まぁ少しの間ならいいけど」

 

「ちょちょちょ、チョット待って下さい!!」

 

つい片言になったのはしょうがないだろ?だって、この神社に住まわせてもらうって事は……

 

「ああ、それと幻想郷と外の世界の通貨は違うけれど、両替しとく?」

 

「あ、お願いします……じゃなくて!」

 

「紫、これも変えて置いて」

 

霊夢がほいっと1万円札と500円玉を渡すのを見てなんか、うーん……となるが今重要なのはそっちじゃない!

 

「不味いでしょ!女の子と男の俺が一緒の家は!」

 

「あら、何か私にする気?」

 

興味なさげに両害されたであろうお金を数えてる霊夢。いや、現金すぎん?

 

「大丈夫よ?多分貴方じゃ霊夢に勝てないわ。……力でもここでのルールでもね?」

 

「ここでのルールって、さっき言ってた"弾幕ごっこ"……ですか?」

 

「正解よ、まぁ取り敢えずお金ちゃっちゃと出しちゃいなさいな」

 

「あ、はい」

 

……なんか流されてるような気もするけど、取り敢えずとお財布とリュックに入れてもいた全財産を取り出す。

 

「………ねぇ、少しばかり聞きたいのだけれど」

 

「はい?」

 

「貴方って外の世界では所謂、寺小屋の子よね?」

 

何処か引きつった感じの紫さん。てか寺小屋て。

ふっるい言葉だけど寺小屋=学校でその寺小屋の子ってことは学生か?って事だよね。

 

「そうですけど……」

 

「……何でこんなに持ち歩いてたの?」

 

「あー……それですか」

 

紫さんの手元にある自身のお金は俺の今までの全財産であり、銀行に預けていたものも全て引き出していた。

わかりやすく言うと7桁とその半分くらい。

何で持ち歩いてたかって?修学旅行中に家出して親に対して反抗するためのとか口をさけても言えないね!!

 

「まぁ、バイトとかもありますけど、何より内職的なことをしてまして、はい」

 

「ま、まぁいいわ。……これだけあったらこっちなら5〜6年は遊んで暮らせるわね」

 

ちょっと待っててね、と言って穴に入り何処かに消えていく紫さん。

さてお茶でも飲んじゃおうかと、顔を霊夢の方に向けるとすっごい良い笑顔の霊夢さんがおりました。

 

「……何さ?」

 

「私の好きな言葉はお賽銭とタダメシよ」

 

………ホントに巫女なのか?この子。

 

「まぁ、お世話になるから一定額は入れるし、家事全般は任せてもらって良いよ」

 

「……このまま、ここに住まない?」

 

「ホントに巫女なの?」

 

 

 

 



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4話 生活感のギャップ

 

 

 

 

 

 

「はい、おまたせ。これで両替分よ、確認して」

 

「あ、紫さん、どうもありがとうございます。……って何この札束!?」

 

「レートは外の世界のお金が10に対してこっち側が1だから感覚的には10倍くらいね」

 

「……そんな大金になるんですか、外のお金」

 

「ええ、なんなら貴方の持ってるその荷物の中身、要らないなら"香霖堂"で売ってしまいなさいな。外の物は高値で引き取ってくれるわよ?」

 

「……ねぇ、信さん?」

 

「……何さ?」

 

「私、玉露が飲みたいわ」

 

「もう巫女やめちまえ」

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

紫さんから替えてもらった現金を数えてメモして置く。えっと……読み方は一緒なのかな、一万円札に五千円札、千円札に知ってる数字が書かれた硬貨。違うのはデザインやらなんやだけだな、ホント。

取り敢えず家賃は一月これくらいで、食費とかも考えて纏めてこれくらいかな?

 

「霊夢?」

 

お茶を啜る霊夢に声をかけるとぽけーっとした表情で見返される。……初対面の印象からどんどん変わって行くなぁ。

 

「何?」

 

「これ、取り敢えず渡して置くね。食費とか家賃諸々」

 

お金を手渡すと最初は余り驚く様子は無かったが、手に取った金額を見た瞬間カチンと固まる霊夢。……す、少なかったかな?

 

「えと、足りないようなら言ってくれれば……」

 

「いくらなんでもこんなには貰えないわよ!!」

 

「うぇ!?」

 

バシンと渡したお金の半分以上を卓袱台に叩きつけて怒る霊夢につい変な声が出てしまった。

 

「あら、霊夢がお金のことでそういう風に言うのは珍しいわね?」

 

ずずーとお茶を啜る紫さんが何処か意外そうに呟くが、霊夢本人はそれどころでは無いようでして。

 

「そりゃそうよ、こんな大金みるのも初めてよ!!いくら私でもこれからこき使う相手からはこんなには貰えないわよ!」

 

「そ、そんなに多かったかな……ん?」

 

こき使う?え、家事全般の事だよね?

 

「なら、これは返してもらおうかなぁ……」

 

と、テーブルに置かれたお金を受け取ろうとするとパシッと霊夢に手を掴まれる。

 

「えっと、霊夢さん?」

 

「けど、アレよ。貰ったものを返すのは失礼よね、うん」

 

「それでこそ霊夢よ」

 

うんうん、と頷く紫さんを横目に何処か焦った感じの霊夢を見て、だんだんとこの人たちの性格やらが見えてきた気がする。

 

「はぁ……えっと時間は今、お昼か?なら昼食作るよ」

 

「ええ、お願い」

 

「うん、台所はそっちだよね。食材とかは適当に使って大丈夫?」

 

頷く霊夢を見て了解と答え、そのまま昼食を作りに向かうと、うわぁ……家電のかの字も見れない古めかしい台所だ。

 

時代でいうと明治くらい?これが現代っ子と幻想郷の住人のギャップか……まぁ爺さんの家で使ったことあるから大丈夫だと思うけど、取り敢えず何があるのやらと適当に漁ってみれば川魚に味噌、漬け物やら日本食の鏡みたいな物ばかり。

 

取り敢えず米炊いて、魚焼いて……あと夕食にも使えるようにここら辺で適当に煮物とか作っちゃうか。

 

ボケーっと調理しながらふと考えるのは、あれ?何でこんなに俺は馴染んでるの?とか結局、霊夢と少しの間でも一緒に生活することをナチュラルに受け入れてる自分に違和感を覚えたりと、様々な事が巡ったけど。

 

「来たんだよなぁ、幻想郷」

 

まだ来たばかりというのはあるだろうけど、それでも何処か旅行に来たような感覚に心踊ってるのは真実であって、帰れないと言われたのに心の何処かでは納得してるし、不思議な事もあるもんだ。ただでさえ引きこもりと面倒くさいが信条、とまで言われた俺がこんな事してるんだもんね。

 

っとと、焦げる焦げると。

 

パパッと作り終え、米もいい感じに炊けてきたタイミングで煮物も出来上がる。

大皿に煮物、小鉢に漬け物を入れてっと……これでオッケーかな。

 

「はい、お待ちどうさま」

 

居間に戻るとゴロンとした霊夢と刀を見てる紫さん。……おい、巫女服でそんなゴロゴロするとみえるぞ

 

「……視線がなんかやらしいわ」

 

気のせいだ。

 

 

 

______________________________

 

 

 

「ご馳走さま」

 

「ふぅ、信さんご馳走さま」

 

「はいはい、お粗末さま」

 

思ったよりも好評のようで、特に煮物の受けが良かった。なんでも味付けが変わってて箸が進んだらしい。

 

「うーん……炊事洗濯事はキチンと出来てるわね……ねぇ、霊夢?やっぱり信はウチにくれない?」

 

「ダメに決まってるでしょ」

 

「あの……それ以前に俺に決定権はないの?」

 

食後のお茶を啜りながらそんな話をしている2人につい突っ込む。いやあの……所有権がどうたらって何さ?

 

「さて、それじゃ私はそろそろ行くわ。霊夢、さっきの事ちゃんと教えてあげるのよ?」

 

「はいはい」

 

「?」

 

「それじゃあね?また会いましょう」

 

ヒュンとあの穴、スキマというものに消えて行く紫さんを見送りつつ、霊夢に視線を送る。さっきの事って?

俺の視線を受けて気づいたのかああ、と言って俺の方を見返す霊夢。

 

「さっき言ってたでしょ?弾幕ごっこよ」

 

「……名前からして物騒だよねそれ」

 

「まぁ、否定はしないわ」

 

してよ。

 

「信さんにも霊力はあるし、多分出来るわよ」

 

「そうなのか?……っていうか気になってたんだけどさ、何故急にさん付け?」

 

呼び捨てじゃなかった?

 

「嫌?」

 

「え、そんな事はないけど」

 

「なら気にしなくていいわ、それよりほら行くわよ」

 

すっと立ち上がる霊夢について行けば先ほどの神社の表へと連れて行かれる。

 

「何するのさ?」

 

「だから弾幕ごっこ……と言っても相手はいないのよね……?」

 

そう説明してる中、急に霊夢がふと斜め上の空の方を見つめ出した。

 

「?」

 

「……いつもは兎も角、タイミングいいわね」

 

霊夢の目線を辿って空の方をじーっと見て見れば何やら黒い点のようなもの?がみえる……というか

 

「近づいてくる……?」

 

「ええ、まぁ私の腐れ縁みたいなものよ」

 

……は?

 

次の瞬間、俺が目に捉えたのは白と黒の服装をして箒に跨って飛ぶ……まるで魔女だった。

 

 

 

To be continued……?

 

 

 



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5話 弾幕ごっこと魔女と巫女さんと。

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちわ、魔理沙」

 

「げ、スキマ妖怪!?」

 

「いきなり酷いわね、貴女」

 

「お前に関わるとロクな目に遭わないからな」

 

「……そんな事より、今日は博麗神社に行かないの?」

 

「霊夢のトコに?今日は別に行く予定はないぜ?まーた、なんかまた企んでんのか?」

 

「さぁね、……ただ今行くと少し面白いものが見れるかも?なんて」

 

「ほーん?まぁ、いいぜ。どうせ暇してたところだし、お茶の一杯でも貰いに行くかな」

 

「(扱いやすい子ねぇ……)ああ、それとスペルカードも持って行くといいと思うわ、それじゃあね?」

 

「スペカ?なんでまた……ってもういないし、本当によくわからないやつだぜ。まぁ行ってみればわかるか?」

 

 

 

______________________________

 

 

 

ヒューーーーンともう音が聞こえるくらいには凄い勢いで飛んでくる飛翔物体Aが明らかにここ、博麗神社に着陸しようとしている。

そんな中呑気に腕をぐるぐると回して準備運動をし始める霊夢を見比べて質問する。

 

「何あれ?」

 

「だから腐れ縁」

 

ぐっぐっと腰を伸ばしながら答えられ、へーともう一度向かってくる飛翔物体の方に目をやると

 

ドーーン!!!

 

なんて音と衝撃と共に着地したのは霊夢と同い年くらいの白黒を基調とした服にエプロン、大きな帽子に金髪で片手に今乗ってきた箒を肩にかけつつ、ニッと歯を見せながら笑った。

 

「よ!遊びに来たぜ」

 

「まぁ、今日はナイスタイミングよ魔理沙」

 

「は?なんだなんだ?歓迎するなんて熱でもあるのか?」

 

大丈夫か?なんて言いながら霊夢の顔をじっと見つめてる辺り本当に心配してるのがわかる。……あ、また霊夢の顔に青筋立った。

 

「ぶっ飛ばすわよ?」

 

「おお、それでこそ何時もの霊夢だぜ。……お?」

 

よかったよかったと胸を下ろす魔法少女と目が合う。……まぁ今の今まで君の着地の勢いで吹っ飛ばされてたから気づかないのも無理ないさ。

 

「お前がスキマ妖怪の言ってた面白いものか?……成る程、こりゃ珍しいな」

 

「やっぱり紫の差し金ね、あまりにもタイミングがいいと思ったわ」

 

「まぁな……っとと悪いな、ほれ」

 

尻餅を付いていた俺の前まで来て、スッと手を差し出してくれたので取り敢えず好意に甘えて立たせてもらう。いや、本当に凄い衝撃だったんだよ?別に腰が抜けて立てないとかないよ全然ないよ。

 

「そんじゃま、自己紹介からだな。私は霧雨 魔理沙、普通の魔法使いだぜ、よろしくな?」

 

「あ、こりゃ丁寧に、俺は依白 信だ。好きに呼んでくれて構わんよ、今日からここで生活する事になった幻想郷の新入りだ、よろしくな」

 

握手しながら軽く自己紹介。うん、何となく気軽に話せそうな子だし、何なら気が合いそうだから特にテンパる事もなかったな。

 

「ここに住むのか?そりゃ驚きだ、あの貧乏性で慈悲もない霊夢が良くオッケーしたな」

 

「そ、そんな事ないと思うぞ?」

 

後ろでクッソ睨んでる巫女さんを見て冷や汗を流しつつ、ガハハと豪快に笑う魔理沙をみてこりゃ大物だなと思ったり。

 

「で、霊夢?何がナイスタイミングなんだ?」

 

「そうねぇ……、私がアンタをボコるのに丁度良かったって事よ!」

 

急にバッっと手を上げた瞬間、霊夢の手から何かが放たれた。

 

「うぉ、あぶね!?」

 

それをひょいと避ける魔理沙。そしてその後ろにいる俺。

 

「ぶっ!!!」

 

「「あ」」

 

顔面に何が当たり、そのまま石の道と再会を果たす。ああ、無機物は優しいなぁ……こんな俺でもそっと受け止めてくれる……。

 

「……ちょっと大丈夫?」

 

「なんか凄い凹んでないか?信のやつ」

 

ははは……と自傷気味に笑いつつ、立ち上がり平気だと伝える。

 

「で、信さん今のが弾幕よ」

 

「?どれさ」

 

「今さっき信の顔面にぶつかった奴だぜ」

 

そういえば何が飛んで来たのか、分かんなかったけど、確かに霊夢の手から発射されたように見えた。

 

「コレよ」

 

霊夢が手本を見せるように軽く空に向けて光る何か、弾を撃ちあげる。

……こりゃ凄い、本当に名前の通り弾幕じゃないか。

 

「……凄いな、本当に。正直な事を言うと半信半疑だったんだ、霊力とかそこら辺」

 

「わかってるわよ、外の人間は固いしね」

 

いや、むしろ言葉だけで信じる方がヤバくない?外の世界がこんなのCGだ何だオカルトだーなんて言われてお終いだろうし。

そんな話をしてると魔理沙が成る程なーなんて言いながら、何かを取り出す。

 

「紫の奴がスペカを持ってけって言った意味がやっと分かったぜ。"そう言う事"だろう?」

 

ニヤリとトランプよりも大きめのカード?の様なものを見せつけるように、霊夢を見せると霊夢の方も少し気だるげにポケットから似たカードを取り出す。

 

「そう言う事よ、信さんは弾幕ごっこのルールとか含めて"ここ"の事はまだ何も知らないからね」

 

「なら見せて覚えさせてって事だろ?」

 

「あら、本当に察しがいいじゃない」

 

「カードは3枚でどうだ?」

 

「ええ、それでいいわ」

 

気づけば2人は何かのルールを決め始めていた。……これから何が始まるんです?

 

「信さんは取り敢えずそこで見てて」

 

そう言って霊夢は浮いて……って

 

「ちょ!霊夢さん!?何で飛んでるの!?」

 

「何言ってるの、信さんも飛べるでしょ……ってそっか、霊力の事とかも何も説明してなかったっけ。……面倒くさいから取り敢えず見てて」

 

「ちょ、ちょっと待って?俺も飛べるの?ていうか面倒くさいって!?」

 

「まぁ取り敢えず、見とけって?これから信もやる事になるだからさ」

 

魔理沙からの言葉にとりあえずは頷き、危ないから離れてと言われ、大人しく従う。

 

「お、おう、離れとくわ」

 

「じゃ……」

 

「いくぜ?」

 

……そこから始まったのは想像通りだけど、それ以上に凄いというか、名前の通りの光景が広がっていった。

 

空中で放たれる果てしない量の弾を避けたり、時には当てて消したりと忙しなく、泳ぐ様に駆ける2人を首を上に固定したまま目で追いかける。

この光景を見て名付けるとしたら

 

「『弾幕ごっこ』……だよねぇ、確かに」

 

霊夢が放つお札の様な赤い弾幕と魔理沙の放つ星の様な形の黄色い弾幕は当たったら痛そう何て感想も抱くけれど、それ以上に綺麗なこの時の光景と2人の余りにも楽しそうな表情を見て、この弾幕ごっこなるものに惹かれていたんだと思う。

 

とは言え2人のこの動きに変化はなく、このまま平衡を保つのかと思っていた。……とここで動きを見せたのが魔理沙で懐から先程のカードを取り出すのが見えた。

 

「いくぜ!"魔符 スターダストレヴァリエ"!」

 

カードを掲げながら何かを叫んだ瞬間、先ほどとは、似ても似つかない勢いの弾幕が放たれた。最早それは弾幕というより星のカケラを降り注いぎ、散らした様に俺には見えた。

こんなの避けるのは無理だろうなんて、考えつつ霊夢を見ると涼しい顔でひょいひょいと避けていた。うそん…….。

 

「じゃ、次は私ね"霊符 夢想封印"!」

 

サッとカードを取り出し叫ぶと同時に、霊夢の周りから囲む様に赤い弾幕が魔理沙の弾を消す様に迫る。

 

「げ、いきなりそれかよ!?」

 

これまた見事にチョン避けで魔理沙の方を避ける。君たちどんだけ反射神経いいのさ。

 

その攻防は暫く続き、軈て魔理沙の被弾によって一度終幕を迎えた。

 

「くっそー、ミスったぜ」

 

「よそ見したからよ」

 

軽く身嗜みを整えながら地面に降りてきた2人はどうだった?できるだろ?と目線で俺に聞いてくる。

 

…………うん。

 

「無理っす」

 

「そうか?慣れちまえば簡単だぜ?」

 

「取り敢えずは飛ぶ事から始めましょ、信さんは霊力だし飛ぶのは私が教えた方がいいかしら。魔理沙は弾幕の方ね」

 

「しょうがねぇなー」

 

なんて言いながら、いざスタートするのは霊力の使い方。

 

いやー口では無理だ何だと言ってるものの、憧れの非日常、しかも厨二心踊る霊力に魔法?サイコー!マジサイコー!!

 

………なんて考えてた甘い自分をぶちのめしてやりたい。

 

 

______________________________

 

 

30分後くらい。

 

「……これは」

 

「……まぁ、なんだ」

 

何処か気まずそうに目を逸らす霊夢と魔理沙。ああ、いやわかってたさ、急になんでもかんでも出来て、天才肌俺強プレイは2次元の主人公キャラクター特権だって。

 

「……………」

 

「「才能なし」」

 

「………そんなこったろうと思ったよ!!」

 

ビックリする程何も出ない自分を呪いながら、バンッ!と地面を叩き項垂れる。

 

何?何なの?なんで弾を2、3発撃つだけで俺の霊力消えるわけ?世の中ハードだけなの?イージーな世界の扉は何処?ここ?

 

「あー、まぁ落ち込むなよ?空くらいは飛べる様になってるし、まだまだこれからだぜ!」

 

「……………って言ってた」

 

「あん?」

 

俺の言葉が聞き取れなかったのか近づいて耳を向けてくる魔理沙。

 

「霊夢が空を飛ぶくらい地面を走るのと変わらない当たり前のことよ?って言ってた」

 

「霊夢……」

 

「何よ」

 

あちゃーと顔に手を当てて、霊夢に何かを訴える様にする魔理沙だが、霊夢は何のその。当たり前のことじゃないと言いたそうな顔だ。

 

「当たり前のことじゃない」

 

言ってた。

ずぅーーんと落ち込んだ俺を哀れに思ったのか少し慌てた感じで、魔理沙がフォローしてくれる。何この子めちゃくちゃいい子やない?

 

「わ、私だって箒使わなきゃ飛べないんだぜ?それに比べて信は何も無しで飛べるじゃないか!」

 

「でもアンタ無しでも飛べなかった?」

 

「おい!!私のフォロー全部無駄にすんな!」

 

「はははは………」

 

もういい、歳下のしかも女の子に慰められるとか死にたくなるから。

 

「っていうか霊夢は"能力"で簡単に飛べてるんだろ?信は純粋な霊力だけだし……」

 

「アンタも魔法を使って飛んでるから同じじゃない?」

 

「……言い返せないぜ」

 

ほら見たことかという顔の霊夢に苦虫を潰した様な魔理沙の会話を聞いていて、儚さと尊さと切なさを感じながら何か違和感。

 

「……能力?」

 

「あ、そうか、まだそれの説明もしてないのか?」

 

「ええ、そもそも信さんに能力あるかも怪しいしね、下手に期待させるのも可哀想じゃない?」

 

グサ

 

「あ、また萎んだ」

 

「いいさ、いいさ、どうせ俺はそこら辺に生えてる雑草並みに使えないゴミクズですわ……」

 

「面倒ね、信って」

 

霊夢さんは容赦ないっすね、ははっ。

 

そんな事もありつつ、"能力"について教えてくれる。

何でもここの住人たち、一部とは付くものの"〜〜〜〜程度の能力"という固有の力があるそうでして。なんでも霊夢なら"空を飛ぶ程度の能力"、魔理沙は"魔法を使う程度の能力"と言うものが備わってるという事。

 

「他にも時を止めるやつとか、奇跡を起こしたりする奴もいるんだぜ?」

 

「何それかっこいい」

 

「そうか?」

 

外の世界の友人(オタク)たちに聞かせて見せてやりたいくらいにはカッコいいですたい。ていうか、もう字面からカッコいい。

 

「能力……能力かぁ……」

 

「なんかすっごい目が輝いてるな」

 

「まぁ、夢を見るのは自由よ」

 

シャラップ霊夢。

 

「んで、どうやってその能力って分かるの?」

 

「ああ、そりゃ色々と調べる手段はあるんだが、ここだし霊夢に頼むのが早いんじゃないか?」

 

「……まぁいいけど」

 

うわ凄いダルそうな顔してるよ。

はい、と渡されたのは一枚の紙……?

 

「これってさっき言ってたスペルカード?」

 

「んにゃ、それとはまた別モンだぜ」

 

「そこに信さんの霊力通して見て。……やり方はそのお札を触ったまま、軽くね」

 

「お、おう」

 

「白紙なら能力無し、文字が出てきたら御の字ってな。まぁ気軽にやってみろよ」

 

なんて言われたとは言え、あった方が嬉しいし、何よりさっきの説明にあった妖怪に襲われた時の対処にも使えるかも?ってのも魅力的だ。……なんか緊張してきた。ついお札とは反対の手で良いところにあった刀の持ち手をグッと掴む。

 

「……実際のとこ、信には能力ありそうか?」

 

「……あるわけ無いでしょ、外の人間で偶々運悪くここに来て、それで能力持ちなんていったら"どれだけの不運"なのよ」

 

「……あー、まぁ能力がもしあったら正真正銘外には帰れないからなー」

 

「……ま、大丈夫でしょう。……?」

 

 

何やらコソコソと2人が喋っているが、今大事なのはそんな事じゃない、俺の能力があるかどうか。神様仏様、頼むからたまには俺にも微笑んで……!!

 

何か、霊力が俺からすーっと抜けて、右手の指先からお札に移っていくのを感じる。

 

「お?」

 

軽く閉じていた目を開けてみれば、其処には達筆な文字の羅列があった。

……もしかして?もしかしちゃう!?

 

「……マジか」

 

「嫌な予感はしたのよね、はぁ……」

 

「え?なんで2人ともそんなに可哀想な物を見る目で俺のこと見てるの?」

 

まるで実験に使われるモルモットを見て"何も知らないのね、可哀想に"とでも言いたそうな目をしているのは何故?

 

「兎に角、どんな能力なんだ?」

 

「見せなさい」

 

「あ、ちょ」

 

まだ俺の読んでないんですけど……

ぱしっと俺の手元からお札を抜き取り読み始めた霊夢は何処か疑う様な目をしている。

 

「それで俺の能力は?」

 

「"依代に成り得る程度の能力"ね」

 

何そのカッケー字面。

 

「ほーん、どっかの月の妹みたいな能力だな?」

 

「まぁね、ただ違うのは神霊じゃないって所かしら」

 

「取り敢えず使ってみろよ」

 

「ええ、それが早いわね」

 

はい?

 

「え、あの?えっと」

 

「何だよ、勿体ぶるなよ?」

 

「とっとやっちゃいなさい」

 

早くしろと急かしてくる2人だが、それより俺の方が焦っている。

いや、あの

 

「どうやって使うの?」

 

「「は?」」

 

物凄くマヌケな顔を晒した霊夢と魔理沙に対して困惑したワイ。

 

何とも言えない空間が其処には広がってだそうな……。

 

 

 

To be continued……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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6話 能力と刀と弾幕ごっこ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでさ」

 

「ん?」

 

「何で魔理沙は俺を見た時、一目で紫さんが言ってた面白いモノってわかったんだ?」

 

「そりゃ簡単さ、服装だよ服装」

 

「服?」

 

「ああ、そんな服はこの幻想郷じゃ見ないし、外来人って一発さ」

 

「成る程……ん?って事は霊夢も俺が外来人って初見でわかったのか?」

 

「当たり前よ」

 

「……なら何故話を聞いてくれなかった?」

 

「私、只働きって言葉がこの世で一番嫌い」

 

「……」

 

「いや無言で私に訴えられても何も言えないぜ……」

 

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

前回までの三つの出来事!

 

1つ、俺は無能(バカ)

1つ、弾幕ごっこ?センス無し

1つ、そもそも能力ってどうやって使うのさ?

……なんてふざけて見るものの、なんでも霊夢たちは俺の能力に似たような能力を知ってるみたいで、どの様な効果なのかくらいは予想できたらしく、早速教えてもらおうとしたんだけど。

 

「それじゃ、いくわよ」

 

「気合い入れろよー!!」

 

「なんで?」

 

我、神社上空に霊夢と相対する様に飛んでいるわけでして。

神社の賽銭箱の横に腰掛けた魔理沙からの声援を受けつつ、何故にこんな状況なのか思い出す。

 

「さて、それじゃまずはイージーに、ね」

 

「うぉ!ちょっ、ま!?」

 

ヒュンヒュンと飛んでくる弾幕を情けない声と身振りで何とかよける。思い出す暇すらくれないのね!?

 

「どうせ"なんでこうなった?"とかくだらない事考えてたんでしょ?」

 

「だからなんで心読めるの!?」

 

「わかりやすいだけよ」

 

なんて軽口叩いているが、弾幕は休む事なく飛んでくる。

何でこうなったかというと、霊夢のもう面倒だから実戦での一言から、あれよあれよで気づけば初弾幕ごっこデビュー。

 

「ほら、信も打ち返しなさい」

 

「だから!俺!二発が!限界!!」

 

「なっさけないわねー、根性見せなさい」

 

「無茶苦茶!?」

 

そんなことを言われつつも必死に避ける。気のせいか段々と目が慣れてきてるような?

 

「あら、意外と避けれるじゃない?」

 

「逃げ足だけは得意だからね!」

 

「ふぅん、ならノーマルよ」

 

「へ?」

 

すちゃっと霊夢は懐からお札を取り出して……ってちょ!!何その弾幕の量!?戦いは数なの!?

 

「ちょ!まって!!いきなりは!無理!!」

 

「次いくわよー」

 

「はい??」

 

そう言って今度はなんか見た事あるカードを取り出す霊夢……ていうかそれって

 

「"夢符 封魔陣"」

 

ギュッと赤色と白の丸い弾幕があっという間に俺を囲み、迫ってくる。………すぅと思い切り肺に酸素を取り込み、悲鳴をあげる準備完了。

 

はい、3…2…1。

 

「スペカァァァァ…………………」

 

「あ、落ちた」

 

「情けないわね、本当に」

 

そんな魔理沙と霊夢の声が聞こえて意識を手放した。

いや、弾幕ごっこ初心者にいきなりスペルカードはずるいでしょ。

 

 

______________________________

 

 

弾幕怖い超怖い。なんなんあの光る玉は?結構痛いし、何より避け切れるほどの量でもない。

 

「……もうやだ弾幕やだ……」

 

「……情けないなぁ」

 

「………?」

 

あれ?

 

ふと目を開けると真っ白空間。何これ、こんな空間、異世界転生の神さま(アニメ)と会う時か、己の精神世界みたいな設定でくらいしか見たことないぞ?俺、さっきまで空中にいて、そんで落とされて……?

 

てかなんか女の子の声が?と横を見ると。

 

「……………………」

 

「やぁ」

 

"青い"リボンに白と"青"の巫女服。感じ良さそうにハニカミながら、寝そべってる俺の横でしゃがみながら挨拶をしてくるこの少女は。

 

「れ、霊夢?」

 

どう見ても霊夢なのだが、紅白の紅が青に変わり、あのぶすっとした顔が何処か人懐っこそうな表情を浮かべるまるで別人が其処にはいた。

 

「違うよ?」

 

違うらしい。じゃなに?ドッペルさん?

 

「さて、いい機会だからこっちに呼んでみたんだけど、思った通り面白いくらい混乱してるね」

 

クスクスと笑う霊夢もどきさんに、凄い違和感。何かこうしてると美少女なのになんで赤い方は"ああ"なんだ?

 

「そりゃ、私とこの借りた姿の子は性格含めて育ちも環境も違うからね。何より私は人じゃないし」

 

あ、そうなんですか。こりゃ丁寧にどうも。

 

「いえいえ、私は君に助けてもらったしそれくらいはね」

 

助けた?なんの話………あれ?

 

「まぁ、こっちの方だと喋れるけどアッチだと話せないしね」

 

「いやいや!そうじゃなくて!いやそれも気になるんだけどさ!」

 

「落ち着きなよ?別に私は逃げたりしないから」

 

え、えとはい。

そう言われて一度深呼吸と頭を空っぽにして落ち着く努力をする。

なにが面白いのか、そんな俺を見ながらニコニコとしているこの子は何者?

さてはて、落ち着きを取り戻した俺も見て少女は口を開く。

 

「落ち着いたみたいだね?……うん、それじゃ一つずつ質問して」

 

そう言って聞き手側に回ってくれる。

 

「えっと、それじゃまず最初に。……君は何者?」

 

「私は君のモノだよ?」

 

「そっかー、俺のモノかそうかそうかぁ!?」

 

「ふふ、落ち着きなって」

 

いやいやいや、今の聞いて落ち着けるほどの精神力は俺には無いよ!?なに?いつの間に俺はこんな美少女をゲットしてたわけ!?

 

「あ、そもそも私は人じゃ無いからね?」

 

「は?え?は?」

 

「ホントに面白いねー、君」

 

待て待て、落ち着け餅つけ俺。

 

状況整理しろ、クールになれ。

 

この子はなんて言った?

俺のもの?いや待て落ち着け、そんないやらしい意味じゃ無いはずだ、ならなんだ?そもそも人じゃない?なら何?こんな可愛い女の子が人間のはずがないって?はははなにそれうけるー!!!

 

「もうそろそろ、いいかい?」

 

「あ、どうぞ」

 

少しムスッとされて、つい正座する。俺ってば小心者に定評のある一般人だからね☆

 

「まず、君の心の声がわかる理由ね?それは君の精神と私がくっついて一種のシンクロ状態だから」

 

What?

 

「次に私がなんでこの姿なのか、それは君、依白信の中にある記憶から私が適当にピックして、借りてるから」

 

??????

 

「そして私は何者なのか、だよね」

 

「お、おう」

 

「君が助けてくれた刀だよ、私は」

 

……………

 

「………?おーい?」

 

………………………

 

「ありゃ、理解できる範疇を超えて固まっちゃったか。まぁ無理もないかな」

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

「………っは!?」

 

「あ、もう大丈夫?」

 

「え、ああ、うん」

 

「ん?思ったより落ち着いてるね」

 

なんかもう……色々慣れ(諦め)始めたからね、うん。

 

「ふふ、そっか。なら続けるよ?」

 

あ、はい。よろしく……の前に。

 

「ん?」

 

「君は俺の名前知ってるんだよね?」

 

「そりゃね、君は私のご主人様みたいなものだし」

 

お、おう、ちょっとその言い方はグッとくるな……じゃなくて!

 

「なぁに?ご主人様」

 

やめい!!

 

クスクスと笑ってるところを見るに、どうやらからかわれている様だ。さては性格悪いな?

 

「取り敢えず、俺の名前を知ってるのは別に構わないし、好きに呼んでくれていいけどさ」

 

「そう?ならシンよろしくね?」

 

「あ、うん、よろしく。……じゃなくて!君の名前は?俺、なんて呼べばいいのさ」

 

「私の名前、名前かー」

 

その質問を俺がした瞬間、何処か悲しげになったのは気のせいか?気づけば先ほど通りのにこやかな笑みに変わっていた。

 

「私は、そうだね……『無銘』(むめい)って呼んで。今はそれが名前だから」

 

「む、無銘って名無しって事か?」

 

「んー、まぁ遠からずかな。兎に角それでよろしく」

 

すっと手を出され、握手を求められる。

……何かはぐらかされた?聞かれたくなかった事なんだろうか。

 

「ま、そういう事だよ」

 

あ、そっか心の声聞こえるんだっけか、ごめん。

 

「気にしないで、それより聞いたいんだけど」

 

ん?………え、なんか怒ってる?

 

先程までのにこやかな笑顔は変わっていないのだが、何処か黒味を帯びた様な?というか目が笑ってない。

 

「なーんで、シンはさっきの弾幕ごっこで私を使わなかったのかな?かな??」

 

「あ、や、え?」

 

「ねー、なんでかなー?」

 

グイグイとほっぺたを引き延ばされる。ちょ、力強っ!

 

「あ、あの、ちょ、痛い!痛い!」

 

「ほーら、早く言い訳してよー、ほらほらー」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!そもそも弾幕ごっこで刀とか使っていいの!?」

 

と言うとピタッと俺の頬を使う手が止まり、真顔になる無銘。え、何か変な事言った?

 

「もしかして、私を使わなかったんじゃなくて、使えなかったの?」

 

「え、えと、そもそも俺は剣なんて降った事は殆どないし……そもそも"弾幕"ごっこなのに近接武器使っていいのか?」

 

「………はぁ」

 

え、なんでそんな呆れた声だすの?

やれやれという風に、頭を振る無銘になんかイラッとしたが、まぁいい。そっちの言い分を聞こうじゃないか。

 

「あのね、そもそもなんでシンは私を抜けたか分かる?」

 

「?刀なんだから抜けて当たり前だろ?」

 

「……むぅ、何だろうこんな扱い初めてだからちょっと新鮮で楽しい気もする」

 

はぁ?なんのこっちゃ?

 

「まぁ、取り敢えず軽く説明してあげるから、次は私の事ちゃんと使ってね?」

 

「あ、ああ、了解」

 

さて、そんな事で俺の持ち物に、いつのまにか加わっていたこの日本刀、無銘から受けた説明は結構単純な物だった。

 

まずこの刀は俺以外の人間が抜く事すら出来ず、そもそも扱うのは不可能らしい。

紫さんが抜いてたじゃんと言うと"それは貴方が抜いたまま、渡したから"だそうです。

 

次に何故扱えないのか、"私、浮気癖ないもん"との事。

刀が何を言ってるんだ?と返すと"その主人が他の子(刀)にうつつを抜かしたりしたら、手元が狂うかも……"なんてニッコリと言われて冷たいものが走ったが、まぁそれは置いておこう。

 

んで、重要なのはここからで。無銘の能力について。

 

「私自身の刀身には主の求めるモノを"喰い切り裂く程度の能力"があるんだよ。つまり弾幕もシンが求めれば切れるって事」

 

だ、そうです。まぁこれに関してはそもそも知らなかったし、と言い訳させてもらうと渋々と許してくれた。

 

「まぁ、私の事これからちゃんと使ってくれるならいいけど……」

 

何処か不貞腐れるように呟くのはやめてくれ、見てくれは霊夢だからすっっっごい違和感あるから。

 

「でも、この姿なのはシンの為だよ?」

 

はい?

 

「だって貴方、巫女萌えでしょ?」

 

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

 

「え、あれ?違うの?」

 

「ぎゃ」

 

「ぎゃ?」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!???」

 

なんで俺のトップシークレットを!?これに関しては友人Aや、両親だって知らないはず!?

 

「そりゃ私のこの知識や、言葉遣いなんか全部シンの記憶からコピーしたものだからね?」

 

「ちょちょちょちょ」

 

「にしても今の時代の男の子は業が深いね?神に仕える巫女に欲情の念を覚えるとか、中々に罰当たりだよ?時代が時代なら打ち首さ」

 

あばばばばばば、俺の記憶をコピー?ななな何でそんな無慈悲な事を?て言うかどうやって?

 

「もぅ、さっきも言ったでしょ?私とシンは精神的にリンクしてるって。そりゃ色々見たよ?机の二重底の下の本とか……1週間に4回は多いなーとか」

 

よし、死のう。

 

「あ、待って待って!私が悪かったから!」

 

舌を噛み切ろうとした瞬間、慌てて無銘が俺の口を手で押さえてくる。

 

ええい!離せ!!純情な俺の心を踏みにじりよって!!もう生きてけない……死のう。

 

「だから待ってよ!貴方が死んじゃうと私も消えちゃうんだって!」

 

「はい?」

 

そんな事を言われ、つい力が抜ける。

 

「はぁ……何で本気で死のうとしてるの?」

 

何処か呆れた風に言われるが、そりゃそうでしょと言いたいのをグッと我慢し、疑問を聞く。

 

「ああ、私とシンが運命共同体って所?」

 

それそれ。

 

「うーーん………メンドくさいから簡単に説明すると、私がこの世界にいる為には、私自身を顕現させ続ける依代が必要なんだ。でもそれは色々あってもう見つからないって諦めてた所に、貴方が現れた訳」

 

あ、あの祠?

 

「そうそう、びっくりしたよ?数百年ぶりに人にあったと思ったら、ひょいひょいとお札破っちゃうし。というかまさか、私の宿る事が出来る人だとも思わなかったし」

 

あ、それについては俺の能力とやらが。

 

「わかってるよ、流石にただの人なら私に触れる以前にあのお札で呪い死んでただろうし」

 

なにそれ聞いてない。

 

「あ、やっぱり無自覚?そりゃそうだよね、私も"え?なんでコイツ平然と私の事抜いてるの?ラッキー"ってそのまま、憑ちゃったし」

 

………つまり自業自得って事?

 

「その通り」

 

膝から崩れ落ち自身の今までの行動を反省する。本当にもうちょっとしたら好奇心で行動するのは絶対にやめよう、そう心に誓う。

 

「それに助けてくれたら色々助けてあげたでしょ?」

 

ん?

 

「ほら、シンが最初私を抜いた時に"ああ、取り敢えず何処か人がいるところに行きたいなー"って思ったでしょ?」

 

え、あ、うん。遭難してたし。

 

「だからそのまま私と一緒に幻想郷に連れてきたって訳」

 

………はい?つまり俺がここに来て帰れなくなったのは

 

「私のせいかな、うん」

 

…………。

 

「ごめーんね?」

 

キラッと笑顔でポーズをとるこの青巫女に殺意を覚えたが、まぁ夢だった幻想郷に連れてきてくれたことに感謝してなくもないから許す。

 

「さて、そろそろかな?」

 

……今度はどんな事言い出すんだ?

 

「違う違う、貴方がそろそろ目覚めるって事。言ったよね、ここは精神世界で現実の私の貴方はあっち側」

 

あ、そういう事ね、やっと目が醒めるのか。

 

「うん、それじゃ、最後に」

 

 

「もし私と話したかったら、私の柄を握って軽く名前を呼んでくれればいいから」

 

あ、割といつでも話せるのね。

 

「うん、それじゃまたね」

 

 

 

______________________________

 

 

 

「おーい、信?おきろーおきろってばー」

 

「そんなんじゃ起きないわよ、……せい!」

 

「あぶゅ!!!」

 

な、何だ!?腹にすごい衝撃が走った!?

 

「あ、起きた。大丈夫か?」

 

「お、おう………あ、そっか俺、霊夢の弾幕で落ちたんだっけ」

 

起き上がると見覚えのある幣が落ちた。……ってこれ霊夢が振るってたやつじゃん!

起き上がり、まだ上空にいる霊夢を見ると何かを振りかぶった様な体制から戻るところで、俺の腹に刺さったものの正体と原因は明らかだった。

 

「おいこらぁ!!結構痛かったぞ!てかスペカはずるいだろうが!!」

 

「おーおー、元気だな」

 

「全くね」

 

すたっと着地して俺から幣を受け取る霊夢。

いや、あの……謝罪なし?

 

「何よ?」

 

「あ、いや、うん何でもない」

 

「そう」

 

「うわ、弱」

 

シャラップ魔理沙。

 

「まぁ今日はこれくらいにしておきましょうか?そろそろいい時間だしね」

 

「ん、そうだな、私もそろそろ帰るかな」

 

と、どうやら今日の弾幕ごっこはここまでの様でお開きの空気感が流れる。

 

むむむ………なんか悔しいな。

 

「……あ」

 

そういえばと横を見れば無銘が置いてある。………そういや弾幕ごっこするから邪魔だろうとここに置いたんだっけか。

 

「そりゃコイツも怒るか」

 

なんて苦笑いしつつ、持ち上げると、あれ?なんか軽い?

 

「………?」

 

気になり、鞘から抜き出し軽く振るって見れば、何故だか分からないけど、何となく使い方がわかる……様な?

 

(そりゃ、私と今繋がってるからね?)

 

「うぉ!?」

 

「あん?」

 

「何?」

 

右左と顔をうごかし、突然響いた声に驚く。

最初は霊夢かと思ったがアイツは幣で肩を叩いていた。……罰当たりじゃね?

 

魔理沙はちょうど箒にまたがろうとしているところで、突然声をあげた俺を訝しげに見ていた。

 

「き、気のせい?」

 

(そんな事ないよ?ほら、こっち)

 

あ、え?と手元を見れば何かをアピールする様に、無銘の刀身が青白いオーラを纏っていた。

 

「………さっきの夢じゃなかったのね」

 

(あ、そういうこと言うんだ?)

 

「あ、ごめん、ごめんなさい!だから刀身光らせて威嚇しないで!!」

 

「……なぁ、アイツなにしてるんだ?」

 

「打ち所が悪かったのかしら?」

 

誰が頭の病気じゃ

 

(そうそう、そうやって会話すればいいのよ)

 

あ、これでもいけるんだ。

 

(そりゃ、繋がってるしね?さぁ!私の名は?)

 

なにそのテンション?……刀?

 

(切るよ?)

 

無銘さんです、ごめんなさい。

 

シャレにならない殺意を感じてすぐに謝る。………刀に謝る俺、遂に無機物より下か。

 

(それより、そこの巫女に一泡吹かせたいんじゃなかったの?)

 

え?ま、まぁ少しくらいは見直してほしいなーなんて……

 

(本音は?)

 

ギャフンて言わせたい!!

 

歳下とか関係ねぇ!!少しくらいこの非日常中で俺強プレイがしたい、と願う悲しい16歳が其処には居た。と言うか、俺だった。

 

(よろしい、なら構えなさいな。アシストしたげるから)

 

え、構える?と疑問を浮かべる前に気づけば俺の身体は勝手に刀を鞘に戻し、俗に言う居合斬りの構えを取っていた。

 

ちょ、なにこの構え!?

 

(構えは気にするな、この無銘、どれ程の物か使えばわかる)

 

何でそのセリフチョイス?

 

「何?やろうっての?」

 

気づけば霊夢がスペルカードを取り出していた。え?まって違うよ?俺の意思じゃないんだよ!?

 

「え、や!ちょ」

 

「また気絶しても知らないからね!"霊符 夢想妙珠"!!」

 

問答無用とばかりに放たれる圧倒的な弾幕。

ああ、死んだかな、これ。

 

(ほーら、ぼーっとしないで)

 

んな、事言われたってもう無理だろこれ……

 

(しょうがないから最初だけ私が動かすから覚えてよ?)

 

は?

 

刹那、風邪を切る音共に俺は霊夢の真後ろへと移動していた。

 

「………は?」

 

「っ!?」

 

魔理沙と霊夢の間抜けな声だけが聞こえ、俺が振り向けば其処には。

 

「……うっそだろ……」

 

真っ二つになり、搔き消える弾幕と何かが疾ったであろう一本の線が、先程まで俺がいた所から俺の足元まで続いていた。

 

 

 

 



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7話 慣れって怖いよね。

 

 

 

 

 

「おいおい、霊夢?流石にやり過ぎじゃないか」

 

「……ちょっと手元が狂ったのよ」

 

「いや、かなりエゲツない手の滑り方だな」

 

「煩いわね」

 

「あーあ、信のやつ伸びてらぁ」

 

「はぁ……運ぶの面倒くさいわね」

 

「運ぶ原因になったお前が言うのか……信のやつ風邪引くぜ?そろそろ寒くなってくるし」

 

「しょうがないじゃない、急に"能力"を使った自業自得よ」

 

「まぁな、にしたって何で急に?てかコイツ刀使えたのか」

 

「さぁね、でも刀は使ったことないって言ってたわよ?」

 

「はぁ!?そりゃ嘘だろ、さっきの動き全く見えなかったぞ?それに弾幕を切るとか、初めて使う武器でやるなんて無理だろ?」

 

「それは同感」

 

「何もンなんだ?腹に一物抱えてるようには見えなかったぜ」

 

「どちらかというと原因はそっちよそっち」

 

「……この刀が?そりゃ何でまたわかるんだ?」

 

「感」

 

「……霊夢が言うと否定できないんだぜ」

 

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

 

 

「………へぁ?」

 

パチリと目を開けば木造作りの天井が見え、頭を横に向ければ知らない庭風景………ってそうか、そういや俺ここに住んでるんだっけか。

 

凝り固まった肩を回しつつ、起き上がるともうすぐ夕方なのが分かる。

 

「結構寝てたのか……」

 

「ええ、ざっと2時間くらいね」

 

「ひぇ!?」

 

え、何?全く気配感じなかったんだけど?

 

「一々驚かないでよ、鬱陶しい」

 

はぁ……とため息をつきながら湯呑みを傾ける霊夢。

え、あれ、そういや何で俺寝てたんだっけ………?

 

「弾幕ごっこしてた途中で気絶したのよ」

 

「あ、あーー!!」

 

そ、そうだ。確か俺があの後自分がやらかした事に唖然としてたら、不機嫌そうな顔してとんでもない数の弾幕(ルナティックモード)を撃って来やがったんだこの鬼畜巫女!!

 

「あのなぁ!」

 

「……何よ?」

 

「何でも無いんで睨むのやめてください」

 

ギラッと睨んでくる霊夢にすぐさま回れ右で頭を下げつつ、謝る。

 

「それより、もう使えるのよね?」

 

「?」

 

「能力」

 

はて?

 

「………もういいわ」

 

うわ、露骨に面倒な顔して煎餅齧り出したよ、この人。

てか能力?いやいや、全く持って使えませんけど。

 

「もういいわ、取り敢えず夕飯とお風呂炊いて来て」

 

「お、おっす」

 

な、なんか知らんが機嫌が悪いらしいし、取り敢えず一旦退散退散っと。

 

そのまま風呂を沸かしに外に出てみれば、割ってない薪と斧。

 

「えぇ……」

 

もしかして、とは思ってたけど凄いな幻想郷って。明治時代とかそこら辺かな、この未発達の文化は。

にしたってこの量を割るのは中々に腰が折れるし、日の傾きをみても時間でいうと17時過ぎとなるとあんまり時間はかけられない。さて、どうしたもんかな。

 

「うーん…………あ、そうだ」

 

キョロキョロと周りを見ればやっぱり近くにある無銘(むめい)を引き抜く。

 

おーい、無銘?

 

(んー?)

 

何ともふにゃふにゃの声が返ってきた所を見るに、コイツもお休みモードだったらしい。

 

ちょいと手伝って欲しいんだけどさ、さっきのスパパーンって奴またできる?

 

(え、何また闘うの?)

 

何処か嬉しそうな声音で急にテンション上げてくる無銘。何?戦闘狂の節でもあるの、この子。

 

んにゃ、闘うわけじゃない

 

(え?なら何に私を使うの?)

 

薪割り

 

(…………は?)

 

え?

 

何だろう、すっごい低い声だったような?

 

(私を、薪割り?ふふふ、面白い冗談だねぇ、シン?)

 

え?ちょっと、あの?

 

(神剣とまで言われた私を時間短縮の為に、しかも楽そうだから薪割りに使うと?)

 

いや……その……

 

てか、なんで理由までわかってんの?

……あ、そっか繋がってる間は俺の記憶とか見れるんだっけか。

 

(………まぁ、今回だけならいいよ。私もやった事ない事はしてみたいし)

 

あ、いいんすか?

 

(次は無いよ?)

 

うす……

 

ドスの効いた声につい三下の小物の様な声を出してしまう俺は悪くねぇ!

 

 

 

 

(なんだ、結構簡単じゃない)

 

「いやいやいや、なんでこうなる?」

 

目の前にはあの山ほどあった木の棒が全て均等に半分になり、鎮座していた。

ここまで初めて約10分。やったのは俺の身体だけど、動かしたのは無名でして。

 

(うん、それに思ったより楽しいかも、こう………スパーン!って人を切るより良い音するし)

 

なんか物騒な事を言ってる気がしなくも無いが俺は気にしないし、何も聞いてない。

 

(そういえば、ちゃんと使えるようになったんだね)

 

何さ、急に。

 

(能力、さっきまで使えなかったのに良く使えるようになったね?)

 

へ?

 

(ん?)

 

……何だろう、何か致命的な食い違いが発生してる気がするんだけども。

 

(……もしかして、無自覚?)

 

??

 

(ああ、うん。そっか、そりゃあの巫女も呆れるね)

 

何だろう、よく分からないけど馬鹿にされてる気がする。

 

何となく心当たりはあるけど、あの感覚、というか塗り替える?感じの事かな。

 

(あ、なんだ。流石に少しは気づいてたんだ?偉い偉い)

 

ええい!ダメな子が偶々何時より頑張ってるのを褒める様な言い方はやめろ!

 

(……今の貴方の母親が、小さい頃の信にやってた事だけど)

 

……………。

 

(あ、ごめんね?泣かないで?)

 

泣いてないやい!!

 

 

 

______________________________

 

 

 

「それじゃ、信さんはここの部屋使って」

 

「え、良いのか?こんな広い部屋」

 

夕食後、霊夢に案内されたのはかなり大きな和室の部屋で、中には敷き布団にちゃぶ台に箪笥といった生活に必要な物の殆どが整っていた。

 

「ええ、別に使ってないしね。私の部屋は隣だからなんかあったら適当にいって」

 

「お、おう」

 

「なに挙動不審になってるのよ?取り敢えず私はお風呂入るから」

 

……危機感なさすぎないか?俺と君って今日であったばっかりだよね?

それじゃ、と出て行く霊夢を見送り、取り敢えず無銘とリュックを端に置き、中身を出す。

 

えーと、カメラに歯ブラシ、それからジャージの上下と下着、それからお菓子と充電器に、トランプとその他etc……うん、役に立つもの何もないネ。

 

「服とかも買わなきゃいかんな、取り敢えず今日の分はあるし、明日にでも売ってる場所聞くか」

 

確か紫さんが人里なるものがあるって言ってたし、あとなんだっけ?香霖堂?

まぁ、今のところはお金をこんだけあるし、売る必要は無いだろけど、無職ってのも何となく辛い、こう……字面的に。

 

「働く場所でも探すか?」

 

うーん……何で悩んでいるとすっと襖が開き、お風呂上がりで少し顔が赤い霊夢が顔を出す。

 

「上がったわ、信さんもとっとと入って来て」

 

「……おう」

 

「?なんで顔を抑えてるのよ」

 

なんかもう、ホント、男って生き物は……。

 

風呂は先ほど割った薪で沸かす。ここに霊夢が入ったのか……何て変態チックな考えを撲滅しつつ、浸かれば結構疲れていたのかそんなことを気にする余裕もなく、ふやけた声が出た。

 

てか、石鹸とかってどうなってるの?と確認すればちゃんとポンプ式の馴染みのあるもので少し驚いた。………手書きで"頭"と"身体"なんて書いてあるのは初めて見たけども。

 

風呂を上がり、水でも飲もうと居間の方に顔出すと、何やら霊夢が1人で飲んでいた。

 

「ん、上がったのね」

 

「うん、良いお湯だったよ。俺も1杯貰っていい?」

 

「ええ、はい」

 

「ありがと」

 

いやー喉乾いてたし丁度良かったと霊夢から受けとった"水"を煽る………!?

 

「ゲホっ!ゴホ!」

 

「ああ、もうそんな勢いよく飲むから」

 

「ちょ、な、何これ!?」

 

なんか喉が焼けるような感覚がしたんですけど!?

恐る恐るこの透明の液体の匂いを嗅いでみれば……

 

「酒じゃねぇか!!」

 

「ええ、美味しいでしょ?」

 

「え?何?可笑しいのは俺なの?」

 

え、何でそんな不思議そうな目で俺の事見てくるの?え、もしかして霊夢って

 

「20歳超えてるの?」

 

「?今年で14よ」

 

「ダメじゃん!」

 

普通に未成年じゃん!てか何でそんなに飲み慣れてるの?ゴクゴクじゃないよ!?

 

「……ああ、そういえば外の世界ではそんなルールもあるんだったかしら?」

 

「外では?」

 

「ここでは別に歳とか関係ないわよ」

 

oh……そうなのか、そりゃ飲み慣れてるの訳だよね、うん。

 

「ほら、信さんも飲み慣れたほうが良いわよ?」

 

と言って、追加で注いでくる霊夢に何とも言えない気持ちを抑えながら、目の前のお酒、焼酎と対面する。………何だろう、凄く罪悪感が心の中で渦巻き始めてる。ずっとお酒とタバコは20歳から!という教育を受けてきたからだろうか?…….やっぱり飲むのはやめておこう、うん。

 

そうだよ、僕は清く正しく、真っ当な好青年を目指すって決めたじゃないか!だからお酒は!

 

「飲まない!」

 

 

15分後。

 

 

「信さん、こっちの日本酒も飲んでみれば?」

 

「にゃはは、これもうまいねぇ〜〜」

 

「でしょ?」

 

おしゃけにはかてなかったよ………。

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

「………頭痛い………」

 

ちゅんちゅんという鳥の鳴き声と、明らかに昨日初めて飲んだ酒の二日酔い(ラッパ飲み)の影響で果てしない頭痛と吐き気で目を覚ました。

 

取り敢えずと顔を洗いつつ、水を飲めばボヤけた頭の中も少しはスッキリする。

 

「これが親父たちが苦しんでた二日酔いってやつか、初めて共感できたわ……」

 

ガシガシと頭を掻きながら、台所に向かい朝食を作る。はぁ……これがお袋の苦労か。

なんかこっちきてから大人の苦労を沢山味わってるような気がするんだが?

 

パッパッと米を炊き、薪で火をつけた上に鍋と網を置いてっと。魚は鱗落として内臓出して、塩を軽くかけてれば……ほい、オッケ。

 

「あ、漬け物もあったっけか」

 

小鉢小鉢っと。

 

「はい」

 

「あ、どうも」

 

さて、昨日の煮物も残ってたし軽く温め直して……?

 

「はぁーい、信」

 

「うぉ!?ゆ、紫さん?」

 

なんか手渡されたと思ったら紫さんがあの奇妙な隙間から上半身だけ出していた。

……その登場驚くからやめてくれませんかね。

 

「あら、今日は驚いてくれるのね?」

 

「そりゃそうですよ、いきなり何もないところから顔出されたら誰だって驚きますよ」

 

寝起きの俺なんか特にね。

 

「あ、紫さんも食べます?」

 

「いいえ、遠慮しておくわ。この後少し予定があるし、今日は貴方の様子を見に来ただけだから」

 

「へ?俺のですか」

 

「ええ、どうやら慣れ始めてるみたいね?こっちの生活にも」

 

おぅ、何やら心配してくれていた様子。

 

「まぁ、まだ2日目ですけどね。今日は人里に行ってみる予定です」

 

「あら、なら良いタイミングね」

 

はて?と紫さんの方に振り返ると、紙袋を手渡される。

 

「なんです?これ」

 

「服よ、服。貴方のそれじゃ変に目立つでしょう?」

 

「え、いや、悪いですよ」

 

中には俗に言う和服とかそっちの類のものが入っていた。流石に貰えないと、紫さんに言うと一瞬目を細めてポン、と納得する。

 

「……ああ、そう言う事。大丈夫よ、代金は貰ってるから、ね」

 

「へ?」

 

「昨日、貴方が昼食を作ってる時に霊夢に頼まれたのよ。だから気にしないで」

 

はい、と再び渡される服をそれならと、受け取る。

 

「にしても料理上手になったわね」

 

「まぁ、昔は出来ませんでしたからね」

 

いつの間にかつまみ食いしたのかもぐもぐとしている紫さんを苦笑いしつつ、米を見れば既に炊けていた。

 

「それじゃ、お暇するわ。早めに着替えて見てサイズが合わないようなら気軽にいいなさいな」

 

「あ、はい。ありがとうごさます」

 

それじゃ、とスキマに消える紫さんを見送り、中の服を見て見れば、まぁなんだ。

 

「服自体は新品なんだろうけど、時代がなぁ……」

 

火を止めて一度部屋に戻り、着替えてみるとこれまたなんと言うか、ピッタリだな、おい。

 

「しかも、刀を刺すところまであるし」

 

こりゃちゃんとお礼を言わなきゃな、うん。

少しガチャガチャ言うけど、急に出てきて驚くよりマシと無銘を腰に刺し、今に戻り料理を作り終えたのだが。

 

「……起きて来ない」

 

霊夢が起きて来ないのだ。さて、せっかく作ったのに冷めるのは何となく勿体ない気がするしなー。

 

って事でどうしよ?

 

(……起こしに行けばいいじゃない?)

 

え、いや、その恥ずかしいんだけど。

 

(私、寝起き、すごい、不機嫌。おっけー?)

