特に理由もなくアイドルデビューした最強系主人公が東京喰種のストーリーをぶっ壊す話 (偽馬鹿)
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目覚め

なんというかまあいつも通り夕映ちゃんで詰まったので(言い訳)


「へ?」

 

ふと気付くと自分は喰種だった。

何故気づいたかというと、もぐもぐと食べていたのが人の腕だったからだ。

いや、喰種の腕か。

 

謎だ。

いや、どうして腕を食べてるかじゃなくて。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「それくらい強いってことかな?」

 

むしゃりと食べる。

美味しい。

パキリと肩甲骨辺りから何かが生える。

うん、甲赫だね。

 

剣や盾のような形状であることが多いと言われている甲赫だが、俺のそれは枝だった。

いや、枝分かれした棒状の何かだった。

なんだこれ、使いづらそう。

 

引き抜いてみると痛い。

いや当然だけど。

しっかり見てみることにした。

 

……やっぱり枝だった。

なんだこれ。

花ついてたら桜の枝だよ。

美味しいご飯も台無しだよ。

 

というか、これを使ってこんな惨状を作ったのか。

ちょっと前の自分が怖い。

いやこの状況の方が怖いが。

 

なんというかこう、武器という感じがしない。

ぶんぶん振り回してみれば、思ってたより軽い。

甲赫って重いんじゃなかったっけか。

いや、こんだけスカスカなら軽いか。

 

「えい」

 

グサー。

ぐちゃー。

よく刺さる。

そうか、殴るんじゃなくて刺すのか。

 

いや、殴ってみよう。

ドゴー。

メキメキメキ。

凄い、山が崩れた。

 

そして俺もその山に埋まった。

ぐえー痛いー。

いや痛くないや。

丈夫だな喰種の身体。

 

 

 

「おい、どうした」

「あ、ああああ」

「なん……だあこりゃあ!」

 

何やら周囲が騒がしくなってきた。

この状況を誰かに見られるのはきっとマイナスなのでとっととおさらばしよう。

あでゅーご飯。

御馳走様ご飯。

できればもうちょっと食べたかったよご飯。

 

 

 

ところで、服。

着てないの、服。

どうしよう、服。

 

奪う?

奪っちゃう?

誰から奪う?

いや、誰とかじゃなくていいや。

 

とにかく適当に漁ろう。

あ、さっきのご飯どころで取ってくればよかった。

失敗である。

 

路地裏をうろうろしてるとごみ袋。

まあないよりましか。

着込んで適当に歩く。

 

 

 

暫くうろうろすると何と死体が。

やばいな喰種世界。

治安とか半端ない。

路地裏とはいえ。

 

するすると服を脱がして着替える。

腕とかないから袖もないや。

でもいいか。

 

問題は俺が男で、この服の持ち主が女ということか。

いや、あんまり問題じゃなかった。

服ぴったりだったし。

 

とりあえず、下着とかいらないから上着だけ失礼する。

スカートだけど、まあないよりまし。

すーすーする。

上は右腕が破れてるけど、まあ使える。

血だらけだけど。

 

ところでこの死体だけどどうするべきか。

食べる?

食べちゃう?

食べちゃう!(物理)

 

ガリガリ君レベルでガリガリ食う。

美味しい。

いや本当に美味しい。

さっきの喰種のお肉がスナックなら、こっちはステーキな感じ。

俺スナックの方が好きかもだわ。(胃もたれ)

 

「けぷぅ」

 

ごちそうさまでした。

たまには悪くないかもね。

 

ところでこういう風に死体が放置されてるってなんでだろうね?

食べ残し?

いやいや腕だけ食って放置とかありえない。

 

ということは罠?

罠くさい?

というか罠だった。

 

「おら俺様のシマ荒らすとはなにおぼろぅえ!?」

 

小足からのフルコンで仕留めた。

やはり小足は正義だった。

でも6Fのトキは遅過ぎると思う。

 

じゃなくて。

どうやら敵には仲間がいた様子。

ゾロゾロと仮面をつけた奴らが現れた。

 

「うぼろろ」

「あああああ」

「ひいい」

 

だがしかし瞬殺。

ころころしちゃう。

自分の赫子を展開して突き刺して身体全体を回転させると見事に相手が細切れになる。

なるほどこうやって使うのか。

ワニのデスロールっぽい。

 

とにかくそれを連発し、たまに叩きつけたり薙ぎ払ったりで仕留めていく。

というか敵があんまり強くない。

止まって見える。

 

しばらく蹂躙してると敵が散り散りになっていった。

なんだろ、怖かったとか?

よく分からないけど、おいていったお肉はいただきます。

うーんスナック。

 

ついでに服を物色しながらお食事タイム。

と思ったけど倒した奴が相手だから血だらけじゃん。

もうちょっと考えて倒せばよかった。

 

でも上着は頂いた。

元々黒かったから血が目立たない奴。

これも女性ものだけど。

今の俺の身体が小さすぎるのがいけない。

 

とはいえ、完全装備になった俺に死角はない。

いや下半身とか無防備だけど。

無防備だけど見た目だけなら大丈夫。

女の格好だけど。

 

 

 

とりあえず路地裏から脱出。

ちょっとボロ家が多くて治安悪そう。(偏見)

いや実際路地裏はやばいから治安悪い。(確信)

 

ともかくいい感じの隠れ家を見つけるためにうろうろ。

路地裏の方がいいかもしれないけどとりあえず人に会いたい。

人に会えば服が着られる気がする。

 

ふと横にガラス。

のぞき込んでみるとなんというか凄い美人さんがいた。

俺だった。

 

ツヤツヤな肌にスベスベな手触り。

長いまつげにくりくりした目。

うるおいのある唇にすっと通る鼻。

髪はさらりとした肩口まである黒髪。

やべー美少女に見えた。

いや男だけど。

 

これはあれだ、男の娘って奴だな。

身長は大体130cmくらいか。

小せぇ。

 

というか年齢が分からぬ。

体格的に二次性徴が始まってないっぽいから12歳前後か。

ショタか。

 

そんなショタが女装して喰種達を虐殺してたわけか。

うーん興奮する。

しかも自分である。

うん、やばい奴だね俺。

 

というか俺はこんなにぶっ飛んだ奴だったっけか?

精神は身体に引っ張られるというけれど、もしかして本当だったとか?

うーむわからん。

今はねぐらを探そう。(思考放棄)

 

 

 

うろうろしてると、周りの視線が集まってるのを感じる。

あーやだなー美少女って目を引くからなー仕方ないなー。

美少女だからお得ポイントって少なくない?

いや男だけど。

 

「あのー」

「ん?」

 

背後から声。

振り返るとそこにはぴしっとしたスーツの男。

あら割とイケメン。

俺ほどじゃないけど。

 

「あの……アイドルしませんか?」

「……………は?」

 

 

 

数日後、見事にアイドルデビューを果たした俺の華麗なる姿が!

ない。

いやないわ。

草とか生える。

 

「お……私、親が届け出出さなかったせいで戸籍がないんです」

「作りましょう」

 

まじか。

喰種だけど普通の戸籍とか手に入るんか。

やってもいいかな。(単純)

 

「ちなみにいつから?」

「明日面接しましょう」

 

早いよ。

いやでも俺的にはそれでいいんだけどさ。

戸籍欲しいし。

 

「わかりました。よろしくお願いします」

「では早速お名前を」

 

名前。

名前か。

名前かー……。

 

どうしようかな。

適当でいいか。(適当)

 

「赤井スバルです」

「よろしく、スバル君」

 

握手。

握り潰さないように慎重に。

と思ったら相手の握力強い。

逃がさないという絶対的な意思を感じる。

 

???

 

なんか思ってた方向と違うけど。

まあいいか。

なんか楽しそうだし。

 



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出会い

彼が出てきたのは想定外です
なおこの関係が続くかは未定です


「えーっと、赤井スバルでーす♪ 年齢は12、特技は運動です♪」

 

きゃるーんという効果音を浮かべて笑う俺。(女装)

というか男だって言ったよね俺?

なんでこの路線のまま突っ走るの?

馬鹿なの???

 

『売れるよ、君ならね』

 

社長はそう言ってくれたわけだけど、なんで女装のままなの?

やっぱり馬鹿なの?

でも給料弾むっていうから我慢する。(強欲)

 

「うおおおおスバルちゃーん!」

「きゃー!」

「かわいいー!」

 

野太い声と黄色い声が混じり合って聞こえる。

半端ねぇなアイドル。

というかアイドル人気あるんだな喰種世界。

 

「きゃーみんなー応援ありがとー♪」

 

きゃるーんとまたもや同じ同じ効果音を付けてウィンクする俺。(フリフリミニ)

そして歓声。

うーん俺の才能が輝く。

 

「それでは聞いてください……『救世降臨伝説』」

 

凄え名前の曲。

でも曲自体は普通のアイドルソング。

ちょっと世紀末覇者風の言い回しがあるくらいかな。

 

「ふん♪ ふふん♪ ふーん♪」

 

身体をゆらゆらスカートフリフリ。

傍から見ればすっごい可愛い。(こなみ)

まあ俺なんだけど。

 

というかアイドル、思ってたよりハード。

本格的なダンスは導入しない方針らしいけど、ボディバランスとかなんとかはやるし。

発声練習は死ぬほどやるし、かなり体力使う。

まあこの身体は燃費最悪だからだろうけど。

 

なんとこの身体、死体1つじゃ1月持たない。

普通の喰種だと1月1体くらいで大丈夫だと聞いたけど。

俺の場合半月くらいでお腹が減る。

普通の喰種の約2倍の燃費である。

 

なのでもりもり食べてる。

食べるたびに綺麗になる肌。

そしてしなやかな四肢がちょっと脂肪に包まれる。

女っぽくなるのはどういうことなのか。

 

 

 

ちなみにであるが。

既にアイドルデビューから3ヵ月経ってる。

この世界に来てからアイドルしかしてない。

 

既に音楽チャートは1位である。

流石俺、才能の塊。

いや、この身体が凄いのか。

流石俺の身体、才能の塊。

 

 

 

「ありがとー♪」

 

一曲終了。

拍手と歓声で溢れるドーム。

社長の未来視半端ない。

こんな未来見えるとか怖いわ。

 

ちなみに社員寮を使わせてもらってる上にお給料は半端ない額が入ってくる。

俺この会社の子になるー。(なってる)

あ、ご飯も社割が効くけど使えなかったり。

やっぱり俺喰種だしねー。

美味しそうだから辛い。

アイドルだからダイエットしてると思われてるのは正直助かる。

 

 

 

「じゃあ続いての曲、行きまーす♪」

 

 

 

このあとめちゃくちゃ歌った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとー♪ ありがとー♪」

 

ファンに見送られながら控室へと向かう俺。

アンコールに応えてファンサービスしてしまったぜ。

流石俺。

ファンへの感謝を忘れない。

 

「お疲れ様ですスバルさん」

「んーお疲れー」

 

プロデューサーからタオルを受け取りながら返事をする。

いや本当に汗だく。

早くお水頂戴。

あ、どうもどうも。

 

「あー生き返るー」

 

気分は転生者だ。

いやもしかしたら俺もそうかもしれないけど。

覚えてないからわからないけど。

 

ぱたぱた服をはためかせる。

風が来ないよ風がー。

と思ったら扇風機が用意された。

プロデューサー有能過ぎ。

 

「んあ”ー次の予定はー?」

「明後日までお休みですね」

「ふーん……」

 

ちょうどいいかも。

お腹減って来てたし。

ちょっとお出かけしようっと。

 

 

 

「ああそれと」

「ん?」

 

気分をお休みモードにしているとプロデューサーがついでのように話しかけてくる。

なになに、邪魔するの?

食す? 食す?

あーいやダメ。

まだダメ。

こんだけ有能なのがいなくなるとか損害デカ過ぎる。

 

「こんなものがお手紙と一緒に」

「へー」

 

手渡されたのはシルバーのアタッシュケース的な何か。

うん、見覚えあるね。

クインケですね分かります。

 

手紙には旧多二福の文字。

そしてファンだということらしい。

まじか。

それにしてもクインケ送っちゃう旧多さんズレてるわ。

ん、それしか送るものがなかった?

ならしょうがないね。(納得)

 

 

 

マスクーつけてー普通の服(男性用の意)着て歩くー。

ここは大体1区の辺り。

喰種がたくさんいるって話なのでお勧めスポット。(個人の感想です)

 

マスクのデザインは至ってシンプル。

目だけ見えるようにぐるぐる巻きの包帯と、大きめな普通のマスク。

そのマスクに大きく『斬』の文字。

うん、中二病だね。

いや肉体年齢的には小6なんだが。

 

右手には昨日送られてきたクインケ。

家の中で確認したところ、大きな刀状のクインケだった。

特に特殊能力とかないただの刀。

使いやすそうだね。

 

というわけで試運転である。

アタッシュケースから取り出して振りかざす。

そして撫で斬り。

近寄って来てた喰種を数人斬り裂く。

うん、いい切れ味。

実に使いやすい。

俺の赫子とは大違い。

 

「て、め?」

「あ、あ……?」

 

次々来る喰種をばっさばっさと薙ぎ払う。

ああ気持ちいい。

こういう感覚はなんというのだろうか。

そう、快感って奴だ。

 

「はは……はははは!」

 

縦回転したり横回転したり斜め回転したり。

身体を動かしてダイエットだ。

まあダイエットって痩せるって意味だけじゃないんだけどね。

 

最後の一体をバッサリと縦に割って終わり。

今日は絶好調である。

早速ご飯の時間。

まずは目の前で真っ二つになってる奴からだ。

 

とここでパチパチと謎の拍手。

振り返るとなんと人がいた。

何故人だと思ったかというと、匂いだ。

お腹減ってるから美味しそうなのだ。

最近食ってないしちょうどいいかも。

 

と思ったらあれだ。

この人知ってる。

旧多二福だ。

クインケ送ってくれた人じゃん。

 

「使いやすくてOKですよ」

「それは嬉しい。僕も選んだ甲斐があります」

 

わーとでも言いそうな笑顔を浮かべる旧多さん。

こっちもわーと言いたい感じを出す。

なかよし。

 

というかバレてるねこれ。

性別はともかく。

どうしようか。

処す? 処す?

でもなかよしだから別にいいか。

 

「食べるー?」

「遠慮しますー。僕は喰種じゃないので」

「そーお?」

 

比較的グロくない腕をはむはむ。

やっぱり恥ずかしいよね、食事見られるの。

そういう問題じゃない気もするけど。

 

とにかくここは危ない。

人がいるとか腹減ったライオンの檻の中に肉投げ込むようなもの。

ここは護衛が必要だね。

 

「帰りますよー」

「おや、人は食べないんで?」

「んー……食べない!」

 

気分は喰種。

でもちょっと萎え気味。

食欲<興味 って感じ?

知り合いになった相手がいるってことは大切だよね。

 

「食べないんですか?」

「? お腹いっぱいになったし?」

 

まあ嘘だけど。

今食べるのはねぇ。

何となく恥ずい。

男だけどさ。

 

クインケをくるくるしゅたっと構えて格好いいポーズ。

その間に喰種が数人消し飛んでいる感。

うん、やっぱりいい感じ。

パチパチという拍手が心地いい。

 

 

 

そんなことを繰り返していると、無事1区の出口まで来た。

どうやらお迎えが来ていたようなのでふらっといなくなる。

こういう時は喰種の身体能力半端ないよね。

 

そろそろご飯を食べる。

食べ残しは悪い子よね。

と思ったら既にいくらか減ってるのが草。

他の奴らのご飯になったっぽい。

つらたん。

 

 

 



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出会い2

ヒロインの登場
……多分


「そういえば、学校にも行かないとね?」

「はい?」

「12歳だからね?」

「はい」

 

学校に通うことになりました。

中学校でござい。

 

「へぇ……」

「ふぅん」

「ほぉ……」

 

早速いじめられました。(笑)

人気アイドル(自称)を普通の学校に放り込むとか頭おかしい。

いや一番頭おかしいのは俺だろうけど。

アイドル科却下する必要なかったわ。

 

とにかくアイドル活動と学校生活との間にご飯を食べる時間を確保しなくちゃいけない。

つらたん。

というか時間ない。

お腹減った。(致命的)

 

アイドルはトイレに入らないので昼食は便所飯ではなく校庭の端っこで。

広範囲から見られる場所でご飯を食べることでいじめを回避するのだ。

いや無視系のいじめだからあんまり関係ないんだけど。

 

ご飯は喰種の腕のムニエルらしき何か。

味付けとかできないから煮込んだだけだけど。

比較的美味しい。(当社比)

 

「……なあ、お前」

「ん?」

 

モグっと噛みついたところで背後から声。

高めの声なので女の子かな。

振り返るとやっぱり女の子だった。

可愛い。(こなみ)

後で社長に推薦しておこう。

 

さらさら銀髪ストレートのオッドアイ(右目蒼左目赤)かつメカクレ属性。

目が見えたのは俺が座ってたから覗き込めたおかげ。

しかもおっぱい大きいし(重要)、おしりも大きい(重要)。

くびれもあるし身長もやや高い。

俺より上でもう少し伸びるかなーっていう感じ。

 

「お前、平気なわけ?」

「え、うん。平気」

 

つい素で答えてしまったが、それくらい声が可愛かった。

やべえ、モロ好み。

俺がアイドルじゃなかったら口説いてるね。(事務所NG)

 

「平気だよー♪ 君もいじめられそうな雰囲気だけど大丈夫ー?」

「思ってたよりタフだな。というか余計なお世話だよ!」

 

どうやら同士らしい。

あとで電話番号教えてあげよう。

むしろ教えろください。

 

 

 

「ところで御用はなぁに?」

「え? あ、いや……」

 

ご飯を食べつくしてから聞くと、急にしどろもどろになる女の子。

なになに、なんか理由でもあるの?

