姉弟と姉妹 (長星浪漫)
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第一話

このサイトを利用し始めてからずっと書いてみたかったラブライブとあまんちゅのコラボ作品。それを書かせていただきました。話数は3話を予定しております。
現地には二年ほど前に友人と行き、その時の記憶を頼りに書きました。


 ここは沼津の内浦にある『三津シーパラダイス』。クラゲの特別展示やセイウチやイルカのショーが有名だ。

最近では地元の学校のスクールアイドルとコラボしたPVでさらに有名になった。とくにセイウチをモチーフにしたマスコットキャラクター『うちっちー』はそのグループの一人が中に…ではなく、その一人と友達らしく一気に知名度が上がった。

 そしてそんな三津シーパラダイスの入り口で一人佇んでいるのは伊豆の方からはるばるやって来た夢が丘高校ダイビング部の“弟くん先輩”こと二宮誠だ。

 

「姉さん遅いなぁ…」

 

 誠は腕を組ながらお花を摘みにいった(・・・・・・・・・)双子の姉の二宮愛を待っていた。今日ここに来たのも姉が突然行きたいと言ったからだ。誠はあまり乗り気ではなかったが、受験勉強の息抜きにいいかな?とついてきた次第だ。

 

(…まぁ、拒否したところで引きずってでも連れてかれるんだけどね)

 

 基本的に二宮姉弟の力関係は姉>弟なのである。しかし、仲が悪いわけではなくそういった仲の良さなのだ。姉によく蹴られたりするが、まぁスキンシップのいっかんだ。

 

「姉さん、遅いなぁ…」

 

 実際はそんなに時間はたっていないのだが、待つと長く感じるものだ。あと、初めは乗り気ではなかったがいざ来てみると楽しみになるもので誠はワクワクしていた。だからこそ待っていると長く感じてしまう。

 

「…ん?」

 

 誠の視線がふとあるものを捉える。

 

「うゅうゅ」

 

 赤い髪の毛を左右で二つに結んだ女の子が走ってくる。ピンクを基調としたこれまた可愛らしい服を着ている。結んだ髪を揺らしながらとても楽しそうな様子で走ってくる。

 

(見た感じ…中学生…かな?なんかどこかで見たような…?)

 

 あまりマジマジと見ると不審がられるのですぐに目線を外したが、何故か頭に残る顔だった。誠自身はそこまで女の子に興味を持つ性格ではないのだが、その女の子は不思議と頭に残った。

 

(はて?どこで見たかな?)

 

 顎に手をあて記憶を辿る誠。その女の子は体を少し弾ませながら入り口に向かっていく。そして誠の前をちょうど通りすぎる時にバランスを崩した。

 

「うゅ!?」

「危ない!!」

 

 咄嗟にその女の子の肩を掴んで引き寄せた。なんとかその女の子は転ばずにすんだ。誠はほっと胸を撫で下ろした。

 

「大丈夫?」

「…」

 

 返事がない。まさか足でもくじいたのかな?心配になってその女の子の前に移動し顔を見ようとした。

 

「…」

「…」

 

 その女の子と目があった。怪我はないようだった。だが、その女の子は真っ青な顔をしていた。誠は直感で感じた「あっ、これヤバイな」と

 

「ぴぎゃあぁぁぁぁぁ!!??!」

「うわぁぁ?!」

 

 なんの前触れもなく女の子は涙を流しながら半狂乱で叫び始めた。

 

「おねいちゃあぁぁぁぁん!!!」

「ちょ、ちょっと…!」

 

 これはマズイ。端から見たら『女の子をいじめて泣かした男』だ。いや、悪くしたら『女の子をさらおうとしたヤバイ男』と思われる可能性もある。

 

「えと、あの、ごめん?俺悪いことしたのかな?」

「おねぃちゃあぁぉ……ん…」

 

 少し落ち着いてきているようだった。

 

(よし、この調子でなんとか…)

 

ドサッ

 

 不意になにかが落ちる音がした。その音は泣いている女の子の後方、誠の目の前からだった。

 

「ルビィ…?」

 

 その女性は多分誠と同じくらいの年齢だろう。長くて綺麗な黒髪と口許のほくろが特徴的だ。白いワンピースを着ていて、落としたのは同じ白色ハンドバッグだった。細い肩がふるふる震えている。

 

「あなた…?」

(ひぃ…!)

 

 黒髪の女性から敵意、いや“殺意”をひしひしと感じる。目付きがヤバイ。

 

「あの、これはですね?」

 

 なんとか状況を説明しようとしたその時、背後にも気配を感じた。そちらの気配は誰かすぐにわかった。

 

「姉さ…」

 

 後ろを向いたらすでに姉は走っていた。目線を前に戻すと目の前に先程の女性。赤い髪の女の子はその女性によってすでに誠の前からいなくなっていた。「おねいちゃん!違うの!」どうやら完全に落ち着いたらしく必死に止めようとしてくれている。だが、時すでに遅し。誠はフッと微笑み天を仰いだ。

 

「なんともないようでよかったよ」

 

 次の瞬間、姉のドロップキックと黒髪の女性の渾身のビンタが同時に誠に炸裂した。

 

 

 

「申し訳ありませんでした!!」

 

 頭を下げる赤い髪の女の子と黒髪の女性。

 

「いいわよいいわよ!いつものことだから!」

「…あぁ、気にしないで」

 

 何故姉さんが先に言うんだろう?という疑問は飲み込んでまだヒリヒリする頬をさすりながらできるだけ気にしていない顔をする。黒髪の女性、黒澤ダイヤが真面目そうな見た目そのままに何度も深々と頭を下げる。

