のらりくらりと歩む道 (のらうり)
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平穏な日々のため

初めての投稿なので今回は短めです。
なんでも許せる方のみお読みください!


第1話「始まりの出会い」

 

しんしんと、雪が降る。

その日は彼の大切な少女は大好きな真っ白な雪を血に染めて、この世を去った。

 

「(ああ、だめ、だめだ、まだその子を」

 

 

連れていかないで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「御伽!!朝だよォ!起きてー!!」

 

騒がしい声で彼の意識を覚醒させたのは、金色の髪が目に眩しい、狐の社。

 

「うるさいわね、今日お店休みなのよ……」

「そんなこと知ってるさ、だから早く遊びに行こうよ」

 

顔を顰めながら御伽は起きあがり、腹癒せにベッドの上に乗る社を落とした。

 

「うぎゃ!」

 

下で変な声を上げる社を後目に御伽はベッドから下り身だしなみを整える。御伽は普段寝る時は下だけ履き、上は上裸の状態で寝てる。起きて早々顔を洗い化粧をし、仕上げに目元に左右2本ずつ朱を指す。

御伽はメイクを終え、己の着物を持ってきた社から服を取るとそれを纏う。社と違い鍛えられた締まった身体、そう御伽は列記とした男なのだ。

最後に鈴の着いたチョーカーを付け着替えは完了。

 

「(……久々にあの夢を見たわ)」

 

御伽は昔自分が猫又ではなくちゃんとした猫として生きていた時の夢を見た。その夢は御伽を妖怪にした決定的な事件であることはまた後ほど話すとしよう。

 

「よし!じゃあ、行こう!」

「どこに行くのよ」

「まだ決めてない!」

 

おちゃらけている社の脇腹を1発ド突いて御伽は部屋を出た。その後に続く社。

結局どこに行くかも決まらずただウロウロと街を練り歩く。この街には江戸時代を彷彿とさせる平屋の家や店が多く、輻輳も和服を身に着けてるものが多い。しかし中には社のように洋服と和服を合わせたアレンジを効かせているものも居るし、なんなら普通に洋服の者もいる。そもそも服装なんて関係ないのだ。何故ならこの街に住むものは皆が普通ではない。社や御伽のように妖狐や猫又と言った妖怪の他にもそこら辺に妖怪や獣人達がウロウロしているのだ。この街、いやこの世界は人間の暮らす世界と隣合わせの世界。その為に人間の世界に遊びに行く者も多く、逆に人間が迷い込んでくることもある。しかし、迷い込んできた人間はこちらの環境が合わないのか皆数日で命を落とし、中にはそのまま妖怪や鬼になりこちらに住み続ける者もいる。なので、現世ではそれを“神隠し”と読んでいる。

 

「御伽!ご飯食べに行こ!朝ごはん!」

「何食べに行きたいのよ」

「パンケーキ!!」

 

社はよく現世に赴く。妖狐だからか変化が上手く人に馴染む。さらに社はこの街を治める神社の神格である、九尾の妖狐、眞白様の息子ということもあり、妖力が高いため変化が向こうで解けることはまずない。なので最近のブームは現世で食べたパンケーキらしい。

 

「現世に行くの?」

「いや!御伽に作ってもらう!」

「嫌よ、めんどくさい」

「えー!材料費だすから!」

「それならいいわ」

「現金!!」

 

そうと決まれば話は早い。

御伽と社は材料を買うため商店に向かう。

 

「トッピングは何がいい?僕はアイスとチョコが、いい、な?」

 

社の言葉が不自然に途切れる。

 

「ちょっとどうしたの「しーーーーっ」」

 

口に指をあて、社は耳を動かす。御伽も耳を済ませてみるが特に変わった音は聞き取れない。

 

「ちょっと、何よ」

 

声をかけると社の耳がピンとはる。

そのまま走り出した。

 

「ちょっと!!やしろ!」

「はやく!わかんないけど、誰か叫んでるんだ!」

 

叫び声なんて一切聞こえなかった。しかし、御伽にも聞こえないような音でさえも社は拾う。昔から社はこういう危機察知はピカイチだった。走る社の後を御伽がついていく。しばらく走りやっと着いた先に広がる一面の赤。

その周りに倒れる、数人の人。もう息はない。鮮血に染まる道の真ん中、既に息絶えた女性の喉元に噛み付いている、1匹の鬼。

鬼はその女性を投げ捨てるとゆっくりこちらを向いた。

 

「あれ、見つかっちゃったか」

 

ケロッと、何事も無かったかのように話す鬼。その鬼が指を鳴らすとあたりの鮮血も、人も一瞬でも消える。

 

「いつもは見つかる前に片付けてたんだけど、しょうがない」

 

 

口元の血をぐいっ、と拭い御伽と社を交互に見る。

 

「僕の名前は瑛翔、今日はお腹いっぱいだからまた今度相手してねおにーさん♡」

 

 

瑛翔と名乗った青年はしゅっ、と姿を消し。その場はいつもと同じ平穏な風景に戻った。

 

「……今の何」

 

何が起きたか未だに飲み込めない御伽と社。

ひとつ分かるのは

今までの平穏な日々が、一気に不穏な陰に包まれたということだけだった。

 

 

 

 

 

 

その日は結局楽しい雰囲気になんて到底なれず、御伽は社と共に眞白様の元に足を伸ばし、今日あった出来事を思い出せる限り鮮明に話した。

 

「……分かりました。私もいつにも増して警戒をします、あなた達も十分気をつけるのですよ」

「はい。……眞白様これからどうなるのでしょうか。」

 

御伽が尋ねると眞白様は悲しそうにうなだれる。

 

「私にもわかりません。ですが御伽、貴方のように闘える子はこれから大変なことに巻き込まれるやもしれません。その時は力を貸してくれますか?」

「はい、この命、眞白様とこの街のために」

「命は粗末にしてはなりませぬ、でも、ありがとう御伽」

 

眞白様は儚く笑う。見ているこちらが泣いてしまいそうな程に。

 

 

 

その後、御伽は眞白様の神社を後にし、外で待っていた社と合流する。

 

「おまたせ」

「……御伽、僕何も出来なかった。」

「……」

「この街を守る神の息子なのに、何も出来なかった、それが、、悔しい!」

 

社は階段に腰掛け己の膝を抱えてないていた。そんな社の背中を御伽は撫でた。

 

「大丈夫、これから強くなればいいのよ」

 

 

 

 

 

 

 

そして、それから数ヶ月が経とうとするがあれ以来音沙汰は無い。

瑛翔が言っていたように見つかる前に片付けていたという事なのか、しかしそれなら行方不明者が出てもおかしくはない。紛れもなくそこでは何も起きていないのだ。

 

そんなある日の夜御伽は煙管をふかしながら瓦屋根の上をカランコロンと飛び移っていた。

 

「(この街に、一体何が起きているの?)」

 

いつもと変わらない街並み、景色、空、しかしその日はひとつ違っていた。匂いが違っていた。

 

「(何、この匂い)」

 

その異様な匂いに御伽は顔を顰め、あたりを見渡す。

カラン、隣の瓦屋根の上から見えた路地の奥、違和感のある黒い影。御伽は屋根の上から飛び降りる。

するとそこには、傷だらけでもう事切れそうな浅く息をする狼の子がいた。

 

「あんた、まだ死にたくない?」

 

突然かけられた声にその狼の子はゆっくりと顔を上げ、じっ、と御伽を見る。

 

「(夜の帳を宿した瞳)」

 

その狼の子は強い力を込めた目で御伽を見つめる。

 

「あたしは御伽、あんた死にたくないならあたしの手を取りなさい、死にたいなら無視していいわ」

 

すっ、と差し出した手に、狼の子はゆっくり力が入らず震えながら手を伸ばし御伽の手を取った。

 

「……そう、じゃあ、帰りましょうか」

 

 

御伽は狼の子を抱き上げると自分の家へと連れて帰った。

後にこの狼の子との出会いで物語が大きく動き出すことを御伽はまだ知らない。

 

 

 

 

To Be Continued




お読みいただきありがとうございます!
更新速度は遅めだと思いますがゆっくりのんびり読んでいただければ幸いです!
ありがとうございました!


