仮面ノリダーVSシンデレラガールズ (カイバーマン。)
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恐怖、ぴにゃ男

主題歌・「復活・仮面ノリダーまたぶっとばすぞぉ!」

 

木梨猛&ハナコwithその辺にいたニュージェネレーションズ

 

赤い~マヒュラ~ 正義の印~♪

 

アイドル大好きノリダーが~♪

 

悪いジョッカーぶっとばすぞぉ~~!♪

 

レッツ ゴーヨォ~!  敵は強いぃん~♪

 

ノリダ~金的!(金的!)

 

ノリダ~凶器!(凶器!)

 

好きなアイドルはおニャン子一筋ぃ!(私達は!?)仮面ノリダー♪

 

ノリダ~ハナコォ!(ワン!)

 

ノリダ~この犬ください!(ダメだよ!)

 

今回の相手はなぁに男ぉ!?(何男だ!)

 

仮面~ノリィヤ~!!♪

 

 

 

 

仮面ノリダー・木梨猛は改造人間である

 

彼を改造したジョッカーは、世界征服をたくらむ悪の秘密結社なのだ

 

これはノリダーがジョッカーの魔の手から、世界を守る為に日々戦い続ける物語である。

 

 

 

 

 

始まりはとある町(中目黒)の昼下がり、白いパンタロンと植物と動物をこよなく愛する仮面ノリダーこと木梨猛は

 

「けものがいてもけだものもいる、ホントの芸能界がきっとここにあ~る~!」

 

道の上を上機嫌にスキップしながら、不自然な形をした髪を靡かせながら犬の散歩をしている真っ最中であった。

 

「いよぉ~しハナコ! お家まで全力ダッシュだぁ!」

 

「ワン!」

 

猛が力強くそう叫ぶと、リードに繋がれていた小型犬が返事をするかのように叫び、彼が予想していた以上のスピードで駆け出していく。

 

「うわぁ待て! 待ちなさい! ペース早いって! おじさんもうそんな速く走れないって!」

 

小型犬なりに俊敏な動きで完全に散歩の主導権を握ったハナコは、猛の必死の制止も聞かずにそのまま彼を引きずって瞬く間に我が家である喫茶店・アミーゴの前へ辿り着くのであった。

 

「全くコイツめ~、こっちの年を考えろよな~、ぶっとばすぞぉ!」

 

「あ、おかえり猛さん」

 

「ただいま凛ちゃん! 今日も店番ご苦労!」

 

ハナコを抱き抱えながら猛が店のドアを開けると、カウンターに一人立っていた少女が出迎えてくれた。

 

彼女は渋谷凛、訳あって猛がオーナーとして引き継いだ喫茶店アミーゴで住み込みで働いている従業員である。

 

オーナーである猛があちこち出歩いて不在が続く状況でも、友人の協力がありながらも一人で店を切り盛りできる程の若くして中々できる子であり、猛もしっかり者である彼女には頭が上がらないのだ。

 

「ハナコの散歩大変だったでしょ? その子最近凄く元気に走り回っちゃうから」

 

「いやいや参ったよ~! あっちこっち引っ張り回されちゃってさぁ! ホント疲れたからその辺にいた大人しそうな丸っこい子犬連れた女の子がいたモンだから、「すみませんウチのコレとそちらのワンちゃん交換しませんか?」って言っちゃったよ! ハハハハ!」

 

「ウチの犬を勝手に交換しないで下さい……」

 

「30分交渉したんだけど無理だったなぁ……あと15分あればいけたかな? どう思うハナコ?」

 

「いやだから、ハナコを勝手に余所に渡さないでってば」

 

「相手の名前はアッキーっていうんだけど!?」

 

「名前とか関係ないし……」

 

ハナコの頭をわしゃわしゃと撫でながら豪快に笑い声を上げる猛にジト目を向けながら、凛が冷静に慣れた様子でツッコミを入れていると

 

カランコロンと音を立てて店のドアが勢い良く開いた。

 

「こんちわ~! 手伝いに来たよしぶりん! うわ! たけさんが店にいるの珍しい!」

 

「いらっしゃい未央」

 

「おぉ~久しぶりだな未央ちゃ~ん!」

 

手を挙げてハイテンションで店の中へとやって来たのは本田未央という凛と同年代の少女であった。

 

彼女は凛が通っている学校のクラスメイトであり、いつも明るく誰とでも仲良くなれてしまう子で、複雑な環境である凛ともすぐに親しい間柄の友人となり、彼女の保護者である猛からもすぐに気に入られた。

 

今ではちょくちょくこの店にやって来ては手伝いをしてくれるので、店員一人と不在気味のオーナーしかいないこの店にとっては、社交的な彼女の存在のおかげで大いに助かっている。

 

「全くいつも元気モリモリだなぁ未央ちゃんは! おじさんなんか犬の散歩しただけでヘトヘトだってのに! その若さをわけてくれよ!」

 

「いやぁ~老いは怖いですなぁたけさん、ま、店の事は若くてピチピチのこの看板娘に任せてくれたまえ!」

 

「あざーす! お世話になりやーす! 老後の面倒もお願いしやーす!」

 

「それは無理だわぁ~!」

 

「無理かぁ~!」

 

ずっと年上である筈の猛であろうと物怖じせずに砕けた感じで自然に会話できる未央

 

そんな彼女と店の中で喋っているとこっちまで笑顔になって来る。

 

「ていうか老後の面倒ならたけさんさぁ~、そろそろ運命の相手を探した方が良いんじゃない? もう年なんだしそろそろ相手見つけた方が……」

 

「は! 未央!」

 

「へ?」

 

しかしその猛の笑顔は彼女の一言でアッサリと崩れ去った。

 

未央のついうっかり放った発言に凛が慌てて叫ぶも時すでに遅し

 

引きつった笑みを浮かべて固まっていた猛がしばしの間を置いた後……

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! マリナさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

「えぇ! ちょ! どうしたのたけさん!? マリナさんって誰!?」

 

ハナコをカウンターの上に置くと突然両手でうずくまり、大人でありながらも少女たちの前で恥ずかし気も無く泣き出してしまう猛。

 

この泣き方はただ事では無いと未央も流石に感じ始めていると、「はぁ~」と凛が重くため息をついて

 

「そういえば未央にはまだ話しておかなかったね、実は猛さんにはマリナさんっていう心に決めた人がいたの」

 

「そうだったの!?」

 

「マリナすわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

「うん、それで猛さんとマリナさんは無事婚約して、このまま一緒にこの店で幸せに暮らそうとした束の間……」

 

そこで言い辛そうに一旦言葉を区切ると、凛は静かに首を横に振って意を決したように

 

 

 

 

 

「タイ人に、変な男二人を連れた顔の濃いタイ人にマリナさんを奪われちゃったんだ」

 

「タイ人に!?」

 

「それで今、マリナさんはそのタイ人と青山で幸せな家庭を築いてるんだって……」

 

「あちゃ~……可哀想にたけさん、まさか婚約者をタイ人に奪われるなんて……」

 

「マリナすぅぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

カウンターにうつ伏せながらずっと泣き叫ぶ猛に、凛から事の顛末を聞いた未央は彼の隣に静かに座ると

 

優しくその頭を撫でてあげるのであった。

 

「辛かったねぇたけさん、お気の毒に……」

 

「俺も銭金出れば良かったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

年下の女の子に慰められながらもなお悲痛に叫び続ける木梨猛

 

いつもは明るく振舞っている彼ではあるが、愛するマリナを失った事で、彼には今もなお痛み続ける大きな傷が出来てしまったのだ。

 

負けるな木梨猛、負けるな仮面ノリダー

 

愛する者を失おうと戦い続ける

 

それが世界の命運を託された、哀しき改造人間の宿命なのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてマリナさん喪失に猛が悲観に暮れてタイ人に怒りを燃やしている頃

 

遂に奴等が再び動き出したのだ。

 

「フッフッフ~、時は満ちました、今こそ先代の後を継ぎ……」

 

薄暗く、そして赤く輝く謎の秘密基地にて

 

左目に眼帯を付けた、白い軍服の少女がある恐ろしい計画を実行しようとしている真っ最中であった。

 

その者の正体は……

 

「この! しまむー大佐が新生ジョッカーで世界を征服しちゃいますよー!」

 

「「「「「イーーーーー!!!!」」」」」

 

「しまむー大佐! 頑張ります!」

 

「「「「「イーーーーー!!!!」」」」」

 

彼女の名はしまむー大佐

 

かつて世界を征服しようと企んでいたジョッカーを再結集させ、新たな人員と共に仮面ノリダーの抹殺を企んでいたのだ。

 

見た目は可憐な少女ではあるが、その実態は生まれ持って悪に魂を売った恐ろしい娘なのである。

 

ジョッカーの皆さんも相変わらず健在で、彼女の一声に一同高々と手を掲げて叫ぶ。

 

「でもまだ私達には倒すべき相手が残っています! その男だけはなんとしてでも我々新生ジョッカーで抹殺しないといけません!」

 

しまむー大佐が叫ぶと、彼女の背後にあった大きなモニター画像に一人の男がパッと映った。

 

「そう、仮面ノリダーです!」

 

その男こそ木梨猛、世界征服を企むジョッカーにとって避けて通れない永遠の宿敵である。

 

「先代・ファンファン大佐があらゆる改造人間を投しても勝てなかった仮面ノリダー! それを今度こそ! 新世代の私達で倒しちゃいましょー!」

 

「その通りですしまむー大佐、もはや仮面ノリダーなど今の我々の敵ではありません」

 

「先代の恨みを晴らす為、今こそ我々の力でノリダーを亡き者にしましょう」

 

「は! その声は!」

 

力強くジョッカーの皆さんに叫んでいるしまむー大佐の下に

 

突如白衣を着た二人組の男が現れた。

 

急いで彼女が振り返ると、二人して黒縁メガネを掛けた男が静かに微笑む。

 

「オッギー博士にヤ・ハーギ助手! ここにやって来たという事は既にもう!」

 

「はい、私と助手によって、見事、新たな改造人間、超改造人間を創り上げました」

 

「我々は賢いので」

 

オッギー博士、そしてヤ・ハーギ助手

 

この二人は先代ジョッカー亡き後、しまむー大佐の下で恐ろしい改造実験を繰り返し続け

 

過去の改造人間よりもずっと強く凶悪な、超改造人間計画を実行していたのだ。

 

そして今、二人の実験の成果が誕生した事をお披露目にやって来たのだ。

 

「いやー博士、我々は本当に恐ろしいモノを造ってしまいましたなー」

 

「その通りです助手、この改造人間を超えた怪物、超改造人間を使えば仮面ノリダーなど敵ではありません」

 

「前置きは良いですから!」

 

我ながら完璧だと自信満々に答える博士と助手にしまむー大佐が彼等の方へ歩み寄りながらせがみ始める。

 

 

「早く! 早くその超改造人間を見せて下さい!」

 

「この子生意気ですね博士」

 

「年上に向かって何様なんでしょうね」

 

「え?」

 

「てか俺等の方が芸歴上だよね?」

 

「まあアイドルなんてこんなモンでしょ、どいつもこいつも生意気な娘ばっかだし」

 

「す、すみません……」

 

「いやそこ、マジで受け止めなくていいから」

 

「俺等も言わせられてるだけだから、本気にしちゃダメよ」

 

部下の割にはやや冷めた様子でブツブツと文句を呟き合う博士と助手に、思わずしまむー大佐の方が申し訳なさそうに謝ると、苦笑しながら博士と助手は手を出して制止する。

 

「それじゃあしまむー大佐! 見て下さい! 我々の最新科学の下によって造られた! この超改造人間を!」

 

「さあ出てこい! 実はほぼほぼ助手である私が一人で行い! 博士はほとんどなんにもしてない中で創り上げた最高傑作!」

 

改めて博士と助手が叫ぶと、突如出入口らしき場所からプシャー!強いスモークが炊かれ始め

 

思わず「おお!」と呟くしまむー大佐の前に、スモークの中から大柄なシルエットが浮かび上がり……

 

 

 

 

 

「その名も!」

 

「ぴにゃ男ー!」

 

「ぴーにゃーーーーー!!!」

 

不気味なBGMと共に博士と助手が叫ぶと

 

スモークからヌッと極めて珍妙、目つきの悪いブサイクな着ぐるみを被り、素顔だけは口の部分から曝け出している奇怪な大男が現れたのだ。

 

「ぴーにゃにゃにゃにゃにゃ! 俺様はぴにゃ男……ジョッカーの名の下に憎き仮面ノリダーを殺す為に生まれた超改造人間なのだぁ~!」

 

「す、凄いです! コレがノリダー抹殺の切り札、超改造人間なんですね!」

 

「フッフッフ、コレを着せられ長時間待機させられていた時のあの苛立ち……久しぶりに思い出したぜぇ!」

 

「うわ!」

 

現れて早々不吉な事を呟く超改造人間・ぴにゃ男。

 

しかしその眼光は殺意も込められ一層鋭く光っており、その恐ろしさに思わずしまむー大佐が一歩後ずさりする程であった。

 

「コ、コレなら絶対ノリダーに勝てる気がします! よーしぴにゃ男! 早速ノリダーの所へ行って戦って来て下さい!」

 

「その前にしまむー大佐、言っておきたい事がありますぴにゃ……!」

 

「へ? なんですか?」

 

