オーバーロード セバスのほのぼの日常 (きりんじ)
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お休みの日のセバス
ナザリック地下大墳墓では、ときどきほのぼのとした光景が見られます。
日常の一部を覗いてみましょう・・・
セバスは毎日ナザリックの為に忙しく働いているが、
今日は、ツアレの為に生活用品を買うために、お休みを取ったのだった。
________「さて、ツアレ今日は洋服を買いに行きませんか。良い天気ですよ」
と部屋にこもっているツアレの、部屋のドア越しに声を掛けていた。
「・・・・・申し訳ございません、セバス様。・・・怖いです、外に出るのが・・・まだ・・怖いです」
「あなたが謝ることは何もありませんよ、ツアレ。外に出るのが怖いのなら、町を馬車の中から覗くだけでも構いません。どうでしょうか?」
とツアレが外に出掛けやすいようにと、セバスは提案をする。
ツアレは恐々と話す。
「セバス様の・・提案はとても良いと思います。でも・・・・ナザリック地下大墳墓の方以外の男性がいると思うと、足がすくんでしまって・・」
「大丈夫ですよ、ツアレ。
以前もあなたに伝えたように、私と一緒にいれば全ての怖いことから、
あなたを守ります。私を信じてください」
「・・・セバス様・・。」
「そして、そろそろツアレも新しい着替えが欲しいのではないのですか?」と
ツアレの洋服が、メイド服数着しかない事を知っているセバスは優しく伝える。
「・・そうですね・・。」とツアレの恐怖心と好奇心が、心の中でゆらゆらと揺れていた。
話を聞いたツアレは、また心の中で考える。
(うん・・メイド服・・研修で汚れてきちゃったから、新しい服も欲しい・・でも怖い。うーん、どうしようどうしようどうしよう・・・)
(でも、出掛ければセバス様と楽しく町を歩けるかもしれない、怖かったら馬車から出なくても良いっていうし・・・)
とツアレはドアの前で、ぐるぐる考えてしまって、10分は経過した。
なかなかツアレから返答がないのでセバスは、ドア越しに優しく伝える。
「ツアレ、無理はしないでください。いつでも話は聴きます。町に出掛けたくなったら、いつでも教えてください。では失礼致します。」
とセバスは一礼をして、ドアの前から名残惜しそうに離れた。
「・・は、はい!セバス様申し訳ありません!せっかく誘っていただいたのに・・・・」
_______________ツアレの部屋から離れたセバスはというと・・・・
「さて、本日の休みの予定がなくなりましたね・・・。何をしましょうか?」
と独り言をつぶやいた。
このあとセバスは、ツアレの為に町へ買い物に行くのだが、女の子の洋服選びは、こんなにも難しいものだと痛感することになる。
「む、この店は私以外は全て女性ですね・・・そこのお方、何か困ったことが?大丈夫でしょうか?」
______そのツアレとセバスのやり取りをこっそりと見ていたペストーニャは、にやにやしていた。
「こ、これはもしかしたら・・ワン。面白そうな事が起きそうだ・・・ワン!」
と一人ワクワクしていたのは誰も知らない。
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セバスのお買い物
セバスはツアレとのお買い物(デート)という予定が無くなったので、
自分ひとりで、ツアレの新しい洋服を買いに行くことに。
「___どうしましょうかね?ナザリックではメイド服以外は手に入らないので、街に出てきましたが・・・」
「人間の女性というものは、どういう洋服を好むのでしょうか?」
最近やっと人間が好む食べ物については、ツアレのおかげで詳しくなったセバスだが、戦闘用ではない人間の私服というものについては分からなかった。
セバスは顎に手を当て、街中を眺めた。
「ふむ、しかたありませんね。服屋の主人に相談してみましょう」
とりあえずセバスは、最初に目に入った街中央の服屋へ向かった。
最初に入った洋品店は、しましま模様の獣の洋服が何故か、多かった。
「確か前に、アインズ様がトーラーというしましまの獣を見たことがあると、仰っていたような・・・。さてツアレにぴったりの服はありますかね」
店の奥に入っていくと、とても我の強そうな女主人がいた。
「あらー!素敵なお・じ・さ・ま、何をお探しか・し・ら?」
と、体をくねくねさせながらハイテンションで現れた。
セバスは、そんな女主人に動じず答えた。
「こんにちは、私はある女性のための服を探しております。」
と、当たり前の返答を聞いた店員は、更にハイテンションに話す。
「まあ~~~!!!素敵~~~!!羨ましいわ~~♡」
「きゃ~~!旦那様が奥様にあげるのね~~!!」
とセバスの話を勝手に解釈した店員は、セバスの肩を叩きながらに洋服を見せる。
「もお~じゃあ~こんなのどうかしらん??」
「ふむ・・どのような服でしょうか?・・・・ん!」
________ハイテンションな店員に見せられた服は、
やはりしましま模様の獣の柄だった(スパンコール付き)
(やはりこれでは、ツアレが獣を身に着けているだけだ・・・)
とセバスは、このしましま模様の洋品店を後にすることを即決した。
店を後にしようとすると、あのハイテンションの女主人が鼻息荒く近づいてきた。
「あら~~~もう~~~帰っちゃうの~?私寂しい~~~~!!また絶対来てよねん~~♡」
さっき会ったばかりだというのに、親しげにベタベタとセバスに触ってきた。
「良い品ばかりで悩みましたが、購入はまたの機会とさせて頂きます」とセバスは優しく、尚且つハッキリとした口調で伝えた。
そして、ハイテンションな女主人から逃れた後、セバスはまた洋品店を探す。
「先ほどのお店にはツアレは連れていけませんね・・・あの方は女性なのに、ひげが生えている気がしましたが・・・人間とは不思議な種族ですね・・・」
セバスが次に見つけた店は、何やら人だかりが・・・
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ツアレの休日
※「セバスのお買い物」の時のツアレの様子の話です。
___せっかくセバスが出掛けようと、誘ってくれたのに、怖くて街に行けなかった。
___きっとセバスの事だから、絶対に守ってくれるのに___
先ほど出掛けたセバスと同じく、ツアレは一日休みである。
自分から休みを申請していないのだが、アインズ様が何故かセバス様と休みを合わせてくれた。
___場所は玉座の間、アインズはツアレとセバスチャンを呼び出していた。
玉座に座るアインズが二人に聞く。
「セバスはその~ツ、ツアレと! 同じ日が休みの方が・・良いよな!?」
(恋人がいた事がないから分からないけど、良い感じの二人がいたら、確か日にちを合わせてあげたほうが良いんだっけ?)
「は、アインズ様。わたくしセバスは、ツアレと共に休みでもよろしいのですか!?」
「うむ、専属なのだから休みを揃えた方が何かと都合が良いだろう・・・」
「アインズ様、ありがとうございます。」
セバスとツアレは跪き、声を合わせて答えた。
場所は変わり、ツアレの部屋で___
_____ツアレはうーんとベッドに横たわり、枕に顔をつけて叫ぶ。
「もう私のバカーーーーー!」
声を出しながら足をバタバタさせる。
どうして自分は勇気を出さなかったんだろう、出せなかったんだろう。
新しい着替えの服が欲しいってペストーニャさんに相談したから、きっと買い物に誘ってくれたのに・・・
誘いを断ってからずっと考えがまとまらない。
「こんなに後悔するなら、出掛ければ良かった~~!!」
ベッドの上を、寝ながら左右にごろごろ転がる
「よし!セバス様が帰ってくるまでに、街に出掛けられるようにしよう!」
このまま部屋で、もやもや悩んでいても仕方ないので、部屋から出ることにした。
(でも、メイド服で出かけたら、仕事頼まれちゃうかな・・・)
まだうじうじしてる自分が情けないな~と思いながらとぼとぼ歩く。
(研修で知ってる部屋が増えてきたけど、道に迷いそうなぐらい広いわね・・・)
田舎から出てきた人間のようにキョロキョロして歩くと、通路にペストーニャがいた。
「あら、ツアレ?どうしたの?・・ワン」
「こんにちは、ペストーニャさん、お疲れ様です」
ツアレは、今日最初に会った仲間がペストーニャでかなりホッとした。
「ペストーニャさんに相談よろしいでしょうか?忙しかったら、後で大丈夫です」
「もちろん大丈夫だワン!ツアレの為ならいつでも相談にのるわよ・・・ワン」
「あの~えーと、外の世界のような街へ出る練習が出来る・・ようなところや、お休みにぴったりな場所など、どこかナザリック地下大墳墓内にありませんか?」
ツアレはもじもじと話した。
「そうね~じゃあ私についてきてワン」
「あ、はい。ペストーニャさん、お忙しい中、ありがとうございます」
ツアレはペストーニャの後をついていく。
「今日は仕事が多くない日だワン、気にしないでくださいワン」
ツアレは自分が頼んでみたものの、どこに行くのかちょっぴり心配だった
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エレベーターと水着
____ツアレはペストーニャに付いていくと、目の前にエレベーターがあった。
その見た目は禍々しく、骸骨を集めて作られていて、ただ不気味でしかなかった。
普通の人間だったらきっと乗る事を嫌がるだろう。一度乗ったら最後、死の世界に連れていかれるのではと誰もが思うだろう負のオーラがあった。
「あ、あのペストーニャ様・・・これに乗るのですか?・・」
おびえた様子のツアレが尋ねた。
「休日の時ぐらいは、様付けじゃなくって良いって言ったでしょ・・・ワン
・・・ああ、あのエレベーターが怖いのだワンね!大丈夫!何も罠は無いわよ・・ワン」
二人でエレベーターに乗ると、
「ドアが閉まります!ご注意下さい! 下へ、参りま~す!」
エレベーターのスピーカーから、とても可愛い声が聞こえた。
扉が閉まりエレベーターが動き出すと、すかさずペストーニャは説明を始めた。
「この御声は、至高の四十一人の中の一人、ぶくぶく茶釜様の御声でございます」
「まったくアウラ様ときたら、暇さえあればこのエレベーターに乗ってきゃーきゃー騒いで大変なのですよ」
「それで、シャルティア様がうるさい!と言ってけんかになるのが定番でございますワン」
・・・・とペストーニャはべらべらと一人で話していた。
そんな中ツアレは、自分を見つめる骸骨が怖くて、どこを見ればいいのか。本当に骸骨は動いたりしないかが心配で、生きた心地がしなかった。
そして、エレベーターはやっと目的の階層に着いた。
(少しの時間が途方もなく長く感じた・・・)
ツアレはふうと息を吐いた。
この階層は、ナザリック地下大墳墓の仲間たちが疲れを癒すために作られた施設が、沢山あるのですよ___
ペストーニャの説明は耳に入らなかった、何故ならツアレは、こんなに大きくて豪華絢爛な入浴施設を見たのは初めてだった。
「すごいです・・・こんな大きいなんて・・何人ぐらい入れるのでしょうか・・・?」
目をキラキラさせてツアレは質問した。
ペストーニャは、嬉しそうに話を始めた。
「この至高なる御方々がお作りになったスパは、人間は基本的にこの施設を使うことが無いので分かりませんが、アウラ様などの人間種でしたら、おおよそ百人以上は入るのではないかと・・・体の大きなコキュートス様でも、のびのびと湯船に入ることが出来ますワン!」
さて!とペストーニャはツアレの手を引いて脱衣所へ向かいながら、質問をする。
「ツアレ、確認ですが、人間もお風呂に入るときは服を脱いで入るのか・・ワン?」
ツアレは恥ずかしそうにもじもじとして答える。
「はい!人間はほとんどの方が、裸で入ると思います・・」
(水着が欲しいけど、今は持っていないし・・・入るときは裸かな・・)
スパに入るため、お互いに服を脱ぎながら話を続ける。
「ということはツアレは、裸で入らないときは水着などを着用するのかワン?」
「え?ペストーニャさんは、水着をご存じなのですか?」
モンスターという存在が水着を着るなんて思っていなかったツアレは驚いた。
「もちろんです!ツアレ!アルベド様とシャルティア様など女性陣は、男女共有の入浴エリアで水着を着用されます・・ワン」
ペストーニャは突然、自慢げにロッカーから水着を出してきた。
「実はツアレ用の水着を用意してましたーーー!・・ワン!」
「ペストーニャさん・・・あ、ありがとうございます。助かります」
ツアレは可愛らしいリボンとフリルが付いた、ビキニのように上下が分かれた水着を受け取り、すぐ着てみた。
(この水着、着てないみたいに軽くてきつくない・・)
補足だが、ペストーニャの水着もビキニタイプで、犬の絵が沢山描かれていた。
(アインズ様にご褒美として、以前犬柄の服セットを貰ったワン)
一方その頃、セバスはどうしているかというと・・・
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セバスのお買い物(2)
ツアレがナザリック地下大墳墓内の大きなスパに驚いている、一方で____
______セバスは、人だかりのあるお店にならきっと、素敵な洋服があるに違いないと向かったお店には女性ばかりがいた。
店の看板を見ると、「銅貨3枚で洋服詰め放題!!!」と書かれていた。
「ここは良心的な価格で洋服が買える店なのですね・・ツアレもたくさん服が貰えたら喜んでくれるのでしょうか?」
と頭の中は、もうツアレの服の事でいっぱいだった。
セバスが店に近づくと、人の勢いに飛ばされ倒れている女性ばかりいた。
カルマ値が善のセバスには、そんな女性たちを放っておけるはずがなかった。
「大丈夫でしょうか?」と倒れた女性の手をとり、優しく微笑むとその女性は顔を赤らめて店を去っていった。
そしてセバスは、次に声を掛けたのは人の波に弾き飛ばされて泣いていた女の子。
「お嬢様、大丈夫ですか?お母様は?」
としゃがんで女の子と目線を合わせた。
「お母さんは、この店の中にいるんだけど、はぐれちゃったの・・・」
「ふむ、私がお母様を探してきましょう」と女の子から特徴を聞いて探し出すと、また女性はセバスに見とれて顔を赤らめて去っていった。
「おかしいですね・・・
なぜ皆さん私が声を掛けると逃げてしまうのでしょうか?」
セバスは人助けのつもりで声を掛けているのに、自分の顔を見ると逃げてしまう。
(何故でしょう・・・)
実はこの現象は、セバスチャンのカッコよさで、ほとんどの女性は自分が今、すごい形相で服を取り合っている状態を客観的に気づき、恥ずかしくなってしまったのであるが、セバスチャンはそれに気が付かない。
だけど、セバスは服の取り合いで倒れて傷つく女性を放っておけず、助けた。
ほとんど助けたところで、壮年の男性店主に声を掛けられた。
「おい、お爺さん、人助けは嬉しいんだが、客が消えてしまっては、こちらとしては商売あがったりなんだ。」
「それは失礼致しました。私は退散いたします。」
とセバスは、はっと我に返り店を後にした。
街中をゆっくりと歩きながら、セバスチャンは呟く。
「ふむ、人助けのつもりが、店に迷惑をかけてしまっては、本末転倒ですね。だから私は甘いと言われるのでしょうか?」
そんな事を呟きながら、セバスは空を見上げる。
「ツアレの服を買いに来ただけなのに、こんなに時間がかかるとは・・・
人助けもほどほどにしないといけませんね・・・」
そして、気を取り直し歩き始めると、街の中には美味しそうな食べ物屋さんが複数、新出店していた。
「これはツアレが好きそうですね」「こっちは珍しそうな果物だ」
「これは美味しそうなパンですね」「お土産に何か買って帰りましょうか?」
と色々なお店を見て歩いていたら、街の外れに来てしまったセバス。
どこかで本当に服を買わないと、ツアレに洋服のプレゼントが出来ない・・・
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セバスのお買い物(3)
街中で、つい美味しそうなパンがあったので買ってしまったセバス。
(これはナザリック地下大墳墓で、パンのバリエーションを増やすためです・・
けっしてツアレにあげたいから買った訳ではありませんよ・・デミウルゴス・・)
何故かパンを買うことに対しての罪悪感から、誰にも言われていないのに言い訳を心の中で言う。
もうこの辺では、食べ物屋以外の店が無さそうなので引き返そうとすると、
粗末な服を着て、皺だらけの腰の曲がったおばあさんが、歩道でしゃがんでいた。
(ここは道端ですし、ベンチも無いところでしゃがむとは何か理由があるかもしれません。一回だけ声を掛けてみましょう。)
おばあさんの前に行き、同じようにしゃがみ声を掛ける。
「どうかしましたか?」
「足を痛めてしまって・・・この大荷物だと動けなくて・・」
「困っている御様子、何か私にお手伝い出来ることはありますか?」
「いえ・・見ず知らずの方に手伝って頂くなんて・・申し訳ないです・・」
おばあさんのもともと曲がっている腰がさらに曲がった。
「気になさらないでください。困っている方に手を差し伸べるのは当然の事です」
微笑むセバスはさっと手を差し出す。
「本当にすみません、御手数おかけしますが、自宅まで荷物を運ぶのを手伝って頂けませんか?」
曲がった腰を少し伸ばして、セバスの手をつかむ。
「喜んで。では私がお連れしましょう」
セバスは、大荷物とおばあさんを同時に抱えて、移動したかったが、怪力で目立つのはまだ良くないと考え、人も乗せられる台車をわざわざ借りてきた。
「旦那様、台車を借りてまで私の事を手伝わなくても・・・」
「いえいえ、お気になさらず・・・」
テキパキと大荷物とおばあさんを台車に載せていく。
____ガラガラと台車を引いて、食べ物屋が多い通りを後にする。
そして、鬱蒼とした林の方向へ向かっていく。
道中、セバスは緊張で硬くなっているおばあさんに話しかける。
「今日は暖かくて、のんびりと散歩するには良い日ですね」
「ええ・・・散歩には良いでしょうね・・」
申し訳なさと、かっこいいセバスを前にしてなかなか緊張が解けないおばあさん。
「私は今日はお休みで、この街のパン屋さんに初めて訪れたのですが、とてもおいしそうです。パンはお好きですか?」
「・・ええ、美味しそうですよね。私も若い頃はよく食べていましたよ。」
「それは良いですね、最近は他に美味しいものでも見つけたんでしょうか?」
ニコニコ微笑むセバスとまだ緊張しているおばあさんが、到着するまでぎこちないながらも、おしゃべりしていた。
______台車を引きながら、たわいもない話を目的地に着くまでおばあさんとおしゃべりをした。
「その目の前にある小さな建物が、私の家です・・」
「分かりました、近くまで行きましょう」
目の前には、木材で作られた小さなログハウスのような家が、鬱蒼とした林の中に一軒ぽつんと立っていた。
「さて、この荷物はどこに置きましょうか?」
「旦那様、大変申し訳ないのですが、家の中までお願いできますか?」
「かしこまりました」
セバスはにっこりと微笑んで答えた。
(しかし、この家の中に何があるか分かりません。注意だけはしておきましょう)
なんの変哲もない家が実は、盗賊団のアジトだった、凶悪な人身売買の罠だったなどという事もあるので、周りを気にしながら荷物を持って家に入る。
(うーん、家に入ってからこの家には怪しい感じがするのですが、何故でしょう・・)
家に入ってからセバスは、この家に違和感を感じていた。
部屋は外観と同じように、何の変哲もないごくごく普通のログハウスの部屋で、手芸が好きなんだろうか布地が床に散乱していた。
「そこに荷物を置いていただけますか?」
「かしこまりました」
家具の近くに荷物を置くと、おばあさんが優しく声を掛ける。
「旦那様、もしよろしければ送って頂いたお礼に、お茶を振舞いたいのですが、いかがでしょうか?」
もじもじしながら、おばあさんは明るく話す。
それを聞いたセバスは、優しく返答した。
「・・・よろしいのであれば、お言葉に甘えて頂きましょう。」
(断っても良いのですが、この家の違和感が気になりますね・・・)
セバスは優しく微笑んだが、警戒は緩めない。
次は、木材で作られた家具ばかりの部屋にセバスは案内された。
「散らかってますが、こちらの木の椅子にお座りになってお待ちください」
セバスは木の椅子に座ると、木が重みの為にギイっと鳴る。
「ありがとうございます。では失礼して座らせて頂きます」
(お茶を頂いたら急いで街に戻らなくては・・・)
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おばあさんとセバスのお茶会
そして、おばあさんがお茶をトレーに載せて持ってきた。
「お待たせしました、どうぞ。私の最近のお気に入りのお茶です」
とても芸術的な価値がありそうな花の装飾を施されたポットから、こちらもお花の装飾が施されたカップに注がれる。
(茶色い液体ですね・・たしか紅茶と言っていたので、ツアレが飲んでいたものと同じでしょうか?)
