僕のヒーローアカデミア:BEAST ON! (u160.k@カプ厨)
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修行其の一:ムキムキ! 緑谷出久オリジン

獣を心に感じ、獣の力を手にする拳法、獣拳。

獣拳と出会った少年、緑谷出久は日々高み(ヒーロー)を目指し、学び、変わる!


 僕、緑谷出久が師匠(マスター)と出会ったのは幼馴染にいじめられて泣きながらついた家路の途中のことだった。

 

「……もう諦めなくちゃいけないのかな……?」

「どうしたオヌシ? なにをそんなに泣いておる?」

 

 不意にかけられた声に顔を上げるとそこには不思議な雰囲気を纏った猫のおじいさんがいた。

 最初は知らない人(猫?)と言うことで警戒していた僕だけど、気がつけば悩みや泣いていた理由や、『ヒーローになる』という夢が()()()()()から絶望的であること。それが原因でイジメられていることなどを話していた。

 それを猫のおじいさんは僕の話をただ黙って聞き止めてくれていた。

 

「なるほど、オヌシは無個性じゃったか」

「……はい」

 

 無個性。文字通り、何の個性も持たない人間。医師から『ムリだね、諦めた方がいい』と宣告され、母を泣かせてしまう。

 幼なじみに『何も出来ない木偶の坊』と言う意味のアダ名まで付けられ、バカにされる。それが当時の僕だった。

 

「……オヌシに一つ聞きたい、ヒーローとはなんじゃ?」

「え?」

 

 何かを考え込んでいたおじいさんはそんな疑問を口にした。

 

「優れた個性を持ち、力が強く、頭が良い。それだけでヒーローになれるのものなのかの?」

 

 幼い頃の僕には難しくて答えられなかった。けれど、それは違うと感じたのは確かだった。

 

「ワシはヒーローのことは全く知らぬ……しかし、かつて袂を別ってしまった友や道を違えてしまった弟子を救えなんだワシはヒ-ローではないことは解る」

 

 どこか遠くを見つめるおじいさんの糸のように細い目がどこか悲しそうで、寂しそうだった。

 

「しかし道を違えた者をまた正しい道に引き戻してくれた弟子達、そやつらも個性など持っとらんかった……それでもやつらは正しくヒーローと呼ぶに相応しい……少なくともワシはそう思う」

 

 さっきとは対照的に、どこか自慢気な言葉。そんなスゴイ人を育てたおじいさんもまたヒーローなのではないか。

 

 そして、僕もおじいさんのお弟子さんみたいに誰かを助けられる人になりたい。

 

 そう思わせるには充分過ぎた。

 

「……ワシも若いの、師匠(おや)バカが過ぎたわ」

 

 僕が尊敬の眼差しで見ていたことに気付いたおじいさんは、ちょっと恥ずかしそうにそう呟いた。そういえばおじいさんは一体いくつなんだろうか?

 おじいさんの姿も最初はそういう個性かと思いきや、おじいさんはまだ人間が『個性』を持つ以前より生きていて、この姿は己の『技』によるものだと語った。

 

「なぁ、オヌシ……獣拳をやってみぬか?」

 

 いろんな疑問を抱いていた僕に、おじいさんはそう提案してきた。

 

「じゅうけん、ですか?」

「獣の拳と書いて獣拳と読む。心に獣を感じ、獣の力を手にする拳法……それが獣拳じゃ」

 

 先ほど出てきたおじいさんのお弟子さんもまた獣拳というものを学んだらしい。その提案を僕は一つの光明のように感じた。

 

「獣拳を学んだとしても個性なるものは得られぬ。じゃが、日々学んでいくことで違う自分に変わるキッカケにはなるハズじゃ」

 

 個性を得られなくたっていい。それでも僕が憧れた()()()のように、笑顔で誰かを助けられる人になりたい。

 

「僕でも……無個性でもヒーローになれますか? 今の僕から、誰かを笑顔で助けられる、そんな人に僕でも変われますか?」

「……それはわからぬ。じゃが、ヒーローやオヌシが目指すオヌシになれるか。それはオヌシの志次第」

 

 残酷なまでの現実を突き付けられたあの日からずっと欲しかった言葉。母からですら貰えなかった僕が本当に欲しかった言葉。

 

「オヌシがその夢を抱いた時の気持ちを忘れず、精進を続ければいつか……」

 

 その言葉にどれだけ救われただろう。

 

 その言葉がどれだけ欲しかっただろう。

 

「オヌシはヒーローになれる」

 

 あの日から僕ですら自分に送れなかった言葉を、ようやく貰うことが出来た。

 

 ヒーローに『なりたい』なら、ヒーローに『なれる』と言ってくれる人がいるなら、ヒーローに『なる』努力をしなくちゃいけない。

 

「ぼ、僕の名前は緑谷出久です! 僕に……僕に獣拳を教えてください!」

「いいじゃろう、ワシの名はシャーフーという。出久よ、修行は明日より開始するぞい」

「はい!よろしくお願いします、師匠(マスター)!!」

 

 

 

 数年後、マスターは『やらねばならないことができた』と言って、どこへともなく去ってしまった。

 しかしマスターと再会したときに少しでも『高み』へ、『ヒーローになる』という夢に近づけられるように修行を欠かすことはなかった。

 

 

 

 そして、いくつかの季節が巡り、僕は中学三年になっていた。

 この頃になると進路を決めなければならない。それは超人社会になっても依然として変わっていない。それはともかくとして、僕は師匠(マスター)と同じくらい尊敬して止まない人物(ヒーロー)の母校に進むことを決めていた。

 ……だが、その選択は担任の不用意に晒されてしまい、同じクラスの人達の侮蔑と嘲笑の的になっていた。そして幼馴染からは暴言を吐かれ、彼の個性によって威嚇された。

 

「オイ、デクゥ! 没個性どころか無個性のテメーが!なんでこの俺と同じ土俵に立とうとしてんだ、あぁん!?」

 

 幼馴染みのかっちゃんこと、爆豪勝己。頭脳明晰、運動神経抜群にして『爆破』という優れた個性を持ち、幼いころから長年僕を『デク』や『クソナード』と虐げてきたヤツだ。昔はよく一緒に遊んだりしていたが、いつしか彼は僕を目の敵に、僕は彼が苦手に、そんな関係になっていた。

 

「かっちゃん、僕は君と同じ土俵に立つつもりはないよ」

 

 昔の僕だったら彼の脅しや同級生たちの侮蔑と嘲笑に俯き、悔しさに唇を噛むだけだっただろう。けど、今の僕は昔の僕と違う。

 

「僕の道は僕のモノだし、僕が決めることだ。かっちゃんや他の誰にも……例え相手が神様であろうとも文句を言われる筋合いはないよ」

 

 そう言い切ると、幼馴染も担任や他の同級生たちも黙ってしまった。そうしている内に終業時間になると、未だ固まる同級生たちを残して僕は一人教室を後にした。

 

 『諦めは未来を閉ざす行き止まりへの道。諦めない限り、開けない道はない』。

 

 師匠(マスター)の教えの一つ。この言葉があったからこそ僕は幼馴染や同級生たちのように嘲笑や侮蔑する人達によって心を折らずに夢のための努力を続けて来られた。誰に何を言われても『柳に風』として受け流せていた。

 だが、もしこの言葉がなかったら、僕はどうしていたのだろうか?

 

「ま、答えなんか出る訳ないか……ソレよりもあのかっちゃんに言い返す日が来るなんて、我ながらビックリだ」

 

 彼に対して今日のように強く言い返したのは初めてのことだった。おかげで長年胸の中にあったモヤみたいなモノが少し晴れた気がした。

 

「ちょっとスッキリしたからか、ちょっとおなかすいたな……メンチカツでも食べに行こうかな」

 

 商店街にある精肉店。そこの絶品と評判で行列のできるメンチカツを買い食いして行こうかと思ったその時、

 

「ッ!」

 

 不穏な気配を察知してその場を飛び退くと、そこに突然異臭を放つ泥がアスファルトの路面に広がった。

 

「Mサイズの隠れ蓑ぉ~……なぁボウヤ、ちょっとその身体貸してくれよぉ……大丈夫大丈夫、苦しいのをたった45秒ガマンしてくれればあとは楽だからさぁ~」

 

 マンホールから現れたらしい喋るヘドロ。その正体は『ヘドロ』の個性を持ち、『個性』を違法に扱う者『ヴィラン』だ。言動から察するに恐らく警察やヒーローから逃走中なのだろう。

 誰でも笑顔で助けるヒーローに憧れる僕でも他人に身体を、それも今の今まで下水道を移動していたヤツに身体を貸すなんてゴメンだ。

 

「なんだぁ、この俺とやる気かぁ~?」

 

 人通りが少ないとは言え、住宅地のド真ん中で姿を現して僕を隠れ蓑にしようとするならば近くにヘドロマンを追跡する人がいるハズだ。

 

 ならば下手に逃げるよりはここでちょっとした騒ぎを起こしてソレを聞き付けてヒーロー達が来てくれる(ハズ)のを待つ。これがベスト、と判断した僕は獣拳の構えを取る。

 

「安心したまえ少年!」

 

 それと同時に僕とヘドロマン以外、第三者の声が路地に響いた。

 

「なぜって?」

 

 突如吹き抜ける突風。それは一発のパンチの拳圧によるモノで、僕と対峙していたヘドロマンを爆散させる強烈な一撃。

 

「私が来た!」

 

 そのパンチを放った人物、それは僕が師匠(マスター)と同じくらい尊敬し、憧れたヒーロー。

 

「オールマイト……!」

 

 夢か現か幻か。筋骨隆々でムキムキな体躯と不敵な笑顔が特徴のNo,1ヒーロー、オールマイトの姿がそこにあった。

 

 




~??の獣拳アカデミア~

??「獣拳とは!四千年以上の歴史を持つ、獣を心に感じ、獣の力を手にする拳法です!ブンブーン!!」
出久「心に感じる獣は個性と同じように千差万別!親子で同じ人もいれば兄弟でまったく違う人もいますよ!」
??「動物だけでなく、鳥や魚などの海洋生物。そして虫や節足動物なんかもいますが、我らが出久さんの内なる獣の姿とは!?」

出久「さらに向こうへ!」
出久&??「「Puls Ultra!」」


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修行其の二:バシバシ!激獣拳!!

 ヘドロヴィランに襲われた僕を助けてくれたのは幼い頃から尊敬して止まない№1ヒーロー・オールマイトだった。彼はサインにも快く応じてくれただけでなく、握手までしてくれた。

 

「それじゃ、画面越しにまた会おう!」

 

 そしてヘドロマンを閉じ込めたペットボトルをポケットに突っ込むと爽やかな笑顔とともに去って行った。

 

「夢じゃないかな……」

 

 未だ実感がわかない。しかしノートに書いて貰ったサインが憧れのヒーローとの遭遇が夢ではなく、現実だったことを証明してくれていた。

 

「もし師匠(マスター)と出会ってなかったら聞いてたかもな、『無個性でもヒーローになれますか』って……」

 

 『もしも』の夢想。オールマイトは僕の問いになんと答えてくれたのだろうか?

 

 優しさ故の厳しさで『無個性でヒーローが務まるとはとてもじゃないが言えない』と医師や警察官という別の道にに進むように諭すのか。

 それとも師匠(マスター)と同じように僕の『ヒーローになる』という夢を肯定してくれたのだろうか?

 

 それは僕にはわからない。

 

 それでも今の僕には自分の道を進む力である獣拳が、そして師匠(マスター)がくれた言葉がある。今はそれで十分だ。もしオールマイトの答えが肯定だったりすれば僕は調子に乗り、慢心していたことだろう。

 

「よし!罰としてメンチカツはお預け! 帰って修行だ!」

 

 自分の頬を両手でバシバシと叩いて気合を入れ、家に向けて走り出す。

 

「そうだ!オールマイトのサイン入りノートを入れて飾るための額縁を買って帰ろう!」

 

 予定を変更して商店街へと向かう。これは緑谷家の家宝にしよう。

 

 ----------------------------。

 

 商店街に到着した出久の耳に聞きなれた爆発音が届き、なにかが燃えているような焦げ臭さが鼻を突く。音のした方向に目を向けると、そこには人だかりが出来ていた。

 

「あの、なにかあったんですか?」

「あぁ、ヴィランが暴れてるんだよ。しかもなんかスゴイ個性の中学生が人質になっててヒーローも手出しができないみたいなんだよ」

 

 『スゴイ個性の中学生』と聞き、先ほどから響き渡る爆音が出久にその人質が誰なのか想像させる。

 

 そして、その予想は残念なことに正解してしまっていた。

 

「かっちゃん!?」

 

 さらにその爆豪を人質にしているのは先刻オールマイトが捕えたはずのヘドロマンだった!

 ヘドロマンの身体に囚われる爆豪の目は絶望と恐怖に染まっていた。

 

「おい!バカ!なにやってる!?」

「止まれ!止まれ―!」

 

 気づけば出久はヘドロマンに向かって駆け出していた。その耳にはすでにプロヒーローたちの制止する声は届いていない。

 

「テメェ、さっきのガキか!テメェのせいで俺はあの筋肉野郎につかまったんだ!!たっぷりお礼をしてやるぜェ!!!」

 

 言うやヘドロマンは己の前に立ちはだかった出久に狙いをつけて爆破を放とうとする。

 

「激獣剣歯虎(スミロドン)拳!」

 

 出久から剣歯虎(スミロドン)の幻影が立ち昇る。しかしそれは幻影ではない、出久の己の内にある獣の姿を模した激気(ゲキ)である!

 

激技(ゲキワザ)穿穿弾(センセンダン)!!

 

 そして激気の獣は螺旋回転しながらヘドロマンに突進した!

 

「なっ!? ッグギャアァァァーーーッ!?!?」

 

 出久が放った激技は爆豪からヘドロを引き剥がし、そのままヘドロマンを弾き飛ばした!

 その隙に出久はむせ込んでいる幼馴染に駆け寄った。

 

「かっちゃん、大丈夫!?」

「デク!? なんでテメェが……!」

「君が……君が、助けを求める顔してた……!」

「……ッ!」

 

 爆豪の無事を確認し、出久は安堵の息を吐いた。

 

「っのクソガキがァアァーーーーーーーっ!!!!」

 

 自分が捕まる原因を作り、さらにせっかく捕まえた強い個性を持った人質兼隠れ蓑を奪還しただけでなく、ブッ飛ばしてダメージまで与えた出久に対し、ヘドロマンの怒りは頂点を超えていた。

 怒りにまかせて背後から仕掛けた奇襲。だがその凶行は逞しい巨腕によって止められていた。

 

「情けない……本当に情けない!子供が命懸けで戦っているのに、大人がそれを見ているだけなど!!」

 

 その腕はすべての人を守り、悪しきを砕く剛腕。体から煙を出し、喀血しながら、それでも『平和の象徴』ことオールマイトはそれでも笑顔を見せる。

 

「ヒーローはいつだって命がけっ!」

 

 握る拳は正義の証。

 

DETOROIT(デトロイト) SMAAAAASH(スマッシュ)!!!」

 

 その剛拳はヘドロマンを再びブッ飛ばし、その拳圧は火の海になりつつあった商店街の火災を消し止めた。さらに空を穿つ上昇気流を生じさせ、雨雲を作り出した。

 

 人々はオールマイトの天候まで拳一つで変え、雨まで降らせてしまうと言う奇跡のような所業と活躍を、そしてヘドロマンに囚われながらも必死に耐えた爆豪のタフネスさと優れた個性を褒め称えた。

 

 そして、地面や屋根を叩く雨音すらかき消すような歓声とオールマイトを称える声はしばらく収まることはなかった。

 




~??の獣拳アカデミア~

??「激気!それは心に獣を感じた時に沸き上がる情熱であり、獣拳の力の源です!ブンブーン!!」
出久「獣拳使いは激気を高めることで無限の力を引き出すことができます!」
??「激気にはさらに上の存在や亜種的な存在があったり、研ぎ澄ませたりすることのできる凄いモノです!」
出久「僕もそれを使えるように頑張らないと!」
??「私も及ばずながら応援させてもらいますブンブーン!」
出久「次回は少し時間がすすんで雄英高校入学試験!」
??「ヒロインのあの人が登場しますよ!」

出久「さらに向こうへ!」
出久&??「「Puls Ultra!!」」


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修行其の三:バクバク!入学試験!!

 雄英高校、入学試験当日。出久はなぜか宙に浮いていた。

 

「いきなりごめんね、コレ私の個性なんよ!」

 

 声のする方に振り向けば、躓いて転びそうな出久を助けた麗かな雰囲気を纏う少女の姿があった。

 

「これから試験なのに転んじゃったら縁起悪いもんね!」

 

 彼女の笑顔をみた瞬間、出久の体に落雷を受けたかのような衝撃が走った!

 

「あれ? 君、どっかで見たような……あ!ヘドロ事件の!!」

「!」

 

 ヘドロ事件。爆豪を人質にしたヘドロマンがオールマイトにブッ飛ばされた事件を世間ではそのように呼ばれていた。そしてその中心事物となった爆豪は一躍時の人のような扱いを受けていた。

 

 片や出久と言えば、あの場にいたプロヒーローや警察官に(その後は学校の教師や母にも)お説教を頂戴し、(なぜかオールマイトが個性ではないことを証言してくれたが)獣拳を個性の無断使用の容疑を掛けられたことで、悪い意味で有名になってしまっていた。ついでにあの事件の直後に爆豪には暴言まで吐かれたのだから踏んだり蹴ったりであった。

 

 だがしかし、今の出久は目の前にいる女子に目と意識を奪われ、彼女の言葉に声にならない声でなんとか反応を返すのが精一杯だった。

 

「スゴイ人といきなり会えるなんて幸先いいかも!お互いがんばろうね!!」

 

 『それじゃ!』と去っていく女子の背中を心ここにあらずといった状態で見送る出久。その心臓は入試への緊張と(本人は気付いていないが)別の理由も含めてバクバク状態だった。

 

「女子としゃべっちゃった……」

「いやいや、全くしゃべれてませんからね?」

 

 人生で初めてかもしれない経験に感動している出久に対してツッコミを入れるものがいた。

 

「次に合う機会があればちゃんとお礼言わないとダメですよ?」

「はい……」

「さて、私はここらで一旦失礼するとしましょう。それでは試験、頑張ってくださいね」

「はい!ここまでありがとうございます」

「いえいえ、では試験が終わった頃にまたお会いしましょう!ブンブーン!」

 

 出久に激励を送ると、声の主は軽やかに飛び去って行った。

 

 

 

 

 その数時間後、出久は午前の筆記試験を無事に終了。確かな手応えを感じつつ午後の実技試験に臨んでいた。

 

「今日は俺のライヴにようこそーー! エヴェイバディセイヘイ!」

 

 午後の実技試験の説明を行うのは雄英高校の教師でありプロヒーローの一人、プレゼント・マイク。

 人気ラジオDJでもある彼のノリノリな掛け合いだが、誰も反応を示さない。と言うか突然過ぎて示せない上にノリにもついて行けなかった。

 

『こいつぁ、シヴィー! 受験生のリスナー! 実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!! アーユーレディ!? YEAHHHHH!!』

 

 またもや無反応。されどプレゼント・マイクは凹むことなく説明を開始した。強い。 

 

『実技試験の内容は10分間の模擬市街地演習だ!装備品の持ち込みは自由!!ただし、他の受験生を攻撃するなどの妨害するのはNGだぜ!』

 

 1から3ポイントが割り振られた仮想ヴィランロボットを撃破していき、合計点数を競うと言う内容だった。更に0ポイントのお邪魔ギミックが出現するらしい。

 

(かっちゃんと僕は受験番号が連番だけど試験会場が違う……同じ学校の受験生同士で協力させないためか。……まぁ、僕とかっちゃんが協力するなんてあり得ないけどね)

 

『かの英雄、ナポレオン=ボナパルドは言った!

『真の英雄とは、自身の不幸を乗り越えて行く者』と!!

Plus Ultra(更に向こうへ)”!! それでは皆、良い受難を……!』

 

 

 

 

 

 説明を受けた出久は他の受験生と共に試験会場に移動していた。

 

『ハイ、スタート!』

 

 その声と同時に飛び出し、最初に現れた『1P』と書かれた仮想ヴィランロボ。それを正拳打ちで撃破して次のターゲットに向けて駆け出した時、出久は周りに誰もいないことに気付いた。

 

(マズイ!フライングしちゃった!?)

 

『HEYHEYHEY!どうした!どうした!? 実戦じゃカウントダウンなんざねぇぞ! 走れやHURRY UP! 賽は投げらてんゾYEAH!』

 

 焦る出久だったが、逆に他の受験生が出遅れただけのようなので内心で胸を撫で下ろす。その後も他の受験生ともども順調にポイントゲットしていたが、突如大きな揺れが受験生たちを襲った。

 

「な、なんだ!?」

地震(トランブルモン ドゥ テール)かな?」

 

 近くにいた腹部からビームを放つ金髪少年の推測は外れた。揺れの正体、それはお邪魔ギミックこと0ポイントの巨大な仮想ヴィランロボだった!

 

 勝機がない、ポイントにならないなら戦うだけ無駄、と巨大ヴィランから逃げる受験生。そんな中、出久は逃げずに巨大ヴィランロボを見上げていた。

 

(ダメだ!これが実戦だったらなら、どうする? 逃げる? いやそれは違う!ヒーローがヴィランに背を向けてどうする! ()()()()()()が使えればいいけど、今の僕には使えない! それでも逃げるのだけは絶対に違う!!)

 

 その時だった。不意に吹いた風が砂埃を払いのけると、朝の校門で転びそうだった出久を助けてくれた少女が瓦礫に足を挟まれて動けなくなっているのを発見した。

 

(助けなきゃ!)

 

 恩人の危機に思うが早いか、すでに出久は巨大ヴィランロボに向かい走り出していた。

 

(どうする! どうすれば助けられる!? 穿穿弾、いや威力が足りない! ()()()()は足元のあの人をより危険に晒しかねない!)

 

 高速で脚と思考を走らせる出久。巨大ヴィランを見上げたその時、視界に入ってきたビルが適解への()となった。

 

「これだ!」

 

 そして出久はビルの壁を駆け昇る! 

 

(ビルの高さを越えるほどの相手。ならばビルの壁を足場に走ればいい!)

 

 屋上にまで来た時、そこから更に跳躍!

 そして繰り出すは、高めた激気を集中させた拳を相手に直接打ち込む今の出久の必殺拳!

 

「激技!穿穿拳(センセンケン)ッ!!

 

 出久の拳は0ポイントの巨大仮想ヴィランロボの頭部を殴り飛ばし、撃破した!

 

 そして、

 

『試験終了ーーーーーー!!』

 

 危なげ無く着地した出久はそのまま、倒れた少女の元に駆け寄る。

 

「あ、あの、大丈夫ですか!?」

「あ、うん……その、ありがとう!」

 

 瓦礫を退かし、無事を確認した少女の言葉に胸が熱くなった出久は安堵の笑みを返した。

 




~??の獣拳(?)アカデミー~

プレゼント・マイク「爆豪勝己!個性『爆破』!掌にある変異した汗腺からニトロのようなモノを分泌して自由に着火、爆発を起こすぜ!」
??「ド派手で優秀、ヒーロー向きの個性とされていますね!……って、出久さんはどうしたんです?」
マイク「緑谷ならあっちで放心してるぜ!」
??「ようやくメインヒロインと私が登場したと言うのにですか!?」
マイク「ドンマイだぜYEAH!」
??「それは別の彼へのセリフじゃないですか!」
マイク「試験は万全を尽くした緑谷!あとは天命を待つだけだがどうなる次回!?」
??「更に向こうへ!」
マイク&??「「Plus Ultra!!」」


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修行其の四:モサモサ!個性把握テスト!

 雄英高校の入試から数日、出久の元にも合否判定の通知が届いた。

 

『私が投影された!』

「お、オールマイト!?」

 

 三角形の機械から映された立体映像、それはスーツ姿のオールマイトだった。

 

『入試お疲れ様!そしてあの事件以来だね、少年!なぜ私がって? それは私がこの春から雄英に教師として勤めるからさ!』

 

 出久も含めた受験生達にとって、この情報は想定外のサプライズ発表となっただろう。

 立体映像のオールマイトの説明によれば、出久は筆記試験は問題なく突破。そして次に実技試験についての講評となった。

 仮想ヴィランロボを撃破することで得られる『(ヴィラン)ポイント』の他にもヒーローの重要な素質をそこでは測っていた。

 

 それは守るべき一般市民を、そして同じ仲間(ヒーロー)を助けようとする行動。それは『救助活動(レスキュー)ポイント』としてカウントされていた。

 

『『人助け』を、『正しい事』をする人間を排斥するヒーロー科などあっていい筈が無い!綺麗事? 大いに結構!綺麗事を実践するのがヒーローのお仕事さ!ちなみにこれは厳粛な審査制!そして……君のレスキューポイントは60ポイント!おめでとう!首席合格だってさ!』

 

 感無量。

 

 それ以外に出久が己の感情を表現する言葉が見付からなかった。鼻の奥がツンと熱くなり、目尻から涙が溢れる。

 

『ところで緑谷少年、私は君に謝らねばならない……あのヘドロ事件の折り、君の(チカラ)が……いや、()()が個性ではないことを証言することしか出来なくて本当にすまなかった!』

「!」

 

 あのヘドロ事件の時からずっと気になっていたこと、オールマイトは獣拳を知っていると言う予想は出久の中で確信へと変わった。

 

 確かに獣拳はどこかの一子相伝の暗殺拳のように秘匿された拳法ではない、それ故に知っていたとしてもおかしくはない。それでも世界人口の八割が個性を持つ超人社会となって以降、学ぶ人も少なくなってしまった獣拳を知っている。

 もしかしたらどこかへ去ってしまった師、マスター・シャーフーの行方についても知っているかもしれない。そんな期待を抱かずにはいられなかった。

 

『なぜ私が獣拳を知っているか……それを知りたくば来いよ!雄英に!ここが!君のヒーローアカデミアだ!!』

 

 感涙に咽ぶ出久は立体映像のオールマイトが消えるまで抱拳礼を取っていた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

 

 桜が舞う四月某日、憧れの人物が待つ雄英高校に入学した出久は今日から一年間通う『1年A組』のプレートが掲げられた教室の前に立っていた。

 

(デカイ扉……バリアフリーなのかな?)

 

 多種多様な個性に対応しているであろう雄英の意識の高さに感心しながらその扉を開くと、幼馴染みの爆豪といかにも真面目と言った雰囲気の眼鏡の青年が激しく言い争いをしていた。

 

「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者の方に申し訳ないと思わないのか!?」

「思わねぇよ!テメェどこ中の端役だ!?」

「俺は聡明中の飯田天哉だ!」

「聡明中? エリートってヤツか、ブッ殺し甲斐がありそうだなぁ!!」

 

 相も変わらずに『本当にヒーロー志望か?』と問いたくなるような言動の幼馴染み。そんな彼と言い争いをしていた飯田なる人物にある種の尊敬の眼差しを送っていた出久に強靭な尾を持つ男子生徒が話し掛けてきた。

 

「初めましてだよな、俺は舞木戸中の尾白だ」

「あ、僕は緑谷!よろしくね、尾白君!」

「こちらこそ。いきなりだけど実は俺、緑谷と同じ試験会場だったんだ。……それで、あの動きなんだけど……もしかして獣拳か?」

「! 尾白君、獣拳を知ってるの!?」

「あぁ、俺も拳法を学んでいる身でね。一度獣拳使いの動きを見たことがあるんだ」

 

 予想外なところで獣拳を知っている人物に会えたこと。互いに拳法を学ぶ者同士で盛り上がっている最中、出久の背後から麗らかな声が掛けられた。

 

「あ!その緑のモサモサ頭は!」

 

 そこにいたのは入試の日に出久を助け、出久が助けた少女だった。

 

「やっぱり合格してたんやね!あのパンチ凄かったもんね!」

 

 興奮している風に高いテンションで腕をブンブンと振り回す麗らかな少女は気付いていないのか、ズンズンと出久との距離を詰めて来る。しかし、それは女子に対して耐性が低い出久をパニックに陥れていた!

 

(ち、近いぃ~!!)

「今日って、入学式とガイダンスだけなのかな? 担任先生ってどんな人になるのかな?」

「お友達ごっこがしたいのなら他所に行け」

 

 楽しみで仕方ない。と言った少女の、いやA組の生徒達のテンションは突如現れた寝袋に入った無精髭を生やした謎の男の気だるそうな一言で鎮静化された。

 

「ハイ、静かになるまで8秒掛かりました。時間は有限、君達は合理性に欠けるね」

 

 謎の寝袋男(仮)は教卓に立つと、出久達の疑問に答えるように自ら正体を明かす。

 

「担任の相澤消太だ、よろしくね。早速だが、これに着替えてグラウンドに出ろ」

 

 そう言うと、担任の相澤は寝袋から学校指定の青いジャージを取り出した。

 

 -------------------------。

 

「ではこれより個性把握テストを行う」

「いきなりですか!? それに入学式は!? ガイダンスは!?」

「プロになるならそんなモノ出てるヒマはない。時間の無駄だ」

 

 突然の発言にクラスを代表するように麗らか女子が質問する。しかし、けんもほろろ。そのまま相澤教諭によるこのテストの説明が始まった。

 

「君たちも中学までやっていた体力テスト、それに個性の使用を許可した状態で行って貰う」

 

 手本として指名されたのは出久……ではなく、爆豪。

 爆豪の『死ねェ!!!』と物騒な掛け声とともに投げられたボールは爆破の勢いと爆風、そして持前の強肩により700メートル越えの記録を叩き出した。

 

「なにこれ、楽しそう!」

「個性を思いっきり使えんのか!さっすが雄英ヒーロー科!」

 

 早速の好記録と個性の使用が解禁されたことに沸き立つ生徒たち。しかしその雰囲気に水を差す一言が相澤教諭から告げられた。

 

「楽しそう、か……これからの三年間でそんな腹づもりでいく気なら……そうだな、こうしよう。トータル成績最下位の生徒は見込みなしと判断して除籍処分としよう」

 

 その一言で一気に緊張感が高まる。『理不尽だ』と抗議の声が上がるも、出久はそうは思わなかった。

 

「世の中は常に理不尽で溢れてる……自然災害やヴィランによる事件。この程度の理不尽は軽く、それこそ笑って乗り越えられるくらいじゃないとヒーローにはなれない……」

 

 無個性。それ故に辛酸を舐め続けた出久の何の気はない独り言。そのつもりだったが、それは相澤教諭どころかクラスメイト達の耳にも届いていた。

 

「緑谷の言う通りだ。放課後に遊びたいと思っているなら諦めろ。これから三年間、俺達教師陣はお前たちに様々な苦難を与えて行く。入試でも言われただろ、Plus Ultra。その精神で乗り越えろ」

 

 そして、雄英最初の試練(体力テスト)が幕を開けた。

 

 50m走を4秒で走破したことから始まり、握力200kgを記録した。

 尾白と接戦を繰り広げた上体起こしは一位を獲得。他にも長座体前屈、走り幅跳び、幅跳び、反復横跳び、垂直跳び、ハンドボール投げなどを出久は二位、三位の記録を勝ち取り、持久走では個性によりバイクを作り出した推薦入学枠の女子に追走するなど桁外れの実力を示した。

 

 そして総合結果で出久はクラス二位に食い込む健闘を見せた!

