Azur Lane for Answer (塊ロック)
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首輪付きと狐

企業に歯向かい、クレイドルを落とし、今の人類を犠牲として未来を切り開いた。

それでも俺は…俺の答えは、未だ見つからない。


 

空は雲ひとつ無い快晴。

 

見渡す限りの青い海原。

 

 

「指揮官様ー、おはようございます」

 

 

…来た。

 

 

この声が聞こえる度に身構えてしまうのは、まだまだ彼女に慣れていない証拠なのだろうか。

 

制服に手早く着替え、私室のドアを開く。

 

 

目の前に立っているのは、朝から目にするには些か刺激的な重桜の服を纏う女性。

 

重桜の艦船特有の、獣の耳と尾を持つ亜人のような女性だ。

 

名を、

 

 

「おはよう、赤城」

 

「はい」

 

 

今回、アズールレーンとレッドアクシズによる内戦の発端となったKAN-SENの、同型艦だ。

 

 

____________________________________________

 

 

 

「指揮官様。昨夜から委託に出ていた子達が先程到着致しましたわ」

 

「む、そうか。じゃあ労いに行ってやらないとな」

 

「先程加賀が軽食を持って出ていきましたね」

 

「加賀が?意外だな」

 

「そうでしょうか?あの子は面倒見の良い子ですよ」

 

 

執務室へ移動する合間に、今日の執務内容を赤城と打ち合わせする。

 

 

まだこの泊地へ来てから日が浅いので、こうして秘書艦業務を通じて慣れてもらおうという狙いがあった。

 

 

…のだが、

 

 

「指揮官様?」

 

「指揮官様ー」

 

「指揮官様!!」

 

 

この艦、やたらめったらベタベタしてくるのだ。

 

ユニオンのKAN-SENは距離が近い、ロイヤルは何かと遠回し、鉄血は付かず離れず、と言った所属ごとにKAN-SEN達の接し方は違う。

 

だが、赤城は違った。

 

 

「指揮官様?どうなさいましたか?」

 

「いや…」

 

 

何処に行くにも着いてくる。

気が付いたら3歩後方に居る。

独り言を呟いたら隣の部屋に居ようと反応してくる。

 

軽くホラーを感じてしまう程、赤城は俺にくっついて来るのだ。

 

 

「なあ赤城」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「何でこっちに来たんだ?」

 

 

ふと疑問に思ってしまったことが口に出る。

 

元々、アズールレーンと対立していた彼女が、こちらの陣営に着いた理由添えをそういえば聞いていなかった。

 

 

「“あの"私が何を思ったのかはわかりませんが、同じ想いをあの時感じました」

 

「想い?」

 

「ええ。私は指揮官様の為に戦うと」

 

「…は?」

 

 

KAN-SENは同じ名前、同じ外見の、所謂同一個体というものが存在する。

 

元となった船の記憶というのものをメンタルキューブによって形にするため、ルーツは同じ、個体としては別のものが完成する。

 

 

なので、俺達が沈めた赤城と、目の前に居る赤城は別物なのだが…。

 

 

「ひと目見た瞬間から、赤城は指揮官様から意識を反らすことは出来ませんでした」

 

「…………」

 

「その時思ったのです。赤城を沈めた指揮官様こそ、この赤城が求めたものだと」

 

「…意識が繋がってたなら、俺のこと憎いとか思わないのか?」

 

 

あの瞬間、赤城同士で強い繋がりがあったのだろうか。

 

それだけは俺が測ることは出来ない。

 

 

「ですから、赤城は指揮官様に相応しくなるようにならねばなりません」

 

「えっ」

 

「指揮官様?いつか、赤城の愛を受け止めてくださいね?」

 

「ちょっと待て、なんでそうなる」

 

「当たり前ではありませんか。私を沈めた責任をとっていただくだけです」

 

「あれはお前じゃないんだろ?なんでさ」

 

「これも運命なのですよ指揮官様」

 

「あ、わかったお前もそれっぽく言って胡麻化すタイプだな?」

 

 

………彼女とのコミュニケーションは、前途多難らしい。

 

 

(ま、不快な相手というかむしろ好ましい部類だし…良いか)

 

 

何だかんだ俺は彼女を認めてしまっているらしい。

元々敵対していたと言うのに。

 

…ただ単に、美人に好意を持たれていると言うのが琴線に触れているだけなのかもしれないが。

 

 

「…まともな女性なんてセレンさんくらいしか話したこと、ないんだけどな」

 

 




どうも、借金背負ってたり蒼きびりびりしてたりする指揮官です。
今回はアズールレーンのクロスSSをこっちに持ってきました。

こういうのって正直ハーメルンの方が良いんじゃないかなと思ってしまい、取りあえず現行分移籍して渋の方は消すか放置かするかもしれません。

…それでは、答えを求めて彷徨う首輪付きの物語へ。


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首輪付きの着任

リンクス指揮官と初期艦綾波の馴れ初め。

ストレイドのアセンはまだ練っていますが、コジマの心配は明石が何とかしてくれます(


こちらの指揮官も応援よろしくお願いします。


 

皆さんはじめまして、綾波です。

 

 

私達の指揮官はちょっと変わった人でした。

 

初めて会った時は、ここサンディエゴに艦船は綾波とロングアイランドさんだけしか居ませんでした。

 

 

目が覚めたときに、目の前にいた人が指揮官だったのです。

 

 

「指揮官、貴方はなんという名前なのですか?」

 

「俺?俺か?そうだな…」

 

 

目の前の男性は考え込みました。

 

まるで、名乗る名前が無いとばかりに。

 

 

「…俺は、リンクス・カラードマン少尉。俺の事はリンクスって呼んでくれ」

 

 

それが、私達の指揮官でした。

 

 

 

 

 

指揮官は不思議な人でした。

 

私達の事、今の情勢のことを、何一つ知らなかったのです。

 

 

「ふーん…でも、人間同士で争ってるんだろ?それは、どこも同じか…」

 

 

その時の指揮官の顔は、とても寂しそうでした。

 

でも、指揮官は空と海を見た瞬間、子供のようにはしゃいでいました。

 

 

「これが…汚染されてない空と海か…!凄いな…この中を思いっ切り飛べたら気持ちいいんだろうなぁ…」

 

「指揮官は、飛べるのですか?」

 

「え?あー…そうだな、見せてやるよ」

 

 

指揮官は、いたずらっぽい表情で綾波を案内してくれました。

 

 

___________________________________________________________

 

 

地下ドック。

 

打ち捨てられた区画だったと記憶していましたが、ここには先客が居ました。

 

 

「ロボット…?」

 

 

とても大きな、白いロボットが鎮座していました。

 

ところどころボロボロで、年季が入っているように見えました。

 

 

「ストレイド。こいつの名前だ」

 

 

昔、世話になった人が付けてくれたんだ、と指揮官は語ってくれました。

 

今は、動力的な問題で動かせないけど、と独りごちていました。

 

 

「これが空を飛ぶのですか?」

 

「ああ。空を、海を、陸を。全てを制するアーマード・コア、ネクスト。俺の相棒さ」

 

 

この時の指揮官の顔は、綾波にはよくわかりませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

それから、重桜と鉄血が謀反を起こし、レッドアクシズが結成されました。

 

 

「なぁ、綾波」

 

「なんでしょうか」

 

 

寂れた軍港で出来ることなんてたかが知れています。

 

上からくるちょっとした雑務を片付けた後に、指揮官は口を開きました。

 

 

「お前は…ついていかなくて良かったのか?」

 

 

指揮官は、一応ユニオンに所属している、と前に言っていました。

 

綾波は…重桜の船です。

 

 

確かに指揮官の言うことはわかります。

 

けど、

 

 

「綾波はここから離れるつもりはありません」

 

「それは何故?」

 

 

指揮官は優しく、見守るように問いかけてきます。

 

 

「綾波は、指揮官が飛ぶところを見てみたいです」

 

「…なるほど」

 

 

 

「それじゃ期待に応えないといけないな」

 

 

 

指揮官はとてもいい顔で笑っていました。

 

 

綾波たちの指揮官は、変な人です。

 

けど、夢と希望を持って綾波たちを指揮してくれる立派な人です。

 

 

 




最初の秘書官、綾波。
彼女は指揮官の隣を選んだ。

世界は、大まかに二つの勢力に分かれてしまった。

妥当セイレーンを掲げる「アズールレーン」。
セイレーン技術を要したい「レッドアクシズ」。

ユニオンの人間であるリンクスと、重桜の船である綾波。

少なくともこの場は、手を取り合うことが出来る筈だ。


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鉄血娘は暖かく微笑む

みんなのはじめてのSSRになり得るプリンツ・オイゲン回でした。

まだまだ手探り中なので粗ばかりですが、読んでいただけると幸いです。


 

「おはよう、指揮官。今日は私が秘書艦よ」

 

 

朝。

 

執務室に最初に入ってきたのは、眩しい銀の髪に赤のメッシュが特徴的な美女だ。

 

 

「おはよう、プリンツ・オイゲン。よろしく頼む」

 

 

鉄血の重巡洋艦、プリンツ・オイゲン。

 

彼女は、この指揮官が着任してからの仲となる古株の一人だ。

 

 

「私に会いたかった?」

 

「どうだと思う?」

 

「質問に質問で返すのは最低ね指揮官」

 

「なら、質問の内容を選ぶ事だな」

 

 

お互いに、軽口を叩き合う程度には信頼していると自負している。

 

 

彼女も、本来ならばレッドアクシズ側の艦船なのだが…。

 

 

「貴方に付いたほうが面白そうね」

 

 

その一言でアズールレーンに付いたのだった。

 

 

「今日の業務は…何よ。また雑用?いい加減うんざりなんだけど」

 

「そう言うな。俺みたいな奴が信用を得るのは難しいんだから」

 

 

なんの後ろ盾もなく、強力な機動兵器を有するいち個人。

 

そんな男がこの組織に入っていること自体がおかしい。

 

 

しかし、この世界はそれで回っていくらしい。

 

 

「ネクストの事?」

 

「まぁ、それもある」

 

 

プリンツは数少ない、俺の愛機ストレイドの存在を知る艦船の一人だった。

 

 

…過去形なのは、以前遥か北方で起きたセイレーンとの戦闘の際、苦肉の策としてネクストを持ち出してしまったからだ。

 

 

コジマの影響はメンタルキューブと言う事実上のブラックボックスを組み込み無理矢理抑え込み、なんとか起動に成功。

 

後はアーマード・コア・ネクストの機動力と火力でアズールレーンを援護し、勝利を収めた。

 

 

…後々に響く頭痛の種を残して。

 

 

「貴方、本当に指揮官に向いてないわね」

 

「ま、金さえ積まれれば乗るような男だしな」

 

「傭兵じゃなくて、一応正規の軍人でしょうに」

 

「傭兵、か」

 

 

思考が、過去へと向く。

 

かつて傭兵として破壊を繰り返した我が身。

 

 

無意識に、首へと手が伸びていた。

 

首輪付きと揶揄されていたからなのか。

 

 

そんな様子を、プリンツは、

 

 

「さっさと片付けましょ」

 

 

その一言から、本日の業務が始まるのだった。

 

 

______________________________

 

 

少しして。

 

 

 

「ねぇ、指揮官」

 

「なんだ?」

 

 

昼下がり。

 

 

プリンツは指揮官の机に頬杖をついて正面にいた。

 

指揮官の方はと言うと、粗方雑務が片付き、ストレイド起動のための資源について頭を悩ませていると。

 

 

「私達とあの鉄の塊、どっちが大事?」

 

「ストレイド」

 

 

ほぼ反射で答え、しまったと思い視線を上げる。

 

身を乗り出して不機嫌オーラ全開のプリンツが直ぐそこまで来ていた。

 

 

「そういうこと言うのね…妬けるわ」

 

「あー、その、なんだ」

 

 

彼女達にストレイドの話をすると、とても機嫌が悪くなる。

 

自分たちが大事にされていると解っていても、更に上の扱いを受けるストレイドに思うところがあるのだろうか。

 

 

「逃げるな」

 

「うおっ」

 

 

プリンツの両手が、指揮官の頭をがっちりとホールドする。

 

必然的にプリンツの顔へ固定され、目線が合う。

 

 

「私達の気持ち、気付いてるくせに」

 

「なんの事かな」

 

「惚けるな」

 

 

表情は真剣そのもの。

 

下手な回答をしようものなら鉄拳でも飛んできそうだ。

 

 

「そうだ、なっ!」

 

「きゃっ…!?」

 

 

なので、身を乗り出している事を逆手に取り、両腕を思いっ切り引っ張ってやり、指揮官の膝の上に収まるように抱きとめた。

 

さながらお姫様抱っこのようだ。

 

 

「ちょっと、何を」

 

「これでも我慢してるんだ。あんまり男をからかうなよ…!」

 

「…!」

 

 

珍しくプリンツが慌てている。

 

普段からからかわれているため、仕返しがしたかったのだが思わぬチャンスに、指揮官は存分に弄ることにした。

 

 

「さて、どうしてくれようか」

 

「…あっ、やばっ」

 

 

ドン!!

 

突然、執務室のドアが吹っ飛んだ。

 

 

「えっ」

 

「指揮官様ぁ〜?」

 

 

蕩けるような、ささやくような声。

 

しかし、しっかりと耳に届いている。

 

 

「あ、赤城…」

 

「何を、なされているのですか?」

 

 

有無を言わさぬ圧力をひしひと感じる。

 

彼女は笑顔なのに、だ。

 

 

「指揮官に無理矢理!」

 

「あっ、てめっ!」

 

 

するっ、と猫さながらに抜け出したプリンツから言い放たれたり一言が、赤城の琴線に触れる。

 

 

「指揮官様?赤城はずっとずっと我慢しているのですよ?ここを『ソウジ』したくてたまらないのですよ?」

 

 

いつの間にかプリンツがいない。

 

逃げたのか…。

 

 

「そうだな…艦隊の仲間なんだし、仲良くしてくれよな?」

 

「指揮官様」

 

「ハイ…」

 

「そんな中で他の女とくっついているなんて…赤城は、ちょーっと」

 

「ひっ」

 

「妬いてしまいます」

 

 

このあと、めちゃくちゃ尻尾に巻かれた。

 

 

_______________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、終わった…」

 

 

夜。

 

就業時刻を過ぎ、各々が明日の準備をしていた。

 

 

「指揮官。一緒にお風呂でサッパリしない?」

 

 

あっけらかんと戻ってきたプリンツにそう言われる。

 

 

「やめろ、そろそろ赤城に食われる」

 

「…赤城とケッコンしないの?」

 

「………」

 

 

ケッコン。

 

アズールレーン上層部が決めた、胸糞悪いシステム。

 

勝手に兵器として産み出しておきながら、そんな事を、させる。

 

 

「…しない。ストレイドに乗る限りな」

 

「何それ」

 

「男の意地だよ」

 

 

この考えは押し止めなくてはならない。

 

彼女達に失礼だからだ。

 

 

「はぁ、なーんだ」

 

 

つまらなさそうに呟く。

 

 

「でも、私を笑わせてくれたアンタを諦めるつもりは無いわ」

 

「いつの話だよそれ」

 

「Ich liebe dich」

 

「え?」

 

「冗談か、本当か…アンタの判断に任せるわ。それじゃ、また明日ね」

 

 

執務室から、彼女は出ていった。

 

一人残った指揮官が、こぼす。

 

 

「…惡いけど、俺にはやっぱり応えられないよ」

 

 

普段は見せない、泣きそうな顔で、視線を外した。

 

 

「せめて、この戦いが終わるまで。俺が喚ばれた意味が分かるまで…待っててくれ」

 

 

 





一度デレると際限なく甘えてきそうですよね、プリンツは。
ゲームを始めた当初から結構お世話になってる子で、愛着もあったり。

…だから、ケッコンするか本気で悩むんですよね…。

リンクスの方は、するのかな…ケッコン。


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重荷

未だ起動できないストレイド。

鎮座するだけで基地の資材を消費するそれに、部下たちはあまり言い顔をしていなかった。


 

 

「いい加減にしなさいよッ!!!」

 

 

その日、サンディエゴ軍港に怒声が響いた。

 

 

「…いきなりなんだ、ネルソン」

 

 

不満げな声を上げるのは、我等が首輪付き、リンクス指揮官。

 

対面に居る金髪ドリルのビッグセブン、ネルソンに対しての台詞だった。

 

 

「アナタ、またあのガラクタを動かす算段を付けてるわけ?」

 

「ガラ…!?お前、俺の相棒に向かってその言い方はなんだ!」

 

「出すだけでウチの資源食い尽くすわ維持費も相当掛かるわであんなの役に立つとは思えない」

 

「…言いたい事は、それだけか?」

 

「何ですって?」

 

 

ネルソンが指揮官を見る。

 

…珍しく、青筋をたてて、キレている。

 

 

「お前がストレイドに対して思ってる事はよーーーーくわかった」

 

「な、何よ…」

 

 

この指揮官、平時はそこそこ有能だが如何せんネクストの事になると沸点が相当下がる。

 

と、いうか指揮官とネルソンの相性があまり良くないのも原因なのかもしれない。

 

 

「アレは俺が駆け出しだった頃からずっと乗ってるいわば相棒だ。相棒を侮辱するならそれは俺への侮辱と同義だぞ」

 

「ふん、だから何だって言うの?あんなの動かす暇があるならさっさと資材まわしてこの基地の戦力を整えるほうが先決よ」

 

「ネクストが動けば各国に対して切れるカードが増える。既に依頼と報酬のKAN-SENの話も出てる…と言うかロイヤルのジジイ共が送ってきたのがお前らじゃないか」

 

「私の祖国に対してなんて言い方をするのよ!?第一私は女王陛下に…!!」

 

「はい、喧嘩はそこまでにして、執務しましょう?指揮官、姉様?」

 

 

ふんわりと、その場の空気を諌めるもう一人の声。

 

ネルソンの妹、ロドニーだった。

 

…苛烈な性格の姉とは正反対な穏やかな気性をしている。

今日は二人が、リンクス指揮官の補佐をすることになっていた。

 

 

「……すまない。少し熱くなりすぎた」

 

「ふん…」

 

ロドニーに諌められた手前、まだ口げんかを続ける気にはならなかった。

今日の執務も、時間が掛かりそうだった。

 

 

「あら、これは…『アーマードコア・ネクスト運用計画』?」

 

 

ロドニーが先程ネルソンの持っていた書類をさり気無く奪っていた。

 

 

「ロドニー、読むだけ無駄よ…動かない鉄塊をどう動かすかの計画なんて」

 

「なんだと…」

 

「はいはい、指揮官も落ち着いてください」

 

 

静かに、ぱらぱらとページを捲っていく。

 

ロドニーの表情は、真剣そのものだった。

 

 

「指揮官」

 

「何だ?」

 

 

表情からロドニーの感情は読めない。

 

 

「この…ネクストを、本当に動かすのですか?」

 

「どの道セイレーンに対して有効打を持たないアズールレーンが要請した事だ」

 

「何よ、私達じゃ不満ってこと?」

 

「そうじゃないネルソン。連中のシナリオに無いイレギュラーを上が欲しているって事だ」

 

 

元々、ネルソン達艦船は表沙汰になっていないがセイレーンの齎した技術だと聞いている。

 

…奴等が俺をここに呼んだ理由はわからない。

 

 

「ま、確かに前線に出る指揮官なんて聞いたこと無いわ」

 

「少なくともロイヤルには居ませんね」

 

「そりゃな…」

 

 

寂れているとは言え、いち軍港を預かる人間が前線に出るなど以ての外である。

 

 

「明石と何とか運用する方法は確立した。アレは、動かせるぞ」

 

「本当かしらね…」

 

 

あいもかわらず、ネルソンのジト目に睨めつけられる。

 

最早これも慣れたものである。

 

美人に見られるのは悪い気はしないが、生憎相手は艦船だ。

 

 

「その為に色々手は尽くしている。君達は君達の義務を果たせるようにしていてくれ」

 

「何よその言い方」

 

「姉様…」

 

 

さて、どうしたものかな…。

 

 




ロドニーとネルソン登場回。

初期から実装されているものの、未だ現役を退く気配のない強力な攻撃スキルでうちの主力を担ってくれています。

特に、ネルソンに関しては見た目が好みで…え、聞いてない?はい…。

…しかし、ネクストをどうやって動かすんでしょうねこれ。


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北方機動作戦

ミッションについて説明する。

場所は北極近海。
ここに鉄血の戦艦、ティルピッツが放置されているとの情報を得た。

今回の目標はティルピッツの保護である。

なお、海域には鉄血艦隊と思しき量産型が集結している。
十分な警戒をされたし。


それから、暫くして。

 

 

「第一艦隊、出撃!各員がその義務を果たす事を期待するわ」

 

 

旗艦、ネルソンを主軸に後衛艦に重桜の空母、赤城と加賀。

前衛艦隊は重巡洋艦シュロップシャー、軽巡洋艦クリーブランド、駆逐艦綾波の編成だ。

 

 

今回の目的は北極方面での鉄血艦隊の動きの調査だ。

 

 

『聞こえているな?ミッションスタートだ』

 

「はいー、指揮官様の愛が聞こえますよ〜」

 

『赤城、今日はネルソンに従ってくれよ?』

 

「はぁい」

 

「指揮官、なんで鉄血が動いてると思うのかしら」

 

『そうだな…その海域には恐らくティルピッツが放置されている』

 

「…なんですって?」

 

 

どうやら鉄血は戦闘中の不調と航行不能により、ティルピッツを破棄、そのまま離脱していたらしい。

 

同じ戦艦として、同情を禁じ得ない。

 

 

「鉄血の指揮官、トラファルガーに沈めてやろうかしら」

 

『そこで、ティルピッツを救出しこちらに引き入れようと思う』

 

「それは何故?」

 

『戦力が足りないからだ。お前らが居るとはいえうちはまだまだ数が足りない。特に後衛艦隊はあとロングアイランドとロドニーしか居ないのが現状だからな』

 

「それにしては狙いが大胆というか…まぁ、褒めてやるわ」

 

『そいつは光栄だ。だが、気を付けろよ…嫌な予感がする』

 

「たかが不調の艦船一隻引っ張るだけよ、楽勝に…」

 

「姉さま!ネルソン!構えろ!」

 

 

突然加賀が叫んだ。

 

赤城は即座に反応し哨戒機を飛ばしていた。

 

 

「加賀!どうしたの!」

 

「前衛の三人が何者かに襲われている!」

 

「流石重桜、感度が良い!」

 

 

艦首を前衛艦隊の居た方へ向け、援護のために前進する。

 

 

「ヤバイよヤバイよ〜!?」

 

「キシンの力、思い知るがいい…!」

 

「!シュロップシャー回避!!」

 

「ひわわー!?」

 

 

前方に水柱。

 

砲弾が水面に着弾して立ったものだろう。

 

 

「クリーブランド!相手は!?」

 

「ネルソン!こっちからは見えない!空母はどうしてる!?」

 

「赤城!」

 

「…見つけた!」

 

 

赤城と加賀が即座に攻撃機を飛ばす。

 

一航戦が得意とする先手必勝のスキルはこの切り替えの速さにある。

 

あいにくと先手は先方に取られてしまったが。

 

 

「これは…!?」

 

 

驚愕に目を見開く赤城。

 

 

「ネルソンさん!相手は…セイレーンです!!」

 

「なん」

 

『セイレーンだと!?』

 

 

水柱の向こうから、黒と青の肌の異形がこちらを睨めつけていた。

 

 

「ハァイ…遊びましょう?首輪付き」

 

 

瞬間、眩い光が視界を埋め尽くした。

 

 

「退避ッ!!」

 

「うわぁぁぁぁぁ!?」

 

 

激しい砲火が断続的に雨のように降り注ぐ。

 

 

相手はその場から動いていないが、とてもでは無いが狙いながら避けるなどという芸は難しい。

 

 

「初めまして、かしら。私はテスター。今回はイレギュラーに用があって来たの」

 

 

セイレーンが、こちらへ向けて喋りかけてきた…?

 

 

『今増援を向かわせる!少しでも時間を稼げ!』

 

「イレギュラー?何のことかしら」

 

 

指揮官からの無茶振り。

 

会話ができると言うなら、それに答えて少しでも気を逸らす…!

