何もかもダイスの女神に任せたらとんでもない主人公ができた (塩谷あれる)
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Prolog
黄衣の少年


あえて先に言っておこう。ちゃうねん
あ、あと今回第一話の癖にハスター要素あんまり無いです。


 この作品を読んでいる、そう、そこの貴方。貴方は、『ハスター』、もしくは『ハストゥール』と呼ばれる存在をご存じだろうか。『名状しがたい何か』とすら称される()()、クトゥルフ神話に存在する忌まわしくも神々しい、『偉大なる旧き王』の一柱である。黄色の衣をはためかせ、風を繰り進む偉大なる邪神御大。それが『ハスター』なのである。御大を含む幾柱もの『旧き王』達は、不安定かつ強大な力を持っている。それこそ、この脆くも美しい青い星なんぞは、顕現するだけで簡単に破壊と混沌へ導けるくらいにね。尤も、それが彼らにとっては寝返りを打った程度か、はたまた腹いせ程度なのか、まぁ何にせよ彼らはその程度のことで世界を滅ぼすことができる存在だということさ。

 おっと失礼、前置きが長くなった。さて、この物語は、そんな偉大なる旧き邪神の名を冠する“個性”を賜って()()()()ある一人の不幸な少年が、しかしそれでも尚自らの願いを叶えるべく、この超常社会で奮闘する物語である。ん?結局私は誰か、だって?……さて、私のことなどどうでも良かろうよ。あえて語るとするならば……《偉大なる種族》とでも呼んで貰おうか。さぁ、物語の、始まり始まり。

 


 

 日本の千葉県某所、そこには『魔王』が住んでいると噂されていた。

──曰く、車に衝突されてもびくともしない体をもっている。

──曰く、単車と同じスピードで走ることができる。

──曰く、風を自在に操り、空を飛ぶことすらできる。

──曰く、その県に住む不良達全員かかっても彼には敵わなかった。

──曰く、喋るだけで50人の不良を屈服させた。

──曰く、(エトセトラ)曰く、(エトセトラ)曰く(エトセトラ)………

 

 高い身長、常に被った黄色いフードのようなもの、反転した白目と鋭い紫の双眸。気味が悪いほどに白い肌と毛髪のない頭。その身体的特徴を挙げればきりは無いが、そんな数ある中でも、不良達は彼の決定的な特徴をもって、口々にこう言っている。

 

 

─────『蒼白い仮面をつけた、針金細工のような男には絶対にケンカを売るな』……と

 


 

「蓮田さん!」

 

 やぁ、どうもこんにちは。俺の名前は蓮田(ハスタ) 卓夢(タクム)。見た目以外は普通の中学生です。なんだけど…

 

「蓮田さんどうぞ!コーヒー買ってきたっす!」

「……あぁ、ありがとう」

「蓮田さん!またウチのシマに手ェ出す奴がいるんすよ!シメにいきましょう!」

 

 何故か学校の不良達の親玉ってことになってます。いや、違うんだよ。なんか向かってくる不良達を相手してたらこんなになってたんだって。え?構わなきゃ良かった?取り合わなかったら取り合わなかったで次の日の数が倍になるんだよ。結局対処するほか無いの。

 

「……俺は別にシマとかどうでも良い。好きにやってくれ。それかイタカに言え」

「そ、そんなァ~!?お願いしますよォ蓮田さァ~ん!」

「イタカさん俺達じゃまるで取り合ってくれないんですよォ!」

 

 あーあーあーあー知らぬ存ぜぬ聞こえぬ見えぬ。不良の厄介事に首突っ込む気はございませんよっと。全く、この見た目、と言うかこの()()のお陰で大分良い迷惑だ。つけなきゃヤバい事になるのは知ってるからつけてるけどさ。ハァ、と俺は一つ溜息を吐いて、それから不良達に言った。

 

「……わかったわかった。イタカには俺から頼んでおくから、これからは俺にそういう話を持ち込んでくるんじゃあないぞ。俺受験勉強で忙しいんだから」

「ま、マジすか!?あざぁ~ッス!」

「あれ?でも蓮田さんってまだ中二っすよね?受験にゃ早いんじゃ…」

 

 不良達が疑問に思っているが、いやいや、受験ってのは入学したその日から始まってるんだよ。俺の親代わりの人から良く教えられ()てるから俺は知ってるんだ。それに…

 

「……俺の行きたい高校は、ちょっと努力したくらいじゃそう簡単に行ける場所じゃないからな」

 

 俺は少し吹いてきた風を避けて言った。俺の志望校、それは勿論──

 

 

 

「俺は雄英でヒーローになる」

 

 

 雄英高校ヒーロー科。俺は夢のため、最短距離を行くつもりだ。

 

「……そういうわけだから、俺にソッチ絡みの話を持ってくるなよ。良いな?」

「う、ウッス!」

「り、りりり、了解っす!」

 

 そうやって念を押せば、何故か膝をガックガクにしながら普段は絶対にしないような良い返事をして帰っていった。おいおい、別に脅したわけじゃないんだからさぁ…

 

「やれやれ…ま、いいか」

 

 さっさと帰って勉強しよう…そう思った俺は買ってきて貰ったコーヒーを飲みながら帰った。……あ、コーヒーのお代返すの忘れてたな。まぁ、次あったときにでも返そう。




チキチキ!主人公ダイスロール!(白目)その①

APP(容姿、魅力)編

作者「さーて!振っていこうか!ダイスロール3~5は異形型にしてっと…」カラカラカラ…

APP値→4

作者「え?」

APP値→4

作者「  え?」


作者「     え?」

※ガチで起きた出来事です。ネタでも振り直しした訳でもなく一発で4がでました。


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入学試験

チキチキ!主人公ダイスロール!(白目)その②

個性技能(趣味技能で代用)編

作者「よし、行動技能と知識技能合わせて三つ選ぼう。せぇい!」カラカラカラ…

結果…
・隠れる
・地質学
・クトゥルフ神話

作者「またファンブル級!?てか『隠れる』はともかく『地質学』とかどう扱えっちゅーねん!」

あ、実は拙者同名でTwitterやってます。大したこと呟いてませんが、良ければフォローしてくださいな。こちらにでも良いんで報告くださればお返ししますよっと(露骨)。そして今回説明回なので前回よりよっぽど長いです。


 雄英高校。それはこの超常社会において、誰もが一度は夢見る職業、『ヒーロー』になるための登竜門である。その偏差値は例年75を下らず、倍率も他校とは桁違いの数値を叩き出す、世間一般における所謂『日本屈指の超絶名門校』と言うわけだ。そんな名門校の校門前に、一人の青年が立っていた。針金細工のようなシルエット、どこに繋がっているかわからない黄色いフード、そして何よりのっぺりとした青白い仮面。彼が着ている学生服を除けば、明らかに受験生がする風体ではない。しかし、彼がここを訪れた理由は、間違いなくその『受験』であった。

 

「……何というか、感慨深いなぁ…」

 

 ほう、と一つ溜息を吐いて、青年は呟いた。

 

「さて、本気で望むとしようか、ね」

 

 首をゴキゴキと鳴らしながら、彼は校門の中へと入っていった。彼の名は「蓮田 卓夢」。何時ぞやかは、日本最恐の不良(グレート・オールド・ワン)とすら呼ばれていた、実は成績優秀な他称ツッパリである。

 


 

『今日は俺のライヴにようこそー!!!エヴィバディセイヘイ!!』

 

シー…ン

 

 痛々しいほどの静寂が試験会場を包む。今年度の試験の概要説明を任されたボイスヒーロー『プレゼント・マイク』、開幕そうそう滑り倒していた。しかし彼はそれを気にする節も無く続ける。

 

『こいつぁシヴィー!!受験生のリスナー!実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!!アーユーレディ!?』

 

『YEAHHHHH!!!』

 

シ───────ン!!!!

 

 最早その静けさは地獄級だった。会場の気温が若干下がったかのようにすら感じ取れる程の空気感の中、それでもマイクはめげずにプレゼンをしていく。そんな様子を見た蓮田は、

 

(おぉおう…この空気の中でめげないとか寧ろすごいな、これがプロか…)

 

 と、どこか見当違いな感銘を受けていた。

 


 

(動きやすい格好って言ったって、()()は外れないんだよな…)

 

 そこそこの広さがあるビル街を模したステージである試験会場A。蓮田はそこで、軽くストレッチをしながらそんなことを考えていた。今の彼の服装は、彼がいつも被っているフードのようなものと同色のジャージ。どんな服を着ても必ず襟元にひっついているこのフードのようなものを見遣りながら、ハァ、と溜息を吐いた。

 

(まぁ、仮面もつけたまんまだけどさ)

 

 ストレッチを終えて、開始の合図を待とうかと蓮田が立ち上がった、その時──

 

『ハイスタートォ!』

 

 

「「「……え?」」」

 

 『スタート』の四文字がスピーカーから発せられる。カウントダウンも無しの唐突な開始に、思考も肉体も停止する受験生一同だったが、それは蓮田も例外ではなかった。しかし、彼と他の受験生との決定的な違いをあえて示すなら

 

(……え、今のって、まさか、だとしたら)

「ウッッッソだろざけンな!」

 

 思考の停止がほんの僅かな時間だったこと、更に加えて、不良からケンカを売られ続けた中学生時代で染みついた対応の早さも、だろうか。

 蓮田は自分の“個性”を使って足下から風を巻き上げ自分を持ち上げ、そのまま前方へ一直線に推進する。それを見た何人かの察しの良い受験生達が焦った顔で前へ出ようとする。波乱の実技試験、開幕である。

 

『走れ走れぇ!!賽は投げられてんぞ!!?』

 


 

「ハイそこ2P!」

 

 実技試験開始から一分、蓮田は既に30Pを集めていた。今も、自分の指を鞭のように振るい2Pの仮想ヴィランを破壊する。

 

 さて、ここで必要かどうかはわからないが、蓮田卓夢の個性を説明しておこう。彼の個性はお気づきの通り『黄衣の王(ハスター)』、クトゥルフ神話に登場するかのハスター御大の力を手に入れる個性である。その力で、現在彼が使用することができるものは四つである。

 

 一つ目、入試開始直後に使った『風を操る力』。これは、風の邪神たるハスターの最たる特性だろう。蓮田もこれをある程度使用することが可能で、風を纏う、風を使って空を飛ぶなどのことはできるのだ。

 

 二つ目、これは先程2Pを倒した力の一つである『触手指』だ。手足の指二十が伸縮自在のしなやかな触手になっている。蓮田はこれを隠すために普段は手袋をしている。

 

 三つ目、これも2Pを倒すのに一役買った能力、その名も『皮膚鉱化』。これは自分が構造を理解している鉱物へと皮膚を変えることができる力だ。先程は触手の先端を鉄鉱石へと変えた、と言うわけである。

 

 そして四つ目、これは今は使っていないが、『完全隠蔽』と言う、自分の姿、臭い、足音等の彼から発される全ての情報を隠して完全なステルス状態になる力だ。持続時間はそこまで長いわけではないが。

 

「これで5,60はいったかな…っと、ん?」

 

 風で押し潰す、触手で打ち抜く、払うなどの方法をとってPを稼ぐ蓮田であったが、突如何かを感じ取ったようで後ろを振り向く。すると

 

THOOOOM…!!

 

 ビルを草の根でも掻き分けるようになぎ倒して、雄英名物、0Pヴィランの登場である。

 

「おぉ、うぉお…!これが0Pか…中々ロマン溢れる無骨な見た目とサイズしてんじゃ…ってそんな場合じゃない!さっさと退散してP狩り、を…」

 

 0Pの登場に他の受験生とは全く別の理由で気を取られていた蓮田だったが、すぐに我に返り、方向転換をしようとした、その瞬間、彼の反転した瞳には映ってしまった。彼のどこにあるかわからない耳は捉えてしまった。0Pへの恐怖によって足がすくみ、立てなくなっている者達のその絶望の表情を。もう終わりだ、助けて、という、悲痛な受験者達の微かなる叫び声を。その姿を、声を、感じ取ってしまった瞬間、彼は動き出していた。無意識に、無我夢中に。

 

(あぁもう、嫌になるな)

 

 薄っぺらい仮面の後ろで、彼は皮肉げに嗤う。自分自身の馬鹿さ加減を。自分の短慮を。そして切り替える。目の前の浪漫巨兵(鉄の塊)をぶち抜くのは非常に、非ッッ常~~に惜しいことではあるが、致し方ない。人命には代えられないのだから。本当に仕方ない。仕方ない。そう口に出して彼は周囲の風を完全に支配する。それは、かの邪神にはほど遠く及ばないが、しかしそれでも、十分すぎるほどに人間離れした所業の始まりだった。

 

「さて、まずは人命救助、だね」

 

 パチン、と指を鳴らして風を飛ばし、0Pの周囲の受験生を全て攫って安全なところに持っていく。

 

(これで本気を出せる。名残惜しいがグッバイ、イカすメカ!)