家に着いた為か、おばあさんが明るい表情で話す。
「お砂糖やミルクは自由に使ってくださいね」
セバスはティーカップを持ち上げて、まず香りを確認する。
「ありがとうございます。では、お茶いただきます。」
(香りを嗅いでみても、紅茶には何も怪しいところはありませんね・・・)
セバスがこのお茶を気に入ったか気になる様子のおばあさんはワクワクしていた。
「あの、お茶はお口に合いましたか?こちらは紅茶なんですが、最近見つけてお気に入りなのです」
照れながらおばあさんが話した。
「ええ、とても美味しい紅茶でした。香りが華やかで素敵ですね」
(ツアレに今度何のお茶が好きか聞いてみましょう・・)
セバスは飲んだ感想を率直に伝えた。
そしてセバスは先ほど街で買ったパンをおばあさんにあげることにした。
(荷物を運んでいたせいで、パンの袋も少しつぶれてしまったしお茶に合いそうなのでおばあさんに聞いてみましょうか・・・)
「このお茶に、先ほどこの買ってきたこのパンがとても合いそうなので、パンいかがでしょうか?ちょっと袋はつぶれてますが、パンはつぶれてないので良かったら?」
セバスはパンの袋を開けて、おばあさんに見せた。
「まあ、美味しそうなパンですね~。私のお手伝いのせいでつぶれてしまったのですね・・・申し訳ありません・・・では、お言葉に甘えてパンを頂いてもよろしいでしょうか?」
おばあさんは、美味しそうなパンを潰してしまったのは自分のせいだと思い、セバスの提案を受け入れた。
「おばあさんのせいではありませんよ。お手伝いをすると決めたのは私ですし、パンはこうなる運命だったのですよ、美味しいパン屋さんを見つけられて良かったのでお気になさらずに」
セバス優しい表情で、2種類のパンを袋から出し、おばあさんが用意してくれた可愛い花柄のお皿に乗せた。
「私、お店のパンを食べるなんて久しぶりです・・・人と会いたくないのでめったに行かなくて・・・このパン・・美味しい・・・」
少し涙が出そうになりながら、パンを食べるおばあさん。
泣きながら食べているおばあさんを優しく見守りつつ、セバスはパンについて話し始めた。
「このパンは今、巷で話題の塩パンというそうです。パンの中にバターが入っていて、焼くとバターが溶けてそれはそれは美味しい食感になるそうですよ」
パンについての説明が終わるセバスは、にっこり微笑み紅茶を飲んだ。
「・・・なんだ・・このしょっぱさは・・私の涙のせいじゃなかったんですね・・・良かった・・」
パンを食べ終わったおばあさんは、目を赤くしながらも笑顔になった。
________色々なお茶を飲み、色々なお話をして、のんびりとした時間が過ぎる・・・
おばあさんが遠くを見ながら話し始める。
「本当のんびりとした時間は良いですね。私はこうやっておしゃべりしながらのお茶会が好きなんです。」
好きなことの話の割に何故かおばあさんは寂しそうだった。
急に寂しそうな様子のおばあさんが気になったので、セバスは質問をした。
「そうですね。こうやってのんびりするのはとても良い事ですね。いつもこんな感じでお茶会をしていらっしゃるのですか?」
____誰かが亡くなったとか家族の思い出あたりが、寂しさの理由だろうと思ったセバスは、おばあさんから返ってきた答えに驚くことになる____
「・・・私は、人間が嫌いです。もうかれこれ10年以上は人間とおしゃべりらしいおしゃべりはしていません。なので、お茶会を開いたのもとても久しぶりです」
まだ遠くを見ているおばあさん。
「そうだったのですか・・・楽しいお茶会だったので・・びっくりしました」
セバスは落ち着いて話した。
「何故、人間嫌いの私があなたをお茶会に招いたか気になりませんか?」
おばあさんが振り向き、セバスの顔を見て話す。
「そうですね・・・気になります。私があなたと同じように老人だからでしょうか?」
セバスはその話自体はどちらでも良かったが、この家の入ったときの違和感が分かるかもしれないと思い答えた。
「さて旦那様、つかぬ事をお聞きしますが、あなたはもしや人間ではありませんね?」
ぐいっとセバスにおばあさんは顔を近づけた。
「ん?どうしてでしょう?何か気になる点でもありましたか?」
微笑みながら、いつでも相手と戦えるように姿勢を整えるセバス。
「実は私は、タレント持ちで相手の強さや魔力が見えるのです、またマジックキャスターを若いときに仕事としていたので分かります・・・ずっと黙っていて申し訳ありませんでした・・・敵意はありません・・」
と、おばあさんは最初に会った時のような暗い様子に変わる。
「そうでしたか、本当の事を言って頂いてありがとうございます。私もひとつ質問をしても良いでしょうか?」
「はい、私に答えられることなら・・・」
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二人だけの内緒話
____のんびりとした時間が過ぎたお茶会が、おばあさんの一言によって緊張感が走る。
そして、セバスがキリっとした真面目な顔つきになり話し始める。
「質問というのはですね、実はこの家に入ってから妙な感じがしまして、何かこの家に魔法など掛かってはいませんか?」
相手の正体が分かったことで、遠回しに聞かずにそのまま聞くことにした。
「さすが、旦那様。微量な魔力に気が付くとは・・・」
小さく拍手をするおばあさん。
「いやいや、それほどではないですよ、あなたより魔力に関しては疎いので・・」
(これで更なる隠し事をを話してくれれば良いのですが、反抗されて殺したくはありませんね・・・)
困っていた人間を助けたのに、その人間を殺すかもしれない。
美味しい紅茶を入れてくれた人間を殺すかもしれない。
のんびりとした時間を共有した人間を殺すかもしれない。
などと、人間とはなんて不思議な種族なんだろう。さっきまで弱い存在だと思っていたら、ここまで状況が変化するとは・・・と今日の事を思い出していた。
「じ、実は・・・」とおばあさんが椅子に座った状態で、膝の上でギュッとこぶしを握る。
「ふむ。」
セバスは先ほどからのキリっとした表情を崩さず聞く。
おばあさんは意を決したように話し始めた。
「・・・実は、人間が怖いんです・・・」
(・・・?・・なんと・・・)
セバスは、もっと衝撃的な話を聞かされるのかと思いきや、おばあさん自身の事情の話だった。
セバスには、何故人間が怖いから魔法をこの家に掛けるのか分からなかった。
自分達からすれば人間とは、とても弱い下等生物で、何かあればすぐ死ぬ種族だからだ。
(たっち・みー様の様に弱い存在は助けるべきだとは思うのですが、人間が怖いという感情はありませんね・・・)
おばあさんが話を続ける。
「自分も人間なので人間が怖いという話は、人間ではないあなたには分からない話だとは思うのですが、昔のとある事情で人間が怖くなってしまって・・・」
「それは、大変でしたね・・・どうぞ話を続けてください。」
先ほどの厳しい表情から、穏やかな表情に変わる。
「はい・・・私は、タレント持ちでマジックキャスターを仕事にしていたと先ほど話しましたが、自分は魔力も人より多いのですが、疲れやすくてあまり冒険に出る事が出来ませんでした。」
おばあさんはゆっくりと話し始めた。
「なので、趣味である洋服づくりと魔法を掛け合わせることで、チームの仲間を助けることは出来ないか?と考え、試行錯誤の末、魔法を掛けなくても着るだけで魔法の効果を得られる服の製作に成功したのです。」
「ほお・・・それはすごいですね・・・魔法が使えない方でもですか?」
親指と人差し指を顎に当てながらセバスは質問をした。
「はい、誰でもです。魔法を糸に練りこんであるので、肌に触れることで効果が発生します。怪我をしにくくなる、頭が冴えて動きやすくなる、回復力が上がるなど・・・私が知っている回復系や補助系の魔法が、一つの服に一つずつ入っています。」
おばあさんはふう・・と一息をついて、紅茶の残りを飲む。
「そんなすごい効果のある服なら、冒険者などに人気が出たんでしょうね。素敵な才能です」
とセバスはにっこりと微笑んだ。
「いえそんな事はないです・・・でも、おかげさまで当時の仲間には、それはもう好評で、次から次へと頼まれました。疲れやすい私でも、人の役に立っていると感じられて一番幸せな時間でした」
昔を思い出して、つい笑みを浮かべるおばあさん、しかし顔がまた暗くなる。
「でもそんな幸せな時間は続きませんでした。私の服が好評になり、噂が広まると、冒険者の仲間以外からも注文が殺到して、私は大忙しになりました。仲間の知り合いに商人がいて実店舗などで売り出すと、更に売れに売れて、超が付くほどの大金持ちになりました。でもここから不幸が始まりました。」
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おばあさんの過去
_____おばあさんの幸せな話を聞いているはずなのに、部屋の雰囲気は重く、暗かった。
しかし、そんな雰囲気をセバスは破るように擁護し始めた。
「はて?今までの話を聞くと、あなたには何も失敗はないようですが、何かあったのでしょうか?差し支えなければ教えていただけませんか?」
セバスは、さっきまで殺すかもしれないと思っていた相手に、まるで親友のように話しかけた。
おばあさんがもじもじしながら話し出す。
「服が売れ始めると、それを模倣した服を売り出す人や、私の名を騙って服を売ります詐欺をする人が出てきました。
そして、その行為自体を知らないお客様は、不良品を売りつけるとは何事か!!と私に対して脅迫や暴言を浴びせるようになりました。私が新作を作ったりと、どう頑張っても安い偽物が目立ってしまって・・・
私は、自分が作った服のせいで沢山の人を傷つけてしまったんだと落ち込むようになり、売ることをやめました」
そして、ぽろぽろと涙を流し、おいおいと泣き始める。
「・・・すみません、勝手に話し始めて、勝手に泣いて・・・」
「いえ、気にしないでください。悲しいときは泣いた方がスッキリしますよ。」
セバスは白いハンカチをおばあさんに渡す。
「ハンカチ・・すみません・・・商人さんからは、こちらで全てのクレームは対応するから辞めなくても良いんだぞ。悪いのは奴らなんだから・・と言って頂いたのですが心がもたなくて・・」
セバスから渡されたハンカチで涙をぬぐう。
「それは大変だったのですね・・・もうこれ以上話すのが辛いようなら、私は席を離れますが・・」
おばあさんが涙を拭き終わると一転、前向きな雰囲気で姿勢を正す。
「前置きが長くなりましたね・・・実は魔法掛けているのは家全体で、人間除けの魔法を掛けているんです。」
「なるほど。でもあなたも人間だと、この家で暮らし辛いのではありませんか?」
「それは、大丈夫です。先ほど話した服・・人間除け魔法の無効化服を作って着用し、更に自分で魔法の強さを加減しているので・・・」
この話は恥ずかしいらしく、後頭部をさわさわと触り照れ隠しをしていた。
「それはすごいですね。本当にあなたは賢い人だと思います」
人間にしては本当に賢いなと思って、セバスは褒めた。
(着用するだけで魔法の効果が本当にあるなら、自ら魔法が唱えられない下位のアンデッドに使いたいですね・・・)
「・・・ありがとうございます。そう仰って頂けると元気が出ます」
にっこりとおばあさんは微笑んだ。
元気が出たおばあさんは、再び明るく話し始めた。
「さて旦那様、実はあと二個も隠し事をしていました。なんでしょう~!」
「何でしょうか・・・見当もつきませんね・・・教えていただけますか?」
(たぶん、本当はおばあさんではないのでしょうが・・もう一つは思い浮かびませんね・・)
目をキラキラさせて、おばあさんは背筋を伸ばし、両手を上に広げた。
「はい!実は私は、おばあさんではなくて・・・少女でした!そして、地下には巨大な洋服の工場があります!!一階建てじゃありませんでした~!」
粗末な服を着て腰の曲がったおばあさんが、顔の前で手をかざすと先程まで艶のない灰色だった髪が艶のある薄桃色になり、シミやしわだらけだった顔がハリのある白肌に変わり、プレアデスにも負けないような、可憐な美少女の顔に変わる。
また、服装はメイド服のような可愛らしいフリル付きののワンピースに変わった。
「旦那様、色々と騙してすみませんでした。人間に話しかけられたくないので、街に行く際は、おばあさんに変身してから出かけているのです・・・」
おばあさん(美少女)は深くお辞儀をした。
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自動人形(オートマトン)
見目麗しい美少女は謝ると、お詫びに地下の工場を見せてくれた。
「セバス様にここまでお話をしたら、一緒に工場もお見せしたいです!よろしいでしょうか?」
「ええ、是非とも工場のご案内をお願いします。よろしくお願い致します」
セバスは優しく微笑み承諾した。
そして、二人は工場内へ移動した。
_____「いろいろな仕掛けがあって驚きましたよ。こんな小さな建物の地下に、大きな洋服工場があるなんて・・・」
セバスは、さっきまでおばあさんだった美少女に、工場内を案内してもらっていた。
「こちらの工場では、魔法の効果のある服をほとんど自動で作っています。ただ自動でも、私だけでは手が足りないので、自動人形(オートマトン)を自分で企画、製作をして、手伝ってもらっています」
工場内には、理由は分からないが仮装した少女型が多くいて、ウサギやクマなどをモチーフにした、可愛らしいメイドの格好をした数十体の自動人形(オートマトン)がせっせと働いていた。
「私はこの自動人形達(オートマトン)が大好きで、家族だと思っています。人間の友達や仲間にはずっと会っていませんが、寂しくはないです。私は今が一番幸せです!」
工場の事をぺらぺらと流暢に話す彼女は、本当に先程の不幸そうなおばあさんだったのかと思うぐらい、幸せそうにキラキラと顔が輝いていた。
「ひとつ質問なのですが、洋服を売るのはやめたと仰っていましたよね。しかし、こんな大きな工場があるという事は、今はどなたと取引をしているのでしょうか?実は私も、あなたが作った服が欲しくなりました。もし差し支えなければ、どこで手に入るか教えて頂けませんか?」
自動人形(オートマトン)よりも、気になるのは服工場の機械なので、セバスは熱心に見ていた。
(アンデッド以外にも、ツアレにも着用させて安全を更に、確保したいですね)
________喉から手が出るほど欲しい場合は、こちらの欲しい焦りを見せないほうが良い、むしろ欲しくないような態度で_______
(前にアインズ様が取引の時はそうした方が良いと教えてくださいましたが、ツアレにもと思ったら、焦ってすぐ聞いてしまいました・・・私は甘いですかね、アインズ様)
セバスがツアレの為にあれやこれやと考えているとき、少女も悩んでいた。
「うーん、さすがの旦那様でも教えたくないな~、でもこの工場を見せたのはすごい久しぶりで楽しかったし・・・」
工場の中を行ったり来たり落ち着かない様子だった。
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楽しい時間
ぐるぐるとずっと悩む少女の様子を見たセバスは、助け舟を出した。
「ここはあなたにとっては、よほど大切な場所なのですね。では私の素性を明かしますので、それからゆっくり取引をするか考えては頂けませんか?」
今の少女には重大な決断を下せる余裕はなかった。
また人間に暴言や脅迫を受けたように、また迫害されたらどうしよう。
自動人形達が奪われるのではないか?
昔を思い出して、考え込む。
セバスは左胸に手を当てて深々とお辞儀をした後に、ゆっくりと話し始めた。
「では、私から自己紹介を致します。私は代々続く貴族のソリュシャン様に仕えております、セバスチャンと申します。セバスと呼んで頂いて結構です。そして、自己紹介が遅くなってしまい申し訳ありませんでした」
セバスチャンは、自己紹介が終わった後再度、深々とお辞儀をした。
「セバスチャン様、自己紹介ありがとうございます。私の名前はメイティと申します。裁縫と魔法が得意です。よろしくお願い致します。」
メイティはお辞儀が久しぶりなのか、ぎこちなくお辞儀をした。
「あの・・セバス様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「もちろん、どうぞ。セバスとお呼びください。」
セバスはにっこりと微笑んで答える。
「実はまだ、頭の中がまとまらなくて・・取引するかどうかは決められないので、2、3枚プレゼントするのでセバス様、今回はお試し期間ということでお願い出来ませんか?」
両手のこぶしをギュッと握ってメイティが話す
「もちろん。お試し期間を頂けるなんて、こちらとしても服の効果が試せるので嬉しいです。ありがとうございます」
セバスは、ツアレ用に回復魔法の効果アップと即死無効化率アップの服をそれぞれ選び、最後の一枚はアンデット用に光魔法耐性アップを選んだ。
やっとセバスはナザリック地下大墳墓に帰ることに・・・
________本日は長々と失礼致しました。そして服のプレゼントありがとうございます。」
玄関でセバスは一礼をした。
「いえいえ!私の方こそ、当初は荷物を運んでもらうだけだったのに、突然に秘密暴露したり、プレゼントしたりと長い時間、引き留めて申し訳ありませんでした」
もはや残像が見えるんじゃないかぐらいの速さで、ペコペコとメイティは謝る。
「____人助けはやっぱりするべきことですね。こんな素晴らしい服に出会えるなんて・・・」
プレゼントされたセーターを見ながら、しみじみとセバスは喜んだ。
(今日は、人助けが迷惑になってしまうと思う出来事ばかりで大変でしたが、良かった、良かった)
メイティとは服の感想を伝えるため、また会う約束をした。
メイティは家の外に出て、セバスの姿が見えなくなるまで大きく手を振っていた。
「ありがとうーーー!また会いましょうーーー!!」
セバスはメイティから見えなくなるところまで歩き、それからはゲートの魔法を使用して、ナザリック地下大墳墓に帰った。
メイティは久しぶりに、人と会って話す楽しさと、別れる寂しさを体感した。
(ああ~こんなに雑談を話したのは久しぶりだったな~。また会いたいな~。久しぶりに、おばあさんに変身しないで街に出掛けてみようかなあ・・・)
___とある場所に住んでいた、おばあさん(美少女)の人間嫌いがちょびっと治った。
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帰ってきたセバス
セバスは、ナザリック地下大墳墓にやっと帰ってきた。
(昼間に帰ってきてツアレの様子を確認しようと思っていたのですが、夕方になってしまいましたね・・・)
持って帰ってきた服をいち早くツアレに見せてみたいが、そこはぐっと堪えてアインズ様に見せることにした。
(まずはアインズ様に報告しないと・・・アインズ様はなんと仰るのでしょうか・・至高の御方は、もうこの服の存在をご存じかもしれませんが・・・)
「メッセージ。・・・アインズ様、只今報告してもよろしいでしょうか?」
「ふんふん~ふ~ん~♪・・・・はっ!んっん~ん!大丈夫だ。報告せよ。」
(いや~久々にお風呂入って、つい気持ちよくて鼻歌歌ってたよ~!やばい!!気づかれたかな・・汗)
お風呂に入っている最中のアインズはすごく慌てるが
しかし、感情抑制化のスキルで落ち着きを取り戻した。
「は、本日休みを頂きましたが、その際に面白いアイテムを発見致しましたので、アインズ様に確認して頂くお時間を頂戴したいと考えております」
「うむ、それはナザリック地下大墳墓に利益を与えるものだな?」
「もちろんでございます。アインズ様」
____玉座の間でセバスは跪く。
「アインズ様、本日は休日を頂きありがとうございました。魔法効果が織り込まれた特殊な服を入手致しましたので、アインズ様に見て頂けるとは嬉しい限りでございます」
「うむ、休みなのにナザリック地下大墳墓の為に動いているセバスはさすがだな。褒美を取らそう、何かあるか?」
玉座からゆっくりとアインズは立ち上がる。
「いえ、とんでもございません。お休みを頂けたこと、褒めて頂けた事が何よりの褒美でございます」
「そうか、分かった。また休みの時の為に、褒美は残しておこう」
「アインズ様、ありがとうございます。さすが至高の御方でございます」
セバスはずっと跪いて答えていた。
____一方その頃、ツアレは・・・
「セバス様が全然帰ってこない・・・あたしのせいで怒らせちゃったのかも」
とまたベッドの上で、ごろごろと転がりながら悩んでいた。
「まあまあ、ツアレ。そんなことはないワン。セバス様ならきっとツアレの為に買い出しに行ってるはずです・・・ワン!」
色々と仕事のあるはずのペストーニャが、ずっとツアレに付き添っていたらしい・・・
「ペストーニャさん、お仕事戻らなくて良いのですか?私の事は気にせず戻って頂いても構いませんよ?」
大きなハート形のクッションを抱えたツアレが心配そうに尋ねる。
「良いのよ、ツアレ。たまには息抜きも必要なのよ・・ワン。他のメイド達に仕事はお願いしてきましたから・・・あ、ワン」
ツアレの部屋で紅茶を飲み、リラックスするペストーニャ。
「・・・恋って色々考えちゃって大変よね、私にも分かるわよ・・ワン」
本当にペストーニャが恋をしたことがあるのか、定かではない。
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帰ってきたらまずはアインズ様に説明を
アインズはセバスチャンから、魔法効果のある服の説明を受けていた。
「ふむ、これは着るだけで効果があるんだな?」
「そうでございます。こちらの服は、着用した者の肌に触れることによって発動するとのことです」
アインズは服の袖に自身の骨の腕を通してみたが、いまいち効果が実感できない
「完全に着用しないと、効果は発動しないのか?または、私のようなアンデッドや皮膚が無いものには効果がないのか?・・・どうなんだ、セバス?」
「はい、アインズ様。服を制作した者によりますと、「人間が使用することを目的としている」という事なので、まだアンデッドやモンスターに効くかの実験はしていないようでした。アインズ様の質問に対して、具体的にお答えできず申し訳ありません」
セバスは立ち上がり、深々と謝罪した。
「気にするな、セバス。分からないことは誰にでもあることだ。これから実験をしていけば良い。」
アインズはまた新しい実験が出来る事を喜んでいた。
「実験をするなら、デミウルゴスを呼ぶか。」
アインズはデミウルゴスに通信した。
「はい、何でございましょう。アインズ様。」
「デミウルゴス、新しい実験を頼みたい。あるアイテムの効果の調査だ」
「かしこまりました。只今外で調査をしておりますので終わり次第、ナザリック地下大墳墓にに帰還いたします」
アインズはデミウルゴスとの通信を切り、セバスに伝える。
「では、この服の調達はセバスに任せる。服の効果を試す実験は、デミウルゴスに任せるが良いな?何か異論はあるか?」
「いえ、ございません。しかし、お願いがございます。」
「ん?なんだ、セバス?言ってみたまえ。」
「今回持ち帰った三枚の服のうち、一枚か二枚をツアレに着用させてみたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ふむ、そうだな・・・デミウルゴスにも実験の準備や欲しい効果の服のリストをまとめる時間も必要だろうから、先にセバスに渡しても問題はないだろう・・・好きな服を二枚選べ。」
「アインズ様ありがとうございます」
セバスは、回復力アップと即死無効化率アップの服を選んだ。
「残るはこの一枚だな、セバス、最後の一枚の効果は何だ?」
「こちらは、光魔法の軽減効果があるようです」
「さすがだ、セバス。服の選択のセンスが良いな。」
「ありがとうございます」
(なんとかツアレ用のプレゼントは確保しました・・・)
____セバスがデミウルゴスが帰ってくる前に立ち去りたいので、アインズに挨拶をして離れようとしたら_____
・・・・タイミング悪くデミウルゴスが帰ってきた。
「お待たせして申し訳ありませんでした、アインズ様。どのアイテムを実験すればよろしいのでしょうか?お見せ願えますか?」
デミウルゴスは、セバスがいた事もありニヤニヤしていた。
「これだ、デミウルゴス。このごく普通の服に、魔法の効果が付与されているらしい。着用するだけで魔法効果が発動するらしいが、私が袖を通しただけでは発動しなかった。」
アインズがデミウルゴスに服を渡す。
「人間が着るセーターというものですね。触った感じは私も何も感じませんが、実験用に何人か人間を確保してありますので、さっそく実験に使ってみます。アインズ様、ありがとうございます。」
デミウルゴスは一礼をして下がる。
そのやり取りを見ていたセバスは、もう一度挨拶をして玉座の間を後にしようとするとデミウルゴスに話しかけられた。
「おや、セバス。その手に持っているセーターは誰かにプレゼントをするのかな?いったい誰だろうね・・・まさかあの下等生物にあげるのかな?」
にやにやした表情で、セバスをからかう。
「そうですが、何か問題がありますか?人間に着用させて、何か結果が出たら報告しますよ。それで宜しいですよね。」
セバスは冷たい態度で答えた。
「おお、怖い、怖い。セバス、そんなに怒らなくても良いじゃないか。とりあえず報告楽しみにしてるよ」
ツアレの事で、セバスをからかうのが楽しくなってきたデミウルゴスは、わざとらしく話した。
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ツアレにプレゼント
デミウルゴスに冷やかされてとても言い返したかったが、ぐっと堪えて自分の部屋に戻るセバス。
「今日は何だか疲れました・・・」
セバスチャンは、基本的に疲れないアイテムを装備しているため疲れないはずなのだが、初めてのタイプの人間との出会いばかりで、気分的に疲れたようだった。
そして、一日中同じジャケットを着用していたので、着替えることにした。
(別にツアレに会うからという訳では、無いのですが・・・)
セバスが着用しているジャケットは、人間の街中でセバスがもし、ジャケットを脱いだのなら、女性は飛びついてしまうだろうと思えるほどの渋いデザインのジャケットである。
そして、上下を着替えた。
「服は後で、ペストーニャに渡して洗ってもらいましょうか・・・」
着替えが終わったセバスは、ツアレの部屋に向かう。
ツアレの部屋の前に着くと、セバスは深呼吸をしてからドアを優しくノックする。
「ツアレ、いますか?遅くに申し訳ありませんが話があります。」
しかし、ツアレの部屋からは返答はない。
もう一度ノックする。
「こんばんは、ツアレ。話したいことが・・・もしかしてもう寝てしまいましたか?」
ツアレの部屋からはやはり、返答は無かった。
セバスは、何度もノックをするのは悪いと思い、帰ろうとすると・・・
お風呂から出てきた為、シャンプーの良い香りがする2人が、セバスに向かって歩いてきた。
「あら、セバス様だワン。どうしたのかしら・・・ワン」
頭にタオルを巻いているペストーニャ
「あ、セバス様だ!こんばんは!私に何か御用でしょうか?」
ツアレは目をキランと輝かせて、セバスに話しかけた。
セバスは2人を見て、普段見ない風呂上がりの姿のツアレにドキッとした(無自覚)
2人の服装はペストーニャのコーディネートである。
・ツアレは淡いピンクの花柄のワンピースを着用している(とても可愛い)
・ペストーニャは、まさに風呂上がりにぴったりなタオル生地のワンピースを着用していた(もちろん犬柄である)
セバスは、2人に挨拶をする。
「こんばんは。ペストーニャ、ツアレ。とても良い夜ですね」
優しく微笑むセバスは質問をする。
「お二人はとてもリラックスしているように見えますが、どこかで休養されていたのですか?」
セバスは、二人からほのかなフローラルの匂いがしたのと、ツアレが見たこともない可愛いワンピースを着用しているのが気になった。
「そーなんです!!セバス様!!ペストーニャ様がとても素敵なスパという入浴施設を紹介してくださったのです!!!」
ツアレはとても興奮したように話す。
「まあ、ツアレ。そんなに喜んでもらえたのなら連れてきて良かったワン!」
ペストーニャは笑顔で、ツアレの両手を握って喜んだ。
セバスはそんな2人を微笑ましく見て、提案をした。
「そんな素敵な休日を過ごせたのなら良かったです。ツアレ、体が冷えてしまうといけませんから部屋でゆっくりとされたらどうでしょうか?」
「そうだワン!ツアレ、スパの話はまたゆっくり話しましょう・・ワン!私はこれで失礼するワン。ツアレ、セバス様、おやすみなさいワン」
ペストーニャは、眠そうに帰って行った。
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もう少しお話しませんか?