 

 

「あれ、知らない?首輪付きだよ」

 

「このっ!」

 

 

クリーブランド渾身の全弾発射。

 

直線に放たれる主砲副砲の砲弾は虚しく空を切った。

 

 

「早い!?」

 

「首輪付きって、何よ!!」

 

 

主砲発射。

 

ビッグセブンの名に恥じない火力が、セイレーンに叩き込まれる。

 

 

「アッつ!ったく、懲りないのね!」

 

「嘘!直撃よ!?」

 

 

ダメージは見込めない。

 

指揮官の、セイレーンに対して有効打が無い、と言う台詞を思い出す。

 

 

…私達の力が及ばないなんて嘘だ。

 

 

「怯むな!全艦砲門開け!」

 

「加賀、行くわよ!」

 

「ユニオンの底力、見せてやる!!」

 

「私も、混ぜてよ」

 

 

…水平線の向こうから、紫色の光が飛来した。

 

 

「ひっ…」

 

「シュロップシャー!避けて!!」

 

 

クリーブランドが叫ぶ。

 

しかし、間に合わない。

 

 

爆発。

 

一撃でボロボロになったシュロップシャーがふっとばされる。

 

 

「シュロップシャー大破!」

 

「何ですって!?」

 

『シュロップシャーを連れて下がれ!あともう少しだ!それまで耐えろ…!』

 

 

指揮官の声も悲痛さを帯びてくる。

 

しかし、増援が来たところでダメージが入らねば…。

 

 

「ネルソン!」

 

「しまっーーーー!?」

 

 

砲弾が来る。

 

 

「舐めるなァ!!」

 

 

主砲斉射。

 

もう一度レーザーを放とうとした新手のセイレーンに直撃し、態勢を崩す。

 

 

…着弾。

 

 

「ぐっ…!?」

 

 

艦装左舷大破。

 

航行は可能だが、速度が…。

 

 

「全艦隊、シュロップシャーを連れて下がりなさい!殿は私がやるわ!」

 

「ネルソン!?何を言ってるの!?」

 

「ここで時間を稼がないと全員全滅する!合理的な判断よ」

 

「味方を見捨てる事のどこに合理がある!」

 

 

たまらずクリーブランドが反発してきた。

 

 

「早く…!」

 

「ごちゃごちゃ煩い」

 

「うわっ!」

 

 

セイレーンの後ろから、多数の量産型の船が現れる。

 

 

「万事休すか…」

 

「良いだろう…どれだけでも掛かってこい!貴様の喉元を噛み切ってやる!」

 

「沈みなさい。紛い物たち」

 

「首輪付きも来なかったね…薄情な奴に使われてるねぇ」

 

 

さっきから繰り返される、首輪付きと言う単語。

 

それは何を指しているのか。

 

 

「ま、ここで沈めてあげるのも慈悲ってやつかな!!」

 

「くっ…」

 

 

こんな事なら、もうちょっと素直に接してやれば良かったかな…。

 

 

「ロドニー、頼んだわよ…貴女の義務を果たしなさい」

 

 

『悪いが、その言葉は聞かなかったことにしよう』

 

 

数十の弾丸が、今まさにレーザーを撃とうとしたセイレーンを撃ち抜いた。

 

 




遂に登場、セイレーン。

彼女たちの狙いとは一体。

次回、白の翼は舞い上がる。


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飛翔する白の翼

Vanguard Overd Booster。

通称VOBと呼ばれるそれは、大小様々なブースターと大容量コジマタンクの集合体である。
ネクスト単騎で挑むには強大すぎる相手へ接近するための切り札だ。

切り札の切どころを、間違えてはならない。


 

 

『…VOB、使用限界にゃ!』

 

「パージしろ!」

 

『VOB、パージ!』

 

 

高速の景色がクリアになる。

 

俺の背中に接続された馬鹿みたいに大量のブースターが次々と切り離される。

 

 

「これより通常航行に移行する」

 

『了解にゃ…大変にゃ!セイレーンの数が増えてるにゃ!艦隊を包囲してるにゃ!』

 

 

レーダーに多数のセイレーン反応。

 

しかし、全て鉄血KAN-SENの量産型である。

 

 

「蹴散らす」

 

『にゃ!?』

 

 

右腕に握られたライフルから放たれた弾丸が、次々と量産型のセイレーン達へ突き刺さり、爆散する。

 

 

『左舷!ミサイルです!指揮官!』

 

「わかってる!」

 

 

ロドニーの声。

 

それよりも早く、サイドブースターが作動。

 

一瞬で機体がスライド移動、もう一度ブースターが起動する。

 

 

クイックブーストにより、巨体ながら回避行動を機敏に行う。

 

 

『カメラで見てるこっちが酔いそうにゃ』

 

「いい反応をする。やるな、明石。オペレーターとして雇ってやろうか?」

 

『珍しく指揮官が褒めてるにゃ…』

 

 

左肩のグレネードを発射、不用意に固まっていたセイレーンはまとめて吹き飛ぶ。

 

 

『指揮官!今の攻撃で最短ルートが開けました』

 

「了解、突っ込む!」

 

 

背部に多数あるバーニアに火が灯る。

 

この世界にある、全ての物を置き去りにするスピード。

本来ならばコジマ粒子を用いて行使される力。

 

だが、セイレーン由来の技術で実現されたこれは、本来のそれと遜色はない。

 

オーバードブーストと呼ばれるそれは、凄まじいスピードで距離を詰めて行く。

 

 

「…見えたッ!!」

 

 

視界に映る、人型セイレーンと、第一艦隊。

 

シュロップシャーとネルソンの損耗が酷い。

 

セイレーンのうちの一体が何かをネルソンに向けている。

 

 

「…!」

 

 

接近は間に合わない。

一か八かで照準を合わせ発砲する。

ライフルが火を吹いた。

 

 

「来たな!首輪付き!イレギュラー!最後のORCA!!」

 

「なっ…!!」

 

 

ネルソンを、ネクストの空いていた左手で海上から拾い上げた。

 

 

「よう、生きてるか」

 

「…指揮官?それに、これは…」

 

「相棒だ」

 

 

ライフルで牽制しつつクリーブランド達の位置まで下がる。

 

 

「ストレイド…」

 

「綾波?」

 

 

綾波が呟く。

 

 

「飛べたんですね…指揮官」

 

「セイレーン。うちの艦船をよくもまぁ可愛がってくれたな」

 

 

油断なくライフルを向けたまま、吠える。

 

 

「首輪付き。どうかしらこの世界は」

 

「…お前らが呼んだのか」

 

「ええ。私達が望んだ、イレギュラーのひとつ」

 

「…」

 

「テスター!首輪付きと遊んでいい!」

 

 

レーザーを撃とうとしていたセイレーンが、テスターと呼んだセイレーンにそう言った。

 

 

「ピュリファイアー今日は顔見せ。帰るわよ」

 

「ちぇー」

 

「逃げる気か」

 

「またね首輪付き。今度は素敵な逢瀬を楽しみましょう」

 

 

セイレーンの姿がブレたかと思うと、初めからそこに何も無かったかの如く水平線が広がっているだけだった。

 

 

「…………帰るか」

 

 

誰も、言葉を発さなかった。

 

 




セイレーンの顔見せ、そして指揮官がこの世界へ渡ってしまった理由。

ただ、彼女たちのイレギュラーへの渇望を満たすために、呼ばれただけなのだろうか。


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クローズ・プラン

俺は革命家ではない。

かつて俺に現体制への反逆への手招きをした男。
彼は結局、何を夢見て戦い、散ったのだろうか。

俺は人の上に立てる器じゃない。

銃を取り、鋼を纏い、死を振りまくことしか出来なかった。

俺は、なんだ?
一体、俺と言う男は…何者なのだろうか。


 

 

暫くして。

 

母港に所属している艦船すべてが講堂に集められていた。

 

 

「指揮官。全員集めたけど、何をするつもり?」

 

「ネルソンか。いやいや、ちょっと決意表明をね」

 

 

背後にネルソンを控えさせたまま、指揮官は壇上へ登る。

 

 

「あー、あー、聞こえてるかな?」

 

 

講堂は静まり返っていた。

 

 

「前回の出撃でセイレーンと遭遇し、何とか撃退する事はできた」

 

 

ひと呼吸おいて。

 

 

「現状の戦力では太刀打ち出来なかった事が事実として上がってしまった。そこで」

 

 

指揮官の背後にスクリーンが垂らされ、映像が映し出された。

 

 

「私が、前線指揮を行いながらこのアーマード・コアネクストに乗り状況の打開を測る」

 

「本気で言っているの?」

 

「ネルソン。質問はまず挙手をしてからだ」

 

「指揮官!」

 

「…その通り」

 

 

そこまで言い切ると、ネルソンは呆れたように天を仰いだ。

 

 

「そこまで馬鹿だったとは…」

 

「ならばここでもう一つ、馬鹿にしか言えないことを表明しよう」

 

「え?」

 

 

現状の装備、戦力は圧倒的に足らない。

 

ならばどうすれば良いか。

 

 

「対セイレーン部隊、アズールレーンを再建する!」

 

「それは、ユニオンとロイヤルだけでって事かしら」

 

 

プリンツから飛んできた質問に、淀まず答える。

 

 

「いいや!鉄血、重桜を吸収し、本来のアズールレーンを取り戻す!」

 

 

そして、このセイレーンによって閉じられた牢獄から脱却する。

 

新たなクローズプラン。

今度は革命家の手に引き寄せられるのではない。

 

 

「諸君、派手に行こう」

 

 

_______________________

 

 

 

 

 

 

 

夜。

 

執務室で、これからの事についてアズールレーン上層部への書類をまとめていた。

 

 

「入るわよ」

 

「ネルソンか。どうした」

 

「どうした、じゃないわ。秘書艦なんだけれど」

 

「そうだったな。じゃあその書類の整理手伝ってくれ」

 

 

机の上の書類の山の一角を指差す。

 

ネルソンは黙々と目を通し始めた。

 

 

「指揮官」

 

「何だ?」

 

「貴方は、今日言ったことに対してどれだけ本気なの?」

 

「100%」

 

「出来るの?」

 

「少なくとも、俺にはその権利と義務がある」

 

 

義務、と言う言葉にネルソンは目を丸くする。

 

 

「驚いた。貴方からそんな言葉が出るなんて」

 

「俺も驚いてるよ」

 

「…ついこの前と、顔付きがまるっきり違うわね」

 

「そうか?」

 

「ええ。無能な男から戦場で生き生きしてる戦士の顔ね」

 

「…あながち、間違ってもないかもな…俺はアレに乗らないと生きられない」

 

「え?」

 

「アイツに繋がれてるのさ」

 

 

 

自分の首を指差して苦笑する。

…黒のチョーカーが巻かれている。

 

その下にある、端子が見えないように。

 

首輪付き。

 

リンクスをある種の統制下に置かねばならない企業連の組織カラードに所属するリンクスを皮肉った呼び方だった。

 

 

「そう…難儀ね」

 

「それほどでも。だから、戦い続けた先の答えを見たいんだ」

 

 

この世界での役割。

 

それを果たすまで、そしてあの世界…人類の進出を望んだ答えの先を見るまでは。

 

 

「そう言えば…その、この前の…謝ってなかったわね」

 

「この前?」

 

「アンタの大切な相棒を、鉄塊扱いして」

 

「…そんな事気にしてたのか」

 

「そ、そんな事をって」

 

「存外、可愛いところがあるんだな」

 

「んなっ!み、見るな!抉るわよ!」

 

「ははは、心配するな。気にしてない」

 

 

しおらしい対応でちょっと可愛い奴だと思ってしまう辺り、まだまだ甘いらしい。

 

 

「ま、そう思うなら俺の下でしっかり働いてもらうからそれでチャラって事で」

 

「ふ、ふん…無能な指揮官じゃないし、仕方ないから従ってあげるわ」

 

「素直じゃないな」

 

「何ですって!」

 

「これから、頼む」

 

「…ええ」

 

 

新生アズールレーン発足の為には何もかも足りないが、こいつらと一緒なら、やっていけそうな気がする。

 

 

(セレンさん…俺、まだ帰れないかな)

 

 

 




こうして、新たなクローズ・プランは表明された。

…と、言ってもそれはかつて成就した作戦にあやかり名づけただけだ。

リンクス・カラードマンと言う男は、結局のところネクストに繋がれたただの首輪付きであった。

しかし、彼の中には恩師と、志を同じくした同志たちの遺志が残っていた。

どこまでも、どうしようもないほどに首輪付きとして生かされた男が、首輪を外すその日まで。


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首輪を付けたメイド様

首輪付き指揮官、メイドに押し掛けられる。


 

 

自分でもこんな事を言うのはおこがましいとは重々承知している。

 

しかし、私は満たされない日々を送っていたのも事実だった。

 

 

「ベル…また貴女は配属の話を蹴ったのね」

 

「申し訳ございません陛下」

 

 

いそいそと午後の茶会の準備をしている最中、目の前で腰掛けている少女…ロイヤル所属戦艦、クイーンエリザベス女王陛下から呆れたように声を掛けられた。

 

 

「あの軍港の指揮官はあまり良くない話を聞き及んでおりました」

 

「そう?ロイヤル出身のそこそこ良い貴族の末裔らしかったけど」

 

「曰く、奥方がいらっしゃるのに艦船を次々と手籠にされているとか」

 

「なんですって!?ロイヤルとしての沽券に関わることを…はぁ、まぁ良いのだけれど、貴女がずっと私の側に居るというのも考えものね」

 

 

私…ベルファストはメイドであり、主人に仕えるのが本分である。

 

だがしかし、それと同様に艦船としてのベルファストでもある。

 

戦場に出ないと言うのもそれはそれで問題になる。

 

 

「何ていうか、ベルがここまでワガママを言うのが珍しくてついつい甘くしちゃったけど、そろそろ心を決めなさい?」

 

「陛下…」

 

 

…と、言うやり取りをしたのも随分と懐かしく感じる。

 

 

今、自分は北…北極へ来ている。

 

ロイヤル上層部から一時的に指揮官を付けられ、ベルファスト含む臨時艦隊が結成された。

 

 

狙いは、鉄血より先にティルピッツを回収し鉄血へ圧を掛けること。

 

 

…だったのだが。

 

 

「まさか、セイレーンが現れるとは…」

 

 

ボロボロになった艦装は、まだ水上航行するだけの力は残していた。

 

突如現れたセイレーンにより臨時艦隊は壊滅。

敗走を余儀なくされ、ベルファストが殿となり後衛艦隊を逃したのは良いが。

 

 

(ここまでされては…)

 

 

満身創痍。

 

艦装の損傷もさるものながら、生身の体の方にもあちこち傷を負ってしまっている。

透き通るような銀の髪も煤ですっかり汚れてしまっていた。

 

セイレーンはベルファストに飽きたのか、適当になぶってどこかへ消えてしまった。

 

 

(屈辱…ですね)

 

 

ふと、気がつく。

 

 

「量産型…まさか、包囲されて…!?」

 

 

浮かぶ氷塊の影から次々とセイレーンの艦船が姿を表す。

 

まるで、自分を逃がすまいと包囲するかのごとく。

 

 

(申し訳ございません陛下。ベルファストはお暇を頂くことになりそうです)

 

 

残りの弾薬もわずか。

 

出来る事は、何隻か巻き添えにする程度。

 

 

だが、ただでやられる訳にはいかない。

 

何故なら、

 

 

「ロイヤルのメイドを、舐めないでください…!」

 

 

意を決したその時、

 

 

「…え?」

 

 

空から舞い降りた白の巨人が、セイレーンを全て薙ぎ払った。

 

 

「………これ、は」

 

『こちらアズールレーン所属ネクスト、ストレイド。ロイヤルのベルファストだな?』

 

 

巨人から声がした。

 

 

『大方殿でもやったんだろう。君から見て前方のセイレーンは壊滅させた。仲間が待ってる、早く行け』

 

「ま、待ってください!貴方は…貴方様は、どこの所属の指揮官ですか!!?」

 

 

このとき、自分はらしくもなく高揚していたらしい。

後から思い出すだけでも中々に恥ずかしい。

 

 

『え…?あー…軍港、サンディエゴ』

 

 

それだけ告げると、白の巨人は飛び去って行った。

 

その姿を、少し呆けて見送ってしまっていた。

そして、ひとつの答えを、私は得た。

 

 

「…見つけた。私の仕えるべきご主人様…!」

 

 

行かなくてはならない…サンディエゴに!

相応しいご主人様の元へ!

 

 

 




前回の戦闘で序に助けた船が押しかけて来るようです()

女に甘すぎないかこの指揮官。


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押しかけメイド推参

来ました()

ベルファスト、良いですよね。
完璧にメイドしてくれてちゃんとデレてくれるとことか。
あとおっp(ブッパ・ズ・ガン!!

今のところSSR艦ばかりだな…。


 

 

何とかティルピッツを回収し、衰弱していた彼女の治療、ストレイドの修理、補給、アズールレーン設立のためのいざこざetc…。

 

 

「やる事が、やる事が多い…」

 

「口じゃなくて手を動かしなさい!」

 

 

ネルソンから小言が飛んでくる。

 

何だかんだ仕事に付き合ってくれているので本当に良く出来た娘だと思う。

 

その隣でネルソンを鋭く睨めつける赤城を見てため息を一つ吐いた。

 

 

「ネルソンさん?指揮官様を浅はかだと?」

 

「ええそうよ!大体自分から仕事増やしてくなんて信じられないわ!」

 

「あらあらそうですか、うふふ」

 

「馬鹿!やめろ赤城!艦載機を出すな!加賀ー!加賀ー!」

 

 

…と、まぁ俺が愚痴をこぼす→ネルソンが罵倒する→赤城が噛み付く→さぁ、戦いだ!と言う流れが一週間続いている。

 

 

何故、と聞かれても困る。

 

二人が好意で手伝ってくれているのに邪険にするのも悪い。

 

 

…の、だが。

 

 

「喧嘩するなら他所でやってくれ」

 

「ぐっ…悪かったわよ…」

 

「申し訳ありません指揮官様…」

 

「姉さま、真面目にやってください」

 

 

まぁ、皆まだ余裕があるって事で良しとしておく…か。

 

 

以前のセイレーン出現から特に目立った出来事は無い。

 

出撃に関しても相変わらず付近の哨戒、最寄り軍港の支援等々。

 

 

だからと言って遊んでいて良いわけではない。

 

 

「…一番近い問題とすれば、新しい艦船が必要ってことかな…」

 

 

現在、前衛艦隊が綾波、クリーブランド、シュロップシャー、プリンツ・オイゲンしかいない。

 

無論、彼女達に出てもらうのだが如何せん負担が大きい上にバランスの悪い編成だ。

 

 

「せめて、軽巡がひとり欲しい」

 

「指揮官様?また新しい女性を囲うおつもりですか?」

 

「赤城。言い方言い方」

 

 

艦船の話になると赤城は棘のある物言いをする。

 

とても怖い。

 

 

「まぁ、そんな都合良く行くわけには…?」

 

 

執務室のドアがノックされる。

 

綾波だろうか。

 

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

「どうし…」

 

 

来訪者の姿を見て、絶句した。

 

 

「お初にお目にかかります。ロイヤル所属軽巡洋艦、ベルファストと申します。以後、お見知りおきを」

 

 

メイドさんである。

 

しかも、上半身は谷間の眩しい露出に対して下半身は奥ゆかしいロングスカートと言うバランス。

 

そして美人だった。

 

 

「ベルファスト…?貴女、どうして」

 

 

ネルソンが目を丸くしていた。

 

ロイヤル所属と言う事なら知り合いでもおかしくは…。

 

 

「ちょっと待った。赤城、今日の建造は」

 

「キューブの貯蔵はありませんが…」

 

「だよなぁ…」

 

 

通常、艦船は建造するか海域で保護するかしなければ預かることはできない。

 

 

「誰かの遣いか?…まさか、ネルソンを返せとか言わないだろうな」

 

「アンタが一人前になるまで離れるつもりはないわよ」

 

「…そりゃどうも」

 

 

唐突にデレられて気恥ずかしくなり言葉に詰まった。

 

…でなければ、ティルピッツの移送か、それとも。

 

 

「いえ、私はロイヤル本部からきました」

 

「来た?遣わされたんじゃないのか」

 

「…聞いたことがあるわ。陛下の下で配属命令を蹴り続けているベルファストが居るって」

 

「知ってるのかネルソン」

 

「ええ…私も噂程度だけど」

 

「はぁ…それで、そのロイヤルのベルファストさんが指揮官様にどのようなご要件で?」

 

 

気を利かせて赤城が話を続けてくれる。

 

本当に気が利く…これで周りに噛みつかなかったらなぁ。

 

 

「指揮官様ぁ〜?」

 

「な、何も言ってないぞ!?」

 

「私は、ずっと仕えるべき主を探しておりました」

 

「え、あ、はい」

 

「そして、ついに見つけたのです…あの、北の氷の中で」

 

 

…あ、まさかのこの前たまたま助けたメイドって。

 

嫌な予感が脳裏をかける。

 

 

「貴方様に仕えさせてください、ご主人様!」

 

「やっぱりかぁぁぁぁぁ!!」

 

 

片膝を着いて、ベルファストが頭を垂れる。

 

 

「まさか、私達が死にそうになってた時に女口説いてたわけ!?」

 

「指揮官様…説明してもらえますか」

 

 

片や明らかな怒りを浮かべて、片やにこやかな笑顔…目が笑っていない表情をしていた。

 

 

「待て、誤解だ…単艦で包囲されてたから助けた、それだけだ」

 

「それと、女王陛下とロイヤル本国から文書を預かっております」

 

 

二通の文書が差し出された。

 

上品な箔の押された封筒から開く。

 

 

「何何…」

 

 

内容は、北極でベルファストを救出したこと、ベルファスト自身が俺の下に来る事を熱望していた事。

 

 

『あの堅物を射止めた責任を取りなさい』

 

「ロイヤルの女王とやらも随分…」

 

 

部下に甘いというか。

 

もう一通、ロイヤル本国からの文書を開封し目を通す。

 

 

「えー、『この度セイレーンを退けた功績を評し貴殿を正式に戦力として迎え入れたい』…ロイヤルが先んじてネクストを欲しがったか」

 

 

大方、レッドアクシズ牽制のために手元に置いておきたいのだろう。

 

ネクストは対セイレーン専用の傭兵だと表明は出してある。

国や艦船に向けるつもりは一切無い。

 

 

「『並びに本人の強い希望からベルファストを配属させる。前回の戦闘の報酬として受理せよ』…ほー…あ?」

 

 

あれ、アズールレーンに請求した弾薬費と修理代は…。

 

 

「ご主人様」

 

「え、何だベルファスト」

 

 

机の上で頭を抱えそうな俺を他所にベルファストは続けた。

 

 

「これから、末永くよろしくお願いいたします」

 

「…ああ。よろしく」

 

 

まぁ、今回は新しい仲間が増えたという事で良しとするか…。

 

 

「よくねぇよ!!せめて弾薬費払えクソジジイどもめ!!」

 

 

 




メイドさん加入。
あとロイヤルにはなんか老人達が仕切ってるような良くわからない先入観がある。

王小龍とか絶対居そうだよね…名前的に東煌だろうけど。


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得られなかった平穏

戦いに明け暮れたあの日。

そして…穏やかに流れる今この瞬間。
俺は、ここにいて良いのだろうか。


 

 

何となく、昔の夢を見ていた。

 

空と大地が汚染され、人々の大半がクレイドルで過ごしていた日々。

 

「…そんな事もあったな」

 

なんて、ベッドの中で独りごちる。

なんの因果か、別の世界の、別の組織で指揮官兼傭兵として戦っているから人生ってのはわからない。

 

さて、そろそろいい時間だし起きようかな。

 

「…?」

 

おかしい。

目を開けたのに目の前が真っ暗だ。

しかも、ちょっと重い。

 

「おはようございます、指揮官様ぁー?」

「う、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!」

 

朝から狐に化かされた気分だった。

 

 

___________________________

 

 

 

 

 

 

「おはようございます、ご主人様。お早いお目覚めですね」

 

早朝から赤城と対人戦闘訓練(ガチ)を繰り広げ、なんとか生き残り息絶え絶えだったところにベルファストが現れた。

 

彼女は本当によく俺に尽くしてくれている。

 

戦闘から秘書艦、炊事洗濯家事万能。

…正直、ダメ人間になりそう。

 

「おはよう…ベルファスト…二度寝して良い?」

「駄目です」

「知ってたよ」

 

割と真っ向から意見を言ってくれるので好感が持てるのがポイントか。

 

「そう困った顔をなさらないで下さい。ついつい意地悪したくなります」

「来てそんなに経ってないのになぜそんな好感度が高いのか激しく疑問なんだが」

「理由をお聞きになられますか?」

「やめとくよ…」

 

