消えた名探偵と謎の青年 (Chat blanc)
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序章
小さくなった名探偵との出会い
忠告しましたよ?
Are you ready?
それではどうぞ。
『何かがおかしい』
そう思ったからここに書いておこうと思う。
言葉ではうまく表せられないけど、みんな、時は過ぎているのに、そこから動こうとしなくて...、
僕は、みんなが立ち止まってまた同じ日を過ごしているから、進まずに一歩先で眺めてる、...そんな感じ。
だから、同じ日を過ごしていることに気づいたんだろう。
もう一つの理由は、僕が、消えてしまって一向に帰ってこない工藤新一のことが好きだから。
...男の僕が、男の工藤君のことが好きっておかしいかな?
別に性同一性障害ではない。
僕は男。 ...そんなこと僕が一番わかってる。
ただ同性の彼が好きっていう、ゲイってだけ。
...叶わない恋だから、遠くで見ていた。
それこそ、一番近くで見てきた幼馴染の毛利蘭よりも。
ま、彼女のおかげで叶わないって踏ん切りがついたから感謝はしてる。
...そうでなくても、僕ら同性愛者の恋は叶わないって分かってるから、大丈夫。
嫉妬なんてしない。
ダメダメ、マイナスな方に思考がいっちゃう。
まあ、だから少し工藤君のことと毛利さんのことを自己流で調べてみたら、工藤君がいなくなったその日に「江戸川コナン」という小学一年生の男の子がやってきて、しかもその頃から毛利探偵が「眠りの小五郎」として有名になっていったということが分かっている。
何かに気が付かない?
そう、全て同じ日から始まっている。
偶然としてはできすぎている。
ただ、現代の医学上、高校生を小学生に戻す薬なんて出来てない。
いや、今んとこ世間にそんな情報が流れてないってだけか?
「ハリーポッター」でも、寿命を延ばす薬とか魔法はあっても、若返る薬とか魔法なんてないないんだよ?
ファンタジー系のマンガとかアニメの見過ぎだって、そんな可能性を考えるのは。
だけどなぁ、この状況に気づいてる僕からすれば、ありえるんだよな。
この状況のほうがおかしい。絶対に。
だから、工藤君の高校生の写真とパソコンというとてもとーっても便利な道具を使って、小学生の姿ならこうだろうとのをを割り出した。
パソコン、便利、とっても。
これさえあれば何でもできる。
いいことも、もちろん悪いことも。
流石に、名探偵の前ではやんないよ。
嫌われたくないからね。
天音響
っていうか、もし「江戸川コナン」が「工藤新一」だった場合、小さい頃からずっと工藤君のことを見てきた毛利さんはどうなんだろう?
逆になんで気づかなかったの?って聞きたいな。
多分工藤君に全力で止められるだろうけどね。
...それはかなり美味しいポジションかも。
江戸川君が工藤君でありますように。
まあ、それはさておき、残る問題はどうやって江戸川君と接触するかだな。
そもそも彼と話したことはあるんだけど、かなり前の話になるから、僕のこと知らないっていう落ちもありえるんだよな。
そうなった場合の僕の心の状態がどうなるかはご想像にお任せします。
...誰に言ってんだろ。
思えば、クラスメイトとも話さないから江戸川君と接触する以前に、毛利さんとも接触できないなぁ...
そこまで考えて勉強机に向かっていた体を伸ばし、髪をかき上げる。
何一つ癖のない髪は、指の隙間から滑り降りてくる。
いったん考えることをやめ、だんだん眠気の増す自分の頭のためにカフェインを投下する。
そういや、仕事の書類片付けとかないと。
明日は、父さんの代わりにパーティーに出席しないといけないから、明日の分も。
そうなると...
「今夜も徹夜かな」
そう言った自分の声が、広い部屋にどこか哀しげに響いた。
♢ ♦ ♢ ♦ ♢
パーティーは嫌いだ。
女は勝手に群がってくるし、お偉いさんとの社交辞令だらけの会話にももう飽きた。
今着ている服もキッチリカッチリしてて、息が詰まりそうになる。
正直、上着を脱いで、第一ボタンを外して、前髪を後ろに流して固めているこの髪をぐしゃぐしゃにして楽にしたい。
こういう服は、それ相応の価値のあるやつが着るものだ。
僕にそういった資格になんてないと思うんだけど。
とりあえず一通りを相手にして満身創痍な僕はイライラしながらトイレの鏡に映る自分自身の姿を睨みつける。
鏡に映る自分が睨んでくる。
...たとえ自分の姿だとしても殴りたくなるわぁ、コイツ。
徹夜続きでけんか腰になる自分の思考回路にため息をつきながら、どうやったらこのパーティーから早く抜け出せるか考えるがいい案が思いつかない。
...大抵の言い訳はもう使い切ったし、もう二周してるから流石に今度使ったら疑われるから使えない。
そもそも、今回のパーティーはかなり重要なものらしいから途中で抜け出して来たら後々面倒だ。
...そもそも、そんなに大切なんだったら自分が出ろよ、息子に押し付けんなクソ親父。
もうそろそろ出ないと疑われるよなぁ...
嗚呼、また地獄が始まる...
目の前に映る自分が遠い目をしている。
...うん、仕方ないよね。ギラギラした目を宿した紳士淑女の皆様のもとに戻ったら、小一時間は抜け出せないから。
顔面に仮面を張り付けて、相手が欲している質問と回答を全て頭の中で計算して、表情、声、動作もちろんセリフも駆使して提供すんだから集中力も体力も根こそぎ奪い取られんだよ。
...考えるだけで疲れてくる。
終わったらさっさと帰って今日はもう寝よう。
確実に引き留められるから家に着く時間は一時から三時の間だな。
学校、体力持つか心配になってきた。
トイレから出た瞬間から、顔に仮面を張り付けて、余裕で、大人なオーラを発する。
...俳優になるのもいいかもな。
そういえば、このパーティーって鈴木財閥が主催だったっけ。
なら、当然鈴木園子も出席してるよな。
...まてよ?
あの鈴木さんのことだったら、親友の毛利さんも呼んでるんじゃないか?
天音家にとって大事ってだけで、かなり緩いパ-ティーだからありえる。
ついでにってことで毛利探偵と江戸川コナンも呼んでるかも
HP全回復した!
ポジティブ思考はやっぱり大事!とっても大事!
ただ、顔がにやけるのを抑えるのは至難の業だな、コレ。
...ならこの広い部屋から、そしてこの人ごみの中から探し出しますか。
とりあえず、付きまとってくるこの人達をどうにかして...。
話はそれからだね。
「あの、すみません」
さも困った風で、顔色は青白く調節し、そして口元に手を添えて、目をウルウルさせる。
『調子が悪い』
そう思わせるために、欠点の見つからない演技をする。
ここまで完璧にすることはほとんどないんだけど、こうしたら噂好きの奥様、お嬢様方が、うわさを流し、当分ついて来ないはず。
あとは...
「少し疲れたので、一人にしてくれますか?」
ちゃんと言葉にすること。
どんなに鈍感な人でも、きちんと的確に言葉にしたら、流石にわかる。
あと、ファンサービスってことで、すがるような目をしたら...
「あら、可哀そうに」
「大丈夫なの?響くん」
「ゆっくり休んだほうがいいわ」
「体が弱いのは昔からだものね」
ね?誰にも疑われずに、尚且つ、好感度を上げつつもみんな去ってゆく。
人間なんて、...チョロいもんだよ。
真っ白で無機質な感じのする壁にもたれ掛かりながら、俯いた。
目を閉じて、周りの音に身をゆだねる。
コツコツと一定のリズムを奏でるヒールの音、人が人と談笑する音、すれ違う時にお互いの服がこすれて出る音...。
大丈夫、役にハマり過ぎてだんだんしんどくなっただけ。
ただそれだけ。
はぁ、うまいこと第一の関門から抜けたっていうのに、テンションが低いのはどうしてだ?
変なテンションはやりにくい。
元に戻らないと...
目の前をを通ったボーイから飲み物取って、一口だけ飲んだ。
...やべ、これワインじゃん。
まあ、アルコール度数はまあまあ高いけどワインぐらいなら余裕だろう。
それほど飲んでないから、バレることもないだろうし、心配するだけ無駄だろう。
先ほどとは違うボーイに飲みかけのワインの入ったグラスを返し、本来やろうと思っていた大切な用事をすることにする。
さっきも言ったけど、この部屋は広いし、人もたくさんいる。
だからすぐに見つけるなんて、普通の人なら絶対無理だ。
...そう、
その点、僕は普通ではない。
良くも悪くも、ね。
体を完全に壁に託してから、再び僕は目を閉じた。
とりあえず、視覚はいらない。
《視覚を排除》
嗅覚も、味覚も必要ないだろう。
《嗅覚、及び味覚を排除》
体に使ってる神経は、なくていい。体力は最小限。
《神経を遮断、体力は最低限》
こんなもんかな?
じゃあ、今まで集まってる神経を聴覚と思考回路に集中させて...
《...完了しました。》
これで、この会場全体の会話を聞き取ることができる。
声で鈴木さんを探せばいいし、毛利さんが来ているのなら、毛利さんも声で判別できる。
...残念ながら江戸川君の声はまだ聞いたことがないので、見つけることはないんだけど。
急ごう。
この人間離れした能力にだって、欠点はある。
この必殺技みたいな特技は、かなりの体力と神経、そして集中力を消耗する。
時間が経てば経つ程、僕の体調は悪くなる。
さっきついた嘘が嘘じゃなくなるようなことは、できれば避けたい。
さて、どこにいるのかな?
一方的な人探しゲ-ムの始まりだ。
「あら、お久しぶりですわ」
「あらほんとですわね。お久しぶりです」
これは、医薬会社の取締役の奥方と、そのライバル社の社長夫人。
二人とも、ライバル心隠しきれてませんよ。
もう少しぐらいうまく演技しようよ。
そんなことしてたら、この業界やっていけないって。
「響君を婿にもらうのはうちだ!」
「何を言っていらしゃいますの?私に決まっていまして?」
「お二人方に譲る気など私もありませんわ!」
数人のグループが束になって騒いでいる。
僕は誰のものにもなるつもりはないし、そもそも女に興味はないから意味ないんだけど。
大体、本人のいないところでそんな話しないでいただきたいね。
「響君、いつ見ても綺麗ね」
「そうですね、お姉さま。彼のお嫁様になりたいものだわ」
「あら、貴女にはあげませんわ。彼は私のものです!」
「違いますわ!私のものです、お姉さま!!」
...こっちもかよ。
ぼくは誰のものでもない!
いい加減にしてくれないかな?
僕のことで姉妹喧嘩をするなんて可笑しいでしょ。
こんな感じで突っ込みながら、どんどん聞く人を変えていった。
軽く50人は、声を聞いただろう。
...なのに、まったく見つからない。
簡単に見つかるはずはないと覚悟はしていたつもりだったけど...
...まさかこれ程とは思わなかったよ。
時間が経つにつれて思考がだんだん鈍くなっている。
組んだ腕が痺れている。
嫌な汗が額を伝う。
...もうそろそろ限界か。
それでもまだ諦めずに人を変えて会話を聞いているのは、諦めが悪いからか?
別にまた次でもいいかもしれない。
今じゃなくてもいい。
...じゃあ、次っていつ?
このチャンスを逃したら、次は来るの?
《次》まで時は止まったまま?
その間ずっと新一君は此処に居ないの?