「……実はこの私、ぴにゃ男には……共に戦う相方がいるのですぴにゃ……!」

 

「相方!?」

 

突然のぴにゃ男からの進言に驚くしまむー大佐、咄嗟に博士と助手の方へ振り返ると彼等も「え?」と口をポカンと開けて

 

「いや知らない知らない、だって俺等、あの人しか造ってないから」

 

「ちょっと~、あの人また勝手に段取り変えたでしょ~」

 

凄味のある目つきでいるぴにゃ男から察するに、彼は嘘をついていない様子だが

 

彼を造った本人である博士と助手はなんの事だかさっぱりわからない。

 

するとぴにゃ男は突然自分が出て来た方にバッと振り返り

 

「いよーし来い! 私と同じ肉体を持つ同志! その名も! ブラックぴにゃ男!」

 

「「「ブラックぴにゃ男!?」」」

 

しまむー大佐だけでなく博士と助手で三人口を揃えて驚くと

 

再びスモークが沸き上がり、中からぴにゃ男と全く同じの形をしたシルエットが浮かび上がって……

 

「ぴ、ぴにゃあ……」

 

「ええ!? プ、プロデュ……!」

 

「博士、あれぇ……番組企画担当の人じゃないすか?」

 

「あーそういや打ち合わせで顔合わせた人と似てるねぇ」

 

恥ずかしそうにバリトンボイスで呟きながら、ぴにゃ男の着ぐるみと同じく目つきの悪い男が申し訳なさそうに顔だけ出していた。

 

三人はそれを見てすぐに誰なのか気付くと、その反応を見てぴにゃ男はイタズラっぽくニヤリと笑い

 

「その辺ウロついていた所を見計らって……その場で捕まえてスタッフのみんなで無理矢理改造手術させました」

 

「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

「もー何考えてんだよこの人ー! やっぱ頭おかしいよホント!」

 

「裏方だからね! 裏方だからねその人!」

 

悪びれも無く堂々と暴露するぴにゃ男に博士と助手はただ呆れながら笑っているが

 

しまむー大佐だけは明らかに動揺した様子で、ぴにゃ男と新たに出て来たブラックぴにゃ男を交互に見つめる。

 

「あの、コレってって一体どういう……」

 

「しまむー大佐!」

 

「は、はい!」

 

恐る恐る尋ねようとする彼女ではあるが、それをぴにゃ男が近い距離で大声を上げて黙らせると

 

彼はまだ後ろで棒立ちのままどうしていいのか困っている様子のブラックぴにゃ男をクイッと顎で指し

 

「アイツちょっと、仕事ナメてるみたいなんで、ちょっとヤキ入れてやっていいですかぁ?」

 

「ヤキ!?」

 

「おいおいおーい! なんだよさっきの「ぴにゃ」はよぉ! もっと腹から声出せぇ!」

 

「そ、そう言われましても……」

 

きょどるしまむー大佐を尻目に、ぴにゃ男はヤンキー口調でブラックぴにゃ男に絡み始めるが、相手の方はただただ困った様子で顔を引きつらせるばかり。

 

「私の専門はアイドルのプロデュースで……このような仕事は全くの専門外でして……」

 

「甘ったれた事言ってんじゃねぇよ! 前に仕事した765プロのプロデューサーはな! ちゃんと俺等と一緒に体張ったんだぞ! 春香と一緒にもじもじ君やったんだぞアイツは!」

 

「それは以前拝見しましたが……」

 

「346の看板背負ってんなら……ここで結果出さないでどうする! 765に負けたくねぇんだろ!」

 

「しかし……」

 

「ほらほら声もっと大きく! 雄叫び上げるように「ぴにゃあ!」だ、行くぞ!」

 

「わ、わかりました……!」

 

突然の状況に頭の中がパニックになる相手であっても、慣れた様子で巧みな話術で無理矢理自分のペースに引っ張るぴにゃ男。

 

そしてそこから、ぴにゃ男によるブラックぴにゃ男の為のボイスレッスンが始まるのであった。

 

 

 

 

「はい登場シーン! どーん!」

 

「ぴ、ぴにゃあ……!!」

 

「声が小さい! もっと張るんだよもっと! 根性出せって!」

 

「ぴ、ぴにゃあぁ!」

 

「もっとだもっと! 赤羽根に負けんな武内!」

 

「頑張ってくださいプロデューサー!」

 

「ぴぴぴにゃぁ!!!」

 

 

かくして、新たにノリダーの脅威として現れた新生ジョッカー

 

新たな手駒と共に立ち上がった彼等を前に、果たして仮面ノリダー・木梨猛は打ち勝つことができるのか。

 

次回へ続く。 

 

 

 



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狡猾、ぴにゃ男の卑劣な罠

その時、奴等は突然現れた

 

 

喫茶店アミーゴで泣き崩れる木梨猛をしばらく一人にさせてやろうと思った渋谷凛は、友人の本田未央と共に店の買い出しに出掛けていた。

 

「そっかー、たけさんも青春してたんだねー、けど最終的にタイ人に……人生上手くいかないモンだね~」

 

「未央、今度から猛さんの前で色恋話はNGだよ、あの人ああなったら三日は意地でも泣き続けるから」

 

「み、三日は流石に長すぎない……? てか意地で泣き続けるってどういう事?」

 

買い出しを終えて軽く雑談しながら帰路に着く凛と未央、しかしそんな彼女達に背後からゆっくりと大きなワンボックスカーが車道を走って近づいて来たのだ。

 

「あれ? ねえしぶりん、さっきからあの車、私達の後を追ってきてるみたいじゃない?」

 

「私もさっきから怪しいと思ってた……なんだろ気味が悪い、さっさとお店に帰ろう」

 

窓も見えない仕様になっているし強い警戒心を持った未央と凛は、やや駆け足でその車から遠ざかろうとするも……

 

「見つけたぞー!」

 

「「うわッ!」」

 

突如としてその車の後部座席がガチャと開き、中から現れた異様な格好をした大男が二人に向かって大声を上げる。

 

凛と未央が驚くと、その謎の男は薄く笑みを浮かべながら車から出ようと身を乗り出して……

 

「あ、え? ちょっと出れないんだけどコレ! おいちょっとー! 引っ張って引っ張って!」

 

「「え?」」

 

巨大な頭の部分が車の天井に引っ掛かり、上手く車から出れないことに男が慌てて凛と未央に叫ぶと

 

彼女達は律儀に従って彼の両手を取って引っ張り始めた。

 

「こ、こうですか?」

 

「駄目駄目もっと! 力出してもっと! 思いっきり引っ張らないと出れないから!」

 

「ふん!」

 

「痛い痛い痛い! お前は強いんだよバカ! もうちょっと優しく引っ張れって!」

 

「いたッ! ちょっと! 頭殴る事無いでしょ!?」

 

「うっさい! 早く出せちゃんみお!」

 

凛には強く力を入れと言い、未央には強過ぎだと頭をパカンと叩き、助けて貰ってるクセにやたらと偉そうな男ではあるが、しばらくしてやっとポンと車から飛び出す事に成功した。

 

「よーしやっと抜けたー、いやいやどうもすみませんねーご協力していただきありがとございますホント」

 

「いえ……」

 

「という訳で……はい捕まえたぁ!」

 

「きゃあ!」

 

「しぶりん!」

 

「ぴにゃにゃにゃにゃ!」

 

しかし男はニコニコしながら凛にお礼を言ったと思いきや、次の瞬間豹変して彼女を両腕で掴んで強引に拉致。

 

これには未央も慌てて助けに入ろうとするが……

 

「お前はチェンジ!」

 

「あいた!」

 

お前は必要無いと男は容赦なく未央にアッパーカットをお見舞い。

 

これには軽くアゴを痛めながら彼女も流石に

 

「さっきからなんか明らか私だけ扱い悪くない!?」

 

「知らねぇよバカ! 8代目シンデレラガールズになれたからって浮かれてんじゃねぇ!」

 

「べ、別に浮かれてないよ! でも知っててくれてありがとう!」

 

反論とお礼を同時に叫ぶおかしな未央に向かって、男は凛を捕まえながら改めて話を切り出した。

 

「いいかよく聞けぴにゃ、俺様はぴにゃ男……! この娘を返して欲しくばお前達がよく知っている木梨猛という男に伝えるぴにゃ、今から30分後に346プロの本社にやってこい、さもないとお前の大事な娘を改造して……グヘヘヘヘヘ!」

 

「し、しぶりんをどうするつもりだ!」

 

いやらしく下衆に笑う男、怪人ぴにゃ男に未央が親友に何をされるのかと恐怖していると、ぴにゃ男は少し間を置くと邪悪な笑みを浮かべながら

 

「右利きから左利きにしてやる……!」

 

「お、思ったより地味……」

 

「なんだと? 結構私生活不便なんだぞ、サウスポーは、アレだぞ、小さいバッティングセンターとかだと右打席しか無いとか結構あるんだぞ」

 

「そうなんだ、今度美嘉姉に聞いてみよ……左利きだって言ってたし」

 

改造と聞いて一体どんな恐ろしい事をやるのかと思いきや、単に利き腕を変えるだけと聞いてガクッと肩を揺らす未央。

 

そんな彼女に向かってぴにゃ男に捕まっている凛が必死な様子で

 

「駄目だよ未央! コイツきっと私を餌にして猛さんを殺そうとしてるんだよ! きっとコイツ等、ずっと昔から猛さんの命を狙っている悪の秘密組織だよ!」

 

「悪の秘密組織!? それってまさか、私達が生まれる前にあったとかいうあの……いっつ!」

 

「つべこべ言ってないでさっさと行けちゃんみお!」

 

何やら重要そうな会話をしている彼女達であったが、尺がもったいないとぴにゃ男が半笑いを浮かべながらまた未央をぶっ叩く。

 

「早く伝えてこいよ! どんだけ引っ張るんだよちゃんみお~!」

 

「あ、あのホント……叩き過ぎだから! アイドルそんな叩くもんじゃないからね!」

 

「いいから! ほら早く! 走れちゃんみお!」

 

「わかったから叩かないでよも~!」

 

ぴにゃ男にせかされて思わず自分も苦笑してしまう未央であったが、すぐに猛のいるアミーゴへと向かった。

 

「ぴにゃにゃにゃにゃ、もう少しだ、遂に我等ジョッカーの悲願が達成する時が来たのだ……!」

 

そして去っていく彼女を見送りながらぴにゃ男は一人ほくそ笑むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

一方そんな事が起きているのも露知れず

 

猛はまだ喫茶店アミーゴでカウンターにうつ伏せになって泣いていた。

 

「マリナさ~ん! どうしてなんだよ~!」

 

「たけさんたけさんたけさ~~~ん!」

 

しかしそこへ乱暴にドアを開いて、必死の形相で未央が駆けつけて来た

 

「聞いてたけさん! しぶりんがたいへ……!」

 

「マリナさぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

「いやマリナさんじゃなくてしぶりんが変な怪人に捕まって……!」

 

「夫婦でCM出やがってぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「ダ、ダメだ……しぶりんの言う通り意地でも泣き続ける気だこの人……」

 

すぐにでも凛の事を伝えなければいけないのに、泣きながら絶叫を上げるだけで聞いてもくれない猛。

 

かくなる上はと、未央が繰り出した最終手段は……

 

「あ! マリナさんを奪ったタイ人!」

 

「なぁにぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 

咄嗟にドアの方を指さして未央が口から出まかせで叫んでみると、その瞬間超反応で泣くのを止めて鬼の形相で振り返る猛。

 

しかし当然、そこには愛すべきマリナさんを奪った男はいない。

 

「っていねぇじゃねぇか! あの野郎! さてはネプリーグの収録に逃げやがったな! 今度ゲストで出てやる!」

 

「猛さん、しぶりんが大変だよ! しぶりんがぴにゃ男とかいう変な怪人に誘拐されたの!」

 

「なぁにぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 

哀しみよりも怒りが勝ってしまっているみたいだが、ようやく泣き止んでくれた彼に未央がすぐ様凛の事を再び伝えると、やっと聞こえたのかさっきと全く同じ反応で動転する猛。

 

「凛ちゃんが連れ去られただって! しかも誘拐犯は怪人だと!? まさかそいつは……ジョッカー!」

 

「そうかもしれないんだけど……でもジョッカーってもう随分昔に壊滅したんじゃないの?」

 

「まさか再び奴等が復活したというのか……! おのれジョッカー! スペシャルだからって凛ちゃんを攫うとは……! 絶対に許せん!」

 

かつて自ら滅ぼした筈のジョッカーが再び蘇った事に激しい憤りを覚える猛。

 

やはり自分は奴等と戦い続ける運命にあるようだ……

 

「未央ちゃん! その凛ちゃんを攫った怪人がどこへ行ったかわかるかい!」

 

「確か346プロの本社で待ってるって!」

 

「346プロ!? あの沢山のアイドルが所属している大企業じゃないか……どうして奴等がそこに……」

 

集合場所を聞いて猛は何か裏があるのではと思いながらも、とりあえず急がねばと店から出ようとするが、そこへ未央から呼び止められた。

 

「あと! 30分以内に猛さんが来なかったらしぶりんを左利きに改造するって!」

 

「地味だな~!」

 

「やっぱ地味だよね!」

 

「どうせなら両利きにさせろよな~! ピアノ弾く時とか便利なんだよ~!」

 

「いやそういう所じゃないと思うよ!」

 

