魔法少年の絶望譚 (昼風呂)
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プロローグ stage0 嗤える未来があったなら

処女作になります。色々拙かったりもしますが、気軽に読んでいただけると幸いです。※最初から原作の核心的な内容に踏み込みます。原作未視聴者は閲覧をお勧めしません。


「君は面白い形質を持っているね」

 

幻聴、だろうか。少なくとも縄を通したこの首からは声の主は見当たらない。虚ろな目を動かし部屋中をもう一度確認するも、やはり見つからない。

 

「?僕はここだよ?」

 

再び、こえ。今度ははっきり聞こえる。どうやら背後から声をかけられていたらしい。残念ながらここからでは見えないようだ。名残惜しいような妙な感慨を抱きつつ、縄から首をとると、声のした方へ振り向いた。

 

そこにいたのは。

 

「やあ」

 

人の言葉を喋る…………ぬいぐるみ。ぬいぐるみ?コイツはなんと形容すれば良いのか、よく分からない。強いて言うなら、小動物のフォルムに、白毛で赤眼の。

 

「…………ネコ?」

 

「君たちの多くがそう言うけど、猫じゃないよ。僕はキュウべぇ」

 

ヨクワカリマセン。見たことの無い小動物が喋りだし、聞いたことのない名前で自己紹介する。

 

「それでキュウべぇ?さん?はなんで喋れるの?もしかして猫型ロボット?」

 

「そうそう、今日は君に頼みたいことがあってきたんだ」

 

「おい聞け」

 

よし、コイツは呼び捨てしよう。

 

それにしても、コイツはなんなんだろう。話は聞いてくれない、そのくせ頼み事はしてくる、図々しいにも程がある。そもそも、

 

「これから死ぬんだから、ほっといてくれよ」

 

そう、こんなうんざりな世界から、とっととおさらばするんだから、今更変なことで引き留めないで欲しい。

 

「まだ死なないで欲しいから、頼み事をしに来たんだけど。勿体ないよ」

 

「?」

 

初対面の人間に死なれて欲しくない都合などあるのだろうか、そう考える暇もなく、次の言葉が紡がれる。

 

「実はね…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕と契約して魔法少女になって欲しいんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………()()()()()()()()

 

いきなり何を言うかと思えば。魔法少女とかいう現実味のない発言頂きました。しかもなんだろう、この、昔から大切にしていた何かを踏みにじられた感覚。仮にも女呼ばわりされたことに、自分の知らない琴線が触れたような。

 

「? そうか、君は確かに少年と呼ばれる部類だね。雄みたいだし。じゃあ君は魔法少年、という呼び方が相応しいかな?」

 

「いやそもそも魔法…………少ね、少女って何よ?なんか退治するの?」

 

「そうだね、まずはそこから話を始めようか」

 

…………俺は仕方なく、縄から手を離し、椅子から降りることにした。

 

 

 

 


 

そうして、キュウべぇから様々な情報を聞いた。魔法少女、魔女、その他諸々。全て現実味がないが、この非現実的なネコまがいが喋ってるせいか、納得出来ないこともなかった。

だが、強いて言うなら。ふと疑問が湧いたことがある。

 

「都合が良すぎるな…………」

 

「どうしたんだい?」

 

「そうして人の願いを叶えてやってまで魔法少女に魔女を倒してもらうことに、お前達のメリットはあるのか?話を聞く限り、魔女というものはお前みたいなやつには影響はないんだろう?」

 

「確かにそうだね、僕らの目的は別にある。僕らが欲しいのは『エネルギー』なんだ、宇宙を延命させるための」

 

なんか急にSF混じりだしたな。そして、魔女を倒してもらうことで、そのエネルギーが回収できると。

 

キュウべぇのあとの発言は、そんな俺の予想の斜め上をいった。

 

「もっとも効率のいいエネルギーの回収は、魔法少女が魔女になる際に得られるエネルギーを貰うことだね」

 

「今なんて言った、魔法少女が魔女になるって?」

 

「そう。さっき、ソウルジェムとグリーフシードの話はしたよね。グリーフシードは元々、穢れの溜まったソウルジェムが変異したものがほとんどなんだ。

魔法を使いすぎたり、気持ちが暗くなったりして穢れが溜まりきると、ソウルジェムがグリーフシードに生まれ変わる。

僕らの知りうる限り、その時に得られるエネルギーこそ一番効率がいいんだよ」

 

ほら、やっぱり。心の奥底で、そんな声がした。話そのものは予想外だったが、俺にとっていい話では無いことは、何となくわかっていた。

 

わずか12,3年の短い人生を生きてきた身ではあるが、自殺しようとするくらいには人の悪意に触れまくってきたつもりだ。何度も裏切られ、騙され、いいように利用されてきた俺は身にしみて知ったことがある。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

だから、この話はキュウべぇ達には割に合わない、と疑念を抱いた。まともに魔女と戦うかもわからない、そんな少女の願いを叶えてまで魔法少女にするメリットがあるのか、と。

確かにメリットはあるようだ。契約して魔法少女にさえしてしまえば、エネルギーの回収は見込めるのだから。

 

「そんなのわかった上で魔法少女になりたがる奴がよくいたな。生き残れる自信でもあるのか?」

 

「ほとんどの魔法少女はこのことを知らないよ。君みたいに聞いてくる人なんて稀だし、このことを話したら、何故かみんな魔法少女になりたがらないんだ」

 

コイツ、下手したら少女達にとって一番不利益なことを、聞かなければ答えてくれないらしい。俺がもう少しまともな人生を生きていれば、契約するにせよしないにせよ、このことを聞くことは無かっただろう。

 

一緒だ。散々俺を苦しめてきた連中と、やり方が。まあ、手遅れにならないうちに話してくれるだけ、コイツにはむしろ好感が持てた。

こちらから聞かなければ結局は同じことだが。

 

そこでふと、思いついたことがあった。

 

「なあ、自殺するところまできてた俺に契約させようとしたってことは」

 

「うん、それだけ早くエネルギーが得られると思ってね。だから言ったでしょ?勿体ないって」

 

「…………」

 

怒りは湧いてこなかった。どうせ死ぬなら利用しよう、そんな発想は、するやつなら平気でする。だが知ってしまえば、利用される側としては勘弁してくれという話だ。

 

「キュウべぇ、この話はなかったことに、」

 

そうだ、俺は絶望まみれ。仮に願いを叶えてもらって魔法少年とやらになったって絶望で魔女になるのは時間の問題。今の俺に絶望を覆すほど希望のある願い事なんてないんだから。

 

 

 

 

 

 

…………待て。絶望まみれ?絶望を覆すほど希望のある願い事なんてない?

 

 

 

 

 

 

「かはッ」

 

あるじゃないか。今の俺に大いに希望をもたらす願い事が。一種の倒錯ではあるが、()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………キュウべぇ。契約しよう」

 

「何か言いかけなかったかい?」

 

「いや、気の所為だ。それよりも、」

 

興奮が収まらない。こんな願い事を言うやつなんて、後にも先にもいない。いるわけがない。絶望まみれで、魔法少女の真実を知る俺だから思いついた願い。

俺の人生は、本当の(オレ)は、この願いが叶えられた瞬間にこそ、始まるんだ。

 

「わかった。じゃあ教えてよ、君の願いはなんだい?」

 

「俺の願い。それは…………」

 

 

 

 


 

 

 

 

そうしてこの日をもって、俺は魔法少女、否、魔法少年になった。

この先に何があるかは知らない。どうだっていい。『オレ』は俺のために生きることが、真に許されたのだから。もう「誰」にも、『オレ』を否定させはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

だって『オレ』が生まれたのは「(おまえたち)」のせいだろ?




作者は原作アニメ及び劇場版しか視聴していない(しかもうろ覚え)ので、原作に矛盾する設定があるかもしれません。その際はご指摘をいただけると助かります。


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1章 その指揮は誰がために stage1 水面(みなも)と石、そして波紋 1

-???-

 

午後4時頃。オレは見滝原という街の、とあるマンションの屋上にいた。目的は、この街の魔法少女達と接触を図ることだ。

 

見滝原には、多くの魔女が集う。

 

というのも、どうやら魔女は人々の負の感情に呼び寄せられる性質があるらしい。それゆえ、人口の多く負の感情が集まりやすいこの街のような場所には、魔女もしくは使い魔が多く発生する。

実力さえあれば、魔法少女にとってこれ以上「楽」な住処はない。魔法少女が狩りをするにはまさにもってこいの戦場といえる。

 

見滝原(そういうエリア)を受け持つ魔法少女なら実力は折り紙付きだろう。そう考えたオレは、ひとまず件の魔法少女の観察をしている、という訳だ。

 

「お前ら、グリーフシード欲しいよなぁ?」

 

見下ろす先は住宅街。目線の先には3人の少女。 全員が同じ制服を着ており、黒はともかく、金、ピンクとなかなか派手な色の髪が目を引く。

向かう先は恐らく魔女結界。見滝原と隣町の境目付近に足を進めている。が、まだ発見には至ってないようだ。

 

この1週間観察を続けた結果、この町には珍しく複数の魔法少女がいるらしかった。それも4人。そのうちの3人が彼女達だ。戦闘する姿を直接目にしたわけではないが、魔女結界の認識、捜索を行っているという点でほぼアタリだろう。

 

「でも残念、どうやら先客がいるらしい」

 

そしてもう1人。青髪の少女がかなり先行して魔女結界へと進んでいる。この街にいる魔法少女4人目。彼女もキュウべぇと同行しているところを目撃しているのでアタリ。この分だと彼女の方は具体的な魔女結界の位置を把握しているようだ。一番乗りは彼女か、そう思われたが。

 

今回は新顔がいるようだ。

 

「…………なんだ、あの赤髪」

 

青髪達とは反対方向から、しかし確かに魔女結界へと進む少女が1人。彼女は途中で路地裏に隠れたかと思うと、服装までも赤に一変させ、家屋の屋根の上を走り出した。

容姿はともかく、その行動はとても一般人のなせるものではない。4人とは別方向から来たことを鑑みると、おそらく隣町の魔法少女だろう。

 

「これは…………混戦になるか?」

 

恐らく、青髪と赤髪の到達はほぼ同時。グリーフシードを狙う魔法少女同士、戦闘は避けられない。まして後ろから別のグループも迫っている。全員集まった後どうなるかなど、想像にかたくない。

 

「面白くなりそうだが、さて」

 

別にあんな修羅場に自分から突っ込むつもりは無い。魔法少女の潰し合いを第三者として見れる機会なんてそうはないだろうし、そろそろ魔法少女達の能力も見極めたかったところだ。ここは高みの見物といこう。

 

想定していなかった一般人(いちばんのり)を発見するまで、オレはそんな呑気なことを考えていた。

 

 

-美樹さやか-

 

『過去』

 

あたしが魔法少女に憧れたのは、命の恩人がまさにそれだったからだ。

 

今でも思い出せる。いろんな絵の具を汚く塗りつぶしたかのような空間。アハハ。突如目の前に現れた気色の悪い生き物。キャハハ。あたしの足元に広がる紅い血溜まり、そしてその持ち主と思われるうめき声。イヒャハハハ!

 

怖い。こわい。コワイ。目に見えるあらゆる情報があたしの生きてきた現実を否定する。恐怖が限界に達したのか、動かない足に構わず、体が勝手に痙攣する。

化け物がこっちを向いた。近づいてくる。ああ、自分もあの"紅"を撒き散らすのだろう、そう確信したあたしは、

 

パァン。突然の銃声の後。

 

「間一髪だったわね、間に合ってよかった」

 

銃を構えた、金髪の少女に助けられていた。

 

「もう大丈夫よ」

 

言うと彼女はおもむろに大量の銃を呼び出す。刹那、彼女の体は回転しながら、その手に銃をつかんでは、的確に化け物を撃ち抜いていった。

 

あたしの正面を向いて優雅に一礼する時には、化け物の鳴き声は綺麗に止み、静寂が空間を満たす。彼女は銃を消滅させると、安心させるかのように微笑みかけ、倒れている人の止血に向かっていった。

 

全てが一瞬のことで、何が起こったかを理解するのにはかなり時間がかかった。そんな中でも、彼女の後ろ姿は目に焼き付いていた。

 

そう、きっとこの姿に憧れたんだ。弱き人を守り、悪を倒す。そんな正義の味方のような生き方が、カッコイイと思ったんだ。

 

キュウべぇを通して魔法少女という存在を知り、契約をすると決めたのは、そのわずか1週間後のことだった。

 

あたしもああなりたいと。あらゆるものを助けられる人になりたいと、心の底から思えたから。

 

魔法少女、巴マミ。それが、命の恩人で、あたしの憧れた人の名前だ。

 

 

『現在』

 

そうして今、あたしは魔女結界の前に立っている。町のはずれにある、地下へと続く階段。ここに、お目当ての魔女が結界を張っているのだ。

 

コイツは一度、魔法少女になって最初の戦闘で取り逃している。致命傷を負わせはしたものの、逃亡を許してしまったのだ。2週間以上たって、ようやく姿を現した。これを逃す手はない。

 

「待ってろ、今度こそあたしが…………!」

 

魔法少女の姿になると、すぐさま魔女結界の入口へと走り出した。

 

しかし、その前進は、たった1歩で足止めされる。

 

「あたしが倒してやる、って?」

 

突き出された槍。敵は上から。咄嗟に背後へ跳躍、着地。迎撃の体勢を取り、相手を伺う。

 

「…………あんた、誰だよ」

 

地面に突き刺さった槍を支えに、襲撃者が降り立つ。全身を赤で包む、同年代と思しき少女。間違いない。

 

「なんで雑魚に名乗りをいれなきゃなんねーのさ。雑魚は黙って倒されてろってーの」

 

 

 

こいつも、魔法少女(どうるい)だ。




「ところで、オレの名前、いつ出んの?」
分かりません。


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stage2 水面(みなも)と石、そして波紋 2

一応書いときます
・美樹さやか…「あたし」「あんた」
・佐倉杏子……「アタシ」「アンタ」

また、今回からオリジナル魔法が登場します。基本的に、具体的な魔法を指す時は【】で表示します。


-???-

 

 

オレは正義なんか掲げない。後々()()が歪むことを知っているから。

そういうことをする奴ほど「正義」に固執し、その間違いに気がつかない。気づいても、「正義」なのだからと止めようとしない。

 

要は、タチが悪いのだ。正義と「正義」、わかりやすく言うなら正義と「自分の正義」の分別すらろくにつけられない連中。

 

いじめっ子然り、教師然り、傍観者然り、借金取り然り、人殺し然り、

 

 

 

「正義」の魔法少女然り。

 

 

 

だからこれは「人助け」ではあっても人助けでは無い。単なるエゴの押しつけだ。それでも、その死に方は、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

魔女の口づけだとか知らない。誰が死のうが関係ない。ただオレの目の前で終わりを迎える(ぜつぼうする)のは、俺の存在そのものを否定されるようで気に食わない。

 

どうせ絶望するのなら、オレに…………。

 

 

「おっと、始まったか」

 

 

考え事をしている間に、オレの聴覚はわずかな時間に何度も生じる金属音を捉えていた。恐らく2人の魔法少女が戦闘を始めたのだろう。いつの間にか、彼女たちとの距離もほとんどなくなるほど近づいていたのだ。

 

 

「生憎だが、今回はスルーさせてもらおう」

 

 

もちろん目的があって彼女たちを観察していたわけだが、今は後回しでいい。オレは彼女たちの頭上にある壁を走り抜け、魔女結界に飛び込もうとしていた。

 

 

 

-美樹さやか-

 

 

 

斬撃、流される。刺突、足を貫かれる。斬撃、避けられる。刺突、腹を穿たれる。斬撃、弾かれる。刺突、剣を弾き飛ばされた。

 

 

「うぐ、あァッ!」

 

 

何度も何度も攻撃をいなし、倍の速さでこちらを傷つけてくる。認めざるを得なかった。彼女(あいつ)の強さを。(あたし)の無力さを。

 

競り合っていたのは最初だけだった。否、恐らくそれさえ、彼女(あいつ)にとっては様子見でしか無かったのだろう。

 

戦闘として成り立っちゃいなかった。現にあたしの体は穴だらけ。逆に、槍を構えるあの姿に怪我はおろか、疲労している色さえ見当たらなかった。

 

 

「肩慣らしにもなんねーな。んな体たらくで魔女倒そうとか思ってんなら、大人しくお家にこもってた方がいいぜ」

 

「なっ!」

 

 

わずかな期間とはいえ、魔法少女として戦ってきた全てを否定されたような心地だった。咄嗟に反論の言葉が出そうになる。しかしそれもかき消される。

 

 

「これでもアドバイスしてやってんのさ。アンタの場合、魔女を倒すんじゃなくて魔女から何かを守るような戦い方をしてる。どっかのお人好しでも見ているみたいでムカつくよ」

 

「!」

 

 

思い当たる節があった。あたしを助けてくれた、巴マミ(あのひと)。魔法少女になり真っ先に憧れたのは、彼女のあの戦いだった。

 

魔女結界に捕われた人たちを守るよう最善を尽くしながらも、一切の無駄なく敵を倒していくその姿こそ、あたしが目指すべきものに映った。

 

彼女は、あたしを助けてくれた「正義の味方」だったから。自然と、同じようになろうとしていたのかもしれない。

 

 

「そのくせ、実力は大したことないからなんも出来やしない。魔女どころか魔法少女一人に傷をつけることも出来ない」

 

「悔しいけどあんたの言う通りだよ。でも、それでもあたしは魔法少女だ!化け物を倒す力を得たんだ!守りたいものを守る資格を手に入れたんだ!あたしは、この力でっ…………!」

 

 

返答は、不意に目の前に現れた、槍の一突きによってなされた。無様にゴロゴロと転げ回る、そのあたしの顔に槍が突き出された。

 

 

「ぐあっ!くっ」

 

「アンタ、魔法少女ってやつを根本から勘違いしてんな」

 

「はあ!?」

 

「魔法少女。悪しきものから人々を守る、正義の味方。そのお子様な発想から間違ってるっつったんだよ」

 

 

今度こそ、魔法少女としての美樹さやかを全否定された。言い返そうとするが、反論の余地がない。自分より弱い人間の言葉なんて、こんな奴が受け付けるわけがないのだ。こいつは、あたしのような生き方を拒んだ上で、這いつくばっているあたしを見下ろしているのだから。

 

 

「いいか?アタシらが与えられたのは魔女と戦う義務であって、関係ない人間を守ることじゃない。魔女と戦わないといけないのも、グリーフシードがアタシらに必要なものだからだ。一般人が生きようが死のうが、助けるだけ無駄なのさ」

 

「あんた…………人が助けを求めてるところを見てもなんとも思わないわけ!?」

 

「思わないね。第一、助けたら何か対価として返ってくんのか?感謝どころか、罵詈雑言あびせてくる連中だっているじゃないか。訳わかんないこと言ってくるやつだっているしさ。『悪魔だー!』だの『()()()()!』だの…………チッ!」

 

「…………じゃあ何?そんな奴ら放っておけってこと?」

 

「だから最初から言ってんじゃん。一般人と自分を天秤にかけるような馬鹿らしいことなんかやめとけって」

 

「嫌だ」

 

「…………ああ、そうかよ」

 

 

槍が振るわれる。あたしの体は宙をとんで、壁に叩きつけられた。そのままズルズルと地面に座り込む。

 

 

「いい加減雑魚の話も聞き飽きた。アタシも暇じゃないんだ。同業者なんだから、わかるよな?」

 

 

槍を持つ両手に力がこもる。もう手加減はしないという合図。

 

 

「バカは死ぬまでなんとやらって言うし、今後アタシの邪魔されても迷惑だ」

 

 

 

 

「死ね」

 

 

 

 

死ね。その言葉は、不思議なほど心にストンと収まった。

 

ふとフラッシュバックする。日の傾いた病室。大切だった幼なじみの、拒絶の言葉。あの時たしかに、心の奥底にあった何かが砕け散った。

 

覚えたのだ、無力感を。

 

 

「死ね、」

 

 

恐れたのだ、弱さを。

 

 

「死ね?」

 

 

求めたのだ、強さを。

 

 

「死ね、だって?」

 

 

拒絶された自分自身を慰めることしか出来ない『あたし』なんか、死んでしまえと、そう願い。

 

 

「アハハハハハハハハハハハハ!」

 

 

全てを失いかけて、魔法少女に救われて。願いは叶った。

 

 

「『あたし』なんてあの時、とっくの昔に死んでる」

 

 

向こうの表情がやや強ばったように見える。それもそうだろう、全身に残っていたあらゆる傷が、()()()()()()()()()()()

 

 

「弱いあたしなんか、いらない」

 

 

そしてあたしは移行する。もっと強い魔法少女(あたし)になるために。

 

 

「今のあたしが弱いってんなら、捨ててやる」

 

 

あの時助けてくれたあの人みたいに、弱い人を、大切な人を、救うために。

 

あたしの【魔法】を放つ時だ。マミさんのように格好いい名前は思いつかないけれど、仮に名をつけるなら。

 

 

「【正義は必ず勝つ(Evolve, your hero.)】」

 

 

"Evolve"、即ち『進化』。絶体絶命の危機に立たされようとも、正義(ヒーロー)はその度に強くなり、悪を打ち倒す。いまの私ならそう、あの赤髪(あく)を。

 

力が溢れるのを感じる。傷ついた体は修復され、今目の前にいる敵に対処するためにあたしが最適化される。

 

あたしは弱い『あたし』を捨てるために願い、正義の味方(巴マミ)という存在に憧れて魔法少女となった。願望と憧憬とが結びつき、得た属性は「自己変革・進化」。弱い自分を捨て、悪を倒す引き金(トリガー)となる魔法。

 

これが、これこそが、あたしの本質であり、切り札。この力がある限り、あたしは強くあり続けられる。正義を張り続けられる。

 

 

同じく修復を遂げた剣を突き刺し、ふらつきながらも立ち上がるあたしに、目の前の敵は瞳をギラつかせ言う。

 

 

「へー、アンタまだそんな力あったのかよ」

 

「…………あんたにだけは、あたしを否定されたくないからね」

 

 

あいつの言い分はよく分かった、もう十分だ。あいつとあたしは言葉を混じえても妥協点など見いだせはしない。ならば、どちらが正しいのか、腕で決める他ないんだ。

 

 

「いいぜ、付き合ってやるよ。どうせケリつけなきゃなんないんだしな」

 

「当然よ」

 

そして互いに武器を構え、戦いに身を投じる。足掻くだけ足掻け、こんな戦いにも勝てないようじゃ、誰も守れはしないのだから!

 

 

 

-???-

 

 

「あ」

 

 

やべえ。足滑った。

 

 

 




「美樹さやか、なんか原作と違くね?」
「マミチームに入らなかった上にキュウべぇと知り合って即契約したから、色々変わってるってのが作者の談らしいよ」
「…………?お前誰よ」
「キュウべぇ」
「あ、さいですか」
「ところで、君こそ誰だい?」
「…………さあな」


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stage3 相対するは黒

原作ガン無視な気がする。大丈夫か、これ。


 

ドシャッ。

 

 

-佐倉杏子-

 

 

なんなんだ、あれ。アタシは思わず呆けてしまった。しかし仕方の無いこと、のはずだ。アタシと青髪しかいないと思われた空間に、しかも上から、人が落ちてきたとなれば。

 

 

「ぐええ」

 

「ちょ、あんた大丈夫なの!?」

 

 

たった今まで魔法少女同士で殺し合いをしていたのが嘘のように、場の空気が弛緩する。…………てか、あんな上から落ちてきて、死んでねーのか?

 

 

「これは予定外だ……まさか剣が飛んでくるとは……」

 

「嘘…………怪我とかしてないわけ!?」

 

 

ソイツはなんでもないように起きあがり、まとわりついた身体の汚れを払う。

見たところアタシと同じ年頃と思われる少年(がきんちょ)。実際のところ、体格が華奢で声もやや高めなせいでかなり分かりづらいが。ああいうのを中性的とか言うのか?

髪はやや青がかった黒。服装は…………黒のコートに覆われほとんどわからない。ただ何となく、中を覗きこみたくないような、そんな印象だ。

 

 

「なんか取り込み中だったみたいだな、すまん。オレ帰るから」

 

「いやいや、あんたいま頭から落ちたよね!?何で生きてんの!?」

 

「あー、まあ、受け身取れたから。うん。その辺はご心配なく、んじゃ」

 

「はあ!?」

 

 

アタシは呆れかえって、二人のやり取りをどこか他人事のように見ていた。建物の上から落ちてきたとしたら、その高さは優に2階分はある。魔法少女じゃなかったら、アタシでも慌てるとこだ。偶然無傷で済んだにしても、普通はもう少し驚きとかその辺が顔に出そうなものだが。

 

 

ん?魔法少女じゃなかったら…………?

 

 

言葉少なに、少年は真っ直ぐ進み出した。しかし行く先には。

 

 

「って!あんた、ダメだ!そっちに行くな!」

 

「ん?なんで?オレこっちに用があるんだけど?」

 

「いや、だって…………」

 

 

青髪(ざこ)は口をつぐむ。そりゃそうか。魔法少女でもない人間に魔女結界が見えるはずも、そもそも認識することもできないんだから、説明のしようがない。

 

 

「えっと、とにかくやばいんだって。あのー、行き過ぎると帰って来れなくなるから、ね?」

 

「いやいや、心配してくれてるのはありがたいけど。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

噛み合わない会話。どこか引っ掛る、含んだ言い方。ここで、束の間の平和ボケをしていたアタシの脳が一気に回り出す。ほぼ直感に任せ、アタシは問いかけていた。

 

 

「なあアンタ、まさか魔法少女か?」

 

「…………え!?」

 

「…………」

 

 

アタシの言葉は、どうやら核心だったようだ。

 

 

「いやいや、何言ってんの?この人男の子だよ?そんなわけないじゃん!」

 

「知ってっか?適性があれば男だって魔法少女になれるんだぜ?ま、まともなやつ(アタシら)より段違いに弱えーけど」

 

 

所詮はなれるかもしれないというだけだ。可能性は限りなく低いし、コイツがそうである根拠もない。だが-

 

 

「並の身体能力やタフさで無事なわけねーっての。そんで、どーして人間離れしてんのかって考えても、アタシらが思いつくのなんてあの白いヤツと契約したやつぐらいじゃねーか、て話さ」

 

「!」

 

 

言いながらアタシは槍を構える。見定めるために。無論、敵か味方かを、ではない。その力量だ。

 

普通に考えて、気取られるリスクを背負ってまで頭上を通過するメリットはない。癪な話だが、今のアタシの立ち位置じゃ、魔女結界に侵入する第三者には気づかなかった可能性もある。

 

だが、現にコイツはそのリスクを負って魔女結界へ向かった。

狙いを横取りせんとする雑魚なら、まずやらない事だ。今のようにバレれば、一溜りもないのだから。

 

品定めが必要だ。今後障害になるかどうかの。

静かに脚を開き、腰をかがめた。後方に置いた右足に力を込め、問いかける。

 

「なあ、アンタはともかく、アタシらの目的は一致してんだ。けど、お互い譲れないから、今ここで戦闘が起きてる。分かるか?」

 

「そうみたいだな、特にお前からは『我』を感じたし」

 

「…………んで、今アンタはその現場を素通りしようとしたわけだ」

 

「ああ」

 

「のうのうと見過ごすわけねえ、だろうが!」

 

 

アタシは地面すれすれに跳躍しながら、槍を前方に突きだした。とはいえ、狙ったのはターゲットの右肩のやや上。動かなければダメージにはならない。

 

こんなのでビビるようなら、放っておいていいさ。食われた方が、(まじょ)は熟すしな。

 

ヒュッと乾いた音がひとつ。そして、静寂。

 

槍は、当然何も通すことも無く。しかしながら、アタシと対面していたはずのアイツそのものまでも、視界から一瞬にして消え去っていた。

 

 

「…………は?」

 

「素通りされてくれ。それが楽だし、な」

 

「あ、あんた、いつから…………?」

 

 

そして、射程圏内にいたはずの黒髪(やつ)は、アタシ以上のスピードで、魔女結界の入口に到達していた。目で追うことさえ許すことなく。

 

 

「何か勘違いしているようだが、オレの目的はお前たちとは違う。いちいちお遊びに付き合ってやるほど暇じゃないんだ。オレは『弱い』んでね」

 

「ッ!ふざけるな、お遊びなわけないだろ!」

 

「それじゃあなんだ、青髪。本気で戦ってた、なんて冗談やめてくれよ?あまりのくだらなさに、笑い転げてさっきの傷口が開きそうだ」

 

「お前ええええええええ!!!」

 

 

呆然としたアタシの目の前で、青髪(ざこ)の乱雑な剣の一振りが黒髪(やつ)の顔を切り裂く。しかしそれも、幻。既に黒髪は間合いから外れていた。

 

 

「逆恨みされる覚えはない。弱いのは事実なんだから。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「!?」

 

 

青髪の願いを知ってるのか?どうして?まさか、アタシのことも?

疑問は尽きないが、どういう訳かほんの僅かに体を動かすことさえ躊躇してしまう。理由は、なんだ。わからない。

 

アイツが速かったから?否。スピードが武器という魔法少女はいくらでもいるし、たかがアタシより速いくらいでここまで動揺したりしない。

 

アイツが男だったから?否。男の契約者を初めて見るのは事実だが、何もアタシは、出来損ない(おとこ)だから弱いと舐めてかかった訳では無い。アタシの意図を読んだ上で動かなかったり、反撃してきたとしても、「魔法少女」である以上想定内とさえ思っていた。

 

じゃあ、なんだ。

 

 

 

 

 

 

アタシは、なんで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいじゃないか。今からでも強くなれるんだから、それで。まして、強くなりたいと願うやつほど、向上心があるってもんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイツが、『怖い』と感じるんだ!!!

 

不意に、風が翻り、不敵な笑みを浮かべるアイツの表情が露わになる。

 

瞬間、アタシは悟った。

 

見たことがあるのだ。知っているのだ。あの目を。魔法少女となってから、幾度も見た、

 

 

 

 

 

「オレにそんな覚悟はなかったよ。まともに正面から戦うなんて選択肢は、なにかと卑しいオレには選べなかった、のさ」

 

 

 

 

 

アレは、死んだ奴の目だ。魔女結界に囚われ、救いのない自分の結末に絶望して、死んでいった奴と、同じ目をしているんだ。

 

 

「だから、今回も正面から戦うなんてゴメンなのさ。オレはお前達のやってるような高度なお遊び(・・・・・・)にはついていけないしな」

 

「なっ!おい待て!」

 

 

そう言い残すと、アイツはそのまま魔女結界へ入っていった。止める間もなく。

アタシはしばし呆然としていた。動けなかった。あの目に吸い寄せられていたかのように。

 

 

「…………停戦協定ってことでいい?このままだと、取られるよ、アレ(・・)

 

 

青髪の言葉でようやく意識が現実に戻ってくる。どうも、アタシはあの目が苦手らしい。

 

生きてるくせに、戦ってるくせに、どうやったらあんな風に平然と…………この世の全てに絶望したかのような顔ができるんだ?