...そんなのは嫌だ。
ずっとこのままなんて楽しくない。
工藤君がいない世界なんて、僕にとってはゴミのようなものだ。
...だから
限界なのは分かってる。
だけど、あと少しだけ。
諦められるまで。
悔いが残らないように。
探すんだ。
今までのスピードとは比較しようがないほど速くした。
もう、帰ったのかもしれない。
そもそも、最初からいなかったのかもしれない。
そんなことは考えず、一心不乱に探した。
...燃え尽きるまで。
「__あの、人だかり何なの?園子」
...え?
「___あぁ、あれは、天音響ファンクラブの連中だわ」
...い......た
「なにそれぇ、そんなのがあるんだ」
いた、本物だよね?
「園子姉ちゃん、それ何なの?」
「『天音響』っていう同い年の男子なんだけど、なんでもかなりの美形で、モテまくってるのよね。そして、ついにはファンクラブができちゃう始末よ」
「天音響って、クラスメイトの天音君?」
「そうよ。あんなののどこがカッコいいのかしら?」
「いつもマスクつけてるし、フード被ってるから、素顔見たことないかも」
「昔、何回か話したことがあるはずだけど、覚えてないのよね、顔。」
...なんか、ボロクソ言われてるんだけど。
確かに学校では、常にマスクにフードで、誰とも目を合わせないようにしてるけど、そんな言わなくてもいいじゃん。
嬉しいはずなのに嬉しさ半減っていうか、脱力したっていうか...
複雑な感情を抱いたものの、嬉しいことに変わりはなかった。
子供の声が混ざっていたから、それが江戸川コナンだと思っていいだろう。
毛利探偵の声は確認できなかったが、まあ別に一人ぐらい欠けていても大したことはない。
すぐに向こうに行きたいところだが、当分体が動かないだろうな。
とりあえず、自分の体を元に戻して目を開いた。
「...眩し」
シャンデリアが光を反射して輝いている。
その僅かな光でも眩しいと感じてしまう程目を閉じていただろうか?
まあ、完全に目が見えない状態から元に戻したんだ。
仕方ないと言ったら仕方がないのかもしれない。
...だけど、もどかしいものだな。
近くにいるのに、行けないというのは。
まあ、行けないからこそ出入り口を張っているわけだけど。
再び目を閉じながら、そんなこと考えていた。
そもそもあっちから話しかけてくれたら早いのになぁ。
...ま、そんなことが起こるほどこの世界は甘くないよな。
...分かってはいるけどさ。
「ねぇ、お兄さん大丈夫?顔色悪いよ?」
「あぁ、僕は大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
「ならいいんだけど...」
いい子が話しかけてくれたみたいだ。
世の中捨てたもんじゃないな。
...待て、僕は今誰と話している?
とっさに目を開き、声のした方を見る。
小学生くらいの子で、色白で華奢。
眼鏡をかけているからなのか、知的な雰囲気がする不思議な感じの少年だった。
...どこかで見たことがある。
どこだったけ?
「ねぇ、お兄さん名前は?」
「え?あぁ。僕は響、天音響だよ」
無邪気に聞いてくる少年に、その無邪気さに住んでいる世界の違いを感じながら、かけられた質問に答える。
...もう少し...、あと少しで出てくるのに、出てこない。
...もの凄くもどかしい。
「君の名前は?」
とりあえず会話は続けておこう。
「ボクは江戸川コナンだよ」
『江戸川コナン』か。
うん、変わってるけどいい名前だね。
...ちょっと待って?
『江戸川コナン』って言った?この子。
ああ!思い出した!工藤新一の小学一年生の姿だ!!
自分から来てくれたんだ。
やっぱフラグかけといて正解。
だけどフラグが回収されるって、どこかのマンガか小説か?
...なんかあり得るな。
もしそうだった場合、主人公は工藤新一君だね。江戸川コナンでもあるのか。
ジャンルで言ったら、推理小説か推理マンガ。
ああ、そうか。ならこの状況も理解できる。
永遠に時が止まったままなんて、そうじゃなきゃ説明できないでしょ。
ならきっと、小説じゃなくてマンガだ。
これは完全に僕の勘になるけど、多分そう。
「?お兄さん?どうしたの?さっきからずっと固まってるけど...」
工藤君...いや、この姿の姿の時は『江戸川君』か、が心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。
...一回、元々顔が整っているかわいい少年に、心配そうに顔を覗き込まれてみ?
普通に死ねるから。
...顔には出さなかったけどさ。
「いや、なんでもないよ。ただ、君が僕の知ってる人に似ててね。それで少し考え事をしていたんだよ」
だから、心配しないでねと僕は笑って見せる。
...それにしても、青のジャケットに赤の蝶ネクタイ、プラス短パンときた。
ほんとに僕を殺しに来たのかな?江戸川君。
というのは置いといて、どうしようか。
今は彼と二人きりだから、「君は工藤新一ですか」聞こうと思えばいつでも聞ける。
...でも、聞いたらきっと、てか絶対警戒される。
聞くべきなのか、それとも聞かざるべきなのか...。
...難しい駆け引きだ。
「___ン君?コナン君?どこ~?いるなら返事して~?」
「ガキンチョ~、ったく、すぐにいなくなるんだからアイツ。」
...鈴木さん、言葉言葉。仮にも財閥のご令嬢なんだから、言葉遣いを気にしようよ。
呆れながらも、江戸川君に声をかける。
「呼ばれてるけど大丈夫?コナン君。ええと、コナン君でよかったかな、呼び方」
江戸川君はおかしいかなと思って、とっさに『コナン君』って呼んじゃったけど、馴れ馴れしかったかな?
「うん、呼び方は何でもいいよ、お兄さん。それと、蘭姉ちゃん達ならボクのことさっき見つけたぽかったから大丈夫」
「ならいいんだけど...」
確かに、毛利さんと鈴木さんがこっちに走ってくる。
...タイミング、逃したかも...。
「ああ、コナン君。もう、急にいなくなるから、心配したのよ?」
「あはは...ごめんなさ~い」
コナン君は笑いながら毛利さんに謝る。
...うん、まったく反省してない。これ、常習犯の反応だよ。
「えッと...、この人は?」
「蘭姉ちゃん達がさっき話してた人だよ」
「...え?ていうことは...」
不安げに顔を覗いてきたから反射で笑い返しながらも、自己紹介をする。
「...え~っと、ちゃんと話すのは毛利さん初めてだよね。鈴木さんは久しぶりかな?僕は天音響です」
「「え?えぇぇぇええええぇぇええ!?」」
「...ボリュームは抑えてね?」
あまりにもいい反応をしてくれたこの二人の好感度が若干上がった。
あ~あ、周りから注目されてるじゃん。
また、僕質問攻めにあうの?そんなの嫌なんだけどな~
周りの目に気づいた毛利さん達は、すみませんと周りに謝る。
その様子をコナン君は苦笑いで、僕はにこにこしながら見守る。
コナン君は一言言いたいようだけどね。
ちょっとの間、僕はコナン君を観察することにした。
髪型とか、ちょっとした動作は工藤君と全く同じで、やっぱり同人物なんだなとまた思ってしまう。
やっぱり分かっていても、本人に確認するまで疑うなぁ。
ずっと見ていたからなのか、コナン君は不意に僕の方を見上げた。
急に目をそらすのも悪いので曖昧に微笑みながら目線を毛利さん達に戻す。
...やっぱり疑われてるかな?
工藤君が考え事をするときにするポーズをしながらなんか考えてるから、ちょっとそんな風に思ってみたり...
...いや、確実に疑われてんなぁ、僕。
どうやったら疑いが晴れるんだろ?
「ちょっと園子ぉ、全然話と違うじゃない!」
「...それについては悪かったって、蘭」
もぉと頬を膨らます毛利さんと、その毛利さんをなだめる鈴木さん。
...仮にも財閥のご令嬢なんだから、言動はそれらしく振舞おうよ、鈴木さん。
...あれ?同じようなこと前にも考えてなかったっけ?
ま、いっか。
「...あのさ、さっきから言ってる『話』って何のこと?」
取り合えず会話に参加するとしよう。
流石に、これ以上は下からくる『疑ってます』って言ってるような視線に耐えれないよ。
「ええっと?...聞いて気を悪くしないでね?」
ああ、この子達は『誤魔化す』っていうことをしなのか。
...ふぅん、面白いじゃん。
結構好きかもな、こいつらのこと。
「うん、いいよ。大抵のことなら大丈夫」
「...ええっとね...」
...要するに、学校では誰とも話さなくて、教室にいるときいつも何かをしているか、寝ているし、いつも顔が見えなくて、常に誰も近よんなオーラ発しているから、ブスのコミュ障だと思ったんだってよ。
そういう演出をしてたから何も問題はない。
...ただ、面と向かって言われるのはなかなか面白いものだな。
思った通りの反応をしてくれて、そして望んだ勘違いをしてくれる毛利さん達は面白かった。
だから、心から笑ってしまったんだ。
こんなの、久しぶり過ぎてなかなか止まらなくて、それがまた面白くて、ずっと笑っていた。
毛利さん達はびっくりしてたけどね。
「なんで、そんなに笑ってるの?」
「いや、だってさ。思った通りの勘違いをしてくれんだもん」
そんなのって面白いでしょ?
そう、毛利さん達に返しながら目元に浮かんだ涙をぬぐう。
やっぱり、人間なんて単純だ。
みんな、見た目で判断する。
...だから、簡単に操れる。
「ねぇ、じゃあなんでお兄さんはそんなに悲しそうなの?」
「え?」
「だって、笑ってるけどとても悲しそうだよ?ねぇ、なんで?」
ああ、やっぱりこの子は工藤君だ。
僕のことを最初に見破ってくれたのも工藤君だった。
...きっと彼は覚えてないだろうけど。
「それは...。...きっと、なにもかも望んだとおりになったからかな」
でももう悲しくなんてないよ?
だって操れない、僕にとっての危険分子がそばにいるからね。
...それが言い表せれないほど嬉しかったんだ。
どうでしたか?
なぜ、主人公が「謎の青年」なのかはこれから分かっていきます。
もしかしたら、気づいた読者様もいるのではないでしょうか?
まあ、途中ですが文字数の関係で次回に続きを書いていきたいと思います。
次回も見てください!
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寂しそうな瞳
なので、そういうのが苦手でも大丈夫かと。
この話を見ていて、「こんなのコナンじゃない!!」と思われる方がいるかもしれませんがそこのところは目を閉じてください。
Are you ready?