 

「いえ、そういうわけにはいきませんわ!ろくに状況を確認もせずに人様に暴力を振るってしまうなんて…」

「おねいちゃんは悪くないよ!ルビィが助けてもらったのに、なのにビックリして泣いちゃったから…」

「いえ、だからこそ姉であるわたくしがしっかりしなければいけなかったのですわ!」

 

 お互いを思いやるがゆえの言い合い。赤い髪の女の子の名前は黒澤ルビィ、黒澤ダイヤの妹だ。収拾がつかないので誠がどうしようか迷っていると誠の姉の愛が進み出て二人を抱き締めた。黒澤姉妹は驚いて固まった。

 

「え?ど、どうしましたの!?」

「う、うゆゆ?」

 

 混乱する二人から離れた愛はにかっと笑った。

 

「とりあえずお近づきのハグ!落ち着いたでしょ?」

「ええ、まぁ、重ね重ねすいません」

「だから気にしてないって(笑)謝るの禁止!」

「はい、申し訳…あっ、わかりました」

「よしっ!」

(さすが、姉さんだな)

 

 こういうときは本当に凄いと思う。誠が感心しているとルビィが誠のそばによってきた。

 

「あの、さっきは…ありがとうございました。あの痛くないですか?」

 

 まだ顔は赤いが少なくとも警戒はされていないようだった。誠は頬を擦るのをやめ膝に手をあて目線を下げる。

 

「大丈夫だよ」

 

 できる限りいい笑顔を作って“大丈夫”をアピールする。ルビィはそれを見て安心したように笑顔になった。

 すぐあとでわかったのだが黒澤ルビィは高校一年らしい。誠は初めこそ中学生だと思っていたが、早めに高校生だと感づいていたのであまり驚かなかった。愛は目を真ん丸にして驚いていた。

 それはともかく、せっかく知り合ったので四人で中に入ることになった。「誠は荷物持ちにでも使ってね」と誠の承諾なく黒澤姉妹に告げる愛。

 

「姉さん、せめて一言くらい俺に確認してくれよ」

「うっさいわね、弟で男なんだからゴチャゴチャ言わない!」

「いって!」

 

 尻に蹴りをいれられ飛び上がる。それを見た黒澤姉妹はビックリしていた。

 四人で中に入りまずはじめにセイウチの水槽の前に立った。水槽の中ではセイウチがボテーッと寝転んでいる。ふと四人に気づいたのかじっと四人を見た。そして少し考えた後いきなり水槽内の水に飛び込んだ。

 

「わひゃっ!?」

 

 ルビィが驚く。セイウチは約5mくらいの距離を往復し、岩場に登りひと休みすると、また泳ぎ始める。これを何度も何度も繰り返した。

 

「…」

「…」

 

 四人はなんとなくそれを十分ほど見ていると、一人ずつ我にかえる。

 

「は!?なんかつい見ちゃったわ!」

「…セイウチさん大きい」

「入り口であまり時間を使うのはよくありませんわ」

「次に行こうか」

 

 セイウチに別れを告げて四人は先へ進んだ。

 生き物に触れるコーナーでは二宮姉が尻込みする二宮弟を強引にサメに触らせたり、七色に輝くクラゲのコーナーでは二宮姉がダイヤ、ルビィの三人で写真を撮った。二宮弟は一人で撮ろうと思ったが、ルビィが気を使ったのか一緒に撮った。

 外への出口付近ではヌタウナギの水槽があった。

 

「うゆ?うなぎさんはどこ?」

 

 四人はヌタウナギを初めて見るため、その見た目が本格的なお店で食べるとすごい値段になるうなぎを想像していた。なかなか見つけられずにいると、水槽の中の泥に同化していた見た目が想像していたうなぎとはかなり違う長い体の生物が水槽のガラスにビタンと張り付いてきた。

 

「ぴぎゃあぁぁぁ~!?」

「ちょっ、ルビィ!?」

 

 ルビィが驚いて走り出してしまった。それを追いかけるダイヤ。

 

「ええ!?ちょっ二人とも!!」

 

 さらに黒澤姉妹を追いかける二宮姉弟。といっても出口はすぐだったのですぐに追い付いたのだが。

 出口付近にカワウソがいたので、それを見て心を和ませた。

 外に出ると海に浮かんだ桟橋のような場所に出る。少しいくとショーをやっている場所がある。もうすぐ次のショーが始まるようだった。

 

「よーし!ルビィちゃん!席取りにいくわよ!!」

「は、はい!p(^-^)qルビィ!」

「なにそれ……めちゃかわいいわね!!」

 

 いつのまにか仲良くなっていた二宮姉とルビィの二人でショーの会場へとかけていった。

 

「ルビィ!急に走ると転びますわよ!」

 

 心配そうに声をかけるダイヤ。「だいじょーぶー」とかすかに聞こえてきた。「まったく…」とため息をつくダイヤの表情は嬉しそうだった。

 

「さて、わたくしたちも行きましょうか」

「あ、先に行ってて。俺はなにか飲み物とか買っていくから」

「あら、でしたらわたくしもお手伝いいたしますわ」

「え、でも…」

「遠慮なさらないでください。入り口でのお詫びもしたいですし」

「もう気にしてないけど、でもさすがに持ちきれないからお願いします」

「はい」

 

 誠とダイヤはショーの会場の前にあるファストフードの販売店に向かった。

 