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日常

今回は御伽達の日常のお話となります。



狼の子を拾った翌日。御伽はいつもよりも少し早く起き、朝ごはんの準備をしていた。

連れて帰った狼の子はまだ目を覚まさないだろう、とのんびり準備をしていると

 

 

かたん

 

 

彼の居る部屋から控えめな音が聞こえる。

 

「(あら、意外と早起きなのね……)」

 

コンロの火を消し、物音の聞こえた彼の居る部屋に向かう。

 

コンコン

 

自分の家なのにノックをするなんて不思議な感じだ、と思いながら御伽が扉を開ける。

 

 

「おはよ、よく眠れたかしら?」

 

 

御伽が声をかけると狼の少年は布団の上で深々とお辞儀をする。

 

「ああ、、いいのよ、あたしが勝手に連れてきちゃった見たいなとこもあるし、所であんた名前は?」

 

「……ぁ、……?」

 

名前を尋ねると少年は口をぱくぱくさせ、喉に手を置き、首を傾げ、同じことを繰り返す。

 

「……あんたもしかして声が出ないの?」

 

御伽の問いかけに少年はコクコクと首を縦に降る。

 

「……そう、でも名前分からないと不便よね、紙にかけるかしら」

 

御伽は紙とペンを持ってきて少年に差し出す。

 

サラサラと少年は紙に文字を書き、御伽に見せる。そこに書いてあったのは「狼」という字。

 

「……?オオカミさん?」

 

御伽がそう言うと、はっ、とした顔をし首を横に振る、そして、狼と言う字の上に平仮名で「ろぅ」と書き足した。

 

「ロゥ、そう、あんたロゥって言うのね、いい名前ね」

 

優しくロゥの頭を撫でて微笑む御伽。

 

「あたしは御伽よ、これからよろしくね」

 

そう言ってロゥを布団から立たせる。

 

「さ、ご飯にしましょ!食べられる?」

 

うん、と首を縦に降り、ほんのりと笑う。その笑った顔にはあどけなさが残りこの子が意外と若いのではないかと思わせる。

じゃ、行きましょ。と部屋から出ようとした時。

 

バタン!!

 

「御伽!おっはよー!!」

 

勢いよく扉が開けられ社が入ってくる。

御伽に飛び掛った社は部屋のもう1人の人物に目を向け、、ただでさえ大きい目をぱちくりさせた。

 

「……えっと、どちら様??」

 

 

 

 

御伽は事の発端を淡々と社に話す。

 

「……なるほど?つまりロゥくんは何者かに襲われ、そのショックで声が出なくなっちゃったんだね?」

 

ふむふむ、と顎に手を当て頷く。

 

「ところで御伽、のんびり僕に説明してるのはいいけどさ、そろそろお店の準備をしなきゃならないんじゃない?」

 

 

そう言って社は部屋の時計を指さす。時刻はもうすぐ9時、御伽の経営するカフェバーのオープン時刻は10時。つまり、オープン準備をしなければならない一時間前。

 

「やだっ!コットンに怒られちゃうじゃない!ロゥ!社とご飯食べたらあたしの店に来るのよ!社教えてあげてね!行ってきます!!」

「いってらっしゃーーーい、……じゃ、ご飯食べて御伽のお店行こっか」

 

社の言葉にロゥはこくん、と頷く。

 

 

 

 

 

「コットン!こっちのやつ3番さんに持って行ってちょうだい」

「はーいマスター」

 

慌ただしく動く店内で爽やかな笑顔を振りまく黒い大きな耳を揺らす少年は、御伽の営むカフェバーの従業員であるコットンだ。コットンが言われたとおりに品物をテーブルに運ぶとその席の女性客らは小さく黄色い声を上げる。少し離れた席から、コットンを呼ぶ者もいる。コットンはその見た目の良さと優しい言葉遣いでこのカフェの人気店員だ。

 

「ねぇ、コットン君お店そろそろ終わりでしょー?このあと遊びに行かなぁい?」

 

猫なで声で声をかける化粧の濃い女。

 

「すみません、このあとクローズ作業があるので……」

 

苦笑いを浮かべるコットンを気にも止めず女達はしつこく誘う。

 

カランコロン

 

「あ、いらっしゃいませ」

「お!コットンじゃん!!ちゃんとやってるー??」

 

タイミング良く社とロゥがやって来てコットンをさらって御伽の近くのカウンターに腰掛けた。その光景にコットンにしつこく声をかけていた女達は小さく舌打ちをした。

 

「おい、今仕事中なんだけど!」

「大丈夫大丈夫!ね、御伽!」

 

グラスを拭く御伽に社が声をかける。

 

「……まぁ、もうそろそろカフェも終わりだし、少し休憩しててもいいわよ」

「だってさ!あ、そーいえば紹介してなかった、この子はロゥ!御伽の拾い子」

 

ペコりと、ロゥはコットンにお辞儀をした。

 

「よろしくね、ロゥくん」

 

にこりと、笑いコットンは椅子に腰掛けた。

 

「コットンくーん!こっち来てよー!」

 

先程の化粧の濃い女がまた声をかける。

すると今度は御伽が出向く。

 

「ちょっとあんた達ね、他のお客様もいるんだからもう少し上品に過ごしなさいよ」

「えーー、だってコットンくんがきてくれないんだもん」

「そんなグイグイ来る女、誰だって喰われるんじゃないかって怖くなるわよ、ほら、もう閉店時間の15:00過ぎたわよ、帰った帰った」

「はーーい、コットンくん!またねー!」

 

意外にも御伽の言葉に素直に応じた女達は店のベルを鳴らしながら出ていった。

それを見ていた他の客達もチラホラと席をたち始め、少しするとカフェのホールは静かになった。

 

「よし、お掃除始めるわy「あああー!!もうやだ!!」」

 

客のいなくなったホールのカウンター席でコットンが突っ伏す。カウンターに戻ってきた御伽が布巾を水で濡らし程よく絞りテーブルを拭き始める。

 

「ねぇ!!なんであの女達あんなに臭いの!?香水ホントにやなんだけど!!化粧も、ケバいし!!」

 

うぎゃーーー!!と騒いでるコットンを横で社が笑っている。

 

「いや、ほんとに!!絶対マスターのがいい匂いするからね!?ね!?「おい小童、誰の許可を得て僕の御伽をくどいてるんだ?」」

 

ドスの効いた低い声がコットンに降り掛かる。

 

「うわっ!!」

 

慌てて振り返るコットンの後ろには黒い艶のいい髪に大きな白い翼を持った青年が立っていた。

 

「黒影(コクエイ)じゃない、いつ帰ってきてたのよ?」

「ただいま御伽♡ついさっき街に着いたところだよ!」

 

さっきとはうって変わりコロッと声色を変え御伽にハートマークを飛ばす。

 

「そ、じゃあシロも帰ってきてるのね?」

「うん、でももう街を出てったよ、だから僕ももう行くけどね」

 

御伽と離れるの残念、と言って翼をだらんとさせ、あからさまにテンションを下げる黒影。

 

「何言ってんの、そう言って何年もいなくなるくせに」

「そーだよ、クロもシロもすぐどっか行くじゃん」

 

ぶーぶーと口をとがらせ社が話に入る。

 

「ゴメンなやっちゃん、そーいえばその後ろの子は?」

 

そう言って社の後ろに座ってるロゥの事を指さす。

 

「ああ、ロゥっての、今うちで暮らしてるのよ」

 

その言葉に黒影は衝撃を隠せず膝から床に崩れ落ちた。

 

「っ、そ、そんなっ!!僕とは一緒に暮らしてくれなかったのに!!」

「ちょっと誤解されるようなこと言わないでくれる?てか、さっさと行かないとシロに置いてかれるわよ」

 

そう言って御伽は拭いていたグラスを棚に戻す。

 