座ったままずりずりおしりを引きずって近寄る俺。

変態かっ。

 

「なぁにぃ?」

「うっ……」

 

真下から見上げると、何故か気圧されたようにのけぞる女の子。

なに、もしかして恥ずかしがってる?

うふふ、可愛いねえ。(中年男感)

 

「もしかしてファンだったりする? サインあげよっか?」

 

キュポンっといつも持ち歩いてるサインペンを取り出し、ハイハイで近寄っていく俺。

ふふふ、ぶっちゃけ俺の外見じゃなかったら許されない所業。

普通の男だったら蹴倒されてる。

 

「べ、別に……そんなんじゃない!」

「あうっ」

 

蹴倒された。

どうやら俺は普通の男だったらしい。

いや違うか。

照れ隠しっぽいな。

それは可愛い。

 

そして逃げられた。

うんはぐれメタル。

色合いもそれっぽい。

 

そういえば。

名前を聞くのを忘れてた。

折角可愛い子だったのに。

 

 

 

翌日の話。

というか夜の話。

学校がある5区辺り。

俺はご飯を食べていた。

 

いつもの格好でいつものクインケ使ってバラバラ殺喰種事件だ。

いつも通りの路地裏でがっつり食べる。

とはいえいつもの1区と違って喰種が少ない。

少ないせいでお腹が減る。

いや死体全部食べればいいんだろうけど、食べる場所くらい選びたいというかなんというか。

ぶっちゃけ性器は食べたくない。(真顔)

 

「ば、化けも――――」

「はいはいいつものいつもの」

 

逃げ出そうとした喰種をずばばばっさり感。

細切れにしたところを美味しく頂きました。

 

 

 

「きゃああああああ!?」

 

むしゃむしゃと腕を食ってさあ帰ろうとしたところで悲鳴。

あらまあ不運。

可哀想な子がいるみたいだから寄っていこう。

そう思って悲鳴の方に向かってみると、なんとお昼に出会った女の子。

 

何となく助ける。

右手のクインケで女の子に襲い掛かっている喰種を縦割りにしてやる。

綺麗に真っ二つ。

血が飛び散るのを忘れてたけど、まあいいか。

クリーニング代くらい勉強してもらいましょう。

 

くるくるしゅたっと着地する俺。

決まったな。

格好いいポーズは自重した。

 

「あ……ああ……」

 

女の子は恐怖の表情のまま動かず。

そりゃそうだ。

喰われる直前で思考停止してるようなもんだ。

慣れるようなもんじゃない。

慣れたら慣れたで怖い。

 

というわけで脱兎。

さっさといなくなるに限る。

でもあんまりこういう時間に出かけない方がいいよね。

俺は別に強いからいいんだけど。

 

 

 

「大丈夫か? スバル君」

「? 大丈夫ですよ社長」

 

今更メンタル的に負けるわけでもなし。

無視程度なら反撃する必要もないしで。

むしろ周りの子のメンタルの方が心配よ。

あとで復讐するので。(根に持つタイプ)

 

「あ、そうそう社長。あの学校で可愛い子見つけたの♪」

「ははは、君のそれは可愛らしいが、私は本性を知ってるからね?」

「ですよねー。まあ可愛い子がいたのは本当なんだけど」

「ふむ」

 

とんとんと話を進める。

話したのは姿形だけで、その子の名前は知らないんだけど。

もしかしたら知ってるかもしれないなくらいの気持ちで聞いたのだ。

 

白神(しらがみ) (けい) 君だね。この間スカウトしようとして失敗した子だよ」

「あ、失敗したんだ」

「両親に反対されてね」

「それは仕方ない」

 

反対してくれるような両親がいるのか。

しかしいじめに気付かないとか。

無能ではないが有能でもない感じか。

いや有能な親ってよくわかんないんだけど。

 

「君はあれだ、親に捨てられたのだったか」

「わーお社長凄いストレート♪ 私じゃなかったら灰皿でボコーですよ♪」

「ははは、君の冗談にも慣れたよ」

 

普通なら冗談で済まないからね?

めくりJKからフルコンですよ???

俺が優しくてよかったですね社長。(謙虚)

というより空腹だったら食べたいくらいには渋いイケメンだからね社長。

プロデューサー並とはいかないけど。

 

ともかく、名前を知ることができていくらか楽になった。

これで会話のきっかけになるだろう。

それくらいには蛍君に興味を持ってしまったのである。

まさかこれほど俺が執着することになるとは。

何事も分からないものだ。

 

 

 

というわけで、お昼である。

今日も今日とて校庭でお昼ご飯。

今日の献立はただのコーヒーであった。

そう毎日お肉食わなくても死なないのだ。

いや、燃費的に死ぬときは死ぬかもだが。

 

「……今日も来たんだ♪」

「あ……」

 

背後に人の匂いがしたので、多分そうだろうと思ったら当たり。

嗅覚って便利ね。

もう少しちゃんと使えばよかった。

後でプロデューサーの匂いも覚えておこう。

便利だろうし。

 

「私、赤井スバルっていうんだ。よろしく♪」

「あ、本名でアイドルやってるんだ……」

 

いや実は本名じゃないんだけどね。

ややこしくなるから言わないけど。

 

「ええと、白神蛍だ……です」

「じゃあケイちゃんだ♪」

「やめろください」

 

どうやらケイちゃんは駄目な模様。

えーいいと思うんだけどなー。

 

認めてもらうまでずっと言い続けることにした。

うん、それがいい。

愛称で呼び合う仲って素敵だよね。

俺の愛称って思い浮かばないけど。

 

「えーいいじゃんケイちゃん。可愛いよー?」

「かわっ……!? だから嫌なんだって……」

「えーケイちゃんケイちゃんケイちゃんケイちゃんケイちゃんケイちゃんー!」

「分かった! それでいいからもう連呼しないでくれっ!」

「わーい♪」

「やめろっ抱き着くなぁっ!」

 

ぎゅーって抱き着いてみたが、反応は思ったより悪くない。

というか押し返す力があんまりない。

ははーん、ツンデレ?

まあおっぱいが押し付けられてて役得感ある。

バレなきゃ平気だからー。

 

 



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出会い3

原作キャラとの出会いは結構慎重になります
出会ったら出会ったであっさりだったりしますが


「うーん……これは対処する必要があるかなー?」

 

翌日。

気付いたらいじめが酷くなっていた。

というかケイちゃんとの抱き合わせでいじめが始まったというか。

なんと、やはりあ奴もいじめられてるじゃないか。

まあ知ってたって感じだが。

 

三角傘の下に俺の名前とケイちゃんの名前が。

それと一緒に色んな淫猥な単語がいくつも。

セクハラですねわかります。

 

さてさてどうするか。

と思ったが簡単だった。

そうだ、闇討ちしよう。(直喩)

いじめの主導者を闇討ちして大怪我させれば終わるよね!

 

 

 

「というわけで、主導者だーれだ♪」

「んーんー!?」

 

顔を晒してじゃーんと登場。

カースト上位と思わしき奴らを捕まえて体育館倉庫へと放り込んだのだった。

ちゃんと猿ぐつわ噛ませてあるから防音対策もばっちり。

今から数人大けがしても大丈夫!(大丈夫とは言っていない)

 

「えい♪」

「んー?!」

 

ボキンとひとりの指を折る。

大丈夫、バレないバレない。

流石に5本はやりすぎなので1本だけよ。

 

次は隣の子。

最初は男の子だったから手加減なしだったけど、女の子には優しくしないとね。

というわけで腕をミシッと罅入れる。

 

「んんー!?」

 

悲鳴らしきものを上げる女の子。

やだなーちょっと罅入ったくらいでしょー?

と思ったが、そういえばこの子達は人間だった。

危ない危ない。

喰種感覚でダメージ与えてたわ。

 

 

 

というわけで主導者と思わしき女の子に近寄る。

その子だけは猿ぐつわをはめていない。

わざとだ。

そうすることで恐怖を更に高めるのだ。(教育風)

 

「という感じなんだけど、何か言うことある?」

「あ……あっ……」

 

ないらしい。

というか目の前の惨状に理解が追い付いてない感じ?

仕方ないね。

 

というわけで2本目を折る。

悲鳴が割と心地よい。

あと骨折る感じとか好きかも。

新たな発見である。

 

「ま、待って! 認めますわ! わたくしが主導です!」

「ん? そーお?」

 

隣の女の子の腕のもう一方をベキン。

あ、折っちゃったわ。

力加減が難しい。

反省である。

 

「ど、どうして……!?」

「え?」

 

主導者の女の子が困惑の表情を浮かべる。

あ、ちょっと泣いてる。

まあ分からないでもない。

俺も同じ立場になったらそうなるかもしれない。

 

「でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「ひっ」

「だから徹底的に心折りまーす♪」

 

グシャアと最初の子の指を全部折っちゃう。

ついでに次の女の子の足をぐんにゃり曲げる。

うーん悲鳴が素敵。

達する達する。(大嘘)

 

「やめて……やめてください……」

 

ガチ泣き。

これには流石の俺も想定内。

いやだってこんな状況に置かれて混乱しない子とかいないでしょ。

だからこの状況は想定内で、これから説得していくわけである。

うーん外道。

 

「大丈夫だよ。君にはこんなことしないから、ね?」

「ひっ……ひっ……」

「だからね、他にこんなことしてる子を教えて、ね?」

「ひ、ひいいいい……!」

 

ね? と言いながら腕をミシッとさせるのは恐怖を感じさせることに成功したようで。

ボロボロと泣きながら容疑者を喋ってくれた。

うんうん、いい子だねー。

ぽんぽんと頭を叩いてあげる。

勿論優しくである。

 

「あ……?」

「ありがと♪ これで許してあげる」

 

俺はな。

 

というわけでみんなを解放してあげる。

ほら、痛かったでしょー。

もうしないからねー。

また同じことしなかったらねー。

 

そう言うとみんな散り散りに逃げていく。

そりゃそうだ。

みんなから見れば俺のことは悪鬼羅刹に見えたことだろう。

いや喰種だけどね。

 

 

 

「というわけで、これで安心よー♪」

「何が安心なんだ……?!」

 

そしてその報告をケイちゃんにする俺。

自分的にはバッチリな内容なんだが、ケイちゃん的には駄目らしい。

やっぱり指折り骨折りは駄目だったかー。

 

「違う! なんでこんな大事にするんだってことだよ!」

 

意外、怒鳴られた。

ここは「素敵! 抱いて!」となるのが主人公の常じゃないのか。

いや自分が主人公なのかは疑問だけど。

 

「だって降りかかる火の粉は払うべきでしょ?」

「……っ!」

 

軽く言った俺の台詞に、ケイちゃんは平手を繰り出した。

予想以上に速い。

俺じゃなきゃ直撃だね。

いやわざと受けたから直撃なんだけど。

 

「っ!」

 

何故か殴ったケイちゃんの方が痛そうな顔。

いやそりゃそうか。

喰種の肌だもんね。

普通の人間が殴ったら痛いよね。

 

殴った手をぎゅって握る。

ケイちゃんの顔が赤い。

風邪かな?(鈍感系主人公)

 

「いたいのいたいのとんでいけー♪」

 

かさかさと手を動かしてぴょーんと両手を広げた。

うん、すべすべだった。

いい感じで保養になるわー。

 

「あ、う……」

 

ケイちゃん、顔真っ赤。

女の子に手握られて緊張してる男の子みたい。

可愛い。(こなみ)

 

「と、とにかく! こういうのは駄目!」

「えー♪」

「えー、じゃない!」

 

ぷんすか怒るケイちゃん可愛い。(こなみ)

どうやらケイちゃんはあんまりこういう暴力的なのが好みではないらしい。

それもそうか。

普通の女の子だもんね。

かなりの美少女だけど。

 

「わかったー。これで終了ねー」

「わ、分かればいいんだよ。分かれば」

 

あっさり引き下がった俺に違和感を持ったのか、ケイちゃんが訝しげにこちらを見る。

失礼な、一回やらないと言ったことはやらないのだ。

多分。

きっと。

めいびー。

ぷろばぶりー。

 

 

 

「ところでアイドルやらない?」

「やらない!」

「あら残念♪」

 

 

 

夜の話。

またもや夜道にケイちゃんを発見。

危ないのでそろりそろりとつけていく。

普通の世界でも危ないというのに、喰種世界でロリ巨乳(推定)が護衛もつけずに路地裏とかディナーにしてくれと言ってるようなものである。

そんなの許さないよ。

食べるのは俺が先である。(違う)

 

クインケはなんとなくお留守番だが、赫子はいつでも準備万端だ。

最近赫子は葉っぱを出せるようになった。

更に枝に近づいたのには草。

というか葉っぱ生える。

 

「ん……」

 

暫く歩くと、唐突に座り込むケイちゃん。

なんだろ、野グソかな?(最低)

 

「にゃー」

「んにゃー」

「みゃー」

 

暫くすると、なんと子猫が3匹段ボールの中から出てきたのだ。

可愛い。

全部違う鳴き声なの凄い可愛い。

そしてそんな猫を見て頬を緩めてるケイちゃん超可愛い。

なにあれ天使?

じゃなかったら悪魔?

どっちでもいいか。

 

ご飯はあー昼食の残りかー。

あんまりいいご飯じゃないねー。

俺が飼えば普通の猫缶あげるのに。

いやもっと高級な奴もあげるし!

 

でもこのままいるのは危ない。

というか猫、猫危ない。

こんなところで生きてるのが奇跡なのに。

このまま生きていられるか分からぬ。

 

なら俺がすべきことは何なのか。

そう、あの猫を助けることである。(何)

 

 

 

「ケーイーちゃん♪」

「わっぴゃああああ?!」

 

俺は背後からケイちゃんに抱き着く。

うーんいい抱き心地。

じゃなくて。

猫よ猫。

可愛い猫さん。

 

「何? 猫? かーわーいーいー♪」

「ちょ、おま、静かにっ」

 

なんだよ分かってるじゃん。

音立てたら喰種に喰われるってこと。

ならこんなところにいるべきじゃない。

 

なのになんでこんなところにいるのか。

なるほど、こいつは底なしに優しくて馬鹿なんだ。

わかる。

わかった。

 

でもこのままだと普通に死ぬなこいつ。

駄目駄目、そんなのつまらない。(?)

そういう種を潰してあげよう。

 

「というわけで、猫は私が飼うよ♪」

「は……?」

 

段ボールを抱えて歩き出す。

にゃーんにゃーみゃー。

うーん可愛い。

これは飼ってあげてもいいかもね。

いや飼うんだけど。

 

「大丈夫、社宅だけど社長に頼めば大丈夫だって♪」

「いや、でも。なあ?」

「それにほら、早く帰らないと危ないぞ♪」

「ぐっ……」

 

喰種のことを臭わせるだけでほぼ脅迫成功。

簡単だぜ。(キリッ)

 

とにかく帰る。

今日はちょっと夜が遅くなった。

それだけ喰種が出てくる可能性が高いわけだが……。

 

 

 

……ほら、やっぱり。

周囲に嗅覚を向ければ無数の喰種のにおい。

しかも確実にこっちを狙ってる。

うむ、絶体絶命。

 

とことこと喰種がいないルートを通る。

流石に完全にいないわけじゃないが、上手く喰種同士がぶつかり合うようにしてる。

脳内の思考回路はぐるんぐるんである。

死にそう。

 

というかやっぱり無理。

どんだけ頑張っても喰種と接触する。

そうなるとこっちも応戦しなくちゃならないわけだけど……。

 

ちらりとケイちゃんを見る。

ケイちゃんの前で喰種の力を使うのは躊躇われる。

というか嫌われたくない。

そう思ったり思わなかったり。

 

 

 

しかし。

そこに救世主が。

そう、有馬さんである。

 

有馬さんが傘を使ってばっさばっさと喰種を薙ぎ倒し、助けてくれたのである。

これにはケイちゃんもニコぽ。

仕方ないとはいえなんかむかつく。

 

「このような時間に外出とは、感心しないな」

「あ、す、すいません」

「はーい」

 

ちなみにがっつり怒られた。

有馬さんのおつきの人とか何とかに。

クインケ持って来なくてよかった。

流石に持って来てたら怒られる程度じゃ済まなかっただろう。

 

 

 

「……」

「ん……なぁに?」

「いや……」

 

 

 

そういえば、ちょっと有馬さんに見られていたような。

気のせいかな?

気のせいだといいな。

うん。

 

 

 



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出会い4

出会い過ぎですが、出会ってもらわないと困ることがあるのもまた事実


「にゃーん」

「んにゃー」

「みゃーお」

「はぁ……可愛い」

 

拝啓、この世に来てから全く姿を見ない両親へ。

今俺は天国にいます。

猫が3匹うちにいて、その猫がケイちゃんに超懐いてる。

ゴロゴロうるさいくらいだけど、可愛い。

その猫たちに囲まれて頬を緩ませてるケイちゃんも可愛い。

 

荷物は全てクローゼットにしまってある。

クインケとかも出せなくなったからちょい辛い。

ご飯食べるのに赫子使わないといけないからつらたん。

使える服が少なくなっていくのだ。

なんで肩甲骨辺りから出るのん?

 

じゃなくて。

アイドルだからスキャンダルはNGだけど、女の子同士だからセーフ?(セーフとは言っていない)

いや実際どうなんだろう?

この状況、社長に伝えても大丈夫かな?

大丈夫な気もする。(楽観)

 

 

 

とにかく今日はもう登校時間だ。

早くにゃんこたちをケイちゃんから引き離さないと。

 

「あー」

「なー」

「みゃー」

「んなー」

 

あー可愛い。

もうこのままでいいかなー?

駄目です。

うん駄目。

 

「というわけで行くよー♪」

「うがー!」

「にゃー」

「にゃー」

「なむ」

 

引きずる俺と離れないケイちゃん&にゃんこたち。

めちゃくちゃである。

こんなに可愛がってたのかケイちゃん。

そりゃあ深夜に様子見に行くよね。

 

でも駄目です。

そんなことする子には猫缶あげませんよ!

