劇場版 -ハイスクールD×D- 補講授業のイミテーション (ユウナ)
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開幕

「ぐぅ……」

地に叩き伏せられる赤龍帝(せきりゅうてい)こと兵藤一誠(ひょうどういっせい)

「どうした? こんなもんか?」

その相手は……同じく赤龍帝である兵藤一誠。

余裕そうにへらへらと笑いやがって……。

俺はなんとか四肢(しし)に力を入れて立ち上がる。

「なんだ、まだいけるんじゃないか。なら、こっちもいかせてもらうぜ!」

あいつは嬉しそうに笑い、籠手に力を集中させる。

『Boost!』(ブースト)

あいつが更にパワーを増大させた! チッ、本物の俺より強いとかありかよっ!

「ドラゴンショットォオ!」

パワーを増大された大きなドラゴンショットが俺に向かって放たれる。

「くっ……」

すんでのところで上に飛んで回避し、こちらもドラゴンショットを放とうと相手を見ると——。

「いないっ!」

慌ててあいつを補足しようとする俺。だが——。

「こっちだぁ。くらえ、ドラゴンショットッ!」

『Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost!!』(ブースト)

しまった、神速で後ろに回り込まれたのかっ。

躱しきれないと判断した俺は、腕をクロスさせて、魔力を集中し防御しようとした。

ドオォォンッ!

「ぐはぁ」

だが防ぎきれずに地面に衝突し、そのまま爆発してしまった。

「おいおい、こんなもんじゃねぇだろう? 本物の赤龍帝の力は!」

野郎ォ、言ってくれるじゃねぇか。

しかし、あいつ俺より戦い方がうまい。

さっきのドラゴンショットはわざと大きくして撃って、俺の視界を奪ったんだ。

その隙に神速で俺の背後に回った。

事前にブーストしたのはドラゴンショットを必要以上に大きくするためだ。

なんというか、魔力の使い方に無駄がない!

クソ! お手本みたいな戦い方しやがって!

でも、俺だって————。

「ああ、こんなもんじゃねぇさ。赤龍帝の力は!」

「なっ!」

煙の中から立ち上がる俺の姿を見て、奴が驚く。

「まあ半分はもらっちまったけどな」

「っそうか! 半減の力を使ったのか!」

そう、ついこの前にユーグリッド・ルキフグスと戦っていたときに使えるようになった白龍皇(はくりゅうこう)の半減の力。

修行であの小型ドラゴンを一体くらいなら、瞬時に出せるようにしてたんだ。

「だけど、半分はくらったんだろう。鎧も瞬時に修復したようだが、生身の体にダメージが通っていないわけじゃない。隠してても分かる」

『どうやら、向こうの相棒のほうが頭はよさそうだな』

酷いっ。俺たちは二人で一つの赤龍帝だろう。そんなこと言うな!

『ああ、すまなかったな。だが、俺はお前のほうがいい。たとえ奴が相棒より強くともだ』

ドライグ……っ。

その言葉に男泣きしそうになる俺に、ドライグが忠言する。

『だが、奴のほうが実力が上だ。このままではやられてしまうぞ』

そんなことは分かってるよ、ドライグ。さ~て、この状況どうしたもんかね?

兵藤一誠、ピンチですっ!

そもそもなぜこんなことになったのか……。それは、「D×D」のサブリーダーである孫悟空にヴァーリとともに修業を受けていたところまで、話は巻き戻る。 

 

 




今回は、この物語の途中から開始させていただきました。
いきなり最初から始めても、インパクトに欠けると思いましたので……。
次回からは、物語の実質のスタートです。

どしどし感想や評価などをしていただくと、作者は喜びます!
この部分だけ見ても、全体の話がどんな感じかは大体掴めるかもしれません。
劇場版ということで、D×Dチームの皆は大体活躍する予定です。
(アガレス眷属は、原作でも戦闘をほとんどしていませんので今回は参戦させません)
キャラ崩壊等はあまりないように致します。
では、ここまでお読みいただきありがとうございました!


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修行、始まりますっ!

「儂が稽古をつけてやろうかねぃ」

そのように仰ってくれたのは、「D×D」のサブリーダーである初代孫悟空だ。

「D×D」の仮本部である、駆王学園でたむろしていたところに、そんな風に初代に声をかけていただいた。

あの伝説の妖怪である孫悟空に稽古をつけてもらえるなら、これほど嬉しいことはないっ!

テロリストたちの暗躍を何度も防いできた実力者って話だもんな。京都でもジークフリートをふっとばしたり、曹操とも余裕で渡り合えていたし、そりゃそうか。

なんでもサマエルの毒にやられたヴァーリを治療したのも、初代だって話だ。

いや~、さすが孫悟空の名は伊達じゃないってことだなっ!

そんな人に稽古をつけてもらえれば、俺はもっと強くなれる。

俺はあいつに……あの偽物の赤龍帝に負けた……。

あのまま勝負が続いていたら、ギャスパーが割り込んでくれなかったら……やられていたのは俺のほうだ。

1対1でも俺はあいつに勝てるようになりたい!

そのためには、この前初代が指摘してくれたように、スタミナの消費を抑えて真『女王(クイーン)』の形態をすこしでも長く維持しなければならない。

 

 

よ~し、がんばるぞ~と気合を入れていたところ……。

「初代殿。私にも稽古をつけてもらえないだろうか」

「ヴァーリっ!」

話を横で聞いていたヴァーリが、初代に頭を下げて頼んでいた。

「いいぜぃ。お前さんと赤龍帝の坊やは同じ課題を抱えておるからのぅ。まとめてやるほうが効率的じゃわい」

 

そう、ヴァーリも俺と同じ問題を抱えている。スタミナの過剰消費だ。

それさえ解決できたら、こいつが倒せない奴なんてほとんどいなくなると思うんだ!

それだけ、あの『極覇龍』状態というものは凄いと思う。

クソ、まだまだ俺のライバルは遠いぜ……。

だが、俺だって負けてられねぇ!

俺の新しい力、以前に白龍皇から奪った力が変化したもの。あの小型のドラゴンだ。

あの力を使いこなせるようになって、スタミナの消費を抑えることができれば、俺はもっと強くなれる!

「よろしく頼む」

「よろしくお願いします!」

俺とヴァーリ、二人がそろって頭を下げてお願いする。

二人同時の頭を下げる日が来るなんてな……世の中は分からないもんだぜ。

「では、修行場へ行こうかの。どこかいい場所を知らんか?」

そういうことなら……。

「ウチの家の地下が修行場になってるんですけど……そこでどうですか?」

あそこなら俺たちが本気で暴れても、大丈夫だと思うんだ。修理はグレモリー家がしてくれるし。

「ふむ、それならばよさそうじゃの。ではそこへ行くか」

そう言って————。

トン、と初代が地面を棒で叩くと。

「おおっ!」

魔法陣が出現していて、俺たちを一瞬で地下の修行場へと運んでいた。

「仙術を応用した移動術式だ」

分からなかった俺に、ヴァーリが説明してくれる。

へー、そんなのもあるんだな。

そういえば、美猴も前に似たようなのを使っていたっけ。

 

 

「さて、お主ら。儂に全力でかかってこい」

「ほぅ」

初代の挑戦的な言葉を聞き、面白そうに口を歪ませるヴァーリ。

「えっ。二人がかりでですか? それはちょっと……」

「心配せんでも良いわぃ。全盛期の二天龍ならいざ知らず。今のお前さんたちなら、二人がかりでも負けゃせんよ」

そういうことなら、お構いなくっ!

まずは『女王』にプロモーションして、力を底上げする。

そして————。

 

Welsh Dragon (ウェルシュ ドラゴン)Balance Breaker(バランス ブレイカー)!!!!!!!!』

 

よしっ! 禁手化(バランス・ブレイク)。そこから更に————。

「————我、目覚めるは王の真理を天に掲げし、赤龍帝なり!」

真『女王』になるための呪文を唱えていく。

「無限の希望と不滅の夢を抱いて、王道を往く! 我、紅き龍の帝王と成りて————」

 

「「「「「汝を真紅に光り輝く天道へ導こう————ッ」」」」」

 

Cardinal Crimson Full Drive(カーディナル クリムゾン フル ドライブ)!!!!』

 

俺の体の鎧が紅へと変化し、今までとは段違いのオーラをその身にまとわせる。

これが今の俺の全力っ! 覇   龍(ジャガーノート・ドライブ)とは違う新たな力を得ようした結果だ。この真『女王』状態は、以前よりも多少だが安定してもきている。

ヴァーリも、既に禁  手(バランス・ブレイカー)の鎧を身にまとっている。

 

「俺も最強の形態になろうか」

そう言って奴は、呪文を唱え始める。

「我、目覚めるは————律の絶対を闇に堕とす白龍皇なり————」

光翼が白く輝きだし、ヴァーリの魔力が更に高まっていく!

宝玉から歴代白龍皇たちの声も流れ込む。

『極めるは、天龍の高み!』

『往くは、白龍の覇道なりッ!』

『我らは、無限を制して夢幻をも喰らう!』

相変わらず、闘争心に満ち溢れた意識たちだ。

あいつは歴代白龍皇と戦いを通じて、分かりあった。俺は必死こいて説得していったていうのに……。まったく、凄いやつだぜ!

「無限の破滅と黎明の夢を穿ちて覇道を往く————我、無垢なる龍の皇帝と成りて————」

ヴァーリの鎧から発せられる神々しい白き眩きが次第に強くなっていく。それに伴い形状も変化していく。

 

「「「「「汝を白銀の幻想と魔道の極致へと従えよう」」」」」

 

Juggernaut Over Drive(ジャガーノート オーバー ドライブ)!!!!!!!!!!!!』

 

眩い光が収まり、白銀の鎧を身にまとったヴァーリが姿を現す。

通常の鎧よりも色合いが白銀に近づき、各宝玉の色もより深い菫色へと変化している。

へー。ヴァーリの白銀の鎧ってこうなってたのか。前回見たときは一瞬で、よく分からなかったからなぁ……。それだけ最上級死神プルートと極覇龍状態のヴァーリは実力がかけ離れていた。

今も横にいるだけで、そのあまりのオーラに俺も吹き飛ばされそうな程の重圧を感じるっ!

 

「兵藤一誠、俺が前に出る。——お前は後ろから援護射撃をしろ。俺に近づきすぎれば、お前の力も半減しそうだからな」

「応っ!」

そうだな、お前に近づくだけで俺の力も減少しそうだ。そのへんのコントロールがこれからのヴァーリの課題か? あいつは周囲にあるものをその場に立っているだけで、無差別に半分にしてしまう。今のままじゃ、あいつの戦闘範囲に味方が入ることが出来なさそうだからな。

「はぁっ!」

気合いの入った一言とともに、ヴァーリが前に飛び出していく。

すげぇっっ! 一瞬で初代との距離を詰めたぞ! 俺にもかすかにしか見えなかった!

おっと、感心してる場合じゃないっ! 俺もエネルギーをチャージしないと。

 

Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)!!!!』

 

力を増大させて、ドラゴンの両翼のキャノンにエネルギーをチャージ! ブゥゥゥン、と静かな音を立て始めながら、エネルギーを圧縮させていく。

その間にもヴァーリは初代との猛烈な格闘戦を行っていた。

ヴァーリは初代の力を半減しようと、相手に触れようとするものの、それを初代は棒をうまく使って防いでいた。

二人とも凄い速さと力だ。あの周囲に踏み込むだけでも相当の実力が必要だな。

てか、さすが初代孫悟空! あの最上級死神プルートを一瞬で倒したあのヴァーリを相手に、互角に渡り合っているっ!

エネルギーがチャージし終わった。これなら——。

 

 

「どけぇぇぇっ、ヴァーリっ! いくぞぉおっ!」

俺の叫び声を聞いたヴァーリが瞬時に横にずれる。よしっ! その位置なら当たらない。

 

「クリムゾンブラスタァァァァァァアア!」

Fang Blast Booster(ファング ブラスト ブースター)!!!!』

 

紅色の極大のオーラを発射し、初代を狙う。初代は避けようとせず、棒を前に構えて迎え撃つ姿勢を見せた。

俺の真『女王』の砲撃を喰らえば、いくら初代とはいえタダでは済まないはずだっ!

当たれぇぇぇっ!

紅色のキャノン波動は見事に初代を捉え、大爆発を起こす。煙が立ち込める中、下がってきたヴァーリと会話を交わす。

 

「これでどれくらいダメージを与えられたと思う?」

「さぁな。だが、いくら初代殿でも無傷とはいかないはずだ」

だよな。あの獅子の衣をまとったサイラオーグさんにもダメージを与えられたんだ。あれから更に鍛え上げた俺の砲撃でダメージを喰らわないわけないっ!

……と思っていたのだが。

 

「っ!」

「ウソだろっ!」

煙が晴れ、中から姿を現した初代は……衣服こそ多少破けているものの、健在だった!

馬鹿なっ! あの砲撃を真正面から食らって無傷っ!? そんなことが……。

驚く俺たちに初代は告げる。

「いい攻撃だったぜぃ。久々にわしも全力防御を強いられたわぃ。じゃが、実力者には隙を作って撃たねば、この通り無傷で済ませられてしまう。攻撃は当てなければ意味はないが、ただ当てればよいというものでもないぞぃ」

厳しいお言葉だ。確かにユーグリット・ルキフグスにもキャノンを撃ったが、ドラゴンショットで相殺されてしまったしな。あの小型ドラゴンを使ったような感じで、敵の不意をついて攻撃を当てなければならないってことか。

でも、あの飛龍は今ほどの攻撃は跳ね返すことは出来ない。パワーが大きすぎるからだ。

なら、もう一度っ——。

「ヴァーリ、もう一度前に出て攪乱してく——」

 

ガシュウゥゥン。

ヴァーリの鎧が通常状態に戻ってしまった!?

『極覇龍』ってのはそれだけスタミナ消費がハンパないってことか!

「そちらの攻撃はもう終わりかぃ? なら、次はこちらが攻める番じゃぜ」

そう呟いて、初代はこちらに突っ込んでくる。

二人で左右に分かれて迎え撃とうとするも——

 

「ぐはぁ!」

「ヴァーリっ!」

俺よりも消耗しているだろうヴァーリが先に狙われたかっ!?

ヴァーリは棒の突きによって遥か後方に吹っ飛ばされていった。

「序盤から極覇龍の状態になるのは良い判断ではなかったな。その後の戦闘継続が難しくなる。今の状態で使うならば、ここぞという一撃で使わんとな。格上の存在相手では、そのように戻って消耗している瞬間を狙われるぞ?」

なるほど、と納得し……ている場合じゃない。次は俺の番だ。

Solid Impact Booster (ソリッド インパクト ブースター)!!!!』

右腕だけトリアイナ版『戦車(ルーク)』のものを形成。このぶ厚い籠手であの棒の攻撃を防御しようとしたが——。

 

「伸びよ、棒よ」

初代のその一言で、棒が高速で俺に向かって伸びて——。

バガァァアンッ!

「ぐはぁっ!?」

ぶ厚い俺の『戦車』の籠手を貫いてきた!

くそぉ……。真『女王』状態なら籠手の防御力も上がっているはずなのに……。

吹っ飛ばされるものの、なんとか空中で体勢を立て直し、初代を見据える。

「ほぅ、今の攻撃を食らって空中で体勢を立て直せるか。その籠手の防御力は凄まじいようじゃの」

お褒めの言葉をどうもありがとうございますっ! でもあんたの攻撃力は桁違いすぎだ!? 俺の籠手を突き破ってくるなんて!

「そりゃ、儂じゃからな。じゃが、お前たちが敵にしておるのは、そのような強者たちばかりじゃ。この程度で驚いてはいかんぞ」

くそぅ、俺とヴァーリの二人がかりで歯が立たないなんて……。どれだけ強いんだ、あのじいさん!?

 

『そりゃ、今のお前よりは遥かに強いだろうさ。初代孫悟空はもう何百年もその力を練磨している。成長途中の今のお前ではまだまだ敵わんだろうさ』

そうか……。俺が生まれる遥か前からずっと修行を続けているんだもんな。そりゃ実力に開きがあって当然だ。

だけど…………。

 

「兵藤一誠。無事か」

「ヴァーリ、お前こそ大丈夫なのか!?」

戻ってきたヴァーリに尋ねる。

「ああ、攻撃を食らう直前に防御したからな……。それほどダメージは受けていないさ」

そうか。どうやら吹っ飛んでいったのも、後方に飛んで攻撃の衝撃を減らすためだったらしい。

「兵藤一誠っ!」

「ああ、いくぜ!」

なんとかあのじいさんにダメージを負わせたい! たとえ一撃でも。二天龍がそろってこれじゃあ、赤龍帝の名が廃るってもんだ

いくぜぇ、ドライグっ!

『応っ! いくぞ相棒っ!』

 

 

 

その後、二人で初代にかかっていったものの、これといったダメージは与えられず、そのまま修業は終了した。

俺たち、もっと頑張りますっ!

 




どうでしたでしょうか?
この物語は16巻のほぼ直後から始まっている設定です。

駆王学園が「D×D」の仮本部となっていますが、原作ではどこが「D×D」の本部になるのでしょうかね? 発足直後ということで学園を仮本部としてみました。

初代孫悟空は相変わらずの化け物ぶりです。
少々強くしすぎたような気もしますが、これでいいように思えます。
(初代様は実力が高すぎて、イッセーの活躍を奪ってしまうので、あまり大活躍はさせない予定です)

どしどし、感想や評価をしていただけると嬉しいです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。


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トレーニング、始めるよっ!