それではどうぞ。
どう見てもおかしい。
さっきからずっと同じところで休んでいるのに、どんどん顔色が悪くなっていっている。
かなり離れた距離から見ているから、光の錯覚かもと最初は思ったが、あの色は死体の色だ。
ずっと見てきたからわかる。
...改めて言葉に直したらちょっとやばいな。
......いや、かなりヤバい奴だな、オレ。
そんなこと今はどうでもいい。
早いとこあの人の元に行かないと、下手したら救急車沙汰にもなりえるんだ。
「__天音響って、クラスメイトの天音君?」
「そうよ、あんなののどこがカッコいいのかしら?」
幸い、『天音響』について話していて、こっちに注意は向けられていないから今のうちに抜け出して、あの人の元へ急ごう。
...それにしても、『天音響』、か。
よく知りもしない人たちに勝手に悪口言われるってなんかご愁傷さまだな。
完全に他人事だから何も言わなかったけど、『天音響』っていう奴に同情する。
工藤新一の姿の時のクラスメイトっていうことで名前だけは聞いたことはあるけど、顔は見たことないし、しゃべったこともないから、どんな奴なんだろうっていう好奇心はある。
...ただ、近寄りがたい雰囲気っていうか、誰も自分に話しかけないでくれっていうオーラを発しているから、調べるまではいかなかったんだよな。
オレが今まで抱いていた『天野響』はそんな感じ。
ポケットに手を突っ込み、具合の悪そうにしているあの人の元にに歩いて行く間、クラスメイトの『天音響』について考えていた。
っていうか、この会場広すぎだっつの。
歩いても歩いても全く近づかない。
全然たどり着けないことに若干苛立ちながらあの人の元に向かう。
その途中に、たまたま目を上げてその人の顔を見た。
相変わらず顔色は悪いままで、ほんとに心配になっていて、ずっとその人の顔を見ていたんだ。
そうしたら...、目が開いた。
その時オレの周りの時間が止まった。
いや、正確にはそう錯覚しただけなんだけど、本当に時が止まったのかのような感覚に襲われた。
なんでそんな状態になったのか。
多分それは、彼の瞳に呑み込まれたからだ。
目が閉じたままの顔を見ていても、とてもきれいな顔をしているなと思った。
けど、目が閉じているのと開いているのとでは格が違った。
まず、その目に呑み込まれる。
何もかもに絶望したようなその目に、憂いの漂うその瞳に。
でも、絶望しているはずなのにその目には『希望』があった。
矛盾しているけど、その矛盾がまた美しい。
その不思議な目に吸い込まれた。
本とかで、よく目に魅せられるシーンがあるだろ?
それをまさに体感した、そんな感じだ。
純白の大地に一滴だけ銀を落としたような柔らかい銀の髪は、白い肌と碧い瞳にとてもよく合っていて、どこか作り物めいた感じがする雰囲気に仕上がっている。もちろん、それも彼の魅力の一つになっていた。
手足が細く華奢だということは服越しでもわかり、その手足のおかげもあってか精巧に作られた人形のようだと思った。
男に「綺麗」だとか、「美しい」とかそんな言葉は似合わないと思っていたが、彼のおかげでその先入観は吹き飛び、彼以上に「綺麗」という言葉が似合う人なんていないだろうとまで思った。
だけど、そこまで考えて我に返り、自分の頭を抱えて今すぐ叫びだしたい衝動に駆られることとなった。
何考えてんだ?オレ。
男相手にそれはないって。
流石に気持ち悪い、そんなこと考えていた過去の自分が無性に恥ずかしい。
流石に叫びはしなかったけど、その場で悶えた。
...恥ずかし過ぎる。
やっとのことでその衝動を抑え、再び顔を上げた時には彼の不思議と吸い込まれそうになる瞳は、瞼で遮られていて、見えなくなっていた。
そのことにほっとする自分と、逆にもっと見たかったと願う自分がいて、そのことに気づいてまたうなだれる。
...どうしたんだろ、オレ。
さっきからずっとおかしい。
その理由はいったい...?
いや待て、いったん考えることをやめろ。
最初の目的をちゃんと思い出せ。
あの人のことが心配なんだろ?
ならさっさと行って、やることを果たすまでだ。
そう考え直したオレはまた一歩、彼の元へ踏み出した。
案外早くたどり着いたオレは、この人の観察をする。
柔らかい銀色のまっすぐな髪は、前髪を後ろに流して固めてある。
近くで見て気づいたことといえば、この人、かなりいろんなことしてるってことと、まつげが長いこと、そして、かなりのお金持ちだってことぐらい。
腕は組んでて、手のひらが見えないけど、筋肉のつきもいいし、そのバランスもいい。
ということは、スポーツは何か一つだけではなくて何個か掛け持ちしてるか、それとも意図的にやっているか。 見た感じ、ヴァイオリンも経験者だろう、あごに独特のタコが残っている。
って言ってもかなり薄くなってるから、今はほとんどしてないんだろう。
...手が見れたら、触れたら、もっといろんなことが分かんるんだけど...。
初対面で急に手を触ってくるやつとか、普通に考えておかしいんでやんないけど。
...それにしても。
オレが最初見た時よりはましって言ったって、かなり顔色が悪い。
...大丈夫かなこの人。
「ねぇ、お兄さん大丈夫?顔色悪いよ?」
思いっきり“良い子”を演じながら問いかける。
まぁ、この人を心配しているというのは本当だから、このぐらい猫被るのは許されるだろう。
そう言い訳しながら、彼からの返事を待つ。
「あぁ、僕は大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
大丈夫じゃないくせに...
そうは思ったものの、まあ知らない子供に『大丈夫じゃない』なんていう人なんていないだろうなと考え直し、ちょっといじけた心を元に戻す。
きっと、
「ならいいんだけど...」
なら、こう答えるしかないだろ?
ま、顔色がかなり悪いとはいえ、回復してきているようだから、ほっといても大丈夫だろう。
...けど、名前は一応聞いとこうか、心配なことに変わりはないから。
今までつま先を見ていた視線を、この人の目の高さに合わせようと目線を上げる。
身長は、工藤新一よりかは低いけど、小学一年生のオレからしたら高いことに変わりはない。
そして、名前を聞こうとしたその瞬間、急に彼が目を開いた。
また、吸い込まれそうになる。
今度は距離が近い分、その威力はすさまじい。
だけど、一回見ているから少しは耐性ができていて、耐えることはできた。
...それにしても、さっき一瞬見せたあの驚いた表情にどんな意味があるんだろう?
...見間違いかな。
それにしても、急に目が開いた時たほんとびっくりした...。
今もまだ、吸い込まれそうな感じは健在してるし...。
...それに何より、背景に花が見える。
青年、成人男性っていうよりかは、少年っていう表現が正しいかも。
...というより、外見が整いすぎてて、「どこかの国の王子です」って言われても納得できる自信がある。
...じゃなくて!
オレは何がしたかったんだ?!
名前を聞こうとしてたんだろ?
...いちいち目的を忘れるな、オレ。
...この人に会ってから、なんかどんどん自分がおかしくなってる気がする...。
気のせいだと信じたい...。
「ねぇ、お兄さん名前は?」
もう、何も考えずにそう聞く。
考えたらきりがないから。
「え?あぁ。僕は響、天音響だよ」
...え?
『天音響』って、さっき蘭達が噂してたあの『天音響』か?
嘘だろ...。
こんな美形、背中に花を背負ってる王子様みたいな奴学校にいないぜ?
同姓同名か...?
すごい確率になるけど、きっとそうだ。そうに違いない。
だって、オレの知っている天音響は、ずっと一人でいるマスクマンだ。
...こんな美形なら顔を隠さずに自慢するだろ。
オレなら多分そうする、てか絶対そうしてる自信がある。
「君の名前は?」
こんなにグルグル考えていたオレは、悩ませられている張本人にそう聞かれて、一旦考えるという機能を完全に停止させた。
...もうだめだ。
これ以上考えたらパンクする。
「ボクは江戸川コナンだよ」
もうこの名前を言うのにもかなり慣れてきたが、その慣れてきたという事実が胸に突き刺さり、少しだけ胸が痛む。
そういう感覚にも、嘘をつくという感覚にもかなり慣れてきた。
きっといつか、こういった感覚が麻痺して、何にも感じずに嘘をつけるようになるのだろう。
...いつか来るその時に少し恐怖し、その感情から逃げるように、思考の渦から抜け出し現実世界へ戻る。
...またこの渦に引きずり込まれそうになり、咄嗟にこの人、『天音響』に話しかける。
「?お兄さん?どうしたの?さっきからずっと固まってるけど...」
いや、固まってたのはオレのほうだけどね。
ま、天音さんも固まってたしいっか。
下から天音さんの顔を覗きながらそんなことを考える。
「いや、なんでもないよ。ただ、君が僕の知ってる人に似ててね。それで少し考え事をしていたんだよ」
だから、心配しないでねと彼は
オレに心配させないために。
...なら、寂しそうに笑ってんじゃねえよ。
余計心配するだろ、そんな
逆効果に決まってんだろ。
...それに、オレに似た人を知ってる。そうさっき言ったよな。
...それはどうとらえればいい?
仮に、彼がオレの知ってるクラスメイトの『天音響』だったとして、工藤新一に似ているってことか?
それとも、オレが知らなくて、彼が知っている人に似ているっていうことか?
前者の場合、あの黒の組織の人間っていう線が濃くなる。
クラスメイトに組織の人間がいたっていうのも驚きだが、それ以上に蘭達が危険だということの方が重要だ。
オレが生きていると組織にばれたら、今度こそオレは殺されるし、きっとオレと近い人たちも殺される。
できれば違っていてほしい考えだ。
そして、後者の場合何の心配もない。
ただ似ている人がいるってだけでどうこう...、なんてことにはならないだろう。
そしてもう一つ心配なのは、この人もオレと同じように何かを考えているということだ。
きっと考えている内容は違うだろうが、なにか引っかかる。
こういう時のオレの勘ってかなりの確率で当たるから、少しこの人のことは注意して対応した方がいいかもしれない。
「__ン君?コナン君?どこ~?いるなら返事して~?」
「ガキンチョ~、ったく、すぐいなくなるんだからアイツ。」
げ、蘭達だ。
オレが蘭達から離れてかなり時間が経つから、いなくなったことに気づかれても仕方ないか...。
けど、まだこの人と話したいしなぁ...。
聞きたいことがまだ残ってるのに、タイミング悪すぎだろ。
どうかバレませんように!
...うん、わかってたよ。すぐにバレることなんて。
「呼ばれてるけど大丈夫?コナン君。ええと、コナン君でよかったかな、呼び方」
「うん、呼び方は何でもいいよ、お兄さん。それと、蘭姉ちゃん達ならボクのことさっき見つけたっぽかったから大丈夫」
「ならいいんだけど...」
蘭達が急いでここにやってくる。
その様子をオレと天音さんは見ていた。
「ああ、コナン君。もう、急にいなくなるから心配したのよ?」
手を腰に当てて、少し頬を膨らませながら蘭はそう言う。
申し訳ない気持ちもあるが、こういうことは何度もやってきたからこうやって軽く怒られることに慣れているため、誤る言葉の重みも軽くなる。
「ごめんなさい」
この言葉は、ほんとは軽い言葉なんかじゃないけど、軽くなるくらい言い続けているってことだ。
そのことにも罪悪感を感じ、
...いつになったら本当のことを話せるようになるのか。
...そもそも、本当のことを話せるのか。
話す条件は、蘭達に危険が及ばないことだ。
そのためには、組織を壊すこと。
...そして、元の姿に戻ることだ。
まだ、不安は残る。
そのせいで、蘭達に危険が及ぶ危険だってある。
仮に、組織を壊せたって元の姿に戻れないかもしれない。
普通、毒を作る場合は解毒剤も作っているだろう。
ただ、オレが飲んだのは試作品だと奴らは言っていた。
もう毒が完成していて、試作品の情報や解毒剤はもう残っていないかもしれない。
最悪、一生この『コナン』のまま生きるのかもしれない。
もしかしたら、薬の副作用で今この瞬間にも死ぬのかもしれない。
...いや、もうやめよう。
これ以上考えたってきりがないから...。
「えっと...、この人は?」
やっと傍にいる天音さんの存在に気づいたのか、戸惑いながらオレに聞いてくる。
なんで気づかなかったんだろう?