 

 

 

「あうー……」

 

にゃんこたちは大人しくなった。

凄いな、日本語分かるのか。

伊達にあの危険区域を生き抜いただけあるな。

 

不貞腐れたように下を向くケイちゃんを引っ張って学校へと向かう。

可愛いかよ。

だが帰宅はしない。

甘やかさないって決めました。(教育感)

 

「ほら行くよー♪」

「ぶちーくろーしろー……」

「名前あるんだ……」

 

というか色のまんまだった。

ぶちは白の中に茶色いブチがいくつもついてる子だ。

可愛い。

 

 

 

「んあー」

「やる気ないねー♪」

 

やる気も気力も減ってる感じのケイちゃん。

にゃんこたちの為に生きてたんじゃあるまいか。

だからこんだけ気が抜けてるんだな。

 

時刻はお昼。

ご飯はなし。

ケイちゃんは学食のパンである。

濃いコーヒーを淹れてあげる。

ほら水筒から出すよー熱いよー。

 

「あちっ」

「もう♪ だから言ったじゃない♪」

 

すっとポケットからハンカチを取り出してこぼれたコーヒーを拭く。

胸元だけど女同士だからセーフ。(バレたらアウト)

さささっと拭いてハンカチをしまう。

あんまり出しておくのもはしたない。

 

というか、俺は午後の授業はお休みなのだ。

アイドル活動があるので。

許可は貰ってるのでセーフ。

貰ってなくてもセーフ。

というか社長がここの校長の上司(?)だし。

 

 

 

「というわけで行ってくるから、にゃんこたちのご飯よろしくねー♪」

「おう、分かったー」

 

じゃあねー♪ と車に乗って営業先へと向かう俺。

ちゃんと缶1つだけにしてくれるだろうか?

甘えられて2個3個とあげたりしないだろうか?

合鍵は既に渡してあるけど、割と不安。

 

「……ふぅ」

「お疲れかい、スバル君?」

「んーん、別にー」

 

疲れてるわけではない。

ないのだが、ちょっとね。

お腹すいた。(致命的)

 

コーヒーで誤魔化してたけど、そろそろ限界かも。

猫を飼い始めて2週間。

もうそろそろタイムリミットだ。

さっさとお食事に出かけなくては。

 

 

 

「じゃあ今日の予定だけどね―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――っと、お疲れ様」

「はーい、お疲れ様プロデューサー♪」

 

本日の営業は終了。

新作CDの販売のお仕事だった。

地道にCDショップを回って営業である。

ライブがない日はこんなもんである。

まあ小さなお立ち台でライブやるんだけど。

 

というか遠出してライブとか無理だからね、今の年齢じゃ。

夜の拘束ができないからね仕方ないね。

夜になる直前、6時くらいか。

その辺りでお暇した感じである。

 

「車で送らなくていいのかい?」

「うん♪ 今日は歩いて帰るんだー♪」

 

嘘だ。

これから路地裏に行って喰種狩って帰るのだ。

さっきからプロデューサーが美味しそうなステーキにしか見えない。

危険信号である。

 

「じゃあねぇー♪」

 

社長にはバレてるけど、プロデューサーにはバレていないであろう偽装のまま歩き出す。

路地裏直行は流石にまずいから、ちょっと表通りを通ってから。

人が多くなって目立たないくらいになってからすーっと抜ける。

 

え、格好がまずいって?

そんなわけない。

フリフリミニのふわふわスカートは仕事着なのだ。

今は肩甲骨が見えるくらい背中を露出したワンピースだ。

前は割と普通。

でも真っ赤。

返り血を浴びても平気なのだ。(重要)

 

きゅるきゅるきゅるっと包帯で顔を隠す。

流石に素顔で突っ走るわけにはいかないだろう。

でもお腹すいた。

 

 

 

「ッ―――――!」

 

路地裏に入った瞬間、加速。

もう我慢の限界だった。

目に映る障害物を蹴散らし蹴落とし飛び越えて駆ける。

ご飯を食べるの。

 

「な、なんだこのが」

「死ね」

 

蹴りで顔面を吹き飛ばす。

まさに一蹴。

とか考えてる余裕もなかった。

 

即座に噛みつく。

ガジガジ噛みついてもぐもぐ食べる。

うん、少しだけ落ち着いた。

 

ご飯食べりゅ。

もぐもぐと腕を食べる。

というかさっきまで何食べてたのか。

……まあいっか。

深く考えないことにした。

 

 

 

「けっぷぅ」

 

一通り食べてすっきり満足。

これで暫く大丈夫だと思う。

いやー獲物がすぐ見つかってよかった。

これで安心。

 

「……とはいかないかー」

 

ひたひたと背後からいくつもの気配。

というか喰種だ。

それも結構な手練れ。

俺が中々に強いからと言って油断すれば負けそうな感じだ。

 

甲赫を展開する。

久々の解放にいつになく興奮してる気がする。

枝のようだったそれに葉っぱがついてる。

なんか派手になったなっていうのが感想である。

 

ひたりと、歩いてきた音が途絶える。

いなくなったわけじゃなくて、その場で止まったってことか。

帰ってくれればいいのに。

そう思わずにはいられない。

 

相手の仮面は黒い犬と猿。

んん、2人組?

見覚えがあるようなないような。

 

まあいっか。

ここから逃げるのが先決だ。

 

というわけで脱兎。

三十六計逃げるに如かず、である。

というかお腹いっぱいだしダッシュで逃げれば逃げ切れるよねと思った。

 

 

 

駄目だったけど。

背後にピッタリ付かれてる。

俺の速度じゃどうしようもないらしい。

 

仕方なく枝を伸ばす。

パキパキと音を立てて枝が伸びる。

右肩甲骨から生えてるそれがちょうど俺の身体を覆いつくすくらい大きくなった。

ここまでやって甲赫は速度遅いって言われてたことを思い出す。

せやな。

こんな重いの背負ってれば遅くなるよね。

 

まあいいや。

とにかく展開した枝を更に大きく展開する。

パキパキと身体中が罅割れるような感覚に陥るが無視。

 

「ちぇい」

「!」

 

俺は横に大回転。

枝はガリガリと地面と壁を削りながら俺に追従する。

と、ちょうど道を塞ぐような状態になった瞬間枝を切り離す。

即席のバリケードだ。

しかも葉っぱ付き。

 

まあ当然のように飛び越えてくるわけだけど。

そこで葉っぱですよ。

まるで炸裂弾のように弾けた葉っぱが、飛び越えた2人の背中を襲撃する。

それっぽく使えないかなーと思ったら使えた。

想像力って凄い。(こなみ)

 

「くっ」

「ちっ」

 

地味に刺さる感じが効く様子。

というか俺にもちょっと刺さった。

痛い。

でも今は逃げる方が先である。

 

アディオス誰かさんたち。

俺は忙しいのだ。

主にアイドル生活と学校生活の両立で。

 

 

 

どうやら逃げ切れた模様。

一息吐いて路地裏から表通りに出る。

 

「おい、大丈夫かい?」

 

すると誰かが声をかけてくる。

面倒臭いけど反応しなくちゃ。

怪しまれるよね。

 

「うん♪ 大丈夫だよー♪」

 

きゃるーんと効果音を決めながらの台詞。

最近キレが上がって来たように思える。

流石俺。

 

「あ、ああ。ならいいんだ」

 

どうやら撃退に成功したようだ。

うん、やっぱり相手は男だった。

それに気付かないくらいには焦ってたわけである。

 

壮年のおじさんっぽい感じ。

痩せてる感じで、それでいて力強さも感じる不思議な人だった。

 

「……ふぅん」

 

()()()()

さっきの喰種達もどこかで見た記憶がある。

そして、目の前の()()()

 

 

 

なるほど、ここは20区か。

どうやら勢いで突っ走ったら凄いところまで来てしまったらしい。

……今日中に帰れるかな、これ。

 

「ふむ……泊るところがないのかい?」

「え? あ、いや」

 

考え込んでいると、どうやら家なき子だと思われたらしい。

いや、帰る場所はあるわけで。

ちょっと遠い場所まで来ちゃっただけで。

そう説明すると納得してくれた。

というか電話もしたしね、俺。

 

『マジでか。大変だなアイドル』

「そそ、ごめんねー♪」

 

ケイちゃんは誤魔化せたし、あとは目の前の紳士よ。

歩いて帰れば辿り着くだろうけど、それは辛いな。

うーん、悩む。

 

 

 

……ま、いいか。

折角助けてくれるのだ。

お世話になるとしよう。

 

「じゃあ、お世話になりまーす♪」

「ああ、いいよ。猫かぶりもね」

「……お見通しか。はぁ」

 

そんなわけで。

俺は今晩、あんていくに泊ることになったのだった。

 

 

 

ちなみにコーヒーはめちゃくちゃ美味かった。

 



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出会い5

出会ってばかりでしたが、そろそろ本編に向けて加速しないといけないかなと思っています


「ありがとうございました。コーヒー美味しかった」

「今度はお客として来てくれると嬉しいね」

「はーい♪」

 

お金は十分あるので、きっとお客として来ます。

今度はケイちゃんと一緒に来たいな。

自分がいれたコーヒーとえらい違いだった。

これがプロの味……! と勝手に戦慄してた。

 

 

 

タクシーを捕まえて豪華に帰宅。

鍵を開けて中に入ると、猫に塗れたまま寝てるケイちゃんの姿が!

……いや、おうち帰ろうよ。

女の子だよ君?

いや、俺が男だって気付いてないからか。

なら納得。

 

「……んにゃ、おはよう」

「おはよう♪」

「にゃー」

「んにゃ」

「みゃう」

 

しろくろぶちも元気のなようだ。

すりすりと寄ってくる。

おーご飯の時間か。

分かった分かった、ちゃんとあげるからねー。

 

ところでケイちゃんの格好が過激な件について。

異性がいないと思ってるからかキャミソールとパンツだけ。

ははは、俺が普通の思春期男の子だったら襲ってるね。

 

「もう、だらしがないぞっ♪」

「ぐえっ」

 

パンチと共に制服を叩きつける俺。

うん、こんな反応普通普通。

だから早く着替えてねー。

ちゃんと俺のいないところで。

 

 

 

昨日と同じやりとりを経て、学校に到着する俺達。

何かにゃんこ達への依存度高くなってない?

大丈夫?

まあいいか。

 

 

 

ところで。

この学校でも俺は性別を隠しているわけで。

 

「付き合ってください!」

 

いじめがなくなってからはこういうことが増えてきたわけで。

 

「ごめんなさい♪」

 

ということも増えてきたわけで。

撃破女王と言われるようになってきた。

撃破王女はケイちゃんらしい。

いらない情報で草。

 

ショックを受けた少年が崩れ落ち、友人に引きずられていく。

可哀そうに……あの状況にしたのは俺だけど。

でも俺に告白するのが悪いんですのよ。

 

というか、今全盛期と思われるアイドルに告白するとか勇気あるよね。

俺なら絶対やらないよ。

俺が言うのもなんだけど。

 

というか数か月でほぼトップアイドルに登り詰めるとかどんな手腕してるんだろうあの社長。

というかプロデューサー。

芸人的なお仕事がないのは楽だけど、逆にどうやってここまで持ち上げられたのか。

大丈夫? 黒いお金使ってない???

 

 

 

「……なあ」

「なぁに?」

 

告白撃退後、屋上でぼーっとしているとケイちゃんが来た。

何やら疲れている様子。

おいでーいい子いい子してあげるよー。

 

「いらないから」

「そぉ?」

 

少し頬の赤いケイちゃんをスルーしつつ、ちょいちょい手招き。

そろそろと寄ってくるケイちゃんはまさに猫。

というか猫科だよねこれ。

わかる?

わかる。

 

今日はご飯をここで食べよう。

そう言うと更に寄ってくるケイちゃん。

やっぱり猫だね。

かわいい。

食べたい。

おっと喰種成分が。

 

「今日のコーヒーはプロの味よー」

「へぇ……」

 

ちょっと駅前のコーヒー店で買ってみたブレンドコーヒー。

中々の味だった。

俺自身コーヒーを淹れる才能に溢れてるおかげか。

どうやらケイちゃんも気に入ってくれたようだ。

 

ちなみにケイちゃんは砂糖3杯。

甘党だね。

ミルクもつけてあげよう。

 

「ん、美味しい」

「よかったー♪」

 

満足である。

 

 

 

 

 

 

そういえばであるが。

俺達をいじめていたお嬢様(今更性別公開)なのだが。

今俺の真後ろで絶賛宙吊り中である。

 

既にケイちゃんは教室に帰っている。

というかここから先は見せられないよね。

ふふふ、可愛い子。(意味深)

 

「あ、ああ……あああ……」

「大丈夫♪ 別に怒ってないから♪」

 

お嬢様は涙を流しながら宙吊り。

腕にだけ縄をぐるぐる巻きにして、窓に引っかからない高さに調整。

ちょうど木の陰に来るようにしてあるのでバレない。

完璧な計画である。

 

「私はあなたに同情してるの……()()()()()()()()()()()()()()()()♪」

 

ニッコリと笑いながら、縄を揺らす。

そう、俺達をいじめていた連中の矛先は今このお嬢様に向いているのだ。

可哀そうに……心底そう思う。

俺のせいだけど。

 

「だけど、どうして私をいじめようと思ったの? そこが分からないの」

 

そう、そこが分からない。

いやアイドルだからってことで納得しないでもないんだけど。

それだけではないような気がしないでもないというか。

 

「わたくしっ……もしかしたらって思ってましたの……!」

「んー?」

()()が、わたくしと同じだと……!」

「……へぇ」

 

()()、ねぇ。

もしかしたらであんな行動をするとは不思議である。

いや、問題はそこじゃないわけで。

 

同じ匂い。

人間と違う匂い。

つまりは()()()()()()なんだろう。

 

お嬢様を引き上げる。

うん、こんなことする必要なかったね。

ちょっとノリで行動するのやめよう。(戒め)

 

「ねぇ、名前なんて言うの?」

「ま、あ」

「ごめんね。あんまり興味ない事柄だったから」

 

ショックを受けたように項垂れるお嬢様。

せやな。

自分もそんな風に言われたらショック受ける。

 

「……篠宮(しのみや) (あかり) 、ですわ」

「ふぅん……アカリちゃんか」

「あかっ……!」

 

大丈夫、一度聞けば覚えられるから。

うんうん、アカリちゃん。

可愛いよ。(はぁと)

割と気持ち悪いのは自覚してる。

 

くいっと顎を手で持ち上げるようにこちらへ向ける。

顎くいって奴だ。

それでよく顔を見る。

 

泣いているけど、可愛い顔だ。

少したれ目で茶色の瞳。

ややふっくらとした頬に、ちょっと低めの鼻。

髪はゆるふわウェーブで、肩甲骨辺りまで伸びている。

色はやや茶色がかった黒。

 

アカリちゃんの匂いを嗅いでみる。

うん、ここまで近づけばわかる。

()()()()()()

 

「あ……間違いないですわ……」

 

そういえば、相手からも匂いはわかるわけで。

ということで、お互いに喰種だってわかったわけで。

 

すっと小指を出す。

アカリちゃんもすぐに気づいた様子で小指を出す。

指切りである。

 

「このことは2人だけの内緒だよ♪」

「あ、はい……」

 

これで安心。

ついでにいじめに関してはどうにかしちゃおう。

もう充分辛い思いをしただろうし。

社長に頼めばいじめ問題は一発である。

 

 

 

とりあえずいじめに関わってた人間はトバしてー。

お金を渡して口止めしてー。

駄目なら家族は不幸な事故で死んじゃったってことで。

流石に最終手段だけど。

 

まあいっか。

大丈夫でしょ。

駄目なら駄目でご飯が手に入るわけで。

とりあえずこれはケイちゃんに教えておこう。

 

 

 

「……は? いじめがまだあったのか?」

「んもーケイちゃん自分が対象じゃなくなったらって無関心なんだからー♪」

 

どうやらがっつり忘れてた様子。

というか気付かなかったんだ。

割と露骨だったと思ったんだけどなー。

 

猫じゃらしで猫達と遊んでいるケイちゃんに、アカリちゃんを会わせた。

善は急げだ。

俺は全然善人じゃない気もするけど。

 

「……あの」

「……………」

「その、あの」

「……………そいつが許すなら、いい」

 

ふいっと顔を背け、猫に集中するケイちゃん。

どうやらケイちゃんも許してあげるってことらしい。

素直じゃないというかなんというか。

まあ因果応報も済んだ(?)ことだし、終わりでいいよね。

 

 

 

「でも、ケイちゃんに私の正体バラしたら駄目だよ?」

「えっ」

「駄目だよ♪」

「あ、はい。わかりました」

 

 

 

 

 



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デート

酷いことした後優しくするのは洗脳の常套手段ですね


「うーん」

「どうしたんだい、スバル君?」

「ああいや、何でもないよ♪」

 

アイドル活動後の話。

やっぱりソロでは限界があるかなーと思う次第。

やはりユニット活動が必要だと思うわけですよ。

 

「いえ、貴方の個性に見合うキャラクターがいらっしゃらないので」

「……あれ、もしかしてディスられてる?」

「いえ、そんなことは」

 

ふるふると首を振るプロデューサー。

そお? ならいいんだけど。

たまに俺に対して辛辣だったりして困る。

まあその分手腕は半端ないんだけど。

 

「んもー社長に言いつけてやるんだから―」

「お戯れを」

「ねえ、たまに私のこと馬鹿にしてるよね?」

 

いえそんなことは、とプロデューサー。

目をそらしているっていうことはそういうことなんだろう。

軽く脇腹を小突いておいた。

 

 

 

「……ってことがあったんだけど、どう思うー?」

 

翌日の話。

ケイちゃんとアカリちゃんと一緒に昼食。

今日のコーヒーもお店ブレンドを自家製マシンで淹れた。

 

「どうでもいいよ」

 

ケイちゃんはコーヒーを一口。

甘さが足りないのかミルクを足した。

本当にどうでもいい感あるね、これ。

 

「あの、わたくしはそういうのよくわからなくて……」

 

ごめんなさいとでも言いたげなアカリちゃん。

別にいいんだよーと頭を撫でる。

 

「あぅ、その……」

 

あわあわとでも言いそうな顔で顔を真っ赤にするアカリちゃん。

こういうのに慣れてないのかな?