「……それもそうだ、じゃあまたねー!」

「はいはい、シロにもよろしく言っておいて頂戴」

「おk、じゃあ御伽、愛してるよ♡」

 

ちゅっ、と投げキッスの仕草を御伽に向けて、黒影はそのままお店をあとにした。

 

「い、今の人誰」

 

呆然としていたコットンがやっと声を上げた。

 

「あれ、コットン知らないんだっけ?この街でめちゃんこ強ーーーい人だよ、黒影は。シロ、白蓮(ハクレン)もめちゃんこ強いんだけど何分放浪癖があってね、クロは」

「マスターの、恋人??」

 

聞いちゃ行けないと思ってるのか恐る恐る聞くコットン。

 

「そんな訳ないでしょ、アイツが勝手にあたしの事を好きになっただけよ」

「そーそー!御伽の初恋はクロじゃなくてシロだもんねっ「余計なこと言うとぶっ殺すわよ??」」

 

社の頬を鷲掴み御伽が微笑む。その光景にコットンとロゥはひぃぃぃぃ、と心の中で叫んだ。

 

 

 

 

からん、からん

 

 

 

扉の開いたことを告げる鈴がなる。

扉の前には目元だけ、紙の面のようなものでおおったすらっとした男性が立っていた。

 

「あら、あなたは……」

 

その男性はゆっくりと歩き御伽の前にくる。

 

「時計の針が重なった、だから、あなたに会いに来た」

 

 

「「??」」

 

コットンとロゥはなんの事かさっぱりわからず首を傾げるが、御伽と社の顔つきが変わる。謎の言葉を発した男性はただただ静かに微笑んでいた。

 

 

 

To be Continued

 




のんびりとまだまだ続く予定ですー!!
読んで下さりありがとうございます♡!


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予感

この話からだんだんと物語が動き始めます(たぶん)
前話からだいぶ空いてしまいましたごめんなさい!今後はもう少しペース上げたいです!



- のらくら3話 -

「時計の針が重なった、だからあなたに会いに来た」

 

そう言って微笑む男性の目元は紙のような面で見えないがとても穏やかなものだった。

謎の言葉を発した男性をロゥもコットンも不思議そうに見つめていた。

 

「お久しぶりね、翡翠さん」

 

どうやら御伽とは面識があるようで、その男性、翡翠という男の名をやさしく呼ぶ。

 

「はい、ご無沙汰しております旦那」

 

翡翠もまた穏やかに返し席に座る。

 

「社、コットンとロゥを連れて外で待っててくれる?」

「あいさー」

 

社は状況を理解しているようでコットンとロゥを連れて外に出ていった。

 

「ねぇ、さっきの男の人のあの言葉何?」

 

コットンが社に声をかける。

 

「ああ、あれね、あれは合言葉」

「合言葉?」

「そ、御伽は表向きはカフェバーのオーナーだけど、実際は情報屋として生計を立ててるの、あんまり大っぴらにやりたくないからって、知る人ぞ知る合言葉」

 

ほら、出たでた、と社はロゥとコットンの背中を押し店の外にでる。

 

 

「そしたら翡翠さん、奥にどうぞ」

 

スタッフオンリーと書かれた札の下がった扉を開け御伽が翡翠を中に招き入れる。

少し廊下を歩いた先の一室に翡翠と共に入っていく。その一室はたくさんの書物で壁一面埋め尽くされていた。書物に囲われたその真ん中に小さなテーブルとイスが2つ。どうぞ、と椅子を指し翡翠を座らせる。御伽は一旦部屋から出たかと思うと少しして湯呑みを2つ持ってきて片方を翡翠に渡し、腰掛けた。

 

「さて、お話を聞きましょう」

 

湯のみから口を離し、御伽が翡翠に問いかける。

その動作を見届け翡翠が口を開く。

 

「『銀狼』の情報を売って頂きたい」

 

銀狼と告げた翡翠に御伽は顔を強ばらせた。

 

「.......随分と古い人物を出してきたわね」

「貴方はかつての戦争で銀狼と一緒に戦地にいましたよね、その当時、出来れば近況も含め教えて頂きたい」

 

以前も話した通り、こちらの世界は人間の世界と隣り合わせ。人間界で大きな世界大戦があった時、こちらの世界でも大きな戦争が起きた。御伽はその時、白連や黒影と共に戦争に駆り出され生きて返った。その時戦地にいた人々の中にいたのが銀狼と呼ばれる男だった。戦地では名を知らぬ者がいないくらいにその活躍は凄まじかった。しかし、銀狼は戦いになると敵味方関係なく人々を殺していった。美しく輝く銀色の毛並み、荒々しい戦闘スタイル、故に彼は【銀狼】と、部外者が聞けばただの容姿に関する呼ばれ方でその名は一気に戦地を駆け抜けた。御伽達は運良く生きて帰ったがこの戦争では当たり前の様に多くの人が犠牲になった。

 

「彼の話を聞いてどうするの?」

「.......長くなりますが、いいですか」

「大丈夫よ、バーの時間まではまだあるし」

 

では、と言って小さな紙包みの中から銀色の毛束を取り出した。

 

「つい先日の出来事です。私の一族のことは知っていますね、旦那」

「ええ、あなた達はある年齢を越えると、瞳が宝石に変化する稀な種族の末裔よね」

「はい、その通りです。私の瞳はジェード、つまり翡翠です」

 

そう言って翡翠は面を持ち上げ御伽にその瞳を見せる。

 

「いつ見ても美しい瞳ね」

「ありがとうございます。話は戻りますが、私たちの瞳は年齢を重ねることで徐々に宝石に変わっていきます。宝石になりかけている瞳は闇商人たちの間で高く売買されており、用途は様々、妙薬として効果があるだとか、魔術の材料にするなど、ここ最近では取締りが厳しくなり危機は減りましたが、まだまだ我々は狙われることが多々あります。そして先日、私の許嫁の翠が両目をくり抜かれ見るも無惨に殺されました。翠は今まさに、瞳が宝石に変わる途中でした、そして翠が殺された部屋に落ちていたのがこの毛束です」

 

そう言って翡翠は毛束を持ち上げた。

 

「あたしの情報を殺しに使うつもり?」

 

ワントーン下がった御伽の声に翡翠の手が微かに戦慄く。御伽は微かな殺気を込め翡翠を見つめていたが、その目を閉じ息を吐く。

ピリ、と張り詰めていた空気が緩む。

 

「あなたが何をしたいか分かるわ、ただアタシの情報は人を殺すために提供するわけじゃないの、金を積まれれば明け渡すほど安くもない、復讐をする気ならあたしから情報は売れないわよ他をあたってちょうだい」

 

御伽は煙管に火をつけ、1口吸っては吐き出した。その様子を見ていた翡翠が腰を上げる。

 

「ご無礼をお許しください、しかし私もこのまま引き下がるわけには行かないのです、最愛の翠を殺され、私には何も無いのです、旦那どうか、どうか」

 

翡翠は頭が机につきそうなくらいに下げ御伽に懇願する。

 

「........、だめよ、あたしは力になれないわ。帰ってちょうだい」

 

御伽は静かに立ち上がると扉を開けた。翡翠の表情は読めないが、強く手を握りしめそのまま部屋をあとにした。

 

「(ごめんなさい)」

 

御伽は翡翠の悲しげな背中を見届け、翡翠の置いていった銀狼の毛を煙管に入れ燃やし、煙を吐く。吐き出された煙は命を宿したように動きシルエットを浮かび上がらせる。そのシルエットはゆっくり動きだし次の瞬間に激しく動き出す。恐らく翠を殺したその瞬間だ。そんな動きを見せる煙に御伽は顔を顰めた。

 

「(........何か変だわ)」

 

御伽は煙を眺めながら考え込む。

 

「(銀狼、シルバが瞳のために殺しをするなんて事あるかしら)」

「銀のあんさんはこんな事しないっすよ、ねぇさん」

「っ!?やだ!驚かせないでロゼ!」

 