ペストーニャが帰ると、セバスはツアレに話しかける。
「ツアレ、私がここに来たのはお話があったからなのですが、もう夜も遅いですし次回にしますね」
帰ろうとするセバスの手をツアレは掴んだ。
「・・・大丈夫です。私はまだ眠くありません。少しぐらいならお話を聞いても良いですよ?」
珍しくツアレはセバスを引き止めた。
普段なら言う通りにするのだが、今日はスパでエステも受けた為、勇気が出てきたようだった。
「そうですか、ツアレ。では少しの間で良いのでお話を聞いて頂けますか?」
セバスはツアレの手を握り返して答えた。
「は、はい、セバス様・・なんなりと・・」
そして、二人はツアレの部屋に入った。
「セ、セバス様、こちらの椅子をお使いください。あ、でも座りずらかったら好きなところへ座って頂いても構いませんので、私の事はお気遣いなく!!!」
ツアレは緊張し過ぎて、敬語と配慮がぐちゃぐちゃになってしまった。
「では、こちらの椅子に座りましょうか。」
セバスは最初にツアレが勧めた椅子に座った。
ツアレもそそくさとセバスの近くにある椅子に座る。
_____しかし座ったものの、ツアレは次に何を話せばいいか分からない。
(こういう時って、招いた側が何か話すんだっけ?ええっと・・・別にそういう訳で招いたわけじゃないんだし・・・)
椅子に座ったツアレはずっともじもじ、そわそわ落ち着かなかった。
セバスがそんな落ち着かない様子のツアレを見て、安心させようとを話す。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ、ツアレ。仕事の話ではありません。ちょっとした雑談だと思ってください」
「・・!そ、そうですよね!雑談ですよね、雑談!・・・ふう~」
何かを期待していた、何かを心配していたツアレは安堵と落胆が入り混じった溜息を深く吐いた。
そして、ちょっとホッとしたツアレは、自分でセバスを引き留めたのにもかかわらず、気持ちが落ち着いてきたら、激しい恥ずかしさと後悔の念が押し寄せてきた。
(うわ~!恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!恥ずかしい!失敗した!失敗した!失敗した!こんなに恥ずかしくなるのなら引き留めなきゃよかった~!でもここまできたらセバス様の話を聞こう!うん!)
ツアレがこんなに恥ずかしい気持ちと、後悔の念に襲われているとは気づかないセバスは、顔が会ったときよりも赤くなり、両手で顔をぐーっと覆い始めたツアレの体調の心配をした。
「先ほどより顔が赤いようですが、大丈夫でしょうか?ツアレ?」
「だ、だ、大丈夫です!セバス様の話を聴かせてください・・・」
声が徐々に小さくなりながらも、話題を変えた。
「ツアレが大丈夫というなら、さっそく本題に入りましょうか?実は本日、ツアレの為の服を買ってきました。」
「え?私の為に服を???どうして?」
自分の予想とはかけ離れている話題できょとんとするツアレ。
「今日はお互いにお休みをアインズ様より頂きましたが、ツアレと街に出掛ける用事がなくなってしまったので、せっかくのお休みですし、とりあえず町に出掛けたのですよ」
にこっと微笑むセバス。
ツアレはペストーニャとスパのおかげで、楽しい休日を過ごしたと思っていたが、自分のせいでセバスとお買い物に行く話を潰してしまったのを思い出した。
「今朝は申し訳ありませんでした、セバス様。私が臆病なせいで外に出られなくて、せっかくのお誘いを断ってしまって。」
椅子から立ち上がり、深く腰を曲げて謝罪するツアレ。
セバスはツアレの肩に優しく触れる。
「大丈夫ですよ、お互いに外出が出来そうな時にお誘いしますから。そして、私が話したいことは今朝の話よりも、この服の事です。」
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この服はすごいのですよ、ツアレ
セバスから手渡された服は、ツアレの知っている服の中の一つであるセーターのようだった。
「セバス様、ありがとうございます!嬉しいです!夢みたいです!」
嬉しくてしょうがないツアレは、セーターをぎゅっと抱きしめた。
「このセーターはとても触り心地が良いですね!何の毛なんでしょうか?」
まさかこの服が魔法で出来ていると思わない。
「実は、この服は魔法で作られているのですよ♪びっくりしましたか?」
セバスにしては珍しくおちゃらけて話した。
「え!!魔法で服って作れるんですか!?すごいです・・・だからこんなに良い手触りなのかな・・・?魔法ってすごい・・・」
驚くツアレはまじまじとセーターを見つめた。
セバスはこの服には補助魔法がかかっていることなど、服の効果について説明は、あえてしなかった。
ツアレに服の効果を伝えてしまうと、もし喜んだツアレが服の効果を周りに話していつか噂になったときに、「珍しい服の所有者」として悪意ある人物に狙われてしまうのを防ぐためだ。
効果の説明を隠して、服の説明した後セバスはきゅっと胸が締め付けられる感じがしたので、自分の手を自分の胸に当ててみた。
(隠し事ってこんなに胸が締め付けられるものでしたか・・?)
セバスは最近、どんどん自分が精神的に弱くなったりしているのではないか?と心配になるぐらい、ツアレに関することになると安定さを欠くようになった。
しかし、この違和感をまだ認めたくない気持ちもあった。
一方その頃ツアレは、説明するセバスを見て内心かっこいいと思っていた。
(セバス様って、やっぱりかっこいい・・・)
以前、私が街の中で捨てられた時に現れたセバス様、
その後、お腹の空いた自分にご飯を持ってきてくれたセバス様、
アインズ様に事情を説明して私を生かしてくれたセバス様、
悪人に攫われたときに戦ってくれたセバス様、
どの姿もとても素敵で優しくて、かっこよかった。
そして、こうやって雑談しているときのセバス様も凛としていてかっこいい。
お互いがお互いのことを想って、自分の世界に入っていた。
でも二人は、お互いのことを想いあっている事には気づかない。
そして、先にセバスが現実に戻ってきた。
「ツアレ、なかなかこうしてお話をしていると楽しくて、あっという間に時間は過ぎてしまうものですね。お互い明日もあることですし、そろそろ私は退散いたします。」
さっと椅子から立ち上がり一礼をする。
「そうですね、セバス様。本日は服のプレゼントありがとうございました。嬉しかったです」
ツアレは名残惜しかったが、うとうとし始めていたので寝る事を優先することにした。(今までのセバス様の事を思い出していたら、安心して眠くなってきたわ・・・)
部屋のドア付近に二人は移動し、おやすみの挨拶をする。
「セバス様、おやすみなさい」
「ツアレもおやすみなさい」
セバスが帰るとツアレは部屋の中のドアにもたれかかり、しゃがんだ。
(またセバス様の袖を引っ張ろうかと思ったけど、そこまで長い時間引き留めるのは相手に迷惑だし、嫌われてしまうだろうし、自分の心臓がもたないと思ってやめたんだけど、今日の私はなんだか行動力があり過ぎて、何だか変だったなあ・・・)
ツアレ自身なんで今日はこんなに行動力があったのか分からない!と今日一日を振り返ってみたが、やっぱり分からないので眠ることにした。
ベッドに横たわると、緊張が解けたためか自然と深い眠りに吸い込まれていった。
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お話しましょ
セバスとツアレが二人が部屋でお話をしているころ、ペストーニャはというと・・・・
一人、部屋で本を読んでいた。
「この本の通りに二人はうまくいくのかしら?」
偶然ペストーニャは、ナザリック地下大墳墓第十階層の最古図書館アッシュールバニパルで変な薄い本を見つけたのだった。
______普段ペストーニャは、至高の四十一人の方々が集めた本なら何でも読むのだが、最近は「恋愛」というジャンルがマイブームでそれに関する本をよく読んでいた。
そろそろ恋愛小説も定番になりつつあり、もっとなんかこう刺激的な恋愛の本が読みたいと思っていた。
しかし、刺激的な話となると人間が同性同士で・・・となるので、
「そうじゃない!私は男女の話が読みたいワン!!」と遠吠えがしたくなる気持ちを抑えて探していた時だった。
「うーん、この辺はだいたい読んだわね~ワン。」と前に読んだ本を何となく取り出すと、ぱさっと何かが落ちた。
「ん?これは?何だワン?ほかの本より薄いワン・・・」
拾い上げて見てみるとその本の表紙には、犬耳メイドと渋くて高貴な貴族と思われる男性が抱き合っているカラーイラストが描かれていた。
それを初めて見たペストーニャは、自身に稲妻が落ちたような感覚を受けた。
「こ、こんなに素晴らしいイラストは初めてだワン・・・これこそ私の探していた本だワン・・」
ペストーニャは、感動のあまり手が震えた。そして、この世界に神様がいるのか分からないが、イラストの神様にお礼が言いたかった。
「ありがとう神様。もうこの本なしでは生きていけないワン・・・」
部屋でゆっくり読むために、借りる対応をして無事部屋に戻る。
「やっと読めるワン。」
読み始めるとその本の話は、低位の犬耳メイドと渋くて高貴な貴族の許されない関係の二人が結ばれるまでの恋愛物語だった。
___ナザリック地下大墳墓の女性なら一度は夢見るアインズ様との恋愛話。
ペストーニャは今までそういう目でアインズ様を見たことがなかったが、借りてきた本を読み始めると、アルベド様やシャルティア様が、至高の御方に対して盛り上がって話しているのが少し分かったような気がした。
「いいな~私もそんな感じな事してみたいワン!でもこの話は、セバスとツアレにも見えるワン・・みんな楽しそうでいいな~ワン」
やっぱり、セバスとツアレがくっついてほしいと思うペストーニャだった。
「次はスパにセバス様も呼べないかしら・・・ワン」
そして、ツアレは自室から出て、食堂へ向かうため廊下を歩く。
今では普通に廊下を歩いているが、仮メイド就任当初は周りのモンスター達から「人間臭い!離れろ!」「旨そうな人間だな~」「何故人間ごときが、ここで働いてるのか?」
などと、すれ違いざまに言われたりして、ツアレは居心地は悪かったのだが
それを見ていたセバスから教えてもらった言葉が、今になっても嬉しい思い出だ。
「ツアレ、ナザリック地下大墳墓内の食事を取り続けて、ここでずっと働いていれば皆ツアレの存在に慣れるでしょう・・・。あまり周りの事は心配しなくて大丈夫です。私がいますから安心して働いてくださいね」
さすが!セバス様!!と今でも廊下を歩く際に時々、思い出しては顔がニヤニヤしてしまう。
「もう一度そんな言葉をセバス様の口から聞きたいです・・・」
今日は初めての食堂での朝食という事もあってか、思い出が鮮明に浮かび上がった為、ついポロっと口に出してしまった。
「ツアレ、何を私の口から聞きたいのですか?分からない事でもありましたか?」と優しくて渋い声が背後から聞こえた。
「そうですね~やはり褒め言ばばばばばっ・・・・・!?」
ツアレは最後が言葉にならないほど驚き、がばっと後ろを振り向いた。
昨日はとても良い休日を過ごしたツアレは、
幸せな気持ちですやすやと深い睡眠の中にいた。
(セバス様、かっこいい・・優しい・・・むにゃむや・・・)
そして、朝になり起きるのがもったいないぐらい毛布の中は心地良いのだが、また今日もセバス様とお話がしたい為、毛布に後ろ髪引かれる思いだったが、直接セバスと話せる現実を選んだ。
「よし!今日も仕事頑張るぞ~!!」
両手を大きく天井へ向かって伸ばした。
朝はまず顔を洗い、歯を磨く。
そうすると気持ちが切り替えられるのだ。
その後は、メイド服に着替える。
初めてメイド服を着用した際は、ひらひらフリルやスカートが動きづらいな~と思っていたのだが、慣れるとそうでもなかった。むしろスカートの方が動きやすいのではないか?と思うぐらい体に馴染んだ。
そして、身だしなみを全体的に整えて、完了!
髪型にもこだわりたいな~と最近思っているのだが、なかなか良い髪形が思いつかない。
先輩のプレアデスのような素敵な髪形になりたいな~と思ってはいるのだが、あの美人の顔を見てしまうと自分には似合わないんだろうな~というのが正直な気持ちだ。
そして、今まで朝食はペストーニャさんやセバス様と自室で食べたり、セバスの執務室で食べたりと、慣れるまでは他のメイド達とは個別に食べていた。
そして先日セバスから、ツアレは環境に慣れてきたという事もあり、休日が明けたら他のメイド達と一緒に朝ご飯を取るようにとの伝達があった。
その為、今日が初めての他のメイド達との一緒の朝ご飯だった。
「緊張するけれど、親睦を深めるには良い機会だし!」
そして、頬を軽くたたいて気合を入れた。
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食堂に行きたい
「セバス様!?今日から朝ご飯はご一緒ではないはずでしたが、どうしてこちらへ?」
ツアレは驚き過ぎて、話しながら手がわちゃわちゃと動いていた。
「今日はツアレの初めての食堂での食事の為、道に迷っていないか心配で様子を見に来ました。ご迷惑でしたでしょうか?」
少し困り顔を見せるセバス。
「いやいやセバス様、そういう訳ではありませんが、後ろから突然セバス様の声がして驚きました!」
目を大きく開いて、お気に入りの人に会えた喜びを表すツアレ。
「そうでしたか。驚かせてしまってすみませんでした。そして聞きたいことはなんでしょうか?」
セバスはどうしてもさっきのツアレの言葉の意味が知りたいらしく、もう一回尋ねてきたのだった。
「いや、えっと・・・その・・・何というか・・・んんん~」
独り言のつもりで話したことなので、人に話すのはとても恥ずかしかった。そして尚更、本人に伝えるなんてもってのほかだった。
「ツアレ、何でも言ってください。何を言われても怒りませんから・・・早く言わないと朝食の時間に遅れますよ・・・?」
セバスが心配そうに、恥ずかしそうにもぞもぞとしているツアレの顔を覗き込む。
「えっと・・その・・・働き初めにセバス様に言って頂いた励ましや褒め言葉を・・・その・・・また言って頂きたいな・・・って・・・独り言を・・・」
恥ずかしさの中、ツアレはぼそぼそっと話した。
「ふむ、ツアレは褒めて欲しいのですか?私は人が何もしていない時に、褒める事は難しいので、次回ツアレが仕事で成果を出したら褒めましょう。それで大丈夫でしょうか?」
真面目にセバスが答えて、ツアレは表面上は喜びつつも、内心少し落ち込む。
(そうだよね・・・何もしていないのに褒めてっていう方がおかしいよね・・・・当たり前の答えが返ってきて、落ち込む私は何を言っているんだか・・・)
そして、ツアレはふと時間を確認すると、もう朝食の時間が始まっていることに気づく。
「セバス様、お忙しい中お話を聞いて頂きありがとうございました。私は食堂に向かいますのでこれにて失礼致します」
と、セバスにお辞儀をした。
ツアレがこの場から離れようとしたら、セバスがもう一度話しかけてきた。
「ツアレ一人で食堂に行けそうですか?私も久しぶりに食堂で朝ご飯でも食べようと思っているのですが、ご一緒してもよろしいでしょうか?」
セバスがツアレに尋ねる。
「もちろん構いませんが・・どうして?」
てっきりセバスは執務室に戻るものとばかり思っていたので、とっさに付いてくる理由を聞いてしまった。
「初めての食堂に行っても心細いでしょうし、もう一度プレアデス達にツアレをご紹介したいと思ってまして・・・」
そして、セバスが食堂に付いてくることになった。
(ちょうど一人で心細かったから嬉しいけど、目立つなあ・・・はあ・・)
一人で食堂に行かなきゃいけないと思っていたので、ずっと食堂に行く日までドキドキして睡眠不足が続いていたのに
今朝のセバスの言葉のせいで、少し気持ちがモヤっとしたツアレ。
(付いてくるなら早めに言ってください~!!何のために睡眠不足になったのか・・。睡眠不足損だわ・・・)
(でもセバス様に付いてきてもらった方が何かときっかけが作りやすいと思うし、明日こそ一人のはずだし・・・予行練習だと思おう~~~!!)
今までにいろいろあったせいか、気持ちの切り替えが前から早くなったツアレはこの現象を前向きに捉えることにした。
そして、ツアレはセバス様と一緒に食堂に向かって歩いていると、廊下で様々なモンスターや人造人間(ホムンクルス)のメイド達に声を掛けられる。
ツアレはホムンクルスのメイド達の名前がまだ分からないので、メイド達の話はABCで聞き分けることにした。
メイドA「あっ!セバス様!本日は珍しく食堂でお食事ですか?」
メイドB「セバス様、本日は食堂で朝ご飯ですか?何かあったのですか?」
メイドC「おはようございます!!!セバス様が食堂に!!珍しいですね!!朝ご飯ご一緒してもよろしいですか!?」
そしてセバスはメイドAの言葉に返答した。
「おはようございます、シクスス。本日も良い朝ですね。本日はある用があって食堂でご飯を食べることにしました」
ツアレ(可愛い方だ・・シクススさんって言うんだ。覚えておこう・・・)
続いてセバスは、メイドBに声を掛ける。
「リュミエール、おはようございます。昨日はよく眠れましたか?本日は特に食堂では問題は起こっていないので安心してください」
ツアレ(ふむふむ、清楚で素敵なリュミエールさんね。言いづらいから、名前呼ぶとき噛まないようにしなくちゃね・・・)
最後にメイドCと挨拶。
「おはようございます。本日も元気いっぱいで嬉しいですよ、フォアイル。是非ともご一緒したいのですが、本日はツアレと食べる約束をしていますので明日でもよろしいでしょうか?」
ツアレ(フォアイルさんって元気いっぱいな人だな~あの明るさ、積極性・・・見習いたい・・・)
そして、ツアレはこの後数人のメイド達と出会ったが、多くて名前が覚えられなかった。
(41人はまださすがに覚えられない・・・)
セバスとツアレは一礼をしてメイド達から離れて、食堂の搬入口の近くに複数のモンスター達が食材の搬入をしていた。
モンスターA「セバスサマ、アサゴハンクルノハヤイネ」
モンスターB「ナゼニンゲンショクドウ?アア、セバスサマガイルカラカ?」
などなど・・・
セバスはモンスター達にも挨拶をして、食堂の入り口へ向かっていった。
ツアレはモンスター達の名前を覚える事は後回しにした。
(今日は先輩メイドの名前を覚えるだけで精いっぱい・・・モンスターさん達ごめんなさい・・次回覚えます・・・・)
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ツアレの言葉って私は好きですよ。
色々な人と挨拶をして、初めて会う人ばかりでドキドキしたツアレ。
(朝から色々あり過ぎだよ~・・・)
ただ食堂で朝ご飯を食べるだけだったはずなのに、こんなに色々な人に会っちゃった~・・・
プレアデスの方々と会うのが今日の一大イベントだったはずなのに、セバス様やら知らないメイドの方々、モンスター・・・
沢山の挨拶をして、ふとツアレはこんなに沢山の方々と仕事をうまくやっていけるのか心配になった。
最初はセバス様と一緒に居られたらそれで良かった。
だから、どんな場所でもいい・・・地獄でも天国でも、あの苦しみの場所から離れられるならばと・・・・ここで働くことを希望した。
あの頃はどうせ死んでしまうんだし、どうせ死ぬなら本当の事を言おう。
死ぬのなら思いっきり、自分の好きに生きよう!
などと、セバス様にお願いをしたり、アインズ様に会ったりと何でも出来た。
しかし、今となっては心が以前より落ち着いた為か、新しいことに出会うと怖くなってしまう自分がいる。
今より悪くなってしまうんじゃないか、うまく出来るだろうか?と。
またぐるぐる思考になってしまったツアレ。
考えてもしょうがないんだけれど、新しい人に会うといつも考え込んでしまう。
(この性格、直したいなあ・・・)
_______「・・・・本日は・・をして・・・ツアレ聞いていますか?」
ツアレが気づかないうちに、セバスは今日の仕事の予定を話していた。
「あ、ああ!申し訳ございません・・・聞いていませんでした・・・」
ツアレは自分の考えすぎのせいで、人の話を聞いていなかったことを悔やんだ。
「ごほん、ではツアレ、もう一度言いますのでよく聞いてくださいね。」
セバスは特にツアレを責める事もなく、話を進めた。
(セバス様・・・優しい・・・昔はよく責められたなあ・・・)
「本日は食堂で食事のあと、まだツアレが行ったことのないメイド達の休憩室に行きます。そこでシフト表という勤務表を確認に行きます。
今までは私から、本日の仕事の内容をツアレにお伝えしていましたが、これからは他のメイド達と同じように各自で確認して頂きます。
その後は、これから掃除をする場所が増えるので「エクレア」という執事助手に挨拶しに行きます」
セバスは長い話をしてしまったので、ツアレに確認を投げかけた。
「・・・・ツアレ?・・・・・一気にズラッとお伝えしましたが、大丈夫でしたか?」
セバスはツアレを見た。
「はい!セバス様、大丈夫です!食堂の次はメイドの休憩室ですね・・・ワクワクドキドキ・・・・楽しみだなあ・・・」
ツアレは話を理解したようで、自分の心境を述べた。
「・・・?ツアレのその表現、素敵ですね」
セバスはツアレがよく擬音などで心境を伝えてくることが、最近ひそかに気になっていた。
(ナザリックの方々は実に言葉が達者で話しやすいのですが、ツアレのような「なんとなく」の気持ちを言葉にする方はあまりいらっしゃらないので、新鮮ですね)
ツアレはあまり大したことを話したつもりはないので、何に対して褒められたのかいまいちピンとこなかった。
(なんだろう・・ワクワク?ドキドキ?セバス様が褒める言葉って???)
「・・・??? す、素敵って何でしょうか???」
自分で発した言葉なのに、褒められた意味が分からないなんて・・・と自分の鈍くささに気を取られつつも、セバスに尋ねてみた。
セバスはツアレの方をじいっと見て、「ワクワクドキドキですね、ツアレ」と言って微笑んだ。
それを間近で見たツアレは、初めて見るセバスの可愛い言葉に、まさに心がドキドキした。そして、ドキドキして何も表面上は反応が出来なかった。
(か、か、か、かわいいっっ!!ロマンスグレーなおじさまかわいい!!)
(かわいいいいいいいいい!!脳内で柱とか壁とか可愛すぎて殴りたい!むしろ今殴ってるな!!)