「誠さんのお姉さまはとても明るい方ですね」

 

 突然話を振られ少し考える誠。

 

「うーん、まぁそうかな?」

「あら?なんだかはっきりしない反応ですわね?」

「姉さん、あぁ見えてかなり涙もろいし繊細なところもあるから」

「感受性豊なんですわね」

「そういう捉え方もあるか、あ、あとかなりの照れ屋」

「ふふ、思ったよりチャーミングな方ですね」

「弟としては心配な部分もあるんだけどね」

 

 顔を少ししかめて「困った」顔を作りながら腕を組んだ。ダイヤは微笑みながらその横顔を見つめる。誠が話を続ける。

 

「でも、もうその“心配”もしてないんだけどね」

「あら?どうしてですの?」

「いい後輩に恵まれたから」

「…!」

 

 誠の言葉にダイヤはハッとなった。

 

「俺達の先輩が卒業して二人だけになった部活にまず二人が入ってくれた。そこからさらにその後輩が入ってきて、最近では正式ではないけど男の後輩も入ってきた。始めの二人との出会い方は独特だったけどね」

 

 二宮姉弟と二年生の後輩の出会いの話をするとダイヤはおかしそうに笑った。

 

「ふふふ、おもしろい二人ですわね」

「でもその二人が入ってから姉さんは今まで以上に笑うようになったし、気持ちをより素直に出すようになったと思う」

「誠さんはお姉さんの事がお好きなんですね」

「ム…」

 

 その通りなのだが、改めて言われると恥ずかしい。顔が赤くなる前に話題を変えることにした。

 

「き、兄弟といえば、ダイヤさんの妹も可愛い…」

「でしょう!?」

 

 食い気味に答えた上に目をキラッキラッさせて顔を寄せてくる。誠は身を引いて少し距離をあける。

 

「本当にルビィはできた最愛の妹ですわ~!!」

 

 先ほどまでの“落ち着いたお姉さん”はどこへやら。今のダイヤは自分の宝物を誉められた子供みたいだった。

 

「本当にルビィはかわいくて…」

 

 ここから三分ほどダイヤのルビィ自慢が続いた。初めは面食らっていた誠も妹を心から愛しているダイヤの様子にほほえましい気持ちになった。だが、急にダイヤのトーンが下がった。

 

「でも最近までわたくしはルビィをわたくしから遠ざけていましたの」

「え?どうして?」

 

 急に様子が変わったダイヤに戸惑う誠。ダイヤは話を続けた。

 

「詳しくは省かせていただきますが、わたくしとルビィには共通の趣味がありまして、とある事情からわたくしはその趣味をやめなければならなくなりましたの」

「うん」

「ルビィに理由を聞かれましたが答えませんでした。ただそれによってルビィはわたくしの前ではその趣味の話をしなくなりました。わたくしもその趣味から離れていたくてその話をしませんでした。それからルビィとの会話も減ってしまい、このまま卒業を迎えるのだと覚悟していました」

 

 ダイヤはその時の事を思い出しその瞳が寂しそうになった。だが、それも一瞬だった。

 

「しかし!そんなわたくしたちを救ってくれる人物が現れましたの!」

「え?う、うん?」

 

 表情がコロコロ変わるダイヤに気圧される誠。ダイヤは気にせず続ける。

 

「少しドラマチックに言い過ぎましたが、その人物というのはわたくしの一年後輩の二年生で、その二年生が立ち上げたある部活のおかげでわたくしとルビィは昔のように共通の趣味を心から楽しめるようになったんですの」

 

 ダイヤは体ごと誠の方を向いた。

 

「それにルビィ自身も大きく成長できました!その子がいなければわたくしとルビィは今だにギクシャクしていたかもしれません」

「お互い、いい後輩に恵まれたってことだね」

「いいえ」

 

 ダイヤは首を横に振って腰に手をあてる。まさか否定されるとは思っていなかった誠は少し驚いた。誠の様子を見たダイヤはいたずらっぽく微笑んで右手の人差し指をほっぺに当てると、

 

「わたくしの後輩のほうがいい後輩ですわ」

 

 と片目をつむった。誠はポカンとダイヤを見つめていたが、フッと笑いだしながら。

 

「俺の後輩逹だって負けてないよ!」

 

 とダイヤと同じポーズで胸をはった。しばらくその状態でお互い張り合っていたが、すぐにどちらからともなく笑いだし、突如始まった「どっちの後輩がすごいか対決」は幕を閉じた。

 二人は四人分の軽食(主にフライドポテト)と飲み物を購入し、二宮姉とルビィが待つ会場へと向かった。

 




残りの話は頭のなかにはできているので早めに書ければと思っています。


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第二話

 先に会場に行った“姉ちゃん先輩”こと二宮愛と黒澤ルビィは無事四人分の席を確保していた。

 

「しっかりショーが見れてかつ水しぶきがギリギリかからない!うん、完璧な場所だわ!ね、ルビィちゃん!」

「うゆ!」

 

 愛とルビィはパチンと手を打ち合わせた。

 

「あとは誠が食べ物と飲み物を買ってくるだけね」

「え?頼んでましたっけ?」

「ううん、言わなくても誠はわかるわよ」

「そうなんですか?」

「弟だから当然よ!」

「そ、そういうものなん、ですね?」

 

 理解できたようなできないような、そんな様子で首を傾げるルビィ。

 

「そういえばお姉ちゃんも遅いような…」

「まさか誠のやつ女の子に持たせてるんじゃないでしょうね!?」

 