未央といつものボケとツッコミを終えると、猛は店のドアを開けて外へと駆り出すのであった。

 

しかし

 

「あーーーしまったーーー!」

 

「今度はどうしたのたけさん!?」

 

「バイク車検に出したままだったー!」

 

「えぇぇぇぇぇぇ!?」

 

なんという事であろう、いつもは店の外に置かれていた長年愛用しているバイクが今はどこにも見当たらない。

 

何故なら猛が点検に出してしまっていたからだ。最近すっかりオンボロになってしまい車検審査が通るのも時間がかかるのである。

 

「くっそぉここからじゃ走っても30分じゃ間に合わないぞ! 一体どうしたら……あ!」

 

このままでは絶体絶命だと思ったのも束の間、ふと周りを見渡すと……

 

ちょっといかついピンク色のバイクがあるではないか、しかもキーが差しっぱなし

 

「いよっしゃあ! コイツを借りれば346プロまでひとっ飛びだぁ!!」

 

「い、いいのたけさん!? それ明らかに怖い人が使ってそうなバイクだよ! 勝手に借りちゃマズイんじゃない!?」

 

「大丈夫大丈夫! パパッと行ってパパッと凛ちゃん取り返してパパっと怪人倒してパパッと戻しとけばいいんだから!」

 

勝手に乗って大丈夫なのかと心配する未央をよそに、楽観的な猛はなりふり構わずそのバイクの上に颯爽と跨る。

 

しかしそこへ

 

「くおらぁぁぁぁ!! てんめぇアタシのバイクになに乗ってんだゴラァァ!!」

 

「たけさんヤバい! バイクの持ち主もう戻ってきちゃった! しかもかなりのヤンキーだ!」

 

「ホントだ! しかも古い! スケバン!」

 

キーを回して早速出発しようとしたその時、背後から猛スピード駆け寄って来る柄の悪い姉ちゃんが、物凄く怒りながら猛に詰め寄った。

 

彼女は向井拓海、この辺じゃ名の知れたちょっと古めのヤンキーである、結構義理堅い。

 

「おいおっさん! 人のバイクに勝手に乗ってんじゃねぇよ! 返せ!」

 

「あの! いた! すみませんちょっと!! いた! ちょっと貸してくださいすぐ返しますんで!」

 

「ふざけんじゃねぇ! 返せつってんだろオイ!!」

 

「いやもうホントすぐ返すんで! 勘弁して下さい! 誰か! おやじ狩り! おやじ狩りされてるんで助けて下さ~い!」

 

「ってオイ! 人聞きの悪い事言ってんじゃねぇよ!!!」

 

勝手に人のバイクをパクろうとしている猛を拓海は執拗に彼のローを攻めながら無理矢理下ろそうとするも

 

猛は猛で通行人に向かってややこしくなる事を叫びながら激しく抵抗する。

 

おかげで猛は彼女との不毛の争いのおかげで、この場で15分費やしてしまうのであった……

 

「ま、間に合うのかなぁ……」

 

不安になっている未央をよそに、猛と拓海は争い続ける光景をしばらく彼女に見せつけるのであった。

 

「返せ!」

 

「ヤダ!」

 

「返せったら!」

 

「誰か助けてぇ! ヤンキーにおやじ狩りされるぅ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして約束の時間になってしまった頃、ここは346プロ本社、敷地内。

 

多くの社員やアイドルが見受けられる中、一際浮いた格好をしているぴにゃ男がしきりに時間を確認していた。

 

「おっそいなー、約束の時間10分前に来いよな普通ー、俺この後ゴルフなんだから早くして欲しいんだけど」

 

そんな事をぼやきながらぴにゃ男はゴルフスイングするポーズを取りつつ、歩いていたアイドルに握手を求められながら、時には一緒に写真を撮ってあげながら時間を過ごしていると、そこへ

 

「うおぉぉぉぉぉジョッカー!」

 

本社入口の門から豪快なバイク音と共に、木梨猛が大声を上げながらようやくやって来た。

 

ヤンキー姉ちゃんのバイクの後ろに乗せてもらった状態で

 

ヤンキー姉ちゃん、向井拓海がぴにゃ男の前で乱暴にブレーキを踏んで止めると、木梨猛がすぐにバイクから降りた。

 

「あざーす姐さん! マジあざーす!」

 

「てめぇ人助けだったならさっさと言えよな! 頼めば乗せてってやるんだから! じゃあな!」

 

「しゃーせんした! 次回から気を付けやーす! おつかれっしたー!」

 

ここまでわざわざ乗せてってくれた拓海に猛はすっかり舎弟の様な感じでお礼を言いながら何度も頭を下げ終えると、彼女はまたバイクを走らせて何処へと行ってしまうのであった。

 

そして残された猛にさっきのやり取りを無言で見つめていたぴにゃ男はキョトンとした様子で

 

「え、なに? 連れて来てもらったの? スケバンの女の子に?」

 

「今俺、バイク車検に出してるんで……」

 

「あ、そう……まあ別に良いんだけど来てくれたんだし……いやぁでももうちょっとカッコよく来て欲しかったなぁ」

 

正義の味方としてそれでいいのかな~と、怪人側のぴにゃ男が腑に落ちない様子でいるのをよそに

 

猛は仕切り直しするかのようにバッと彼に向かって指を突きつける。

 

「よーし約束通り来てやったぞジョッカー! しかし凛ちゃんが見当たらないぞ! どこへやった!」

 

「ぴにゃにゃにゃにゃ! よくぞ地獄に舞い戻って来たな木梨猛! 俺様はぴにゃ男! 貴様を抹殺する為にしまむー大佐が差し向けた超改造人間だぴにゃ!」

 

変な笑い声を上げながらぴにゃ男は軽く自己紹介を済ませた後、体をのけ反らせて本社ビルを短い腕で指す。

 

「お前の大切な小娘がどこにいる教えてやるぴにゃ! 今あの娘はこのビルのどこかの部屋に閉じ込められている!」

 

「なんだと! こんな大きな場所の中で、一体どこにいるというんだ……!」

 

「もし娘を2時間以内に見つけられたらちゃんと返してあげるぴにゃ! けど間に合わなかったら……」

 

そこでぴにゃ男はニヤリと笑みを浮かべ

 

「あの娘の体に取り付けた時限式爆弾が起動し、このビルもろとも木っ端みじんだぴにゃぁ……!」

 

「きっさまぁ! 凛ちゃんだけじゃなくここにいる人達をも巻き込むつもりかぁ! 許せん!」

 

何という恐ろしい事を企んでいたのだろう、最初からこのぴにゃ男の狙いはコレだったのだ。

 

今もなお絶好調で、多くのファンがいるアイドル達

 

そんな彼女達が中にいるこの本社ビルを爆破せば当然彼女達が犠牲となる。そうなればファン達は絶望の淵に陥り、生きる気力を失くし当然仕事も出来なくなってしまう、そうなればつまり、日本全土の景気を下がってしまうのだ。

 

「お前だけは絶対にぶっ飛ばすぞぉ!! 後で覚悟しておけ!」

 

「ぴにゃにゃにゃ! 俺の相手をするよりもやるべき事があるんじゃないかな木梨猛!」

 

「わかってる! 一刻も早くこのビルから凛ちゃんを探さねば!」

 

この国の為に、人々に希望を与えて明るく照らすアイドル達を誰一人失う訳にはいかない

 

そして何より猛にとって凛は大切な家族の一員だ、絶対に救い出さねば

 

「うおぉぉぉぉぉ!! 待っていろ凛ちゃん! 猛! いっきまーす!」

 

喉の奥から熱い咆哮を上げながら男・猛は脇目も振らずに本社ビルへと突っこんで行くのであった。

 

「おはようございまーす! おはようっす! おつかれーっす! あ! 君前にテレビで見た事あるよ! 頑張って!」

 

律儀に出勤している社員やアイドル達に挨拶しながら

 

「クックック……! 木梨猛、残念ながらお前がかりに時間以内に娘がいる部屋を見つけたとしても、助け出す事は出来ないだろうさ……!」

 

そしてビルの入り口から中へと駆け込んでいく猛を見送りながら、ぴにゃ男はまだなにか隠している事があるらしく、一人静かに笑みを浮かべていた。

 

「何故ならあの娘のいる部屋には……!」

 

 

 

 

 

「このぴにゃ男の相方、ブラックぴにゃ男がいるのだからな!! ぴにゃにゃにゃにゃにゃ!!」

 

果たして、恐るべき策略家・ぴにゃ男の計画を、仮面ノリダー木梨猛は打破する事が出来るのか。

 

次回へ続く。

 

 

 



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走れ猛、346プロで大暴れ

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! どこだどこだどこだぁ!!」

 

恐ろしい怪人・ぴにゃ男の魔の手によって、渋谷凛が346本社のどこかの部屋で捕まってしまう。

 

ジョッカーの卑劣な策略に激しい怒りに燃えながらも、木梨猛はビルの中を颯爽と走りながら探し回るのであった。

 

「どこだどこ……お、ここなんか怪しいぞ! 開けてみよう!」

 

ふと目に留まったあるレッスン部屋の前に止まると、社会人としての常識を持たない猛はノックもせずに勢いよくその部屋のドアを開いた。

 

「失礼しまーす!」

 

「ぎょわぁ! い、いきなりなんにゃー!」

 

「うわぁ! なになになに!?」

 

 

突然ドアを開けて元気よく入って来た猛に、部屋でレッスンを受けていた二人のアイドルが戸惑った様子で各々リアクションしながら後ろに下がる。

 

猫好きアイドルの前川みくとロック好きアイドルの多田李衣菜

 

二人は猫とロックを掛け合わせた異質なユニット、アスタリスクとして活躍中のアイドルである。

 

「うえぇ~~い!! どうも木梨猛でぇ~す!」

 

「なんかすっごいテンション高いし鼻の穴が異様に大きいおじさんだにゃ……もしかして李衣菜ちゃんの知り合い?」

 

「いやなんでその特徴を上げた上で私の知り合いだと思うのかな? こんな変なおじさん知らないよ」

 

何を根拠にそんな事言い出すのだと、李衣菜はみくにむかって顔をしかめる

 

「まあ確かにこのやや強引にかっ飛ばしてくる所には私と同じロックを感じるけどね」

 

「なるほど、李衣菜ちゃんの持つにわかロックと同じならこのおじさん、あまり大した事無いって事だにゃ」

 

「はぁ!? だからにわかじゃないって!」

 

普段からロックだのなんだの執拗に連呼している李衣菜だが、実を言うとそこまでロックというモノに詳しくない。

 

みくはいつもの様にその辺をイジって茶化し始めていると、そこへ猛が無理矢理二人の間に割り入って

 

「喧嘩はよしなさ~~い!!」

 

「にゃあ!」

 

「うぇ!?」

 

平和を愛する木梨猛は、例え女の子同士の口論でもすかさず止めに入るのだ。

 

そしていきなり現れた事にビビる彼女達を一瞥すると、彼はふと李衣菜の方へ振り向いて

 

「なに? ロック好きなの?」

 

「いやまあ好きとかそういうのじゃないんですよ、私自身がロックなんです」

 

「ごめんちょっと言ってる事全然わかんない」

 

「えぇ、なんで!?」

 

李衣菜独自のロック論を理解出来なかった猛は考える動作すらせずに首を傾げると、続いてみくの方へ振り返り

 

「君は猫耳付けてるけど、猫好きなの?」

 

「ふふーん決まってるにゃ! みくは猫ちゃんアイドルだから!」

 

「好きな食べ物は?」

 

「ハンバーグにゃ!」

 

「魚じゃねぇのかよ!」

 

「いたっ!」

 

「魚食え! 貝を食え!」

 

「あいた! か、貝は関係にゃ!」

 

猛の質問に堂々とはっきり答えるみくであったが、まさかの好物が魚ではなく肉類だと判明すると、キャラ設定もっと練ろという厳しい猛のチョップが容赦なく彼女の登頂部を襲う。

 

「痛いにゃー! 普通に暴力だにゃー!」

 

「ハハハ、みくちゃん魚食べれないもんねー、猫好きアイドルとして私もそれはどうかと思うよ」

 

「はい次!」

 

「え!? もう私終わったんじゃないんですか!?」

 

「油断してただろ~! もう完全に自分の出番終わったと思ってただろ~!」

 

頭を押さえてマジで痛がっているみくを笑っていたら猛からの突然の奇襲にきょどる李衣菜。

 

てっきり流れ的にみくとの掛け合いがオチで終わりだと思っていたのに、ここに来て自分に回って来るとは思っていなかったのだ。

 

「今からロックにまつわるクイズ出します、答えれなかったらデコピン」

 

「えぇ!?」

 

「ちなみに俺のデコピンね、大分昔、結構やんちゃしてた頃にスタッフにやった事あるんだけどさ、もうずっと悶絶しっ放しでその日全然使いモノにならなかったぐらい強烈に痛いから」

 

「ちょ! それ笑えない奴じゃないですか!」

 

「はい! クイズスタート!」

 

「いやいや待って待って待って下さい!」

 

過去の検証で己のデコピンは尋常じゃない程痛いのだという事をわかっている猛は、明らかに焦っている李衣菜に向かって笑いながらクイズを開始した。

 

「俺達が昔歌ってたロックソングの! ある曲名を当てなさい!」

 

「……ロックやってたんですか?」

 