 

 周囲の受験生の避難が終わったのを確認した蓮田は支配した風を集め、空高く飛び上がる。ヒルル…とフードがはためく。

 

「さぁ、始めようか」

 

 蓮田は右手の五本の触手の指を少し伸ばすと、それをまとめて捩らせ、一本の強靱な鞭を作りあげる。そしてその先端10㎝程をまたもや鉄鉱石へと変える。加えてその周りに、回転するように風を纏わせる。

 

「そのイカすデザインとサイズに対する手向けだ。本気でぶっ壊すぜ」

 

 触手をグルグルと高速回転させ、先端に籠もるエネルギーを、最大のものにする。そうして0Pの頭上から振り下ろされた一撃、それはまさに──

 

さよならだ(アリーヴェデルチ)、0Pヴィラン」

 

 神の裁きと呼ぶべき、破格の一撃だった。そして、そんな圧倒的な一撃が振り下ろされ、0Pが音を立て崩れ落ちていく、それと同時に──

 

『終~~~~~~了~~~~~!!!!』

 

 実技試験が、幕を閉じた。




軽ーくプロフィール
蓮田卓夢(ハスタ タクム)
身長:187.3㎝
体重:69㎏
神話生物の見た目なこと以外は普通()な少年。“個性”の影響で髪の毛を含め毛と呼べるものは一切生えていない。瞳の色は紫で、白目は反転している。着痩せするタイプで、服の上からだとかなり華奢に見える。まぁ実際そこそこ華奢だが。性格は善性に近いナチュラルクズ。身の危険が迫った場合は容赦なく蹴る(キック70)。
とある事故で親を亡くしていて、現在は親代わりの女性に養子として引き取られる形で生活している。
個性:『黄衣の王(ハスター)』
その名の通りハスターと同じことができる。
・手足の指先が触手になる『触手指』(伸縮自在で千切れても再生が可能)
・一時的なステルス状態(『隠れる』技能)の『完全隠蔽』
・皮膚を自分が構造を理解している鉱物へと変える(『地質学』技能)『皮膚鉱化』
・風を操る力(例:風を体に纏う、竜巻を起こす)
の四つの力を現在有している。増えるかどうかは未定。
 また、目線を合わせる、声を発する、と言った日常動作一つ起こすだけで周囲の人間に強制SANチェックを起こさせてしまう(『クトゥルフ神話』技能。制御不可)ため、普段は、彼の“個性”に出力制限をかける機能がついた仮面をつけている。制作者は彼の親代わりの女性。

『地質学』の活かし方は友人からアドバイス貰いました。テスト期間中なのにありがとうね友人。


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入学

チキチキ!主人公ダイスロール!(白目)その③

INT、EDU編(知力、教養)

作者「今回こそまともなのが来ますように…」カラカラカラ

結果↓
INT(知力):11
EDU(教養):18

作者「よ、良かった。まだまとも、か…」←先の二つがヤバすぎて麻痺

そんなわけで第三話、どうぞ。


『おめでとう蓮田少年!敵P60、救助P40、筆記も文句なし!見事一位で合格だ!来いよ!ここが君のヒーローアカデミアだ!』

「…………………ハァ~~~ァア、()っっかれたぁあ″ああーー……ぁ」

 

 投影プロジェクタから移し出されたオールマイトからの合格通知を受けて、蓮田は今までしたこともないような大きな溜息を吐いて椅子の背もたれにぐったりと背中を預け脱力した。

 

「いやー…なんとかなったな畜生…落ちて無くてよかった…」

 

 仮面の下で疲れたような半目を作り、落ちてたら殺されるとこだった…と独りごちる。その脳裏に浮かんでいるのは、今まさにキッチンで料理を作っている自分の母親代わりの女性。不合格にでもなれば、雷が落ちるのは必至だろう。比喩なく。

 

「ヒーローへの道…ようやっとスタートラインってところか…あーやだやだ、忙しくなりそうで最高だね」

 

 皮肉気に呟く蓮田だったが、仮面の下の顔も、その声色も、まるで皮肉さなど感じられず、寧ろそこには喜びの色が見られた。

 


 

「卓夢君!ハンカチ持ちましたかハンカチ!あとティッシュとお財布とスマホとオヤツと…」

「オヤツて、遠足じゃないんですよ!?そんなに心配しなくても、必要なものはちゃんとリュックに入れましたから、安心してくださいよ、ほたるさん」

 

 雄英高校入学式当日。蓮田は、ぴょんぴょんと跳ねて自分の忘れ物を確認する、彼の母親代わりの女性、奈良戸(ナラト) ほたるをなだめていた。恐らく自分よりも遥かに年は上の筈だと言うのに、相変わらず見た目も言動も童女染みていて困る。

 

「いやー、あの卓夢君が雄英とは…感慨深いですねぇ。1年前の今頃なんて、不良と仲良く殴り合いしてたのに」

「それ、入試の当日俺がとっくに言いました。あと、アイツらは勝手に押しかけてきたから突っ返しただけで、別に仲が良いわけじゃありませんよ」

「あ!出来ればでいいので雄英の校舎撮ってきてください、ミラーレス貸しますから」

「仮にも息子に貸す代物じゃねぇ!?……ハァ、行って来ます」

「行ってらっしゃい!」

 

 朝から疲れる…とボソリと呟き、蓮田は家を出た。それでも押しつけられたミラーレスのデジタルカメラは持っていく辺り、彼女に頭は上がらないようだ。

 


 

「…入試の時も思ったけど、この学校色々デカ過ぎだし広すぎだろ…まぁ肉体変化系の個性の人への配慮なのはわかるが」

 

 凡そ人が通るのには十分を通り越してあからさまに過剰なサイズのドアを通り、蓮田がヒーロー科1ーAの教室へ入ると、そこにはもう既に二十一名のクラスメート*1の内、過半数が来ていた。

 

(………この人達が、俺と同じようにあの激戦区を生き残ってきた人達か…)

「ちょっと良いかそこの君!」

 

 自分の席に向かいながらそんなことを考えていた蓮田だったが、いきなり後ろから話しかけられた。振り返るとそこには、入学試験の時マイクに質問をしていたメガネの青年が立っていた。

 

「…俺に何か?てかどちら様よ、お宅」

「ボ…俺は私立聡明中学出身飯田天哉だ!その服装は校則違反ではないか!?初日から制服改造など認められていないぞ!」

「は?制服改造ォ…?何のことだか……あぁ、これか」

 

 いきなりの飯田の発言に困惑の顔を見せた蓮田だったが、すぐに自分の頭部を覆っているフードのようなもののことだと気づき、訂正を入れた。

 

「このフードのことなら、別に改造なんかしてないよ。俺の個性の影響でね、どんな服着ても引っ付いて来るんだ。仮面も似たような理由だから、大目に見てもらえると嬉しいね」

「何!?そ、そうだったのか…!それは失礼した!」

「気にしなくても良いよ。寧ろ当然の疑問だからな。蓮田卓夢、県立愛創中学出身だ。よろしくな、飯田」

 

 自分の誤解だと理解した途端バッ、と言う擬音がつきそうな勢いで頭を下げて謝罪をする飯田だったが、蓮田に止められるとすんなりと頭を上げた。

 

「あぁ、よろしく頼む!…ってコラそこの君!机に足をかけるな!」

「あぁ!?ンだてめぇ!」

 

 と、そんな風に段々と教室内が騒がしくなってきたところに、

 

「お友達ごっこがしたいなら他所へ行け。ここはヒーロー科だぞ」

 

 小汚いナニカが現れた。小汚いナニカはのそのそと起き上がり、教壇の方へと蠢いていく。蠢いて行く中で、生徒達は、そのナニカが人間の男であること、今までそれを理解できなかったのは、その男が寝袋に包まっていたからだということに気づいた。そして、男の口から衝撃の真実が語られる。

 

「ハイ静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君達は合理性に欠くね……担任の相澤 消太だ、よろしくね」

 

(((先生!!?しかも担任!!?)))

 

 その真実に、全員の登校完了から数分、ヒーロー科A組の心は早くも一つになった。そんなこともどこ吹く風と、相澤は寝袋の中からゴソゴソと藍色の服を取り出した。

 

「早速だが、体操服(コレ)着てグラウンドに出ろ」

(……相澤 消太…対個性系の“個性”、抹消ヒーロー『イレイザー・ヘッド』か…嫌な予感がしてきた)

 

 蓮田は、更衣室で事前に発注されていた先程の体操服に着替えながら、そんなことを考えていた。そして悲しいかな、その予感は的中する。

 


 

「「「はああああああああ!!!?」」」

 

 “個性把握テスト”にて最下位の者の除籍、相澤の口から語られたそれを聞き、A組は騒然とする。何人かは比較的平然としているように見られるが、それでも全員の顔に少なからず驚愕と動揺の表情が浮かんでいた。それは、蓮田も例外ではないようで──

 

(いきなり除籍とか…冗談にしたって笑えないぞオイ…!……仕方ない、やるしかないか。最下位の人すまんな、また別の場所で頑張って…!これを越えられないと一流のヒーローにはなれないってことで!)

 

 ……いや、動揺している風に見えてしっかり腹は決めていた。夢に対して一途な反面、ある種リアリスト染みているのかもしれない。

 

「生徒の如何は先生(俺達)の自由…ようこそこれが、雄英高校ヒーロー科だ」

 

 試練に対し戦く者、望むところと嗤う者、余裕の表情を見せる者、悲喜交々の最初の試練が、今始まる。

*1
今年度は特例につきA、B共に在籍生徒を二十一名とする




新キャラは機会があればサクサク出していきたいと思ってます。まぁ基本神話生物なんですけど。


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個性把握テスト

気づいたらお気に入りが100件になってて驚いてる塩谷です。これからもどうかよろしくね!


「“Plus Ultra(更に 向こうへ)”さ、全力で乗り越えて来い」

 

 そんな相澤先生の言葉と共に、“個性把握テスト”か始まった。第一種目は、50m走か…まぁ走るのは苦手じゃない。俺の個性も合わせれば、ほとんどの相手には勝てるだろうしな。ただ、ペアが……

 

「えーと、爆豪、だったか?よろしくな」

「あ″?話しかけてんじゃねぇよクソ仮面のモブが!」

 

 何この不良…俺の中学にいた連中と変わんないんだけど…発言がヒーロー志望のそれじゃないし、良く合格したなオイ……

 

「位置についたか?行くぞ…よーい、スタート!」

 

 相澤先生の空砲を合図に、俺達二人は走り出す。まぁ俺はここから先は走るって言うよりは

 

「んよいしょォ!!」

 

 風を使って真っ直ぐブッ飛ぶ、なんですけどね。

 

『2秒62!』

 

 メカから伝えられたタイムは、俺の自己ベストよりも少し遅いものだった。まぁ最近は風の操作訓練も怠ってたし、久々にしちゃ上出来ってモンかね。爆豪は4秒13。俺と同じようなことを爆風を使ってやってたけど、残念、出力が違う。ゴールしたときに舌打ちされて滅茶苦茶睨んできたけど、これ俺明らかに悪くないよな?

 

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 第二種目は握力。これはシンプルに指の触手を巻き付けて思いっきり握るだけの簡単なお仕事だ。異形型のパワーなめんな?と言うわけで、記録は260㎏w。クラス内では三位だった。また爆豪に睨まれた。

 

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 第三種目立ち幅跳び。これも簡単だ。風に乗って飛び続ければ良いからな。10㎞を越えたところで相澤先生からストップが入り、俺の結果は『∞』扱いになった。勿論一位。やったぜ。ただ、また爆豪に睨まれた。

 

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第四種目の反復横跳び。これも普通にやるだけだ。異形型のパワーと、この体(ハスター)のしなやかさと言うか、軟らかさを活かし、中々の記録を出すことが出来たと思う。記録は600丁度。俺の後の紫のブドウみたいな頭した“峰田”…だっけか、が583で俺に追いつかんばかりの記録を出していた。やっぱバカと個性は使いよう、だな。そしてやっぱり爆豪に睨まれていた。ホントに何なんだよ…

 

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 第五種目はボール投げ。ここで何と俺同様に『∞』を出した奴がいた。麗日 お茶子…投げたボールが減速せず飛び続けるってことは、重力とか浮力とかに作用するタイプの“個性”なんだろうか。うーむ、汎用性が高そうだ。

 それと、また爆豪が「くたばれ!!」とか言ってボールをぶん投げてた。んでもって俺の方にガン飛ばしてきた。どうあがいてもヴィランです。ありがとうございました。

 さて、俺はどうするかね。と言ったところではあるが、実はもうやり方は決まっている。

 

「部分鉱化“鉄鉱石(メタル)”」

 

 俺は自分の腕を鉄鉱石で包む。え?何で包む必要があるのかって?いやほら、ボールを殴って手に傷がついたら大変じゃん?そんなわけで俺はボールを円の中で軽く放る。そして、放ったボールの中心目掛け、思いっきりストレートを放つ。あそれでは皆さん一緒に?