 

うす、おやみ下さい。

 

(………)

 

さて困った。頼みの綱の無銘がまさかの不機嫌(寝坊助)という本当に刀なのか怪しい気もするが、それは置いておこう。

 

そんでもってやってまいりました、俺の隣の部屋。まずは軽く声をかけてみる。

 

「お、おーい、霊夢?起きてるか?」

 

べ、別にどもってねぇし。

 

……………無反応か。ならばと少しだけ部屋を開けてみれば、うわぁ……。

 

「…………」

 

暑かったのか布団を蹴り、枕を抱きしめて年相応の寝顔をした霊夢が気持ちよさそうに寝ていた。

 

「これがお年頃の女の子の寝相かいな……」

 

なんか幻想を砕かれた気分だ。幻想郷なのに。

なんて言ってないで、とっとと起こすとしよう。

 

「おーい?おーい!」

 

「……んぁ?」

 

んぁ?て……乙女が出して良い声じゃないぞ?

 

「朝だよ、飯できてるから」

 

「んー……」

 

ゆっくりと起き上がり目をこすったり、頭を掻きながらボーッとしてる霊夢。さてはコイツも朝に弱いな?

 

「ほれ、顔洗いに行け。布団くらいは畳んで置いてやるから」

 

「んー」

 

そう言ってのそのそと部屋から出て行く霊夢を横目にパパッと布団を畳んで、居間に戻る。

……うーん、女の子と同棲ってよりは妹でも出来た感じだな。

 

 

 

______________________________

 

 

 

時間は経って10時くらい。

さてさてと適当にお金だけ持って出かける準備を自分の部屋でしてると霊夢が入ってくる。

 

「どこか行くの?」

 

「ん、人里行ってみようかなって」

 

「ふーん」

 

そう言って部屋に戻って行く。なんと言うか淡白ね、本当。と、思っていたらすぐに戻ってくる霊夢。

 

「はい、これ」

 

と、手渡されたのは紙と白紙のスペルカード?

 

「お使いよろしく」

 

そんなこったろうと思ったよ。

 

「……はいよ」

 

「あとそのカード、使い方わかるでしょ?」

 

「うん、霊力通しながらイメージ、だっけ」

 

「ええ、人里はここからまっすぐ飛んでけばすぐよ。もし妖怪なり何なりが現れたら適当に弾幕ごっこで蹴散らせばいいわ」

 

物騒な事この上ないなこの巫女。

 

「それじゃね」

 

ヒラヒラと手を振って消えてく霊夢に少し呆れつつ、俺も行くかと玄関へ。

 

さてさて、人里って言うくらいだもんなー、何があるのか楽しみになってきた。

 

そんな期待を胸に扉を開いた俺だが、まー、面倒ごとってびっくりするくらい俺に降りかかってくるよね、とだけ言っておこう。

 

 

 

To be continued……?

 

 

 

 



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8話 不思議な国の人形遣い。

 

 

 

 

 

「よう!アリス」

 

「……帰って」

 

「なんだよ?いつにも増して辛辣だな」

 

「アンタが来ると厄介ごとか面倒ごとしか持って来ないじゃない」

 

「……霊夢と似たようなこと言うな」

 

「私からすれば霊夢も似たような物よ」

 

「まぁ、取り敢えず話くらいは聞いてくれよ?」

 

「嫌」

 

「昨日なんだけどな、面白いやつ見つけたんだよ、信って言うんだけど」

 

「……はぁ、もぅ」

 

「そんでな?ソイツ外来人の癖に能力持ちで、霊夢の弾幕切り裂いちまったんだよ!」

 

「……ふぅん、それは確かに興味惹かれるけど、私これから人里に用事あるからまたの機会にして」

 

「ん?人里ってなんだ、買い物か?」

 

「まぁね、ちょっとした物を拾ったからそれの加工する為の素材とか見に行こうと思ってね」

 

「ふーん、でその加工したい素材って?」

 

「秘密、それじゃあね」

 

「ちぇー、まぁまた来るぜー」

 

「また、来るのね……はぁ」

 

 

 

______________________________

 

 

 

ふーむ、人里に訪れかれこれ1時間程度散策したのだが、アレだな。

 

「こりゃ、江戸時代か?って感じだな」

 

見て回れば茶屋なんて物や、蕎麦屋、八百屋など教科書で見たような風景に少しワクワクしてしまう。

 

にしたって周りを見渡せば服装はみんな和服ばかりで、たまーに不思議な服装してるくらいかな。

 

(ね、シン)

 

ボーっと歩いていると無銘から話しかけられる。……今更だけど何処かしら触れてれば会話くらいなら出来るのか?腰に刺してからよく話しかけて来るし。

 

(さっきから見られてない?)

 

あ、やっぱり?なんか視線を感じるんだよなーとは思ってたけど、気のせいじゃなかったのね。

 

チラッと横を見てみれば、何やら俺の腰元の無銘に見ているようで、本人としては少し気になるのだろう。

 

(まぁ、刀なんて腰にかけてるのシンくらいだし、気になるのも分かるけど)

 

まぁまぁ、そのうち慣れるだろうに。

と、話題を変えてやる。

 

そう言えばだけどさ

 

(?)

 

なんで急に喋れるようになったの?……あ、いや話せるのは知ってたけど、俺、今無銘のこと握ってないのに。

 

(ああ、それはね簡単に言えば貴方と私のパスがちゃんと繋がったからよ)

 

へー、なんでまた急に?

 

(急じゃないよ?ちゃんと仮契約から本契約にしたじゃない)

 

………はい?

え、なにそれ聞いてないけど?

 

(最初に私にあった時言ったよね?"よろしく"って。ちゃんと触れ合ってパス繋いだし)

 

あれか、……あの握手ってそう言うことだったの?

 

(その通り、まぁ馴染むまで少しかかったから急に話せる要になったって感じるのも無理ないかな)

 

………ん?あれ?

 

(どうしたの?)

 

つまりアレか?あの時、握手せずに契約してなかったら、俺お前と縁切れてた?

 

(そう言うこと。だから黙って契約したし)

 

……いやまぁ、元々本契約してるつもりだったから良いけど、何だろうこの詐欺に引っかかった様な感じ。

 

(よろしくね☆)

 

殴りたい、この笑顔。

 

(ま、そんな訳で私とはこんな感じで話せるから気軽に声かけて。………寝てる時以外)

 

お、おう、分かったから凄まないで下さいな……。

 

何て脳内でお喋りしていると、気付かぬ内に人と軽くぶつかってしまう。

 

「きゃ……」

 

「っとと、すみません」

 

「こっちこそ。余所見してたわ」

 

そう言って笑顔で対応してくれたのは……セミロングの金髪を赤いカチューシャで止め、青を基準とした服に白いカーディガンを羽織った何処か不思議な少女で。

何となく、そう。本当に何となく、思った事をつい呟いてしまったのだ。

 

「……Alice in Wonderland(不思議な国のアリス)?」

 

「……え?」

 

何処か驚く様に目を見開く少女に、ハッと冷静になる。俺は何を口走ってるだよ!と内心パニックになりつつも取り敢えず、なんか恥ずかしくなり、ここを離脱する事を選択。

 

「あ、いや……何でもないです。それじゃ」

 

ふぅ、危ない危ない。取り敢えず冷静になれる為に甘味処にでも入って落ち着くな……?

 

「えと、あの?」

 

クルリと回れ右をして逃げようとした俺の肩を先ほどの少女がガシッと掴んでいた。

………嫌な予感がする、何というか面倒な事にプラス勘違いをブレンドした様な……

 

「……ねぇ、時間あるわよね?」

 

これが笑顔だったり、さっきの俺の発言がなければ嬉しいお誘いなのだが。

うん、明らかになにかを疑ってる目をしてらっしゃる。

……………うん、こういう時は逃げの一手あるのみだ。

 

「え、いやーちょっと……」

 

「あるわね?」

 

「はい!!」

 

時にも諦めは肝心。人間諦める事が一番さ!

 

 

 

 

金髪少女に連れられて、入ったお店はこれまたびっくり、どちらかと言えば先程までの表の茶屋の様な場所ではなく、現代でいうところの喫茶店に近いお店。

店員にメニューとお冷やを出されるが、何をされるかと気が気ではない俺からすればガクブルである。

 

「そんな怯えないでよ、別に襲ったりしないわ。………返答次第で」

 

「襲う気あるじゃん……」

 

「冗談よ、はい、適当に頼んで。私はもう決まってるから」

 

と渡されたメニューにはなんか専門的な名前でもあるのかってくらいの量の紅茶の茶葉やコーヒーの豆が書かれており、ぶっちゃけどれ選べば良いか分からん。

 

「……えと、君と一緒ので」

 

「あら、それなら」

 

とそのまま注文をしてくれる少女をじっと観察してみる。うーん、何でこの子を見てパッと出てきたのがあの童話なんだ?服装がちょっとイメージとあってるなーとは冷静に見れば思うけど、そんな突発的にイメージ出来るほど想像力豊かではない。どう見たって服装が他の人と違うだけの一般人じゃないか。

 

(でもこの子、魔力持ってるみたいだけど?)

 

ま?

 

「……何?じっと見て」

 

訝しげに此方をみてくる少女に反射的に謝りつつ、そっと無銘に聞き返す。

 

魔理沙と同じ魔法使いって事か?

 

(うーん、多分?)

 

ハッキリしないなぁ……

 

(なんというか純粋な人間からの魔法使いが持つであろう魔力と少しズレがあるような……)

 

そうなの?……てか魔力にも詳しいのね。

 

(そりゃ霊力、魔力に妖力から神力まで知ってるよ?)

 

なんて話していると注文した紅茶が運ばれてくる。

そんな運ばれてきた紅茶を一口飲むと、少女はふぅ、と息を吐き、

 

「それじゃ、聞かせてもらうかしら?さっき呟いた事について」

 

「あー、えっと何というか……」

 

ここで君をみてたらパッと出てきたとか言ったら怒られるんだろうなぁ……なんか真剣な顔してるし。なんか適当なそれらしい理由を……

 

「えっと……」

 

「ああ、先に言っておくけど嘘とか誤魔化したら……」

 

ぽちゃん……と角砂糖を熱々の紅茶に入れてニッコリと綺麗な笑顔で。

 

「怒るから」

 

「すみません、貴女様を見た瞬間に、その単語が脳裏を過ってつい口走りました、ごめんなさい許してください」

 

(我が主人ながらなっさけないねー)

 

いやあの圧力はヤバかったよ?マジで怖かった。幻想郷の女の人ってみんなこんな感じなの?

ゆっくりと恐る恐る顔色を伺うと、何かを考える様に俺の顔を見ていた。

 

「……嘘は言ってないみたいね」

 

「勿論です、はい」

 

「もう、そんなに怖がらないでよ……私も少し脅しすぎたから」

 

何処か呆れた様に謝ってくるが、あれが少しか……父さん母さん、幻想郷は恐ろしい所です。

 

「それで……ああ、今更になるけど名前は?」

 

「ああ、うん、本当に今更だね……信、依白信だよ」

 

そう言うのは最初にする筈だけどまぁ、悪いのは俺だし。

 

「そう、私はアリス・マーガトロイドよ。アリスでいいわ。よろしく」

 

「……え?アリス?」

 

その名前にやはり反応してまう。うーん、なーんでこんなに引っかかるのやら。

 

「ええ、それで?信の言ってた……不思議の国のアリスって何?」

 

「ああ、御伽噺だよ。とある女の子が不思議な世界に迷い込むっていうやつ」

 

「へぇ……聞いた事ないわね」

 

ピクッと反応するアリスだが、まぁそりゃ自分の名前と同じものが使われた話とか気になるよね。というか、外の世界の話だからこっちでは知られてないのも納得。

 

「まぁ、外の世界の話だからね。幻想郷の人は知らないと思うよ」

 

やっと緊張も抜けて紅茶を一口。……おろ、結構美味しいかも。くんくんと香りを嗅いでいると何処か不思議そうな顔をしながら俺の顔を見つめてくるアリスと目が合う。

 

「どしたの?」

 

「……貴方、外来人だったの?」

 

「え、うん。見ればわかるだろ……ってそうか服装が」

 

そういやそうだった。今は特に違和感のない服装に着替えてたのをすっかり忘れてた。

 

「ねぇ、つかぬ事を聞くんだけれど」

 

「?うん」

 

「霊夢と魔理沙。この2人の名前に聞き覚えは?」

 

霊夢に魔理沙って、そりゃそんなの知ってるけど……何だろう、僕の第六感が素直にいうなと囁いてる気がする。

 

「あー……」

 

「知ってるのね」

 

「何でわかったの!?」

 

「それで誤魔化そうとしてたなら、貴方かなり間抜けよ?」

 

んな馬鹿な……そんなに顔に出てたのか?

 

「また出てるわよ?」

 

「いやいや、エスパーか魔法使いでしょアリス」

 

「ええ、私は魔法使いよ?」

 

そういや、そうでしたね。

 

「さて、本当はさっきの話を聞いたらもう何も無かったんだけど、貴方が"あの"外来人なら話は別なのよ。着いてきて貰えるかしら?」

 

「えっと……まぁ、うん」

 

「あら、素直ね?」

 

いや、その手元にチラッと見せたスペルカードさえ無ければ、丁寧にお断りしてたんですけどね?

 

「それじゃ行きましょうか?」

 

と伝票を取ろうとしたので、先にスッと取っておく。

 

「いいわよ、付き合わせたんだから私が払うから」

 

「フェニミストぶるわけじゃないけど、女の子に払わせるほど落ちぶれてもないから」

 

さーていくらかな……ってうげ、紅茶2杯でこの値段?ボッタクリか?

 

(あーあ、カッコつけるから。出会って1時間もしてない子に奢るとか……)

 

ええい!煩い!そういう育て方されてたからなんか気になるの!

 

 

「……ふーん」

 

 

ありがとうございましたー、という店員さんの声を後ろに、ほんの少し痛い出費を食らって落ち込むが、まぁこれで少しでも温情をかけてくれないかなーなんていうセコイ考えもあったりとかする訳です、はい。

そんな俺の後ろに続いて出てきたアリスが話しかけてくる。

 

「意外と紳士的なのね?あんなにペコペコしてたから少し驚いたわ」

 

「まぁその……気持ち悪かったらごめん」

 

ぶっちゃけ、外の世界のアリスくらいの子、つまり俺の同級生とかにこんな事したら気持ち悪がられて次の日には学校中の笑い者待った無しだろう。

 

「え?気持ち悪いって……何でよ」

 

「え、だって」

 

「別に下心がないのは分かってるわよ?そんな出会って直ぐの私に"そういう感情"は無いんでしょう?それにあったとしても、紳士的な振る舞いだったから平気」

 

何この子?メッチャいい子じゃない?アリスさんマジ天使。

 

(チョロすぎじゃないかな?そもそもさっきまでのやり取り思い出したら?)

 

ええい煩いやい!ここにきてから見てくれは可愛いのにみんな中身詐欺ばっかりで嵩み切った俺の心には潤いの一雫なんだよ!

 

「さて、それじゃ行きましょうか?」

 

「うん、それで何処に行くの?」

 

こんないい子がこれ以上の無茶振りやら何やらをするわけ無い!

 

「人里の外れよ」

 

はて、何かあったらだろうか?行きに通ったが特にこれと言ったものは無かったと思うけど。

 

「何しに?」

 

「弾幕ごっこ」

 

「もう何も信じない」

 

 

 

To be continued……?

 

 

 

 



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9話 "憑札 一刀刄豺"

 

 

 

 

 

 

 

「………あのさ、実は気になってたんだけど」

 

「ん?」

 

「そのアリスの横に飛んでる人形って?」

 

「ああ、この子は上海よ。私の魔力で動いてるの」

 

「へぇ……!」

 

「そんなに興味あるの?」

 

「そりゃ、自動で動いてる人形なんてあっちじゃ見た事もないし」

 

「…………」

 

「あ、こりゃどうも」

 

「………」

 

「あ、そうなの?よろしくね」

 

「……………!」

 

「へー!」

 

「何お喋りしてるのよ……って信、上海が何言ってるかわかるの?」

 

「いや、全然」

 

「なら、何で受け答え出来てたの?」

 

「身振りと動きで何となく」

 

「よく分からない才能ね……」

 

「……!」

 

「上海さんはお茶淹れるの得意なんだねー」

 

「いや、何で今のもわかるのよ……」

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

さてはて、アリスさんに連れられて来たのは人里から15分程度歩いた場所にある草原。

必死に対話の余地が無いかと話しかけたけど、残念ながら戦う気満々のアリスに俺の無駄な抵抗は聞かず、こうやって対面してる訳でして。

 

「さて、ここなら多少は暴れても平気よ」

 

「いやあの……出来れば戦いたくないなーなんて……」

 

「ここまで来て何言ってるのよ、それなりに実力もあるんでしょ?」

 

「いやいや、何処情報さ!」

 

「魔理沙から聞いたわよ、貴方が霊夢の弾幕切ったって」

 

なんで昨日の今日でそんなに話回ってるの?

 

「魔理沙の事だから色んなところに言い触らしてるんじゃない?」

 

無慈悲。

 

ガクンと項垂れた俺にポンと上海さんが小さな手を置いて、"諦めが肝心"と首を振りつつ慰めてくれる。ありがとう、君だけが俺のオアシスさ……!

 

「上海さんは優しいね、ふふふ……」

 

「……自分の人形を気に入って貰えて嬉しい様な、変な依存先を作った様な気もして複雑ね」

 

なんか複雑そうな表情を浮かべてるアリスを横目に、内心ではさてどうしたものかとこの後の行動を考える。

 

今出て来ている情報では、アリスは魔法使い、そして上海さんの事を考えるに人形を戦術に絡めてくる可能性がある。

更に先ほどの店先で、チラリとだけ見えたあの札の名は確か仏蘭西人形(フランス人形)だったか?

 

そして伝票を取った時に触れ合った指先は女性にしては少し硬く、日頃から何かしらの手先を使う物を作っているという事。

 

(……え、何?なんで急に鋭くなってるの?こんなのシンのキャラじゃないよ?)

 

ええい、混乱するから黙ってて!

 

(あ、ごめんなさい……)

 

魔法使い、魔術使いとは場所や地方、伝わり方によって違いはあるけれど、基本的には探求者の事で何かに特化した一つの魔法を極める生き物の筈だ。つまりここまでで予測できるのは……アリスの魔法は十中八九、"人形遣い"。

 

ここから俺が立てる事の出来る戦術……それは!!

 

 

何もないです☆

 

(あ、私の知ってるシンだ)

 

いやだって冷静に魔法とかさ、見たの昨日の魔理沙の弾幕くらいな訳じゃん?

そんでもって幾ら俺の知識(アニメ・ラノベ)があってもそれ以上はわからんよ。戦術?一学生がそんなの考えた事あるわけ無いじゃん、ばーか!!!

 

(本当に清々しいほど馬鹿だよね、君)

 

煩いやい。

 

「さて、それじゃスペルカードは……3枚でどうかしら?」

 

「へ?」

 

「へ、じゃなくて使えるカードの枚数よ。…….何その顔?」

 

すぺるかぁど?……あ、そういえばとポケットから取り出すのは霊夢から渡された3枚のまだ"白紙"のスペカ。

 

「なによ、ちゃんと持ってるじゃない。それじゃ3枚ね」

 

「へ?や、これは……」

 

と、俺が言い切る前には既に離れてしまったアリス。

え、もしかしてこれって……

 

(シンだけスペカなしだね、ふぁいと!)

 

ですよねぇ!?

 

 

「それじゃ、行くわよ!」

 

「ちょぉ!?」

 

アリスが手を引くと同時に人形が4体ほど展開し、それぞれ上下左右から緑と赤の弾幕を俺を囲む様に……って、冷静に見てる場合じゃなかった!

 

咄嗟に地面を蹴り空中に飛べば、俺がいた場所に弾幕が集中砲火されている。あっぶね。

 

「ほら次よ」

 

「はぇ?」

 

そうアリスから声を掛けられ正面に向き直ってみれば、先ほどとは別の人形が新たな弾幕を放ってくる。

 

「おっと、ほっ、あぶっ!?」

 

ちょ!今掠ったよ!?と何とか紙一重のギリッギリで避けていると何処か苛立った様にアリスが声を上げる。

 

「ちょっと!何で貴方は撃ってこない訳?舐めてるの!?」

 

「いやっ!ちが!っと!?俺、弾幕撃てないぃ!?」

 

撃てないと言った瞬間、アリスの顔に青筋。……いや、別に舐めてるとかそう言うんじゃなくて、本当に撃てないだけですからね!?

 

「へぇ……なら撃ちたい気にさせてあげるわよ!」

 

「やっぱり勘違いしてるしぃ!!」

 

先ほど(ノーマル)から突然、激しい弾(ハード)に切り替わり、もうコレいつ被弾して落ちてもおかしくないんじゃないかな?何てふざける余裕すらない程、高密度の弾が迫ってくる。

 

ははは。どーしましょ、これ。

 

(いや、私のこと使えし)

 

何処か呆れたような口調の無銘に、え?と腰を見てみれば弾幕を文字通り喰い切る事のできる刀が"はよ使え"とばかりに刺さっていた。

 

「あ、そっか」

 

ポン、と手を掌の上に叩いて納得。いやはや、そういや君もいたねといざ抜刀。

 

すぐ直前に迫ってくる弾を見据え、右下後ろに刀を構え、霊力を通す。

 

そうすれば、あの時と同じ青白い光が刀身を包み、身体の重みが減っていき、自身を別に置き換える感覚が蘇ってくる。

とりあえず、"目の前の弾"を出来るだけ消したいなぁと考えつつ、切り上げる。

 

「それじゃ、………せいっ!!」

 

 

 

 

「………期待はずれ、かしらね?」

 

 

取り敢えず様子見と簡単な弾幕(ノーマル)で様子を見てたけど、どう見ても初心者丸出しのヘナチョコな動きで弾を回避する信に少しがっかりする。

………というか、弾幕を一回も撃って来ないから、私の一方的な弾幕でちょっとしたイジメみたいになってない?

……しかも、魔理沙が言ってた霊力の気配すら、一切しないんだけど?

 

「……もしかして」

 

舐められてる?……でも明らかに顔は必死だし、そこに演技のような物も感じられない。

………とは言え、もし舐められてるのだとしたらそれは。

 

「ムカつくわね、うん」

 

ちょっと、刺激してましょうか?それで出方を見るのも悪くないか。

 

少し多めに空気を取り入れ、大きめの声、苛立った感じを意識して声をかける。

 

「ちょっと!何で貴方は撃ってこない訳?舐めてるの!?」

 

さて、なんて言ってくるか。

 

必死に弾を避けながら、少し焦りつつ信は"弾が撃てない"なんて抜かした。

 

………ああ、これは。

 

「へぇ……なら撃ちたい気にさせてあげるわよ!」

 

舐められてるわね!!

 

弾の密度と量を増やしつつ、速さもあげて一気に信を取り囲む。

何かを叫んだと思ったら、泣きそうな顔になる。

 

……ちょ、ちょっとやり過ぎた?なんて焦り始めた私に横の上海が、"イジメよくない"と伝えてくる。

 

ち、違うのよ?ちょっと様子見ようとしただけで、決してイラっとしてやっとかじゃなくてね?というか本当に舐められてたんじゃなくて、アレが彼の実力ならこの弾幕はちょっとマズイかも、と自分の人形に言い訳をしていると、"それだ!"という顔をしつつ、ポンと手を掌の上に叩いた信が、腰にかけていた刀を抜く。……え、何?まさかとは思うけど、刀の存在を忘れてたとか?そんなのうっかりとかそういう次元じゃないわよ?

 

と、少し困惑していると彼の構えと顔付きが変わり、刀を下段へ下げて霊力の解放が始まる。

 

とは言っても流石に手遅れね。この量の弾幕を展開させて、それをその少量の霊気と刀でどうにかするのは無理………

 

「………せいっ!!!」

 

彼がしたのはシンプルだった。

ただ刀を切り上げた、それだけ。

 

けど、私が次に瞬いた瞬間、私が放った筈の弾は全て消え失せていた。

 

「………え?」

 

頭の理解が追い付かず、つい隙を見せてしまったが、それはしょうがないでしょ。こんなのあの半人半霊にも多分、出来ない。

 

そして何より、私が動揺した理由は彼の持つ刀に理由があった。

先程まで確かに青白い信自身の霊力を身に纏っていた筈のソレは、黄色へと変化し、魔力を漂わせていた。

それがただの魔力なら、まだここまでの動揺をする事は無かった。

けど、その魔力は。私が一番身近に感じ、そしてこの道(魔法使い)を極めるために研究していた、私自身の魔力に酷似していたのだから。

 

 

 

 

「おお、出来るもんだな」

 

ぶんぶんと無銘を左右に振りながら、腕の感触を確かめれば特に違和感も無く、寧ろなんか疲れとか、先ほどの斬撃で足りなくなってた霊力が回復してるような?はてさてと刀の方は特に傷とか………

 

「ってなんじゃこりゃ!!??」

 

なんか無銘が黄色に光ってるんだけど!?何これ、こんなの昨日は無かったぞ!?

 

(うーん、魔力かぁ。久しぶりに"食べた"けど、この子の味は悪くないね)

 

え、何?味?

 

(あ、そっか、昨日は霊力だから特に変化なかったもんね)

 

……さてさて、そんな呑気な事を言いつつ、無銘から聞いたのは成る程、と納得出来る物だった。

この無銘の能力はその字のごとく、"喰い切る"というもので、食べたんだからお腹に入るのは普通でしょ?と何処か得意げに話す無銘。

 

そんでもって大事なのはここからで、何でも食ったら力に変わる、簡結に言えば"吸収能力"が備わっているらしく、食らった量の4分の1程度ほどを、そのままこの刀の動力源として使えるらしい。んで、使い切るか納刀しちゃうとそのまま消えるとの事。

 

いや、うん、凄い強いし、俺自身の霊力量がカスだからありがたいんだけどね?

 

もっと早く言えよ!!

 

(聞かれなかったし。それに私の変換できなかった分はシンに還元されるんだから、お得で文句を言われる筋合いはないでしょ?)

 

……まぁ、うん。確かに回復してるし、何ならさっきより調子いいんだけどさ。聞きたいことあるんだけど?

 

(何?)

 

デメリットとか無いよね?俺の知ってる知識(二次元)ではこう言うのって、大体の敵側の能力なんだけど?

 

(……………うん、まぁ)

 

あるんだろ?ねぇ、その間はあるんでしょ!?なんかとんでもないデメリット!?

 

(いやー、まぁ……その、イメージしてね?私が蛇口で水を出すとしたら信は水風船)

 

うん。

 

(そんでもって私は結構燃費悪いから10リットルの水を出すそうとすると、途中で半分以上消えちゃう)

 

……うん。

 

(でもそれなりの量をシンに流す事は出来るから水がなくてシボシボのシンは最初はハッピー)

 

………おう。

 

(でも、人間には限界量があるわけでね?そんでもってあの巫女をタンクとしたらシンは水風船。そんでもってタンクは頑丈で結構容量もある)

 

……………つまり?

 

(容量がカスカス、しかも回路が開いたばっかりで頑丈度も全く無いシンに一定以上の力が流れ込めば………パーン!ってね?)

 

そっかそっかーはは。

 

(うん、ははは)

 

やっぱり圧し折ろう、この刀。

 

(待って待って!!それに平気だって!いくらシンの容量がゴミでも私も結構燃費悪いから、そんなこと起きないって!)

 

………まぁ、確かにあの量の弾幕消しても全然容量あるし。

 

(でしょ?)

 

けど、そんなデメリットあるなら俺に流れないようにすればいいんじゃ無いのか?

 

(うん、それ無理。だって吐き出し口が私と繋がってるシンしかないし)

 

…………

 

(大丈夫だって!心配性だなぁ!)

 

はははと笑う無銘(バカ)に殺意を覚えつつも、確かに言われてみればあの霊夢のスペルカードすら吸収して平気なら何とかなるか?なんて考えて、ふと思い出す。弾幕が止まってる?

おや?とアリスの方を見てみれば、口を少し開き、俺の刀をジッと見ていた。

 

「アリス?……おーい、アリスさん?」

 

「……ねぇ、それ何?」

 

え、何で急に真顔?

 

「へ?」

 

「その刀の纏ってる魔力」

 

「えと、アリスから吸収した魔力、かな」

 

「…………………………そう」

 

すると、ふぅ、と息を吐き、何かを探し始めるアリス。………なんか、様子がおかしい。

 

(あっ)

 

おい、なんだその"やっべ、忘れてた"みたいな声は。

 

(あー……その、さ)

 

おう。

 

(あのさ君が人生を賭けて極めようとしてた、格ゲーがあるじゃん)

 

まぁ、今はもう出来ないけどな。てか何で急にその話?

 

(で、君がゲームで自分だけしか使えない奥義的なのを開発して、そんでもって誇りに思ってるとするじゃん)

 

まぁ、うん。

 

(それを急にパッと現れた誰かに、故意では無いとはいえ、盗まれたらどうする?)

 

うーん、殺すね。

 

(だよね、うん)

 

………え、終わり?

 

(いやー、はは。……ごめーんね?)

 

え?何が、と聞き返そうとすると、ガサゴソと何かを探していたアリスがパッと顔をあげニッコリと笑う。………目以外。

 

「さて、信?」

 

「は、はい?」

 

「今回の件とは関係ないんだけど、魔法使いにとってね?触れられたくない大事なものは3つあるの」

 

そう言ってパッと何かを取り出す……ってえ?それスペカ?

 

「1つ、自身が研究してる魔法。2つ、その技術。そして、3つ目に……自分自身の魔力」

 

ダラダラと自身の背中に冷や汗が流れていくがわかる。……いや、うん。ぶっちゃけさっきの例え話を無銘がし終えた辺りから、薄々気づき始めてたさ。

どの世界でも魔法使いにとって大事なもの。

 

ゆっくりと近づきつつ、思わず身惚れそうな程綺麗な笑顔を見せてるアリス。……怒気さえなければドキドキしてたんだけどなー、怒気だけに、ははははー。

 

「さぁて、そんな大事なものを無遠慮に盗んだ貴方は私になんて言うのかしら?」

 

えーと……………うん。

 

「ごめーんね☆」

 

キラッとポーズを取った俺に、いい笑顔のアリスさんに青筋が立つ。

 

「殺すわ」

 

"咒符 上海人形"

 

「いやぁぁ!!!」

 

ビュンっと剣を持った上海さんが斬りかかってくるのを思い切りしゃがんで躱す。

ちょ!?はや!?

 

「待って!マジ待って!?これはシャレにならんから!!」

 

「煩い煩い煩ぁい!!!」

 

ビュンビュンビュンと切りかかってくる上海さんを紙一重、って掠った!?

 

(あっははー、いや、魔法使いって基本的にプライド高いから自分の魔法関連に手を付けられたらキレるんだよねー)

 

他人事みたいに言うな!!どうするんだよ!これ!

 

(うーん、取り敢えずその子が落ち着くまで相手してあげれば?)

 

いやいや、死んじゃうよ?さっきから振るわれてるの正真正銘の真剣よ??

 

(まぁ、なんだ)

 

何!?

 

(死ななきゃ安いさ!)

 

テメェをぶっ殺すぞ!!

 

「ああ!もう!避けないで!当たりなさい!」

 

「いや!待って!ほんと待って!!」

 

グンっ!とアリスが手を引くと上海さんがアリスの元に戻る。……糸で操ってるのか、アレ。

ぜぇ……ぜぇ……と息を切らせながら、状況を確認して見るがどう考えても殺意増し増しのアリスの攻撃をこれ以上避けれる気がしない。と、取り敢えず言い訳を!!

 

「待って待って!!別にこの魔力は使い切りだし、持ち越して悪用とかしないから!!」

 

「それを私に信じろと!?」

 

ビュンと剣が俺の頭を切り取ろうとしてくるのを飛んで回避。

 

「あぶ!?ほ、ホントなんだって!殺されかけてるこの状況で嘘とかつかないから!!」

 

「なら!このまま私のスペカを、残り2枚とも攻略出来たら考えてあげるわよ!!」

 

「その条件で考えるだけ!?」

 

厳しすぎじゃないっすか?

 

「"魔符 アーティフルサクリファイス"!」

 

「問答無用ですか、そうですか!?」

 

ひぃぃ!!と悲鳴を上げつつアリスの攻撃を無銘で受け流すが、こりゃ時間の問題だ。

さぁて、どうしようかな。

 

(君って内心は落ち着いてるよね、こういう時)

 

いや、パニックが一周回ってこうなってる。

 

(にしては冷静に攻撃捌いてるね?……あ、当たった)

 

褒められると調子乗るからほっといて……

 

(難儀だねー)

 

ってか何も無いなら話しかけないで。

結構余裕ないから、今は!

 

(酷いなぁ、せっかく助かるかもしれない助言あげようと思ったのに)

 

流石無銘様!ここぞという時に頼りになる!よ、日本一!

 

(うーん、この手のひら返しには思わずイラッとしたけど、まぁいいよ)

 

で?その案とは?

 

(君もスペカ使えばいいじゃない)

 

無いっつってんだろ!!!

 

「……そこ!!」

 

「ぶふぅ!!!」

 

つい隙を見せ、アリスの蹴りを腹に受ける。

い、いってぇ……ってか弾幕ごっこ関係なく無い?肉弾戦じゃ無い、これ?

 

(あーあ、かっこ悪)

 

お前のせいだからね?何私は関係ないから、みたいな顔してるの?………は?じゃないよ!

 

(もう、しょうがないなぁ……ほら、一旦距離開けれる?)

 

おう、なんか納得行かないけど助かるなら従ってやる。

 

アリスからの攻撃を後退しながら避け、20メートルほど離れる。すると目を細め何かを勘繰るようにアリスに声を掛けられる。

 

「ふぅん、逃げるんだ?」

 

「流石にアリスの距離で戦うのは辛いからね」

 

「あら、何のことかしら?」

 

まぁ、しらばっくれるよね。

 

「その糸、範囲は"ここ"ぐらいが限界だよね……多分」

 

そう言って止まってみれば、ここまで攻撃を加えて来た人形たちがピシッと止まる。

 

「……へぇ、やっぱり目だけはいいのね?」

 

そう言って少し驚いてくれる。まぁその為に逃げ回ってた訳ですし。

感覚的に25メートルがマックスかな?この沢山の人形たちの範囲は。

 

それじゃ、無銘さんや?次はどうすればいい?

 

(はいはい、一枚白紙のカード出してくれるかい?)

 

はいはい、で?

 

(私の刀身に当ててみて?後はそうだね、君が一番欲しいって思う攻撃をイメージしてくれると私が楽になる)

 

は?それだけでいいのか?

 

(うん、本当は霊力を込めたりとか色々あるんだけど、偶々その分の力はここにあるしね?)

 

そう言って無銘が強く黄色く光る。

ああ、成る程ね、アリスから吸収した魔力か。

 

(さ、ぱっぱと作っちゃおう。そうしないと君ヤバイし)

 

そうだね……ん?ヤバイ?

 

(前、ほら前見て)

 

はて?

 

「ラストよ、"戦操 ドールズヴェクション"」

 

 

目の前には何体かの人形が集まり、巨大な1つの弾を作り出していた。それは離れたこの位置からも明らかに異常な大きさでして、先ほど吸収した量の魔力量なんて比じゃないのは目に見えてわかっているわけでね?

 

(ね?ヤバイでしょ)

 

うん、ヤバイね。寧ろ冷静になって来ちゃったよ僕。

 

(一人称が小学生くらい前まで戻るくらいには動揺してるよね?君)

 

いや、うん。痛いだろうなーあれ。

 

(あ、諦めてるだけかコレ)

 

だってどう考えてもアレは無理じゃない?てかさっきみたいに吸収したら俺、割れるでしょ。比喩でもなんでもなく。

 

(まぁまぁ、それよりほら。出来たみたいだよ?君の初スペルカード)

 

へ?と、手元を見てみればあれだけ魔力によって光っていた刀身は静かに佇み、その代わり手元には一枚の黄色い縁をしたカードが出来ていた。

 

(さ、とっとと使わないと勿体無いよ?)

 

「お、おう。それじゃ……」

 

「もう、遅いわ!」

 

カードを手にした瞬間、グングンと迫り来る巨大な赤と黄色の弾幕を前に、何故か冷静でクリアな思考の元、始めのスペルカードを使用する。

 

 

"憑札 一刀刄豺"(しんふ いっとうばっさい)

 

口にした瞬間、身体に暖かく優しいものが混ざってくる。何処か心地よいこの不思議な感覚に目を閉じ、委ねる。

 

再び目を開けば、其処には迫り来る巨大な弾。先程まではアレほど恐怖を感じていたはずなのになんだろう?今はそれ程の感情は無く、寧ろ挑みたいというくらいだ。

 

(もう、ぼけっとしないの!とっと行く!)

 

……お、おう。心情とかそういうのすぐ台無しにするよね?きみは。

 

「でもまぁ、うん」

 

やってみるかな!と刀を鞘に戻し、敢えて飛び込む様に、その弾の"線"を見極める。どんなに巨大で圧倒的な力の本流だろうと、弱点となりえる節、線は存在する。それを見極め、切り捨てる。

 

「せい………やぁぁぁぁ!!!」

 

真横に一閃。ただそれだけ。されどその一撃は確かに()を捉え、その本流を塵へと変えた。

 

刀を鞘に戻しながらふっと笑う。

 

「決まった……」

 

ふふふ、なんだろう。そう!これだよ、俺が求めていたモノは!何今の超カッコいいじゃん!シャキーン!ってシャキーンってなったよ!?

 

(あーあ、少しは決まったのに全部台無し)

 

いやいや!今のは間違い無くカッコよかったでしょ!と、1人で興奮しつつ、余韻に浸っていると、あれ?そういえばアリスは?と同じような疑問を思い、振り返った瞬間、

 

 

「上海」

 

「………!」

 

え?と目の前には1トンと書かれた大きなハンマーを振りかぶる上海さんが居るわけでしてね?……まぁアレだ。

 

「ぎゃふん!?」

 

油断って良くないよね。

 

はんまーで叩かれ、意識を手放しそうになる直前に見えたのは、申し訳なさそうに振るったハンマーを抱える上海さんと、呆れたように笑うアリスの顔だった。

 

 

 

To be continued………?

 

 

 

 

 



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10話 お茶会。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「うーん……」

 

「………」

 

「へぁ……にゃぁ……」

 

「………!……?」

 

「うごごご………」

 

「…!…!…!」

 

「(上海、何であんなに信の事気に入ったのかしら?)」

 

「………、……、」

 

「うーん……うーん……」

 

「……!」

 

「(……見てて飽きないわね、意外と)」

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

「………んぐ?」

 

何やら胸元に重みを感じ、意識が浮上する感覚。うっすらと目を開けてみれば見覚えの無い洋風の天井が映る。

 

……これはあれか。お約束のアレをしていいやつかな?

 

「………知らない天じょっ!?」

 

こういう時のお約束を呟こうとした瞬間に、何かが顔に落ちて来た。

 

痛みはあまり無いけど、何か硬かったり柔い感触なこれは一体……?と手で触ってみれば何処かくすぐったそうに、俺の顔からソレが離れていく。

 

「あ、上海さん」

 

「……!………?」

 

「うん、大丈夫だよ。気にしてないし、アリスの命令だったんでしょ?」

 

「………、………?」

 

「いやいや、はは」

 

(………よく分かるね、本当に)

 

呆れつつも、素直に感心している無銘が話しかけてくる。

 

そうかな?すっごい分かり易いと思うけど。

表情豊かだし、ジェスチャー上手いじゃん、上海さん。

 

(私は全くわからないけど)

 

うーん、俺も何となくだから説明のしようがないんだよね。

 

「……?」

 

「ああ、何でもないよ。……あ、そう言えばここは?」

 

「………、………」

 

どうやらアリスの自宅らしく、あの後気絶した俺を連れて来てくれたらしい。

え、上海さんが運んだの?すごいねと言うとクルクルと回り、何処か嬉しそうだ。

 

「あ、そのアリスは?」

 

「こっちよこっち、……全く気付かないから無視されてると思ったわ」

 

おはよ、と手を振りながら本を片手に優雅にお茶をしてるのはアリスさん。

よっと、ソファーから起き上がりアリスの方へ行けば反対の椅子を指さされ、素直を座る。

 

「気分はどう?」

 

「うーん、特に痛みとか無いし平気だと思うよ」

 

「そう。なら良かったわ」

 

はい、とカップを渡されて飲んでみればこれまた美味しい紅茶ですこと。

俺が一息ついたのを確認したアリスが話を始める。

 

「さて、と……聞きたい事は色々あるんだけどね。まずはその武器、何?」

 

「刀だけど」

 

「そういう事じゃないわよ、何で私の魔力なんて纏えたのよ?普通、本人以外扱えないし、拒絶反応とかでるでしょ」

 

「ほえー、そうなの」

 

「………なんかイライラしてきたわ」

 

何でさ。

 

やれやれとカップを口元に運ぶアリスを見つつ、今言われた事を再確認してみれば何か危なげな単語があったような?拒絶反応?

 

「あのね、魔力も持たない普通の人間がそんな物を、突然扱ったらどうなるかくらい想像がつくでしょう?」

 

「……あれ?もしかして俺、結構危ない橋渡ってた?」

 

「呆れたわ、今更気づいたのね?

しかもこっそり盗むとかじゃなくてそのまま使うし、喧嘩売られてんのかと思ったわよ」

 

再び不機嫌そうに教えてくれるアリスにすみませんでしたと速攻で土下座。うん、そりゃ怒るわな。

 

「まぁ、弾幕ごっこには負けちゃったし、悪用もしないんでしょ?なら今回はいいわ、故意じゃ無かったことに免じて許してあげる」

 

「以後気をつけます、はい。

………………あー、因みにもしもさ、またアリスの魔力とか使ったりしたら「潰すわ」はい、心に刻みました二度としません」

 

マジだった、真剣と書いてマジだったよ、今の殺意。

…………ってあれ?

 

「あのさ……俺、負けなかった?」

 

「何言ってるのよ、ちゃんとスペルカード3枚攻略したじゃない?」

 

「え、でも俺最期は上海さんに気絶させられたけど」

 

「あれは……私の個人的な鬱憤晴らしよ」

 

何それ聞いてない。

何処かバツの悪い顔でふんっと、顔を背けるアリスをついジト目で見てしまうが、まぁそれだけの事をしたのは俺だし、黙っておこう。

 

「それにね、もし普通の魔法使いなら殺されても文句は言えないわよ。偶々私が貴方のことを知ってたからいいけど、普通なら問答無用よ?」

 

……運が良いのか悪いのか、これもう分からんな、俺。

 

「って、そうじゃなくてその刀の事よ」

 

「ああ、うん……まぁいいか」

 

話しても別に問題ない……よね?

 

(うん、別に疚しい事とか無いよ?私には)

 

無銘にも許可を貰ったので刀の事や、俺自身の事(昨日幻想卿に来たばかりの事や、それまでの経緯等)など聞かれた事は取り敢えず素直に話してみる。

 

「〜〜〜ってな訳で、俺は今ここにいるんだ」

 

「……つまり何?アンタは私の事を舐めてたんじゃなくて、本当に弾幕を張れなかった訳?」

 

「うん、そもそも霊力とかそういうオカルト系の文化は外じゃ否定されてるし、何より俺にその手の才能も無かったしね」

 

「…………あー、もう本当に」

 

そう言って手を頭に当てて項垂れるアリス。何だ急に?頭痛?

 

「どしたの?」

 

「何でもないわ、ちょっとした自己嫌悪みたいなものよ………ってちょっと待ちなさい、弾幕ごっこの時、スペルカードを1枚しか使わなかったのって、使わなかったんじゃなくて」

 

「持ってなかったんだよ、最期のアレも直前で作ったんだし」

 

ほい、と机の上に白紙の2枚のカードと新たに作った一枚のカードを出して見せると、アリスの表情が曇る。

 

「どうかした?」

 

「………何でもないわよ」

 

はて、何故にそんな複雑そうな顔をしてらっしゃるの?

 

(ナチュラルに煽るよね、信って)

 

へ?

 

(今の会話、そこの魔法使いからしてみれば弾幕ごっこ初心者で、スペカ無しの特大ハンデが有ったのに負けたって事だよ?)

 

そりゃ確かにそう聞こえるけど……俺、刀とか使ったし。

 

(だとしてもプライドが高い生き物って言ったじゃん、私)

 

うーん、フォローした方がいいのかな。

 

(まぁ、それで温厚に済むならねー)

 

さて、どう言ったものかな。下手に刺激しても逆効果だろうし、煽てるのも多分NG。何か話しをそらせるものでもあれば良いな、なんて考えて目線だけで、部屋の中を見てみる……ってあれ?

 

「あのさアリス、そこに置いたあるバックって……」

 

「え?ああ、これ?昨日拾ったのよ。ウチの近くに落ちててね、見たことのない素材ばかりだからそのまま持って帰ってきたの」

 

立ち上がり、置いてあるスポーツバックを手に取り確認してみれば、それは外の世界では比較的ポピュラーなブランドのもので、中身は男性物の着替えやら何やらが多く入っていた。

 

んん?いやー、何だろうか凄く、物凄く見覚えのあるTシャツや学校の制服に、"依白"と書かれた予備の体操服とジャージが入ってるじゃないかーはっはっはー。

 

「あー、アリスさんこれなんだけど」

 

「結構良い素材ばっかりでね、最近新しい人形を作るにも、良いアイデアがなかったら嬉しい拾い物なのよ」

 

これなんて初めて見たわ、と嬉しそうに俺の制服を見せてくるアリスさん。

いや、うん笑顔で説明してくれて、凄く楽しそうなのは良いんだけど、それ俺のだから解説されても反応に困るというか……

 

「これとか、何で出来てるのかしら?全然分からないのよね……。加工しようにも下手したら無駄にしちゃうし」

 

そう言ってプラスチック製のレインコートを広げて、うーんと唸るアリス。

辞めて!オカンが無理矢理入れた真っ黄色のカッパを広げないで!

それ着て同級生から"何あのカッパ、ダサ………"って笑われたの今だにトラウマだから!!

 

(いや、あれはダサいよ?何あの河童のミニキャラクター)

 

買ってきた母さんが"若いギャルに馬鹿受けでしょ!"だって。

 

(蛙の子は蛙とはよく言ったものだよね)

 

どう言う意味?ねぇ、それどう言う意味さ?

 

「信?ねぇ、どうしたのよ?」

 

「あぁ、うん……何でもない。はい、これ」

 

「?」

 

拾ったって言ってたし、何より中身的に絶対に俺ので間違い無いんだけど。

ぶっちゃけもう俺には必要ないものだし、これだけ喜んでくれるなら良いか、と黙っておくことにする。

 

うん、こんなに笑顔で自慢してくる辺りコッチでは相当貴重なアイテムなんだろうけど、根が真面目でいい子っぽいアリスなら変なことには使わないだろうしね。

 

「うーん、頑丈だし新しい武器の素材とかにも……」

 

使わないよね?

 

その後は自然と人形の話題へと変わり、アリスの作った人形を見せてもらったり、上海さんと戯れたりしていた。

そんな中、つい俺が言ってしまった外の世界の人形(美少女フィギュア)の話アリスが興味を示して、焦りつつ誤魔化したりと気づけばそれなりに時間は経っていた。

 

「……ってそうだ、俺お使いがあるんだった」

 

そういや霊夢から頼まれてたっけ、とポケットを探れば、食材やらお茶菓子やら書かれた紙が出てくる

 

「ああ、そうなの?なら、そろそろお開きにしましょうか」

 

「もう夕方だしね、長いこと居座っちゃってごめん」

 

「別にいいわ、私も結構楽しかったから」

 

そう言って玄関まで見送ってくれるアリス。横には上海さんが"ばいばーい"と手を振っていた。

 

「人里はこの魔法の森かららあっちの方に真っ直ぐ飛んでいけば着くから」

 

「ん、ありがと」

 

「ええ、また暇な時にでも来なさい。お茶とお菓子くらいは出してあげるわ」

 

おろ?もしかして俺の想像以上にアリスと仲良くなれてるのか、これ。

 

「また来ていいの?」

 

「ええ、魔理沙みたいにしょっちゅう来られても迷惑だけど、偶にならね」

 

「あー、想像通りと言うか……まぁ、またそのうちお土産でも持ってくるよ、じゃ」

 

「ん、またね」

 

 

 

こうして不思議な人形遣いの友人が出来たわけでした。

まぁ、結構高頻度で遊びに行ってたら"貴方って私の家以外に行く場所ないの?"なんて辛辣な事を言われるくらいには仲良くなれた事をここに記しておこう。

 

……別に他にも友達くらい居るし。

 

 

 

To be continued……?

 

 

 

 

 

 

 

 



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11話 天狗のブン屋。

 

 

 

 

「こんにちはー!」

 

「……何しに来たのよ」

 

「あやや、随分と不機嫌ですね?」

 

「面倒に羽根が生えた様な奴が来たら、気分も悪くなるわ」

 

「ひっどいですねー、私はただ取材のために来ただけですよ?」

 

「それが面倒って言ってるのよ」

 

「何時もに増して辛辣ですねー」

 

「はぁ……」

 

「しかし安心して下さい!今日は霊夢さんではなく、最近こちらに来たと言う外来人の方にお話を聞きに来ただけですので!」

 

「信さんに?……アンタにしては聞きつけるのが遅いわね」

 

「いやはや、お恥ずかしい事に少々"荒事"がありまして」

 

「私に迷惑かけなきゃ何でもいいわ」

 

「博麗の巫女が出る程のものではありませんよ。さて、それよりもその外来人の方は?」

 

「人里に買い出し中」

 

「おっと、居ないんですか。お帰りはいつ頃になりそうです?」

 

「さぁね、そろそろじゃないかしら?」

 

「ならそれまで霊夢さんにその外来人の方のお話でも……」

 

「お帰りはあちらよ」

 

「これ、つまらないものですが人里で最近人気のお饅頭です」

 

「お茶淹れてくるわ、適当に座ってなさい」

 

「……あやや、チョロいですねぇ……」

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

 

さてはて、そんなやり取りもあり取材の対象人物の事前情報を獲得できる流れになったのは良好と言えるだろう。

 

あ、お茶どうも。

 

「で、何が聞きたいわけ?」

 

「いやはやブン屋としてはお恥ずかしい話になるんですけど全くその外来人の情報が無いんですよね。なので基本的な名前などから」

 

「ふぅん、まぁいいわ。名前は依白 信ね、歳は16とか言ってたかしら」

 

「ほうほう」

 

得た情報を手帳に軽くメモしていく。中々に珍しい苗字ですねぇ。

 

「どの様な方なんです?」

 

「普通の人」

 

ずずーとお茶を啜りながら何処と無くつまらなそうに話す霊夢さんに少し疑問が。

 

「おや、魔理沙さんから聞いた印象とはだいぶ違いますね」

 

「アイツはなんて言ってたのよ」

 

「少々お待ちを………"面白い奴だぜ?変な奴でもあるけど、私は結構気に入ってるぜ"だそうです」

 

「ふーん、そんな事言ってたの」

 

おや、珍しく何かを考える素振りを見せ始めましたね?魔理沙さんの話に何か引っ掛かりでも覚えたのでしょうか。

 

「……そうね、追加するなら不思議な人かしら」

 

「不思議、ですか。その心は?」

 

「外から来たって言うのもあるんでしょうけれど、価値観の違いとかもだし何より反応かしらね」

 

反応?価値観云々の話は分かりますが、反応とは一体何のことでしょう。

 

「会えばわかるわ」

 

「うーん、纏めると不思議で変で面白い人……?掴めませんねぇ」

 

「ならそこに不運とうっかり屋も追加しておきなさい。……ほら、帰って来たわよ」

 

玄関のドアが開く音が聞こえるのと同時に誰かが歩いてくる気配。ふむ、後は自分の目で確認してみましょうかね。

 

 

 

 

霊夢に頼まれた大量のお茶やらお酒を抱えて帰って来てみれば、見覚えのない変な帽子?の様な物をつけた黒髪セミロングのお姉さんが霊夢とお茶を飲んでいた。

何やら美味しそうなお饅頭まで摘んでるし、霊夢のお友だちかな。

 

「ただいま、お客さん?」

 

「ええ、信さんにね」

 

「俺?えっと、どちら様?」

 

そう聞くと待ってましたと言わんばかりに立ち上がり、俺の前まで来て手を出してくる。

 

「どうもどうも!私、この幻想郷で"文々。新聞"と言う新聞を書いている射命丸 文(しゃめいまる あや)と申します、お見知り置きを」

 

「ロクでもない新聞書いてるブン屋よ、適当に相手してやって」

 

「失敬な。私の新聞は清く正しく真実のみを(少しばかり弄って)伝える物ですよ!」

 

すっごい小声だけど何となく聞こえたからね、弄っちゃダメでしょうに。

 

「まぁ、適当にして。私は少し用事あるから」

 

「え、珍しいな」

 

「ちょっとね、物を取りに行かなきゃ行けないの。行ってくるわ」

 

そのまま怠そうな顔をして外に出ていく霊夢を見おくりつつ、この射命丸さんと2人っきりの空間に何となく居づらさを感じる。

……いやあれよ?別に嫌とかじゃなくて初対面の人と2人っきりの空間でシーンとしてるとか居づらいじゃん。

 

「ありゃ、行ってしまいましたね?」

 

そんな俺を気にすることなく座り直し話しかけてくれる。

こりゃ有難いと反対に座り、いざ本題に。

 

「そんで俺に何の用ですか?えっと……」

 

「気軽に文で構いませんよ、用というは是非信さんの事を取材させて欲しくてですね。何でも外の方から来られて、そのままこの幻想郷で暮らし始めたとか」

 

「ああ、うん。あってるよ、けど外来人って珍しいらしいけどそんなにスクープになる程の物でもないんじゃ?」

 

聞いた話によると割と居るらしいし。大抵は野良の妖怪の餌になるか、帰るって聞くし。

 

「確かに外来人は珍しいですが普通なら記事にもなりません。でも貴方は住む事を選んでしかも!能力まであるそうじゃないですか!」

 

ダン!とテーブルを叩いて興奮する様に語る文さんについ気遅れしてしまう。

 

「ず、随分と俺の事詳しいですね?」

 

「そりゃもう情報は鮮度が一番大事ですからね。ただ調べた限り信さんの情報は人里の軽い目撃情報と一部の人や妖怪、魔法使いからの曖昧なものばかりでして、これは自分の目でいち早く確かめたい!と」

 

「そ、そうですか……ん?それにしては俺がここに来てからそれなりに時間経ちますけど?」

 

「あー実は私の方で色々ありまして……これでも特急で来た感じなんですよ」

 

あははと笑いつつ何処か疲れてる顔なのはそういうことなのか。大変そうですねー。

 

「いえいえ身内のゴタゴタなんて何時もの事ですし、慣れましたよ」

 

「まぁここでくらいゆっくりして下さい。お茶のお代わりでも」

 

「あ、どうもです。……ふむ、成る程」

 

はて、何やらじっと見られているような?何だろう何か顔にでもついているだろうか。

 

「信さん、つかぬ事をお聞きしますが」

 

「はい?」

 

「私の事を見てどう思います?」

 

そう言って何処か真剣そうに俺を見つめてくる文さんに俺の頭は一瞬停止してしまった。

 

……………えーと?文さんのことを見てどう思うって言われても、と今一度文さんのことを失礼ながら見てみる。

服装は白ベースの和服とも洋服とも言えない様な感じに黒色のスカート。持ち物も手帳にペンと特質して可笑しなものは無いし、敢えて気になるのは頭に乗っけている………ってあれってもしかして。

 

「頭襟、ですか?それ」

 

「ええ、そうですよ」

 

「って事はもしかしてお姉さん、人間じゃなくて」

 

「はい、天狗です。鴉天狗って言えばわかりますかね?」

 

そう言ってバサッと真っ黒な翼を広げ、天狗であることを証明してくれる。

………天狗様!?

天狗様ってあの赤い顔で人間を攫っていくあの妖怪だよね?実はかなり好きな部類の妖怪なんだけど、なんというか、そのさ。

 

「会えて嬉しいようなイメージが崩れて少し悲しい様な複雑な気持ちだ……」

 

「……あやや?これまた予想とは違う反応ですね」

 

「まぁそのイメージと違いすぎまして」

 

おっかしいなぁ……?

俺の知ってる妖怪ってどれもこれも恐ろしい見た目に人間を見たら速攻で襲ってくる様な恐怖を体現した存在って認識のはずなんだけど。

 

目の前にいる実際の天狗様は湯呑みを手に乗せ、もぐもぐとお饅頭を食べてる綺麗な女性で。

 

「幻想郷で会う人、しかも綺麗所に限って人外ばっかりなんだよなぁ、はぁ……」

 

「……面白い方ですね、信さんは」

 

「へ?」

 

俺の顔をジッと見て呟く文さんの一言につい反応してしまう。

 

「いえ、話を聞いた方々皆さんに直接会えばわかると言われた理由がやっと理解出来ました」

 

「方々って?」

 

「魔理沙さんやアリスさん、それから霊夢さんなんかもですね」

 

さてはて、今の会話に何か俺が面白いって思わせる様なものがあっただろうか?

 

「普通の外来人……いえ私の知っている人間という生物は、私達のような存在を認識すれば混乱し、恐怖で逃げ出すか自己防衛の為に攻撃してくるかのどちらかで、信さんの様な表情や反応は長い事生きていますが初めてですよ」

 

うーん、そんな事無いと思うけどな。こんな綺麗な人が天狗で攫ってくれるなら人によっちゃご褒美だろうし、何より全く敵意も無ければ攻撃もしてくる気配もないのに怯えろって言う方が無理な話じゃ無いかな?

霊夢とかも普通に反応してたし。

 

(シンの場合は特殊だと私は思うけどね。この鴉天狗の言う通り普通はもっと取り乱したりするでしょ)

 

そんなもんかね?こんな優しそうな人、妖怪か?なら誰だって仲良く慣れそうだけど。

 

(一般的な人間は未知の存在を恐れるものなんだけどね、まぁシンはそのままでいいんじゃないかな)

 

あれ褒められたの?