一誠「よーし、今回の話も俺が主役……じゃない!?」

木場「うん、今回は僕が主役なんだ……ごめんね、イッセーくん」

一誠「くっそぉお! イケメンが主役張っちまったら、俺の出番がなくなるだろッ! そしたらファンが減って……ハーレム王への夢はさらに遠のくじゃねぇか!?」

木場「(イッセーくんの周りにはもう十分なほどハーレムが形成されていると思うけれど……)まぁ鈍い僕の親友は放っておいて————。本編、スタートです」

一誠「にこやかにスルーして、進めるなぁ!」


二天龍が初代孫悟空に修行をつけてもらった後、僕とゼノヴィアも初代にトレーニングをつけてもらうようお願いしたんだ。

僕らも強くならないとね。

魔帝剣グラムを扱いこなせるようにして、邪龍(じゃりゅう)たちとの戦いに備えないといけない。

 

なにせグラムには龍殺し(ドラゴンスレイヤー)の力が宿っている。一撃ではグレンデルに効果は望めなかったものの、幾度も攻撃を当てるうちに、その効力を発揮した。龍殺しのダメージは邪龍に蓄積していくんだ。蓄積させれば、相手の龍殺し耐性を突破してダメージを与えることが可能だ。

つまり、僕はそれだけ長く魔帝剣グラムを振るえなければならない。

 

僕もイッセーくんのことを言えないね。グラムを振るうたびに体力を猛烈に消耗させてしまっている。そのため昨日の戦闘では数分間の使用で反動がきてしまい、ろくに動けなくなってしまった。

騎士(ナイト)』の僕が動けなくなるなんて、あってはならない事態だ。

僕には防御力がない。だから敵の攻撃は防ぐのではなく、躱さなくてはならない。

 

————僕は邪龍クロウ・クルワッハとの戦いのときに、またイッセーくんの役に立てなかった。

あれから修行して鍛えたつもりでも……このザマだ。

イッセーくんは力を呼び込む赤龍帝だ。今回の騒動を切り抜けられたとしても、今後もこういった事態に巻き込まれる可能性は十分にある!

だからこそ、僕には力が必要なんだ……イッセーくんとともに戦えるだけの力が!

そのための修行だ。————ゼノヴィアも自身の力不足を感じているからこそ、この修行に参加してくれたんだと思う。

 

「ああ、その通りだ。木場祐斗。私だって、もっとこの聖剣を自由自在に扱えなければならないことくらい、解っているさ」

そう、ゼノヴィアの聖剣『エクス・デュランダル』はその名の通り、エクスカリバーとデュランダルを合体させた特別な聖剣だ。その潜在能力はすさまじいものがある。

しかし、ゼノヴィア自身その能力のほとんどを引き出し切れていないことを自覚しているのだろう。だからこそ、あれだけ拒否していたテクニックタイプの修行にも付き合ってくれるようになった。

 

「失礼だぞ。私だって日々考えているんだ!」

今の時点では、その言葉に説得力が感じられないけども。これからの修行の成果で僕に示してみせてよ、ゼノヴィア。

「分かった。今に見ていろ、このエクス・デュランダルの能力のすべてを使いこなしてみせる!」

「気合十分だね。初代、トレーニングよろしくお願いします」

「お願いします」

二人で初代に頼み込む。

「あぁ、かた苦しい挨拶はいいさね。聖魔剣の。ま、その魔剣に慣れるのも、二天龍と同じく実戦方式がいいじゃろうて。かかってきなさい」

そういって、初代は構えを取る。

僕とゼノヴィアは距離を取って、初代を見た。

 

————静かだ。闘気は感じられるものの、殺意ほどでない。その身に力をためているのは解るが、どうくるかは予想もつかない。

これが仙術を極めた者の戦闘スタイルなのか……恐ろしい。僕が相対して恐ろしいと感じたのは初代だけではない。例えば、サイラオーグ・バアル。彼は自身の非常識なまでに鍛え上げられた闘気や気迫を、相手に向けて放出することで委縮させ、自身の攻撃につなげていた。

彼と正面きって向かい合うのは恐ろしい。その力の波動を肌で感じられ、本能が危険だと叫ぶ。相対していて、あれほど緊張感につつまれた敵もそうはいなかった。

しかし、初代はそれとはまったく正反対の怖さだ。

 

静かすぎる。その実力はサイラオーグ・バアルを遥かにしのぐものだというのに、何も感じ取ることができない。感じとらせてくれないのだ。

これでは相手の力に対して、備えることができない。

 

————僕のようなテクニックタイプには天敵だね。

しかし、初代は動かない。あくまで僕らの出方を待つつもりらしい。

————なら、

 

「ゼノヴィア、前に出てくれ」

「分かった」

いまだパワー重視の戦い方を得意とするゼノヴィアを前へ出す。初代がそれに対してカウンターをしてこようとしたり、躱そうとしたときは、僕がゼノヴィアをフォローして攻撃を当てる算段だ。

まずは一撃、話はそこからだ。

 

「はあぁ!」

ゼノヴィアが剣を振りかぶる。しかし初代はそれを避けようとせずに、受けてみせる構えを見せた。

————カウンター狙いかっ。なら、これでどうだ!

魔剣創造(ソード・バース)っ!」

僕は地面に手をつき、初代の足元に大量の魔剣を創造した。

これなら、体勢が崩れてカウンターなど出来ないはず!

————しかし、

 

「ぐあぁ!」

「ゼノヴィアっ!」

初代は僕の創造した魔剣を最小の動きで回避し、ゼノヴィアに棒の突きを入れた!

不規則に創造させた魔剣の発生を見切った!?

にわかには信じがたいことだが、初代程の実力ならばあり得るのかっ!

ならば、これでどうだっ————。

「騎士団よ!」

僕の周囲に現れる竜騎士たち。これは僕の禁手の一つ、聖覇の龍騎士団(グローリィ・ドラグ・トルーパー)だ。

これでゼノヴィアを後方へ移動させ、そして同時に初代へと攻撃もさせるっ!

 

「すまない、助かった。木場」

「どういたしまして。ダメージは?」

初代の攻撃を食らって、タダで済むわけがないからね。ゼノヴィアの戦闘続行は難しいとも思ったんだけど……。

「どうやら、手加減してくれたらしいな。まだ体は十分に動くッ!」

僕の取り越し苦労だったようだね。初代は僕らに修行をつけさせることに重きを置いているのか、その絶大な攻撃力を発揮しないようだ。

なら、そこにこそ僕らが付け入る隙がある!

「ふむ。龍騎士たちの速さは良いが、技術はまったく反映できておらんようじゃのぉ……。これでは奇襲に使えても、正面切っての戦いではまるで役に立たんぞぃ。精々足止めできればいいとこさね」

 

厳しいお言葉だね。……でも、仰られる通りだ。

今の僕の騎士団には、速さは反映できていても、技術はほとんど反映できていない。

それでは、初代ほどの実力をもつ相手に対して、傷を負わせることは難しいだろう。

「敵をかく乱するには十分かもしれんが、仙術を極めた者や、気配察知の上手い者にはとても使えたもんではありゃせんぞぃ。もっと精進せい」

「はいっ!」

 

しかし、この方のお言葉は本当にタメになるね。イッセーくん、君もこのように叱咤されたのかい?……なら僕も負けてはいられないな。

「ゼノヴィア、作戦を話すよ」

「よし、聴こう」

 

僕はゼノヴィアに作戦を伝える。さっきの騎士団での攻撃でダメだったということは、生半可なかく乱では、初代はものともしないということだ。だからこそ、ゼノヴィアの協力が必要になる! エクス・デュランダルの力が!

僕の作戦を聴いたゼノヴィアは不満げな顔を浮かべた。

「また、私に突っ込ませる気だな」

「じゃあ、ゼノヴィアは僕の動きをフォローできる? できるなら僕が前に出てもいい」

その答えを聴いたゼノヴィアは「分かったよ、やればいいんだろうやれば」と己を納得させていた。これもテクニックタイプの練習だと思って、頑張ってよ!

 

「話し合いは済んだかのぉ……。次はこちらからいかせてもらうぞぃ」

そう言うと初代は地面を棒で、トン、と叩いて強烈な閃光を発した!

「目くらましかっ」

「ゼノヴィア下がって! 僕がフォローするっ」

僕らと初代の間に、魔剣創造で剣山を発生させ、来るであろう初代の攻撃を躱そうとした。

それが功を奏したのか、初代が目の前に来る頃には閃光は収まっていた。

 

「騎士団よ!」

僕は再び騎士団を初代の足止めに使い、ゼノヴィアから例のモノを受け取る。

よし……これでっ!

「この騎士団では、儂を倒せんぞぃ。もっと攻めてこんか」

半数の騎士団を蹴散らした初代がこちらに迫る。

「これならばどうだ!」

ゼノヴィアが剣を鞘から抜き、溜めていた聖なる波動を一気に初代へ向けて放出した。

彼女お得意のデュランダル砲だ。初代は悪魔ではないから、抜群の効き目とはいえないものの、まともに食らえば彼とてダメージは免れない!

 

しかし、初代はそれを棒の一薙で振り払った! 馬鹿なっ、あれだけの動作で!? あの何気ない一振りに、一体どれだけの力が込められていたというんだ。

強敵だ。間違いなく、僕らが戦ってきたなかで一番の。勝てるはずもない。しかし……一太刀でも入れたいと思うのが、剣士の性だ!

ゼノヴィアと残りの騎士団が果敢に初代へと挑むも、それを初代はなんなく撃退していく。だが……。

 

「じゃから無駄じゃと……ぬぅ!」

初代の背後から、突然現れた龍騎士が魔帝剣グラムで彼を切り裂いたのだ。

「聖魔剣の。お主か」

兜のマスクを外し、僕が答える。

「ええ、そうですよ。さきほどの騎士団発生のときに紛れ込ませてもらいました」

「しかし……姿が消えておったようじゃが……それは————」

「————ゼノヴィアの聖剣は特別で、一時的にならエクスカリバーの一部を取り外して使うこともできるんです」

 

そういって僕が懐から取り出したのは、透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)だ。

「その聖剣の力か……面白いことをするねぃ」

「さすがのあなたでも姿の見えない敵に不意をつかれては、どうしようもなかったみたいですね」

ゼノヴィアのデュランダル砲ですら、僕の姿がないことを気づかせないための布石。相手が仙術を極めた孫悟空となると、僕の拙い幻術程度では容易に見抜かれてしまう。

だからこそ僕は自身の幻影をつくらなかった。一瞬で隙をつくり、一気に攻めることで初代に一太刀を浴びせられた!

これなら————

 

「油断は禁物じゃのぅ。聖魔剣の」

背後から声がした瞬間、

ドンッ!

なにか棒のようなもので殴られた衝撃が僕とゼノヴィアを襲った。

「ぐぅう!」

「ぐぁあ!」

あまりの衝撃に吹き飛ぶ僕とゼノヴィア。

 

そんな……どうして……。初代は僕が確かに今切り裂いたはずなのに……。

「お主のしたことと同様じゃわぃ。それは儂の分身さね」

そう言って、初代は自身の分身をかき消した。つまり、さっき僕が切り裂いたのは分身だったのか……。本体のほうは健在みたいだ。

いつ入れ替わったのか……と一瞬考え、答えに行き着く。

「あの閃光のときですね」

答えながらも驚愕していた。本物の気配など、まるで感じなかったからだ。

「正解さね。いいこと教えてやろうぞぃ。一瞬も気を緩めてはならん、相手を打倒したと確信したとしてもじゃ。その一瞬の隙が敗北を呼び込むぞぃ……今のお主らのようにな」

「はい……精進します」

「私には難しそうだ……」

 

さっきまでのが分身だったということは、初代孫悟空は分身ですら、あのデュランダル砲を弾き飛ばすほどの実力を持っているということなのか……信じ難いことだね。

さっきの突きで僕とゼノヴィアはもう立てずにいた。……仙術特有の攻撃だろうか。体の芯にまでダメージが通っている。力が入らない……。

 

「お主らは、今日はここまでじゃて。次も控えておることだしのぅ。お主ら、テクニックタイプを目指しておるんじゃろう? なら、自分がどう攻めるかではなく、相手がどう攻めてくるかを考えるべきじゃぞぃ。相手の一撃にカウンターを入れてこそ、テクニックタイプじゃ」

そうだ……僕は初代にどう攻めるかを考えるばかりで、彼がどう攻めてくるかなんて考えもしなかった。……まぁ彼が自身の攻撃をこちらに察知させなかったというのもあるけどね。

 

ゼノヴィアには普段から色々言っているけど、僕だってテクニックタイプとしてはまだまだだったんだ……。敵の攻撃に翻弄されるばかりで、相手に隙をつくることがまったくできていなかった。それを再認識させてくれた意味でも、この修行は本当に価値あるものだった。

 

「もっと精進せぃ。二人とも」

「「はい!」」

僕とゼノヴィアは異口同音に返事をした。

 

 

イッセーくん、君の背中はまだ遠いよ……。

 




どうでしたでしょうか?
ハイスクールD×Dのもう一人の主人公、木場君修行回です。

本編では、木場のテクニックタイプとして優秀さが随所にあらわされていますが、
彼にも未熟な部分があるんだよーということで、今回のような話をいれてみました。

劇場版仕様なので、もう少し展開が早くてもいいような気がしますが、
やはり小説としてある程度細かくここら辺のことも描写しないといけないなーとは思っています。
ですので、若干話のテンポとしては遅くなりがちかもしれません。

それと、年末年始は忙しく、更新が滞ってしまいそうです。
なにとぞご容赦ください。
感想、評価やご意見等を送ってくださると、作者は喜びます!

では、ここまでお読みいただき、どうもありがとうございました!


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修行、開始だっ!

一誠「よーし、前回はイケメンに主役を取られたが、今回は俺が————」
サイラオーグ「今回は俺が主役だ」

一誠「えええええぇぇっ! サイラオーグさんがっ! 俺またイケメンに主役取られますか!?」
サイラオーグ「本編では主役を張ったことがないからな。少し緊張もしている。皆、よろしく頼むぞ」
一誠「サイラオーグさんみたいな男前なイケメンに主役取られたら……ハーレム王の夢がぁぁ……」

サイラオーグ「(木場祐斗、もしかして兵藤一誠は……)」
木場「(はい……グレモリー眷属女子のほとんどから好かれている自覚があまりない……いや、薄いらしくて)」
サイラオーグ「(なるほど。だが、それもまたこの男の魅力の一つなのだろうな)」
一誠「何こそこそ話してるんだよ?」
木場「な、なんでもないよ。イッセーくん」

サイラオーグ「さて、気を取り直して————本編開始だっ!」



聖魔剣の木場祐斗とデュランダル使いのゼノヴィアとの訓練を終えたばかりの初代がこちらにやってくる。

「初代、俺たちにも訓練をつけてほしい」

「おおぅ、バアルの獅子王か。ええぞぃ。ただ……後ろにおるのもまとめて面倒をみたほうがいいのかぃ?」

そう……今俺たちは兵藤家地下のトレーニングルームにいる。

 

 

俺はここに初代がいると聞いて、眷属を引き連れて兵藤家を訪れていた。どうやらあの二人の稽古をつけた後らしい。

今回俺たちがわざわざ兵藤家を訪れたのには理由がある。

それは初代の滞在だ。

いくらチーム「D×D」を結成したとはいっても、皆にはそれぞれの生活がある。

特に初代は忙しい身で、今この時を逃せば稽古の機会は少し先になる可能性が高い。

つまり、初代が滞在している今このときに、二天龍だけではなく俺たちも鍛えてもらおうという算段でやってきたのだ。

 

「眷属の者たちも前回のリアスとのゲーム以来、自分を磨きなおしたいと意気込む連中ばかりで……俺と共に初代の修行を受けさせられればと思いまして」

「なるほどのぉ……いいぜぃ。まとめて面倒を見てやろうさね」

煙管(キセル)を吹かしながら、初代はうなずいた。

「礼を言う」

頭を下げようとする俺を初代が止める。

「堅苦しいのは苦手さね。それに若手を育てるのも老人の役目さね。それこそわしがこのチームにおる理由じゃしのぉ」

このチームの最大戦力にして、指南役。それが初代孫悟空の立ち位置だった。

 

「あと数日は儂はここの町に滞在するでの。その間、お前たちの面倒は見てやるつもりじゃから、急いで駆けつけてこんでもよかったんじゃぞ」

どうやら俺たちが急いでここに来たのを見抜いていたらしい。

そのおかげで眷属の皆を招集しきれずここについてしまったのだった。

招集できたメンバーは『兵士』のレグルス、『女王』のクイーシャ、『騎士』のフールカス、そして『戦車』のブネだけだ。

「そうですか。ならば俺たちもここに滞在して、その間初代に稽古をつけてもらうとしましょうか」

俺がそう告げると、初代は満足そうに笑んで続けた。

「そうかぃ。向上心があっていいことさね」

初代がここに数日滞在するのなら、あとで残りの眷属も呼ぶとしよう。あいつらも強くなってもらわんとな。

 

「ではそろそろ修行を開始しようかのぉ。おっとその前に————」

そう言うと初代は棒をコツンと地面にあてた。

何をしたのかと一瞬考えて……感じ取った気配から理解した。

「あの二人を地上に送ったのですね」

尋ねると、初代はうなずいた。

「うむ、リビングに転送しておいたわぃ。邪魔になっても困るし、巻き込まれてもいかんからのぉ」

わざわざ離れた二人を転送するということは修行はかなり広範囲に影響を及ぼす規模になるということだ。

 

修行の内容は察するに、実戦形式か。

それも当然だと思われる。

例えるなら誰かに勉強を教える場合だ。教師が教える対象の学力を知りたいと思うのは当然だ。

つまり、私たちがどこまで戦えるかを測るつもりなのだろう。

修行の最初からこうした実戦方式でやるのは、そういった意味合いもありそうだ。

「そっちは……5人かね。ふぅ~む、どうしたものかのぉ……」

なにやら悩んでいる様子の初代。

 

考えがまとまったのか、初代はニヤリと口元を笑ませて俺たちを見上げて告げた。

「二対五でやろうかのぉ」

そういって初代は、自分の髪の一部を抜き取り息を吹きかけると————。

 

「「さぁ、かかってきなさい」」

初代の分身が作り出され、二人の初代が左右対称にポーズを決める。

「俺が本体のほうとやろう。お前たちは分身とやれ」

『っ。サイラオーグ様、しかし————』

反論してきたレグルスを俺は諌めて告げる。

「伝説の妖怪である孫悟空とは、一対一で戦ってみたいのだ。それに神滅器を持つ眷属の主たちは、神仏と戦えるまでに強くならなくてはいけないのだろう?」

俺が初代に確認すると、その通りだとうなずいた。

「そういうわけだ。下がれ、レグルス」

俺はそう言いながら、黒い戦闘服を着込む。

『……はっ』

それを見て、しぶしぶといった様子でレグルスは下がった。

まったく、主思いの眷属だな。俺はお前のような眷属を持てて幸せものだよ。

 

 

さて、戦闘開始だっ————。

まずは、両手足に負荷をかけていた枷を外す。

ドンッ! と大きな音をさせて、両手足の枷の紋様が消えていく。

周囲に力を解放した影響で、風圧が巻き起こり、足元の地面が大きく抉れ、クレーターができた。

解放した闘気を身にまとって初代の本体に向かい飛び出す俺。

初代は如意棒を構えて、こちらの拳と打ち合わせてきた。

ドンッ! ガンッ!

