やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。 (風並将吾)
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番外編 俺と翔子と第一歩

と言う訳で、番外編第一弾は雄二と翔子のエピソードです。
番外編は基本一話完結で作っていくつもりです。



 事の始まりはGW初日。明久の家でゲームをやっていた時に入った一本の連絡から始まった。

 霧島翔子。小学校時代から付き合いがある腐れ縁。幼馴染というべきだろうか。小さい頃はそれなりに付き合いもあった。家が近いこともあり、家族ぐるみで今でも連絡くらいは取り合ったりする。

 けど、俺が霧島翔子から少しずつ距離を取ろうと思った──いや、勉強することに対して意義を見出せなくなったのは、小学五年生のあの日。

 翔子が上級生に虐められているのを止められなかったあの日。自分には勉強しかなかったくせに、周囲を見下していたことを嫌という程実感させられたあの日。俺は霧島翔子からも、勉強からも離れていた筈だった。

 そんな翔子から、『林間学校のボランティアに参加しよう』という連絡が入った。もちろん面倒臭いし行く気もなかったから断ったが、そのことを既に読んでいたらしい翔子は、鉄人と平塚先生を利用してほぼ強制的に俺を参加させたのだった。本当、コイツは俺の行動パターンを読んでいるのではないだろうか。

 そして、一つだけ確信を持って言えてしまうことがある。

 

 霧島翔子は俺に恋心を抱いている。

 

 だが、それは恐らく勘違いから生まれた感情だ。あの時俺が翔子を助けたから、幼い頃の恩と恋心を勘違いしているのだ。長年にわたってそんな感情で翔子を縛り付けるつもりは微塵もない。だから俺は意図的に遠ざけるようになったというのに、翔子の方から近付いてこようとする。

 ──そんな日々に何処か心地よさを覚えてしまっている自分自身がいることも腹立たしかった。

 

 

 千葉村に到着した俺達の最初の仕事は、小学生達の山登りにおけるチェックポイント管理だった。俺と翔子の仕事は、チェックポイントに立ってスタンプを押すこと。本当ならば一人で回りたかったものの、人数もいる関係上、二人一組にならざるを得なかった。そこで俺は明久達の内の誰かと組もうと思ったが、

 

「雄二。私と一緒にペアになって?」

 

 という一言と、手を掴んでくる力の強さに勝てず、仕方なく翔子とペアになる事にした。鬼気迫る物を感じ取ったので断れなかったのも事実だが。しかし何というか、こうして二人並んでスタンプを押していると、

 

「お兄さんとお姉さん、お似合いだよね!」

「お付き合いしてるのー?」

 

 等、マセガキ共が色々と好き勝手言ってきやがる……。その度に俺が否定しているが、頼むから翔子も顔を赤くして照れていないで誤解を解いてくれ。

 

「雄二……私と雄二、お似合いだって」

「小学生達の戯言本気にするなっての」

「…………」

 

 無言で抗議するのをやめて欲しい。どの道俺と翔子じゃ釣り合ってない。勘違いから来る恋愛感情なんていずれ薄れて消えていく。それが今の今まで長続きしてしまっているだけだ。

 そんなことを考えていたら、あるひとグループのことが気になった。

 

「雄二、あれ……」

 

 こちらまで向かってくる女子五人組。だが、その中の一人がどう考えてもハブられていた。いつになってもこういうことは起こるものだ。気の毒だとは思う。

 

 ただそれ以上に、どうしてもあの時の面影がちらついてしまう。

 

「……雄二?」

 

 隣に居る翔子が心配そうな表情を見せてくる。

 やめろ、お前がそんな表情を見せるな。別に今俺達にとって何の問題もあるわけでもないのに、小学生時代を思い出してしまうだろ。

 

「何でもねぇよ。ほれ、仕事続けるぞ」

「……うん」

 

 気にしないふりをしてやり過ごす。恐らくあの子はクラスの中で何かあったのだろう。原因が分からない以上、今の状態では手出し出来ない。第一、そこまでやる理由もない。

 結局、その場はそのままスルーすることとなったが、心の中に靄がかかったような感じが残った。

 

 

 二度目にその子を見たのは、葉山が話しかけに行った時。

 吉井にも説明したが、ああいうのは善意によって悪化することだってあるものだ。優しさが裏目に出る。ハブられているのがただの遊びである以上、もしかしたらいずれなくなるかもしれないし、このまま続くのかもしれない。いずれにせよ、黙って見過ごすわけにはいかないレベルまで浮彫になっていることは確かだ。

 

 だからだろうか。やっぱりあの少女に、かつての翔子を見出してしまうのは。

 

「……雄二。少し話がしたい。いい?」

「……分かった」

 

 そんな時に、翔子が俺に話しかけてきた。

 最初は断ろうかと思ったが、翔子の真剣な眼差しを見て、断ることが出来なくなってしまった。

 俺達は一旦先生に許可を取り、少し離れた場所まで向かう。

 やがて周りに誰もいなくなったのを確認した翔子が、話を切り出した。

 

「ねぇ、雄二……ここに来てからほとんど笑ってない」

「……笑うようなことが起きてるわけじゃねえからな。別にそこは……」

「違う。私は最初、雄二となら楽しい思い出が作れるって言った。だけど、まだ何も作れてない」

 

 どうしてコイツは、俺のこととなると強情になるのだろう。

 お前はお前で、正しい道をいけばいいんだ。落ちこぼれた俺は、お前にとって必要ないだろう? お前のそれは単なる勘違いだ。だから――。

 

「雄二。私の想いを勘違いで誤魔化したら許さない」

「……何と言われようと、お前のそれは勘違いだ。恩と恋慕を重ねるな」

「なら、どうして雄二は中途半端に離れないの?」

「……」

 

 一番言われたくない一言だった。

 確かに、その気がないのならいっそ盛大に振ってしまえばいい。それこそ完膚なきまでに。お前に対して恋愛的な目で見ることが出来ない。二度と近づくな。それだけ言い放てばそれでいい筈だ。

 だが、俺はそうしなかった。

 

 ――霧島翔子という人間が、嫌いではなかったからだ。

 

「そうする理由がないだけだ」

「なら、私が雄二のことが好きであることを否定することは出来ない。違う?」

「……」

「勘違いなんかじゃない。恩もあるかもしれないけど、それだけじゃない。私は雄二が好き。何と言われようと、この気持ちは偽りなんかじゃない。小さい頃に作られた偽物の感情ではなく、本物だから」

 

 翔子の目を見る。決して嘘をついていないこと位俺にも分かっている。

 

「……あの子、私に似てた?」

「!?」

 

 言い当てられていた。

 思っていたことを完全に当てられて、俺の心に焦りが生まれる。

 

「もしあの子が私に似てるとすれば、あの子もきっと助かる。だって、私は雄二に助けられたんだから……」

 

 胸に手を当てて、目を閉じて、翔子は大切な思い出を振り返るように言った。

 あぁ、コイツはなんて強い奴だ。

 俺はコイツの傍にいるのにふさわしくないと思ったから、突き放してやろうと思った。けど、心の何処かでコイツと一緒に居ることに対して名残惜しさがあって、完全に振り払えなかったのだろう。そして今、恋愛的な感情で見られるかどうかは分からないが、俺には翔子を振り払えないことが分かってしまった。

 少しずつ、歩み寄ってみるのもありかもしれない。

 だからまずは――。

 

「翔子。林間学校をいい思い出にする為にも、協力して欲しい」

「……もちろん。雄二の為なら、私はなんだってする」

「……サンキューな」

 

 俺達は少しずつ歩み寄る。

 今はまだ完全には難しいかもしれないけど、深くなってしまった溝を埋める為に、少しずつ。

 

 ――きっと今夜、問題点としてあの少女の話が上がることだろう。

 

 解決は難しいかもしれない。たった二日間でやれることなんて限られている。

 そしてこの方法は、比企谷だったら既に思いついているのかもしれない。

 話に出してみる価値はあるかもしれない。

 

 けど、それ以上に。

 自分達の思い出も作ろうと思った。

 

 翔子との――ここに居るバカ共との思い出を。

 

 




夜に話し合いが行われる前に、この二人の蟠りについては少しずつ解決に向いているという感じを出したかったので、このような話になりました。
ただし、まだ完璧には解決しておりません。二人の関係性はこれから少しずつ前へ進んでいく形となります。 

次回は戸塚目線で話を作ろうと思います。
ボランティアにて初めて八幡と会った戸塚が、どのように八幡と仲良くなっていくのか。今週は恐らく金曜日まで番外編を更新する流れとなりそうです。

本編の方は来週より再び更新開始となると思います!


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つまり、戸塚彩加は比企谷八幡と仲良くなりたいと思っている。

今回は戸塚視点でのエピソードです。


 実を言うと、体育の授業でテニスがあった時からずっと、彼──比企谷八幡君のことが気になっていた。テニスの授業でペアを作ることになった時、

 

「八幡! 今日も地獄のような時間を共に乗り越えようではないか!」

「体育のペアな? 分かったよ……」

「流石は我が相棒! 我が魔球をとくと味わうがいい!」

「お前が下手くそでボールが遥か彼方にぶっ飛んでいくだけだろ」

「ぐはっ!」

 

 材木座君と比企谷君がペアで打ち合うのはある意味恒例となっていた。僕もいつも打っている人と一緒に打ち合うことになっている。

 

「雄二! 今日こそ決着をつけよう……」

「いいぜ。負けた方が今日の飯奢りな」

「望むところだ!!」

 

 あの二人は相変わらず楽しそうだなぁ……。

 そんな中ラリーは始まって、僕はその合間に比企谷君の方を見てみると、

 

「フォーム、綺麗だなぁ……」

 

 実を言うと、この学校のテニス部はそこまで強くない。先輩方はもちろん強いんだけど、僕達の代がそんなに部員入らなかったこともあって、僕も含めて弱い方に入ってしまう。比企谷君はフォーム綺麗だし、練習すればきっと上手くなると思うんだよなぁ……。

 うん、決めた。

 比企谷君と仲良くなって、もし部活に入ってなかったらテニス部に勧誘してみよう。

 だけど、普段なかなか教室にはいないし、話しかけるタイミングもなかなかないんだよね……。

 そんな時に吉井君から聞いたのが、奉仕部の林間学校ボランティアだった。どうやら比企谷君も奉仕部に入ってるみたいで、その段階でテニス部に勧誘することが出来なくなっちゃったけど、せめて友達になれたらいいなって思ってボランティアに参加することにした。少しでも比企谷君と仲良くなれるといいなぁ。

 

 

 車で移動している途中。僕達はサービスエリアで休憩を挟むこととなった。トイレを済ませて飲み物を買おうと自販機のところまで行くと、

 

「あっ」

「お、おう」

 

 ちょうど何かを探している比企谷君を見つけた。

 

「えっと、たしか……」

「戸塚だよ。戸塚彩加。よろしくね?」

「かわいい」

「え?」

「あ、よ、よろひくおねがいしまひゅ」

 

 あ、比企谷君今噛んだ? 何だろう、なんだか可愛いなぁって思った。

 

「何探してるの?」

「あ、あぁ。マックスコーヒーをな」

「あー! あれ、甘くて美味しいよね?」

「ほ、ほんとうか!?」

 

 まるで同志を見つけた人みたいに目を輝かせる比企谷君。マックスコーヒーのこととなると普段と人が変わるみたい。凄いテンション上がってそう。

 試しに僕も探してみると、

 

「あ、比企谷君。あれじゃないかな?」

 

 黒と黄色によって装飾された缶が一つ、自動販売機に陳列されていた。

 僕はその自動販売機にお金を入れて、マックスコーヒーの下のボタンを押す。

 ガシャン、という音と共に缶が出てきて、

 

「はい、比企谷君」

 

 と、取り出した後で差し出した。

 すると比企谷君は、

 

「お、俺は養われる気はあっても、施しは受けない主義だから……」

 

 と、遠慮(?)してきた。

 それってどう違うんだろう?

 

「そっか……じゃあ、比企谷君。一つお願いがあるんだけど」

「お願い?」

 

 これくらいのわがままなら言ってもいいよね?

 だって比企谷君が施しを受けるつもりがないって言ったから、一つ位お願い言ったって損はないと思うんだ。

 

「比企谷君のこと、その……八幡、って呼んでもいいかな?」

「喜んで」

 

 反応が凄い早かった。

 それはもう、満面の笑みと共に言われちゃった。

 どうしよう、自分から言っておいて、その、恥ずかしいな……。

 

「えへへ……ありがと、八幡」

「お、おう……」

 

 八幡の顔が赤くなった。

 照れてるのかな?

 

「お、お兄ちゃんが……秒殺されてる!?」

 

 そんな光景を見ていた比企谷君……ううん、八幡の妹の小町ちゃんが、凄く驚いたような表情を見せていた。それこそ、少女漫画で登場するような。何だろう、背景に稲妻が見えるような気がしたよ?

 

「こ、小町。少し待ってくれ。お兄ちゃんな? 今喜びを噛み締めている所だから」

「うわぁ……これ以上ない程キモイお兄ちゃんだ。キモイチャンだ」

「キモイとお兄ちゃんをナチュラルに混ぜて変な名前つけるのやめなさい? バカが移るぞ?」

「だ、誰がバカだしっ!」

「今自分で名乗ってる奴のことだ」

 

 ミルクティーを飲んでいた由比ヶ浜さんが、八幡の言葉に反応しちゃってる。

 小町ちゃんはなんだか楽しそうというか、嬉しそうというか。

 きっと、兄である八幡の周りにたくさん人が集まってきていることが嬉しいのかな?

 

「あのね? 八幡」

「ど、どうした? 戸塚」

 

 あれ? 八幡の顔が赤い気がするよ?

 どうしちゃったのかな……?

 

「八幡って、実は凄いモテたりするのかな?」

「……え?」

 

 あれ?

 八幡の顔が何だかおかしな感じになっちゃってるよ?

 

「だって、島田さんが居て、由比ヶ浜さんが居て、部活には雪ノ下さんも居るんでしょ? 八幡、とっても優しくていい人だから、周りに人が集まってくるんだね!」

「お、おう……」

 

 顔を赤くして頬を掻いちゃってる八幡。

 そっぽ向かれちゃったのが少しムッときて、わざと後ろからそっと近づいて……肩をポンと叩いてみる。

 

「お?」

 

 ぷにっ。

 八幡の頬を指で軽くつついてみた。

 あ、柔らかくて気持ちいい。

 

「引っかかった♪」

「……っ!!」

 

 八幡が変な顔になってる。

 あはは、なんだか面白いなぁ。

 やっぱり、八幡っていい人だし、面白いし、仲良くなれそうな気がするなぁ。

 

「ボランティア、楽しくなるといいね!」

「お、おう……」

 

 きっと、これから始まるボランティアは楽しい思い出がたくさん作れるんだろうなぁ。

 そう考えると、なんだかワクワクしてきちゃった。

 

「あ、彩加!」

 

 後ろから吉井君の声が聞こえてきた。ちょうど西村先生の車もここに来たのかな?

 吉井君の後ろからは、坂本君や木下君、そして何故か写真を撮っている土屋君の姿があった。一体土屋君は誰の写真を撮ってるんだろう? なんだかカメラのレンズが僕の方を向いている気がするけど……。

 

「彩加達もここにきておったのじゃな。追いついてよかった」

「んで、比企谷は一体どうしたんだ? なんだか顔が赤いみてぇだけど?」

「……何でもねぇよ。少し、吉井の気持ちが分かっただけだ」

「へ? 僕の気持ち?」

 

 吉井君の気持ちって一体何のことだろう?

 

「少し八幡と仲良しになっただけだよ?」

「「「「八幡????」」」」

 

 四人分の声が重なった。

 吉井君達が驚きの声を上げていたのだ。

 それに対して八幡は、

 

「おいそんなに驚くことかよ」

 

 と、睨んでいた。

 

「だってさ? 僕が八幡って呼んだ時、何かおかしな物を見るような目で言ってきたよね?」

「あれは吉井が突然過ぎたからだ」

「あまりにも理不尽じゃないかな!?」

 

 八幡の言葉に吉井君がツッコミを入れている。

 やっぱり、八幡ってぼっちじゃないよね? こんなにもたくさんの人に囲まれて、いい人だっていうことが証明されている気がする。

 始まりはテニスの授業で見かけた動きだったけど、気付いたら目で追っていて、そして八幡の人柄を知った。まだ一か月位しか経ってないし、八幡が学校に来てからはほとんど時間は経っていないけど、これからたくさん思い出作れるといいなぁ。

 

「は、ハチ?! これは一体どういうことか説明してよね!」

「いやなんで島田が怒ってんの」

 

 僕達の楽しい一日は、これから始まるのだろう。

 




本来は林間学校中のエピソードを書こうと思ったのですが、意外にも話をぶち込むのが難しいなぁと思い、そこで俺ガイルのゲームを思い出しました。
そうだ、千葉村に行く前にサービスエリア行ってるじゃん。
ならそこでの話を軸にすればいいじゃないか。
そう思ったので今回の話が完成しました。
何気に八幡の周りって人がたくさん集まってますよね。
全然ぼっちじゃないのに、本人は認めようとしない……。
戸塚はそのことをしっかり分かっているようです。
最早この子がヒロインでいいんじゃないかと書きながら思ってしまいました……本当に男ですよね?
次回の主人公については今のところ、島田さんか姫路さんを予定しています。
全然話の中身が変わってきてしまいますが……思えば姫路さんは今回が初登場なので、出番を上げなきゃなぁって思っていたり……。
兎にも角にも、次回もお楽しみに!


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私と彼と小さな恋心

と言う訳で、今回は林間学校編にてようやっと登場しました姫路さん回でございます。
意外にも難産でした……。


 思い返せば小学生時代。私は、貴方の優しさに触れてから恋心を自覚してしまっていたのかもしれません。明るくて優しくて、そして楽しい貴方。一緒にいるだけで私の心がポカポカしてきます。中学時代は違う学校でしたが、高校になって再会して、すぐに貴方だということが分かりました。だけどクラスは別々になってしまいまして、なかなかお話する機会がありませんでした。そんなある日、私は偶然、ある場面に遭遇したのでした。

 それは、吉井君ともう一人の男の人が、ある女の子と出会った日。ぬいぐるみが欲しいと言っていた女の子の為に、吉井君は率先して動こうとしていました。

 私はそのお手伝いがしたくて、だけどやっぱり声をかけるのが少しだけ恥ずかしくて、結局女の子にぬいぐるみを縫ってあげることしか出来ませんでした。きっと吉井君ならどうにかするのかもしれないと思ったけど、これはあくまで私のわがままみたいなものですから……。

 そうして改めて気づいた事がありました。

 やっぱり貴方は、他の人に笑顔を与えてくれるんですね。明るくて優しくて、一緒に居て楽しい貴方だから、私は──。

 

 

 恋心を自覚した私は、何とかして吉井君とお話出来ないかと色々考えました。ですが、クラスが違うとどうしてもお話する機会がありません。少し良かったなって思ったのは、私が普通科に所属していたことです。もし国際教養科に入っていたら、吉井くんと同じクラスになることが出来ませんでした。今年が駄目でも、来年再来年があります。その時に同じクラスになれればお話出来るのに……一緒のクラスで吉井君とお話が出来る人がいるということを考えるだけで、胸が少し締め付けられたような気持ちになりました。吉井君への気持ちを自覚してから、私は少し感情に揺れ動かされてしまっている気がします。

 そんなある日のことでした。GWに入る前、

 

「あぁ、姫路か。ちょっといいか?」

 

 帰ろうとしていた私を呼び止めたのは、平塚先生でした。白衣がとてもよく似合っている、美人さんです。

 

「平塚先生? どうかされたんですか?」

「ちょっとした勧誘みたいなものだ。GWの中日、二日間ほど暇はあるかね?」

 

 今年のGWは特に予定が詰まっていなかったので、空いている日は勉強に使おうかと思っていました。二日間ということは、何かお泊まり行事でもあるのでしょうか? 

 

「はい。特に予定はありませんが……」

「掲示もしていたと思うが、その日に小学生の林間学校運営のボランティアを募集していたんだ。姫路もどうかと思ってな」

 

 何だかとても楽しそうです。ボランティア活動に参加するということならお父さんもお母さんも納得してくれると思いますし、何よりこういった行事なら吉井君も参加しているかもしれない。これはきっと、チャンスなのでしょう。

 試しに私は、平塚先生に尋ねました。

 

「あの……そのボランティアって、どんな人が参加されるのですか?」

 

 平塚先生はキョトンとした表情を浮かべた後で、すぐに元の表情に戻りました。何か私、おかしな事言ったでしょうか? 

 

「確かに、君のクラスからは参加者はいないな……けど、せっかくの機会だ。これを機に他クラスの者とも親交を深めるのもありかもしれないぞ?」

 

 私の質問を、『クラスメイトはいるのかどうか』と解釈したらしい先生が、優しくそう言ってくださいました。確かに、知り合いが一人もいない中で行くのは少し心許ないというのはありましたが、それよりも……。

 

「あの……吉井君は、来ますか?」

 

 その質問をした瞬間、いよいよ平塚先生は目を大きく見開きました。

 

「姫路は吉井と知り合いなのか?」

「はい。小学校が同じだったので……でも、多分吉井君は私のこと覚えてなくて、仲良くなりたいなって思ってても別のクラスでしたからなかなかそんな機会もなくて……」

「……」

 

 先生はただ黙って話を聞いてくださいました。ただ、何故か時々身体が震えていたのはどうしてなのでしょうか。

 やがて平塚先生は閉じていた目を開いて、

 

「それなら尚のこと、君は今回の件に参加するといい。吉井は奉仕部に入部しているから、既に参加が決まっている」

「本当ですか!?」

 

 とても嬉しい報告でした。だってそれは、もしかしたら吉井君とお話が出来るかもしれないということですから。

 

「参加の登録とかは私からしておこう。詳しいことはこの紙を確認しておいてくれたまえ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 先生から頂いたのはスケジュールが書かれたものでした。

 

「それじゃあ良い連休を」

「はい!」

 

 そう言って平塚先生は去って行きました。

 

「……くっ、私も青春したかった……っ!」

 

 ……なんか、ごめんなさい。

 

 

 そして、林間学校の日がやってきました。

 車で移動して、千葉村まで来た私達。

 そこで私は、吉井君の姿を見つけました。

 

「あ、あの……」

「ん?」

「私……姫路瑞希です。吉井君、ですよね?」

 

 これでもし吉井君が覚えていたらそれでいいんです。でも、そうじゃなかったとしたら――。

 

「え?」

 

 その反応は、やっぱり私の予想通りでした。

 そうですよね……小学校以来に会った人のことなんて、普通そう覚えている筈がありませんから。でも、ここで挫けちゃ駄目なんです。私は吉井君と仲良くなる為にここに来たんですから。

 そう決めた私は、

 

「これからもよろしくお願いします、吉井君!」

「は、はい」

 

 これはある意味、私から吉井君への宣戦布告です。

 絶対仲良しになりますからね。

 そして、ゆくゆくは――。

 

 




これにて一旦番外編の更新は終わります。
来週月曜日からは再び本編の更新が始まります。
次回は八幡目線でのルミルミ解決法(あるいは解消法?)となります。
原作通りなのか、それとも少しずつズレていくのか。

余力があれば、土日のどちらかでもう一つ番外編を出すかもしれません。
まだ、俺ガイル勢は戸塚しか番外編作ってないので……バカテス側2キャラ、俺ガイル側2キャラ分話を作ればちょうどいいのかなぁ……なんて思っていたり……。



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結局、妹は兄の幸せを願う。

 私の兄は捻くれている。でも、決してただ捻くれているだけじゃない。そこにはちゃんとした優しさが存在するのです。何かと理由をつけながらも、兄は色んなことをしてくれる。小町が家出した時だって、探して見つけてくれたのはお兄ちゃんだった。小町が寂しくないように、小町より先に帰ってきて『おかえり』って迎えてくれるようになった。それでも兄は『学校にいるより家に早く帰りたかったから、たまたまだ』なんて言ってのけてしまうだろう。お兄ちゃんってば本当優しい。小町的にポイント高いよ。

 

 そんな兄ですが、最近少しだけ変化があったみたいです。

 

 入院していた時は、『これで高校生活ぼっちスタート確定だな。ぼっち最高』とか言っていた筈のお兄ちゃんが、クラスメイトと連絡を取り合うようになっていました。というかもう少し詳しく話を聞いてみたら、なんと部活に入っていました。え、いきなりどうしちゃったの? どういう風の吹き回し? それでもお兄ちゃんは基本的に小町よりも先に帰ってくるようにしてくれる。捻くれているけど優しい所は何にも変わっていないみたい。一番驚いたのは、あのお兄ちゃんに連休中の予定が出来ていた事です。友達の家でゲームをしに行くというものでしたが、まさか高校入学してすぐに友達の家に行く用事が出来るなんて思ってもみませんでした。小町も友達と一緒にお出かけしたりすることはありましたが、こういう長い休みの日は、兄妹揃って家に居ることも珍しくありません。そんなお兄ちゃんが、家に居ない日が出来たのです。

 

 お兄ちゃん史上、最も多くの友達がいるんじゃないかって思いました。更に驚くべきことに、何とGW中にお泊り行事に参加するということです。お兄ちゃんの学校の先生の計らいで小町も参加することとなりましたが、かなり驚くべきことでした。いつものお兄ちゃんならば、何かと理由をつけてこういったことはサボろうとするのに、今回に関してはそれを受け入れているのです。一瞬、私は本当に自分の兄なのかどうかを疑いかけました。お兄ちゃんが、ごみいちゃんじゃなくなっている……!? 結局、行事中のお兄ちゃんの行動を見ていつものごみいちゃんであることを悟ったのですが……。

 

 そして極め付けは、あのお兄ちゃんに……女の子のお友達がたくさん出来ていた事です!!

 

 お兄ちゃんが入院していた時にお菓子を持ってきてくれたお菓子の人――結衣さんをはじめとして、凄く美人な雪乃さんに、スレンダー美人さんな美波さん。そしてちっちゃくて可愛い葉月ちゃん。本当にいつの間にお兄ちゃんはこんなに義姉ちゃん候補を見つけてきていたのでしょう!? しかも妹キャラまで!? 小町の妹としての立場が危うくなりそうです! というか私も葉月ちゃんのお姉ちゃんになりたいです!! 美波さんにお願いしちゃおうかなぁ……。

 前に聞いた時には『そんな人いるわけない』って言ってたのに、裏を返せば三人も義姉ちゃん候補がいるなんて思ってもみませんでした。まったくごみいちゃんってば……。

 

 でも、お兄ちゃんが対人関係に関してここまで動いているのは、きっと周りの人のおかげなんだろうって思います。特に、よくお兄ちゃんと連絡を取り合っていたり、一緒に行動している所を見かける、吉井明久さん。多分この人に会ったからこそ、今のお兄ちゃんが居るんじゃないかなって思います。

 根本は変わっていなくても、少しずつ良くなっているんじゃないかなって。

 

 もし、お兄ちゃんが明久さんと会っていなかったらどうなっていたんだろう?

 もし、お兄ちゃんがぼっちのままで高校一年生を過ごしていたらどうなっていたんだろう?

 

 あまり、そういったことは考えたくありません。

 兄が幸せになってくれることこそ、妹の幸せという物です。

 中学時代に色々あったお兄ちゃんには、高校生になって幸せになって欲しいんです。だって、あれだけ辛い想いをしてきたお兄ちゃんなのに、報われないなんてあんまりじゃないですか。何があったのかを細かく聞いたわけじゃありませんが、おおよそのことは小町だって知っています。それが原因でさらに人に対して疑り深くなってしまったこともそれとなく感じています。

 そして何より、自分自身が大好きだと言っているのに、自分を犠牲にしようとするお兄ちゃん。

 いつか必ず、そんなお兄ちゃんを幸せにしてくれる人が居てくれることを――理解してくれる人が現れてくれることを祈っています。

 それが、雪乃さんだったとしても、結衣さんだったとしても、美波さんだったとしても、他の誰かだったとしても構いません。

 

 小町は、お兄ちゃんを幸せにしてくれる人が居てくれればそれでいいのです。

 

 小町はもう何年も捻くれたお兄ちゃんの妹をしています。なのでお兄ちゃんがどんな思いで行動して、そしてどんな風に動くのかをなんとなく察することが出来ます。

 

 だけど、そう言った人が現れてくれるまでは、小町がお兄ちゃんの面倒を見てあげるからね?

 これ、小町的にポイント高い♪

 

 ……兄の妹離れもなかなかに出来ていないと思うけど、小町も小町で、兄離れが出来ていない。ブラコンというわけではないけど、兄が好きなのには変わりない。何より、この気持ちに嘘はつきたくないし、お兄ちゃんのことは本当に好きなのだ。

 

「……お兄ちゃん、今度こそちゃんと、幸せになってね」

 

 たくさんの人に囲まれているお兄ちゃんを見て、小さく呟きました。

 

 ――どうか、お兄ちゃんが幸せになりますように。

 

 




悩みに悩んだ末に、随分と難産となりましたが――今回は小町の話を書きました。会話文がほとんどなく、独白のみの短編です。
この小説での小町はまだ受験生ではありません。中学二年生です。きっと兄に甘えたいお年頃でもある筈です。なのに、兄の幸せを誰よりも願っているんじゃないかなって思って今回の形となりました。家族として大好きだからこそ、きっとお節介をするんじゃないかなって。ですが基本的に妹であることに変わりはないので、兄の前では無防備で、かつ、甘えてくる。そんな妹が比企谷小町なんじゃないかと思います。
きっとこの二人に恋愛的な何かはなく、互いに互いを家族として好きあっているからこその関係性なのかなぁ……って。
まだまだ書きたい番外編はありますが、話が進んでいったらちょくちょく挟んでいく形を取っていきたいと思います。
また、それとは別に少しお知らせみたいな形です。
バカガイルの番外編にこんな話を書いて欲しいというリクエストのようなものがありましたら、以下のURLにありますリクエスト箱までコメントお願いします。
なるべく形にしたいと思っております。
それでは、これからも本編も番外編も応援よろしくお願いします!!


番外編リクエスト箱URLはこちらより。



https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=219081&uid=11412



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ウチとハチと恋心の自覚

十六夜様よりリクエストを頂きました、林間学校一日目における美波さん視点でのエピソードです!
入れてくださりまして、本当ありがとうございます!


 由比ヶ浜さん──結衣から教えてもらったのは、小学生の林間学校ボランティアだった。一緒に行ってみないかと言われた時、ウチは素直に嬉しいと思った。アキやハチのおかげでクラスの人達と徐々に話せるようになって、こういった事も増えてきたことが素直に嬉しかった。何より、そのボランティアに……ハチがいる。そのことを知った時、ウチはすごく嬉しくなっちゃって、思わず電話しちゃった。

 だけど、ウチは同時に結衣が羨ましいとも思っていた。同じ部活に入って一緒に行動する時間が増えて、ハチが段々と遠くなっていくような感覚に襲われた。多分、嫉妬してたんだと思う。それは結衣も同じなんだろうなって思った。

 ハチは基本教室ではあまり会話をしてくれない。挨拶して少し話したら、直ぐに机に突っ伏そうとする。昼も一人でそそくさと教室を出て行ってしまい、いざ追いついてみるともう食べ終わっててその場にいない。距離を縮めたいと思うのに、ハチが段々と遠のいていく。

 だからウチは、比企谷という呼び方をやめて『ハチ』って呼ぶことにした。吉井にも感謝の気持ちがあったし、仲良くなったから『アキ』と呼ぶことにした。

 この気持ちはきっと恋なんだと思う。ウチはハチのことが気になってるんだ……ふとした瞬間にハチのことを考えてしまう位には。

 正直、GW中にハチに会えないと思ってたから、一日目に会えたのは本当に奇跡で、連絡先も手に入れられたのも本当に嬉しくて、そして今度はお泊まりで行事に参加出来る。こんなに幸せなことはないんじゃないかって位、ウチは舞い上がっていた。

 

 だけど、やっぱり奉仕部とウチの間には、何処か距離があるように感じられた。

 

 

 一日目。

 小学生達がチェックポイントを通過しながら散策をしていくというもので、ウチは瑞希と一緒にチェックポイントでスタンプを押す係を担当していた。本当はハチと一緒にアシストをする係がやりたかったんだけど、ハチの周りには……既に結衣や雪ノ下さんがいた。もちろんそこには奉仕部であるアキも居たけど、なんというか……その四人の中に入り込めない気がした。もちろん、一人一人とは話せる。雪ノ下さんはクラスが違うから接点がないけど、結衣とはオシャレについてとかも話せるし、アキにはくだらない冗談を言えるし、ハチとはどうでもいい会話すら楽しいと思っていた。

 だけど、この四人で固まっている空間は、何処か完成しつつある空間のように見えてしまった。

 

「美波ちゃん?」

 

 そんなウチの様子を見てたのか、隣では瑞希が心配そうな表情で見つめて来ていた。いけない、今はちゃんと役割を果たさないと。

 

「ううん、何でもない。ゴメンね? ボーッとしちゃって」

「いえ……でも、なんとなく美波ちゃんの気持ちもわかるなぁって思いましたから」

「え?」

 

 瑞希は少し寂しそうな表情を浮かべながら、アキやハチの方を見ている。あの様子から見るに、もしかしたら瑞希はアキに対して何かしらの感情を抱いているのかもしれない。

 そうなると、瑞希は――ウチと同じだ。

 

「奉仕部の方々ってなんとなく、四人で完成しているような気がしているんです……その、中に入りたくても、どうしても入れないなぁって思ってしまいまして……正直、羨ましいなぁって」

「瑞希……」

 

 やっぱり、瑞希も同じことを考えていたんだ。

 ただ、ウチと瑞希の間で違うのは、想っている相手が誰なのかということ。正直アキの優しさは一度触れたウチもよく分かっている。恐らく、もしかしたらウチもアキに対して好意を抱いたのではないかと思う瞬間も何度かあった。だけど、やっぱりウチはハチのことが気になっている。間違いなくハチに恋をしている。

 だからこそ、ウチは――。

 

「ですから、私は……雪ノ下さんと由比ヶ浜さんに、嫉妬しちゃってるんだと思います」

「っ!?」

 

 そう。

 多分ウチと瑞希は――ハチとアキに対して距離を詰めることが出来る二人に対して、嫉妬しているんだと思う。その気持ちに嘘を吐くつもりはないし、何よりそれは、相手のことをどれだけ想っているのかを示す証拠にもなると思うから。

 

「でも、だからこそ思うんです。このまま何もしないのはよくないって……私は今日、吉井君ともっと仲良くなりたいって思ってここに来たんですから。もしかして、美波ちゃんもそうなんじゃないかなって」

「……うん。その通りよ。ウチも、ハチと仲良くなりたいと思ってここに来た」

 

 そうだ。

 何もしないまま指をくわえてみているだけなんて御免よ。このまま何もしないなんてウチらしくもない。いざという時に行動を起こさなきゃ。

 それに、瑞希だってきっと普段はここまで言わないのかもしれないと思った。アキのことが本気で好きだからこそ、瑞希はウチにもここまで言ってくれているんだ。

 

 ――恋はきっと戦争。何かしら手を出さないと、負けてしまう。

 

 だからウチは第一歩を踏み出そうと思った。

 その為にはまず、ハチに話しかけるところから始めよう。そして、学校で話せない分たくさんのことをハチと話そう。

 

 覚悟してよね、ハチ。

 

 ウチは――貴方のことが好きなんだから。

 

 




短めになってしまいました……金曜夜から土日にかけて何かと予定が詰まっておりまして、なかなか話を作る機会に恵まれなかったということと、予想以上に美波については本編で触れていたこともあり、なかなか番外編としてエピソードを作るのが難しかったというのが本音です……。
ですが、恋心を自覚した彼女はこれから本編でもぐいぐい来てくれると信じています。
第七問ではハチに全員と連絡先を交換する手伝いをしている位には、今の所ハチの近くにいる人物ではありますからね!
さて、次回からは本編に戻ります。
バイトの話ですよ!
ディア! マイ! ドウタァアアアアアアアアア!
ネタバレ(迫真)ですね(白目


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一色いろはは、意外にも真面目な女の子である。

皆さま、お盆期間をいかがお過ごしでしょうか。
本日は本編の更新ではなく、番外編を投稿したいと思います!
八幡視点での、一色との勉強会エピソードです!


 日曜日とは常に喜びと悲しみの狭間に位置していると思う。次の日が祭日や祝日であれば話は別だが、次の日に学校という地獄が待ち構えているのだ。ならばせめて土日くらい、フルに休みたいものである。朝の黄金タイムを過ごした後はソファに寝転がり、本を読んだりゲームをしたりしながらダラダラと過ごす。休む日と書いて休日なのだ。本来ならば疲れた身体を休める為に引きこもるのに使う日ではないのだろうか。

 などと文句をツラツラと書き並べたところで、俺を呼び出した張本人に届くわけでも響くわけでもないことは明白なので、声高に叫ぶつもりはない。ただ一つだけ文句があるとすれば、

 

「何でこの暑い中、呼んだ本人はまだ来てねぇんだ……」

 

 これから6月にさしかかろうという日曜日。学力強化合宿までの日取りも間近に迫ってきている中、俺は千葉駅で待ち惚けを食らっていた。集合時間を指定してきたのは向こうなのだが、既に30分は遅刻している。もうこのまま帰ってやろうかと思い始めたその時だった。

 

「すみませーん! 遅れてしまいましたー」

 

 あざとい声が俺の耳を蹂躙する。俺を呼び出した張本人である一色いろはは、あざとい笑顔を振りまきながら俺が待つ所まで駆け寄ってくる。いや本当一挙手一投足あざといなコイツ。あざとすぎてゲシュタルト崩壊しそうになってきた。

 服装もまた、デニム柄のトップスに白のひらひらのついたスカート、そして茶色のブーツを履いて選んでくる辺り、中学生ながらこうして色んな男子を虜にしてきたのかと思うと末恐ろしい奴である。こわ、近づかないでおこう。いっそここから離れてしまおうか。

 なんて思考をしながら、一色がやってくるのをただ見守っていた俺。せめてもの悪態の一つでも吐いてやろうと思った俺は、

 

「いや本当待ったわ」

「……そこは今来たところって言うのがセオリーなんじゃないですかね」

「生憎、俺は正直者だからな。嘘はつけないタイプなんだ」

「吉井先輩からは捻くれているって話を聞きましたが……」

「アイツ一体普段何話してるの」

 

 前から思ってたけど、うちの高校受けようとしてるのって葉山に興味を抱いたからだよな? 何故か順調に吉井との仲が良くなっていないか? もうコイツらで仲良くなってくれれば俺が一色の所へ行く必要なくなるんじゃないか? ……いや、なさそうだ。アイツが一色と話す話題のほとんどが俺についてらしいし、何より吉井は人が好過ぎる。恐らく、今まで会ってきた奴らの中では断トツにお人好し。いや、もしかしたら単純にただのバカである可能性もある……吉井の場合はそっちのような気がしてきた。

 

「せっかくのデートなんですからもっとこう、ムードを作ってくださいよ」

「……………………デート?」

「はい~」

「いや、デートじゃないからね。模試が近いから勉強教えてって言ったのそっちだからね」

「……ちっ」

 

 今コイツ舌打ちしなかった? ちょっと一色ちゃん? キャラ崩壊もいい所よ? 言う程一色のキャラを俺は知らないのだけれど。

 

「せんぱいも、こうして可愛い後輩に勉強教えられるんですから役得ですよ?」

「あー役得役得。凄い役得物凄い役得」

「……反応適当過ぎやしませんかね」

 

 一色が不服そうに頬を膨らませている。

 とりあえず、勉強をするという目的は正しいようで、手提げかばんの中には多くの参考書が入っている。なんだかんだで真面目ではあるのだろうか。

 

「場所移動するか」

「そうですね……前せんぱいが働いていたカフェに行きましょう!」

「え、あそこに行くの」

 

 正直あの喫茶店は嫌な思い出がたくさん詰まっているからあまり足を踏み入れたいとは思わないのだが……。そんな俺の心の内など知る由もない一色は、

 

「あそこならそこまで人の出入りもありませんし、何より珈琲を飲んだりデザートを食べたりしながら勉強出来ますので♪」

「あ、そう……」

「むー、なんですか。せんぱい何か不満そうですね……」

「俺達駄弁りに行く訳じゃないんだが……図書館とかじゃ駄目なのか?」

「……もぉ、せんぱいってばムードがないですよ」

 

 悪かったな、ムードなくて。

 

「と、に、か、く! せんぱいほら、行きますよ!」

「ちょ、おま、手引っ張るなって……」

 

 俺が同意しないのが納得出来なかったのか、一色は強引に俺の手を掴んで、そのまま引っ張っていく。俺はと言えば、自分の手に感じられる無慈悲なる柔らかさに対して煩悩を打ち消すのに必死だった。つかコイツの手柔らかい。見た目は可愛い女子なので、尚の事俺の心臓がバクバク言っている。これがもし戸塚だったら、そのまま抱きしめて警察へ突き出されるまである。確かに事案だわ。

 

 

「とりあえず、まずは模試の範囲を教えてくれ……そして、一色が苦手そうな単元をある程度問題集を使ってカバーしていこうと思う」

 

 確か千葉の模試と言えばV模擬があった筈だ。それに準ずる内容を把握して、それで一色の苦手分野を克服する方向へ持って行けばそれで今日の相談は解決へと導くことが出来るだろう。そう考えたからこそ俺は提案したのだが、受け手である一色はキョトンとした表情を浮かべながら、テーブルの上に置かれているミルクティーを口にしていた。

 

「……なんでそんな顔してんだ?」

「あ、いえ。本当にやってくださるんだなって思って……」

 

 恐らく、この表情は取り繕ったものではないのだろう。

 一色いろはという少女の、素の表情なのかもしれない。

 俺はまだこの少女と二回しか会っていないが、それでも今の表情が『あざとい』ものではないこと位理解出来る。外郭を取り繕う人間は、いざという時に解れると分かりやすくなるものだ。本当に外郭を塗り固めている超外郭人間は、そもそもヒビすら入れないのだろうが。

 元々、一色いろははまだ中学生だ。中学校で何があったのか知らないが、上の人間に対して取り繕った表情を見せ続けるという方が難しいのかもしれない。

 何が言いたいのかというと……ちょっとグッときてしまった自分がいて悔しい。

 

「と、とにかく! まずはせんぱいが得意な国語から教わりたいと思います! 範囲についてはここに範囲がまとめられた紙がありますので……」

 

 早口で捲し立てながら、一色はカバンの中から範囲表を出してくる。

 何をそんなに焦っているのか分からないが、俺はその範囲表を受け取って眺めてみた。

 

「……そんなに難しそうな範囲ではないな。これなら教えられるかもしれない。んじゃ、早速国語からやっていくか……」

「……」

「どした、一色」

「何ですか俺出来るんですアピールで女の子を口説き落とそうとしているんですかごめんなさい私好きな人いるのでまだ駄目です」

「いやなんで俺また振られてんの?」

 

 しかも前とは違う理由で振られているし……告白してもいないのに振られるって何処まで悲しい運命を背負わなければならないんだ俺は。

 まぁ、確かに一色が気になっているのは葉山だしな。相変わらずの爽やかイケメンめ。爆散してしまえばいいのに。

 

 俺はそんな事を考えながら、一色の勉強を見ることにした。

 

 

 思ったよりもやることはきっちりとこなすタイプの人間だったようで、こちらが指示したことに関しては黙々とこなしている。ゆるふわ系女子だと思っていただけに、根は真面目なのだということを認識させられた。動機はどうあれ、総武高校に入りたいという気持ちは本物のようだ。

 今、一色は数学の問題を解いている所だ。俺は一度トイレに行き、そこから帰ろうとしたところで、

 

「また貴方でしたのね」

 

 縦巻きロールの女に遭遇した。

 

「前はバイトとして来たようでしたが、今度は女の子を連れてデートとはいい御身分ですわね」

「デートじゃねえよ……頼まれて勉強見てやってるだけだ」

「その割には随分と仲良さそうでしたけれど……お付き合いなさっていますの?」

「んなわけねぇだろ……」

 

 なんでコイツは俺のトラウマを正確に抉りにかかってるの?

 俺泣いちゃうよ? あ、やっぱ目立つからトイレの中でこっそり泣く。

 

「私としては、そのまま貴方方にくっついて頂いた方が、お姉様と一緒になれるのでよろしいのですが」

「お、おう……」

 

 コイツは本当ブレないな。

 

「……ただ、一つだけ解せない点がありますの」

「……なんだよ」

 

 清水は俺をキッと睨み付ける。

 何、俺なんかしたっけ。

 そんなことを考えていると、

 

「貴方はお姉様のことを、どう思っていらっしゃいますの」

 

 清水の口から、そんな質問が投げ飛ばされた。

 

「私、言いましたわよね? お姉様に何か手出ししたら……と」

 

 思い出されるのは、奉仕部で初めてコイツに会った時。確かに清水はそう口にしていた。しかし俺には皆目見当がつかない。特に島田に対して何かした覚えがないからだ。

 そんな俺の考えとは裏腹に、清水は――。

 

「なのに最近のお姉様と来たら、ほとんど貴方のことしか口にしないのです!! キーッ!! 一体何をどうしたらそんなことになりますのよ!!」

「いや待てなんで逆切れ」

 

 もうなんていうか、こう、収拾つかない。こういう時に限って店長は何故か買い出しに出かけているようでいないし……てかいなくて平気なのかよ。愛する娘さん、今にも鬼になりそうなんですが。

 

「せんぱーい、数学の範囲終わりましたけど……」

 

 あ、これ終わった。

 

「……せんぱい。私、勉強頑張っていたんですけど」

「お、おう」

 

 一色の目が完全に怒ってる。

 そりゃもう分かりやすく怒ってる。

 一色はそのまま俺の耳元まで近づいてきて、

 

「トイレの前で女の人と話していたんですね?」

 

 訳:何仕事サボって女といちゃついてんだこの野郎。

 とか言ってそうな程冷たいんですけど、声が。

 

「ていうかその女の人誰ですか? もしかして彼女さんですか? でも彼女さんいないって吉井先輩言ってましたけど、まさか誰にも言わないで秘密共有きゃは♪みたいなことしてるんですか?」

 

 こっわ。いろはすこっわ。

 なんでそんな笑顔でここまで冷たい声出せんの。

 というか彼女じゃねえよ。コイツの恋する相手はポニーテールの女の子だよ。

 

「お勉強している中申し訳ありませんでしたね。この人とは同じ学校で見かけただけですの。汚らわしい猿人類とは何も関係ありませんから大丈夫でしてよ」

 

 何か引っかかる物言いだが、細かいことは気にしない方がいいだろう。

 

「そうですかー。それじゃあせんぱい。勉強の続き、みて、くれますよね?」

「お、おう……」

 

 一色に引っ張られて、俺は席へと戻っていく。

 その後、終始一色はしつこい位に勉強についても、他のことについても色々聞き出そうとしてきたので、俺の日曜日は体力回復出来ないまま終わりを告げてしまった。

 

「あ、せんぱい。今日の分全部おごりということで。次回もよろしくでーす」

 

 ちゃっかり奢らされた上に、次回の約束までさせられた……。

 

 




終わってみれば、この作品にしては一話の長さが結構長い話となっていました。文字数でいうと確か五千字いかない位です。番外編は基本一話完結形式をとっていますので、とりあえず終わるまで書いてみようと書き続けた結果、過去最長になりました。一色さん書いていて楽しかったです。清水さんも書く上では楽しいキャラです。
本編更新は来週となりますので、もうしばらくお待ちください。
今週中に番外編をあと2,3話かけたらいいなぁ……工藤さんとか久保君とか、書きたいキャラはまだまだたくさんいますし……。


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ボクと彼女と編入初日

お盆期間の番外編企画第二段みたいなものです。
前回とは打って変わって短めな文章となりましたが、今回の主役はボクっ子のあの子です――!


「転入生を紹介します。工藤愛子さんです」

 

 眼鏡をかけた女性の先生から、ボクの名前が紹介される。両親の仕事の都合で千葉に引っ越すこととなったボクは、編入試験を受けて総武高校へとやってきた。もちろん不安な点もあるけれど、それ以上に何処か楽しくなりそうな予感がして、ボクとしてはワクワクしている。

 とりあえず先生の紹介を受けて、ボクは自己紹介をすることにした。

 

「ボクは工藤愛子。趣味は水泳と音楽鑑賞で、スリーサイズは上から78・56・79、特技はパン……」

「ということで皆さん、仲良くしてくださいね」

「まだ自己紹介の途中ですよ!?」

 

 何やら必死な形相で自己紹介を止められてしまった。ちょっとからかいすぎちゃったかな……。クラスの男の子達の視線がちょっとえっちな物に変わった気がするよ。あはは。

 先生に促されるまま、ボクは空いている席へと向かう。

 

「よろしくお願いします、工藤さん」

 

 隣に座っていたのは、桃色の髪の女の子だった。とても美人さんで、思わずボクも見惚れちゃったレベル。

 

「私は姫路瑞希です。なかよくしましょうね?」

「姫路さんだね。こちらこそよろしくね」

 

 姫路さんと軽く挨拶をかわして、ボクは席に座る。

 その時、ちょっと気になったのは。

 

「あれ? あそこの席、空いてるみたいだけど……?」

 

 公立高校の編入は、欠員が出た時に行われるらしい話を聞いたことがある。引っ越してきたばかりのボクが公立に入ることが出来たのもその為だ。だから空いている席が一つなのは不思議ではないのだけど、もう一つあるのは少し気になった。

 そんなボクの疑問に対して、姫路さんが答えてくれる。

 

「あそこの席の人……普段から遅刻癖があるみたいで……」

 

 と、姫路さんが説明しようとしたその時だった。

 突然教室の扉がガラリと音を立てると、入ってきたのは――。

 

「川崎さん……また、遅刻ですか?」

「……うす」

 

 長い髪をポニーテールでまとめた女の子は、不機嫌そうな表情のまま先生の前に立つ。そして、

 

「遅れました」

 

 そう言うと、空いている席へと向かっていき、周りの目を気にすることなくそのまま席に着いた。

 あらまぁ……これってもしかして、不良さんなのかな?

 

「えっと……川崎さんです。私もあまりお話したことないので、よくわからないのですが……」

「なるほど……」

 

 少しだけ興味が湧いた。

 今度タイミングが合ったら話しかけてみようかなぁ。

 

 

 転入生というのはやはり珍しいらしくて、初日ということもあり多くの人達に話しかけられた。特に男の子からの質問やお誘いがあったけれど、

 

「いやぁ、ありがとう姫路さん。あのままだとボク、お昼ご飯食べられなくなっちゃうところだったよ」

「いえいえ。困った時はお互い様、ですから」

 

 姫路さんがボクに気を使って話しかけてくれたおかげで、何とか抜け出すことが出来た。今は姫路さんと二人で中庭に来ている。ボクは購買部で買ったパンを、姫路さんはサンドイッチを食べていた。

 

「それにしても、ここの学校の人達って面白い人達が多いね」

「そうですね……他にもたくさん、面白い人達がいますよ?」

「へぇ……例えばどんな人がいるの?」

 

 ボクがそう尋ねると、姫路さんは嬉しそうに話し始めた。

 頭がいい女の子の話、事ある毎に鼻血を噴き出す女の子の話、目がちょっぴり腐っているけど実は優しい男の子の話、勉強は出来ないけど誰よりも優しい一面を持つ男の子の話。この子の話をしている時の姫路さんは特に嬉しそうに話してたから、きっと恋しているのだろうなぁ。

 けど、その話を聞くたびにボクは思った。

 

 きっと、姫路さんも――。

 

「……ねぇ、姫路さん」

「はい。なんでしょうか?」

「どうして、姫路さんはその人達と一緒にいないの?」

「……え?」

 

 目を大きく見開いた姫路さん。

 この子はきっと優しい女の子だ。頭が良くて、優しくて。だけどちょっぴり勇気がないのかもしれない。他人のことをしっかりと見抜くことが出来るのに。いい所をしっかりと見つけることが出来るのに。見つけた本人である姫路さんは、その輪の中に入り込んでいない。

 

「転校初日のボクに対してここまでお世話してくれたし、そうやってほかの人のいい所をしっかりと見ることが出来ている姫路さんは、きっと優しい人なんだよ。だからこそ……ボクはちょっぴり気になったんだ。どうしてその人達の所へは歩み寄らないのかな?」

「わ、私は……」

 

 これはお節介なのかもしれないけれど。

 姫路さんはひょっとしたらそこまでは望んでいないのかもしれないけれど。

 だけど、これくらいのお節介はしてもいいよね?

 それに、ボクもその人達とお話したいし。

 

「姫路さん。姫路さんならきっと大丈夫だよ。こうしてボクとお話してくれているんだもの。きっと上手くいくって」

「……そうでしたね。何もしないのはよくないって、つい最近思ったばかりだったのに……ありがとうございます、工藤さん」

「いいっていいって」

 

 そうだ。

 誰かに対して気になったり、恋したり、そうしたことで女の子は強くなれるのだ。

 

「そしたらさ、今度の学力強化合宿でちょっとした行動を起こしてみない?」

「合宿で、ですか?」

「うんうん。ボクも協力するからさ」

 

 姫路さんはボクの話に耳を傾けてくれている。

 

 ……本当は、姫路さんの話を聞いてボクが気になっただけなのかもしれない。そんなに魅力的な人がいるのなら、是非ともお近づきになりたいなぁって思っただけなのかもしれない。

 特に、ボクと同じく保健体育が得意な男の子とか、捻デレさんな男の子とか、女の子みたいに可愛い男の子とか――。

 きっと、これからのボクの高校生活を楽しくしてくれそうな人達ばかりだもの。

 

 だからボクは、編入したこの高校での生活を存分に楽しもうと思う。

 

 ――この時のボクは、まだ恋を知らなかった。そんな初心なボクの、小さな始まりの物語。

 




これから先、姫路さんの話を聞いた工藤さんが介入していく。その前にあった出来事を番外編として描いてみました。
バカテス本編でもそうでしたが、彼女目線で描かれたエピソードというのは実はないんですよね……二次創作を漁ってみたとしても滅多に描かれることがないんですよね……工藤さん、バカテスキャラの中では好きな方なんですが……。
所で、さり気なく俺ガイルからはあのお方が登場しましたね。
本編では未だに登場していない『彼女』ですが、果たして一年生の内に出番は訪れてくれるのでしょうか……。


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女子会という場で、彼女達は語り合う。

今週は月曜日に投稿することが出来なかったので、本編を進めるよりも番外編の更新に注力していきたいと思います。
そんなわけで、やると言ってやれていなかった、ゆきのん宅での女子会エピソードです。
視点は今回はじめてのゆきのんです!!


「女子会しようよ!」

 

 勉強会を開いた日の夜。由比ヶ浜さんが元気そうにそう提案した。先程までは勉強した影響で疲弊していたにも関わらず、今ではすっかり元気になっている。この元気さを勉強でも発揮させてもらいたいのだけれど……。

 

「なんだかとっても楽しそうですー!」

 

 由比ヶ浜さんに便乗する形で、島田さんの妹──葉月ちゃんも答える。女子会の何がそんなに魅力的なのか私には分からない。

 

「本当なら寝た方が良い時間な気もするけど……せっかくこのメンバーで集まったことだし、滅多に出来ない話をするのも良いかもね」

 

 島田さんもまた、女子会を開くことに賛成派の様子。となると、私の意見によって左右されるのか、それとも関係なく開かれるのか。いずれにせよ私の答えは決まっている。

 

「そういうことなら貴女達で楽しむといいわ……私は……」

「えー、ゆきのんも一緒にお話ししよーよー。ダメ……かな?」

 

 由比ヶ浜さんの目があまりにも寂しそうで。まるで捨てられた子犬のような目をしていたから。でも、次の日なこともあるし、今日はここで寝ておかなければいけないのだけれど、だからといって……。

 

「……少しだけなら、いいわよ」

「わーい♪ ありがと、ゆきのん!」

「ちょっと、暑苦しいのだけれど……」

 

 パジャマ姿の由比ヶ浜さんが私に抱きついてくる。

 こうして由比ヶ浜さんが私に対してスキンシップを取るようになったのは、果たしていつからだったろうか……。それ以前に、私自身こういったことに慣れていないのもあって、正直なところ緊張してしまうのも事実。それでも不思議と嫌悪感はなく、むしろ心地良いとも感じるようになっていた。

 

「だけど、女子会って何を話すものなのか分からないわね……」

 

 かつてそんなことをした事のない私にとっては未知の領域。一体どんなことを話せば女子会っていうのだろうか。

 

「んーとね、むずかしいことはあまり考えなくていいと思うよ? こうして女の子同士でいろんなお話すれば、きっと立派な女子会なんだよ!」

 

 ある意味予想通りな答えが由比ヶ浜さんより返ってきた。

 

「そしたら、身近な男の人の話をしてみるですー!」

 

 そして、葉月ちゃんがそう提案したのだった。

 

「は、葉月? それって私達で周囲の男の人を話していくってこと?」

「はいですー!」

 

 葉月ちゃんの無邪気な言葉に、島田さんもたじたじだった。島田さんとは何度か同じ行事に参加したりして話した事のある程度だったけれど、とりわけ今日は色んな側面を見ることが出来るから、新鮮なのかもしれない。

 

「葉月はバカなお兄ちゃんのことが大好きですー! 将来を約束し合った仲なので……」

「アキのことね……」

「ヨッシーのことだね……」

「吉井君のことね……」

 

 何故か、それだけはすぐさま理解出来てしまう。吉井君がこの子の為に奔走していたことは、奉仕部の部長として把握している。後から聞いた話を思い返す度、吉井君の馬鹿な行動が浮き彫りになっていくのだけれど。島田さんも、葉月ちゃんが『バカなお兄ちゃん』と称して吉井君に対して特別な感情を抱いていることは理解している。それが幼さ故の感情なのか、それともこれからも続いていく物なのかは分からないけれど……。

 

「でもさ、ヨッシーって確かに優しいよね」

「確かに……バカな所は否めないけど、アキはいい人であることは間違い無いわね」

「……彼は他人にはない珍しい観点を持っているようね」

 

 そう。

 吉井君は私にはない観点から物事を語ってくる。無条件に与える優しさ。彼を称する言葉として『優しい人』というのが与えられるのだろうけれど、同じ『優しい』でも、彼の場合は好意的に受け取ることが出来る。他人を傷つけず、温かく包み込むような。

 

 私が見てきた『冷たい優しさ』とは違う。

 

「優しいと言えば、お兄ちゃんも優しいですー!」

 

 葉月ちゃんはそんなことを言ってきた。

 葉月ちゃんが『お兄ちゃん』と称する人物は……。

 

「それってミナミナ、ヒッキーのことだよね?」

「ええ、そうよ……」

 

 比企谷八幡君。

 吉井君と同じタイミングで奉仕部に入ってきた――あの日、私が乗っていた車に撥ねられた男の子。

 私は未だに、彼に対してそのことを謝罪出来ていないでいる。由比ヶ浜さんは勇気を持って彼に謝罪をしたというのに、私一人が何も出来ていない。

 

 怖くない、と言えば嘘になる。

 

 けれど、いつまでも逃げてばかりだと、私のプライドが許されない。それに、逃げてばかりだと誰も救われない――自分で自分を救うことすら出来ない。

 

「ハチは本当に優しい。だけど、その優しさになかなか気付ける人がいない……それは、ハチ自身もそうだとウチは考えている」

「……うん。ヒッキーは、自分が優しくて魅力ある人なんだって気付いて欲しい。自分のことを二の次にして、他の誰かの為に頑張れちゃうんだもん。確かに、ヨッシーとヒッキーは違うかもしれないけど、やっぱり優しい人なんだよ」

 

 比企谷君の考えは、時々なんとなく伝わることがある。そういった意味では、私と比企谷君は気が合うのかもしれない。考え方に明確な違いがあるからこそ、私は彼の行動が示す意味を見出だせる。

 だけど、彼のやり方すべてに対して肯定的な意見を持てるわけではない。

 

「ミナミナはさ、その……」

 

 由比ヶ浜さんは、少し言いにくそうにしている。

 島田さんも首を傾げながら由比ヶ浜さんの言葉を待っている。

 そして、彼女は――。

 

「ヒッキーのこと、どう思ってるの?」

 

 覚悟を決めた表情で、真剣にそう尋ねた。

 

「……好きだよ。ウチはハチのことが、大好き」

 

 嘘偽りない、それは彼女の本心なのだろう。

 島田さんは、由比ヶ浜さんに対して明確にそう告げた。

 

「お姉ちゃんはお家でもお兄ちゃんのことを楽しそうに話してくれるですー!」

「こ、こら、葉月ってば……」

 

 葉月ちゃんの言葉に照れている島田さんだったけれど、その表情は何処か嬉しそうだった。

 対する由比ヶ浜さんは。

 

「……なんか、ミナミナもかっこいいな。そうやって自分の気持ちを正直に素直に言えるなんて。私には、無理だったから……」

「……ねぇ、結衣。結衣はさ、ハチのこと好きだよね?」

「ふぇ!?」

 

 島田さんからの言葉に、由比ヶ浜さんは熟れたトマトのように顔が真っ赤に染まる。

 見ていれば確かに誰に対して好意を向けているのかは、なんとなく分かる。まして由比ヶ浜さんは、本人は隠しているつもりでもあからさまだから分かりやすい。

 

「……本当かどうかは分からないけど、これだけは伝えておくね」

 

 真剣な表情から発せられた言葉は、私の心も掻き乱す。

 

「自分の気持ちって、言葉にしないと伝わらないんだよ」

 

 言葉にしないと伝わらない。

 私は、何処か比企谷君をはじめとして、ここ数か月の内に奉仕部に対して幻想みたいなものを抱いてたのかもしれない。

 正直なところ、私は誰に対して好意を抱いているとか、そういったことはまだ分からない。もしかしたら幼い頃は何かの気の迷いで心を向けていた相手が居たのかもしれない。だけど、そんな幻想は当の昔に消え失せている。

 そして、高校一年生の春――奉仕部という場所が出来た。

 そこに比企谷君が居て、吉井君が居て、由比ヶ浜さんが居て。

 いつしか奉仕部は、私にとって居心地のいい場所となっていた。

 それこそ、ここに居る人達ならば――言葉など必要なくても気持ちが伝わっていくのではないかと思わせられる程に。まだ半年も経っていない相手に対して、私はそんな幻想に近い感情を抱いていたのだ。

 

 ――その言葉の意味を思い知らされることになるのは、もっと後になってからの話となる。

 

 



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バカと友達の誕生日と祝うまでの準備

番外編第二段は、八幡誕生日会を準備するまでのお話です!


 八月八日。

 海でのナンパ騒動や女装で出場した浴衣コンテストを終えて、僕達が泊まっている宿屋で一晩が明けた。実は今日、とある人に頼まれてある計画を実行しようとしている。その為には、絶対にバレてはいけない人が一人いるんだけど。

 

「……なんか、平気そうだね」

 

 当の本人――八幡は今もなお布団で眠っていた。

 

「今の所ぐっすり眠ってやがるな……どんだけ疲れてんだか」

 

 八幡の寝顔を見ながら、雄二はそんなことを言っている。

 

「無理ないって。八幡だって色々頑張ったんだから」

 

 彩加は八幡の顔を慈愛に満ちた表情で見つめている。彩加にそこまで言わせる八幡……なんだか少し羨ましくなってきたぞ!? 何だろうこの気持ち……くっ……!

 

「何をそんな変な表情をしておるのじゃ、明久よ……」

 

 おっと!

 僕には秀吉が居るんだった……危ない危ない。心を掻き乱してくる彩加、恐るべし!

 

「……作戦会議は今の内」

 

 ムッツリーニがボソッとそんなことを言って来る。

 

「そうだね。八幡が寝ている今ならいける。起きる前に準備終わらせないとね」

「ま、たまにはこういうのも悪くねぇんじゃねえか?」

「そうじゃの。サプライズって奴じゃ」

「それにしても、流石は坂本君だね。こんな企画思いつくなんて」

「……計画させたらピカイチ」

 

 男性陣がそれぞれそんな反応を示す。

 雄二は本当、悪知恵考えさせたらピカイチだよね!

 

「なんかお前のその妙な笑顔が腹立つんだけど……とりあえず、テメェらはさっさと宿側に連絡してこい!」

「「「「「サーイエッサー」」」」」

 

 

 事の発端は小町ちゃんからの連絡。

 八幡に海へ行く誘いをした後、小町ちゃんから電話が来た。

 

「もしもし?」

『明久さん! うちの愚兄に海水浴のお誘いをしてくださって本当にありがとうございます!!』

「いやいや。僕達も八幡と一緒に遊びたいなーって思ってたからさ。それにこうして小町ちゃんとも遊べるし」

『まさに一石二鳥ってやつですなぁ!』

「ところで、小町ちゃん。いきなり電話してきてどうしたの?」

『実はですね……海へ行く日なんですけど、大事なことが被っているんです』

「大事なこと?」

『帰りの日……八月八日は、うちの兄の誕生日でして……』

「え、そうなの!? 八幡ってば全然そんなこと教えてくれなかったけど!?」

『時々兄もこっちから言わないと誕生日であることを忘れてしまうので……だけど今年は皆さんが居ますから、ここは是非とも盛大に、パーッと祝いたいなぁって思いまして!』

「なるほどね……そういうことなら任せてよ! 僕達も一緒に祝ってあげるからさ!」

『流石は明久さんです! こういう時頼りになります!!』

 

 

 そう。

 八月八日は、八幡の誕生日だったんだ。

 だからその本人たる八幡には決してバレてはいけない。

 ……だけど、なんだか余計な心配だった感が半端ないなぁ。

 

「おはよう、アキ。食堂の方は準備ばっちりよ」

「おはようございます♪宿の人にはしっかり準備していただきました……お料理の方も、小町さんがリクエストしてくださって、出そろった所です」

 

 美波と姫路さんが僕にそう伝えてくれる。

 女性陣は既に動き始めていたのか!

 

「……比企谷の誕生日が重なるなんて。凄い偶然」

「こういうの楽しそうでいいよねー! ね、ゆきのん?」

「そうかしら……」

「そうそう。楽しんだ者勝ちって言うし、私も存分に楽しんじゃおうかな~」

 

 女性陣もこういうことには結構ノリノリみたい。

 そりゃそうだ。友達の誕生日をこうして旅行先で祝える機会なんてそうそうないからね。前日があれだけ悲惨だったわけだし、今日位は報われてもいいと思うんだ。

 八幡の頑張りは、ここに居る人達が見ているから。

 

「お兄ちゃんにこんなにいいお友達がいるなんて……小町感動です……っ」

 

 大袈裟に小町ちゃんは泣いているけれど、本当に嬉しそうだ。

 確かに、初めて会った時の八幡ってば、僕達のことを遠ざけようとしているように思えた。最初から輪を作らなければ、傷つくこともないから。

 なんとなくそれは分かる。そうすれば確かに傷つくことはない。少なくともゼロのままでいれば、そこからマイナスになることなんて滅多に訪れない。

 だけどね、それはきっと悲しいことだと思うんだ。

 

「ま、比企谷には色々世話になってるからな」

「……雄二が世話になっているなら、私も祝う」

「吉井君のお友達なら、私も張り切っちゃいますっ」

「ウチも、ハチが居なかったら今ここに居たかどうか分からないから……だからハチには感謝してるからね」

「ヒッキー……ヒッキーの誕生日を祝いたい」

「比企谷君は部活のメンバーだからね……祝うのは部長として当然のことよ」

「僕も、八幡の誕生日を祝うからね!」

「ワシも友人の祝い事には全力を出すのじゃ」

「……贔屓している」

「比企谷君は面白い人だからねぇ。興味ありありだよ♪」

 

 ねぇ、八幡。

 君はこんなにも色んな人の心を突き動かしているんだよ。

 だからさ、君はもう独りぼっちじゃないんだ。

 ……って、今ねている八幡に言ってあげたい気持ちになった。

 僕も、八幡だから友達になろうって思ったんだ。

 

「……正直、小町はずっとお兄ちゃんのことを心配していました。友達が出来ないんじゃないか、とか。またぼっちになっちゃうんじゃないか、とか……だけどお兄ちゃん。小町を心配させないようにしているのか分からないですけど、小町に一度も弱い所を見せてくれないんです。私が甘えちゃっている所もあるのかもしれないですけど、それじゃあお兄ちゃんに負担かかっちゃうんじゃないかって……だから、こうしてたくさんのお友達に囲まれているお兄ちゃんを見て、小町は安心しました!」

 

 小町ちゃん……。

 

「……さて、そろそろ起きてくる時間だろうからな。クラッカーを渡すから準備しとけよ。それと……俺達はハナっから、面白そうな奴だと思ってるから安心しろよ」

 

 雄二が笑顔でそう言った。

 言う時は本当に言うねぇ……流石だよ!

 

「……なんでお前らこんな時間に」

 

 ちょうどその時。

 八幡が部屋から出て登場していた。

 ベストタイミングだよ八幡!

 

「せーの!!」

 

 誕生日おめてとう、八幡!

 

 これからもよろしくね!!

 



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自分の気持ちというのは、思った以上に気付けない。

今回は、当小説初となる一色いろは目線でのエピソードです!
時系列的には結構前の方に戻ります……八幡が喫茶店でバイトし、いろはすと初めて会ってから少し後位を想定しております。


 初めて『せんぱい』に会った日、私は驚きと同時に興味を惹きつけられる感覚に身体を支配されました。自慢ではないですが、自分はモテる方であるという自覚がありましたし、男の人がどんな素振りを見せれば喜ぶのかは大体感じ取ってきたつもりです。学んだわけでもありませんし、誰かから会得した訳でもないです。ただ何気なく日常を過ごす上で自然と身についた物でした。だから私はこの日、そんな常識を物の見事に打ち破られたのです。

 

 ――ただ一言、『あざとい』という言葉によって。

 

 

「吉井先輩! 葉山先輩についてもう少し詳しく教えてください!」

 

 喫茶店で先輩達とお会いしたあの日、私は吉井先輩にお会いすることが出来ましたし、葉山先輩を見つけることが出来ました。見た瞬間にイケメンだと分かる先輩でした。きっとこの人とお付き合いすることが出来たら、誰もが羨むカップルになれると思うんです。美男美女カップルって、絵としてもいいものですよね♪ステータスとしては申し分なしです!

 それから私は、総武高校を受けようと決意しました。ですがあの学校は進学校。流石に一筋縄で受かる学校というわけでもありません。自分の成績を客観的に見ても、合格圏内に居たとしても安心出来る範囲ではありません……一体どうして吉井先輩は受かったのかは謎ですが。

 というわけで私はまず、吉井先輩に葉山先輩について聞いてみることにしました。勉強面については正直吉井先輩に聞いちゃいけない気がしまして……その代わり、入ってからのことについては詳しく教えてくれそうなので、これもまた選択の内です♪

 

『葉山君は優しい人だよ。サッカー部の部長で、みんなに優しい人って感じかな』

「流石は葉山先輩って感じがしますね……イケメンで優しいのなら、人気もあるって感じですか?」

『みたいだね。クラスはもちろんだけど、学年でも結構噂聞く位だよ』

「なる程……まさしく難攻不落ですね!」

『まぁ、葉山君のすぐ近くには三浦さんって女の子が居るから、なかなかみんな近づいていかないみたいなんだけどね』

「みうらさん、ですか……?」

『おかんみたいな人だよ。葉山君が居るグループにいつもいるから、仲がいいんじゃないかな?』

 

 これはなかなか厳しいライバル事情ですね……。

 

「一体どうしたら葉山先輩を攻略出来るのか……今度せんぱいを使ってシミュレーションしてみる必要がありますね……」

 

 葉山先輩を落とす為には、今までの方法だけでは難しいかもしれない。だから私が考案したこととかを実際に試してみて、その結果を知らなくてはいけない。そんな相手としてうってつけなのが、せんぱいだと私は思ったのです。せんぱいならば正直に講評してくれるんじゃないかなぁ~なんて……そもそも行こうともしなさそうなのが傷ですけど。

 

『せんぱいって、もしかして八幡のこと?』

 

 何故か、吉井先輩はきょとんとしているような感じで聞いてきました。私は今、何かおかしなことを言ったでしょうか?

 

「もちろんですよ! 私のことを『あざとい』と言ったせんぱいですよ? あの一言で私のプライドは傷つけられてしまったわけですから、その責任をせんぱいにとってもらう必要があるんです。だからせんぱいをとことん使わせてもらいますよ!」

『あはは……なるほどね』

「勉強のことは当然教えてもらいますけど、こういったことも教えてもらったり、試しに利用……いえ、試験活用すればいいかなぁ~なんて♪」

『なんかあまり変わってないように聞こえたのは気のせいかな!?』

「なんのことでしょう~?」

『ナンデモナイデス』

 

 せんぱい。

 今考えても本当に不思議な人です。私がどんなことを言ったとしても、どんな素振りを見せたとしても、恐らく靡くことはないんだろうなぁって思っています。私には葉山先輩が居るので、今は恋愛的な意味で見ることは出来ませんが、人間としては正直尊敬出来る部分もあります。

 というか、せんぱいも大概優しいんじゃないかなぁって思わせらえることがあって……何となく、心がざわつくような気がしてきちゃいますけど……まさか、そういうわけじゃないですよね?

 

「というわけで、ありがとうで~す」

『うん、またね!』

 

 そう言って私は、吉井先輩との電話を終わらせます。

 善は急げ。今度はせんぱいに連絡です♪

 試しに何度かコールしてみますが。

 

「……でない」

 

 全然電話に出てくれません。

 いっそのこと、電話に出てくれるまで電話を鳴らしっぱなしでいましょう……そうすればせんぱいのことですから、五月蠅いのを止める為に電話に出ると思いますし。

 

『……何?』

 

 やっと出たと思ったら、開口一番に『何?』って……こっちが言いたくなりますよ!

 

「駄目ですよせんぱい! かわいい後輩がこうして電話したんですから、もっと気の利いた台詞を言わないといけませんよ?」

『あざとい。やり直し』

「もうそれただ単に言いたいだけですよね!?」

『……で、本当に何の用? 用がないなら切るけど?』

「用がなければ電話しちゃ駄目なんですか~?」

『んじゃ』

「わーわー! 待ってください! 本当に切ろうとしないでくださいってば~!」

 

 ひどい!

 まさか本当に電話を切ろうとしてくるなんて……乙女の純情を弄んでますねこのせんぱいは!

 

『……で、どしたの?』

「実はですね。せんぱいにお願いがありまして……」

『お願い?』

「はい~。葉山先輩とデートした時に、何も出来ないのは困っちゃうなぁ~って思いまして」

『あぁ……なに、葉山呼べばいいのか? それなら俺より吉井にでも頼んだ方がいいぞ。知らんけど』

 

 どうしてそういう風に解釈しちゃうかなぁ……このせんぱいは。

 

「違いますよ。だから実験台になってくださいってことです」

『……なんで』

「だって、せんぱいならこういう時正直に言ってくれそうじゃないですか~。何よりせんぱいは、こんなに可愛い後輩とデート出来るんですから、一石二鳥、Win-Winって奴ですね♪」

『そもそも外に出る時点で俺にとっては苦行でしかねぇから、全然Win-Winじゃないからね。一色一人だけがWinnerになってるからね』

「私の勝ちってことで、せんぱいは私の言うこと聞いてくださいね?」

『どうしてそうなんの……』

「それじゃあ今度の土曜日、朝十時に千葉駅でよろしくで~す」

『あ、お、おい……』

 

 何か言われる前に、私は電話を切っちゃいます。

 こうすればいくらせんぱいでも、無碍には扱えない筈ですからね……まったく、お出かけ一つ誘うにも、ここまで頭使わないといけないんですから難しいですね本当。

 でも、せんぱいとこうして話している時間も……なんとなく嫌いじゃないと思える自分が居ます。

 この気持ちは一体何なのでしょう……。

 

 私が自分の『本当』の気持ちに気付くのは、それからもう少し後になってからのお話です。

 

 



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バカと結婚と意識調査

今週の番外編更新第一弾は、嫁度対決の前に行われたアンケートについてのエピソードです!
番外編かつギャグ回故、そこそこ端折っている部分もありますが、ネタ度はだいぶあると思います!


「結婚についてのコラムを書いてほしい、ですか?」

 

雪ノ下さんの言葉が奉仕部の部屋中に響き渡る。

 

「うむ。入稿は来週……仕上げとか含めるとその翌週ってことになるな」

「平塚先生。えらく急なのはどうしてですか?」

 

自信満々に答えた平塚先生に対して、八幡が尋ねる。

 

「……仕事というのは、溜め込んでしまうものだろう? 特にやる気が起きないものとかは猶更だ」

「あ、その気持ちわかります!」

「勉強とかもそうですよね!」

 

由比ヶ浜さんの後に続いて、僕も同じ意見であることを主張する。

確かに、やりたくないこととかって後回しになりがちだよね!

 

「貴方達はもう少し目先の苦労もするべきだと思うのだけれど……」

 

何故か雪ノ下さんがこめかみを抑えていたけれど、気にしない方向で。

 

「上から頼まれたのだが、私だけではなかなか考えるのが難しくてな……そこで、君たちの力を借りたいと思ったのだ」

「あー……こういう調査って、結婚している人じゃないとなかなか……」

「…………吉井。合宿での話、私はまだ忘れていないからな?」

 

やべ、地雷踏んだ。

 

「それなら、アンケートとってみるっていうのはどうかな? ほら、私たち四人だけで意見出し合ってもまとまらないなら、ほかの人の意見も参考にしてみようよ!」

 

なるほど!

さすがは由比ヶ浜さんだ。こういう時にしっかりと意見出してくれる……。

 

「なるほどな。由比ヶ浜の普通さが生きた瞬間だな」

「なんかヒッキーの言い方うれしくないし……」

 

うん、その言い方は確かにあまり良くないと思う……。

 

「そしたら、僕と由比ヶ浜さんで、学校に残っていそうな人を探してアンケートを取ってみるよ。八幡や雪ノ下さんだと……なんというか、こういうの向いてなさそうな気がするし……」

「よくわかってるじゃないか」

「そうね。比企谷君が行くと、宗教勧誘か何かだとおもわれがちだわ」

「比企谷がすると本当に教祖になりそうで怖いな……」

 

平塚先生まで同意する始末。

いや、それに対して自信ありげに答える八幡もどうなの?

 

「とりあえず、まとまったら一回ここで見てみようよ。どんなアンケート結果になるかわからないわけだし」

 

僕がそう提案すると、みんな軒並み賛成のようだ。

そんなわけで、僕と由比ヶ浜さんの二人でアンケートを取りに行ったのだった。

 

 

というわけで、集めてきたアンケートを基にして、どんな結果が出てきたのかをアトランダムで見ていくことになった。

机の上にズラリと並べられたアンケート用紙は、なかなかにシュールな光景に思える。

 

「というわけで、見ていくわけだが……」

 

八幡がそう言いながら、アンケートをチェックしていく。

その結果、以下のような感じになった。

 

Q1、結婚相手の職業としていいと思うのは?

『声優さんと結婚したい』

『……看護師』

『専業主夫にならなければなんでもいいわ』

『坂本雄二』

『島田美波お姉様』

 

「ってちょっと待て。明らかに職業じゃないの書いている奴いるぞ。これ固有名詞だろ。てか坂本や島田じゃねえか」

「誰が書いたか一目瞭然ね……」

 

雪ノ下さんがこめかみを抑えていた。

うん、間違いなく雄二の名前を出したのは霧島さんだよね……。

そして、美波のことを出したのは清水さんだと思う。

 

Q2、結婚について不安って何かある?

『料理とかマジ無理。あと掃除も無理』

『嫁姑問題とか同居別居とか遺産相続とか。兄弟多いから』

『ハヤ×ハチの行末とか不安!』

『ワシは本当に女性と結婚出来るかどうか分からぬのじゃ』

『お料理を食べてくれるかどうか不安です。そもそもなかなか料理をさせてくれないんです。危ないとか言われてしまって……』

『浮気は許さない』

 

……うん、それぞれ大体誰が書いているのかどうか想像つく。

というか最後は間違いなくやっぱり霧島さんだよね。

 

「料理とか掃除については避けて通れない道なのだけれど……」

「でも実際かなり細かいところまでやろうとすると難しいよねぇ……私も料理とか苦手だし……」

「由比ヶ浜の場合はあれだ。一度炭を作るところから卒業するべきだな」

「それはさすがにちょっと……うん……そう、だね……」

 

自分の料理を思い出したのか、由比ヶ浜さんは少し落ち込んでしまっていた。

まぁ……姫路さんの料理も大概だから……。

というか、料理作るの危ないって言われてるのって姫路さんなのでは?

 

Q3、結婚相手に求めることって何?

『顔。爽やかさ』

『声の可愛さ。というか声優さんと結婚したい』

『……美しさ』

『ボクの会話についてこれる人かな♪』

『趣味を理解してくれる人。同性同士というのはマイノリティではあるけれど、それだけ奥が深いということを理解して欲しい』

『お姉様さえいれば他には何もいりませんわ!』

『雄二』

 

「結婚相手に求めることっていうか、指名してるじゃねえか」

「……あの人は本当にぶれないわね」

「清水さんもちゃっかりぶれてないよね……」

 

なんというか、こういうのだけで誰なのかわかっちゃうのが僕たちの周りの人らしい。

ちなみに、顔と爽やかさで思い浮かべたのは、葉山君のことが気になっている人のこと。

もしかしたら三浦さんとかかもしれない。

だけど、同性同士について謎に語っているのは一体誰なのだろうか……なんだか少しだけ寒気がするのは気のせいだろうか。

 

Q4、結婚相手にして欲しくないことは?

『浮気は許さない』

『専業主夫になること』

『……写真を撮らせてくれないこと』

『ハヤ×ハチを邪魔すること』

 

「最後絶対結婚相手にして欲しくないことじゃないよね? というか何あの人は頑なに意見曲げようとしないの?」

 

ハヤ×ハチって言い続けているのはきっと海老名さんだろうなぁ……。

ともかく、この意識調査はなかなかに難航している模様。

 

「このまま記事にするのもどうかと思うわね……」

 

雪ノ下さんのいう通り、このまま載せるとただの大喜利大会で終わってしまいそうだ。

だからなるべくならもう少しきっちりとした感じになった方がいいと思うんだけど……。

 

「結婚に対する不安とかって、経験してみないとわからないことも多いからねぇ~」

 

由比ヶ浜さんが、机に伏しながら言う。

あ、胸が強調されていいですね(キリッ)。

 

「そういうことならば、疑似的に経験していそうな人に聞いてみるのが一番いいかもしれないわね。身近にいる、ろくでなしの面倒を見ていて苦労しているであろうという点では、彼女が一番理解があるのではないかしら?」

 

すごくいい笑顔を浮かべて、八幡のことを見つめながら雪ノ下さんは言った。

あ、それもしかして……ていうか八幡気づいてないね? 完全に『そんな人いるなら俺の人生ゴールイン間違いなしだね』って顔してるよ。

 

ともかく、雪ノ下さんの言葉通り、とある人物が召喚されることとなった。

 

――それがまさか、あんな展開になるなんて誰が予想しただろうか。

 

 



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唐突に、嫁度対決は始まる。(11/21更新)

やっっっっと、今週分の番外編を載せられました……遅くなって申し訳ありません……。


「「第一回! 嫁度対決ー!!」」

 

 ……なんか唐突に始まったんだが。

 事の発端は、平塚先生が奉仕部に持ち込んだ依頼。内容は『結婚についてのコラムを書いて欲しい』というものだった。由比ヶ浜の発案でアンケートを取ってみたものの、正直使えそうな意見があまりなかったという結果に終わる。雪ノ下が擬似的に経験してそうな人の意見を取り入れようと呼んできたのが……何故か我が妹こと小町だった。

 そんな小町は、事情をある程度把握した後で俺たちにこう宣言したのだ。

 

「まずみなさんには圧倒的に嫁度がたりません!! これは早急に嫁度を上げなければいけません……そこで小町にお任せあれ! あ、明久さんもちょっとお手伝いしてくださいね」

 

 そんなわけで小町と吉井の手によって、部室が謎のクイズ大会部屋みたいに早変わりしたというわけだ。というか一緒に仲良くタイトルコールまでしやがった吉井は絶対に許せない。小町に手を出そうなんざ百年早い。

 

「あの、ハチ? これは一体……?」

 

 ちなみに、何故かちゃっかり島田や姫路も参加している。何人か女性陣を交えている辺り、一応のこと心得てはいるのな……だが何故戸塚がいない!? 