 不適な笑顔を見せながらビンタの素振りを始める愛。ルビィは二宮姉弟について疑問に思っていることがあった。

 

「愛さん」

「ん?なぁに?」

「えと、誠さんについてお聞きしたいことがあるんです」

「誠?…!まさか!?」

 

 なにかを察した愛がわざとらしく手で口を覆う。そしてひそひそ声で囁いた。

 

「まさか、誠に恋しちゃった?」

「いえ、そうじゃないです」

 

 考えていた質問のことで頭がいっぱいだったので愛の問いかけを頭で理解するより早く答えてしまった。

 

「…」

「…」

 

 沈黙。そして、愛の言ったことをようやく理解したルビィは顔を一気に真っ赤にしてフォローをいれる。

 

「こ、こここ恋!?ち、ちちちち違います!あ、いや、嫌いとか嫌ってことじゃないんですよ?でも、違くて…うぅ~」

 

 リンゴみたいに赤くなったほっぺたを両手で押さえ恥ずかしがるルビィ。そんなルビィをしばらく監察していた愛は「プフッ」と吹き出した。

 

「あはははははは!ごめんごめん!冗談よ冗談!でも、あんなに冷静な顔で否定されるとは…ぶふっ、ルビィちゃん、サイッコー!!」

「愛さん!もぉ~!!」

 

 膨れっ面になるルビィ。愛は涙をふきながら謝る。

 

「ごめんごめん!でも、誠がフラれたみたいな感じだったからおもしろくて…ぶふっ、で?本当の質問はなに?」

「…」

 

 まだ少し赤みがかった顔をしながら、ルビィは愛の顔をしっかり見つめる。

 

「あの、愛さんと誠さんって仲があんまり良くないんですか?」

「え?」

 

 これまた予想外の質問に鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。

 

「え?どうしてそう思ったの?」

「えと…誠さんを蹴ったり叩いたりしてたので」

「あぁー…」

 

 なるほど、と愛は納得した。

 

「あれはスキンシップみたいなものよ」

「え!?そうなんですか?」

 

 驚くルビィ。ルビィの周りにも姉妹がいる友人は何人かいるが、殴る蹴るといったスキンシップは聞いたことがなかった。

 

「そうよ~、世の中にはそういうスキンシップもあるのよ。誠もちゃんと理解した上で蹴られたりしてるのよ」

「そうなんですかぁー…」

 

 納得したルビィ。誠がこの場にいたら確実に不服申し立てていただろう。

 

(ふーむ…)

 

 まさか、ルビィがここまですんなり自分の話を受け入れてしまうとは思っていなかった愛。スキンシップの話は嘘ではない。だが、このままでは誠がマゾと思われるか、もしかしたらルビィが仲良しのスキンシップの一貫として姉を蹴り始めるかもしれない。

 

(ここは少し修正しとくかな)

 

 愛は修正案を考える。

 

「でも、これは私たちだから成立するスキンシップだから真似はしちゃダメよ?」

「あっ、はい。でも、話を聞いて思ったんですけど、お二人ってとても仲良しさんなんですね」

「え?まぁ、仲悪くはないけど…なんか改めて言われると照れるわね。男兄弟がいたらこんな感じなんじゃない?」

「そうなんですか、ルビィ、家族以外の男の人とあんまり関わることがなかったから、お姉ちゃんは家の事情で出会う機会は多かったけど…お兄ちゃんがいたらあんな感じなのかな?」

「誠のこと?なんだかルビィちゃんやけに誠のこと気にするわね、入り口のことまだ気にしてるの?」

「あ、いえ、その事はずっと気にしてても逆に失礼だと思ったのでもうあまり気にしていません。ただ、とても優しかったので、お兄ちゃんがいたらこんな感じかな?…そう思ったんです」

 

 少しほっぺを赤くするルビィ。自分が言ったことに照れているようだ。

 

(キュン…)

 

 もじもじ、ソワソワするルビィを見てときめく愛。思わず抱き寄せる。

 

「わっ、あ、愛さん?」

「ほんっと可愛いわ!」

「むきゅう」

 

 結構スタイルがいい二宮姉。思いきり抱き締められると結構息苦しい。それに気づいた愛が慌ててルビィを放す。

 

「ごめん!でも、私に妹がいたらルビィちゃんみたいな子がいいわね」

「うゆっ、ル、ルビィみたいな…ですか?」

「うん!誠よりよっぽど可愛いもの」

「で、でもルビィは…」

「ん?」

「泣き虫で人見知りでいつもオドオドしてて…」

「優しくて思いやりがあって努力家さんで、ダイヤお姉ちゃんが大好き?」

「ふぇっ!?」

 

 自分の言葉を引き取られ、しかも誉められた上に姉に対する自分の感情も言い当てられ、思わず声をあげるルビィ。愛はニカッと笑った。

 

「私もお姉ちゃん歴は長いからね、少しくらいなら兄弟姉妹のことはわかるつもりよ?クラゲの時に誠に気を遣ってくれたりしたでしょ?」

「そんなつもりはなかったですけど…」

「それでも、ルビィちゃんは優しいと思うわよ?初めて出会った誠に驚いて叫んじゃうほど男の人に耐性がなかったのに誠と二人で写真撮ってくれたんだから」

「はうぅ~、で、でもお姉ちゃんが好きっていうのはどうして?」

「それは簡単ね、だってルビィちゃん『おねいちゃぁぁ~ん』って叫んでたから」

「びぎいぃぃ~~!!」

 