 

ハスターパンチ!!

 

 打ち抜かれたボールは、前方へ、しかし同時に真っ直ぐ空目掛けて飛ぶ。これだけでもまぁ、大体1㎞分はぶっ飛ぶだろう。しかしまだだ、まだ足りない!何がって?

 

「回転が足りないのさ!」

 

 パシン、と指を鳴らし、飛んでいくボールに風の回転を加え、飛距離を増加させる。飛んでいけ、銀河の果てまで──!なんて、まぁ精々5㎞が良いところだろうけど。え?投げたボールを殴ったり回転させたり、反則じゃないのかって?まさか。相澤先生はこう言っていた。『円から出なきゃ何してもいい、はよ』と!つまり?俺が?()()()()()()()()ァ?何をしても良いと言うことになりますねハァイ!?……失礼、調子に乗りすぎました。まぁ、つまりはそういうことだ。その証拠にほら、相澤先生も、ちょっとこっちを白い目で見るだけで、別に咎めはしてない。俺はあくまで、ルールに則って競技を行った、ということになる。つまり俺は悪くない。あ、記録は5086.7mでした。まーた爆豪にガン飛ばされたけど、ハイハイワロスワロスの心意気で無視した。というか俺の後の緑谷って奴、いままでそんな良さげな記録出してなかったのにいきなり700とかいったぞオイ。腕力特化で今まで使えなかったとかか?それともデメリット付きでそんな頻繁に使えないとか?うーむ、やはり流石雄英、生徒の個性も興味深いのが多いぜ。

 

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 第六種目は長座体前屈。ハスターのしなやかさで女子の中でも運動できる組と思われる芦戸って子と八百万って子、後蛙吹って子の次になった。また爆豪に睨まれた。もう慣れてきた。

 

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 第七種目は上体起こし。まぁ、これは極めて普通に頑張った。風もしなやかさも鉱化も隠蔽も触手も使えないもんだから、素の力でやるしかなかった。記録は180回。まぁ、異形型としてはそこそこのスコアでしょ。現に俺よりもゴッツい異形型の障子は200いってたし。まぁ、俺も万能じゃないわな。爆豪?あぁ、いつも通りよ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 最終種目、持久走。これが何よりウザかった。キツかったじゃない。ウザかった……!何せ俺が前出る度に爆豪が躍起になってアホみたいにスピード上げてくるのだ。どんなにスピード上げても無理矢理追いついてきてガン飛ばしてくる。お前は一昔前のねちっこい熱血系ヤンキーか。どんだけみみっちいんだお前。まぁ最後は本気出して追いつけないぐらい差ァ開いてやりましたがねハッハッハ。記録は八百万に次いで二位。文明の利器はずるいってお嬢さん…

 

 

 と、そんなわけで最終的に俺は、八百万に次ぐ二位だった。流石推薦入学者、と言うべきか。しかし物を自由に作り出せる個性……何それチートやん。文句はないけどさ。

 あと最下位除籍は、俺達の本気を引き出すための合理的虚偽だったんだとか。全く冗談がお上手なこって…あれは明らかにいざって時はやる目をしてたぞ。ともすれば最下位以外も見込みが無けりゃ除籍にするつもりだった筈だ。いやー怖い、雄英怖いわー…まぁでも、そんな厳しさがトップヒーローを作り出しているのだとすれば、何となく納得できる話でもあった。

 何はともあれ今日は疲れた…そんなわけで、ホームルームの後は真っ直ぐよろよろ直帰する俺なのであった。




チキチキ!主人公ダイスロール!(白目)その④

STR、SIZ、DEX編(筋力、体格、敏捷)

作者「もう何が来ても驚かん!驚かんぞー!」

結果↓

STR(筋力):15
SIZ(体格):18
DEX(敏捷):16

作者「ファッ!?(驚愕)うーん…(気絶)」

蓮田の筋力値が15で「蓮田痩せ型なんじゃないの!?塩谷の嘘つき!死ね!」と思う方がいるかもしれませんが、作者が勝手に作った設定では彼は『滅茶苦茶着痩せするタイプ』と言うことにしてます。脱ぐと凄いって奴です。まぁそのシーンを見た貴方は容赦なく1d100のSANチェックなんですけど。


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パンは美味い(確信)

個人的に蓮田のCVはFateのアンリマユでお馴染みな寺島拓篤さんですかね。それか速水奨さん。


「おはようございまー…「おっ!来た来たァ!」す…って、ん?」

(いきなりなんだ?若干面倒なことになりそうな予感が…)

 

 入学二日目、蓮田は登校早々何かの標的にされた、ということを本能的に直感したようで、仮面の下の反転した双眸を気怠げに薄める。

 

「よぉ蓮田!お前、昨日のアレって何だったんだよ!?」

「昨日のアレ?あぁ、個性把握テストのことか…え、何、個性絡みの話?」

「おう、まぁ、個性だけじゃねぇけどな。実は昨日、あの後自分の個性とか、どこから来たとか話してたんだけどさ、お前ちゃっちゃと帰っちまっただろ?色々聞きてぇなと思ってよ!」

 

 赤いツンツンヘアーの快活な少年、切島の言葉に、成る程と納得する蓮田。あの時は色々と疲れすぎて帰ることしか頭になかったが、入学初日なら互いの親睦を深めるためにもそういうこともするだろう。

 

「そうだったのか。で、個性の話だっけ?ま、見ての通りの異形型…あとちょっとした手品が出来る程度だよ」

「手品て、ボールぶん殴っただけで5㎞も吹っ飛ぶのは異形型でも説明できねぇって!」

 

 金髪に黒のイナズマ模様が入った少しチャラい雰囲気を出す上鳴が声を上げるが、蓮田はそれに笑って応える。尤も、仮面の下からでは表情も伝わりようがないが。

 

「バカとなんとかは使いよう、って奴さ。どんな個性も使い方によっては十分強力な武器になる。戦闘手段じゃないものを、どう戦闘手段に変えるか、どうやって活かすか…それは本人次第だからな」

「あー、確かにそうかも…?ウチの個性とか、攻撃するのには向いてないけど、情報収集とかには使えるし」

 

 耳たぶがイヤホンジャックになっている少女、耳郎が耳たぶを指にくるくると絡めながら言う。

 

「個性についての詳しいことは…そうだな、まぁどっかで言うよ。それで勘弁してくれ」

「……和気藹々とやってんのは良いが…お前ら、さっさと席に着け」

「「「はい」」」

 

 背後から突如として相澤が現れたことで、立っていた生徒達がたちまち席に着く。

 

(昨日の脅しがやっぱ効いてんだな…まぁかく言う俺もビビっちゃったし)

 

 人のこと言えんわな…と心の中で独り言ちる蓮田であった。

 


 

 どうも、蓮田ですよっと。午前中は普通に授業やって、今は昼休みだ。購買購買、パンかなんか買ってこないとな。と言うのも、俺の顔を覆ってるほたるさん謹製のこの仮面、これを外した素顔はなるべく人に見られたくないからだ。“個性(ハスター)”の影響で俺は何するにしても人の正気度を削っちまう。それをこの仮面で押さえ込んでるって訳だ。まぁ他の力もガクッと下がるけど。

 

「パン、パン~っと」

 

 購買求めてぶらぶらと校舎を彷徨いていると、食堂に着いてしまったらしい。仕方ない、ここで買うか。えーと、パンのコーナーは…あったあった。ここだな。

 

「すいません、あんパンとメロンパン一つずつ下さい」

「あいよ!二つ合わせて300円だ!できてるからお代持ってってくれ!」

 

 クックヒーロー『ランチラッシュ』にお代を渡して、パンを受け取る。紙袋に包まれた二つのそれは、焼いてからまだほとんど時間が経っていないのだろう、ほのかな熱と香ばしい匂いを漂わせる。

 

「…………」

 

 ごくり。思わず喉を鳴らしてしまった。クソ、こんなうまそうなパン見たことねぇよ。そそくさと人目のつかない所へ移動し、すぐに仮面を外してパンに齧りつく。味はどうかって?聞くまでもない。

 

「美味すぎる…!」

 

 美味いだろうとは思ってたけど、予想以上だ。これが1個150円とか冒涜的すぎる。あんパンの餡の甘さはキツすぎず、薄すぎず、万人が満足いくような丁度良さを保っており、ふかふかのパンとよく合う。メロンパンも、サクサクの生地とこれまた丁度良い甘さに調節されたほのかな甘さが素晴らしい。あっという間に食べきって、ふぅ、と俺は溜息を吐いた。なんだこれ、なんだこれ(語彙消滅)。

 

「っと危ねぇ!授業授業!!」

 

 クソ、パンの余韻に浸る暇も無い!!急いで仮面をつけて教室へ戻る。間に合うか!?てか広すぎなんだよこの学校!!

 


 

「わーたーしーがー…普通にドアから来た!!!

 

 No.1ヒーロー『オールマイト』の登場により、騒然とするクラス内。あまりのオーラに画風が違って見えるほどである。一方、ある意味で画風が異なる蓮田は

 

(あ、危ねぇ…間に合った…バレないように『完全隠蔽』使った状態で全力疾走したから…クソ疲れた……)

 

 最早息も絶え絶えであった。とは言いつつも実際は、普通に運動できる程度の体力は残っているようだが。

 

「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地をつくる為様々な訓練を行う科目だ!ん早速だが今日はコレ!!戦闘訓練!!!

 

 戦闘訓練、その言葉を聞いて、またもやクラス内は騒然とする。生徒達の表情も様々で、やる気に満ちあふれる者、冷静に策を考える者、相澤の一件を思い出し身を竦ませる者など、正に十人十色だ。

 

「そしてそいつに伴って…こちら!!!」

 

 オールマイトが何かのスイッチを押すと、次第に教室左側の壁が飛び出してくる。飛び出た部分には、クラスメートそれぞれの出席番号が書かれたケースが収納されている。

 

「入学前に送って貰った『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた戦闘服(コスチューム)!!!……格好から入るってのも大切なことだぜ少年少女!!自覚するのだ、今日から自分は…

 

 

 

ヒーローなんだと!!

 

(さて、いきますかね…!)

 

 仮面の下で笑みをつくり、集合場所へと向かう蓮田。その心境に、先程までの疲れなどは微塵も残っては居ないようだ。

 

「さぁ!始めようか有精卵共!!」

 

 雄英生活二日目にして二つ目の試練が、今始まる。




チキチキ!主人公ダイスロール!(白目)その⑤

CON編(体力)

作者「いよいよ(一応)ラストだ…そぉい!」カラカラカラ

結果↓

CON:17

作者「」

作者「 」

作者「  」←絶死


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戦闘訓練(見る方)

なんか週間ランキング130位になっててまじでビビりました。毎度読んで頂いてありがとうございます。これからも死なない程度にいあいあしながら頑張ります!
とか言ってますが、今回そこそこ難産でした。


(しかし…やっちったなぁ…)

 

 彼専用のヒーローコスチュームを纏いながら、蓮田は髪の無い頭をカリカリとかいた。彼の悩みの種は、言うまでも無くそのコスチュームである。

 

(材質とか強度とか…それ以外にもある程度頼んどきゃ良かった…)

 

 彼が纏っているコスチュームは、彼の愛用(?)する黄色いフードのような物と同カラー、つまり黄色いぼろ布のようなローブ、ただそれだけだった。強いて言うなら、裾や袖に暗紫で幾何学的というか、ファンタジー世界の魔方陣のような模様が編み込まれてはいるが、それを差し引いても酷い。しかもそれが似合ってしまっているのが辛かった。

 

(俺は物語かなんかに出てくる悪い魔術師さんかってーの…あー畜生、デザインはお任せ、とかするんじゃなかった)

 

「おぉ蓮田…って、お前その格好…!」

「言うな、わかってるから」

「お、おう…」

「なんかファンタジー物に出てくる魔術師みてぇ」

「うっせぇ言うなっての…言っとくが俺のセンスじゃねぇからな?」

 

 切島や上鳴が声をかけてくるが、反応はやはり微妙な物だった。仮面も相まってやはりヒーローのようには見えないようだ。

 

「良いじゃないか皆、カッコイイぜ!!」

 

 そんな蓮田の憂鬱を他所に、オールマイトは二十一人の生徒を見渡して(緑谷に視線を移した途端に吹き出したが)そう言った。

 