 

「あの、嫁度対決というのはどういう……?」

「あー……えっとだな」

 

 とりあえず、細かい事情を何も聞かされていないだろう二人に今回の趣旨を説明する。そうしてある程度説明を終えたところで、

 

「なるほどね。そういうことだったらちょっと面白そうだし、ウチもやってみるわ」

「クイズ形式ってことならばある程度知識が試されるわけですし、後学の為にもつけておく必要がありそうです」

 

 何故か姫路がやる気満々だが、後学に使えるとは思えないぞ、この企画。

 

「本当ならば料理対決とかもやりたかったんですけど、今からですとなかなか時間なかったのと、何故か明久さんが頑なにやりたがらなかったのでクイズだけにしました!」

 

 ナイス吉井。お前の判断は正解だ。

 

「これから皆さんには嫁度検定問題を出していきます。皆さんは嫁の立場に立ってお答えを書いてください……って、あれ? お兄ちゃんもやるの?」

 

 何故か解答席に座っている俺を見て目を丸くする小町。

 

「俺も一応専業主夫を目指す身だからな。こちら側にいる方が正しいだろ」

「ハチ……今時たぶん結婚しても共働きとかの家の方が多いわよ……」

 

 それ以上現実を突きつけようとしないでくれ、島田。

 

「とりあえず第一問行ってみましょう!」

 

 そして小町は構わず進行続けるのな。

 

「お姑さんに掃除の仕方で文句を言われた。こんなときどうする?」

 

 問題を読むのは吉井なのね。色々役割分担していて地味に用意周到なのが腹立つ。

 そして話題が出た途端に、周りにいる奴らはフリップに書き始めている。ていうか平塚先生も参加してるんかい。

 

「それじゃあ回答オープン!」

 

 小町の掛け声に合わせて、俺たちは自分の回答をオープンした。

 結果は次の通り。

 

『ごめんなさいしてやり直す』

『自分の掃除の仕方の合理性を一から説明する』

『何処が悪いのか聞く』

『とにかく徹底して認めてもらう』

『拳で語り合う』

『どうしようもない』

 

 上から順番に、由比ヶ浜、雪ノ下、姫路、島田、平塚先生、俺の順番。

 

「とりあえず平塚先生。論外です」

「吉井貴様ぁ!」

 

 いや……至極真っ当な意見だと思います……姑と拳で語り合わないでください。余計なイザコザ生んでどうするんですか。

 

「姫路さんもなかなかいい回答ですね……何処が悪いのか聞いてそれ「取り入れるってことですか?」

「掃除の仕方で文句を言われるってことは、つまり何か悪い点があるのかもしれませんから……なければそれでいいですし、あれば改善しなきゃいけませんからね」

「雪ノ下さんとは真反対な意見だけど、なんかいいなぁ……」

「あら、吉井君。私の答えに不満でもあるのかしら?」

「いやそうじゃないんだけども……」

 

 各々言いそうな内容書いてきているから困る。

 

「ちなみに、小町的模範解答は、『実母に愚痴ってまた明日から頑張る』です♪」

「地味にリアルな解答だ!?」

 

 思わず由比ヶ浜がツッコミを入れていた。

 確かに地味にリアルすぎて嫌すぎる……。

 

「どんどんいきますよー!」

「今日は結婚記念日! でも旦那は完全に忘れてて、記念日終了。さぁあなたならどうする? あ、八幡の場合は奥さんね」

 

 なるほどな……確かにそういうこともあり得るのかもしれない。

 これは一体どんな回答になるのか? 

 

「それじゃあ、オープン!」

 

『次の日に祝う!』

『本人が思い出すまで家事をしない、会話しない』

『相手が思い出してくれるまで待つ』

『記念日だったことを伝えて、どうするのか反応を窺う』

『謝るまでメールを送る』

『諦める』

 

「平塚先生、重いです」

「重いってなんでだ!? だって記念日なんだぞ!?」

 

 言いたい気持ちは分かりますけど、それわりときついです。だから嫁の貰い手が……。

 

「何か言いたげだな、比企谷」

 

 そう言うところですからね? 

 

「由比ヶ浜さんはなかなかいいよね! 忘れててもしっかりと祝おうとする辺りがいいと思う!」

「小町もそう思います! というわけで小町的模範解答は、『素直にどこか行こうと誘う』です!」

 

 確かに、小町の意見は参考になるな……なんというか、よく分かっている、というべきか。他の奴らよりその点『嫁度』というやつが高いのだろう。

 

「この調子で第三問!」

「旦那が家事の手伝いをしてくれない。こんなときどうしますか?」

 

 俺の場合は奥さんに当てはまればいいわけね。

 

『それじゃあオープン!」

 

『お願いする』

『罰を与える』

『オハナシをする』

『手伝えることがないのか話し合う』

『目で訴える』

『押してダメなら諦める』

 

「八幡のそれって座右の銘的なあれだよね!?」

「ばれた?」

 

 けど実際、言ってダメなら自分でやった方が早いし、何より効率良い気がする。

 

「ゆきのんのそれも、なんか怖いよ……」

「罰って何を与えるつもり……?」

 

 由比ヶ浜と島田が目を丸くしている。

 雪ノ下はしれっとしてる……こいつらしいといえばこいつらしい。

 あと平塚先生。それ目で訴えるじゃなくて、正しくは威圧するでは? 

 

「小町的模範解答は、『お小遣いを減らす』でした〜」

「確かにそれお嫁さんがやりそうなことだよね……」

 

 吉井が感心していた。

 リアルな嫁ならばそういう感覚なのだろうか。

 

「それでは最終問題!」

「最近主人の帰りが遅い……もしや、浮気? こんな時どうする?」

 

 各々が回答を書いている。

 

「それじゃあいきましょう! オープン!」

 

『困る』

『追い詰める』

『O☆HA☆NA☆SHIする』

『浮気ではないことを信じる』

『鉄拳制裁』

『寝る』

 

「ちょっと八幡!? 寝てどうするの!?」

「やましいことがあれば勝手に自滅するだろ。だが、そうでなければ忙しくて帰れないだけだろうからな。こちらからアクション起こすよりも、相手からアクション起こさせた方が手っ取り早い」

 

 特に『浮気』とかそういったものの場合、着信履歴とか物的証拠とか、そういったもので油断してぽろっと出してしまうこともあるだろう。

 

「うわぁ……お兄ちゃんそれは妙にリアルだよ……」

 

 小町にまで引かれた。

 解せぬ。

 

「ちなみに、小町的模範解答は、『信じる』でした! これと同じなのは美波さんだけでした!」

「へ? ウチ?」

 

 確かに、島田だけは『信じる』って答えてたからな……ていうか、姫路のそれはさっきから何なんだ。話し合いとは別の意味を感じる。

 あと、平塚先生は論外です。

 

「ところで雪ノ下さん……それって、問い詰めるのことじゃないの?」

「追い詰めるも問い詰めると、そこまで変わらないじゃない?」

 

 …………全員が無言になった瞬間だった。

 

 結局、この嫁度対決は勝敗が決まらないままお流れとなったが、収穫はあったようで……依頼のコラムは難なく書き上げることが出来たという。



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高校一年 第一問 こうして、高校生活が始まる。(1)

【第一問 】数学
以下の問いに答えなさい。

「第10項が150、第25項が390である等差数列{An}の一般項を求めよ」

雪ノ下雪乃の答え
「An=16n-10」

教師のコメント
おみごとです。最初に初項Aと交差dを、公式「An=A+(n-1)d」を利用して解くことも忘れないようにしましょう。

由比ヶ浜結衣の答え
「An=390ー150」

教師のコメント
答えようとした努力は認めますが、それではただの引き算です。公式に当てはめてしっかりと答えられるようにしましょう。

吉井明久の答え
「An=あえぎ声」

教師のコメント
数学でもなんでもありません。これじゃあただの喘ぎ声です。




 四月も下旬に差し掛かり、世間ではもうすぐ大型連休が迫っていて何処か浮き足立っている学生が多い中、俺は一人陰鬱とした気持ちで学校までの道のりを自転車で走っていた。驚くべきことに、今日が俺の初登校日だ。

 入学式があった日、犬を助けたことによって交通事故に遭遇した。そのせいで三週間の入院を余儀なくされ、つい先日退院したばかり。お陰様で高校生活は出遅れてしまい、ぼっちスタートが確定した。別にそれで構いやしない。むしろ充実したぼっちライフを送ることが出来ることに楽しみすら覚えている。

 青春とは嘘であり、悪であり、常に欺瞞で満ちている。群れを成すことによって自身の立場を気にして、安心感を得ようとする。その為に自分の身を削るくらいならば、最初から一人でいた方が気が楽だし、何よりぼっち最高。そんなわけで俺は、高校生活が始まって二度目となる制服に身を通し、普段から腐っていると評判の目をより一層腐らせながら、学校に到着した。

 

「はぁ……」

 

 辿り着いた途端に襲いかかったのは気怠さだった。思わず溜息すら零してしまった程だ。実際何度か学校へ行く道のりで帰ろうかと思った程だ。正直面倒臭い。家で読書したりアニメ見たりしている方がずっといいとさえ考えている。 早い所家に帰りたい。引きこもり最高。

 などと現実逃避してても始まらないので、駐輪場に自転車を置き、重い身体を引きずって職員室に向かう。未だにここが学び舎となる実感の湧かないまま、目的地まで辿り着いた。

 ノックをして、

 

「失礼します」

 

 と言葉をかけた後で、扉をゆっくりと開けた。

 

「おお、比企谷だな。待ってたぞ」

 

 そこに立っていたのは、屈強な大男だった。

 え、まじで先生なのん? 実は学校に来た謎の大男だったりしないよな? 

 

「何をボサッと立っている……中に入りなさい」

 

 その男は呆れた表情を浮かべながら、中に入るように促してくる。どうやら教師であることに違いはないようだ。言われるがままに俺は職員室の中に入り、男性教師のところまで歩いていく。俺が目の前まで辿り着いたところで、

 

「担任の西村だ。今後ともよろしく頼むぞ、比企谷」

「よろしくお願いします、西村先生」

 

 どうやら今度から俺の担任となる先生だったようだ。西村先生は俺の目をじっと見ると、

 

「災難だったな……まぁ、新しく学校生活が始まると思って、勉学に励んでくれ」

 

 一応の慰めの言葉をかけてくれた。

 多分、この先生は悪い人ではないのだろう。ただ、なんとなく見た目で損しているような気がしなくもない。だって怖いもの。どう見ても屈強な大男にしか見えねぇもん。トライアスロンでもしてるのかと本気で思うわ。

 

「分かりました」

 

 とりあえず俺は当たり障りのない返事をする。それを確認した西村先生が、

 

「もうすぐHRの時間だ。教室の場所も分からないだろうし、着いてきてくれ」

「はい」

 

 西村先生に言われた通り、俺は後ろをついていく。HRが始まる前で廊下は既に静かとなっている。

 筈なのだが。

 

「雄二!! 今日という今日は決着をつけよう」

「ふん。どうせ明久のことだ。毎回俺に勝てなくて泣きべそかく未来が待ってんじゃねえのか?」

「それはどうかな? 今までの僕は本気を出していなかっただけだよ。今日こそ僕の本気を見せてあげるよ」

「何……お前、まさか……」

「そう、その通り。実は僕……左利きなんだ」

「早く教室入れバカ共が!!」

 

 何を巡って戦っていたのかは知らないが、西村先生の雷が落ちた瞬間だった。

 というか、HR前に何を騒いでたんだアイツらは……。

 

「げ、鉄人!」

 

 雄二、と呼ばれた男子生徒が、西村先生を見るなりそんな反応を取っていた。いや、なんで鉄人なんだ? 実は28号だったりする? 

 

「止めないでください、鉄人。僕達は今、昼御飯を賭けた運命の戦いに身を投じてるんです」

「その前に勉強に命を懸けろ。そうでもないと吉井の馬鹿は治らんぞ」

「そんな! 勉強に命を賭けたら死んじゃうじゃないですか!!」

「安心しろ吉井。人間、勉強するだけで死ぬことなんて早々ない」

 

 最もな言葉だった。

 確かに、勉強のやりすぎで死んだ例など聞いたことがない。風の噂によると、勉強し過ぎたことにより鼻血が出たことがあるらしいが、そんなの誇張に過ぎないだろう。

 

「ところで、そこに居るのは誰っすか?」

 

 どうやら雄二とか言う男子生徒は、俺のことを見て言っているらしい。確かに今まで見たことのない生徒がいるとなれば、気にするなという方が難しいだろう。実際逆の立場だとしたら、そんなに気にしないな。どうせ自分には関係のない話だろう。なんだか言ってて虚しくなってきた。

 

「お前らのクラスメイトだ。紹介するから早く教室に入れ」

「えぇ!? 転校生ですか!?」

 

 吉井が驚いたような声をあげる。西村先生が『吉井』と呼んでたし、恐らく合っているだろう。しかしなんというか……物凄くバカっぽい。頭が悪いとかではなく、『バカ』なんだと思う。

 ただ、転校生というのとはちょっと事情が違う。実質同じようなものだが。

 

「あー……まぁその辺りもまとめて説明する。ほら、とっとと入れ。吉井も坂本も、補習の時間が伸びてもいいのか?」

 

 と、半ば脅しのように西村先生が言った瞬間、吉井と坂本は素早く教室へと入っていった。どんだけこの先生の補習受けたくねぇんだよ……。

 

「そういうわけだ。比企谷、俺の後に続いてお前も教室に入れ」

「……うす」

 

 西村先生が入った後、俺もその後をついていく形で教室に入った。




当作品は、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』と『バカとテストと召喚獣』のクロスオーバー作品となっています。
略称、『バカガイル』です。
原作ネタを盛り込みつつ、オリジナルストーリーを展開していきたいと思います。
尚、八幡や明久達が高校一年生の段階からのスタートです。


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第一問 こうして、高校生活が始まる。(2)

先日から投稿したばかりですが、UA数が1000件突破しました!
また、お気に入り登録数も20件突破です!
応援ありがとうございます……これからも頑張っていきますので、何卒よろしくお願いします。
それにしても……八幡難しい。


「ほら、席につけ!」

 

 西村先生の声が教室に響き渡る。雑談していた生徒はその声に合わせて自分の席にそそくさと戻って行く。やがてすぐに教室の中は静かになった。それを確認すると、西村先生は教壇の方まで歩いて行く。俺もその後ろをついて行く。

 

「……」

 

 やはり、好奇の眼差しが突き刺さる。今まで見たことないような生徒が、担任に続いて入って来たのだ。気にならない筈がないだろう。

 前を見ると、窓際の席で吉井が手を振っているのが見えた。その後ろの席には坂本が口許をニヤつかせながらこちらを見てきている。なんなんだこいつらは。吉井はともかく、坂本の『新しい何かを発見したような』笑みは何だろうか。面倒なのは御免被りたい。

 

「HRを始める前にお知らせだ。入学式の日に入院してしまい休んでいたが、今日から無事通えることになったクラスメイトだ」

 

 そう言いながら、西村先生は俺の背中を軽く押す。自己紹介をしろということなのだろう。え、いやそんな話聞いてないんですけど。まぁ名前と簡単な挨拶をすればそれでいいだろう。何、簡単なことだ。無事終わらせればそれで済む話……。

 

「ひ、比企谷八幡です。よろしくお願いしましゅ」

 

 噛んだ。

 盛大に噛んだ。めっちゃ恥ずかしい。

 俺のそんな気持ちとは裏腹に、疎らに拍手が起こる。どうやらスルーしてくれているみたいだ。いや、してない奴が二人いる。そこで笑いを堪えているバカ二人、後で覚えておけ。特に何もしない。

 

「……比企谷はそこに空いてる席に座れ」

 

 妙に優しい西村先生の声が余計に辛い。俺は逃げるように空いていると思われる席まで向かう。そこは最後尾。しかも教室の扉のすぐ近く。何というベストプレイス。

 隣に居たのはどうやら女子生徒のようだ。大きなリボンを使ってポニーテールにしているのが特徴の彼女は、何やら緊張した面持ちでこちらを見ている。そんなに俺が来るの怖い? 怖いか。

 

「い……」

「ん?」

 

 口を開いたかと思いきや、何やらワタワタしている様子。そして意を決したらしい彼女が口にしたのは、

 

「Ich Heiße……島田美波」

 

 まさかのドイツ語だった。

 しかも後半になって自分がドイツ語を喋っていたことに気付いたからなのか、名前の部分は妙に小さい上にかなりゆっくりだった。

 これはあれか? こいつは帰国子女かなんかなのか? 

 にしても、ドイツ語を聞くと中学二年の時の自分を思い出してしまって頭を抱えたくなってしまう。何せかっこいいからな。風って単語だけでもヴィントって読むとかヤバい。厨二病患者の心を擽るのずるい。誰もが通る道なのではないかと思われる程だ。くっ、鎮まれ……俺の右手……っ! 

 ともかく、一応自己紹介してきたらしいし、こっちも挨拶くらいしておこうか……。

 

「……ハイヤー、島田」

 

 釣られた。

 盛大に釣られて、意味分からないドイツ語で返してしまった。よろしくとも言われていないのに、こちらこそとか言ってしまった。何を言ってるのかもうさっぱりわからねぇ。

 相手は少し目を丸くしていた。いや、なんというか、ごめんね? 変なタイミングで変なこと言って。そしてこれきりだから安心してくれ。

 

「それじゃあHRを始める」

 

 西村先生の声が聞こえてくる。隣からも微妙に視線を感じるが、先程の行動が恥ずかしくなって、俺は全力でその場に伏せる。寝たふりでごまかすしか……。

 

「こら比企谷!! 登校初日から寝ようとはいい度胸だな……」

 

 寝たふりすら許されなかった。

 

 

 午前の授業も終わり、昼休み。弁当を持っていない俺は、購買でパンを買い、自販機でマックスコーヒーを揃える。千葉県のソウルドリンクだから決して外すことは出来ない。人生は苦いから、珈琲位は甘くていい。マッ缶最高。

 特別棟の一階。保健室横、購買の斜め後ろ。食べる場所を探していた俺にとってはまさしく都合の良いベストプレイス。そこに移動した俺は、腰をおろしてパンを齧る。

 

「……はぁ」

 

 思わず溜息が出てしまう。登校初日からこんな感じでは、次の日から一体どうなってしまうことやら。何だろう、早く家に帰りたい。社畜精神なんて以ての外。

 と、そんなことを考えながらマッ缶を開け、軽く口にする。疲れた身体に、練乳の甘さが染み渡ってきて心地良い。それにしてもここは静かで程よい場所だ。見つけられて良かったものだ。

 ちょうどここからはテニスコートが見えるのだが、そこでは誰かが練習しているようだ。昼休みなのに殊勝なことだな、と思いながら眺めていると、

 

「……あ?」

 

 その様子を写真に収めまくっている、一人の男子生徒が確認出来た。カメラ片手に学校内で何してるんだあれ。というかもしかして、何かの撮影をしている最中なのかあれ。

 テニスコートで練習している人物は、構うことなく、というか気付くことなく練習に没頭している。

 その様子を懸命に撮影している男子生徒。何だこの異様な光景は。通報した方がいいのかこれ。

 

「気にしなくて平気だと思うよ。あれはムッツリーニの日課みたいなものだから」

 

 そんな俺の考えを読んだかのように、背後から声がかけられた。

 後ろを振り向くと、そこに居たのは。

 

「比企谷君、だよね? 僕は吉井明久!」

「俺は坂本雄二だ。これからもよろしくな?」

 

 関わることのないだろうと思っていたバカ二人だった。



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第一問 こうして、高校生活が始まる。(3)

「……何か用か?」

 

 突然やってきた吉井と坂本の二人に尋ねる。わざわざ自己紹介する為だけにここに来たとはあまり思わない。多分何かしら目的があってここにいるのではないだろうか。少なくとも坂本についてはそう考える。吉井はそこまで考えられるようには見えない。

 

「何って、見かけたから声かけただけだ。これからクラスメイトになるんだろう?」

 

 不敵な笑みを浮かべながら、坂本は俺の横に座ってくる。吉井もまた反対側に座り、自然と二人に挟まれる形になった。せっかくのベストプレイスが台無しじゃねえか……。

 

「お前らここで食べるの? 二人でごゆっくり……」

「あ、ありがとー……って何ナチュラルに帰ろうとしてるのさ!?」

 

 ちっ、駄目だったか。何となく吉井は流されそうになってたからいけると思ったのだが。

 

「そう固ぇこと言うなって。クラスメイトが一緒に飯食って会話することなんてザラだろ?」

「……」

 

 坂本の言葉には特に答えず、仕方なくその場に座り直した。

 と、ここで俺はさっきの吉井の言葉が気になって、尋ねてみることにした。

 

「……そういや、ムッツリーニって何だ?」

「あぁ、土屋康太って奴のあだ名みたいなもんだ。寡黙なる性識者(ムッツリーニ)はクラスメイトだぞ?」

「そうなの?」

 

 正直、今のクラスで印象に残ってるのは四人だけなんだが。担任の西村先生、今目の前にいる二人、そして隣の島田。初日でクラスメイトの顔を全員把握することなんて無理な話だろう。時間をかけたところで殆ど覚えられる気がしない。

 

「そして、あれはムッツリーニのいつもの光景だよ。カメラで撮りまくってるんだよ」

「いや、あれどう見ても許可取ってないだろ……」

 

 多分写真部というわけでもないだろうし、まして撮られてる側はまったく気付いていないのだから、どう見ても盗撮にしか見えない。

 

「にしても、朝は面白かったな……くく……っ」

 

 坂本は笑いを堪えようともせず、今朝の失敗をネタとして持ってくる。人が気にしている所をこのやろう。

 

「安心しな。明久なんざ自己紹介の時に『ダーリンって呼んでください』って言って、男共から『ダァアアアアアリィイイイイン』って呼ばれてるからな」

「そのことを蒸し返さないでよ!?」

 

 やっぱり吉井はバカだった。何自己紹介の場でダーリン呼びを浸透させようとしてるの? つか野太い声のダーリン合唱とか誰得なんだよ。少なくとも俺は絶対そんなの聞きたいなんて思えない。

 

「ところでさ、八幡」

「は?」

 

 いきなり下の名前で呼ばれたことに対して、驚きしかなかった。何コイツ、コミュ力お化けなの? あ、いや違うわ、ただのバカだった。

 俺の声が思ったより響いたのか、吉井は目に見えて固まっている。

 

「僕何か悪いこと言った?」

 

 尋ねてくる吉井。きっとコイツは人が良いのだろう。だが、そうだとすればコイツがやっていることは、馴染めない奴を相手に同情しているだけだ。そんな優しさなんて必要ないし、何より虫唾が走る。

 

「いや、いきなり下の名前で呼ばれたものだからびっくりしただけだ」

 

 この言葉に嘘偽りはない。だが、すべてを言ったわけではない。俺はまだ、吉井明久がどんな人間なのか分からない。情報が足りなさすぎる。ただ、少なくとも偽善で行なっている事なのだとしたら、俺にとって不快でしかないことは確かだ。

 

「……何考えてるのか大体想像つくが、コイツがそこまで深いこと考えられるように見えるか?」

 

 ため息交じりに坂本が言った。

 ……一理ある。吉井がそこまで考えて何か行動するようなタイプにはとても見えない。

 

「ねぇ、それなんのフォローもしてないよね?」

「は? そんなこともわかんねぇのか?」

「やっぱバカにしてるだろ!!」

 

 俺を挟んで、吉井が坂本に抗議していた。そんなにやりたきゃ他の所でやってくれ。俺を挟んでまでやることではないだろう。

 

「って、そんなことはどうでもいいんだよ! 八幡に聞きたい事があるんだ!」

 

 気を取り直したらしい吉井が、俺の方を見てくる。どうやら聞きたい事があるというのは本当のことらしい。にしても、初日の俺に対して聞きたいことなんてほとんどない気がするのだが、一体何をそこまで気にしているというのか。

 

「八幡の隣の席に、島田さんっているよね?」

「あ? あぁ、そうだな」

 

 いきなりドイツ語で自己紹介始めてきたあいつか。一体何事かと思ったが、やっぱり他の奴らも違和感には気付いていたわけね。

 

「あの……よければなんだけどさ、八幡にも協力して欲しいんだ。島田さんと仲良くなりたいなって思ってて」

「……………………は?」

 

 きっと、この時の俺は、その日一番低い声を出したと思う。

 




バカテス7.5巻および9.5巻での美波や明久達のエピソードを元に作成しております。
ただし、9.5巻であった雄二や明久達の話につきましては、八幡が入院しているときにある程度解決しているという形を取ろうかと思います。
一応大前提としまして、奉仕部はまだメンバー揃ってません。双方の原作エピソードを盛り込みつつ、オリジナルエピソードとなります。なので、もしかしたら中学生の一色いろはが出るかもしれませんし、初期の方では全然絡んでくることのなかったバカテスキャラが突然出てくるかもしれません。
また、一部カップリングにも修正が入りますので悪しからず……でないとクロスオーバーにしている意味があまりなくなってしまいますので……(白目


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第一問 こうして、高校生活が始まる。(4)

「えっとね、八幡の隣の席にいる島田さんって女の子なんだけど……」

「いや、流石にそれは知ってるが……」

 

 隣の席であんだけ印象強いことやられたら、流石に覚える気がなくても頭に残ってしまうもの。結構な美人だったし、あんな奴に話しかけられたら告白して振られるまである。振られちゃうのかよ。

 

「彼女、教室でいつも一人ぼっちなんだ。入学してからずっと」

「……」

 

 それは何となく予想がついた。

 自己紹介してきた時に咄嗟に出てきたと思われるドイツ語。恐らく彼女は日本に帰ってきて間もないのだろう。そんな中で突然日本の学校に入学することになり、すぐに馴染めるのかと聞かれたらそんなことはないだろう。授業の様子を見る限りでも、あまり慣れているとは思えない。

 だが、それと吉井が動こうとする事情は別の話だ。

 

「で? 一人きりの女の子に恩売って、自分は女の子からの評価上がって願ったり叶ったり、ってか?」

「お前随分とひん曲がった見方するな……」

 

 ため息をつきながら坂本が呟く。

 

「僕はね、ただ単に島田さんと仲良くなりたいだけなんだ」

 

 そう言ってのける吉井の目は、何処までも純粋だった。そこに一切の迷いはない。心の底からそう思っているのだろう。

 こいつのような人間を俺は今まで滅多に見たことがない。人は自分の身の安全を確保する為、相手を利用し、同情し、妥協し合い、そうして『友達』という建前を利用して居場所を何とか抑えようとする。なのに、吉井がやっているのは……。

 

「……な? コイツおもしれぇだろ?」

 

 そんな時、坂本がニヤッとしながら告げてくる。多分坂本にとっても始めて遭遇するタイプの人間だったのだろう。物事を深くまで考えこむことの出来ないバカであるという見方が正解なのだろうが、だからこそ吉井という人間は、平然とそんなことを言ってのけてしまうのかもしれない。

 

「……言っとくが、俺は今の今まで友人なんか出来たことねぇから、作り方も知らないし、アドバイスも出来ない」

 

 話し相手は居ただろう。

 心を寄せてもいいと思えた相手も居ただろう。

 そのどれもが勘違いで、その結果どうなったのかも知っている。

 だからこそ、吉井明久が何処までも眩しく見えた。コイツのように、何も疑うことなく真っ直ぐ生きていけていたとしたら、果たしてどうなっていたのだろうか。

 

「だから、お前がまずやったことを言ってみろ。問題点くらいなら指摘してやる」

 

 これが、俺に出来る精一杯。

 別に島田はいじめられている訳ではない。だから、問題があるとすればきっとコイツの対応か、島田の考えによるものなのだろう。

 兎にも角にも、吉井が一体何をしたのか聞かないことには始まらない。

 

「えっとね、『私と友達になってくれませんか?』って聞いてみたんだよ」

 

 何だ、至って普通のことしかしてないじゃないか。それで友達になれないのはもう……。

 

「フランス語で!」

 

 訂正。

 コイツはただのバカだった。

 

「……おい坂本。このバカの間違いを指摘してやれ」

「八幡まで僕をバカって言うの!?」

 

 どう足掻いても吉井はバカだろう。何故島田に対してフランス語で話しかけてるんだコイツ……よくよく考えれてみれば、きっと島田が何処から来たのか知らなかったのだろう。そして英語ですらない言葉を聞いて、それ以外の言語を必死こいて勉強し、やっとの思いで完成させた言葉は、根本から間違っている文章。

 ……伝わるわけがない。

 

「何回かチャレンジしてみてるんだけど、言うたび島田さん怒っちゃって……」

「ちなみに、フランス語ではなんて言うんだ?」

 

 坂本が笑いを堪えながら尋ねる。

 コイツもつくづく人が悪いな。

 

「えっとね……『ちゅうぬぶどれぱどぶにいるもなみ』、だったと思う」

 

 坂本が盛大に笑い始めた。

 

「何で笑うのさ!?」

 

 吉井は抗議する。

 申し訳ないが、今回は全面的に吉井に責任がありそうだ。

 

「……吉井。悪いことは言わない。せめて英語かドイツ語に翻訳し直せ。そうすればきっと伝わる」

「へ?」

 

 キョトンとしている様子の吉井。

 おい待て。今ので伝わらなかったとしたら一体どう言えばいいんだ。

 

「だから、お前のそれは根本が違ってるってことだ……島田はフランスから来たわけじゃない。多分ドイツだ」

「へ? え? ……つまり、島田さんにも分からないことを僕は言っていたってこと?」

 

 やっと伝わったようだ。

 ……それにしても、そういう意味では本当に吉井は凄いと思う。下心とかそう言ったものを抜きに、真っ直ぐに正面から人に向かっていく姿勢。この様子だときっと成績もいい方ではないだろうに、それでも必死こいて友人になろうとして、自分の知らない国の言葉を調べて、やっと形にしたのだろう。

 普通ここまでやるか? そんなこと出来るとは到底思えない。

 本当に何者なんだコイツ。

 

「あとは自分で何とかしてくれ」

「あ、ちょっと八幡!」

 

 俺は今度こそその場を後にする。後は勝手にどうにかなっていくだろう。これ以上俺が関与したところで何かが変わるわけではない。それに、

 

「……はぁ」

 

 自然と溜息が出る。初日でここまで疲れるとは正直思わなかった。早く帰ってゆっくり寝たい……。

 そんな気持ちに駆られながらも、教室への道のりを歩いていく、その途中で。

 

「ひ、ヒキガヤ!」

「ん?」

 

 俺は島田に引き止められたのだった。



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第一問 こうして、高校生活が始まる。(5)

お待たせいたしました。
最新話です!


「……」

 

 呼び止めた本人である島田は、必死に言葉を選んでいる様子だった。そもそもなんで島田が俺を呼び止めたのかは分からないが。

 その姿からも察するに、きっと島田はまだ日本語に慣れていないせいで、普通の日本人が話している位のスピードで話されると混乱してしまうのだろう。日本人が外国行った時に現地の言葉が理解出来なくて混乱するのと同じだ。その上吉井はさらに訳のわからない言語を載せてきたというわけか……通りで島田がパニックになるわけだ。

 

「吉井が言ったこと、調べた方がいいぞ」

「へ……?」

 

 聞き取れるようにゆっくりと話す。ただしこれだけだと何が何だかわからない筈だから、さらに付け足さなくてはいけない。

 

「フランス語で、吉井が言ったこと、調べてみろ」

「フランス、ご……?」

 

 案の定キョトンとしている。

 そりゃそうだ。事情を聞いた時の俺も『何やってんだこいつ』と思った位だからな。

 

「アイツバカだから、島田が何処から来たのか、分からなかったらしい」

 

 長くし過ぎても伝わらない。

 自分でも何故こんなことしているかはあまりよく分からないけど、島田が勘違いしているのならば直してやらないといけない。

 あぁ、吉井に頼まれたからやってるんだろうな。頼まれた以上、責任は遂行しなくてはいけない。

 

「だから、吉井の言ったこと、調べてみて欲しい」

 

 多分これで伝わっただろう。これで島田や吉井を巡る問題は解決する筈。後は島田がフランス語で調べて、吉井の真意を掴む事が出来ればいい。それで二人は友人同士。めでたしめでたしって話だ。

 島田が俺を呼び止めたのも、吉井や坂本と俺が話していたからだろう。しつこく話しかけてくるクラスメイトが、登校初日の俺に話しかけていたのだ。何となく気になっただけなのだろう。

 だから勘違いしてはいけない。そこに深い意味なんて存在しないだ。勘違いをして黒歴史を量産するのは間違っている。

 

「あっ……」

 

 だから、島田が何かを言おうとしたのも勘違いだ。その相手は俺じゃない。俺であってはならない。

 結局俺は、島田の制止を振り切ってその場を後にした。

 

 

 長かった一日もようやく終わり、放課後。HRが終わるのとほぼ同時に教室を出た俺は、そそくさと下駄箱の方まで向かっていた。一刻も早く家へ帰って小町に癒されたい。登校初日のくせに色々あって普通に疲れた。

 自分の下駄箱から靴を取り出し、履き替えようとしたところで、

 

「ま、まってクダサイ!」

 

 背後から声が聞こえてきた。何処となく聞き覚えのある声だが、きっと俺のことではないだろう。下校時刻だから周りに生徒はたくさんいるし、ほら、誰か呼ばれてるみたいだぞ。早く足を止めてやれ。

 

「とまってクダサイ! ヒキガヤ!」

 

 ヒキガヤさん呼ばれてますよ。ん? なんか俺と同じ苗字の奴がいるのか。先ほどよりも声が近くなってるから、きっと呼ばれている本人は俺の近くにいるのかもしれない。

 

「うぉっ!」

 

 その時、突然腕をグイッと引っ張られた。突然過ぎる事に、俺は身体のバランスを崩しそうになる。なんとか堪えて後ろを振り向いたら、

 

「お、おう……島田」

 

 そこには、少し怒ったような表情を見せた島田がいた。というか俺のことを呼んでたのな。今までそんな経験なかったものだから、てっきり他の人を呼んでるのかと思って反応出来なかった。面倒だったとかじゃないのよ? 本当だよ? 八幡ウソツカナイ。

 

「お礼……まだ言えてなかったカラ……」

 

 島田は俺の目をじっと見つめながら言う。

 別に俺は、礼を言われるようなことなんで何もしていない。ただ事実を伝えて、行動を促しただけだ。何処ぞの誰かの台詞を借りるのならば、勝手に助かっただけ。

 

「ありがとう……比企谷」

「……別に俺は何もしてない」

 

 行動を起こしたのはあくまで吉井だ。俺の行動は手助けにすらなってない。

 けど、島田がこうして俺に感謝の気持ちを伝えてきたということは、多分吉井の言っていたことを理解して、友達の関係になったのだろう。

 俺はそれが、少し羨ましいと思った。そこにあるのは利害関係からくる仮初めの関係ではなく、言葉で言い表すことが難しいが……『本物』であるように感じられた。きっとこいつらは、これから先も友達であり続けるのだろう。それは悪いことなどではなく、むしろ良いことだと思う。

 

「ううん……ウチね、比企谷がいなければ、ずっとひとりぼっちだった……」

「……それは違う。お前は決してぼっちになんかならなかった」

 

 遅かれ早かれ、手を差し伸べてくれる人がいるのだとすれば、そいつはきっとぼっちにはならないだろう。

 だから、コイツと俺は違う。

 俺はぼっちだと言い切れる。俺にそんな物好きな奴はいない。

 

「島田が気付けたから、今の状況を脱しただけだ……それ以外の何物でもない……じゃあな」

「あっ……」

 

 俺はそのまま駐輪場へ向かう。

 このままいたところで話は進まない。

 島田は一歩前進して、俺はただその場に立っているだけのこと。

 これから一体どんな生活が待っているかは知らないが、俺はきっとぼっちであり続けるはずだ。

 

「あ、あの!」

 

 そんな俺の背中に投げかけられる、島田からの言葉。もう何も言うことはないはずなのに、まだ島田は俺に言葉をぶつけようとする。これで今回の件は終了だと気を抜いていた俺は、完全に油断してしまっていた。

 

「ウチと! 友達になってくれませんか!?」

 

 その一言をきっかけに、俺の高校生活は当初の予定とずれ始めた。

 

 やはり、俺の高校生活は間違えているのかもしれない。




というわけで、『第一問 こうして、高校生活が始まる。』は終了です。
次回は吉井明久視点での話が始まります。
一応当小説についての予定ですが、エピソード毎に一人、必ず誰視点にするか決めようかと思います。なので、その話の間は、特別な事情が起きない限り視点変更はありません。


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第二問 バカとクラスメイトと悩み事(1)

【第二問】 日本史

以下の問いに答えなさい。
「紫式部が著者である、光源氏やその息子の薫の君を主人公とした平安時代の長編小説を答えなさい」

姫路瑞希の答え
「源氏物語」

教師のコメント
正解です。他にも、『紫式部日記』などを紫式部は書いていますね。合わせて覚えてしまいましょう。

比企谷八幡の答え
「歴史的長編少女漫画、源氏物語」

教師のコメント
余計な言葉はかかなくて結構です。

吉井明久の答え
「Tales of Genzi」

教師のコメント
格好いいですが、何かのゲームを連想させるような英語でごまかしても無駄です。




 GWに入る直前のこと。

 僕は島田さんと友達になりたいと思っていろいろやったわけだけど、何故か怒らせてしまったり、色々迷惑をかけてしまったみたいだ。けど、雄二の助言や八幡の手助けもあって、ようやっと島田さんと友達になることが出来た。気付けば島田さんと八幡も仲良しになってたみたいだし、本当によかった。八幡は頑なに認めようとしてないけど。

 そんなわけで色々とあったわけだけど、もうすぐGWがやってくる!

 待ちに待った連休だからね! しかも今回は十連休だから物凄く長い!

 ゲームし放題だ!! ……姉さんが帰ってくるって話も聞いてないし、大丈夫だよね?

 取り合えずGWの予定を考えながら今日も登校してるわけなんだけど、

 

「やっはろー、吉井君!」

 

 そんな時に、僕の所へやってきたのは由比ヶ浜結衣さんだった。

 彼女は僕のクラスメイト……つまり島田さんや雄二、八幡のクラスメイトなんだ。

 少々ニックネームが個性的だけど、何より特徴的なのは……その胸だ。

 何という破壊力だろう。何がとは言わないけど、凄い。

 

「やっはろー、由比ヶ浜さん!」

 

 僕は由比ヶ浜さんに合わせて挨拶をする。

 由比ヶ浜さんはよく色んな人と一緒に居る。特に一緒に居るのは、確か葉山君や戸部君、三浦さんや海老名さんだったかな。みんな仲良さそうにしているけど、時々海老名さんの目が怖いんだよなぁ……特に、僕と雄二がつるんでいる時とかの目は、何というか、凄い真剣と言うか、最早凝視している。

 

「どうしたの? 何か考え事?」

 

 そんなことを考えていたら、由比ヶ浜さんが首を傾げながら尋ねてきた。

 そ、その角度はまずい! 胸が見えちゃいそう!!

 

「ううん、なんでもないよ! それよりももうすぐGWだね!」

 

 よし、何とか話題を変えられたぞ。

 

「そうだね! 吉井君は何処か行くの?」

「僕は雄二やムッツリーニ、秀吉と遊ぶかなぁ。由比ヶ浜さんは?」

「そうだなぁ……優美子や姫菜達と一緒に遊んだりかなぁ」

 

 やっぱりそうなんだねぇ。

 相変わらず由比ヶ浜さん達は仲好さそうにしているなぁ。

 

「ところで吉井君、一つ聞きたいことがあるんだけど……いいかな?」

「ん?」

 

 少し真剣な表情を見せる由比ヶ浜さん。

 ま、まさか通学途中で真面目な話って……告白!?

 ……な、わけないかぁ。

 

「吉井君ってさ……最近……」

 

 由比ヶ浜さんは辺りをきょろきょろとしながら、次の言葉を探っているような感じだ。

 何をそんなに迷っているんだろう。

 やがて由比ヶ浜さんは、意を決したかのように、言った。

 

「ひ、ヒッキーと仲いい、のかな?」

「……ヒッキー?」

 

 ヒッキーって、引きこもりのことかな?

 僕に引きこもりの友人なんていたかなぁ……雄二はバカだし、ムッツリーニはスケベだし、秀吉は美少女だし、八幡は捻くれてるし。うーん、思い当たる人がいないなぁ。

 

「ヒッキーって、その、比企谷君のことだよ?」

「あーっ! 八幡のこと?」

 

 ヒッキーって八幡のことだったのか!

 それにしても、なんでヒッキー何だろう? 時々由比ヶ浜さんのセンスが分からなくなる時があるなぁ。

 

「うーん、どうだろう? 僕は八幡のこと友達だと思ってるんだけど、八幡が頑なに認めてくれなくて……」

 

 結構話すし、仲良しだと思うんだけどなぁ。

 最近八幡は僕や雄二と一緒に居ることが多い。というか僕や雄二が見つけると基本的に一緒に行動しようとするから、自然とそうなっているという方が正しいかもしれない。当の本人である八幡は、僕達を見つけると基本的に逃げようとするけど。

 

「あはは……ヒッキーらしいし……」

 

 クラスのことをよく見ている由比ヶ浜さんらしい発言だな、って僕は思った。

 彼女が話したことないのって、もしかして八幡だけだったりするんじゃないだろうか。

 最近、二大トップで秀吉と彩加が張り合っている可愛い子達ですら由比ヶ浜さんは仲良く話しているのに、八幡と話している所だけは見たことない。

 

「私さ、ヒッキーと仲良くなりたいんだけど……でも、なかなか話しかけられなくて……」

「そうなの?」

 

 何というか、由比ヶ浜さんらしくないかなぁって思った。

 由比ヶ浜さんっていつも元気で、明るくて、とっても可愛い子だと思う。だけど今の由比ヶ浜さんは、その、なんていうか……元気がない?

 

「うん。お礼が言いたいんだけど……なかなか言い出せなくて……」

「お礼?」

「あぁ、ううん! こっちの話!」

 

 両手を振りながら、由比ヶ浜さんは焦ったように言う。

 もしかして八幡と由比ヶ浜さんって何かあったのかな?

 

「とりあえず、由比ヶ浜さんは八幡と仲良くなりたいってことかな?」

「うん……こんな話聞いてくれてありがとね」

「ううん! いいっていいって! 僕の方からも八幡に言ってみるよ!」

「あ、ありがとっ」

 

 そう言うと、由比ヶ浜さんは笑顔を見せてくれた。

 うん、やっぱり由比ヶ浜さんは笑っていた方が可愛い。

 

「とりあえず学校までいこっか?」

「うん!」

 

 そうして僕達は二人で通学路を歩いた。

 だけど僕はこの時気付いていなかったのだ。

 こんな細やかな幸せすらも許さない輩が、僕の周りには存在していたということを……。

 

 




という訳で、今回は吉井明久視点でのお話となります。
サブタイトルの法則についてですが、

俺ガイルキャラ視点のエピソード→俺ガイル風のサブタイトル
バカテスキャラ視点のエピソード→バカテス風のサブタイトル

このような感じで使い分けていこうと思います。
今回は明久視点での話なのでバカテス風です。
文章もバカテスを意識しております。

しかし……明久の方が八幡より書きやすいです(白目


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第二問 バカとクラスメイトと悩み事(2)

「よぅ、明久」

 

 教室に入った時に最初に話しかけてきたのは雄二だった。

 相変わらず何か企んでいそうな笑顔を見せてくる。入学した時には何処かやさぐれてた印象があるけど、話してみたら案外普通に面白い人だった。以降は僕の中では悪友として通じている。

 

「……おはよう」

 

 次に話しかけてきたのは土屋康太(ムッツリーニ)。あだ名に恥じないムッツリさなんだけど、本人はいつも否定している。彼の得意技はとうs……写真撮影だ。その写真には僕もお世話になっている。

 

「相変わらず騒がしいのぅ」

「秀吉!」

 

 そして僕の心のオアシスこと、木下秀吉!

 本人は男だと思い込んでいるけれど、秀吉は秀吉だ。いつも凄く可愛い。

 ちなみに、僕達のクラスにはツートップとして秀吉と戸塚彩加がいる。さいかわいい。

 

「何やらバカなことを考えておるのではないか?」

「そんなことないよ。ただ秀吉が可愛いなぁって思ってね」

「ワシは男じゃぞ?」

「秀吉は秀吉なんだよ!? 可愛いんだよ!?」

「なんでそんなに必死にワシのことを可愛いって言いまくっておるのじゃ!?」

 

 まったく!

 秀吉はどうして自分の可愛さを自覚してないのかな!?

 

「おはよー、坂本君、土屋君、木下君、吉井君!」

 

 そんな時、僕達に声をかけてきてくれた天使が現れた。

 名前は先程出てきたツートップうちのもう一人、戸塚彩加。ついこの前ムッツリーニが写真を撮りまくってたのも彩加だった気がする。

 

「おう、戸塚。今日も朝からテニスの練習してきたのか?」

「うん。入部したはいいけど、なかなか追いつけなくて……」

「……テニスウェア」

 

 早速ムッツリーニが少し鼻血流してる。

 テニスの朝練という言葉から一体何を連想したのだろうか。

 

「相変わらず頑張っておるのぅ、戸塚は」

「木下君だって、演劇部のホープだって言われてるよ?」

「ワシは演劇が好きでやっておるからのぅ。戸塚だってそうじゃろ?」

「うん。僕もテニスが好きだからやってるんだよ」

 

 何だろう、この二人の会話を聞いているだけで物凄く癒される。汚い心が浄化されていく気分になる。流石はツートップ。可愛い。結婚したい。

 

「……尊い!」

 

 目を見開きながら鼻血を流しているムッツリーニが居た。

 と、思いきや。

 

「とつ×ひで……新ジャンルが開けそう……っ!」

「姫菜、擬態しろし……」

 

 どこかからそんな会話が聞こえてきた。

 今のって女の子だと思うんだけど、『とつひで』って一体何のことだろう?

 

「あ、そう言えば」

 

 ここで僕は、今朝のことを思い出した。

 

「どした? 明久。またバカなことでも思いついたのか?」

「違うよ! ちょっと思い出したことがあっただけだよ!」

 

 相変わらず失礼な奴だな雄二は!

 

「どうかしたの?」

 

 首を傾げながら尋ねてくる彩加。そうやって思わせぶりな態度をとられたら勘違いしちゃうでしょ! 着ている制服間違ってるよ! スカートが恥ずかしいからズボンにしてるんだよね!? 秀吉と同じなんだね!!

 

「なんでワシと戸塚を見比べておるのじゃ」

「気にするな、秀吉……いつものことだ」

 

 雄二が溜め息をついていた。

 

「って、そうじゃなくて……今朝由比ヶ浜さんから言われたんだけどさ……」

 

 と、僕が話を切り出そうとしたその時だった。

 

「……吉井明久。今、なんて言った?」

「へ?」

 

 いつの間にやら僕のすぐ近くには、覆面を被った須川君がやってきていた。

 彼はFFF団の団長だ。秘密裏に活動している団体で、主な活動内容は……リア充撲滅運動。

 

「我らがF組の由比ヶ浜結衣と、一緒に登校した、と……?」

「う、うん……そうだけ……っ!?」

 

 しまった!

 これじゃあFFF団に追い掛け回される運命を辿ることに!

 

「え? 由比ヶ浜さんと一緒に? よかったね吉井君!」

 

 しかしそこは流石彩加。

 天使の癒しパワーのおかげで、須川君はそのまま何も言えずに立ち去るしかなかったようだ。

 

「ありがとう彩加! 結婚しよう!」

「えぇ!? 僕男の子だよ!?」

 

 何を言ってるんだ! 彩加は彩加じゃないか!

 

「明久……続きを早く話せ」

「……話題ずれ過ぎ」

 

 雄二とムッツリーニの二人によって軌道修正させられる。

 確かにさっきから話題がずれまくってたね。

 

「えっとね、そこで由比ヶ浜さんからちょっとした相談? みたいなことを聞いたんだよ」

「それはどんな相談じゃ?」

 

 秀吉が尋ねてくる。

 僕は今朝の話を思い出しながら、

 

「由比ヶ浜さん、どうやらヒッキーと仲良くなりたいらしいんだよ」

「は?」

 

 あ、しまった。

 ついつられてヒッキーって言っちゃった!

 

「……ヒッキーとは誰だ?」

 

 当然ムッツリーニが尋ねてくる。

 そりゃそうだよね……だって僕だって言われた時には何のことかさっぱり分からなかったんだから。

 

「ヒッキーはニックネームだよ」

「いや、だから誰のだよ」

「八幡の」

「いつの間にニックネームをつけ合う仲になったのじゃ?」

「ううん、僕がつけたんじゃなくて、由比ヶ浜さんがつけたニックネームみたいだよ」

「……いや、なんつーか、その。センスねぇな」

 

 何やら雄二が僕のことを可哀想な目で見てくる。

 だから僕じゃないんだって!

 

「えっと、由比ヶ浜さんが、比企谷君と仲良くなりたいって話でいいのかな?」

「みたいだな、戸塚。しっかし比企谷とねぇ……アイツもなかなか面白い奴だからな」

 

 ニヤっと笑いながら雄二は言う。

 確かに八幡は面白い。何というか、捻くれてるけどデレがある? 捻デレ?

 

「僕も確かに比企谷君とは仲良くなりたいかなぁ……」

 

 ポツリと、彩加はそんなことを言っていた。

 ま、まさか……八幡のことが好きなの!?

 

「何ショックを受けておるのじゃ」

「ひ、秀吉は僕のこと好きだよね!?」

「突然何の告白をしておるのじゃ!?」

 

 驚いたような表情を見せる秀吉。

 

「ぶっはーっ!! 教室で濃密なあき×ひで!! もうだめっ! 抑えきれないっ!!」

「姫菜!? 鼻血鼻血!!」

 

 何か先程から鼻血出している女の子がいそうな気がするけど、気のせいだよね、うん。

 

「ところで、その問題の比企谷は今何処にいるんだ?」

 

 雄二が教室を見渡しながら尋ねる。

 あれ? そういえば鞄はあるのに八幡がいない……まさかいつの間にかいなくなった?

 

 




いつの間にやら……。

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本当ありがとうございます……。
これからも頑張ります……っ


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第二問 バカとクラスメイトと悩み事(3)

「あ、八幡! やっと見つけたよ!」

 

 あの後少し気になって探してみたら、いつも通りの場所で本を読んでいた。やっぱり八幡はよくここに来るよね。お気に入りの場所なのかな? 

 

「…………なんだよ、吉井」

「すごいよ八幡。今物凄く目が腐ってる」

「これはいつもだ。余計なお世話だ」

 

 溜息をつく八幡。

 確かにいきなり目が腐ってるって言ったのは割と失礼かなぁって思わなくもないけど、そうでなくてもなんとなく歓迎されてない気がするんだよなぁ。

 

「HR始まっちゃうよ?」

「その時間くらい分かるっての……」

「どしたの? なんでそんな不機嫌そうなの?」

「なんでもねぇよ……」

 

 それはなんでもある人の発言のような気がするよ。

 

「鉄人怒らせたら怖いよ?」

「鉄人って、西村先生のことか……?」

「うん。トライアスロンとかやってるんだって」

「マジでやってたのかよ……」

 

 なんかポツリと八幡が呟いている。

 

「他にも、怒らせたらまずい先生の中には、平塚先生っていう女の先生もいるよ」

「平塚先生? ……てか吉井、お前無駄に教師について知ってんのな」

「雄二と一緒にバカやってたら色々目をつけられちゃってね……平塚先生からも鉄人からも目をつけられちゃってるところだよ……」

「そりゃご愁傷様。大半が自業自得だけどな」

「あ、そういえば平塚先生は八幡のことも気にしてるようだよ?」

「え、なんで」

 

 あ、これマジで嫌そうな表情だ。

 見知らぬ先生に『気にされてる』って言われるのは割と嫌なことなのかもしれない。

 

「なんか、先生方の話を聞いて、『社会に適応出来なさそうだな……』とか言ってたらしいよ」

「別に社会に適応しなくてもいい。俺の夢は専業主夫だからな。外に出なくても普通に生活出来る力があれば、社会に出なくても構わない。故に俺は問題ない」

「ん、んん?」

 

 なんか八幡がドヤ顔しながら難しいこと言ってる気がするぞ。頭から煙が出そうだ! 

 

「……お前、やっぱバカだろ」

「なんでさ!?」

「いや、なんつーか……もう話の最初の方で分からなそうな顔してたぞ」

 

 実際八幡が難しい話をし出したから、ほとんど理解出来なかった。いやぁ流石は八幡。とても頭がいいんだね! 

 

「って、そんなことを言いに来たわけじゃないんだよ!」

「なんだよ……」

 

 面倒臭そうに睨んでくる八幡。

 けど、これはどうしても言わなくちゃいけないことなんじゃないかなって思ったから。

 

「由比ヶ浜さん、八幡と仲良くなりたいって言ってたよ?」

「由比ヶ浜? 誰だそれ」

 

 この人は本気で言っているのだろうか。

 

「クラスメイトだよ!? 胸の大きな!!」

「お前女子のこと見る時第一に胸で見てるのかよ……」

「そうじゃないけど、おっぱいなんだよ!」

「更に発言がバカになってるぞ」

 

 溜息を吐く八幡。

 そんなにおかしなこと言ってるかなぁ。

 

「つか、仮にそいつがいたとして、なんで俺と仲良くなりてぇんだよ。少なくとも俺はそいつのこと全くしらねぇし、第一俺はぼっちだぞ」

「八幡にお礼がしたいって言ってたよ? 八幡が何かしたんじゃないの?」

「いや何もしてないんだが……」

 

 本当に心当たりがなさそうな八幡。うーん、やっぱりもう少し由比ヶ浜さんから聞かなきゃダメだったかな……。

 

「仮に何かをしたのだとしても、それで仲良くなりたいっていう理由にはならねぇし、本気で言ってるわけじゃないだろう」

「……?」

 

 何だろう、今の八幡の言葉にはちょっと引っかかりみたいなものを感じる。なんというか、自分から周りを遮断しようとしているような……。

 とここで、僕はもう一つ疑問が生まれた。

 

「ところで、島田さんとは八幡も友達になれたんだよね? 仲良く話してるみたいだしさ」

「…………」

 

 八幡は黙り込んでしまった。

 確かに今の話の流れとしてはおかしなものだったかもしれないけど、何となくこの質問はしなくちゃいけない気がしたんだ。

 

「……どこが仲よさそうに見えるんだ」

「だって毎回挨拶してるし、島田さんはいつも決まって八幡に話しかけてるじゃん」

「……隣の席だし、前にちょっとしたことがあったから、アイツが単に関わろうとしてるだけだろ。俺と島田は友人同士ってわけじゃない」

「そんなことないと思うんだけどなぁ……悔しいけど、僕よりも八幡の方が島田さんと仲良くしてるように見えるよ?」

「……確かに、島田から友達になってくれと言われた」

 

 なんだ、やっぱり友達になってるんじゃないか! 

 だけど、八幡はどうにも浮かない表情を浮かべている。

 

「けど、俺はそれを断っている」

「えっ?」

 

 それはあまりにも意外な言葉だった。

 島田さんからの言葉を、八幡が断った? 

 

「ただ、俺は思ったことを伝えただけだ。たまたま何かがあった。それで確かに島田は感謝している。ただそれだけの話だ。別に仲良くなりたいとか、そう言ったことを思ってるわけじゃないはずだ。第一俺と仲良くなって何になる? その由比ヶ浜ってやつに関しても同じだ。何があったのかは知らねぇけど、一時的に感謝をしてるだけだ。そんなの押し付けでしかない。それはそいつらのためにはならない。その由比ヶ浜って奴にも伝えておいてくれ。別に気にすることはない、って」

 

 八幡は、今の言葉を本気で言っているのだろう。だけど、なんていうか。

 

「八幡……友達って言葉を難しく考えすぎてない?」

「は?」

「仲良くなりたいとか、一緒に居たいとか、そんな単純なことでいいと思うんだよ、友達って。損得とかそんなんじゃなくてさ、ありのままでいられることも大事なんじゃないかな」

「……」

 

 八幡は目を丸くしていた。

 そしてただじっと、僕の方を見ていた。

 

「……考えておく」

 

 それだけを告げると、八幡はその場から立ち去っていく。

 ……って、

 

「待ってよ! 同じ教室なんだから一緒に戻ろうよ!?」

 

 僕も慌てて八幡の後を追った。

 

 

 




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ここまで応援してくださって感謝しかありません……。
頑張っていく励みになりました……!
これからも頑張っていきます!!


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第二問 バカとクラスメイトと悩み事(4)

予定よりも早めに本日分の話がまとまったので、投稿します!


 昼休みのこと。

 いつも僕は雄二やムッツリーニ、秀吉と食べる。今日も朝駆け足で作ったおにぎりを鞄の中から出して、雄二の所に行こうとしたその時だった。

 

「あっ……」

 

 ふと、教室の入り口近くを見た時に、既にもぬけの殻となっている八幡の席と、そんな席を見ながら一人寂しそうに眺めている島田さんの姿があった。

 やっぱり島田さんも八幡と仲良くなりたいんだろうなぁ……だけど、八幡が難しく考えすぎてるんだろうなって思う。

 せめて少しでも気分が和らげばって思って、僕は先に雄二のところへ行き、

 

「ねぇ、雄二。今日なんだけど……島田さんも連れて来てもいい?」

 

 と、提案してみた。

 すると雄二は、

 

「ん? あぁ別に構わねぇけど……っ!?」

 

 と言いながら、何故か辺りをキョロキョロと見回した。そして何事もないのを確認すると、

 

「あぁ、構わないぞ」

 

 何故かもう一度そう言った。

 

「いや、雄二。今の何の確認?」

 

 流石に気になった僕は尋ねるも、

 

「なんでもねぇ。ちょっと辺りを見渡しただけだ」

 

 と、はぐらかされてしまった。

 

「とりあえず、ムッツリーニと秀吉連れて先に屋上で待ってるわ。お前も後から来いよ」

 

 そう言って雄二は、秀吉とムッツリーニに声をかけ、昼ご飯を持って教室を出た。

 さて、僕も島田さんのところへ向かうとしよう。

 

「島田さん!」

 

 僕は昼ごはんの入った袋を持って、島田さんの元まで向かう。声に気付いた島田さんは、僕のことを確認すると少し笑顔になる。うん、やっぱり笑顔が一番だよね。

 

「どうしたの? 吉井」

 

 あれから島田さんは、日本語を猛勉強しているとのことで、前までより更に日本語が上手くなっていた。それでも漢字とかはまだ弱いみたいで、時々現国の授業で頭を悩ませてるらしい。僕なんて世界史以外はほとんどちんぷんかんぷんなんだけどね! 

 

「よかったら昼ごはんを雄二達と一緒に食べないかなーって思って。島田さんのこと、雄二達にも紹介したいって思ってさ」

「いいの……? ウチが行っても」

 

 少し不安そうな表情を浮かべながら島田さんが尋ねてくる。そんな彼女を安心させるように、僕は言った。

 

「大丈夫だよ! 島田さんと一緒にご飯食べたいなって思ったから!」

「そ、そうなの……?」

 

 前髪を弄りながら、照れた感じで島田さんは言う。あれ、なんかすごく可愛いぞ。

 

「あ……吉井。その、比企谷はいる……?」

「あー……」

 

 やっぱり島田さんが気にしてるのは八幡だよね。たしかに八幡とも一緒に食べたいなぁって思うし、それは島田さんも同じことなのだろう。だけど、昼休みになるとすぐ教室を出てしまうのでなかなか誘えない。でも、居る場所は分かってるから声だけかけてみようかな。そしたら島田さんも喜ぶと思うし。

 

「一応声かけてみるよ。そしたら島田さんは先に屋上行っててもらってもいいかな?」

「うん。分かった」

 

 さっきよりは元気になったかな……? 

 とりあえず島田さんには先に屋上に行ってもらうとして、僕は八幡を呼びに行かないと。

 

 

「八幡!」

 

 この前八幡が昼ご飯を食べていた所に行ってみると、やっぱりそこでご飯を食べていた。

 八幡は僕の声に気付いて……いない? 

 無視して黙々とご飯を食べ続けていた。

 あれ? 本当に聞こえてないのかな? 

 

「おーい、はちまーん。げんきー? きこえてるー?」

 

 八幡の前に立って、顔の前で手を振ってみる。

 

「……何してんのお前」

 

 不機嫌そうに、怪訝そうに、八幡は僕をジッと睨みつけて来た。

 

「いや、呼んだんだけど聞こえてなかったみたいだったから、大丈夫かなーって思って」

「あぁ、俺のこと呼んでたのね……」

「他に誰が居るのさ?」

「いるかもしれねぇだろ?」

「ここには八幡以外いないよ?」

「…………」

 

 八幡は僕とのやり取りを終わらせると、残りのパンを一気に口の中に詰め込んで、マックスコーヒーと共に飲み込んだ。

 そしてその場から立ち上がると、

 

「邪魔したな。それじゃ」

 

 と言って、その場から立ち去ろうとする。

 ……って! 

 

「ちょっと待ってよ八幡! 一緒にご飯どう? って誘おうと思ったんだよ!」

「……いや、俺たった今飯食べ終わったんだけど」

 

 あれ? 本当だ。

 それじゃあ昼ご飯一緒に食べられない? 

 

「せっかくだから一緒に話さない? 島田さんも八幡と話したがってるよ?」

 

 島田さんの名前を出した時の八幡は、少し目を鋭くさせた。

 何だろう、八幡の気を悪くするようなこと言ったかな? 

 

「……別に俺がいなくてもいいだろう。飯食い終わってるのに、食ってる奴らに混じって会話する意味も分からないし」

「ただ話をするだけでも面白いよ?」

「なら勝手にやっててくれ……」

 

 そう言うと、八幡はこれ以上話すことはないと言わんばかりにその場から立ち去ってしまった。

 うーん……一体どうしたら八幡と仲良くなれるんだろう? 

 

 



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第二問 バカとクラスメイトと悩み事(5)

 放課後になった。

 僕は帰って家でゲームをしようとして、

 

「吉井、ちょっといいか?」

 

 白衣を身に纏った教師――平塚先生に呼び止められた。

 

「どうかしましたか? 平塚先生」

 

 噂によると、最近また婚活パーティーに参加していたりとか聞いたことあるけど……。

 

「おい吉井。今何か失礼なこと考えてなかったか?」

「い、いえ、なんでもありませんよ!」

 

 え、ちょっと待って。

 この人心が読めちゃうの?

 怖すぎるんだけど!?

 

「まぁいい……ちょっと話したいことがあるから、職員室まで来てくれないか?」

「分かりました」

 

 しかし、今日は僕まだ何もしてない気がするんだけど……。

 とにかく呼び出されたからには仕方ない。平塚先生の後をついて、僕は職員室まで向かうこととなった。

 途中、今にも帰ろうとしている八幡に出会う。

 

「お、比企谷か。丁度いい」

「……どうかしましたか?」

 

 平塚先生に呼び止められた八幡は、少し不機嫌そうな表情を見せる。

 これから帰ろうっていう時に呼び止められたら誰だって同じような反応を見せるのかもしれないけど、八幡は本当に何も隠さないなぁ。

 

「吉井と比企谷に、ここ最近の学校での様子を聞こうと思ってな。ちょっと職員室まで来たまえ」

「なんで俺まで行かなきゃいけないんすか……」

「ほほう? この前の作文を余程この場で音読されたいようだな」

「いかせていただきます」

「よろしい」

 

 この前の作文って一体何のことだろう。

 なんだかよくわからないけど、僕と八幡は平塚先生に引き連れられて再び職員室まで向かうことに。

 

「ねぇ、八幡。作文って?」

「……前の授業で中学時代を振り返って、って作文があっただろ」

「あぁ、そういえば現代国語の時間でそんなことやった気がする。その時の作文がどうしたの?」

「……何も聞くな」

 

 それ以上は教えてくれなかった。

 そういえば僕、あの作文で書いた内容あまり覚えてないなぁ……何書いたんだっけ。

 と、そんなことを考えている内に気付けば職員室まで辿り着いていた。

 平塚先生は扉を開けると、そのまま職員室の奥にあるスペースまで歩みを進めた。

 面談スペースみたいになっているそこは、ガラスのテーブルを挟んで、長いテーブルが一つ、向かい側には一人用のソファが二つ並んでいた。

 僕と八幡はソファの方に通される。

 

「ん?」

 

 そのスペースに入った時に、僅かながらタバコの匂いが鼻から入ってくる。

 

「ここ、喫煙スペースですか?」

「あぁ。すまない、いいか?」

 

 どうやら八幡の言葉は正しかったみたいだ。

 平塚先生はポケットからタバコを取り出すと、それを見せて僕達に確認を取ってくる。僕も八幡も頷いた。

 平塚先生はタバコに火をつけて、それを口に咥える。

 何というか、美人さんがタバコを吸う姿って様になるなぁ。

 

「ところで、話したいことってなんでしょう?」

 

 僕は話を切り出した。

 すると平塚先生は、

 

「まずは吉井の方だが……最近色々とやらかしてるみたいだな。西村先生から私の所まで依頼が来るとは正直予想外だった」

「えぇ!? てつじ……西村先生から?」

 

 あっぶない。思わず鉄人って言いそうになっちゃったよ。

 ていうか八幡。何で軽蔑の眼差しでこっち見てきてるのさ。気付いてるからね?

 

「……まぁいい。今の言葉は聞かなかったことにしておこう」

 

 どうやら平塚先生にも気付かれてたみたいだ。

 

「で、吉井は近々、この学校での奉仕活動が命じられることになっている……西村先生直々のお言葉だ」

「ほうしかつどう?」

「……要はボランティアみたいなものだ」

「なるほどぉ!」

 

 八幡からのアシストで言葉の意味を理解した僕だったけど、それってつまり、雑用として先生に使われることを意味するのでは?

 

「そして比企谷。この前の授業での舐め腐った作文はどういうことだ?」

 

 矛先が八幡に向かった。

 ていうか、一体どんな作文を書いたら平塚先生に目をつけられるのだろうか。

 

「あれは中学時代を振り返った作文ですが?」

「それがどうしてリア充爆発しろに繋がるんだ……」

 

 いや本当に八幡はどんな作文書いたの?

 僕凄い気になるよ?

 僕ですらそんな犯行声明みたいな作文書かないよ?

 リア充爆発しろとは思うけど!

 

「ところで君達は同じクラスだったな……友人同士なのか?」

「そうです」

「違います」

 

 僕と八幡はほぼ同じタイミングで答えた筈なのに、まったく違う答えが返ってきた。

 おかしいな。八幡とは仲良くしてるっていう自信があったのに。

 

「……意見が対立しているようだが」

「俺はバカと友達になった覚えはありません」

「待って。バカって僕のこと?」

「他に誰が居るんだよ……」

「……悲しいが、西村先生から聞いている話と、授業でのお前の様子を見る限り否定しきれないぞ」

 

 そんな!

 平塚先生までそんなことを言うなんて!

 

「ともかくだ……このままでは吉井も比企谷も、社会に出た時に大変なのは目に見えている。そこで、明日もう一度、放課後に職員室に来たまえ。案内したい場所がある」

「案内したい場所ですか?」

 

 気になった僕は思わず尋ねる。

 平塚先生はタバコの火を消しながら、

 

「あぁ。その前に一つ確認したい……君達は部活動はやっているか?」

 

 放課後時間があるかどうかの確認かな?

 

「やってません」

「俺も特には……」

 

 八幡も部活には入っていないみたいだ。

 

「そうすると、放課後は二人とも時間があるな。暇だな?」

「なんかすごい念を押しますね……」

「そうでもしないと、吉井はともかく、君は逃げる可能性があるからな。今の内にその可能性を潰しておかないといけないと思ってな」

「部活動以外にも用事がある可能性を考慮してはもらえませんかね……」

「先に君の家に連絡して確認を取ることも出来るが?」

「そこまでしつこいからけっこ……」

 

 瞬間。

 八幡と僕の間に、平塚先生の拳が飛んできた。

 一瞬、何が起きているのか理解出来なかった程、平塚先生の動きは素早かった。

 

「何か言ったか?」

「……いえ、何も」

 

 諦めた八幡は、溜め息を吐きながらそう言った。

 いや、ちょっと待って、今のマジで怖かったよ?

 

「そしたら二人とも。明日再び放課後、職員室で待っているぞ」

「はい」

「うす」

 

 こうして、僕と八幡は明日もまた平塚先生の指示の元呼び出されることとなったのだった。

 

 

 そしてこれが、僕と八幡にとって、高校生活を変えるだろう転機になった出来事だった。

 

 

 

 

 

 




次回は八幡目線でのお話が始まります!


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第三問 そして、彼らは少女と出会う。(1)

第三問 【英語】
以下の問いに答えなさい。
「『The American West of the 19th century has been a favorite subject on which to build modern myths.』という英文を訳しなさい。

姫路瑞希の答え
「19世紀の西アメリカは近代の神話を作るのにかっこうな主題でした」

教師のコメント
正解です。並び替え等の問題で出されたときに『on which』をつなげられるかどうかもポイントです。

土屋康太の答え
「19番目のアメリカ人のウエストはモダンな私のフェーバリットなサブジェクトでした」

教師のコメント
せめて文章の構成を考えて書いてください。

戸部翔の答え
「19センチュリーのアメリカンウエストはマイスをモダンなフェーバリットでした」

教師のコメント
ほとんど英語そのままじゃないですか。



 世間は大型連休を前にして心が躍っていることだろう。教室においても何人もの学生達が予定について話し合っているのが聞こえてくる。ディスティニーランド行こうだの、ららぽで買い物しに行くだの、家でゲーム三昧だの。ん、最後の奴気が合いそうだな。

 とにかく、周りが大いにはしゃいでいる中、俺はというと気分が落ち込んでいく一方だった。

 理由は明確で、昨日平塚先生より突然の呼び出しを喰らい、本日の放課後に職員室へ行かなければならないからだ。しかも何故か吉井と共に。

 あぁ、早く帰って小町に癒されたいと思ったのに……やっぱり現実は糞ゲーだ。

 

「どうしたの? 比企谷。なんか元気ない?」

 

 隣の席である島田は、今も尚相変わらず話しかけてくる。

 あの時、島田が俺に対して『友達になりたい』と言ってきたのは、単に自分が助かったことによる一時的な物だと思っていた。だからこそ俺は、あの日関係をリセットしようと思った。勘違いを正そうと思ったからだ。

 しかし、それでも尚島田は俺に話しかけてくる。

 ぼっちの俺は、それだけで勘違いしそうになるが――理性がそれを抑え込む。

 やめろ、勘違いしてはいけない。比企谷八幡は孤高な存在だろう?

 よし、大丈夫だ。今日も落ち着いて生きていける。

 

「平塚先生から呼び出し喰らったんだ……吉井と一緒に」

「珍しいじゃない。吉井はともかく、比企谷も……?」

 

 最近、島田は日本語を猛勉強しているらしく、以前よりも流暢に話すことが出来るようになっていた。

 その為なのか、時々俺も島田の勉強を見る機会が出来ている。これは友達だからとかではない。頼まれたことは基本的に断らないのが流儀だ。本当なら仕事なんてしたくないのだが、依頼とあっては仕方ない。中途半端で放り投げるよりはマシだ。

 

「このまま社会に出ると大変なことになるから、奉仕活動しろとのことだ」

「……ごめん、ちょっと納得しちゃったかも」

「おいちょっと?」

 

 思わず声が漏れてしまった。

 まさか島田にも納得されるとは思っていなかっただけに、予想外だった。

 

「まぁそういうわけだ。ほれ、HR始まるみたいだぞ」

「ほら席に着け!」

 

 教室の扉が開かれて、そこから西村先生の声が聞こえてくる。

 教卓まで歩いてきたと思ったら、机の上に何故か大きな袋を置いた。中身は空っぽのようで、ぽさっという音が聞こえてきたような気がした。

 そして、一言。

 

「突然だが、抜き打ち荷物検査を始める!」

 

 なる程、あれは荷物検査して取り上げた物を入れる為の袋だったのか。

 西村先生の言葉を聞いて、他の生徒達はざわざわと騒ぎ出す。

 

「静かにしろ!」

 

 それを、西村先生の怒鳴り声が抑え込んだ。

 効果抜群かよ。

 

「順番に見て回るから全員鞄を開いて机の上に置け!」

 

 それを聞いて、机の上に鞄を置く教室中の人々。

 俺もそれに倣って机の上に置いた。別に見られて困るような物は入っていない。ラノベ位は別に問題ない筈だ。

 大体はそれで終わっているようだ。中には鞄の中に漫画とかが入っていて没収されている生徒もいるが、そんなに多くはない。

 

「坂本。お前はズボンのポケットの中身も出せ」

「くっ……」

 

 西村先生は坂本相手に、ズボンのポケットの中まで検めさせた。

 悔しそうに坂本がズボンのポケットに手を突っ込むと、そこから出てきたのはウォークマンだった。

 流石……生徒の動きを読んでいらっしゃる。

 

「っべー……まじっべーわ……」

 

 どこかからそんな、感心しているんだかバカにしてるんだかよくわからない呟きが聞こえてきた。

 っべー、まじ意味伝わってこなくてっべーわ……やめとこ。

 そうこうしている内に、西村先生は吉井の前に立ち、

 

「お前は制服を着替えてジャージになれ」

 

 よりによって全然信じていないアピールをしてきたのだった。

 

「ちょっと! なんで僕だけ着替えなきゃいけないんですか!?」

 

 これには流石の吉井もご立腹のようだ。

 机を叩き、勢いよく立ち上がった所で。

 カツン、と何かが床に落ちた音が響いた。

 

「おい明久。ヴィータ落としたぞ」

「あ、ありがとう雄二……少しは僕を信じてくれてもいいじゃないですか!」

「お前はジャージすら着るな……」

 

 いや、吉井。

 今の状態で何を信じろと言うんだ。

 当然、落としたゲーム機は没収。その他にも漫画本を数冊没収された模様。

 アイツ学校に何しに来てるんだよ……。

 

「これらの物については連休明けの帰りのHRまで預かることにする。勉学に関係ないものを持ち込むなど、本来ならば違反行為としてそのまま返さないこともあるからな。次から気を付けること!!」

 

 吉井と坂本の二人は明らかに悔しがっている。もう崩れ落ちていると言っても過言ではないな。

 ちなみに、土屋の持っているカメラは見逃されていた。あれは勉学に関係ない物ではないのか……?

 隣に居る島田についても、特に何も取り上げられていないようだ。

 いや、普通なら取り上げられることの方が珍しいのだが。

 

「それと、吉井と比企谷の二人は放課後平塚先生からの呼び出しがある。忘れるんじゃないぞ」

 

 くっそ。

 西村先生にもしっかりと伝えてたか……これで逃げ道は完全に防がれたというわけか。

 忘れてましたすみません、という作戦が通じなくなった瞬間である。

 

 




まさかの……UA数17000突破……っ
連載初めて一週間ちょっとですが、まさかここまで反響があるとは……。
これからも頑張っていきます!!
俺ガイルキャラも、バカテスキャラも、まだまだたくさん出てきますよ!


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第三問 そして、彼らは少女と出会う。(2)

 放課後。

 結局逃げ場をなくした俺は、吉井と一緒に職員室まで足を運んでいた。最早慣れているのだろう吉井の足取りは軽く、一方で俺の足取りは凄く重い。いや、呼び出しで足取り軽くてどうすんだよコイツ。

 

「一体何させられるんだろうね」

「さぁな……俺は早く帰りてぇ」

「まぁまぁそう言わずにさ」

「てか、なんでお前そんな元気なの……呼び出しくらってるのに」

「え? 何か楽しそうじゃん? それに今回は八幡も居るし」

「あっそ」

 

 大体今の会話で悟ったが、やはり吉井明久という人物はバカだ。あまり物事を深く考えられる人間ではなさそうだ。なのに、どうしてかコイツの生き方は別に窮屈に感じない。むしろ――。

 

「失礼します」

 

 余計な思考を断ち切る意味でも、俺は職員室の扉をノックして、すぐさま開いた。

 開いた先で待っていたのは、椅子に座って足を組んでいる平塚先生だった。

 こうしてみるとやはり様になっている。美人でかっこいいのに、どうして貰い手がないのだろうか。

 

「おい比企谷。今何か余計なことを考えなかったか?」

「滅相もございません」

 

 そういうとこだぞ。

 

「約束通り来たな」

「西村先生にまで根回しするなんて卑怯ですよ」

「そうでもしないと、吉井はともかく比企谷は来ないだろう?」

「……」

 

 本当、何処までも生徒の思考パターンを読んでくる人だ。確かに生徒指導を担当しているのも納得がいく。ちなみに、担任である西村先生も同じく生徒指導を担当しているが、こちらはどちらかというと教科関係での仕事が多いらしい。生活指導面は平塚先生が担当しているのだそうだ。

 同じ生徒指導でも、違うアプローチが存在するらしい。

 

「それじゃあ、行こうか」

「行くって、どちらへ?」

 

 吉井は首を傾げながら尋ねる。

 平塚先生は、椅子から立ち上がると、

 

「いけば分かる。とりあえずついてきたまえ」

 

 そう言って平塚先生は俺達の間を横切って、そのまま前を歩き始める。

 俺と吉井は一度目を合わせた後、先生の後をついていくことにした。

 

 

 普段なら絶対行かないだろう特別棟。

 音楽室や生物室、図書館等が建ち並ぶ場所だが、奉仕活動とは一体何をやらされることになるのだろう。

 しかし、平塚先生はそれらの教室をスルーして、さらに進んでいく。

 やがて辿り着いたのは、一つの教室だった。プレートには何も書かれておらず、何の教室なのかもわからない。

 

「ここ、ですか?」

「あぁ」

 

 吉井が尋ねると、先生はすぐさまがらりと扉を開けた。

 中に広がっているのは、元々は倉庫だったのかと思われる程の内装。隅の方に机や椅子が無造作に積み上げられたその教室の中に、一人の少女が椅子に座って本を読んでいた。

 俺は思わず見惚れてしまっていた。

 

「先生。入る時はノックを、とお願いしていた筈ですが」

「ノックしても君は返事をしないだろう?」

「返事をする間もなく先生が入ってくるだけです」

 

 俺達に気付いた少女は、読んでいた本に栞を挟んだ後で先生に抗議していた。

 俺は――というか、恐らくこの学校に通う生徒なら大抵は知っているだろう。

 雪ノ下雪乃。一年J組にいる彼女は、国際教養科に居る。普通科より偏差値が二~三高い学科であり、千葉県でも国際教養科がある学校は珍しいという。

 今年、一年J組に入った生徒の中で有名な生徒の内の一人が、雪ノ下雪乃である。他にも相当な学力を保持しているとして頭の良さが際立っている生徒がいるらしい。一人は当然国際教養科に居るらしいが、実はもう一人、普通科に居ながら相当の学力を保持している生徒がいるらしい。

 

「それで、そのぬぼーっとした人と、何も考えてなさそうな人は?」

「八幡、何も考えてなさそうって言われてるよ?」

「吉井、それお前のことだから。お前ぬぼーっとしてんの?」

「してないけど?」

 

 今自分で認めたよコイツ。

 それにしても、会っていきなり随分と辛辣な言葉が飛んできたものだ。

 

「比企谷に吉井だ。今日はちょっと部活見学ってことで来てもらった」

「一年F組、比企谷八幡です……って、部活見学?」

「同じく一年F組、吉井明久です。気軽にダーリンって呼んでください」

「呼ばないわよ……」

 

 早速と言うかなんというか、雪ノ下がこめかみに手を抑えながらボソッと呟いていた。

 初対面の人間相手に何故ダーリン呼びを推奨するのかコイツは。

 

「ここに居る二人はそれぞれ違う理由からではあるが、このまま過ごしていると社会的にまともに生きていけるか怪しいのでな……比企谷の方は、見ればわかると思うがなかなか根性が腐っている。吉井は、全教師が認めるバカだ」

「全教師にバカって思われてるんですか僕!?」

 

 見て分かる位に落ち込んでいる様子の吉井。

 何か、その情景が妙に鮮明に浮かんできそうだ。

 

「そこで私からの依頼だ、雪ノ下。比企谷の捻くれ孤独体質の更生と、吉井のバカさ加減を何とかして欲しい」

「それなら、先生が躾れば解決だと思うのですが」

 

 俺の件はともかく、吉井に関しては教師がアプローチかければそれで解決する話だと思うのは同意する。

 しかし先生は、

 

「西村先生が手を焼いているレベルだ。この意味が雪ノ下には分かるか?」

「それ、つまりは諦めの境地に達しているということになりますね?」

「待って。僕諦められてるの?」

 

 間接的に吉井がいじめられていた。

 

「それに雪ノ下。まさかとは思うが君ともあろう生徒が、あっさりと手放す選択をするわけはあるまい? 逃げるのは君にとって美徳ではないだろう」

「……そうですね」

 

 どうやら雪ノ下は勝負事に勝つことに拘り、逃げることを嫌う傾向にあるらしい。

 先生はそのあたりをよく理解しているのか、雪ノ下のことを挑発していた。

 

「そういうわけだ二人とも。ここで少し雪ノ下と話していくといい。今日については強制だが、明日以降については強制しない。自分達で考え、行動し、その上で決めることだ……機会は与えたからな?」

 

 そう告げると、先生は教室を後にする。

 残ったのは、椅子に座っている雪ノ下に、突っ立っている男二人のみとなった。

 

 




さて、今回の話については少し解説が入ります。
原作だと有無も言わさず強制入部という流れでしたが、今回は部活見学に留めております。
西村先生が関わっていることもそうですが、何より彼らはまだ一年生ですからね……そもそも奉仕部自体は一年の頃から存在していたのか分からないですが(記憶違いでなければ、原作でもアニメでも特に言及はされてなかった気がする)、この作品では一年の頃から奉仕部は存在していることにします。
さて、選択の猶予が与えられた上、原作よりも若干マイルドになっている雪ノ下……一体この先どうなっていくのか、お楽しみに!


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第三問 そして、彼らは少女と出会う。(3)

「とりあえず、二人とも座ったら?」

 

 しばらくその場に突っ立っていると、雪ノ下から着席の御達しがきた。

 

「お、おう……」

 

 俺はその辺にある椅子を引っ張り出して椅子に座ろうとして、

 

「……いや、何やってんの?」

 

 地べたに座り込んだ吉井の顔を思わずまじまじと見てしまった。

 

「へ? いやだって、雪ノ下さんが座ったらって言ったから座っただけだよ?」

「普通に椅子使えよ……」

「あ、それもそうだね」

 

 吉井は座れと言われたら地面に座ってしまうような環境で過ごしてきたのだろうか。実はとんでもなく劣悪な環境で過ごしてきたとかないよね? 

 ふと前を見ると、雪ノ下も何か可哀想な物を見る目で吉井のことを眺めていた。悩ましいのかこめかみの部分を抑えている。今ならこいつと分かり合えるかもしれない。

 俺の言葉を受けた吉井は、近くにある椅子の山から適当に一つ取り出して、俺の隣に置いた。

 

「……え、何?」

 

 あまりにも当然すぎる行動に、俺は思わず椅子ごと少し横にずれてしまった。

 すると吉井は、

 

「へ? 八幡の隣に座っただけだよ?」

「他にも場所あんだろ……別に俺の隣じゃなくとも……」

「んー、それもそうだね」

 

 と言いつつ、先ほどよりも距離をとって、それでも俺の隣であることは譲らなかった。

 そんな様子を見た雪ノ下が一言。

 

「貴方達は一体どんな関係なの……?」

「ただのクラスメイトだ」

「友達だよ?」

 

 ほぼ同タイミングで、俺と吉井は全く違うことを言った。だからいつ誰が友達になったんだっての。そんな記憶はない。

 

「そう……」

 

 それ以降興味をなくしたのか、雪ノ下は深く聞くことはなかった。

 代わりに、

 

「あの、雪ノ下さん? ここって一体どんな部活なの?」

 

 恐らく俺と吉井が一番気になっていることを尋ねた。

 確かに、俺達は先生から何の説明も受けずにここまで来た。よって、俺達がこれから何をするのかは皆目検討がつかない状態だ。それなら当の本人に聞いてしまった方が早い。

 雪ノ下は読んでいた本を閉じ、

 

「……そうね。ではここが何部か当てるゲームでもしましょうか」

 

 何やらそんなことを言ってきた。

 なる程、ただ単に教えるつもりはないと言うわけね。

 

「他に部員はいないのか?」

「いないわ」

「え、それって本当に部活なの?」

 

 吉井がほぼ条件反射的にツッコミを入れていた。

 確かに一人だけの部活なんて異例中の異例だろう。

 だが、ここまで条件が揃ってくれたならば答えは自ずと見えてくるだろう。

 

「文芸部か?」

「その根拠は?」

「この教室がそこまで整理しておらず、部員が少なくても活動が出来、更にお前は一人読書をしている。以上の条件から文芸部と推察したが、どうなんだ?」

 

 さて、雪ノ下からの返答はと言うと。

 

「はずれ」

 

 ひらがな三文字による不正解宣告だった。

 

「それじゃあ……ぼっち部?」

「そんな部活は存在しないわ……あと私はぼっちじゃないわ」

 

 先程から吉井の発言に対してこめかみを抑える回数が増えてきている雪ノ下。

 いや、まぁ、うん……多少同情はする。

 

「降参だ。ここは一体何部なんだ」

 

 実質、もう俺も吉井も答えを用意できる状態にない。

 故に雪ノ下から答えを聞くしかなかった。

 雪ノ下は、俺達に向かって宣言した。

 

「ようこそ、奉仕部へ。歓迎するわ」

「「奉仕部?」」

 

 名前を聞いた所で、余計に何をする部活か分からなくなる。

 と、ここで吉井が一言。

 

「え、つまり雪ノ下さんがご奉仕するの!?」

「「……」」

 

 このバカは一体何を考えているのだろう。

 

「……比企谷君。この人は一体どんな生き方をしたらここまで愚かになるのか分からないわ」

「俺もたった今、吉井のことが心配になった所だ……」

「二人ともそれどういうこと?!」

 

 本当にコイツは入学試験を通ってきたのだろうかと心配になってくるバカさ加減だった。

 

「迷いし子羊を、善き羊飼いが救済する為の部活……常に結果を与え続けず、方法を教えてあげる。奉仕部というのはそういう部活よ」

「要は解決方法を提示するから後は自分で頑張れってことね」

「そういうことよ」

 

 さらに雪ノ下はこうも続ける。

 

「平塚先生からは、優れた人間は哀れな者を救う義務があると言われたわ」

「なる程。是非吉井を救ってやってくれ」

「なる程。是非八幡を救ってあげて」

 

 どうやらお互いをお互いに、哀れな者と認識しているようだ。

 

「私からしてみれば二人とも哀れな人間よ……」

 

 こめかみを抑えながら雪ノ下は言った。

 

「さて、平塚先生からの依頼は……比企谷君の捻くれ孤独体質の更生と、吉井君のバカさ加減を何とかすること、だったわね……とりあえず吉井君についてはGW明けまでに中間試験の範囲の問題を一通り終わらせなさい。その結果を次回持ってきて見せること」

「いきなり塾の先生みたいなこと言い出したよ!?」

 

 実際、それが定期的に行うことが出来れば吉井のバカさ加減は何とかなるのかもしれない。

 ある意味的確で、かつ、自身が行うことはほとんどない。

 この部活の理念に合ってるわけね。

 

「そして比企谷君の方だけど……貴方、こうして女子と話したのは何年振りかしら?」

「……待て、何年ぶりじゃねえ。ついさっきクラスメイトと会話してきたばかりだ」

 

 すると雪ノ下は、まるで可哀想な物を見る目をしながら、

 

「……可哀想に。頭の中にいるイマジナリ―フレンドとの会話を、『女子との会話』と称するなんて」

「おいそれあまりにも失礼過ぎるぞ」

 

 俺が女子と会話するのはそんなに想像つかないことですかね……俺も想像つかないわ。

 

「雪ノ下さん。八幡は隣に座っている島田さんと今朝話してたよ?」

「……島田さんって、島田美波さんのことね」

「え、知ってんの?」

 

 まさか名前を言い当ててくるとは思ってなかっただけに、少し俺は驚いた。

 

「えぇ。私、学年全員の顔と名前は覚えているわ」

「その割に俺と吉井のことは知らなかったよな……」

 

 深く聞いてはいけない気がした。

 

「それにしても、島田さんって確か帰国子女でクラスに馴染めていないって話だったけれど……まさか貴方がその手助けをしていたなんて……」

「……本当にお前、何でも知ってるんだな」

「……何を言っているのかしら、この男は」

 

 どうやら委員長ネタは通用しなかったようだ。

 いや、逆に通用してたらびっくりするが。

 

「ところで……さっきから更生するとか言ってるが、俺はそんなの別に求めていない」

「……変わらなければ社会的に生きていけないと言われているのに?」

「変わるだの、変われだの、他人に俺の『自分』を語られたくないんだっつの。人に言われた位で変われてしまうのなら、それは最早『自分』じゃない」

「貴方のそれは、ただ単に逃げてるだけよ」

「逃げて何が悪いんだよ。変わるっていうのは、現状からの逃げだ。本当に逃げないのなら、変わらないで立ち止まる方がよっぽどいいに決まっている」

「……それじゃあ悩みは解決しないし、誰も救われない」

「……」

 

 雪ノ下の目が変わった気がした。

 なんとなく、その言葉に重みがあったように思える。

 いきなりこんな所に呼び出されて、勝手に人のこと見定められて、面倒臭いことに巻き込まれて。

 先生も、雪ノ下も、一体何がしたいというのだろうか。

 

「ちょ、ちょっと二人とも! とりあえず一旦落ち着いて……」

 

 吉井が俺と雪ノ下の間に割って入ろうとした、その時だった。

 

「奉仕部という部活は、ここであっておりますの?」

 

 いかにも御嬢様口調をした縦ロールツインテールの女子生徒が、扉を開けて入ってきた。

 

 




ヒロイン登場かと思いきや、次回はバカテスからあのキャラが登場です!!
……いや、どうしてこんな展開になったのか、自分でも分からないんです(白目
そしてお知らせです!