こんなに存在感があるのに...。
いや、違う。
存在を消してたんだ、この人。
なんで存在を消していたのかはともかく、ここまで完璧に消せる人初めて見た。
一瞬だけ存在を消して、すぐに戻ってきたからオレに違和感はほとんどなかったけど、やっぱりわかる。
...いったい何者なんだろう、この人。
「蘭姉ちゃん達がさっき話していた人だよ...」
蘭に話しているが、視線は蘭ではなく天音響、その人に向けていた。
蘭は「...え?ていうことは...」と言ってるぐらいだから信じられないんだろう。
...まぁ、仕方ないと思う。
学校とこことでは印象が違い過ぎるから。
でも、ミステリアスなところは全く変わらない。
蘭が不安そうな顔をしているからなのか、安心させるような笑みを浮かべながら、壁にもたれていた上半身を起こして、組んでいた腕もほどいて正面から蘭を見つめる。
...そんな些細な動作も様になっているななんて考える自分を頭から締め出しながら、蘭の方を見る。
...これ以上天音さんを見ていたら、なんか自分がおかしくなりそうだから。
...それに、この人が持つ独特の色気を正面から浴び続けるのはもう無理...。
「...え~っと、ちゃんと話すのは毛利さん初めてだよね。鈴木さんは久しぶりかな?僕は天音響です」
「「え?えぇぇぇええええぇぇええ!?」」
ほんと、こいつら素直だよな...。
気づかないうちに小学生らしからぬ苦笑いになっているのは気づいていたが、これは止められないだろうと思い、ほっとくことにする。
「...ボリュームは抑えてね?」
そう言った天音さんは少し困ったように、でもすごく楽しそうに笑う。
...なんだ、笑えんじゃん。
そう思ったが、やっぱり目の奥は寂しそうだった。
何がこの人をそこまで寂しそうにさせるのだろう?
そう思ったが、声には出さず視線を蘭達に戻す。
すみません、すみませんと周りの人に謝り続ける蘭達の様子に、治まり掛けていた苦笑いが再発する。
...恥ずかしい。
蘭達らしいといえば聞こえはいいが、考えてみてくれ。
この状況にいつも付き合わされているオレのの心情を。
...オレも蘭達と一緒になってあんなふうになることもあるが、大体こうやって苦笑しながら眺めている。
あんなふうになっている蘭達を見ていられなくて天音さんの方を見る。
...目が合った。
また、時が止まる...。
そして、天音さんは微笑みを浮かべてオレから目を逸らし、混じった視線がほどける。
...時は進みだした。
...だけどオレは、その進み出した時の流れから取り残されて、茫然とそのままの状態で止まっていた。
...一つ、思い出したことがある。
オレはあの瞳を知っている。
昔、どこかで見たことがある...。
どこだったっけ...?
蘭と園子が何かを話しているが、そんなことはどうでもよくてそのことだけがオレの頭の中を支配していた。
じっと天音さんを見つめながら、ひたすら考える。
もう少しで出てきそうなんだ...。
考えろ、思い出せ...思い出せ...!
でも、そこまで考えても思い出せなかった。
多分、だいぶ前の記憶なんだろう。多分これだろうと思う記憶を取り出せはしたが、もやがかかっていてはっきりとは分からない。
もしかしたら、天音さんが知っているかもしれない。
だから聞いてみるか?
そうも考えたが、きっとこの記憶は工藤新一の時の記憶だ。
...というかそれ以外にはありえない。
だから聞こうにも聞けないし、...大体この記憶があっているかどうかも怪しい。
もし事実だったとしても、この人が覚えているという根拠もない。
ということは、オレが完全に思い出すまではこの謎は謎のまま...
なんか、すごく悔しい。
この人に聞けばわかるかもしれないのに、聞けないのももどかしい。
...すぐ傍にこの謎を解く鍵があるのに、絶対に使ってはいけない。
...なんか少し違うけど、絶対に開けてはいけないといわれたパンドラの箱みたいだなと思った。
...
...少しマイナスになり過ぎた。
こんなんじゃダメだ。
ポジティブにいかないと精神的によくない。
そう思い、ポジティブ思考に切り替えようとする。
そんな時、笑い声が聞こえた。
心の底から楽しそうに笑う声。
...でも、どこか寂しそうに聞こえる声。
この声は...?
いつの間にか下がっていた視線を上げ声の主を探す。
...いや、探さずとも分かっていた。
こんなに寂しそうに笑う人は一人しかいない。
...こんなに心を掴んで離さない声の持ち主は、『天音響』だけだ。
オレが泣きそうになった。
なぜな泣きそうになったのかは全く分からない。
でも、一つ推測を上げるとするなら、きっとそれは...
今もなお心を掴まれているからだろう。
だから言ってしまった。
止めようがなかった。
心から発した言葉だから。
頭からではなく、心から発した言葉だから。
「ねぇ、じゃあなんでお兄さんはそんなに悲しそうなの?」
心から思った言葉だった。
蘭達はオレの言った言葉の意味が分からずきょとんとしている。
...まあ、そうだろうな。
普通、そんなことをさっきの笑顔を見ても分からない。
それにオレは今、小学一年生だ。
こんなガキが何言ってんだと思っても仕方ない。
...でも、周りの目なんてどうでもよかった。
今大事なのは天音響だけだ。
今もなお、さっきやっと思い出した記憶にはもやがかかっていて、この人のことは全く思い出せていない。
やっぱりオレとはなんの関係もないのかもしれない。
でも...、それでも今は、目の前で驚いているこの人がとても大事なんだ。
「え?」
「だって、笑ってるけどとても悲しそうだよ?ねぇ、なんで?」
驚いたように聞き返してきた天音さんに、そう言い返す。
すると、今まで驚いていた天音さんは、ふいに顔をほころばせた。
そして、とても愛しげにオレを見たんだ。
...なんでかは分からない。
この人のことになると分からないことだらけだ。
そして、口を開いてオレにしか聞こえない声でそっと囁く。
「それは...。」
それは?
オレはその先の言葉を早く聞きたくてうずうずする。
そんな様子を分かってかどうかは知らないけど、小さく笑いながら___
「...きっと何もかも望みどうりになったからかな」
___そう言った。
そう言った彼の顔には幸せそうな笑顔があって、
...もう、寂しそうな様子なんて一欠けらもなかったんだ。
その言葉の意味は、オレにはまだよくわからなかったけど、すごく嬉しかった。
オレにだけそう教えてくれたことが、...その笑顔が見れたことが。
だから。
オレも彼に微笑みかけた。
その時の『嬉しい』の裏に隠れた感情の名前は、今のオレには分かりそうにもない。
今回はコナン視点でお送りしましたが、ちゃんとコナンしてましたかね?
前の話のところから一歩も動いていないのですが、どうしてもコナン視点は入れておきたかったので入れました。
次回は絶対進めますので是非読んでみてください。
それではまた。
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月光
少~し話は進みますので、待っていた方はお待たせいたしました。
前回はコナン視点でしたが、今回は響視点です。
Are you ready?
それではどうぞ。
僕らはお互いがお互いに微笑みかけながら見つめ合っていた。
なんで彼が僕に笑いかけてくれているのかは分からない。
だけど、僕だけに笑いかけてくれているという事実が、どうしようもなく嬉しかった。
...嗚呼、やっぱり...。
......僕は彼が好きなんだ。工藤新一が江戸川コナンになってしまっていても、この感情だけは変わらない。
どうしようもなく愛おしいという気持ちが溢れ出してくる。
...僕に人を好きになる資格なんてないなんてこと百も承知だ。
まして、闇を暴く光をを愛す権利なんて。
でも、この感情にだけは嘘をつきたくなかった。
今までさんざん色々な人に、事に、モノに嘘をついてきた。
自分にでさえ、だ。
だからこそ、この一つの感情にだけは嘘をつきたくない。
...甘いよね、僕なんかの分際で生意気だよね、分かってる。
でも、それでも嫌なんだ。
諦めるなんて、何もせずに毛利さんに渡すなんてことしたくない。
これが僕の本心だ。
「...あの、何の話?ごめんね、コナン君が何を言ってたのかわからなくて」
せっかくコナン君と正面から見つめれる絶好の機会なのに、毛利さんにこの状況を破られてしまった。
新一君の大切な人だし、彼女自身もいい人なので、直接手をかけるなんてことは絶対にしない。
彼女が危険にさらされて、新一君が助けに行き新一君がけがをするなんてことになるのが嫌だから、もしそうなった場合は、僕が助けてあげよう。
...でも、それは新一君のためであって、毛利さんのためではない。
だが、仲良くなっていて損はないので、あの一言のせいでコナン君から目を離さざるおえない状況になって、僕が怒っていたとしても、態度には表さないさ。
...すごく怒っているのは紛れもない事実だけどこの感情には嘘をつこう。
新一君の思いには嘘をつかないが、ほかの感情には嘘をつく。
どうでもいいから。
「いや、わからなくていいよ。それで、僕がブスでコミュ障って話だけど、実際に話してみてどうだった?」
僕は感情を殺して、微笑みを浮かべながら毛利さん達に問いかける。
...別に、さっきの会話の意味は君たちには分からなくていい。
ただ一人、新一君が分かってくれていればそれでいいんだから。
「うーんと...。想像と違うくて...、...勝手に変な想像をしてしまってごめんなさいという気持ちばかりかな...」
歯切れ悪く毛利さんはそう答える。
「...勝手なことを言ってごめんね?天音君」
「私も勝手なこと言ってごめん...」
でも、「ごめん」と言った彼女たちは、ちゃんと僕の目を見ていた。
だから。
「...いや、大丈夫だよ。毛利さん達みたいに目を見て謝ってくれるなら、僕は何の文句もないさ」
そう言って毛利さんと鈴木さんを安心させようと思った。
...そもそも、そう思われるように工作したのは僕自身であって、その思惑に素直に乗ってくれて、むしろ感謝の気持ちもある。
...要するに悪いのは、元をたどれば僕だってこと。
...それなのに、彼女たちを悪く言うなんてことできるわけがない。
でも毛利さんと鈴木さんは、謝ったというのに気が晴れないらしく、申し訳なさそうな目で僕を見ながらうなだれていて...。
...後ろに、垂れた犬のしっぽが見える。
...さて、どうすればこの子達の気が晴れるかな?
横にいるコナン君もとい新一君は、さっきからずっと俯いてしまっていて表情が分からないけど、これだけは確かだ。
助けは来ない。
この状況を簡単に打破できそうなのは彼ぐらいだというのに...。
別の手はないのかな...。
あまりにも困っていて、それが表情に出ていたのだろう。
僕の顔を見た毛利さん達はまた体を縮こませる。
完全に恐縮しきってしまっていた。
...こんな様子だと、何を言っても逆効果な気がするなぁ。
なら、あえて何も言わずに別の話に変えるか。
...あぁ、その前にやらないといけないことがあるんだった。
「...あの、毛利さん、鈴木さん。一つだけお願いがあるんだけど...聞いてくれるかな」
「?はい、何でしょう?」
「私にやれることなら何でもします!!」
...あのねぇ、「何でもします」っていうのは、悪い奴に言っては絶対にいけない言葉だって知ってるかな?
僕は、その悪い奴その一みたいな人間だから、その言葉を利用することだってあるんだよ?
...新一君の大切な人たちだから絶対に利用しないけど、自分の言動にはしっかり責任を持たなきゃ。
...まぁ、鈴木さんの場合、興味があるのは僕の顔だろうから、そう言えるんだろうけど...。
少し心配になるよ、
下手したら、利用されて潰れるってのがオチだからね。
...今はどうでもいいか。
それよりも大切なのは、《お願い》の方だね。
「お願いっていうのは、僕が噂のような人じゃないって言わないでいて欲しいっていうこと。」
...まぁ、そういう反応になるのは分かってたけどさ。
何もそんなに驚かなくてもいいじゃん。
鈴木さんに関しては、いかにも残念そうだよね?