俺たちの攻撃が打ち合うたびに、このトレーニングルームに轟音が響き渡る。

「おぉ、やはり凄まじいパワーじゃのぉ。若いもんにしては、充分さね」

初代が俺を褒めるが、それを俺は一蹴する。

「ですが、邪龍やリゼヴィムたちと戦うなら、この程度ではいかんでしょう……あなたから出来るだけ技術を吸収させてもらうっ!」

「いい心がけさね」

俺の答えに満足したのか、口元を笑ませていた。

 

 

そこから俺と初代の激しい攻防が始まった。

まず、初代に上から拳を落とすように打ち込む————それを初代は横にずれて躱し、こちらに棒を伸ばして突こうとする。

顔を狙ったその一撃は首を傾けることでなんとか回避し、今度は初代を蹴り上げようと右足を上げる。

すると今度は初代は飛び上がり、上から棒をたたきつけるように振り下ろしてきた。

それを後ろに跳んで回避してから再度拳を打ち込む。

初代は着地してから、その拳を棒で易々と受け止めて横に流した。

俺は流された体ごとあえて前に倒れこみ、そのまま慣性を利用して回し蹴りを繰り出す。

それを初代は棒を支えにして飛び上がることで避けて、そのまま棒を横薙に振るう。

これは躱せないと判断し、闘気を全開にし両腕をクロスさせて防御しようとした。

ガァァアン! と凄まじい音をさせて地面とぶつかりながら吹き飛ばされた。

 

……なんてダメージだっ……! リアスの『騎士』が持つ聖剣デュランダルの聖なる波動すら防いでみせたこの闘気をまとっていたというのに……。

棒の横薙を庇った腕が痺れて、力が少し入らなくなった。

俺は驚愕しながらも空中で体勢を立て直し、初代と向き直った。

 

「生身で受けてそのダメージとは……さすがだねぇ、師子王の。赤龍帝と並ぶだけはあるわぃ」

「それはどうも。俺は今度こそ兵藤一誠を倒したいのでね」

そうは言ったものの、今までの打ち合いで俺はこう感じていた。

 

戦いづらい、と。

 

こちらの速さに簡単についてこられる上に、打撃も容易く打ち合わせてくる。

しかもそれをあの小柄な体でだ。

初代の背は小さく、人間に例えるなら幼稚園の年長児くらいの高さしかない。

あの小柄な体で飛んで、跳ねてを繰り返しこちらの拳を受け止める様はまさに驚愕の一言に尽きる。

こんなにも体格差のある者と戦ったことはないので、戦いづらいことこの上ない。しかも相手のほうが強いのだ。

 

それにこちらは全力で打ち込んでいるが、向こうはまだかなり余裕がありそうだ。

俺の力に合わせてくれているのが分かる。

……悔しいものだな。やはり初代孫悟空クラスの敵と戦うにはバランスブレイクをするしかないのか。だが、いつかはこの拳だけで————。

俺は最強の形態となるべく、自身の最強の眷属兼神滅器を呼び出す。

「レグルスゥゥゥゥッ!」

 

一方、分身と戦う眷属たちはどうなっていたのだろうか。

その様子をあとから聞くとこんな感じだったらしい————。

 

「さて、来ないのならこっちからいくぜぃ」

初代の分身がこちらに向かってくる。

『ベルーガ殿、クイーシャ殿、ラードラ殿足止めをお願いする』

レグルスが彼らに頼む。

「はい。おまかせを」

「私とアルトブラウの神速で翻弄して差し上げましょう」

「我が火炎で焼き払ってくれよう」

それぞれが自分の役割を理解し、動く。

それはレグルスが戦闘力を解放するまでの時間稼ぎだ。

 

まずはフールカスが初代を足止めするために動く。

「いざ、参る」

愛馬のアルトブラウの神速で初代に詰め寄る。

「おぉ……なかなか速いのぉ。じゃが————」

分身初代はなんなくそれを躱し、フールカスに対して棒の突きを入れる!

「くぅっ」

初代の猛烈な突きをなんとかランスで防ぐフールカス。どうやら分身とはいえ、その身のこなしは青ざめた馬(ペイル・ホース)の速さに並ぶようだ。

「分身でありながらこれ程の速さだとは……」

苦々しく顔を歪めるフールカス。それもそうだろう。自慢の愛馬の足と初代のとはいえ分身の速さに並ばれたのだから。

「生憎と儂は分身にかなりの力を託せるほど鍛えておるでのぉ。若いヒヨっ子の相手くらいは分身の儂で充分さね」

「舐めるなっ!」

 

その挑発に乗ったのか、幻影を複数出現させて高速戦を仕掛けるフールカス。あの幻影は本物と同じ気配を放っており、見分けることはほぼ不可能。しかもそれぞれが本物と同じくらいの速さを持っている上、攻撃を仕掛けることも可能だ。

「これはこれは。儂と同じように分身で攻撃してくるか。じゃが————」

幻影を一体、一体冷静に打ち倒して処理していく分身初代。

「分身の使い方は、儂もよーく分かっておるさね。序盤に突っ込んでくる者の中に、まず本物はおらんのぉ」

 

分身は初代の十八番だ。フールカス以上に圧倒的に使い慣れている。故にその特性や使い方も完璧に見抜かれているようだ。

「分身の完成度は、若いもんにしては充分さね。この調子で精進せい」

そう、フールカスの幻影はいわゆる質量をもった幻影で、分身とほとんど同じような効果がある。

しかしその幻影を蹴散らされて、劣勢に立たされていくフールカス。援護をしたい味方の眷属も、高速で動く両者を前に手出しがしづらい状態が続いていた。

「お褒めの言葉、ありがたく頂戴いたす! しかしこれで終わるとは思わんでくだされ」

 

幻影を次々を消され、追い詰められていくフールカス。

それもそうだ。速さは両者ともにほぼ並んでいるものの、初代にはフールカスにはない豊富な戦闘経験や妙々たる洞察力がある。この高速戦がどうなるかは目に見えていた。

 

予想通り高速戦を制して、先に一撃を入れたのは分身初代だった。

しかも、その一撃で馬と分断されてしまった!

「馬との息はピッタリじゃのぉ。じゃが、馬なしでは高速で動けない点はいかんの……聖魔剣の『騎士』を見習うんじゃの」

 

その通りで、フールカスは馬なしでは高速で動けない。『騎士』の駒で自身の速さも底上げされているものの、分身初代の相手をするには不足が過ぎた。

「ぐぅ!」

苦しそうなうめき声を上げるフールカス。馬なしでも分身に立ち向かおうとするが……。

「遅い」

一言で一蹴され、棒の横薙を喰らい吹き飛ばされてしまった。

「ぐぅあぁぁぁぁあっ!」

 

仲間がやられる様子をただ見ているわけではなかった『戦車』のブネが前へ出る。

「次は俺の火炎を食らわせてやる!」

巨大なドラゴンに変身したブネが大質量の火炎を吐くが……。

「ほーれ、ほーれ」

仙術の応用なのか、火炎のなかをものともせず突っ込んでいく分身初代。

「馬鹿な! 我が炎がきかんというのか!」

「赤龍帝の火炎と比べると、まだまだじゃて」

そう言うと、初代はブネに対して棒の突きを入れた。

「ぐうあぁぁぁああ!」

ドラゴンと化したブネを棒の一突きで倒すと、次の狙いをクイーシャに定める。

 

 

「なら、これでどうです!」

『女王』のクィーシャが様々な属性の魔力の波動を乱れ撃つ!

物理攻撃で歯が立たないのなら、魔力による攻撃ならばどうか。

「ふむ、なかなかに練られた魔力じゃ。……しかし」

分身初代はクイーシャの乱れ撃った魔力攻撃を、飛び跳ねて回避や棒で弾き返したりを繰り返し、防ぎきってみせた。

「格上の相手に対して生半可な魔力攻撃が通用すると思ったのかねぃ。アバドンの者ならば『(ホール)』を使ってこんか」

「くっ……」

 

確かにクイーシャの力の神髄は『穴』にある。前回のリアスとのゲームでも、それを使って『雷光の巫女』である姫島朱乃に勝利しているのだ。

それを重々承知しているのだろう……その時のクイーシャは悔しそうな顔をしたものの……やがて、笑んでこう告げた。

「しかし、時間は充分に稼げました」

「むっ!」

異変を察知した分身初代は、後ろに下がる。

 

ガゴォォォォォォォォオオオオオンッ!

 

少年から巨大なライオンへと変身を遂げたレグルスがそこには立っていた。

金毛が全身をおおい、腕や足は元の体の数倍に太くなっていて、その口には鋭い牙が生え揃っており、額には宝玉が飾られている。

金色のオーラまでも放つ堂々たるライオンの姿に、分身初代も賛辞の声を浴びせる。

 

「さすがは神滅器の一つさね。凄まじいパワーを感じるのぉ……しかし不安定じゃな」

そう、所持者がすでに死亡しており、神滅器のみの状態で動いているレグルスは力が不安定で、暴走の危険性を考えるとおいそれと戦闘に参加させることもできない。

ライオンの姿となるに少々の時間を要したのも、暴走の危険を避けるためであった。

「おぬしらが同時に突っ込んで来れば、今とはまた戦況もまったく違っておったろうに……その力を安定させることがお主の課題さね」

『……仰る通りです』

 

「全力でかかってきなさい。ただし、暴走せぬようにな」

『ハッ! いざ、参るっ!』

金色のオーラを迸らせ、光の放流の如くとなって分身初代に詰め寄る!

その凄まじい様にクイーシャも容易には両者の戦闘範囲に踏み込めずにいた。

両者が全力でぶつかり合う。その体格差を想像していただければ分かるだろうが、小さき者が巨躯を圧倒する様はまさに圧巻の一語に尽きる。

 

『ぐぅう!』

分身初代の猛攻に、徐々に勢いを失いつつあるレグルス。

俺も経験したから分かるが、あれほど小さな者が自分より素早く、そして力強く攻撃してくるというのは戸惑いと困惑を抱かせるものだ。

それにレグルスは巨大であるため、なおさら小さき者に攻撃が当たらぬことにいら立ったに違いない。

さらにその戦い方もこちらの攻撃をすべて躱し、そのあとの隙を的確に攻撃してくるというなかなかに厭らしい戦い方を繰り出していたそうだ。

 

「どうした、どうした。戦闘中に冷静さを欠いていてはいかんぞ」

『チイッ!』

分身初代の言う通りその時のレグルスの体からは過剰で無駄と言えるほどのオーラが迸っていた。

聞いていて思うのは、レグルスがいら立っても力を暴走させてはいけないと、あえてそのような戦い方をしたのかもしれない。

感情が高ぶればその分、力のコントロールは雑になるものだからな。

 

 

その様子を見かねたのかクイーシャがレグルスの隣に立つ。

「レグルス、相手に呑まれてはいけません。落ち着くのです!」

その一喝に冷静さを取り戻したのか、レグルスは過剰なオーラの迸りを収めた。

『すみません、クイーシャ殿』

「落ち着いたのならば、それでいいのです。私に考えがあります、レグルス。あなたは前に出て初代の攻撃を誘ってください。私が隙を作るので、あなたはそこを狙って全力の一撃を入れてください」

クイーシャの作戦の内容を悟ったレグルスは、

『ハッ!』

と気合を入れ直し分身初代へ向かっていく。

 

 

『はあぁぁぁっ』

獅子の爪が振り下ろされる。当然ながら分身初代は避けるが、地面に当たった爪が生んだ衝撃波の風圧でその小さな体が吹き飛んでいく。

「くぅう! ならば、これでどうじゃ」

吹き飛ばされながらも、初代は棒を伸ばしてレグルスを突こうとしたが————。

「その瞬間を待っていました!」

クイーシャがレグルスと彼を狙う棒の突きの間に、アバドン家にのみ使える特殊な技である『穴』を出現させた。

その『穴』に吸い込まれていく分身初代の棒。

「————っ」

その様に驚く分身初代。

 

クイーシャの『穴』は、すべてを飲み込む文字通りの円形の穴を空間に生みだし、そのなかで相手の攻撃分解したり、別の『穴』から放つこともできる。

つまり、その時のクイーシャの狙いは————。

 

「後ろかっ!」

分身初代の後ろに出現した『穴』から棒の突きが放たれるっ!

『穴』たちは異界を通じて繋がっているからな。相手の攻撃をうまく吸い込めれば、別の『穴』から放出可能なのだ。

自らの攻撃に当たるわけにはいかないと、身を捻って躱す分身初代。

そこで生まれたわずかだが、確かな隙を逃すはずもないレグルスは————。

『ゴガァァァアアアアア!』

唸り声とともに相手の体に覆いかぶさるようにして、猛烈な打撃を繰り出す。

ガン! ドガンッ! ガガァァァンッ!

その連続攻撃にたまらないとばかりに、その猛攻の波から逃れる分身初代。だが、いくつか打撃は当たったようで……。

 

「うーむ、さすがに痛いさね。分身とはいえ、儂にこれだけのダメージを負わすとは……さすがは物理攻撃力に特化したバアル眷属じゃのぉ」

分身とはいえ、初代の防御力を貫通してダメージを与えることに成功していた!

『仕留めきれなかったか……ならば、もう一度っ————』

「二度同じ手が通用すると思っておるのか? 舐めるのもいいかげんにせぃっ!」

そう言って分身初代が狙ったのは————クイーシャだった!?

「っ!」

 

咄嗟に『穴』を出して防御しようとするものの間に合わず————。

「きゃぁぁぁああああ!」

棒による突きをモロに食らってしまった。

その攻撃で完全に気を失ってしまったクイーシャ。

「これで『穴』を使ってのカウンターはできんぞぃ」

『クイーシャ殿っ!』

『穴』の出現は間に合わなかったものの、防御の陣は組んでいたはずのクイーシャを一撃とは……やはり初代の攻撃力は凄まじいものがあるな。

「彼女の弱点は、反射神経さね。いくら『穴』を使って防御しようともそれよりも早く攻撃を繰り出されれば、間に合わん。それではいかんさね」

 

確かにクイーシャは前回のリアスとのゲームでも、防御の反応が間に合わず兵藤一誠に敗けた。

相変わらず、的確な修行のポイントを戦闘中にも関わらず教えてくれるものだな。さすがは初代だ。

俺がレグルスを呼んだのはこのようなタイミングだったらしい。

 

 

「レグルスゥゥゥゥッ!」

『ハッ!』

俺の呼び声にすぐさま応え、推参するレグルス。

俺はそれを確認してから、獅子の衣をまとうための呪文を唱えていく。

 

「我が獅子よッ! ネメアの王よッ! 獅子王と呼ばれた汝よ! 我が猛りに応じて、衣と化せェェェェッ!」

レグルスから発せられる金色のオーラを体にまとわせ、兵藤家地下のトレーニングルーム全体を振るわせるっ!

ドォォォォォオオオオッ!

俺の足元にクレーターができ、周りに生じた塵やほこりが衝撃波で吹き飛ばされていくっ!

 

禁手化(バランス・ブレイク)ッ!』

禁手化(バランス・ブレイク)ゥゥゥゥゥゥッ!」

 

神々しい金色の輝きの中から出現した俺は、その身に獅子の全身鎧(プレート・アーマー)を身に着け、その場に立っていた。

……極力パワーは抑えたつもりだが、家に影響が少しは出たかもしれんな……。あとでリアスに修理費を出すか。

そのようなことを考えつつも、頭部の兜のたてがみをなびかせて初代に向かうッ!

 

 

「ここからは一対一じゃな」

そう言って、分身を消して一対一の勝負に持ち込んでくれる初代。

「本気で参るっ! いくぞぉぉぉおおお! レグルスゥゥゥゥッ!」

『ハッ!』

胸の獅子の顔からレグルスが応じてくれる。

そこからはさきほどの攻防を超える凄まじい打撃戦が始まった。

 

ドンッ! ガンッ! ガガァァァアン!

俺たちの攻防で次々とトレーニングルームの地面にクレーターが出来ていく。

だが、どちらの攻撃もいまだクリーンヒットしていない。初代はその身のこなしでこちらの攻撃を華麗に躱し続け、俺は初代の攻撃を拳で真正面から打ち返していたからだ。

「さすがじゃのぉ。打撃力だけなら赤龍帝以上じゃな! 魔力による攻撃などお主の戦闘スタイルには必要ないと感じるほどさね」

「俺には肉体しかありませんからね!」

凄まじいまでの速さで繰り出される棒の突きや横薙を躱しつつ、答える。

 

だが、今までの攻防で初代の棒の間合いは掴めた。次はギリギリで避けて、カウンターを入れるッ!

初代が飛び上がり、棒の横薙を繰り出してきたっ!

ここだっ!

ギリギリで後ろに下がって避けて、カウンターを入れようとしたその瞬間————、

 

ガアアァァァァンッ!