 恥ずかしさのあまり顔を両手で押さえるルビィ。愛はその手をそっと握る。

 

「とにかく、ルビィちゃんは十分素敵な妹よ!」

「ふぇぇ」

 

 顔から火が出そうなほど真っ赤っかになりながらゆっくりと顔をあげるルビィ。そんなルビィをまっすぐ見つめる愛。

 

「あと、いきなりなんだけど、ルビィちゃん」

「は、はい?」

「ルビィちゃんさ、なにか不安を感じてない?」

「え…」

「何となくなんだけどダイヤちゃんを見るときたまにどこか不安そうな、寂しそうな顔に見えるんだよね」

「…そうですか?」

「違った?ならごめんね私の勘違いか」

「…いえ、その通りです」

 

 ルビィは心にある“不安”をぽつりぽつりと話始めた。

 

「実はお姉ちゃんが卒業したら東京の大学にいっちゃうんです」

「それが寂しいの?」

「………はい」

 

 寂しい。耳にすると余計にその感情を意識してしまう。ルビィは姉から大学のことを聞いた時は、心配させまいと笑顔で「頑張ってね」と言ったものの、心の中では今にも泣き出しそうだった。

 生まれた時からずっと一緒にいた。二年前の事であんまり話せないときもずっと思っていた。近くにいるのが当たり前の存在。そんな存在がもうすぐ自分から離れていってしまう。友人や先輩はいるが、血を分けた姉妹が自分から離れていくのは想像を絶するものだ。

 

「こんなんじゃダメってわかってるんです。でも、お姉ちゃんがそばにいなくなるかと思うと…不安で…寂しくて…」

 

 俯いて唇を噛むルビィ。その目にはうっすら涙が浮かんでいる。自分の気持ちをさらけ出すと同時にずっと封じていた感情も涌き出てきてしまっていた。ルビィは必死に笑顔を作る。

 

「えへっ…ごめんなさい。こんな話嫌ですよね」

「離れたりしないよ」

「え?」

 

 唐突な愛の言葉に首をかしげるルビィ。愛はルビィを真っ直ぐに見据え頭を撫でる。

 

「どんなに距離が離れても、遠くに行っても、ちゃんと繋がってる。繋がろうとさえすれば絶対に繋がれるわ」

「愛さん…」

「私なんか時間も越えて繋がっちゃったけどね」

「へ?時間?」

「ふふ…気にしないで」

 

 少し寂しそうな、それでいて嬉しそうでもある複雑な表情を見せながらルビィを抱き締める。

 

「それにね?ルビィちゃんは“寂しい”って思うことをダメだって言うけどね?そんなことないわ、大切な人が自分から離れちゃうんだもん。寂しくて当たり前」

「愛さん…」

「むしろそう思えることは素敵なことなんだから!それに繋がろうと思えばいつだって繋がれる。だからルビィちゃん、“不安”なんて感じる必要はないのよ」

「…はい!」

 

 完全に不安がなくなったかというと正直わからない。でも少なくともさっきよりも考え方が前向きになったような、少し心が軽くなったような気がする。ルビィはまだ少し涙を残しながらも満面の笑顔になった。それを見た愛もつられて笑う。

 

「しっかし、ホントルビィちゃんは可愛いわ!」

「うゆ…でもそういう愛さんこそ可愛いじゃないですか」

「そんなことないわよ、私なんかがさつだし」

「そんなことないことないです!」

「え?ルビィちゃん??」

 

 ルビィのスイッチが入った。

 

「愛さんは可愛いです!おめめぱっちりだし、ツインテ似合ってますし、大人っぽいし…」

「ちょっ、ルビィちゃん?」

「気さくだし、髪きれいだし…」

「ちょっ…ヤメ…」

 

 だんだん赤くなっていく愛。それを見て無意識にヒートアップするルビィはトドメの一撃。

 

「お胸も大きいし!」

「にゃ~ーーーーーーーー!!」

 

 トドメを受けた愛は羞恥の絶叫をあげた。

 

「ごめんなさい、でも愛さんが可愛いってことを伝えたくて…」

「う、うん…大丈夫。ちょっと誉められまくることになれてなかっただけだから」

 

 手で顔をあおぎながら火照りを冷ます愛を少し潤んだ上目使いで見上げるルビィ。端から見るととてもほほえましい光景だった。

 

「しかし、誠やうちの後輩ちゃんたちにすらここまで誉められたことはなかったわね」

 

 誠に誉められたとしても少し気持ち悪いが…

 愛はルビィを自分の肩に引き寄せ撫でる。

 

「本当に妹がほしくなっちゃうわね」

「うゆゆ、ルビィも愛さんみたいなお姉ちゃんがもう一人ほしいかも…なんて…」

 

ぱしゃぁ…

 

「え?」

「あ」

 

 何かが地面に落ちる音がしてそちらに目を向けるとジュースをこぼしたダイヤがまるで人形のように生気がない顔でカタカタ震えていた。

 

「ル、ルビィ…?」

「お姉ちゃん…?どうしたの…?」

 

 この時点ではダイヤがどうしたのか見当もつかないルビィ。その間にもダイヤの暴走(妄想)は加速していく。

 

「ま、まままままさか、愛さんの方がわたくしより、好きなの…??わた、わたくしは姉として頼りない?ピ、ピギッ」

「お、おおおおおおお姉ちゃん!!落ち着いて!そんなことないから!ルビィの一番はいつだって…いつだってお姉ちゃんだからぁ!!」

 