あとで言いふらそうとでも思ったのかな?
...さっきみたいに叫ばないでいてくれただけましだと考えよう。
「...あのね、この顔で学校に行くと目立つでしょ?
まあ、今も目立ってるのは自分でも分かってるけど、今は噂のおかげで面倒なことになってないわけ。
...この顔を見せたとたんに学校のアイドルとか、王子様になる気は全くないんだ。というより、そうなりたくない。
だから、僕のことは誰にも言わないで。
...いつかはこんな顔してるってバレるだろうけど、今はこのままがいいんだ。
...分かってくれるかな?」
きっと、普通の人なら目立ったって大丈夫なんだろう。
光の下を歩いても平気なんだろう。
...でも僕は違う。
僕みたいに悪事を重ねた人は、重ねた回数分、日の光を浴びて自由に歩くことなんて出来なくなる。
一回、闇に足を染めたものが日を浴びて歩こうとすると、自分の体に鎖が巻き付いてきて行く手を阻む。
ただでさえやりにくいのに、無駄なことで貴重な時間を奪われたくない。
これ以上時間を増やしたら僕は壊れてしまう。
...形も残らないだろうね。
「...うん、分かった。それで許してもらえるんだったたら、誰にも言わないって約束する」
「私も約束するわ」
証人は新一君だから、もし言いふらしたら新一君からの信頼が失われる。
ついでに、僕の信頼も。
...信じてもいいかな。
目を見る限り嘘はついてない。
少し鈴木さんが心配だけど、...毛利さんが止めてくれることを祈ろう。
「ありがとう」
とりあえず交渉成立っていうことで感謝の意を伝える。
まぁ、言いふらされても、その言葉を信じるかどうかは分からないし、いつかはバレるだろうと思っていたから別にバレてもいいや。
その時はその時で対処しよう。
「じゃあ、毛利さん、鈴木さんそれにコナン君。引き続きパーティーを楽しんでね」
微笑を浮かべながらそう言い、毛利さんの横を通って毛利さん達から離れようとした。
そして、やっぱりやめた。
「...ごめん。もう少しでパーティー終わるからさ、もうちょっとだけ此処に居ていい?」
僕の姿を見つけて群がってくる人たちを指さしながら、毛利さん達にそう言う僕の顔はきっと引きつっていたことだろう。
彼女たちの姿を見て状況を察してくれた毛利さんと鈴木さんの陰に隠れながら、ほっと息をつく。
しまった。
あの人達がいるっていうことを考えてなかったな。
彼女たちは僕が出てくるのを今か今かと待ち構えていて、その目は肉食獣のごとくギラついている。
言っとくけど、僕は捕食対象じゃないからね。
君たちに喰われるわけにはいかないんだ。
どう切り抜けばいいんだろう?
間違いなく僕が嫌だといっても聞き入れてくれないだろう。
パーティーが終わった後でも多分質問攻めにあうだろうし...。
本当にどうすればいいんだ?
途方に暮れるってこういうことを言うんだろうなぁ、なんて現実逃避をすることぐらい許してほしい。
彼女たちのせいで落ち着いてご飯も食べれてないし、既に頭を使い過ぎていてもうなんにも考えれないし、ストレス溜まってるし、明日学校行かないといけないこと考えたら確実に明日もまた睡眠不足だろうし、もう最悪。
このパーティーのおかげで新一君を見つけれたのはラッキーだったけど、よかったことといえばそのぐらいだ。
もう嫌だ。
ほんとに群がる人間なんて嫌い!
どうせアイツ等は、僕のことなんて見ていない。
顔、外見、権力、金、情報網、...裏社会の権力。
僕の背景にあるものにしか興味がないんだ。
...汚い......、汚い...、汚い、汚い汚い汚い汚い汚い汚い!
全っ然綺麗じゃない。
汚いものは嫌い。
今までずっとそれは変わらない。
...なのにどうして。
僕の周りにはそういう奴しか集まらないんだろう...?
...あぁ。理由なんてわかってるさ。
...それ以外に理由なんてないだろう...?
自嘲的な笑みを浮かべて、目を伏せる。
...別にいいんだ。
汚いことにも...もう、慣れた。
「...天音君、大変だね。顔が綺麗だし、性格もいいから、きっとそれにつられるんだね」
...それは本気で言ってるの?毛利さん。
僕の性格がいい?
...ありえない。
毛利さんが見ているのは偽物。
僕が作った設定どうりに
...君は心が綺麗だから、そう疑いもせずに
......ダメ、信じちゃダメなんだ、毛利さん。
僕はそんないい奴じゃないから信じないで。お願いだから...。
...でも、気づかないでいて欲しいんだ。
僕が汚いってことに。
「...そうだったらいいけどね。ねぇ、毛利さん鈴木さん。僕のことは響でいいよ。天音君は堅苦しいから」
そう笑いながら言う。
天音君って言われるのはあまりいい気がしない。
響君って言われるのもあんまり好きじゃないけど、それが自分の
『天音』は本当の家ではないから、そう呼ばれると天音家に申し訳なくなる。
実質、一人で今まで生きていて、天音家にお世話になったことも返せてはいると思う。
...でも、『父さん』には名前を貰った。
住む家も、僕の居場所も、いろいろなものを貰った。
...生きる価値のないこの僕によくしてくれた。
僕のこの特技を生かせる仕事を紹介してくれたし...。
...まぁ、僕の使い勝手がいいからって、自分の面倒くさい仕事を押し付けてくるのは困るけど、それで今までの恩が返せるのならなんだってするさ。
『父さん』に貰った、天音という姓は、今の僕に名乗る権利なんてないと思う。
そう言ったら父さんは笑って否定するだろうけど、本当にそう思うんだ。
だから、天音よりも響の方がいい。
...まだそっちの方が罪悪感が少なくて済む。
名前を名乗る価値すらないと思うんだけどね。
「分かった、響君。私のことも蘭でいいよ」
「私のことも園子でいいわよ」
別に君付けじゃなくてもいいんだけど...。
まぁ、そんなことどうでもいいか。
それより、さっきから顔を床の方に向けながら無言の新一君が気になる。
気のせいかもしれないけど、耳が赤いような気がするし...。
大丈夫かな?
いや、このことも少し置いておこう。
それより問題なのは、僕目当てのお嬢様方の群れなんだよね。
もう少しでパーティーが終わるって言っても、まだ30分は残ってる。
パーティーが長引くかもしれないし...、そう考えると全然もう少しじゃないんだよなぁ。
もう少しでもうr...じゃなくて、蘭ちゃんと園子ちゃん、そして新一君の存在を無視してこっちの会話に乱入してきそうで怖い。
あながち間違ってないと思う。
...だって、僕らと彼女たちの距離は最初結構あったはずなのに、今じゃ目と鼻の先だよ?
どんどん近づいてきてるんだよ?
...何にもないっていう方の確率の方が低いと思う。
それに、本音を言えば新一君と一対一で話がしたい。
...少しリスクはあるけど、やっぱり早いうちに話して、信頼を得る方がいい。
下手に隠し続けたら、それこそ「疑ってください」って言ってるようなものでしょ。
だから、今のうちに疑われて、その疑いを晴らしたらいい。
きっとそっちの方が近道だ。
さて、そうなると...。
新一君をうまく使って、彼女たちから逃げ、尚且つ、蘭ちゃん達からも離れて、二人きりの状況を作るっていうことだよね?要約すると。
案外、簡単かもしれないね。条件が多すぎて、選択肢が少ないってだけで。
...ううん、かなり難しいよこのミッション。
遂行できるかな...。
さっきやっと顔を上げた新一君が蘭ちゃんと園子ちゃんと話すのを眺めながら考える。
壁にもたれ掛かっているからか、一番しんどかった時よりかは体力は回復した。...って言っても全体値からしたらほんのちょっとだけど。
...ん?
壁?
僕は今どこにいるんだっけ。
...出入り口付近の壁にいるんだよね。
...なんだ、簡単じゃん。
このミッション、遂行できる可能性が一気に上がった!
あとは、上手いこと新一君を蘭ちゃん達から引きはがそう。
それができたら、もう僕の勝ちだ!
...いや、別に勝ち負けではないんだけど。
「ねぇ、蘭姉ちゃん。ボク、外に行ってきていい?」
「だぁーめ。危ないから一人で行っちゃだめよ」
...ねぇ、神様?
今まで、神様なんてこの世にいないと思ってたけど、ほんとはいるんだって今確信したよ。
...いや、やっぱりこの世には神様なんていないや。
だって、いたらきっと僕というものはこの世にいないはずだから。
今までの辛いことなんてなかったはずだから。
「なら、僕と一緒に行こうか。コナン君。彼女たちから離れたいし、僕ならちょうどいいと思うんだけど...。どうかな?蘭ちゃん」
「響君がいるなら別にいいけど...。いいの?」
「あの子たちよりかはマシ。それに、コナン君と話したいことが少しあるから、二人きりの方がよかったんだ」
「そっか。じゃあ、気を付けてね」
「了解。じゃあまたね」
新一君に僕も一緒に行くことについて、了承を取らなかったけど、なにも言わないから別にいいかな?
「コナン君は、別の部屋に行きたいの?それとも、外?」
「ボクは...別にどこでもいいよ。お兄さんが行きたいところでいい」
行き先を尋ねると、そんな答えが返ってきた。
...なんで、外に出たかったんだろう?
行き先はどこでもいいから、取り合えず部屋から出たかったっていうことかな。
...まぁ、どこでもいいって言うんだったら、僕の好きにさせてもらうよ。
でもその前に、ついてきたお嬢様方を撒かないと...。
「...ねぇ、コナン君」
「なに?」
「足音聞こえるよね」
「うん」
「多分、僕に用事がある人たちの足音だと思うんだ」
「ボクもそう思うよ。足音の数が多いもの。ほとんどヒールの音だから間違いないと思う」
「だよね」
そう話しながら、曲がり角を曲がっていく。
幸い、この屋敷は、曲がり角がたくさんあって迷路みたいになってる。
...っていうか迷路になってる。
あの鈴木のじいさんが好きそうな建物だよ。
まぁ、そのおかげで撒きやすい。
一回、彼女たちから逃げるときに入ったから、道は全部把握している。
隠し通路、隠し扉も然り、だ。
僕が見つけた中でも、もっとも見つかりにくい隠し扉をくぐり、隠し通路に入る。
ポイントは、この隠し通路の中も迷路になっていることと、この中にも隠し扉、隠し通路が存在するっていうことだ。
「...ねぇ、ここどこ?」
「えぇと...、簡単に言ったら、隠し通路の中の迷路かな?」
「...なんでこんなところ知ってるの...?お兄さん...」
この人はいったい何者っていう目で見られて、思わず苦笑いになる。
新一君...、あんまり考えてることは表に出さない方がいいと思うよ。
まぁ、こんなところ見つけれるのなんて、勘のいい人か、洞察力のいい人だろうから、そういう顔になるのも仕方ないのかもしれないか。
「...うーん。...たまたま、かな?」
「...そう」
うん、信じられてないね。
...流石に、そんなに疑ってますオーラ出されたら傷つく...。
気にしない、気にしない。
ということで、新一君の視線は無視して先へ進む。
一番奥の行き止まりになっている場所まで行くと、本棚がたくさんあって、図書室的なところになっている。
その本棚に入っている本の位置をずらしたり、壁をノックしたりすると、計5個もの隠し扉が隠されていて、これまた一番めんどくさい手順を踏んだ隠し扉に入る。
後ろから聞こえた、「この人、ほんとに何者だ?」っていう声なんて聞いてない聞いてない。
っていうか地が出てるよ、新一君...。
でも、その後ろに息を呑む音が聞こえたから、プラマイ0っていうことにする。
いや、プラスにいくつか入ってるかな?