不意に響く声に御伽は思わず声を上げて驚いた。

さーせんっ!とギザギザの歯を覗かせ笑っているこの突如現れた青年はロゼッタ。軍服を纏う幽霊、御伽でさえ気配を読み取れない。

 

「それに、ここは入っちゃダメって言ってるわよね」

「そんなことよりねぇさん、銀のあんさんは瞳なんぞに興味はないっすよ」

「あんたほんと1回ぶん殴るわよ?」

 

御伽の話には耳を傾けず、ふよふよ宙を浮かび、ロゼは御伽の周りを漂う。

 

「てか、なんであんたがそんなこと知ってるのよ」

「ねぇさん忘れたんすか?オイラはあの戦争時代からずっっっと幽霊やってきたんすよ?当然死なないんすから戦争も間近で見てたっすよ」

 

銀のあんさんについては気になってたんで見張ってました。と言ってロゼはにっこりと笑う。

 

「それで?」

「知りたいっすか?」

 

ニヤニヤと楽しそうにイタズラな笑みを浮かべるロゼに御伽はしびれを切らせて外に出ようとするとその御伽の肩を掴んだ。

 

「もー冗談っすよ!銀のあんさんは戦いにしか興味が無いんすよ、強い相手と戦うことだけにしか!宝石の目になんててんで興味はなしっす」

「だからなんなのよ」

「分からないっすか?つまり」

 

ヘラヘラしていたロゼは急に笑みを消し御伽の顔の前に指を突きつける。

 

「興味の無いことにわざわざ手を出すって事は」

「........」

「誰かが裏で手を引いてるってことっすよ」

「........嫌な予感がするわ」

 

御伽は煙管の火を消し、部屋の外に出ようとする。するとその背中にロゼが声をかけた。

 

「ねぇさん、気をつけた方がいいっすよ、銀のあんさんはお強いから」

「そんなの知ってるわよ、一緒に戦ってたんだから」

 

そう言って御伽は足早に部屋を出た。

 

「そうっすよね、なんたってあんたもあの戦いで恐れられたひとりだ、ねぇ?【化猫御伽】?」

 

 

 

 

 

 

「随分楽しそうだなシルバ」

「何かいい事あったのー?」

 

優しい風が肌を撫で、その自慢の銀の毛並みを揺らす。

 

「何やら面白いことが起こる気がするのぉ」

 

 

 

 

 

 

翡翠との話を終え部屋から出てきた御伽は社とロゥを連れてあるところに来た。

 

「久しぶりじゃない?ここに来るの」

「そうね、あんたはダメだったけどロゥには効くかもしれないから」

「??」

 

御伽と社はそれぞれこの場所がどういう場所なのか分かっているようだが来たばかりのロゥには分からず首を傾げる。その様子を見た御伽は優しくロゥの頭を撫でた。

 

「せめて、自分の身は守れるようにならなきゃね」

 

そう言うと御伽は目の前の大きな邸の扉を少し乱暴に叩く。少ししてゆっくりと扉が空いた。その先には灰色の大蛇がとぐろを巻いて待っていた。

 

「これはこれは、御伽さんお久しぶりです」

「ええ、久しぶりね粼(せせらぎ)さん、悪いんだけどミオを呼んでくれるかしら」

「もちろんです、少しお待ちを」

 

粼と言った大きな蛇はそのまま屋敷の中に戻って行った。ちょいちょい、とロゥが御伽の服を引き、何か聞きたそうに御伽の顔を見る。

 

「大丈夫、怖くないわよ」

「やぁぁん!!御伽!久しぶりぃぃ!!」

 

御伽がロゥの頭を撫でようと手を伸ばした時、御伽の後ろに思いっきり飛びかかってきた明るい女性。御伽は思わず倒れそうになるのをグッ、と堪え体勢を立て直し衝撃の原因と呼べるその女性の方に向き直した。

 

「ミオ!あんた危ないでしょ!」

「だって御伽が会いに来てくれたの嬉しいんだもーん!」

 

御伽に抱きつくミオがロゥに気づく。

 

「およ?もしかして今回はこの子かな?」

「ええ、お願いできるかしら」

「まっかせなさーい!じゃ、移動しよっか!」

 

そう言ってミオは御伽達を連れて広い庭に移った。そしてロゥに近づき体を触る。

突然のことに驚くロゥはあわあわと慌て始め御伽に助けて、と視線を送るが御伽は笑顔でそれを見つめていた。

 

「ふむふむ、体つきは悪くないね、ただ筋肉がもう少し欲しいとこかな。しなやかないい筋肉だけど、いまいち頼りないね」

 

ロゥの体を分析するミオ。その様子を見ていた社が口を開く。

 

「あれ、僕の時もやられたけど彼女何者なの?」

「あら?説明しなかったかしら」

「ぼくは説明の前に戦力外あつかいされたからね」

 

どことなく不貞腐れたように社が口を尖らせる。

 

「あの子はあたしと一緒で戦争を経験してる子よあたしと違うのは雇われでは無いことかしらね」

 

「よしよし、じゃあ早速始めようか」

「??」

 

少し離れ構えるミオにロゥは困惑している。

 

 

「あの子はね最年少で軍の中尉になった実力の持ち主なのよ」

 

 

 

「さぁさぁ!!どっからでもかかっておいで!」

 

 

 

 

To be continued

 




相変わらずグダグダで申し訳ないです。ここまで読んで下さりありがとうございます!
新キャラ登場が一気に来ましたね!
粼にミオ、シルバとロゼッタ!正体不明も何名が居ますがこれからのお話もぜひ読んでください!


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ざわめき

だいぶ間が空いてしまったのに少し短くなってしまいました。ごめんなさい。

今回はちょっとしたグロ描写(食人描写)がありますので苦手な方は読まないことをおすすめします。

大丈夫な方だけ読んでいただけると嬉しいです!


のらくら4話

 

 

戦闘態勢に入ったミオを見つめ、ロゥは何をしていいかイマイチ分からない様子で辺りを見渡す。

 

「ああ、なるほどねそりゃ確かに僕は戦力外扱いされるわけだつまり御伽は」

「あら?来ないの??そしたらあたしから行くわね!!」

 

「ロゥを戦闘用に鍛えたいわけだ」

 

目付きの変わった社を横目に御伽は笑みを深める。

 

「悪い話じゃないわ、何か嫌な予感もするし、あの子も襲われてここまで来たのよ?身を守る術を与えてあげなきゃ」

「…僕、御伽のそーゆー所は嫌い」

「あら、心外ね、これを含めてあたしなのよ」

 

ふーん、と納得をしてないように社は視線をロゥ達の方へ向ける。ミオは畳み掛けるようにして連続してロゥに殴りかかっていた。

 

「ほらほら!避けてるだけじゃ何もならないぞー」

 

辛うじて攻撃をいなし、避けることが出来ているが攻撃を与える隙すらミオは見せない。

 

「社、あんた暇なら皐月呼んできてちょうだい」

「え、なんで紬なの?」

「ロゥの服、今あたしのお古着させてるけどサイズ合ってなくて動きづらそうじゃない?皐月に作ってもらうのよ」

「えー、あいつ作ってくれるかな?」

「大丈夫よ、ロゥ顔いいから」

 

うへぇ、と嫌そうな表情を浮かべながらもいってきまーす、と言って社はその場を離れた。

その背中を見送り御伽は組手をするロゥとミオに視線を戻す。ロゥの動きそのものは悪くは無い。しかし、ミオの実力が圧倒しているため、攻撃に転じさせて貰えない。これは恐らく経験の差だ。ミオは長い時を軍人としてすごし命の危機と隣り合わせの中で生きてきた。その軽やかな身のこなしは産まれ持っての才能もあるかもしれないが、それだけでは到底なし得ない。冷静にミオとロゥの実力差を分析しながら御伽は煙管をふかす。

それと同時にミオがロゥの顔に蹴りを叩き込むが、ロゥはそれをギリギリの所で躱し、バランスを崩したミオ目掛けて腕を振るう。ロゥの鋭い爪がミオの頬を掠めはしたものの決定打にはならず、ミオは冷静にロゥから距離をとる。

 

「うん!今のは少しよかったよ!」

 

頬から伝う血を拭いながらロゥに話しかける。ロゥはミオの頬からジワジワ滲んでくる鮮血をマジマジと見詰めている。

ロゥのその些細な変化に御伽はいち早く異常を察知した。組み手を止めさせようと声を出そうとした、そのとき。

ロゥの瞳孔が開き完全にミオを獲物としてとらえた獣へと変貌する。全身の毛が逆立つような殺気を放ち、地面を蹴りミオとの距離を一気に詰める。ミオへと振り上げられた手は目にも止まらぬ早さでミオの脇腹へと重い一撃を入れる。

 

「ーーーっ!!かはっ」

 

勢いを殺せずモロに受けたミオは数メートル先に飛ばされる。

 

「げほっ、はっ!ーーーはっ!!」

 

息をするのも苦しそうな程に顔を苦痛に歪め腹を抑えるミオにゆっくりとロゥが近づき、だんだんスピードをあげまた殴りかかる。

 

バシンっ!