 

 その結果に納得のいかない四位の爆豪が出久に、『個性を隠していたのか』だの、『入試や今回も不正をおこなったのか!』と跳びかかった所、相澤教諭によって捕縛されるというアクシデントがあったものの個性把握テストは()()()()()()()()()()()()終了した。

 

「ちなみに『最下位は除籍』というのは、君ら生徒を焚き付けるための合理的虚偽(ウソ)ね」

「あんなの嘘に決まってるじゃない。ちょっと考えれば分かりますわ」

 

 茫然自失とする飯田たちを他所に一位を勝ち取った八百万は呆れていた。しかし実は内心一番危険なのは自分だと、一歩間違えれば除籍されていたと感づいている者がいた。

 

(ウソ、っていうのがウソだ。あれは本気の目だった……おそらく第一候補は……緑谷出久(ぼく)だ)

 

 相澤消太。相手の個性を消す『抹消』の個性を持つヒーロー・イレイザーヘッドの名を持つ彼は過去に154回、昨年に至ってはクラス全員を除籍処分にしている。

 その彼にこの場で除籍を言い渡されなかったということは、基準点(ボーダーライン)をクリアできたのだろう。最下位だった故に安堵の涙を流す峰田実と同様に、出久の背中にも冷たいモノが伝った。

 

 -------------------------。

 

「緑谷、途中まで一緒に帰らないか?」

「う、うん!喜んで!」

 

 尾白が誘ってくれた誰かと一緒に帰る、ということ。それは無個性ということで蔑まれて来た出久にとって、久しぶりのことだった。

 

「すまない、尾白君!緑谷君!俺も同行させてもらってもいいだろうか!」

 

 さらにそこに同行を希望してきたのは今朝、果敢にも爆豪に注意していたメガネ男子・飯田だった。

 

「俺は構わないよ」

「僕も大丈夫だよ!」

 

 聞けば飯田も同じ入試会場におり、出久が『あの試験の全貌を見抜いていたのでは?』と感心していたらしい。しかし出久が正直にそうではないことを伝えても『君の行動は紛れもなく尊敬に値すると』より感心した様子だった。

 そして三人の話題は今日の個性把握テストへと移行した。

 

「それにしても相澤先生にはしてやられたよ」

「全くだ!俺も『これが最高峰!』かと思ってしまったよ」

 

 昇降口まで出た所で、麗らかな声の少女と宙に浮かぶ女子の制服が出久と尾白を追い掛けて来ていた。

 

「おーい、お三方!駅までー?」

「待ってー、一緒に帰ろ―!」

「む!君たちは無限女子に透明女子!」

「麗日お茶子です!飯田天哉君に緑谷、デク君?」

 

 麗かな雰囲気の少女・麗日お茶子は出久の名前を誤読していた。

 

「あ、いや、あれで『いずく』って読むんだ。デクはかっちゃんが僕をバカにして付けたあだ名というヤツでして……僕は小さい頃は何ができるってワケでもなかったし、無個性だし……」

「蔑称、と言うヤツか」

 

 飯田と尾白の表情が険しくなる。心なしか透明少女も怒りのオーラが滲んでいる気がする。

 

「そうなんだ、なんかごめんね!爆豪君がそう呼んでたからてっきり……でも『がんばれ』って感じで好きだ!私!」

「デクです!」

「「おい!」」

「浅すぎるぞ、緑谷君!」

「コぺルニクス的転回……」

 

 物事の見方が180度変わってしまう事を比喩した言葉。それくらい出久にとって麗日の言葉は衝撃的だった。

 一方、ギャグ漫画レベルの出久の簡単(チョロ)さに、思わず尾白と声を重ねてツッコんでしまった透明少女は鈴のような声で笑っていた。

 

「あはは!被っちゃったね!葉隠透だよ!えっと、尾白猿夫(さるお)君?」

猿夫(ましらお)ね。よろしく、葉隠さん」

「ところで尾白君!尻尾モフらせて!」

「いきなりだね!?」

「だって気持ち良さそうなんだもん!」

「理由になってなくない!?」

「いいじゃん、いいじゃん!ちょっとだけー!」

「おー、葉隠さん、もう尾白君と仲良しだね!」

「うん!マブダチだよ!」

(相澤先生は『お友達ごっこがしたいなら他所へ行け』なんて言ってたけど、今くらいはいいですよね? オールマイト、マスター……)

 

 学生になって初めてかもしれない程に楽しく、賑やかな帰り道。

 入学初日からそんな友人に恵まれたことを獣拳の神と師シャーフー、そしてオールマイトに感謝する出久だった。

 




~??の獣拳アカデミー~


??「激獣剣歯虎(スミロドン)拳!我らが出久さんが修めている獣拳です!」
出久「まさか原始時代の猛獣とは予想できなかったなぁ…」
??「主な激技(ゲキワザ)は激気のスミロドンを螺旋回転しながら相手に突撃させる《穿穿弾》!」
出久「もう一つは高めた激気を集中させた拳を相手に直接打ち込む《穿穿拳》!もっと修行してさらに高みを目指さないと!」
??「そんな出久さんはとうとうヒーローとしての最初の授業に臨むみたいですね!そしていよいよ私も本編に登場予定です!」
出久「さらに向こうへ!」
出久&??「「Plus Ultra!!」」


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修行其の五:カミカミ!戦闘訓練!

 入学二日目、午前中はプレゼント・マイクが担当する英語などの通常科目を終えた僕たちはヒーロー科の生徒のみが受けることができるヒーローについて学ぶ『ヒーロー基礎学』という授業に臨もうとしていた。

 

「わーたーしーがー! 普通にドアから来たァ!」

 

 ヒーロー基礎学の担当講師である『シルバーエイジ』と言うコスチュームに身を包んだオールマイトの登場に僕は勿論、クラスメイト達が感動と興奮に目を輝かせた。

 

「さて、早速本日の課題を発表するぞ! そーれーはー!『戦闘訓練』のお時間だ!」

 

 オールマイトは演習所βに着替えて集合するように指示を出すと、教室を後にした。

 

 ----------。

 

「形から入るってことも大切なことなんだぜ!」

 

 数分後、指定された場所に集合した僕たちにオールマイトが告げる。

 

「そして自覚するのさ! 今日から自分は『ヒーローなんだ』と!!」

 

 身に着けているのは昨日着用していたジャージではない。『被服控除』という制度の下、各人の趣味や個性に合わせて製作された『戦闘服(コスチューム)』だ。

 

「良いじゃないか皆、カッコいいぜ!! それじゃあ、始めようか有精卵共!!」

 

 

「デク君、カッコいいね! 地に足が着いた感じだよ!」

「あ、ありがとうごじゃいまふ!」

 

 緑のカンフージャケットとシューズ、黒のズボン。そして手甲の着いた黒いフィンガーレスグローブ。これらは全てマスター・シャーフーからの合格祝いで送られた品で、それを褒められるのはとても嬉しかった。

 

 ただ、師匠(マスター)がどうして僕が雄英に合格したのを知っていたのかが気になった。

 

「私はもっと詳しく書けばよかったよ、パツパツスーツになってしまった……ちょっと恥ずかしい……」

 

 確かに麗日さんのコスチュームは身体のラインがハッキリ出てしまっているため、女子にとっては厳しいのかもしれない。けど、少しでもフォローするのが友達としての礼儀だ!

 

「ぼ、僕は、その宇宙飛行士を彷彿とさせるデザインはか、カッコイイと思うし、ピンクをメインとしたカラーリングは麗日さんによく似合ってて、その……か、可愛らしてくて、いいと思いますです……ハイ」

「えへへ、そっかな? ありがと!」

 

 カミカミの噛みまくりだ……。それでもなんとか言いたいこと伝わったらしく、俯きかけた麗日さんは照れたように笑ってくれた。

 

「まぁ、私はまだいい方なんよ。他の子は露出度が高くされちゃってる子もいるみたい」

「通りで八百万もスゴいカッコな訳だ」

「いやいや、実はヤオモモは注文通り。むしろ逆に隠されちゃってるんだって!」

 

 『目のやり場に困る』と同意せざるを得ないことを呟く尾白君と姿は見えなくとも賑やかな雰囲気の葉隠さんもまた希望した戦闘服を身に纏い、やる気に満ち溢れていた。

 

「尾白君は道着風なんだね!カッコいいよ! 葉隠さんは……ステルススーツ?」

 

 葉隠さんがいると思しき場所にはブーツと宙に浮くグローブしか僕の目には見えなかった。

 

「違うよ!私はブーツとグローブだけ!」

 

 『フンス!』と(おそらく)胸を張りながら自慢気な葉隠さんに尾白君は頭を抱えていた。

 

 そして、昨日除籍を免れた峰田君は『ヒーロー科最高!』とサムズアップを向けて同意を求めて来たが、僕は何も言えなかった。

 

 ------------------。

 

「では戦闘訓練を開始するぞ!内容はヒーローとヴィラン二人ずつ分かれての屋内対人戦だ!」

 

 ヒーローとヴィランの戦闘は屋外の方が多い。と思われがちだが、実は微妙に違うらしい。

 オールマイト曰く、統計で言うなら凶悪ヴィランの出現率は屋内の方が高く、監禁・軟禁・裏商売など『ヒーロー飽和社会』と呼ばれるこの現代において、真に賢しいヴィランは屋内と言う名の闇に潜むのだという。

 

「基礎訓練もなしに?」

「その基礎を学ぶための訓練さ!」

 

 ダイビングスーツ風のコスチュームの蛙吹さんの質問にオールマイトはにこやかに答えた。

 

「設定としては二人組のヴィランが核兵器をアジトに隠しているのを、二人のヒーローがそれを処理するって感じだ!」

 

 オールマイトの(カンペを見ながらの)説明が一区切りしたところで、怒涛の質問ラッシュが始まった!

 

「チームメイトと対戦相手の選出はどのように行われるのでしょうか?」

「ブッ飛ばしてもいいんスか?」

「また除籍とかないですよね?」

「勝敗のシステムはどうなっているのですか?」

「分かれ方はどのような方法ですか?」

「巨大戦はありますか?」

「このマント、ヤバくない?」

「ンンンーッ!!!聖徳太子ィッ!!!」

 

 マスコミによるインタビューなどで慣れていそうなオールマイトでも、同時に複数人を相手にした質疑応答ができるわけではないようだ。

 『喋りの中に修行あり』ってマスターが言ってたっけ……僕も結構口下手だから頑張らないと!

 

「勝敗についてだが、制限時間は15分! それ以内にヒーローチームは核兵器の回収、もしくはヴィラン二名の確保。対するヴィランチームは核兵器を守りきるか、ヒーロー二名の確保。これらが勝利条件となるぞ!」

 

 ちなみにチームメイトと対戦チームの選出はくじ引きによって行なわれた。

 

 

 

 なんか、聞き覚えのある声で変なことを聞いた人がいたような気がしたけど……、気のせいだと思うことにしよう。

 

 -----------。

 

 ヒーロー:Aチーム 僕&麗日さん。

 

 ヴィラン:Dチーム かっちゃん&飯田君。

 

 第一回戦から、しかも対戦相手がかっちゃんであることに『くじ引きって、ランダムってなんだろう?』と変なことを考えてしまうが、すでに賽は投げられた。ならば腹を括るしかない。

 

 かっちゃんと飯田君(ヴィランチーム)は先に核兵器の張りぼてが設置されているビルの中に入り、5分後に侵入する予定の僕と麗日さん(ヒーローチーム)を待ち構える。

 その5分は互いに作戦を立てたり、罠を仕掛けるなど事前準備のための時間だ。しかし、かっちゃんは勿論。飯田君も罠を使った策を取るタイプではないので、必然的に正面からぶつかり合うことになるだろう。

 

『それでは時間だ!AチームvsDチーム、屋内戦闘訓練……スタート!』

 

 オールマイトのスタート宣言に従い、行動を開始した僕たちはビル内に潜入してすぐにかっちゃんの奇襲を受けた!

 

 しかし抑える気配すらない濃すぎる殺気のおかげで、麗日さんを横抱きに抱えながら間一髪で回避に成功した。

 

「コラ、クソデク……避けてんじゃねぇよ」

 

 ヴィラン顔負けの殺意ダダ漏れな目付きに怯まず、視線を外さない。もし外せばその隙に致死レベルの攻撃を仕掛けて来るからだ。

 

「麗日さん」

「ひゃい!?」

「悪いけど、先に行っててくれるかな……」

「う、うん!わかった!頑張ってね、デク君!」

 

 サムズアップを向けて走り去って行く麗日さん。ヤケドをしてしまったのか耳や頬が赤かった気がするけど、心配は後だ。

 制限時間もある以上、早目に合流したい。けど、目の前にいる爆豪勝己と言う男はそれが易々と叶う相手じゃない。

 

「死ねェーーーッ!!!」

 

 掌で起こした爆破で飛び上がり、それを推進力にして突っ込んで来る。

 そして()()()()の右の大振りな一撃は危険な掌を避けて防御、がら空きの胸部に拳打を打ち込んだ!

 

「ぐあっ!?」

 

 苦痛に声をあげて壁に背中を打ち付けるかっちゃん。恐らく僕に動きを読まれて動揺したのだろう、防御どころか受け身もまともに取れていなかった。

 

「いつまでも、『ザコで出来損ない』のデクじゃないぞ、かっちゃん! 今の僕は『頑張れ』って感じのデクで……」

 

 訳あっていなくなる前、僕は師匠(マスター)から餞別として一つの肩書きを授かった。

 それは師が弟子の力量を認めた時、その者のあり方を誇示する肩書き授ける。という風習に従ったものだ。

 

『出久よ、オヌシは頑健な『体』もなければ、『技』も『心』も未熟……。しかし『無個性』故に降りかかる数多の困難にもめげずに己の夢を貫こうとする強い『志』を持っておる。故にオヌシが獣拳使いとして戦うことがあればこう名乗るがよい。オヌシは……』

 

「『不撓不屈、己が決意に迷いなし! 『貫徹する志(ペネトレート・アスピレーション)』! 激獣剣歯虎(スミロドン)拳の緑谷出久』だ!!」

 

 師から授かった肩書きを叫び、獣拳の構えを取る僕を見たかっちゃんはさらに怒りを滾らせる。爆発寸前の火薬庫の前に立つとしたらこんな感覚なのだろう。

 

「何チョーシくれてやがる……クソナードの分際でカッコつけてんじゃねぇ……そういう所もムカつくんだよ!!!」

 

 爆破で跳躍したかっちゃんが空中から放った回転式ミドルキックを防ぎ、仕込んでいた捕縛テープを巻き付けようと試みる。が、その前に蹴り脚を引かれて失敗に終わる。

 再度爆破で加速しながらの攻撃。その軌道を見切り、回避しつつ跳躍。無防備な背中に叩き込んだ浴びせ蹴りは会心の一撃となって、かっちゃんからダウンを奪うことに成功した!

 

 ----------。

 

 緑谷と爆豪の戦いの様子を俺たちは地下にあるモニタールームで観察していた。

 

「あれが獣拳の動きか……」

「獣拳?」

「知ってるのか、尾白君!?」

 

 獣のような緑谷の動きに関心して呟いた言葉は、近くにいた常闇とどこぞの塾生のような合いの手を入れる葉隠さんに聞こえていたらしい。

 

「あぁ、俺も詳しいわけじゃないけど、己の内に獣を感じ、その力を手にする拳法らしい。超常黎明期以前よりは学ぶ人が少なくなっているけど、プロヒーローの中にはこの流派を修めている人も少なからずいるそうだ」

「おや、獣拳について知ってくださっているなんて、感動ですね!」

 

 突然どこからともなく聞こえた声はこの2日間では初めて聞いた。少なくとも俺に聞き覚えはなかった。しかし、その声の主を探してモニタールーム内を見回すが、その姿は確認できない。

 

「誰だ!?」

「ここですよ、こーこ」

 

 モニタールームの出入口付近の物影から虫が飛ぶような羽音と供に現れたのは20センチ程の人の型をしたハエだった。

 

「で、でっかいハエ!?」

「ハエじゃありません! 私、出久さんのお目付け役で激獣声蝿(フライ)拳のバエと申します。以後、お見知り置きを」

「ど、どうも」

 

 その大きさに驚く葉隠さんに抗議するバエと名乗る人物(?)は、確かにランニングシャツとサスペンダー付きのジーンズ、そしてメガネを着用している。そして何よりも気になるのは口がマイクになっている所だ。あまり昆虫に詳しくない俺でもそんな生物が自然界にいないと言うことはわかる。

 そして彼もまた激獣拳と言う流派の獣拳使いである以上、ただのハエではないことは明らかだった。

 

「待つんだ、爆豪少年!本気でそれを使うなど……殺すつもりか!? 」

 

 『なぜここにいるのか?』と聞こうとしたのだが、オールマイトの不穏な叫びにその疑問は思考から消えてしまっていた。

 

 ----------。

 

 出久の抵抗に業を煮やした爆豪は籠手に仕込まれたギミックを起動させる。それを見咎めたオールマイトからの制止すら今の彼を止めるブレーキには成り得ない。 

 

「うるせぇな……、当たらなきゃ死なねぇよ……!」

 

 爆豪はそう言うと手榴弾のピンのようなモノを外す。篭手の中に溜め込まれたニトロ・スウェットが起爆、全てを飲み込むような爆炎が放たれた!

 

「避けろ!」

 

 そう叫んだのは誰の声だったのか。それでも回避行動を取ろうとしない出久に当人である爆豪すら驚愕に目を開く。そして、この後に広がる凄惨な光景を予想した数名が固く目を瞑り、顔を反らした。

 

 -----------。

 

「激技!」

 

 僕は爆炎に怖じ気づいて動けなかった訳じゃない。

 

 かつて憧れ、目標としていた幼馴染みに勝つため。真正面から挑むためにそこから動かなかったのだ!

 

「穿穿弾!」

 

 かっちゃんの爆炎に対して、己の中にある激気を放つ!

 その牙を『(サーベル)』と例えられた古代に生きた獣は弾丸のように高速で回転しながら突進!

 

 正面からぶつかり合った爆炎と獣の気弾は互いに相殺しあい、虚空の中に消えていった。

 

「なっ……!?」

 

 かっちゃんの表情が驚愕に固まる。混乱の極み状態に陥ってるのだろう。

 

 己の攻撃で一歩間違えれば僕を本当に殺しかけたこと。

 

 その相手が放った攻撃に己の爆炎を消されたこと。

 

 様々なことがこの短時間で起きすぎたことで、脳内の処理が追いついていないのだ。

 

 故に隙を突いたタックルによって押し倒され、捕縛テープを巻き付けられたことに気付いたのは走り去る僕の姿が見えなくなった後のことだった。

 

「ックソがぁあぁーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

 

 かっちゃんの悔恨の怒声を聞きながら僕は麗日さんと合流すべく、上階の階段を駆け上った。

 

 

 

 その後、僕と麗日さんは即席とは言えども、連携して僕が飯田君を足止めしている間に麗日さんが核兵器を確保。制限時間ギリギリで勝利することが出来たのだった。

 




~バエの獣拳アカデミー~

バエ「いよいよ私も本編に登場できました!」
出久「良かったですね!これからベランベランな実況をお願いします!」
バエ「お任せください!激獣声蝿(フライ)拳の名に懸けて、激気魂を燃やして務めさせて頂きますよぉ!!」

出久「そして今回から登場した僕の戦闘服(コスチューム)ですが、原作のオールマイト風ジャンプスーツじゃなくなってます」
バエ「これはゲキレンジャーの初期メンバーのお三方の内、男性メンバーが着用されていたモノの色違いになりますね!」
出久「オリジナルの設定として、激気を通しやすい特殊な布で出来ていて、激気によって防御力を向上させることが出来ます!」
バエ「そして手甲つきのグローブですが、これは勿論ゲキチェンジャーです! 激気を増幅して激技の精度や威力を向上させることが可能!」
出久「さらに高次元圧縮収納機構により、災害救助用の器具や応急セットなどのアイテムを多数収納できる優れモノです!」

バエ「さて次回は?」
出久「戦闘訓練が終わった僕たち、だけどまだもう一悶着ありそう?」
バエ「さらに向こうへ!」
バエ&出久「「Puls Ultra!!」」


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修行其の六:ギラギラ!こっからだ!

 なんとか勝利で終われた戦闘訓練。モニタールームに戻った僕たちは、オールマイトと見学していたクラスメイト達による講評を聞くことになった。

 

 オールマイトがこの戦闘のMVPが誰かを尋ねると、八百万さんの手が挙がった。

 

「飯田さんです。飯田さんは設定された状況に最も真面目に取り組んでいただけでなく、麗日さんの個性の対策として事前に室内のモノを隠していたことなどの最善の行動をされていたからです」

 

 敗北して落ち込んでいた飯田君だったが、推薦枠で入学したという八百万さんにMVPに選ばれたことで見事復活を遂げていた。

 

「おや、勝利した麗日さんと出久さんではないんですね?」

「緑谷さんは相手の奇襲を受けながらも仲間を守り、先行させた判断は良いのですが、オールマイト先生ですら危険と断じる攻撃を避けもせず、正面から立ち向かうのは一概に褒められたことではありません。一歩間違えれば怪我では済まなかった可能性がある以上、大きなマイナスです」

 

 確かにそうだ。入試の時には『これが実戦なら』という考えが出来ていたにも関わらず、今回は変に意地を張ってしまった。僕もかっちゃんに対して思う所があった。今回はそれが強く出てしまったのは間違いない。

 雄英(ここ)は『ヒーローになるための学び舎』であって、『かっちゃんに僕を認めさせる場所』ではない、という当たり前のことがわかっていなかった。

 

 麗日さんは油断から相手に発見された点を指摘されていた。実戦であればそれは自分だけでなく仲間をも危険に晒しかねない、と八百万さんは評していた。

 

 そしてかっちゃんも『連携を無視した独断専行、核兵器があるにも関わらず拠点ごと破壊しそうな威力を秘めた篭手の爆撃砲を躊躇なく使用したことは目に余る』と自身の行動の結果とは言え、散々な言われようだった。

 そっと視線を向けると、かなり追い詰められた表情で何も聞こえていないようだった。

 

「もしかして思ってたこと全部言われちゃってます?」

「そんなことはないぞぅ! うん、正解だ!八百万少女は良い観察眼を持っているね!」

「常に下学上達、一意専心に学ばなければヒーローにはなれませんので」

 

 八百万さんは特に喜ぶ様子もなく、クールに締めた。

 

「では次の組み合わせに行くとしよう!みんなもこの講評を参考にして訓練に臨むようにな!」

「尾白さん、葉隠さん、頑張ってくださいね!」

「了解」

「ありがとー!頑張るよ!」

 

 オールマイトの指示に従い、次に訓練に臨む尾白君達が移動を開始する。

 

「轟さん、障子さんもファイトですよー!」

「……」

「うむ、行ってくる」

 

 物静かな印象のある轟君と障子君。轟君は八百万さんと同じ推薦入学者、きっとどんな状況でも感情に振り回されることもないのだろう。

 

「『ちょっとしたことで動揺してしまいがちな僕としては見習わないと』とか考えてます?」

「はい……僕もかっちゃんに対して感情的になっていたと思いま……す?」

 

 ……なぜさっきから聞き覚えのある、と言うか毎日聞いている声がするんだろう?

 

「まぁ、そう落ち込まないで! 元気だして下さい、出久さん!」

 

 ……何故、手本にした生物と同じ羽音を発しながら飛行するお目付け役の兄弟子がいるのだろう?

 

「……ば、バエさん!? なんでいるんですか!?」

 

 師匠(マスター)が今よりもまだ未熟だった頃の僕が『間違った道に進まないように』と引き合わせてくれた兄弟子がバエさんだった。

 とある戦いで禁断の激技を使い、その技が不完全だったせいで今の姿になってしまった巨大戦の実況に命を燃やすことを信条としている。

 そんな部外者であるハズの彼がなぜ雄英高校(ここ)にいるのか。

 

「まぁ、それはまた後で説明します。それより尾白さん達の訓練が始まってしまいますよ?」

「あ、はい……」

 

 僕の肩に止まるバエさんに良いように誤魔化されたような気がするけど、クラスメイトの個性や戦い方について知れる折角の機会。しっかりと学ぶため、僕は視線と思考をモニターに向けた。

 

 ----------。

 

「圧倒的過ぎる……」

 

 春だと言うのに吐息が白い。

 続く第二戦目は尾白君と葉隠さんのIチームがヴィラン、轟君と障子君のBチームがヒーローという組合せだったのだが、轟君が個性でビルごとヴィラン二名と核兵器を凍結させ、そのまま制圧すると言う完封勝利だった。

 その訓練は轟君のレベルの高さを知ることが出来たが、尾白君達の力を知ることは次の機会に持ち越しとなってしまったのは残念だった。

 

「へっくち!」

 

 可愛いくしゃみ、その主はチームを組んだ隣の麗日さんのモノだった。轟君の氷結は地下のモニタールームにまでその冷気が流れ、皆が寒さに震えていた。

 

「あ、あの、麗日さん!こ、これ、良かったらつ、使ってくださぃぃ……」

「え、でも、それだとデク君が寒くなってまうよ?」

「ぼ、僕は大丈夫! ちょっと汗臭いかもだけど……」

「ううん! ありがとう!じゃあ、お言葉に甘えて借りるね!……おー、ぬくいー♪」

「そ、それは良かった、デス……」

 

 自分で渡しておいて何だが、僕が差し出したカンフージャケットを羽織るのでなく、完全に着込んだ麗日さんはほにゃりと笑った。そんな麗日さんに何故か顔から火でも吹き出るのではないかと思うほど熱くなった。

 

 その後、モニタールームに戻って来た葉隠さんが訓練前には着ていなかった道着風の上着を着ていた。不意に上着の持ち主(尾白君)と目が合うと、互いに苦笑した。

 

 

 その間も訓練は続き、全員がその個性を活用した行動は非常に勉強になった。

 

 Cチームの峰田君&八百万さんvsHチームの蛙吹さん&常闇君。八百万さんの《創造》によってバリケードを構築している間、何かを凝視している峰田君は女子の顰蹙を買っていた。

 常闇君の《黒影(ダークシャドウ)》は攻防バランスの取れた個性で、蛙吹さんのサポートも光っていた。

 

 Eチームの芦戸さん&青山君vsGチームの上鳴君&耳郎さん。

 芦戸さんの個性である『酸』で青山君のマントが溶けてしまうアクシデントが起こるも、耳郎さんの『イヤホンジャック』による索敵で即座に核兵器と相手の居場所を把握。攻撃にも転用出来る汎用性の高さは注目するべきだろう。

 ただ戦闘終了後に上鳴君の様子がおかしかったのは《帯電》の個性が関係しているのだろうか?

 

 Jチームの瀬呂君&切島君vs Fチームの口田君&砂藤君。

 瀬呂君の《テープ》による防衛網と切島君の《硬化》は防御に徹底されると非常に厳しい。屋内で拠点防衛を主眼とするなら二人の組み合わせは抜群だった。

 対して口田君の《生き物ボイス》は生物を操れる強い個性だけど、市街地で屋内となると近くに動物が少ないことから苦戦を強いられていた。砂藤君の《シュガードープ》これは短期決戦に特化しているようで、長期戦になりやすい防衛戦を展開する今回の訓練では相手も含めて相性は最悪だったと言わざるを得ないだろう。

 

 そして全訓練と講評が終了した。

 

「よし、以上で今日の授業は終了だ!みんなお疲れさんだったね!全員大したケガもなかったし、初めての実戦訓練にしちゃあ上出来だったぞ!!」

 

 オールマイトの労いの言葉に思わず拍子抜けしてしまう。昨日の相澤先生のようなのが基本(デフォルト)と考えていたので、余計にそう感じてしまう。

 僕たちのそんな空気を察したのか、さすがのオールマイトもリアクションに困っていた。

 

「相澤君、一体何を……ま、まぁ、雄英(ここ)は『自由な校風』が売りだからね!教師の個性的な授業も自由ということさ! じゃ、着替えて教室に戻ってくれたまえ!では!」

 

 ビシッ!と手を挙げ、オールマイトはダッシュでその場を走り去って行った。

 

 ……気のせいだろうか、オールマイトの身体から煙のようなモノが上っていたように見えた。

 それは風船から抜ける空気のように、オールマイトの『ナニカ』が徐々に弱まっているような奇妙な感覚。それは()()()のように僕の胸の中に残り、消えることがなかった。

 

 ----------。

 

 着替えを終えて教室に戻った僕は切島君や芦戸さん、青山君達に囲まれ、訓練での動きを誉められたり、自己紹介を受けていた。獣拳のことを聞かれなかったので不思議に思っていると、僕がかっちゃんと戦っている間に尾白君とバエさんが説明してくれていたらしい。

 そのバエさんはと言うと、一年前にデビューして以来すっかりファンになってしまったプロヒーロー・Mtレディがヴィランと戦闘中との速報を見て文字どおり飛んで行ってしまった。

 

 なぜいたのかを聞きたかったけれど、それよりも大事なのは切島君達がこれから今日の授業の反省会をすると言う。なんとそこに僕も誘ってくれた!