ツアレの頭の中はフィーバーした(たぶん生まれて初めてかもしれない)
そんなにツアレの頭の中がフィーバーをしていることを知らないセバスは、ツアレの反応が何もなくてシュンとしていた。
「こんな老輩の私が、ワクワクドキドキなんて引きますよね・・・」
ツアレは子犬のようにシュンとしたセバスにもキュンとしてしまって、声が出なかった。(キュンとし過ぎると声が出ないっっ・・・)
(ああ、可愛いわ・・・二人共・・・もっとイチャイチャしてくれないかしら・・・)
ペストーニャがこっそり柱の陰で、可愛い無自覚の二人を見て、萌えていた。
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楽しい楽しい朝ごはん
セバスとツアレが食堂に入ると、そこには沢山のメイドやモンスターなどがいた。
「現在食堂は、リニューアル工事を行っていて本当の大きさではないのですが、かなり広いでしょう?ツアレ?」
セバスが自慢げにツアレに話す。
「ええ、以前行ったスパも大きかったのですが、食堂もこんなに広いとは・・・驚きです・・!」
ツアレは驚きで声が出ないあまりか、何を食べようかで頭がいっぱいの様だった。
「ここは人間の言い方だと、ビュッフェスタイルに近いですね。自分の好きな食べたいものを選び注文して、受け取ります。大盛りが食べたい方は大皿から自分の好きな量だけ持って行って良いのですよ」
セバスが補足説明をした。
「じゃ、じゃあ~私は食べた事のないものを、端から端まで食べたいです!」
ツアレは食べる気満々で、食堂の列に並ぼうとした。
すると、セバスが引き留めた。
「ちょっとお待ちください、ツアレ。注文する前に知っておいて欲しい事があります。
ここの食堂には残飯を処理してくれるありがたいモンスターがいるので、食べられない分は残しても大丈夫なのですが、
明らかに食べられない量を取り、ほとんど残すことを続けると怖いお仕置きがあると、アインズ様が仰っておりましたので、その点は注意して下さいね?ツアレ」
「はい!食べられない量は取らないように気をつけます!」
ツアレにはこのお仕置き話は本当か嘘なのかは分からないが、アインズ様の言う事だからと信じることにした。
(残すとお仕置き?何をされるのかしら・・・気をつけよっと)
そんな話をしていると自分の番が来たようだった。
「へい、いらっしゃい!お嬢ちゃんは初めてだね!何が食べたいのかな?選んでチョーダイ!!」
話しかけてきたのは、見た目はタコのような職人のようなモンスターの食堂店員だった。
「えっと~その~まだ決められなくて・・・悩んでて・・・」
ツアレは番が来たものの、膨大な量のメニューから選べずにいた。
どうしよう・・自分が食べられそうなメニューが分からない・・・と迷っているとセバスが助け舟を出してくれた。
「店員さん、本日の日替わりメニューは何か教えて頂けませんか?」と聞くと店員さんは教えてくれた。
「今日の日替わりは3種類ありますぜ・・・
一つ目はアベリオンシープのベシャメルソースを掛けたステーキどんぶりセット
二つ目は野生のうさぎのタタキと野草スープのセット(玄米付き)
三つめは蛇の煮つけとポーションサラダ・・ですね!いかがしましょうか?」
セバスはツアレにこそこそと「二つ目のうさぎのメニューが良いと思います。蛇やアベリオンシープは玄人向けなので、あんまりおススメしませんね・・」とさりげなくツアレが共食いをしない流れにした。
「・・・・うーん、まだ悩みますが・・・では!セバス様がおススメするうさぎを食べてみようと思います。店員さん、うさぎのメニューをください!お願いします」
ツアレは初めての注文にドキドキしたが、無事注文出来た。
セバスは何とか共食いを避けられてホッとした。
(いつもアベリオンシープなんて日替わりメニューに出ないのに、今日はどうしたんでしょうか・・・?あとで料理長に確認してみますか)
そして、セバスはいつもの洋食のような朝食セットを頼んだ。
その朝食セットの中身は、魔獣の卵のスクランブルエッグとパンとモンスターのベーコンセットだった。
そして、セバスはその時思った。
ああ、そういえば・・・自分がいつも食べている物なら、安全性が分かったのに・・・・ツアレには自分と同じものをすすめれば良かったと、今更になって気づく。
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隣の席よろしいでしょうか?
_______二人共、注文の品物を受け取り、座る席を探した。
セバスは、プレアデスの全員にツアレを改めて紹介したいから、今日は集まって座っているようにと告げたはずだ。
(みなさん、どこに座っておられるんでしょうか・・・?)
セバスとツアレがきょろきょろと見回すと、少し離れたところに一段と賑やかなグループがいるようだった。
「ツアレ、あの賑やかな所にプレアデスがいるかもしれません。近づいてみましょう」
「はい、セバス様」
(ついに対面の時が・・・・ドキドキ・・・)
そして、近づくとやはりプレアデスだった。
「さあ、ツアレこちらに座りましょう・・皆さん、仮メイドのツアレも一緒によろしいでしょうか?」
セバスが確認を取ると、了承が得られたのでツアレとセバスはプレアデスの隣に座った。
そして、二人が着席するとプレアデス全員が、セバスの方を向いて順番に挨拶をし始めた。
ツアレは大体はプレアデスの名前は覚えたが、名前と顔を一致させるために、心の中でそれぞれの感想を述べる。
ユリ・アルファ「おはようございます。セバス様」
(眼鏡が素敵なお姉さまだわ・・・ちょっと厳しそうかな?)
ルプスレギナ・ベータ「こんちわーす!セバス様!」
(この方は褐色の肌に髪型は三つ編み。そして人当たりがとても良さそうで、話しかけてみたいな・・・)
ナーベラル・ガンマ「ルプスレギナ、今は朝でしょ!おはようございますよ!・・・失礼いたしました。セバス様、おはようございます」
(この方は肌が色白で綺麗・・・切れ長の眼も素敵・・ルプスレギナ様と仲が良いのかな?)
シズ・デルタ「・・・・かわいい・・・おはようございます・・・」
(シズ様は可愛らしい雰囲気だけど・・・やっぱり綺麗ね・・・)
ソリュシャン・イプシロン「セバス様、おはようございます。ふふ、美味しそうね・・・」
(いつ見てもソリュシャン様は美人だな~。寒気を感じたけど・・・た、たぶん私のご飯が美味しそうなんだよね・・・)
エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ「セバスさまぁ、おはようございますぅ。お先に朝食を頂いておりましたぁ」
(話し方は幼いのに、エントマ様の声って大人っぽい・・・まるで別人からもらったみたい・・・)
_______私、ツアレは食堂で朝ご飯を食べています。
やっぱりメイドの中に一人セバス様がいるって違和感あるな~と思いつつ、ご飯を食べています。
そして、皆さん楽しそうに話しているのですが・・・なかなか私は話の輪に入れなくて・・・
ツアレがなかなか話の輪に入れなくて、もぞもぞしている中セバスやプレアデス達はいつものように話していた。
セバス「では、プレアデスからプレイアデスにしても問題は起きていませんか?」
ユリ・アルファ「ええ、さすがアインズ様です。プレイアデスに変わっても任務は滞りなく進んでいます」
ルプスレギナ「セバスさまー!!私はそのおかげで楽できてるっすよ~!もう楽で仕方ないっす!」
ユリ「貴方は、もっと計画的に動くことが大事なのよ。気分で動くのではなくて考えて動きなさい」
ナーベラル「そうそう、ユリお姉さまの言う通りよ。人間と遊ぶのが楽しいのかもしれないけど、考えないとね」
ルプスレギナ「ナーベラルまで~そんなこと言うっすか~悲しいっす~」
シズ「今日のご飯は・・・おいしい・・・」
エントマ「ここも美味しいけどぉ、以前の人間もぉ~美味しかったぁ~」
ソリュシャン「そうね~溶かしながら食べる生物が美味しいわね~」
そして、結局本日はツアレよりも珍しく食堂に来たセバスが目立ってしまって、ツアレが話す時間がなくなってしまった。
「ツアレ、申し訳ありませんでした。私ばかりがプレアデスと話してしまって・・・時間配分を間違えました・・・」
「いえいえ、セバス様は悪くありません・・・」
そんな感じでツアレの初めての食堂での食事が終わった。
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セバスの商談と出張
セバスはツアレと共に、ナザリックで製作をした商品の商談の為、異国に来ていた。
「デミウルゴスが作った捕虜用のアイテムを私が営業に行くなんて、気にかかる点はありますが仕事なので、なんとか・・・割り切りましょうか・・・」
セバスはツアレの事もあり、商売で捕虜のアイテムを扱うことに対して渋っていたのだが、会議でアインズ様やデミウルゴスから言われて渋々、商売の為の出張を承諾した。
何故ツアレが付いてきているのかというと・・・・
このアイテムは人間に対して反応するよう出来ているのでセバスだけでは、商談時に作動しない可能性が高いためだ。
「むう・・・ツアレに捕虜用のアイテムを操作させるなんてしたくありませんが・・・商談の成功はアインズ様も願っているはず・・・ツアレに触らせるのは最後の手段にしましょう・・・」
________________「いやあ~セバスさんは面白い人ですなあ~!!!がはははは!!」
セバスは商談先の貴族出身で恰幅の良い中年の男性と、屋敷内で話していた。
その屋敷は異国の地のとある旧貴族が建設しただけあって、豪華絢爛だった。
この中年男性は、とある戦争で財を築き大金持ちらしい。
セバスと同じ部屋の椅子に座っているツアレは、この屋敷の雰囲気が苦手らしく、ずっと固い表情だった。
(ここはあの屋敷みたいに嫌な感じがする・・・早く帰りたいです・・・)
そしてセバスは笑っている男性の話を軽く流しつつ、商品の説明を始める準備をする。
その商品は、首輪型で赤いランプが点滅していてとても怪しい。
(首輪さん、スイッチを入れて作動してくださいね〜ツアレに触らせたくないので・・・)
セバスは祈りながら首輪の遠隔操作のリモコンのスイッチを入れる
カチっと電源が入り、キュイーンと作動音がして、首輪が作動し始めた。
「この赤いランプの点滅が作動し始めた合図になります」
セバスが話す。
「・・・・・そして、この商品は捕まえた捕虜の健康維持に役に立つ首輪だそうです。見た目はいかにも処罰目的の首輪に見えますが、そのような機能は一切無く、人間の身体機能を調べるセンサーが備わっているのみです。
このセンサーを通じて捕虜の国の、兵士の身体レベルや滋養強壮剤は何を使用しているかを判断できるので、
戦いが続いている間も敵の兵士対策を並立して行うことが出来ます」
セバスが話し終わると、男性はまたゲラゲラと笑った。
「捕虜なのに、健康管理ですか?がはははは!面白い!痛めつけたり自白させたりするだけが、捕虜の利用価値ではないと!・・・ふむ新しいですな!!!がははは!気に入った!!」
「気に入って頂けて何よりです。何かこの商品について質問などございますか?」
セバスは話す。
「ん~、セバスさん・・・私は管理より痛めつける事に興味があってなあ・・・これにセンサー以外の設備は付けられるのかな?例えば・・言う事を聞かない人間に対して電流を流すとか?」
へらへらした状態で話す中年男性。
たぶん一般的な人間なら全員が全員、軽蔑するであろう態度だった。
ツアレ(この人嫌い・・・世の中セバス様みたいな方が増えればいいのに・・・)
「私は今回は営業を担当しておりますが、設計者ではございませんので・・・設計者と今後話し合って頂く事をお勧めいたします」
セバスは内心軽蔑する気持ちで、質問に答えた。
(人間でもデミウルゴスのような考え方の存在はいらっしゃるのですね・・・なんだか気分が悪いですね・・・)
「そして、セバスさんのおつきの女性・・・なかなか美人ですなあ。髪の毛もつやつやで肌もプリっとしてて、触ると柔らかそうで・・セバス様が羨ましい・・・がはははは!これは失敬!がはははは!」
中年の男性は商談開始から、ツアレが気になっていたようだった。
「褒めて頂きありがとうございます。こちらのメイドは私がお仕えしているお屋敷でも高評価を頂いており、自慢のメイドでございます」
とりあえずセバスはお礼を言った。
(ツアレを狙うようであれば、商談先の方でも容赦はしませんが・・・)
_______そしてセバスと男性の商談はまた次回という事で、終わった。
「セバス様、この度の商談は面白かったですぞ!!がはははは!
・・・そのお礼と言っては何だが・・・私のおススメの高級宿を二部屋、予約しておきましたぞ~。まだ宿泊先は決めていらっしゃらないと伺いましてな・・・・
料金は私が出したのでお気になさらず。がはははは!」
中年の男性はとても陽気に笑っていた。
セバスは商談後はゲートを使用し帰れば良かったのだが、今後この中年の人間が役に立つかもしれないので、
中年男性のおせっかいをとりあえず受け取ることにした。
「それはありがとうございます。この度は何かと忙しく宿を決められていなかったので助かります・・・」
_________「で、セバスさん、今夜おススメの飯屋があるので一緒に行かないかい?」
「そうですね・・・夕ご飯ぐらいなら良いでしょう・・・」
「そこにいるお嬢さんも一緒に連れてきてくれると嬉しいのだが・・・」
金持ちの中年男性は、怪しい目つきでツアレを見た。
「こちらの女性は慣れない旅で、お疲れの様子なので休ませます。せっかくのお誘いなのですが私一人でお願い致します」
セバスはツアレを連れていくことはきっぱりと断り、仕事の為のお酒の付き合いをすることにした。
(アインズ様がこの商談の前に教えてくださいました。商談の後の夕食と酒の付き合いは大事だ!そこから仕事の繋がりが生まれると・・・・)
そして、セバスと男性は後で集合することになり、いったん解散をした。
中年男性からもらった地図を頼りに、街中にある高級の宿に向かって歩くツアレとセバス。
「先ほどの男性・・・なんだか苦手でした・・・」
ツアレは結局、椅子に座っているだけだったが、緊張感と嫌悪感で疲れたようだった。
「そうですね・・・私も疲れました・・しかしツアレ、街中で商談先の方の話をするとは・・いけませんね・・・誰かが付いてきてる可能性もありますよ?」
セバスは地図で口元を隠し、周りから何を話しているか分からないようにした。
「も、申し訳ありません、セバス様。以後気をつけます」
ツアレはシュンとして反省をした。
「いえいえ、私が事前に教えなかったのが悪いのです。私が商談先の方との夕飯が終わりましたら、宿屋でツアレのお話をゆっくりお聞きしますよ」
先ほどの商談の時の凛とした顔から、にっこり微笑むセバス。
(セバス様、やっぱりかっこいい~!!私の中の一番です~!!)
ツアレの頭の中は疲れの為か、おかしくなっていた。
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同じ部屋
そして、ツアレとセバスが宿屋に着く。
その宿屋は、超高級ホテルの為ロビーだけでも100人は寝泊まりが出来るんじゃないかと思うぐらいの広さだった。
ホテルの床は全てふかふかのジュータンで、ソファーもふかふか。きっと寝たら寝心地もよさそうだった。
そして、テーブルは全て照明の光が反射するほどピカピカに磨かれていた。
「ふう~疲れました~。セバス様、ここの宿屋さんはとても綺麗ですね~」
ツアレはホテルのロビーのふかふかなソファーにドカッと座ってリラックスしていた。
「ふふっ」
セバスはふかふかのソファーで喜んでいるツアレを見て笑った。
「セバス様、私を見て何を笑っているんですか~」
ツアレはソファに座って足をバタバタさせて、セバスに理由を尋ねた。
「いやまあ・・・・商談相手が皆、ツアレのようにソファーに座っただけで喜んでくれたら楽で良いな~と考えたら、つい笑みがこぼれてしまいました。申し訳ありません」
ツアレはただおしゃべりをしたかっただけなのに、セバスは丁寧に理由を教えてくれた。
(本当セバス様はいつも律儀だな~そんなところが好きなんですが・・・)
「ではツアレ、私は部屋のチェックインをしてきますのでこちらでお待ちいただけますか?」
「はい!私は少しここのホテルのロビーをぶらぶらしながら待ちますね!」
ツアレは、ここのロビーのソファーに興味が出たようで、全て座りたくなったようだった。
セバスがツアレの元を離れると、さっそくツアレはロビーの探検を始めた。
(ここのホテルは私が見たことがないものばかり・・・いろいろ気になるのよね・・・)
最初にツアレが気になったものはエレベーターだった。
「これは動く箱なのかしら?さっきから沢山の人が入ったり出たり・・・最初はドアだけだと思ったけど、表示される数字が光ってるから・・・」
エレベーター乗り場でぶつぶつ話すメイド服姿の女性(ツアレ)がそこにいた。
ホテルの利用客に不審な目で見られ続けたのにも気づかずツアレは、目を輝かせてエレベーターを観察していた。
(よし、この箱の観察はこれぐらいにして・・・次は・・・」
ツアレが次に気になったものは、自動販売機だった。
「これこれ・・・明るく光っていて飲み物らしいものが出てくるのよね・・何を入れたら出てくるのかしら?」
最初この機械を見つけたときは、観賞用なのか、何をするものなのか分からなかったのだが、ちょうど自動販売機で飲料を買う人物がいた。
その人物はとても美味しそうに飲料を飲むので、ツアレも飲みたくなってきた。
「あとでセバス様のお許しが出たら飲んでみたいな・・・」
ツアレは今までとても閉鎖的な環境にいた事もあり、ナザリック以外の至れり尽くせりな世界がたまらなくまぶしかった。
「う~ん!!今回は一泊しかできないけどもっとここにいたいな~」
さて次は・・・・とツアレがまだ探検を続けようとしたところ、セバスが戻ってきた。
何故かセバスは困ったような顔をしていた。
「セバス様・・・どうされたのですか?」
「実はですね・・・・今日泊まれる部屋は一部屋のみらしいです・・・」
「えええええええ!ひ、一部屋・・・セバス様と同じ部屋・・・」
「ホテルの方によると、・・・・
当初から部屋は、一部屋しか予約されていなかったようです・・・・
しかし、スイートルームでかなり広い為、寝る際は距離を取って眠れるそうです。
ツアレが相部屋が嫌だという場合は、満室の為違うホテルを選ぶ事が出来るそうですが・・ツアレ、どうしましょうか?」
セバスは苦い顔で、ふうっと深く息を吐く。
「・・・・・・・///////私は・・・セ、セバス様となら・・どこでも・・・一緒が良いです・・・・」
もじもじとツアレは答えた。
「・・・で、では、本日はそのままこちらで泊まりましょうか!こんな高級なホテルに泊まったことはツアレはまだありませんよね?」
「は、はい・・・こんな高級なところは泊ったことがありません・・・セバス様が良いのなら・・・」
ツアレはぐうの音も出ない。
今回は仕事のついでとはいえ、憧れのセバス様と同じ部屋で泊まるなんて、正直心臓が止まりそうなぐらい恥ずかしい出来事だけど、
でも・・・・・せっかくだし・・・憧れの男性と同じ部屋に泊まるシチュエーションは、世の乙女の憧れ・・・のはず。
もうこうなったら、泊ってやる!と半ばやけになって、一緒の部屋に泊まることにした。
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このままで
結局、二人で一部屋に泊まることにしてエレベーターホールへ向かう二人。
(さっきは探検に来た時はワクワクしていた場所なのに、今は凄く緊張する~!!ま、まあ・・ただ同じ部屋に泊まるだけだし・・・大丈夫・・)
ツアレは緊張でどうにかなりそうだったが、平静を保ったフリをしていた。
「大丈夫ですか?ツアレ?どこか体調でも悪いのですか?」
「・・・い、いえ大丈夫です・・とても豪華なので緊張してしまって・・・」
ツアレは本心を言えるはずもなく、ごまかした。
(ふむ・・・ツアレ、やはり一緒に泊まることに抵抗があるのでしょうか・・・?部屋についたら対策を何か講じましょうか・・・・)
ピロンとエレベーターが到着したメロディが鳴り、エレベーターの扉が開いた。
「ツアレ、エレベーター乗りますよ」
「は、はい!」
セバスがホテルの最上階の50階へのボタンを押した。
(魔法も使わずに高速で移動できるのは便利ですね。あとで報告書に記入しましょう。アインズ様もお喜びになるはず)
ウィーーンとモーター音がしてエレベーターは上に上がっていく。
「まあ、すごいー!!セバス様!街が!街が見えますよー!!人が小さく見えます~!」
ツアレはガラス張りのエレベーターの窓から見える景色にテンションが上がっていた。
「おお、良い景色が見えますね。ツアレ良かったですね、あとで夜景も観られることでしょうね」
(・・人間は良い景色でこんなに喜ぶのですね・・うーん、ナザリックの中で景色が良い場所を増やせたら、ツアレは更に喜ぶでしょうか?)
そしてエレベーターの中でセバスは考える。
(ツアレをこのような場所に場所に連れてきて、働かせてよかったのでしょうか?
いくらツアレ自身の願いだとしても、私はツアレは人間の世界で生きていた方が幸せなんじゃないかと・・・ふう・・いけませんね・・・どうしてもツアレと一緒に居ると、考え込む時間が増えてしまいますね・・・)
__________そして、エレベーターは最上階の50階に到着した。
「ここがスイートルームですか・・・思ったより広いですね・・・」
口先では驚いた言葉を発しながらも、セバスは先ほど考えてしまった事に気を取らていた。
「セバス様・・・ここは廊下でも良く眠れそうなぐらいふかふかな廊下ですよ~!!そして広いです~!!装飾もキラキラしてますっ!」
見るものすべてが輝いて見えるツアレは、スイートルームの廊下の広さに感動した。
セバスから少し離れてスイートルームの廊下をきょろきょろと見ていた。
「ツアレは好奇心旺盛ですね。・・・まずは部屋に荷物を置いていきませんか?」
そんなツアレをセバスは優しい瞳でツアレを見た。
「は、はい。荷物を置いていきましょうっ・・・」
ツアレは、パタパタとセバスに近づき荷物を持って部屋のドアに近づいた。
(同じ部屋かあ~、こ、これは夢じゃないよね?現実だよね???)
未だにツアレはこの状況は現実だと思えなかった。
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お留守番
セバスはカードキーをドアへピッとかざしてロックを解除し、ドアを開けた。
「ドアを開けたらツアレ、もし良ければ中の様子を見てきて下さいませんか?」
部屋のドアを押さえて、ツアレを迎える。
「は、はい。承知しました。あ、す、すいません・・・お先に失礼します・・・」
自分は二番目に部屋に入ると思っていたので、恐縮しながらツアレは部屋に入った。
スイートルームの部屋に入ると、ツアレの目の前には落ち着いている雰囲気だが、どこか煌びやかさを感じさせるソファーやテーブル、装飾棚などがあった。
そして奥の部屋には、寝室が二部屋あり、それぞれにベッドなど一式揃っていた。
(ほっ・・・同じ部屋だけど、別々の部屋があるのね・・・良かった・・・)
ツアレは同じ部屋で、一つの同じベッドで寝る事になったらどうしようと、実は心配をしていたのでかなり安心した。
どれだけ好きな男性でも、まだ誰かと同じベッドで寝る事には、かなりの抵抗が残っていたからだ。
(誰かと一緒だと昔を思い出そうで怖い・・・・)
荷物をベッドの近くにとりあえず置いたツアレは、ドア付近にいたセバスに話しかけた。
「セバス様、部屋の確認を致しました。この部屋は浴室が一つ、寝室が二つ、リビングが一つの、計四つの部屋で形成されていることが判明しました」
ツアレは緊張の為か、かなり硬い雰囲気の報告になってしまった。
「ツアレ、報告ありがとうございます。でもそんなに硬くならなくて大丈夫ですよ。次回は楽しい報告を楽しみにしていますね」
セバスはそう言うとニコッと笑顔になり、ツアレの頭をポンっと触った。
「か、かしこまりゅますた!」
ツアレは頭をポンとされたことにドキッとしてしまって、言葉を噛んでしまった。
(で、でもセバス様と一緒なら・・・同じベッドで寝るしかなくても怖くなかったかも?)
