Monster hunter モンスターのもう一つの物語 (細針)
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プロローグ 闘技場の脱出劇
プロローグ 闘技場の脱走劇 01


閲覧有難う御座います。
作者の初投稿作品です。
まだまだ勉強中で非常に読み難いと思います、ごめんなさい。

※登場モンスター
ケチャワチャ(奇猿狐)
ザボアザギル(化け鮫)
グラビモス(鎧竜)


【バルバレ‐闘技場地下牢】

 

 

バルバレの外れにある闘技大会用モンスター収容牢。そこに半日前、幼い奇猿狐が運び込まれた。

 

「うぅ……ん?」

 

(酷く体が重いなあ……。目も霞むし……。一体ここは何処だろう?)

 奇猿狐が目を動かしても石の壁と鉄格子、そして積もった埃。

(人間の作った部屋? なんでこんなところにいるの?)

 

「痛っ!?」

 

 起き上がろうとした途端、奇猿狐の胸の切り傷が口を開けた。

(なんで傷が?)

 考える内に少しずつ脳は醒めて、目を覚ます前の記憶が思い出された。衝撃、恐怖、痛み――。

 奇猿狐は地下牢に運ばれる前の記憶が甦った。

(……クック先生の授業に行く途中に人間に出会っちゃったんだ。それで戦ったけど全然歯が立たなくて。突然体が痺れたと思ったら眠く……。)

 そこまで思い出したところで奇猿狐は首を激しく降った。

(じゃあこの場所は……。ここが前に先生の言ってた闘技場だったら大変だぞ……。)

 未知の樹海に暮らすモンスター達から、人間に捕まった先はどうなるかは飽きるほどに聞いていた。奇猿狐は頭を抱えて踞った。

 ギルドによって闘技大会で戦えるよう応急措置が施されていたが、完治している訳では無かった。

 

「目が覚めたか……?ケチャワチャの坊主」

 

 突然、右の壁の向こうから声が響いた。

「その声は……ザボアザギルさん? はじめまして……。何故あなたがここに?」

 奇猿狐には見えなかったが、右の牢では化け鮫が不機嫌な顔で閉じ込められていた。

「まあ、見ての通り捕まってな。3日前からだ。俺以外にもグラビの野郎もいる」

 

「人をそのように呼ばないでいただきたいな、ザボア」

 

 右斜め前の牢から低い声が響いた。奇猿狐が目を凝らすと、鉄格子の向こうには岩のような甲殻が僅かに見えた。

「グラビモスさん? 貴方も?」

「私は1週間ほど前からだ。太陽が見えないから正確では無いが」

 そう言って鎧竜は溜め息をついた。

「人間共に捕まってこのザマだ。ここの様子を見るに以前偵察のガブラスが見たと言っていた闘技場だろう。奴らの話が正しければ私達はこの後また人間共と戦わされるそうだ」

「……ふざけた話だ」

 鎧竜が吐き捨てるように言った。

「…………」

 辛い現実を前に誰も明るく接せない。三匹は暫く沈黙した。

(このまま居ればまた人間と戦う。今度は絶対に逃げれない闘技場で……)

(怖い……)

 奇猿狐が思わず身震いする。

 

「……おいグラビ。てめぇビーム射てたよな? それ使って鉄格子溶かしてここから出ようぜ」

 

 化け鮫が不機嫌な声で沈黙を破った。

「貴様は私の話を聞いていたか?私の牢は他よりも頑丈に出来ているようでビームで溶かすことは出来そうにないと言った筈だろう」

 鎧竜は溜め息をつきながら言った。

「そもそも貴様はゲネルに肩入れしている身だろう? レウス王家に仕える私が貴様を助ける理由など無い」

 そしてきっぱりと鎧竜は言った。またも沈黙が地下牢を包んだ。

 二匹は脱出方法を考えるが、ただただ唸るばかりだ。

 奇猿狐が不安そうな目で地下牢内を見渡した時、あることに気付いた。

「あのぅ……グラビさん」

 恐る恐る奇猿狐は尋ねた。

「何だ? ケチャよ」

 鎧竜が面倒臭そうに返した。

「グラビさんの牢の鍵ってかなり大きいよね?」

 鉄格子の太さが収容するモンスターによって違う為、鎧竜の檻に掛けられた南京錠は他の檻より二回りほど大きかった。

「そうだな。それがどうした?」

 少し苛立った声に変わる。

 

「もしかしたら僕の鉤爪を使えば開くんじゃないかなぁ……って。ほら、僕はまだ小さいし」

 

 鎧竜の顔を伺いながら言う内に少しずつ声が小さくなっていった。

「!!」

 その充分に脱出のチャンスがある案に鎧竜と化け鮫は激しく体を震わせた。

 化け鮫は目を見開き、希望に満ちた顔で鎧竜を見つめる。だが、反対に鎧竜の顔は暗くなる。暫く目を瞑った後に首を振り、苦々しい声で言った。

「……だが、私はレウス王家に仕える者。ゲネルに肩入れする者の助けは……」

 そこまで続けたところで見兼ねた化け鮫が怒鳴った。

「この石頭が!」

 突然の大声に、鎧竜は驚いた顔で化け鮫を見た。化け鮫は続ける。

「せっかくケチャの坊主のおかげで逃げれるかもしれねぇんだ!! 俺達はこのまま死ぬかもしれねぇんだ! こんな時に派閥気にしてる場合じゃねぇだろ!! 」

 鎧竜は化け鮫の言葉に押し黙り、考え込んだ後には言った。

 

「分かった。今回は共に行動しよう」

 

 化け鮫と奇猿狐の顔が晴れる。

「私のビームでザボアの鉄格子を溶かす。その後、ザボアが廊下から地中に潜ってケチャの檻まで通路を作る。そしてケチャが私の檻を開ける……でいいな?」

「流石グラビだ。俺がさっきから考えても全然思い付かなかった脱出法をこんなにさらさらと言いやがった」

 鎧竜が微かに笑った。その中には軽い軽蔑の意味も含まれていたが。

「そうなったら話は早え。今すぐにでも始めようぜ」

 化け鮫は息を荒げた。

「待ってザボアさん! ここって闘技場なんだよね? 見張りはいないの? 」

 奇猿狐がキョロキョロと辺りを見渡しながら訊く。

「見張りか? 幼いのに頭は鮫より回るようだな」

 鎧竜が割って入った。

「見張りはいなくもないが……。1人だけで戦える出で立ちでは無いな。増援を呼ばれてもこっちは地中を通って脱出するのだ、問題は無いだろう」

 闘技場の管理人の性格が大雑把なのはハンターの間でも有名だった。

「グラビ人間観察までしてたのかよ?  やっぱ逃げる気はあったんだな?」

 化け鮫がにやけながら言った。

「そ、そういう訳ではない。……ただ、自分の死期を推測したかっただけだ」

 鎧竜は目を逸らしながら答えた。

そして、前を向き決然とした顔で言った。

 

「なんにせよ、今は夜だろう。行動を始めても問題無い筈だ。今から開始する」

 

「おう!」

「うん!」

 地下牢に小さく風が吹いた。それは三匹の脱走計画を応援する様にも、嘲笑う様にも見えた。

 

 

一、闘技場の脱走劇 01 終




如何でしたでしょうか。

作者初投稿作品でした文章力無いですごめんなさい。

起承転結の『起』からピンチな状況したかったので闘技大会モンスを登場させました。

不自然に伏線を張ってしまいましたが回収できるでしょうか…。

次回も見ていただけたらこの上なき幸せです。


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プロローグ 闘技場の脱走劇 02

続きです。下手な文ですが読んでいただければありがたいです。

※登場モンスター
ケチャワチャ(奇猿狐)
ザボアザギル(化け鮫)
グラビモス(鎧竜)


「まずは私が鉄格子を溶かす。ザボア、貴様は当たらないようにしゃがんでいろ」

 鎧竜が指示する。

「おうよ。間違っても俺に当てんじゃねえぞ? 俺は熱いのは大嫌いなんでな!」

 化け鮫がおどけてしゃがむ。

「私を誰だと思ってる……。グラビームの精度を嘗めるな……」

 鎧竜が鉄格子の隙間から顔を出して大きく息を吸い込み、

 

「グラアアアアアアアッ!!」

 

 鎧竜の叫び声と共に赤い熱線が放たれ、化け鮫の数センチ上の鉄格子を一瞬で溶かした。

 

「まだだああああああっ!!」

 

 ビームは楕円を描き、化け鮫の頭上を動いた。

 鎧竜のビームが止んだ瞬間、支えを失った鉄格子の部分が崩れ落ち、けたたましい金属音が地下牢に響き渡った。

「すごい……これがグラビームかあ………」

 奇猿狐は息を飲んで拍手を送る。

「上手えな、グラビ」

 化け鮫も驚いた表情は隠せなかった。

「感心している場合か、貴様ら! さっきの鉄格子が落ちた音で流石に人間に気付かれただろう、急げ!」

 鎧竜は怒鳴った。

「……××××! …………」

 その言葉と同時に、上の階から管理人の間抜けな悲鳴が響いた。

「……だな。残り時間は少ねえみてえらしい。ちょっと真ん中開けてろケチャ坊!」

 化け鮫は溶けた鉄格子の上を飛び越え、地盤が柔らかい廊下から地中に潜る。二匹が見守る中、10秒もしない内に奇猿狐の収容されていた牢の床には大きな穴が空いた。

「ありがとうザボアさん! 待っててグラビさん、今開けるから!」

 奇猿狐は化け鮫の掘った穴から廊下へと駆け出した。奇猿狐は鎧竜の閉じ込められている檻の前に立った。

 

(これを開けるのか……)

 

 奇猿狐は鎧竜の檻に掛けられた南京錠をまじまじと見つめた。

 遠目から見たときには気付かなかったが、南京錠は少し錆びていて、簡単には開きそうにも無い。

「ケチャ坊! 早く開けろ! もう人間が来たぞ!」

化け鮫が叫んだ。

「分かってるよ! 今開ける!」

 そう答えた時に、奥から管理人の声が響いてきた。

「×××、××××××××!?」

 モンスターが牢から逃げ出そうとするのに気付いたのだろう、管理人は顔色を変えて横にあるスイッチに向かって走り出した。

「柵だ! あの人間は出口を封鎖するつもりだ!」

 鎧竜が気付く。だが鎧竜の檻はまだ開かない。

「畜生! こんなところで邪魔されてたまるかよ!」

 そう言い残し、化け鮫はスイッチを入れようとする管理人に向かって走り出す。距離は約50メートル。化け鮫は重たい脚を必死に動かし突進した。

「×××!? ××××××!!」

 間一髪のところで管理人は突進を避け、それと同時に突進によってスイッチが壊れた。

「どんなもんだ! モンスターを嘗めん…」

 そう言っている間に、管理人は閃光玉を投げた。

「うわぁぁっ!?」

「×××!」

 激しい光が地下牢を包み、その光を直視した化け鮫が怯む。

「クソッ! 前が見えねえ!」

 その隙に、管理人はもうひとつのスイッチに向かって化け鮫の脇を潜り抜けようとする。

「ああっ!! こうなったらヤケだ!! 暴れ回ってやるぜ!!」

 化け鮫の突然の回転攻撃に吹っ飛ばされる管理人。

しかしその代償に化け鮫の尻尾も石壁に擦れあい、血が吹き出た。

「うおらああああ!!」

「×××!」

 激しい痛みに堪えながら暴れるモンスターと、必死に逃亡を阻止しようとする人間。

 両者の間で激しい攻防が繰り広げられた。

 

「ケチャ、大丈夫だったか!?」

 壁が死角になっていて閃光を免れた鎧竜は咄嗟に訊いた。

「大丈夫…! 目を覆ってたからまだちゃんと見えるよ! もう少し待って……!」

 奇猿狐達が集中する時は必ず耳を伏せて目を覆う。その癖の存在を鎧竜は思い出した。

「ああ……! ザボアがあの人間を邪魔している。慌てず焦らず急いでくれ!」

 南京錠が堅いのだろう、奇猿狐の爪は既に半分が割れ、血が流れていた。

「ここの部分が動けば……!」

 懸命に爪を動かすが、無惨にも鍵穴から六本目の爪が割れる音がした。

「キャッ!!」

 奇猿狐は小さな悲鳴を上げたが、直ぐに隣の爪を鍵穴に挿した。

(まだ子供なのに……! 私の為に……!!)