 喜んで参加を表明して、ふと教室を見回すとかっちゃんの姿が見えないことに気付いた。

 

「切島君、かっちゃん知らない?」

「あぁ、爆豪だよな? アイツも反省会に誘ったんだけど、さっさと出て行っちまったんだ」

 

 切島君にお礼を言うと、僕はかっちゃんを追いかけた。

 

「かっちゃん!!」

「……アァ?」

 

 昇降口を出たところでなんとか追いついたが、呼び止めた僕を肩越しに睨みつける目力に思わず腰が引けてしまう。

 

「僕は本当に木偶の坊だった……けど、とても偉大な師匠(マスター)に出会って、獣拳を教えて貰うことが出来て、今の僕があるんだ! 今回は僕が勝った……でも、かっちゃんを超えたなんて到底思えない!君はまだ僕にとって上の存在なんだ!!」

 

 バカにしてきて見下して、『夢』を散々笑われて、いつしか『嫌なヤツ』と苦手意識を持ってしまった相手。

 

 何でもできて、優秀な個性を持ったスゴイヤツ。幼い頃は憧れ、目標にしていた相手。

 

 それが僕にとっての爆豪勝己という人間への評価だ。

 

「今日、僕が勝てたのはかっちゃんの中での『緑谷出久(ぼく)』という存在が幼い頃から変わっていない『泣き虫で何もできない木偶の坊のクソナード』のままだったからだ!」

 

 『余裕で、片手で捻り潰せる石ころだ』と油断し、本気の10分の1すら出していなかった。故に勝てた。

 

 もし最初から油断せず、本気でかかられていたら? 敗北に涙していたのは僕の方だったかも知れない。

 

「……何が言いてぇのかわかり辛ェんだよ!! ……今日、テメェに負けたのは事実だろうが! 半分野郎にも勝てないかも知れねぇ、って一瞬思っちまった……。ポニーテールの奴の意見にも納得しちまった! ……クソッ!!」

 

 「でもな」と、僕の方に振り返ったかっちゃんは涙を浮かべていた。それでもそのギラギラと光る目から力は失われていない。

 

「いいか、デク! ……ここからだ! 俺はここから……俺は雄英(ここ)で一番になってやる!! もう二度と!テメェにも負けねぇからな!! クソが!!」

 

 かっちゃんなりのけじめの言葉と決意。その力強い宣言の後、再び僕に背を向けて歩き出した。

 

「僕だって負けるつもりはないよ! ……憧れた君に認めて欲しいから!」

 

 僕の宣言に何の反応も示さないかっちゃん。そんな時……、

 

「いたァーーーーーッ! 爆豪少年!!」

 

 突風のように駆けてきたオールマイトがかっちゃんの肩を掴んだ。

 

「自尊心ってのは大事なモンだ! 君は間違いなくプロになれる器を持っている! 君はまだまだこれからだか「離してくれ、オールマイト……歩けねぇ……」……あ、はい」

 

 「あ、はい」て。

 

「……言われなくても解ってる……、俺は!アンタをも超えるヒーローになってやる!」

「あれー? ……あ、うん……すでに立ち直ってたのね……」

 

 激励に来たハズのオールマイト。しかしタイミングが悪かった、と言うしかない。

 

「……教師って難しいね!」

 

 その声はどこか自分を鼓舞しているようだった。

 




~バエの獣拳(?)アカデミー~

プレゼント・マイク「麗日お茶子!個性は《無重力(ゼロ・グラビティ)》!五本の指先についた肉球で触れたモノを無重力状態にして浮かせることが出来る!許容量は約3t!許容量を越えて浮かせ続けたり、自分を浮かび上がらせると平衡感覚がイカれてゲロっちまうぜ!」
バエ「入試の時に出久さんを助けてくれたことから始まり、同じクラスになったり、今回の訓練でもコンビを組むなどなにかと縁がありますね!」
出久「ときどきスッゴく近いので心臓に悪いです……」
マイク「イチャつくのは構わねぇが、本質を見失うんじゃねぇぜ!」
出久「い、イチャちゅくってなんですか!?」
バエ「出久さんにも春が来たんでしょうかねぇ……」
出久「バエさんまで!?」

マイク「そういや、相澤っちがオマエらに何やら決めさせるみてぇだぜ!」
出久「そうなんですか? 二回目のヒーロー基礎学の授業の内容も気になります!」
バエ「そして出久さん達に迫る不穏な影!どうなる次回!」

マイク「さらに向こうへ!」
マイク&バエ&出久「「「Puls Ultra!!!」」」



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修行其の七:ギュンギュン!頑張れ、飯田君!!

 №1ヒーローであるオールマイト。その人気は一挙手一投足が話題になり、常にマスコミが彼の情報を求めて東奔西走している。そんな彼らが最高峰と言われるヒーロー育成機関である雄英の教師になるという情報に食いつかないはずはなかった。
 大勢のマスコミが群れをなし、登校する雄英生に片っ端からマイクやカメラを向け、少しでも情報を得ようと躍起になっていた。

 そして、そんな彼らを眺めて笑みを浮かべる悪意。僕たちはその存在に全く気付いていなかった……。



「昨日の戦闘訓練をVで見させてもらった」

 

 朝のホームルームは相澤先生のその一言から始まった。

 やはりというか、かっちゃんの行動について注意であり、当のかっちゃんは素直に相澤先生の言葉を受け入れていた。

 

「さて、早速だが……」

 

 相澤先生の言葉に緊張が走る。先日のように除籍などの罰則が課せられた難題を出されるのか、と身構える。

 

「君たちには学級委員長を決めてもらう」

「「「「「学校っぽいのキターーーーーッ!!!!!!!!」」」」」

 

 思ったよりも普通の議題だった。しかし更に高みを目指すには、個性的な面々が集まるこのクラスを纏められるだけの求心力を持ったキャプテン……もとい、委員長(リーダー)が必要だ。

 

「はい!それ!俺やりたいです!」

「ウチもやりたいっす」

「リーダー、やるやる~!」

「僕のためにあるヤツ☆」

「オイラのマニフェストはスカート丈膝上30㎝!」

 

 切島君の挙手を皮切りに、僕も含めたクラスの全員が委員長(リーダー)という役職に対して積極的になっている。しかし峰田君、君(のマニフェスト)はダメだ。

 

「静粛にしたまえ! 委員長(リーダー)とは多を牽引する責任重大な仕事だ!『やりたい』からと言ってやれるものではないはずだ!」

 

 飯田君の一喝で、気分が高揚していた僕たちは冷静になれた。

 

「周囲の信頼あってこそ勤まる責務!民主主義に則り、真のリーダーを決めるのであれば投票による多数決で決めるべきだ!」

 

 周囲が暴走しそうな中で冷静な判断を持って、全員が納得する提案を出せる飯田君は委員長(リーダー)に相応しいのではないかと思わせるほどにカッコ良かった。

 

「オマエの腕が一番ビシッと聳え立ってんじゃねーか!」

「それに一週間も経ってないのに信頼も何もないと思うわよ、飯田ちゃん」

 

 触れないでおこうと思った部分への切島君と蛙吹さんの鋭いツッコミに飯田君は凹んでしまった。

 

 

 

 投票の結果、僕がなぜか3票、八百万さんが2票を獲得し、委員長と副委員長にそれぞれ就任した。ちなみに飯田君の得票数は僕が入れた1票だけ、という結果でさらに凹んでしまうのだった。

 

 ----------。

 

 昼休み、僕たちはクックヒーロー・ランチラッシュの絶品メニューで午後の授業への活力を補給していた。

 そんな中、ふとしたキッカケで飯田君がプロヒーロー・インゲニウムの弟であることを知った僕は感動に震えていた。

 

「こんな身近にヒーローの親族がいるなんて……さすが雄英!」

「良かったら今度遊びに来るかい? スーツの試着も頼んでみようか!」

「えぇ!? そんな恐れ多い……いや、でも、生きてて良かったーっ! ……?」 

 

 飯田君の提案に心が躍っていた僕は不意に妙な気配を感じるも、その気配はすぐに消えてしまった。気のせいだったのだろうか?

 

「? デク君どうかしたの?」

「あ、いや!」

 

 「なんでもないよ」と麗日さんに答えようとしたのと、賑やかだった食堂に大音量の警報が鳴り響いたのはほぼ同時のことだった。

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難してください』

 

 近くにいた先輩によればセキュリティ3の突破とは校内に侵入者が出たことを意味するものらしい。

 そこまで広くない避難経路に押し寄せた生徒たちは完全にパニックに陥っていたが、窓の外を見やればそこには押し寄せるマスコミとそれを抑える相澤先生とプレゼント・マイク先生の姿があった。

 

「どうやら侵入者ってのはマスコミみたいだよ!」

「でも、どうやってここの全員に伝え……きゃ!?」

「大丈夫!?」

「あ、うん……ありがと……」

「良かった……どうにかしてここの人たちを落ち着かせないと、このままじゃケガ人が出るぞ!」

 

 誰かにぶつかったはずみで転んでしまった葉隠さんを尾白君が尻尾で支えて事なきを得た。

 

 どうする!? どうすればこの事態を早急に沈静化できる!?

 

 人波の中で切島君と上鳴君が避難誘導をしているけど、すでに口論やケンカが起き始めている以上、早急に事態を鎮静化させないと!

 

「! 麗日君!俺を浮かせろ!」

 

 麗日さんは飯田君が伸ばした手に触れると個性を発動、宙に浮いた飯田君はその個性である脚の《エンジン》を起動。空中をギュンギュンと高速で縦回転しながら入口の方に向かって飛んだ!

 そして壁に叩きつけられてようやく止まった。

 

「皆さーん!大っ丈ー夫!!ただのマスコミです!大丈夫!! ここは雄英!最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!」

 

 良く通る大きな声で警報の原因と何事もないことを端的に伝えた。そして冷静に行動するように促すと、我先にと避難しようとしていた人達は落ち着きを取り戻し、事態の鎮静化に成功した。

 

 その後、マスコミは駆けつけた警察の方々により強制的に退去させられ、騒ぎは完全に収束した。その立役者である飯田君の勇姿を見て僕はある決心をした。

 

 

 僕は飯田君に委員長の座を譲った。

 八百万さんはちょっと納得がいかないような感じではあったけど、

 

「あの場で適切な行動を取れた飯田君こそ委員長に相応しいと思うんだ」

 

 そう説明すると、ようやく首を縦に振ってくれた。

 

 ーーーーーーーーーー。

 

 しかし、『雄英バリア』とも称されるセキュリティーゲートを普通のマスコミが簡単に突破できるものなのだろうか?

 現役のプロヒーローが教員を務める場所にゲートを破壊してまで侵入するとは考えにくい。

 

 それに一瞬だけとは言え感じたあの妙な気配、あれが気のせいじゃないとすればその気配の主が関係していることは想像に難くない。

 

 だけどそれを証明する確たる証拠もない以上、どうしようもない。

 

 今の僕にできることと言えば有事の際に対処できるように修行を重ね、何事もないことを祈るだけだった。




~バエの獣拳(?)アカデミー~

プレゼント・マイク「飯田天哉!個性は《エンジン》!ふくらはぎに備わるエンジンのような器官が爆速を生み出すぜ!50m走を3秒で走る事が可能!
ちなみににエネルギー源はは100%オレンジジュース!炭酸系はエンストを起こしちまうから要注意だぜ YEHA!
ギアチェンジが可能で、様々な状況に対応することが可能だ!」
出久「あのスピードは本当にやっかいでした、最高速度からの攻撃を避けるのは至難の技です!」
バエ「異世界に行ったら身体と魂に分裂したりしそうな名前の個性ですね」
マイク「そりゃエンジン違いだぜ、Brother!」
出久「正義のロードを突き進む感じはピッタリかもしれないですけどね」

バエ「さて次回はようやく次のヒーロー基礎学の授業ですよ!」
出久「あの時感じた妙な気配、何事もないと良いけど……」
マイク「相澤っちを信じろ!なにがあっても必ずやってくれるぜ!」

バエ「さらに向こうへ!」
マイク&出久&バエ「「「Puls Ultra!!!」」」



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特訓其の一:ボムボム!ヤンキー委員長!?

修行其の七を投稿したあとに思い付きました。

『修行其の23 グレグレ!スケ番キャプテン』を基にしています。


 相澤先生に委員長決めを言い渡された出久達A組一同は、飯田の提案に基づいて投票による多数決で委員長を決めることにした。

 

 緑谷…3票

 八百万…2票

 青山…1票

 芦戸…1票

 蛙吹…1票

 飯田…1票

 尾白…1票

 上鳴…1票

 切島…1票

 口田…1票

 砂藤…1票

 障子…1票

 耳郎…1票

 瀬呂…1票

 爆豪…1票

 峰田…1票

 

 以上の結果、出久が委員長。八百万が副委員長に決定した……ハズだった。

 

「なんで、テメェに3票も入ってやがんだ!ゴルァ!!」

「し、知らな(ズルッ)……へごっ!?」

 

 自分より得票数が多かったことにが納得いかない爆豪に気圧された出久は、運悪く足を滑らせて転倒。後頭部を強打したらしく、かなり強烈な音が教室内に響いた。

 

「緑谷君!しっかりしろ、緑谷君!」

「デク君!大丈夫!?」

「……あー、大丈夫だよ、そんな騒ぐほどのことじゃねーって」

「そうか!それは良かった!……ん?」

「デク、君?」

 

 駆け寄り、声掛けを行った飯田と麗日にしっかりと返答する出久ではあるが、その様子がおかしい。

 

「ハッ! 何、ズッコケてやがんだクソデク!? 俺が悪ィみてぇだろうが!さっさと起きやがれ!」

 

 昨日の件で注意された直後にこの惨事のキッカケとなった爆豪だが、悪びれる様子は全くなかった。さすがに聞き捨てならない、と数名が声を上げようとしたその時だった。

 

「テメェが悪ィに決まってんだろうが、この脳ミソニトロ野郎!」

 

 その瞬間、教室内の時が止まった。

 

「テメェが投票(支持)されなかったからって()に八つ当たりしてんじゃねーよ、クソのゲロ煮込み野郎が! ったく、痛ってーな!」

 

 大人しく、引っ込み思案な普段の出久とは掛け離れた不良(ヤンキー)のような言動に、さすがの相澤と爆豪も完全にフリーズしていた。

 

「で、デク君が……」

「み、緑谷君が……」

「「()って言った!?」」

「いや、反応すべきはそこではありませんでしょう!?」

 

 目の前の光景(現実)を受け入れられないのか、果てしなくどうでも良いところに驚いてしまった飯田と麗日。思わず突っ込みをいれてしまった八百万もようやく復帰、同時に爆豪も再起動を果たした。

 

「……ッテメェ!誰に口訊いてやがんだ!アァ!?」

「テメェだよ、テメェ!爆破のし過ぎで鼓膜イカれてんじゃねーのか!? このボムボム騒音公害野郎!」

「ンだとゴルァ!」

 

 普段と掛け離れている、というよりは間反対の性格に『反転』してしまったかのような変貌ぶり。それはまるで、ハリネズミのような敵にいくつもの秘孔(ツボ)を突かれたせいで、グレてヤンキーになってしまったかのようだ。

 

「い、一体どうなっているんだ?」

「コミックでよくある、頭を打ったせいで人格が変わっちゃった……とか?」

「そんなバカな!?」

 

 爆豪と口汚く言い争う出久と言うあり得ない光景を『悪夢(ユメ)ではないのか?』と自分の目を疑ってしまう尾白と葉隠。

 

「なんでテメェが3票で俺が1票なんだ!? アァ!?」

「知らねーよ!テメェに投票する(入れる)くらいなら、俺の方がマシだってよ!人望ねーな、未来のNo.1ヒーロー(笑)さんよぉ!」

「ハァ!? 人望ぐれぇあるわ!」

「寝惚けてんのか? 俺が委員長になってる事実みろや!」

「黙れや、このクソナード!」

 

 出久が中指を立てれば、爆豪も中指を立てて威嚇しあう。

 

「クソクソ、うっせーんだよ!あのクソ雑魚ヘドロ野郎に取り込まれて、ベソかいて小便チビってた(ファッ○ン)爆竹が謳ってんじゃねーぞ、コラァ!!!」

「……テメェ……どうやら本気で死にてぇらしいな……?」

「ア? やんのか?」

 

 教室内である。と言うことすら忘れ、掌から分泌させたニトロ・スウェットを起爆させる爆豪と手の骨をバキボキと鳴らして挑発する出久。

 

「……ブッ殺す!」

「やってみろやァ!」

 

 ()る気どころか()る気満々の両者。しかしそのぶつかり合いは怒り心頭の担任が放った捕縛布によって防がれた。

 

「ガァアァーッ!!!またコレかァ!?」

「離して下さいよ、相澤センセー!」

「オマエら……特に爆豪はいい加減にしとけよ? 二人揃って除籍にするぞ」

「……スンマセン」

「……ッス」

 

 除籍と言われ、渋々拳を収める両者だった。

 

 ----------。

 

「さーて、メシメシ~♪」

 

 昼休み、食堂で好物のカツ丼にご満悦な出久。そんな出久と同じ卓に着いている飯田、麗日、尾白、葉隠は疲労困憊状態だった。

 

「もうダメだ、疲れた……」

「目が合えば睨み合い。それだけならまだしも、ことあるごとにケンカの売って売られての繰り返しだったからな……」

 

 しかし、その後は度々メンチの切合いやいざこざを勃発させ、その度にクラスメイト達に止められ、引き剥がされていたのだ。

 

 ーーーーーーーーーー。

 

 相澤教諭の拘束から解放されたその直後、

 

「ま、俺が委員長になったんだ。せいぜい従ってくれや」

「寝言は寝て死ね!」

 

 ニヤニヤと笑う出久はポケットから500円玉を取り出した。

 

「さっそく、メロンパン買って来いや!コーヒー牛乳もな!ほい500円、釣りはとっとけ!」

「それはテメェが渡る三途の川の渡し賃にしやがれクソがァーーー!!!」

 

 ーーーーーーーーーー。

 

「そういやオマエ、なんで腰パンしてんの?」

「アァ!? テメェにゃカンケーねぇだろうが!黙ってろ、クソデクゥ!」

 

 制服を着崩す爆豪に対して、ヤンキーのような性格になっても出久は服装を崩すことをしていなかった。

 

「あー、そっか!足短けーの隠すためか!」

「……殺す!」

 

 ーーーーーーーーーー。

 

「緑谷君!爆豪君を無闇に挑発するのは良くないぞ!ケンカもダメだ!」

「……しゃーねぇ、飯田がそう言うならケンカ売るの止めんのも吝かじゃねぇ」

「(緑谷君に呼び捨てされるのは違和感がスゴいな……)解ってくれたか!」

 

 さすがに見過ごせなくなった飯田の叱責に出久は渋々ながらも従う様子を見せた。

 

「爆豪も一々挑発に乗るなよ!矢鱈とケンカするなんて男らしくねーぞ?」

「うるせぇ!俺に指図すんなクソ髪ィ!」

 

 しかし幼少時から暴君としての片鱗を見せていた爆豪は切島の説得に耳を貸そうとする姿勢すら見せない。それでも根気強く説得を続けようとする切島の肩を出久が叩いた。

 

「ドンマイ、切島!コイツ男じゃねぇし、脳ミソの代わりに火薬が詰まってっから人語を理解できねーのよ」

 

 舌の根も乾かぬ内に息を吐くようにケンカを売る出久と、挑発に乗る爆豪。

 

「テメェ……表出ろや、クソデクゥ!マジで死なす!!」

「やってみろや、ゲロ煮込み爆弾!」

「「……」」

 

 飯田と切島は思い出した。

 

 確かに出久は「止めるのも吝かではない」とは言った。しかし「止める」とは言ってはいなかったことを……。

 

 ーーーーーーーーーー。

 

「テメェ、いい加減うっとおしいんだよ!このクソデクゥ!」

 

 さすがの爆豪も日に何度もケンカを売られ、それを無理矢理押さえ付けられるフラストレーションは限界を越えようとしていた。

 

「テメェが言えた義理じゃねぇだろうが、このジョック(エリート)気取りのトラッシュ(不良)野郎が!」

「ハァ? 何寝惚けたこと言ってんだ、テメェ?」

「散々、石っころ呼ばわりしてた俺に一々突っ掛かって来たのはテメェだろうが!雄英(ここ)受けることにすら文句言って来た上に俺の研究ノートまで爆破したテメェがウザくなかったワケねぇだろうが!都合良く忘れてボケてんじゃねーぞ、爆発頭!」

「ッ!……ンな、昔のことネチネチ言ってんじゃねーぞ!無個性のクソ雑魚ナードが!」

「無個性、無個性うるせぇよ!逆ギレかましてんじゃねーぞ、極悪ボン○ーマン!」

 

 『木偶の坊』を捩った蔑称で呼び、無個性とバカにし続けたことは既に知っていた飯田達ではあるが、さらに深い両者の因縁を謀らずとも知ることになってしまった。

 

「ア?」

「アァ?」

 

 そして、今の出久が爆豪に突っ掛かっり、睨み付け(メンチを切)合う姿についても納得出来てしまうのだった。

 

 ーーーーーーーーーー。

 

「あんなん、いつものデク君じゃない……」

「あのマイナスイオン出てそうな緑君、カムバーック……」

 

 爆豪との間に火花が散る度に飯田と尾白が制止に動き、麗日と葉隠が宥める。といったことを午前中だけで何回繰り返したのだろうか。

 

 大分離れた席では爆豪の方を制止(担当)してくれた切島、瀬呂、上鳴がグロッキー状態で臥せっていた。

 

「とりあえず、食事をしよう!しっかりと食べねば有事の際に力が出せないのはヒーロー志望としてあってはならないからな!」

 

 飯田の激励により多少の気力を取り戻した麗日たちは昼食に箸をつけた。その時だった。

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難してください』

 

 けたたましい警報音のあとに流れた放送によって食堂内はパニックに陥った。

 

「ぷはー、食った食った!ごちそーさん!っと」

 

 ただ一人、出久だけはのんびりと食後のキシリトールガムを口に含んでいた。

 

「緑谷君、なにをのんびりしているんだ!? 警報と避難指示が出たのを聞いていただろう!? と言うか、学校にガムを持って来るのも、それを噛むのも良くないぞ!」

「ん? 口臭がヤベェヒーローもどうかと思うぜ? それと心配しなくてもいいと思うぞ?」

 

 余裕綽々と言った様子の出久を訝しむ飯田。

 

「外にゃ確かに大勢の気配を感じるが、悪意は感じられねぇ。大方マスコミどもが無理矢理入ってきただけだろ」

「ホントだ!朝、校門の外にいた報道陣(ヒトたち)が入ってきてる!」

 

 葉隠が外の様子を確認すれば、出久の言ったとおりの光景が広がっていた。

 

「なら、早く皆に教えて落ち着かせないと!」

 

 麗日の提案を受け、そのための解決方法を思いついた飯田はそれを実行。麗日の個性で浮き上がると、己の個性(エンジン)で空中を高速で移動。

 壁にぶつかることで停止すると、非常口の上で不思議なポーズを決めながらパニック寸前の生徒たちを落ち着かせることに成功した。

 

「やっぱ飯田のヤツはスゲェな……俺よかアイツの方が委員長に向いてんじゃ、ん?(ズルッ)……はごっ!?」

 

 口笛を吹いて、飯田の勇姿に感心していた出久は彼を労おうと席を立つ。……が、足元に誰かが落としたバナナの皮があることには気付かなかった。

 踏んでしまったバナナの皮に足を滑らせた出久は再び転倒。後頭部を再び強打した。

 

 ーーーーーーーーーー。

 

「迷惑かけて、本っ当にスミマセンでしたぁーーーー!!!」

 

 午後のホームルームは緑谷のクラスメイトと相澤教諭に対する土下座から始まった。

 本来の出久に戻り、あの険悪な雰囲気になることがなくなったことを含めて、相澤教諭もクラスメイトも出久を許した。

 しかし、出久本人は人格が変化していた間のことを朧気ながらも覚えていたため、罪悪感で一杯だった。

 

「頭を打って変な状態になっていたとは言え、こんな僕に委員長は相応しくない……誠に勝手ながら委員長を辞任したいと思います……」

 

 委員長を辞任した出久は飯田を後任に指名した。

 飯田は多少悩んだものの、出久の気持ちを汲んでそれを承諾。他のクラスメイトにも食堂での一件も手伝い、賛同を得られたことで委員長に就任した。

 

 ーーーーーーーーーー。

 

 数日後、

 

「あ、かっちゃん!……お、おはよう」

 

 昇降口で偶然遭遇した爆豪に挨拶する。しかし、幼少期のとある一件を機に険悪になっていた二人。特に爆豪は出久が挨拶をしても無視するか、「煩い」と怒鳴り付けるのが殆どだった。

 しかし……、

 

「……はよ……」

「!」

 

 爆豪は普段からは想像できない程の、それこそ周囲の音に掻き消されてしまいそうな程の声量で挨拶を返した。しかし、即座に出久に背を向けると一人足早に教室へと向かってしまった。

 

「なんか最近、かっちゃんの僕に対する態度や言動が少しだけ柔らかくなったような気がするなぁ……」

 

 出久の呟きもまた朝の喧騒の仲に消えて行った。




~バエの獣拳アカデミー~

バエ「激旋棍(ゲキトンファー)!3つの形態に変形できる一対の武具です!」
出久「激気を送ると柄のタービンが回転、破壊力を上げることが可能です!」

バエ「その内の一形態、激旋棍・棍棒(バトン)!」
出久「激旋棍の柄を90度曲げた二本一組の短棒で、僕は逆手に構えて使用することが多いです!」
バエ「それは出久さんの獣拳の手本となった剣歯虎(スミロドン)の牙を思わせてくれます!」
出久「ゲキレンジャー本編ではゲキレッド専用の武器として設定されていましたが、本編では残念なことに使用されませんでした……」

バエ「次回!出久さんが激旋棍・棍棒を使う事態に!?」
出久「さらに向こうへ!」
バエ&出久「「Puls Ultra!!」」


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修行其の八:ゾワゾワ!(ヴィラン)連合!

6/4 22:16脱字の修正を行いました。7w76kxZ/Nc様、ありがとうございました。


 マスコミの侵入事件から数日後、僕たちはヒーロー基礎学の授業に臨もうとしていた。

 

「俺とオールマイト、そしてもう一人の先生を加えた3人態勢で授業を見ることになった」

 

 教卓に立つ相澤先生の「()()()」との言葉に、僕は違和感を覚えた。

 先日の戦闘訓練ではオールマイトが一人で担当していたけど、今回は三人。特例なのだろうか?

 

教師(プロヒーロー)の3人体制ですか……先日のマスコミの方々が侵入して来たあの事件が原因ですかねぇ?」

 

 バエさんの疑問は僕が感じていたことでもある。どうやら相澤先生の言葉を疑問に感じたのは僕だけではないらしい。同時に、あの時感じた妙な気配を思い出してか、変な胸騒ぎを感じる。

 

 

 ところで、先日の戦闘訓練の時と今回、部外者であるはずのバエさんが雄英にいるのか。

 

 実はバエさんは『スクラッチ』という会社の『特別開発室』所属のスタッフであり、商品使用状況のリアルな情報を収集するために出向していたのだ。ちなみにその商品と言うのが、僕が師匠(マスター)から送られた拳法着(コスチューム)だったりする。

 結構フリーダムなところがあるバエさんが正規の手続きを踏んだ上で授業にも参加していた事実を聞いた時には本当に驚いた。

 

「はーい、今回はなにするんですか?」

「今回は災害水害、なんでもござれの人命救助訓練を行う」

 

 隣の瀬呂君の質問に『RESCUE』と書かれたプレートを掲げた先生が答える。

 

「救助訓練か!ヒーローの本懐!腕が鳴るぜ!」

「水難救助なら私の独壇場ね、ケロケロ」

 

 気合十分と言った様子の切島君と蛙吹さん。

 

「今回も大変そうってか、苦手かもしんねぇ……」

「ねー」

 

 対して、上鳴君と芦戸さんはやや意気消沈気味だった。でも上鳴君の個性は上手くやればAEDの代わりになるし、芦戸さんも閉じ込められた人の救助や瓦礫の除去に役立つ人命救助においても有効な個性だと思う。

 

 そして僕は、獣拳は救助活動に臨むとして一体なにができるのだろうか。今日の授業ではしっかりとそこの部分について学ぼう。

 

「コスチュームの使用については各自の判断に任せる。今回は少し離れた場所での訓練になるのでバスでの移動だ。以上、準備開始」

 

 相澤先生の指示に従い、僕たちは行動を開始した。

 

 

 

 しかし今日の救助訓練は音もなく近付いている悪意によって、しばらくお預けになってしまう運命であることに僕はまだ気付いていなかった。

 

 ----------。

 

「皆!バスの席順でスムーズにいくよう、番号順に2列で並ぼう!」

 

 委員長に就任した飯田君はやる気に満ち溢れたフルスロットル状態だ。

 

「笛、持ってたの?」

「あぁ! こんな事もあろうかとな!」

 

 凄く張り切っていた飯田君だが、バスに乗った瞬間ガックリと膝をついて落ち込んだ。

 

「……こういうタイプだったとは! クソッ!!」

「イミなかったねー」

 

 ケラケラと笑う芦戸さんのいう通り、出した指示が無意味になってしまった。なぜなら僕たちが乗ったバスは市バスなど、両サイドに席があるタイプだったのだ。

 

 

 バスに揺られて約20分、バスはドーム状の建物の前で停止した。

 

 ----------。

 

 ゲートを抜けた先は遊園地のような場所でした。

 

「スッゲー!USJかよ!」

 

 切島君が感嘆の声を挙げる。すると宇宙服のようなコスチュームの人物が僕たちを出迎えてくれた。

 

「水難事故、土砂災害、火災、暴風、その他諸々の災害訓練のために僕が作ったウソ()災害()事故()ルーム、略してUSJにようこそ!」

「「「「「ホントにUSJだったーーーーー!!!!!」」」」」

「商標登録とか問題なかったんですかねぇ?」

 

 その人物こそ三人目の教師(プロヒーロー)。災害救助のスペシャリストであり、紳士的な振る舞いが人気のスペースヒーロー・13号だった。

 ……バエさん、その辺りは突っ込んじゃダメです。

 

「わー!私、13号大好き!」

 

 麗日さんが目を輝かせながら尊敬の眼差しを送っている。彼女のコスチュームが宇宙服のようなデザインなのは13号先生のそれを意識しているのだろうか?

 そんなことを考えている間に、相澤先生と13号先生が何やら話していた。どうやらオールマイトの到着が少し遅れているようだった。

 

「さて、訓練に臨む前にお小言を一つ、二つ、三つ、四つ……」

 

 どんどん増えている……けど、プロヒーローの教えを受けることができる貴重な機会!一言も聞き逃さないようにしないと!

 

「皆さんご存知だとは思いますが、僕の個性は《ブラックホール》。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

「その個性でどんな災害からでも人を救いあげているんですよね!」

「えぇ……ですが簡単に人を殺せる力でもあります。みんなの中にもそういう個性がいるでしょう?」

 

 13号先生の言葉に何人かが頷く。僕に個性はないけど、獣拳を学び、鍛えた拳も容易に人を傷つけ、殺めてしまう可能性を秘めている。

 

「超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます。しかし一歩間違えば容易に人を殺せる『いきすぎた個性』を個々が持っていることを忘れないでください」

 

 ……ッ!