 

(うん、そのまま危機感ない馬鹿な君でいてね)

 

褒められて無いなこれ。

 

「因みに私が天狗だと分かった後と前の印象を参考までにお聞かせ頂いても?」

 

「別に構いませんけど……最初はこんな若いお姉さんが新聞書いてるなんて渋いなって。天狗って気付いた後は出会えて嬉しい7割と3割の切なさ……かなぁ?」

 

そう答えると一瞬ポカンと呆気にとられたような顔をした。

あれ、やっぱり失礼だったかな。とはいえは素直に言わない方が悪いだろうし……

 

「くっ……ふふ、あははは!」

 

うーんと悩んでいると耐えられないとばかりに笑い出した文さんに頭にはてなが浮かぶ。ええ……俺、そんな爆笑される様な事言ったかなと困惑してると、文さんがああ、すみませんと言って落ち着きを戻してくれる。

 

「嬉しい、出会えて嬉しいですか。……ふふ、人間にそんな事言われたのは妖怪としては考えものですけど、私個人としてはとても新鮮で面白い出来事だったのでつい、すみません」

 

「あ、そっか。普通は恐れるものですもんね、すみません」

 

「いえいえ、信さんの様な方は1人くらいなら居てもいいと思いますよ」

 

「?」

 

「分からなくていいんですよ、きっと妖怪の私たちにしか分からないでしょうし」

 

はて?寧ろ"恐れ敬え"を尊重しない俺は妖怪の方々からしたら果てしなく失礼な愚か者の筈なのに何故にそんなにも嬉しそうに俺のことを見てくるんですかね。

 

(まーた厄介なのに気に入られたね?……天狗、しかも鴉天狗ってどういう存在か知ってる?)

 

勿論、妖怪大好きっ子としては外せないよね!剣術が上手い上にあの牛若丸の師匠とか浪漫だらけだよね。

 

(そんで持って興味を持ったものや気に入ったものを巣に連れ帰り、それを神隠しと呼ぶ……とかも?)

 

もちのろん、それがあったと言われる山にまで行ったことあるくらい出しね、俺。

 

(はぁ……ここまで言っても気付かないのはある意味おめでたいんだろうね。なんで何時もは勘がいいのに妖怪とかになると鈍くなるかな)

 

「さてさて、それでは信さん」

 

「ああ、何です?」

 

「別に敬語は外して頂いて結構ですよ。話は戻って取材なのですが、受けて頂けますか?」

 

「あ、うん」

 

「はい!なら早速、まずこの幻想郷に来られたのは何時頃です?」

 

「確か今日で丁度3週間くらい〜〜」

 

 

とこんな感じで始まった鴉天狗様の取材は実に2時間以上になり、自己紹介やら特技に外の世界では何をしていたか、趣味や好んでいるものに無銘の事や能力についてと沢山の事を聞かれた。

 

「〜〜〜はい、これで取材用の質問は終了です。お疲れ様でした」

 

「あーうん……お疲れ」

 

ぱたんと卓袱台の上に倒れる様に蹲る。つ、疲れた……!想像していた3倍は疲れたよ。

 

(そりゃあんなに何でもかんでも答えてたらねー)

 

だってさ、俺の話あんなに楽しそうに聞いてくれるしそれに答えないのは違うでしょ。

 

(変な所で義理堅いね、君は)

 

普通だよ普通。それに文さんとの会話何だかんだ言って楽しかったしね、見た目に騙されがちだけどあの天狗様とお話できたと考えればテンションも上がるってもんよ!

 

(幻想郷に来てから生き生きしてるよね本当に)

 

そりゃそうでしょ?

 

(……皮肉に気付かないくらいには舞い上がってたのね)

 

「さて、ここからはブン屋としてでは無くしがない鴉天狗の私としての話ですが」

 

そう言って手帳をしまいながら話を続ける文さんの表情は何処か楽しげなんだけど、何となく悪巧みをしてるような?

 

「もし良ければですが、私と一戦如何ですか?」

 

ペラっと取り出したのは一枚のスペルカード。つまり弾幕ごっこのお誘いかな?うん、そっかあっははー。

 

「謹んでお断りします!」

 

「あや、つれないですねぇー」

 

「痛いのヤダ、弾幕怖い弾幕怖い弾幕怖い………」

 

思い出すのは魔理沙やアリス、霊夢との弾幕ごっこ。

ある日は弾幕はパワーだぜ!とバ火力の上に高密度の弾幕に押し潰され、ある日は新しい人形試してみたいのよねと速い鋭い痛いの三拍子そろった人形軍団によるリンチ。

そして面倒ね、とか言いながら夢想封印、夢想封印、夢想封印………思い出しただけで気分が悪くなる……

 

 

「あー、成る程。そんなことがあったんですね」

 

「……あれ、口に出してた?」

 

「ええ、"弾幕はパワーだぜ"辺りから全部聞いてましたよ」

 

あの御三方は結構容赦ないですからねーと笑いながら話してる辺り、実は文さんもその類いだな?俺には分かるぞ?結構Sでしょ貴女。

 

「いえいえ、清く正しくがモットーの私がそんな事あるはずないじゃないですかー」

 

「……ならその並べてる物(スペルカード)は何ですか」

 

「ふふふ、楽しみですねぇ」

 

「やっぱりやる気満々じゃないですかやだー!!」

 

怪しい眼光で俺を見つつ、ペロリと舌で唇を舐める様は普通の男性なら性的にドキドキするんでしょうけど、今の俺からしたら捕食される側のドキドキで洒落にならない。

 

「さぁ信さん、行きましょうねー」

 

「ちょ、待って!?いつの間に背後に回ってる訳!?」

 

「ほらほら、外に出ますよ」

 

「ちょ、ちょっと待ってやるとは言ってな……って力強!?」

 

ジタバタと抵抗するも全く響かず笑顔で俺を羽交い締めにした文さんがズルズルと玄関へと向かう。

 

「もう諦めが悪いですねー?」

 

「いやいや、やりたくない物はやりたくないんだって!?というか文さん性格変わってないですか!?」

 

「コッチが私の素ですよ?なら、そうですね。私に勝てたらご褒美あげますよ?」

 

気づけばもう神社の方に出てきてしまっているが逃げようとする俺をぎゅっと抱きしめて離してくれない。

これが弾幕ごっこじゃなきゃ綺麗なお姉さんに抱きしめられるという最高のシチュエーションだが、俺の視点では蛇に絞め殺される直前のカエルだ。

 

「要らないですから辞めてください!俺、天狗様相手にコテンパンにされる未来しか……」

 

「ちょっとくらいなら、えっちなご褒美でもいいですよ?」

 

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

 

「いやいやいやいや」

 

「あやー、男の子ですね信さんも」

 

「純情で思春期の全盛期なんです!そんな微笑ましい顔をしないで!?」

 

(とか言いつつ背中の感触に今更気付いてドギマギしてるシンくんでしたとさ)

 

やめろぉ!!

 

 

と、そんなこんなで結局弾幕ごっこをやる事になったが開幕五分で文さんのスピードについて行けずに落とされて気絶し、膝枕されるという俺には刺激の強いイベントもあったのだが、割愛させて貰う。

 

……というか文さんってアレだよね、完全に分かっててからかってくる近所のお姉さんって感じだよね、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、もういいの?」

 

「ええ、楽しませていただきました」

 

「信さんはどうだった?」

 

「……とても面白い方でしたよ」

 

「そう」

 

「ええ、本当に。あんな愚かな考えを持った人間は初めてですよ」

 

「その割には凄くご機嫌ね?」

 

「ふふ、他の妖怪たちは知りませんが、私個人的はかなりお気に入りです。さて、私はこれから記事を纏めなければいけないので、それでは」

 

「……はぁ、私には関係ないけど、信さんもつくづく不運よね。

気に入られれたら大変そうだから"適当に相手しなさい"って珍しく気を使ってあげたのに、寧ろあんなに好かれるとか何したのかしら」

 

まぁ私には関係ないわねと、面白いおもちゃ(信さん)を手に入れた顔をした文を見送りつつ、家に帰るとしよう。

 

 

 

 

 

「ぶえっくしょっん!!……背中が寒い」

 

(風邪でも引いた?)

 

 

 

 

To be continued………?

 

 

 



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12話 寺小屋アルバイト【上】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「働きたいですか?」

 

「うん、なんかこのままここ(博麗神社)にいると怠けちゃいそうでさ」

 

「いやはや、勤勉で止めるつもりは無いんですが、この幻想郷を見て回るのが信さんのやりたい事なのでは?」

 

「だから軽いアルバイト的なものとか無いかなーって」

 

「1日だけみたいなものという事ですか、ふむ」

 

「文さんくらいの情報通なら何かあったりします?」

 

「そう言われてしまうと見つけない訳には行かなくなりましたねぇ……ん、そういえば」

 

「え、本当にあるの?」

 

「1件ほど心当たりがあるんですが、信さん」

 

「?」

 

「座学は得意ですか?」

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

ガヤガヤと何時もそれなりに賑わいのある人里もこの朝早めの時間では人気も薄く、また違った印象を覚える。

 

さてはて、何してこんなに早くここに来たかというと何でも寺小屋にて手伝いが欲しいという話を聞いた文さんが、働きたいと言う俺の事をわざわざ紹介してくれたのだ。

 

(ふぁ……ごめん、私はまだ寝る……)

 

おう、別に使う予定もないからゆっくりしてて良いよ。

 

(んー、ありがと……ぅ……)

 

さて、そんなこんな教えてもらった道すがら歩いて着いた先にはそれなりの大きな民家があり、多分ここなんだろうけど。

 

「インターホンなんて便利なものもある訳ないよね、そりゃ」

 

さてどうしたものかと建物の前で思考していると何やら建物の反対側物音が聞こえてくる。

 

「……?」

 

誰かいるのかな?と回り込んでみれば青いロング髪の女性がせっせと薪やら木箱やらと重いものを運んでいた。

む?もしかしてあの人かな。

 

「あのすみません、上白沢さんですか?」

 

「ん?ああ、すまない少し待っててくれ」

 

そう言って明らかに女性が持てるであろう重さの範疇を超えた木箱を中に運んで行く。

………えっと力仕事も必要って言ってたけど女の人であれって男の俺にはどんなものを求めてるんですか?もしかして選択ミスったかな、俺。

 

「おーい!入ってきてくれ」

 

「は、はい」

 

とは言え来てしまったものはしょうがないし気合い入れるしかないなといざ中へ。

寺小屋内部は他の建物に比べてそれなりに広く畳の上に10〜15個程度の小さな机があり、どこか昭和の学校の様な光景に何となく懐かしさを覚える。

 

……いや、俺こんな感じのレトロな小学校通った事ないけど映画とかで見た事あるなーって。

 

キョロキョロと中を見回しながら奥に進めば、少し小さめの個室がありそこの卓袱台には結構な量の紙や文房具などが置かれていた。

そして、そこではキッチリと正座した先ほどの女性がやぁと出迎えてくれる。

 

「朝早くからすまないな、君が依白信だな?」

 

「はい、上白沢慧音さんですよね。今日はよろしくお願いします」

 

「うん、よろしく頼む。取り敢えずかけてくれ」

 

と言われ卓袱台の反対側、上白沢さんの対面に座る。

うーむ、第一印象はキッチリとした真面目そうなタイプで綺麗な人だけど怖そうだなーとか思っていると上白沢さんが口を開く。

 

「さてと……まず初めにだが、軽くお喋りでもしようか?」

 

「へ?」

 

「いきなり人となりもよく分からない相手と、仕事というのも緊張するだろう?

だから軽く自己紹介も兼ねてな。

緑茶でいいかな?」

 

「あ、はい。頂きます」

 

「ふふ、そんなに緊張しなくていいさ。君のことは射命丸から聞いてるし、実は里でも何度か見かけたりもしてるんだ」

 

そう言って緊張している俺をゆっくりと解す様にゆっくりと会話を広げてくれるあたり、教師という職業なのがよく分かる。

こりゃ生徒からも慕われてるんだろうな。

 

「上白沢さんもあそこで買い物してるんですね」

 

「ああ、それと呼び方は好きしてもらって構わないよ。苗字の方は呼びづらいだろう?」

 

俺が噛みそうになったのを的確に指摘されてしまいちょっと恥ずかしい。

 

「あはは……じゃあ慧音さんで」

 

「ああ、ただ生徒達の前では先生をつけてくれよ?変に舐められても困るしな」

 

「了解しました、慧音先生と」

 

なんか凄いしっくり来るな、こう口に出してみると。

 

「……君くらいの子から先生と呼ばれるのは中々新鮮だな。こちらこそ宜しく頼むよ信先生」

 

ゾワっと背中に走るこの感覚はなんとも言いづらいな……先生、先生かぁ………なんか先輩とかの呼び名とはまた違ったものを感じるね。

 

「って慧音先生も別に俺と歳そんなに変わらないですよね?」

 

「ん?ああ、そうか。射命丸から聞いてないのか」

 

「?」

 

「私は半人半獣でね、こう見えても君が思ってるより遥かに生きているんだよ……ってどうしたんだ?」

 

「……いえ何でもないんです。ええ、本当にいつになったらこの感覚に慣れるんだろうなぁ……」

 

なーんで"あ、やっと人間で美人な人と出会えた"とか思える人と出会えたと思ったらぶち壊されるこの感じね。いや別に差別とかはしてないんだけどさ、心持ち的ね。

 

「ふむ?良く分からないが大変そうだな」

 

「ええ、本当に……因みに先生は何の妖怪なんです?」

 

「ああ、白沢というものなんだが」

 

ガツンと頭を卓袱台に落としてしまう。

 

「お、おい?凄い音がしたが大丈夫か?」

 

「はい、何というかもう幻想を抱くのを辞めようと何回目か分からない決心をした所です」

 

白沢(ハクタク)って事はワーハクタクなのか先生は。うーん、半分人だし実質人間の知り合いって事でいいのかな……。

 

そんなことを考えていると何やら複雑そうな表情をした慧音さんが恐る恐ると言った形で声を掛けてくる。

 

「……何だその、もし怖いなら辞めてもいいんだぞ?」

 

「へ?何がですか?」

 

「いやその、私は半分とは言え人間ではないんだぞ?君からしたら……」

 

(シンがこの半獣の事怖がってるって思ってるんじゃない?)

 

いつの間にやら起きていた無銘からの指摘にああ、成る程と納得してしまう。

俺のさっきまでの反応の所為で勘違いさせちゃった訳か。

 

「いや違うんですよ?先生の事が怖いとか全く無くてですね」

 

「別に無理しなくても良いんだぞ?

聞いたところによると君は外来人らしいしな、無理もない」

 

と何処となく寂しそうな笑顔で語りかけてくれるが本当に違うですよ?

 

「いやいや寧ろ大好きですよ俺」

 

「へ?」

 

「はい?」

 

(馬鹿)

 

先ほどまでの少し暗めの空気が一気に消え去り、何とも言えない静けさが俺と先生の間に包まれる。はて?

 

(20秒前の勢いに任せて言ったシンのセリフちゃんと噛み砕いて考えてみなよ)

 

えっと"いやいや寧ろ(白沢とか)大好きですよ俺"…………………………………ふむ?

 

………………………………あれ?これもしかしてと慧音さんの顔を見てみればポカンとしてらっしゃる。

 

まぁあれだな、文章だけみると出会って数十分の女性に告白したみたいに見えるよね☆

 

(見えるというか、"した"じゃない)

 

俺のバァァァァカァァァァ!!!!!

 

 

「いやいやいや!?今のは違うんですよ俺が言いたかったのは趣味で妖怪とかそういうのが好きでしてそれを焦って言い間違えて告白みたいな感じになってしまっただけでして!」

 

「え、ああ。分かったから一回落ち着こう?」

 

「決して!そう決して出会い目的でこのバイトに望んだとかそんな不誠実な事実はこれっっっっぽっちもある訳もなくそもそもそんな度胸がヘタレ野郎な俺にあるはずもないんですよ?」

 

「信?分かったから、な?」

 

「そもそもですよ出会って数十分の女性に行成り愛の告白なんてする訳もないじゃないですか?それに俺みたいな下の下の顔をした奴が慧音先生の様な可憐で美人な人に話しかけるのすら罪に問われるレベルですしね」

 

「………はぁ、少し痛むぞ?………冷静に」

 

「それに何より俺なんかカスが先生とこうして二人っきりでお話ししている事自体がもうーーー」

 

「なれ!!!」

 

ガツンッ!!!

 

 

 

______________________________

 

 

 

「……はぇ?」

 

あ、あれ?何処だろうここ、と起き上がると横で誰かの気配。

 

「ん、目が覚めたか?」

 

「あれ慧音さん?俺なんで」

 

「まぁうん。落ち着いたなら良かったよ」

 

「へ?」

 

全くと言った感じで頭を撫でられるが、なんか頭がぼーっとしてるような。

 

「頭は痛まないか?」

 

「はい、特に痛みとかは……ぁ」

 

痛み……頭突き……ハッ!?

 

「あ、いやその!」

 

「もう一発いくか?」

 

すっ、と頭を両手で押さえられた瞬間なんだろうかスッと頭が冷静になる。……身体の方はガクガク震えてるけど。

 

「君はパニックになると随分と愉快になるんだな?」

 

「ああいやその……すみません」

 

「ん、構わないさ。それに私も年甲斐も無く勘違いしてしまったしお互い様さ」

 

「勘違い、ですか?」

 

そう聞くとほんのりと頬を赤らめ髪を触りながらそっぽを向く慧音さん。はて?

 

「あー……何だ?その……私も実は君の"アレ"で結構パニックになってたんだがそれ以上に取り乱す信を見て、冷静になれたんだよ」

 

「えっとつまり……?」

 

「その……私はあまりそっち方面の知識も経験も無くてな。ストレートな好意には弱いみたいだ」

 

そう言って恥ずかしそうに、はにかみながら話す慧音さんを見て稲妻が走る。

普段は凛々しく真面目な女性教師が見せるふとした瞬間の隙。

 

………そうかこれが"ギャップ萌え"か!

 

(アホな事言ってないで早く謝ったら?)

 

はい。

 

 

「いやそのホントすみません、別にセクハラとかじゃ無くてですね、俺は純粋に白沢という妖怪が好きというだけでして……」

 

「あ、ああ。大丈夫だ、私にそういう魅力が無いのは自分で分かってるから」

 

「え?慧音さんは美人ですよ?」

 

「……」

 

「ちょ!待って!頭突かないで!」

 

無言で頭を抑えられるという新しいトラウマ(頭突き)が追加された信であった。

 

「あまり、揶揄わないでくれ、本当に"そう言う"のは苦手なんだ」

 

「りょ、了解しました」

 

むぅといじけるのはコレまた可愛らしいのだが、それを言うと確実に頭突きが飛んでくるので黙っておくチキンな僕でした。

 

「まぁその……君が私の事嫌って無いのは分かったから安心してくれ」

 

「それなら良かったです。……あの?」

 

「な、何だ?」

 

「何でそっぽ向いてるんですか?」

 

「……気にしないでくれ、時期に収まる」

 

何という分かりやすさ。というか、どんだけ耐性無いですか慧音先生?普通出会って間も無い奴からの告白紛いなんて、気にしないか気持ち悪いと見下されるくらいだと思うんだけど。

 

(まぁその半獣も"半獣"だからこそ苦労して来たんじゃないかな?半分づつってのはどちらからも疎まれるだろうし)

 

そういうものなのかね?

 

(そう言うものなの。それなのに行成受け入れられて、挙句に好意まで受けたら混乱すると思うよ?)

 

なんか凄い申し訳なくなってきたんだけど俺。

 

(まだ同性とかなら良かったんだろうけど、よりによって異性だしね、シンみたいなのでもやっぱり嬉しかったんじゃない?)

 

アレか?お前は一々俺をdisらないと死んじゃう病気にでもかかってるのか?

 

(はいはい、それよりほら仕事しようか?)

 

ムカつくけど正論なんだよなぁ……はぁ。

 

悶える慧音先生を横目に、卓袱台の問題集を写していく作業を代わりに進めておく。

 

プリンターが無い分大変であろう作業をやるのは、せめてものお詫びって奴だよね。

 

 

 

To be continued……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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13話 寺小屋のアルバイト【下】

 

 

 

 

 

 

 

 

「(そわそわ……)」

 

「えっと……」

 

「(チラリ……)」

 

「ふぁ……」

 

「(むぐぐぐ……)」

 

「ふぅ……あ、終わりましたよ?」

 

「え、ああ、なら次は……」

 

「そっちの方もやっておきましたよ」

 

「へ?な、なら……」

 

「そっちの歴史の方も纏めて置いたんで確認お願いします」

 

「……ああ、すまないな」

 

「(何故にそんなに複雑そうな顔?)」

 

(シンのせい5割、自分のこと攻めてる5割かな、多分)

 

「(??)」

 

(気にしなくていいんじゃない?というか意外と座学の方面は出来るんだねシンって)

 

「(そりゃ通ってた学校が単位制だったからね。引き篭もる為に努力した結果だよ)」

 

(……多分シンが別の事に勤勉だったら最も色々違ったんだろうね)

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

「えー、こんにちわ。ちょっと色々あって今日一日だけ皆んなの先生をさせて貰う依白信と言います。どうぞよろしく」

 

そう言って黒板の前に漢字と横にふりがなを書き、生徒達に自己紹介する信を眺めつつ先程までの"らしくない"自分について考えてしまう。

 

引きずってしまっている時点でかなり動揺しているのは分かるし、あの若干16歳の少年からの一言でここまで支障をきたすとは思わなかった。

 

パチパチと拍手をしつつ"信せんせー"と呼ばれ、何処か嬉しそうな顔をしている信を少々睨みながら切り替えようと顔を振る。

 

はぁ……全く私らしくも無いな、と自分の未熟さを悉く感じる日だ今日は。

 

朝は結局問題作成を全てやらせてしまったし、気付けば掃除や荷物運びなど全て任せてしまい少し焦っていたりもする。

 

しかし!子どもというは素直に言ったことをやってくれるほど甘くは無いし、勉強をやりたくないと拗ねてしまう子までいる。その時こそ、私の出番だな、うむ!と意気込み顔を上げてみると。

 

「それじゃ、先ずはこれからやってみようか?」

 

「「「「はーい!」」」」

 

そこには笑顔で信の言う事を聞き、尚且つ信の方も一人一人の様子を見て、飽きそうな子や分からないことがある子を助けに行っている……しかもキチンと授業も進めているし珍しくあの子達も素直に聞いている?

 

「……むむ」

 

おかしい……普段なら私の言う事を聞かず騒ぐ子や、イタズラを仕掛けてくる子だっているのに何故か(喜ばしい事なのだが)その子達は必死に机の問題と睨めっこしていた。

 

な、何故だ?私の時ならお仕置きをチラつかせたり、居残りやお説教なんかも挟んでいるせいか少し怖がってやる子も居るはずなのに……

 

「せんせー!できたー!」

 

「お、ちょっと待ってね……うん、よく出来てるな!」

 

きゃっきゃと喜ぶ生徒と信を見ていると何だかこう……寂しいような気もする。何だろう?私と信の何が違うんだろうか?

 

 

 

 

 

 

「よーし、それじゃ次はこれやってみようか?」

 

黒板に問題を書き、それを写して必死に解く生徒たち。うん、上々かな?

 

「できたー!」

 

おや、本当にやる気すごいな。

そんなに最初の一言目が聞いたのかな?特に男子生徒たちには。

 

(「慧音先生に今日は良いところ見せよう!」だったよね?何でそれでこんなにやる気が出るものなの?)

 

んー?ああ、それは慧音先生がそれだけ好かれてるって事だよ

 

(ふーん?それにしては男の子たち凄いやる気ね、チラチラあの半獣の事見てるけど)

 

ふっふっふ。勿論作戦のうちだよ?そんな来たばかりのパッとでの先生の言う事なんてこの歳くらいの子供たちが素直に聞くわけないじゃないか!

 

(ああ、そう言う事)

 

いや気づくの早くないですか?もうちょっとドヤ顔で解説したいなーって

 

(いらない)

 

……そうっすか。

 

はぁ……とため息をつくと膝あたりをこっそり引っ張られるのを感じ振り向いてみれば、チラチラと慧音さんと俺を見比べる少年がこっそりと話しかけてくる。

 

 

「……ねーねー信せんせー?」

 

「ん?」

 

「なんかさっきから慧音せんせーが睨んでるよ?」

 

「ぅえ!?」

 

「あ!しー!」

 

「とと、ごめん」

 

咄嗟に出てしまった声を抑えつつ、少年と2人で人差し指を口に当てて"しー"のポーズを取ったまま、目だけで慧音さんを確認。

 

「…………………」

 

見てる。

 

「………………………………」

 

メッチャ見てる!?と言うかもはや睨んでるよねあれ!

 

「ね?」

 

「……教えてくれてありがとう」

 

うん!と素直に返事をしてそのまま問題の方に戻るわけ何だがさて、俺には別の難問があるわけで。

 

「…………」

 

まだ見てる……何というか自意識過剰じゃ無ければ生徒たちより俺の事を見ているような……?

 

(何か失敗でもしたんじゃない?)

 

んな馬鹿な。みんないい子に勉強してるし、何なら慧音さんも別段何も言ってこないじゃん。………メッチャ見てるけど。

 

(ふーん……ん?)

 

どうしたのさ?

 

(ああ、成る程ね。ほっといて大丈夫だと思うよ)

 

え?今の一瞬で何が分かったのさ。と言うかいいの?

 

(ただ後でフォローして上げたほうがいいと思うよ?多分自信無くしてるし)

 

フォロー?自信?

 

(今日一日が終わったら飲みにでも連れて行って上げなさいって事。明日休みでしょうに)

 

う、うん。それは別にいいけど

 

(?)

 

いやー、実はまだ今朝方の事で俺の方が引きずってたり……

 

(ヘタレ意気地なしゴミバカヘタレ)

 

ボロクソ!?

しかもヘタレに関しては2回も!?

 

(いいから、ほら呼ばれてるよ)

 

「っとと、はいはいー」

 

とそんなこんなであっという間に1日は終わり、生徒たちとはお別れの時間に。

 

「ーーーってくらいかな、さてそれじゃあ気を付けて帰るんだよ」

 

「はーい」「またあした!」「せんせーじゃあねー」「また今度な!」「今度は遊んでよー」

 

お、おう、凄い来た。

 

(何だかんだ言って好かれてるね、子どもに好かれる才能もあるんじゃないか?)

 

わらわらと俺の周りに集まる子たちと軽く挨拶しつつ、遅くならないように帰していく。

 

ふむ、中々楽しかったな先生って言うのも。

 

(意外と向いてるんじゃない?)

 

こういう道もあるって分かったのは嬉しいかもね。

 

(まぁ、まだまだ若いし好きに生きるのがいいんじゃない?)

 

そういう事。さて皆んな帰ったかな?と机に忘れ物がないか等チェックし、ついでに軽く掃除もしてしまう。

 

そんなこんなで時間を確認してみればそろそろいい時間だなーと思っていると何処かで疲れているような、そんでもって不安そうな慧音さんが声をかけてくる。

 

「お疲れ様、信」

 

「お疲れ様です、慧音さんも」

 

「いや、別に私は今日は何もしてないさ。信がテキパキとやってくれたおかげで随分と楽が出来たよ……」

 

そりゃよかった……?ってなんか言ってる事に対して表情が合ってないような。

 

「あの……どうかしました?なんか元気無いみたいですけど」

 

「ん、ああ。別に何でもないさ。それよりもう上がってもらって構わないよ」

 

うーん?本当だろうか、何だか落ち込んでる気もするんだけどまぁ本人が大丈夫って言ってるしいいかな。

 

「それじゃ失礼しまぁぁあ!?」

 

「ど、どうしたんだ?」

 

突然、変な奇声を上げた俺をビックリした顔で見つめてくる慧音さん。しかし俺はそれどころではなかった。

急に無銘から凄い量の霊力をぶつけられて、破裂しそうになったのだ。

 

ちょ、ちょっと無銘さん?何してくれてんの?

 

(…………ねぇ、私がなんて言ったか覚えてる?)

 

 

(はぁ……なーんで私がこんな事を)

 

えっと何?眠いの?

 

(今のにはイラッとしたよ?)

 

ご、ごめんなさい

 

何だ?すっごい機嫌悪いぞ、こいつ。

 

(いいから思い出してみなよ?私、シンに明日休みだから何かしろって言わなかった?)

 

……………………………あぁ!!

そういや慧音さんを飲みに誘うんだっけ?

 

(ええ、とっととしなさいな)

 

でも何だか1人にして欲しそうじゃない?

なんか機嫌も悪いし、俺からすればお節介な気もするんだけど。

 

(……………………)

 

な、何だよ?

 

(……あのね、何で半獣があんなに落ち込んでるか教えてあげるよ。ーーーーー、ーーー)

 

うぇ!?マジ?

 

(マジもマジ、おおマジだよ?シンのせいだかね、全く)

 

い、言われてみれば身に覚えがあるような?

というかそこだけピンポイントで聞き逃しますか普通……

 

(まぁそこは半獣も悪いけど、聞き逃したキッカケを作ったの君だよ?多分)

 

はえ?

 

(今朝、告白紛い、頭突き)

 

ごめんなさいごめんなさいそれ以上俺の黒歴史を掘り起こさないでください死んでしまいます!

 

(ならさっさとする。さっきから私と会話に集中し過ぎて困惑してるよ彼女)

 

へ?と顔を上げてみると何とも言えない表情でおろおろと俺のことを見守ってる先生。

 

「あ、あの」

 

「いや大丈夫だ!人には誰だって悩みがあるものだ!」

 

「いや違うんです!?そうじゃなくて……その」

 

っとここで俺の固有スキル純情な気持ち(ただのヘタレ野郎)が発動してしまう。

 

冷静に考えて人を飲みに誘うとかした事ないんだよね、俺。しかも相手は今日会ったばかりの美人教師?はは、無理無理

 

(告白紛い、頭突き、それから)

 

「良ければ一緒に飲みに行きませんか!!」

 

「え?あ、ああ」

 

泣き顔で膝を崩しながら女性を飲みに誘うという、情けない男の姿がそこにはあったそうな。

 

 

 

 

「ここでどうだ?」

 

「誘った側なのにすみません、本当」

 

構わないよ、と連れられ来たのはヤツメウナギなるものが売りの移動屋台のお店で、人里より少し離れたこの竹林でひっそりと経営していた。

 

「いらっしゃっいませ、お二人?」

 

「ああ、取り敢えず熱燗とヤツメウナギ2人前を頼む」

 

「はーい、こちらお絞りです」

 

そう言って可愛らしい女将さんからおしぼりを貰う。おお、アニメとかでよく見たらやつだ、この屋台と1人興奮しているとお酒が運ばれてくる。

早速と乾杯の音頭を上げることに。

 

「それじゃお疲れ様」

 

「はい、お疲れ様です」

 

くぅー!きくぅ!と1月前の自分じゃ考えられない声にちょっと凹みつつも旨い酒を楽しむ。

 

「……で、どうしたんだ?」

 

「へ?」

 

「何で私を飲みに誘ったんだ?」

 

と、不思議そうに聞いてくる慧音さんにさてなんて答えた物かな、と思考する。

 

(こういう時はストレートだよ、まっすぐ行ってブッ飛ばせ!右ストレートでブッ飛ばせ!)

 

うん、ちょっと静かにね。

 

(ちぇー。とはいえ本当にストレートがいいと私は思うよ?)

 

まぁね、多分このまま拗らせると本格的に落ち込んじゃうだろうし。

 

よし、と気合いを入れて残りの酒を飲み切り、少しの酔いを借りていざ慧音さんに突撃!

 

「ちょっと言い方が見つからないんで直接的に言っちゃうと、落ち込んでましたよね?」

 

「っ、いや私は別に……」

 

「私には教師は向いてないんじゃないか、とか考えませんでした?」

 

ピクと動きが止まり観念した様に、何処か諦めた様に苦笑いを零す慧音さん。

 

「………お見通しか、今日の信を見てて少し考えるものがあったんだ」

 

……無銘の言った通りかー、うん。すげぇなアイツ。

 

そこから慧音さんが話したのは自分が教える時と俺が教えた時の違い、そして何よりそんな自分への嫌気や"教え子たちが自分をイタズラしてくるくらいには嫌っている"など、多分お酒が入ったせいか少し感情的な感じだった。

 

成る程、あの時睨んでいたんじゃなくて俺がどうやってあの子達に大人しく勉強させてたかを探ってたのか。

 

「〜〜と言うわけでな?もう私は向いてないのかなって」

 

「はぁ……重症だなこれは」

 

「おいー、聞いてるのかー?」

 

「はいはい、それじゃ今度は俺の話聞いて下さいよ?」

 

「んー?」

 

いや"んー?"って。凛々しくてカッコ良かった慧音さん何処いったの?

 

「俺、最初に自己紹介しましたよね?」

 

「ああ、私よりよっぽど先生らしくて良かったぞ?」

 

はは、と影がさした笑いする慧音さん。うん、こりゃ完全にネガ入ってるな。

………仕方ない、と少し大きめの声を出す。

 

「ああもう!ちょっと黙って俺の話聞く!!」

 

「へ?あ、はい」

 

ビックリしたのかスッと姿勢を正す姿に少し笑いそうになるが堪える。……あ、女将さんごめんね、気にしないで。

 

「冷静に考えてみてください、あの年頃の子たちが俺みたいなパッとでの新米の言うことを何も無しに聞くわけないでしょう?」

 

「で、でもちゃんと聞いてだぞ?」

 

お酒で赤くなった頬に少し涙目で上目遣いとか狙ってるのか!!可愛いなちくしょう!!

 

(おい)

 

はい。

 

「俺は最初少しだけズルしたんですよ、主に聞き分けが悪いであろう男の子たちに対して」

 

「ズル……?」

 

そう、そうなのである。きっと俺もそうだし、なんなら外の世界の友人AやBとも共感したあの時の自分。

即ち小学男子(ワルガキ)だった頃の俺たちは自ずと憧れるものが必ずあるのだ。

 

「多分ですけど、普段から女の子たちは素直に勉強していて、主にイタズラとか言うことを聞かないのって男の子たちでしょう?」

 

「あ、ああ、良く分かるな」

 

そりゃ俺だって同じ経験してるもの。

それは多分男なら経験するある意味の甘酸っぱい1ページ。

 

「慧音さんは女性だから分からないと思うですけど、あれくらいの男の子は憧れの女性に対して構って欲しいが為にそういうヤンチャをしちゃうんですよ」

 

「………つまりあの子たちが私にイタズラしたりするのは」

 

「ええ、慧音さんーーーめちゃくちゃ好かれてますよ?」

 

「ーーー」

 

うん、無茶苦茶驚いてるな。青天の霹靂ってやつか?これ。

 

「で、でも信はどうやってあの子達を?」

 

「そこに関しては俺が悪いんですけど、慧音さんぶっちゃけ朝のアレでかなり動揺して俺の挨拶聞いてなかったでしょ?」

 

うっ、と図星をつかれたのか後退する慧音さんについ苦笑い。

 

「その時にね、俺はこう言ったんですよ"大好きな慧音先生に今日は良いところ見せよう!特に男子!あんまり慧音先生にイタズラすると嫌われるぞ?"ってね」

 

「それじゃ、私は」

 

「はい、ただの勘違いで落ち込んでただけですよ」

 

そう、たったそれだけなのだ。

あの子たちが慧音さんをチラ見してたのは、怒られるのを恐れてるんじゃなくて、頑張ってる姿を見てくれてるかを確認してたんだろうね。

 

「……ふふ、そうかそうだったのか」

 

何処か安心した様に、それでいて凄く嬉しそうに微笑むその顔はとても綺麗で。

ほんのちょっぴり得したなーって考えたりね?

 

(それさえ考えきゃかっこいいのに)

 

お前にしか分からないからセーフだ。

 

「ところで、だが」

 

少し上機嫌気味にお酒を煽りながら慧音さんに声をかけられる。

 

「何でそんなことがわかったんだ?信はあの子たちと、そもそも私と会うのは初めてのはずだろう?」

 

「ああ、それですか。凄く簡単でシンプルな物ですよ」

 

懐かしいなぁ……担任の先生が優しくしてくれて尚且つ俺の目では凄く美人だったから、良くちょっかい出して怒られたっけ。多分アレがある種の初恋とも言えるのだろう。

 

そんでもってあの子たちにとって初めて触れ合う異性は慧音先生な訳だろう?つまり。

 

「慧音さんほどの美人な先生なら、どんな子でもコロっと初恋しちゃいますよ?」

 

と言う実に簡単かつ、あの子たちの心理状況を把握すれば思い付くものだったのでした。

見事な考察でしょ?

 

(そうだね)

 

あれ、珍しく褒めてくれるの?

 

(ええ、今回ばかりはビックリしたよ)

 

ふふん、俺の事少しは見直したか。

 

(ええ、本当に)

 

カチャン、と何かが落ちる音がする。はて?と横に顔を向ければ明らかに、酒の酔いによる赤みだけでは済まないほどに真っ赤になった慧音さんがいたんだけど、どうしたの慧音さん?

 

なんか分かる?

 

(本当によくも、あんな恥ずかしくてむず痒いセリフ吐けたものだよね、キミ)

 

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はい?

 

「ぇと、その」

 

蚊の鳴きそうな声で縮こまる慧音さんを見てアレ?と辺りを見回す。あ、女将さん。

 

「お客さん随分とロマンチストだね?………はい、熱燗のお代わりとヤツメウナギ。甘ったるい口の中ならきっと口直しにはなるよ」

 

「………………………………いやいや」

 

はは、いやそんなまさかと再び慧音さんに顔を向けてみればガシッと頭を両手で固定される。……まぁ、そのなんだ。

 

「あ、あまり痛くしないで……」

 

 

ゴッツン!!!という何か硬いものを思い切りぶつけた様な音がその夜、竹林に響いたそうです、はい。

 

(お酒の飲み過ぎで口が滑ったり、気持ちが高ぶって恥ずかしい事を言って、黒歴史を増やしたりしないように気をつけよう!無銘との約束だよ☆)

 

 

 

 

…………いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued………?

 

 

 

 

 

 

 

 



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幕間 彼のウワサ話

 

 

 

 

 

 

 

 

とある真っ昼間の博麗神社にて。そこには珍しく巫女と魔法使いの二人に人形遣いが加わり何やらガールズトークの真っ最中の様子。

 

「……で、霊夢はどこまで知ってるの?」

 

「そんな事言われても知らないわよ」

 

「ホントか?人里だと結構話題になってるんだぜ、例の"お人好し"とやら」

 

ここで話題になっているのは、最近人里付近にて現れる困った人や妖怪を無差別に、しかも無償で助るという事をしている通称お人好しの話。

 

「知らないものは知らないの。と言うか別にそいつは人助けしてるだけで悪さしてるとかじゃないんでしょ?ならほっておけばいいじゃない」

 

「つってもなー、気になるだろ?」

 

「いや貴女の場合はそれだけじゃ無いでしょ」

 

「まぁな、なんでも屋の私としちゃ、客がそっちに頼るせいで余計に来なくなっちまって困ってるんだよ」

 

「元々あまり無かった客足も殆ど無くなったって嘆いてたじゃない」

 

ガヤガヤと話しているが、つまり彼女にとってあまりいい存在では無いから一言釘を刺したいという事だろう。

 

「……それでどんな事してるのよ、そいつは」

 

「お、珍しく興味持ったな」

 

「霊夢にしては珍しいわね、てっきり他所でやれって言われてお終いだと思ってたわ」

 

「そこまで冷たくないわよ、それにお茶請け位にはなるでしょ」

 

「まぁな、それじゃ私が聞いた話からだな。一週間くらい前の話なんだが、人里の方で八百屋をやってるおっちゃんが台車で野菜を運んでる最中に車輪が壊れちまったらしくてな?かなりの量の野菜で、1人じゃどうしようもないって困ってた所に、その場にたまたま居合わせた例の奴が颯爽と人里のまで運んじまったらしいぜ。お礼に何か渡そうとしたらしいんだが、断って帰ろうとしたからしょうがなくその場にあった大根とか人参を無理やり持たせて帰したらしいけど、改めてお礼したいって探してるんだと」

 

「それ私も慧音から聞いたわ、その店主さんが慧音にその人を知らないかって相談したらしくてね」

 

「一週間前?大根と人参……?」

 

「なんだ霊夢、何か引っかかるのか」

 

「……何でもないわ」

 

「なら次は私の番ね、永遠亭の兎の子……鈴仙から聞いたんだけどね。彼女が人里の何処かに落し物をしちゃったらしいんだけど、あの子結構引っ込み思案と言うか……あまり誰かに頼らず自分一人で解決しようするじゃない?」

 

「簡単にイメージつくな」

 

「それで自分では手に負えなくなる所までね」

 

「そこまでは言わないけど……まぁ概ねその通りでね、結局一人で解決しようとしたらしいんだけど、あれだけ広い人里を一人じゃ探しきれないじゃない?それに人里の人たちも冷たい訳じゃないけど、鈴仙があの性格だから話しかけられなかったみたいでね。彼女も流石にどうしようもないって諦めが入り出した時にその人が話しかけてくれたらしいわ」

 

「良くあの鈴仙に話しかけられたな、ソイツ。鈴仙のやつ、普段から目を釣り上げてて初見なら怖いぜ?」

 

「それ、本人も気にしてるから言わないであげてよ。……で話を戻すとね、鈴仙は内心嬉しかったらしいんだけど、その人に対して結構冷たく返しちゃったらしいのよ。でもそんな鈴仙をほっとけないって粘ったらしいわ。初対面でそんな対応してくれると思わなかった彼女もつい口を開けて、何を無くしたか話したらその人も一緒になって人里中探してくれて、見事発見できたらしいわ」

 

「へぇ」

 

「それで流石の鈴仙もお礼をしたいって言ったらしいんだけど、困った時はお互い様って言って名前も言わずに、そのまま何処かに消えちゃったらしいわ」

 

「随分と男前というか、てっきり恩くらいは売ったもんだと思ってたぜ」

 

「そうね、そのせいか人里では老若男女妖怪問わず誰でも助けて、そのまま何も言わずに消えちゃうって何処か正義の味方みたいなんて言われてるらしいわよ」

 

「大層なもん付けられてるなソイツも。……ってなんでさっきから霊夢は微妙な顔してるんだよ?」

 

「……なんでも無いわ、それより聞きたいんだけど、その話の中に魚屋とかあったりするかしら」

 

「なんだ霊夢も多少は知ってたのか?魚屋もそうだし、チルノとかルーミアも助けられたって聞いたぜ」

 

「つい最近よね、チルノは子分が出来たって喜んでて、ルーミアは食べ物貰ったって言ってたかしら」

 

「…………………………………そう」

 

「本当にどうした?そんな苦虫を噛み潰した様な顔してさ」

 

「具合でも悪いの?……あら、誰か来たみたいだけど」

 

「この時間なら信のやつじゃないか?」

 

「ただいまー……って魔理沙とアリスか、いらっしゃい」

 

「よー、お邪魔してるぜ」

 

「こんにちわ、信。……随分と大荷物ね」

 

「ん?ああ、これね。霊夢、またよく分からないけど色々貰ったから置いとくな」

 

「………ええ、今日は何貰ったの?」

 

「えっと……お茶菓子と酒に味噌、それから——」

 

「もういいわ、台所に仕舞っておいて」

 

「はいよー」

 

「なんだなんだ信の奴、貢がれてるのか?」

 

「…………え、もしかして?れ、霊夢?」

 

「多分だけどね……全く」

 

「あん?なんの話だよ」

 

 

………その後も時折そのお人好しは出没を繰り返すのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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紅い悪魔の館 。【紅魔館】
14話 真っ赤な真っ赤な館。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ信」

 

「ん?……あ、そこの塩とって」

 

「おう。あのさお前って」

 

「ついでに味噌も頼む」

 

「……おう。いやあのさ」

 

「魔理沙は魚どっちがいい?」

 

「そっち。いや、そうじゃなくてな」

 

「霊夢ー、雨降りそうだから洗濯物回収しといて」

 

「おい!話を聞いてくれ!」

 

「何をそんなにピリピリしてるんだよ、腹でも減ってるのか?ほら」

 

「むぐっ、………美味いなこれ」

 

「だろ?昨日からつけといた浅漬け」

 

「………お前もう完全に主婦じゃないか?」

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

「図書館?」

 

「おう。霊夢醤油くれ」

 

「ん」

 

もぐもぐと米を口に運びつつ魔理沙が話したのは本が好きかどうかという質問で、そりゃ大好きと答えると何でも、この幻想郷で一番と言っても過言ではない程の貯蔵を誇る場所があると教えてくれる。

 

「そりゃ行って見たいし、有り難いけど何で急に誘ってくれるんだ?」

 

「あのな、お前がここに来てどれくらい経つ?」

 

「へ?うーん……ひと月くらいかな」

 

「ふた月以上だ馬鹿」

 

え、もうそんなに立ってるのか?そりゃ此処での生活も慣れてくるわな。

 

「信さんおかわり」

 

「ほい……で、それがどうした?」

 

「……あのさ、信は幻想郷の全てを見て回りたいって言ってたよな?」

 

「おう、そりゃな」

 

何回も言ってるけど憧れてた場所だし。

 

「ならこのふた月の間してた事を、思い出してその胸に手を当てて考えろ」

 

何処か呆れた顔ではよ、と急かされていざ回想に。

えーと………

 

「神社の掃除とか人里で買い物、それからミスティアの屋台に行ったり、アリスの所に行ったり、文さんに攫われたりとか後は……慧音さんの所で働いたり……」

 

「何で慧音の所だけ顔を抑えてるのよ?」

 

「そういや偶に寺小屋で先生やってるんだっけか」

 

辞めて触れないで俺の黒歴史!

 

実はあの日以降も時折バイトさせて貰ってるだけど、ふとした瞬間にあの出来事(飲み屋の一件)をフラッシュバックして微妙な空気になるのが辛くて、何回か断ろうとしたんだけど

 

『ダメか?』

 

と寂しそうに言われるたびに、押し負けちゃう馬鹿な俺は結局、受けちゃう訳でして。

 

(しかも子どもたちから結構気に入られてるもんね)

 

それもあるんだけど、疑問なのは慧音さんの方でさ。あの時の事フラッシュバックするのは俺だけじゃなくて慧音さんの方もする筈じゃん?

 

(偶に部屋の柱に頭打ち付けてるよね)

 

それそれ。なのに何で俺のこと誘ってくれるんだろうか。

 

(それだけ頼りになるって事だろうし、信頼もされてるんじゃないの?)

 

そりゃ嬉しいが、そんなに信頼される様な事をした覚えもないんだけど。

 

(知らぬは本人ばかり、だね)

 

あん?

 

(何でもないよ、それよりほら)

 

ああ、そっかと魔理沙の質問の意図を考える。

………あれ。

 

「俺基本的にここで家事か人里周辺くらいしか行ってなくない?」

 

「やっと気付いたのか?お前よくてアリスの家くらいだろ、遠出するの」

 

「いやいや文さんに拉致られてよく分からない所にだって行くよ!」

 

「大抵ボコられてボロボロになって帰ってくる時ね」

 

「しかも大抵気絶してるから探索してないだろお前」

 

「ええい!煩い!」

 

「図星で逆ギレね」

 

「情けない奴だな」

 

やめろやめろ!そんな可哀想な目で俺を見るな!溜息をつくな!

 

「ま、そんな信を不憫に思ってな?私が連れて行ってやろうと思った訳さ」

 

「余計なお世話だ!俺はこの後洗い物とかもある位には忙しいんだよ!」

 

「完全に主婦の思考だな。でもいいのか?そこには吸血鬼とかいるぜ?」

 

「何してるんだ魔理沙!早く行くぞ!」

 

ヒャッハー!吸血鬼だって?こりゃ行くしかねぇ!と速攻で洗い物を片付けにダッシュ。

 

「信さんの扱い方、分かってるじゃない」

 

「正直私もここまで上手く行くとは思ってなかったんだぜ……」

 

さてさて吸血鬼と言えば黒いマントにタキシード、更には病的な程の青白い顔に鋭い牙がパッと浮かぶ西洋の化け物!気性は荒く、日中は棺桶で寝て夜中に活動と何処か耳が痛くなる様な生活を送ってる筈のその生命体は!

 

「吸血鬼!!」

 

「良くそこまでテンション上げられるな」

 

「いやー楽しみだなー」

 

少し鼻歌混じりに外に出て飛ぼうすると魔理沙に止められる。

 

「信、私の後ろに乗ってくれ」

 

「へ?いや俺飛べるけど」

 

「まぁ色々あるんだよ、それに前から乗って見たいって言ってただろ?サービスだぜ」

 

んん?あの魔理沙がタダってなんか怪しくないか?さっきの事とか今日は随分と優しい様な……とは言え乗って見たかったのは本当だし折角の機会だから甘えようかな。

 

「それなら折角だし乗せてもらおうかな」

 

「おう!遠慮せずどんとこい」

 

お、おおー何というかイメージ通りだからこそ嬉しいと言うか。

 

「浮かぶとこんな感じなんだな」

 

「悪くないだろ?……ああ、そうだちゃんと捉まっておけよ」

 

「へ、何でーーー」

 

「行くぜ!」

 

そう言って魔理沙が前のめりになった瞬間、物凄いGが俺の上半身を襲う。そしてこの瞬間、新たに俺の中の幻想郷条例(トラウマ回避表)に一項目が追加された。

 

・魔理沙の箒には乗るな。死ぬぞ?

 

さて、それじゃ失礼しまして。

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!???」

 

「やっほー!!」

 

「……凄い悲鳴ね。居間にいる私にまで聞こえるわ」

 

 

 

______________________________

 

 

 

ウェップ……とグロッキーになりながら必死に魔理沙にしがみ付いていること数分。何とか慣れてきて意識もハッキリとし始めた。

 

「……い!おい!信?」

 

「……おう、なんだ」

 

「おいおい、まだダメなのか?」

 

「大分慣れてきたよ、と言うかこんなスピード危ないだろ……」

 

景色の流れ方が異常じゃないか。新幹線よりずっと早い。

 

「そうか?何時私が1人で乗ってる時より大分抑えてるんだぜ」

 

二度と乗るもんかこんな箒。

 

「そんでもうちょいで着くんだが色々聞きたいだろ?」

 

「まぁそりゃね、そもそも何処に向かってるかも知らないし」

 

吸血鬼が住んでるってことは、お城とか屋敷みたいな西洋の建物をイメージするけど和風の物しか見かけないしな、ここ。ぶっちゃけお屋敷に住んでるって言われても驚かない……ガッカリはするけども。

 

「ああ、そういや言ってなかったな。"紅魔館"って言うトコなんだけどな」

 

「何その名前かっこいい」

 

もうその漢字3文字に名付けた人のセンスがビンビンに伝わってくる。

 

「……そういや信のそう言う所はレミリアと通ずるものがあるな。仲良くなるんじゃないか?」

 

「誰それ」

 

「吸血鬼だよ、ほら見えてきた」

 

そう言って指をさした先には大きな湖があり、その先には幻想郷に来てからは初めて見る大きな洋館が建っていた。てか見た目が凄い、なんというか

 

(真っ赤だね)

 

真っ赤だな。

 

赤も赤、真っ赤とはこういうものを言うんじゃないかというくらい赤い大きな洋館にドンドンと近づいて行く……ってあの?

 

「ちょ、ちょっと魔理沙さん?」

 

「今度はなんだよ?」

 

「いやスピードそろそろ下げないとこのままあの建物に突撃しちゃうと思うんだけど」

 

「お、良くわかったな?その通りだぜ!」

 

「はい??」

 

「それじゃスピード上げるから捉まっとけよー!」

 

そう言って一瞬の浮遊感。これはアレだな、ジェットコースターとかで落ちて行く瞬間のあのフワッとした感じに近いな。つまりこの後襲ってくるのはとんでもない風量とGであるわけで。

 

「いぎゃぁぁぁ!!!???」

 

「邪魔するぜー!!」

 

先程まで小さくしか見えていなかった紅魔館なる建物がグングンと大きくなって行くのがわかる。

 

「ちょ、ちょっと!?ぶつかる!壁にぶつかる!」

 

「大丈夫だって!ほら彼処から入るぞ!」

 

そう言われた場所は明らかに入り口ではなく本館の横にある大きな別館の一つの大きな窓でね?どう見てもぶっ壊す気満々だよねとか考えていれば。

 

ガシャン!!とガラスが舞い散り砕ける音になんかもう考えるのをやめる事にした。

 

「到着、と。ここが紅魔館の図書館だぜ」

 

「ああ、うん。もう帰っていいかな……」

 

絶対怒られるよね、これと振り向けば明らかに高価そうな窓と窓ガラスが無茶苦茶になっているわけで、それをやったのが魔理沙だとしてもそこに一緒にいた俺にも何かしら来るのは目に見えていて。何が言いたいかと言うとお腹痛い。

 

(小心者だね、あいも変わらず)

 

いやだって……ここの主人って吸血鬼なんでしょ?絶対やばいって。

 

「そんじゃ私は適当に本読んでるから信は探索して来いよ。さーて今日は何を借りてくかな」

 

「え?」

 

そう言って箒を片手にトコトコと歩いて行ってしまう魔理沙。

 

「えぇ……」

 

(なるようになるでしょ、多分)

 

いやいや勝手に歩き回るのはマズイでしょ、常識的に考えて。

 

(窓ぶち破って侵入してる時点で関係ないよ、それ)

 

それ言われると何も言えないんだけど。

 

「いいのかなぁ……」

 

と呟きつつも移動を開始してみる。どうやらここは魔理沙が言ってた図書館の入り口辺りで右にはこれでもかと積まれた本の一部が既に見えており、左には本館につながるであろう扉がある。

 

さて、どちらに行こうか?と考えるがぶっちゃけ本の虫としてはこの世界の書物にかなり興味があったり……と図書館の方をちらりと見ると。

 

「また来たわね」

 

「よう!また借りてくぜー!」

 

「ダメに決まってるでしょ、とっとと出て行きなさい」

 

「勝手に借りてくぜー」

 

「………」

 

「あわわわ………」

 

明らかに知ってる普通の魔法使い(魔理沙)の声と聞き覚えのない声が二つほど聞こえたかと思うと激しい物音がし始める。

……弾幕ごっこ?

 

………………うん。

 

 

「回れぇー、左!」

 

取り敢えず窓割った事を謝りに行くのが優先に決まってるよね!

 

(情けないって言葉の化身だよね君って)

 

巻き込まれないならそれでも結構!人間安全第一、荒事には乗るな!これ常識。

 

ガッチャンやらドッカンと後ろから聞こえる気がしなくも無いけど、そんな事気にせず

にレッツゴーと扉を開くとこれまた不思議空間。

別に装飾とかに違和感がある訳では無く、空間の大きさ明らかに外から見たものより数倍は広く感じ、そして窓も無いせいか薄暗い所が如何にもらしくて凄くワクワクしてくる。

 

(明らかにそう言うものが出てくるよーって言わんばかりだよね)

 

うん、と言うかイメージ通り過ぎて余計に興奮しちゃうよ俺。

 

(目がキラッキラしてるね)

 

いやー内装と言い外観、しかも名前までカッコいいとかここの主人の人はわかってるなぁ。

 

(そう?結構子供っぽいところとかあると思うけど)

 

何言ってるんだ!ああいうのがカッコいいんだよ、わかってないなー。

 

と話しつつ、誰かいないかと探索開始。さてはて、誰がいるのかな?

 

 

 

To be continued……?

 

 

 

 

 

 

 



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15話 完全で瀟洒なメイドさん

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、面白いのが来たわね……咲夜?」

 

「お呼びでしょうか?」

 

「ええ、新聞の人間(依白 信)のようね。様子を見て来てくれる?」

 

「承知致しました」

 

「ああ、それから"軽く遊んできなさい"」

 

「……宜しいのでしょうか?」

 

「少しくらいなら平気よ、もしその程度なら興味も無いしね。咲夜の攻撃に耐えられたなら私の前に連れてきて」

 

「はい、それでは」

 

「よろしくね。……さて、どれ程楽しませてくれるかしら」

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

「…………道は続くよどこまでも」

 

あの部屋から出てかれこれ5分ほど廊下を真っ直ぐに歩いているんだが、一向にそれらしい部屋や出入り口が見つからず永遠とこの赤色の薄暗い道が続いている。

 

てか誰にも会わないのは未だしも明らかに外観の館の大きさよりひと回りもふた回りも広いよね。可笑しくない?

 

(んー所々空間の縮小やら何やらの痕跡みたいなのはあるし、ここの住民が弄ってるんじゃないの?)

 

よく分かるな、そろそろこの赤色空間の見過ぎで目が痛くなってきた……。

 

(さっきまであんなにカッコいいだなんだって言ってたくせに)

 

カッコいいけど人間の俺の目には辛いんだよ、暗いのは凄く安心感があるんだけどね。

 

(流石元引きこもりね)

 

喧しい、今は違うだろうに。

 

(……過去は消せないよ)

 

何でお前が凹んでるのさ?

 

(いやうん……誰しも思い出したくないことはあるんだよ)

 

と、いい加減にこの永遠に続くと錯覚する程長い道のりに飽きて無銘と会話していると前方に大きく広がる空間が見えてきた。

 

(この館のエントランスじゃないの?)

 

みたいだね、ここに誰かいるといいんだけど…………っ!?

 

"それ"は俺自身も認識できず、気付けば無銘を引き抜き横に振っていた。カキン!と金属同士が激しくぶつかった音が暗く赤いこの空間に響き、俺の足元に無銘で弾いたモノ(投げつけられた物)が転がる。

 

「………ナ、ナイフ?」

 

(え?)

 

ポカンとしたままそのナイフを見てみれば明らかに用途が私生活で使う様な物では無く、命を刈り取る形をした凶器の類でそれが急に現れた事に困惑しつつ投げられたであろう方向に顔を向ける。

 

「ってちょ!?」

 

向けた瞬間に先程と同じナイフが2本3本と連続で現れ這い蹲る様に避けつつ、このナイフを投げてきているであろう相手から死角になる影に転がり込む。

 

焦った……!マジで焦ったよ、明らかに敵意と殺意が篭ってたから身体が勝手に反応してくれたけど、正直もう避けれる気がしない。

 

(あ、あのさ信?)

 

何さ?出来れば今の状況の解決策とか思いついてくれてるなら嬉しいけど

 

(そうじゃなくて!最初の一撃目どうして私で防げたの?)

 

どうしてって言われても……身体が勝手に?

 

(2撃目は殺気を感じたからまだ分かるけど、最初だけは"明らかに突然現れた攻撃"だったよ?私でも気付かないくらいの)

 

つい、どういう事?と聞くと珍しく困惑した状態の無銘が言うに最初の一撃目であるあの投げられたナイフが文字通り"何も無い場所から突然現れた"物で、俺がまるで最初からその攻撃が来るのが分かっていて防いだ様にしか見えなかったと言うのだ。

 

そんな事言われてもなぁ……なんか気付いたら無銘の事抜いて弾いてただけだし。

 

(……むう)

 

え、どうしたのさ

 

(いや……うん、なんか悔しい)

 

えぇ……よく分からない所で悔しいがるね、なんて話していると。

 

「っとと!?」

 

(そういえば攻撃されてたんだったね。取り敢えず切り抜けないとマズイよ?)