「さァ、訓練の内容を説明するよ!本来ならここは市街地演習、早い話が屋外訓練のためのエリアなんだが、今回は更にその二歩先に踏み込む!つまり、屋内での対人訓練さ!」

 

 屋内での対人戦闘、詳しく言えば、ヒーローチームとヴィランチームに分かれ、それぞれ2対2で戦うという物だった。ヒーローチームの勝利条件はヴィランチーム二名の拘束またはヴィランチームが隠し持つ核(勿論ハリボテ)の奪取。ヴィランチームの勝利条件は逆にヒーローチーム二名の拘束または制限時間の間、核を守ること。何ともアメリカンな背景設定だった。因みに今回、と言うより今年度は特例によって1チームだけ3人となることになった。

 

「コンビ及び対戦相手の選出方法は…クジだ!」

「適当なのですか!?」

 

 意外にもフラットな選び方に思わず飯田がツッコミを入れるが、そこに緑谷が補足を加える。蓮田のペアは、と言うと…

 

「お、よろしくね。蓮田」

「耳郎か、よろしくな」

 

 朝のイヤホンジャック少女、耳郎だった。

 

(当たりたくないのは相性的にBチームか三人チームのCチーム、あとは、まぁ(爆豪)チームだよなぁ…飯田にゃ悪いが大荒れになる予感しかしないわ…)

 

 他のチームも決まっていくのを見て、ある程度の分析を行う蓮田だったが、耳郎との相性なども考慮に入れるべき今、自分だけの相性のみで考えるのはよくない、と考え直して思考をリセットする。その間に第1試合の組み合わせが決定していたらしい。

 

(A…ってことは緑谷か…爆豪とはあからさまに確執ある感じだったし…あー、こりゃ泥沼確定ですわ…)

 

 心の中で緑谷に念仏を唱えるのと同時に、自分が当たらなくて良かった、と安堵する蓮田。蓮田も蓮田で、一方的に爆豪から強い敵意を向けられているため、対処は楽だとしても面倒なことになりそうなのが目に見えていたからだ。

 

「それでは始めるぞ!ヴィランチームは先に入ってセッティングを!」

 


 

 音すらもねじ伏せるような一撃、そんな表現が似合いそうなほどに強力な爆撃の影響は、地下のモニタールームにまで届いていた。瓦礫と化したビルの外壁が落ちる音と、僅かな揺れを感じて、蓮田は改めて当たらなくて良かった、と安堵の溜息を吐く。

 

(ビルの外壁を吹っ飛ばす一撃…俺自身の身は守れても耳郎を守れるかって言ったら、まぁ無理だったな、こりゃ…範囲も威力も桁違いだ)

 

 自分の身を守るだけなら、“皮膚鉱化”で体をダイヤにでも包めば良い。だが耳郎を守る、となればそれは難しいだろう。風を使った防御壁でも張れれば良いが、それも今一強度には欠ける。

 

(しかもあの格闘センス、体の使い方…まともにやり合ったら多分ヤバかったな)

 

「才能マンって奴か…やだやだ」

「だろうな…んで、それを自覚してるからこそのあの言動な訳だ」

 

 上鳴のそんな言葉に、呆れたように蓮田は返す。その間にも、モニターの中では、爆豪が緑谷に対して一方的とも言える攻撃を続ける。

 

「リンチだよコレ!テープ巻きつければ捕らえたことになるのに!」

「ヒーローの所業に非ず…」

 

 爆豪の行動に一同は騒然とする。一方的なまま続くかと思われた戦いは、二人の言い合いによって終わる。そしてその直後────

 


 

「まぁつっても…今戦のベストは飯田少年だけどな!!!」

「なな!!?」

 

 二度の破壊音に包まれて、戦闘訓練の初戦は終わった。その後の反省会でオールマイトがしたのは、名指しされた本人も驚く飯田のベストプレー発言。その理由は簡潔に言えば、“他三名のヒーローらしからぬ行動”が原因だった。説明を丸々八百万に奪われ悔しがっているオールマイトを尻目に、蓮田は

 

(何かの確執があんのは目に見えてはいたが…いやしかし、あそこまで酷いもんとはな…爆豪の奴、親の仇みたいな勢いで殴りに行ってたし…まぁ、無理に詮索すんのも良くないか)

 

 と、そんなことを考えていた。

 

「ま、まぁ!気を取り直して次の組み合わせに行こう!次のチームは…」

 

 オールマイトがくじ引きの箱に手を入れる。取り出したのは…

 

「ヒーローチームはG!ヴィランチームはCだ!」

 

 やはりと言うべきか、蓮田のチームのボールだった。

 

(おいおいおい、もう俺かよ…もうちょっと他の試合見てからにしたかったんだけど…しかも相手三人だし)

 

 相手は峰田、上鳴、八百万の三人チーム。数の不利をどう解消するかが決め手となる。蓮田はそのことを理解し、いつも通り面倒そうに目を薄めたが…

 

(ま、あんな激戦の後なんだ、格好つかねぇのは良くねぇやな)

 

 すぐに思考を改めて、耳郎と共に地上へと出て行った。




蓮田の唐突な爆豪アゲはあくまで技術面のみで勝負した場合であり、あろうことかこの邪神STRやDEXを始めとする基礎ステータスはまるで度外視してます。神話生物のステータスでやり合ったら流石の『才能マン』も…ほら、ね?
 加えて別に蓮田は爆豪よりも技術面で劣ってるわけじゃないです。詳しくは次回辺り。


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戦闘訓練(戦う方)

日常よりも戦闘の方が書くのが楽だと思ってしまう自分がいる…

あ、それとPOW(精神力)のダイス開示するの忘れてたので掲載。

POW:15

……私泣いて良いですよね?


「まずは情報共有と行こうか、耳郎」

 

 戦闘訓練第二試合、相手は三人。そんなわけで俺は耳郎と、お互い『何ができるか』話し合っていた。

 

「っつー感じかな、俺の方は」

「マジで…!?いや、ちょっとした手品とか嘘じゃん…」

「んなことあるかよ、言ったろ?どんな個性も使いよう、()()()()()()じゃ腐るだけ、俺じゃ小細工程度にしか使えないよ」

 

 本当にそう思う。俺の…友j、いや、知り、合い?にイタカってのがいるんだが、ソイツは俺と似たような“風を操る”個性を持ってる。ソイツは俺の“個性”程の出力こそないものの、その操作の繊細さは正に神業と言えるレベルだ。多分元々の性格の違いだな。つまり何が言いたいのかって言うと、個性ってのはその人のアイデアによって割と無限の可能性、加えて本人との適性ってのがあるってことだ。発動型とか特にな。

 

「さて、どうやって攻めるかね」

「ウチの個性使えば、一応何かが近づいてる…とかはわかるけど…蓮田のステルスあるからあんま必要ないかな?」

「いや、アレもアレで制限はあるからな、索敵は寧ろ欲しかった」

 

 “完全隠蔽”は率先して使うつもり満々だが、なんだかんだ言って弱点がある。そこを補うためにも耳郎の“イヤホンジャック”による索敵は好都合だ。

 

「ま、何でも作れる八百万がどうせ何かの罠は張ってるだろうし、用心はしていこう。ま、戦闘は任せな」

「おし、じゃサポートはウチにお任せって感じで」

 

 お互いの拳を合わせて、俺達は建物の中に入っていった。

 


 

(……おかしい、ですわね)

 

 八百万百は困惑していた。もうとっくに訓練開始から5分は経過しているというのに、未だ各階各エリアに設置した即席の探知レーダーに、一切の反応がないからだ。

 

(レーダーは熱探知型…範囲内に足を踏み入れた場合、反応が一切無い、と言うのはあり得ない…一体どういうことでしょう…?)

 

 彼女が思案に暮れている中、他の二人はどこか気を抜いてしまっているようで、何か話をしているようだ。

 

(何というか、締まりが無いですわね…)

 

 ハァ、と八百万が溜息を吐いたその直後、

 

ドガァアン!!!

 

 と言う音と共に、レンガで積み立てたバリケードが音を立てて吹き飛んだ。

 

「「「!!?」」」

(…!?破壊音!しかし、今まで一切レーダーに反応は…!)

 

 レンガが土煙が晴れるとそこには──

 

「こんちゃー、三っ河屋でーす…っと、お、当たりだ」

「一発目で当てるとか、蓮田運良いね?」

 

 今まで一切レーダーに反応のなかった筈の、ヒーローチームの二人だった。

 


 

 息を潜める。空気に溶け込むように、沈み込むように静かに。そして振り下ろす、絶対にして最小の、対象のみを打ち砕く一撃。硬い物が砕ける音が小さく響いた。と同時に…

 

「よ、よし…もう息しても大jゲホッゴホッヴェッヘンウボァ」

「ちょ、だ、大丈夫!?無茶するから…!」

 

 俺は思いっきり咽せた。え、台無しだって?無茶言うな、仕方ねーだろ?ほとんど今まで息してなかったんだから。

 

「あー、クソ、これでやっと文字通り一息つける…」

「便利だと思ってたけど、意外と難儀だね…まさか呼吸できないなんて」

 

 そう、これこそが“完全隠蔽”の弱点。発動中は一切呼吸ができない。と言うか、息を止めることが発動のサインだったりする。これを不良(アホ)共から逃げる為に愛用し続けて二年弱、お陰で息を止めた状態で15分近く走り続けることができるようになりました。やったぜ☆

 

「さて、4階まで一気に飛ばしてきたが、ここまで八百万達の姿は無かった。ってことは…」

「居るのも、核があるのも五階、ってことだね」

「そういうこったな。今までは俺がステルスで隠れつつレーダーらしきこの機械破壊して、耳郎の索敵で安全確認、って感じで来れたが、こっからは間違いなく戦闘ありだ。“完全隠蔽”も正直消費激しいから最低限で行くぞ」

「オッケー。その分索敵は任せて」

 

  俺が立ち上がって言うと、耳郎は自信ありげな顔で応えた。頼もしい限りだ。さて、息も整ったところで、いきますかね。

 


 

「峰田さん!上鳴さん!戦闘準備を!核を守ってください!」

 

 粉々に砕けたバリケードのあった場所に立ったヒーローチームの二人。その姿を確認した瞬間、八百万は思考を切り替え戦闘態勢に移る。その手には武器として作った長い棍が握られている。

 

「流石に対応早いな…核任せるわ」

「えっちょ嘘!?ウチに二人任せる気!?」

「アホ、全員引き受けるって言っとるんだ」

 

 そう言うと蓮田は左の手袋を外し八百万達の方に手をかざす。

 

「(風の攻撃!?)っ!お二人とも、回避を…!?」

 

 個性把握テストでも使っていた風の個性が来る、と読んだ八百万は、風の射線を横に避けることで回避行動を取る。しかし、その読みは外れた。

 

「う、うぉおおあああ!?」

「ぎゃああああやめろォ男に締めつけられる趣味はねぇぞォオオ!」

「な…!?」

 

 上鳴と峰田は確かに蓮田の攻撃を受けていた。しかしそれは風の攻撃ではなく、触手となった彼の指による拘束攻撃だった。

 

「ほれ、さっさと早よ」

「あ、そっか!サンキュ!」

 

 がら空きの核周辺を空いた右手で指し、蓮田が耳郎に指示を出す。遅れてそれに気づいた耳郎が急いで駆ける。

 

「し、しまった!行かせませんわ!」

「そりゃ俺のセリフですよっと」

 

 八百万が止めに行くも、蓮田が体が浮かない程度の風で足止めする。

 

「クッ…!やはり貴方から先に倒さなくてはいけないのですか…!」

「逃がす訳ないだろ常識的に考えて。ま、時間はガチで無いけど」

 

 向き直った八百万に肩をすくめる蓮田。急がなくてはいけない、と考えた八百万は、一か八かで棍を構えて特攻をかける。

 

「やぁああああああああ!!!」

 

 親からの英才教育故か、洗練された突きが蓮田を襲う。しかし悲しいかな、邪神を相手取るに当たって、その正確さは仇となる。

 

「正確さ、綺麗さ…うん、良い一撃だな。ま、それだけだが」

 

向けられた刺突を軽く避け、棍に対して垂直に正拳を当てる。すると棍はいとも簡単に真っ二つに折れた。

 

「なっ…!」

「はいおやすみ、痛みは一瞬だぜ」

 

 折れた棍に八百万が動揺するその一瞬を逃さず、蓮田が素早く懐に潜り込む。そして放たれるは顎への強力な掌底。三日月とも呼ばれるその一撃が、物の見事に八百万へヒットした。

 

「く…う…!」

 

 顎に強力な振動を受けた八百万は、薄れゆく意識の中で、

 

(あの棍、一応鉄製だったんですけど…)