でも、息を呑む気持ちはよくわかる。
僕も初めてこの部屋に入った時は息を呑んで、ただひたすら感動してたから。
ちょうど今の新一君みたいに。
僕は、初めてこの部屋を見つけてからずっと一番好きだった。
静かだし、綺麗だし、何より雰囲気が好き。
全ての家具はアンティークで、年も統一されている。
まるで、中世の帰属にでもなったような錯覚になるから、すごくそれが楽しい。
床は、レッドベルベットのペルシャ絨毯で、裏側から模様を見ると、かなり複雑で華麗だったので、これをオークションにかけたらかなりの値段になるはずだ。
ここの家具全てをオークションにかけようものなら、普通に億はいく。
天井にはシャンデリア。これまた本物のアンティークだ。
カーテンは、絨毯と同じベルベットだけど、紅というよりかは、黒に近い色をしている。
窓枠もご察しの通りアンティークで、この窓からは普通に外が見える。
月は雲に隠れて見えないのが残念だけど、今日の予報は雨のはずなので、仕方ない。
外には、バラ園になっているらしく、美しいバラたちが咲き誇っている。
壁には、絵画が飾られている。
風景画で、外国の風景が描かれている。
ちなみに、今僕らが入ってきた扉もアンティークである。
この屋敷を作った人は、ものすごくセンスがいいと思う。
ぜひ、一回は会ってみたい。
さて、この部屋に来たのは、ただ、この部屋を新一君に見せたかっただけじゃない。
もちろん、見せたかったのは本当だし、あの子たちから逃げるために来たっていうのもある。
...でも、一番の目的は、新一君と話すためだ。
この部屋には誰も来れない。
話し合いをするのにはうってつけの場所でしょ?
電気をつけようにも、この部屋には電灯はないので、テ-ブルに置いてある三又の燭台と、棚の上に置いてある同じ燭台にライターで火をつける。
暖炉があるから、そこに火をつけたら一発なんだけど、今の季節じゃ少し暑い。
部屋の隅にある本棚の前にいる新一君は、原本版のシャーロックホームズを見つけて、さっきからずっと目を輝かせながら、「すげぇ!」と連発していた。
気に入ってくれて何よりだよ。
僕が初めてここに来た時にそれを見つけたから、ここに新一君を連れてこようと思ったんだ。
そのの光景に目を細めながら、本当に彼を連れてきてよかったと思った。
「どう?コナン君。気に入ってくれた?」
「うん!ありがとう、響兄ちゃん」
...ねぇ、今の見た?聞いた?
本を両手で抱えながら目を輝かせて、満面の笑みで僕のことを「響兄ちゃん」って言ったんだよ?
...本当にここに連れてきてよかった!
でも、本当の目的を忘れるな、自分。
ここに来た目的は彼と話をするためだろう?
ちゃんと思い出せたのなら、さっさと行動に移せ。
「ねぇ、コナン君。椅子に座ったら?パーティの時はずっと立ちっぱなしで疲れたでしょ?」
「うん。そうする!」
そう言うと、新一君は素直に僕が言ったことに従う。
ここの椅子は普通の椅子よりかは低めだけど、やっぱり小学生の体には大きかったようで、足は宙に浮いている。
そんな姿にもかわいいなぁと思いながら、僕も彼にならって椅子に座る。
あぁ、もふもふで座り心地がいい...。
そんなことに幸せを感じながら、ポケットからクッキーを取り出す。
「...なんでクッキー?」
そうぼそりとつぶやいた新一君の声はちゃんと僕の耳に入っていた。
クスリと笑いながら、なんでクッキーを持ってるのかの解説をする。
「なぜかというと、食べる時間がないからなんだよ。簡単に言ったら。
ほら、僕さいろんな人と話してるでしょ?
食べながら話すのは失礼だから、絶対に話してるときは食べないようにしてるんだ。
そうすると、僕と話をするために近づいてくる人はたくさんいるし、一人一人話してる時間が長くて、やっと終わったって思った時にはもう時間的に何も食べれないんだよ。
だからこうやって絶対誰入ってこないところにきてクッキーみたいな簡単なものを食べたり、帰りに車の中で食べたりするんだ。」
あぁ、なるほどとうなずく新一君を見て、食べるのを再開する。
うん、美味しい。
「あぁ、コナン君もいる?たくさんあるから食べていいよ」
「...でも響兄ちゃんのごはんでしょ?食べられないよ」
そういう新一君は、困ったように首を横に振る。
こんな様子じゃ、僕がに何を言っても食べないなと判断した僕は、椅子から立ち上がって、新一君の横へ移動する。
このクッキーは僕の自信作だから新一君に食べて欲しい。
...だから。
僕は、新一君の顎に指を添え、僕の方に顔を向けさせる。
新一君は、今の状況が理解できないのか困惑した表情でで僕を見ている。
そんな表情もかわいいなぁ、なんて考えながら僕は、親指で新一君の柔らかい唇に触れ__
___左手に隠し持っていたクッキーを押し込んだ。
「!むぐぅ...」
目は大きく見開いたままだけど、ちゃんと口を動かしてクッキーを食べている。
その様子を見届けてから元々座っていた席に戻り、自分もクッキーを食べる。
さっき食べた白と黒の四角いリバーシブルクッキーも美味しかったけど、この丸いクルミクッキーも美味しい。
「...な、なんで?...美味しかったけど、いらないって言ったじゃん」
「僕が作ったから、コナン君に是非食べて欲しくて。迷惑だった?」
ならごめんと謝った時の顔はきっと悲しそうにしていたのだろう。
僕の表情を見た新一君は慌てて、迷惑じゃないよとそう言って、クッキーを食べる。
...わざとそういう顔にしたのは秘密だ。
内心、そう笑っていた。
まぁ、嬉しそうに笑ったのは事実だけどね。
少しの間、二人ともクッキーを食べていた。
その二人の間には、会話はなくクッキーを食べるサクサクという咀嚼音がこの部屋唯一の音だった。
でも、そんな沈黙は重いものではなく、逆に、二人にとってはリラックスできる時間だった。
でも、もうそろそろ本題に入らないといけない。
「...ねぇ、コナン君」
「ん?なに?」
そう返ってきた声は、ただ純粋に疑問の色しかなかった。
「僕さ、君と話したいことがあるって言ったよね」
「うん。蘭姉ちゃんにそう言ってたね」
...さぁ、話さなきゃ。
ここから始まるんだ。
ここから始めるんだ。
「...君は__」
そう話し始めた僕の声は、途中で止まる。
...でも。
「__工藤新一君、だよね」
そう切り出した。
その時、さっきまで見えなかった月が姿を現して、僕らを見つめた。
まるで、ここから始まる話を見届ける道しるべになるとでもいうように。
大事なお話をするシーンを最初は入れる予定だったのですが、字数的に、多くなりすぎてしまったので、断念いたしました。
そこを楽しみにしていらっしゃる方にはほんとに申し訳ありません。
ちゃんと書きますので、しばしお待ちください。
それではまた。
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スタートライン
更新が一週間遅れて申し訳ありません。
今回でやっとパーティー編が終わります。
...思ったよりも終わるのに時間がかかってしまいました(汗)
!注意!
キャラ崩壊(主にコナン)している節があります。
不快感感じましたらすぐにこのページから抜けましょう。
Are you ready?
それではどうぞ。
月が綺麗だなんて思うのはきっと現実逃避だ。
さっきから固まって動かない新一君を見てそう思う。
目の色を見てもらったら誰でもわかると思うが、完全に別の場所に行ってる。
薄く口を開いて、目は大きく見開きピクリとも動かない。
彼がこの状態になったのは、どう考えてもさっき僕が放った僕の言葉のせいだろう。
「君は工藤新一君だよね」
この言葉を聞いた瞬間から新一君の周りだけ時間が止まってる。
...こうやって動かないでいると、まるで人形みたいだなと暇で考えてしまうのは仕方のないことだと思う。
元々顔立ちが整っているし、男子にしては華奢な体つきも手伝ってか、まったく動かない新一君は精巧な人形みたいだ。
かれこれさっきの僕の爆弾発言から5分は経つが、まだ止まっている。
...ゆっくり新一君を真正面から観察できるからこのまま止まったままでもいいんだけど、実際にしたいことは新一君と話すことなので、どうすればいいか少し悩む。
...要するに、目を覚まさせればいいんでしょ?
どういう方法が一番効くかな。
耳が機能していると仮定して、こう大きな声で耳元で言えば目を覚ますかも。
「蘭ちゃんが誘拐されたよー(棒)」
ってね。
...彼にとって一番大切なのは蘭ちゃんだから蘭ちゃんの名前を入れて、適当に「誘拐された」とでも言えば目を覚ますかと思ったんだけど...。...効かなかったみたい。
...そういえば蘭ちゃんって、この前の空手の大会で優勝してたっけ?
実際には何年も経過しているけど、みんなの感覚からすると一年も経過してないわけで...。
じゃなくて、ということはそこら辺の大人よりかは強いわけだ。
逆に誘拐犯を撃退してそうだから、心配する必要もないのか。
...もしこれが物語なのならば、蘭ちゃんは「最強ヒロインポジション」ってわけだね。
新一君が反応しないのも納得。
...少し蘭ちゃんがかわいそうな気もするけど。
蘭ちゃんでダメなら、園子ちゃんにする?
...いや、彼女の傍には「最強ヒロイン」である蘭ちゃんがいるわけだから、ある意味本気で、世界で一番安全だと思う。
これでもダメなのなら、結局何を言えばいいんだろう...?
...新一君の好きなこと、好きなもので釣る......。
これが一番いいと思うな。
かなり考えることが適当になってきた今日この頃である。
それはさておき、新一君の好きなものといえば、シャーロックホームズなどのミステリー小説とか本物の事件、サッカーだよね。
シャーロックホームズならもうすでに、彼の腕の中に原本版があるからもう使えない。
サッカーに関しては、僕が最近のサッカー事情をよく知らないから使えない。
残るは事件だけど...。
オレの知ってて言えるような事件なんて、きっと新一君も知っているだろうし...。
...言えないものは新一君でも言えないようなものだから話すなんて無理。
なら単純に、
「事件が起きたよ」
とでもいえば食いつくかな?
「本当か!?」
...すっごいいい顔で食いついた。
この様子を見ると、現実逃避がしたいけど、できるような話題がなくて、咄嗟に僕がさっき放った話題に藁にも縋る思い出縋りついた。...ていう感じかな?
目はキラキラと輝いてるけど目の奥が死んでるし、顔はどことなく疲れて、少しやつれてるもの。
...こんなに彼を追い詰めた原因が自分だと分かってるからすごく心苦しい。
でも、どうしてもはっきりさせる必要があったから仕方ない。
新一君には、もう少しだけ我慢してもらおう。
「やっと動いたね。心配したよ?」
「...」
...無言かぁ。
少しだけ傷つきはするが、まぁ仕方ないかと心を持ち直す。
こういうことは、何も考えずに、感情を消して淡々とクリアしていく方がいいと知ってるから。
さて、新一君が思考の渦から帰ってきたところで、最初からするつもりだった僕らにとって『大切なお話』をしようか。
きっと、この話し合いが終わるころには、僕は新一君に避けられるだろう。
けど、そうなったとしても我慢するさ。
...大丈夫。その覚悟はできてる。
避けられた時の僕の心がどれだけ弱るかは、されてみないと分からないけどねぇ。
思わず、遠い目になってしまう自分を叱咤しながら、改めて、彼の目をしっかりととらえて会話を再開させる。
「さて、“
...見方によっては少し冷たい言い方になってしまったが、少しぐらい言い方がキツくなってでも、こういう質問はさっさと終わらせるのがいい。
新一君が黙秘を続けるのなら僕は別の方向から何度でも質問する。気分的には、取り調べ中の刑事って感じかな?