 

「分かってるって!」

 

ヒュンヒュン!と四方から突然現れ、俺の方に向かって来るナイフを弾いたり避けたりしながら狭い場所は不利と考え、先ほどのエントランスに走りこむ。

 

それにしたって相手は何処からナイフを投げているんだろう?

暗くて視界が悪いのもあるけど、それを差し引いてもここまで相手の姿が見えないのは可笑しい。

 

先ほどから迫って来るナイフは明らかに俺の手足を狙った攻撃で、俺の動きを鈍らせようとしているモノだが狙いが正確すぎる。

ナイフ使いが余程うまいのだろうけど、この暗闇の中で俺だけが一方的に敵を認識せず、相手からだけ俺の姿が丸見えというのは……そんな事を考えていると。

 

「……え?」

 

つい、そんな間抜けな声が出てしまったがそれは仕方ないと思う。

こんな状況だからこそ、こういう危ない状況に慣れていない俺でも油断はせずに気を張って常に周囲に注意していた……筈だった。

 

時間にすれば1秒も満たないであろう瞬き。目を閉じる前には、確かに誰も居なかった筈のこの場所に1人の女性がナイフを片手に現れていた。

 

「あ、あの……貴女は?」

 

メイド服に銀髪という姿にナイフを構えたその人は丁寧且つ綺麗にお辞儀をしつつ、静かに語り出す。

 

「突然の無礼失礼致しました。私はこの紅魔館にてメイドを務めている十六夜咲夜と申します」

 

「へ?ど、どうも丁寧に」

 

とついお辞儀を仕返してしまう。

 

(何で攻撃してきた相手と普通に自己紹介してるの?)

 

確かに。

 

「さて、それでは続けましょうか」

 

そう言ってスッとナイフを数本取り出すメイドさんを慌てて止める。

 

「待って!何で攻撃してくるの!?」

 

「侵入者の排除も私の仕事のうちですので」

 

そういや俺って侵入者だったわ。

 

「で、でもそれならさっきまでの様に姿を見せないで攻撃すれば良かったんじゃ……?」

 

その方が敵に余計な情報を与えずに済む。

 

「先程までのは所詮戯れの様なモノですので。それに……私が如何にして貴方に攻撃をしていたか分からないでしょう?」

 

「っ」

 

「ふふ、青ざめましたね?」

 

ニヤリと確信を持ったかの様にスッとナイフを見せつけられるが正にその通り。

ぶっちゃけどんな仕組みがあるのか全く見当も付かないし、掴める気もしない。

 

「あー、メイドさん?穏便に済んだりとかって……」

 

そう言うとキョトンとした顔をした後、ニコリと笑うメイドさん。あれ、もしかしてワンちゃんある?

 

「済むとお思いで?」

 

「あははは、ですよねぇ……」

 

幾ら自分の意思じゃ無いって言ってもここの住人から見てみれば、人ん家に不法侵入してる訳だしね俺。

落ち込みつつもしょうがないと割り切っているとメイドさんが口を開く。

 

「しかしながら主人の意向にて、その力を示せとの言伝を頂いています」

 

「主人って……確か魔理沙が言ってた……?」

 

確か吸血鬼のレミリアさんだったかな?その人が俺に力を示せって……どう言う事?

 

(まぁ取り敢えず戦う事は決定みたいだし、構えたら?)

 

って言われてもなぁ……あ、そういえば。

 

「メイドさん、戦う前に確認したいんだけどさ」

 

「咲夜で結構です、何でしょう?」

 

「もう戦うのは良いとしても、力を示すって言ってもどうしたらいいの?」

 

そう聞くとふむ、と考え始める咲夜さん。あれ、もしかして考えてなかったの?

 

「そうですね………ではこうしましょう。"貴方の意識があるうちに私の攻撃の種を当る"……と言うのは如何でしょうか?」

 

何処か挑戦的な笑みでそう言われてるが、攻撃の種ってあの突然現れるナイフの事だろうけど、それを言い当てなきゃ行けないのか……ん?

 

「えっと咲夜さん、意識があるうちって言うのは……?」

 

「言葉通りです。依白様が私の攻撃にて気を失われれば負け、それまでに私の攻撃の手段を当てる……更に私に一撃を入れて頂ければ満点合格です」

 

「いやいやいや!無理でしょ!当然現れる"あの芸当"を初見で避けれたのだって偶々だし!」

 

何も存在しない空間から急にナイフが飛んでくるとか何処の漫画の世界ですかって感じだよホント。不思議な未来の道具でもそんな事出来るかわからないでしょ……というかそんな物騒な物を不思議なポッケから出して欲しく無いけどさ。

 

(君の記憶から見たけどそのロボットならありそうじゃない?)

 

否定はしないけど夢が壊れるから。主に子供たちの。

 

「……偶々、ですか」

 

「え?そりゃ突然の攻撃とか防げないよ俺は。そういう物騒なのも慣れてないし」

 

「成る程、何の教えや心得も無く私の不意打ちを止める事ができたのですね、そうですか」

 

お、おや?なんか黒い笑みに変わってないですか咲夜さん。その笑顔は怒ってる時の文さんやアリスを彷彿として凄く怖いんですけど俺なんかやらかしましたかね……?

 

「えっと……なんか怒ってます?」

 

「いえいえそんな事はございませんよ?ただ少し、そうほんの少しだけ私のプライドに刺激が走っただけですので」

 

「それ怒ってるって事じゃないですかやだー!!」

 

なんで!?

 

(そりゃあんなナチュラルに煽ったらね?)

 

煽ってないよ!?事実をそのまま口にしただけだよ!?

 

(あんな事言ったら戦闘に不慣れ且つへなちょこな俺でもお前なんかの攻撃躱せるぜヒャッハー位には聞こえたんじゃない?)

 

ンなわけあるか!!マジで偶々だよ!

 

(ふーん?私でも察知できなかった攻撃をシンは防げたんだ?)

 

え、なんでお前も機嫌悪い訳?

 

(べっつにー?シンが咄嗟に反応できて私は全く反応出来なかった事が悔しいとかそんな事全くないよ?)

 

メチャクチャ気にしてるじゃねぇか!!……ってそれよりも何か分からないの?ぶっちゃけこのままだと俺なんの情報も無いまま怒った怖いメイドさんと命を賭けたクイズゲームに参加しなきゃ行けなくなるんだけど!?

 

(うーんそんな事言われてもね、"本当に直前まで一切気配が無くて文字通り突然ナイフが現れた"から私も困惑してた訳だしね)

 

うーん、何もないところから突然現れたってことだよな。

 

(そこに関しては間違いないかな。私たちが知覚出来る範囲外からの攻撃なのかそれとも本当に急に出てきたか……)

 

そんな事を考えていると咲夜さんが懐から一枚のカードとナイフを取り出し俺に見せ付けるようにしてクルッとカードを回転させ始める……って何それどうやってるんすか?本当はメイドじゃ無くてマジシャンじゃないの咲夜さん。

 

「さて、それでは初めましょうか」

 

「……お、お手柔らかにしてくれると嬉しいなぁって……」

 

そう俺がお願いするとニッコリと笑い、シュッとカードを俺の目の前に突きつけるように見せてくる。……ああ、うん分かってたけどさ……。

 

「それでは"幻象 ルナクロック"」

 

最初からスペカですよねぇ!!

 

 

 

To be continued……?

 

 

 

 

 



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16話 常識は通用しないのさ。

 

 

 

 

 

「所で何ですけど」

 

「はい?」

 

「咲夜さんって何で俺の名前知ってたの?」

 

「ああ、申し訳ありません依白様の事はとある新聞にて拝見していましたから」

 

「新聞……あ、文々。新聞?」

 

「その通りです、アレには中々に……ふふ、愉快な内容が……ふっ……失礼しました」

 

「待って待って下さい咲夜さんその反応はどういう事ですか!?」

 

「お気になさらず、ええ本当に……ふふ」

 

「何が書いてあったんですか!俺自分が乗ってるの恥ずかしくて読んでなかったけどその反応されると別の意味で気になるから!」

 

「(愉快な方ですね、中々に可愛らしい反応をして頂けて嬉しい限りです)」

 

(遊ばれてるねシン)

 

「(それは何か!?文さんが俺の事を新聞ですらからかって遊ばれてるって事!?)」

 

(馬鹿だね、キミはホント)

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

前回までのあらすじ!

 

メイドさんとクイズゲームをする事になった。

 

(チップはシンの命だけどね)

 

あえて言わなかった事を言うなぁ!?

 

(あ、掠った)

 

 

ビュン!と目の前に接近して来たナイフを顔を逸らして避けるが完全には見切る事が出来ず、軽く血が頬を伝う感覚に冷や汗を流しながらも後退する。

 

「お見事です、ですが少々反応が遅れて来てますよ」

 

いつの間にやら背後に現れた咲夜さんに心臓が飛び出そうなほど驚きながらも斬り付けられるナイフを受け止める。

 

「……容赦ないですね、ホントに」

 

「加減はしていますよ?ではーー」

 

そう言ってまた消える……って置き土産にナイフを投げていかないで!

横に飛び避けるように4本の青いナイフをギリギリ回避するが自分でも情け無くなる様な屁っ放り腰に少し嫌気が指してきた。

 

(もう10分くらい良いようにやられてるしね、避けるだけじゃ無くて攻撃もしなよ?)

 

無茶言わないでよ!相手は突然現れるんだよ?しかも予備動作とか癖もなんも無いからどのタイミングで消えるか分からないんだよ!

 

(なんだ、ただ逃げ回ってただけじゃなくてちゃんと考えて見てたんだね)

 

当たり前だろうに。まぁ何もわからないけどさ……。

 

(そこでパッと閃いたり出来たらキミの好きな"アニメとかラノベ"の主人公みたいになれるんじゃ無いの?)

 

あんな超理解の創作物と現実を一緒にするな!そもそもそんなに出来の良い頭は持っとらんし、どちらかと言うと座学とかのお堅い方がまだ分かるんだよ!

 

(何言ってるのさ、この世界(幻想郷)そのものがもうキミの常識が通用する場所じゃないんだよ?)

 

そ、そりゃそうだけどさ。まだあっちの世界の常識が頭に残って考えちゃうんだよ。

 

(なら少しは其処にシンの痛い考えを混ぜなよ!キミ、そういうの得意でしょう?)

 

……別にそんな事ないし。

 

(ならキミが13歳位の時から書いてたあの自由帳のステータスとかって)

 

それ以上言うなぁ!!??

 

そんなやり取り(途轍も無い高性能地雷を踏み抜かれつつ)をしつつ、無銘の言い分にも少しだけ納得する所があった。今までの俺の常識が通用しない、その思考を混ぜつつ相手の攻撃方法……能力を考察するしかないようだ。

 

 

そう思考を切り替えながら直前に迫ったナイフを余裕を持って弾く。そこへさらに追い討ちの一撃が来たので階段の影からエントランスの空中に飛ぶように避ける。

 

危ない危ない……今のは油断してたな、と顔を上げた瞬間。

 

「……っ!?」

 

気付けば俺を中心とした空中の360度全方位に4、50本はあるんじゃ無いかと言う大量のナイフが今にも飛びそうに並べられていた。

 

あ、これアレか?余りにもの危機に体全体が感じる時間が遅くなるって言うアレ。走馬灯?違うな、アレは過去も見えるもんなあはははは。

 

(馬鹿、現実逃避しないで少しでも防いで!流石に死ぬよ!)

 

珍しく焦った声の無銘にハッと正気になる。それと同時にナイフが一斉に俺の身体を串刺しにしようと飛んでくるのを頭や胸と言った急所だけは何とか弾いたり避けつつ、逃げようとする。

 

「っ!うぐ……」

 

グシャという音が背中側の肩辺りと右太腿に左の二の腕からしたと思えば、まるで高温度の物体を当てられたかのような熱さと鋭い痛み、そして赤い液体が吹き出す。

 

しかしここで立ち止まってはこのまま終わってしまうと勢いに任せて中央の階段裏に隠れる。

 

「っ〜〜」

 

声を出せば突然現れる神出鬼没の敵に余計に居所を教える事になると、痛みを訴えかける体からの悲鳴を服の裾を思い切り噛み耐え抜く。

 

(急所は外れてるけど一箇所少し太めの血管が切れてるね)

 

そりゃこんだけ血も流れるよな……さっきのはヤバかったよぶっちゃけ死んだわって思ったし。

 

(あの攻撃、明らかに可笑しかったよ。キミも私も一瞬だって気を抜いてなかったし、私に関しては1秒たりとも目を離してないのに)

 

ああ、突然囲む様に現れるあんな大量のナイフなんてそもそも何処に……?

 

そこでふと、気付く。少し血が流れたお陰で冷静に慣れたのが良かったのか俺が今隠れている位置は先程の階段の影を丁度見れる位置で、その場所に何か違和感があった。

 

(シン霊力を少しでも傷口に回して。そうすれば少しはマシになるから)

 

え、ああ……少し血の出方が遅くなった様な?

 

(自然治癒を上げてるからね、これで血が足りなくなって死ぬ事は少しだけ遅くなったんじゃない?)

 

それでも遅くなるだけなのね……ってそうじゃなかった。なぁ無銘、さっきの俺たちが隠れてたあの場所なんか違和感が無いか?

 

(ん?んー……特に無いと思うけど。……それにしても壁に凄い跡だらけだけど、よく自分達の住む家にあんな傷ボコボコつけられるよね)

 

確かに跡が凄いよね、アレじゃ直すのも一苦労じゃ……無い……かな……

 

「ーー傷跡?」

 

何か引っかかっていたモノが喉から取れそうでその傷跡をじっと見てみれば、それは何か鋭利な物で刺した後の様で刺さっていた物を急いで抜いたのであろうか少し壁に跡が残っていた。

 

問題は何が刺さっていたかであり、それは間違いなく俺が避けたナイフのはずだがこの戦闘中に何故それを引き抜く必要がある?そもそも誰が引き抜いたんだ?

 

何かバラバラだったピースが埋まっていく感覚が訪れ、思考を深めてここ数十分のやり取りや会話を思い出していく。

 

『"明らかに突然現れた攻撃"だったよ?』『殺意が感じられなかった』『この屋敷は空間を弄った痕跡があるみたいだし』『視界が悪くとも相手からだけは攻撃が的確』『1秒も満たないであろう瞬きの間に現れた』『文字通りの突然』『ここ(幻想郷)では常識は通用しない』『わざわざ武器を回収する必要』『何処からか一瞬で現れた大量のナイフ』

 

 

『シンの痛い考えを混ぜなよ!キミ、そういうの得意でしょう?』

 

 

「………あ」

 

一つだけ、本当に一つだけだがそう言うピンチの場面(アニメのシーン)があった。

 

(何かわかったの?)

 

まぁその……うん。けど……えぇ……そんなの勝ち目ないと思うんだけど。

 

(分ったなら教えてよ!シンの癖に勿体ぶるのは辞めてよ!)

 

なんか言い方に引っかかったけどちょっとだけ試したい事があるからそれで確信持てたらね。

 

(……どうせこのまま確信もなく解説して恥をかきたくないとかでしょ)

 

そ、そんな訳ないさ!それより……っ!

 

膝に刺さっていたナイフを痛みに耐えつつ引き抜き、血が溢れてくる所に霊力を流してなんとか止血しつつ、懐からあるモノを取り出す。

 

(それで何するの?)

 

まぁうん、多分これで見てくれれば少しは動揺してくれるかなって。……あと俺の推測が当たってればだけど。

 

起き上がりつつ、心の中でここの主人さんに謝りながら、近くの壁にナイフを突き刺さしておく。

 

あ、あと聞きたいんだけどさ。

 

(?)

 

ーーー、ーーーーーー、ーーーーー?

 

(うーん、今までの私の持ち主はやった事無いけど多分できると思うよ?)

 

なら少しはあのメイドさんを見返してやれそうかな。グッと膝を伸ばし、少し気合いを入れ直しつつ立ち上がる。

 

「さて、もう少しだけ逃げ回りますかね」

 

懐から少し前に作ったスペカを取り出しつつ、いざ作戦スタート。

 

 

 

 

——私が投げて置いたナイフを必死に避けながらも徐々に余裕が無くなってきた依白信の姿に正直少しだけガッカリしていた。

 

お嬢様に力を試してみろと言われ、エントランスに入る前までは様子を見ていたが私には正直只の無力な者にしか見えず、お嬢様を疑う訳では無いが、普通という言葉が似合う人間と認識していた。ならばもう用は無いと相手の"認識できない世界"にて不意を突いき、終わらせた。これで良いだろうとお嬢様へつまらない人間だったと報告をしに戻ろうとした。

 

ーーだが、その私の認識はすぐに覆された。

私の能力を使った不意の一撃を初見で見事に弾いて見せた……。あの攻撃を防がれたのはいつ振りだろうか?あの赤い霧にてこの館を囲った中、突然現れた紅白巫女(霊夢)以来では無いだろうか?

 

「……成る程、"面白い"というのはこういう事ね」

 

お嬢様もお人が悪い。運命にてこの事すら予期出来ていた筈なのに何も言われないとは。

 

自身の主人のとんだサプライズに少しばかり苦笑いしつつも口元は別の期待で笑っていた。

正直に言えば、あの異変からほんの少しばかり刺激が足りないと思っていた私にはこの青年、依白信に興味が湧いて来てしまった。これは"遊んで来なさい"と言われた意味もそういう事も含まれていたと理解できる。

 

彼ならば少しでも何か面白い物を見せてくれるのでは無いか?あの巫女の様に私の能力を見破ることが出来るのでは無いのだろうか?そんな期待をしつつ、あの条件を彼に言ったのだが……。

 

「少しだけ期待しすぎたかしらね」

 

彼が先程まで隠れていた場所からナイフを抜き取り回収しつつ、そんなことを考える。

私が放ったあの量のナイフは流石に全ては避けきることは出来なかった様で血溜まりが出来ていた。

そのまま振り向けば先程の様に空中へと逃げるその姿に少し落胆してしまう。あの攻撃を見てもなお、何故空中に逃げるのかと。

 

「それならもうチェックメイト、ね」

 

最初の高ぶりから熱が冷めた様に呟きつつ、ナイフを展開させ、囲み、今度こそ仕留めに行く。

 

ふぅ、と息を吐き並べ終わった。もうこれでお終いだ。

 

「そして時はーー動き出す」

 

上を見上げれば一瞬の抵抗も無く私が投げたナイフを全身に浴び、一瞬で針山の様に突き刺さった身体が落ちてくる。

 

本当に残念だ、あの身のこなしや反射神経はある程度鍛えれば戦う事も出来ただろうし、それこそ此処でそれなりに働く事が出来そうなほどであった。

 

しかしもういない者にそんな感情を残していてもしょうがないとナイフを回収しに、エントランス中央に堕ちた針山へと一歩ずつ歩みをーー

 

「ーーやっと、捉えた」

 

「ーー!?」

 

カチャン、と私の首筋にナニかが当てられる感触を感じ全身が凍り冷や汗がドッと出てくる。

 

そんなバカな、今の声は……

 

恐る恐る顔だけを後ろに向ければそこには、血だらけになりつつも何処かしてやった顔でニヤリと笑いながら古刀を突きつける、依白信の姿があった。

 

 

 

To be continued……?

 

 

 

 

 

 



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17話 勝負に勝って試合に負ける。

 

 

 

 

 

 

 

「……魔理沙」

 

「あん?なんだよ」

 

「貴方今日は連れがいたとか言ってたわね?」

 

「おう、今頃探索してるんじゃないか?」

 

「それってこの人間?」

 

「新聞?……お、そうだぜ!なんだパチュリーも知ってたのか」

 

「……はぁ、面倒なことになったわね」

 

「?」

 

「レミィがね、彼に凄い興味持ってたのよ」

 

「そうなのか?けど別にそれで何でお前がそんなに面倒な顔してるんだよ」

 

「レミィが燥ぐ時はね、大抵私にも何かしらの面倒毎が来るのよ」

 

「そりゃ御苦労なこった!」

 

「っ!」

 

「(そんな会話をしつつも弾幕ごっこは続けるんですね……)」

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

少し息を切らしつつもやっと咲夜さんの背後を取る事が出来た訳だが、思いの外に上手く行くものだなと自分でも少しびっくりしていると黙っていた咲夜さんが口を開く。

 

「……先程、私は確かに貴方の事を串刺しにした筈ですが?」

 

「まぁ、そうですね。確かに咲夜さんにはアレが俺に見えたと思います」

 

そう見える様になるものだし、寧ろ見破られてたらその時点で俺は詰んでたからなぁ……。

 

そんな俺の曖昧な返答に少しムッとした様な表情をするメイドさんに思わず苦笑い。そりゃ簡単にタネバラしてもしょうがないでしょうに

 

「私はその様なはぐらかす様な物を聞きたい訳では無いのですが?」

 

「って言われてもなぁ……ただで種明かしする程俺もお人好しじゃないんだよね」

 

ぶっちゃけここまで追い詰めたけどいつ逃げられるか分かったもんじゃ無いし。

そんな事を考えていると咲夜さんがふぅと息を吐き、ゆっくりとこちらを向く。

 

「なら、そうですね。まだこの勝負は終わっていない様ですので……私はこれにて」

 

そう言って咲夜さんはまた何の前触れも無く俺の前から解ける様に消える。

 

さて、そろそろこのクイズゲーム(命懸けの戦い)に決着を着けるとしよう。

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

私は"私だけの世界"へと逃げる様に入り込み、安堵のせいか自然と吐息が漏れてしまった。正直に言えば先程の問答や軽口は動揺した自分自身が落ち着く為の時間稼ぎと、あわよくば口を漏らさないかという物を試したに過ぎず、根本の疑問はまだ残ったままと言うのは分が悪すぎる。

 

考え答えを見つけるべきもの、一つ目にあの串刺しにされた物の正体。二つ目にどうやって私の背後を取ったのか。

 

まず一つ目については彼の口から出たのは"私には依白信に見えた"と言うワード。これから推測するに何か身代わりの様な物を仕込み、刺される寸前にどうにかして逃げた、もしくは何処かのタイミングから私の視界に映る彼が何かとすり替わり、私はそれを追いかけていた。

 

そして二つ目に私の背後を取ったあの瞬間。

どちらかと言うとこちらの方が私からしてみれば不味いのだ。

あの時私は直前まで確かに能力を使っていた筈、それにもかかわらず私に悟られる事も無く背後に息を潜め隙を突いたあの時だけは久し振りに肝が冷えた感覚を味わった。

 

「さて、まずは一つ目の謎を解かせてもらおうかしら」

 

顔を上げれば私のナイフによって串刺しにした依白信の筈だったものが視界に入る。

 

「………?」

 

散らばったナイフの中心、本来は串刺しになったはずの何かが有るはずのそこには私自身の所持する大量のナイフの一本であり、特段の変化はない……そう思い拾い上げて確認してみれば一箇所だけ確かに違うと言うよりは貼り付けられていた物があった。

 

「これは……札?」

 

近くで見てみれば持ち手の縁に反対からは見えない様に……いや見えてしまってはダメだと言わんばかりに巧妙に貼られている。

 

どうやらコレが先程の不可解な現象の種の様だが、残念ながら私は東洋系の術式に関してはサッパリ。あの巫女に聞くくらいしか思いつかず、さてどうしたものだろうか?下手に触れればまた何をされるかーー

 

「……触れる?」

 

今、自身が今考えた事に対して第六感とも言えるモノが頭の中で警報を鳴らす。ハッとして手元のナイフを投げ捨てようとした……がそれと同時に、この止まった世界の中に私以外の存在を感知した。

 

そんなバカな、あり得ないーーその事がだけが頭に広がり身体が硬直してしまう。しかしそんな私を気にする事もなく、背後に立っているであろう彼は口を開く。

 

「最初は"そんな事はあり得ない"っていう俺の中の常識に騙されてました」

 

驚愕と動揺により上手く動く事が出来ない身体を何とか振り向かせればニヤリと笑い、してやったと言わんばかりの顔で私に刀を突きつけている依白信の姿がそこにはあった。

 

俺の勝ち(ゲームオーバー)ですよ咲夜さん?」

 

 

 

 

 

 

刀を咲夜さんに向けつつも精一杯の"ハッタリ"と余裕そうにそう言い放つ。

 

ぶっちゃけ内心はドックンドックン行ってるし此処で下手なことをすればそれこそ俺の方がジ・エンドだ。とは言え此処まで来てそれを悟らせるような事をする筈もないし、動揺してるのは内心だけで身体は少しも動じてない。

流石は俺の身体。

 

(私を持つ手が震えすぎてカタカタ言ってるよ?)

 

気のせいだ。

 

さて、それよりも早めに咲夜さんには降参して貰わなきゃ行けない訳で、明らかに驚いた顔して先程までのポーカーフェイスが崩れるくらいには動揺しているうちにもう少しだけ攻めなければ行けないんだけど……。

 

そう考えているとまだ完全には復帰していないが、少しだけ冷静になったであろう咲夜さんが口を開く。

 

「……如何にしてこの世界に入られたので?」

 

この状況で動揺しつつも冷静にこちらの手の内探ってくるのは流石だなと思いつつ、申し訳ないがまだ勝負はついていない状況で教える訳にはいかないと少しだけ強めに出る。

 

「それに関しては咲夜さんが降参してくれれば教えますよ」

 

「………」

 

キリっと目を鋭くして威嚇してくる咲夜さんに少し動揺しそうになる。

 

ちょ、そんなに睨まないで!

 

「……どうします?」

 

しかしながら本当に俺ももう手が無いので続きを聞く事に。少しの間睨み合いが続いたが自身の不利を悟ったのか咲夜さんがふぅ……と息を吐き何処か諦めが入った表情をしつつ口を開いてくれた。

 

「……まだ、答えを聞いてませんので」

 

そう言って諦めた様な表情なのに何かに期待した様な口調で一番初めの問い、この勝負の決着条件である問題の回答を求めて来た。

 

………まぁその、ぶっちゃけまだ確信が持てて無いからそこをはぐらかそうとしたけど、其処までは上手くいかないもんだね、うん。

 

(そりゃね、ここまで上手く言ったんだから最後はちゃんと決めないと)

 

そりゃそうなるよね……とは言え、確信がある言葉だけをチョイスするのが手っ取り早いし納得もしてくれる……かなぁ?

 

そう考えが纏まり咲夜さんの方に顔を向け直せばもう完全に落ち着いたのか、腕を組み少しの笑みを浮かべつつ俺の回答を待っていた。

 

まぁ此処まで来たし、出た所勝負だ。

 

「あんまり良い言い回しが思いつかないんで、ストレートに言っちゃいますけど……咲夜さんの攻撃の種って"時間"ですよね?」

 

「……………」

 

俺がそう言い放つと目を閉じて何かを考える素振りを見せる咲夜さんに今度は俺が動揺する。

え、何?もしかして違うの……?何て考えていると咲夜さんが目を開き、パチンと指を鳴らすと先程までの色褪せた世界が切り替わり、モノクロの空間に色が入る。

 

え、あれ?と咲夜さんの顔を見てみれば少しの笑みを浮かべつつ賞賛の言葉を貰う、

 

「ええ、お見事です。この勝負、私の敗北を認めましょう」

 

ぺこりと綺麗にお辞儀をされ、俺の方もゆっくりと刀を鞘に収めて息を吐く。そのままガタガタと震えてた腰が抜けてエントランスのど真ん中にて膝から落ちる様に座り込んでつい声が漏れる。

 

「あぁ〜〜疲れたぁ……」

 

マジで疲れた、体もだけど何より精神的に。

ヘトヘトになり情けない姿を晒してるのは分かるけど今はこれくらいしてもいいんじゃ無いかな?俺頑張ったし超頑張ったし。そんな俺を見て少し目を見開いている咲夜さんと視線がぶつかる。どうしました?

 

「いえ……その先程までの余裕は何処に……?」

 

「さっきまでのは全部演技ですよ、そんな余裕ある訳ないじゃないですか」

 

「……はい?」

 

ポカンと口を開けて驚く咲夜さんを見て少しは演技力あるのかな?なんて考えつつ、決着もついた事だしさっきまでの事を説明する事に。

 

「えっとですね……まず前提の話なんですけど今回の決着の条件、俺が勝つには咲夜さんの能力を当てつつ負けを認めさせる事が一番納得のいくものになると思ったんです。ぶっちゃけ咲夜さんも突然能力を言い当てられてハイ終わりってのは微妙だったからこそ追加で一撃を入れろって言ったんですよね?」

 

「お恥ずかしながらその通りです、味気ない……とはまた違いますが概ね依白様の考えで合っています」

 

コクリと頷く咲夜さんを見てそのまま話を続ける。

 

「それなら俺がするべき事は絞られる訳で、咲夜さん自身が負けと認める状況に持って行きつつ、あの攻撃の種である"時"の事を言い当てるしかない」

 

「はい、そしてそれを見事に成し得た訳ですが……」

 

まだ先程の俺の態度の説明をしていない所為か頭にハテナを浮かべているメイドさんにこのあと説明する事によってどんな反応をされるか内心ビクビクしながら話し始める。

 

「まぁその……怒らないで下さいね?」

 

「?」

 

「まず確認なんですけど、咲夜さんの能力って?」

 

「"時間を操る程度の能力"ですが、それはもう依白様が見破っていらっしゃるでしょう?」

 

そう言って能力を確認した俺を見ながら首を傾げる咲夜さんに凄く居た堪れない気持ちになり今からでも土下座しようかなと考え始める。というか思った以上にヤバい能力じゃないですかそれ?こうなったら何とか話をあやふやにして逃げるしか……

 

(それは最低だからやめなよ?)

 

………………はい。

 

 

「その……1つずつ説明して行くとですね。まず俺は咲夜さんの能力をハッキリと分かっていた訳じゃないんです」

 

「………はい?しかし先程回答を出していませんでしたか?」

 

「思い出して見て下さい、俺答えあわせの時なんて言いました?」

 

「ハッキリと"時間"と……!」

 

顔を俯かせて考えたと思えばハッと顔を上げまさかと見つめてくる。

 

「多分気付いたかと思いますけど、俺は咲夜さんの能力を時を止めるとかそんな位にしか思ってなかったんですよ。まさか時間を操るなんてとんでも能力とは想像してませんでした」

 

そう言うと咲夜さんは少しムッとした顔をしたが、コホンと咳払いをしてしかしと続ける。

 

「……これはしてやられましたね、私も未熟でした。……しかしどうして私の能力が時間に関係があると推測されたのですか?」

 

「それに関しては咲夜さんのナイフとこの紅魔館のお陰ですよ」

 

ひとつ目に俺がずっと引っかかっていたのは、いくら咲夜さんの方に余裕がある戦いだからと言ってわざわざナイフを回収しているという所とこの暗闇でいくらなんでも的確すぎると言う所。

 

ナイフを回収しているのが咲夜さんと言う前提にはなるけれど、あの量のナイフを何処からか取り出し投げると言う攻撃を繰り返していればいずれ無くなる。

 

しかし俺は10分以上逃げ続けても只管(ひたすら)に迫ってくるナイフに苦しまされ続け……そして全方位360度ナイフ攻撃とか言う刃物全般がトラウマになりそうなモノを喰らったあの時、ふと今まで自分が避けて壁や床に刺さっていたナイフが全部消えていることに気付けたのは不幸中の幸いだと思う。

 

そしてそれまでのここ(紅魔館)での事を思い出した。察知する事の出来ない攻撃に消えたナイフと気配のしない敵、神出鬼没と言うよりは文字通りいなくなる。そして決め手はこの建物の空間拡張。

 

「ちょっと前の知識意欲が多かった(痛い厨二病の)頃の俺が偶々見たことがあったんですけど、"時間と空間には相互に関係があり、いずれかを手にすれば自ずと何方も操れる"って」

 

そんでもって無銘の一言、常識に囚われるなってのも大きかったかな。現実じゃあり得ないけど漫画やアニメなんかじゃ時間を止める能力ってのはお約束みたいなものだしね、どっかの魔法少女しかり吸血鬼しかり。

 

「だからと言ってまだ確信は持てなかったんで1つ試して見たんです」

 

「それは?」

 

「咲夜さんの今持ってるそれ、ナイフに貼られてる札なんですけどね?」

 

そう言って指を指すと視線が其処に注がれる。

 

「それは"偽札 分霊一身(ぎふ ぶんれいいっしん)"って言う俺のスペカ擬きなんですけどーー」

 

このスペカの能力はとても単純なもので事前に自身の霊力を一定以上込めて置き、対象の物(基本的には何でも良い)にぺたりと貼り付ければあら不思議と自分の気配や霊力を持った身代わり人形の完成。しかもある程度は自分自身と同じ思考や行動をしてくれる上に操作も可能という物なのだが、難点がいくつかあったりもする。

 

これに関しては何個もあって長くなるから一つだけ言うと燃費がクソ悪い。なんでかと言うと先ずこのスペカは使い捨てで一度使えば新たに作り直さなきゃいけない上に消費する霊力が半端ないのだ。俺のようなへっぽこだと一枚作るのに今は早くても3日くらいかかってしまい、そう安安とは使えない。

 

「それであの瞬間は凌いだのですか。燃費と言う点を除けば厄介なカードですね」

 

ふむふむと考察している咲夜さんにちょっとドヤ顔してしまう。もしかして想像以上にいい発想だったかな?

 

(作った経緯さえ違ければね?)

 

な、何のことですかね。

 

(あまりにも白黒魔法使いと人形使い、あとあの巫女にボコられるから逃げるために作っただけじゃん)

 

違います!!戦略の幅を広げるためであってそんな情けない理由じゃないです!!

 

(前者2人はまだしもあの巫女には何故か見破られてボコられてるけどね)

 

感で偽物かどうかわかるとか霊夢さんマジ鬼畜。

 

「しかし、まだ疑問は残ります。と言うよりは一番私自身が気になっているのはどうやって私の世界に……?」

 

「それにもちゃんと種はありますよ、咲夜さん2回目の大量のナイフを俺の身代わりに投げた時……というかその前あたりにあそこに刺さったナイフを引き抜きませんでした?」

 

「はい、その通りですが……」

 

「ならその抜いたナイフまだ持ってますよね?ちゃんと確認してみて下さい」

 

「………これは」

 

そう言って取り出したナイフの持ち手には小さくではあるが文字が刻まれており、"転切"の2文字が読み取れるだろう。

 

「それは俺のスペカを使う為の印と言うか、目印なんですよ」

 

「と、言いますと?」

 

「これ、転札 空面瞬歩(てんふ くうめんしゅんほ)っていう物なんですけど簡単に言えばテレポートです」

 

大体25〜30メートル以内にある俺自身の霊力を込めて刻んだ"転切"の文字に反応してその物体もしくは人の後方5メートル範囲内に移動するというスペカ。これだけでも十二分に使いやすいのだが、肝はこの転移の仕組みが俺を止まった時の世界にすら入門させてくれるモノなのだ。

 

このスペカは無銘の性質、能力である望んだものを喰い切るというモノを俺自身の能力を使い、作り出した為に例え霊夢が貼った結界の外からであろうと、その結界の内部に俺が刻んだ文字があるなら"その一点を喰い入り込む"事が出来るらしい(無銘談)。

 

そう言うわけでもし相手が止まった時の中にいるなら、その固有世界にも入れるのではないかと思い試してみたら上手く言った訳で……これだけ聞けば強そうに聞こえるかもしれないんだけど、俺が作ったスペカがそんな上手く行くわけも無くてですね?

 

「まぁその、これにもめちゃくちゃ欠点だらけなんですけど……」

 

今回の時の止まった世界という特例だからかも知れないが、普段は範囲内に複数刻んだ文字があれば任意で其処に飛べるのだが(飛ぶにもコストとしてかなり霊力を持っていかれる)、今回の場合は咲夜さんが時を止めた瞬間の範囲内にいる場合"強制的に"飛ばされてしまう。

 

つまり咲夜さんの様にかなりの頻度で時を止めている場合その回数分俺の霊力も持っていかれる訳で。

 

「最後のあの瞬間とかぶっちゃけ残り僅かで降参してくれなきゃ確実に負けてました」

 

「……成る程、今考えれば確かに焦ってらっしゃいましたね」

 

何処か複雑そうな顔をしている咲夜さんには申し訳ないがあれ以外もう勝ち方見つからなかったんです……本当に自分の霊力量の少なさが恨めしい。

 

「とは言え私が負けを認めた事は事実です。もう私から手出しは致しませんのでご安心を」

 

メイドらしく優雅にお辞儀をしつつ落ち着いた態度と表情で静かに俺の勝利を認めてくれる。そこには特段俺のやり方に引っかかっていたりする様子もなく何とか無事にことが済みそうだ。

 

「それでは今回の件について私は納得して依白様の勝利を認めましょう」

 

いや、あの………そう言ってくれるのは凄く有難いんですけどね、その咲夜さん?

 

「あの……何で俺の手を掴んでるんですか?」

 

「ええ、確かに認めました。それ故にこれよりこの紅魔館の主である方にお会いして頂きます」

 

「いやいやいや!俺もう帰りますから迷惑だろうし!」

 

「いえそんな事はありませんよ、元々私は依白様を迎えに来たのですから」

 

「聞いてませんけどぉ!?というかアレです!お腹痛いんで俺!」

 

「それは大変です、どうぞ当館でお休みください」

 

「どう返答しても返してくれる気無いじゃないですかやだー!!」

 

(というよりそんなに叫ぶと余計に傷口が広がるよ?)

 

あ。

 

「そういや……血が足りないんだった……」

 

「少し流しすぎた様ですね、治療致しますのでどうぞこちらへ」

 

そう言って俺が何かを言う前には既に辺りの光景は変わり、医務室的な所へ。便利ですねその能力。

 

「さてそれでは……痛みますよ」

 

「へ?……いだだだだ!!??」

 

ギューっと包帯を強く巻かれたり、俺の勘違いで無ければ傷口に消毒液をぶっかけたりしてませんか?というか

 

「やっぱり根に持ってるでしょ!?」

 

「いえいえそんな……今日はほんの少しだけ力加減が上手くいかないだけです」

 

「嘘だ!咲夜さん絶対怒って痛たたた!!??」

 

「ふふふふふ」

 

「謝るからぁ!?ってちょ!そのナイフは絶対に関係なーーーー」

 

 

 

もう卑怯な手を使ったりするのはやめよう。そう心に誓わされた日になった事をここに記しておく。

 

(そんなこと言って手を掴まれた時にドキッとした助平の癖に)

 

もうやめて!俺のライフはとっくに0なんだよ!!

 

 

 

 

 

To be continued……?

 

 

 

 

 

 

 

 



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18話 赤い館の紅い悪魔

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで血の方は止まった筈です、無理に動いたりしなければ傷口が開く事もないのであまり激しい運動等は控えて下さい」

 

「ありがとうございます………それじゃ俺はこの辺でででで!!??思い切り肩の刺し傷の所掴んでますよ咲夜さん!?」

 

「それでは参りましょう、お嬢様がお待ちです」

 

「まさかのスルー?って待ってくださいよ俺なんかにここの主人様が何用なんですか?」

 

「来て頂ければ分かります」

 

「吸血鬼さんに会えるのは嬉しいんだけど、わざわざ呼ばれる理由なんて何もない様な……」

 

「そうですね……胸に手を当てて考えてみればよろしいかと」

 

「それ完全にお前の罪を数えろってやつじゃないですか?というか咲夜さん最初の時より口調が明らかに軽くなってませんか」

 

「お嫌いですか?」

 

「いやもっと軽い方が有難い位ですけど……なんかこう、メイドさんのイメージ的に硬い口調も捨て難いと言いますか」

 

「……成る程、そういう趣向の方ですか」

 

「待って待って急に冷たい目になるのは辞めて下さい!違うんですよ男の浪漫と言うか大体の男はそう考えるもんなんです!」

 

「そうですか、それでは参りましょう」

 

「はい……」

 

(ドンマイ、明日があるさ!)

 

「(今はその煽りですら救われるよ……)」

 

(え、あの……なんかごめん)

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

前回までのあらすじぃ!!

 

(紅魔館の主に)ツラ貸せよと言われた。

 

(大体あってるね)

 

だろ?

 

 

そんな現実逃避気味の会話をしつつ紅魔館の廊下を咲夜さんに案内されながら歩いているのだが、これから会うであろう吸血鬼さんのデータがゼロだと流石に辛いものがある訳でここは何とか咲夜さんから色々聞き出したいという思いもあり一歩前を歩いているメイドさんに話しかけてみる。

 

「あの……」

 

「はい?」

 

「少しそのお嬢様って方の情報が欲しいなーって」

 

少し控え気味にそう伝えるとふむと考え出す咲夜さん。それから口を開き出てきた言葉はそのお嬢様とやらの特徴や年齢など。

 

「……そうですね、カリスマ性の高いお方で500年ほど生きてらっしゃるらしいです。ここ幻想郷では"紅霧異変"を起こした事で有名でもありますね」

 

「あ、それは霊夢から聞いたかも」

 

以前、異変なるモノについて酒の肴程度に会話していたのだが、その時に出てきたのが紅霧異変でありなんでもここの世界全体が赤い霧に包まれ太陽の光すら届かない程の事件だったらしい。どんだけヤバイ人がそれを起こしたんだと怯えつつ、それを解決したのが霊夢と魔理沙と聞き、どうやったのかと聞けば"面倒だからボコったわ"とは霊夢の談。

 

「そう言えば依白様はあの巫女の神社に住んでらっしゃいましたね」

 

「恥ずかしながら居候の身です、はい」

 

「あの巫女が何の対価もなく居候を作る筈ありませんよね。何か代償等は求められなかったのです?」

 

確信を持った様に聞いてくる辺り霊夢の性格やらは周知の事実なのか。

 

「えっと家事全般とお酒の飲み相手ですかね」

 

「あの巫女の世話とは中々苦労しているのですね」

 

え、そんな事もないですよ?と言おうとしたのだが咲夜さんの目が完全に同情の物に変わっており"あれ?俺が自覚してないだけなの?"とつい胸に手を置いて考えてしまう。

そんなやり取りをしていれば不意に他の部屋より明らかに大きな扉の前で咲夜さんが立ち止まる。

 

「ここですがお嬢様に報告がある為、少々お待ちください」

 

そう言い残し中に先に入っていく咲夜さんを見送りつつ、何とも言えない緊張感が俺の体を支配していた。

 

そもそも俺が来た事をなんで知ってる湯だろうか。魔理沙の性格的に事前に伝えたとかは無いだろうし……それにいくら戦闘を吹っかけられたとしてもあの大広間は暴れ過ぎてボロボロになってしまっていて、綺麗だった館の一部が完全に廃墟になってしまっている、というか俺もその一端を担ってしまっている。

 

(怒られるだろうね)

 

怒られるよねぇ……はぁ……今からでもドロンとかしたりしたら余計にヤバそうだし。

 

(というかあのメイドから逃げられないでしょ。時止められたら無理無理)

 

だよね、もう刻印をつけたナイフを持ってないだろうしね。

 

(あんなドヤ顔で自分のカードを説明するからだよ、本当に馬鹿)

 

だ、だってあんなお約束なら解説したくもなるでしょ。咲夜さんも凄い気になってたみたいだし、あのまま教えずに放置してたらここまですんなり通らなかったと思うし。

 

(言い訳はいいから本音は?)

 

少し上目遣いで"お教え頂けませんか…?"なんて言われたら答えるしかないでしょ!メイドさん最高!

 

(変態)

 

待って何も感情のないその一言が一番心に傷を残す。

 

「お待たせしました……どうして膝をついているんですか?」

 

「いえ……本当に気にしないで下さい……」

 

「?はい」

 

コテンと頭を横に傾げるのは萌えポイントが非常に高くてベネだが今はその誘惑に負けた自分への嫌悪感でいっぱいですので……

 

(その割にはしっかり見てるね)

 

もう勘弁して下さい。

 

さてそんな事は何処かに放り投げ、いざ対面の時。やっぱり怒られるとしても凄くワクワクするのは隠せるはずも無く色々な想像が頭の中に広がる。

 

お嬢様って事は女性の吸血鬼、ヴァンパイアの方がしっくりくるな。500年生きているって咲夜さんは言ってたけれど見た目は若いと相場で決まってるし、きっと紫さんとかの大人の色気満載でそこに怪しさと魅惑の魔眼とか持ってるんだろうなー!!

 

(好きだねー君も)

 

だって漸くまともな人外らしい人外と会えるんだよ!?別に紫さんとか文さん、慧音さん見たいな綺麗なお姉さんと出会えるのも嬉しいけどやっぱりそれ(萌え)これ(恐怖)は別物別腹じゃんか。

 

(そうだね、ここまで来ると本当にフラグにしか聞こえないね)

 

フラグってなんの話さ?

 

(それよりほら、早く中に入りなよ)

 

おっとしまった。

 

俺、マナーとか分からないけど取り敢えずノックからだよねと大きな扉を少し強めに叩いてみる。

 

「入りなさい」

 

うお、凄く威厳のある女性の声だ、こりゃ緊張して来たぞと少し身震いしてからゆっくりと扉を開ける。

中はかなり広い部屋で真ん中に大きなテーブル、その横では咲夜さんが丁度お茶を淹れており慣れてる感じがビンビンしている。

 

そしてその中央の椅子に悠然と座るのは勿論、この館の主人であり恐怖の体現者、場合よっては悪魔とまで言われる凶悪な生き物。

 

「ようこそ我が紅魔館へ、歓迎するわよ?」

 

ティーカップを片手にニヤリと怪しげに笑いながら歓迎の声をかけて来るその人は、いやその子は………

 

幼女(ロリ)じゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ダン!と思い切り腕を床に振り下ろし、つい叫びつつ崩れ落ちる。

何でだ……なんでなんだ幻想郷!お前はいつだってそうだ!名前の響きや有名どころの妖怪全般を美少女にするだけには飽き足らず今度はロリっ子かよ!どこが500歳だ!どう見たってまだ中学上がりたてくらいの犯罪ラインギリギリアウト待った無しの完璧幼女じゃねぇか!

 

(分かったから。気持ちは分かったから落ち着きなよ?)

 

ええ本当は扉をノックした時の声で少し可笑しいなって思ってましたよ?女性の声なのは間違いないけど明らかに高すぎるし、何より可愛い声だったんだもん!

 

「……分かって(見て)はいたけれど、その反応はやっぱりムカつくわね」

 

ジトーと俺の事を見下すように冷たい視線を浴びてハッとする。

そういやこの世界は見た目と中身は必ずしも(というか大体)一致しない!さっきの叫び声は明らかにヤバイ、直ぐに謝れと俺の第六感(チキンハート)が震えて叫んでいた為、直ぐに土下座の構えを取り叫ぶ。

 

「開口一番失礼しました!」

 

(キミにはプライドというものがないのかい?)

 

そんなものは犬にでも食わせておけ。

 

(うわ、言い切ったよ……)

 

無銘のドン引きは取り敢えずスルーしつつ様子を伺うと……俺の即座の土下座はどうやら、それなりに効果があったようで少しだけ怒気が柔らいだのを肌で感じる。……咲夜さんはクスクス笑ってるけど命とプライドなら命の方が大事に決まってる!

 

「あら?それは予想外よ。ま、いいわ取り敢えず座りなさい」

 

「は、はい!」

 

こんな緊張感、高校の面接前以来じゃないか?

まだ内心ビビリながらも面白い見世物を見るような目、もしくは品定めでもしてる感じの吸血鬼?さんの指示通りに目の前の椅子に座れば直ぐに咲夜さんが紅茶を出してくれる。

 

「ありがとうございます」

 

「いえ」

 

そう一言だけ残しスッと下がる所に"本物のメイドさんだ"と感動を覚えつつ、紅茶を一口。あら美味しい。アリスの紅茶は家庭的でホッとする美味しさだけど、こっちはプロの味って感じだなぁ……というかこっちに来てから緑茶か水、あとは酒くらいしか飲んでなかったせいか余計に美味しく感じる。俺が一息着いたのを確認すると同時に目の前の紅魔館の主人であろう幼女も口を開く。

 

「まずは自己紹介から始めましょうか?私はレミリア・スカーレット。知ってると思うけど吸血鬼よ」

 

そう言われ自分も自己紹介をしようとするが察したであろうレミリアさんがスッと手を出して止めてくる。

 

「依白信、知ってるわよ霊夢からも聞いてるし何よりコレね」

 

そう言ってパッとテーブルに置かれたのは例の文々。新聞で一面にはどうやら俺の事が書かれているようなのだが先程の咲夜さんの反応のせいで余計に見辛くなって目を逸らしてしまう。いや中身は別の意味ですごーく気になるんだけどね?

 

「信、貴方中々面白い能力を持ってるわね」

 

「いやその……使い方よく分かってないですけど」

 

「しかもあの霊夢や魔理沙とも弾幕ごっこで張り合ったそうじゃない?」

 

「やる度に一方的にボコられてるだけですよ?」

 

「それに知識も多く、特にこのスペルカードのネーミングセンスは私には劣るけど良い趣味してるわ」

 

「ですよね!霊夢とか魔理沙には何て読むか分かんないだの、アリスには痛いわね何て言われますけどカッコいいですよね!」

 

「それより最後のこの一文"妖怪を恐れずとも敬う者"と言うのはとても……気に入らないわ(気に入ったわ)

 

そう言って口元の牙が見えるほどニヤリと笑うレミリアさんの表情を見て背中に冷たい物が走り、始めてこの相手が恐怖と畏怖の象徴だと頭では無く身体が訴えかけてくる。

 

何だろう、言ってる言葉と読みが全然真反対の事な気がする。

 

(完全に捕食対象を見る目だもんね)

 

冷静に分析してる場合じゃないよね!?

 

「さて……信?」

 

「は、はひ!?」

 

見た目の幼さが全く感じられない程の威圧感と妖力を掛け合わせた笑顔に口がちゃんと回らない。その怖さが無ければ可愛いんだけどシャレにならんくらい身体がガクガク言っている。

 

そんな俺を気にすること無くレミリアさんは頬に手を突きながら当たり前のようにこう言った。

 

「貴方、暫くウチで働きなさい」

 

……………はい?

 

 

 

______________________________

 

 

 

「あら案外似合うものね」

 

本当に意外そうに俺の周りをクルクルと回り、さながら動物園のパンダのような気分を味わうが残念ながら見てくるのは人間では無く吸血鬼。物騒すぎるだろこのお客さん。

 

「いやあのレミリアさん……」

 

「お嬢様」

 

「へ?あのレミ「お嬢様、よ?」………お嬢様」

 

「よろしい」

 

満足したように頷くが俺が納得して呼んでいる訳ではなく2回目の時は確実に殺気が混ざってた。マジ大人気なくない?見た目幼女だけどさ。

 

「どうせ信が聞きたいのは何故ここで働けって私が言ったかでしょ?」

 

「分かってるなら教えて下さいよ……」

 

つまらなそうに言われるけど俺からしたら何で急に身包みを剥がれて、俗に言う執事服とか言う動き辛い服に変えられてるの?とか働くってどう言う事と疑問は増えるばかりで混乱してるんですよ。

そんな俺を見兼ねたのかレミリアさんが咲夜さんに何かを持って来させる。……何アレ、文字と数字が沢山書いてるけど。

 

「咲夜これで全部ね?」

 

「はい、確認済みです」

 

「ありがとう。さて信、これが何かわかるかしら?」

 

「へ?」

 

そう言って見せつける様にビシっ!と俺の目の前に出され、その内容を確認してみる。

 

何々……修繕費、壁多数の切り傷や抉れ、破損あり。絨緞6枚処分、シャンデリア2本等とずらっと壊れたであろうものの費用やら物が記載されていた。

 

えっと場所は"中央エントランスホール"……………?

 

「………………………………………」

 

ダラっと汗が流れ、ちらりとレミリアさんの方を見ると笑顔だが少しだけ青筋が立っている様な気がしなくもない。

 

………何だろうか、すごーく見に覚えがある様な気がする。

 

「もう分かったかしら?貴方が此処で働かなくちゃ行けない理由」

 

「ちょちょ、ちょっと待ってください!確かに物を壊したりしちゃった気がしなくも無いですけど、壁の切り傷とか俺じゃなくて咲夜さんのナイフのやつでしょ!」

 

切り傷とか抉れた床とか穴だらけの絨緞って俺のせいじゃないよね!?と言うか正当防衛って奴だしそもそも戦闘を吹っかけてきたのそこで涼しい顔してるメイドさんですよ!

 

俺がそう言うと笑顔から一転してジト目と呆れた口調に切り替わる。

 

「そのナイフを使わなくちゃ行けなくなったのは何処かの誰かさんがウチに不法侵入した所から始まったのだけれど、違うかしら?」

 

「すみませんすみません俺が全て悪かったです」

 

即座に頭を90度下げて謝る。そう言えば俺って不法侵入している上に勝手に物色までした犯罪野郎でした。

 

「しかもそれを咲夜の所為にするなんて男としてもダメダメね」

 

「……ぐすん」

 

そう言って攻めてくるレミリアさんと取り出したハンカチを目元に持って涙を拭くフリをする咲夜さん。いやそんな棒読みの上によく見たらほぼ真顔じゃないですか貴女。

 

(女を泣かせるのはサイテーだよ)

 

お前はどっちの味方何だよ!

 

(少なくとも犯罪者予備軍の主人の味方はしたくないかな)

 

痛い所を的確に突いてくるなぁ!!

 

四方に敵しかいないこの状況でも何とか逃げる術は無いかと模索しているといい加減面倒になったのかレミリアさんが口を開き

 

「ウチの咲夜をキズ物にしたんだから、男なら責任くらい取りなさい?」

 

なんてこの歳で言われると思っても見ない事を口に出され、俺の中の何かが折れる音がした。

 

と言うかその言い回しは色々まずいしキズはキズでもそんな怪しい物じゃなくて切り傷とか生々しい方ですよね。ってか俺、咲夜さんに指一本触れてなかったはずなんですけど?

 

しかしながらレミリアさんの言う事が正しいのは俺自身納得してしまってるし、何より少しだけ

 

「……よろしくお願いします」

 

「ええ、よろしく」

 

この館で過ごすのは楽しそう、だなんて思ってる俺も居たりした。

 

 

 

 

 

To be continued……?

 

 

 



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19話 ゼロから始める執事生活。

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ咲夜、信の教育よろしくね」

 

「畏まりました」

 

「私は少し寝るから一通り仕事を教えるのとパチェ達に紹介もしておいてね。それじゃ励みなさい」

 

「……あれ?」

 

「何よ、まだ何かあるの?」

 

「そう言えば俺って1日どれ位の勤務なの?霊夢の飯も作らなきゃ行けないし……」

 

「あら言ってなかったかしら、住み込みよ」

 

「はい!?」

 

「もう霊夢に伝えてあるはずよ。部屋は後で咲夜に教えて貰いなさい」

 

「え、ちょ、あの」

 

「後はよろしくね。ふぁ……」

 

「お休みなさいませ、お嬢様」

 

「話を聞いてぇぇ!!!」

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

 

「それじゃ、今教えたのを一通りやって見なさい」

 

「おす……こんな感じで大丈夫です?」

 

「ええ、最初にしては上出来よ」

 

今咲夜さんに教えてもらっていたのはインテリア類の掃除の仕方で、どれも高価な物なのか手入れが面倒且つ難しいらしい。

 

あ、ちなみに仕事を教えてもらってる先輩という事で完全に敬語は抜けて素の状態の咲夜さんは案外気さくな感じでメイドモードの時に比べても、かなり表情が変わるから何となく接しやすい。

 

「と言うより貴方、こう言う仕事慣れてるでしょ」

 

「あー……分かります?」

 

「ええ、それなりに。私も伊達にこの仕事をしているわけじゃないから。さっき教えた紅茶の淹れ方も慣れていたみたいだし、接客業か何かしてたのかしら」

 

「まぁその、召使い的な物を少しばかり」

 

(少しばかりって小さい頃から仕込まれてるじゃん)

 

今は関係ないからなぁ、それに俺よりよっぽどそういうのに慣れてる人もいたし。

 

「あら、それなら少しペースアップして教えても平気そうね」

 

「お、お手柔らかにお願いします……」

 

なんか生き生きしてないか?もしかして人に教えたりするの好きなのかな。

 

「別にそういう訳じゃないわよ」

 

「なんでこの世界の人たちはデフォで心の中を読んでくるんですか?」

 

「信が分かりやすいだけよ、あと人の心の内を察するのもメイドの嗜みってね」

 

そう言ってお茶目にウィンクする咲夜さんに萌えポイントプラス100を進呈しましょう、ええ。今のは非常に萌え萌えキュンでしたね、うんうん。

 

「貴方が今ロクでもない事を考えてるのも分かるからね?」

 

「あははは、早く次の仕事に行きましょう!」

 

真面目に勤勉に働くしかねぇ!!

 

「……ふふ、後輩って言うのも悪くないわね」

 

 

それからベットメイキングや洗濯、食料庫(人間用と吸血鬼用)の場所、それなら調理の時間や1日のタイムスケジュールを教えて貰い、一旦俺の部屋に行く事に。

 

俺の部屋は2階の角で普段は客室として使う事があったらしいのだが、ここは広さだけで言うなら物凄いので俺の私室にして良いとレミリアさんから言われたらしく、広さも十二分だしなんなら外の世界の自分の部屋よりよっぽど大きいから有難いんだけどいくつか気になる事があった。

 

まずタンスには明らかに男物の私服があり誰のだろうと広げてみれば俺の大きさピッタリでしかも真新しいのが何着もある。

その横にはこれまた自分が今着ている執事服と同じものが4着あり、どう考えても数日分とは思えない量なんだけど……確認せねばと咲夜さんの方を見れば口元がニヤリと笑っていて凄く嫌な予感がした。

 

「あの……俺って具体的にどれくらい此処で働くことになるんですか?」

 

「取り敢えずは1週間ほどは此処で働いて貰うけど……肩書きとして半永遠的に働く事になるんじゃないかしら?」

 

「…………………………………………はい??」

 

永久?永遠?はい?つまりはどう言う事?