見兼ねた鎧竜は叫んだ。

「もういい! ケチャ、お前達だけでも逃げろ!!」

 だが奇猿狐はその場から動かなかった。

 

「嫌だ! グラビさんが置いてきぼりになるのは嫌だ!」

 

 そう叫びながら、また一つ南京錠から悲痛な音がした。

 

一方、化け鮫はスイッチの前で巨大化することで道を塞いでいた。

「××! ×××××!」

 膨れ上がった化け鮫の腹に毒ナイフを投げる管理人。

「いくらでもやりやがれ! 俺は何されても退かねえぜ!!」

 そう叫ぶものの、血液に浸透した毒が、着実に化け鮫の体力を奪う。

「坊主……早く開けてくれ……!」

 化け鮫が呻く。

 

「やっと空いた!!」

 

 奇猿狐が九本の爪を犠牲に鍵を開けた。

「ザボア! 逃げるぞ!!」

 鎧竜が化け鮫の元へ走りながら叫んだ。

「やっとかよ! 待たせやがって、ケチャ坊!!」

 そう答えながらも、化け鮫の口元からは笑みが溢れた。

「じゃあな! 人間!!」

 化け鮫が腹部に溜めていたガスを排出する。その風圧に管理人が吹き飛んだ。その僅かな隙に三匹は管理人の横を走り抜け、階段へと駆け出した。

「我々の樹海は北にある筈だ、月を確認したら潜ってここを抜け出す!」

 鎧竜が指示した。

階段を登り、廊下を走り、程なくして大きな門が彼らの前に立ち塞がった。門の隙間からは月明かりが差していた。

「邪魔だ!!」

 鎧竜のタックルによって門は簡単に壊れた。

それと同時に、柔らかな月明かりが彼等を包んだ。

「ケチャ! 私の目は衰えて光がよく見えない、どんな月がどの方向にある?」

 鎧竜が目を細めながら訊く。

「えっと……左側に満月がでてて……このまま直進だよ!グラビさん!」

 奇猿狐が夜空を見上げながら言った。

「承知した……おいザボア? 大丈夫か?」

 鎧竜は化け鮫の違和感に気付いた。

 衰弱している。鎧竜は体が丈夫な上、地下牢の石を食べる事が出来るが、3日間に渡って僅かに染みる水だけで過ごした後の戦闘に毒。化け鮫は立っているのもやっとの状態だった。

「大丈夫だ……! 早く……行くぞ……!」

 そう答えながらも、化け鮫はバランスを崩し、倒れた。

「ザボアさん! ここまできたのに!」

 奇猿狐が持ち上げようとするが、幼い牙獣種には重すぎて、動かない。

 

「全く……世話をかけさせおって」

 

 そう言って鎧竜は化け鮫を軽々と背中に背負った。

「……おい……グラビィ……何のつもりだ…………」

 化け鮫は小さな声で言った。

「お前がここで倒れたら我々の脱出は失敗したことになるだろう? 失敗は御免だ」

 鎧竜は前を向いて化け鮫を見ないようにして言った。

「さあ、大詰めだ。私が穴を掘るからケチャ、貴様は後ろをついてこい。穴は直ぐに塞がるから急ぐのだぞ」

「うん!」

 

 

[2時間後]

 

 

【上位樹海‐南境界線付近】

 

東から暁の光が朝露を照らす中、三匹のモンスターが倒れ込むようにして眠りについた。

 彼等は憔悴しきっていたが、皆、協力して地下牢を脱出したことへの満足感で一杯だった。

 

 

 

一、闘技場の脱走劇 02 終




如何でしたでしょうか。
2話目投稿しちゃいましたお目汚し本当すいません。

三匹を未知の樹海にまで逃げさせましたけどこれから先どのモンスターを登場させましょうか。

管理人可哀想な役になっちゃいましたね。
×の部分は何て言ってるかご想像にお任せします。

こんな駄作ですが次回も読んでいただければこの上なき幸せです。


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一 上位の樹海、大人の事情
一 上位の樹海、大人の事情 01


閲覧ありがとうございます。
駄作ですが最後まで読んで頂けたら嬉しいです。

※登場モンスター
ケチャワチャ(奇猿狐)
イャンガルルガ(黒狼鳥)
ザボアザギル(化け鮫)
フルフル(フルフル)
イャンクック(怪鳥)



【上位未知の樹海‐南Dエリア】

 

 

 草木が生い茂り、頭上には壁から伸びた蔦が覆うエリア。その柔らかい蔦の部分に、三匹は寝かされていた。

「つぅ……よく寝たぜ……」

 化け鮫は意識を取り戻した。

「ん? ここはどこだ?」

 体を動かすと、蔦の感触。

 

「久しぶり。……そして、おかえり、ザボア」

 

 蔦の下から、黒狼鳥の声がした。

「ガルルガ!? ……俺は戻ってこれたのか?」

 化け鮫が立ち上がろうとした瞬間、目眩がして座り込む。

「つっ…」

 化け鮫の弱々しい声が漏れる。

 

「……まだ動かないほうがいいよ。毒が回ってたんだ、もう少し横になって休みな」

 

 フルフルのしゃがれた声が横から聞こえた。

「フルフル……? じゃあここは警備隊の救護所か。ケチャ坊とグラビの野郎は……?」

 化け鮫が振り返ると、ぐっすりと眠る奇猿狐と鎧竜の姿があった。

「二匹はまだ夢の中さ。でも、一番重傷だったお前さんが起きたんだ。直に目を覚ますさ」

 フルフルが二匹の匂いを嗅ぎながら答えた。

「そうか……。よかった」

 化け鮫は安堵した。黒狼鳥がゆっくり歩き回りながら語った。

「朝にドスランポスが見張りに立ってた時にケチャワチャの鳴き声が聞こえたらしくって、俺と桃バサルを連れて見に行ったんだ。ちょうど俺達の集落の境界線で倒れてるのを発見してな、ここまで運んだって訳だ」

 そこまで言って一旦止めた。

「あの時は凄かったぞ、あのグラビがお前を背負って倒れてるし、見慣れない小さなケチャワチャが『二人を助けて』と寝言でひっきりなしに唸っていたし」

「そうだったのか……。グラビに運ばれてる間に意識ブッ飛んだから知らねえや」

 化け鮫は頭を掻きながら言った。

「ねえ、あんた。ここ最近ずっと姿を見せなかったけど何があったんだい? 散歩じゃあそんな傷は出来ないだろう?」

 フルフルが訊いた。

「あぁ…。人間共に捕まって牢に容れられててな…。今から話してやるよ」

 化け鮫は事の一部始終を話した。

 

 

「そうか……。そんな事があったのか……。」

 黒狼鳥が哀れむような声で言った。

「人間達も酷いことをするもんだねえ。幼いケチャワチャまで捕らえるなんてねえ」

 フルフルもぼやいた。

「そうだ、ケチャワチャで思い出したんだが……」

 

「あの坊主をこの集落に入れようぜ? あいつには恩があるしそろそろこの樹海で生きていけるくらいの年齢だろ?」

 

 化け鮫が提案した。しかし、黒狼鳥達は直ぐに首を縦には降らなかった。

「まあ、今から下位樹海に送るのも大変だが……。だが、テオに訊かないと何とも言えないしケチャワチャの親やクックにも許しがいるな」

 黒狼鳥は唸った。

「因みにクックには怪我したケチャワチャがいるって伝言アイルーを飛ばしておいたけどね、きっと予定ならもうそろそろ来るだろう。テオには次の集会までに仮集落入りさせると言っておけば…」

 フルフルが言った時、化け鮫の隣から欠伸がした。

「お目覚めかい? ケチャワチャの坊や」

「えっ、おはよ……キャッ!?」

 奇猿狐が声の方向に振り返った瞬間、奇猿狐は小さな悲鳴を上げた。

「おやおや、坊やからしてみればこの老いた皺くちゃの顔は怖かったかねえ……」

 フルフルが溜め息をついた。

「えっと、いや、そうじゃなくて! ……おばさんがフルフル……って人? は、はじめまして! えっと……綺麗な肌……です……ね…………?」

 奇猿狐が慌てて弁解するが、かえって逆効果。フルフルかまた愚痴り始めた。

「ああ……。こんな坊やに御世辞を貰うなんてねえ……。昔はもっとピチピチだったのに……。それに歳をとるとこんな些細なことでも愚痴らずにいられなくなっちゃってまったく本当もう―」

 

「な、なあ! そろそろクックが来てもいい頃だよな!? 俺行ってくるぜ!」

「馬鹿が! 怪我鮫は寝ていろ! 俺が迎えに行ってくる!」

 

 嫌な予感を感じた化け鮫と黒狼鳥は逃げるように去って行った。

「え? クック先生が来る? じゃあここは下位樹海じゃないの?」

 奇猿狐が驚いて辺りを見渡した。

「そうさね。ここは上位樹海さ。坊や、上位樹海は初めてかい?」

 フルフルが見えない目を奇猿狐に向けて言った。

「うん! 凄いや……。僕のいた場所に似てるけどこっちの方が広い!」

 奇猿狐が目を輝かせて言った。

「そうかいそうかい。こんな場所で良ければいくらでも見ておくれ」

 フルフルは笑う。自分にもこんな時があったと思い出しながら。

「凄い大きな木……! 木の実も沢山ある!」

「そうさねえ。ここの樹海は下位樹海が生まれる前からあるらしいしねえ」

「うわあ……こんな所だったんだ……!」

 

「フルフル! イャンクックを連れて来たぞ!」

 

 木々の向こうから黒狼鳥と化け鮫が怪鳥を連れて現れた。

「やっとかい。私の話を無視して逃げた割には遅いじゃないか」

 フルフルがまたもぼやいた。

「え!? 先生!?」

 奇猿狐はじっくりと目を凝らす。黒紫色と青色の隙間から独特の桃色の甲殻が見えた時、自分でも気が付かない内に走り出した。

 

「せんせーい!!」

「ケチャ! 無事だったか!!」

 