そして、何か条件付きで答えてくれるというのなら、僕はその条件を無条件に呑もう。
...それがいい方向に動くのか、はたまた悪い方向に動くのかは、神のみぞ知るってね。
...さぁ、どういう反応をするのかな?僕の惚れた名探偵さんは。
「...
そう、僕の視線から逃げるように俯きながら言う。
もちろん僕はいいよと返し、その質問をするように促した。
...一人称が、“ボク”から“オレ”に変わってるのはいい兆候なのかな?
いい兆候であるように願いながら、じっと目の前にいる新一君を見つめながら、次に放たれる質問に身構えた。
「...天音さんは...。酒の名前でお互いを呼び合う、カラスを連想させるような漆黒がトレードマークの犯罪組織を知ってる?」
新一君がぽつりと呟いたその言葉に僕は思わず目を大きく見開いた。
...一瞬だけだったから多分新一君には気づかれていないはずだけど、思わず動揺したということは勘の良い新一君には勘づかれてしまったかもしれない。
ポーカーフェイスには自信があるけど、...これは、不意打ちだった。
すでに、あり得ないことなんて何度も見てきたのに、これに関しては全く予想していなかった。
...いや、きっとどこかでは考えいたはずだ。
こんな裏の世界を束ねる、犯罪界の王様的存在で、存在そのものが罪になる組織が、この、超が付くほどの事件体質の名探偵様と接触しないはずがない。
運命なんかじゃない、きっとどんな行動をしていたって組織と必ず関わっていた。
...新一君がすごい犯罪体質なのは知っていたけど...、...まさかここまでとは思わなかった。
FBI、CIA、公安など世界中が血眼になって探しているこの犯罪集団をいともたやすく見つけるとはね。
...流石と言わざるおえないな。
...それに、直接被害を受けてるから、追わないといけない理由もきちんと用意されているという徹底ぶり。
完璧な文章構成だこと。
小さくなった原因が組織だとすると、それってシェリーが作ってたやつかな。
そんなことができるのって、彼女ぐらいでしょ。
...確か、名前は...。「APTX4869」だったはず。
さっすがシェリーだね。
後日、話してみよっかな。
...さて、現実逃避は此処までとしようか。
流石にずっと黙ってると不信感が増すばかりだから。
...ただ、哀しいかな。どんなに言葉を選んで慎重になったところで警戒される。
自分が被害を受けた奴らの仲間なんて知ったら、誰だって信じられない。
それも、その集団の最年少幹部で、今もなおその組織に籍を置いている人間のことなんて。
...別に、危害を加える気は毛頭もない。
っていうか、新一君の協力者に快くなるよ。
そもそも僕は、組織を潰したくてたまらないのだから。
...僕という存在を作り出してしまった組織なんて消えた方が人間のためだ。
人間なんて嫌いだけど。
僕一人の力じゃどうあがいたって、この長い間に膨張した犯罪組織を潰すなんて確実に無理だし、逆に僕自身が呑み込まれかねない。
...でももし、黒く染まりきっている僕一人だけじゃなくて、光である新一君がいるならばどうだろう?
...わずかではあるが勝算が出てくる。
新一君は、自分自身が知らない間に様々な人を味方につけるという本人も知らない特技を持っているから、それで使えて、信頼のできる仲間が増えていったのなら...。
この悪夢からも抜け出せる...?
どうにかして新一君を仲間にしたい。
...でも今すぐになんて到底無理だから、時間をかけてゆっくりと。
...だから、時間が止まってるのかもな。
この一行に動かない時間は、僕に与えられた無限の時間なのかもしれない。
大切に、有意義に、誰よりもうまく使わなくてはいけない。
でも、とりあえずはこの状況をどうにかしよう。
何かを考えるのはこれが終わってからだ。
一番いい方法はきっと、後になればわかる嘘をつくことではなく、嘘偽りが一切ない真実を話すことだ。
でも、聞かれたことだけに答えよう。
...そうすれば何とでも言い逃れなんて出来るから。
「...うん、知ってるよ」
知ってるかどうかだけ聞かれたんだ。
これは、YESかNOで答えたらいい。
この場合、YES。だから「知ってる」とだけ答えたらいい。
必要のないことは答えない。
聞かれたことだけを何も隠さずに答えるんだ。
...従順な人形のようにね。
一番慣れていることじゃないか。
僕の答えを聞いた新一君は、俯いていた顔を上げ、元々鋭かった視線を一層鋭くして僕を睨む。
...仕方のないことだ。
少しの間だけ...この気持ちをどこか暗くて狭い場所に閉じ込めて、どうやっても出て来られないように、何錠にも鍵をかけよう。
...でも、この気持ちが泣きださないように、扉の前で鍵を持ちながら背を向けてうずくまって居よう。
...僕が壊れてしまわないように。
「...じゃあ、その組織とどういう関係?」
どういう関係、か。
いろいろな答え方がある。
最年少幹部、組織内の危険分子、組織に従順な人形、僕が作られた場所、...被害者。
別に“全部”答えろとは言われていない。
...だけど、簡潔に答えるとするならば。
「その組織の幹部だよ」
きっとこの答えが正解。
あくまで、正直に答えたまでだ。
案の定、新一君の顔にはさまざまな色がある。
憤怒、憎悪、驚愕...嫌悪。
全て、マイナスの感情だ。
「...コードネームは正確に言うとホワイト・リリー。でも僕を呼ぶときはみんな決まって僕のことをリリーと呼ぶから、実質的に、コードネームはリリーになってるよ」
“ホワイト・リリー”
ホワイトキュラソー、ラム、ジンの三つの酒から造られる、カクテルの名前。
意味は『白いユリ』。
僕のコードネームは「あのお方」ではなく、ベルモットがつけた。
曰く「リリーって名前は綺麗じゃない?『白いユリ』なんてこの子にピッタリよ。ま、中身は真っ黒だし、この体は深紅に染まってるけどね」らしい。
...はっきり言ってほっといてほしいと思った。
まぁ、今はどうでもいいが。
それにしても、新一君が「キュラソー...、ラム...。ジンのカクテル。」って呟いてるところを見る限り、酒の知識もあるんだ。
...新一君が知らないことなんてあるのかな?
少し気になる。
「...天音さんがオレのことを工藤新一だと思った理由は何?」
声も、視線も冷たくて痛い。
氷みたいだ。
...そういう声も嫌いじゃないけど、やっぱり、いつもの温かい包み込んでくれるような声の方がいいな。
...いや、そう思うのはなしだ。
「...偶然にしては出来過ぎていたから、かな。
工藤新一が消えた日に、工藤新一の幼馴染である毛利蘭の元に小学生の居候が来た。
そして、今度名探偵という名声を浴びるようになったのは、毛利蘭の父である毛利小五郎だった。
ちょうど、工藤新一がメディアから消えた時から。
同じ時期に、かなり近い場所で、工藤新一に関わりのある人物に変化が起きた。
...どう考えてもおかしいでしょ。
それに、毛利探偵が推理する様子を見ていた僕の知り合いがいたんだけど、最初、ドヤ顔で犯人を名指ししたと思ったら急に眠って、「さっきさっきまでのは冗談ですよ」と言って、起きてる時とは全く別人のようだったそうだ。
そして、その場に小学生くらいの子がいなかったかと聞いたら、いたよと返ってきたんだ。
同じくその場にたまたまいた数人の知り合い聞いてみたんだけど、聞いた人全員から証言が取れた。
...それにね、面白いことも教えてもらったよ。
『そういえば、毛利探偵が推理を披露しているときには、その小学生ぐらいの男の子の姿は見えなかった』ってね。
そういえば、新一君の知り合いに、面白い実験をしているお爺さんがいるんだってね。
クラスの子が話してたよ。
そのお爺さんに頼めば、武器になるものとか、変声機、人を一発で眠らせることだって作ってもらえるだろうから、毛利探偵の代わりに推理することなんて可能だよね。
...まぁ、作れたらの話だけど」
そこまで言い切ってから少し話すのをやめる。
話している途中から顔を伏せていて表情が見えないから、何を考えているのかは分からないけど、きっと図星だろう。
工藤君の家はさすがに調べるまではしなかったけど、そのお爺さん、“阿笠博士”は新一君と蘭ちゃんを小さい時から知っている人らしく、変な実験をしては家や実験器具をかなりの頻度で爆発させているらしい。
個人的に、その『変な実験』にすごく興味がある。
...いったい何してるんだろう?
僕もその実験手伝ってみたいなぁ。
目の前に座っている、いまだに顔を伏せている新一君を眺めながらそんなことを考える。
ん?
さっきは、腕時計に手を添えてなかったはず...。
癖、かな。
...いや、あの動きは腕時計を操作してる。
あの腕時計に何か細工がしているのか?
そういえば、普通の時計と音が違うけど。
ちゃんと時計としての役割もしてるけど、別の機能も付いている。
ストップウォッチか?...いや、ボタンがない。
まぁ、使わせてみよう。
腕時計が何になるのか少しワクワクした。
何になるんだろう?
銃?ナイフ?スタンガン?もしかしたら形が変わるのかも。
ならどんな形?