祝!お気に入り登録数250突破!!
祝!UA数21000突破!!

本当にありがとうございます!!
これからも頑張って書いていきます!!


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第三問 そして、彼らは少女と出会う。(4)

「うわ……なんでこんなところに男も混じっていますの……」

 

 突然訪れた女子生徒によって一度議論は打ち切られたわけなのだが、その代わりに新たなる波乱が舞い込んできたようだ。俺と吉井の姿を見るなり、いきなり汚物を見るような目を向けてきた。いやそんなに汚らわしいですかね? 俺も吉井も普通の身なりをしている筈だけど? 何なの? 男見るだけで吐き気を催すのん?

 

「確か……一年D組の清水美春さん、だったかしら?」

「流石は雪ノ下お姉様!」

「「お姉様??」」

 

 男子と女子――とりわけ、雪ノ下の前では随分と態度が異なる女子生徒――清水美春。

 いやまぁ別に態度を分けること自体はいいんだけど、お姉様って何? いきなりゆるゆり乗り越えて禁断な百合の世界へ突入するのん?

 

「もしかして雪ノ下さんって……そういう趣味あったの?」

「違うに決まってるじゃない……」

 

 吉井の質問に対して、当然雪ノ下は否定する。もしそういう趣味が本当にあるのだとしたら、それはそれでかなり驚いている所だ。実際あるとは微塵も思っていないが。

 

「美人でスラッとしていて、とても頼りがいのあるお方……ですけど、私には心に決めた方が……っ」

「心に決めた方?」

 

 うっとりしながら清水が呟く。

 それに対して吉井が聞いている感じ、なのだが。

 

「五月蠅いですわね。雪ノ下お姉様との貴重な時間を、汚い猿に邪魔されたくないのですわ。話しかけないでくださいます?」

「いきなり流石に酷過ぎない!?」

 

 あまりにも残酷な拒絶発言をされていた。

 いや、何処まで男を毛嫌いしているのこの人。

 怖いから話しかけないでおこう……。

 

「最近、私の中で気になるお方がおりますの。けど、その方はどうもクラスに馴染めていなかったようで……私は違うクラスだからなかなかお話する機会もなかったものでしたから、どうすることも出来なくて……だから、せめてその方の名前だけでも聞けたなら、話しかけられると思って……」

「クラスに馴染めていない……」

 

 雪ノ下がポツリと呟く。恐らく何かしらに気付いているのだろう。

 俺の方も、清水の言葉ではっきりと気付いている。

 もしかしなくても、俺や吉井についてはまさしくタイムリーな人物なのではないだろうか。

 

「その方はもしかして、ポニーテールに髪をまとめているのではないかしら?」

「そう! そうですわ!!」

 

 雪ノ下に話しかけてもらえていることと、その人物を言い当ててもらえたことがこれほどまでに嬉しいのか、清水の目が思い切り輝いている。本当に嬉しいことが重なると、人というのはここまで輝けるものなのだろうか。俺には恐らく一生分からない気持ちなのだろうが。

 

「……比企谷君。後はお願いしてもいいかしら」

「おい何さり気なく俺に押し付けようとしてるんだ」

 

 雪ノ下がこめかみを抑えつつ、俺の方に思い切り話をぶん投げてきた。

 ちょっと待て。コイツの相手を俺がするの?

 黙っていろと言われた吉井なんて、ご丁寧に約束を守っているのかさっきから発言をしようともしてないのに?

 しかも清水の方は、露骨に嫌そうな表情を浮かべているんだが。

 

「……えっと、そ、ソイツに関しては……」

「何かどもっているの気持ち悪いですわ。流石は男……汚らわしい」

 

 一瞬にして俺の中での清水の評価が下がった瞬間だった。

 いや、確かにどもったけれども、そこまで言う必要なくない?

 

「……ソイツは俺のクラスにいる島田美波って生徒だ」

「なんでアンタがお姉様の名前を知っているんですの?」

「同じクラスだっつったろ……」

 

 話を聞いていないの?

 男の話を聞こうともしない問題児なの?

 

「貴女が知りたがっているのは、島田さんのことでしょう? ならばこの男に聞くのが一番いいと思ったのよ」

「雪ノ下お姉様のお言葉でも、流石に聞けませんわ……私に、男子と会話しろと申しますの?」

 

 本当に男子と話すのが嫌いなのか、清水はこれでもかという程嫌そうな表情を向けている。嫌悪感を隠そうともしていなかった。

 対する雪ノ下は、こめかみを抑えながら、

 

「……分かったわ。一応名前は教えたし、クラスもF組だから、これで貴女は行動を起こせるわね?」

 

 と、いよいよ相談終了の流れに持って行こうとしていた。

 

「ありがとうございます! とても参考になりましたわ!!」

 

 清水はそのまま目を輝かせ、その場を後にしようとする。

 しかし、扉の前に立った後で、

 

「……そこの、目が腐った男」

「は?」

 

 何故か、俺を指名してきた。

 

「な、なに?」

「今までの話をまとめるに、貴方はお姉様と同じクラスなのですわよね?」

「……あぁ、そこに居る吉井も含めてな」

 

 自分を指差しながら『え、僕?』って顔をしている吉井。

 清水は俺と吉井を見比べながら、

 

「言っておきますけど、お姉様に何か手出しをしたら……分かっておりますわよね?」

 

 と、思い切り威嚇してきた。

 

「いや、まぁ。別に隣の席ってだけだし……」

「はぁ!?」

 

 しまった。

 つい、言わなくてもいい情報まで渡してしまった……。

 清水の目に、怒りの炎が宿ったような気がした。

 

「アンタのような猿人類が隣ではお姉様が可哀想ですわ!! いいですこと? 私のお姉様に対する愛は『本物』なんですのよ!! 汚らわしい下心満載な目でお姉様に対してちょっかいかけて欲しくありませんから、近寄らないで頂けないかしら!?」

 

 本物、か。

 何故かその言葉に惹かれるものを感じていた。

 恐らく、清水の気持ちは本物なのだろう。多分島田に対する愛は、他の人から見たら明らかに強すぎる物だし、実際危険な思想が絡んでいそうなことに違いはない。社会に出た時に問題があるのは俺ではなくコイツなのではないかと思ってしまう程のものだ。

 しかし、誰かを想う気持ちについて、誰よりも島田のことを想うのだろう。まだ知り合っても居なくて、気になっているだけなのかもしれないが、不思議と揺さぶられる何かを感じた。

 ――清水美春という女子生徒が、一瞬眩しく映った。

 

「俺の方からは何もしねぇよ……」

 

 実際、俺の方から何かしたことはない。

 むしろ島田の方から話しかけてくることの方が多いのだが、その場合どうしたらよいのだろうか。

 

「分かりましたわ……今の言葉、忘れないでくださいませ」

 

 そう言い残すと、今度こそ清水は部室を後にした。

 というか、なんで俺目つけられてるの。

 

「……今日はもう終わりにしましょう。明日からくるかどうかについては、貴方達に任せるわ。部活見学ということで、平塚先生に連れて来られたのでしょう?」

 

 疲れたような表情を浮かべつつ、雪ノ下が尋ねてくる。

 

「そうだな……」

 

 その提案はとてもありがたい物だった。

 正直、こんなに面倒なことが続くのだとしたら、明日から来なくてもいいと言われたら喜んで行かないまであった。来るか来ないかを咎められないのであれば、行かないに決まっている。面倒なことに無理に足を伸ばす必要はないのだから。

 だと言うのに、何処か後ろ髪を引かれるような思いが残った。

 

「……後、吉井君。もう喋っていいわよ」

「ぷはっ」

 

 雪ノ下の言葉を聞いた吉井が、息を漏らしていた。

 コイツ、まさか息を止めていたわけじゃあるまい?

 

 




と言う訳で、問題児の話はこれにて終了です。
次回は帰り道でのお話になりそうです。


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第三問 そして、彼らは少女と出会う。(5)

 帰り道。

 雪ノ下は部室の鍵を職員室に返しに行くということで、下駄箱までの道のりを吉井と二人で歩くことになった。とはいえ、俺の方から吉井に話すことはないのだけれど……。

 

「さっきの清水さん、凄い人だったね……」

 

 逆に吉井の方から話しかけてきた。

 

「まぁ、そ、そうだな」

 

 あの時の清水は、真に迫る何かを感じられた。正直、島田に対する愛が本物であるだけに、こちらから言えることは何もない。と言うより、何もしたくない、というのが正しいかもしれない。

 実際、雪ノ下に話を振られなければ、俺はあのまま会話に参加しようとは思わなかった位だ。

 

「でも、あれだけ誰かを想うことが出来るのも、凄いことかもしれないね」

「……そうだな」

 

 どんな形であれ、清水のそれはまさしく『本物』。

 世間的にはなかなか認められないものかもしれないが、それでも純粋に、誰かのことを想って行動出来るその勇気は褒め称えられるべきものなのかもしれない。

 世間体や、立ち位置、そしてファッションで決めているわけではない。常に全力。

 もし、これだけ本気で誰かを想うことが出来るのだとすれば――そして、これだけ相手を信じて行動することが出来ていたとすれば、あの時間違えることはなかったのだろうか。

 いや、それは過ぎた話だ。今更過去を振り返ったところでどうにもなりやしない。

 それに、勘違いをしてはいけないと悟った筈だ。

 

「八幡? どうかしたの?」

 

 そんな時、隣に居た吉井が少し心配そうな表情を見せながら俺に話しかけてきた。

 

「……なんでもない」

「そっか。それならいいんだけど」

 

 俺の言葉を聞いて安心したのか、吉井は笑顔を見せてくる。

 コイツは本当に一体、何なのだろう。

 恐らく今まで生きてきた中で会ったことのないタイプの人間であることは間違いないだろう。それに加えて、トップクラスのバカであることも揺るぎない。

 それ故なのか、何処までも真っ直ぐで、単純で。

 きっと俺とは反対に位置する人間なのだろう。

 

「ねぇ八幡。明日はどうするの?」

「明日?」

 

 吉井から来た質問の意味を最初は理解することが出来なかったが、すぐに『奉仕部』のことだと理解する。

 

「自由参加ってんなら、俺は別に行こうとは思わない。部活動に勤しむ時間があるのなら、家に帰って勉強し、テレビを利用して社会勉強をした(アニメを見る)方がいいに決まっている。授業を受けた上でさらにサービス残業をしなければならないなんて地獄以外の何物でもない。よって俺は明日は参加しない」

「そっか……僕も毎日ってわけにはいかないけど、明日は行こうかなーって思ってたんだけど……」

「……ん?」

 

 何か、吉井との会話が若干すれ違った気がする。

 俺と吉井の間で、明確な認識のずれがある?

 

「なぁ吉井。今話しているのって、奉仕部のことだよな?」

「そうだよ? 明日は行けないって話でしょ?」

「……明日から行かないって話なんだが」

「え? だって奉仕部に入部したんじゃないの?」

 

 ちょっと待て。

 いつ俺が奉仕部に入部した?

 何言ってるんだこいつって顔を見せてくるけど、それは俺の台詞だ。

 

「入部しただなんて一言も言ってないぞ!?」

「そうなの? けどさ八幡……今日、楽しかったでしょ?」

 

 曇り一つない笑顔で、吉井は尋ねてきた。

 あの状況が楽しい、だと?

 初対面の女子に罵倒され、いきなり訪問者の相手をさせられて、あれだけ面倒な状況が楽しい、と?

 そんなわけがない。

 あんな面倒なことは御免だ。

 もう来なくていいと言われたならば、喜んで行かないまである。

 だと言うのに、俺はすぐにそれを否定することが出来なかった。

 

「……さぁ、な」

 

 だから俺は、答えることが出来なかった。

 正直今の気持ちは俺にも分からない。

 この気持ちの正体を、俺は掴むことが出来ないでいた。

 

「僕はさ、色々あったけど……楽しかったよ?」

「……そうか」

 

 何処までも真っ直ぐで、単純で。

 そんな純粋な笑顔で吉井は言う。

 

「だからさ八幡。また行こうね?」

「……気が向いたらな」

 

 吉井からの言葉を避ける為にも、俺はそう答えることにした。

 そうこうしている内に下駄箱まで辿り着く。

 俺は自転車通学である為、駐輪場まで向かうことにした、のだが。

 

「……吉井も自転車通学なのか?」

 

 何故か吉井も一緒に着いてきていた。

 

「え? 違うけど?」

「ならなんでこっち来てる?」

「八幡と一緒に帰るからだけど?」

 

 え、一緒に帰る約束なんてしたっけか?

 

「途中までは帰り道一緒だし、せっかくだから一緒に帰ろうよ?」

 

 さも当然のように提案してくる吉井。

 

「あ、そ、そう……」

 

 思わずどもってしまう俺。

 吉井はその言葉を肯定と受け取ったのか、俺の横を着いてくる。

 何だろう、この感じ。

 

「そういえば八幡って、GWは何するの?」

 

 校門を抜けた後で、吉井が尋ねてくる。

 もうすぐGWだ。家から一歩も出なくて済む十日間が待っている。

 正直待ち遠しい。働かなくていい上に、家には小町が待っている。これほどまでに幸せな十日間はないだろう。

 

「家に居る。ゲームする。本を読む。妹と遊ぶ。以上」

「八幡って妹居たの!?」

 

 わざとらしく驚く吉井。

 そう言えば妹がいるって言うのをこの学校の奴に言ったのは初めてのことだ。

 

「あぁ。天使だ」

「秀吉とか彩加みたいな?!」

「秀吉……? 彩加……?」

 

 吉井の口から聞き慣れない単語が飛んでくる。

 それに対して吉井は、

 

「二人ともクラスメイトだよ!? しかも凄い可愛いんだよ!?」

「そ、そうなのか……」

 

 ここまで吉井が必死になるということは、よっぽど可愛いのだろう。

 だが、小町には勝てまい。

 

「明日紹介するよ! あ、その時に由比ヶ浜さんも紹介するね!」

「べ、別に、いい、けど……」

 

 そう言えば先日、吉井からそんなことを言われた気がした。

 由比ヶ浜……後から知ったが、どうやらクラスメイトである由比ヶ浜結衣。

 特に知り合いというわけでもないし、きっかけなんて俺は知らないのに、何故か仲良くなりたいと言っている女子生徒。一体何をしたというのか分からない。

 ――あぁ、何というか、俺は疑っているのかもしれない。

 

「そうだ八幡! GW暇だったら……」

「暇じゃない」

「さっきの話じゃ暇でしかないと思うんだけど?! ……って、そうじゃなくて! もしよければ、雄二達と家でゲームする日があるんだけど、一緒にやらない?」

 

 なる程。

 雄二――ということは坂本か。

 そう言えば吉井は坂本とも仲がいいんだったな。

 何というか、コイツは交友関係が広い。

 

「……気が向いたら」

「そっか。それじゃあ八幡、何かあったら連絡したいし、連絡先交換しようよ」

「へ?」

 

 マジで?

 流れるように連絡先交換しに来たよこの人?

 

「どうしたの?」

 

 キョトンとしている吉井。

 特に断る理由もないが、登録の仕方がいまいちわからない為、

 

「分かった……じゃあやっといてくれ」

「へ? うわっと!」

 

 吉井に対して携帯電話を投げた。

 

「えっと、登録登録……って、本当に八幡、アドレス帳の登録数が……」

「うっせぇ」

 

 ただの目覚ましでしかなかった俺の携帯に、吉井の連絡先が加わった。

 恐らく加わっただけで使われることはないのだろうが、別に構わないだろう。

 

「じゃあ八幡、日時とか決まったらまた連絡するからね!」

「……分かった」

 

 送られる分には構わない。

 別に行くも行かないも俺の勝手なのだから、来た時に気付かなかったことにすれば何も問題ないだろう。

 と、そんなことを考えていた、その時だった。

 

「ん……?」

 

 吉井が何かに気付いて立ち止まる。

 そこにあったのは、とあるぬいぐるみ屋。

 扉が開かれていて、中の声が聞こえてくる。

 

「葉月、一生のお願いです! あのノインちゃんが欲しいんですっ!!」

 

 小学生くらいの女の子が、店員に対して必死に懇願している姿がそこにあった。

 

「八幡、行くよ!」

「え、ま、まじ?」

 

 何故か吉井は店の中へと入っていく。

 俺も慌てて自転車を止めて、中へと入っていった。

 

 ――何故か今日は、全然家に着きそうにない。

 

 




これにて、第三問は終了となります。
次回は明久目線での葉月回です!
ただし、今回は八幡が登場していたり、奉仕部があったりとで、原作とは違う展開が予想されます。
当作品は、あくまで原作ネタを用いたオリジナルストーリーです。
お楽しみに!

また、お気に入り登録数が290突破し、UA数は25000を突破しました!
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投票してくださった方、誤字指摘してくださった方、ありがとうございます!

これからもよろしくお願いします!


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第四問 バカと依頼と小学生(1)

【第四問】 物理

以下の問いに答えなさい。
「ドップラー効果について説明しなさい」

葉山隼人の答え
「音波や光波や電波などの発生源と観測者との相対的な速度によって、波の周波数が異なって観測される現象のこと。救急車のサイレンなどがその例」

教師のコメント
具体例まで書いてくれるとは、おみごとです。意外にも知られていないことなのですが、ドップラー効果というのは音だけでなく光にもあるのですが、そこも抑えるとは……。

土屋康太の答え
「女性の下着が大量に出現すること」

教師のコメント
ブラジャーは出現しません。

吉井明久の答え
「自分と瓜二つの顔の人と出くわすと……」

教師のコメント
ドッペルゲンガーとは関係ありません。



 八幡との帰り途中、ぬいぐるみ屋に居る女の子が少し気になった僕は、八幡と一緒に店の中に入ることにした。そこには、小学生くらいの女の子が、店員さんに涙目で懇願している姿があった。

 八幡は僕の後ろを少しばかり離れながら歩いている。

 

「あのー、どうかしたんですか?」

 

 僕は店員さんに尋ねた。

 すると、店員さんは頭を掻きながら答えてくれた。

 

「いやぁ、この女の子がね? あそこにあるぬいぐるみがどうしても欲しいって言うんだけど……お金が足りなくてね……」

 

 そう言いながら、ある一つのぬいぐるみを指差した。

 そこにあったのは大きな狐の形をしたぬいぐるみ。

 女の子はそのぬいぐるみを見ながら、ずっと涙を堪えている。

 なんだか力になってあげたい。

 

「ねぇ、どうしてそんなにぬいぐるみが欲しいの?」

 

 僕は女の子に尋ねる。

 すると女の子は、

 

「最近、葉月のお姉ちゃん元気がないです……」

「お姉ちゃん?」

「はいです……前、お姉ちゃんがあのぬいぐるみを欲しがってて……だから……」

 

 その目からは、もう涙がこぼれてしまっていた。

 この子はきっと、プレゼントをすることでお姉ちゃんを元気づけたかったのだろう。とても優しい女の子なんだなってことが分かった。

 

「きっと、引っ越してきたばかりで学校が大変なんです……なのにお姉ちゃん……おそうじとか……お洗濯とかも……葉月とも遊んでくれて……っ」

 

 うわぁ!

 凄い勢いで泣き出しちゃった!

 ど、どうしよう!?

 

「……ふぇ?」

 

 その時、僕の後ろに居た八幡が、女の子の頭の上に手を置いて、優しく撫でたのだ。

 

「泣くなって……ほら、これで涙拭け……」

「はい、です……っ」

 

 ポケットから取り出したハンカチを、女の子に渡した八幡。

 何だろう、八幡が言っていたことは本当だったんだなぁって実感した。

 今のはまさしく、兄が妹に対して行うそれだったからだ。

 

「八幡って、本当にお兄さんなんだね」

「た、たまたまだ……」

 

 照れているのか分からないけど、八幡は目線を合わせようとはしなかった。

 

「八幡の言う通りだよ。泣かないで。お兄ちゃん達が何とかするから」

「本当ですか!?」

 

 そう言うと、女の子――葉月ちゃんは、満面の笑みを見せてくれた。

 うん、やっぱり可愛い女の子は笑っていた方がいいよね!

 

「吉井、お前本当にあのぬいぐるみ買うのか……?」

「へ?」

 

 八幡がぬいぐるみの方に近づき、僕に改めて確認を取ってくる。

 どうしてそんなに念を押して聞いてくるのだろう。

 気になった僕は、店員さんにも確認を取ってみた。

 

「あの、あのぬいぐるみっていくらするんですか?」

「二万五千円です」

 

 うん、無理ぃ。

 

「御免、お兄ちゃん頑張ったけど無理だったよ……」

「何を頑張ったんだよ……」

 

 八幡が呆れた感じで言ってきた。

 いや、だって、二万五千円だよ?

 どう頑張ったって今の僕には無理な金額なんだよ?

 

「で、でも! 葉月一万円なら持ってるです!」

 

 そう言って、葉月ちゃんは首からぶら下げている財布の中から一万円札を取り出す。

 と言うことはつまり、僕が今持っている全財産が千円だから、合計して一万千円……。

 

「店員さん、ここに一万千円ありますから、二万五千円の大体半分ですよね? つまり、その人形の大体半分だけ買うというのは……」

「おい、ちょっと、何言ってんの。計算おかしいだろ?」

 

 八幡に止められてしまった。

 

「……とりあえず、一旦予約という形を取ってもいいですか? 買うか買わないか、それからでも遅くないと思うので」

「そういうことであれば構いませんが……」

 

 いつの間にか八幡が店員さんにそう約束を交わしていた。

 そっか、予約しておけば何とかなるかもしれないし!

 

「GW中であれば構いませんよ。けど、それを過ぎたら他にも買いたいって人が出てくるかもしれないので……」

「はい、です……」

 

 確かに、流石にいつまでも商品を置いておくわけにもいかない。

 他にも買いたい人はいる筈だから、それまでに何とかしないと。

 葉月ちゃんの為にも、何とかしてこのぬいぐるみを買わせてあげたい。

 

「……ほれ、行くぞ」

 

 八幡の言う通り、とりあえず今はこの場を後にする他なかった。

 

 

 少し離れた公園で、僕と八幡、そして葉月ちゃんの三人は話をしていた。

 期限はGWまで。それまでに何とか出来なかったら……。

 ん、ちょっと待って?

 

「八幡。これって依頼ってことにならないかな?」

「依頼……? それって、まさか……」

 

 八幡はあからさまに嫌そうな表情を浮かべているけど、僕は今だからこそあの場所を活用するべきなんじゃないかなって思う。

 

「奉仕部だよ! こういう時こそ、雪ノ下さんに相談してみるのがいいんじゃないかなって!」

「……マジか」

「マジだよ! だから八幡、明日も奉仕部に行こうね!」

「なんで俺まで……」

 

 八幡も一緒に居てくれた方がいいアイデアが浮かぶかもしれないし、何より部活見学中であるのなら行く理由になると思う。何もしないよりも、何かした方が絶対にいい筈なんだ!

 

「葉月ちゃん、お兄ちゃん達が何とかしてみるからさ、明日もまたここで待ち合わせしよっか?」

「はいですっ!」

 

 もしかしたら、きっと何とかなるかもしれない。

 葉月ちゃんは笑顔で僕達に答えたのだった。

 

「ところで、葉月ちゃんのお家ってここから近いの?」

「はい! 少し歩いた所にあるです!」

「そっか。それじゃあ安心だね」

 

 もしもう少し遠い所にあるのだとしたら、遅い時間になっちゃったし送った方がいいかなって思ったけど、近いのなら安心出来る。

 僕は葉月ちゃんに大体の時間を伝えると、

 

「また明日ね!」

「はいです! バカなお兄ちゃん、優しいお兄ちゃん!」

 

 ニコニコと笑顔を振りまきながら、手を振ってくれた。

 そうして葉月ちゃんが帰る所を見送っていると、

 

「お前……本当色んな意味で凄いな」

 

 と、八幡が妙に感心したように言ってきた。

 

「八幡こそ、バカなお兄ちゃんって言われてたよ?」

「それ絶対お前のことだからな……いや、でも優しいお兄ちゃんってのもおかしいな……」

 

 なんとなく僕が『バカなお兄ちゃん』って言われているような気はしたけど、八幡のことを『優しいお兄ちゃん』って言うのは間違ってないと思う。

 きっと八幡は、自分が思っているよりもよっぽど優しいんだろうなぁって僕は思っている。

 だって、葉月ちゃんにやった通りのことを妹さんにもやっているのだとしたら、それって絶対嬉しいことだと思うから。

 

「それにしても、何かいいアイデアないかな……」

「……とりあえず、明日雪ノ下にも相談するんだろ? それで何とか見つければいいんじゃねえの?」

「それもそうだね。だから八幡、明日もよろしくね?」

「……」

 

 八幡は何も言わなかったけど、きっと来てくれると僕は信じている。

 結局その日は、何も出来ないと悟った僕達は大人しく家へ帰ることとなったのだった。

 

 




取り上げられたゲーム類を取り戻して、かつ、鉄人の持っていた本を売りさばくことによってノインちゃんを購入した原作ですが……今回は一体どんな解決方法を持ちだしてくるのでしょうか……書きながら私自身も楽しみにしている所があります。
そしてさり気なくお兄ちゃんスキルを発動してしまった八幡。


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第四問 バカと依頼と小学生(2)

 次の日の朝。

 僕はいつものように登校した。

 

「よぅ、明久」

 

 すると、真っ先に話しかけてきたのは雄二だった。

 それにしても、雄二はもう学校来てたんだね。早いなぁ。

 

「おはよう、雄二」

「昨日の呼び出しは一体なんだったんだよ?」

 

 そう言えば結局雄二達には何のことか全然説明してなかったっけ。

 

「えっとね、部活見学ってところかな?」

「部活見学? 明久が部活に入るのか? ていうか、比企谷もか?」

 

 確かに、雄二が驚くのも無理はないかもしれない。

 クラスでの八幡を見る限り、部活に入ろうとするタイプではないもの。少なくとも僕以上に部活動とか入らなそう。というより、集団行動を取ること自体嫌がりそう……。

 

「雪ノ下さんって知ってる?」

「……あぁ、国際教養科で成績トップの奴だろ?」

 

 何だろう、一瞬間が空いた気がしたけど、気のせいかな?

 

「その人が部長を務めている『奉仕部』って部活なんだ。多分平塚先生が顧問やってるのかな?」

「奉仕部なんて部活があったのか……俺は初めて知ったぜ」

「僕も昨日初めて知ったよ。どうやら生徒達の悩み事とかを聞いたりするところらしいよ」

「なるほどな。そんで、悩み相談を受けて奉仕活動に従事しろってわけな。鉄人や平塚先生が考えそうなことじゃねえか」

「けど、部活に入るかどうかは自主性に任せるって言ってたよ?」

「そうなのか?」

 

 意外そうな表情を浮かべる雄二。

 そんなに意外なことなのかな?

 

「明久は問題児だからな。てっきり強制的に入れさせられるのかと思ってた」

「僕を何だと思ってるんだよ!?」

「え? バカ」

「酷くない!?」

 

 雄二だって人のこと言えない癖に!

 そんな会話をしていると、

 

「やっはろー!」

 

 今度は由比ヶ浜さんが教室に入ってきた。

 

「やっはろー! 由比ヶ浜さん」

「おぅ、由比ヶ浜。おはようさん」

「おはよう! 吉井君、坂本君!」

 

 相変わらず元気な挨拶だなぁ。

 そんな由比ヶ浜さんは、僕の所に近づいてくる。

 そして耳元で、

 

「ヒッキー、どうだった?」

 

 と、聞いてきた。

 そう言えば由比ヶ浜さんは八幡と仲良くなりたいって言ってたもんね。

 

「えっとね……そもそも八幡は何のことかさっぱり分かってなかったみたいだけど……」

「そうだったんだ……」

 

 確か由比ヶ浜さんは、八幡に何かお礼がしたいって言ってたよね。

 けど、八幡自身は何をしたのかさっぱり分かっていない様子。

 というか、由比ヶ浜さんが一体誰なのかも分かってないよね多分……あ、そうだ!

 

「由比ヶ浜さん。もしよければ放課後、一緒に『奉仕部』に行かない?」

「奉仕部?」

 

 由比ヶ浜さんはきょとんとしていた。

 そっか、やっぱり奉仕部ってあまり知られてないみたいだね。

 

「僕と八幡が昨日行った所なんだけど、今日も行こうかなって思ってたんだ。それに、ちょっと相談したいことがあって人数が多い方がいいかなーって思ってさ。どうかな?」

「その部活って、ヒッキーもいるの?」

「うん、今日も行こうねって言ってあるよ」

「なら、行ってみる!」

 

 由比ヶ浜さんは笑顔で返事した。

 うん、やっぱり由比ヶ浜さんは可愛いなぁ……こんな可愛い子が八幡にお礼したいだなんて……何だろう、ちょっと羨ましいし、怒りがこみ上げてきそうだ。

 八幡ってぼっちじゃないよね!?

 

「それじゃあまた後でねー!」

 

 由比ヶ浜さんはそう言うと、葉山君や三浦さんのいる所に足を運んで行った。

 そんな様子をじっと眺めていた雄二が一言。

 

「お前、由比ヶ浜と仲良かったっけか?」

「うーん、どっちかって言うと、八幡と仲良くなりたいからって感じ?」

「なるほどなぁ……本当、比企谷も隅に置けない奴だな」

「本当だよ!」

 

 なんて会話をしていると、

 

「おはよう、吉井、坂本」

 

 今度は島田さんが挨拶してきた。

 最近、島田さんとも少しずつ話すようになってきた。島田さんも日本語の勉強を頑張っているみたいで、段々とクラスに馴染めるようになってきている。

 

「よぅ、島田。なんか少し不機嫌そうじゃねえか」

「別にそんなんじゃないわよ……」

「どうしたの? 島田さん。何か悩み事?」

 

 島田さんが少し元気じゃない。

 少し心配だなぁ。

 

「大丈夫よ。別になんてことないから」

「そっか……なんかあったら教えてね」

「……ありがと」

 

 少し顔を赤くしながら、島田さんは自分の席に着いた。

 何だったんだろう?

 

「……おはよう、明久」

「明久。おはよう」

「ムッツリーニに……秀吉!」

 

 やった!

 今日も朝から秀吉と会話することが出来てテンション上がってきたぞ!

 

「なんだかやけに嬉しそうじゃな……」

「もちろん! 僕にとって秀吉と挨拶するのはとても大切なことだからね!」

「ワシは男じゃぞ!」

「秀吉は秀吉だよ!」

 

 秀吉は必死になって男であるアピールをする。秀吉は秀吉なのに、どうして分かってくれないんだ!?

 

「ところで明久。昨日の呼び出しは一体何だったのじゃ?」

「……謹慎ではなさそう」

「僕だってそこまで酷いことしてないからね!?」

 

 ムッツリーニと秀吉にも、昨日あったことを説明する。

 するとムッツリーニは、

 

「……国際教養科と言えば、雪ノ下雪乃と、霧島翔子のツートップ」

「あぁ、そう言えば成績トップの三人の内の二人じゃったな……って、どうしたのじゃ? 坂本」

 

 雄二が少し微妙そうな表情を浮かべていた。

 

「ん? あぁ、何でもねぇよ」

「うーん……?」

 

 雪ノ下さんの時にも引っかかってたけど、どちらかと言うと霧島さんに何か関係あるのかな?

 けど、これ以上聞いても雄二は答えてくれなさそうだから後でゆっくり聞くことにしよう。

 

「お? 噂をすれば何とやら、みたいだぜ」

 

 そんな空気を変えるように、雄二が扉の方を見る。

 するとそこには、相変わらず気怠そうに入ってくる八幡の姿があった。

 

「お、おはよう! 比企谷!」

「お、おう……島田」

 

 島田さんは笑顔で八幡に挨拶する。

 八幡は若干どもりながらも席に着いた。

 

「比企谷、昨日の呼び出しは一体何だったの?」

「お、おう……ちょっとした呼び出しだ」

「それ、答えになってないと思うんだけど……」

「お、おう……」

 

 ちょっと待って八幡。

 なんで毎回会話の最初に『お、おう……』がくるの?

 

「アイツ、もしかして緊張してんのか?」

「……実は純情」

「そういうわけじゃないと思うのじゃが……」

 

 うーん、やっぱり八幡の方から島田さんを避けてる気がする。

 何かあるのかなぁ……後で八幡に聞いてみようかな。

 考えていても分からなければ、聞いちゃった方が早いからね。

 ところで、島田さんと八幡が話している姿を、由比ヶ浜さんがちらちら見ているのが気になる。

 

「結衣? どうしたし?」

「あ、ううん! なんでもないよ、由美子!」

 

 三浦さんに指摘されて、由比ヶ浜さんは慌てて会話に戻る。

 それでも八幡のことが気になってますオーラを消しきれていない気がするよ……。

 

「……意外にモテている。許すまじ」

「脅迫は辞めるのじゃ……」

 

 秀吉には申し訳ないけど、今の僕はムッツリーニに大賛成だった。

 

 




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たくさんの応援ありがとうございます!!
この調子で頑張っていきます!!



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第四問 バカと依頼と小学生(3)

 そして放課後。

 過ぎ去ってしまえば時間はあっという間だった。

 僕は早速、

 

「八幡! 行くよ!」

 

 逃げるように帰ろうとしている八幡の前に立った。

 八幡は僕の顔を見るなり、

 

「……お前、なんでそんな笑顔なの?」

 

 と、げんなりしたような表情を浮かべながら尋ねてくる。

 八幡の考えていることは御見通しだったってことだよ!

 

「八幡、約束忘れてないよね?」

「俺は約束したつもりはないんだが……」

「今日は由比ヶ浜さんも一緒だからね?」

「お、おい。そんなの聞いて……」

「吉井くーん! ヒッキー!」

 

 ナイスタイミングで由比ヶ浜さんが来てくれた。

 これで全員揃ったね!

 

「それじゃあ行くよ二人とも!」

「おーっ!」

「ま、待てって。これは一体……」

「まぁまぁ。話は後で聞くからさ」

 

 なんとなく、このまま八幡に何か発言させたら逃げられてしまいそうな気がしたから、由比ヶ浜さんと一緒に押し切ることにした。

 由比ヶ浜さんに先に教室を出てもらい、僕は八幡の背中を後ろから押す。

 

「あっ……」

 

 だからこそ、僕は八幡の隣の席から発せられた小さな声に気付けなかった。

 

 

「……もう来ないかと思ってたのに、意外だわ。しかもまた一人増えている……?」

「べ、別に俺だって、来たくて来たわけじゃねーし? 勘違いしないでくれよな?」

「八幡、男のツンデレって誰得なの?」

「ヒッキー……なんかキモイ……」

「おいちょっと。何で俺理不尽に責められてるの?」

 

 雪ノ下さんがこめかみを抑えながら僕達に話しかけてきた。

 そりゃそっか。いきなり一人増えたらびっくりするよね。

 

「紹介するね! 由比ヶ浜結衣さんだよ! 八幡に言いたいことがある人なんだ!」

「……何故ここに連れてきたのかしら」

「へ? だってここに来れば八幡に会えるじゃない?」

「……部活に来る前に話せばそれでよかったじゃない」

「それだと八幡が逃げちゃうから」

「……」

「なんで俺睨まれるの。別に俺何もやってないからね?」

 

 無言で雪ノ下さんが八幡のことを睨んでいた。

 あれだね、それだけの目で見つめられるとちょっと怖いね。

 

「なんかヒッキー……教室よりも生き生きしてる。楽しそうな部活だね」

「教室での俺、そんなに死んでそうなの? ゾンビなの?」

「うん。目が死んでる」

「腐ってるじゃなくて、死んでるって辺りが真に迫ってるわね……吉井君にしてはなかなか言うわね」

「人の目の評価でなんでそこまで盛り上がってんの?」

 

 確かに、由比ヶ浜さんの言う通り、八幡は教室に居る時よりも生き生きしている気がする。だって教室での八幡ってば、島田さん相手にあそこまでどもっているみたいだし……。

 

「そういえばさ、由比ヶ浜さんって八幡に何を言いたかったの?」

「え? えーっと……あ、あのね……?」

 

 多分、言う機会があるとすれば今しかないと思うから。

 何かしてもらったのなら、きちんとお礼したほうがいいと思うし。

 そう思って僕は由比ヶ浜さんに話を振ったけど、由比ヶ浜さんはなんだか八幡に対して申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

 少し黙り込んだ後で、意を決した由比ヶ浜さんが言った。

 

「あの時……サブレを助けてくれて……ありがとう」

「サブレ……?」

「私の家で飼ってる犬だよ。車に轢かれそうになった所を、ヒッキーが助けてくれたんだよね」

「っ!」

 

 その言葉を聞いて、何故か雪ノ下さんが驚いたような表情を浮かべていた。

 一方の八幡は、

 

「……あの時の犬の飼い主だったのか」

「……うん。なかなか言い出せなくて……ずっともやもやしてて……教室でヒッキー見つけた時、言い出さなきゃって思ってたのに……なかなか切り出せなくて……」

「……」

 

 八幡は無言で由比ヶ浜さんの話を聞いている。

 そして八幡は――。

 

「べ、別にあれは。お前の犬だから助けたわけじゃない。ただ勝手に身体が動いて、勝手に俺が車の前に出て、勝手に撥ねられた。ただそれだけのことだ」

「それでも……ヒッキーは私にとって恩人だから……ありがとう、ヒッキー」

「……っ」

 

 何故か、八幡は少し苦しそうな表情を浮かべていた。

 一体八幡は、心の中で何を考えているのだろう。

 

「……そうか。けど、これでもうチャラだな」

「へ?」

 

 八幡が言ったことに対して、由比ヶ浜さんがキョトンとしている。

 突然何を言い出すのだろう?

 

「もう負い目を背負う必要はなくなった。それで俺に礼を言いたかった。それが果たされた以上、俺達の関係はこれで終わったわけだ……だから……」

「だからこれで、友達同士だよね?」

 

 僕がそう口を挟むと、八幡はぎょっとした顔で僕の方を見てきた。

 え、そんなにおかしいこと言ったかな?

 

「なんでそうなんだよ……コイツは俺に言いたいことがあるって言った。そして、それは終わったんだ。だからもう、コイツが俺と関わることなんてねぇだろ……」

「それは違うよ、八幡。友達ってさ、理由がなきゃなれないものじゃないって、前にも言ったと思うんだけど」

 

 八幡はやっぱり、友達って言葉を難しく考えすぎなんだと思う。

 だからこそ、いっぱい迷って、いっぱい悩んで、それで自分も困っちゃうんじゃないかなぁって僕は思う。

 

「この人ならば友達になりたいって思ったら、それはもう友達なんだよ。理由が必要とか、そんなんじゃないよ。だって、人が仲良くなるのに、理由なんて必要ないでしょ?」

「……貴方も、『みんな仲良く』と言いたいのね」

 

 その時、雪ノ下さんがようやっと会話に参加してくれたと思ったら、苦い表情でそう言ってきた。

 みんな仲良く? それって結構いい言葉のように思えるんだけど……けど、ちょっと違うかな。

 

「うーん、ちょっと違うかなぁ。例えば、僕と雄二って友達だと思ってるんだけど、きっとお互いに『友達になろうよ』なんて言った覚えはないんだよね。気が合うから一緒につるんでバカやって……そうしていつの間にか、ムッツリーニや秀吉が集まって、そして八幡達に会えた。確かにみんな仲良く出来たらいいのかもしれないけど、困った時に助け合ったり、言いたいことをしっかり言い合えたりする方がいいんじゃないかなって」

「「「……」」」

 

 僕の言葉を聞いた三人は、みんな黙り込んでしまった。

 そして最初に言葉を発したのは、

 

「なんだか吉井君……ううん、ヨッシーって凄いね」

「ヨッシー?」

「吉井君だからヨッシーだよ!」

「……由比ヶ浜。悪いことは言わない。お前ニックネームのセンスねぇよ」

「酷いよヒッキー!」

「……悔しいけど、今回ばかりは比企谷君の意見に賛成するわ」

「ゆきのんまで!?」

「ゆ、ゆきのんって私のことかしら……?」

 

 なんか、僕のあだ名、『でっていう』って鳴きそうな気がするんだけど……。

 とにかく、先程までのちょっとしたしんみりムードから一変して、明るくてコミカルな雰囲気になった。

 これで一件落着かな? ……って。

 

「あっ! 肝心なこと話し合ってないよ!」

 

 僕はここで、今日の議題を思い出したのだった。

 




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第四問 バカと依頼と小学生(4)

「肝心なことって一体何かしら?」

 

 首を傾げながら雪ノ下さんが尋ねてくる。

 こうしてみると、やっぱり雪ノ下さんって凄い美人さんだよね。

 

「……ちょっと、何下衆びた目で見ているのかしら?」

 

 何故か雪ノ下さんは、僕と比企谷君を見るなり、自分の胸元を両手で抑えながら引き気味に言ってきた。そんなに僕や比企谷君が変態的な目で見ていたかな?!

 

「ヒッキー……ヨッシー……?」

 

 何故か由比ヶ浜さんまでも疑いの眼差しを向けてきた。

 

「い、いや、そんなことねぇから……吉井は知らねぇけど」

「僕だってそんな目で見てないよ!?」

 

 何故か僕だけ完全にスルーされそうになっていたので、自分からツッコミを入れざるを得なかった。

 とりあえず今は本題に入らないと!

 

「えっとね、僕と比企谷君は昨日、奉仕部の帰りに小学生の女の子に会ったんだけど……」

「待ちなさい」

「え?」

 

 ここで、突然雪ノ下さんに発言を止められてしまった。

 何のことだろう? と僕が思っていると。

 

「今すぐ110番に通報した方がよろしいかしら?」

 

 と、とんでもないことを言ってきた。

 

「やめてよね!? 僕も八幡も何もしてないからね!?」

「俺達を変態に仕立て上げるのは勘弁してくれ……」

 

 八幡もダルそうに否定していた。

 由比ヶ浜さんや雪ノ下さんの、僕達に対する心象が下がった気がする。

 

「と、とにかく。その子がぬいぐるみ屋さんでぬいぐるみが欲しいって言ってたんだけど、そのぬいぐるみの値段が高すぎて買えなかったんだ……何とかしてその子の為にぬいぐるみを用意したいなって思ったんだけど……」

「なる程。いくつか質問させて欲しいのだけれど、まずその子はどうしてぬいぐるみが欲しかったのかしら?」

 

 雪ノ下さんから質問される。

 一応僕の相談には乗ってくれるみたいで助かった。

 

「お姉ちゃんの元気がないから、元気づける為に買ってあげたいって言ってたよ」

「……そう」

「……どうしたの? ゆきのん」

 

 何処か、少し考える素振りを見せる雪ノ下さん。

 そんな彼女のことが心配になったのか、由比ヶ浜さんが心配そうな表情を浮かべながら尋ねていた。

 

「何でもないわ。続けて頂戴」

 

 雪ノ下さんはそう言って、僕に話を続けるよう指示した。

 

「そのぬいぐるみの値段は二万五千円で、その子が持ってたのは一万円だったんだ」

「となると、あと一万五千円足りないってわけね……小さいサイズの他のぬいぐるみでは駄目なのかしら?」

「そうしたかったんだけど、ぬいぐるみ屋においてあったのは大きいサイズのしかなかったみたいなんだ」

 

 あのぬいぐるみ屋には、確か人の大きさぐらいのサイズしか置いていなかった。それが二万五千円で、他のサイズで安い奴はなかった。つまり、葉月ちゃんがぬいぐるみを買うとすれば、あのサイズしかないということに。

 

「昨日は八幡の提案で、とりあえず予約しておくってことになったんだ。GW中までは平気ってことになったよ」

「ヒッキーやるじゃん!」

「……」

 

 由比ヶ浜さんが素直に褒めてきたのに対して、八幡はそっぽを向いて何も答えない。

 照れているのかな?

 

「そう……つまりGW中に何とかお金を捻出しなきゃいけないわけね」

「そうなんだよねぇ……けど、いいアイデアが浮かばなくて……何かいい方法ないかなぁって」

「そっかぁ……同じようなぬいぐるみを作ってあげるっていうこともあると思うけど……」

「手芸はちょっと僕には難しいかなって……」

 

 由比ヶ浜さんのアイデアもすごいいいものだなぁって思うんだけど、あの大きさのぬいぐるみを用意するのはなかなか難しい気がする。

 もしかしたら、昔会ったうさぎのヘアピンを着けている女の子なら出来るのかなぁ。

 

「無難な手を打つとすれば、小さいぬいぐるみで妥協するか、何か自分達が要らないものを捻出して、それを売ることでお金に変える、とかかしら」

「いらないもの……」

 

 確かに、お金がないなら増やせばいいっていうことも考えられる。

 けれど、僕に売れる物は……あっ!

 

「そっか! いらない漫画とかやらないゲームを売れば何とかなるかもしれない!」

「……確かに、それならば誰にも迷惑かけず、穏便に済ませられるかもな」

 

 八幡からも意見がもらえた。

 そうなると、僕の家にあるもので売れるものかぁ……ん? ちょっと待てよ?

 もしかしたらもっといい物があるかもしれないぞ?

 

「……ねぇ、八幡」

「どした?」

「昨日さ、僕らのクラスって抜き打ち荷物検査あったよね?」

「あぁ、あったな」

 

 鉄人の手によって突如行われた荷物検査。

 あのせいで僕も鉄人に色んな物を没収されたわけだけど、もしかしてその時没収された物をすべて売れば何とかなるかもしれない?

 

「もしかしたら、あの時の荷物が返ってくればお金になるかもしれない!」

「……貴方、その発言から察するに、かなり高価なものを取り上げられていることになるのだけれど」

 

 雪ノ下さんがこめかみを抑えながら尋ねてきた。

 それに対して、

 

「あー、そういえばヨッシーってば、ゲーム機とか取り上げられてたよね?」

「学校を何だと思っているのよ……だから平塚先生からあのような依頼が来るのではないかしら……?」

 

 うん、それに関しては完全に反論出来そうにない。

 

「確かに、あのゲーム機を売ればそれなりに金になるかもしれないな。だが、問題点が一つある」

「どういうこと? 八幡」

「西村先生の言葉だと、取り上げられた荷物が返されるのはGW明けだ。つまり、ぬいぐるみ屋の期限に間に合わないということになる」

「あー……」

 

 確かに、それについては八幡の言う通りだった。

 没収された物が返ってくるのを待っていては、葉月ちゃんとの約束に間に合わない。

 

「んー……どうにかしてGW中に返ってこないかなぁ……」

 

 もしそれが叶えば、ゲームを売ることが出来るし、そのまま何とかぬいぐるみを買ってあげることが出来るかもしれないのに。

 どうしたものかと悩んでいた、その時だった。

 

「失礼するぞ」

 

 扉をノックせず、平塚先生が教室に入ってきた。

 

「先生、ノックを……」

「悪い悪い。ノックしても返事をしないと思ってな。様子を見に来たのだが、何やら少しばかり気になる話を聞いたので、聞き耳を立てさせてもらったよ」

「そういうことしているから、嫁の……」

「衝撃の――」

「ナンデモナイデス」

 

 八幡の言葉に、平塚先生が拳を強く握りしめて思い切りパンチを放ちそうになっていた。

 八幡は慌てて謝罪していた。

 

「ところで……吉井はともかく、比企谷も居るとは。感心だよ」

「強制されて来ただけです。別に自分の意思で来たわけでは……」

「それでも、君ならば何かと理屈や文句をつけて来ないのではないかと思っていたよ」

「……そうっすね」

「……本入部も近いかもしれないな」

 

 そう言った平塚先生の声は、少し優しく聞こえた。まるで本当に生徒を心配する先生のようだった。やっぱりこの人っていい先生だよね。どうして結婚出来ないのか……。

 

「吉井、今失礼なこと考えなかったか?」

「なんでもないです!!」

 

 そう言う所だよ!!

 

「ところで、君はF組の……」

「由比ヶ浜結衣です! 吉井君に連れられてきました!」

「そうか……いつの間にやら新入部員候補まで捕まえてくるとは……」

 

 いつの間にか僕入部したことになっている?

 

「ところで、今君達は何やら困っているように見えるのだが?」

「実は……」

 

 せっかくだし、平塚先生にもアイデアをもらいたいと思った僕は、少しばかり相談してみることにした。

 すると先生は、少し考える素振りを見せた後で、

 

「そう言うことならば、今度の連休中に手伝ってもらいたいことがある。もちろん、見返りとして先んじて君が没収されたゲーム機を返すことも約束しよう」

「本当ですか!?」

 

 先生が天使に見える!

 けど、一体手伝ってもらいたいことって何だろう?

 

「それで、平塚先生。手伝って欲しいことと言うのは?」

 

 もちろん、部長である雪ノ下さんが尋ねる。

 先生は、ニヤリと笑った後で、

 

「何、ちょっとした社会勉強だ。実はな――」

 

 と、僕達の連休の内、一日は絶対に予定が埋まった瞬間だった。

 

 




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第四問 バカと依頼と小学生(5)

 部活が終わった後、僕と八幡は真っ先にゲームや漫画本、そして文庫本などを回収し、それを売りに行った。金額が結構な物となった上、葉月ちゃんにお金を払わせなくても十分な程までになった。由比ヶ浜さんや雪ノ下さん、それに八幡も、自分の要らない物を売ってくれたからだ。みんなで合わせれば、二万五千円まで到達したので、葉月ちゃんにはお金を払わせなくて済んだ。

 意外だったのは、雪ノ下さんや八幡まで協力してくれたことだ。雪ノ下さんは『部活動の一環なら仕方ない』と言い、八幡は『ついでに要らない物を処分出来るから等価交換だ。Win-Winの関係が築けるからやったことだ』と言っていた。きっと照れ隠しだと思う。

 そして僕は、面倒臭がっている八幡を引き連れて、昨日の公園へと足を運んだ。

 

「あっ、お兄ちゃん達!」

 

 ブランコに乗って待っていてくれていた葉月ちゃんは、僕達の姿を見つけると笑顔で駆け寄ってくれた。

 その手には、小さなぬいぐるみが抱きかかえられている。

 

「どうしたの? それ」

 

 僕が尋ねると、葉月ちゃんは笑顔で、

 

「お兄ちゃん達が来る前に、綺麗なお姉さんが来たです!」

「きれいな、おねえさん?」

「はいです! このお人形を、あなたのお姉ちゃんにあげてって! でももし、お兄ちゃん達がノインちゃんを持ってきてくれたら、そのお人形はあなたの物だよ、って!」

「……」

 

 うーん?

 一体誰がそんなことしてくれたんだろう?

 八幡も少し考えているみたいだし。

 雪ノ下さんや由比ヶ浜さんではないとは思うし……ぬいぐるみの話をしたのだって今日だから……。

 けど、それなら今葉月ちゃんが持っているぬいぐるみは。

 

「なら、それはお前の物だな……ほれ、吉井」

「うん」

「ほぇ?」

 

 八幡に促される形で、僕は背負っていたぬいぐるみを葉月ちゃんの前に差し出した。

 

「こっちをお姉ちゃんに渡してね!」

「わぁ……ノインちゃん!」

 

 葉月ちゃんの目がキラキラと輝いている。

 本当に嬉しそうだなぁ……これだけでも、買ってあげることが出来て本当によかったって思う。

 八幡も、心なしか少し目の濁りがとれている気がするよ。

 

「……お姉さん、元気が出るといいな」

 

 その時、八幡は葉月ちゃんの頭を優しく撫でながら、そう言った。

 葉月ちゃんは本当に嬉しそうに、

 

「……はいですっ!」

 

 と、笑顔で言った。

 その後で、僕と八幡の顔を交互に見ながら、何やら考える素振りを見せていた。

 

「あの……お兄ちゃん達、少ししゃがんでもらってもいいですか?」

「え?」

「ん?」

 

 僕と八幡は、葉月ちゃんに言われるがまま、その場にしゃがみ込む。

 多分葉月ちゃんの顔の高さと同じくらいかな?

 

「こんな感じ?」

 

 すると――。

 

「ありがとう、お兄ちゃん!」

 

 八幡にぎゅっと抱き着いて、その後で僕のほっぺたにキスをした。

 ……へ? キス?

 

「っ!?!?」

 

 明らかに動揺している八幡。

 いや、僕も凄い動揺しているよ!?

 なんで僕キスされてるの!?

 顔が凄く熱くなってくるのを感じる。凄いなぁ……最近の小学生って本当に進んでるんだね……。

 

「優しいお兄ちゃんみたいなお兄ちゃんが欲しいです……お兄ちゃんって、呼んでもいいですか?」

「お、おう……」

 

 少し涙目で、上目遣いで、葉月ちゃんは八幡に言う。

 八幡は思わずどもっていた。うん、いつも通りの八幡だ。

 その後で葉月ちゃんは僕の方に向き直って、

 

「バカなお兄ちゃんは、バカだけど、とても優しいから大好きです! おっきくなったら、葉月のお婿さんにしてあげますっ!」

「あっ……」

 

 僕も恥ずかしさのあまりにどもってしまった。

 僕、小学生の女の子に告白されちゃった?

 何だろう、凄い嬉しいけど、物凄く嫌な予感もする。

 

「ばいばいです、お兄ちゃん、バカなお兄ちゃん!」

 

 そして、葉月ちゃんは二つのぬいぐるみを抱きかかえて、笑顔でその場から立ち去っていった。

 残されたのは、茫然と突っ立っている八幡と、同じく茫然と突っ立っている僕。

 

「……俺の妹は、小町だけだ。そう、小町だ……小町、だよな?」

「お、落ち着いて、八幡。八幡の妹はたぶん小町ちゃんだよ」

「そ、そうだよな? 俺の妹は小町だよな? ……うん、大丈夫。問題ない」

「そうだよ!だ、大丈夫だよ! 絶対大丈夫だよ!」

 

 多分、この時の僕達は、二人ともまともじゃなかっただろう。

 

 

 しばらく僕と八幡は公園のベンチに座り込んでいた。

 落ち着いてから帰らないと、きっと僕も八幡も、家で悶絶することになると思ったからだ。

 

「ねぇ、八幡」

「どうした?」

 

 心を落ち着かせる為にも何か話さないと、って思ったから。

 せっかくだから気になっていることを聞いてみるのもありだなって思ったから。

 だから僕は八幡に、こんなことを聞いてみた。

 

「僕達ってさ、友達だよね?」

「……」

 

 八幡は黙り込んでしまう。

 何か考えているみたいだ。

 

「雄二やムッツリーニ、秀吉に……島田さんとは?」

「……分からない」

 

 『分からない』。

 確かに八幡はそう言った。

 それってつまり、今は考えてくれているってことかな?

 

「そっか。僕はもちろん、きっと雄二達は、八幡のこと友達って思ってるよ」

「……そ、そうか」

「うん。島田さんや由比ヶ浜さんだって――」

「……なぁ、吉井」

「ん?」

 

 僕の言葉を遮る形で、八幡は言葉を発した。

 

「部室で平塚先生が言ってたあれ、奉仕部の部員が言われたことだよな?」

 

 まるで確認を取るかのように、八幡は聞いてくる。

 一体その質問に何の意図があるのかは分からない。

 だけど、なんとなく答えなくちゃいけない気がした。

 

「たぶんそうだと思うよ?」

「なら……俺は受けなくてもいいんだよな?」

「えっ?」

 

 何を言っているのだろう?

 僕は平塚先生からの交換条件で参加は必須となっている筈だし、何より奉仕部への依頼という形で先生は言っていた筈――。

 

「部員じゃない奴は、受ける必要ないだろ?」

「……八幡」

 

 そっか。

 何となく、八幡がやろうとしていることが理解出来てしまった。

 いや、きっとすべてが当たっているとは思えない。

 だって僕はバカだから、八幡が何を考えているのか分からない。

 けど、これだけはなんとなく分かる。

 

 八幡はきっと、何かに怯えているんじゃないかな?

 

「俺はまだ、入部届を出していない。平塚先生だって、入部するかどうかは個人の自由だって言っていた。つまり俺はまだ入部していない。奉仕部の部員ではない。これで、お前達との関係も終わりってことになる」

「何言ってるのさ? 僕は八幡のこと、友達って思ってるし、GW中に遊ぶ約束だって」

「気が向いたらって言っただけだ。別に気が向かないから――」

「ねぇ、八幡。何でそんな辛そうにしてるの?」

 

 八幡の目が大きく見開かれた。

 なんとなく、八幡が遠くへ行っちゃいそうな気がしたから、ここで言わないといけない気がした。

 

「八幡はやっぱり友達とか関係とか、難しく考えすぎてると思う。友達って、きっと理屈じゃないんだよ。難しいことはあまり考えられないけどさ、八幡の周りに居る人達は、きっともっと仲良くなりたいって思ってるよ? もちろん僕だって……今日会った葉月ちゃんだってそうだよ」

「……」

 

 八幡は何も言葉を返さない。

 せっかくだから、僕が思っていることを八幡に伝える。

 

「もし、入部届を出さなきゃ部員じゃないって言うんだったら、明日一緒に入部届出しに行こうよ。所属する分には自由なんでしょ? なら、行くもいかないも自由なんだし、何も部活入っていないなら別に何ら変わりはないんじゃない? それに、僕や由比ヶ浜さん、きっと雪ノ下さんも、一緒にGW中に遊びに行きたいって思ってるよ」

「……妹、泣かせるわけにもいかねぇもんな」

 

 八幡は、何やら自己解決したかのように呟く。

 そして、

 

「分かった。また明日、な」

 

 そう言って、八幡は僕の顔を見ずに立ち去っていった。

 

「……うん、また明日ね!」

 

 これから、僕達の関係はきっと変わるのかもしれない。

 そんな想いを胸に抱きつつ、僕も家へと帰るのだった。

 

 ――そして、GWがやってくる。

 

 




これにて第四話終了です!
次回よりGW中のエピソードとなります!
次回は八幡目線でのお話です。



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第五問 何故か、男達は闘いに身を投じる。 (1)

第五問 【現代国語】
以下の問いに答えなさい。
「『後の祭り』ということわざを使って例文を答えなさい」

姫路瑞希の答え
「今さら後悔したところで後の祭りです」

教師のコメント
正解です。『後の祭り』の類義語として、『後悔先にたたず』などのことわざがあるのも覚えておきましょう。

海老名姫菜の答え
「後悔しても後の祭りだ。さぁ、俺に全てを委ねるんだ……そうすれば(ここから先は血によって読めない)」

教師のコメント
テスト中に何想像してるのですか?

吉井明久の答え
「さぁて! 勉強した後の祭りだ!」

教師のコメント
勝手に盛り上がらないでください。


 俗に言う大型連休の一日目。十日間すべて家の中で過ごすという計画は、数日前にものの見事に破綻することになってしまった。よりによってGWの中日には、奉仕部の活動として外出する事が確定となっている。専業主夫を目指していた俺が学生の内に休日出勤を経験することになるとは、登校初日の俺からしたら想像出来なかったことだろう。こうして日本の社畜は誕生していくのかと思うと、やっぱり将来働きたくない。お家最高。

 とにかく、せっかくの連休一日目なのだから起きる時間が遅くても文句は言われない筈だ。今日に限っては携帯のアラームも切っておいた筈なのだ。だというのに。

 

「……なんで鳴ってるんですかねぇ」

 

 携帯も連休だからって休みボケしてるのん? 

 などとバカなことを考えながら、携帯を手にとって画面を確かめる。相変わらず振動と着信音を鳴らしながら携帯が表示していたのは、

 

「着信、吉井明久……」

 

 吉井からの電話だった。

 うわぁ、朝から電話来るとは思ってなかったなぁ……まさかこの携帯に、目覚まし時計以外の役割を果たす日が訪れるとは思ってもみなかった。

 とりあえず寝ていることにしてやり過ごそう。そうすれば勝手に諦めてくれる筈だ。そう、かつてメールの返信が遅れた時に『ごめーん、寝てた♪』というフレーズが必ず来ていたのと同じことだ。あの時メールしていた奴らはみんな寝るのが早かったんだろうな。夜の七時に送った筈なのに返信がなく、そういった返事が来たのだから。健康的だな……なんだか泣けてきた。

 

「……まだ鳴ってる」

 

 時間が経てば諦めるかと思ったが、全然諦めるような素振りを見せない。いつまでも電話は鳴りっぱなしだ。

 このまま待っていても鳴り続けるだけだと思った俺は、仕方なく通話ボタンを押した。

 

『あ、もしもし八幡? よかったー、電話番号間違えてるのかと思ってヒヤヒヤしたよ』

「……この電話番号は現在使われて」

『いるよね!? 繋がってるよ!?』

「……どうしたんだ? 朝っぱらから」

『もう十一時前だよ?』

 

 あれ、いつの間にかそんなに寝てたのか。それにしては小町が起こしに来ていないのだが、もしかして休みの日だからって寝かせてくれたのか? なんて出来た妹なのだろう。やっぱりうちの妹は天使だ。

 

「さっきまで寝てたんだよ……」

『あー、分かる。休みの日っていつもより寝られるって思うとつい眠っちゃうよね。僕もそんな日があるから分かるなぁ』

「そういえばお前って一人暮らししてるんだっけか?」

『そうだよ。実家からだと総武高校通うのは少し遠いからね』

 

 高校生で自炊生活を送っているのはなかなか評価されることだろう。そういえば先日の部活でも雪ノ下が一人暮らししているという話を聞いた気がする。

 

「ところで、何の用事だ?」

 

 なんかこのままだと雑談だけで終わりそうなので、本題を切り出すように促す。寝ている中を起こされてどうでもいい会話だけで終わるのはなんか癪だったからだ。

 

『あ、そうだった! 八幡、今日って空いてる?』

「今日? えーと、あれがあれで忙しい」

『よかった! それなら今日雄二達とゲームしようかってことになってるんだけど、八幡もどうかなって思って』

 

 あれ? 俺の話聞いてた? 

 

『十三時に前に葉月ちゃんと会った公園に待ち合わせね!』

「え? あ、おい……」

 

 それだけを言うと、吉井は電話を切ってしまった。まだ行くか行かないかも伝えてなかったんだが……仕方ない。

 愛しい布団から脱出し、とりあえず適当な服に着替える。程なくして着替え終わった俺は、とりあえず飲み物を飲む為にリビングへ行くことにする。

 

「およ? お兄ちゃん?」

 

 そこには、俺のシャツを勝手に着てソファに寝そべっているだらしない妹がいた。というかそれシャツしか着てないよね? 中学二年生の女の子とは思えない程だらけきった姿してるけど大丈夫なのか? 

 仰向けに眠っている為、自然と何処ぞの吸血鬼の妹よろしくシャフ度になっている。これから怪異にでも巻き込まれるのか? 事件の前触れなのか? 

 

「連休初日なのにお兄ちゃんが珍しく昼前に起きてくるなんて……貴方は本当にお兄ちゃん?」

「小町ちゃん? 人がいつもよりちょっと早く起きたからって疑いすぎだからね? その理屈で言うと、今小町の前にいるのはただの不審者ということになるからね?」

「あ、お兄ちゃんだ」

 

 どういう確認方法を取っているんだ我が妹ながら。

 相変わらず寝そべっている小町の横を通って、冷蔵庫を開ける。コップに麦茶を注いで一気に飲み干した。

 

「ご飯はテーブルの上に置いてあるよー。小町もお腹空いちゃったから一緒に食べるね」

「いつもすまないねぇ」

「それは言わないお約束だよ」

 

 小町との中身のない会話を楽しんだ後、俺はテーブルを見る。多分俺が起きないことを考えた上で、冷めても美味しいものを中心に食卓に並べられている。本当よく出来た妹だ。妹でなければ告白して振られるレベル。振られちゃうのかよ。

 もう一度コップに麦茶を注ぎ、ついでに小町のコップにも麦茶を注いでテーブルの上に置いた。

 

「ありがとー」

 

 そう言いながら、小町はご飯をよそう。そうしているうちに俺はラップを外し、椅子に座った。

 

「「いただきます」」

 

 小町も椅子に座ったことで、俺と小町は食事を始める。いつものように小町の料理を堪能する。うん、うまい。さすがは小町。

 

「そうだ、小町」

「なぁに? お兄ちゃん」

 

 俺の呼びかけに対して首をかしげる小町。一挙手一投足があざと可愛い。

 

「お兄ちゃんな、ご飯食べ終わったら知り合いの家にゲームやりに行くから」

 

 小町の箸がポロっと落ちて、信じられない物を見るような目を向けられた。

 解せぬ。

 

「お、お、お兄ちゃんが、連休初日からお出かけ……しかも、お友達と……? ていうかいつの間にか友達を……? ぼっち最高ってのたまってたごみいちゃんが……?」

「おい、最後。最後ただの悪口だよね?」

 

 思った以上にただの暴言が返ってきた。小町ちゃん酷くない? 

 

「とりあえずそういうことなら先に言ってよね! 小町にも心の準備が必要なんだから!」

「心の準備って何するつもりなんだ……」

「ちなみに義姉ちゃん候補は?」

「いるわけないだろ……」

「いないかぁ……」

 

 心底残念そうにする小町。

 しかしすぐに笑顔になったかと思ったら、

 

「よかったね、お兄ちゃん。仲のいい人が出来て!」

「……そう、だな?」

 

 いまいち実感がわかないが、確かにそういうことでいいのだろうか。そんなことを考えながら、俺は残りのご飯を食べた。

 うん、やっぱりうまい。




タイトル詐欺の日常編です(迫真)
GW中のエピソードはこの話を含めて三つやるつもりです。
バカテスネタ、俺ガイルネタ両方ともやろうかなーなんて思ってます。

ここからはお知らせです。

祝!お気に入り登録数400突破!
祝!UA数40000突破!
祝!6月25日付けデイリーランキング18位!!

本当にありがとうございます。
執筆する上での励みになります……これからも頑張っていきます!


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第五問 何故か、男達は闘いに身を投じる。 (2)

 四月末といえど外の空気はなかなかに生温い。公園までの道のりを自転車で漕いでいるわけなのだが、正直生温い風が体にまとわりついて鬱陶しい。夏の陽気が合わさってたとしたら、外に出た段階で完全に溶けてしまっていた自信がある。なんでこんな時に外出しなければいけないんだ? やはり自宅は最高じゃないか。まだ公園に着いてないけど、あの後二度寝してしまったんだごめんとかいっておけば問題ないだろう。よし帰ろう。

 と、公園まで後少しというところで自転車を降りて、回れ右して帰ろうとした時のことだった。

 

「あっ! お兄ちゃん!」

 

 聞き覚えのある声が聞こえてきた気がした。そういえばあの公園は、以前吉井と一緒に女の子のぬいぐるみを渡す為に待ち合わせ場所として利用した所だった。即ち、その子の家は近くにある可能性が高いということになる。なんか思い出しただけですごい顔が赤くなるんだけど? なんであの時俺抱きつかれたのん? ていうか吉井キスされてたよな? 

 

「お兄ちゃん? 誰よそれ、葉月」

 

 なんか、もう一人知り合いの声が聞こえた気がするんだが。

 そういえば、初めて会った時に『引っ越したばかりで』って言ってたな……まさかな……。

 

「お兄ちゃんですーっ!」

「うぉっと」

 

 背後から訪れた感触に、俺は思わず倒れそうになるとなんとか踏みとどまった。お互いに倒れ込んでしまってはたまったものじゃない。自転車を止め、後ろを振り向くと。

 

「あっ……ひ、比企谷!?」

 

 ある意味予想通りというかなんというか。

 嬉しそうな表情を浮かべながら俺に抱きつく葉月と、そんな俺達を見つけて驚いたような表情を浮かべている島田の姿があった。

 

「い、いつの間に比企谷は葉月と知り合ってたの!?」

 

 凄い勢いで島田が近づいてきた。

 近い近いいい匂いマジで近くていい匂い! 

 

「た、たまたまだ、たまたま」

 

 思わず俺はどもってしまう。

 突然過ぎることに頭が回らない。しかも相変わらず葉月は甘えてくる。駄目だ、俺の妹は小町だけ。そう、妹は小町……葉月も俺の妹だった……? 

 

「俺の妹になってくれ」

「ちょっと何言ってんの比企谷!?」

 

 島田がツッコミを入れてくれたおかげで、俺の意識はなんとか戻ってくることが出来た。危なかった……本気で葉月をうちの妹だと誤認してしまう所だった。

 

「ところで、比企谷の家もこの辺りだったの?」

 

 少し顔を赤くしながら島田が尋ねてくる。

 

「あ、あぁ。自転車なら数分って所だな……」

「そっか……実はウチの家もこの近くなんだ。そうなんだ……比企谷の家、ウチの家の近くにあったんだ……」

 

 ポツリと呟く島田。

 やめてくれ、その反応は心臓に悪い。勘違いした上に告白して振られてボロ雑巾にされてしまうだろ。いや最後おかしくない? 

 

「もしかして、お姉ちゃんが言ってた……」

「葉月! そ、そろそろ行かないと時間に間に合わなくなっちゃうよ!」

 

 何かを葉月が言いかけたが、そこを島田が被せるように言う。何やら慌てているみたいだ。長居は無用か? 

 

「用事があったのか」

「ひ、比企谷こそ公園に向かってたみたいだけど……」

「そうだな……」

「そっち、公園じゃないよ?」

「そうだな……」

 

 島田に指摘されて軌道修正する事にした。言われてしまっては仕方ない。まさかこのまま帰るわけにもいかないだろう。

 

「お兄ちゃんはこの後暇じゃないです……?」

 

 相変わらず俺に抱きついたまま、葉月が尋ねてくる。身長差がある為自然と上目遣いになって、正直すごく可愛い。何故だろう、あざとさとかそんなの全然感じさせない。天使はここにいたというのか? 

 

「す、すまん。今日は約束があるから……」

「そうですか……残念です……」

 

 しょんぼりする葉月を見ていると、なんだか凄く申し訳ないことをした気分になる。何だろう、小町限定だったお兄ちゃんスキルが際限なく発揮されてしまうよ? 

 というか、島田からの視線が痛い。この視線の意味はなんとなく理解出来る。同じく妹を持つ身であるからこそ、伝わってくる。

 

 うちの妹を泣かせるな、ってやつだ。

 

「また今度、一緒に遊ぼうな」

 

 頭を撫でながら葉月に言う。

 すると葉月は、満面の笑みと共に、

 

「はいですっ!」

 

 はい可愛い。もう天使。

 

「あ、あのさ! 比企谷!」

 

 その時、島田が顔を少し赤くしながら前に出る。まるで何か気合を入れたかのように。

 

「葉月と遊んでくれるのなら、時間とか合わせなきゃでしょ? だ、だから……比企谷の連絡先を教えて!」

「へ?」

 

 まさか、島田から連絡先を聞かれるとは思ってなかったので、思わず間抜けな声を出してしまった。

 そんな俺の反応を勘違いしたのか、

 

「駄目……?」

 

 と、少し不安げに島田が尋ねてきた。

 ……どうしたんだろうか。このところ、俺の防御力がどんどん削られている気がする。ぼっちであるが故に強化されていたはずの何かが、どんどんボロボロ壊れていくような感覚すらある。

 まして、そんな表情をされると断れない。

 

「……ほれ」

「え? うわっ」

 

 ポケットから携帯を取り出して、島田に放り投げる。慌てて島田はキャッチした。そんな島田に俺は言う。

 

「登録しといてくれ。いまいち俺、やり方分からないんだわ」

「……自分の携帯、人に見せちゃうんだ」

「見られて困るようなことねぇからな」

「……何それ、変なの」

 

 そう言いながら、島田は連絡先を入力していく。程なくして、

 

「はい。これで連絡先交換出来たから! ……と、そろそろ行くよ、葉月!」

「はいです! またね! お兄ちゃん!」

「あ、あぁ。また、な」

 

 葉月の手を握りながら、島田は立ち去っていく。その間、葉月は俺の方を見ながら手を振っていた。

 俺は軽く手を上げて、それだけだった。

 

「……本当、どうしちまったんだろうな」

 

 携帯電話のアドレス帳には、家族以外の連絡先として、吉井と島田の二人が登録されている。高校生活が始まってまだ1ヶ月しか経っていない中、ぼっち生活が始まると思っていた俺の生活は、当初の予定とは大きくずれていた。これが果たして今後どんなふうに変わっていくのだろうか。少し期待すらしてしまいそうになる。

 だが、やっぱり勘違いしてはいけない。勘違いは黒歴史を生み、やがては自分の身を削る。だからこそ最初から防御線を構築する方がいいに決まっている。

 

「……はぁ」

 

 だが、心の何処かで、今の生活が楽しいと思っている自分が居た。少なくとも、中学時代よりも明らかに充実している。いや、し過ぎている。

 そんなくだらないことを考えながら、待ち合わせ場所である公園まで自転車を押して歩いていくと、

 

「あ、八幡! 時間ぴったしだね!」

 

 笑顔で俺を迎え入れる吉井と、相変わらず不敵な笑みを浮かべる坂本、そして後二人の姿があった。




気付けば字数が50000字突破しておりました……そしてお気に入り登録数も450を突破しておりました……。
投票してくださった方、お気に入り登録してくださった方、感想投稿してくださった方、読んでくださった方、本当にありがとうございます!
何気にデイリーランキングに生き残ってるのも初めての経験です……。

本編の方では、八幡が自身の心境の変化に戸惑い始める形となりました。日に日に増していく島田さんのヒロイン力にも注目です。

ではではまた次回!


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第五問 何故か、男達は闘いに身を投じる。 (3)

き、きづけばお気に入り登録数が500突破しておりました……。
応援ありがとうございます!!


 片方は覚えている。以前テニスコートで写真を撮りまくってた奴だ。そういえば抜き打ち荷物検査の時はよくカメラ没収されなかったな。部活で使用するものとかで逃げたのだろうか。そして俺が気になっていたのは、もう片方の人物。

 

「お、おい、吉井」

「ん? なに、八幡」

 

 俺は吉井のそばに近寄り、耳元でささやかな抗議をする。

 

「女子がいるなんて聞いてねぇんだが……」

「おい! 聞こえておるぞ! そしてワシは男じゃぞ!」

 

 どうやら俺の耳打ちは聞こえていたようだ。

 ていうか、今聞き捨てならない言葉が聞こえてきた気がする。

 え、男? 

 

「何言ってるのさ秀吉! 秀吉は秀吉じゃないか!」

「お主こそ何を言っておるのじゃ! ワシは男じゃと何度も言っておる!!」

「…………坂本、本当か?」

 

 恐らくこの中ではまだ常識人枠としてカウントしてもいいだろう坂本に尋ねる。

 両手をわざとらしく広げて溜息をつきつつ、

 

「あぁ。木下は間違いなく男だ」

「雄二まで!?」

 

 変に抗議している吉井は置いておくとして。

 ……マジでか。世の中何があるか分かったものじゃない。ってか、もしかして前に吉井が言ってた天使のうちの一人って、まさかこいつのことか? ……悔しいが、確かに可愛い。だが男だ。この調子で行くと、吉井が言ってたもう一人の天使というのも実は男子だったりしないか? 

 

「にしても、まさか比企谷まで来るとはな。こりゃなかなかに今日は楽しくなりそうだ」

「そ、そうか」

 

 どうにも坂本はあまり得意になれそうにない。別に苦手かと言われればそんなことはないのだが、坂本は何を考えているのかがあまり見えてこない。

 

「ところで、あいつは一体何をやってるんだ……?」

 

 あまり会話に参加してなかったみたいなので少し気になったが、一人……確か土屋、だったか……が、カメラを構えてコソコソとしている。あいつは街を駆け回るカメラマンか何かなのか? 

 

「ムッツリーニは多分いつも通り、女の子を撮ろうとしてるんだと思うよ。学年一のムッツリの名に相応しい行動だね!」

「……っ!! (ブンブン)」

 

 吉井の言葉に対して、土屋は必死に首を振る。

 いや、もう手遅れだと思うんだが。むしろそこまで全力で否定する方が怪しく見えてくるまである。

 

「そろそろ明久のうちに行かぬか? このままじゃとムッツリーニが通報されてしまうかもしれぬ」

「確かになぁ。昼間の公園でカメラ持った怪しい男だもんな……」

「……綺麗なものを撮影しているだけ」

「言い訳にしては少し苦しいぞ……」

 

 とてもじゃないが、それで言い逃れできるとは思えなかった。

 

 

 集合場所の公園から歩くこと数分。吉井が住んでいるアパートまで到着した。中に通されると、そこに広がっていたのは意外にもきっちり整えられている部屋だった。男の一人暮らしにしては掃除が行き届いていて、物も全然散らかっていない。そう表現するときちんとしているように聞こえるが、言葉を選ばないのなら、生活感が感じられない。こいつ本当に家で食事を取っているのだろうか。その割にはゲーム類や漫画類は充実している。

 

「明久お前、随分と金あるなぁ。こんだけ揃えるってことは結構金かかったろうに」

「そうなんだよね……だから僕、今月既に水と塩生活だよ」

 

 坂本の問いに対して、平然とニコニコしながら答える吉井。

 ……ちょっと待て。

 

「今、水と塩生活って言わなかったか?」

「へ? 言ったよ?」

「……マジでか?」

「うん。マジだけど」

 

 コイツ、もしかしてマジ物のバカでは? 

 

「……救いようがない」

「全くじゃ……もしや、仕送りをほぼ全額ゲームにつぎ込んだのではあるまい?」

「へ? そうだけど?」

「お主は一体何を考えておるのじゃ!」

 

 流石の木下も看過出来なかったみたいだ。良かった、俺の感性は間違っていなかったようだ。というより、吉井はこんな生活をしていて大丈夫なのだろうか。

 

「明久のバカは今に始まったことじゃねえからな……本人が痛い目見た方が自覚するだろ」

「流石にこの十連休のうちに僕も何日かはアルバイト入れようかと思うよ……うち、確か別にアルバイト自体は禁止されてなかった筈だし」

「確か奉仕部の活動で一日は削られるよな……?」

「そうなんだよねぇ。なんとなくあそこなら受け入れてもらえそうだなって所は目星つけてるんだけどね」

 

 意外と行動力はある方なんだな、吉井。

 それにしても、せっかくの連休なのに、中日に奉仕部としての活動が邪魔してくるとは……出来ることならサボりたいのだが。自宅最高だよ。

 

「ていうか、あれ確か泊まりの行事だったよね?」

「…………えっ」

 

 マジ? 

 正直あの時は奉仕部に入部する気なんてさらさら無かったから話全く聞いてなかったんだが。

 

「うん。合宿だって話だよ?」

「…………マジ?」

「うん、マジ」

 

 やばい、正直何の準備もしてない。そうだ、それを口実にして今からサボる算段をつければいいんだな。よし、行動指針は固まった。

 

「比企谷よ、今お主すごく間抜けな顔をしておるぞ……?」

 

 何故か木下に心配されて。

 解せぬ。だけど可愛い。だが男だ。

 世の中だいぶ理不尽ではないか? こんなに可愛いのに男であるとか。いや、男だからこそなのか? 

 

「な、何事じゃ? そんなにジロジロと見つめて……」

 

 何故か照れている木下がいた。

 いやこいつ本当に男の反応してないぞ? 実は本当は女なんじゃないか? 

 

「…………っ!! (鼻血だらり)」

「うわぁ!? ムッツリーニが鼻血出した!?」

 

 突然土屋が鼻血を出した。

 吉井が慌ててティッシュを持ち出して、土屋が慣れた手つきで自分の鼻の穴の中にティッシュを詰め込んでいく。

 ……こんなこと慣れてどうすんの? 

 

「合宿っつったら、六月には勉強合宿もあるよな」

 

 坂本が話を振ってきたのは、六月にある勉強合宿のことだ。この学校は、一年と二年に宿泊行事があるらしい。二年は当然修学旅行。一年は勉強合宿なのだそうだ。わざわざ環境を変えてまで勉強しなきゃならないのは、はっきり言って地獄では? 

 しかし、中には吉井のように、本気で勉強しなきゃならない奴もいるわけだから、仕方ないことなのかもしれないな……。

 

「……カメラの準備もばっちり」

「ムッツリーニ、君は一体何の準備をしてるの?」

 

 本当ブレないなコイツ。

 

「合宿といえば、やっぱりみんなで遊びたいよね……せっかくだから彩加も一緒の部屋になりたいね!」

「うむ。彩加がいてくれれば、ワシも何だか安心するのじゃ」

 

 それってつまり、二大天使が同じ部屋にいるということになるな? 

 というか、今の吉井の発言によって、二大天使が男子ということが確定したんだが。どうなってんのこの学校。性別逆転現象でも起こってしまってるのん? 

 

「…………天国」

「昇天するにはまだ早いぞムッツリーニ」

 

 親指を立ててサムズアップしながら倒れこむ土屋と、そんな土屋に対して冷静にツッコミを入れる坂本。

 誰かこの場を何とかしてくれ。

 

「とりあえず、今はゲームしようよ! せっかく五人いるんだし、大乱闘しよう!」

 

 吉井がゲーム機を取り出しながら提案してきた。どうやらコントローラーについても人数分揃えているらしい。用意周到過ぎやしないか? 

 そんなこんなで、俺達は当初の目的であるゲームをし始めたのだった。

 

「せっかくだし、ただやるだけじゃつまらないから、最下位の人が一位の人の言う事を聞くって言うのは……」

「却下」

「はやいよ!?」

 

 吉井がとんでもない提案をしてきそうだったので、すかさず俺は止めた。

 




次回以降に行われるエピソードの伏線話みたいなものですー。
多分お察しの方も多いと思うのでお伝えしますと、この先俺ガイルからはキャンプのエピソードを、バカテスからは勉強合宿ネタを入れるつもりです。ちなみに、バカテス3.5巻ネタも何処かで入れるつもりですのでお楽しみに!
両作品が関わり合っている以上、原作通りに進まないことは確かでしょう。キャンプも勉強合宿も、果たしてどうなってしまうのでしょうか……。


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第五問 何故か、男達は闘いに身を投じる。 (4)

 俺達がやっているのは大乱闘系のゲームだった。元々は据え置き型のゲームも大抵四人でしかやれないことが多かったが、最近のゲームというのは最大八人対戦が可能な物も出てきた為、こうして奇数人で多めの人数でやる機会があっても問題なくなったという。つい数日前まで一緒に家でゲームをやるような知り合いがいなかったから、その有り難さを享受することになるとは微塵も思っていなかったわけだが。対戦ゲームをやるにしても、妹の小町が居たからそれで十分だったし。

 だからだろうか。今日こうして顔を突き合わせて誰かとゲームをする経験というのは、俺にとっては貴重なものなのだろうと思った。実際、数か月前の俺に対して、この光景を録画した物を見せたとしても、『何だろうこの出来の悪いイメージ動画は』と一蹴したに違いない。

 それだけ、今の自分からしてみても何処か現実的じゃないような気さえしていた。

 だが、不思議と悪い気はしない。むしろ、なんていうか。

 

「どうしたのじゃ? 八幡。何か考え事でもしておるのか?」

 

 俺が何か考え込んでいることに気付いたのか、木下が顔を覗き込んでくる。

 近い近い! ……って、コイツは男だ。こうしてみると、本当に男なのか何度も疑いたくなってくる。下手したら女子よりも可愛いと評判になるのではないだろうか。

 ラブコメの神様は時として悪戯を仕掛けてくるものだ。

 

「い、いや、何でもない」

 

 だから、俺がどもって返事しても決しておかしいことは何もない筈……何もないよね?