 飛びかかった奇猿狐を、怪鳥は抱き止めた。

「良かった……! さっき人間に捕まっていたと聞いた時は心臓が止まるかと思ったよ……!」

 二匹は暫くの間、声をあげて泣いた。

「クック老師。挨拶を申し遅れました、お久しぶりです」

 泣き声が止んだのを見計らって、黒狼鳥が咳払いしながら言った。

「おお、君はあの時のガルルガか! 大きくなったな……!」

 怪鳥は手を差し伸べた。

「幼い頃、御世話になりました。老師は御変わりないようで」

 黒狼鳥がその手を握った。そして二匹特有の挨拶として軽く嘴と嘴をぶつけた。

「えっと……クック? はじめまして……だな。先生って呼ばれてるみてぇだけどガルルガも教えてたのか?」

 怪鳥との面識の無く、蚊帳の外だった化け鮫がようやく会話に入れた。

「この爺はねえ、下位樹海で子供達の教師と孤児院の院長をやってんのよ」

 フルフルが説明した。

「ガルルガは爺の院に暫く暮らしてから私達の集落に引っ越したのよ。坊やも院にいたのかい?」

 視線が奇猿狐に集まる。

「うん。先生の巣で、他の皆と一緒に暮らしてるよ!」

 奇猿狐が明るく答えた。

その言葉に上位樹海三匹組は顔を見合わせた。

「坊主の親に会う手間が省けたな」

「とりあえず訊いてみる価値はあるようだね」

 化け鮫とフルフルが小声で話す。

黒狼鳥が前に進み出た。

「ケチャワチャとイャンクック老師。このタイミングに言うのもなんだが……」

 奇猿狐と怪鳥が息を飲む。

 

「ケチャワチャ。お前を俺達の集落に迎え入れたい。どうだ? 来ないか?」

 

 

二、上位の樹海、大人の事情 01 終




如何でしたでしょうか。

\小説検索の邪魔だ!/…はい、本当すみません精進します。

フルフルの別名ってナンバリングには無いんですかね? Fを絡ませる気は無いので「白影」は使わず「フルフル」で通しちゃいます、はい。

ガルルガがやたらと先生や他モンスに丁寧なのは仕様です。

次回も見ていただけたら感激です。


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一 上位の樹海、大人の事情 02

閲覧ありがとうございます。
今になって説明回です…。

※登場モンスター
ケチャワチャ(奇猿狐)
イャンガルルガ(黒狼鳥)
ザボアザギル(化け鮫)
フルフル(フルフル)
グラビモス(鎧竜)


「え? 僕が?」

奇猿狐は驚く。

「そうか……この子もそういう時期だものな……」

反対に怪鳥は深く考え込んだ。

「え? それってこれからここで暮らすってこと? 待って、どういうこと?」

まごつく奇猿狐。

「その通りさ。坊やもそろそろ独り立ちする頃だろう?上位樹海に住むんだったらこの集落に入らないかい?二匹を助けてくれた恩を返したいんだ」

フルフルが説明する。

「集落?どういうこと?」

奇猿狐には伝わらない。

「すまないな…皆さん。この子にはまだ上位樹海の仕組みを教えていないのだよ。本当は昨日教えるつもりだったんだが」

怪鳥が謝る。

「ケチャ、私達が住んでる下位樹海の事は知ってるね?」

「うん、学校みたいになってて、まだ大人じゃないモンスターが集まるんだよね?」

奇猿狐が答える。

「そう、その通りだ。あそこは人間が少ない平和な場所だ。でもいつかは皆、人間が寄り付く上位樹海や遺跡平原、地底洞窟などに引っ越す」

「どうして? なんで危ない所に行くの?」

奇猿狐は聞く。

 

「それは、下の子供を守る為さ」

 

「いつまでも下位樹海に住むには、沢山の食べ物がいる。食べ物を採る為に遠くに探しに行ってしまうと、人間に狩られてしまう。存在が人間にバレてしまうと、学校の皆が危なくなってしまうんだ。だから皆迷惑をかけないように引っ越す」

怪鳥は続けた。

「上位樹海は大人が集まるとは言っても人間に絶対勝てる訳じゃない。だから同じ種族で集まったり、違う種族で集落を作って守り合うのさ。同じ種族なら沢山仲間が産まれるし、結束も固い。集落なら、タッグを組むことでやって来た人間を追い払い易くなる」

一般的なハンターには、狩れば狩るほど強いモンスターに出会うギルドクエストや、多種多様なモンスターが襲いかかる探索は通常のクエストに比べて嫌われていた。

「だから一人前になったモンスターは皆引っ越していろんな地域の部族や集落に入るんだ。私は特別に許可を貰って先生をやらせて貰ってるけどね。これで君が昨日来なかった分の授業、終わり」

怪鳥はお辞儀をした。

「……でも、僕はまだ一人前じゃないよ。まだ体も小さいし……」

奇猿狐が呟いた。

 

「何言ってんだよ、ケチャ坊! お前は俺達をまとめて、俺やグラビを助けただろ? お前はもう、立派な一人前だぜ?」

 

化け鮫が奇猿狐の肩を叩いた。黒狼鳥も頷く。

 

「ケチャ、お前はお前が思っている程弱くなんかない。人間の所から脱走したモンスターは俺が知る限りお前が初だ」

 

フルフルも続ける。

 

「坊やのその爪は勲章さ。誇りに思っていいんだよ」

 

怪鳥が諭す。

「いい竜達じゃないか? ここならきっと君が入って後悔しない筈さ。私や下の子供達に会いたくなったらまた下位樹海に来ればいい」

四匹の言葉にしばらく悩んだ末、背筋を正して奇猿狐は言った。

 

「分かりました。……僕、この集落に入ります! よろしくお願いします!!」

 

「よく言ったぜケチャ坊! これからよろしくな!」

化け鮫が跳ねる。

「これでお前も上位入りだな。よろしく」

黒狼鳥が嬉しそうに嘴を鳴らす。

「これから頑張るんだよ、坊や」

皺が多く、表情の分かりにくい顔でも伝わる程にフルフルは笑った。

「……また一匹、旅立って行くのか……。寂しくなるね」

怪鳥が遠い目をして笑った。

「さて、私はそろそろ帰るとしよう。ここでずっと君達と話していたいが子供達を待たせてしまっているのでね。見送りは大丈夫だよ」

怪鳥が軽く翼を動かした。

「もう行っちゃうの……いや、またね! 先生! 近い内に会いにいくよ!!」

奇猿狐が手を振った。黒狼鳥達も手を降る。

怪鳥は軽く頷く。

「では皆さん、またいつか!!」

そう言い残して怪鳥は大空へ羽ばたいて行った。

 

「行ってしまったな……」

黒狼鳥が名残惜しそうに呟いた。

 

「…ねえ、ガルルガ。坊やを誘ったは良いけど私達の集落は派閥競争が起きちゃってるじゃないか。時期が悪いと思うんだけどねえ……」

 

フルフルが心配そうに言った。

それを聞いた化け鮫と黒狼鳥の顔が凍りついた。ぎこちない動きでフルフルの顔を見る。

「やっぱ忘れてたのかい……」

フルフルが溜め息をついた。

その様子を見た奇猿狐が訊く。

「派閥? そんなのあるの?」

無邪気に訊く奇猿狐に頭を悩ませる黒狼鳥。

「あぁ……最近できてしまってな。首長であるテスカト夫婦のナナが逝去されてから管理が緩くなったと思った奴らが小賢しい真似をしようとしたらしいんだが……」

「小賢しい真似? 何をしたの?」

奇猿狐が訊いた。

「食料の独占だよ。俺達の集落の貯蔵庫に入ってた肉や虫、キノコが突然無くなったんだ。そのせいで次期首長候補の四組がお互いを探りあっちまってだな……。そのせいで集落の雰囲気がかなり冷え込んじまってる」

一回溜め息をついて続ける。

「その四組はリオレウスとリオレイア、ラージャンとティガレックス、ジンオウガとブラキディオス、ゲネル・セルタスとガララアジャラなんだけどな……。皆それなりに竜望があるから候補以外の奴も影響されて疑うようになっちまったんだよ。ほら、地下牢でグラビとザボアが言い争いしてたんだっけ? あんな感じのが続いてるんだよ」

奇猿狐が思い出す。

「ああ! 確かに二匹とも仲が悪かったみたいだけど……」

化け鮫が話に割りこむ。

「まあ俺はそんなにゲネルを尊敬する訳じゃないんだがな…。次期首長は推してるけどさ。でもグラビの野郎はこの集落に入る前から二頭の世話してたから筋金入りだぜ。あとアルセルタス達は女帝様女帝様ってすげえ言ってるぜ。あれはもう崇拝の域だな」

奇猿狐が少し怯えながら言う。

「へ、へえ……。そんなとこに僕が入って大丈夫なの?」

黒狼鳥が答える。

「大丈夫さ。首長のテオがまだ健在だしテオの右腕のクシャがきちんと抑制してる。内部抗争は起きないだろう…。それに俺達の警備隊に入れば中立の立場として居れる。まあ、そんな訳で雰囲気が悪くなっているのはすまない……」

黒狼鳥が項垂れる。

「だ、大丈夫だよ! け、警備隊に入ればいいんだよね? じゃあ警備隊の隊長に会いに行かなきゃ……」

奇猿狐が慌てて言う。

「その必要は無い。隊長は俺だ」

「ガルルガさんが?」

「ああ。だからお前はとりあえずテオに会いに行った方がいい。今から動けるか?」

奇猿狐は飛び跳ねる。

「もう元気だよ! 木登りはまだ出来ないけど……。」

「そうか。じゃあ行くとしよう。ザボア、お前も行くぞ。グラビはまだ寝てるようだし置いていこう。フルフル、グラビを頼む」

そう言って黒狼鳥は二匹を連れて森の奥に去って行った。

「いいねえ若さって。どう思うグラビ? あんた途中から起きてただろう?」

 フルフルが振り返って言った。

「さすがフルフル。息の匂いか?」

 鎧竜が答えた。彼は先程から目を覚ましていた。

「そうだな……。若さは素晴らしい。純粋で無垢だ」

 

「だから、それを大人達の都合で汚してはならない……そう思えてくるな」

 

「随分と格好いいこと言うじゃないか。あんたあの坊やの姿にかなり影響されたね?」

 




如何でしたでしょうか。

\説明回?文章力無いだけだろ!/はい、その通りです。地の分ですら書ける自信が無いんで先生の力借りましたごめんなさい。

そろそろ独自解釈が強くなってきます。

あの摩訶不思議なギルドクエストの設定は一族を根絶やしにしてるとこの小説内では思っててください。シャガルやラーはちょっと説明できないです、ごめんなさい。

そして投稿後にちまちまといじってるので読み直すと文がかなり変わってたりします、ごめんなさい。

次回も見ていただければ喜びのあまり寒空の中を跳ね回ります。


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一 上位の樹海、大人の事情 03

閲覧ありがとうございます、一週間振りです。

※登場モンスター
ケチャワチャ(奇猿狐)
イャンガルルガ(黒狼鳥)
ザボアザギル(化け鮫)
テオ・テスカトル(炎王龍)
クシャルダオラ(鋼龍)
キリン(幻獣)
バサルモス亜種(桃岩竜)
ドスランポス(ドスランポス)
ゲリョス(毒怪鳥)
フルフル(フルフル)


【上位未知の樹海‐南Gエリア】

 

 

 古代遺跡の残骸が辺りに散らばり、小さな崖が聳えるエリア。その崖の上で炎王龍と鋼龍と幻獣が佇んでいた。

 崖の下で枝をを掻き分ける音。そして、黒狼鳥の声。

「テオ首長ー! お話が2つありますー!」

 翼に絡まった枝を解しながら黒狼鳥が言った。崖の上から炎王龍が返す。

 

「とりあえず枝を取ってこっちに来てから話してくれ、ガルルガ!」

 