頭に今言われた言葉の意味が分からずぴよぴよとひよこが回る。

 

「簡単に言うとさっきまでのがテストだったのよ、貴方が此処で働けるだけの要領と吸収力があるかどうかのね」

 

「は、はぁ……って待ってくださいよ!流石にずっとは無理ですよ!?」

 

「ええ、だから1週間の間だけよ?説明してあげるから落ち着きなさい」

 

よく分かる咲夜さんの解説のコーナー。

 

まずここ紅魔館はびっくりするほど人手不足で(妖精メイドなるものが居るがほぼ役立たずらしい)今まで咲夜さん1人で回してきたが、魔理沙の突撃などで毎回壊される修繕などを含めるとそろそろ限界だった為誰かいないかと探していた所に丁度現れたのが俺。

 

取り敢えず1週間程仕事を教え込み、もし呑み込みが良ければそのまま雇おうと思っていたら想像以上に使え、なら今後もシフトに入って貰おうと思った。

 

「それに貴方、人里でもバイトしてるらしいじゃない。ならコッチでも働いてみてくれないかしら?」

 

「そ、そんな事言われても俺以外に誰か……」

 

「居ないわよ、普通吸血鬼の館って聞いてノコノコやってくる人間は。しかもそこで働くには私のチェックも必要なのよ?」

 

確かにこの幻想郷の住人では紅魔館の様な洋館の設備を掃除したりするのはかなり難しいと思う。だって和風すぎるしあの人里。

 

とは言えここで折れる訳にはいかない、明らかに大変そうな仕事を1週間住み込みですら元引きこもりの俺には辛いのにそれを定期的に半永続って死んでしまう。

 

「うぐ……って言われてもレミリアさんがパッと出の俺の事を雇うとは」

 

「それに関しては最初に許可貰ってるわよ。……使えなかったら処分していいって言葉付きで、ね」

 

物騒。すごく物騒な一言が聞こえた気がする。昔はめんどくさがってたけど色々教えてくれた父さん母さんありがとう……!あなたたちのお陰で俺は今生きてます。

 

「というか、咲夜さんは良いですか?俺たち何だかんだ数時間前は殺し合いしてたんですよ」

 

「別に気にしてないわよ。それに私、結構気に入ってるのよ信の事」

 

へ?そりゃどういう事……

 

「仕事を覚えるのも早いし、私も少しくらい楽が出来そうだもの」

 

「そんなこったろうと思いましたよ!」

 

この事に関しては取り敢えず1週間後に再度話し合うって事にはなったけど、ぶっちゃけ此処まで部屋とか服まで用意されてて断るのは無理だよなぁ……と言うかあのレミリアさんと咲夜さん相手にどうあがいても逃げれる気がしないし、どうしよ。

 

(別にいいんじゃないかな、君だってさっきの条件なら案外悪くないって思ってるでしょ)

 

ま、まぁ慣れてる仕事だしそれでお金貰えるならありがたいけど……

 

(けど?)

 

なんか嫌な予感がするのと、吸血鬼用の料理を作るのに慣れるかなーって。

 

(あー、明らかにあれ人間の血……)

 

違います!あれはトマトジュースです!AとかBみたいな記号が書かれてたけどきっと別の意味があるんです!

 

(うーんこの全力で余所見してる感じ)

 

 

 

 

「次は挨拶回りでしたっけ?」

 

「ええ、此処にはお嬢様以外にも何人かいるから」

 

なんだっけか確かに図書館に2人と門番の人が居るだっけかな。

 

「先に図書館の方から行きましょうか。……また魔理沙が壊した壁も直さなきゃいけないしね」

 

うわ黒いオーラ出てるよ。そんなに高頻度であの侵入方法使ってるのか。

 

「私が直してる間に挨拶を済ませておいてくれるかしら。図書館に居るのは2人で魔法使いの方と使い魔よ」

 

そう言って歩き出す咲夜さんの後に続くのだが、さてはて次はどんな人が現れるのやら……

 

 

 

 

To be continued……?

 

 

 



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20話 門番と図書館と謎の部屋。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「信さん信さん」

 

「はい?」

 

「今とっても暇してますよね私たち」

 

「一応門番の筈ですけど誰も来ませんしね。……なんでそんな笑顔なんですか?」

 

「いやはや実はお嬢様からお話を聞いた時から一度お手合わせをしてみたいと思っていまして」

 

「絶対ヤダ!!」

 

「いいじゃないですかー。一戦やりましょう!一戦だけ!」

 

「なんでみんなデフォルトで戦闘狂の節があるのさ!?それにサボってたらまた咲夜さんから俺まで怒られるじゃん!」

 

「大丈夫ですよ今の時間なら来たことないですし!………何で急に両手で顔を抑えているんですか?」

 

「………いやもうこれも何回目だったかな?って」

 

「へ?何をーーー」

 

「随分とご機嫌ね?美鈴」

 

「……………………いやいやあはは」

 

「信もお疲れ様、って言いに来たはずなのだけれどね」

 

「あはははお疲れ様です咲夜さん!」

 

「最近仕事が少し楽になった代わりに、お仕置きを2倍にしなくちゃいけないのも少し考えものね」

 

「ちょ、ちょっと咲夜さん!?その量はだめですよぉー!」

 

「美鈴さんは兎も角俺人間だから死んじゃいますよ!?」

 

「問答無用!」

 

「「いやぁぁぁぁ!!!???」」

 

 

 

 

「………平和ね、レミィ」

 

「ええ、退屈しないわ」

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

・○月○日 晴れ 執事生活1日目。

 

業務内容や教えられた事、あった出来事を忘れない為に日記をつける事にした。

1日目は咲夜さんからカーペットの処理の仕方やステンドガラスの掃除の仕方、1日の業務内容についてを説明され、その後に他の住人の方々を紹介して貰った。

 

1人目に少しだけ荒れた(多分犯人は魔理沙)図書館の中で気怠げな感じに本を読んでいた女性"パチュリー・ノーレッジ"さん。この人は魔理沙やアリスと一緒の魔法使いらしくて、知識も豊富でこの膨大な本を殆ど読みきっているとか。魔理沙が魔法使いでアリスが人形遣い、パチュリーさんは魔女って感じが強いイメージだった。あと着てる服がふんわりした感じのパジャマっぽいもので色合いもあるせいか、何となく女の子してて可愛いなーなんて思ったり。

 

2人目に同じく図書館の住人の"小悪魔"さん。少し涙目になりながら荒れた図書館を掃除してたのを見ていたら気付いて話しかけてくれた。めっちゃ明るくて優しい女性で本当に悪魔なの?って感じだった。なんでもパチュリーさんの召喚した召使い的な立ち位置で、"パチュリーさまは凄いんです!"とパチュリーさんの話になった瞬間スイッチが切り替わったのを見るに愛されてるんだなーと。

 

図書館組はこの2人だけで、この場所での俺の仕事は基本的にパチュリーさんから頼まれた本を届ける、小悪魔さんと本の整理や掃除、魔理沙から本を守るの3つ。最後の奴に色々と突っ込みたいけど苦い薬を舐めるが如く渋い顔をするパチュリーさんを見て何も聞けませんでした、はい。

 

そして次が紅魔館正門前にて、器用に立ちながら船を漕いでいたチャイナドレス風の服を着た赤髪の女性"紅美鈴"さん。開幕で青筋立てた咲夜さんがナイフを投げ出した時は正直焦ったけど、どうやら種族は人間では無く妖怪との事で頭にナイフを刺しながら笑顔で挨拶されてる時はグロテスクな物が苦手な身としては目を逸らしてしまった。取り敢えず教えて貰ったのは見た目通り拳法を使うらしく、能力も気を使うという龍玉7個集める某アニメのまんまで目をキラキラさせてしまい、暫く話し込んでいたら咲夜さんからの冷たい視線でハッとしたのは秘密。

 

さて、この場所での仕事は主に美鈴さんと2人での見張り(咲夜さんから美鈴さんがサボらない様に見ていて欲しいとの事)と魔理沙(盗賊)からのシールドの二つ。

あとは騒がない程度ならお喋りオーケーとかなり緩いなと思ったのだが、それを聞いた美鈴さんが無茶苦茶喜んでいるのを見てどんだけ暇なんだろうとか思いつつもその後は実際に見張りをやっていたのだが、これまた美鈴さんの気持ちが分かるくらい暇で、何もこないし何も無いからあくびの一つや二つ出てしまうのもわかる。

 

そんなこんなであっという間に1日目は終了した。他には夕食(吸血鬼だから朝食?)を準備した時に少しあったけどそれは割愛するがその準備を何故か最初から見ていたレミリアさんはとても愉快そうに笑っているのをここに記しておこう。……あれは完全にサディストの目だったよ。

 

 

 

・○月○日 曇り 執事生活2日目。

 

2日目の朝、まずは掃除に始まりレミリアさんたち全員分の食事を作る。種族で言うと俺と咲夜さんが人間ではレミリアさんが吸血鬼、パチュリーさんが魔法使いだから人間と一緒でオッケーで小悪魔さんと美鈴さんが妖怪になるのかな。

今日は取り敢えず門番をして欲しいと言われて紅魔館前に居るわけだがとてつもなく暇で、ぶっちゃけこの館に突撃してくるのは大抵魔理沙だけらしく一度きてからそうなんども連日で来ることも無いと聞いていたので暫く来ないのだろう。平和でいいのだがこの暇さ加減は寝てしまう美鈴さんの気持ちが分からなくもない気がして来てーーー

 

 

「何書いてるんです?」

 

「うぉ!?」

 

先程まで反対側に居たはずの美鈴さんがいつの間にか俺の背中側からひょこんと顔を出して俺の書いていた日記をジッと見ていた。

 

「そんなに驚かなくてもいいじゃないですか。結構声かけてたんですよ?」

 

「ご、ごめん。ちょっと集中してた」

 

「いえいえ……それで何をそんなに集中して書いていたんですか?」

 

「日記だよ。ここで起きた事とか業務内容のメモみたいなものだとか掃除の仕方を書いたりしてたんだ」

 

「へぇ、真面目ですね。拝見しても?」

 

「別に構わないけどそんなに面白い物でもないよ、はい」

 

ありがとうございますと言って受けとった後まだ数十ページしか埋まっていない俺の日記を読み出す。

 

特段変な事を書いた覚えは無いけど何となく気恥ずかしさはあるなぁ……一応この幻想郷に来てからの事しか書いてないから紫さんに注意された外の世界の知識とかは無いと思うけど。

 

(シンの日記って最初の方とか巫女の世話をしたとか人形遣いと遊んだとかばっかりだったよね)

 

うん、その程度だから別に見せるのも恥ずかしいとかじゃないけどやっぱりムズムズはするんだよね。

 

(あれ、でも)

 

ん?

 

(君のあの日記って昔のやつをそのまま使ってるんだよね。黒歴史大丈夫なの?)

 

ははは、そこは抜かりないさ。あんな黒歴史(高性能地雷)が書かれた前半のページはとっくに全部破り捨ててるから、表紙から開けば普通の日記だよ!

 

(え?)

 

そもそもそんなの残しとくわけないじゃんか、あの日記が切り取れるタイプでマジ助かったよ。

 

うんうん、と1人納得しつつ頷いていると俺の日記を読んでいた美鈴さんがガバっと顔を上げて俺の顔をキラキラと見つめて来る。な、何すか?

 

「信さん!ここに書かれている"すてーたす"とは何でしょう!」

 

「はて?」

 

すてーたす……ステータス?何かそんな事を書いただろうか?興奮気味に見せて来るページには何処か見覚えのあるゲームのステータス画面の様な書き方で筋力、魔力、耐久力等の文字の横にAとかCの様に格付けを………?

 

「これは強者のデータですね!一体どの様な方々なんですか!」

 

興味深そうにそのページをまじまじとみる美鈴さんだが俺はそれどころでは無く過去の自分の記憶を光の速度で遡っていた。

 

「あ……あ……」

 

「きっとこれを書いた信さんはこの方たちと戦い、それを忘れない様に書き残したんですよね!」

 

………………………。

 

「あれ、信さん?」

 

…………………………………。

 

「おーい、信さーん?」

 

…………………………………………う。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!????」

 

「ひゃあ!?」

 

(だから言ったのに……はぁ)

 

 

数十分後。

 

 

「あ、あの信さん私何かしちゃいました……?」

 

「ははは……いや美鈴さんは全くもって悪くないんだよ。全ては過去の俺のせいだから」

 

突然叫び、その後暫く再起不能になった俺を見てオロオロしていた美鈴さんにやっとの事で声をかける事が出来た。

 

まさか落書きがノートの後ろのページにあるとは思わなかった……恨むぞ過去の俺。

 

(うわ、しかも自分のステータスの所だけやたら高くしてるし。痛たたた)

 

辞めて止して触らないで俺の黒歴史!!

 

(でも幸運だけ低いね、キミのステ)

 

……一緒にこの黒歴史作った友人が"お前は最低ランクだろ幸運は"って言って書き換えられてた。

 

(あっ……ごめん)

 

謝るなよ!惨めになるだろ!

 

「しかし信さんはやはりお強いのですね!他の方よりどれもズバ抜けて高いですし」

 

「がふっ!!」

 

「この特殊スキルなるものも信さんしか持っていないんですね!」

 

「グフっ!?」

 

「しかも連勝数もトップとは素晴らしいです!」

 

「…………」

 

「え、あれ?」

 

下手に馬鹿にされるより笑顔で純粋に褒められる方がよっぽどシンドイねこれ。

 

膝をついて無言で打ちひしがれてる俺とその前をあわあわと右往左往している門番さんという謎の構図が生まれ、謎の空気が出来ている中で突然パシャリという電子音と軽いフラッシュにはて?と音の方に顔を上げると空中でカメラ片手に笑顔で手を振る黒い羽を生やしたお姉さんを発見……というか文さんだった。

 

(目線はバッチリ下の方だねキミ)

 

ちょっと何言ってるかわからないわ。

 

「こんにちは。信さん美鈴さん」

 

「射命丸さんどうもです!」

 

「どうもです」

 

気軽に挨拶しているのを見るに顔見知りかな?そんな事を考えてるとニヤリと俺のよく知っている意地悪な時の文さんの顔になり耳元でこっそりと呟かれる。

 

「もう少し目線には気をつけた方がいいですよ?」

 

「……な、何のことやら」

 

(思い切りバレてるね)

 

知らないったら知らないの!!

 

全力で目を逸らし文さんのサディストスイッチが入らない様に面白い反応しないでいると文さんの気配が離れるのを感じて目を前に戻せば少し距離が開いて、ついホッとしてしまう。

 

「まぁいいでしょう、信さんを虐めるのはまた今度の機会にして。今日の本題は何でも紅魔館で新しい人間を雇ったと聞いて取材しに来ました!」

 

なんかスルーしちゃいけない事を言われた気がしたけどややこしくなる気しかしないので触らないでおこう、うん。

 

「って新しく雇われた人?」

 

「ええ、なんでもこの恐怖の代名詞たる紅魔館に恐れも知らず人間が働き始めたとの情報を掴んだのですよ!」

 

スクープです!とブン屋モードの文さんは興奮気味に言うけどそれって多分俺の事だよね?

何だろう、凄く言いにくいな。こんなにワクワクしてる人に実は目の前の知り合いがその人間です!とか言ったら微妙な空気なるに決まってるし。

そんな俺の気まずそうな空気感と顔を見て何かを感じたのか文さんがそう言えばと言葉を紡ぎ出す。

 

「あや?そう言えば信さんは何故その様な格好でここにいるんですか?」

 

「何でって信さんが新しくここに雇われた人だからですよ?」

 

俺がなにかを言う前に当たり前の様に美鈴がそう言うと一瞬文さんの目がまん丸に。こりゃレアだな。

 

「へ?ど、どう言う事です?」

 

「……その実はーーー

 

 

 

ーーーという事が一昨日ありまして結果的にここで働いております、はい」

 

「………ふむふむ」

 

おお、めっちゃメモしてるし。

 

「大体わかりました!つまり何時通り信さんの不幸の結果ですね」

 

「否定出来ないのが辛い」

 

「日記を読んだ感じですけどかなり苦労してるみたいですしね信さん」

 

「日記にはもう触れないでっ!」

 

「はて日記とは?」

 

「辞めて!文さんまじ辞めて!貴女は洒落にならないから!!」

 

この後何とか誤魔化しきって軽い質問だけしたら渋々引き下がってくれたけどまた来ると言い残していた辺り油断は出来ない。

 

(誤魔化したというか信が涙目で土下座までしてたからだと思うよ?天狗も門番もドン引きしてたし)

 

それで日記(黒歴史)が守れるなら安い安い。俺のプライドとかこの世界に来てからとっくに捨ててるし。

 

(そんなだと一生童貞だよキミ)

 

どどどどっ!? 忘れてると思うけどお前の声霊夢と一緒だからそういうのは言うなよ!?心臓が飛び出そうになるわ!

 

(なら変えようか?……これとか)

 

辞めろ辞めろ!急に声が変わるとびくってするから!……なんで咲夜さんの声なんだよ。

 

(巫女の次に好きなのメイドじゃん)

 

俺、今すっごい複雑だわ。

 

こんな軽い口調の咲夜さんとかイメージ崩れるし何よりちょっといいなとか思った自分を殴り倒したくなる。

 

(というかそろそろ時間じゃないの?)

 

ああ、そう言えばと咲夜さんから渡された銀の懐中時計を確認してみればそろそろ図書館の方の仕事に移る時間だった。

 

「俺そろそろ時間なんで」

 

「もうそんなに経ってますか?やっぱり話し相手がいると違いますねー」

 

「あや、信さん他にも何かお仕事を?」

 

「まぁ、色々やってますよ。それじゃ美鈴さん後は頑張って下さい。……咲夜さんに怒られない程度には休憩しつつで」

 

持って来ておいた水筒を手渡すと何やらびっくりされるけどなんだろう?

 

「これは?」

 

「今日は暑いですから、水分補給にと思って。中身は適当にお茶ですけどお節介でしたかね、やっぱり」

 

「いえいえ!凄く有難いですよ!」

 

そう言って嬉しそうに受け取ってくれて一安心。もしかしたら馴れ馴れしいなとか思われるんじゃないかとビクビクしていたのは秘密さ。

 

「……そういう自然な感じのはポイント高いですよね」

 

「?」

 

何やら目線を感じて横をむけばジトーと見てくる文さんが何かを言うが明らかに俺には聞こえない音量での呟きで何も理解できず頭を傾げてしまう。

 

さて、とりあえずはここでの仕事はオッケーという事で文さんはこの後どうするのか聞いてみると美鈴さんに少し話を聞いてから許可があればそのまま紅魔館で取材するとの事。ちゃんと許可を得てくれるんですねと喜ぶ美鈴さんには今度何か奢ろうと心の中で誓う。そして魔理沙には一言言っておこうと。

 

 

 

 

 

さてはて場面は切り替わり、ここは紅魔館屈指の名観光地である大図書館。本の貯蔵量は莫大なもので5メートルはあるんじゃないかという本棚にビッチリと埋まる分厚い本の数々。

そしてその埋まった本棚がこの広大な部屋の中にびっしりと詰められているのだ。そういや広くしてるのも咲夜さんの能力でだっけ?万能すぎるなぁ、あの人。

 

「信さーん、次これお願いしますー」

 

「了解です」

 

少し危なげな小走りで俺の方に本を渡してくれる小悪魔さんから6冊ほど受け取りタイトルと系統に分けて本棚へ収納して行く。

 

6冊とか細々とやるなよと思うかもしれないが、この世界の本……というよりパチュリーさんが読んでいる本の一冊一冊が大きい、重いの二つで物理的に6冊くらいが限界でそもそも最初は文字すら読めず小悪魔さんに教えてもらう所から始まったくらいなのでかなり進歩した方だ。モノによっては魔道書と呼ばれる魔術師、魔法使いと呼ばれる人達の叡智、研究の成果が記された本もあるから凄く読みたいんだけど文字がね。

 

「というか魔道書って浪漫溢れてるけど魔力が無い俺が下手に中身みたら目が潰れるらしいしなぁ……」

 

ジー……と今自分の持っている謎の書物と睨めっこしながら独り言を呟くとその言葉に反応する様に声をかけられる。

 

「ええ、下手に開けない方がいいわよ。今貴方が持っているのとか特に、ね?」

 

「……うっす」

 

普段は無表情なのに、今この瞬間だけ微笑気味に忠告する辺り少し楽しんでるよねパチュリーさん。絶対俺が何処かで開くとか思ってるでしょ。

 

「ええ、それはそれで面白いわね」

 

「魔法使いって心も読めるんですね……」

 

少し皮肉を込めて言うと珍しく本から顔を上げて俺の目をジッと見てくる。な、なんすか?その真顔でじっと見られると本当に心が読まれてる気がして怖いんですけど。

するとふっと口元だけ笑い呟く。

 

「便利よ」

 

「それはマジなの?それとも冗談なんですか!?」

 

「さぁね」

 

そう言って興味を無くしたのか読書に戻るパチュリーさんに末恐ろしいものを感じつつ俺も仕事に戻る。

 

この人には多分勝てないし、そう言う時は戦略的撤退あるのみだ。

 

(シンがこの世界で誰かを言い負かせた事あった?)

 

……………………………………チ、チルノ?

 

(妖精相手を出してる時点でシンの器量が知れるよ)

 

煩いやい!

 

うおー!と悶えていると何かを思い出したかのようにパチュリーさんがまた本から顔を上げて話しかけてくる。その表情は先程とは違い少し真剣な気がする。

 

「……ああ、そういえば。信」

 

「え、何?」

 

「貴方、ここの構造はそれなりに理解した?」

 

「それなりにはかな。基本的に初日に教えて貰ったし」

 

咲夜さんによって拡張されかなり巨大な空間にはなっているけれど、覚えられないほどの大きさでは無かったし何より業務上掃除する場所が多々あるから覚えるしかないだろうし。

 

「……そう、ならここに地下があるのは知ってるわね」

 

「へ?それは初耳かも」

 

「なら丁度いいわ、レミィからの伝言よ。"決して地下には立ち入る事は無いように"……まぁ、正しくは入ってもいいけどどうなっても知らないって意味だけどね」

 

「なんすかその怖い忠告」

 

地下に何か封印されてるとか?

 

「色々面倒な事があるのよ、気にしなくていいわ。……貴方の場合その能力の所為でもあるけどね」

 

「俺の能力?」

 

この碌に使い方も分からないどころか最近、使えないんじゃないかとか思って来てるぐらいなんですけど。

 

そう聞くと少し面倒そうにするが溜息を吐きつつ顔を上げてくれる。

 

「貴方にはコレの貸しもあるしね、少しだけ講義してあげるわ」

 

そう言って持ち上げるのは俺がパチュリーさんにあげた外の世界の本。本が好きと聞いていたからこの前のお詫びを含めてパチュリーさんにあげたのだが、物凄く……俺が引くくらいには動揺されたのは記憶に新しい。

 

「いや別に、それは魔理沙が迷惑をかけたお詫びに渡したものだし気にしなくても……」

 

「貴方にはこれの価値が分かってないのよ。下手な魔道書よりも価値があるのよ?外の本なんて基本的にこっちに流れ着いてもボロボロで読めないし、そもそも手にも入らないの。それなのに貴方はこの状態の物をお詫びと言ってタダ同然に渡すとか正気を疑ったわ」

 

「ちょ、そんな剣幕で言わないで!怖いから!」

 

ズン、と近づいてきてすごい目力と早口で語るパチュリーさんに気後れしながらもなんとか自分の言い分を言ってみる。

 

「俺にとっちゃもう何回も読んだものだし、そもそも何冊も魔理沙に持っていかれてるんだろう?それ一冊じゃとても……」

 

そういうとまた溜息を吐きつつ、俺の目をジトッとみてくる。

 

「ええ、余裕でお釣りがくるわ。寧ろタダでこんな施しを受けたとアリスや魔理沙には聞かれてみなさい。それこそ私のプライドがズタボロよ?」

 

だから貸し借りは嫌いだしこれで少しくらい返させなさいと言われてそんなに価値があるものなのかと納得しておく。というか本一冊で少し大げさでは?とは思っていたがあの換金の例もあるしそうでも無いのかな。

 

「そ、そんなになのか。あ、なら魔理沙やアリスにも1冊ずつくらいあげようかな……」

 

まだ何冊も博麗神社(俺の部屋)にあるし日頃のお礼って事で……なんて考えているとビクッ!としてパチュリーさんがゆっくりと顔を上げる。

 

「ちょっと待ちなさい信。もしかしてまだこれ以外にもあるの?」

 

「へ?そりゃパチュリーさん程じゃないけど俺もそれなりに本の虫だったから結構まだ残って……」

 

そういうとパチュリーさんが唖然としたような顔をして俺の方を見たまま固まる。

 

「む……」

 

「む?」

 

なんか謎の音が?とパチュリーさん方を振り返りとバタンキューという効果音が似合うくらい見事に机の上に突っ伏しつつ、目を回していた。

 

「むきゅぅぅぅぅ…………」

 

「パ、パチュリーさぁぁぁん!!??」

 

本人曰く、"頭の中の容量がいっぱいになったのよ。"との事。

 

後日、パチュリーさんから本を貰うのは恐れ多くて無理だが貸しては欲しいと代償に様々なモノを押し付けられたり、それを聞きつけてアリスや魔理沙が突貫してくるのはまた今度書き記そうと思う。

 

……いやホント本一冊で喧嘩しないでよ3人とも。

 

 

 

 

To be continued……?

 

 

 

 

 



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20.5話 パチュリー先生の能力講座。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この紅魔館で俺の業務は、特別な事がない限りは大体夕食後の片付け終了と共に終わる。そこからは入浴後軽い自由時間なのだが今日は珍しく私服で図書館に訪れていた。

 

「来たわね、そこ空いてるわ」

 

そう言って眠そうに反対側の椅子を指差されたので大人しく座る事にはしたが、ここに呼ばれた理由がまだ分からず疑問を残したままは気持ち悪いとパチュリーさんに質問してみると。

 

「昨日言ったじゃない。信の能力よ、使い方知りたいんでしょ」

 

ああ、そういや倒れてから体調とかも考えて明日にするとか言われてたっけ。うーん、確かに気にはなるけど。

 

「そりゃまぁ……でもなんでパチュリーさんがわかるのさ?」

 

「貴方の能力って事?簡単よ」

 

そう言って説明されつつ渡されたのはいつかの霊夢のお札に似た文字が書かれている契約書のみたいな紙で俺には読めないが、何処か見覚えのある文字で考えてみればよくパチュリーさんが読んでいる本の文字そっくりだ。

 

「貴方が最初能力を調べたのってあの紅白の所でしょ。アレは能力の名前が分かるだけで使い方までは分からないものね」

 

それに比べてこっちは大雑把だけど分かるわと少しドヤ顔で教えてくれるけど、魔法の事になると結構強気で嬉しそうに話すよねパッチェさん。

 

「誰がパッチェさんよ?」

 

「お気にせず」

 

「貴方も段々とここに馴染んで来たわね……少し痛い目に合わせた方がいいのかしら」

 

物騒なことを呟いている気がしなくもないけど取り敢えずスルーしつつ、受け取った紙を見回すけど、どうやって使うんだこれ?

 

(霊力は?)

 

回してみたけど特に変化しないかな。

 

「……あ、使い方を教えてなかったわね。血を一滴程度でいいからその中央の点に垂らしなさい。あとは文字が浮かんで来たら読んであげるわ」

 

読めないでしょ?と言われ納得しつつ、紙に血を一滴垂らそうとしたのだが口で噛み切るとかした事もない平穏な日常にいた者としてはどうしたものかと考える。

 

(わたし!わたし!)

 

それだ。

 

「……っ」

 

あいも変わらず良い切れ味……ってまぁ俺のさじ加減らしいけどちょうど皮一枚ぐらい切れば少しだけ血が流れ出す。そのまま紙を目の前のテーブルに置いて一滴分の血が落ちるまでじっとしている。

 

「少しすれば浮き上がってくるからそれまで適当にしてなさい。……ふぁ」

 

そう言ってまた欠伸をするパチュリーさんにふと疑問。いつもこの時間帯でも悠々に読書してる筈なのだが今日は随分とお眠のご様子。

 

「いつもと違って随分と眠そうだね?」

 

「最近ちょっと……色々してるのよ。その原因は呑気に安眠を貪ってるみたいだけどね」

 

「へー、大変だね」

 

「………………ええ、とてもね」

 

ニッコリと黒いオーラを纏いながら言われるとまるで俺が原因みたいじゃないか?

そんなこんな素敵に楽しく?パチュリーさんと会話しているとコンコンとノックの音がする。

 

「入っていいわ」

 

「失礼します!呼びました?」

 

そう言って入って来たのは美鈴さんでこの場所(図書館)では珍しい顔だった。というより今の会話的にパチュリーさんに呼ばれたみたいだけど何か大事な話なら俺は席を外した方がいいのかな?

 

「貴方関連の事だから平気よ、大人しく座ってなさい」

 

「お、おす」

 

「従順な所は褒めてあげるわ。夜遅くに悪いわね」

 

「いえいえ、まだ寝るには早いので大丈夫ですよ。それでどの様なご用事で?」

 

「少し信の事で協力して欲しいのよ。多分美鈴の能力が一番適してる筈でしょうし」

 

そう言っていつの間にやら俺の前にあった紙を自分の手元に持っていき読み始める。

 

「能力名はそのままね。"対象の性質や本質を受け継ぎ、汲み取る"……らしいわよ?」

 

どうやら使い方やその能力の解説のようだ。

 

ふむ、成る程。

 

「成る程、分からん」

 

「でしょうね、間抜けな顔してるわ貴方」

 

「凄いドヤ顔ですね」

 

煩いやい。

 

「そ、それよりその俺の能力となんで美鈴さんが必要なのさ?まだ脈絡見えないけど」

 

「ここからは私の憶測もあるんだけれどね、貴方のこの能力って所謂コピー能力でしょう」

 

「はい?」

 

「本質的には違うものでしょうけど、使い方の一つとしてはそれで良いはずよ。さて、それじゃ始めましょうか」

 

 

そう言って立ち上がったパチュリーさんに教えてもらったのは自身の力の正しい使い方。

 

それは俺自身を核として、相手の力や能力を視るもしくは理解する事とそのコピーしたい力を自身に転写する事(これは俺自身がその能力に耐えうるかどうか)が出来るかどうかによって発動するらしく、パチュリーさんの見た感じ俺はまだマトモに意識して使った事が無いから余計に使えなくなってしまっているらしいんだけど、依代になるという言葉を読み解けば、それは安易に想像はついた事であるんだけど、俺は実際に試して出来なかったんだよね。

 

「そこで美鈴よ。貴女の能力を教えてあげて」

 

「は、はい。"気を使う程度の能力"です」

 

気配りとか空気を読む的な?

 

「変なボケは要らないからね。貴方も少しくらい聞いたことあるでしょう、拳法における気くらい」

 

「多少は知識(漫画)としてありますけど、それ通りかどうかまでは分からないよ?」

 

「別にそれでいいわ、さてそれじゃ美鈴。信に接触して気を流して頂戴」

 

「そんな事でよろしいのであれば」

 

そう言って美鈴さんが右手を出してくる。握手?と手を出してみればそのまま握り返されて少しドッキリしつつもここからどうすれば良いのか分からず困惑していると、なにやらポカポカと美鈴さんの体温以外に不思議な暖かさが伝わってくる。

 

「………あったかい?」

 

「あれ、随分と早く認識できましたね。多分ですけどそれが気ですよ」

 

お、おお。なんか意識したら余計に感じれる様になって来た。何だろう生まれて初めて感じる感覚なんだけど、何処か懐かしい暖かさとふんわりと優しく包んでくれる感じと言うか?

 

「上出来よ、ならそれを美鈴から受け取らずに自分だけで練り上げてみなさい」

 

「離しますよ」

 

そう言って離されると同時にあの感覚は霧散し、美鈴さんの体温だけが手に残りなんとも言えない内心になるけどそんな煩悩は捨てて置いて、パチュリーさんに言われた通り先程の感覚を思い出しながら……心の内側にされた蓋を外す感覚を思い出しながら気を練ると言う作業を意識してみる。

 

「焦らずにゆっくりと深呼吸しながらやってみて下さい、そもそも気という物は誰にでもあるはずのものです。それを鍛えず何もしていないのが原因で、少しだけ錆びてしまっているだけなのですからゆっくりと回してあげて下さい」

 

「………………」

 

静かな夜の図書館の中で美鈴さんの声だけが響き、他に聞こえるのは微かな呼吸音くらいで生まれて初めてここまで集中しているなぁと何処か第三者目線で自分を俯瞰する。

 

(……へぇ)

 

「あら」

 

何やら驚く様な声が聞こえ目を開けてみれば珍しく目を見開くパチュリーさんと優しく笑う美鈴さんがいた。

 

「おめでとうございます。それが気ですよ!」

 

「お、おう……?特に変化した感じは無いんだけど」

 

「そう、なら」

 

はて?何して急にそんな分厚い本を片手に近付いてくるんですかパチュリーさんや。

………というか何で思い切り持ち上げてるんです?その先には俺の頭くらいしかありませんよ?

 

「えい」

 

「ぎゃふん!?」

 

お、思い切り振りかぶりやがったなこの魔女!?あんな分厚い本で叩かれたらめちゃくちゃ痛い……

 

「………あれ、痛くない……?」

 

「おお、もう体感の方も扱えてますねー」

 

「ええ、もうコツを掴んだみたいね。想像以上にいい出来の生徒だわ」

 

納得した様に話す2人に置いていかれる我。つまり……どういうことだってばよ?

 

(解説いる?)

 

流石は無名先生!お願いします。

 

(出来の悪い生徒だなぁ……)

 

 

よく分かる無名先生の能力講座"気"編。

 

美鈴さんの能力である"気を使う程度の能力"とはイメージ通りドラゴンな玉のアレに出てくる異星人のスーパーモードの原理をイメージするのが分かりやすく、感情の上下やらそこら辺で出力が変わったり物理的に身体が頑丈になったりするらしい。

ならば憧れの元祖レーザー砲も撃てるのでは?と考えたけど流石は俺、そんな物撃てる程気を練ることは出来ないとの事。戦闘力たったの5かゴミめってやつね、クソッタレ。

 

(まーそんなに落ち込まなくていいんじゃないかな。それにこの能力はキミが欲しがってた防御寄りの物だしね)

 

確かにそうなんだけど、それとこれとは話が別でさ……男は誰しもがあの砲撃を撃つのを夢見てるもんなの。

 

(それに私、今は撃てないって言っただけだよ。その力もちゃんと鍛えれば伸びるからサボらず鍛錬すればいつかは撃てるんじゃない?)

 

………マジ?

 

(大マジ)

 

お、おお!なら希望が見えてくるってもんだよ!こりゃ頑張るしかない!

 

(まぁ詳しい事は門番に聞いた方がいいんじゃないかな)

 

「美鈴さん美鈴さん!聞きたいことが!」

 

「はい、何でしょう?」

 

取り敢えず自分のイメージ通りのモノをなんとか美鈴さんに説明するとふむふむと考えてポンと手を置いた。もしかして結構早く出来たりとか!

 

「ええ、人間でもちゃんと修行すれば出来ると思いますよ」

 

「おお!マジですか!」

 

「ざっと60年くらいやれば」

 

「そんなこったろうと思ったよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……?

 

 



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21話 金髪幼女は天使と相場が決まってるの!

 

 

 

 

 

 

「ふぁ……あら、おはよう」

 

「おはようございます。お嬢様」

 

「アナタ、随分板についてきたわね。もうこのまま本当に雇われちゃいなさいよ」

 

「ははは、お戯れを」

 

「それはイラってきたわ。と言うか、今はまだ勤務時間外でしょう?普通にしなさい」

 

「おっす、なんですか?」

 

「切り替えの早さは評価してあげるわよ。今日、私少し出るから館は任せたわよ」

 

「レミリアさんが外出って珍しいですね」

 

「否定はしないけど何か含みのある言い方ね?」

 

「ははは、滅相も無い!」

 

「……まぁいいわ、私にも少しあるのよ。それで咲夜とパチェも連れて行くから館の中は貴方一人だから後はよろしくね」

 

「って言われてもいつも通りの掃除くらいですよね。他に何かあります?」

 

「そうね……普段は咲夜にやってもらってる見回りもお願い。後は適当に過ごしてもらって構わないわ」

 

「了解です、迷わないかなぁ……」

 

「貴方、今日で六日目でしょう?迷うとかそういう冗談はいらないわ。……まって、そんなに不安そうな顔されたら私まで不安になるから」

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

今日で六日目を迎えた俺の紅魔館生活なのだが珍しい事にレミリアさんが日中から夕暮れまで外出との事で、このバカ広い館の中には俺ただ1人だけ。

とは言え午前中にやってしまいたい仕事はあるし、午後も巡回なるものを頼まれているからサボれるとかではない。

 

(ホントそういうところは真面目だよね)

 

一応働いてるしね。

 

(それならとっとと終わらせてこの館の中を探検しようよ)

 

いやにテンション高いな……ってか別に探検する場所ないだろうに?ここの中、殆ど知ってるし俺。

 

(でもほら、例の地下にはまだ行ってないじゃん)

 

入っちゃダメって言われてなかった?

 

(巡回するなら必要じゃないかな)

 

ま、まぁ確かに全体を見るように言われてるしね!

 

(とか言って気にはなってたじゃんキミ)

 

あんな言い方されたらね。ぶっちゃけこっそり行こうか迷って途中まで行ったんだけど。

 

(あのメイドが現れて逃げたもんね)

 

無茶苦茶怖かったよあの時の咲夜さんの笑顔。"如何様の御用で?"とか敬語だったし、洒落にならなそうだったなぁ……。

 

と、いつもの炊事洗濯に加えて沢山ある部屋のベットメイキングや掃除をこなしていれば気付けば全て終わり、時間を確認するとまだお昼前というのにびっくり。

 

(シンさ、どんどん仕事早くなってない?)

 

最初は夕方までかかってたんだけどね……なんだろう素直に喜んでいいのかな。

 

(割と天職なのかもね)

 

もしもの時は本当に紅魔館に就職するのも手かな、うん。

 

さてさてお昼も軽食を作っていたし適当に済ませて、午後からは警備周りなんだけど何処から回ろうかな。

 

 

主人(レミリアさん)の部屋 ←

客室A〜Nくらい

咲夜さんの部屋

美鈴さんの部屋

図書館(パチュリーさんたちの部屋)

その他

 

 

アドベンチャーゲーム風に脳内に選択肢を出してみて分かったのは意外と回るべき場所があるのと掃除等で回ったレミリアさんたちの部屋をもう一度行く必要があるのかどうかの疑問で、つまり選択肢は………うん。

 

「その他だ!」

 

(その他だね!)

 

そんなわけでいざ歩き回ってる訳なんだけど、とりあえず今のところ特にこれと言った異常もなく今日も平和なお屋敷って感じ。

 

(とか言って誤魔化してるけど"ここ"見つけてから右往左往してもう5分は経つよ)

 

無銘にそう言われ、つい立ち止まりながら先程から行こうかどうか迷っている下へと続く階段を見つめる。俺がいるのは図書館から少し歩いた場所にある金属扉の前で、中には下が真っ暗で先が見えない地下階段があるんだけど。

 

前回はこの扉の前で咲夜さんに止められたんだよね。

 

(あの時は開けてなかったから本当に地下に繋がってるか分からなかったけどコレは明らかにねー)

 

そりゃ俺が今いるのは地上1階だし、そこから下がるって事は地下以外の何物でもないだろ。

 

そんなことを話しつつ下をジーっと見ているんだけど本当に目が慣れないくらい暗いな。これ下に行っても何も見えないんじゃないかな?やっぱり今回は遠慮してまたの機会に……

 

(あれれ?今更怖くなった?)

 

んな訳ないだろ!行くよ!

 

と気張ったのは良いものの一度着いた恐怖感は簡単に拭えるほど強いメンタルは持ってない訳でもう1人の俺が今なら帰れると囁いてくるがそれ以上に無銘からの煽りが俺の中のほんの少しだけ残っていたプライドという犬の餌に火をつけた。

 

「ええい、男は度胸!」

 

大きめに声を出していざ階段を降りて行く。予想通りかなり地下まで繋がっているらしく、俺の足音がかなり響いてその音にすらビビるが何とか一歩一歩確実に降りて行く。

 

(うわ、暗)

 

おい必死に目を逸らしていた事を他人事のように呟くな!

 

とは言えいつまでも知らぬ存ぜぬは効かないほどに暗闇が続いており、後ろを振り向けばほんのり扉から入ってくる光が見えるか見えないかくらいになっていた。

 

(元々紅魔館自体が暗いから余計に光が遮断されてるね)

 

それに関してはレミリアさんが吸血鬼だからしょうがないよ。でもなんでこの地下までこんな暗くしてるんだろ?何か物を置いてるとか誰か閉じ込めてるとかでもこんなに暗いんじゃ見にくる方が大変じゃない?

 

(………………あれ)

 

なんだよ急に黙ると怖くなるだろ。

 

(ほら、あの先少し明るいよ)

 

へ?……あ、ホントだ。

 

かなり長い事階段を降りて来た先にほんの少しだけ明るい場所を見つけ、安心からか足の重さが軽くなり少しだけ早めに階段を降りる。

その先にあったものは……

 

「………扉?」

 

比較的大きめな鉄扉でまるで猛獣でも飼っているのかというレベルのもの。ほんのり明るいのはどういう仕組みなのさ?

 

とは言えこの扉を勝手に開くのはなんかまずそうだよなぁとか考えながら扉の前に座り込んでいると。

 

「…………るの?」

 

「……?」

 

あれ、なんか聞こえたような?なんか凄い小さな声だったけど女の子の声みたいなのが……

 

「誰かいるの?」

 

「……へ?」

 

あ、あれ?俺の耳がおかしくなったのかな?凄く可愛らしい声がこの鋼鉄の扉の先から聞こえたような気がするんだけども。

 

(……気のせいじゃないみたいだね)

 

……やっぱり?

 

さて、どうしたものか。

ここから俺の取れる行動は限られてるけど何処か疑ぐるような感じの声音だし、もしここの部屋の住人なら誰とも分からない俺が急に現れたらビックリするだろう。しかも声の感じ的に幼い女の子っぽいし、それは俺も申し訳ないという事で俺がとる行動は一つになり声を掛けるのが正解なんだろうけど何て話しかけるのがいいんだろうか?と変な唸り声を出していたのが功を成したみたいで。

 

「やっぱりいるんだ」

 

と声をかけてもらえた。取り敢えずはコミュニケーションから入って自分に害がない事を証明するのが先決かな。

 

「えっと……勝手に入ってごめん」

 

「別にいいわ。私も退屈してたし……ね、それで貴方は誰?」

 

「俺?俺は……執事?」

 

「なんで疑問系なの?」

 

「いやまぁ色々あって最近ここで雇われたんだけどさーーー」

 

と気付けば扉越しに顔も知れぬ子と会話が始まる。内容はとても軽いもので質問を投げかけられて、その回答を俺がして行くだけのものだが何処か楽しげな声音の少女に俺も少しだけ緊張がほぐれる。

 

「へー!外から来たんだ」

 

「うん、今じゃここの住人だけどね」

 

ここまで話した感じ凄く素直で良い子っぽいけどなんでこんな所にいるだろうか?時折常識的な事も分からない感じだし箱入り娘的な子なのかな。

 

「なら楽しいこといっぱい知ってるよね?」

 

「どうだろ?君が楽しいって思える事かどうかはわかんないなー」

 

「でも貴方のお話は面白かったし……そうだ私と一緒に遊んでよ!」

 

「今から?別に構わないけど……」

 

「なら入って来ていいわ」

 

そう言って扉が少しだけ開かれる。どうやらそこから押せば入れるらしく、ゆっくりと中に入ってみればそこはコンクリートに似た材質の四角い大きな部屋で何処か実験場を想像してしまうが、はて?先程まで話していた子はどこに……

 

「わ!」

 

「どわぁ!?」

 

突然、俺の目の前に赤い目が二つ現れ腰から床に倒れてしまう。な、なんだ?と顔を上げてみればクスクスと笑いながら倒れた俺の上に乗っている少女と目が合う。

 

「ふふ……変な声。驚いた?ね、驚いた?」

 

「お、おう……ご覧の通りだよ」

 

やったーと無邪気に喜ぶのは金髪で少し長い髪をサイドテールにしつつレミリアさんと似たような帽子を被り、赤いドレスのような形状の服を着た赤目の可愛らしい少女で歳は10歳くらいか?俺がまじまじと観察しているとぴょんと立ち上がり声をかけてくる。

 

「それじゃ何して遊ぼうか?鬼ごっこ……うーん、隠れんぼ?」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

「んー?」

 

可愛らしく指を頬に添えながら首をかしげる少女にちょっとキュンと来たがそれより……

 

(事案?)

 

ロリコンちゃうわい!そんなことよりも!

 

 

「俺たちまだ自己紹介もしてないから!」

 

「あ、そか。でも私は貴方のこと知ってるよ?シンでしょ!」

 

「へ?そ、そうだけどなんで……」

 

「ほらこれ!"しんぶん"って言うんでしょ?」

 

そう言って持って来てくれたのは例の文々。新聞。成る程、それで俺の事は知ってたのか。

 

「でもほら、俺が君を呼ぶとき名前がないと不便だろ?」

 

そう俺が言うとすぐにそっか!と納得してくれる。なんだろうか、今までこんなにも素直で聞き分けが良い子がこの世界にいただろうか?

 

「それもそーだね、なら私の事はフランって呼んで?」

 

よろしくね!と手を出されて取り敢えず握手。というか普通の女の子(幼女だけど)と出会えたのはいつぶりだろうか?人里の生徒たちもここまで素直じゃないし。

 

「それじゃよろしくねフランちゃん」

 

「うん!それじゃ遊ぼーよ」

 

元気だなぁ……この歳の子はこれくらいが普通なのかな?

 

(そうなんじゃない?)

 

「いいけど何するの?」

 

いくら遊ぶとは言えいくら広いこの場所だと言っても出来ることは限られてくるだろうし、ここはフランちゃんのしたい事を聞くのがベストだろう。

 

「んー……」

 

可愛らしく唸り声を立てながら首を右左と傾けて必死に考えている姿に思わずほっこりとしてしまう。心があったまるとはこの事なんだと生まれて16年目にして初の経験に口元もニヤケてしまう。

 

(悩んでる金髪幼女をニヤケた顔で観察とか完全にお縄だよね)

 

そんな疚しい考えは持ってないわい!というかロリコンじゃないってば!

 

(時折あの吸血鬼に後ろから抱きつかれて喜んでるのは誰さ?)

 

…………………ご、五百歳だからセーフ。

 

(見た目は完全にアウトだよ)

 

そもそもアレは完全に遊ばれてるだけだから俺は悪くないし!

 

(その割に、口では言うけど相手が離れるまで体では抵抗しないよね?)

 

やめて!それ以上はやめて!もう言い訳思いつかないから!

 

……と、この六日間の間自分がやらかした不祥事を暴かれて1人悶え苦しんでいるとピコン!と閃いたように笑顔で顔を上げるフランちゃん。

 

「決めた!やっぱり弾幕ごっこにしよ!」

 

そう言って立ち上がるが、うーん……何かとその遊びに縁があるよなぁ俺。とは言えこんな小さな女の子相手に日和るほど落ちぶれた記憶もないのでそのまま了承してルールを確認。

 

「スペルは3枚でいいかな?手持ちがあんまりなくてさ」

 

「うん!」

 

随分とご機嫌だけどそんなに楽しいかなこれ。

 

「ははは……それじゃよろしくね」

 

「それじゃ沢山……アソビマショ?」

 

「……っ?」

 

なんだ……先程までの無垢な笑顔と同じ筈なのに物凄く悪寒が走ったような?

 

その後すぐに俺は後悔しつつも思い出す。

この幻想郷に置いて見た目や口調なんかで本質が見えるほど甘くない世界だと。

 

 

 

 

To be continued……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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22話 仲良くなるコツとキッカケは割と簡単。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういば明日で信のやつお勤め終了だったか?」

 

「ええ、そうらしいわね」

 

「にしても良く霊夢は信のやつが彼処で働くの許したな?」

 

「それに関しては私も気になるわ」

 

「……朝から元気ねアンタたち」

 

「私は魔理沙に連れてこられただけよ」

 

「アリスは釣れないなー……でどうしてアイツを貸したんだよ」

 

「元を辿れば魔理沙のせいよ。……まぁその請求書が何とかって咲夜に言われてね」

 

「うわ、売ったのかよ」

 

「だから元はアンタが原因。でも少し妙なのよね」

 

「ああ、それは私も思ったわ。少し様子を見に行ったんだけど美鈴やパチュリーとも上手くやってる所とかね」

 

「アイツのその才能はある意味呪われてるよな。変なヤツにすぐ好かれるし」

 

「何で私の方を見るのよ」

 

「いーや?別に人見知りで陰湿な感じのアリスが仲良くしてる方が妙だなとか思ってないぜ」

 

「そ、そこに関しては色々あったのよ。それより妙なのはここからでね、レミリアがヤケに信の事気に入ってるみたいなのよ」

 

「ん、それは文の奴が言ってたな。それに咲夜の奴も珍しく使えるとか言ってた様な?」

 

「そういえばあの紅魔館はもう1人住んでる子が居るけどもう会ったのかしら」

 

「いやーアイツと信は会っちゃダメだろ?多分気に入られて遊ばれて壊れるまで見えるぜ」

 

「そうよね、流石にそこはレミリアも分かってる筈ね」

 

「……なんだか今日は嫌な予感がするわ」

 

「ちょ、このタイミングでお前のその発言は怖すぎるぞ」

 

「そうよ、貴女の場合の予感は予知に近いじゃない」

 

「ホントに失礼なヤツらね。………信さん大丈夫かしら?」

 

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

 

 

「「「「はい、どーん!」」」」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!??」

 

(次は右上と左斜め下から二発ずつねー)

 

「いやぁぁぁ!!!???」

 

赤と黄色で出来た特大の弾幕を死にものぐるいで何とか避けてる所からどうも信です。どうしてこうなったか?そんなの俺が聞きたいよ!

 

「シンって避けるの上手いね!」

 

「私結構びっくり」

 

「でもまだまだ」

 

「始まったばかりだよ?」

 

「4人同時はズルくないかなフランちゃん!?てか何で分身できるのさ!!」

 

笑いながら四方に散らばるフランちゃんズからの攻撃に泣きながら耐えつつその人間離れした動きと技に叫び声でフランちゃんに声を掛けてみると

 

「「「「?」」」」

 

全員同時に首を傾げるのはとても愛らしいがそれでも攻撃の手を止めないのは流石っす!

 

(というかシン、勘違いしてるよ?)

 

何が!?

 

(あの子人間じゃないし)

 

はぁ!?

 

(よく見てみなよ)

 

 

そう無銘に言われて何とか目だけでフランちゃんをよく観察してみようとするが、動きが早すぎて良く分からない。……ちょっと危ないけど、1人捕まえてみるしかないと結論を急ぎつつ急接近してくるフランちゃんの1人を何とか目で捉え、狙いを定めて……

 

「……ほい!!」

 

「きゃあ!?」

 

タイミング良く横を抜けて行こうとしたフランちゃんの脇に手を差し込み持ち上げる様にしてフィィィシュッ!!

 

フランちゃん獲ったどぉぉぉ!!!

 

「あはははっ、そこくすぐったいよぉ!」

 

「ちょ、ちょっと我慢して!てか暴れないで……って力強ぉ!?」

 

くすぐったいらしくキャッキャと笑い声を上げながら手足をばたつかせて抵抗してくる姿は多分ほかの人から見たら小さい子を高い高いして喜んで戯れてる様にしか見えないんだろうけど、びっくりするぐらい激しいし、力が強くていつ逃げられてもおかしくない。てかペチペチ頬を叩かないで!?……ん?てか俺は何で叩かれてるんだろ、フランちゃんの事を背中から持ち上げてるから腕は届かないだろうし……?

 

「って……え、何これ?」

 

フランちゃんの背中には先程まで無かったもの……枯れ木の様な細長い枝みたいな物に様々な色の宝石に似た石が果物の様に垂れ下がっており、それが左右に一本ずつまるで翼の様に生えていてそれがバタバタと俺の頬を叩いていた。

 

「フ、フランちゃんや?」

 

「あははは……なぁに?」

 

「もしかしてと言うかまさかと思うんだけどね?フランちゃんって人間じゃないの……?」

 

無銘に違うと言われていたがそれでもまだ信じたくないと思う自分を抑えられず腕の中で笑い疲れ始めたフランちゃんに聞いてみる。

そんな俺の質問を聞いて俺の目をじっと見つつ凄く不思議そうに口を開くと

 

「違うよ?私、吸血鬼だもん」

 

「……………………………………そっか、変な事聞いてごめんね」

 

「?」

 

ああ、そのコテンとした仕草はとても可愛いんだけどね?それよりも吸血鬼、吸血鬼って言ったよねこの子。

 

(言ったね、てかシンも心当たりあったでしょ)

 

……レミリアさんしか吸血鬼が居ないはずなのに食事は何時も二人分作ってたり、作ったはずの料理の1人分は何時も咲夜さんが何処かに持って行ってたりしてたけど心当たりなんて微塵も無いね。

 

(それが全てだよ。もう大人しく現実見なさい)

 

駄菓子菓子!それでも羽は最初無かったし分からなくても無理ないだろ!

 

(うめえ棒が私は好きかな、駄菓子だと)

 

分かる、特にコンポタ。

 

「あー、もう時間切れかぁ」

 

「え?……うお!?」

 

残念そうに腕の中のフランちゃんが呟いたと思うとポンッ!と消えてしまい気付けば目の前の1人だけになっていた。

そういえばスペルカードには時間制限があるんだっけか?つまりこれはスペルブレイクってヤツだっけ……。

 

そう思うと一気に疲れが来て腰から力が抜けてしまい、部屋の床に尻餅をついてしまう。

飛ぶのも意外と疲れるんだよ?

 

「あれ、どうしたの?」

 

ふよふよと飛びながら俺の目の前まで飛んで来て、不思議そうに聞いてくる。

 

「その……ごめん、ちょい疲れた」

 

「えー……」

 

あら凄い不満そう。まだ始まったばっかりなのにーと隣に腰掛けてくるフランちゃんに申し訳なさで頭が上がらない。

 

(何か遊んで上げれば?座りながらでも出来る物あるでしょ)

 

うーん、そう言われても特に何も準備してないしなぁ、それに俺この子の事、何も知らない………あ。

 

「あのさ、俺まだフランちゃんの事なんも知らないし良かったら教えてくれない?」

 

「フランの事?」

 

「そうそう。何が好きとかあれが嫌いみたいなの」

 

「いいよ!えっとね……」

 

ニコニコと嬉しそうに自分の事を教えてくれるフランちゃんは何故か凄くウキウキしてる感じで、様々な事を教えてくれた。

 

"フラン"と言うのは愛称で本名はフランドール・スカーレットというらしく、どう考えてもレミリアさんの妹さんです本当にありがとうございましたって感じで、時折お姉様と言ってるから間違いないだろう。

普段はこの地下室(というかフランちゃんの私室)から出る事無く生活してるらしく、その理由を聞いたら太陽が嫌いというか天敵だからと言うのと、

 

「私、すぐ色々なモノ壊しちゃうから」

 

と少し寂しそうに呟くのを聞き逃さなかった。しかしすぐ壊しちゃうとはどういう事なんだろ?我慢とか出来ない様には見えないし、凄く良い子なんだけどなぁ……?

 

(多分だけどその子、気が触れてる……と言うよりか狂気に飲まれやすいみたいね)

 

そういやそんな事、弾幕ごっこの最中に言ってたね。

 

(キミは"それどころじゃない、後にしろ!"って言って聞いてくれなかったけどね)

 

いやいや突然分身し出したからそれどころじゃ無かったんだって!

 

(分かってるよ、だからあの時は何も言わなかったでしょ?)

 

確かに珍しく怒ってこなかったよね。それでその狂気って?

 

(字で読むが如く狂った気だよ。ただあの子のは一種の二重人格に近いかもね)

 

自分の意思に関係なく一定の気持ちの高ぶりで表に出てしまうらしく、楽しいや気持ちいいと言ったプラスの感情でも一定の度を超えると反転して異常とも言える程の行動をしてしまうらしい。

 

あれ?俺もしかして九死に一生を得た?

 

(お、察しがいいね)

 

ゾクリと冷たいものが全身を巡って身体をつい抑えてしまうがそれもしょうがないだろう。だってついさっきまで壊されかけてたって言われたんだよ?俺。

 

「もしかして俺の事も壊したくなったり……?」

 

「うん、最初だけそうなっちゃいそうだったんだけど気付いたら平気だったんだ」

 

私も始めてだからびっくりしたと教えてくれるがそういや始めは少し口調が変わったり笑い方が怖かったりしたけど、どこかのタイミングから元に戻った様な?

 

(何言ってるのさ、信が吸収してたじゃん)

 

はい??

 

(え?)

 

いや、何の事?

 

(………意外と天才肌なの?)

 

お?またなんかの煽りか?

 

(キミも最近捻くれてきてるね。そうじゃなくてさ)

 

そんな疑心暗鬼の俺に呆れた様に説明を始める無銘。コイツもなんか解説ポジみたいになってきてるな?

 

つい最近新しく取得した気を使う力。

それは気という概念を正しく正常に身体に回し、身体強化やらを実現させる夢のパワーなのだが、今回のフランちゃんの狂気が何故消えたのか?それは俺の本来の能力である"依代に成り得る程度の能力"が関係していて、どうやらフランちゃん自身が抱える狂気そのものを能力で少しずつ俺の体内に取り込んで、気を使う程度の能力で正しく循環させていた……らしいんだけど全く身に覚えがない。

 

だって俺フランちゃんにボコられてただけだし。

 

(だから私も驚いたんだよ。無意識に二つの能力を使うとか、多分だけど土壇場で出来ないよ?)

 

あれ、もしかして俺って凄い?

 

(けど狂気を取り込んで気に変換ってのは疲れるみたいだったね、キミそれで今休んでる訳だし)

 

だからアレしか動いてない筈なのにこんなに疲労感が来てるのか。

 

(危機直感能力……っていうのに近いんだろうね、身体が勝手にやったみたいだし余程あの子が怖かったみたいだね)

 

その命名はカッコいいけど後半のその言い方はなんか情けなくなるからやめてくれ。

 

(でも流石はへっぽこなだけあって少し能力を同時使用したらオーバーヒートしたみたいだね)

 

お前は落ちで俺を落とさないと気がすまないの?