そんなことアタシは知らない。だからこそ、アイツのことは知っておくべきな気がした。きっと、独りで生きているあの姿がアタシ自身に重なったから、だろうか。

 

 

「なんて、感傷に浸ってる場合じゃねえか」

 

 

アタシはアタシだ。そして今の目的は目の前のグリーフシード。あんな奴に、あんな奴だからこそ、くれてやる訳には行かない。

 

 

「佐倉杏子」

 

「は?」

 

「停戦協定、結ぶんだろ?名前知ってないと不便じゃないか」

 

「…………美樹、さやか」

 

 

美樹さやか、ね。アンタと決着をつける時は苦労しそうだな。そうひとりごちて。

 

 

「まあ、アタシとまともに張り合えるようになったら呼んでやるよ」

 

「はあ!?じゃあなんで名前聞いたのよ!」

 

「アタシは教えろとか言ってねーし。ほら、さっさとしな。あんな奴に横取りなんてさせねーよ」

 

 

アタシは魔女結界の入口に立つ。なんとなく隣の青髪とは、付き合いが長くなりそうだ。そんなことを思いながら。

 

 

「行くぞ、ボンクラ。魔女狩りだ」





『オレの名は。』


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stage4 ゴミ

同じ文字をたくさん並べると、頭が狂ったような感じが半端じゃないと思うんです。





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ね?食べたくなるでしょ?ラーメン。




-美樹さやか-

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな願いを口走ったのだって、それが理由だろ?」

 

 

そんなこと分かってる、分かってるんだ。自分が弱いなんて、魔法少女になる前から、ずっと。

 

 

「いいじゃないか。今からでも強くなれるんだから、それで。まして、強くなりたいと願うやつほど、向上心があるってもんだ」

 

 

分からなかった。この気持ちは。正しいと言われたはずなのに。認めてもらっているはずなのに。つい思ってしまうんだ。

 

 

 

何を偉そうにあたしの未来を語ってるんだ、と。

 

 

 

魔法少女(あたし)を望んだ。

魔法少女(てき)に否定された。

魔法少女まがい(だいさんしゃ)に肯定された。

 

誰も彼もが「あたし」に好き勝手言ってくる。あたしは自分(あたし)のものなのに。

 

 

 

 

 

 

「ほんと、何様だよってね」

 

「ん?どした、さやか」

 

 

そしていま、色々と言ってくれた黒髪の少年は魔女結界に姿をくらませ、敵だったはずの赤髪はなぜか当然のように隣で共闘している。誰かあたしのここまでの状況をわかりやすく要約して欲しい。この混乱している頭に突っ込むから。…………いやそもそも、共闘を持ちかけた件の方はあたしが原因か、うん。

 

と、そこで第三者(だれか)に助けを求めていることに気づき、あたしは思わず苦笑する。さっきまで好き勝手にするなと言っておきながら、あたしこそ傲慢だ。

 

今日は何度も自覚させられてばかりだ。あたしはやはりまだ弱い。魔法少女としての強さも、心の強さも。

 

 

「や、なんにも。あたし達さっきまで、お互い殺し合いをしてた敵だったわけじゃん。そのわりに、妙にケロッとしてるからさ」

 

「ん?だって休戦したし。いがみ合ったってなんもねえだろ。しかも、今いるじゃんか、共通の敵が」

 

「まーね」

 

 

どっちなのか、とは聞かなかった。必要ないし、最悪「どっちも」と言われても気にならなかっただろうから。

 

 

 

 

 

 

結局あいつはなんなのか、その結論は出ないままだ。魔法少女、なのだろうか。でなかったら「願い」なんて単語は出てこないし。

 

あたし達の前に現れたのは、登場の仕方からして想定外なのだと思う。本人もそう言っていた。…………そのくせして妙に余裕ぶってるし煽ってくるし、我が物顔して魔女結界に入って行くしで、あたしの中であの黒髪をどう位置付ければいいのか戸惑うばかりだ。

 

大体「お前も弱いし、オレも弱い」ってどんな理論だよ、意味がわからない。今度会ったら「いやあんたも弱いんかい!」とツッコミを入れてやりたい。いや、今から会うんだけど。

 

 

 

 

 

ダメだ、思考が定まらない。

そもそも、あいつはなんであたしの願いを知ってたんだろう。

 

キュウべぇに聞いた、が妥当なのかもしれないけれど。あいつの目的がなんにせよ、魔法少女(あたし)に関する情報を聞くのなら、魔法の属性とか戦闘スタイルとか、普通はそういうものを聞くんじゃないだろうか。他の魔法少女のことなんて聞いたことないから、自信はないが。

 

 

「つーか、アタシも意外だわ」

 

「なにが?」

 

「アンタのことだから、使い魔を見逃すのはダメだー、全部倒さないとー、とかいうもんだと思ってた」

 

「あー、たしかに、そうかも」

 

 

言われて、自分でも不思議に思う。

あたしは魔法少女の契約を交わしてから今まで、使い魔は例外なく倒して進んでいた。使い魔が魔女に成長する可能性がある以上、取りこぼしをすれば犠牲が増える、そう思ったから。

 

正直、普段のあたしなら、ここで使い魔をスルーなんて出来ないし、さっきの発言の通り、「使い魔なんて無視しちゃえよ、魔力の無駄だしさ!」な路線の杏子とは言い争いになっていたに違いない。

 

そうならないのは、今回の魔女やあの黒髪に敵愾心を抱いているから、なのか。それとも、……………………あたしがあたしじゃなくなって、

 

 

 

 

 

 

 

『…………』

 

 

 

 

 

 

 

 

それまでひたすら動かしていた足を止め、立ち尽くしたあたしに、振り返った杏子が言う。

 

 

「…………ただでさえ足でまといのようなもんなのに、使い魔までやるーとか、血迷ったこと言ってたら置いてってたぜ、アタシ。てか今置いていこうか?」

 

「な、なにが足でまといよ!見てなさいよ、すぐ追い抜いてやるから!」

 

「ハイハイ、分かった分かった。…………んじゃ、遅れんなよ!」

 

「いや待っ、はや!しかもそういう意味じゃないしー!」

 

 

そうだ、変なこと考えてる場合じゃないんだ。のんびりしてたら、先を越される!それだけは許せない。何よりあたし自身が。

 

 

 

 

 

 

…………杏子(あいつ)、今あたしのこと悲しそうに見てた気が…………。

 

 

 

 

 

 

そのような思考も、杏子の後を追いかけているうちに忘れてしまった。使い魔の横を駆け抜け、魔女結界の奥へと突き進む。二重の意味でのリベンジを控え、あたしは闘志を燃やしていた。

 

 

 

 

 

 

 

-佐倉杏子-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな顔すんなよ、色々思い出しそうになるだろーが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-魔女(とある少年による翻訳)-

 

 

いたい、あつい、くるしいよ。ねえ、きみ。たすけてよ。ぼく、こんなにきずだらけ。あおいかみのけのおんなのこが、ぼくをいじめるの。きみもけがしてるから、わかるよね?いたいでしょ?ねえ、それいたいでしょ?だから、その「いたいってきもち」、ぼくに、ちょうだい?ぼく、()()、だいすきなんだ。だから、ちょうだい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ねえ?

 

ねえ?

 

 

ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるせえよ」

 

 

あ、またふえた。ねえ、きみもわかるよね、きみもいっぱいきずついてそうだから、わかってくれるとおもうん、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前なんかに理解されて(わかられて)たまるか、ゴミ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐしゃ

 




-幕間-


「そういや、アイツの魔法ってなんなんだろーな」

「言われてみれば、そーだね。あいつなんか武器持ってた?」

「いや、見た限り持ってなかったな。アタシより速いし、強いのは間違いねーんだけど。逆に言えばそんだけだったしなー、アタシらが見たの」

「…………もしかして、肉弾戦が主体なんじゃない?」

「確かにな。身体強化って線もあるかー、あーわかんね!とりあえずアイツボッコボコにしてー!」

「分かるわー。あんなひょいひょいと避けて反撃もなしとか、舐めプでしょ舐めプ」

「アイツは二人でフルボッコな、魔女は渡さねーけど」

「うんうん、そーしよ。魔女はあたしが倒すけど」




「へくちっ!あー、悪寒がするー」


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stage 5 『弱き者』の在り方


今回は普段の2倍近く尺があります。
上手く話を切れなかった…………。


 

-佐倉杏子-

 

 

「あーもう!なんなんだよあいつ!思い出すだけでイライラしてきた!」

 

「さっきからそれしか言ってねーぞ。つーか、どんだけ速えんだよ。後ろ姿が見えないほど差がつくとは思えねーんだけどな、普通は」

 

 

魔女結界に入ってから随分経った。そろそろ最深部か、といったところだ。が、アタシ達より先行していると思われた例の魔法少じ…………魔法少年は、一向にその姿を見せない。

 

 

「さっき杏子の攻撃を避けた時はめちゃくちゃ速かったけど、やっぱりスピードが武器って感じ?」

 

「あんなの攻撃じゃねーよ、牽制だ。…………どうだろうな。結局、実力は未知数ってか」

 

「戦闘スタイルくらいは分かりそうなもんだけどねー。あ、そうだ!例えばさー」

 

即攻撃・即離脱(ヒットアンドアウェイ)、だろ?」

 

「…………そ」

 

 

うわ、拗ねてやんの。と思わず率直な感想が出てきそうになった。

 

アタシとやり取りしている間、このさやか(ボンクラ)はコロコロと表情を変える。笑ったかと思えば怒って、こうして拗ねた態度取ったり。イカれた空間で、魔法少女として戦ってなければ、ほんとにそこらの学生と変わらない。

 

 

 

 

だから尚更、あんな表情をするようにはとても思えなかった。

 

 

 

アンタは、普通に生きていたんだろ?学校に通って、友達もいて、生きることの重みなんて、理解しないできたんだろ?なあ、どうしてだ?どうして、そんな、

 

 

 

 

「杏子?きょーこー?」

 

「んあ?なんだよ」

 

「いや、なんか、アレ」

 

 

さやかの指さす先へと目線を移す。そこは相変わらず魔女結界の中。だが、()()

 

 

「…………匂うな。この先か?」

 

「かもね。見るからに怪しいし」

 

 

アタシ達の目線の先には、異質な空間があった。

 

一切の光も映すことの無い暗闇。にも関わらず、無数の女の笑い顔が『視えた』。花束を抱え、無垢に笑う少女。顔のない人間と戯れる、満面の笑みの少女。そして、うずくまる人間を踏みつけ、嗜虐的な笑みを浮かべた少女。

 

 

共通点といえば、笑っている少女はどれも同じ顔。どれも、おなじ。

 

 

「ねえ、あれって」

 

「深く考えんのはやめとけ。アンタのことだ、タチが悪い」

 

 

さやかの言葉を切って捨てた。アタシ達は理解しなくていい。魔女とかいう頭のおかしい奴が作り出した空間だ。意味なんてない。ないんだ、きっと。

 

 

「行くぞ」

 

 

アタシは一歩、暗闇に足を進める。それで十分だった。

 

闇がアタシ達を飲み込む。分かっている。これは攻撃ではない。お出迎えだ。餌として歓迎するために、魔女の下へと連れていくのだ。

 

 

一呼吸おき、各々武器を呼び出したアタシ達は、闇を切り払い、視界をひらき、吹っ飛ばされた。

 

 

「へぁっ!?」

 

 

…………おいやめろ。今のアタシの声じゃないぞ。ボンクラのだからな。

 

ひとまず壁に足をつき、綺麗に着地。さやかは、うん。ドンマイ。

 

 

「なんだこれ?」

 

 

目の前にある、自分たちに飛んできたものを確認した。全長はアタシ程度の大きさ。ドス黒い多角形から、何本もの手が伸びている。その形状はアタシ達がガン無視してきた使い魔と形状がよく似たものだ。

 

 

「そいつは…………?」

 

「ああ、魔女みたいだな。てことは、だ」

 

 

アタシは魔女が飛んできた方向へと視線をむける。当然いるのは、

 

 

「なかなか派手な挨拶してくれんじゃねーの? 魔法少年」

 

「魔法少年、か。滅多に聞かないが、悪くない響きだな。魔法少女まがいだの男版魔法少女だの言われるより、よっぽどしっくりくる」

 

 

先程合間見えたばかりの魔法少年と、再び対峙する。向こうの目に、先程のような重圧は感じなかった。代わりに、好戦的とも呼べるギラついた視線を感じる。

 

 

「随分遅いお出ましだな。お前達があんまりのんびりしてるから、先に戦わせてもらってるぜ」

 

「悪い悪い。そのスピードは逃げ足専用だと思ってたから、むしろ時間かけてきた方が、魔女もアンタを追いかけ回して疲弊してっかなと」

 

 

売り言葉に買い言葉ってのはこういうことを言うんだろうか。そんな感想を述べる余裕など、今のアタシにはない。

 

まさに、一触即発。アタシ達はそのまま睨み合い、そして、

 

 

「「「 ! 」」」

 

 

体勢を立て直し宙に浮かび上がった魔女が、アタシ達全員に腕を伸ばしてきていた。それまで精々4,5本程度だった腕が一瞬で増殖し、襲いかかる。アタシとさやか、そして魔法少年は、各々散らばってこれを回避した。

 

壁側に跳躍したアタシは、そのまま壁走り(ウォールラン)を決行。壁を突き破らんばかりの勢いで射出される腕を、全て掻い潜り、今度は魔女の方へ跳んだ。槍を地面に叩きつけ、魔女の真下で急停止。

 

 

「おいおい、足下がお留守だぜ?」

 

 

飛び上がりながら、槍を魔女へと真っ直ぐに突きだした。看過できない程度にはダメージが入ったらしく、伸ばしていた腕を収束させる。

 

 

「なんだ、意外と大したことないじゃん。…………こんな奴に時間かけてたのか?あんなにアタシ達と差をつけといて?」

 

 

実際、並の実力があれば、ここまでとは行かなくとも、ダメージを与えることに苦労はしないはずだ。なんならさっき魔女吹っ飛ばしてきたし。普通ならアタシ達の到着など待たずに魔女が倒れそうなものだが。

 

魔女越しに反対側で立っている魔法少年は、苦笑しつつ答えた。

 

 

「煽ってるつもりなのか知らないけど。この魔女がその程度なら、オレも苦労してないさ。なあ、青髪」

 

「? いや、なんでそこでさやかが出てくんだ、!?」

 

 

そこで、唐突に魔女の体が変貌した。多角形の部分が膨張し、収束した腕も、再びその数を増やし、地面に叩きつけられる。そして多角形の中央にヒビが入り、真っ二つに裂けた。

 

 

「コイツ、分裂しやがるのか!?」

 

「…………だけならいいんだが」

 

 

魔女の変化は、そこで終わらなかった。裂けた部分から大量の靄のようなものが吹き出し、おぼろげながらも形を生成していく。そして分裂した多角形は、腕のように。全体像はさながら、人間の上半身のようなフォルム。

 

 

「でけえな。霊体(ゴースト)、か?」

 

「みたいだな。どうやらこの魔女は、望んだ存在になるように自分を作り替えるらしい。人とか動物といった見た目の変化から、パワー型やスピード型のような能力値の変化まで」

 

 

ふと、魔法少年がさやかへと目を向け、言う。

 

 

「あれのせいで仕留めきれなかったんだろ?美樹さやか」

 

 

さやかが肩を震わせたのは、名前を呼ばれたことに対してか、あるいは。

さやかにあの魔女との戦闘経験があるとは思っていなかった。はじめ魔女見た時にも戸惑っていたようだったから。

 

 

「そう。()()こそ、あの時、あたしが取り逃した魔女。因縁の魔女(てき)。絶対に、あたしが、倒さないといけないの」

 

「…………」

 

「あいつは、あいつは…………あたしの目の前で、子どもを殺したの。止められなかった。悔しい、悔しいの!あたしが来た時にはまだ生きてた!温かった!あんな人たちを助けたくて、あたしは魔法少女として戦うことを受け入れたのに!」

 

 

なおも言葉を紡ぐさやかに、アタシは何も言えなかった。

 

もう、知っていたのだ。自分のやろうとしていることが、どれほど難しいことなのか。誰かに言われるまでもなく。

抱いたその覚悟を踏みにじられ、それでも立ち上がろうとするさやかに対して、アタシが取った行動はなんだ?夢物語でも見ていると勝手に決めつけて、自分の現実ばかり押し付けて。

 

 

「…………っ!」

 

 

自分が愚かしい。不幸な思いをしているのは自分だけじゃない。そんな単純なことを、独りでいたせいか見失っていたのだ。いつの間にか。

 

 

 

 

 

…………そういや巴マミ(アイツ)も、魔法少女になる時に両親が死んじまってたんだっけ。やっぱ強えーわ。アンタら。

 

 

 

 

 

「なあ、美樹さやか」

 

そこで、生長を続ける魔女を見遣りながら、魔法少年は口を開く。

 

 

「敢えてオレとお前の差を言っといてやる。…………魔女に対して一般人を助けることが出来たか否か、だ」

 

「…………え?」

 

 

なんて言った?一般人を助けた?こいつが?大体、アタシ達以外の人間などどこにも見当たらない。

 

 

「いや、逃がしたからな?戦闘の邪魔だし。死なれちゃここに来た意味がない」

 

「! まさか、アンタの目的はグリーフシードじゃないってのかよ!?」

 

「ああ。オレ、()()()()()()()()()。ストックならあるから」

 

 

絶句する他なかった。利己的な奴だと思っていたのに、アタシ達との戦闘のリスクを背負ってまで魔女結界に入った理由が人助けなど、及びもつかなかった。

アタシをよそに、魔法少年はさやかに呼びかけ続ける。

 

 

「そんで、オレはもう目的を果たした。正直もう、ここにもあの魔女にも用はない」

 

「っ!」

 

「お前からすれば看過できない発言だろうけど。因縁なんて興味ないし、子供が死んだ、だっけ?あれもお前がなんとかすればよかった話で」

 

「…………」

 

「おまけに、真っ当な話、なってから2週間かそこらの魔法少女に、あいつを倒せるはずがない。もしオレが来てなければ、今オレが逃がしてやったやつはどうなってた?」

 

 

僅かな時間、静寂が訪れた。破ったのは、また。

 

 

 

 

 

 

「ま、所詮他人から見たお前なんてそんなもんだ。他人なんて無責任なことしか吐かないのに、いちいち真に受けてどうするよ」

 

 

アタシとさやかに言葉を紡ぐ時間も与えず、魔法少年は話を続ける。

 

 

「あと勘違いするなよ? 俺が責めたのは、お前の実力の事じゃなくて、それを言い訳に使っていることだ。大体強さ云々なら、あんなドヤ顔でお前を圧倒してた佐倉杏子(あかがみ)だって最初から強かったわけじゃない。誰しも最初は」

 

 

 

 

「弱かったのさ」

 

 

 

 

その一言で、もう一度、さやかの肩が大きく震えた。()()()()に反応したかのように。

 

 

「自分の弱さなんて、お前だけが抱えてる悩みじゃないし、それを嘆くやつはいくらでもいる。だが、『弱い』は評価であって事実ではない。履き違えちゃいけないんだよ、そこは。弱いから人を救えなかっただの、弱いからどこぞのむかつく女にボコボコにされただの」

 

「おいコラ」

 

 

無視できない単語入ってたぞ。誰がむかつく女だ。

 

 

「弱いのは今すぐどうにかなるもんでもない。問題はそこじゃなくて、『弱い=何も出来ない』にすんのは無理があるってことだ。なんなら、今はどうよ? ここには、オレも、佐倉杏子もいる。オレはあいつをぶっ飛ばせるし、赤髪は"おいおい、足下がお留守だぜ?"が出来る」

 

「さっきから喧嘩売ってるよな? なあ?」

 

「別に。そんなにイライラしてるんなら鬱憤晴らしてこいよ。良い的があるだろ、"お留守さん"」

 

「てんめえええええ!」

 

 

ほんとなんなんだよコイツは!真面目に喋ってんのかおふざけに走ってんのか理解できない!

 

 

「まあ、冗談は置いといて、」

 

 

 

 

 

 

「こんだけ戦力があれば、『救える』んじゃないかって話だ。今度こそ、な」

 

 

人が死ぬ瞬間を目撃し、なお立ち上がろうとする彼女に、アイツは手を差し伸べた。今度こそ、『救える』魔法少女、正義の味方になれと。

 

ああ、アタシは出来ねーな、と感じた。

魔法少女になることで、家族を失った。仲間を置いて逃げた。裏切るだけ裏切っておいて、今更何かに味方するなんて未来は来ないと、そう思っていた。思っていたのに。

 

 

「…………お願い」

 

 

目の前の少年は、アタシまで巻き込んで、平然と協力を宣言できる。それはきっと。

 

 

『オレにそんな覚悟はなかったよ。まともに正面から戦うなんて選択肢は、なにかと卑しいオレには選べなかった、のさ』

 

 

自分が『弱い』から。

 

 

「あたしに力を、貸して。あの魔女を、あたしに倒させて!」

 

「…………だそうだ。どうするよ、佐倉杏子?」

 

 

おいおい、勝手にアタシの名前を出しといて今更かよ。こんなの、

 

 

「アタシの目的はグリーフシード。次点でアンタのフルボッコだ。両方達成するまで、帰る気分じゃねーな」

 

 

断れるわけ、ないだろ。

 

 

「杏子…………」

 

 

さやかがアタシの方に目を向けた。今にも泣きそうな顔をしているのを見て、アタシは声をかける。

 

 

「魔女を、魔法少年を、負かしてやるんだろ? 言ったじゃんか、やるなら二人でってな」

 

 

いや、魔女の方はどうだったっけな。まあいいや。

アタシはもう一度、魔女を見据える。どうせあれを1人で相手するのは面倒だし、味方は多い方がいい。

 

 

「交渉成立だな。いくか」

 

 

アタシの両脇に、魔法少女と魔法少年が並び立つ。それを合図に、アタシとさやかは槍、剣を喚び出す。とうに変身を終えていた魔女は、敵を認識するやいなや、形容し難い声を発した。

 

 

GRRRRRRRRRRRRRRR!!!!!

 

 

「…………リベンジしにきたよ、魔女。今度こそ、お前を」

 

「わざわざ手を組んだんだ。でかいグリーフシード、期待していいよなあ、"お留守さん"よお!」

 

「杏子、自分で言っちゃってるよ」

 

 

アタシの強引なノリを、さやかは笑った。この調子なら多分、大丈夫だろう。不思議と安堵してしまう自分がいる。懐かしいな、この感じ。

 

 

「さて、アンタが合図出せよ、魔法少年」

 

「やっぱ長ったらしいから、魔法少年やめようぜ。呼ばれるの面倒くさくなってきた」

 

「今その話すんのかよ。じゃあ、何がいいんだよ」

 

「メイジ」

 

「メイジって、魔法使いって意味のあれか?」

 

「違う。璃乃(りの)メイジ、オレの名前だ」

 

 

えっと、なんつーか、こう。

アタシの代わりにさやかが代弁する。

 

 

「にしても、魔法使いになるためにつけられた名前みたいだ」

 

「それはまあ、キュウべえと契約した時に付けたからな」

 

 

こんな時だってのに、随分と軽口を叩く3人。全員初対面だってのに、意外と相性は悪くないのかもしれない。今度こそ、さやかはリベンジを果たせるだろう。そう確信した。

 

 

「さて、準備はいいか? ならば、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地獄に落ちろ、魔女(Go to hell, with your soul.)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

- インキュベーター -

 

 

なかなか面白い展開になってきたよ。正直、佐倉杏子が誰かと手を組むことは想定外だったけれど、それも悪い話ではない。複数人の魔法少女が組めば、一人の絶望が伝播するからね。

 

 

 

 

 

「ところで、誰も疑問に思わないのが不思議だ。メイジのやることには、僕も結構驚かされてきたんだけどな」

 

 

〈空間転移を用いて一瞬で魔女部屋に到達する〉し、〈魔女結界に穴を開けて一般人を逃がす〉し、〈本当の意味でグリーフシードが要らない〉なんて、僕がこれまで契約してきた魔法少女とは根本からして違う。はっきり言って異様だ。

 

 

彼だからこそ、なのかもしれないけれど。僕らの想定外とする出来事が一種の感情から生まれているとするのなら、やはり『わけがわからないよ』と言わせてもらう他ない。

 

 

「あわよくば君が2人を魔女にしてくれれば、僕としては好都合なんだけど」

 

 

メイジの性格を考えても、有り得ない話ではないと推測する。遠くない未来、全てを絶望にたたき落とす。彼は、そういう人間だ。

 

 

「さてひとまずは、このまま観察を続けさせてもらうよ」

 

 

まだ、誰も絶望していない。まだ、誰も魔女になっていない。ここから、始めるのだ。見滝原に集う5人の魔法少女、彼女達を絶望させる計画を。宇宙の延命のために。

 

 

「それが、僕達インキュベーターに課せられた使命だからね」




・今回出てきた魔女について
変化前は暗闇の魔女(アニメ未登場)、変化後はオクタヴィアをモチーフにしています
暗闇の魔女の性質は『妄想』らしいので、雰囲気やら魔女の能力やらを多少それらしくアレンジしました

・オリ主 璃乃 メイジの空間転移諸々
いつかちゃんと説明します(今は丸投げ)

・杏子の「やるなら二人で」
前話の幕間参照


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stage6 その剣、鎖を断つ

え?この時間軸では恭介がなにをしてるのかって? …………落語とかじゃない?
「おい作者。そんなんじゃ章タイトルの落とし前どう付けるんだよ。誰が指揮するって? なあ?」

すいませんでした。

っていう茶番。(しれっと伏線仕込んでたり)


-璃乃メイジ-

 

 

地獄に落ちろ、魔女(Go to hell, with your soul.)

 

 

影に塗れた空間の中、どこまでも狂った魔女に、とめどなく狂い続ける魔法少年が提示する。死を。これ以上ない明確な敗北を。

 

 

「メイジ、共闘はいいけどよ、どうやって攻めるよ? アンタの戦闘スタイル次第じゃ、全員でタコ殴りする羽目になるぞ」

 

「安心しろ、オレはサポートやるから。近接戦闘向きの2人は、防御とか考えずに殴ってくれればいい」

 

「サポート、ねえ」

 

 

美樹さやかが半目でこちらを疑わしげに覗く。佐倉杏子も半信半疑と言ったところだ。オレ、何かしたか?

 

 

「心配しなくても、ちゃんと守ってやるよ。疑ってるんだったら最初から回避してくれればいい。つーか、その方が楽だし」

 

「あー、そーいうんじゃなくて。あたし、あんたのこと攻撃タイプだと思ってたから、意外だなーと」

 

「? 確かに出来なくもないが、わざわざ攻守のバランスを崩す必要は無いだろ。脳筋パーティじゃあるまいし」

 

「の、ノーキン…………」

 

「なんかすげえ例えだな、それ」

 

 

杏子が脱力しながら言う。オレは肩をすくめ、続ける。

 

 

「細かいことはいいから。あの魔女に逃げられないように警戒すれば、負ける敵でもない。準備が出来てるんなら、とっとと行け」

 

「言われなくても!」

 

「やってやんよ!」

 

 

二人は間髪入れず猛ダッシュ。魔女に近接戦闘を仕掛けていた。

あいつら、結構息ピッタリだよな。その辺も、彼女が「進化」したということだろうか、と場違いな思考に陥りそうになる。

 

 

「っと、さっそくか」

 

 

ヒトの上半身のような姿となってから、厄介さが増した魔女。二人も慣れない分まだ距離感が掴めていないらしい。

魔女の腕が大きくうなる。地面を巻き込むほどの範囲攻撃に、さやかは避けきれそうにない。

 

 

「カウント、展開」

 

 

それが、オレの戦闘開始の合図。オレの視界の左上に、『1300/3000』というカウントが表示される。

 

 

「っ、半分も残ってないのか。まあいいけど」

 

 

悪態をつきながらも、動きを止めることはしない。さやかと魔女の腕の間へ向け、腕を突き出し、唱える。

 

 

「シールド、60」

 

 

同時に、さやかのすぐ前に薄紫色の膜のようなものが現れ、魔女の一撃を弾く。反動で魔女は大きくのけ反り、その隙に杏子が顔面へ槍を突いた。

火力に関しては二人に任せたほうが賢明だと判断したが、なかなかアタリだ、と手応えを感じた。

 

 

 

この流れで今後も共闘、とはいかないか。

オレは別に、敵対する気は無い。生き残るために、共存する相手を見定めているだけだ。出会いがアレなだけに、敵として見られていそうではあるが。

 

 

「おいおい、こっちにも来るのかよ」

 

 

魔女との戦いの余波がこちらにまで及んでいる。どこから生成されていたのか、コンクリートの塊のようなものが、瞬く間に弾け飛んできた。

 

 

「シールドはいいか。バレット4、オール5」

 

 

オレは目の前に、親指サイズで、これまた紫色の小球を4つ、それぞれが正方形の頂点となるよう配置する。コンクリートと接触すると同時に、その全てが爆散。オレの眼前には、もはや原型もとどめていない、ただの粉が舞うばかりだった。

 

 

「攻撃は最大の防御、とは言うけど、これじゃ文字通りだな。さて」

 

 

魔法少年とやらになってから、既に数ヶ月はたっているものの、試行錯誤の日々はまだ当分終わりそうにない。オレはまだ、自分の力の全貌を把握し切ってなどいないから。

 

オレはさやかに目を向ける。溢れ出る覇気が彼女の進化を物語っていた。主人公ってやつは、ああいうやつがなるんだろうなと思う。皆を守るため、立ち上がることをやめない。困難に正面から向き合い続ける彼女こそ。

 

 

「ま、そんなこと今更か」

 

 

ため息混じりにつぶやく。この魔女結界だって、ある意味彼女へのお膳立てなのだから。一度手を組んだ以上、最後まで通すのが筋だろう。

 

「1220/3000」と示すカウンターを一瞥し、オレは再び二人へシールドを展開した。勝ちを確信した彼女達へ、僅かに、笑みを向けながら。

 

 

 

 

-美樹さやか-

『過去』

 

 

 

魔女を取り逃がした。置き土産と言わんばかりに、血まみれで横たわったヒトを見た時、あたしはどんな表情をしていただろう。

 

巴マミという少女に憧れ、魔法少女になったあたしは、強くなったのだと思い込んだ。もう、彼女のように人を救えるようになったのだと。

 

その想いが打ち砕かれたのは、例の魔女討伐の時。

 

 

 

ゴポッ

 

 

 

気泡を吐くその音が、足下に広がる血潮が、溢れ出した臓腑が、今までに何度フラッシュバックしたか、もう覚えていない。吐きそうだった。

あたしには、今のあたしには人を救えない。思い知るには、あの光景だけで十分だったのだ。

 

 

「…………許さない」

 

 

これを仇討ちというのは間違いだろうか。それともただの自己満足?もうどちらでも構わない。あたしは、あの魔女を倒すことでしか、今の自分に区切りはつけられない。そう思った。

 

 

魔女を倒す。強くなる。魔女を倒す。強くなる。魔女を倒し、強くなり続ける。

 

強くなって、強くなって、そして、いつかお前を、お前を必ずあああああ

 

 

 

『現在』

 

 

 

「必ず、倒す!」

 

「おい、さやか!?」

 

 

杏子の声が、耳に入らない。魔女と相対したこの瞬間。この瞬間のために、あたしは、負けながら、傷つきながら、魔女を倒し続けたのだ。己の信念を曲げたまま終わりたくはないから。

 

 

 

 

全て、奴を倒すため。

 

 

 

 

全身の血が沸騰する。意識が加速する。奴の弱点は見えている。左から範囲攻撃。無視。右からの腕、杏子が薙ぎ払う。あたしは、直進でいい。

 

思考は単純に、ただしコンマ1秒単位で切り替えろ。何が来ても、ためらわずに取捨選択できるように。

 

左の攻撃をメイジが無効化する。魔女が後ろへのけぞった隙に、接近する!

 

 

「あああぁぁ!!!」

 

 

あたしは周囲に剣を展開する。その数5。狙うは右腕の、否。今なら、いける、もっと剣を制御できるはずだ。さあ、魔女に勝つために、己の進化を。

 

 

「【正義は必ず勝つ(Evolve, your hero)】!!!」

 

 

全身を青のオーラが包み込む。あたしの思いに呼応して、剣にも。【正義は必ず勝つ(Evolve, your hero.)】が真価を発揮する。剣はその数を10へと増やし、刀身もより鋭く。

 

 

「「「grrrrrrrrrrrr!」」」

 

「邪魔だぁ!」

 

 

目の前を邪魔する3体の使い魔。それぞれの武器は、花弁が鋭くとがった花束。人形の鈍器。靴底が異様に太いヒール。どれも、敵に回す必要も感じない。すれ違いざまのひと薙ぎで3体ともその身体を上下に断たれる。勢いで地面がえぐれ、後方へ押し飛ばされる。

 

 

「杏子!どいて!」

 

 

全弾、一斉投射。

 

 

「は?ってうぉぉ!?」

 

魔女の顔面に刺さった槍を抜いていた杏子が、素っ頓狂な声を上げ退避した。

放たれた剣が、両手を地面に縫い付ける。両腕、胴体に次々と叩き込まれ、魔女全体がバランスを崩した。体勢を立て直した杏子が左腕へ追い討ちをかける。なら、あたしは、右腕!

 

 

「これで、どうだ!」

 

「喰らいな!」

 

 

(あたし)の剣がが右腕を。(杏子)の槍がが左腕を。互いの獲物の軌跡がXを描くように、魔女の両腕を両断していた。

 

 

G,GRRRRRRRRRRRRRRR!!!!!!