 炎王龍の凛々しい声が響く。

 黒狼鳥は体を払い、後ろに控えていた奇猿狐と化け鮫を手招きして飛び立つ。奇猿狐が続いて近くの岩から滑空し、化け鮫が地中に潜る。六頭のモンスターが崖の上に集まった。

「ふむ……。二頭も連れてきたか。じゃあガルルガ、良い話から聞かせてくれ」

 炎王龍が言う。

「どちらも良いお話です!」

「じゃあ古い話から」

 黒狼鳥が咳払いする。

「失踪中だったザボアザギルとグラビモスが帰って来ました」

 炎王龍の顔が綻ぶ。

「なるほど。さっきから見えるザボアの姿は我輩の幻覚では無かったか。良かった良かった」

「俺はさっきまで幻扱いされてたのかよ!?」

 化け鮫が突っ込む。その吹き出す黒狼鳥と炎王龍。

「失礼失礼。……で、二頭はどこに居たんだ?」

「人間達に捕獲され、人間の町の地下牢から脱走しました」

「……!」

 炎王龍の笑いが凍る。

 化け鮫が前に出て話した。

 

「――そうか。良かったじゃないか、無事に帰ってこれて!ケチャ、礼を言う。二頭を助けてくれてありがとう」

 炎王龍が頭を下げる。

「そ、そんな……ザボアさんとグラビのお陰だし頭を下げなくても……」

 奇猿狐は手を横に振って謙遜する。

 突然、静かに聞いていた鋼龍が訊いた。

 

「ザボア。その地下牢の設備の形状を詳しく教えてくれないか。これから対策を作るのに役立たせたい」

 

 化け鮫は頭を掻く。

「いやぁ……。俺はあんま見てなくてさ。グラビなら詳しく教えてくれると思うぜ」

「そうか。じゃあな」

 鋼龍はそれだけ言って鎧竜が寝ているDエリアへ飛んで行った。

「クシャさんって怖い龍だね……」

 奇猿狐が怯えたように言う。

「クシャ姉様は無駄を嫌う方です……。でも、話してみると優しい方ですよ……?」

 ずっと炎王龍の影に隠れていた幻獣が小さな声で答えた。奇猿狐が首を伸ばすが、幻獣は後ろに引っ込んでしまった。

「すまないな、キリンは臆病な性格なんだ。君と同じくらいの年ではあるんだが……」

 炎王龍が謝る。

「そうだ、もう一つの話ですがこのケチャワチャの少年を俺達の集落に入れてはどうでしょうか? 俺とザボア、フルフル医師が推薦します。」

 思い出した黒狼鳥が提案する。

「おお、それは素晴らしい! こんな集落でよければケチャワチャ、君を歓迎するよ」

 炎王龍が歓喜の声を上げた。

「集会は明日だ。その時に正式に君は集落入りする、それまでの間に集落のメンバーに挨拶しに行くといい」

「あっ、ありがとうございます!」

 奇猿狐が礼を言う。

「――ところでガルルガ。彼にアレの事は言ってあるか……?」

 炎王龍が大事な部分を伏せて言う。

「派閥の問題は既に話しました。ケチャも承知しています。俺の警備隊に入れれば巻き込まれずに済むでしょう」

 炎王龍は胸を撫で下ろした。

「そうか。警備隊という手段があったな。ガルルガ、ケチャを頼むぞ」

 黒狼鳥が頷く。

「お任せてください。要件は以上です、では」

 黒狼鳥は踵を返した。

「さあケチャ。挨拶回りに行くぞ、まだ歩けるか?」

「うん! テオさん、今日はありがとうございました!」

 奇猿狐が振り向いて手を振る。にこやかに振り返す炎王龍。その後ろで幻獣が小さく頭を下げた。

 

 黒狼鳥達が炎王龍の巣を抜けた時、陽は既に西に傾き樹海の木々の緑を赤く染めていた。

「もう夕方か。お前達を見つけたのが早朝で正午くらいに目を覚まして……長かったな」

 黒狼鳥の言葉に奇猿狐達が笑う。

「僕達は昨日の夜から大忙しだよ。これから更に挨拶回りがあるんだし、本当一日って長いよね!」

最後の一言を意地の悪い顔で言う奇猿狐。

「悪い悪い。そうだったな。まだまだ俺も甘いな」

 そういって黒狼鳥も笑った。

「なあガルルガ。俺そろそろ氷海の様子を見に行っていいか? ずっと行ってないから体が暖まって氷が作れなくなっちまったしガキ共に会いに行かなきゃいけねえし……」

 化け鮫が申し訳なさそうに言った。

「なんだ、お前そのつもりならわざわざテオの巣までついてこなくてよかったのに。行って構わんぞ。……もう人間に捕まるんじゃいぞ?」

 黒狼鳥がさっき奇猿狐にされたように意地の悪そうに言った。

「う、うるせえ! ……じゃあなケチャ坊! 三日後くらいには戻ってくるぜ!」

 二頭に手を振って、化け鮫は地中に潜った。

「ガルルガさん。……どういうこと?」

 先程の不可解なやり取りに奇猿狐は頭を捻った。

「ザボアの奴は氷海に住むモンスターだからな。ここに泳ぎ着いてから樹海で暮らすようになったらしいんだが奴の真の武器は氷だ。体を冷やす為に定期的に氷海に行く必要があるらしい」

 黒狼鳥が説明する。

「確かに……。先生はザボアザギルは氷の鎧を纏うとか言ってた気がするけどさっきのザボアさんは只の鮫肌だしね。見てみたいなあ……」

 化け鮫は地下牢内で三日間既に過ごしていた為、奇猿狐が出会う時には全く氷を生成出来ない状態だった。

「まあ、奴は戦闘状態に入らない限り鎧なんて纏わないからな。警備隊としては見ないで過ごして欲しいが」

 黒狼鳥が苦笑する。

「とりあえず警備隊の巣に帰ろう。お前はこれからそこで寝泊まりする訳だし先に紹介しとこう」

 さっきまで歩いた道を再び歩き出す黒狼鳥。その後ろを奇猿狐は追いかける。

 

 

【上位未知の樹海‐南Dエリア】

 

 

 赤く色付いた空が黒く塗り潰されていく。二頭は警備隊の巣に帰った。

「「「「おかえりなさーい!」」」」

出迎える竜達。

 

「君が新入り? アタシは桃バサル! よろしくね、ケチャ君!」

 

「坊っちゃん、あっしはドスランポスでさあ! 子分共々よろしくでっせ!」

 

「ウェルカムアワーホーム! マイネームはゲリョス! ミーはユーをベリー歓迎!」

 

 怒濤の挨拶攻め。

「よ、よろしくお願いします……」

 狼狽える奇猿狐。

「まったく……。坊やが困っちゃってるじゃないか、もっと静かに挨拶できんのかねえ」

 少し後ろでフルフルが呆れた。

「紹介しよう。この鉱石をくっ付けた竜が桃バサル。隣の赤い頭が特徴のチビをたくさん引き連れた鳥がドスランポス。最後に全身ゴムのキチガイがゲリョス。その三頭に俺とフルフル、そして今日からお前が加わってテスカト集落警備隊だ」

 黒狼鳥が一人一人紹介する。

「オーウ、ガルルガ隊長!ミーはノットクレイジー!ベリーお洒落なラバーバード!」

 毒怪鳥が無駄にポーズを決めながら叫ぶ。だが黒狼鳥は無視して続ける。

「と、まあ、こんな感じだ。直に慣れるさ。さあケチャ、これからレウスのところに会いに行くぞ」

「え……あ……もう、お腹一杯…………」

 奇猿狐が呆気にとられた顔で黒狼鳥について行った。

 

 

ニ 上位の樹海、大人の事情 03 終




如何でしたでしょうか。

現在初期の稚拙な文章を修正しながらの投稿です。

個人的に女設定のモンスターはかなり優遇しています。特に桃バサル。バサルたんはおr……はい、ごめんなさい。

これから先集落モンスターを片っ端から紹介する作業入ります。読者様のイメージしていたキャラと違っていたらごめんなさい。

私の少ないボキャブラリーではガルルガとザボアの時点で兄貴キャラが混同しかけてしまっているのでこれから登場するモンスターに性格イケメン兄貴は期待しないでください、すいません。

あと、この作品って擬人化にはあたりますか……?細かい定義を知らないのでもし良作を期待してこの小説を開いてくださった読者様に申し訳ないです、ごめんなさい。

次回も読んで頂けたら真夜中に歓声上げます。近所迷惑ですね、すいません。


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一 上位の樹海、大人の事情 04

閲覧ありがとうございます。
怒涛のMH4登場モンスター紹介です。

※登場モンスター
ケチャワチャ(奇猿狐)
イャンガルルガ(黒狼鳥)
グラビモス(鎧竜)
リオレウス(火竜)
リオレイア(雌火竜)
ティガレックス(轟竜)
ババコンガ(桃毛獣)
ババコンガ亜種(緑毛獣)
ラージャン(金獅子)
バサルモス亜種(桃岩竜)


【上位未知の樹海‐南Bエリア】

 

 

 大木が力強く根付き、巨大な古代遺跡が今にも崩れそうに並ぶ起伏の激しい開けたエリア。そのエリアの中でも少し高い位置に踞る雌火竜。それを取り巻く火竜と鎧竜。

「レウス! 居るか?」

 黒狼鳥が大声を出す。制止させる鎧竜。

 

「すまないガルルガ。レイア様が卵を産まれたのだ。あまり大きな声を出さないでくれ」

 

 黒狼鳥が慌てて雌火竜に謝る。

「それはすまなかった。レイア、もう産んだのか、おめでとう。後でフルフルからアルビノエキスを貰ってこよう。」

 小声で祝う黒狼鳥。

 

「……ありがとう、ございます…………」

 

 雌火竜が力無く言う。火竜が黒狼鳥に訊いた。

 

「ガルルガさん。ところでこの夜に何の用ですか? まだ産んだ事はテオさんにも言ってないのでお祝い以外に用事があったのでしょう?」

 

 その逞しい外見から発せられる丁寧な物腰に奇猿狐は驚く。黒狼鳥が答える。

「ああ。このケチャワチャが今度から集落入りする。それで挨拶しに来たんだ。」

奇猿狐がお辞儀する。

「こ、これからよろしくお願いします」

火竜が微笑む。

「こちらこそよろしく。今日でこの集落の仲間が三頭増えた事になるのですね、なんてめでたい日でしょう」

「三頭? ……双子なのか?」

黒狼鳥が驚く。

「はい。妻のお腹の下には今二つの卵がありますよ」

「孵化する日が楽しみだな。俺達は今日中に他のメンバーに挨拶するから一緒に言っておこう」

 その言葉に火竜の顔に影が差す。

 

「……まあ、彼らからは祝ってもらえるでしょうか……」

 

「……!」

 不穏な空気を察した黒狼鳥が話題を変える。

「そうだグラビ。クシャはやって来たか?」

「来たぞ。ちゃんとバカ鮫の見てない分を説明しておいた」

 鎧竜が答える。

「そうか。じゃあ俺達はこれで。夜に突然押し掛けてすまなかったな。」

 要件を終えた黒狼鳥が締める。

「お、お邪魔しました!」

 後を追いかける奇猿狐。火竜と鎧竜が見送った。

 星空を見上げながら奇猿狐は一連のやり取りを振り替える。

(やっぱり……派閥争いが起きてるんだ…………)