顔面に棒の横薙が直撃した! 何故っ……と一瞬考えて、答えに辿り着く。

「間合いを見切ったと思ったかぃ? この如意棒は伸びるんじゃぜ? それを忘れてはいかんのぉ」

そう、あの棒は如意棒だ。初代の意思で変幻自在に伸びたり縮んだりするのだ。

あの棒に間合いなど、あってないようなもの。それを今までの横薙の攻撃で織り込んでこなかったから、失念していた。

 

やはり強いッ! 全力で打ち合いながらもこちらの隙を作ろうと、頭を冷静に働かせている。

初代自身の熟練した力の強さもさることながら、その冷静な思考こそが強さの所以だろうな。戦いながら、俺はそう実感していた。

 

「また、こうすることもできるさね」

さらに上空に飛び上がった初代が棒を極太にして、突きおろしてきた!

太くなった棒の直径はざっと見積もっても7~8メートルはある。

ぐっ……これはとても避けられたものではないっ!?

 

「レグルスゥゥッ! 全力防御だァァァ!」

『ハッ!』

上からくる巨大な突きを受け止めようと、防御にありったけの力を込めるッ!

 

ガアアアアアァァァァァァァァァンンッ!

受け止めた瞬間、凄まじい爆音とともにとてつもない衝撃が俺たちを襲うッ!

 

これは……あと何秒も受け止められ続けるものではないッ……!

足が地面にどんどんめり込んでいって、埋まっていく。

なんとか脱出しようと四苦八苦するものの、足が埋まっていてはどうしようもなく……押し潰されそうになる俺たちだったが————。

フッ、と今までかかっていたとてつもない衝撃が消えた。

棒の突きを止めた?……いや、次の攻撃がっ————。

ドガアアアアァァァァァァァンン!

初代が突きを止めてそのまま払いの動作に入ったことは分かったが、反応できずにモロに攻撃を食らってしまった————

 

 

 

 

うぅ……初代の薙ぎ払いを喰らって俺は……。

横を見ると初代が傷の治療をしてくれていた。

「大丈夫かい? 一応、手加減はしたのじゃが」

どうやら俺はあの攻撃を喰らって気絶し、兵藤家のリビングに運ばれて治療を受けているようだ。

『大丈夫ですか? サイラオーグ様』

レグルスやほかの眷属たちが心配そうな視線をこちらに向けてくれる。

「いや、大丈夫だ。いい修行になりました、初代。さすがは伝説の妖怪。今のおれたちではまるで歯が立たない」

それを聞いて初代はニヤリと口元を笑まして言う。

「いやいや、まだまだそなたらには伸びしろがあるさね。儂のトレーニングでこれから実力をどんどん高めていってやるかのぉ。安心せぃ」

修行はまだまだ始まったばかり……そう気を取り直す俺たちだった。

 




今回はサイラーグとその眷属の修行回です。
更新が遅れて申し訳ありません。しかし、やはり先月はいろいろ忙しい日々が続いており、
なかなか書き上げることができませんでした。

しかし、忙しさだけが理由だったわけではないのです。
その原因の一つに……バアル眷属の戦闘描写の少なさというものがあります!
彼ら、十巻くらいでしかまともに戦っていくれていませんからね(泣)。

ですから、これから書いているうえで、彼らの戦闘描写はオリジナルの要素が
多分に含まれていくかもしれませんがご容赦ください。

他にも、彼らの間での名前の呼び方はどうなっているのだろうとか……色々気にしてしまって……。
誰かご存知の方がいらっしゃったら教えてください(笑)。
しかも今回は原作では未だないサイラオーグ視点で話を進めたのも書きにくさを増長させたと思います。
今回出てこなかった他のバアル眷属も後々出てきますので、ご安心を。

今回で修行回は終わりです! 次回からはいよいよ物語を進めていきますよ~。
シトリーの修行回はないのかって? ハハハッ、知らないな~(すっとぼけ)。
彼らの修行回はカットです。期待していた方々、すみません。
話のテンポを優先させていただきます。

実は最近怖くなっていることがありまして……
それは、畏れ多いのですが原作とのネタ被りです!

オリジナルの必殺技や神滅器の設定は被らないと思うのですが(そんなこと言って被ったらどうしようw)、初代孫悟空との修行で皆それぞれ若干強くなっていきますので、そこらへんがもしかしたら被るんじゃないかなー? とヒヤヒヤしています。

ですので、ネタバレを承知で一つだけ3話の下に書いておきます。
見たくない人は3話のあとがきの下をあまりスクロールしないでください。
(これは作者の活動報告のほうに移動しました)

感想、評価やご意見等を送ってくださると、作者は喜びます!
では、ここまでお読みいただき、どうもありがとうございました!


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D×D、交流会ですっ!

イッセー「よしっ! 今回こそは俺が主役だ!!」
木場「良かったね。イッセー君」
サイラオーグ「うむ、やはり主役はお前がふさわしい」

イッセー「とか言いつつ、二人とも楽しんでたよな? 俺より主役っぽかったよな!?」

木場「そんなことはないよ。僕は君という光の影でしかない。ヒーローは君だよ」
サイラオーグ「まぁ俺には主役なんて柄じゃない。俺を打ち破ったお前にこそ主役の名にふさわしいだろう」
イッセー「なんか寒気がするけど……ま、いっか。今回から話も進むからな! てか、気づいたけどオカ研女子メンバーの出番ほとんど今までなしですか!? エロエロな展開カムバック!」

リアス「大丈夫よ、イッセー。今回からは私たちの出番もあるもの。気合が入るわ」
朱乃「あらあら、部長。そんなに気合を入れなくても、私がイッセー君の隣に立ちますから……大丈夫ですわよ。隅っこにいても」
リアス「だから彼の隣は終生私のものなの! どうして皆それが分からないの! 朱乃のおたんこなす!!」
朱乃「あら隣って……」
リアス「だいたいそう言う朱乃だって……」


サイラオーグ「(この二人はいつもこうなのか?)」
木場「(ええ、二人とも似たようなポジションにいるためか張り合うことが多くて……)」
サイラオーグ「(そうか……大変だな。兵藤一誠も)」
イッセー「また二人でなにこそこそ話してるんだよ?」
木場「な、なんでもないよ。イッセー君」

朱乃「それでは、本編スタートですわ。うふふ」
リアス「タイトルコール取らないでよっ!」
朱乃「早い者勝ちですわ」



リビングで寝ていたサイラオーグさんが起きたようだ。

「起きたんですね。調子はどうっすか?」

「問題ない。すまないな、ソファーを占領してしまって」

「いいんすよ。それくらい」

 

同じ「D×D」チームのよしみだ。これくらいなんともない。俺としてはむしろ、サイラオーグさんにベッドで眠ってもらいたかったのだが……バアル眷属の皆さんが「主様はすぐ起きるだろうから、ソファーで構わない」って言うんで、仕方なくこうなっていた。

 

「イッセー、そろそろお夕飯にしない?」

リアスが二階から降りてきてそう言った。

確かに……もうこんな時間になっていたんだな、気づかなったよ。

 

初代との修行のあと、俺とヴァーリはそれぞれ別の修行を行っていた。

俺は魔力貯蔵量の増加。ヴァーリは魔力放出の効率化だ。

初代が言うには、俺には貯蔵できる魔力の絶対量が少ないものの、それを効率よく扱える術はヴァーリより上。対してヴァーリは自分の力を効率よく扱えないものの、その身に有する魔力の量は絶大。

だから俺とヴァーリはお互いから物事を学ばなくちゃいけないんだけど……それがそう簡単にはいかない。

俺は真龍と龍神から得た力を使ってこの体を復活させてるから、前よりは多少魔力貯蔵量も増えてるんだけど……やはり、まだまだ足りない。

限界まで魔力を使って、回復させて、また使い果たす……という練習方法で魔力貯蔵量を増やせるそうだ。地味で効果をなかなか実感しにくいが、これしか方法はないらしい。

 

だから初代との組み手のあとはずっとこれをやっていたんだけど……そのおかげで、体をあまり動かしていないにも関わらずもうくたくただ。

俺の横でヴァーリも相当苦労してたな。

あいつは生まれ持った才能のおかげで、苦戦なんてことをあまり経験してこなかったんだろうな。だから自分の力を効率よく扱う術など気にも留めてこなかったんだろう。

ま、あいつのあり余る魔力の全てを使い切るなんてことも最近はめったになかったんだろうさ。

 

それに白龍皇の奪う力もあった。あいつは自分の力を節約して使うなんてことなかったんだろうなぁ……才能の無い俺にとってはうらやましい限りだ。

初代はヴァーリの力の扱いの苦戦っぷりを見て、こうも言っていた。

「莫大な力をその身に宿しておるからのぉ……逆に細々と力を使うということが難しんじゃろうなぁ」

なんてうらやましいっ……じゃなくて、あいつでも強くなるのに苦労することがあるんだなぁ……。

俺の横で自分の力の使い方に苦心している姿を見て、ちょっと親近感を覚えてしまったのは内緒だ。

ま、あいつのことだからすぐにコツを掴んで上手くなるんだろうさ。

俺も必死こいて修行しなきゃな。

 

「そうだな。そろそろお腹も空いたし。サイラオーグさんたちも食べていきませんか?」

リビングに揃っているサイラオーグさんたちも誘ってみた。せっかくだしね。

「いいのか? リアスの作る手料理を俺たちも食べても」

「いいですって、別に。それに俺、サイラオーグさんと一度ご飯を一緒に食べてみたかったんすよ」

これは俺の本音だ。サイラオーグさんとは拳で語り合ったが、食卓で語り合うことはしていなかったからな。一度お茶したいと、戦ったあとでずっと思っていたし。

機会がなかったから今まで出来なかっただけで……でも今はサイラオーグさんたちと一緒に夕ご飯を食べる絶好の機会だ!

 

「それならご馳走になろうか。よろしく頼む」

「えぇ、いいわよ。ふふ、皆で食べたほうがおいしいものね」

リアスが笑顔でうなずいてくれた。

ああ、やっぱり俺の彼女は最高だなぁ……とリアスを見詰めていると……、

「イッセー……」

「リアス……」

リアスもこちらを見詰めてきて……そこに二人の世界が形成された。

ああっ……やっぱり俺の彼女はなんて素敵な人なんだ……こんな人が彼女だと思うだけでいまだに俺は――

 

 

 

「――いつもこんな調子なのか?」

「はい、基本的に」

サイラオーグさんのそんな質問に木場が答えていた。

 

「見ていて微笑ましくなるよな」

「お似合いの二人よねっ!」

ゼノヴィアとイリナが茶化し、

「あらあら、またですの」

「……見詰め合いすぎです」

朱乃さんと小猫ちゃんが嫉妬し、

「もうパパったらまたえろげですか……いけない子ですねぇ……」

アーシアが現実逃避を……もとい、ちょっと壊れていた。

 

って、

「アーシアァァァアアアア! 大丈夫かっ!?」

「はっ……今わたしは何を……」

我に返ったアーシアをゼノヴィアが「なんでもないんだ。アーシア」と慰めていた。

 

うーん、最近アーシアの精神状態が不安定になっているような気がする。

原因は間違いなく……あのパンツ龍王……もとい、五大龍王の一角である黄金龍君(ギガンティス・ドラゴン)だ。

あいつがあんなにも変態だなんて……仮にも龍王の一角なのに……。タンニーンのおっちゃんやヴリトラは立派なのになぁ……。先生と契約していて鎧と化していた頃には、あんな性格だとは想像もしてませんでしたよっ!

まぁ契約の対価さえきちんと支払えばアーシアをちゃんと守ってくれるから、そこのところは心配ないんだけど……。しかし、その契約の対価がアーシアのパンツだったりスク水だったり……なんて破廉恥なっ!

 

俺もアーシアの服を何度も洋服破壊(ドレス・ブレイク)していたから人のことは言えないが、それでも毎度毎度パンツやらなにやらをあの変態龍王に差し出していたら、アーシアの精神が壊れてしまうんじゃないだろうか……お兄ちゃん心配っ!

どこかでアーシアの心のケアをしないといけないな……そう固く決心しつつ、リアスたちの作る晩御飯の用意を待つ。

 

……と、そこにここから出ていこうとするヴァーリを見かけた。

「ヴァーリ、俺たちと一緒に飯食べていけよ」

俺がそう言うとヴァーリは、

「そういった馴れ合いは苦手でね」

とつれなく返してきた。

なんだよ、人が折角誘ってやったのに。

 

「そんなこと言わずにさぁ……ヴァーリも食べていきなよ。スイっちゃんのご飯おいしいわよ」

「そうです。一緒に食べましょう?」

「そうか……まぁ偶にはいいかもしれんな」

黒歌とルフェイに言われて考えを変えたのか、俺たちと一緒にヴァーリも食卓を囲むことに。仲間の言うことは素直にきくんだな。ヴァーリも出会った当初とは変わってきているのかもしれない。曹操との戦いのときも黒歌を傷つけられて激怒してたし。こいつにとっても仲間は大切な存在になっているのかもな。

 

「そういや、アーサーはいないんだな?」

「はい。お兄様は私を家に戻してくれるよう交渉に出かけております」

アーサーから頼まれたルフェイとの契約。まだ正式には行っていないが俺はその気だ。レイヴェルも反対しないと思う。

それで冥界のヒーロー(恐れ多いことだが)である俺と契約すれば、ルフェイは家に戻れるかもってアーサーは言ってた。その段取りを現実的なものにするために直接話をつけにいったんだろうな……妹想いのいいお兄ちゃんだ。

サーゼクス様しかり、ライザーしかり。俺のまわりには妹に優しいお兄ちゃんが多い気がするな。

 

「美猴はそれに付いて行ったのか?」

「そうにゃ。おおかた初代とあんまり一緒にいたくないんだと思うにゃ」

あいつ初代にいまだに苦手意識持ってんのかな? 同じチームなんだからそれもいずれは克服してもらわないとな。

 

ということでヴァーリもつれてリビングに戻ってきた俺たち。

料理もそろってきたのか、おいしそうな匂いが漂ってくるなぁ……。

リアスたちが家に来てから、家で食べる食事が美味しいのなんのって。

オカルト研究部に入るまでは、ファーストフード店を利用することも割とあった俺にとって、この家庭の変化はほんっとありがたい!

「あら、イッセーきたのね。もう出来てるわよ? その、白龍皇も食べるのかしら?」

 

黒歌やルフェイが食べることは今までもあったけど、ヴァーリがこういうのに参加するとはなかなかイメージしづらいんだろうなぁ……。

「ああ、お邪魔でなければ俺もいただこう」

「あらあら、うふふ。大集合ですわね」

確かに……サイラオーグさんたちやヴァーリたちもいるんだもんな。家にこんなに人が集まったのってこれが初めてじゃなかろうか。

「「「「いただきまーす」」」」

そして、チーム「D×D」皆での夕食が開始された。

 

 

 

 

 

いやー、相変わらずリアスたちが作るメシはうまいっ!

サイラオーグさんたちも美味しそうに食べてたな。

黒歌も相変わらずたくさん食うし……。あ、やっぱりって感じだけど、サイラオーグさんやヴァーリもガツガツ食べてたよね。あの二人はイケメンだからそうやって食っても画になるんだこれが。

 

皆が食べ終わって、リビングでそれぞれくつろいでいるとき、不意にヴァーリが廊下のほうに出ていくのを見かけた。

もう帰るのか? と思って一応声をかけに行こうとすると――、

「…………」

なんか窓から月を見上げて物憂げにしてるなぁ……。

なにか悩んでることでもあるのかね? そう思って俺はとりあえず声をかけてみる。

 

「どうしたんだよ、ヴァーリ」

「……」

ヴァーリは俺を一瞥したあと、こう告げた。

「いや、リゼヴィムのことを少し……考えていた」

「おまえのじいさんなんだっけ?」

 

そう、今回のテロを引き起こしているリゼヴィムはヴァーリの祖父にあたる人物なのだ。

「ああ、俺を捨てるように指示した者だ。……お前も聞いていただろう?」

「ああ、訊いてもないことをペラペラ喋る野郎だったな」

あいつのテロの理由はただの子供の我がままみたいなもんだ。

でもそれで全世界が滅ぶかもしれない。それに異世界に住んでる生き物たちにも迷惑がかかるだろう。そんなことは絶対に許してはいけない。

俺も異世界の乳神さまとの接触で、責任の一端をちょっとは担っているからな。

だからこそ、なんとしても俺たちの手で止めないといけない。そう思ってる。

 

「あいつの……あいつのやろうとしていることはグレートレッドを倒すこと。その目標は俺も持っていたものだ。あいつと同じことをやろうとしていた俺は所詮、あいつと同じような存在なのかと思ってしまってね」

「……っ」

そんなことっ……。

「そんなことねぇ! あいつは邪魔だからグレートレッドを倒すだけだ。でも、お前は違う。白龍神皇になるんだろう! そのための目標としてグレートレッドを倒すんだろう! だったらあいつなんかとは、全然違うさ」

「……っ! ふふっ……そうか。そうだな」

 

俺の答えを聞いたヴァーリは……少し笑みを浮かべていた。

なんで俺がヴァーリを励ましてんのかね。でもこれが俺の本音だった。

邪悪を振りまくあいつとお前は違うって。まぁどっちにしろ次元の狭間のことがあるからグレートレッドと誰とも戦わせるわけにはいかないんだけどね。

なんか今のヴァーリ見てたら、励まさなきゃいけないような気分になっちまった。

なんでかね。

ま、でも俺たち「D×D」今日も仲良くやってます!