 

 と、そんなことを考えていた。彼女が気絶してから殆ど経たずに、耳郎が部屋の隅に置かれていた核に触れ、

A組戦闘訓練第二試合は、Gチームの勝利で幕を下ろしたのであった。




蓮田の取得技能(職業技能+α)
マーシャルアーツ(70)
キック(70)
こぶし(70)
組み付き(90)←触手による補正付き
応急手当(40)
聞き耳(50)
追跡(70)
目星(60)
説得(40)←脅し(無意識)による補正付き
水泳(70)←余りの分のネタ枠+成長ロール複数回成功

 これだけの技能を持っておいて、技術面で負けるとかほざいた邪神擬きとほざかせた作者が居るらしい…(目をそらしながら)


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講評と放課後

お気に入り500超え…だと…!?バカな、こんな駄作のどこに需要が…!?と、戦々恐々していた塩谷です。いつもありがとうございます!これもクトゥルフTRPGが人気だからですね。皆様とラブクラフト氏に最大の感謝を。
それと、今回いつもより遅れてしまったのは、まぁ早い話が定期テストです。クソが。


 建物の地下、モニタールーム。そこには訓練を終えたC、G両チームを含むA組の全員がいた。

 

「さーて!まずはCチームとGチームお疲れ様!早速講評に入るが、今回のベストは勿論蓮田少年だ!」

「ども…(個人的にはサポート頑張ってくれた耳郎に一票入れたいところだが…ま、受け取っときますかね)」

 

 蓮田は仮面の下で若干の苦笑を浮かべながらペコ、と軽く会釈をした。

 

「さて、理由だが、蓮田少年はCチームの仕掛けたセンサーやトラップをことごとく回避していた…と言うか、殆どキミたちカメラに映ってなかったけど、何してたの?」

「俺の個性の一端…ってやつですかね。息を止めてる間は誰も俺と、俺が一度触れた一人を感知できないってわけです」

 

 こんな感じで、と蓮田は『完全隠蔽』を発動してみせる。隣の上鳴がいきなり蓮田が消え、またすぐ現れたのでうおっ、と短く驚きの声を上げた。

 

「成る程…まぁ、それは置いておいて、その後の戦闘でも、風を使うと見せかけた触手による拘束や、武器の破壊など、十分に評価に値する行動をしてくれた!彼がベストな理由はそんなところさ!

 次に、他の人達のマイナス理由だが、まずヴィランチーム、上鳴少年と峰田少年だが、二人は咄嗟の判断力が弱い、ヒーローチームの二人が現れたときに、もっと素早く行動ができていれば良かったね!」

「は、ハイッス!」

「うおお…頑張ります」

「次に八百万少女、君は愚直すぎる。蓮田少年が最後の方で言っていたが、君の作戦は策としては正しい。だが同時に型にはまりすぎている面もあるな!相手が自分の策に対抗できる能力を持っていることを想定できていればもっと良く立ち回れたかも知れないな!」

「精進致します…」

 

 次に、とオールマイトは今度はヒーローチームの二人に向き直る。

 

「耳郎少女は索敵などのサポートでは健闘していたが、蓮田少年の後追いが多かったように見えた。自分から行動できるといいな!しかし、自分の役割をしっかり理解して行動できていたのはグッドだぞ!」

「あー、確かにそうかも…気をつけます」

「うむ!蓮田少年も、バリケードの破壊に関しては核を傷つける危険があったため、細かい配慮は欠かさないようにするべきだな!お互いの足りない点や優れている点を参考にしつつ、研鑽していこう!さーて、次の対戦は…」

 


 

「スゲェな蓮田お前ェー!」

 

 放課後、訓練の反省会という名目で集まったA組の皆。朝の再来と言うべきか、またも蓮田に人集りができていた。

 

「…あえて言っとくが、多分このなかにも似たようなこと──何なら俺よりも上等にできる奴はいるからな?『完全隠蔽』だって別に“完全”ではあっても“完璧”じゃないんだからよ」

 

 どころか一歩間違えたら酸欠で死ぬし、と付け加える蓮田。しかし周りの勢いは止まらず、

 

「いや、それ抜きにしても大分チートだろ…」

「やっぱ手品だけじゃねぇじゃねぇか!」

「いや手品…ってか小手先なのは事実だよ…単品そのままじゃ扱いづらくてしょうが無い。組み合わせとか、活かし方が鍵になってくる」

「…そう言えば、蓮田さん、あの時、何をしたんですの?」

 

 ふと、思い出したように八百万が尋ねた。

 

「あの時?」

「私の棍を真っ二つに折った時です。一応あれ鉄製だったのですけど…」

「あー、あの時か…別に大したことしてないんだけどな…まぁ、早い話がただの格闘術だよ。もう名前も知られてないド古典(ロートル)ものだけどな」

「そんな古いものを、どうしてご存じなので?」

「師匠…みたいな人に教わったんだよ。あの頃はマジで寝れなかったな…毎晩毎晩当然の如く夜襲掛けてくんだぞ?信じられるか?」

「なんだそりゃ…」

「ヤバ…超スパルタじゃん」

 

 嫌なものを思い出した、と言わんばかりに首をガックリと落とす蓮田の姿に、そのハードさを想像する一同。と、その後も話を続けていると、カラリ、と、静かに教室のドアが開く。音の方を見ると、右腕にギプスを巻いた緑谷が立っている。

 

「おお緑谷来た!!お疲れェ!いや何しゃべってっかわかんなかったけどアツかったぜおめー!!」

「よく避けたよー!!」

「一戦目であんなのやられたから俺らも力入っちまったぜ!」

「へっ!?いや、わわ…」

 

 続々と今度は緑谷の周りへ人が集まる。いきなりのことでおろおろと動転する緑谷。

 

(あらら…俺の二の舞だな。まぁ、あのバトルの功労者だし、仕方なくはあるかね)

 

 緑谷が囲まれる姿を見ながら、蓮田はようやく一息つける、と軽い溜息を吐いたのであった。

 


 

 日本某県、とある町の地下下水道。そこに三人の男達が立っていた。

 

「うぇっ…相変わらずクッセェなぁ…兄貴ィ、別にこんなトコ落ち合い場所にしなくても良かったんじゃねぇですかい?」

「仕方が無いだろう、私達の姿も、この者の姿も、人目につかれては困るものなのだから」

「だァからってこんなクソ溜まりにわざわざ来なくてもよォ…」

 

 三人の男の内、柄の悪い異形型の男とスーツ姿の初老の男は何やら上下関係があるようで、スーツの男が諌めると、異形型の男は不承不承といった具合に黙った。その姿をみて、三人目の男──無骨なマスクを被ったスーツ姿の男はくつくつと含み笑いをする。

 

『話がわかるようで助かるよ。キミたちの力は、私としても見逃せないものがあるのでね。早めに協定を結んでおきたかった』

「代表代理という身ではあるが、協力程度はさせてもらうさ。その代わり、しっかりと契約は果たして貰うがね」

『あぁ、そこに関しては安心して貰って良い。できる限りのことはさせてもらうよ』

「その言葉で十分だ。これからよろしく頼むよ、()()()()()()()()()()

『こちらこそだ、“旧神教”』

 

 スーツ姿の男とマスクの男は、互いに握手を交わして笑みを浮かべる。ここに、超常黎明期を震撼させた三大巨悪の内、二つが手を組むことになったのである。




次回はなるべく早く出せるように頑張ります…って言ってもFGOイベントあるから進まなくなる気がするけど…


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委員長と学業の敵

バトル書きたい…なんなら蓮田にSAN0ムーブさせてみたい…だめ?(当分後)


──オールマイトの授業はどんな感じです?

 

「え!??あ…えと、すみません、僕保健室行かなきゃいけなくて…」

 

──“平和の象徴”が教壇に立っているということで様子など聞かせて!

 

「様子!?えー…っと筋骨隆々!!です!」

 

──教師オールマイトについてどう思ってます?

 

「最高峰の教育機関に自分は在籍していると言う事実を殊更意識させられますね。威厳や風格は勿論ですが、他にもユーモラスな部分等我々は常にその姿を拝見できるわけですからトップヒーローとは何をもってトップヒーローなのかを…(以下省略)」

 

──オールマイト…あれ!?君『ヘドロ』の時の!!

 

やめろ

 

──オールマイトの授業はどんな…あ、ちょっと、コメント下さいよ!

 

「邪魔なんで勘弁して下さい」

 

──オール…小汚っ!!なんですかあなた!?

 

「彼は今日非番です。授業の妨げになるんでお引き取り下さい」

 


 

(あらら、まだ張り込んでるよ…全く、元気なこって…)

 

 教室の窓から雄英の校門を──正しくは、校門に蔓延っているマスコミ諸兄を眺める蓮田。

 

(いくら手前の飯の種が目の前に転がってるからって学校としての機能潰しかねん真似しちゃいかんでしょうに…やっぱ昨今のマスコミのモラルも悪くなってんなぁ…)

 

 いや、割と元からか?と考えを改める蓮田。そして丁度良いタイミングと言うべきか、直後に相澤が教室に入ってきて口を開いた。

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ、Vと成績見させて貰ったよ。爆豪、お前もうガキみてェな真似するな。能力あるんだから…」

 

 相澤は戦闘訓練で特に行動が目立った爆豪、緑谷に声を掛け、さて、と話を切って本題を話す。その本題とは…

 

「学級委員長を決めて貰う」

「「「学校っぽいの来たー!」」」

 

 前例があるためか、聞くからに普通な本題に拍子抜けと同時に安堵するA組一同。そして安堵も束の間、その後に起こるのは立候補の嵐だった。

 

(学級委員長か…まぁ俺の柄じゃないし、良さげな奴に入れるとしますかね)

 

 蓮田はほぼ我関せずと言わんばかりにそんな歓声を聞いていた。

 


 

「僕三票───!!?」

 

 飯田の提案による厳粛な投票の結果、学級委員長は緑谷、副委員長が八百万となった。本人が一番驚いている。そしてもう一人驚いている者がいた。

 

「な、何故俺に票が…!?」

「いや飯田お前自分に入れてなかったのかよ…」

「他に入れてたのね…」

(何がしたいんだお前…)

 

 飯田である。どうやら別の人に票を入れていたらしく自分に票が入っていたことにかなり驚いていた。因みに票を入れたのは蓮田である。

 

(まぁ、多少の堅さを除きゃ生徒としては模範的だしな…真面目で良識がしっかり備わってる、って意味じゃ、多分八百万辺りよりも適任だったろうし…まぁ過ぎたことか)

 

 ドンマイ、と飯田を心の中で励まして、思考をリセットし、授業に取り組む蓮田であった。

 


 

「よう蓮田!メシ行こうぜ!」

「……切島か」

 

 時間は進み昼休み。昨日同様にパンを買って何処かで時間を潰そうと考えていた蓮田は、予想外の相手に捕まったことに若干の動揺を覚えていた。

 

「あー、っと、悪いな、遠慮する」

「え?何でだ?別に良いじゃねえか」

「…もしかして、その仮面?」

 

 頭の上辺りに疑問符でも浮かんでいそうな雰囲気で、切島が尋ねる。そこに、どことなく察したような顔を浮かべて耳郎が仮面を指さす。

 

「ま、そんなところだ。この仮面がないと、俺ァまともに道も歩けやしないんでね」

「そりゃキツいな…」

「誘いは嬉しいよ、いやホントに。だが、メシ食ってるときにいきなり気絶やら錯乱やらしたかねぇだろ?俺だって、そんなことさせたくない。だから悪いな、飯とかは無理だわ」

「そっか…何かごめんな?」

 

 蓮田の話を聞き、切島が申し訳なさそうな顔をする。それを見て蓮田は、できるだけ声を明るめにし、いかにも気にしていないといった風に言う。まぁ実際あまり気にしてはいないが。

 

「気になさんな、飯は一緒には食えんが、イベントやら何やらそう言うのは荒事じゃなけりゃ大好物だ。もしなんか面白げなことがあったらそん時誘ってくれ」

「おう!」

 

 蓮田の言葉を受けて、快く返事をする切島を見て、なんとか沈んだ空気になるのは防ぐことはできた、と安堵する蓮田であった。

 


 

「うめ…うめ…いや、カレーパンも美味いとは…」

 

 食堂でカレーパンを買い、またも少し離れたところで頬張る蓮田。嫌にならない程度の爽やかな辛さとサクサクのパン生地が何とも絶品の一品だった。満足して教室に帰ろうか、と考えているところに、

 

ウウウウウウウウウウウウウウ!!!