 

「……分かりやすい」

 

 お前にだけは絶対に言われたくない。

 

「にしても、まさかこうしてこの五人でゲームやるような日が来るとはなぁ。何が起きるか分からないものだぜ」

 

 ゴリラのキャラを使って明久が使用している緑色の帽子を被ったキャラを投げで地面まで運びながら、坂本がそんなことを言っていた。何気にこいつエグイ戦法使ってきやがるな。

 

「ちょっ、ゆ、雄二! 今のは反則でしょ! しかも自分はサラッとステージに戻ってるし!」

「注意してなかった明久が悪い。戦いは常に戦場で起きているんだから、油断しちゃ駄目だからな」

「おのれ……雄二め……」

 

 いや、今のはある意味戦術の一つなんだから卑怯も何もないでしょ。

 かくいう俺は、女神様のキャラを使って攻撃を逐一反射しながら地道に攻めていく戦法をとっていた。

 

「八幡もまた、すべての攻撃を反射してくるとはなかなかにねちっこい戦法を使うのぅ……」

 

 天使の男の子キャラを使用しながら、木下は呟く。

 戦術と呼んでほしい。

 

「……くっ、見えない……っ」

 

 悔しそうにしているのは、衛兵キャラを使っている土屋。

 こんな時にゲームキャラの貴重なワンシーンを覗き込もうとしているとは、流石にむっつりの名を欲しいがままにしているだけはあるな。流石に俺もそこまで上級者ではない。

 

「ところでさ、八幡」

「なんだよ?」

 

 そんな時、ふと吉井に話しかけられる。

 ゲームしながらこうして雑談を交わすというのもなかなか不思議な感覚だ。

 

「八幡って妹居たよね?」

「え、なんでいきなりその話?」

 

 あまりにも雑過ぎる会話の話題提供に、思わず溜め息すらつきそうになる。

 ちなみに、真っ先に反応したのは土屋だった。小町に手を出したらどうなるか分かっているな?

 

「なんだ、お主は兄じゃったのか……ワシには姉がいてのぅ……」

「秀吉って妹だったの!?」

「ワシは男じゃから弟じゃ!?」

「……末っ子属性!(ブシャアアアアア)」

 

 吉井がかなりズレた反応を見せた後で、何を想像したのか分からない土屋より鼻血が出た。

 一体コイツ、何を想像したのだろうか。それにしてもあまりにも想像力豊かすぎないか?

 大丈夫? 授業中とかその内出血多量でショック死とかしちゃわない?

 

「へぇ、比企谷に妹か……どうなんだ? 妹はお前にそっくりなのか?」

「俺に似ず、可愛い自慢の妹だ」

「そこは嘘でも俺に似て、とか言わないのな……まったく比企谷らしい解答だな」

 

 俺らしい解答って一体何なんだ坂本。

 何か変にキャラ付けされているようでむずがゆい。

 と、そんな時だった。

 誰かの携帯から着信音が鳴るのだが、その時の効果音が――。

 

 チラリーン、チラリラチーラー……。

 

「……え?」

 

 まるで地獄に落ちるようなイベントでもあったのかと思わされる程、とんでもない効果音が流れてきた。

 誰のだろうかと尋ねようとする前に、

 

「どしたの? 雄二。物凄い勢いで携帯電話を掴んで」

 

 吉井が坂本に尋ねていた。

 坂本の表情からは、余裕がなくなっているというか、真顔になっているというか。何とも表現が難しい表情をしていた。そんなに今の着信相手にいい印象を抱いていないのだろうか。

 

「悪い。ちょっくら電話してくるから、少し待っていてくれ」

 

 坂本はポーズボタンを押して画面を止めると、そのまま部屋の外に出て、携帯の着信を取る。

 その様子を、俺達はただ茫然と眺めている他なかった。

 

「……あの反応速度。恐らく相手は女子」

「なんだと?!」

 

 土屋の推測に対して真っ先に反応したのは吉井だった。

 確かに、ただの相手だったらここまで過剰に反応する必要はないだろう。

 今のは何というか、まるで何かに恐れていると言っても過言ではない反応だった。

 普通ならば疑われたくない相手か、或いはどうしても対応しなくてはならない相手であることを疑うべきだろう。そう言った意味では、土屋の予測はいい線を言っているのかもしれない。

 だが、それで俺達に何の関係もない。

 無理に詮索する必要もないし、その件で坂本を責める必要もないだろう。

 

「悪い。ちょっと連絡が……」

「くたばれ雄二!!」

 

 だから、吉井が坂本に殴りかかった理由はまるで理解出来なかった。

 これじゃあまるで、モテない男がモテる男に嫉妬して殴りかかっているようにしか見えない。

 

「いきなり何すんだよ明久!」

 

 当然、坂本は抗議する。

 そんな坂本に対して、吉井は指差しながら、

 

「今の電話相手、女子だろ!」

 

 と、糾弾した。

 

「あぁ、女子だけど……それが一体どうしたんだ?」

「貴様ぁ! まさか既に付き合っている相手が……っ!」

「ばっか、ちげぇよ! ただの幼馴染だっての!」

 

 強ち、土屋の予測は間違っていなかった。

 予想よりもかなり凄い収穫だった。まさか坂本に女子の幼馴染が居たとは……。

 う、羨ましいとか思ってないんだからねっ!

 

「それにしては、随分と過剰な反応じゃったが……一体何があったのじゃ?」

 

 木下は心配そうな表情を浮かべながら坂本に尋ねる。

 

「いや、何でもない。ただ、翔子は――」

「翔子?」

 

 思わず俺は聞き返してしまった。

 そんな俺の反応を見てからか、坂本はしまったという表情を浮かべている。

 

「翔子って、もしかして雄二の幼馴染って――霧島さん!?」

 

 吉井の言う通り、真っ先に思い浮かんだのは霧島翔子だった。

 成績優秀、容姿端麗。一年J組、国際教養科に所属する、成績トップの生徒の一人。

 雪ノ下雪乃と並ぶ――或いはそれ以上の秀才と言われている生徒だった。

 

「……羨ましい」

 

 今だけは土屋に賛成したい。

 が、坂本の反応を見る限り、どうやらその認識は少し改めた方がいいのかもしれない。

 つい最近、俺も似たような経験をしたからな……。

 

「小学校から一緒だっただけだ。家が近所で、昔っから家同士付き合いがある。それだけだ」

「なる程……じゃから無碍にも出来ぬ、という感じか」

 

 恐らく木下の呟きはほぼ正解に近いのだろう。

 

「まぁ、そんなところだ」

 

 だが、坂本の返事は何処か引っかかるものを感じた。

 別に坂本自身が、霧島に対してどんな感情を抱いていようが俺達には関係ない。

 ただ、なんとなく一筋縄ではいかない事情があるのだろうということは推測出来た。

 

「ま、もう済んだ話だからな。ところで、この一戦終わったら休憩しようぜ。流石にゲームやりっぱなしで疲れてきた」

「確かに、もう結構な時間やっておるからのぅ……」

「……賛成」

「うん、そうしようか」

 

 俺も坂本の提案に賛成だった。

 こうして俺のGW一日目は、吉井の部屋でのゲームに使われたのだった。

 




UA数が50000を突破している……ですって……!?
これからも頑張っていきたいと思います!!!


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第五問 何故か、男達は闘いに身を投じる。 (5)

 吉井の家からの帰り道。俺は一人、帰り道を歩いていた。

 結局、休憩してから俺達は、時間も忘れてがっつり大乱闘をやりまくっていた。柄にもなくゲームをやり倒したと思う。こんな経験はかなり貴重なのではないだろうか。

 なんて、感傷に浸るつもりはない。

 こんな機会など、今日で最後だろう。

 確かに、連休中に奉仕部で出かけなければならない用事もある(それもあの手この手を使ってサボろうかと思うが、もし事情を知った段階でサボったことが平塚先生にバレれば何をされるか分かったものではない為、風邪引かないかなぁなんて今から思っている所だ)。だが、連休中の用事なんてそれで終わりだ。

 こんな機会だからこそ、お祭り気分で俺は誘われただけだ。

 希少種がたまたま予定合ったから一緒に居たような感覚だ。それ以上でもそれ以下でもない。

 つまるところ、俺と吉井達には、特別な何かは存在しないということだ。

 何かを期待するなんて烏滸がましい。俺にはそんな価値などない。

 

「……ん?」

 

 その時、ポケットの中に入っていた携帯電話が震えていることに気付く。

 帰りついでに小町から買い物でも頼まれるのだろうかと思いながら一応確認すると、

 

「島田……?」

 

 そこに表示されていたのは意外な人物からだった。

 島田美波。

 そう言えば吉井の家に行く前に連絡先を交換したんだったな。にしても、まさかその日中に連絡が来るとは思ってもみなかったが。

 自転車を押しながら歩くことにし、俺は鳴り続ける電話を止める意味でも通話に出ることにした。

 

「もしもし?」

『比企谷? よかった……なかなか出なかったから忙しいのかなって……』

「チャリ漕いでたからな。今は押してるから問題ない」

『そっか。自転車乗りながら通話するのは駄目だもんね』

「そういうわけだ……ってか、どした?」

 

 一体島田は何の用事で電話をかけてきたというのだろうか。

 

『あ、あのさ。由比ヶ浜さんから聞いたんだけど……比企谷達、今度部活動でキャンプ行くんだって?』

「あ、あぁ。そうだけど……」

 

 ってか、いつの間に由比ヶ浜と仲良くなってたのね。

 順調に交友関係を広げているみたいで何よりだ……やっぱり島田は、ぼっちになることはなかったじゃねえか。

 

『それでさ、ウチも誘われたからさ……一緒に行くことになったよって報告がしたくて』

「お、おう……」

 

 わざわざ俺に報告してくるとは。

 余程由比ヶ浜に誘われたことが嬉しかったのだろうか。

 島田美波は、元々日本語がそこまで流暢ではなかったが為に浮いていて、それ故に孤立していただけだ。元々の性格はやはり明るい為、必死に日本語を勉強した今、友人だって出来ている。

 それに、妹である葉月の話を聞く限りだと、優しい姉であることは確かだ。

 あぁ、やっぱりコイツは、俺とは違う世界に居る人間なんだな。

 悪意によって孤立していたわけではなく、孤高でありたいと思ったわけでもなく、たまたま運が悪かっただけ。

 そして今は、彼女自身の努力の賜物で、ようやっと本来の島田美波を取り戻せたのだろう。

 

 ――やはり、そこに俺の存在は関係なかった。

 

『キャンプ、みたいだね?』

「と言っても、俺達は林間学校に来る小学生の面倒見る係だそうだ。だから、ボランティアの方が正しいぞ」

『確かに。葉月にも話をしてみたら行きたがってたけど……』

「そういうことなら平塚先生に相談してみたらどうだ? 一応あの人顧問やってるみたいだし」

『それもそうね……って、電話番号知らない……』

「教えておこうか?」

『……なんで比企谷が平塚先生の連絡先知ってるの?』

 

 なんでだろうなぁ……。

 普通生徒にほいほいと連絡先教えるかねぇ。

 とはいうものの、部活の連絡とかをする為に使うこともあると言われてしまえば、逆らえない。

 ちなみに、由比ヶ浜や雪ノ下とはまだ連絡先を交換していない。別にこっちから言う必要もないから、特に交換しようとも思っていないが。

 

『まぁ、いっか……後でメールで教えてね?』

「あぁ。まぁ、あの人なら事情説明すればオッケー出しそうな物だけどな……」

『何だかんだで、平塚先生優しいからね。西村先生と一緒で』

「西村先生は吉井や坂本達が絡むと厳しいけどな」

『あれは吉井や坂本がバカやってるからでしょ……』

「違いない」

 

 なんてことのない会話を交わす。

 電話越しだからか、それとも学校でも隣同士で話す機会が多い為か、それとも吉井の家でゲームをやった帰りで浮足立っているからなのか。理由は分からないが、自然と饒舌になっている自分に気付いた。

 何を舞い上がっているというのだろう。

 

『あのさ、比企谷……』

「どした?」

 

 少し、電話越しの声が緊張しているように聞こえた。

 まるで何かを俺に対して言おうとしているような、そんな感じ。

 俺は島田の言葉を待っている。

 

 

『由比ヶ浜さんから聞いたんだけど、比企谷ってヒッキーって呼ばれているんだって?』

 

 何を言い出すかと思えば、俺のニックネームについてだった。

 いや、本当に何を決意したの?

 と、油断していたその時。

 

『ウチもさ、その……ハチ、って呼んじゃ、駄目、かな?』

 

 これが、電話越しで本当によかったと思う。

 もし面と向かって言われたとしたら、勘違いで黒歴史を量産していた所だっただろう。

 その時の声が、あまりにも印象的で、可愛くて、震えていて、その、グッときた。

 こんな声で言われた日には、断れるわけがない。

 

「別に、呼びたきゃ好きに呼べばいい……」

『本当? よかった……』

 

 なんだか、犬の名前を呼ばれているような感覚がするも、親しみを込めてそう呼ばれるのだとしたら、悪い気はしない。ヒッキーという頭の悪そうなニックネームよりはだいぶマシというのもあるが。

 

『いきなり電話してごめんね?』

「まぁ、帰り道暇だったから、大丈夫だ……っと、家に着いた」

『そっか……ありがとね、ハチ』

「お、おう」

 

 素直にお礼を言われると、そんな返事しか出来なかった。

 

『それじゃあまた今度ね、ハチ』

「……あぁ、また今度な、島田」

 

 そう言って電話を切った俺。

 と、同時に。

 ガチャリ、と扉が開かれて、そこからひょこっと顔を出してきたのは、何やら怪しい人を見るような眼差しを向けてくるマイシスターこと小町だった。

 

「……何してんの?」

「いや、何か外から変な声が聞こえてくるから、怖いなぁ、怖いなぁって思って恐る恐る扉を開けたら、お兄ちゃんだったからびっくりしたんだよ」

「お兄ちゃん不審者扱い? 流石に泣いちゃうよ?」

「うわぁ……」

 

 本気で引いてる目をされた。

 このガキぃ……。

 

「けど、お兄ちゃんが泣いちゃった日には小町が優しく慰めてあげる! あっ、今の小町的にポイント高い♪」

「あぁ。最後のがないのと、泣かせた張本人が小町じゃなければな」

「もぅ、お兄ちゃんってばノリ悪いなぁ……てか、家の前で何してたの?」

 

 首を傾げながら尋ねてくる小町。

 まぁ、確かに小町からしてみれば突然兄が独り言呟いているように聞こえたのか。

 ん、扉越しに聞こえてくる独り言ってやばくない?

 

「電話してただけだ」

「えっ……?」

 

 心底不思議そうな表情を浮かべる小町。

 そう言えば連絡先を交換したとかそう言った類のこと、小町に言ってなかったな。

 

「あー……学校の奴と連絡先交換したんだ。GWの中日にある奉仕部の活動のことで……」

「えっ、ごみいちゃんが、GW中に二回目の外出……? しかも部活動……?」

 

 ……今日はどうやら小町に説明しなきゃならないことが多くて大変そうだ。

 そんなことを考えながら、俺は家の中へと入ったのだった。

 

 ――それにしても、本当不思議な一日だった。

 




お気に入り登録数が555件を突破しました!
なんか縁起がいいなぁ……なんて思ったのでご報告させていただきました!
そして次回からは、俺ガイル原作においても重大なイベントの一つ、林間学校のボランティア活動編でございます!
八幡達だけではなく、バカテスキャラも参加するこのイベント……ボランティアは何人いても困らないの精神で、恐らくキャラが一気に増えるんじゃないかなって思います()。
次回だけで終わる気はしないので、恐らくじっくり二話かけるのではないかと……(分割している為、実質十話分は投稿することになる可能性もあります)。
ちなみに、次回は明久視点でのお話です。
これから先一体どんな展開が待ち受けているのか?
ご期待ください!


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第六問 バカとキャンプと仲間外れ (1)

第六問 【日本史】

以下の問いに答えなさい。
「江戸幕府八代将軍徳川吉宗が、法に基づく合理的な政治を進める為に整備した書物の名を答えなさい」

姫路瑞希の答え
「公事方御定書」

教師のコメント
正解です。吉宗は他にも上げ米の制や相対済まし令を出すなどの政策をとっています。また、彼の行った改革のことを享保の改革とも呼びます。

戸部翔の答え
「六法全書」

教師のコメント
吉宗は何世紀生きているのですか?

吉井明久の答え
「ルールブック」

教師のコメント
それは反則でしょう。


 GW四日目。奉仕部の活動ということでキャンプに行くことになった僕は、千葉駅に来ていた。平塚先生の話ではここが集合場所として指定されていたからだ。

 どうやら一番最初に僕が到着したみたいだ。八幡達はまだ来ていそうにない。

 

「よぅ、明久」

 

 そんな時だった。

 背後から聞き覚えのある声が聞こえてくる。僕はその人物を確認する為に振り向くと、そこにいたのは。

 

「雄二!?」

 

 大きな旅行カバンから伸びた紐を肩にかけている雄二だった。

 

「ワシらもおるぞ!」

「秀吉にムッツリーニまで!?」

 

 雄二の後についてくるように、秀吉とムッツリーニもやってきた。二人とも、雄二と同じように大きな荷物を持っている。ムッツリーニはリュックサック、秀吉はキャリーケースを引っ張っていた。

 三人がこうして同じように旅行カバンを持っているということは、まさか……! 

 

「貴様ぁ! 僕のいない間に秀吉とランデブーだなんて許さないぞ!」

「おいなんでそういう解釈になるんだ」

 

 雄二が呆れながら言ってきた。他の二人も『何考えてるんだコイツ』と目で言っている。そうじゃないとすれば一体どういうことなんだろうか。

 

「……平塚先生と西村先生に誘われた」

「俺に至ってはほぼほぼ脅しみてぇな感じだったけどな……」

「ワシらもボランティアに参加することになったのじゃ」

 

 そういうことだったのか! 

 雄二やムッツリーニはともかくとして、秀吉とお泊まり出来るなんて夢みたいだ! 

 

「一緒にいい思い出、作ろうね! 秀吉!」

「なんか明久の目がおかしいのじゃが……」

 

 なんで秀吉は引いているのさ! 

 こんなにも目を輝かせているというのに! 

 

「何やってるのよ、アキ……」

 

 溜息をつきながら歩いてきたのは、島田さん……ううん、美波だった。その横には葉月ちゃんもいる! 

 

「バカなお兄ちゃんですーっ!」

「葉月ちゃん! 美波!」

 

 美波とはだいぶ仲良くなったこともあって、お互いに名前で呼ぶ感じになっていた。やっぱりこうしてみると親友って感じがしていいよね。それにしても葉月ちゃんまで来ても良かったのかな? 

 

「葉月については平塚先生に確認とったから問題ないわ」

「あれ? 僕口に出してたっけ?」

「アキの考えくらい何となく想像つくわよ……」

 

 呆れながら美波に言われる。

 そんなに僕の考えは読みやすいのだろうか。

 と、抱きついてきた葉月ちゃんの頭を撫でていると、何やら美波が辺りを気にしている様子。

 

「どうかしたの?」

「比企谷ならまだ来てねぇぞ、島田」

「べ、別に! ウチはハチを探してたわけじゃ……」

「「「「ハチ?」」」」

 

 僕達の声がハモった。

 ハチって、忠犬ハチ公? 

 いつの間に美波は犬を飼い始めたの? 

 

「おい、明久がどんどんバカな発想してんぞ」

「…………とてもユニーク」

「恐らく、ハチとは八幡のニックネームのことだと思うのじゃが……」

 

 あーっ! なるほどね! 

 比企谷八幡だから、ハチか! 

 ヒッキーといい、ハチといい、いろんなニックネーム付けられるなぁ……。

 ちなみに、ぽろっとこぼしてしまった美波は顔を赤くしている。怒らせちゃったかな? 

 

「やっはろー!」

 

 そんな中、次に合流してきたのは由比ヶ浜さんだった。相変わらず元気な声だなぁ。その後ろからは雪ノ下さんがついてきている。

 

「やっはろー! 由比ヶ浜さん!」

「やっはろー! ヨッシー!」

「「ぷっ!」」

 

 ちょっと待って。

 ニックネーム呼ばれただけで雄二とムッツリーニに笑われるのは心外だ。

 

「わ、わりぃわりぃ。聞き慣れないアダ名だったもんでな……でっていう」

「…………乗り捨てられる」

「絶対わざとだよね!? わざと言ってるよね!?」

 

 この二人は本当ネタに対して謎の全力出してくるね! 雄二は僕を貶すことと陥れることなら全力を注ぐのではないだろうか!? そっちがその気なら僕だって考えがあるからね!? 

 

「全く……騒がしいわね」

「お前が雪ノ下雪乃か?」

 

 いつの間にか雄二が雪ノ下さんに話しかけていた。そういえばこの二人って初対面だったね……時にムッツリーニ。何で君はこっそりと雪ノ下さんと由比ヶ浜さん、そして美波の写真を撮りまくっているんだい? あとで良い値で買うよ? 秀吉も撮って欲しいな。

 

「そうだけど……」

「俺は坂本雄二だ。今日はよろしくな」

「そう……貴方が……」

 

 何やら雪ノ下さんがポツリと零した気がした。

 

「霧島さんは後で合流するそうよ。せっかくだから後で話すと良いのではないかしら?」

「……もう知ってる。お前ら、仲が良かったのな」

 

 霧島さんも来るの!? 

 何だか本当に大勢来るなぁ……。

 そして雄二は、霧島さんの名前が出た時に少し複雑そうな表情を浮かべた。何だろう、この二人ってやっぱり何かあるのかな? 

 

「同じクラスだから話くらいはするわ。けど、生憎友人とは言い難いかもしれないわね……」

「私はゆきのんの友達だからね!」

 

 そう言いながら由比ヶ浜さんが雪ノ下さんに抱きついていた。何だこの百合百合空間は!? それに、豊満な胸が! 雪ノ下さんに! 吸い付いている!! 

 

「……っ!!」

 

 流石はムッツリーニ! 

 君の反応速度はやはり世界一だよ!! 

 

「何やら浮かない表情じゃが、どうしたのじゃ?」

 

 その横では秀吉が心配そうに雄二に話しかけていた。雄二は『何でもない』とだけ言ってその場から一度離れる。うーん、このキャンプ中に何か分かるのかな? 

 

「遅れてごめん!」

 

 その後にやってきたのは、息を切らしながら駆け寄ってくる彩加だった。なんてことだ! 今日は二大天使が揃ったではないか! 

 

「あ、やっはろー! 彩ちゃん!」

「やっはろー! 由比ヶ浜さん!」

 

 なんだこれ、すごく可愛いぞ。

 くっ……でも僕には秀吉が……っ! 

 

「何を葛藤しておるのじゃ……」

「止めないでくれ秀吉……今僕は愛を試されているんだ……っ!」

「そんなに歯を食いしばる程のものなのか!? 一体何を悩んでおるのじゃ!?」

「……相変わらずのバカっぷりみたいね。課題の方は進んでいるのかしら……?」

 

 最後に雪ノ下さんからのキツイ一言が降り注いできたけど、今の僕は愛の戦士だから問題ない! 

 ちなみに雪ノ下さんの課題は進めている。やらないと後が怖いし……。

 

「……なんでこんなにいるんだ?」

 

 最後にやってきたのは、目を存分に腐らせている八幡だった。その横には見知らぬ女の子がいる。まさか……っ! 

 

「八幡! 歯を食いしばれぇ!!」

 

 僕の拳が真っ赤に燃える!! 

 

「いやなんでだよ!? 前に言っただろ? こいつはその妹だ」

「どもー! 愚兄がいつもお世話になっております。比企谷小町です! 今日はよろしくお願いします!」

 

 あ、妹だったんだ。

 良かった……僕はてっきり八幡に彼女が出来たのかと思ったよ。危うくFFF団に通報しなきゃいけないかと思った。

 

「ハチ!」

「ヒッキー! やっはろー!」

 

 八幡を見つけると、美波と由比ヶ浜さんの二人が駆け寄っていく。雪ノ下さんも後からゆっくりとついてきた。

 

「小町ちゃん……だよね? 私は由比ヶ浜結衣だよ! ヒッキーのクラスメイトなんだ! よろしくね?」

「ウチは島田美波。こっちは妹の葉月。同じくハチのクラスメイトよ。よろしく!」

「よろしくですー!」

 

 由比ヶ浜さんと美波が自己紹介をする。

 そんな中で葉月ちゃんは八幡に抱きついていた。そして最後に雪ノ下さんの番なのだが。

 

「私は雪ノ下雪乃。彼は……クラスメイト……でもないし、友達……でもないわね……誠に遺憾ながら彼が所属している部活の部長を務めているわ」

「誠に遺憾ながら俺もそんな部長の元で部員やらせて貰ってるんですがね……」

「あら、光栄に思いなさい? 貴方のような人がこうして美少女と会話出来る機会なんてそうそうないことかもしれないのだから」

「相変わらず絶好調だな雪ノ下……」

 

 八幡がポツリと零していた。

 そんな様子を見ていた小町ちゃんが、目をパチクリとさせながら、

 

「え、これは一体どういうこと? いつの間にこんなに義姉ちゃん候補が……? それに小町の妹としてのポジションも危ぶまれている……? お兄ちゃんこれは一体何があったの!? 高校生デビューしちゃってるよ!? 小町びっくりだよ!? 感動のあまり涙が流れまくりだよ!」

「落ち着け小町」

 

 八幡はそう言うと、小町ちゃんの頭を軽く叩いて、そのままわしゃわしゃと撫で回す。きゃーって言いながらも、小町ちゃんはあまり抵抗していない。

 そんな様子を、由比ヶ浜さんや美波、そして葉月ちゃんは羨ましそうに見ていた。

 

「…………悔しい」

「同感だよ、ムッツリーニ……やはりFFF団を呼ぶべきかな……」

「何を言っておるのじゃ!?」

 

 それから数分後。

 

「全員集まっているな?」

「これから移動するから乗り込め!」

 

 車を運転しながらやってきた、平塚先生と……鉄人だった。

 鉄人まで来るなんて聞いてないよ!?




ついにやってきました林間学校編!
今回のエピソードより、バカテス側からは霧島さんが登場します!
俺ガイル側からは葉山グループの本格参戦です!
あ、バカテスキャラ、もう少し登場します。


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第六問 バカとキャンプと仲間外れ (2)

 車で移動して、僕達がたどり着いたのは。

 

「千葉村、だね」

 

 千葉県の学校に通う人ならば、多分一度はここに来るんじゃないだろうか。小学校の林間学校とかでよく使われるような施設だ。今日も林間学校のお手伝いという事だったので、多分当てはまっている。

 その時、僕達の他にもボランティアの人がいるのか、もう一台の車がやってきた。そこから降りてきたのは。

 

「あれ? 葉山くん?」

「おはよう、結衣」

 

 葉山隼人君。クラスの中でもトップクラスのイケメンで、一年生にしてサッカー部のエース候補として頑張っている、という話を聞いた事がある。他にも、同じくサッカー部にいる戸部翔君や、そんな彼らといつも仲良くしている三浦優美子さん、そして海老名姫菜さんの四人だ。

 

「あっれー? ヒキタニ君もいるじゃん? まじっべーわ!」

「やぁ、ヒキタニ君」

「う、うす……」

 

 戸部君と葉山君の二人は、八幡に対して挨拶する。だけど彼の名前は『ヒキタニ』じゃなくて、『ヒキガヤ』だよ?

 けど、戸部君のそれは本気で勘違いしているように見えるけど、葉山君のはなんというか、わざとっぽいというか?

 

「なんか引っかかるのぅ……」

 

 ポツリと秀吉が呟いた。

 やった! 秀吉と僕の心が通じ合ったよ! 僕らはいつも以心伝心なんだね! 二人の距離詰まるテレパシーを飛ばしあおうね!

 

「平塚先生。何故彼らも?」

 

 当然気になる所だよね。

 雪ノ下さんは不機嫌さを隠そうともせずに平塚先生に尋ねる。

 先生は、そんな質問を待ってましたと言わんばかりのにっこり笑顔と共に、八幡と雪ノ下さんに言った。

 

「私が呼んだんだ。最も、来たこと自体は彼らの意思でもあるのだがな」

「どうしてそのようなことを?」

 

 あぁ……あれ、完全に不機嫌さMAXだよ。由比ヶ浜さんがオロオロし始めている気すらしてるし。八幡も葉山君達の方を見る度に溜め息をついている様子だった。

 何だろう、一体何かあったのだろうか。

 

「仲良くしろ……とは言わない。せめて卒なくこなしてみたまえ。これは私なりのお節介みたいなものだ」

「つまり、この二日間何事もなく過ごしてみせろ、ということですね?」

 

 八幡の答えに満足がいったのか、平塚先生はうんうんと頷いている。 

 ただ単に人集めしていただけじゃなくて、そこまで考えていたんだ……時々、この人が何でモテないのか分からなくなる時がある。

 

「ん? 何か言いたいようだな吉井」

「な、なんでもないです!!」

 

 もう、本当そういう妙に勘が鋭い所ですよ先生!!

 

「吉井……お前は言いたいことがすぐ顔に出るんだ」

「そ、そんなことないですよ!?」

 

 まさかの鉄人にまで言われた!?

 というか他の人達まで納得したように頷かないでよ!!

 

「あれ? もう一台来たよ?」

 

 そんな時、彩加が少し遠くの方を指差しながら言った。

 僕達はその方向を見つめてみる。

 すると確かに、そこにはもう一台車がこっちに近づいて来ているのが見えた。これで全員ってわけではなかったんだね。そういえばまだ霧島さんの姿が見えないから、もしかしてあの車に乗ってるのかな?

 程なくしてその車は僕らの前に止まり、そこから降りてきたのは……。

 

「わぁ……」

 

 思わず、僕はため息をついてしまった。

 降りてきたのは二人の少女だった。一人は、長い黒髪が印象的な女の子――霧島翔子さんだ。その美しさは、男女問わず人気と言われるほどだ。何せこの学年で雪ノ下さんと霧島さんのことを知らない人なんて居ないくらいだと思う。

 もう一人の女の子は、ピンク色の髪をした女の子だった。清楚という表現が似合う彼女のことも、噂になっている。

 姫路瑞希さん。

 確か学年でトップクラスの成績をとった三人のうちの一人だ。彼女だけは国際教養科ではなく、普通科の所属である。今年は別のクラスになってしまったけど、来年は同じクラスになれるといいなぁ。

 

「おはよう、雄二」

「……おう」

 

 車を降りた霧島さんが真っ先に向かったのは雄二の所だった。

 GW初日、雄二と霧島さんが幼馴染である事が判明している。だからそれ自体は別に何もおかしくはない。だけどなんというか、雄二の態度が少し素っ気ないというか、何処か引っ掛かりを覚える。

 

「……今日はとっても楽しみ。思い出作ろうね」

「そうだな。作れるといいな」

「作るよ。だって、高校に入ってやっと、雄二とこうして出かけられたんだから」

「……」

 

 霧島さんすごくいい笑顔してるなぁ。本当に心から嬉しいのが伝わってくるような笑顔だ。そんな霧島さんに対して微妙そうな返答をする雄二は一体何を考えているのだろうか。

 

「あ、あの……」

「ん?」

 

 後ろから声が聞こえてきた。

 声のした方を振り向くと、そこには緊張した面持ちの姫路さんが立っていた。

 僕なんかにわざわざ挨拶しに来てくれたのかな? だとすればなんて素敵な人なんだ!

 

「私……姫路瑞希です。吉井君、ですよね?」

「え?」

 

 思わず間抜けな声を出してしまった気がする。

 なんで姫路さんは、僕の名前を知っているんだろう?

 そして、その姫路さんは、今の僕の反応を見て何かを悟ったみたいだ。

 少し寂しそうな、だけど何かを決意したような、そんな表情だった。

 

「これからもよろしくお願いします、吉井君!」

「は、はい」

 

 今なら少しだけ、八幡の気持ちが分かるかもしれない。

 本当に何も言い返せなくなった時、人はきっとどもってしまうんだ。

 緊張が限界に達すると、きっと何も言えなくなっちゃうんだろう。

 

「こんにちは、吉井君」

 

 そんな事を考えていると、葉山君が僕の所にもやってきた。

 

「あ、葉山君。こんにちは」

「吉井君も、奉仕部に入っているんだってね?」

 

 『も』ってことは、さっき八幡から何か聞いたのかな?

 それとも由比ヶ浜さんかな?

 雪ノ下さん……はなさそうかなぁ。なんだか雪ノ下さん、葉山君を目の敵にしてそうな目でじっと睨んでいるみたいだし。

 

「うん。葉山君は確かサッカー部だっけ?」

「そうだよ。戸部と一緒にサッカー部にね」

 

 三浦さんや海老名さんと話している戸部君を見て、葉山君は言った。

 その後で、葉山君は僕を見ながら、

 

「それで、部活での雪ノ下さんはどうかな?」

 

 と、突然雪ノ下さんのことを尋ねてきた。

 

「へ? 雪ノ下さん? うーん、別に特に変わった所はないと思うけど……」

「そっか……君達はいつも何を話しているんだい?」

「うーん、主に僕は雪ノ下さんに勉強しろって言われてる位かなぁ」

 

 何だろう?

 葉山君は妙に雪ノ下さんのことを聞きたがるなぁ。

 

「お主、そこまで何が気になるのじゃ?」

 

 首を傾げながら秀吉が葉山君に尋ねる。

 くっ、その表情可愛いよ秀吉! 今夜は思い出作ろうね!

 

「何でもないよ。木下君もよろしくね」

「うむ」

 

 そう言うと、葉山君はその場から立ち去っていく。

 一体何だったんだろう?

 

「それじゃあ一度こっちに来てくれ! 向こうの小学生が既に集まっているようだからお前達のことを紹介する!」

 

 鉄人の号令によって僕達は一度移動することとなる。

 道中、葉月ちゃんが僕に抱き着いてきたことによってムッツリーニが鼻血を出しそうになったけど、その他には何も問題なく集合場所まで到着出来た。

 僕等の前に集まっていたのは、何十人もの小学生達。

 今日から二日間、僕達はこの子達の為にボランティア活動に勤しむというわけだね!

 けど、見た感じ葉月ちゃんよりも年上の子達のような気がするなぁ……。

 

「今日からみんなのことをサポートしてくれる人達に、ご挨拶をしましょう!」

 

 向こうの先生が号令をかけると、体育座りしている子供たちが一斉に『よろしくお願いします!』と言ってくれた。なんか既にムッツリーニが身体震わせているんだけど大丈夫かな。

 対するこっちは、代表挨拶を霧島さんが行う。

 

「……みんな仲良く、楽しい思い出を作りましょう」

 

 そう言って微笑む姿は、本当に美しかった。

 美人さんが言うとやっぱり違うなぁ……。

 

「……むぅ」

 

 近くで、姫路さんが不満げな表情を浮かべていた。

 うーん? 一体何があったのかな?

 

「……つくづくお前、鈍感なのな」

 

 近くに居た八幡がポツリと僕に対して言ったのを聞き逃さなかった。

 いや、その台詞、八幡にだけは言われたくないからね?

 

 




というわけで、とうとうこの小説にも姫路さんと霧島さんが登場してくださいました!!
そして葉山グループの本格参戦でございます。
この先本当に何が起きるのか想像つきません……というかキャラ多すぎててんやわんやしてます(白目
今回の林間学校編で注目したいポイントは、

・ルミルミ問題をどう解決するのか?
・霧島さんと雄二の関係性はどうなっていくのか?
・姫路さんが何処まで明久にアピール出来るのか?
・八幡は一体どう動くのか?
・その他のキャラ達の人間模様はどうなるか?

と、見所多いですね……というか筆者も書きたいこと多くて正直悩んでます()
ちなみに、実はこの作品においては、八幡と戸塚初対面です。
きっとこのキャンプ中に仲を深めて、八幡のハートを射抜いてくれると信じております!!


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第六問 バカとキャンプと仲間外れ (3)

 僕達の最初のお手伝いは、小学生達が通過するチェックポイントへの誘導係だ。

 人数が多いこともあり、チェックポイントとしてスタンプを押す係と、迷っている小学生が居たらルートへ戻してあげる係の二手に分かれることとなった。

 僕達奉仕部は案内係なんだけど、主に僕と由比ヶ浜さんがやることとなっている。

 理由は単純で、雪ノ下さんと八幡が、その、話しかけにいってくれないからだ……。

 ちなみに、葉山君も誘導係を務めている。

 

「バカなお兄ちゃんとっても優しいね!」

「バカなお兄さんありがとう!」

「バカなお兄さんやっぱバカだなー」

「バカなお兄さん楽しいね!」

 

 ところで、道行く小学生達にバカなお兄さんと言われるのはなんでだろう?

 もしかして、葉月ちゃんの言い回しがみんなに知れ渡ってない?

 

「安心なさい。誰かが言わなくても、貴方の頭については自ずと気付かれるものだわ。いっそ誇りを抱いてもいいのかもしれないわね」

「バカに対する誇りを持つなんてなんか嫌だよ!?」

 

 今日も雪ノ下さん節は炸裂している。

 何というか、この人はいつにもまして元気だなぁ。

 

「……ん?」

「どしたの? ヒッキー」

 

 その時、八幡が何かを見つけたらしく声を上げていた。

 僕達はその方向を見てみる。

 そこには、五人の女子小学生達が固まって何かをジッと見つめている様子が見えた。

 

「何やってるのかしら……?」

「見てくるよ」

 

 雪ノ下さんが呟いた後に、葉山君がそのまま笑顔を見せて様子を見に行く。

 雪ノ下さんは露骨に嫌そうな表情を浮かべていた。

 いや、本当仲悪いの? 実は永遠のライバルだったりする?

 

「あれ?」

 

 何気なく見ていると、僕はその五人組に対して違和感を抱いていた。

 

「どしたの? ヨッシー」

 

 今度は僕の声に反応した由比ヶ浜さん。

 わぁお! 近づいてくれたおかげでおpp。

 

「ぶはぁっ!」

「えぇ!? 何処から!?」

 

 何か視界の片隅で赤い鮮血が飛び出している!?

 まるで噴水のように!!

 

「きゃーっ!」

 

 これには流石に目の前の小学生組もビビっている!

 いや、これってもしかしなくてもムッツリーニだよね!? 何してるのさ!?

 

「大丈夫だよ! これはちょっとした脅かしアイテムだからね! どう? びっくりした?」

 

 そんな時、さり気なくフォローを入れる葉山君の姿が見えた。

 凄い、こんなトラブルでさえもコミュ力によって覆い隠すことが出来ちゃうんだ……。

 ちなみに、雪ノ下さん達は茫然と眺めているだけ。

 

「もしかしたら、チェックポイントは反対方向にあるのかもしれないよ? みんなで探してみようよ!」

 

 そう言って、葉山君は小学生グループを連れて進んでいく。

 ……やっぱり、なんとなくだけどおかしい。

 

「えっとね? さっきの件でうやむやになっちゃったけど、あの子……」

 

 僕が指差した先に居るのは、黒くて長い髪が特徴の女の子。その子が一人、みんなより少し後ろを着いていくのが見えた。もしかしなくても、あれって……。

 

「ああいうのって、小学生でもある物なのな」

「小学生だって等しく人間なのよ。高校生だろうが、小学生だろうが、そう言う所は同じよ」

 

 八幡のつぶやきに対して、雪ノ下さんはさも当然のように答えた。

 僕も、ああしてみんなの一歩後ろを歩いているのと、その際に少し寂しそうな表情を見せているのは引っかかる。そして、たぶんだけど葉山君は優しいから、

 

「チェックポイント、見つかった?」

「いえ……」

「そっか。ならみんなで一緒に探そうよ。名前は?」

「……鶴見、留美」

「俺は葉山隼人。よろしくな?」

 

 そう言って、留美ちゃんをみんなと一緒の所まで連れ戻すのだ。

 

「すげぇな。さり気なく名前まで聞き出してるぞ」

「流石だよねぇ、葉山君……」

 

 八幡と由比ヶ浜さんは感心したように見ている。

 かくいう僕も、葉山君の行動が凄いなぁって思っていた。あそこまで流暢に僕は出来ないと思うから、尊敬しちゃうよ!

 だけど、雪ノ下さんだけは違った。

 

「けど、あれは悪い手ね」

「……かもな」

「「へ?」」

 

 八幡は雪ノ下さんの言いたいことが理解出来たらしい。

 僕と由比ヶ浜さんはキョトンとしてしまった。

 だけど、次の光景が目に飛び込んできて気付いた。

 

「あっ……」

 

 女の子達四人が、留美ちゃんを無視しているのだ。

 

「もしかしてあれって、仲間外れにされてる?」

「そう言うことだ。そして、ぼっちにとって今の葉山の行動はすべてマイナスにしかならない」

「どういうこと?」

 

 由比ヶ浜さんが首を傾げていた。

 どうでもいいけど、その角度、凄い強調されます。

 

「ぼっちって言うのはすべからく少数派だ。基本的に集団から孤立してしまっている以上、それ相応の立場で以て接していることが大抵だ。そんな中、葉山はしきりに『みんな』という言葉を使っている。本人にとって『みんな』とは一体誰なのか分からないのに、第三者からそう言う風に言われると、自分が惨めで仕方なく思える物なんだ。そして極め付けは、『目立つ』ということ。ああいう場合、話しかける時は目立ってはいけない。そして目立った時に弱い所を見せてしまうと、そこに付け入る隙が出来てしまう」

「え、えーと……?」

「うーん……?」

 

 僕と由比ヶ浜さんはキャパシティオーバーを招いてしまっている。頭から湯気が出てきそうだよ! 容量オーバーで強制シャットダウンしちゃいそう!

 

「……比企谷君。二人がついて来れないから簡潔に述べてあげた方がいいわよ」

「つまり、葉山が悪い」

「まとめ過ぎだ!?」

 

 いきなり過ぎてびっくりしちゃったよ!?

 由比ヶ浜さんだって驚きのあまり全力でツッコミ入れちゃってるよ!

 

「でも、なんだか可哀想だよ……何とか出来ないのかな?」

 

 由比ヶ浜さんが少し寂しそうに呟く。

 だけど、

 

「今はもう少し様子を見ているしかないわね……事情が分からない以上、下手に動かない方がいいわ」

「……あの子が今の状況をどう見ているのか。それによるな」

 

 雪ノ下さんと八幡は、もう少し様子を見るべきだと言った。

 確かに、今のままじゃ何も分からないから、何か行動を起こすにしても事情を把握してからの方がいいのかもしれない。そうなると、今さっき鼻血出したむっつり助平の出番なのかもしれない……。

 

「ムッツリーニ、そこにいるでしょ?」

「っ!」

 

 まだ少し鼻血を出しながら、ムッツリーニが立ち上がった。

 

「土屋君!? 大丈夫なの!?」

 

 由比ヶ浜さんが心配そうに駆け寄ってくる。

 駄目だ! 今のムッツリーニにそんなことしたら!!

 

「っ!! 至福……っ!!(ブシャアアアアアアアア)」

 

 余計に鼻血が酷くなっちゃうじゃないか!

 

「……何やってんだアイツ」

「……なんでこう、貴方の周りはこうも愉快な人達ばかりなのかしら」

 

 こめかみを抑えながら雪ノ下さんが呟く。

 うん、今回に関しては全く否定出来る気がしないよ……。

 

 結局、ムッツリーニの鼻血が治まってから事情を説明し、何とか協力してもらえるようになった。

 そうこうしている内に、カレー作りの時間となった。

 

 だけど、この時僕はまだ知らなかった。

 あの人達の料理スキルが……ここまで壊滅的だったのかということを。

 




一応、第六問ではキャンプ一日目、第七問ではキャンプ二日目ということで話を進めていくつもりです。本格的に行動を起こすとなると二日目になるので、一日目を描く今回の話はどちらかというとコメディに偏る可能性があります。
と言うより、明久視点にすると基本的にコメディ色が強くなります故……。
ただし、第六問でもきっちりと真面目パートありますよ。

そして何より、ここからが少し重大なお話です。

キャンプ中で描かれるエピソードは、鶴見留美の一件のみではありません。
雄二・霧島さんの件、島田さんと八幡の件、姫路さんと明久の件、葉山と雪ノ下さんの件、etc...
数えるとキリがありませんね()
なので、本編とは別に番外編を作ろうと思います。
本編の補完という意味で、それぞれの視点でのエピソードを作成予定です。
ここで連載するのか、或いは番外編として新たな作品を作るのか、どちらにしようかまだ未定ですが、いずれにせよこのあたりの話もしっかりと作るつもりなのでお楽しみにください。


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第六問 バカとキャンプと仲間外れ (4)

「よし、こんな所でいいだろう」

 

 各班全員分の火を起こした平塚先生。

 山登りも終わって、今は飯盒炊飯の時間だ。小学校の林間学校では定番となっているカレーを全員で作ることになっている。そこで平塚先生と鉄人が、各班の火をつけたところだ。

 それにしても、鉄人はともかく平塚先生も妙に手馴れているなぁ。

 

「随分手慣れてますね、平塚先生」

 

 気になったのか、八幡が先生に質問していた。

 それに対して、

 

「まぁな。学生時代はこういう行事に行った際に、よく火の番を任されていたものだ。こうして私が火を起こしている間に、周りに居るカップルは火がついたかのように熱い一日を……」

 

 あ、これあかんやつだ。

 段々と平塚先生のオーラが暗くなっているように見えるよ。もしかしてこの話題って地雷だったんじゃないかな……?

 

「ま、まぁ、各自とりあえずカレー作りってことで、いいんじゃないっすか?」

 

 体裁を取り持つ為か、少し冷や汗をかきながら雄二が提案する。

 それを聞いた平塚先生は、溜め息を吐きながらも、

 

「よし、それでいこう。みんな! カレー作りに励んでくれたまえ!」

「「「はーいっ」」」

 

 小学生の前では営業スマイル全開で指示を出す平塚先生。こういう感じでスイッチのオンオフがしっかりできているのは凄いことだと思うけど、オフにした時のキャラ変っぷりが怖すぎるのでもう少し温度差保ってもらないでしょうか。

 

「は、ハチ! 一緒に作ろ?」

 

 そんな時、横では八幡と一緒にカレーを作ろうと言ってくる島田さんが居た。

 小学生達が準備している間に、僕達も自分達分のカレーをつくることになっていた。

 みんなでこういうことをする機会ってなかなかないから、楽しみだなぁ。

 

「お、おう……」

「ひ、ヒッキー! 私も手伝うからさっ! みんなで作ろうよ!」

 

 それを見過ごさなかったのは由比ヶ浜さんだった。

 この二人ってわかりやすく八幡のこと好きだよなぁ……きっと八幡自身は気付いていないのかもしれないけど。

 

「まったく、遊びじゃないのだから……」

「だめ、かな……? ゆきのん……」

「……だめ、とは言ってないわ」

「わーい! 流石ゆきのん!」

「暑苦しいから離れて欲しいのだけれど……」

 

 雪ノ下さんに由比ヶ浜さんが抱き着いている所を見て、思わず僕と八幡は目と目が合う。

 瞬間に、テレパシーのようなものを感じた気がした。

 

 ご馳走さまでした、と。

 

「え? もしかして二人ってそういう関係なの?」

「「え?」」

 

 何故か、僕と八幡に近寄ってきたのは、クラスの中でも上位に位置する程の眼鏡美少女とも言われている海老名さんだった。いや、今僕と八幡って何かしたっけ? 八幡も、思わぬ人の登場に驚いているみたいだし。

 

「さっきからなんだか見つめ合っているから、もしかしてって思ったんだけど……でも、吉井君って、連休前に木下君に告白してたから……ああ、でも、ヘタレ負けして葉山君に迫られるヒキタニ君も……こ、これは……キマシタワァアアアア!」

 

 いきなり鼻血出した。

 いや、何言っているのか分からないかもしれないけど、とりあえず目の前に現れた海老名さんはいきなり鼻血噴き出した。

 

「ひ、姫菜っ! こんなところでも出すなし!!」

 

 すかさず、最近巷でおかんと噂の優美子さんがティッシュを取り出した鼻血を処理している。

 この人ももしかしてムッツリーニと同じで、実は輸血パックが必要だったりしないよね?

 そのままそそくさと離れていった二人だった。

 

「……とりあえず、俺ごはん研いでるから、島田は野菜切ってくれるか?」

「え? あ、う、うん!」

 

 島田さんは嬉しそうに八幡の隣に並んだ。

 その様子を見ていた由比ヶ浜さんは、ハムスターのように頬を膨らませている。可愛い。

 雪ノ下さんはこめかみを抑えながら、『まったく……』と零していた。

 何だろう、やっぱり奉仕部の人達っていい人ばかりだよね。改めて仲良くなりたいなぁって思った。

 

「お兄ちゃんが……女の人と並んで料理している……小町は感動だよ……っ」

「お姉ちゃんがお兄ちゃんとお料理……楽しそうです!」

 

 一方、妹組である小町ちゃんと葉月ちゃんは、二人とも目を輝かせていた。

 

「バカなお兄ちゃん! 一緒に料理するです!」

「もちろん! 小町ちゃんもどうかな?」

「ややっ! 私もいいんですか? 吉井さん……でしたよね?」

「うん。吉井でも明久でも、どっちでも構わないよ?」

「それじゃあ、バカなお兄さんで♪」

「どっちでもないじゃないか!?」

「冗談ですよ、明久さんっ」

 

 悪戯が成功したような笑顔を見せる小町ちゃん。

 まったくもぅ、この子は油断ならないなぁ……。

 

「バカなお兄ちゃん! よろしくです!」

「うん、葉月ちゃん頑張ろうね!」

「あ、あの……」

 

 ちょうどその時。

 少し遠慮したような感じで僕達に声をかけてきた人がいた。

 

「あっ! 綺麗なお姉さんです!」

 

 綺麗なお姉さん?

 何としてもその人とご挨拶しなければ! と思って後ろを振り向いてみたら、そこに居たのは――。

 

「姫路さん!」

 

 エプロンを着けて少し顔を赤くしている姫路さんだった。

 どうしたのかな? 調子でも悪いのだろうか。

 

「姫路さんどうしたの? 顔が赤いけど……」

「こ、これはなんでもないです! さっきまで火の近くに居たから熱かっただけで……」

 

 僕が話しかけると、姫路さんは焦ったように両手を振りながら否定する。

 そんな様子を見ていた小町ちゃんが、『はは~ん♪』と呟きながら顔をニヤニヤとさせていた。なんだろう、その無性に頬を両方からつつきたくなる表情は。

 ……止めておこう。なんだかあらぬ方向から殺気が飛んできた気がしたから。

 

「比企谷小町ですっ! もしよければ、私達と一緒に料理しませんか? いいですよね、明久さん?」

 

 訳:断ったらどうなるか分かっているよね?

 と言っているような表情を浮かべているよねそれ。

 とはいえ、元から断るつもりもなかったし、それに姫路さんと一緒に料理したら楽しいんじゃないかなって思ってたところだったか、むしろ僕としては喜ばしいことだ。

 

「もちろんだよ、姫路さんも一緒に作ろう?」

「あ、ありがとうございます!」

 

 そう言いながら姫路さんは、手に持っていた調味料をその場に置いた。

 

 トン ← 姫路さんが調味料を置いた音。

 スッ ← 僕が調味料を手に取った音。

 ビューン! ←僕が調味料をぶん投げた音。

 

「バカなお兄ちゃん!?」

 

 驚いたように葉月ちゃんが声をあげる。

 それは無理もないだろう。いきなり目の前で調味料の入った瓶をぶん投げた人がいるのだから。もちろん普通ならそんな状況あり得ないこと位分かっている。

 だけどね? 例えば、さっきからジャガイモの皮を剥こうとしてすべてなくなってしまう程の神懸ったセンスをお披露目している由比ヶ浜さんとか、砂糖と塩を間違えてとんでもない失敗をしてしまう女の子とか、そんな位だったらまだ可愛かったと思う。

 

「姫路さん、そしたらまず米を研いでもらえないかな? あ、小町ちゃんも一緒にお願いね。その間に僕は葉月ちゃんと一緒にカレーの方を作っちゃうから」

「? 了解です!」

「わ、分かりましたっ」

「はいですーっ!」

 

 よし、とりあえずその場を乗り越えた。

 まさか言えるわけないよね……。

 

 姫路さんが持っていた調味料が、劇薬だったなんて――。

 

 

 

 




キャラが多くなった宿命みたいなものを感じますが、進みが少し遅くなったように感じますね……しかし、次回では留美のことが明らかになる回となります。
今回やりたかったのは、妹組を絡ませたかったことと、姫路さんの料理やべぇ説を垣間見させることでした。
両方行えたので満足です……葉山君の悪手は次回に回ることとなります。

そして――祝!お気に入り登録数600突破!
いつもいつも、応援ありがとうございます!
投票してくださった方、誤字脱字報告をしてくださった方、お気に入り登録をしてくださった方、そして読んでくださっている方々!
本当にありがとうございます!
これからもバカガイル、応援よろしくお願いします!


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第六問 バカとキャンプと仲間外れ (5)

 カレー作りもある程度安定して、僕達の分は鍋の様子を見るだけとなった。とりあえず姫路さんの料理スキルがかなりやばいことに気付けた僕は、事前になんとか対処することが出来た……いや、レシピ通りの動きは出来るし、何なら手際もいい方なんだけれども、隠し味で入れようとするものが斬新過ぎて……ある意味目が離せなかったというか……。

 

「明久? 何故遠い目をしておるのじゃ?」

 

 僕の顔を覗き込みながら、心配そうに訪ねて来てくれる秀吉。あ、好き。結婚しよ。

 

「ううん、なんでもないよ。ちょっと疲れちゃっただけだから」

 

 主に姫路さんのコントロールをするのに疲れたので、間違ったことは言ってない。

 鍋の様子については先生方お二人が見てくれるというので、僕達は小学生達の様子を見るように言われた。八幡は面倒臭がって鍋を見ると言ったけど、平塚先生の笑顔の前に何も言えなくなってしまった。あの笑顔は怖い……鉄人がいなかったら鉄拳が飛んできたかもしれない。今だけは鉄人に感謝……いや、うーん、素直に感謝出来る気がしない。

 そうして僕達は色んな班の所を見て回った訳だけど。

 

「あれ……?」

 

 昼間見た女の子が、一人で野菜を洗っていることに気付いた。他の班の子は四人で固まって作業しているけど、留美ちゃんだけ別行動してる……なんか、少し寂しそう? 

 

「カレー、好きかい?」

 

 ちょうどその様子を眺めていると、笑顔で葉山君が近付いて話しかけて来た。多分留美ちゃんの様子に気付いて動いたのだろう。

 

「別に。興味ないし」

 

 そう言うと、留美ちゃんはその場から離れていった。

 

「あの女の子、なかなか頭いいんだな」

 

 ちょうどその時、今の流れを見ていたのか雄二がそう言ってきた。

 

「え? どういうこと?」

 

 僕は雄二の言っている意味が分からず、キョトンとしてしまう。そんな僕を見て雄二が一言。

 

「お前は小学生よりもバカなんだな……」

「それとこれとは関係ないじゃないか!」

 

 いちいちコイツは僕をネタにしないと気が済まないのか! 

 

「まぁ、あの四人組見てみろよ」

 

 雄二が指差した先にいたのは、留美ちゃんと同じ班の四人組。その子達が、葉山君がいる方……いや、留美ちゃんが居た場所を見ながら何やらコソコソと話している様子が見えた。多分、あまりいい話ではないんだと思う。

 そういえば八幡が言ってた気がする。あの時は難しくて頭が痛くなって来ちゃったけど。

 

「ああいうのは、話しかけるタイミングとかが重要になるわけだ。ハブられてる奴を第三者が無理矢理仲間に入れようなんて無理な話だ。葉山は確かに優しいんだろうが、その優しさが裏目に出てやがる」

「優しさが裏目に……」

 

 多分葉山君は、結果としてこうなってしまっている事に気付いてないのかもしれない。それにしても……。

 

「ねぇ、雄二。どうかしたの?」

 

 留美ちゃん達の様子を見ていた雄二の様子が少しおかしいと思った。何というか、不快感を隠そうとしてあまり隠しきれてないような、何か思うところがあるような、そんな感じ。上手く言葉に出来ないけど、少なくとも雄二がいい感情を抱いてなさそうだということは理解出来た。

 

「……いや、なんでもない。俺は向こうの様子見てくる」

「あっ……」

 

 雄二はそのまま別の班の様子を見に行ってしまった。雄二のことも少し気になるけど、今は留美ちゃんの方が心配だ。僕は留美ちゃんが行った先に向かうと、

 

「あれ? 八幡達?」

 

 いつもの奉仕部メンバーがそこに集まっていた。なんだか何も言わなくても結局集まるのが部員らしいなぁ。

 

「そういえば貴方も部員だったわね……鶴見さんに自己紹介しなさい」

 

 雪ノ下さんがこめかみを抑えながら突然そんなことを言ってきた。いつの間に留美ちゃんに名前を教える事になっていたのか。

 

「僕は吉井明久だよ。気軽に……」

「もうそれはいい」

 

 八幡に止められてしまった。

 うーん、確かに小学生の女の子に『ダーリン♡』って呼ばせるのはあまりにも危険な気がする。最悪の場合、命の危険が……。

 

「……八幡」

「呼び捨てかよ……」

「この人、バカっぽい」

 

 初対面からいきなりそんなことを言われた。

 

「待って!? 僕まだ一言しか喋ってないよね!?」

「……凄いな、吉井。一目見ただけでお前がバカだということを見抜かれるとは。将来この子は大物になるやもしれないな」

「あ、あはは……ヨッシー、どんまい?」

「ある意味一番そのフォローが傷付くよ!」

 

 八幡に至っては最早フォローすらしてないじゃないか! 

 

「それで、みんな集まってどうしたの?」

 

 雰囲気を変えるためにも僕は話を振る。すると雪ノ下さんがここまでの流れを説明してくれた。

 留美ちゃんのクラスでは、少し前から誰かを仲間外れにすることが流行りだしていたらしい。特に深い理由もなく、ただ何と無くでターゲットが決められて、それがたまたま今は自分の番になったのだという。

 留美ちゃん自身も同じことをやってしまった為、自分がターゲットにされても仕方ないことだと思っていた。留美ちゃん本人は自分がやったことを反省しているみたい。

 小学生でもこんなことがあるんだ……。

 

「でも、中学生になったらまた新しい友達が……」

「それは無理ね」

 

 留美ちゃんの言葉を、雪ノ下さんが即座に否定した。

 

「同じ学区の子も中学校にはいるのよ? 確かに新しい子も入ってくるかもしれないけれど、無視して来た子もいるのなら、状況は何も変わらない。むしろ余計に酷くなるだけよ」

「…………やっぱり、そうなのかな」

 

 留美ちゃんは何処か寂しそうな表情を浮かべている。僕達に何か出来ることはないのかな……。

 

「……ねぇ、留美ちゃん」

 

 僕の声を聞いた留美ちゃんは、少し不安そうに見上げてくる。気丈に振る舞ってたけど、やっぱりこの子は弱っているんだ。

 

 僕は、この子と仲良くなりたい。

 

「良ければ、僕達と友達にならない?」

「……え?」

「は?」

「……はぁ」

「ふぇ?」

 

 上から順番に、留美ちゃん、八幡、雪ノ下さん、由比ヶ浜さんの順番だ。

 え、何か僕おかしな事言ったかな? 

 

「お前、どうして今の流れでそうなるんだ……後、『達』って誰だ?」

「ここにいる僕達のことだよ?」

「…………マジ?」

「うん、マジ」

 

 八幡は完全にキョトンとしていた。

 雪ノ下さんに至ってはこめかみを抑えて溜息を吐いている始末。

 由比ヶ浜さんは、

 

「それ、いいよ! 友達になればいいんだよ!」

「「!?」」

 

 その反応を見て、八幡と雪ノ下さんは目を見開いていた。

 

「…………どうして?」

 

 留美ちゃんが抗議するような目で尋ねてくる。何だか疑われているような気がするけど、ここは正直に僕の気持ちを伝えた方がいいよね。

 

「留美ちゃんと仲良くなりたいって思ったからだよ」

「…………そういうことか」

 

 その言葉で八幡は何かを察したみたい。

 留美ちゃんはまだ疑っている。

 

「同情で友達になろうとしてるなら、友達なんていらない」

「同情なんかじゃないよ。僕達は留美ちゃんと友達になりたいだけ。もちろん無理矢理じゃないよ? だけど、友達ならさ、困っている時に助け合ったり、言いたいことがあった時に伝えることが出来たりするんじゃないかな?」

 

 僕の言葉を聞いて、みんなが黙り込む。

 そして、最初に口を開いたのは、

 

「……八幡は?」

「え?」

 

 留美ちゃんは八幡の顔を見つめる。そして、一言そう尋ねた。

 多分、八幡は友達になってくれるのか、そう尋ねてるんじゃないかな。

 それに対して八幡は、

 

「……いいんじゃねえの? お前の好きなようにすれば」

 

 そっぽを向いて、そう答えた。

 その言葉を聞いた留美ちゃんは満足そうに、

 

「そっか……それじゃあ勝手にする。後、お前じゃない。留美。明久みたいにちゃんと名前で呼んで……でも、明久も『ちゃん』付けは辞めて欲しい……何だか子供扱いされてるみたいで、不満」

 

 一気に要求が来た! 

 けど、これくらい言ってくれた方が友達みたいでいいよね! 

 

「分かったよ……ルミルミ」

「ルミルミ言うな」

 

 だからって八幡。

 その略称はあんまりだと思う。

 

「……なかなかに貴方も照れ隠しが下手なのね」

「うっせ」

「ヒッキー顔真っ赤だよ? 照れちゃって〜」

「ちょっ、由比ヶ浜……」

 

 雪ノ下さんと由比ヶ浜さんに指摘されて、八幡は顔を赤くしていた。

 こういう時間もいいなぁ……だけど、留美ちゃんの問題が解決したわけではない。

 友達の為にも、何とかしてあげたい。

 改めて僕はそう思ったのだった。

 




これにて第六問は終了となります!
明久の行動理念とかを考えた時に、まずは仲良くなろうとするのかなぁ……なんて思ってたら、こんな展開になりました。
ですが、これは問題の解決にはなっていません。
きちんと今残っている課題を解決しなければならない。解決するための道筋の一つにしか過ぎないわけです。
なので、次回の八幡目線での第七問にて、留美の一件の解決に向かいます。
……と、行きたいところですが、ここから少し番外編の補完エピソードを少しずつ更新していきたいと思います。
戸塚と八幡が仲良しになるエピソードや、一日目における美波視点での話、更には雄二と翔子の間にある違和感の話など……しなければならない話がまだまだあります故、ここからは短編集的な感じでお話を作りたいと思います。
基本的に番外編は『番外編』の章を作って話を投稿していくつもりなので、そちらを読んで頂ければ幸いです。また、更新した当初のみ、分かりやすいように『●月×日更新』というものをつけておこうと思います。
それではもうしばらく、林間学校編をお楽しみくださいませ……。


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第七問 言うまでもなく、優しさは人に影響を与える。 (1)

【第七問】 生物

以下の問いに答えなさい。
「人の大脳にある大脳皮質は、構造・特徴の上で三つに分けることが出来る。その三つの名前を答えなさい」

雪ノ下雪乃の答え
「新皮質・原皮質・古皮質」

教師のコメント
おみごとです。ちなみに新皮質は大脳の外側に、他の二つは大脳の内側に位置していることも覚えておきましょう。

土屋康太の答え
「B・W・H」

教師のコメント
B→バスト W→ウエスト H→ヒップ

吉井明久の答え
「あのう・そのう・このう!」

教師のコメント
君は生物の授業をなめているんですか。


 飯盒炊飯も終わり、本日のボランティアについてはこれにてお開きとなった。後は平塚先生と西村先生に本日の報告をして、自分達も床に就くのみとなる。小町と葉月については、時間も時間ということで先に休んでもらうこととなった。そして、当然ながらその話し合いで出ていたのは、鶴見留美の問題についてだった。

 当たり前のことではあるが、今回の林間学校において露骨に問題点として出るべくして出たものだ。当然これについては小学校側にも報告される流れとなる筈。

 だがここで、平塚先生は俺達にこんな提案をしてきた。

 

「責任はすべて私が取ろう。だから、君達で一つ、今回の問題点について話し合ってみたまえ。その結果については事前に伝えるでも、事後報告でも構わない」

 

 この提案に、俺は目を丸くする。確かに平塚先生が責任を取ってくれるというのであれば大体のことは問題ないように思えるが、それにしたって随分とまた強気なようにも思えた。と言うより、根本的には違う考えがあるのではないか。平塚先生の行動の裏をどうしても読もうとしてしまう自分がいることに気付いた。

 

「平塚先生が言うのであれば、俺も責任を取る。ただし、吉井に坂本は行動のし過ぎには十分注意する様に。特に吉井は突っ走るなよ」

「どうして僕と雄二だけ名指しな上に、さらに僕は念を押されるんですか!?」

 

 なんとなく西村先生の言葉もごもっともな気がしないでもないが。

 

「それじゃあ、私達は向こうの先生方と打ち合わせをしてくるので、何かあればまた連絡したまえ」

「頼んだぞ……」

 

 そう言うと、平塚先生と西村先生はその場から立ち去ってしまう。

 残された俺達は、今回の件についての話し合いを始めることとなった。

 議題は当然、鶴見留美の問題をどうするかについてだ。

 

「俺は、やっぱり一度全員で話し合いをするべきだと思う。両方がしっかりと話し合えば、きっとみんな仲良くなれると思うんだ」

 

 葉山は相変わらずの笑顔でそう提案する。

 それはあまりにも愚かすぎる考え方だ。ここまで誰かを明確に仲間外れにしているというのに、話し合いに意味なんてあるわけがない。そもそもそんなことをしたところで当事者が余計に立場を悪くするだけであり、結果的に虐めは激化する。初めはただ単に無視されるだけだったものが、表では何もないように取り繕い、裏でもっと別の何かに変化するだけだ。それでは根本的な解決にならない。

 

「貴方のやり方では、何も解決しないわ」

 

 そしてそのことに、やはり雪ノ下も気付いていた。

 今回、葉山が行ってきたことに対してあまり肯定的な意見を持ち合わせていない雪ノ下だ。それにしたって随分と葉山に突っかかることは気になるところではあるが、概ねその意見に賛同出来ないのは確かだった。ただし、代わりに雪ノ下が提示した意見とは──。

 

「私なら、相手を徹底的に叩き潰すわ」

 

 それはそれで、悪手に他ならない物だった。

 誰もが雪ノ下雪乃のように強いわけではない。誰もが独りであることに対して誇りを持っているわけでも、ましてやそれで耐えられる心があるわけでもない。鶴見留美には雪ノ下雪乃のような強さもなければ、俺のように孤独に慣れている心があるわけでもない。形上、吉井の手によって親しい者が増えたことは確かではあるものの、いつも自分がいる場所において近くに居る人物がいるわけではない。そして何より、雪ノ下の提案は叩き潰せればまだいい。もし中途半端にそれが上手くいかなかった場合は──。

 

「ねぇねぇ、二人とも。どうしてそこまで極端な意見が出るの?」

 

 ここで口を挟んだのは、意外にも吉井だった。

 

「何よ、吉井の癖に口だそうだなんて。今は隼人が──」

「待って。意見を聞くのは大事なこと」

 

 三浦が口を挟もうとしたところで、霧島によって遮られた。

 

「……そうですね。今は喧嘩をするべきでも、ましてや相手の意見を論破する場所でもありません。みんなの考えを出し合って、問題を解決する為の策を出していくことが大事です。この話し合いにおいて、ゴールは鶴見留美さんに対して私達から働きかけることが出来ることは何か。そこを突き詰めていくことにしましょう」

 

 真剣な眼差しで周囲を見渡しながら、しっかりとその場をまとめたのは姫路だった。俺の中での姫路の印象は、どことなくおどおどとしたような雰囲気を持つ、自分自身の意見を持たない人物というものだったのが、一気に変わった気がする。言うべき所ではしっかりと意見をすることが出来るのだろう。

 その流れをしっかり汲んだ上で、吉井は口を開いた。

 

「一番大事なことはさ、当然今の問題をどう解決していくのかも大事なんだけど……留美ちゃんがどうしたいかによると思うんだよね」

 

 それは確かに最初に思わなければいけないことだった。

 これだけの人数が居れば、何かしらの意見が出て、何かしらの方法で手を出すことは可能だろう。しかし何より大事なのは、『本人が何を考えていてどうなることを望んでいるのか』という所だ。俺達が語っているのは机上の空論でしかなく、自分達自身の主観によって編み出されたものの集まりに過ぎない。葉山の意見も、雪ノ下の提案も、すべて自分自身の主観で話していることに他ならない。そこに、鶴見留美の意思はない。

 

「確かに、留美ちゃんは困ってる。僕も出来る限りのことをしてあげたい。でも、留美ちゃんの考えもしっかり聞いてあげないと駄目だよ。だって僕達は、留美ちゃんの現状は知っていても、留美ちゃんの考えはまだ何も聞いてないんだから」

 

 誰も、その意見に対して反論する人はいなかった。吉井の言葉は、別に鶴見留美を否定するものではない。むしろ肯定し、彼女を尊重した上で言っていることだ。

 そうだ。結局の所人間は人間を救うことなどそう簡単には出来ない。全知全能の神でないし、何処ぞの国の油田王でもない。人は勝手に行動し、その結果勝手に助かる。そこに明確な意思があるのなら、その方向に事は動こうとするのだろう。

 まして、小学生だからとかそういった理由で動くわけではない。吉井にとって、鶴見留美はもう友人なのだ。あのバカは今、友人が救われる為に必死に考えているんだ。

 本当、何処までコイツは優しいのだろうか。

 

 ──優しい奴は嫌いなはずなのに、不思議とその言葉を振り払えない自分がいることに気付いた。

 

 そういう奴は、ただ優しいのだ。何があろうとも、そこにどんな真意があろうとも、『優しい』を大前提にして動く。その優しさは時として残酷なこともあるというのに。

 葉山も言ってしまえば優しい人間だ。言葉だけで見てしまえば、葉山も吉井も言っていることにそこまで大きな違いはない。

 ただし、根本にある考えが違うのだ。

 だからこそ、葉山隼人は吉井明久の意見を覆すことが出来ない。反論出来ない。

 

 ──当然ながら、俺もただその言葉に耳を傾ける他なかった。

 

 




番外編も何話か更新し、ようやっと本編再開です!
果たして林間学校における解決策はどのような方法が提示されるのでしょうか……?

そして……。

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これからも何卒よろしくお願いします!!


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第七問 言うまでもなく、優しさは人に影響を与える。 (2)

 次の日。

 昨晩に雪ノ下と葉山の関係性について色んな事を聞いたり、今朝に至っては戸塚の連絡先をゲットすることが出来るという嬉しすぎる青春ラブコメイベントが発生したりしたが、今日は夜に行われるキャンプファイヤーや肝試しの準備ということで、朝から労働する羽目になっている。小学生達は自由行動とのことで、今回は平塚先生や西村先生もそっちに手を回すこととなっているらしい。

 俺は黙々とキャンプファイヤー用の木を組み立てていたが、

 

「八幡、手伝うよ」

 

 そんな時にやってきたのは吉井だった。

 昨日の話し合いの時、コイツの影響力は正直言って大きかったと思っている。もしあのまま葉山と雪ノ下が対立を続けていたとしたら、正直な話ただ喧嘩して終わりだっただけの可能性すらあった。吉井が発言したことにより、現状を見守りつつ、さり気なく鶴見留美に彼女の考えを聞き出すという方向に持って行くことが出来たのだ。そのうえで助けを求めてきたのならば、その時に対処方法を考える。

 とはいえ、今回に関しては時間がない。解決をするにはあまりにも困難だ。

 

 なら、最初からその問題が発生しないような状況を作り出すこと――即ち、問題の『解消』を行うことが出来たとしたら?

 

「ねぇ、八幡。留美ちゃんの件、もしかして何か考え浮かんでるの?」

 

 木を組み立てながら吉井が尋ねてくる。ちっとは自分でも考えちゃくれませんかね……基本的にこう言った作戦担当を俺や雪ノ下にぶん投げてる気がするんだが。

 

「一応な。だが、最終的にはお前の言った通り、あの子がどう考えるかによる。何もしなくて済むのならそれが一番疲れなくていいからな」

「相変わらず八幡は仕事したくないサラリーマンみたいなこと言うね。将来困っちゃうよ?」

「お前よりは困らない自信あるから安心しろ」

「あれ? なんか何も安心出来ないぞ?」

 

 そりゃお前の将来先行き不安だらけだからだろうな。

 

「でもよかった」

「ん、何がだよ」

 

 吉井が何やら安心したような表情を見せてくる。今の会話の流れで、一体何処に安心するような要素があったのかはさっぱり理解出来ない。次なる言葉を待っていた俺に吉井が言ってきたのは。

 

「なんだかんだで、やっぱり八幡は他人の為に動くんだねって」

「……」

 

 コイツは一体何を言っているのだろうか。

 俺が他人の為に動いている? 確かに、頼まれたことに関しては基本断らないようにしている。断ることが面倒だし、断った後に自分に降りかかってくるものの方が余程大変であることを承知しているからだ。何もしなくていいのならばそれが一番であることに変わりない。

 何より、俺は俺の為にしか基本的に動かない。

 それをコイツは勘違いしているのだろうか。

 

「屁理屈言ってるけどさ、結局八幡は今回だって留美ちゃんの為に動こうとしているでしょ? もし本当に何もしなくていいのだとすれば、そもそも考えようともしないじゃない?」

 

 どうしてコイツは、いつもはバカであるのに。

 肝心なところに関しては鋭いのだろうか。

 

「後回しにするより、先に片付けておいた方が苦労しないだけだ。別にお前が考えているようなことは何も……」

「そうかな? もし八幡が優しい人じゃなかったら、きっと由比ヶ浜さんや島田さんも、八幡に感謝するようなことはなかったと思うし、葉月ちゃんが懐いていることもなかったんじゃないかな?」

 

 由比ヶ浜に島田は、たまたま自分達がそういう状況下に置かれた時、そこに居たのが俺だっただけの話だ。別に俺じゃなくてもよかった筈。例えばそれこそ、その状況を見ていたのが吉井だったとしても動いた筈だ。故にそこに特別だとか、本物だとかは存在しない――そう考えていた。

 葉月の一件だって、最初に動いたのは吉井だ。俺は別に何もしていない。ただ、彼女には兄のような立ち位置の人物がいなかったから、たまたま自分に懐いただけの話だ。

 俺は、別に優しい人間ではない。

 本当に優しい人間と言うのは、きっとコイツや由比ヶ浜、そして葉山のような奴のことを指すのだろう。

 

「……手、止まってんぞ」

「え? あ、ごめんごめん」

 

 そう言って吉井は木を組み続ける。

 俺も、吉井と一緒に組み立て続ける。

 やがて俺達は黙々と作業を続け、そんなに時間が経たないうちにキャンプファイヤーの土台が完成していた。

 

「終わったぁ~!」

 

 吉井は気持ちよさそうに両手を伸ばしている。

 俺も少し肩が凝っているような気がしたので、両腕を軽く回していた。

 

「お疲れさん、二人とも」

「あれ? 雄二。木の調達は終わったの?」

 

 そこにやってきたのは坂本だった。

 

「まぁな。明久と比企谷も終わったんだな」

「ま、まぁ……」

 

 特に答えを用意していなかった為に何故かどもってしまう自分がいる。

 

「んで、明久。姫路達がなんか呼んでたぞ。川の方に行って来いよ」

「え? 姫路さんが? ありがと、雄二」

 

 一仕事終えた吉井は、坂本の言葉通りに川沿いに向かう。残されたのは俺と坂本のみ。別に今の所肝試しの時間までまだまだあるので、特に仕事があるわけではない。だから休んでてもいいわけなのだが。

 

「んで、比企谷。今回の件、お前ならどうする?」

 

 不敵な笑みを浮かべつつ、坂本は尋ねてきた。

 ……なる程な。コイツ、恐らく考えを持っている。そしてきっと、俺と同じことを思いついているのだろう。ほかの奴らではなく、敢えて俺を指名して尋ねてきたのだ。その予想はきっと的中している筈。

 

「問題の解決なんて今日一日でどうにかすんのは無理な話だ。鶴見留美が望むかどうかは知らんが、やれることがあるとすれば――」

「問題の解消。そもそも問題そのものをなくしちまえばいい。そんなところだな?」

「……やっぱお前、同じこと考えてんだろ」

「そうかもな。となりゃ、俺達なかなかに気が合うってことじゃねえか」

 

 なんだかその台詞は無性に腹立つな……しかもそんな不敵な笑みを浮かべながら言って来るのは正直イラっと来るんだが。

 

「不快そうな表情隠そうともしねぇな」

「取り繕う必要もねぇからな」

「それもそうだな」

 

 一しきり笑い飛ばした後、坂本は言った。

 

「解消方法は一つ。鶴見留美の周囲の人間関係をぶち壊す。そんなところだろ?」

 

 そうだ。

 解決は出来ずとも、鶴見留美を取り巻く人間関係をリセットしてしまえば解消は出来る。そこからどうするかについては、それこそ鶴見留美本人次第ということにはなるが。

 そして、リセットする為の方法として利用するのが――。

 

「肝試し。二日目の夜にそう言ったイベントを仕込んでおいて、次の日帰りの時間があるってことを承知の上で実行するってか? ま、雑だがそんなところだろ」

「……お前、悪知恵働くんだな」

「これでも神童なんてあだ名つけられる位だからな。そんなこともうどうだっていいけど」

 

 さほど昔のことなど興味ないかのように吐き捨てる。

 いや、興味ないと言うよりは、その事実を忌み嫌っているというレベルまで達するだろうか。

 

「決行すんのは今夜だな。友達の為に頑張ろうぜ。出来ることなら俺も協力するからよ」

「……友達ってのは誰のことだよ」

「今注目のお姫様って所だろ? 騎士にはなれずとも、参謀にはなれんだろ?」

「姫を助けるのは王子の役目だろ」

「その王子が役立たずのポンコツだから仕方ねぇだろうさ」

 

 コイツは王子のことが嫌いなのだろうか。

 

「ま、お前もお前で、この先色々苦労するんだろうけどな」

「大きなお世話だ」

「かもな。んじゃま、俺達も川に行こうぜ」

「何、俺達も姫路に呼び出されてたりすんのか?」

「いや、川で土屋や木下が休憩してるからよ。それで一緒にどうかと思ってな。どうせやることねぇならちったぁ付き合えよ。平塚先生も言ってたんだろ? 卒なくこなしてみろ、って」

「……そうかよ」

 

 特にこの後やることもなかった俺は、坂本と一緒に川沿いへ向かうこととなった。

 




祝! UA数80000突破!
応援ありがとうございます!!
文字数もなんだかんだでついに90000字超え。もうすぐ10万字行きますね……そこそこの長編小説になってまいりました。
さてさて、順調に準備段階へ突入していく形となっております。
これから先、一体どうなっていくのでしょうか?

(そろそろ一色いろはを出したいと思っている作者です。バカテスからも工藤さんや優子さん、そして久保君を出したい……。


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第七問 言うまでもなく、優しさは人に影響を与える。 (3)

 坂本に連れられて川の方までやってきた。そこで目にしたのは――。

 

「あ、お兄ちゃんだ! おーいっ!」

「へ? あ、ひ、ヒッキーっ!?」

 

 何故か川で水着を着てはしゃぎ回っている小町と由比ヶ浜だった。小町の水着はフリルのついた黄色いビキニタイプ。由比ヶ浜のは、スカートのついた水色のビキニタイプ。何という万乳引力だ。これが乳トン先生の実力か。

 いや、それよりちょっと待て。そもそも何でコイツらは水着を着ている?

 

「平塚先生から川で遊べるって言われたから……」

 

 そういや説明の時にそんなこと言われた気がするな。正直行く気がなくてほとんど聞き流してたせいで何も頭に残っちゃいないが。

 

「ま、そういうこった。比企谷は水着持ってんのか?」

 

 ちゃっかり自分の分の水着を見せつけてきながら坂本が尋ねてくる。当然俺はそんなこと頭に入れていなかったので持っている筈がない。どの道こんな暑い中、ただでさえ労働した後だと言うのに身体動かしたりなんてしたら干乾びて打ち上げられる自信すらある。体力のなさを舐めないで欲しい。

 

「持ってねぇって……」

「あれ? みんないつの間に来たの?」

 

 見ると、既に水着を着ている吉井が居た。その後ろからは、フリルのついた青色の水着を着た姫路と、赤と白の水着を着た島田がやってきた。島田は俺の顔を見た途端に少しだけ顔を赤くしている。え、何か怒らせるようなことしたっけか?

 

「は、ハチ……どう、かな?」

 

 身体をもじもじとさせながら尋ねてくるその姿勢に、正直俺の心は鷲掴みにされそうだ。そのまま勘違いした上に川に流されてダムに沈められる自信すらある。俺は一体何処へ向かってるのん?

 

「い、いいんじゃ、ねぇか?」

「そ、そっか……ありがと」

 

 前髪を弄りながら礼を言って来る島田。

 待ってくれ、これなんて青春ラブコメだ?

 ただ、何故か由比ヶ浜がハムスターみたいに頬を膨らませているのが見える。本当にどうしてなんだ?

 

「おにいちゃーん! バカなおにいちゃーん!」

 

 その後を追いかけてくるように、今度は葉月がやってくる。葉月は学校指定の水着を着ているようだ。うん、これはこれで似合っていると思う。いや、学校指定の水着に似合っているも何もないんだがな。

 そして葉月はそのまま、吉井の腕にしがみ付いていた。

 

「葉月ちゃんも可愛いよ!」

「ありがとうですーっ!」

 

 嬉しそうに目を細めている。

 可愛い。が、俺の妹は小町だ。

 

「お兄ちゃん? 何か小町の妹的立ち位置が危ぶまれた気がしたよ? 小町的にポイント低い?」

「何言ってんだ。世界一可愛いぞ小町」

「うわぁ適当だなぁ」

 

 こんなどうでもいい会話に反応する小町はやっぱり可愛いし俺の妹だ。

 

「あら、何鼻の下を伸ばしているのかしら?」

 

 そんな中、次にやってきたのは――。

 

「お、おう……」

 

 綺麗だった。

 目の前に居るのはまるで精巧に作られた人形のような女性。

 雪ノ下雪乃の水着姿は、それだけ完成されていた。

 

「……雄二。他の女の子にうつつを抜かさない」

「しょ、翔子? 俺は別に……」

 

 どうやら見惚れていたのは坂本も同じだったようだ。

 背後から聞こえてきた声に身体をビクンと反応させながら坂本は振り向いて、そのまま声を失っていた。すこし気になった俺も、後ろを振り返ってみる。

 

 黒の水着を着た霧島翔子は、雪ノ下雪乃と負けない位美人だった。

 

「……どう?」

「い、いいんじゃないか?」

 

 頬を掻きながら感想を言う坂本。

 どうやらコイツと霧島が幼馴染同士というのは本当のようだ。しかもその上、霧島は目に見えて分かりやすく、坂本に対して好意を抱いている。坂本もそのことは多少感じているのか、それとも何も言わないだけなのか。

 いずれにせよ、これだけは言える。

 リア充爆発しろ。

 

「……眼福」

 

 そんな時、鼻血をたらっと流しながらカメラを構える土屋の姿を発見した。

 俺は無言でソイツに近づいて、

 

「……小町を撮ったらどうなるか分かっているな?」

「……承服しかねる」

「カメラぶっ壊す」

「……話を聞こう」

 

 これで、悪の道から妹は守られた。

 

「本当八幡って、シスコンだよね……」

 

 葉月を撫でながら言っても正直何の説得力もないからな、吉井。

 

 

 水着を持っていないのは俺だけだったみたいで、一仕事を終えた奴らが次々と水着を着て川へやってくる。戸塚と木下は何故かパーカーを羽織っている。はぁ、俺も戸塚に水かけたかったな……。

 木陰に体育座りしながら川の様子を眺めていると、

 

「……ん、おう」

 

 少し俯きがちに、鶴見留美が隣に座り込んできた。

 

「なんで一人なの?」

 

 いきなりな質問だ。

 確かに、川でアイツらが遊んでいるにも関わらず、俺は一人でぼけーっとしている。傍から見たら目立つ光景なのかもしれないな。

 

「水着忘れたんだ。お前は?」

「お前じゃない。留美。私達、友達なんでしょ?」

「そりゃ悪かったな。ルミルミ」

「ルミルミ言うな……」

 

 今のやり取りで多少気が紛れたのか、ルミルミ――留美がようやっとその口を開く。

 

「今日自由行動なんだって。起きたらもう誰もいなかった」

「そっか……」

 

 しばらく無言の時間が続く。

 ぼっち同士がこうして隣同士で座り込んでいても、正直話題なんて何も見つかるわけでもない。気の利いた会話なんていうのは、葉山とかが得意そうな分野だ。俺はそんなのちっとも得意じゃない。必要ないからやらないまである。

 そんな俺達に気付いたのか、吉井や由比ヶ浜、そして雪ノ下が近づいてきた。

 

「留美ちゃん!」

「ちゃんづけはやめてって……」

「あ、ごめんごめん。留美も一緒に遊ばない?」

「……私も、水着持ってない」

 

 元々泳ぐことを前提にしている林間学校ではないだろうから、水着を持っていなかったとしても仕方のない話だろう。吉井の提案はあえなく撃沈となった。

 

「あれ? そのデジカメって……」

 

 由比ヶ浜が何かに気付いたように留美の首からぶら下がっている物を指差す。

 留美はデジカメを大事そうに抱えながら、

 

「お母さんが持たせてくれたの。林間学校でたくさん写真を撮ってきなさい、って……友達との……」

「そう……」

 

 何か含みのある反応をする雪ノ下。

 家族関係のこととなると、雪ノ下は嫌に敏感に反応するように見える。何か思う所があるのだろうか。今は考えても仕方のない話だが。

 

「それならさ、僕等と一緒に撮ればいいんじゃないかな?」

 

 何という理論。

 吉井が満面の笑みでそう言ってきた。

 

「え?」

 

 これには留美もポカンと口を開けている。

 

「せっかくだからみんなも呼んで……」

「だいぶ趣旨変わってんぞ。高校生同士の写真を撮ってどうすんだよ」

「いいんじゃない? だって僕達友達でしょ?」

 

 ……そう言えば、昨日コイツの発言によって『友達』になったんだった。思い返してみれば留美もまた、俺のことを『友達』と言ってきたな。コイツはコイツで、昨日のことをしっかり覚えていたのだな。

 そして、留美が言われたのは『友達との写真を撮ってくる』ということ。

 間違ってはいない。うん、間違ってはいないんだが……いや、まぁ、うん。

 

「……カメラなら任せろ」

 

 いつの間にか復活していた土屋が、木の上から突然姿を現した。

 コイツ今まで何処に居たんだよ。

 

「い、いつの間にそこに居たの……」

 

 雪ノ下がこめかみを抑えている。

 由比ヶ浜は何故か『忍者みたーい!』って言いながら喜んでいる。吉井に至っては最早慣れているのか平然としていた。いや、これに慣れるっておかしくね?