というかスキンシップに免疫がないっぽい。

これがなでポ……!

 

いやないな。

テクニックとかないし。

 

「むっ」

 

ケイちゃんが何やら膨れっ面。

どういうことなのか。

何、何か不満なの?

俺には分からぬ。

 

 

 

うーん惜しいなー。

3人でアイドルやればかなりの間上位キープできそうなんだけどなー。

当人たちにやる気がないんじゃ意味ないし……。

 

ゆるふわ系お嬢様(喰種)と銀髪メカクレ系オッドアイとかもう注目の的である。

まあお手付きは厳禁ですがね。

俺が許さないよ???

多分社長も許さないと思う。

 

 

 

昼食も終わり、解散する。

とはいえアカリちゃんは一緒のクラスなので一緒に。

というか一緒にいないといじめ再発があり得るから困る。

いや原因は俺なんだけどね。

まあアフターケアくらいはちゃんとやる。

 

そうすることで味方も増やせる。

喰種の知り合いが増えればいくらか動ける範囲が増えるだろう。

ケイちゃんの友達も増えるだろうしねー。

あの子、俺以外に友達いなそうだし。

 

というかアカリちゃん、食事はどうしてるんだろう?

お嬢様っぽいから家で何とかしてるのかな。

ちゃんと家族がいるのだろうか。

割とその辺まで踏み込んでないな。

 

そういえばケイちゃんもどうなんだろう。

気になりだすと止まらない。

後で聞いてみるかな。

でもあんまり聞くとセクハラになったりしないかな。

……大丈夫か。

 

ともかく。

明日辺りデートでもしようかしら。

3人だけど。

 

 

 

「あの、どこに向かっているのでしょうか……?」

「い・い・と・こ・ろ♪」

「不安だ……」

 

翌日。

20区のあんていくを目指してデートすることにした。

結構遠め。

だけどみんなで歩くのいいよね。

一応だけど、俺はサングラスで変装して。

 

 

 

「ねぇねぇお嬢ちゃんたち、俺達と一緒に遊ばない?」

 

訂正。

タクシー使って一気に行くべきだった。

ナンパ男達が面倒臭すぎる。

ああ、1人だったらぐっちゃり肉塊に変えてたというのに。

 

「は? どっか行けよ」

「あ?」

「あわわわ……」

 

ケイちゃん度胸あり過ぎ。

男相手にその喧嘩腰は半端ない度胸ですわ。

なんでいじめをそのままにしていたのか疑問なレベル。

アカリちゃんの方が動揺してる。

 

「お? やんのか?」

「んだこいつ……」

 

どうやら荒事になりそうだ。

というかなんで俺がこういうことで悩まないといけないのか。

 

「えい♪」

「え……?」

 

仕方ない。

俺がどうにかしちゃおう。

男の1人の腕を握ってぐにゃって折る。

骨死んでるねー不味そう。

 

「あ、ああああああ?!」

「うるさい♪」

 

顔面にグーパンチ。

ナンパ男1はきりもみ回転して吹っ飛んでいった。

これには残りのナンパ男も動揺。

流石にそうなるよね。

一番小さい華奢だと思ってた奴にぶっ飛ばされたら。

 

そういえば、今集まってる3人の中で身長が一番小さいのって俺なんだよね。

女の子の方が成長早いから仕方ない部分もあるんだけど、ちょっと屈辱。

八つ当たりしよう。

 

「えーっとぉ。次は誰が飛ぶ?」

「ひ、ひいいいいいい!?」

 

みんな逃げていった。

残念。

ナイフとか持って襲い掛かってくるかと思ったんだけど。

思ってたより度胸なかった。

 

「容赦ねぇな……」

「す、すごいですね……」

 

なんか若干引かれてる。

少し傷付きますわ。

折角邪魔者を蹴散らしたというのに。

やっぱり暴力的なのは好かれないということなのか。

時代は文科系か。

 

「もうっタクシー使うよ!」

「歩くんじゃなかったのか」

「贅沢ですわ……」

 

騒ぎが大きくなってきたので、さっさとタクシーで雲隠れする。

というかこういう解決方法多いよね、俺。

こんなに暴力的だっけか。

……ま、今はあんていくのコーヒー飲むことだけ考えよう。

 

というかアカリちゃん、お嬢様風だけど結構貧乏性ね。

 

 

 

「あー美味しいー」

「おおー……」

「美味しいですわ……」

 

今日のコーヒーはあんていくオリジナルブレンド。

めちゃくちゃ美味しい。

なんだろう、どんな豆使ってるんだろう。

うーんわからん。

 

「ふふ、また来てくれたね」

「はい、また来ちゃいました」

 

店長さんとお話楽しい。

さっきの殺伐とした雰囲気も消えてなくなった。

うん、いいコーヒー。

ここに美味しいお肉があったらまた更にいいのだけど、贅沢である。

 

「みんなも気に入ったみたいでよかったー♪」

 

みんな無心でコーヒーを飲む。

ケイちゃんだけはサンドイッチを食べてるけど。

俺達チーム喰種はダイエットだと言って食べない。

アイドルの俺に対して不信感を持ってないから暫くこの言い訳で大丈夫かもね。

 

「いや、本当に美味しい。お持ち帰り出来ないのが残念」

「はは、褒めてもコーヒーしか出せませんよ」

 

わーい。

いや本当に美味しい。

 

「これからたまに来ようねー♪」

「おう」

「あ、はい」

 

これで楽しみが増えるなー。

いや本当に。

 

 

 

 



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番外:蛍

ヒロインの視点です
鬱っぽいようなそうでないような


「気持ち悪い」

 

誰の言葉だったか。

いや自分の言葉だ。

自分自身に対する言葉だ。

 

気持ち悪い。

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。

こんな身体気持ち悪い。

 

ああこんなことなら素直に死んでいればよかった。

こんな風に生き恥を晒すこともなかっただろうに。

狂いそうになる。

いやもしかしたらもう狂っているのかもしれない。

 

『ふん♪ ふんふん♪ ふーんふん♪』

 

ふと、流れていたテレビから歌声が聞こえる。

見ると、そこには煌びやかな衣装で歌う少女の姿。

ああ、可愛らしい。

自分とはかけ離れたそれ。

 

ああ羨ましい。

あれは自分が綺麗だって自覚している。

自分が正しく生きてると思っている。

妬ましい、とも思う。

 

 

 

学校に来る。

何もない。

話す相手もいない。

話しかけてくる相手もいない。

 

ただ単に日々を過ごすだけ。

それだけだ。

生きている実感もない。

 

ふらりふらりと揺れるように歩く。

力のない歩みだと自分でも思う。

けれど、それ以上に自分を動かす原動力というものはなかった。

 

 

 

しかし。

 

 

 

「あ、悪いんだけど、校長室ってどこか分かるー♪」

 

 

 

今この場に原動力が飛び込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

綺麗な子だった。

というかアイドルがこんな学校に来るとは思わなかった。

ふんわりといい匂いが香ってきたような気もした。

 

案内した後、自分の教室で授業を受ける。

やはり味気ない。

一度受けた内容はつまらない。

生まれ直した弊害である。

 

一応受けるふりはしているが、それでも教師にはわかるのだろう。

自分がちゃんと授業を受けていないのが。

だからだろうか。

教師が自分に興味を持たなくなったのは。

 

それと、何故か周囲の生徒達も反応しない。

こちらは本当にわからない。

気付いたらという感じである。

 

誰かが仕組んだのだろうか。

それならば理由は、などと考える。

先程まで考える気力すらなかったというのに。

 

「ふん……」

 

それもこれも、今出会ったアイドルのおかげ、ということだろうか。

馬鹿馬鹿しい。

そう思ったが、否定もできなかった。

 

 

 

授業が終わる。

それと同時にふらりと逃げるように学校を抜け出す。

いつものことだ。

 

徒歩で家へと向かい、辿り着く。

移動時間が限りなく少ない学校を選んだのだ。

当然といえば当然。

 

「……」

 

家には鍵。

親はいるがまともに顔を合わせたことはほとんどないだろう。

それほど両親は多忙だった。

 

いつものように鍵を開けて中に入る。

自分一人には不釣り合いな大きな家は冷たさすら感じさせる。

いや、感じるようになったのも今さっきの出会いの影響か。

 

 

 

「ふぅ……」

 

お風呂に入る。

いつものことだ。

外から帰るたびに入るように義務付けられている。

 

自身の身体を眺める。

なだらかな曲線とやや不自然に膨らんだ胸。

不自然な銀髪の髪が腰のあたりまで伸びていて、前髪で目の辺りを隠している。

その眼は右目が青く、左目が赤い。

 

「……気持ち悪い」

 

呟く。

かといってそれで何かが変わるわけでもなかった。

ただ単に自分が卑しい存在だと再確認するだけだ。

 

気持ち悪い。

その言葉が自分を埋め尽くす。

 

しかし、先程の子が脳裏に映り、思考がぶれる。

いや、そんなはずがない。

自分がそんな風に思うはずがない。

()()()()()()()()()()()なんて、おこがましいにもほどがある。

 

「……っち」

 

舌打ちひとつ。

そのままお風呂を出る。

いつものことだ。

いつものこと。

そう自分に言い聞かせる。

 

そして布団に入り、寝る。

いつも通りだ。

身体の能力を維持するには体力がいるのだ。

この身体は燃費が悪く、夕食が用意されてなければ寝るしかない。

いつものことだ。

 

 

 

そう、いつも通りの日常がまた続くと思っていた。

 

 

 

しかし。

 

 

 

「なんだ……?」

 

数日後、アイドルであるあの子の周りから人が消えた。

まるで示し合わせたように一斉にだ。

誰かが指示したとしか思えない。

 

「……ふん」

 

いじめ、か。

自分が置かれている状況を棚に上げ、小さく呟く。

仕方ない。

あれだけ眩しい存在、直視することなんてできるはずもない。

 

もし示し合わせた人がいるのなら。

その眩しさに魅了された人かもしれない。

何となくそう思った。

 

 

 

「にゃん」

 

帰宅中、路地裏から小さな鳴き声。

ふとその先を見ると、子猫が3匹段ボールの中にいた。

 

「……」

 

いつもなら。

あのアイドルと出会うことさえなければ。

放置していたであろう子猫。

 

しかし、今の自分では放置することができなかった。

駆け寄り、しゃがみ込む。

 

「にゃーん」

「うなー」

「にぃ」

 

「……ふふっ」

 

可愛い。

感情が動かされることなんて久し振りだ。

 

手を差し出すとすりすりと寄ってくる。

可愛い。

昼食の余ったパンを上げると一瞬戸惑う様子を見せたが、すぐに齧りついてきた。

お腹が減っていたんだろう。

 

家に連れ帰ろうか悩むが、それは無理か。

一応親のいる身である。

家族の相談なしでは動物は飼えないだろう。

 

残念だがお別れである。

誰か優しい人に拾われることを祈るしかない。

後ろ髪引かれる思いでその場を後にした。

 

 

 

翌朝。

登校途中。

急いで子猫がいた場所へと向かうと、未だに段ボールと一緒に子猫が残っていた。

安堵するやら不安に思うやら。

 

とにかく。

昨日買っておいた猫缶をあげる。

お小遣いはささやかなので、あげる猫缶の値段もささやか。

愛情はお金じゃないけれど、あって困るものではないのでもっと貰いたい。

いや、それまで無頓着だったから貰えないのか。

あとでねだろう。

 

 

 

「ふふん♪ ふふふ♪ ふーん♪」

 

昼休み。

昼食を買うために購買部へ向かおうとしたところで例のアイドルを見つける。

独りでいるのに元気そうだ。

 

「……なあ、お前」

「ん?」

 

話しかけてみる。

最初に出会った時は一瞬だったので、会話らしい会話はしていない。

不愛想になってしまったのは、やはり会話らしい会話をしたことが少な過ぎるせいだろうか。

 

「なぁにぃ?」

「うっ……」

 

こちらをのぞき込むように顔を向けて来る。

何だこの生物、可愛い。

いや、これは自分が可愛いって分かっている。

 

座ったままずりずりと近寄ってくる。

あんまり寄らないで欲しい。

自分と比較されたくない。

 

「もしかしてファンだったりする? サインあげよっか?」

 

キュポンっと音を鳴らしてサインペンのふたを取り、ハイハイで近寄ってくる。

普通の人間では許されないような恰好。

あざとい。

そのくせ可愛い。

腹立つ。

 

「べ、別に……そんなんじゃない!」

「あうっ」

 

つい蹴倒してしまった。

足が出てしまった。

しかしやってしまったことをなかったことにはできない。

慌てて逃げることしかできなかった。

 

 

 

「はぁ……」

 

人を蹴倒してしまった。

ついやってしまったとはいえ、反省である。

でもあっちが無防備で突っ込んでくるのも悪い。

そう自己弁護した。

 

「にゃー」

「なう」

「うんにゃ」

 

子猫が寄ってくる。

今日は少し遠出して美味しいと評判の猫缶を買ってきた。

インターネットくらい使えるのである。

おかげで夜になってしまったが、この辺りの治安はいいので大丈夫。

 

 

 

……だと思ったのだが。

 

「きゃああああああ!?」

 

こんな日に限って喰種に出会う。

ああ、なんてついてない。

だらしない声を上げ、動けなくなってしまった。

 

せめて、せめてこの子猫達だけは。

そんな風に思いながら目をつぶった。

 

 

衝撃、痛みはない。

ただ音が響いた。

目を開くと、目の前で喰種が真っ二つになっていた。

 

「あ……ああ……」

 

動けない。

何故なら、まだ何かがいたからだ。

 

目だけ見えるようにぐるぐる巻きの包帯と、大きめなマスク。

そのマスクに大きく『斬』の文字が書かれている。

右手には身の丈ほどの刀。

そんな姿の何か。

 

喰種だろうか。

それとも人間なのだろうか。

分からない、分からないが。

助けてくれたことだけは事実。

 

お礼を言おうとすると、その人は一瞬でいなくなってしまった。

まるで人間業とは思えなかった。

やっぱり喰種だったのだろうか、

それなら何故自分を食べなかったのか不思議なのだが。

 

「にゃー」

「にゃにゃ」

「むにゃー」

 

子猫達の鳴き声で正気に戻る。

ああ、生きているんだ。

そう思うと急に身体から力が抜ける。

 

「は、はは……」

 

力なく笑う。

さんざん生きることが辛いと言っておきながら、いざ死にかけてみるとこれだ。

度し難い。

 

 

 

ああでも。

あの人にまた会えるのは、少しだけ嬉しいかもしれない。

そう思った。

 

 



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デート1

ランジェリーのサイトを見ながら書いてると自分が変態になった気になります


「もぐ……もぐ?」

 

もぐもぐと元気に食べてるケイちゃんが驚きの発言をしたので戦慄。

アカリちゃんの方を見ても驚いた顔で固まっている。

 

「……いやいやいや。ないない」

 

実際駄目だと思う。

未だにスポーツブラとか、健全な男子の性癖を壊しかねない……!