 

「!!」

「組手は終わり、落ち着きなさい」

 

ロゥの凄まじい威力であろう拳を片手で抑え、御伽は煙管の煙をロゥに吹きかける。その煙を吸ったロゥの体からふ、と力が抜け、地面に倒れた。

御伽はロゥの拳を止めた手に目をやると赤くなり、カタカタと震えていた。

 

「っ、なんて力なのよ」

「お、とぎ」

 

弱々しく足元からミオの声が聞こえふと我に返り御伽は倒れたミオを抱きあげる。

 

「大丈夫!?ミオ!」

「へへ、ちょっと腕が落ちちゃったかも、」

「ごめんなさい、あたしの不注意のせいだわ、すぐ手当を」

「大丈夫、大丈夫!粼さんにお願いするわよ」

 

だから下ろして大丈夫よ!と言うミオを御伽はゆっくり地面へ下ろした。脇腹を抑えながら歩くミオに肩を貸しながらゆっくりと歩きだした。

 

「え、ちょっと何この状況」

 

するとちょうどその時、社が帰ってきて、その後ろにはひょこっと小さな明るい水色の髪が目立つ子供がたっていた。

 

「あら、早かったわね」

「たまたま街歩いててさ、てかこの状況説明してよ、なんでミオさんは怪我してて、ロゥはぶっ倒れてるわけ?」

「それは、」

「ねえ、俺はなんで呼ばれたの??」

 

社の後ろにいた子供が話を割って入ってくる。

 

「ねぇ御伽、この子は?」

「あぁ、ミオは初めて会うかしら、紬 皐月、羊の獣人よ」

「どーもっ!」

 

明るい笑顔を向け軽く手を上げる紬。

そんな紬に御伽は声をかける。

 

「皐月、あんた悪いんだけど、ミオを部屋に送ってくるから少し社と待っててちょうだい」

 

悪いわね、と言ってミオを連れて御伽はその場をあとにした。

 

「ねぇねぇ、社はなんで俺を呼びに来たの?」

 

社を見上げながら不思議そうに問いかける紬に社は顎に手を当てて目を閉じる。

 

「んーーー?知らない」

「…なんじゃそりゃ」

 

説明するのが面倒になった社は庭の芝生の上にどか、と座り込み大きくため息をついた。

 

「ああ、もうあいつには振り回されっぱなし!やんなっちゃう!」

 

 

 

 

 

 

場面は変わり、御伽に情報を売ってもらえなかった翡翠は1人帰路へ着いていた。

はずだった。

 

ぐち、ぐちゃっ、べちゃ

 

耳を塞ぎたくなるような音と辺りの地面をそれめ紅、噎せ返るような生臭い香り。

 

「汚い食べ方をするなシルバ」

 

見るも耐えない変わり果てた翡翠の亡骸を食べているシルバに、シャンパンゴールドに美しい桜色がかった髪を風に靡かせながら、汚物を見るな目でシルバに声をかけたのは溯だった。

 

「そうは言っても、食器がある訳でもないのだから仕方あるまい」

「せめて音を立てるな」

 

ぐい、と口にべっとりとついた血を腕で大雑把に拭い食べかけていた翡翠だった肉塊を地面へ放る。

 

「ま、さして美味くもない肉ゆえ、もう終いにするかの」

「美味しくないのになんで食べるの?シーくん」

 

心底嫌そうな顔で腕を組みながらシルバを見つめている溯の後ろからひょこっと顔を出したのはピンク色の髪に大きな花の髪飾りを付けたうさぎの玲だ。

 

「好き嫌いせず食べんと、体力が持たんのだよ」

「ふーん、シーくん運動量多いもんね!」

「しかし、少数一族である宝眼(ほうがん)の一族であるこの者の肉が、こんなにも不味いとは思わなんだ」

 

血のついたシルバに玲がタオルを渡すと、シルバはボヤきながらもそのタオルを受け取る。

 

「当たり前だ、そいつは混血、純血ではないからな」

「ぬ?」

 

キョトンとするシルバと玲に溯は大きくため息をつく。

 

「何も知らないのか?宝眼の奴らは本来虹彩のみ宝石に変化する。そいつは眼球全てが宝石だった、だから混血の奴らの眼は宝石になりかけの時にしか役に立たん。とんだ出来損ないな奴らだ」

 

ほー、と間抜けた声をあげるシルバと玲に溯は頭を抱える。

 

「この出来損ないの宝眼のせいで、遅かれ早かれ俺達の身元はバレる。ここから離れよう」

「そうだの、余計なことをしてくれおって」

「なんでバレちゃだめなの?」

 

シルバの肩に座る玲が溯に問いかける。

 

「俺達の邪魔をされては“あいつ”を助け出すために無駄な時間が増える。だから、俺達はなるべく存在を知られてはならない、いいな?」

「ああ、そっか、早くあの子のために回収しなきゃだもんね、たっくさん素材を」

 

にぃぃ、と笑みを深めシルバの頭に体重をかける玲。

 

「そうだ、あいつの為に俺達はここに居る。…行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

「いいねいいね!!ミステリアスな雰囲気にピッタリじゃない!?ねぇ!そうでしょ!御伽さん!!」

 

 

場面は戻りミオ邸にてテンションが爆上がりの紬に押されタジタジになったロゥの装いは中華風の衣装に口元を隠す様なスタイルのものへと変わっていた。

 

「そうね、これならみんな下手に話しかけないから声が出なくても問題無さそうね」

「かっこよくなったね!ロゥ!」

 

社に褒められ照れたように顔を伏せるロゥ。

 

「さて、じゃあ、今日はそろそろ帰りましょう、ロゥは明日もここであたしとミオとで組手よ、ある程度闘えるようになるまでね」

 

そう言った御伽にロゥはコクコク、と頷いた。

 

 

「御伽さん御伽さん」

 

 

ちょいちょいと御伽の服の裾を引っ張る紬に御伽が耳を傾ける。

 

 

「ロゥ君の項のところ、こんな刺青があったんですが、御伽さんがいれたんですか?」

 

 

そう言って紬が出した紙には太陽を模した様な形の絵がかいてあった。

 

 

「?何これ」

 

その絵を見てもなんの事かさっぱり分からない社は紙を受け取りヒラヒラと遊ばせていた。

 

「御伽何だかわかる?」

 

御伽に顔を向けると御伽は額に汗をかき、顔はあおざめていた。

 

「…御伽?」

「まさか、そんな」

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、帰ろう俺達のホーム、【デュスノミアーデン】へ」

 

 

 

 

 

 

「【デュスノミアーデン】…!」

 

 

 

To be continued




今回ガッツリ、溯、シルバ、玲の3人組が登場です!
ちょっとここからだんだんと物語が盛り上がって行きますので気長に待っててください!

誤字脱字は心の目で読み解いてね♡

今回も読んでくださりありがとうございました!


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導き

1ヶ月以内に続きを書くことが出来ました!楽しみにしてくださってる方が少なからずいると思うとモチベーション上がりますね!