 

「わ、私もご一緒してよろしいでしょうか?」

「う、ウチも!」

 

 そこに、姫路や島田も入ってくる。

 気付けば葉山グループ以外はほぼ全員ここに集まってきていた。

 いや、なんでこういう時の動き迅速なの?

 

「……八幡。これって……」

「まぁ、これはこれでいいんじゃねえの? 知らんけど」

「……」

 

 少し、留美の表情が明るくなった気がした。

 だからこそ、今尋ねるべきなのかもしれないと思った俺は。

 

「……惨めなのは嫌か?」

「……うん」

 

 一度こう言った温さを味わってしまうと、余計に小学校における自分の立ち位置が嫌と言う程実感出来てしまう。こんなのはイベント事の一過性でしかない。元の日常というのはもっと残酷で、ぼっちにとっては辛いだけの現実が待ち受けているのだ。

 そして、留美は『惨めなのは嫌だ』と決定的な一言を発した。

 コイツは、自分の意思で助けを求めた。

 

「でも、私も見捨てちゃったから……」

 

 そして、留美は何故自分がそうなったのかも理解している。

 理解した上で、惨めなのは嫌だとはっきりと口にした。

 なら、俺に出来ることは――。

 

「肝試し、楽しいといいな……」

「え?」

「……後はお前次第だ」

 

 この場に居る人達で、留美のカメラを使って集合写真みたいなものを撮りながら、俺は決心する。

 

 ――問題。世界は変わりません。自分は変えられます。さて、どう変わりますか?

 ――答え。新世界の神になる。

 

 




今回の水着回を書く上で、小説を読み返したり、アニメを見返したり、バカテスの水着回を見直したり、様々やっていたのですが……キャラ多い!!
キャラ多すぎる!!
……失礼しました。
明久がいい感じに動き回ってくれるので、暗さ一辺倒にならずに済みました。
そして、留美の本心を聞き取った八幡は、満を持して行動に移ることとなります。
次回、肝試しが始まります。
そこで今回の解消方法――並びに、留美に対するある一つの提言がなされます。
いよいよ本格的に動き始める林間学校編。
お楽しみに!


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第七問 言うまでもなく、優しさは人に影響を与える。 (4)

 さて、夜がやってきた。林間学校のプログラムでは、夜に肝試しをしてからキャンプファイヤーという流れになっている。各自配置につき、持ち場を担当することとなっていた。各々仮装(というかほぼコスプレ)をしつつ小学生達を脅かすという内容だ。ただ、戸塚の魔法使い姿は本当に怖かった。そのままマジで戸塚ルートに行きそうだった。巫女服を着た島田に身体を揺さぶられなければ本当に襲い掛かる所だった。危うく肝試し前に俺の肝が取られてしまう所だった。

 それはさておき、携帯電話には既に小町からの作戦開始合図が入っている。ここからが本番だ。

 

「ここからが比企谷君の作戦、といった所かしら」

 

 隣で様子を見ている雪ノ下がそう呟く。

 

「……俺だけじゃねえけどな」

 

 結局、根幹は俺、微調整を坂本が行った上で作戦決行となった。ただしやろうとしていることはほぼ変わらない為、配役が少し変わる位の細かな物だ。いずれにせよ、俺は汚れ役をアイツらに押し付けて、自分は高みの見物をするという最低な立ち位置に居る。それに、この方法は恐らく褒められたやり方ではない。下手をすれば問題になりかねない諸刃の剣のようなものだ。

 しかし、短時間で問題を解消するにはこれしか方法がなかった。

 それでも俺は問題ないと判断した。

 たとえこれで多少危険なことが起こりかけたとしても、フォローするような奴はいる筈だ。それが俺じゃないだけの話。例えば吉井や島田、それに姫路とか。木下でもいいかもしれないし、戸塚かもしれない。いずれにせよ、今回の作戦において前に立つ人間と言うのは、『ある程度認識されていて、かつ、信じられている人間』である必要があった。そう言った意味で今回白羽の矢が立ったのは。

 

「そこで、坂本君や霧島さんが作戦の要となるとは……」

 

 本来ならば、葉山や戸部、そして三浦が効果的だと考えていた。

 しかし、そこで立候補してきたのは坂本や霧島だった。確かにこの二人ならば条件にも合うのかもしれない。特に霧島はオリエンテーションにて挨拶をしたのだ。その笑顔に魅了された人物だってそう少なくない筈。

 ただ、アイツらが前に出たのはそれだけではない気がする。もっとその裏には、何か自分本位な理由があるような気がしてならない。

 

「比企谷君。来るわよ」

「……」

 

 考えている暇はない。

 今はとりあえずようすを見ることにしよう。

 

「あれ? あの二人って……」

「高校生のお兄さんとお姉さんだ!」

「確かチェックポイントにいたカップルの人達だよねー?」

「ひゅーひゅーっ」

 

 留美を除いた四人が、坂本と霧島の二人を囃し立てる。確かに二人で行動することが多かったからか、山登りしている時にもこうしてネタにされていたのかもしれない。

 

「……あ? テメェら何調子乗ってんだ?」

 

 だからこそ、その落差はとても大きい。

 最初に会った時とは明らかに様子が違っていることに、彼女達は気付いたみたいだ。

 

「黙って聞いてりゃ、やれカップルだの、やれお似合いだの。テメェら人の関係見て調子乗ってんじゃねぞ? 満足にテメェらの人間関係だって取り持つことの出来ねぇようなガキ共に、俺達のことをとやかく言われる筋合いはねぇんだぞ?」

 

 凄みを感じる。

 演技だと分かっていても、坂本の言葉には説得力があった。いや、これは本当にすべてが演技なのだろうか。アイツ自身の中にある何かが含まれているのではないか。

 考えたって無駄なことなのは十分理解している。

 今は、坂本の言葉がどれだけの効果をもたらしたのかを確認するべきだ。

 

「で、でも、だって……」

「だってじゃねえよ。影でも散々俺達のこと噂してたみたいだな」

「そ、そんなこと……」

「言質は取れてるんだよ。テメェらの行動なんざ御見通しってわけだ」

「……証拠はバッチリ」

 

 わざと大きな音を立てて木から飛び降りてきたのは、ボイスレコーダーを持った土屋。

 もちろん、そんな音声なんて入っているわけがない。単なるはったりであることは間違いない。だが、一回目の前に恐怖の対象を目の当たりにしてしまっている為、ただの子供である彼女達にまともな思考回路など出来る筈がない。

 

「……人を馬鹿にするのも大概にして。許されないことだってあるのよ」

 

 今まで黙っていた霧島から発せられる言葉。内容も大事だが、タイミングがバッチリだ。散々怯えている今、彼女達はどうしても許しを乞おうとする。そんな中、『許されない』という言葉を使い、逃げ道をどんどん塞いでいくのだ。一度地獄に陥った人間程、本質が出てきてしまうという物。

 

「だが、俺達も鬼じゃない。半分は許そう。だが、もう半分は絶対に許さない」

「……告げ口も無駄。既に認識済み」

 

 不気味なのは土屋の話し方だ。

 低く、そしてぶつ切りにされている為に、こう言った状況下では恐怖を簡単に与えることが出来る。

 

「……選びなさい。残る人物を選ぶ時間位、与えてあげてもいい」

 

 霧島は、『選べ』と言った。

 ここからが本番とも言えるだろう。彼女達は一度どうしようもない地獄に落ちた。そこから這い上がろうと、たとえ友人と呼べる人物達であったとしても簡単に蹴落とそうとする。そうして互いに抱えた闇を吐き出し、仮初めの人間関係はここで破綻するのだ。

 残る人間を選べと言われた時、最初に選ばされたのは留美だった。だが、当然留美だけでは足りるわけがない。後二人は必要になってくる。そうしている内に、一人だけ炙り出された。

 

「……こんな光景、見たくない」

 

 ちょうど持ち場を離れて確認しに来たのは、最後の最後まで留美といじめっ子集団を話し合わせようとしていた葉山だった。葉山は『みんな仲良く』を実践しようとしていた。それもいいのだろう。コイツは人の善を完全に信じ切っている。信じることは大切だ。仲良くすることも大切なのだろう。

 だがコイツは知らない。子供も立派な人間であり、内に秘めた闇が必ず存在していることを。

 

「この作戦を止めなかったのは、俺が最後まであの子達を信じているからだ」

「そうか。見たきゃ見ればいいし、見たくなければ見なけりゃいいだけだろ」

 

 葉山は下唇を噛んで見守っている。

 コイツも気付き始めている。恐らく、このままでは彼女達は何も上手くいかないことを。そして、どう足掻いても話し合いだけで解決するのは困難な状況になっていることを。そしてどうしようもなく修復するのが難しいことを。

 だが、そうして待っている内に一つ、驚くべき展開が待ち構えていた。

 

「あの……っ!」

「え? ……っ!!」

 

 留美が、手に持っていたデジカメのフラッシュを、三人に思い切り浴びせたのだ。それは一瞬の隙を生むのに都合のいい目眩ましとなり、そのまま留美は炙り出された一人の手を握り締め、全力で駆け出していく。その様子を見た他の女子もまた、慌てて後を着いていき、その場を後にした。

 

「……あの子が、みんなを助けた?」

 

 結局、あの場において動けたのは仲間外れにされていた留美だけだった。他の奴らはただ蹴落として、ただ闇をぶちまけて、関係性を悪化させただけ。

 

「……私は霧島さん達の様子を見てくるわ」

 

 雪ノ下は俺達――いや、俺にそう言うと、草むらの陰から出て坂本達の所へと向かう。

 自然と、俺と葉山が二人きりとなった。

 

「……結局、俺はまた、何も出来なかったか」

 

 何かを悟ったように、葉山は口を開く。特に返す言葉も浮かばない俺は、ただ黙って話を聞いているだけ。

 

「凄いよね、君達って……本当、君達がもし同じ小学校だったとしたら、どうなってたか分からないや」

「お前の学校にボッチが一人増えるだけだろ。後、達って誰だよ」

 

 雪ノ下が同じ学校に通っていたことは昨晩聞いている。まして家族ぐるみで今でも尚付き合いがあることも知っている。だとすれば、コイツの言う『君達』とは一体誰のことを指しているのだろうか。

 

「ヒキタニ君と、吉井君だよ」

 

 吉井明久。

 やっぱりというか、予想通りというか。

 コイツと吉井は、決定的に違う何かがある。どちらも等しく優しい人間だ。ただ、その優しさの本質が違う。

 きっとコイツは、過去に何かがあったのだろう。そしてその時に何も出来なかったのかもしれない。今回の一件についても、葉山は最後まで『みんなと仲良く』させようとした。俺は人間関係を解消してリセットを試みた。そして吉井は、自らが率先して友達になった。『仲良く』という観点だけで物を述べれば葉山も吉井も同じ言葉を使っている。だが、葉山は自分が輪から外れ、吉井は自ら輪を作った。

 

「もしかしたら俺は、比企谷君や吉井君とは友達になれなかったかもしれない……なんてね、冗談だよ」

 

 そう告げると、葉山はその場から立ち去る。

 ……コイツ、名前覚えてるんじゃねえか。

 




解消方法の根本は原作とそこまで大きな変化はありません。
ですが、今回大切なのは、
・雄二と翔子が率先して問題解消の為に力を貸した。
・葉山が徹底して傍観者として追いやられた。
この二点です。
番外編でも書いた通り、雄二もまた留美に対して過去を想起させています。翔子もまた、そんな雄二のことを認知しております。そこで彼らは、過去との決別を図るのと、そうすることによって留美を救おうとしたわけです。
そして葉山もまた、同じく留美に過去を想起させているわけなのですが、今回もまた、ただ見ているだけで何も出来なかったことを強調させたかったので、このような形となりました。原作とも会話の順番がずれていたりします。
ただし、今回の話はこれだけでは終わりません。アフターフォローといいますか、その後の展開もしっかり用意してあります。
それでは、次回で林間学校編は完結となる予定ですが、お楽しみに!
(ちなみに番外編も後日一話だけ更新予定です!


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第七問 言うまでもなく、優しさは人に影響を与える。 (5)

 肝試しも終わり、残すところ本日の予定はキャンプファイヤーのみとなった。これに関してはただ単に小学生達が火に近づかないようにすればいいだけなので、正直な所そこまで俺達高校生がやることはない。

 俺は一歩離れた場所から、留美達の様子を眺めていた。

 もう、彼女達は一緒に居ることはなかった。

 

「お疲れ、ハチ」

 

 そんな俺の所にやってきたのは、意外にも島田だった。

 島田はマッ缶を両手に持って、俺の傍までやってくる。その内の片方を、

 

「はい。これは労いの気持ちよ。施しじゃなくて然るべき報酬だからきちんと受け取ってよね」

「お、おう……」

 

 どうやら島田はある程度俺の扱いを心得てきているようだ。八幡検定三級を上げちゃおうかな。持っていても何の価値もなさそうな検定だけど。

 

「坂本もそうだけど、ハチもこんな短時間でよく出来たわよね……ウチには思いつきもしなかった」

「んなことねぇよ。俺のやり方は褒められたもんじゃねえ」

 

 現に方法に関しては最低な物だった。一歩間違えれば問題になり兼ねない、所謂危ない橋を渡ったようなものだ。もっと他にも方法があったかもしれない。それこそ、吉井がやったことをもう少し広げることが出来たならば、きっといい方向に解決へ導かれたのかもしれない。だが、それでは今回はあまりにも遅すぎた。

 

「けど、きっかけを作ったのは間違いなくハチだよ。みんな頑張ったし、ハチだって頑張った。だから……ご苦労様」

 

 その時に見せた島田の笑顔がなんとなく心地よくて、そう感じてしまった自分がいることに気付いてしまって、気恥ずかしくなった俺はマッ缶を一気に流し込んだ。

 決して勘違いしてはいけない。島田は別に『俺だから』そう言っているわけではない。この好意は誰に対しても向けられる物で、決して特別な何かがあるわけではない。それに、そんな表情を向けられるようなことを俺はしていない。そうされる価値なんてない。

 

 だから俺は、優しい女の子が――苦手だ。

 

 かつての俺は、『嫌い』と称したのかもしれない。それで何度も痛い思いをし、黒歴史を生み出し、そして自滅した。だが、ここ最近の俺は何かが変わり始めているのかもしれない。遅すぎる高校生デビューだ。嘆かわしいにも程がある。こういう風に少しずつ考え方が変わっているのも、コイツらに出会えたおかげなのかもしれない。

 

 ――だが、いつか必ず終わりは訪れる。

 

 それが俺の追い求める『本物』なのかどうかは分からないが、温かい夢はいつか醒める物。鶴見留美が『友達』という温かさに触れてしまったせいで、余計に小学校における自分の立場を自覚してしまったように。

 俺はこのまま、コイツらと一緒に行動していいのだろうか。何処かで見切りをつけ、コイツらの世界から俺は切り離されて、ぼっちに戻った方がいいんじゃないか。

 

 ――そもそも俺は、ぼっちではなかったか。

 

「どうしたの? ハチ。大丈夫?」

 

 隣では島田が心配そうな表情を見せてくる。

 その表情は俺に向けられるべきものではない。ぼっちの俺には、そんな優しさは火傷してしまう。

 

「な、なんでもない。ちょっと考え事をしてただけだ。むしろ考えすぎて何もないまである」

「なにそれ……ハチってばよくわかんない」

 

 そう呟きながら、島田は俺の隣でマッ缶を飲み進める。

 しばらく、俺達は無言だった。互いに何を話すでもなく、ただ隣に座って飲み続けているだけ。けど、そんな無言の時間も苦痛ではなく、むしろ何処か心地よいと思ってしまう。

 そんな時に、

 

「……八幡」

 

 鶴見留美が、やってきた。

 

「……どうした」

 

 留美からしてみれば、俺達高校生は恐怖の対象にしか過ぎない筈だ。あれだけのことをやらかしたのだ。彼女達の中で当然ながら許すという言葉が出るわけがない。そもそもこうして近づいてくることの方がおかしいのだ。

 なら、何故鶴見留美はここに来た。

 

「……肝試し。あれ、八幡の仕業?」

 

 隣に居た島田は目を丸くする。

 うっすらと、俺は留美がこの解に行き着く可能性を考えていた。昼間、川で彼女と写真を撮る前に、俺は『肝試し、楽しいといいな』と告げていた。その言葉から、留美は辿り着いたのだろう。何せ留美は小学生にしては聡明な方だ。それこそ小町の小学生時代よりも頭がいいと言っても過言ではない。

 なら、余計にコイツは俺の所に来てはいけない筈。

 

「全部が全部俺ってわけじゃないけど、大体は正解だ」

「やっぱり……何となく、上手くいきすぎてると思ったの。私達の班だけああして高校生達が現れて、狙いすましたかのように脅されて……」

「は、ハチは……」

「いい。何も言わなくて」

 

 島田が何かを言おうとしたが、俺はそれを止める。その先の言葉を言われてしまっては意味がないからだ。

 

「後はお前次第だ。八幡は確かにそう言ったよね?」

「言ったな。後はお前の頑張り次第だ……それでどうなるかが変わる」

「……うん」

 

 これでいい。

 これで、鶴見留美と俺達を取り巻く関係は終わった。もし、留美がクラスの奴と仲直りしたいと願えば、彼女は行動を起こすことだろう。留美はぼっちになる事を進んで望んでいるわけではない。そうなってしまったことを受け入れていただけだ。そして彼女は、自分も誰かを見捨てたことを後悔していた。後悔しているということは、手順さえ間違えなければやり直すことだって出来る。

 関係性はリセットされたのだ。坂本ならば、『お膳立ては済んだ』とでも言うのだろうか。

 後は、留美がどうするかによって変わっていく。

 そこに俺は関与していない。無論、これ以上関わることは出来ない。

 

「じゃあな」

「……え?」

 

 俺がそう言うと、留美はキョトンとした表情を浮かべていた。

 え、あれ、これで終わりじゃなかったの? 俺何か間違えたのん?

 よく見ると、隣に居る島田まで目を丸くしている。

 

「えっと、ハチ? それってどういう意味の『じゃあな』なの?」

「どういうも何も、これでお別れって意味じゃ……」

「八幡。私達の関係性は?」

 

 突然、留美は俺に確認をとってきた。

 関係性も何も、留美と俺は別に込み入った関係があるわけでは--。

 

「友達。八幡も、明久も、他の人達も、友達。好きなようにしろって言われた。後はお前次第とも言われた。だから好きなようにやってる」

 

 なんとなく、留美に一杯食わされた気分になる。

 確かに、今留美が言った言葉は、すべてこの二日間で俺が留美に対して行った発言だ。それを利用してここまで清々しくやり返されてしまっては、最早ケチのつけようがない。むしろそれで『そんなのは違う』と言ったら、俺が嘘つきになってしまう。

 

「みたいよ? で、どうする? ハチ。ウチも友達として、ハチの間違いを正さなくちゃいけないんだけど」

「え、俺と島田って友達だったのか?」

「……ハチ、それはないよ……」

 

 ポニーテールがシュンと垂れ下がったかのように見えた。

 

「ま、まぁ、島田がそう思うのなら、そうなのかもしれないし、そうじゃないのかもしれないし。人って言うのは勝手に色々やる生き物だろうから、勝手にすればいいんじゃねえか?」

「……小町が言ってた通り、ハチって本当、捻デレなんだね」

「おいその造語流行ってんの? 流行語大賞ノミネートまでいくの?」

 

 小町から色んな奴らに伝染している気がするんだが。もしかして感染症レベルでその言葉はどんどん伝わっていくのか? パンデミックなのん?

 

「……八幡。連絡先」

「え?」

「だから、連絡先教えて」

 

 マジか。

 俺の携帯電話に、とうとう小学生のアドレスまで加わるっていうのか。

 

「明久達はもう教えてくれた。後は八幡だけ」

「ウチのも教えたし、後、葉月も留美に教えてたわよ。後はハチだけ」

「……マジ?」

 

 何それ、行動力ありすぎでしょ。

 てか、葉月携帯電話持ってたのか。

 

「あ、そう言えばハチって他の人のも登録してなかったわよね……この際だから、ウチが協力したげる。だからみんなの連絡先、今の内に交換しちゃおう?」

 

 待って。

 待ってください。

 なんでいきなりそんな展開になっているのか、八幡分からない。

 

「恩返しだと思って……ハチが頑張ってくれたお礼。だからハチ、ハチはぼっちじゃないんだよ?」

 

 ……あぁ、その笑顔はとても反則だ。

 最早勘違いなんかで解釈するのは無理だ。きっとコイツは、吉井と同じく理屈なんて物はなく、心からの善意で行動してくれているのだろう。

 なら、ちょっとくらい俺も踏み出してもいいのだろうか。

 

「……よろしくおねがいしましゅ」

「「あ、かんだ」」

 

 泣きたい。

 

 ――こうして、波乱に満ちた二日間は幕を下ろしたのだった。

 




というわけで、林間学校編ようやっと終わりました!!
原作と違いまして、今回はみんな一学年下となっておりますので、ルミルミも実は小学五年生……八幡達も高校一年生……つまり、学年が一個下の生徒会長がいないということになり、クリスマス会も行われないということに……。
つまり、留美と八幡の接点はここで作らないと一年以上先の話になってしまう!!
ということで、今回このような結末となっております。
そして何より、最近ヒロイン力が着実についてきている島田さんの出番も、ここぞとばかりに増えております。
次回はバカテス側から短編をオマージュして作ろうかと思っております。
ヒントは、バイトです。
あ、ですがその前に――余力があれば土日で番外編を一つ作ろうと考えております。
是非ともそちらの方もお楽しみに。


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第八問 バカとバイトと大騒ぎな一日 (1)

【第八問】 現代国語

以下の問いに答えなさい。
「『冒涜』という漢字の読みと、その例文を答えなさい」

雪ノ下雪乃の答え

「読み……ぼうとく
 例文……彼のその発言は神に対する冒涜だ」

教師のコメント
正解です。ちなみにこの漢字の意味は、神聖なものを冒し汚すことです。覚えてしまいましょう。

由比ヶ浜結衣の答え
「読み……ぼうよみ
 例文……彼は演劇の台本を冒涜した」

教師のコメント
何故でしょう。読みを無視すれば、例文は間違っていないようにも見えるのですが……。

戸部翔の答え

「読み……しょうとく
 例文……冒涜大使は一度に十人以上の話を聞けるらしい」

教師のコメント
聖徳太子に対する冒涜です。




 バイトをしよう。

 僕がそう決意をしたのはGWに入る前。大型連休を前にして、仕送りのほとんどをゲームや漫画に使ってしまい、しかもその上ほとんど鉄人に没収されたのだ。最も、没収されたものについては、平塚先生から奉仕部に対して課せられた、『林間学校でのボランティア活動』の依頼を受け入れる代わりに返してもらい、そのほとんどを売ったわけだけど、そのお金は葉月ちゃんのぬいぐるみを買うことによって使い切った。

 そう言えば葉月ちゃんのお姉ちゃんって美波のことだったんだよね……ということは、あのぬいぐるみは美波が欲しがっていたということになるのかな。

 ともかく、僕の口座にはもうお金が振り込まれていなくて、そうなるとこのままでは僕は生活が出来なくなってしまう。GWの途中で林間学校に行けたのは、食事的な意味では本当によかったと思う。だけど、それ以降の生活が若干怪しいなって考えた僕は――そこでふと思いついたのだった。

 

 そういえば、今月の仕送り、まだもらってない。

 

 僕は早速母さんに連絡を入れ--結果、失敗に終わった。

 そこでGWも終盤に差し掛かった八日目である今日、僕は雄二達と一緒にアルバイトに来ていた。

 雄二に教えてもらったこのバイトは、募集人数五人となっていたこともあり、秀吉やムッツリーニ、そして――。

 

「なんで俺まで……?」

 

 八幡にも協力してもらう形で、バイトに来てもらうことにした。

 林間学校で小町ちゃんと話した時、八幡を誘う時には断らせないようにするのが正解だと言われた為、雄二に作戦を練ってもらって、逃げ場をなくした上で来てもらうことにした。ごめんね、八幡。だけど八幡って絶対力になると思ったから。

 

「八幡ならきっと頼りになると思ったから。駄目だったかな?」

「……」

 

 八幡は何か言いたげな表情を浮かべたけど、その後渋々受け入れてくれた。やっぱり八幡ってば優しいよね。

 

「で、ここがそのバイト先なわけじゃが……」

「……なんだか雰囲気がおかしい」

 

 駅前にある個人経営の喫茶店。

 何故かそこは、雰囲気が少しだけどんよりしている気がした。いつも通りかかる時にはこんな雰囲気はしていない筈なのに……一体何があったというのだろうか。

 

「……どうする? 帰る?」

「何いきなり帰ることを推奨しておるのじゃ!?」

「どんだけ八幡は帰りたがりなのさ?!」

 

 まだ始まってすらいないのに帰ることを推奨するなんて!?

 でも、確かに今の喫茶店には入ろうという気があまりしないのは確かなんだけれども……。

 

「とりあえず、このまま突っ立っていても何も始まらねぇし、開けるぞ」

「あ、う、うん」

 

 雄二が先陣切って扉を開けた。

 するとそこに居たのは――。

 

「い、いらっしゃい。今日一日、バイトで来てくれた子達、だよね?」

 

 物凄く暗い表情を浮かべている男の人が僕達を迎えてくれた。

 

「よ、よろしくお願いしますー……」

 

 とりあえず店長に挨拶をした僕達は、固まって話を始める。

 

「……なぁ、あの人、本当に大丈夫なのか?」

「油断をしたらすぐにでも富士の樹海に飛び込みそうな雰囲気を出しておるぞ……」

「これは噂なんだが……奥さんと子供に逃げられたらしい」

「……かなり由々しき事態」

 

 上から順番に、八幡、秀吉、雄二、そしてムッツリーニの四人。

 

「そ、それじゃあ、制服はこれだから、これに着替えてね……」

 

 そう言って店長が僕らに渡してくれた服を確かめて……。

 

 スッ ← 制服を渡した音。

 パシッ ← 僕らが制服を受け取った音。

 そっ…… ← 僕らがそっと制服を置いた音。

 

「「「「制服が合いません」」」」

「性別が合いません!!!」

 

 僕等はほぼ全員、一斉に抗議をしたのだった。

 

「どういうことですか!? 俺の奴どう考えてもサイズが明らかに小さすぎるじゃないですか!!」

「俺のも、これ入らないと思うんですが……」

 

 雄二と八幡に関しては、どう考えてもサイズが小さすぎる。これ明らかにSサイズじゃないだろうかっていう服のサイズを渡されていた。僕のは頑張れば着れるかもしれないけれど……ムッツリーニはサイズが逆にデカすぎる。そして秀吉は何も間違っていないのにどうして抗議をしているのさ!?

 

「え? あ、いや、その、ね?」

 

 店長は明らかに焦っているようだった。

 もしかしたら単に間違えただけかもしれないので、一応真相を確かめてみることにする。

 

「坂本君と比企谷君が、Sで……吉井君が、Mで……土屋君が、えr……Lに見えたんだけど……」

「それは服のサイズじゃなくて性癖ですよ!?」

「待て吉井。それはお前がMだということを自覚していることになるぞ」

 

 あれ?

 八幡の言う通り、僕は今自分でMだということを自覚してしまった!?

 

「……否定は出来ない」

「そこは否定してよムッツリーニ!! 第一君はエロじゃないか!!」

「……!!(ブンブン)」

 

 凄い必死に首を振っているけれど、君の場合は普段の行いが行いだから、最早言い逃れなんて出来ないと思うんだけどね。エロであることに違いないと思うよ。

 

「ご、ごめんね? 性癖と制服を間違えちゃったみたいだ」

「どうやったら間違えるんですか!?」

「じゃからワシは性別が……」

「あ、あぁ! そしたら新しいの、はい、これ!」

 

 今度こそ店長は僕達に合うサイズの制服を渡してくれた。

 うん、やっぱりこれだよね。

 

「あ、あれ? ワシだけ何も変わっておらぬのじゃが……」

「え? 秀吉はそれで正解でしょ?」

「……木下。これ渡すからこっちにしておけ」

 

 八幡が目を逸らしながら、先程店長に渡された制服を秀吉に渡す。

 それは男物だから秀吉は違うんだって!!

 

「す、すまぬ八幡……恩に着るぞ」

「お、おう……」

 

 なんで二人とも顔を赤くしているのさ!?

 なにこれなんてラブコメ!?

 

「……おい明久。お前今バカなこと考えてる顔してるぞ」

「それって一体どんな顔なのさ!?」

 

 なんだかとても失礼なことを雄二に言われた気がするぞ!?

 

「え、えっと、ロッカールームは狭いから、その、二人ずつ使ってね?」

「……廊下で着替えるのはありっすか?」

 

 八幡は手を上げて尋ねる。

 すると店長は、

 

「え? あ、うん。君がそうしたければ、それでも大丈夫だよ。今の時間なら、その、お客さんはまだ、来ないと思うから、ね」

「う、うす」

 

 そのことを確認すると、八幡はそそくさと物陰に隠れて着替え始めちゃった。

 仕方ないから、僕は最初にムッツリーニと二人で制服を着る。

 慣れないウエイター服に苦労したけど、何とか着ることが出来た僕達がロッカールームから出てくると、

 

「おぉ……二人とも、似合っておるではないか」

「明久もムッツリーニも、比企谷も似合ってんぞ」

「お、おう……」

「そうかな? ありがとー」

 

 八幡は頬を掻きながら、僕は少し照れながら答える。

 秀吉に褒めてもらえるなんて今日はなんて嬉しい日なんだ!

 

「それじゃあ秀吉。俺達も着替えようか」

「そうじゃのう」

 

 そして今度は雄二と秀吉が、二人でロッカールームに入っていく。

 ……うん? ちょっと待って?

 秀吉と雄二が、二人で、ロッカールームに?

 

「「……ちょっと待てぇえええええええええええええええ!!」」

 

 僕とムッツリーニの声が重なった瞬間だった。

 




というわけで、原作短編集でも屈指のギャグ回、バイト編スタートです!!


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第八問 バカとバイトと大騒ぎな一日 (2)

「何堂々と秀吉と着換えようとしているのさバカ雄二!!」

 

 やばい!

 このままだと秀吉の身に危険が――!!

 

「何言ってんだよ明久。男同士なんだからそんなの関係ないだろ?」

「それはあくまで戸籍上の話でしょ!!」

「戸籍上も何もワシは男じゃ!!」

「書類上の言葉を信じるな! 見くびったぞ雄二!!」

「……コイツらは一体何を言ってるんだ」

「何を言ってるんだはこっちの台詞だよ八幡! 秀吉が雄二と密室で二人きりなんだよ!? 八幡だって、彩加が雄二と二人きりで一緒の部屋に居たらどうなるか分かるでしょ!!」

「あくまで二人とも男じゃねえか……」

 

 くっ、駄目だ……八幡は常識に囚われ過ぎている……っ!!

 

「雄二、こうなったら僕にも考えがある」

「なんだ明久。突入だけはするんじゃねえぞ? バイト来て逆に金払うようなことだけは絶対に避け……」

「霧島さんにこのことを包み隠さず暴露する」

「よし分かった廊下で着替えよう」

「分かってくれて助かるよ」

「どうしてそうなるのじゃ!?」

 

 中では何やら秀吉が困惑したような声を出していたけど、雄二は分かってくれたみたいで何よりだ。

 

「……命拾いしたな」

「……なんで戦地で敵と相対するようなこと言ってんのコイツ」

 

 ムッツリーニの言葉に八幡がツッコミを入れていたけど、それはその通りだからだよ八幡。

 

「とりあえず、八幡とムッツリーニ。二人が着替えている間に店長の所行こうよ」

「……了解」

「……おう」

 

 秀吉と雄二が着替え終わるのにも少し時間がかかるだろうし、僕達は先に店長の所へ行って開店準備を手伝うことにした。

 

 

「店長ー。もうすぐ開店時間ですよ、ね……?」

 

 僕達三人が店の所までやってくると、店長は暗いオーラを出しながら天井を眺めていた。それも完全に死んだ目で。まるで何かに囚われたかのように。

 そんな店長は、僕の声に反応したのか、ハッとしたような表情を浮かべた後で、

 

「あ、そ、そうだね!」

 

 取り繕うようにそう返事した後に、再び遠い目をしてしまった。

 

「……こうして、僕が独りでもしっかり店を切り盛りしていけば、きっと娘も帰ってくるよね……?」

「……お客さん、いっぱい来るといいですね」

 

 駄目だ。

 店長は自分の世界に入り込んでしまっている。

 

「……吉井、土屋。これは大丈夫なのか?」

「やっぱあの店長やばくない?」

「……危険かもしれない」

 

 僕達三人の意見は凡そ一緒だった。

 このまま今の状態の店長に任せたとしても、きっと大丈夫じゃない。

 そして店長は、僕達が聞いたわけでもないのに、まるで昔話を思い出すかのように語り始める。

 

「僕の可愛い、可愛い娘はね……二歳の頃は、『お父さん大好き!』が口癖だったんだよ」

「店長。それはねつ造です。赤ん坊との会話が成立するのは二歳からです」

 

 八幡が的確なツッコミを入れているけど、店長の耳には届いていないみたいだ。

 

「それなのに……それなのに……最近娘から出てくる話は……はなし、はぁあああああああああああああ!!」

 

 突然叫び出した!?

 一体何がトリガーだったの!?

 

「お、落ち着いてください店長! 店長の可愛い娘さんは……」

 

 スッ ← 店長が突然ナイフを取り出した音。

 チャキッ ← 店長が僕の頸動脈にナイフを突きつけた音。

 だらだら ← 僕の汗が滝のように流れ出る音。

 

「地獄の閻魔への挨拶は済ませたか」

「ちょぉおおおおおおおっと待ってくださいてんちょぉおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 どうなってるのさ!!

 いきなり低い声を出してきたと思ったら、突然店長がナイフを僕に突きつけてきたよ!? これおかしいよね!? どう考えてもやばい展開だよね!? 僕の命完全に取られるよね!?

 

「……あぁ、ご、ごめん、ごめんね? そうだよね、これは吉井君の頸動脈だもんね? 僕の可愛い娘を突け狙う輩のじゃないもんね?」

 

 すぐに元の店長に戻って、ナイフもそっと仕舞う店長。

 そんな店長を一通り眺めた後、僕とムッツリーニと八幡は、再び会議を始める。

 

「ムッツリーニ。アウト、セーフ?」

「……チェンジ」

「アウト三つで即チェンジかよ……」

「でもそれだけまずいよね? これかなり厳しい状態だよね? というか外に出していい状態じゃないよね?」

「……同感」

「けど、あくまで俺達はバイトだ。店長が外に出てはいけない状態なのはなんとなく察することは出来るが、それでも俺達だけで何とか出来るわけではない」

「そうだよね……一体どうすれば……」

 

 八幡の言う通りだ。

 だけど、今の店長が接客をやったら、それこそ道行く女性を相手にして『Dear My Daughter』とか言いながら飛びついてきそうな気配がする。それだけは何としても避けなくてはいけない気がする。

 

「……とりあえず俺に考えがある。吉井と土屋は、坂本と木下が来るのを待っておけ」

「……了解」

「うん……分かった」

 

 八幡は店長の所へ行って、何か相談している。

 僕とムッツリーニはその間に、二人が戻ってくるのを待っていた。

 そして。

 

「お待たせしたのじゃ、三人とも」

「待たせちまったな」

 

 ウエイター姿の秀吉と雄二がやってきた。

 わぁ……二人とも凄いよく似合ってる。

 

「……男装姿も、悪くない」

「ワシは男じゃから男装も何もない!!」

 

 ムッツリーニは早速と言わんばかりにカメラで秀吉のことを撮影しまくっている。何処からカメラ取り出したのかは分からないけど、後でその写真は買い取ることにしよう。

 

「……とりあえず店長に話はつけた。俺達が外で接客をして、店長はキッチンで料理や飲み物を作ることに専念してもらう形になった。なるべく店長には外出ないよう、せっかく俺達が来ているんだからということで説得した」

「いつの間に……まぁ、あの状況じゃ外出せないからな。俺達じゃ料理作れねぇしな」

 

 家庭料理ならともかく、確かお店で出す料理を作るには免許とか色々必要なんだっけ?

 難しいことはよくわからないけど、今の状態の店長が外に出ないのならばとりあえず安心だね。

 

「とりあえず店員が全員外に出ていても仕方ないから、まずは誰かが出てくれ」

「そこで八幡が出るっていう選択肢はないんだね……」

「働きたくねぇんだよ……」

 

 流石というかなんというか。

 八幡はやっぱり働きたくないって言うんだね……最も、今こうしてバイトしてるわけだけど。

 

「なら、最初にワシが行こうかのう」

 

 そう言って前に出てくれたのは秀吉だった。

 うぅ、ウエイター姿の秀吉も可愛いけど、出来ればウエイトレス姿の秀吉が見たかったなぁ……あぁ、でもそんな秀吉を見たら店長が暴走してしまいそうだ。

 そんなことを考えていたちょうどその時。

 カランカラン、とベルが鳴って、男女の二人組が入店してきた。

 

「いらっしゃいませ。二名様でしょうか?」

 

 入ってきたのは、中学生くらいの男女ペアだった。男の人は『いかにもイケメンです』って言ってそうな顔の人。女の子は、亜麻色の髪の可愛い女の子。くっ……デートか……これだからリア充は!

 ここに須川君が居たら、FFF団の掟に則って……!

 

「……どうした比企谷? 何か嫌そうな表情浮かべて。知り合いか?」

 

 店の裏で、雄二と八幡が何やら話をしていた。

 そのほうを見てみると、何故か八幡は女の子を見ながら嫌そうな表情を浮かべている。

 一体どうしたのかな?

 

「……いや、ああいう打算的な女子は警戒するに越したことねぇと思っただけだ。一挙手一投足があざとい」

「あざとい?」

 

 八幡の言葉が気になった僕は、試しに秀吉が下がった後で二人の様子を眺めてみることにする。

 

「ここの喫茶店、珈琲が何でも凄く美味しいらしいよ?」

「へぇ~、そうなんだ~。それじゃあ私もそれにしてみようかなぁ」

「俺も同じものにするか」

「了解でーす」

「こうしてデートしてるわけだからさ、せっかくだし楽しもうね」

「そうだね~」

 

 そんなやり取りをしている二人を見た、僕達の一言は。

 

「「「「あざとい」」」」

「お主らは何をしておるのじゃ……」

 

 秀吉が何やら呆れたような感じで言ってきたけど、こればかりは仕方ないじゃないか。

 だってあの女の子、八幡が言った通り一挙手一投足が『可愛い』んだよ? 話す時は自然と上目遣いだし、話し方もなんだか可愛い女の子の代名詞みたいだし。

 それでもあの女の子は凄く可愛い。くっ……やっぱり……って、女の子?

 

「……っ!!」

 

 やばい。

 女の子を見て店長が反応しかけている……っ!!

 




今回の話には、さり気なくあの子が登場しております。
出すタイミングがあるとすれば、まさしくここかなぁ……なんて思ったので、登場しちゃいました!
ちなみに、始まりまでは原作とあんまり変わりませんが、ここからは大きく原作と逸れます。
何せ登場するキャラが全然違いますし……。
安心してください。
『Dear My Daughter』はちゃんと言います。


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第八問 バカとバイトと大騒ぎな一日 (3)

「ディア……マイ……ドウタァ……」

 

 店長がぼそりと何かを呟いている。

 確かあれって……。

 

「親愛なる娘、な。明久」

「サンキュー雄二」

 

 雄二から言葉を教えてもらう。

 いや、あの子は店長の娘ではありませんからね。親愛なる娘さんは今別の所に居ますからね!?

 

「……不味い。暴走仕掛けている」

 

 ムッツリーニが店長の顔を確認しながらそう呟く。

 うん、これは僕でも分かる。今野球で言うならばチェンジを四回くらい繰り返しているレベルでアウトが重なっている所だよ。暴走モード突入してそこら一帯が食い荒らされてしまう所だよ。最早喫茶店を運営している人とは思えない程の暴れっぷりが繰り広げられちゃう!

 

「さっきまではワシらしかいなかったからよかったのじゃが、今はあそこに客がおるぞ……」

「……とにかく、接客は続ける。俺が行くから、店長はお前らに任せた。最悪、暴走した時は何とかする」

 

 何か考えがあるのか、八幡は客の所まで行く。

 そういえばまだオーダー取ってなかったね。作戦を練るのは大事なことだけど、元々ここは喫茶店。仕事の方も大事にしなきゃいけないんだった。

 八幡って、基本的に仕事嫌がっているけど、やる時はきちんとやるよね。

 後でフォローしなきゃいけないのが嫌なのかもしれないけど。

 

「ディア、マイ、ドウタァ……!」

 

 段々と店長のボルテージが上がっていっている。

 え、ちょっと待って。少し目を離しただけなのに店長の目が血走ってない?

 

「客の方は比企谷に何とかしてもらうとして、秀吉は店長の耳元で『女子高生の娘が父親に言いそうな、大嫌い』を言ってくれ」

「わ、分かったのじゃ」

 

 こうして怯んでくれれば、店長も暴れずにすむということか。

 流石は雄二! 考えている!

 秀吉は店長の傍まで近づくと、耳元で、

 

「お父さんなんて、大嫌いっ!」

 

 と、店長と周囲にしか聞こえないように囁いた。

 瞬間、店長は動きを止めた。

 

「よ、よし……これで何とか……っ」

 

 ガシッ ← 店長が秀吉の手を掴んだ音。

 グイッ ← 店長が秀吉を引っ張った音。

 ギュッ ← 店長が秀吉を抱きしめた音。

 

「そんなことを言うのなら、今日は父さんと一緒にお風呂に入ろうか」

「なんでそうなるんですか!?」

 

 思わずツッコミ入れちゃったよ!

 なんで『大嫌い』から『お風呂』という選択肢まで行くのさ!?

 

「しかし、僕の可愛い可愛い娘をたぶらかすのはよくないな……ちょっと待っててね。今から抹殺しに行くから」

「待ってください店長ぅううううううううう! 別人ですから!! あそこに居るのは愛しい娘さんでも、その娘さんを突け狙う輩でもありませんからぁあああああ!」

 

 なんでこういう時だけ無駄に力強いのさ!! さっきまでの無気力な店長は一体何処へ消えてしまったというの!? やっぱり『殺る気』が『やる気』を引き出しているっていうの!?

 

「……なんて迫力!」

 

 ていうかこれ最早お客さんに隠しきれない事態まで発展してるよね!? ほら、若干テーブル席に居る二人引いちゃってるから! 八幡も明らかに隠しきれてないから!

 

「あ、あの、あの人って、一体……?」

 

 女の子が八幡に尋ねている。

 

「ひゃ、ひゃい」

 

 あ、噛んだ。

 

「店長です」

「え、店長?」

「店長です。今ちょっと発作起こしているだけなので安心してください。危険は生じません」

「い、いえ。あの、被害が及ばなさそうなのはいいんですけど、あれ、大丈夫なんですか?」

「多分大丈夫です。気にせずご注文を」

「絶対大丈夫じゃないですよね!?」

「大丈夫。何かあったら、俺が守るから」

 

 あ、ここぞとばかりに向かい側に座っている男の人が女の子にアピールしてる。

 そんな男の人の台詞を聞いた女の子は。

 

「本当? わーい、ありがとーっ♪」

 

 うわぁ、超あざとい。

 満面の笑みと共に、可愛い声で言っていた。悔しい、だけど可愛い……っ!

 

「うわぁ、あざと……」

「へ?」

 

 あ、八幡。

 今完全に口に出してたよ。あざといって思いっきり出してたよ。

 

「……珈琲二つでよろしいですね。それでは失礼します」

「あ、ちょっ……」

 

 女の子は八幡を呼び止めようとしたけど、それよりも先に八幡はこっちに引っ込んでくる。

 ……ていうか、八幡。何か考えがあったからそっちいったんじゃないの?

 

「というわけで、オーダーを取ってきた。後は店長にこれを伝えて、仕事モードに引きずり込む」

「な、なるほど」

 

 だから八幡はオーダーを取ったのか。

 今や店長は暴走しかけているけど、オーダーを取って伝えれば、嫌でも作らざるを得ないということか!

 流石八幡、考えたね!

 

「店長! 珈琲二つ入りましたよ!」

「ディア、マイ、ドウタァアアアアアアアアアアア!」

 

 全然聞いてないよこの店長!?

 

「な、何か叫んだ!?」

 

 もう完全にその叫び声お客さんに聞こえちゃってるから!!

 店長落ち着いてください!!

 

「「「店長! 珈琲! 二つ!!」」」

「……はっ!」

 

 耳元で、僕と雄二と秀吉が叫んだことで、ようやっと元に戻った店長。

 危なかった……このまま放っておいたら、あそこにいる男の人の頸動脈がナイフで切られてしまう所だった……。

 

「ご、ごめんね。取り乱しちゃった、みたいだね。珈琲、二つだったね。今淹れるから、待っててね」

 

 やっぱり店長は仕事のこととなると真面目になるみたいだ。

 程なくして珈琲が入る。

 

「八幡、お客さんに珈琲持って行ってあげて。僕は今来たお客さんの対応をするから!」

「え、俺がやんの」

 

 明らかに嫌そうな表情を浮かべているけど、そうも言っていられない。

 距離的に今近いのは八幡だし、こうしている間にも他のお客さんは入口で待っているんだから。

 

「頼んだよ! ……いらっしゃいませーっ」

 

 後ろで八幡の声が聞こえた気がしたけど、僕は入ってきたお客さんの相手をする為に入口へ向かう。

 入ってきたのは二人組の女性客。

 よーし、僕も頑張るぞ!

 

「にみゃい様でしゃうか?」

 

 くっそ噛んだ。

 物凄く噛んだ。

 それこそ、目の前に居る二人の女性客が、腹を抱えて笑うレベルで噛んだ。

 

「……二名様でしょうか?」

「は、はいっ! そうです……ぷぷぷ」

「こ、こちゃらのせきゃにっ!」

「「ぷはははははははっ!!」」

 

 ……もうだめだぁ!!

 

「こちらのお席にお座りください。メニューをご覧になってお待ちください」

 

 早口でそれだけを告げると、僕はそそくさと裏方へ戻って。

 

「ムッツリーニぃぃいいいいいいいいいいい!」

「……ドンマイ」

 

 盛大に泣いた。

 それはもう盛大に泣いた。

 八幡も噛んだけど、僕もそれ以上に噛んだ。

 ていうか秀吉はさっきよく対応出来たよね!

 

「……まぁ、とりあえず次は俺が行こう。明久はそこで休んでるといい……くくく」

「お前まで笑ってるじゃないか雄二!!」

 

 くぅ……雄二が笑いながらさっきのお客さんの所まで行っている。

 悔しいけど、これは噛んだ僕が悪いから何も言えない……。

 とりあえず、僕は八幡の様子を見ることにする。

 

 何故か八幡は、カップルの女の子に捕まっていた。

 

 




気付けば……UA数が10万を突破しておりました……っ
応援ありがとうございます……っ!
さて、何人かお気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、あのあざとい後輩が登場しております(名前はまだ本編で出てきていないので明かしません)。
ただ、思うように上手く描けないです……彼女は筆者にとって大好きなキャラなんですけど……どうも、原作キャラ同士の掛け合いは毎回きちんと確認しているんですが、それ以外の有象無象との掛け合いが今の所はっきりしていなかったみたいで……前回の話では若干『あの方』とごっちゃになってしまった方もいらっしゃるのではないでしょうか……。
一応、『亜麻色の髪』と『中学生』というワードは入れていたのですが……。
徐々に慣れていくよう頑張ります!!!!!


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第八問 バカとバイトと大騒ぎな一日 (4)

「私、ここの喫茶店ってよく来るんですよー。でも、今まで見かけなかった店員さんですよねー?」

「え? 今さっきこの喫茶店初めてって……」

 

 女の子の言葉に、男の子が茫然としている。

 だけど、女の子は構わず八幡に話しかけていた。

 何というか、あの男の子可哀想になってきたよ……。

 

「そりゃまぁ、今日限りのバイトだからな……」

「そうなんですかー!? また会いたいなぁ、なんて思ったのに~。残念ですぅ」

「あざとい。やり直し」

「またあざといって言った!?」

 

 うん、今のはあざとかったと思う。というか八幡、今は店員だっていうこと忘れてないよね? 一応お客さん相手に敬語抜きというのは流石にどうなんだろう?

 けど、あの女の子も八幡に興味を抱いているっぽくて、男の子そっちのけで話しかけてるよ。

 

「……万死に値する」

 

 ムッツリーニの言葉もよくわかる。

 あれってつまり、女の子に無茶苦茶話しかけられている男の図だよね?

 

「まだ客が少ないからよいのじゃが、流石にいつまでも囚われっぱなしというのもどうかと思うのじゃが……」

 

 確かに、八幡もそろそろ奥に引っ込みたいって顔してる。

 そろそろ誰かしら行ったほうがいいのかもしれない。

 って、考えていたその時だった。

 カランカラン、とドアに備え付けられたベルが鳴り、お客さんが来たことを知らせる。

 僕はその音を聞きつけて出迎えると……。

 

「いらっしゃいま……って、葉山君!」

 

 入ってきたのは、葉山君達だった。戸部君や三浦さん、そして海老名さんも一緒だ。GWでもこうしてお出かけしてるなんて、やっぱり仲良しなんだね。

 

「あれ? 吉井君! ここでバイトしてたの?」

「今日だけなんだけどね。雄二やムッツリーニ、秀吉に……八幡も居るよ」

「マジ!? 一日バイトで喫茶店とかマジっべーわっ!」

 

 戸部君がテンション高めに驚いている。

 

「ヒキタニ君達五人でウエイターの服を着て、みんなで何をしちゃうの!? というかナニをしちゃうのかな!? これは、これはぁ……キマシタワァアアアアアア!!」

「どうして!? ちょっと姫菜! ここでは自重するしっ!」

 

 相変わらずの鼻血噴水っぷりを見せる海老名さんと、そんな海老名さんのお世話をするおかんスキルを存分に発揮する三浦さん。二人は何だかんだでいいコンビだよなぁ。

 ところで、そんな四人を見つめるカップルの片割れの女の子。

 最早男の子は状況に追いついておらず、言葉を失っているみたいだ。

 あ、八幡が女の子にぐいって引っ張られた。

 

「ちょっと。あの人物凄くかっこよくないですか? もしかしてお友達ですか?」

「ばっか、アイツと俺が友達なわけねぇだろ。釣り合わねぇっての」

「そうですねぇ。確かに月とすっぽんみたいなお二人ですもんね」

「こいつ……」

「人のことあざといって言った罰ですーっ。素直に可愛いって言ってくれればいいんですーっ」

「あざといもんはあざとい」

「うぐぐ……」

 

 とりあえず、このままだと話が進まないみたいだし、そろそろ僕達も動かなきゃ。

 

「雄二、葉山君達の対応お願い。僕は八幡の所行ってくるよ」

「任せとけ」

 

 とりあえず一旦葉山君達の相手を雄二に、店長を宥めるのをムッツリーニと秀吉に任せて、僕は八幡の応援の為に向かうことにする。

 

「八幡、そろそろ他のお客さんの相手をしなきゃいけないと思うから……」

「あ、お構いなく~」

 

 違うよ?

 僕達がお構いあるんだよ?

 

「仕方ないですね……せめてあの人がどこの学校に通っているのか教えてくれませんか?」

「総武高校だけど……」

「僕や八幡も同じ学校なんだよ」

「本当、なんで吉井はあの学校受かったんだろうな……一応進学校だぞ」

「失礼な!? 僕だって入試シーズンは頑張ったんだよ!?」

 

 姉さんに相当詰め込まれたけどね!

 その反動か分からないけど、入試終わったらほとんど全部忘れちゃったけどね!

 人間、キャパシティを超えた勉強をするべきじゃないってことだよね!

 

「本当ですか!? それなら、私も総武高受験してみることにします!」

「え、まじ?」

 

 八幡が心底嫌そうな表情を浮かべている。

 それに対して女の子が、

 

「あーっ! また嫌そうな顔してますぅ! それは酷いですぅ、せんぱい!」

「もう後輩気取りかよ……」

「私、一色いろはって言います! 総武高に受かったら、あの人のこと紹介してくださいよね? せ~んぱい♪」

「サッカー部入ってるからマネージャーにでもなっとけ。ほれ、これでいいだろ」

 

 うわぁ、八幡ってば仕事雑。

 

「っていうか、八幡。一応自己紹介したら?」

「え、嫌だよ。何されるか分かったもんじゃないし」

「僕は吉井明久。んで、この人は比企谷八幡だよ」

「ちょっと? 何勝手に自己紹介してんの? 名前知られちゃったら絶対後で悪い噂流されるだろ?」

「せんぱいは私のことなんだと思ってるんですか……」

「あざとい後輩」

「私ぃ、そんなにあざといですかぁ?」

 

 上目遣いで涙目うるうる攻撃!

 これはなんというか……正直凄く可愛い。

 こんな子が後輩として入ってきたらどれだけ嬉しいだろうなぁ。バラ色の高校生活を送れそうだよなぁ。

 

「……ま、まぁ。あざといのに変わりはねぇけど、その、いいんじゃね?」

 

 八幡が照れているのか、頬を掻きながら明後日の方向を向いている。

 

「そしたらせんぱい! 連絡先交換してください!」

「は? なんで?」

 

 あ、八幡本当に嫌そうな顔している。

 そんなに連絡先知られるのが嫌なのかな……。

 

「総武高受けるに当たって、色々と準備しなきゃいけないじゃないですか~」

「塾行け。そしてそこで勉強しろ」

「でも~、塾ってお金かかるじゃないですか~」

「お前が出すわけじゃないんだ。親の脛齧ってろ」

「うわぁ……なんかニートみたいな発言してますね」

「うるせ」

 

 気のせいかな?

 八幡、いつもより言葉数が多い気がする。

 そういえば八幡って、小町ちゃんがいるからなのか年下の女の子に対してはそこまで動揺する素振りもないよね。あまり緊張してないのか、それとももしかして――ロリコン?

 

「おい吉井。お前今変なこと考えてないか?」

 

 あれ? バレテーラ。

 

「ソンナコトナイヨ。八幡がロリコンだなんて思ってないよ」

「誰がロリコンだ」

 

 流石に否定された。

 

「それで、どうなんですか~? 連絡先、交換させてもらえないですか?」

「見知らぬ人に話しかけるなって教わってるから無理です」

「もう互いの名前知った仲じゃないですか~。これも何かの縁だと思って。人助けだと思って~」

「……吉井。何とかしてくれ」

「あれ? 完全に僕任せ!?」

 

 完全に僕に丸投げされちゃったよ!?

 こうなったら仕方ない……。

 

「えっと、僕が八幡の連絡先知ってるから、僕から送るよ」

「おいちょっと?」

「まぁまぁ八幡……言いたいことは分かるけど、このままだといつまで経っても終わらないから……」

「……」

 

 八幡も渋々と言った様子で納得したみたいだ。

 いろはちゃんも、それで妥協してくれたみたいだ。

 まずは僕といろはちゃんが連絡先を交換して、そしていろはちゃんに八幡の連絡先を送った。

 よし、これでバッチリと。

 

「ありがとうございます、吉井先輩♪」

「どういたしまして。それじゃあ改めてよろしくね? いろはちゃん」

「こちらこそで~す。せんぱいもよろしくで~す♪」

「お、おう……まぁ、その、なんだ? 出来ねぇことの方が多いけど、何か困ったことあれば連絡しろ」

「……」

「どした?」

 

 完全にキョトンとしている様子のいろはちゃん。

 ある程度止まったと思ったら。

 

「なんですかそれ口説いてるんですか後輩のことを想う先輩アピールで早速私に付け込もうとしているのですかそんな下心が見え見えですし私は今憧れの先輩が出来た所なので無理です」

「なんで俺早速振られてんの?」

「ていうか俺忘れられてない!?」

 

 あ、カップルの片割れの男の子がようやっと入り込んできてくれた。

 それを見越した僕と八幡は、やっと奥へ引っ込むことが出来た。

 ……それにしても、随分と強敵だったような気がする。

 




怒涛の一色いろは回です!
完全に八幡ロックオンされましたね……さり気なく後輩女子の連絡先をゲットした明久もなかなかのやり手です(なお、本人に下心は微塵もない模様)。
それにしても驚いたのですが、なんと7月24日のデイリーランキングにてついに6位という順位を獲得していたみたいです……応援ありがとうございます……っ!!
これからも頑張っていきます!!

そう言えば、次の話にだれを出そうかなぁって考えて原作を読み返したりアニメを見返したり、設定を漁ってたりしたんですけど……工藤愛子さんって……転入生でしたね……(軽い絶望)。
最初から入学している設定にしてしまってもいいんですが、転入生としてのネタもやっぱり入れてみたいですし……正直悩んでいます。


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第八問 バカとバイトと大騒ぎな一日 (5)

 いろはちゃん達も帰り、客足もある程度落ち着いたことによって、僕達はようやっとゆったりとすることが出来た。特にたくさん人が来たわけではないのに、気持ちだけなんとなく疲れた気分だ。特に店長の暴走っぷりはとんでもなく、一番気を付けなくちゃいけない。油断すると発作のように『Dear My Daughter』って言い出すものだから……早く娘さんに帰ってきて欲しい。

 そんなことを考えていると、カランカラン、とベルが鳴る。

 お客さんが来た合図だ。

 

「いらっしゃいま……あれ? 美波!? それに姫路さんまで!」

 

 次にやってきたのは美波に姫路さんだった。そういえば林間学校でボランティアをやって依頼、この二人で行動することも増えたような気がするよ。仲良くなれたってことかな?

 

「吉井君がここでバイトしてるって聞いたものですから……」

「情報の出どころは小町ちゃんよ」

「あー、なる程ねぇ」

 

 何かどっかから『小町め……』って聞こえてきた気がするけど、とりあえず八幡が何かボソッと呟いたんだと思っておこう。というか十中八九八幡だと思うし。

 

「ほらほら、店員さん。とりあえず案内して?」

「あ、そ、そうだね。何名様でしょうか?」

 

 美波に言われた通り、僕は案内をすることにする。

 すると姫路さんが、

 

「四人です」

「あれ? けど今二人しかいないよね……?」

 

 うーん、姫路さんがこんな所で嘘つくわけないし、まさか僕には見えない二人が……!?

 

「あー、一人は今遅れているわ。もう一人は……もうそこに……」

「へ?」

 

 美波が指差した先に居たのは――。

 

「雄二。こんな所でバイトするなんて、私聞いてない」

「なんだ!? どうしてここに居る筈のない翔子の声が聞こえるんだ!?」

「……そこに居る」

 

 ムッツリーニの声が心なしか呆れているように聞こえる。

 雄二も雄二で、今この場に霧島さんがいることがかなり驚きのようだ。

 

「えっと、それじゃあとりあえず三人ともこちらの席まで……」

 

 姫路さん達を席に案内して、メニューを渡す。それにしても、こうして三人で遊びに来る程になっているなんて、なんだか微笑ましいような気がするなぁ。

 霧島さんの雄二を見る目線が少しだけ怖い気もしなくもないけど。

 

「ところで……ハチは一体何処に?」

「あれ? そう言えば八幡は?」

 

 美波が周りを見渡している。恐らく八幡を探しているんだと思うんだけど、肝心の八幡はその場に居ない。

 

「八幡はどうやら店の裏に隠れているようじゃ……ワシが連れてくるから待っておれ」

 

 ひょこっと顔を出したかと思うと、裏に隠れていた八幡を連れてきた秀吉。

 あ、八幡の顔が『ゲッ』という顔に変わった。

 そう言えばさっきも、葉山君達の相手を頑なにしようとしてなかったから、知り合いに見つかるのを心底嫌がっていたのかもしれない。

 八幡を見つけた美波は、何処か嬉しそうな表情を浮かべている。

 

「ハチ、とっても良く似合ってるわよ。後で小町ちゃんに写真送ってあげるね」

「え、これ撮るの?」

「うん。だって、ハチよく似合ってるし」

「……確かに。みんなよく似合ってる」

「吉井君もかっこいいですっ」

 

 なんだか素直に褒められて照れるなぁ。

 八幡も頬を掻きながらそっぽ向いてる。なんだか照れてる時によくやってそう。

 

「遅れちゃってごめん!」

 

 その時、たぶん姫路さん達の言っていた四人目と思われる女の子が店に入ってきて--。

 

「って、秀吉!?」

 

 あれ!?

 秀吉が二人いる!?

 でも、秀吉にしては胸が少し大きいような……まさか本当に戸籍上でも女の子になったというの!?

 

「違うわよ、アキ。この人は秀吉の双子の姉。木下優子さんよ」

「……マジ?」

 

 八幡も目をぱちぱちとさせている。

 言われなければ僕も気付かなかった位だ。

 それにしても、秀吉ってば双子の姉がいるなんて初めて聞いたよ?

 

「姉上!? ワシはここのこと教えてなかった筈なのに……」

「……よかった。きちんと男物の服着てるのね。女物を着てたらどうしてやろうかと思ったわ……」

「ひぃっ! 変なオーラを出さんで欲しいのじゃ!」

 

 あれ、何だろう。

 今のやり取りで秀吉と木下さんのパワーバランスが垣間見えた気がするよ?

 

「とりあえず、注文いいか?」

 

 前に出されたからにはきちんと仕事をこなそうということなのだろう。

 八幡が四人分のオーダーを取ろうとしていた。

 

「……ハチがちゃんと仕事してる」

「おいちょっと? 流石に泣くよ?」

 

 美波の言葉に、八幡が少しショックを受けている様子だった。

 うん、分かるよ美波。僕もつい数分前に同じこと思ったから。

 

「何が一番オススメでしょうか?」

 

 姫路さんが尋ねてくる。

 そう言えばここのお店のおすすめメニューってなんだろう?

 

「店長、オススメって一体なんでしょう?」

「ディア、マイ、ドウタァ……」

 

 あ、駄目だこりゃ。

 

「えっと、結構さっきから他のお客さんはクレープと珈琲のセットを頼んでいってるよ。さっき来た学生さんも珈琲とクレープのセット頼んでたみたいだし」

「じゃあ、それを四つ」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 僕と八幡は、霧島さんより受けたオーダーを受け取り、店長の所まで報告しに行く。

 そして報告の仕方は――。

 

「「「「「店長! 珈琲とクレープ! 四つ!」」」」」

 

 この場に居るバイトメンバー全員で、店長の耳元で叫ぶことだ。

 こうしないと、さっきから店長がトリップ状態から戻ってきてくれない。

 

「……ねぇ、ハチ。ここの店長大丈夫なの?」

「……大丈夫だ。問題ない」

「一番いい装備頼まないといけないの?」

「お前が乗るのかよ吉井……」

 

 ネタが通じたからね!

 ちなみに美波はキョトンとしてるよ。

 何故か木下さんはそわそわしてるけど。

 

「……吉井君と比企谷君って、仲いいのね。霧島さんからはうかがってたけど……」

 

 何かボソッと木下さんが呟いてた気がするけど、心なしか、眼鏡をかけた黒髪の女の子を思い出したよ……鼻血噴水図がどうして今この場で蘇ったのかな?

 それにしても、美波の言う通り、このままだと店長不味い気がするんだよなぁ……早く娘さんに帰ってきてほしい。

 と、そんなことを考えていた時だった。

 

 ガチャ ← 扉が開いた音。

 カランカラン ← ベルが鳴った音。

 かつ、かつ ←足音。

 

「どう? お父さん。少しは反省した?」

 

 よかった……っ!

 娘さん、帰って来てくれたんだ……っ!!

 

「でぃあ、まい、えんじぇるぅ……」

 

 店長、完全に泣いてるよ。

 嬉し泣きしちゃってるよ!

 

「よかったですね、店長」

「ありがとう……ありがとう、吉井君……っ」

 

 これで店長も元通りに――。

 

「あれ? 美波お姉様! 私に会いに来てくださったのですね!」

「……へ? ここ、もしかして美春のお家だったの!?」

 

 おや?

 美春ってことは……もしかして……。

 そう思って僕は入ってきた女の子の顔をきちんと確認した。

 

 縦ロールにツインテール。

 そして御嬢様口調……あ、間違いない。

 僕と八幡が初めて奉仕部に行った時に来た--。

 

「清水か……」

「なんであの時の猿人類までいらっしゃいやがりますの」

 

 八幡に対して威嚇する清水さん。

 もう本当この子は、男の人と女の人で扱いが凄く変わるんだから……。

 ……って、あれ?

 

「……貴様か。貴様が娘をたぶらかす女かぁああああああああああ!」

 

 店長が暴走したーっ!!

 って、娘をたぶらかす女って表現最早おかしいですからね!?

 

「ちょっと待ってください店長!! 暴走しないでくださいよ!!」

「……へ? あ、えぇ?」

「……島田。悪いことは言わない。とりあえず一旦逃げとけ」

「は、ハチ?」

「ハチ!? どうしてお姉様がゾンビ男のことを愛称で呼んでいるんですの!?」

「ゾンビ男って言った? それ完全に目だけで決めてるよね?」

「貴方のような目の腐った男にはお似合いの名前ですわ」

「美春!!」

 

 あぁ……駄目だ……これはもう収まりそうにない……。

 店長は暴走。清水さんは八幡を精神攻撃。姫路さんと木下さんは完全に置いてけぼり。

 霧島さんは雄二に対して熱い視線を送り続けている。

 

 ――うん、こんな騒がしい一日も、あるよね(白目)。

 

 ちなみに、バイト代はきちんと出た。これで少しはマシな生活が送れるようになると信じている――。

 

 




何とかバイト編終わりました!
結局、奉仕部の二人が出せなかった……何気に木下姉こと優子さん初登場です。
彼女にもこの後きちんとエピソードが用意されております。
実はこの人、隠れ腐女子なんですよね……。
ちなみに、彼女に関しても原作より若干マイルドになってます。
確か原作でのバイトエピソードだと、秀吉の関節が大変なことになってましたよね(しろめ
もしかしたら、腐女子コンビが設立されるかもしれませんね……バカテス側にいるアキちゃんラブの子は、あの子腐女子というよりかは男の娘萌えなイメージが強いので……。

ところで……いつの間にかお気に入り登録数が900を超えて……960件を突破しておりました!!
応援ありがとうございます!!

そんなわけで、次回予告です!
次回、勉強合宿に行く前にちょろっとキャラエピソードをまとめた短編集的な話を出すつもりです。
まだ本編では出ていないキャラも居たりしますからね……具体的に言いますと、なんちゃら将軍さんとか、久保なんちゃらくんとか……。
当作品でも勉強合宿は取り扱うのですが、ほぼオリジナルストーリーとなるのでご容赦ください。


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第九問 色んな意味で、高校生活は動き始めている。 (1)

【第九問】 世界史

以下の問いに答えなさい。
「『太陽王』とも呼ばれる、フロンドの乱にてフランス最後の貴族の反乱を抑えたフランス絶対主義を象徴する皇帝は誰か答えなさい」

姫路瑞希の答え
「ルイ14世」

教師のコメント
正解です。ルイ14世の元にいた宰相をマゼランと言い、ルイ14世自身は『朕は国家なり』などの言葉を残したとも言われています。また、ヴェルサイユ宮殿に住んでいたことも有名ですね。

土屋康太の答え
「山田ルイ53世」

教師のコメント
決してひげ男爵ではありません。

戸部翔の答え
「国王」

教師のコメント
斬新でいいアイデアです。先生はこういう答えは嫌いではありませんよ?



 世間をほんの少しだけ賑やかにさせた大型連休も幕を閉じ、とうとう学校が再開する日が訪れてしまった。この際だから言わせてもらいたいのだが、正直あと一か月足りない。というか休日は休む為にあるものなのに、およそ半分は仕事の為に外へ出たような物だ。代休があっても文句は言われない筈だ。そんなわけでバイトやボランティアの代休として後五日間は休もうと思ったのだが、案の定そんな俺の考えを先読みしていた小町に叩き起こされて、現在学校までの道のりを自転車で走っている所である。五月も少し進んだこともあり、自転車を走らせている時に感じる風が妙に温かく感じる。それがまた俺の精神をがりがりと削っていくような気さえしている。

 正直、もう帰りたい。帰って布団に飛び込みたい。あ、でも被ると汗かきそうだからそれは勘弁。

 いい感じに俺の思考が負の方向へとシフトしつつあるのを自覚しながら、学校に辿り着いた。

 駐輪場に自転車を置き、そのまま下駄箱へ向かおうとしたところで、

 

「……君が、比企谷八幡君、だよね?」

 

 誰かが呼ばれている気がした。

 呼ばれていますよ、そこのヒキガヤハチマンさん……って、八幡なんて名前この学校には他にもいたんだな。それにヒキガヤって苗字まで同じとは、ソイツ絶対友達いねぇよ。

 ……現実逃避するのは止めよう。間違いなく俺が呼び止められている。流石にフルネームで言われてしまっては逃げようがない。第一、俺は誰かに呼び止められるような真似はした覚えはないんだが……百歩譲って平塚先生や西村先生に捕まるならばともかく。

 一応呼び止められたからには振り向かなくてはならないので、俺は声のした方を見た。

 そこに居たのは、眼鏡をかけた『いかにも優等生です』と主張しているような男子生徒だった。クラスメイト……ではない筈だ。そもそもクラスで顔を覚えている奴なんてあんまりいないから自信ないけど。少なくとも知り合いのカテゴリーには存在しない人物であることは確かだ。いよいよ以て、呼び止められた理由が分からない。

 わざわざ名前を呼んできたということは、少なくとも相手は自分のことを理解している。それはつまり、相手には明確な目的があるということだ。ここで逃げた所で、何度も話しかけに来られても面倒だ。

 そもそも、コイツは一体誰なんだ。

 とりあえず、油断していないぞという所を見せつけなければと威勢を込めて――。

 

「ひゃ、ひゃい。なんでしょうか?」

 

 どもった上に盛大に噛んだ。

 もういっそ泣きたい……。

 

「僕は久保利光。よろしくね」

「え、あ、お、おう」

 

 いきなり自己紹介された。

 いや、まぁ確かに相手がどんな奴なのかを知ることが出来たのはいいんだけどさ……多分もう二度と話しかけないだろうけど。というか俺から話しかけたわけではないのだが。

 とにかく、俺は久保という人に話しかけられる理由が思いつかないので、ただ茫然と突っ立っているだけだった。別に相手についても特にこちらに対してそこまで敵意を見せているわけでもない。

 だからこそ、何故俺に話しかけてきたのかが分からない。

 目的があるのは見えているのに、それに辿り着くまでの情報量が圧倒的に少ないせいで予想が全然立たない。特に、コイツは優等生っぽいことは見た目で判断できる。見た目だけで判断してはいけないとは思いつつ、出している雰囲気が如何にも優等生ですと言いたげだ。物語っていると言ってもいい。それだけの人物が、教室でも目立たない存在、まして学年では名前すら知れ渡っていないのではないかと思われる俺に話しかける程の理由がないまである。

 だからこそ、俺は疑問に思わざるを得なかった。

 その疑問に対して、久保と名乗った男は答えるように次の言葉を告げた。

 

「比企谷君は、その……最近吉井君と仲がいいという噂を聞いているんだが……」

 

 何故、コイツは吉井の名前を告げる時、頬を赤く染めたのだろうか。

 

「……いや、俺は別に」

「なんてうらやm……なんて破廉恥な!」

 

 いやお前今明らかに羨ましいって言おうとしたよね?

 それになんで吉井と仲良くすることが破廉恥なの? 俺そもそも仲良くしている気はないんだけれども。何なの? 吉井って実は一緒に居るだけで変態されるような奴だったのん?

 

「ごほん! 失敬、完全に取り乱していたみたいだ」

 

 まったくだよ。

 

「その、吉井君はどんな人がタイプなのだろうかと思ってね……」

「は?」

 

 思わず口をあんぐりと開けてしまった。

 ひょっとしたら三度見位してしまったかもしれない。

 なんで男である久保が、吉井の好きなタイプを気にしているのだろうか。

 ……最近、女同士の人間関係について目の当たりにしたばかりなので、男同士でそういったこともあるのかもしれない。それにしても、だ。

 

 それに俺を巻き込まないで頂きたい。

 

「……本人に聞けばいいんじゃないか?」

「それが出来たら苦労しない……っ!」

 

 なんでだよ。男同士だろ。

 つか、この状況……林間学校の時に居た海老名さん辺りが見てたら思わず噴水の如く鼻血を噴き出しそうな展開だな。『くぼ×あきktkr!』とかいい出すのかな。ちょっとあれだな……俺には分からない世界だ。そういった世界があっていいと思うし、何よりそうやって一つを追い求めることが出来るのは『本物』だとも思う。清水を見ている時と同じ感情を抱きかけていたが――しかし相手は知り合いだ。どうにも複雑な気持ちになってしまうのは仕方のないことなのではないだろうかとさえ思ってしまう。

 というか、なんでコイツは肝心なところで初心なんだよ。よっぽど男が男に対して気になる目線を送る方が世間一般的には勇気いることだと思うのだが……。

 

「まぁ、その……少なくとも俺は分からない。坂本辺りに聞いてみたらどうだ?」

「確かに……霧島さんの幼馴染なら分かるかもしれない」

 

 霧島さんのことはよく知っているっぽいから、もしかしたらJ組なのかもしれない。

 

「君のことは雪ノ下さんから紹介されたものだから、もしかしたらと思ったけれど……それなら坂本君に聞いてみることにするよ。ありがとう、比企谷君」

「お、おう……」

 

 J組であるということは、当然雪ノ下とも面識があるわけで。

 そして今の会話の流れから察するに、雪ノ下は全面的に俺に押し付けたということになる……こめかみを抑えながら俺のことを話した図が安易に想像出来る。こういうことについては疎そうだからな……。

 そのまま先に下駄箱へ向かおうとした久保は、一旦その場で立ち止まり、その後で俺の方を振り向いて、

 

「吉井君ともし仲良くしているのだとしたら……羨ましいんだからなっ!」

 

 と、謎の宣戦布告をして立ち去っていった。

 ……え、なにこれ。何この三角関係。

 

「まさしく、ヒキタニ君と久保君の、吉井君を巡る三角関係……だけど、そんなヒキタニ君には葉山君という愛する人が……っ!」

「……ねぇから」

 

 何処から話を聞いていたのか分からないが、突然海老名さんが俺に話しかけてくる。内容が内容なだけにそれとなく返答することが出来たが、内心バクバクである。黙っていれば美少女であることには代わりないのだから、そんな彼女に話しかけられているという事実だけで思わず勘違いしてしまいそうになる。

 何回勘違いしたらいいんだ俺は。

 

「もー、つれないなー。この前の喫茶店ではさり気なく中学生の女の子と連絡先交換してたりするしさー。少しは葉山君のこと気にしている自覚を持った方がいいんじゃないかなー?」

「……いや、そういう感じで見てねぇから」

 

 さり気なく、喫茶店で行われていたことを確認されていた。

 とりあえずスルーする為にもその話題には触れない。

 そんな俺の対応を察したのか、海老名さんは下駄箱へ向かおうとした際に、

 

「……まぁ、結衣や島田さんには黙っておいてあげるからさ、泣かせるようなことしちゃ駄目だぞ?」

 

 と、何とも意味ありげな笑顔を浮かべながら立ち去っていった。

 ……まったく、休み明けは色んな意味で油断出来ない。

 




というわけで、今回は八幡目線での話となります!
久保君の登場シーンと、海老名さんによるちょっとした意味深な言葉のシーンです。
恐らくだいぶ先のことになりそうですが、彼と彼女についても番外編を書くつもりですので、それまでお楽しみに……原作でもなかなか明かされない、『そもそも何故久保君は明久のことが気になっていたのか』という部分を、バカガイルなりに解釈したものを書きたいなと思っています。
さて、今回の章はあくまで短編集的な話が続くような形を取りたいと思っています。
この話の次に勉強合宿編を書きたいなぁ、って思っております故……それまでに各キャラをある程度登場させてあげたいなぁって思っておりまして……。
ちなみに、前回の話で登場した一色さんや、鶴見さんに関しても今後割とすぐに出番がある予定です。そもそも番外編も作ろうと思ってます。

ここからはご報告です。
ついにお気に入り登録数が990を突破しておりました……すごい……この一週間で何があったのかと言う程の伸びです……本当に応援ありがとうございます!
しばらくは、日常というか、ギャグというか、そこそこ明るい話が続きそうな予感です。ただ、俺ガイル原作エピソードになるとシリアス部分が増えたり、バカテスの原作エピソードでもそういった部分をアレンジして出してみたり、さらにオリジナルエピソードにてシリアスをやったりと、割と今後忙しくなりそうです。
頑張ります!!


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第九問 色んな意味で、高校生活は動き始めている。 (2)

 昼休み。授業中は眠気に負けてほとんど夢の中で授業を受けていたような物だった。何度か島田に起こされたりもしたが。それはともかくとして、今日も今日とて俺のベストプレイスで昼飯を食べる。最近分かったことなのだが、ここから見えるテニスコートで練習していたのは戸塚だったみたいだ。アイツ部活もやってる上に昼休みに自主練しているのか……本当凄いな。というか眼福だ。とつかわいい。

 そうしていつものように購買で買ったパンを齧っていると、

 

「ハチ!」

 

 今日はそこに、島田がやってきた。

 

「島田か。どうしたんだ?」

「ハチと一緒にご飯食べたいなって思って。でも、話しかけようと思って振り向くと、もういないんだもん……隣、座ってもいい?」

「お、おう……」

「やった。ありがと、ハチ」

 

 俺に了承を取った後で隣に座って弁当を広げる島田。ご飯や卵焼き、ホウレンソウのお浸しや唐揚げと言ったお弁当の定番を入れつつも、きっちりと栄養バランスが整っている弁当だ。こうしてみると、島田って意外と家庭的だったんだな。そもそも妹の世話をしてたりしてるわけだから、当然なのかもしれないが。

 それにしても……近い。近くていい匂いがする。もう少し隣に来たらそれこそ触れちゃうんじゃないかって思う位近い。最近思うんだが、島田の俺に対する距離は何処か近い気がする。ぼっちのパーソナルスペースを金槌でぶち破ってくるレベル。最初の頃の距離感が懐かしいとすら感じてしまう。だが、不思議とこの距離感が嫌いじゃない。近いのは確かなのだが、必要以上に近づき過ぎないのだ。

 例えるならばそれは、奉仕部で四人と一緒に過ごしている時間と似ている。似ているが、何処か違う気もする。

 

 ――それは恐らく、甘美な誘いなのかもしれない。

 

 きっと島田は、この距離感についてはあまり意識していないのだろう。その証拠に、島田はただ黙々と弁当を食べている。時々最近の状況や葉月のこと、吉井達のことを話したりするが、必要以上に話題を投げ続けることはしない。時には沈黙している時間もあるが、それが決して気まずいとかそういったことは感じない。

 

 あぁ、これは駄目だ。この時間はとても温かく、甘く、そして――優しすぎる。

 

 いつまでもそのぬかるみに浸かってしまったら、抜け出せなくなるかもしれない。そうして勘違いをして、やがて黒歴史を生むことは分かり切っている筈なのに、こんな状況も悪くないと思っている自分がいる。成長したのではないのか。学習したのではないのか。このままでは二の舞いになってしまうのではないか。

 そんな不安を抱えつつも、やっぱり振り払えない自分がいる。

 

「……ねぇ、ハチ」

 

 そうして考えている内に、島田が少し心配そうな表情を浮かべつつ俺のことを見つめてきた。やめてくれ。そんな心配そうな表情で俺を見ないでくれ。島田が俺に心配する必要なんてないんだから。

 

「ハチはさ、少し難しく考えすぎなんじゃないかなって思うの」

「……」

「友達のことも、関係性のことも……留美の時もそうだったけど、もっと単純に考えていいと思う。それとも……何かきっかけがあったの?」

「……っ」

 

 きっかけがなかった、と言えば嘘になる。

 元々、俺はもっと単純だったのかもしれない。少し優しくされれば簡単に惚れてしまうような、そんな弱い人間だった。だが、それはまやかしであると、幻想であると理解したからこそ、今の俺がいる。

 由比ヶ浜もそうだが、島田もまた優しい女の子だ。最近見せている自然体の彼女こそ、本来の島田美波であり、そんな彼女はとても魅力的だ。別に贔屓とか色眼鏡で物を語っているわけではない。客観的に見ても、彼女は本来俺なんかより他の人物と一緒に居るべき存在だ。

 そんな彼女だからこそ、今の台詞が言えるのだ。

 

 ――分かっている。それが誰に向けられている言葉なのかを。

 

「……別にきっかけとか、昔の話とか、そういったことを聞くつもりはないよ。ウチはね、今のハチと友達になりたいの。過去がどうとか、未来がどうとか、立場がどうとか。そんなことは関係ないの」

 

 やめろ、やめてくれ。

 そんな甘い囁きを俺に向けるのは止めてくれ。

 

「だからさ、これからもこうしてちょくちょく、ハチと一緒にご飯食べてもいい?」

「……たまになら、別にいいぞ」

 

 ここで俺が折れてしまったのは別に悪くない。

 断れるわけがない。受け入れてはいけなかったのかもしれない。いや、彼女のことを考えるのならば俺は関わるべきではないのだろう。

 だが、ここで断ってはいけないと思ってしまった。

 

 ――断りたくないと思ってしまった。

 

「ありがと、ハチ」

 

 その時に見せた彼女の笑顔は、とても魅力的で。

 本当に、島田美波という存在は温かいと思ってしまった。

 

 

 放課後。

 部活に行く途中、廊下でスマホが鳴っていることに気付いた。小町から何か帰りに買って来て欲しいという連絡でも入ったのかと考えて一応のこと確認する。

 そこに表示されていた名前は。

 

「一色……?」

 

 一色いろは。

 はて、こんな名前の知り合いは果たしていただろうか?

 一応のことメールとのことなので、文面を確認してみることにする。

 

『せんぱい! 今度の日曜日暇ですか? もし暇ならば勉強を見て欲しいなぁって思って』

 

 勉強?

 日曜日にわざわざ家の外へ出て、その上他人の勉強を見なければならないだと?

 そもそも一色いろはとは一体何者なのかも思い出せて……あぁ、思い出した。GW中に吉井に引っ張り出された喫茶店で連絡先を交換させられた女子じゃねえか。しかもデート(?)中に俺や吉井の連絡先をちゃっかりゲットしている辺り、相手の男子が本当に可哀想に思えてくる。

 そう考えるとますます相手にしたくなくなってきた……。

 

『日曜は予定が入ってて無理だ』

 

 これでいいだろう。

 流石に予定が入っていると分かれば、相手も深追いしてくることはあるまい。そもそも予定なんて存在しないのだが。それに、アイツは喫茶店に訪れた葉山を目当てにして総武高校を受けようと考えているのだ。だとすれば頼む相手は俺じゃなくて葉山の方がいいのではないか。

 するとしばらくして、スマホが再び鳴り始めた。しかも今度のは長い。どうやらメールではなく通話のようだ。表示されている名前は、またしても『一色いろは』。

 いっそこのままスルーしようかと考えたが、いつまでも電話が鳴り続けている為、流石に出た。

 

「もしもし?」

『せんぱい、日曜日に予定が入っているなんて本当ですか~?』

 

 開口一番に、他人の予定を否定してくるこの後輩は一体何なんですかね。

 

『それに、ほら、可愛い後輩と二人きりで勉強教えられるチャンスなんですよ? こんなチャンス滅多にないんじゃないですか~?』

「生憎、勉強教えるのなら間に合ってる」

『え……せんぱいって本当に頭いいんですか?』

 

 何故勉強教えてもらおうとしてきた相手の学力を否定してくるのん?

 もしかして君、実はバカだったりする?

 バカの知り合いなら間に合ってるんだが?