 




どうでしたでしょうか?
今回からは話が進んでいく予定だったのですが、なんだか彼ら「D×D」の交流会みたいな感じで収まっちゃいましたね(笑)
まぁこういう日常回も大事だということで一つ。

もう17巻が発売されていますが、私この話書くまでは読んでいないんですよ(というよりも、読まないようにしていました)。
さ~て、書きあがったので、とりあえず読んでみようかなー。

……(17巻読書中)……

あーよかった。ネタ被りしてないっ!(安堵)

まぁ前回でやった(3話の下にある)ネタバレの内容が被ってる(というより外れてる)んじゃないか。ということに関しては、大丈夫です! 設定的に大丈夫なんです!!(何故大丈夫かは後々分かると思います)
イッセーの飛龍に関しても私は別の構想を抱いていまして……まぁそこも後々お見せすることでしょう。
(朱乃さんの堕天使化については、私もブレスレットなしで出来るだろうなとは思っていたので、それが一応被っているといえば被っていたのか……)

17巻で判明した裏切りものについてですが……私あの人ちょっとあやしいと思ってたんですよね
なんかあまりにもイッセーたちに優しかったというか……個人的にはああいう優しい人好きだから信じていたかったのにっ!

ロスヴァイセさんは可愛かったですねー。あの人もヒロインになれるんだなぁ……。
さて、この話で推すヒロインは……朱乃さんですっ!
好きなんですよ、あの内面が儚い感じとか……。リアスは原作のほうで優遇されていくでしょうし、こちらは朱乃さんにスポットを当てていきます。
あ、アーシアにもメイン回を与える予定ですので、次回あたりはアーシア回になるかもしれませんね。

ここまでお読みいただきありがとうございました!
ご意見、ご感想や評価等を頂けると作者は喜びます!


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アーシアとデートしますっ!

アーシア「今回は私の回ということで、よろしいのでしょうか?」

ゼノヴィア「そのようだね。いやー親友として鼻が高いよ」
イリナ「そうそう、アーシアさんって元々メインヒロインだったじゃない? だから、こういうヒロイン回もあっていいと思うの!」

アーシア「いつの間にか、すっかりリアスお姉さまと離されてしまって……。イッセーさんはやっぱりお胸の大きい方がいいんですよね……」
ゼノヴィア「アーシアだって成長期さ。それにこうして揉めば……」
アーシア「あっ……ふぅんっ。ゼノヴィアさん、えっちな触り方やめてくださいぃ」
ゼノヴィア「相変わらず、アーシアの胸は触り心地がいいね。イッセーもきっとこれを知ったら病み付きになるに決まってるさ」
イリナ「おおっ主よ。アーシアさんの一途な想いが報われますようにっ……」

桐生「兵藤、ちゃんとアーシアをエスコートしてあげるのよ!?」
イッセー「分かってるよ。任せとけって」

アーシア「それでは、本編スタートですっ!」



いやー、修行ばかりにかまけていられないのが赤龍帝のつらいところだ。

休日は修行で潰れる上に、平日は当然学校がある。休まるときがない。

でも俺以外のメンバーは才女や才児ばっかりだから、学校での勉強にも全然苦労してる様子もない。

特にゼノヴィアは最近、なんだかやたら勉強に熱心なようだが……。

吸血鬼のところで話してた目標ってのに関係してるのかね?

部活を休んでシトリー眷属と一緒に生徒会室にいることもあるんだぜ? ほんとどうしちゃったんだか……。

俺にはそれがなんなのか全く想像できないが、リアスたちはどうやら知ってるようだ。

まぁあいつから話してもらうまで待とうと思っている。

 

 

皆が初代と修行の日々を過ごすなか、学校生活の中にも変化があり……、

「あ、兵藤君。ちょっとこの荷物運ぶの手伝ってくれない?」

「あ、花戒さん。はい、分かりました」

花戒さんの運ぶダンボールを俺も持つ。

「生徒会の中で唯一の男手の元ちゃんがいなくなっちゃったからねー。こういう作業が大変で」

「ええ、でしょうね」

匙は今この駒王町にいない。というのも――、

 

 

「兵藤、タンニーン様と話をつけて欲しいっ!」

「へ? 何の?」

 

突然で何の話か分からず、間の抜けた返事を返してしまったのだが……。

どうやら匙はタンニーンのおっちゃんに修行をつけて欲しいそうなのだ。

「ああ、皆は初代様と必死に修行してるだろ。それを見てたら、やっぱり俺も早く禁手に至るために何かしなくちゃいけないんじゃないかと思ってな」

なるほど。初代との修行もしたいけど、今はサイラオーグさんとかも来てるし、初代がいくら達人とはいえ、その体は一つだもんな。匙ばかりに構ってはもらえないだろう。

 

 

シトリー眷属は、これからソーナ会長が運営する『学校』の件もある。修行に専念するには今が一番いいタイミングだろう。サイラオーグさんもその『学校』の講師として呼ばれていると聞いている。サイラオーグさんがわざわざ今、初代のもとに修行にきているにはそういった理由もあるんだってさ。

ま、ドラゴンの修行と言えば、やっぱドラゴンとやるのが一番だよな!

俺もタンニーンのおっちゃんと一緒に修行して、禁手に至ることが出来たんだし。

「そう、そうなんだよ! お前はタンニーン様との修行で禁手に至ったんだろ。なら、俺もやっぱりタンニーン様と修行をしなくちゃいけないのかと思ってさ。俺に足りないものは、お前と比べるとそういう経験なのかと思って……」

俺の禁手に至った経緯を参考にしてるってことか。案外、匙に足りなかったのはドラゴンとの実戦形式での修行かもしれないな。

よしっ! そういうことなら――、

 

 

「いいぜ、タンニーンのおっちゃんに頼んどいてみるよ。多分OKしてくれると思うぜ」

おっちゃんは面倒見いいドラゴンだからな。ただ……、

「おっちゃんとの修行は厳しいぜ? 覚悟しとけよ」

「おう、死ぬ気で頑張るさ。会長にもいいとこ見せたいしな!」

と張り切っていた。おっちゃんのしごきは厳しいが、匙は俺に負けず劣らずの根性の持ち主だ。きっと乗り越えて、禁手に至ってくれるだろう。

 

 

それと驚いたことがあるんだが……どうやら匙がタンニーンのおっちゃんのもとに修行をすると聞いて興味を持った家のマスコットキャラが一人。

「我もヴリトラについていく」

「オ、オーフィスもついていくのか!?」

「ともだちのともだちはともだち、とイリナが言っていた」

つまり、匙の手助けがしたいってことか?

「我、ヴリトラの力になりたい」

「お、そうか……その、よろしく頼む」

匙も若干たじたじになりながらも、その申し出を受けた。

「龍神さまのありがたいご加護を頼むぜ」

「我、ヴリトラを見守る」

龍王と龍神がついてるんだ。匙の修行はきっと捗るに違いないっ!

 

 

「ありがとう。兵藤君」

「はい。どういたしまして」

花戒さんの手伝いが終わったあと、一年生の様子を見ようと教室の前を通りかかってみた。

すると――、

 

 

「ギャスパー君休みなの!?」

「風邪かしら? 心配だわ」

「家の用事だそうよ」

「レイヴェルさんも家の用事で休みだそうだわね」

 

 

そう、ギャスパーとレイヴェルも駒王町を離れていた。

ギャスパーは、グリゴリの研究機関に行っている。意識不明のヴァレリーを安全に保護してくれるところへの付き添いと、自身の神器に関することでだ。

ヴァレリーはあれから目を覚ます気配はない。

やはり、クリフォトが所持する聖杯を取り戻さなくてはならないようだ。安心できるのは、命に別状はないということ。三つの聖杯の内二つがあるおかげで、生命機能自体は安定しているらしい。

それと神器に関しては、あの闇ギャスパーとでもいうのか、とにかく闇の化身となることが出来た自身の変化のことをよく知りたいそうだ。

ギャスパーのやつ……ヴァレリーの聖杯を取り戻すんだって張り切ってたもんなぁ。あの力を究明して、自分もクリフォトとの戦いに役に立ちたいのだろう。

そんなギャスパーに付き添う形でアザゼル先生もグリゴリの研究施設に戻っている。ギャスパーの神器を調べたいって言ってたもんな。今頃、思う存分に調べて愉悦に浸っているんだろう……。

でもまぁ、あいつも立派なグレモリー眷属男子に成長したもんだ。出会った当初の引きこもり時代と比べるとえらい違いだよね。あいつならヴァレリーをきっと取り戻せるさ。俺たちだって全力であいつに協力するつもりだ。

 

 

レイヴェルは本来なら、俺とルフェイとの契約の準備に奔走しているはずなのだが、そのレイヴェルの家とアーサーの話し合いが終わってから契約を進めたほうがいいので、一時フェニックスの家に戻っている。

それはテロリストたちの間に流通している偽『フェニックスの涙』の報告があるためだ。

実際に攫われたレイヴェルから話を伺うことが大事なのだろう。レイヴェルの報告を元に対策を講じるそうだが……。

もうかなりの量が流通してしまっているし、既に製法も確立してしまっている。製作元を叩き潰すしか、もう止める手立てはないだろうな……。

そんなこんなで、実はチーム「D×D」は全員集合とは、なっていないのだ。

 

 

てか、そろそろ期末テストがあるんだよなぁ……。勉強しなくちゃいけないことは解ってるんだけど。最近の忙しさを考えるとあんまり出来そうにもない。

いざとなればリアスたちに徹夜で勉強を教えてもらうか。

そう決心したところで、桐生から声をかけられた。

「ねぇねぇ。兵藤」

「なんだよ、桐生」

「なんだか最近、アーシアが遠い目をしてることがあるのよねぇ」

うっ、やっぱりそうか……。

この前の、アーシアのファーブニルとのやりとりで受けた精神へのダメージは、思いのほか根深いものだったのかもしれない。

家でもたまに目が虚ろになって、言動がアレなことがあるし……。

教室で女友達と一緒にいるときも、そんな風になったりするのか。……やっぱり心配だ。

「前に体育祭の直前にもそんな風になってたことがあるけど、あのときとはまたちょっと違う感じなのよねぇ」

相変わらずよく見てるね! でも、それだけアーシアと一緒にいてくれてるってことだよな。

アーシアは結構いい友達を持ったのかもしれない。

 

 

「ね、兵藤なんか知らない?」

「あー、心当たりがあるような、ないような……」

うーん、こいつに悪魔関連のこと言うわけにはいかないしなぁ。

アーシアとはそういうの抜きでの友達でいてほしいし、なにより異形の世界のことに一般市民であるこいつを巻き込みたくない。

「はっきりしないわね。ま、その顔は心当たりがあるけど、私には言えないって風だからいいんだけど」

桐生さん鋭いねっ!? いや、俺が隠し事が出来ないだけなのかなぁ……。うーん、まぁこんな感じで察してくれるのはありがたい。

桐生はうんうんとうなずいた様子で、

「とりあえず、アーシアを気晴らしにデートにでも誘ってやってよ」

「デート、アーシアと!?」

あー、それは考えてなかった。確かに気晴らしにアーシアをどこかに連れ出すってのはいい案かもな。

アーシアの心労の元となっているファーブニルに関しては、もうどうしようもないのだし……。

「それいいアイデアだな。今度誘ってみるよ」

と笑顔で返したのだが、

「あんた、ちゃんとデートプラン考えられるの?」

うっ、それを言われると……。

前回のデートコースをそのまま流用ってのも味気ない気がするし、かといって新しいデートコースを考えてる余裕が今の俺にはない。

どうしたものかと首をひねっていると……。

「そんなあんたにこれよ」

 

 

そういって桐生が取り出したのは、隣町に新しくできたテーマパークのペアチケットだった。

「おっ、これ最近TVのCMにも流れてたやつだよな。見たことあるぞ」

「アタシ、ここのチケットをペアでたまたま持ってんのよねぇ。でも使う機会も相手もいないし、あんたにあげるわ」

「マジでっ!? いいのか!」

それはありがたい! アーシアをこういうところにはまだ連れて行ったことがなかったからな。いい気晴らしになるんじゃないだろうか。

「ただし、アーシアと二人で見に行くこと。いいわね!」

「念を押されなくても分かってるよ。ちゃんと今度の休日にアーシアを誘うさ」

よーし、アーシアを連れて行ってやるか。子供を持つお父さんの気分ってこんな感じかね。

休日に家族サービスもしなきゃ! みたいなさ。

トレーニングはお休みだな。ま、たまには骨休みするのもいいだろうさ。初代には言っておかないとな。

アーシアはチームの重要な回復役だ。そのアーシアがストレスで体調不良とか、あっちゃいけないもんな。

そう考えるとアーシアの心のケアは凄く重要なことだ。

こんなときこそ、アーシアを守るべき俺がひと肌脱がなくてはならないだろう。

「アーシアが信頼してるあんただから頼むんだからね。しっかりエスコートしてあげてよ」

「おう、分かってるって!」

こうして、アーシアとデートすることが決まった。

 

 

「おーい、兵藤」

「ちょっとお前にも訊きたいんだが」

「なんだよ松田、元浜?」

アーシアとのデートを考えている最中に、二人が話しかけてきた。

「最近この町でそっくりさんが現れてるらしいって話、知ってるか?」

「そっくりさん?」

「そう、そっくりさんだ。まぁよくある都市伝説的な眉唾ものの噂話だとは思うのだが、最近この町で目撃情報がちらほらあるんだよ」

「そうそう、今一番ホットな話題なんだ」

へー、最近ルーマニア行ったり修行したりだったから、この町で最近何が流行ってるとか知らなかったんだが……そんなものが流行ってるのか。

「いや、俺は知らないけど……そんなの都市伝説だろ。やっぱ」

まー悪魔やってる俺が言っちゃいけないセリフだとも思うが、そういう異形関連の出来事って一般人には知られないように情報規制されているし、ただの噂話の類だろう。……と思っていたのだが――、

「俺たちだってそう思っていたのだがな……」

「クラスの連中に聞いてみてもやっぱり大半が知ってるんだよな。それに実際に自分のそっくりさんを見たーなんて話してる奴もいたくらいだ」

「マジでか!?」

うーん、そういうことが起こってるってことは……俺たち悪魔関連のことと関係があるのか、それともただの見間違いとか勘違いの類なのか……。

「それでオカルト研究部のお前ならば何か知っているかと思ってな」

「いや、知らないな。でも、今日さっそく部長に訊いてみるよ。そういう話があったかどうか」

「ああ、頼んだぞ! エロしか興味のない俺たちだが、こうも話題になっているとやはり気になるものだからな」

 

 

部活の時間、早速リアスに訊いてみることにした。

「リアス、最近自分のそっくりさんを見た~っていう話が話題になってるみたいだけど、何か知らない?」

「そう、イッセーたちの学年にもその話が話題になっているのね」

「イッセー君のクラスでも話題になっていたんだね」

リアスの学年や木場のクラスもか……。

「……私のクラスでも話題になっていました」

「教師の間でもそのような話題がありましたね。実際に自分と同じ顔の人物を見かけたという方もいたようです」

小猫ちゃんの学年に先生たちの間にまで……。

「うふふ、というよりもこの町の最近のオカルト的出来事だそうですわね。それ」

どうやら皆知っていたようだ。やはり、そっくりさんの話はこの学校の……いや、この町全体でのオカルトのようだ。

「そっくりさんとか……そういった出来事って俺たち悪魔関連では起こってないですよね?」

 

 

一応の確認として訊いてみる。

「ええ、そのような報告は受けていないわ」

「やはり、都市伝説ではないでしょうか? そのような話は、どんどん尾ひれがついて一人歩きしてしまうものですし」

ロスヴァイセ先生は冷静にそう判断していた。

うーん、そうなんだろうか。アザゼル先生がこの場にいれば、もっともらしい考察や解説をしてくれるんだろうけどなぁ……。肝心なときにいないんだから、困った先生だ。

「ま、でもオカルト研究部の部員なら、こういったことは積極的に調べなくてはいけないわね。皆、何か新しい情報を得たら報告して頂戴」

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

 

「アーシア、ずいぶんとご機嫌ね」

ふんふん、と鼻歌まじりに料理をしているアーシアにリアスがそう声をかけていた。

「はい、イッセーさんがデートに誘ってくれたんですっ!」

ああ、よかった。アーシアは本当に嬉しそうだ。デートに誘ってよかった。

「へぇ、そうなの。ね、イッセー」

ちょいちょい、とリアスが俺を手招きしてきて……、

「アーシアのことを気にかけてくれてるのね。気晴らしになると思って誘ったんでしょう?」

と小声で耳打ちしてくた。

「そうなんです。アーシア、最近学校でも心ここにあらずなことがあるみたいで……」

「そう。ファーブニルの件で、アーシアには心労をかけてしまっていたものね。大丈夫、初代様には私から言っておくわ」

「ありがとう! リアス」

そう、休日に行っているトレーニングを休むことになっちゃうからな。初代には言っておいてもらえるとありがたい。

 

 

ちなみに、それを聞いた初代はトレーニングを休む俺を怒るどころか――、

「いいぜぃ。骨休みも必要さね。それに赤龍帝の坊やは守る者がいて強くなるタイプじゃ。あの嬢ちゃんとの絆を深めておくのもいいじゃろうて。その想いを力に変えることができるじゃろう」

このように仰ってくれたらしい。

なんにしても、

「うふふふっ」

あんな風に楽しそうに笑ってくれるアーシア、久しぶりだったんだ。

いつもの笑顔が戻ってきたみたいで嬉しかった。

 

「うふふ」

「あら? 朱乃もご機嫌がいいようね? なにかあったの?」

「いいえ、なんでもありませんわ」

と言いながらもこちらをチラチラと見てくる朱乃さん。

はて? なにかあったかなと思っていると……。

膝上に乗っていた小猫ちゃんがギュッとつねってきた。

「痛いって」

「……先輩は乙女心が分かっていないんです」

うっ、そう言われると返す言葉もございません。小猫様。

 

 

さて……晩飯も食って、風呂にも入った。リアスたちと寝るにはまだ時間がある。特になにもすることがなくなった夜のこの時間。今はレイヴェルもいないから、ルフェイとの契約の話も進まない。

つまり、今は夜の時間は本当にやることがないっ!