という事で今回第5話目にまたまた新キャラが登場致します!
Twitter見てくれてる方は分かってると思いますが今私が描きまくってるあの青い方です(笑)

ゆっくりですがこれからも続きを書いていきたいと思います!
どんどんお話は盛り上がって行きますのでよろしくお願いします!


コツコツ

 

広く、長い静かな廊下に響く足音。足音の主はシルバたちといる際には一切見せない険しい表情をした溯だった。

 

廊下の奥の大きな扉を壊れそうなほど勢いをつけて開け放つ。

 

「うわ、びっくりした!溯ぅ、食事中だぞ?ノックぐらいしたらどうなんだい?」

 

大きなテーブルの上には見るも無惨に切り刻まれた妖や人間たちの死体がころがっている。その死体の上に胡座をかき座っている瑛翔に溯は無言である袋を投げつける。瑛翔はそれを軽々と受け取ると中身を確認する。

 

「おっ、混血の宝眼族の瞳だね?これで残る素材はあと2つ」

「早く言え、俺はさっさとこの仕事を終わらせたい」

 

溯の不機嫌そうな態度に瑛翔は小さく溜息をこぼした。

 

「せっかちさんだなー溯は!んま、いい事だけどね♪まず1つ、この近くの大きな街を守る土地神九尾狐の御髪、2つ、これまた大きな霊山を仕切る烏天狗が守りし鳳凰の尾羽、だよ今回の素材は難易度がかなり高い、なんてったってこの標的にはそれぞれ護衛がいる、中でも鳳凰の方は烏天狗たち総出で狩人を殺しにくるだろう」

 

「構わない、何がなんでも手に入れてやる、俺にはやらなければならないことがある」

「嗚呼、そうだよね笑、【あの子】のため、だもんね?」

 

嫌味たらしくにこやかに笑う瑛翔を睨みつけ溯は部屋を出ようと瑛翔に背を向けた。

 

「期待してるよ、溯♡」

「言っておくが、俺とお前は仲間ではない俺の目的の先にお前の目的があるから仕方なく手を組んでいるだけだ、お前が裏切るような事があれば俺はお前も斬り捨てるぞ」

 

そう言って溯が部屋を出たあと、瑛翔は心底楽しそうに高笑いをあげる。

 

「あはっ!ほんっと楽しみだぁ、御伽、そろそろ君の元に桜が舞い降りるよ、君たちはどうするんだろうね?あと、」

 

ちらりと視線をずらした先にいた幼い女の子を見て瑛翔は再び笑みを深めた。

 

「君に会ったら御伽はどんな反応をするだろうね?楽しみだなぁっ」

 

 

 

 

瑛翔と話したせいで更に機嫌の悪くなった溯は足早に地下へと続く階段を降りていた。

 

「溯さま、ご苦労さまです」

 

地下のフロアへ降りたと同時に研究員のような白衣を着た若い男が溯に声をかけた。

 

「ああ、様子はどうだ」

「お変わりなく、お目覚めの兆しは見られません」

「…そうか、外してくれ」

「はい」

 

 

溯の一声でその場にいた数人も地下のフロアから出ていた。厳重に鍵のかけられた大きな鉄の扉を開ける。中は暗くぼんやりと青い光がその部屋を照らし出す。溯は中に入ると扉をゆっくりと閉めた。ぼんやりと青い光に照らされた部屋の中には青い光を放つ無数の大きな水槽がある。奥へと進み、溯はあるひとつの水槽の前で足を止め、悲しげな表情で水槽に触れ、額をつける。

その水槽の中には腹に大きな穴の空いた、溯によく似た少女がたくさんの管に繋がれ眠っていた。

 

 

 

「あと少し、あと少しでお前を治してやれる待っていてくれ、朔良(さら)」

 

 

 

 

 

 

「御伽!ちょっと!どこ行くのさ!」

「社、あんたしばらくロゥ家に泊めてやってくれない?あたしは調べなきゃならないことが出来たの、しばらくお店も休むからコットンにも伝えて頂戴」

 

 

足早に歩きながら伝えてくる御伽に社は顔を顰め、歩みを止める。

 

「社?」

「いいよ、ただし条件がある」

「…何よ」

 

社は大きく息を吸い込み何かを決心したようにきっ、と御伽を見つめる。

 

「何処に行くか、何をするか、どのくらい空けるのか、それは聞かないだけど1つ!絶対生きて帰れよ!何もわかんないけど、お前の顔を見れば危ないことに足突っ込もうとしてる事はわかる!だから!絶対帰ってこい!いいな!」

 

どんな条件を出されるのかと思って身構えていた御伽は思っていた条件とかけ離れたその願いに思わず笑った。

 

「な!笑うな!こっちは真面目なんだぞ!」

「ふふ、分かったわ、大丈夫よそんな簡単にくたばりはしないわ、あとロゥ貴方はあたしが帰るまで毎日ミオのところで稽古付けてもらいなさい、話はつけてあるから」

 

御伽の話にロゥは大きく頷いた。

 

「それじゃあ、行ってくるわね」

 

 

 

その日の夜、御伽はしばらく家を空ける為、ある程度の資金と食料を持って家を出た。

 

「行きは良い良い帰りは怖い」

 

小さな声で歌うと、御伽の影が大きく広がりまるで水面のように波紋が出来る。

御伽が大きく息を吸い込み止めると

 

どぷん

 

水の中へ堕ちるように影が御伽を飲み込んだ。少しして息を吐くと影がゆっくりと元の御伽の影の形へと戻り、薄暗い森の中で御伽は立っていた。

御伽はその森のさらに奥へと進み始める。30分程歩き続けると遠くにほんのりとあかりが灯っているのが目に入り御伽は無意識に息をついた。

こじんまりとした小さな小屋の扉をノックすると、立て付けの悪そうなキィィィィ、という音と共に扉が勝手に開く。その扉の前には二羽の梟が居た。一羽は灰色の羽に美しい青い瞳を宿し、もう一羽は金色の羽にエメラルドのような濃い緑の瞳を宿していた。

その二羽はじっ、と御伽を見つめている。

 

「こんばんは、セシルにジゼル、ビジョンに合わせてもらえるかしら」

 

セシルと呼ばれた金色の梟と、ジゼルと呼ばれた梟は静かに動き出し奥の部屋の扉の前に移動した。そしてセシルがコンコンと扉を啄くとしばらくして奥から青く長い髪を携えた、美しい顔立ちの人物が現れた。

 

「久しぶりね、ビジョン」

 

久しぶりと、声をかける御伽にビジョンは冷たい目線を向ける。

 

「来る頃だと思っていたよ、御伽」

 

ビジョンの肩にジゼルが止まり、セシルは足元で座って御伽を見つめる。

 

「どうせ面倒事なんだろ?早く要件を済ませてくれるかい、俺はあまり時間を無駄にしたくはないんでね」

 

そばにあった椅子に腰をかけビジョンは長い髪をはらう。

 

「せっかちさんね、…貴方の専売特許よ、【デュスノミアーデン】についての情報を頂戴」

「随分懐かしい名前を出すね、あの軍の機密機関を出してくるなんて、何があったんだい?」

 

柔らかな口調とは裏腹にビジョンの目付きは鋭さを増していた。御伽は静かに息を吐き、ビジョンの向かいの椅子に腰を下ろした。

 

「数ヶ月前、ある狼の獣人があたしの街に傷だらけになって倒れていたわ、その子の項にこの刺青が入っていたわ」

 

御伽はあの太陽を模した刺青が描かれた紙をビジョンに手渡した。

ビジョンはその紙を受け取ると大きなため息をついた。

 

「確かに、デュスノミアーデンの紋様だね、しかしあの機関は俺が抜けるとほぼ同時に軍によって壊滅させられたはずだ」

「軍の機密機関なのに?」

「そうだ、あの機関は違法に人体実験を繰り返し行っていたからね、《神隠し》は分かるだろう?」

「ええ、表の世界から迷い込んだ人間たちのことよね」

「そう、その神隠しで紛れ込んできた人間たちはこの裏の世界の環境に耐えられず死んでいくことが多い、しかし稀に生き残り、この世界に順応してみせた人間たちも居る。デュスノミアーデンはその人間たちを連れ込み人体実験を行っていた、その狼の子、きっと元は人間だ」