_________その後、寝室が二つあるので寝る部屋を決めることにした。
「ツアレ、どちらか眠りたい部屋はありますか?」
(私はあまり睡眠が必要ではないので、ツアレに選んでもらいましょう)
「私は、ええっと・・・どちらでも構いませんが、セバス様はご希望はございますか?」
ツアレは何か希望がある素振りを見せたが、セバスに尋ねた。
「私こそ、あまり睡眠を必要としない種族の為、睡眠が大事なツアレに選んでもらいたいのです」
「そ、そうなのですか・・・ええっと、では、私は右側の部屋を使わせて頂きます」
(セバス様ってあまり眠らなくても大丈夫なんだ・・・初めて知った・・)
ツアレが右側の部屋を選んだには、もちろん理由があった。
それは・・・・
「夜景が良く見えるため」だった。
左右どちらの寝室も変わりなく素敵な部屋だが、唯一違ったのは夜景が良く見えるという事だった。
左側の部屋も夜景が見えるのだが、山の方がよく見える。
_______「さて、私もそろそろ約束の時間が迫ってきたので、一階の売店でツアレの夕飯でも買いに行きませんか?」
セバスは留守番させるツアレが困らないように、何か食べ物やら飲料を揃えておきたかった。
「そうですね。この後セバス様の帰宅をお待ちするにしても、夕飯は食べないとお腹が空いちゃいますね!」
(一階に行ったら、セバス様に頼んであの機械で飲み物を買うんだ~♪)
その話を聞いて、ツアレは先ほどのドキドキからワクワクにいつしか心境が変化していた。
広いスイートルームを出て、エレベーターホールへ向かいエレベーターに乗る二人。
「わあ~もう外は暗いですね~さっきまではよく景色が見えていたのに」
ツアレは下りのエレベーターでも、ガラス窓から見える景色に夢中だった。
「外は暗いから、夜景が良く見えますね。でもツアレ、危ないので留守番中は部屋で待っていてくださいね」
セバスは好奇心旺盛なツアレが、きれいな夜景に釣られて部屋から飛び出してしまうのではないかと心配の様子だった。
「ご心配無用ですよ、セバス様。私は忠犬の様に静かに部屋で待っています。安心して下さい」
ガラス窓から景色を見ていたツアレが振り返り話した。
「そうですね。ツアレを信頼していますよ。私も出来るだけ早く帰ってこられるように致します」
セバスはそう言った。
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何か買いましょう
_______________ツアレとセバスが乗ったエレベーターが、ポーンとメロディが目的の階に到着したことを伝える。
「一階に着きました。売店では何が食べたいですか?ツアレ?」
セバスは売店に向かって歩きながら、先に早足で売店に向かっていくツアレに話しかける。
「ええっと、そうですね・・・まだ食べた事のない物が食べたいです!」
早足で歩くツアレはセバスに向かって振り向き、満面の笑顔で答える。
「では、ツアレが食べたいな~と思ったものを買いましょうか」
セバスは優しいまなざしで微笑みながら言った。
「ありがとうございます。セバス様」
(やった〜〜〜〜!!色々食べるぞ〜!!セバス様ありがとう〜〜!!)
ツアレは静かな態度でセバスにお礼を言ったが、内心はテンションが上がって上がって、叫びたいぐらい嬉しい気持ちでいっぱいだった。
その後も、セバスとツアレの和やかで楽しい会話が続く。
___________ツアレは食べてみたい物が沢山あるらしく、セバスに何度も質問をした。
「セバス様!これは何でしょうか?」
「これは機械で温めるタイプのスープですね」
「セバス様〜!これ!これは何でしょうか?」
「これはハンバーグと野菜、ご飯を一皿で食べられるセット商品みたいですね」
「セバス様!あの機械は湯気が出てますが、何をしているのでしょうか?」
「おや、私も初めて見る機械です。恐らく野菜や肉などを温めた状態で食べられるみたいですね。商品名を見ると、「オーデン」という食べ物らしいですね」
ツアレはワクワクが止まらなくて、セバスを困らせるぐらい質問をした。
終いにはセバスに聞かないで、自分で商品を見ながらブツブツ話すほどだった。
「これは・・チャンポーって言う麺料理で、野菜がたっぷり入ってるけど・・・お肉も食べたいから、ヤキ・トーリンも気になるし・・・
いや・・こっちは初めて見るし・・・ニークマンも食べてみたいし・・・うーん悩む~~~!」
そして、ツアレがあれにしようかな?これにしようかな?と悩んでいる間、セバスは特に急かすこともなく、優しく見守っていた。
(ツアレにこんなにも喜んで頂けるなんて、連れてきた甲斐がありますね。あのホテルを予約した男にとりあえず感謝ですね・・・まあ信用できるかどうか分からない男でしたが・・・)
悩みに悩み、ツアレはやっと買うものを決めた。
「セバス様!こちらの商品でお願いします!」
ツアレはカゴにいくつかの食べ物を入れて、セバスに会計をお願いをした。
「ツアレ、これだけで大丈夫ですか?もっと買っても良いのですよ?」
セバスは山盛りに買うと思っていたので、ツアレを心配した。
「お留守番と言っても、今晩だけですから。大丈夫です!」
ツアレはセバスに笑顔を見せて答えた。
「かしこまりました。ではツアレ、会計してきますね」
そしてセバスは会計中、ナザリックの事を思い浮かべた。
(シャルティア様やソリュシャンは、毎回買い物と言えば、カゴに山盛りに・・・いや、店を買う程購入されるので、てっきり女性は山盛りに買う事が当たり前かと思ってましたが・・・ツアレなど人間の女性は、このぐらいが普通なのでしょうか?まだまだ人間に対する勉強が足りませんね・・・)
セバスは会計を終えると、ツアレがもじもじしている様子が気になった。
「ツアレ?どうしました?買い忘れでもありましたか?」
恥ずかしそうにツアレは話し始めた。
「あの・・・セバス様・・お願いがあるのですが、売店の入り口にある機械で、飲み物を・・・その・・購入してみたいのですが、お許し頂けますでしょうか?」
買い忘れや困った事態が起きたのかと思ったセバスは、話を聞いて何だそんな事か〜とホッとして、喜んで承諾をした。
「もちろん良いですよ、ツアレ。買いましょう。何が飲みたいのでしょうか?」
セバスの承諾を得られたツアレはとても喜んだ。ツアレが犬だったら尻尾をブンブン振っているに違いなかっただろう。
自販機の前に二人は立ち、買うものをどれにするか選ぶ。
「わ、私はですね・・・この赤いデザインの飲み物を飲んでみたいです!えっと・・・何味かは分かりませんが、先ほど購入された方が美味しそうに飲んでいたので・・・よろしいでしょうか?」
セバスの承諾を得られたのにも関わらず、ツアレは申し訳なさそうにしていた。
(売店でも買って頂いたのに、ここでもだなんて・・・贅沢かしら・・・?)
「もちろん、ツアレの飲みたいものを買いましょう」
セバスはそう言って、商品のボタンを押した。
ボタンを押すと、ガタン!と大きな音がして商品の飲み物が出てきた。
そしてセバスが商品取り出し口から取り出すと、ツアレに渡した。
(商品を見た感じ怪しい薬が使われていたり、アルコールは入ってなさそうですね・・・これならツアレが飲んでも大丈夫でしょう・・・)
飲み物を受け取ったツアレは、また犬のように嬉しくて尻尾を振っているんじゃないかと思うぐらい無邪気に喜んだ。
「セバス様、ありがとうございます~~~~~~!!!これがあの機械から出てきた飲み物なんですね・・・早く飲みたいですっ!」
___________そして売店からの帰り道、ツアレは来た時には気にならなかった、小さな謎の機械が通路の先にぽつんとあるのが気になった。
セバスとツアレがエレベーターの到着を待っている時に、ツアレはその機械を遠くから観察していると、
とある中年男性が近くの通路から現れて、その機械にお金を入れて何かカードのようなものを購入していた。
(あのカードって何かしら・・・?気になる・・・何に使うんだろう?)
ツアレがその機械とカードに気を取られていると、エレベーターが到着したようでセバスに呼ばれた。
「ツアレ、エレベーターが到着しましたよ」
「はい!分かりました。セバス様」
セバスについて行き、エレベーター乗ったツアレ。
あのカードは何に使うんだろう・・・ということが気になってしまい、ツアレは帰りのエレベーターでは夜景を見る事に集中出来なかった。
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ツアレのお留守番(ホテル編)
セバスはツアレがエレベーター内で、何かに気を取られていることには気づいていたのだが何が原因かは分からなかった。
(昔を思い出しているのでしょうか?夜景の先に何か気になるものでも・・・?)
エレベーターがスイートルームの階に到着すると、ツアレが先に出てくるりと振り返ってお辞儀をした。
「セバス様!本日は本当にありがとうございました!!こんなに楽しいホテルは初めてです!!」
ツアレはホテルと聞くと、今までは嫌な思い出しかなかったがセバスのおかげで良い思い出が増えたようだった。
「いえいえ、どういたしまして。しかし、この行動は全てはアインズ様のお考えから来ています。共に働く者に幸せを・・・・です。」
セバスはツアレの頭をポンと撫でつつ話した。
そして、スイートルーム内に入るとセバスは買ってきたものが入っている袋をテーブルに置いた。
ツアレは先ほど自販機で購入した飲み物を、共にテーブルに置いた。
「さて、ツアレ。夕飯の購入も終わったことですし、私はそろそろお約束の、待ち合わせの場所に向かいます。そこでツアレに約束してほしいのが・・・」
と、セバスは先ほどまでの優しい顔から真剣な面持ちで話し始めた。
「まずホテルから出ない事。」
ホテルから見える夜景がどんなに素敵でも、確認をしに街に出ない事。
街にはもしかしたら、人身売買や誘拐事件が起きている可能性があるので、出てほしくないとのことだった。
「ツアレ、良いですか?・・・私はお食事中はすぐに動けない可能性があります。今回は仕事で繋がりが持てそうな相手ですので、なりふり構わず切り上げる事が難しいからです。分かりましたか?」
セバスはツアレの右手を両手で優しく握りながら、確認をした。
「は、はい・・・かしこまりました。部屋で夕飯を食べて、セバス様をお待ちしておりますね」
セバスに手を握ってもらって嬉しいツアレは、少し顔を赤らめていた。
「・・・・しかし、私セバスがなかなか帰ってこない場合は、待たずに眠って頂いて大丈夫ですので気にしないでくださいね。
もし私の身に万が一の事があれば、ナザリックから救援を呼びますので安心してください」
これでもかというぐらいセバスは、ツアレを一人で待たせることが心配の様だった。
「かしこまりました、セバス様。その場合は先に眠らさせて頂きます」
今度はツアレが両手でセバスの右手を優しく包み、答えた。
そして、一通りお留守番のルールを確認して、セバスは男性との約束の夕飯の用事に出掛けて行ったのだった。
ツアレは部屋の入り口からセバスを見送ると、ふうと息を吐いた。
(まったくセバス様は心配性ですね・・・私も強くなりたいなあ・・・)
セバスがいなくなると、広いスイートルームに一人でいるのが寂しく感じられた。
「さて、ご飯でも食べましょうか~」
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待っている間、何をしよう?
ツアレが、ホテルの売店で購入した商品を袋からガサガサと取り出す。
ツアレが選んだものは・・・・
・野菜たっぷりチャンポー麺
・串に刺さっているたれ付きのお肉が美味しそうなヤキトーリン
以上、二点を選んでいた。
そして、最後にセバスが「ツアレ、デザートもどうですか?」と追加した白いクリームのケーキもあった。
「今日のセバス様は優しすぎて変な感じ・・・・」
ナザリック地下大墳墓内で共に仕事をしているときは、ここまでは優しくない。
きちんと上司と部下の壁がある気がする・・・。
ツアレはそんなことを考えたが、お腹が空いているのも事実なので購入した夕飯を食べ始めた。
(良かった~まだ温かかった~)
ツアレはチャンポーの麺をすすって、そう思った。
セバスの部屋での約束事について話すのが長くて、温めた商品が冷めてしまうのが、実はこっそり心配だったのだ。
「うん、おいひ~。ナザリックでも食べられたらな~」
初めて食べる美味しさに箸が止まらなくて、思わず口に出た。
ナザリック地下大墳墓内でも、セバスのおかげで人間用の料理のメニューは増えた。しかしまだ品数が少ない為、わがままだと思うのだが、毎日食べていると飽きてしまうのだ。
チャンポー麺が食べ終わると、ヤキトーリンを食べ始める。
「このたれているソース?これが美味しそうで選んだのよね~」
売店でぶつぶつ言い始めたころに、悩みに悩んで選んだ商品だった。
一口、串に刺さったお肉を食べると「たれ」の美味しさに驚いた。
「美味しい~~~!!この初めて食べる甘くてしょっぱいソース・・・美味しくて病みつきになりそう・・・一本しか購入しなかったのが悔やまれる・・・」
売店で購入した二点はあっという間に食べ終わってしまい、名残惜しいツアレは溜息をついた。
「またいつか食べたいな・・・」
最後にデザートを・・・・と思ったが、留守番を始めてまだ一時間も経っていないので、もう少し取っておくことにした。
「この赤い飲み物も飲みたいけど・・・もったいなくてまだ飲めない・・・」
ツアレはこのまま座っていると、すぐデザートを食べてしまいそうなので小休憩後に、とりあえず立ち上がって部屋を歩き回ることにした。
「・・・・う~ん・・・部屋の中を歩いてもやることがない・・・誰もいないしベッドに寝転んじゃおうかしら・・・」
ツアレはいけないと思ったが、食べてすぐベッドに寝転んでみた。
「はあ・・・こんな私でも幸せになれるのかなあ・・・」
今でもかなり幸せなのだろうが、寝転んだらそんな言葉が口に出た。
「セバス様はとても親切だけど、私の方が先に死んでしまうのかしら・・・あの地獄から助けて頂いて、ずっと一緒に過ごして働いているけれど・・・きっとセバス様は人間じゃない気がする・・・だから・・・私が先に死ぬのよね・・・」
幸せなのに涙が出た。現実って怖い。
ツアレは頬を伝った涙を手で拭うと、ばっと起き上がった。
「泣いてる顔なんて見せたら、セバス様が心配しちゃうものね・・・お出迎えは笑顔でいなきゃね・・・」
_________________そして、そんな一人で留守番しているツアレを観察している存在がいた。
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ちょっと見てただけだが?
そのツアレを観察していた存在というのは・・・・アインズ・ウール・ゴウン・・・その人だった。
アインズはナザリック地下大墳墓内の自室で、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)で、ツアレの様子を確認していたのだった。
「うーん、ツアレって喜怒哀楽が色々あってまさに人間的だなあ・・・」
(俺なんてこの姿になってからは、大きく喜ぶこともないけれど、大きく悲しむことや苦しいって思わなくなったんだよな~。どっちが幸せなんだか・・・)
アインズは溜息をついた。
そして、アインズはぶつぶつ呟いた。
「・・・・まあ~セバスとツアレが異国の地に出張というだけでも、色々気になるのにさ~、高級ホテルに二人で泊まるって!!
怪しい匂いがプンプンするわよ、奥さん!!という気持ちになってしまって、こっそり確認したら・・・
ホテルにセバスがいないじゃないか!・・・やっぱりセバスはそういう事するタイプじゃないよな~。疑ってごめんなさい、セバス!次回からは信じるよ!」
人払いをして誰もいないことを良いことに、アインズは、今まで思ってたけど言えなかったセバスとツアレに関する気持ちを、沢山吐き出した。
そろそろ遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)での確認作業(野次馬)を終わりにしようとしたら、ドアの外からトントンとノックの音が聞こえた。
「アインズ様、デミウルゴスです。只今お時間よろしいでしょうか?」
ドアのノックした主は、デミウルゴスだった。
「許可しよう、入れ」
「はっ、ありがとうございます。では失礼いたします」
デミウルゴスが資料をいくつか持ってきて、アインズの自室に入ってきた。
アインズは何か今日デミウルゴスと打ち合わせがあったっけ?と何も見当がつかないので、
内心焦りながらも、表面上は威厳のある支配者のような態度で話しかける。
「どうした?デミウルゴス。私に何か頼みたい事でもあるのかね?」
「はっ、アインズ様。自室での御休み中に申し訳ございません。私が以前申していた件について、先ほど進展が見られましたので、急ぎお知らせに参った次第でございます」
跪いてアインズに話しかけるデミウルゴス。
「・・・ああ、あの件か・・・そうか、それはご苦労だった」
(以前申した件って何~?モモンについてかな?デミウルゴスの牧場についてかな?分からないから説明してもらおうかな?)
まったく話が見えてこないが、いつもの感じで知ったかぶりをした。
「アインズ様はさすがでございますね。私が持って来た資料で、何の件について話しているかお分かりになられるなんて・・・さすがアインズ様!!」
うっかり、アインズは何の件について話しているのか聞くことが出来なかったので、話をそらすことにした。
「・・・あ~、デミウルゴス?・・・この遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を使ってみたいと思わないか・・・?」
「ええっ!、そ、そんなっ!・・・至高の御方々の宝を、私が触れてもよろしいのでしょうか?」
デミウルゴスはうやうやしい態度で反応をした。
「無論、構わないとも・・・信頼のおけるデミウルゴスだから提案しているのだぞ。使いたくないなのらそれで良いが・・・・」
(あ~やっぱり急に使いたくない?って聞くのは変だったかな?)
提案してみたものの、アインズは自信がなかった
(デミウルゴスからは、そうは見えてはいない)
「そして、差し支えなければ教えて頂きたいのですが、アインズ様はこの遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)で、何をご覧になられていたのですか?」
ウキウキと興味津々で質問するデミウルゴス。
「私が観察していたものは、人間だ。ナザリック地下大墳墓で共に働いている仮メイドのツアレが、どうしているかを確認をしていた。まあ・・生存確認だな・・・」
アインズは取ってつけたような理由を、あたかも当たり前のように堂々とデミウルゴスに説明をした。(本当の話がバレたら、相当恥ずかしいいいいい)
ドキドキ・・・・ドキドキ・・・・ドキドキ・・・あ、あれ・・?
デミウルゴスさ~ん、私話しましたよ~。声届いてないですか~?
何で反応ないんですか~?????
アインズが理由を伝えた後に、デミウルゴスの反応が一切返ってこない。
心配になったアインズがもう一言話そうとしたら、デミウルゴスがとても嬉しそうな顔をした。
「ううううううう、さすがです!!!!!アインズ様!!!私の計画を先回りをして行動して頂けるなんて・・・・感動の極みのございます!!!」
偶然にもアインズの説明は、デミウルゴスが報告したかった事だったらしい。
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さすがです!!アインズ様!!
「アインズ様、さすがでございます!!!今回報告する件ですが、まさにそれでございます!!!」
デミウルゴスは笑顔で説明をした。
「そうか・・・やはりな・・・」
(それって、何???デミウルゴス・・俺分からないよ~)
アインズはまだ、何について話しているのか分からなかった。
「アインズ様、このまま話を進めさせて頂きますと、
現在ナザリックでは、捕まえた人間を監視する為に、首輪型の監視機器を製造し、王族や貴族向けへの販売を開始。
現在はセバスに、この商品の営業と購入者の調査を任せております。
そして、今後は人間には内緒で、アクセサリー型の監視機器を作ろうと考えております。
まずは、ネックレスタイプを普通のアクセサリーとして広く販売し、極秘裏に人間のデータを集め、効率的に実験用の人間を確保するのが狙いでございます。
その為、アインズ様の意見と許可を頂きたく存じます」
キランと眼鏡を光らせて、早く人間に使ってみたいとデミウルゴスは思った。
「・・・ふむ・・・人間の監視機器か・・・まあ人は見た目では分からない事だし、良いんじゃないか?・・・そのまま計画は進めてもいいだろう。
ただ販売する時は、私やナザリックに無礼を働いていない者を苦しめるような機能は付けるなよ?」
デミウルゴスは苦しむ人間には何の関心も無いだろうから、アインズは念のため釘を刺しておいた。
「はっ、そしてアクセサリー型の監視機器が完成しましたら、人間に対して上手く作動するかを仮メイドのツアレに装着させて実験をしたいと考えております。」
当たり前のようにツアレを実験体にする事を提案するデミウルゴス。
「ほう・・・ツアレを利用する利点はどこにある?」
アインズは、最近助けたツアレをすぐ実験体として利用することがほんの少し気になった。(セバスの意欲低下やストレスが心配だな・・・)
「・・・私がナザリックに連れてきた人間を使用して街中で実験するとなると、恐怖感から逃げてしまう可能性があり、洗脳する手間が掛かります。そして実験中に逃げた場合は即刻処分致しますので、情報漏洩の問題はありません。
しかし、今回は通常の精神状態の人間を使用したい為、ナザリックで共に働いている人間のツアレが適任と考えました」
一度でいいからツアレを実験体にしてみたいデミウルゴス。
「人間に対して安全性が確保できているなら、実験は許可しよう。ただしセバスに相談して了承を得られてから・・・が条件だ。
ツアレも大切なナザリックの一員だからな」
アインズは人間に対しては、小動物に向ける程度の愛着しかないが、ツアレを失ったり傷つけたことによるセバスの意欲低下を心配しあえて、「大切」という言葉を使った。
「かしこまりました、アインズ様。では、セバスとツアレが戻り次第、実験について相談することに致します。お忙しい中、話を聞いて頂きありがとうございました」
デミウルゴスは一礼をして、アインズの部屋から出て行った。
デミウルゴスが出ていくと、アインズは安心感で脱力した。
(ふうう~なんとかデミウルゴスの話は乗り越えたぞ~。突然話しかけられると準備してないから大変だな~。疲れた~)
アインズはアンデッドなので汗は出ないが
緊張してドキドキしたので、
冷汗を拭いた(拭いたつもり)
(・・・・ツアレに監視機器付けたいって言ったら、セバスはどう思うのかな?
デミウルゴスにどのぐらいの期間監視するのか聞けば良かったかな?)
最後にアインズは、出しっぱなしにしていた遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)をしまおうと、アインズは鏡に目を向けると
・・・偶然ツアレが着替えて、お風呂に入ろうとしているのが目に入ってしまった。
(きゃ~~~~!ごめんなさい~~~~!)