 

 

「そうだ、私だけの事じゃなくて信の事も教えてよ!」

 

「へ?」

 

「私、貴方がここに住み始めたのは教えてもらったけど何してるかは知らないの。信の事見に行こうとしたらパチュリーたちに止められるし……」

 

むすっと不機嫌そうに言われて、そういやパチュリーさんが最近寝不足とか言ってたけどコレの事だったのか……?

 

(そりゃ地下に入るなって言ったのもあの魔女だし、この子から守ってくれてたんでしょ)

 

うわ、こりゃ後でお礼を言わなきゃ。

 

「そもそも人間の貴方が何でここに住んでるの?霊夢の所に住んでるって書いてあったけど」

 

「キッカケはちょっと前なんだけどーーーー

 

 

 

ーーーってな感じで弁償兼バイトみたいな感じで執事やってるんだ。と言っても一旦明日で終わりだけどね」

 

「魔理沙も相変わらずなのね。私の時も突然襲って来たからなぁ」

 

「そんな事もあったんだ。なんかごめんね」

 

「何でシンが謝るの?」

 

「それは俺も思うけど身内みたいなものだからさ」

 

「ふふ、優しいんだ」

 

そんな感じで気付けばお互いの身近な話に切り替わっており話題が尽きる事なくポンポンと話が続く。

 

「シンって今はここの執事なんだよね。なら私にも仕えてるって事?」

 

「あ、そっか。レミリアさんの妹だからそうなるね」

 

確かにもう1人のお嬢様ってやつになるのか、こりゃ失念してた。

俺が頷くとフランちゃんが何処か嬉しそうな顔で口を開く。

 

「なら私のお願いも聞いてくれるよね!」

 

「そりゃ勿論だけど……」

 

わーい!と無邪気に喜ぶ姿に凄くほっこりするんだが?こんなに癒してくれる子が吸血鬼とかまだ信じられない。

まぁ、それよりこんなにも荒んだ俺の心に潤いをくれたこの子のお願いなら何でも来い!って感じだし、先程からうーんと唸って考えてる姿もとてもベネ、可愛いね。

 

(やっぱり幼女愛主義?)

 

そんな邪な考えは一切無いと断言しておこう。歳もものすごく上(495歳)だし

 

(いや見た目だけでも幼女に癒し求めてるのは犯罪(ギルティ)だよ?)

 

そんな事を訴えてくる無銘の話はダストシュートしつつ、唸ってるフランちゃんを見てみればピコリンとでも効果音がつきそうなくらいの笑顔で俺を見ていた。

 

「何か決まった?」

 

「うん!ね、シン?」

 

さてどんな可愛らしいお願いが来るのかなー??

 

「貴方、私のモノになって!」

 

 

………………………………………はい?

 

 

 

 

 

 

To be continued……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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23話 おあいこ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(そういやさ、気になったんだけど)」

 

(?)

 

「(もし俺が気を使う程度の能力無しでフランちゃんと出会ってたらどうなってなのかなって)」

 

(ああ、それはアレだよ。自然に狂気その物の依代になって暴走してたんじゃない?)

 

「(まぁそうなるよね、でも実際俺どんなことになってたのかなって)」

 

(うーん……聞かない方がいいと思うけどどうする?)

 

「(な、なんだよ気になるけど怖くて聞けなくなるじゃんか)」

 

(こう……そこらへんの人やら何やらを片っ端からぐちゃぐちゃに)

 

「(やっぱり辞めとく!!)」

 

「なんでさっきから唸ってるの?」

 

「フランちゃんは気にしなくていいんだ、まだこういうスプラッタは早いから!」

 

「すぷらった?」

 

(寧ろその子の方が詳しいと思うのは言わないで置いてあげるよ)

 

「思い切り言ってんじゃねぇか!」

 

 

 

______________________________

 

 

 

夕刻。

 

野暮用を済ませ、日が落ち始めた頃に紅魔館へと帰ってくると珍しく美鈴がピシッと起きて立っていた。……それを見て少し驚く辺り咲夜も中々ね。

 

そんな事を考えていると帰ってきた私たちに気付き美鈴が笑顔で出迎える。

 

「あ、おかえりなさいませ」

 

「ええ、ただいま美鈴」

 

「珍しく起きてるのね?」

 

「いやー今日ばっかりはちゃんとお勤めしなきゃいけないですから!特に何もなく平和でしたよ」

 

そう言ってぴしっと左手をおでこに構えるのは信の真似かしら?良くそのポーズとってるわよねアイツ。

まぁ美鈴が大丈夫だと言ってるし特に何も無かったんでしょうけど。

そう納得させていると美鈴があ、そういえばと話し出す

 

「あ、でも時折なんですけど館の中から信さんの叫び声が聞こえたような……聞こえなかったような?」

 

「何よその曖昧なの………?」

 

何だろうか、その聞こえるような聞こえないようなという表現に凄く嫌な予感がするわ。

 

少し冷や汗をかきながら横を歩いていたパチェに目をやると同じく少し焦った顔をしつつ口元がヒクついていた。

 

「……ねぇレミィ私少し嫌な予感がするのだけれど」

 

「ええ、同じく嫌な予感がしてきたわ。具体的には私とパチェの親切心を叩き切った馬鹿がいそうでね。……美鈴、その聞こえ辛かった信の悲鳴って具体的にどんな感じだったの?」

 

私とパチェの顔を見合わせてアワアワしている美鈴に聞いてみればなんでも"何処か響くような悲鳴みたいで"館の中というより地面?と首を傾げていた。

 

「でも信さんは妹様がいる地下には入らない様に言われてるはずですし、昼頃に一度お見かけした時は普通だったので大丈夫だと思うのですが……いやでもまさかそんな……?」

 

言葉の途中から美鈴もその可能性に気付き始めたのか少し青くなり出す。

ええ、凄く嫌な予感がするわ。

 

「信、潰れたトマトになってないといいわね」

 

「パチェ、それシャレにならないから」

 

「なら地面に叩きつけられたザクロかしら?」

 

「どっちにしても生きてるか怪しいじゃない!」

 

笑えない冗談を言ってくるパチェについ突っ込んでしまうが、私は悪くないと思う。

………冗談のつもりは無いのだけれどと呟く声は無視しておく。

 

「あ、あの咲夜さんもしかして私とんでもない見逃ししちゃいましたかね……?」

 

「まぁ……こればっかりは言い付けを守らなかった信が悪いけどね。はぁ、血の汚れって落とすの大変なのよね」

 

「あわわわわ……」

 

咲夜の呟きに慌て出す美鈴。というか貴女の心配はそっちなのね?この場で(バカ)のことをまともに心配してるのって私だけかしら?なんか馬鹿らしくなってくるんだけど。

 

「そもそもそれくらいじゃ死ななそうじゃ無い信は」

 

「……やけに諦めが入った顔で言うわね?」

 

「両腕くらいは無くなってると思うけど」

 

「それじゃ仕事出来なくなるじゃない!」

 

「レミィ貴女も大概よね」

 

何がよ?あんなにまともに使える従者は咲夜以来なんだから失うわけにはいかないのよ。

 

「と、取り敢えず中の様子を見に行って見ませんか!?」

 

「ええ、少しグロテスクなものが見えるかも知れないし覚悟くらいは、しておこうかしら」

 

やれやれと首を振るパチェを見て完全に諦めてるなと思うが私もぶっちゃけそうなのでこれ以上言わない。

 

「はぁ……じゃ咲夜開けてちょうだい」

 

「畏まりました」

 

そう言って館の目の前の扉をひらこうとする咲夜が少し奇妙な顔をする。

 

「どうしたの?」

 

「いえ、何やら笑い声が……?」

 

そう言われて耳をすませれば微かに凄く知ってる子の笑い声が聞こえる。防音壁にしているから扉の前まで来なければ聞こえなかったのね。……というか。

 

「扉の先では丁度信が遊ばれてる(解体ショー中)んじゃないかしら」

 

「………まだ分からないわよ」

 

「そもそもあの子が上に出て来てる時点でお察しじゃない?」

 

溜息を大きくつく友人に私もそろそろ諦めようかしらと思いつつ、中で自身の妹によって繰り広げられているであろう惨状を見る覚悟を決める。

 

 

「では」

 

 

そう言っていざ、ガチャリと扉を開け放つ咲夜。

 

 

ーーーそして、帰ってきた私たちが目にしたものは……血みどろの中、信であったはずの肉塊をぐちゃぐちゃと弄びつつ口に運びながら遊ぶ狂気で彩られた笑みを浮かべた自身の妹の姿……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはははは!早ーい!」

 

「うおおおおー!!??もうそろそろ死にそうだからぁ!?勘弁してフランちゃーん!!」

 

 

 

では無く、何故か羽を出さず自分の足で走りつつ(勿論人間の比にならないくらい早い)信を追いかけ純粋な笑顔を浮かべる(フラン)と何故か追いかけられ情けない叫び声を上げながら全速力で館の中を走り去る信の姿につい私たちは。

 

 

「「「「は?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、捕まえた!!」

 

「うぐぉ!」

 

後ろからドンとくる衝撃に耐えながら背中に抱きついてきた可愛い鬼に降参のポーズ。参った参った。

 

「えへへ、次は信が鬼ね!」

 

「待った待った!そろそろレミリアさんたち帰ってきちゃうから終わりにしないと」

 

「えー……」

 

凄く不満そうだけど流石に主人を迎えないのはマズイって。というかもう4時間くらい走りっぱなしで死んでしまうから、俺が。

 

(びっくりするぐらい足がガクガクしてるね)

 

生まれた子鹿と見間違うよね。

 

(あっちは可愛らしいけどキミはその死にそうな顔で圧倒的にマイナスだよ)

 

そんな馬鹿な会話をしながら息を整えていると背中に張り付いたままのフランちゃんがくいくいと服を引っ張っていたので顔を向けると少し不安そうな顔をしてらっしゃる。どうしたの?

 

「ねぇねぇ、私も着いて行ってもいい?」

 

「構わないけど特に面白いものとかないよ?」

 

だってキミのお姉さんと愉快な住人を迎えに行くだけだし、それに着いてきても暇なだけじゃない?と思っていつつ頷くとあら笑顔。

 

「やった!ならお姉様たちを迎えにレッツゴー」

 

「お、おー」

 

背中に抱き着いたまま腕をパシッと伸ばしたフランちゃんに続いて腕を上げるとこれまた喜ばれる。小さい子ってこの仕草するのも、一緒にされるのも好きだよなー。

 

(随分と懐かれたね)

 

小さい子なら誰でも懐いちゃうもんじゃない?俺も小さい頃とかそこらへんの兄ちゃん姉ちゃんと一緒に遊んでたし。

 

(495歳児だけどその子)

 

精神年齢と見た目は合ってるからセーフ。

 

(その理論だと姉の方は色々とーー)

 

ええい!小さいことを気にするな!

 

そんな事を話しつつ背中にフランちゃんを乗っけたまま玄関に向かうと既に帰ってきていたレミリアさんたちを発見、あちゃー少し遅かったかな。取り敢えず執事モードに切り替えて。

 

「お帰りなさいませお嬢様」

 

そうお辞儀するが何故か特に反応がなくあれ?と顔を上げてみればポカーンと珍しく口を開けたままのレミリアさん。更には何時も無表情のパチュリーさんも珍しく間抜けな顔をして、咲夜さんは一見無表情だけど目を見開いていた。あれ?珍しく美鈴も一緒にいるんだと目を向ければ何かあわあわしてるし。

 

どうしたんだろ?と考えていると

 

「お帰りなさいお姉様!」

 

と声が聞こえてきて顔だけ振り向くと笑顔のフランちゃんがいた。

 

あ、やべ背中にフランちゃん乗せたままだった。

 

慌ててフランちゃんを横に下ろしつつもう一度挨拶をする。……いやそんなに不満そうに見ないでよ?だって流石に背中にフランちゃん貼り付けたまま挨拶は怒られるって。

 

そんな事をしつつレミリアさんたちを見るとまだ固まっている。本当にどうしたのだろうか?

 

「というかそろそろ復帰してくれないと此処からどうしらいいのか分からないですレミリアさん」

 

「………」

 

「いやあの?ていうか咲夜さんもなんでそんな固まってるんですか」

 

「………」

 

「え?あの?ちょ、ちょっとパチュリーさんはもう平気ですよね?」

 

「………」

 

「うわーん!美鈴さんみんなが無視するよー!」

 

「あわわわ」

 

「……ダメだこりゃ」

 

なんしてみんな揃って無視するんだ?というか美鈴さんに関しては言語にもなってないし。

どうしたもんかと唸っているとガシッと肩に手を置かれて"お?"と顔を上げて見ると困惑やら心配やらと言った感情を混ぜたような顔をしたレミリアさんがいた。

 

「信、取り敢えず言っておくと私今凄く混乱してるの」

 

「はぁ……?」

 

「だから確認させて。まず一つ目、貴方地下に入ったわね?」

 

「は、ははははいやいやそんな言い付けを破るなんて「誤魔化したら殺すわ」入りましたすみません!!」

 

混乱してても殺意はマシマシなのね!

 

「なら二つ目よ。その子……フランに何をしたの?」

 

「へ?な、何もしてないと思いますけど……」

 

記憶を辿るが特に何かレミリアさんの気に触れそうな事をした記憶は無いけど……少し不安になり、ついフランちゃんを見てみれば。

 

「私、信に遊んでもらってただけだよ?」

 

「だよね!変なことしてないよね!」

 

フランちゃんからの援護で自分の中にあったほんの少しの不安も解消された。

 

「…………そう」

 

なんでそんなに怪しいものを見る目なんですか?

 

「ならフランにも聞きたいのだけれど」

 

「なぁに、お姉様?」

 

「コレの事、壊したくならなかったの?」

 

コレて。

 

「うーん……最初だけかな」

 

「そう……何でかしらね」

 

凄く腑に落ちないような顔をしながらパチュリーさんとなにやら相談を始めたんだけど結局なんだったの?困惑してる俺の前に咲夜さんが現れる。

 

「信」

 

「はい?」

 

「貴方、本当に何ともないのね?」

 

「え、はい……なんかみんな嫌に心配してきますね」

 

「……自覚が無いのと無知がこんなに羨ましいと思ったのは初めてよ」

 

「それ、完全に俺のこと馬鹿にしてますよね?」

 

「いいえ、純粋に賞賛してるの」

 

「あ、そうなんですか」

 

「……ええ、本当にね」

 

咲夜さんに純粋に褒められるとか珍しい事もあるもんだね。

 

(……君はそのままでいてね)

 

なんでそんなにも哀れむ声で言ってくるの?

困惑している俺をよそに気付けばフランちゃんはレミリアさんとお話ししていた。

 

何を話しているんだろう?と興味本位で聞き耳を立てていると俺とフランちゃんが何して遊んでいたかや何を話したとかを聞いてるみたいだけど……レミリアさんたちは何をそんなに気にしているんだろう?

 

「ねぇフラン、それで貴女他に何かしたの?」

 

「うーん……あ、約束はしたよ」

 

………約束?はて何かしただろうか。

 

「それは?」

 

レミリアさんが何処か気になるように答えを聞くと凄く、物凄く可愛らしい笑顔でフランちゃんが言い放つ。

 

 

「えっとね、信が私の物になってくれるって!」

 

 

ーーー瞬間、ピシッと空気が凍る音がした。

 

絶対零度とかそんなチャチなもんじゃ断じて無い、場の空気が文字通り凍るとか生まれて初めて経験に俺びっくり。

 

さてそれじゃ俺は仕事が残ってるし先にお暇させてもらいましょうってなんか肩に手が置かれて身体が動かないなーははは!

 

 

「……………ねぇ信?」

 

「………違うんですレミリアさん」

 

「ふふふ、何がかしら?それよりも聞きたいことがあるのよ」

 

「きっと俺とレミリアさんには勘違いというものがあってですね?」

 

「ツラ貸しなさい?」

 

笑顔なのに明らかに凄みと怒りの感情が見えてるのはなんでだろうか?こんなにも怖いと心の底から思ったのは生まれて初めて☆

 

そんなレミリアの笑顔を前に俺は

 

「……………は、はひぃ」

 

と答えるしかなかった。

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

15分後くらい。

 

只今何があったのか詳しく事細かにレミリアさんに説明している最中です。って咲夜さん!足痺れてるからモップの反対側で足の裏突かないで!

 

その刺激に耐えられずつい体制を少し崩してしまうと目の前で優雅に椅子に座ったまま上から見下ろしてくるレミリアさんにニッコリと

 

「信?」

 

名前を呼ばれ直ぐに正座を正す。怖すぎないですか?忘れてたけど、この人吸血鬼だったんだよね……。

 

そんなこんなで説明を続ける事更に15分。

 

 

ーーーーって言う訳でして……」

 

「へぇ……つまりアンタは主人の命令を無視した上に午後からの勤務を全てフランとの遊びで費やした、と?」

 

「その通りです誠にすみませんでした……」

 

「見事な土下座ね」

 

「なんでシンはべたーって地面に頭をつけてるの?」

 

「妹様は見てはいけませんよ」

 

フランちゃんの純粋な言葉で何にヒビが入る音が聞こえる。心まで折る気ですかレミリアさん?

さめざめと泣いている俺に、更に追い討ちをかけるが如くサディスティックな笑みを浮かべるレミリアさんと目が合ってしまう。

 

「さてそんな信にはもちろんお仕置きが必要よね?」

 

「お、お手柔らかにお願いしても……?」

 

「すると思うの?」

 

「ですよねー……」

 

いやはや分かってましたよ?ぶっちゃけお仕置きの中身までは知らないけど絶対にレミリアさんが愉悦に浸る類のものだからロクなことにならないとこまでね。

 

ガクンと落ち込んでいると、いつのまにか隣に来ていたフランちゃん。

そんな顔してどうしたんだい?

 

「シンが怒られてるのって私のせい……?」

 

「へ?」

 

「だってお姉様が私と遊んでたからって……」

 

「ち、違うのよフラン?悪いのはソイツが仕事放り投げてたからであってね?」

 

先ほどまで楽しげだったフランちゃんが突然曇りだした途端物凄くテンパり出したレミリアさん。こう言うところはやっぱりお姉さんしてるんだね、うん。

 

そんな事を考えてにやけていると焦ったレミリアさんが小声で相談してくる。

 

「……ちょ、ちょっと信!」

 

「……はい?」

 

「……如何にかしなさいよ!フランが落ち込んじゃうじゃない!」

 

いや俺も違うって言ったけど納得してくれなかったんですよ?

 

「……そう言われても俺よりレミリアさんの方がそう言うの上手いんじゃないですか?俺兄弟とかいないですし」

 

「……私だってこんなしおらしいフランは初めてなのよ!何とかしてくれたらお仕置きなしでいいから!」

 

「……う、うーん?やってみるだけやりますけど期待しないでくださいね?」

 

任せたわよと言って離れるレミリアさんと入れ替わりでフランちゃんがやってきた。

 

さてどうしよう、そもそも俺が仕事サボってたのが悪いのが原因だし本当にフランちゃんは気にしなくていいんだけどなぁ……。

 

(でもこの子はそう思ってないんでしょ?ならそこから話してあげないとダメだよ)

 

やってみるしかないよねー。

 

 

「フランちゃんはさ、どうして自分が悪いと思ったの?」

 

「えと……お姉様が怒っていたのってシンが私と一緒に居てくれたからなんでしょ?ならずっと遊んでってお願いした私のせいだもん」

 

良い子や……この子は良い子や……。

 

咲夜さんたちから聞いたフランちゃんは直ぐにモノを壊したり暴走しちゃうって言ってたけど狂気さえ無ければこんなにも人思いのええ子なんやで……。

 

「あのね、もしその通りだとしても悪いのは俺なんだよ?」

 

「?」

 

「だって俺も仕事に疲れてサボりたい!ってフランちゃんの所に行ったんだしね」

 

まぁ正確には興味本位で地下に行ったんだけど本質は変わらない……よね?フランちゃんの所に行った=地下に行っただし

 

(すごい言い訳だね)

 

「そもそも俺は元々引きこもりだから遊んで寝て一日潰すのが大好きなんだよ。暗い所とかジメジメしてると落ち着くし太陽なんて糞食らえだ!」

 

「えと……シンも吸血鬼なの?」

 

「違うけど生き方は似てるんだよ、だから一緒一緒」

 

(いやニートと吸血鬼を一緒にしちゃダメでしょ)

 

似たようなもんさ!

 

「私も暗い所の方が好きだなぁ、シンも一緒なんだ!」

 

「そうそう、だからフランちゃんの部屋が居心地良くてついサボっちゃったんだよ。だから悪いのは俺。おっけー?」

 

そう言ってみるがまだ少し納得してないのか曇ったまま、なら

 

「なら、おあいこって事にしようか?」

 

「おあいこ?」

 

「うん、どっちも悪いって言って聞かないなら2人とも悪いって事にしておあいこ。だからそんなに落ち込まないで。せっかく楽しかったのに勿体ないよ?」

 

なんだかんだ俺も楽しんでたしね、いやー久しぶりに有酸素運動したから少し気分もスッキリしたしね。

 

「おあいこ……うん、おあいこ!」

 

「よし、それじゃ2人でレミリアさんに謝りに行こうか?」

 

「うん!」

 

 

そんなこんなで取り敢えず納得してもらいレミリアさんの所に行くと安心した顔で許してもらえた。

……というか途中から見てたの知ってますからね?

 

 

 

 

 

そんなこんなでこの一件は解決した……と思ってたんだけど、このあと咲夜さんからお仕置きを貰ったりパチュリーさんからも色々小言を言われつつお仕置きされたり、そんな俺をお疲れ様ですと労ってくれた美鈴さんへの好感度が上がったりと色々あったのだが、この紅魔館での生活は一度終わりを迎えた。まぁ帰る直前でフランちゃんがゴネ出しちゃってなんやらがあったんだけどそこは割愛させてもらおう。

 

 

 

後日談というかこの数日後、霊夢や魔理沙からフランちゃんの事を聞くとやっぱり俺の知っているフランちゃんとは別人なんじゃないか?と思ってしまい、こっそりと魔理沙の後をつけてフランちゃんとの弾幕ごっこを見てたんだけど……うん、悪魔の妹って二つ名の意味をやっと分かった気がしたね。

 

 

(あんな凶暴な顔で笑うんだねあの子)

 

夢に出そうです無銘さん……。というか本当に二重人格かなんかじゃないのあの子?

 

 

 

 

 

 

 

 

次回、妖々夢編へ続く……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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閉幕その1《紅魔後 》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「た、ただいまー」

 

「お帰りなさい……その顔だと中々使われたみたいね」

 

「かなり……あー畳が落ち着くぅ……」

 

「はいはいお疲れ様」

 

「ありがとぉ……」

 

「それで結局何してたの?」

 

「あ、そか。あのあと着替えだけ持って何も言ってなかったんだっけ」

 

「ええ、咲夜が来て信さんを借りるって言われただけだから」

 

「色々してたよ。門番やったりとか本を片付けたりとか……あとは料理したりとか」

 

「ふぅん」

 

「咲夜さんの教育は中々にしんどかったよマジで」

 

「それは魔理沙に聞いたわ」

 

「へぇ……ってそうだ!魔理沙のやつの負積を俺が返したんだよ!全く……」

 

「知ってるわよ、"いやぁ悪いことしちまったなぁ"って言ってたし」

 

「え、今の声真似?凄い似てたんだけど」

 

「そう?」

 

「うんうん、なんかそういう特技でも持ってんの?」

 

「そう言われたのは初めてよ」

 

「ふーん、他には誰か来た?」

 

「アリスが魔理沙に連れてこられてたわね」

 

「あの二人って割と仲良いよね」

 

「魔法使い同士気でも合うんじゃない」

 

「そういや、そうだった」

 

「アリスは信さんの事色々話してたわよ」

 

「ん?そりゃそれで興味を惹かれるけど」

 

「出会った事のないタイプの人間(バカ)って言ってたわ」

 

「そっかー……ん?なんか今」

 

「後は文も来たわよ」

 

「いや文さんはしょっちゅうくるじゃん」

 

「まぁそこは否定しないけど、はいこれ」

 

「ナニコレ」

 

「新刊だって」

 

「"赤い悪魔の館に囚われた人間!?"……いやナニコレ」

 

「アンタの事よ」

 

「うーん間違ってないけど初見で読む人からしたら悪い方向に勘違いしそうだなぁ」

 

「それが狙いなんでしょ」

 

「清く正しいと言ってた文さんはどこに行ったんだ」

 

「最初から居ないわよそんなの」

 

「知ってた」

 

「……ああ、そうだ。そう言えばこれ」

 

「今度は……ってこれなんで霊夢が?」

 

「信さんに渡してって少し前にね。"人里ではありがとうございました"って」

 

「相変わらず礼儀正しいなぁ……」

 

「にしても信さんの交友関係って中々愉快よね、妖夢とも知り合いだったなんて」

 

「よく買い物してる時にね。いっつも大量に食材買ってるから顔は知ってたんだけど、なんかのきっかけで話すようになってね」

 

「ふぅん」

 

「淡白だなぁ」

 

「まぁ別にいいけど、信さん人間の知り合いも作りなさいよ?」

 

「何言ってるのさ?咲夜さんとか妹紅さんとかそれこそ今言った妖夢ちゃんとかも知ってるよ」

 

「……………そう」

 

「いやなんで諦めた表情した後ため息ついてめんどくさいって顔してるの?」

 

「面倒だから説明したくない」

 

「ああ……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ。

 

*ここから先はかなりメタメタな話を繰り広げるので世界観を壊したくない、そもそも興味ねぇよ!って人はここまでにしておいてください。

 

OK?

 

ではGO!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鴉「第一回!ぶっちゃけ◯◯なの?のコーナー」

 

犬「え、え?」

 

鴉「さてさて今回、記念すべき第一回目は私、"(カラス)"と困惑と戸惑いでキョロキョロしている"(わんこ)"でお送りします!」

 

犬「いやあの……あy「鴉です!」鴉さんそもそも私、犬じゃなくて狼なんですけど……と言うかこれは一体……?」

 

鴉「一々突っ込まなくていいんですよ、ここでは全てがフリー!私たちが好き勝手にやっていいコーナーですから。というか質問コーナー兼解説コーナーにほんのりと今後の展開の説明をするものなので」

 

犬「いや、そもそも私まだ本編に出てないんですけど……」

 

鴉「さっそく、それじゃ一つ目です!」

 

犬「ああ、やっぱり無視なんですね……」

 

 

・どんな順番でこの物語は進んでいくの?

 

 

鴉「これに関しては一応途中まではプロットが出来てる感じらしいですよ」

 

犬「今回で紅魔館は一旦おしまいという形でしたね」

 

鴉「ええ、それと分かりやすい図にすると」

 

 

博麗神社→紅魔館→冥界→永遠亭→三途の川→妖怪の山&守矢神社→天界…?

 

鴉「みたいな順番らしいですよ。偶に順番が交互するのは許してね☆」

 

犬「となると私の出番は結構先ですね」

 

鴉「ええ、とは言えは面識はあるじゃないですか。かなり怖がられてましたよね」

 

犬「いや鴉さんが無理矢理、妖怪の山に連れて来たのを私が侵入者と勘違いしちゃっただけで悪いのは私じゃないですよ!」

 

鴉「いやーまさか途中で落としてしまうとは。あははは」

 

犬「信さん泣きべそかいてましたよ?……私も少し威嚇しすぎましたが……」

 

 

 

・ルート別ENDってなんだYO!

 

 

鴉「あー、これに関しては結構聞かれそうですねぇ」

 

犬「確かにこれだけじゃよく分からないですよね」

 

鴉「そうですね、ならこれも簡単に説明しちゃいましょ!」

 

 

例・1章の博麗神社の場合ヒロインは簡単に分けて霊夢、魔理沙、アリス等の数人。

 

後日談などでそれぞれのヒロインと主人公がくっつく物語が3〜4部構成で登場し、それがその世界の主人公のエンディングとなる。

 

"一番隣にいた楽園の素敵な巫女さん"

"非日常を彩る普通の魔法使い"

"寄り添う貴女は七色の人形遣い"

 

etc……

 

鴉「ぶっちゃけ恋シュミですよ。キ◯キス、アマ◯ミ、とき◯モ」

 

犬「ぶっちゃけ過ぎですよ!」

 

鴉「でも分かりやすいでしょう?あ、系統はギャルゲーなんでえっちなのはありません。エ◯ゲーではありませんからね!」

 

犬「本当に怒られちゃいますから!」

 

鴉「まぁまぁ、取り敢えずそんな感じですよ。あ、私のエンディングあるらしいのでよろしくです!」

 

犬「暫く先の話ですよね……」

 

鴉「いえ、挟もうと思えば挟めますよ?というか一部のヒロインのはもう既に書き上がってますし」

 

犬「え、そうなんですか」

 

鴉「ええ、私のとか結構えっちなんで大丈夫かなーとか思ってますよ。……犬のもそこそこヤバイと思いましたけど」

 

犬「へぇ……って待って下さい!私のルートあるんですか!?」

 

鴉「次!」

 

犬「鴉さぁん!?」

 

 

 

・シリアスとかあるの?

 

 

 

鴉「そんなものは無い!」

 

犬「即答!?」

 

鴉「……と言うのは冗談で、少しだけありますよ。具体的に言うと月の都編とかで」

 

犬「月にも行くんですか」

 

鴉「あの姉妹にどやされる未来が見えますねー、そもそも信さんの能力的に絡むに決まってるじゃないですか」

 

犬「となるとあの妹さんの方なんですね」

 

 

 

・◯◯登場する?◯◯との絡みが見たい!等

 

 

 

鴉「まだまだ未定のものも多いんで全部は言えませんけど、大体のキャラ出て来ますよ?」

 

犬「えぇ……言っちゃっていいんですかそれ」

 

鴉「大丈夫です!皆様からのコメントでこの話は成り立ってますからねー、感想お待ちしております!……あ、評価も入れてくれると嬉しいですよ!」

 

犬「姑息な宣伝は嫌われますよ……?」

 

 

 

・無銘について

 

 

 

鴉「あーあの古刀ですか」

 

犬「あの刀かなりのものですよね、あの神社の神も反応してましたし」

 

鴉「今出せる情報は無銘は本当の名前では無いくらいですねー」

 

犬「あの刀が名も無い無名の物のわけがありませんよね、確かに」

 

 

 

鴉「さて今回はこんな所でしょうか。犬もお疲れ様でした」

 

犬「あ、はい。お疲れ様でした」

 

鴉「次回から多分、冥界編になると思いますけど信さんは大丈夫ですかね」

 

犬「何か心配事でもあるんですか?」

 

鴉「いえいえ、ただ彼の隣にいると良く美味しいネタ……もといトラブルが発生するので」

 

犬「ああ、だから鴉さんは良く信さんの所に行くんですね」

 

鴉「なんか途中から貴女、普段より私に当たり強く無いですか?」

 

犬「いえ、ただ呆れてるだけですよ」

 

鴉「……これは一度シメるべきですかね?」

 

犬「はい?」

 

鴉「いーえ、なんでもありませんよ」

 

犬「(なんか一瞬黒い笑みが見えたような……?)」

 

鴉「それではまた次回お会いしましょう!ばいばーい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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永遠に咲く事の無い桜。【冥界】
24話 無限ループって怖くね?


 

 

 

 

 

 

 

 

ざっざっ……と神社の境内(けいだい)に散らばった枯葉を今日も今日とて掻き集め掃除している所からどうも信です。

この幻想郷はもう秋の季節に入り始めて妖怪の山では綺麗な紅葉が始まり紅葉狩りでもしようかなと考えていたけど、結局家にいるのが一番と霊夢と駄弁っている毎日な訳だが。

 

(でも教師と執事のバイト両立してるし外の世界の生活よりかはマシじゃないの?)

 

まぁね、執事は2週に1回くらいで人里の寺小屋もそれくらいだからほぼ働いてないけど。

 

(そりゃ断ったの君じゃん、あのメイドとか凄い残念そうだったし)

 

いや2日に一回とか俺死ぬからね?神社の方は霊夢がサボるからすぐに枯葉もたまるし、ほっとけないからさ。

 

(うーんこのお人好し。それにシンが紅魔館で働いてた1週間は一人で自炊してたんでしょ?)

 

らしいけどね、まぁ居候の身だし何より最近は霊夢も当番制にしてくれたから楽になったさ。

 

(それ、あの白黒と人形遣いの小言が煩かったからでしょ)

 

ははは……。

 

とは言え手伝ってくれる霊夢に少し感動したのも事実だしなぁ……霊夢も大丈夫そうだし、そろそろまた何処か行ってみようかな、と考えていると目の前の落ち葉を集めていた上の空間がぱっかりと開く。

 

「はぁーい」

 

「うぉ!?……って紫さんその登場は心臓がビックリするからやめて欲しいってば……」

 

最近何かとこの驚かせ方をしてくる紫さんなのだが頻度が上がってきてない?くすくすと笑うこの困った人をジト目で見ているとニッコリと笑い返されてしまう。

 

俺、この人に一生勝てない気がする。

 

「その反応が好きでやってるのよ。それよりこれ、はい」

 

そう言ってスキマから何やら大きめの紙袋を渡され受け取ってみればそこそこの重さがあった。

 

「なんです?これ」

 

「薩摩芋よ。ちょうど集め終わったみたいだしタイミング良かったわね」

 

「お、良いですね。焼き芋とか久しぶりだなぁ……」

 

こうやって落ち葉を集めて焼くのは外の世界じゃ中々出来ないからな。……なんか小さい頃一回くらいやったような気がするけどどうだったかな?

 

そんなこんなでいざ火種を入れて、芋を新聞紙に巻いて焼き始める。おお、めっちゃ煙出るなこれ。

 

「あら、随分と手慣れてるのね?」

 

「こっちきてからこういうのはやりますからねー、軍手とかあると便利なんですけど」

 

「はい」

 

「こっちじゃないですから……って紫さんは持ってますよね」

 

手渡された軍手を装着しつつ芋を転がしていると謎の隙間に腰かけた紫さんが雑談を始める。……というかそこ座れるんすね。

 

「今日は信に頼みたい事があってね」

 

「頼みたい事ですか?珍しいですね」

 

そう言うと何処か苦笑い気味なのが気になるがスルーしておこう。触らぬ神になんとやら、藪からなんとかって言うしね。

 

「まぁね。それで本題だけど、貴方に会いたいって言う人……がいてね」

 

今なんで人って所で考えたんだ?

 

「そこに行って欲しいのよ。……少しの間」

 

「え、もしかしてお泊り案件ですか?」

 

「多分ね、貴方って"なんでも屋"なんでしょう?どうかしら」

 

はい?

 

「ちょ、ちょっと待って下さい。何ですかなんでも屋って」

 

「そう聞いたけど違うのかしら?」

 

「俺初めて聞いたんですけど……」

 

そんなの始めた覚えゼロなんだけど?

 

「可笑しいわね、いろんな仕事を請け負ってるって聞いたのだけれど」

 

「…………ん?」

 

「執事だったり寺小屋の教師だったり。あとは人里の店の助っ人もしてるとか」

 

何だろうか。凄く聞き覚えのあるものばかりなんだけど。

 

「あの……それ誰に聞いたんですか?」

 

「天狗よ」

 

天狗と聞いた瞬間、良かれと思って!と(ドSな)良い顔で笑う何処かのブン屋が出てきた。

 

「その会って欲しい人……私の友人なんだけどね?そこも少し人手不足だからついでにお願いって事だったんだけど」

 

「いえ……大丈夫ですよ、もうなんか……色々と慣れました」

 

ダメかしら?と申し訳なさそうに聞かれ"いいえ"と言えるほど俺は図太くなかった。

前も〆切寸前なんです!と文さんの新聞手伝ったよなーと遠い目をしつつ答える。

 

「それなら良かったわ」

 

「いえいえ、紫さんにはお世話になってるし断りませんよ。あ、先にどうぞ」

 

そろそろ、いい具合に焼けた芋を紫さんに手渡せばありがとうと言って受け取りそのまま二つに割って片方を渡してくれる。気遣いありがとうございます……優しいなぁ。

 

「というか何で紫さんって俺以外の人たちから胡散臭いって言われるんです?」

 

「まぁ、色々ね」

 

うわ、自覚あるのか苦虫を潰した顔してるよ。本当に何でだろう?

 

「俺からしたら優しい親戚のお姉さんって感じなんですけどねー、不思議ですよね」

 

「あら、嬉しい事言ってくれるわね。……本当に持って帰っちゃいましょうか?」

 

ん?

 

「いいえ、何でもないわ。それで行ってくれるのよね?」

 

「はい、構いませんよ。因みにいつからです?」

 

「そうね……この後すぐでも平気かしら?」

 

「へ?い、一応霊夢の分の夕食は用意してあるんで大丈夫ですけど」

 

今日の当番俺だからサボったら怒られるしと言うと凄く微妙そうな顔をする紫さん。

 

「貴方、本当に主婦にでもなる気なの?……まぁいいわ。なら平気ね」

 

「はい。というか何処に行くんです?」

 

もぐもぐと焼き芋を齧りつつ話を進める。美味いなこの芋、ちゃんと蜜まで出てるし。

 

「ちょっと珍しい場所なんだけどね」

 

「んぐんぐ……」

 

「冥界よ」

 

「ぶふぉ!?」

 

生まれて初めて芋が気管に入った。

 

 

 

______________________________

 

 

 

そんなこんなで時間は吹き飛び紫さんのスキマによって吹き飛ばされた俺は天まで届くんじゃないかと思うほどに長く長ーく伸びる石造りの階段の前にいるんだけどさ。

 

「……これ、登るのか?」

 

もう一度見上げてみれば見る程見たくない現実が目の前にあるわけでね。

というか本当に頂上見えなくない?周りが薄暗いのを考慮したとしても明らかに可笑しいよねこれ。

 

(どの位かかるだろうね、これ)

 

1時間とかで済むといいなぁ……というか雰囲気が完全に和風ホラーだよねこの辺。なんかガクブルしてきたんだけど。

 

(灯りもそういう雰囲気満点だよね……というかさっきから人魂通ってるし)

 

見て見ぬ振りしてるからそれ以上言わないで!

 

明らかに目の霞とかではない白いフヨフヨとした半透明のものなんてこれっぽっちも見えてないし、気にもしないもん!

 

(何で妖怪は平気で人魂ダメなのかなぁ……というか冥界に行くって事はその魂たちの集う場所に行くって事なんだけど)

 

やめろやめろやめろぉ!!!

 

聞こえないったら聞こえない!と思い切り階段を駆け上がる。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

今なら速攻で着く気がする!!

 

 

10分後。

 

 

と思っていた時期が俺にもありました。

 

「はぁ……はぁ……おぇ……」

 

(体力不足運動不足睡眠不足。ダメダメだねー)

 

「い、ま……はぁ……キツイから……はぁ……突っ込む…気力もない……」

 

(ありゃガチでバテてるのね)

 

息を整えつつ後ろを振り返るとずっと続く階段、前を向いても階段。無限ループって怖くね?

 

しかもなんか寒くなってきた気がしなくもないような。

 

(周りの気温も下がりだしてるね、シンの場合走り過ぎて体温が優ってるだけだよ)

 

湯気出てるしと言われて身体から出てる白いモノの正体に気付く。そりゃ暑いわけだ。

 

(まぁでもまだまだ先は長そうだしゆっくり登れば?)

 

そうだね、有難い事に話し相手には困らないし。

 

(ご主人様の頼みなら仕方ないね)

 

こうやって軽口を叩きつつ先の見えない階段を自分のペースで登り始める。

そして話題は俺とコイツがここ、幻想郷に来てからの話に。

 

(何だかんだ人間のシンからしたら結構経つよね)

 

まぁね、結構時間たってるんじゃないかな。

 

(少し真面目な事を聞くとさ、その……こっちに来て良かった?)

 

何だよ藪から棒に?そんなしおらしい声なんて気持ち悪いぞ。

 

(いいから教えてよ、これでも騙して連れて来たみたいで少し後悔してるんだから)

 

みたいってか騙して契約したよね?……でも感謝はしてるよ、結構退屈な日常だったし何より来たかった場所だからね。

それに案外お前のこと俺は気に入ってるし。

 

(……そっか)

 

疑ってる?俺が嘘ついてたり無理してたら文字通りお前にはわかるだろーに。

 

(うん)

 

……本当に大丈夫か?何でそんなにナイーブなのさ。

 

(いやちょっとね。まぁでも私もシンのこと結構好きだから嬉しいかな)

 

お、おう。

 

何だ?いつものコイツじゃなくて本当に困惑してしまうんだが。

 

(まぁその、ありがとね)

 

私のこと拾ってくれてと言われるがどこまでいってもあの出会いは偶々だから俺に感謝してもしょうがないと思うけどねー、っと40分くらい登り続けていたところで。

 

 

「何だあれ」

 

そういえばと階段の上を見上げてみればもう少し上空に大きな和屋敷にでもありそうな門が見えた。具体的に言うとアサシンな鯖が縛られてそうなアレね。

 

(あれがゴールじゃない?)

 

ぽいね、ならあと少し駆け上がっちまうか。

 

ほんの少し変な空気になっていた俺と無銘だがいざゴールが見えるとすぐに霧散したのはありがたい。

 

そのまま駆け上がってみればやはり大きなお屋敷の門のようで身近で見ると更に大きい。

 

(君のお爺さんの家のも結構大きいけどこれは比じゃないね)

 

うん、実は内心かなり驚いてるよ。自慢じゃないけど爺さんの家のもかなり大きかったけどこれは比較するのもアレだね。

 

「……あれ」

 

そういやここまで来たのはいいけどこっからどうすればいいんだろ?取り敢えずノックか?

 

「すみませーん!何方かいませんかー!」

 

ゴンゴンと少し強めに門を叩きつつ声をかけてみると少し遠い所からはーい!と声が聞こえる。

タッタッタと走ってくるであろう音ともに大きな門がゆっくりと開け中から出て来たのは。

 

「はい、どちら様……え?」

 

「あれ?」

 

セミロングくらいの白髪をカチューシャの様に黒いリボンで留めて、緑色のワンピースに近い服装に背中と腰に刀が一つずつ、顔はまだ幼いが整っており美人さんになるの事であろう………というか。

 

 

「どうしてここに妖夢ちゃんが?」

 

「信さんこそ、どうしてここに……まさか」

 

ハッとした顔をしてから何やら申し訳なさそうな顔をしだしたんだけど?

 

「えと、あの?」

 

「いえ、人間の信さんがここに来る理由は一つだけでしたね、どうぞこちらへ。短い間ですがゆっくり休んで下さい」

 

なんでそんな慈悲深い顔してるんですか?

 

「まだ二十歳にもなってないのに……」

 

「いや……え?なんの話?」

 

「大丈夫です!ここにいる間は私が面倒を見させて頂きます!」

 

ふんすと私頑張ります!のポーズをとる妖夢ちゃんと俺との間には何かとてつもない誤解があるような?

 

(いやなんで分からないの?)

 

いや寧ろお前は分かるの?

 

(君は人間、ここは冥界。おーけー?)

 

おーけー。

 

(この子ここの住人、多分管理者に近い人。つまりそんなところに突然やって来た君を)

 

「死んでも輪廻転生です。幽霊生活も悪くないですよ!」

 

(死んだと思ってるんじゃないの)

 

「死んでねぇよ!!」

 

「ふぇ!?」

 

そんな縁起でもない勘違いについ大声で突っ込んでしまった俺は悪くない。

 

取り敢えず早とちりしてる妖夢ちゃんを落ち着かせてどうやってここに来たかと、目的やら何やらを説明させてもらおう。あれだ、かくかくしかじかってやつね。

 

「成る程、それでこの冥界にいらっしゃったんですね」

 

「うん、紫さんから突然頼まれたんだ。……というか妖夢ちゃんこそなんで冥界にいるのさ?ここは生きた人間が来れるような場所じゃないんでしょ」

 

「え……あ、すみません。そう言えば自己紹介もまともにしてませんでしたね」

 

おや?

 

「……いや、ちょっと待てね。このパターンは俺知ってる気がする」

 

「私の名前は魂魄妖夢、種族的に言うと半人半霊です。どうぞよろしくお願いします!」

 

「は、半人半霊?」

 

「はい、半分は人間で半分幽霊なんです。ハーフです」

 

そう言って何やらフヨフヨした半透明のモノが妖夢ちゃんの横からぺこりと頭を下げるような動作をする……つまり。

 

「人間じゃないの……?」

 

「正確には半分は人間ですけどね。こう見えて信さんより遥かに生きてます!」

 

胸を張って少し自慢げにそう言った後"あ、でも半分は死んでますけど"と付け足す。……いやまぁ、もう突っ込む気力もないんで話を進めさせてもらおう。

 

「いや……うん、よろしくね」

 

「はい、では早速お屋敷の方に行きましょうか」

 

そんなこんなで取り敢えずはここの主人さんにご挨拶しに行く事になった訳だけど折角だし妖夢ちゃんとお喋りでもするのもありかなと考えていると妖夢ちゃんの方から話しかけてくれた。

 

「でもびっくりですよ、紫様が言っていた人が信さんだったなんて」

 

「それに関して言えば俺もまさか買い物友だちの妖夢ちゃんが……って感じだよ」

 

「そうですね、私もお魚の美味しい見比べ方を知ってる方がここに来た時は亡くなったのかと焦ってしまいました」

 

くすくす笑いながらそう言われるが確かについ先日まで人里で話してた人間が突然冥界に現れたらそう勘違いするよね。

 

「因みに紫さん俺のことなんて言ってたの?」

 

「とても愉快でお優しい方と。確かに今考えてみれば信さんと聞いていた特徴が合致するんですよね」

 

青年くらいで刀を腰に刺しているのは珍しいですしと言われて確かに。人間の里でも刀持ってるのは結構なお年の方ばっかりで俺くらいの歳の人間はまず持ってない。

 

「それに刀を使っている所に凄く親近感が湧きます。今まで中々剣士の方と知り合えなかったので是非お手合わせを!」

 

「いや俺まともに刀扱えないからね……それこそ妖夢ちゃんに教えてほしいくらいだよ」

 

「そうなんですか?なら一緒に鍛錬しましょう、大丈夫です!私もまだまだ未熟の身、共に強くなる為切磋琢磨するというも悪くないかと」

 

お、おう。刀になった瞬間からキャラクター変わるなぁこの子、凄く落ち着いた優しげな子だと思ったら剣の事になるとこんなに熱血なのか。霊夢とかが言ってた"ただの通り魔よ"って言葉が少し頭をよぎったけど気にしない。

 

「一人の修行では出来ないことも多いですから相手がいるだけで色々広がるんですよ」

 

「お、お手柔らかに」

 

「はい!……ところでなのですが」

 

「ん?」

 

「最初、門の前でお会いした時はどうしてあんなに疲れていたんですか?」

 

「そりゃあんな長い階段を登れば疲れるでしょ?そもそも妖夢ちゃんとか人里来る時はあそこ通ってるんじゃないの?」

 

いい修行になります!とか言いそうだなーと笑っていると微妙そうな顔をしだす。なんだ?変なこと言ったか?

 

「あの……確認ですけど信さん飛べますよね?」

 

「うん、そうしなきゃ色々大変だしね」

 

「ならあの階段も登らず飛んでくれば良かったのでは?」

 

「……………え?」

 

「いくらなんでも人の身であの階段を昇り降りするのは厳しいですよ、私もいつも飛んでますし……え、まさか気付かなかったんですか?」

 

凄く驚いた顔されるけどさ……。

 

「階段が目の前にあったら登るって錯覚しちゃうよ普通!」

 

「……成る程、紫様が言っていた"間抜け"の意味が分かった気がします」

 

「そんな真面目な顔で頷かないで!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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25話 わくわく冥府旅行記

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ……屋敷でっかいな」

 

「確かに人里では見れない大きさですよね」

 

「部屋も多いし、何人くらい住んでるの?」

 

「私とここの主人の方の2人だけですよ」

 

「それはそれで驚くけど、掃除とか大変じゃないの?この大きさにこの広さの庭じゃさ」

 

「いえそんな事は無いですよ、もう何年も続けてますし私自身本職が庭師ですからね」

 

「忘れがちだけど歳上だったね……ちゃん付けとか気に触ってたらごめん」

 

「いえ別にそんな事ないですよ。見た目が少女なのは自覚してますし、寧ろ歳下と思われる事の方が多いですから」

 

「あー人里でもよくオマケして貰ってたね。今思うと妖夢ちゃん少しだけ複雑そうな顔してた気もするなぁ」

 

「ええ、少し騙してるみたいで申し訳ないんですけど今更言い出せなくて……それと食費が少しでも浮くなら、それはそれでありがたいので」

 

「まぁ…店のおじさんやおばさんも孫可愛がりみたいなものだしね、別に良いんじゃないかな。……ん?妖夢ちゃんと主人さんの二人なのにそんなに食費とか気になるものなの?」

 

「それは、えっと……あははは」

 

「いや誤魔化すの下手すぎだよ?」

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

 

……さて、そんな訳で主人さんがいるであろう部屋へ妖夢ちゃんが案内してくれたんだけどそこはもぬけの殻だった訳で。

 

 

「すみません、探して来るので少し待っていて下さい」

 

 

と言い残しお茶を出された訳なんだけど。

 

 

「落ち着かねぇ……」

 

 

(そりゃ来たばっかりの場所だしね)

 

 

お茶を啜り、失礼と分かってはいるものの部屋の中をついキョロキョロしてしまうのは、しょうがないだろうと誰も居ないのに言い訳しつつ、ふと庭に目をやる。

 

 

見事に切り整えられた木々やこの季節ですら咲いている不思議な桜はとても見事で、こりゃ酒でもあればなーなんて考えながら立ち上がりもっとよく眺めようと外に出ると庭というかこの屋敷が持つであろう土地の大きさに驚く。

 

 

なんだこれ、なんたらドーム何個分みたいなのやったら凄そうだなーと見渡しているとふと気になるものが少し奥の方に見えた。

 

 

「…………?」

 

 

なんだろうか、これだけ綺麗に咲いているのにあの奥の大きな木だけ何故か枯れたように一切蕾すら付いていない。

ほんのり霞がかかっていてよく見えないが多分あれも桜の木のはずだけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…………ン!シンっ!?)

 

 

「………え?」

 

(シン大丈夫なの!?)

 

無銘の声でハッとし周りを見渡せば何故かそこは桜の木に囲まれた外の庭で目の前にはあの大きな枯れた木が静かに佇んでいる。

 

俺は一体……?

 

(一体も何も突然裸足のままぼーっと歩き出したんだよ?おかしいなって声かけても全く反応もしないし……)

 

ご、ごめん。全く自覚なかったんだよ、気付いたらここに立ってたし……。

 

(取り敢えず正気に戻ったなら良かったけど、何か良くない感じするから気をつけてね)

 

お前にしては珍しく曖昧な表現だな。

 

(私も感じた事があまりないタイプの瘴気というか……取り敢えず早めに戻った方がいいと思うよ)

 

ん……そうなんだろうけどさ。

 

(どうしたの?……さっきからなんか変だよキミ)

 

 

 

無銘が何か言っているが不思議と頭に入らず俺の目線は、この眼前にある枯れ果てた巨木から離せないでいた。

 

 

無銘はこの木から嫌な感じがする、瘴気が溢れてると言っていたしもちろん俺もそれは感じてるんだけれどそれ以上に何だか……

 

 

「……あら、珍しいお客さんね」

 

 

ぼーっとこの何も咲いていない桜に目を奪われていると誰かから声が掛けられる。

 

 

「"これ"を眺めてて楽しいのかしら?他に咲いてる桜を見ていた方が良いと思うけれど」

 

「……何となく、そう何となく目が離せないだけです」

 

「ふぅん……ただの枯れた木よ?それに人間の貴方からしたら禍々しいだけじゃないかしら」

 

 

姿も見えないその人は何かを探るように聞いてくるが本当に特に何もなく"何となく"と言う言葉が適切なのだ。

 

 

でも、そうだなぁ……敢えてその禍々しいこの木に対する俺が得た感情を言葉にするなら。

 

 

「この桜、何処か悲しげ……と言うか寂しそうな気がするんです。なんだか、放っておけなくて」

 

「ーーーへぇ」

 

ふわふわと綺麗な蝶が横切るこの木には何処と無く不思議な雰囲気もあるようで。

 

「ええ、それに風情もある………?」

 

 

え、あれ?と言うかさっきから俺は誰と話してるんだと急に正気というか理性のようなものが浮上して来て焦り出す。

 

振り返れば、少し長めのウェーブのかかった桃色の髪と不思議な帽子にその上の三角の白い布の飾りは何処か幽霊を彷彿とさせ、青と白のふわふわとした和服を着つつ、紫の扇子を口元の近くに置いた綺麗なお姉さんがニコニコと笑いながら俺の事を見ていた。

 

……というかどう考えてもさっきまでの問答のお相手な訳でね?ここ(冥界)には妖夢ちゃんとここの主人さんしかいないって言ってたからトドのつまり目の前のこの人の正体は一つしかないんですよね。今までのぼーっとしていた筈の頭が急激に回転し始めて一気にパニック!頑張れ俺、負けるな俺!なんとか言い訳を捻りだせ!

 

「あらあら、そんなに慌ててどうしたのかしら?」

 

「え、いやその、俺不法侵入とかじゃなくてですね!?」

 

「ふふ……、うんうん」

 

「気付いたらここに居たというか何と言いますかさっきまでの変な言動も少し気が動転していただけでして!」

 

「ええ、知ってるわ」

 

「つまり俺は別に盗人でも何でもなく寧ろここに呼ばれた……え?」

 

今何と仰りました?とポカンとしていると何処か見覚えのあるニッコリとした顔で口を開く美人さん。

 

「だから知ってるわよ。よろしくね信」

 

「へ?え?は、はい」

 

何となく不思議な雰囲気を漂わせつつもふんわりと優しい笑みにふと、突然驚かしてくるあの困ったスキマ妖怪が頭によぎる。

 

ああ、あの笑顔に何処か既視感があると思ったら紫さんか……。何となく雰囲気も含めて似てるし。

 

「さて、そろそろ戻りましょうか」

 

そう言葉を残してくるりと屋敷の方へと歩いて行く。そういえば妖夢ちゃんにも何も言ってなかったし急いだ方がいいだろう。

 

ちらりともう一度だけ巨大な桜の木を目に収めて、先に歩いて行ってしまった紫さんの友人であろう人を追いかける。

 

……何でかわからないけど本当に気になったんだよなぁ、あの木。

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

 

屋敷に戻ってくるとかなり慌てた様子の妖夢ちゃんとそれを近くの桜の木の陰から愉快そうに笑い見守る先ほどの女性が居た。……あ、しーってポーズしてるって事は妖夢ちゃんにバレるなってことかな?

 

「……いや可哀想ですよ?」

 

「そう言ってこっそり私の側まで来てるじゃない。本当に揶揄うと面白いのよね〜妖夢は」

 

あら凄くいい笑顔ですね。確かにあの慌てぶりを見ていると虐めたくなるというのは分からなくも無いけど歪んだ愛情な気もするんですよ、俺はね。

 

「確かに可愛い反応してますけど……えっと」

 

「?……ああ、私の事は可愛く"ゆゆさん"って呼んでね?」

 

「えぇ……まぁ、いいですけど」

 

「紫に聞いてたけど本当に素直な子ね、お姉さん少し心配しちゃうわ」

 

へ?呼べって言ったのゆゆさんですよね。

 

「うーん、こういうタイプの子は私も初めてだから中々厄介ね。……あら、見つかっちゃったかしら」

 

「幽々子様!どちらにいらっしゃったんですか……って信さんも一緒だったんですね」

 

「ええ、ちょっと前にね。信と妖夢は面識あったわよね?」

 

「えっと、はい。初対面はゆゆさんだけです」

 

そう言うとポカンとした顔になるのは妖夢ちゃん。今度はどうしたのさ?取り敢えずと部屋の中に戻ってきて開口一番は妖夢ちゃん。

 

「"ゆゆさん"?あの幽々子様これは?」

 

「ちょっと揶揄ったつもりだったんだけどねー」

 

「信さんはかなり純真な方なのであまり……」

 

「ええ、正直私も驚いてるわ。ごめんなさいね」

 

「へ?え?何で謝られてるんですか?」

 

苦笑いで何処か咎めるような事言う妖夢ちゃんに少し呆れた感じのゆゆさんに謝られてしまい困惑。一体どう言う事だってばよ?

 

(気にしない方がいい、うん)

 

「いえ、信さんはそのままでいた方がよろしいと思います」

 

「ふふ……ええ本当にね」

 

「意味はこれっぽっちも分からないけどゆゆさんは絶対俺のこと馬鹿にしてますよね?」

 

「そんな事ないわよ?それとごめんなさい、ちゃんと自己紹介くらいはするわね」

 

そう言って少し姿勢を整え始めたゆゆさんに合わせて俺も一応正座を正す。ほら、礼儀ってヤツよ。

 

「改めてようこそ冥界へ。私は西行寺幽々子よ、ここの主人で幽霊の管理者をしてるいわ。よろしくね」

 

「よろしくお願いします、俺は……なんでしょう?一応なんでも屋って事で呼ばれた依白信です」

 

改めて挨拶したのはいいんだけど、そういや俺なんでここに呼ばれたんだっけ?と考えているとナイスタイミングで妖夢ちゃんが話を進めてくれた。

 

「あの幽々子様、私も信さんが来るという事自体が初耳だったのですが、何をして頂くんですか?」

 

信さんは何か聞いてます?と目線で問われるが。

 

「それに関しては俺も何も知らないんだよね。紫さんに取り敢えず行ってとしか言われなくて」

 

そう言って妖夢ちゃんと二人目を合わせてそのまま依頼主である幽々子さんへと目線が移る。

 

「そうねぇ……ここで好きに生活してもらって構わないわ」

 

「……はい?」

 

「言葉通りよ、この冥界内なら好きにして貰っていいわ。妖夢の買い物の手伝いで里に行くくらいならいいけど、基本的に少しの間ここにいて私を楽しませて。それが依頼よ」

 

 

えっとそれはつまり。

 

 

「俺、冥界に旅行に来たってことですか?」

 

「その認識でも構わないわ。ただ私の事はちゃんと楽しませてね?最近暇で暇でねー」

 

はぁとため息をつきながらそんな事言われるけど、何したらいいか全く分からないし思っいたのと違いすぎて困惑なんだけど。

 

「あ、妖夢も彼を好きにしていいわよ。剣の相手探してたじゃない」

 

ちょ!