「そこから知らねぇのかよ! はいそれじゃあヒント、「ガラガラヘビが……」この言葉の次は!?」

 

「ガ、ガラガラヘビが……ロックだね……? つッ!」

 

自分達が若い頃に歌ってた事さえ知らなかったばかりか、引きつった笑みを浮かべながら思いきりふざけて答えた李衣菜を

 

芸能界の先輩として猛は無言で渾身のデコピンを彼女の額にお見舞いした。

 

「「やってくる」だろ! 765プロの子達が歌った事もあるんだぞこの曲!(実話)」

 

「つ、うぉぉ~……」

 

予想以上の威力に李衣菜は両手で頭を押さえながら痛みに顔を歪ませると、フラフラしながら壁にもたれかかってしまう。

 

それを見てみくはすぐにハッとある事に気付いた。

 

「李衣菜ちゃん……あまりにも痛すぎてリアクション取れなくなってるにゃ、うっすら目に涙出てるし」

 

「うそぉ!? そんなに痛かった!? ごめんやり過ぎた!」

 

彼女が痛みで思わず泣いてる事を知った猛は、すぐに血相変えて李衣菜に駆け寄ると、慌てて謝りながらすぐ周りのスタッフに向かって叫ぶ。

 

「誰かー! 湿布持って来てあげてー! あの、本当にごめんなさいね? おじさんもう全然手加減せずにやっちゃったから」

 

「だ、大丈夫です……」

 

「あのお詫びに収録終わったら飯驕るから、何が好き?」

 

「さ、魚……」

 

「みくはお魚嫌いだから肉が良いにゃ!」

 

「おめぇに聞いてねぇよ!」

 

つい若手芸人に対するノリで思いきりやってしまった事に深く反省する木梨猛

 

お詫びとして、猛は収録後にアスタリスクを銀座のお店に連れて行く約束するのであった。

 

 

 

 

 

 

一方その頃、恐るべき狡猾なる怪人・ぴにゃ男はというと

 

「うっぴゃー! ぴにゃさんお仕事おっつおっつ~☆」

 

「はー……もうホントきっついわぁこの仕事」

 

「きらりがマッサージしてあげるからぁ~、もっと頑張るに~☆」

 

「頑張りますに~」

 

346プロの敷地内にあるアイドル専用のマッサージルームで

 

ちょっとだけ長身の個性的アイドル、凸レーションのメンバーの一人、諸星きらりに何故かマッサージを施されていた。

 

着ぐるみの状態でうつ伏せで寝そべりながら、上に跨っている彼女に背中を揉まれ

 

丁度いい力加減にぴにゃ男は満足そうにくつろぎつつ、傍にいるきらり以外の凸レーションのメンバーにも声を掛ける。

 

「みりあちゃんはおいくつですか?」

 

「みりあは11歳だよ! 小学五年生!」

 

まずは自分の左側にいたアイドル、赤城みりあに話しかけるぴにゃ男。元気一杯に喋る彼女に彼も思わずにやけてしまっていた。

 

「それでね! 妹が生まれたの! だから私お姉ちゃんなの!」

 

「あ~お姉ちゃんか~、じゃあこれからはもっと頑張らないとね~」

 

「うん! 少しでもお母さんが楽できるよう私頑張るよ!」

 

「いやーそんな事も考えてるなんて偉いなーみりあちゃんは、お姉ちゃんとしてママの力になってあげてねー」

 

グッと拳を握って無邪気にガッツポーズするみりあに、ぴにゃ男はニヤニヤしながらすっかり癒されていると

 

そこへもう一人のアイドル、城ヶ崎莉嘉が彼と話したがっていた様子で目を輝かせながら近づいて来た

 

「ねぇねぇぴにゃ男君! ぴにゃ男君は前にお姉ちゃんと一緒に仕事した事あるんだよね!」

 

「あるよー、莉嘉ちゃんのお姉ちゃんはデビュー当時から見ててね、すっごいやりやすくて楽しかったよ~」

 

「そうそう! お姉ちゃんも同じ事言ってた! あの二人が色々と業界の事教えてくれたって!」

 

彼女の姉とは何度か一緒に仕事しているぴにゃ男は、きらりのマッサージで眠そうにしながらも、莉嘉の話をちゃんと聞いてあげる。

 

「それでぴにゃ男君ってすんごいお姉ちゃんの事をイジリまくってたでしょ! 私テレビで観てたけど、お姉ちゃんがぴにゃ男君にマジで投げられてるの見て笑っちゃったよ~!」

 

「あのねぇあの子はね、もうこっちがどんな事してもなんでも来いってデビュー当時から凄い頑張ってたのよ、だからおじさんもねぇ、ホントやりやすくて凄い感謝してるの」

 

「お姉ちゃんもぴにゃ男君に感謝してたよ! 緊張している時に優しく声を掛けてくれたり、テレビで目立てるよう派手にイジってくれたから、おかげで人間としてもアイドルとしても成長出来たって!」

 

「も~そういう恥ずかしい事を言うもんじゃありません! おじさんそういうの照れちゃうから! 大した事してないから!」

 

懐かしい話と姉がそんな事を言っていた事を莉嘉から教えられて、照れ臭そうに止めてくれと苦笑いを浮かべるぴにゃ男、するとそこへ……

 

「あれ? 莉嘉? こんな所でみんな集まって何してんの?」

 

「あ! お姉ちゃん!」

 

「!?」

 

不意にマッサージルームに入って来たアイドルに、さっきまで和らいでいたぴにゃ男の表情が一変した。

 

何故ならそこへ現れたのは先程まで莉嘉と話していた彼女の姉の……

 

「美嘉坊ォーッ!」

 

「にょわ~ん☆」

 

「ぴにゃさんが立ったー!」

 

「えぇ!?」

 

今はもうすっかり売れっ子カリスマギャルとして一人前のアイドルへと成長を遂げた莉嘉の姉である城ヶ崎美嘉が

 

収録だというのも知らずにガチで偶然この場に居合わせてしまったのだ。

 

「ああ! よく見たらこの人! うそ!?」

 

「びっくりしたぁ~きらりん一回転しちゃったぁ~」

 

するとぴにゃ男はさっきまでとは打って変わって凄まじい鬼の形相を浮かべると、きらりが背中にいるのも忘れて即座に立ち上がって彼女の方へ静かに歩み寄る

 

「貴様……! よくも俺の前にノコノコと姿を現せられたモノだな……!」

 

「いや……てかなんですかその恰好!? 今日は一体どんなお仕事で来たんですか!?」

 

「ちょっとばかり売れたからって調子に乗りやがって……! 美嘉坊のクセに随分と天狗になってるみてぇじゃねぇかオイ!」 

 

「なってませんから! あ、てかその仇名、超懐かしいですね」

 

「俺も懐かしいなと思った……」

 

拳を鳴らす様な仕草をしながら鋭い眼光を光らせ、ゆっくりと美嘉に迫るぴにゃ男。

 

まるで獲物を狙う狩人の様に

 

「今から俺は、芸能界の先輩として貴様に一から再教育を施してやる……!」

 

「は!? いやいや待って下さい私! 今回ただ偶然ここに居合わせただけで!」

 

「うるっせぇ! 美嘉坊のクセに口答えしてんじゃねぇよコノヤロー!」

 

「ふぐ! イダダダダダ!」

 

ここに来て自分は部外者だとあたふたしながら言い張る面の厚い美嘉にぴにゃ男はすぐに駆け寄って制裁

 

彼女の腕に自分の腕を回すと、そのままアームロックをかけていく。

 

「やれぇ凸レーション! 天狗になったカリスマギャルにお仕置きだぁ!」

 

「うきゃ~! 突撃だにぃ~☆」

 

「お仕置きだぁ~!」

 

「お姉ちゃん覚悟~!」

 

「いやちょ! アンタ達まで何この人に乗せられて悪ノリしてんのよ! ていうかみりあちゃんまで!?」

 

その恐るべき策略であっという間にアイドルグループ、凸レーションを洗脳し操る事に成功するぴにゃ男。

 

運悪く偶然この場に来てしまった不幸な娘、美嘉は、成す総べなく彼女達率いるぴにゃ男の手にかかるのであった。

 

「みりあちゃん! カリスマギャルのお尻をぺんぺんしなさい!」

 

「はーい!」

 

「みりあちゃんッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カリスマギャルが小学生に尻をぶっ叩かれてる頃

 

そんな事も知らずに木梨猛は一人悩んでいた。

 

「うーん困ったー……凛ちゃんがどこにも見当たらないぞ、一体どこへ行ったんだ……」

 

あちこち走り回ってたのに一向に凛が見つからない事に猛は焦りを感じつつ

 

 

「あ~~~~! いい湯だな~~~~~!」

 

走ったせいで汗まみれになった体を洗う為、一人お風呂に遣っていた。

 

凛を探している内に猛が辿り着いた場所は彼女がいる筈の本社内ではなく、まさかのアイドル達が住んでいる寮施設である。

 

いつの間にか迷い込んでしまった猛は、勝手にお邪魔し勝手に部屋に侵入し、そして勝手に風呂に入っていた

 

すると入浴中の猛の所にゆっくりと戸を開けて誰かが顔を覗かせ……

 

「あら? 誰か入ってるのかしら……ってきゃあ!」

 

「いや~ん! エッチ~!」

 

何も知らずに風呂場を覗いてしまったのはラブライカ、新田美波であった。

 

まさか風呂場に男が入浴していた事も知らず、悲鳴を上げてしまう彼女に猛は両手で胸を隠しながら叫ぶ。

 

「も~入ってるんだからノックぐらいしなさいよね~!」

 

「す、すみません……って誰ですかあなた!? ここ女子寮ですよ!?」

 

「ミナミィ? どうしましたかぁ?」

 

「アーニャちゃんは来ないで!」

 

怪しい男が勝手に風呂に入っていた事に気が動転しつつも、美波は一体誰なのだと猛に問いかける。

 

すると騒ぎを聞きつけてか、彼女と一緒にいたのであろうもう一人のアイドルもひょっこり顔を覗かせて来た

 

ラブライカで美波の相方を務める、アーニャことアナスタシアだ。

 

すると猛は風呂に浸かりながら陽気に彼女に手を振って

 

「わぁお、オーチニ プリヤートナ」(はじめまして)

 

「オーチニ プリヤートナ~」(はじめまして)

 

「ミニャー ザヴート アーニャ、カーク ヴァス ザヴート?」(私の名前はアーニャです、あなたの名前は?)

 

「ミ、ミニャー ザヴート タケシ!」(私の名前は猛です)

 

「カーク ヴィ パジヴァーイチェ?」(調子はどうですか?)

 

「あースティードナ!」(恥ずかしいです!)

 

「おープラスチーチェ!」(すみません!)

 

なんと北海道生まれのロシア育ちであるアーニャのロシア語に、猛はちょっと危なげながらも笑顔で返す。

 

それを見て美波は少し驚いた様子で

 

「凄い、アーニャちゃんとロシア語でお喋りしてる……」

 

「改造人間ですから!」

 

「は、はぁ……」

 

狭いお風呂の中で水かきしながら猛は自信満々に叫ぶ。

 

ジョッカーに改造された彼はあらゆる言語を聞き取り、使いこなす事も可能なのだ(ただし熊本弁は除く)

 

「そういえばミナミ、ヤー、さっき凄いモノを見ちゃいました」

 

「いや現在進行形で凄いモノが目の前にあるんだけど……」

 

 

目の前で見知らぬおっさんが勝手に風呂入っている方が問題ではなかろうかと美波は思いつつも

 

アーニャは嬉々として彼女に向かって話し始めた。

 

「んーリンがですね、ぴにゃこら太? 黒いぴにゃこら太の格好をしたプロデューサーと、シンデレラ・プロジェクト専用のお部屋にいましたー」

 

「な、なんだってー!」

 

「きゃあ! い、いきなり立ち上がらないで下さい!」

 

自分達シンデレラ・プロジェクトのメンバーがいつも集まっている部屋に凛がいるのを見かけた、とアーニャが言った瞬間すぐ様お風呂から立ち上がる猛

 

これには美波も慌ててアーニャの両目を自分の手で隠すが心配無用。

 

猛はちゃんとこうなる事をわかっていて事前に海パンを装着していたのだ。

 

「君は凛ちゃんの居場所を知っているのかい! 俺は彼女を助ける為にここに来たんだ! 是非そこまで案内してくれ!」

 

「ダー、いいですよー」

 

「スパシーバ!」(ありがとう!)

 

「パジャールスタ」(どういたしまして)

 

「さ、さっきからアーニャちゃんどうしてそんなに平然としていられるの? うわ! こ、こっち来ないで下さい!」

 

しかし海パンを付けているとは言え、男の裸をモロに見せられ美波は赤面しながら遂に逃げてしまった。

 

かくして猛は、計算通り凛がいる情報をゲットし、アーニャの案内の下、彼女が捕まっている場所へと向かうのであった。

 

「待っていろよ凛ちゃん! 必ずジョッカーの思い通りにはさせないぞぉ! ヤー スタラーユシ~!」(俺、頑張ります!)