アインズは心の中で乙女風に叫んで、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)をそっとしまった。
ツアレの着替えを見たなんて・・・
こんなこと、セバスに言えない・・・・
アインズの秘密が一つ増えたのだった。
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お招きありがとうございます
「こんばんは。本日はお誘い頂きありがとうございます」
セバスは集合場所の噴水広場にいた。
「がははははは!今日は急に誘ってすまんな!!!そして、集合場所も変わってしまってすまんかった!がははははは!」
お約束相手のでっぷりと太った中年男性は、やはり笑い方が下品だった。
(・・・いくら仕事でも、金持ち相手でもあまりご一緒したくない相手ですね)
セバスは顔にこそ出さないが、気持ちは嫌悪感でいっぱいだった。
「・・・さて、セバス様!では私おススメの飯屋に行きましょう!!がははは!」
お腹を大きく揺らした男性はセバスを引っ張りながら、お目当ての店に向かって歩き出した。
男性のお目当てのお店に着くと、そこはセバスとツアレが本日泊まるホテルと同じくらいの高級感のある料理店だった。
「着きましたぞ!!ここが私のおすすめの料理店ですぞ!!がはははは!!」
先ほどの料理店の静かな雰囲気を壊すように大きな声で入店していく。
「おお。ここが本日の目的の店ですね。素敵な雰囲気です」
(やれやれ、料理店の方々に、大声以上の迷惑を掛けなければ良いのですが・・・)
セバスはこの後何か起こりそうな、嫌な感じがしていた。
二人は案内された奥のVIP席に座り、メニューを見る。
「私のおススメは金粉が掛かった肉だな!おい!店員!それをくれ!!」
セバスに確認も取らずに、男はさっさと注文をし始める。
「かしこまりました。只今お持ちします」
若めの男性店員が注文を受けると一礼をして、この場を去っていった。
「遅いな~セバス様。何を悩んでいるのかね?がはははは!!!」
中年男性は待ちきれないようで、セバスの注文を急かす。
「色々種類があって迷っておりまして・・・何分私のような身分ではこのような高級店は不慣れなもので・・・」
セバスは男性をご機嫌にするために、小さな嘘をつく。
「何だ~そうだったんだな~!じゃあ私が選んでさしあげよう~!!」
男性は得意顔で、また店員を呼んだ。
「おい!!!誰か!!ちょ、そこの奴!!俺は予約してないが、金のフルコースを二人前でお願いできるか??」
「は、はい!!かしこまりました!!予約なしのフルコースですと・・全てお出しできるのに1時間以上は掛かりますが、よろしいでしょうか?」
店員は申し訳なさそうな、怖がっているような雰囲気で応対をした。
「オーナーの俺が言っているんだから、今すぐやれ!!料理長にそう伝えろ!!!・・・がはは、セバス様すみませんね~対応が遅くて・・・」
店員に強気の中年男性はとても声がうるさかった。
すると、セバスが店員に声を掛けた。
「・・・店員さん、オーナー様はそうおっしゃっていますが、急なフルコースが無理なら、私の料理は今出せる料理のみで大丈夫ですよ。気にしないでください」
セバスは店員が怒鳴られてかわいそうなのと、男性の大きな声が周りのお客様の迷惑になるので、さっさと注文を終わらせたくてつい口を挟んだ。
「お客様、気を使わせてしまい申し訳ございません。しかし大丈夫です。急ぎ対応致しまして、料理を提供しますのでご安心くださいませ」
店員は冷や汗をかいていたが、冷静を装って話した。
そして、店員がキッチンまで向かう様子をセバスは観察をしていた。
(うむ・・・この料理店は雰囲気もあって店員の質も悪くない・・・しかし何故か空気が悪いですね・・・焦っている感じが全体的に感じられます・・・何故でしょう?)
以前の洋服工場の家に行った時と同じ違和感を感じているセバスだったが、今回も何故違和感を感じるのか分からなかった。
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ゆっくり食べたいですね・・・
料理を注文後、相変わらず太った中年男性はうるさかった。
「がははははは!今日は俺の奢りだからな!!!好きなものを沢山食べてくれ!!!がははははは!」
でっぷりと太った中年男性は、いつまで経っても笑い方が下品だった。
(・・・早く帰りたいですね・・・うるさいとお店の雰囲気も楽しめないですし)
セバスは料理が出てきたら、さっさと食べて帰ろうと決めた。
「・・・さて、セバス様!貴方はお酒は嗜まれるのかな??がははは!」
お腹を大きく揺らした男性はセバスに尋ねる。
「いえ、私はお酒は飲まないので、お茶で結構です。お気遣い頂きありがとうございます」
セバスは、お酒を自分も飲んだら、絶対に違うお店にも誘われると思ったのでキッパリと断った。
「がはははは!そうか、そうか!セバス様は真面目だねえ〜奢りなんだから飲めば良いのに〜」
男性はニヤニヤして、セバスの背中を軽く何回か叩きながら話した。
「ありがたいお言葉ですが、私は貴族の方にお仕えする身なので、普段からお断りをしております。ご期待に添えず申し訳ございません」
(私の背中を叩く人間なんて初めてですね・・戦いでしたら既に抹殺しているのですが)
セバスは顔には出さないが、心の中でそう思った。
「お待たせしました。当店自慢の赤ワインと白ワインでございます」
店員が茶色いカゴにワインの瓶を2種類入れた状態で持ってきた。
「おお!!来たか!!これが私のおすすめのワインですぞ!!がはははは!!美味いぞ~!!」
料理店の静かな雰囲気を壊すように大きな声で、男性は喜んだ。
「おお、そちらがおすすめのワインですね。選ぶセンスが素敵ですね。さすがです」
セバスはワインだけは褒めた。
男性は先に飲んでるからな!と言って、まず赤ワインを飲み始めた。
そして、ワインに対してのうんちくを話し始めたが、セバスは聞いているふりをして、話を流した。
(ワインについての情報なんて、あなたよりも私のほうが詳しいですね。あやふやな情報が多い事・・。これも聞く価値もありません)
そして、男性は大きな声で近くにいた店員を呼びつけた。
「おーい!!私のおススメの金の肉が来るのが遅いな!おい!店員!料理はまだか!!」
男は注文してすぐだったのだが、そんなものお構いもせずに急かした。
「・・・現在、ローストビーフはオーブンで焼いておりますので、20分以上はお時間が掛かります。出来上がり次第すぐにお持ち致しますので、もう少々お待ちいただけますか?」
店員はぺこぺこして、この場を去っていった。
「本当遅いな~!この店!!使えね~。がはははは!!!なあ!セバス殿!」
男性は待ちきれないのか、足を上下に貧乏ゆすりをしていた。
「・・美味しいものを頂く前の時間が、一番のスパイスだと言いますし、ゆっくり待ちませんか?旦那様?」
セバスは、面倒くさいと思ったが男性をご機嫌にするために、言った。
「まあ、そうだな!私はまだまだ待てる!!がはははは!!!」
男性は下品に笑った。
「おい!!!誰か!!オーナーの俺様の話をきけ~、がはははは!!」
男性は赤ワイン一瓶をすぐに飲み干し、白ワインを一瓶また開けてすでに出来上がっていた。
そして、セバスの近くのお客も、男性の大声が迷惑そうだった。
「待つのが暇だしぃ、お客様に声でも掛けてこようかな〜!!俺様、オーナーだしぃ!!がはははは!!」
男性が酔った勢いで立ち上がり、他のお客に絡もうとしたときに、セバス以外の誰かが後ろからやってきた。
そして、スッと静止の手が入り、男性の肩を掴んだ。
「誰だ~???俺様の肩をさわりゅやつら~???俺はオーナー様だぁ~、訴えるぞぉ~?」
酒が回ってきたせいか、急にろれつが回らない男性は、後ろを振り返る。
ベロベロに酔った男性が振り返るとそこには、30代程の男性がいた。
「おー!久しぶりだなー!弟!!どこ行ってたんだぁぁぁー!」
酔っている男性は、その肩を掴んだ男性を見るとすぐに笑顔になった。
「兄さん、言ったじゃないか、お酒を飲んで店で暴れるのはやめろって」
弟と言われた男性は悲しそうに話した。
「俺は暴れてなんかにゃい!!ただオーナーとしてお客様に話しかけようとしてただけだじょ!!」
兄と呼ばれた酔った男性は、先ほどの笑顔から怒りの表情になる。
「兄さん、気付いているかい?・・・兄さんがこの店で、無茶なコースを急に頼むようになってから、お客様へ料理の提供が遅くなって店の評判が悪くなっていることを・・・・」
弟は悲しみのあまり、握りこぶしがプルプルと震えていた。
「そんな訳あるか!!!お前が料理の修行したいと言ったから、俺がオーナーになったんだぞ!!!それから三ツ星評価からは落ちていないはずだ!!!」
兄は手をぶんぶん縦に振りながら、怒りを表現していた。
「その事については、兄さんに感謝してる。おかげで自分のお店をオープンすることもできたし、料理人の知り合いも増えた。だけど父さんから受け継いだこの店が、評判が悪くなって、このまま閉店するなんて許せないんだ!!!!だから!!!」
ずっと冷静に悲しさを表現しようと努力していた弟は、我慢できずについに、語気を強くした。
・・・・・・その時セバスは静かに二人のやり取りを見ていた。
(ご飯のお誘いがまさかこんなことになるとは・・・本日は何も食べられない可能性が高そうですね・・・頃合いを見て帰りますか、ツアレを待たせていますし・・・)
弟は大きく深呼吸をしてから、また話し始めたのだった。
「この前、料理人の知り合いから聞いたんだ・・・もうこの店も閉店かもなって・・・このまま常連客が離れていくのは悲しい・・俺は自分の店もあるし、ここの店を手伝える余裕もないから、ここの店の味を受け継いでくれる人に譲ろうと考えているんだ・・・」
それを聞いた兄は、激高してテーブルを強くこぶしで叩いた。
「・・・オーナーの俺に黙ってそんなことをしていたのか!!!許さん!!絶対にお前にこの店は渡さない!!!!」
兄は怒りが抑えられず、グラスに入った白ワインを弟に浴びせかけた。
そして弟は黙って濡れたところを拭いていた。
_____________兄弟の長い言い争いがやっと落ち着いてきた頃・・・・
「もういい!!!俺はもう知らん!!!帰る!!!」
兄は弟に怒鳴り、ナプキンをテーブルに叩きつけて帰っていった。
「ええ!!帰ってください!!これからディナーの時間なんでね!!!静かになって結構!!!」
弟も強く言い返した。
そして、兄が料理店から出るところを見届けた弟は、ふう~とため息を吐くとセバスに話しかけた。
「お客様、お見苦しい所をお見せしまして申し訳ありませんでした。兄は昔は、ああじゃなかったんですが・・・」
弟は申し訳なさそうに話した。
「いえいえ、お気になさらないでください。貴方のおかげで静かな雰囲気がこの場に戻ってきましたよ。そして、濡れたお洋服は大丈夫でしょうか?ハンカチお使いになりますか?」
セバスは優しい笑顔を見せた。
「お客様、優しいお言葉ありがとうございます。本日はまだ料理も出ていないことですし、ご迷惑もお掛けしましたので代金は頂きません。このまま酔っ払いの兄がいたら、貴方にも危害を与えていたかもしれません・・・そして兄はこんな素敵な執事の方とお知り合いだとは驚きました」
弟はセバスの言葉にほっとしたのか安堵の表情を浮かべていた。
「いやいや、私はある貴族の一執事でしかありません。そして自己紹介がまだでしたね。私の名前はセバスチャンと申します。どうぞセバスとお呼びください」
セバスは深々とお辞儀をした。
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大丈夫、大丈夫、もう大丈夫ですよ。
セバスが自己紹介をすると、弟に質問をした。
「さきほど、少し聞こえてしまったのですが、ここの店は誰かにお譲りするというのは本当でしょうか?」
「ええお恥ずかしながら、この店はいずれ閉店するでしょう・・・オーナーの兄のせいで風評被害もすごくて、料理のおいしさだけでは難しい状況です・・・」
弟はまた悲しそう表情になる。
「本日はこれにて失礼させていただきますが、私のご主人様が実は・・・レストラン経営に興味を持っていまして。
後日改めて店舗譲渡の件でお話を伺いに来てもよろしいでしょうか?・・・急な話ですが、ご検討よろしくお願いします」
セバスは、ジャケットの裏ポケットから連絡先が書かれた名刺を取り出し、弟に手渡した。
「は、はい・・・実は、先ほど威勢良く譲る先を探す!!と申しておりましたが、ここまで風評被害が大きくなりますと・・・なかなか譲渡先も無く、ほとほと困っていたので渡りに船です!!ありがとうございます!
では、私の連絡先もお渡ししておきますね。セバス様、こちらこそよろしくお願いいたします」
弟はセバスに連絡先が書かれた名刺を手渡した。
セバスは名刺を受け取ると「ほう・・カザフ様とおっしゃるのですね。よろしくお願いします。また後程連絡いたします」と弟に話すとレストランを後にした。
______やっとセバスは料理店からでると、外は真っ暗で建物の照明がとても綺麗に見えた。
(夜はこんなに綺麗なんですね。普段なら部屋の中で作業中なので気づきませんでした。ツアレやアインズ様にもお見せしたいですね)
セバスはメッセージをアインズ様に向けて送る。
「ああ、セバスか。こんな夜中にどうした?緊急事態か?」
「いえ、人間の街を偵察中に良い出資先を見つけましたので、アインズ様にご報告をと・・・閉店予定の高級レストランでございます」
「ふむレストランか・・・人間が何を食べるのか知る良い機会になりそうだな・・私とデミウルゴスぐらいしか人間向けの食べ物は知らないからな・・・そうだセバス、なぜこの店が良いんだ?」
「はっ!その件につきましては、報告書をまとめてからの提出予定ではございますが、人間は食物を摂取しながら、世間話をする習性がございます。
・・・・更に高級店ともなりますと、貴族や政府高官などの機密情報を持った客が来ます。そして内緒の話をすることも多いので、情報収集に役立つと考えての提案でございます」
セバスは目の前にアインズがいないのだが、話し終わるとお辞儀をした。
「ああ、分かった。では報告書を楽しみにしている」
「ありがとうございます、アインズ様。荷物をまとめ次第、ツアレと共に帰還いたします」
セバスはアインズとのメッセージが終わると、急ぎツアレがいるホテルへ帰っていった。
セバスは急いで歩いていた。
「少し話して食べて帰る予定だったのですが、とんだ騒動に巻き込まれました・・・ある一定の収穫はありましたが・・・」
セバスはツアレを待たせているので、夜道を足早に歩く。
いつもなら街の風景を眺めたり、どんな人間がいるのかを確認するのが日課だが、今はそれどころではない。
(一刻も早く帰らなくては・・・ああ、空を飛びたいですね・・・)
歩いている姿も素敵なセバスは道行くカップルの目を奪う。
「あのおじいさん、すごい速さで駆け抜けていったけどカッコいい・・・」
「・・・ふん、じいさんより俺のほうがカッコいいだろ」
セバスはそんなカップルの話は聞こえず、さっさと歩く。
(あと少しでホテルに着きますよ、ツアレ)
そして、セバスはホテルに着いた。
急ぎエレベーターホールに行き、エレベータの上に行くボタンを押した。
そして、運良くエレベーターがすぐ来たので、セバスは飛び乗る。
(ほっ、こんなにエレベーターが来て安心した事はありませんね・・・)
目的の階に着くと、静かにかつ早歩きで、自分の泊っている部屋の前に立つ。
念のため部屋のドアをコンコンと優しくノックをした。
少し待つが反応がない。
「ツアレは眠ったのでしょうか・・・?」
セバスはホテルのカードキーを使って、ドアをそおっと音を立てないように開ける。
部屋の中に入ると、部屋の電気は付いていたがツアレの姿はない。
セバスが今いる部屋のテーブルには、ツアレが食べ残したであろう食べ物がそのままになっていた。
(先ほど沢山買ったので食べきれなかったのかもしれませんね。片づけておきましょうか)
セバスはごみを片付けて、つけっぱなしになっていた部屋の電気を消して、間接照明に切り替えた。
ぼやあっとオレンジ色の間接照明が点灯すると、先ほどまでのホテルの部屋がムーディーな雰囲気になる。
(夜はやはり間接照明に限りますね。癒されます)
そして、眠っているであろうツアレがいるか念のため確認をすることにした。
(これでまた攫われていたら、どこかの城の姫みたいですね)
セバスは以前ペストーニャに勧められて読んだ小説を思い出した。
あの小説は悲しい恋の物語だったが、人間がこんなに深い物語を書くんだと感心した良い本だった。
またペストーニャに本を借りるのも良いかもしれないと、セバスは部屋に着いて気が緩んだのかそんな考えが浮かんだ。
本の回想も良いのだが、とりあえずはツアレの無事を確認しないことには落ち着けないので、忍び足でツアレが眠っているであろう部屋へ向かう。
セバスがその部屋をそっと覗くと、パジャマ姿のツアレはそこにいた。
ベッドに体を投げ出して、ホテルが用意したガウンをブランケット代わりにくるまって眠っていた。
______ああ、良かった。これで安心だ。
とセバスは一安心をして、息をふうと吐いた。
そして、そのままではツアレが風邪をひいてしまうので、そっと見るだけの予定だったが、セバスは忍び足でツアレが眠っているベッドに近づいた。
布団を肩まで掛けようとツアレの顔を見ると、涙の跡があった。
_______ツアレはセバスと共に外へ出かけるようになってから、笑顔を見せることが増えた。笑顔が多いことは良い事なのだが、もしかしたら毎日の仕事が終わって、夜に自分のベッドに戻ったら隠れて泣いていたのかもしれない、とセバスは思った。
(もっとツアレの苦しみや悲しみに寄り添えたら良いのですが、どうしたらもっとツアレの心に近づけるのでしょうか?)
彼女が眠るベッドの側に膝をついて、そっと顔にかかった髪をすく。
すやすやと眠って優しい顔をしているツアレの顔。
セバスはしばらくその寝顔を眺めていた。
「・・・・もう大丈夫です・・大丈夫です・・・もう大丈夫・・」
自分でも知らないうちに、大丈夫、大丈夫と唱えながらツアレの頭を優しく撫でていた自分に気づきハッとしたセバス。
(このままだとツアレが起きてしまうかもしれませんね。私も部屋に戻り休みしましょうか・・・)
セバスはツアレの部屋を後にした。
______セバスが自分の眠る部屋に戻ると、ぐっと背伸びをした。
「さて、せっかく高級ホテルに宿泊しているので、私もガウンを着用してみましょうかね」
背広を脱ぎ、ネクタイを外しワイシャツのボタンをはずしていく。
脱いだ衣服は一旦ベッドに置く。
ガウンを羽織ると、セバスはズボンも脱ぎ、ハンガーに掛ける。
「ガウンはとても開放感があってまだ慣れませんね。アインズ様が人間のホテルに滞在している際は、ガウンを羽織るのがカッコいいんだと語っているのを聞いてから気になってはいたのですが・・・さすがアインズ様です」
アインズ本人がいなくても何かあれば、至高の御方の誉め言葉がすぐ出てくる。
ガウン姿のダンディーなセバスは、そのままホテル客室内の浴室に行き、入浴をした。
入浴もアインズ様に勧められて、最近始めた。
(入浴するとさっぱりするので、人間はお風呂が好きなんでしょうかね)
まだまだ知らない人間の習慣に戸惑う事は多いが、アインズ様やツアレのおかげで新しい世界を知る事が出来て嬉しいセバスだった。
人間流の体の洗い方はまだよく分からないので、自己流で体を洗う。
(入浴は気持ちの良いものなので、ツアレとの雑談の話題に使えそうですね)
体を洗い終わると、浴槽に入り湯に浸かる。
これもアインズ様情報なのだが、頭の上にタオルを置くと何か健康に良いらしい。
(理由までは聞いていない)
お風呂から上がりベッドに入ると、一杯の水を飲んでから眠るようにしている。
(これもアインズ様から聞いた健康法である)
(・・・・明日はナザリックに帰還をしたら、ツアレの心のケアも考えて、レストランの買収の件の報告書を作成、金銭面でデミウルゴスに相談もしないといけません。問題が山積みですが頑張りましょう)
いつもは睡眠という慣れない行為はセバスは苦手なのだが、ツアレの寝顔を見たせいかぐっすり眠ることが出来た(無自覚)
「うう、まぶしい・・・」
ツアレはホテルのカーテンから漏れる朝日で目が覚めた。
ぼーっとした状態で、もぞもぞと起きようとするのだが、体が重くて起き上がらない。
普段の日常だとパッと起きられるようになってきたのに、ホテルのベッドは寝心地が良すぎるせいか起きるのがもったいない。
(うう~せっかくいい夢見られたのに、現実に戻るのちょっと待って~)
ツアレは、昨日とても癒される夢を見た。
それは自分が眠っているときに、セバス様に頭を撫でてもらう夢。
優しい言葉と撫でてもらえるのがセットだなんて、最高すぎる。
ついにやにやとしてしまったツアレは、あともうちょっとだけと目を閉じる。
自分が猫のように愛玩動物だったら良いのにな~。
いや、ある国だと人間が亜人の愛玩動物になっていると聞いたことがある。
いやでもしかし、自分はそういうのを志望しているわけでもないし、あの悪夢から逃げたいとずっと思って何とか生きてきたのに、セバス様だとどうしても飛躍した考えが浮かんでしまうことがある。
「はあ~猫になりたいな~」
____ツアレがもぞもぞと、起きるか起きないかの静かな戦いをしている頃・・・セバスはすでに起きていた。
毎日同じ時間に起きるセバスは、いつものように午前5時に起きていた。
なぜこんなに早く起きるのかというと、たっち・みー様が普段仕事で早起きであるため、セバスも自然と早起きの習慣がついたらしい。
(アインズ様はゆっくり起きて良いのだぞと仰るので、セバスはどちらも守りたいので休みの日は遅く起きるか迷っている)
ガウン姿で寝ていたセバスは、乱れたガウンを直して洗面所へ行く。
まず初めに顔を洗う。そしてふかふかなタオルで顔を優しく拭く。
そして、鏡に映るセバスは、ホテル備え付きの櫛で髪の毛を直し、髭を剃る。
セバスは人間ではないので、髪や髭は頻繁に伸びないので整えなくても良いのだが、執事としての身だしなみとして整えているのだ。
着替えを取りに、部屋に戻る前にトイレで起きたツアレにばったり出会った。
「ひゃあっ!!セ、セバス様!!おはようございます!」
顔を真っ赤にしたパジャマ姿のツアレが、おろおろと目を泳がしていた。
「ツアレ、おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」
セバスはいつもの素敵な笑顔で挨拶をした。
「は、はい。おかげさまで眠れましたっ!」
ガウン姿のセバス様を見るのが恥ずかしいツアレは顔をそむけたまま、手をバタバタとしていた。
なんでツアレは朝から慌てているのか気付かないセバスは提案をした。
「朝ごはんはどうしましょうか?ホテルで食べるか、このままチェックアウトして街の中で朝ごはんを頂くのと、どちらがよろしいでしょうか?」
「ええっと、ど、どっちでも大丈夫ですっ!!!セバス様にお任せしますっ!失礼しますっ」
とツアレは、ばたばたと部屋に戻る。
一人取り残されたセバスはぽつりと呟く。
「人間は朝に声を掛けてはいけなかったのでしょうか?まだ人間の朝の過ごし方について調べる必要がありますね・・・」
ツアレに迷惑かけてしまったと反省したセバスは、着替えに戻った。
部屋に戻ったツアレは、嬉し恥ずかしにドキドキしていた。
「パジャマ姿見られちゃった~恥ずかしい~、そしていつもの服装じゃないセバス様、恥ずかしくて見られなかった~」
顔を真っ赤にして両手で顔を覆って、ベッドに倒れこむ。
ベッドでごろごろすること1時間、もうそろそろ起きる時間なので着替えるツアレ。
いつものメイド服に着替えたツアレは、荷物をまとめて身だしなみを整えた。
そして、心の中でセバス様がいつもの服装に着替えていることを願って、部屋から出る。
部屋を出ると、コーヒーの香ばしい良い香りが広がっていた。
「ツアレ、先ほどは失礼いたしました。お詫びにコーヒー一杯いかがでしょうか?」
セバスが優しい笑顔でツアレにコーヒーを手渡す。
「ありがとうございます、セバス様。お詫びって何でしょうか?私が何かしてしまったのでしょうか?」
コーヒーカップを両手で包み、小さく首を傾げるツアレ。
「いいえ、先ほどツアレが慌てて部屋に戻ったので、起きたばかりの人間に声を掛けるのは、人間の決まりとして良くなかったのだろうと思いまして・・・実際、私が人間と朝を迎えるのは、初めての経験です」
そう言ってセバスは笑った。
それを聞いたツアレはくすっと笑ってこう言った。
「ふふふ、セバス様そんな人間の決まりはありませんよ。ただ人間の女性は朝は化粧をしていなかったり、服装が乱れていたりするので、朝の姿を見られるとちょっと恥ずかしいですね・・・」
穏やかな朝を過ごした二人はそのままホテルで、朝食を食べることにした。
・・・・そんな二人を遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)で、アインズは穏やかに見ていた。
「ふむ、二人はやはりナザリック地下大墳墓内で一番青春しているな。帰ってきたらセバスに話を聞いてみるか。面白い反応が見られるかもしれんな・・・」
何か青春系のイベントを開催してみたいなあ~とほのぼの思ったアインズ様だった。
(だって普段は侵略だの、殺すだの、捕虜だのと殺伐しているし、たまには良いかもしれないな。みんなに羽根を伸ばしてもらうつもりで・・・うん、そうしよう。明日は会議だし提案してみよう!)