ベルファストから手渡された制服に袖を通していく。

 

「本日の執務は午前中に委託組が戻ってきているのでその整備が中心に。午後からは新造艦の手続きを」

「あー、何か建造出来たのか」

「はい」

 

ようやく建造出来るほどの資源が集まったので、試しに1隻造ってみていた。

 

ぶっちゃけ1隻造るのと同等の金がネクストについて回るので今までスルーしていたのだが。

 

「どんなヤツが来るのか楽しみだ…駆逐艦とかだとバランスが取れるか」

「今回は特型なのでその線は無いかと」

「あれ、特型?それだと何が出来るんだ?」

「工作船、空母、戦艦、あと重巡よ」

「ネルソン」

 

執務室にど派手な金髪ドリルツインテール娘が入ってくる。

我らがビッグセブン、ネルソンだ。

 

「はいこれ、頼まれてた資料」

「サンキュー。やっぱ頼りになるな」

「フン…珍しく頼み事するから気が向いただけよ」

「ご主人様、これは?」

 

ベルファストが資料を捲っている。

中身は、年表だ。

 

「あー、ベルファストには話してなかったな。俺ここ最近来たばっかだから歴史とかてんで解らないんだ」

「…民間の放送や学校で習っているのでは?」

「指揮官。もうちょっと言葉を選びなさい…ベルが混乱してるわ」

「あー…すまんすまん。俺、この世界の人間じゃないんだわ」

「はぁ…」

 

ベルファストのなんとも言えない困惑した顔。

…いつもキリッとした顔しか見てないのでこれはこれで新鮮だ。

脳内のフォルダに保存せねば。

 

「し、き、か、ん!!」

「おおっと、まぁ言葉通りの意味で捉えてもらえば良い。正直説明してもされても意味不明だからな」

「そうですか。ですが、ご主人様はご主人様ですので」

「ベルファスト…」

「んんんっ!指揮官、ロドニーが呼んでたわよ」

「えっ、あー、了解。そういや散歩に誘われてたな…お前らも来るか?」

「私は整備があるからやめとくわ」

「私は午後のお茶会の準備がありますので」

「そうか」

 

 

__________________________________

 

 

 

 

「…で、なんでこんな事に?」

「あ、あはは…」

 

丸テーブルに日傘。

完全に外での茶会スタイルで更に後方にメイドさんが控えてると来た。

 

隣に座るロドニーからも乾いた笑いが出ている。

 

ちなみに、ここに居るメンバーは、俺、ロドニー、ベルファスト、赤城、ネルソン。

察して。

 

「あんたねぇ!」

「あなたこそ…!」

 

ぐぬぬ、と言わんばかりの言い争い。

 

唐突にお互い脚の速さで背比べ、からの罵り合い。

女って何が爆弾になるかわからないから怖いな本当に。

 

『上等だ貴様。後で覚えていろ』

「…っ!、?」

「ど、どうされましたか指揮官…?」

「あー、いや、何でもないぞ」

 

一瞬懐かしい顔が物凄い良い笑顔で脅してきたのを思い出す。

 

「しかし…こら、二人共いい加減にしろ」

「はい、指揮官様…」

「フン…」

「ったく、せっかく親睦を深めてるんだし」

 

さて、ベルファストが淹れてくれた紅茶を…。

 

「指揮官!!大変にゃー!!」

「チィ…!所詮は獣か…!!」

 

明石が凄まじい形相で走ってきた。

 

これは、お預けか…。

 

「どうした」

「新造艦が完成したニャ!」

「あー了解。進水式と行くか…」

「それが、すぐに指揮官のところに行くって言って」

 

「ここにいたのか、指揮官」

「え」

「ヨークタウン型二番艦エンタープライズ、着任した」

 

黒のコートをから覗くノースリーブの眩しい銀髪ロング美人が立っていた。

 

「これからよろしく頼む、指揮官」

「…よろしく」

 

さて、また賑やかになりそうだ…。

 

 

 

 

 




と、いうわけでユニオンの英雄、エンタープライズが着任しました。

一応同じ勢力に属する彼女。
しかし、首輪付きは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


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雪解け

今回はちょっと真面目な話。
…しかし、アズレンについにビスマルクが実装されましたね…。

私?…出ませんでした。
ま、まぁまだ機会あるし…。


 

「入るぞ、指揮官」

「あぁ、どう…ぞ…」

 

ある日の昼下がり。

秘書艦に休憩を取らせつつ少し執務を片付けようかと思った矢先の来客。

 

…久しぶりに言葉が詰まってしまった。

それだけ、現れた女性は魅力的だったからだ。

 

「貴官は既に知っているだろうが私はそうではないので、紹介させてもらう。ビスマルク級2番艦、ティルピッツだ」

「もう立っても大丈夫なのか?」

「えぇ、お陰様で」

 

以前、色々と因縁のあった北方で自沈寸前の彼女を保護、明石に預け療養させていた。

 

「私は貴官に問いたい」

「いきなりだな…答えられる範囲なら」

「こんな、弾を撃つためでは無い砲を備えた艦をどうするつもりだ」

 

彼女の境遇はプリンツから聞いていた。

永く北に放置されていた彼女は、心を閉ざしてしまっている。

 

「うちで戦ってもらう為だ。見ての通り戦力が居ない」

「そう。今更期待はしないわ」

「…それは、同意ととるが?」

「構わないわ。貴官…貴方がそれに値するか、見させてもらうわ」

 

そう言って、踵を返して出ていった。

 

「…おっかな。セレンさんみたいだな」

「セレン?誰よそれ」

「ん?ああ、俺に生き方を教えてくれた人」

「ふぅん?女?」

「…まぁ…プリンツ。帰ってきてたなら一言…てかお前らノックしろよ」

 

いつの間にかプリンツが隣に立っていた。

本日の秘書艦は彼女だ。

 

…最近皆ノックを忘れている気がする。

俺一応ここの最高責任者なんだけど。

 

「そんな事より、そのセレンって言うのは何、前の女?」

「そんな事っておま…違うから。先生みたいなもんだ」

 

通信機越しに放たれる罵詈雑言を思い出し、遠い目をする。

 

「ふぅん…まぁいいわ。ティルピッツ、もう快復したのね」

「その様だ。最も、まだ戦闘は無理だろうが」

「説得、するの?」

「はい、そのつもりです」

「なにそれ」

 

プランD、所謂滑りですね。

 

「…ちょっと、難しいかな」

「どんな困難も達成してきた傭兵サマでも?」

「からかうな…男女の事は専門外だ」

「…なら、私で専攻する?」

「やめろっての」

 

舌なめずりしながらプリンツがマウントを取ろうとするので抑える。

 

「やめっ、力強いな!?」

「今度は私がアンタを味わう番よ…」

「今度ってなんだ一度もねぇよ!!」

「指揮官、言い忘れていたが…」

 

そこに、ちょうど先程出ていったティルピッツが戻ってきた。

 

「…」

 

…流石氷の女王、真顔が怖い。

 

「うわっ、ちょっ、おまっ、艦装無言で展開すんな!?」

「ハァイ、ティルピッツ。元気」

「…えぇ、お陰様で」

「ふふふ、こっちの生活はどうかしら?」

「…どこも、あの氷の中と一緒よ」

「…」

 

押し黙る。

 

彼女の闇は、深い。

 

 

________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ここで問題となるのが『アズールレーンがティルピッツを所有する事について』となる。

鉄血から亡命してきた訳でもなく、北に放置されていた艦船を引き取ったと言うシナリオなのだが、如何せんこれ以上戦力を割かれたくない鉄血からの圧が掛かっている。

 

「正直、鉄血に殴られたら流石に勝てないんだよなぁ…」

「赤城は指揮官様を絶対に死なせたりなんてしません…けど、重桜の戦力が使えないのが痛いですわ」

「ロイヤルのジジイ共は恐らく漁夫の利を狙うつもりよ」

 

母港に置かれた作戦室に、リンクス指揮官、ネルソン、赤城、ティルピッツ、クリーブランドがそれぞれ集まっていた。

 

「相変わらずロイヤルは腹が黒いな…両方が損耗した所を一気に掻っ攫うつもりか」

「指揮官、やっぱりユニオンからはエンタープライズを所持ているなら負ける筈が無いの一点張りだ」

「練度を考えてくれよ本国…」

 

先日建造されたエンタープライズは、窓の外にある訓練場でふっ飛ばされていた。

建造されたばかりなので当然練度などない。

 

艦船の練度は、どれだけ戦闘を重ねたか、どれ程の艦船と戦闘を共にしたかで決まる。

 

アズールレーンは元々多国籍軍だ。

レッドアクシズと分裂してもユニオンとロイヤルの2つの国の船が共同で作戦に臨む。

当然国柄の戦闘スタイルもあるため、最初は混乱する。

 

そのため、この2つを習熟している艦船は前線指揮を円滑にするために重宝がられるのだ。

今、エンタープライズは加賀とロドニーによってしごかれている真っ最中であった。

 

閑話休題。

 

「ユニオンとしてはエンタープライズをもって迎え討て、守るに値する理由があれば一考する。だそうだ」

「そうか…」

「指揮官様、ネクストで制圧すれば宜しいのでは?」

 

サラッと赤城が極論を投げてくる。

 

「赤城…そんな事をしてみろ。俺は世界中から後ろ指指されるぞ」

 

対セイレーン限定の傭兵、アーマードコア・ネクスト。

この破壊力と抑止力はこの世界に置いて計り知れない。

だが、これを人間や艦船に対して発揮する事は出来ない。

いや、してはいけないのだ。

 

「…申し訳ありません指揮官様。出過ぎた真似をしました」

「フン、これだから力を誇示すれば良いとか思ってる脳筋は」

「周りくどい物言いでしか話せない臆病者に言われたくありませんわー?」

「あんたの国だってそうでしょ!?」

「…指揮官。一つ良いか」

 

この場に居て一言も話さなかったティルピッツが手を上げた。

口論に発展していた二人もすぐに黙る。

 

「どうした?」

「ネクストとは…あの白い鳥の事か?」

「鳥…そう見えたのか」

「ふむ…プリンツが言っていたのはそういう事か」

 

何やら一人勝手に納得している。

何かが彼女の中で合致したのだろう。

 

「指揮官。私はあくまで鉄血の船だ。だが…」

 

ひと呼吸挟み、

 

「貴方が真に、アズールレーンを統合しセイレーンの脅威を退けると証明するならば…鉄血との間を取り持とう」

「…何だって?!」

 

ティルピッツから放たれた言葉に耳を疑う。

 

「どういう風の吹き回しよ」

「何、興味を持った…と言う事でどうだ?白い鳥」

「………信用していいのか?」

「証明するならば」

 

証明、か…。

 

「証明してみせよう。俺達には、それが出来る筈だ」

「断言したか」

 

ここで、初めてティルピッツが笑った。

…しかし、それはとてつもなく獰猛な笑顔。

 

「見せてみろ。お前の力を」

「ああ」

 

ティルピッツとの、奇妙な協同関係がスタートする事となる。

 

(やってやるさ。こんな所で躓いていられない)

 

鉄血と協定を結ぶ事ができるなら、重桜にも揺さぶりを掛けることができる。

 

「方針が固まった。作戦を説明しよう」

 

まだ、プランは始まってすらない。

 

「頼んだぜ、お前達」

 

 




北の氷の女王、アズールレーンへと合流。

この首輪付き、fAだけでなく色んな作品の電波を拾うので妙に性格が安定しない。

…鉄血の吸収への流れ、果たして上手くいくのだろうか。


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鋼の冒険心

エンタープライズ:企画、積極性、冒険心、困難への挑戦と言った意味合いを持つ。

・・・彼女の直面している困難。
それは、一体何なのだろうか。


 

 

「う、わぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

爆発。

海上で制空権を奪われ、爆撃機の猛攻に曝された為に吹っ飛んで行った。

 

「指揮官、エンタープライズ本日通算25回目の撃沈判定です」

「そうかー…」

 

山猫と呼ばれる指揮官は、本日の秘書艦であるロドニーからそう聞くなり肩を落とした。

 

「これがかの有名なエンタープライズとは思えませんね…」

「言うな…何かしら理由がある筈なんだ…」

 

生まれながらにして戦いの知識を叩き込まれている艦船だが、やはり相応に練度を上げなければ早々に頭打ちしてしまう。

 

エンタープライズは赤城加賀の模擬戦に連敗していた。

勿論二人の練度が高いから、と言うのもあるがもう一つ理由があった。

 

「スキル…発動しないな、あいつ」

 

エンタープライズを無敵たらしめる特別な力、《LuckyE》が発動しない…というより、使えないのだ。

 

「彼女のモデルとなった空母の戦歴を讃えた無敵のスキル…何故発動しないのでしょうか」

「本人も気合充分、戦闘技能もまぁ申し分ないけど…ネックがそこだなぁ」

「勤勉で積極的ですけど…多分相当落ち込んでるかと」

「…………そうか」

 

度々沈んでいる所を見かけてはいる。

しかし、声を掛けるのが憚られていた。

 

「…苦手なんですか?」

「少し…な」

 

英雄という存在を体現した艦船。

彼女に対して…俺は少なからず苦手意識を持っていた。

 

「そうも言ってられないか…」

「指揮官。ここに居たのか」

 

…なんてコトを話していたら、本人のご登場である。

タイミングが悪いとかそういう話ではない。

 

「どうした?」

「いや、その…今日の訓練で…」

「特に言う事はない」

「そう、か…わかった。ありがとう」

 

エンタープライズは俯いていた。

…これは、やってしまった。

 

「…指揮官」

「なんだ」

「私は…本当にエンタープライズなのだろうか」

「何故そう思う?」

「私には、その象徴が使えないから…」

「…」

 

ロドニーは黙っている。

 

「別に気にしてない。象徴だろうが何だろうが《エンタープライズ》はここに居る。史実のエンタープライズは何度やられようと戦場に復帰していると聞く」

 

何度大破しようと、戦場に舞い戻り敵を撃破してきたエンタープライズと言うある種の英雄的な活躍をしていた。

…ならば、何度羽折られ膝をついても…諦めない限りエンタープライズはエンタープライズであり続けるだろう。

 

「諦めるな」

「…!ああ!」

 

エンタープライズの表情が晴れる。

ロドニーが微笑を漏らす。

 

「エンタープライズさん。頑張ってください」

「ありがとうロドニー!それじゃあまた後で!」

 

笑顔でエンタープライズは走り去る。

恐らく、赤城の下だろう。

 

赤城には悪いが、暫くは相手になってもらう他ない。

…埋め合わせが怖いがな。

 

「…………はぁぁぁぁ…また、当たり障りの無いことを言ってしまった…………」

 

自分は、英雄的な人物がはっきり言って嫌いだ。

そういう奴らを片っ端から殺してきた。

 

…本格的に嫌いになったのは、クラニアム防衛戦。

 

ウィン·D·ファンション…本当に、嫌な奴を手に、

 

「指揮官」

 

ロドニーによって、思考を中断された。

 

「怖い顔をされてますよ」

「…すまん」

 

この日、エンタープライズは英雄の名に相応しい戦いっぷりをしていたのはまた別の話。

 

「いつか、ちゃんと向き合わなきゃいけない…俺も、あいつも」

 

ただ、彼女の冒険心が折れない事を祈って。

 

 




エンタープライズ初登場回。

彼女としては普通に指揮官…リンクスと接したいが、リンクスからすれば英雄気質の人間に対して思うところがあり…無意識に避けてしまっている。


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Enterprise

英雄には、人を惹き付けるカリスマがあるらしい。
あの時…ウィンに着いてきたロイも、そうだったのだろうか。


 

 

「作戦を説明しよう」

 

 

アズールレーン対セイレーン部隊専用輸送艦内のブリーフィングルームにて、指揮官がスライドを投影し説明する。

 

「今から二時間前、セイレーンがユニオン所属軍港に強襲を仕掛けた。場所はサンディエゴから比較的近く、救援要請を受諾した」

 

スライドが切り替わる。

今回、ユニオンから正式な依頼を受けネクスト及びその護衛戦力の艦船を出撃させるに至る。

 

「軍港を強襲するセイレーンを後方から襲撃、ユニオン艦隊と挟撃し撃破する」

「指揮官。質問良いかしら」

「途中だ。手短にしろ」

 

プリンツが挙手する。

…うちの古株だけあって、思うところがあるのだろうか。

 

「今回の編成に付いて」

「…後に説明するつもりだったが、まぁいい。この際だ。先に話しておこう」

 

ブリーフィングで腰掛ける六人を見やる。

 

前衛艦隊、プリンツ·オイゲン、綾波、シュロップシャー。

後衛艦隊、ネルソン、ロドニー、エンタープライズ。

 

…主力である赤城、加賀を編成していない理由。

 

おそらくはその事だろう。

 

「今回の編成については、前衛艦隊は後衛及びネクストの時間稼ぎがメインとなる」

「なるほど…それで重巡の私と、防御力のあるプリンツさんがいる訳ですね」

「そのとおり。綾波には少し厳しいかもしれないが宜しく頼む」

「問題ない…です」

「そして後衛は、ビッグセブンの火力を持って敵量産型の掃討にあたる」

 

セイレーンのネームドに対して、艦船達の力ははっきり言って足りていない。

しかし、量産型を相手にするならば充分な火力はある。

 

「指揮官。エンタープライズは?」

 

ネルソンが、言い難かった事に突っ込んできた。

…逃げる事を許してはくれない。

 

「エンタープライズはユニオン本部直々の指名だ」

「私が…?」

「向こうの面子だか何か知らんが、馬鹿馬鹿しい」

 

ユニオンの英雄の力を誇示、及びネクストと言う存在がユニオンの物だとしたいのか。

こちらのエンタープライズは不調だと言うのに。

 

「指揮官、私は…」

「説明は以上。ユニオンの覚えを良くする絶好の機会だ。これを逃す手はない」

 

エンタープライズの表情は晴れない。

だが、ここに来た以上それに構ってられる場合では無い。

 

「各員の奮戦を期待する。出撃まで待機せよ…解散」

 

皆外に出て…ロドニーが、エンタープライズに何か耳打ちをしていた。

エンタープライズだけ、部屋に残る。

 

「…どうした」

「そ、その…指揮官。私は…」

「…少し付き合え」

「えっ」

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

輸送艦、甲板。

 

日はすっかり落ち、水平線の彼方まで真っ暗だった。

 

「エンタープライズ。何に悩んでいる」

「悩んでいる…か。指揮官は分かっていて聞いてるんだろう?」

「俺が把握しているのは表層だけだ」

「意地の悪い人だ」

 

エンタープライズは困ったように笑う。

…彼女の笑顔、そう言えば見た事がなかった気がする。

 

「…あんまり柄じゃないんだけど、こういうの」

「指揮官?」

「シリアスなのは柄じゃない」

「作戦前なのにか?」

「作戦前だからこそ、さ。お前みたいに今肩肘張ってガチガチに緊張してても始まらない」

「………」

 

図星なのか、黙る。

 

「今回、別にユニオンの指名を蹴っても良かった」

「それは、どういう」

「初陣をこんなプレッシャーのかかる戦場にすべきじゃない。ネルソンに散々言われたさ」

「………」

「だが、お前をこのまま放置するわけにも行かない」

「この戦いで、何かを掴めと?」

「そうだ」

「初陣で無茶を言う指揮官だ」

「俺はそうは思わん。戦いこそが人間の可能性だからな」

「私は、人間じゃない…記憶を植え付けられた紛い物だ」

「だがお前は生きてる。俺たちと同じ肌を持って熱を持ってる」

「…同じ、か」

「戦え。戦って生き残れ」

「………ああ」

 

少し吹っ切れたのか、肩の力が抜けているように見えた。

…夜風で靡く銀の髪に少し見惚れる。

 

「指揮官、教えてくれ。私はあと何隻沈めればいい?」

「さぁな…でも、邪魔する奴等は全部沈めれば良い。お前が見たい世界の為に、邪魔する奴等を全て蹴散らせ」

「そうか…」

 

出撃まで、あと1時間を切る。

 

「時間だ。艦装を展開して待機」

「了解」

 

さて、始めよう…俺たちの戦いを。

 

 




ユニオン軍港救出作戦、展開。
エンタープライズの人生は、ここから始まるのだろうか。


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エンタープライズ

燃え盛るユニオン軍港。

舞い上がるネクスト。


グレイゴーストは、何を思う。


 

ユニオンの軍港は完全に包囲されていた。

 

セイレーンの量産型艦艇が絶え間なく砲撃している。

先遣隊からの報告によると、ネームドは確認出来なかった。

 

「全艦抜錨!!輸送艦は後方に待機し負傷者救命に当たれ!!」

「「了解!!」」

 

久しぶりのネクスト…ストレイドのコックピットに座っている。

機体とリンクする。

機体とつながる者、リンクス。

 

それが、傭兵の形。

 

「ストレイド、出るぞ!!」

 

白い鳥が、甲板から飛び立つ。

調子は変わらない。

整備班には頭が上がらないなと苦笑する。

 

「エンタープライズ!速度そのまま!敵影が見え次第ぶっ放せ!片っ端から沈めろ!」

『了解だ、指揮官』

 

通信越しの彼女の声は落ち着いている。

これなら大丈夫だろう。

 

(さて、ネームドは…この装備じゃ見えないか)

 

ネクストにはこちらの世界に飛んできたままの装備しかない。

当然増設レーダーなんて物は載せてない。

頼りになるのは頭の電子戦装備だけ。

 

レーダー上の赤い点が消え始める。

ネルソンとロドニーが砲撃し始めたのだろう。

 

「綾波。ネームドは見えるか?」

『こちら綾波…量産型だけ…です』

「わかった。無理しない程度に警戒」

『了解』

 

今回のセイレーンの動きは少し妙だ。

目的が見えてこない。

 

(ま、奴らの考えなんて理解出来ないんだがな…)

 

行動パターンなんて把握するだけ無駄、と言わんばかりに神出鬼没。

アズールレーン上層部もぼやいていた。

 

唯一分かっていること。

 

(イレギュラーを望んでいる)

 

この世界の異分子、イレギュラー…すなわち俺を待っている。

前回の北方戦で、ヤツは確かにそう言っていた。

 

思考している間に、足元に映る量産型をライフルで片っ端から沈めていく。

 

友軍もやっと艦隊を展開して反撃を開始している。

ネームドが居なければ通常戦力でも何とかなる。

 

 

…視界の端に、紫の光が見える。

 

 

「なっ、」

 

直撃。

 

機体が揺れ、海面に激突した。

 

「こ、のッ!!」

 

ブースターを全開。

水没だけは避ける。

機体を起こし、オーバードブーストを起動。

 

プライマルアーマーが減衰しただけ。

 

本体に損傷は無い。

 

回線を開き、艦隊に通達する。

 

 

「ネームドだ!個体は…ピュリファイヤー!!」

『さぁ、首輪付き…私と遊ぼうよ!!』

 

 

彼我の距離はネクストの推力なら一瞬で詰められる。

 

しかし、ヤツの弾幕は厚い。

 

「くっ…何でEN兵器積まなかったんだ俺!!」

 

牽制で放つライフルも、肩にマウントされているグレネードも全て実弾な為、ピュリファイアーのレーザーに全て撃ち落とされる。

 

『素早いだけ!?』

「抜かせ!」

 

海面から離れられないあちらより、三次元的な動きのできるこちらの方が有利。

必ず隙が突ける…!