 

 

【上位未知の樹海‐南Cエリア】

 

 

 エリアの端に生えた一本の大木が特徴の仄暗い森のエリア。中心には轟竜と桃毛獣、緑毛獣が集まっていた。

 

「よぉガルルガ! 丁度良い時に来たな、今飲んでんだ、お前も飲まないか?」

 

 轟竜が大きな声で酒を勧める。果実酒を強走エキスで割ったかなり強い酒だ。

「悪いなティガ。今日は新入りの紹介で来たんだ。ラーもいるか?」

 誘いを断りながらも横に座る黒狼鳥。奇猿狐も様子を見ながら座る。

「ラーか? あいつは今トレーニング中だ。そろそろ帰ってくるからそれまで飲め飲め!」

 酒の入ったタルを差し出す轟竜。近隣に住むアイルー達から貰った器だ。

「強い酒は苦手なんだがな……」

 そこまで言ってから黒狼鳥は笑う。

「まあ、たまには悪くないな。ケチャ! お前はまだ飲むなよ! こいつの酒は子供が飲んだら後悔するぞ!」

 そっと手を伸ばしていた奇猿狐の手が引っ込む。

 黒狼鳥は大タルをくわえて一気飲みした。思わず飛び上がる。

「かぁーっ!!お前達これをずっと飲むのか!よくぶっ倒れないな!!」

飲む物が無くてしょんぼりする奇猿狐の横に座る桃毛獣。

 

「まあ悄気るなって! ガキはこいつでも飲んでくれぃ! 虫餌のハチミツ漬けじゃ!」

 桃毛獣が別のタルを差し出す。奇猿狐が受け取って言う。

 

「ありがとう! コンガのおじさん!」

 緑毛獣が周囲のタルを見回してから桃毛獣を殴る。

 

「あんた! やけに気前良いと思ったらそれあたしのじゃないか! あ、わざわざ返さなくていいよ新入りの子、あたしがこいつの分を貰っとくから!」

 

 尻尾を使って桃毛獣の横にある一際大きなタルを奪う緑毛獣。慌てて奪い返そうとするが全部飲んでしまった。

「ああっ……ワシがずっととっておいた酒がっ……」

「ふざけんな! あのハチミツ漬けをあたしがどれだけ大事にとっておいたと思う!?」

「いや……でも……あの酒は……特に上等な強走エキスが……」

 盛り上がりが絶頂を迎える頃、森の奥から金獅子が現れた。

 

「宴も(たけなわ)……といったところか。見慣れない顔がいるな」

 

 金獅子が奇猿狐を見て言う。奇猿狐と目が合った時、奇猿狐は怯む。

(なんだろうこの目……全てを見透かされるような……凄い鋭い目付き…………)

 黒狼鳥が酔いながらも紹介する。

「こい(.)はケチャ。ザボアやグラビ(.)一緒に人間達から逃げて来た奴で明日集落入り(.)る……」

 脱走劇を回らない舌で話す黒狼鳥。

「ふうん……その年でそんな経験をな……」

 まじまじと見つめる金獅子。

「あとレイアが双子の卵を産んだ(.)うだ。要件は話したし挨拶も残ってるから(.)(.)ろ帰らせてもらうぜ。緑コンガ、そこの薬貰ってくよ」

 酔い醒ましに効く薬草浸けをくわえながら帰る黒狼鳥。奇猿狐がハチミツの付いた手を舐めながらついていく。

 歩きながら奇猿狐が譫言のように言った。

「ガルルガさん……ラーさんの目……普通のモンスターじゃない目付きだった…………」

 すっかり酔いの醒めた黒狼鳥が答える。

「ラーねぇ……あいつは昔から妙にトレーニングに打ち込んでるから何かあったんだろうな……俺が集落に入る前に居たから詳しい事は知らないし訊こうとも思わないけど」

 話を変える。

「もう夜も更けてきたな……。寝る竜もいるだろうしそろそろ帰って明日の朝に挨拶するか? お前も眠そうだし……」

 既に月は頭上に昇っていて、樹海にはフクロウの鳴き声が何処からともなく響いていた。

「そうだね……。今日はいろいろあって僕、疲れちゃった……」

 言いながら黒狼鳥に軽くもたれ掛かる奇猿狐。半分寝ている奇猿狐の背中を黒狼鳥が嘴でくわえ、背中に乗せる。まだ小さい奇猿狐は簡単に持ち上がった。

 十六夜月が照らす樹海を、小さな奇猿狐を背負った黒狼鳥が静かに歩いた。

 

 

【上位未知の樹海‐南Dエリア】

 

 

 黒狼鳥が到着する頃には月は西に傾き始め、蔦の上ではフルフルとドスランポス、毒怪鳥が寝息をたてていた。

 隣に奇猿狐を寝かせ、見張りに立っていた桃岩竜の元に向かう。

「隊長ー! お帰りなさーい! 挨拶どうだった?」

 気配に気が付いた桃岩竜が言う。

「今日はレウスとラーに挨拶に行った。あとオウガとゲネルに挨拶しに行く。見張りお疲れ。後は代わろう」

 見張り台に飛び乗る黒狼鳥。

「ありがと隊長ー。本当面倒見良いよねー。なんか悪いし明日はアタシがケチャ君連れようか?」

「それはありがたい。言葉に甘えて見張りが終わったらぐっすり眠らせて貰うとしよう」

 桃岩竜が見張り台を降りる。

「じゃあね、隊長ー。無理はしないでねー」

 見張り台の上から返事が聞こえるのを確認して桃岩竜は寝床に帰った。

(隊長はこの子をかなり気に入ってるみたいだね……)

 小さく鼾を立てる奇猿狐を横目に地面を掘る。

(ま、隊長の面倒見の良さはアタシが入った時から変わってないか)

 桃岩竜は背中だけ出して眠りについた。

 

 

ニ 上位の樹海、大人の事情 04 終




如何でしたでしょうか。

\つまらない文章でダラダラと伏線を張るな!/…はい、いつ見限られるかわからない小説でダラダラすみません。

ガルルガさん優遇しすぎたので次からバサル亜種にバトンタッチです、はい、偏ってすみません。

飲酒シーンはティガは樽に噛み付き、ガルルガは樽についばみ→咆哮、ババコンガはキノコ食べるモーションで脳内想像お願いします。ちょっと無理あるかな…

4の新モンスって虫とか多すぎてかなり陰湿なキャラしか思いつかないんですけどファンの方大丈夫ですかね?某依頼主みたいにネルスキュラ大好きな人いらっしゃいますかね?

次回も読んでいただけたら初詣の絵馬にキリンの絵でも描きましょうか。…神様に呪われそうなんでやっぱやめます。


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一 上位の樹海、大人の事情 05

突然すいません、閲覧ありがとうございます。

何をトチ狂ったかこの話を投稿後手違いで削除してたようです。

穴があったら入りたい……

※登場モンスター
ケチャワチャ(奇猿狐)
バサルモス亜種(桃岩竜)
ジンオウガ(雷狼竜)
ウルクスス兄(白兎獣)
ウルクスス弟(白兎獣)
ブラキディオス(砕竜)
アルセルタス(徹甲虫)
ゲネル・セルタス(重甲虫)
ガララアジャラ(絞蛇竜)
ネルスキュラ(影蜘蛛)


[6時間後]

 

 樹海の木々の隙間から朝日が顔に射し込む。昨日は気が付かなかったが一昨日とは少し違う蔦の感触。奇猿狐は起き上がって体を伸ばす。隣では黒狼鳥が鼾をかいていた。下を歩いていた桃岩竜に挨拶する。

「おはようございます、えっと……桃バサルさん」

「おはよーケチャ君。今名前忘れかけてたでしょ?」

 くすりと笑う桃岩竜。図星だった奇猿狐が頭を掻く。

「いいよ、一昨日から色んなモンスターに会ったんだもん、しょーがないしょーがない!」

「キノコ、ドスランポス君が用意してくれたから朝ご飯にしときな。食べ終わったら集会までアタシと挨拶回りに行くよー」

 キノコに伸ばした手を止めて桃岩竜を見る。

「桃バサルさんが?」

「そ。昨日の朝からドスランポスに叩き起こされ普段は仮眠してる昼もザボアさんや首長と喋って夜中も寝た君を運んだ後に見張りをしたりと大忙しでね。アタシが代わりに今日は付き添うことになったの。不服?」

 慌てて首を振る。

「全然! 今日はよろしくお願いします! 桃バサルさん!」

「じゃあさっさと食べてしゅっぱーつ、時間は待ってくれませーん。あと、アタシとそんなに年離れてないんでしょ? 敬語なんて使わなくていいよ」

 奇猿狐は朝食を掻き込む。

 

 

【上位未知の樹海‐南Eエリア】

 

 

 少し離れた場所から滝の流れ落ちる音のする水源が豊かな平地。その小川で雷狼竜と二頭の白兎獣が顔を洗っていた。

「オウガ姉さーん!」

 

「桃バサルじゃん! こんな朝からどうしたの?」

 

 濡れた顔を横に激しく振り、雷狼竜は訊ねる。

「新入りの紹介ですー。隊長の代わりとして付き添いで来ましたー!」

桃岩竜は奇猿狐を前に出す。挨拶する奇猿狐。

「ケチャワチャって言います、よろしくお願いします!」

「朝から元気良いねえ! アタイはジンオウガ! よろしくねケチャ!」

 二頭の白兎獣が顔を見合わせる。

「兄ちゃん、『新入り』って僕達じゃないの?」

 片方が小声で訊く。

「何言ってるんだよ弟。さっきまで『新入り』は僕達だったけど今から『新入り』じゃなくなるんだよ」

 兄ちゃんと呼ばれた方が答える。

「じゃあ今から僕達は『深入り』?」

「『新入り』じゃなくなるんだから『入り』でいいんじゃないかな?」

「さすがだねお兄ちゃん!」

 暫くの問答の末、向き直って奇猿狐に話しかける。

 

「「よろしく『新入り』のケチャ君! 僕達は『入り』のウルク、双子の兄弟なんだ! 二頭合わせてスノウツインズ!!」」

 

「よ、よろしく」

 綺麗に揃っていて奇猿狐は驚く。

 

「うーっす今日もいい朝……あれ、なんかちっさいラーみたいなのが見えるわ」

 

 目を覚ました砕竜が顔を擦りながらやって来た。

「あんた馬鹿? 新入りが来たんだよ、目ぇ節穴なの?」

 雷狼竜が早口で貶す。

「寝起きだからしゃーねえだろー。まあ新入り? 瞼重くてよく見えないけどよろしくな」

 砕竜が手を差し出す。

「ケチャワチャです、よろしくお願いします! …………ん?」

 その手を握り返す奇猿狐。瞬間、顔が歪む。粘着質な蛍光色の液体が手のひらや爪にべっとりと付く。

 

「「「「「あっ」」」」」

 

それを見た全員の顔が凍る。

 

「ケチャ君! 今すぐ川で流して! 早く!」

 

「雷光虫! ケチャの爪に入り込みな! 電流は流すんじゃないよ!」

 

「僕達の爪で冷やそう!」「さすがだねお兄ちゃん!」

 

[3分後]

 