 

 13号先生の話の最中、あの日感じた妙な気配を感じた。それは先日とは違い、ハッキリと感じられる。そしてその気配は徐々に強く、明確になり、こちらに近づいてくる。

 

「出久さん、気付いてますか?」

「はい、先日感じた気配がします」

 

 やはり気付いたらしいバエさんと小声で状況を確認し合う。しかし周囲には相澤先生と13号先生、そしてクラスメイトの姿しか見えない。

 

「相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘訓練でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います……この授業では心機一転! 人命のために個性をどう活用するのかを学んでいきましょう! 君たちの力は人を傷つけるためにあるのではない。助けるためにあるのだと心得て帰ってくださいね」

 

 視線を走らせ、首を左右に動かす。植物や柱の影、建造物の上、どこを見ても何も見えないことが焦りとなって心臓の鼓動が早くなる。

 

「オイ、緑谷、聞いてんのか?」

 

 相澤先生が注意をしたのと同時に気配の出所が分かった。最初の頃に比べてかなり近い所に来ている。

 そこはUSJの中央に位置する中央広場。そこに視線を注いでも何もない。

 

「先生……何か来ます!」

「おそらく、空間転移系の個性かなにかを使っているようです!皆さん注意してください!」

 

 手甲付きグローブの高次元圧縮ポケットから取り出した得意武器である二本一対の棍棒、《激旋棍(ゲキトンファー)棍棒(バトン)》を両逆手に構える。

 じっとりとした嫌な汗が背中を伝う。そんな僕とバエさんの様子を見て、訝しげな視線を向けていた相澤先生や他のクラスメイトは何かを察してくれたらしい。相澤先生たちの視線も中央広場に向けられる。

 

「なんも見えねぇぞ?」

「何か、ってなんだ?」

「デク君? 来るって、なにが来るの?」

 

 上鳴君と峰田君、麗日さんが不安そうに声を挙げる。しかし、僕やバエさんも気配を感じることしか出来ていない。

 

「わからない……けど身体中の毛が逆立つようなゾワゾワって、何か凄くイヤな感じが止まらな……来ました!」

 

 僕の声に全員の視線が中央広場に向いたとき、その中空に黒い霧状のモノが現れた。その霧は徐々に広がって行き、その中に蠢く人影を捕えた。

 

「全員一塊になって動くな!13号!生徒たちを守れ!」

 

 「あれはヴィランだ!」と相澤先生が叫ぶ。黒い霧の中から次々とその目に悪意を宿し、ニヤニヤとイヤな笑みを浮かべた者達が現れる。

 

「ヴィラン!? ヒーローの学校に入り込むなんてアホ過ぎんぞ!」

 

 上鳴君が叫ぶが、不思議ではないのかも知れない。野生動物が狩りをするとき、狙うのは群れから逸れた個体や年老いた個体、そしてまだ未成熟な個体が多い。

 そしてマフィアやテロ組織なんかも警察や軍隊に攻撃や奇襲をかける、と言ったことは昔からあったことだ。

 まだ未熟な学生(ぼくたち)厄介な相手(プロヒーロー)になる前に潰しておこうと考えるのもありえないことではない。

 

「こないだのマスコミが侵入してきた事件、アレはあの人達の仕業だ……!」

 

 先日の妙な気配は眼下に押し寄せる大量のヴィランの中で、最奥に控えている身体中に手のオブジェをくっつけたリーダー格と思しき男のモノ。つまり、なんらかの個性(方法)でマスコミを侵入させたのはあのハンドヴィランで間違いないだろう。

 そして黒い霧から最後の一人、脳がむき出しの筋骨隆々な黒い大男が姿を現すと、霧は徐々に人の型となってハンドヴィランの横に控えた。

 

「そうだな、見たところセンサーが反応してねぇ。それだけ用意周到に事を運んでいたんだろうな。あっちにはそういう個性持ちがいるって考えるのが普通だな」

「それに校舎と隔離されている場所に僕達が入る時間の襲撃……生徒か教師の誰かがリークしたか、情報を盗まれたんだ」

 

 数も多い上にさっきの空間転移系の個性、校舎にいる他の先生方(プロヒーロー)が異変に気付いて駆け付ける頃には既に撤退した後……怖い位に画策された奇襲だ。

 

「頭の回転が速くて助かる。とにかく奴らはバカだがアホじゃない。何らかの目的があるのは間違いねぇな」

 

 冷静に分析する轟君に動揺などは見られない。

 

「13号、生徒たちを連れて避難開始。学校側にも連絡試せ、上鳴も個性使って連絡してみろ」

「はい!」

「了解ッス!」

 

 首元にかけていたゴーグルを掛けながら、指示を出す相澤先生。その気配からすでに臨戦態勢に移行しているのが判った。

 

「先生!一人では無茶です!先生の個性は多対一では不利じゃないですか!」

「安心しろ、別に死ぬつもりはない。それにな……一芸だけじゃヒーローは務まらん!」

 

 相澤先生はヴィランたちの前に躍り出ると、その個性と捕縛布、そして体術を持って次々とヴィランを制圧していく。

 

「出久さん!あの霧男がいませんよ!?」

「!?」

 

 バエさんの声に従って、ハンドヴィランに視線を向ければ、確かに横に控えていたミストヴィランの姿が消えていた。即座に気配を探る。

 

「ッ!」

「みなさん、こっちです!」

「させません「穿穿弾!」ぬぅ!?」

 

 13号先生が避難誘導を開始すると同時に行く手を阻むように現れたミストヴィランに放った激気は直撃させることに成功。巧い具合に吹き飛ばした!

 

「お見事です!緑谷く「まだです!手応えがなかった!まだ来ます!!」ッ!?」

 

 僕の声に13号先生とクラスのみんなの緊張が高まる。それを嘲笑うように再び黒い霧が形を成してミストヴィランが姿を見せる。

 

「中々やりますね、先ほども私たちに最初に気付いたのも確かキミでしたね? ……何者です?」

「……獣拳使い。それ以上は答える義理なし」

 

 互いに睨みあっていた時間は数秒にも何十分にも感じられた。

 

「ジュウケンとやらが何か知りませんが……まぁ、いいでしょう……改めてお初にお目にかかります。我々は『(ヴィラン)連合』。本日我々がヒーローの巣窟である雄英高校(こちら)にお邪魔させて頂いたのは……平和の象徴、オールマイトに死んで頂こうと思いまして」

「「「「「!?」」」」」

 

 ミストヴィランの宣言は僕たちを震撼させるには十分だった。動揺する僕たちを他所に、ミストヴィランは相澤先生(イレイザーヘッド)と13号先生の姿しか見えないことを予想外とでも言いたげに目的であるオールマイトの姿を探す。

 その姿は油断し、隙だらけのようでいて実はその逆。殺意や害意と言ったモノを内包した悪意と意識は僕たちを捉えたままだ。それだけでこのヴィランが相当の実力者であることが伺える。

 

「いらっしゃらないのならば仕方ありません……私の仕事に「死ねぇ!」「オラァ!」」

 

 何かの行動に移行しようとしたミストヴィランにかっちゃんと切島君が奇襲を掛けた!

 しかし、その行動は13号先生の奇襲を妨害してしまう。さらに先生とヴィランの中間に着地してしまったことで13号先生は追撃すら出来なくなってしまった。

 

「その前に俺達にやられるってのは考えなかったのかよ!」

 

 切島君が挑発的に叫ぶが、二人の攻撃は先の僕の攻撃と同様に効いていないようだ。その証拠に霧散した霧の身体が再び形を成していく。

 

「怖い怖い……生徒とは言え、さすがは金の卵と言ったところですね……ですので」

(頭部だけで身体の再形成を止めた? ……いや、あのヴィランの能力を考えると……まさか!)

 

 ミストヴィランの狙いを察知すると、推測通り霧の身体を広げて僕たちを包囲する。

 

「バエさん!」

「くっ!……出久さん、どうかご無事で!」

 

 肩に止まっていたバエさんも僕の意を汲んでくれた上で離れる。

 

「散らして嬲り殺す」

 

 そこで僕の視界は真っ黒に閉ざされた。

 




~バエの獣拳アカデミー~


バエ「スクラッチ!獣拳使いの先達が組織したスポーツメーカーで、最新のスポーツ科学を使い獣拳を進化させています!」
出久「個性の発露に伴い、超人社会となった今ではヒーロー向けのサポートアイテムの研究や開発、商品展開も行っていますね!」
バエ「実は私はそこの正社員なんですよ!エッヘン!」

出久「ヴィランの襲撃を受けた僕たちに更なる試練が!」
バエ「出久さん達生徒のピンチにオールマイトさんは間に合うのでしょうか!?」
出久「更に向こうへ!」
バエ&出久「「Puls Ultra!!」」



出久「バエさんって、巨大戦をメイとしたヒーローの活動を()()()実況・撮影した動画を大手動画投稿サイトに投稿しているじゃないですか……」
バエ「はい!結構人気なんですよ! それがどうかしましたか?」
出久「僕、てっきりそこで広告収入などを得ているのかと思ってました……」
バエ「……それもいいですね」
出久「バエさん!?」


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修行其の九:もぎもぎ!水難ゾーン!

 ミストヴィランの攻撃により視界が暗転した次の瞬間、僕は眼下に広がる水面とそこに浮かぶ船に見覚えがあったことから、USJ内の水難ゾーンに飛ばされたらしいことを理解した。

 

 しかし僕の剣歯虎(スミロドン)拳には空を飛ぶ激技(ワザ)はない。重力に従って、そのまま水中に落下するしかなかった。

 

「へへ、来たぞ!」

「ワリィがここでサヨナラだ!」

 

 水に落ちた僕が目を開くと、周囲には水中行動に特化したヴィランが複数で待ち伏せていた。

 その中の一人が襲い掛かる!

 

(水中戦は苦手だけど戦う(やる)しかない!)

「死ィ、へぶっ!!?」

 

 その牙が僕に届くことはなかった。ヴィランの顔面を誰かが蹴り付けたのだ。

 

(蛙吹さん!)

「緑谷ちゃん、しっかり掴まっててね」

 

 水底に沈み行くヴィランを一瞥もせず、蛙吹さんは僕をそのまま近くにあった船まで引き上げてくれた。

 

「ゲホッ! ありがとう蛙吹さん、助かったよ」

「どういてしまして、それと梅雨ちゃんと呼んで」

「どどど、どうすんだよ、これぇ!?すっかり囲まれちまってるぞ!?」

 

 どうやら峰田君も一緒にここまで飛ばされ、蛙吹さんに助けられていたようだ。彼の言う通り、僕たちが乗る船はヴィランが押し寄せていた。

 しかし、船が大きいだけに船体をよじ登ってくるような気配は今のところない。

 

「それにしても大変なことになったわね」

「うん。でもさっき轟君と話してた通り、情報が敵に流れているのは事実だ。けど、みんなの個性や僕の獣拳についてはその限りじゃないみたいだよ」

「どういうこと?」

 

 蛙吹さ「梅雨ちゃんと呼んで」つ、梅雨ちゃんが首をかしげる。

 

「さっきのミストヴィランは僕も獣拳のことも知らなかった。それにあs、っ雨ちゃんが火災ゾーンじゃなくて、得意な水難ゾーンに転移させられている。つまり彼らは生徒(みんな)の個性までは知らない、と考えていいと思う」

 

 これは大きなアドバンテージになるハズだ。相手の意表を突くことは拳法でも常套手段だ。

 

「これからどうするか、今の状況を打破するカギは私たちの個性と緑谷ちゃんの獣拳、ということね」

「たぶん……いや、きっとそうだ」

 

 さっきから思ってたことだけど蛙吹さんはスゴイ。

 冷静なだけでなく、常にどうすればいいか、自分がどう動くべきかを取捨選択するスピードが速い上に正確だ。

 もしここが僕だけだったら、変に気を急いて、誤った選択をしていたかも知れない。

 

「つーか、オマエらなんでそんな冷静なんだよ!? 今の状況わかってんのか!? 対人戦闘なんざ訓練で!それもまだ一回しかやったことないオイラたちが!周りをヴィランに囲まれてんだぞ!?」

 

 涙目で半狂乱状態で叫ぶ峰田君。ある意味、自分が置かれている状況を正しく理解できている。

 

「わかってるよ。周りのヴィランやミストヴィランの言っていたことからも、ヴィラン達は僕たちを生きて返すつもりはないっていうのも」

 

 ヒュッと息を飲む峰田君の目が「マジかよ? ウソだ、と言ってくれ」と雄弁に物語っている。ジッとしていても相手は本物のヴィランである以上、僕たちを排除しようと動くのは明白だ。

 

「誰かが助けを呼んでくれて即座に駆け付けてくれたとしても、僕たちが捕まって人質にされてたらダメだ。救助にきた人たちまで危険に晒すことになる」

 

 なら少しでも相手の計画を狂わせるべく行動すべきだ。目標はヴィラン達の撤退。あわよくば制圧・捕縛できればいいけど、それは難しいだろう。

 

「けどよ、雄英(ここ)には、オイラ達にはオールマイトがいるんだぜ!? アイツらはオールマイトを殺すとか言ってたけどできっこねーよ!オールマイトならすぐに来てオイラ達を助けてくれるって!だから大人しくしてようぜ!?」

 

 確かに希望的観測が過ぎるきらいはあるが、峰田君の意見も()()としては正解なのだろう。

 けど、ヴィラン達の狙いはそのオールマイト。数を頼りにしているとは考えにくい。何らかの策があると見るべきだ。

 

「あのヴィランは『オールマイトに死んでもらう』つまり『殺す』って宣言したわ……しかもあの口振りからして、確実にそれを成す算段があるのよ」

 

 蛙s、っ雨ちゃんの言う通りだ。ミストヴィランの言葉には、普段かっちゃんが吐く暴言とは違った底知れないどす黒いなにかを感じさせた。

 希望にしていたオールマイトが危ない、と聞いて峰田君の表情が絶望に染まる。

 

「とりあえず、ここを突破することを先に考えよう」

「そうね。じゃあまず私の個性だけど、蛙っぽいことは大体できるわ。跳躍、壁にくっつくことができて、舌は20メートルくらい伸びるの。胃を取り出して洗えるのと、毒性の粘液を出せるけど、ちょっとピリッてするくらいだから使い勝手は良くないわね」

「オイラのは超くっつく。体調によっちゃ、一日中くっついたままになる。もぎった傍から生えて来るけど、もぎり過ぎると血が出る。オイラ自身にはくっつかずにブニブニ跳ねる」

 

 峰田君はもぎった球状の髪の一房を船体の壁にくっ付けた。体力テストや戦闘訓練の時は解らなかったけど、蛙s、っ雨ちゃんも峰田君もスゴい個性だ。

 特に峰田君の個性はこの場面を突破するには持ってこいだ!

 

「だから大人しく待とうって言ったんだよぉ!オイラの個性は戦闘にゃ不向きなんだよぉ!!」

 

 感心していたのだが、峰田君には僕たちはリアクションに困っているように見えたらしい。

 

「ち、違うよ!峰田君のおかげで今の状況をクリアできる手段を思いついたんだよ!」

「マジか!?」

 

 泣き叫んでいた峰田君が再び落ち着きを取り戻すのを待ち、作戦を説明する。

 

「そんなことホントにできんのか!?」

「でも、他にいい作戦も思いつかないわ……やるしかないわね。けど本当に大丈夫なの? 緑谷ちゃん」

「うん!峰田君の個性と()()があれば!」

 

 手甲付きグローブの高次元圧縮ポケットから取り出した()()を見て、梅雨ちゃんと峰田君は目を見開いた。

 

 ーーーーーーーーーー。

 

「お、ようやく顔出しやがった……か?」

「ブッ殺してや……る?」

 

 僕を視認して、異口同音の挑発的な言葉を放っていたヴィラン達が鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。原因は解らないけど動きがない今が好機!

 

「激技!激激砲ッ!!」

 

 どことなく師匠(マスター)に似ている気がする大砲、《激大砲(ゲキバズーカ)》から激気の砲弾を放つ獣拳の奥義の一つ《激激砲》。未熟な僕では《激激砲》発動に必要な激気を集めるのに約2分ほど掛かってしまう、しかし今回はヴィラン達が僕たちを侮ってくれていたおかげで邪魔が入ることなく集めることができた。

 

「に、逃げろぉー!!」

 

 ゲキバズーカの砲口に、牙を剥く猛獣の姿を見て怯えていたであろうヴィラン達が我に帰って散開し始めるがもう遅い。

 着弾した気弾は巨大な水柱と波紋を発生させながら、水面に大穴を開ける。すると、そこに周囲の水が流れ込み、大きな渦潮が発生する。

 

「峰田君!」

「オイラだって!……オイラだってぇ!!」

 

 僕の合図で峰田君がもぎもぎ球を次々に大渦に向かって投げ込むと、もぎもぎが大渦に飲み込まれたヴィランにくっつき、そのもぎもぎがさらにヴィラン同士をくっ付ける。

 

「な、なんだこれ!?」

「くっついて取れねぇ!」

「おい、オマエ離れろよ!」

「オマエこそ離れろ!」

「ヤベェぞ、これ!」

「う、動けな……」

 

 くっつき合う数が増える度に動きが取り辛くなる。

 なんとかその情況を脱しようとしていたヴィラン達だったが、やがてムダと悟ったらしく、もがくのを止めた。

 

 ーーーーーーーーーー。

 

「第一関門突破ね。スゴいわ、二人とも」

 

 なんとか岸まで到着した僕たちを蛙s、っ雨ちゃんが労いの言葉を掛けてくれた。それが嬉しくて、峰田君と拳をぶつけ合う。

 

「……ねぇ、緑谷ちゃん。私、思ったことは何でも言っちゃうの」

「う、うん」

 

 何だろう?

 

「バズーカを使うのは拳法と言っていいのかしら?」

「それはオイラも思った!」

「……」

 

 マスターは昔、竹筒で使ってた激技(ワザ)なんだけど……何か変なのだろうか?

 




~バエの獣拳アカデミー~

バエ「ゲキバズーカ!獣拳奥義、《激激砲》の発動に必要な武装です!」
出久「未熟な僕では激気を集めるのに2分ほど掛かってしまうのと、破壊力が強すぎるので中々使う場所が限定されてしまいます……」
バエ「出久さんの先達は《激激砲》を使うための真髄を豚の角煮に見い出していましたね」
出久「ぶ、豚の角煮ですか!?」
バエ「はい、ちなみに掛け声も「豚の角煮!」でした」
出久「掛け声もですか!?」
バエ「はい。豚の角煮はじっくり煮つめないといい味が出ません。それと当初は出久さんと同じく先達の方々も激気を集めるのに時間を要したこと。その双方を引っ掛けたようです」
出久「なるほど!料理の中にも修行あり、というワケですね!!」
バエ「そうかも知れませんね!あ、ちなみに掛け声が「豚の丸焼き」だったりしたこともありましたよ!」
出久「!?!?!?」

バエ「さて次回!USJに強襲したヴィラン達、出久さん達はこの情況を脱することができるのでしょうか!?」
出久「さらに向こうへ!」
バエ&出久「「Puls Ultra!!」」


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修行其の十:ヒヤヒヤ!ゲート前の戦い!

`19,6,12:脱字の修正を行いました。7w76kxZ/Nc様ありがとうございます!


 出久達が水難ゾーンのヴィランを一掃する少し前、USJ内各所に飛ばされた生徒たちは、そこに待ち構えるヴィランと戦闘状態になっていた。

 

 火災ゾーンでは尾白が自慢の尾と拳法を駆使したヒット&アウェイ戦法で、倒壊ゾーンでは爆豪と切島が、土砂災害ゾーンでは轟が凍結で、そして山岳ゾーンでは上鳴が耳郎と八百万のフォローを受けつつ自慢の電撃でヴィランを撃破していた。

 

 一方、ゲート付近では、バエとミストヴィランこと黒霧が接戦を繰り広げていた。

 

「このっ!……ちょこまかと鬱陶しい蝿ですね!!」

「お褒めに預り光栄ですが、悪人に褒められても嬉しくありません、よ!」

「褒めてなんかいません!」

 

 黒霧によってUSJ内の至る所に飛ばされた生徒達。だが、全員がヴィラン達が待ち構える何処かへ送られたワケではなく、数名の生徒はどうにか飛ばされずにその場に留まることが出来ていた。

 その生徒達を守るべく、勇猛果敢に黒霧に挑んだ13号ではあったが、己の個性である『ブラックホール』による吸引攻撃を敵に利用され、満身創痍状態にされてしまっていた。

 

 次の獲物を、と生徒達に向き直った黒霧の前に立ちはだかったのがバエであった。

 バエはその体躯の小ささと飛行能力を持って撹乱しつつ、獣拳で黒霧に挑んでいた。一方で黒霧はその戦術によって苦戦を強いられていた。

 

 黒霧の一撃を回避したバエはその隙を逃すまい、と渾身の激技を放つ!

 

「隙ありです!激技!声声砲(セイセイホウ)!!」

 

 激気で増幅し、指向性の砲弾と化したバエの大音声。その破壊力はヴィラン側の策略によって閉ざされた鉄製の門を粉砕していた。

 

「やったぜ!霧野郎を倒した!」

「スゲーぞ、バエさん!」

「……そうなら良いんですけどねぇ……」

 

 歓声を上げる砂藤や瀬呂、安堵の表情を浮かべた他の生徒達と異なり、バエは未だに険しい雰囲気のまま、構えを解こうとしない。それが正解であるかのように黒い気体が再度人の形を取る。

 

「やれやれ、危ない所でした」

「マジかよ……」

「クソ!」

 

 キズ一つ負っていない黒霧の姿に瀬呂が慄き、砂藤は思わず悪態をつく。

 

「直前に己の個性を使い、転移によって回避に成功していた。と言った所ですか」

「ご明察。物理攻撃が効かない私を『声』で攻撃するとは……ですが残念でしたね」

「いえいえ、残念どころか狙い通りです」

「何ですと?」

 

 勝ち誇るような態度だった黒霧。だが、バエの言葉にその余裕が霧散する。

 

「皆さん!今です!」

「っ!?」

 

 その時、黒霧になにかが覆い被さり、その横を銀色の閃光が走り抜けた。

 

 ----------。

 

 バエと黒霧が戦っている間、飛ばされずにゲート前に残った生徒である麗日、芦戸、瀬呂、砂藤、障子、そして飯田はただ傍観していた訳ではない。

 どうにか脱出し、現状を校舎まで知らせ、救援を呼ぶ策を考えていた。そんな中、満身創痍の13号がある指示を出していた。

 

「飯田君……個性を使用し学校まで走って、襲撃にあったことを伝えてください……!」

「そんな……皆を置いて一人で行くなんて、委員長として風上にも置けません!」

 

 ゲート前に残ったの生徒の中で、適役は『エンジン』の個性を持つ飯田於いて他にいない。しかし真面目故に、そしてヒーロー一家の一員であるが故に、仲間を見捨てて一人脱出しようとすることなど飯田にはできなかった。

 

「みんなを、仲間を救う為に個性を使ってください!」

「! ……わかりました!」

 

 しかし、それを言っていられる程の余裕はない事も飯田は理解していた。故に13号の説得に同意し、自分が誰よりも誇れる個性(チカラ)を全力を掛けることを決意。

 

「隙ありです!激技!声声砲!!」

 

 バエが放った技が硬く閉ざされていた扉を破壊する。

 

「飯田、俺達がヤツを全力で止めてやる!」

「その隙に全力で走れ!」

 

 砂藤、瀬呂の目が「飯田(オマエ)の道は俺達が作ってやる」と語っている。

 

「……分かった!」

「頼むぞ、委員長!」

 

 背中を押してくれる障子に「任せろ」と言う返答の代わりに飯田は個性(エンジン)を発動。力強く地を蹴り、銀色の閃光となって駆け出した。

 

 ----------。

 

「……いい加減に離しなさい!」

「ぬおっ!?」

「ぐぬっ!?」

「くっ!」

 

 黒霧は己を捕えていた砂藤、瀬呂、障子を振り払う。が、すでに飯田の姿はなく、脱出に成功させてしまっていた。

 

「最初から(アレ)が狙いだったのかよ!」

「えぇ、いつバレるかとヒヤヒヤモノでしたけどね」

 

 作戦成功にやや興奮気味の瀬呂。対して作戦を立てていた自分たちから少し離れた所で戦っていたハズのバエがなぜ飯田の脱出に協力するような行動が取れたのか、それが障子には疑問だった。

 

「俺たちの行動に気付いていたのか?」

「ええ、この身体は意外と優秀でしてね。視野も広いですし、聴力も中々のモノなんですよ」

 

 現在のバエの姿はかつて、不完全ながらも使用した禁断の激技(ワザ)による呪いのような副作用によるモノだ。しかし、今回は逆にそれが功を奏した結果に繋がった。

 

「な、なぁ、アイツ……なんかヤバくねぇか?」

「えぇ、それはそうでしょう。私たちに完全にしてやられた訳ですからね……皆さん、気をつけてください。あの手の性格(タイプ)は……」

 

 砂藤が指摘する通り、黒霧は黙したままではあるが、その身体はブルブルと小刻みに震えている。

 

「キレるとヤバいです」

「この……虫けら共がァ!」

「くうっ!?」

 

 失態を犯し、その一因となったバエ達に対する怒りが頂点に達した黒霧はそれまでの余裕を失し、個性の霧で瀬呂たちを吹き飛ばすと、バエを捕縛。鬱憤や怒りを吐き出すかのように殴りつけた。

 

「調子に!」

 

 それだけに飽き足らず、地面に容赦なく叩き付け、

 

「乗るなぁ!!」

 

 一切の加減なく、蹴り飛ばした。

 

「バエさん!」

「麗日!ダメ!」

「でも!」

 

 平均的な体躯の黒霧の攻撃でさえ、20センチ程の身体のバエにとっては巨人のそれと同等。容赦ない猛攻に倒れるバエに駆け寄ろうとする麗日を芦戸が止める。

 

「……大丈夫ですよ、麗日さん。……この程度で倒れるほどヤワな鍛え方してませんよ」

 

 むせながらも、バエは判りづらい表情の代わりにおどけたような声音で話す。

 

「フーッ……わかりませんね。貴様はヒーローでもなければ、ここの職員でもない。そんな貴様が態々殺されるために動くとは」

 

 荒くなった呼吸を整えながら、黒霧は冷静さを取り戻す。そして、一撃一撃が致命傷に至るそれを受けてなお起き上がるバエが理解できず、疑問が口をついて出てしまっていた。

 

「やはり……ヒーローの巣窟に攻め込むだけあって……随分おバカさんですねぇ」

「何?」

「その質問、『昼間はなぜ明るいのか』と同じレベルですよ?」

 

 そしてバエの脳裏に浮かぶのは敵対しながらも何だかんだで行動を共にすることが多く、悪の拳を持ちながらも正々堂々と戦うことを良しとして、最後には愛する者の為に散っていった憎たらしい小娘。

 

 こんな所で、子供に害を成そうとする誇りなき『悪』に屈することなど、彼女は勿論。バエ自身が許せることではない。

 

「そもそも私は正義を掲げる拳法使いの端くれです……悪意を持つ者から人々を守ることこそ道理です」

 

 故にバエは屈しない。

 

「それに、こう見えて結構長生きしてるいいトシした大人ですし、貴方のように悪戯に力を使うしかない未熟者を指導してあげることも使命ってヤツなんです」

 

 起き上がりながら、()()で眼鏡のブリッジを押し上げて位置を直す。

 

「ついでに言えば一度死んで生き返ってる身。子供と言う未来の宝を守るためなら……もう一度土に返ることくらいワケないんですよ」

 

 立ち上がるその姿にその場の誰もが、精悍な顔立ちをした拳法着姿の青年を幻視した。

 

「冥土への置き土産に激獣声蝿(フライ)拳の真髄、とくとご覧に入れましょう!」

 

 そして再度()()するバエの姿は普段の20センチ程の蝿人間に戻っていた。

 

「チッ!自殺志願者の相手はしていられません!」

 

 黒霧はそう吐き捨てると己の個性でもってどこかへと転移した。

 

「ふへぇ……」

 

 気の抜けた声を出すバエ。

 

「バエさん!大丈夫!?」

「私は大丈夫です、それより瀬呂さんたちを……」

「俺たちもそんななまっちょろい鍛え方してねーっすよ!」

 

 駆け寄ろうとした麗日を制し、黒霧に吹き飛ばされた面々の安否を考える。しかし、砂藤、障子、瀬呂は多少の傷はあるものの、五体満足でいた。

 

「それは失礼しました。では皆さんはここで飯田さんの帰還を待っててください」

「アンタはどうすんだ?」

「霧男はおそらくリーダー格のあの手男のところに戻るはずです。そこにいるだれかと戦うことになれば13号先生の二の舞です。……なので私があの霧男を追います」

 

 砂藤にそう告げるとバエは飛翔し、黒霧の気配と手男こと死柄木弔を探す。

 

「おや、ラッキーですね。すぐ近くに2人が揃って……って、出久さん!?」

 

 目的の2人を中央広場で発見したバエではあるが、さらにそこには脳ミソ剥き出しの黒い巨体のヴィラン。そして、右腕が歪に曲がってしまった相澤を抱える出久の姿があった。

 

 

 

 




~バエの獣拳アカデミー~

バエ「激獣声蝿(フライ)拳!激気による言霊で相手を操り、言葉を力に変える。蝿を手本とする(虫だけど)獣拳です!」
出久「ゲキレンジャー本編では先達の一人を禁断の激技の呪縛から解放するために奮戦されてましたね!」
バエ「激気を言葉に込めて相手に力を送ったり、攻撃している私ですが、今回のように戦えない訳ではないんですよ」

バエ「さて次回!とうとう出久さんと敵のリーダーと接触!どんな戦いが繰り広げられるのでしょうか!? そして巨大戦はあるのでしょうか!?」
出久「巨大戦はないと思いますけど、全力でぶつかっていきます!」
バエ「さらに向こうへ!」
バエ&出久「「Puls Ultra!!」」




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修行其の十一:ガリガリ ゲームオーバー!

`19.6.12:『バエの獣拳アカデミー』に間違って以前と同じネタを掲載してしまっておりました。同日、修正いたしました。読者の皆様に深くお詫び申し上げます。

`19.6.12:脱字の修正を行いました。ダストロ様、ありがとうございました。


 水難ゾーンを突破し、中央広場に辿り着いた僕たちが目にした光景。

 

 それはハンドヴィランの個性によって肘を破壊されてしまい、脳ミソを剥き出しにした黒い巨体のヴィランに組み伏せられた相澤先生の姿だった。

 

「相澤先生が……!」

「ウソだろ!?」

「ケロォ……」

 

 捻り上げられた右腕は歪に変形し、手首から先は力なく垂れ下がっている。

 

「……()れ、脳無」

 

 脳無と呼ばれた脳ミソヴィランはもう片方の手で相澤先生の髪を掴み、頭を無理矢理持ち上げている。そこからどうなるか、想像がついた時、

 

「やめろぉーーーっ!!!」

 

 僕は無意識の内に飛び出していた。

 

 叩き着けられようとしていた相澤先生と地面の間に滑り込んで先生の頭を腹で受け止めつつ、無防備な脳無の顔面に《穿穿弾》を至近距離で放つ。

 不意の一撃を食らった脳無はあえなく吹き飛び、先生の拘束が解かれた。

 

「先生!相澤先生!大丈夫ですか!?」

「緑谷、か……馬鹿野郎、何で来た……」

 

 即座に体勢を整え、脳無の反撃やハンドヴィランを警戒する。先生に安否を確認すると、返って来たのはお叱りの言葉。どうやら命に別状はなさそうだ。

 

「ヒーロー、目指してますから……!」

 

 緊張感で引き攣りまくっているであろう笑顔を浮かべながらそう答えると、先生は小さく笑った。

 

「すみません、死柄木弔。少々鬱陶しい蝿が邪魔に入りまして、散らし損ねた生徒の一人に逃げられました」

 

 僕を観察するように眺めていたハンドヴィランの横に突如僕たちUSJ内各所に飛ばしたミストヴィランが出現。その報せは敵にとっては凶報、僕たちにとっては吉報だった。

 

「おや、その鬱陶しいハエって言うのは私のことですかね?」

「貴様、なぜここに!?」

「バエさん! って、そのキズは……」

「あぁ、これですか。あそこの霧男さんのお相手をさせて頂いただけですよ」

 

 全身キズだらけながらも飄々と応えるバエさんをミストヴィランが忌々し気に睨み付ける。

 

「は? 蝿ってアレか? あんなのにやられたの? ……はぁ、オマエがゲート役じゃなかったら粉々にしてたよ……」

 

 ハンドヴィラン・死柄木弔は、ミストヴィラン・黒霧の報告に一気にやる気が削がれたらしい。

 

「あーあ……流石に数十人以上のプロ相手じゃ分が悪い……ゲームオーバーか、仕方ない……帰るか……」

 

 死柄木弔は首筋をガリガリと引っ掻く。その様子は思い通りに物事が進まなくなった子供のようで、成人しているであろう見た目にはそぐわない。

 

「な、なぁ……アイツ……今、帰るって言ったか!?」

「確かにそう聞こえたわね」

 

 蛙吹さんと峰田君の元に辿り着いた僕は、警戒を緩めぬまま二人に先生を託す。

 一方、死柄木の撤退発言に喜んだ峰田君。それに託つけて蛙s、っ雨ちゃんの胸を触って沈められていた。

 

 しかし、死柄木の殺気は収まる様子は感じられない。むしろ強まっているようにすら感じる。

 

「気をつけて下さい、出久さん……あの霧男はその個性で間合いも無視しますし、こちらの攻撃も死角からワープさせて返して来ます。……13号さんもそれで倒されました」

「!」

 

 小声で警告してくれるバエさんに頷くことで応える。13号先生は命は無事なようで、今はゲート近くにいる麗日さんや芦戸さん達がみていてくれているらしい。

 

「……帰る前にガキを一匹殺そう……平和の象徴の矜持をへし折ってやる」

 

 言うや黒霧の個性でワープした死柄木は僕やバエさんではなく、蛙吹さんを狙ってその凶手を伸ばす。

 方や蛙吹さんは、片手で先生を支え、片手では峰田君を折檻中。防御は元より、距離が近すぎて回避も困難だ。

 

「させるかぁっ!」

 

 激旋棍(ゲキトンファー)棍棒(バトン)をブーメランのように投擲! 死柄木の両手を砕き、足止めに成功。同時に相澤先生が『抹消』の個性を発動してくれていたおかげで、蛙吹さんは無事だった。

 

「離れろォ!!」

「ガフッ!?」

 

 その隙に死柄木を殴り飛ばし、蛙吹さんとの間に割り込む。

 

「蛙吹さん!峰田君!今のうちにここを離れて!!」

「わかったわ」

「緑谷、悪ィ!頼んだ!」

「緑谷、ソイツの手とあの脳無ってのに気をつけろ……あれは普通じゃない」

「わかりました!バエさん、蛙吹さん達をお願いします!」

「お任せください!」

 

 この場を離れる蛙吹さんたちを横目で見送りつつ、目の前の死柄木とその奥の黒霧や脳無にも気を配る。蛙吹さん達を追おうとする気配を見せる黒霧。だけど、バエさんを警戒しているらしく、動こうとしない。

 

「痛ってぇ……このガキ……」

 

 痛みにもがいていた死柄木が殺意の籠った目で睨みつけてくる。

 

「脳無……いつまで寝てる……さっさと起きて、コイツを殺せェッ!!!」

 

 《穿穿弾》を喰らって吹き飛ばされ、倒れたままだった脳無が死柄木の声に反応して僕に襲い掛かる。《穿穿弾》でダメなら、これだ!