 

クイックブーストを吹かし、狙いを定めさせない。

時折ライフルを放ち牽制する。

 

『なら、こういうのはどうだ!!』

「ゲッ…!」

 

どこからとも無く量産型セイレーンが出現する。

…駆逐級から戦艦まで様々な砲がこちらを向く。

 

『指揮官ッ!!』

 

…戦闘機の集団がこちらへ飛来する。

抱えていた爆薬を投下、爆撃を行う。

 

「エンタープライズか!」

『こっちは粗方片付けて向こうに任せた!援護する!』

「気を付けろ!ネームドだ!」

『わかってるわ!指揮官、デカいの撃ち込むから避けなさいよ!!』

「ちょ、おまっ!俺がまだ居るだろ!!」

『アンタなら避けるでしょ!!ロドニー!』

『はい、姉さん!』

 

BIG SEVENと呼ばれた七隻の戦艦。

そのうちの二隻がロドニーとネルソン。

そして、その船の力は特殊な弾幕である。

 

 

 

具体的に言うと、

 

砲弾の雨が降り注ぐのだ。

 

 

 

 

 

「だァァァァクッソ!!覚えてろネルソンッッッッ!!」

 

砲弾の雨をクイックブーストを駆使して掻い潜る。

流石に戦艦クラスの主砲はプライマルアーマーが貫通されかねない。

 

『ちゃんと避けたじゃない』

「あのなぁ…!」

『指揮官!まだ!』

「っと、流石に沈まないか…」

 

ピュリファイアーはまだ沈まない。

所々焦げ付いてはいるが、まだまだ健在だ。

 

このままではジリ貧に陥る。

その最中、ネルソンに照準が向けられ…。

 

「ネルソン!!」

『!!』

 

レーザーが発射される。

 

射線上に割り込む。

 

「ッッッッ!!」

『何やってんのよ指揮官!!?』

「うるせぇ!マークされ過ぎだ!」

 

ダメージチェック。

 

…プライマルアーマーを貫通されて装甲にダメージが入っている。

 

「いってぇ…」

『だ、大丈夫か!指揮官!』

「エンタープライズ!次の艦載機は!」

『いつでも!』

「合図したら出せ。それまで回避に専念!」

 

この泥仕合、そろそろ決めに行きたい所だが…。

 

「やらせなきゃ、意味が無いか…」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

side:エンタープライズ

 

 

指揮官が合図するまで、回避に専念する。

 

というより指揮官がピュリファイアーの周りを飛び回り散発的に攻撃しているからあまり狙いが飛んでこない。

 

 

しかし…。

 

「あれが、ネクスト…」

「エンタープライズ、貴女見るのは初めてだったわね」

 

隣で砲撃していたネルソンが独り言を拾っていた。

思わず漏れた言葉に反応されるとむず痒い。

 

「ああ」

「普段からあんな風に真面目なら良いんだけど」

「そうか?適度に息を抜いて締めるときに締めればそれで良いと思う」

「それがユニオン流?全く、呆れるわね!」

 

再び砲撃。

量産型が増えてきた。

前衛艦隊も合流する。

 

「エンタープライズ。前衛艦隊も合流よ」

「プリンツか。指揮官の援護に回ってくれ」

「了解よ…!」

 

ロドニーから主砲の援護を受け、プリンツ、シュロップシャー、綾波が突貫する。

 

「指揮官…まだか…!」

 

合図は来ない。

艦載機は軒並み準備万端だ。

タイミングを待っているが、焦りの方が鎌首をもたげている。

 

(まだか…)

 

指揮官は機会を待っている。

 

何の?

 

ピュリファイアーの隙を。

 

どうやって作る?

 

ネルソンか、ロドニーか、綾波か、プリンツか、シュロップシャーか。

 

誰かがやるのか?

 

 

…違う。

 

違う!

 

 

やるのは私だ。

 

私にしか出来ない。

 

 

奴が見ているのは目の前の艦船と、ネクスト。

 

注意が向くのはその二つ。

 

 

新たに3つ目を出せば少なからず動揺が生まれる。

 

 

その、僅かな隙を、突く。

 

 

そして、それに必要な物を、私は持っている筈だ。

 

 

『今だッ!』

「終わりだ」

 

 

引き絞っていた弦を離す。

 

…いつもと、違う感覚。

 

 

そうか、これが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

side:リンクス

 

 

 

『終わりだ』

 

エンタープライズから発艦する艦載機達の攻撃に晒され、ピュリファイアーの動きが鈍る。

 

「そこ、だっ!!」

 

左腕にマウントされた発振器から、光が伸びる。

かつて破れた仲間の形見。

 

MOON LIGHT。

 

その青白い光の剣が振り抜かれた。

 

「…獲った!」

 

ピュリファイアーの艦装が丸ごと両断され、本体も焼き切れていた。

 

「はぁぁぁぁ…やったか…」

 

セイレーンが沈黙した。

 

…軍港から部隊が展開してくる。

 

 

量産型も粗方掃討し終わった様だ。

 

 

「おつかれさん…さ、帰ろうか」

 

 

背後のピュリファイアーの残骸は、跡形も無く掻き消えていた。

 

恐らく、回収されたのだろうか。

 

(…ネクストの装備、どうにか調達しないとな)

 

ネクストのカメラが足元を捉えた。

腕を組んでふんぞり返るネルソン、口元に手を当てて笑うネルソン。

 

その間で、エンタープライズが照れくさそうに笑っていた。

 

…憑き物が落ちたように、純粋に。

 

 

「良い顔してるじゃねぇか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セイレーンのユニオン軍港襲撃から一夜明け。

 

「指揮官、ここに居たか」

「エンタープライズ?」

 

ネクストのメンテナンスハンガーにて。

今回の損傷を照会して整備の依頼を出した所であった。

 

ちなみに修理費と弾薬費はユニオンに請求した。

 

今回のユニオン側の条件を呑んだ戦闘を達成したのだから、それくらいは払って欲しいものである。

 

「その、何だ…改めて言おうと思うと照れくさいな」

「?」

「…ありがとう。私を信じてくれて」

「何だ。そんな事か」

「そんな事って…貴方は」

「部下を信じなくてどうする」

「それは…」

「今回、ユニオンの窮地を救ったのはお前だ。エンタープライズと言う英雄がユニオンの危機に立ち上がり脅威を撃退した。全く、上のシナリオも安っぽいったらありゃしねぇ…テルミドールならもう少しマシなシナリオ書くさ」

「テルミドール?」

 

…思わず懐かしい名前を出してしまった。

 

「…忘れてくれ」

「そうするよ。指揮官、私は…エンタープライズだ」

「え?…………ああ、そうだな」

 

エンタープライズは嬉しそうに笑った。

 

彼女のスキル、LucyEがぎりぎり発動したお陰で今回の戦闘を無事に帰ってこれた。

 

「頑張れよ英雄」

「からかわないでくれ、指揮官」

「甘んじて受け止めろ…その資格があるんだ、お前には」

「なら、私を指揮する貴方にもその資格があるんじゃないのか?」

「…俺が、か」

「私は貴方に着いていくよ。指揮官、教えてくれ。私はなんの為に戦えば良い?」

「この世界の未来を作るために。着いてこい…エンタープライズ」

「ああ!」

 

 

…英雄は嫌いだ。

 

けど、時代はそれを必要としている。

 

好き嫌いも言っていられないか。

 

 

「人間の可能性、か」

 

 

俺が英雄になる。

 

そんな可能性もここにはあるって事なのかな。

 

 




と、言う訳でエンタープライズ回でした。

スキルが使えない彼女に発破掛けてなんとか使わせる。
ちょっとやってみたかった内容ですね。

次回をお楽しみに。


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白の戦狐に首輪は要るのか

重桜所属、一航戦・加賀。
苛烈にして熾烈。

弱肉強食を体現する彼女は、意外にも面倒見がいい。

それを知った、とある日のこと。


 

「もしお前が負けたら、それがお前の弱さの証明になる。弱き者が淘汰されても文句は言えない。だがお前は今や私のものだから、仇くらいは取ってやる」

 

ネクストに乗り、前線に出ることが決まった日。

俺はその日、加賀にそう言われた。

 

重桜所属艦隊、一航戦加賀。

 

 

 

一言で彼女を表すなら苛烈。

 

こと戦いにおいては従来の戦闘狂…本能のままに敵を蹂躙する空母だ。

しかし、ひとたび母港に戻ればそれは鳴りを潜める。

 

「…あれはどういう意味なんだろうか」

 

ある日の執務室で、つぶやいてしまった。

 

「…指揮官様?赤城が目の前に居ますのに他の女の事を口に出しますの~?」

「え、あ、口に出てたか…」

「指揮官様?」

「すまんすま…ウェッ!?近っ、近い!」

 

隣にある秘書艦用の机からいつのまにか立ち上がり真横から顔を覗き込んでいた。

 

艦船たちは例外なく美女ぞろいの為、顔が良い。

心臓に悪い職場だと改めて思った。

 

「いや、ちょっと加賀の事考えててな」

「加賀、ですか?」

 

妹の事であるためか、少し攻撃色が引っ込む。

 

「前にな…」

「はぁ…そうだったんですか。あの子がそんなことを」

 

事情を少し説明する。

合点がいったようだった。

 

「指揮官様も、ずいぶんとあの子から信頼されてますのね」

「そうか…?そうなのか」

「ええ。滅多な事では言いませんもの」

「…」

 

何というか、艦船たちから異様に好かれているような気がするのは気のせいだと思いたい。

…彼女たち船は、人との繋がりが必須だからなのだろうか。

 

(…だとしたら、作った奴は極度のロマンチストか…悪趣味なマッド野郎だな)

 

「本人に聞いてみたらどうでしょうか」

「え、本人に…?ちょっと言ってる意味が分かりませんが」

 

思わず敬語が出てしまった。

 

「お昼から名残惜しいですが、赤城はお暇させていただきますね」

「おま、仕事」

「代わりに秘書艦に加賀を指名します」

「えぇ…」

「他の子でしたら死んでもお断りですが、あの子は別。せいぜい可愛がってあげてくださいね?」

 

そう言い残して、赤城は執務室から出て行った。

 

「…マジかよ」

 

プランB、所謂ピンチですね…。

 

行けるな?俺。

 

「…無理だな」

 

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

 

 

 

____昼過ぎ。

 

 

 

 

 

「指揮官。昼から姉さまに代わって私が秘書艦を担当することになった」

「あ、ああ…よろしく頼む」

 

どことなくアンニュイな雰囲気を醸し出す白一色の尾を持つ船、加賀が執務室に立っていた。

 

「全く…姉さまも最近は真面目に仕事をしていたと思っていたのに」

「まぁまぁ…あいつもよくやってくれてるし」

「戦闘では、ですが」

 

加賀なりに姉の事を心配しているのだろうかと苦笑する。

 

「指揮官。あれから大事は無いか?」

「あれから、とは?」

「とぼけるな。あの機械が指揮官にあまり良くない影響を与えているのは皆気付いている」

「…!」

 

コジマ汚染に、気づかれている?

 

ネクストはコジマ粒子という金属粒子の反応から得られるエネルギーの恩恵で動いている。

そしてそのコジマ粒子は人体…ありとあらゆる生命に対して有害である。

 

明石達の協力によってその影響を抑え込むことに成功した…が。

 

抑え込むということは、未だ少なからず影響があるという事だ。

 

「…慣れている。平気だ」

「お前がそういうのなら良い。だが」

 

一息入れて、加賀は続けた。

 

「弱いものはすべからく淘汰される。お前がそこで倒れるというのならその程度だということになる」

「…わかってるさ。だが俺は、お前らよりも…強い」

 

少なくとも、相応に潜り抜けた修羅場の数は多い。

 

「…いい顔をするじゃないか」

「そうなのか?」

「ああ…そうじっと見つめるな。お前を食べたくなってしまう」

「…ん?」

 

じりじりと、気が付けば距離を詰められていた。

 

「…加賀?」

 

「私は征服者だ…誰に対してもな」

 

ついに加賀が俺の肩をつかんだ。

獣の力のお陰か、腕の力が強い。

 

「やめろ、加賀」

「ならば止めてみせろ。お前は強いのだろう?」

「この…!」

 

動かない。

艦船の力を使っているのか、びくともしない。

加賀の表情が恍惚としたものになる。

そのさまがとても艶やかに見える…が、開かれた口から見える犬歯が存在感を放つ。

 

食べる、というのはよもや物理的な意味ではなかろうか。

 

「いい加減に、しろ!!」

「お」

 

掴まれていた腕を引いて位置を入れ替える。

そのまま加賀を壁に押し付ける形になる。

 

「強引だな…だが、嫌いじゃないぞ」

「お前が言うな…あと、本当に食う気だったろ…」

「ああ…お前が美味そうに見えたからな」

「冗談じゃない、こんなことで死ねるか」

「私にもなぜこんな感情があるか不思議でたまらないものだ。獣の本能だろうか」

「…」

 

重桜の艦船は肉体の改造により、精神面で不安定な欠陥を抱えていると聞いたことがある。

獣の一部が肉体から生えているため、そういったところに引っ張られているのかもしれない。

 

「気持ち悪いか?私たちが」

「別に…欲があるってことは人と同じだ」

 

こいつらは機械じゃない。

暖かいし感情もある。

こいつらは生きているんだ。

 

生きているものは美しい、気持ち悪いものではない。

 

「そうか…」

 

首に手を回されて、密着される。

一瞬ドキリとするが、

 

 

がぶり。

 

 

「痛ッ!?」

 

首を噛まれた、と理解するのに少し時間がかかった。

 

「頂いたぞ、指揮官」

「お前なぁ…」

「油断すると食べてしまう。常々警戒することだな」

 

いたずらが成功したような顔でほくそ笑む。

…おそらく、はっきりと首に加賀の歯型が浮かんでいるだろう。

 

「仕事を再開しよう、指揮官」

「誰のせいでこんな時間が…まぁ良い」

 

仕事を再開する。

 

…首が痛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

それから。

 

「指揮官様、加賀、お疲れさまでした」

 

夕刻を過ぎたあたりで、赤城が様子を見に来た。

 

「姉さま、何しに来たのですか」

「指揮官様が加賀の事を気にしてらしたので、少しお手伝いを」

「見ての通りだ」

「…ほう?加賀?何故指揮官様から貴女の匂いがこんなに濃く…」

 

赤城が、俺の首筋に着いた歯型を見つけた。

赤城の目が据わる。

 

「加賀。貴女にも譲ってあげるつもりは無かったのだけれども」

「姉さま、早い者勝ちですよ」

「言うようになったわね…」

「あ、あわわわ」

 

なんか修羅場が始まった。

さっさと部屋から出た方が良いのかもしれな

 

「指揮官様…?どちらへ行かれるのですか?」

 

しかし 回り込まれて しまった!!

 

「あ、赤城…加賀と取り込み中のようだから席を外そうかなと」

「うふふ…指揮官様?加賀の前だからって恥ずかしがらなくてもいいのですよ?」

「…どういう事だ」

「加賀の前でしたら、赤城もやぶさかではありませんわ…まぁ他の子の前で見せびらかすのも悪くは無いのですが」

「…加賀?」

「指揮官、覚悟しろ。私たちでお前を食う」

「…ちょ、誰か!プリンツ!!助けてくれ!!」

 

この後夜中まで逃げ回ったのは、言うまでもなかった。

 

「冗談じゃない!夢なら覚めry」

「うふふふふふ」

 

 

 

この後、様子を見に来たティルピッツにしこたま怒られた。

 

 

 

 




ここの指揮官は生身で2段QBまがいの挙動をするらしい。

重桜の空母と鬼ごっこをするうちに身につけたのだとか。


エンタープライズが、戦ってみたそうにこちらを見ている。


「やらないからな!?」
「そうか…残念だ」


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ロドニーだって首輪を握りたい

なんてことの無い、日常の1ページ。


 

「指揮官、ロイヤルから新しい船が来るようですよ」

 

「…え?何故」

 

ある日の昼下がり。

最近ロドニーが秘書艦になった時は日課となりつつある散歩をしているときだった。

 

「女王陛下が指揮官の事を気に入られたからですね」

 

「…会ったことも無いんだが」

 

「ベルファストの心を動かした事で注目をされた様で、ずっと動向は目を通されていらっしゃるようで」

 

「マジか…」

 

「本当ですよ。指揮官は義務を果たされています」

 

「それは…面と向かって言われると」

 

「照れますか?」

 

 

ここで、彼女がずっと笑みを浮かべていた事に気が付いた。

 

 

「揶揄うな」

 

「うふふ…どうでしょうね?」

 

「ロイヤルのお国柄はどうにも馴染めん」

 

「あら、心外ですね指揮官」

 

「いっそネルソンみたくストレートな方がやりやすい」

 

「…姉さまも姉さまで相当ねじれてますけど」

 

「そうか…?」

 

 

顔を合わせれば取り合えず罵倒。

 

奴の求める指揮官像に俺は遠く及ばないと自分もわかっているので気にしてはいないが。

 

 

「素直じゃないのは、指揮官も同じですけど?」

 

「俺が?どうだろうな…自分には正直に生きてきたつもりだ」

 

 

常に答えを出す為に戦い続けたあの日々。

 

俺の求めるもの、人類の黄金の時代には興味は無かったが、この選択の先に待つものに俺は惹かれていたのかもしれない。

 

 

「…指揮官は、戦う事以外に素直になったことはありますか?」

 

「戦うこと以外?」

 

「そうです…なんだか、指揮官は欲が薄いといいますか」

 

「そう…か?食いたいものは食ってるし欲しいものはなるべく手にしてるが」

 

「いえ…何と言ったら良いのでしょう。上に上り詰めたいとか、本国に覚えを良くしたいとかは」

 

「無いな」

 

 

俺は傭兵だ。

好きなように生き、そして死ぬ。

 

そこに余計な足かせなんて要らない。

 

 

「…指揮官は傭兵ではなく、アズールレーンの司令官なんですよ」

 

 

ロドニーが窘めるように言ってくる。

 

 

「それに、指揮官が居なくなったら困ります。死ぬなんて言わないでください」

 

「わ、悪かったよ…」

 

 

「指揮官!こんなところに居たのね!!」

 

 

背後から起こったような声音…まぁ実際怒っているのだろうが。

 

 

「姉さん」

 

「ロドニー。貴方達いつまでその辺ほっつき歩いてるわけ!?」

 

「姉さん。今日の秘書官は私ですよ…私と指揮官の時間を奪わないでくださいます?」

 

「なっ…アンタこいつのどこが良いわけ…?」

 

 

酷い言いようである。

 

 

「そういう姉さんこそ、指揮官の事ホントは気に入ってるじゃないですか。『前線で戦う稀に見る勇敢な奴』だって」

 

「わー!わー!わー!!」

 

「…お前そんな事」

 

「言ってないわ!!誰がアンタみたいな新米!夢見るなら階級上げなさいよ!!」

 

「昇格の話は何故か来ないんだよなぁ…」

 

 

アズールレーン内でユニオンとロイヤルが俺の所有権で争ってるらしく、どっちの国で昇格させるか揉めてるらしい。

俺、一応ユニオンの所属って事になってるんだけど。

 

 

「そんな事言わずに。指揮官だって姉さんのこと好きですよね」

 

「え?ああ、そうだな。お前の事は好きだよ」

 

「は、ハァ!?」

 

 

怒りで赤面からさらに顔が赤くなる。

 

 

「ば、ばばばばばばば馬鹿じゃないの!?あんたなんて…」

 

「勿論、ロドニーの事も好きですよね」

 

「ああ。好ましく思っている」

 

 

ぴしり。

何かにヒビの入った音がした。

 

 

「…どうした?」

 

「知らない!」

 

 

怒ったり騒いだり忙しい奴だな…。

 

 

「ふふふ…姉さんも素直じゃないですね」

 

「ロドニー!」

 

「で、ネルソン。何があったんだ?」

 

「何よもう…指揮官宛に女王陛下から文書よ」

 

「…マジで?それはどこに」

 

「執務室。そんなもの持ってアンタ達探し回れるものですか」

 

 

それもそうである。

ロイヤル所属艦船の優先度最大クラスのアイテムなのだから。

おそらくベルファストが部屋で見張っているのだろう。

 

 

「わざわざすまない。端末に連絡を入れてくれれば良かったのに」

 

「…はぁ?あんたの連絡先なんて知らないわよ」

 

「…えっ、あ、そうか」

 

 

彼女たちに自分の連絡先を渡していなかった。

勿論、綾波やロングアイランドにも。

 

 

「今持ってるか?渡しておこう」

 

「え?ええ…」

 

「ロドニーも良いでしょうか」

 

「良いぞ」

 

 

二人の端末に連絡先を送った。

 

 

「何だかんだお前らが最初だな」

 

「な、なによ…寂しい奴ね」

 

「言ってくれるな。やっと余裕ができたって事かな」

 

「あ、指揮官の連絡帳の一番上はロドニーですね」

 

「なつ…」

 

 

本当だ。

こっちの方が登録が早かったらしい。

 

 

「指揮官、寂しい時はロドニーに連絡しても良いですよ?」

 

「ははは…その時は頼もうかな」

 

「し・き・か・ん!!妹に変な気を起こさないでよ!?」

 

「?ああ…」

 

 

変な気、か。

彼女たちに俺が何をすると思っているのか。

 

 

「さて、ロドニー、ネルソン。昼食にしようか」

 

「あら、もうそんな時間ですね」

 

「昼からも頼むぞ」

 

「はい」

 

「ちょっと指揮官!」

 

「何だネルソン。お前も行くぞ」

 

「え、ちょっと、ひっぱ…ロドニー、押さないでよ!?」

 

 

今日は、何だかんだ平穏だった気がする。

…何でだろうか。

 

 

「…何でも良いか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベルファストさん!そこをお退きになってくださいまし!指揮官様の所へ行けません!」

 

「なりません、赤城様。ご主人様とロドニー様、ネルソン様の逢瀬を邪魔させる訳にはいきません」

 

「くっ…この女中隙がありませんよ、姉さま」

 

 

…なんか執務室の前でちょっとした駆け引きが行われていたので、そっと窓から入った。

 

 

「指揮官!何でアンタ窓から入ってくるのよ!」

 

「ちょ、ネルソン声…」

 

「指揮官様ぁー!?」

 

「あ、ちょ、たすk」

 

 

ドアがけ破られた。

 

 

今日も結局こうなるのか…。

 

 

 




ロドニーってペースを乱さないから基本的に余裕のある強キャラ感がありますよね。

なんか、赤城がオチ要因になってる気がする。


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サンディエゴのバレンタイン

pixivに投稿した時は丁度バレンタインだったので、季節外れも甚だしいわ!って思いながらニヤついて読んでもらえると助かります(


 

「え"っ。指揮官バレンタイン識らないのかにゃ!?」

 

 

2月。

旧正月も終わり、サンディエゴ港が少し落ち着いた頃。

 

明石がチョコレートを発注したいと言うのでその吟味に来た訳だが。

 

 

「んー…そうだなわからん」

 

「えぇ…。指揮官女の子とかに貰ったこと無いのかにゃ…」

 

「…無いな」

 

 

顔を合わせる女性なんてほぼセレンさんしかいなかったし。

 

………そう言えば、リリウムが…。

いや、よそう。

あの子も俺が手に掛けたんだ。

 

 

「ユニオンは割と盛んだと思ってたけどにゃ」

 

「そ、そこで私に振るのか!」

 

 

クリーブランドが狼狽える。

確かに彼女はユニオンの出身だ。

 

 

「た、確かに…やるけど。私はいつも何故か貰う側だし…」

 

「クリーブランドは頼りになるからな」

 

「指揮官…私も女の子なんだぞ」

 

「判ってるよ。可愛くて頼りになる俺の大事な部下」

 

「うう…」

 

「はいはい惚気なら他所でやってにゃ」

 

「ハハハ。まぁ、クリーブランドがそう言ってるしOKしよう」

 

 

そんな訳で、サンディエゴ港にチョコレートが大量に仕入れられる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーそして、当日。

 

 

「指揮官」

 

「おはよう、綾波」

 

 

朝、執務室でスケジュールの確認をしていると綾波が部屋に入ってきた。

 

 

「どうした?秘書艦じゃなかった筈だけど」

 

「どうぞ、です」

 

 

綾波が差し出したのは、可愛らしい包装に包まれた小箱だった。

 

 

「あー、これがバレンタインとかいうやつか」

 

「?指揮官、知らなかったんですか?」

 

「まぁ、明石にも言われたなそれ。前はそれどころじゃないくらい戦ってたからな…」

 

 

ネクストから降りたらちょっと寝てまた乗る。

そんな生活を幼い頃から繰り返していたらこうもなる。

 

 

「なら、綾波が一番初めですね」

 

「そうだな、ありがとう綾波」

 

 

綾波の頭を撫でてやる。

気持ち良さそうに目を細めた。

 

 

「失礼します指揮官ー。チョコレート貰えなさそうな可愛そうな指揮官に私から義理チョコですよ」

 

 

失礼なのはてめぇだ、と本人が知ってたら良いそうな台詞を吐きながらシュロップシャーが入ってきた。

 

俺の手にある箱を見て目を丸くした。

 

 

「ありゃ、流石に綾波ちゃんは渡しますか」

 

「です」

 

「バレンタインって種類あんの?」

 

「…噂は本当だったんですね。そうですよー。本命から義理、果ては同性に送る友チョコなんてのもあります」

 

「ふーん…あ、シュロップシャー。ありがとう」

 

「え、あ、はい。どうぞ」

 

 

貰えるならそれはそれで嬉しい。

ちゃんと指揮官として皆に慕われているって事なんだろうな。

 

 

「なんか、面白くないですね指揮官」

 

「しらんて」

 

「しきかーん。幽霊さんからバレンタインなのー」

 

 

なんとまぁ、皆俺に持ってきてくれるのね…。

 

ありがたいけど、なんか、多くね…?