 

 耳をつんざくような鈍い警報音が鳴り響く。そしてその直後、機械音によるアナウンスが流れた。

 

『セキュリティ3が突破されました、生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難して下さい。繰り返します。セキュリティ3が突破されました──』

「セキュリティ3?高いのか低いのか…」

 

 蓮田が疑問に思っていると、食堂の方からわらわらと人が流れてくる。その声を拾っていくと、どうやらセキュリティ3とは、雄英のセキュリティシステムの中でも上位のものらしく、早い話が雄英の敷地内に誰かが侵入してきたと言うことらしい。

 

「雄英に侵入?一体誰が何だってそんな命知らずな真似を…」

 

 移動途中の窓から校門の近くを覗いてみると、そこには人集りができている。恐らくは件の侵入者だろうが、その姿に蓮田は見覚えがあった。手に持ったマイク、カメラ、欲望にギラついた目、そう、あれは─

 

「マスコミか、ありゃあ?」

 

 バカな、と蓮田は考えるが、同時に遂にそこまで落ちたか、と呆れを通り越して失望すらしていた。

 

「雄英のセキュリティブチ抜いてまで手前のおまんま手に入れたいとか…もう最早ヴィランだろ、あれ…っどお!?」

 

 教師達に詰め寄るマスコミ共を最早別の生物を見る目で見ていた蓮田だったが、いきなり後ろから押しつぶされて意識を引き戻される。

 

「なにやってんだ!さっさと逃げんだよ!」

「いや、侵入者ってマス()ミ共だから別に危ねぇ訳じゃ…」

 

 何とか説明しようとする蓮田だったが、勢いは止まらず、もみくちゃにされていく。そして、ついに逃げる生徒の一人の腕が蓮田のマスクに当たり、マスクが少し上の方へずれてしまった。

 

「っお、てめ、危ねぇなオイ!」

「言ってる場合か!突っ立ってんのが悪いんだろ!」

 

 自分から当たってきておきながらの言い草に、流石の蓮田もカチン、と来たようで、ずれて口元が見えた状態のままで思わず声を出してしまった。

 

いい加減にしろ!ただのマスコミだっつったろうが!

 

 すこし怒気が見える低い声で怒鳴られたからか、少し静かになった周囲。侵入者がマスコミであったということもちらほらとは伝わったようで、若干は騒ぎも収まってきている。しかし、それは一瞬のもの。蓮田の声を聞いていなかった者には、それが伝わるはずもなく──

 

「何止まってんだ!早く移動しなきゃ──」

「いや侵入者はマスコミだって──」 

 

 事実を知っている者と知らない者で、更に混乱を招き始めてしまった。と、その時、

 

「大丈────夫!!!!」

「……飯田ァ!?」

 

 ビタァン!という何かが打ち付けられる音と、その直後に、聞き慣れた飯田の声が聞こえた。

 

「ただのマスコミです!何もパニックになることはありません大丈ー夫!ここは雄英!!最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!!」

 

 飯田の声が響く。先程まで混乱していた生徒達が、その声によって静まりかえっている。マスコミが原因と言うことも伝わったようだし、これならもう騒ぎになる心配もないだろう。

 

(普通に声張り上げたんじゃあ誰もわからない…よっぽど目につく何かをしたのか…この状況でそれをしでかすとは、なんて胆力(メンタル)だよ飯田…!)

 

 この状況で事態を一手で解決する方法を叩き出した飯田に、蓮田は関心と同時に驚愕を覚えた。

 


 

 最終的に、マスコミ騒動は教師陣の必死の説得と警察の到着により鎮圧された。翌日には、とあるネットニュースサイトで『雄英にマスコミが押し入り、報道のモラル低下か』という記事が掲載されていた。まさか自分達が飯の種になるとは、マスコミ一同も予想だにしていなかっただろう。

 そして、学級委員長の座が緑谷の推薦により飯田へと明け渡されることになった。“副委員長”と言う立場でありながらスルーされた八百万が不憫に思えた蓮田であった。




次回からUSJ編…オリキャラ出そうか、ステイン編に持ち越そうかちょっと迷ってます。


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USJ編
救助訓練


今回からUSJ編入ります。いや、編って言うほど長くもないかな…?


「それじゃ、行ってきます」

「はい、いってらっしゃい。あ、そう言えば卓夢君」

 

 マスコミ騒動の翌日、いつも通り登校しようとする蓮田を、奈良戸が呼び止めた。

 

「何です?ほたるさん」

「昨日のマスコミ騒動、お昼頃にあったってのを聞いてふと思ったんですけど、貴方お昼はどうしてるんです?」

「ゲッ」

 

 蓮田は痛いところを突かれ思わず呻く。『“個性”の被害を広めたくないから基本ボッチ飯です』とか、まぁ蓮田でなくても自分の母にあたる存在に言えるわけがない。恥ずかしすぎて死ぬ。

 

「いや、普通に食ってる、ます、よ?」

「敬語ガタガタになってますよ?よくよく考えてみれば、その仮面では食事がし辛かったですねぇ。家では普通に外して食事を摂っていたから失念していました。

…ふむ、時間は多少かかりますが、つけたまま食事が可能な仮面を作っておきます」

「…助かります」

 

 奈良戸の提案に小っ恥ずかしそうに蓮田は(髪の無い)頭をカリカリと搔く。それを見て奈良戸は『仕方のない子ですねぇ』とでも言いたげな柔らかい苦笑を浮かべる。

 

「いえいえ、大方食べていないか独りでご飯を食べていたのでしょう?全く、言ってくれれば作りますのに」

「いや、なんか折角作って貰ったモンを作り直してくれってのは育てて貰ってる身としては申し訳ないって言うかですね…」

「15歳の子供が気にしすぎです。ほら、電車遅れますよ?」

 

 ピン、と奈良戸が蓮田の仮面の額の辺りにデコピンを打つと、蓮田はハッ、としたように時計を見た。

 

「ヤッベ!?じゃ、い、行って来ます!!」

「いってらっしゃーい」

 

 慌てて玄関の扉のドアを開き、駆けだす蓮田。流石は異形型と言うべきか、あっという間に見えなくなった。

 

「…ふーむ、それにしても、マスコミが何だって雄英に侵入できたんですかねぇ…というかそもそも、流石のマスコミだって、そこまでして入ろうとしますかねぇ」

 

 蓮田が駅に向かうのを見送っていた奈良戸は、顎に手を当てて言った。

 

「んー、きな臭いですねぇ…うん、少々調べる必要がありそうです」

 

 そう言って家の中へと入っていく奈良戸の顔は、普段の童女じみた姿とは打って変わって、どこか冷然さすら感じさせるものであった。

 


 

「今日のヒーロー基礎学だが…俺とオールマイト、そしてもう一人の3人体制で見ることになった」

(なった…か、昨日のマスコミ騒動が何か影響してんのかね…)

 

 相澤の発言に蓮田は不審げな顔を浮かべる。ふと周りを見てみると、何人かは言葉の意図に気がついたようで、同じように疑問を顔に出していた。

 

「ハーイ!何するんですか!?」

「災害水難何でもござれ…人命救助(レスキュー)訓練だ!」

 

 その言葉を聞いて、教室内が少しざわめく。戦闘同様に得意不得意が多少生じるジャンルだからだ。しかもそれは、“個性”だけでなく、性格、人相、声色なども影響する。考えてもみて欲しい。あの爆豪が誰かを救助、保護する様を。ビビらせることしかしないのは目に見えている。

 

(ま、俺も決して救助向けの見た目してるわけじゃねぇけどな…)

 

 得体の知れない触手と薄気味の悪い無機質な仮面、これはこれで一般人には中々不気味だろう。

 

「訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上、準備開始」

 


 

「すっげー!!!USJかよ!!?」

 

 時と場所は変わり、救助訓練の演習地。そこは様々な地形がさながらアトラクションの如く立ち並ぶテーマパークのようだった。

 

「水難事故、土砂災害、火事…あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も……

 

 

ウソの()災害や()事故ルーム()!!」

(((USJだった!!)))

 

 スペースヒーロー『13号』の説明に皆がずっこける。

 

(許可とってんだろうな…?ヒーローが著作権侵害でお縄とか洒落にならん)

「えー、始める前にお小言を一つ二つ……三つ…」

(((増える…)))

「四つ…」

 

 蓮田が的外れな心配をしていると、13号の“お小言”が始まった。

 

「皆さんご存知だとは思いますが、僕の“個性”はブラックホール、どんなものでも吸い込んで塵にしてしまいます」

「その“個性”でどんな災害からも人を救い上げるんですよね!」

 

 緑谷が13号の言葉を拾って補足を加える。隣の麗日はそれに残像ができるレベルで頷いていた。

 

「えぇ…しかし、簡単に人を殺せる力です。皆の中にも、そういう“個性”がいるでしょう?超人社会は“個性”の使用を“資格制”にし、厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます…しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せる“いきすぎた個性”を個々が持っていることを忘れないで下さい」

(へぇ…成る程、そりゃそうだ)

 

 蓮田は13号の意見に感心を覚えた。『いきすぎた個性』、成る程思い当たる節がある。爆豪(爆破)(半冷半熱)などはその最たる例の一つだろう。無論、自分の“黄衣の王(ハスター)”もその内の一つであることも、理解している。

 

「相澤さんの体力テストで、自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを、人に向ける危うさを体験したかと思います。この授業では…心機一転!人命の為に“個性”をどう活用していくかを学んでいきましょう。

君たちの力は人を傷つける為にあるのではない…救ける為にあるのだ、と心得て帰って下さいな。──以上!ご静聴ありがとうございました!」

 

 13号がペコリ、と頭を下げると、ワッと拍手が巻き起こった。生のヒーローの観念を聞くことができてテンションが上がっているのもあるかとは思うが、13号の話はそれだけ生徒の心に刺さったようだ。

 

「……さて、そんじゃあまずは…」

 

 そんな風景を尻目に、相澤が時計を確認する。その時──

 

 

 

 

 

 

 

 

ズズ…

 

「……?」

「……(何だ、あの黒い靄、みたいなもん…?)」

 

 セントラルを見下ろせる位置にいた相澤と、偶然よそ見をしていた蓮田は、それに気づいた。その、黒い靄のような、煙のような塊の存在に。そしてそれが段々と大きくなっていることに。そこから、人のような形をした何かが現れ始めていることに。

 

「一塊になって動くな!!」

(オイオイオイ…冗談だろ…?)

 

 黒い靄は大きく形を変え、人が出入りできるほどに大きく拡がった。そしてその中から現れるのは、全身に“手”を纏わりつかせた銀髪の青年、更にその後ろからまだ多くの人が続々と現れる。

 

「なんだアリャ!?また入試ん時みたいなもう始まってるパターン?」

「動くな!あれは…」

 

 切島が暢気な言葉を零すが、それを相澤──“イレイザーヘッド”は否定する。そうしている間に、黒い靄はその大きさを保ちながら少しずつ人の形へと変わっていく。

 

「13号に…イレイザーヘッドですか…先日()()()教師側のカリキュラムでは、オールマイトがここにいるはずなのですが…」

「…やはり先日のはクソ共の仕業だったか」

「どこだよ…折角こんなに大衆引き連れて来たのにさァ…オールマイト…平和の象徴…いないなんて…

 

 

子供を殺せば来るのかなァ…?」

 

 “手”の男が純然な悪意を以て発した言葉は、生徒達を萎縮させるのには十分だった。

 

「…なぁ先生!ありゃ一体何なんだよ!」

「落ち着け!あれは…(ヴィラン)だ!」

 

 本来であればあるはずのない遭遇、早すぎる悪との対敵、まだ若い彼らにとっては、凡そ過酷すぎるといえる受難が幕を開ける。




※なお、約一名過酷どころか即無双可能な生徒がいる模様(黄色い切れっ端を尻目に見ながら)。
本当なら死柄木の喋りにはフォント使おうかなー、とか何とか考えてたんですが、よくよく考えたらSAN0って訳でもないのに特別扱いとかちゃんちゃらおかしいな、と考え直してやめました。多分邪神系統の本気モードでは一部フォント変えすることになるかも。


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敵襲来

しばらく投稿ができずすいません!テストとか部活とかのトラブルでちょっと込み入ってました。後今回ちょっとガタガタになったかもです


「ヴィランンン!?バカだろ!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」

 

 黒い靄からは未だにヴィランが出てくる。その数は優に100を越えるだろう。

 

「先生、侵入者用センサーは!」

「勿論ありますが…!」

「現れたのはここだけか、学校全体か…なんにせよセンサーが反応しねぇなら、向こうにそういうことができる“個性(ヤツ)”がいるってことだな」

「あぁ。気になるのはどうやって情報を仕入れたのかだが、ま、こんだけご丁寧に外から隔離してるんだ、ただのカチコミやらなんやらじゃないことは確か…態々センサー無効化してきてるくらいだし、連絡が使えるかどうかもわからんね。奴さん、相当策練ってきてらっしゃる」