 

「舐めるな。国語なら学年三位だ」

『理系は?』

「常に夢の中で授業を受けている」

『……せんぱい。それ、頭いいって言いませんよ』

 

 何故俺は電話口で後輩にプライドへし折られているのだろうか。

 

『本当に駄目ですか~? 実は模試が近づいてて、少しでもいい点を取りたいなぁって思ったんですよ~。こんなこと頼めるの、せんぱいしかいなくて……』

「吉井に……すまん、吉井じゃ無理だったな……」

 

 吉井が一色に勉強を教えようものなら、逆に一色が吉井に勉強を教えるまである。それは流石に吉井も可哀想だろう。だからと言って俺がコイツ相手に勉強を教えてやらなければいけない理由などない。

 

「待ち合わせ場所とか決めておけば、この前会った葉山を送り込むが?」

『いえ、葉山先輩ってこの前吉井先輩から聞いたんですけど、サッカー部に入っているみたいですよね?』

 

 あら、君達いつの間にメル友になってたの。順調に仲を深めているようで何より。どうでもいいけど。

 

『ですから、休みの日とかもきっと部活でしょうから、迷惑かけられないなぁって思って』

「……そういう気づかいも出来るんだな」

 

 意外だった。

 まだ一回しか会ったことはないが、その段階で『あざとい』という言葉が染みついていたせいで、その印象しかなかったものだから、こんな配慮が出来るのかと感心していた。

 

『そのほうがポイント稼げるじゃないですか~』

 

 前言撤回。

 何処までもあざとい女だった。

 

「……俺に予定が入っているとは考えないの?」

『せんぱいは基本日曜日は家にいる確率が高いって吉井先輩からリサーチ済みです♪』

 

 あんにゃろう……俺のプライベートダダ漏れじゃねえか……。

 

『というわけで、日曜日は10時に千葉駅集合でよろしくで~す♪』

「は? え、なんで? ……って、切れてるし……」

 

 気付けば一色からの通話は切れていた。

 仕方あるまい。こうなったら『あ、ごめん~体調不良で連絡出来なくて~』作戦でも使うとするか……。

 と、そんなことを考えていたら。

 

『せんぱいへ。ずる休みしたことが分かったらどうなるか……覚悟しておいてくださいね♪』

 

 先回りされたようにメールが届いた。

 どうして逃げ道塞ぐようなことしてくるかな……。

 諦めて俺は部室へと向かうことにした。

 




震えました……。
ついにお気に入り登録数が1000件突破しておりました……っ!!!!
応援本当にありがとうございます!!!
感極まってます……こんなに読んでくださっているのは初めてなので……っ!!
本当に励みになります! これからも頑張ります!!

さて、本編の方では当作品ヒロイン力ナンバーワンこと島田美波さんと、追従する形で彗星の如く現れたあざとヒロインこと一色いろはさんの登場です!
ちなみに、この話につきましては本編でやるか番外編でやるか悩んでいる所です。
理由は、一色さん視点でこの話をやりたいなぁって考えているからで……。
ちなみに、次回更新の話にはとうとう剣豪将軍が登場する予定ですよ!


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第九問 色んな意味で、高校生活は動き始めている。 (3)

 日曜日に謎過ぎる予定が入ったことに少し悲しみを抱きながらも部室へ向かった俺が目にしたのは。

 

「……何してんのお前」

「ひゃっ」

 

 可愛らしい悲鳴を上げた後で、身体をびくっと震わせる。そう、御存知雪ノ下雪乃だった。いや、こんな雪ノ下存じ上げてねぇよ。初めて見たよ。

 

「なんだ、比企谷君じゃない……驚かせないで欲しいわ」

「へいへい、そりゃ悪かったな……で、何してんの」

 

 部室の扉の前に立ち、そーっと中を覗きこんでいるようにしか見えなかった。つか、部長であるお前がそこに居たら俺入れないじゃん。

 由比ヶ浜は葉山達と少し話していたみたいだし、吉井は吉井で坂本達と話している。俺はそそくさと教室を出てここに来ようとした時に一色の電話に捕まって遅れたが、まさか誰も中に入っていないとは思わなかった。

 

「あれ、二人ともどうしたの?」

「やっはろー、ゆきのん! それにヒッキーも!」

 

 ちょうど俺達の後に追いつく形で二人もやってきた。というか由比ヶ浜、俺への挨拶はついでなのかよ。

 

「……貴方達って同じクラスよね?」

「へ? そうだよー」

「うん。気付いたら八幡いなかったから何処だろうって思ってたけど……先に来てたとは思わなかったよ」

 

 雪ノ下の質問に素直に答える由比ヶ浜と、大袈裟に驚いている吉井。

 そんな二人の反応を見た後で、雪ノ下はこめかみを抑えながら、

 

「貴方は一緒に来るということをしないのね……」

「おい、なんで俺限定で話を進めてる」

「貴方以外にいないじゃない……」

 

 否定出来ないところがなんとなく悔しい。

 

「それで、中入らないの?」

 

 吉井が最もな質問をしてきた。

 それに対して雪ノ下は、扉を指差しながらこう言った。

 

「部室に不審人物がいるのよ……」

「「「不審人物?」」」

 

 とりあえずこのままだといつまで経っても誰も扉を開けそうにない。

 そう思った俺は、そっと部室の扉を開いた。

 すると、そこに居たのは――。

 

「ククク……まさかこんな所で出会うとは驚いたな。待ちわびたぞ、比企谷八幡」

 

 舞い散る紙吹雪。風が入り込む中、汗をかきながらコートを羽織り、指ぬきグローブをはめている男子生徒。知らない、俺はこんな奴知らない。材木座義輝なんて知らない。

 

「あれ? もしかして材木座君じゃない?」

 

 そういやコイツも同じクラスだった。吉井が材木座を指差しながら、名前を言っていた。

 言われた本人である材木座は、少し黙ってからしばらくして俺の方を見て、

 

「如何にも。我が剣豪将軍・材木座義輝だ……時に八幡。奉仕部とはここでいいのか?」

「えぇ。ここが奉仕部よ」

 

 俺の代わりに雪ノ下が答える。

 材木座は一度雪ノ下の方を見て、それから俺の方に向き直って、

 

「そ、そうであったか。平塚教諭に御助言頂いた通りならば、八幡には我の願いを叶える義務があるわけだな?」

「別に奉仕部はあなたのお願いを叶えるわけではないわ。そのお手伝いをするだけよ」

「……ふ、ふむ。八幡よ。では我に手を……」

「僕達、忘れられてない?」

「というかさっきから、ヒッキーの方しか見てないような……?」

 

 うん、気付いてた。材木座の奴、緊張しているのか分からないが、さっきから俺としか会話してないんだもの。同じクラスの中でも全然話す奴がいないから、多分吉井とも由比ヶ浜とも話せないんだろうな。分かるよその気持ち。ところでコイツって普段昼飯とかどうしてんだろうな。

 

「比企谷君、ちょっと……」

「ん?」

 

 雪ノ下が俺の耳元で、次のことを尋ねてくる。

 

「なんなの? あの剣豪将軍って」

「……中二病だ」

「ちゅーに?」

「静まれ、我が右腕……っ! とかだよね?」

 

 キョトンとしている由比ヶ浜に対して、演技までつけて実演してくれた吉井。

 さては吉井、コイツも通ってきた奴だな?

 

「えーっと、つまり……?」

「病気ってわけじゃない。スラングみたいなものだと思えば簡単だな」

「要するに、自分で作った設定に基づいてお芝居をしているようなものなのね」

「だいたい合ってる。あいつの場合、室町幕府の十三代将軍である足利義輝を下敷きにしているみたいだな。名前が一緒だからベースにしやすかったんだろ」

 

 中二病にも様々な種類があるが、とりわけ材木座の場合は『厨二』『邪気眼』に分類されるだろう。不思議な能力を所持しているとか、実は特殊な組織に所属しているとか、そう言った設定を創り上げるのだ。

 何故って、かっこいいだろう?

 

「そういえば八幡って、八幡大菩薩の漢字と同じだよね?」

「そういうことは知ってんだな吉井……清和源氏が武神として厚く信仰してたやつだな」

「……二人とも、詳しいのね」

「……まぁな」

 

 やめろ、雪ノ下。

 何かを察したような目で俺のことを見るのは止めてくれ。

 由比ヶ浜も『うわぁ……』みたいな目でこっち見んな。

 後材木座、お前なんで目輝かせてんだこの野郎。

 

「とりあえず、あなたの依頼はその心の病気を治すということでよろしいのかしら?」

「……八幡よ。余は何時との契約の元、朕の願いを叶えんがためにこの場に馳せ参じた。それは実に崇高なる気高き欲望にしてただ一つの希望だ」

 

 雪ノ下の言葉に対してかなり動揺しているのか、一人称も二人称もブレブレで、最早何言っているのか分からない言葉を汗だらだらになって話している材木座。

 ……うん、同情はするけど半分はお前のせいだからな。

 後お前、こっち見んな。

 

「話しているのは私なのだけれど。人と話をするときはきちんとその人の顔を見なさいって習わなかったのかしら? 失礼だと思うのだけれど」

 

 雪ノ下雪乃は、人の礼儀に対してはとことん五月蠅い。特に材木座はここにきて『俺としか』会話していない。それが気に喰わなかったのか、襟元を掴んで無理矢理材木座を正面に振り向かせた。

 

「む、ムハハハ……これはしたり……」

「その喋り方も止めなさい」

「あ、はい」

「とにかく、その病気を治すのが依頼ということでいいのね?」

「あ、いえ、別に病気ってわけじゃないです」

 

 雪ノ下はとことん材木座を攻めまくっている。

 

「……八幡。流石にこれは材木座君可哀想じゃない?」

「まぁ、うん……気持ちは分からんでもない……」

 

 吉井の言う通り、このままだと材木座の心が折れてしまいかねない。何か助け船を出せればいいが、そんなこと出来る気がしない。

 と、ふと地面を見た時に、落ちている紙の存在に気付いた。確か部室に入る前に舞っていた紙吹雪だ。

 俺はそれを拾い上げると、

 

「これは……原稿用紙か?」

 

 それは原稿用紙だった。

 それも、文字がびっしりと書かれている。

 俺が拾い上げたことに気付いた材木座は、餌を得た魚のように目を輝かせ、

 

「ふむ。言わずとも通ずるとは流石だな。あの地獄の時間を共に過ごしていない、ということか」

「体育の時間のことだよなそれ」

 

 体育のペアを組む時間を地獄の時間と称するな。

 

「それ何?」

 

 由比ヶ浜は俺が手にしている紙束を見て尋ねてくる。俺は黙って差し出すと、由比ヶ浜はペラペラと何枚か捲った後、頭に思いっきり『?』マークを浮かべながら、

 

「これ、何?」

 

 余計に分からなくなった、と言いたげな表情を浮かべていた。

 

「小説の原稿、だと思うが」

「材木座君って小説書いてたんだね!」

 

 吉井が素直に感心している。

 一方の材木座は、どや顔しながらこう言い放つ。

 

「如何にも。それはライトノベルの原稿だ。とある新人賞に応募しようと思っているが、友達がいないので感想が聞けぬ。読んでくれ」

「なんか今とても悲しいことをさらりと言われた気がするわ……」

「なんか……ごめんね……」

 

 こめかみを抑えている雪ノ下と、申し訳なさそうな表情を浮かべる吉井。

 とりあえず、今回材木座から俺達に求められた依頼というのは、『ライトノベルの原稿を読んで欲しい』という内容だった。

 だが材木座よ……まだ投稿サイトや掲示板にあげた方がマシだと思うぞ。

 由比ヶ浜や吉井はともかくとして――雪ノ下雪乃は、そこらの人間よりも余程容赦ないからな。

 




というわけで、今回は原作における材木座さんのお話です。
何気に本編初登場の彼でした。
当作品では八幡達と同じクラスになっている為、明久は彼のことを知っています。
もちろんガハマさんも知っています。
しかし材木座はこの世界でも、八幡を相棒だと思っているわけです……というか彼以外とはあまりまともに会話出来ません。悲しい事実です。
彼の話自体は正直そこまで大きく弄れない為、基本的に原作とほぼ同じような流れを取ると思います。
どう足掻いてもゆきのんにフルボッコにされる未来しか見えない……可哀想に……。


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第九問 色んな意味で、高校生活は動き始めている。 (4)

 材木座の書いた小説は、言うなれば異世界転生バトルもの。主人公はある日トラックに轢かれて転生し、様々な転生特典を得た。転生先には同じように異能力を持った転生者がたくさんおり、そんな中で魔王を倒す為に、転生特典のみならず元から秘めていた力を解放して敵を倒していくというもの。

 最近のムーブメントを大量にぶち込めばいいってものじゃねえからな? それにこれ読み切るのにほぼ徹夜だったからおかげで眠気に襲われて仕方ないのだが。

 

「おはよ、八幡……」

 

 どうやら律儀に読み切ったらしい吉井が、欠伸をしながら挨拶してくる。無理もないだろう。あの長さを一晩で読んで来いという、編集者泣かせもいい所な鬼畜っぷり。せめて一週間は欲しいものだ。漫画ではないのだからラノベ大賞に応募するだけの長さを読ませるとは大したものだ。ちなみに大賞応募に必要なのは最低でも5万字~8万字らしい。

 

「眠そうだな……」

「八幡こそ。とにかく長かったのと、読めない漢字が多くって……」

「……」

 

 口には出さなかったが、まさしくその点は吉井らしいと思った。包み隠さず言うとすれば、『バカ』。

 

「やっはろー、ヨッシー、ヒッキー!」

 

 そんな中、何故かコイツは元気満々に話しかけてくる。

 あれ読んでよくそんな元気で居られるな?

 

「やっはろー、由比ヶ浜さん……」

「あれ? ヨッシーもヒッキーも元気ない?」

「そりゃそうだろ……あれだけの長さ読んだんだからな……」

「……。…………そうだよねぇ~。あれ、私も急に眠くなっちゃったなー……」

「「絶対読んでないよね」」

 

 珍しく俺と吉井のツッコミが重なった瞬間だった。

 

 

 放課後。

 結局ほとんどの授業を寝て過ごした。現国の授業で寝ていた時には、平塚先生による地獄の鉄拳制裁を喰らいかけ、危うく西村先生の補修部屋へとご案内されるところだった。担任として西村先生が仕切っているから分かる。あの人の授業は絶対平塚先生より厳しい。そりゃ吉井や坂本が補習から必死に逃げ切ろうとするわけだわ。

 そんなわけで今日は珍しく吉井と二人で部室へ向かっていた。程なくして部室に辿り着いて扉を開けてみると、

 

「あれ? 雪ノ下さん。おつかれだね?」

 

 雪ノ下が、穏やかな寝顔で眠っていた。

 すうすうと寝息を立てている彼女の姿は、普段とは違って隙だらけ。そのギャップに、胸の鼓動が早まる。見た目は完全に美人である為、余計にその様子が似合ってしまう。ラブコメの神様がいるとすれば、気まぐれにこういったサービスシーンを提供してくれるのは凄く有り難い。

 

「……驚いたわ。貴方の顔を見ると一発で目が覚めるのね」

 

 訂正。俺も今ので目が覚めた。

 

「やっはろー……ゆきのんもねむそうだね」

 

 後から追いついた由比ヶ浜が、朝俺達に会った時と同じような挨拶をする。あの雪ノ下ですらここまで疲弊させる原稿を書いてくるとは……材木座、恐ろしい子っ!

 

「頼もう!」

 

 ちょうどいいタイミングで材木座が入ってくる。それを見た俺達は、最早定位置となっている場所に座ることにする。材木座もまた、腕を組んでドカッと椅子に座った。なんか偉そうだ。

 

「さて、では感想を聞かせてもらおうとするか……」

 

 もう一度言おう。何で偉そうなのコイツ。

 対する雪ノ下は、少し申し訳なさそうな表情を浮かべながら、

 

「ごめんなさい。私、こういうのはよくわからないのだけれど……」

 

 と、切り出していた。

 

「構わぬ。凡俗の意見も聞きたいところだったのでな。好きなように言ってくれたまへ」

 

 材木座の言葉を聞いた雪ノ下は、小さく深呼吸をする。

 うん、これ材木座不味いんじゃないかな。

 その予感はどうやら当たりだったようで……。

 

「つまらなかったわ」

「げふぅっ!」

 

 容赦ない一言で叩き伏せられていた。

 

「さ、参考までにどの辺りが……」

「文法滅茶苦茶。倒置法を使いすぎなのよ。『てにをは』の使い方知ってる? 小学校で習わなかった? 一体何を強調したいのかしら?」

「そ、それは平易な文体で読者により親しみやすく……」

「そういうことは最低限まともな日本語を使えるようになってから考えることよ。それと、ルビと漢字が明らかに合っていないわ。能力に『ちから』なんて読み方は存在しないし、鉄拳制裁と書いて『にくたいげんご』と読むわけないじゃない。そして何より、何故『暗黒魔人剣』と書いて『デスナイトメアクラッシュソード』って読むの? 英訳にすらなってないじゃない」

「げふぅ! ち、違うのだよっ! 最近の異世界転生ものではルビの振り方にも特徴を……」

「大体トラックに轢かれただけでどうしてチート能力をもらえるのよ。神に選ばれたにしては最初交通事故で死んでるじゃない……」

 

 少し、雪ノ下が『交通事故』という単語を言う度に苦しそうな表情を見せた気がしたが、気のせいだと思うことにした。由比ヶ浜も少し顔を曇らせている。今はそのことは関係ないから問題ないぞ由比ヶ浜。

 

「そ、それは元々生きている世界から異世界に転生するにはよくある手段で……」

「話の先も読め過ぎて面白くないし、第一主人公やヒロインの行動に必然性がなさ過ぎるわ。どうしてこのヒロインは主人公の目の前で肌を晒しているのかしら?」

「そ、そういう要素もないと、その、売れぬというか……」

「地の文が長いししつこい字が多くて読みづらい。そもそも頂いた原稿を最後まで読んだのだけれど、これ結局完結していないじゃない。せめて完結しているかしていないか位、読む前に伝えたらどうなのかしら? 文才の前に常識を身に付けた方がいいわね」

「げぶはぁっ!」

 

 材木座が椅子から転げ落ち、身体をぴくぴくと痙攣させていた。だから言ったのに……雪ノ下の方が容赦ないって……。

 

「うわぁ……雪ノ下さん、その辺りにしてあげて。材木座君、最早立ち直れない所まできていそうだよ」

「そう……まだ言い足りないのだけれど……」

「まだあるのかよ……」

 

 本当そこまでにしてあげて。材木座の筆折れちゃうから。

 

「仕方ないわね。次は由比ヶ浜さんの番ね」

「えぇ!? あ、あたしっ!?」

 

 まさか自分が次に指名されると思っていなかったのか、存分に驚いている由比ヶ浜。材木座は由比ヶ浜に対して縋るような目つきで見つめている。そんな彼を見ながら、由比ヶ浜は必死に言葉を選んでいるみたいだった。数秒考えた後に彼女から告げられたのは――。

 

「えーと、難しい漢字、いっぱい知ってるね!」

「げぶはぁっ!」

 

 ある意味作家にとって死刑宣告にも等しい言葉だった。

 

「あ、あれ? ……じゃ、じゃあヨッシー、どうぞ!」

「う、うん……」

 

 ここまでコテンパンにされている材木座だ。そろそろ救いの手が欲しい所だろう。

 そう願いながら見つめている材木座に告げられる、吉井からの一言は――。

 

「ごめんね。僕、漢字が読めなくてなかなか最後まで辿り着けなかったんだ……」

「ひでぶっ!!」

 

 それはつまり、『読みづらい』ということを遠回しに指摘されているということ。

 いくら書いても、相手に伝わらなければ何の意味もない。材木座はそれを察してしまったのだ。

 

「えーと……それじゃあ八幡最後に一言を……」

 

 吉井は申し訳なくなったのか、それだけを言うと俺にバトンタッチしてくる。

 

「は、八幡……お前なら理解出来るな? 我の描いた世界、ライトノベルの地平がお前になら分かるな? 愚物共では誰一人理解することが出来ぬ深遠なる物語が……」

「あぁ、分かってるさ……」

 

 俺の一言に、材木座は目を輝かせる。

 安心しろ、材木座。お前の言葉に、俺は必ず答えるぞ。ここで答えなければ男が廃るからな。

 

「で、あれは何のパクリだ?」

「ぶぐはぁっ!! ぐ、ぐは、あ、ぶ、ぶひっ……」

 

 材木座義輝、完全に燃え尽きてしまった瞬間だった。

 

「……八幡。今の一言は容赦なかったよ……」

 

 吉井も人のことは言えないからな。

 

 

「また、読んでくれるか……?」

 

 部活終了後。俺達に投げかけられた材木座からの言葉に、思わず耳を疑った。

 あれだけ酷評されて尚、コイツは作品を読んでもらおうというのか?

 

「お前、本気か……?」

 

 思わず俺は尋ねてしまう。

 対する材木座は、決意に満ちた瞳を見せながら、

 

「無論、本気だ。正直さっきはあれだけコテンパンに言われて、どうせ友達もいないし死ぬしかないかなぁ。てか我以外死ねと思った位だが……」

「……うん、まぁ……僕もあれだけ言われたら流石に同じこと思うかな……」

 

 吉井が納得したように材木座の言葉に答える。

 確かに、あんだけぶちのめされたらしばらく立ち直れないだろうな。

 しかし、と言葉を続けた材木座は、

 

「それでも嬉しかったのだ。自分の書いた物を誰かに読んでもらって、その上感想を言ってもらえるというのはいいものだな。読んでもらえると、やっぱりうれしいよ」

 

 あぁ、コイツは中二病だけではなく、立派な作家病を患っているんだ。書きたいことがある。誰かに伝えたいことがある。たとえ認められなかったとしても、何度でも書き続ける。

 最早生き甲斐になっているのだ。

 それだけ、材木座は執筆に対して本気なのだ。

 だから俺の答えは決まっている。

 

「あぁ読むよ」

「……また、新作が書けたら持ってくる」

 

 そう言って、材木座は去って行った。

 その背中は、戦いを終えた一人の男のようだった。

 

 ……去り際に決めポーズを作らなければ、いい話で終わったのになぁ。

 




材木座の話は一旦終了です。
彼が書いた話については、とにかく漢字が多いんですよね……つまり何が言いたいのかと言うと、『吉井明久はどこまで読むことが出来たのか』ですよね。
一応ラノベや漫画類については読んでいるだろうとは思うのですが、あれらはほとんどルビ振ってますので……。
ちなみに、『暗黒魔人剣』とか、異世界転生ものについては原作にはありません。
これらは勝手に私が作りました()。
ちなみに、今回の話はなんか終わりっぽい空気見せていますが、実はまだ一回だけ続きます。もう一人、どうしても書きたい人物がいます故……。
ヒントです。
バカテスのキャラで、『アキちゃんが好き!』と言っている女子生徒と言えば……?


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第九問 色んな意味で、高校生活は動き始めている。 (5)

 翌日。しばらくは異世界転生物のライトノベルを読まないと固く決意した俺は、鞄の中に学園コメディ物を入れてきた。なんでも試験の点数がそのまま強さとなる召喚獣を扱った、何とも異質なコメディ物だ。このシリーズもそこそこ売れていたみたいで、店に行った時には在庫が結構少なくなっていた。気楽に読めるだろうと思って購入したが、思いの外これが面白い。何より、行動のほとんどがどこぞの誰か達に似ている気がして他人事のように思えないのがまたなんとも。

 

「おはよー、八幡」

 

 そう、今挨拶してきた吉井のように……。

 ……俺は一瞬目を疑った。

 気のせいだろうか。声は確かに吉井の物だった。そう、間違いなく吉井明久の物だ。だというのに、今目の前に居る男は――女子の制服を着ていた。

 

「いや、お前何があった」

「いやぁそれが寝坊しちゃってさー」

 

 寝坊と女装に何の関連があるというのか。

 

「多分ちゃんと制服を着ている筈なんだけど……」

「確かに着ているな」

 

 女子の物だけどな。

 

「よかったー。これで変な服を着てきてたとしたらどうしようかと思ったよ」

「……お前は遅刻してでもいいから今すぐ鏡確認して来い」

「どうしてさ!?」

「……」

 

 俺は黙ってスマホを取り出し、吉井の写真を撮る。その写真を見せることで、今コイツがどんな状況になっているのかを指摘した。

 吉井は不思議そうな顔で携帯を覗き込んでくる。しばらく見つめて、そして――。

 

「なんで僕女子の制服着てるの!?」

「いやこっちが聞きたいが」

 

 第一なんでコイツ女子の制服持ってんの。

 ……いや、なんとなく想像がついてしまった。

 

「多分これ、この前秀吉が置いていった奴だ!」

 

 木下秀吉は演劇部に所属していると聞く。そして木下は、その容姿からかどちらかと言うと女子の役を演じることが多いのだそうだ。確かに、戸塚と同じくどうして男子なのか分からなくなる瞬間がたまにある。そんな木下は、結構な頻度で吉井の家へ遊びに行くことがあるのだそうだ。その流れで、もしかしたら置いていったのかもしれない。

 いや、それにしたって友人の家に女子制服を持って行くような状況って一体どんな状況だよ。

 

「こんなんじゃみんなにバカにされちゃうよ! どうしよう八幡!」

「だから着替えてこいっての。西村先生には適当に理由伝えといてやるから」

「そ、そう? ありがとう、八幡!」

 

 そう言いながら、吉井は俺の手をしっかりと握って目をウルウルとさせる。感謝してるのは分かるんだけどさ、その、今の自分の格好考えたらそんな行為をするのは自殺行為だと思わないのん? 目立ちたくないのに確実に目立っちゃってるよ?

 

「急いで追いつくから!」

 

 そう言って吉井は、時を駆ける少女のように全力疾走する。いや追いつくも何も、ここもう学校なんだが。そしてどう足掻いてもお前の遅刻は免れないからな。ご丁寧に鞄置いていってるから机までは運んでやるが。

 ……しかし、何故だろう。なんだかさっきから熱烈な視線を感じる。例えるなら、同じクラスで男同士の絡みを熱い眼差しで見つめている眼鏡美少女と同じような、そんな視線だ。だが、恐らくこれは彼女のものではないのだろう。ぼっちは視線に対して敏感だ。その視線の持つ意味は当然のことながら、なんとなく知り合いかどうかは判断がつきそうなものだ。そしてこの視線は、きっと知り合いのものではない。

 

「話は聞かせてもらいましたよ!」

 

 ……ここまで前振りしておきながら、出てきちゃうのかよ。

 物陰から出てきたのは、何処か上機嫌というか、顔が赤くなっているというか、まるで初恋でもしている少女のような表情を浮かべている少女だった。少なからず教室で見たことはないから、きっと別のクラスなのだろう。そんな彼女は、『話は聞かせてもらった』と告げた。つまり、俺と吉井によって繰り広げられていた一連の流れをこの少女は見ていたことになる。

 待って、色々待って。

 

「ご挨拶遅れました。私、玉野美妃って言います。一年D組です」

「お、おう」

「それで、あのお方のお名前は……?」

「あのお方って……?」

 

 あ、俺の名前は聞かないのね。説明する気なかったから別にいいんだけど。

 色々すっ飛ばして『あのお方』の名前を尋ねてきた。多分コイツが言っているのは、たった今走り去っていった吉井のことだろうが……。

 

「吉井明久。同じクラスの奴だ」

「アキ……ちゃん……」

 

 何かイントネーションおかしいし、何故そこで切った?

 しかもアキちゃんって言っている時の玉野の表情が、何処か嬉しそうというか、なんというか。

 ひょっとしてコイツ……『女装している吉井明久』に恋をしたとか?

 

「これは何としてもお近づきになりたいです……アキちゃん……また会えることを願ってます!」

「そ、そうか……」

 

 宣言する必要のないことを俺に告げた後で、玉野はその場を後にした。

 ……何だったんだ、今の。

 

 

 時間は進み、帰りのHR。

 西村先生が各種伝達事項を伝えている。その中でもとりわけ重要と思われるのが、

 

「さて、六月頭から始まる学力強化合宿についての伝達だ」

 

 この学校では、どうやら一年生は勉強合宿、二年生は修学旅行という感じで旅行行事があるらしい。正直あまり興味ないし、合宿までして勉強しなきゃいけないのかと思うとかなり辛い物がある。環境が変わったからと言ってやることはそんなに変わらないだろうに。免許合宿じゃないんだからそんなことをする必要性を感じない。

 

「と言っても、別に旅行に行く訳ではない。やることと言ったらほとんど勉強みたいなものだ。夜にちょっとした交流はあるだろうが、それ以外は基本学校の授業と何ら変わりはない。勉強道具と着替えさえあれば最低限どうにかなる筈だ。くれぐれも、学習に関係ない物を持ち込まないように。詳しくは合宿のしおりを確認すること」

 

 西村先生の台詞を聞きながら、俺はしおりを眺める。

 栃木県にある那須高原。避暑地として有名な場所ではあるが、しおりを見る限り確かに観光しに行く訳ではなさそうだ。旅館に入って少し休息時間を過ごしたら、その後は夕方まで勉強。ただし、その勉強の仕組みがいつもと違い、クラスが入り混じった混合組で互いの苦手科目を補強し合うという物らしい。もちろん普通の授業もきちんと存在するが、普段とは違うこともしてくる辺り、果たして誰の差し金なのかと疑いたくなる。別に俺はどのグループに所属しようと構わないのだが。どの道一人で進めるだけだし。戸塚と一緒になりたい。

 流石に夜までは授業を行わないみたいだが、最終日には勉強の進行度がどれ程の物なのかを確認する為のテストが待ち受けている。なる程、これで一定の点数を取れというわけね。進学校らしい企画というか、なんというか。この合宿発案したの、絶対西村先生だろ。

 

「集合場所はこの学校だ。学校からバスで移動となる。時間は8時。いつもよりも早い時間になるから遅刻しないように。特に吉井、比企谷。お前達は遅刻率が高いから気を付けるように」

「う、うす」

 

 地味に言い返すことが出来なかった。

 いや、これでも遅刻しないよう頑張っているんですよ? でも、月曜日ってなんかこう、日曜日からの流れが来ているせいでたまに朝起きられないことってあるじゃん?

 

「ちなみに、テストで基準の点数を満たさなかった場合、夏休み前に再テストを受けてもらう。それでも尚点数が満たなかった場合には、夏休み最初の一週間は補習だ」

 

 うん、絶対点数取ろう。

 そう決意した瞬間だった。

 

 ――何がともあれ、こうして学力強化合宿が始まる。

 




さて、こうして高校生活が順調(?)にカオスな方面へと向かっている八幡。
次回からは学力強化合宿が始まります!!
これはバカテスサイドの長編なのですが、原作と違う点から少しずつ説明します。
・集合場所がクラスごとに分かれているわけではない。
・端々に原作ネタを入れるが、基本的にはほぼ完全オリジナルストーリー。
・集団覗きはしない!!
最大の相違点は『集団覗きはしない』という点でしょうか。
何せ世界観は俺ガイルですから、そう言ったことが許されるような状況ではなさそうなので……。
とはいえ、バカテスキャラと俺ガイルキャラが入り混じる合宿ですから、何も起きないわけがありませんよね……具体的には、夜とか……。
ちなみに、修学旅行ではないので、嘘告白とかそう言った類のお話もありません。
修学旅行でのエピソードは、彼らが二年生になったらきちんとやりますのでご安心を。
……二年生になる頃に果たしてこの小説は何話分書かれているのでしょうか()


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第十問 バカと合宿とグループ学習 (1)

【第十問】 生物

以下の問いに答えなさい。
「体の構造等の情報が記録されているDNAと呼ばれる物質は、細胞のどの器官に含まれているかを答えなさい。
また、DNAはどのような構造をしているのかも答えなさい」

姫路瑞希の答え
「含まれている器官……核
 構造……二重らせん構造」

教師のコメント
正解です。簡単な問題ながら、意外にもDNA自身がどのような構造をしているのかを間違えてしまうことも少なくはないので、
今後とも気をつけてください。

吉井明久の答え
「含まれている器官……トーマス」

教師のコメント
『機関』ではありません。『器官』です。

比企谷八幡の答え
「構造……ねじれ国会のようにねじれている構造」

教師のコメント
言葉で誤魔化した所で、間違いは間違いです。



 六月頭。今日から何日間か、学力強化合宿が始まる。勉強漬けの一日を過ごさなければいけないのは少し嫌だけど、それでも夜は秀吉と共に過ごせるのかと考えると心がうきうきするよね! ちなみに部屋は六人部屋とのことだったから、既に雄二やムッツリーニ、彩加に八幡――そして、秀吉を呼んでいる。賑やかで楽しい部屋になりそうだ。

 現在時刻は午前八時。鉄人に目を付けられていた僕や八幡はもちろんのこと、他の人達も遅刻や欠席者が出ることなく、無事出発することが出来た。ここからバスで移動すること結構な時間がかかるらしいので、その間基本的に周りの人達と話してもいいということになっている。僕の隣には雄二が座っていて、その後ろに八幡と彩加、前には秀吉とムッツリーニという席順だ。おのれムッツリーニ……秀吉の隣を確保しやがって……っ!

 ちなみに、通路を挟んで反対側の席には、美波と由比ヶ浜さんが座っている。最近クラスの中でもよく話すようになったなぁって思う。

 

「ミナミナー、それ何読んでるのー?」

 

 相変わらずニックネームをつけるのが流行っているみたいで、由比ヶ浜さんは美波のことをそう呼んでいた。

 

「……由比ヶ浜。それ、誰のことだ?」

「え? ミナミナはミナミナだよ?」

「……まさか、島田のことか?」

 

 八幡は、『なんだこいつバカか』と言いたげな表情で由比ヶ浜さんを見つめていた。隣に座っている雄二も、笑いを堪えきれてないみたいだ。確かに、個性的だよね……なかなかそんな風に呼ぶ人はいないと思うから。美波も少し苦笑いを浮かべているっぽい。

 

「えっとね、心理テストよ。本屋で見つけたんだけど、これがなかなか面白くて」

「へぇ~! ねぇねぇ、みんなでやってみようよ!」

「いいねぇ! 美波、僕達にもいくつか問題出してみてよ! 八幡達もやろうよ?」

「え、俺もやんの……?」

「面白そうだね! 島田さん、僕達もやってみるよ」

「そうだよなぁ戸塚ぁ! 面白そうだよなぁ!」

 

 彩加がやると言い出した途端に、八幡のテンションは上がったし、しかも発言が真反対になっていた。どうやら八幡は彩加のことが好きみたいだね……よかった、秀吉を取り合う修羅場に発展しなくて。

 

「何故ワシを熱い眼差しで見ておるのじゃ……?」

 

 そりゃもちろん、僕が秀吉のことを愛しているからだよ!

 

「とりあえず、最初の質問ね……『次の色でイメージする異性を挙げて下さい。緑 オレンジ 青』それぞれ似合うと思う人の名前を言ってくれる?」

「緑、オレンジ、青かぁ……」

 

 最初の質問に答えるのは、どうやら由比ヶ浜さん、僕、そして八幡の三人らしい。八幡は、彩加が『八幡まずやってみてよ』って笑顔で言ったらすぐに答えてくれた。それにしても異性かぁ……えーと、そうなると……。

 僕達の考えはまとまって、次の通りになった。

 

 由比ヶ浜さん → 葉山君、僕、八幡

 僕 → 美波、秀吉、姫路さん

 八幡 → 由比ヶ浜、彩加、美波

 

「……っ!?!?」

 

 瞬間、美波の顔が凄く赤くなった。

 え、え? どうしたの美波? 一体何が起こったの!?

 

「ど、どうしたのミナミナ!? 顔真っ赤だよ!?」

 

 当然、隣の席に座っている由比ヶ浜も美波に尋ねる。

 美波は口をパクパクとさせながら、ページを凄い勢いでペラペラとめくってしまった。

 

「こ、これはおしまいっ! つ、次行くわよっ!」

「え、これが何を意味するのかって教えてくれないのか……?」

 

 八幡が美波にそう尋ねると、より一層顔を赤くしてしまう。そして、そのまま思いっきり美波は八幡から目を逸らして、心理テストの本をじーっと見つめ始めた。これ以上追及するわけにはいかないのかなぁ。

 雄二は何かを察したかのようにニヤニヤとしている。一体何なのだろうか。

 

「……っ!!!!」

 

 そしてムッツリーニは、囚われたかのように美波のことを写真に収め始めた。顔を赤くして全力で八幡を避けている様子を撮って、一体どうしようと言うのだろうか。ムッツリ商会にはいつもお世話になっているけれど、出来上がった写真を見なければどうするべきか分からないなぁ……。

 

「『一から九の数字で、今あなたが思い浮かべた数字順番に二つ挙げて下さい』」

 

 構わず、美波は次の問題を言ってきた。今度は他の人達も何人か答えるみたい。

 えーと、それぞれの数字は……。

 

 雄二→5・6

 僕 →1・4

 秀吉→2・7

 八幡→5・8

 由比ヶ浜さん→1・7

 彩加→8・1

 

「それぞれ数字毎に何を現すか言っていくわね……」

 

 美波が言うには、最初の数字がいつも見せている顔で、次の数字が普段は見せない顔とのこと。

 それぞれ合わせると……。

 

 雄二→クールでシニカル・公平で優しい

 僕 →好奇心旺盛・我慢強い

 秀吉→落ち着いた常識人・色気の強い人

 八幡→クールでシニカル・努力家

 由比ヶ浜さん→好奇心旺盛・色気の強い人

 彩加→努力家・好奇心旺盛

 

 という結果だった。

 

「ちょ、ひ、ヒッキーっ! なんか目つきいやらしいしっ!」

「ばっ、そ、そんなことねぇよ」

「……うぅ」

 

 八幡の視線が由比ヶ浜さんの、大きな二つのメロンに行っているのが良くわかる。分かるよ八幡……由比ヶ浜さんの胸は最早凶器だよ。狂気に囚われてしまうよね。願わくばずーっと見ていたい。

 ちなみに、美波が自分の胸を両手でぺたぺたと触りながら、悲しそうな目をしていた。

 駄目だ八幡……それ以上由比ヶ浜さんの胸ばかり見ていると、特定の誰かが傷ついてしまう!!

 

「ワシの何処に色気があると言うのじゃ!?」

「好奇心旺盛って、照れちゃうなぁ……」

「俺は努力家なのか……?」

 

 秀吉は驚いていて、彩加は可愛らしく照れていて、八幡は疑問を抱いているみたいだった。結構これ当たっているような気がするんだけどなぁ……八幡って、頼まれたことは基本的にしっかりやってくれるし。シニカルかどうかはあまりよく分からないけど。

 

「ま、まぁあくまで心理テストだから……必ず当たっているとも言いきれないし……」

 

 由比ヶ浜さんが照れながら言っている。

 一方で美波はそんな彼女のことを見ながら少し唸っている。由比ヶ浜さんの場合、嫌味として言っているわけではなくて本心から言っているから怒れないのかもしれない。

 

「他にも色々あるけど……これでもうおしまいっ!」

「……なんで俺の顔見ながら言うんだよ」

 

 美波は心理テストの本を閉じる時、何故か八幡の顔を見ながら閉じていた。

 うーん、一体どんな意味があるんだろうか?

 

「……ご馳走さまでした」

 

 ムッツリーニ、君は一体ここまでの流れで一体何を見てきたというんだい?

 

「そろそろ到着する頃だな」

 

 雄二がニヤニヤした顔を崩すことなく、外を見ながらそんなことを言っていた。僕達は雄二につられて窓の外を見てみる。するとそこには――。

 

「わぁ……凄い……」

 

 視界いっぱいに広がる自然の緑があった。

 

 

 




というわけで、学力強化合宿編スタートです!
恐らく結構長くなるんじゃないかなぁ……って思います。
今回は心理テストだけで話を一話分使いました()
なんとなく彼らはこんな結果なんじゃないかなーって思いながら書きました。
ちなみに、明久は罵られておりません。


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第十問 バカと合宿とグループ学習 (2)

 そうしてバスの中で揺られること数時間が経って、僕達を乗せたバスは目的地に到着した。結構大きな所なんだねぇ……なんだか楽しみになってきちゃったよ!

 ちなみに、八幡は既に疲れ切った表情を見せている。

 

「八幡。これから授業だけど大丈夫……?」

 

 彩加が八幡の顔を不安そうな表情で見つめている。

 それに対して八幡は、希望と絶望が入り混じったような表情を浮かべつつ、

 

「あ、あぁ……なんとか、頑張る……」

 

 それ、果たして頑張れる人の台詞なのかな……。

 

「雄二……」

「おわっ! な、なんだ翔子か……背後からいきなり声かけてくんなって!」

 

 僕達の所までやってきたのは霧島さんだった。その隣には雪ノ下さんもいる。雪ノ下さんを見つけた瞬間に、

 

「あっ! ゆきのん~!」

「ちょ、ゆ、由比ヶ浜さん……っ」

 

 何という素晴らしき景色。

 百合の華が咲き乱れるとはこういうことを指すんだね!

 ちなみに、ムッツリーニは既に写真を撮り始めている! 流石だよ! その速度見習いたい!

 

「今回の合宿は違うクラスも混じるらしいからね……全クラス関係なく、混合でやるみたいよ。だから秀吉、覚悟しておきなさいよね?」

「あ、姉上!?」

 

 そこに現れたのは、なんと秀吉のお姉さんだった!

 秀吉はかなり驚いているみたいで、身体全体が震えている。え、これ驚いているっていうか怖がっている?

 普段お家で一体どんな生活を送っているの……?

 

「あはは。なんだか賑やかになってきたね」

 

 次に僕等に声をかけてきたのは、葉山君だった。

 葉山君は相変わらずの笑顔を見せながら話しかけてくる。なんだろう……だけど葉山君の視線、あまり僕に対してよく思ってないような眼差しなんだけど……流石に、林間学校の時に色々言いすぎちゃったかな?

 

「やぁ、ヒキタニ君。今日から始まる合宿、楽しみだね」

「……俺は今すぐにでも帰りてぇよ」

「あはは。君らしい言葉だ。だけど、きっとみんなで思い出作れると思うんだ」

「ここ、勉強合宿だろ……? 思い出も何もねぇだろ……?」

「でも、こうして環境が変わって、たくさんの人と交流が出来る機会ってなかなかないと思うんだ。だからさ、自習の時とか近くの席になったとしたらよろしくね。雪ノ下さんも……」

「……私なら自分で勉強出来るから。貴方に教えられることも、教えることもないわ」

「そ、そっか……」

 

 雪ノ下さんが露骨に嫌がって、葉山君は少し残念そうにしている。相変わらず雪ノ下さんは葉山君に対しては心から嫌っていますオーラを出している気がする。うーん……本当に二人には何かあったのかもしれないなぁ。

 

「ほら、お前達何をやっている?」

「平塚先生!」

 

 旅館の入口で話していた僕達に声をかけてきたのは平塚先生だった。先生は僕達を一瞥すると、

 

「もう他の者達は入り始めている。君達も一度部屋に行って荷物を置いてくるといい。これからオリエンテーションがあった後、交流の意味を込めてクラス混合で課題に取り組んでもらうこととなっている。長旅で疲れただろうし、君達は一度部屋に入って休むといい」

「う、うっす」

 

 八幡が代表して答えてくれた。

 確かに、長時間バスに揺られたから少し休みたいかもしれない。平塚先生の言葉はありがたいなぁ。そんなわけで僕達は、一度部屋まで荷物を置きに行くことにした。

 

 

「ふぅ……生き返るぜ」

「なんだか爺臭いのぅ、雄二」

 

 本当に生きた心地がしなかったのか、部屋に着くなり雄二は心から安心したかのような表情を見せていた。

 

「なんでそんなに疲れてるの?」

「……バスの中での出来事を翔子に逐一報告させられていた」

「……浮気でも疑われたのか?」

「……」

「……マジかよ」

 

 八幡の言葉に対して、雄二は何も答えなかった。沈黙を肯定とみなした八幡は、『マジか』って言う表情を見せている。うん、何というか……。

 

「霧島さんと雄二ってやっぱり仲いいよね!」

「何処をどう見たらそんなおめでたい解釈に繋がるんだこのバカ」

 

 雄二の目が本気だった。本気で僕の命を取りに来ている目をしていた。

 

「ま、まぁまぁ二人とも……来たばかりで喧嘩するものじゃないって」

 

 僕と雄二の間に入ってきたのは彩加だった。彩加は苦笑いを浮かべながら、両手を前に少しだけ突き出して僕達を宥めようとしている。くっ……ここに秀吉がいなければプロポーズしていたかもしれない……っ!

 って、何故か八幡が胸元に拳を作って震えている!?

 

「……戸塚。今の動きは、卑怯だろ……」

「え、何のこと?」

 

 きょとんという表情を浮かべながら、彩加は首を傾げている。

 ぐっ……駄目だ……このままでは……っ!

 

「何をしておるのじゃお主らは……八幡までここ最近おかしくなってきている気がするぞ」

「え、木下……今お前、なんて……?」

「じゃから、お主まで明久達と同じように……」

「……………………俺、生まれ変わってくるわ」

「なんで僕達と同じようになるのがそこまで嫌なの!?」

 

 割と本気のトーンで八幡が落ち込んでいるので、思わずツッコミを入れざるを得ないよ!

 

「しっかし、確かにこの面子で居るのもそろそろ慣れてきた頃だな」

「……確かに」

 

 雄二の言葉に同意するように、ムッツリーニが返してきた。

 最初の頃はあまり考えられなかったけど、改めてこうして六月まで過ごしてみると、意外と楽しい時間も多いよね! これからもこのメンバーとは仲良くやっていけそうな気がするよ!

 

「ね、八幡?」

「……え、これ、俺入ってたの?」

「逆に入ってないと思ってたの!?」

「お、おう……」

 

 なんだか八幡が『え、マジで?』って表情を浮かべていた。確かに最初の頃は八幡は何かと理由をつけて僕達から遠ざかろうとしていたけど、最近はそうでもないような気がするんだよなぁ……。

 

「小町ちゃんも言ってたよ? 最近の八幡は少しずつ変わってるみたいだって」

「……ちょっと待て吉井。お前、小町と連絡取り合ってんの?」

「え? うん。ちょくちょく八幡のこと聞いたりとかしてるけど……」

「……お前には渡さん」

「一体何のこと言ってるのさ!?」

 

 八幡のシスコンっぷりを垣間見た気がしたよ!?

 今のトーンは分かる。これはガチな奴だ!

 

「比企谷は妹のこととなると本当人変わるよな……後は戸塚のこととか」

「へ? 僕のこと?」

 

 雄二から突然自分の名前を呼ばれた彩加が、不思議そうな表情を浮かべていた。

 うん、分かるよその気持ち……僕も秀吉のこととなると平静を保っていられるか……。

 

「と、とりあえずそろそろ時間だろ?」

 

 わざとらしく八幡が話題を逸らしていた。

 うん、まぁ確かに時間なんだけどさ……彩加のこととなると本気だよね、八幡。

 

「そうだな。集合時間に遅刻して、鉄人や平塚女史に怒られるのも癪だからな……行くか」

「そうだね」

 

 雄二の言葉通り、遅刻して怒られるのだけは何としても避けたい。

 そんなわけで僕達は、勉強道具を持って部屋から出たのだった。

 




先日コメントにて、心理テストについての解説を! というお言葉をいただきましたので、簡単な解説を載せたいと思います!
ちなみに、数字についてはそれぞれ照らし合わせて頂ければなんとなく分かると思いますので、色の心理テストについてを……。
と言っても、基本こちらについてもバカテス原作を参照にしたものなのですが、

緑 → 友達
オレンジ → 元気の源
青 → ???(原作でもアニメでもあきらかになっていない

こんな感じです。
ただ、当作品での青は……何となく各キャラが上げていた人物を参照していたければ想像つくのではないでしょうか……?
きっとこの心理テスト、雄二ならば青を翔子と答えると思います。
ちなみに、最初の段階では戸塚もこの心理テストに答えさせようかと思ったのですが……戸塚にとっての青って誰だろうって所でやむなくカットしました……。


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第十問 バカと合宿とグループ学習 (3)

 そんなわけで一日目の学習がスタートしたわけなんだけど……。

 

「なんでいきなり翔子がここに来ているんだ!」

「同じグループ……一緒に勉強出来て、嬉しい」

 

 雄二は霧島さんと一緒に勉強出来て嬉しそうだ。うんうん、仲いいのはいいことだよね!

 

「皆さん楽しそうで羨ましいです……私も、吉井君達と同じクラスになりたかったです……」

 

 僕の隣では姫路さんが勉強していた。思えば林間学校からのお付き合いだけど、姫路さんってなんだか初めて会ったような気がしないんだよねぇ……もっと前から一緒に居たような気がして……。

 

「大丈夫だよ姫路さん。きっと来年は同じクラスになれるって」

「……はいっ!」

 

 僕がそう言うと、姫路さんは笑顔で返してくれた。うん、笑顔はとってもいいことだよ。

 

「しかし、結局このメンバーで勉強することになるとはのぅ」

 

 すぐ近くで勉強していた秀吉がそう言った。

 そう! なんとここには秀吉も居るんだ! なんて幸せな状況なんだ!!

 

「おい明久! 見てないで助けてくれ!!」

「え? いや、助けるって……貴様ぁ! 霧島さんと何イチャイチャしているんだ!!」

 

 気付けば雄二のすぐ近くに霧島さんがいた。

 何平然と見せつけているんだコイツ! 彼女がいない奴への当てつけか!!

 

「これのどこがイチャイチャしてるように見えるんだ!!」

「……そうとしか見えないんだが」

 

 八幡もそう言っている!

 

「貴方達。今は勉強中なのよ。くだらないことで騒ぐのは止めて欲しいわね……勉強の邪魔になるわ。特に比企谷君。貴方さっきから数学全然進んでないじゃない」

「俺は将来文系志望だから国語の成績を伸ばすのに集中している」

「ヒッキー、テストって確か全科目だよね……?」

 

 こっちはこっちで、いつもの三人が勢ぞろい。八幡の隣に由比ヶ浜さんが、そしてその隣に雪ノ下さんが居るという感じだ。ちなみに、

 

「ハチ、数学ならウチでも教えられるから教えてあげるわ。その代わり……現代国語見て欲しいんだけど……」

「……互いの穴を埋めるのに都合いいからな。別に構わない」

「でた、ヒッキーの捻デレ……」

「おい止めろ由比ヶ浜。何それ流行ってんの?」

 

 どうやら八幡と島田さんは二人で互いの苦手科目を教えあっているようだ。所で、さっきから八幡のことを見る島田さんも顔が心なしか赤いような気がするんだけど……そういえばバスの中からずっとそうだった気がする。ちなみにそんな二人を見て由比ヶ浜さんは少し頬を膨らませていたけど、雪ノ下さんの怒涛の補習授業に捕まっている。

 ところで、さっきからムッツリーニの姿がないような気がするんだけど……。

 そう思って辺りを見渡してみると、

 

「……何してんのムッツリーニ」

 

 地面に顔を擦りつけて、必死に色んなアングルから写真を撮っているムッツリーニの姿があった。ていうかここ畳だから、顔に畳の痕が無茶苦茶ついてるよ?

 

「……邪魔するな明久。男の戦いだ」

「それ、どう見ても狙って撮ってるよね? 明らかに……」

「一枚百円」

「よし続けてくれ」

「お主ら早く勉強せんか……」

 

 秀吉に呆れられてしまった!

 くっ……ここは少しでもフォロー出来るようにした方がいいのか……!

 

「でも、こうしてみんなで机囲んで勉強出来るのって、なんだか楽しいよね」

 

 彩加がポヤポヤした笑顔を浮かべながら言ってきた。

 確かに普段こうしてみんなで机を囲んで勉強するようなことってないから、結構楽しいかもしれない。学校の授業が毎回こんな形式だったらいいのになぁ……。

 

「なんだかここは楽しそうだね。ボクも楽しく勉強出来そうだよ……姫路さんが言ってた通りだね」

 

 そこに、後から追いついてきたのか、緑色の髪をしたボーイッシュな女の子がやってきた。

 

「あ、工藤さん!」

「初めまして。途中から編入してきたから知らない人も多いと思うけど、工藤愛子です。よろしくね~」

 

 にっこりと笑顔を振りまきながら、工藤さんは手を振って挨拶をしてきた。

 可愛い女の子だなぁ……。

 

「雄二、浮気は駄目」

「挨拶するのも駄目なのか!?」

 

 この二人は本当に仲好さそうだなぁ。

 

「ん? 姫路さんと同じクラスなの?」

 

 そう言えば今工藤さんは『姫路さんが言ってた通り』って言ってたから、もしかして……。

 

「うん。どうやらそのクラスで一人引越した子がいたみたいでね。代わりにボクが入れたってことだよ」

「そんな偶然もあるんだねぇ……」

「吉井君達の話は聞いてるよ。面白い人達なんだってね」

 

 姫路さんってば、林間学校の話でもしたのかな?

 けど、面白い人達って言われるのは悪くないことかもしれない。

 

「それじゃあ改めて自己紹介するね。ボクは工藤愛子。趣味は水泳と音楽鑑賞で、スリーサイズは上から78・56・79、特技はパンチラで好きな食べ物はシュークリームだよ」

「特技パンチラ!?」

 

 くっ……な、なんてことだ……っ!

 そんな特技があっただなんて……!

 

「……それ、ガチか?」

「あれ? 君は……」

「……比企谷八幡だ」

「そっか。君が比企谷君なんだね……ふふ、どう? 気になる?」

「お、俺は別に……」

「もし気になるって言ってくれたら、特別に見せちゃってもいいと思ったんだけどなぁ……」

「……っ!!(ブシャアアアアアア)」

「あぁムッツリーニ!!」

 

 八幡とは違う所で被害が出てしまった!

 工藤さんがスカートの裾をチラッとしてきたから、その様子を鼻息荒くしていたムッツリーニが見て、そして鼻血を噴水の如く出してしまっている!!

 

「……貴方達何してるのよ」

 

 雪ノ下さんがこめかみを抑えながら言ってくる。少なくとも今僕は何もしてないよね!?

 

「は、ハチ! ハチは見ちゃ駄目!」

「そ、そうだしっ! ヒッキーは見ちゃ駄目だしっ!」

「……いや、俺だけじゃなくて他の奴らも駄目だろ……」

 

 うん、確かに八幡の意見はもっともだった。

 誰かが見ていいってものじゃない……それにしても、工藤さん……なんていうか……すごくえっちだ。

 

「工藤さん、あまりそういうことしちゃ駄目だよ?」

 

 そんな中、彩加が工藤さんに対して『めっ』という効果音が出てきそうな感じでやんわりと指摘している。

 

「僕は戸塚彩加だよ。よろしくね?」

「うん、よろしくね彩加ちゃん」

「……僕、男の子なんだけど……」

「うん、分かってるよ?」

「へ?」

 

 なん……だと……?!

 

「違うよ彩加! 彩加は彩加だよ!!」

 

 秀吉が秀吉なのと同じように、彩加は彩加なんだ!

 そこだけは絶対に譲っちゃいけない気がする!!

 

「……工藤。お前分かってて『ちゃん』付けなのか……」

「なんとなくその方が呼びやすいなーって思っただけだよ?」

 

 八幡の質問に対して、工藤さんは笑顔で答えた。

 うーむ、工藤さんはなかなか一筋縄ではいかなそうな人だ。

 

「本当、みんな面白いね。これからは姫路さんと一緒にちょくちょく遊びに行ってもいいかな?」

「ふぇ? わ、私もですか?」

「もちろん! 一人より二人の方が行きやすいでしょ? それにボク、なんとなく彩加ちゃんや比企谷君のこと、気に入っちゃったかもしれないし♪」

「……」

 

 ウインクだ。

 凄いこう、可愛いのに……えっちだ。

 

「……ハチ。駄目だからね?」

「何のことだよ……」

 

 島田さんが八幡の手を握りながら、上目遣いでそう言っていた。

 

「ヒッキー、駄目だよ?」

「だから何の……っておい雪ノ下。何携帯出してんだ。そして何しようとしている」

「然るべき機関へ通報をするだけよ、犯罪谷君」

「うん、必要ないからね? 何もしてないからね? 俺無罪だからね?」

 

 由比ヶ浜さんはほっぺをハムスターみたいに膨らませていた。そして雪ノ下さんはいつも通りだった……。

 とにかく、そんな賑やかなメンバーで、僕達は勉強を続けたのだった

 




何気に工藤さん初登場回です!
バカテスの学力強化合宿エピソードを見ている時、彼女の存在は必要だなって判断しました。よって、編入してもらっちゃいました!
ちなみに、彼女の編入エピソードについてはいずれ番外編で補完するつもりです。
原作でもそもそも触れられていなかった感じしますけど……。
そんなわけで、ちょっぴりえっちな工藤さんは、八幡と、意外にも戸塚に興味を抱いている感じです。何せ戸塚には彼女の誘惑があまり効いていないですし……。
どんどん賑やかになってまいりました!!


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第十問 バカと合宿とグループ学習 (4)

 しばらく勉強していた僕達だったけど、三十分ほど休憩時間という先生からの通達が来たおかげでつかの間の休みを過ごすことが出来た。やっと解放されたぁ……勉強漬けなんて本当疲れる……GW中に雪ノ下さんから課せられた課題をやって以来だよ……。

 

「ふぅ……やっと解放されたぁ……」

「お疲れ様です、吉井君」

 

 結局僕は、ほとんど姫路さんに教わりっぱなしだった。僕から教えられる科目なんて正直言って何もなかったから、姫路さんに何もお返し出来てないわけだけど……本当に大丈夫なのかな。

 

「学年トップの成績を取った生徒が普通科に居るって話を聞いたのだけれど、やっぱり姫路さんのことだったのね」

 

 雪ノ下さんが髪の毛をサラッと掻き上げながら言った。ちなみに雪ノ下さんにみっちりとしごかれた由比ヶ浜さんは、魂が抜けそうになっている。

 

「はい。国際教養科か普通科か迷ったのですが……その、正直私のわがままで普通科に行きたいと思ったので……」

「……そうだったの」

 

 姫路さんがチラッと僕の方を見ながらそう言ったけど、一体何のことだろう?

 雪ノ下さんもこめかみを抑えながら溜め息を吐いているし……。

 

「ところでムッツリーニ、さっきはもう大丈夫だった? 僕も心臓ドキドキしてたのは間違いないんだけど、エロが大好きムッツリーニだから、鼻血まで出しちゃって……」

「……問題ない。だが、一つ訂正しなければならない」

「何? どういうこと?」

 

 ムッツリーニが何やら拳を握り締めながらワナワナと震えている。そしてムッツリーニは、衝撃的な真実を告発したのだ!

 

「奴はスパッツを履いている……っ!」

「な、何だって!? それじゃあパンチラ出来ないじゃないか! 酷いよ工藤さん! 僕の純情を返して!」

「……パンチラを期待している段階で純情も何もないだろ」

 

 八幡は何も分かっていないよ! パンチラは男のロマンなんだよ!

 

「パンチラが嫌いな男の子なんていないじゃないか! まして工藤さんのような可愛くてえっちな人のパンチラなんて貴重だよ!」

「アキ、今凄く恥ずかしいこと言ってる自覚ある……?」

 

 何故か島田さんにまで呆れられた気がするけど、こればかりは止められないよ!

 ……って、姫路さんまで何処か怒っている気がするんだけど、どうしてだろう?

 

「アハハ、ごめんごめん。代わりにさ、面白い物みせてあげるからさ」

 

 そう言いながら工藤さんは、ポケットから何かを取り出した。

 それは――。

 

「小型録音機?」

 

 彩加が首を傾げながら尋ねる。

 工藤さんは笑いながら、再生ボタンを押した。

 

『酷いよ工藤さん! 僕の純情を返して!』

「これ、さっき僕が言った台詞だ!」

「これ、結構面白いんだよ。こうしてああして、と……」

 

 工藤さんが慣れた手つきで録音機のボタンを押していき、そして再生ボタンを押した。

 すると……。

 

「『僕』『工藤さんのような可愛くてえっちな人』『が大好き』!」

「うわぁあああ! 何か僕とんでもない告白してるように聞こえるじゃないか!!」

 

 おかしいぞ! 確かに全部僕が言った言葉なんだけど、すべてがとんでもない台詞のように聞こえる!

 

「ぷくく……切り貼りしてるってわけか……なかなかおもしれぇことするじゃねえか……」

「笑うな雄二!!」

 

 何かもう何を言っても恥ずかしい台詞にすり替えられるような気さえしてきたよ!

 ていうか、由比ヶ浜さんも雪ノ下さんも何気に笑っているじゃないか!

 

「……無意味に言葉を発すると言葉狩りにあうな……文字通り……」

「……そのドヤ顔、とてつもなく気持ち悪いから止めて欲しいのだけど、ドヤ谷君」

「俺の名前で遊ぶのやめろ雪ノ下」

「あら、今の貴方を表すのにちょうどいい言葉じゃないかしら?」

「百歩譲ってドヤ顔したのは許すとしても、それを煽りに使うな」

「先程も島田さんに手を握られたり、工藤さんを舐めるような視線で見渡したりして、本能が丸出しになってしまっているわ。帰ったら通報してあげるわね」

「握られたのはともかく、別に舐めるように見たりしてねぇよ……」

 

 相変わらずの雪ノ下さん節が炸裂していた。

 なんだか追いつけていない由比ヶ浜さんと美波の二人は、何処か複雑そうな表情を浮かべている。だけど、あの二人の会話に追いつけるような人なんてそうそういないと思うんだけどなぁ……。

 

「まぁ八幡は彩加のこと好きだからねぇ」

「お、俺は別に……」

「八幡……僕のこと、嫌いなの?」

「そんなわけないだろ戸塚ぁ! 俺は『工藤さん』が好き……って、ちょい待て」

 

 ナイスタイミングだよ工藤さん……!

 今のは完璧すぎた……もう最高……笑いが止まらな過ぎて腹筋が痛い……っ!

 

「は、ハチ……今のは、駄目……っ」

「ひ、ヒッキー……ごめん、冗談だって分かってるんだけど……面白くて……っ」

「くっ……こんな単純な手に引っかかるなんて……っ」

 

 八幡が割と本気で悔しそうにしていた。

 どんだけ彩加に愛の告白をしたかったのかが良くわかる。僕だって秀吉への告白をこのような形で不意にされてしまったら怒りを抱いてしまいそうになるもの。

 

「ね? なかなかに面白いでしょ?」

「もー……確かに面白いけど、それ以上困らせちゃ駄目だよ?」

 

 彩加が工藤さんをやんわりと注意している。

 

「彩加ちゃんに言われちゃ仕方ないなぁ。これはまた今度にするよ」

「また今度やるのか……」

 

 ぽつりと八幡が呟いていたのを聞き逃さなかった。

 うん、次は気を付けよう。

 

「……雄二。今のように、雄二も私に、愛の囁きを……」

「しないからな? 絶対にしないからな?」

 

 霧島さんからのアプローチを全力で避けている雄二が居た。

 霧島さんも積極的にいってるし、雄二もそれに気付いているのに全力で避けている構図って、なんだか不思議だなぁ……幸せになってもらいたいよ本当に。後で須川君達と処刑方法を考えよう。

 

「おい明久。お前今ろくでもねぇこと考えてるだろ」

「そんなことないさ雄二。今夜何処で雄二を埋めようか考えていただけだよ」

「本当にろくでもねぇこと考えてたじゃねえか!」

「じゃあかぁしい! 羨ましいんだコンチクショー!」

 

 勉強中もずっと霧島さんは雄二に付きっきりで、本当に羨ましいんだからな! こんな美人さんに想われているというのに……! モテない男達の怒りを喰らえ!!

 

「多分だけど、それ、ヨッシーが言えることじゃないと思うよ……?」

「……そうね。比企谷君も大概だけど、貴方も存外鈍感なのかもしれないわね」

「待て。何で俺の所に飛び火したんだ。後俺は敏感だ。敏感過ぎて反応し過ぎるまである」

 

 ……八幡ってば一体何を言っているんだろうか。

 




お気に入り登録数がとうとう1100件を突破しました……っ!
応援ありがとうございます!!
これからもこの調子で頑張っていきます!!

―追記―

八幡誕生日おめでとうございます!!
誕生日の日に更新した内容が、工藤さんに弄ばれるシーンでごめんなさい(笑)


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第十問 バカと合宿とグループ学習 (5)

 休み時間も終わって、再び僕達は勉強に取り組む時間となった。今度は全員で色んな所を教え合って(と言っても僕は全部教わったけど)、それぞれの苦手科目を勉強し合った。正直、こうして大人数で勉強するなんてなかなかないから意外にも楽しかった。だけど、明日も勉強があるのかと思うと正直辛さしかない。しかも、いくら楽しかったと言えども、長時間勉強したことには変わりないから、やっぱり疲れは溜まっている。

 

「つかれたー」

「明久にしては長時間の勉強だったからな。今日だけで随分と変わったんじゃねえか?」

 

 雄二が笑いながら僕にそう言ってきた。

 

「確かに。ちょっと頭よくなった気がするよ」

「安心しろ。気のせいだから」

「雄二! 貴様ぁ!」

 

 人がせっかくいい気分になった所を雄二は……っ!

 

「まぁまぁ、落ち着くのじゃ明久」

「……そう簡単に変われるならば苦労しない」

「ムッツリーニのそれはフォローしているの!?」

 

 まったくフォローになっていないじゃないか!

 

「それにしても、ハチがここまで数学出来ないとは思わなかったわ……」

「ちょっと、意外でしたね」

 

 美波と姫路さんは、数学のノートを見ながら打ちひしがれている八幡を見ながら、苦笑いを浮かべている。現代国語はほぼ八幡のターンだったけど、数学になるとみるみる内にやる気がなくなって、最終的にはほぼ美波に教わりっぱなしだった。八幡だって数学だけで言ったら人のこと言えないからね!

 

「意外と言えば、比企谷君と吉井君って随分と仲良いよね?」

「「へ?」」

 

 ここで工藤さんが、僕と八幡を交互に見ながらそう言ってきた。

 

「いやぁ、見ていて思ったんだけど、確かに吉井君と坂本君は最早カップルみたいなコンビっぷりなんだけれど……」

「……雄二? どういうこと?」

「カップルになった覚えはねぇ! すべて工藤が言った出鱈目だ!」

「そうだよ霧島さん! 僕が雄二とカップルなわけないでしょ!」

「吉井君……そんなに坂本君がいいんですか……?」

「どうしてさ!?」

 

 何故か姫路さんまで膝から崩れ落ちてショックを受けていた。

 僕としてはそう勘違いされる方がショックだよ!

 

「でも、比企谷君と吉井君って、最早夫婦みたいな仲の良さだよね?」

「それはない」

 

 真っ先に否定したのは八幡だった。うん、まぁ八幡なら確かにそういうの否定するよね。

 

「俺が夫婦になるとしたら戸塚だけだからな」

「もー、八幡ってば冗談上手いなぁ」

「……ハチ?」

 

 彩加が少し困ったように照れているのに対して、美波がムッとした表情を見せている。

 

「ヒッキー、マジキモイ……」

 

 由比ヶ浜さんは頬をハムスターのように膨らませて拗ねていた。

 

「いやなんでお前らが拗ねてんだよ……」

「やっぱりこの男、鈍感にも程があるんじゃないかしら……」

「だからさっきも言ったろ。俺は人の視線や行動には敏感なんだよ。敏感過ぎて動かないまである。動かざる事山の如し」

「少しは理解するよう努めるべきではないかしら……」

 

 こめかみを抑えながら雪ノ下さんが言った。

 そんな中で、工藤さんは衝撃的な一言を発する。

 

「つまり吉井君って……男の子が好きなの?」

「失礼な! 僕は可愛い子が好きなんだよ!! 秀吉みたいに!!」

「なんでワシの名前が出てくるのじゃ! ワシは男じゃぞ!!」

 

 秀吉が怒っているけど気にしない! だって秀吉は可愛いからね!

 

「一応言っておくけど、僕は同性愛者じゃ……」

 

「同性愛者を馬鹿にしないでください!!」

 

 バン!! ← 突然襖が開かれた音。

 ギュッ!! ← 誰かが誰かに抱き着いた音。

 バタン!! ← その二人が倒れ込んだ音。

 

「お、お前……」

 

 八幡の顔が引きつっている。

 というか、男子組のほとんどが顔引き攣っている。僕の顔も恐らく苦笑いになっていることだろう。

 一番驚いているというか、困っているのは――。

 

「み、美春!?」

 

 そう。

 この場に突然乱入してきたのは、清水さんだった。GW中に僕達がバイトしに行った喫茶店のオーナーの娘さんであり、美波のことを心から愛している少女だ。

 

「お姉様にお会いしたくて、他のグループから抜け出してきましたわ!」

「ウチは男が好きなのー!」

 

 美波は抵抗している。しかし清水さんがそれを許さないといった感じだ。しっかりと抱き着いていて、離そうとしない。

 

「……あの時依頼してきた清水さんよね」

「雪ノ下さん! あの時は大変お世話になりました! お蔭さまで今ではこんなにもお姉様とラブラブイチャイチャな毎日を送っております!」

「送ってない! 嘘偽りだらけだから!」

 

 目を輝かせながら雪ノ下さんにお礼を言う清水さんと、そんな彼女の暴走を必死に止めようとしている美波。

 ちなみに、『俺や吉井もその場に居たんだよなぁ……』とぼそりと八幡が言っていたけど、当然清水さんの耳に届いているわけがなかった。

 

「酷いですわお姉様! 美春はこんなにもお姉様ラヴだと言いますのにぃ♪」

「ウチは同性になんて興味ないんだからぁ!」

 

 清水さんの暴走は止まらない。

 美波をぎゅって抱きしめながら、さり気なく八幡を牽制している。近寄らせないようにしているみたい。言われなくても八幡は最初から近づこうとしていないっぽいけど……。

 と、その時だった。

 

「君達。いくら勉強が終わったからといって、はしゃぎすぎるのはよくないと思う」

 

 眼鏡をクイっと上げながら、男の子が入ってきた。確か、久保君?

 

「あ、ご、ごめんね?」

「いいんだ、分かってくれれば……それに、同性愛を馬鹿にするのはよくない。彼らは異常者ではなく、個人的思考が世間一般と少し食い違っているだけのこと。普通の人に他ならないのだから」

 

「そう! 同性愛とは美しいのよ。だからそこにイチャモンをつけるのは許されないことだと私は思う!」

 

 今度は海老名さんが入ってきた!

 

「男だけの一部屋。六人集められた美男子達……何も起きないわけがなく……そのままヒキタニ君は……っ!」

「おいちょっと。何で俺だけ? そういう役目は吉井じゃないのか?」

「さり気なく僕にキラーパス振らないでよ八幡!」

「ぶっはーっ! そういうとこだぞ!」

「ああもう姫菜! 余所のグループまで行って鼻血噴き出すなしっ!」

 

 一人興奮して鼻血を噴き出した海老名さんの元に、最早通例となったおかんこと三浦さんが、ティッシュを持ってやってきた。

 三浦さんに処置を施されながらも、海老名さんは語り続ける。

 

「愛とは美しい物。まして同性愛とは世間一般ではなかなか認められないもの……だけど! 愛し合う二人にとってその壁は関係ない! いわば障害になんてなり得ない! 当人同士が認め合えば、誰にも邪魔されない!」

「そうですわ! 美春はお姉様のことを心から愛しているのです!」

「確かに愛は自由だけど、ウチには――っ!」

 

 何というとんでも空間。

 これだけの人数がワチャワチャし始めたら最早収拾がつかなくなってしまう。

 

「……所で吉井君。君は、その……どんなタイプの人が好きなんだい?」

「結局坂本に聞けてなかったのかよ……」

 

 何故か久保君に言い寄られ、隅の方から八幡のボヤキが聞こえた気がした。

 

 ――何故だろう。久保君の質問に答えてはいけないと思う自分がいて、結局答えることが出来なかった。

 

 




久保君や清水さんネタまではどうしてもやりたかったんです!
だからこんなにもカオスな状況が生まれてしまったんです……この二人の話をやるということは、必然的に海老名さんも絡んでくるということで……っ!
次回、八幡視点での学力強化合宿の様子です!
恐らく夜のエピソードから始まることとなるでしょう。


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第十一問 夜時間の中で、彼らの心は進み始める。 (1)

【第十一問】 現代国語

以下の問いに答えなさい。
「『我が輩は猫である』や『坊っちゃん』などの著者として有名な人物の名前を答えなさい」

姫路瑞希の答え
「夏目漱石」

教師のコメント
正解です。この問題は簡単過ぎましたでしょうか?

吉井明久の答え
「日本人」

教師のコメント
範囲が広すぎます。

島田美波の答え
「人」

教師のコメント
せめて国籍までは分類しましょう。



 正直な話、学力強化合宿は面倒臭いとしか思っていなかった。わざわざ旅先まで行ってやることと言えば勉強とか、物好きにも程がある。だが、思いの外しっかりと勉強に取り組むことが出来てしまったというのも事実だ。何より普段は遠ざける数学の勉強も、出来る奴に教わりながらやることによって理解出来た気持ちになる。だが、勉強を教え合うというのは何ともむず痒く、そして俺にとってはこれほどまでに苦痛なことはないのだ。

 この学力強化合宿は、最終日にテストがある。そのテストで一定水準の点数を取らなければ再テストが待ち構えているのだ。正直再テストだけは何としても免れたい。しかし問題はそこではない。

 他人から勉強を教えてもらうということは、人様にある程度迷惑をかけてしまうことにも繋がる。よって、このテストで最低限の結果を残さなかったら、その人の顔に泥を塗るようなものになるのだ。それを糾弾されることが非常に面倒臭く、出来ることなら一人で勝手に勉強していたかった。それに、当日になるまで俺はあくまでどのグループに所属していたとしても一人で黙々とやっていようと考えていた。

 

 ――蓋を開けてみれば、結局ほとんど島田と苦手科目を克服し合っていた。

 

 結果として、勉強の進みはよかった。確かに理解も深まった。

 同時に、俺の中にある何かが警戒警報を鳴らしているような感覚がした。たまたま島田が理系科目が得意であり、俺が文系科目が出来るだけの話。互いに互いの穴を埋められた、Win-Winな関係だっただけ。だから島田も俺を相手として選び、俺も島田を相手として選んだのだろう。そこに深い意味など存在しない筈だ。そんな可能性など本来一考するにも値しない筈だ。

 何より相手は俺なんだ。決してあり得ないし、そんな価値もない筈だ。

 

 俺は、今の時間が心地よいと感じてしまう自分に、どうしても腹が立ってしまっていた。

 

 

 流石に勉強する時間も終わり、現在風呂に浸かっている。男子の時間と女子の時間で入浴時間がはっきりと分けられており、今は男子が風呂に入る時間。ここまで徹底した管理をしているのも、恐らく平塚先生や西村先生の差し金なのではないかと思う。それぞれ分けた理由は違うだろうけど。

 ちなみに、何故か戸塚と木下の姿はない。くっ……何故だ……戸塚と風呂に入ることも許されないというのか……っ!

 

「ねぇ雄二、八幡。今回の合宿、僕達に対する警戒が凄くない?」

「待て。俺まで一緒にすんな」

 

 吉井が何とも言えない表情を浮かべながら話題を投げてくる。だが、ナチュラルに警戒対象として俺まで含めようとするのはやめよう? 俺何もしてないよ? これから何かするつもりなのん?

 

「別に女子と男子の風呂時間わけること位普通だろ?」

「女子が風呂に入る時間帯に風呂場近くに行くことを禁じられた上に、近づいたら即刻鉄人の補習が待ち構えているのっていくら何でもやりすぎだと思うんだ!」

 

 いや、血の涙を流す程悔しいわけではないと思うんだが……。

 土屋に至っては血の涙だけでなく、歯を食いしばり過ぎて歯茎からも血が流れ出ている始末だ。コイツら何処まで覗きに行きたかったんだ……。

 

「落ち着けよ明久。たとえ女子風呂を覗きに行けるような状況があったとして、他の先生方がそれを見逃すと思うか? それに……翔子に何されるかわからねぇ……」

 

 あぁ、そっちが本音なのな……。

 坂本の言葉にはひどく説得力がある。何せ温かいお湯に浸かっている筈なのに、まるで南極に裸で放り投げられたかのように震えあがっているのだから。

 

「こうなったらムッツリーニ、せめて僕達だけでも後で……っ!」

「吉井、俺も手伝うぜ!」

 

 そこに現れたのは、えっと、確か……。

 

「す、どう?」

「須川な? クラスメイトの名前そろそろ覚えて欲しいぞ」

 

 やる気に満ち溢れたオーラを醸し出している須藤改め須川だった。

 彼の周りには、数人の男子が集結している。

 

「須川君! 来てくれたんだね!」

「我々FFF団が集結すれば怖い物なんて何もない。同士諸君、覚悟はよいか?」

「おぉー!」

 

 須川の声に合わせて、周囲の男子たちが声をあげる。

 ここは軍隊か何かなのか?

 それに、本気で決行する気なのかコイツらは……心構え作ってる所申し訳ないが、女湯覗こうとしているだけだからな?

 どうせ覗くなら戸塚の風呂を覗きたい。というか一緒に入りたい。とつかわいい。

 

「ははは。楽しそうだよね」

 

 そんな中、俺の隣に寄ってきたのは。

 

「……なんだよ、葉山」

 

 笑顔を崩すことない、葉山だった。

 

「そう警戒しないで欲しいな。こうして風呂一緒に入る機会なんてそうそうないんだからさ、少し位話をしたっていいと思うんだ」

「俺や吉井とは友達になれそうになかったんじゃねえのか?」

「あれは冗談だって言った筈だよ? 意外としっかりと覚えていてくれてたんだね、ヒキタニ君」

 

 確かに、葉山はあの時『冗談だ』と付け足した。

 しかし、そう語ったアイツの目は、決して嘘なんてついていなかった。

 

「勉強は捗ったみたいだね、ヒキタニ君達も」

「……まぁ、そうだな」

「僕達の方もしっかり勉強出来たよ。この調子でやっていけばきっとテストも突破出来るんじゃないかな」

「そりゃよかったな」

「吉井君達はちょっと心配だけどね」

 

 まぁ……確かに吉井や由比ヶ浜がテスト突破出来るのかどうか少々気になるところではある。もしかしたら再テストなんて可能性もあるが……そうなった場合、雪ノ下の指導がますますハードになりそうだな。

 

「いざとなったら雪乃ちゃんが補習しそうだね」

「……ん?」

 

 今、コイツ雪ノ下のことを、『雪乃ちゃん』と言わなかったか?

 いや、もしそう呼んでいたとしても納得は出来る。

 林間学校の時、俺は雪ノ下の口から葉山との過去を聞いた。少なからず、小学校時代までは二人の仲は決して悪くなかったという話も聞いた。

 あの時の葉山の選択が決定的となり、今の関係性が出来てしまったことも把握している。

 だが、気になったのは――。

 

 何故コイツは、俺の前で雪ノ下のことを『雪乃ちゃん』と零したのか、ということだ。

 

 葉山隼人は別に頭の悪い人間ではない。何処までも優しく、そして残酷で、頭の回転は決して悪い方ではないと思っている。少なからずあの雪ノ下が一時期とはいえ多少は心を許した存在だ。コイツもコイツで、それなりに能力はあるのだろう。

 

「あぁ、ごめんごめん。つい昔の癖で……」

 

 頭を掻きながら語る葉山。

 恐らく、雪ノ下の前では本当に昔の癖でぽろっと零れてしまうのかもしれない。だが、今この場に雪ノ下は存在しない。葉山は間違いなく、わざとそう零している。

 だが何のために?

 

「……僕はね、きっと。君や吉井君のことが」

 

 俺が思考している内に、葉山は己の気持ちを告白する。

 それはきっと、なんとなく想像ついていた可能性。

 葉山隼人という男が、この二か月間で考え付いてしまったこと。

 そして何より、きっとそれは宣戦布告でもあり、敗北宣言でもなり、立ち直る為の第一歩なのかもしれない。

 

「羨ましいと思っていたのかもしれない」

 

 やはり俺は、葉山隼人とは友達になれない。

 




本編更新の方は随分と久しぶりとなりました。
このお盆休み期間、結局あまり更新できずに申し訳ありません……。
これからは平日の本編更新を盛り返していきたいと思います!
今後とも何卒よろしくお願いします!


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第十一問 夜時間の中で、彼らの心は進み始める。 (2)

 ロビーにある椅子に座り、天井を眺めながら俺は考え事をする。

 葉山は俺や吉井のことを『羨ましい』と言った。吉井はともかく、俺は少なくとも心当たりが――ないわけではなかった。自惚れでもなんでもなく、アイツが言っている羨ましいとは、恐らく雪ノ下とのことだろう。アイツは俺との会話の中で、雪ノ下のことを『雪乃ちゃん』と呼んだ。恐らく、今でもそう思っているのだろう。呼べない理由は簡単だ。雪ノ下がそれを拒否しているからだ。

 幼少期、雪ノ下は葉山との関係性によって虐めを受けていた。その時に葉山がとった行動は、『みんなの葉山隼人』の域を脱することが出来なかったのだ。それだけ他人を信じることが出来る葉山に、最早尊敬すら抱いている。事実、俺は他人を信じることが出来ない。いや、昔はこれでも信じすぎる位だったのかもしれない。だが、そんな浅はかな考えはとうの昔に捨てている。

 

 ――最近、信じてもいいと思う奴らが現れた。

 

 良くも悪くも、バカをやっている奴らが居た。

 俺の隣で、俺のことを頼りながらも、一緒に並び立とうとする一人の女の子が居た。

 同じ部屋の中で、捨てがたい空間を作る二人の女の子が居た。

 俺と『友達になりたい』と真正面からぶつかってきた奴が居た。

 

 すべて、俺には勿体ない位だった。

 俺は所謂ぼっちだ。ぼっちにはぼっちに相応しい立ち位置が存在している。少なくとも、葉山隼人が羨むような存在ではないことは確かだ。アイツは俺なんかよりもカーストが上で、中心であり続ける男なのだ。

 

 ――同時に、吉井のことを羨ましいと思ったのは、事実だ。

 

 吉井明久は、自分から輪を作りに行く。葉山隼人は常に輪の中心で居続ける。二人に共通することは、『共に輪の中に存在している』ということだ。その立ち位置に決定的な違いはあるものの、いずれにせよ彼らは輪から外れることはないだろう。

 俺は、その輪の中に居ない。ぼっちとは常に孤高の存在であり、何かの輪から省かれ続ける者だ。

 

「……比企谷か。何をそんなに考え事をしている?」

 

 そんな俺の近くに現れたのは、西村先生だった。

 旅先であるというのに、仕事だからという理由で律儀に黒いスーツを着こなしている。ある意味先生にとって一番似合っている服装とも言えるかもしれない。

 

「先生こそどうしたんですか?」

「あのバカ共が女子風呂を覗こうとしないか見張っている所だ……ここまで丁寧に分けてやったが、それで引き下がらない奴もいるだろうからな……」

 

 溜め息を吐きながら、西村先生は語る。

 その予想は確実に当たっている上に、やはり時間を分けて規律を作ったのは西村先生だったんですね。

 

「ここは風呂場近くではないし、比企谷ならそんなバカなことをしないと思うから別に構わない」

「そうっすか……」

「授業中寝るのだけは矯正しなくてはならないがな」

「あれはその、次の時間にフル活動する為の休息時間です」

「授業は常にフル活動しろ……」

「数学が将来の為に役に立つとは思えません」

「勉強は将来の為にやるものだからな……役に立たない勉強など存在しないのだぞ?」

 

 流石は生徒指導の教科担当というべきだろうか。勉学関連についての討論なら簡単に打ち負かされそうになる。少なからず、平塚先生とこの手の話をすると、言葉よりも先に手が出そうで怖い。いや、確実に手が出るだろうな……恐ろしい人だ。本当誰かもらってやってくれ。でないと俺の身がもたない。もう西村先生と平塚先生が結婚すればいいのでは? と思ったが、西村先生が可哀想だから止めておこう。

 

「平塚先生からある程度話は聞いている。奉仕部での活動の様子も、担任である俺の所へ来ているぞ」

「そうなんですか?」

「あぁ。林間学校ではすぐ近くでお前達の行動を見ていたわけだしな。まったく、よくもまぁあんな方法を思いつくものだ……頭の回転で言えば坂本並だな……」

「それ、褒めてるんですか……?」

 

 坂本と同じにされると、どことなく『バカ』と認められているような気がして、いまいち褒められている気がしない。実際坂本は『頭は良い』とは思うが。

 西村先生は俺の横に座ると、

 

「なぁ、比企谷。学校は楽しいか?」

「……まぁ、ぼちぼちっすね」

「そうか。これでも一応、担任として心配していたんだ。最初のお前の目を見て、馴染めるか不安だったからな」

 

 その言葉は、とても温かく、優しさに満ち溢れていたと思う。それこそ、普段の西村先生からは想像がつかない程だった。

 あぁ、この先生はきっと生徒のことが好きなんだな。時には相当厳しく取り締まっている先生であるが、それは受け持っている生徒達がしっかりと正しい道を歩んで欲しいという気持ちの表れなのだろう。その証拠に、吉井や坂本が何を企んでいるのかすらも見破る程だ。そんなことが出来るのは、一人一人をしっかり見ているからこそだろう。

 この学校に居る大人達、いい人ばかりじゃねえか。

 

「友達を作れ、とは言わない……だがせめて、充実した高校生活を送って欲しい。俺は少なからずそう思っている。だが、今のお前を見たらなんとなく分かる……いい友を持ったな」

「とも……?」

 

 友達。

 確かに周りに人は集まっている、のかもしれない。恐らく高校生活が始まったばかりの頃には想像もつかない程、俺は色んな奴らとの関わりがある。中には俺のことを友達と呼んでくれる奴もいる。

 

 ――少なくとも、信用してもいいのではないかと思う人も居る。

 

 だが、俺は結局そこから一歩を踏み出せない。

 どうしてもちらつくのは、過去にあった出来事。今の俺を作るに至った根底の理由。突き崩せないものがそこにある。

 

「まぁ、今はそれでもいいだろう。いずれ比企谷も、気付くことだろう。だから今は、もう少しだけ猫背を治して前を見てみるといい。そうすれば見える世界も変わってくるかもしれないからな」

 

 西村先生は俺にそう言うと、椅子から立ち上がり、見回りへと戻る。

 そんな先生の背中を見送りながら、俺はふと考える。

 

「見える世界も変わってくる、か……」

 

 果たして本当にそうなのだろうか。

 人というのはそう簡単に変わるものではない。他人に言われて易々と変わるような『自分』なら、それは最早『自分』ではない。少なくとも今の俺は、過去から学び、痛みを経験し、その結果創り上げてきた自分だ。故に、変えるのだとすれば他人からの言葉ではなく、自分の意思で変わるのだろう。

 西村先生は、俺を変えようとしない。平塚先生もまた、俺を変えようとはしていないのだろう。

 二人の教師がやっているのは、『変わることを促し、見守ること』だ。

 結局のところ、強制的に何かをさせることはほとんどしない。人として間違ったことをすれば流石に正すが、大事な所では必ず選択させるのだ。

 

 俺は今、迷っている――?