 

 

 

「というわけで、買うよ! 下着!!」

「こ。高級店ですわ……!」

「えぇ……」

 

バーンっと下着店を背に2人を案内する。

ここは社長お勧めのお店なので、信頼できると思う。

ちなみに社長は男性。

何故知っているのか疑問。

 

普通のブラ。

それでもいくつも種類があったりする。

胸全体を覆ったり、半分くらい覆う奴とか様々。

肩紐がない奴とかもあるので色んな服に合わせられる。

 

「これならスポーツブラでいいんじゃ……」

「駄目ですわ」

 

駄目でござる。

購入決定でござる。

 

ロングブラ。

腰辺りまで布地があるタイプ。

アンダーまで補正がかかるのでその辺りが心配な方もお勧め。

ファッション性を重視したビスチェとかも似たタイプ。

 

「……胸の辺りがきつい」

「まぁ」

 

……ケイちゃんはおっぱい大き目だから合わないらしい。

確かにトップとアンダーの差が大きい場合は合わないだろうが。

うらやま、いや何言ってるんだろう俺。

エロい。

 

キャミソール。

腰丈で肩部分が紐状のそれ。

インナー用とアウター用があるが、これはインナー用。

ロングブラよりふわっとしてる印象。

 

「……恥ずい」

「お似合いですわ」

 

購入決定。

淡い色をいくつか選んで購入。

エロい。

 

ベビードール。

裾がフレア(膨らんでいる)になっている下着。

丈は結構種類があって、太ももまであったりおへそが見えたりと。

個人的にはおへそが見える方が良かったり。

 

「いや待て、これは生地が薄いにもほどが……!」

「……ノーコメントですわ」

 

さもありなん。

購入決定である。

個人的な趣味だった。

 

 

 

さて次はショーツである。

いや、普通でいいんだろうけど。

折角だし選んでおこうかと思って。

 

「というわけで逃げないよーに」

「ですわ」

 

店の出口を塞ぐ俺達。

こんな面白……もとい可愛いイベントを逃すわけにはいかないのだ。

男だと気付かれる前にしか見られないイベントだろうし。

 

「でもTバック構えながら言うのはやめろ!」

「パンツルックなら必須なのに?」

「う……」

 

パンツルックの時は下着の線が見えちゃうからね。

男用もあるから、あとで通販で買わなくちゃ。

スカートばっかりだけどね、俺。

 

「ぐぬぬぬぬぬぬ」

「そんなに……でもそうですわね、悩みますわよね……」

 

何故か悩んでいるケイちゃんに、同調してるアカリちゃん。

でもねー買っちゃうからねー。

ガッツリ下着を放り込んだ買い物かごをカウンターに置いて店員を呼ぶ。

 

「ちょ、おま」

「え、もしかして私の奢りを無下にするっていうの?」

「う、うぐっ」

 

お金持ちの特権である。

というかこのメンバーでお金を自由に使えるのは俺だけっぽい。

アカリちゃんは予想以上に貧乏そうだし、ケイちゃんはお小遣い制くさい。

この後のお出かけご飯でも俺の奢りになってる。

俺が決めたんだけど、誰も拒否できないのだ。

 

「ふふふ、いーんだよ? その場合ケイちゃんのお昼ご飯はお茶漬けになるけど」

「ごめんなさい」

 

土下座する勢いのケイちゃん。

そうだよね、美味しいごはん食べたいよね。

 

というわけで購入決定です。

美味しいご飯と引き換えに羞恥心を捨て去ったケイちゃん。

大変可愛らしいと思います。(こなみ)

 

 

 

「……で、結局スバルは何か買ったわけ?」

 

デラックスチョコパフェを食べながら、ケイちゃんが俺に聞いてくる。

ちなみに1260円だ。

割といい値段する。

 

「ん? 私はほら、会社の方が用意してくれるから別に……って感じ?」

「羨ましいですわ……」

 

俺達喰種組はコーヒー320円。

そこそこするが、やっぱりあんていくの方が美味しいかな。

あとは専門店のブレンドか。

 

ちなみに俺の下着は一応男性もの。

とはいえトランクスとかではなくボクサーブリーフだったりブリーフだったりTバックだったりと。

衣装に合わせて変わる感じ。

でもパンツルックは未だにないのでスカートに合わせる感じ。

ふわふわスカートばっかり。

 

「ま、私はみんなと一緒にご飯食べるの好きだし、気にしなくていいよー」

 

コーヒーひとすすり。

本当は美味しくご飯と行きたいところだけど、人肉の匂いはちょっとねー。

バレる可能性が高いし。

学校なら加工品持っていけば割と何とかなるんだけど。

 

「ふーん……」

 

ケイちゃんもパフェを一口。

うーん甘そう。

どうしても前世(?)の感覚が抜け切らない。

今は人肉しか食べれないはずなのにねー。

 

 

 

チーズケーキを一口。

うんまずい。

ゲロ吐きそう。

 

でも顔はニッコリ笑顔で。

笑顔はアイドル活動で鍛えてるから余裕。

あとで吐き出すから噛まないように飲み込んじゃう。

 

「はー……」

 

アカリちゃんは俺の様子を見て汗をかく。

うん、喰種にしか分からないだろう感覚。

どうして笑顔になれるのか不思議なんだろうね。

 

まあ慣れよね。

俺も最初は結構駄目だった。

でも笑顔で食べられるようにならないとお仕事減るからねー。

頑張ったのである。

 

 

 

「……っま、あんまり食べると太るからね。私は食べても太らないタイプだけど」

 

もう一口。

普通の喰種だとこの辺りでギブなんじゃないだろうか。

俺は我慢できる子だから余裕だけど。

 

ところで2人がこっちを凄い目で見てくる。

え、なに?

なんか凄いこと言った俺?

 

「羨ましいですわ……」

「なに、なんか嫌味?」

 

なんだろう、黒い感情がもやもやと見える。

本当のこと言っただけなんだけどなー。

真実が一番残酷だというのは誰の台詞だったっけ。

まあいいや。

 

パフェを完食した上にケーキまで食べたケイちゃんを凄い目で見るアカリちゃんをしり目に会計。

中々のお値段。

学生の身には辛い出費だろう。

まあアイドルだから余裕だけど。

 

 

 

とまあ色々あったけど、帰宅の時間。

しかしみんなが向かう先は俺の部屋。

つまりは子猫の様子を見るのである。

 

「なあ」

「うんにゃ」

「なご」

 

今日も元気に猫缶を食べる子猫達。

いやはや成長してきたものである。

ちなみにアカリちゃんが最初に来た時はひと騒動あったのだが、おやつ作戦で一発だった。

うんうん、餌付けって楽だよね。(ケイちゃんを見ながら)

 

「ぶちーくろーしろー。今日も来たよー」

 

ケイちゃんは子猫3匹のど真ん中に飛び込んで抱きかかえている。

子猫達もうなーごろごろと喜んでいる様子。

彼ら的にはケイちゃんが親なのか。

俺にはたまに噛んでくるからな。

甘えてくれてるのならいいんだけど。

 

「ああっ……癒されますわー」

 

アカリちゃんは何やらストレスがあるらしく、中学生とは思えない反応をする。

いやまあわからないでもないけどさ。

癒されるのは同意。

俺も癒されてるわ。

 

でもその視線がちょっとケイちゃんの方に向いてるような気がするのは気のせい?

大丈夫?

百合は生産性ないよ?

そもそも喰種と人間のそれはやばいよ???

 

 

 

「はー……また明日」

「また明日、ですわ」

「うん、じゃあねー」

 

暫く子猫達と戯れた後、2人は家を出る。

ケイちゃんの家の方が近いから、アカリちゃんが送ってから家に帰るとか。

喰種がいれば安心だよね……多分。

 

ケイちゃんはまだ未練があるみたいだけど、ほぼ毎日来てるのにそれはどうなのと思わないでもない。

月一とかそんなレベルの執着度だよねそれ?

アカリちゃんに引っ張られるように離れている様子を、俺は暫く手を振りながら見送った。

 

 

 

夜の時間である。

子猫達も寝静まる丑三つ時。

俺はいつものマスクを着けてクインケ持って外に出た。

今月2回目のご飯である。

 

「つ、"辻斬り"だ!」

 

出会った喰種が叫ぶ。

クインケを持つ喰種が珍しいのか、最近そう呼ばれるようになったのである。

 

まあそんなわけでぐさりと刺す。

狙いは赫包。

瞬間的にひねって傷を広げ、そのまま斬り上げる。

 

「あ、が」

「死ね」

 

そして首を刎ねる。

ここまで赫子未使用。

というか最近は使わなくても勝てる。

元々強い喰種いないしね、ここ。

 

とにかく。

ご飯も確保してウハウハ。

技術も向上して2倍おいしい。

 

やったぜという思いを込めてシャキーンと構えると、クインケの先端がボロリと砕けた。

あれ、もしかしてメンテナンスとか必要なの?

 

……いやそうか、そうだよね。

これってクインケ鋼で形を維持してるわけで。

そのクインケ鋼が劣化してくればこうなるのも必然というか。

 

 

 

「というわけで、来ちゃいましたー♪」

 

翌日、俺は和修家の門を叩いた。

 



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出会い6

たまに設定とかミスったら教えてくれると嬉しいです。
あ、感想はちゃんと読んでますよー


「ふん♪ ふん♪ ふふーん♪」

 

オンステージである。

部屋にあった古いステージ服を着て、和修家の庭で踊る。

キレは久々に決まったと思うレベル。

 

歓声が2つ。

1つは旧多さん。

もう1つはリゼさんである。

 

「うーいぇい♪」

「いぇい!」

「いぇーい!」

 

きゃるーんと可愛くポージング。

それと同じように2人もポージング。

あらかわ。

 

「きゃー♪ ありがとー♪」

「わー」

「きゃー」

 

パチパチと拍手。

どうやら気に入ってもらえた模様。

リゼさんもいい感じに思ってくれてるかなと。

 

とおもったらいきなりぎゅーって抱きしめられた。

うにゃー苦しいー。

リゼさんの筋力でやられると普通の抱きしめも殺傷能力持ってしまう。

というか真面目に死ぬかも。

 

「ぐぇー」

「あらごめんなさい」

 

潰れているとすぐに手を離してくれたリゼさん。

あらやだ優しい。

と思ったら噛まれた。

痛い。

 

「あら……喰種?」

「うん、喰種」

 

味でバレたらしい。

うん、喰種なの。

でも内緒にしてね。

旧多さんは多分知ってるけど。

 

「黙っててくれたら新作のアクセサリあげる!」

「あらいらないわ」

「そっかー」

 

どうやらアクセサリには興味がない感じ。

わかる。

俺もあんまり好みとかない。

ちょっと首元が寂しいならネックレスつけるかなってくらい。

 

「じゃあどうしようかしらー?」

「えぇー酷いー」

 

リゼさん、思ったより遊びがあるなー。

でもこのままだと俺社会的に死ぬのよねー。

どうしよっかなー?

 

「お願いしますー言わないでー……ね♪」

「ええーどうしようかしらー?」

 

やめてよーいやよーと追いかけっこ。

あら可愛い。

でもこのまま流布されると普通に干されるんで困る。

 

「お願い♪」

 

きゃるーん。

本日最大級のきゃるーんである。

これが効かなければ(社会的に)死ぬしかない。

 

「うーん……仕方ないわねぇー……」

「わーいお姉さん大好きー♪」

 

セーフ?

ともかく、今度はこっちがぎゅーってする番。

ありがとーという気持ちを込めて腰にぎゅーって抱き着く。

ふふふふ、という声が聞こえてくるから満更でもないはず。

……多分。

 

「ははは」

 

旧多さんも笑ってる。

うう、ちょい恥ずい。

 

でもちょっと羨ましがってるでしょ。

分かるよそういうの。

アイドルだしね。

 

 

 

「とにかく! クインケ直しておいてね!」

 

ぎゅっとリゼさんの腰に抱き着いたまま言う俺。

抱き心地がいい。

やっぱり女の子っていいよね。

いい匂いするし。

 

「離しなさい?」

「ぐえ」

 

駄目だったらしい。

肘で頭を小突かれた。

割と痛い。

本気っぽい。

 

あんまりしつこいと赫子でずばばばっさりされそうなので離れる。

ぐさりざくざくかな?

まあいいや。

 

 

 

ばいばーいとお別れする俺。

2人ともいい笑顔で見送ってくれる。

もしかして邪魔だった?

いや邪魔だったよね普通に。

知ってて行ったけど。

 

ところで俺の晩御飯はどうしよう?

いや、まだお腹は減ってないんだけど。

一応準備しておいた方がいいかなって。

 

クインケ使ってた時は男物の格好をしていたけど。

赫子を使っている時はいつも女物の服を着ている気がする。

気がするというかそんな感じだ。

わかった。(何)

 

 

 

というわけで、今日は女物の服を着てご飯を食べる。

マスクは適当に拾った猫一文字のフルフェイス。

凄いセンス。

でも好き。(こなみ)

 

服は深紅のキャミソール。

それと同色のフレアスカート。

血で染まったように見える色である。

このキャミソール、背中がかなり露出していて甲赫が出せるようになっている。

便利。

 

特に他の子とも約束もないし。

このまま夜を待とうかなー?

 

 

 

「……」

「……はろー?」

 

と思ったらアカリちゃんに出会った。

出会っちゃった。

いやわかるよ。

だって身体つき一緒だもん。

見れば分かる。(変態)

 

肘辺りまである手袋にぴしっとしたボディスーツ。

身体のラインが全部出るような恰好で、実にエロい。

というか胸の辺りが少し寂しいね。

ケイちゃんで見慣れてしまったせいか。

 

「あ……あっ……!?」

「あー」

 

そういえば。

女の子の喰種は食事を見られるのが嫌なんだっけか。

うん、わからないでもないけど。

いや俺女の子じゃないけどさ。

 

「ちょっと席外すねー」

 

するすると路地裏を抜けてアカリちゃんから目を外す。

そうだよね、マナーは大事。

ちゃんと目線は逸らそう。

 

「……失礼しましたわ」

 

土下座する勢いで頭を下げるアカリちゃん。

いや、多分謝るのこっち。

でも謝らなくていいなら謝らない。

最低。

 

「今日ご飯の日だったんだねー」

「ええ。最近時間が取れなくて」

 

食べていたのは人間かな?

あんまり戦闘慣れしてないっぽい。

というか戦闘慣れしてる喰種ってこの辺りいないのよね。

だから俺が出没してたわけで。

 

「ええっと……貴女も食べます?」

 

すっ……と渡される臓物。

いや、いいよ。

アカリちゃんの獲物でしょ?

だったら全部食べていいよ。

 

「そ、そうですの?」

「そうそう。私は自分でとるよー」

 

戦闘経験も積みたいのだ。

なんだか嫌な予感もするし。

何よりこの辺りのボスを目指してるのである。(大嘘)

 

「また明日ー♪」

「は、はい。また明日ですわ!」

 

ひらひらと手を振って、とんとんとーんと移動する。

目当ては強そうな喰種。

といってもこの辺りじゃ強い人はあんまりいないので。

戦闘になるかもしれないくらいの相手だろうか。

 

「お、雰囲気的に強そう」

 

狙い目を発見。

仮面も使い古されてて、長年戦ってる感ある。

というわけで殴りに行く。

 

赫子を出す。

枝葉のようなそれを突き出して、全身を勢いよく回転させる。

所謂デスロールだ。

 

相手も気付いて回避をする。

素早い。

攻撃に反応してくれる相手は久し振りだ。

 

ガリガリと地面を削って停止、そのまま立ち上がる。

葉っぱはまだ出さない。

奥の手は最後に取っておくのだ。

 

まずは枝で薙ぎ払う。

威力はそれなり、打撃系の技になる。

葉っぱの辺りが切れるので、地味に痛い。

 

それを相手は跳躍して回避。

上から赫子を出して反撃してくる。

うん? 尾赫かな?

なら割と楽かも。

 

伸びてくる尾赫を枝で受け止めて、振り払う。

そのまま勢いよく突進して顔面にパンチ。

仮面を割りに行く。

 

と思ったら仮面は布製。

思いっきり顎に入ったのか宙を舞い、そのまま動かなくなった。

うん、運が悪かったね。

 

 

 

まあ勝ったというわけで。

とどめに枝をぐちゃりと刺す。

頭が潰れる音がする。

いつものこと。

腕とか足とかばっかり食べてるせい。

 

「もぐ……」

 

もぐもぐと食べる。

いつものことだが、たまには別のところを食べたくなるものだ。

たとえば赫包とか。

 

……うむ、あんまりかわんない。

何となく強くなった気がする。

だけどなんだろ、気分が高ぶってきた気もする。

 

 

 

……落ち着けー。

明日は学校だぞー。

ついでにアイドル活動だぞ♪

落ち着いた。

 

ふーっと息を吐いて赫子を収納する。

なんというか、あんまり食べるとやばい気がする。

うん、暴走するのも分かる。

 

でもまあ、多分大丈夫でしょ。

たまーにちまちま食べてみよう。

もしかしたら赫者になるかもしれない。

 

そうなったら……どうなるんだろ?

まあいいか。

なったらなったで考えよう。

 

明日はみんなで一緒にご飯だ。

新しいコーヒー豆も仕入れたし、みんなに振舞うのもいいでしょ。

 

 

 

あー楽しみだなー。

こんな日が毎日続いたらいいなー。

 

 



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遭遇

ちらちら原作キャラに出会ってますがニアミスだったり
あとお分かりかと思いますが、主人公は戦力的にあんまり強くないです


「ふふふ、脳がパンクしそうですわ……」

「頑張れ♪ 頑張れ♪」

「こればっかりはしょうがないな……」

 

3年生。

受験勉強シーズン。

みんな受験勉強真っ最中。

 

俺は余裕だけど、アカリちゃんが思ったよりも駄目。

いや、駄目というより目標の高校がちょっと上で困ってるというか。

 

「うぐぐぐ、どうして2人は大丈夫なんですのぉー……」

 

1回経験してるから。

俺はそうなんだけど、ケイちゃんが成績いいのが意外。

割と偏差値高めのはずなんだけど。

そんな中でA判定を維持している。

 

「まあ1度……いや、なんでもない」

「?」

 

まあいいや。

とにかく今はアカリちゃんの勉強を見てあげるのが最優先。

というか割と全部壊滅気味で草。

この成績でお嬢様的発言してたのは面白すぎる。

 

「今までテストとかどうしてたの?」

「一夜漬けでどうにか……」

「どうにかできるんだ……」

 

あれだけの科目を一夜漬けとは誰にでもできることじゃない。

才能があるんだろうね。

あんまり嬉しい才能じゃないだろうけど。

 

「うぐぐぐぐ……」

「あ、ここの方程式違う奴だよ」

「むぐぐぐぐ」

「あ、そこの英単語スペルミス」

「ふぐぐぐぐ」

 

面白い。

それと可愛い。

ぐてっとしてるアカリちゃんって初めて見るかも。

 

 

 

ところで、どうして一緒の高校に行きたがるのか。

いや、なんとなくわかっているんだけども。

友達と一緒の高校に行きたがるって普通よね。

……普通だよね?

 

時々俺を見る目が怪しい気もするけれど。

あ、2人ともね。

……気のせいだよね?

 

アカリちゃんはなんか捕食したい感溢れる視線。

喰種だからね、分からないでもない。

でも友達でしょ?

金木君みたいに食べたくなるの?

こわい。(こなみ)

 

ケイちゃんはこう、あれだね。

女の子が好きな男の子を捕食する目だね

違ってほしいという気がしてならない。

いや、なんというか愛されるより愛したいというか。

我侭?ごもっとも。

 

これが思春期って奴なのかもしれない。

性的な感じで妄想が膨らんでるようなの。

あー前もそんな感じになってた気がしないでもない。

きっと思春期のせいだね。(確信)

 

もしかして。

昨日俺が男だとバレたせいだろうか?

お風呂入ってた時に普通に出てしまったせいで見られたんだけど。

まさか静かに入って来て誕生日祝ってくれるとは思ってなかったのである。

 

そう、昨日は俺の誕生日(仮定)である。

なので部屋の中にはファンからのたくさんのもらい物(検閲済み)がひしめいていた。

その中からぽーんと。

2人が飛び出してきて。

全裸の俺と遭遇っていう具合。

 

「キャー♪」

 

叫ぶのこっちだとか言われて殴られました♪

そりゃ同級生が性別詐称してると分かったら驚くよねー。

殴られたけど。(2回目)

 

 

 

「……」

「……」

「ねぇねぇ、何私のこと見てるのー? 惚れた?」

 

惚れてない、と顔面に一撃。

嘘、2発来た。

痛い。

 

顔を見てみると2人とも顔真っ赤。

昨日のこと思い出してるなー。

あれ、それとも惚れてる発言がクリった?