むふふ、久しぶりにエロ本を嗜むような時間が出来たってことですよ。

彼女がいるからいいんじゃないかって? それはそれ、これはこれなのです!

いくらリアスと付き合っているとはいえ、まだそこまでの関係には至っていない。

むしろその状態が続けば続くほど、高校生男子としての性欲はたまっていく一方なわけで……。

最近、戦闘や修行ばっかりでそうした欲求を発散させることも出来ずじまいの日々っ……。新作ものに手を出せる暇がなかったのですよ。

とはいえ、ルーマニアに行っていて最近日本を離れていた俺は、新作をあまり持っていなかったからな……。親友の松田、元浜に貸してもらったというわけだ。

 

 

どれどれ、あいつらが言ってた良い娘ってのは……この娘かな? おぉおお、この娘おっぱいおっきいなぁ……。こんなきわどい水着っ……キレイなピンク色の乳輪が見えてしまいますぞぉおお! いや、あいつらが絶賛するのも分かるわ。この娘エロいっ! 体つきもそうだが、なんか表情が!!

いやーやっぱエロ本はいいね! 最近ごたごたしててご無沙汰だったせいか、いつもより妄想が膨らみますなー。

 

 

むふふっ、という感じで必死にページを凝視していると、背中にむにゅんとした感触がっ!

「イッセー君、なにをしてますの?」

「朱乃さんっ!? いや~、これはその……」

皆と一緒にエロゲーをした俺だけど、こういう場面を見られるのはやっぱ気まずいっていうかなんていうか。こういうのは一人で見るもんだって、やっぱ! 女の子に見られながらとか、楽しさが半減するというか……視線をどうしても気にしてしまうというか。

俺にそういう性癖はないんですっ!

「イッセー君はこういうのが好みなのね……。うふふ、今度のときプールにでも行きましょうか。こういう水着着てあげますわ」

朱乃さんが耳元でそう囁く。

「ほんとですか! 朱乃さん!」

おお! 俺の浮気相手になると宣言している朱乃さんの行動は、いつもいつも積極的だ。

しっかし、この水着を朱乃さんが着てくれるのか……。おぉっと、興奮しすぎて鼻血が出そうに……。

鼻を押さえながら、朱乃さんを見る。

「ええ、今度の――」

朱乃何かを言いかけていたが、ドアが勢いよく開いたことによってそれは中断された。

相手はもちろん――、

 

 

「朱乃、何をしているのかしら?」

紅髪をさらに紅に染め上げるほどのオーラを燃えたぎらせているリアスだった。

「あら、リアス。下でアーシアちゃんたちとお風呂ではなかったのではなくて?」

そうそう、リアスたちは今風呂に入る時間だったから、俺はこうしてエロ本を読んでいたんだが……。

「それを言うなら、あなたもでしょう! いつまで経っても脱衣所に来ないからもしかしてと思ったら――」

あー、朱乃さんだけ抜け出して俺の部屋に来たわけね。そのことをリアスは怒ってるみたい。

そうそう、実は俺は毎日一緒にリアスたちと風呂に入ってるわけじゃない。リアスたちは男の俺の前でも、あの美しいむっちりとした裸体を隠さないからね! あんなのを毎日見てたら鼻血を出しすぎて体がもたないわけですよ。

「浮気はこうやってするものですわ」

朱乃さんがさらに俺に密着する。ああっ、背中におっぱいが当たって潰れていく感触がっ……。足も絡ませてきているから、太ももがあたって……いいっ!

「――っ、もう! そうやって私の目を盗んでイッセーとくっ付くのはやめなさいって言ってるでしょう!」

俺から朱乃さんを引っぺがしてリアスが怒る。

「なによ、そういうリアスだって……」

「だいたい朱乃が……」

ああ、またお姉さま同士で口喧嘩を始めてしまった。こうなると長いんだよなぁ……。っていうか部屋の外でやって、お願いだから!

 

 

「まぁ今日はもう遅いし、これ以上はやめておきましょう」

「そうですわね。今日はもう疲れましたし」

良かった~。今日は二人のケンカは本格的に発展しなかった! 二人がケンカすると部屋の空気がなんか薄くなるからね。

「ところでイッセー」

「なんです?」

「その本……」

って、あっ! 手にエロ本持ったままだった! 彼女の前でエロ本持ってるってのは、なんかちょっと罪悪感あるし。それにリアスの機嫌だって……。

「あっ……これは、その……友達に押し付けられたもので……決して、そのぉ……」

「もう、そんなに慌てなくていいわよ。それでこそイッセーだもの。そうではなくてその娘……」

「あっ、この娘かどうかしました?」

「なんだかイッセーにちょっと似てないかしら?」

え、ほんとに!?

「あら、言われてみればそうですわね」

そう言われて俺も改めて顔をまじまじと見てみるものの――、

「えっ、そうですか? 俺にはちょっと分からないんですけど……」

「なんていうのかしら……顔立ちとか、目元のとことか」

「自分の顔のことですから、イッセー君には分かりづらいかもしれませんが、確かにそうですわね」

うーん、言われてみれば……なんとかそう見れるかもしれないってレベルだな。

俺とこんな美少女の顔が似てるとかっていう発想が俺の頭にないからな。なかなか俺の顔とこの娘の顔が結びつかない。

あーでも、目元とかは確かに似てるかもね。

「さて、朱乃。お風呂に行きましょう。アーシアたちも待っていることですし」

「ええ、そうですわね。それじゃまたね。イッセー君」

二人はそういって部屋を去っていった。

よし、リアスたちが戻るまでエロ本見るのを再開しますか。

こうして今日の夜も更けていった――。

 

 

「イッセー、御飯よ」

「はい」

うぅ~ん、このリアスが作る朝飯がうまいのなんのって!

これが日々の生きる楽しみだよなぁ……ってなんか惚気になっちゃったな、気を付けよう。

それに今日はアーシアとデートだ! アーシアを楽しませることを第一に考えないとな。

さてさて、あれから俺も桐生に色々聞いてデートプランを考えたんだ。

俺も楽しめるアトラクションとかも結構ありそうだったんだよね。

あと、時期としてはちょっと早いけどクリスマスパレード的なものもあるとか。

アーシアはお弁当なんかを作ってくれているようで、朝からとても楽しみにしてくれている。

 

 

準備も整ったし、先に玄関に行って待っていると……。

「あら、イッセー君。おはようございます、お洒落していますね」

ソーナ会長が訪れてきていた。

「あ、おはようございます! ええ、そうなんですよ。今日はデートなんです。ところでソーナ会長はどうして家に?」

「初代に訓練に受けてきたのですよ。今日までいらっしゃるようなので……」

「そうなんですか」

あー、初代に修行をつけにもらいに来た。なるほど。

しかし、最近初代に訓練を受けに家を訪れる人たちが多いなぁ……。今朝はサイラオーグさんも来ていたし。

実は今、俺の家にほとんどの「D×D」チームがいるんじゃなかろうか。

いないのは匙、ギャスパー、レイヴェル、アガレス眷属の皆さんぐらいか。あ、家のマスコットキャラのオーフィスもいませんね。匙に付いて行ったからさ。

ヴァーリチームも今日は全員集合してるんだよね。初代とグレモリーの地下修行空間で特訓してるな。

アーサーと美猴も話し合いから帰ってきたみたいで……。その結果はどうなったかまだ聞いてないけど……気になるな。デートから帰ってきたら訊いてみようかね。

「イッセー君も修行を一緒にしていきませんか……と、言いたいところですが、デートでは仕方ありませんね」

と言って微笑されるソーナ会長。

「そうですね。すみません」

「いえ、時には休むのもいいでしょう。デート、行ってらっしゃいイッセー君」

「はい!」

ソーナ会長と別れて、待ち合わせ場所の駅前へ先に向かう。

いや~、一緒にデートへ出かけてもいいんだけど……。どこかで待ち合わせするっていうのもデートの醍醐味だと思うんだ! まぁ、桐生にそう言われて思っただけなんだけど……。

 

 

駅前で待つこと数分。

「あ、イッセーさん!」

「よっ。アーシア」

「すみません、待ちましたか?」

ほんとに申し訳なさそうに言ってくるアーシア。そんな顔しなくてもいいのに。

「いや、今来たところだよ」

このセリフ! デートの定番は守るべきだよな、やっぱ。

「そうですか。よかった」

そう言ってにこにこと微笑んでくれるアーシア。今からのデートがほんとに楽しみなんだね。

いつもは見ないようなアーシアのお洒落な格好に、俺は驚きつつも、

「かわいいな、アーシア」

と素直に口にした。

「は、はい……ありがとうございます。イッセーさん」

アーシアは頬を染めて、俯きながらお礼の言葉を呟いた。

恥ずかしかったけど、言って正解みたいだった。

 

 

「さ、んじゃ早速行こうか」

「はい!」

 

俺たちが向かう先はテーマパーク・アドベンチャースクエア。

通称『魔法の国』と言うらしい。

この『魔法の国』は四つのエリアに別れていて、それぞれ火の国、水の国、風の国、そして土の国と呼ばれている。

火の国にはジェットコースターやバンジージャンプ等の刺激的なアトラクションが、

水の国にはウォータースライダーなどのアトラクションが、

風の国には小さな子供でも遊べるような遊び場や軽食店が、

土の国にはグッズ店やパレード用の広場がある。

入口は土の国だから、そこから三つの国のどこに向かうか考えないとな。

 

 

入場に時間がかかるかと思っていたけど、事前に桐生からもらったチケットがあったおかげですんなり入ることが出来た。ほんと、あいつに感謝しなくちゃな。

「さて、アーシア。どこから回ろうか?」

「あ、イッセーさんと一緒ならどこでも……」

うぅ~ん、なんて男冥利に尽きることを頬を染めながら言ってくれるんだこの娘は。

ま、デートで引っ張っていくのは男の役目だよな。それじゃあ……。

「まずは水の国に行くか」

「はいっ!」

とりあえず、気分を盛り上げるために水の国へ。いきなり火の国とかのアトラクション行ってもね……。アーシアは最初からノリノリになれるようなタイプじゃないし。徐々に慣らしていくのがいいだろう。

 

さて、やってきたのは水の国にある『氷の館』というアトラクションだ。

内容は極寒の地を体感できるような寒い温度設定の施設に、このテーマパークのキャラクターたちがあちこちに描かれてるような感じだ。

入口で防寒着をレンタルして、中へ入る俺たち。

ここに来たのは、まぁ目的があってだな……。

あるキャラクターを探してキョロキョロあたりを見回していると……。

 

「わー、イッセーさん。ペンギンさんがいますよ!」

おおっ!? 早速お目当てのキャラクターに会えた!

このペンギンのキャラクターは、アーシアが好きなマンガ『エデンの緑龍』に出てくるキャラクターなのだ。

どうやら今ここ「アドベンチャースクエア」では『エデンの緑龍』とコラボしているらしく、テーマパーク内や各アトラクションに『エデンの緑龍』のキャラクターが居たりするのだ。

「一緒に記念写真も撮ってもらえるみたいだぞ! アーシア、ほら」

「はい」

ペンギンさんとアーシアが並ぶ。

「はい、チーズ」

パシャ! ……うん、結構よく撮れたんじゃないだろうか。

「ありがとうございます、イッセーさん!」

「いいって、それよりほら、ペンギンさんにもお礼を」

「ありがとうございました」

ペンギンさんはそんなアーシアの頭をなでてくれた後、俺たちを手を振って見送ってくれた。

 

 

「次はどこに行きましょうか? イッセーさんっ!」

ペンギンさんに会えて、アーシアはご機嫌だ。

んじゃ、次は……。

「あっ、あれいいんじゃないか?」

そう言った俺が指したのはウォータースライダー。

こういうのって大抵プールとかにあるもんなんだが、さすがは水の国。

説明書きを見てみると二人で乗れるみたいだし、ちょうどいいかな。

「わ、私こういうのも初めてです!」

目をキラキラ輝かせてくれるアーシア。

んじゃ、さっそく行ってみますか!

 

 

待ち時間は短く、すぐに乗ることが出来た。

今は寒いし、皆は他のアトラクションに乗ってるせいかな?

係りの人の話をきいて、滑る準備をする俺たち。

席順としてはアーシアが前で、俺が後ろだ。

「ここを持てばいいんでしょうか?」

横にあるバーをアーシアが持つ。

「そうそう、んじゃ……」

俺も持とうかな……というところで――

「それでは、行ってらっしゃーい!」

係りの人に背中を押されてしまった!

「ひゃあああ、イッセーさーーーーん!」

前に座っていたアーシアの胸をがっしりと掴んでいた!

やわらかい感触がっ! 俺の手のひらにっ!?

「ありがとうございますーーーーー!」

いやあ……最近アーシアも成長期なのか胸が大きくなっているような……。

滑っているときに考えていたのは、こんなことだった……。

 

 

「イッセーさん!」

アーシアが俺の名前を叫ぶ。

「さっきは、ごめん! でもわざとじゃ……」

必死にあやまろうとする俺だが、

「怒ってはいませんよ。でも胸を揉むときは一言言ってください! 心の準備が必要ですから……」

頬を染めながら恥ずかしそうに、そんなことを言ってくれるアーシア。

か、かわいいっ! 一言いえば揉んでいいのか……ってそうじゃなくて!

「あー、とにかくごめん! じゃあ次、行こうか?」

今はアーシアとのデートが第一だ!

「はいっ!」

天使のような笑顔でうなずいてくれるアーシアなのだった。

 

 

 

お次は風の国!

ここはやっぱ子供向けの広場とかもあるおかげが子供が多いね!

最近、おっぱいドラゴン関連で子供たちと絡むことが多くなってきた。そんな俺にとっては、ここは少しその会場に近いものを感じるな。子供たちのキラキラした目っていうのかな。ああいうものを感じるよ!

それだけここが子供たちの人気のある場所ってことなんだろうな。

さて、子供たちを見るのはこれくらいにして、アーシアとのお昼だ!

 

ここはアドベンチャースクエアのフードコート。

昼時に食べると皆がお店に集まって、ゆっくり出来ないからな。少し早めにきて食べたほうがいいと思ったんだ!……まぁ桐生にそう言われたからなんだが。

でも早めに来ても人が多いね。今話題のテーマパークなだけあるわ。

「イッセーさん、あそこなら二人で座れそうですよ!」

アーシアが二人で座れる席を見つける。確かにあそこなら座れるな。

「おっ、ほんとだ。んじゃ座ろうか、アーシア」

「はいっ!」

 

飲み物を買ってアーシアの席まで戻る。

「待たせたな、アーシア。はい、オレンジジュース」

「ありがとうございます、イッセーさん」

俺はコーラをぐいっと呷る。フードコートに来たのに食べ物を買わないなんてちょっとアレだからな……、飲み物だけでも買ってきたんだ。

そう、俺にはアーシアの手作り弁当があるからな!

最近はずっとリアスが弁当を作ってくれてたから……アーシアの弁当は久しぶりだ!

だからこれが俺にとってのデートの目玉だったりするんだな。

「はい、イッセーさん、どうぞ!」

「おおっ、サンキュー。アーシア」

ふたを開けてみると……、

「そのどうでしょうか?」

すこし不安げな顔をしてくるアーシアに俺は、

「うん、とっても美味しそうだよ。アーシア」

一口食べてみると、

「やっぱ旨い! そして懐かしいっ! ああ、これだよ! これこそアーシアの弁当だ」

その俺の言葉にぱあっと顔を輝かせるアーシア。

「よかったです。最近のお弁当はリアス姉さまのばかりだったので、私のだと美味しくないと言われたらどうしようかと……」

「そんなわけないじゃないか! アーシアのお弁当も旨いよ。なんかホッとする味だ」

母さんの料理に似てるからかな……やっぱりアーシアは兵藤家の味を着々と継いでいってるようだ。

 

「ではどんどん召し上がってください!」

「おう!」

そのあとはずっとアーシアからあーんをされて、お弁当はすぐに空っぽになった。

だって、ほんとに旨いんだもの!

 

 

食べ終わって少し休憩した俺たちは、今度は土の国へ行ってみた。

ここにはパレード用の道であるためか、ここのテーマパークのキャラクターたちがお客さんとの触れ合いのために歩き回ってるな。

さて、お目当てのキャラクターは……。

「お、あれじゃないか、アーシア!」

「あっ、いました!」

『エデンの緑龍』に出てくる主人公のドラゴンが少し前を歩いていた。今は『エデンの緑龍』とコラボしてるからな。そのキャラクターたちも歩いているというわけだ。

 

「一緒に写真を撮ってもらおう、な!」

「はいっ!」

アーシアは大はしゃぎで、ドラゴンさんを追いかけていく……。

『俺たちもあれくらいかわいい見た目ならアーシアに喜んでもらえたのにな』

『赤き龍の帝王がかわいけりゃ世話ないさ……それとデート中なのに俺に話しかけている暇があるのか、相棒?』

おっと、そうだった。今日はアーシアのことだけ考えるって決めたもんな。

「イッセーさーん、はやくきてくださーい!」

「分かった、今行くよ!」

俺はアーシアのもとへと急いだ……。

 

 

その次は色々見て回った。

風の国に戻ってコーヒーカップやメリーゴーランドに乗ったり、

火の国に行ってジェットコースターやフリーフォール、回転ブランコなんかにも乗ったな。

アーシアはどれも大はしゃぎして楽しんでくれた。

どれもアーシアは初体験だったからな……新鮮だったし、楽しめただろう。

もちろん俺も楽しかった。

アーシアと一緒に過ごすっていうだけで、時間がものすごく早く感じたんだ。

光陰矢のごとしってやつかね? まぁともかく、あっという間に時間は過ぎて行って、クライマックスのナイトパレードの時間が近づいていた――。

 

 

季節としては少し早いが、クリスマスイルミネーションに彩られた通りを、クリスマスの特別衣装に身を包んだキャラクターたちが凱旋していく、ナイトパレード。

個性豊かでかわいいキャラたちが歌って踊る様は、まさに今日この日の最後の盛り上がりに相応しいものがある。

 

 

このナイトパレードを直接見るのもいいんだが……桐生のオススメは――

「観覧車? ですか、イッセーさん」

「ああ、そうなんだよ」

そう、観覧車。ナイトパレードの様子も低い位置なら見れるし、高いところからなら――。

 

 

 

「わーっ! きれいですね、イッセーさん!」

俺たちが目にしているのは星の海――と見紛うほどのきれいな夜景だ。

高いところまで連れて行ってくれる観覧車からなら、パレードの様子だけでなくこの町の夜景も楽しむことが出来る、というわけだ。

それに俺たちは悪魔だからここからでもナイトパレードがよく見える。

アーシアと二人っきりで静かにパレードを楽しむにはこれが一番よかっただろう。

 

 

「私、今日はすごく楽しかったです」

アーシアがぽつりと呟く。

「俺もだよ。アーシア」

アーシアを楽しませるつもりがいつの間にか、普通に自分も楽しんでたからな。

まぁ女の子とデートで、こういうところに来るのは初めてだから当然っちゃ当然かもしれないが……。

「お昼のとき、腕を組んでる恋人さんたちが羨ましくて……イッセーさんにお願いしたら腕を組んでもらったり……」

「い、いやー、あ、あれは……」

あれは恥ずかしかったよ! アーシアの頼みだから断れなくて、腕を組むんだけど……。

なんていうのかな、こういうデートのときの腕組みって特別なんだ!