 

 轟と蓮田が冷静に分析するのを横目に見ながら、首元の拘束テープを緩める。

 

「…いや、まだできないと決まったわけじゃない。13号、避難開始。学校に連絡試せ!上鳴、お前も“個性”で連絡試せ」

「ッス!」

「わかりました、お気をつけて!」

「待ってください!一人で闘うんですか、先生!?あの数じゃとても…」

「一芸だけじゃヒーローは務まらん」

 

 そう言いながら相澤は戦闘態勢を取り、セントラル広場へと飛び降りる。そしてそのまま下で待ち構えたヴィラン達を一網打尽にしていった。その様は正に、鎧袖一触とでも例えるべきだろうか。

 

「すごい…!多対一こそ先生の得意分野だったんだ…!」

「分析してる場合じゃない!早く避難を!」

「させませんよ」

 

 13号の誘導の元、避難を開始していた生徒達だったが、先程までヴィラン達を吐き出していた黒い靄──黒霧が立ち塞がった。

 

「初めまして、我々は敵連合。僭越ながら…このたびヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは──

 

 

 

 

 

 

 

──平和の象徴、“オールマイト”に、息絶えて頂きたいと思ってのことでして」

 

 黒霧の発言に、その場の全員が戦慄する。彼らにとって──否、この日本のいかなる人間にとっても、最強のヒーローと言えるオールマイトを殺す、それをいともなげに言ってのける黒い靄に対し、信じられないと言う気持ちが彼らの心を埋め尽くしたのだ。

 

「本来ならば、ここにオールマイトがいらっしゃる筈ですが…何か変更があったのでしょうか?まぁ、それとは関係なく…私の役目は()()

 

 黒霧は自分の体を肥大化させ、生徒達を包み込もうとする。13号がそれを察知し、戦闘態勢を取るが、前に出てきた切島と爆豪の攻撃によって遮られてしまう。

 

「その前に俺達にやられることは、考えてなかったか!?」

「馬鹿野郎!何してんだお前ら!」

「ダメだ退きなさい二人とも!!」

 

 蓮田と13号の言葉も虚しく、黒霧は更に霧の面積を拡大していく。

 

「危ない危ない…そう、生徒と言えど優秀な金の卵…散らして嬲り殺すとしましょう」

(ックソ!全員は逃がしきれないか!?)

 

 霧は遂に生徒達を完全に包みこむ。咄嗟に蓮田が触手を放ち、近くにいた飯田や麗日、13号達を霧の範囲外に放り出したが、彼の言葉通り、彼を含めた全員は助け出すことができなかった。霧が晴れ、目を開けた蓮田がいたのは──

 

「あっつ…くはコスチュームのお陰でないが、オイオイ、一体全体どこなんだここは…一面火の海じゃねぇか」

 

 辺りが炎に包まれた、巨大な廃ビルの中だった。

 

「蓮田、無事か!?」

「まぁ何とかな…ここは、USJの一部、でいいのか?」

 

 同じくこの場所に飛ばされたらしい尾白がこちらに駆け寄ってくるのに、蓮田は手を振って応えた。

 

「あぁ、みたいだ。まさかこんな本格的な火災だとは思ってなかったけ─蓮田、後ろ!!」

「は?後ろ?」

 

 蓮田が振り返ると、目の前には既に鈍器を大きく振りかぶったヴィランがいた。

 

「死ィねぇえ!」

「ドアホ」

 

 蓮田は、振り下ろされた鈍器を尾白に当たらないよう軽くいなして中指の触手で絡め取り、そのままガラ空きの腹に膝蹴りを思いっきり入れる。ズパァン、というどこか気持ちの良い音が響き、そのままヴィランは気絶した。

 

「ったく、中学のアホ共の方が良い不意打ちするっての」

「すげぇ、一瞬かよ…目視2秒足らずで即撃退って、お前ホントに何者?」

「言ってる場合か。ほれ、団体様が来るぜ?」

 

 尾白が蓮田の言葉につられその方向をみると、確かに30人余りのヴィラン達がこちらへ向かってきている。

 

「うわ、マジで来てる!」

(目算凡そ35前後か…丁度半分で分担は流石に尾白の負担にしかならんだろうし、まとめて俺が片付けた方が良さそうだな…面倒だが、やるかぁ…)

 

「尾白、お前ちょっと避難して目と耳完全に塞いでろ」

「え?いや、何言ってんだよ!?今もうすぐそこにヴィランがきてんだぞ!?」

「だからだよ。詳しくは言えんが、手っ取り早く片付けることにした。廃人──まではいかんでも、気狂いになりたくなきゃあっち行ってろ」

「は、はぁ…?」

 

 尾白は蓮田の言っていることがよく理解できず、疑問符を頭に浮かべていたが、とりあえずは言うことに従うことにした。

 

「よ、よく分からないけど、気をつけろよ!」

「分かってる」

 

 尾白が自分に背を向け、ある程度の距離まで行ったのを確認すると、今度はヴィラン達に向き直った。

 

「へへへ、良かったのか?二人で闘わなくてよぉ」

「ま、お前を殺したらすぐにアイツも同じ目に遭うがな!」

「……尾白を追っかけずに態々皆して残って言うセリフがそれか?だとしたら失笑通り越して不憫に思えてくるよ。もっと頭の良い言葉思い浮かばなかったんか」

 

 蓮田はハァ、と溜息を吐く。その仕草がヴィラン達にとっては挑発に等しかったようで、皆一気に殺気立つ。しかし蓮田はまるでそれが日常とでも言わんばかりに平気そうな素振りを見せる。

 

「あぁそれと、さっきなんていってたんだっけ?あぁ、そうそう、『二人で闘わなくていいのか』だっけか…」

 

 ハハ、笑わせてくれるぜ、と蓮田は笑──否、()()。そしておもむろに自分の顔に、正しくは、自分の顔を覆う仮面に手を当て、引き剥がした。

 ヴィラン達は見てしまった。その顔を、狂気に嗤う、その表情を。そして聞いてしまった、その声を。確かに聞こえた、その声を。言葉を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────いイんだよ、どうせお前らこコデ終わりなんだから────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「よぉ、尾白」

「うお!?な、何だ、蓮田か…終わったのか?」

「まぁな、火がない場所にまとめて拘束しておいた」

 

 いきなり後から現れたことに多少驚きはしたものの、それが蓮田(顔見知り)であることに安堵した尾白は、警戒を解いて向き直った。

 

「で、これからどうする?」

「俺は広場に行くつもりだ。流石の相澤先生でも、あの数は苦戦するだろ」

 

 かなりヤバそうなのもいたしな、と言う言葉は胸にしまっておいて、蓮田はそう返した。

 

「そうか…俺は、他のエリアに行って、加勢ができればしてみるよ。戦闘向けの個性じゃない奴もいるにいるだろうし」

「わかった。気をつけろよ」

 

 軽く頷いて、尾白は他エリアがある方向へと走っていった。と思ったら、振り返って蓮田に声をかけた。

 

「蓮田!さっきの手っ取り早い方法だけど、結局何やったんだ!?」

「………」

 

 蓮田は、表情の読み取れない仮面の裏側で、数秒黙った後、

 

()()()()()()()()()

 

 ただ、そうとだけ言ったのだった。




初 S A N チ ェ ッ ク タ イ ム

結果はいうまでもなく全員失敗、まとめて不定の狂気落ち。やったね☆

ホラーっぽい文書こうと思ったらなんかガタガタになってすいません。次回はいよいよ脳無とご対面!


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蓮田参戦

お久し振りすぎる…投稿できずすいません、いや、違うんですよ、FGOのイベとか夏休みの勉強とかお昼寝とか色々なものが重なった結果なんですよ。
あと、久々にゆ虐って奴を見てみたんですが、某890の人の作品にインスピされたので近々ゆ虐系の作品書くかもかもです。


「………っと、あそこか!」

 

 火災エリアを抜け出て、辺りを確認する。すると、相澤先生がやはり一人で戦っているのが見えた。まだ余裕そうだが、加勢しに行くとするか!

 

「相澤先生!加勢に来ました!」

「……蓮田!すまん、助かる!」

 

 相澤先生が捕縛テープ、俺が触手で辺りのヴィランを蹴散らす。まだこの辺りは雑魚、さっきの連中と同じくらいだな。ならまとめてぶっ払える!

 

「先生、合図でちょいと攻撃やめてください!俺ならまとめて制圧できる!」

「……わかった!」

 

 よっしゃいくぜいくぜー?敵さん達は上手くこっち向かってきてる、大体五人位を一塊として……

 

「今です!テープ戻して!」

 

 相澤先生が捕縛テープを手元に戻したのを確認して、一気に風を飛ばす。ヴィラン連中の周りの空気もふんだんに使って、全部で七つの小規模な竜巻を作りあげた。吹き飛んだヴィラン達は触手でまとめて回収回収っと、ま、こんなもんでしょ。

 

「相澤先生、終わりました」

「やるな。だが風で飛ばしてから拘束までのロスは余計だ。もっと無駄なく──蓮田、避けろ!」

 

 相澤先生の説教が始まった、と思ったら、恐らくヴィランを側の主力の一人、全身に手をつけた奴がこっちに向かってきていた。あっぶね!?

 なんとか避けることはできたが、コイツ、何の武器も持ってない…体格的に肉弾戦が得意そうなタイプじゃなさそうだが、余程個性が戦闘に向いてんのか、それとも何か別に策があるのか…なんにしたって不気味なこった。どうやって戦うつもりだ?

 

「すいません、油断してました」

「気をつけろ…どうやら、本命のようだな」

「さっきのが20秒、その前が24秒…」

「っ!…ちィッ!!」

 

 またもや向かってくる手の奴に、相澤先生も同じように突貫していく。

 

「…今度は17秒動き回るから分かりづらいけど…髪が下がる瞬間があるよな」

 

 手の奴が掴んだ捕縛テープを逆に引っ張って、相澤先生が肘打ちを入れた。手の奴の体がくの字に曲がり、思いっきり吹っ飛ぶ…かと思えば、手の奴はまるで堪えたように見えず、先程と同じようにダラリと佇んでいる。

 

「一アクション終えるごとだ。そしてその感覚は段々短くなってる…無理をするなよイレイザーヘッド」

「──っ!!」

「相澤先生!」

 

 何かヤベぇと感じ、触手で相澤先生を引き寄せる。咄嗟にやっちまったが、いらんことだったか?

 

「大丈夫です?」

「助かった。しかし、厄介な個性だな…肘が()()()

 

 相澤先生の右肘は、確かに文字通り崩れていた。触れられた部分の皮膚は剥がれ、肉が見えている。その剥がれ方は、塗装されたコンクリ壁から、乾いたペンキがパラパラと落ちていった跡によく似ていた。成る程、奴さんが手ぶらでこっちに向かってきてたのは、それだけ自分の個性に自信があるからか。確かに、触れたモンをボロボロに破壊しちまう個性なんつー、触っちまえばこっちのもんみたいな個性なら寧ろ武器なんざいらねぇな。

 

「その“個性”じゃ…集団との長期決戦は向いてなくないか?

普段の仕事と勝手が違うんじゃないか?

君が得意なのはあくまで、『奇襲からの短期決戦』なんじゃあないか?