 

「よろしいんですか!」

 

あぁ……すごい嬉しそう……。

 

「あとはそうねぇ……妖夢の手伝いくらいはしてくれたら助かるわ」

 

主に妖夢がと言葉を付け足して、この話はお終いとばかりに立ち上がる幽々子さん。

 

「それじゃそろそろ夕食にしましょうか?妖夢」

 

「はい。……と言いたいんですがまだ準備が終わってなくてですね」

 

「あら早速出番よ」

 

「え、あぁ……はい」

 

成る程、この人話を聞かないタイプというか真っ直ぐ進んでよそを見ない感じか。

 

「い、いえ!お客様の信さんはゆっくりしていて下さい」

 

「いやいや俺雇われた身だからお客さんじゃないし、何よりここでは妖夢ちゃんが先輩なんだし手伝うよ。ほら行こう」

 

さて、3人分だし妖夢ちゃんと2人ならすぐ終わるだろと早速準備に向かう。

 

「え、あ、待ってくださいー!」

 

そう言ってすぐに着いてきてくれる妖夢ちゃんは良い子や。

 

 

……この後、なぜ妖夢ちゃんがあんなにも準備に時間が掛かると言っていたのか。

そして台所に広がる大量の食材を見て、少し虚ろに"今日の夕食分です"と言ったのを忘れる事は無いだろう。

 

うん、俺がいる間は必ず手伝うと誓った瞬間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に素直な子。……それにしても西行妖が寂しそう、ね。中々どうして気になるわ。紫もそう思うでしょ?」

 

 

「ええ、全く……ここに来て真っ直ぐあの木に向かう辺り本当に何かに取り憑かれてるんじゃないのかしら」

 

 

「その割に顔は凄く笑顔ね?」

 

 

「貴女も大概よ。やっぱりあの子の能力は"噛み合った"みたいね」

 

 

「良い塩梅よ。それに……ふふ、可笑しいわよね、悲しそうだって」

 

 

「………ええ、本当にね。さて、私はそろそろ戻るわ。あんまり信の事虐めちゃダメよ?」

 

 

「あら、紫がそんな事言うなんて珍しいわね。いつもなら笑ってお終いなのに」

 

 

「意外と気に入ってるのよ。私、結構独占欲強いんだから」

 

 

「それこそ知ってるわよ。でも私も結構楽しめそうだから少しくらいなら許してね?」

 

 

「そこまで大人気なく無いわよ、それじゃまた来るわ」

 

紫がそう言って消えたのを横目にふぅと私の能力によって出来た蝶を軽く扇子で弄ぶ。

 

「……ふふ、それにしても"依代になる"ね?言い得て妙ねぇ。まさか私の能力の死すら吸収されると思わなかったわ」

 

あの時ほんの少しの出来心で使ってみたけど、まさかそのまま吸収……いえどちらかというと合体かしら?

 

少し真面目に考えていると台所で何やら彼と妖夢の間抜けな声が聞こえ、つい笑ってしまう。

 

「まぁ楽しめそうなのは間違いなさそうかしらね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued………?

 

 

 

 

 

 

 

 



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25.5話 黒い桜の刀

何時もよりほんの少しだけシリアス……?


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーふと見上げれば一面満開に咲く大きな桜の大木。

 

陽射しは暖かく、背を預けて微睡むのはとても気持ち良くて今、目が覚めたばかりだというのに、もうひと眠りしてしまうか?と魅惑的な考えが頭に広がっていく。

 

そんな意識が落ちるか落ちないかを葛藤していると。

 

かさ…かさ…と草を踏み分ける音が聞こえ"ああ、誰かがやってくるな"と半覚醒状態化の中気付きはするがまだ動こうとする事が出来なかった。

 

何故だが今日は凄く……物凄く眠い。

 

どうしてもその欲求に勝つ事が出来ずまた落ちてくる瞼に身を委ねようとするときっと近くまで来ていたであろう誰かが俺の横に来る気配がする。

 

"…………………?"

 

……何かを伝えてくるけどそれはノイズのような、将又違う言語の様で俺の耳に入りはするが脳が理解する事を拒絶する様に消えていく。

 

だけど不思議と……只々何となくその何かと誰かが気になって、ほんのちょっぴりと瞼を開けてみれば。

 

 

"……し…って……よ?"

 

 

何処か見覚えのある気がする……いや見知った小さな女の子が寂しそうな笑顔で何かを伝えてくる。それがとても大事な事の様に思えて必死に聞き取ろうと……唇の動きだけでも見ようと必死に目を開ける。

 

 

"わたしまってるよ?"

 

 

プツリと、まるでテレビのリモコンで電源を切ったかの様に俺の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………はぇ?」

 

目を開けてみれば知らない天井、知らない布団が目に入り一瞬混乱してしまうが覚醒した脳みそをフル回転させれば直ぐに此処が冥界……白玉楼だと言う事を思い出し、頭を掻きながら起き上がる。

 

「……んーッ」

 

布団から出て一気に伸びをして見ればビックリするぐらいに疲れが取れていることに気が付きつつ、時間を確認。

 

ってまだ夜が明けてそんなに経ってないじゃん。

 

二度寝と洒落込むか?とまだ自身の体温で暖かい布団を見つめたがこの世界での俺の生活はびっくりするぐらい健康的で昼寝はするが二度寝を出来ないくらいには規則正しいリズムになってしまっている為、少し残念なものの見送る。

 

とは言えこんな朝早くからする事も無いんだよなーと冥界という場所のせいかは知らないがずっと薄暗い外を眺めようと襖を開き、縁側へと歩いて行くと何やらシュッ!という鋭く刃物でも振るっているかの様な音が耳に響き、興味を本意でそのまま、その音の方向へと足を運んで見れば。

 

「ーーっ、ーー!」

 

二本あるうちの長い刀……楼観剣を振りかぶり、反対の手で少し短めの剣である白楼剣を斬りあげる様にして後ろへ後退、そのまま振り返りざまに斜めへと斬りあげる様は何処か舞を踊る巫女の様な美しさがあり、つい感嘆の声を漏らしてしまう。……その声で気付いたのか剣を鞘にしまいつつ振り返った妖夢ちゃんが少し驚いた顔をしながら縁側に腰掛ける俺の元へとやってくる。

 

「おはよ、邪魔しちゃったみたいだ。ごめん」

 

「いえ、そんな事は……おはようございます。信さんは朝が早いんですね」

 

「今日に関しては何時もより早く起きただけだよ?それにその様子じゃ妖夢ちゃんの方がよっぽど早く起きてたみたいだしね」

 

「私はこれが日課というか、朝剣を振るわないと調子が出ないんですよ」

 

少し照れる様にそう言う妖夢ちゃん。……あの綺麗な動きや舞は毎日やってるからこそのものなのだなと心の中で納得する。

 

「あれは何かの舞か何か?」

 

「え?い、いえ、そんな大層なものではありませんよ。単純に仮想敵を思い浮かべて刀を振るうと言うものです」

 

「いや十分凄い事してる様に聞こえるんだけども?」

 

なんだ仮想敵って。つまりはイメージしてそれと戦ってたという事だろうか?何それカッコイイ。

 

凄いなーと妖夢ちゃんを褒めるとピコリンと何かを閃いた様に顔が輝く。

 

「信さんも出来るようになると思いますよ、あ!もし宜しければ今から一緒に鍛錬でも」

 

「お、おう、別にいいけど」

 

「では軽く素振りからやって行きましょう。……あれ、刀の方は」

 

そう言われてふと腰元に目をやれば無銘は無く、まだ部屋にある事を思い出す。

 

「あー、そういや寝てるのかアイツ……」

 

寝てると近くに行けないから!と言われた時は本当に刀なのか疑ったのは今思えば懐かしい。本当に不思議な存在だな無銘って。

 

妖夢ちゃんに軽く事情(剣が寝てるとは言えないので其処は色々と)を話せば一旦他の刀を借りる事になり、庭の横にある蔵の中へと移動する。

 

「ここには使ってない刀等、色々な武器がありますから好きな物を使って下さい」

 

「そりゃ有難いけど良いの?幽々子さんにも何も言ってないし……」

 

ここが白玉楼の蔵という事はつまり幽々子さんの所持物という事。それを勝手に漁ってしまって良いのだろうか?

 

「大丈夫ですよ、ちゃんと幽々子様には事前に許可を頂いてます。何より此処にある物の殆どはもう使っていない物ですので、一振り程度なら持ち帰って頂いて構わないそうですよ」

 

何と気前のいい事を。とは言え流石に貰うのはなぁ……無銘の奴にも浮気だ何だと騒がれてヘソを曲げられる未来が簡単に予想出来るし、取り敢えず借りるだけにさせて貰おう。

 

「もし気に入った物があればで構いませんよ。此処にあるだけで使われないのは可愛そうですから」

 

そう言って蔵の扉を開けて中へ進む妖夢ちゃんに続くと中にはかなりの量の武器が貯蔵されていた。

 

刀は勿論の事、槍に斧や鞭、鎌とハンマーの様なものに西洋剣まで置いてあるし、凄いバリエーションだなぁ。

 

キョロキョロと見回していると少し可笑しそうに笑いながら妖夢ちゃんが何故こんなにも沢山の武器があるかを教えてくれる。

 

「この中の物の殆どは拾ってきた物や幽々子様が気まぐれで購入したもの、それから紫様が置いていったものです。ですので種類だけならかなりあると思いますよ」

 

「香霖さんのところかぁ。変な物多いし、気まぐれで買うってのも分かるけど……それに紫さんなら色々集めてきそうだね」

 

「ええ、本当に」

 

少し困った様に笑う妖夢ちゃんを見るに本当に色々な物を置いていくんだろうなあの人は。

 

さて、時間も勿体無いし適当に何か借りようと蔵の中を見渡していく。取り敢えず何を借りるかだが、俺自身殆ど武器を使えないと言うのもあるし少しでも使い慣れている刀が第一候補で次にまだ似た系統の剣かなとその類の武器が置かれた辺りを見て回っていると何やらそわそわしている妖夢ちゃんに気付く。

 

「えっと、どうかした?」

 

「あ、いえ!その……迷わず刀の方へと行く辺りやはり嬉しいものがあると言いますか……私の事は気にせずゆっくり選んでください」

 

そう言えば刀自体も好きって言ったね妖夢ちゃん。昨日も夕食の後に無銘見て凄い興奮してたし、俺自身こう言う刃物は好きだから話し相手になったら凄い喜んでくれたし、そう言う趣味が合うのは嬉しいのかな?と思いつつ刀を眺めていると……ふと一振りの黒い刀へと目が止まる。

 

他に派手な飾りや見た事も無い様な形をした武器がある中で一見一番地味に見える筈のその刀は何故か不思議な魅力があり自然と手が伸びてしまう。

 

その刀を手に取りもう一度ゆっくりと端から端まで眺めて見る。

蒼黒い柄から鐔に掛けて、鐔から桜を描かれた鞘の端まで見定める様にゆっくりと見つめ……刀を抜いてみればしっくりと手に収まる感覚、うん。

 

「これ、借りるよ」

 

「あ、決まりましたか?どれに……」

 

そう言って俺の持つ刀を見た瞬間少しだけ目を見開く妖夢ちゃん。どうしたのだろうか?

 

「あーこの刀だとなんか不味い?」

 

「へ?あ、いいえ!そんな事はないですよ、ただ……」

 

「ただ?」

 

その後の言葉を待つが妖夢ちゃんはいいえと首を振り、其処にはいつも通りの表情の妖夢ちゃんがいた。

 

「……いえ、何でもありません。それでは中庭の方へ行きましょうか」

 

そう言ってくるりと蔵の外へと歩き出してしまう。……俺には何だか驚いてた様な気がするんだけど。

 

とはいえ気にしてもしょうがないと割り切ってそのまま中庭へと移動しそのまま鍛錬へと入った。

 

内容は妖夢ちゃんが何時もこなしているメニューに軽い組手を追加したもの。

初めは素振りからで、上に下に左へ右へと各50回を俺はこなしている中でその倍を軽々と妖夢ちゃんがやっているのを見て少し悔しくて熱中していればくすくすと笑う妖夢ちゃんと目が合ってしまい少し恥ずかしかったりも。

勿論、斬り上げや斬り捨ての正しいやり方も教えて貰い少しはマシな素振りをこなせる様になったと思う。

 

……ちなみに初めの俺の素振りを見た妖夢ちゃんが苦笑い気味にストップをかけて修正してくれ、その修正後の俺の素振りを見て

 

「信さん、少し変な癖が出来てましたから早めに直せたのは大きいですよ」

 

と笑顔で言われたのは嬉しいけど、やっぱり最初の苦笑いは俺の型がかなり変なものだったらしく剣道を少し齧ってた身からすると凹んだのは内緒。

 

さてそんなこんなで始めての妖夢ちゃんとの鍛錬は意外と楽しいもので気付けば最後の組手を残して全て終了した。

 

「それでは組手ですが、ルールなどは大丈夫ですか?」

 

「うん、取り敢えずはね。後はやって覚えろって奴だよ」

 

軽くは妖夢ちゃんが教えてくれたし、そもそもルール自体は剣道とかそこら辺のに似てるから飲み込むのもそんなに掛からなかった。アレだね、ドンジャラと麻雀くらいの違いだ。

 

「私もそちらの方が有難いです。……それじゃ始めましょう」

 

その言葉と共に妖夢ちゃんの雰囲気が鋭い物に切り替わり、殺意とはまた違うがそれに似た何かを当てられた俺はついぶるっとしてしまう。

 

……ゆっくりと刀を鞘から引き抜き構えを作る。ぶっちゃけ剣を使ってきた年季が違う相手だし勝てる気もしないんだけど、ほんの少しだけでも……練習相手くらいには成りたいと思い"自然と刀を構え直す"

 

「っ?」

 

ピクリと妖夢ちゃんの眉が動きほんの一瞬だけ先程までの張り詰めた空気と気配が乱れたのを感じた。……ここしかない!と一歩踏み込む。

 

「はっ!!」

 

思い切り息を吐き出しながら自身が放てるであろう最速を目指し、下から上へと斬り上げる。

 

「……!?」

 

まぁ、やっぱり受け止められて跳ね返されてしまう。流石に今みたいな油断はそうそう無いだろうしもう今の様な大きな隙を見せる攻撃は出来ないと一旦後退。さてどうしようかな?と考えているとまだ動かない妖夢ちゃんが口を開く。

 

「つかぬ事をお聞きするのですが……信さんは何か流派はお持ちで?」

 

「へ……?何言ってるのさ、真剣を握るのも幻想郷に来てからだからそんなの無いよ?」

 

「……そうですか」

 

何故だか少し険しい顔になってませんか妖夢さん?いやあの……何で急に一本だった刀を二本に持ち替えてるんですか?明らかに本気になった顔してませんかぁ!?

 

「申し訳ありません、少し信さんのことを侮っていた様です」

 

「……あの、何故に急に二刀流に?」

 

「私もまだまだ修行中で未熟の身……しかしながら悔しいと思うのも未熟故と分かっているのですが、どうにも抑えるのは難しい」

 

そう言ってニッコリと笑う妖夢ちゃんなのだが何時もはほんわかと優しそうなのに今だけは何故か阿修羅が見える気がするなぁ……?

 

「剣を始めてまだ数ヶ月の相手の一撃をまさか受け流せないとは……ふふ、ええ……本当に未熟です」

 

「ちょっと待ったぁ!!絶対勘違いしてる!さっきの偶々だから!」

 

「いえ本当に素晴らしい一撃でしたよ……では次は私の番です」

 

あぁ……こりゃ完全に火がついてしまってらっしゃるね?何処か諦めの境地に立った俺はゆっくりと息を吐き一応刀を構え直す。

視線の先ではもう見えないとかのレベルじゃ無い速度で斬り込んでくる妖夢ちゃんがいる訳で、この後の俺の運命は自ずと見えてくるって言うものんでね?

 

ああ、本当に……痛く無いといいなぁ……。

 

 

 

 

 

 

その後、速攻で気絶させられた俺は朝食の準備前まで気を失っていた事をここに記しておく。

 

起きた瞬間、頭に登った血が完全に抜けてアワアワして凄い勢いで謝って来た妖夢ちゃんはあの瞬間の子と本当に同一人物か疑わしいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……?

 

 



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26話 刀の名は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……………)

 

いや、あの……本当に違うんだよ?

 

(……………)

 

今朝方に偶々早く起きて妖夢ちゃんと鍛錬する事になってね?それで無銘寝てたから他の刀借りただけで。

 

(……………ふん)

 

なぜ俺は昼間から正座して、自分の刀相手にこんなにもぺこぺこしているんだろうかと考えつつ、一応私不機嫌ですオーラ全開の無銘に言い訳してるんだけど一向に反応が無く困っている。……完全にヘソ曲げちゃってるし、こりゃ暫く話も聞いて貰えないなと土下座しながら考えつつ、時間を置くと言う結論に至った。

……そして何やら背後では笑顔の幽々子さんと困惑した様子の妖夢ちゃんのひそひそ話が少しだけ耳に入ってくる。

 

「あの幽々子様、信さんは一体何をされているんでしょう?」

 

「さぁね、見たままなら刀に土下座してるわね……ふふ」

 

「朝食に何か混ざっていたのでしょうか?それとも……」

 

真剣に思い出し始めた妖夢ちゃんについ違うから!と叫んでしまう。……客観的に見るとかなり可笑しな事をしているように見えるのはわかるけどメインウェポンを失う=無能になる俺からすれば、そんな恥とか気にしてる場合では無いのだ。

どうしようと頭を抱えていると幽々子さんがそういえばと声を上げる。

 

「それで信、それ気に入ったの?」

 

そう言って扇子で刺した先にあるのは何だかんだと朝の鍛錬から今の今まで結局借りたままの名も知れない黒刀。……と言うかこれが原因で拗ねてる奴もいる現状だが使いやすくてしっくり来たのは事実なんだよなぁ。

 

「びっくりするくらい使いやすかったですよ。と言うか何時迄も借りっぱなしですみません、すぐに蔵の方に仕舞って来ます」

 

流石に無銘と比べると使い慣れてると言うのもあるけど、この刀をメインにしようとは思わないし何時までも持っていると未練残りそうだから、とっとと返そうと片手に持って立ち上がると"待って"と幽々子さんに止められる。

 

「その刀、貴方が暫く持ってなさいな」

 

「へ?いや俺には」

 

勿体無いし貰えないと言おうとしたがすぐに口を止められる……と言うか近いですよ幽々子さん?現実(リアル)で口を指で止めるとか本当にあるんすね。

 

「"貰えない"でしょ?なら貸して上げるわ。別に無理に使えとは言わないけど、偶には鞘から抜いて上げるくらいはしてあげて」

 

ね?とお茶目にウィンクと一緒に言われてしまい、口を塞がれてる俺には首を横か縦に降るしか出来ないのだが……その、断れる様な空気感じゃなくて、つい頷いてしまうと。

 

「宜しい。素直な子は好きよ」

 

とそのまま口を塞がれていた手で頭を撫でられてしまう。……物凄く恥ずかしいんだけど何だか気持ちいいような?これが猫や犬の気持ちという奴なのか。

 

「と言うかそんな気軽に好きとか言っちゃダメですよ、勘違いする奴はしますから」

 

「あら、信はしてくれないのかしら?」

 

そう言って顔をゆっくりと近づけてくる幽々子さん……って近い近い!!と言うかさっきから貴女の後ろで妖夢ちゃん苦笑いしてますから、完全にどうしたらいいか分からず困惑してますから!と一歩下がる。

 

「いやあのホント勘弁して下さい……」

 

「残念、振られちゃったわね」

 

「妖夢ちゃん助けて!!」

 

演技なのは分かってるけど少し悲しそうに手を頬に置いて溜息を吐く幽々子さんに何処と無く罪悪感を感じ、俺一人では対抗出来ないと直ぐにこの困った主人様の従者にヘルプを求める。

 

「あはは……幽々子様もそれくらいで……」

 

「妖夢は信の味方なのね?従者にも振られちゃったわ」

 

「え?い、いや違いますよ!私はいつだって幽々子様の味方です!」

 

「なら別に良いわよね?」

 

「はい!」

 

おい!と声を上げてしまった俺は悪くない。

 

「まぁ、これくらいにして上げるわ。……その代わり大事にして上げてね」

 

そう言って俺の手元の刀を見る幽々子さんの目は何処か懐かしげ、と言うか優しい目をしていた。

まぁ預かると思えば良いのだろうか?しかしそんなに大事なモノなら、俺みたいなまだ出会って1日足らずの奴に預けるとか不安じゃないのかな?……ああ、そういえば。

 

「この刀って名は無いんですか?」

 

「ええ、少し曰く付きの一振りなの。そうね、貴方が名付けてあげて」

 

「また無茶振りしますね……」

 

「期待してるわ」

 

そう言ってまたプレッシャーをかけてくる訳だが名付け親なんてポケットな怪物くらいでした事の無い俺にはハードル高すぎです。

とは言えこのままじっと見られてても、しょうがないし頭を捻れる程捻り考える。

……うーんと目を彷徨わせて目に付いたのは無銘だが同じ刀とは言えど、名無しはダメだよなぁ。

 

(……馬鹿)

 

そう言うのには反応して罵倒するんですか。

 

(…………)

 

無視ですかそうですか……。

 

むぅ、そんなに他の刀持つのは嫌なのだろうか?初めて話した時も他の刀に浮気したら……とギャルゲのとある属性(ヤンデレ系)の様な顔してたし嫉妬深いのかな。……刀に死ぬほど愛されるとか、もうこれ分かんないな。

 

「決まったのかしら」

 

「へ?」

 

「名前よ」

 

「え、あ、えっと」

 

ま、マズイぞ。余計な事考えて全く思い付いてない。目の前の幽々子さんは早く早くと言った顔で迫ってくるんだが、何も思い付いてないとは言えないしと必死に脳を回しながら何か無いかと目を右往左往させていると、そんな俺と幽々子さんをほんのり苦笑いで眺めている妖夢ちゃんに目が止まる。

 

そういや刀と言えば妖夢ちゃんも二本持ってるよなーと思い出し、自然と目がそこに動く。

 

腰に刺している短刀は"白楼剣"と言う名で妖夢ちゃんの家である魂魄家の家宝らしく斬った相手の迷いを断つ事が出来て、幽霊相手で使う(斬る)と無条件でその霊を成仏させる事が出来るらしい。けど妖夢ちゃんの一族にしか使えない特別な刀との事で、その設定カッコイイとつい呟きそうになった。本当の事なのに設定とか失礼過ぎるよね、俺。

 

そして背中に背負っている方のかなり長い刀、"楼観剣"にも特別な逸話があって何でもこの楼観剣は人間では無く妖怪が鍛えた刀であり、一振りで幽霊10人分の殺傷力を持っているらしい……というか、今更だけど冥界の住人が殺傷力を幽霊で例えるとか結構ブラックジョークだよね。因みに妖夢ちゃんは自覚なく説明していたと思うよ、無茶苦茶目をキラキラさせて嬉しそうに教えてくれたし。

 

そんな二本の刀を見ていると不思議と手元の黒い刀にも目が行き、自然と見比べる形になった。何というかこの刀は長さは白楼剣と楼観剣の中間なんだけど鞘の桜の花柄は楼観剣と似てるが柄の色合いや鐔の形は白楼剣に似ていて、あのふた振りを足して2で割ったら丁度良い様な………ん?足して2で割るって……あ!と閃きもう一度手元の刀を見つめる。

 

不思議とその考え付いた名はしっくり来るというか、本来その名を貰う筈だったのでは?と思うくらいにかっちりと俺の頭の中で噛み合っていた。

 

「うん、決まりました」

 

「あら意外と直ぐに思い付いた様ね?」

 

「まぁその……妖夢ちゃんのおかげというか」

 

そう俺が言うとえ?と首を傾げる。

 

「私ですか?特に何も助言してませんが……」

 

「あ、妖夢ちゃんと言うより妖夢ちゃんの持ってる刀からかな」

 

「ふぅん……それで?」

 

「この刀……"黒楼剣"にしようと思います」

 

目を手元の刀に落としつつ、その名の由来を説明する。

 

彼女の持つふた振り、楼観剣と白楼剣の其々から"楼"の文字を借り、この刀の特徴である黒曜石のような鈍く光沢のある刀身から"黒"を取り纏めて黒楼剣。

うん、凄くしっくり来ると改めて口に出して思いつつ、この名で大丈夫かなと幽々子さんと名を借りた刀の持ち主たる妖夢ちゃんの反応を確かめよう顔を上げると。

 

「「………」」

 

「え、あれ?」

 

なんか凄い固まってたんだけど。……え、まさかしっくり来ると思ってたのは俺だけで2人からしたら凄い変な名前だったりするのか!?と慌て出す。

 

「あ、あの……やっぱり変えましょうか?」

 

と提案するといいえと幽々子さんに否定されてしまう。

 

「その名で良いと思うわ。ええ、とてもね」

 

「はい、私もですよ。素晴らしいと思います」

 

「そう言われると嬉しいけど……何で固まってたのさ?」

 

絶賛して貰うのは凄く嬉しいんだけど、それだとあの反応はおかしくない?とつい聞いてしまうと、少し困った様に妖夢ちゃんが口を開く。

 

「いえ……その名前が余りにもぴったりと当てはまってしまったと言いますか……」

 

「"まるで初めからその刀の名が黒楼剣だったかの様に感じた"……かしら?」

 

「はい、幽々子様の言う通りです。私は不思議とそう感じました」

 

「ふふ……私もそう思ったわ。中々センスあるわね?」

 

なんか凄い賞賛されてるんですけど?……まぁでもなんか嬉しいなと思ってしまっているので良いか。

 

「それじゃ、改めてこの黒楼剣お借りします」

 

「ええ」

 

改めてよろしくと心の中で黒楼剣にも挨拶すればその黒い刀身が鈍く光り、よろしくと返された気がした。

 

「それじゃお昼ご飯にしましょうか、お腹空いたわー」

 

「はい、すぐに準備します」

 

それじゃ俺もと妖夢ちゃんとお昼の準備をしに立ち上がった時、"あ"と疑問が残っている事を思い出す。

 

「あ、幽々子さん」

 

「何かしら?」

 

「そう言えば、この刀ってどれくらいで返せば良いんですか?期限とか聞いてなかったなと」

 

「そうねぇ……」

 

うーんと考え出す幽々子さんを見ながら、何となくもう少しだけ手元に置いておきたいと思う自分がいる事に気がつく。……何だかんだ結構気に入ってるよな俺。

とは言え流石にそんなに長く借りておく事は出来ないだろう、何しろこんなにも素晴らしい刀なのだから幽々子さんも持っておきたいだろうし……でも半年くらいなら……と半端な欲望と執着が俺の中で生まれ始めていると、決まった様でパシッと扇子を閉じる幽々子さん。

 

「決めたわ」

 

「その……女々しくと思いますけど少し長めに……」

 

「貴方が死んで冥界に来たら返してちょうだい」

 

「してくれると嬉しい………はい?」

 

今何と?

 

「だから死んで冥界に来たら返してね。それまでは貴方のものよ」

 

「いやいやいや!何年後の話だと思ってるんですか!俺早死にする気は無いですよ!?」

 

「それはそれで残念だけれど、私にとって人間の一生なんてほんの僅かな瞬きみたいなものよ。……本当に残念だけれど」

 

ボソッと言われた事になんか寒気を感じたけど、それより俺が死ぬまでって、それはつまり最早俺の所持物と変わらないのでは?と思うんだけど。

 

「別にその認識で良いわ。元々上げるつもりだったのに貴方が受け取らない故の詭弁だしね」

 

「えぇ……でも、その」

 

「それに貴方も満更じゃない顔してるわよ」

 

うぐ、痛いところ突いてくるな……ぶっちゃけ凄く嬉しいんだけど、それと同じくらい何だが別の物を失ってる様な気がするだけど。

 

「"今"は別に何か対価を貰うつもりは無いわよ。安心してね」

 

「あ、そうなんですか?」

 

「ええ」

 

なら良かったと一安心とそのまま妖夢ちゃん昼食のお手伝いに向かう。腰には無銘と新たに黒楼剣が刺され、つい口元がにやけてしまう。だってほら、二刀流とか憧れあったし。

 

 

「……ええ、今は何も要らないわ。対価は貴方が死んでからのお楽しみ、ね?」

 

 

おぅ……なんか冷たいものが走った様な。

 

「信さん次これお願いします」

 

「了解。……気のせいかな?」

 

(……本当にバカだね)

 

 

 

 

 

 

To be continued……?

 

 

 

 

 

 

 

 



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27話 雨と買い物とトキメキタイム。

今回は何時もと変わり、少し糖分多めのラブコメタイムです。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌る日の昼前頃、白玉楼の縁側でボケーっとしながら昨日に引き続き、まだ若干機嫌が悪い無銘本体の手入れをしながら、庭に咲き誇る見事な桜を眺めていると何やら慌てた様子の妖夢ちゃんが珍しくバタバタと小走りしながら、買い出しに付き合ってほしいと頼み込んでくる。

 

「買い出しって……別に構わないけど、昨日行ったばかりじゃなかった?」

 

「そうなのですが、その……」

 

何処か言い辛そうにゴニョゴニョするのもまた珍しく、つい目を見開いてしまう俺に手が止まっていると無銘から催促が来る。というかアナタいつまでヘソ曲げてるのさ。別に持ってるだけで(あんまり)使う気は無いよ?

 

(……とか言って今日の朝もそこの半霊との鍛錬で振るってたの知ってるからね)

 

いや俺お前に声かけたのに凄い不機嫌で"煩い"とか"寝かせて"って言ってたじゃん。

 

(そ、そこは微妙な刀心を読んでくれればいいんだよ!)

 

何だよ刀心って。

 

(煩い!)

 

逆ギレ!?

 

こんなにも感情的になっている無銘は珍しくて本当によく分からんなーとは思いながら手は止めずにお手入れ完了、と。刀の手入れ中も横で座って待ってくれていた妖夢ちゃんに向き直り、先程の話の続きである買い物について。

確か凄い量の(大体幽々子さんが食べる物だろうけどそれにしても明らかに多い)食料を俺と妖夢ちゃんで買いに行った筈なんだけど、何か買い忘れかな?

 

「それで付き合うのは良いけど、何買うのさ。昨日あれだけ買ったから調味料とか?」

 

今日の夕方頃からかなり大きい台風が来るから数日分買い貯めて置きたいと付き合ったのは記憶に新しい。とは言え買った時ちゃんと二人で忘れ物がないかどうかも確認したし、心当たりがないなーとか考えていると、すー……と目を逸らした妖夢ちゃんに何だか凄く嫌な予感。

 

「……その非常に申し辛いのですが、幽々子様が……全て平らげてしまって……その、今夜の夕食分すらないです」

 

は?え?

 

「あ、あの量を……えっと昨日の夕食と今日の朝昼だから三食で……?」

 

「正確には夕食の後の夜食と朝昼の間の間食、それから先ほど"お腹空いたわー"と申されまして……」

 

あ、少し涙目になってる。

 

「私もいつもの事だと、また買いに行けば良いと思って……」

 

あー、完全に台風の事を忘れてたのね。……ここだけの話、妖夢ちゃん以外とうっかり屋と言うか"そういう"属性があるんだよね。

 

「にしたって珍しくない?普段なら止めてるよね」

 

おっと、急にサッと顔を横に逸らしたな?

 

「お恥ずかしい話なんですが、幽々子様に凄く褒められてしまい……」

 

「煽てられるがまま大量に作ってしまったと?」

 

「はい……」

 

顔を真っ赤にさせて悔いてる辺り、作り終えて幽々子さんが食べ終わったあたりにあれ?とかなったんだろうなー。

 

「うん、まぁ食べちゃったものはしょうがないさ。買いに行こう」

 

外の世界から着けて持って来てしまった時計を確認して見ればもうすぐ午後二時になってしまう。台風の到来の時間を考えても早めに動かないとマズイと準備を始めるが、横から移動しない気配が気になり目を向けるとぽかんとしたまま、まだ動いてない妖夢ちゃんと目が合う。

 

「……え、あれ?」

 

「どうしたの?早くしないと降り出しちゃうよ?」

 

「あ、はい!」

 

そう言ってハッとした顔をしたまま慌てて動き出す妖夢ちゃんを見てつい吹き出してしまう。お転婆とは違うのだろうけど、しっかり者のイメージがあった妖夢ちゃんが慌ててる姿は何処か可笑しいが可愛らしくも思えてしまう俺は変態なのだろうか?

 

「妖夢の"ああいう"のは愛らしいわよねー」

 

「ですねぇ……っ!?」

 

自然と相打ちを打ってしまったが気付けば俺の肩の上手を乗せられていて、つい驚き顔上げればふわふわと浮いた幽々子さんが怪しい笑み……いや加虐的(サディスティック)な笑みを浮かべていた。

 

「人の顔を見て驚くのは失礼よ?」

 

「え、えーと」

 

「んー?」

 

そう言ってツーっと扇子で顎を撫でて楽しげに言い訳待ってるわとでも言いたげな顔をしている幽々子さんに何処か既視感。

あぁ……忘れてたけどこの人って亡霊だし、どちらかというとあの人たち(紫さんとか文さん)と同じ部類に入る人でしたね……。

 

「と、というか!妖夢ちゃんから聞きましたよ?買い置きして置いた食料食べ切っちゃったらしいじゃないですか!」

 

「あら、見事な話題のすり替えね」

 

パタパタと扇子を扇ぎながらゆっくりと何かを責めるようにあの笑みで近付いてくる幽々子さんについ勝手に身体が逃げてしまう。

何だろ、俺悪い事してないし言ってないはずなのに凄く居た堪れない気持ちになってくるんだけど……。

 

「……いやその……」

 

「………」

 

ま、まだ近付いてくるんですか?というか何故に俺の両手をそれぞれの手で掴んでるんですか?というかもう柱だからこれ以上下がらないんですけど…….?と目で訴えかけても何のその。まだ近付いてくる。

 

「え?ちょ、無言で来ないで下さい!」

 

「………」

 

「いやー!?助けてー!?」

 

ちょっとガチ気味の悲鳴が出てしまった所でスッ……と幽々子さんが離れてくれ、あれ?と顔を見てみればとても愉快そうに笑っていた。

 

「ふふ、冗談よ」

 

「心臓に悪いですから!?」

 

「本当に揶揄い甲斐のある子ねぇ。紫にも遊ばれてるでしょ?」

 

「ははは、まさかそんな事」

 

思い当たる節しかない。

 

「それより、ほら妖夢がどうしたらいいのか分からないって顔で待ってるわよ?」

 

はい?と振り返ると襖の横で半身だけ出してこっそりと此方の様子を伺う妖夢ちゃんと目が合う。……あれだ、家政婦は見たって感じのやつね。

 

「ご、ごめん!」

 

「へ?い、いえ!」

 

なんか変な空気が漂ってくる……まだ妖夢ちゃん気にしてるのかな?

 

(どちらかというと自分の主人と客人の間の逢い引きを目撃したって顔じゃない?)

 

逢い引きとか言うなよ!それこそ勘違いじゃないか!

 

(あの半獣の件もう忘れちゃったの?)

 

すみませんでした助けて下さい!

 

(嫌)

 

辛辣!?

 

(鬱陶しいなぁ……テンション上げて誤魔化しちゃえば?得意でしょキミ)

 

ソレだ!

 

(え?……まぁキミが良いなら良いけど……)

 

有言実行とばかりに立ち上がりそのまま妖夢ちゃんの元に駆け寄り、ハイテンションで声をかける。

 

「それじゃ早く行っちゃおう!」

 

「へ?そ、そうですね!」

 

ノッた!

 

「それじゃ幽々子さん行ってきます!」

 

そのまま幽々子さんに挨拶して一気に玄関の方へと早歩き。走るのはマナーが悪いからね!

 

「わ、私も行って参ります!……あ、信さん待って下さい!」

 

「いってらっしゃーい……って聞いてないわねぇ。それにしても途中からテンションだけで突っ走ってたけれど、傘も持たずに平気かしらあの二人」

 

冥界では雨は降らない……が地上ではもちろん降るし、それが原因で食料を買い貯めに行く訳だがあの二人はこの後雨が降り出すのを覚えているのだろうか?と疑問にも思ったが。

 

「まぁ平気でしょ。雨宿りする場所くらい幾らでもあるしねー」

 

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

 

 

一人突っ走り門の前で妖夢ちゃんを置いてきてしまった事に気付き罪悪感と共に待っていると小走りでやってくる少女発見。

 

「す、すみません!お待たせしました」

 

「いやいや俺が置いてきちゃっただけだから!こっちこそごめんね!」

 

「そんな、私がそもそもの原因ですし」

 

「そんな事ないって」

 

……と、ここで五分ほど謝りあって時間が勿体無いと気付いた時にはお互いなんとも言えない感じになったんだけど、まぁなんとか落ち着きそのまま飛んで一気に人里の方へと向かう……のだが何時ならこの飛行中は妖夢ちゃんと世間話やらに花を咲かせるのだが不思議と静かな妖夢ちゃんが気になり横を見てみれば慌てて顔を背けられる、というのを2階繰り返した辺りで"あれ、俺避けられてね?"と思考がまとまり、焦り出した。

 

「あの……信さん?」

 

なんだ?何をやらかした?と考えてすぐに思い着くのは先程の幽々子さんとのやり取り。何処から見ていたかにもよるが、あの瞬間どう見ても押し倒されてた(被害者)幽々子さん(加害者)

普段ならばまた幽々子さんのおふざけかと納得してくれる妖夢ちゃんだが、あの瞬間の表情は何か勘繰るような、確かめるような感じの表情だった訳でね?

 

「えっと信さん?」

 

あの場面を幽々子さんの従者としての妖夢ちゃんからしてみれば主人を誑かす悪い男に俺が見えなくもない……よな?

 

「あ、あの……」

 

ど、どうする?俺妖夢ちゃんに嫌われたら立ち直れる自信ないぞ…?と飛びながら唸っているの何やらクイクイと腕の裾を引っ張られる感覚がした。

 

なんだ?今俺は大事な事を考えているだけどと振り向けばそこには、物凄く不安そうに上目遣いで俺の服の裾を引っ張る妖夢ちゃんが居たそうな……。んー?というか俺の見間違いかな?ほんのり涙が溜まってるような?

 

「よよよよ妖夢ちゃん!?どうしたの!?」

 

「そ、その、無視されると辛いです……」

 

「あ、え、は、え!?」

 

(言語不自由過ぎたよ?)

 

ザ・動揺。

 

(シンの悪い癖。ひとーつ、マイナスの思い込みが激しい。ふたーつ、思考を深めると周りの声が聞こえなくなる。みいーつ、馬鹿)

 

最後だけシンプルに罵倒!?……まぁ自覚はしてるんだけどさ。つまり妖夢ちゃんから声掛けられてたのを気付かなかった俺は妖夢ちゃんを無視してると思われたんだろ?

 

(その通り。意外と把握はしてるんだ)

 

……そのせいでよく勘違いされてたし。

 

忌々しい中学時代の思い出につい、うっ!と胸に痛みが走るが俺は強いから平気!と目の前の現実から逃げて見たものの、不安そうな妖夢ちゃんをほっとくわけにも行かず、落ち着いて貰って取り敢えず誤解を解く。

 

「ーーってな訳でね、俺はそういう癖があるから考え事してただけで無視した訳じゃないんだよ」

 

「私の勘違いって事ですか……?」

 

「うん」

 

「よ、よかったぁ……」

 

ふぅと息を吐き、ふにゃりと安心した様に笑う妖夢ちゃんを見て、誤解が解けたのは嬉しいんだけど、まだ俺の方に疑問が残っており良いタイミングだったから聞いてみる事にした。

 

先程、チラチラとまるで顔色を伺う様にしていたのは何故なのか?と聞いてみれば、この買い出しの手伝いを頼んだ時、俺に怒られると思っていたが蓋を開けてみれば何も言及されず困惑してしまったらしい。

そんな生真面目な妖夢ちゃんは何故俺が怒らなかったかを真剣に考え、出した結論は。

 

「その、呆れられてしまったのかと」

 

もうね、絶句ですよ。優しい考えの持ち主にしかその思考には至らないし……というかそもそも悪いのは誰かって話になったら妖夢ちゃんは悪くない。……まぁ、幽々子さんも悪いかと聞かれたら原因に当たるだろうけども、お腹が空いてしまうのはしょうがないし、また買いに行けば済むと俺は思ったのだがここで少し勘違いが発生してしまった。

 

俺の視点ではどこから見ても幽々子さんに押し倒されていた俺を目撃してしまった妖夢ちゃんが居たたまれなくなっており、それで話しかけづらくなっていたと思っていた。(それと俺の思考の深め過ぎ(痛々しい被害妄想)ではあるが、幽々子さんを誑かしたと妖夢ちゃんに嫌われたんじゃないか?とかも思ってたり)

 

一方、妖夢ちゃんの視点では、あの時の幽々子さんからの揶揄いについては妖夢ちゃんの事を呆れている(と思っている)俺へどうにかして謝ろうと考えていて、俺の方しか見ていなかったらしい。……"妖夢は一点を見たらそこ以外は気が回らないのよ"と幽々子さんが言ってたけど成る程ガッテンだ。

 

と、そんな訳で……勘違いした俺のハイテンションに困惑しつつも一緒に飛び出してきた妖夢ちゃんはいつ謝ろうかとタイミングを図っていたのが先程までの行動の理由で、見事な勘違いとすれ違いだった。

 

お互いに言い分を並べてみれば直ぐに解けたのは不幸中の幸いってやつだ。

 

「……とは言え、ご迷惑をお掛けしたのは事実です。本当にすみません」

 

そう言われてすぐに俺も否定しようとしたがこのパターンは先程みたいにお互い謝り合戦になってしまうのは明白。そういう訳で取り敢えずその謝罪を受け取る事に。

 

「あー、うん。本当に気にしてないからさ、妖夢ちゃんも気にしないで。それより早く行かないとそろそろ本当に降り出しそうだから」

 

そう言って上を指差せば妖夢ちゃんもそのまま顔を上げて、"あ"と声を漏らしていた。空は先程よりも黒く厚い雲が増え始め、風も強くなり出していた。そんな空を見て少し焦り出す妖夢ちゃんにやっぱり一つの物に気を取られると他に気付かないんだ、と少し笑ってしまう。

 

「急ぎましょうか。……なんで笑ってるんですか?」

 

おっと失敬と誤魔化しつつ、そのままスピードを上げれば訝しげな顔をしつつも、それ以上詮索せず着いて来てくれ、そのまま人里の方へ。

やはりというか予期していたがもう里の方は店を畳み始めており、バリケードの様な木板を立てている辺りに時代を感じつつも何とか、常連というツテを使って妖夢ちゃんと二人で買い回る。量が量で店閉めを始めている里の住民からすれば俺は厄介な客のはずたが、お店の人たちは嫌な顔せず売ってくれる所に暖かさを感じる。

 

ここに来るまでに妖夢ちゃんと打ち合わせをしたのは正解らしく昨日よりもかなり早く買い物が終わり人里の門の前で合流できた。

 

「うわぁやっぱり凄い量だね……」

 

「数日分の買い溜めですからね、一応昨日より少し多めに買ってますし持つと思います」

 

そう言って食材が大量に入った手提げ袋を持った両手上げる妖夢ちゃんだが若干手がプルプル震えている辺り重いのだろう。男の俺でもかなり重いし。

 

「てか、これを1日で平らげた幽々子さんってやっぱり凄いな」

 

「それは、えっと……あはは……」

 

まぁフォロー出来ないよね。と買い物が終わり安心して雑談していると何か冷たい物が頬に当たり、何だろうか?と手で確認してみれば水滴だった。ん?と空を見上げてみれば……一滴また一滴と、秒読みでどんどん強さを増していく様に雨が降り出した。

 

「うわ、こりゃ不味い」

 

「ですね、急いで帰りましょう」

 

濡れたらまずいものは予め袋を被せてはいるが急いで帰らないずぶ濡れで風邪を引くかも知れないとすぐさま飛び立つ。

 

飛び始めて数分でかなり大粒の雨が前方から弾のように降り注ぎどんどんと体温を奪って行く。更には視界も悪く凄く飛び辛い。

 

……雨の中での飛行は経験あったが、ここまで強い風と雨水の中はかなりしんどいなぁ。

 

(というか雨が降るの分かってたんだから傘くらい持ってくれば良かったのに)

 

…………。

 

(何その顔。え、まさかとは思うけど思いつかなかったとかじゃないよね?)

 

い、いやはやそんな文明の利器に頼るなんて貧弱者の考えですから。

 

(それで半霊が風邪引いたらキミのせいだからね。行きに急かして傘の準備もさせなかったのは誰か手を胸に置いて考えなさい)

 

……………。

 

チラリと横を見れば雨に打たれ、少し寒そうにして手に吐息をかけている少女が一人。

 

あの……無銘さん?俺どうしたらいいっすかね?

 

(誠心誠意込めて、その子の傘代わりになれば良いんじゃないかな)

 

うす。

 

少しスピードを上げて丁度妖夢ちゃんの前に重なる用に飛べばあら不思議と簡易バリアの完成さ!とドヤ顔しているとやっぱり後ろの妖夢ちゃんから待ったの声がかかる。

 

「俺は平気だから。そもそもの原因は俺だし、何より妖夢ちゃんが風邪引くと西行寺家が食糧難になるから」

 

「でも身体の頑丈さなら純粋な人間の信さんよりも私の方が……」

 

そう言って自分が前になると言われるがそれは二つの理由がありNGなのだ。

 

「ダメだって。そもそも種族の前に妖夢ちゃんは女の子で俺は男なんだからさ、それに妖夢ちゃんが前を飛ぶと俺は色々な意味で死ぬ」

 

主に社会的な意味と後からその事実を知るであろう人……妖怪達によって。

 

「?」

 

「冷静に考えてみて、俺の前を妖夢ちゃんが飛ぶんだよ?」

 

「は、はい」

 

それがどうしたのだろうと言った表情で頭を傾げる妖夢ちゃんなのだが、気付いてくれないと男の俺はとても言いにくい事なんだよ……。どうにかこうにか遠回しに伝えてみることに。

 

「そうすると、どうなるかは妖夢ちゃんの服装をよく考えてみて」

 

へ?と自身の服装を確認し始める妖夢ちゃんに"伝われ……伝われ……"と必死に念を送っておく。

 

「私の服ですか?……?………っ」

 

あ、頬が少し赤くなってるし恥ずかしそうな顔しながら自分の服と俺の顔を見比べているし、気付いてくれた様だ。

 

「分かったかな。ならこのままでいいよね?」

 

俺が少し苦笑い気味にそういうとまるで蚊が鳴く様な位小さな声で

 

「…………はぃ」

 

と同意が貰えた。……まぁその、妖夢ちゃんも女の子だしね、スカートのまま男の前を飛ぶ勇気は無いのだろう。

 

(随分と紳士的だね?シンなら黙って覗くと思ったよ)

 

バカ言うな。いくら俺でもこんな素直で良い子を騙す様なマネとか出来ないわ。

 

(ふーん?その割に"赤面に上目遣いとかあざといなー"って考えてみたいだけど)

 

思う位!思う位は許してよ!!

 

(まぁいいけどさ。キミって意外と見境なしだよね。あの巫女やらメイドに吸血鬼に加えて半霊とは業が深すぎない?)

 

バッカお前、可愛い女の子を可愛いって見れなくなったらお終いだろ!?青春は人生一度きり、楽しんだもん勝ちだろ。

 

(そのくせにヘタレでマヌケだからモテないんだよ)

 

ぐふっ……

 

(しかもあの亡霊といいスキマといい、揶揄われてるだけなのに、悦びを覚え始めてる辺りキミって相当なマゾヒ)

 

そこまでだッ!それ以上は俺の精神的ライフポイントがゼロになるから!そうなったら思いっきり泣くからな?もう17になる男が鼻水垂らして思い切り声あげて泣くからね?

 

(うわ、鬱陶しそう。……ん?それって結局シンが恥かいてお終いじゃん)

 

いーや?そんなダメ人間が主人の刀というレッテルを貼られるのは誰だろうね?

 

(…………くっ)

 

とバカなやり取りをしていると気付けばあの階段の前に到着。ここからは冥界という別の世界の入り口だからかとても静かで雨な風なんて物はこれっぽっちも存在せず、先程までの嵐が嘘の様だ。一旦、石造りの階段の上に降り立つとビシャと水が落ちると音と共に身体が水によってかなり重い事に気付く。

 

うわ、服が雨水吸いまくってるから腕を上げるのも辛い。

 

試しに服の裾を手で纏めて絞って見れば物の見事に水が溢れ出てくる。横でも妖夢ちゃんがスカート裾を絞り水を出していたーーー

 

「お互い雨でびしょびしょになっちゃいましたね。……なんで顔を急に背けるんですか?」

 

先程まで雨に気を取られ、急いで帰る事に集中していて気付かなかったが……その、雨によって妖夢ちゃんはずぶ濡れでいつも着ている服は水でくっ付いてる上に透けてて、青少年には非常に刺激が強すぎる格好に仕上がっていた。

 

張り付いた服でしかもすけすけで普段より肌色率高め、疲れからか少しくったりとした表情。

更には雨で濡れた銀色よりの白髪が顔にかかり、髪先から落ちる一雫すらとても色っぽくて、そんな妖夢ちゃんが何時より魅力的で、何処か大人っぽくって……ついトキメいてしまった俺だが、何とかその理由を伝えようと上手く回らない口を動かす。

 

「いや……その、ね?……ふ、服がですね……」

 

「服?……、……っ!?」

 

背後で焦る様な動きをした気配を察するに多分気付いてはくれたのだろう。……ってそれより言い訳しなきゃと口を開く。

 

「見てない!見てないから!」

 

「は、はい!」

 

そう返事をして貰えたがそれからシーンと間が空いてしまい、何とも話しかけ辛い空気感の中、妖夢ちゃんの方が口を開いてくれた。

 

「もう大丈夫です、振り向いても」

 

そう言われ、少し遠慮気味に振り向いてみれば先程よりも服はかなり乾いてはいるがまだ湿っており、何よりまだ濡れた髪や顔に色っぽさを感じてまともに顔を見れない。

 

な、何だこれ?びっくりするぐらいドキドキしてるんですけど。

 

「ご、ごめん。もっと気が利いた言い回しが出来たら良かったんだけど」

 

「いえ、十分紳士的でしたよ。それに……」

 

ほんの少しだけ、影のかかった様な……複雑そうな笑みを浮かべた妖夢ちゃんが言った言葉は。

 

「私の身体はまだ幼い少女の物ですし、殿方の信さんからすれば魅力も無く見苦しいだけでしょう」

 

なんというか……そのセリフは、その言葉は絶対に女の子に言わせちゃ言けない物の様な気がして、柄にも無く俺はーー

 

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさい、2人とも見事にびしょ濡れねぇ。……あら、妖夢は凄い顔赤いじゃない?風邪でも引いちゃったのかしら」

 

「ぃえ、その……お風呂、入ってきます……」

 

そう言って少しフラつきながらお風呂の方へと向かう妖夢ちゃんを見て余計に罪悪感が増して行く。………絶対セクハラだと思われた、というかセクハラだよね、あれは……もう本当に……

 

「何であんな事口走った俺はぁぁぁぁ!!!!」

 

ダンッ!と膝から崩れ落ちながら手を床に叩きつける。目の前にいた幽々子さんはそんな俺を一瞬驚いた顔で見た後凄くいい笑顔で質問責めにしてくる。

 

「ふふ、何々?何があったの?」

 

「うぅ……違うんですぅ……ほんの少しだけ調子に乗ってたというか……」

 

「あらあら本当に泣いてるのね?よしよし」

 

幽々子さんは優しいなぁ……

 

「取り敢えず荷物だけ置いてらっしゃいな。お風呂は妖夢が使ってるからタオルで頭は拭いてね」

 

「はい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

ぶくぶくと自身の吐いた二酸化炭素が泡となり目の前の湯から出て行くの眺めながらぼーっとしてしまう。

 

「ふぅ……」

 

息を吐き、ゆっくりと腕や脚を伸ばし、少し溜まっていた疲れをほぐしながら雨によって冷やした身体を温めていく。何とも不思議なもので、お風呂と言うのはどんな時でもリラックスさせてくれる。

 

ほんの少しだけ調子も戻って来て、漸く落ち着いた中で広間から聞こえてくるのは幽々子様と信さんの声。どうやらまた幽々子様に揶揄れている様で時折、信さんの悲痛な叫び声がここまで聞こえてくる。

 

「ふふ……」

 

少し申し訳ないと思いつつもそんな信さんの声に吹き出してしまう。

 

本当に不思議な方だなぁとしみじみ思いながら思い出すのは初めて会った時の事。

私が普段通りに夕食の買い物をしていた時の事だ。何時もならば気にしないであろう人々の中で普通とは少しだけ違う物、この世界の人間が持つには珍しい武器の類、即ち刀を携えた男性が二本の大根を見比べて唸っていたのだ。何とも間抜けな光景だったのだが、まだ18にも満たないであろう青年が刀を携えているのが何だか気になり目で追っていた私はつい声をかけてしまった。……今思えば私は同じ剣士なら刀について語り合えるとかもと期待していたのかもしれない。

 

キッカケは単純でこんなものだったけれど、気付けば人里で会う度に雑談をするくらいには仲は深まったし私自身も結構楽しんでいた、うん。

 

けど、一つだけ勘違いしている事があって信さんは私の事を普通の人間だと思っているようだった。私は特に気してはない……けれど信さんは自分よりも歳下と思っているのか(私の見た目が幼いと理解はしてるけど少し複雑だったりする)事あるごとに親切にしてくれていた。

 

勿論、下心が無いのは見ていて分かったし、彼自身がかなりお人好しの類に含まれる人なのをそれまでの会合で知り得ていた所為か、お節介だなーとかそう言う不快感も無く、ただ有難いなと思っていた。

 

……それに何だか信さんの立ち回りや空気感、私への接し方が何処か妹の様な扱いな気がして、それも何処か気に入ってたのかもしれないと今更ながら思ったり。

 

そんな人がまさか紫様の言っていた方で、しかも外来人でと驚く事ばかりの数日だったが、朝の鍛錬に付き合ってもらったり趣味の話に付き合ってもらったり、炊事の手伝いまでしてもらったりと凄く助かっていた。それに何より

 

「楽しい、って思ってるんですよね」

 

自然と口から出てしまった言葉に少し驚きつつも納得している自分がいた。何だか今まで居なかった兄妹の様な繋がりが増えたようで、それでいて刀で通ずる仲間が出来たようで何とも不思議なものだった。

 

だからこそ最初は躊躇っていたが段々と信さんの好意に甘えてしまう様になって、今日も元々1人で買い物に行くつもりだったのだが、怒られるという恐怖よりも一緒に行きたいという感情が勝ってしまい、責められるの覚悟で声を掛けてみればあの反応。

 

あの時は凄く驚いて、どう謝ろうかとずっと考えいたが、蓋を開けてみれば只の勘違いと安心はしたが内心、ちょっぴりだけ勘違いさせる反応した信さんを恨めしく思ってしまった。

 

そんな事もありつつ、人里ではサクサクと必要な物品を購入しいざ帰ろうと言ったときに恐れていた事、雨が降り出してしまった。

この季節の中の雨はかなり辛く、身体は頑丈と言ってもやはり打たれる雨に体温は奪われ、吹く風は追い討ちのごとく吹いてくる。

 

そんな中ふと雨が弱まった?と前を見てみれば私を守るように先導してくれる信さんの背中が目に入った。勿論すぐに必要ないし寧ろ私が前に行くと言ったのだが、私の服装がスカートだと指摘されて……その、折れてしまった。幾ら気心の許せる相手とは言え男性相手に堂々と下着を晒す勇気は無かった。

 

その言葉につい動揺してしまうがそれと同時に女の子扱いされたのは、ほんの少しだけ嬉しく思ってしまう自分が居たのも、また動揺してしまった一因だろう。

 

「と言うか……そんな男性今まで居なかったし……」

 

だって私のこと見る度にお嬢ちゃんだとか、まるで孫を見る目だったりとかそんな物ばかりだったし、何よりそんな成長の遅い自分の身体に少しばかり苦く思ったことが無いかと問われれば……その、私も剣士ではありますけど女ですし……。

 

………そんな事がありつつも白玉楼に続く階段へと着き、一安心しながら信さんと話していると突然、身体ごと私がいる方とは反対に振り向いてしまった。そのことを疑問に思った私でしたが、信さんの指摘につい顔を赤らめてしまう。

 

自身の格好を客観的に見てみればその……痴女の様な格好と言いますか、かなり透けていてつい身体を庇ってしまったのはしょうがないと思う。とは言え、信さんは直ぐに見ないように気を遣ってくれたのは嬉しかったし、こんな未成熟な身体を持つ私でも女の子扱いしてくれる事にやはり嬉しくおもってしまうが、やはり殿方からしてみれば魅力的な肉体とは言えないだろうし、見苦しいだけと思う自分がいてつい、そんな事を口走ってしまう。

 

そんな私に少しだけ怒った様に、それでいて顔を赤らめて少し恥ずかしそうに彼が言ったのは……

 

『もし妖夢ちゃんの言う通りならこんなに胸が高鳴ってる俺は何なのさ?』

 

そう言って私の手を取り信さんの心臓の位置へと移されると、早くそれでいて凄く大きな心臓の鼓動が私の手を伝って聞こえてきた。そのまま信さんは私の顔を見て

 

『これが答えだし、言葉よりよっぽど信用できるだろ?少なくとも俺にとっては妖夢ちゃんはとても魅力的な女の子だよ』

 

なんて言われて頭の回転が止まってしまった。けど、その言葉の意味を理解しようと必死に動かしてみれば、それはその……私としてもとても嬉しい言葉で。

 

……でもそれ以上に顔から火が出るかと思うほど恥ずかしくて、残り半分も死んじゃうかもってくらい心臓が高鳴って、つい叫んだのは。

 

『ごめんなさい!!!』

 

「はぁ……」

 

あの時はテンパってたし、何よりそれが最善だとショート寸前の頭が導き出した答えだったからしょうがないと割り切りたいけども。

 

流石に動揺し過ぎな自分に情けなくなるし、この後どう信さんと接したらいいかとひたすら考えている。心の中をぐちゃぐちゃにされた筈なのに何処か安心して、嬉しいと思っていて……本当に何なんだろうか?これ。

 

少しため息を吐きつつ、まだ動揺している自分がいるのを確認してまだお風呂から上がれないと結論付けつつ、この後どう彼と接するかだけを考えていた。

 

 

 

 

 

 

「ぶぇっくしょん!!!……なんか寒気してきたんですけど」

 

「妖夢、珍しく長風呂ねぇ。……本当に何かあったのかしら?」

 

(知らぬは本人ばかり、かな)

 

何の話さ?