 

 

全身を黒に染めているはずの魔女は、中から赤の鮮血を噴き出した。ここで、過去の記憶がフラッシュバックしそうになるが、無理やり意識から取り除く。これを、これを越えなければ、あたしはなんのために。

 

 

「…………蹴りを、つける」

 

 

ダメージから立ち直った魔女が、今度は翼を出し、宙へ舞う。そこから生み出される、ナイフのように尖った羽根。あたしは、一瞬メイジへと目を遣る。

 

メイジはリアクションを見せない。代わりに、あたしと杏子へ薄紫色のシールドが展開された。これなら、敵の攻撃は一切の効力を失う。

 

 

 

サンキュ、メイジ。

 

 

 

後に敵となるかもしれないのに、今は黙ってあたし達を支える彼に、ほんの一瞬、感謝を告げる。一瞬、目元を隠したメイジが笑った、そんな気がした。前へ振り返ると、思考は再び闘争をかき立てる。

 

 

「足場はアタシが確保する。あとは、ゴリ押しだ」

 

「…………OK。一気に行くよ」

 

 

やっとたどり着いた。今のあたしでも、恐らく1人ではどうにもならなかったはず。はずだった。覆せたのはきっと、前衛(きょうこ)後方支援(メイジ)が居たから。

 

再度、剣を展開。杏子が槍を地面に突き刺すと、あたし達と魔女の間に棒状の足場が幾重にも現れた。

 

 

 

 

「「覚悟しろ、魔女」」

 

 

 

 

-璃乃メイジ-

 

 

 

「終局か。まあ、当然といえば当然だ」

 

原因は明確。さやかの一撃が、本来実力差のあるはずの杏子よりも多くのダメージを与えている。彼女の恨みゆえか、はたまた進化ゆえか。

 

 

「負けて強くなるって、死ななけりゃ最強だよな。まったく、これほど『正面から戦える』なんて、羨ましい力だ」

 

 

オレが見つめる先で、さやかの最後の一撃が放たれる。両腕を切り落とされ、もはやまともに攻撃も出来なくなった魔女へ、彼女は剣を振り落とした。

 

 

「これで、終わりだあぁぁ!!!」

 

 

一刀両断。呪縛ごと、断ち切った。

魔女が消失し、グリーフシードが転がる。オレ達の、勝利の証明だった。

 

 

「やったじゃねーか、ボンクラ」

 

「杏子。まー、今だけはその呼び名、聞き逃してあげる」

 

 

今回大活躍の二人は健闘を讃え合っている。

あっれーおかしいな、あいつらさっき殺し合いしてたような、まいっか。

 

 

「ふっふーん!どうよ!この魔法少女サヤカチャンの活躍は!」

 

 

オレに自信ありげなピースをおくるな、さやか。それがお前の素かと思わず突っ込みそうになった。杏子がボンクラというわけだ。変なところで抜けている。

 

あくまで表向きには、だが。

 

 

「まあ、これなら『救えた』んじゃないか」

 

 

それだけ言っておいた。今のさやかにかける言葉はそれで十分だ。

 

 

 

「…………」

 

「おいおい、どーしたよ。急に黙り込ん、でっ!?」

 

 

さやかは突然バランスを崩し、倒れそうになる。咄嗟に杏子がそれを支えた。

 

 

「…………さやか」

 

 

さやかは、泣いていた。涙を流したまま、気を失っていた。

 

本当は、堪えていたのだろう。救えなかった死者(ひと)の仇を討てずにいた日々から、解放された。その思いは、オレには計り知れない。一途に思いを通した彼女のみぞ知る、そんな境地なのだから。

 

 

今日、魔法少女と出会い、結果的とはいえ共闘もした。オレには手を伸ばすことも叶わぬものを何度も見た。「俺」が真っ当に生きていれば、死のうとせずに、最後まで耐えていれば、いつかはこんなふうに、

 

 

 

 

 

俺も、こんなふうに報われた末の涙を、流す日は来ていたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その光景も、見方によっては大きく意味が変わるもので。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人を虐めていて楽しいものかしら、佐倉さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

解き放たれた魔女結界から現れる、三人の少女。中心にいる、銃を携えた少女が、杏子にそう言い放った。

 

 

「…………巴、マミ」

 

 

まだ、戦いに終わりは見えない。




戦闘中、メイジとさやかに認識の齟齬が一つ。これが後に、メイジが判断を違え、悲劇を生んでしまう…………かもしれない。

というか、真面目な話、作者である私にも今後のことが一切予想出来ません。実際stage4あたりを書き始めるまで「さやかと杏子が敵対したまま魔女戦を迎え、互いの邪魔をしながら魔女を倒す」という構想を描いていました。いつの間に相性ピッタリじゃねえかおい。どうなってんだ。

そんなわけで、4話越しに出てきた3人とオリ主の関係もこれから、となりますが、長い目でお付き合い下さい。


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stage7 眼鏡は、捨てた

Q. 無駄に余裕ぶってる感じあるんですが、もしかしてオリ主は俺TUEEEE!!!!系主人公ですか?

A. はいそうです。まさかオリ主が負けたり、ましてや死んだりなんてね、そんなことあるわけ、ね?



-巴マミ-

 

 

舞台は、魔女結界が崩壊した路地裏。そこで。

 

 

「人を虐めていて楽しいものかしら、佐倉さん」

 

 

こうやって顔を合わせるのはいつ以来のことか、目の前に佐倉杏子が居る。その腕には、()()()()()()()

 

 

「…………巴、マミ」

 

「その子、魔法少女? 相変わらず、グリーフシードにご執心なのね。人を傷つけるのも厭わないくらいには」

 

 

ひとつ、言葉を紡ぐ。ほんの僅かに、敵意を込めて。

 

もちろん彼女が傷つけたなどとは思ってなどいない。どのような目的にせよ、少女を襲ったのだとしたら、敵を抱きかかえている状況はありえないから。ただ、別れ方が別れ方だけに、皮肉のひとつは言ってしまう。

 

 

「へっ、そういうアンタは、新しいオトモダチ見つけて仲良く魔女討伐ってか。そんなんだからアタシ()に先越されんだろ?」

 

 

ギラつく視線。銃の引き金に、ほんの少し力が入るのを感じる。わたしを師匠として慕っていた面影は、もう残ってはいない。

 

しかし迂闊だった。相手のことばかり気にしていて、「アタシら」という言葉の指す意味を完全に理解出来ていなかった。すぐそこに、3人目がいたと言うのに。

 

 

「先を越されるも何も、見滝原(ここ)はわたし達のテリトリーなのだけど」

 

「こんな町の端っこなんて隣町のようなもんだろ。つまみ食いしたっていーじゃねーか」

 

 

いつから、など分かりきっている。なら、何故。彼女はこうも変わっていったのだろう。わたしと二人で戦ってきたのは、全て幻かなにかだったのだろうか。本人を前にしても、あの頃とは違うと信じたくない自分がいる。

 

自分の気持ちにいたたまれなさを感じながら、わたしは行動を起こした。

 

 

「…………その子は回収するわ」

 

「っ!?」

 

 

全身傷だらけで、明らかに疲弊していた少女。そんな子を任せられるほど、今の佐倉さんに信頼は置けなかった。

 

わたしは手元からリボンを伸ばし、少女に巻き付ける。不意をつき、佐倉さんの腕から、わたしの後ろにいる二人のもとへ。

 

 

「鹿目さん、暁美さん!その子をお願い!」

 

「え、あっはい!行こう、ほむらちゃん!」

 

「おい待て!」

 

「行かせる気があると思う?」

 

 

手に持った銃で佐倉さんを牽制する。人を支えていた体勢から動くのは容易でないはず。何故追いかけようとするのか、湧き出る疑問を押さえつけ、言葉を続ける。

 

 

「仲良く、は否定しないでおくわ。その方が仲間として信頼出来る。今のあなたよりは、間違いなく」

 

「……………………」

 

「これが、わたしたちの戦い方よ。あなたが否定した、でもあなたにとって本当に必要だったもの」

 

 

かつての仲間だとか、師弟関係だったとか、敵対してしまえば全て無に帰すこと。だからこそ、佐倉さんとは同じチームの仲間として戦い続けたかったのに。

 

 

 

 

 

ここで、わたしの失態が露呈する。

 

 

 

 

 

「けっ」

 

「?」

 

 

佐倉さんは頭を掻きながら、悪態をつく。しかし、心の底からの苛立ちは感じられない。

 

 

「今だけは、アンタの言うことを認めてやる」

 

「ま、マミさん! 女の子が!」

 

「!? 佐倉さん、何をしたの!?」

 

 

ありえない言葉に、思わず振り返る。確かに、鹿目さん達に少女を託したはずだ。それなのに、忽然と姿が消えていた。映るのは、動揺し狼狽えているふたり。

 

 

「別に何もしてないさ。ただ、アタシの方にも」

 

 

突如、佐倉さんのすぐ横に、降り立つ影。その腕に、例の少女を抱えて。

 

 

「協力者くらいはいるってこと」

 

「おいそれアタシの台詞」

 

 

目につくのは、全身真っ黒のコートに、青みがかった黒髪。耳に響くのは、やや高めで、しかし男性的な口調の声。少なくとも、わたしの知る魔法少女ではない。

 

 

「…………意外ね。佐倉さんは、グリーフシードの取り分を気にして、仲間なんて取らないと思っていたわ」

 

「仲間じゃねーよ。なんなら二人とは魔女戦の直前まで敵対してたしな。ただ、そこの女があまりにここの魔女『そのもの』にご執心だったから、少し手を貸してやった、そんだけ」

 

 

その言葉に嘘は感じないけれど。なんだろうか、この違和感は。何が、違うものを含んだような。

 

わたしは左手を前に突きだし、瞬間でマスケット銃を召喚した。銃口はすぐ横に立つもうひとりの魔法少女へ。敵に隙を与える訳には行かない。

 

形勢はこちらが有利だ。畳み掛けた方がいい、そう判断しわたしは口を開いた。

 

 

「その子はこちらに渡してもらうわ。見たところ見滝原中の生徒のようだし、あなたのチームに引き入れられては困るのよ」

 

「それは無理な話だ」

 

 

答えたのは、佐倉さん、ではなく、その隣。

 

 

「随分強気なのね。銃を突きつけられて、まだそう言えるなんて」

 

「これでもそちらを案じてるつもりなんだ。一度は協力関係を築いたオレ達から無理矢理さらわれてきたと知れば、彼女がどんな反応をするか想像に難くないだろ」

 

「あら、そこまであなた達に信頼関係はあるのかしら。一度は敵対しあっていたのなら、尚更」

 

 

互いの主張は平行線のまま。どちらかが譲る気配は一向にない。

 

 

「どうやら、これ以上は」

 

「交渉の意味も無いようね」

 

 

一触即発。どちらかが動けば、確実に戦闘になる。わたしは、引き金に力を込めた。だが、考えなしで撃つようなことはしない。

相手の挙動を見る。目的はあくまで黒のコートの中で眠る、魔法少女。彼女さえ無事に連れ出せば。

 

 

「バレット、2、オール5」

 

「…………え」

 

 

先手を打たれたことに気づいていれば、わたしも対処のしようはあった。だが、口しか動かしていないはずの敵に、

 

 

「銃口が、塞がれた!?」

 

「マミさん!?」

 

「バレット、」

 

「ぐっ、させない!」

 

 

咄嗟の判断で、新たな銃を呼び出す。今度は全てを宙に浮かせ、一斉射撃。

 

回避できる方向を限定し、誘導する!

その意図は、予想外の方法で打ち砕かれた。

 

 

「カウンター、オール10」

 

 

放たれた弾丸は、真正面から打ち出された小球に衝突、そのほとんどが無効化される。

 

 

「チッ、弾切れか!」

 

 

数発には小球が生成されず、無効化されなかったものの、それも避けられてしまった。しかし、もう攻撃を弾き返す余力は残っていないように思える。

 

 

「マミさん!!!」

 

 

鹿目さんの意図を読んだわたしは、その場でかがみこみ、その僅かな時間で両手に銃を呼び出す。直後、頭上を複数の矢が通り過ぎて行った。相手の隙を見事につく、完璧なタイミング。

 

 

「させっかよ!」

 

 

今度は佐倉さんが槍ではじき飛ばす。止まることなく、わたしへ突き進んでくる。

実力差を考えても、佐倉さんを相手するのは私が妥当。もう1人は、鹿目さん達に任せることにした。

 

(鹿目さん、わたしが佐倉さんと戦うから、もう1人をお願い! 暁美さんもあああああ

 

ガシャッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-暁美ほむら-

 

 

 

私は慣れ親しんだ武器を、静かに、()()()()の前で構える。

 

 

 

それは、鈍器ではない。

 

 

 

それは、自作の小型爆弾でもない。

 

 

 

それは、拳銃。『前の1ヶ月』でとある組織から持ち出した、拳銃。

 

 

「悪いとは思っているわ。でも、今ここで、余計な邪魔をされる訳にはいかないの」

 

 

ワルプスギスの夜。あの魔女を倒し、()()()を救うこと。何を犠牲にしてでも、必ずその未来を掴み取ってみせる。

 

 

「佐倉杏子。まだ貴女に干渉する気は無い。先にやることがある。だから、」

 

 

 

 

今は、邪魔しないで

 

 

 

 

 

そうして私は、引き金を引いた。

 




「メイジが表示させているカウンター。あそこに刻まれているのは現在値と最大値なんだけど、何を表しているかわかるかい?それはね、ソウルジェムの」

「おいばかやめろ」

ネタバレダメ。ゼッタイ。


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stage8 その体は化物(ニンゲン)人間(バケモノ)


「恐らく、どっちとも言えないってことだよね」

「タイトルの考察は読者に任せてるんだが。あとメタい」

「君こそ人(?)のことが言えるのかい?…………この議論は難しいんだよ。彼女達を『そう』した僕達でさえ」

「オレ達はともかく、お前達が結論を出す必要があるのか?どっちにしたって、所詮お前達にとってはエネルギー源でしかないだろ?」

「言われてみれば、そうだね」


-璃乃メイジ-

 

 

ガシャッ。

 

魔法少女同士がぶつかり合う空間における、明らかに異質な音。

まるで機械仕掛けの装置が動き出したような音と共に。

 

 

「がッ……………………」

 

 

佐倉杏子が、倒れた。頭から血を流して。

 

 

「さ、佐倉さん!」

 

 

銃を放り捨て、巴マミが佐倉杏子に駆け寄る。そこには、もはや敵意など残っていない。かつての仲間を心配する少女が1人、いるだけ。

 

 

何が起こった?ナニガ、カノジョヲキズツケタ?

 

本能が警告を告げる。思考が、急加速する。

誰が、どうやって。予想だにしない攻撃にどうにか対処しようと、目の前の惨状さえ置いていくように、ひとり、考えをめぐらせる。

 

 

 

 

愚かにも、その時間を作ることが敵の目的だと、オレは気づけなかった。

 

 

 

 

もう一度、あの音が鳴った、気がした。

かき消したのは、銃声。弾け飛んだのは、オレの身体。

 

佐倉杏子と同様、頭を撃ち抜かれ、そのまま倒れ伏す。

ソウルジェムを砕かれなければ、魔法少女の死はありえない。しかしダメージは、確かに残る。

 

 

「きゃあああああ!!!」

 

 

耳に響く、叫び声。あれは鹿目まどかのものだろうか? ぼんやりと思考する。ダメだ、頭が働かない。

 

 

「マミさん、今のうちに彼女を!」

 

「でも、佐倉さんが、佐倉さんが!」

 

「っ…………!」

 

 

もはや会話を聞き取ることさえ困難だが、二人が言い合いをしているのだけはなんとか理解できた。今のうちに、離脱しなければ。

 

頭に残る鈍痛を無理矢理振り払い、強引な手段に出る。

 

 

「…………、Open(ひらけ)!」

 

 

緊急脱出用に予め準備した、式句。

グラビティ、レンジ15、オール50。

 

直後、体に圧がかけられたように、巴マミらはバランスを崩した。

 

三人はその場で倒れ込む。だが、稼げる時間はあまりに少ない。頭を押さえつつ、佐倉杏子へ呼びかけた。

 

 

「おい起きろ、赤髪!頭撃たれたくらいで寝てるんじゃ、ねえ!」

 

 

立ち上がった勢いで蹴りを入れ、佐倉杏子を目覚めさせる。幸い、動きが鈍くなってはいるものの、起き上がれる程度には傷は浅かったらしい。

 

 

「メイジ…………? 何が、どうなって…………」

 

「いいから急げ! ここから離れる!」

 

 

他のことを気にしている余裕はなかった。

もう一方の腕で美樹さやかを担ぎあげ、全力の跳躍。何とか家屋の屋根まで登ると、後からついてきた佐倉杏子に構わず、ただ必死に戦場から離れていった。

 

 

 

-暁美ほむら-

 

 

佐倉杏子達が逃げ去って少し。上から押さえつけていた何かが消え去った。恐らく、重力系の魔法だったのだろう。あれがなければ、灰色の髪の少女、否、そう偽装された()()()()()を奪うことができたのに。

 

なかなかやるわね、あの魔法少女。

確か、佐倉杏子に『メイジ』と呼ばれていた。例のイレギュラーを、私もそう呼ぶことにする。

 

 

「…………ほむらちゃん、マミさん、大丈夫ですか?」

 

 

恐る恐る、まどかが問いかけてくる。

 

 

「ええ、大丈夫よ。()()()は?」

 

「今はなんとか。取り乱しちゃって、ごめんなさいね」

 

「気にしないでください。あれは、驚かない方が無理という話ですから」

 

 

涙ぐみながらも、気丈に答える巴マミ。その姿を見ながら、失策だったと爪を噛んだ。

 

作戦自体は間違いなく効果的だったはず。時間的に死角からの攻撃は、佐倉杏子達にも防ぎようがない。問題は、狙った部位だ。

 

相手が動揺するに十分な一撃を放つ必要があった。そのため、足や腕のような、中途半端な部位では意味がなかったのだ。とはいえ、頭部はやりすぎだった。結果、巴マミやまどかまで動揺させ、そのあとの行動に支障を出してしまったのだから。

 

二人は『肉体へのダメージが死につながる』ことが、魔法少女にも適応されると思っているのだ。それを、見過ごしていた。

 

 

私、自棄になっているのね。今回はどうせ『棄てる』からと。

 

 

鹿目まどかを魔法少女にはさせない。その決意で無限とも呼べるループを繰り返してきたが、その中にも、たまに『ハズレ』がある。

そう、ループ前のように、私が転校してくる前から、まどかが魔法少女になっているパターン。こればかりはどうしようもなかった。

 

まどかが既に魔法少女となっている1ヶ月は『棄てる』ことにしている。ワルプルギスの夜の情報収集や、自分と他の魔法少女との相性の分析などに使い、次の1ヶ月への可能性を広げるのだ。

 

しかし、それさえも何度繰り返したことか。いつしか私は、このような時間軸のことを軽視して過ごすようになっていた。何かしら失敗しようが、どうせ今回で終わらせる気は無いから、と。

 

 

「…………ねえ、あの二人への攻撃は、なんだったの?」

 

 

その言葉で、感傷から覚める。今ここで、私が銃撃したと告白すれば、このチームは瓦解、巴マミとは敵対さえ考えられる。それは避けたい。

 

私は、予め用意した言葉を告げた。

 

 

「恐らく、今のは狙撃よ。別の魔法少女が、二人へ攻撃を仕掛けた可能性が高い」

 

「え? それって、私たちも狙われてる!?」

 

「心配ないわ、まどか。あれから随分時間が経つのに、私達には攻撃してこない。彼女達に恨みでもあったのよ」

 

 

二人を時間差で撃ったことにも意味はあった。同時に攻撃してしまえば、狙撃という線が薄くなってしまう。犯人を有耶無耶にするには、「知らない魔法少女の、遠距離攻撃」とするのがちょうどいい。

 

 

「…………あの二人は、無事なのかしら。頭を撃たれるなんて」

 

 

『魔法少女システム』を知らない彼女達にどう説明したものか、迷う。頭部を銃撃されても問題ないという、明確な根拠が見当たらない。

 

そもそもあの二人も『システム』のことは知らないはず。けれど確かに、メイジは立ち上がり、佐倉杏子を蹴って起こし。

 

そこで、あるひとつの可能性に思い当たり、戦慄が走った。まさか、メイジは『魔法少女システム』のことを知っている!?

 

そもそも、彼女は言っていたではないか。「頭を撃たれたくらいで寝るな」と。あれは、絶対に死なないということを分かっていたが故の発言なのだとしたら。

 

「…………確かめる必要がある」

 

「暁美さん、何をする気?」

 

 

思わず口から言葉が漏れていたらしい。平静を繕って、静かに返答する(ごまかす)

 

 

「灰色の髪の少女、あの子のことです。制服からして、見滝原中に在籍していることは間違いありませんよね?」

 

「え、ええ。つまり、あなたは」

 

「接触するんです。彼女、見滝原で4人目の魔法少女に」

 

 

幸いにも、私は少女が美樹さやかだと知っている。咄嗟に髪色を誤魔化しても、魔法少女としての戦闘服は、間違いなく彼女だと断言出来る。接触は容易だ。

 

何故髪色を誤魔化したのか、という疑問も残ったが、恐らくは美樹さやかを隠したい理由があるのだろう。その辺りも、本人に会えばわかることだ。

 

暮れ始めた陽を見つめる。全ては、明日から始まる。そんな気がした。

 

 

 

-璃乃メイジ-

 

 

「うぇぇ、頭から銃弾を抜かれるなんて初めてだ」

 

「仕方ないだろ、それとも勲章として残しておくか?」

 

「それはそれでゾッとしねえな」

 

 

手傷を負わせられ、退避せざるを得なかったオレ達は、近くの工事中のビルで体を休めていた。今は、佐倉杏子の頭から弾丸を抜いていたところ。因みにオレのは既に抜いてある。

 

 

「なんてーか、魔法少女の体ってけっこー頑丈なのな」

 

「死なれちゃ困るから、魔法少女の体には特別な魔法を掛けてあるってキュウべえが言ってた」

 

「ふーん、意外と便利なもんだ」

 

 

本当のことを話してもよかったが、今のコイツがオレの話をまともに信用するか、という点でその案は却下となった。それに、真実を受け止めるには、それなりの覚悟がいるだろう。

 

 

未だに目を覚まさず、眠ったままの美樹さやかを横目に、佐倉杏子が言う。

 

 

「とりあえずま、サンキューな。あのままぶっ倒れてたら、追撃を食らうところだったぜ」

 

「いや、それは無い」

 

「? どうしてだよ?」

 

 

剥き出しの鉄骨を背に、ゆったりと腰を下ろす。どこから話したもんか。深呼吸して、ひとつ、結論から述べた。

 

 

「オレたちを撃ったのは、黒髪の奴。暁美ほむらだからだ」

 




アレの話が終わらないと、オリ主の説明もまともに出来ない…………。
オリ主に関して「は?」な所は多々あると思われますが、設定資料みたいなのは書きたいのでもう少々お待ちを。


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stage9 魂が穢れる(そまる)

-璃乃メイジ-

『追想』

 

 

青髪(さやか)赤髪(きょうこ)が戦闘を開始した頃。魔女結界へ向かうオレはキュウべえとテレパシーで会話していた。内容は、とある魔法少女について。

 

 

(なあ、見滝原周辺に赤髪の魔法少女はいるか?)

 

(佐倉杏子のことだね。彼女は風見野市の魔法少女だよ)

 

 

なるほど、納得がいった。

 

巴マミは佐倉杏子とタッグを組んでいた時期があり、タッグ解消後は杏子の方が別の町へ離れていった、という情報が確認されている。まさにあの赤髪が佐倉杏子だったという訳だ。

 

ならば、放置は避けたい。

彼女は今まさに、見滝原の魔法少女と接触しており、今後見滝原に関わる可能性は否定できない。動向はある程度把握しておいた方が良さそうだと判断する。

 

 

(それで、どうだ? ()()1()()の方は進展があったか?)

 

 

オレはキュウべえに、別の魔法少女の調査を依頼していた。

 

暁美ほむら。巴マミや鹿目まどかとグループを組んでいる、3人目の魔法少女。魔法は収納魔法。空間に保存庫(ストレージ)を持ち、そこに武器となるものを収納しているらしかった。

 

他に特筆すべき情報もなかったため危うくスルーしそうだったが。

問題は彼女の経歴。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。彼女の調査を依頼するには十分な項目だった。

 

 

(残念だけど、彼女に関しては当初話した通り。それ以外の情報は得られなかったよ。一つ気になることがあるとするなら、彼女、僕のことを嫌っているみたいなんだ)

 

(嫌っている? お前が調査中になんかやらかしたんじゃないのか、どうせ)

 

(僕の何が癇に障ったのか知らないけど、初対面で4体もの端末が破壊されたのは初めての事だよ。驚きだね)

 

(オレはお前が量産型だったことに驚きだよ…………)

 

 

結局、暁美ほむらの情報はさして得られなかった。何かを隠しているのは間違いない。それを掴めるまでは、あまり積極的には接触すべきでないだろう。

 

 

 

『現在』

 

 

「暁美ほむら? アイツのこと知ってんのか?」

 

 

佐倉杏子が不思議そうに訊いてきた。そういえば、あの場で魔法少女全員を把握してるのはオレだけだった。オレは茶化し気味に答える。

 

 

「見滝原にいる魔法少女、で検索かけたら出てきた。検索エンジンはキュウべえ」

 

「そういやアンタ、さやかのことも調べてたみてーだな。目的はなんだよ、見滝原(テリトリー)を乗っ取る気か?」

 

「別に。 オレはただ、後々行動しやすいように下調べしているだけさ」

 

「アタシはその『行動』のことを聞いてんだけどな?」

 

 

そう言って呆れ笑いを浮かべる杏子。

こうして見ていると年相応というか、ただの女の子、という印象だ。しかしそれも、当たり前といえば当たり前の話。魔法少女になる道を選ばなければ、彼女も普通の少女として生きていたに違いないのだから。

 

 

「で、話を戻すけど。マミチームの目的はオレ達をボコボコにする事じゃなくて、美樹さやかをこちらから奪い取ること。その目的を達成するには、オレ達が行動不能にさえなれば良かったわけだ。頭を撃たれたお前のように」

 

「言いたいことは分かるんだけどさ、それだとおかしくねーか?」

 

「というと?」

 

 

何かを思い出すような素振りをしながら、杏子は話を続ける。恐らく、思い出しているのは自分が撃たれた直後。

 

 

「頭がクラクラしててあんまり覚えてねーんだけど、マミがアタシのこと必死に呼んでた気がするんだよ。しっかりしてって」

 

「つまり、自分達から攻撃しておいてその心配をするのは妙だってことか」

 

 

コクリと頷く杏子。

 

 

「マミ達じゃないんなら、あの場にいなかった奴からの攻撃、と考えたのさ。そしてもし、その目的がアタシらを片すことなら、」

 

「オレ達がやられるまで攻撃が続く可能性があった、と。追撃ってワードがどこから来たのかと思ったけど、やっと意味が理解できた」

 

 

オレは最初から暁美ほむらのことを疑ってかかっていたから、第三者による攻撃は一切検討していなかった。だが確かに、その線もありそうだ。

 

オレは、なんとなく居るような気がして、声をかけた。

 

 

「なあ、キュウべえ」

 

「なんだい?」

 

 

うわ、本当に居た。ストーカーかよ、こいつ。

 

 

「きゅ、キュウべえ!? テメーいつから…………!」

 

「多分最初から。予感はしてたんだよなあ」

 

「それで、用事があって僕を呼んだんだろう?」

 

 

相変わらずブレないことに定評のあるキュウべえ。ブレる要素ないからそれもそうかと納得してしまう自分がいる。

 

この数ヶ月間、キュウべえとは情報交換などのために結構な頻度で落ち合っているが、オレとの付き合い方がわかってきたのか、ほとんど要件を言い合うだけの関係となっていた。

 

こいつが持ってくる情報は客観的でまず間違いがないので、それなりに信頼を置いているつもりではある。向こうがどうかは知らん。

 

 

「ここ数日でオレと佐倉杏子以外の魔法少女が見滝原に訪れたりは?」

 

「僕が知る限りでは確認されてないね」

 

 

他の魔法少女が介入した可能性はこれでほぼなくなった。その上で、あの銃撃が巴マミや鹿目まどかのものでは無いとなるとやはりあああああ

 

 

「ん、あれ? ここどこ?」

 

「お、起きたかボンクラ」

 

 

見ると、美樹さやかが目を擦りながら辺りを見回していた。そんなさやかのもとへ杏子が駆けていく。何やら二人で話しているようなので、オレはキュウべえとの会話を再開する。

 

 

「キュウべえ。前も聞いた気がするけど、お前と契約を交わさずに魔法少女になることって出来るのか?」

 

「無理だね。暁美ほむらがどうやって魔法少女なったのかはまだ特定できていないけど、少なくとも僕との契約が必須であることは間違いないよ」

 

「……………………」

 

 

情報を基にオレなりの仮説を立てていく。記録のない契約。収納魔法。そして、あの虚を突いた攻撃。それらの情報がピースとなって、パズルを埋めていくような感覚。

 

 

「…………よし」

 

 

結論がでた。当たりとまではいかなくとも、辻褄が合う程度にはまとまった。

 

 

「分かったことがあるなら、僕にも教えてくれると嬉しいんだけど」

 

「後でな。その前に、あいつらに話しておくことがある」

 

 

オレは二人の近くまで来て話しかけた。

 

 

「とりあえず、落ち着いたか?」

 

「あーうん。まあね。他の魔法少女から逃げてあたしを運んでくれたんでしょ? ありがと」

 

「気にすんな。大事な交渉相手だし」

 

「それさっきも言ってたよな。どういうことなんだ?」

 

「まあ待て、まさにその『交渉』を今からやるんだから」

 

 

オレはおもむろにソウルジェムを取り出しつつ言った。俺の目に映るそれは、鮮やかな瑠璃色。

 

 

「交渉っていっても、何をするの?チームを組もうとか、そんな話?」

 

 

さやかが首をかしげてたずねる。オレは頷いた。

 

 

「察しがいいな。つまりはそういう事だ。けどお前達だって、いきなりそんな事言われても、となるだろ? これまでお互いに個人プレーだったんだし。だから交渉するのさ」

 

「交渉ねえ? 勿論、アタシらにも得があるんだよな?」

 

「そうだな、例えば」

 

 

 

 

 

 

 

 

「同じグリーフシードを使い回すことができたら、便利になるとは思わないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「え?」」

 

 

わお、声がシンクロした。やっぱりお前達相性いいだろ。

 

 

オレは、ソウルジェムを左の掌にのせ、三人の中央に示す。続いて、カウントを展開。全員が見えるように可視化した。

 

 

「うわ! なんだこれ、カウンターか?」

 

「何かの残量を示してるってこと? 残量0だけど」

 

「さっき連中から逃げる時に使い切ったんだ。さて、今からそれを補充する訳だが、杏子」

 

ん、と杏子に右の掌を出した。意図が読めず、杏子は困惑しているようだ。

 

 

「オレは見逃してないからな。ちゃんとグリーフシードかっさらってたろ」

 

「あー。…………バレた?」

 

「いいからさっさと出せ。あ、その前にさやかのも浄化してやってくれ」

 

 

納得がいかない様子ながらも、さやかのソウルジェム経由でこちらにグリーフシードを渡してくれた。魔女が余程成長していたのか、グリーフシードの方も杏子が期待していた通りかなりの大きさになっていた。

 

 

「んで?ソレをどうすんだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「とりあえず見てな」

 

 

二人分も浄化し、穢れがそれなりに溜まったグリーフシードを、ソウルジェムに近づける。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「なっ!?」」

 

 

二人は見た。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のを。同時に、0だったカウントが増大し、1800/3000で上昇をやめた。

 

 

「がっ、ぐあっ…………!」

 

「ば、バカ! なにやってんだ!?」

 

「メイジ!? 大丈夫なの!?」

 

「問題ないはずだよ。彼はずっとそれでやってきているからね」

 

 

さやかと杏子が振り返ると、キュウべえがこちらに近づいてきていた。杏子がキュウべえを睨みつけながら問う。

 

 

「おい、どういうことだよこれは!」

 

「グリーフシードの穢れをソウルジェムに取り込んだ。それだけの話だよ、杏子。ソウルジェムからグリーフシードに穢れを移せるんだから、逆も然り。当然のことだね」

 

「そういうこと」

 

 

ひとまず落ち着いてきたので、オレも会話に参加する。呆然とこちらを向く杏子に向かって、あくまで平然とした様子で振る舞う。

 