 

その話を聞き御伽は眉を顰める。

 

「貴方も一緒にその実験を?」

「バカを言わないで欲しいね、俺はどちらかと言うと被検体だ」

「…被検体?」

 

イマイチ話の飲み込めない様子の御伽にビジョンは微笑んで見せる。

 

「俺は純血の宝眼族だからな」

「…そうね、そうだったわ」

「俺の体は研究者にとって、調べたくて仕方の無い体、しかも軍に所属してる宝眼族は稀だったしね、好き勝手人の体を弄り散らして行ったさ」

 

御伽は淡々と続けるビジョンの話に頭を抱えた。

 

「別に大したことはないよ軍の人間にそんな大それたことは出来ないしね、おかげで今もこうして生きていられる」

 

ごめんなさい、と弱々しく謝る御伽にビジョンは苦笑した。

 

「“化け猫”が聞いて呆れるな、セシル、ジゼル彼にお茶を出してくれるかい」

 

ビジョンの声に反応し二羽の梟が隣の部屋へと消えていった。

 

「…話を戻そう、その狼の子はきっと奴らの実験で生まれた獣人だ、俺が思うにその子が今も普通に生きているのであれば彼らの実験自体が完成しつつあるんだろうね」

「どういう事」

 

 

顔を上げた御伽の顔には怒りが滲んでいた。

その時隣の部屋に向かった二羽の梟がカゴに入ったティーセットを持ってきて器用にカップにお茶を注ぐ。

 

「ありがとう」

 

ビジョンが二羽にお礼を言うとそっ、と御伽の前にカップを滑らせる。

 

「ハーブティーだよ、少し気分が落ち着くと思う」

「…ありがとう」

 

出されたお茶に口をつけ、小さく息を吐く。

 

「さっきの話、そいつらの実験が完成するってのはどういう事なの?」

 

ビジョンは口をつけていたカップを戻しその宝石の瞳が真っ直ぐに御伽を見据える。

 

「彼らの目的は“神”を人工的に創り出す事なんだよ」

「神?」

「そう、神、神様だよ、彼らは神隠しにあった人々に様々な遺伝子を足し、簡単に言えばキメラを作っている、そのために必要な素材や人体を求め、実験しては捨て、実験、捨てを続けてきたほとんど成功なんてしてこなかったのさ、それが、君のところの狼の子、彼もその実験体で今も安定して生きていられるという事は」

「準備が整ってきている?」

 

御伽の言葉にビジョンは笑みを深める。

 

「ご名答」

「戻らなくちゃ」

 

椅子から立ち上がって、小屋を出ようとした御伽の背にビジョンが声をかける。

 

「神を作るには神の体の一部、つまり“遺伝子”がいる、お前の街の土地神さま、警戒しておいた方がいい」

「貴方が、明確な助言をするなんてどういう風の吹き回しなの?」

「俺は《バイキングの行先を導く石アイオライト》なんでね、たまには道に迷った子羊を助けて上げて職務を全うするさ」

「ありがとうね」

 

今度こそ小屋を出ようとした御伽にもう一度ビジョンが声をかけた。

 

「御伽!」

「?」

「もうすぐお前の前に桜が舞い降りる、その桜は良くも悪くもお前に大きな影響を与えるぞ」

「どういう事よ、ま、受け取っておくわ」

 

 

小屋から出た御伽の背を見送るとビジョンはため息をついた。

 

「ビジョン」

「大丈夫?」

 

御伽が部屋を出てから二羽の梟がみるみる姿を変え、幼い瓜二つの男の子と女の子に変わった。

 

「いよいよ動くのか…、俺達も準備しておいた方がいいかもしれないね」

「大丈夫」

「ビジョンは私たちが守るから」

 

そう言ってビジョンの両手を握る幼い子達にビジョンが笑顔を向ける。

 

「ありがとう、セシル、ジゼル」

 

 

 

 

「全く【行きは良い良い帰りは怖い】なんて、よく言ったもんよ!ここ何処なのよ!!」

 

ビジョンの小屋はこの童歌を口ずさめばどこに居ようと傍の森まではすぐに行ける。今までその類まれなる体を狙われてきたからこそビジョンは己の身を守るため自分の済む小屋と周りの森に呪いをかけ、この童歌を口ずさまない限り立ち入れないようにした。しかし、童歌同様行きは容易いが問題は帰り、場所を悟られぬようビジョンは返す時は適当な場所へ尋ね人を飛ばす。もちろん御伽も例外ではなく現在自分がどこにいるかすらわかっていない。

 

「ほんっと!少しは加減して欲しいわね!」

 

イライラを募らせながら御伽は煙管を取りだした。煙管を一吹かしすると吐き出した煙が形を変えてゆく。次第にかたちが定まりある現在いる地域の形を成す。

 

「は!?頭おかしいんじゃないのあいつ!!ここから街まで何百キロ離れてると思ってるのよ!!」

 

ぶつくさと文句を言いながら御伽は帰路に着くことになった。

 

 

「次会ったら1発ぶん殴ってやるわ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「俺が導くその先に、光があらんことを」

 

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued




今回で溯の目的が何となくわかったと思います!
あとはビジョンたちがこの後どう物語に絡んでいくのかも楽しみにしていただけると嬉しいです!
次のお話も読んでくれることを楽しみにゆっくりですが書いていきたいと思います!
よろしくお願いします!


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激動

だいぶ遅れての更新になってしまいましたごめんなさい!!
まだまだお話は続きますのでどうぞお付き合い下さい!!
今回はビジョンの屋敷を出た御伽がある人物に出会います!
どうぞー!


「っ、ほんっと最悪っ!!」

 

御伽はビジョンの屋敷からの帰路に着いていたが、途方もない道のりを1人で歩いて帰っていた。表の日本であれば自動車やら電車やら飛行機やら科学が発展し便利な世の中になっているが、こちらの裏の日本では基本誰もが妖力を扱えるため空を飛んだり一瞬で場所を移動できるものが多い。そのため交通機関というものがほとんど発展しなかった。そして、御伽の様に幻術などが上手い妖にはその空を飛ぶや瞬間移動などが苦手な妖もいて、いざ遠出するとなるとその手の者たちに力を借りなければならないが、こんな状況見ず知らずの場所でそんな都合よく巡り会える訳もなく、1人イライラしながらも時折位置確認をしてこうして歩いている。

場所的にはようやく半分といった所だろうか、ちょうど茶屋が視界に入り、御伽はひと休みしようとその店に立ち寄った。

 

「はぁぁあ、次会ったら1発ぶん殴ってやるわ」

「おやおや、物騒ですねお兄さん」

 

茶屋からにこやかな笑顔を貼り付けた人の良さそうな娘がお茶と茶菓子をお盆に乗せてやってくる。

 

「ありがとう、ちょっとイライラしてて」

「旅の方ですか?」

「まぁ、そんな所よ」

 

御伽の傍にお盆を置くと娘が口を開く。

 

「そういえばつい先程も旅の方が寄られましたよ」

「そうなの?」

「はい、3人で一緒に旅をしているようで、何でもこの先の大きな街に用があるとかで、、あ、すみませんこんな話しかけてしまって、ごゆっくりどうぞ」

 

娘は軽くお辞儀をすると店の中に戻っていった。

 

「(今どき旅をしてる人が居るのね)」

 

お茶を口に含み、ほっと一息つくと先程までの苛立ちもどこかに消えていた。青空の広がる天気のいい今日は鳥たちも空を飛びかい、それだけで心が落ち着く。

 

「(黒影、よべばよかったかしら)」

 

御伽はふと、アルビノの烏天狗の黒影のことを思い出していた。彼はいささか性格に難はあるものの自分を育ててくれた1人でありその実力は計り知れない。それに空も飛べる。きっと呼んでおけばすぐ着いてきてくれていただろうが、考えても後の祭りなので考えるのをやめた。