 

「ジラーユ ウダーチ」(幸運を祈ります)

 

「いいからまず服着て下さい服!」

 

次回に続く

 

 



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対決、ブラックぴにゃ男

木梨猛がようやく346プロ本社で監禁されている渋谷凛の居所を突き止めた頃

 

そうとも知らずに怪人・ぴにゃ男はというと

 

「あ~智絵里ちゃん可愛ぅい~い~」

 

「そ、そんな私……! 可愛くなんてないです~!」

 

「や~照れてる所も可愛い~」

 

また別の所でアイドル達と仲良くお喋りをしている所であった。

 

ここはアイドルユニット・キャンディアイランドの待機室

 

偶然やってきたぴにゃ男は、そこにあった巨大なウサギの形をした背もたれ付きクッションにドカッと座り込んで

 

四葉のクローバーを愛する引っ込み思案の緒方智恵理の可愛さにすっかり骨抜きにされているのである。

 

「智恵理ちゃんの、将来の夢は何ですか?」

 

「え、えと……温かい家庭を守るお母さんになりたいです……」

 

「やだー! もう超可愛い~!」

 

「そんなに言われると恥ずかしいです~!」

 

「恥ずかしがるのも可愛ぅい~~~!」

 

顔を赤面させておどおどしながらテンパる彼女の反応に満足げにヘラヘラ笑うぴにゃ男

 

するとそんな彼の下へもう一人のアイドルが、満面の笑みを浮かべながらお皿にお菓子を乗せて持って来てくれた。

 

お菓子をこよなく愛する者・三村かな子である。

 

「ぴ、ぴにゃ男さん! もしよろしければクッキーどうぞ! 私の手作りです!」

 

「え、ほんとぉ!? これ君が自分で作ったの!?」

 

「は、はい!」

 

「うわ~ぴにゃこら太が描かれてるし、すげぇ上手~」

 

相手があの大御所なので、智恵理と同様かなり緊張しながらも勇気を振り絞ってクッキーを差し出すかな子。

 

表面には生クリームをこれでもかと盛り付けられ、その上にチョコペンでぴにゃこら太が描かれている彼女御手製手作りクッキーを、驚いた様子で受け取りながら、ぴにゃ男はそれをすぐ口の中へと一口でほおばる。

 

 

すると彼はすぐに「ん?」と首を傾げて

 

「あのね、かな子ちゃん」

 

「はい!」

 

「甘過ぎ」

 

「えぇ!?」

 

「あのね、クリームの量が多過ぎ」

 

いくら相手が可愛いアイドルであろうが味については別。

 

その辺については一切妥協せずににハッキリと言う、それがぴにゃ男なのだ。

 

「君等ぐらいの年の女の子なら平気かもしれないけど、おじさんぐらいの年になるとねぇ、胃がもたれちゃうんだよ~」

 

「す、すみませんでした!」

 

「これならさ、クッキーじゃなくて、お煎餅に盛り付けた方が良いかもしんない、甘さとしょっぱさでいい感じになるかもしれないから」

 

「なるほど……なら次はお煎餅作りに挑戦してみます!」

 

中年男性向けのお菓子をアドバイスしてくれたぴにゃ男に、かな子はめげずに今度こそ彼に美味しいと言って貰えるお菓子を作ろうと強い意気込みを見せるのであった。

 

「じゃあ俺が満足出来るお菓子を作ってくれるのを待ってるんで、今後も頑張ってください」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

「良かったねかな子ちゃん」

 

「うん!」

 

いつでも待っているとクッションに身を預けながら約束してくれたぴにゃ男に

 

嬉しそうにお礼を言って智恵理と一緒に微笑みあうかな子

 

怪人がいるとは思えないなんともほんわかしたムードが流れていると

 

それをぶち壊すかのように、待機室のドアが開かれた先から何者かが勢いよく……

 

「あーーーーーー!! 杏のうさぎがーーー!」

 

入るなりいきなり大声を上げてぴにゃ男を睨みつけるのは、智恵理やかな子と同じキャンディアイランドのメンバー、働かずに生きていけるニートライフを夢見るアイドル・双葉杏である。

 

彼女が現れるとキョトンとした様子で目を丸めるぴにゃ男に、杏子は機嫌悪そうな様子でズンズンと彼の方へ歩み寄り

 

「そこは杏が安らぐための杏専用特等席なんだよ! 勝手に座るなぁ!」

 

「ううん違うよ? コレは俺のうさちゃんだよ」

 

「はぁ!? なに訳わかんない事言ってんのさ! いいからそこをどけー!」

 

さっきからずっとぴにゃ男が座っていたウサギの巨大クッションは、杏の完全私物だったらしい。

 

しかしそれを聞いてもなお彼は動く気配を見せず、あまつさえ自分の所有物だと言い張る始末。

 

更に動く気配を見せない彼に杏は無理矢理にでもどかせようと、小さな体でなんとか彼を追い払おうとする時

 

「ってあぁー! 私がいつも持ってる携帯用うさぎ! どこにも見当たらないと思ったらアンタが持ってたの!?」

 

「ううん違う違う、これも、俺のうさちゃん」

 

「何言ってんだそれも返せー!」

 

杏は彼の腕の中にある大事なものが抱かれている事に気付いた。

 

それはよく自分が持ち歩いていたどことなくウサギとは認識しづらいぬいぐるみ、無論これも彼女の私物である。

 

しかしぴにゃ男、それもまた絶対に離そうとせずに断固として彼女から死守。

 

みを乗り上げてきた杏子の顔面に、右手を伸ばしてガシッと掴んで近づく事さえ拒む。

 

「やだー! コレ俺のうさちゃんー!」

 

「もがが! 横暴だー! 大御所だからってそんな真似許されると思ってんのかー!」

 

「ど、どうしようかな子ちゃん……」

 

「う、うーんと……とりあえずお菓子食べようか」

 

「このタイミングで!?」

 

顔面を鷲掴みにされてもなお杏は「ギャラを上げろ」だの「もっと楽な仕事をさせろ」だのドサクサに勝手な事を言い出しながら、半笑いを浮かべるぴにゃ男の子供じみた嫌がらせに立ち向かおうと懸命に両腕を振っていた。

 

そして同じアイドルとして杏に手を貸すべきか、大先輩であるぴにゃ男に協力するべきなのかという難しい選択を強いられた智恵理とかな子

 

とりあえず作り立てのぴにゃこら太を二人で食べ終えてから考えようという結論に至ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその頃、木梨猛はというと本社内を猛ダッシュで駆け抜けていた。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

偶然出会ったアイドルのアーニャに渋谷凛がいる場所を教えてもらう事に成功した猛は

 

遂に彼女がいると思われる、シンデレラ・プロジェクトの専用部屋の前へと辿り着くのであった。

 

「ここに凛ちゃんがいるのか! よーし今助けに行くぞぉ!」

 

ドアの前で強く叫ぶと、猛は豪快にドアを蹴破り……とはいかず、キチンとドアノブを回してガチャリと開けて

 

「失礼しまーすってあぁ!」

 

丁寧に一礼して中へと入る猛だが、すぐに予想だにしない衝撃的な光景が目に前に現れたのだ。

 

なんとこの部屋で監禁されている筈だったと思われていた……

 

「そんな馬鹿な……! 凛ちゃんが……!」

 

「逃げて猛さん!」

 

 

 

 

 

 

「普通にロケ弁食ってやがる!」

 

部屋に入って来た猛に向かって慌てて声を掛けて来たのは、ソファにのんびり座って支給された弁当を綺麗に食べる凛であったのだ。

 

「凛ちゃん! なに呑気に弁当なんて食っているんだ! 君はジョッカーにこの部屋に監禁されていた筈じゃないのか!」

 

「ああうん、一応そんな感じだけど、別に縛られてもいないし部屋の中なら自由に動き回れるよ」

 

「爆弾は!? ジョッカーは君とこのビルもろとも吹き飛ばす爆弾を仕掛けていると言っていたぞ!」

 

「え? そんなのどこにもないけど?」

 

「なぁにぃ~~!?」

 

ここに来てまさかの新事実、仕掛けた爆弾など本当はどこにもなく、全てあの策士・ぴにゃ男のガセであったのだ。

 

しかしそれならどうして奴は自分に凛を探し回させたのか……だがそれを考える暇なく、凛自身が手早くその答えを教えてくれた。

 

「それより早く脱出して猛さん! ここには今、爆弾なんかよりも恐ろしい奴が潜んでいるんだよ! アイツ等が私をここに閉じ込めていたのはきっと! 走り回って疲れている筈の猛さんをここで難なく始末させる為なんだ!」

 

「そのロケ弁、俺が食った奴より高そうなんだけど」

 

「いいから急いで! アイツが現れたらきっと猛さんだって無事じゃ……!」

 

慌てて猛に向かって奴等の作戦の真相を説明口調で話す凛であったが、それよりも彼女が食べてるロケ弁が自分が貰った奴よりも豪華なのでは?と気になってしょうがない猛

 

すると突然、そんな隙だらけの彼の背後から、正確には凛の向かいの方にあるソファの裏側から

 

ヌッと大きな人影が現れたのだ……

 

「ぴ! ぴにゃー!」

 

「うわ! な、なんだお前は!」

 

いきなり現れたのはノーマルぴにゃ男よりも黒くてやや大きいぴにゃ男であった。

 

突然ぎこちない奇声を上げながら現れた大男に、猛は困惑した様子で慌てて凛を庇うかのように盾になる。

 

「お前は誰だ! まさかジョッカーの怪人か!」

 

「ぴ、ぴにゃにゃ……わ、私はブラックぴにゃ男……」

 

「ブ、ブラックぴにゃ男だとぉー!? なんかどっかで! 収録前に挨拶に来た企画担当に似ている気がするんだけど!」

 

「まんまと騙されてノコノコとやって来まし……来たぴにゃな……散々走り回ってつ、疲れているお前を、わ、私が倒して……」

 

「プロデューサーさっき私と打ち合わせした通りちゃんとやって」

 

「す、すみません……」

 

「打ち合わせしてたのー!?」

 

棒読みというかかなり緊張した様子で覚えたての台詞をなんとか言い切ろうとする大男、ブラックぴにゃ男

 

だがあまりにも恥ずかしそうにやっているのが見え見えだったのか、凛は腕を組みながら静かにダメ出し。

 

今まで自分が来るまでずっとこの二人は段取り手順を練っていたのかと知り猛はちょっとビックリするのであった。

 

「とにかくお前がブラックぴにゃ男というジョッカーの怪人で! 凛ちゃんを餌にして俺を本社内を走り回せ! そのおかげで疲れ切った俺を容易に始末するという狙いだったという訳だな!」

 

「その通りです、あ! その通りぴにゃ! 渋谷さ……その娘はお前を釣る為のただの餌なんだぴにゃ!」

 

「……う~ん、なんかやっぱ堅いんだよなぁ……」

 

こちらが代わりに台詞を言ってあげるも、やはり表情が硬いブラックぴにゃ男

 

それに首を傾げる猛に凛も真顔でブラックぴにゃ男を見つめながら

 

「それに娘って所もちゃんと私の名前で呼んだ方が良いと思う、プロデューサー、一回私の事凛って呼んでみようか」

 

「君は君でなにを言ってるの凛ちゃん」

 

ボケなのか素なのか、それとも何か別の狙いでもあるのか、真顔で自分の名前を呼べとブラックぴにゃ男に要求する凛に、猛は困惑した様子でツッコミを入れると改めて振り返り

 

「凛ちゃん! この男の相手は俺がやる! その間に君はここから脱出するんだ!」

 

「待って猛さん! ブラックぴにゃ男はまださっき打ち合わせの時に私が考えた「私がお前から凛を奪い! 彼女の人生を一生プロデュースするのだ!」ってセリフがまだ出てないよ!」

 

「凛ちゃん! そういうのはプライベートで言って貰いなさい!」

 

早く逃げろと促しているのに断固望む言葉を聞くまで出て行きそうにない態度の凛に、猛は思わず吹き出してしまいそうになる。

 

ブラックぴにゃ男もそんな彼女に困った様子で首に手を置くような仕草をしながら

 

「い、いやそれは流石にちょっと、打ち合わせの時にも言いましたがその台詞はちょっと問題が……」

 

「とりあえず今までのやり取りから察した俺は! この情報を文春に売るって来るけど良いかな!?」

 

「お、お待ちください! それはただの誤解です!!」

 

「よし! いい声出て来たよー!」

 

ここに来て思わぬスキャンダルをゲットした猛は、どこぞの雑誌に売り込みに行こうかと企み始めると

 

ブラックぴにゃ男はようやくハッキリとした強い口調で叫ぶことが出来た。

 

「こ、ここは狭いしうまく動けません! 木梨猛! 今からお前の墓場に連れてってやる! ついて来い!」

 

「おっしゃあ望む所だ! よぉし凛ちゃん! 俺は奴と戦ってる間に君は逃げるんだ! お願いだから!」

 

「……………………わかった」

 

「いや凄い残念そうだな!」

 

 

戦うべき場所はここではない、いい感じにそう叫ぶとブラックぴにゃ男は猛を何処かへ連れて行こうとする。

 

それに猛も了承し、彼と共に一旦場所を移す事にするのであった。

 

 

名残惜しそうにちょっとしょんぼりしている凛をその場に残して

 

 

 

 

 

 

数分後、ブラックぴにゃ男と猛は

 

346プロの敷地内にある、アイドルが撮影の時やプライベート等で使う為の大きなプール場にやって来ていた。

 

「臆せずによくやって来たな、木梨猛!」

 

「おーおーおー! 来てやったぞブラックぴにゃ男!」

 