 

「激技!穿穿拳ッ!!」

 

 脳無の剛腕から繰り出される一撃を躱し、得意の一撃をカウンター気味に叩き込む!

 

「っ!?」

 

 ガラ空きの胴体に決まった必殺の拳。しかし、空気がパンパンに詰まったタイヤを殴ったような感覚しかなく、脳無も何事もなかったかのように平然としている。

 

「驚いたか? そいつは対平和の象徴用の改造人間『脳無』、オマエのパンチが効いてないのは『ショック吸収』って個性のおかげさ……この手の礼だ、ガッツリ痛めつけてから殺してやるよ……」

 

 死柄木がさも自慢げに説明してくれる。

 ショック吸収、確かに打撃が主体の僕やオールマイトにとっては相性最悪……天敵に近いかもしれない。

 

「何、寂しがる必要はないさ……オマエのあとすぐにオールマイトも送ってやるから……オマエもどーせアレのフォロワーだろ?」

 

 ……挑発に乗るな。殺意に、恐怖に、相手に飲まれるな。

 

「コイツで、あのニヤケ面を潰して……個性でヒーローとヴィランに分けちまう、こんな腐った世の中をブッ壊してやる……!」

 

 しかし、『無効化』でなく『吸収』。どんなに高性能なサスペンションやタイヤでも、吸収できる衝撃には限度があるはずだ。ならばその限界値を突破するまで!

 

「激技ッ!打打弾(ダダダン)!」

 

 『心』を特に鍛えた先達が得意とした10秒間に999発の拳打を叩き込む激技。今の僕はそこまでの拳速はないが、この激技(ワザ)こそが適解のハズだ!

 

「いくら殴った所で無駄無駄、肉をゆぅーーーっくりと抉り取るような攻撃じゃないとソイツには効かないよ」

 

 相手の言葉に惑わされるな、ただ的確に拳を叩き込め!

 

「……まぁ、それも意味ないけどな。脳無(ソイツ)には『超回復』って個性もあるんだ、オールマイトの100%にも耐えられる超高性能サンドバック人間。オマエがどれだけ足掻いても無駄なんだよ」

「!?」

 

 個性は一人に一つのハズ、複数の個性を持つ人間なんて……あ、轟君は考え方によっては炎と氷の二つの個性だ。これは驚く必要はないな。

 

 それより考えるべきは『超回復』の個性だ。ダメージを与えてもその場で即座に回復する……確かに『ショック吸収』と『超回復』の組み合わせなんて確かに厄介極まりない。

 普通なら絶望してもおかしくはないし、獣拳を知らない僕だったらどうしたらいいかを考えるだけで何もできなかっただろう。

 

 しかし、僕は確信した。今、目の前にいる相手に使うは打打弾(この技)で間違いはない。

 

「はぁ、ただのバカか……脳無、もういい、ソイツ殺せ」

 

 僕の攻撃が破れかぶれの愚行と取った死柄木の命令で脳無の反撃が始まる。

 確かに相澤先生を倒し、対平和の象徴(オールマイト)用の改造人間と豪語するだけあって、生半可な相手ではない。それでも、当たれば即死が確定するであろう攻撃だけを回避しながら拳を叩き込み続ける。

 

『治癒ってのは体力を使う、大きなケガの治癒ほど体力をつかうもんさね』

 

 入試の実技試験の後、麗日さんは足の治療を受けると、酷く疲労していた。僕は、試験の疲れが一気に出たのかと思った。しかしそうではないことを先の言葉と共に教えてくれたのが、雄英高校の養護教諭にして『治癒』の個性を持つヒーロー、リカバリー・ガールだった。

 

 それに個性というモノは身体機能の一部。使い過ぎれば疲労し、消耗もする。時には自分自身にすらダメージを与えてしまうことだってある。

 ショック吸収と超回復、無敵と思われる組み合わせの個性と言えども、使い手『体力』という限界があるハズだ。

 

「がっ!? ……ぐっ!……はぁあぁーーーーー!!!!!」 

 

 高速ラッシュ対決。脳無の巨腕からは想像も着かない速さと見た目通りの破壊力を持った攻撃が僕の身体に突き刺さり、徐々にダメージが蓄積されていく。そのせいで手数が減り、拳速が落ちる。

 

「バカなガキだな、教師(プロヒーロー)だって倒した脳無にオマエ如きが敵うワケないのにさ」

 

 鼻血によって呼吸が辛くなり、溜まった乳酸で筋肉が悲鳴を上げる。そんな押され気味の僕を嘲笑う死柄木。しかし、ここで終わるワケにはいかない。

 

「……日々、学び、高みを目指して変わること……それこそ獣拳の教え!」

「?」

 

 気合いで持ち直し、拮抗する!

 

「それ即ち!」

 

 確かに破壊力もあり、手数もある脳無の攻撃。しかし、その攻撃に正確性はなく、ただ重く、速いだけで空振りや無駄打ちが多い。対して僕の拳は威力も低ければ、速度も変わらない。しかし叩き込んだ拳は全て脳無を捉えている。その証か、次第に脳無を押し返せて来ている。

 

「Puls……Ultraァァァーーーーーーーッ!!!!!!!!!」

 

 拳と拳がぶつかり合い、炸裂音が響く。それは、どちらかの拳が砕けたことを示している。

 

「グギャァァァーーーーー!?!?!?」

 

 拳が砕けたのは脳無の方だった。《ショック吸収》の容量限界を超えただけでなく、拳以外の身体の傷が回復しない様子から《超回復》に回す体力も尽きたのだろう。

 

「もう一丁ォ!」

 

 もう片方の拳も破壊し、腕をその巨体ごと弾いたことで脳無の姿勢が大きく崩れた!

 

 距離を開ければ黒霧の個性にやられる!……なら!

 即断即決、隙を逃さず距離を詰める。その勢いを利用し、激気を込めた込めた拳を突き出す!

 

「激技ッ!穿穿弾拳ッ!!」

 

 《穿穿弾拳》。全力で《穿穿拳》を打ち込むと同時にゼロ距離で《穿穿弾》を放つ激技だ。土壇場で編み出した激技(ワザ)だけど、想定以上の威力だった。

 

 限界を越えたショック吸収の個性は効果を発揮せず、その威力を受けた脳無はUSJの天井を突き破り、遥か空の彼方に消えた。そしてその数秒後、地球の重力と引力によって凄まじい勢いで落下。地面をめり込ませながらも身体をビクビクと痙攣させている。

 

「……ウソだろ?」

 

 それが信じられないらしく、殺意すら消えて茫然自失としている死柄木に沸々と怒りが沸く。

 

「……こんなのが……無個性で、ヒーローですらない……そんな僕にブッ飛ばされたヤツが対平和の象徴(オールマイト)用の切り札?」

 

 未熟で、師匠(マスター)やオールマイトは勿論、クラスの皆にも追いつくのがやっと。そんな僕に倒される存在がNo.1ヒーローであるオールマイトに勝てるワケがない!

 

「これで世の中を破壊する?」

 

 なぜそうしたいのか、僕にはわからない。

 しかし、自分(ヴィラン)達の思い通りにならない、やりたい放題できないのが気に入らない。そんな理由なのだとしたら、それは絶体に許せない。

 

「平和の象徴を……オールマイトをバカにするなぁっ!!!!!!」

 

 そして何より、僕が尊敬する人物の一人を乏しめ、害を成そうとすることが僕の怒りを爆発させた。

 

「……ムカつくなぁ、その目……気に入らない、それに無個性? そんなガキに俺の脳無が倒されたってのか?」

 

 ブツブツと様々なことを呟く死柄木は首筋をさっきよりも強くガリガリと掻き毟る。

 

「……殺してやる」

「いけません!死柄木弔!」

 

 死柄木が動く。が、それを黒霧が諌めた。

 

「今の彼は手負いの獣、それに無闇に手を出せば餌食になるのはこちらです!」

「……チッ、なら仕方ないか……」

「逃がすと思ってンのかコラァ!」

 

 撤退を決意した死柄木達に待ったをかける3つの影。

 

「か、かっちゃん!切島君に轟君まで!」

「前座ご苦労、後は引っ込んでやがれ!」

「ここからは俺達の出番だ!」

「緑谷は消耗が激しいだろ、俺らに任せとけ」

 

 かっちゃんと切島君、そして轟君が死柄木と黒霧を倒す(メインディッシュを食らう)のは自分だ、と前に立つ。その時、ゲートの方で轟音が響いた。

 

「生徒諸君、もう大丈夫……」

 

 噴煙の向こうに浮かぶそのシルエットと力強いその声は僕が、クラスの皆が待ち望んだヒーローのモノ。

 

「私が来た!」

 

 そこには憤怒の表情を顔に貼り付けたオールマイトを筆頭に、先生方(プロヒーロー)がズラリと並び立っていた。

 

「A組クラス委員長!飯田天哉、ただいま帰還しました!!」

 

 救助要請に走ってくれたのは飯田君だったのか、さすが頼りになる。

 

「死柄木弔、ここは引きましょう!」

「今回はゲームオーバーだった……けど、平和の象徴(オールマイト)も!無個性のオマエも!必ず殺す……」

 

 黒霧の個性で逃走を図る死柄木の殺害予告に怯むことなく、その怨念の籠った目を睨み返す。

 

僕たち(ヒーロー)を……ナメるなよ!」

 

 死柄木の姿が黒い霧に包まれ、虚空に消えた。そして殺気を内包したゾワゾワとした悪意が徐々に遠のき、そして消えた。

 

「ふぅ……っ!?」

「緑谷少年!?」

 

 緊張を解いた途端、突然力が抜け、膝をついてしまった僕に心配したオールマイトが駆け寄って来てくれた。

 

「あはは、すみません。安心して、ちょっと力が抜け、痛ッた……!?」

 

 《打打弾》の影響は元より、《穿穿弾拳》は想像以上に威力がある分、反動も大きかったらしい。腕が痺れているだけでなく、激痛に指一本動かすのもツラい。

 

「まだまだ、修行が足りないや……」

「何を言う、君のおかげで最悪の結果にならずに済んだ!これは君の修行の成果だ、胸を張りたまえ!」

 

 オールマイトのお褒めの言葉。それが堪らなく嬉しかった。

 

 

 その後、死柄木(リーダー)副官(黒霧)が撤退。先生方(プロヒーロー)が駆け付けたことでヴィランたちは次々に制圧された。警察も到着し、完全に鎮圧されたヴィラン達は次々に逮捕・連行されて行った。

 

 芦戸さん曰く、猫のお巡りさんを部下として引き連れた刑事さんたちによる事情聴取や負傷した僕たちの治療が終わった頃には空が夕焼け色に染まっていた。

 

 救助訓練が本物の(ヴィラン)との戦闘となってしまった今日の授業はようやく幕を閉じたのだった。

 




~バエの獣拳(?)アカデミー~

プレゼント・マイク「尾白猿夫!個性は『尻尾』!強靭な尻尾は攻撃に防御!移動でもなんでもござれだ!」
バエ「火災ゾーンでも得意の拳法と合わせてたった一人で乗り切ったそうです!すごいですね!」
マイク「この尻尾には見た目通りかなりの筋力があって、尻尾一本で自分の体を持ち上げられる!障害物の多い所でも猿のように跳び回ることもできるぜ!」
バエ「派手さはないかもしれませんが、オールラウンドに活躍できる優秀な個性ですね!」

マイク「さて次回、緑谷達に次なる試練が訪れるぜ!」
出久「どんな試練も乗り越えてみせます!」
バエ「さっすが出久さん!その意気です!」

出久「さらに向こうへ!」
マイク&バエ&出久「「「Puls Ultra!!!」」」


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修行其の十二:ドキドキ!迫る雄英体育祭!

 救助訓練に臨んだ僕たちが『ヴィラン連合』を名乗る集団による襲撃を受けてから2日。臨時休校による一日の休みがあったものの、どこか本調子でないまま教室の扉をくぐる。

 

「おはよう」

「おはよう、緑谷君!」

「おはよー、デク君!」

 

 挨拶を返してくれる飯田君や麗日さんを始め、クラスメイト達も僕と同じように肉体的にはともかく精神的な疲労は取れていないことがわかる。

 

「緑谷!緑谷もだけど、バエさんは大丈夫?」

「そうだ!私も心配してたんだ!」

「あのヴィランに手ひどくやられていたからな」

「うん、すっかり元気だよ!今は僕のコスチュームを修理に持っていってくれてるんだ」

 

 芦戸さんに砂藤君、障子君、瀬呂君。麗日さんも含めてUSJ事件の際にゲート前でバエさんと一緒に戦ってくれた面々だ。バエさんが何事もなく外出していることを知ると安堵の表情を浮かべた。

 

「そーいや、バエさんは緑谷のコスチューム作った会社の社員なんだよな?」

「確か……スクラッチだよな!」

「サポート会社でもトップクラスの企業か……人は見かけによらないな」

 

 スクラッチ社。元々はスポーツメーカーだったのだが、個性の発現による超人社会への変移とともにヒーローのサポートアイテムの開発・販売を行うようになった。現在では障子君の言う通り、サポート会社でもトップクラスの業績を誇っている企業でもある。

 

「そっか、元気ならいいや!次は来るときは教えてよ!ちゃんとお礼言いたいんだ!こないだはちゃんと言えなかったからさ」

「俺たちからも頼むぜ!」

「うん、わかったよ!」

 

 「一緒に戦った仲だし、お礼なんかいりませんよー」といいそうな気がするけど、嬉しそうなバエさんの姿を楽しみに了承すると芦戸さん達はほっとしたように笑ってくれた。砂藤君に至っては手作りお菓子のお土産まで用意してくれると言う。本当にいい人達だな。

 

「お礼といえば、私も緑谷ちゃんに言わないといけないわね」

 

 蛙吹さんにお礼を言われるようなこと? なにかしたっけ?

 

「梅雨ちゃんと呼んで。それと、一昨日のことよ、ヴィランの攻撃から庇ってくれたじゃない」

「あ、あの時はただ夢中で……そ、それに当たり前のことをしただけだから……」

「それでも助かったわ。ありがとうね」

「ど、どういたしまして!」

 

 ぺこりと頭を下げられるたのにつられて僕も頭を下げる。あs「梅雨ちゃんと呼んで」僕の思考を読んだ!? 

 

「自分のペースでいいの。だけどお友達には名前で呼んで欲しいのよ」

「あ……うん!わかったよ、つ、梅雨ちゃん!」

「ケロケロ。それじゃあ、またあとでね」

 

 僕が名前で呼んだことに満足してくれたのか、嬉しそうに笑う梅雨ちゃんは自分の席へと戻って行く。女の子を名前で呼ぶという何気に人生初の偉業を達成してしまったことで僕の脳はオーバーヒート寸前だ。

 ……故に、

 

「……」

「麗日君、どうした? 表情が麗らかではないぞ?」

「へ? うそ!? 私どんな顔してたん!?」

「無自覚だったのか!?」

 

 飯田君と麗日さんがそんなやり取りをしていることにも僕は気付いていなかった。

 

 ----------。

 

「おはよう、では早速ホームルームを始める」

「相澤先生、復帰早ぇっ!!!!!」

 

 切島君の驚くのも無理はない。

 脳無によってボロボロにされたハズの相澤先生が右腕を吊り下げながらも教壇に立っているのだ。「さすがプロ……!」という感嘆の声に僕も思わず同意してしまう。

 

「先生、ケガはもういいんですか?」  

「婆さんが大袈裟なだけだ、それに……」

「?」

 

 やれやれ、と言った様子で返答してくれていた相澤先生が僕に視線を向ける。

 

「いや、なんでもない……それより全員、気を抜くな。次の戦いが近付いている」

「「「「「!」」」」」

 

 図らずも経験した実戦の空気と恐怖を思い出してしまい、さっきまで少し緩んでいたクラス内の空気がピンと張り詰める。誰かが『またヴィランの襲撃か』と口にするが相澤先生の雰囲気はUSJの時のそれではない。

 

「雄英体育祭が迫っている」

「「「「「クソ学校っぽいのキターーーーー!!!!!」」」」」

 

 さっきまでとはうって変わり、クラス中のテンションが一気に沸き立つ。

 かつてのオリンピックに代わる一大イベントである雄英体育祭。僕も毎年欠かさずテレビ中継を見ていたけど、今年からは自分が参加する側であり、見られる側になるということで気分が高揚してくるのを抑えられない。

 

「ヴィランに襲撃されたばっかだってのにマジかよ……」

 

 しかし、僕の後ろの席の峰田君はどこかげんなりしながらそう呟いた。さすがに1日休みがあったとは言え、命の危機によって受けたストレスは簡単には消えないようだ。

 

「だからこその決行だ。開催する事で雄英の危機管理体制が磐石だと示すのが狙いだ。警備もプロヒーローに依頼を出した上で例年の5倍に増強する予定だ」

 

 プロヒーロー!誰が来るのかわからないけど、あわよくばサインを頂いたり、握手や記念写真とかも……と、そうじゃない!

 

「それに雄英体育祭はオマエらにとって年に1回しかない最大のチャンスだ、簡単に中止していいモノでもない」

 

 そうなのだ。雄英体育祭は全国に中継されるだけでなく、大勢のプロヒーローが実際に観戦にくる。その真の目的は将来の有望株をスカウトすることだ。

 

「優秀な結果を残した者はそのほとんどが今でもトップヒーローとして活躍している。気張れよ」

 

 相澤先生のさりげない激励を締めとして、朝のホームルームは終了した。

 

 ----------。

 

「みんな!私、頑張る!!」

「も、燃えてるね、麗日さん……」

 

 昼休み、麗日さんの気迫が燃え上がっていた。聞けば、彼女がヒーローを志す理由によるモノだった。

 

「お金のため?」

「う、うん……ごめんね、なんか不純で……恥ずかしいな……」

 

 しかしヒーローと言えども必ず稼げる訳ではない。故に麗日さんにはもう1つの利点を見出だしていた。

 

「うん……ウチの実家は建設会社なんだけど結構苦しくて……私が個性を使えれば助けになれると思った、けど父ちゃんは『親としては私が夢叶えてくれる方が何倍も嬉しい』って言ってくれたんだ!」

 

 麗日さんのご両親はとても娘想いのとてもやさしい人達なのだろうとわかる。そして麗日さんもご両親に親孝行をするべく日々努力を重ねている。お金が理由だとしても、恥じる必要なんて全くない。

 僕の両親も無個性な僕を見捨てず、『ヒーロー』と言う夢を応援してくれている大切な存在だ。そんな両親のためにできることなら全力で取り組むだろう。

 

「だから私はヒーローになってお金をいっぱい稼いで、父ちゃんと母ちゃんに楽させてあげるんだ!」

「ご両親を助けるために……スゴいよ、麗日さん!」

「うむ、ブラボー!実にブラボーだ!ブラーボ!!」

「えへへ……そうかな?」

 

 飯田君も僕もその心意気に感動してしまった。

 

 

 でもなぜだろう、麗日さんが笑うと心臓の鼓動が早くなる。

 

 ……不整脈だろうか?

 

 ----------。

 

 本日最後の授業を終えた僕たちが教室を出ようとするもそれは叶わなかった。

 

「なんなんだ、この人だかりはよー!? でれねーじゃんか!何しに来たってんだよぉ!?」

 

 A組の教室の前に集まる大勢の生徒に圧倒され、動揺するクラスメイト。特に峰田君はその様子が顕著だ。

 

「敵情視察だろ、騒ぐなザコ」

「ヴィランの襲撃を乗り越えた僕たちは今度の体育祭で壁となりえるか、それを見に来たんだよ」

 

 ザコ呼ばわりされて凹んでしまった峰田君を慰めつつ、その目的を推測してみるとかっちゃんも同じ意見らしく、教室前に集まる群衆を一瞥する。

 

「意味ねぇことしてないで、どけやモブども」

「知らない人の事とりあえずモブって言うのはやめたまえ!」

 

 飯田君の言うとおりだ。そう言わんばかりにクラス全員が頷いた。

 

「幻滅するな……どんなもんかと見に来たけど、随分偉そうだなぁ……ヒーロー科に在籍する奴は皆こんななのか?」

「アァ!?」

「普通科とか他の科ってヒーロー科落ちたから入った奴が結構居るんだ。体育祭の結果(リザルト)によっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りらしいよ……」

 

 人だかりの中から前に出てきた紫の逆立った髪型と目の下のクマが印象的な男子生徒、彼の言葉に衝撃を受ける。それと同時に彼も雄英生として高みを目指していることがわかる。

 

「俺は()()()の心操ってんだけど、俺は敵情視察なんかじゃないよ。調子のってるなら足元ゴッソリ掬ってやる、って宣戦布告しに来たんだ」

 

 言い切る心操君の目には力強い光が宿り、半端な覚悟ではないだろうことがわかる。足元どころじゃない、彼は僕たちの首を取るつもりだ。

 

「隣りのB組の鉄哲ってモンだけどよォ!! さっきのモブ発言きいてたぞ!! ヴィランと戦ったっつーから話聞こうと思ってたんだが偉く調子に乗ってんじゃねぇか!本番で恥ずかしい事になんぞ!!」

「ちょっと鉄哲!ヴィランの襲撃については先生から閉口令が出るの聞いてなかったの!?」

 

 今度は銀髪のどこか切島君に似た威勢のいい鉄哲君と彼のクラスメイトらしいサイドテールの女子が現れた。

 しかし心操君や鉄哲君、A組の前に集まった群衆のほとんどが『ヴィランと戦ったことで僕たちA組は調子に乗っている』と言う共通認識を持っているようだ。

 しかしそれは僕を含めたA組のみんなにとって捨て置けない問題だ。

 

「……その宣戦布告、受けて立つよ」

「「「「「!」」」」」

 

 故に誤解を解かないといけない。そのためには一度心操君達の意識を僕に向ける必要がある。

 

「僕たちだって高みを目指しているんだ、負けるつもりはないよ」

 

 宣戦布告への返答、簡単に首を取らせるつもりもない。

 

「アンタ、入試首席の緑谷だよな? どうだい、恵まれた個性を持って座るヒーロー科の椅子は?」

「恵まれた個性? 君がどんな個性かは知らないけど、僕は無個性だよ。だからヒーロー科の椅子からいつ蹴落とされるか気が気じゃない、っていうのが本音かな」

「「「「「!?」」」」」

 

 僕が無個性であることは知らなかったらしく、皮肉っぽく訊ねてきた心操君たちの方が今度は動揺している。

 

「USJのことだって、一歩間違えればケガじゃ済まなかったかもしれない……そんなことを嬉々として自慢話にできるほど、僕たちは楽天家じゃない」

 

 無意識のうちに握りしめた拳に力が入る。

 みんなが本物の悪意に晒され、戦って傷ついた。相澤先生や13号先生、蛙吹さんに至っては命の危機にも直面した。それを自慢しているように取られるなんて心外にも程がある。

 

「今度の雄英体育祭、僕たちも全力で挑むよ」

 

 

 優勝を目指すのはともかく、「調子に乗った僕たち(A組)が気に入らないから、首を取って恥を晒させてやる」と言う考えで倒されるほど僕たちは弱くない。

 そして雄英体育祭も甘くない。

 

敵情視察(観察)だけでなにか解ることは少ないし、かっちゃん……彼の言う通り時間の無駄だから、その時間を修行に回す方が合理的だよ」

 

 それを無視するんだったらそれでもいい、その間に僕たちは修行を重ねてさらに高みを目指すだけだ。言外にそう言えば、A組前の群衆は一人、また一人と踵を返していった。

 

「……チッ」

 

 そしてかっちゃんも教室を後にする。罵倒や暴言がなく、舌打ちだけだったということはかっちゃん的にも僕の言ったことは間違いなかったのだろう。

 

「デク君、カッコよかったよ!」

「うむ!緑谷君の言葉に恥じないように努力せねば!」

「そ、そんな……なんか偉そうになってたし、勝手に「僕たち」なんて言っちゃたし……」

 

 麗日さんと飯田君が褒めてくれるのは良いけど、冷静になんて考えるととんでもないことをしてしまったのではないだろうか?

 

「そんなことねぇよ!緑谷の言葉、シビれたぜ!」

「そうだぜ!シビれさすのは俺の専売特許だと思ってたのによ!」

「俺も気合い入れ直さないと!」

 

 切島君や上鳴君、尾白君を筆頭にクラスの皆が燃えていることで一先ず安心した。しかし僕もあれだけのことを言ってしまった以上、情けない成績は残せない。期待と不安でドキドキと心臓が荒ぶっている。

 

「緑谷は……まだ残ってたか。朝に伝えるのを忘れてたが、体育祭の選手宣誓。入試首席のオマエがやることに決まったからそれについても準備を怠るなよ」

 

 「用がないならさっさと帰れ」という相澤先生の指示にクラスメイト達が教室を後にしていく。

 

「……はい?」

 

 突然大役を任された衝撃から復帰した僕は、そんな間の抜けた声しか出せなかった。

 




~バエの獣拳(?)アカデミー~

プレゼント・マイク「葉隠透!個性『透明化』!常に透明化した身体が個性のいわゆる透明人間だ!」
バエ「戦闘向きではありませんが、情報収集にはかなり効果的ですね!」
出久(フリーズ中)
マイク「身につけてる物は透明化しない!そのため葉隠の個性を十全に活かそうとすると全裸状態になっちまうぜ!コイツァ、シヴィー!!」
バエ「彼女と蛙吹さんをみてるとなぜか懐かしい気分になるんですよねぇ……」
マイク「オイオイ!昔の女でもrememberしてんのか? brother!」
バエ「その辺りは触れないのが紳士ですよ、マイクさん」
マイク「coolだな、オイ!」

バエ「さて次回!いよいよ雄英体育祭の開幕です!」
マイク「どんな種目があるのか楽しみにしてろよ、リスナー`S!!」
バエ「さらに向こうへ!」
マイク&バエ「「Puls Ultra!!」」



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修行其の十三:バチバチ!雄英体育祭、開幕!!

 相澤先生の告知から二週間。時間はあっという間に過ぎ去り、今日はいよいよ雄英体育祭当日!

 

「そう言えば、選手宣誓の内容は大丈夫なのか?」

「うん、初めてだからかなり難しかったけどね」

 

 ジャージに着替え、控室に移動した僕は尾白君と準備体操を兼ねたストレッチをしていた。

 

「相澤先生が先に言っておいてくれて良かったかもね!」

「確かにね。いきなり言われたら緊張して噛みまくってたかも」

「違う違う、緑谷君が呼ばれたのにうっかり飯田君が返事したりしそーだなー、って思って!」

「いやいや、それは……ないんじゃない?」

 

 葉隠さんのもしも話に麗日さんが突っ込むけど、歯切れが悪い。しっかり者の飯田君がそんなことする訳が……ない……よね?

 

「皆、準備はいいか!入場の時間だ!!」

「もうそんな時間か……行こう、緑谷」

「うん!」

「よっしゃ!」

「頑張って目立つよー!」

 

 飯田君の号令により気合いを入れる。

 

 

 ……しかし、葉隠さんはなぜ鼻眼鏡とトナカイの角なんか着けて参加しようとしているのだろう?

 

 ----------。

 

『いよいよ始まるぜ、雄英体育祭!括目しろ、オーディエンス!群がれ、マスメディア!』

 

 プレゼント・マイクの熱の籠った実況がスピーカーから流れ、同時に聞き覚えのある羽音も聞こえて来る。

 

『実況はボイスヒーロー、プレゼント・マイクさんと私、スクラッチ特別開発室広報担当バエ!解説は抹消ヒーロー、イレイザーヘッドさんでお送りいたします!』

 

 そう、羽音の発生源はなんとバエさん。授業見学に来ていたバエさんと偶然出会ったマイク先生、二人は妙に馬があったらしく、先生の方から今回の実況役に誘ったらしい。

 

『早速一年生の入場だァ!どうせテメーらのお目当てはコイツらだろ!? ヴィランの襲撃に不屈の精神で立ち向かった期待の新星!!』

 

 初の大舞台に皆が今までにないほどに緊張しているのに、プレゼント・マイク先生の僕たちを持ち上げるような紹介で一層拍車がかかる。

 飯田君や峰田君は手足が揃って出てしまっているし、切島君は個性で文字通りガチガチだ。さすがのかっちゃんも手汗がスゴイ、さっきからバチバチと火花が散っている。

 

「梅雨ちゃん、しっかり!!」

「あまりのストレスで擬死状態になってる!?」

 

 麗日さんと耳郎さんの悲鳴に振り向くと、なんと梅雨ちゃんが仰向けに倒れていた!

 ……これも与えられた試練なのだろうか? なら、これも高みを目指すために乗り越えるだけだ!