ナザリック地下大墳墓内のアインズの自室で、わくわくルンルンとしているアインズ様がいましたとさ。
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夢のような人
ホテルでの朝ごはんはビュッフェスタイルで、ツアレはたらふく食べた。
「もう~お腹がいっぱいです~。食べすぎました」
出たお腹をぽんぽんと叩いて満足げなツアレ。
「ツアレは良く食べますね~。見ていて気持ちが良かったですよ。ナザリックでもそのぐらい食べても良いのではないでしょうか?」
にこにことした表情でツアレを見るセバス。
「いえいえ!仕事場では先輩方もいらっしゃいますし、時間も限られてますのでこちらのホテルのようにはいかないですよっ!」
顔の前で手の平を無い無いと振るツアレ。
朝ごはんも食べ終わったので、チェックアウトする二人。
_______帰り道は馬車に乗って、街の中を進む。
(ああ、仕事だけど楽しかったなあ)
ツアレは馬車の中から外を見て思う。
少し前までは馬車の中から外の景色を見るだけで精いっぱいだったのに、ここまで行動出来ている自分に驚きだ。
これもきっとセバス様のおかげだと思う。
拾われたのが本当にセバス様でよかった。
下手に教会で拾われていたら、まだ恐怖や病気で外に出られてないかもしれない。
他の金持ちも、ご飯は食べさせてくれるかもしれないけど、ここまで心のケアをしてくれるかは分からない。
そして、一番大事なのが健康だ。
自分はどこもかしこも病気だったはずで、骨も折れていた。
痛すぎて感覚が麻痺していて、もう健康な自分を思い出せなかったぐらいだ。
息も絶え絶えで、視界もぼやけていた。
なのに、セバス様は一晩で全ての病気と苦痛から解放してくださった。
(ソリュシャン様も色々してくれたが、とりあえず置いておく)
そんな自分が昨日まで高級ホテル泊っていたなんて、信じられない。
本当セバス様とアインズ様はすごい。
なんて思ったら、ぽろっと口から気持ちが零れてしまった。
「本当、いや~本当すごいな~」
ツアレは感嘆の気持ちを呟いた。
それを聞いたセバスは「そうですね。昨日のホテルは豪華ですごかったですね」と、ホテルの感想を言って話を合わせてくれた。
いや、そうではないんです!すごいのはセバス様です!と、ツアレは言いたかったが、恥ずかしいので止めた。
「セバス様、私はナザリックに帰還後はどういたしましょうか?いつも通りのお仕事に戻ってもよろしいでしょうか?」
恥ずかしさを隠すために、あえて業務的な質問をするツアレ。
「ええ、そうですね。私は今回の任務の報告書をまとめたいですし、ペストーニャがきっとツアレの帰りを待ちわびていると思いますよ。ああ、早く料理の修行をさせたいと連絡が先ほどありました」
セバスはそう言って、何かの書類へ視線を移し、書類ををペラっとめくる。
「そうなんですか~、そうだったら嬉しいですね!ペストーニャ様に教わっている料理の話や片づけの極意もまだまだ分からないところもあるので、帰ってさっそく修行のつづきしなきゃですね」
ツアレはよしっと片手の拳を上にあげて、やる気をみせた。
セバス様以外にも私の存在を認めてくれる方がいる。
これは一生懸命頑張るだけの価値があることだ。
何も持たずに生まれた私だけど、
セバス様がくれた勇気だから、
この勇気を、元気を、
ナザリック地下大墳墓のみんなのために使いたいんだ。
そんな歌があれば、きっと歌っているんじゃないかと思った。
(最近私って、詩的な考えが浮かぶようになったかも。これもペストーニャ様と色々お話したり、恋愛に関する本を借りて読んだりしたから?)
愛にできることはまだあるのかな?
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写真集を探しに来た二人
_____________馬車で偽のナザリック地下大墳墓の近くまで行き、途中からゲートを使用し帰還する。
理由はもしかすると、尾行されているかもしれないので、念のための処置だ。
ナザリックに帰還した2人は、両手に大荷物だった。
「ツアレ、そんなに沢山の荷物を持っていて大丈夫ですか?私やシャドウデーモンで全て持つことは出来ますよ?」
セバスが心配そうに尋ねる。
「だ、大丈夫ですっ・・・セバス様。これくらい下っ端の私がしなくてはっ・・・。まだ掃除と調理ぐらいしかお手伝い出来るものがないので、色々と手伝える事は手伝いたいのでっ・・・・おっとっと」
2つの大きな紙袋を、必死に両手で持っているツアレが辛そうに答えた。
「あまり無理はしないでくださいね、ツアレ。貴方もナザリック地下大墳墓の大切な一員なのですから」
とセバスは言って、ツアレの持っている2つのうち1つの紙袋をサラッと奪い取り、シャドウデーモンに渡した。
「わざわざ苦労しない事を選べる能力も、仕事においては大切ですよ?」
セバスはニッコリとそう言った。
「そうですね、承知致しました」
ツアレは心をバキューンと射抜かれたのだった。
2人は玉座の間を目指して歩いていると、
「ツアレ、アインズ様はどうして今回お土産を購入してきなさいと仰ったと思いますか?」
セバスがツアレに質問する。
「そうですね・・・アインズ様は慈悲深い方なのできっと人間の好みが知りたかったのだと思います。アインズ様は本当にお優しい方です」
穏やかな顔のツアレは、ナザリック地下大墳墓で働く人間として完璧の返答をした。
(・・・・この調子ならツアレはナザリック地下大墳墓内で、馴染んでいけそうですね。万が一にもアインズ様を責めるような事を話すようでは、ツアレの命はいくらあっても足りませんね)
この時セバスはツアレに内緒で、いつもアインズ様を尊敬する発言が出来るか調べていた。
それを知らないツアレは、「どうかしたのですか?セバス様?」ときょとんとしていた。
「いいえ、何もありませんよツアレ」
セバスは笑顔で返した。
「只今帰還いたしました。アインズ様」
お土産を両手に持った状態で玉座の間に現れたセバスとツアレ。
「偵察ご苦労だった、セバスとツアレ」
玉座に座って堂々と話すアインズ。
アインズはお土産に飛びつきたいのだが、そんなに興味ない雰囲気を醸し出す。
(本当はおかえりなさいと言いたいけれど、支配者らしくないからな)
「アインズ様、私は人間が購入するお土産というものを、詳しく存じ上げませんでしたので、ツアレや店員のおすすめを購入して参りました」
セバスはお土産をアインズに献上する。
ツアレも、渡す瞬間にお辞儀をする。
「帰る直前になって急に頼んで申し訳ないな、セバス。高級ホテルといえば色々なお土産売っているから人間が何を好むのかの調査をしたくなってな・・・」
(いや、実は人間時代に高級ホテルに泊まれないから欲しかったなんて言えないけどね!)
アインズはお土産の紙袋を受け取ると中を覗き込んだ。
すると紙袋の中には、温泉マンジュウと書かれたお菓子や何かの生き物が乾燥して平べったくなった食べ物、カラフルで怪しい色をしたゼリー、果実を模したクッキーなどが入っていた。
(この怪しい色のゼリー状のものと、乾きものがすごい怪しいんですけどっ!!本当に店員さんのおすすめなのっ!?)
アインズは嬉しい気持ちと、不安な気持ちが心の中に広がった。
しかし、アンデットの為に感情はほとんどないので、その気持ちもすぐ消えてしまった。
「では、私達は通常の仕事に戻りますのでこれにて失礼いたします」
セバスとツアレはお辞儀をして、玉座の間から退室する。
そして、誰もいなくなった玉座の間でアインズは呟く。
「あ、俺は食べられなかったんだ・・・まあ、カルネ村の村人に配ってもいいし、モモンとして活動時に配っても良いし、活用方法は後で考えるか・・・」
アインズは高級ホテルのお土産への憧れが強すぎて、食べ物以外を買ってくることを伝える事をうっかり忘れていた。
_______執務室に戻ったセバスは、スケジュールを確認する。
「さて、本日はデミウルゴスは外出。コキュートスはリザードマンの村に出かけている・・・プレアデスたちもほとんどが人間の街へですか。ツアレにはペストーニャと一緒に調理の練習の続きをしてもらいましょうか・・・・」
と独り言を言うとセバスは事務作業を始めた。
そして、ツアレはメイドたちが集まる休憩室にいた。
「ツアレ、本日は料理長と共に調理の練習の続きをするワン」
ペストーニャはフリルのかわいいピンクのエプロンをしていた。
「はい!かしこまりました。ペストーニャ様、よろしくお願いします」
一緒のデザインのエプロンを着用したツアレが答えた。
ペストーニャとツアレはキッチンへ向かった。
二人はキッチンへの途中の道のりで、備蓄倉庫の大きな扉の前を通り過ぎた。
(ここ備蓄倉庫って書いてあるけど、何が保存してあるんだろう・・・いつか入るかもしれないから覚えておこう)
_______そして、ナザリック地下大墳墓内の倉庫内である騒動が起きていた。
「どうしてこうなったのかしら~!!もう早くアインズ様にお会いしたいのだけど!!」
アルベドはイライラしながら、右に左に行ったり来たりしていた。
「わたしだってこの部屋から早く出たいでありんす」
シャルティアもアルベドと同じく行ったり来たりと、ソワソワ落ち着かなかった。
二人がなぜこの倉庫にいるかというと、この倉庫にアインズ様の秘蔵写真アルバムがあるらしいとの噂を聞いたからだった。
「まったくパンドラズアクターの話を信じた私たちが馬鹿だったわね、シャルティア?」
「まったくでありんす、よくよく考えれば倉庫にあるはずがないでありんす。アルバムだったら最古図書館(アッシュールバニパル)にあるはずなのに、何で私たちそれを信じてしまったのでありんすかね」
珍しく二人は話が合った。
そして、この備蓄倉庫は、防衛のため魔法やスキルが使えないような設計になっている。
しかも扉は故障中らしく、一度扉が閉まると中から開けられないようになっているらしい。
二人はどこからか出られないか探った。
しかし、食べ物や事務用品、武器しか見つからなかった。
「魔法さえ使えれば、出られるのに・・・ゲートが使えないシャルティアなんて役に立たないわね」
「そのゲートすら使えないなんて、アルベドのほうが役立たずでありんす!」
喧嘩してもまあまあと喧嘩を収めるアインズ様がいないせいか、いまいち喧嘩が盛り上がらない。
閉じ込められて、喧嘩しても何も状況も変わらないことに対して、シャルティアがため息をついた。
「はああ~。しょうがないでありんす。ここは一旦休戦という事でアインズ様の素敵なところでも語って、誰かが来るのを待つでありんす」
「そうね、休戦にしましょ。アインズ様の素敵なところを久しぶりに語りたいのよね~うふふふ♡」
うっとりとした顔のアルベド。
場所は変わって、ツアレはキッチンに着いた。
「本日は料理長直伝のデザートを作ってみるワン!」
「デザート!!!楽しみです!!ペストーニャ様、よろしくお願いします!」
ツアレは腕まくりをしてワクワクしていた。
「デザートは繊細な技術が必要だワン!慣れてきたら魔法でデザートが作れると良いんだけど、ツアレは魔法が使えるかしら?あ、ワン!」
料理をする準備をしながらペストーニャは尋ねた。
「私は、魔法の勉強や訓練を今までにしたことがないので分かりませんが、いつか魔法で作ってみたいです!!私でも魔法は習得できるのでしょうか?」
不安げに聞くツアレ。
「魔法は相性があるから、セバス様やアルベド様、デミウルゴス様などに相談してみないと分からないわね~ワン。本日の練習が終わったらセバス様に聞いてみましょうワン」
ペストーニャはそう言いながら、冷蔵庫を開けて卵を取り出した。
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プルプルな食べ物と言えば?
「今回はプジングというプルプルなデザートを作るワン!」
「承知しました。ペストーニャ様」
「プジングを作る上で必要なものは、 まずは愛情だワン!」
「はい、愛情ですね!」とツアレは返事をすると、メモを取る。
そして、ペストーニャは冷蔵庫から魔物の卵を取り出して、虹色砂糖、水、牛乳、バニラニオイルを調理台の上に準備した。
「愛情は、無理に出さなくてもいいワン。好きな人や尊敬する人、楽しかった思い出を思い出しながら作ると、材料の分量を間違えてもどうにかなるワン!でもアインズ様などにお出しするときは、話が変わるのでまた詳しく教えるワン」
「はい!その際はよろしくお願いします」
「・・・さて、愛情以外の材料に入るワン!これらは、至高の41人の《ナザリック地下大墳墓》を創造した絶対者の方々が以前、冷蔵庫にご用意された食材を利用しているワン」
「41人・・・。以前セバス様が仰っていた、セバス様より強いと言われる方々の事ですね」
「ツアレは至高の41人の方をすでにご存じだとは、さすがワンね! あの方たちは強さも抜群だけれど、今までに集めた食材がどれも一流品なのだワン!しかし、数に限りがあるので、デミウルゴス様が新たな農耕地を探しているらしいワン」
「農耕地、新たに見つかると良いですね~」
「愛情の次に大切なのが、卵と砂糖の厳選だワン!どれでも良いというわけではなくて、ナザリック式のプジングは魔物の卵と虹色砂糖のみ使用しているワン」
「それはどこかに取りに行ったりしているのでしょうか?」
「ええ。卵はナザリック地下大墳墓内の養鶏場で(ウーコーケイ)という高級な鳥系魔物を飼育してるので、そこから頂いているワン。砂糖はアインズ様が、モモン様として活動時に、達成報酬として獲得した砂糖が美味しかったのでそれを使用してるワンね!」
「なるほど。ここには養鶏場があるのですね」
「この世界と至高の41人の方々が生活していた世界と生態系の違いがあるから、それに近づけるようデミウルゴス様や私たち料理チームは日々努力をしているワン!」
「努力大切ですね!勉強になります」
「アインズ様ご自身が食物摂取をしないにも関わらず、私たちナザリック地下大墳墓内の私たちのために、料理品目の拡充と質の向上をお望みなのだワン」
「さすがアインズ様ですね!」
ツアレは心の中で、だからセバス様は私が食べたことのある料理をいつも気にしてくるのかな?と思った。
そして、一通りペストーニャの材料の説明が終わった。
(ペストーニャ様の説明いつもより長かった・・・今までに教えてもらった料理より、こだわっている感じがひしひしと伝わってくる)
ペストーニャの前には山盛りの砂糖と卵などがあるため、ツアレが説明を聞いた後に改めて見るとより一層、彼女の意気込みが伝わってくる。
その勢いにツアレは少し不安もあったが、メイド服の上に着用したフリルエプロンのひもを結びなおし、もう一度手を洗い、調理を開始した。
まずツアレは魔物の卵を割る。
卵は手のひらサイズのため、慣れれば片手でも割れそうな大きさだ。
しかし、この卵が何故か両手で調理台に叩きつけても割れてくれない。
「えい!ふん!おりゃ!・・・ふう〜何で割れないんですか!卵さん!えい!」
ただ卵を割るだけなのに、格闘技をしているかのような声だけがキッチンで聞こえる。
ペストーニャや他の調理スタッフは簡単に割っていたので、ツアレも簡単に割れるものだと思っていた。
困ったツアレはペストーニャに助けを求めた。
「ペストーニャ様、申し訳ありません。この卵がなかなか割れないのですが、割り方を教えて頂けますでしょうか?」
卵をガンガンと話している間も叩きつけているが、まだ割れない。
ツアレの言葉を聞いたペストーニャは謝罪する。
「ツアレ、申し訳ないワン!人間にこの卵の割り方を教えるのは初めてだったから、すっかり忘れてたワン!この卵は魔力を込めながら割れないといけないんだったワン」
「そんな卵もあるんですね。この世界には知らないことばかりだ~」
そりゃあ、割れないわけだと理由が分かってホッとしたツアレだった。
(卵さえ割れないメイドなんて使えない・・・・調理人になれる可能性があるとして、私をアインズ様に雇用するように仰ってくださったセバス様の努力が無駄になるところだった・・)
「・・・ところでツアレ?貴方は魔力を物に込めた経験はあるワン?」
「ペストーニャ様、申し訳ございません。先ほど申したように、私は魔力を込めた事も、魔法について学んだ事がございません」
痛いところを突かれたツアレは小さな声で答えた。
「そう・・・じゃあこの卵は割る事は出来ないワンね。今回は私が割るので、それ以外を手伝ってくれるかしら?」
「は、はい!何なりとお申し付けください!頑張ります!」
「じゃあまずツアレにやってほしいことは、プジングのカラメルソース作りからだワン。小鍋に虹色砂糖、水を入れて溶かして、砂糖が薄く茶色くなるまで煮詰めるワン。その時は鍋を回しながらがポイントだワン!・・・ここまで出来るワン?」
「やってみますっ」
ツアレはごくりとツバを飲むと、緊張した面持ちで、何故か禍々しいドクロのデザインの小鍋をコンロに乗せて、虹色砂糖を入れた。
(このデザインはアインズ様がモチーフなのかしら?さすがナザリックの方はこだわってるわね・・)
____虹色砂糖は、光が当たるだけでキラキラと虹色に輝いてとても綺麗である。
何故虹色なのかというと、ごく稀に崖の上に自生する虹色サトウキキから作られるとても貴重な砂糖である。
そして、これもデミウルゴスが自分達だけで作る事は出来ないか、砂糖の研究者をどこからか誘拐してきて研究させ、作ろうとしているらしい。
____そんな事情をツアレは知らないので、ただ綺麗な砂糖だな~と思っただけで小鍋に入れた。
「ツアレ、その砂糖が薄く茶色くなったら、火を止めて熱湯を入れるワン、その時跳ねるので注意しながら、鍋を回しながら溶かしてワン」
「は、はい!!あちちち、でも砂糖のいい匂い・・・」
鍋を回しながら砂糖のいい匂いにうっとりするツアレ。
出来たカラメルを小さなカップに入れて、プジング液を作る作業に移る。
「そして小鍋に牛乳を入れて魔物肌ぐらいに温めるワン」とペストーニャが当たり前に言うと、ツアレはきょとんとした。
「ペストーニャ様、魔物肌とはどう意味なのでしょうか?」
「魔物肌というのは、恒温性の魔物の肌ぐらいに温めてくださいという意味なのだワン。ツアレの場合は人間肌、人肌というのかしらね・・・ご理解頂けたかしら?ワン」
「なるほど、自分の肌ぐらいの温度に温めるのですね・・・」
(あ、そういえばセバス様の手も温かった気がするけど・・・あれが魔物肌なのかな?・・・いやいや、今はそれどころじゃないし!)
ツアレが心の中で1人ツッコミをすると、ペストーニャの説明がまた次へ進んでいた。
「次にボウルという容器に魔物の卵を割って入れて、虹色砂糖を入れてよく混ぜるワン。ここは私が代わりにやるワン。そして、温めた牛乳を少しずつボウルに入れながら混ぜて、こし器でこして小鍋に戻すワン」
ツアレは言われたとおりに、作業することで精一杯だったがプジングの完成に近づいてきた。
「最後に、弱火か中火でヘラヘラという道具で、かき混ぜながらトロトロとしてくるまで煮詰めるワン。あ、これは好みでバニラニエッセンスを2、3滴入れると風味がよくなるワンね」
「はい。ヘラヘラって料理で使うヘラみたいな名前ですね!混ぜ方はこういう感じで大丈夫でしょうか?」
ツアレは大きなボウルを片手で抑えて、一生懸命ぐるぐるかき混ぜる。
「その混ぜ方、初々しくて良いワンね~。私たちは魔法で混ぜてしまうから、そんなに混ぜたことはほとんど無いんだけど・・・人間らしくていいと思うワン!」
「あ、そうなんですね・・・魔法使えるようになったら、また教えてください!」
さりげなく魔法が使えないことを言われた気もするが・・・ここで落ち込んではいられないと、ツアレは明るく返事をする(気持ちは落ち込んだが)
ツアレが一生懸命かき混ぜたプジング液を、小さな容器に移し替える。
「小さなカップに今作ったプジング液をこしながら、ゆっくりゆっくり入れてくださいワン」
「おっとっと、ゆっくり~ゆっくり~。こぼさないように・・・」
結局ヘラヘラとヘラの違いは分からなかったが、複数用意した小さな容器がプジング液で埋まっていく。
「すべてのプジング液を移し替えることが出来たら、最後は氷系の使い魔か炎系の使い魔に頼むワン。ツアレは温かいプジングと冷たいプジングどちらが食べたいワン?」
これもペストーニャは当たり前に言った。
「えっ!最後はコンロの火で温めたり、そこにある冷蔵庫は使わないんですか!?」
今までのコンロの火加減を気を付けていたのは何だったんだろうと、ツアレはまたまた驚いた。
「実は最初から使い魔に頼んでも良かったんだけれど、ツアレが魔力を操れないことが卵の段階で分かったので、初めてコンロを使用してみたワン。まさか本当に使えるとはびっくりしたワン・・・料理長ぐらいしかコンロは使用しないのでドキドキだったワン」
もうツアレはツッコミどころ満載で、言葉にならなかった。
「ああ、話は戻るけれど温かいのと冷たいのどっちにするワン?」
「調理は緊張の連続だったので、冷たいプリンでリフレッシュしたいです」
そして、ペストーニャは食器棚をガサガサ探していた。
「あれ?ツアレと一緒にデザートを食べる用に用意をしていた、かわいい犬柄のお皿が無いワン~!!!」
「わ、私も探します!!」
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人間は優しく使用しましょう。
「ええと、備蓄倉庫ってこっちだったっけ・・・」
ツアレはメイド服にエプロン姿のままで、通路を歩く。
そして片手にはペストーニャが書いた簡単なメモを持っていた。
「地図を描いて頂いたのだけれども、私まだこの辺詳しくないからここで合ってるのかな・・・」
時々すれ違う魔物にびっくりしつつも、ツアレは目的の備蓄倉庫に進んでいく(たぶん)
「あ、こんにちは~」
ツアレの後ろからとても可愛らしい声が聞こえてきた。
振り向くとそこには、杖に赤い液体が滴っているマーレがいた。
「お疲れ様です、マーレ様。私に何か御用でしょうか?」
(あの赤い液体は何だろう・・・血じゃないよね??)