 

「これが、オレの戦い方。ソウルジェムに溜め込んだ穢れはオレに力を貸してくれる。穢れが、()()()()()()()()()()()()

 




これである程度は璃乃メイジという魔法少年について書けたのかなと思います。
近々、設定資料も書きたいなー、書けたら。

p.s.マミさんがマミったらしいですね


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設定資料 璃乃メイジ

「オレなんかより明らかに原作と違う美樹さやかを説明した方がいいんじゃね?【正義は必ず勝つ(Evolve, your hero.)】ってなんだよ」

いや、今度説明するし。正直お前の方が意味わからんし。


名前 : 璃乃メイジ(契約時に改名、本来の名前は不明)

 

年齢 : 13

 

身長 : 156cm

 

魔法 : 不明

 

願い : 不明

 

武器 : 絶望(穢れ)により生成された物質

 

 

 

《契約の経緯》

自殺を図っていたメイジの下にキュウべえが現れる。メイジは男でありながら稀有なことに魔法少女の素質を秘めており、どうせ死ぬのなら、とキュウべえが契約を持ち掛けた。一度は契約を断ろうとするものの、自らの持つ絶望に何らかの可能性を見いだしたのか、メイジは最終的にこれを受理する。

 

 

《過去》

現時点で詳細は不明。ただし年齢相応の振る舞いこそあるものの、その思考はどこか達観したものが多く、人間の意思などを批判的に捉えている節もあり、それほど深く『人間』に触れてきた過去は推測される。

 

 

《人格》

 

わずか12,3年の短い人生を生きてきた身ではあるが、自殺しようとするくらいには人の悪意に触れまくってきたつもりだ。何度も裏切られ、騙され、いいように利用されてきた俺は身にしみて知ったことがある。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

(stage0より)

 

 

『オレ』は俺のために生きることが、真に許されたのだから。もう「誰」にも、『オレ』を否定させはしない。

(同上)

 

 

『俺』と『オレ』は契約前と後で異なる人格として描写されている。その違いは明確な『我』。自己主張が苦手で流されやすい性格であったが故に『俺』は人の悪意にもみくちゃにされてしまった。キュウべえとの契約を通し『オレ』として生きることで、『俺』の頃に得た人間への不信感を残しつつも、口調や態度にメイジという『我』が芽生えてきている。

 

 

《魔法少年》

男が魔法少女となるケースは非常に稀有であり、その実態はほとんど明かされていないが、キュウべえ、そして佐倉杏子は基本的に魔法少年を魔法少女の劣化版と捉えている節がある。オリ主であるメイジも例外ではなく、基本的なスペックは魔法少女に劣る。彼が他の魔法少女と対等に戦えるのはあくまで彼自身の能力による部分が大きい。

 

 

《能力》

①ソウルジェムに溜まった穢れを物質化することで戦う。

「○○(物質名) 5(展開する数)、オール3(物質の強度)」が基本パターン。

 

例)「ソード 2、オール20」で、強度20の剣を2本展開する。

 

発動には数値化された穢れを消費する。例の場合、20×2=40の穢れを必要とする。それらはソウルジェムに溜まっている穢れから消費され、その過程はソウルジェムに表示されるカウンターの数値減少により把握出来る(1800-40=1760 など)。事前に展開しておくことも出来る。

 

この能力で可能なのは「穢れの物質化」であり実体の持たないものの再現は出来ないが、特殊な用法での擬似再現は可能。

 

例)「グラビティ、レンジ15、オール50」

 

実際に重力を付与するのではなく、下向きのベクトルで穢れを直接ばら撒くことで、ソウルジェムを通して魔法少女達に『精神的な』負荷を与え、それを重力として再現している。描写こそないが、本編で使用された際には、巴マミら3人のソウルジェムに若干穢れが溜まっている。

 

こういった擬似再現をメイジは「技」として成立させており、重力の他にもいくつか技を有している。

 

②空間転移

魔女と同じく絶望を扱うためか、魔女の絶望とリンクして、魔女結界及びその周辺での空間転移を可能とする。また、同様の方法で魔女結界の操作もでき、結界内部に穴を開けることで一般人の救出にも成功している。

 

 

《メタ話》

オリ主の名前『璃乃メイジ』は、『自明の理』を並べ替えたもの。絶望は力となる、その理論は果たして彼以外の人間にとって『自明の理』なのか。

 




今回は簡潔ながら『璃乃メイジ』についてまとめました。説明不足かもしれないですし、わからないことは感想に書いていただければ、ネタバレしない程度に補足するのでよろしくお願いします。


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stage10 契約と絶望のシークエンス

「設定資料 璃乃メイジ」の《能力》に空間転移の項目を追加しました。

また、今後設定に大きく変更のでるキャラクターは、それまでのものを更新するのではなく、新しく設定資料を作り直すのでご了承くださいませ。



-佐倉杏子-

 

 

「絶望が…………力、だと?」

 

「そうだ。グリーフシードから絶望をばらまく魔女が孵る。だったらグリーフシードに溜める穢れだって『絶望』の源のようなものじゃないか」

 

「…………そういうことを、」

 

 

メイジの言っている意味が理解できない。激しく頭が混乱しているのを感じる。アタシは溢れ出る感情に任せ、メイジの胸ぐらを掴んだ。

 

 

「そういうことを聞いてんじゃねえ! 何をどうやったら()()を利用してやろうなんて思えるのかってんだよ!」

 

「持て余してても仕方ないじゃないか、こんなもの?」

 

「…………っ!」

 

 

メイジの表情は変わらない。アタシを覗き込むその瞳も、魔女結界の入口で出会った時と同じ。全てを諦めた瞳。中に映るアタシまでも抗えない何かに飲み込まれてしまいそうな、そんな深い闇に包まれている。

 

 

「見方を変えればいいだけの話だよ、佐倉杏子。絶望さえも生きる糧にできるのだと。それだけの力を、資格を、オレ達は確かに与えられたはずだ」

 

 

矛盾している。心の中でアタシの何かがそう訴えていた。

絶望とは、ある種の終わりだ。自分ではどうしようもない事態にたどり着いた時の、『次』を閉ざす感情。

 

なのに、メイジは。コイツはその絶望を以て『次』を開こうとしている。絶望を取り込むことの苦しみを知りながら、それでも尚。

 

仮にも穢れを絶望と呼ぶのなら。それは、その生き方は、これまで絶望を経験してきた人間への冒涜じゃないのか…………!?

 

 

「アンタ、狂ってるよ」

 

「ああ、知ってる」

 

 

心が漏らした言葉。心に響かぬ返答。魔法少女(アタシ)魔法少年(メイジ)とではこうも違う。契約と絶望の順序が逆だっただけで、ここまで。

 

 

「手を離してくれ。話が進まない」

 

「…………チッ」

 

 

舌打ちとともに、掴んでいた手を離した。ぶつけきれなかった苛立ちを、近くに積まれていた鉄柱に蹴りつける。ガラガラと、鉄柱の崩れる音だけが虚しく空間を支配した。

 

その音さえ聞こえなくなって、メイジは再び口を開く。

 

 

「話は脱線したけど、要はお前達が溜め込んだ穢れを俺が有効活用することで、グリーフシードの使用を無制限にできるってことだ。こんなふうに」

 

 

メイジが差し出したグリーフシードは、一切の濁りを残しておらず、空となっていた。やはり、穢れがメイジのソウルジェムに移されたことには間違いなさそうだ。

 

 

「二人は魔法をバンバン使える。使用量に応じて、オレも好き勝手戦える。少なくともお互いに損はないと思う」

 

 

メイジの言葉に肯定が返る。しかしそれはアタシのものではない。

 

 

「確かに、そのやり方なら純粋にあたし達三人で魔法少女四人分の戦力になるってことだから、まあ悪い話じゃないよね」

 

「さやか!? 何言ってんだ!」

 

 

アタシまで戦力にカウントされていたのはともかく、さやかがこの提案に好意的な反応をしたことに少なからず驚いてしまう。それでもさやかの顔は真剣そのものだった。

 

 

「だって、グリーフシードのことを気にせずに戦えるってとんでもないメリットでしょ。あれだけご執心なんだから、杏子だってストックが溜まるのは嬉しいんじゃないの?」

 

「ぐっ」

 

 

痛いところを突かれた。戸惑うアタシにさやかは続ける。

 

 

「それに杏子、あたし思うんだ。絶望を利用するって考え方だとそれまでなのかもしれないけど、メイジはその力で魔女を倒してるし、人を助けてる。それって『絶望を絶望で終わらせない』ってことじゃない?」

 

「…………!」

 

「そんなの、絶望の苦しみを知っている人にしか出来ないよ。現実に打ちのめされて、それでも『次』に行こうとする人にしか」

 

 

絶望を絶望で終わらせない。メイジがそう考えているかはともかく、ただ絶望を都合のいいものとして扱っているのではないと、さやかの言葉で感じられた。一応は心に整理がついた、気がしなくもない。

 

感情的になった自分に今更ながら恥ずかしさを感じ、アタシは頭をかいた。そして、なんとなく言っておかないといけない気がして、メイジの方へ向き直る。

 

 

「…………なあ、メイジ」

 

「ん?」

 

「全部納得したわけじゃねーけどさ。それがアンタの生き方だってんなら、まあその、否定はしないでおく」

 

「…………ああ。それで十分だ」

 

 

そっけない返事。反して、顔はわずかに笑っていた。アタシもつい顔をほころばせる。ふと、メイジの方が笑みを深くして、言った。

 

 

「で、どうする? ()()()()()()なら取りやめるか?」

 

「うわ、嫌味なヤツだな」

 

 

…………案外悪くねーな、こういうのも。

 

 

 

 

-璃乃メイジ-

 

 

 

()()の件はともかく、共闘はなあ。アタシはもともと見滝原の魔法少女じゃねーし」

 

「おいおい、あんだけ派手にやっといてあいつが逃がすと思うか?」

 

 

佐倉杏子がそうぼやく。彼女の言う通り管轄が違うのだから、()()を保留するとなると、共闘どころか、見滝原に滞在すること自体メリットが無いに等しい。

 

だがオレが持ちかけた共闘は、力を合わせるというより単独で行動しないことに意味があるのだ。

 

 

「あー、あの暁美ほむらってヤツ? でも、アイツのもくて…………」

 

「暁美ほむら!?」

 

「うお、なんだよ」

 

 

美樹さやかが身を乗り出して杏子に問い詰めた。食いつきっぷりに杏子が驚くほどだ。二人とも混乱しているのでオレが助け舟を出す。

 

 

「知り合いか?」

 

「知り合いっていうか、つい最近見滝原中に転校してきたやつなんだ。なるほどねー、暁美ほむらも魔法少女かー。授業中のハイスペックぶりにも納得ですわ」

 

「何しみじみしてんだ、こちとらソイツに襲われたって疑惑あんだぞ」

 

 

疲れたような、脱力し切った顔をこちらにむける杏子。どこか不満げなのは気のせいだろうか。

 

 

「アンタは把握してるもんだと思ってたよ、メイジ。いろんな情報持ってたじゃねーか」

 

 

あー。

 

 

「オレは『魔法少女としてのお前達』にしか用がないし」

 

「えーやだわー。魔法少女サヤカチャンを付け狙うオタクがいる〜」

 

 

体をくねくねさせるな、反応に困る。目が覚めたばかりなのに早速マイペースなさやかには嘆息するしかない。

 

 

「じゃあ聞くけど、字面の魔法少女オタクと実質中学生ストーカー、どっちがマシだよ」

 

「…………前者」

 

「だろ?」

 

 

さやかを黙らせたところで、痺れを切らした(?)のかキュウべえがオレの肩に乗ってきた。すまん。正直忘れてた。

 

 

「暁美ほむらの話をするなら言っておくれよ。聞き逃してしまうじゃないか」

 

「悪いわるい。さて、本題に入ろうか。オレは、今回の美樹さやか誘拐未遂事件を暁美ほむらが主導していたと考えている」

 

「なんだよ、美樹さやか誘拐未遂事件って」

 

「仮名だよ仮名」

 

 

それらしく命名したらそうなるだろ?と周囲に呼びかけるも、「ネーミングセンス壊滅的だろ…………」くらいしか返ってこなかった。虚しい。

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

「え? あたし、暁美ほむらに捕まってたの?」

 

「いや、未遂な未遂。それ止めようとして、アタシらは怪我したっつったろーが」

 

「あぁ、うん。ごめん」

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

「とにかくだ。今回の件は暁美ほむらが積極的に動いていた。提案したのもおそらく彼女だろう。仲間が動揺するような奇抜な行動をしてでもさやかを手に入れようとした辺り、推測しやすいな」

 

「あたしなんかを捕まえて、目的はなんなの?」

 

「けっ、あんなやり方をする奴だ。手駒にするとかじゃねーか?」

 

「生憎だな、オレもそうだと思ってる」

 

 

現にオレと杏子は『あんなやり方』の被害者だ。仲間でもない魔法少女を奪い取るためにそこまでやるようなやつが、情のある人間とは思えない。

 

 

「杏子はともかく、オレやさやかは見滝原に残る以上、暁美ほむらが間違いなく脅威になる。何とかして倒しておきたいんだけど…………」

 

「な、なによ、あたしがどうかした?」

 

 

向こうのチームに『彼女』がいる以上、後々選択を変えられては困るのが、さやかだ。ここで、はっきりさせておく必要がある。

 

 

敵か、味方かを。

 

 

顔を強ばらせたさやかにオレは容赦なく言い放った。

 

 

「今回俺たちと戦ったチームのリーダーは巴マミだ」

 

「え…………」

 

 

流石に想定外だろう。今回オレ達と戦った中に巴マミああ自らの命の恩人がいるなど。

 

 

「う、嘘でしょ…………?」

 

「実際のところ戦わざるを得なかったってのが本当のところだけどな。だがあくまで向こうのリーダーが巴マミである以上、今回の件でチーム間の敵対関係も有り得てしまう。オレ達と、巴マミ達の」

 

「…………あたしが、あの人と戦わないといけないってこと?」

 

 

怯えたような目を向けるさやか。これ以上取り乱すことのないよう、あくまでオレは冷静に発言する。

 

 

「場合によっては、としかいいようがないが。しかしお前には選択肢がある。マミチームにとって保護対象であり、敵として認定されていない美樹さやかには」

 

 

指を立て、さやかに示す。返答次第では、二つのチームの趨勢が確定する。それだけの問いを、オレは投げかけた。

 

 

「一つ。このままオレと共闘する。メリットは先程も言った通り、魔法の制限がなくなる、ということ。デメリットは…………分かるよな?」

 

 

この会話に、杏子もキュウべえも介入しようとしない。ただ、さやかの選択を見届ける(観察する)ために。だからこそ、オレは敢えて『美樹さやか』のメリットとデメリットのみを挙げている。

 

 

「もう1つ。ここを抜けてマミチームに入る。メリットは巴マミと敵対せずに済むこと。だが、暁美ほむらに1人で対処しないといけないし、しくじったら全員あの世行き、くらいの覚悟はいる」

 

「さらに言うなら、()()()()()()『暁美ほむらだけをどうこうする』のは無理だ。まず間違いなく、マミチームに攻撃を仕掛ける。もちろんその時には、お前にも容赦はしない」

 

 

もはや目を向けることもせず、さやかは俯いてしまった。選択肢の重さに苦しんでいるのがよく伝わってくる。

 

だが、時間は待ってくれない。

美樹さやかと暁美ほむらが同じ学校にいる以上、マミチームが明日にでも接触してくる可能性が高い。それだけ近しい関係なら、オレが誤魔化した髪色の違いなど些事だろうし。保留すると言えるほどの猶予はないのだ。

 

 

「選択肢は二つだが。正直なところ、早く決めて欲しいんだ。敵の実態が分からないと、話を進められない」

 

「……………………」

 

 

淡々と告げるオレに、返答はない。否。

 

 

「…………決めたよ」

 

 

覚悟を決めた顔。命の恩人(ともえまみ)と戦う覚悟か、あるいはオレ達のもとから立ち去る覚悟か。

 

その顔に、何かがフラッシュバックした。こんなふうにとある部屋でなにかの選択を迫られ、そして。。。。。

 

そうか。

逆なんだ。オレと美樹さやかは。

 

契約の時、オレは覚悟なんてしていたか?違う。()()()()()。ただ、俺の生きる未来をオレが決められることへの恍惚に。

 

 

「そうか。じゃあ教えてくれ、お前の選択はどちらだ?」

 

 

かつてオレがキュウべえに問いかけられたように。今度はさやかに同じ問い方をする。オレの全てが決まったそれを、今度は彼女に向けて。

 

長い一瞬。たかだか十数年しか生きていない人間は、たかだか数週間魔女のみを敵としてきた魔法少女は、

 

 

「あたしは」

 

 

ここに決断した。

 

 

 

-暁美ほむら-

 

 

見滝原中校舎の屋上。対峙するのは三人の魔法少女グループと、たった一人の魔法少女のみ。

 

 

 

()()()

 

 

 

「よう、昨日ぶりだな、マミ」

 

 

突如として、屋上のドアがある凸形状の上に二人の少女が現れる。

一人は菓子を咥えながら座り込み、もう一人はただ黙って私たちを見下ろすのみ。どちらにも見覚えがある。

 

格好は違えど、確かに昨日相対した二人にほかならなかった。

 

 

「佐倉さん!?あなた、…………何か用かしら、わたし達は美樹さんと話をしているのだけど」

 

「へっ、アンタらは勝手に喋っとけばいいさ。アタシらは別のヤツに用があんだから」

 

 

睨みつける私を意に介さず、佐倉杏子は余裕綽々とでも言いたげに告げた。

 

 

「なあ、暁美ほむら(フィクサー)?」



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stage11 青の告 1

stage10 ラストの挿入話となります


-美樹さやか-

 

 

「美樹さん、話があるの」

 

 

因縁の魔女との決着から一夜明けた翌日のこと。昼休みとなり、まどかと昼食を共にしようと立ち上がると同時に、あたしは声をかけられた。

 

 

…………きた。

 

 

目の前には、暁美ほむら。メイジの話によれば、暁美ほむらもまた魔法少女であり、マミさんと同じくあたしの保護を目的に襲撃してきたものの一人という。

 

 

おそらく今回声をかけてきたのも『目的』のためと言えるだろう、とあたしは考えた。

 

 

「め、珍しいね」

 

「あら、どういうこと?」

 

「あんたがまどか以外の人に自分から声をかけるところ、見たことなかったからさ」

 

 

しかし、あたしは今のところ『ただの同級生』として振る舞う。暁美ほむらが魔法少女であることを知っている、あるいはその素振りをおくびにも出せば、事が運ばなくなる可能性があるからだ。

 

 

あたしの勧誘の場にメイジ達を乱入させること。それがあたしの『目的』だから。

 

 

 

『追想』

 

 

「あたしは、メイジの方につく」

 

 

メイジ達にそう告げた。

 

マミさんを敵に回すことに躊躇しなかった訳では無い。それでも、あたしは賭けたいと思ったのだ。あたしが組むことで、『暁美ほむらだけをどうこうする』ことが出来る可能性に。

 

メイジは静かに息を吐く。その顔にはどこか安堵を感じられた。

 

 

「…………わかった」

 

 

続けて、杏子の方に目を向けて言う。

 

 

「お前はオレの方についてもらうからな。今更トンズラなんて許さない」

 

「あーくそ! ここまでくりゃ乗るがマシだ!」

 

 

意外にも、杏子は特に反論もなく了承した。「グリーフシード欲しかっただけなのに、なんでこんな目に」とブツブツ聞こえてはきているけど。

 

 

「さて、やっと話が次に進める」

 

 

空気を切り替えるように、メイジが口を開く。それまでの重苦しい空気はどこかに霧散していた。

 

 

「マミチームの戦力。巴マミ、暁美ほむら。あと一人はよくわからん」

 

「オイ」

 

 

杏子がツッコミを入れるが、メイジはどこ吹く風。淡々と話し出した。

 

 

「今は何より暁美ほむらだ。なーさやか?」

 

「ど、どうしたのよ急に」

 

「自覚ないんだろうけど、暁美ほむらの話題になる度にお前がアクション起こすもんだから、話を中断せざるを得なかったんだよ。しかも二度」

 

 

あ。納得がいくと同時に、少なくともひとつには心当たりがあるあたしはその場で土下座のポーズをとる。

 

 

「この度はたいへん申し訳ございませんでした」

 

「うむ。苦しゅうない」

 

 

…………メイジってこんなキャラだったっけ?

 

 

「さて、キュウべえも待ってることだし続けるけど。あいつに関してはいくつか疑問点がある」

 

 

人差し指と中指を立て、それらを1本ずつ折り曲げながら語っていく。

 

 

「ひとつ、キュウべえと魔法少女の契約が行われていないこと。ふたつ、警戒していたオレや杏子にさえ攻撃を通せる能力。正直なところ彼女の目的とかまで挙げてたらキリがないけど、目下の問題としてはこの二つだな」

 

「控えめに言って両方訳わかんねー」

 

 

困り果てたように杏子が言葉をぶつけた。そればかりはあたしも同意だ。

 

 

「一応、二つの件に関しては検討がついている。確証はないけどな」

 

「へえ、それは興味深いね」

 

 

いやいや、さっぱり検討つかないんだけど。

 

このメイジという少年は、頭の回転が自分達よりも速いように思える。年齢はそう違わないはずなのに。

 

達観、とかいうやつだろうか。ここでマミチーム全体ではなく、暁美ほむらに目をつけている辺りなど、特に。

 

 

「わかりやすいように、共通点を挙げていこう。まずは、一つ目の方から考えようか」

 

 

そう言って、一度曲げた人差し指をもう一度立てる。

 

 

「キュウべえと契約してないってやつ?それってありえることなの?」

 

 

あたしの問いに、メイジは首を横に降った。

 

 

「いや、キュウべえとの契約なしに魔法少女となった例は存在しないらしい。その言葉を信じるなら、例外はないと見るべきだ」

 

「でもキュウべえとは契約してねえんだろ? 偽キュウべえとかでもいんのか?」

 

「確かに僕には別の個体が存在するけど、誰が魔法少女の契約をしたかだとか、そういったものは共有されているよ。残念ながら暁美ほむらが契約した記録は残っていない」

 

「キュウべえと契約したという『記録』は残っておらず、しかし暁美ほむらが魔法少女の契約をしたというのは『事実』として存在するわけだ」

 

 

一呼吸置きながら、中指(ふたつめ)を立てる。

 

 

「二つ目。杏子とオレは暁美ほむらの銃撃を避けるどころか、攻撃のモーションの認識すらできなかった。これは杏子とも確認を取ったことだ」

 

「弓矢を扱う魔法少女が隣にいたから両方警戒してたんだけどさ、ほんとに何もしてなかった。銃を取り出す素振りもなかったんだ」

 

「え? じゃあなんで銃撃したのが暁美ほむらって分かったの?」

 

「それは消去法で、他の魔法少女の乱入という線がなくなったからなんだけど。その銃撃を暁美ほむらのものだと断定するなら、」

 

 

メイジ達は暁美ほむらの攻撃を『認識』していないのに、暁美ほむらの攻撃はなされたという『事実』が残る。そこまで語って、メイジはニヤッと口元を歪めた。

 

 

「これ、一つ目と似てないか?」

 

「「あ!」」

 

 

驚嘆の声が杏子とダブってしまったが些細なことだ。あたし達の声を代弁するように、キュウべえが言う。

 

 

「つまり、こう言いたいのかい?僕らは、暁美ほむらに情報を『誤認』させられていると」

 

「ああ、おそらくな」

 

 

「事実を直接ねじ曲げているのか、オレ達に別の情報を植え付けているかまではわからない。だが、一つ言えることは」

 

 

「魔法の特性により、暁美ほむらはオレ達の記録やら認識やらを『上書きしている』可能性が高い」

 

 

 

『現在』

 

 

「放課後の屋上は利用している人も少ないし、施錠していれば誰かが上がってくることは無いわ。そこに集合でいいかしら」

 

 

そう言われたあたしは、約束通り屋上へ向かう。無論メイジ達への連絡は怠らない。

 

暁美ほむらの魔法を警戒して、メイジがあたしに、全身を覆う隠蔽されたシールドを張ってくれていた。メイジの推定では、ほむらは想定していない事象の上書きができないため、予め展開している防御手段が奇襲に有効であるらしい。

 

それらが正確に機能していることを確認してから、あたしは深呼吸をする。

準備は出来た。一拍置いて、屋上のドアを開け放つ。

 

 

「あら来たのね、美樹さん」

 

 

視界に入る人物は、暁美ほむら、巴マミ。

そして。。。。。

 

 

「まど…………か、なの?」

 

「さ、さやかちゃん? どうしてここに?」

 

 

下手をすれば巴マミを上回る衝撃が、そこにはあった。まさか、そんな。

 

 

「美樹さやか。彼女もまた、魔法少女よ」

 

「あなた、あの時の…………!」

 

 

マミさんがあたしのことを思い出したようだが、そんなことは気にしていられない。

 

まどかが魔法少女であったことに。そして、今後まどかを敵に回す可能性の全てに、吐き気がする。信じたくない。あたしは自身の選択の愚かさを呪いそうだった。

 

ねえ、嘘でしょ、まどか? だって、魔法少女になってたなんて、そんなこと一言も。

 

 

「? 巴さんは、美樹さんとは知り合いですか?」

 

「彼女のことを助けたことがあったの。 そう、あなたも魔法少女に…………」

 

 

二人の会話が耳に入らない。目の前の光景を拒絶することだけが、もはや意識のほとんどを占めていた。それでも、現実は変わらない。

 

 

「二人には接点があるのですね。ならば、話は早いのでは?」

 

「…………そうね。これも何かの縁だわ」

 

 

戸惑うまどかと心が揺さぶられた状態のあたしを置き去りにして、話は進む。本来待ち構えていなければならなかったはずのセリフは、最も最悪な精神状態で迎えることとなった。

 

 

「美樹さん、どう? わたし達のチームに加わる気は無いかしら」

 

 

唯一の救いといえば、あたしの代わりに答える声があった、ということくらいだろうか。

 

 

「ふーん、アタシら抜きで勧誘とはいい度胸じゃねーの」

 

 

声は、あたしの真上から。声と共に現れたのは、二人。

佐倉杏子と璃乃メイジ。

 

睨み合う杏子達を横目に、メイジはあたしにテレパシーを送る。

 

 

(…………さやか)

 

(メイジ。あたしは、どうすればいいの…………?)

 

 

まどかは信じてくれるだろうか? マミさんは? 暁美ほむらに利用されていると口にしたところで、メイジ達に吹き込まれたのではと疑われるのではないか? 一度信用を失ってしまえば終わりだ。 あたしは、あたしは…………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(()()()()()()()()()()()()。それだけの事だ。一々そんなことでつまずいてる場合じゃない)

 

 

その一言で、あたしは我に返った。焦燥していた心が穏やかになる。

 

そうか。そうだよね。

あんたは強いよ。少なくともあたし一人では、絶対にそうは考えられなかった。

 

 

(あたしは、向き合う。この状況に)

 

(ああ、任せた)

 

 

返ってきた声に重みを感じる。それに確かな信頼が寄せられている気がして、あたしは不意に笑みを零した。

 

押し潰されそうになった今を、気持ちでどうにか押し戻す。あたしは目の前の二人を説得しないといけないんだ。きっと、暁美ほむらの思惑通りに進んでいるであろうふたりを。

 

やっとの思いであたしは口を開いた。

 

 

「…………マミさん、そしてまどか。聞いて欲しいことがあるの」

 



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stage12 青の告2

-璃乃メイジ -

 

 

視線を戻した先には、暁美ほむらがいる。オレと杏子を映す紫の双眸には僅かに苛立ちがみてとれた。

 

 

「余計な、ことを…………」

 

「向こうは向こうで勝手にやってくれるさ。オレ達も建設的な話をしようぜ? 暁美ほむら」

 

 

睨みを利かせている杏子の代わりにそう返答する。

 

 

 

オレは暁美ほむらの扱いに迷っていた。

 

杏子が言いかけていたように、暁美ほむらの目的は未だはっきりとはわかっていない。問いただすにせよ、相手はキュウべえを容赦なく始末するような魔法少女だ。並大抵の手段では聞き出すことが難しい。

 

 

 

ならば、答えざるを得ない状況を作ればいい。

 

 

 

さやかの説得で不信感を抱くであろう二人。彼女達の信頼を取り戻すには、これまでの行動の意図を話す他ない。

 

問題といえば彼女の【魔法】の程度、だろうか。

 

キュウべえは暁美ほむらとの契約が『記録』にないと言っていたが、人間に書き換えるならそれは『記憶』だ。

もしこの場を上手く誤魔化され、その後にオレ達、或いは巴マミ達だけでも『記憶』を改竄されると、やり直すどころかこの作戦の撤回もあり得る。

 

そこまで来れば、オレ達に交渉の手段は無い。最後には徹底抗戦のみだ。

 

さあどう来る? 暁美ほむら。。。。。

 

 

「建設的な話、と言ったわね。なら、」

 

 

声は、()()()()()()()()()()()()、ポツリと。

 

一瞬の間、()()()()

世界が全てを置き去りにしたのを、オレと暁美ほむらだけが見届ける構図となった。

 

 

「二人だけで話しましょう?」

 

「嘘、だろ…………?」

 

 

想定外だったが、認めざるを得なかった。

時間停止、それが暁美ほむらの【魔法】であると。

 

 

 

-暁美ほむら-

 

 

私はメイジの肩に触れながら言葉を紡ぐ。

 

 

「形成は逆転した。今、主導権を握っているのは私よ」

 

 

ほんの少しだけ、肩に置いた手に力を入れる。放つは絶対的有利の宣言。

 

 

「ここで私が手を離せばどうなるか。そしてそれが何を指すのか。聡明な貴女なら分かるはず」

 

「…………参ったな、まったく」

 

 

メイジはそう言って苦笑いを浮かべた。余裕は残しているということか。単なる強がりであればいいのだけど。

 

私はメイジの正面に立ち、あえて微笑みを向けながら言う。しかし、警告であると示すように、添えた手は力を込め続けたままで。

 

 

「建設的な話をするんでしょう? これなら誰の邪魔も入らない」

 

「何故オレとだけなのか、聞いても?」

 

「そうね。貴女も知っているから。知っていてなお冷静でいられるから」

 

「何を?」

 

 

メイジは訝しげにこちらを見つめる。時間を止めているのだから誤魔化す必要も無い。私は端的に互いの知る『何』を答えることにした。

 

 

「ソウルジェムこそ、魔法少女の本体であること。そして、魔法少女がいずれ魔女となること。貴女は知っているはずよ」

 

「…………そんなの知らないな。頭をぶち抜かれて、脳味噌ごと記憶が飛んでったようだ」

 

「それはなんの皮肉かしら」

 

 

その発言そのものが『身体がただの器』だと知っている証左と言うのに。とんだブラックジョークだ。軽く睨みつけると、メイジは降参とばかりに両手を軽く上げた。

 

私がため息をついたタイミングで手を下ろしつつ、メイジは真剣な表情になる。

 

 

「冗談はともかく、お前が知っていることに驚きだよ。キュウべえと接触してないらしいし、情報源が気になるところだ」

 

「実体験、とだけ言っておきましょうか」

 

「…………そうか、悪かった」

 

「気にしなくていいわ。どうせ『終わったこと』だもの」

 

 

もうひとつ、ため息。目を伏せながら、思い返しそうになる記憶を思考から追い出した。今は別のことに目を向けなければ。そう必死に言い聞かせて、話題を戻す。

 

 

「魔法少女が『アレ』を知れば、まともな戦力として期待できない。だから美樹さやかと佐倉杏子を私の監視下に置き、インキュベーターに話されないようにしようと考えたの。まどか達が真実を知り、心を折ることのないように」

 

「それなら昨日の段階でオレ達と話し合いをするという選択肢はなかったのか? お前が巴マミにひと声かけるだけで話は全く違ったはずだ」

 

「見たでしょう?巴マミと佐倉杏子の確執を。直ぐにどうこうできるものでは無いわ。二人の問題でもあるし」

 

 

そして、

 

 

「あとは、オレがいたからだろ? それまで見滝原にはいなかった、不確定要素の魔法少年が」

 

「ええ、そう…………は?」

 

 

魔法…………少年? 少女、ではなく?