しかも周りの大勢の人に見られているし……アーシアの心臓がドキドキしてるのも直に伝わってくるし……。

そしてなによりもアーシアのおっぱいの感触っ!

頭の中がエロエロモードに切り替わらないように、気を引き締めるのは大変だった……。

 

 

「私のために、ありがとうございます。イッセーさん」

……っ。

「気付いてたのか? アーシア」

俺がファーブニルのことを心配してアーシアをデートに誘ったことが……。

「はい、イッセーさんは優しいですから……私のことを常に気にかけてくれるのが伝わってきました」

そっか……。出来る限り顔にでないように気を付けてたのにな……、やっぱ演技が下手かな、俺。

「アーシアに元気になって欲しかったんだ……ここのところぼんやりしてることが多かったからさ」

「もちろん分かっていますよ、イッセーさん。でも次は――」

――次は?

「私と一緒に楽しむために、デートに誘ってくださいっ!」

……なんて健気な娘なんだろう……っ。俺にはもったいないな、でも――、

 

 

「俺だって途中から一緒に楽しんでたぜ。いつの間にか、アーシアとのデートに夢中になってたよ。ほんとは家族サービスのお父さんみたいな気持ちでいなきゃいけなかったのにな……」

「……イッセーさん」

アーシアが目を潤ませて、俺を見詰める。

「アーシアが絶叫系のマシンが結構好きなことに驚いたり、コーヒーカップでくるくる回し合ったり……そういうのがとっても楽しかったよ」

そう言うとアーシアは目を潤ませたまま笑顔で、

「なら、もう恋人たちのデート……してましたね、私たち……」

そんなに恋人たちのデートがしたかったのか。でも、どうして……。

「リアスお姉さまに……負けたくないから。……イッセーさん……っ」

アーシアが目を瞑ったまま顔を近づけてきて――。

きれいな星空の海を背景に、アーシアとそっと唇を重ねた。

 

 

 

あれからアーシアと手をつなぎながら、電車に乗って帰ってきた俺たち……。

なんかもうあのキスで言葉以上のものをお互いに交し合ったためか、俺たちは無言だった。

でもそれは決して気まずいとかではなくて――むしろその反対で、俺たちの距離は今日でずいぶん縮まったんじゃないかと錯覚させるほどだ。

今までも決して離れてたわけじゃないんだけどね。でも、今はアーシアが愛しくてたまらない。

アーシアもそう思ってるのか俺の手を強く握り返してくる。

 

 

 

 

 

 

この幸せな時間が……ずっと続くはずだった。

でも、見つけてしまった……。

黒いさらさらの髪にグラマーな体。大和撫子と見紛うごときその美貌の持ち主を――。

「あれって朱乃さん……?」

朱乃さんが、腕を組んで歩いている男を、

そいつは……その男の顔は……。

 

 

「あ、あれは……」

アーシア、その先を続けないでくれ……、

そんなはずない、あれはただの噂話だろう。ロスヴァイセ先生だってそう言ってたじゃないか……。

そっくりさんなんて、いるわけ……ない。

 

 

「なんだよ? 赤龍帝の兵藤一誠?」

ニヤリ、と不気味な笑顔を浮かべながら……そいつは俺たちに話しかけてきたのだった……。

 




皆さんお待たせしました!
今回はさすがに少しは話が進められたんではないでしょうか(汗)

お読みいただければ分かるかと思いますが、匙君、ギャスパーやその他は出てきません!(えっ
匙の活躍を楽しみにしてた方には本当に申し訳ないと思っています。
でも、ほら……匙は17巻で活躍できたから……。

実質17巻以降でないと匙はバランスブレイカーを披露できません。
今の期間は匙の修行の期間というか……イッセーとの違いに悩んでいる状態なので、
そういう期間のときに今回のお話が始まってしまったので、仕方ないですね。
匙君にはタンニーン様のもとで悩んでもらいましょう!


ギャスパーも出せません……。作者の都合と言ってしまえば、それまでですが、ご了承ください。

アーシアとのデートシーンで出てきた遊園地は架空の存在です。現実には存在しませんので、あしからず。
今回はアーシアには普通の恋人のように楽しんでもらいました。今回で十分癒されたアーシアですが、17巻でまた大変なことに……。
原作でも救済してあげてほしいです……。

今回から話に出てきたそっくりさん。
この話のあとに第一話として投稿した話につながっていきます。
次回からは本格的なバトルに入っていきます!

ご意見、ご感想頂けると作者は喜びます!
ここまでお読みいただきありがとうございました!
追記:次の更新は12月になりそうです……。


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いよいよ戦闘開始ですっ!

木場「どうやらイッセー君たちも大変なことになってるようだね」
ゼノヴィア「何っ!? イッセーたちがピンチなのか! なら助けにいかなくては!」
木場「ん? 僕らのほうにもお客さんらしいよ、ゼノヴィア」
ゼノヴィア「仕方ない、すぐにかたずけるぞ!」


イッセー君たちが戦っている間、僕らもピンチに陥っていたんだよ。

 

 

イッセー君たちがデートに出かけたあと、僕らはグレモリーの地下練習場で修行していたんだ。

ゼノヴィアは聖剣の鍛錬に、僕はグラムの訓練に。

 

ただ、グラムは修行で使うことにも命懸けで挑まなくてはいけないからね。

だからあまり修行の進みはよくないんだ。前任者の苦労が窺えるよ、ほんとに。

それでもやらなくては。邪龍に効果てきめんなのは間違いないんだからね。

 

でも、グラムを生身で扱うには今の僕では限界がある。それが最近分かってきた。なにか特別な使用方法を模索したほうがいいのかもしれない。

それが分かってきただけでも、初代との修行や今までの鍛錬は無駄ではなかったな。

 

さて、そろそろゼノヴィアの鍛錬の様子も見に行こうかな?

そう思って魔方陣を起動しようとした時だった――

「木場、修行の調子はどうだ?」

ゼノヴィアが魔方陣から現れた。どうやら彼女も僕と会おうとしていたようだ。

「ぼちぼちだよ。そっちはどうだい?」

「まぁまぁだな。ま、そう簡単にうまくはいかんな」

やはり彼女のほうも苦戦しているらしい。

「そうだね、ゼノヴィア。もう今日は終わりにする?」

てっきり彼女も終わりにするだろうと思ってたのに、今日の彼女はこんなことを言ってきたんだ。

「その前にすこし、試したいことがあるんだが」

「うん、なんだい?」

この時点で疑うべきだったんだろうね、少なくとも不自然だとは思うべきだった。

「木場のグラムを私に使わせてもらえないか?」 

 

 

ん? 僕のグラムをゼノヴィアが?

「うん、いいけど……」

まぁ一時的になら僕が許可すれば、持てるようには……なるかな?

 

 

「試してみてくれ」

グラムに僕の意思を伝えると……ブゥンと刀身が震えた。その様はまるで僕の言うことをきいたように見えた。

「はい、一応使えると思うから」

「ああ、ありがとう」

この時の僕はゼノヴィアに使わせてみることで、グラムの新たな使用方法を模索できるかも、なんて考えていた。

 

僕はゼノヴィアにグラムを……渡した。

「ほう……これが……本物のグラムか」

ゼノヴィアがグラムを握る手に力を込める。

――ブウゥゥン。

グラムがゼノヴィアに呼応して、妖しげな輝きを増す。毒々しいその輝きに僕も思わず目を覆いたくなった。

なにか……おかしい。そう思っていても、その違和感を説明できるほど理解できてもいなかったんだ……。

 

 

「ゼノヴィア?」

魔剣を抱えたまま顔を俯けているゼノヴィアに声をかける。

グラムの呪いの波動が強まって、ゼノヴィアの体を紫のオーラで覆う。

まさか、グラムの呪いの力を高めているのか!?

「やめろ、ゼノヴィア!」

それ以上力を強めたら君の体が保たないッ!

「ふふふ、これが本物の力か……持つ者も本物の木場がふさわしいな」

なに訳の分からないことをッ!

ゼノヴィアからグラムを手放させようと無理やり奪おうとするも……

「ふんっ」

グラムを一振りして僕の接近を許さないゼノヴィア。

僕はその一振りを身をよじって避けた。

僕に当たらなかったその一撃は、余波を生み出して地面を切り裂いていった。

 

 

まずい、グラムの力を引き出しすぎてる。このままだとゼノヴィアの体は……っ。

「仕方ない、戻れ! グラムよ!」

主である僕の命に従い、ゼノヴィアの手から戻ってくるグラム。

飛んできたグラムを掴み、ゼノヴィアに向けて構える。

 

 

「きみは……誰だい? ゼノヴィア、ではないね?」

こんなことを彼女がするわけがない。普段なにも考えていないような彼女だけど、彼女だって分別はついてる。

「おやおや、ずいぶんな言い様だな。私はゼノヴィアだぞ? 本物のな」

彼女の言葉を訝しみながらも警戒は解かず、剣を構えたままで対する僕。

 

 

そんなときだった。ゼノヴィアの背後から魔方陣が出現して、そこから誰かが出てきたんだ。……そして、その人物は……。

 

 

「そ、その顔は……!?」

「初めまして、偽物の木場佑斗」

僕と同じ顔をした誰かだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呆けていたのは数瞬で、すぐ我に返った。

「偽物は君のほうだろう? 誰だ、君は!」

グラムを突き付けて問いただす。

「本物の木場優斗だよ。偽物にはそんな区別もつかないのかな?」

安い挑発だ。そんなものにはかまわず、僕は敵の正体について考える。

相手は最近町の噂になっていたというそっくりさんなんだろう。

「木場か、こっちは奪取に失敗した。そっちは?」

「こっちも失敗したよ。まさか、聖剣がひとりでに動き出すなんて……もしかしたら、あの聖剣にも聖十字架のように独自の意思でもあるのかな?」

「……らしいな。まったく二人ともが揃って失敗するとは……あとでイリナたちになんと言われるか……」

「問題ないよ。ここで僕があいつを倒せばいいだけの話なんだから。ゼノヴィアは先に帰っておいて」

「ああ、分かった」

そんな会話を繰り広げたあと、ゼノヴィアのそっくりさんは転送魔方陣を使って何処かへと飛んだ。

 

 

僕は改めて、目の前の偽物を見る。

実物を見るまではにわかには信じられなかったが、ほんとうに姿形はそっくりだ。端から見ただけでは両者に区別はつきまい。

だが、問題は外見だけでなく――、

「ふふ、僕の能力について気になるのかい? じゃあ、試してみようか。偽物と本物、どちらが本物に足りえるほどの力をもっているのかを!」

どうやらかなり自信があるようだ。それは相手の内にある力を感じ取ることからも理解できる。

……相手は僕と同じぐらいの――いや、もしかしたら――。

そのことを予感して、僕は冷や汗をかく。

「ふふ、正しく現状を理解できているようだね。グラムはしまったほうがいいんじゃないかな? ここが保たないだろう」

確かにここは強固なバトルフィールドというわけではない。グラムを実戦レベルの出力で振り回せば、あっという間に辺り一面の全てが切り刻まれて、細切れになってしまうだろう。

それに修行でグラムを使って消耗しているというのもある。向こうの僕はグラムを盗ろうとしたことからも、持ってはいないと考えられるので……得物はもちろん――。

 

 

「「禁手化(バランス・ブレイク)」」

 

 

両者ともに聖魔剣を出す。向こうの聖魔剣もその聖と魔の入り混じった波動から察するに本物だ……。

「さぁ、戦闘開始だ!!」

今、二人の騎士の戦闘が幕を開ける――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、朱乃さん……どうして……」

混乱して言葉が出てこない……、どうして俺とまったく同じ姿をしたやつと朱乃さんが……。

「イ、 イッセー君!? では、こちらのイッセー君は……それにアーシアちゃんも……」

向こうの朱乃さんもかなり混乱しているようだ。

それは隣にいるアーシアも同じ。

していないのは――目の前にいるニヤニヤと口元を歪ませている俺だけだ。

「簡単だよ、朱乃さん。俺が本物で、あいつが偽物だ」

な、なんだと! お前がにせもんだろうが!

 

 

「ふざけんな! そっちが偽物だろ!」

いがみ合う俺たち。朱乃さんとアーシアは狼狽えている様子で、どちらが本物の俺か分からないようだった。

そりゃ見た目はほぼ一緒だもんな……、自分を外から見るって結構気持ち悪いぜ。それぐらい似ていやがる!

 

 

「おいおい、気持ち悪いはないだろう……。ま、俺もおんなじ気分だけどな」

なっ……こいつ俺の心を読んだのか!?

「ちがうちがう、お前の考えそうなことなんて分かるってことだ。俺はお前の……いや、それはいいか」

「言いかけてやめるなよ、気になるだろ」

軽口をかわしつつ、俺は相手を注意深く観察する。

アーシアが隣にいるんだ。絶対にアーシアを危険な目にあわせるわけにはいかない。

ここにはアーシアを守れるのは俺しかいない。だからしっかりしなくちゃな!

 

 

目の前にいるこいつ……松田や元浜が言ってた町の噂ってやつは本物だったってことか。

そっくりさん……確かに目の前にいるこいつは姿形は俺にそっくりだ。

――いや、外見だけじゃない。中身もだ。

感じる。あいつの内側から俺と同じ龍のオーラを。

……まさかあいつも赤龍帝だってのか!? 

 

 

「そうだよ、俺が赤龍帝だ。本物のな」

ガシャン!

そういってあいつは神器を出す。俺と同じ、それは紛れもない赤龍帝の籠手だ。

「だから本物は俺だっての!」

また俺の考えてたことを……おれそっくりなのは頭の中もってことなのか?……それとも……。

俺も赤龍帝の籠手を出す。

二人ともが神器を出したことでアーシアと朱乃さんがどちらが本物かますます区別がつかなくなったようだ。

だがそんな中俺のなかのドライグが確信をもって皆に告げた。

 

 

『本物はこっちの相棒だ』

 

 

「ドライグ!?」

ドライグが皆にその根拠を告げる。

『簡単なことだ。相棒のニセモノは作れても、赤龍帝の籠手の複製を作れても、俺の魂のコピーは誰にも作れはしないのさ。それは聖書の神ですらできなかったことだ』

そうか……聖杯を使ってあいつらが俺の神器のレプリカを作った。けど、そのなかにドライグはいなかった。それは誰にも不可能なことだったからだ。

つまり、目の前のこいつの中にも――たとえ、龍のオーラを纏っているからといって……。

 

 

向こうのあいつが偽物だと分かったからか、朱乃さんがあいつから離れて、こっちへ駆け寄ってくる。

「バレちゃ仕方ないな。確かに俺は今はまだ偽物さ、今はまだ……な」

「どういうことだ?」

「簡単なことだよ……ここでお前を倒せば、俺が本物だッ!!」

そういって相手が俺に向かって突貫してきた!

「――ッ!!」

 

 

壁にぶつかった衝撃で息を吐く。

「――かはっ!!」

そのまま駅のホームをぶち破って俺は上空へ投げ出された。

 

 

なんとか馴れない悪魔の翼を使って、空中で態勢を立て直したものの――。

「あ、やべ!? ここは――ッ」

そう、ここは人間界だ。こんな派手なことして注目を集めるのはまずい。それになにより俺たちの戦いに一般人を巻き込んでは……。

しかし、俺はすぐに周囲の異変に気付いた。

「あれ……人がいない……?」

そう、さっきまで駅を賑わせていた人たちがごっそりいなくなっている。

それに空の色も紫がかっていて――まるで冥界の空のようだ。

「どうなってるんだ!?」

混乱する俺。

あいつはそんな俺の様子を見て、にやりと嫌な笑みを浮かべながら教えてくれた。

「ここは結界の中だよ、俺たちの戦いに犠牲者を出すわけにはいかないからな、連れ込ませてもらったぜ」

そういうことかよ。どうやらあいつにも人間を心配する優しさってものがあるみたいだな、ちょっと安心したぜ。

 

 

『いや、奴の言葉を額面通りに受け取るのはまずいぞ、相棒』

ドライグが今度は俺にだけ聞こえる声で話しかけてきた。

どういうことだよ? ドライグ。

『ここは結界の中ということだろう。奴が事前に準備していたものなら罠の一つでもあるのかも知れんし、助けも呼べんぞ』

そうか、奴にとって有利な戦場に連れ込まれたのかもってことだな。

それに俺は警戒し、禁手化へとなる。

禁手化(バランス・ブレイク)か? ならこっちも」

 

 

俺とあいつ。二人の神器から同じ音声が流れる。

『『Welsh Dragon (ウェルシュ ドラゴン)Balance Breaker(バランス ブレイカー)!!!!!!!!』』

 

 

龍の波動をまき散らし、赤き鎧をお互い身に纏う。

俺と同じ……禁手化……。

ごくっ……と生唾を飲む。

罠があるかも? 助けなんて来ないって?