この腕時計を作ったのはきっと“阿笠博士”なんだろうなぁ。
どんな人なんだろう。
会ってみたい。
...まぁ、新一君に信用されるまで会わせてもらえないだろうけどね。
そこまで考えて苦笑する。
何呑気に考えてんだろ。
こんなにリラックスしたらダメなのにねぇ。
大事な話をしてる真っ最中なんだから。
きっと大事な話をしているのにこんなにリラックス出来るのは新一君ぐらいだろうな。
後にも先にも彼だけだr__
『リリー』
...もう僕の名前を呼ばないで。
フラッシュバックはもう嫌だ。
今目の前に、新一君がいるんだから。
「これらの理由から、君が工藤新一君だと思ったんだよ」
「...ねぇ、警戒する理由は分かるよ。...でも、もし君を始末しろっていう命令が出ていたら、もうすでに君は死んでるだろうね。
...信じれないのは分かってる。だから、僕のことを信じて欲しいとか思ってないし、...逆に、こんな危険な僕が誰かに信頼されるなんて危ないことは絶対にしない。
...でも、この言葉だけは信じて欲しい。
僕は、組織を消したい。
だから、君が工藤君なら工藤君のことを何があっても守るよ。君の大切な人も。
だから、協力者になって欲しい。組織を消すためには、必ず君の力が必要だから」
...こんなこと言ったって、この言葉も信じてもらえないか。
僕の手はもう血で赤黒く染まっている。
それに比例して、僕の心も真っ黒だ。
そんな奴の言葉なんて僕なら絶対信じない。
...仕方ないんだよ。
「...もうそろそろパーティーが終わる頃だね。戻ろうか」
僕は、そういうと立ち上がって火を消す。
いつの間にか月が隠れていたみたいで、もう月は僕らを照らしてはくれなかった。
闇。
僕にとって一番落ち着く、居心地のいい場所だ。
火を消し終えて扉の前へ向かい扉の取っ手を掴み、引く。
できたわずかな隙間から外の明かりが漏れてきて、好きな場所がどんどん崩れていく。
そこまでしてから、
不思議だ。
僕が光にいて、彼が闇にいる。
本来なら逆のはずなのに。
そう思い、思わず場違いな笑みがこぼれる。
「どうしたの?おいでよ、コナン君」
そう呼ぶと、今まで俯いていた頭を上げ、僕の目を真っすぐとらえる。
逸らしてはいけない。
本能でそう思い、彼のまっすぐな瞳を見つめ返す。
するとぼそりと、でもはっきりと僕にこう言った。
「...オレは、工藤新一だ。お前のことを信じたわけじゃないけど、協力する。」
最初、そう言われた時、新一君が言った言葉の意味がいまいち意味が分からなかった。
だんだん、ぼうっとしていた頭が冴えてきた初めて、その言葉の意味をようやく理解し、僕の目はだんだん開かれていく。
...その時の僕の顔を客観的に見たら面白かっただろうなぁ。
目は大きく開いてるし、薄くだけど口が開いていて、間抜けな面をしていたのを自覚していたから。
...でも、その間抜けな顔はすぐに笑顔に変わった。
今までの人生の中で一番の笑顔だったということだけ記憶している。
...心から笑えるって、とても嬉しいことなんだね。
...新しいことをまた、教えてくれてありがとう新一君。
...やっぱり君はすごいや。
僕の知らないことを次々に教えてくれる。
そんな君に認めてもらうために、精いっぱい頑張ろう。
...だからちゃんと僕を見ていて。
表面だけじゃない、仮面をつけ過ぎて曖昧になった境界線に惑わされずに本当の“僕”を見つけてくれるかな。
きっと君にしかできないから、君に託すよ。
...やっとスタートラインには立てたんだ。
これからどうなるかは、僕らの行動次第。
...だから、その時の僕にできる最善を尽くそう。
新一君のためになるのなら。
...それが僕の『
♦ ♢ ♦ ♢ ♦
どうしてこんな話をすることになったのだろう。
そもそもオレが外に行きたいって言ったのは響から早く離れたかったからだ。
響と一緒にいると、自分がおかしくなる。
顔はずっと熱いまんまだし、動機も激しくなるばかりで一向に収まる気配がない。
なんでこうなったのかのメカニズムが詳しくわからないけど、簡単に言ったら、こうなった原因は響にあるらしい。
こんな顔をしてるってることを根本的な原因である響にバレたくなくて...。
...だから、少しでも早く響きから離れたかった。
こんな自分を見られることが嫌だった。恥ずかしかった。
だから、離れたかった。
...なのに。
響はついてくるから結局離れるっていう願いはかなわなくて、「どこに行きたい?」って聞かれて、半ば投げやりになっていたオレは、「どこでもいい」と答えると、本当にとんでもないところに連れて行くし。
...気づけば、密室で二人きり。
最初は、シャーロック・ホームズの原本版に意識を集中させて、響のことは考えないようにいていた。
これが思いの外上手くいき、響のこと変に意識することもなかった。
...けど、ここから別の意味で意識することになった。
響が、オレの正体を見抜いた。
その時に思い出したのだが、響って高校のテストの時の順位が一位から落ちたことを知らない。
...学年全体でっていう意味ではない、全国規模の模試で、だ。
つまり、かなり頭の回転が速くて、IQも高い。
...そこまで考えて、一つの思い付きがオレの頭を支配した。
“響を仲間にできないか?”と。
...いや、彼は関係がない。
巻き込むなんてそんなことできない。
そう思いなおし、一旦その考えを捨てる。
...そういや、なんで俺の正体が分かったんだ...?
オレは、高校で一回も響きと話したことなんてなかったし、接点なんて一つもなかった言ってもいいに等しかった。
それに、いくら同一人物だとしても、オレは簡単に言うと、高校生から小学生になっているわけだ。
人間が若返るなんて非科学的だから、その固定概念のおかげで、今までバレなかった。
...なのに、響は妙に確信をもってオレからの答えを待っている。
...もしかして、組織の人間なのか...?
背筋に悪寒が走る。
そう考えれば、全ての辻褄が合う。
組織の人間なら、開発中の毒薬についても何か聞いているかもしれないし、オレが殺されたっていうことも聞いているだろう。
...でも、実際に死んだわけではないから死体はない。
それに気づいてオレのことを調べたのだとしたら...?
...ありえない話ではない。
だから、最初に聞かれた質問には答えずにいくつか質問をした。
...組織の幹部だと聞いた時には、「ああ、やっぱり」と納得した自分ももちろんいた。
...だけど、裏切られたという虚脱感、騙されていたのかという怒りと悲しみ、一緒の高校に通っていたのに気づけなかったという悔しさ...。
様々な感情が体中を駆け回って、上手く呼吸ができなくて、...苦しかった。
泣く必要なんてどこにもないのに、泣きたくなった。
叫んで、泣き喚いて、自分の思いを響に押し付けて楽になりたかった。
これはきっと悪い夢で、寝たらこんなことなんてなかったっていうオチに持っていきたかった。
...無茶苦茶だった。
きっと、こんなものなんて武器になりさえしないだろうけど、腕時計型麻酔銃をいつでも撃てるように構えた。
...冷静な判断なんて今の自分には到底無理だ。
だから、何も言わずに響が語る話に静かに聞いていた。
「自分のことは信じなくていい。でも、この言葉だけは信じて欲しい」
そう言った時の響きの瞳は、真っ直ぐで、とても澄んでいて、とても綺麗だと思った。
こういう目をする奴は、嘘はつかない。
根拠はないけど、名探偵と呼ばれていた時の勘はまだ鈍ってはいない。
響自身を信じ切ることは無理だった。
謎が多すぎる上に、オレが追っている組織の幹部だからだ。
...でも、この言葉だけは信じてみようと思った。
信じてみるだけの価値はあると判断したんだ。
あとから思えば、まだ熱に浮かされていて、冷静な判断は下せてなかったと思う。
...だけど、信じてよかったと思っている。
最初は言うつもりなんてなかったけど、これからよろしくという意味も含めて、彼がしたようにカミングアウトをする。
...その時に見せた彼の笑顔を、オレは一生忘れはしないと思う。
それほどまでに美しく、印象に残るものだったから。
これで良かったのかどうかなんてオレには分からない。
きっと、誰にもわからない。
だから、これから先どんな展開になってもオレは現実から目を背けずに闘おう。
心の中で静かに、でもはっきりと誓った。
♦ ♢ ♦ ♢ ♦
後ろにちゃんとついてきているのは、気配と足音で分かってはいるけど、...少し遠いと思うのは僕だけですかね。
...あんな話をした後だ。警戒してないって考える方がおかしい。
少し寂しいと思ってしまうのは僕のわがままだから、喉元までせりあがってきた溜め息は呑み込もう。
家に帰ってから吐き出せばいいさ。
(...もう少しで、新一君との二人きりの時間が終わってしまう...。)
そんなことで進むスピードは遅くなり、そんな自分に苦笑いがこぼれる。
別のことを考えろ。
深紅の壁、金の燭台、灰色の曇り空、銀製の中世の騎士が身につけそうな甲冑、深緑のベルベットの絨毯...。
でも、どんなに別のことを考えたって、新一君の顔が頭をよぎる。
怒った顔、ムキになっている顔、楽しそうに笑う顔、いたずらが成功した子供のように笑う、あの無邪気であどけない顔、小さくなっても変わらない真剣な顔...。
...こんなに好きなのに、黒の組織の幹部だから警戒されて。
でも、新一君に一人の人間として意識してもらえたことが嬉しくて。
隣に来てくれないのは少し嫌だけど、でも近くにいるだけで幸せで。
...こんなことを考える自分が気持ち悪い。
そうは思うけど、自制が聞かなくて...。
......絶対に報われない恋なのにね。
だからかな?こんなに胸が苦しいのは。
こんなに苦しいのは『アノ日』以来だ。
この扉を開ければ、もうこの時間は終わってしまう。
「もうそろそろ帰ろうか」って言ったのは僕なのに、未練たらたらで恥ずかしいや。
そう心の中でだけ呟いて扉を引く。
(...眩し)
基本的に隠し通路の内部は、ろうそくの明かりだけなので、その薄暗いところからとても明るいところに入ったため、真っ先に感じるのはその眩しさと、開放感だ。
隠し扉内の通路は狭いから、囚われているような錯覚を覚えるんだよね。
(さて、蘭ちゃんたちのところへ急ごうか)
進んできた道を僕らは戻っていく。
...相変わらず距離は空いたままだけど。
進んできた道を引き返していく途中に僕待ちの人たちに会わなかったのは幸いだったな。
...ま、僕が先に見つけて、回避しながら進んできたからだけど。
やっと蘭ちゃんたちの姿が見えたのは、部屋を出てから5、6分経っていて、行きにかかった時間が約2分だったことを考えると、かなりかかったことになる。
...生身の人間ほどにいい障害物はないよね。
しみじみそんなことを考える。
少し遅れてしまったことを蘭ちゃんと園子ちゃんに謝ってから、少し人が減ったパーティー会場をさっさと抜け出し家路につく。
新一君は、下手に刺激せずに放っておいた方がいい。
...変なことをして、これ以上警戒されたくないから。
♢ ♦ ♢ ♦ ♢
...それにしても、これで良かったのだろうか。
お風呂から上がってきたばっかりで生乾きな自分の髪をタオルで拭きながら、自室のベッドの上で思考の渦に浸る。
会場内で新一君を探したこと。
蘭ちゃんと園子ちゃんと話したこと。
新一君と接触したこと。
僕自身が組織の人間で、しかも幹部だとカミングアウトしたこと。
全て、正しい選択だったのだろうか。
もしかしたら、これらをしない方が正解だったのではないのか。
小さなきっかけが、この先の展開を大きく変えることだってたくさんある。
所謂、「バタフライエフェクト」と呼ばれるものだ。
...僕に、正しいかどうか判断することなんて出来ない。
この先のことなんてわからないからだ。
僕の発した言葉、行った行動が正しかったことを信じよう。
...っていうか、信じて待つことしかできないわけど。
きっと、悪いようにはならないはずさ。
でもきっと、良いようにもならないだろうね。
これは僕の人生だ。
これからのことなんて全く分からないから、“今”、大切だと思ったことを実行し、言葉として表せばいい。
これから始まることにも柔軟に対応していこう。
その前に、眠いから寝ようかな。
さっきよりかは乾いた自分の髪を指先で弄びながら、真っ白でしわ一つないベッドの上に身を委ね、電気を消す。
遮光カーテンだから、この部屋は完全な闇になり、その暗さにほっとしながら、眠い目をこする。
久しぶりに、薬に頼らずに眠れそうだ。
これも新一君のおかげだよね。
自分でも気づかないほどうっすらと笑みを浮かべ、睡魔にあらがわずにゆっくりと意識が途絶えてゆく。
いつも見ているあの夢も見ないほど、深く眠りについたのはいつぶりだろうか。
どうでしたか?
コナン視点と響視点を書きましたが、それのおかげで長くなりすぎてしまいました。
分けるかどうかすごく悩んだ結果。
短いのを2回に分けるか、長いけど1回にまとめるかを考えると、後者の方がいいかなぁ、と思い、約二週間かけて書き上げました。
一応、見直しはしたのですが、誤字脱字等がありましたら報告お願いします。
次回は心象に入っていく予定です。
それではまた。
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