 

 

「あ。そうか、自己紹介なんてしてなかったな」

 

 

頭を掻きながら、メイジは己の素性を語る。

 

 

「璃乃メイジ。魔法少女の歴史において非常に稀有な、魔法少年ってやつだ。残念なことに、珍しいってだけでスペックは魔法少女に劣るらしいけどな。杏子曰く」

 

 

色々と黙っておいた方がいいわね…………。

私は不審がられない程度に顔に手を当て、口を塞ぐ。

 

正直、女の子だと思っていた。

背丈は低めだったし、声もハスキーと言われれば違和感がない。見た目が男性寄りではあったし、一人称の『オレ』も気になってはいたが、()()()()()なのだと勝手に納得していた。

 

 

まさか、本当に男の子だったとは…………。

 

 

いたたまれなさを表情に出さないよう取り繕いながら、私は「そう」とだけ返した。

 

 

「ひとまず目的はわかった。だが、どうして魔法少女を集めたがる? ひとつの街に魔法少女が集中するデメリットは分かっているだろう?」

 

「そうね、貴方にはいま伝えておくわ。いずれやってくる超弩級の魔女の存在を」

 

「超弩級?」

 

 

メイジが首を傾げる。無理もない。魔法少女を寄せ集めて戦う必要がある、そんな魔女など見た事もないだろうから。

 

 

「ワルプルギスの夜。見滝原に突如現れ、全てを破壊し尽くす魔女の名前よ」

 

「ワルプルギスの、夜…………」

 

「魔法少女ひとりやふたりで対処できる存在じゃない。規格外、といえば分かる?」

 

「………それで、現状見滝原にいる魔法少女は結託する必要があるってことか」

 

 

頷きつつも、心では思ってしまう。

今回の結果がどうなろうが、貴方を置いていくことになる、と。

 

ごめんなさい。()も会えるなら、その時こそは。

 

決して、口には出せなかった。

 

 

 


 

 

「貴方の作戦通りに行ってしまうと後々が面倒になる。今日のところは撤退して、私の目的のことを二人に話しておいて欲しい」

 

「なるほど? お前が言うより、オレが言った方が」

 

「信用出来る人から伝えられた方が、情報を受け取りやすいと思うの。今回は特に」

 

「それでオレには最初に話しておいたと。納得いったよ」

 

 

メイジはそう言って満足げに頷いた。

そんなメイジに目配せで合図を送り、私は時を戻す。

 

 

ガシャッ

 

 

時が戻った校舎の屋上。メイジの横にいた佐倉杏子が素っ頓狂な声を上げて背中を床に叩きつける。

 

 

「あ、アンタどうやってここまで来やがった!?」

 

「それは後で話すさ。悪いが杏子、今日は退散しよう」

 

「は!? なんでさ、たった今来たばっかじゃんか!」

 

 

不平を言う佐倉杏子をメイジが宥めている。突然計画を、しかも仲間から止められたら文句のひとつも言いたくなるだろう。

 

 

「それも後で。予定外の事態なんだ。…………さやか! 一旦退くぞ!」

 

 

でもこればかりは譲れない。事が運べば、まどか達の説得が難しくなってしまう。可能な限り、一切の不信感を抱かせる訳には。

 

 

「…………?」

 

 

見下ろしたのはまどか達三人が立っている場所。なにか、言葉にできない違和感がまとわりついてきた。そんな気がする。

何か見落としがないか注視するも、結局その正体を見つけることは出来なかった。

 

 

 

-鹿目まどか-

 

 

話がある、というほむらちゃんの誘いを振り切って、わたしはマミさんの家にお邪魔していた。

 

初めて招待された時から思っていたけれど、やはりマミさんの家は落ち着く。昨日今日と立て続けに色々なことがあって疲れている心を、癒してくれる。

 

 

まさか、さやかちゃんが魔法少女だったなんて…………。

 

 

正直、驚いていた。さやかちゃんが魔法少女となっていることに気づきもしなかったのだ。そう言えば、最近体育でよく体を動かしていたような気はするけど、もしかしてかなり前から魔法少女だったのかな?

 

せっかく同じ魔法少女なのだし、仲間になりたいという気持ちは強い。ところが、さやかちゃんは既に別のチームに加わっていた。

 

昨日の路地裏に、そして今日の校舎の屋上にいた、赤い髪の少女と黒い髪の少女。どちらも、どことなく怖いと感じたのを覚えている。本当に、さやかちゃんはあの人たちとチームを組んでいるのだろうか。赤い髪の方。。。確か『さくら きょうこ』という名前の人は、マミさんと知り合いみたいだけど。

 

キッチンからマミさんが顔を覗かせたので、考え事をやめてにそちらに顔を向ける。

 

 

「待たせてごめんなさいね、鹿目さん」

 

「いえいえ、そんな!」

 

「冷蔵庫にケーキが残っていたのだけど、食べるかしら?」

 

「いいんですか! ありがとうございます!」

 

 

ケーキと紅茶のポットを持ってきたマミさんは、お皿にケーキを、カップに紅茶を注いで、わたしの前に用意してくれた。

 

「わあ、美味しそう! いただきます!」

 

 

フォークでケーキを切って載せたところで、ふと、マミさんが顔を下に向けたままであるのに気づいた。

マミさんは自分のものも用意しているのに、何故か手をつけようとしない。少しして、わたしの方に向けたその顔は真剣そのものだった。

 

 

「鹿目さん、食べながらでいいから聞いて欲しいの」

 

 

言葉でそう言われたものの、話の先が見えてしまい、口まで運んでいたフォークを下ろしてしまう。

 

 

「ほむらちゃん、のことですよね…………?」

 

「そうよ」

 

 

紅茶で喉を潤し、一息ついてから、マミさんは話し始める。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()鹿()()()()()()()()()()()()()()

 

 

そう、さやかちゃんはわたし達にこう告げたのだ。

 

 

『暁美ほむらは、マミさんやまどかを利用するためにチームに近づいたと思うんです』と。

 

 

「鹿目さんが胸を痛めるのもわかる。鹿目さんと暁美さん、とても仲がよかったもの。正直、わたしもあまり信じたくはないけれど…………美樹さんの言葉は無視できるものではないわ」

 

 

わたしは、その先は聞きたくないと思いつつも、マミさんが話すことを止めることは出来なかった。きっと、魔法少女は本来そういうものだから。わたし達やさやかちゃん達のようにチームを組むなんて稀なことだから。

 

きっと、これが普通のことなんだ。

 

 

「暁美さんをチームに残すか。あなたの意見を聞きたいの、鹿目さん」

 

 



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stage13 教唆犯

 

-?????-

『数日前』

 

 

 

「ふーん、結託が目的かー。『彼女』にしては珍しい」

 

「誰にも頼らないってイメージだったのに」

 

「それ自体はなかなか面白そう」

 

「…………だけど」

 

「『彼女』に本気度が感じられないのがちょっとなー」

 

「今後試せそうだから一応やってみようって感じ?」

 

()()()()()()()()()()、とでも言いたげな」

 

「だから、どこかもの足りない」

 

「せめて何かあればなー」

 

「『彼女』を死の瀬戸際まで追い詰めるくらいの何かが」

 

「……………………」

 

「そうだ!」

 

()()()さやちーは面白い力を持ってるみたいだし」

 

「魔女化したら、本命(ワルプルギス)と戦う前にひと波乱あるかも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「面白そう! アハハハハ!!!」

 

 

 

 

-美樹さやか-

 

 

 

「…………」

 

 

きっとこの扉をくぐれば、「あいつ」はきっと笑顔で迎えてくれる。小さい頃からずっと見てきた、それなのに、いつしかあたしにとっての意味合いが変わってしまった、あの笑顔で。

 

ここは見滝原のとある病院。その病室のひとつに繋がる、扉の前。

ネームプレートには「上条恭介」の文字がある。

 

かつて三日にあげず訪れていたこの病室も、魔法少女となってからはめっきり来なくなってしまった。魔女を倒すのに忙しいと、他でもない自分自身に言い訳して。

 

それなのに何故か、今日はここに来なければいけない気がした。理由はわからない。強いていうなら危機感、だろうか。何かに急かされるような、ひどく嫌な感じ。

 

深呼吸をひとつ。無理やり気持ちを落ち着けて、いつぶりか、ノックとともに部屋の中にいるであろう人物に呼びかけた。

 

 

「入るよ、恭介」

 

 

扉をスライドさせる。窓が開いているのか、爽やかな風邪が頬を撫でる。部屋の主はその奥にいた。

 

 

「…………やあ、さやか」

 

 

声を聞くだけで胸が痛むような心地だ。何が原因だろう。罪悪感から? それとも。

 

あたしは胸にくる何かを振り切るように、殊更に平静を装う。

 

 

「ひっさしぶり〜!あたしが来なくて寂しくしてない?」

 

「あはは、そうだね。お陰でこの前もらったCDを何度もリピートしていたところだよ」

 

「そっか…………。悪いね」

 

「気にしなくていいよ。さやかも、最近忙しいんでしょ?」

 

 

忙しかったことが言い訳であることも、忙しい理由さえも口にできないことに、いたたまれなさや歯がゆさが混在したような、そんな気持ちを抱く。

 

あたしは強くなった。少なくとも今は。魔女を斬り伏せ、人々を助けることができる。あたしの手で、あたしの(こころ)で、守りたいものを守ることができる。

 

 

 

 

()()()()

あたしがもう少し早く手を伸ばせていれば。あるいは、もっと早く願いを込めていれば。。。。。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恭介は、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

『追想』

 

 

 

特に何かあるでもない休日の昼下がり。ある1件の交通事故が起こった。

 

きっかけは、些細な理不尽。恭介の家へ向かう道を、あたしと恭介は並んで歩いていた。正面から近づいてきていたのは、どこか感じの悪く、直前まで酒でも飲んでいたであろう、酔っている様子の二人組。

 

その片割れが、すれ違いざまに恭介の足を蹴飛ばしたのだ。

 

 

「ガキはいいよなあ、こんな時間もイチャイチャしながらちんたら歩いてられて、よっ!」

 

 

本人達にとっては憂さ晴らしを兼ねた冷やかしだったのかもしれない。実際大したことではなかった。きっと向こうもそれで気が済んで、怒るあたしを恭介がなだめて。そんな感じでいつも通りに戻るはずだった。

 

恭介の倒れ込んだ先が、道路の中でなければ。

 

 

「恭介!」

 

咄嗟に腕を伸ばした。恭介もその手を取ろうとする。

しかし、残酷なまでに、時間はあまりにも短かった。

 

あたしの目に映ったのは、必死な顔をした恭介と、すぐ近くにあった無慈悲な赤信号。そして、1台のトラック。

 

 

「があぁぁぁぁ!!ぐ、うあぁぁぁぁ…………!」

 

 

グシャ、となにかが潰れた音が、耳に入って。

 

 

「ば、バカ! 何やってんだ!」

 

「知らねえよ、こいつが勝手に倒れ込んだんだ!それで……」

 

「いいから逃げるぞ! ここはやべえ!」

 

 

…………そこから先のことはよく覚えていない。後から来た警察官によれば、あたしは119番に応答したっきり、電話をつないだまま呆然と座り込んでいたらしい。ただひたすらに涙を流して。

 

恭介が搬送された病院で医師から聞かされたのは、右腕が完全に潰れており、壊死が進むのは時間の問題だろう、との事だった。あたしは、恭介と家族が苦渋の決断をするのをただ見ていることしか出来なかった。右腕を、切断する。それはある意味で、恭介を()()()()()出来事だった。

 

 

 

『現在』

 

 

「…………ちゃんとご飯は食べてる? 残しちゃうと迷惑かけちゃうからねー?」

 

 

あたしは努めて、恭介の首より下を見ないようにしながら話し続ける。本人の比ではないだろうけれど、あたしの心にも深い傷が残った。

 

思えば、あの時魔女結界に巻き込まれたのも、強さを自分でも異常と思うくらいに求めたのも、恭介を助けられなかった『弱さ』に絶望していたが故かもしれない。マミさんへの憧れも、裏を返せば、弱さへの恐怖を振り払うための…………。

 

 

「………か……………。……………やか、さやか」

 

「あ、え?」

 

「大丈夫? どこか具合でも悪いの?」

 

 

恭介がこちらを心配そうに見つめていることにようやく気づき、咄嗟に取り繕う。危うく思考が泥沼に陥りそうだった。

 

 

「いや、まっさかー! あたしは恭介のお見舞いに来たのであって、受診しに来たわけじゃないんだからね?」

 

「ふふっ。そうだよね、ごめんごめん」

 

 

…………お願い、恭介。せめてこれからは、そんなふうにずっと笑っていて。

 

そのような言葉は、心から吐き出されることも無く、虚しく胸中に消えた。きっと、あまりにも無責任で、どうしようもないくらい無理のある言葉だったから。

 

結局、そのあとも他愛ない話をして、面会時間の終わりまで一緒に居続けた。最後まで、用意したCDが恭介に手渡されることはなかった。

 

 

 

 


 

 

「ったく。さやかはいつまで、もぐ、病院にいるんだよ? むしゃ、長すぎにも程があるだろ、ごくっ」

 

「だからって待ってる間にコンビニに寄ってバリバリ菓子を食うのかよ。しかも代金はオレ持ちだし」

 

「いーじゃんか、そのくらい。盗むなって言ったのはメイジだぞ?」

 

「金持ってないならまだしも、持ってるのに盗むって変に罪悪感あるじゃん?」

 

「アンタの倫理観は聞いてねーし」

 

 

病院を出ると、二人の呑気な声が聞こえる。そう言えば、二人を待たせて病院へ行ったことを思い出す。久しぶりであったことと、基本的にいつも面会時間ギリギリまでいた事が重なって、つい長引かせてしまった。

 

待たせている申し訳なさもあるし、早く合流しよう。なんか「盗む」とか、不穏なワードが聞こえるけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ」

 

 

寒気。どこからかと聞かれれば、背後。けれどあたしは振り向くことが出来ない。なにかに押さえつけられているように、首が動かせない。

 

咄嗟にメイジや杏子を呼んだが、二人がそれに気づく様子はない。視界には、もうあたしが映っているはずなのに。

 

「無駄だよ、さやちー。この結界は内と外の繋がりを絶ってしまう。結界が壊れない限り、二人に君が見えることも無いし、声も届かない。キュウべえを介したテレパシーも飛ばせない。元々は()()()()()()()()()()()()()()()なんだし、これくらいは厳重じゃないとね」

 

 

魔法という言葉を耳にした瞬間、反射的に魔法少女の姿となる。動かせない身体を無理やり動かそうとするが、それでもビクともしない。

 

 

「おー、反応早いね」

 

「あんた、魔法少女なの? あと、さやちーってあたしのこと?」

 

「二つとも正解。随分と冷静だね、さやちー?」

 

 

背後の人物は、話し方も雰囲気も落ち着いた印象を与えてきた。それだけに、渾名だけが、ひどく違和感をもたらす。

 

 

「…………あんた、誰なの? あたしの知り合い?」

 

「んー、ボクからすればそうだけど。さやちーからしたら初めましても同然だよね」

 

「…………」

 

「大丈夫。危害を加えることは無いから。ボクは少しさやちーに話したいことがあって来たんだ」

 

「話したいこと?」

 

 

相変わらず、背後にいる少女を見ることは叶わないし、もちろんその表情もわからない。それなのに、今、なにか企むように笑う口元だけが、脳内にイメージされる。

 

こいつ、一体何を考えて。。。。。

 

 

「ひとつ、警告をしたいな」

 

 

 




「で、最初と最後に出てきたヤツ誰よ」

「僕にもわからないよ。検討がつかない」

「メタ視点ver.キュウべえでさえ分からないのかよ」

「だって作者が設定資料を一切作ってないんだから、仕方ないじゃないか」

「…………馬鹿なのか? 作者は馬鹿なのか?」



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stage14 そして歯車は狂いだす

投稿めっちゃ遅れてすみませんでした!

活動報告?ってやつに載せる予定ですが、今後も暫く投稿ペースが下がると思います。ご容赦を…………


-璃乃メイジ-

 

 

メイジ、と呼ばれた気がして、顔を上げる。横を向くと杏子がこちらを覗き込んでいた。

 

 

「…………呼んだの、お前?」

 

「呼んだっつーか、ずっとアタシとしか話してねーじゃんよ」

 

 

それもそうだな、と病院に視線をやる。さやからしき声が聞こえた気がしたが、彼女がまだ出てくる気配はない。きっと聞き違えたのだろう。

 

ここは病院の手前にある駐車場付近。さやかとはここで待ち合わせをしている。というのも、さやかがこの病院に行くと言って聞かなかったのでついて行くことにしたのだ。なんでも、怪我をした幼なじみのお見舞いらしい。

 

そーいうのって時間がかかるもんだぜ、と杏子と共にコンビニで買い物をして戻って来たが、さやかはまだ病院内にいるようだった。

 

 

「聞きたいことがあんだけど」

 

「ん?」

 

 

通行禁止を示すポールに腰かけ、菓子を齧りながら杏子が問う。その表情はやや険しい。

 

 

「その、なんてゆーかさ。メイジは何を願って魔法少年になったんだ?」

 

 

聞きずらそうに言う杏子に対し、オレはその質問を躊躇う理由が気になった。別に、話して困るものでもない。そもそも、

 

 

「絶望を思うがままに。格好つけてるかもしれないけど、そのままだしな」

 

 

絶望を操る。あの力そのものがオレの願いと言って過言ではない。答える以前に、もう杏子には見せているのだ。

 

 

「いや、そーなんだろーけど。ルーツ?なんかその辺気になって」

 

「…………聞いて得するもんでもないぞ?」

 

「損とか得とかじゃなくて、単に知っておいてもいいんじゃねって。そんだけだよ」

 

 

仲間として。言外に含まれる言葉を察して、オレは苦笑する。不器用なりに、色々考えているのだ、杏子も。

 

オレとしてもある程度は話しておいていいかもしれない。けれど今は。

 

 

「どうせ話すならさやかがいる時がいい。二度手間だし」

 

 

そう言って、ひとまずは保留する。チームの信頼関係のためにも、杏子だけに、とはいかない。それに、思い出す時間も欲しかった。掘り起こすのも厄介な、そんな記憶だから。

 

 

「…………そっか」

 

 

返答が、零れるようになされた。オレなりの誠実さは伝わったらしい。それ以上の追及はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

という理由など、結局は表向きのもので。

オレの過去を語る。つまりは、ナニに絶望したのかを語る。その事に、ほんの一瞬、躊躇を覚えたから。

 

たとえこの絶望を語ったとて、二人はそれをまっとうに受け止めるだろうか? たったそんなことで、と軽蔑はしないか? 私なら自殺なんてしない、と。

 

例えるならば、あの時のオレの絶望を穢れとして再現できたとして、それを杏子達のソウルジェムに流し込んだら、二人は耐えきれるのだろうか、と。

 

 

それを知るのが、怖いと感じるオレは、果たして間違っているだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何を今更。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()。とっくの昔に分かりきっていたことじゃないか。オレ(おまえ)は、穢れを()()()()()()()()()()()呑み込んだことがあったか。

 

否だ。どうしようもなく、絶対的な否定。

 

 

 

これはオレだけの絶望。大したこともないと嘲笑されようが、上辺ばかりの驚嘆と同情で取り繕われようが、所詮それは本物ではなく、「誰か(そいつ)」の知覚の生んだ矮小な絶望(マガイモノ)であるだけのこと。過去を語るからと言って、それを正す必要なんてない。

 

だから、これは確認だ。お互いが仲間であるという確認をするための通過儀礼(イニシエーション)。それ以上でも以下でもない。

 

 

そう割り切る、割り切ることでしか、オレは、オレを守れそうになかった。

 

 

 


 

 

 

「貴方たち、何をしているの?」

 

「げ、暁美ほむら」

 

 

振り返ると、暁美ほむらがいた。気づけば、かなりの時間が経っていたようだ。病院に着いた時点で明るかった空も、もう暮れ始めている。

 

 

「どうしたの、佐倉杏子」

 

「アタシがこんな態度になるのに、心当たりはありませんかねぇ? 暁美ほむらさん?」

 

「……………………」

 

 

まあ、昨日の今日だ。頭ぶち抜いてきたやつと気安くなんて、足止めだとわかっていたオレくらいしか出来ないだろう。流石にあの躊躇いのなさには少し引いたけど。

 

対する暁美ほむらは、気まずさが若干顔に出ていたが、誤魔化すように話題を切りかえてきた。

 

 

「それで、二人は何をしているの?」

 

「さやかが見舞いに行っているから、それを待っているんだ」

 

「?」

 

 

首を傾げる暁美ほむら。目の前が病院なだけに、理解に苦しむことは無いはずだが。

 

 

「美樹さやかが?」

 

「ああ。時間かかってるみたいで、まだ帰ってきてないけどな」

 

「…………おかしいわね。彼女なら、」

 

 

 

それが、合図。オレ達には止めようもない崩壊の始まりを、認識した瞬間。

 

起動条件(トリガー)は、美樹さやか。

 

 

 

 

 

「ついさっき街中で見かけたのだけど」

 

 

 

 

-美樹さやか-

 

 

「警告?」

 

 

突然何かに拘束され、動けなくなったあたしに、背後にいるであろう魔法少女から発せられた言葉。頭に浮かんだ笑みのこともあって、警告とは名ばかりの脅迫かと思い問い返してみるも、

 

 

「うん、警告」

 

 

少なくとも今は、声をかけられた時のような寒気は感じられない。少なくとも、この状況を利用して、あたしに何かをするつもりはなさそうだ。と考えると同時、拘束が消えたのか、自由に動けるようになる。

 

 

「うぉっ、とと」

 

「いやーごめんね? 縛り付ける予定はなかったんだけど、結界を張ったせいかコントロールが効かなくて」

 

「…………誰?」

 

「…………やっぱり覚えてない?」

 

 

その声で、やっと動かせるようになった首を振り向かせる。そこには、顔をフードで覆った、パーカー姿の少女。

 

その格好にはやはり見覚えはなくて。顔を確認しようと1歩近づいたところで彼女からストップがかかった。

 

 

「顔は見ない約束だよ、さやちー。もう忘れてるんだろうけどね」

 

「あたしが、忘れてる…………? あんたのことを?」

 

「思い出せない、が正しいかな。 誰かさんに『上書き』されたから」

 

。。。。。!」

 

 

『上書き』。たしかその単語を、昨日も。

 

 

『魔法の特性により、暁美ほむらはオレ達の記録やら認識やらを『上書きしている』可能性が高い』

 

 

あの言葉と、合致する。ということは。

 

 

「まさか、暁美ほむらに?」

 

BINGO(あったり)! 冴えてるね、さやちー」

 

 

目の前の少女が何者なのか、という疑念は無くなりつつあった。恐らくは暁美ほむらに記憶を消される前の仲間かなにかだったに違いない。あたしは魔法少女としての姿を解き、もう敵意がないことをアピールした。

 

 

「少しは信用してくれた?」

 

「話を聞くぐらいはいいかなーって感じ」

 

 

やっと身動きが取れることに今更ながらため息をつく。そのあいだに話すことが纏まったのか、少女は口を開いた。

 

 

「ボクは宇尾野 緋月(うおの ひづき)。キミが魔法少女になりたての頃、一緒に行動してたんだ」

 

「うん」

 

咀嚼するように内容を噛み砕いていく。彼女の話によれば、突然、あたしがいつものたまり場に来なくなったので色々調べていると、暁美ほむらが、あたしを含む様々な魔法少女の記憶を書き換えて自分が立ち回りやすくなるようにしていることに気づいたらしい。

 

このままだと、見滝原は暁美ほむらが支配したも同然になる。下手をすると、ほかの町の魔法少女も巻き込み出しかねないと。

 

ほぼメイジの予想と合致していて、納得できる部分が多かった。メイジの考察の鋭さに心の中で驚く。

 

 

「だから、暁美ほむらを止めないといけない。でもね?」

 

「どうしたの?」

 

「上書きした記憶を消すには、暁美ほむらを倒す必要があるんだ。でも、彼女の敵になりうるのは、現段階ではボクしかいない」

 

「それは、みんなに協力してもらえばきっと」

 

「無理だよ。さやちー、さっきほかの魔法少女を説得してたよね?」

 

「う、うん」

 

 

もしかして、あたしが気づいてないだけで、少女。。。緋月もいたのだろうか。確かにこの結界を使えば、あるいは。

 

 

「言ったでしょ? そんな都合の悪い記憶、彼女なら消してしまえるんだ。時間を与えてしまうこと自体が敗北に等しい。もう、説得した二人はあてにならないね」

 

「そんな…………」

 

 

力なく首を横に振る緋月に、あの作戦が無意味であったことへの落胆が抑えられなかった。

 

 

「言ったよね、警告したいって。二人のことにも関連するんだけど」

 

 

緋月の言葉はあくまで冷静で、それ故に冷酷に響く。当然、話の内容も邪魔な要素を切り捨てるかのようで。

 

 

「さやちー。今後はボクとだけで行動すべきだ。少なくとも、暁美ほむらと決着がつくまでは」

 

「ど、どうしてそうなんのよ! マミさん達はともかく、メイジ達とまでなんて………!」

 

「さやちー」

 

 

遮られた。本当は分かっているんだよね?と目が問いかける。あたしは、動けない。

 

 

「さやちーが魔法少女を説得していた間、暁美ほむらを誰が相手していたか、忘れた?」

 

「っ!」

 

 

まさか。()()()()()だとでも言うのか、メイジも、杏子も。

 

 

「行動を共にするどころか、接触すること自体が致命傷(アウト)に等しいんだ。もう、璃乃メイジ達もいつ裏切るかわからないよ」

 

「じ、じゃああたしはどうなるの!? 暁美ほむらと接触した回数なんて、メイジ達よりも多いのに!」

 

「【正義は必ず勝つ(Evolve, your hero.)】。キミだけは、強くなることで彼女の記憶操作を上書きし直せるんだ。さやちーだけなんだよ、純粋に暁美ほむらの魔法に打ち勝てるのは!」

 

 

ふざけるな。

まだ、強くなれというのか。心を置いていってでも、ただ強くなることだけを強要される。たとえそれが仲間のためだとしても、考えただけで体が震え出した。

 

しかし、あたしの感じているそれが怒りではなく、別の何かだと気づくのに時間はかからなかった。

 

所詮は、怖いだけだと。()()()()は、自分が自分でなくなるような気がして。真の意味では心の拒絶の表れだった。

 

 

「そんなの、怖い。怖すぎるよ…………!」

 

 

あたしはただ立ち尽くして、足元を涙で濡らすばかり。そこにほんのりと影ができて。

 

 

「緋月…………?」

 

「大丈夫。ボクがいるよ。例えキミが忘れてしまっても、確かにボクらは仲間だったんだから」

 

 

緋月が、あたしを抱きしめていた。安心するような声と、どことなく感じられる笑み。

 

 

。。。。。ああ、誰かの笑みに似ている気がする。誰のだったろう。懐かしいな。

 

 

涙を枯らし尽くすまでのあたしを、緋月はただただ抱きしめてくれた。漠然としたなにかに怯えるあたしを宥めるように、ずっと。

 

暮れ始めた太陽が、あたし達の周囲を黄色く照らす。荒んだ心を和らげるように、百合の香りが辺りを満たしていた。




メイジ「百合…………」

/人ºωº人\「どうしたんだい? メイジ」

メイジ「キュウべえ。この話に『そういう要素』はあるんかね?」

/人ºωº人\「あるだろうけど、永くは続かないだろうね、生命的に。大体、この話に恋愛を求めて、ろくなものになると思うかい?」

メイジ「うん、なるわけないわな」


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stage15 全て(おわり)は、明日(きょう)から始まる

どうしようかな…………

「どしたよ? 作者」

小説のタイトル、周りは「魔法少女ナントカ☆カントカ」って感じのが多いから、「魔法少年の絶望譚」ってタイトル浮くんだよね………

「だから、改名しようと?」

うん、そう。

「そんなことで悩むほど認知度高くねえだろうが」

あ、そうだわ(納得)


-佐倉杏子-

 

 

結局、さやかは見つからなかった。いくら暁美ほむらの証言があったとはいえ、見滝原の町は広い。まして、見滝原の街並みをまともに覚えているのがアタシだけだというのもあって(メイジは町を転々としていたらしいし、暁美ほむらも転校生だと聞いた)、手探りで探すほかなかったのだ。

 

最後は、暁美ほむらの「魔女結界もない事だし、死んではいないと思うわ」という縁起でもない一言で解散の流れとなった。

 

もともと探し始めた時間が遅かったのもあって、もう空は真っ暗だ。あたしが通っているゲーセンもこの時間では入場が困難だろう。まったく。

 

 

「さやか、どこに行っちまったんだよ…………?」

 

 

ココアシガレットをタバコのように咥えながら、公園のベンチに座るアタシはそう独りごちる。

 

あのボンクラとは知り合ってたった1日程度だが、なにか重いものを抱えていることだけは感じた。特に、魔女結界の中で見せたあの表情…………。例の魔女に対する恨みとは違う、別の感情があったような。

 

そう、あれはきっと怯えていた。

 

 

『弱いあたしなんか、いらない』

 

 

戦うことになって、ボコボコにして、それでも、アイツはそう言いながら立ち上がった。何度も何度も、同じように強くなっていったのだろう。負ける度に。『今のあたし』ではどうにもならなくなる度に。

 

 

『今のあたしが弱いってんなら、捨ててやる』

 

 

でも、自分でわかっていたんじゃないのか、さやか? それは、『今のあたし』の完全否定。強くなればなるほど、()()()が、離れていく。行き着くところまで行けば、アンタは。

 

 

「あー、なんなんだアイツは! どっか行くなら一言いえっての!」

 

「…………佐倉さん?」

 

 

頭をガシガシして叫んだのと同時、現在進行形で立ち位置があやふやな奴がやって来た。さっきからつくづく反応に困るやつばっかり。暁美ほむらといい、

 

 

「なんだよ、マミ? この辺に魔女はいないぜ?」

 

 

巴マミといい。

 

 

「そうでしょうね。あなたが動いてないもの」

 

「なんだよ、分かってんじゃん」

 

 

マミは、さやかがこちら側であると知ったからか、今すぐにでも敵対するというわけではなさそうだった。まして、さやかの勧誘も中途半端、その妨害も中途半端でお互い動ける状況では無いはずだ。

 

 

メイジは一体何を考えているのだろう?

 

 

ここまで状況がややこしくなったのも、全部メイジが途中で放り出したからだ。颯爽と勧誘現場に現れておきながら、特に何かをするでもなく帰ってしまった。二人にまとめて話すから、と言われたもののさやかがいないせいでその理由さえ有耶無耶になるし。ああもう! ほんとにめんどくせえ!

 

アタシのすぐそばまで来て、こちらに背を向けながらマミは言う。

 

 

「…………、本当に驚いたわ。あなたがチームを組んでいるんですもの」

 

「だから言ったろ? 成り行きだって。それに、メリットがなかったらアタシもこんなことしてねーよ」

 

「メリット…………?」

 

 

やべっ。

つい口から出した言葉に、マミが反応する。考える時間を与えると追及されるにちがいない。面倒だし、アタシは先手を打っておくことにした。

 

 

「き、企業秘密ってやつだ! 話さねーかんな!」

 

「え、ええ。分かってるわよ」

 

 

そうして沈黙が流れる。昔の話もしないし、今の話もしない。今は仲間でもないし当たり前といえば当たり前だ。だが、建前とは違って、この空気に安心感を覚えている自分に気づいた。

 

 

「えっと、なんつーか、…………座れよ」

 

 

無意識に、アタシはそう口にしていた。振り返ったマミがほんの一瞬驚いたような顔をして、微笑む。

 

 

「まあ、いつからそんな気配りができるようになったの? 佐倉さん」

 

「うっせ、いいから座れよ!」

 

「ふふ、はいはい」

 

 

そうしてマミが隣に座る。微かに、『あの部屋』の匂いがした。お菓子や紅茶が頭に浮かぶような、暖かい匂い。アタシはここまで疲弊していたのかと思わせるくらいに、懐かしさが体を包む。

 

 

「なあ、マミ」

 

「なにかしら?」

 

 

横を向くと、マミがこちらを見返してくる。続けて言おうとしたものを、ぐっとこらえる。

 

きっと、後悔していた。マミに理由のひとつ話すことなく、見滝原を出ていったことに。アタシ以外の家族がみんな居なくなって、感情的になって、怒りと不信感に身を任せた。そのくせして、いまアタシはマミに懐かしさを感じているのだから。

 

 

「いや、なんでもねーや」

 

 

でも、それでもいいよな?