……そんなの。そんなの、それでも俺があいつに勝てばいいだけの話だ!

偽物相手に二回も苦戦するわけにはいかないぜ、ドライグ!!

『よく言った、相棒!! それでこそ赤龍帝だ』

俺と同じく偽物に思うところあるドライグは、俺と一緒に闘志を燃やしてくれた。

 

 

「はっ」

「だぁ!」

お互い接近して打撃戦。

まずは相手の出方を覗う。紅の鎧を使うのは相手の実力を確かめてからだ。

そう思っていたが、戦い始めてすぐ、そんな必要はなかったと俺は感じていた。

「はっ、ぐぅ、おらっ!!」

「よっ、せいっ、ふっ」

こちらの攻撃はあまり当たらない。しかし相手の打撃はなぜかガードできずにモロに食らってしまう。

なんでだ? なんでこっちの攻撃が当たらない!? まるで事前に俺の攻撃する箇所が分かっているみたいにひょいひょい避けやがる!!

そしてなんで俺はあいつの攻撃に殆ど当たっちまうんだ? ……サイラオーグさんと戦ったときだってここまで一方的に殴られるなんてことなかったのに。

『相棒、上だ!』

「うおっと」

ドライグに呼び掛けられ、なんとかすんでのところで避ける。

 

 

「はぁはぁはぁ……ぜぇぜぃ」

少し殴りあっただけで、こっちの息はもうあがっていた。

「どうした? 全然歯ごたえがないな。ドライグがついていながら、その程度なのか?」

でもあいつは全然余裕そうだ……。そりゃそうだな、俺ばっかり殴られてこっちの攻撃はほとんど当たらなかったんだから。

今のこれだけの手合せで分かった。あいつは俺より強い。

スピードもパワーも俺より上だ。

 

 

パァアアア!

緑の癒しのオーラが届き、俺の痛みが消えていく……。

「イッセーさん!」

アーシアだ。どちらが本物なのか、戦闘の中でも見失わないようにしていたんだろう。

「ありがとう、アーシア。でも下がっててくれ!」

アーシアの回復はありがたいが、こいつに対してアーシアを守りながら戦えるとは到底思えなかった。

「心配しなくてもアーシアは狙わないさ、嘘だと思うならもう少し離れて戦うか?」

信用できないが、戦闘にアーシアを巻き込む危険性は少しでも避けたかった。

「ああ、そうしよう」

お互いに頷き、ここから離れようと……

「イッセーくん、私も戦いますわ」

朱乃さんが俺の隣に並ぶ。

「朱乃さん……ここは俺一人で戦います」

「でも……」

押されっぱなしの俺が言っても説得力ないよな……でも――、

「あいつは強いです。……あなたを守りながら戦う余裕がないほどに」

「――っ!」

そうなのだ。俺とあいつが本気を出して戦うなら紅の鎧の戦いになる。

あの形態の高速戦闘に朱乃さんはついてこれないだろう……。

そのとき、彼女は俺にとって足手まといになってしまう。

「ごめんなさい、朱乃さん」

「イッセーくん……」

 

 

俺の言葉に納得してくれたのか、朱乃さんが俺から離れる。

「さ、今度こそ行こうか」

「ああ」

俺たちは誰も巻き込まない戦場へ向かって飛んで行った……。

 




今回の話の続きが「開幕」で行われていた戦闘となっております。
イッセーたちの前に現れたそっくりさんの正体とはなんなのか?
相手の力がこちらを上回っている理由とは?
その辺も次回(もしくは次々回)で分かると思います。

最新刊で桐生さんが……(ネタバレ回避)……っなことになってますが
時期的には今書いてるこの話のあとのことなので、問題ないです。

作者ももっと書く時間が取れるかと思いきや、そんなことはなく、忙しい日々を送っております。
一月末までは忙しいので、そこからはちゃんと書けるようになるので、なにとぞご容赦ください。

ここまでお読みいただきありがとうございました。
感想をいただけると作者はとても喜びます!
それでは、皆さまよいお年を!

追記:アニメもすっかり終盤に入ってますね……そろそろ投稿します!


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一時撤退ですっ!

アザゼル「今回からようやく俺も登場だ」
イッセー「先生、遅いっすよ! 色々考察してくれる人がいなかったから、大変だったんすからね!?」
アザゼル「心配するな、ここからは俺がきっちり活躍するからな。とりあえず、敵の正体について語りたいところだが……」
???「その必要はありませんよ」
イッセー「なっ! てめぇは!」
アザゼル「あんたのほうから話してくれるかい?」
???「いいでしょう、そのためにきたのですからね」



「はぁ……はっ、はぁ……」

同じ騎士、

同じ聖魔剣、

しかし息を切らしているのは……。

「そらっ、どうしたんだい? 木場佑斗ッ!」

本物の僕の方だ。

「くっ」

なんとか相手の剣を捌いて、追撃を躱す。

「まだまだいくよっ」

ヒュ、ヒュ、ヒュン、

敵の剣戟が奏でる風切り音が遅れて届く。

それだけ敵の攻撃が速い。

 

 

僕はほとんど反射だけで、もはや躱している。疲弊した体でここまで動けているのは奇跡だった。

「はあぁっ」

追撃をかわすために敵の足元に聖魔剣群を生やす。

これが当たるとは思っていないが、敵も回避するために後ろに飛び退くはず――っ!?

「はっ」

事前に予測していたかのようにタイミングよく飛んでこちらの後ろに回り込んだっ!?

――不味い背中から斬られるッ!

 

 

「ぐうっ」

なんとか身をよじって相手を正面に見据え、その攻撃を防ぐ。

体勢を崩されることを恐れて、剣を受けた勢いを利用してそのまま後ろに跳ぶ。

飛ばされたといっても過言ではないが、おかげで距離はかせげた。

体力の回復をしたいところだがそんな僕の考えを見透かすかのように、相手は追撃してくる。

 

 

しかし、それはさせない。このままこの距離を維持する!

僕は氷の聖魔剣を出すと、地面に突き刺して眼前に氷の壁を造り出す。

相手は壁を越えてくるために飛び越えるか、左右どちらかに避けるか。

どちらにしても相手はその動作のために一瞬隙が出来る。

だから僕ならその隙を作らないように……、

「炎の聖魔剣よ!」

偽物は炎の聖魔剣で氷壁を壊したようだ。

……そう、炎の聖魔剣で氷を溶かす。僕ならそうしてくれると思っていた!

あたりは氷が熱で溶かされたことによって蒸気がたちこめ視界が悪くなっている。

この状況は僕も相手も姿が見えない。でも周りの蒸気を吹き飛ばしつつ敵を攻撃する方法がある!

 

 

「風の聖魔剣よ!」

僕は風の聖魔剣を造り出し、振り下ろした。

「おおおぉぉおおおお!」

ブゥウン!

霧を晴らしていくと同時に、この聖魔剣はかまいたちを生み出す。

相手は剣で受けるからダメージはないだろうが、風圧で吹き飛ばされて今以上に距離は稼げるはず!

僕の放ったかまいたちが霧を斬り進み、いよいよ相手に当たるかというところで……、

 

風 凪 剣(リプレッション・カーム)

偽物はかまいたちを周囲の霧もろとも吸い込んで消し去った。

あれはフェニックス戦で僕が使った聖魔剣か!

しまった、と思った時にはもう遅く、僕は再び距離を詰められていた。

(なぜだ……僕が何の聖魔剣を出したのか相手は分からなかったはず……それなのになぜ一瞬で風 凪 剣(リプレッション・カーム)を出せたんだ……まるでこちらの……)

 

 

 

そう考える間もなく再び僕たちは斬戟を繰り広げる。

相手の剣を受け、躱し、受け流す。

もはや攻撃する隙も余力もない。

 

 

なぜ僕がここまで窮地に陥っているか。

それは聖魔剣の特性による。

聖魔剣とはその名の通り、聖と魔の二つが組み合わさっている剣だ。

ただの魔剣とは違い、聖なる力も込められているため悪魔に対して効果的なのが特徴だ。

そのため聖魔剣に傷つけられると、悪魔は内側から徐々に聖なる力に焦がされていくのだ。

 

 

僕の偽物は悔しいことに僕よりも速い。

だから攻防を続けるうちに防ぎきれず、躱しきれない小さな傷が僕に出来ていった。

本来はそれらの小さな傷ではダメージを受けることはない。

しかし相手の得物が聖魔剣である以上、必然的に聖なるダメージを受ける。

それがいくつも積み重なり蓄積していくことで、僕の体は徐々にキレを失っていった。

そうなると、ただでさえギリギリのところで致命傷を避けてきたのに、聖なるダメージにより疲弊していった体では、敵の攻撃を防ぎきることは当然難しくなる。

小さな、だが決定的な差。

それが両者に大きな隔たりをもたらしていた――。

 

 

こんな風に諦めたような思考になっているのも、聖なるダメージによって精神も徐々に弱らさているからだろうね……。

聖魔剣……敵に回すとこれほど厄介な代物だったとはッ……。

 

 

「理解出来たようだね? 僕と君の力の差を」

僕が相手に勝てないと思い出してることに感づいたのか、そんな挑発的なことを奴は口にする。

「随分と余裕だね。僕にはまだ……」

――グラムが、と言いかけて相手に先に言われる。

「グラムがあるって? でもここでは使うわけにはいかないと言ったはずだよ。それに今更使ったところで、僕にはもう勝てない。それも分かってるんだろう?」

 

 

――それも分かっていた。

ここまで疲弊した体ではもうグラムの真の力を引き出せない。

なにより、グラムを使ったところで相手に当てなければ意味はない……。

……もう僕にはあいつを斬りつけることが出来るほど速く動けない。

 

……ここまでか。

そう思ったとき、意外な人物が僕の目の前に現れた。

「君はッ……」

「っ……」

 

 

 

 

 

 

 

『だが、奴のほうが実力が上だ。このままではやられてしまうぞ』

そんなことは分かってるよ、ドライグ。さ~て、この状況どうしたもんかね?

自分と同じ能力のやつと戦うっていうのはある意味やりづらいな。

こちらが何をやるか相手が何をやるかが分かってるから、戦闘は攻防の読み合いになる。

要は向こうのほうが賢いからやりづらいってことなんですけどね!

……はいはい、いじけずに頑張りますよ。

 

 

でもお互いまだ本当の力を出してない。

俺の偽物で禁手化(バランス・ブレイク)も使えるってことは多分……紅の鎧も使えるのではないだろうか。ユーグリッドの野郎はレプリカだからダメだったが……もしかしてあいつもそうなのか?

 

 

俺がそうしたことを頭の中で考えていると、

「お互いそろそろ本気を出そうじゃないか。成れ、紅の鎧にッ!」

あ、やっぱりお前もなれるのね! 考えて損した。んじゃ遠慮なく――、

 

 

「————我、目覚めるは王の真理を天に掲げし、赤龍帝なり!」

真『女王』になるための呪文を唱えていく。

「無限の希望と不滅の夢を抱いて、王道を往く! 我、紅き龍の帝王と成りて————」

 

「「「「「汝を真紅に光り輝く天道へ導こう————ッ」」」」」

 

Cardinal Crimson Full Drive(カーディナル クリムゾン フル ドライブ)!!!!』

 

 

ドンッッ!

俺は周囲にドラゴンのオーラを迸らせ、紅の鎧となる。

あー、また無駄なパワーを周囲に放出してるな……初代のじいさんに怒られる。

紅の鎧になるとパワーの上限が上がるから、その分普段の禁手状態よりも力を放出しちゃうんだよな……気を付けないと。

 

「へぇ、それが本物の真『女王』か……」

あれ、俺はなったのにあいつは紅の鎧にならないのか?

それを言おうとしたその時――、

「おーーいイッセーーー」

懐かしい堕天使の総督の声が聞こえてきた。

 

 

「ってアザゼル先生……あれ?」

向こうのほうからもアザゼル先生が飛んでくるような……。

「っと」

こっちに向かってきたアザゼル先生が俺の傍へ降り立つ。

「で本物のイッセーはどっちだ?」

『こちらが本物の相棒だ』

ドライグが宝玉部分から先生にも聞こえるように音声を発した。

「よしよし、んじゃ目の前のあいつらが俺とイッセーの偽物か」

 

 

向こうを見ると、もう一人のアザゼル先生と偽物の俺が二人で並んで立っていた。

「俺も自分の偽物に会うのは初めてだ」

「そうかい? まぁ面白くていいじゃないか」

向こうの先生は笑って肩をすくめていた。

「決着をつけるかい? 今ここで」

先生が光の槍を出して構える。

「いや見逃しといてやるよ。そっちにも戦う準備ってものが必要だろう?」

両者がにらみ合う時間が続く……。

先に目をそらしたのは本物の先生だった。

「ふぅ、んじゃ逃げるぞイッセー」

「え、逃げるんですか?」

「このままここで戦っても仕方ないだろう。それに他の連中の様子も気になるしな」

「ってことは俺だけじゃなくて皆の偽物も……」

「そういうこった。んじゃあっちと合流するぞ」

そう言って先生は俺を連れて飛び立っていく。

ぐんぐんと偽物たちと距離が遠ざかる。

次は必ず――、

再戦を胸に抱いて俺たちは離脱していった。

 

 

 

「どーだった? 本物の赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)は」

「やっぱり本物のほうが凄味があったな。あれが真なる天龍の鎧か」

「データは採れたんだな?」

「ばっちりだ。真『女王』も見せてもらったしな」

「んじゃこっちも一旦戻るぞ」

「はいはい」

 

 

 

 

 

「先生、皆のところに行く前に朱乃さんとアーシアを」

「わーってるよ、そっちはもう二人とも回収済みだ。お、いたいた」

先生が見つめていた先には……お、木場とアーサーじゃないか! アーサーは戻ってきていたんだな。

でもなんで二人であんなところに……。

 

「木場はイッセーの家にいたのか」

そう、先生と向かっていたのは俺の家だ。でもここからはいるはずの皆の気配を感じられない……。

「せ、先生! リアスや皆はどこに!?」

「ここは結界の中だよ。この家もお前の家そっくりではあるが本物じゃない。おそらく敵が造り出した偽物だろうな」

そうか、ここは結界の中なんだった。

「結界の中!? ここはいったい……どうしてイッセーくんやアザゼル先生が……」

木場はまだ状況をよく分かってないみたいだ。

 

俺たちが揃ったからかアーサーが口を開く。

「それでは、ここから離脱しますよ」

アーサーの持つ聖王剣コールブランドで空間を切り裂いた。この裂け目から元の世界に戻れるのか?

「木場にもあとで事情を説明してやる。んじゃ行くぞ」

俺たちは先生に促されるまま元の世界に帰って行った。

 

 

元の世界に戻ってみると、そこは見慣れたオカルト研究部の部室だった。

リアスや朱乃さん、ソーナ会長やサイラオーグさん、更にヴァーリまでいるじゃないか。

「ほかの皆は?」

「アーシアは別室で襲撃を受けた者たちの治療をしているわ。他の皆も同様に襲撃を受けたみたい」

やっぱりなのか。あいつら一体何者なんだ……。

「そうだ、そっくりさんのことは先生に訊いてみたいと思ってたんですよ。あいつら一体何なんですか?」

「推測でしかないがおそらくあいつらは……」

 

 

「それは私から説明しましょう。堕天使の総督」

ブゥウンと不気味な音をさせながら転移してきたのは――、

「てめぇは!?」

「お久しぶりですね、兵藤一誠。宣戦布告に参りました」

ユーグリット・ルキフグスだった。

 




まず始めに皆様お待たせして申し訳ありません。
一度書くことから離れてしまうと、そのままズルズルと離れて行ってしまうものですね……。
あともう何話かは出来るだけ早く投稿したいと思いますのでよろしくお願いします。

さてさて、今回の話で敵の実力がよく分かったのではないでしょうか。
木場くんがほぼ対等の条件で戦っているのに完全に押されています。
無論こちらは敵の正体についてほとんど何も知らないので、情報戦という意味においては圧倒的に負けているのですが……。
(ちなみに木場くんがあの場でアーサーといたのは、あの後アーサーから助けられたからです。偽物の木場は退却していきました)
今回の敵の正体はもちろんクリフォト絡みです。
(確認のために、ユーグリットがまだ暗躍しているのはこの作品が時系列的には16巻から17巻の間に起こった出来事だからです)
これ以上のことは次の敵の宣戦布告やらアザゼル先生やらの考察で判明していくと思いますのでお楽しみに。


アニメが4月から放送されまして、今までずっと見ていたのですが……
最新話を見ているとなんと……イッセーの偽物が登場しているっ!?
まさかアニメのほうと被るとは……あちらはロキの呪いのようなものらしいですが、
こちらのイッセーくんの偽物騒動とは何の関係もないのであしからず。
原作と被るよりましだと考えるべきですね。

原作では次はリアスとアーシアを活躍させるとのこと。
ならばこちらは朱乃さん推しでいきましょう。是非に!
朱乃ファンの皆様には是非とも読んでほしい作品に仕上げていきたいと思いますので
今後ともどうかお付き合いください。

それではここまでお読みいただきありがとうございました。
感想をいただけると作者はとても喜びます!
追記:次の更新は早めにしたかったのですが、八月にならないと厳しそうです……。
ご容赦ください。
それと最新刊発売ということで今後のネタバレになるかもしれない設定を一部作者活動報告のところに載せたいと思います。そこまで凄いネタバレは書きません。原作と被ってしまうかなーと思われるものだけ書きます。そして3話に載せてるネタバレは消しておこうかと思います。
追記:新年あけましておめでとうございます。投稿は遅れに遅れております……。おそらく二月にまでずれ込んでしまいますが、ご容赦ください。


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