油断すればすぐに滑って転びそうなぐらいに濡れているタイルの上で

 

隣に大きなプールがあるという状況で、二人は真っ向から向かい合っていた。

 

「俺をおびき寄せる為だけに凛ちゃんを利用するとは……許さん、ジョッカー! 絶対にぶっ飛ばすぞぉ!」

 

「かかって来るがいい! 木梨猛、いや仮面ノリダー!」

 

「なんか武内の演技が上手くなってて俺ちょっとビックリしてるけど! よ~し! 変身だぁ!」

 

段々やってる内に様になって来たのか、それとも凛の叱責を受けた事が影響なのか、さっきまでとは打って変わってまともになっているブラックぴにゃ男の前で、遂に猛はビシッとポーズを決めて変身しようとする。

 

「か~いわれ巻き巻き、ね~ぎトロ巻き巻き、巻いて巻いて……!」

 

腕をグルグル回しながら変身前の口上を久しぶりにやろうとする猛

 

だがその途中で

 

 

 

 

 

 

「待つのだ! 光をも吸い込みかねん大きな鼻穴を持つ呪われし戦士よ!」

 

思いがけないアクシデントが起こる。

 

猛が口上を叫んで変身する前の動作をしている時に、突如として彼女の傍へ勢いよく

 

ゴシックロリータの衣装に身を包んだおかしな少女が駆けつけて来たのだ

 

「闇に飲まれよ!」

 

「……なに?」

 

「か、神崎さん……?」

 

いきなり変な事を自分とブラックぴにゃ男に向かって叫ぶ少女に、猛は思わず動作を中断してポカンとする。

 

彼女は神崎蘭子、その独特的な口調は結構有名であり

 

Rosenburg Engelというユニットをソロでやっているアイドルである。

 

「しばし時を待つのだ呪われし戦士よ……この者を闇へと還すのは断じて許さぬ、我が友に必要なのは暗黒に堕とす罰でなく魂の救済なのだ!」

 

「ねぇ……急に出て来てなに言ってんのこの子?」

 

「す、すみません……とりあえずしばらく彼女に話をさせてあげて下さい……」

 

「深淵の暗闇から友の魂を救い上げるのは! 共に闇夜を舞い続ける事を誓い合った我だけの役目!」

 

ロシア語は出来ても彼女の言葉だけはどうしても理解出来ないでいる猛、思わずブラックぴにゃ男に彼女を指さしながら尋ねるが、彼もまたどうしていいのかわからない様子で、とりあえず彼女の話を聞いて欲しいと猛に頼む。

 

「ククク……かつて我の秘められし力を覚醒に導いた我が友よ……されば今宵は我がその迷える魂! 闇夜の底から拾い上げ導いてやろう!」

 

蘭子は力強くそう叫ぶと、ブラックぴにゃ男をビシッと指さし、猛の隣で真っ向から対峙する。

 

しばらくそれを観察していると、猛は眉間に眉を寄せながら凝視して

 

「え、もしかして……俺と一緒に戦ってくれるの?」

 

「うむ! 共に我が友を救い出そう! 呪われし戦士よ!」

 

「え~全然わかんなかった……」

 

右手に持った傘を畳んで得物の様に構える蘭子の真剣な表情を見ながら、まさか彼女が一緒に戦ってくれるとは思っていなかった猛は思わずブラックぴにゃ男の方へ振り返り

 

「……今のでおたくわかった?」

 

「はい、なんとなくは……恐らく私が悪者になってしまったのは何者かの洗脳であり、神崎さんはその洗脳を解く為に己の身を挺して私と戦おうとしているのだと思います」

 

「すげぇ理解力だな! よくわかったねさっきので!」

 

「……勉強させて頂きましたので……」

 

 

何を勉強すればあんな訳わからない言語を翻訳する事が出来るのだろうかと思いつつも、とりあえず一緒に戦ってくれるのであればそれでいいかと、猛は改めてブラックぴにゃ男と対峙し

 

「よーしもう一度行くぞジョッカー! 今から変身するから見とけよ見とけよ~!」

 

「ぴにゃにゃ! ならば見せてみろ貴様の力を! 仮面ノリダー!」

 

「……プロデューサーカッコいい……」

 

隣に立ってる蘭子が今まともな言葉を使った気がしたものの、猛は再び両腕をグルグルと回し

 

「か~いわれ巻き巻き、ね~ぎトロ巻き巻き、巻いて巻いて、手巻き寿司、とぉー!!」

 

やや早口でようやく口上を言い切る事に成功すると、そのまま勢いよく天高くジャンプ

 

改めて言うが木梨猛は改造人間、上空でグルグルと回りながら腰に付いている変身ベルトに強い風力を与えていくと……

 

 

 

 

 

 

「仮面~~~~~ノリダーッ! ニィ☆」

 

悪しき怪人との戦う事を宿命づけられた戦士、仮面ノリダーになるのだ。

 

 

カッコ良く腕を伸ばしてビシッと決めながら、キラリと歯を光らせて笑うノリダー。

 

そしてすぐに対峙するブラックぴにゃ男に拳を構え

 

「待たせたなジョッカー! ここで貴様をぶっ飛ばしてやる!」

 

「待たれよ呪われし戦士よ!」

 

「ってまたかよ!」

 

ようやくまともに戦えると思った瞬間、またしても蘭子が口を挟んで来た。

 

「其方は今一度魂の休息を挟み! ここはまず我が力に頼るが良い!」

 

「通訳!」

 

「えー……あなたは一度下がっていて私が代わりに戦います、だと思います」

 

「ご苦労!」

 

ブラックぴにゃ男の通訳を聞いてようやく理解したノリダーは

 

楽が出来るからと思い、早速彼女に任せてみる事に

 

「よし! 頼むぞ変な子! お前の力であの野郎を八つ裂きにしてそのまま腸をほじくり出して目の前でムシャムシャ食ってやれ!」

 

「ぴぃ! わ、我はその様な猟奇に満ちた残虐に手は染めぬ! 行くぞー我が友ー!」

 

にこやかに笑いながら何気にえぐい事を言ってのけるノリダーに、一瞬怯えた表情を浮かべる蘭子であったが

 

すぐに威勢良く叫びながら単身でブラックぴにゃ男に向かって突撃を開始する。

 

「さあ我が放ち矢を胸に撃たれ! 己の真名を取り戻すのだー!」

 

「う! 神崎さん!?」

 

さほど衝撃も無さそうな彼女の体当たりを素直に受け止めたブラックぴにゃ男であったが

 

「あの、すみません……何をやっているのでしょうか?」

 

「クックック、これこそ我が前世の頃より秘めていた禁術……! 漆黒と純白の翼に包まれ! 我と共に安息の地で眠るがいい!」

 

「いやこれは流石に……」

 

蘭子の繰り出した技は単なる攻撃などではなく、むしろそれ以上に厄介なモノであった。

 

「すみません、この体制はあまりにもよろしくないと思うのですが……」

 

「へへへ……否! これぞ我が望みし聖なる結界なり!」

 

アイドルでありながら両腕を伸ばして勢いよく自分に抱きついて来たのである

 

彼女自身はどこか嬉しそうだが、こちらとしては色々とマズイ……

 

すると蘭子の背後で休憩していたノリダーは、急ぎこちらへと歩み寄って行き

 

「そこだ! そこで一気に押せ! 変な子!」

 

応援するかのように彼女の下へ近づいてくノリダーであったが、既にブラックぴにゃ男に抱きついて夢心地である彼女の耳には届かない。

 

するとノリダーは「だ~か~ら~!」と彼女の背中に向かって

 

「もっと押せっつってんだろ!」

 

「ふぇ? ひぎゃあぁ!!」

 

「神崎さん!」

 

思いきり両手で押し飛ばしたのだ。

 

しかしその勢いの先はまさかの隣のプール。

 

彼女は天国から一気に地獄に落とされたかのように、悲鳴を上げながら音を立ててプールの中に落とされてしまった。

 

「な、なにを! ごぼごぼ!」

 

「あーごめん、ちょっと強く押しちゃった、すぐ助けるから」

 

突然水に落とされ慌てふためく蘭子であったが、そこへノリダーがすかさず手を差し伸べ、彼女を優しく引き上げてあげる。

 

そして

 

「はいドーン!」

 

「ひやぁぁ!!」

 

「神崎さん!?」

 

助けてあげたかと思いきやまた両手でプールに突き落とすノリダー、今度は完全にわざとである。

 

またもやプールに背中から落ちて悲鳴を上げる蘭子に、ノリダーはゲラゲラ笑いながら「ごめんごめん!」と両手を合わせて平謝り

 

「もうやらない! もうやらないから!」

 

「い、いかに天の上に立ち高名な賢者であれど! 我が衣を濡らすとは如何様な真似だ!」

 

まさか二度も連続で落とされるとは思っていなかった蘭子は、プンプンと怒った様子で彼によってまた引き上げられるのであった。

 

するとノリダーはふとプールの奥の底を覗き込みながら「ん?」と目を細めて

 

「あそこに落ちてるのって……君のじゃない?」

 

「え?」

 

もしや先程の落下のせいで何か落としたのかと、彼が指さした方向に蘭子は屈んで目を凝らす。

 

するとノリダーは油断してお尻を突き出している状態の彼女の背後にそっと回って

 

「ノリダーソフトキック!」

 

「へ? ふんぎゃあ!!」

 

「神崎さーん!!」

 

まさかの三回目の突き落としである、しかも今度は足で彼女のお尻を軽く蹴って。

 

プールに何か落ちている事も真っ赤な嘘、完全にノリダーの悪意だ。

 

「た、たしゅけてプロデューサー!」

 

「こちらに!」

 

もはやノリダーになんか絶対に助けて貰いたくないと、パニクりながらブラックぴにゃ男に向かって叫ぶ蘭子

 

それにすかさず反応し、ブラックぴにゃ男はこちらに伸ばした彼女の小さな手を掴み、水面から一気に引き上げるのであった。

 

「ゲホッゲホッ!」

 

「申し訳ありません……神崎さんをこんな目に遭わせてしまい……」

 

「こ、これしきの事では我は動揺せぬ……それに」

 

彼女の両手を取りながら申し訳なさそうに謝るブラックぴにゃ男、しかし蘭子は全身ずぶ濡れになりながらも彼の手を取りながら健気に微笑んで

 

「プロデューサーさんが持ってきた仕事なら、例えどんな事でも一生懸命やるって決めてますから私……」

 

「神崎さん……」

 

そのひたむきで純粋にどんな仕事でも全力で頑張ろうとする姿勢を見せてくれた蘭子に

 

ブラックぴにゃ男は彼女の輝かしい笑顔を前に思わず言葉を失い感動さえ覚えてしまっていると……

 

 

 

 

 

「ノリダーやみのまッ!!」

 

「ぬぐ!」

 

「プ、プロデュ……きゃあぁぁぁぁぁ!!!」

 

蘭子と手を取り合い、なんかいい感じになって完全に隙だらけであったブラックぴにゃ男の背中に向かって

 

ノリダーは正義の鉄槌を咥えるべく、華麗なる飛び蹴りを後ろから思いきりかますのであった。

 

その衝撃で彼はプールの中へ派手に着水、一緒にいた蘭子も巻き添えとなり、やっぱり彼と共に落ちるのであった。

 

「ハァハァ……! 勝ったぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

そして一人その場に取り残されたノリダーは天高くガッツポーズを掲げ、苦しい戦いだったとわざとらしく疲れた表情を浮かべながら勝利宣言し、早々にその場を立ち去るのであった。

 

「皆さーん! 346プロのPが担当アイドルに手ぇ出してますよー! しかも二股だよ二股!」

 

「してません!!」

 

 

かくして、神崎蘭子の尊い犠牲によって無事にブラックぴにゃ男を倒す事が出来た仮面ノリダー

 

しかしこれはほんの前座に過ぎない

 

いざ決戦の舞台へ

 

次回、最終対決

 

仮面ノリダーvsぴにゃ男

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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最終決戦 仮面ノリダーはみなさんのおかげでした

強敵ブラックぴにゃ男を相手に苛烈な激戦の上で勝利をもぎ取った仮面ノリダー

 

しかし未だ凛を攫った本人であるぴにゃ男は健在のままだ。

 

ブラックぴにゃ男をプールの中に沈め、ついでに神崎蘭子も一緒に沈めると

 

ノリダーは急いでぴにゃ男がいるであろう346プロ本社へと戻るのであった。

 

「あ、いたぞ怪人!」

 

そして彼はすぐに見つけた、社員やアイドルが利用してい本社直属の喫茶店で

 

物凄く目立つ格好であるぴにゃ男が優雅にコーヒーを飲みながらくつろいでいたのだ。

 

店員らしき女性と妙に親し気に会話しながら

 

「え~うっそだ~!」

 

「う、嘘じゃないです! ナナはホントにずっと前からお二人のファンだったんです!」

 

コーヒー片手にヘラヘラと笑うぴにゃ男に、この店のバイト店員兼アイドルの安部菜々が、やや必死な様子で彼に向かって叫んでいる。

 

「この作品も最初からずっと観てました!」

 

「え~~~~!? 待って奈々ちゃん年いくつ?」

 

「ナナは17才です、キャハッ!」

 

「17!? いやそれなら絶対観てないでしょ~! 結構昔だぜコレ~!」

 