 

『ヒーロー科!一年A組だろォォォーーー!!』

 

 そして、競技場内に入った僕たちを経験したことのないほどの大歓声が出迎えた。

 

 

『続くはB組!普通科のC、D、E組もやって来たーーー!』

 

 サポート科、経営科と続き、全11クラスの生徒が列を成す。しかし、普通科の人達は『自分達はどうせ引き立て役だ』と呟くほどに士気が低い。例外はずっと僕を見ている心操君ぐらいだ。

 

「選手宣誓!」

 

 ピシャン!と鞭を鳴らして主審である18禁ヒーロー、ミッドナイト先生が雄英体育祭の開幕を告げる。そのコスチュームやスタイル、美貌から男女問わず人気の高いヒーローの登場に会場にいる人達の多くが魅了されている。

 

「18禁なのに高校にいても良いのか?」

「いい!」

 

 常闇君の疑問を峰田君は力強く肯定した。

 

「静かにしなさい!選手代表!!1年A組!緑谷出久!!」

「はい!」

 

 壇上に登り、空に向けて手を上げる。入場するまでとは異なり、不思議と気持ちは落ち着いている。

 

「宣誓!僕たちは日々高みを目指し、学び、変わって来ました!今日はその成果を優勝と言う栄光を勝ち取ることで示し、更なる高みを目指す原動力(チカラ)としてみせます!!1年A組……無個性!緑谷出久!!」

 

 宣誓の締めに会場中がざわつく。それもそうだ、無個性の人間が雄英の、それもヒーロー科に所属しているなど前代未聞の事だ。しかも優勝を狙うと宣言したことは耳を疑うことだろう。

 

「ハッ!デクのクセに1位狙いかよ!」

「……」

 

 かっちゃんが獰猛な笑みを浮かべ、轟君は静かに闘志を燃やす。

 

「熱いな!コレ!!」

「やる気満々だぜぇ!!」

「ときめくぜ」

 

 それまで緊張で固まっていたり、クラスや学科への劣等感などから投げ槍だったり、意気消沈していた参加者に火が着いたのを感じる。

 

「無個性で入試首席?」

「どんだけ努力したんだ?」

「わからない……けど私達だって負けてない!」

「アイツができんなら俺たちだって!」

 

 それは普通科の人達も例外ではなかった。

 

「良い感じに昂って来たところで、最初の競技を始めるわよ!ここで毎年多くの生徒が涙を飲むわ(ティアドリンク)!!運命の第一種目は……これよ!!」

 

 ミッドナイト先生が鞭で示した先のスクリーンモニターに東映……もとい、投影されたのは『障害物競走』の文字。

 

「ルールは簡単!このスタジアムの外周4キロに設置された障害物を突破してゴールしなさい!!コースを守れば、基本的に何をしても構わないわ!さぁ皆、位置につきまくりなさい!!」

 

 ゲートに設置されたシグナルが点灯する。1つ……、2つ……、3つ!今!

 

「スタート!」

 

 全員が一気に走り出した!

 

 ----------。

 

『さぁ、始まったぜ!雄英高校体育祭の第一種目!障害物競走!!早速だがイレイザー、この競技の見どころはどこだ!?』

『……今だよ』

『スタートダッシュを決めて最初にゲートをくぐったのはA組推薦入学枠の轟選手!他の選手は……おーっと、これはなんということだーーー!? 狭いゲートに選手が一気に押し寄せて身動きがとれなくなっているーーー!!』

 

「悪いがここで足止めさせてもらう」

 

『トップの轟、個性を発動!地面ごと他の選手の足を凍らせて妨害を開始!!この男、容赦ねーな!!』

 

「そう上手くいかせねぇよ、半分野郎!」

「甘いわ!轟さん!!」

 

『しかぁし!その妨害をモノともせず飛び出したヤツラがいるぜ!So Cool!!』

『爆豪に八百万、切島、青山……轟の個性を知る奴らだな。氷結の妨害を読んでたか』

『しかし轟選手!一度後続の選手たちを見たものの、何を言うでもなく走り続けます!』

 

「くっ!滑って走り辛いし、このままじゃ追いつけない!!……はぁ!!」

 

『なんだァ!? 入試首席の緑谷が地面を踏み付けたと思ったら氷が全部砕け散ったァ!!?』

『震脚で周囲の氷を砕いたか』

『そのようです!路面状況が改善されたことで各選手、一気に加速しています!!』

 

「ありがとよ、緑谷ァ!氷がなきゃこっちのモン、ダベェ!?」

「峰田くーーーん!?」

 

『個性を使って飛び跳ねるように疾走していた峰田選手が何者かにブッ飛ばされたー!?』

『ここで最初の障害だ!第一関門、ロボ・インフェルノ!!コイツを切り抜けなきゃ、先には進めねェぞ!!』

 

「一般入試組が実技試験で戦ったっつーヤツか……もっとスゲーのを用意して貰いてぇな」

 

『入試のお邪魔ギミックに使ってた(ゼロ)ポイントの巨大ロボを瞬間氷結ゥ!スゴ過ぎんぞ!!』

 

「あそこ通れるんじゃねぇか!?」

「行くぞ!」

「よっしゃ、ラッキー!」

 

『後続の選手が動かなくなった巨大ロボの隙間を駆け抜けようとしています!轟選手、凍結による攻略と妨害のつもりが宛がはずれてしまったのかーーー!?』

 

「? ……違う!切島君!鉄哲君!戻って!!」

「「!?」」

「不安定な体勢の時に凍結させた、……そろそろ崩れるぞ」

 

『あーっと、氷結ロボが倒れるぅー!しかもその下には人がいるぅーーーー!!』

 

「ッ!間に合えぇーーーー!!」

「緑谷!?」

 

『どうした緑谷ァ!自分から下敷きになりに行くなんてどーゆーつもりだァ!?』

 

「(受験の時は穿穿拳(ゲキワザ)を使ってようやくだった……けど!)突きこそ……基本!」

 

『なんと緑谷!アッパー一発で巨大ロボを打ち上げたーーー!?!?!?』

 

「魂込めて……」

 

『更にそれを追い掛けるように跳躍ゥ!何する気だァ!?』

 

「撃つべし!」

 

『渾身の右ストレートォ!ブッ飛ばされた巨大ロボがその軍勢に向かって急降下ァ!!そのデカさ故に迅速な回避運動を取れないロボ共をあっと言う間にスクラップと化しちまったーーーー!!!』

 

「よし!」

 

『入試の時は激技とやらを使ってようやく一体だったが、今回は素の力だけで六体近く撃破か……』

 

「助かったぜ、緑谷!でも手加減しねーぜ!!」

「どういたしまして!臨むところだよ!!」

「……」

 

『緑谷選手、他の選手の助けになってませんでしょうか?』

『むしろ逆だな。生徒の多くは個性の強化を優先しがちなヤツがほとんどだ。故に緑谷の身体能力の高さに圧倒されて足が止まってる者も多い』

 

「鉄哲!なにボーっとしてんの!!まだ挽回できる!走るよ!!」

「ッ……あぁ!負けてたまるかァ!!」

 

『止まってしまっていた鉄哲選手!拳藤選手の激励を受け、再度走り出しました!!』

『そうだぜ!ここはまだ序盤!!トップ集団のA組に追いつき、追い越せリスナー……いや、闘士共(グラップラーズ)!!!』

『確かに困難を経験し、乗り越えたA組は抜き出ているのが多い。しかしそれは覆せない程の差ではない』

 

「覆せない差じゃない、だって? ……おい、ロボ野郎」

『ターゲット発ケ……』

「オマエが他のロボ共を破壊してくれ」

『……ターゲット発見!ロボ野郎ブッコロ!!』

「そーでなくてもやってやるよ……俺だって!」

 

 襲い掛かってきたはずの仮想ヴィランに命じ、己を守らせる心操は決意を新たに()()()で走る。己の力を最大限に発揮して優勝を目指すために!

 

『さてここで、トップグループが第二関門に到達した模様です!』

 

「いつの間にこんなモノを……これ、自分で浮いても向こうまで渡り切れるんかな……?」

 

 麗日が思わず戦慄するほどの大穴が参加者の前に口を開けていた。底が全く見えないほどの深さは地球の反対側に繋がっているのではないか、と思わずにはいられない。

 

『さて次の障害はァ!落ちれば失格(アウト)!!それがイヤなら這いずりな!第二関門、ザ・フォール!!』

 

『底が見えない大穴と複数の足場、そしてそれらを繋ぐ一本のロープのみ!トップの轟選手が氷結でロープの上を滑るように滑走すれば、爆豪選手は爆風で大穴を飛び越え、後続集団を大きく引き離しております!』

 

「確かに深い……けど道は見えてる!」

「で、デク君!そっちはロープもなにも……って、えええーーーっ!?」

 

『緑谷オマエどこ走ってんだァ!?』』

『垂直に切り立つ崖を足場に走り抜けるか。コースは守っているし、落下の危険を抱えたまま低速度で綱渡りするよりは合理的だな』

『そう言う問題か!?』

『緑谷選手!轟選手、爆豪選手に次いで3位でザ・フォールを突破しました!』

 

(多少大回りになって、かっちゃんと轟君に遅れた!なんとか次で追い越さないと距離的に逆転は難しくなる!!)

 

『早くも最終関門!辺り一面は地雷原!!その名も、『怒りのアフガン』!!』

『地雷が埋められている場所はよく見ればわかるようになっております!なお音と光は凄まじいのですが、威力はないモノを使用しておりますのでご安心ください!!』

『地雷に安心できる要素があるのか?』

 

「待てや、半分野郎ォォォーーー!」

「爆豪か……後続に道を作っちまうが仕方ない」

 

『轟選手!個性を持って地雷原を一面凍結させたようです!!』

『爆豪は飛んでるからな、地雷が足止めにならない。ならば自分がより早く進むための道を作ったんだ。合理的判断だ』

『そうこう言ってる間に爆豪が轟と並んだー!』

 

「良く聞け半分野郎ォ!俺は今日!テメェにも、デクの野郎にも勝つ!!俺がここで一位になったるから首洗っとけや!!」

「……」

 

『爆豪、轟に宣戦布告するもシカトされてやんの!ウケる!!』

 

「ウルセェェェェーーー!!!」

 

『両者デッドヒートを繰り広げながらも、間もなく地雷原を抜けようとしています!もうこの二人に追いつける者はいないのでしょうかーーー!?』

 

「いるワk、ぐあッ!?」

「っ!?」

 

『なんだなんだァ!? いきなり爆豪と轟が吹っ飛んだァーーー!? 一体、何が起こりやがったァーーー!?!?』

『緑谷選手だー!緑谷選手が両者の足元を穿穿弾で地雷ごと吹っ飛ばしたーー!!そして今、二人を……抜いたぁーーー!!!』

『喜べマスメディアーーー!!!オマエら好みの展開だぜ、YEAHーーー!!!』

 

「俺の前を走ってんじゃねぇ、このクソデクがァァァーーー!!!」

「……!!」

 

『なんという復活の早さでしょうか!爆豪選手、轟選手ともに必死の形相で緑谷選手を猛追しております!!』

『イレイザー、オマエどんな教育してんだよ? マジでスゲーぞ、アイツら!!』

『俺は何もしてない。アイツらが勝手に焚き付けあってんだよ』

『さぁ、手に汗握る展開です!熱戦!接戦!!大激戦!!!間もなくゴールという所でトップの緑谷選手を轟選手、爆豪選手が追うデッドヒートであります!!』

 

 トップの三人がゴールに向かい、ラストスパートを掛ける!

 

『彼が来ることを誰が予想したでしょう!? 推薦組も含めた全員を抑え、トップでゴールしたのはこの男ォッ!!!』

『一着!緑谷出久だァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!』

 

 割れるような大歓声が上がる。

 次いでゴールしたのは轟、爆豪。出久と轟は肩で荒い呼吸を繰り返し、爆豪は個性を使い過ぎたのか掌に走る痛みに顔をしかめる。

 

「やったね、デク君!悔しいよ、チクショー!!」

「う、麗日さん!お、お疲れさま!(ち、近い~っ!)」

 

 続々とゴールする選手達。16位となった麗日の後ろでは得意な徒競走系の種目でありながら6位の飯田が茫然としていた。

 




~バエの獣拳(?)アカデミー~

バエ「雄英高校!出久さんやオールマイトさんの母校であるヒーローの育成機関です!」
出久「学科は全部で四つ!まずは僕たちが所属する『ヒーロー科』、心操君がいる『普通科』、サポートアイテムの研究・開発を学ぶ『サポート科』、ヒーローの活動方針などをマネージメントなどについて学ぶ『経営科』です!」
バエ「この四つの学科が一堂に会することはそれほど多くないそうで、その少ない機会の一つがこの体育祭なのです!」
出久「入学式に出ていないA組(僕たち)が他の学科の同級生を見るのは初めてだったりしますね」
バエ「さて次回!次の競技で出久さんがピンチに!? そんな所にサポート科の生徒が急接近!?」
出久「サポート科? 誰か知り合いとかいたかな?」
??「私のドッ可愛いベイビー達が大活躍ですよ!」

出久「さらに向こうへ!?」
バエ&出久&??「「「Puls Ultra!!!」」」

バエ&出久「「……今の誰?」」


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修行其の十四:チクチク!騎馬戦サバイバル!!

皆様のおかげで『僕のヒーローアカデミア:BEAST ON!』のお気に入り件数が500件を突破しました!
本当にありがとうございます!

これからもどうぞよろしくお願いいたします。




「予選終了!本戦に進んだのは上位42名!!43位以降の子も安心しなさい!まだ見せ場は残ってるわ!!」

 

 42人。その最後の一人は普通科から唯一勝ち残った心操君だった。大の字に倒れ込んで荒い呼吸を繰り返してはいるが、彼の目はまだ闘志の炎が爛々と燃えている。それを見るとあの日の宣戦布告が伊達ではないことを改めて認識させられる。

 

「続いて第二種目!私はもう知ってるけど、なにかしら!?」

 

 モニタースクリーンに様々な競技の名前が高速で切り替わり、そして次なる競技(試練)の文字がデカデカと表示された。

 

「その内容は……騎馬戦!!ルールは2人から4人でチームを組んでもらう普通の騎馬戦と同じよ!けど騎馬が崩されても、ハチマキを取られても失格にはならないわ!!逆に悪質な騎馬崩しを行った場合は失格になるから気を付けなさい!

 

次に参加者全員には先の順位に応じた点数が各自に振り分けられ、その合計値が各騎馬の持ち点となるわ!騎手はそのポイントが表示されたハチマキを首から上に巻くこと!制限時間である15分が経過したとき、最もポイントが多い上位4チームが最終種目に参加する権利が与えられるわ!!

 

そして気になるポイント配分は42位から上に5点ずつ増えていくわ!」

 

 つまり僕は210ポイントか。轟君やかっちゃんとポイントは近い以上、他のチームに集中的に狙われることはなさそうだ。

 しかし、さっきの競技からわかるとおり、雄英体育祭の騎馬戦が騎馬を崩されようがハチマキを取られようが失格にならない()()()騎馬戦であるはずがない。

 

「ただし!」

 

 やっぱりか、何が来る?

 

「一位の緑谷君はなんと……1000万ポイント!

「「「「「!!!!!」」」」」

「……なんてこった」

 

 ……ミッドナイト先生、僕の拳は野牛(バッファロー)じゃなくて剣歯虎(スミロドン)なんですが……なんてボケている場合じゃない。狩る者の目となった周囲の視線が獲物(ぼく)を射抜いている。

 

「上位の者ほど狙われる!下剋上上等のサバイバル!!チーム決めの制限時間は15分!交渉時間のスタートよ!!」

 

 ……臨むところだ、やってやる!

 

 ----------。

 

「すまない、緑谷君……俺にとって君は越えたいライバルなんだ!」

「俺も友達として、ライバルとしてオマエと全力で戦ってみたいんだ!悪いな……」

 

 飯田君と尾白君に断られ、他の人には声を掛ける前に視線を逸らされる。逆にかっちゃんと轟君には人気が集中しているし、周囲ではどんどん騎馬が組まれていく。

 

 ……このまま誰も組んでくれなかった場合、どうなるんだろう?

 

「デク君!一緒に組もう!!」

 

 焦りを感じていた僕に、救いの天使が舞い降りた。

 

「う、麗日さん!? いいの!? その、僕のポイントが1000万故に狙われまくると思うんだけど!?」

「大丈夫だよ!ガン逃げすれば勝てるし、デク君強いもん!!それに、仲のいい人と組んだ方が絶対いい!!」

「!!?」

 

 意味が違うと解ってるのに『仲のいい人』という言葉が脳内をループしてアバレまくっている!その麗らかな笑顔に心臓が『止めてみな!』と叫んでいるかのように荒れている!!

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

 ----------。

 

「私と組みましょう!一位の人!!」

 

 私以外に組んでくれる人が中々いない状況に焦るデク君に声を掛けて来たのは、ゴーグルを着けたピンク色の髪をドレッドっぽくした女の子だった。

 

「私はサポート科の発目明です!今現在、この場で最も目立っているのは間違いなくあなたです!!しかも、無個性と言うことはあなたの個性の影に隠れることなく、私のドッ可愛いベイビー達がより目立てるのです!なので利用させてください!!」

 

 発目さんは障害物競走ではサポートアイテムで身を固めながら40位で走破、サポート科で唯一本選に進んだ子だ。強力なサポートアイテムを持つ彼女が組んでくれるのであれば私たちのチームもかなりの強化が期待できる。

 

 

 けど……なんか近くないかな?

 

「か、かなり明け透けですね……」

「さらに今解説をしている方!」

「聞いてない……ば、バエさんのことですか?」

「そうです!そのバエさんとか言う方はあのスクラッチ社の社員とか!!私達サポート科はこの雄英体育祭で自分の開発したサポートアイテムを披露することで企業の目に止まることが目標なのですが、そのバエさんとあなたは懇意にしていると言う噂を聞いています!あとで是非紹介してください!!」

 

 発目さんの勢いに押され気味だったデク君は結局、彼女をチームに入れることを承諾。今度は発目さんの発明品を見ながらヒーロー談義で盛り上がっている。その発目さんは私には興味がないようで、話しかけても無視されてしまった。

 

 

 でも……無視されたのよりも、デク君に近い方が胸の中がチクチクするように感じるのはなんでだろう?

 

 ----------。

 

『さあ、いよいよ始まります!雄英体育祭第二種目の騎馬戦!!』

 

「行くよ!麗日さん!!」

「うん!」

「発目さん!」

「はい!」

「常闇君!」

「うむ」

「ヤッタルゼ!」

 

 個性の《黒影(ダークシャドウ)》と共に答えてくれるのは四人目のメンバーとして参加してくれた常闇君。《ダークシャドウ》なら死角からの攻撃や奇襲に対しても防御が可能!麗日さんの個性と発目さんの発明品(ベイビー)で機動力を確保、あとは僕の指揮次第では他のチームに遅れを取ることはないハズだ!

 

『鬨の声を上げろ!取って取られて取り返せ!全11チームによるサバイバルの始まりだァ!!Are you ready!?』

『カウント、スタートです!3!』

『2!』

『1!』

『『試合開始ィッ!!』』

 

「オラァ!1000万の奪い合いだァ!!」

「予告する!キミのお宝(ハチマキ)、頂くよ!!」

 

『鉄哲チームと葉隠チーム、早速緑谷チームに攻勢を仕掛けます!』

『その二チーム以外も緑谷狙いか』

 

「追われし者の宿命!選択しろ、緑谷!!」

「先ずは逃げに徹して時間を稼ごう!」

「了解した! ……む!?」

 

『緑谷チーム、交戦より撤退を選択したようですが動く様子が……おーっと、なんということだ―!緑谷チームの騎馬の足がステージに沈んでいるぅー!!?』

 

「(B組の人、もしくは心操君の個性か!)麗日さん!発目さん!」

「了解!」

「良いですよぉ!存分に私のベイビー達を使ってください!!」

 

『麗日の個性で重力を0(ゼロ)にして、発目のジェットパックが火を噴いて上空にEscape!!』

 

「デェェェク!1000万寄越せやァ!!」

「か、かっちゃん!?」

 

『上空に脱出した緑谷チームを爆豪選手が猛追しているぅー!!』

『上に逃げるのはいい選択だった、しかし飛べるのが自分だけと思うのは早計だな』

 

「ダークシャドウ!」

「サセネェヨ!」

「チィ!」

 

 かっちゃんの奇襲は《ダークシャドウ》によって弾かれ、墜落するところを瀬呂君のテープによって回収された。

 

『HEY!HEY!HEY!!騎馬から離れて飛んでんぞーっ!? あんなのアリかァー!?』

「テクニカルだからセーフ!ただし、騎手の足が地面に着いたらアウトだから気を付けなさい!!」

 

 先のかっちゃんの突撃は独断行動だったらしく、今のルールを聞いた瀬呂君から文句を言われている。

 

「いいぞ、ダークシャドウ!そのまま常に俺たちの死角を守れ!」

「アイヨ!」

「さすがだよ、常闇君!」

「フッ、選んだのはオマエだ」

 

 謙遜する常闇君だけど、スゴいのは事実だ。

 けど、今のかっちゃんの突撃から考えると人数が多いことや空中での動きに馴れていない僕たちでは、咄嗟の反応や動きに隙が生じ易い。《ダークシャドウ》の全方位防御だけに頼ることも出来ない以上、上空に逃げるのもあまり得策とは言い難いらしい。

 

「デク君!着地予定ポイントになんかある!!」

「峰田君のもぎもぎボールだ!なら……穿穿弾!!」

 

 威力を抑えた穿穿弾で地面ごともぎもぎボールを吹き飛ばして着地、同時にそこに狙いを済ました後方からの一閃を回避!

 

『緑谷チーム!後ろから奇襲を回避!! しかし仕掛けたのは……これはどういうことでしょう、障子選手の姿しか見えません!』

『Teamが組めなかったのか?』

『んなワケないだろ……よく見ろ』

 

「蛙吹さんに峰田君を一人で背負うなんてスゴいフィジカルだね、障子君」

「チクショー!なんでばれたんだ!?」

「さすが緑谷ちゃんね。それと梅雨ちゃんと呼んで」

 

 障子君の《複製腕》で覆われた背中から峰田君とあs「梅雨ちゃんと呼んで」つ、梅雨ちゃんが顔を出す。

 

「やるな、緑谷。獣拳とは気配の察知までできるのか?」

「そこは修行の成果かな」

 

 おそらく峰田君が足止め、梅雨ちゃんがハチマキを奪取。そして障子君が背中の二人を守る、三人の個性を生かしたいい作戦だ。これを破るのは至難の技だろう。

 

「ッ!回避!!」

「あぁ! 私のベイビー!!改良の余地ありです!!」

 

 発目さんが悲鳴を上げる。飛来するレーザーに反応できたものの、背負っていたジェットパックに直撃して使い物にならなくなってしまったのだ。それに機動力の低下は痛い!

 

「Oh La La、避けられちゃった☆」

「いや、あのサポートアイテムを破壊できただけ儲けだ!」

「将を討つなら、まずは馬ってことね」

「足を奪うことは戦う上での基本だ」

 

 さっきのはやっぱり青山君か!尾白君は勿論だけど、心操君とB組の庄田君の個性が判らない分さらに危険度が増している。さらに続々とチームが寄ってきている。

 

「デク君が言った通り、スゴイ狙われてるね!」

「全員が1000万に固執せず、漁夫の利を狙う者が多いのが救いだな……」

 

 常闇君の言う通り、その穴をついて逃走ルートを選定する。しかし、そのいくつかを突然隆起した()によって塞がれてしまった。

 

「轟君……!」

「緑谷、さっきの礼だ……取らせてもらうぞ、1000万!」

 

 広範囲攻撃を得意とする轟君と上鳴君にクラス最速の飯田君。そして文武両道にして、メインもサポートを問わずに熟せて全ての距離で対応可能と言う、僕が思うにA組内でも最強に位置する八百万さんというトンデモチームが僕たちの前に立ちはだかった。

 

『轟選手が他のチームの隙間を埋めるように氷壁を展開!緑谷チーム、ほぼ完全に囲まれております!!このまま、1000万を奪われてしまうのか!?』

『それとも!このピンチを乗り越えるか!? 手に汗握る展開だぜYeah!!』

 

「緑谷、塞がれた逃走ルートは全部ではないハズだ。時間もまだ残っている以上、危険な行動を取ることはない」

「そうだね、ここは……」

「あっれー、まさか優秀なA組で、入試首席で、先の競技でも1位の君が逃げたりなんかしないよねぇ? ヴィランをも退けた実力の持ち主なら僕たちから逃げる必要なんてないんじゃないのかなぁ!?」

 

 なんかすごい挑発されているけど、誰だこの人?

 

「挑発に乗るな、緑谷!」

「う、うん、大丈夫!」

 

 嘲笑なんて馴れたモノ、先を見据えて考えれば下手に取り合う必要はない。

 

「まぁ、仕方ないか、ジュウケンだかなんだか知らないけど大したもんじゃなさそうだしね!」

 

 ……そう思ってた時期が僕にもありました。

 

「で、デク、君?」

「緑谷、挑発に乗るな!相手は「障害物競争でデカいのブッ飛ばしてたけど、どうせなんかのトリックなんだろーね!イカサマ拳法でどうにかなるはずないもんねぇ!!」

 

 イカサマ? なにが? ……まさかとは思うけど、獣拳をイカサマ呼ばわりした?

 

「どうやって入試首席とったの? インチキ拳法でさぁ!?」

 

 ……怒り、爆発。

 

「……わかったよ、残り時間とかもう気にしない。全力で行ってやるよ!」

 

 僕自身をバカにするならすればいい……けど、獣拳をバカにすることは許さない!

 

「デク君!お、落ち着いて!!常闇君もデク君を止めて!」

「……いや、前言を撤回する。獣拳とは緑谷が血の滲むような努力の末に会得した、言わば緑谷の誇り!それを辱しめられたのだ、それを成した者を許すことなど出来るハズがない!!怒れ、緑谷!修羅の道を往くのであれば、この常闇踏影!地獄の底まで相乗りして見せよう!!」

「……そうやね、デク君をバカにするんはこの麗日お茶子が許さんよ!!」

「なんかよくわかりませんが、私のベイビー達を宣伝できるなら全力でやりますよ!」

「……ありがとう!」

 

 チーム戦だと言うのに個人的な感情を優先させる僕を肯定してくれる常闇君と麗日さん、発目さんには頭が下がる。3人のチームメイトに感謝しながら頭に巻いたハチマキに手を掛けた。

 

『なんだぁ? 緑谷、1000万のハチマキを自分で外しちまったぞ?』

『周囲を完全に包囲されてヤケになった、ってワケじゃなさそうだが……』

 

 その通り、僕はヤケになんてなってない。強力な個性を持つ相手に囲まれたならこっちも()()を使うだけだ!

 

「な、なんだよ? ハチマキをヌンチャクみたいに振り回したりして……虚仮嚇しにもならないよ!」

 

 先達の一人はヌンチャクの扱いに優れ、時には鯉のぼりをヌンチャクの代わりにして敵を撃破したことがあるらしい。その先達の技をお借りしてこの場を切り抜け、B組のイヤミ君(仮)に獣拳がイカサマでもインチキでもないことを教えてやる!

 

「常闇君!」

「心得た!」

 

 気合い一閃。ハチマキヌンチャクをイヤミ君(仮)に向けて伸ばした!

 

『緑谷選手!ハチマキを巧みに操り、物間選手のハチマキを奪取!!物間選手、藪をつついて蛇、いえ……剣歯虎(スミロドン)を出してしまったかぁ!?』

 

「や、やるじゃないか……」

「……獣拳は伊達じゃない」

「ハッ!いい気にならないで欲しいね!!僕たちにはまだポイントが残って……」

「何やってんだ物間!全部盗られちまったぞ!!」

「な!?」

 

 イヤミ君(仮)こと物間君の表情が驚愕に染まる。僕が頭のハチマキを取ったのと同時に《ダークシャドウ》で首から掛けた他チームのハチマキも一緒に頂戴したことに気付いていなかったようだ。

 

「くっ!……ぶ、武器なんて卑怯じゃないのかなぁ!?」

「これもテクニカルだからアリよ!」

「そんな!?」

 

 悔しそうに歯噛みしている間に物間君チームの横を駆け抜け、次のチームのハチマキに狙いを定めて奪取!

 

『緑谷チーム!さっきまでのガン逃げから打って変わって、次々とポイントを奪っていくぅー!!Brotherが言った通り、藪から飛び出たサーベルタイガーだぜ!!』

 

「緑谷君!」

「飯田君!」

 

『残り3分!轟チームが再度緑谷チームの前に立ちはだかります!!』

 

「言ったハズだ、挑ませて貰うと!取れよ!轟君!!」

 

 クラスでも最速の飯田君だけど、僕もギリギリで対応できる。しかしそれは飯田君本人が一番理解しているハズ、ただ愚直に攻めてくるなんてことはあり得ない!つまり僕たちが知らない切り札が来る!!

 

 

「トルクオーバー!レシプロ・バーストォ!!!

 

 瞬間、轟君チームの姿が消え、一迅の疾風(かぜ)が駆け抜けた。

 

「……取ったぞ!」

 

 轟君の言う通り、僕の手の中にあったハチマキが消えている。

 

『HEY!HEY!HEY!!飯田よ、そんなスゲェカード持ってやがったのか!豪快なダッシュで轟チーム1000万奪取ゥ……って、ありゃ?』

『どういうことでしょう、轟チームに加算されたのは3()2()0()ポイントです!』

 

「なんだと!?」

 

 バエさん達の実況によって知らされたことが事実かを確かめる轟君、その手には僕から奪った()()()()()()()ハチマキが握られていた。

 

『当然だな、いつまでも虎の子の1000万を餌にしているのは非合理的だ。おそらく物間チームから奪った他のハチマキと一緒に首にかけ直したんだろうな』

 

 その通りだ。轟君やかっちゃん以外にも厄介な人しかいない状況で、いつまでも取られやすい所に置いておくほど、僕は自惚れてはいない。物間君の前で1000万ポイントハチマキを外して使って見せたことで、その後も『僕がそのハチマキを使っている』と全員が勝手に思い込んでくれていたのだ。

 

「クソッ!もう一度だ!!」

「はい!」

「もちろんだ!」

「ネバギバだぜ!」

 

 『320P』と記されたハチマキを握り締めた轟君が声を荒げている。脚を引きずりながらも足掻こうとする飯田君を支えながら八百万さんと上鳴君が僕たちに迫る。

 

『怒りに燃える轟チーム!今度こそ逆転となるのかーーー!?』

『……いや、もう時間切れだ』

Time Up!