 

「ヒッキー……?」

 

 そんな俺の前に現れたのは、風呂上りの由比ヶ浜だった。

 




今回は意外にも鉄人回でした。
思えば担任として登場している筈なのにあまり出番ないなと思いまして……。
ちなみに鉄人は、覗きを警戒している模様(情報漏れているのでは!?)。
最早今回の話に関してはほとんどオリジナル回です。
それ故に動きがゆったりな気もしますが、お許しを……。
ちなみに、このエピソードでバカテス側のネタである『勘違いメール』まではいきたいなぁ……と思っています。


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第十一問 夜時間の中で、彼らの心は進み始める。 (3)

「由比ヶ浜か。どうし、た……」

 

 名前を呼んでから、俺はしまったと思った。

 女子風呂の方面から歩いてきたのだから、由比ヶ浜が風呂上りなのは察することが出来た。だから、今の状態の彼女を直視するとどうなるか位分かっていた筈だ。

 制服でも体操服でも、まして私服でもない。旅館で用意されている浴衣。湯上りで少し潤んで温まった身体は、熱を帯びているように見える。仄かに紅潮した顔に、瑞々しい瞳。浴衣からでも分かる、豊満な胸。

 これが万乳引力……乳トン先生が再び現れてしまったというのか。

 そんな彼女を見て、俺の心臓が鼓動を早めない訳がない。

 控えめに言って、色っぽいというか、エロい。

 

「ひ、ヒッキー……なんか目が怖いよ?」

 

 由比ヶ浜は恥ずかしさのあまりに顔を赤くしながら、自分の両腕で胸を覆い隠す。

 待ってください。その方がエロいです。余計に胸が強調されて今すぐにその柔らかくて豊満な胸に指をそっと差し込んで堪能したくなりますごめんなさい。

 ……なんかどこぞのあざとい後輩みたいな感じの言い回しになったが、アイツならそんな変態チックなことはしないし言わないだろうな。

 だが、おかげで少しは落ち着いた。

 

「風呂上りか?」

「うん。けど不思議だよね? 女子風呂の周り、なんだか先生達が気合い十分に見張ってたんだよね……」

「……まぁ、色々あるんだろ」

 

 もう完全に吉井達の計画ばれてない?

 あの先生方、実は吉井達のこと好き過ぎでしょ?

 

「それにしても、ヒッキーは浴衣着ないの?」

 

 別にこの旅館には、女子用だけでなく男子用の浴衣も準備されている。だが俺は敢えてジャージを着ている。由比ヶ浜はその点が少し気になったのかもしれない。

 

「周りと同じ格好をするということは、それだけ周りに合わせているだけのように見えるからな。俺は常に孤高な存在でありたい。その感情が服装からもにじみ出てしまっているのだろう」

「うーん……よくわからないけど、着たくないってことかな?」

 

 随分とばっさりと斬られた気分だ。

 これが雪ノ下ならば、『それは単なる言い訳に過ぎないわね。結局は単純に浴衣を着るのを嫌がっているか、そもそも浴衣の着方が分からない哀れな自分を見せたくないだけなのでしょう?』とキレッキレの言葉が返ってくるに違いない。

 何か、想像したら心に深い傷を負った気がする。戸塚に癒されたい。戸塚の浴衣姿を存分に堪能したい。

 

「なんかヒッキー、今度はキモイ顔になってるよ……?」

「キモイって言うなビッチ」

「誰がビッチだしっ!?」

 

 由比ヶ浜が一気に顔を近づかせてくる。

 近い近い良い匂い柔らかい近い!!

 

「ゆ、由比ヶ浜。す、少し落ち着け!」

「え? あ、あうぅ……」

 

 自分がやったことについて恥ずかしかったのか、慌てて距離を取って、それから俯いてしまう。

 

「ひ、ヒッキーが、こんなに、近くに……」

 

 小さな声で言っているけど聞こえていますからね?

 そんなこと言うと勘違いしちゃうよ? いやこれってひょっとしてその後に『近くに来ちゃってマジキモイ』とか続くのん?

 

「あ、あのさ! ヒッキー!」

「お、おう」

 

 急に気合いを入れたかのように顔をあげてきた由比ヶ浜。

 そのおかげで、二つの巨大なメロンがぽよんと動いた気がした。

 うん、眼福……じゃねえよ落ち着け俺。万乳引力にとらわれ過ぎだ。視界にメロンしか映らなくなっていやがる。

 そんな俺の心の葛藤なぞいざ知らず、由比ヶ浜は言葉を続ける。

 

「あのね? 夜って消灯時間まで自由時間でしょ?」

「あー、そんなこと書いてあったな……」

 

 旅のしおり的な物にも書かれていたが、流石に夜に勉強することはないのだそうだ。故に夜については自由行動となる。ただし消灯時間を過ぎても尚部屋に戻っていなかった場合には、西村先生と平塚先生による地獄の徹夜補習が待ち受けているという。何が地獄って、先生達も寝られないことだ。

 

「だからさ、後でゆきのんと二人で、ヒッキーの部屋遊びに行ってもいいかな?」

「……は?」

 

 まさかのお誘い。というか雪ノ下まで連れて来ようとしてんのか?

 アイツが男部屋に来るとは思えないのだが……。

 

「いや、俺の部屋吉井とかも居るんだが……」

「あ、それならミナミナや姫路さんも呼ぼうよ! 私姫路さんに声かけておくから、ヒッキーはミナミナに連絡しておいて!」

「お前が二人に声かければ……」

「じゃあヒッキー、よろしくね!」

 

 そう言うと由比ヶ浜は、部屋へと駆け足で戻っていく。少し進んだ後で、

 

「ヒッキー、また後で、ね?」

 

 後ろを振り向いて、首を傾げながらそう言った由比ヶ浜。

 ……お前、それを素でやれるとかマジ凄い女だな。これをもし一色とかがやったら単にあざといという感想しか出ないのだろうが、計算せずに天然でやっているだけ、由比ヶ浜はたちが悪い。

 しかし、結局由比ヶ浜からの提案を断ることが出来ず、吉井達の居る部屋に女子が来ることになってしまった。島田へのメールはもちろんのこと、吉井達にもメールを送っておかなければいけないな。

 まずは島田へとメールを送ろう。

 

『由比ヶ浜から提案があったんだが、夜の自由時間に俺達の部屋に来てくれないか?』

 

 こんな感じでいいだろう。

 別に俺から提案した内容ではないし、由比ヶ浜からという言葉を使えば、きっと断られても傷つくことはあるまい。流石に返信位は来るだろう……来るよね?

 次に吉井達への連絡だ。メールを送るのは吉井でいいだろう。

 

『後で女子達が来るから何か遊べるものがあれば準備しておいてくれ』

 

 これでいいだろう。

 別に自由時間に遊ぶ分には特に注意されることもない。テレビゲームとか漫画を持ち込んでいなければ問題はない筈だ。

 そんなことを考えている内に、島田から返信が来た。

 

『オッケーよ。けど、どうしてハチがウチにメールをくれたの?』

 

 そこだよなぁ。

 いくら由比ヶ浜から提案されたとはいえ、元々由比ヶ浜と島田はクラスメイトだ。本来ならば俺からメールせず、由比ヶ浜から直接メールを送ればそれで解決するというものだ。

 と、そんなことを考えている内に、

 

「今度は吉井からか……」

 

 吉井からもメールの返信がきた。

 

『任せろ! 女子を迎え入れる準備は出来ている。所で八幡。さっき八幡の荷物に足が当たっちゃって、中身大丈夫かなって思って鞄を開けたら、勉強道具や着替えの他に、何本かのマックスコーヒーがあったんだけど……どうしてこんなに入っているの?』

 

 自分の荷物をそんな足が当たるような場所に置いたかどうか分からないが、鞄の中にマッ缶を入れたのにはきちんとした理由がある。基本的に何かあればマッ缶を飲んでいる俺だ。もしかしたら宿泊施設にマッ缶が売っていない可能性も考慮して、予め何本か入れておいたのだ。後で部屋の冷蔵庫に入れて冷やすつもりで鞄の中から取り出していなかったものだ。

 何より、マッ缶を持ってくる理由など一つしかない。

 

『そんなの、好きだからに決まってるだろ?』

 

 送信。

 ……送信ボタンを押してから、俺は何処か違和感を覚える。

 今、俺は一体誰にメールを送信した?

 滅多に複数人相手にメールのやり取りをしない俺だ。ましてチャットアプリなんてスマホに入れていないから基本的にやり取りのほとんどをメールで済ませている。

 故に、つい送信相手を確認することを怠ってしまった。

 ……そして、気付く。

 

「……ちょっと待て。これは待て。やばい」

 

 冷や汗が止まらない。

 なぜならば、俺が今メールを送った相手は……。

 

「……何故今の文面が、島田に送られているんだ」

 

 吉井に送る筈のメールが、島田に送られていた――!

 やばい、これはまずい。今すぐ訂正メールを送らなければならない。これでは文面を通じて己の内なる恋心を打ち明かしたみたいになってしまう。リスク管理については誰よりもしっかりとこなしているのではなかったか。最近の状況と、由比ヶ浜との会話と、その他諸々で浮かれていたというのか。

 このままでは島田の気分を害してしまう。腐った目の男にいきなり不快極まりないメールを送りつけられて、今まである程度築かれていた関係性が一気に崩れてしまう可能性すらある。

 そうして俺が訂正メールを送ろうとした時に。

 

「あ、は、ハチ……」

「し、島田……」

 

 メールを送られた張本人である島田が、顔を赤くしながら俺の前に現れてしまった。

 




さぁ八幡よ、この逆境をどう乗り越える!?
というわけで、今回勘違いメールを送ってしまったのは八幡です。
原作では主に明久が大間抜けなことをやらかしてしまう展開でしたが、八幡が何処か浮かれていたのか、それとも気を抜いてしまったのか、本来ならばあり得ないようなミスをしてしまったという感じです。
さり気なく自由時間でいつものメンバーが集まろうとしている中、果たして八幡と美波はどうなってしまうのでしょうか……?
作者的には、何とも嫌な予感しかしませんが……。


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第十一問 夜時間の中で、彼らの心は進み始める。 (4)

 島田は先程のメールを風呂上りに見ていたのだろう。由比ヶ浜と同じく浴衣を着て、温泉から出たばかりの状態特有の、謎の色気を醸し出している。いつもはポニーテールにまとめている髪も完全に降ろされており、新鮮味が増していた。何というか、凄く美人だった。思わず見惚れてしまう程の魅力。

 しかし、その手に持っているスマホを見つけると、俺の意識は一気に現実へと引き戻された。今は一刻も早く誤解を解かなくてはならない。島田は顔を赤くし、俺を見つけると俯いてしまう。よって、その表情を確認することが出来ない。

 

「そ、その、島田……さっきのメールについてなんだが……」

 

 ビクッと身体が動いた気がした。いや、それはきっと気のせいなんかではないだろう。本当に身体が震えたのだ。それでも島田は俺の顔を見ようとしない。

 先程のメールを怒っているのだろうか。それとも他の感情から来ているのだろうか。

 ……駄目だ、想定し得る可能性を考えてはならない。

 俺の中でガンガンと警鐘が鳴り響いている。これ以上先延ばしにすることも、深読みすることもしてはならないと。そうして勘違いして、自分がまた傷ついてしまうと。

 

「その、ハチ、ウチ……」

 

 駄目だ。

 今は島田に何かを喋らせてはいけない。

 その先の言葉を言わせてはいけない。

 

 ――関係性を壊しかねない一言を、言わせてはならない。

 

「悪かった島田。さっきのメールは送り間違えたんだ」

「…………え?」

 

 ここで島田は初めて顔をあげる。その顔は驚きと寂しさ、それに悲しさに満ちているようにも見えた。

 やめろ、やめてくれ。そんな表情をしないでくれ。

 きっと今、島田は俺を弄ることが出来なくて悲しいとか、そんなことを考えているのだろうそうであってくれ。俺は別に鈍感というわけではない。むしろ他人の感情の動きや気持ちに関しては人一倍敏感であるという自信すらある。

 敵意や悪意はもちろんのこと――好意だってそうだ。

 

「そ、そっか。ハチの勘違いだったのか……ウチに送ったわけじゃなかったんだ……」

 

 目に見えて元気がなくなっていく島田。

 

「あ、あぁ……島田に俺がメール送ったのも、由比ヶ浜に頼まれたからなんだ」

「……そっか。結衣に頼まれたから、だったんだ」

 

 おかしい。

 きちんと正しく情報を伝えた筈なのに、余計に島田の機嫌が悪くなっているように見える。これはきっと、勘違いの上に更に勘違いを重ねているに違いない。

 

「それで、さっき島田に送ったメールは、吉井への返信だったんだ」

「……そんな嘘、つかないで」

「う、嘘なんかついてねぇって……」

「……ホント?」

 

 島田が上目遣いに尋ねてくる。

 今その目をされると、俺はめっぽう弱くなる。

 それが本当であることを確かめる為、俺はメールの履歴を見せることにした。

 

「ほれ。これで嘘じゃないって……」

「……」

 

 島田は俺からスマホを受け取り、メールの履歴を確認する。

 しかし、別に見られて困ることがないとはいえ、メール画面を見せるのは警戒心なさすぎだろうか。

 そんなことを考えていたが、

 

「……うん。本当だったみたい。ごめんね、ハチ。疑っちゃったりして。けど、次からはあんな勘違いするようなメール送らないでよね。ウチの心臓にも悪いし……」

「悪かった……もう、しない」

 

 島田の表情に笑顔が戻る。

 今回ばかりはほとんど俺が悪いような物なので、素直に謝る他なかった。

 それにしても、小声でもそんなことを言うのは止めて欲しい。

 さっきまでの島田の動揺っぷりと合わせると、答えが導き出せそうになってしまう。俺はその答えを考えないようにするのに必死だった。

 

「ところで、謝りついでに一つ聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「ど、どうした?」

 

 島田の言葉に、思わず俺は動揺する。

 ただでさえ色っぽい格好をしている女の子が、深呼吸をして緊張状態を落ち着かせようとしているのだ。そんなところを目の当たりにしたら、俺だって変な気持ちになりそうになる。

 だが、俺はそんな感情を理性で押し殺す。

 こんな青春ラブコメみたいな状況なんて、俺には訪れるわけがないのだ。そもそもぼっちで始まっている段階で、青春もくそもあったものではない。即ち、考えるだけ無駄なことなのだ。

 オッケー、落ち着かせることが出来た。島田の話を聞くことが出来る。

 

「その、結衣のことって、どう思ってるの……?」

 

 だが、島田の口から発せられたのは、ある意味で今聞きたくなかったものだった。

 先程島田が勘違いしていたであろうことが、この一言ではっきりと分かってしまったからだ。

 

 つまり島田は、俺が勘違いして送ったメールの宛先を、由比ヶ浜と勘違いしていたのだ。

 

 話の流れからしても自然だったのかもしれない。俺が最初に由比ヶ浜のことを出したから、きっとそういう風に結び付けたのだろう。

 だが、その質問をされたところで、俺の答えは変わらない。

 

「由比ヶ浜は部活仲間だ。それ以上でもそれ以下でもない」

「……いつも結衣の胸、見ている癖に?」

「ぐっ……」

 

 女子は男子の視線に敏感というのは本当のことなんだな。

 この一件により、視線の動きには気を付けようという気持ちになった。

 

「……ま、まぁ、いいけど。それなら、別に……」

 

 顔を赤くして、島田はそっぽを向いてしまった。

 

「お、おう……」

 

 俺はただ、どもったような声を出すことしか出来なかった。

 そんな俺を見た島田は、

 

「クスッ……何それ。ハチの反応面白い」

「わ、笑うなって……」

 

 島田は結局、元の笑顔に戻ったのだった。

 そしてその後で、

 

「それじゃあハチ。ウチも準備出来たらハチ達の部屋へ行くからよろしくね? メールの件は、ウチとハチの、二人だけの秘密ってことにしておこう?」

「そ、そうだな……」

 

 二人だけの秘密。

 そう聞くと、何処か甘美な響きに聞こえてしまうのは気のせいではない筈だ。

 それはどうやら島田にとっても同じことだったようで、少しばかり嬉しそうにしている気がした。

 

「それから!」

 

 ここで島田は俺の近くまで一気に近づいてくる。

 ちょっ、顔近い。お風呂上りで凄く良い匂いがする。どうして女の子ってこんなにいい匂いがするんだ? おかしくない? 俺の心臓が一気にバクバク鳴り響いている気がする。

 

「さっきメールで確認しちゃったんだけど……一色いろはって、そんな子知り合いにいたっけ?」

 

 あ、やべ。

 そう言えばこの合宿に来る前に勉強見る為に一色とも連絡取ってたの忘れてた。

 

 結局、新たな問題が浮上してしまったので、その誤解を解くのに少しばかり時間を有することとなるのだった。

 ただ、なんとなくこれだけは思ってしまった。

 

 ――やはり、島田と会話する時間は、何処か心地よい。それ故に、決して勘違いしては、ならない。

 




一応何とか綺麗に収まりはしましたが、それでもまだ尚八幡の心にもやもやみたいなものが残る結果となりましたね。
少しずつ、八幡の中で美波の存在が大きくなりつつあるものの、その正体が何なのか分かっていない状態です。
明久達の影響で多少マイルドかつ素直になりつつある八幡ではあるものの、根底にあるのは結局『比企谷八幡』なので、このままいくと一度関係性をリセットしそうで怖いですね……他人からの好意に対して敏感でありつつも、敢えて見ないようにしていそうな人なので……捻デレさん扱いにくいです()。


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第十一問 夜時間の中で、彼らの心は進み始める。 (5)

 島田の誤解を何とか解いた後、俺は一人外で夜風に当たっていた。別に旅館の外に出ていけないという規則はなかった筈だし、思考をまとめるのに最適だと考えたからだ。そう思って外に出た筈なのに、

 

「あれ? 比企谷君じゃない? どうしたのこんな時間に。部屋に戻らないの?」

「……それは俺の台詞でもあるんだが、工藤」

 

 この学力強化合宿で初めて出会った女子生徒であり、姫路瑞希のクラスメイトの工藤愛子。休憩時間では散々遊び倒されただけに、最初の印象としては油断してはならない人物としてインプットしていた。そういえばコイツは編入生だったか。それにしちゃまるで最初から輪の中に居たかのように振る舞っているが。コイツはあれか、コミュ力お化けということなのか。

 

「どうしたの? じろじろとボクの身体を見つめちゃって。浴衣の中、気になるのかな?」

 

 チラッと太ももの辺りを捲りながら、わざとらしく煽ってくる工藤。

 くっ……べ、別にその太ももが気になって直視しているわけじゃ、ねぇんだからな?

 ……男のツンデレとか誰得だよ、気持ち悪いだけじゃねえか。特に俺がやると自分で自分に対してぶん殴りたくなってしまった。慣れないことはするもんじゃないな。

 

「なーんてね。比企谷君を誘惑するのは楽しいけど、色んな人に怒られちゃいそうだから止めておくね。特に雪ノ下さんとか」

「確かに、雪ノ下を怒らせると大変なことになるが……アイツは別に俺がそういう状況になったら、素早く通報するだけで怒るとは思えないんだが……」

「……キミは鈍感なのか敏感なのか分からないね」

 

 その台詞を素で言うのは止めて頂きたい。なんだか変なこと聞いている気持ちになる。

 と、脳内で変な抵抗を見せていると、工藤は少しだけ気を抜いたような表情を浮かべながら、

 

「ボクさ、正直この学校で友達が出来るか不安だったんだよね」

 

 自身の心境を語り始めた。

 あぁ、コイツはコイツなりに、『仮面』を被っていたのだな。割と素でやっていることもあるのだろうが、相手にも分かりにくい位に仮面を被っているのだ。そうした人間の、ふと見せる素の瞬間というのは悪くない。特に相手が美少女であればある程、可愛いというものだ。

 

「けど、そんな心配はなかったみたいだよ。キミや吉井君、彩加ちゃんにムッツリーニ君。ここに居る人達って本当面白いね。教えてくれた姫路さんに感謝しなきゃだよ」

「俺からしてみれば、アンタも相当いいキャラしてるけどな……」

「あはは。それは褒め言葉として受け取っておくね♪」

「そりゃどうも……」

 

 どうにも、工藤とは会話しにくい。調子が狂うというか、掌の上で踊らされているような感覚がするというか。弄ばれるというか。

 

「あ、そういえばこの後比企谷君の部屋でみんなで集まって遊ぶんだよね? 姫路さんから聞いたよ」

「そうなってるな……」

 

 何か割と大所帯になりそうだな。一体何人集まってくるのん? この調子だと部屋埋まっちゃわない? 大丈夫? 誰か未来のネコ型ロボットよろしく押入れの中で過ごさなきゃいけなくなる?

 

「面白そうだし、姫路さんも居るからボクも行かせてもらうね♪」

「お、おう……」

「楽しみだね。あんなことやこんなことも出来ちゃうね♪」

 

 わざと耳元で囁くように言ってくる工藤。

 あまりのむず痒さに、少しだけ俺は後退ってしまった。

 工藤にとってはその反応も想定内というか、面白かったのか、にこにこしている。

 何か罠にはまった気分になって悔しい。というかさっきからこの人近い。ぼっちのパーソナルスペースにズケズケと入ってくる……いや、それでいて最低限の線引きをしているから尚質悪い。これは彼女の計算の内なのか、それとも素でやっていることなのか。

 今は考えるだけ無駄だと思い、その思考を捨てた。

 

「それじゃね、比企谷君。また後で♪」

 

 右手でピースをして、首を傾げて、にっこりと笑いながら俺にそう言ってきた工藤さん。返事を待たず、旅館の中へと入っていった。嵐のような人物だったな……。

 しかし、そのおかげというかなんというか、少しずつ落ちつけるようになってきた。俺も部屋へ戻ろうとしたその時。

 

「……ん?」

 

 スマホが鳴っている。

 ブザーが鳴り続けていることから、メールではなく電話であることが分かった。誰からのものであるのか確認する為に画面を見ると、

 

「……げっ」

 

 そこに書かれていたのは、『一色いろは』だった。模試の勉強を見てやってから、こうしてちょくちょくメールや電話が来ることがある。いつものノリで一色は電話をしてきたのだろう。

 そういえばコイツには、俺がしばらく学力強化合宿に行っていることは伝えていない。しばらくはこっちの用事があって出られなくなることを伝えなくてはいけないと考えた俺は、通話ボタンを押した。

 

『あ、せんぱ~い。今暇ですよね?』

「何勝手に人が暇だと決めつけてんの……」

『でも、せんぱいに用事があることってないじゃないですか~』

「あるよ? 俺だってたまには用事あるよ? ていうか今がその途中だよ?」

『分かってますよ? 学力強化合宿に行っているんですよね?』

 

 ……ここで俺は思い出す。

 そういえばコイツ、吉井とも連絡取ってるじゃねえか。つまり俺が今日合宿に行っていることも把握済みじゃないの? つまりコイツ、分かっていて通話してきやがったな。確信犯じゃねえか。

 

『でも、合宿先でも相変わらずぼっちしているのかなって思いまして、可愛い後輩がこうして暇つぶしの為に電話してあげてるんですよ~♪』

「別に頼んじゃいないんだが……」

『またまたそんなこと言っちゃって~。ホントは私の声聞きたかったくせに~』

「誰もそんなこと思っちゃいねぇよ……」

 

 うぜぇ。なんというかあざとい。発言のすべてがあざとい。

 しかし、この後用事があるのは事実だからあまり時間を取っていられない。

 

「あー……一色。この後俺、やらなきゃいけないことがあるからそろそろ切るぞ?」

『え~。まだ通話始めたばかりじゃないですか~。せんぱいで……せんぱいと暇つぶししたいですよ~』

「今明らかにせんぱい『で』暇つぶしするとか言おうとしたよね?」

『何のことですかね?』

「とぼけても無駄なんですけどね……」

『なんですか? お前のことなんて言葉に出さなくても御見通しな程理解していると言いたいんですか? ごめんなさいそんな超能力染みたこと言われても別にときめきませんし電話越しで言われても全然魅力感じないので出直してきてください』

「どうしてそういう風に曲解出来るの……」

 

 早口でほとんど何言っているか分からないけど、少なくとも今の流れは完全に振られるまでいきつく流れではなかったと思うんだが。

 

「とりあえず、部屋に客が来るみたいだから準備しなきゃならないんだよ」

『え? せんぱいの部屋に客ですか?』

「クラスメイトが遊びに来るらしい……」

『あー……それでせんぱいは部屋から出て孤独な時間を堪能しているわけですね?』

「そうじゃねえよ……これから準備の為に戻るんだよ」

『へ? せんぱいが迎え入れるんですか?』

 

 相当驚いている様子の一色。

 ……うん、まぁ、きっと入学前の俺が同じ光景を見ていたら、きっと一色と同じ反応をするのだろう。それだけこの二か月間で俺の行動や考えが染まっているのかもしれないと思うと、なんだか恐ろしい何かを感じずにはいられなかった。

 

「とにかく、話なら合宿終わってから聞いてやるから、今は切るぞ」

『言いましたね? 約束ですからね? それじゃあ合宿終わった次の日曜日にまた勉強教えてくださいね♪』

「なんでまたそんな……くそっ、切られた……」

 

 嵐のようにあっという間に過ぎ去る時間だった。

 さり気なくまた日曜日に俺をこき使おうとしてくるし……。

 

「……部屋、戻るか」

 

 色々あって既に疲れているが、島田達にまた後でと言ってしまった手前、俺だけ部屋に居ないというのもおかしな話だろう。

 そんなことを心の中で呟きながら、部屋へと戻るのだった。

 

 ――この時の俺は、まだ予想していなかった。夜の自由時間の内に行われる、バカ騒ぎのことを。

 




そんなわけで、次回は明久に視点をバトンタッチして、自由時間での出来事となります。
合宿で男女が一部屋に集まってすることと言えば……一体どんな遊びが行われ、どんなバカ騒ぎが展開されるのですかね……?
この八幡、最早ぼっちとは言えないのではないかと思うのですが、果たしてどうでしょうか……?
それにしても、いろはすを書くのが本当に楽しいです……早く総武高校に来てほしい……(作中時間はまだ八幡達高校一年六月なので、だいぶ先。そして二年生の時間軸までこの作品が連載しているのかどうかも謎)。
文字数や話数のわりに、意外と話の進みがゆっくりだなぁって思い始めている今日この頃。果たしてこの作品の完結にはどのくらいの時間がかかるのか……。


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第十二問 バカとみんなと王様ゲーム (1)

【第十二問】 数学

以下の問いに答えなさい。
「多項式P(x)をx-3で割ると3余り、x-5で割ると-21余る。P(x)を(x-3)(x-5)で割った時の余りを求めよ」

姫路瑞希の答え
「ー12x+39」

教師のコメント
正解です。さすがは姫路さんです。

土屋康太の答え
「x」

教師のコメント
答えようとした努力だけは認めてあげましょう。

吉井明久の答え
「             ←バカには見えない解答」

教師のコメント
後で職員室にて今後についてのお話があります。



 夜の自由時間、僕の心はとてもわくわくしていた。八幡から連絡が来て、僕達の部屋に女の子達が遊びに来るということらしい。それはつまり、旅行行事における青春を存分に味わうことが出来るということになるわけで、相当僕の心がぴょんぴょんしている。最高だぜ!

 そうして集まった僕達だけど。

 

「なんか結構人集まったねぇ」

 

 元々この部屋に居る雄二や八幡、ムッツリーニに秀吉、そして彩加を始めとして、姫路さんに美波、工藤さんに霧島さん、由比ヶ浜さんに雪ノ下さん。合計すること十二人って感じか……よくこの一部屋に集まったなぁ。未来から来たネコ型ロボットのようなことをしなくちゃいけないことは避けられているから助かったけどね! 多分このメンバーだと高確率で僕がそういうことやらされそうだし!

 

「雄二の隣は……私」

「分かったから好きにしてくれ……なんかオーラがこえぇから」

 

 雄二の隣には霧島さんが既に控えていた。そして周りの女の子に対して、『雄二に絶対近づかないように』という威嚇をしている。多分そんなことしなくても霧島さんの邪魔はしないと思う……むしろ応援すると思うよ。僕は積極的に雄二を潰しにかかるけどね!!

 

「何かバカなことを考えておるな……」

「……いつものこと」

「ちょっと二人とも! 僕が考え事をしているだけでバカなことを考えているんだっていう先入観を与えるのだけはやめてよ!」

「おぉ、先入観って文字は読めたんだな。明久頭よくなったな」

「いくらなんでも雄二のその台詞はバカにし過ぎだよね!?」

「せん、にゅーかん?」

「……由比ヶ浜。無理しなくていいんだぞ。なんかひらがなで書かれているように見える」

「ヒッキーが私のことをストレートにバカにしてきたし!?」

「その、由比ヶ浜さん……たとえ読めない漢字が多かったとしても、私が面倒見てあげるから……ちゃんと漢字読めるようにしてあげるから……一緒に頑張りましょう」

「そのやさしさが少しだけ辛いよ!?」

 

 なんか、色々とカオスな空間だなぁ。

 とりあえず今分かったのは、由比ヶ浜さんが雪ノ下さんに凄く優しく扱われているということだ。うん、何と言うか凄く身に覚えがありすぎる扱われ方しているよね……分かるよ、その気持ち。

 

「ねぇ、ムッツリーニ君。ムッツリーニ君って保健体育が得意なんだってね?」

「……それがどうした?」

 

 気付けば工藤さんがムッツリーニの隣に来て、何やら話をしている。

 どうやら二人とも得意科目が保健体育らしく、それについて話しているみたいだ。

 すると工藤さんは、太もも部分をチラッと開きながら、

 

「ボクも実は得意なんだよ……それも、実技でね?」

「……実技、だと!?(ブシャアアアアアアア)」

 

 いきなり鼻血出したー!!

 

「……吉井。お前も鼻血出てるからな」

 

 八幡に指摘されて僕も咄嗟に鼻を抑える。

 しまったー! 想像して興奮した挙句鼻血出してしまったーっ!

 僕はまず自分の鼻にティッシュを詰め込んで、それからムッツリーニの鼻にタオルを押し当てる。みるみるうちにタオルは紅く染まったけど、何とかムッツリーニが出血多量になることだけは避けられたみたいだ。

 

「吉井君……吉井君は、その、え、えっちな女の子が、すき、なんですか?」

「へ?」

 

 姫路さんが顔を真っ赤にしながら、僕にそう尋ねてくる。

 正直、えっちな女の子はタイプです。というか姫路さんも相当えっちな女の子だと思う。特におっぱいが! 美波にはない魅力を出していると思うよ!!

 

「……なんか、今ウチ、アキに物凄く失礼なことを思われた気がしたんだけど」

「なんでもないです」

 

 若干美波の目線が怖かったので、思わずそっぽを向いてしまった。ちなみに、その時の美波は胸を両手で隠している。あ、そんな素振りを見て八幡が少し照れてる。由比ヶ浜さんはほっぺをぷくーっと膨らませて拗ねてるみたい。

 というか美波も十分勘が鋭いよね!?

 

「違うのじゃ……逆に明久が分かりやすすぎるのじゃ」

「何考えているのかがすぐ顔に出るからな」

「……馬鹿正直」

「こんな所まで『バカ』ってつけなくてもいいじゃないか!!」

 

 秀吉、雄二、ムッツリーニの三人に散々いじり倒される。

 そこまで言わなくてもいいじゃないか!

 

「ところで、これだけたくさん集まったみたいだけど、みんなで何するの?」

 

 彩加が首を傾げながら尋ねてくる。

 あ、八幡が拳を握りしめている。何かを噛み締めているように見えるけど、周りの人達はスルー……出来てないみたいだ。何せ雪ノ下さんはこめかみを抑えて溜め息ついているし、美波はムッとした表情を浮かべていて、由比ヶ浜さんは更にほっぺたを膨らませている。

 何だろう、無性に由比ヶ浜さんのほっぺたから空気を抜いてみたい。ぷしゅーって音が出て空気が抜けていく所とか見てみたい気がする。そんなことをしたら天誅下されるのが分かっているからやらないけど。

 ともかく、今はこれだけたくさんの人が集まったから何をしようかという流れだ。

 

「ふっふっふ……それについてなんだけど、実は僕、とっておきのゲームを考えているんだ」

 

 男子も女子もこれだけの人数が揃っていて、かつ、そんなに用意するものがなくても十分楽しく遊べるゲーム。その名も……。

 

「王様ゲェエエエエエエエエエエエム!!」

「「王様ゲーム?」」

 

 僕の叫び声に合わせて、八幡と雪ノ下さんが声を揃えて尋ねてくる。というか、そこに込められている気持ちの中に『え、マジでやるの?』って気持ちがこもっていなくもない気がするのは僕だけだろうか。

 彩加は苦笑い、霧島さんが一番やる気を出している。多分雄二にどんな命令を下そうか考えているのだろう。

 

「明久、ルールの説明を頼む」

「了解」

 

 雄二の言葉に乗っかる形で、僕はルール説明を始めた。多分みんな知っているとは思うけど、こういうのは様式美というか、なんというか。

 

「ここに数字の書かれた紙と、『王』と書かれた紙が入った箱があります。最初にそれぞれ一枚ずつ紙を取り、『王様だーれだ!?』の掛け声と共に、その紙を開きます。そして、王様は数字を指定して、その人物に命令をすることが出来ます。例えば、一番が王様の肩を揉む、三番が七番にしっぺをする、等……そして、王様の命令は……絶対!」

「……え、マジでやるの?」

 

 八幡に関しては見るからに嫌そうな表情を浮かべている。

 言葉には出していないけれど、雪ノ下さんもあまり乗り気じゃなさそうだ。

 しかし、

 

「えー、ゆきのん楽しそうじゃーん。みんなでやろうよ? ね?」

「……し、仕方ないわね。由比ヶ浜さんがそう言うなら……後、ちょっとくっつき過ぎよ……」

 

 百合百合空間に雪ノ下さんが負けた!!

 ともかく、これで賛成多数で王様ゲームを行うことが出来るよね!

 

「ボクも楽しみだな。色んな命令をしてあげるね? 明久君♪」

 

 ウインクしながら言ってきた工藤さんに、僕の心臓はドキドキが止まらない!

 

「……どうしたの? 瑞希」

「……ううん、なんでもありません、美波ちゃん」

 

 何故か、姫路さんのやる気も出ちゃったみたいだ。

 ともかく、これから王様ゲームが始まる。

 

 ――そう、カオスな空間になること間違いなしの、王様ゲームが。

 




というわけで……とうとう始まってしまいました……禁断の王様ゲーム……っ!
元々は番外編リクエストに入っておりましたので、番外編で描こうかと思ったのですが、本編でやるならここしかない! ということで我慢出来ずに本編入りを果たしました!
もうこの面子でやる王様ゲームとかカオスな予感しかしませんが、頑張って描ききりたいと思います……っ!


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第十二問 バカとみんなと王様ゲーム (2)

「と言う訳で一回戦!」

 

 器の中に紙を入れて、中身が見えないようにしっかりと折りたたんだ上で、更に皿を少し揺らす。こうすることで中身が何なのかを分からなくするということだ。一体どんな王様ゲームになるんだろう。楽しみで仕方ない。このゲームで秀吉にあんなことやこんなことが出来るんだからね!

 

「なんだかさっきから明久が妙にワシを見てくるのじゃが……」

「……明久。早く引け」

 

 秀吉はポツリとそう呟き、ムッツリーニが早く引くように促す。

 言い返したいところだけど、今は紙を引く時だ。とにかく王様になればいいんだからそれを狙うしかない!

 運も実力の内さ!

 

「それじゃあ行くよ……せーのっ!」

「王様だーれだっ!?」

 

 十二人分の声が合わさる(たぶん雪ノ下さんや八幡の声が聞こえなかったけど、きっと言っていると信じている。言っているよね?)。そして最初に王様になった人物は……。

 

「あ、どうやら僕が王様、かな?」

 

 笑顔でそう言ってきたのは彩加だった。

 最初の王様としては優しい王様でよかった……彩加は王様というよりはお姫様の方が似合うけどね。あ、そうなったら結婚する王子様を僕が処刑しなくてはならない……! くっ、悩みどころだ……っ!

 

「えーとね、それじゃあ最初だし簡単なことからがいいよね?」

「彩加ちゃんの好きにしちゃっていいんだよー?」

 

 工藤さんがにこにこしながら言うけど、彩加は相変わらず苦笑いを浮かべている。

 そうしてしばらく『うーん』って考えた後に彩加が言ったのは、

 

「それじゃあ、三番が五番の肩を揉む、というのはどうかな?」

 

 なるほどー。

 最初としては申し分なさそうだね。

 僕の番号は一番だったから外れだ……となると、三番と五番って一体誰だろ?

 

「五番はウチね。三番って一体……?」

「……………………」

 

 紙を広げながら自分の番号を言う美波と、何故か口を頑なに開こうとしない八幡。

 まさか……!

 

「……比企谷? その紙、見せてみろよ?」

 

 ニヤニヤしながら雄二が言う。

 多分雄二は気付いているよね?

 

「…………三番、だ」

「!?」

 

 悔しそうに紙を開いた八幡。

 いきなり当たったことがそんなに悔しいのだろうか?

 って、ちょっと待って? 八幡が美波の肩を揉むの? それってつまり――。

 

「駄目ですよ、比企谷君。王様の命令は絶対なんですから、美波ちゃんの肩をしっかり揉んであげなくちゃいけないんですからね?」

「瑞希!?」

 

 意外にも、姫路さんが八幡に対してしっかりと命令を実行する様に指摘していた。

 こういうことに関しては基本的に消極的だと思っていただけに、少しびっくりしている。心なしか、姫路さんが美波に対して笑顔を見せた気がした。そんな姫路さんの表情を見て何かに気付いたのか、美波は顔を一気に赤くしている。一体どうしたというのだろうか?

 

「ひ、ヒッキー? ミナミナの肩を揉むの!?」

「……悔しいけれど、王様の命令は絶対、なのよね?」

 

 雪ノ下さんが、携帯電話を強く握りしめながら皆に確認を取る。

 そんなに通報したかったの!?

 

「そうじゃのう。王様の命令は絶対じゃ。守らなければならぬ」

「つーわけだ。大人しく観念して、肩揉み初めてやれ」

 

 凄くいい笑顔を浮かべながら雄二が催促している。うん、相変わらずこういう時には囃し立てるのが上手だ。悔しいけど、僕も同じ気持ちだから代弁してもらえてありがたいとすら思っている!

 

「いい、のか? 島田は俺が肩を揉んでも」

「へ、平気よ。それに、王様の命令は、その、絶対なんだから……」

 

 八幡が尋ねると、美波は顔を合わせずにそっぽを向き、前髪を弄りつつそう告げる。

 その後で美波は、八幡の前に座り、

 

「ほら、はやく始めてよ……ハチ」

 

 そう告げたのだった。

 

「えっと、時間は三十秒位でいいかな? 八幡が始めたらカウントダウンだからね?」

「……分かった」

 

 覚悟を決めたらしい八幡が、美波の肩にソッと手を置いた。

 

「ひゃっ!」

 

 ビクン、と身体が跳ねた美波。

 

「わ、悪い。変な所触ったか?」

「だ、大丈夫……続けて」

 

 美波は、顔を少し赤くしつつ、続けるよう促す。

 それ以上の抵抗を止めた八幡は、ゆっくりと美波の肩に手を置いて、そして、

 

「……んっ」

 

 ゆっくりと、揉み始めた。

 肩を揉まれている美波は、時々『んっ……』とか、『ぁ……』とか、所々悶絶しそうな程可愛い声を出している。その証拠に、ムッツリーニが興奮のあまり鼻血が垂れそうになっている位だ。

 

「い、痛くないか?」

「うん……大丈夫。ハチ、気持ちいい、よ?」

「お、おう……」

 

 何か、凄くえっちな言葉を発しているようにしか聞こえないけど大丈夫かな?

 多分八幡も同じようなことを考えているのか、美波のことを見ないように必死に顔を別の方向に向けている。何だろう、僕もちょっと変な感じになってきそう……。

 

「さ、三十秒だしっ! ヒッキーもミナミナもそこまでっ!」

 

 由比ヶ浜さんが二人の間に割って入り、引き離す。

 頬をハムスターのようにぷくーっと膨らませながらだから、なんとなく可愛い。

 

「二人とも。なかなかによかったよ?」

 

 工藤さんがにこっと笑いながら言う。絶対確信犯だよね?

 

「……雄二。浮気は許さない」

「まだ何も言ってねぇだろ!?」

 

 そして雄二は何故か威嚇されていた。

 霧島さんも本当ブレないなぁ。

 

「その、ハチ……気持ち、よかったよ?」

「っ!? お、おう……」

 

 まったくもー、美波ってばもーっ!

 普段は見せない魅力を存分に出しちゃってもーっ!

 八幡も勘違いしそうなのを必死に振りほどいている感じだ。

 

「……比企谷君。女の子の肩を揉んで興奮しているなんて、とんだ変態ね。やはり然るべき処置を施した方がよろしいのかしら。不審谷君」

「おい人の名前を勝手に不審者っぽくすんな」

 

 雪ノ下さんの罵倒が今日も冴え渡っていた。

 

「とにかく、次の回にいってみるのじゃ」

 

 仕切り直すかのように秀吉が言う。

 そうだね、次こそ王様になるぞ!

 

「んじゃ、紙を戻してくれ」

 

 調子を取り戻した雄二が、器を持って全員の前に差し出す。僕達はもう一度紙を折りたたんで、その中に入れた。少し揺らしてどれが何番か分からなくなったところで、もう一度僕達は紙を引く。

 そして――。

 

「王様だーれだ!?」

 

 次の王様は――。

 

「俺だな」

 

 次は雄二か……なんか嫌な予感がするぞ……。

 

「んじゃ……四番と、八番が……」

 

 四番……僕じゃないか!

 すると八番は一体……?

 だが、それ以上に雄二は地獄のような命令を告げた。

 

「平塚先生に『好きです付き合ってください』と告白して来い」

「「鬼だコイツ!!」」

 

 とんでもない命令をしてきやがったぞコイツ!!

 そして今の反応で分かったけど、八番はムッツリーニだったんだね……まさかコイツ!

 

「雄二貴様ぁ! 四番と八番が僕とムッツリーニだと分かった段階で命令を考えやがったな!」

「何のことだ? 俺は別にお前らがその番号だってことは知らなかったぞ?」

 

 くっ……雄二め……。

 貴様後で覚えておけよ……っ!

 

「王様の命令は、絶対……」

「……屈辱だが」

「「やるしか、ない……っ!」」

 

 僕とムッツリーニは、思い切り扉を開け放ち、地獄へと向かっていくのであった――。

 

 




凄い……二回戦分までこの話で進みましたけど、温度差が激しいです。
あまりの落差にインフルエンザでも患ってしまうんじゃないかと思われる程に……。
八幡と美波が絡むと、なんかこう、ラブコメの波動しか感じない……。
ちなみに、明久とムッツリーニが教師に告白するネタ自体は、バカテスOVAでありました(あの時は鉄人相手でしたが)。
ご安心ください、次回も王様ゲームします。
ただ、明久とムッツリーニはズタボロになって帰ってくるのでしょう……色んな意味で。


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第十二問 バカとみんなと王様ゲーム (3)

「早かったのぅ明久……何やら物凄い勢いで汗を流しているようじゃが、一体なにがあったのじゃ?」

 

 僕とムッツリーニはなんとか地獄から帰ってきた。

 正直、鉄人に告白するよりはまだましかなーとか、ああ見えても平塚先生ってば美人だしぃ? とか、色々心の中で言い訳を考えてはみたけれど、結局平塚先生相手だとキツイことに変わりなかった。というか、『好きです』って言葉を出した段階で結婚情報誌出してきたよ? ちょっと? 僕もムッツリーニも生徒なんですけど? 怖すぎるよ? 行動早すぎるよ?

 

『挙式は、何処にする?』

『『まだ結婚なんて言ってないです!! そして罰ゲームなんですすみませんでしたぁ!!』』

『照れなくていいんだぞ? まさか私のことをおちょくってるわけじゃないだろう?』

『『おちょくってはないですけど罰ゲームなんです!!』』

『ほぅ……なら、罰ゲームにしなければいいだけの話だろう?』

『『すみませんでしたぁ!!』』

『明日が楽しみだなぁ? 吉井に、土屋ぁ……』

 

 うん、これどう見ても完全にロックオンされたよね? 明日から僕達の命ないかもしれないよね!?

 

「雄二貴様ぁ!! 僕とムッツリーニの未来に希望がなくなったじゃないか!!」

「うまく切り抜けられなかったお前達が悪い。王様ゲームをやる以上、これくらいのリスクは当然だろう?」

「いや、流石にここまで想定しろっていう方が無理なんじゃ……」

 

 あまりのカオスさに彩加が苦笑いを浮かべているレベル。

 ちなみに、八幡はさっきから『アラサーこえぇ……』と呟いている。

 ……何故だろう、突然悪寒が。

 

「くそぅ……こうなったら何としても王様になって、雄二に復讐してやる……っ!」

「目的が変わってしまっている気がするのだけれど……」

 

 雪ノ下さんがこめかみを抑えているような気がするけど、そんなの構うものか!

 今一度、僕はこの男に復讐をしなければならないんだ!!

 

「それじゃあ次いくぞぉおおおおおおおおお!」

 

 このままスタートだ!!

 せぇえええええの!!

 

「王様だーれだっ!?」

 

 さぁ、王様……来い……っ!

 

「あ、ボクだねー」

 

 くそぉ!! 王様になかなかなれない……!!

 今王様を引いたのは工藤さん。雄二のような命令は飛んでこないとは思うけど、一体どんなことをさせられるのだろうか……?

 

「それじゃあね……んーと」

 

 右手人差し指で唇を抑え、少し上を見上げながら考える工藤さん。

 正直その光景は様になっているし、可愛いと思う。さっきまでの傷ついた心がどんどん癒されていくような気がして……。

 

「じゃあ、四番が九番の、ほっぺにちゅーで♪」

 

 とんでもない命令出してきたーっ!!

 

「ね、ねぇ。その命令って、本当なのかな?」

 

 顔を赤くしながら尋ねてきたのは、意外にも由比ヶ浜さんだった。

 よく見ると、由比ヶ浜さんの持っている紙は九番!

 まさか、四番の人が由比ヶ浜さんのほっぺにキスすることが出来る……!?

 

「くっ……なんて理不尽……っ!」

 

 思い切り歯茎から血が出ている辺り、ムッツリーニは四番ではなかったみたいだ。

 ちなみに僕も四番ではない……悔しすぎる……!!

 

「吉井君……め、デスヨ」

 

 ん? 

 今、姫路さんのイントネーションがおかしかった気が……気のせい、かな?

 

「ひ、ヒッキー……もしかして、ヒッキーって……?」

 

 由比ヶ浜さんは八幡の前に立って、番号を尋ねる。

 それに対して八幡は……。

 

「いや、俺一番なんだが……」

「…………」

 

 由比ヶ浜さん、固まる。

 そして、そんな由比ヶ浜さんの肩を叩いた人物が、一言。

 

「その、わ、私が、よ、四番、なのだけれど……」

 

 まさかの雪ノ下さんだったーっ!!

 

「ゆきのんが四番!?」

 

 由比ヶ浜さんの反応は何処か嬉しそうだ。

 思わず由比ヶ浜さんは嬉しそうな笑顔を見せながら雪ノ下さんに抱き着く。

 

「ちょっと……暑苦しいのだけれど……」

 

 口では雪ノ下さんはそう言いつつも、無碍に扱うことはない。

 雪ノ下さんってやっぱり由比ヶ浜さんのこと結構好きだよね?

 

「……ハチ?」

「な、なんでもねぇって……」

 

 ムッとした表情を浮かべながら、島田さんが八幡に指摘していた。

 うん、分かるよ八幡。今僕の視線は由比ヶ浜さんと雪ノ下さんに向いてるもん。完全に夢中になってるもん。どきどき百合百合空間に心奪われているもん。ムッツリーニなんて狂ったように写真撮りまくってるよ。後で良い値で買わせて頂こう。

 

「じゃ、二人とも思い切ってやっちゃってよ~」

 

 工藤さんがニコニコしながら言って来る。

 それにしても、この命令が僕と雄二とかじゃなくてよかった……絶対汚い絵面が誕生してた。

 

「そ、それじゃあ、由比ヶ浜さん……いくわね」

「うん。ゆきのん、はい♪」

 

 雪ノ下さんが相手だからか、何の躊躇いもなしに由比ヶ浜さんはほっぺを向ける。

 一方、雪ノ下さんは両手を胸元に当てて、深呼吸をしていた。がちがちに緊張していることが見て分かる。今の雪ノ下さんの反応は、見ていてとても可愛い。

 

「……おい翔子。まだ何も言ってねぇのに視線をこっちに向けるな」

「……雄二は見ちゃ駄目」

「いや、それ理不尽過ぎない?」

 

 霧島さんと雄二の二人が夫婦漫才を繰り広げているけれど、今は雪ノ下さんと由比ヶ浜さんに注目しなくてはならない。この百合百合空間を目に焼き付けておかなければいけない!

 

「なんだか見ている私達までドキドキしちゃいますね……」

「そ、そうだね……」

 

 姫路さんが顔を赤くしながら言ってきた。

 確かに、僕も心臓がばくんばくん鳴っている気がする。

 今回の王様ゲーム、心なしか心臓に悪い命令が結構来る気がする……雄二の奴は違う意味で心臓に悪かったけれど。

 

「ゆきのん、ほらはやく~」

「うっ……ゆ、由比ヶ浜さんは、その、恥ずかしくないの?」

「ちょっと恥ずかしいかな? でも、ゆきのんだから、いいよ?」

「っ!!」

 

 あ、由比ヶ浜さんの甘い言葉に、雪ノ下さんは陥落寸前だ。

 駄目だよ、今の一言は!!

 人を勘違いさせる一言だよ! 男なんてイチコロだよ!?

 

「それじゃあ……いくわね……」

「うん♪」

 

 覚悟を決めた雪ノ下さんは、由比ヶ浜さんのほっぺたに向けて――唇を付けた。触れるだけの一瞬のひと時。なのに、その瞬間スローモーションになったかのように見えて――とても、えっちだった。

 

「完了だね、ゆきのん♪」

「……え、えぇ」

「……っ」

 

 満足気な由比ヶ浜さんに、顔が真っ赤に染まった雪ノ下さん。

 そしてそんな二人を眺めながら、何とも言えない表情を浮かべている八幡。

 うん、カオスだね♪

 

「それじゃあ次、行くわよ……っ」

 

 何とか今の光景を振り切りたいのか、今度は雪ノ下さんが音頭を取った。

 僕達は紙を元に戻し、新たな紙を引く。

 そして――。

 

「王様だーれだ?!」

 

 次の王様になったのは――。

 

「……」

 

 『王』と書かれた紙を無言で見せつける霧島さん。

 

「……っ!!」

 

 ダッ!! ← 雄二が逃走した音。

 ビューンッ!! ← 僕とムッツリーニが飛びついた音。

 ガシッ!! ← 僕とムッツリーニが雄二を確保した音。

 

「さぁ、女王様。ご命令を……!」

「離せ! テメェら!!」

「五月蠅い! 王様の命令は絶対だ!!」

 

 必死に抵抗する雄二。

 僕達だってちゃんと命令を実行したんだ! 一人だけ逃げようなんて考えは甘いんだよ!!

 

「それじゃあ……雄二は今から、私の命令に絶対従うこと」

「おいコイツ変態だ!!」

 

 くっ……霧島さんからの命令なんて……羨ましすぎるぞ!!

 そんな事を考えていた、その時。

 

「あの、霧島さん……それだと命令が不成立になってしまいます。きちんと番号で伝えないと……」

 

 姫路さんが間違いを訂正する。

 確かに、霧島さんが雄二に命令したければ、雄二の番号を言い当てなければならない。

 今のままだと名前を言っているから、不成立に――。

 

「じゃあ、三番」

「…………」

 

 ダッ!! ← 雄二が逃走した音。

 ビューンッ!! ← 僕とムッツリーニが飛びついた音。

 ガシッ!! ← 僕とムッツリーニが雄二を確保した音。

 

「くそっ! 離せっ!!」

 

 雄二の番号を言い当てるなんて流石は霧島さんだね!

 番号を言われた瞬間逃走した雄二を、僕とムッツリーニの二人が確保した。

 

「駄目だよ、坂本君。王様の命令は絶対なんだよ♪」

「そうそう! 霧島さんが今は王様なんだから、受け入れなきゃ駄目だしっ」

「しかし、あまり過激すぎるものは言っては駄目よ、霧島さん……」

 

 工藤さんは面白そうに、由比ヶ浜さんは楽しそうに、雪ノ下さんは溜め息交じりに言った。

 そんな中で、霧島さんが出した命令は――。

 




王様ゲーム編、書いていて思っていることがあります。
カオス過ぎません???
まだまだ彼らの夜は続きます。
次は一体どんな命令が飛び交うことになるのでしょうか……。
それにしても、雪ノ下さんが由比ヶ浜さんのほっぺたにキスしているイラストとか欲しくないですか?
誰か描いて欲しい……というかイラスト描けないからどなたかに描いて頂きたいです……。
挿絵にしたい部分とか何個もあるんです……。
イラスト勉強しようかな……。


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第十二問 バカとみんなと王様ゲーム (4)

「なぁ、翔子。これは一体どういう状況なんだ?」

 

 あの後霧島さんが雄二に行った命令というのは、『この王様ゲームが終わるまで、ずっと手を繋いでいる』というものだった。霧島さんは嬉しそうにしているし、雄二も満更でもない表情を浮かべている。正直羨ましいんじゃ!! 

 

「しかし、霧島と雄二は本当に仲良しじゃのう」

「べ、べつに俺達は……」

「……ありがとう」

 

 顔を少し赤く染めてそっぽを向きつつやんわりと否定しようとする雄二と、素直にお礼の言葉を言ってニコッと笑っている霧島さん。

 霧島さんが幸せそうならそれでいいのかな? 

 

「それじゃあ続けていってみよっかー♪」

 

 そんな中で続きを促したのは工藤さんだった。仲良し時空に浸るのもいいけど、今は王様ゲームの時間だ。今のところ僕は平塚先生からの恐怖に耐え抜く事しかやっていない。だからこそ、次は僕がきちんと利益を得られるようにしなければならない……! 

 

「せーのっ! 王様だーれだっ!?」

 

 そんなわけで次のターン。

 今度こそ僕が王様に……! 

 

「あ、今度は私だね!」

 

 が、駄目……っ! 

 今回王様を引いたのは由比ヶ浜さん。由比ヶ浜さんは正直どんな命令を出すのか分からないんだよなぁ。でも、一つ言えることがあるとすれば、少なくとも雄二よりは酷い命令はしないはず! 

 

「えーとね、それじゃあ……一番と九番がハグする!」

 

 ちょっと待って。

 それ事故起きるやつ。

 ってか僕一番なんだけど!? 

 

「九番は私です……あの、一番の方ってどなたですか……?」

 

 訂正。

 ありがとう由比ヶ浜さん。君は幸運の女神様だよ。

 おずおずと手を上げてきたのは姫路さんだった。キョロキョロと辺りを見渡して、誰が一番なのかを探している様子だ。

 これは、その、いいのかな……? 

 

「えっと、一番は僕だよ」

「吉井君が一番ですか?!」

 

 なんだかとても嬉しそうな反応をしてくれた姫路さん。そんなに僕とハグするのがいいのかな……いや、これってもしかして、ハグじゃなくて、『剥ぐ』なのか……? 身ぐるみを剥ぐってことなのか……?

 

「おい吉井の奴がどんどん面白そうな表情浮かべてんぞ」

 

 八幡が何やらじとーっとした目を見せながら言ってくる。

 面白そうな表情って何!?

 

「えっと、つまり一番がヨッシーで、九番が姫路さんってことでいいのかな?」

 

 王様である由比ヶ浜さんがまとめてくれた。

 やばい、このままだと姫路さんに身ぐるみ剥されてしまう……!

 

「……明久の奴、羨ましい……けしからん!」

 

 ムッツリーニ!?

 君は姫路さんに身ぐるみ剥されることがそんなに羨ましいのかい!?

 いやある意味では羨ましいのかもしれないけど、少なくとも僕には露出癖も服を脱がせてもらう趣味もないよ!?

 

「明久よ。覚悟を決めるのじゃ」

 

 秀吉ぃ!

 そんなにこにこした表情を見せないで!!

 

「あの、吉井君……そろそろ、いいでしょうか?」

「へ? あ、う、うん……覚悟は、出来たよ……」

 

 僕を剥いでも精々塩と水しか出ないよ!? 美味しくないよ!?

 

「……何処をどう勘違いしたらあんだけわけわからない反応が返ってくるのかしら」

「諦めろ、雪ノ下。吉井の反応は、ある意味で俺達の予想を遥かに上回る」

「そうね……現状を受け入れるわ」

 

 なんだか可哀想な物を見る目で見られているような気がするんだけど。

 というか実際そんな目で見ているよね?

 とかなんとか思っている内に、いつの間にか姫路さんが近づいてきていた。

 ちょ、姫路さん? まだ心の準備が……っ!

 

 ぎゅっ。

 

「……あ、あれ?」

 

 僕の身体を包み込む優しい柔らかさ。

 例えるならば、お母さんの温もりの中にいるような、そんな感じ。

 両側の頬に伝わってくる幸せ感覚は、僕の中の何かを目覚めさせようとしている。

 

 簡潔に言うと、凄く気持ちいいです。

 

「くっ……明久め……っ!(ブシャアアアアアアア)」

「ムッツリーニ君。そんなにハグしたかったら、後でボクとする?」

「なんだと……!?(ブシャアアアアアアアア)」

 

 工藤さんのお誘い文句によって、ムッツリーニの鼻血が更に酷いことに!!

 すかさず彩加と秀吉の二人がティッシュを持ってきて、ムッツリーニの鼻血を処理する。なんだかごめんね? そんなことまでさせちゃって……。

 

「雄二。私も後で雄二にハグする」

「する理由がねぇだろ!?」

「王様の命令」

「もうそれは手を繋ぐって命令で終わりだ! それ以上はルール的にも無効だからな!?」

 

 霧島さんと雄二の二人が、何やらよく分からない攻防戦を繰り広げている。一体裏では何が起きているのだろうか。正直姫路さんの感触に五感のほとんどが支配されていて、実はもう頭がくらくらしてきている。柔らかいし、なんだか花のようないい香りがするし、こんな幸せ夢心地を味わっていいのかなって思う位。

 本当にありがとう、由比ヶ浜さん……君は本物の女神だよ。

 

「そこまでだよ! 二人とも離れるー」

 

 もう少し堪能したかったけど、由比ヶ浜さんによってストップがかけられる。

 何事にも始まりがあれば終わりがある。今回の命令もまた終わりを迎えたということか。

 それにしたって、僕もこんな想いが出来てよかった……!

 

「それじゃあ気を取り直して次いってみよっかー」

 

 どんどん進行していく工藤さん。

 僕達はもう一度紙を器に戻し、それから。

 

「王様だーれだ!?」

 

 最早お決まりとなった台詞を全員で合わせる。

 そして次に王となったのは――。

 

「俺か……」

 

 八幡だった。

 そういえばここまで王様になっている人はバラバラだね。いい調子で来ているのかもしれない。

 一体八幡はどんな命令を――?

 

「……一番から九番までに命令する」

 

 お、今回は全員に対しての命令かぁ。

 このパターンはまだ見たことなかったから、八幡がはじめてかな?

 そうしてみんな、次の命令を待つ。

 すると八幡は、僕達に対してこう命令した。

 

「今から一分間、目を瞑ったままその場から動くな」

 

 おっと?

 一体何をさせようというのだろうか?

 

「別にいいけど……」

 

 美波はキョトンとした表情を浮かべつつ、目を閉じる。

 由比ヶ浜さんは最初から何の疑いもなく目を閉じていた。

 彩加や秀吉は不思議そうに八幡を一瞥した後で目を瞑る。あ、可愛い。

 工藤さんや姫路さんも、言われるがまま目を閉じた。

 霧島さんはそこまで興味なさそうにして命令に従い、雪ノ下さんと雄二の二人だけ何かに気付いたみたいだ。え、この命令に一体何の意味があるの?

 

「……なるほどな。考えたな、比企谷」

「……何のことだ」

 

 含みのある声を出す雄二。

 僕もみんなが目を閉じた後に瞑ってしまったから、今何が起きているのか分からない。

 

「カウントは今からな。それじゃあスタート」

 

 八幡の声が聞こえてくる。

 それに合わせて周りでは色々と話声が聞こえてくる。

 やがて一分が経過して――。

 

「あーっ!!」

 

 僕はそこでやっと気付いた。

 

 ――八幡は、王様ゲームの命令を使ってその場から逃げ出したのだ。

 

 




八幡、逃走。
ちなみに八幡が最後に実行した命令につきましては、作者が実際に過去にやられたことを参考にしています。
この命令、何と言うか、卑怯ですよね……所詮遊びですが、何故かこういう場では律儀にしっかりと命令を守ってしまうといいますか……ここまで色々と命令を受けてきているからこそ、守らざるを得ないと言いますか……。
あと、明久は『ハグ』を『剥ぐ』と勘違いするという、ある意味意味不明な反応をしていましたね……書き上げて思ったのは、『よく剥ぐって言葉知ってたな……』ということでした。


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第十二問 バカとみんなと王様ゲーム (5)

 八幡が逃げ出してしまったことにより、王様ゲームは中止となった。くそぅ、あんな手段で逃げるなんて八幡らしい……悔しいけど、上手いと言わざるを得なかった。

 ちなみに、逃げ出した八幡に対して真っ先に捕まえに行こうと部屋を出たのは美波だった。その次位に由比ヶ浜さんで、あとの人達は少しのんびりしてからそれぞれの部屋に戻っていった。

 僕はというと、喉が渇いたから自動販売機で飲み物でも買おうかなぁと思いつつ、そんなお金がなかったことに後から気付いてとぼとぼと旅館を歩いている所。そうして旅館内を歩いていると、

 

「……ん?」

 

 一人、ロビーで勉強に励んでいる女の子が居た。

 その子は一見すると不良に間違えられてしまいそうな程、威圧的な態度を取っている。だけど、こうして勉強している姿を見ると、ただ真剣なだけなのかもしれないと思った。

 多分F組の子じゃないから、別のクラスの子かな……?

 

「あの子、確か川崎沙希さんですよ?」

 

 後ろから声をかけてくれたのは、姫路さんだった。

 

「川崎さん?」

「はい。私と同じクラスの女の子なんですけど、結構遅刻することが多くって……今もなかなか他の子と話さないから、私、ちょっと心配で……」

「そっか……」

 

 川崎さんかぁ。

 一体どんな女の子なんだろう。ちょっと話しかけてみようかなぁ……。

 それに、もうすぐ消灯時間みたいだし、時間的にはちょうどいいのかもしれない。

 

「ねぇ、そろそろ消灯時間だよ?」

 

 試しにそう声をかけてみたけど――無視。

 ピクりとも反応しない。

 

「おーい、聞こえてるー?」

 

 余程集中しているのか、川崎さんは視線を教科書とノートに向けたまま、こちらを見ようともしない。

 

「かーわーさーきーさーんー」

「うるっさいなぁ……そこまで言わなくても聞こえてるっての」

 

 不機嫌そうな表情を浮かべながら、川崎さんはやっとこっちを見てくれた。

 ……ん? なんだか雰囲気が誰かに似ている気がするぞ?

 

「あの、川崎さん。そろそろ消灯時間なのでお部屋に戻った方が……」

 

 ここぞとばかりに姫路さんが言う。

 しかし川崎さんは、

 

「ん? あたしがどこで何してようとあんた達には関係ないよ。大丈夫。あんた達に言われなくても、時間がきたらちゃんと部屋に戻るから」

 

 何処かぶっきら棒にそう言ったのだ。

 あ、そっか……誰かに似ていると思ったら、

 

「なんだか川崎さんって、八幡っぽいなぁ」

「は? はちまん?」

 

 あ、川崎さんは八幡のこと知らないんだった。

 

「僕の友達だよ。本人は頑なに友達だって認めてくれないんだけどね」

「……あっそ」

 

 特に興味もなさそうに言葉を返してくる川崎さん。

 確かに、知らない人に対する返答なんてそんなものなのかもしれない。

 だけど、なんだろう。

 根本的には少し違うんだけど、何処か八幡に似ている所のある川崎さんを、僕は放っておけないと思ったのかもしれない。

 それに、姫路さんが心配しているんだ。

 何とかしてあげたいって思った。

 

「ねぇ、川崎さん。川崎さんって好きな食べ物とかある?」

「……は? 何よいきなり」

 

 なんかキョトンとされた。

 そんなに変な質問したかな?

 

「あの、吉井君……今の質問、なんだか合コンみたいですよ?」

「へ? そうかなぁ」

 

 何か共通の話題を探そうとする時って、身近なものから聞くのが普通だと思うんだけどなぁ。

 

「……なる程。コイツはバカなのか」

「いきなりバカって言われた!?」

 

 何か物凄く唐突にバカ扱いされてびっくりしたよ!?

 僕今の流れでバカって言われる要素あったかな!?

 

「少なくとも、姫路はともかくアンタは同じクラスでもなんでもないよ。話す理由だって特にない筈。だから放っておいても……」

「それは、僕が話したいからじゃ駄目かな?」

 

 川崎さんは言葉を失ったみたいだ。

 あれ? そんなに変なこと言ったかな……僕はただ、川崎さんとお話したいだけなのに。

 一方で姫路さんは、何故か嬉しそうに笑っていた。

 

「どうしたの? 姫路さん」

「うふふ。なんでもありませんよ……明久君♪」

 

 あれ?

 今姫路さん、僕の名前を……。

 

「……勝手にすれば?」

「うん。僕の勝手にさせてもらうね。どの道そろそろ消灯時間だし、せっかくここまで来ているんだからたまには違うクラスの人と話してもいいんじゃない? 勉強している所で申し訳ないけど……」

「……別に。明日でも出来ることだから」

 

 そう言って川崎さんは、開いていたノートと教科書を閉じてくれた。

 なんだか川崎さんって。

 

「優しいね」

「……へ?」

 

 川崎さんは突然『何言ってんだコイツ』みたいな目で見てきた。

 この数分間だけで一体何回僕は川崎さんに変な目で見られているんだろうか。

 

「なんだか、優しいお姉さんみたいだなぁって」

「アンタがガキっぽいだけじゃないの?」

「確かに、明久君は何処か子供っぽい一面もありますよね」

「あれ? 僕そんなに子供っぽいかな?」

「子供ぽいってか、バカっぽい」

「そんなに言わなくてもよくない!?」

 

 何かさっきから川崎さんに攻撃されているような気がするよ!?

 でも、川崎さん何処か楽しそうにしているように見えなくもないし……うーん、これはどう反応したらいいんだろう?

 

「私、川崎さんのこと少し勘違いしていたかもしれません。クラスではなかなか話してくれませんけど、こうして話してみると結構面白い人なんですね」

「……」

「だから、もし今度教室で見かけたら、また、声をかけてもいいですか?」

 

 意を決して、姫路さんは川崎さんに言った。

 その表情はとても真剣で、きっと姫路さんは川崎さんと友達になりたいと思ったのだろう。

 その気持ちを察してくれたのか、川崎さんも姫路さんの言葉を無碍に扱わない。

 きちんと受け止めて、そうして上で。

 

「……アンタが話したければ、いいんじゃない?」

 

 そう言ったのだ。

 すると姫路さんは、笑顔で川崎さんの両手を掴んで、握手する。

 

「ありがとうございます♪」

 

 なんだろう……とても心が温まる瞬間だった。

 誰かと誰かの輪がこうして繋がることはとてもいいことだ。

 それに、仲良くなりたいと思った人とこうして仲良しになれるのは、お互いにとっても気持ちのいいことだと思う。

 だって、人は全員と仲良くなれるわけじゃないのだから、せめて友達になりたいと思った人だけでも――大切にしたいと思った人だけでも、少しでも長く一緒に居られたら嬉しいなって思うから。

 

「これからもよろしくね、川崎さん」

「……よ、よろしく」

 

 だから、八幡のように不器用な川崎さんに対して、僕は心から『友達になりたい』と思ったのかもしれない。同情とかそう言った気持ちなんて何処にもなく、本当に単純に、興味を持って、話してみたいと思ったから。仲良くなりたいと思ったから。

 

 そうして、合宿一日目は終わりを告げたのだった。

 

 




本編でやっと川崎さんが登場してくれました……。
なんとなく察してくださった方もいらっしゃるかもしれませんが、当作品の川崎さんは今の所若干明久に興味を抱いている段階です。
というか、明久が川崎さんに対して『友達になりたい』と思っているのが正しいかもしれません。
ちなみに、原作通り明久は、姫路さんについては本当に女の子として気になっています。そこは根底として崩してはいけないと思っているので。
ただ、最終的にどうなるのかにつきましてはまだ分かりません……。
次回からは八幡視点で合宿二日目の様子をお送りいたします。
今の所そこまで登場していない葉山グループに、果たして出番はあるのでしょうか?


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第十三問 彼の知らない所で、一歩前へと踏み出した。 (1)

第十三問 【日本史】
以下の問いに答えなさい。
「武家社会において尊重された『道理』について説明しなさい」

雪ノ下雪乃の答え
「歴史の推移を古今を通じて当然の筋道としてとらえた観念のこと」

教師のコメント
正解です。中世に流行したこの観念は、武家社会の基本だったそうです。

土屋康太の答え
「月経時に下腹部に起こる痛みで、女性に起こる痛みであり……」

教師のコメント
それは生理です。

吉井明久の答え
「道の理のこと」

教師のコメント
漢字をそのまま文章にしただけじゃないですか。



 学力強化合宿二日目。

 昼間の時間帯は昨日と同じように勉強に励むこととなった。正直、次の日に待ち構えているテストが激しく面倒臭い。しかし、テストで点数を取り、赤点を回避出来なかった場合の処遇がもっと面倒臭い。つまり、頑張るのであれば今頑張った方がマシだ。そんな考えの元、俺は今日もまた島田と一緒に勉強を進めた。途中何度か由比ヶ浜に質問されたり、吉井に質問という名前の妨害をされたりもしたが、それとなく充実した時間となった気はする。とはいえ、気になることもあった。

 

 ――葉山隼人からの視線だ。

 

 別に、アイツにとって気になることをした覚えはない。もちろん、アイツの周りの人間に対しても俺の方から何かした覚えもない。

 だと言うのに、葉山隼人は、俺と吉井のことをジッと見つめていることがあるように思えた。その度に海老名さんが鼻血を噴き出してしまっているのだから嫌でも気付いてしまう。それがなくともボッチは視線に敏感だ。尚の事気にするなという方が難しいまである。

 

「ねぇ、どうしたの? ハチ。さっきからきょろきょろと辺りを見渡したりして……」

「……何でもない。気にしなくていい」

「気にするわよ。勉強も少し上の空で身に入ってなさそうじゃない」

 

 確かに、いくら充実した時間が過ごせているとは言っても、肝心の中身が伴わなければ意味がない。集中出来ない原因があるのも俺にとって不利益でしかない。なんて言ったって相手はあの『みんなの葉山隼人』だ。そんなアイツが、吉井はともかくとして俺の方を意味ありげに見る理由が分からない。そんな理由など存在しない筈だ。葉山にとって俺の存在は、友達になれない相手なのだから。

 

「ちょっと、ヒキオ」

 

 そんな事を考えていたら、一人の女子生徒に声をかけられた。というか、彼女のことはよく知っている。

 

 ――三浦優美子。

 

 海老名姫菜の介抱役で、おかん気質で、そして――葉山隼人のことが気になっている女の子。

 そう、ある意味でこれは異常事態なのだ。あの三浦が動かない筈がない。当然三浦は葉山に事情を聞こうとするも、アイツが三浦に口を割るとは思えない。故に、彼女は俺の所までわざわざ足を運んできたのだろう。

 だが生憎、俺も葉山の考えを読み取ることが出来ない。アイツが何を考えているのかなんて、そんなに近い距離に居るわけでもない俺に理解出来る筈がない。だから彼女がやろうとしていることは徒労に過ぎない。意味のない行為にはさっさと終止符を打つのが一番。

 

「お前が気にしていることの答えなら、俺はよく分からない、としか言えない」

「は?」

 

 こえぇ……超こえぇ……。

 明らかに威圧してくるじゃん……怖すぎだよぉ……ふえぇ……お家帰りたい。

 

「三浦さん。いきなり来て何よその態度は」

 

 食いついてきたのは島田だった。

 島田は不満そうな表情を浮かべながら、三浦をキッと見つめている。対する三浦もまた、そんな島田に対する不快感を隠そうともしていない。

 お互いに一触即発。

 止めて! 仲良くして!!

 

「あーし、今ヒキオと話しているんだけど。邪魔だから引っ込んでてくれない?」

「ハチは今私達と勉強しているの。今するべき話じゃないなら後にしてくれない?」

「邪魔者はすっこんでろって聞こえなかった?」

「話なら後にしてって聞こえなかったかしら?」

 

 もうやめて! 俺の精神がゴリゴリ削られていくから!

 何なの? 見えない筈の火花がバチバチしているのが見える気がするよ!?お互い何処から火花出しているの? 怖すぎるよ? あまりの怖さに震えが止まらないよ?

 

「ま、まぁまぁ二人とも。今はとりあえず勉強に戻ろうよ? それにさ、今はそういうことしている場合じゃないと思うし、ね?」

 

 そんな二人の間に割って入ってくれたのは、由比ヶ浜だった。

 ……正直、由比ヶ浜がそうやって自分の意見を言おうとしてきたのは意外だった。

 彼女は所謂『空気を読むタイプ』の人間だ。それはつまり、周りに気を使い、自分の意見を言わないことにも繋がる。確かに、奉仕部に関わり始めてからの彼女は、自分の意見を出してくるようになったのだろう。そして今、クラスの中でも仲良しの二人に対して、自ら前に立って止めようとしている。

 彼女の中で、何かが変わりつつあるのかもしれない。

 

「……結衣の言う通りだね。ごめん、私がカッとなっちゃってた」

 

 最初に謝罪の言葉を述べたのは島田の方だった。自分の非を素直に詫びて、頭を下げて見せたのだ。

 これには、三浦も目を大きく見開いていた。

 

「……別に、こっちも時間を見ればよかっただけだし。その代わりヒキオ。休み時間にちょっと顔出してもらうから、覚悟するし」

 

 何故か俺の休み時間に予定が詰まった瞬間だった。

 しかし、いくら時間を設けた所で俺は答えを用意出来るとは思えないのだが……いずれにせよ、由比ヶ浜のおかげでこの場が何とか収まったのは事実だ。

 

「その、ありがとな。由比ヶ浜」

 

 だから俺は、素直に由比ヶ浜に対して頭を下げた。

 

「う、ううん! 大丈夫! 私が気になったから口を出しただけ、だし……けど、どういたしまして」

 

 その時の由比ヶ浜の表情は、何処か嬉しそうだった。

 自分も役に立てたことを嬉しそうに思っているような、そんな印象が見受けられた。

 

「ありがとね。おかげで私も三浦さんも、喧嘩しなくて済んだから」

「私はただ、二人に喧嘩して欲しくなかったから……」

 

 彼女は基本的に、友達との仲を優先しようとする。

 それは、由比ヶ浜結衣が優しい女の子であるのも理由の一つであるとは思うが、やはりその中でも彼女自身の意見が反映されている証拠なのだろう。

 

 それは恐らく、雪ノ下雪乃や、吉井明久と関わったから変われたのだろう。

 

 ……俺も、多分この数か月間で考え方や感じ取り方が色々変わったような気がする。

 実際、こうして誰かと密に関わること自体、本来の俺からしてみたらあり得ないことだ。

 それがいい形なのか悪い形なのかは分からないが、とにかく周りを取り巻く状況が、少しずつ変化してきている。学生として当然の変化かと思いきや、個人個人で大きな差が出てきているのだ。

 

 一体、その根拠は何処から来ているのだろうか。

 

 昨晩、葉山隼人は宣戦布告に近いことをしてきた。島田美波は、勘違いさせるような発言を何度も連発してきた。工藤愛子は少しだけ素の自分を見せてきた。

 俺はそれらに対して、ただ受け身を取っていただけだ。

 

 俺は少しずつ自分の気持ちが――分かるようで、分からなくなってきていた。

 

 考えるだけ無駄ならば、いっそ一度考えることそのものを諦めた方がいいのかもしれない。

 そう考えた俺は、恐らく喉まで出かかっていた気持ちを呑み込んでしまった。

 

 結局、俺がその時考えたことは、その日の内に思い出されることはない。

 




合宿二日目、そして八幡達やその他の人達の心情を描く話が始まりました。
一応今回の話を以て学力強化合宿編については終わりにしようかなーって思ってます。
何分、バカテス原作とは大きく異なる話になっているので(最大の核となる集団覗きをする理由がそもそも存在しない為)。
ただ、今回の合宿を描く上でまだまだ葉山グループが描き切れていないなと思っている為、彼らの心の動きを書いていきたいという願望があります。
それから、バカテスキャラにもまだまだ登場させたい子達がいますし……。


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第十三問 彼の知らない所で、一歩前へと踏み出した。 (2)

 三浦からの追求をやり過ごし、今は飯を食べ終えた頃。この後は自由時間となり、勉強すら時間ではない。風呂に入って疲れを取るも、何処かまだ取りきれていない気がする。昨日今日と色々ありすぎて疲れたので、

 

「あ、八幡!」

 

 ロビーに設置されている椅子に座り、浴衣姿でコーヒー牛乳をゴクゴクと飲んでいる戸塚に出会った。俺の身体に溜まっていた疲れが一気に吹き飛んだような感覚すらした。何これ戸塚セラピー? 戸塚には癒し効果があるの? 一家に一人戸塚彩加? いや他の人に渡すのなんて無理だから一生俺の嫁でいてください。

 

「お、おう。戸塚か」

 

 極めて冷静に挨拶する。クールな男は挨拶もとちったりしない。決して吃ったりしていない。絶対だ。

 

「明日はいよいよテストだね。準備の方はどうかな?」

「島田や他の奴らのおかげで、一先ず問題はなさそうだ。国語に関しては自信ある。数学や理科については、せめて教えてもらった分は頑張ろうと思う。戸塚は?」

「僕の方も順調だよ。後でちょっとだけ見直しして、明日に備えようかなーって」

 

 どうやら戸塚も心配することなく捗っているらしい。赤点の可能性がありそうなのは由比ヶ浜や吉井と言ったところだろうか……特に吉井は、最後まで何をやらかすか分からない奴だから油断ならないだろう。知らんけど。

 そんなことを考えていると、突然戸塚が嬉しそうに微笑んでいた。何この笑顔。守りたいこの笑顔。可愛すぎない? 天使すぎない? 

 

「ど、どうしたんだ?」

 

 とはいえ、このタイミングで戸塚が笑う理由が思いつかなかった俺は、潔く尋ねることにした。今までの流れで可笑しな所なんて存在していただろうか? 

 すると戸塚は、とても嬉しそうにこう言った。

 

「八幡とこうしてお話出来るの、なんだか嬉しくて」

 

 はい落ちた。

 これはもう戸塚ルート入りました。一世一代の告白をして振られて打ちひしがれるルート来ました。振られた上に打ちひしがれるのかよ。

 だが戸塚は、更にこうも付け加えた。

 

「それに、八幡がテストのためとはいえ他の人を頼ってる姿って、何となく新鮮だなぁって」

 

 ……確かに、言われてみればそうかもしれない。今回の合宿が始まる前、俺は自分で自分の勉強を進めることに徹しようとしていた。だが、蓋を開けてみると、理系科目を島田に頼りきっている自分がいた。その方が効率が良い? そんなわけない。一人でやる方が効率が良いに決まっている。そもそも勉強とは複数で行うものではない。俺は今までの信念とかとズレたことを行なっていたのだ。

 

「八幡が他の人のことを考えている優しい人なんだなぁってことは、前の林間学校のボランティアの時から知ってたんだけどね」

「そ、そうか……」

 

 こうも素直に褒められまくると、調子が狂ってしまう。

 とはいえ、今までに関しても全て自分のために行動したものだ。結果として誰かに影響を与えたのかもしれないが、根本にあるのは『自分の為に』である。

 それ以上に、俺は戸塚彩加が周りのことをしっかりと見ることが出来る人であるということを再認識させられた。天使な上にこんな性格まで兼ね備えているなんて、最強じゃね? 

 

「あら? 貴方達……」

「「ん?」」

 

 そうして戸塚との細やかなひと時を満喫していたところ、そこを通りかかった人物に声をかけられた。

 

「あれ? 木下さん?」

 

 最初に声をかけたのは戸塚だった。

 どうやら俺たちの元に来たのは木下だったようだ。ただし、戸塚の反応から見て姉の方だろうか。

 

「……え?」

 

 呼び止められた木下姉は、何故か目を見開いていた。え、何か驚く要素あったか? 

 

「どうかしたの?」

 

 当然、戸塚は尋ねる。

 すると木下姉は、慌てて首を振った後で、

 

「いや、一発で私が秀吉じゃないって見破られたのは初めてだったから、つい……」

 

 確かに、戸塚は何の迷いもなく『木下さん』と呼んでいた。戸塚が木下のことを呼ぶ時にはいつも『秀吉』と呼んでいるらしい(詳細は吉井から聞いただけなので事実確認は取れていない)。そもそもクラスメイト相手に男同士で『さん』付けをするのも微妙な所か。

 

「んー、確かに凄くよく似てるけど、やっぱり木下さんは木下さんだと思うよ?」

「っ!」

 

 何だこの反応は、天使そのものじゃねえか。

 それに、木下姉もまた、今の戸塚の言葉を聞いて完全に言葉を失ってしまっている。顔を赤く染めて、何処か嬉しそうにも見えた。

 コイツはコイツで、散々間違えられてきたんだろうな……言っちゃ難だが、木下と木下姉は、実は一卵性双生児なのではないかと思われる程似ている。そもそも男女の段階で二卵性なのは確定しているのだが、そこそこ付き合いが長くないと違いが分からないのではないかと思われる程、瓜二つだ。若干瞳が違う位だろうか。やっぱそれ位じゃ分からねぇよ。

 他人に自己の存在を肯定してもらえることがどれ程嬉しいことなのか。肯定してもらえたことのない俺には分からなかった話だ。

 

 ――だが、それ以上に。木下姉はまだ何か隠しているように見える。

 

「ところで、声をかけた理由はなんだ?」

 

 思い返せば最初に俺達に声をかけたのは木下姉の方からだった。

 だから俺は、その理由を尋ねることにする。

 

「あ、えっとね? 前に入った喫茶店で貴方がバイトしていたのを思い出してね……うちの愚弟……秀吉とは友達なのかなって思って」

 

 今愚弟って言ったよね?

 普段家ではこの姉弟関係どうなってんの? 何か闇を見た気分だよ?

 

「知り合いではあるな」

「もぅ、八幡ってば頑なに友達って認めないんだから……」

「戸塚は俺の友達だな!」

 

 友達っていうか、最早天使だけどな!

 そんなことを言っていると、木下姉は。

 

「なる程。比企谷君と戸塚君は仲良し、と……でも、吉井君とも仲良しだったみたいだし……実は比企谷君って素質ある……?」

 

 待ってください。

 一体何の素質があるというのですか。

 

「そう! ヒキタニ君は絶対素質あるんだよ! とつ×はちに限らず、はや×はち、あき×はちと、その角度は様々……だけど、ヒキタニ君が受けなのは絶対不変の真理だよね!?」

「……何処から現れた」

 

 突如として現れたのは、海老名さんだった。

 物凄い興奮したように早口で喋っている。その相手は俺や戸塚ではなく――木下姉だった。

 

「ま、まさか、比企谷君が……? って、そうじゃなくて……」

「隠さなくても分かるよ? 貴女も素質あるって……そういうのは抱えるものじゃなくて、いっそのことオープンにした方が気が楽になるよ?」

 

 え、ちょっと待った。

 海老名さんが木下姉に対してそう言うってことは、もしかしてこの人もまた、腐海の住人であるということ……?