……それでも真正面から飛び込んできたのは、生徒に安心を与えるためか?」

「……!」

 

 手の奴はその場でふらつきながら言う。こちらをジロリと睨めつける眼が髪と手の隙間から見えた。今の奴さんの言葉、相澤先生の反応を見る辺りマジらしいな。この人、合理不合理言う割には生徒想いとか、何つーか面倒な性格してんなぁ。

 

「かっこいいなぁ、かっこいいなぁ……所でヒーロー──」

 

 そんな風に気を抜いていたのが、俺の最大の失態だった。後ろに迫っていた()()()に、気づくことができなかったことが。

 

()()()()()()()()

 

 その時、俺の仮面にヒビを入れるほどの、強烈な一撃が俺達を襲った。

 


 

 バァン!と重いものが勢いよく吹き飛ぶ音がする。爆発の跡のような土煙が晴れると、そこには怒り心頭の彼がいた。

 

「もう大丈夫、私が──」

 

 壮絶な怒りをその顔に表し、その場に現れた彼、“No.1ヒーロー”オールマイトは、そこまで言って絶句した。数多くの事件を経験し、強い精神を持つ彼が、絶句せざるを得ない光景がそこにはあった。

 

「どうなっているんだ、これは…」

 

 頭部に怪我を負っているようだが、止血が済まされている相澤、気絶している緑谷、蛙吹、峰田。これはまだ良い方だろう。いや、ヴィランの襲撃にあっているため、言いも何ものないし、気絶に負傷の時点で良くはないのだが、しかしそれでも、まだヒーローとして飲み込むことのできる光景だった。しかし問題はその近く。

 

「一体、ここで何が…」

 

 人のような姿をしていると思われる()()()()()()()()()()と、まるで錆び付いた鈍刀で無理矢理切り落としたような切り口のボロボロの()()()()、そして、それらをぐるりと囲むかのように描かれた乾いた黒い血液のサークル。そして、その中心に──

 

「……まさか、君がこれを全てやったのか?」

 

 二本の足でしっかりと立ったまま天を仰いで気絶している、蓮田の姿があった。

 

「蓮田少年…君は一体──何者なんだ?」

 

 オールマイトの零したその言葉に応えるものは、今は一人もいなかった。




一ヶ月休んでこのクオリティは酷い(酷い)。そしてバトルが書けない。
あ、一応言っておきますが、黒い肉の塊は死んでないです。


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惨劇の真相

「……っは!こ、ここは…」

 

 静かな保健室で、緑谷出久は目を覚ました。隣のベッドには、同じように峰田と蛙吹が寝ているらしい。二つの寝息が聞こえた。

 

「やぁ、目を覚ましたようだね」

 

 ガラリ、という音を立ててベッドのカーテンが開く。そこには、トゥルーフォームのオールマイトと、短髪の背の高い男がいた。服装から察するに、警察だろうか。

 

「あ、オールマイト!って良いんですか!?その姿…」

「あぁ、問題ない。何故って彼は、私の最も仲が良い警察、塚内君だからね!…早い話が、私の真の姿を知る人間の一人という訳さ」

「ま、そういう事だ。さて、緑谷出久君。()()()()に居合わせた一人だね。相澤先生が治療中なもんで、君達から話を聞きに来たんだ。判る範囲で構わない。教えてくれないか?あの場所で、一体何起きたのかを」

 

 あの惨状、という言葉でその時の光景を思い出したのか、緑谷はさあっと顔を青ざめさせる。しかし、それでも、恐る恐る語り始めた。あの時、何があったのか、()に、何があったのかを。

 


 

「とりあえず、救けを呼ぶのが最優先だ。このまま水辺に沿って、広場を避けて、出口に向かうのが最善…」

 

 水難ゾーンでの戦闘を乗り越え、緑谷、峰田、蛙吹の三人は広場の方へと移動していた。

 

「そうね。広間は相澤先生と、蓮田君が何とかしてるみたい。それにしても凄いわね、彼。相澤先生にも負けない戦闘技術を持ってる」

 

 そう、同級生の蓮田が戦っている。その事実が、緑谷の勘違いを、考えの甘さを加速させた。自分達でも、ヴィランに立ち向かっていけると言う、その勘違いを。そしてそれは後に、思わぬ形で払拭されることになる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ハハハ…どうかな、対平和の象徴──改人“脳無”」

 

 一撃。たったの一撃だった。それだけで先程まで、鎧袖一触の勢いでヴィラン達を薙ぎ倒してた相澤と蓮田が吹き飛ばされた。その光景は、緑谷達にとって衝撃の一言だった。自分達の思い描いていた甘い幻想を粉々に粉砕するかのような、そんな絶望的な光景がそこにはあった。

 

「グッ…蓮、田……動けるか?」

「…先、生……」

 

 それでも二人は、その絶望に真っ向から立ち向かうかのように、フラつきながらも立ち上がった。蓮田は先程から顔を抑えているので分からないが、相澤の方は頭部に酷くダメージを受けたのだろう。雨垂れのように滴り落ちる鮮血が痛々しい。

 

「オイオイ立ち上がるのかよ、感動的だねェ…一応言っとくけど、“個性”を消したところで無駄だよ。コイツのパワーは個性によるものじゃない……圧倒的な力の前では、アンタの“個性”は意味を為さないな」

「……とんだバケモノだな」

 

 自分の“個性”が通用しない。その事実を冷静に理解した相澤は、後ろで顔を抑えながら震えている蓮田を見た。いくら()()()の推薦と言うこともあって戦闘慣れしているとは言っても、このレベルの相手とは戦ったことはないのだろう、恐怖で震えるのも仕方がないと判断した相澤は、再び戦闘態勢を取る。

 

「蓮田!お前は下がっていろ。俺が足止めをしているうちに、他の奴らの避難を……」

「ち、う…せん、…」

「面倒だな…まとめてぶっ殺せ、脳無!」

「早く、逃げろ蓮田!」

「違う…ちガうんだ、先生…逃げなきャいけなのは…俺じゃ、ない。逃げテくれ…早く、頼む、から……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今スグ俺カラ、逃ゲテクレ」

 

 ごぽり。そんな冒涜的な音が、聞こえた気がした。

 

「■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!」

 

 悲鳴。そう表現するしかできないような強烈な叫び声が相澤の、死柄木の、緑谷の、この場全ての者の耳を貫く。そして叫び声を聞いた者達の心の中に、同時にえも言われぬ恐怖と、得体の知れない奇妙かつ冒涜的な、この世のとは思えない何かが入り込んできた。

 

「ハァッ、ハァッ…何、これ…蛙吹、さん、峰田、く」

 

 全身の震えが止まらないものの、緑谷はなんとか意識を保てていた。しかし他二人は…

 

「う、ああ、あぁ、ひ、いや、いや、いや、だめ、だめ、ごめんなさい、ごめんさい、いや、いや、いやぁあ!」

「あ……あぁ、………あぅ……」

「……!?二人、とも、し、しっかりして!」

 

 急に何かに取り憑かれたかのように呻き泣き始める蛙吹と、目を白黒させ意識が覚束ない峰田。そんな二人の様子を見て、緑谷は返って冷静になれたらしく、二人をなんとかして正気に戻そうとしていた。一方、セントラル広場では───

 

「ぐ、う、蓮田…お前、一体……」

 

 とてつもない悪寒と金切り声による痛みで頭を抑えて蹲る相澤。先の傷も加わって、もう彼は気絶寸前まで来ていた。意識は殆ど無いと言えるだろう。

 

「ぐ、あ、お前、なん、だよ、なんなん、だよ、ふざけんな、お、まえ、一体、何なんだよォオ!」

 

 死柄木は、悲鳴にも似た声を上げる。その足下には、赤いシミのようなものと、痩せこけた彼の腕があった。錆びついた鉈か何かで切断されたのか、断面がズタズタで、恐らく繋ぎ直すのは難しいだろう。

 

「クソ、クソ、クソォオ!テメェ、どうやって俺の腕をぶった切りやがったァア!」

 

 そう言って死柄木は蓮田を睨み付ける。よく見てみれば、蓮田の右手には、見るだけでクラつくような赤い血液がべったりと付着していた。皮膚が目映く光っている辺り、皮膚鉱化で手の表面をダイヤモンドにでも変えたのだろうか。

 

「ふざけんな、ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなぁあ!!やれ!!アイツをぶっ殺せ脳無ゥウウウウウ!!!」

 

 ギリギリと歯軋りをしながら、死柄木は脳無に命令した。脳無に思考は無い。理性は無い。感情は無い。よって恐怖もない。命令されるがままに、脳無は目の前の蓮田を殺そうと突撃する!!────憎むべきは思考無きことか、それが悪手だと、ただひたすらに気づきもせずに。

 

「■■■■」

 

 蓮田は、言語にならない声で何かを発した。すると蓮田の周りから黒い風が顕れ、脳無の黒い外皮を、筋肉を傷つけていく。しかし勿論、『超再生』の“個性”でたちまちに傷は治っていく。

 

「………■■」

「ハハ、ハハハハハハ!!!効く訳ねぇだろそんなの!!脳無は、ソイツは平和の象徴(オールマイト)を殺すために作られたんだ!お前のやっすい風如き効くわけが──」

「■■、■■■■■■■」

 

 蓮田は風を刃状から竜巻状に変え、脳無の肩の近くの筋肉に向けてブチ当てた。すると竜巻は、ガリリリリリリリリ!!!!!!というイヤな音を立てて、脳無の肉と骨を削り取っていく。余りの速さに、再生が追いついていないのが丸わかりだ。

 

「オイ、オイオイオイ!何やってる脳無!!さっさと再生させろ!!そんなヤツにやられてんじゃねぇ!!」

 

 次第に肉はどんどんと削られていき、もう右腕は殆ど残ってはいなかった。しかも不思議なことに、肉がちぎれた際に飛び出るはずの脳無の血は、殆ど流れ出てはいなかった。

 

「クソ、こうなったら俺が直接──!」

「いけません死柄木弔!!()()と戦うのは時期尚早だ!」

 

 一方的にやられ続ける脳無にしびれを切らしたのか、死柄木はついに蓮田の方に向かおうとするが、それをやってきた黒霧に止められる。

 

「クソ、何しやがる黒霧!放せ!」

「なりません!()()()からの伝達です!蓮田卓夢、ヤツと戦うにはまだ我々は弱すぎる!脳無を引き換えにしてでも今すぐ撤退しましょう!!それに、生徒を一人取り逃がしました。1時間もしない内に応援を呼ばれる!!」

「は?ふざけんじゃねぇぞ黒霧…お前、お前、お前………クソ、クソ、クソ、クソがぁあああ!!!!!」

 

 腕からの出血も構わずに首を搔いて叫ぶ死柄木。そして遂に諦めたのか、だらりと頭を垂らし、そしてじっとりと蓮田を睨み付けた。

 

「殺す…てめぇはかならず殺してやる!オールマイトよりも遥かに惨い死に方させてやる!!!覚えていやがれ蓮田卓夢……!!」

 

 その言葉を最後に、死柄木と黒霧は姿を消した。

 

「き、消えた…帰った、のか?」

 

 緑谷はその場で動くことができなかった。その光景の恐ろしさに。その光景の異様さに。そして哀しいかな。まだ狂気は終わらない。

 

「■■、■■■■■■」

 

 最早これにて終いだ、と言わんばかりに風を脳無に向けて放つのを辞めた蓮田は、今度は脳無の頭を思いっきり掴み上げた。勿論抵抗する脳無だったが、伸びていく触手によってどんどん蓮田との距離が広がり、攻撃が当たらなくなっていく。

 

「■■■」

 

 蓮田が短い呪文のようなものを唱えると、脳無を掴んでいる蓮田の手が、赤黒く変色していった。それと同時に、脳無にも変化が訪れる。

 

「ギィッ…ギィヤァアアアアアア!!!!!」

 

 今まで声を上げることもしなかった脳無が、ここに来て飛びっ切りの悲鳴を上げる。そして、その体は、 

 

「ギィア!ギャァ!ガアアアアアアアア!!!!」

「萎んで、いってる……?」

 

 そう、緑谷が呟いたとおり、脳無の体は見る見るうちに萎んでいった。まるで、ゴム風船から空気が抜けるように。そして彼の足下からは、夥しい量の血液が、滝のように溢れ出ていく。そしてそれは、なんの意図をしてなのか、何かの魔方陣を描くように垂れていった。

 

「■■、■■■■」

「ギャア!ギィ、ヤ゙ァアア゙ア゙ア゙ア゙!!!ギ、ギ、ギィ、ァ、アアアア……ッ」

 

 蓮田の手に一層の力が入る。すると血の魔方陣が、まるで待っていたかのように黄金色と翡翠色の光を放ち出す。

 

「あ、ガッ」

「これ、は」

 

 その光を見た緑谷達は、途端に何か、鈍器で殴りつけられたかのような感覚を覚えた。そして緑谷が最後に見たのは、もう用済みとばかりに手を放され落ちていく脳無と、脳無から何かを取り込んだ蓮田の姿だけだった。これが、緑谷出久が目撃した、あの惨劇の全てである。




※蓮田卓夢に関する追加情報が開示されました。
蓮田卓夢は仮面を外してから一定時間が経過すると、『■■■■』状態になります。『■■■■』状態中は全ステータスに大幅な強化補正をかけますが、自意識を失い、正常な思考はできないものとします。但し、■■系個性保持者がその場に複数人いる場合、その人物と彼の『クトゥルフ神話技能』を参照し、彼の方が数値が低かった場合、『■■■■』状態を無効化できるものとします。また、彼を含む■■系個性保持者は、『クトゥルフ神話技能』の上昇による最大SAN値減少を受け付けません。

というわけでスーパーSAN値チェックターイム!(1d10/1d100)
各々の結果は
緑谷(50)→SAN値チェック成功(47)、減少4
蛙吹(50)→SAN値チェック失敗(80)、減少10。不定の狂気。
峰田(40)→SAN値チェック失敗(43)、減少8、アイデアロール(80)成功。一時的狂気。
相澤(70)→SAN値チェック成功(25)、減少10。
死柄木(40)→SAN値チェック失敗(67)、減少5、アイデアロール(60)失敗。
脳無→SAN0


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