 

 マイク先生が嵐のような第二種目の終了を宣言した。




~バエの獣拳アカデミー~

バエ「ゲキヌンチャク!虎を模した特殊合金製のヌンチャク型の武具です!!
出久「激気をチャージするとオレンジ色に輝き、振り回すことで激気が溜まり、破壊力を上げることが可能です!」
バエ「激気を込めることでヌンチャクが直接当たらない相手にも攻撃できます!ゲキブルーに扱い方を教えてもらったゲキレッドが使用していました!!」
出久「今回、僕はハチマキをヌンチャク代わりに使いましたが、いつか使ってみたいですね!」

バエ「さて次回!午前の部が終了して、皆さんお楽しみのお昼の時間ですがなにやら轟さんが出久さんを呼び出すみたいですね?」
出久「峰田君と上鳴君も何か話し込んでるみたいですね、何を話してるんだろう?」

バエ「さらに向こうへ!」
バエ&出久「「Puls Ultra!!」」


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修行其の十五:ヒエヒエでメラメラな少年

`19.7.2:誤字の修正を行いました。7w76kxZ/Nc様、ありがとうございます。


『早速、結果発表と参りましょう!』

『1位!見事1000万を死守して、ハチマキヌンチャクでポイントをごっそり奪った緑谷チーム!!』

 

「皆のおかげだよ!ありがとう!!」

「何を言う、この勝利は緑谷の策と指揮の賜物だ」

「そうそう!でも轟君にハチマキを取られた時は焦ったよー」

「そんなことよりあの約束の履行をお願いしますよ!1位の人!!」

「あれ? もしかして名前すら憶えて貰ってない?」

 

 

『2位!飯田の切り札と轟の指揮が光ってたぜ!轟チーム!!』

 

「すまねぇ、緑谷に一杯喰わされた……」

「謝らないでください、轟さん!私たちの誰も、それこそ先生方にすら気づかせなかった緑谷さんが上手だっただけですわ……」

「次だ、次の競技で勝とう!」

「そうだぜ!ここから騎士転生だ!!」

「上鳴君!それを言うなら起死回生だ!!」

 

 

『3位!一度は0(ゼロ)ポイントになりながらも見事に返り咲いたモンだな!爆豪チーム!!』

 

「ックソがァーーーーー!!!!!!」

「悔しいのは事実だけどよ、次に進めるだけ良しとしようぜ?」

「ドンマイ!ドンマイ!次だよ、次!!」

「なんだ? ドンマイって言葉で変な胸騒ぎが……」

 

 

『4位!最後まで上位陣に食らいつくたぁ、奮闘したな!心操チーム!!』

 

「……あー……その……」

「待った。今、礼をいうのは無しで頼む」

「その通りだよ、ムッシュ心操☆」

「この後はまた個人戦。名残惜しいが友誼を深めるのは後にすることを推奨する」

「……りょーかい、やりづらいね。どうも……」

 

 

『以上4チームが最終種目に進出決定だぜYeah!!』

『この騎馬戦を持ちまして午前の部は終了。午後の部はお昼の休憩を挟んで一時間後の開始となります。選手の皆さんは集合時間のお間違いのないようにご注意ください!』

 

 バエさんのアナウンスを聞いて肩の力を抜く、同時にお腹の虫が鳴いた。

 

「緑谷、ワリィが少し時間をくれ。話がある」

「うん、別に構わないよ」

 

 験担ぎのメンチカツ丼は少しお預けのようだ。

 

 

 

 轟君に連れられた僕は人通りのない通路に辿り着いた。日陰になっているからだろうか、少し空気がひんやりとしていた。

 

「詳しく聞くつもりはねぇが、オマエ……オールマイトの隠し子かなんかか?」

「……はい?」

 

 轟君の予想外な話題を切り出しに面喰ってしまうのと同時に、目の前にいる轟君に妙な違和感を感じた。お互いに目を見ているハズなのにどこか別のところを見られているような気がする。

 

「違ったか?」

「う、うん。僕の両親は二人ともヒーローですらない一般人だよ?」

「そうか……でもオールマイトに目ぇかけられてるよな?」

「……」

 

 目を掛けられている。そう思われることについては、二つほど思い当たる節があった。

 

 ーーーーーーーーーー。

 

「緑谷少年がいたーーー!」

「お、オールマイト!?」

 

 心操君達に宣戦布告を返した翌日、「ゴハン、一緒に食べよ」とやたら女子力が高いお誘いを受けた僕はオールマイトとなぜか仮眠室で一緒にオールマイトお手製弁当(可能なら家宝にしたかった)をつついていた。

 

「君へ送った合格通知の中で私が言ったことを覚えているかい?」

「はい、なぜオールマイトが獣拳を知っているのか。知りたければ雄英(ここ)に来い……そう言ってました」

「その通りだよ、緑谷少年」

 

 獣拳はかつては広く知られた拳法だった。しかし個性の発現に伴い、知る人も珍しい流派となってしまった……その獣拳をなぜオールマイトが知っているのか。と、ずっと疑問に思っていた。

 

「あれは私がまだヒーローとしては新人(ルーキー)だった頃、アメリカに一時期留学していてね。その時、ニューヨークで一人の小説家と出会ったんだ」

「小説家、ですか?」

 

 その小説家は物静かで理知的な雰囲気を持ち、個性とは異なる不思議な力を感じたらしい。そしてオールマイトはその人から獣拳の存在を教えて貰ったそうだ。

 

「その小説家の名前はゴリー・イェン。拳聖と呼ばれているそうだ」

「け、拳聖、ゴリー・イェン……!」

 

 拳聖。獣拳の始祖に最初に師事し、リーダーである師匠(マスター)を含めた七人の獣拳使い。他の獣拳使い達の頂点に立つ方々であり、僕にとっては雲の上の存在だ。まさかそんなスゴイ人の名前が出てくるなんて夢にも思わなかった!

 

「あぁ、そして日本に戻ってからゴリー君の紹介でとある人に出会ったんだ」

「ある人? ……もしかして!」

「そう、君のお師匠であるマスター・シャーフーさ!」

「まさか師匠(マスター)とオールマイトがお知り合いだったなんて……本当に驚きました!」

「ははっ、まぁね」

 

 その後、少しの時間ではあるがオールマイトが二人の拳聖との思い出を話してくれた。

 

「おそらくだがマスター・シャーフーもゴリー君も君の活躍を楽しみにしていることだろう。頑張ってくれたまえ!」

「は、はい!ありがとうございます!!」

 

 ----------。

 

 どこかにいる師匠(マスター)とまだ見ぬ拳聖が見てくれている、そんな激励をあのオールマイトから送って貰えたことは轟君でなくとも『目を掛けられている』と思われても仕方ないことだった。

 

「オマエの師匠とオールマイトが知り合い、か……」

「うん。だから隠し子どころか血縁関係もないし、師弟関係ですらない……僕の師匠はマスター・シャーフーだけだよ」

 

 『目をかけられてる』と思われるもう一つの要因、それはUSJの時の事だろう。

 

「USJでの件がそうだったとしたら、アレは僕があの脳無ってヴィランとの戦いで消耗したのを心配してくれただけで他意はないと思うよ?」

「……」

「もしあそこで倒れそうになったのが轟君や他の誰であっても、きっとオールマイトは駆け寄って支えてくれたよ」

「そうか……あのパワーやスピードはオールマイトを感じさせるものがあったんだが、俺の勘違いか……すまねぇ」

「謝られるほどのことじゃないよ」

 

 それより気になるのはどうして僕とオールマイトの関係を聞こうと思ったのか、ということだ。轟君はそれを察したのか、どこか言い辛そうに口を開いた。

 

「……俺の親父は、万年№2のヒーローのエンデヴァーだ」

「!」

 

 フレイムヒーロー・エンデヴァーは僕たちが生まれる前から活躍していて、事件解決数史上最多記録を保持するヒーローだ。その威厳のある言動から支持率は高くないけれど、確かな実力者でもある。そんな人が父親であるのが少し羨ましいと思うけど、轟君の様子からそれを口に出すのは憚られた。

 

「親父は異常なほどに上昇志向が強くてな……ヒーローとして破竹の勢いで名を馳せたこともあって、『生ける伝説』オールマイトの存在は疎ましく思ってんだ」

 

 そのヒーロー名の通り、努力を続けている期間は僕では足元にも及ばないだろう。それほどの長い間、届かない背中を追い続けるというのはどんな感覚なのか。……僕には少しだけわかるような気がする。

 

「自分ではオールマイトを超えられない、それを理解した親父は次の策に出た」

「次の策?」

「個性婚、って知ってるか?」

「!」

「それと俺には兄が二人、姉が一人いる……ここまで言えばあとは解るよな」

「……ッ!」

 

 個性婚。優れた個性を子供に引き継がせることを目的とした、倫理観の欠落した前時代的な行為……それをエンデヴァーは行った。尊敬していたヒーローの常軌を逸した行動に、僕は何も言えなかった。

 

「あの野郎はまだ幼い俺に虐待に近い訓練を課して、それを諌めようとするお母さんにまで手を上げた……そのせいでお母さんはいつも泣いてた……心を壊して、俺に「オマエの左が醜い」と煮え湯を浴びせてからずっと病院に押し込まれたまんまだ……」

 

 思い起こせば、轟君は前半の競技でも、戦闘訓練でも左の炎を全く使っていなかった。その理由がようやく分かった。

 

「俺はアイツの左の炎(チカラ)を使わずに、お母さんの右の氷(チカラ)だけで勝つ!それでアイツ(エンデヴァー)を否定してやる……俺はアイツの道具なんかにはならねぇ!」

 

 冷え冷とした氷のような冷たい怒りの炎がメラメラと瞳の奥で燃え上っている。

 

 何も持っていない僕には優れた個性や才能を持つ轟君の悩みや苦しみは想像もつかない。それでも轟君の『左の炎は使わない』つまり『全力は出さない』という発言は聞き捨てならなかった。

 

「轟君は……僕が№1ヒーロー(オールマイト)の『ナニカ』を持ってるなら絶対に勝たなきゃならなかった、ってことだよね?」

「あぁ、だけど勝つってことは変わらねぇ」

 

 僕がオールマイトの子供や弟子でないと解ってくれたらしい。しかし轟君に感じる妙な違和感が消えない。

 

「客観的に見て、実力は俺の方が上だ……朝の時点まではそう考えてた。けど既に2回もオマエの後塵を拝してる以上、そうは言えねぇ」

 

 僕を見ているようで見ていない。ならば轟君は何を見ているのだろう?

 

「親父を否定するためにも、もう負けるつもりはねぇ」

「!」

 

 ……違和感の正体がようやく判った。

 

 轟焦凍君。僅か4つしかない雄英高校の推薦枠を勝ち取り、最初の実戦訓練でも桁外れの力を示した。先のUSJでもたった一人で十数名のヴィランを氷結によって瞬時に無力化したと葉隠さんから聞いている。

 確かな実力を持つが故に周囲に敵はいないと思っていたのだろう。以前のかっちゃんと同じで轟君は僕を、いや……()()()()()()()

 

 轟君が見ているのは……お父さん(エンデヴァー)だ。

 

「僕だってそうだよ……最初に宣誓した通り、全力で一位を獲りに行く!」

「……そうか」

「……あともう一つ」

「?」

「目の前の僕たちを見ずに、本気を出さない君にだけは譲るつもりはない」

「……そうかよ」

 

 僕にそれだけ言うと轟君は背を向け、その場をあとにした。

 

 ----------。

 

 実は轟君……いや、他の誰にも言えないことがある。

 

 オールマイトと昼ごはんを一緒にした昼休み、オールマイトと二人の拳聖の思い出話が一区切りした時、僕は5()()()にいなくなってしまった師匠(マスター)の行方について尋ねた。するとオールマイトの雰囲気が先ほどまでの朗らかなモノから一変し、非常に重苦しくなってしまった。

 

「……6年前、私はあるヴィランと戦った」

「6年前、と言うと毒々チェーンソーですか?」

「詳しいね、けどそんなチンピラじゃない……もっと凶悪で強大な力を持つ『裏社会の帝王』なんて呼ばれていたヤツさ」

 

 裏社会の帝王……オールマイトが表情をここまで険しくするということは、相当危険な存在だったと理解できる。しかしなぜそんな存在がここで出てくるのだろうか?

 

「そんなヤツに、手下の一人があるモノを献上した。それは『世界を滅ぼすチカラを封じられている』なんてファンタジーな代物だった」

 

 世界を滅ぼすチカラを封じられているモノ。それは普通ならオールマイトの言う通り、ファンタジーやフィクションだと笑ってしまうだろう。けど僕にはそれが実在すると分かった。

 なぜなら昔、師匠(マスター)からそれと同じような存在が一人の獣拳使いによって守られていると聞いたことがあったからだ。

 

「君の想像した通りだよ、緑谷少年」

「慟哭丸。不死の邪龍を封じ込めた物だと、師匠(マスター)から聞いてます……」

「あぁ、ヤツの部下は慟哭丸を守っていた獣拳使いからソレを奪い、己の主に献上した。しかし封印の解き方も使い方もわからなかったのだろうね。使わずに放置されていたのは不幸中の幸いだった……それがキッカケとなって、慟哭丸を奪還すべくマスター・シャーフーを始めとした獣拳使いが多くのヒーローと共に私に加勢してくれてね。その巨悪を討伐し、慟哭丸も無事に奪還できたんだ」

 

 なんてことだ……師匠(マスター)とオールマイトがお知り合いと言うだけでも驚いたのに、他の拳聖や獣拳使いの方々と共闘したことがあったなんて驚きを通り越してすっかり感動してしまった。

 

「だが、その戦いを最後にマスター・シャーフーとは会えなくなってしまったんだ……君の期待に沿えなくてすまないね……」

「そんな!オールマイトが謝ることなんてありませんよ!!むしろ師匠(マスター)のことが知れたことの方が嬉しいです!!」

「……そう言って貰えると助かるよ」

 

 大きな身体を少し小さくしていたオールマイトはそう言って笑ってくれた。

 ただ、師匠(マスター)達がオールマイトと共に巨悪と対峙した、ということは『戦った』と言うこと。それが僕の中に不安をもたらした。

 

「ところで緑谷少年、私も……一つ君に聞きたいことがあるんだが良いかい?」

 

 オールマイトが僕に聞きたいこと、一体なんだろう?

 

「緑谷少年、もし『他人に個性を譲渡できる個性』というモノがあったとして……そして私がそれを持っていて、君に譲りたい。と言ったら……君はどうする?」

 

 考えたこともない話だった。

 

 無個性でも誰かを助けることが出来る。それを示してくれた人がいると知った今でも個性が欲しくないと言えばウソになる。

 オールマイトの言う『他人に譲渡できる個性』なんてモノが実在して、しかも憧れのオールマイトから譲ってもらえるなんて夢のような話。実際にインターネットの『個性を発現させるサプリメント』なんて怪しい広告をクリックしてしまったことがある僕は是非もなく飛びついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けどそれは師匠(マスター)と獣拳に出会う前だったら、の話だ。

 

「たぶんですが……お断りすると思います」

 

 今の僕には獣拳がある。僕は師匠(マスター)と出会ったあの日から『獣拳の力で誰かを助けるヒーローになる』。そう決めたのだ。

 

 それを伝えるとオールマイトはどこかその答えを予想していたように「そうか」と笑った。ただ、その笑顔がいつもと違って少し寂しげに見えたのは気のせいだろうか……。

 

「すまない緑谷少年、変なことを聞いたね!この話は忘れてくれたまえ!あと、笑われてしまうのも恥ずかしいから他言無用で頼むよ!!」

「わ、わかりました!」

 

 もしもの話なのになぜ忘れたり、他言無用なのか。と思わないでもないけど、他ならぬオールマイトが言うことだ。他人に話すことでもないだろう。

 

 しかし、以前にオールマイトの気配が弱くなったように感じたことと同様、この()()()()()の話は僕の胸の中に残ってしまっていた。

 

 ーーーーーーーーー。

 

 その後、なぜか屋外で泣きながら伸びたラーメンを啜っている尾白君に合流して昼ご飯を済ませた僕が会場に戻ると、とんでもない光景に目玉が飛び出そうになった。その表情はかなり間抜けなことになっていたと思う。

 

「……いやー、葉隠さんって身体柔らかいんだなー」

 

 隣の尾白君も遠い目をしながら関心しているのも無理はない。なぜなら麗日さんや葉隠さんA組の女子達がチアガールの格好をして応援合戦に参加していたのだから。

 




~バエの獣拳アカデミー~

バエ「拳聖!獣拳の始祖に師事した七人の獣拳使いです!!」
出久「僕の師匠であるマスター・シャーフーをリーダーとした、僕たち獣拳使いの頂点に立つ方々です!!」
バエ「七人の中でも、心・技・体をそれぞれ最も極めた三人は『マスター・トライアングル』と呼ばれる称号を持ってますよ」
出久「どんな人達なんですいか?」
バエ「気難しい性格の人も多いですが、全員人格者で、弟子への面倒見は非常に良い方々ですよ!表の世界でも立派な社会的地位を得ている者が殆どです」
出久「へぇ、いつかお会いしてみたいです!」
バエ「ニューヨークに(いるゴリーさんに会いに)行きたいかー!!」
出久「?」
バエ「あれ、このネタ知りません?」
出久「は、はい」
バエ「Oh……」

出久「さ、さて次回!いよいよ雄英体育祭も後半戦に突入です!!」
バエ「次は一体どんな競技が出久さん達を待ち構えているのでしょうか!?」
出久「さらに向こうへ!」
バエ&出久「「Puls Ultra!!」」


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修行其の十六:フレフレ!昼休み!!

長くなってしまいましたので、昼休み編と第一試合とで分割しました。プロットを作ってもそれが曖昧だったりするとよくないですね。反省せねば……






 昼の休憩時間、場を盛り上げるために何と本場アメリカから招いたチアリーダー部によるパフォーマンスが行われていた。

 

 そして、それに倣うかのように麗日さん達がチアガールの格好をしていた理由……それは峰田君と上鳴君の策略だった。

 二人は八百万さんに『相澤先生からの伝言』と称して、女子全員で応援合戦をすると吹き込むことで彼女達がチアガールの格好になるように仕向けたのだそうだ。

 

「相澤先生からの伝言、って言われたら信じちゃうよね……」

「八百万の素直さと人を信じる優しさは長所だけど、少なくとも峰田の言うことは話半分くらいで聞かせないとダメだな……」

 

 峰田君には悪いけど尾白君の意見に賛同してしまう僕がいた。

 

「でも午後の競技まで時間あったし、張り詰めててもしんどいからやったろ!となったのさ!!」

「開き直っちゃったワケね……」

 

 尾白君の隣でチア姿の葉隠さんがはしゃいでいるその一方で、騙されて凹んでしまった八百万さんは耳郎さん達に未だ慰められている。

 

「あ、そうだ!」

 

 ポンポンで遊んでいた葉隠さんが何かを思いついたようだ。なにをする気なんだろう?

 

「フレー!フレー!お・じ・ろ!!ガンバレガンバレ、ま・し・ら・おー!!イエーイ!!」

「~~~~~っ!?!?」

「どうかな、どうかな? ヤル気出たかな?」

「あ……うん……あ、ありがと……」

「やったー♪」

 

 葉隠さんの応援!尾白君のボルテージがぐーんと上がった!!

 

「返事は素っ気ないような感じだけど、尻尾が凄まじい勢いで荒ぶってる……!」

「仲のいい女の子に応援されて気合いが入らない男の子はいないものね」

「そうだね……って、あ「梅雨ちゃんと呼んで」つ、梅雨ちゃん!?」

「緑谷ちゃんは私の応援で頑張ってくれるのかしら?」

「!?」

「わ、私も応援するよ!」

「麗日さん!?」

「私もスクラッチ社の方を紹介して頂くワケですし、応援しましょうか!」

「発目さんまで!? しかもバエさんと会わせるのが決定事項になってる!?」

 

 結果、僕はあs……梅雨ちゃんとこの後の競技に参加するハズの麗日さん&発目さんに応援されるという中学時代からは考えられないような経験を得たのだった。

 

「……許羨(ゆるせん)ッ!!」

「緑谷ァ……尾白ォ……テメーらにだけは絶対(ぜってー)負けねェ!!」

 

 峰田君と上鳴君が血の涙を流し、仇敵を見るかのような目で睨んでいるのは見なかったことにしよう……。

 

「ケロ?」

「梅雨ちゃんどうかしたん?」

「えぇ、今だれかに呼ばれたような気がしたのだけど……たぶん気のせいね」

 

 ----------。

 

『最終種目は総勢16名によるトーナメント!1vs1のガチバトルだ!!』

 

「トーナメントか……!毎年テレビで見てた舞台に立つんだな……!」

「去年トーナメントだっけ?」

「形式は違うけど、例年1vs1(サシ)で競ってるよ」

 

 去年度はスポーツチャンバラだったこの種目、切島の感動は参加者のほとんどに共通する言葉でもある。

 

『組み合わせはくじ引きによって決められるぜ!!』

 

 Aブロック

 第一試合 緑谷VS心操

 

「よ、よろしく」

「……あぁ」

 

『普通科から唯一勝ち残り未だ底を見せない心操選手が相手と言うことで、第一試合であることも含めて緑谷は緊張しすぎだろ!成績の割になんだそのツラ!? もっと胸はってこうぜ!!』

 

 第二試合 上鳴VS尾白

 

絶対(ぜってー)、勝ァーつ!」

「な、なんでそんな殺気立ってんだ?」

「自分の胸に聞け!」

 

『電気系の個性にも関わらず上鳴選手、凄まじい気炎!ですが燃えているのは闘志だけでは無さそうです!!』

 

 第三試合 轟VS瀬呂

 

「やってやるぜ!」

「……」

 

『気合十分な瀬呂選手、騎馬戦で見せたテクニックを再び発揮できるのか!? 対して、轟は……相も変わらずCoolだな、オイ!』

 

 第四試合 飯田VS発目

 

「飯田ってあなたですか!?」

「ム、いかにも俺は飯田だ!」

「ひょー!!良かった、実はですね……」

 

『アイツらなにしゃべってんだ?』

『ここからはさすがに聞こえませんねぇ……』

 

 Bブロック

 第五試合 芦戸VS青山

 

勝利(ヴィクトワール )は必ず頂くよ!」

「私がカンペキに返り討ちにしたげるよ!」

 

『互いに遠距離と中・近距離を得意とした、授業でも一度コンビを組んでいる同士!これは中々の好カードかもな!!』

 

 第六試合 常闇VS八百万

 

「まさか、いきなり最強クラスのオマエと当たる事になるとはな……」

(ほ、褒められた!?)

 

『オイオイ、どうした八百万!? いきなし泣き出すなんて常闇になんか言われたかぁ!?』

 

 第七試合 切島VS庄田

 

「よろしくな!」

「うむ、こちらこそ」

 

『切島選手と庄田選手、手元の資料によりますと互いに戦闘向きの個性のようですね!熱いバトルが期待できそうです!!』

 

 第八試合 麗日VS爆豪

 

「麗日?(どいつだ?)」

(ヒィィ~~!!)

 

『ぶっちゃけかなり不穏な試合だな、オイ!つーか、さっきの騎馬戦でもそうだけどクラスメイトのツラと名前を覚えてなさすぎだろ!?』

 

 対戦の組み合わせが決まるといよいよレクリエーションが始まり、大玉転がしや借り物競争。そしてA組女子によるチアパフォーマンスが行われた。

 ちなみに峰田君は借り物競争で『背油』というお題を引いてしまい、途方に暮れていた。

 

「背油なんて、5人がハリケーンみてーなパス回しで敵にぶつける羽根の付いたラグビーボール爆弾とか、想像力(イマジネーション)を込めて放つ列車型砲弾でもなきゃ出せるモンじゃねーだろーがよぉ~~~!!!」

 

 ちなみに僕のお題は『車掌の服を着た猿』だった。なぜかピンポイントで持ってる……もとい、連れている人がいてなんとか借りれた。……けど、なんでこんなところに車掌さんらしき格好の人がいたんだろう?

 




~バエの獣拳(?)アカデミー~

プレゼント・マイク「オールマイト!個性は不明!増強やブーストなんて言われてるが詳細は謎に包まれてるぜ!!」
バエ「別の世界(原作)では出久さんを導く存在、いわゆる師匠(マスター)だったようですが、残念ながらこの世界ではヘドロ事件のときにしか会えなかったみたいですね……」
出久「でも僕が尊敬してやまない、目標とするヒーローであることには変わりません!」
マイク「ヒーロー・オブ・ヒーローは伊達じゃないってことだな!」
出久「はい!」

バエ「さて次回!とうとう始まります最終種目の第一戦!!」
マイク「相手はまだ個性(ジョーカー)を隠してるみてーだな!」
出久「それでも僕は僕の全力を尽くします!」
バエ「さらに向こうへ!」
バエ&マイク&出久「「「Puls Uitra!!!」」」


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修行其の十七:グルグル!vs心操!!

二話連続更新の第二弾となります。


「できたよ」

 

『サンキュー、セメントス!それじゃあ、そろそろおっぱじめるぜ!ガチバトル!!最後まで己の力を信じて戦い抜けよ!!』

 

 雄英教師(プロヒーロー)の一人であるセメントスの個性である《セメント》によって造られた武舞台(ステージ)が完成し、決戦の開幕を待つ。

 

『ルールは簡単! 相手を場外に落とすか行動不能にする!あとは「まいった」とか言わせても勝ちのガチンコ勝負です!!』

『ケガ上等!こちとら我らがリカバリーガールが待機してっから!叩きのめしてもOKだ! 』

『ですがもちろん命に関わるようなのはアウトです!ヒーローは(ヴィラン)を捕まえる為に拳を振るうのです!!』

『Hey Guys! Are You Ok!?』

 

「それでは第一回戦を始めるわよ!」

 

『ここまで成績トップってホントに無個性なのか!? 地味なツラしたワイルドビースト!ヒーロー科!緑谷出久!!』

『対するは、素晴らしいガッツでここまで食らいついて来ました!未だその全貌を明かさぬダークホース!普通科!心操人使!!』

 

 抱拳礼の後に構える出久に対して、特に何をするでもなく相対していた心操が口を開いた。

 

「なぁ、緑谷出久。この戦いが何を意味するのか……分かるか?」

「……」

 

『そんじゃさっそく始めよーか!』

 

「……いや、アンタは分かる筈だ。これは『心の強さ』ってのを問われる戦いだ……。強く思う『将来(ビジョン)』があるなら、なりふり構ってちゃいられない……そうだろう?」

 

『Redyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy!!!!!!!!』

 

「……そうだね」

 

『STRAT!!』

 

「前半のアンタの動き、見てたよ……スゴイね、人間鍛えればあんなこともできるんだ、って感心しちまったよ」

「ど、どうも……(な、なんだ!? この感覚……か、体が動かない!)」

「けど、体の強さだけじゃ勝てないよ……」

 

『緑谷選手一体どうしたのでしょう? 突然構えを解いて棒立ちになってしまいましたねぇ』

『心操の個性、《洗脳》の効果だ』

 

「その通り」

(操作系の個性!しかも言葉がスイッチとなって発動するタイプ!意識はハッキリしてるのに身体を動かせない!!) 

「……俺の勝ちだ」

 

『心操、余裕の勝利宣言!コイツァ、いきなり大番狂わせだーーー!!』

『ホント、あの入試は合理的じゃねぇ……データによると心操はヒーロー科と普通科、両方の試験を受けてる。ヒーロー科は落ちる事を想定していたんだろうな……確かに強力な個性だが、実技試験は仮想ヴィランとの戦闘。戦闘能力に作用するものじゃない心操みたいなタイプの個性はあの試験内容じゃ不利なんだよ』

 

(一度発動してから効果の持続時間はどれくらいだ!? 成否の条件は心操君の言葉に反応することでほぼ間違いない! 相澤先生みたいに個性が発動する際になにか徴候(サイン)があるようにはみえなかったけど、もしかして髪が逆立つ? そうなるとあの髪型はそれを隠すためのカモフラージュか……それとも他になにか……って、そうじゃない!今考えるべきはこの状況を打破する方法だろ!)

 

「さすがの獣拳とやらも搦め手には弱かったみたいだな」

 

(クソっ!こんな……こんな所で負けるわけには……っ!?)

 

 肉体の自由を奪われ、それに対して必死に抗っていた出久は己の目を疑った。それもそのはず、そこには『(サーベル)』の如き牙を持つ古代の獣の姿があったのだ。

 

(す、剣歯虎(スミロドン)!? なんで!? いつの間に……それにどこから現れたんだ? 何のために? そもそもすでに絶滅しているはずだ!)

 

『おぉーっと、なんだコイツァ!? 緑谷マジで動かねェぞ!!?』

 

(僕以外には見えてない?)

 

 突如現れたその獣は今の不甲斐ない状態を責めているかのように強い怒りの籠った目を出久に向け、グルグルと喉を鳴らしている。

 

 そして、獣は出久を奮い立たせるかのように咆哮を挙げた!

 

(そうだ……このくらいで挫けているなんて獣拳使いの名が廃る!自分で鍛えた体だろう!!自分の力で取り戻してみせろ、緑谷出久!!)

 

 自分の体を取り戻すことを決意した出久が体に力を入れる。それと同時に心操の声が耳に届く。

 

「そのまま場外まで歩いて行け」

(!)

 

『これでもう決着かぁ!? だとしたら早すぎんぞ……お?』

 

「……どうした? 早く行けよ」

 

『おーっと、これはどうしたことだー!? 緑谷その場で固まったまま動いてねーぞ!!心操の洗脳は失敗しちまったのかー!?』

『いや、あれは……おそらくだが、緑谷が抵抗してるんだ』

『マジか!?』

 

「抵抗してるだと? そんなワケあるか!さっさと場外に行けってんだよ!!」

 

 予想外の事態に焦りを感じて声を荒げるも、出久の体は僅かに震えるだけで動く気配はない。

 

「うぅ……」

「なっ!?」

 

 指を動かすどころか瞬きすら心操の指示でしか行動出来ないハズの出久から呻き声が僅かに上がる。そして……、

 

「ウォオァァァ―――――!!!!!」

 

 獣のような咆哮を上げ、出久は心操の《洗脳》を打ち破った!