……いやそんなことないでしょ。

 

いやいや、ないない。

だって女装男子だよ?

それに惚れるっていくらなんでも趣味が悪い。

 

殴られた。

変な思考が漏れてたとか何とか。

そんなことないのにー。

 

 

 

いやまあ、アイドルに憧れるっていうのはままあることだけど。

それがこう、恋愛感情になるかって言われるとわからない。

いや、分かりたくないだけなのかもしれないけど。

 

なんというか、アイドルってどこまでいっても偶像なわけで。

自分の手が届かないところにいるから美しいというか何というか。

そんな気がする、多分だけど。

 

とはいえそんな細かいこと気にしてるわけないと思う。

特にこの2人は。

だって普通に友達してくれてたものね。

多分だけど。

 

もしかしたら。

これから友達でいてくれなくなるかも。

それは困る。

何となくだけど、困る。

 

「私達、友達だよね? ね?」

 

何となく詰め寄る。

いや、なんというかボッチは嫌というか。

ううむ、なんでだろ。

 

「う、うん。そうだな?」

「そうですわね、ね?」

 

なんか動揺してるけど、なんか反応してくれた。

よかった。

これで違うから、とか言われてたら死んでたかもしれない。

嘘だけど。

 

「よかったー♪」

「あ、抱き着くのは駄目だから」

「ですわ」

「えー」

 

セクハラ失敗。

やっぱりバレたのはマイナスだなこれは。

栄養補給(保養的な意味で)できなくなった。

 

 

 

「じゃあビシバシ行くよ! 授業的な意味で!」

「ひーん」

「……まあ、頑張れ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の話。

今日はご飯の日だ。

ちょっと忙しい日が続いていたので、お腹が減ってて仕方がない。

 

とことことクインケを持って歩き回る俺。

いつもならこれくらい歩いていたら出会うもんなんだけど。

人間どころか喰種の気配すらない。

怪しい……。

 

 

 

と、ここで背後から襲撃。

痛い、となる前に赫子を出して防御。

硬さが際立つ。

 

今の枝は既に葉っぱが大量に生えてきて、翼のようになっている。

片方だけだけど。

片翼の天使……!(笑)

 

それはともかく。

振り返りつつ葉っぱを飛ばす。

威力は死んでるけど牽制にはなる。

 

背後の気配が離れたのを見計らってしっかりと体勢を立て直す。

相手は仮面をつけていなかった。

しかし顔面は赫子で覆われていた。

おおう赫者。

初めて出会ったわ。

 

んん、しかし。

どこかで見たことがあるような。

だけど赫者と出会ったことはない。

つまりは気のせいか。

なら普通に倒す方向で。

 

右手に持ったクインケをくいっとひねって顎を狙う。

威力はそこそこ切れ味抜群。

相手の鎧を削るように吹き飛ばす。

折れるかと思った。

 

相手は回転して着地、そのまま迫ってくる。

速い。

俺と同じ甲赫だと思うんだけど。

背中の翼を前面に前面に曲げて受ける。

痛い、背中の接続部が外れそう。

 

「ちぇい」

 

弾く。

吹き飛ばそうとしたところで先に跳ばれて距離を取られた。

うーん強い。

最近怠けてたからかな。

 

クインケを持ちかえる。

刀の方と逆の方が鱗赫の長い鞭のようになっている。

その部分を伸ばして回転させて相手に叩きつける。

 

それを相手はしっかり両手で受け止めて、むしろ引っ張ってくる。

うわ、力強い。

というか俺が力弱いのよね、知ってる。

身長伸びなかったからなー。

声変わりもなかったし。

 

 

 

そのまま拮抗状態が続いたところで、唐突に相手が逃げ出した。

いや、何かを見つけたようにいなくなった様子。

うん、俺なんか眼中にないようだった。

 

クインケ回収して背中の奴もしまう。

うーん強かった。

名前くらい知りたかったなー。

なんか死にそうだったけど。

雰囲気で。

 

「うーん」

 

しかしどうしようか。

ご飯が食べられなかった。

お腹減った。

 

 

 

……そうだ、1区に行こう。

 

 

 

「もぐもぐ」

 

ごちそうさまでした。

とっても美味しかったです。

でも喰種の数が多過ぎるので、逃げたいと思います。

 

なんでこんなにいるんだっけ?

まだC……なんだっけ、CGC?

それができてすぐなんだっけ?

だから喰種が減ってないんだっけ?

 

うーん……まあいいか。

いつかは本編みたいになるでしょう。

今はアイドル活動しながら学園生活したい。

 

 

 

明日は確か20区でコンサートだったかな?

ああ、久し振りにあんていくに行くのもいいなー。

後でみんなを誘っておこう。

 

 

 

「うん?」

 

とここで俺の身体に刺さる何か。

痛い。

痛いけどまあ許容範囲?

 

さっさと抜いて逃げる。

やばいやばい。

ちらっと見たけど有馬さんだありゃ。

わーい避難しよ。

 

 

 



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イチャイチャ

セクハラには積極的な主人公


「きゃーみんなー♪ 元気ー♪」

 

歓声が聞こえる。

ああ、いい感じ。

いつも通りでございます。

 

そういえば。

今回のコンサートにはケイちゃんとアカリちゃんに来てもらってるんだけど。

どこにいるのかわかんない。(誤算)

 

どこにいるかなーとチラチラ見ながら歌って踊る。

というか今日のファン達下半身見過ぎじゃない?

気のせい?

気のせいだよね?

 

 

 

基本的にファン達は男女比率が半々くらい?

いや男の方が少し多いんだっけ?

プロデューサーがそう言ってた記憶。

 

なんだか知らないけど女性のファンも結構いるらしい。

なんだか知らないけど。

ショタ感とかロリ感がいいとか何とか。

知りたくなかった。

 

あ、ケイちゃん達見つけた。

怪しまれない程度に軽く手を振る。

すると2人もちょっとだけ手を振ってくれた。

可愛い。

 

 

 

「はーい♪ 今日も元気に頑張りまーす♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日もありがとー♪ まったねー♪」

 

今日も元気にライブ終了。

いつも通り元気に終了。

アンコールにもお答えした感じ。

 

「お疲れ様です」

「お疲れー」

 

プロデューサーに挨拶してタオルをもらう。

いつも通りである。

いや、いつもと違ってケイちゃんとアカリちゃんが中にいるわけだが。

 

「どうだったー?」

「……まあ前に。じゃなくて。凄かった」

「ええ、凄かったですわ」

「でしょー♪」

 

キラキラの衣装を見せつけながらニッコリ笑う。

ふんわり顔が赤くなってる気がする2人。

気のせいかも。

 

ちらりとプロデューサーを盗み見るけどまるで無表情。

強敵だな。

社長クラスか。

いや社長は別格だった。

 

くるりと一回転してきゃるーんポーズ。

無表情。

これは悔しい。

 

「やめろ」

「やめてくださいまし」

 

さてもう一回といったところで羽交い絞めされる俺。

うむやりすぎじゃったか。

顔が赤いぞ2人とも。

 

 

 

さてと。

3人で一緒にあんていく。

俺は男装……いや普通の格好してお出かけ。

危ない危ない。

危うく心まで女になるところ。

 

「お邪魔します」

「……」

「……」

「なんだよー」

 

声色変えるのがそんなに変かな?

いや変だわ。

自分じゃないみたい。

 

サンドイッチとコーヒーを注文。

アカリちゃんはちゃんとご飯食べるふりの練習しなくちゃね。

自分も練習してるしねー。

 

「ところでそんなに変装しないと気付かれるもんなのか?」

「え、うん」

 

ケイちゃんに聞かれたので普通に返す。

そうそう、普通にバレるんだよね。

ひとりで出かける時は基本的に男物の服を着て出かけないと声をかけられる。

たまーにチャラい男に地味に声かけられて辛い。

おう、アイドル出る番組見ろやって思う。

 

「……………」

「アカリちゃん、頑張って♪」

 

サンドイッチを見て葛藤してるアカリちゃん。

でも今日は食べなきゃ駄目だよ。

その訓練でもあるんだから。

 

もぐもぐしてるふりしてる俺を見て、アカリちゃんは信じられないものを見る目をしている。

いや、食べてないから。

飲み込んでるって言ってるでしょ。

 

「はいあーん」

「え?」

「あーん♪」

 

仕方ないので強硬手段。

ちょっとちぎって目前に差し出す。

あーん作戦だ。

サンドイッチだけど。

 

「ほら、あーんだよ♪」

「あの、その、ええと」

 

ちらちらとやっていて、横目にケイちゃんを見ると何やら不満気な顔。

なんでだろうなーと思いながらサンドイッチを押し付けようと頑張る。

 

「っはぐ」

「あ」

 

と思ってたら指を食われた。

訂正、指ごとサンドイッチをケイちゃんに食べられた。

痛……くはないけど。

 

「何、ケイちゃんも食べたかったのー?」

「別にー」

 

ふん、とでも言いたげな顔でそっぽを向くケイちゃん。

あらら、へそ曲げちゃった。

仕方ないからこっちにもサンドイッチを差し出してみる。

 

「はいあーん♪」

「……」

「あーん♪」

 

ぐいぐい押し付けるようにやってみる。

今度は顔を赤くしてそっぽ向いてしまった。

うむむ、やり過ぎたか。

ケイちゃん恥ずかしがりやだからなー。

 

「は、はぐっ」

「お」

 

なんと今度はアカリちゃんが食いついた。

結構な覚悟をしたのか、少し青い顔で。

もぐもぐしてるから多分飲み込むの失敗してる。

可愛い。

 

「……けほっ」

「ああ、詰まっちゃったの? ほら、お手洗い行ってきなさい」

 

アカリちゃんをさっさと避難させて、自分はケイちゃんと向かい合う。

ふふふ、さっきの顔見てるからねー。

大体何思ってるか分かるよー。

 

「……最初にアカリちゃんにサンドイッチあげようとしたの見て、妬いてるんでしょ?」

「ぶふぉっ?!」

 

コーヒー飲んで誤魔化そうとしてるケイちゃんの耳元で囁く。

すると思いっきりコーヒーを噴き出すケイちゃん。

ああ、服にコーヒーが。

あとでクリーニングだなこれは。

 

「ち、違うっ!」

「えー本当にー?」

「違うってば!」

「あ」

 

押されたので受け止めると、そのまま倒れ込むように押し倒される。

おおこれは床ドン。

とか何とか思いながら倒れると、唇に柔らかい何かが。

うん、キッスだね。

 

この身体になってからファーストキスである。

ああ、ケイちゃん真っ赤になっちゃって。

あれ、俺の頬も熱い気がする。

あらら、俺も恥ずかしいのかな。

 

「ふ、不潔ですわっ! ですわっ!」

 

すると、お手洗いから帰ってきたアカリちゃんがこっちを見て怒ってる。

いや、顔赤いなー。

恥ずかしい?

でも怒ってる?

半々くらいの感情かなー?

 

ぷりぷり怒ってるアカリちゃんは俺達の方に寄ってくると、ケイちゃんを引き剥がす。

うん、そういえばずっとくっついてたままでしたね。

真っ赤のケイちゃんはそのまま引き剥がされ椅子に座りなおす。

 

そして倒れたままの俺にまたがるアカリちゃん。

……ん?

 

「ん!」

「痛っ!」

 

ダイレクトにヘッドバッド。

痛い。

というか唇触った?

ほぼ歯だったよねあれ。

大丈夫?

あと額に大ダメージだよねこれ。

 

「きゅう……」

 

結果ぶっ倒れるアカリちゃん。

そりゃあ喰種の筋力で思いっきり額を喰種に叩きつけたらそうなる。

 

というか。

ケイちゃんも多分オーバーフローで動かない。

アカリちゃんも物理的にグロッキー。

……凄い邪魔だねこれ!

 

「失礼しましたー……」

 

俺は動かない2人を抱えて逃げることにした。

うん、みんな笑ってるねこりゃ。

俺の正体はバレてないだろうけど。

コントだもんねこれ。

 

 

 

あ、ちゃんとお金は払いました。

 

 

 

 

 



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はむはむ

ちょいと遅れましたが更新です。
感想はちゃんと読んでますよー。


「あれ……リゼさんいないの?」

 

クインケをぶっ壊したので旧多さんに会いに行くと、いつもいたはずのリゼさんがいなかった。

あれ、もしかしてもう逃がしちゃったのかな?

そうなるといちゃいちゃできないんだけどなー。

ちょっと悲しい。

 

「いないんですよー」

「そっかー」

「残念ですか?」

「うん」

 

残念である。

特に旧多さんの感情の起伏がなくなるのが。

あんまり起伏ないんだよねー。

そういうのが好きな俺は異端なのか。

いや変なのか。

 

「とりあえず、はい」

「はい。受け取りますねー」

 

がっちゃんとクインケを渡す俺。

いつも通りだ。

というかこの関係何年続けてるんだろうねこれ。

このままずるずると関係続きそうで怖いね!

 

「それでいいの?」

「いいんですよ」

 

いつものような表情で笑う旧多さん。

ううむ、自分の気持ちに素直じゃないな。

いや、俺が言えたことじゃない気もするけど。

 

ま、今はいいか。

後々出会っていい感じになってもらえれば万々歳。

相性悪いらしいけど。

相性悪くても夫婦してる奴らはいるしねー。

 

まあその辺りは俺の管轄外というか。

恋愛は当人同士でやっててくださいという感じ。

何やら変な感情が向けられているような気がするけど気のせいだと思いたい。

 

 

 

とまあクインケ預けてご飯の時間。

いや、俺じゃなくてにゃんこ様の。

最近は贅沢にも猫缶を1匹に1缶あげなくちゃにゃーにゃーうるさくなって困る。

ケイちゃんのせいだね!

後でお仕置き(意味深)しなくちゃ。

 

「にゃ」

「にゃにゃん」

「みゃー」

 

いつも通りの時間にいつも通りご飯をあげる。

可愛い。

でも最近ドアに爪立ててるの知ってるよ?

外には出さないからね?

ケイちゃん達は連れ出そうとするけど、駄目だからね?

家猫は外に出さない方がいいのだ。

病気貰ってきたりするしね。

 

「というわけでご飯よー」

 

にゃーんと寄ってくるにゃんこ達。

こういうときあざとい。

実にあざとい。

 

うーん実に可愛い。

世界で一番だよ。

3匹いるけど。

ケイちゃん達は別だけど。

 

 

 

と、ここで自分もご飯の時間。

いつものキャミソールドレスに着替えて出掛ける。

いつものって言いながら、まあクインケ預けてる間だけなんだけど。

最近サイズがちょっと小さくなってる気がする。

成長期?

 

ついでのようにだけど、背中の枝葉以外にも赫子が出せるようになった。

尾赫? だっけ。

おしりの辺りから出せるようになった。

いやん、恥ずかしい。

スカートがめくり上がるのが割と恥ずい。

スリットでも入れるべきだろうか。

 

それはともかく。

今は甲赫だけ使ってるけど、たまには尾赫も使わないとなーと思った次第。

使えないより使えた方がいいよね。

 

 

 

とにかく路地裏。

いつものように戦闘の雰囲気がする場所を選んで探りを入れる。

ふんふん、今日は西側でひと悶着ありそうだ。

 

るんるん気分で路地裏を歩く俺。

今日は試運転ー。

楽しみー。

おっと慎重に行かなければ、と。

油断してると普通に死ぬからねー。

 

と、ここで背後から襲撃。

咄嗟に尾赫を展開して防ぐ。

ふわりとスカートがなびく。

 

尾赫の形はシンプルだ。

レイピア。

それに尽きる。

簡単に言うとフェンシングの剣だ。

 

それがなんと3本。

いやもったいぶるほどのことじゃないけれど。

それをクロスさせて攻撃を受け止めたのだ。

 

でもやばい、折れそう。

甲赫と同じ感覚で使うと駄目だ。

思ってたよりも脆いや。

 

受け流して相手の赫子を地面に突き刺す。

そしておしりを振って尾赫で薙ぎ払う。

手応えはない。

多分避けられた。

反転してれば見えたかもしれないのに。

失敗である。

 

失敗を生かすためにも反転して相手の姿を見る。

男……? いや、女か。

どちらにしろ強そう。

 

スカートを破いてスリットにする。

お気に入りだけど仕方ない。

格好気にしてたらなんか死にそう。

剣を出すスペース確保。

 

かしゃんかしゃんと鳴らして左右両側から挟むようにレイピアを繰り出す。

それを跳躍で回避する相手に、残った1本を叩き込む。

ヒット。

中心部ではないが腕辺りを貫いた。

 

ううむ、精度に難ありか。

もう少し練習が必要っぽい。

 

考えてる間に相手は体勢を立て直した様子。

こういうところも直さないとなー。

要練習。

 

剣を振るう。

今回も左右から挟む感じで。

でも相手もそれを読んでいたのか今度は前進してくる。

相手は鱗赫か。

それすら気付いてなかったとは恥ずかしい。

 

でもチャンスである。

赫子は1つ上の位置にある赫子に強い。

つまり、俺の今使ってる尾赫は相手の鱗赫に強いってことだ。

運がいい。

しっかり倒して頂こう。

 

というわけで残った1本を使って攻撃を受け止める。

そして甲赫だ。

弱点だけど、全く使えないというわけじゃない。

枝葉の葉っぱの部分だけ発射して、至近距離のショットガンみたいに使う。

羽赫みたいだけど、違うのだ。

 

 

 