ツアレはマーレに声を掛けられたのが初めてだったので、とても驚いたが表情には出さないように冷静に対応した。
「えっと・・別にあなたには用は無いのですが・・・アインズ様よりナザリック地下大墳墓内の人間に優しく使用・・・あ、違った・・・
(優しくしよう月間)であるとのご意向を伺ったので・・えっと・・ちょうど良いところに・・・人間がいたから声を掛けてみました・・・ひい~」
マーレの声と言い方は優しいのだが聞いた感じ、冷たい印象を受ける。
「ああ、そうでしたか・・マーレ様、お気遣いありがとうございます」
「何か・・・あなたは、ぼ、ぼくに優しくして・・・欲しいことはありますか?ちょっと誘拐とか調教は・・・ぼくは苦手なので・・・
それ以外なら・・・痛めつけるのとかは怖くて・・・」
杖に謎の赤い血のような液体が滴ってる様子とは相反するマーレの話である。
「ええと、マーレ様は備蓄倉庫への道順はご存じでしょうか?私、そちらに用があったのですが、道に迷ってしまって・・・もしご存じでしたら教えて頂けると大変助かります」
話終わると、ぺこっとお辞儀をしたツアレ。
「・・・・あ、それならぼくにでも出来そうなお願いですね。良かった~。備蓄倉庫へは魔獣に乗っていけばすぐですよ~。あ、でもアウラおねえちゃんが人間の匂いがつくと嫌がるかな・・・う~ん・・・どうしよう・・・」
「あ、マーレ様!そんなにお気遣いして頂かなくても大丈夫です」
「う~ん・・・まあ、洗えば・・・うん。それで、ぼ、ぼく上手く話すの・・・苦手だし・・・あ!ハムスケなら・・・」
ツアレの言葉が聞こえてないのか、ずっとぶつぶつ呟くマーレ。
そして、マーレはツアレを魔獣に乗せることをやめて、ハムスケに乗せることを選んだ。
「お姉ちゃんの魔獣にはまだ人間は乗せられないので・・・ありがとうございます・・・ハムスケ・・・よ、よろしくお願いします~」
「では、マーレ殿行ってくるでござるよ。それがしの美味しいご飯があるところでござるね!ツアレ殿、しっかり掴まってて下さいでござる」
「は、はい~。よろしくお願いしますね!ハムスケさん!」
内心もふもふに癒されるツアレ。
「出発でござる~」
「きゃああああああああ~」
ハムスケは全速力で、マーレの前を駆け抜けた。
それを見たマーレは呟く。
「あ・・・これでもう・・・アインズ様のご意向に沿ったことになった・・・と思うんだけど・・・お姉ちゃんに後で聞いてみよう・・・。人間は弱いからすでに話せない状態で出会うことが多かったのだけど、しゃべる人間もたまには良いかもしれないです~」
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お皿の運搬と優しさ
ツアレはアルベドとシャルティアに別れを告げ、ペストーニャが待っているキッチンへ急ぐ。
「アルベド様とシャルティア様の話を聞いていたら長くなってしまった。急いで戻らなきゃ・・・・」
ツアレは犬柄の皿とコップを4人分、籠に入れて歩く。
そして、アルベドとシャルティアはツアレがいなくなると、「下等生物は気持ち悪いわね・・・だけどあの人間なら少しは話せるかもしれないわね・・・」と、人間の気持ち悪さについて話していた。
「ハムスケさんのおかげで早く到着できたけど、帰りはこの重い皿だと時間が掛かりそう・・・ふう・・・」
よいしょよいしょと、ツアレは進む。
こんなに重いのなら、台車を借りればよかったと後悔する。
でも、誰に言えば借りられるのか分からないし、モンスターばかりのナザリック地下大墳墓内に「台車」という便利な人間向けの道具があるかもわからない。
(セバス様に相談したいことがもう一つ増えたなあ~ふう・・・)
人間が一人だけというのは楽だし安心かと思ったが、いなければいないで大変なことが意外と多いなと、しみじみ今思う。
ここには、人間にとって当たり前の道具や考えがないので、その都度ツアレがセバスに相談しないといけないことになる。
細かいことで何回も忙しいセバスに相談するのは、気が引けるのでペストーニャにどうしたら良いかをツアレは、この後のお茶会で話すことにした。
(それにしても重い・・・手が赤くなっちゃった・・)
ツアレはたびたび休憩をしながら、キッチンへ進む。
あと少しでキッチンへ到着するころには、キッチンの入り口の前でペストーニャが心配そうに右へ左へ行ったり来たりしていた。
「ツアレ、大丈夫かしら~誰かに絡まれたり、迷子になってないかしら・・・心配だワン」
ペストーニャが探しに行こうとしたら、メイド服のツアレの姿が見えた。
「あ、ツアレ~!!!大丈夫かワン~!?」
ペストーニャがツアレのもとへ駆け寄ると、ツアレが少し泣きそうな表情だった。
「ペストーニャ様、遅れてしまい申し訳ございませんでした」
「いいのよ~気にしないでワン。取りに行けないからお願いした私が悪かったワン・・・」
シュンとするペストーニャ。
そして、ツアレの赤い手の平を見たペストーニャは心配をする。
「あら!ツアレ!手が赤いけど、大丈夫かワン?痛くないワン?」
「大丈夫です、ペストーニャ様。少し重かったので遅くなりました」
「見ていて辛いので、治癒魔法掛けても良いかワン?」
「え、そんな、私になんて・・・そんなお気遣いは・・・」とアワアワするツアレ。
ツアレの手のひらが優しい光に包まれると、あっという間に今までにつけた手の傷がなくなっていく。
「さて、手の傷も無くなったことだし、お茶会にしましょうワン」
「はい!ペストーニャ様の紅茶は美味しいので楽しみにしてました~!!!プジングも早く食べたいです~!!!」
二人はキッチンへ入ると、中ではセバスが待っていた。
「お皿運びご苦労様でした、ツアレ。一緒にお茶会に参加してもよろしいでしょうか?」
「あ、ぜ、是非!!お願いします」
ツアレは頑張ってお皿を運んだ甲斐があるな~と嬉しくなった。
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倉庫内の怪しい2人
「は、ハムスケさん、早いです~!!!」
「え?何でござるか?もっと早くでござるか?? ツアレ殿もナーベラル殿と同じように手厳しいでござるね~行くでござるよ~!!びゅーーーーーん!!」
ツアレの願いも空しくハムスケは更にスピードを上げる。
大急ぎでハムスケが走り抜けたので、下っ端の使用人や使い魔が仕事で手に持っていた書類が、あちこちでばら撒かれてしまう事態が発生したが、早すぎて誰も犯人がハムスケだとは分からなかった。
「・・・・さて、着いたでござるよ、ツアレ殿」
「あ、ありがとうございます。ハムスケさん。おかげで助かりました」
ツアレはハムスケから飛び降りると、目の前には見覚えのある大きな扉があった。
「これこれ、キッチンに向かう途中で気になった部屋だったんだよね・・・」
____場所は変わって、備蓄倉庫内
「あらあ~もうシャルティアはアインズ様の素敵なところはもう思いつかないのかしら?うふふ・・・はあはあ・・・」
話過ぎて息切れしながらも、蔑むように笑うアルベド。
「いんや~もうアインズ様は素敵なところばかりで、語り切れないだけでありんす。アルベドこそ、私にばかり話を振ってないで言ってみたらどうでありんす?はああああ~」
息切れしながらシャルティアが答えた。
「そろそろ休憩を入れようじゃない・・・守護者統括の権限でこの備蓄倉庫での飲食は認めるわ。私はのどが渇いたから、アインズ様水でも頂こうかしら?」
ガサガサと、ある段ボールからペットボトル型の水を出してきた。
「これは何でありんすえ?あんまり見かけない容器でありんすね。そして、極めつけはアインズ様のパッケージが素敵でありんす」
にやにやするシャルティア。
「これはナザリックでの防災対策として備蓄している飲料水よ。ただでさえ災害時は落ち込みがちだから、アインズ様のパッケージにしたのよ〜、ウフフ♡
そして、長い期間保存出来る、飲んで良し、鑑賞して良しの飲料水なのよ~」
ペットボトルに顔をすりすりさせ、えへへとにやにやするアルベド。
「でも私たちアンデッドや魔物は、そんな防災用の飲料水なんて必要なくて、その時に人間から奪えば良いと思うでありんすえ?」
「まあまあ、シャルティア。まず飲んでみてから文句を言って頂戴!私だけがアインズ様水を飲んでも良いのだけど?」
「アルベドがそこまで言うのなら、飲んでみるでありんす。ごくごく・・・・・ぷはー!!なんでありんすか!これ!!アインズ様の柄っていうだけで、ただの水がおいしく感じるでありんす~!!!」
水のあまりの美味しさに驚愕するシャルティア。
「ふふ〜ん、これはね・・・アインズ様の部屋にこっそり置いた水精製機から、ちょっとずつ作ってるのよ〜!!!」
「え、そんなことしてたでありんすか?引くでありんす・・・」
「何よ!死体愛好癖(ネクロフィリア)よりは、マシじゃない!私はただの水なのよ」
アルベドとシャルティアは、閉じ込められていても元気なようだった。
そして、ぎいっと扉が開く音が聞こえる。
「ツアレ殿〜。扉は簡単に開いたでござるよ〜」
「ハムスケさん、ありがとうございます。私は必要なものを取りに行くだけなので、もう大丈夫です。ありがとうございました!」
「そうでござるか〜。では、某はこちらで失礼するでござる」
と、ハムスケが備蓄倉庫の扉を閉めようとすると・・・
「ちょっと待った〜!!」
「ちょっと待つでありんす〜!!!」
アルベドとシャルティアが、必死の形相でハムスケとツアレの元に迫ってきた。
「そのまま閉めないで!!開かなくなるのよ〜!!」
「ふぇっ!!アルベド様?何でここに??」
「たまには人間も役に立つでありんすね〜!!閉めないでくれでありんす〜」
やっとの思いで、アルベドとシャルティアは備蓄倉庫から出る事が出来た。
そして、アルベドとシャルティアはツアレに話しかけていた。
「下等生物に助けられるなんて、かなり悔しいけれどありがとう。下等生物でも役に立つ事があるのね」
「おぬし、死んだら吸血鬼の花嫁か眷属にしてあげるでありんす。夜も一緒に過ごしてみないかえ?」
「い、いえ、たまたまペストーニャ様から頼まれた物を取りに来ただけですから・・・でも、お二人のお役に立てたのなら良かったです」
満面の笑みでツアレはお礼を言った。
その頃、ペストーニャはというと・・・
「ツアレ、遅いわね・・・。迷ったのかワン?」
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プジングのお味は?
カチャカチャと食器を並べる音が響く。
キッチンには、ペストーニャとツアレ、セバスがいる。
「あれ?ペストーニャ様、先ほどまでいた料理長はどちらに?」
「料理長は、俺は寿命があるから常に料理をしたいという考えの方なので、隣の部屋で料理してますワン!だから気にしなくて大丈夫だワン」
「そうなんですね・・。寿命かあ・・。ある事に対して一生懸命な事は素晴らしい事ですね!」
ツアレは明るく返答したが、「寿命」という言葉を聞いて心がざわついた。
「ツアレは今お茶会するのが、大事なミッションだから食べる事に集中するのだワン」
「かしこまりました!ペストーニャ様」
2人で食器やお菓子、作ったプジングを並べ終わると、セバスが手袋をした状態で拍手をした。
「さすがですね、ツアレ。ペストーニャと2人だけでこの速さでお茶会の準備が出来るなんて素晴らしいですね」
セバスはニッコリと笑顔でそう言った。
「ありがとうございます。セバス様」
褒められたツアレは照れながら、一礼をした。
「さて、準備も終わった事だし、食べるかワン!」
ペストーニャは椅子を引くとツアレに座るように勧めた。
「失礼いたしますっ・・」
座ったツアレは周りを眺めた。
(あと1人誰が座られるのかしら・・・)
ペストーニャはツアレの隣に座る。
「ああ、もう先に食べちゃおうかなワン!お腹すいたワン〜」
食べ物に対して、犬のように鼻をクンクンさせて早く食べたいペストーニャだった。
「さて、私はどちらに座りましょうか・・・」
セバスはペストーニャとツアレのどちらの向いに座るか悩む。
その時、ツアレは心の中でこう思っていた。
(出来れば私の前に座って欲しい。でも目の前に座られたら緊張でお菓子が食べられないかもしれないし、ああでも、目の前でずっと見ていたいし・・・セバス様とお話したいし・・・)
ツアレがああだこうだと考えていると、セバスが何か気づいたらしい。
「ツアレ、大変申し訳ありません。急ではございますが、ある用事を思い出しましたので、先にお茶会を始めていてくださいませんか?すぐ戻ります」
「分かったワン。ツアレと適当におしゃべりでもしてお菓子を頂いているワン!ね?ツアレ?」
「っはい!そうです!かなり残念ですが、私達で食べていますのでお気遣いなく!ゆっくりで構いません」
ツアレはこのままセバスとのお茶会が出来ると思っていただけに、かなり残念だった。
(心境としては、何でー!!と叫びたい気持ちである)
ペストーニャとツアレの話を聞いたセバスはニコッと微笑み、そそくさとキッチンから出て行った。
「・・・・・・・・・あの、ツアレ~?残念だったワンね・・・。セバス様、すぐ戻ってくるわよ〜安心なさいワン・・・」
事情を知っているペストーニャは、ツアレを慰めるように背中をポンポンと触った。
「あ、はははは・・・。大丈夫です!セバス様とかそんなに興味ないですし、そもそもペストーニャ様の紅茶が楽しみでしたし!大丈夫です!私は何も興味ないので!あははは!」
ツアレは心の中が、かなりのがっかりでいっぱいだったが、思いっきり強がった。
「じゃ!気を取り直して、食べるワン!」
ペストーニャは、先程作ったプジングを一口パクッと食べた。
「うん!甘くて美味しいワン!さすがツアレ!良く出来ました!ワン!」
「え、そうですか!良かったです〜!また新しいデザートに挑戦してみたいです!」
ツアレの心は少し晴れた。
その頃セバスはというと、
(まったくタイミング悪く、アルベド様とシャルティア様からメッセージが来るとは・・・ツアレの作ったプジングとやら食べて差し上げたかったですね・・・)
とセバスにしては珍しく心の中でぶつぶつと言っていた。
早足で歩くセバスは、2人に呼び出された場所へ向かう。
「あら?セバス。早いわね」
「さすが、セバスでありんす。仕事が早いでありんすね〜」
「いえいえ、お呼びであればすぐさま向かうのが執事の責務でありますので。そして、お褒めの言葉有り難く頂戴いたします」
そう言って一礼したセバス。
「今回呼んだのは、他でもないわ。アインズ様の(下等生物の人間に優しくしよう月間)の為に、あのメイドの人間をお借りしたいのだけど、良いかしら?」
「アインズ様の為にも人間に優しくしないといけないんでありんす。見ず知らずの人間だと食べてしまったり、殺してしまう可能性があるでありんすし、メイドの人間を借りてちょいと夜などに可愛がりたいのでありんすえ?セバス?」
2人はさも借りられるのが当たり前かのように、セバスに尋ねる。
「はっ。ツアレがアルベド様やシャルティア様にそんな事をお声がけ頂けるなんて、至極光栄でございます。ですが、ツアレは人間であるため、負担にならないようにある程度の打ち合わせが必要だと存じます」
「う〜面倒くさいでありんすが、仕方ないでありんすね。打ち合わせを近日やるでありんす」
「それもそうね。アインズ様が採用した初めての人間が死んでしまっては、アインズ様に申し訳ないですし、打ち合わせやりましょう」
2人はアインズ様の事しか考えてなかったようだが、最終的にツアレの為になってセバスは一安心した。
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セバス様のカッコ良いところって?
という事なのよ〜。セバス様はカッコいいでしょうワン?」
「カッコいいですぅぅぅぅー!!そんな一面があったなんて・・・見たかったー!!そんな時を見られないなんて悔しいです!!」
ペストーニャは、ツアレがいない頃のセバスについての話をしていた。
それを聞いたツアレは羨ましそうに目をキラキラとさせ、こぶしをぐっと顔に近づけて本当に悔しそうに見えた。
「セバス様を創造されたたっち・みー様は、それはもう・・・素晴らしいお方でした、ワン!だからこそ、あんなに素敵なセバスを創造されたのも頷けるワン・・・」
「いいですね〜。私はまだお会いして数ヶ月しか経ってないです・・・。もっとセバス様とお会い出来る回数増やしたいです・・・」
(私は会ったら会ったで、何も言えないんだけど、お茶会の時ぐらいは願っても良いよね?)
ペストーニャは席を立つと、キッチンから紅茶のポットを持ってきた。
「このお茶には、美しくなる成分がたっぷりと配合されているワン!これ飲んでセバス様にお会いする前に、綺麗になろうだワン!」
「そうですね!沢山飲んで、セバス様を驚かせましょう!ふふふ♪」
ツアレは何故か、立ち上がり敬礼をした。
そして、二人はお互い顔を見合って、笑い出した。
ツアレは着席すると、話すのに夢中でプジングをまだ食べていなかったことに気づき、スプーンを手に取り一口食べた。
「うーん、甘い~!美味しいです!甘さがバッチリで、何個でも食べられそうです〜!」
ナザリックの地下大墳墓の食堂でもデザートは出るのだが、
だいたいは人間の味覚には合わないほど無味無臭な味か、甘すぎてもういらない!となる極端な味ばかりだった。
そのためツアレはデザートを欲していた。
「ツアレが美味しいと言うのならこの味で問題ないワンね!
実は、人間種のモンスターや人間をこれから捕縛した時にストレスを溜めないように、拘束する技を探せとのアインズ様からお達しがあったのだワン」
「そうなんですね。ストレスがあると逃げ出しにくくはなるかもしれませんね。
私もセバス様がいなかったらここにはいないですし・・・さすが、アインズ様は素晴らしいお考えをお持ちですね!」
「私は美味しい食べ物を食べたら逃げ出したいとは思わなくなるはずだから、それを計画プレゼン会で発表しようと思っているのだワン!
だから今回は、念のためにデザートを人間のツアレに味見をして欲しかったんだワン」
「そうだったんですか・・・私でペストーニャ様のお役に立てたのなら良かったです!」
ツアレは人間でも役に立てることがあるんだと嬉しくなった。
二人で楽しくお話をしていると、急いでセバスがキッチンに入ってきた。
「お二方、大変お待たせいたしました」
「あ!セバス様!お疲れ様です!」
「あら~セバス様!間に合いましたワンね!」
一緒にお茶会をできないと思っていたツアレは嬉しくて、セバスに大きく両手で手を振った。
セバスもその嬉しそうなツアレを見て、顔を綻ばせる。
(ふっ、ツアレは本当に笑顔が素敵ですね。後でご褒美でも差し上げましょうか・・・)
セバスはツアレに対しては評価が甘いのだった。
セバスは席に着くとプルンとしたプリンをスプーンですくう。
「ほう、こちらはツアレが作ったのですか?綺麗な色ですね」
「ありがとうございます、セバス様。ペストーニャ様に教えて頂きながら、作りました!」
セバスがプジングを一口食べる。そして、その様子を心配そうに見つめるツアレ。
「・・・お味いかがでしょうか?セバス様?」
「うむ!プジングのなめらかな舌触りが良いですね。甘さもちょうど良いですね」
優しい笑顔でツアレを見つめ返す。
「やだもうー!!熱いわー!熱い!ワン!うふふ♪」
その二人の様子を見たペストーニャは嬉しくなった。
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ハチミツを探すオーガ二人組
先日、人間のメイドとペストーニャが、
人間が食べるデザートを作ったということで、ナザリック内で話題になった。
そして、
人間は、自分達が食べる食肉用か、愛玩飼育用でしか
使い道がないと思っていた下位モンスターや下位悪魔達は驚いた。
「人間は料理がデキるラシイ・・」
「ニンゲンって頭がイイのか?」
「人間ハ食べラレルダケジャナクテ、ツクレル・・・」
新たな人間の価値にようやく気づいた下位のモンスター達は、
人間を食べる用以外に遊ぶため欲しがった。
「ニンゲンツレテキテ料理ツクラセル!!」
「ツクラセル!!ツクラセル!!」
「ツクラセテ、ソレト一緒ニニンゲンタベル!!」
「デミウルゴス様ノ牧場デ、モラエナイノカ?」
「ソレ良イ案!!!ヤロウヤロウ!!!」
下位のモンスター達は少ない脳みそで、最善だと思われる案を導き出した。
そして、人間で新たな遊び方をしようという案に、
賛同した下位のモンスターたちは、仕事の持ち場から離れた。
現在ナザリック内いる下位のモンスター達は、
まだまだ戦争の作戦に参加しない者たちばかりなので、
すぐに行動に移す事が出来た。
また、デミウルゴスや上司にあたる上位のモンスターや
上位悪魔たちは外出中のため、勝手に動いても大丈夫な可能性が高い
という理由あったからだった。
(現実は、変な動きをしたらすぐデミウルゴスに気づかれる
という可能性すら、気づけない知能が低いモンスターしか集まらなかった)
デミウルゴスの牧場から人間を攫う事に
賛同したモンスター達グループの一つ、人食いオーガの二人組がいた。
「本当ニウゴイテダイジョブナノカ?」
人食いオーガ1が尋ねた。
「ダイジョウブ、ダイジョウブ、モンダイナイ」
人食いオーガ2が何の根拠もなしに答えた。
「オレタチ、ココノナザリックに連レテコラレテカラ、タノシクナイ」
「ソウダ、命ハ助カッタガ自由ガナクナッタ。自由ニ酒ノメナイ、人間クエナイ」
人食いオーガは、ナザリックに飽きていた。
最初は、自分の命が助かりたい一心で、配下になったのだが、
ナザリックに配属されると、頭の悪い人食いオーガ達は、
ただただ自分の権利、自分の役割が欲しいと騒ぐだけで
悪魔やデミウルゴス達には相手にされないどころか、
自分達の存在が見えていないような対応ばかりされていた。
そして野生の勘で、このまま騒ぎ続けると殺されそうだったので、
初日に騒いだだけでその後は静かにしていた。
そして、ナザリック内で静かに過ごし、言われた仕事をこなして、
よく分からない肉をミンチにしたりする日々が続いたため、すぐに飽きたのだった。
人食いオーガの二体は、ナザリック地下大墳墓内の廊下を歩く。
何名かホムンクルスのメイドとすれ違ったり、他のモンスターともすれ違ったが
皆忙しそうに仕事をしていて、2体の人食いオーガには目もくれなかった。
廊下を歩いていて誰にも相手をされない2体は、ついに何も起こらなくて不安になった。
「ナンカ、ウマク行キスギジャナイカ?」
不安そうな人食いオーガ1が話す。
「オレタチハハ、運ガ良インダ。ダカラ気ニスルナ」
人食いオーガ2はのんきに答えた。
「ソウナノカ?ソレナラバイイガ・・・」
不安そうなオーガはそれ以上言わなかった。
「人間クウマエニ、ハチミツヲモラッテコヨウ」
のんきなオーガは、提案をした。
「ハチミツッテナンダ?ハジメテ聞ク」
「ハチミツハ、コノマエ仕事中ニ偶然、見ツケタ」
「人間ノメイドガ、皿ヲ運ンデイル最中ニ、忘レテイタ壺ヲ覗イタラ、
スライム状ノ液体ガ入ッテイテ良イ匂イガシテ、舐メタラ美味カッタ」
のんきなオーガはそう語った。
「ソンナ旨イモノヲ人間ニカケテ食ベタラ、絶対ウマイ!!」
「オ前ガソンナ事ヲ言ウナラ、探ソウ」
人食いオーガの二人組は、食糧庫に向かった。
その頃ツアレは、食糧庫にいた。
「ふう~、在庫整理ってすごく疲れるわね~。
モンスターの皆さん、様々な食物を食べるから整理整頓にに時間が掛かる~!!」
と、言いながら腰をトントンと手で軽くたたくツアレ。
ツアレが来る前は、人肉や人間の頭がそのまま冷凍されていたり、
不気味な食糧ばかり置いてあったのだが、
セバスがツアレが精神的に傷つかないようにと、何種類か食糧庫を分けたのだった。
(しかし、ツアレはそのことを知らない)
「プジングが好評で良かった~。
またナザリックの皆さんを、喜ばせられるような料理がしたいな~。
だからこそ、ここナザリックの食糧の種類覚えなくっちゃ!!」
よし!!とツアレはメイド服の袖をまくり上げ、
食糧の種類と数の確認を進めるのだった。
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