すべてが終われば、謝る機会はいくらでもある。暁美ほむらをどうにかして、アタシ達が敵対する必要は無いとわかった時、それからでも、アタシの身勝手さは償える。

 

 

「だから、待っててくれ」

 

「?」

 

 

通じるはずのない意図に、マミが首を傾げるのも当然だ。いつか、それがわかる日がやってくると信じて、アタシは笑いかけた。

 

ココアシガレットを差し出して。

 

 

「食うかい?」

 

 

いまは、それだけで良かった。それさえあれば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………なのに。()()()()()()()()()

 

 

「杏子! さやかが見つかったよ!」

 

 

突然現れるキュウべえ。つい怒鳴り声を上げそうになるが、内容が内容だけに怒るのは後回しだ。事態を知らないマミは特に焦りもなく疑問符を浮かべるばかり。

 

 

「美樹さん、いなくなっていたの?」

 

「あ、ああ。まあな。それよりキュウべえ、本当か!?」

 

「うん、だけど悪い知らせでもある。ここからかなり遠い上に、」

 

 

虫の知らせとはこれのことだろうか。とてつもなく、嫌な予感がする。まるで、遅効性の毒にかかったような感じがして。

 

 

「彼女はたった一人で魔女と戦っている。劣勢みたいだ」

 

 

『いつか』がなくなる予感を、抱いてしまった。

 

 

 

-宇尾野緋月-

 

 

「さあ、頑張ってねさやちー。この世界がどう転ぶかは、君にかかっているのだ!」

 

 

 

「まあ、どっちみちBad Endなんだけどね!」

 

 

 

-璃乃メイジ-

 

 

テレパシーでキュウべえから連絡が来て、仮宿さがしをしていたオレはすぐにさやかのところへ向かう。杏子はかなり離れたところにいるらしく、到着はオレの方が早そうだ。

 

 

「ったく、魔女狩りする気力があるなら一声かけろってんだ!」

 

 

ようやく見えてきた目的地に目を据え、そうボヤいた。突然いなくなったと思ったら魔女と戦っていると聞いては、チームメイトとして文句のひとつくらい許されるだろう。

 

 

 

オレには、さやかの失踪の意図が全く見えなかった。

 

オレや杏子に不信感を抱いていたのだろうか?

有り得なくもない。所詮オレ達はチームを組んで一日しか経っていないし、それ以前は知り合いですらなかった。いくらチームだ仲間だと言っても、お互い魔法少女である以上、裏切るのでは?と疑念を抱くのも理解出来る。

 

だが少なくとも、あの目は。マミと敵対しないためにオレと組む、そう決意したあの目に、果たして疑心は含まれていただろうか。

 

あるいは、病院内で巴マミあるいは鹿目まどかと出会い、何か唆されたりしたのだろうか?

それこそ有り得ない。杏子によれば、巴マミはさやかの失踪そのものを把握していなかったし、まさにその時間、マミとまどかは二人で行動していたらしいのだ。

 

 

 

ならば、さやかが失踪した理由はなんだ?

 

結局手がかりさえ掴めぬまま、目的地にたどり着く。暁美ほむらが見かけたとされる街中、そのショッピングモールの入口に、魔女結界があった。

 

 

「さっさと片付けて、本人に聞けばいいか」

 

 

キュウべえからさやかが劣勢だと聞いた。ひとまずは魔女を倒すことが先決だ。そう思い、ソウルジェムの穢れ具合を確認してから、オレは魔女結界に突入し、

 

 

「ぐえっ」

 

 

そのまま弾き出された。どうやら魔女結界が消失したらしい。そう認識すると同時、入口のガラス製のドアに反射して、背後に一人の少女がいるのを見つけた。その髪は、随分と探した青色。

 

 

「っ! いたのか、さやか!」

 

 

魔女結界に到着するまでの不安は吹き飛び、今ばかりは安堵が勝る。オレはさやかに声をかけようと、

 

 

「メイジ…………」

 

 

対するさやかは、表情が見えない。しかし、彼女の声は、静かな拒絶だけを伝えていた。

 

 

「さやか…………?」

 

「ごめん、メイジ。あたし、やらなきゃいけないことが出来たんだ。それが終わったらまた合流するから」

 

「なっ!」

 

 

オレの返答を待つことなく、さやかは近くのビルの屋上まで壁伝いに駆け上っていく。躊躇なく立ち去ろうとするさやかに、反応が遅れた。

 

 

「おい待てよ! どういうことだ、それ!」

 

 

オレも追いかけるように、ビルの屋上へ到達した。だが、既にさやかの姿はなく、声だけが反響するように耳に届く。

 

 

「ごめんね、杏子にも謝っておいて。 これは、あたし一人でなきゃ駄目なの」

 

「せめて説明くらいはしてくれよ! オレ達はチームだろ! おい、さやか!」

 

 

必死に声をかけたものの、今度こそ返答はなく、オレは立ち尽くすことしか出来なかった。

 

 

 

「嘘だろ…………?」



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stage16 人魚の棺

「ストーリーがシリアスな分前書きと後書きは明るくしようという作者の試みだけど、ぶっちゃけ邪魔じゃね?」

「んなこと言うなよメイジ。アタシらのくだらねー会話の中にも伏線回収のヒントとかあるらしーぜ?」

「ふーん。じゃあそのヒントをひとつ。百合の花言葉は知ってるか?」

「知らねーよ」

「あー。…………じゃあ黄色の百合の花言葉も?」

「知るわけねーじゃんか」

「ですよねー」

「ま、嘘だけど」

「おい」


-佐倉杏子-

 

 

「さすがに、もう終わってるよな」

 

 

10分近くかかって、やっと目的地へ到着したアタシとマミは、ショッピングモールの入口にグリーフシードが転がっているのを見つけた。これで魔女が倒されたこと自体は確認できたが。

 

 

「美樹さんと璃乃…………くん?はどこかしら」

 

 

アタシがここへ向かう途中で話したことにマミは困惑しているようだが、それを笑っている余裕は残念ながら無い。グリーフシードがあるからといって、さやかとメイジが両方生き残っている保証はないのだから。

 

 

「どうやらあそこのビルにメイジがいるみたいだね」

 

 

キュウべえの声で見上げると、すぐ近くのビルの屋上で、メイジらしき人影がいるのに気づく。アタシは一目散にソイツのもとへ向かった。

 

 

「メイジ!」

 

「っ佐倉さん!?」

 

 

マミの声を振り切るように、アタシはビルの壁を垂直に駆け昇る。屋上の足場に手をかけ、強引に目的地へと辿り着いた。

 

 

「メイジ、さやかはどうしっ、!?」

 

 

その場にいたのは、こちらに背を向けて立ち尽くすメイジ一人。さやかは見当たらない。そして、彼の顔の辺りから、雫が流れ落ちていることに気づく。

 

メイジは涙を流していた。顔を歪めるでもなく、ただ静かに。

 

 

「メイジ、どうしたんだよ、おい!」

 

「杏子………。ん? オレ泣いてんのか?」

 

 

なぜ涙を流しているのか、本人にも分かっていないらしい。アタシが不審がる前に、メイジは袖で軽く涙を拭き取りながら淡々と言葉を紡ぐ。

 

 

「さやかはどこかへ行ったよ。やることがあるってな」

 

「やること…………?」

 

「理由まではわからないが、今は触れないほうがいいだろうな」

 

 

そこで、遅れてやってきたマミがキュウべえを乗せてやってくる。事情を話してあるからかメイジは特別驚いた様子もなく、

 

 

「そういえばあんたも一緒だったな、巴マミ」

 

「はじめまして、なんて言う機会はとっくに逃したわね。璃乃メイジくん、で合ってるかしら」

 

 

マミの方も臆さず返答する。ただ、昨日今日の件もあってか、その表情は堅い。仕方ないよな。だってメイジ、初対面にかなり高圧的だし。

 

そういや初めて会った時もアタシらに説教かましてくれたよな、コイツ…………。

 

 

「ああそう、痛っ! なにすんだよ!」

 

「いやー別にー?」

 

 

少し強めに脇腹をつつく。なんかムカつくから、と言うと報復が怖いので口笛で誤魔化した。話から完全においてけぼりにされマミが目を丸くしているので、アタシは若干焦りながらメイジを紹介する。

 

 

「ま、まあ悪いやつじゃないしさ、な?」

 

「むしろ理由もなく脇腹ついてくるやつの方がタチ悪いよな。というわけで巴マミ、オレと組まない?」

 

「なんでそうなんだよ!?」

 

「っ、ふふっ」

 

 

見ると、マミが口を抑えて笑いをこらえている。そんなに面白かったか、この茶番。今度はアタシが目を丸くする番だった。

 

 

「少し安心したわ、佐倉さんの仲間って聞いて、初対面もあんな感じだったから少し不安だったのだけど…………」

 

「まさか。ほんといい弟子育てたよ、あんたは」

 

 

そう返すメイジの口調もどこか柔らかく、最初から敵視などしていなかったようにさえ感じられた。…………ん? 弟子?

 

 

「やっぱアンタ、アタシのことも調べてたのかよ!?」

 

「彼女のことを調べてたらたまたまな。なんだっけ、確かあだ名は師しょ」

 

「やめろぉーーーー!?」

 

 

 

 

 

-暁美ほむら-

 

 

文字通り眼前に突きつけられたサーベルは、刀身に美樹さやかを映し出している。怒り、否、憎悪にまみれたような形相をした魔法少女(みきさやか)を。

 

 

「…………私を敵視しているのは分かる。でも、その様子だとメイジから何も聞かなかったんでしょうね」

 

「聞かなくてもわかるよ。どうせ味方になるように、とでも言うんでしょ? そんなのあんたが誘導したからに決まってる!」

 

「否定はしないわ、でもメイジがその提案を受け入れたのも事実よ」

 

 

私たちは今、美樹さやかの住むマンション近くの路地に居た。彼女の帰宅を狙うべく美樹さやかを待ち伏せしていたところ、背後からサーベルを向けられ、今に至る。

 

だが、なぜ今になってこのような攻撃的な態度を? と少しばかり私は混乱していた。私を敵と認識しているなら、放課後の時点で敵意を隠す必要などないはずだ。

 

 

少し、かまをかけてみようかしら。

 

 

「メイジ達が貴女のことを探していたわ。私と一人で会うために、わざわざこんなことを?」

 

「そうよ。あんたを止めるのに、余計な邪魔をして欲しくないから」

 

「ならどうして、学校では二人の介入を認めたのかしら。まさか、誰かに何か吹き込まれた? 例えば、病院で」

 

「っ、うるさい! これ以上喋るな!」

 

 

目の前にあったサーベルが、一気に振り上げられる。この焦りようから、何かあったのは間違いない。この場を凌いでなんとか聞き出さなければ。

 

 

「【時間停止(とまって)】」

 

 

私は魔法を発動し、美樹さやかの動きを封じようと。。。

 

 

「はあっ!」

 

 

なに。

時間停止が、効いていない!? 予想外の事態に一瞬、動きが硬直してしまう。

 

 

「くっ」

 

 

後退してなんとか距離を取ろうとするも、美樹さやかはそれさえ見越していたように前傾姿勢で剣を振り下ろす。私の右目が捉えた最後の光景は、確かな憎悪を向ける彼女の顔と、それを覆い隠すサーベルだった。

 

 

「ぐ、あぁっ!」

 

 

焼け付くような右目の痛み。なんとか声を押し殺して、右目を押さえつつ左目で美樹さやかを捉えようとする。しかし、涙で視界が滲みだしてしまう。

 

 

「悪いけどあんたの魔法は効かないよ。このまま無様に、死ね」

 

 

普段の明るさを微塵にも含まない声で、美樹さやかは容赦なくサーベルを振り下ろそうとする。魔法が効いていない理由は分からないが、もう既に、一人で相手するにはあまりに分が悪かった。

 

 

「っ!」

 

 

方向もわからないまま、私は足で地面を蹴りあげ、上空に待避する。勢いで涙が払われ、全体の景色が見えるようになると、あることに気がついた。

 

美樹さやかの周囲がシャボン玉のような結界らしきもので覆われていて、その範囲内のみ時間が動いているようだった。そして今、私はギリギリ外側にいる。

 

もし、あの範囲内に入った瞬間に時間が動き出すのだとしたら。そこで私は一つの作戦を思いつき、同時に『逃走』の選択肢を採ることに決める。

 

 

私はすぐ側の塀を足場にして着地した。そして、美樹さやかのいる方向に盾を構え、臨戦態勢をとる。

 

 

()()()()()()()()

 

 

「逃がすかァ!」

 

 

狂気の戦士(バーサーカー)。何故か咄嗟にそんな言葉が頭に浮かぶ。私に飛びかからんとする美樹さやかの顔が理性を失っているように見えて、ほんの僅か、足が竦んだ。だが、次捕まれば今度こそやられると自分を叱咤し、立て直す。

 

 

私は盾から拳銃を取り出し、()()()()()()()()()()()()()()()()。あとはタイミングを合わせれば。

 

3、2、1、今。

 

 

「これでも食らってなさい」

 

 

私へと襲いかかる美樹さやかの、結界の境目が弾丸を捉えた瞬間、私は盾を上空に翳して弾丸の射線から外した。

 

 

「ガッ!?」

 

 

同時、四発の弾丸が彼女の四肢に直撃する。バランスを崩したまま、彼女の体はそのまま地面に叩きつけられた。

 

 

彼女は治癒能力が極めて高い。なるべく距離を離しておかないと…………!

 

 

片目だけの視界をなんとか見開きながら、私はただひたすらに距離を取るべく見滝原の住宅街を走り抜けていった。

 

 

-美樹さやか-

 

 

正義は必ず勝つ(Evolve, your hero.)】で体を治しつつ、あたしは緋月に念話を送る。

 

 

(ごめん。逃がしちゃった)

 

(してやられたね。まさに銀の弾丸(シルバーブレット)って感じ)

 

(? でも、灯月が動きを封じてくれればそれで終わりだったのに)

 

 

冷静でなかった思考が少しずつ戻っていく。あと少しで暁美ほむらとケリをつけられたというのに、と愚痴をこぼすも、緋月の反応は楽観的だった。

 

 

(仕方ないじゃないか。今日対面することになるなんて分かっていたらボクも準備してたよ。咄嗟に【遮断空間(シャボンだま)】を出せただけマシだと思って許しておくれ?)

 

(まあ、それもそうか)

 

(でも逆に言えば、それだけでもあいつをあそこまで追い詰められた。もっと強くなれば、彼女が何人味方にしていても)

 

(全員と相手できる。それだけの可能性が、あたし達にはある)

 

 

そうだ、あたしの目的は、暁美ほむらを殺すこと。 そのために必要なものは既に揃おうとしてい…………。

 

 

……………………?

 

 

え? いや違う。あたしの目的は、皆を暁美ほむらから取り返すことだ。殺すなんて、物騒な。

 

 

(とにもかくにも、さやちーはもっと魔女を狩らなきゃ。暁美ほむらにバレないよう、なるべく遠くでね)

 

(うん、その辺任せてもいいかな?)

 

(任せて! ボクは)

 

 

 

宇尾野灯月(うおの ひづき)?-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キミのために動いているんだから。キミを、魔女になった美樹さやかを、『魚 の 棺(うおのひつぎ)』に入れるために、さ。

 




活動報告を更新しました。例の書き直しについてです。よろしくお願いします。


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設定資料 美樹さやか (第一章)


というわけで今回は美樹さやかの設定資料です。他のキャラクターは原作と余り変化がないのでまとめて載せるかも。


 

名前 : 美樹 さやか

 

年齢 : 14

 

身長 : 159cm(推定)

 

魔法 : 【正義は必ず勝つ(Evolve, your hero.)

 

願い : 強く在りたい

 

武器 : 片手剣(サーベル)

 

 

 

《契約の経緯》

幼馴染である上条恭介の腕が交通事故によって失われる瞬間をただ見ていることしか出来ず、『大切なものを守れない』ことの喪失感を知り、自らの弱さを引き摺るようになる。それに釣られてか魔女がさやかを魔女結界に取り込もうとするが、間一髪で巴マミに救出される。巴マミという強さの象徴ともいえる人物と出会ったさやかは、魔法少女として己の弱さを克服し強くなるため『強く在りたい』と願い、魔法少女となった。

 

 

《原作との対比》

基本的には原作と変わらないものの、上条恭介が腕を完全に喪失しているため、原作のように『恭介の腕を治したい』という願いは望まなかった。また、魔法少女となるきっかけと上条恭介の事故は関連が深く、巴マミと出会った時期もかなり早かったため、暁美ほむらが転校してくる前から魔法少女となっている。

 

 

《人格》

原作と変わらず、快活などこにでもいる少女。しかし魔法少女となる前後ともに『守りたかったものを失う』経験があるため、守ること、そして強くなることに執着している節がある。宇尾野緋月はこの性格を利用しているような描写もみられる。

 

魔法の名前にもある『正義』。魔法少女となることで、弱い者(人々)を悪(魔女)から守ることができるようになってから、彼女はその行為を正義と呼ぶようになる。物語の本編が始まる前に何度か一般人の救出に成功しており、魔法少女としての善行に誇りを持っている。巴マミが魔法少女となる直接的なきっかけだったことも大きいだろう。

 

 

 

 

《能力》

①サーベルを召喚し、自在に操る

 

② 【正義は必ず勝つ(Evolve, your hero.)

美樹さやか専用の魔法。『強く在りたい』と願った少女の願いは、一定以上のダメージ或いは本人の意志により、身体能力を向上させる魔法へと変化を遂げた。この身体能力向上は永続的なもの(RPGで言うバフではなくレベルアップのようなもの)であり、能力値が近い敵ならば、必ずそれを上回るように向上する。

 

但しこの魔法には✕✕✕✕があり、短いスパンで魔法を使い過ぎたり圧倒的な実力差を埋めるために複数回使用すると、✕✕を✕✕し、✕✕✕✕✕✕する。また当然ながら✕✕も存在する。✕✕を無理に✕✕✕✕とすると、✕✕✕を代償に他の魔法少女と比較にならないような強さを発揮するが、魔法を使い終えた先に待っているのは✕✕としての(あらたな)人生である。

 

 

《メタ話》

美樹さやかの魔法がオリジナル魔法であることには、ストーリーに変化をつける、という意味だけでなく明確な理由がある。しかし、現段階では本編で明かされるか不明である。ひとつ言えるとするならば、『オリジナル主人公』であるメイジに関連があるかもしれない。

 

また、美樹さやかのオリジナル魔法がイタリア語ではなく英語であるのは、表向きの理由で『巴マミが命名しなかったから』というのがあるが、メタ的には単に作者が名前を考えることを放棄したためである。働け。

 




✕の部分が埋められた完全版は章の終わりに出します


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stage17 見えない誰か


-幕間-


「メイジ、本当は向こうにまどかって奴がいるのを知ってたんじゃねーか?」

「どうしてそう思う?」

「不自然じゃねーか。同じチームにいるのにマミのことしか知らねえってのは」

「さすがに無理があったか。…………ああ、知ってたよ」

「隠すこと無かったんじゃねーの? アイツ、かなり動揺してたぜ」

「言質だけで信用して、ろくなことになった事がないんでね。多少予想外の事態にあっても、約束は守ってもらわないと」

「アンタ、そーとー騙されてきたんだな」

「…………違いないな」


 

-巴マミ-

『追想』

 

 

俯いた鹿目さんの顔が紅茶のカップに映し出される。ただ紅茶の色のせいか、表情までははっきりと見えない。

 

佐倉さん達が学校の屋上から去った後、わたしは鹿目さんだけを連れて自室に招いていた。暁美さんを呼ばなかった理由はひとつ。

 

 

「正直、わたしもあまり信じたくはないけれど…………美樹さんの言葉は無視できるものではないわ」

 

 

暁美さんが、自分達の信用に値するかを話し合うためだ。美樹さんの説得は、そうするべきだと私の心に警鐘を鳴らしていた。

 

 

美樹さんが暁美さんについて指摘した点はふたつ。

ひとつは、暁美ほむらと契約した記録をキュウべえが保持しておらず、暁美ほむらによって消去された可能性が高いこと。もうひとつは昨日、佐倉さん達を撃ったのは暁美さんであり、頭への銃撃は一人の魔法少女を救出するという意味ではあまりに攻撃的すぎること。

 

そしてその目的は恐らく、自分の味方になりうる者だけを集め、その全員を思うがままに操ることであると。

 

 

「暁美さんをチームに残すか。あなたの意見を聞きたいの、鹿目さん」

 

「……………………」

 

 

暁美さんをチームから外す、というのはあくまで極論だ。何かしらの誤解があったのだと考えているし、本人に確認を取ればそれで済むことだとは思っている。

 

 

でも、鹿目さんには辛いわよね。

 

 

人を疑うこと、鹿目さんにはそれ自体が耐え難いものに違いない。彼女の本質は寧ろその逆、人を信じることなのだから。きっと今この瞬間も、暁美さんを信じている。わたし達を利用するような魔法少女(ひと)ではないと。

 

 

「マミさ、わたし、は」

 

「ごめんなさい、少し酷な話だったわね」

 

 

鹿目さんを安心させるように、わたしは微笑みかける。続けて、

 

 

「わたしはチームのために暁美さんの疑いを解く必要があるわ。でも同時に、暁美さんを懐疑的な目で見ることになる」

 

「マミさん…………」

 

「だから鹿目さん。あなたには暁美さんを信じてあげて欲しい。暁美さんに寄り添っていて欲しいの。わたしの分も、ね」

 

「…………はい」

 

 

納得してくれた様子で笑う鹿目さんに安堵して、ほんの少し冷めた紅茶に手を伸ばした。持ち上げる動作のせいか、水面に波紋が広がる。映っていたわたしの顔も、輪郭がぼやけて。

 

そう。ちょうどこんなふうに、美樹さんの言葉が暁美さんの輪郭をぼかしている。安定したテーブルに置けばカップの水面に波紋がなくなるように、この疑いが晴れれば暁美さんのこともちゃんと見えるようになるはず。

 

 

「明日からはいつも通りにいきましょう。変な空気になったら、困惑するのは暁美さんだから」

 

「分かりました。いつも通りに、ですね!」

 

 

“いつも通りに”戻った鹿目さんが、今度こそケーキを口に運ぶ。つられてわたしも紅茶を口に含んだ。

 

 

 


 

 

 

「ワルプルギスの、夜?」

 

「ああ。魔法少女一人や二人じゃとても歯が立たないらしい」

 

(ほむらちゃんは、それがやって来ることを隠してたってことですか?)

 

 

璃乃くんから語られたのは、『ワルプルギスの夜』という魔女の名前。聞き覚えのないそれに、わたしと念話越しの鹿目さんは困惑する。

 

結局のところ、暁美さんの目的はその日のうちに知ることとなった。見滝原の魔法少女の情報を集めているらしい璃乃くんに、何気なく暁美さんのことを確認したことがきっかけだ。

 

璃乃くんが言うには、1ヶ月と経たずその『ワルプルギスの夜』が現れ、見滝原が壊滅的な被害を受けるらしい。彼女の目的は、それを食い止めること。当然、暁美さんからは一言も聞いていない。

 

 

「本当に、暁美さんがそんなことを?」

 

「実際に起こるかどうかは別として、『ワルプルギスの夜』は実在する魔女だ。なあ、キュウべえ?」

 

「うん、あの魔女の暴走は人類史に残るレベルの災害ばかりだからね。暁美ほむらが『超弩級』と語るのも納得だ」

 

 

璃乃くんは「そっちは全員知ってるもんだと思ってたけどな」と言う。と、そこに疑問を投げかけたのは佐倉さんだった。

 

 

「アタシはさっき教えてもらったんだけど。なあ、結局いつ聞いたのさ? 二人で話してるとこ見てねーし」

 

「ああ、そうか。お前は聞いてるわけないよな」

 

 

苦笑しつつ、璃乃くんはわたし達に問うた。

 

 

「暁美ほむらの魔法、【時間停止】で合ってるか?」

 

(どうして分かったんですか!?)

 

「屋上の時、少しばかり挑発しすぎて【時間停止(それ)】で脅されたんだよ。下手したら今頃蜂の巣だ、あはは」

 

「いや笑えねーだろ普通…………」

 

 

この冗談も、昨日の出来事を思えば笑えたものではない。或いは、ブラックジョークでミスリードした皮肉かなにかだろうか。どことなく言い慣れてるような感じがして少し怖い。

 

気まずい空気となったのを悟ってか、璃乃くんは慌てた様子で無理やり話題を戻した。

 

 

「ま、まあ、とにかくだ。『ワルプルギスの夜』のことは時間停止の間に聞いたんだよ。突拍子もない内容だから、話す奴は選びたかったんだろう」

 

「んで、アタシは蚊帳の外ってわけだ」

 

「お前の場合、言葉の代わりに槍が飛んでくることを危惧したのかもな」

 

「アタシがすぐ手を出す奴みたいに言うのやめろよ!」

 

 

二人の軽い調子の会話になぜだか安心感を覚える。かつて佐倉さんとも、こんな風に気安い会話を交わしながら行動を共にしていた。時には色々と窘めて面倒な顔をされたこともあったけれど…………今となってはそれさえも懐かしい。

 

 

…………もう、佐倉さんも一人じゃないのね。

 

 

そんな感傷に浸っていられたのは一瞬だった。

 

 

「つーか、そういうことかよ。道理で、着いてすぐ帰るとか言い出したわけだ」

 

「まあな。時間停止をカウントしなければ、オレ達が屋上にいた時間なんて1分もなかっただろうし」

 

「(え?)」

 

 

奇しくも、わたしと鹿目さんの疑問の声が重なる。二人とも同じ疑問を抱いたに違いない。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「待って、それはおかしいわ!」

 

「どうして?」

 

「わたし達と美樹さんが会話した時間はそんなに短かったはずがないもの! 少なくとも1分なんて……」

 

 

その言葉で、何かを察したのか、璃乃くんの声色が真剣なものに変わる。質問の内容からして、美樹さんがわたし達に話した内容も分かっているようだった。恐らく、彼女の説得は彼らの作戦の一部だったに違いないと、今になって思う。

 

 

美樹さやか(あいつ)から、どこまで聞いた?」

 

「えっと、暁美さんがわたし達を都合のいい手駒にしようとしているだとか、昨日璃乃くん達を撃ったのは暁美さんしか有り得ないだとか……。1から話していたら、とてもそんな短い時間で話しきれるものじゃないわ」

 

「…………【時間停止】はブラフ? だが杏子の時間は止まっている。【正義は必ず勝つ(Evolve, your hero.)】が時間停止を打ち消した? いや、仮にできても、本人以外には無効化は適用されないはず…………」

 

「お、おいメイジ? どうした?」

 

 

璃乃くんは顔を俯け、ブツブツと呟き出した。心配した様子で佐倉さんが肩を揺さぶっている。そこに、鹿目さんが不安げに問いかけた。

 

 

(あ、あのっ! 二人はもう、ほむらちゃんを疑ってないんですよね?)

 

「そのワッフルなんとかって奴が実際にいるって分かったし、疑う要素はほとんどねえよ。気になるといえば、どうやってそれを知ったのかと、なんでアンタらにさえ話していなかったか、だけど」

 

「時間を司る魔法なら未来予知を使えることも考えられるし、後者は『かつて信用して貰えずに仲間を失った過去』があるからだとオレは推測している。あと『ワルプルギスの夜』な」

 

 

そう返した璃乃くんの顔が、厄介なことになった、と言わんばかりで、わたし達に不安をちらつかせる。彼は何かを察したようだ。

 

 

「何か分かったの?」

 

「事実なら、ほぼ最悪の事態だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう一人。あの場に、もう一人魔法少女がいたんだ。美樹さやかを孤立させるために」

 

 

 

『現在』

 

 

それから3日経つも、美樹さんは学校に現れなかった。当然ながら、誰からの念話にも応答することはなく。学校の帰り道、交番に彼女の捜索願を見かけたわたしは溜息をこぼした。

 

 

『最悪』は近い。そう認めざるを得ない全てに向けて。




活動報告を更新しました。書き直しの件です。11月10日時点でstage12まで読み進めている方は読むことを推奨します。


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stage18 何回

-璃乃メイジ-

 

 

「それで、目はもう大丈夫なのか?」

 

「ええ、巴マミの治癒魔法に助けられたわ」

 

 

さやかの失踪の翌日。彼女からの襲撃を受け、右目を負傷したというほむらの報告に、オレ達は事態の悪化に関して認識せざるを得なかった。既に警察にも捜索願が届いているらしく、さやかの失踪は街中の掲示板等で嫌でも目に入るようになる。

 

彼女を探そうというまどかの提案に待ったをかけたのは、意外にもマミだった。ほむらへの襲撃があくまで彼女の意思ならば、むしろ迎え撃った方が確実だと。そしてオレの仮説が正しければ、下手に分散して1人で2人を相手することになり危険だと語った。

 

現段階で決まっているのは、ほむらは常に誰かと行動をともにすることと、夜の襲撃が考えられる以上いつでも外出できるように待機しておくことの二つ。こちらから仕掛ける作戦ではないので、できることはこれくらいだろう。

 

 

「んじゃ、メイジ。アタシ寝てくるわ…………なんかあったらすぐ起こせよ」

 

「ああ」

 

 

昼は学校にいるマミとまどかが、夜は時間に縛られないオレと杏子が、襲撃に備えてほむらの傍につくことになっている。とはいっても、魔法少女の体に睡眠が必要ないと知っているオレ達は、杏子を無理やり寝かせ、夜を迎えては今後の状況を話し合うようになった。

 

そうしてもう3日が経つ。

 

 

「意外ね」

 

「なにが?」

 

「佐倉杏子は私が考えていたよりも協調性に富んでいるから、少し驚いただけよ」

 

 

言われてみればと、グリーフシード1個のために居合わせた魔法少女をボコボコにするような奴だったことを思い出す。かつて仲間だったマミと協力体制を敷いて、心境の変化があったか、或いは。

 

 

「さやかが心配なんだろうな」

 

「…………そうね」

 

 

窓から外を見つめるほむらの目に、僅かな憂いが見えた。かつてあった『何か』に、思いを馳せるように。再びほむらが口を開いたのは、 ひとしきり気持ちの整理がついたからだろう。

 

 

「貴方は、少し私を信用しすぎだと思うの」

 

「はあ? 今更だろ」

 

「私は一度貴方達を傷つけてまでいるのに、どうしてそこまで信用するの?」

 

 

発せられたのはひとつの問い。ほむらへの信頼が前提である一連の作戦における紛れもなく「今更な」問い。言葉にしようと思っていなかったし、必要ないとさえ思っていたが。仲間として行動するなら、答えておいていいかもしれない。

 

だからオレは、

 

 

()()()()()()()()

 

 

オレは、質問にして最大の「回答」を、暁美ほむらに投げかける。

 

 


 

 

 

「…………!」

 

 

絶句するほむらを見て、まあ驚くだろうなとオレは思った。口にしたオレでさえ、かなり発想の飛躍があったのではと感じているし、仕方のないことだ。

 

 

「それがオレの信頼の理由だ。…………って言っても話が飛びすぎだよな。一から説明するよ」

 

 

眠る杏子を気にしてか無意識に声のトーンが下がるのを自覚しつつ、再び口を開く。

 

 

「『ワルプルギスの夜』の実在はキュウべえに確認した。だからそこだけは信用できると判断した。じゃあ、お前の行動全てが納得できるかと言うとそうはいかなかったんだ」

 

「美樹さやかの件?」

 

「それもあるし、一番わからないのは、ほむらがどうやって魔法少女になったか。普通はないんだよ、キュウべえを介さず魔法少女になることは」

 

 

それが故に、最初はキュウべえの記憶、厳密には記録を魔法で消去したのでは、と考えた訳だが。

 

 

「このイレギュラーな事態を引き起こせるのはふたつだ。キュウべえと契約した『記録』を消すか、或いは『事象』そのものを消すか」

 

 

見落としていたのは後者。キュウべえとの契約をなかったことにすれば、キュウべえが覚えているはずはない。当然本人が魔法少女でなくなる可能性もあるし、荒唐無稽だと切り捨ててはいたが、ほむらの【魔法】が時間に干渉する類なら話は別だ。

 

 

「そこでオレは仮説を立てた。前者として【精神干渉】或いは【記憶改変】の魔法、後者として【時間逆行】の魔法を扱っている、とな。結局は【時間逆行】が妥当だと結論づけたけど」