 

「っハァ……ハァ……!(いない……)」

 

 荒い呼吸を繰り返し、周囲を見渡すも獣の姿はどこにもなかった。

 

(何だったんだ、今の……)

 

『な、な、な、なんとぉーーー!!緑谷、心操の《洗脳》から脱出ーッ!? オマエなにしやがったんだ!!?』

『衝撃で解ける、とはあったが……制限時間でも切れるのか?』

『あれはまさか!』

『知っているのか、Brother!』

 

 プレゼント・マイクに問われたバエは昔見た戦いの記憶を語りだした。

 

 かつて相手の体を乗っ取り、自在に操る技を持つ邪拳士がいた。その技は『拳聖』と呼ばれる者の体すら奪い、弟子に襲い掛かってしまった。

 なんとか窮地を脱したものの、その拳聖は他の拳聖から叱責され、その獣拳使いとしての在り方や教えには不足があり、未熟であるとされた。

 しかし、その拳聖の初めての弟子であり、その拳聖を敬愛し、慕っていた獣拳使いがその邪拳士の技を師の教えである体の頑丈さと気合いだけで打ち破り、師の教えが正しいことを証明して見せたのだ。

 

 そして心操の《個性》を鍛えた体の力で打ち破ったその光景は、バエにその戦いを想起させるには十分だった。

 

『自慢の個性を破られた心操選手、さすがに動揺しているようです!』

 

 未だかつて自力で《洗脳》から逃れる事が出来た人間は皆無。発動すれば勝利確定な能力が故に、バエの言う通り心操は動揺を隠せずにいた。

 

「そいつもオマエが使う獣拳とかってヤツの力なのかよ……」 

「そうだよ……獣拳を学んで、掴んだ力だ!」

「(効かない!?)チッ!……戦闘向き、なんてお世辞にも言えない個性で入試では散々だった……けど「仕方ない」って妥協したあの日と今日は違うんだよ!」

 

 勝負は仕切り直し。しかし心操にできることは限られている以上、一度切った切り札をもう一度ぶつけるも効果が見られない。

 

「正直、オマエが羨ましいよ……俺はこんな《個性》のお陰でスタートから遅れちまった!オマエには解らないだろうけどな!!」

「確かにね!僕には個性すらなくて、スタート地点に立とうとすることすら否定されてた!!だから持つ者(キミ)の悩みや苦しみは想像すら出来ないよ!」

 

 出久と心操、奇しくも『人は誰でも《個性》を選んで生まれることはできない』と理解している者同士。それ故に互いに譲れないモノがそこにはあった。

 

「俺だって既にヒーローとしての一歩を踏み出しているヤツらに劣っていないことを……ヒーローの素質を持っているってことを証明してやるって決めてんだ!!」

 

『心操選手、どうやら個性ではなく実力行使に切り替えたようです!』

『そりゃそうだろうな、どういうワケか《洗脳》が通用しねぇんだ。むしろそれしか選択肢がないだろう』

 

「僕だってそうだ!」

 

『心操の攻撃を難なく防いだ緑谷、返しの一撃が決まったァ!』

『しかし心操選手、緑谷選手の一撃を耐えています!!』

『普通科と言えども、ここまで来ただけあって中々のタフネスだな。だが、これ以上食らうのは厳しいか……』

 

 相澤教諭の言う通り、出久の一撃は心操の耐久力を限界近くまで削っていた。痛みに呻き、膝に力が入らずにフラフラとよろめくが必死に歯を食いしばって立ち続ける。

 

「(ただのパンチがこの威力かよ!?)やっぱスゲェな……さすがヒーロー科の主席なだけはあるなぁ……!」

 

 大した個性でないどころか無個性。確かに拳法で推薦入学したエリート達とも互角以上に渡り合う出久の努力は想像もつかない程のモノだったのだろう。

 しかし《個性》が、しかも特に強力な《個性》こそが重要視される超人社会の『ヒーロー』と言う存在の中では目を向けられることが困難であるハズの出久がヒーロー科に入れたことは心操を始めとしたヒーロー科志望だった者達にとっては羨ましく、とても悔しいことだった。

 

「……僕がヒーロー科に入れたのは師匠(マスター)に、獣拳に出会えたからだよ。そうでなかったら、雄英(ここ)に来れたかすらあやしいよ……」

「謙虚だね……アンタの師匠ってのがどんな人かは知らないけど、人に恵まれたんだな」

「うん、自慢の師匠(マスター)だよ!」

「そこは即答かよ」

 

 呆れてしまう心操。しかし後日マスター・シャーフーの写真を見て弟子入りを本気で考えるのだが、それについては今は割愛する。

 

「その師匠(マスター)に授かった獣拳、その力を示すよ!激技ッ!!」

「ッ!!」

「穿穿拳ッ!」

 

『緑谷、渾身の一撃がクリーンヒットォ!!』

『心操選手、場外まで吹っ飛んだー!!』

 

「心操君、場外! 緑谷君の勝利!!」

 

『緑谷2回戦進出!!』

 

 出久の勝利に歓声が上がる中、一人立ち上がろうとする心操に手を差し伸べる者がいた。

 

(これがコイツがヒーロー科に入れた理由、か……)

 

 誰でもない、今さっきまで戦っていた出久だった。その姿にずっと抱えていた疑問が氷解した心操はその手を取って立ち上がった。

 

「……俺も、オマエと同じでヒーローに憧れた……」

「……うん」

「……だから今回の結果次第でヒーロー科への編入も検討してもらえる。今回がダメでも俺は諦めない……駆け上がって、絶対にヒーロー科に入ってオマエ……いや、オマエらよりも立派なヒーローになってやる……」

「うん!強くて優しい、()()()()()()の個性を持った心操君ならスゴいヒーローになるよ!!」

「!……ホント、やりにくいヤツばっかだな……」

 

 心操自身も悪用を思い付く、散々『ヴィラン向き』なんて言われていた《個性》。それを受けた出久から真逆のことを言われた。

 

「覚えとけよ、必ず追い越してやる」

「うん、でも僕も追いかける側だから待ってるなんてしないよ」

 

 再度手を差し出す出久に、思わず笑ってしまう。

 

「上等だ……俺が追い越すまで負けんなよ?」

 

 心操もその手を握り返す。

 

「ありがとう!がんばるよ!!」

 

 握手を解き、出久に背を向けて静かにステージを降りた心操を同じ普通科に通うクラスメイトの称賛が迎えた。

 

「カッコ良かったぞ、心操!」

「!」

 

「正直ビビったよ!」

「俺ら、普通科の星だな!」

「入試主席に、前半戦の全競技一位の相手にいい勝負してんじゃねーよ!」

 

 クラスメイトだけでなく、観戦していたプロヒーロー達からも対ヴィランに関してかなり有用な個性だと認め、『相棒(サイドキック)に』と希望する者や心操が普通科に所属していることに難色を示す者、戦闘経験の差がなければどうなっていたかを考える者、皆が口を揃えて心操が『ヒーロー』になることを想像していた。

 それは今さっき出久が言ってくれたことがウソや世辞ではないことの証明となった。

 

「聞こえるか心操、スゲェぞ」

「……」

 

 心操は改めて、ヒーローになることを決意した。そして出久ともどもミッドナイトが涎を垂らして身をくねらせているのを全力でスルーするのだった。

 




~バエの獣拳(?)アカデミー~

マイク「心操人使!個性《洗脳》!洗脳したい相手に意識を集中させて問いかけを行い、それに相手が返答することで相手の体の自由を奪い、簡単な動作を命令することができる!!」
バエ「本人にその気がなければ洗脳スイッチは入らないそうですが、かなり強力な個性ですね!」
出久「人質を取られている場合でも動きを止めたヴィランの制圧と人質の救出を安全かつ同時に行えたり、パニックになっている人を落ち着かせたりと戦闘や救助にバッチリなヒーロー向きの個性ですね!」
バエ「悪用を思いついたり、ヴィラン向きなんて言われ続けてもヒーローになろうとする心操さんは磨けば光る原石のような方ですね」
出久「僕も追い抜かされないように頑張らないと!」

出久「さて次回!」
バエ「ガチバトルのトーナメントはまだまだ続きます!!」
マイク「熱いバトルが繰り広げられるぜ!」

出久「さらに向こうへ!」

バエ&マイク&出久「「「Puls Ultra!!!」」」


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修行其の十八:セイセイでドウドウな麗日

『続けていくぜ!第二試合!!スパーキングキリングボーイ上鳴電気!』

『vsストロングテイルファイター尾白猿夫!』

 

「覚悟しろよ、尾白ォ……この勝負、一瞬で終わらしてやんぜオラァ!」

 

『なんと上鳴選手、試合前に勝利宣言であります!よほど自信があるようですが、なにか秘策でもあるのでしょうか?』

『どうだろうな……』

 

 上鳴君の個性は「アタリ」ともよく言われる電気系の《帯電》は素早い広範囲攻撃が強い個性だ。遮蔽物などがない場所では防御も回避も困難で、かなり有利なのは確かだ。

どうしても自分の距離まで近付く必要のある尾白君にはやり方次第では完封もあり得なくはない。

 ただ際限なく放電できるワケではなく、容量をオーバーすると脳に負荷がかかってショートしてしまう。故に上鳴君の狙いは一撃必殺。しかしそれは尾白君にも読まれていることは解ってるハズ。なにか僕たちの知らない切り札があるのかも知れない。

 

「な、なぁ、上鳴? なんでそんなにキレてんだ?」

「なん、だと……? 本気で言ってんのか!?」

「あ、あぁ……全く心当たりがないんだが……」

「テメェ……ここで将来が決まると言っても過言じゃねぇ、神聖な雄英体育祭の最中に女とイチャつくという……あのナメきった行動をしらばっくれるつもりかァ!?」

「い、イチャついてたワケじゃない!と言うかそもそも神聖とか言ってるけどオマエと峰田が言えた義理じゃないだろ!?」

「うるせぇ!テメーの次は緑谷だ!!マジでいくぜェ!!!」

「いけぇぇぇーーー、上鳴ィィィーーー!!尾白と緑谷、リア獣共のデリートを許可するぜぇぇぇ!!!」

「「リア獣!?」」

 

 峰田君が目を血走らせながら上鳴君を応援している。

 確かに雄英に入ってからは友達と呼べる人が増えたし、遊びに誘って貰えることも多くなった以上、中学の頃までと比べれば「リア充」と呼ばれても遜色はない。

 しかしかっちゃん以外の人から殺害予告を受けるほどではないと思うのだが、一体なんなのだろうか?

 

『なんだァ? 上鳴と峰田、カップルに僻んでやがんのか~? ウケる!!』

 

「はぁ!?」

「えぇー!? そんなー!私と尾白君がベストカップルだなんてー♪告白だってまだないのにー♪♪」

「落ち着いて透ちゃん。カップルとは言われたけど、ベストとまでは言われてないわ」

「え、なになに!恋!? 恋なの!?」

「まだ、ってどういうことなん!?」

「もしかして透って……」

「こ、これが恋愛トークですのね!」

 

 顔を真っ赤にして慌てている尾白君に対して、葉隠さんは満更でもないようで両手で頬を抑えながら身体を横に振っている。その周囲では芦戸さんを筆頭にA組女子が今にも恋愛トークでも始めそうな雰囲気だ。

 

「いいわね、恋バナ!私もあとで混ぜなさい!!そろそろ試合を始めるわよ!!」

 

 いつの間にかB組の女子も加わっていた恋愛トーク大会に参加を表明したミッドナイト先生の宣言に、ビリビリと電流を迸らせる上鳴君と構える尾白君。

 

『よっしゃ、いくぜ!Are You Rady!? 第二試合、START!!!』

 

 臨戦態勢の両者の戦いはマイク先生によって火蓋が切られた!

 

『先に動いたのは尾白!上鳴に向かってダーッシュ!!』

『迎え撃つ上鳴選手!血涙と噛みしめた唇から血を流しながら、その場で両手を一度振り上げたぁ!!』

 

「くたばれ尾白ォ!全力全壊、無差別放電130万ボ「隙だらけだ!」ブフォッ!!?」

 

『尾白の強烈なボディーブローが決まったァ!』

『無防備に両手なんかあげてりゃそうなるな……』

 

「へぼぁ!!?」

 

『上鳴選手の身体がエビのように折れ曲がったところにアッパーが炸裂ゥ!!』

 

「これで……決まりだ!」

 

『宙に浮いた上鳴選手にさらに上段蹴り、尻尾の薙ぎ払い、そして上段後ろ回し蹴りの三連撃が決まったァーーー!!!』

 

 強烈な空中コンボを食らって蹴り飛ばされた上鳴君は激しく地面を転がり、場外スレスレの所でようやく止まった。しかし、顎に食らったアッパーと蹴りのダメージは相当のモノだったらしく、立ち上がる様子がない。

 

「う、うぇ……い……」

「上鳴君、気絶により戦闘不能!尾白君の二回戦進出!!」

「か、上鳴ィ~!」

 

 峰田君の悲痛な声を他所に残心する尾白君。

 

「やったー!尾白君が勝ったー!!」

 

 しかし葉隠さんの声には反応したらしく、またもや尻尾が激しく荒ぶっていた。

 

 ----------。

 

 続く第三試合も一瞬の決着だった。

 瀬呂君の《テープ》が轟君を捕縛し、場外に投げ飛ばそうとするまでは良かった。しかし、轟君はテープごと瀬呂君を氷結させただけでなく、氷山のような大氷塊を作り出すとその中に閉じ込めて戦闘不能にしてしまったのだ。

 相手が悪かった、とでも言うように送られるドンマイコールは瀬呂君のトラウマになってしまわないかちょっと心配だ。

 

「や、やりすぎだろ……」

「……ワリィ」

 

 第四試合、結果だけなら飯田君が勝利した。

 しかし発目さんは自身が製作した発明品(ベイビー)を飯田君にも装備させ、10分間アピールし続けると「満足した」と言わんばかりに自ら場外に出てしまった。故にある意味では試合に負けて勝負に勝った。との言い方もできる内容だった。

 

「だ、騙したなぁーーー!?」

「すみません。あなたを利用させて貰いました」

「嫌いだ!キミィィィーーー!!!」

 

 第五試合は文字通りの先手必勝だった。八百万さんは事前に武器を創造していたが、彼女が行動を起こすよりも早く常闇君が《黒影(ダークシャドウ)》を駆使して何もさせずに勝利した。

 

 第六試合、青山君は《ネビルレーザー》の腹痛(デメリット)が発生する前に勝負を決めようとしたものの、ダンスが特技なだけあって運動神経の良い芦戸さんにレーザーを避けられた上にベルトを故障させられ、慌てた隙に見事なアッパーを食らって一発失神K.Oとなってしまった。

 

 一回戦の中でもっとも会場が沸いたのは、硬くなることで最強の矛と最硬の盾にもなる《硬化》の切島君と打撃を与えた箇所に任意のタイミングでもう一度打撃を発生させ、二度目の打撃は数倍の威力となる《ツインインパクト》という個性を持つ庄田君の第七試合だろう。

 互いに真正面からただひたすらに殴り合うという、シンプルな試合内容。だがその硬度は斬りかかった刃物を逆に破砕し、身体中が鋭利な刃物のようにもなる切島君と一度の打撃が二発分以上の威力を持つ庄田君の殴り合いはまさに接戦。そして最後に打ち勝ったのは切島君だった。

 

「いい試合だった……!」

「あぁ、君の優勝を祈らせて貰う」

 

 互いに握手をしながら健闘を称えあう両者の姿はとてもカッコ良かった。

 

 そして第八試合、かっちゃんと麗日さんの対戦。

 麗日さんは対象に触れることで力を発揮する個性なだけあって、必然的に相手に接近しなければならない。しかしその対象があのかっちゃんだ。そう易々と触れさせないどころか、手加減のない爆破で迎撃していた。

 それでも何度も立ち上がり、突進している麗日さんが無策のワケがないと見抜いたかっちゃんは警戒し、勝負を決めかねていた。

 だがその様子に気付かなかった一般の観客だけでなく、こともあろうに一部のプロヒーロー達からブーイングが上がった。それはかっちゃんはもちろん、麗日さんに対する侮辱だ。

 怒りの余り叫びそうになるも、その必要はなかった。

 

『今言ったのプロか? 何年目だ? シラフで言ってんならもう観る意味ねぇから帰って求人情報誌でも読んでろ』

 

 相澤先生の静かな一喝。

 

『ここまで上がって来た相手の実力を認めてるからこそ警戒してんだろう……本気で勝とうとしてるからこそ、手加減も油断もできねぇんだろうが』

 

 会場内は水を打ったように静まり返った。

 そしてかっちゃんと麗日さんの試合は中断されることなく続行され、いよいよ最終局面を迎えると麗日さんが仕込んでいた秘策が牙を剥いた。

 麗日さんとかっちゃんの頭上にはいつの間にか、無数の石片が空を埋め尽くさんばかりに浮かんでいた。その正体は《爆破》で破壊されたステージの破片だった。麗日さんはその石片を突進と爆炎で悟らせることなく、《無重力(ゼログラビティ)》で宙に浮かせていたのだ!

 そして《無重力》を解除された無数の石片は、さながら流星群の如くかっちゃんに向かって降り注いだ!

 しかし麗日さんの捨て身の秘策は、かっちゃんの一撃で粉砕されてしまった。必殺の攻撃を破られた麗日さんはついにキャパオーバーを迎えてダウン、かっちゃんの勝利を持ってトーナメントの一回戦は終了した。

 

 ーーーーーーーーーー。

 

「うわぁ、かっちゃん……」

「ンだテメェ!何の用だ、死ねカス!!」

 

 スタジアムないの通路で何の偶然か、試合を終えたばかりのかっちゃんとバッタリ遭遇していた。

 

「(死ねカスって……)次は僕の番だから控え室で準備をしに行くんだ。あと、一回戦、突破おめでとう……じゃあ」

「……テメェの入れ知恵だろ。あのクソみてーな捨て身の策は」

 

 背後からの問い掛けに再び足を止める。

 

「厄介なことしやがって、フザケんじゃ「違うよ」あ?」

 

 確かにかっちゃんを筆頭にヒーローやクラスメイトの個性を観察し、分析、研究している僕が麗日さんになにかしらのアドバイスをしたと考えるのは普通のことだろう。しかしそれは違う。

 

「全部、麗日さんが君に勝つために考えて組んだんだ」

 

 麗日さんとかっちゃんの試合前、激励に行った僕はかっちゃんの研究結果から考えた対抗策を麗日さんに伝えようとした。しかし麗日さんにはその申し出を断られてしまった。

 

「僕の考えた対抗策に頼らず、麗日さんは正々堂々と君と戦った」

「……」

「厄介だと感じたならそれは……麗日さんが君を翻弄したんだ」

「……!」

 

 ----------。

 

「いやー、負けてしまった!」

 

 出張保健室に担ぎ込まれた麗日さんはバツが悪そうに笑っていた。

 

「最後の最後で勝った!と思って油断しちゃったよ、くっそー!」

 

 ケガについてはリカバリー・ガールの《治癒》によってすっかり良くなっているようで一安心ではある。しかし無理に笑っているその姿に僕は何も言えずにいた。

 

「いやー。やっぱ強いね爆豪君は!真正面からブチ破られちゃったよ、もっと頑張らないといかんね、私も!!」

 

 「麗日さんは頑張った!十分凄かったよ!!」そう言いたかったけど、口に出すことはできなかった。

 かっちゃんを相手にあそこまで戦える人がどれだけいるか。かっちゃんは勿論、観戦しているプロにすら気付かせずにあれだけの仕掛けを作りながら戦える人がどれだけいるか。

 それを考えれば賞賛すべき戦いだった。少なくても僕はそう思う。

 

『Hey!Guy`s!!ステージの修復が終わったぜ!!』

『間もなく第二回戦の第一試合を開始します。参加選手は集合してください!ブンブーン!!』

 

「あ、じゃあ……僕、いくね」

「うん!二回戦、見てるから!!がんばってね、デク君!!」

「うん!」

 

 麗日さんのエールを受けて出張保健室を出る。すると中から誰かと話しているらしい麗日さんのすすり泣く声が聞こえてきた。

 ……情けない。慰めの言葉も掛けられず、逆にまた背中を押して貰ってしまった僕自身がとても情けなかった。 




~バエの獣拳(?)アカデミー~

マイク「上鳴電気!個性《帯電》!体に電気を纏わせ放出する事ができるぞ!!」
出久「かなり強力な電気を放出できて、自分を中心とした範囲攻撃は相手が数十人居ても余裕で制圧するほどです!」
バエ「しかしあくまで電気を「纏うだけ」の能力であるため自力で指向性を持たせたり等の緻密なコントロールは出来ないようですね。よって味方が近くにいると巻き込むため基本的に強い力は使えないようでもあります」
マイク「麗日とおなじで自身の限界、許容ワット数を超える電力を使用すると、脳がショートし一時的に著しいアホになっちまうぜ!ウケる!!」

出久「さて次回はいよいよ二回戦が始まります!」
バエ「初戦は尾白さんと出久さんのバトルです!」
マイク「拳法使い同士の対決!どうなるか楽しみだな!!」
出久「尾白君も強力なライバルの一人、負けないように精一杯やるだけです!」

バエ「さらに向こうへ!」
マイク&バエ&出久「「「Puls Ultra!!!」」」


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修行其の十九:シュバシュバ!vs尾白!!

一年半ぶりに投稿させて頂きました。

正直、キラメイジャーのゲキレンジャーコラボ回の時に更新したかったです……。


 雄英体育祭、ガチバトルトーナメント。

 次の対戦カードは次のように決まった。

 

 緑谷vs尾白。

 轟vs飯田。

 常闇vs芦戸。

 切島vs爆豪。

 

『さーて、始めて行くぜ二回戦!』

 

「まだ始まっとらん? 見ねば!」

「間に合ったか、麗日く……って、目を潰されたのか!?」

 

 晴れ上がった瞼に驚く飯田に「大丈夫」と答えながらステージを見やる麗日。ステージの上には次の出場者が対峙している。

 

『第一試合、緑谷選手vs尾白選手!どちらも拳法を駆使して闘う者同士、熱いバトルが期待されます!!』

 

(尾拳、初めて戦う拳法だ。……けどその名前や先の上鳴君との一戦からして尾白君の《尻尾》を十全に生かすものであることは明白。拳打や蹴り技を筆頭にあの強靭な尻尾の一撃は、それこそ必殺の一撃。それでも僕にできることを、全力を尽くすだけだ!全力で行くよ、尾白君!)

(緑谷、騎馬戦の時に言った通りだ。友達として、ライバルとして挑ませてもらうぞ!)

 

 互いに一礼して構えを取る。

 

『準備万端だな!ならいくぜ!? 二回戦第一試合……START!!

 

「ハッ!」

「ハァッ!」

 

『試合開始と同時に駆け出した両者の拳が正面から衝突ー!炸裂音と共にその間にあった風を弾き飛ばし、ステージ上の埃や砂が宙に舞っています!!』

『そんなことを気にする様子もねぇ尾白と緑谷!次は目にも止らぬ高速パンチの応酬ゥッ!!』

 

「ヤァァァァーーーーッ!」

「ハァァァァーーーーッ!」

 

 両者の腕が無数に分裂し、障子が自分のお株を奪われかねないと思う程の凄まじい連打が交差し、無数の打撃音が響く。風を切りながら互いの拳を防ぎ、攻撃を躱す。

 

「シッ!」

「ハァッ!」

 

『連撃の打ち合いが、互いの拳を片手で受け止めあうことで止まったー!動から静へ、今度は拳と受け手による力比べのようであります!』

『同じくらいのガタイの両者!しかしタッパがある分、尾白が若干緑谷を押してるかぁ!?』

 

「ぬぅぅぅ……!」

「くぅ……!」

「隙ありだ!」

「!」

 

 プレゼント・マイクの実況通り、若干押され気味ながらも全身に力を籠めていた出久。しかしそれは尾白の一撃で崩された。

 

『尾白の尻尾による槍のような鋭い一撃ィィィーーーッ!』

 

 並みの相手であれば勝負が決まっていたであろう一撃は出久の頬を裂き、鮮血が宙を舞うが出久にそれを気にする余裕はない。

 

「ハァァァッ!」

「!(さすが尾白君!拳速が早い!!)」

 

『尾白選手!正確さと速さ、そして威力のある拳を次々と繰り出しています!!』

『緑谷もそれらを的確に見切り、防ぎ、かわしてるゼ!』

 

「(これくらいは当然見切るか……)なら、これはどうだ!」

 

『拳打を受け流された尾白選手、勢いを利用した後ろ回し蹴り!しかし緑谷選手、下に屈んで回避!!』

 

「がっ!?(正面!?)」

 

『なんとぉ!? 追撃のストレートが体勢を戻そうとした緑谷の顔面に直撃ィ!!』

 

「まだまだぁ!」

 

『尾白選手、その機を逃すまいと攻勢を仕掛けたァ!上段蹴り!後ろ回し!そしてぇ……!尻尾によるムーンサルトが決まったァーーー!!!』

 

「ぐうぅぅぅ……っ!!」

 

『しかし緑谷、これを耐えたーーーッ!』

『顔面の一撃からの蹴り二発とムーンサルト……威力を巧く殺してはいるが入ったダメージは小さくないだろうな』

 

 尾白の流れるような連撃、それを耐えた出久に歓声が上がる。

 

「さすがに耐えるか」

「まだまだ、……これからだよ!」

 

 「予想通り」と言いたげな尾白に対して、出久も口元の血を親指で拭うと、反撃を開始する。

 

「激技!打打弾!!」

 

「ッ!(達人ともなれば10秒で1000発の拳を叩き込むと言う技か!実際に食らうとそれが誇張じゃないってイヤでもわかる!!)「そこだ!」しまっ……!?」

 

『お返しとばかりに尾白選手の防御を打ち破り、今度は緑谷選手の連撃が尾白選手に炸裂ーーー!!!』

 

 並の相手ならばなす術もなく倒されるだけの怒涛のラッシュが次々に決まる。が、尾白はその程度で倒されるような男ではなかった!

 

「……負け……るかぁっ!」

「ッ!?」

 

『な、なな、なんとぉ!尾白選手、緑谷選手の機関銃のような連撃にむしろ自分から突っ込んでいるゥーーーッ!?』

『なんつーtoughness!』

 

 拳打の嵐に飛び込む尾白は出久に接近しながら必殺の一撃を仕掛ける!

 

「行くぞ! 尾拳!」

「!」

 

「尾空旋舞ッ!!」

 

 攻勢から強引に防御に切り替える出久の反応を待つはずもなく、尾白の放った強靭な尾撃が叩き込まれる。

 脚よりも太く、自分の体重も軽々と支えられるほどの筋力を備えた尾の一撃に出久は己の骨が立てた嫌な音を聞いた。

 

『尾白選手の尾拳が炸裂ゥー!緑谷選手を吹っ飛ばしたー!!』

『これは決まっちまったかァー!?』

 

 しかし、

 

「(どうだ、緑谷!)なっ!? ぐあぁぁっ!?」

 

 渾身の連撃を決めた尾白の眼前には獣の鋭牙が迫り、次の瞬間には己を捉えていた。

 

『なんと緑谷、ブッ飛ばされながらも反撃ィーーーッ!!』

 

(俺の尾空旋舞(ワザ)を喰らいながら穿穿弾(ワザ)を出すかよ!)

 

 武舞台を激しく転がる出久と尾白。しかし両者ともそのまま倒れることなどなく、素早く起き上がる。その眼には未だ激しく闘志の炎が燃えている。

 

(さすが尾白君だ……火災ゾーンという過酷な状況でたった1人、大勢のヴィランを無力化してた実力は伊達じゃない!)

(緑谷はやっぱりスゴイな、対オールマイト用の改造人間なんてのを倒したのも納得だ……)

(……けど!)

(……だからこそ!)

「尾白君に……」

「緑谷に……」

「「勝つ!!」」

 

 瞬時に呼吸を整え、互いに構えを取る。

 

「激技!」

「尾拳!」

 

『緑谷、尾白に向かってダッシュッ!』

『対する尾白選手、尻尾を地面に叩き着けて跳躍!さらに空中で独楽のように回転を始めました!!』

『空中からの落下による加速、それに回転による威力の向上が狙いだろうな』

 

「穿穿拳!!」

「尾空旋舞!!」

 

『緑谷選手の鉄拳と尾白選手の尻尾が激突!!』

『スッゲェ炸裂音!!けどソレ人体のパーツ同士がぶつかって出る音かァッ!?』

『いいえ!ただの人体の一部のハズがありません!互いの意地と魂が宿った技のぶつかり合いだァーッ!!』

 

「グゥゥゥッ……!」

「ハァァァッ……!」

 

『互いに正面から放たれた技と技!その軍配は……尾白選手に上がったァッ!!』

『緑谷の拳が弾き飛ばされたァ!万事休すかァ!?』

 

「これで決める……!」

 

 穿穿拳を破り、追撃の尾空旋舞での勝利を狙う。

 それは友であり、ライバルと認めた男への誓いを果たすため。そして、己に力をくれる少女の応援に応えるため己の尾を走らせる。

 

「まだだ!」

「!?」

 

 しかし出久も勝利を諦めない。

 己が志を貫くため、人知れず涙を流した少女の激励に応えるために拳を突き上げた!

 

「左の穿穿拳……!?」

 

 尾白の腹に叩き込まれた左の拳打。それは今まで穿穿拳を右拳で放つところでしか見ていなかった葉隠達は勿論、当の尾白をも驚かせるには十分だった。

 

『なんと緑谷、左の拳を尾白に叩き込んだァッーーー!!!』

 

「ガハッ……!」

 

 尾空旋舞(ワザ)を放った直後、追撃を放とうとするその一瞬の隙。決して無防備とは言えないその隙に叩き込んだ出久の渾身の一撃は尾白の意識を刈り取った。

 

「尾白君、気絶により戦闘不能!緑谷君、三回戦進出!!」

 

 ーーーーーーーーーー。

 

「尾白なら緑谷の少し後に出て行ったよ」

 

 リカバリーガールの言葉に『透明』の個性を持つ私が肩透かしを食らった。

 治療を受け、意識が戻った尾白君は緑谷君に激励の言葉を送ると「後から戻る」と言っていた。と応援席に戻った緑谷君から聞いた私。

 出張保健室を出た後、尾白君を探して歩き回っていた私は人目に付き辛い一画でようやくその姿を発見した。

 

「お、いたいた」

「……葉隠さん」

 

 地べたに座り、俯いていた尾白君の隣に座る。

 

「……どうしたの? そろそろ次の試合が始まるんじゃないか?」

 

 それは尾白君にも言えることだけど、それは口に出さない。 

 

「いやー、応援してたらのど乾いちゃって、ちょっとキャラメルマキアート買ってくるね。って抜け出して来ちゃったのさ!」

 

 そうなんだ。と俯いたまま返す尾白君。

 

「それにしても尾白君達、ホント凄かった!なんかこー、シュバシュバーって!」

「あぁ」

 

 試合を終えた2人を真似てパンチを繰り出す私に対する尾白君の返答は心ここにあらず、と言った風だった。

 その後はしばらく無言の時間が続く。観客や生徒の歓声、プレゼント・マイクとバエさんの実況が遠くから聞こえている。

 

「……緑谷の打打弾を受けて判ってたんだ、左右の威力に差異がなかった。……ならば左でも穿穿拳や他の技を右と遜色ない威力で出せる、って」

 

 ポツリポツリと呟き始めた尾白君。同じ拳法使いで、緑谷君と直接戦った彼だからこそわかった事や予測出来た事。

 それが勝負の決め手となったことが悔しいのだろう、その肩が震えている。

 

「けど自分の技で緑谷の技に撃ち勝ったことで勝ちを確信してしまったことでそれを忘れた……自分が情けないよ……」

 

 そう言って項垂れる尾白君。

 

 気付けば私は小さくなってしまった彼を抱きしめていた。

 

「は、葉隠さん!?」

 

 抱きしめられて驚いている尾白君。正直私も恥ずかしいけどそれより大事なことがある。

 

「尾白君は情けなくなんかないよ……。巨大ロボットをブッ飛ばしちゃうようなパンチの緑谷君に真正面から立ち向かって、技のぶつけ合いでも撃ち勝ったじゃん!情けなくなんか絶対ないよ!!」

「葉隠さ……」

 

 尾白君の声が震えている。

 

「私は透明だからさ、今は尾白君以外誰もいないよ? ……だから、……ね?」

「……」

 

 尾白君のおっきな体が静かに震えて、ポタポタと水が落ちて地面を濡らす。

 

「……折角の体育祭なのに、急に雨が降るなんて困っちゃうね」

 

 そう言う私が見上げた先にはどこまでも突き抜けるような青空が広がっていた。




バエの獣拳(?)アカデミー~

マイク「障子目蔵!個性《複製腕》!肩から生えた2対の複腕の先端に、自身の体の器官を複製できる!現在確認されているものは手、口、目、耳なんかでレーダー役には持ってここいだ!!」
出久「複腕の先に複製した器官は本来のものより強化されているようです!ちなみに普段話す時も複腕に作り出した口で話してます。」
バエ「レーダー役だけでなく、優れたフィジカルを生かして騎馬戦時のような攻防にも秀でた戦闘能力の高さも伺えます!そして何より、USJの時のように仲間の盾となることを躊躇しないヒーロー精神溢れる好青年でもあります!」
マイク「縁の下の力持ち、能ある鷹は爪を隠すを地で行くCool guyだぜ!」
出久「ガチバトルトーナメントもまだまだ続きます!」
バエ「白熱するバトルに私達の実況魂もベランベランです!」

マイク「さらに向こうへ!」
マイク&バエ&出久「「「Puls Ultra!!!」」」


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