御伽は出されたお茶と茶菓子の皿を娘に渡してお礼を言ってからまた歩き始めた。すると、先程までの快晴が嘘のように雲行きが怪しくなってくる。

 

「嫌ね、雨降りそうだわ、、、あら?」

 

空を見上げてからふと視線を戻すと、道の端で蹲っている人を見つける。近づくとその子は顔を上げ御伽と目が合う。ピンクとオレンジ色の珍しい瞳のうさぎの獣人と目が合い御伽はじっ、とその子の顔を見つめてしまった。するとあることに気がつく、そのこの足のくるぶし辺りが微かに赤みを帯び腫れている。

 

「ちょっと、怪我してるじゃない、転んだ?」

 

咄嗟に持っていた手ぬぐいをちぎり、薬草の入った瓶を取り出し腫れている所に塗っていく。

 

「いたっ」

「ちょっと我慢して、この薬はよく効くから明日にでもいつも通りに動くようになるわ」

「…ありがとう、お兄さん」

「いいのよ、ところで貴方1人?そうなるとどこか休める所まで運んであげるわよ」

「ううん、大丈夫1人じゃないよ」

 

その子が大丈夫、と言った次の瞬間。凄まじい勢いで視界を銀色の影が横切り御伽は咄嗟にその子から距離をとった。するとまるで母猫が仔猫を守るかのようにその子の前に銀色の美しい髪と、狼の耳にピアスをした紅い瞳の男が現れる。

その男は低く唸り声をあげ御伽を睨みつけていた。

 

「シー君!大丈夫だよ!この人僕を助けてくれたの」

 

シー君と呼ばれそこで御伽は、はっとした。

 

「…あんた、銀狼、シルバ?」

 

ぴくん、と男の頭の上の耳が揺らぎじっ、と御伽を見つめる。

 

「主の事なぞ知らん、悪いが我の知り合いにオカマは居らんのでのぉ、玲殿を助けてくれたのは感謝する、だが、彼奴が来る前にここを離れた方が良いぞ」

「彼奴?」

 

玲と呼ばれた子を抱えあげながらシルバは御伽に忠告する。

 

「彼奴は少々気が早い所がある、我と違って様子見なぞせず殺されるぞ」

 

ふぅ、とため息混じりにシルバが言ってすぐ、全身を悪寒が駆け巡り毛が逆立つ。

 

こつ、こつ

 

足音が近づく度にその悪寒はまし御伽の額に冷や汗が滲む。その瞬間足音が消えたと思うと突然首元に強い衝撃が走る。

 

きんっ

 

金属音がなり首元の鈴が崩された事をしる。

 

「…っ!(まずい!)」

「お前、玲に何をした」

「溯!その人は僕を助けてくれたんだよ!!離して!」

「だが、」

「離して」

 

先程までの声色とは全く違い玲は冷たく強く言い放つ。すると溯もその手を離し、御伽は地面に崩れ落ちた。

 

「げほっ!!はっ!」

 

急激に酸素が入り込み思わず御伽はむせる。

 

「もう!そうやってすぐ突っかかるの悪い癖だよ!溯!早く九尾狐の所に行こ!」

 

その言葉に御伽はビジョンの言葉を思い出した。

 

『お前の前にもうじき桜が舞い降りる、その桜は良くも悪くもお前に大きな影響を与えるぞ』

 

「(さくら、)」

 

御伽は自分を襲ってきた男を見つめた。シャンパンゴールドの髪の先に桜色のグラデーションが入り、瞳は濃い桜色をしていた。

御伽の中で嫌な予感が大きくなり、こいつらをあの街に近付けさせては行けない、と思ったが、それは叶わなかった。

 

「そうだな、飛ぶぞ」

 

溯がそう言うと、体の周りを黒い影のようなオーラが包み込み、そのオーラは翼の形を為して玲を抱え飛び立って行った。シルバもそのオーラの尾を掴み3人はあっという間に御伽の前から消えていった。

 

『御伽』

 

突如頭の中に声が響く。

鈴が割れた。

あいつが、やってくる。

 

『なぁ、御伽、聞こえてんだろ??そろそろ俺にその体返してくれよ、なぁ、御伽』

「うるさい!!あんたにこの体は渡さないわよ!だめ、ダメなの、早く早く、」

 

 

「黒影」

 

 

 

 

突如強い風が吹き、黒影の髪を揺らす。

 

「どうした、クロ」

「…御伽が、“扇形”が出てくる、行かなきゃ」

 

その瞬間黒影は白い大きな翼を大きく羽ばたかせ目にも止まらぬ早さで白蓮の前から消えていった。その背中を白蓮は見送った。

 

 

 

「くろ、くろ!早く早く!!」

 

自身の体を抱きしめるようにしながら御伽は黒影の名前をうわ言のように呼び続けた。

 

『もう諦めろよ、意識もぼんやりしてきただろ?俺に身体明け渡しちまえば、楽になるぜ』

 

その囁きに意識を手放してしまおうと思った霞む視線の先に、まるで天使が舞い降りたかのように錯覚をする程の景色が広がる。先ほどまで曇っていた空は夕日が差し、光の柱がいくつも立ってその中に黒影がゆっくりと御伽の前に降り立つ。

 

「くろ、くろっ」

 

近づく黒影に縋り付く御伽に黒影はゆっくり声をかける。

 

「大丈夫、御伽、少し寝なさい、起きたら君はいつもの君に戻ってる、さぁ、安心しておやすみ」

 

そして、ゆっくり御伽の瞼を撫で瞳を閉じさせる。

手を離し、傍の岩に身を預けさせ、黒影はその御伽の前に座る。少しすると、御伽の目が開き、黒影を捉える。しかし目覚めた御伽はどこか様子が違く、いつもは上品に笑う口元には大きく三日月が浮かべられていた。

 

「ああ、会いたかったよ扇形、僕の愛しい扇形」

「俺はあんたが嫌いだ」

 

口調もいつもと代わりオネェの要素は一切消え去り、御伽いや、扇形は大きく伸びをする。

 

「どおしたの?今日は暴れないじゃないか」

「目覚め1番に俺の封じ手の顔を見ちゃ暴れる気も起きねぇよ、今回はまた大人しく眠ってやる早く鈴つけろよ」

「えぇ、つまらない今日こそ僕を殺してくれると思っていたのに」

 

はぁ、と息を吐き黒影は立ち上がる。すると黒影の周りにプスプス、と炎が燻りだし、それは次第に大きな炎へと形を変え黒影の周りを包み込む。やがて炎が収まり中から現れた黒影は赤く燃える美しい翼に、長い尾羽、瞳の色もオレンジとも赤とも言えない燃える炎そのものを彷彿とさせる色に変え、顔には大きく痣が浮かぶ。

 

「いつ見ても、その姿は美しいな」

「へえ、扇形にも美しいと思うことがあるんだ」

 

そう言いながら黒影は尾羽を2枚抜き、息を吹きかける。すると黒影の手のひらの上でそれはカラン、と音を立てて鈴に姿を変える。

 

「今度起きたら次こそ僕を殺してくれるかい?扇形」

 

首元に新たに鈴を付けられ、チリーン、と澄んだ音が辺りに響くと、微かに扇形の顔が顰められ、にぃぃ、と笑みを浮かべる。

 

「ああ、その時はたっぷりお前を愛してやるよ(殺してやるよ)」

 

それを聞くと黒影は満足そうに笑い炎が収まりいつもの黒影の姿へと戻っていく。

 

「楽しみにしてるよ、扇形」

 

そう声を掛けた扇形は既に意識を失っていて、黒影はそっと、御伽の頬を撫でる。

 

 

「…おやすみ」

 

 

 

 

ーFinー




ここまで読んでくださりありがとうございます!今回は少し短めになってしまいました。ごめんなさい。
ここから遂に溯達3人は御伽の住む街へと向かい、九尾眞白様を狙い、御伽たちは眞白様を守らねばならなくなってきます!果たしてこの先どうなっていくのか!お楽しみに!


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