 

「…………」

 

「後者は盲点だったよ。時間の逆行によって、キュウべえとの契約が未来の出来事となるか今の時間軸に塗りつぶされてしまえば、『事象』はなかったことになる。ほむらが【時間停止】を使わなければ頭に浮かびはしなかったろうな」

 

「私が魔法少女でなくなることは考慮しなかったの?」

 

「むしろそれが確信に繋がったんだ。例えば、願いが『やり直したい』だったらどうよ?」

 

「っ! 」

 

動揺するほむら。この推測が当たっていたのだろうか。

時間の逆行を可能にする魔法。その根底にあるのは過去への後悔だ。魔法少女となって過去をやり直すことが願いなら、それは魔法少女の力を奪いはしない。

 

 

「やり直す内容も予想がつく。犠牲者のない『ワルプルギスの夜』討伐」

 

「…………そうね。私が言っていたことだもの」

 

「決定的なのは魔女の出現場所、おおよその日時を把握していること。【時間逆行】を前提にすれば納得だ。ほむらは『ワルプルギスの夜』の出現を、過去の経験を基に逆算していたんだからな」

 

 

逆算、とは言うが十分なデータがなければ不可能なことだ。"十分なデータ"を【時間逆行】による経験のみで確保するのに、2回や3回で足りるとは思えない。無限に等しい敗北を、たったひとりで背負い込んで戦い続ける。その重みは、オレごときの人生では測りきれない。

 

 

「だから聞いたのさ、たった一回の討伐のために『何回やり直したのか』ってな。同時に、オレには測れない『回数』ってやつがお前を信頼する十二分な理由だ」

 

 

そう言い終えて、長いため息をついた。我が事ながら、無理やりこじつけた、それも気恥しい話をよくもまあ本人の前で堂々と述べたものだ。正直ほむらの反応が芳しくなければ恥ずかしさのあまり有耶無耶にして誤魔化したに違いない。

 

幸い予想通りのようだが。タブン。

 

 

「最後だけ随分抽象的ね」

 

「いやいや、信頼に具体性を求めること自体おかしい事だし」

 

 

歳の割に難しいことを言うのね、とほむらは笑った。らしくない返答と微笑に、お互い様だろ、とオレは苦笑する他なかった。

 

 

「逆にどうなんだ? オレ達がお前を裏切ると思う?」

 

 

杏子から貰った飴をふたつ取りだし、そのうちのひとつをほむらに放った。ほむらは「ありがと」とだけ返し、それを口に入れる。

 

 

「ないでしょうね。ここまできて美樹さやかを救おうなんてお人好しばかりだもの」

 

「そうだ。それに関して聞きたいことがある。美樹さやか、あいつは「前回まで」とは違うのか? 魔法少女になった時期とか、魔法とか」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「ほむらはさやかが関わることに強硬手段をとる傾向にあるから。路地の件も、勧誘の件も」

 

 

本人はその辺が無自覚なのかもしれない。

先日、オレは気絶する美樹さやかの髪色を変え、3人にバレないよう振舞った。しかしそのアクションを取った最大の理由は、さやかの顔を見たのであろうほむらが、極端に動揺していたためだ。

 

【時間逆行】の仮説を立ててから、気になっていたことでもある。即ち『美樹さやかは、本来とは違う状況に置かれているのではないか?』と。

 

 

「…………遡った過去が、毎回同じというわけではないわ。魔法少女になった時期や状況、魔法少女同士の関係まで違うことも珍しい事じゃない。でも彼女は多くの過去で、回復魔法に長けた魔法少女だった」

 

「回復魔法?」

 

「動かなくなった親友の腕を治してもらおうとインキュベーターに願った結果よ。でも、今回は違う。その親友は完全に腕を失っているの」

 

 

路地裏の件でほむらが動揺した理由がとうとう理解出来た。願い事を失ったさやかは魔法少女にならないと踏んでいたのだ。しかし、目の前には魔法少女姿のさやか。その状況なら、少なからず困惑するに違いない。

 

 

「彼女の【魔法】は名前からして、無力だった自分の克服でしょうね。強くなることで、今度こそ大切なものを守るために。それが」

 

「「【正義は必ず勝つ(Evolve, your hero.)】」」

 

 

オレとほむらの言葉が重なる。その【魔法】こそ、魔法少女美樹さやかの体げ。。。。。

 

違う。重なった声はほむらのものでは無い。それに聞こえてきたのは外の方からだ。まさか、

 

 

「がはッ!?」

 

 

突如巻き起こった水流にオレは壁へと叩きつけられ、そのまま倒れ伏す。不意打ちとはいえ、反応が間に合わない速度を持ち合わせた一撃に、肺の中の息が無理やり押し出された。朧になった視界には、盾を構えるほむらと、もうひとり。

 

 

「殺しに来たよ、暁美ほむら」

 

 

体を囲む剣。特徴的な青髪。しかしその眼は赤色に染まり、口元は獲物を狙う獰猛な獣のような様相をしている。似ても似つかぬ姿に成り果てたさやかは、その信念さえも濁して、ほむらに襲いかかった。

 

 

「みんなを、返せえぇェェ!!!」



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stage19 さよなら

「は? 【時間逆行】じゃなくて【時間遡行】? 一緒じゃないのかよ。 てか遡行の意味を知らん」

「メイジは知識や語彙が同年齢の少年少女と比べて高めな印象を受けるけれど、知らない言葉もあるんだね」

「というより、知らん言葉をその場で調べてるから勝手に知識やら語彙やらが増えてくんだよ。ちなみにいつかの『なあ、暁美ほむら(フィクサー)?』はオレが教えました」

「ちなみにインキュベーターの意味は知ってるかい?」

「? キュウべえのことだろ? ほむらが言ってた」

「…………調べ直すことをおすすめするよ」


-佐倉杏子-

 

 

何かが壁に叩きつけられた衝撃で、建物が轟音と共に震える。飛び起き二人のもとに駆けつけたアタシは、変貌を遂げたさやかに驚きを隠せなかった。

 

少なくとも初めて会った時は感じられなかった、狂気じみた雰囲気と殺意むき出しの圧がアタシを襲う。いや、厳密にはアタシに向けられたものではない。全ては、盾を構えるほむらへ。

 

 

「みんなを、返せえぇェェ!!!」

 

「ッ! ほむらっ!」

 

 

ほむらに斬り掛かるさやかの前に割り込んで、どうにか槍を滑り込ませる。しかし、得物同士が正面衝突したかのような激しい音が鳴り響き、あまりの重みに膝をついてしまった。

 

 

「杏子…………!」

 

「ぐっ、前よりだいぶマシになったじゃねえか、さやかぁ!」

 

「邪魔なの、どいてくれない? 杏子」

 

 

そう口にするさやかの背後から激しい水流が出現し、横殴りにアタシを吹き飛ばした。天井すれすれの放物線を描き、危うく壁に衝突するところで。

 

 

「ネット、50」

 

 

黒模様の網に勢いが押さえつけられ、残った反動で着地する。振り返ると、声のした方にはメイジの姿。

 

 

「助かったぜメイジ」

 

「礼を言ってる暇はないぞ」

 

 

アタシと入れ替わるように二人の元へ駆け込むメイジ。その向こうでは、剣を抑え込むほむらに向かって、さやかの周囲に展開されていた剣が射出されようとしていた。その数、8。間違いなくさやかの技量が上がっている。

 

 

「カウンター、オール30」

 

 

だが、直後に放たれた剣は、全てほむらの手前で弾かれる。ちょうどその位置にあった、弾丸の形をした黒いナニカが霧散するのを見て、さやかは憎々しげに名を呼ぶ。

 

 

「メイジぃ…………!」

 

「ほむらを敵だと言ったのはオレだ。裏切った責任はオレが取る。さやか、お前を止めてな」

 

「そう。じゃああんたから死ねばいい。あたしが独りで戦わないといけないのはあんたのせいだ。全部、ぜんぶ!」

 

 

赤黒い瞳に、メイジの顔が映る。それは確かなターゲットの変更を告げていた。ゆらりと笑うアイツにまともな意思が残っているかも怪しい。

 

その様子を見てか、メイジは念話でアタシを誘導する。だが、耳にしたのは。

 

 

(杏子。マミ達はもう呼んである。ここはオレがどうにかするから、ほむらを連れてあいつらと合流してくれ)

 

 

時間稼ぎ。メイジが、一人では止められないと悟っている証左だった。ある種自己犠牲とも取れるその言葉に、反射的に言い返してしまった。

 

 

(待てよ、アンタだけでどうにかするってのかよ! 無理に決まってんだろ!)

 

(いいから行け! 狙いがオレであるうちに!)

 

 

それでも、メイジの気迫に押され、足が一瞬ほむらの方へ向く。今やるべきは、防衛手段のないほむらの身の保証だ。それだけを念頭に行動すればいい。

 

さやかが剣をメイジへ向けたのを横目に、アタシは決心した。数メートル先にいるほむらの手を取り、さやかの入ってきた窓へ走る。

 

 

「行くぞほむら!」

 

「…………ごめんなさい、メイジ」

 

 

いつも無表情なコイツからは考えられないような悲痛な謝罪が、一瞬だけ空間を支配する。その声はさやかの血を吐くような叫びでかき消され、メイジの指を鳴らす音と共に開戦を告げた。スクリーンから出ていく役者さえ置いていくような憎悪(エゴ)絶望(エゴ)の衝突を、アタシ達はくぐり抜けていく。

 

 

アタシは窓の外枠に手をかけて、外へ飛び出した。つられてほむらの体もビルから抜け出る。あとはこちらへ向かっているマミ達と合流すればいい。

 

 

()()()()()()()()()()()

 

 

アタシは窓の外枠を手放すことなく、勢いに任せてほむらだけをぶん投げた。バランスを崩したほむらは、近くのビルの屋上に落下し、ゴロゴロと転がる。

 

 

「っ…………! 残るのね、杏子」

 

「初めて名前だけで呼んだな、ほむら」

 

「冗談を言っている場合じゃない! 貴女、死ぬわよ!」

 

「さやかを正気に戻すんだ、おいおい死んでられっか!」

 

 

顔を歪ませるほむらに新鮮味を感じて、少し驚いた。だが、こんなふうに心配されることなんてここしばらくなかったことで。二っと笑いかけて、最後にこう叫んだ。

 

 

「そんなに心配ならさっさと合流して戻ってこい! その方がアタシらも楽だしな!」

 

 

視線をフロアの中へ戻して、アタシはメイジ達のところへ突っ込む。ほむらなんてお荷物は、この場には不要だ。正気を失ったボンクラを止めるのはアタシとメイジの2人でちょうどいい。

 

アタシは僅かに聞き取れた「懲りないひと」というほむらの声を無視して、こちらに背を向けるさやかへと槍を振るう。それは殺すためではない、さやかを「救う」ための一撃として。

 

 

「さやかあぁぁぁ!!!」

 

 

 

-暁美ほむら-

 

 

「懲りないひと。また行くのね、美樹さやかのために」

 

 

再び建物の中へ戻っていった佐倉杏子に、聞こえないはずの声でそうこぼす。皮肉って告げたはずのその言葉が僅かに震えているのを自覚してしまって、乾いた笑いしか出てこない。

 

見届けたこともあった。見届けず去ったことも。何度も、何度も、貴女は美樹さやかのためにその命を散らして、私はそれを止めることもせず。今回もいなくなるのかと、無意味な介錯を看過し続けた。

 

きっと今回も。

 

 

「…………いえ」

 

 

そうは、させない。美樹さやかは魔女化していない。佐倉杏子は捨て身なんかじゃない。まだ、誰も死んではいないのだ。何より役立たずな私は、助けられたことをいいことに傍観者に成り果てるのか。

 

冗談じゃない。

 

役立たずで、助けられる側で、終わっていいものか。何度も繰り返せる私が偉そうに観客を気取って、他の魔法少女を見殺しにするなど、あまりに虫が良すぎる。

 

動こうとしない体を叱咤して、無理やり起き上がる。諦めるのは早すぎると、【時間停止】の準備を始める。

 

「次」を期待して、勝手に切り捨てた「今回」に私が償えるとすれば、今以外に何時だと言うのだ。誰も死なせず、せめてワルプルギスの夜(おわりのとき)まで連れて行く。それだけが、今だけを生きる彼女たちへの唯一の償いなのだ。

 

 

「【時間停止(とまれ)】!」

 

 

奮い立たせた意志をふいにする前に。私はよろけながらもなんとか魔法を発動させた。全ては、【時間停止】を無効化したあのシャボン玉のような【魔法】が発動していないことにかかっている。あれが発動していなければ、ほとんど時間をかけずに二人のところへ戻ってこれるはずだ。

 

足を踏み出す。直前までの諦念を放り捨てて、私は前へ進み始めた。だが。

 

 

「そんなに急いでどうしたのさ」

 

「!?」

 

「ねえ、ほむちー?」

 

 

今この瞬間まで完全に失念していた。あの【魔法】の持ち主は、美樹さやかを操る何者かは、私の殺害を補助する者。普通に考えて、私の単独行動を見逃すはずが。

 

敵の攻撃を覚悟しつつも、私は声のする方へ向けて拳銃を構えた。

 

 

「ほんと、魔法少女ってのはみんな好戦的だね」

 

 

だが、私が目にしたのはなんの武器も持たないただの少女だった。攻撃する素振りすら見せない。強いて言うなら、例のシャボン玉が周囲を覆っているくらいか。だが、少女と判別できたのはシルエットだけで、容姿はほとんど分からない。全身を影に覆われたかのようだ。

 

 

「びっくりした? したよねえ? キミはボクのこと知らないはずだもの。ましてこんな姿だし?」

 

「…………貴女は私のことを知っているかのような話しぶりね」

 

「知ってるよ? 暁美ほむら、さん」

 

 

それまでシャボン玉の中で浮いていた彼女は、私のいるビルの中央に降り立った。相変わらずはっきりと姿は見えないが、口が動いていることだけはなんとか認識できる。私は何をされるか警戒しつつ、疑問をぶつけることにした。

 

 

「貴女が美樹さやかをあんなふうにしたの?」

 

「気軽に緋月って呼んで。仮名だけどね。…………違うよ。あくまで()()は彼女の意思、もっと強くなりたいって何度も【魔法】を使った結果さ。暴走気味なのはその副作用」

 

「副作用?」

 

「元々ただの人間なんだよ? 化け物を圧倒できるくらい強くなり続けたらそりゃ化け物に近づくよねって。分かりやすいでしょ?」

 

 

おちゃらけたように喋る緋月とかいう少女に対して、私は苛立ちを隠せなかった。人が壊れていくのを分かっていて、それを楽しんでいたかのような言い方に嫌悪感を覚える。

 

 

「今のさやちーは魔法少女どころか、並の魔女だったら何もさせずに倒すことができるんだ。でも理性はどんどんなくなっていって。大変だったんだよ? 暴れないようにここまで連れてくるの」

 

「美樹さやかをそうしてまで、私を殺したいのかしら」

 

「キミを殺す? なんで?」

 

 

緋月の目的もまた私を殺すことだと解釈していた分、心の底からわからないとでも言うような返答に困惑する。だったら、目的はなんだというのだ。

 

 

「確かにキミが追い詰められた方が面白そうだとは思ったけど。別にキミはどうでもいいよ。()()()()()()()()()

 

 

死にさえしなければ。まるで意味がわからない。緋月が連れてきた美樹さやかは、まさに反対の行動を起こしているというのに。頭を悩ませる私などお構いなしに、緋月は喋り続けた。

 

 

「ボクは【正義は必ず勝つ(Evolve, your hero.)】の限界を知りたいんだ。もし無限に強くなり続けるなら、傑作じゃない? …………その点、あの魔法は有限だけど」

 

「そんな、くだらない探究心のために、美樹さやかを」

 

「くだらなくなんてないよ。結果論だけど、限界を知っておけば使い所を弁えて有意義に使えるでしょ?」

 

 

ダメだ、言葉が通じていない。美樹さやかの【魔法】にしかこいつの興味はないのだと、嫌でもわからされた。それも、まるで自分がこれから使うかのような言い草だ。

 

 

「でも、もうさやちーはあれ以上強くならないみたい。()()()()()()()

 

「どういう意味?」

 

「そのまんまの意味だよ。もう要らないから、あげる。あとは、キミ達が『あれ』をどうにかしてよ」

 

 

そう言うと同時に、再び緋月が宙に浮く。そして、シャボン玉ごと、彼女の身体が分解されていく。

 

 

「まあ、どうにかできるなら、ね」

 

「くっ」

 

 

無意味と知りながらも、分解されていく身体に向かって発砲した。しかし、シャボン玉の効力まで失せ始めているのか、全ての弾が静止する。ふふっ、と笑う緋月。

 

 

「次に会えるのはいつかなあ? そんなに遠くはないと思うよ? それまで楽しみにしててね。あ、」

 

 

去り際までべらべらと喋る奴だと、私は緋月を睨みつけていた。が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の最後で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最悪の言葉を聞く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!!」

 

 

()()が何を意味するかなど、考えるまでもない。完全に消え去ったシルエットになど目もくれず、最早意味のなさない【時間停止】を解除して、私は一度は抜け出したメイジたちのいるビルへ体を飛び込ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、もう手遅れだと知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには、四肢を剣で貫かれた杏子と。

 

 

「さよなら、メイジ。」

 

 

変身が解除され、両膝をつくメイジ。その顔は項垂れたまま、ピクリとも動かない。

 

そして、美樹さやか。

 

 

彼女は手に持つ剣の先に引っかかっていた何かを、私の足元へ転がしてきた。それは、ペンダント。しかし中央の宝石は真っ二つに割れてしまっている。

 

 

「それ」が瑠璃色であることに気づくのと。「それ」が輝きを失うのは、同時だった。

 

 

「…………最期まで、強かったよ」




「まえがきに登場させることで、『さよなら』の対象からメイジを外す。なかなか面倒くさいミスリードね」

「口調が似てっからマミかほむらかわかんねえよ」

「一人称と他人の呼び名でしかキャラを判別できないって欠陥でしかないと思うの」

「だからどっちだよ!」

(わたし)よ」

「だあァァァ!!!」

「で、結局どっちなんだい?」 パァン


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stage20 結末へのルート

 

-美樹さやか-

 

 

ああ、やっとだ。やっと邪魔者はいなくなった。今度こそ、暁美ほむらを消せる。暁美ほむらを殺して、みんなを助けるんだ。

 

 

…………助けるって、誰を、だっけ?

 

 

今更どうでもいいか。私が見たいのは暁美ほむらの死に顔。それさえ見れば十分。その先は緋月が示してくれる。

 

ツギニ、コロサナキャイケナイモノヲ。

 

 

 

-暁美ほむら-

 

 

「なにやってんだ、バカ…………!」

 

 

口に溜まった赤い何かを吐き出しながら、かすれかすれに告げる声を私は聞いた。四肢を地面に縫い付けられ、満足に体も動かせない彼女は、最後の力を振り絞って、思考停止していた私の脳を揺さぶった。

 

 

「アンタのために死んだ()()を、無駄にすんじゃねえ!」

 

 

私の意識が、そこに投影される真っ二つの宝石が、メイジが『誰のために』死んだのかを無理やり思い出させた。そしてその『誰か』に、次こそ刃先が向けられることも。

 

 

「ふっ!」

 

 

ヂッという音が、反射で剣を避けた私の耳元で鳴る。間一髪で頬だけを割いたサーベルは、そのまま持ち主の元へと戻っていった。残存する精神のすべてを私の惨殺で占められた、一人の狂戦士(バーサーカー)のところへと。

 

 

「ジブンカラモドッテクルナンテズイブンヨユウダネ」

 

 

もう、まともに話す能力も残っていない、異形ともいえる存在がそこにはいた。元々青かった衣装を返り血で赤く染め、髪に装着されているソウルジェムは半分以上が黒に滲みだし、目が混濁した赫で塗りつぶされている。そして、彼女の持つ剣は刀身が黒く染まり、刃先は鋸のような形状へと。

 

私が知る美樹さやかなど、影も形も残ってはいなかった。あるのは、破壊の味だけを知る、彼女とは対称的な魔法少女のみ。

 

 

「ソンナニシニタイノ? マア、ソノホウガアタシモラクナンダケドサ」

 

「死んでなんかやらないわ。私はまだ生きる理由がある。そのために支払った犠牲を、無駄になんかしない!」

 

 

人の死に慣れている。それがこのような形で働くことに吐き気さえ覚えるが、おかげで思考は冷静だった。メイジのためにも死ぬわけにはいかないという義務感の方が寧ろ勝るくらいに。

 

もうシャボン玉は残っていない。リスクは伴うが一応は時間稼ぎができるし、『今』に巴マミ達を集めることも可能ではある。

 

 

だが。それでは彼女を倒せない。二人の魔法少女を圧倒する彼女に数で挑んでも無理がある。まして巴マミ達は遠距離型。このフロアでは本来の力で戦うことが出来ない。

 

 

私は【時間停止】を使って、佐倉杏子のもとへ向かい、その身体を貫いているサーベルを引き抜く。「があっ」と痛みをこらえる彼女に、私は言う。

 

 

「美樹さやかを倒すわ。手伝って」

 

「さ、算段があんのかよ、あんな化け物相手に」

 

「ある。勿論、私達だけでは到底太刀打ちできない。なんとか時間稼ぎをすれば」

 

「時間稼ぎなんて出来るわけねえだろ! ここまでやって、マミ達も来てねえのに!」

 

 

そう、緋月と話していた時間分の時が進んでいれば、本来は巴マミ達も到着していたはずなのだ。完全に引っ掻き回された結果だが、まだ勝機はある。【時間停止】が有効な今なら。

 

 

「【時間停止(私の魔法)】をフルに使って防御に徹する。そうすれば、さっき以上の時間は稼げるし、巴マミ達もここにやってくる。その後は、また伝えるわ」

 

「本当に、どうにかなるんだろーな」

 

「美樹さやかをここから出してしまうよりは、よっぽど可能性があるわ。今は信じて」

 

 

私の肩を借り、やっとかっとで立ち上がる佐倉杏子。この体にムチを打つのは申し訳ないと思うが、その『目』は借りられる。

 

 

「私の死角からくる攻撃を教えて欲しいの。それなら、確実に全てを避けられる。そして、巴マミ達の来る気配がしたら私に知らせて」

 

 

今の美樹さやかは、攻守ともに並の魔法少女では太刀打ちできない。私が【時間停止】するタイミングを間違えれば、最悪即死もありうる。だから、それを佐倉杏子に補ってもらう。即ち、私の『目』になってもらうことで回避率を格段に上げるのだ。

 

万が一にも佐倉杏子が狙われないよう、指示は念話でするよう伝え、時を戻す。

 

 

「こっちよ」

 

 

正真正銘、私自身が最後の壁だ。私が戦闘不能になれば彼女が何をしでかすか見当がつかないし、なにより私の時間遡行はこの周で終わりを迎えるだろう。それだけは、絶対にあってはならない。まどかのために戦うと決めたのに、『ワルプルギスの夜』にも辿り着かず死ぬ未来など。

 

「誰にも頼らない」という信念を今だけは捨てる。勝ち取りたい未来のために。今を確かに生き抜くために。

 

 

「汚れのない意思がどれほど強いか、教えてあげる」

 

 

見つけたとばかりに獰猛な笑いを浮かべる美樹さやかに無理やり不敵な笑みを返し、私は戦いという名の時間稼ぎを始める。絶望的に不利な、綱渡りのような時間稼ぎを。

 

 

 

-巴マミ-

 

 

(分かった、すぐ向かうわ)

 

 

美樹さんが現れた、という情報を得て、わたしと鹿目さんは指定された目的地へと向かう。その足はかなり焦り気味となっていた。

というのも、途中から璃乃くんと念話が出来なくなったためだ。戦闘に余裕がなくなったのかもしれないし、考えたくはないが、最悪の可能性も。

 

同じことを考えていたのであろう、鹿目さんの口からでかかったそれを安心させるよう優しく止めて、「今は間に合わせることだけを考えましょう」と笑った。

 

その直後。

 

 

(巴マミ、聞こえる?)

 

(暁美さん、なの?)

 

 

明らかに今までとは違う声のトーンで、暁美さんが語りかけてきた。口調までもが変わり、もはや別人のような印象を受ける。やや戸惑いながらも、なんとか聞き返した。とはいえ、答えもわかりきってはいる事だったが。

 

 

(ええ。美樹さやかを倒す作戦を立てた。二人にも協力して欲しい)

 

(待って、璃乃くんは? どうして念話に応答しないの?)

 

(…………)

 

 

そこからの僅かな無音で、わたしは何があったのかを悟った。まさに、「最悪の可能性」が起こったというわけだ。胸に突き刺さるような痛みを堪え、なるべく明るい調子で返す。

 

 

(やっぱり後で聞くわ。美樹さんが最優先、よね)

 

(…………珍しく冷静ね)

 

(今取り乱しても仕方ないことでしょう? それより、早く作戦を教えて)

 

(その前にひとつ約束して。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

その言葉の重みがダイレクトに伝わる。暁美さんは表こそこう言っているが、本当は確信しているに違いない。美樹さんは殺さなければ止まらない、と。

 

わたしは一瞬、葛藤に震えた。かつて助けた彼女を、今度は殺さないといけないの? わたしの助けた命は無意味だったの?と。でも。

 

 

(美樹さやかは【魔法】に汚染されている。もう、限界なの。…………巴マミ、貴女の手で楽にしてあげて)

 

 

暁美さんから提示されたのは、「殺す」のではなく、ある種の「救い」だった。美樹さやかを助けるために、その息の根を止めてくれ、と。

 

 

……………………。

 

 

分かった、とだけ返したわたしは、彼女からもうひとつ「お願い」を聞いた。その声だけは、慈愛に満ちていて。

 

 

(まどかには、全てが終わるまで何も伝えないで欲しい。まどかは優しすぎる。きっと、私の作戦を止めようとするだろうから)

 

(…………了解)

 

 

あなた、本当に鹿目さんのことが大切なのね、と言いかけてやめた。鹿目さんを裏切る、とも取れるこの言葉にそう返すのは、あまりに無粋だと思ったから。

 

 

(とにかく二人は私達のところへ向かって。そして、私達のいる建物まで来たら、中に入らず佐倉杏子に連絡。作戦はその時に伝えるわ)

 

(お願いだから、死なないでね、暁美さん)

 

(…………わかってます)

 

 

一瞬、敬語に戻った暁美さんに笑いかけて、念話を切る。そしてすぐに、鹿目さんへ告げた。

 

 

「暁美さんが時間稼ぎをしてくれてる。急ぐわよ!」

 

「はいっ!」

 

 

そうしてわたし達は向かう。最後の戦いの場へと。




「いよいよ最終決戦って感じか。オレいないけど。」

「美樹さやかは暁美ほむらの作戦通り倒されてしまうのか、結局【正義は必ず勝つ(Evolve, your hero.)】にはどんな意味があったのか。そして、ワルプルギスの夜をどう迎えるのか。」

「そして、宇尾野緋月は何者なのか?」

「1章も残り5話前後だそうだ。最後まで楽しんでくれ」


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stage21 相対す究極の銃撃

 

-佐倉杏子-

 

 

ただ、無力だった。()()さやかの前では。

 

右の一薙ぎが床を抉る。投射されたサーベルが舞い上がったコンクリートを砕き、魔法陣から現れた激しい渦が壁面に人の頭ほどの(あな)を生んだ。

 

まさに、暴風。美樹さやかの繰り出す全ての攻撃が、ひと一人など塵のように消し飛ばしかねない威力を持っていた。このような狭いフロアでそれを避け続けるのは不可能に近い。

 

それでもアタシが生きていられるのは、その全てを一身に引き受けているほむらがいるからだ。今だけは機能するらしい【時間停止】によって、絶殺の一撃をギリギリでいなしている。それでも、全神経を張り巡らせ続けてはじめて成立する離れ業。そう何分も持つとは思えなかった。

 

 

(5時、サーベル!)

 

 

念話による指示で、ほむらが後方から舞うサーベルから身体を逸らす。その初動が遅れ始めているのが嫌でも理解できてしまって、アタシは唇を噛んだ。アタシもほむらも、もう限界だ。いつ被弾してもおかしくないところまで追い詰められている。

 

 

なんで、なんでアイツの横に居てやれない? さっきもそうだった。アタシがさやかに動きを封じられなければ、メイジが斃れることはなかった!

 

 

せめてアンタは逃げてくれ、と口走りそうになるが、辛うじて堪える。「メイジが誰のために死んだのか考えろ」と言ったのは自分だ。あれがほむらの回答なら、アタシは応える義務がある。最後まで、或いは最期まで。

 

そしてどうやら、結末は最期(こうしゃ)となるようだった。

 

 

「ハアァ!」

 

「がぁっ!」

 

 

ほむらが正面から飛んできたサーベルを躱しきれず、続けざまに放たれた衝撃波をもろに食らう。もはやクレーターの密集地帯と化した床をほむらの身体はゴロゴロと転がり、止まった。ダメージが酷いのか、立ち上がる様子は見られない。

 

 

(ほむら!)

 

(来ないで! …………これでいいの)

 

(いいわけねえだろ! アンタが死んだら、メイジはなんのために…………!)

 

 

止めをさすつもりか、ほむらの元へゆっくりと近づくさやか。ほむらの返答を諦念と受け取ったアタシは、千切れると錯覚するほどの痛みを押し殺して、二人の間に割り込むため、脚に力を溜める。

 

 

せめて、アタシが盾になってでもほむらを。。。。。

 

 

だが、ほむらの抱くそれは諦念などではなかった。最初からこのために戦っていたのだから。そう。

 

 

()()()()()()()

 

(佐倉さん、暁美さん!)