 

 

「ご主人様、メイドの身で僭越ですがこちらを受け取って貰えないでしょうか」

 

「指揮官。ロドニーの気持ちです、受け取って下さい」

 

「指揮官。ユニオンにはチョコレートを渡す風習があるらしい。私は苦手だが…お前なら食べるだろう?受け取れ」

 

「指揮官。はいこれ。どう?嬉しい?え、義理かって?ふふ…勿論…本命よ。お返し、待ってるわ」

 

「全く…ここは浮つき過ぎね。まぁ、あの氷の中では知り得なかったこの喧騒…嫌いではないわ。だから、その…あ、あげるわ」

 

「指揮官。ハッピーバレンタイン。これからもよろしく。私と共に戦ってくれ」

 

「指揮官、ハッピーバレンタイン!チョコレート、結構自信あるぞ。食べたら感想聞かせてくれよ」

 

「………まさかこんな貰えるとは」

 

 

サンディエゴ港にいる艦船ほぼ全員から貰ったのではないだろうか。

 

…いや、赤城とネルソンが居ない。

 

 

「…赤城?」

 

「はい、赤城ですわ♪何か御用でしょうか」

 

「うおっ!?」

 

 

重桜の持つワープ技術で目の前に一瞬で現れた。

…相変わらず神出鬼没だ。

 

 

「…あー、重桜のさお抹茶、だっけ。あれ淹れてくれない?」

 

「珍しいですわね、指揮官様。以前は苦くて苦手だと」

 

「たまには、良いかなって」

 

「畏まりました♪少々お待ち下さいませ」

 

 

 

 

「戻りましたわ〜指揮官様〜」

 

 

10分くらいして戻ってきた。

お盆に乗せられた陶器に、緑の液体が溜っている。

 

…と、その横に茶菓子として何か付いている。

 

 

「…これは?」

 

「赤城の気持ちですわ。よかったら受け取って下さいまし?」

 

「…ありがとう。頂くよ」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー夜。

 

結局、今日一日ネルソンを見掛けなかった。

一体何処へ行ったのだろうか。

 

ネクスト…ストレイドの整備ハンガーに降りる。

 

俺は必ず、一日に一度はここに足を運んでしまう。

…こいつに、首輪で繋がれているから。

 

 

「指揮官」

 

「…ネルソン?何でここに」

 

「ここなら、必ずアンタは来ると思って」

 

「もしかして、待ってたのか?」

 

「ち、違うわ!ここなら探さなくても良いから手間かからないのよ!」

 

「そっか」

 

 

軽く笑って、ストレイドのOSを起動する。

少しずつ、中身をチェックしていく。

 

 

「ねぇ、指揮官」

 

「なんだ?」

 

 

モニターから目を話さず、意識だけネルソンに割く。

 

 

「アンタは、元の世界に帰りたい?」

 

「どうした急に」

 

「答えて」

 

「はいはい…答えはノー」

 

「どうして…?アンタの、産まれた世界でしょう?」

 

「やる事はやった。それに、ここでやらなきゃいけない事もあるし」

 

 

この世界に来た意味を、答えを探さなきゃいけない。

 

 

「それで、いいの?」

 

「良いさ。そう、答えたから」

 

 

世界に反旗を翻した俺に、テロリストのORCAに居場所は無い。

 

残してきたセレンさんが気掛かりと言えば気掛かりだが、あの日なら多分大丈夫だろうと言う確信が確かにあった。

 

 

「ねぇ、指揮官。それで…良いの?」

 

「良いんだ。好きな様に戦って、好きな様に死ぬ。それが俺…リンクスさ」

 

 

リンクス。

忘れてしまった自分の名前代わりの肩書。

 

 

「まだ、その偽名使うつもり?」

 

「当分はな…何せ覚えてない」

 

「何でそんな所だけ忘れるのかしら」

 

「さぁな。案外自分ってヤツを持ってなかったからかもな」

 

「自分を持ってないヤツが、セイレーンの根絶なんて大口叩けるもんですか」

 

「違いねぇ」

 

 

穏やかな時間。

目の前に居るのは一人の女性だと錯覚してしまう。

 

 

「で、本題に入ろうか」

 

「ちょ、ちょっと待って!まだ心の準備が…」

 

「…いやまる一日あったけど」

 

「う、うるさいわね…はい、チョコ。まぁ、こういうのたまにあげた方がモチベーションも上がるかもね」

 

「おう、ありがとう」

 

「それじゃ…」

 

「ネルソン」

 

「何よ…きゃっ、ちょっと、何する気!?」

 

 

ネルソンの手を取る。

 

 

「ホワイトデーで三倍返しって風習があるのをさっき聞いたんだが…一人ひとりに聞いてまわろうかと思ってて。何がいい?」

 

「えっ、今聞くの…そうね。大佐階級かしら」

 

「…一ヶ月で二階級すっ飛ばすのはちょっと厳しいかな」

 

「セイレーン狩れば余裕でしょ」

 

「それもそうか…じゃ、それまで付き合ってくれよ」

 

「フン…本当に、私がいないと駄目なんだから」

 

 

ちょっとだけ、今日は甘い日だった。

 

 




ちゃんとデレてくれるツンデレって難しいですよね…。
でもそれが大好きなんですよ。

ネルソンの好感度が足らないからケッコン出来ないのが本当に無念だ…。


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破滅の願いを砕く者

セイレーン案件、再び。
しかし、ユニオンは鉄血のKAN-SENを使うリンクスに、不満を抱いているようだ。


 

『リンクス少尉。セイレーン案件だ』

 

アズールレーン、サンディエゴ軍港。

機動兵器ネクストを操る指揮官、リンクスと少数の艦船が所属する寂れた場所…だった。

 

『座標はここ、先日セイレーン反応が多数確認された』

「何これ…鉄血の勢力圏じゃない」

 

傍らに立っていたプリンツが思わず声を出した。

 

『プリンツ・オイゲン。口を慎め。リンクス少尉、貴様も何故この場にレッドアクシズの舟など…』

「お言葉ですが少佐…彼女は優秀だ。それ以外に使う理由があるとでも?」

『…リンクス少尉。仮にもユニオンに所属するキミが』

「好きにやらせてもらう。それが条件だった筈だ…どの船に乗るかくらい選ばせてもらっても良いでしょう?」

『チッ…資料は追って送る』

 

それだけ言い捨てると、通信が切られた。

これは、先方を怒らせたかな…。

 

「プリンツ、皆に知らせてくれ。近々セイレーン戦…」

「指揮官」

「うわ近ぁっ!?何だよ」

 

プリンツに向き直ると、目と鼻の先彼女の顔があった。

 

「貴方、本当に面白いわ」

「いや、だから何で」

「私に乗ったつもり?」

「…気を悪くしたなら謝る」

「まさか。アレだけ啖呵切ってくれたんですもの、期待しても良いんでしょうね」

「…ふん、次はお前らに働いてもらう。せいぜい準備しとくんだな」

「その言葉、忘れないでよ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄血勢力圏内。

その海域をネクスト・ストレイドが滑空していた。

 

「…不気味なほど海が穏やかだ」

 

セイレーンが出没する海域には少なからず異常気象が発生する。

過去に確認された例とするなら、海域一面に積乱雲が立ち込め外界と完全に遮断される…など。

 

…ただし、中を見た者は帰って来ることは無かったと補足をしなければならないが。

 

『指揮官?空からは何か見えたか?』

「いや…何も。びっくりするくらい静かだ」

 

高度を下げる。

眼下に居る指揮下の6隻が見えてきた。

 

前衛、プリンツ、綾波、シュロップシャー。

後衛、赤城、加賀、ティルピッツ。

 

『お帰りなさいませ指揮官様〜』

「赤城。重桜のレーダーに反応は?」

『…ありませんわ』

「了解。引き続き加賀と索敵続けてくれ」

 

状況は良くない。

このまま徒労に終わってしまえば燃料の無駄になってしまう。

 

『…指揮官。大丈夫…です。皆がまだ居ますから…焦らなくても、大丈夫』

「綾波…?」

『指揮官、今日のお前は少し余裕が無さそうに見える』

「加賀まで…急にどうした」

 

次々と艦船達に心配される。

 

『指揮官。先日ユニオン上層部から何か言われたみたいだけど』

『えっ、ユニオン上層部に?』

「…別に、何も」

『嘘よ指揮官。貴方は怒ってるわ』

「プリンツ?」

『それは、何故?』

「…この話は辞めろ。各員索敵に戻…」

 

ドーン…。

遠くの方で砲撃の音がした。

 

「砲撃…どこから?」

『指揮官?どうしたんですか?』

「主砲クラスの音が聞こえたんだが…お前らは?」

『何も聞こえませんけど〜?…………あっ、指揮官!?前っ!!』

「何…………んなぁっ!?」

 

突然、衝撃。

ネクストのPAを突き破った一撃はコクピットを揺らす。

そこで俺の意識は黒く染まってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ…うぅ、ここ、は…」

 

目を覚ますと、相変わらず殺風景極まりないネクストのコクピット内が映る。

 

…海上で撃墜されたが、運良く近くの海岸に堕ちた様だ………。

 

「いや待て、陸なんかあの辺にねぇぞ…」

 

それに、ネクストのPAを貫通できるなんて…。

セイレーンの仕業を疑う他無かった。

 

「くそ、無線は…だめか。通じない」

 

ネクスト本体はまだ動く。

これを脚にして周囲を調査するしかない。

 

「…一面の積乱雲、そして…謎の光の柱」

 

積乱雲に囲まれた丁度中心地。

煌々と輝く赤い光の柱が立っていた。

 

「…まるで」

『鏡面海域、その様に捉えるか卿よ』

「…!?誰だ」

 

センサーに反応。

数は…………数えるのが馬鹿らしいほど多い。

 

その中心に立つ漆黒のシルエット。

 

『我に存在を問うか。ならば答えよう…我が名はグラーフ・ツェッペリン』

 

『全てを憎む者だ』

 

ーーー続く。

 

 




破滅を願う者、グラーフ・ツェッペリン。

未来を得るために、首輪付きは彼女と相対する。


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霧の向こう

破滅を望んだ船は、もしかしたら誰かに止めてもらいたかったのかもしれない。


「指揮官!?指揮官!!返事をして!指揮官!」

「指揮官様!?指揮官様ぁー!!」

 

赤城とプリンツが、指揮官と通信を繋げようと躍起になっていた。

その周囲では、加賀が落ち着かなく尾を振り、シュロップシャーは顔を真っ青にしていた。

 

「ネクストのプライマルアーマー…だったか?アレは一撃で破られるものなのか?」

 

唯一、冷静に分析しているティルピッツが…綾波に尋ねた。

 

「分からない…です。指揮官は衝撃で減衰するから、連続で被弾すると拙い…って言ってたです」

「なる程…強力過ぎる一撃で撃墜された様に見えたけれど…」

 

砲撃の音がしたと指揮官は言っていた。

でも、私達に聞こえていないというのは…?

 

「何だ、アレは…!?」

 

加賀が、水平線の向こうへ指を指した。

その場に居た全員の視線が吸い寄せられた。

 

…水平線の向こうの、巨大なシルエット。

まるで、海の上に6つの足で立っている亀のような…。

 

「…マズイ!!今すぐこの海域を離脱する!」

「加賀!指揮官様を見捨てるというの!?」

「姉さまも聞こえただろう!?ミサイルと重砲がもうすぐ殺到する!!」

 

瞬間、すぐ近くに水柱が立つ。

至近弾だ。

 

相手の精度は高い。

 

「加賀!偵察機は!?」

「もう飛ばしている…駄目だ!距離が離れ過ぎている!!」

 

戦術リンクですぐさま全員に情報が伝達された。

 

「ちょ、ちょっと…数十キロ先で…指揮官のストレイドより大きく見えるんですけど…」

「指揮官…ごめんなさい…これには、勝てる気がしないわ…」

「…逃げるわよッ!!」

 

プリンツさんが動き出し、全員がようやく動き始めた。

 

「何よアレ!本当にこの世界の兵器なの!?」

「少なくとも赤城の記憶にはございません!」

「ひゃっ…撃ってきた…!!」

「うわぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

----------------鏡面海域。

 

「グラーフ…ツェッペリン」

『如何にも』

「鉄血が唯一保有してる装甲空母がこんな所で何やってんだ」

『知れたこと。我が祖国は貴様を消したくてしびれを切らしている』

「だろうな」

 

回収予定だったティルピッツを横から掠め取ったんだからそりゃ恨まれもする。

 

『鉄血の親セイレーン派が目の敵にしていてな…この様な場を設ける運びとなった』

「なる程な…」

 

セイレーンから何かしらの技術提供でも受けたのか、それとも面白半分で利用されたかは定かではない。

首輪付きと言うイレギュラーをセイレーンが期待している…それだけだろう。

 

「それで、相手はお前だけか?」

『否』

 

ゆらり、と蜃気楼の中からいくつもの影が現れる。

 

「量産型如きで俺を止められると思うな」

『量産型では確かに貴様の相手は厳しいだろう…だがな』

 

赤い外套に、巨大な砲を備えた戦艦が現れる。

金の長い髪をふた房に束ね、不敵な相貌を讃えている。

 

「ネルソン…!?」

 

それだけではない、その後からエンタープライズ、プリンツ、クリーブランド、赤城…部下の艦船達が次々と現れた。

 

『では、始めようか』

「悪趣味な…!」

 

ネクストのバーニアが激しく火を吹く。

クイックブーストを発動、距離を取る。

 

相手は本人達が操られている…とは思わない。

この世界には同型の艦船がごまんといる。

同じ顔、同じ性格、そして同じ性能。

 

彼女達もまた『量産型』なのだ。

慈悲はない。

こちらに銃口を向けているのだから。

 

「やりにくいったらありゃしねぇ」

 

エンタープライズにライフルを叩き込む。

クリーブランドにミサイルを放つ。

ネルソンにグレネードを撃ち込む。

 

…トリガーを引く度に、何かが抜け落ちていく感覚が襲ってくる。

しかし、段々と…ネクストの動きが洗練されていく。

 

まるで、元の状態へと戻るかの様に。

 

「…」

『流石ネクスト…だが』

 

鉄血製艦載機が飛来する。

海上から飛び上がり、高度を制しライフルとミサイルで撃ち落としていく。

 

『まだ終わらぬぞ』

 

艦船10隻、量産型が無数。

ノーマルならどれだけ集まろうと一蹴出来るが、この数は中々骨が折れそうだ。

 

「弾が保てば良いけど」

 

通信には相変わらず応答はない。

何とかして自力で切り抜ける必要がある。

 

とりあえず…目の前のスカした女を叩き潰せば良い。

 

「こちとら陸海空全てを制したんだ。今更お前らなんかに遅れを取れるかっての!」

『くっ…!?』

 

グレネードをグラーフに撃ち込む。

直撃ならず至近弾。

 

『手緩いな!鬼神の如き活躍と耳にするぞ!』

「うるせぇ!どうにもやりにくい…!」

 

直接戦っていてふと、こいつ手を抜いてるのでは…?と思ってしまう。

本体は最低限の攻撃に留め、艦船や量産型を使って攻めてくる。

 

何かしら、別の考えでここに居るのでは無いのか…?

 

『くっ…』

「…」

 

だが、外が心配だ。

やりにくいが、やれない事は無い。

 

「悪いが、終わりだ…!」

『な、にっ!?』

 

グラーフの正面に着水、右方向へバーニアを吹かして更に前方へ。

2段クイックブースト。

流石にこの奇襲は想定外だったのか、相手の反応が遅れる。

 

『ご、はっ…!?』

 

…結局、その推力のままぶつかる。

散々迷ってしまった末での手加減。

 

(女に甘い、か…セレンさんも余計な事言ってくれたなホントに)

 

グラーフが吹っ飛ぶ。

本体に手を伸ばし、難なくキャッチする。

…霧が晴れていく。

 

『フッ…強いな…』

「なぁグラーフ。教えてくれ」

『なんだ』

「お前、負けたかったのか?」

『…なんの事やら』

「全て憎んでる…そう言ってたけど、本当は信じたかった…とか」

『…そちらの判断に任せよう』

 

図星か。

意外とわかり易い性格してるのかもしれない。

 

「とりあえず、皆んなは大丈夫かな…え」

 

目の前に広がる景色に、絶句する。

 

…艦装が半壊し、沈みかける艦船達。

 

そして…水平線の向こうに見える、巨大なシルエット…。

 

「アームズフォート…スピリットオブマザーウィル!?」

 

 

 




アームズフォート襲来。

数の暴力を体現する城砦が、目の前に現れた。


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スピリット・オブ・マザーウイル

あちらの世界では旧時代の異物と揶揄される。

しかし、こちらの世界ならば?


 

「…マジかよ」

 

ストレイドのコックピット内で、思わず漏らしてしまった。

相当彼我の距離は離れている筈なのに、その巨体は存在感を誇示している。

 

スピリット·オブ·マザーウィル。

俺…リンクスがいた世界にあった、ネクストを超える為の巨大兵器…アームズフォートだ。

 

リンクスと言う替えの効かない戦力より、代替可能な一般人を多く搭乗させる事で圧倒的な火力を実現する要塞。

 

幾人ものリンクスを退けてきたソレが、はるか前方に鎮座していた。

 

「拙い、拙い拙い拙い!」

『こちら輸送船!正体不明の大型兵器から砲撃を受けている!指示を!』

 

後方に残してきた筈の輸送船から緊急の通信が入る。

つまり、そこも射程圏内。

 

「直ちに反転!全速力を持って海域から離脱しろ!!艦船の修復準備も同時に行え!!」

『しかし、指揮官!貴方達も回収していません!』

「『俺』なら追い付ける!!行け!!」

 

回線を切る。

とにかく、プリンツ達を回収する。

クイックブーストを吹かせて反転、沈みかけている六人を引き揚げる。

 

『卿よ!アレは!?』

「グラーフ、そっちの味方じゃねぇのか!?」

『少なくとも我は認知していない…恐らく、他の者たちも…』

 

じゃあアレは、セイレーン達が勝手に持ち出したってことか…?

 

「ほんと、イレギュラーが好きな連中だな…!」

『ぬ、お!?』

「口は閉じとけ!舌噛むぞ!あとそいつら押さえといてくれ!落とすと面倒だ!」

『ま、待て!何をす』

 

背中のオーバードブーストが爆音を上げて盛大に火を吹いた。

 

「逃げるんだよ!!」

 

…遙か後方の要塞は、沈黙を保っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー5時間後。

 

 

退避させた輸送船の臨時会議室に、クルーと修復した艦船達が集まっていた。

…流石にグラーフについては居室の一角に監視付で待機させているが。

 

「さて、諸君…緊急事態が発生しているのはご存知の通りだ。あの正体不明大型兵器…呼称をアームズフォートとする。アレの存在だ」

 

スクリーンに映し出される先遣隊からの映像。

どれもこれも馬鹿みたいにデカい。

その様子に息を呑むクルー達。

 

「何これ…ふざけてるの?」

「冗談に思えるがこれは事実だ」

「今我々が持つ手札を確認しておこう」

「僭越ながら私から。艦船の燃料と弾薬はあと1戦出来るかどうかの量しか残されていません」

 

資源担当からの報告に苦い顔をする艦船達。

…こちらからは見えなかったので、闇雲に撃ち返しでもしたのだろうか。

 

「続いて…ネクストの方ですが、背中のグレネード弾薬は枯渇、ライフルは辛うじて残っては居ます」

「グレネードが使えないのは痛いな…」

「ですが、前々から進められていた兵器開発でネクスト用の新しい装備が…一応、船に乗っています」

「完成していたのか…本国脅しといて正解だった」

 

クルー達が困ったように苦笑いしている。

構わずに続ける。

 

「で、その兵器とやらは?」

「…無誘導ロケットランチャーです」

「よりによってそれかよ!!」

 

ネクストの火器管制装置による演算補助無しで運用する…つまり、手動で当てる必要のある火力だけの武器だ。

 

これをネクストの機動力で当てる変態が存在していたから恐ろしい話だ。

 

「それを2門用意しています」

「えぇ…ユニオンは堅実なイメージがあったんだけど」

「いえ、ロイヤルからの出資です」

「あのクソジジイどもめ!!」

 

ロイヤルへ思わず罵倒してしまった。

シュロップシャーが若干引いている。

 

「仕方無い、ストレイドの両肩をロケットに。ライフルとレーザーソードはそのままにしといてくれ。予備のハンドガンは残ってるな?そいつも格納。整備班は解散、作業にかかってくれ」

「了解!」

 

整備班達が抜けていく。

さて、艦船達はどうすべきか…。

 

正直、置いていきたいと言うのが本音だ。

彼女達の武器ではアレに有効打は与えにくい。

 

「艦船達は…」

「嫌よ」「嫌です」

「まだ何も言ってないんたが」

 

プリンツと綾波が二人同時に異を唱えた。

…二人共、最も付き合いが古いから、こちらの意図に勘付いたのだろう。

 

「どうせあなたの事よ。アレの事を知ってるから自分一人で行く、だなんて言うに決まってるわ」

「そうです。指揮官が負けるなんて思わない…です!けど、指揮官が居なくなるなんて嫌です」

 

二人がそう言うと、赤城と加賀が同調した。

 

「指揮官様!赤城は指揮官様と共にあります!置いていくなんてあんまりですわ!!」

「指揮官、あんな獲物を前にして待っていられると思うか?」

「あ、あはは…わ、私的にはあんなの相手にしたくないんですけど…指揮官を見殺しにするのは後味悪いと言うか…やっぱり私も嫌ですね〜」

 

シュロップシャーまで反対してきている。

そして、今まで黙っていたティルピッツが口を開いた。

 

「指揮官。勇気と蛮勇は違うわ。あのアームズフォート周辺には量産型の鉄血艦も展開されているようね。単騎で行くには相手が多すぎるとは思わない?」

「まぁ…確かに」

「性質上ネクストは空を飛ぶからとても目立つわ。対空砲火も馬鹿にならない筈よ」

「…そうだ」

「なら、私達が随伴して対空砲火を片っ端から叩くわ。それなら文句ないわよね」

「…」

 

ぐうの音も出ない反論。

アームズフォートの護衛に鉄血艦が展開しているとは言え、アレの移動方法は巨大な6つの脚部による歩行…つまり、波が立つのだ。

 

その為、随伴艦も相当な距離を離している。

その随伴艦達になら、彼女達も接近するのは容易だ…。

 

「…ただし、ヤツの主砲はそれでも届く」

「主砲なら発射の間隔は長い筈。避ければ終わりよ」

「…しかし」

「クドいわよ指揮官。アンタはただ私達に命令すれば良いのよ…一緒に戦えって」

 

6人の決意は硬い。

 

「…6人の戦術データリンク、速力を綾波に集中させろ!速さが命だ、調整ミスはするなよ!」

「指揮官…」

「ったく、いつからお前らそんな頑固になったんだか…」

 

苦笑が自然と漏れる。

だが、悪くない。

たった二人で立ち向かったあの時より、何故だが心が軽いのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー作戦開始一時間前。

 

デッキの上で、一人風に当たっていた所に…プリンツがやってきた。

 

「…どうした?」

「別に」

「そうか」

 

お互い、何も言わずに海を眺める。

 

「…悔しかったか?」

「何がかしら」

「ロイヤルのクソジジイに、あんな事言われて」

「…そうね」

「素直じゃないか」

「そうすれば、貴方が慰めてくれると思って」

「…何だよそれ」

 

プリンツが俺の肩に頭を預けてきた。

 

「嘘よ…ホントは、私達の為に怒ってくれる貴方を失いたくないだけ」

「そんな事は…」

「無意識にやってるのは知ってるわ。だから、私達は貴方と並びたいし守りたいの」

「やけに、饒舌だな」

「茶化すな。ねぇ指揮官私達を、信頼してる?」

「…当たり前だ」

「ならいいわ。指揮官、私、サンディエゴ結構好きなのよね。姉が本国に居るの。今度呼んで良いかしら」

「構わない…まぁ、呼べるならな」

「そう」

 

それだ言うと、プリンツは離れた。

後ろを指さしながら蠱惑的に笑う。

 

「そろそろ行くわ。こわーい狐さんも来たことだしね」

「しーきーかーんーさーまー?」

「エッ、赤城!?」

「ずっと探してましたのよ指揮官様…?それなのに、赤城を差し置いてプリンツさんと…」

「うわ、ちょっと、待て!作戦前!」

「指揮官様!もう我慢できませんわ!赤城を指揮官様の女にしてくださいまし!」

「や、やめろー!!」

「指揮官、ここに居たのか…何をしてるんだ貴様らは」

 