 

「わ、私は別に、そんなんじゃ……」

「そうだよねぇ。ここじゃ戸塚君もヒキタニ君も居て話しづらいもんねぇ。そうと決まればちょっと奥の部屋で語り合おうか? 今夜は寝かさないよ?」

「あ、ちょ……っ」

 

 そう言うや否や、木下姉は海老名さんにドナドナされていった。

 

「……僕達も部屋に戻ろっか?」

「そうだな」

 

 残された俺と戸塚の二人も、部屋に戻ることにした。

 




速報:海老名さん同志を見つける。
と言う訳で、原作でもおなじみ優子さんネタでした。
きっと海老名さんが優子さんのBL好きを覚醒させてくれるに違いない……っ!
木下さんもまた、バカテスでは珍しく仮面を被っている人物なんですよね。普段バカテスキャラは表裏があまりないだけに、彼女は珍しいなぁって思ってます。
そしてそんな彼女は、一発で自分を弟ではなく「木下優子」として見てくれた戸塚に対して興味を抱きつつある……そんな回でした。
家ではズボラな彼女ですが、果たして改善の見込みはあるのでしょうか……。


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第十三問 彼の知らない所で、一歩前へと踏み出した。 (3)

 部屋に戻ってのんびりしている俺達。今は消灯前である為、寝ても構わないような時間帯だ。昨日は結局俺が逃げる前まで延々と王様ゲームをやらされていたから今日こそはじっくり寝たいところだ。

 

「ねぇ、ちょっと話をしようよ!」

 

 突然吉井がそんなことを言いださなければ、このままゆっくり眠れたというのに。

 

「いきなりなんだよ明久。一体寝る前に何話すっていうんだ?」

「んー、そうだなぁ……」

 

 坂本に促される形で考える吉井。

 考えている間に布団に入り込んでしまえば、あとは寝たふりで誤魔化せばいいだろう。

 そんなことを模索していた俺だったが、

 

「周りに居る女の子について話してみようよ」

 

 大多数の女子にとって地雷にしかならない話題が出てきて、思わず被ろうと掴んでいた布団を落としてしまった。コイツは本当に頭大丈夫だろうか。

 

「……女子評論会か?」

「なんだか一気に男子会っぽくなってきたのぅ。心なしかワクワクしてきたのじゃ」

「そうだねー。友達のことを話すのってなんだか楽しいよね!」

 

 土屋は目を輝かせ、木下と戸塚の二人は純粋そうに笑っている。あぁ、コイツら位に純粋になりたかった……俺なんて、吉井がその話題を提供した段階で土屋と同じ発想抱いているからな。ちなみにそれは坂本も同じらしい。

 

「んじゃ、誰から話す?」

「そうだねぇ。最初は自由に話しやすい人からいこうよ」

 

 坂本の言葉に乗っかる形で、吉井がそう提案する。

 自由に話しやすい女子ねぇ……。

 

「……清水、とか?」

「八幡。それは自由に話しやすいというよりかは、自由に文句を言えるの間違いだよね?」

 

 強ち話題に間違いはないと思ったんだが。

 清水相手なら、いくら何を言っても別に俺達なんて眼中にないような反応をしそうだからな。聞かれる心配なんざ微塵もしていないが。

 

「アイツはまぁ、見て分かる通りの同性愛者だからな……」

「……島田美波とよく一緒に居る」

「確かに、島田さんと清水さんって仲良しだよねー」

 

 戸塚よ。

 あの二人は仲がいいわけではない。清水が一方的に島田相手に好意をぶん投げているだけだ。いわば一方通行の道を時速百八十キロで走り抜けているようなものだ。当然、島田は避け続けているものの逃げ切れるわけがない。何せ相手は暴走超特急だからな。

 

「それで済ませていいのかは分からないのじゃが……」

 

 若干、木下は気付いているようだ。コイツはコイツで、隠れBL好きの姉を持っているわけだからな……腐海の住人が身内に居ると、なんとなく感づいてしまうものなのだろうか。

 

「とりあえずアイツを見ていると、俺はGW中にバイトしていた時を思い出してな……」

「そういえば坂本君達って喫茶店でアルバイトしたんだよね?」

 

 少し顔色を青くしていた坂本に対して、戸塚が尋ねる。そう言えばあの喫茶店の店長の娘だったな……あの家族、正直どうなってんのか分からねぇ。ただ一つだけ言えるのは、清水の男嫌いを作ったのはあの店長に違いないということだ。

 

「アルバイトと言えば、彩加はまだ会ったことないと思うけど、いろはちゃんって子がいてね?」

 

 吉井が最初の爆弾を叩きつけてきた。

 よりによって一色の話題を出すかコイツ。

 

「……後輩女子」

「後輩ってことは、まだ中学生ってこと?」

「うむ。それで、八幡との仲がよさそうな女の子なのじゃ」

「誤解だ木下。それは決してない」

 

 俺が一色と仲がいいなんて、太陽が今日から西から東に昇る位あり得ない話だ。アイツは葉山のことが気になっていて、その過程で俺を利用しているだけだ。むしろ仲がいいのは吉井ではないのだろうか。よくメールをすると聞いたし。

 

「明久も大概だが、比企谷もやっぱ鈍感だよなぁ」

「何度も言ってるだろ。俺は鈍感じゃない。人一倍人の悪意に対して敏感なんだ。敏感過ぎて空気になるまである」

「八幡が何言っているのか分からないよ……?」

 

 首を傾げている吉井。

 お前がその動きをやっても別に可愛くねぇ。そういうのは戸塚か木下にやってほしい。戸塚なら写真に収めたい。ていうかお持ち帰りしたい。

 

「今度彩加も一緒に遊びに行ってみようよ。確かいろはちゃんは総武高校を受験するって言ってたし、勉強教えるのもありかもしれないよ?」

「それもそうだね! 八幡もね?」

「お、おう……」

 

 ナチュラルに俺まで誘われてしまった。しかも戸塚に誘われた。やったぜ。戸塚と出かけるとかこれってもしかしてデートという奴では?

 なんて考えることはしない。そもそも吉井や一色が居る段階で、俺の気苦労が重なるだけなのは目に見えている。戸塚が唯一の癒しだ。

 

「そう言えば、秀吉ってお姉さん居るよね?」

 

 今度は吉井より木下姉についての話題提供がされた。

 姉の話を振られた木下は、少し複雑そうな表情を浮かべつつ、

 

「姉上は学校の外と家の中では随分と違うのじゃ……」

 

 なんとなく、それは見ていて思った。学校の外だと優秀生として模範的な行動を取っている。しかし、喫茶店で木下に見せた家族としての顔を見る限り、少なからずそっちの方が素であるのだろうと思った。

 

「姉上と言えば、さっきワシの携帯に上機嫌にメッセージが送られてきたのじゃが……何かあったのじゃろうか」

 

 多分、それは戸塚との一件が原因だろう。

 

「なぁ、木下。お前ってよく姉と間違えられることとかってあるか?」

 

 試しに、俺はそう尋ねる。

 すると木下は、

 

「うーむ。少なくともワシが間違えられることは少ない筈じゃ。じゃが、姉上がワシと見間違えられることは多いと聞く」

 

 なるほどな。だからあの時、かなり嬉しそうだったのか。結局海老名さんにドナドナされた後どうなったのか分からなかったが……いや、ひょっとしたらそれも機嫌よくなったことと関係しているのかもしれないな。知らんけど。

 

「木下さんって、可愛いよね?」

「……今、何と申したのじゃ?」

 

 木下が、戸塚の言葉を信じられないと言いたげな目をしながら聞いていた。

 そこまで姉が可愛いと言われることが信じられないのかコイツは。本当に普段家の中でどんな生活を送っているんだよ。

 

「雄二はいいよねぇ。霧島さんみたいな美人の彼女が居て」

「おい明久。俺と翔子は別に付き合っていない」

「へ? もう付き合ってるんじゃないの? 昨日の王様ゲームとか無茶苦茶イチャイチャしてたじゃん」

 

 煽るなぁ、吉井の奴。

 坂本は霧島の話題を出されると不機嫌になる。コイツなりに思う所があるのだろう。

 

「あれは翔子の命令だろうが! 俺の意思じゃねぇ!」

「けど、霧島さんと坂本君って、お似合いだよね?」

「……っ」

 

 戸塚からの純粋な言葉に、坂本は何も言えなくなってしまっていた。

 そりゃそうだ。この言葉に対する反論なんてそう多くはあるまい。というか、言葉を返した所で『そんなことないってー』って言われるのが目に見えている。後、戸塚が言っているということは、煽っているとかそう言った意味はなく、本当に本心から語っているのだろう。

 

「……挙式イベント、参加するか?」

「そんなイベントあっても絶対いかねぇよ!」

 

 土屋の言葉を否定する坂本なのであった。

 というか挙式イベントってなんだよ。そんなのあるなら戸塚と行きたいわ。

 

「それじゃあ次は……」

 

 そう呟いて、吉井は次の話題を投げるのだった。

 




男どもがひたすら身近な女の子について語る回です。
男子部屋だとなんとなくこんなことが起こるのかなぁとか思っています。
この女子についてトークは次回も続きます。
まだ、明久の周りや八幡の周りについて語られていませんからねー。
裏では女子会とかやってるのかな……とかついつい妄想してしまいますね。
それにしても、この感じだと夜這いシーンが入るかどうかが分からない……。


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第十三問 彼の知らない所で、一歩前へと踏み出した。 (4)

「工藤さんって……すごくこう、えっちだよね」

 

 次の話題として吉井が提示してきたのは工藤だった。工藤の場合、本人に自覚があるのだからタチが悪い。決して昨日の浴衣から覗かれる太ももを思い出しているわけではない。

 

「……工藤愛子は、ライバル」

「お? ムッツリーニいつのまに工藤とライバルになったんだ?」

 

 何故か闘志を燃やしている土屋と、そんな彼に対して尋ねる坂本。土屋は、工藤のことをライバルと称した理由をこう語る。

 

「……保健体育の知識」

 

 なんとも分かりやすい理由だった。

 

「ムッツリーニは保健体育が得意科目じゃからのぅ……」

 

 むっつりの名に恥じない得意科目だな……。だが、そんな土屋に匹敵する、もしくは分野によっては上回る可能性すらあるのが工藤というわけか。そうなると土屋にとってはライバルとなっても過言ではないのかもしれない。恐らく、この学力強化合宿を通じてそのことを理解したのだろう。ただ、今回のテスト範囲に保健体育はなかった気がするんだが、他の科目はちゃんと勉強しているのだろうか。工藤はともかく、土屋はお世辞にも頭が良いとは言えないはずだが……。

 

「二人が仲良しになったみたいでよかったぁ」

「……! (ブンブン)」

 

 戸塚が何気なく呟いた一言に対して、土屋は全力で否定している。あくまでこいつとしては、仲良しではなくライバルなのだろう。何をそこまで頑なになる必要があるのだろうか。

 

「そういえばさ、僕今日川崎さんって人と友達になったよ」

 

 川……誰だって? 

 吉井から出てきた名前は、少なくとも俺がまだ会ったことのない人物だった。それは他のやつも同じらしく、等しく頭の上に疑問符を浮かべている。少なからず俺達のクラスに居る生徒ではないことは確かだろう。同じクラスだったとしても俺が名前を覚えていない可能性もあるが、戸塚ですら知らなそうな表情を浮かべているということは、本当に初めて出てくる名前なのだろう。

 

「姫路さんや工藤さんと同じクラスの女の子なんだけど、不良っぽい見た目だけどなんだかとってもいい子そうなんだぁ」

「……川崎沙希か」

 

 何故今の流れで土屋は把握することが出来たのだろうか。コイツの頭の中には全クラスに所属している女子のデータでも入っているのではないだろうか。

 

「それでね、その人ってなんだか八幡と雰囲気が似ているっていうか……」

「俺に?」

 

 俺に似ているってことは、ソイツぼっちなのか。

 よくぼっち相手に臆面もなく近づいて、友達になろうとするな……吉井は元からそういう奴だった。

 

「そう言えば、明久は最近姫路とはどうなんだよ?」

 

 ここで反撃と言わんばかりに、坂本が姫路とのことを尋ねてくる。

 すると吉井は、

 

「姫路さんとは仲のいい友達だよ。けど、なんとなく姫路さんとは初めて会った気がしないんだよなぁ」

「案外、実は幼い頃からの付き合いがあるのかもしれぬぞ?」

 

 木下の言葉に対して、吉井は首を傾げながら悩む素振りを見せている。傍から聞いているとただのナンパ文句にしか聞こえないが、本人は至って真面目に悩んでいる。たとえ吉井と姫路が幼い頃から知り合っていた所で俺には関係のない話ではあるが。

 

「ただ、姫路はなぁ……料理下手さえどうにかしてくれれば……」

「……劇薬は禁物」

 

 ちなみに、姫路の料理が壊滅的であるということは既に吉井から聞いている。林間学校の後で何故か調理場に劇薬が叩きつけられていたのを誰かが発見した際、吉井が俺達にこっそり教えたのだ。いや、まぁ……風の噂では由比ヶ浜も似たようなものだということらしいし、最早何も言うまい。ただ、あの時言ったカレーに桃缶発言だけは忘れたくても忘れられないだろう。

 

「そういえば、比企谷と明久の所属している奉仕部には、雪ノ下と由比ヶ浜が居るよな?」

 

 ここで、今度は矛先を俺に向けてきたようだ。

 雪ノ下と由比ヶ浜か……。

 

「雪ノ下は美人だが常に相手を打ち負かそうとする程の負けず嫌いで、由比ヶ浜は……ビッチだな」

「八幡の認識が何だかあんまりな気がするよ!?」

 

 由比ヶ浜はともかく、雪ノ下に関しては嘘は言っていないつもりなんだが。

 アイツ、基本的に相手の心を完全に折るまで叩き潰そうとするタイプだし……実際、俺も何度か心折られているからな。最近は慣れてきたけど、慣れても心は折れるわ。

 

「だけど、八幡達って四人で仲いいよねー」

「そう?」

「そうか?」

 

 戸塚の言葉に対して、俺と吉井の声が被る。吉井は嬉しそうに。俺はどちらかというと嫌そうに。

 

「なんで八幡嫌そうなの!?」

「いや、お前のバカが移るんじゃないかと……」

「確かにな。比企谷の言うことも一理あるな」

「……救いはない」

「そうじゃのう。明久はバカじゃからなぁ」

「せめて何か助けになる一言があってもいいじゃないかぁ!!」

「あ、あはは……」

 

 あの戸塚ですら苦笑いを浮かべている現状。いや、吉井がバカであるという証拠は大量に出てくるが、バカではない証拠なぞ存在しないからな……諦めた方がいいだろう。

 

「けど、雪ノ下さんはともかく。由比ヶ浜さんは少し変わったよね?」

 

 確かに、戸塚の言う通りだ。

 由比ヶ浜結衣は、成長している。それは今日の三浦と島田の間に起こったやり取りを彼女が止めた時に感じられた。正直、あの場面で最初に動くのは雪ノ下だと思っていた。こういう時に相手の心をへし折り、そうして止めるのだと考えていた。だが、実際に動いたのは由比ヶ浜だ。誰よりも空気を読むことに長けていて、だからこそ自分の意見を封印してきた彼女が、率先して動いたのだ。

 俺は、そんな彼女のことが――輝かしく見えていた。

 

「確かにな。けど、比企谷はどちらかというと、島田に目が行きがちって感じか?」

「……」

 

 島田美波。

 思えば俺が高校生活一日目に彼女の隣の席に座ったことで、すべてが始まったように思える。もし、あの時俺が島田の隣ではなかったら、一体どうなっていたのだろう。俺は相変わらずぼっち生活を送り、こんな時間を過ごすことはなかったのだろうか。

 

「八幡と島田は本当に仲好さそうじゃからのぅ」

「……まるで夫婦」

 

 おい待て土屋。そのたとえはおかしすぎるだろ。

 

「島田と比企谷が夫婦ときたか! 案外、比企谷としては仕事から帰ってきたらアイツが迎え入れてくれるのはいいのかもしれねぇな!」

 

 坂本が愉しそうに笑うが、お前は一つ勘違いをしている。

 そこを訂正してやらなければならない。

 

「俺の将来の夢は専業主婦だ。その前提から間違っているから、そんな光景は実現しない」

「…………八幡。問題はそこなの?」

 

 何やら吉井にバカを見る目をされている気がするが、少なくとも俺はお前よりバカではない。あまりにも心外で失礼過ぎる。

 

 結局、その日の俺達のトークは消灯時間を迎えるまで続いたのだった。

 

 




そんなわけで、男子会パート2でしたー。
次回の話で学力強化合宿編も終わりを迎えます。
ただし、次回に一体どんな話が待ち受けているのでしょうか……。


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第十三問 彼の知らない所で、一歩前へと踏み出した。 (5)

 消灯時間が過ぎて、少し経ってからのこと。流石に次の日のこともあるので大体のやつが寝静まったところだ。俺もそろそろ寝ようと思っていたちょうどその時に。

 

「……メール?」

 

 俺の携帯が、誰かからのメールを受け取ったことを告げていた。消灯時間も過ぎているというのに一体誰から連絡が来るというのか。そんなことを考えながら携帯の画面を見ると、

 

「…………げっ」

 

 そこに書かれていたのは、平塚先生の名前だった。いや、マジでなんでこの時間に連絡してくんの? ていうかアンタまだ仕事残ってんじゃねえのか? 色々突っ込みどころ満載なんだが。

 

「…………見なかったことにするか」

 

 一度俺は携帯を閉じる。寝てたとかそういったことにしておけばなんとかなるだろう。うん。ていうかなんとかなってくれ。

 しかし、俺の祈りは届かなかったみたいで。

 

「げっ…………」

 

 また鳴った。

 何としても確認しろって暗に告げている気がする。仕方ない、これ以上無視して変なことされるよりは、今確認してしまった方が……。

 

『ピコンピコンピコンピコン』

 

 待ってほしい。今俺は一応メールを確認しようとしていた。だが、その前にメールを執拗に送るのは如何なものかと思うのですが先生。とりあえずメールラッシュは収まったらしいので、怖さが少し出ているのがなんとも言えない感じだが、勇気を振り絞って内容を確認した。

 

『比企谷君。消灯時間は少し過ぎてしまいましたが、ちょっとだけ話したいことがあります。このメールを読んだらロビーに来ていただけないでしょうか?』

 

 ここまでは普通だな。しかし話したいことって一体なんなのだろうか。

 とか考えながらスクロールしていくと、空白の下にさらに文章が続いているのが確認出来た。

 

『もしかして寝ちゃってますか? 比企谷君にしては随分と早いお休みですね。旅先ということもあって疲れてしまったのでしょうか? いつもそれだけ早く寝られれば遅刻することもないんじゃないでしょうか?』

 

 随分と皮肉たっぷりな内容だった。確かにその通りとしか言えないからなんともいえない気持ちになる。

 余白の後、更に文章は続いているようだ。

 

『先程から何度かメールを送ってます。本当は見ているんじゃないですか? ねぇ、見ているんでしょう?』

 

 いや見ようとしたのに見させてくれなかったのは貴女のメールが原因ですからね? 

 そしてメールには、最後にこう書かれていた。

 

『は や く こ い』

 

 怖い。怖すぎるって。平塚先生がモテない理由の一つを感じ取った気がする。

 しかし、これ以上放置すると終いにはこの部屋まで来て連れ出しに来そうな予感すらしてくるから、そろそろ行くとしよう……。

 とりあえず俺は、寝ている他の奴らを起こさないようにそっと布団から出て、ロビーに向かった。

 

 

 ロビーで待ち受けていたのは、足を組んで椅子に座っている平塚先生だった。先生もまた浴衣を着ているようで、その姿は随分と様になっているように見える。この人はこういうことを素でやってくるから困る。本当黙っていれば美人でかっこいいのにどこか勿体無い……。

 

「なぁ比企谷。今何か失礼なことを考えなかったか?」

「そ、そんなわけないじゃないですか」

 

 何、なんなの!? 

 この人心読めんの!? 怖すぎるんだけど!? 

 一先ず何も考えないでおいた方が身の為だ。

 

「夜遅くに呼び出してすまない。もう少ししたら君が本当に寝ているのか確認しに行こうと思っていたのだが、起きていたみたいで良かったよ」

 

 あんなのほぼ起こしたようなものだろ。恐怖の目覚まし過ぎるわ。

 

「とりあえず椅子に座りたまえ。いつまでも立っているのも疲れるだろう」

「う、うす」

 

 本当はいつでもその場から離れられるようにしたかったのだが、先生にそう言われてしまっては従う他ない。とりあえず俺は椅子に座ることにした。

 

「さて、呼び出した理由についてなのだが……」

 

 一体平塚先生が話したい内容とは何なのだろうか。そんなことを考えながら話を聞いていると、

 

「最近、君は徐々に変わり始めたな、と思ってな。何か良いきっかけでもあったのかと思ってな」

 

 優しい表情を浮かべながら、先生は俺に対してそう言ってきたのだった。俺が、変わり始めている? 

 確かに、自覚がないのかと言われれば嘘になる。実際、二ヶ月前までの自分とは明らかに違うことは確かだった。正直、俺自身がここまで誰かと関わりあう未来は全く見えていなかった。

 

「確かに君の考え方は真っ直ぐではなく、何処か捻くれている。だが、それ故に君は、人間関係について求めているものが、純粋過ぎるとさえ思っていた」

「俺は捻くれてなんかいませんよ。常に自分に正直に生きていて、常に自分のために行動している。自分が一番なんですよ」

「そうかもしれないな。本人がそういうのだから、とりあえずはそういうことにしておこうではないか」

 

 何となく、その声は聞き分けの良くない生徒を宥めるように聞こえる。実際平塚先生からしてみれば言うことをあまり聞かない困った生徒なのかもしれない。だからといって今更生き方を変えるつもりはあまりないが。

 

「しかし、その根本は変わらなくても、少しは前向きになってきているのではないか?」

「前向きに、ですか」

「少なくとも君は、今まで人を遠ざけていた状態からは脱却している。それだけでも、私としては奉仕部を紹介した甲斐があったと思ってな。これもある意味では、吉井の力なのかもしれないが」

 

 確かに、吉井は何処か違うところを感じる。単純で、真っ直ぐで、見ていて眩しいとすら思ってしまう。それはもしかしたら、雪ノ下も同じことを考えているのではないかと俺は思う。それだけ、アイツは今まで生きてきた中では見た事がないほど、正直な人間だった。輪の中心になるのではなく、輪から外れるのでもなく、輪に属しているのでもなく、輪を作ってしまう。吉井明久は底無しのお人好しなのだろうか。

 

「だが、私は少し心配もしているんだ。君はそれだけ影響を受けているみたいだが、未だ尚雪ノ下はほとんど変わっていない」

「そりゃそうでしょう。あの雪ノ下ですよ? 変わる要素なんてどこにあるというのですか?」

「私から見れば、雪ノ下こそ一番変わって欲しいと願っているんだ」

 

 正直、意外と思いつつも、何となくそんな予感もしていた。最初に奉仕部を訪れた時、彼女は一人でそこにいた。雪ノ下が望んだ事なのか、それとも平塚先生が呼び込んだのか。答えは後者だと俺は思っている。

 

「兎にも角にも、君はいい方向に向かってくれている。吉井をはじめ、多くの人との触れ合いも、悪いものではないだろう?」

「…………」

 

 俺はその質問に答えることは出来なかった。

 確かに、悪いものではないとは思う。実際そう思うだけの根拠も存在しているのは確かだ。

 しかし、心の何処かでは……やはり他者を心から信じきれていない自分がいる。常に先に来るのは疑い。勝手に信用し、勝手に裏切られ、勝手に自滅する。そんな生き方はもう懲り懲りで、だからこそ俺はぼっちの道を歩もうとした。

 なのに、今の環境はそうさせてくれなかった。それはいい事なのかもしれない。居心地の良さすら感じている。

 

 それ故に、俺はいつかきっと、自分の手でそんな道を断とうとするのではないかと考えていた。

 

「引き止めて悪かった。明日はテストだ。今日はゆっくり休むといい」

「……うす」

 

 柄にもないことを考えた。

 平塚先生からの言葉を受けて、俺は部屋へと戻っていく。

 その途中、脳裏に浮かぶのは、やはりこの先に待ち受けるだろう自分の在り方だった。

 

 

 余談ではあるが、次の日に行われたテストでは、なんとか赤点を回避することができた。

 ただし、吉井は……。




長かった学力強化合宿編も今回で終わりとなります!
作品時間内ではまだ6月に入ったばかり。
ということは、このままいけば次回は……!
余談ですが、バカテスキャラってどれだけ探しても誕生日を設けられているキャラって最大で四人までしか見つからないんですよね……。
そういった意味では、無闇に作中で誕生日ネタを扱わない方がいいのではないかと考えています。
なので、誕生日ネタは別の何かに変更するとか、あるいはそういうことをやる際には番外編を使うとか、色々手段は考えます。


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第十四問 バカと買い物と姉の襲来 (1)

第十四問 【英語】

以下の問いに答えなさい。
「I can imagine his astonishment when she asked him to marry her.という英文を日本語訳しなさい」

雪ノ下雪乃の答え
「彼女が彼に結婚して欲しいと言った時の彼の驚きを想像することが出来ます」

教師のコメント
よく出来ました。この英文は時制を気にする必要があるのですが、よく分かりましたね。

土屋康太の答え
「彼女は彼に驚きの想像をすることが出来ます」

教師のコメント
驚きの想像というのはどんなことですか。

吉井明久の答え
「なんのことか分かりませんでした」

教師のコメント
君は時に私達に驚きの表情をさせてくれますね。見ていて飽きないですよ。



 学力強化合宿も終わり、六月も中旬に差し掛かったとある休日。僕はららぽにいた。だけど今日ここに居るのは僕一人というわけではない。

 

「まったくごみいちゃんってば……小町が何度も起こしてあげているのに、布団から出てこないんだもん……」

「だからって布団引っぺがす奴がいるかよ……おかげでお兄ちゃん布団から転げ落ちそうになったよ? 危うく永眠しかけたよ?」

「あら。目だけではなくとうとう身体まで腐らせようとしているのかしら?」

「お前は相変わらず絶好調だな雪ノ下……俺をゾンビと言いたいのか」

 

 会話の通り、今この場に居るのは僕を含めて四人。

 雪ノ下さん、小町ちゃん、そして八幡。奉仕部から由比ヶ浜さんを抜いて、小町ちゃんが加わった形だ。こんな特殊な編成になっているのにも理由がある。

 その理由を思い返す為に、数日前まで遡った。

 

 

「その、奉仕部に由比ヶ浜さんが来てもう二ヶ月になるのよね……」

 

 僕と八幡がいつもの通り部室に来ると、雪ノ下さんは自分で淹れた紅茶を飲みながらそう言った。最近この部室が休憩室になってきているのではないかと思ってしまう程、設備が充実してきている。そのうちの一つに、雪ノ下さんの紅茶があった。元々この部屋は空き部屋だったって話を、最初に来た時に平塚先生からされた気がするんだけどな……気付けばこうして色んな人の私物が増えてきた。最近では僕達四人分のマグカップも置かれていて、いよいよ放課後ティータイムかな? ってなりつつある。僕達軽音学部じゃないけど。これで楽器まで持ち込まれたら完璧だけど、僕は演奏出来ないからパスの方向で。

 そうして八幡はいつものように読書を、僕はいつものように漫画本を開いていたら、雪ノ下さんからそう話がふられたのだ。ちなみに由比ヶ浜さんは、今日の所は三浦さん達との用事があるということで部活をお休みしている。というか、由比ヶ浜さんだけではなくて、僕や八幡、そして雪ノ下さんが部活立ち上げてから二か月になるわけだけど……この人どれだけ由比ヶ浜さんのこと好きなんだろう?

 

「それと……実は今度の火曜日は由比ヶ浜さんの誕生日だって知っているかしら?」

 

 今度の火曜日?

 ということはつまり……。

 

「18日か。今初めて知ったな……」

「相変わらず貴方達は同じクラスなのにそう言った会話をしないのね……」

「生憎、俺に教室で話しかけてくるのはそこに居るバカと島田、そしてマイエンジェル戸塚くらいなものだからな……」

 

 バカって一体誰のことだろう?

 少なくとも僕も話しかけに行っているんだけどなぁ……ていうか、あれ? 材木座君の名前がないよ?

 

「というか、僕も由比ヶ浜さんの誕生日初めて知ったなぁ。そういった話題は上がってこなかったし……雪ノ下さんはいつの間に知ってたの?」

「知っていた、というよりかは……想像、かしらね。アドレスに0618って書いてあったから、もしかしたら、って思っただけで」

「直接確認したことはないんだな?」

 

 八幡がそう言うと、雪ノ下さんはキッとした表情を浮かべながらも、反論はなかった。

 うーん、この……。

 

「そしたらさ、サプライズで由比ヶ浜さんにプレゼントを上げるっていうのはどう?」

「……驚いた。貴方、これから私が言おうとしたことを先回りしたというのかしら?」

「いや、コイツの場合は本当にただ単に今思いついただけだと思うぞ」

 

 雪ノ下さんは目を丸くして僕を見る。一方の八幡は、ただ溜め息を吐きながらそう言っただけだった。

 

「とにかく。私としては日ごろの感謝を込めて由比ヶ浜さんをお祝いしたいと思ったの……」

「うんうん。いいと思う!」

 

 由比ヶ浜さんに誕生日プレゼントを買ってあげたら、きっと喜ぶだろうなぁ。

 僕はそんなことを考えていた。

 

「そうか……」

 

 八幡はただ一言そう呟いただけだった。

 何か八幡、こういうのに乗り気じゃなさそうだなぁ。

 

「八幡も何か買うんだよ?」

「……マジ?」

「マジ。マジも大マジ。せっかくだから奉仕部として三人で由比ヶ浜さんにプレゼントを上げたいじゃん?」

「じゃん? って言われてもな……」

 

 とはいえ、僕は由比ヶ浜さんに対してどんなプレゼントを上げたらいいのか正直あまり分かっていないんだよねぇ……一体どんなプレゼントを上げたら喜んでくれるんだろう?

 と、その時。

 

「それで、あの、えっと……」

「「ん?」」

 

 珍しく、雪ノ下さんが言い出しにくそうにしていた。

 手をもじもじとさせて、少し顔を赤くしているその姿は、正直とても可愛いです。元々美人さんだから余計にそういう仕草が萌えるというか。だけど相手は雪ノ下さんだから、決して本人にはそのことは言わない。言った後でどんな言葉が返ってくるのかは目に見えているから……。

 そうして雪ノ下さんはやっと決心がついたのか、僕達にこう言ったのだ。

 

「その、もしよかったらなんだけど……付き合って、くれないかしら?」

「「え?」」

 

 ふぁっ!?

 こ、こんな時にいきなり告白ぅ!?

 突然だし、これって僕と八幡のどっちに言った言葉なの!?

 

「おい待て吉井。この場合の『付き合う』は買い物のことだと思うぞ。発想が顔に出てんぞ」

「……はっ!」

 

 た、確かに!

 八幡の言う通り、冷静になって考えてみればそうだったね。

 

「……相変わらず何考えているのか分からないわね、吉井君は」

 

 雪ノ下さんは、最早恒例となったこめかみ抑えポーズを見せていた。最近そのポーズをする瞬間が増えてきているよね。雪ノ下さんの中で流行っているのかな?

 

「私だけでは、その、由比ヶ浜さんにどんな物を上げたらいいのか分からないから……三人寄れば文殊の知恵って言うじゃない? きっと、比企谷君や吉井君でも、いいアイデアが浮かぶのではないかしら」

「なんか若干言い方に悪意を感じるが、確かに俺も一人で買いに行こうとするとよく分からないからな……」

「うーん。確かに。由比ヶ浜さんがどんな趣味しているのかもあまり分からないからねぇ」

 

 僕がそう呟くと、雪ノ下さんは少し悲しそうに。

 

「……私。由比ヶ浜さんがどんな趣味をしているのかも知らなかったのね」

 

 と呟いていた。

 けど、それは仕方ないことなんじゃないかな……いつも同じクラスで話すタイミングが多い僕や八幡と違って、雪ノ下さんが話せる機会というのは奉仕部関係となることがほとんどだ。もちろん休日とかに一緒に遊びに行ったりするだろうけど、それも毎回じゃない。

 他の人がどんな趣味をしているとか、そういったことは聞かないと分からない。僕だって友達でも知らないことがあったりするからね……秀吉の写真でムッツリーニが撮影したものについては、持っていない写真はないけどね。

 

「そしたらさ、みんなで今度の日曜日にららぽで買い物しようよ。そしたらきっと、何かいいプレゼントが買えるかもしれないしさ……あ、八幡。もしよければ小町ちゃん誘ってもいい?」

「小町を? なんでお前が」

 

 何か八幡が若干どころかかなり機嫌悪くなった気がする。

 

「ほら、知り合いは多い方がいいだろうし、小町ちゃんなら何かいいアイデア浮かぶかもしれないじゃん? 少なくとも、女の子に対するプレゼントについては、僕や八幡よりも役に立つんじゃないかなって」

「……一理ある。仕方ない。ただし俺から声かける。お前は手出ししなくていい」

「なんか警戒されている?」

「……シスコンもここまで来ると重傷ね」

「バカ。俺はただ小町のことが心配なだけだ」

「それある意味僕に対して失礼だよね!?」

 

 とりあえず、そんなわけで日曜日に四人でららぽで由比ヶ浜さんへのプレゼントを買いに行く予定が決まったのだった。

 




というわけで、今回は由比ヶ浜さんへの誕生日プレゼント購入イベントでございますー。
ということは、ここであの人が登場するわけですね……。
本編十四問までやってきましたが、やっっっっと登場というわけです。
ちなみに、俺ガイル原作ではこの段階で八幡と由比ヶ浜さんが若干不穏な空気を出していたわけですが、今回はそのイベントがありません。
なので、割とギャグ寄りな展開が増えてくるかもしれません。
本来登場しない筈のキャラも何人か登場する予定ですし……いずれにせよ今回は明久目線での話なので、一筋縄ではいかなそうですね。


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第十四問 バカと買い物と姉の襲来 (2)

 と、そんなわけで現在僕達は四人でららぽの中を回っている最中だった。それにしてもびっくりしたよ……一緒に探してほしいって言ったのは雪ノ下さんだったのに、入るや否や、

 

『じゃあ私はこっちを受け持つわ』

『よし、効率重視だな。それじゃあ俺はこっちを。吉井はあっち。小町はそっちを……』

『な、に、や、っ、て、る、の、ご、み、い、ち、ゃ、ん!!』

 

 てな感じでいきなり分かれて行動しようとするものだから、思わず小町ちゃんが八幡の指を強く握っていた。うわぁあれ痛そう……指って握られると地味に痛いんだよねぇ。ちなみに僕は何度か雄二にやられた。

 そんなわけで出鼻をくじかれそうになったけど、何とか体勢を持ち直した感じだ。

 

「にしても、ここってやっぱり回るには大きいよねぇ……」

 

 僕は辺りをぐるりと見渡して、その広さに目が眩みそうになる。いつもららぽと言われると、大抵はゲームや漫画、そしてゲームセンター目的で来るから行く場所が限定されるんだけど、今日みたいに友達の誕生日プレゼントを買うとなると、これまた何処がゴールなのか分からないから余計に大きく感じるなぁ。

 って、あれ? いつの間にか雪ノ下さんショップに入っている?

 

「あれってパンさん、ですよね?」

「あ、あぁ……そう、みたいだな」

 

 小町ちゃんと八幡が、雪ノ下さんが触っている物を見ながらそう言った。

 そう。雪ノ下さんが今絶賛もふもふしているのは、ディスティニーランドという場所のマスコットキャラとしてお馴染みのパンさんと呼ばれるキャラクターだ。夢の国の住人みたいなものだね。ハハッ。

 

「……そろそろ行きましょうか」

「ありがとうございましたー」

 

 あ、雪ノ下さん今触ってたもの買ったね。何処か満足そうだよ?

 

「雪乃さんって、パンさんがお好きなんですね♪」

「べ、別に、私は……」

 

 小町ちゃんに質問攻めされて雪ノ下さんがタジタジになっている。

 

「……あんな雪ノ下。初めて見たな」

「確かにねぇ。けど、雪ノ下さんだって女の子なんだよ? 可愛いものに目が行っちゃうのは仕方ないことだと思うよ?」

「……」

 

 八幡は何も言わなかった。

 

「しっかし、四人で回るには流石に広すぎて終わらない気がするな……」

「みんなで回るのは楽しいけど、それだけだとなかなか決まらないかもしれないねー」

「やっぱりここは手分けして探した方がいいかもしれないわね……」

 

 こうして僕達がみんなで探して回るのは楽しい。

 普段なかなか雪ノ下さんや小町ちゃんとお出かけすることはないから、いつもより楽しいのは明らかだ。そもそも女の子とこうしてお出かけすること自体そんなに多くあることじゃないからね!

 ……何となく須川君達には見つからないようにしなきゃって思ったけど。それ以上に雄二とかに見つかったらどんなこと言われるか分からないな……!

 と、そんなことを考えていたら、小町ちゃんの目が何だかキラーンって光った気がした。あれ? 気のせいだよね?

 

「せっかくなので、二人ずつで回ってみるのはどうですかー? 一時間後に集合して、それぞれが買ったものを持ち寄るって形で♪」

「確かにそれならいいかもね」

 

 それなら、必ず誰かとペアになることが出来るし、効率もよさそうだね。

 流石は小町ちゃん! だけど何かまだ企んでそうな気がするなぁ。

 

「と、その前に小町はお手洗いに行ってきます。ペア分けはそのあとで♪」

 

 そう言うと、ペア分けをする前に小町ちゃんはトイレに行ってしまった。

 まぁ、今日はまだまだ時間があるわけだし、ゆっくりしても問題ないよね。

 

「この場合、俺と小町がペアになるわけだな。んで、雪ノ下と吉井が二人で回る、と」

「そう言えば吉井君は姉が居たのだったわね……それならば女性に対するプレゼントとかも分かるのかしら」

「うーん、どうだろう……僕の姉は常識では計り知れない人だから……というか、常識をもう少し身に付けて欲しいとすら思っているから……」

 

 僕の姉さんは頭は良い。確かに勉強は凄く出来る。現在アメリカに行っていて、日本にはいない。だけど、姉さんは何というか……人としての常識を勉強と引き換えにしてしまったかのように、絶望的なまでに常識が欠けている。もしかしたら暑いという理由だけで電車の中で服を脱いでしまうのではないかと思われる程だ……なんだかえらく具体的だった気がするけど気のせいかな?

 

「俺だって小町がいるぞ」

「貴方の場合は人としての常識が若干問題あるから信用ならないわね……」

「えらい饒舌だな……」

 

 相変わらず雪ノ下さんと八幡ってば仲がいいなぁ。

 なんてことを考えていた、その時だった。

 

「あれぇ~? 雪乃ちゃん!」

「っ!?」

 

 突然、凄い美人さんが雪ノ下さんに声をかけてきた。

 その声に合わせて、雪ノ下さんが少しだけ嫌そうな表情を浮かべている。

 一体どうしたんだろう? こんなにも美人な人に声をかけられているというのに……。

 

「姉さん……」

 

 あ、一瞬で理解出来た。

 

「えっ」

 

 八幡は驚いたように声を出す。

 そりゃそうだ……今目の前に居るのは、雪ノ下さんが姉と称した人物だ。それもとびっきりの美人さんだ。だけど、なんとなく雪ノ下さんの気持ちが分かってしまった……多分、この人も姉のことが苦手なのだろう。その気持ちはちょっと分かるかもしれない。

 

「雪乃ちゃんの姉の陽乃です♪」

 

 ピースまで作っちゃってるよ!

 なんだかこの人凄いぞ!

 

「ところで、貴方達のお名前は?」

 

 陽乃さんが尋ねてくるので、僕から自己紹介を始めた。八幡ってばさっきから目を合わせようともしていないみたいだし……。

 

「僕は吉井明久。それで、さっきから目を合わせようとしていないのが、比企谷八幡」

「……うす」

「ふむ……吉井君に、比企谷君か……それで? どっちが雪乃ちゃんの彼氏なの?」

「「彼氏じゃないです」」

 

 何故か僕と八幡の声がハモった瞬間だった。

 そんな僕達を見た陽乃さんは、何故かにこにこと笑いながら、

 

「またまたぁそんな照れちゃって~♪」

 

 と、僕と八幡の背中をバシバシ叩き始めた。

 ちょ、痛いですっ! 後なんかいい匂いがしますね!!

 もう少しだけその柔らかさを堪能させてください!

 

「姉さん。からかうのは止めて頂戴。後、その二人が彼氏だなんてあり得ないわ……バカと腐り目が移る」

 

 ここで雪ノ下さんから怒りのお言葉。

 声色からしてかなり不機嫌そうだ。

 不機嫌ついでに僕等を罵倒するのは止めてくれないかな!?

 

「ちょっと!? 僕の何処が腐っているのさ!?」

「違う。お前の場合バカだから。腐っているのは俺の目な?」

「なんだって?! 僕がバカだったの!?」

「気付けバカ」

「……そういう所よ」

 

 何か二人そろって僕を可哀想な目で見てくるよね!?

 

「あの雪乃ちゃんがここまで……ふーん……」

 

 何だろう。今のやり取りで僕や八幡は陽乃さんに目をつけられた気がする。

 そして陽乃さんは、僕と八幡を強引に引き寄せると、僕等の耳元で、

 

「雪乃ちゃんはああ見えて繊細な心の持ち主だから、もし彼氏になるつもりがあるなら引っ張っていってね? お姉さんとのお約束だぞ♪」

 

 と言ってきた。

 いや、あの、それ以前に雪ノ下さんの彼氏になるつもりはないんですけど……。

 

「……」

「おろ?」

 

 八幡は何故か嫌そうに陽乃さんから距離を取る。

 あれ? 今のやり取りで何か嫌そうな要素あったかな?

 ……あ、いや、八幡の場合は陽乃さんじゃなかったとしてもそうだった。

 

「もういいかしら姉さん」

 

 その様子に、より一層不機嫌オーラを出している雪ノ下さん。

 あぁ、もう雷でも落ちてくるんじゃないかと思われる程だよ!?

 

「ゆ、雪ノ下さん落ち着いて……」

 

 僕は思わず声をかけてしまったけど。

 

「へ? 私は落ち着いているよ?」

 

 何故か陽乃さんが反応した!

 そう言えばこの人も雪ノ下さんだったね!!

 

「ち、違うんです! 僕が言っているのは雪ノ下さんで、雪ノ下さんじゃないんです!!」

「「もうわけわからない」」

「あれ?」

 

 八幡と雪ノ下さんの声が重なった。

 僕も自分で言っていて何を言っているのか分からなくなってきたぞ!?

 それが面白かったのか、

 

「も、もう無理、この子凄く面白い……なんだろう、とても素直ね……雪乃ちゃんのお友達としては、凄く真反対な子だね……あはははは!」

 

 めっちゃ笑われた。

 そりゃもう盛大に。

 

「そっかそっか……そりゃ雪乃ちゃんも影響されちゃうわけだ……比企谷君も比企谷君で、なんだかとても面白そうだし……もうちょっとお話したいけど、これ以上は雪乃ちゃんが怒っちゃうかもしれないから、また今度ゆっくりお話しようね♪」

 

 そう言うと、陽乃さんはニコニコしながら手を振ってその場を去ってしまった。

 ……なんだか一気に体力が奪われた気分だなぁ。

 

「お待たせしました~。いやぁお手洗い混んでまして……って、あれ、なんだか皆さんお疲れモード?」

 

 小町ちゃん。

 君は今完全に空気を読んだような、読んでいないような感じだよ……。

 




サブタイトルの伏線を二個目にして回収してしまいました()
本当は次の話に向けても陽乃さんを出すつもりだったのですが、思いの外一話分で書けてしまったということと、きりのいい場所がなかったというのが……。
しかし、この人は本当に描くのが難しいです……。
超強化外郭は伊達じゃないです……。


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第十四問 バカと買い物と姉の襲来 (3)

 小町ちゃんにとりあえずの事情を説明して、フードコートにて少し休むことにした僕達。由比ヶ浜さんへのプレゼントを買いに来た筈なのに、何故か凄く疲れた気がするよ。まだプレゼント買っていないんだけどね……。

 

「御免なさいね。姉さんが場を掻き乱すようなことをして」

「大丈夫だよ。それにしてもパワフルなお姉さんだったね」

 

 話していてこれだけ体力を持って行かれる人もそういないと思う。例えば僕の姉さんとかかな……。

 

「そんなに凄い人が居たんですか? 小町お話してみたかったです」

「止めとけ小町。お前のすべてが持っていかれるぞ」

「そんなに?」

「そんなに」

 

 流石は兄妹と言った所か。

 これだけの会話でちゃんと成立しているんだから凄い。

 

「他人から見て、あれだけ完璧な存在はいないでしょうね。誰もが姉を褒め称えるのよ」

 

 溜め息を吐きながら雪ノ下さんは言う。

 しかし、

 

「はぁ?」

 

 八幡はそれを否定した。

 

「そんなのはお前もそう変わらんだろ。お前の姉ちゃんのすげぇ所は、強化外骨格みてぇなところだよ」

「きょうか……がいこくかく?」

「明久さん。それじゃあ外国人っぽくなっちゃってますよ」

 

 八幡が難しい言葉を使うものだから、僕はよくわからなくなっちゃったよ?

 そんな僕を見て、八幡と雪ノ下さんは溜め息を吐く。

 何かさっきからよく気が合いますねぇ!

 

「外面のこと。端的に言えばすげぇ外面がいいってことだよ。人当たりが良くて、ニコニコしてて、気さくに話しかけてくれる。まさに男の理想をこれでもかと詰め込んだような人だ」

「確かにね……ちょっと、演技っぽかったかも?」

 

 そっか。陽乃さんに感じた違和感っていうのはそれだったんだ。いくら妹の友達だからと言っても、一応は僕達は男の子なわけだし、最初は少しでも疑ってかかるものなのかもしれない。異性っていうだけで女子は疑いの目を向けてくることだってあるわけだし……。

 

「……驚いたわ。姉のことをここまで的確に見抜けるだなんて。腐った目だからこそ見抜けることもあるというわけね」

「お前それ褒めてんの?」

「褒めてるわよ?」

 

 いまいち褒めているように聞こえないのは僕だけなのだろうか。

 と、そんな感じで眺めていると。

 

 ポンポン ← 小町ちゃんが僕の肩を叩いた音。

 

「ん? どしたの?」

 

 僕は小町ちゃんの方を見る。

 すると小町ちゃんは、何やらニヤニヤしながら八幡と雪ノ下さんのことを見て、それから僕の耳元でこう言った。

 

「お兄ちゃん達、なんだかいい感じだと思いませんか?」

「確かに。二人とも凄く仲いいよね」

「そこでなんですけど……この後、お兄ちゃんと雪ノ下さんを二人きりで行動させてみようかなぁ、なんて思っちゃったりしているんですけど、明久さんも協力してくれません?」

 

 ほほう。

 それは確かにいいことかもしれない。

 ちょっと鈍感な八幡にはいい薬になるかもしれない……雪ノ下さん程の美人と二人きりで買い物デートという状況が誕生するのは実に羨ましい所だけど……というかその光景を写真に撮って須川君に送りつければ……いや、辞めておこう。そもそも小町ちゃんと二人きりに僕がなる段階で八幡はもちろんのこと、FFF団からの奇襲は免れないかもしれないからここは穏便に済ませるとしよう。

 だけど、小町ちゃんの案はいいことかもしれない。僕もちょうど、八幡のこととか小町ちゃんと話せるし。

 

「オッケーだよ。小町ちゃんの案に乗らせてもらうよ。その代わり、小町ちゃんも由比ヶ浜さんへのプレゼント買うの手伝ってね」

「もちですよ♪」

 

 小町ちゃんやっぱ可愛いなぁ。

 目をパチッてさせて舌をペロッと出す仕草とか見ると、八幡がシスコンになる理由も分かる気がする。

 

「と言う訳でお兄ちゃんに雪ノ下さん。この後のペア分けなんですけど……」

「俺と小町がペアで、雪ノ下と吉井がペアになるんだろ?」

「……は?」

 

 あ、そう言えば小町ちゃんがトイレに行っている間に、八幡がそんなことを言っていたのを忘れてた。

 というか小町ちゃん。一瞬にして不機嫌な顔になったよ? 八幡と同じような目をしてるよ? あれ、比企谷家では目が腐るの?

 

「これだからごみいちゃんは駄目なんだよ。どうして小町とごみいちゃんが一緒に行くのさ。今は結衣さんへのプレゼントを買いに行くんでしょ? 兄妹水入らずの買い物の場じゃないんだよ? いつもと一緒のペアで行ってどうすんのさ。それじゃあ新しい刺激も何も入らないよ? バカ、ボケナス、八幡」

「小町ちゃん? 八幡は悪口じゃないよ?」

「と言う訳で、雪ノ下さんがごみいちゃんのエスコートをお願いします。私は明久さんと一緒に回ることにしますので♪」

「「は?」」

 

 小町ちゃんが笑顔で言った途端、今度は二人分の声が重なった。

 一人は雪ノ下さん。あ、でもこれは満更でもなさそうな雰囲気?

 だけど、八幡の目は……なんというか、親の仇でも見ているような目だ。

 うん、目で語っている。

 

 ――何かしたらぶっ殺す、って。

 

「小町、それは――」

 

 八幡が何か抗議しようとした、その時だった。

 

「あれ? せんぱーい! こんな所で会うなんて奇遇ですね~」

 

 あざとさ全開の声が僕達の所に響き渡った。

 うん、この声は物凄く聞き覚えがある。

 

「……おい、吉井。呼ばれてるみたいだぞ」

「違うよ八幡。認めたくないのは分かるけど、現実を見よう?」

「お前、現実を見るなんて言葉分かるんだな」

「流石にそこまでバカじゃないよ!?」

 

 何故この流れでバカにされるのか分からないよ!?

 

「もうせんぱい! 無視するなんてひどいじゃないですか~。せっかく可愛い後輩がこうして話しかけてあげているっていうのに!」

 

 八幡が反応しないからなのか、八幡の後ろから両肩をポンっと叩いて、それからあざとい笑顔でにっこにこしながら声をかけてきたのは。

 

「先輩なんてここにはいっぱいいるだろうから、俺のことだと思わなかっただけだ……で、何の用だよ、一色」

 

 一色いろはちゃん。

 喫茶店での一件から、僕達の知り合いとなった女の子である。

 

「……ロリ谷君。これは一体どういうことか説明してもらえるかしら?」

「おい待て雪ノ下。俺はロリコンじゃない。変な名前に改造すんな」

「お兄ちゃん? いつの間にこんな可愛い子と知り合いになってたの!? というかもしかして明久さんもこの人を知っているんですか!?」

 

 ん? 何故か小町ちゃんは僕にも尋ねている?

 八幡に聞くのならともかく、僕にも確認しようとしているのはどうしてだろう?

 

「吉井先輩もこんにちはです~。いつもメールありがとうございま~す」

「ううん。僕もいろはちゃんとメールするの楽しいからちょうどいいって感じだよ」

「楽しい……?」

 

 うん?

 なんだかちょっぴり小町ちゃんの機嫌が悪くなった気がするぞ?

 

「……ロリ井君にロリ谷君と、何処まで自分の地位を落とせば気が済むのかしら」

「待って? 僕まで八幡と一緒になるの!? というかいろはちゃんはあざといけどロリじゃないよ!?」

「吉井先輩まで私のことあざといって言うんですか!? これもせんぱいのせいですね!? 責任取ってくださいね!」

「待て待て待て待て。ややこしくすんな一色。第一お前に対する責任なんて微塵もないだろ」

「……比企谷君。遺言はないかしら?」

「だから待て雪ノ下。携帯電話を使って何処へ連絡しようとしてんだお前」

「明久さん。後でちょーっとお話聞かせてくださいね?」

「あーもう! みんな一旦落ち着いてよ!!」

 

 結局、僕達五人が落ち着くまでに多少の時間がかかってしまったのは言うまでもないだろう。

 




たまにはラブコメっぽく、こんなことをしたかったわけなんですよ……っ
一色さんが既に登場しているというアドバンテージを活かす最大の方法だなって思いましたので……っ!
ちなみに次回も登場します。
そして何故かさりげなく小町ちゃんが明久に対する接し方が若干変わっている感じです。
八幡よりも明久の方がたちの悪い女殺しな気がしています……。


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第十四問 バカと買い物と姉の襲来 (4)

 とりあえず一旦落ち着いた僕達は、フードコート内にあったハンバーガーショップにて飲み物とポテトを買って、みんなで摘みながら話をしていた。そこには自然といろはちゃんも加わっていて、さりげなく僕と八幡の間をキープしている。知り合いがいる場所にとなると、今の場所が自然なのかもしれないけど、

 

「……なんだよ」

「別に。鼻の下伸ばして喜んでいる変態谷君のことなんてなんとも思ってないわよ」

「思いっきり思ってんじゃねえか……」

 

 八幡に対する皮肉がいつも以上に冴え渡っている雪ノ下さんと、

 

「じー……っ」

 

 何故かいろはちゃんをじーっと見つめる小町ちゃん。まるで何か品定めでもしているような感じだ。

 当の本人であるいろはちゃんは、雪ノ下さんの視線に対して少し驚いているといった様子だ。

 ちなみに、自己紹介とかはポテトを買う前に済ませておいたから、互いの名前はもう知っている。

 

「それで? 比企谷君や吉井君と一色さんの関係性って一体何なのかしら?」

 

 話を最初に振ってきたのは雪ノ下さんだった。どうやら雪ノ下さんとしては僕や八幡と、いろはちゃんの関係性を探りたいみたいだ。というか多分だけど、雪ノ下さんって気になることはとことん追求しないと気が済まない性格だよねきっと……。

 それに対して、いろはちゃんは答える。

 

「せんぱいと吉井先輩にはいつもお世話になっているんですよ〜。私、今年が高校受験なんですけど、総武高校に行きたいなって考えてて、そこでせんぱいには勉強を、吉井先輩には学校のこととかどんな先輩がいるのかとか教えてもらってたんです」

 

 うん、確かに嘘は言ってない。というかその通りだ。

 だけどなんでだろう。僕の名前が出た時に『勉強を教えてもらってる』って言葉が出なかったことに対して、三人とも妙に納得したような表情を浮かべているのは。小町ちゃんまでもが違和感抱いてなささうだったよ? 僕ってそこまで噂広まってるの? 

 

「事情は理解したわ。けれど、貴方達は一体どこで出会ったのかしら?」

「せんぱい達が一日だけアルバイトしていた日があったんですけど、その時喫茶店に行った客が私だったんですよー」

「あぁ! 珍しくお兄ちゃんが明久さんに連れ出された時ですね!」

 

 あの時も僕は小町ちゃんから色々アドバイスを貰って一緒に参加してもらったんだよね。結果的にそれがいろはちゃんと出会うきっかけになったわけだし。それ以上に店長のキャラが強烈過ぎた記憶が濃いんだけどね……。

 

「……なるほど。だいたいは理解出来たわ。けれどこの男、家庭教師には向いていないのではないかしら」

「おい待て雪ノ下。いくら俺でも高校受験レベルのことならつい最近やったばかりだから記憶にあるぞ」

「理数系はどうかしら?」

「数字など知らん」

「ごみいちゃん……」

 

 きっぱりと言い切った八幡に対して、小町ちゃんの目線が冷たかった。僕の場合は全部わからないけどね! 一体どうやって高校受験乗り切ったのか分からない位だよ! 姉さんとの地獄のような日々を送ったのは記憶にあるけどね……。

 

「今は模試とかの前日に勉強を教えてもらったり、課題を指摘してもらったりしてる感じです。意外とせんぱいって教えるの上手だったりするんですよ? 真面目にやってくれますし」

「お、おう……」

 

 ここにきてまさかのいろはちゃんからの褒め攻撃!

 八幡は今までこうして素直に褒められたことがあまりないのか、少し照れている様子だ。そんな八幡を見て、『おやおや? これは?』と言いたそうな表情を浮かべている小町ちゃん。さっきから楽しそうだね君。八幡も『コイツ今楽しんでやがるな』って顔してるよ。流石は兄妹ってところかな?

 

「そう……拡大解釈をするならば、貴女も奉仕部としてしっかりと責務を果たしていたと言えるのかしら?」

「ほうし、ぶ?」

 

 いろはちゃんが何が何だか分からないと言った感じだ。

 そんないろはちゃんに対して雪ノ下さんが部長として色々と説明する。

 

「なるほど……つまり、学校に通っている生徒達の悩みに対して、アドバイスを与えたりする部活、と言ったところでしょうか?」

「……当たらずとも遠からず、と言った感じね」

 

 雪ノ下さんがにこっと笑いながら言っていた。あ、なんだかちょっと嬉しそうだ。

 

「貴女はまだ総武高校の生徒ではないけれど、これから生徒になろうとしている人の努力を無碍に扱うわけにもいかないわ。引き続き、比企谷君には勉強面を、吉井君には生活面のサポートをすることを命じます」

「部長命令しなくたって別にいいっての……」

「もちろんだよ!」

 

 八幡は渋々と言った感じに、僕ははっきりとそう言った。

 ここまでならば普通に良い話で終わるんだけど。

 

「それで、いろはさんはどうして総武高校に通いたいのです?」

 

 と、高校に入りたい理由を尋ねた。

 あー……確かいろはちゃんが総武高目指している理由って、葉山君だったよね……だけど、雪ノ下さんは葉山君とあまり仲が良くないから、その名前を出したらどうなるのかな……。

 とかそんなこと考えていたけれど、

 

「総武高校に行けば、私の気になる人に一歩近づくことが出来るかなぁって思ったからだよ」

 

 と、葉山君の名前を出さずに笑顔で答えた。

 おぉ……雪ノ下さんのことを察したのかな?

 けれど、何故かいろはちゃんはチラッと八幡のことを見た気がするんだけど、気のせいかな?

 そして小町ちゃんは、何故か目をキランって輝かせた気がするのは何故だろう?

 

「私も実は来年受験なんですけど、総武高を狙っているんです! もしよろしければメルアド交換しませんか!?」

 

 何故か食い気味な小町ちゃん。

 それに対して嬉しそうに応じるいろはちゃん。

 

「……なぁ、雪ノ下」

「何かしら? 比企谷君」

「女子って、あんなに簡単に打ち解けるもんなのか?」

「……私に分かると思っているのかしら?」

「ですよねー……」

 

 やっぱりこの二人って仲いいんじゃないかな……?

 

 

 いろはちゃんと分かれて、ようやっと由比ヶ浜さんへのプレゼントを探しに行くことになった僕達。結局、あの後小町ちゃんが強引に決定づけたことによって、八幡は雪ノ下さんと一緒にプレゼントを選びに行くことになり、僕は小町ちゃんと二人で探しに行くこととなった。

 

「小町の義姉ちゃん候補があんなにたくさん……お兄ちゃんってばいつの間にこんなに女の子と知り合いになったんだろう?」

 

 うきうきしながら前を歩く小町ちゃん。

 確かに、八幡と最初に会った時には近寄りがたい雰囲気があったような気がしたけど、最近の八幡からはそんな気配があんまり感じられなくなった。なんて言うか、話しかけやすくなったような気がする?

 けど、多分八幡本人は気付いていないんじゃないかなぁ。

 

「……多分ですけど、これだけは小町、なんとなく感じているんです」

「へ?」

 

 歩いていた小町ちゃんの動きが止まり、僕の方を振り向く。

 そして小町ちゃんは、笑顔でこう言ったのだ。

 

「お兄ちゃんの傍に居てくれて、ありがとうございます。明久さん」

 

 




前に小町主人公の番外編を書かせて頂きましたが、小町は基本的に家族的な意味でのブラコンであることには間違いありません。しかもこの小説での小町は中学二年生です。原作より少し幼く描かれているつもりです。それでも小町は兄の幸せを願っています。もちろん幼さ故に楽しんでいる所があるのも否めませんが。
そして、八幡にいい影響を与えてくれたのが明久であることも感じているわけです。
恋愛的な感情があるかどうかはこの際置いておいて、少なからず小町は明久に対して感謝していると思っています。
そう言った所から、林間学校でのボランティアをはじめとして、今回の一件に繋がっているんじゃないかなぁ、なんて考えています。
しかし、これからどうなっていくのか筆者も心配で仕方ありません()


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第十四問 バカと買い物と姉の襲来 (5)

「お兄ちゃんって捻デレさんですから……色んな人に誤解されやすいんです。それに、本当は誰よりも優しいのに、その優しさに気付いてくれる人が少ないから……一人で背負い込んで、一人で考え込んで、周りを頼ってくれないから……だからいつしか、お兄ちゃんの周りには人がいなくなっちゃうんじゃないかって思って……だけどそんな中で、明久さんや奉仕部のみんな、それに美波さんや他の人も来てくれて……そうしてお兄ちゃんは一人ぼっちじゃなくなったんだって思って……」

 

 小町ちゃんは嬉しそうな表情を浮かべながら、泣いていた。

 まるで抱え込んでいた何かを吐き出すように、次々と小町ちゃんは言葉を発していく。

 ……やっぱり、小町ちゃんは八幡のことが大好きなんだね。それだけしっかりと見てあげていて、心配していて、自分のことのように嬉しく思って。

 いい兄妹だなぁって僕は心から思った。

 

「僕も八幡には感謝しているんだよ。色んな場面で、八幡じゃなきゃ解決出来なかったこともあるし、何より僕が八幡と仲良くなりたかったから近くに居るだけだよ。それにこれからだって、僕は八幡と友達をやめるつもりなんてない。八幡はどう思っているのか分からないけどね……」

「捻デレさんですからね……お兄ちゃんは『友達になろうって言ったわけじゃないから友達ではない』とか言いそうだなぁ」

「あー、分かるかもしれない。けどなんとなく、それでこそ八幡だなぁって感じもする」

「「……あははっ!」」

 

 なんだか面白くなっちゃって、僕と小町ちゃんは思わず笑い合っちゃった。

 

「ささ、湿っぽい話はここまでにしちゃいましょう! 今は結衣さんの誕生日プレゼントを買いに行くのが先ですからね。とびっきりいいプレゼントを買っちゃいましょうね!」

「もちろんだよ! 由比ヶ浜さん喜んでくれるといいなぁ」

 

 こうして、僕と小町ちゃんは二人でプレゼント探しを始めることとなった。

 のだけど。

 

「……あれ、明久?」

「……へ?」

 

 ものの数秒で、今見つかってはいけない奴らに見つかってしまった。

 そう……坂本雄二という名前を冠した悪魔だ。

 

「隣に居るのは比企谷の妹だよな?」

「ど~もですー。えっと確か……」

「坂本だ。そこに居るバカの悪友みたいな感じだ」

「…………土屋康太」

「うわぁ! ムッツリーニまで!?」

 

 突然僕の後ろから現れたのはムッツリーニだった。

 その手に持っているのはカメラだ。

 ……まさか。ムッツリーニ、もしかして。

 

「……証拠はばっちり」

「今すぐその写真を消せぇええええええええええええええええ!!」

 

 なんてことだ!

 小町ちゃんと二人並んで歩いている写真なんてFFF団に回されようものなら、明日の太陽を拝めるか分からなくなってしまうじゃないか!

 というか今さっき偶然会ったばかりなのに随分と用意周到だよね!?

 

「あの時写真を撮ってくださったお兄さんですね! 小町を可愛く写してくださいよ~」

「……っ!! 御意!」

 

 って、なんだかすごいノリノリで小町ちゃんはムッツリーニに写真を撮ってもらっているね。心なしかポーズも決めちゃってるよ。いろはちゃんがやると『あざとい』と切り捨てられてしまいそうなポーズも、小町ちゃんがやると『あざとかわいい』に進化する気がする。

 というか、雄二にムッツリーニの二人が居るということは、もしかして……?

 

「お主らも仲がよいのぅ」

「秀吉ぃいいいいいいいいいいいい!」

 

 やっぱり来てくれていたんだね秀吉!

 もう今日は幸せな一日だってことが証明されたね!

 ありがとう秀吉。君は天使だ……!

 

「お兄さんは確か、木下秀吉さんですよね?」

「うむ! ようやっと儂を男と認めてくれる者に出会えた……!」

 

 秀吉は小町ちゃんの言葉が嬉しかったのか、両手で小町ちゃんの右手を握ってぶんぶんと上下に振っている。何を言っているのさ秀吉! それはあくまで戸籍の話で、秀吉は秀吉だって前からずっと言っているじゃないか!!

 

「お前はお前で随分と嬉しそうだな秀吉」

「もちろんじゃ! これほど嬉しいことはないのじゃからな!」

「……これは激写するしかない!(パシャパシャ)」

 

 可愛い子が可愛い子と一緒にイチャイチャしている様子というのは、どうしてここまで僕達の心を穏やかにしてくれるのだろう(賢者モード)。

 

「ところで、明久と比企谷妹はどうしてここに?」

「あ、結衣さんへのプレゼントを買いに来ていたんですよ~。お兄ちゃんと雪ノ下さんは二人で見に行っている所ですよー」

「……羨ましい」

 

 ムッツリーニがポツリと呟いた。

 確かに、雪ノ下さんと二人きりになっても特に追撃されない八幡って羨ましいよね。他の人が二人きりになろうものなら、そもそも雪ノ下さんから距離を取りそうだもの。

 

「由比ヶ浜の誕生日ってもうすぐだったんだな」

「うん。確か十八日だよ」

「あと二日後じゃな……せっかくなので、儂らもプレゼントを探しに行ってみるかのぅ」

「だな。ムッツリーニもそれでいいか?」

「……了解した」

 

 小町ちゃんの手を離した秀吉と、その様子を最後まで撮影していたムッツリーニ。

 そんな彼らは、去り際に小町ちゃんにこう言った。

 

「ま、今後ともよろしく頼むわ。友人として比企谷のこと、色々聞くこともあるかもしれねぇからな」

「……ご贔屓に」

「仲良くしてくれると嬉しいのじゃが……これからもよろしく頼む!」

 

 そして三人は、きっと由比ヶ浜さんの誕生日プレゼントを探しに行ったと思う。

 そんな彼らの背中を見送りながら、小町ちゃんは呟いた。

 

「お兄ちゃん……本当にいい友達に恵まれたね」

「……きっとこれも、八幡の優しさに気付けた人がたくさんいる証拠だよ。君のお兄ちゃんは、やっぱりもうぼっちじゃないよ」

「……そうですねっ!」

 

 にぱっという笑顔を浮かべながら、小町ちゃんは言葉を返してきたのだった。

 

 

 余談だけど、結局色んな人が由比ヶ浜さんにプレゼントを渡したわけなんだけど。

 

 雪ノ下さん → エプロン

 僕     → キーホルダー

 小町ちゃん → シュシュ

 八幡    → 犬用の首輪

 

 という感じで色んなプレゼントが渡されたわけなんだけど……。

 

「……由比ヶ浜。それ、犬用の首輪な。お前がつけるものじゃない」

「えぇ!? そ、それならそうと最初から言えしっ!!」

 

 うん。

 間違えたのは由比ヶ浜さんだからね?

 




というわけで、お後がよろしいようで(オチがついた気がしました)。
原作よりも若干ギャグ寄りかつ、小町から見た八幡に関する要素が多かったエピソードでした。
次回はどんな話をやろうか悩んでいる所です……バカテスと俺ガイルを読み直したりアニメ見直したりしながら、話を作ろうかなって思います。
また、番外編リクエスト箱へのリクエストも引き続き募集しておりますー。
場合によってはここから本編へいくこともありますからね!


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第十五問 期末試験で、彼はいい成績を取らなくてはならない。 (1)

【第十五問】 現代社会

以下の問いに答えなさい。
「次の文は、景気調節機能について述べたものである。(   )に適切な語句を入れて、文を完成させなさい。
 政府は景気が悪くなったりすると、(   )事業を増やし、(   )を拡大するなどの(   )を実施して、景気を上向かせようとする」

比企谷八幡の答え
「政府は景気が悪くなったりすると、(公共)事業を増やし、(減税)を拡大するなどの(財政政策)を実施して、景気を上向かせようとする」

教師のコメント
素晴らしいです。満点の答えが出て先生も安心しています。

土屋康太の答え
「政府は景気が悪くなったりすると、(援交)事業を増やし、(お小遣い)を拡大するなどの(お小遣いアップ)を実施して、景気を上向かせようとする」

教師のコメント
危険な香りしかしません。

戸部翔の答え
「政府は景気が悪くなったりすると、(ゲーム)事業を増やし、(売上率)を拡大するなどの(産業革命)を実施して、景気を上向かせようとする」

教師のコメント
何故ゲームの話限定なのですか。



 梅雨の時期が過ぎ去り、七月。総武高でも定期試験を間近に控え、教室の中では試験についての話がされるようになってきていた。かくいう俺も、国語の試験で好成績を収める為に準備を整えている所だ。来年の進路は当然文系を選ぶつもりなので、国語や英語の成績に関しては油断してはならない。数学や理科といった理数系に関しては既に捨てているから問題ない。人間諦めも肝心。時には何をしたところで無駄に終わることだってあるのだということを俺はよく知っている。故に俺は今回の試験もまた、理数系を捨てようと考えていた。うん、いつも通りそうするとしよう。とかなんとか考えていた俺だったが、そんな時に。

 

「……ん?」

 

 携帯電話が鳴った。

 一体なんの用事かと思い、俺は取り出して確認することにする。ここ最近よく誰かしらから連絡が来るようになったなと自分でも感じている。大体は島田か吉井、そして一色からだったりするのだが。

 今回もその三人のうちの誰かだろうと思って確認すると、やはりというか、そこに書かれていた名前は吉井の名前だった。

 ただ、その文面がなんとも言えないものだった。

 

『今夜。うちに泊めてくれないかな? 今日はその、帰りたくないんだ……』

 

 なんでそんな彼氏の家に泊まりに行く女みたいなメール流してきてんの?

 

「あれ? ハチ、そのメールって?」

「あっ、島田」

 

 隣の席に座る島田。恐らく今ちょうど教室に着いたところで、珍しく携帯電話をいじっている俺の姿が目に映ったのだろう。たしかに普段なかなか操作しているところを見ない奴が珍しく何か作業をしていたら気になるかもしれない。知らんけど。

 

「…………ねぇ、ハチ。一体何があったの?」

 

 心配そうな表情でこちらの様子を伺ってくる島田。それは俺のセリフだ。主に吉井相手に伝えてやりたい。

 

「いや、よく分からん。今さっきこんな連絡が来たばかりなんだ。俺に聞かれても事情はよく分からない」

「確かにハチに聞いても分からなそうね……アキってば、また馬鹿みたいなメール送ってよく分からないことをしちゃって……瑞希が苦労するのも頷けるわ……」

 

 何やらボソボソと呟いている島田。みずきって一体誰のことだ?

 

「ところでハチ。そろそろ定期試験だけど勉強の調子はどうなの?」

 

 当然、話題は試験の話になる。そりゃ多少なりとも気になるところだよな。高校始まって一発目の期末試験ともなれば、どれだけ成績が取れるか気になるところなのかもしれない。今までそんな話をしたことがないからよく分からないが。

 

「学力強化合宿でも言ったが、理数系は捨てた。文系に進む為に今はその教科を勉強している所だ。幸い数学以外はそこそこハイスペックだと自覚しているからな」

「まったくハチってば……せっかく赤点免れたのに、今度は定期試験で赤点取るつもり?」

 

 溜め息をついている様子の島田。

 

「……けど、その、お前に教わった所が出てくれれば、もしかしたら赤点回避出来るのかもしれないな。あの時も回避出来たわけだし」

 

 割とぎりぎりではあったけれど。

 いつも数学に関しては一桁を取ることすらあり得るのだから、回避しただけでもありがたいと思っている所だ。正直、島田に教わっていなかったら今頃夏休みに学校行かなくてはならないという事実で学校に行かずに引きこもっていたまである。

 

「そ、そう。それなら、いいんだけど……」

「……どした? 島田。顔赤いぞ?」

「な、何でもないわよっ」

 

 顔を背けてしまった島田。そのままそそくさと鞄を降ろして、一限目の授業の準備を始める。

 そんなわけで俺は机に突っ伏して、いつものように授業が始まるまでの時間、身体を休めようとしていたその時だった。

 

「おはよう八幡。今日はよろしくね!」

 

 と、満面の笑みを浮かべながら挨拶してきた吉井の姿があった。

 

「……何の話だ」

「メール送ったでしょ!?」

「メールの件なら却下だ。大体なんだよあのメール。内容が意味不明だからな」

「へ? 普通のメールだと思うんだけど……」

 

 吉井は心からあのメールがおかしいと思っていないらしい。

 

「なら今すぐ声に出して読んでみろ」

「えーと……『今夜。うちに泊めてくれないかな? 今日はその、帰りたくないんだ……』」

「……アキ。それじゃあまるで恋人がもっと一緒に居たいから送るみたいになっているわよ」

 

 島田からの追撃。

 何が悲しくで男からこんな連絡を受け取らなければならなかったのか。どうせ送られるなら戸塚からがいい。戸塚ならば喜んで家に泊めるまである。むしろ俺からお泊りの提案をしてみようか。

 というか、いつもより吉井の様子が少し違う気がするな……。

 

「……ところでアキ。なんだかいつもより血色いいけど、何かあったの?」

「え? 今日はちゃんと朝ご飯食べてきたからね」

 

 ということはいつもは食べていないのか……。

 いや、吉井の場合はあり得る話だ。確か以前アイツの家に行った時には、仕送りのほとんどをゲームや漫画につぎ込んでいるという話だった筈。つまり、食材を買うお金があるのかどうかすら怪しいというわけだ。

 

「それどころか、寝ぐせもないし、制服も皺がほとんどねぇな……一体どんな心境の変化なんだ?」

「た、たまたまそういう日だっただけだよ!」

 

 俺が尋ねると、吉井はそのままそそくさと自分の席へ向かってしまった。

 別に追いかけるつもりもないし、追及するつもりもあんまりないが、少なくとも吉井を今日家にあげて泊めるつもりは微塵もない。何より、小町に吉井を会わせると、何が起こるか分かったものじゃないからな。そういったことは未然に防がなければならない。

 

「何やら露骨に怪しいわね……」

「……そこまで気にする必要もないだろう」

 

 良くなったのならばまだマシではないだろうか。

 そんなことを考えながら、俺は机に突っ伏したのだった。

 

 

「吉井、保健室へ行きなさい」

「そんな! 僕が真面目に授業受けると、どうしてそこまで言われなくちゃいけないんですか!」

 

 島田が怪しむのもおかしな話ではなかったようだ。

 今の吉井は、何もかもが――きっちりしている。それも不自然過ぎる位に。

 普段ならば適当に聞き流しているだろう授業の内容についても、しっかりと聞いている。ノートをとっているその姿は、まるで模範生のようだ。

 

「……やっぱり何かあったんじゃない? アキ」

「かもしれないな。気になるなら後で聞いてみたらどうだ?」

 

 島田がこそこそと俺に耳打ちしてくる。

 やめて。授業中にそんなことしてくるとドギマギしちゃうでしょう。からかい上手の島田さんになっちゃうでしょ。俺が西方かよ。俺あんなに鈍感じゃねえよ。

 

「本当、ハチってば興味ないのね……」

「別によくなっているならそこまで気にする必要もないし。何より、俺に被害が及ばないのならばそれが一番だからな」

「まぁ、確かにアキの行動はいいものになっているんだけど……」

 

 確かに、何かきっかけでも起きなければ人間そう簡単に変わるものではない。

 吉井のあれは、何というか……不自然に目立つというべきか。

 何にせよ、いずれ勝手にボロを出すだろうと俺は考えながら、吉井のことを眺めているのだった。

 




姉のエピソードが続きますが、今回は期末試験におけるお話です。
即ち、バカテス側の姉がとうとう登場してしまうというわけですね……。
ちなみに、陽乃さんは20歳で、玲さんは23歳だそうですね……確かに言われてみればそうだなぁって納得してしまいますが、陽乃さんあれで20歳ですか……見えない……もっと大人びているように見えます……可愛いですけどねっ。


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第十五問 期末試験で、彼はいい成績を取らなくてはならない。 (2)

 昼休みのこと。

 いつものようにベストプレイスへ向かう為に教室を出ようとしたところに。

 

「あ、八幡。今日一緒にご飯食べようよー」

 

 と、何故か吉井が俺の行く手を阻むように教室の扉に張り付いていた。

 いや、なんでそんなに必死なんだよお前。

 

「……いや、俺購買でパン買って来るから」

「それじゃあ僕も一緒に行くね!」

「……いや、俺一人で食べたいから」

「それじゃあ僕も八幡の隣で一人で食べるね!」

 

 支離滅裂だぞお前。

 自分で何言っているのか分かっていないのか?

 

「ところでアキ。その袋って一体?」

 

 島田がここぞとばかりに尋ねてくる。

 どうやら島田も弁当を食べようとしていたらしく、机の上には小さな弁当箱が乗せられている。

 

「へ? 何ってこれは弁当だけど……」

 

 さも当然のように答える吉井。

 ん? 吉井が弁当?

 

「マジで言ってんのか?」

「八幡まで信じていないの!?」

 

 いやだって、吉井が弁当持ってきているだなんて正直予想していなかったからな。

 林間学校のカレー作りとかで見た感じだと、ある程度料理出来るとは思っていたが、よもや弁当を作るまでやってくるとは思わなかった。

 

「これ、誰が作ったの?」

「僕だよ?」

「「それ本当?」」

「なんで二人とも疑っているのさ!?」

 

 俺と島田の声が重なったことに対して、吉井が抗議の声をあげる。

 うん、まぁ、確かに吉井が言い訳したくなる気持ちも分からなくはないが。

 

「……日ごろの行い、じゃねえか?」

「八幡には言われたくないよ!?」

 

 どうしてそこで俺を引き合いに出すのか。

 

「とにかく、うちに泊まるのはなしだ。頼むなら坂本辺りにでもしておけ」

「そうか! その手があったか!」

 

 おいコイツもしかして、坂本に連絡するということすら思いついていなかったのか。

 

「ありがとう八幡! 雄二に聞いてみるよ!」

「お、おう……」

 

 とりあえず満足したらしい吉井は、坂本の所へと向かった。

 それを見送る俺と島田の二人。

 

「……絶対、何かあったとしか思えないんだけど」

「気になるなら聞いてみればいいんじゃねえか?」

「……瑞希と相談してみる」

「……なぁ、島田」

「何?」

 

 俺はずっと疑問に思っていたことを島田に尋ねることにした。

 

「その、みずきって一体誰のことだ?」

「……」

 

 その後、瑞希とは姫路のことであると説明された俺。

 何故かその時の島田は、何処か可哀想な物を見る目をしていた気がする。

 俺、何かしたか?

 

 

「邪魔するぞー」

 

 放課後。

 いつものように奉仕部の部室で本を読んでいると、そこに坂本の声が聞こえてきた。

 依頼がくるまでは基本的に暇な部活であるが、こうして坂本のような知り合いが入室してきたのは珍しことかもしれない。

 

「貴方は確か……」

「あっ、坂本君だ!」

「よっ、由比ヶ浜。そして雪ノ下」

 

 一通り挨拶してくる坂本。

 そう言えばまだ吉井が来ていないみたいだな。

 

「一体どうしたのかしら?」

「まぁ、単純に言えば奉仕部に依頼しに来たって感じだ」

 

 何食わぬ顔で坂本がそう言う。

 コイツが依頼? 随分と珍しいな。坂本ならば一人で勝手に解決しそうなものだが。

 

「……依頼ということであれば無碍に扱うことは出来ないわね。そこにおかけなさい」

「お気遣いどうも」

 

 ストン、と坂本は座る。

 俺や由比ヶ浜も定位置に座り、雪ノ下はその間に紙コップに紅茶を淹れ、それを坂本の前に差し出した。

 

「お、紅茶か。サンキュー」

「……それで、依頼とは一体何なのかしら?」

 

 雪ノ下が尋ねる。

 すると坂本は、紙コップに淹れられた紅茶に口をつけた後に、口角を上げてこう言った。

 

「ちょっとした調査に協力して欲しくてな……明久の件だ」

 

 なるほどな。

 流石は吉井の悪友。勘付いていないわけがなかったか。

 

「そういえばヨッシー、今日はまだ来てないよねー」

「まず、そのことなんだが……今日はどうやら放課後に予定があるって言ってすぐ教室を出ていっちまったみたいだぞ」

「そうなの?」

 

 由比ヶ浜が意外そうな表情を見せる。

 ……やはり何かあると考えるのが妥当だろうか。

 

「それに比企谷……お前明久に何吹き込みやがったんだ。翔子が来ている目の前で、『今夜は家に帰りたくないんだ……』なんて言ってきたから、一瞬地獄を覚悟したんだぞ!?」

 

 必死な表情を浮かべる坂本。

 いや、待て。一体何があったんだよ。こっちが気になるわ。何があったらそんな必死に懇願出来るんだ。

 

「……俺はただ、坂本に聞いてみろって言っただけだ。そもそも同じメールを最初俺も受け取ったんだが」

 

 俺は携帯の画面を開き、証拠としてメールを差し出す。

 それを見た三人はというと。

 

「……マジかアイツ」

 

 坂本は目を見開き、

 

「……ヒッキー?」

 

 由比ヶ浜は何故か俺を睨み付け、

 

「……はぁ」

 

 雪ノ下はこめかみの辺りを抑えていた。

 最早雪ノ下のそれは、吉井が何かしら行動を起こす度に発生する様になったな。一種の持病かなにかみたいになってるぞ。大丈夫か雪ノ下。

 

「まぁ、そんなわけでただ今絶賛怪しい明久の家に、この後ムッツリーニや秀吉、島田や姫路も呼んで、明久の家へ行ってみようと思うんだ。お前達も来てくれないか?」

「ヨッシーって確か一人暮らししてるんだよね? ちょっと気になるかも!」

 

 由比ヶ浜は少しテンションが上がっているようだ。

 高校生で一人暮らしというのは確かにあまり見ないから、そう言った意味では興味あるのかもしれない。

 ……そういやここに一人暮らししている女子高生いたわ。

 

「……部長へ話を通すわけでもなく、友人に伝言を頼んだ吉井君だもの。部長として確認しないわけにはいかないわね」

 

 別の意味でやる気を出している雪ノ下。

 うん、まぁ、ほどほどにしてやれ。

 

「いいでしょう。奉仕部として調査に協力します」

「やったー! みんなでかてーほうもんだ!」

「ちょっと、由比ヶ浜さん。暑苦しいのだけれど……」

 

 余程友人の家に遊びに行けるのが嬉しいのか、それとも雪ノ下と一緒に遊びに行けるのが嬉しいのか…恐らく後者だろうなぁ。島田や姫路も居ると言う話だし、女子が多いに越したことはないのだろう。由比ヶ浜的には。あと若干漢字になってないの気になるぞ。

 

「ま、そんなわけで。放課後突撃取材といこうぜ。比企谷も協力してくれるよな?」

「……やっぱ、俺も行かなきゃ、駄目か?」

 

 悪そうな笑顔を浮かべながら俺に話を振ってくる坂本。

 それに便乗する形で雪ノ下が一言。

 

「貴方は奉仕部の部員なのよ。部活動に関しては基本全員で何かしらの形で参加するのが一般的でしょう……それとも、特別な事情があるのだったら考えるけれど……」

「あ、それなら私、小町ちゃんに確認してみよっかー?」

「分かったよ行くよ」

「随分早かった!?」

 

 小町を引き合いに出されてしまったら行かざるを得ないじゃねえか。というかこの話が伝われば、小町は確実に面白がってついてくるに決まっている。

 ……それだけはなんとなく避けなければならない。

 

「んじゃ、決まりだな」

 

 逃げ道を塞がれた気分だ。

 そんなことを思いながら、俺は部室を出るのだった。

 




雄二からの依頼(?)により、奉仕部のメンバーは明久の家へと向かうこととなります。
原作通りのメンバーに、奉仕部の三人が加わる形での家庭訪問です!
このままだと確実に、あのお姉さんが八幡達と出会うことになりそうですね……。
一体どれだけカオスな展開が待ち受けているのでしょうか……。


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第十五問 期末試験で、彼はいい成績を取らなくてはならない。 (3)

「つーわけで明久。家宅捜索の時間だ」

「僕結構早めに帰ったつもりなのにもう追いついたの!?」

 

 奉仕部の部室をすぐに閉めて、坂本達と一緒に吉井の家へと向かったのも功を為したのか、何と吉井が鍵を開けようとする寸前に俺達は辿りつくことが出来たのだった。

 ちなみに、校門を出ようとした段階ですでに島田達がスタンバイしていた為、余計に逃げることが出来なくなってしまった。自転車は下に置いてある。

 

「明久。何の説明もなしに俺の家へと転がり込もうとするのは無理な話だ。それに、定期試験の範囲をいきなり聞き出す辺り、お前にしてはいよいよ以て怪しいんだよ」

「なんで!? 定期試験の範囲聞くのは別に問題ないと思うんだけど!?」

「……中間試験の時は勉強すらしていなかった」

「その中間試験を踏まえた上で僕だって……」

「嘘だな」

「勉強を……って雄二! ちょっとは僕の言うことを信用してよ!」

 

 見事なまでに信用されていない様子の吉井。

 まぁ、確かに吉井の勉強嫌いというか、勉強のやらなさは筋金入りと言ってもいい。小テストもほぼ赤点という結果を残す位だ。というかまともな点数を取っている科目があるのか知りたいところである。

 

「しかし明久よ。今日は一段と変じゃのう。弁当を持ってきておったり、ワイシャツにはアイロンがけしてあったり……果てには家へと真っ直ぐ帰ろうとする。もしや……」

「……彼女」

「えっ」

 

 土屋の言葉に真っ先に反応したのは姫路だった。何故か目に見えて落ち込んでいる。コイツもしや、吉井に彼女が居るとは思っていなくて、ショック受けているのか? 吉井にも彼女が居るという事実に。

 

「ヒッキー……なんかちょっとズレたこと考えてない?」