「ふう……焦った……」

 息を切らしながら雷狼竜が言う。

「本当すまんかったケチャ! うっかりしてた!」

 砕竜が土下座する。その手から液体が土に付く。

「あんた何てことすんの!? ケチャ殺す気!? 何が『寝起きだからしゃーねえ』よ!?」

 凄まじい剣幕の雷狼竜。しかし、何が起きているか奇猿狐には分からない。

「あのー……何もそんな怒らなくても……。さっき洗ったあの液体って何ですか?」

 桃岩竜が起き上がって説明する。

「粘菌。ブラキさんの武器でくっつくと爆発するの。例えばさっき土下座した時に落ちた粘菌がほら」

 桃岩竜が砕竜が土下座した地面を指す。いつの間にか変色した液体が轟音と共に爆発した。

「もし粘菌がベトベトのブラキさんの手を握ったまま放置したら……?」

 奇猿狐が震える。奇猿狐は無言で川へ走った。狂った様に爪と指の隙間を洗う。

「さて。ケチャと桃バサルはもう帰りな。まだ挨拶が終わって無いんだでしょ? ここにいてもカラッポ頭のリーゼントに爆破されるだけだよ」

 最後の一言に砕竜以外の皆が笑う。砕竜は項垂れた。

「お邪魔しましたーっ。ケチャ君、さっきオウガ姉さんの雷光虫が入り込んで取ったんだからもう大丈夫だって、行くよ!」

 未だに握った手を見つめる奇猿狐を引っ張って去る桃岩竜。

「「じゃあねー!」」

 二頭の横を滑って見送る白兎獣兄弟。奇猿狐が笑って手を振った。その動作は僅かに残ってるかもしれない粘菌を取ろうとしてる様に見えた。

 

 

【上位未知の樹海‐南Fエリア】

 

 

 天井に張り付いた蔦が垂れ、その天井を苔むした柱が支える洞窟の様なエリア。そこに座る重甲虫と徹甲虫達、絞蛇竜と影蜘蛛。

 桃岩竜が洞窟の前で深呼吸する。今までに無かった挙動に奇猿は首を傾げた。

「お邪魔しまーす……」

 徹甲虫三匹が襲いかかる。

 

「誰だっ!」

「なんだ、ピンクの竜かぁ……」

「人間なら仕留めて女帝様に貢げたのに……」

 

 その言葉を聞いて奇猿狐は桃岩竜が深呼吸した意味を察した。

 

「桃バサル。入って来な」

 

 聞き取りにくい声が遠くから聞こえた。

 洞窟内に入る二頭。徹甲虫と絞蛇竜が前に出る。

 絞蛇竜の舐め回す様な視線に奇猿狐は怯む。

「用件。隣の猿の説明」

 表情の読めない顔で訊く

「新入りの紹介で来ました。隣のが新しく入るケチャワチャです」

 淡々と説明する桃岩竜。

「よ、よろしくお願いします……」

 勇気を奮って話しかける奇猿狐。

「そうか。よろしく」

 重甲虫は素っ気なく返した。

 

「君が新入りですか。随分と小さいし爪も怪我してるみたいですねえ。精々人間共にステーキにされないよう頑張って下さいね」

 

 嫌味っぽく言う絞蛇竜の視線から目を逸らす奇猿狐。桃岩竜が庇って間に入る。

「おっと、僕は恐がられてしまったようだ。すまないね……シュルルル」

 謝罪の気持ちの込もってない笑い声。

「用件はこれだけですので。もう帰りますね」

 奇猿狐を押して去る桃岩竜。奇猿狐は去り際に終始無言だった影蜘蛛を見るが全く声を発する気配も無かった。

「チビだったねー」

「あんなんが生きれるかなー」

「どう思います女帝様ー?」

 後ろで聞こえる徹甲虫達の声。歩調を早める桃岩竜。

 エリアを抜けた所で桃岩竜は溜め息をついた。

「あーっ……。あの派閥だけは本当苦手…………」

 頷く奇猿狐。

「なんか……感じが悪いと言うか……。ザボアさんが推してるって言ってたからイメージと違う……」

「まああれで狩りは上手いからねー……。でも性格がなー……」

 桃岩竜が話題を変える。「これで一通り集落の皆の紹介はしゅーりょー。今日の午後には集会があるから一旦Dエリアに帰って昼御飯にしようか?」

 前から疑問に思っていた奇猿狐が訊く。

「集会って何するの?」

「んー……集落の皆が集まって最近何があったー、とか、人間がやってきたー、とか報告すんの。まあ話長いし寝てても問題ないよ」

 奇猿狐が納得する。

「ああ! 先生の授業終わりの報告会みたいなやつか!」

「下位樹海でも似たようなのがあるんなら大丈夫か、じゃあこれで挨拶終わりー。いざ、ごっはーん!」

 下位樹海の思い出を懐かしむ奇猿狐。気が付いたら既に桃岩竜は歩き出していた。慌てて走る。

 

 この時、下位未知の樹海で何が起きているか奇猿狐はまだ知らなかった。

 

一 上位の樹海、大人の事情 05 終




如何でしたでしょうか。

\ふざけんな!/…はい、本当すみません。


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一 上位の樹海、大人の事情 06

閲覧ありがとうございます。
さて、一通り挨拶も終わって集会です。
そして、2014、あけましておめでとうございます。

※登場モンスター
ケチャワチャ(奇猿狐)
テオ・テスカトル(炎王龍)
イャンガルルガ(黒狼鳥)
グラビモス(鎧竜)
フルフル(フルフル)
ドスランポス(ドスランポス)
バサルモス亜種(桃岩竜)
リオレウス(火竜)
リオレイア(雌火竜)
ティガレックス(轟竜)
ラージャン(金獅子)
ババコンガ(桃毛獣)
ババコンガ亜種(緑毛獣)
ジンオウガ(雷狼竜)
ブラキディオス(砕竜)
ウルクスス兄(白兎獣)
ウルクスス弟(白兎獣)
クシャルダオラ(鋼龍)
キリン(幻獣)
ゲネル・セルタス(重甲虫)
ガララアジャラ(絞蛇竜)
ネルスキュラ(影蜘蛛)
ゲリョス(毒怪鳥)


[2時間後]

 

【上位未知の樹海‐南Aエリア】

 

 

 崖と小さな段差が特徴的な集落内でも一際広いエリア。太陽が子午線と交わる時、エリア内には先程挨拶をしたモンスター達が集まっていた。古龍達が小さい段差に登り、それを囲む様に並んでいる。奇猿狐は集会の終わりに集落入りさせる、とのことで桃岩竜の隣にいた。毒怪鳥は警備として見張りに立つ為に席を離れていた。

 砕竜が最後にやって来たのを炎王龍が確認して、言った。

 

「揃った様だな。では、これから集会を始めよう。では最初に人間達の動向から。イャンガルルガ」

 

 黒狼鳥が咳払いする。

 

「前回の集会から暫くの間、人間の出入りは例年通りでした。しかし、ここ最近、特に一週間前から爆発的に人間が増えました。恐らく人間の間で大移動があったと思われます。アイルーやガブラスによると今は遺跡平原や下位の樹海に出没することが多い、とのことです」

 

 炎王龍が唸る。

「では、下位の樹海には増援として明日からラージャン、ティガレックス、ガララ――」

 そこまで言って炎王龍は止まる。絞蛇竜が金獅子達を睨んでいたからだ。

「――ラージャン、ティガレックス、ババコンガ、ババコンガ亜種が向かってくれ」

 

「承知」「了解ィ!」「わかりましたぞ」「はいはい」

 

「そして次の集会まで警備強化としてゲネル・セルタス、ガララアジャラ、ネルスキュラが警備隊と一緒に警備にあたってくれ」

 

「……ああ」「やれやれ……」「……(カサッ)」「うぅ……」

 

 最後のは桃岩竜の声だ。

「では次に近辺の部族や集落の状況を。これはジンオウガだったか?」

「アタイで合ってるよ、首長」

 雷狼竜が前に進み出る。

 

「まず隣のメラルー部族が引っ越すらしい。場所は聞けなかったけど遠くに移動するみたい」

 

 突然、炎王龍の隣にいた鋼龍が呟く。

「……珍しいな」

 雷狼竜が話を止めて鋼龍を見る。

「今から冬が来るのに引っ越すということは危険が伴う筈なのだが……。――すまない、続けてくれ」

 雷狼竜が向き直る。

 

「近隣の話はそれだけなんだけどその時に気掛かりな事を聞いてね。又聞きだけどダレンのジジイが最近道を間違えて人間の町に近付いた時に黒い禍々しい気配を感じたらしいんだ。粉……? みたいな感じ。モンスターのような感覚だったらしいよ」

 

 一帯がざわつく。

「我輩の粉塵やネルスキュラの毒とは違うのか?」

 炎王龍が訊く。

「又聞きだから詳しくはわかんないけど『今まで感じた事の無いドス黒さ』って言ってたよ」

 神妙な顔をする炎王龍。

「ふむ……。一旦意見を取りたい。皆、自由に発言してくれ」

 砕竜が口を開く。

「他の大陸や地域でも聞いた事が無いから新モンスターじゃね?」

 桃毛獣が呟く。

「そもそも何故人間に近付いた時に感じたんじゃ?」

 火竜が言う。

「人間の大量発生と関係があるのでしょうか?」

 黒狼鳥が反応する。

「鱗の一部を人間が持っていて感じた、という事だろうか」

 鎧竜が口を挟む。

「体の一部からそこまで感じると仮定するとかなり強い力だな……古龍か?」

 白兎獣兄弟が言う。

「今まで感じたことの無いドス黒さってなんだろうねー?」「お兄ちゃん怖いよー……」

 絞蛇竜が言う。

「あの老体は随分と変わった言い回しを使うようですね。なんにせよデータ不足だとは思いませんかねえ?」

 隣の影蜘蛛を見るが何も言わない。

 炎王龍が話し始める。

「誰も知らない妙な特徴のモンスター、か。今の時点では対策のしようがないな。今まで以上に不審な生き物に注意してくれ」

 一同が頷く。

「では、次の話題に……。我が集落の貯蔵庫の中身が無くなった事件だがこれについてザボアザギル……の代理にガララアジャラ。ザボアから話を聞いてあったか?」

 

「勿論。彼によると貯蔵庫の中身を奪った輩は未だにわからず。洞窟内ですし飛行による侵入は不可能。誰にも見つからずに歩いて持ち出す事も困難。地面を掘ったら衝撃で洞窟も無事では無いでしょう。依然としてわからず仕舞いです。いやー、誰でしょうね? 食料を盗むような屑は?」

 

 絞蛇竜が煽る様に話す。

「そう感情的になるなガララ。――しかし、あの食料が無いと冬場は餌を探しながら生活する事になってしまう。このままでは厳しい冬を迎えそうだな」

 次期首長候補達が見合せる。疑念の目だった。

「疑うのは止めろ。迷い混んだモンスターや人間が盗んだ。今はそう考えてもらえないか」

 炎王龍はそう言うが険悪な雰囲気は戻らない。

 

「…………。この話題は進展が無かったので終わろう。さて、良い話題がある。この集落の新しい仲間が三頭も入る事になる。リオレイアが双子を産んだ。そしてケチャワチャの少年が新しく入る。来い、ケチャワチャ」

 