ティルピッツが物凄い呆れ顔をしていた。

 

「全く。作戦前だぞ…」

「良いんじゃない?変に緊張する訳じゃないし」

「プリンツ…何だか、機嫌が良さそうね」

「フフフ、どうしてかしらね?」

 

綾波が割り込んできて、赤城を引きずって行った。

 




スピリットオブマザーウイル撃破作戦、始動。


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ジャイアントキリング

かつて、ネクストを圧倒する存在として君臨していたアームズフォート。

しかし、それを狩る事例というのも存在していた。


ーーーーーー午前五時。

作戦開始。

 

今回のプラン。

VOBが無いため、オーバードブーストで彼我の距離を詰め、スピリット·オブ·マザーウィルを撃破する。

 

艦船達は先行し、対空砲火を無力化し始めている。

 

『指揮官!正面の対空砲火は艦船達が抑えています!今の内に接近を!』

 

臨時で就いたオペレーターからの進言が耳に入る。

今回、指揮出来る人員を集め個別に支持、状況報告が出来るように計った。

それだけ、今回は集中しなければならない。

 

「了解、リンクス…ストレイド、出る!!」

 

輸送船の甲板からオーバードブーストを一気に吹かし飛び出す。

一瞬で輸送船は点になるまで加速した。

 

『指揮官、発進したようね。こちらティルピッツ。随伴艦の排除は順調よ』

「こちらリンクス。ティルピッツ、損耗は?」

『軽微よ。このまま戦闘を続行するわ。通信終わり』

 

無線が切れる。

ティルピッツ達の尽力のお陰で対空砲火はほとんどなく、アームズフォートの砲撃がたまに飛んでくる程度。

 

こちらが接近すればアームズフォートはこちらに撃って来ざるを得ない。

 

だから、飛ぶ。

彼女達を信じて。

 

砲撃の間隔が、段々と短くなる。

下からの対空砲火が増える。

 

それでも、全て避ける。

後ろは振り向かない。

 

ただ、前へ。

 

『指揮官様!!』

「何ッ…うお!?」

 

艦載機が突然前に現れ、爆散。

直撃コースの対空砲火の盾となった様だ。

 

「馬鹿野郎!無茶すんな!!」

『痛ぅ…大丈夫ですわ…赤城の愛は、無敵よ…!!』

「…助かった」

 

小さく礼を言い、まだ飛ばす。

…今回の作戦に参加した奴らに、何かしらの報奨を出さなきゃならないなと、頭の片隅にしまう。

 

「来たぜ、マザーウィル!全弾持ってけ!!」

 

マザーウィルの前方甲板に取り付き、ミサイルハッチ、対空砲にライフルを叩き込む。

 

…爆音、そして大量のミサイルが殺到する。

フレアは積まれていない。

 

「こ、のぉッ!!」

 

クイックブーストを駆使してミサイルの雨を掻い潜る。

その最中に道中の全ての火器を破壊していく。

 

『アームズフォート、損傷30%!効いてます!』

「ロックオン可能なヤツの火器を片っ端からナビゲートしろ!」

『次、右翼ミサイルハッチ!』

「了解ッ…!」

 

甲板を蹴り、初速を稼ぐ。

目に付くものを全て破壊していく。

 

…スピリット·オブ·マザーウィルには弱点がある。

それは、外部の兵装の損壊が内部に伝搬してしまう、事実上の欠陥が存在している。

 

これが、元の世界ではロートルだと揶揄されていた原因だ。

 

俺の勝算はそこにある。

向こうが壊れるまで、攻撃するのだ。

 

『アームズフォートの損壊、進んでいます!』

「よし…っ!?」

 

衝撃、機体が揺れる。

 

『レーダーに反応…セイレーンです!?ピュリファイアー級!!』

「あの野郎!こんな時に…っ!!」

『指揮官!行って!このっ!』

 

プリンツからの無線。

…プリンツがピュリファイアーに殴りかかっていた。

 

「お前、無茶すんな!!」

『くっ…指揮官の、邪魔をするなっ…!!』

『ミサイル接近!』

「こなくそ…!!」

 

プリンツの援護には行けない。

ミサイルの雨を躱し飛ぶ。

 

『もっと…もっとだ!!』

 

通信を切るのを忘れているのか、プリンツの声が響く。

 

『あ、がっ…!?』

『プリンツ·オイゲン、直撃…ッ!!』

「下がれ!」

『まだよ…行かせないわ…』

「やめろプリンツ!沈むぞ!!」

『アンタが後ろ指刺されて生きてくなら…沈んだ方がマシよ…!!心配するなら、早く決着付けなさい!!』

 

ザッ、と無慈悲に通信にノイズが走る。

 

『通信断線!他の艦船を援護に回して!』

『駄目です!全員動けません!』

『指揮官…!』

「作戦続行!手を止めるな…ッ!!」

 

プリンツが作ってくれた時間を無駄にしてははらない。

 

スピリット·オブ·マザーウィル直上に躍り出る。

残るは、主砲のみ。

 

「いい加減…壊れろ…ッ!!」

 

両肩のロケットを弾が続く限り連射。

これだけ的が大きいのだ。

外すわけが無い。

 

全弾命中…マザーウィルが、文字通り割れる。

 

『アームズフォート被害甚大…!分解を始めています!周辺艦船は退避を!』

『わ、わぁっ!?ヤバイです!瓦礫が…っ!?』

「シュロップシャー!捕まれ!」

『わひやぁぁぁぁぁぁぁ!!?』

 

かなり近くにまで来ていたシュロップシャーを空いた手で掴んで引き上げた。

 

「シュロップシャー!プリンツを探せ!」

『えっ、ええ!?あ、あそこです!!』

 

シュロップシャーが指差した方向。

…海上に辛うじて浮かんでいるプリンツに、ピュリファイアーが近付こうとしていた。

 

「さ、せ、る、かッ!!」

『首輪付…グエッ!!?』

 

オーバードブーストをかけて、そのままピュリファイアーにぶつかった。

…ブレーキをかけ、ストレイドがプリンツの近くへ停止する。

ピュリファイアーはそのまま吹っ飛んで海上を転がっていった。

シュロップシャーを海上へ降ろした。

 

『プリンツさん?!プリンツさん!!生きてますか!?返事して下さい!』

『ゲホッ…生きてるわ…指揮官、遅いわよ』

「喋るな。今運ぶ」

『指揮官。ピュリファイアー級を確認したわ』

「撃て」

『Ja』

 

ティルピッツと赤城、加賀の集中砲火を受けて、ピュリファイアーは爆発した。

 

「…皆、良くやってくれた。帰ろう…サンディエゴに」

 

作戦完了…。

 

 

 

 

 

 

ジャイアント·キリング、成功。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーあれから一週間が過ぎた。

 

被弾がとても多かったプリンツは絶対安静で医務室で寝かされることになった。

 

ストレイドも未だ修理中。

整備班が頑張ってくれている。

 

「指揮官。手紙よ」

「ありがとうネルソン。そこ置いといて」

「ご主人様。ユニオンからアームズフォートの報告の催促が来ています」

「昨日まとめた書類送って」

「指揮官、ロイヤルから例の武器のデータの催促が」

「整備班が今データ抜いてるから待ってろクソジジイと言っとけ」

「指揮官!ロドニーに何言わせる気!?」

 

めちゃくちゃ忙しい。

何だこれは。

 

一週間、執務室から出た試しが無い。

これではプリンツを見に行くことは出来ない…。

 

「やる事が…やる事が多い…」

「ご主人様、少し休憩しませんか?」

 

気付けばベルファストがティーセットを運んできていた。

 

「指揮官、休憩しましょう」

「珍しいなネルソン…そんな事言うなんて」

「わ、悪いかしら!流石に、あんたも疲れてるだろうし…」

「いや、ありがとうネルソン…ベルファスト、目が覚める様な飛び切り苦い珈琲頼む」

「畏まりました」

「…あら、指揮官?どちらへ?」

「お見舞いさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何の用かしら。笑いに来たのなら帰って」

 

部屋に入るなりあんまりである。

…病室にはプリンツだけ。

まだ包帯が取れないのか、頭や腕、上半身の様々な箇所に巻かれていた。

 

「全く、無茶すんなって言ったのに」

「あの時はアレが最善よ」

「はいはい…ま、その調子ならすぐ動ける様になるだろ。なぁ、プリンツ。何かほしいものとかあるか?」

「…何、どう言う風の吹き回し?」

「お前が一番頑張ったからな。報酬だ」

「報酬って…別に良いわよそんなの…私達がお金なんて貰ってもあんまり意味ないもの」

「え、そうか…困ったな」

「なんてね。指揮官、お願い聞いてもらえる?」

「おう」

「デートしましょう?」

 

…こうやって、こっちでも女に振り回されるのか、と苦笑するのだった。

 

何だかんだ、この世界に来てからだいぶ羽根を戦ってきた気がする。

 

そろそろ、羽根を伸ばしても、いいんじゃないかな…。

 

「良いぞ」

「ふふ、忘れないでよ?」

「ズルいですわ!指揮官様!赤城も、赤城にもお願いします〜!!」

「赤城!アンタいつから!」

「指揮官…綾波も頑張ったのです」

「指揮官、私にもお願いしま〜す」

「は、ははは…仕方無いな」

 

向こうの世界には、帰れそうにないな。

 

(なぁ、テルミドール…いや、オッツダルヴァ。俺はこっちの世界でやってくよ)

 

戦いは終わらない。

 

答えを得るその日まで…戦い続ける歓びを。

 

 




VOB無しでアームズフォートに接近って中々無茶するなぁと思う。

随伴KAN-SEN達の陽動が無かったら絶対実現できない……それでも苦しい言い訳になってる気がする。

だんだんプリンツがメインヒロインっぽくなってきた。


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エンタープライズとの一日

アームズフォートを撃破し、鏡面海域問題も一応の解決を見せ…サンディエゴにも束の間の休息が訪れる。

溜まった仕事を片付けるべく、今週の秘書艦エンタープライズと共に立ち向かう。

首輪付きの過去も、少し垣間見えるかも。



 

「おはよう、指揮官。ゆっくり休めたか?」

 

ある日の朝。

アームズフォート海域事件の後日。

片付ける書類とか、整備とか、報告とか諸々あったのだが…ネクストをフル稼働させAMSによる負荷により母港サンディエゴに到着した途端ぶっ倒れたのだった。

 

「…頭痛え」

「大丈夫なのか指揮官…本来ならまだ休息が必要だろう?」

「お前たちに休息やる為に無理しなきゃいけないんだ」

 

頭を押えながらフラフラと立ち上がる。

それほどの激痛では無いが頭の片隅に引っ掛かる様な痛み。

過去にアンサラー…企業がORCA旅団を排除すべく投入したアームズフォートと対峙した時のことを思い出す。

 

「その為に指揮官が倒れたら意味が無い。無理はしないでくれ」

「いや、大丈夫だ…それほどキツい訳じゃない」

「…判った。今日は私が手伝おう」

 

何を言い出すかと思えば、エンタープライズがそんな事を言い出した。

俺が復帰した後、KAN-SEN達の負担を考えて秘書艦業務を免除していた。

 

…赤城が恨めしそうに見ていたが、加賀に宥められて渋々休んでくれていた。

 

話が逸れた。

その為、一人で回して居たのだ。

エンタープライズの申し出は有り難い…のだが。

 

俺個人として、公私混同も甚だしいが英雄と言うものを苦手としている。

 

彼女を見ていると、眩しい。

ユニオンの英雄足らんその姿は、ただ生きる為に殺し続けた自分には明る過ぎるのだ。

 

…何を間違えたか、彼女からの信頼も厚いのが複雑だ。

失望されているならともかく、彼女は俺に懐いている。

KAN-SENは指揮官に対して必ず親愛の情を示すんじゃないかと勘ぐる程に。

 

「…お願いするよ」

「任せておけ。私が来たからには百人力さ」

「自分で言うのか…」

 

すると、自室の扉が勢い良く開かれた。

 

「指揮官様ぁ!おはようございます!本日の秘書艦はこの赤城にお任せを!」

「おはようございますご主人様、本日の秘書艦業務を受けるべく、このベルファストが参りました」

「指揮官、おはよ。仕方ないから手伝いに来たわよ…要らないとは、言わないわよね?」

「お前らまで来たのか…」

 

全く同じタイミング…と言うか、こいつらお互い牽制しあってたな…。

赤城、ベルファスト、プリンツまで入ってきたのだった。

 

「…あれ」

 

いつも見ているKAN-SENの姿が見えない。

…いつもならこのタイミングで雷を落とすのに。

 

「ベルファスト、ネルソンは?」

「ネルソン様は先の戦闘の報告の為に女王陛下の下へ向かわれました」

「女王陛下…例のロイヤルの」

 

と言うことは、ロドニーも今は居ない訳か。

 

「…いつまでたってもここに居てもしょうがない。着替えるから執務室で待っててくれ」

「指揮官様!赤城がお手伝いします!」

「出てけ!!」

 

今日も騒がしく一日が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

母港の資材、改修、修理に開発等々、書類には本当に事欠かない。

机の上に溜まった紙束に、俺とエンタープライズは立ち向かっていた。

 

…他の三名はまたヤバそうになったら頼むと伝えてある。

素直に引き下がったのは意外だったが。

 

「指揮官、この書類は」

「シュレッダー。要らん」

「指揮官、ユニオンから」

「印鑑押しといて」

「…ロイヤルから、例の装備について」

「クソジジイ共め、後でまとめるからこっちにくれ」

「指揮官、重桜から技術支援の申し出があったぞ!」

「本当か!?見せてくれ…………は?射突型ブレード…何でこんなイロモノばかり…」

「鉄血からパーティーの誘いだ。どうする?」

「行かねーよ…」

 

ここまで処理してから、一息入れる。

 

「各国も好き放題言ってくれるな…」

「私達も、すっかり有名になったからな…」

「こんな一傭兵に無茶言うなっての…」

「指揮官、前から気になってたんだ」

 

向かいの席から、エンタープライズが俺をじっと見つめていた。

…真剣な質問なのだろうか。

 

「何だ?休憩がてら聞こうか」

「指揮官は、何を探してるんだ?」

 

探してる、と来たか。

…思えば、俺はずっと探し続けて彷徨ってるのかもしれない。

 

「…昔話をしよう。大地が汚染され尽くし、人々が清涼な空気を求めて空を飛んでいた時の話だ」

 

自分でも突拍子も無い語り出しだが、エンタープライズは黙って聞いていた。

 

「神様は人間を助けたいと思っていた。けど、そのたびに邪魔者が現れた。そいつは………」

 

黒い鳥、そう呼ばれていた。

 

「黒い鳥…」

「そいつはずっと『答え』を探してたんだ。戦いの先に何があるのか。何もかもを焼き尽くしてきたそいつが、戦うことしか知らないそいつが。傲慢にも向こうを見たがったんだ」

 

今でも覚えている。

ORCA旅団にスカウトされた時のことを。

 

❝諸君、派手に行こう❞

 

空に逃げた人類達への、最悪の反抗勢力として。

 

今の人類を殺し、未来の人類へバトンを渡す。

そんな飛躍した答えを求めた。

 

理想に共感した訳じゃない。

ただ、殺す理由が欲しかった。

 

生きる為に、金の為に。

戦い続けた俺は、綺麗事が欲しかったんだと。

 

「…私は、指揮官の言ってる事が多分…半分も分かってないんだと思う」

「いくら何でも酷い話だと自分でも思った」

「でも…貴方は人間だ。機械じゃない」

「…どういう事だ?」

 

エンタープライズは優しく微笑んだ。

 

「戦って、ただ殺す事を苦痛に思っている。でも戦い続けた。そんな矛盾を抱えるのは人間くらいさ」

「…お前は、どうなんだ?」

「私か?…私は、戦うことしか知らない。戦い続ける事しか出来ない…戦い続ける歓びしか知らない」

 

窓の外、何処までも澄んだ蒼をエンタープライズは見る。

 

「…私も、答えが欲しいのかも」

「それは、どんな?」

「この戦いが終わったあとの、かな」

「…やっぱり、俺はお前の事嫌いだわ」

「…傷付くな、面と向かって言われると」

 

エンタープライズが、笑ったまま、目を伏せた。

 

「お前は何処までも…KAN-SENで、英雄だ。俺なんかと違う」

「英雄、か…見た事もないユニオンの為のクレイゴーストに、意味なんてない」

「それは何故?」

「私の答えじゃないから」

 

はっきりと、彼女は断言した。

…俺の気弱な思考を否定する様に。

 

「指揮官、貴方はまだ勇気が足りないのかも知れない」

「…勇気?」

「ああ。一歩踏み出すための勇気。指揮官が、したい事の為の勇気」

「俺の、したい事か…」

 

…綺麗事を、血で染めた手で欲しかったもの。

理想に伸ばした手を。

 

「…世界を救いたい、なんて壮大過ぎるか?」

「いいと思う。やっぱり指揮官はその顔が似合う」

 

自身がなかったが、惚れ惚れする笑顔で即肯定された。

…彼女は茶化さない。

ひたすら真っ直ぐ俺を見詰めてくれる。

 

それが、エンタープライズなのだから。

 

「指揮官、私は…この戦いが終わったあとも、貴方と共に有りたいと思う」

「なっ…!?意味わかってるのか、それ」

「私を私たらしめてくれたのは、他でもない貴方だ。今更、離れるなんて考えられない」

「…いやに情熱的だな」

 

こうもストレートに好意を伝えられるとは。

少し恥ずかしい。

 

「今の指揮官は、何だか消えてしまいそうだから…」

「どこにも行かないさ。セイレーン達をぶっ潰すまでな」

 

俺がこの世界に来た答えを探すまで。

 

「なら、安心だ…」

「そ、こ、ま、で、で、す、わ!!」

「うわっ!?赤城!?」

 

執務室の窓がいきなり開かれ、赤城が飛び込んできた。

 

「エンタープライズ!指揮官様にその様な事を言うなんて、赤城の目が黒い内は許さないわ!」

「…ようやく、産まれてからお前達に並べたんだ。また負けるつもりはない」

「…!ふ、ふふふ!宣戦布告かしら!?」

「そう取ってもらっても構わない」

 

何だか気が付いたら話がどんどん拗れている気がする。

 

「指揮官!」「指揮官様!」

「同時に叫ぶな!赤城も来たなら丁度いい、休憩終わるぞ、手伝え!」

 

…英雄って言うのは、人々を惹きつけて止まない存在だ。

 

俺がテルミドールに憧れたように、エンタープライズを羨望していたのかもしれない。

 

でも、俺が英雄になるっていうのも…悪くないのかもしれない。

 

 

母港、サンディエゴは小さな変化と、変わらない平穏が訪れようとしていた。

 

 




指揮官がエンタープライズに絆されていく
英雄の人を引き付けるの才能に当てられる。

首輪付きが英雄になる日は、来るのだろうか。


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4つの指輪

各陣営はリンクス……ネクスト欲しさに妙に回りくどい真似をする。

指揮官の決断は。


 

「……なんだこれ」

 

机の上に並べられた4つの親書。

陣営はそれぞれ、ユニオン、ロイヤル、鉄血、重桜。

 

それぞれの国の言葉で好き勝手に書かれている。

 

「各国から寄せられた要請の様だが」

「エンタープライズ」

 

本日の秘書艦を務めるエンタープライズが戻ってくる。

手には4つの小包が抱えられていた。

 

「まさか、それも……?」

「各国からだ」

「何それ……ふざけてるの?」

「?真面目な書類なんだろう?」

「えっ、ああ、そうだな……」

 

エンタープライズから包みを受け取る。

……軽い。

 

「開けてみたらどうだ?」

「何だ?中身見たいのか?存外可愛い所有るじゃないか、お前」

「なっ……揶揄わないでくれ」

「ハハハっ……ん?」

 

……黒い小さな箱だ。

こう、何か大事そうな物が入っていそうな。

 

「指輪……」

 

上下で別れるタイプのケースに煌めく、銀の指輪。

 

「し、指揮官……それは」

「他の陣営の分も見ておこう」

 

重桜、ロイヤル、鉄血の小包は全て指輪だった。

 

「何だこれ」

「し、指揮官……各国からの文書を読んでみると良いんじゃないか?」

 

エンタープライズの挙動がおかしい。

顔も赤いようだ。

 

「エンタープライズ、何か知ってるな?」

「な、何の事かな?」

「いや、反応から察した」

「さ、さささささ察した!?何をだ!」

「え?何か知ってるんじゃないかって」

「あ、ああ…そう言うことか」

 

さて、何と書いてあるのやら……。

 

「……ケッコン?」

 

何だこれは、国は俺に何をさせたいんだ?

 

「指揮官……ユニオンはKAN-SENの誰かと、その……ケッコン、させたいんじゃないか?」

「何でそんな事を」

「それは……」

「大方、国が指揮官様の首輪を繋ぎたいから……ではなくて?」

「赤城……」

 

執務室に颯爽と現れた赤城。

表情は……険しい。

 

「見え見えですわ、こんなもの。大方、女の姿をしている私たちで指揮官様を繋ぎとめようとしているだけですわ」

「何でそんな回りくどい事を……」

「ネクストの圧倒的な力を、やっぱり各国は欲しがっているんだろう」

「それはそうだが……対セイレーンにしか使用はしないと発表しているぞ」

「軍はそんな事納得していると思います?だからこそこんな手段に訴えてきたと思います」

 

搦め手と言うにはお粗末。

それに、俺はあまり女性に興味は無い。

戦場で過ごしてきた時間が長すぎたからだ。

 

「ケッコン、か……するつもりは無いからなぁ」

「まぁ、ユニオンもすぐに答えを出せとは言っていないのだし……気長に考えても良いんじゃないか?」

「何だ、俺に誰か娶れって言うのか?」

「いや、そこまで言っていないが……」

 

……先ほどから赤城は黙っている。

少し、気になってしまった。

 

「赤城?」

「は、はい!何でしょうか指揮官様?」

「いや、どうした?この手の話ならすぐに名乗り出すと思ったんだが」

「……指揮官様のご意思ならば、赤城は喜んで名乗り出ましょう。ですが……これは、指揮官様が強制されてしまうのは、赤城の本意ではありませんわ」

 

そう、はっきりと言い切った。

彼女は彼女で信念があるのだろう。

不本意だと、本人は言っていた。

 

「そっか……じゃあ、俺も……俺なりに答えを探すよ」

「ああ」

「はい♪」

 

さて、指輪が4つ、か……。

タイミングばっちり過ぎないかね4陣営……。

 

 

 




まさかの決断を保留。
まぁこんな形でケッコンを迫られても嬉しくはないだろうしな……。


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束の間

……またしても、セイレーン出現による救援要請が届く。

 

場所は、サンディエゴ近海。

 

「指揮官、流石におかしいわ……この辺りの航路に集中してセイレーンの出現よ」

 

傍らに居るネルソンが、険しい顔をしながらモニターを睨みつけている。

 

「今月に入って5件目……ペースが速いってもんじゃないな」

「そして、対して被害を出さずに消えていく……誘われてるわね」

「ああ……恐らくこれも……」

 

救援要請が、取り下げられた。

ネルソンと顔を合わせながら、肩をすくめてみせた。

 

「神出鬼没で、オマケに何がしたいか分からない。堪ったもんじゃないな」

「そんな奴等に散々引っ掻き回されてるのよ……笑えないわ」

 

明らかにネクストを誘っている。

奴等が出現すれば、必ず俺は出張らなくてはいけないから。

 

ただ、実際に行ってみれば量産型しかおらず肩透かしを食らうときもあった。

 

故に、動き辛い。

 

ネクストの運用コストは、例え戦闘しなくとも無視できない。

一回の戦闘で消費する燃料は、この基地に居るKAN-SEN全員の補給を購える。

 

「せめて奴等が釣れればな……」

「無理よ無理。目的が分からないんだから」

「そうだな……」

 

二人揃って溜め息を吐く。

今月はネルソンに秘書艦を勤めてもらっている。

だが、セイレーン反応に否応なく従わなくてはならないので……付き合わせて、夜通し仕事なんて言うのもザラだった。

 

「ネルソン、少し休んで来い」

「私は大丈夫よ。指揮官こそ仮眠したら?酷い隈よ」

「そうか…?」

「ほら」

 

ネルソンの持っていた手鏡で顔を見せられた。

……確かに酷い顔をしている。

 