甲赫はさっさとしまい、かしゃんかしゃんと3本の尾赫を操り、相手を追い詰めていく。

同時攻撃は見抜かれた。

ならば時間差攻撃だ。

 

1本で突き、1本で払い、1本で裂く。

それを時間差で行うだけ。

単純だけど難しい。

それも未知の部位だ。

勝手が違う。

 

でもやらないといけない。

いけない気がする。

多分だけど。

ケイちゃん、きっと何かに巻き込まれるよあれ。

アカリちゃんも不幸体質っぽいし。

俺が頑張らないと。

 

 

 

そんな彼女達を全部平らげるのは俺だし。

誰にも譲らない、俺だけのものだ。

 

 

 

その思考の勢いに任せて尾赫を振るう。

振り降ろし、払い、刺す。

全てが微妙にズレて放たれた。

 

ざく、ざく、ざく。

全ての尾赫が刺さる音。

どうやら決まったらしい。

目視でも勝ち確だとわかる。

全部胴体に決まっている。

 

ふふふ、これで俺も尾赫マスターか。(慢心)

というわけでとどめに頭をざくーっと。

うん、動かなくなった。

これで安心安全に食べられる。

 

がりがりと、赫包の辺りを食べる。

うーんスナック。

いつものように人間も食べたくなる。

ケイちゃん……いや、まだ駄目。

というか駄目。

我慢我慢。

 

 

 

一通り食べたところで、気配を察知して撤退。

なんだろ、すっごく強いようなヤバいような気配。

さっさと逃げよう。

有馬さんレベルだ。

今の俺じゃ太刀打ちできないわ。

 

戦略的撤退をしておうちに帰ると、にゃんこ達が寄ってくる。

にゃーん。

待ってねー血がついちゃうからねー。

服を脱いでさっさと洗濯機へぽーい。

部屋着(Tシャツと下着のみ)に着替えてにゃんこ達と戯れる。

 

最近のみんなのトレンド、黒い紐。

ぐるぐる回して遊んであげる。

にゃんにゃん前足を伸ばして紐を掴もうと必死。

可愛い。

 

「……お、遊んでるな」

 

ケイちゃんが玄関から現れる。

危ない危ない。

さっきまで血塗れですよ俺。

いや、今の格好もアレだけどね。

ほら、ケイちゃん地味に視線逸らしてる。

 

「ねーねーどうしたのー♪」

「う、うるさい! あんまり寄るなっ!」

「ねーねーねーねー♪」

「うわああああああ!?」

 

殴られた。

ちょい痛い。

まあこっちも悪かったので反省反省。

でもちょっと齧る。

 

「はむっ」

「痛っ!?」

 

ああ、美味し。

これの為に生きてると言っても過言ではない。

ああ可愛い。

 

「罰ゲームだよ♪」

「ってコラ、肩噛むんじゃない!」

「やだー♪」

 

はむはむ噛んで味わう。

ああ、汗すらも美味しい。

駄目だな、麻薬みたいだ。

 

「ふふん、今日はこれくらいで勘弁してあげる♪」

「今日だけじゃなく、ずっと勘弁しててくれ……」

 

あら残念。

まあ今は補給も終わったし、満足した。

今度はまあ、一週間後くらい?

早いかな?

 

「今日はもう帰るぅ……」

「そぅお?」

 

それは残念。

心身ともに疲れている様子。

なんでだろうねー?

 

まあいいか。

今日はエネルギーも補充したし、元気いっぱい。

明日のライブも頑張るぞー。

 



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もぐもぐ

お待たせしました。
少しずつ狂っていきます。


「……っはぁ、なんとか合格ですわ」

「よかったな」

「うん、おめでとー♪」

 

高校の合格発表日。

不安だったアカリちゃんも無事合格し、みんな揃って同じ学校に行けるようになった。

俺? 余裕の合格よ。

人生2度目のパワーを舐めてもらっては困る。

アイドルしながら勉強しても余裕ですよ。

 

今日はあんていくではない近所の喫茶店だ。

流石にあの大惨事を引き起こしておいてすぐ行くほど馬鹿じゃない。

それにここなら男装しなくていいしね。

基本衣装が女装なのはなんか変な気がしないでもないけど。

 

もぐもぐと、一心不乱に甘味をむさぼるケイちゃん。

いやはやいい食いっぷり。

アカリちゃんの顔が青く染まってるのに気づいてないのか。

気付いてないんだろうなー。

 

アカリちゃんはじーっと食べ物をみて、勢いよく噛みつく感じ。

この調子でどうして喰種だとバレなかったのやら。

周りの子がフォローでもしてたのかな?

 

 

 

……と考えたところで、今結構孤立しているアカリちゃんについて考えてみる。

孤立している今だと、フォローするような人はいないだろう。

となると……うん?

もしかして、アカリちゃんのおうちってあんまりお嬢様系ではない?

いや関係ないのか?

その辺りよくわからない。

 

まあ、きっと話す気になった時に話してくれるだろう。

そんな楽観的な思考に入りながら、2人を見る。

というかアカリちゃん、まだ顔青いし。

いい加減、諦めてドーナツ食べよ?

ごっくんもぐもぐだよー。

 

「ま、まあ今日はお祝いですわ! 楽しくしましょう! 勉強のことは忘れて!!」

 

ぱん、と両手を合わせるアカリちゃん。

あ、誤魔化すつもりだ。

駄目だよ、今日はもっと特訓するって言ってたじゃん。

ついでに勉強のことも忘れるつもりだし。

そいつは都合がいいにもほどがある。

 

「駄目です♪」

「もがー!?」

 

無理矢理フォークに刺してたケーキの端っこをアカリちゃんの口に突っ込みながら言う俺。

不意打ちは辛かろう。(最低)

というかずっと勉強見てた俺達を労おう?

今日は奢ってね?

 

「うう、今月のお小遣いが……」

 

……そんなに厳しいの?

だったら仕方ないなー……ってなったらいつもの通りになってしまう。

ここは心を鬼をして……。

……………鬼にして。

 

うんまあ、いいや。

奢るよ本当。

可哀想になってきちゃった。

 

「というわけでじゃんじゃん食べてね♪」

「おうっ」

「え……えぇ……」

 

ケイちゃんは元気そう。

でもアカリちゃん、駄目っぽい。

普通の食事食べるわけだから喰種的には絶望よね。

うん、アカリちゃんはちょっとでいいからねー?

コーヒーだけ飲んでていいよー。

 

 

 

「ところでさ」

 

もぐもぐと食べてるケイちゃんが唐突に喋り始める。

汚いからちゃんと飲み込んでからねー。

 

「猫たちどうするのか、決めた?」

「えっ」

「えっ」

「えっ」

 

えっなんで今更?

既に飼い始めて3年だよ?

飼い続けるに決まってるじゃん。

ケイちゃん食べるよ???

美味しく頂くよ???

 

「スバルさんスバルさん」

「ん?」

「よだれが」

 

おっと危ない。

ついつい美味しそうで。

ありがとうアカリちゃん。

最近人間食べてないからかなー。

 

「勿論飼い続けるよ。心配しなくても」

「そっか……そっか」

 

見てくださいこの嬉しそうな顔。

もうにゃんこ様にデレデレですよ。

にゃんこ様を崇めよ。

アカリちゃんも見に来るので安心している模様。

何、そんなに信用ないの俺?

 

「もうっ! そんなこと言うならもう会わせないぞ♪」

「あ、ズルい!」

「ズルいですわ!」

 

げしげしと蹴られる俺。

いや俺そんな悪いことした?

うんしたね。

ごめんごめん痛いからやめて。

特にアカリちゃん本気で蹴ってるでしょ!

喰種に蹴られると本当に痛いんだからね!

 

 

 

「まったく、2人ともぷりぷりしすぎ」

 

ケーキをがつがつ食べるふりをして怒ったふり。

ゲロまずいけど、我慢我慢。

アカリちゃん真っ青だけど、これくらいできないとアイドル無理よ?

最近ご飯食べる仕事増えててちょい辛い。

感想もかつての記憶を探り探り言わなきゃいけないから大変。

 

「いーい、そんな恰好で人蹴ったりしちゃ駄目だからね! 見えちゃうんだから!」

「いや、お前に言われるのはなんか違うだろ」

 

警告しようとしたら何故か怒られた。

おかしい、真っ当な意見のはずなのに。

ケイちゃんはタイトなスカートだしアカリちゃんはフレアスカート。

よほどのことがない限り見えないだろうけど、それでも注意するべき。

俺はミニスカだからそういうのちゃんと気を付けてるよ!

 

「だからお前おともがっ!?」

「駄目ですわ、わたくし達の秘密ですわよ!」

 

小声でひそひそ話をするケイちゃんとアカリちゃん。

確かに秘密にしてくれって言ったけどね。

ありがたい話だ。

なんかちょっと違う意味合いを含んでそうなのが不思議!

後で脅されてなんかさせられたりしないよね?

信じてるよ?

 

 

 

「ぶちーしろーくろー」

「にゃん」

「みゃあ」

「なーお」

 

ケイちゃんが両手を広げて飛びつくようににゃんこ様達に覆いかぶさる。

俺がやると逃げるのにケイちゃんがやると逃げない。

解せぬ。

 

「あらあらまあまあ」

 

アカリちゃんもゆっくりと近づいていく。

顔は緩み切っている。

ああ、可愛らしい。

 

2人でぎゅっと抱き着いているのを横目に見て、俺はサイン色紙に手をかける。

そう、これは俺の仕事なのである。

1枚いくらってわけじゃないけど。

アイドルだからファンを大切にしないと。

さらさらさらーっと書き続ける。

最初は苦労したけどすぐ慣れた。

 

「ふうん……」

「なぁに?」

「いや、なんでもない」

 

書いてる間にケイちゃんが寄ってくる。

アカリちゃんはにゃんこ様達と遊んでいる。

いや、あれは遊ばれてる……?

髪の毛ににゃんこ様達が絡まって遊んでる気がする。

 

「上手に書けるもんなんだな」

「練習したからねー♪」

 

さらさらさらーと書いていく。

アカリちゃんは更に遊ばれてぐるんぐるんになっている。

可愛い。

 

ケイちゃんがふっと更に寄ってくる。

顔が近い。

いい匂い。

お腹すいてきた。

おっと危ない危ない。

 

1回深呼吸して呼吸を整える。

あ、匂いが強くなった。

駄目じゃん。

お腹減った。

 

 

 

「ちょっと出てくるねー」

「あ、おい」

 

さっさと逃げる。

これ以上はちょっと辛い。

にゃんこ様達がよって来るけど、蹴飛ばさないように注意することしかできなかった。

 

 

 

「う、うう」

 

ぞわりと嫌な感覚が全身に走る。

何というか、自分が自分じゃなくなる感じ。

ああ、食欲に侵食されるような感じがする。

 

「く、う、あ」

 

血が滾る。

気持ち悪い。

吐き気がする。

頭痛い。

こわい。

つらい。

痛い痛い痛い。

やめて。

……殺さないで。

 

 

 

 

 

 

 

「っはぁ、はぁ、はぁ」

 

気が付くと、周りに死体が広がっていた。

ううむ、俺がやったっぽいな。

こんなにたくさん、もったいない。

 

はぐはぐと食べ続ける。

最近食べたばっかりなはずなのに、妙にお腹がすく。

ケイちゃんのせいだ。

 

アカリちゃんもそうだ。

無防備でいつでも噛み付けるのはどうかと思う。

食べてしまいたくなる。

 

 

 

……。

まあ、いいか。

今は落ち着いたし。

今後はちゃんと気を付けよう。

前回食べたのが先週だったか、平気だと思ったのに。

 

ところで。

顔がごつごつするんだけど。

触ってみると何やら仮面のようなもの。

ええ、つけてなかったはずなのに。

赫者になるとつくというアレだろうか。

そうか、そういうことなのか。

どうやら俺は赫者になれたらしい。

 

背中から生えてる枝葉がこの間より更に広がっているようで、本当に翼みたいだ。

尾赫の方も太くなっていて、壊れにくくなっているように思える。

後は、肩に違和感。

触ってみると左肩にぎゅるんぎゅるん回るボールみたいなものがあった。

 

なにこれ、邪魔。

そう思って飛ばしてみると、凄い勢いで飛んで行って乱反射して爆発した。

おお、面白い。

これは遊べる。(違う)

 

 

 

「ああ……なに、これ……?」

 

ふと気付くと誰かがこっちを見ていた。

うん、匂いからして人間?

さっさと食べよう。

 

しゅいんと翼を動かして勢いで回転。

尻尾を左右後ろに伸ばして大回転。

そのまま縦に振り落とす。

 

「あ、あ……」

 

見事にヒット。

真っ二つである。

手応えからして若い女性。

むしろ女の子かな。

うん、美味しいよね、女の子。

 

というわけで腕からガブリ。

うん、美味しい。

顔は最後に取っておく感じ。

昔は食べなかったけど、最近は美味しさに気付いた。

 

……って、あれ?

なんかこの顔見覚えがある。

どこだったかなー。

近くで見た気もするんだけど。

 

 

 

あ、思い出した。 

アカリちゃんの元子分だ。

確か腕をミシってさせた子だったかな?

まあいいや。

折角殺したわけだししっかり頂こう。

 

 

 

頂きます。

 



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禁止令

大変スランプに陥っておりましたが、わたしは元気です。
夏バテだったのかもしれません。


中学校で行方不明者が出て休校になった。

怖いねーと言い合っていると、何やらアカリちゃんが青い顔。

最近青い顔ばっかりだね。

青汁飲む?

 

「やめてくださいまし」

「え、なんの話?」

「顔に出てたぞ」

 

悪戯が過ぎる?

そうかもしれない。

でもほら、アカリちゃんの顔が元に戻ったし。

成功なんじゃないかな?

だから青汁飲も?

 

「何がお前を青汁に駆り立てるんだ……?」

「うーんと……ノリ?」

「やめてくださいまし!」

 

どうやら俺の目論見は失敗に終わったようだ。

少し悲しい。

ああいや、本当に少しなんで別にどうでもいいレベルというか。

だからそんな悲壮感漂う顔で青汁飲まなくていいからね?

 

 

 

ともかく。

休みになったのだから今日は遊ぶのだ。

いや、にゃんこと遊ぶんじゃないのでそこの2人は反省するように。

思春期の遊びとしてはにゃんこ様とだけ遊んでるというのは逆に不健全では? と思った次第。

 

 

 

「というわけで、やってきましたショッピングモール!」

「まあ」

「はぁ」

 

ばーん、と大きく身体を広げてアピールする。

ちなみに男物の服を着て変装状態である。

これでバレないのは江戸川コナンが工藤新一だとバレないようなものなのではないだろうか。

微妙に意味が通らないかもしれない。

 

とりあえずランジェリーショップかなーと思ったが軽くスルーされる。

えーそんなーって感じ。

流石に男だとバレた後だと駄目らしい。

 

仕方ないのでレディースの服専門店へと駆け込む。

最近お気に入りのキャミソールドレスが破れちゃったからね。

新しいの探さないと。

 

「……女物買うのか?」

「え、なにー?」

「いや、なんでもない」

 

ケイちゃんは何か言いたいようだけど、俺はまあアイドルだし?

常に自分の身体に気を使っていないといけないっていうか。

やっぱりアイドルとしての体裁を保つ必要があるっていうか。

まあそんな感じ。

 

「というわけで、こういうのどう?」

「胸の辺りがきつい」

「まぁ!」

 

ケイちゃんに服を当ててみると何やら他の女性相手に喧嘩を売るようなセリフを。

というかアカリちゃんがちょっと怒ってる感ある。

そうだよね、胸ないもんね、アカリちゃん。

 

「……何か、言いまして?」

「なーんにもー?」

 

危ない危ない。

アカリちゃんの爆弾を知ることができてラッキーと考えよう。

というかケイちゃん、これEカップ前後用の服なんだけどねー。

結構大きいのね。

直接揉みに行けないのが残念。

 

「えっと、じゃあわたしはこれで♪」

「……意外」

「なにー?」

 

俺は露出の少なめな、少しだぼっとした服を選んだ。

そりゃそうだ。

ケイちゃんは意外とか言ってるけど、もうそろそろ体格に差が出てくるはずだ。

……はずだ。

若干不安だけど。

 

勿論露出の大きい、夜の散歩用の服も選ぶけど。

今はみんなとデートするようの服も選ぶのだ。

むしろメインがそっちかもしれない。

だって、可愛い女の子と話したりするの、いいよね。

保養である。

 

「えーと、わたくしはこれで」

「いいんじゃない?」

「えーもっとこう……いやなんでもないです」

 

アカリちゃんはちょっと大人しめな色のワンピースを選ぶ。

スレンダーな体格に合ったいい服だ。

値段が……とか言ってるけど、いつものように俺の奢りだから気にしなくていいのよ?

確かに高いけど、ケイちゃんの服の方が高い。

というか容赦ないなケイちゃん。

その辺はアカリちゃんを見習ってほしい。

 

「はいはい、ガンガン買うよー! これとかどう!?」

「そんなキラキラした服着れるかっ!」

「無理無理、無理ですわっ!」

 

じゃーんと取り出した服は不評。

なんでだろ。

俺がいつも着てる服より派手じゃないのに。

……いや、俺が毒されてるのか。

 

「はっ!? もしかして私毒されてる!?」

「今更?」

「何を言ってますの?」

 

やっぱりだった!

おのれ社長!

いつも綺麗な服着せてくれてありがとう!

 

社長に感謝しつつみんなの服を見繕う俺。

いやーみんな感謝していいのよ?

なんでそんな微妙な顔してるの?

 

「センスが……なんでもない」

「世代が古……なんでもないですわ」

 

なんでもないらしい。

ならいっかー。

がっつり服を抱えてレジへ。

合計8万円なり。

割と高めの買い物になった。

 

「8ヶ月分の食事代……」

「12ヶ月分の生活費……」

 

ケイちゃん、結構地味な生活してるのね。

というかアカリちゃんはなんなの?