 ルビィの心からの叫びがダイヤの胸に突き刺さる。

 

「ル、ルビィ~!!」

「お、お姉ちゃん…!」

 

 ダイヤがいつものようにルビィを抱き締め甘やかす。それをただ呆然と眺める二宮姉弟。黒澤姉妹を見ていた愛は思わず吹き出す。

 

「ふふっ、本当に仲がいいわねぇ~」

「姉さん、見てるのもいいけど、もうすぐショーが始まるぞ、とりあえず俺は新しい飲み物買ってくる」

「お願いね、誠のオゴリで♥」

「…後で姉さんからは請求するからな」

「聞こえないわ~」

 

 大事な所は耳を塞ぐ愛。いつも通りの姉の反応にため息をつく誠。新しい飲み物を買いにいこうとした誠の耳に愛の誰に言うでもない呟きが聞こえてきた。

 

「しかし、あそこまでのスキンシップは私には無理ねぇ」

「…」

 

 思わず目の前のダイヤのように自分にまとわりつく姉を想像してしまった誠はブルッと体を震わせた。

 

「気持ち悪…」

「聞こえてるわよ?」

「あっ…」

 

 本日何発目かのパンチが誠のボディーにめり込んだ。




読んだいただきありがとうございます。
次が最終話です。流れはなんとなくきまっているのですが、“結”に悩んでいます。再来週までには頑張って書き上げますので読んでいただけたら嬉しいです


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第三話

 ダイヤの暴走も収まり無事ショーが始まった。

 大きなセイウチが水槽のへりに手をかけ体を持ち上げ右へ左へ行ったり来たりしたり、アザラシが見事なボールさばきを見せたり、何匹ものイルカが一糸乱れぬ動きを見せたり…海の動物たちの素晴らしいショーに四人は目を輝かせた。途中、イルカが二階建てビルくらいの高さにあるボールを尾びれではじいた時にボールが弾きとび誠の顔面にヒットしたが(愛は大爆笑だった)、ショーは観客の大歓声に包まれながら幕を閉じた。

 会場をあとにし、女子三人はショーの感想を言い合い、誠はその少し後ろを歩いた。黒澤姉妹がお花摘みにいったので二宮姉弟は近くで待つことにした。ボーッとしていると愛が誠に問いかけた。

 

「あの二人、なぜか見覚えがあるのよねぇ、誠はどう?」

「姉さんもそう思った?実は俺もなんだよ」

 

 二人であーでもない、こーでもないと記憶を探っていると近くの壁につけられていた一枚のポスターに目が止まる。

 

「あら、このポスターに描いてあるのって」

「動画で見た女の子たちだな」

 

 そのポスターは三津シーパラダイスの宣伝ポスターだった。しかもこのポスターは二宮姉弟が動画で見た地元のアイドルとコラボしたものだった。グレーがかった茶色の髪の女の子をセンターに八人の個性的な女の子が周りを囲んでいる。

 

「たしか名前は…えーっと?なんだったかしら?なんか水っぽい名前だったような?」

「『Aqours』だよ姉さん」

「そうそれ!」

「いって!」

 

 ナイス弟!とばかりに誠の背中を叩く愛。当然加減などしておらず誠はかなり痛そうだ。しかしそんなことは気にせず愛はそのポスターをまじまじ見る。

 

「すごかったわよねーあのPV!今度部活のPVも作ってみようかしら?」

「いてて…やめとけよ姉さん。思い付きでできることじゃないだろ」

「わかってるわよ、言ってみただけ!しっかしなんというか個性的な子ばっかりね!」

「…姉さんが言うんだ…」

「ん?」

「…」

 

 愛に睨まれ顔をそらす誠。愛はとりあえず一蹴りしてポスターに視線を戻す。

 

「九人とも可愛いけど、私はこの赤い髪のツインテールの子ね!推しメンバー?ていうのかしら?誠は?」

「推しっていうのかわからないけど…強いて言うならこの黒髪の人かな、大和撫子って感じで」

「あら~誠ったらそういうのが好みなのね?」

「………ん?」

 

 姉のからかいをスルーし、ポスターを見続けていた誠はふと自分達が話題に出したメンバー二人に対して妙な感覚を覚えた。

 

「どうしたのよ誠?」

「いや…この二人どこかで見たような気がするというか…」

「んん?…あれ?ホントだどこだっけ?」

 

 二人が頭を捻っているとお花摘みに行っていた二人が戻ってきた。

 

「ごめんなさい、遅くなりましたわ」

「愛さん!誠さん!あっちにも動物さんがいるみたいだから行ってみましょう!」

 

 戻ってきたダイヤとルビィ。頭の中をポスターの絵でいっぱいにしながら黒澤姉妹を見た二宮姉弟の中でバシッとピースがはまった。

 

「赤髪ツインテの可愛い子!!」

「黒髪ロングの大和撫子!!」

「「ぴぎゃ!?」」

 

 いきなり妙な呼ばれかたとともに指を指された黒澤姉妹はビックリして同じ叫び声をあげた。

 

 

 

 「ダイヤちゃんとルビィちゃんってアイドルだったのね!」

「はい、まぁ…」

 

 ダイヤとルビィがアイドルだとわかった愛は驚きで少し興奮しながら近くのベンチに座らせた二人に質問をぶつけていた。

 