というより、自分の顔を最後に見たのはいつだったろうか。

 

「………………」

「3時間くらい寝てきなさい。起こしてあげるから」

「……今日は、随分優しいな」

「なっ……!何よその言い方は!」

「いや、ありがとう……思えば、お前にはいつも迷惑掛けっぱなしだったな」

 

ネルソンは、何だかんだアズールレーンサンディエゴ軍港の発足後に配属された初期のKAN-SENだ。

出会ってから随分経ったような気がする。

 

そもそも、最初は綾波とロングアイランドしか居なかった。

そこからレッドアクシズの離反、最初のネクスト出撃、プリンツの加入。

 

最初から波乱の連続である。

 

特にミッドウェーでの再現戦。

赤城・加賀との戦闘。

 

戦闘は苛烈を極め……なんとかこれを撃退。

この時にネルソンとロドニーが戦線に加わった。

 

その後、赤城と加賀が釣れた。

 

「……すまないな、少し休む」

「ええ、おやすみなさい」

 

 




セイレーンは、まだ動く。

リンクスは未だ休息中。


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もう一つのネクスト

 

―――突如として、緊急用の回線がけたたましいアラームを鳴り響かせる。

 

「……何事ですか?」

 

赤城が眉をひそめて回線をオープンにした。

モニターに映し出されたのは、見覚えのある佐官。

 

……以前、プリンツを挑発した男だ。

 

『リンクス指揮官!説明願おうか!』

「ご挨拶ですね、少佐殿。こちらとしては、この回線の説明を願いたいが」

『ネクストだ!ネクストが先日ユニオンの軍港を襲撃したとの連絡を受けている!』

 

いつもの皮肉たっぷりの慇懃無礼な態度は鳴りを潜め、緊迫感が一面に押し出されている。

思わず、俺と赤城は顔を見合わせる。

 

……しかし、これは面倒な事になった。

 

「落ち着いてください、少佐。サンディエゴのネクストは一ヶ月一度も出撃しておりません。ベルファスト!」

「こちらに」

 

ベルファストにネクスト運用の資料を持ってこさせた。

 

「記録はこちらに。すぐに郵送します。それと、そいつについて何かデータは残っていますか?」

『……生き残った士官からの写真だ』

 

映し出される、桜色。

 

「……えっ……」

「……指揮官様?」

「ああ、いや……何でもない」

 

赤城に顔を覗き込まれて、慌てて逸らす。

 

……あの桜色の機体。

見た所、レールガンを主軸にした中距離戦闘機体だ。

 

ベースは……TELUSSだろう。

間違えようが無い。

……俺が散々挑んで尽く打ち負かされたのだから。

 

面倒な事ではなくなった。

これは、宣戦布告だ。

 

「少佐、この件はリンクスが承ります」

『速やかな事態の収束を』

 

モニターが消される。

……残されたのは、俺と赤城とベルファスト。

 

「……二人共、すまない。一人にさせてくれ」

「……分かりました、ご主人様」

 

ベルファストはすぐに下がったが、赤城はそのままそこに残っていた。

 

「赤城?」

「指揮官様。あのネクストに、見覚えがあるようでしたね」

「……バレている、か。流石だな」

「……お知り合いで?」

「知り合い、か……どうなんだろ」

 

ぐっ、と背伸びをする。

 

「親で、生き方を教えてくれた先生で、大事な人だ」

「……っ。それは、指揮官様の……恋人なのですか?」

「何でそんな辛そうに聞くんだよお前は……隠しもしないんだから」

 

ぐしゃぐしゃと赤城の髪を撫でる。

赤城は目を細めて尻尾を振っていた。

 

……しかし、表情は晴れていない。

 

「恋人とか、俺にゃ分かんないよ」

「指揮官様……」

「ただ、まぁ……俺なりにケジメは付けるつもりだ」

「ケジメ、ですか?」

「ああ……」

 

あのネクストを破壊し、セイレーン共に落とし前を付けさせなくては。

 

恩人のネクスト。

それを使った報いを受けさせてやる。

 

 




恩人の駆るネクスト。
皆さんは予想がついているでしょうが、ラスボスはこの機体にする予定です。


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決意

恩人を討つ覚悟はあるか。


ストレイドに乗り込み、接続する。

データベースの中にある機体群から……1機のネクストを選択する。

 

ネクスト、シリエジオ。

 

桜色の機体を眺めていた。

 

「……セレンさん」

 

師であり、オペレーターだった女性……セレン·ヘイズ。

 

彼女との訓練で、嫌と言うほど相手にした機体だった。

機体の扱いも覚束ない頃からずっと戦わされ、何度も苦渋を味合わされた。

 

その機体が、セイレーンの手先としてこのアズールレーンに牙を剥いた。

 

「………………」

 

無言でシュミレーターを起動する。

いつもの荒野に、ストレイドが降り立つ。

 

離れた場所に、シリエジオが着地した。

 

……今、ストレイドに装備されている武器は、アサルトライフルとブレード。

肩には無誘導ロケットが装着されている。

 

何だかんだセイレーンの量産型KAN-SENを攻撃する際、良い働きをしてくれている為ずっと使い続けている。

 

固定目標……まぁ動いているが……に対しての良いダメージソースになる。

 

シリエジオが動き出す。

俺もストレイドを動かす。

 

久しぶりに繰り広げるネクスト戦。

 

全てが眼前を通り過ぎる。

いつの間にか視界の外にいるなんて当たり前。

 

目標を見失うなんてザラ。

 

弾なんて当たらない。

 

ロケットだって無理だ。

 

けど、

 

「クソッ、クソッ、何で、何で、何でッ……!!」

 

俺は、彼女を討たねばならない。

シュミレーションで遅れなんて取れないのだ。

 

距離が縮まる。

ブレードを振るが……空振る。

 

レールガンを浴びせられ、APが削られていく。

 

「届かない……ちくしょう」

 

画面が、暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

「……ここで寝るには、狭すぎるんじゃない?」

 

ハッチが開けられた。

……返事が出来ないほど、俺はぐったりしていたらしい。

 

「ねる、そん……」

「うわ、酷い鼻血……」

 

ネルソンがハンカチを差し出した。

 

「すまん……」

「何そんな焦ってるのよ……らしくない」

「何で、だろうな……」

 

赤城に話した事、だろうな。

 

「……ベルから聞いたわ」

「何を……」

「所属不明機よ」

「ああ……お喋りなメイド、だ……」

「休みなさい、指揮官。それも仕事よ」

「分かってる……何だ、今日はやけに、優しいじゃないか……」

 

ネルソンに手を引かれて、ストレイドから降りる。

足元がふらついて、ネルソンに抱き止められた。

 

「すま、ん」

「気を付けなさい」

「血が……」

「……良いわよ、これくらい。今度買い物付き合ってもらうわ」

「それくらいなら、お安い御用だ……」

「ほら、部屋に戻るわよ」

 

結局、ふらふらになりながらネルソンに肩を借りて部屋まで帰ったのだった。




未だに勝機の見えない指揮官。

それでも事態は進んでいく。


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気遣い

あの日から、俺は手空きの時間ずっとシュミレーターと向き合っていた。

今日で一ヶ月だ。

 

 

データ上に残されたシリエジオのデータと戦闘すること、既に50を超える。

 

勝率は……5割。

たかがデータにこの戦績である。

 

「………………鈍ったな」

 

結論としては妥当な判断である。

よくよく考えてみればこちらの世界に来てからロクに対ネクスト戦闘などしていなかったのだ。

 

相手にしたのはセイレーンに量産型、そしてスピリット・オブ・マザーウィル。

 

なんと言うか、極端な相手であった。

 

「聞き捨てならんな」

「……加賀?」

 

廊下の曲がり角に、白い狐が腕を組んでもたれ掛かっていた。

ちなみに本日の副艦は別である。

 

「私には鈍った、と聞こえたが」

「え?あぁ……まぁ、そうだな」

「我々を使役する人間がそんな腑抜けた事を抜かすなど許されない」

「……分かってるさ」

 

相手が居ないのだ。

今まで。

 

「お前の強さは重々承知している……私がお前に従っているのは、お前が私より強いからだ」

「加賀?」

 

はて、今日はやけに饒舌だな。

 

「私より弱い事など、我慢ならんぞ」

 

そう吐き捨てると、加賀は歩き去って行った。

 

「……何だったんだ?」

「恐らく、彼女なりの激励かと存じます」

 

いつの間にか背後にベルファストが居たのでちょっと驚いた。

 

「……何でまた」

「ご主人様は、此処の所思い詰めた様な顔をしています。それが原因ではないでしょうか」

「そんなに……?」

「はい。ご覧になりますか?」

 

用意が良いのか、ベルファストが手鏡を取り出す……胸元から。

何でお前そんな所に仕舞ってるの?

 

鏡に写されたのは、少しやつれてしまった顔だった。

 

「……これは、酷い」

「ええ。私を救って下さったご主人様は、もっと凛々しいお顔でした」

「お前、あの時俺の顔見てないだろ」

「あら、なんの事でしょうか」

 

ふふっ、と不敵に笑っている。

なんか俺遊ばれてない?

 

「それと、ロイヤルの力添えで先日拿捕したグラーフ・ツェッペリン様をアズールレーンへ正式にお迎えする事になりました」

「……まさか、本当に?」

 

以前から、ツェッペリンについてこちらで預かりたいと打診していたが……色良い返事が貰えなかった。

 

どうして今になって。

 

「女王陛下のご厚意による物です」

「クイーン・エリザベスが……?」

「これまでのご主人様の戦績から算出した褒章も兼ねて、だそうです。ご主人様はユニオン預かりのお方ですが……もしロイヤルの所属となるのなら、それ相応の地位を保証しますとも」

 

……やられた。

ロイヤルに少しだけリードを握られかけている。

 

「それ、俺に素直に話して良かったのか?」

「……何故、でしょうか。私がご主人様にロイヤルへ来て欲しいと……そう思ったからでしょうか」

 

面食らった。

いや、だってそんな事言われるとは思っていなかったから。

 

「メイドが出過ぎた真似を致しました。忘れて下さい」

 

ベルファストが逃げる様に去ろうとする。

 

俺は……その手を引き止めた。

 

「……ご主人様?」

「ベルファスト、腹減ったわ……何か用意してくれない?」

「えっ……」

 

実は、ベルファストが着任してから彼女へ仕事以外の頼み事をしたことが無い。

 

彼女も相当驚いているようで……花が咲くような笑顔を浮かべた。

 

「畏まりました。少々お待ちください……!」

 

パタパタと去って行った。

 

「……ちょっと、思い詰めすぎてたかな」

 

少しだけ、肩の力が抜けた気がした。

 

 

結局、この後加賀も呼んで軽食の運びとなった。

 

……昨夜の残りのカレー。

不思議と、昨夜より美味しく感じた。

 

「……少し良い顔になったじゃないか」

「茶化すなよ、加賀」

 

 




少しずつでも良い。
前に進めているのなら。


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歓迎

ユニオンから、KAN-SENがひとり送られてきた。


「アズールレーンへようこそ。歓迎しよう……盛大にな」

「久しいな、卿よ……ツェッペリン、ただいま着任する。これより我は卿の力となろう」

 

目の前に立つ女性へ手を差し伸べる。

彼女もしっかりと握手を応じてくれた。

 

「卿よ、何故我をアズールレーンに……?我は、卿へ銃を向けたのだぞ?」

「……こうやって来てくれた。それで良いじゃないか」

 

鏡面海域でやり合った事を言っているのだろう。

 

それでも、こちとら金さえ積めばどんな相手とも殺しあうリンクスである。

今更敵が味方になるなんて気にしない。

 

「そうか……卿は、やはり上に立つものの器を持つ者だ」

「そんなんじゃない……俺達に味方なんて居なかっただけだ」

 

ぶっちゃけて言えばユニオンもロイヤルも、ネクストを狙う俺の敵である。

目的を果たすまで体よく使えれば御の字と言う。

 

「敵も味方も居ない、か。卿はその様な四面楚歌の状況でも抗うと言うのか?例え、滅びが決まっているとしても」

 

ツェッペリンと話したのは、2、3言程度。

それでもそこそこ人となりを理解しているつもりだ。

 

「最後の一瞬まで、戦うだけさ。俺は……リンクスなんだから」

「……リンクスと言うのは、卿の名前では無いのか?」

「えっ。あー……あはは、そうだった」

 

そう言えば自分の名前を覚えていないから、リンクスと名乗っていたのだった。

 

「?どうしたのだ?」

「い、いや……何も」

「あら、ツェッペリン。やっと来たのね」

 

そんな話をしていると、プリンツが近くを通りかかった。

 

「プリンツ・オイゲン……そうか、そちらもアズールレーンに着いていたのだったな」

「えぇ。だって、そっちの方が面白そうだもの」

 

プリンツが俺の隣までやってきて……腕を絡ませて、しなだれ掛かってきた。

やめろ、ちょっと。

柔らかいんですけど。

 

「なるほど……慧眼だった、と。そういう事にしておこう」

「うふふ。指揮官?ツェッペリンは私が案内するわ」

「えっ。どう言う風の吹き回しだ」

「あら?疑うの?」

「……まさか。信用してるよ。付き合い長いしな」

「ふふふっ……信用には、応えなきゃね。それじゃ、指揮官……またね」

「失礼」

 

プリンツとツェッペリンが去って行った。

そう言えば、プリンツの姉の話を聞くのをすっかり忘れていた。

 

また今度聞こう。

 

「指揮官様!!」

「赤城……?」

 

切羽詰まった表情で、赤城がこちらに走ってきた。

 

「何かあったのか?」

「例の、所属不明機ですわ!」

「……!!来たか……」

 

知らずの内に、両の拳を握り締めていた。

 

 

 




決戦のときは、近い。


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サンディエゴ軍港防衛作戦

緊急事態発生。

所属不明機……ネクストAC・シリエジオが突如としてセイレーン艦隊を引き連れサンディエゴ軍港周辺海域に出現。

これを撃退せよ。

なお、的簡体の撃滅が叶わず防衛海域へ侵入された場合……基地に備え付けられた爆薬が軍港周辺を消し飛ばす手筈となっている。

セイレーンを残らず撃滅せよ。


……流石に、初耳だった。

 

「おい、なんだそれは!」

 

思わず、相手が上官であると言うのに素で喋っている。

 

『口を慎め、リンクス少尉』

 

いつもの嫌味な少佐……今回は、机にどっしり座る初老の男の横に控えている。

 

『良い、少佐。さて、久しぶりだな……今回の件に関してはネクストACがセイレーンの手に落ちる事を危惧した一部の勢力の暴走だ……私も突き止めるのに時間を要した』

 

男……階級は、准将だ。

 

准将が言うには、やはりアズールレーンも一枚岩ではなく、レットアクシズに賛同する者や過剰にKAN-SEN達を恐れる派閥もいると言う。

 

「こちとら知らない内に命を賭けられてたんだぞ……!」

『貴官への配慮が足りていなかった』

「俺じゃない。部下とKAN-SEN達だ」

 

俺の一言に、准将は目を閉じた。

 

『……変わらんな、少尉。彼女達をあくまでいち個人として扱うか』

「当然だ。俺は部下のあいつらしか知らない」

 

未だ、KAN-SEN達は量産される兵器として扱われているらしい。

俺はそうは思わん。

彼女達は、使い潰されて良い存在ではない。

 

『歴戦のリンクスが、女には甘い、か……まぁ、良いだろう。私の方もそちらへ援軍が出せないか画策する。それまでに全滅すると言う冗談だけは辞めてもらおう』

「それは構わない。……だが、俺達だけで全滅させたら、その分弾んでもらうぞ」

『良い啖呵だ。だが規模がこれまでとは桁違いだ……それに、ネクストの存在が気掛かりだ。仮に貴官と一対一で相対した場合の勝率は?』

「………………6割だ」

 

結局、リハビリとしては上手く行った。

だがしかし、所詮はデータ上のAIによる模倣。

 

本物のリンクスに及ぶことは無い。

 

それによる、この評価。

 

『高いとは、言えんな』

「戦場では何が起こるか判らない」

『……なるほど、確かに』

「もし、俺に何かあったら……」

『判っている。ネクストの処分とKAN-SEN達の引取だな。信頼する筋は通してある』

『私だが、な』

 

横にいた少佐が苦笑いをする。

……イヤミはともかく、こいつはそれなりに優秀なのでまぁ、大丈夫だろう。

 

『すぐに出撃だろう?健闘を祈る』

 

通信が切れる。

 

一息ついて、立ち上がろうとした瞬間……襟首を掴まれた。

 

「……!?」

「指揮官、今の話はどういう事だ」

 

俺の襟首を掴んだのは……今までずっと黙っていた、エンタープライズだった。

 

「どうもこうも、そういう事だ」

「ネクストが他者に扱える物ではないと知ってはいる。私達の受け入れ先を探してくれたのも嬉しくは思う。だが……」

「エンタープライズ、やめろ」

「私が、私達が信頼を預け共に戦いたいのは、貴方だけだ」

「………………だから、俺はお前が嫌いなんだ」

 

こうもはっきりと、決断を鈍らせることを言うのだから。

 

「貴方がこんな所で戦死するのは、許さない。人類の英雄になるのだろう?」

「おいおい……いつ言ったそんな事」

「……そうなるのも悪くは無いと、貴方は言った」

「マジで取ったのかよ……」

 

エンタープライズの手をゆっくりと離す。

じっと、彼女と向き合う。

 

「……なら、お前が護ってくれ」

「何……?」

「お前たちに、背中は任せる……俺の勝利条件はあのネクストを落とす事……幸いセイレーンは量産型ばかりだ」

 

最悪ネクストを落として俺が戦闘不能になってもこいつらなら何とかなる。

 

「……無茶は、しないでくれよ」

「判ってる。準備しろ、行くぞ」

 

さぁ、作戦開始(ミッションスタート)だ。

 

 

 




迫る桜色のネクスト、シリエジオ。

思い出に土足で踏み込まれてなお、リンクスの意思は変わらない。


セイレーンに、ツケを払わせてやる。


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作戦開始

ミッションを説明しよう。

現在ここサンディエゴは多数の量産型セイレーンに包囲されている。
諸君らKAN-SENには近付くセイレーンを撃破し惹きつけてくれ。

桜色のネクストが出現した場合、手を出すな。


戦闘が始まった。

 

サンディエゴにある戦力全ての投入。

出し惜しみはナシだ。

 

ここで負けたら、何もかも終わりなのだから。

 

「行くぞ、ストレイド……」

 

ネクストに火が灯る。

緑の粒子が舞う。

 

『ご主人様!周辺には量産型のみです!露払いはお任せください!』

「任せるぞ。赤城」

『こちらに。現在赤城、加賀、エンタープライズの三名で制空権は確保しております。存分に飛んでください』

「おう。ネルソン」

『まだ量産型しか見えないわ。大丈夫よ……指揮官は、自分の義務を果たしなさい』

「……ありがとな、皆」

 

KAN-SEN達からの通信に次々と答えていく。

状況は襲撃を受けた割には悪くない。

皆、練度を高め強くなっている。

 

ハンガーの天井が開く。

 

「……出るぞ!」

『ご武運を』

 

ストレイドのバーニアが火を吹かす。

 

「アンタだけは、俺の手で落とす」

 

俺は、俺の戦いをしよう。

 

例え俺が落ちるような事があっても、彼女達はそのまま戦い続けられるだろう。

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

開戦から30分が経過した。

 

相変わらずセイレーンの攻勢は続いている。

今の所量産型しかおらず、KAN-SEN達だけで対処が出来てはいるが……。

 

(削られている。少しずつ……着実に)

 

KAN-SENは人間離れしたパワーとフィジカルを持っていたとしても、連戦がここまで長引けば疲弊する。

 

連中がそれを狙っているとしたら意外とセコい作戦をとるものだ。

圧倒的に自分達が有利だと思っていないのだろうか。

 

(しかし、どうして出てこない……)

 

シリエジオの姿が、無い。

どこにも見当たらない。

 

(何故だ。投入すればKAN-SENをほぼ無力化出来る筈なのに)

 

それをしないのは、何故。

 

考えるだけ無駄である。

奴は神出鬼没。

そして何を思い何を考えるか。

 

常に人類側の想像を超えてきた。

 

そんな奴等とどう渡り合うか。

 

簡単だ。

 

「前に立つのなら、叩き潰すまでだ!何度でも!」

 

ストレイドのライフルを量産型に叩き込み、海の藻屑へと変える。

未だ量産型が闊歩するだけの戦場。

このままではKAN-SEN達によって全て駆逐されるだけ。

 

『指揮官……!来ました、です!』

 

綾波からの通信。

来た。

 

どちらが?

 

()()()()()()()()()

 

「各員持ち場を維持!以後の指示は各個判断!臨機応変に対応せよ!!」

『『了解!!』』

 

元々示し合わせていた指示。

対ネクストに全力を尽くす為、俺から指示は出せない。

 

綾波の送ってきた座標へ機体を向ける。

……背部のブースターを展開する。

 

オーバードブースト。

ストレイドが、音速を超えた。

 

 




来た。

ならば、落とすまで。


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思い出の清算

現れる桜色のネクスト。

リンクスは、ただ戦うだけ。


足元の群青の風景がコマ送りの様に進む。

どれだけ飛ばしただろうか。

 

後方の戦闘がとても遠い気がする。

 

オーバードブーストを切り、通常航行に移行する。

 

 

そいつは、動かず、ただ垂直にスラスターを吹かせて海上に浮遊していた。

 

 

アーマードコア・ネクスト。

 

 

この世界に来て、初めて相対する……言わば同業者。

 

 

油断なく、目の前の海上に降り立つ。

通信なんて飛ばさない。

 

アズールレーンからすればソレは所謂『所属不明機(アンノウン)』だ。

『こちら』の作法では一応降伏勧告を行うらしい。

 

そんなもの、何の役にも立たないと言うのに。

 

だから俺は、何も言わずにライフルを向ける。

向こうもレーザーライフル……LR02-ALTAIRをこちらに向けた。

 

お互いに、動きは無い。

 

「………………」

 

する事はひとつ。

なのに動けないで居る。

 

ここにきて、俺は情に囚われている?

 

……否。

 

「セレン・ヘイズゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!」

 

叫んだ。

どうしようもなく、叫んでしまった。

 

俺の中にある感情がぐちゃぐちゃになっている。

戦場に居た頃の、感情を冷静に処理してた頃と全く違う。

俺はこんなにも弱かったのだろうか。

 

……KAN-SEN達と触れ合って、人並みに情緒と願望を持ってしまったからだろうか。

 

 

 

 

 

 

発砲。

勿論向こうも予測していただろう。

難なくかわされる。

 

反撃のレーザーが飛んでくる。

記憶と、シュミレーションから導き出された反射がストレイドを動かす。

 

攻撃の手は緩めない。

ライフルと背中のロケットを発射する。

 

シリエジオの主兵装はレールガン、レーザーライフル、ASミサイル。

ミサイルは怖くない。

最も警戒すべきはレールガンだ。

 

ジリジリと、2つの武器でアーマーとAPを削りに来る。

 

よって、長期戦は不利。

文字通りの短期決戦を求められる。

 

その為の武器は、左腕にマウントされている。

こいつを、どうにかして当てる。

 

当てなければならない。

これ以上思い出を汚されてはいけない。

1分1秒でも、俺の恩師が利用されるのを黙って見ている訳にはいかない。

 

「あ、ぐ、ぎ、ぎ、ぎ、ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

歯を食いしばる。

加速する。

クイックブーストを連続で吹きまくる。

 

立ち止まるな。

引き金から手を離すな。

奴から目を離すな。

 

一挙一動を目視しろ、感じろ、予測しろ。

俺の体が汚染で動かなくなっても良い。

Gで内臓が潰れたって構わない。

この後の人生全てをこの瞬間に捧げる覚悟を決めろ。

 

衝撃力の高い武器……ハンドガンで硬直させるなんて芸当は最初から無理だ。

 

この世界に持ち込んだライフル2挺、ミサイル。

そしてこの世界で作られたロケットと……切り札。

 

俺のカードはこれだけ。

あとは、勝負するだけ。

 

いくつものレーザーを掻い潜る。

しかし、避け切れずに被弾していく。

 

距離は未だ詰められない。

徹底した引き撃ちとEN管理。

EN武器を積んでいるくせにガス欠の気配は無い。

 

まだだ。

耐えろ、耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ!!!