 炎王龍が手招きする。奇猿狐が緊張した面持ちで前に立つ。

「かなり珍しい境遇だから皆知っておいた方がいいかも知れないな、グラビモス、経緯を話してくれ」

 鎧竜は闘技場地下牢に入れられてから脱走するまでの出来事を話した。

 挨拶回りの時点で知っていた者もいたが、大半は初耳だった。

「――以上だ」

 鎧竜が話を終えた時、自然と歓声が湧いた。

「では、これから集落入りの儀式を始めるとしよう、皆、移動するぞ」

 炎王龍の言葉に集まったモンスターが欠伸や伸びをする。

「えっ、待って? 儀式って何をするの?」

 奇猿狐が質問に炎王龍が答える。

「我らの集落では集落入りする時に泥を顔に塗るんだよ。この地の土を付けることでこの樹海を生きる決意を表す、といったナナの思いがある。ついでに亡き集落メンバーに挨拶する仕来たりもあるな。ザボアは仕方ないとして今からゲリョスを呼びに行って一緒に――」

 その時、ゲリョスがエリアの奥から必死の形相で走って来た。只ならぬ様子に炎王龍が話を止める。

 

「エブリワン! 大変だ! 下位樹海からメッセージをレシーブ!」

 

 その言葉に全モンスターが固唾を飲む。

 

「『下位樹海に見たことの無い黒い竜が飛来! こちらを敵と見なしている、今すぐ助けに来てほしい!』フロム、下位樹海のイャンクック!」

 

 

一 上位の樹海、大人の事情 06 終

 




如何でしょうか。

\禍々しい黒い竜ってどう考えてもアレじゃねえか!/…はい、次章ではあの子がやってきます。

あとはっきりと説明はしてなかったですけどこの物語、MH4の発売日の5日後からストーリーが始まってます。一応月の満ち欠けの描写はしてありますが自分でも解り難いので今ここに書いときます。

あと主人公がモンスターなので原作ストーリーが微妙に変わります。はい、ごめんなさい。

次章も読んでいただけたら感激の余り餅を喉に詰まらせます。死にますね。


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二 地を染める不吉な来訪者
二 地を染める不吉な来訪者 01


閲覧ありがとうございます。
新章です、看板モンスの出番です。

※登場モンスター
ケチャワチャ(奇猿狐)
ゲリョス(毒怪鳥)
テオ・テスカトル(炎王龍)
ラージャン(金獅子)
ティガレックス(轟竜)
ババコンガ(桃毛獣)
ババコンガ亜種(緑毛獣)
イャンクック(怪鳥)
テツカブラ子供(鬼蛙)
リオレイア子供(雌火竜)
ゴア・マガラ(黒蝕竜)



「『下位樹海に見たことの無い黒い竜が飛来! こちらを敵と見なしている、今すぐ助けに来てほしい!』フロム、下位樹海のイャンクック!」

 

 毒怪鳥が読み上げた。

「見たことの無い黒い竜だと!?」

「もしかして黒い気配って……!」

 皆が口々に言う。

「ラー、予定変更だ! 今すぐ向かってくれ! 四頭で大丈夫か?」

 炎王龍が指示する。

「問題無いだろう。数が多くても邪魔なだけだ」

 金獅子が素っ気なく返す。

「まかせろってテオ! コテンパンにしてやるからよぉ!」

 轟竜も言う。

「わかった。では頼んだ」

 その言葉を合図に四頭は走り出した。ある程度助走をつけた後に天高く飛び跳ねる。

「先生……!」

 奇猿狐が不安そうに言う。

「きっと大丈夫さ。かつてあのクックは最強と謳われていた。やられはしないだろう。だが、すまない奇猿狐。儀式は延期だ」

 頭を撫でる炎王龍。しかし炎王龍ですらも不安の色は隠せなかった。

 突風が樹海の木々を揺らす。エリアの中央に枯れ枝が落ちた。それは樹海のモンスターの不安をより一層煽った。

 

 

【下位未知の樹海‐北Dエリア】

 

 

「はあっ……はあっ…………」

 怪鳥が息切れしながら遺跡の陰に隠れる。怪鳥は逃げ遅れた幼い鬼蛙と雌火竜を連れていた。

「シャァァァァァァァッ!」

 向こうで悲鳴の様な咆哮が聞こえる。雌火竜が怪鳥にしがみつく。その目は涙を滲ませていた。

「大丈夫だ……直に助けがくるよ」

 怪鳥が背中を撫でる。震えている感触が伝わる。

 突然、木の上から物音がして、怪鳥が身構える。

 降りてきたのは金獅子達だった。

 

「イャンクック! 無事だったか!」

 

 金獅子が言う。

「ありがとうございます! 助かりました!」

 怪鳥が礼を言った。

 桃毛獣が子供達の頭を撫でる。

「お前らよくここまで頑張った! あとはおじちゃん達がなんとかするから安心しろ!」

 その言葉で心が軽くなったのか子供は泣きじゃくる。泣く二頭を背負う怪鳥。

「クックじいさん! その黒い竜の事を教えてくれ!」

 緑毛獣が訊く。

「変わった骨格の竜でした。言葉が通じなくてやってくるなり襲われました。何やら翼から凄い量の鱗粉をばら蒔いているのですが正体がわからないです。そして今、人間と交戦中で人間がかなり怪我しています」

 怪鳥が詳細を話す。

「情報ありがとう。その子供達を連れて逃げてくれ。俺達が食い止める」

 金獅子が礼を言う。

「人間が戦ってるってことはアレか? 同時に人間もブチのめせるってことか?」

 轟竜が息を荒げて言う。

「やめろティガ。下手に戦っても恨みを持たれるだけだ。ここは下位樹海だ、暴れるとガキ達が危ねえ」

 金獅子が止める。

「じゃあどうするってんだ? 怪我してるとはいえど敵だぜ? 背中は預けれねえだろ」

 轟竜は直に納得しない。

「あたしが追い出すよ。乗せるなり敵意があるなら吹っ飛ばすなりで避難させりゃいいし」

 緑毛獣が提案する。轟竜は頷いた。

「何はともあれ行こう。ここでのんびりしてたら敵が来るし人間は死ぬし良いことは無いじゃろ?」

 桃毛獣が言う。

 四頭は咆哮のする方へ走り出した。

 

 

【下位未知の樹海‐北Cエリア】

 

 

 一方、金獅子達が到着した頃、エリア端で四人のハンターが追い詰められていた。双剣、ランス、操虫棍、ライトボウガンの四人、黒蝕竜討伐に向かった筆頭ハンター達だった。

 筆頭ランサーは足を怪我したのだろう、筆頭ルーキーが肩を貸すことでやっと立っていた。動ける二人が武器を向けて威嚇するがその剣先と銃口は震えていた。

「グゥゥゥゥゥ……」

 黒蝕竜が弄ぶように近付く。

「×××! ×××!」

 筆頭リーダーが激しく噎せる。鱗粉を吸いすぎた様だ。ポーチに目を向けるが事前に用意してあったウチケシの実は既に無くなっていた。

 筆頭リーダーは決心して筆頭ガンナーと目で合図する。筆頭ガンナーは頷く。二人は呼吸を整えた後に

 

「×××××××!」

「××××!」

 

 筆頭リーダーが黒蝕竜に突っ込む。動きを読んだ黒蝕竜が翼脚を使って凪ぎ払う。筆頭リーダーは吹き飛んだと思われた。

 違った。攻撃が当たる瞬間、彼は素早く懐に潜り込んだ。

 その僅かな隙に乱舞を叩き込む。甲殻を斬る感触に感情が高まる。苦しかった胸はいつの間にか和らぎ、かえって興奮剤のようになっていた。剣を握る手に力がこもる。筆頭リーダーは斬り続けた。

 黒蝕竜もただやられるだけでは無い。体を翻し尻尾で凪ぎ払う。翼で視界が悪かった筆頭リーダーは今度こそ吹っ飛ばされた。筆頭リーダーが起き上がろうと体を起こした先に見えたのは黒蝕竜の突進する姿。横に転がって避けようとするが黒蝕竜の大きさでは距離が足りない。筆頭リーダーは目を瞑った。

 その時、黒蝕竜の頭が爆発して黒蝕竜は怯む。

「××××!」

 筆頭ガンナーが徹甲榴弾を撃ったのだ。怯んだ隙に筆頭リーダーはその場を離れて回復薬を飲む。

 筆頭ガンナーが弾を装填する。次の突進に備えて頭に標準を定めた。

 だが、黒蝕竜がした行動は突進では無かった。後ろに跳ね、筆頭ガンナー目掛けて滑空した。

 弾を外した筆頭ガンナーが飛ばされる。衝撃で軽い脳震盪を起こしたのか、起き上がっても虚ろな目をしたまま動けない。

 好機と見た黒蝕竜が叫びながら突進する。殺戮を喜ぶ声だった。筆頭ルーキーと筆頭リーダーが悲鳴をあげる。

 

 その時だった。

 

 横から『何か』が弾丸の様に飛び、黒蝕竜を吹っ飛ばした。

 突然の出来事に口を開ける筆頭リーダー達。

 

「間に合ったぜぇ! これで良いんだよなラー?」

 

 弾丸の正体は飛び掛かった轟竜だった。少し遅れて金獅子達が現れる。

 

「ああ。良い動きだったぞ」

 

 金獅子が誉める。

「××××!?」

「×××××!」

 突然現れた危険なモンスターに驚く筆頭ハンター達。手負いの彼らには新たな脅威だった。

「とりあえず一番死にそうな奴を運ぶよ!」

 緑毛獣が筆頭ランサー達に向かって走る。緑毛獣が襲い掛かると思った筆頭ランサー達は観念した様に倒れる。

 倒れる瞬間に頭で掬い上げる緑毛獣。二人は少々不自然な体勢で背中に乗った。

「×××?」

 奇声をあげる筆頭ルーキー。この奇妙な状況を整理しようとするが緑毛獣が走り出したせいで舌を噛む。今は振り落とされないように必死に背中を掴むしか無かった。

 驚いているのは筆頭リーダー達も同じだった。更に驚いた事に二人を運んだ緑毛獣がこっちに向かってきたのだ。

「よく考えたらあんたらで運べば良いじゃないか。あたしが運んでも誤解されるだけだし」

 筆頭ルーキー達を降ろしながら言うが人間には只の獣の唸り声にしか聞こえない。

「近くに薬草もある訳だし、これ食べてさっさと逃げな!」

 呆気にとられる人間達を尻目に近くにあった薬草と尻尾に持っていたアオキノコを置く。緑毛獣はそのまま走り去った。

「×××××××……?」

 首を傾げる筆頭ハンター達。だが、直ぐに目の前の状況を判断して薬草とアオキノコを拾う。それを筆頭ガンナーが慣れた手付きで調合して全員に飲ませる。全員の苦悶の表情が和らぐ。四人は足を引き摺りながら出口へと向かった。

 

 一方、黒蝕竜と金獅子達では睨み合いが始まっていた。

「俺はティガ。テメエの名前はなんだ? それすらもわからねぇのか?」

 轟竜が威嚇しながら言う。

 

「…………ゴア、マガラ……」

 

 黒蝕竜が答える。

「ゴア、と言ったか? ならばゴア。テリトリーを侵犯した者の末路はわかるか?」

 横から金獅子が訊く。

「ガァァァァッ……」

 しかし、黒蝕竜は言葉を使わずに唸るだけだ。

「……通じない、か……。ならば身をもって知れ!」

 金獅子が吠えた。

「さぁ、始まりだ!」

「結局これかい! 仕方ねえな!」

 それに呼応して轟竜と桃毛獣の咆哮が響く。

「シャァァァァァァァァッ!!」

 黒蝕竜も叫ぶ。

 モンスター同士の壮絶な戦いが始まった。

 