腰に手を当てキラッとポーズを取って自分の年齢を言う奈々にぴにゃ男はすぐに彼女を怪しむ視線を向けると

 

そこへノリダーが何食わぬ顔で平然と歩み寄って行き

 

「なになに? なんか盛り上がってるみたいだけど」

 

「きゃ、きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!! 本物の仮面ノリダーぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「うん、本物だけど、なに? なんの話してたの二人で?」

 

急に後ろからやってきたノリダーに奈々は驚きと歓喜が入り混じった叫び声を上げて大混乱。

 

するとぴにゃ男は敵である筈のノリダーに「いやさ~」ときさくな態度で口を開き

 

「この子、ずっと前から俺達のファンらしいんだけど、17才なんだって」

 

「17? いやあり得ないでしょ、17才の女の子が俺達のファンだなんて、お父さんが好きだったとかでしょきっと」

 

「ホントです! だってナナは子供の頃からお二人の好きなようにやっていく破天荒なスタイルが大好きだったんです!」

 

17才の少女が自分達の事などよく知る筈が無いとノリダーが断言するが、奈々は首を横に振って本当に昔からファンだったのだと叫ぶ。

 

「お二人が野猿として活動していた頃もずっと観てました! CD全部持ってます!」

 

「野猿知ってんの!?」

 

「お二人の本も買いました! 『天狗のホルマリン漬け』から!」

 

「天狗のホルマリン漬けって……確か俺達が最初に出した奴じゃなかった!?」

 

興奮した様子で話す奈々にノリダーもぴにゃ男も戸惑った様子で仰天する。

 

なにせ今時の若いアイドルが、年代も違う自分達の事などよく知っている筈が無いのだ。

 

そしてぴにゃ男はピーンと来た様子で険しい表情を浮かべて奈々を問い詰めにかかる。

 

「お前、さては17じゃないだろ」

 

「うぇ!? な、何言ってんですか! ナナは17才です! 本当です!」

 

「ナイナイの岡村君とタメじゃないよね?」

 

「さ、流石にそこまではいってないです!」

 

「そこまでいってない? じゃあちょっとはサバ読んでるって事?」

 

「読んでません! ナナは17才、ウサミン星からやって来たアイドルなんです!」

 

アイドルの年齢詐称疑惑があると睨むぴにゃ男に、動転した様子でかなり必死になって弁明する奈々。

 

「というかナナの年の事なんて今はどうでもいいじゃないですか! 仮面ノリダーと怪人がこうして出会っているんですから! やる事は一つです!」

 

「いや俺は番組の段取りよりもまず先に君の本当の年齢を教えて欲しいんだけど」

 

「た、助けて仮面ノリダーァァァァァァァ!!!」

 

強引に打ち合わせ通りの段取りを進めようとする奈々だが、ここでぴにゃ男、まさかの段取り無視。

 

それでも奈々はこれ以上年齢の事を指摘されない為に、有耶無耶にしようと勝手にノリダーに向かって助けを求めた。

 

するとノリダーはすかさず彼女の前に立ち塞がり

 

「サバ読み疑惑の件でアイドルを執拗に質問攻めするのは止めろ! 怪人め!」

 

「ナナはサバなんて読んでませんったら!」

 

「店員さん、俺がコイツを食い止めてる間に早く逃げなさい、急いで逃げないと、コイツは収録後すぐ君の所へ駆けつけてまたしつこく聞いて来るぞ!」

 

「そ、そんなぁ!」

 

これ以上深く年齢について斬り込んで欲しくない奈々は、ノリダーの忠告を聞いて慌てて店の方へと逃げ出していく。

 

「え~ん! ずっと前から憧れていた人と念願の共演できたのに~!」

 

「終わったら一緒に写真撮ってあげるから!」

 

「ありがとうございます~!」

 

最後にノリダーのフォローにお礼を言いながら、奈々は何処へと去っていくのであった。

 

「よーし、これで俺とお前だけになったな、怪人・ぴにゃ男!」

 

「ぴにゃにゃにゃ! おのれ仮面ノリダーめ、あの女の実年齢をカミングアウトさせて全国テレビで放送するチャンスだったのに、よくも邪魔したぴにゃね!」

 

彼女が去った後、ノリダーは改めてぴにゃ男と対峙する形を取り、それに応えるかの様にコーヒーを飲み終えたばかりのぴにゃ男もすぐに席から立ち上がって彼を睨みつける。

 

「ここでお前を殺してやりたい所だが……ここではちょっと丁度いい坂道とか無いし、爆発も出来ないんで、場所を変える事にするぴにゃか」

 

「それもそうだな、じゃあいつものお約束の場所に……」

 

彼の提案にノリダーもすぐに頷いて承知すると、その場で両足を踏み込んで

 

「とぉ!」

 

「ぴにゃ!」

 

ぴにゃ男と共に空高くジャンプするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

すると一転して、辺り一面が丁度戦いやすい広々とした荒れ地に着地するノリダーとぴにゃ男

 

「あ~ここに来ると帰って来たって感じだな~、よし! いっちょ派手に暴れてやるぞぉ!」

 

「そうやって懐かしむのも今の内ぴにゃよ……あの坂の上を見ろ! ノリダー!」

 

「なに!? は! アレは!」

 

懐かしき場所に思いを馳せるノリダーに、ぴにゃ男はすぐ近くにそびえ立つ急斜面の坂の上へと指さす。

 

足を踏み外せばすぐに転げ落ちそうな、危なっかしい頂上にいたのは……

 

「フ、フハハハハ! よくぞ来ましたね仮面ノリダーさん! 初めまして! 私は新生ジョッカーの新たな将軍! しまむー大佐です!」

 

「な、なんだってぇーッ!?」

 

新生ジョッカー率いる親玉、しまむー大佐が慣れてない様子で笑い声を上げながら立っていたのだ。

 

「今回は我等ジョッカーの悲願が達成する瞬間をこの目で見届ける為に! 私も陰ながらここでぴにゃ男を応援しようと思ってやって来ました!」

 

「くっそ~! こっちは一人なのにそっちはアイドル連れてきやがって~! ウチも未央ちゃんぐらい呼んどけば良かった~!」

 

明らかに向こうの方が華があるではないかと悔しがり、せめて本田未央でも呼べば普通に来たんじゃないかと考えてみるが、そこへぴにゃ男が手を横に振って

 

「いや、ちゃんみおは無理、しまむーがアイツにNG出してるから」

 

「マジっすか!?」

 

「だ、出してません! 未央ちゃんとはずっと仲良しです!」

 

「「ったくよぉ、アイツ8代目シンデレラガールになって天狗になってんだよぉ……! ウチ等のシマ荒らした落とし前ぜってぇ取らしたるからなぁ……!」って楽屋でしまむーがね?」

 

「言ってません! 私そんな酷い事企んでません!」

 

「指の一本や二本で済むと思うなよぉ……!」

 

「いい加減にしてください!」

 

その場で便所座りしてタバコ吸う仕草をしながら、ドスの利いた低い声でしまむー大佐の物真似を披露するぴにゃ男だが

 

事実無根の出まかせであると坂の上から必死に否定する彼女。

 

「んも~私で遊んでないでさっさとノリダーを始末しちゃって下さい! ジョッカーのみなさーん!!」

 

ぴにゃ男を怒鳴りつけるとしまむー大佐はすぐにこちらに向かって号令をかける。

 

するといつの間にか、ノリダーを取り囲むかのようにジョッカーの戦闘員がゾロゾロと集まって来る。

 

「ぴにゃ男と一緒に! そいつをやっちゃって下さい!」

 

「「「「「イー!!!!」」」」

 

「くっそー、出たか戦闘員~!」

 

ズラリと並んで一世に声を上げるジョッカーの戦闘員を見渡すノリダー、しかし数が不利だからといって、カメンノリダーはここで逃げる真似は絶対にしない。

 

「えーい全員かかってこーい! みんなまとめて、ぶっ飛ばしてやるぞぉ!」

 

一斉に襲い掛かって来る戦闘員にノリダーは怯む様子も見せずに、果敢に正面から立ち向かう。

 

「せい! せい! は、どっこいしょう!」

 

「イー!」

 

「あっち向いて~……そい!」

 

「イー!」

 

「こっち向いて~……よいしょ!」

 

「イー!」

 

一人、また一人を相手に華麗に舞うように戦いながら倒していくノリダー、必要以上に派手に吹っ飛んでくれる戦闘員に心の中では感謝しつつ、ノリダーはクルクルと全身を回転させながら

 

「ノリダ~! フィステバ~ル!!」

 

「「「「「イー!!!!!」」」」」

 

戦闘員達に向かってフニャフニャに歪む光線を撒き散らす。

 

それを食らった戦闘員達は皆耐え切れず、声を上げて綺麗に背中から倒れていくのだ。

 

「よし! これで後はお前だけだ! ぴにゃ男!」

 

「フッフッフ……そう上手くいったと思うぴにゃか……?」

 

「なに!?」

 

雑魚は片づけ、残すはぴにゃ男だけだと意気込むノリダーだが

 

ぴにゃ男はそんな彼にニヤリと笑うと、坂の上にいるしまむー大佐を見上げて

 

「我等がジョッカーの新たな力を見るが良い! しまむー大佐!」

 

「はい!」

 

彼が叫ぶとしまむー大佐はビシッと敬礼し、すぐにこちらに向かって元気よく手を振って

 

「皆さ~ん! 頑張りましょう~! 頑張れば夢は叶うんです! 頑張って皆さんでノリダーを倒しましょう~!」

 

倒れた戦闘員達にしまむー大佐からの熱い声援が降り注いでいく。

 

すると戦闘員達は次々に何事も無かったかのように立ち上がって行き

 

「「「「「イー!!!」」」」」」

 

「なぁに~!? 倒したのに全員蘇っただとぉ~!?」

 

彼女の声援が強い力と生命力になったのか、再び復活して来た彼等に流石にノリダーも驚く。

 

まさかこれがしまむー大佐の力だというのか……

 

「イー!」

 

「うッ!」

 

「イーイー!!」

 

「ぐわぁ! ま、まさかコイツ等! 復活しただけじゃなくて強くなってる~!?」

 

しかも復活した戦闘員達は以前よりも更に力が増しており、彼等の攻撃に耐え切れずにノリダーは拳で殴られ吹っ飛ばされてしまう。

 

しまむーの声援の力で敵全員の士気が上がっており、とてもじゃないが彼一人では対処できない。

 

「フッフッフ~! これで年貢の納め時ですね仮面ノリダー!」

 

「ぴにゃにゃにゃにゃ! どうやら俺様が出る必要もないみたいだぴにゃな!」

 

「くっそ~こうなったら……!」

 

既に勝利を確信した様子でこちらに高らかな笑い声を上げるしまむー大佐とぴにゃ男。

 

しかしまだ打つ手はあると、ノリダーは腰に巻いてるベルトに付いている、ガチャポンサイズのカプセルを取り出した。

 

「来い! チビノリダー!」

 

助けを求めるかの様にそう強く叫ぶと、ノリダーは勢いよくそのカプセルを地面にぶつける。

 

するとその瞬間、カプセルの中から何かがスモークに巻かれながら勢いよく現れたのだ。

 

「ふわぁー、ちびのりだー……」

 

「なに!? チビノリダーだとぉ!?」

 

出て来たのはノリダーと同じ格好をした小さなノリダー、通称チビノリダーである。これにはぴにゃ男もビックリ

 

妙にのんびりした口調で力なく自己紹介しながら、軽く手を上に上げてポーズだけは取るチビノリダー。

 

「ちびのりだーもねぇ、のりだーといっしょにたたかうのー……」

 

「なんか思ってたのより大分違う子が来ちゃった! まあいいや! 一緒に戦うぞチビノリダー!」

 

「うん、ちびのりだーがんばるー」

 

聞いてるだけでこっちも力が抜けてしまいそうな喋り方をする不思議な子に戸惑うノリダー

 

本来、チビノリダー役は南条光という子がやる予定であったのだが

 

当日に彼女が風邪をこじらせてしまった為に、急遽代役として呼ばれたのがこの子、遊佐こずえなのである。

 

しかしそこへ、ぴにゃ男の恐るべき魔の手がチビノリダーに忍び寄る。

 

「ん~? チビノリダーはさ~、お名前なんと言うのかな~?」

 

「こずえ~」

 

「こずえちゃんか~、え、こずえちゃんはいくつなの?」

 

「11さい……かなー?……」

 

「へーそうなんだー」

 

妙に友好的に話しかけながらチビノリダーにジリジリと近寄って行くぴにゃ男。

 

「あれ? こずえちゃん? 鼻水出てるよ鼻水」

 

「ほんとぉー?」

 

「ほら出てる、ちょっとこっち来てみ、拭いてあげるから」

 

そう言ってチビノリダーの方からこちらに向かってこさせるぴにゃ男、そして彼女がフラフラしながら寄って来たその瞬間

 

「うほーい!」

 

「チビノリダー!」

 

近づいてきた彼女にぴにゃ男の顔面パンチが炸裂。

 

軽く小突かれた程度の威力ではあるが、してやられたチビノリダーに苦笑いを浮かべながら駆け寄る仮面ノリダー。

 

「おいぴにゃ男! お前! お前流石に限度を考えなさいよ!」

 

「いたーい……」

 

「そうですよ! 私達ならともかくそんな小さな子供相手に!」

 

ノリダーだけでなくしまむー大佐からも非難されるぴにゃ男

 