「えっと、正確にはスクールアイドルでして…」

「スクールアイドル?学校でアイドルやるってこと?」

「はい、形式的には部活のようなものなんです」

「部活?そうなんだ!あれ?なんか伊豆にもそんなのがあったような?」

「いくつかあるな、前に調べたじゃないか」

「そうだったかしら?まぁいいわ、しっかし色んな部活があるものね~しかもルビィちゃんは衣装も作ってるんだ?すごいわね!」

「そ、それほどでも…」

「そうなんです!わたくしのルビィは本当にかわいくて素晴らしくて…!」

「お、お姉ちゃん!!」

 

 ここぞとばかりに妹を誉めようとするダイヤを慌てて制止する妹ルビィ。しかし、愛も同調する。

 

「わっかるわ~、ルビィちゃん可愛いもんね~」

「そうなんです!ほんともう、天使のようで…」

「お姉ちゃん!!」

 

 顔を真っ赤にして照れ怒るルビィ。それを見て本当にルビィのことをかわいいと思いながら悪のりする愛。100%ガチでルビィを誉めるダイヤ。ひたすら誉められ照れで火が出てしまいそうなルビィ。そんな三人を眺める誠は心から思った。

 

「平和だなぁ」

 

と。

 

 

 

 「ところでさ、このメンバーの一人なんだけど…」

 

 ルビィが頭から煙を出しそうだったので、頃合いと思った愛がもうひとつ気になることに話題を変える。

 

「この青っぽい髪のポニーの女の子、この子ってなんて名前?」

「果南さんですわね」

「もしかしてさ、名字は松浦?」

「ええ」

「近くでダイビングショップやってる?」

「そうです」

「やっぱり!」

「ご存じなんですか?」

「知り合いってほどではないんだけどね、何回かこっちの海にも潜りに来てたから」

「ああ!だからなんとなく見覚えがあったのか!」

「体つきがかなりきれいな人だったから覚えてるよ。あと記念?にハグされたしね」

「初めて会ったのは中学二年くらいの頃だったか?俺にもハグを迫ってきて困ったなぁ」

「誠ったらまだ春濁りの海が冷たい時期だってのに顔がめっちゃ赤かったもんね」

「…」

 

 無言で顔をそらす誠。しかし、誠の耳が当時を思い出したのか少し赤くなっていた。それを聞いていたダイヤは驚くやらあきれるやら

 

「果南さんったら本当に抱きつくのがお好きなんですわね」

「でも、高校入ってからすぐにあんまり来なくなったのよね、たまに見かけてもなんだか辛そうだったというか」

「でもこの前見た動画ではかなり楽しそうだったよね」

「多分松浦さんの抱えていたなにかが解決したんでしょうね、もしまた会うことがあったら聞いてみましょう」

 

 本当にお優しい方々ですわ、と内心ダイヤはほっこりした。なので、話の矛先が自分に切り替わった時完全に油断していた。

 

「そういえば、ダイヤちゃんも可愛かったわね」

「そうだね、姉さんとは正反対で大和撫子って感じで綺麗だった」

「…な?ほぇぃ?」

 

 謎の声をあげるダイヤ。

 

「初めはきつきつのお嬢様みたいな感じかと思ってたけど、こうして話してみると綺麗なだけじゃなくて可愛い面もあるわ」

「女性としてかなり魅力を感じるね」

「なっ…えと…」

 

 家の付き合いで両親の知り合いなどに同じことを言ってもらったことはある。だが、心の奥では社交辞令だと思っていたのでそこまで恥ずかしくなかったが、同世代で家の関わりがない、出会って間もない人物、しかも一人はさらに交流が少ない同世代の男の人に誉められてかなり困惑するダイヤ。

 

「そうなんです!ルビィのお姉ちゃんはすごいんです!」

「ルビィ!!」

 

 先程のダイヤのように大好きな姉を誉め始めるルビィをなんとか制止しようとするダイヤ。そんな光景を見守る二宮姉弟。

 

「本当に仲良しさんだねぇ」

「ピカリちゃんとこだまちゃん。ことりちゃんとこころ君とはまた違った感じだね」

「『仲良きことは美しきかな』だわ」

 

 

 

 「ところで…果南さんのことをご存じのようでしたが、お二人の部活というのはもしかして…」

「ダイビング部だよ」

「やはりそうでしたか」

 

 納得したように頷くダイヤ。四人は先程の場所から移動しフラミンゴなどがいる所を歩いていた。

 

「お二人とも体かなりガッチリしていらっしゃいますね」

「そう?まぁ筋力がある程度ないとダメだからね」

「毎日走ったり、筋トレしたり、専用のプールで実際に機材を背負って潜ったりするしな」

「すごいですね…」

 

 ルビィが目を輝かせて二人の体をまじまじと見つめる。

 

「ルビィ、あまり人の体を見つめるのは失礼ですわよ」

「ひゃっ、ごめんなさいぃ」

 

 自分がしていたことを姉の指摘で認識し赤くなって縮こまるルビィ。四人はそのままお土産が売っているスペースへ向かった。つくや否や愛のテンションがあがる。

 

「おお~!面白そうなものがいっぱいあるわねえ!」

「お土産買わなきゃな、えーっと、家族に部活のみんなに…」

「誠!このエビのぬいぐるみとかぴかり喜ぶんじゃない?」

 

 二宮姉弟がはしゃぐ一方で黒澤姉妹も盛り上がっていた。

 

「お姉ちゃん!このうちっちーの頭のクッション曜ちゃんのおうちにあったよ!」

「あら、可愛らしいですわね」

「うひゃあぁ!このチンアナゴのぬいぐるみも可愛い~」

「ルビィ?お金は足りますの?」

「え?え~っと……どっちも少し足りない…」

 