二 地を染める不吉な来訪者 01 終




如何でしたでしょうか。

\読み難いわ!/…はい、すみません精進します。

筆頭さん登場させました、はい、あの乱舞厨と名高い。

なんか原作通り2人が勝手に逃げるのが可哀想なので助けました。
そして黒ゴマちゃんも上位並の強さにします。
主人公が下位で倒せたのは筆頭リーダーが頑張って瀕死にさせたからです、きっと。
人間会話を×にするとどんなにリーダーさんの格好良いセリフが降りてきても伏せられちゃいます。なんか寂しいです。

次話も読んでいただけたら爆食いして正月太りします、私HN通りガリなのでちょっとありがたいです。


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ニ 地を染める不吉な来訪者 02

閲覧ありがとうございます。戦闘開始です。
モンスター達の挙動を脳内再生しながら読んで貰えたら嬉しいです。

※登場モンスター
ラージャン(金獅子)
ティガレックス(轟竜)
ババコンガ(桃毛獣)
ババコンガ亜種(緑毛獣)
ゴア・マガラ(黒蝕竜)


「オラァァァァァァッ!」

 轟竜が突進する。黒蝕竜が後ろに飛んでかわした。

「ガァァッ!」

 轟竜の軌道を読んで黒紫色のブレスを放つ黒蝕竜。

「当たるかよ!」

 轟竜は直前で急停止する。そのまま咆哮を放とうと大きく息を吸うが激しく噎せる。

「チッ! なんだこの粉!?」

 ブレスが破裂して辺りに鱗粉が撒き散らされる。轟竜は仰け反った。

 それを黒蝕竜は見逃さなかった。すぐさま滑空して轟竜を狙う。

「させるかぁぁぁぁ!」

 天高く跳んだ桃毛獣が黒蝕竜にのし掛かる。バランスを崩した黒蝕竜はそのまま墜落した。黒蝕竜は悲鳴をあげる。

「ハアッ!」

 倒れた黒蝕竜の上に高速で回転して体当たりする金獅子。黒蝕竜の身体に直撃した。

「どうだ……?」

 倒れた黒蝕竜を囲むように近付く三頭。筆頭ハンター達を避難させた緑毛獣も合流した。

 黒蝕竜は立ち上がった。それどころか翼の裏で妖しく光っていた水色の部分が紫になっている。不穏な気配に四頭は身構える。

 黒蝕竜が全身に力を込める。黒蝕竜の頭から紫に光る一対の角が現れた。

「!?」

 

「シャァァァァァァァァァァッ!!」

 

 黒蝕竜が吠える。翼から大量の鱗粉が舞い上がった。その鱗粉は黒い霧となって空を覆い、樹海を黒く染めた。

「……今やっと本気を出したところ、か。かなり面倒な相手だな……」

 金獅子が呟く。

 黒蝕竜がバックステップして包囲網を抜ける。

「ガァァッ! ガァァッ! ガァァァァッ!」

 大量の黒球が金獅子達を襲う。間一髪で避ける金獅子達。休む間も無く次々に黒球は放たれる。ある球は真っ直ぐに、ある球は的確に追尾し、ある球は変則的に曲がる。飛び交う球を避ける内にスタミナが削られていく。破裂した時に撒き散らされる鱗粉が彼らに付着して一層追尾球の精度が高まる。

「うわっ!」

 桃毛獣が動きを見切れずに直撃した。倒れた桃毛獣に一斉に球が襲う。

 

ボオン!

 

 桃毛獣に向かった球が吹き飛ぶ。周囲一帯には臭気。

 

「あんたいつまで倒れてんの! 早く立ち上がりんしゃい!」

 

 正体は緑毛獣の放屁だった。立ち込める悪臭に桃毛獣が顔をしかめる。

「お前、助けるにももっとマシな助け方があるだろ……」

 桃毛獣は文句を吐きながら立ち上がった。

 一方、金獅子は軌道を把握したのか黒蝕竜に向かって走り出す。軽やかなステップで襲い掛かる黒球をかわしながら距離を詰める。

 それを見た轟竜が負けじと動く。被弾を気にせず豪快に突進する。痛みを堪えながら金獅子と並走した。

「グァァッ!」

 敵が近付く気配を感じた黒蝕竜が今までとは違った動きで下にブレスを放つ。本能的に危険を感じた金獅子達は横に逸れる。

 

ダァン! ダァン! ダァン!

 

 ブレスは正面では無く真横に爆発した。油断していた二頭が転ぶ。

 轟竜が先に起き上がる。バックステップで距離を離す。

「痛えじゃねぇかよ……」

 目は血走り、腕には血管が浮き出ている。

 

「オラァァァァァァッ!!」

 

 轟竜の怒りは頂点に達した。怒りに任せて地面を抉って黒蝕竜目掛けて飛ばす。あまりの速度に避ける間も無かった。黒蝕竜の右翼脚に当たって砕ける。甲殻は潰れ、隙間からは血が流れる。

 轟竜の攻撃はこれだけでは終わらない。すかさず飛び掛かり、出血している翼脚に噛み付く。黒蝕竜の悲鳴が響く。

 轟竜の変貌を遠巻きに見る金獅子達。

(下手に近寄るとワシらに襲い掛かりそうじゃな……)

 今の轟竜にとって目に写る生物は全て『敵』と見なしていた。轟竜は目の前の竜をひたすら切り裂き、噛み砕いた。

 暫くの間猛攻は続き、黒蝕竜はボロボロの状態になっていた。鱗は剥がれ、翼は破れ、尻尾の先は千切れていた。それでも角は光り、翼からは絶え間無く鱗粉が飛び散っていた。

「ハァ……ハァ…………」

 轟竜のあれだけ激しかった勢いが弱まる。口からはだらしなく涎が流れている。スタミナが切れたのだ。顔を狙う爪の動きも鈍る。

 

「ガァァッ!」

 

「ギャッ!」

 

 黒蝕竜がその爪に噛み付いた。続けて顔面にブレスを当てる。

 三回の爆発音が止んだ時には既に形勢は逆転していた。気絶して、ぐったりと倒れた轟竜目掛けて黒蝕竜の翼脚が降り下ろされる。

 

ガッ!

 

「ハアアアアアアッ!」

 高く上げた翼脚を押さえる金獅子。轟竜が噛み付かれた時点で既に助けに向かっていたのだ。

 押し合いながら睨む二頭。金獅子の方が力はあるが四本の足で支える黒蝕竜も負けてはいない。

「コンガ! マヒダケを!」

 金獅子が叫ぶ。

「マヒダケ!? ――あぁ、そういう事か! ちょっと待ってくれ!」

 桃毛獣と緑毛獣が辺りを探す。その時。

 

「ガァァァッ!」

「!!」

 

 黒蝕竜が金獅子の顔面にブレスを当てる。

 

ダァン! ダァン! ダァン!

 

 顔面で誘爆を起こす。爆風がエリア内を駆け巡る。轟竜が気絶する程の衝撃が金獅子を襲った。

 ――それでも金獅子は腕を離さなかった。

「どうした……? 力じゃ負けるからか……?」

 挑発する金獅子。爆発の衝撃で顔周りは傷だらけで、左目から血が涙の様に流れていた。

「ガァァァッ……」

 再び黒蝕竜はブレスを放とうとする。先程ので力を使いすぎたか中々吐き出す鱗粉が形にならない。

 

「ラー! 待たせたな! 準備完了じゃ!」

 二頭がマヒダケをくわえて黒蝕竜を挟む。危険を察知した黒蝕竜が手を離そうとする。

「逃がさん!」

 金獅子ががっしりと握る。黒蝕竜はその場から動けなくなった。

 その間にマヒダケを咀嚼する二頭。よく噛んで唾を溜める。そして、大きく息を吸い込んで――

 

「「せーの!」」

 

「「ブゥゥゥゥゥゥッ!!」」

 

口内の物をブレスの様に吐き出す。唾液と混ざったマヒダケの欠片が黒蝕竜の傷口に染み込む。麻痺性の毒が全身に回る。

 

「グゥゥゥッ! ガッ! ギャァァァァァァ!」

 

 全身に行き届いたのだろう、黒蝕竜は痙攣しながら踞る。

「ハァァァァァァ!!」

 格好の的となった黒蝕竜に金獅子の連続パンチが襲う。麻痺で動けない黒蝕竜は避けることも受け止めることも出来ずにその全てを食らう。

 金獅子はスタミナの限り殴り続けた。全身に返り血を浴びて真っ黒になっていた。

 金獅子の攻撃が止まる。肩で息をしながら黒蝕竜を見る。

 

「ガァァァッ…………」

 

 黒蝕竜は死に物狂いで立ち上がろうとする。だが、その努力も虚しく倒れ、動かなくなった。息は止まり、あれだけ飛ばしていた鱗粉も消え、空は青色を取り戻した。

「終わったな……」

金獅子が口に溜まった血を吐く。

「奴は……何者じゃったんじゃろうな…………」

桃毛獣が呟く。

「さあね? ……さ、気絶してるティガを起こして帰ろう」

緑毛獣が倒れている轟竜をつつく。

 

「…………――オラァ! 敵はどこだ!? ……ん?」

 

 跳ね起きて辺りを見回す轟竜。緑毛獣が苦笑する。

「あんたが倒れてる間に倒しちまったよ。もう終わったのさ、あたしがクックに報告しとくからあんたたちは帰りな」

 自分が倒せなかったことを悔しがる轟竜。その姿に桃毛獣が笑う。

「じゃあ緑コンガ、任せたぞ。お前達、飛べるか?」

 金獅子が轟竜の傷だらけの翼を見ながら言う。

「さっきまでグースカ寝てたんだ、飛べるわ!」

 轟竜の八つ当たり。轟竜は先に羽ばたいて行った。

「元気の良いことじゃな。ワシらも帰るか」

 桃毛獣と金獅子が追い掛ける。陽は西に傾いていた。

 

[1時間後]

 

 

【上位未知の樹海‐南境界線付近】

 

 

 三頭は集落の端に着地した。炎王龍のところへ向かう。

「なあ皆。……なんか息が苦しくないか?」

 桃毛獣が不意に言った。

「コンガ、お前もか? 妙だよな」

 轟竜が賛同する。

「そうか? 俺は何も感じないが……」

 金獅子は首を傾げる。

「気道に変な物が入ってる感じっていうかな……。頭も痛いし」

 桃毛獣が説明する。轟竜も頷く。

「先程の戦いで鱗粉を吸いすぎたのかもな。今日は水をよく飲んではやく寝ろ」

「うーい」

「やっぱ酒……いや、今日は水飲もう」

 

 この時、桃毛獣と轟竜の喉には凶竜結晶が作られていた。

 

 勿論、そんな事は二頭は知らない。

 

ニ 地を染める不吉な来訪者 02 終




如何でしたでしょうか。
\シャーシャーうるせえ!/……ゴマちゃんの叫び方の表現に苦しんでおります。

そういえば今回ケチャワチャ登場が一回も無かったですね。
ショタキャラは扱いが面倒だと思って来た頃なので登場しない回は少し気が楽です。

そして最近事情で忙しく、下手したら2ヶ月程執筆出来ません。
できるだけ更新したいですがこれまでのように最低でも週1は投稿していたペースが落ちると思います。

処女作の駄文な上に更新遅くなりますがそれでも次回を待ってもらえれば嬉しいです。
暫く乗り切ればまた週1の更新ペースに戻ると思います。


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