 

(馬鹿の話だよ)

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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28話 勘違いの怖さって異常だよね。

今回までで一旦ラブコメタイム終了です。
一応前回と今回で妖夢ルートへの導入みたいなものも含まれていますので、続きは妖夢ルートにてお楽しみください!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「……………」

 

「…………あ、それ」

 

「あ、うん……」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「お、おう」

 

「…………」

 

「……(びっくりするぐらい目を合わせてくれないんですけど)」

 

(そりゃセクハラ野郎と2人きりとか半霊からしたら最悪じゃん)

 

「(オブラートに包むってわかる?)」

 

(知らない)

 

「信さん、あのお鍋が」

 

「へ?うわ!吹き出してるし!」

 

「あはは……」

 

「(苦笑い、凄い苦笑いされてます無銘先生……!)」

 

(苦くても笑いは笑いだよ、良かったね)

 

「(良かねぇわ!)」

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

前回までのあらすじ。

妖夢ちゃんに(多分)嫌われた。

 

(いや、確実にじゃないの?)

 

やめて!少しでも希望を見出したいの!

 

(さっきまでの反応を思い出しても同じ事言えるの?)

 

うぐ……。

 

夕食後、ここ白玉楼で自室として借りている客室の机の上で1人で唸りながら思い出すのは謝ろうとする俺と買い出し後の妖夢ちゃんとの出来事の数々ーー

 

 

 

 

・パターン1《お風呂上がりのタイミングで謝ろう!》

 

(お風呂場の扉の前でスタンバるのは中々どうして勇気があるねキミも)

 

なに言っての、俺もお風呂入るから偶然を装って自然と顔を合わせれば勢いで謝れるって!

 

(その時点で意気地なし。というか半霊も風呂上がりなのにそこでキミと顔を合わせたら)

 

「ぁ……」

 

「よ、妖夢ちゃん!偶然だね!そ、それで何だけど、さっきはーー」

 

「す、すみません!私やる事がありますので!」

 

「ごめ………あれ?」

 

(ピューンって音がでるんじゃないかってくらい見事な勢いで逃げられたね)

 

ま、まだだ……まだ終わらんよ!

 

 

・パターン2 《さり気なく片付けの手伝いをしてタイミング良く謝ろう!》

 

完璧だ、自分の才能に震えるぜ……。

 

(ないから。あるとしても謝る事の才能とか情けないと思わないのかキミは)

 

ええい煩い!それよりほら、さっき買ってきた大量の食材を片付けてる妖夢ちゃん発見!明らかに1人だと大変そうだしナチュラルに手伝ってそのまま勢いだ!

 

(……まぁ、頑張って)

 

おう。信、行きまーす!そーっと近づいて……今だ!

 

「手伝おうか?」

 

「……!お、お願いします。わ、私はこっちを倉庫に入れてきます!」

 

ピューン。

 

「はいよー。………あれ?」

 

(ここまで見事に失敗すると逆に清々しいね)

 

 

・パターン3 《なりふり構わず謝ろう!》

 

(プラン少な過ぎじゃない?と言うかコレに関しては作戦でもなんでもないじゃん)

 

シャラップ!もうなにも思いつかないの!料理してる時もビックリするぐらい顔背けてたし、なんならその時も俺がやらかして余計に気まずくなったし!!

 

(全部自業自得なんだよなぁ。鍋の火くらいちゃんと見ときなよ)

 

けどそんな中で俺は考えました。なぜ失敗するのか、と。

 

(発想者の頭が残念すぎるからでしょ)

 

今までの俺は空気を読む、タイミング見計らうと言ったKY(空気読めない)を嫌ってたから。

逆に考えるんだ、なりふり構わず謝っちゃえばいいさと。

 

(だんだん面倒になってきた……)

 

しゃあ、行くぞオラ!

 

「妖夢ちゃん!」

 

「!?」

 

「君に言いたい事があるだ!」

 

「え!?え!?」

 

「とっても大事な事なんだけどーー」

 

「ごめんなさいぃー!!」

 

「さっきはごめ……ん?」

 

(天丼って知ってるかい?)

 

 

 

 

ーーと、そんな感じの事があと2、3回ほど続いた感じでもうアイディアが無く、泣く泣く部屋に戻ってきたと言う訳だ。

 

ぐぬぬ……どうしよう、マジで何にも思いつかない……!

 

(そもそもの話だけどさ、謝罪したいなら言葉以外の方法もあるよね)

 

へ?どう言う事?

 

(だから向こうが顔を合わせ辛いってなってるんだから別に直接言わずに手紙とかでいいんじゃないの?)

 

………………。

 

(ビックリするぐらいの阿呆面ありがとう。それだけで思いつかなかったって言うのがわかったよ)

 

待ってせめて言い訳させて?

 

(そんな事より謝罪文を書く。女の子にセクハラしたとか最低だよ?)

 

「せせせセクハラちゃうわ!!」

 

「あら、気になる単語ね?」

 

「アレは偶々そういうラブコメ漫画読んでてこんなシチュあったし、何とかなるって思ってしまってですね?何というかアレしか思い浮かばなかったし、少しやって見たいという男なら誰しも思う憧れが………?」

 

ーー待て、待つんだ俺。

 

咄嗟に叫んじゃったけど今の今まで無銘と会話……というか念話みたいなものしかして無かったはずなのに、途中から知らない人の声(知らないフリをしたい相手の声)が混ざっていたような……?

 

ギリギリと錆びた機械のように上手く回らない首を必死に曲げて見れば、其処には俺をこの場所へと誘った女性があの謎空間から上半身だけを出してニッコリと笑っていた。

 

「はぁい?ご機嫌よう、信」

 

「………どうも」

 

「随分と愉快な独り言ね?とても興味が惹かれるわ」

 

落ち着け俺、クールになれ。紫さんが咲夜さん以上に神出鬼没なのは今に始まった事じゃないし、最初から見られていたとは限らない。まだ言い訳のしようがあるはず……!

 

「……あの、どの辺りから?」

 

「10分前くらいから1人で唸って突然叫び出す所までは見てたわ」

 

「最初からじゃないですか!」

 

「ええ、その通り。だからさっさとゲロっちゃいなさいな」

 

……本当、今日はついてないな俺。

 

酷く楽しそうな顔をした紫さんを見て、もう逃げ切れないと諦めの境地に達した俺は聞かれるがままに全てを話した(ゲロった)

 

妖夢ちゃんと買い物に行き、その帰りにあった事や、その時に俺が言った言葉と行動。

それから妖夢ちゃんが顔を合わせてくれず、どうにかして自分の思いを伝えたい(セクハラ紛いについて謝罪したい)くて奮闘していた事など全て。

 

「ーーという訳でして……恥ずかしながら今の現状に至ってる所存です、はい」

 

「ぅくく……ちょ、ちょっとまってね……ふ、ふふ……」

 

そう言って扇子を開き顔を隠してますけど、耳まで真っ赤にしてる上に肩まで震わせて爆笑してるの分かってますからね?

 

「本当にもう……ふふ、私の事を飽きさせないわ貴方は。それで何回も妖夢に突撃してのね」

 

「はい、その通りです。………?」

 

アレ?"何回も突撃してたのね"ってまるで見てたかの様な物言いじゃないですか?

 

「突然、大声をあげて妖夢の気を引こうとしてる時とか隠れてたのに声をあげて笑いそうになったわよ」

 

「完っっっ全に見てたんじゃないですか!!」

 

「偶々よ?偶々。……さて、それは一旦置いておくとして」

 

待って、置いとかないで。聞きたいこと沢山あるんですよ、主にどこら辺からどこまで見てたのかとか!

 

「信、これからどうするつもりなの?あの様子じゃ直接、貴方の想いを伝えるのはムリそうよ?」

 

紫さんの雰囲気が先程までの揶揄う感じから一転、真剣な様子になり少し驚いてしまう。

 

「そ、その手紙に綴ろうかと」

 

「意外と考えてるのね。けど、それでいいのかしら」

 

「へ?」

 

少し鋭い目をされてドキリとしてしまう。なんだ?そんなに不味い事なのだろうか?

 

「そう言う大事な言葉は直接伝えるべきではなくて?」

 

「 た、確かに」

 

「私としても、まさかこんな形になるとは思わなかったけど、妖夢も女の子なの。だからちゃんと男らしく伝えなさい」

 

ん?妖夢ちゃんが女の子だからセクハラは不味いというのは分かるだけど、男らしくと言う部分になんか違和感が。

 

「あ、あの紫さん?」

 

「まさか信が妖夢をねー、意外だったわ。てっきり霊夢辺りと……なんて思ってたのよ。あの子、今後ちゃんと炊事出来るのかしら」

 

なんだ?凄い食い違いが発生してる気がするだけど。

 

「それで妖夢と2人きりにしてあげれば良いのよね?任せなさい、パパッと閉じ込めちゃうから気合入れなさいな」

 

「え?えっとそれは有難いんですけど、あの」

 

何か勘違いしてませんか?と俺が言う前にスキマに引っ込み、そのまま消えてしまう。

 

あれー?なんか凄く取り返しのつかない勘違いをさせたままな気がするんだけども。

 

(あのね、あんな説明だと誰でも勘違いするでしょ。真剣な顔で"妖夢ちゃんに伝えなきゃいけないんです"とか)

 

いや、謝んなきゃいけないでしょ。

 

(……………もう私、しーらない)

 

おやすみと引っ込んでしまった無銘。あれ?と気付けば部屋の座布団の上に1人になってしまった訳だが……どうしようと何となく顔を上げると。

 

ゲームとかなら"ブワーン"とでも鳴りそうな効果音と共にいつも紫さんが現れる謎空間のスキマがぱっかりと開き、内心また来たの?と思ったのだが、そこから現れた……というか落ちて来たのは何時ものスキマ妖怪では無く。

 

「きゃぁ!?」

 

「うわぁ!?」

 

ドタンっ!と落ちて来た何かに押し潰されてしまい、"何事!?"と驚きながらも何が起きたかを確認しようとして顔を上げてみれば其処には。

 

「………」

 

寝る前だったのか、いつも身につけている黒いリボンを外し服装は軽く動きやすそうな格好の妖夢ちゃんとバッチリ目が合う。……と言うか俺の身体の上に重なるように乗っているのが現状で、見る見るうちに顔が真っ赤になっていく。

 

うん、分かるよ凄い恥ずかしいよね、この体勢。しかも避けてる俺相手とか辛いよなぁと俺も内心は冷静になって解説してはいるが、外側の俺はと言うと大パニックで今にも叫びそうです。

 

しかし、ここで下手に刺激しては不味いとまだショックで固まっている妖夢ちゃんに出来るだけ優しく声をかけてみる。

 

「あ、あの?」

 

あまり大きな声を出さないようにしたつもりだったのだが、固まったままだった妖夢ちゃんが俺の声を聞いた瞬間にハッとした顔になる。

 

「す、すすすすみません!!」

 

そう言って飛び起きるように俺の上から退いて、すぐに部屋から出て行こうとする妖夢ちゃんなのだが。

 

「え、あれ?」

 

襖を横に引くが何かに塞がれている用にガタガタと震えるだけで全く開かない。

いや……うん、スキマの時点で誰が犯人なのかは分かってるんだけど、逃げない様にするって物理的に閉じ込める事を言ってたんですね紫さん……。

 

俺がそんな事を考えている間も諦めずに、開けようと必死に襖を引っ張っている妖夢ちゃんに声をかけてみれば、ビクン!と肩が震えて恐る恐ると言った感じではあるが振り返ってくれる。例えるなら怯えた猫?……やめよう俺も凹んでくる。

 

「取り敢えず何があったか教えてくれない?スキマから出てきたのを見るに紫さんが絡んでるのは分かってるんだけど」

 

「ぁ、はい……」

 

部屋にある座布団を引けば少し遠慮気味ではあるが座ってくれた。……目は逸らされてるけどね!

 

「その、紫様が突然現れて……色々と話された後スキマの方に飲み込まれて、気付けばここに……」

 

知ってた。

 

別に叱ってる訳では無いはずなのに時折、俺の顔をチラチラと見ながら小さな声で説明されるとさっきの事に加えて、心当たりのない筈の罪悪感まで芽生えてくるんですが。

折れそうな心をなんとか保ちつつ質問を続けてみる。

 

「その色々って言うのは……?」

 

「大事なお話が信さんからあると言われて……私も詳しくは聞いていなかったのですが、行けば分かると言われてそのままここに落とされました」

 

紫さんなりに気を遣ってくれたんだろうけど、それだと何を言われるか逆に不安になるんじゃないのだろうか。

 

とは言えこのキッカケをくれたのは感謝するし、今なら妖夢ちゃんも落ち着いてるから話を切り出すにはもってこいだろう。

 

「大事な話……うん、間違ってないかな」

 

「それは一体……?」

 

「今日の事なんだけどさ、買い物が終わって階段前に着いた時の話」

 

「……え?……えっ!?」

 

罪悪感に蝕まれながら話の発端を切り出すと疑問に満ちた顔をしていた妖夢ちゃんの顔が赤くなり焦り出す。

あれ?思っていた反応と違う……てっきり蔑みと軽蔑の目で見られると思ってたんだけどもな。

 

「ま、待って下さい!大事なお話というのはまさか、その……?」

 

「うん、色々考えたけどちゃんと伝えたくてさ。今日も何回も言おうと思ってたんだけどタイミングが合わなくってさ」

 

びっくりするぐらい逃げられちゃったし。というか妖夢ちゃんは何でそんな目をぐるぐるさせてるの?

 

「そんな、まさか……でも紫様が言ってた"貴女にとっても大事な事よ"って……えぇ!?」

 

何やらブツブツ言ってアワアワしてるし、この子ってこんなに愉快な子だっけ?……まぁいいか。

 

「それで偶々、相談に乗ってくれた紫さんが気を利かせてくれて妖夢ちゃんを連れて来てくれたみたいなんだけど……ごめんね、あんなに強引なやり方とは思わなかったんだ」

 

「だだだ大丈夫れす!!私は気にしてませんから!」

 

大丈夫れすって……なんか挙動不審?

 

「それなら良かった。じゃ、早速本題なんだけど」

 

「ちょ、ちょっとだけ待って下さい!心の準備を!」

 

ばっと手を出してストップのポーズをされてしまう。心の準備って寧ろ俺がするんじゃないのか?何故に妖夢ちゃんに必要なんだろうと必死に深呼吸しながら、また目をぐるぐると混乱状態の様にさせているのを眺めつつ待っていると、これから主人の敵討ちでもするかの様な顔をした妖夢ちゃんがぴっしりと正座を直しつつ、まだ少し赤い顔のまま口を開く。

 

「お待たせ致しました。この魂魄妖夢、全身全霊を持って受け止めさせて頂きます……!」

 

あっれー?俺って今から妖夢ちゃんと決闘でもするんだっけ?……いやいや、落ち着け。俺はちゃんと謝って許して貰うんだろ?しっかりと謝罪して元通りになりたいんなら誠心誠意を見せなければ。

 

「そ、それじゃその……さっきの事についてなんだけど」

 

「………っ」

 

正座を正し、手を畳へとつけ思い切り頭を下げて叫ぶ。

 

「セクハラしてすみませんでしたぁ!!」

 

「はいっ!………はい?」

 

「出来心と言いますか!あの時はあれ以外に妖夢ちゃんを慰める方法が思いつかなかったんです!」

 

ずっと纏めていた言葉を頭を下げたまま、一気に口にしていく。……分かってたけど言葉にするとやっぱりセクハラだよね。何で俺は手を握った上に自分の胸を触らせたりしたんだろうか?こんな行動完全に調子乗ってるラブコメ主人公じゃないか。

 

「……………」

 

「…………?」

 

あ、あれ?何も反応がない?ぶっちゃけ、ふざけないでください!とか責任取って腹を切れ!とか言われると思ってたんだけども。なんて考えていると何処か困惑した、と言うか呆れたような声で妖夢ちゃんに聞かれる。

 

「あ、あの信さん?大事な話と言うのはそれですか?」

 

恐る恐る顔を上げてみるとそこには、気のせいか少しだけジト目をしている妖夢ちゃんがおったそうな。

 

「う、うん」

 

「………まず、最初に申しておきますと、別に私は怒ってませんよ」

 

え、そうなの?

 

「で、でも顔も合わせてくれなかったよね?それに会話もすぐ切って逃げちゃうし」

 

「それに関しては、その……男性からあのような言葉を貰ったのは初めてでしたから私も恥ずかしくて、顔を合わせ辛かったと言いますか……そこは空気読んでください!」

 

「理不尽!?」

 

急に声を上げて怒り出した妖夢ちゃんにビックリしながらも正座を崩すなと怒られて、瞬足で正座をし直す。

 

「あ、あの、何をそんなに怒ってらっしゃるのですか?」

 

「別に怒ってません!ただ、少し……そう、ほんの少しだけ期待してしまった自分に腹が立っているのです!」

 

「期待ってなんの……?と言うかそれってやっぱり怒ってるんじゃ」

 

「はい?」

 

「何でもないですすみません!!」

 

ーー俺から言える事は普段怒らない子が怒るとメチャクチャ怖い、それだけだ。その後、妖夢ちゃんから色々と怒られ続けたのだが突然、溜息と共に意気消沈し出した。

 

「全く、もう……変に意識してた私が馬鹿みたいじゃないですか……」

 

「えっと?」

 

「自意識過剰と言うか、本当にらしくない……」

 

自己嫌悪をです……と呟き、急に落ち込み出しちゃったんですけど、俺どうすればいいの?……確かこう言う時は取り敢えずポジティブな励ましをするのが良いって中学の時の先生が言ってたような?

 

「だ、大丈夫だよ!勘違いとか良くある事さ!」

 

「……それを今信さんに言われると少し腹が立ちます」

 

「えぇ……」

 

「どうせ信さんは私以外の女性にも日頃からあんな事ばっかりしてるに決まってます、きっとそうです」

 

日頃から明るい子とかがネガ入ると励ますのに骨が折れると聞くけど、妖夢ちゃんもそのタイプなのね。……ってか最後のは聞き逃せないんだけど、俺ってそんなにナンパ野郎に見えてたの?

何となく妖夢ちゃんにそう言う奴だと思われるのが嫌で、体育座りに顔を埋めてまだ落ち込んでいる彼女に話しかける。

 

「あのさ、俺別に誰にでもあんな事しないし言わないよ?」

 

そう言うと少しだけ顔を上げてくれるがそこから見える表情はジト目と"私疑ってます"と見ただけで分かる表情をしていた。

そんな妖夢ちゃんが聞いてきたのは俺からすれば何ともよく分からない質問。

 

「……なら、どんな相手にはあんな恥ずかしい事言うですか」

 

どんな相手かって……うーん。

 

「そりゃ……そう思った相手だけだよ。と言うか前提として俺自身、かなり恥ずかしがり屋だから素面であんなの二度と言えないよ」

 

※酒が入っている時は知らない。

 

俺がそう言うと疑心的な顔だった妖夢ちゃんの目が少し見開き、心なしかなんだが嬉しそうな顔になった様な……?

 

「そ、そうなんですか。……でも何で私には言ってくれたんですか?」

 

う、やっぱり聞いてくるよね……だから言いたくなかったんだけど……。

 

「……恥ずかしいから言いたくないんだけど」

 

「む……なら言ってくれたら今日の事は水に流して上げます」

 

「そりゃ卑怯じゃないですかね……?」

 

「それだけ恥ずかしい事、私はされたんですよ?なら信さんも責任とって下さい」

 

責める様な目で、聞いた人によっては凄い誤解されそうな言い回しをしながら逃げ道を塞がれた俺にはもう話す以外の選択肢はなかった。

 

「…………分かった、話すよ」

 

「はい、お願いします」

 

思い出すのはあの時の何処か自信なさげに自分に女の子として魅力が無いと悲しそうに話す少女の姿。

 

「あの時の悲しそうな妖夢ちゃんの顔を見てたらさ、自然と身体が動いてたんだよ。

それに触って貰ったから分かると思うけど俺は本当にあの瞬間、妖夢ちゃんにドキドキしてたんだ」

 

どうだ、気持ち悪いだろう?と心に深刻なダメージを追いつつも要望通り包み隠さず話すと先程までの意気消沈とした顔から困惑した様な、心配した表情をしている事に気がつく。

 

「その、それはつまり信さんは私の様な未成熟な身体の方が好きという事でしょうか?」

 

「待って待ってその言い回しは誤解を生むから!」

 

「違うんですか……?」

 

ロリコンじゃないです!寧ろお姉さん系の方が趣味です!

 

「なら……その、私の何処に?」

 

何処にキュンと来たのかって事?えっと、なんと表現したらいいのだろうか。

 

「そうだなぁ……あの時の雨濡れた姿で、少し憂鬱気な表情をした妖夢ちゃんの横顔にときめいたと言うか、普段は頑張り屋な子がふと見せた一瞬の隙にーー」

 

「分かりました!分かりましたからそこまでにして下さい!」

 

「女の子としての魅力をふぐぅ!?」

 

顔を真っ赤にしながら自身が座っていた座布団を俺の顔に両手で押し付けてくる。

……って待って!?息できないから!

 

「そんな恥ずかしい事、真顔で言わないで下さい!」

 

「んぐぐぐ!?んー!!」

 

バタバタと抵抗するが、押し倒されて顔に座布団を押し当てられててまともに声も出せないし、そもそも力が強すぎて顔から引き剥がすことも出来ない……てかお腹の上に座り込まれて完全にマウント取られてる!?

 

「別にそこまで詳しく言って欲しい訳じゃなくて……」

 

「んー!んぐ、んんー!!」

 

「でもそういう風に言われるのは私としても嬉しいと言うか……」

 

「ん……んご……」

 

い、意識が……。

 

「だから信さんが私の事を気遣ってくれたのはとても嬉しいですし、私の事を………?え、あれ、信さん?」

 

「…………」

 

「信さーん!?」

 

その後、俺の異変に気付いてくれた妖夢ちゃんの適切な処置の元、何とか意識を取り戻した。

 

「座布団がトラウマになるとは思わなかったよ」

 

「本当にすみません……」

 

物の見事にさっきまでと立場逆転してるなぁ。

 

「あはは……大丈夫、大丈夫。それよりもう遅いし、部屋に戻った方がいいんじゃない?」

 

「え?……あ、本当だ」

 

気付けば実に2時間以上話していた訳で、もうすぐ外で言うところの23時に成りかけている。朝の鍛錬は5時過ぎから行うし早めに床に着かなければ寝坊してしまう。

 

「取り敢えず、明日からはもう大丈夫そうかな」

 

「はい、今日は色々すみませんでした。また朝の鍛錬で」

 

「うん、お休み」

 

「はい、お休みなさい」

 

そう言って立ち上がる妖夢ちゃんを見送りつつ、布団を引く。何だか今日は凄く疲れたなぁ……とっとと寝てしまうとしようと思っていると何故かまだ部屋にとどまっていた妖夢ちゃんと目が合う。……なんか焦った顔してない?

 

「……あの、信さん」

 

「襖の前で固まってどうしたの?」

 

「……ないです」

 

「なんて?」

 

「襖、開かないです……」

 

なんて?

 

「えぇ……嘘でしょ紫さん……」

 

マジ?と俺も半信半疑で襖を引いたり押したりと試行錯誤してみたが文字通り鉄で出来てるんじゃないかと思うくらいビクともしなかった。

 

「なんでたろ、これ以上俺と妖夢ちゃんをここに閉じ込めておく必要無いと思うんだけど……」

 

「………あ」

 

明らかに何かを思い出した声だよね今の。

 

「……何その忘れてたって顔」

 

「いえその……色々と勘違いしていたのは私だけでは無かったと言うか……」

 

そう言って凄く言い辛そうにしてる妖夢ちゃんは多分原因を分かっているのだろう。

うん、取り敢えず。

 

「説明頼める?」

 

「はい……」

 

 

まずは妖夢ちゃんが言っていた勘違いについて。それは何とも少女らしいというか思春期というか……俺が勘違いさせる様なことを言ったのが原因なのだが、どうやら俺に口説かれていると思っていたらしく、ここに呼ばれた時、いやに緊張していたのはそういう男女の話は経験がなかったからどうしたらいいか分からなかったとの事。だからあんなに俺の事避けてたのね。

 

「それで、紫様が私と信さんをこの部屋に閉じ込めたのかと。……今思えば色々と怪しい発言もありましたし」

 

「うーん、そう言われてみれば俺が相談した時も、なんか話が時折ズレてた気はしてたんだけどそういう事だったのか」

 

「ここからは憶測も入るのですが、紫様なりに私たちに気を遣ってくれたと言いますか……まぁ、勘違いなのですが」

 

そう苦笑いする妖夢ちゃんをみて俺も苦笑いをしてしまう。変な所で気を使うというか……うん?でも紫さんなら寧ろ監視してそうだけどなぁ。

 

「その……申し上げにくい事なのですが、この時間は既に床についてらっしゃるかと」

 

「そういや紫さんびっくりするぐらい寝る人だったね……って事は多分」

 

「はい、途中までは見ていたと思います」

 

「それで寝落ちした、と」

 

コクリと頷く妖夢ちゃんについ天井を見上げてしまう。せめて襖の結界くらいは解いてから寝てくださいよ……。

 

それからどうにか脱出しようと試行錯誤したのだが、流石は妖怪の賢者というか全くもって開く気配が無く幽々子さんか紫さんに気付いて貰うしかないという結論に至ったんだがここで問題発生。つまり、朝までこの部屋に俺と妖夢ちゃんの2人きりというクソ気まずい状況で、更には寝ようにも客室に布団は一式しか無いらしい。とは言え徹夜は辛いし布団は妖夢ちゃんに使ってもらって俺は座布団を枕にして寝転んだのだが、そこに待ったをかけられてしまう。

 

「お布団は信さんが使って下さい。私は平気ですので」

 

「何言ってるのさ、そもそもの原因は俺だし妖夢ちゃんが風邪引いたら色々と不味いでしょ」

 

主に幽々子さんの料理的な意味で。

 

「そ、それはそうなのですが……」

 

「なら使って、俺は本当に平気だから」

 

そう言って、そそくさと座布団片手にできるだけ距離を開けようとしたのだが、きゅっと反対の手を誰かに掴まれてしまい動けなくなる……と言うか、誰か何もここには俺と妖夢ちゃんしか居ない訳で、振り返ればそこには俺の手を両手で握って何かを迷っている顔をした半人半霊の女の子がおった。

 

「あの……妖夢さん?」

 

「……その、やはり信さんもこちらで寝るべきです」

 

「いや、布団一式しか無いから無理だって」

 

「ですから……その…………すれば良いかと」

 

消え入りそうな程小さな声で何かを言われるが流石に聞き取れず聞き返してみると、俯いていた顔をガバッと上げて勢い任せに

 

「私と同衾すれば良いと言いました!!」

 

耳まで真っ赤にさせてそんな事言い出した。

同衾……どうきん?確かそれって。

 

「い、一緒に寝るって意味で宜しいですか……?」

 

「そ、その通りです、それなら何方もお布団が使えますから!」

 

………………………いやいやいや!!

 

「ダメでしょ!?俺、男だからね!?」

 

「知ってますよ!」

 

ですよね。

 

「なら何故に!?」

 

「それは……お客様に風邪を引かれるのは不味いですし、明日の鍛錬にも響きますから……」

 

なんか尤もらしい理由だけど……それでもそう言う関係じゃ無い男女が同じ布団は不味いでしょ?それに何も無かったのに朝下手に紫さんや幽々子さんに見つかったらどうなるか目に見えている。

 

……個人的には美少女と添い寝を逃すとか血の涙を流すほど勿体ないけど、それを言える程の勇気も無いし何より、無理して一緒に寝てしまっては妖夢ちゃんを傷付けてしまうし、それだけは絶対に嫌だ。取り敢えず何とか鋼の心でこの魅力的過ぎるお誘いを断腸の思いで断ろう。

 

「いや、それでも」

 

不味い、と断ろうとしたのだがそれより先にきゅっと俺の裾を控えめに掴み、上目遣い&照れで顔を赤くした妖夢ちゃんの口が開き、言われた言葉は。

 

「そ、それに!私個人としても……同じ床につくのは吝かでは無いのです。……ダメ、でしょうか?」

 

「ダメじゃ無いです」

 

 

え?鋼の心と断腸の思い?……奴さん死んだよ。

 

 

ーーこの後の事を語るとするなら決していやらしい行為等は無かったけれど、狭い布団の中で背中合わせに寝ているせいか人肌の温もりやら寝息やら、何やら良い匂いがするやらで全く寝れなかったと言っておこう。

 

うん、またそのうち香霖さんの所に相談に行こう。溜まっている若いリビドーの解消法についてとか色々と。

 

因みに朝方には意識を失ってた俺が起きた一発目に見たものはニマニマ顔の紫さんと幽々子さんにからかわれている妖夢ちゃんの姿で、しばらく寝たふりを続けてその場を凌いだが、その後随分と長くこのネタで弄られ続けたのはしょうがないと分かっていても、なんか腹立つよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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29話 夢と現の狭間にて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……」

 

枯れた巨木、確か【西行妖】だったか、随分と凄そうな名前を付けられた桜の周りをぐるぐるとまわりながら見上げる。

 

軽く手で触れて見れば他の桜の木とはやはり手触りが何処かおかしく、枯れているように見えるが何だかまだ生きているような気が俺にはする。

 

(初めてここに来た時から、"コレ"に随分興味持ってたよね)

 

うん、不思議と惹かれると言うか……?

 

(要領を得ない答えだなぁ)

 

自分でもそう思うよ。けど、何と言うか……感覚的に気になるんだ。

 

(ふぅん……で、それはさっきから君が左手に持ってるソイツと関係あるの?)

 

急に不機嫌そうに言われて苦笑いしつつ、左手に持っている黒楼剣を眺める。

 

これに関しては単純に身に付けてるだけだよ。借りてるものだし、今から常に持っている癖くらい付けないと失くしそうで俺が怖い。

 

(むぅ……でも白玉楼にいる間なんだから置いて来てもいいじゃん)

 

それを言われると少し痛いけど、何と無くさ……似てる気がしてね。

 

(……ソイツとこの木でしょ)

 

そう不貞腐れ気味に無銘は言うが俺と同じくそう感じていたらしい。

この刀に彩られた桜の花は儚く、それ故に美しい……と少し刀の価値について知ったかぶった厨二的なミーハー発言の様な気もするけど、そう感じたのだ。

 

西行妖を背にして無銘を横に下ろし、腰掛けて黒楼剣を鞘から取り出して見れば、その何処までも黒く鈍い刀身に自信が写される。

 

ーー"そこ"に写された自分自身である筈の姿は酷く歪に描かれた偽物の姿で、将又その影の姿は何処か妖しく艶かしい。

 

「"妖刀"……かぁ」

 

幽々子さんから聞いた話それは、この刀も妖夢ちゃんが持つ刀の一つと同じく妖怪によって鍛えられた一振りであるが、その在り方は楼観剣を正とするなら負に値する……つまり敵役が良く持ってる暴走するアレだ。

 

急に人斬りになったり……いやいや。

 

(そんな奴を持ってるの危ないじゃん!やっぱり置いてこうよ)

 

急に元気になったね?……正直それも考えたけど、何だか俺にはこの刀がそう言う類のモノには思えないと言うか。

 

(うわ……でたよ、シンの直感と言うかよく分からない感)

 

う、煩いやい!これでも結構当たるんだからな!

 

(その感につい口を滑らして人形遣いに襲われたり、メイドに殺されかけたの忘れたの?)

 

………定休日も大事だと僕は思うんだ。

 

(週7日のね)

 

喧しいわ。

 

と、無銘にも言われた通り、危ない気配を感じないかと言われたらするんだけどね?

寧ろ俺の能力の性質上、自分が一番ヤバいって思ってるんだけどさ。

……やっぱりそう思えないと言う矛盾に頭を悩ませている。

 

ぐるぐると悩める頭を回していると先程までの不機嫌そうな声音からやや、心配の色が見える声で無銘が確認してくる。

 

(この前も話したけどさ、ソイツもシンの事を"認めてない"し、パスも繋がってないから大丈夫だと思うけど間違っても受け入れたら駄目だからね?)

 

えーと、確か"この刀はまだ真の力を発揮してはいない!"だっけ?

 

(いや違……わないのかな?これも前に説明したから分かってるとは思うけど、妖刀にも色々と種類があってね——)

 

妖刀、字面と読んだ時の響きは最高に厨二っぽくてカッコイイがその実、物凄く危ないモノとの事で。

 

(割と有名なのは寄生するタイプかな?最初は持ち主にも意識は有るんだけど、少しずつ、ゆっくりと病の様に蝕まれて行って最後はもう何方が主人か分からなくなる)

 

斬った人間の血を吸って力を蓄えるのも居るんだよね、確か。

 

(そうだね、後は妖刀自体に意識があって主人を探し続けて見つけたらその人間の終わりまで永遠に結ばれるものとか……一種の呪いに近いかも)

 

何それ怖い。

えっと……後は使う度に(えにし)が深まって持ち主の体に妖力が回り出し、最終的には担い手である人間を人ならざる者へと変質させるタイプ、だよね。

 

(その通り、人の魂に到達するレベルの呪いだね。特徴的にソイツはそれが一番濃厚かな)

 

そう言われてもう一度、黒楼剣を見つめる。

 

少し怖くなって来たなぁ……せめて無銘みたいに意思疎通が出来ればまた違うんだろうけど。

 

カチャンと鞘に納めて無銘を置いた方と反対の左側に置きつつ、頭上の枯れた桜を眺める。

朝から夜まで常に薄暗く何処か不気味な雰囲気もある冥界だが住めば都とはよく言ったもので、ポジティブに考えれば忌々しい太陽を見なくて済むし、程よく涼しくもあって俺の中の生活したい場所ランキング堂々の一位に輝く位には気に入っている。

 

ボケーっとただ桜の木の枝を眺めるのも何だか悪くないな。

 

「ふぁ………」

 

うーん……何だろう?

ゆったりとし過ぎてしまったせいか眠気が段々と迫って来て、瞼が凄く重い。

 

(こんな所で寝たら風邪引くよ?)

 

んー、おぅ……。

 

(だから部屋に戻って……もう聞いてる?)

 

……………。

 

(本当にどこでも寝れるんだから……全くもう……はぁ)

 

 

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

ほんのりと暖かく、それでいて柔らかい風が頬を撫でてとても心地が良い。

 

時折、何か軽く小さいものがその風に乗り、自身の顔や鼻に当たるのは少しだけむず痒いが、ほんのりと甘い花の様な香りに癒される……と、何か違和感を感じて、まだ残る眠気を何とか押しのけてゆっくりと瞼を開けてみる。

 

「……………?」

 

ぽけーっとした意識とまだ寝起きの所為で目がハッキリと外の光景を写さない為か見え辛い。

 

ゴシゴシと目を拭いもう一度目を開けてみれば薄暗い中、周りには多くの桜の花が散っており、顔を上げれば"満開に咲く"巨大な桜の木が………?

 

「……あれ?」

 

何か背中に冷たいモノが走り、急激に冴え始める意識と共にもう一度辺りの光景を確認してみる。

 

周りは多くの桜の木が生え、どれもこれも見事に満開で自分が眠る前と大差無いが、明らかに違うものがあった。

自分が背を預けていた枯れたはず西行妖はその枝一つ一つに花を咲かせ、正に満開の二文字が当てはまり、つい見惚れてしまいそうだがそれ以上に何か恐ろしい物も感じる。

 

慌てて起き上がりつつ、無銘と黒楼剣を持ち上げようと……?

 

「——無い!?」

 

あっれぇ!?確かに横に置いといた筈なんだけど!?

 

左右を何度も確認するが其処には自身の愛刀はまるで煙の如く消えてしまっていた。

というか、それはつまり……この不可思議な事象の中に俺1人って事ですか……?

 

自分自身が置かれた状況に少しずつ理解していくのに連れて嫌な汗が流れ出し、焦りと不安が深まっていく。

 

「無銘さーん!?ちょっとぉ!?」

 

つい叫びながら何時も俺のことを小馬鹿にしてくるが頼りになる相棒の名を叫ぶが虚しく響くだけで、あの声は帰ってこない。

 

……ど、どうしよう。というかここ冥界じゃないよな?どう見てもあったはずの白玉楼とか無いし……。

 

頭を抱えつつ、この不思議現象にどう対抗しようかと考え始める。

無銘がいないと言う事は多分、現実じゃないか別空間的な物なんだろけど止まった時間の世界すら入り込むあの刀がいないと言う事は多分、前者なんだろうけども……なんて言うか"こう言う出来事"がしょっちゅう起こる世界なのは理解してるし、なんなら慣れて来てたんだけども無銘が居ないのは初めてのパターンで、無茶苦茶動揺してしまう。

 

混乱している中で自分が出来る最善手を模索し始めるが……正直何も思いつかない。だって俺が単体で出来るのって精々気を使う能力での身体強化位だしなぁ。

……ぶっちゃけそれも本家(美鈴さん)に比べたら雲泥の差だからマジで気休め程度だし。

 

「うーん……もう一回昼寝してみるか?」

 

「貴方って、こういう状況になっても意外と気楽なのね」

 

そんな事言われてもなぁ……。

 

「それぐらいしか思い付かないし、もしかしたら寝て起きたら元どおりみたいになるかも」

 

「それは虫が良すぎると言うか、お気楽過ぎじゃない?」

 

「ポジティブに物事を考えるのだけは得意だからね……?」

 

……あれ?急に何か違和感というか可笑しい事が起きてる気がして、言葉に詰まってしまう。

 

「はて?」

 

「今度はどうしたのかしら」

 

「いや……何か違和感がある様な?」

 

「そう?気の所為じゃない」

 

「そっかー」

 

「ええ、きっとそうよ」

 

うんうんと同意する様に頷く俺の左隣に座っている少女に俺も、なんだ只の気の所為かと納得………………………………?

 

「って誰ッ!?」

 

先程までは確かに俺一人しか居なかった筈なのに、いつの間にか隣には何処かで見覚えがある様な?幼い少女が座っていた。

 

驚きのあまりつい飛び上がってしまった俺を見て、桜色の髪を揺らし無表情ながらも不思議そうに頭を横に揺らす。

見るからに何言ってんの?という感じだ。

 

「私からしてみれば、どうして貴方がここに居るのか分からないのだけれど……それ以上に気になるのは貴方、私の事分からないの?」

 

じーっと俺の目を見て何かを確かめる様に聞かれ、俺も目の前の子をよく見て思い出して見るが思い当たる節がない。

 

失礼ながらじっと見てピンと来たのは、容姿が幼くした幽々子さんが黒色の着物着たと言う感じで、それ故に何処か既視感の様な物を感じたのかも……?

 

「えっと……ごめん、どっかで会ったことある?」

 

「………へぇ」

 

あ、あれ……さっきまでの少し無表情気味だが辛うじて笑みと分かる顔から、誰から見ても分かるくらいの不機嫌な表情に変わってないですか?

 

「自分で付けた癖に分からないんだ、貴方」

 

自分で付けた……?何の話なのか分からないが何かを攻める様なこの子の視線に不思議と罪悪感が芽生えるが、それよりこの謎空間の事を知ってる様な口調だったし、色々聞いてみるかな。

 

「あのさ、ちょっと聞きたいんだけど……君はこの場所の事知ってるんだよね?」

 

「ええ、何なら私が一番ここの事を知ってるわ」

 

おお、こりゃラッキー。さっきの事は少し気になるけど、無銘が無くて不安だし、とっとと脱出の方法を聞いてしまおう。

 

「ふーん。ここから出たい、ね」

 

「うん、この空間に一番詳しいなら分からない?」

 

「ええ、多分ね」

 

「なら……!」

 

教えてくれと言葉を続けようとしたのだが、少女がピシッと手に持っていた扇子を使い俺の口を塞ぐ。そして少女は何かを試そうとしている様な口振りで、とある事を提案してくる。

 

「そうね……教えるのは構わないけど少し私と遊んでくれないかしら?」

 

「あ、遊び?」

 

「そう遊び。極々簡単な問答よ」

 

問答……クイズ?

 

「私が出題者で貴方が回答者。問題はたった一つでそれに正解したら貴方は此処から出られる……中々の好条件だと思うけど」

 

「そんなので良いなら付き合うけど、てっきり何か対価を取られるとばかり……」

 

思った以上に簡単な物で正直に言えば拍子抜けである。ぶっちゃけ魂を賭けた闇のゲームだ!位は最悪の想定で考えてたし。

 

「ええ、暇潰しだもの。それに……答えられなかったら失うものも勿論あるわよ」

 

「失うものって言われても俺、今手持ちも無いけど」

 

文字通り一銭たりとも無い。しかしそんな俺の言葉に対してとても、つまらなそうに違うと否定される。

 

「金銭なんて私からしたら無価値だから要らないわ」

 

「なら何を?」

 

ならば何を求められているのか分からず素直に聞いた瞬間、先程まであんなにも無表情だった少女の顔にほんの少しだけ黒い笑みが走る。

 

「貴方の身体、なんていいかもね」

 

ゾクリ、と冷たい物が背中に走り、ここで俺はやっと気付く——その少女が纏っている悍ましい程に膨大な妖気に。

 

あれ?もしかしなくても俺、絶体絶命?

 

だらりだらりと冷や汗が流れ出し、その答えに行き着き、ゆっくりと顔を上げてみれば先程までの息が詰まる様な妖気は感じず、一見すれば只の童女にしか見えないナニカと目が合う。

 

「なら早速始めましょうかしら」

 

不味い、このままでは相手のペースに乗せられたままゲームが始まってしまうのはヤバイ。せめてルールくらいは始まる前にせっていしないと、この場じゃ相手の思うツボだし後出しにも対応出来ない。

 

「まま待って!!規定とかちゃんと教えて!?」

 

「……あら残念、ならちゃんと取り決めを作りましょうか?」

 

至極残念そうに溜息を吐く姿を見て確信する。もし俺が何も言わずにクイズをスタートしてたらこの子、絶対ズルしようとしたな?

 

「とは言え問題はたった一つ。そこまで面倒な物は要らないでしょうし……そうね、こうしましょう」

 

そう言って提案して来たのは以下の通り。

 

・問題は一つのみ

・回答権は二回。

・制限時間は無し

・ある程度の質問になら答えてくれる。

・二回のチャンスで正解出来れば俺を元の場所に返してくれ、更に何か褒美をくれるらしい。

・もし失敗したら覚悟しろ

 

………突っ込みたい所は何個かあるけど、ある程度は答えてくれるってどの程度を指してるのだろうか?それに制限時間無しってのも何か引っかかる。とは言えまだ問題を聞かない事には何も俺からアクションを起こせないし……。

 

「さて、もういい加減良いかしら?」

 

むぅ、もうこれ以上は答えは出ないだろうし取り敢えず問題を聞くしか無いよな?と結論を出し、両手で自分の頬を叩き気合いを入れる。

 

「……ええい!ばっちこい!」

 

少し力みながら、どんな問題が来るのか身構えつつ一言一句聴き逃す事がないようにしていた俺の耳に入ってきた問題は——

 

 

【私の名前は?】

 

 

「……………はい?」

 

 

 

 

 

 

To be continued……?

 

 

 

 

 

 

 

 



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30話 君の名は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「—— ♪」

 

「……あの、幽々子様」

 

「しー……起きちゃうわよ」

 

「す、すみません………ってそう言う事じゃなくて何をしてらっしゃるんですか?」

 

「貴女の見ての通りの事よ」

 

「その……どう見ても寝ている信さんに悪戯をしているようにしか見えないのですが……?」

 

「ふふ、こうやって突くと面白い反応してくれるのよ」

 

「やっぱり悪戯してるんじゃないですか……信さん、凄い眉間にしわ寄ってますね」

 

「何か難しい夢でも見てるのかしらね。えいえい」

 

「そんなギュムギュムと頬を突かないで上げて下さいよ。……あ」

 

「横に転がっても起きないのは中々ね」

 

「それだけ疲れてるって事ですよ、幽々子様もほどほどにしてあげて下さいね」

 

「はーい、気が済んだら戻るからご飯よろしくね?……………貴方も早めに戻って来なさいね、信」

 

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

 

 

 

「私の名前は?」

 

「………ゆーあーねーむ?」

 

「いえす、で良いんだったかしら」

 

それだと"貴方の名前は?"に対して"はい"って文章になっちゃうんじゃないですかね。

 

「ってそうじゃなくてさ、それが問題なの?」

 

「ええ、私の名前を当てるだけ。簡単でしょう?」

 

相変わらずの無表情でそう言われるけど、名前を当てろって言われても手掛かりも無しに当たる訳が無いし、何よりその問いの意図が全く読めずに困惑してしまう。そんな俺の事など気にせず少女はストンと横に座って俺の顔だけをジーッと見つめてくる。

 

「………」

 

「………」

 

え、何これ。無表情幼女に見つめられてるだけで何も言ってくれないんだけど、これもしかして俺から話振らなきゃ行けないの?

 

「…………」

 

「…………えっと」

 

何を聞けばいいんだろうか?質問には答えてくれるって行ってたから、その中で彼女の名前に繋がる物を探して見つけろって事なんだろうけど……。

 

「?」

 

「ご、ご趣味は?」

 

バカか俺は。

 

これじゃお見合いみたいじゃないか、と焦っていると先程まであんなにも感情が無だったのに一目で分かる程に焦っていた。

 

「………しゅ、趣味?」

 

頭を捻り、声を唸りながらうーんと考え出す少女を見てそんなにも難しい質問だっただろうか?と自問自答してみるが趣味を聞かれてあんなにも悩むとはあまり思えない。

 

人に言い辛い様な好奇な趣味(俺のオタク趣味)見たいな物を持っているならば、挙動が不審になると思うがこの子の場合は何かを見つけようと模索している様な……?そう考えていると凄く不安そうというか、顔を見ているだけで"これであってるのかな?"とでも読み取れる表情で口を開き言われた言葉は。

 

「せ、生物観察……かしら」

 

「へ、へぇ……」

 

生物観察……人間観察みたいなものか?人間ではなく生物という表現を使ったのは動物や妖怪なんかも含むからって事だと思うけど、こんなに幼い子が何とも年相応とは言えない趣味だな。読書とかそこら辺を予想していたけどな……そこから好きな本とかから話を広げるつもりだったのにこれじゃどう広げれば良いんだろうか。……まぁ悩んでてもしょうがないし無難に広げるのが吉、かな。

 

「随分と渋い……と言うかあまり人には言えない様な趣味だね?」

 

「貴方も人には言えない趣味がある癖に……でも結構楽しいのよ、人や妖怪は見た目や性質は全く違うものが多いけど中身はどちらも似た者同士が多いの。……欲に溺れるところとかね」

 

初めは楽しげな口調だったが、最後の部分だけ少し不機嫌気味に言い捨てた所を見るにそういう"汚い"物を多く見てきたのだろうと予測出来る。……うーん、少し頭の片隅にはあったけど、この子は見た目の割に色々と知り過ぎてる気もするし、幻想郷で良くある見た目=年齢ではないのかもな……またこのパターンか、いい加減俺も慣れたよ?

 

「一応確認だけど、君は人間じゃないんだよね?」

 

「ええ、その通り。……そもそも私、生き物かも怪しいけどね」

 

「へ?ど、どいう意味?」

 

「さぁね」

 

なんかすっごい大事なことをサラッと言った気がするんだけど……生き物か怪しいってどういう事だろうか?

 

「むぅ……?」

 

「そんな怪しむ様な目で見ないでよ……分かったわ、ヒントくらいならあげるから。そうね……私と言う"自我"が生まれたのは私自身が出来てから暫く時が過ぎてからなの、そもそも私自身この姿になるとは少しびっくりしてるしね」

 

自我が生まれる……?自身が出来てから暫くの時……その言い回しって事は今俺の目の前に座る少女の姿をした、この子は本当の姿では無くこの空間限定的なものなのだろうか。うーん……何かで聞いたか見たか、長い年月を経た物にはいつの間にやら神、精霊の類が宿るとかなんとか……確か名前は——

 

「……付喪神?」

 

「——へぇ、知識は人一倍あるのね貴方」

 

一瞬の間を挟み、少しだけ目を見開いた彼女から出てきた言葉は何処か賞賛の様な物だった。

 

「あれ、もしかしてドンピシャ?」

 

「本質とかは違うけど、その認識で正しいわね。……本当、柄にも無く驚いてしまったわ」

 

やはりそう言って褒めてくれる所を見るに俺は答えに近付いている様だな。……もう少し詰めて見るか?かなり憶測とか入るけど、今の上機嫌な感じなら少しは口を滑らせてくれるのを期待するのも悪くないかな。

 

「多分だけど、この空間って俺のイメージ……と言うか記憶から再現した物だよね?なんなら君自身のその姿も」

 

「……知識や考察力も中々の物をを持ってるけど、それの元になってるのは貴方が持つ"その眼"ね?よく見えてるわ」

 

「へ?昔から眼の視力はいい方だけど、何か関係あった?」

 

「唯一残念なのはその天然な所かしら」

 

つい数秒前の賞賛の言葉から突然、少し呆れを含む物言いになったんだけど?そんな俺を無視して先ほどの俺の回答に対して彼女の答えを教えてくれる。

 

「でも残念ね。少し違うわ、此処は確かに記憶から冥界を書き写した場所だけど貴方の知る冥界とは多少なりともズレがあるんじゃない?」

 

そう言って辺りを見回す様な動作をする彼女を真似、もう一度よく見て見れば確かにその通りで俺の知るこの場所とかなりズレがある事がわかった。

それこそ分かりやすいのが西行妖が花をつけている事や、白玉楼が無い部分によく見れば地形も少し違う。

 

……ああ、成る程。

 

「これ、君の……?」

 

そう俺が聞けば待ってましたとばかりに口元だけをニヤリとする。

 

「ご名答。……さて、此処まで来ればもう分かるでしょ?私が一体何なのか」

 

そう言い終え俺からの回答を待つ体制に入る。……情報整理の時間だ、此処までに得た情報で彼女の正体、名前をわかると言う事なんだろうけど……ぶっちゃけ全然分からんのよね☆

 

「あの……もし仮にだけど、分からないとか言った場合は「なんて?」なんでもないです!」

 

あんなに無茶苦茶低い声出るんですね……少しちびっちまったよ、俺。

まぁ巫山戯るのも大概にして少し真面目に考えてみるかな……確定情報と言うか彼女からの言葉だけを切り取って手掛かりを並べると、彼女の存在は付喪神に類似するものであり、此処(冥界)の事を知っている。なんならこの世界の元になった原本は彼女の記憶からで、それをペーストした世界が此処。

 

此処までが彼女の口から分かった事で、此処からは俺の推測8割なんだけど、彼女の外見や口調に声は多分俺の記憶からとある人物(多分、幽々子さん)をベースにしたんだろう。俺の記憶を見た事がある、もしくは見れると断定した理由は趣味を聞いた時、確かに彼女は『貴方も人には言えない趣味がある癖に』と口走った。これは俺の言葉に対してムッとなっていたんだろうけど、ここから分かるのは何故か彼女は俺の趣味を知っている……しかも疚しいやつを。

 

「……?急に頭を抱えてどうしたの?」

 

「……気にしないで」

 

「そ、そう」

 

取り敢えずそれに関しては放り投げて置いて、推理を続けよう。

 

ここまでの情報と推測を纏めて行き着く彼女の正体は"冥界の事を知り、俺との繋がりがある付喪神の類似"……って事なんだけど、まだ何ピースか足らない。思い出せ俺、何かしらまだあるはずなんだ。

 

無表情ながらも、ほんの少し不機嫌そうな彼女の顔をもう一度見て何か手掛かりを——

 

「………不機嫌?」

 

そう言えば何処かのタイミングで彼女が異様に不機嫌な感じになったタイミングがあった筈だ。それは確か……

 

『貴方、私の事分からないの?』

 

『………へぇ』

 

『自分で付けた癖に分からないんだ、貴方』

 

……あの時、何故彼女はあんなにも怒っていたのか原因は俺がこの子の事を分からないと言ったからで、彼女からしたら俺は知っていて当然だと思ったからこそ話しかけてくれた……と考えれば割としっくりくる。

 

ここで問題なのはどうして俺が彼女の事を知っている前提として話しかけられたのかで、俺は彼女の事を間違いなく知らない……いや外見とか声は似てる人を知ってるんだけど、この子の事は間違いなく知らない筈……って待て待てその先入観はダメだ、此処では今までの俺の常識は通用しないのは何回も経験してる、別の観点から考えろ……。

 

私の事が分からないの?と聞いてきたという事は俺がこの子と何かしらの接点があったのは間違いない。

 

ならば自分で付けた癖にとはどう言う意味なのだろうか?付けるというのは一体何を指しているのか……と此処までの流れとこの言葉の意味を考えれば直ぐに頭に浮かぶのは名前……つまり"名付け親"的な事なんだけど。

 

「……」

 

俺が考えている最中も特に何かを語る事無く俺の事をただ見つめている彼女をもう一度よく見て本当に記憶に無いか確認する。

少し青色が混じった黒ベースの和服を着て、片手には桜の花が描かれた扇子を持ち、桜色の髪と常に無表情と、性格は反対の様なのに何処か幽々子さんの面影がある彼女の事はやはり知らな——

 

「……ちょっと待てよ?」

 

ダラリと汗が吹き出し、もう一度思い出すのは彼女の責める様な目と口調での"自分で付けた癖に"という言葉と付喪神と言うワードに、ごく最近俺が確かに名付けたとある刀の事が頭によぎった。

 

まさか、いやいや何て思ってみるが一度そう考えてみると色々なことに合点がいくし、何より俺の考えてる刀の特徴と彼女の特徴が割と……いや、かなり一致しているのだ。

もしこれが正しいなら俺ってかなり最低なんじゃないか?と冷や汗を更に掻きながら、罪悪感と共に彼女に答えを確認してみる。

 

 

 

「その……もしかして、"黒楼剣"なのか?」

 

 

その俺の言葉を聞いて息を吐く……と言うよりもかなり大きめの溜息をついて、彼女が開いた口から出た言葉は——

 

 

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

 

パチリと目を開けば最初に見えたのは枯れた大きな大きな桜の木。それが自分を先程までの場所から現実へと帰還したと教えてくれる。

ゆっくりと起き上がりながら息を吐き、左右を見れば無銘と黒楼剣が置いてあった。

 

「………無銘」

 

(おはよ、随分と長い眠りだったね)

 

まぁ……うん、ちょっとね。

 

(ざっと2時間くらいかな、随分と魘されてた様だけど何か………?)

 

ど、どうした?

 

(………ねぇ、シン。まさかとは思うし私はアナタがそんな愚かな主人だとは思ってないから、確認のために聞くんだけどね?)

 

一言喋るたびに声が低くなっていく無銘に怯えながら続きを黙って聞く。……いやうん、バレるとは思ったけどここまで早いとは。

 

(シンの中に回り初めてる……その妖気は何かなァ?)

 

え、えーと……その……これには山より高く海より深いとても悲しく辛い事情が

 

(言い訳したら潰す)

 

色々あって黒楼剣と契約しましたごめんなさい!!!!

 

何を?とか聞ける様な空気じゃなかった、殺気の質が違った。

 

(あれだけ採算注意したのに……まさか妖刀なんかと契約するとはねェ……?)

 

いやその……別に悪い奴じゃ無かったし、それに契約も罪滅ぼしと言うか余罪を償う為と言いますか……

 

(あら?確か"是非とも!"とか言われた気がするのだけど)

 

待って!君なんで無銘側なのさ!?それに関しては黒楼剣から遠回しな威圧と言うか脅しが……!

 

(ふーーーーーん???)

 

待って!話を聞いて!?

 

(知らないよ!シンのヘタレバカ変態浮気主人!!)

 

そう言って無銘からの気配が消える……うわぁ、無茶苦茶怒ってた……どうしよ。

 

(あらあら、引っ込んじゃったわね)

 

いや割と黒楼剣のせいだからね?なんでいきなりバラしちゃうのさ。

 

(そうかしら、あのまま言い訳してた方がどう考えても逆効果だったと思うけど?結構真っ直ぐな性格の子みたいだし、素直に謝るのが一番よ)

 

うぐ……そう言われるとそんな気もする。

 

(ええ、だから後でまた謝っておきなさいな、"僕は寝取られましたー"って)

 

いやそれ挑発してる様なもんだよね?てか君ら刀なのに浮気とか寝取られって言葉は違うよね!?凄い誤解を生みそうだからやめて!

 

(別に間違ってないじゃない、貴方結構私に見惚れてたの知ってるわよ?)

 

………………いや、うん合ってるけどさ、その意思がある状態で言われると色々と複雑なんだけど。てか、さっきはフォローしてくれるって言ってたのに何で無銘に煽る様な事言ったのさ?

 

(そうねぇ……特にこれって言う物はないのだけれど)

 

なら何で……と困惑する俺に黒楼剣は

 

(貴方とあの刀が仲良さそうなのは少しばかり……面白くなかったのよ)

 

と、なんとも反応に困る言葉を残して無銘と同じく引っ込んでしまう。

 

…………自業自得なんだろうけど、どうやって無銘の機嫌を取ろうか?と考えつつ新たに加わった仲間にほんの少しだけ嬉しく思う俺でした。

 

 

余談だけど、どうやら俺が寝ている間に幽々子さんに悪戯……というか顔に落書きされていた様で白玉楼に戻って妖夢ちゃんに吹き出されたのは少し凹んだ。

 

幽々子さん曰く

 

『ついやっちゃったのよ、ごめんなさいね?』

 

との事、やっぱり黒楼剣とこの人は見た目以外別だなと再認識されられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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