 落ち込むルビィ。もとの場所に戻そうとするのをそっと止めるダイヤ。

 

「仕方ないですわ。どちらか一つを選びなさい。足りない分はわたくしが出します」

「えぇ!?でも悪いよぉ…」

「わたくしに遠慮することはありません。ルビィはよく頑張っていますからね。ごほうびですわ」

「お姉ちゃん…うん!ありがとう!じゃあ、うちっちーのクッションにする!」

「わかりましたわ。自分の分だけでなく他の人の分も買いましょうね」

「うん!」

 

 仲良くお土産を選ぶ二人をじっと見つめる愛。そこに誠が話しかける.。

 

「姉さん。こころ君にはこれなんてどう?…姉さん?」

「…」

 

 返答がないので愛の方を見る誠。愛は上目使いでやけにしおらしくしながら手にもった少し高いクッキーをちらつかせる。

 

「誠~これ、私に買って?」

 

 渾身のおねだり!しかし、結果はわかっていた。

 

「は?どうしたの?自分で買えよ?」

「せい」

「あいだぁ!!」

 

 弟のそっけない反応にとりあえず蹴りをいれる愛。誠は何がなんだかわからず姉から少し距離をとった。

 

 

 

 各々お土産を購入し入り口へ戻ってきた。

 

「楽しかったわね!」

「ええ、とても楽しい時間でしたわ」

「クラゲが綺麗だった」

「はい!それにおそろいのお土産も買いましたしね!」

 

 うちっちーの顔面クッションを左手に抱えながらルビィは右手に持ったキーホルダーを示した。先程の売店で思い出にと四人で同じものを買った。5㎝くらいの三津シーパラダイスのマスコットキャラクターうちっちーがついている。他の三人もキーホルダーを出す。

 

「いい思い出になりましたわ」

「二人だけじゃ味わえなかった時間だったわね」

「俺の記憶に深く刻まれたよ(物理的なダメージとともに…)」

「ルビィも楽しかったです!」

 

 そのあとも四人は今日の話でしばらく盛り上がった。そして、とうとう帰りの時間がきた。

 

「じゃあそろそろ帰るわね」

 

 バスが来たのでバスに向かう二宮姉弟。黒澤姉妹は千歌の家に用があったのでここでお別れだ。ルビィが二人の手を握る。

 

「あの!今日は楽しかったです!また内浦に遊びに来てくださいね!」

「もちろんよ!ルビィちゃんも伊豆に来てね!一緒にダイビングしましょ」

「ル、ルビィにもできますか?」

「もちろん!私がちゃんと教えてあげるわ!」

「は、はい!」

「ふふ、最後にハグさせて!」

「きゃあ」

 

 ルビィを抱き締める愛。その様子を見つめるダイヤを少しハラハラしながら見る誠。その視線に気づき微笑むダイヤ。

 

「大丈夫ですわよ?もう取り乱しません」

「…ならよかった」

「今日は楽しかったですわ」

「僕も」

「まぁ、出会いはその…特殊でしたけど…」

「それは忘れよう?」

 

 痛みを思い出したのかもう痛くないはずの頬を押さえる誠。

 

「ふふふ、そうですわね、わたくしもまたお二人にお会いできることを楽しみにしていますわ」

「その時は出会い頭はやめてね?」

「わ、わかってますわ!」

 

 恥ずかしさで少し赤くなるダイヤ。

 二宮姉弟がバスに乗り込む。

 

「じゃあ、また!」

「うん!また!」

「じゃあ」

「また、ですわ」

 

 最後に別れの挨拶を交わしバスが出発する。そのバスが見えなくなるまで黒澤姉妹は手をふった。完全に見えなくなった時、ダイヤがルビィの方を見た。

 

「…寂しいのですか?」

 

 ルビィの横顔が少しそう見えた。しかし、ダイヤの方を振り向いたルビィの顔には最高の笑顔が浮かんでいた。

 

「ううん!お姉ちゃん、『繋がろうと思えば繋がれる』んだよ!」

「ルビィ…」

 

 いつになく前向きな様子のルビィを見て驚くダイヤ。しかし、その驚きは嬉しさになってダイヤの心を満たした。

 

「それでは千歌さんの所へ行きましょうか」

「お、お姉ちゃん」

「ルビィ?」

 

 千歌の家へ向かおうと歩き出したダイヤに対しルビィはその場を動かなかった。ダイヤがどうしたのか?と心配しているとルビィはおずおずと手を差し出した。

 

「その…少しだけでいいから…手、繋いで…?」

「!!ルビィ…!」

 

 ダイヤの中でどんな感情が渦巻いたかは言うまでもないだろう。少し震えているルビィの手をダイヤはしっかりと握り返す。

 

「うふふ、本当にルビィは甘えん坊ですわね」

「…えへへ」

 

 繋いだ手の温もりを感じながら、ダイヤとルビィは今日のことを話し合いながら千歌の家へと歩いていった。




作中に出てくる場面や商品は一度行った三津シーパラダイスの記憶をなんとか思い出して書いたのですが、いくつか実在しないお土産を書いているかもしれません。
チンアナゴの大きなぬいぐるみはありました。かなりかわいかったです。
この小説では、「ラブライブサンシャイン」の黒澤姉妹と「あまんちゅ」の二宮姉弟の姉妹・姉弟の仲良しな感じを出したいと思って書きました。ちゃんと仲良しを表現できていたらと思います。
これで最終話だす。ここまで読んでいただきありがとうございます。


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