 

来るべき一瞬に、決着をつける一瞬に賭けろ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衝撃。

 

機体がふらつく。

PAを貫通されたのだ。

 

「が、ぁぁ!?」

 

APが既に30%を切っている。

機体がアラートを鳴らしまくる。

 

落ちる。

 

 

「違う……!!」

 

今が、チャンス。

機体は死にかけ、さっきから体のあちこちから出血が止まらない。

涙だっていつの間にか真っ赤だ。

 

でも、今。

今しかない。

 

途中で機体がバラバラになるかもしれない。

撃ち落されるかもしれない。

 

それらの恐怖を全て振り払う。

 

ストレイドの背中のバーニアが開き、翼のように広がる。

 

オーバードブースト、解放。

 

「いっけええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」

 

肉薄。

そして、左腕を突き出す―――――。

 

その先に付けられているのは、鈍い銀色の杭。

 

その名も、射突型ブレード。

重桜が寄越した、元の世界のKIKUを再現したキワモノ。

 

これを、まさか使う事になるとは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凄まじい轟音が鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブレードが、シリエジオの胸部を叩いた。

衝撃で、装甲が陥没する。

 

 

 

 

 

 

 

その勢いのまま、ストレイドはシリエジオに激突。

 

俺は上空に跳ね飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

「がはっ……!」

 

意識を手放してはならない。

ブースターは全て切れている。

それなのに、滞空しているのが長いと感じるのは何故だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『殉ずるが良いさ。己の答えに』

 

 

 

 

 

 

 

そんな声が、聞こえた気がした。

 

 

 

 



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紡いだ絆

場面は変わる。
一部のKAN-SEN達が、リンクスを追った。

それが、何を起こすのか。


 

Side:ネルソン

 

 

 

戦闘音が止まった。

 

「指揮官?」

「どうしたの?」

「いや……」

 

 

 

ドガァン!!

 

 

 

「「「「!!!!」」」」

 

一際大きな破砕音。

次いで、大質量が海面に叩きつけられた様な音。

 

決着が、着いたのだ。

 

「指揮官!」

「エンタープライズ!アンタ連戦でボロボロでしょ!」

 

プリンツ·オイゲンがエンタープライズを静止する。

自分だって似た状況だろうに。

後方から赤城も追い付いてくる。

 

「ネルソンさん。恐らく指揮官様が勝利したのでしょう」

「……指揮官が負けたとは思わないの?」

 

勝率は、5割。

本人が自嘲気味に話していた事を思い出す。

 

「指揮官様が、負ける訳ありませんわ」

 

なんの疑いも無く、赤城は言い切った。

 

「フン……そう言うとこ、ホント羨ましいわ」

「行きましょう。指揮官様を迎えに」

 

私達4隻が海上を走る。

量産型セイレーン達もほとんど漸減が終わり、戦闘も終息に向っていた。

 

後は、指揮官と帰還するだけ。

示し合わせた訳でもないのに、この4隻が出迎えに集まってしまった。

 

別に、アイツのことを心配してる訳じゃない。

何だかんだ、サンディエゴは指揮官無しでは回らない。

 

必要なのだ、リンクスという存在は。

……私にとっても、まぁ、その、必要だと思うけど。

 

「指揮官様!?」

 

赤城が、悲鳴の様な叫びを上げる。

それと同時に速度を上げた。

 

「ちょっと、赤城!?」

「私達も追うぞ!」

 

エンタープライズとプリンツが速度を上げる。

私も全速力で追随し……。

 

「指揮官っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手を空に向け、既に七割ほど水没するストレイドが私達の前に居た。

 

 

 

 

 

 

「拙いぞ!このままじゃ水没する!」

「ネルソン!明石のヤツ呼びなさい!クレーン持ってこさせて!」

「嫌っ、指揮官様!返事を、返事をしてくださいませ!!」

 

三者三様に……焦る。

私も焦っていた。

 

けど、やるべき事を見失ってはいない。

 

「もしもし明石!?送った座標に修理装置と回収用の補給艦持ってきなさい!全速力よ!一秒でも遅れたら皮剥いで三味線にしてやるわよ!!」

『わ、わかったにゃ!!』

 

こうしてる間にもストレイドが沈んでいく。

どうする、どうすれば良い……!

 

「くっ……!」

「ネルソン!?」

 

私は、沈み行くストレイドの腕を()()()

 

「が、っ、お、重い……!!!!」

 

私の足が沈みかける。

艦装が悲鳴を上げているように軋む。

 

「何を馬鹿なことを!?」

「BIGSEVENを、舐めるんじゃないわよ!!」

 

戦艦のパワーをフルに引き出す。

明石が来るまでに、保たせる。

 

「こんな所で死ぬなんて、絶対、絶対、絶対認めないわよ!!!」

「ホントよ。私、まだ約束のデートしてもらってないもの」

「プリンツ、貴女」

 

隣に、プリンツもしがみついた。

少し軽くなったとは言え、やはり重い。

プリンツの顔からも、余裕の表情が消え失せている。

 

「指揮官、いつまで待たせる気……!私を、早く招待しなさい……!不履行はお仕置きよ……!!」

「聞き捨てなりませんわね!後で詳しくお聞かせ願いますわ指揮官様!赤城も、頑張りましたのよ……!く、ぅぅぅぅぅ!!」

 

赤城も、ストレイド引き止めに参加する。

そして、

 

「指揮官!貴方は、英雄になるんだろう!?なら、まだ貴方は生きなければならない!ここで沈むべきではないんだ!!」

 

エンタープライズも、ストレイドの腕を掴んだ。

 

KAN-SENが、4隻。

このメンバーでのフルパワーなら……!!

 

 

 

 

 

「健気ねぇ。首輪のKAN-SENさん達」

 

 

 

 

 

「「「「!!?!!?!?!」」」」

 

 

 

 

いつの間にか、すぐ近くに……病的に青い肌をした少女が……腰掛けるように浮いていた。

その足元には、無数の蛸のような異形が蠢いている。

 

「お、お前は……!?」

 

エンタープライズが焦り混じりに問う。

 

(拙い、拙い拙い拙い!)

 

今、私達はストレイドを引き止める事に全力を注ぎ込んでいる。

当然、反撃するなんて言う余裕は無い。

 

かと言って攻撃に転じようものならストレイドは呆気なく沈むだろう。

 

明石達の反応はまだ遠い。

 

時間を稼げるの……!?

 

「私?私はオブザーバー。テスターが面白い世界を見付けたから見に来たんだけど……ちょっと遊びに来ちゃった」

「何を、言って」

「ふふ、首輪付き。この世界における最大のイレギュラー」

 

唄うようにオブザーバーは続ける。

 

「面白いわ。この世界のどんな兵器より強大で、どんな人間よりも歪なパイロット。この世界はこれからどんな方向へ向かうのかしら」

「意味が、わからないわ」

 

呻くようにプリンツが呟く。

 

「貴女達に理解は求めていないわ。でも、そうねぇ……こう言うのは、好きかしら?」

 

ガシャン、と蛸のようなユニットが……砲台のようなモノを、向けてきた。

 

「くっ……!?」

「今、貴方達は手を離せない。愛しの指揮官を沈めたくないものねぇ。さぁ、どうする?どうするの?見せてみなさい、()()()O()R()C()A()。まぁ、もう動力も止まってるし中の人間も死に体だけど」

「黙りなさい!指揮官様はまだ死んでなど!」

「そう。なら、助けて貰えば?」

 

万事休すか……!!

 

「いつまで、寝てるのよッ!!さっさと、仕事、しなさいよッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟音。

 

周りの海が一瞬で水飛沫となり巻き上がる。

私達も堪らず吹き飛ばされる。

 

「きゃあッ!?」

「指揮官様……!」

「うわぁっ!?」

「くっ……!!」

 

辛うじて見えたのは、オブザーバーの笑顔。

 

「ふふっ、あはははは!!()()()!?馬鹿な、そんな事が!!メンタルキューブを組み込んだからかしら!!だとしたら、そのキューブには()()()()が入っていたのかしら!」

 

『失せろ』

 

「ひぎ……!」

 

発砲音。

手にしていたライフルと背に付けられたロケットサルヴォが火を放った。

 

オブザーバーの姿が、千切れ飛んだ。

 

「……遅いのよ、馬鹿」

 

 

 

 

 

 

 

上空から、半壊しあちこちこら火花を撒き散らした……白い鳥が降りてきた。

 

 

 

 

 

『……ただいま』

 

 

そいつは、そんな呑気な事を呟いた。

 

 

「おかえりなさい……馬鹿」

 

 

 



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ちょっとした報告と

セイレーンによるサンディエゴ軍港襲撃から一週間が経過した。

 

未だ傷跡は癒えず、サンディエゴは事実上の休止状態。

ネクスト、ストレイドも修復中だった。

 

……意外な事に、復旧までの間周辺の警戒やら支援やらを申し出ている基地があるらしい。

 

『久しぶりだな、リンクス指揮官。恩を返しに来たぞ』

 

以前ネクストで救出した基地の指揮官やKAN-SEN達が、サンディエゴを支援すると言う申し出が続々と集まっていた。

 

『すっかり英雄様だな、リンクス・カラードマン()()

 

厭味ったらしい声音が幾分か抑えられている。

通信の相手はいつもの少佐殿だ。

 

「なんで戦死しても居ないのに二階級もすっ飛んでるんだ」

『特例措置だ。准将も喜んでいたよ。私としても、悪い話では無いと思っている』

「それはまたどうして」

『……貴様の発言と選択に責任が生じるからだ。軽率な行動を抑制できる』

 

ごもっともなお言葉。

今回も完全に指揮官としてではなくリンクスとして動いた結果の重症なのでぐうの音も出ない。

 

あの後、俺はサンディエゴに戻ったあとネルソンが力づくでストレイドのハッチを破壊。

目から鼻から頭から至る所から出血する俺を引き摺り出して集中治療室にぶち込んだのだ。

 

意識が戻ったのはつい先日。

 

取りあえず留守電の様に残っていた少佐からのメッセージに応える形で今話している。

 

『ふふっ、そんな事を言っていますけど……本当は心配で堪らなかったんですよね』

『っ!イラストリアス!謹んでくれ!』

 

……相手方の映像に誰かが割り込んできた。

長い白髪を2房に纏めた、柔和に微笑む女性だ。

 

「……そちらは?」

『お初にお目にかかりますわ。私、イラストリアス級1番艦のイラストリアスと申します』

 

イラストリアス級。

何だったか……確か、空母?

 

「ロイヤルネイビー所属の装甲空母でございます」

 

後ろに控えていたベルファストがそう補足してくれた。

……しかし、なんでまたそんなのがそこに。

 

「(ご主人様、イラストリアス様の左手薬指を)」

「(え?………………あぁ)」

 

銀色に輝く指輪。

まあ、そういう事なのだろうか。

スミカ・ユーティライネンです(´・ω・`)ノシ

 

(誰だ今の)

『リンクス大尉!』

「あ、はい」

『この件は、くれぐれも、他言しないように!そこのメイドもな!』

「承りました」

 

ベルファストは優雅に一礼する。

 

「少佐」

『なんだね!』

「……意外と素直な趣味してたんですね」

『後で覚えていろ貴様』

 

装甲空母だけに凄まじい装甲の厚さだ。

SUNSHINE並じゃねーのあれ。

 

『ウォッホン……話が変わるが……そろそろ貴様も、覚悟しておけよ』

「と言うと?」

『セイレーンを退け、各国の頭痛の種だったネクストを退けたんだ。各国からまた圧力が掛かるだらう』

「圧力なんて慣れてますよ」

 

カラードでもORCAでも本当に上から力掛かりまくってたからな。

今更、そう思っていたら……どうやらそうでもないらしい。

 

『恐らく貴様が思っているものではない。そろそろ答えを提示ないと()()()()()()()()()()()()()は納得しないぞ』

「エッ……」

 

指輪?

なんだっけソレ。

 

「ご主人様。ユニオン、ロイヤル、鉄血、重桜がそれぞれご主人様宛に送った品々です」

「あっ。あれか」

『はぁぁぁぁぁ……選択を誤るなよ。特に、これはな』

『あら嫌ですわ指揮官。イラストリアスは幸せですよ』

『あー、その、今は勘弁してくれないか……』

「はいはいお幸せに。切りますよ」

『待』

 

ブツン。

回線切断。

 

「……KAN-SEN娶れって言われてもなぁ」

「ご主人様、一つよろしいでしょうか」

「うん?」

 

ため息を吐いた後、ベルファストがおずおずと口を開く。

 

「ご主人様は、胸の大きな女性がお好みでしょうか」

「……はい?」

「いえ、イラストリアス様の胸をまじまじとご覧になられていましたので」

 

いや、そんなに見てないけど。

 

「そ、その……僭越ながら私めも……なんと言いますか。それなり以上には、ございます」

「?まぁ、いつも助かってるよ」

「いえ、そうではなく……」

 

ちょっと顔を赤くしながら歯切れの悪い。

珍しいな、ベルファストがそうだなんて。

 

「ベルファスト?どうした?調子が悪いのか?」

「い、いえ………………………メイドが出すぎた真似をしました!失礼します!!」

 

ハッとした顔になったかと思えば見たこと無い慌てようで部屋から出ていった。

 

「……何だったんだ?」

 

謎だ。

 




リンクス、二階級特進。

そして、指輪騒動の幕開けである。
諸君、派手に行こう。

……ちなみにネクストのサイズは、実は4〜5mクラスに縮んでいます。
ずっと書くの忘れていました、本当に申し訳無い。

なんとなく首輪付きは恋愛方面に物凄く疎いイメージ。
ベルファストごめんな……。


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おいでませメイドさん

実は、あの後凄まじく大変だった。

サンディエゴに帰還したと思ったら俺の視界はブラックアウト。

 

話によると目から鼻から口から至る所から血を流していたらしい。

 

港も半壊、所属していたKAN-SEN達は皆中破以上。

ストレイドに関してはAP10%以下の大破寸前。

 

俺もしばらくコジマ汚染で意識不明の重体だった。

 

そんな状態からなんとか建て直し……サンディエゴもようやけ運用出来るようになった。

 

ただ、気になる事がひとつ。

 

あの時、完全に機能停止していたストレイドが、どうして再起動したのか。

特別何か操作していた訳ではない。

ストレイドが再起動する直前まで、俺は失神していた。

それが急に、視界がクリアになり……。

 

セイレーン……後から報告されたが、オブザーバーが言うには、「ストレイドに組み込んだメンタルキューブに宿る記憶」のせいらしい。

 

メンタルキューブ。

KAN-SENを構築する際に用いられる、この世界の遥か昔存在していた船の記憶。

 

……それが、ストレイドのCORE……ホワイトグリントの記憶を受け継いだのかもしれない。 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お初にお目にかかります。タウン級巡洋艦、ニューカッスルと申します。貴方様にお会い出来て光栄です」

 

メイドさんが現れた。

 

「え、何で?」

 

つい口から出てしまっていた。

本日の秘書艦……プリンツも、首をひねっていた。

 

「こちら、ロイヤルからの書類となります」

「うげ、ジジイ達から……」

 

ニューカッスルが取り出した書類に目を通した。

 

「……『先の戦闘により、ネクスト撃破、セイレーン撃退の功績を称え、KAN-SENを一隻授与しロイヤルネイビーに席を用意する』……うわぁ、ネクスト欲しさがありありと」

 

だから、下手にKAN-SEN増やされるより金をよこせ金を。

それが分かっているのか老人共はKAN-SENばっか寄越しやがる。

 

「ロイヤルメイド隊、不肖ニューカッスル。貴方様にお仕えできることを誇りに思います」

 

ほら、こういうタイプ苦手なんだよ。

大体ベルファストもベルファストで押しかけてきたし。

というか前にベルファストが言ってた新しく来るメイドってこいつ?

 

「あー、うん。ありがとう。詳細はベルファストから聞いて。ベルファスト!」

「こちらに」

 

呼ばれた瞬間ドア開けて入ってくる。

もう慣れた。

 

「お久しぶりですね、ベルファスト」

「お久しぶりです、ニューカッスルさん」

「まぁ、知り合いか」

「私の前任のメイド長でごさいました」

「そうだったのか」

 

そんな優秀な人材を寄越すとはまたこう、何考えてんだロイヤルは。

 

「とんでもござまいせん。私が望むのはただ平穏だけ」

「平穏、か」

 

戦う為に生まれたKAN-SENが、平穏を望む。

矛盾している様に思うが……平穏の為に戦う、そんな気概を感じた。

 

「半隠居の身ではございましたが、貴方様のため、誠心誠意尽くさせて頂く所存です」

「あ、うん。ありがとう」

「では、ニューカッスルさん。こちらへ」

 

ベルファストと、ニューカッスルが退出して。

 

「……ふぅ」

 

一息つく。

どうしてもKAN-SEN達と話す時は身構えてしまう。

 

「指揮官」

「ん?どうし……うおっ!?」

 

今まで黙っていたプリンツの方を向くと、目と鼻の先に彼女の顔があった。

近っ!!

 

「な、どうした」

「……鼻の下、伸びてるわよ」

「うっそぉ」

「嘘よ」

「えぇ……」

 

どうしたんだ一体。

 

「別に。ちょっと気に食わなかっただけよ」

「珍しいな、そんな事言うなんて」

「そうかしら?私、これでも嫉妬深いのよ」

「へ、へぇ……」

「それで?これだけ引っ張ってるんですもの。デート、考えてるんでしょうね」

「……今しばらくお待ち頂けないでしょうか」

 

まだ身体治ってないんですよ。

 

「フン。待ってるわよ」

 

 

 

 



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鉄血まな板ツンデレテンプレート

「はぁ?あんたが指揮官?こんなどこの馬の骨ともわからないやつにまで指揮官をやらせるなんて、戦況はもうそんなに切迫しているわけ!?」

 

ある日。

鉄血から支援が届き、物資を受け取っている最中の出来事だった。

 

グラーフとプリンツが先導して作業を進めている中、そんな声が投げ付けられた。

 

「……君は?」

 

目の前に仁王立ちで立つ、鉄血共通の意匠を拵えた制服に見を包むKAN-SENに問う。

 

「ハァ!?私を知らないっての!?アンタバカぁ?鉄血海軍所属アドミラル・ヒッパー級重巡洋艦、アドミラル・ヒッパーよ!!」

 

ババーン、と言っては何だが薄い胸を張ってドヤ顔する仮称・アドミラル・ヒッパーさん。

 

「あー、そうか。鉄血が寄越してきたのは君か」

 

ロイヤルからニューカッスルが送られてきた様に、鉄血からは彼女が送られてきたのだろう。

 

「寄越した!?わざわざ私が辺境に来てやっただけだっての!」

 

言い方がカンに触ったのか、ますます語気は強まる。

さて、どう宥めたものか……。

 

何だかんだここまで我の強いKAN-SENと出会っ……。

いや、ネルソンの方がまだ優しいし……(麻痺)。

 

「……ははっ」

 

思わず笑う。

最初はやれアレがいるこれが足らないといつも頭を悩ませていたと言うのに。

 

今では、欲しいと思っていた物が手に入っている。

 

「何がおかしいのよ」

「いや……そうだな。アズールレーンへようこそ。歓迎しよう、盛大にな」

「あら、ヒッパーじゃない」

「んぁ?あっ!オイゲン!?」

 

……先程まで作業していたのか、薄っすらと汗ばんでいる。

プリンツ・オイゲンが傍に来ていた。

 

「ようやく来たのね」

「アンタ、結局戻ってこなかったじゃない!何でよ!!」

 

戻る……?

 

「こっちの方が面白そうだったもの」

「そんな理由で本国の帰還命令無視するなっての!!」

「えっ……帰還命令!?」

 

そんなもの出てたのか!?

 

「あら、言ってなかったかしら指揮官」

「初耳なんだが」

「そういう事よ」

「おいおい……ん?」

 

待てよ?

じゃあ、鉄血がうちに対して当り強かったのってまさか。

 

「オイゲン、あんたまさか言ってなかったの……?」

「何を」

「『戻らなかった場合、所属基地への制裁も辞さない』って」

「お前のせいかよ!?」

「過ぎた事よ」

 

涼しい顔して流しやがった。

えっ、何ソレ聞いてないんだけど。

 

「結局その後ティルピッツ強奪したんだし結局同じよ」

「それでグラーフが来たんだろうが!?」

「ごちゃごちゃ言わないの。誰のお陰でここまで戦って来れたと思ってるの」

 

それを言われて、思わず口をつぐんだ。

……プリンツが居たから、助かった場面も確かにある。

 

「オイゲン、アンタねぇ……」

「ふふ、どうかしら?ヒッパー。()()()()()()

 

腕に絡み付いてきた。

もう苦笑するしか出来なかった。

 

 



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道に迷った者

ストレイドの修復を進める最中……ふと、思う。


サンディエゴ基地の地下格納庫。

ようやく穴だらけにされたストレイドの装甲が元通りになり、後は白の塗装を施し元の色に戻すだけとなった。

 

今更気が付いたが、前に居た世界のネクストと比べると全長が小さくなっている気がした。

 

「………………」

 

今までの戦いを振り返る。

 

セイレーンと言う謎の勢力に対して、KAN-SEN以上に力を発揮する存在。

この世界にはイレギュラーとそれるアーマードコア・ネクスト。

 

……これは、そのまま残すべきなのか。

 

そして、

 

「……俺は、『リンクス』で良いのか?」

 

セイレーンは退けた。

しかし、この世界から完全に撤退した訳ではない。

 

ここで、ネクストを廃棄するかどうか。

残していても、いずれどれかの勢力がネクストを求めるだろう。

 

幸い、撃破したシリエジオの残骸は雪の様に溶けて消えてしまった。

 

シリエジオを悪用されずに済み、少し安堵していた。

 

ガラにもなく考え込んでしまっている。

 

そこに、足音が一つ。

 

「じゃあ、私はアンタのことをなんて呼べば良いのよ」

「……ネルソン」

 

先程の独り言を聞かれていたのか……ネルソンが、いつもの不遜な態度で、俺の背後に立っていた。

 

「私は、リンクス・カラードマンって名前の男がこの鉄の塊に乗って戦える事しか知らないわ。この世界の事を何一つ知らないクセに、私達を指揮してる、ね」

「……確かにな」

 

そう言われて、思わず苦笑する。

この世界で、どうして俺がこんな指揮官もどきをしているのか。

 

「別に、傭兵として戦わせてくれれば良かったものを」

 

前と変わらずに、依頼があれば出撃し、敵を殺すだけ。

 

「でもそうはならなかった。過去を振り返るのは止はしないけど、行き過ぎれば負け犬の遠吠えよ」

「……相変わらず、手厳しい」

「当たり前よ。アンタには一人前になって貰わないと困るんだから」

「そうか……」

 

思えば、こいつには苦労かけっぱなしだったなぁ。

基本的に危機に陥った際の殿役はほとんどネルソンだったし。

 

こいつだけじゃなく、他に三人KAN-SENが居たけど……俺を引き留めてくれたのも、ネルソンだった。

 

「なぁ、ネルソン」

「何よ」

「何か、欲しいものでもあるか?」

 

KAN-SEN達に与える褒美。

図らずもプリンツに渡す事になっていたが、流石に一人だけと言うのも贔屓が過ぎる。

今回は、全員がMVPだ。

出来るだけ、叶えてやりたい。

 

「欲しいもの、か……私の欲しいものは……そうね、大佐階級」

「無茶を言う……叩き上げは大尉で限界だって聞いてるけど」

「だったら、私達を使って戦果を出す事ね。他の基地の指揮官を叩き伏せれば上も考えを改めるでしょう」

 

あっけらかんと言い放つ。

うちのKAN-SEN達の練度は高い方だと思っているが、ほとんど対セイレーンで培ってきたものばかり。

対KAN-SENでは通じるのだろうか。

 

「もしくは……アンタさえ良ければ、わ、わ……私と一緒にロイヤルネイビーに……」

「それは出来ない」

「……どうしてよ」

「俺は、『中立』じゃなければならないからだ」

 

リンクスとして、ネクストを持つ者として。

どこかに肩入れしてはいけないのだ。

 

いずれ、火種となってしまう。

 

「何よ、それ。人がせっかく……」

「いや、ありがとうネルソン……お前のお願いは、前向きに善処するよ」

「それ、どうにもならない答えよ」

「そうだったか?」

「全く……良いわ。私達はアンタに頼りっぱなしだったわ。けど、これからは、アンタが私達を頼りなさい」

 

ネルソンが息を吸う。

そして、したり顔でこう言うのだ。

 

「そしたら、私達が……アンタに相応しい勝利と地位を約束するわ」

 

 




リンクスの名前、どうしようかな……。


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