 

 

巴マミの、声。最後の最後で、可能性の糸は切れなかった。あと数十秒もあれば決していただろう結末が、根本から覆る音をアタシは聞く。

 

 

「反撃、開始よ」

 

 

即ち、暁美ほむらの決意の(こえ)を。

 

 

 

-巴マミ-

 

 

誰かに手を掴まれると同時に、何もかもが動くことを忘れた空間がわたしを包む。握られた手の先にいる人物に、わたしは驚嘆した。

 

 

「暁美さん!」

 

「なんとか、間に合ったみたいね」

 

 

どこか安堵したような様子で暁美さんは言った。その身体は傷だらけでボロボロで、必死で抵抗していたのが伝わってきた。僅かに顔を歪めているのにも痛々しさを感じられる。

 

 

「佐倉さんと、その…………璃乃くんは?」

 

「佐倉杏子には、まだやってもらうことがあるから残って貰っているわ。メイジは、分かるでしょう?」

 

「…………直接聞くまでは、と思っていたけれど。報いないといけないわね、彼のぶんも」

 

 

暁美さんは頷き返して、鹿目さんの手も握る。一瞬の解除と再び発動された【時間停止】の中、驚いたように見つめる彼女を見つめ、暁美さんは語り始めた。

 

 

「作戦を話すから、よく聞いて」

 

 


 

 

「…………まさに、総力戦ね」

 

「そうでもしなければ、美樹さやかは倒せないわ。そして作戦の肝、とどめは貴女の役目。…………いける?」

 

 

彼女の質問には二つの意味がある。

ひとつは純粋な難易度の問題。もうひとつは、先程の問いにも通じている。

 

 

『約束して。美樹さやかが死ぬことになっても、その手を止めないと』

 

 

この約束の答えを今一度求められているのだと分かって、わたしは大きく頷いた。

 

 

「いけるわ。美樹さん自身、誰かを傷つけることを望んではいないはずだから」

 

「マミさん」

 

 

返答はあくまで暁美さんに向けたものだったが。

振り返ると、鹿目さんがわたしの方を悲しそうな目で見つめている。直後、深々と頭を下げて。

 

 

「さやかちゃんを、よろしくお願いします」

 

「…………分かったわ。鹿目さん」

 

 

突然の鹿目さんの行動に驚く反面、この行為の意味をなんとなく理解出来た気がした。もしかしたら鹿目さんは、美樹さんがもう元に戻らないことを察しているのかもしれなかないと。そして、その死をわたしに託す、そう信頼してくれていると。

 

こんなの、断れるわけないじゃない。二人に聞こえない小さな声で零して。わたしは鹿目さんの肩に手を置く。

 

 

「美樹さんのことは、わたしに任せなさい」

 

 

顔を上げた鹿目さんにしっかりと頷き返して、この場にいる全員を勇気づけるように、そう宣言した。

 

 

-暁美ほむら-

 

 

杏子も含め作戦を伝え終えた私は、美樹さやかの背後に立ち【時間停止】を解除する。

 

 

「たった一度攻撃を当てたくらいで、私を倒した気にならないことね」

 

「アンタッテシブトイヨネ、ホント」

 

 

声に振り向いた美樹さやかは、悪鬼のような形相でわたしにそう吐き捨てた。嵐のような攻撃が再び私を襲う、

 

 

「(作戦開始だ!)」

 

 

その寸前に佐倉杏子が声を上げた。中にいるわたしにも外にいる二人にも、そして、美樹さやかにも届くように。

 

 

「…………ナンデウゴケテルワケ? ウゴケナイヨウニケンヲブッサシテオイタノニサア」

 

「刺し損ねたのかもな? アンタ、どんなに強くなってもボンクラのままみてえだし。抜けてんだよ、そーいうとこが」

 

「ウルサイ、ウルサイ! アンタナンテ、モウアタシノ敵ジャナイ! …………ブッツブシテヤル」

 

 

今の美樹さやかは、複数体の敵を相手することに長けていない。その証拠として、メイジを倒したのも佐倉杏子の動きを封じてからだった。恐らく緋月が彼女に魔女だけを倒させ、一対一の戦闘に特化させたが故だ。

 

つまり、一度敵を指定すると、その相手にしか目につかなくなる。直接接触しない限りは、もう私の【時間停止】には気づかないだろう。

 

言うまでもなく、満身創痍の杏子ではあの猛攻を凌ぐことなど1秒たりともできない。だがさやかをその場から一歩も動かさなければ、話は別だ。

 

 

「うらあ!」

 

 

フロアを貫通するほどの長さの槍、その群れがさやかと杏子の左右に展開され、2人だけを通す一本道を生み出した。肝心のさやかを塞ぐ槍は存在せず、一見ただの自殺行為とも取れるが。

 

 

「ガッ!?」

 

 

槍が生み出した障壁は隙間だらけだ。人が通ることは出来なくとも、()()()()

 

 

建物の外からフロア内全ての窓を破って、まどかの放った矢がさやかを攻撃する。全方向から流星群の如く襲う矢の雨が自分に明確なダメージを与えうると判断したのか、

 

 

「ジャマダァ!」

 

 

さやかは槍の群れの外側を覆うように展開された、幾つもの魔法陣によって水の壁を作り出し、外からの攻撃を完全に遮断する。だがその直後。

 

 

「目の前の敵を忘れてんじゃねえよ!」

 

 

今度は杏子が、生成した槍を投射した。通常時の数倍の長さを持ったそれは真っ直ぐ美樹さやかの元へ。

 

 

「ソンナンデアタシヲタオセルトデモ?」

 

 

たかが槍一本、弾いてしまえば終わりだと、さやかは剣を持つ手を無造作に振るった。それが槍と接触した瞬間、

 

 

「暴れろ!」

 

 

杏子の槍は普通のそれとは違い、多節棍の役割も備えている。サーベルとの接触による衝撃で、柄が分裂し、間から鎖が伸びた。蛇がのたうち回る時のように槍が暴れだし、床や天井を殴りつける。

 

元々さやかの攻撃によって削りに削られ、限界までひび割れていたコンクリートは、とうとう形を崩して崩落した。その場にいたさやかをも巻き込んで。

 

 

「ソンナ、バカナ」

 

 

その声は、フロアの下にあった巨大な光源に向けて放たれたものだ。私にとってはよく見慣れた、マミ必殺の魔法。

 

 

「【ティロ・フィナーレ】」

 

「マダダァ!」

 

 

唯ならぬ威力を秘めていると悟ったのか、さやかは全神経をこの光源の防御に費やした。杏子のいるフロアにあった魔法陣を全て消し去って、【ティロ・フィナーレ】の防御壁として水流を展開しようとする。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「!?」

 

 

【ティロ・フィナーレ】と接触するまでの一瞬。

 

だが、だが。その僅かな時間さえも、さやかは支配してのけた。

矢を防ぐため周囲に水壁(すいへき)を展開し、目下の魔法を、二刀から放つ衝撃波で吹き飛ばそうとする。ここまでで作戦が終わっていれば、完璧に等しい対応。

 

 

 

ただ一つ、彼女が判断ミスをしたのならば、「最初から見えている攻撃を本命にするわけがない」と気づかなかったことだ。

 

 

 

突如、【ティロ・フィナーレ】の光源から、十本のリボンが飛び交った。それは、彼女の背後にある八のサーベルを抑え込み、両手に握る二の刀身を腕ごと縛りこんだ。瞬きほどのほんの短い時間、美樹さやかを完全に拘束する。

 

 

「フザケンナ、アタシガ、コンナ!」

 

 

無理やりリボンを振りほどこうと踠く彼女の頭上、コンクリートの塊1枚を隔て。

 

 

本命の【ティロ・フィナーレ】が、花を咲かす。

 

 

「さよなら、美樹さやか」

 

「せめて安らかに逝って、美樹さん」

 

 

【ティロ・フィナーレ】を放った直後、【時間停止】を利用して上のフロアまで移動したマミは、私が掴んでいた手を解き、涙を拭ってから、両手で引き金を引く。二つの【ティロ・フィナーレ】の衝突が、さやかを包み込んだ。

 

時を止めている間に二方向から強力な魔法を叩き込む、私と巴マミに相性がいい連携、魔法の「衝突(コンフリット)」。これはその最上位版。

 

名を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相対す究極の銃撃(コンフリット・ティロ ・フィナーレ)】。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

、、、、、、、、、、、、、、、、ァ」

 

 

二つの銃弾の衝突面、そこを起点に、十数メートルもの範囲に波動が広がる。

 

そしてビル全体の崩壊が進む様を、私達はまどかのいたビルの屋上から見届けていた。あの様では、美樹さやかの遺体も禄に残りはしないだろう。

彼女が死んだ痕跡を消してしまうべきか思案していると、ふと、魔法の使用過多が頭に浮かぶ。見ると、佐倉杏子の救出にまで【時間停止】を用いたためか、ソウルジェムの濁りがかなり酷くなっていた。

 

 

「ほらよ」

 

 

声に振り向き、飛んできたグリーフシードを受け取る。意外にも、寄越してきたのは佐倉杏子だった。

 

 

「アンタのおかげで生き延びたんだし、これで貸し借りなしだ」

 

「…………ありがと」

 

「ほら、アンタらも使いな! 相当魔法使ったろ」

 

「気前がいいのね、佐倉さん」

 

「うっせ、たまたま持ってただけだし!」

 

 

ほんの少しの間笑い声が上がるが、各々がソウルジェムの穢れを移し終えると一斉に黙り込んだ。得たものはなく、失ったものばかりが多すぎて。それを言葉にすることが躊躇われた。

 

そうした中、口を開いたのはまどかだった。

 

 

「あの、さやかちゃんは」

 

 

まどかは巴マミへ問う。彼女の最期は、どうだったのかと。

 

 

「きっと、救われたはずよ」

 

 

それだけ言い残して、巴マミは目を閉じた。恐らくは美樹さやかへの弔いを示すために。この場にいる全員が、死んだ彼女のことを思う。

 

 

信念を曲げられ散っていった、一人の魔法少女のことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-美?さ??-

 

 

,

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「【「正義」は必ず勝つ(Evolve, my hero.)】」



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stage22 その指揮は誰がために

「宇尾野灯月」がいつしか「宇尾野緋月」に変わってしまっていたのですが、修正が楽なので「緋月」にしました。読みは変わりません。


-暁美ほむら-

 

 

ザシュ、バキリ。そんな音が聞こえた。

 

誰かと、なにかが斬られた、響いてはならない宣告。

 

 

「美き」

 

 

完全に不意をつかれた。そう思った瞬間にはもう、美樹さやかの一撃は振り下ろされていた。【時間停止】が間に合わない、それほどの絶対的なスピード。恐らく残っている限り()()()()()()()が、弾ける。

 

返り血で濡らした衣装を己の血で塗り直しても、左腕が千切れ満足に戦えなくても、彼女の瞳だけは、鮮血(あかく)て。それは本来の美樹さやかの眼ではないのに。

 

皮肉にも、諦めの悪さだけは彼女のままだったと理解させられる。

 

 

「暁美、ホムラァ!」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()。あまりに今更ながら、思い知った。

私達は彼女の底力を見誤るべきではなかった。彼女の意志を甘く見るべきではなかった。

 

 

 

彼女の「正義」を、侮るべきでなかった。

 

 

 

それがまたひとつ、屍を産む結果となったのだから。

 

 

「嘘、」

 

 

その声は誰のものか。ひとつ言えるのは、それが「嘘」ではないこと。間違いなく、今起きた「真実」。

 

砕け散ったソウルジェムは橙色。庇うように両手を広げた彼女は、私の目の前で金色の髪をなびかせ、剣を振り下ろしたままの体勢だった美樹さやかの胸へと崩れ落ちた。

 

 

「ハア、ハアァ、………………? マミ、サ、ん?」

 

 

自分の肩に頭を乗せる存在が気がかりだったらしい。今ばかりは、不思議そうに彼女を見下ろす。誰が殺したのか、そんなことも自覚しないまま。

 

意識などとうに手放しているだろうと思われた『命の恩人』は、辛うじて頭を持ち上げ、美樹さやかの耳元へ、

 

 

。。。。。。。。。。。。。、美樹さん」

 

 

その最期の声を聞くことは叶わなかった。恐らく届いたのは骸を抱きかかえている彼女のみ。だが、私は直感的に察してしまう。彼女が何を言い残したのだとしても。

 

それが報われる結果だけは、訪れることがないだろうと。

 

 

「え、マミさん、どうしたんですか? 冗談ですよね、死んで、ませんよね?」

 

 

美樹さやかは血でべっとりと染め上げられた手で、魔法少女の姿が解除された『先輩』、その制服を汚す。無情にも、彼女が正気に戻るほど、その瞳から血の色が抜けるほど、その分現実の血溜まりが拡がっていく。

 

 

「さやか…………」

 

「ねえ、杏子? 嘘だよね、マミさんが」

 

「っ………………、死んだよ」

 

「う、うああああああ!」

 

 

抱き留める『巴マミ』の遺体に爪を立て、美樹さやかは泣き叫ぶ。その痛々しい姿に、佐倉杏子もこれ以上は何も言わない。あまりに残酷な結末が、彼女を襲って。

 

 

だが、取り返しのつかないことに、破局の種は朽ちてなどいなかった。本当の地獄はこれから。

 

それこそ、『(シード)』がもたらす、地獄。

 

 

巴マミの死が、起動条件(トリガー)を引いた。

それは魔女への、引き金。

 

 

「…………そうだ、あたしがもっと強かったなら」

 

「さや、か…………?」

 

 

突然不吉なことを言い出した美樹さやかに、佐倉杏子は戸惑いを隠せない。それは、私とまどかも同様だった。

 

 

「【正義は必ず勝つ(Evolve, your hero.)】で治癒魔法が使えるようになれば、マミさんは生き返る。絶対できるよ。だって、そのおかげで水の魔法も扱えるようになったんだし」

 

 

ケタケタと壊れた笑いをするさやか。目から光が失せ、色が失せ。それは、彼女の髪に留まる、穢れきる寸前のソウルジェムと同じ色で。

 

 

まずい。

 

 

彼女は自らの【魔法】で、巴マミを復活させようとしている。だが、止めなければならない。

 

それが無意味であると知っているから、ではなく。

もう一度魔法を使えば、美樹さやかは。

 

 

「【正義は(Evolve,)】」

 

「くっ!」

 

 

反射的に足が動いていた。

 

佐倉杏子から受け取ったグリーフシードを持って、美樹さやかへ駆け寄る。あの短い詠唱を終える前に、グリーフシードが穢れを回収できるかは分からない。

 

それでも、やらなければ。これ以上は誰も、死なせるわけにはいかない。

 

 

「【必ず(your)】」

 

「さやかっ!」

 

 

もう、一歩分もない。腕を伸ばせば、届く。

 

 

「【勝つ(hero.)】」

 

 

その声が、響くと同時。私の手は辛うじて美樹さやかのソウルジェムに触れていた。だが間に合ったと安堵することは、できない。

 

 

「そんな、」

 

 

グリーフシードは確かに穢れを吸収しているのに、美樹さやかのソウルジェムの輝きは一向に現れなかった。

 

 

なぜ? 純粋に魔法を使っただけなら、継続的に穢れは生まれないはず…………!

 

ダメだ、グリーフシードの方も限界が…………

 

穢れが溜まりきったグリーフシードからは再び魔女が生まれる。そう分かってはいても、ソウルジェムからどかすことはできなかった。

 

見捨てたくない。その一心で私は、グリーフシードで穢れを吸い続け。。。。。

 

 

「あたしってほんと馬鹿だな」

 

 

ひどく寂しげな声が、耳朶を打った。()()()()()()()()()の過程で起こる暴風に、美樹さやかの髪が巻き上がり、顔がはっきりと映る。闇色の閃光が爆発する直前、涙を流して笑う美樹さやかは。

 

 

「ごめんね、ほむら」

 

 

そう、言い遺した。

 

 

 

-?????-

 

 

「ついに、棺桶に入れる準備がついに完了した」

 

「あとは、キミ達が倒すだけだよ? あの人魚を」

 

「そうすれば、…………おっと」

 

「口に出すのは野暮ってもんだね」

 

 

 

 

「さあ、奏でておくれ。最高の終末曲(カタストロフ)を」

 

「観客のボクが、喝采を贈ってあげるからさ」

 

「演奏者は揃っていた。でも、足りなかったんだ。(すべて)を終わりに導く、誰か」

 

「つまりは指揮者が」

 

「本当に面白い人材を見つけたと思うね」

 

「…………美樹さやか。適任者はキミしかいないし、なれないよ。最高の指揮者(まじょ)には」

 

 

 

「……………………」

 

 

 

「さて、ボクは特等席に座ってようか」

 

「これだけを聴くために待ってあげたんだ」

 

「早く聴きたいな」

 

「どんな旋律でもいい。観客(ボク)を楽しませてくれるなら」

 

「だからね、美樹さやか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その指揮は観客(ボク)がために、だよ?」

 

 

 

-暁美ほむら-

 

 

表面の装飾が剥がれ落ちるかのように、ソウルジェムの奥からグリーフシードが姿を現した。どこまでも、救いようの無い黒を以て。

 

竜巻ほどの強風とともに一瞬で魔女結界へ巻き込まれた私とまどか、佐倉杏子は、その最深部へと誘われる。コンサートホールのようにも見受けられるこの場所で待ち受けていたのは、『ワルプルギスの夜』に次いで最も目に焼き付いた、あの魔女。

 

人魚の魔女、オクタヴィア。使い魔のオーケストラに囲まれ、指揮棒代わりの剣を振る、哀れな指揮者。

 

ただ一つこれまでと違うのは、魔女化した彼女さえも入れてしまうような棺桶がひとつ、背後に置かれていること。

 

 

「なんだよ、アレは」

 

「…………美樹さやかよ」

 

「あの、魔女がか」

 

「ええ」

 

「………………」

 

 

今更偽っても仕方の無いことだ。魔法少女が魔女になる、その光景を見てしまった二人には。

呆然と佇むまどかは、絞り上げたようにかすれた声を上げる。

 

 

「あれが、さやかちゃん…………?」

 

「魔女となった今、もう倒すことしかできない。まどか、弓を取って」

 

「そんな、無理だよ! だって、さやかちゃんだよ!? ねえ、なんでそんなに平然としていられるの、ほむらちゃん!」

 

 

平然なわけない。そう怒鳴り散らしたかった。暴走した美樹さやかを止められず2人の死者を出し、本人も魔女化して。その元凶が自分であるという苦しみに、発狂しそうだと。

 

それでも。

 

 

「あれを美樹さやかだと思えば、殺されるわ」

 

 

まだ、まどかと佐倉杏子が残っている。この二人は、殺させない。その意思で、私はまどかを背に立つ。

 

 

「まどか。貴女がやらないなら、私がやるだけよ」

 

「~~~~~~~~!」

 

「覚悟ができたら、援護して」

 

 

そうして盾を構えた私の横で、槍を召喚する杏子。

 

 

「最後の確認だ。さやかはもう、助からねえんだよな」

 

「そうよ」

 

「じゃあ、やるしかねえか」

 

 

極限まで感情を殺した声で呟いて、杏子は左手にもうひとつ槍を召喚する。槍を固く握る両拳を見届けて、正面に向き直った私は告げた。

 

 

「これで、終わらせる…………!」

 

 

オクタヴィアの雄叫びが開戦の合図となって、私達、そして魔女の使い魔が動き出す。たった3人の最終決戦が幕を上げた。

 

誰も救われない、最終決戦が。




年内には一章を終わらせたい所存です。


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stage23 絶望、再来

-佐倉杏子-

 

 

内心は言葉で表すことの出来ない激情に支配されそうだというのに、嫌悪感を覚えるほどに思考は冷静で、身体は目の前の敵を効率よく屠った。見たくないものから目をそらすためか、それさえもろくに意識しないまま。

 

 

「消えな」

 

 

右、左、右。薙ぎ払っては使い魔を両断する。敵の銃弾は、振り終えた右の槍を地面に突き刺し、それを軸に体を空中で回転させ回避。勢いを殺さず左の槍が弧を描き、残りをまとめて消し飛ばす。これで計30体。

 

 

「…………」

 

 

アタシは着地後灼ける右手を振るって冷まし、再び槍を握る。そのわずかな時間で後続が距離を詰めてきていた。

 

 

「まだ湧くのかよ」

 

 

アタシはやや乱れた息を整えつつ、そうぼやいた。

 

一体一体のスペックは大したことがないものの、数が多すぎる。その上、攻撃が多彩だ。ある個体は管楽器から奇怪なメロディと共に弾丸を放ち、別の個体は打楽器の脚を掴みハンマーのように振り回す。

 

加えて、雑魚どもを薙ぎ払った先の、一体の使い魔。

 

 

「アンタ、本当にただの使い魔か…………?」

 

 

ヴァイオリンとその弓を盾と剣の如く構え、顔を黒く塗りつぶされたタキシード姿の使い魔が、こちらに攻撃を加えるでもなく佇んでいる。大きさこそアタシと大差ないものの、かかってくる圧は魔女並みといっても過言ではない。

 

 

アイツとは本気でやらなければ死ぬ。

 

 

そう確信し、槍を構え直した直後、無数のピンク色の矢が雨のように降りしきった。アタシの周囲にいた使い魔の多くが倒れ伏し、消えていく。

 

 

「まどか!」

 

 

振り向くと、涙で目を腫らしながらも弓を構えたまどか。新たな矢を呼び出して、アタシの呼びかけに応える。

 

 

「私が他の使い魔を倒すから、杏子ちゃんはあれを!」

 

「そりゃまあ、アタシが適任か」

 

 

はあ、とこれまでの分の溜息がまとめて漏れ出た。倒すどころか、まともに相手するのも骨が折れそうな敵。だが。

 

 

「ほむらもやばそうだし、弱音吐くわけにはいかねーな」

 

 

ほむらは一人で魔女と対峙している。さっさと合流して負担を減らすためにも、一々この程度の敵に屈している場合ではない。

 

 

「それに、アンタよりはマシだろ? さやか」

 

 

姿かたちも変わり果てたかつてのチームメイトに声を掛ける。「殺すしかない」のなら、今はそれだけに徹する。感情の整理は…………後回しでいい。

 

アタシはポケットから取り出したスティック状の飴を口にねじ込んで、穂先を使い魔に指し示す。

 

 

「さっさと倒して、合流してやるか」

 

 

 

-暁美ほむら-

 

 

攻撃を続けることが馬鹿らしく感じられるほどに、オクタヴィアは厄介だった。

 

 

「魔女になって能力が格上げされたのだとしたら、かなり厄介ね」

 

 

銃弾を撃ち込もうが爆弾を投げ込もうが、ダメージが入った傍から傷が癒えていく。一瞬とも言うべきその回復速度はあの【魔法】を連想させる程だ。

 

持久戦は悪手。一撃であの魔女を叩き落とさねば、私達に勝機はない。しかし同時に、そんなものは存在しないことも分かっていた。

 

私達の魔法で、【ティロ・フィナーレ】が最も火力がある魔法であったこと。その使い手が命を落としていること。なにより、魔女になる前の美樹さやかすら、それで倒しきれなかった事実。

 

つまりは、巴マミ抜きで【 相対す究極の銃撃(コンフリット・ティロ・フィナーレ)】を上回るダメージを叩き出さなければならない。現状、不可能に等しい難題だ。

 

 

「まどかなら、…………いえ、駄目よ」

 

 

『ワルプルギスの夜』を倒す程の力を秘めているまどかならば、あの魔女も倒せるかもしれない。しかしまどかは先の作戦から魔力を消耗しすぎている。オクタヴィアが倒れる前にまどかまで魔女になってしまえば。

 

いや、それ以前に。

 

何度使ったかもわからない【時間停止】でオクタヴィアを爆撃する。唸りながら振るわれる巨大なサーベルを横跳びで避け、安全圏に退避。

 

 

「まどかの未来を守ることが、私の存在意義だから」

 

「G,raaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

 

叫声を挙げ、剣を掲げるオクタヴィア。地面から新たな使い魔が呼び出され、私の動きを制限しようとする。それらを予め設置していたリモコン爆弾で片付けて、私は追撃をかけるべくマシンガンを構えた。

 

 

 

-鹿目まどか-

 

 

「まどか! ほむらの援護に回ってくれ!」

 

「分かった!」

 

 

杏子ちゃんを囲んでいた使い魔を粗方倒した私は、ほむらちゃんの助けに入るべく位置を移動する。しかしその時既に、新たな使い魔がほむらちゃんに向かって攻撃を仕掛けていた。

 

 

「ほむらちゃ…………!」

 

 

直後、使い魔の足元が爆風に包まれる。その煙に紛れて、ほむらちゃんはなにやら大きな銃を構えて、魔女に大量の弾を発射していた。

 

ひとまず安堵して、構えていた弓を下ろす。

 

 

「隙がないなあ、ほむらちゃんは」

 

 

安心感を覚えるとともに、もとはさやかちゃんだったあの魔女を前に躊躇いを見せないほむらちゃんへの戸惑いは消えなかった。

 

魔女になったと断言したことを考えても、ほむらちゃんはきっと知っていたんだ。さやかちゃんが暴走の果てにどうなるのかを。

 

 

「教えたくなかったんだろうなあ。多分、私が堪えられないと思ったから」

 

 

それだけ、頼られていなかったということ。背中を預けられないと思われていたということ。私やマミさんが知らないことに関しては、たった一人でどうにかしてきたんだと思う。

 

けれど、もう知ってしまった。

 

マミさん達が死んだのに、さやかちゃんが魔女になったのに。それを最後まで見ているだけなんて、絶対にいや。

 

 

「ほむらちゃん!」

 

 

私の声に気づいて、瞬く間に私の横へ並ぶ。

 

 

「佐倉杏子はどう?」

 

「強そうな使い魔と戦ってる。私はほむらちゃんを援護しろって」

 

「分かったわ。…………手を貸してくれる?」

 

「もちろん!」

 

 

ほむらちゃんを心配させないためにも、精一杯の笑顔で応じる。ひとつ頷いて、ほむらちゃんは魔女を倒す決定打がないことを話した。

 

 

「佐倉杏子がいないと話にならない。それまで交互に牽制し続けて魔力の消費を抑えるわ」

 

「うん、いこう!」

 

 

背中を預けられないなんて言わせない。私だって、ほむらちゃんの役に立ってみせる。

 

 

合図と同時にほむらちゃんが前進する。剣を振りかぶる魔女の腕に矢を放ちながら、私はそう決意を新たにした。

 

 

-佐倉杏子-

 

 

「まずいな」

 

 

頬につけられた傷、そこから垂れる血の味を舐めとって、アタシは目の前の使い魔と対峙する。

 

戦闘が始まってから、アタシはあの使い魔に一撃も入れることが出来ていない。対して決定打こそないものの、アタシの身体は確実に傷を増やしていく。

 

正面からの槍、背後からの追撃、地面からの急襲さえものともせず、使い魔は全てを剣と盾で弾いていった。

 

まるでアタシの戦闘スタイルを熟知しているかのような。

 

 

「…………上等だよ」

 

 

とある【魔法】が使えなくなってから、アタシは実力のみで魔女を倒してきた。他の魔法少女よりも圧倒的に不利な戦闘の数々で培ってきた経験は、次の攻撃が必ず決まると確信する。

 

奴の反射は所詮常識の範囲内だ。暴走した美樹さやかのような馬鹿げた反射(アレ)に比べれば、この程度、大した障害じゃない。

 

 

「これで決める!」

 

 

アタシの採った選択は。。。。。突進。上体を屈めて槍を水平に抱え込んだまま、防御を考慮しない全速力の突進を敢行した。

 

 

「Wrrrrrrrrrr!」

 

 

使い魔の対応はシンプル。槍の接触点に盾を配置し、カウンターの体勢に入った。このまま突進がなされれば、攻撃は弾かれ、アタシは今度こそ深手を負うだろう。だが無論、そうなる未来などありえない。この攻撃は、あくまでフェイントなのだから。

 

アタシは水平に保っていた槍の穂先を、下ろした。

 

 

「!?」

 

 

地面に接触したはずみで、アタシは槍ごと宙を舞った。丁度使い魔の真上に到達したアタシは、槍を一回転させ逆手持ちに、そして照準を真下へ。奴の頭上から槍を突きつける。

 

これまで一度もなかった大胆なフェイントに虚をつかれたのか、少なからず焦りが見てとれた。だが使い魔は、やることは変わらないと言わんばかりに、的確に盾の位置をずらし攻撃をいなそうとする。

 

 

(あめ)ーよ」

 

 

それさえも囮。二度のフェイクを交えた、三段構え。

槍と盾が接触すると同時、アタシは槍を手放し、続けざまに飛んできた剣の刺突を落下の勢いで回避した。そして、背後にまわした手が新たに召喚した槍を掴む。

 

盾とアタシ自身の体でもうひとつの槍の存在を悟らせず、完全に伸ばされた腕は槍を払い飛ばす剣を引き戻せない。まさに、マミがさやかの背後から【ティロ・フィナーレ】を撃ち込んだ時のような、『敵の反応を許さない一撃』。

 

文句のつけようがない決定打。

 

 

「おらあ!」

 

 

アタシが薙いだ得物は、使い魔の横腹を引き裂き、人間でいう心臓の辺りで止まる。同時に、使い魔の瞳の部分から輝きが失われ、右腕から剣が滑り落ちた。その音を聞いて初めて、「終わった」のだと認識する。

 

 

「やっと、か」

 

 

思わず尻もちを着いて、息を整え呼吸を安定させる。

どうにかあの使い魔を退けられたが、これで終わりではない。少し離れた先で、二人が『本命』と戦いを続けている。最低限の回復を終えたら、すぐに合流しなければ。

 

そうして、魔力を回復すべくグリーフシードを取り出した時点で、ある違和感を覚えた。

 

 

「…………?」

 

 

使い魔の身体が、消滅しない。胸元に槍を突き刺したままの状態で、動くでも倒れるでもなくその場に存在し続けている。

 

まだ、生きているのか?

 

疑問を残したまま、ひとまずその答えを知るべく立ち上がろうとした、次の瞬間。

 

()()が、落ちた。

 

 

「?」

 

 

腕の落ちた位置を凝視すると、ヴァイオリンの弓を模した剣はまだ残っていた。が、直後には右腕と共に灰が舞うかの如く消滅していく。

 

その光景ばかりに視線がいっていて、アタシは見逃してしまう。使い魔の盾が、両側面から円弧状の刃を出現させ戦斧(アックス)へと変貌を遂げたこと。そして、一度は消えた眼光が赤色に再び輝くのを。

 

 

「Arrrrrrrrrrrrr!!!」

 

 

その叫びを聞いた時には遅かった。振り下ろされた戦斧。その衝撃波だけで、土煙とともにアタシは吹き飛ばされる。

 

 

「カハッ!」

 

 

二、三度ほど転がって、ようやく体が止まった。無理やり起き上がったアタシは、土煙の先にいる、先程までとは明らかに違う体躯を視界に収めることになる。

 

上半身は筋肉により肥大し、服がやや破けているものの、例の使い魔に違いなかった。右腕は喪ったまま、左手には形を変えた戦斧を握っている。

 

異様なのは、下半身。四足歩行する動物のように、下腹部辺りから前脚後脚が生えている。あの姿を表す何かがあるとするなら、

 

 

「ケン、タウロス…………」

 

 

神話に登場する、伝説上の生物。その体躯はまさに半人半獣。今の変貌した使い魔を例えるならこれ以上適切な表現はないだろう。

 

そして、判明したことがもう一つ。

 

 

「顔が」

 

 

不自然に塗りつぶされていた顔はその全体がはっきりと認識できるようになり。その奥に映る()()の顔を捉えることができるようになった。無表情なそれから、感情を伺うことは出来ないが。

 

 

「…………随分と不格好だな、色々と」

 

 

少年の顔、筋肉質な上半身に、馬脚。可笑しな体形に漏れた笑い声は単なる強がりだった。あの使い魔が前よりもパワーアップしているなら、もうアタシ一人では太刀打ちできない。それこそ、傷をつけることも。

 

それでもどうにか戦おうと槍を掴むのと、眼前まで一瞬で移動した使い魔が斧を振りかぶるのは同時。もう、驚きの声すら上げられない。既にボロボロなアタシには、このスピードを一撃凌ぐことさえも不可能だった。

 

 

「SH!」

 

 

槍が間に挟まれたことにより体が裂けることだけはなかった。でも、それだけ。弾け飛んだ体は直線軌道でコンサートホールの観客席に衝突する。それまで辛うじて無事だった全身の骨が、臓器が、限界だと訴えている。もう、アタシは満足に起き上がることすらできない身となり果てた。

 

攻撃でひしゃげた槍が消失していく。再生成する余裕はない。魔法少女として怪我に耐性がついても、このダメージ。その事実に、完全に打ちのめされてしまっていた。

 

 

「Rrrrrrrrrrrrr……………………」

 

 

霞んだ視界は、眼下の使い魔がこちらへ突進しようとしている光景を映し出していた。次の一撃で、確実にトドメを刺すつもりだろう。

 

 

「これで、終わりか。あっけねえな」

 

 

笑いによって漏れ出る息ももはや誤差でしかないほどに、アタシの呼吸は弱々しく、不規則なものとなっていた。明確な『死』のイメージが頭を過って、それを受け入れようとしている。

 

 

「悪いな、ほむら。メイジの頑張りを無駄にするのはアタシの方だったみたいだ」

 

 

どう足掻いても、ここから生き残ることはない。まして、あの使い魔を倒すなど。諦めがついたアタシは、左手に握りしめていたグリーフシードを手から零して転がした。もう、あんなものに用はない。殺すなら、さっさと殺せ。

 

使い魔がこちらへ迷いなく進んできた。加速がついたところでその身体を跳躍させ、瞬く間にアタシの元へ辿り着く。なんの躊躇いもなく振り下ろされる斧に、アタシの体はぐちゃぐちゃに。

 

そうしてアタシの生は、終わりを告げたのだった。

 

 

-?????-

 

 

「……………………」

 

「あの、クソババアが」

 

 

 

-✕✕✕✕✕-

 

 

「グラビティ」

 

 

瞼を閉じていた杏子がその目を開けたのは、本来聞こえないはずの声と音が鼓膜を震わせたからだろう。

 

知る限りたった一人しか使わない式句。あれほどの巨体が地面に叩きつけられる音。その両方が、彼女の『死んだ』と認識した未来を、打ち消したに違いない。

 

使い魔の落下で生じた風に、胸元のペンダント、その中央にはまる瑠璃色のソウルジェムが静かに揺れた。誰に助けられたかを理解すると共に、杏子の目が大きく見開いて。

 

 

「嘘だろ、なんで…………」

 

 

信じられないという様子で杏子は言う。目の前で殺される瞬間を見ていたのだから、当然といえば当然の反応だった。実際、()()も何が起こったのかよく分かっていない。

 

だが、生きている。

これだけは確実だし、今はそれが分かればいい。

 

 

「約束は守るぜ、さやか」

 

 

璃乃メイジ(オレ)は、遥か遠くの魔女に宣言する。

まだ、演奏の舞台からは降りてなどいないと。

 

 

「安らかに、眠らせてやる」



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