しかし彼は目の前で鼻を押さえて痛がるチビノリダーを前にしても、全く悪びれる様子無く

 

「甘ぇ事言ってんじゃねぇ……! 芸能界ってのはな……! 常に狩るか狩られるかの世界なんだよ……! 覚えとけこずえ……! 俺達は常に生と死の狭間を彷徨いながら地獄の戦場の上に立ってるんだ……! 戦いの中で敵に隙を見せたら死ぬと思え……!」

 

「ふわぁ、わかったー……」

 

「いや子役に教える事じゃねぇだろそれ!」

 

凄味のある表情でチビノリダーに厳しい芸能界での戦い方を教え込むぴにゃ男。

 

しかし子役アイドルである彼女にそんな修羅場を叩きこむのは早過ぎるだろと

 

ノリダーはツッコミを入れながら彼女を両手で抱き抱えるのであった。

 

「よしチビノリダー! あの酷いおじさんをぶっ飛ばす為に合体技を使うぞ!」

 

「うん、ぶっとばすー……」

 

そう言うとノリダーはチビノリダーを両手で抱えたまま、再びグルグルと回りだし

 

「ノリダ~!」

 

「ちびのりだー……」

 

「ダブ~ル!!」

 

「ふぃすてば~る」

 

ノリダーとチビノリダーの合体話、ノリダーダブルフィステバルが炸裂

 

「ぬ、ぬおぉ! なんて力だコイツ等!」

 

「「「「「イー!!!!!」」」」」

 

二人の力が融合したその必殺技は、かつてない程のパワーが生まれ

 

瞬く間に辺り一帯に凄まじい竜巻を発生させ、ぴにゃ男含めジョッカーの戦闘員もまとめて吹き飛ばす。

 

「死ねぇ雑魚共ぉ!」

 

「ざこどもー」

 

復活したばかりの戦闘員でさえ成す術なく、次々と倒れておきそして

 

チビノリダー抱き抱えるノリダーの周囲から物凄い爆発が発生したのであった。

 

「「「「「「イー!!!!!」」」」」

 

「ちょ! 今回爆発デカいって!」

 

「うるさーい……」

 

ドゴォン!ドゴォン!と派手になり続ける爆発音に思わずノリダーもビックリし、抱き抱えられているチビノリダーも両耳を押さえた。

 

そしてようやく爆発が収まると、ノリダーは彼女を下ろして

 

「よし、じゃあ戦闘員はみんなぶっ飛ばしたし、チビノリダー! 撤収!」

 

「目が回ったのー……」

 

役目を終えたチビノリダーをまたぴにゃ男に酷い目に遭わされない為に、ノリダーは手早く彼女をカプセルの中に戻し出番を終わらせてあげるのであった。

 

「さあラストバトルだぴにゃ男! あの坂の上で決着を着けるぞ!」

 

「フフフ、良いだろうノリダー、今回こそ貴様の方をあの坂の上から転がり落としてやるぴにゃ!」

 

そう言って二人は再び真上にジャンプ、そして一転して一瞬でしまむー大佐のいる急斜面の坂の上にそびえる頂上に着地

 

「いよいよ最後の戦いですね! よーし私も頑張って応援しちゃいます! 負けるなぴにゃ男!」

 

「うおぉぉぉぉぉ!! テンション上がって来たぴにゃあ!」

 

後ろに回って笑顔で声援を贈ってくれるしまむー大佐の力でぴにゃ男がパワーアップ。

 

すると事前に頂上に用意しておいた、テーブルの上から彼はあるモノを取り上げる。

 

「食らえノリダー! ぴにゃ男必殺! 手投げパイ爆弾!」

 

「いや古いよそれ!」

 

ぴにゃ男が得意げに右手で持っているのは、お皿に乗ったパイ、ホイップクリームを塗った白いパイだ。

 

思わぬ攻撃方法に思わず抗議するノリダーだが、それを聞かずにぴにゃ男はパイを持ったまま彼に突撃

 

「死ねぇノリダー!」

 

「今時のバラエティじゃもう使わないって! あぶね!」

 

「頑張れぴにゃ男ー!」

 

パイを持ったぴにゃ男に追い回されながらかろうじて彼の攻撃を避けていくノリダー。

 

そしてまだぴにゃ男に声援を贈っているしまむー大佐の前でピタリと足を止めると

 

「よっしゃ! パイぐらい屁でもねぇ! 思いきり来いや!」

 

「へ、だったらお望み通り本気で食らわしてやるぴにゃあ!」

 

ぴにゃ男の渾身のパイがノリダーの顔面に勢いよく飛んでいく。

 

だが寸での所でノリダーはヒュッと身を縮めてギリギリ回避して

 

「あれ? きゃあ!」

 

彼が避けた事により後ろにいたしまむー大佐の顔面に、まさかのぴにゃ男のパイが炸裂。

 

「あ、あ~……顔にパイが~……」

 

「おのれノリダー! よくも俺を誘導してしまむー大佐に当てさせたぴにゃね!」

 

「いやそっちも、そのつもりでぶつけたでしょ」

 

顔面にヌチャアとパイのクリームが塗りたくられて必死に拭おうとするしまむー大佐を尻目に

 

ノリダーはぴにゃ男が用意していた大量のパイが置かれたテーブルに駆け寄り

 

「ノリダーパイ投げ!」

 

「っておい! パクんじゃねぇよこっちの技!」

 

「う~前が見えない……あふ!」

 

勝手に向こうの技を利用して、ノリダーもパイ投げで応戦。

 

しかし彼の攻撃は全てぴにゃ男にではなく、まだ顔を拭っているしまむー大佐を襲っていく。

 

「ノリダー! 顔面パイ塗り塗り攻撃~!!」

 

「あぁぁぁぁぁ!!」

 

遂には手に持ったパイを持ったまま直接しまむー大佐の顔面に浴びせ、そのまま彼女の首に手を回して逃げられないようにしながら念入りに顔にパイを塗りたくるノリダー。

 

しかしそこへ

 

「その辺にしなさいノリダー! ぴにゃ男キーック!」

 

「ぐわぁ~!」

 

もがき苦しむ彼女を救わんと、ぴにゃ男がノリダーに制裁のキック。

 

食らってしまったノリダーはパイをほおり投げて地面に倒れる。

 

「くっそ~! もう少しで鼻の穴の中に突っ込めたのに!」

 

「あぁそれは俺も見たかったかも、それよりアレを見ろノリダー!」

 

「なに!?」

 

悔しがるノリダーにぴにゃ男は軽く鼻で笑うと、即座に坂の下へと指を差す。

 

ノリダーが差した方向に目を向けるとなんとそこには……

 

「お前をきっちり落として殺す為に! ヌルヌルローション地獄スライダーを用意しておいたぴにゃ!」

 

「あぁもう! また古い奴!」

 

そこは普通の坂ではなく、なんとビニール製の巨大滑り台が完成してあったのだ。

 

おまけにローションがふんだんに塗られているので滑りも抜群で、一度落ちたら瞬く間に奈落へと落ち、一番下に設置されているこれまた大きなビニールプールの中にドボンする仕掛けが施されている。

 

「おら落ちろぴにゃノリダー! ヌルヌルになりながら地獄に堕ちるがいい!」

 

「く! イヤだ! ヌルヌルはイヤだー!」

 

ぴにゃ男の執拗な蹴り連打を浴びせられてどんどん後ろに後退していくノリダー。

 

背後にあるヌルヌルスライダーの方へジリジリと追い詰められていく。

 

「さあこれでトドメだ! ジョッカーの宿願を! 今ここで叶えるぴにゃあ!」

 

「くっそ~! このままじゃ! このままじゃ俺は!」

 

勝利を確信した様子でほくそ笑むぴにゃ男、そして瀬戸際まで追い詰められた状態で打つ手が残されていないノリダー。

 

このまま彼が負けてしまうのか……

 

と思ったその時

 

 

 

 

 

 

『猛さ~ん!』

 

「は! こ、この声は!」

 

それは突然空から聞こえた懐かしい声。

 

かつて毎日のように聞こえていたこの女性の声を、ノリダーが、木梨猛が聞き間違える筈が無かった。

 

空を見上げるとそこに浮かんでいたのは

 

『猛さん! 頑張ってー!』

 

「マ、マリナさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

年月経ってもなお健在の美しさ、かつての猛の恋人、マリナが空から熱いエールを贈ってくれたのだ。

 

予想だにしなかった彼女のゲスト出演に、ノリダーは心の底から喜んで、彼女の声援の力を借りて奮起しようとする

 

のだが……

 

『私の旦那様も見てるよー!』

 

「え!?」

 

次の瞬間、嬉しそうに手を振ってくれるマリナの隣に、妙に顔が濃い色黒の男が現れ

 

『あ、どうもお久しぶりです、あの時はウチの家内がお世話になりました』

 

「お、俺からマリナさんを奪ったタイ人!」

 

なんとそこに出て来たのはマリナを奪った憎きタイ人、相変わらずエラが深い

 

『今こっちは幸せにやっているんで、これからも、家族で応援したいと思ってます』

 

『子供達みんなで観てまーす!』

 

『あとそれと失礼やと思うんですけど、ウチの家内、マリナが……誰やっけ?』

 

『高垣楓ちゃん!』

 

『その楓ちゃんって子のサインが欲しいみたいなんで、今度ウチに送って下さい』

 

『待ってまーす!』

 

物凄い幸せアピール全快で笑いながら、更に図々しくアイドルのサインを送ってほしいと催促した後、あっさりと消えて行くマリナ夫婦。

 

すると仮面ノリダーは全身からワナワナと力が沸き上がり……

 

「タイ人貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

マリナからの声援ではなくタイ人に対する憎悪、それがノリダーの新たな力となったのだ。

 

「こんな所で負けてたまるかぁ!」

 

「うおぉ! ノリダー! お前まだこんなにも力が残っていたのか!」

 

収まりきらない怒りと共に、ぴにゃ男を弾き飛ばすと、ノリダーは

 

「ノリダージャンプ!」

 

天高く飛び上がり、空中でグルグルと高速回転した後……

 

「アンドキィークッ!!!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

トドメの一撃、ノリダーキックを豪快に炸裂させ一気に逆転

 

追い詰めて来たぴにゃ男を反対にヌルヌルスライダーの所へ吹っ飛ばす。

 

「ヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌル! どっぼーん!」

 

哀れぴにゃ男はそのままローション付きスライダーの上を滑らかに滑りながら大きな音を立てて着水

 

そして同時に彼が落ちたプールの周囲が大きく爆発。

 

「じ、次回があるとしたら……ふみふみと絡ませてください……」

 

そう遺言を残すと、プールにもたれながらガクッと息を引き取るぴにゃ男。

 

激戦を終えて、遂に仮面ノリダーが強敵・ぴにゃ男を倒した瞬間であった。

 

「俺はまだ……こんな所で絶対に倒れる訳にはいかないんだ……!」

 

勝負に勝ち、ゼェゼェと呼吸しながらノリダーはそっと呟く。

 

「ジョッカー……! いやそんなのよりもまず! あのタイ人だけはを絶対にこの手でぶっ飛ばしてやる!」

 

「ぐぬぬぬ~! ぴにゃ男がやられるなんて~!」

 

ジョッカーよりも先にあのマリナを奪ったタイ人に対して強い殺意を燃やしている中

 

ぴにゃ男がやられたことを確認しに来たしまむー大佐が、ようやくパイを拭き落とせた様子で歩み寄って来た。

 

「ですが次こそ負けませんよ仮面ノリダー! 次はもっと強い怪人を作って! もう一度あなたを倒しに……」

 

「せぇい!」

 

「え、ちょ! 止め……いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

こちらを指差しまだ台詞の途中であった彼女を、ノリダーは容赦なく腕を掴んで目の前のヌルヌルスライダーにほおり投げる。

 

しまむー大佐は悲鳴を上げながら、そのままあえなくローションまみれになりながらプールへとドボンと滑り落ちてしまった。

 

「うぇ~パイの次はヌルヌルで最後に水びだしなんてぇ~……」

 

「かめ~ん! ノリダー! ニィ☆」

 

プールの中で全身ずぶ濡れになりながら、すっかり疲れてヘトヘトになってしまった彼女をよそに

 

坂の上でノリダーはバシッと決めポーズを取って見せるのであった。

 

こうして新たなる強敵・新生ジョッカーとの戦いを見事に勝利で飾った仮面ノリダー。

 

しかしジョッカーの壊滅と、マリナを奪ったタイ人を倒すまで、彼の戦いは決して終わらない

 

頑張れ仮面ノリダー

 

この世界の悪に立ち向かえるのは、君しかいないのだから

 

 

 

 

 

 

「よし、マリナさんが欲しがってたサイン貰いに行ってこよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい武内! 楓さんって子どこ!? ちょっとサイン頂戴サイン!」

 

仮面ノリダーの戦いはこれからも続く。

 




という事で本作はこれにて完結です、ここまで読んで下さった読者の皆様、ありがとうございました。

本作を書いていく内に最近の子の間では仮面ノリダーってあんまり知られてないんだなと、世代の違いにちょっぴりショックを受けた私ですが

正直やりたい放題に最後まで書けたので個人的にはそれだけで大満足です。

感想を書いて下さった方もありがとうございました、無事に完結できたのは皆さんのおかげです。

それではまたどこかで


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