命削って生活してるの?

ああいや、ご飯代は浮くんだよね、喰種だと。

だから光熱費だけ……いや、それでもきつくない?

 

「アカリちゃん……」

「篠宮……」

「ちょっ! 哀れみの目を向けるのはやめてくださいまし!」

 

心外ですわ! とでも言いたげなアカリちゃん。

そんなアカリちゃんに札束を握らせる俺。

まあ千円札なんだけど。

 

「アカリちゃん、これで美味しい物食べなさい」

「心外ですわっ」

 

札束でベチンと叩かれる俺。

そりゃそうか。

なんというか可愛い反応を期待してた。

予想以上に可愛かった。

満足。

 

 

 

「というわけで次のお店、行こうか?」

「えっ」

「えっ」

「えっ?」

 

えっもう帰る気でいたの?

おしゃれの道はこれからだよ?

というかいつも制服のまんまでしょ、君たち。

知ってるんだよ俺。

 

 

 

「ぐえー」

「はえー」

「だらしないなー」

 

ぐでっとなってる2人を見ながら、コーヒーを飲んで一言。

かなりお金使ったけど、まあ許容範囲内。

自分の為に使わないからねー。

衣装代はかからないし、衣服は結構安めなのを選んでる。

それでも結構なお値段だけど。

 

給料がしっかり出てるのがいいよね。

というか社長、これだけ出して平気?

ちょっと心配になるよ?

 

「というかお前はどうして平気なんだよ」

「?」

「いやだから」

「多分……気にするだけ無駄ですわよ」

 

ぐったりとしたままの2人は向かい合って喋っている。

え、何? 内緒話?

混ぜて欲しいんだけど。

 

「いーや」

「嫌ですわー」

「なんだよもー」

 

なんかズルい。

コーヒーを置いて2人にダイブする。

 

「にゃー♪」

「てい」

「ぐえっ」

 

飛び込んだ先にケイちゃんの足があって綺麗に迎撃された。

痛くないけど呼吸が、きつい。

まさにぐえーって感じ。

ダメージを受けないと喰種だとバレる可能性があるので、軽く後ろに跳ぶ。

 

「ふん、2人なんてにゃんこ達に遊ばれてればいいんだー!」

「あ、拗ねた」

 

うわーんとでも言うかのように家を飛び出す俺。

なんかコメディ的な感じ。

実際コメディ。

 

 

 

最近ご飯の頻度も増えてきたことだし、今日も念のためにご飯を食べておこうかな。

路地裏にふらりと立ち寄る。

今日は誰がいるかなー?

 

パキパキパキと赫子を引き出すと、顔を覆っていく何か。

うーん思考がブレッブレ。

脳が弄られるような感覚。

でも、大体分かった。

これは指向性のあるものだ。

捕食衝動? 的な奴だ。

だから結構我慢できるはずだ。

多分。

 

「うーむ」

 

マンダム。

もとい。

割と辛め。

呼吸するたびに何やら食べたい気持ちが込み上げてくる。

大丈夫かなこれ。

駄目かもしれない。

 

「えい」

「ぎゃっ」

 

近寄ってきていた喰種を枝で蹴散らす。

いや弾き飛ばすというべきか。

一撃だった。

まあ、赫子を展開してないように見せかけてたから突っ込んできたんだろうけど。

遠目では仮面つけてちょっと堅そうな服を着ている少女風の誰かにしか見えないだろう。

 

「うーむ」

 

まいった。

同じ思考しかできない。

おなかすいた。

いやあ予想外に辛いもんだ。

 

「もぐもぐ」

 

とりあえず食べる。

何とか落ち着いてくる。

グルグル同じ思考になっていた頭が少しすっきりした。

やっぱりお腹減ってたんだな。

 

というか、この状況はいささかまずい。

というかちゃんと精神集中の練習でもしないと、このままご飯欲求に飲まれる可能性が高い。

うん、やばいね。

ちょっと早急にクインケが必要になりそうだ。

 

多分赫子を使う分、俺の思考はご飯欲求に負けかける。

となると、クインケを使うことでその欲求が発生すること自体を抑えるということだ。

素人考えだけど。

まあ何とかなりそう。

多分。

 

 

 

「というわけで、そこんところどうなの?」

「無理ですね」

「あ、はい」

 

無理らしい。

どういうことか。

というか旧多さん、怒ってらっしゃる?

なんで? どうして?

 

「なんでもないですよ」

「えぇ……」

 

そんなバカな。

絶対怒ってるって。

うん、いや多分俺のせいなんだろうけどさ。

これだけ赫子を成長させるとは思ってなかったんじゃないかなと。

だってねえ、これから生きていくためには必要そうじゃない?

だから強くなろうと頑張ったわけなんだけど。

 

「とにかく、赫子を使うのは禁止ですよ。あと共食いも」

「ええー」

「返事は?」

「はーい」

 

どうやら。

共食いと赫子を使うのは駄目らしい。

分かる気がするが。

やっぱりそれが原因なのね。

ご飯はまあ、自殺した人をどうこうすればいいか。

安直な考え。

 

クインケはいい感じ。

振りかざしてみても、軽くて使いやすそうだ。

暫くこの子に頼ることになるだろう。

下手するとアカリちゃんにご飯のおこぼれを頂戴する羽目になりそうだ。

うーん大変だ。

 

 



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転機

大変、大変お待たせいたしました。
既に見限った人もいるかもしれませんが、再開させていただきます。
続けられるだけ続けたいと思います。


さて、やってきました自殺の名所。

投身自殺で有名だとか。

とりあえず水死体はきつそうなので、陸の死体から攻めていく。

まあちょっと歩くのに時間はかかったけどね。

夜道を素で歩くのは新鮮。

いやマスク付けてるけどね。

 

「……」

「……あれ?」

 

どうやら先客がいらっしゃったようで。

男の人かな?

ちょっと遠くだから顔は見えない。

というかマスクしてないね。

喰種なのかな?

わかんないや。

 

 

 

―――――斬ってから考えようか。

そうしよう。

 

クインケを展開していざ斬りかかろうとしたところで、ふと思い出す。

ああ、俺は今戦わない方がいいんだっけ。

忘れるところだった。

うむ、約束大事。

 

と思ったところで相手側がこちらを見る。

どもども、同胞ですー。

挨拶してみるがスルー。

どうやら気難しい人らしい。

 

「……」

「あのー?」

「……」

「聞いてる?」

 

気難しい?

というか無口なだけ?

それとも両方?

よくわからない。

 

それと、どこかで見たことあるような顔。

うーんどこだったかなぁ。

思い出せない。

 

まあいいや。

思い出せないってことはあんまり重要なことじゃないってことだ。

多分。

わかんないけど。

 

 

 

男の人を放っておいて辺りを見渡すと、なんと新鮮な死体が!

新鮮なのに死んでるっていうのが最高に謎。

いや死にたてって考えると新鮮なのか。

 

「ええと……」

「……」

 

しかし、その死体は男の人の足元にあった。

うーん邪魔。

だけど、なんとか譲ってもらわないとなぁ。

ここまで来るのに結構お腹減った。

このまま帰ると大損だ。

主にお腹的な意味で。

 

「……」

「? ……あ」

 

くいっと顔を遠くに向けた男の人。

そっちの方を向くと、なんと別の死体が。

ラッキーよかった取り合いにならないや。

 

「ありがと!」

「……ん」

 

やっと喋った。

……喋った?

 

まあいいや。

とにかく遠くにあった死体を担いで移動する。

流石にゴルフバッグ的なものは用意してある。

そのまま持ち歩くのは趣味悪いしね。

というか喰種だってバレるし。

 

男の人も死体を担いで崖の上に登っていく。

うわ、あんなところ登る普通?

俺には真似できないや。

服汚れるし。

 

 

 

「……もぐ」

「で、帰って来たわけですの?」

「……もぐもぐ」

「食べながら喋らないでくださいまし!」

 

ケイちゃんはいないけど、アカリちゃんはいる感じ。

どうやら寝に戻ったらしい。

たまに俺のベッドを占領したりするんだけど、今日は大人しく帰ったらしい。

食欲湧くから困るんだよね!

 

「もぐ……いる?」

「うぐ……」

 

いるらしい。

仕方がないのでタッパーに入れてお持ち帰り用にしてあげる。

頬肉がいいかな?

いえ、実は喉辺りのお肉が好きで。

意外!

 

さささっと切り分けてると、その様子をじーっと見つめてるアカリちゃん。

何? 気になるの?

くるくるっとナイフを回転させながらシェフのように切り分ける。

なんかアカリちゃんの目が輝いて見える。

 

「……はっ!? な、なんでもありませんわっ!」

 

それは無理があるよアカリちゃん。

そんなに楽しそうな顔しちゃって。

何が琴線に触れたんだか。

 

くるくるーっとやってしゅばばーっと切ってソテーにしてみる。

それを揃えてタッパーに入れてはい完成。

我ながら完璧じゃない?

伊達にアイドルやってないよ。

 

「アイドル関係ないのではありませんこと……?」

「いつ料理番組の仕事が入るかわからないんだよ?」

「喰種に普通の食事食べさせるつもりですの……?!」

「んーまぁ、そうなるんじゃない?」

 

気合いでどうにかする自信はあるけど。

俺、失敗しないので(キリッ)

なんでそんな風に辛そうな顔しないの。

頑張るの俺なんだし。

 

ちなみに頑張れば食べれることは実践済み。

超吐きたくなるけど。

青汁は死ぬ。

無属性攻撃って感じ。

 

「というわけで大丈夫だよ!」

「えぇ……」

 

納得いかないという表情のアカリちゃん。

確かにそうかも。

でも、やらなくちゃいけない時って言うのはある!

今じゃないと嬉しいけどね!

 

「……」

「……」

 

無言になる。

うむむ、何やら言いたいことがあるようで、言い出したくはないようで。

 

……うん、まあいっか。

理由があるのかわかんないけど、俺自身は大丈夫だし。

そもそもあの社長、俺が喰種だって知ってるのかな?

知ってそうだけど。

 

 

 

「……」

「……?」

「ちょっ、何するんですの?!」

 

いや、頬を膨らませてたからこう、指を突っ込んでみた。

ふにっとしてた。

女の子だなーって感じ。

いや、ふにっと具合なら負けてない。

肌には気を使ってるからね!

 

というわけでふにふに継続。

ふにふにふにふに。

いや、本当に飽きないね。

それに真っ赤になって可愛い。

ふふふ、このまま攻めていくよぉ。

 

「も、もう! やめてくださいましっ!」

 

と思ったら予想外の反撃。

どん、と勢いよく突き飛ばされ、倒れる。

そして突き飛ばした方も勢いがついて俺の方に倒れてくる。

わーお、これは刺激的。

 

ふんわりと抱き留めると、更に顔が真っ赤になっていくアカリちゃん。

あー可愛い。

このまま食べちゃいたい。

いや、我慢我慢。

最近衝動に任せて行動したくなってしまう。

抑えないとね、ちゃんと。

じゃないとただのケダモノになってしまう。

 

 

 

「おーう今日のお、や……つ……」

 

どーんとドアを蹴破って入ってきたケイちゃん。

俺達の格好を見て、手に持っていたにゃんこ様達のおやつをぽとりと落とす。

ああ、俺達の格好はどう見てもエロス。

というかはしたないからやめようね。

 

脱兎のごとく走り去るケイちゃん。

うん、わかる。

そうなるよね。

というかそうならざるを得ない。

俺もそうなる。

いや嘘。

混ざりに行くわ。

 

「ちょ、お待ちになってくださいまし!」

 

それをダッシュで追いかけるアカリちゃん。

うんまあ、誤解されたまま放置したら大変よね。

わかる。

でも喰種の筋力でドアをぶち開けるのはやめて欲しい。

壊れる。

ガチャン。

あっ。

 

 

 

にゃんこ様達をケージに入れ、ドアを直す。

こういう技術もアイドルには必要だとか。

なんだよT〇KI〇かよ。

いやわかんないけど。

 

「あの、すみません」

「?」

 

修繕に満足したところで、外から声がかかる。

こんな夜中に誰だろうか。

まさか社長?

いや流石にこの時間には来ないか。

 

じゃあ誰だろう?

というか気配的には複数。

嫌な予感がする。

念のためにサングラスとマスクをしておく。

一応これでもアイドルなのだ。

いや身元バレてるから意味ないかもだけど。

 

がちゃりと開いたドアの向こうには、同じスーツを着た男女が複数。

そして、その手には銀色のケース。

 

 

 

「喰種対策局です。少々お話お願いできますか?」

 

 

 

 

 

 



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衝撃

百合要素をここで出していく。
需要があるのかは不明。


爆破した。

いや正確には羽赫をぶっぱした。

せっかく作り直したドアだが、背に腹は代えられない。

さらばドア、さらばにゃんこ達。

俺は旅に出るぞー!

 

「くそっ!追え!!」

「待て!」

 

待たない。

とにかく全力で突っ走って逃げる。

クインケは一応握っているが、これってメンテどうすればいいんだろう?

マイフレンドに丸投げしてたから分からぬ。

 

とにかく逃げる。

人間と喰種。

こっちの方が速いに決まってる。

全力ダッシュで逃げ切ってみせる。

 

と思ったら足に激痛。

見ればなんか貫通してる跡。

背後を見ると銃の形をしたクインケを構える捜査官の姿。

というか有馬さんだった。

 

「やばいわ」

 

やばい。

もしかして狙われてたりする?

更にやばい。

全力で逃げなくちゃ。

 

甲赫を展開して葉っぱ部分を平らにする。

そして勢いよくぶん回して加速。

重いからって動くのに使えないわけではないのだ。

まあすぐ収納するけど。

 

初速を出した俺は一気に距離を取る。

路地裏に飛び込んで射線から外れる。

そりゃそうだ。

あんな正確に撃ってくるスナイパー相手にまっすぐ逃げるのはどう考えても悪手だ。

 

しかしふと思う。

あれだけ正確なら、頭をぶち抜けば終わりだったんじゃない?

……まあいっか。

生きてるわけだし。

 

 

 

さてこれからどうしようかと、喰種の肉片を齧りながら考える。

いや、近くにいたからつい。

もぐもぐ美味しい。

何か忘れてる気がするけど、今はそんな場合じゃないと思う。

多分だけど。

 

しかしこれからどうしよう?

にゃんこ達はケージの中だから迷子になることはないだろうけど、どうなるか心配。

うーん心配。

 

それと同時にこんな夜中に駆け出して行った2人も心配。

大丈夫だろうか。

色んな意味で。

いや、アカリちゃんがいるし酷い目にあう可能性はほぼないだろうけど。

 

とはいえ、やっぱり気になる。

もぐもぐしてるお肉を手放し、周囲の匂いをうかがう。

どうにか2人の匂いをかぎ分けようとしてるわけだが。

 

うーむ……多分こっち!

雰囲気で感じた方向に走る。

勿論路地裏をジグザグに移動しながらであるが。

 

 

 

「―――――!」

「―――――!」

 

暫く走ると、なんと本当に見つかった。

ラッキーである。

言い合いしてるみたいだけど、何話してるんだろ?

気になる。

気になるけど、今ゆっくりしてる余裕はない。

とにかく逃げる必要があるわけで。

 

と思って踵を返そうとしたら、衝撃の光景を目の当たりにする。

なんと、アカリちゃんが、ケイちゃんに、キスしていた。

 

え、なんで?

いや本当になんで?

ううん、まさか百合とは思わなかった。

いや、もしかして俺がこんな格好してるせいで百合に目覚めたとか?

ごめんね可愛くてさぁー!

じゃない。

マジか。

想定外。

 

けどまあ、いいか。

見た目的には保養になるし。

というかそんなこと言ってる場合じゃないわ。

逃げなくちゃ。

ごめんねアカリちゃんとケイちゃん。

2人で幸せになってね!

 

脱兎のごとくその場から駆け出す俺。

いやなんだか浮気を目撃した女の子みたいなムーブしてるけど、俺何やってるんだ……?

まあいっか。

とりあえず、社長には報告しなくちゃなぁ。

仕事できなくなっちゃいましたって。

 

 

 

「マジか」

 

 

 

本社に行くと、なんと既に周囲を喰種捜査官に囲まれていた。

え、なに、もしかして俺のせい?

マジか。

そいつはやばい。

俺のせいで人生台無しとか責任感じまくり。

 

「あ、知ってたよ」

「マジか」

 

と思ったら背後から社長とマネージャーが出現。

衝撃の真実を口にした。

マジか。

というかさっきからそれしか口にしてないな俺。

それだけ驚いたってことなんだけど。

 

「というより、わたしも喰種だよ?」

「マジか」

「月山……知ってるかどうかわからないけれど、結構有名な喰種の名家だよ」

 

知ってる。

というかマジか。

そういえば気にしてなかったけどムーンマウンテンプロダクションって名前だったね、うちの芸能会社。

ああ、がっつり喰種!

どっぷり嵌ってましたわ。

おのれマネージャー。

許さな……いや、拾ってくれたし、許すわ。

 

「というよりもですよ?」

「ん?」

「どす黒い血に塗れた服を着た子供を拾う人間が普通だと思います?」

 

思いません。

ごめんなさい。

ありがとうございました。

マネージャーに完全論破されてしまった。

これは悔しい。

 

「というわけで逃げなさい、スバル君」

「え?」

「私がサポートします。行きましょう、スバル君」

 

え?

あまりの超展開について行けない。

なんで社長がこの場に残るのかとか、なんでマネージャーと一緒なのか。

よく分からない展開である。

 

「いやね、実は前々から目をつけられていてね。今回ついに強硬手段に出られてしまったわけだ」

「しまったわけなんですか」

「わけなのだよ」

 

どうやら面が割れているから逃げない、ということらしい。

社長はあまり戦闘が得意というわけではないとか。

それなら一緒に逃げればいいのに。

そう言うと、社長は笑いながら言う。

 

「若い子の負担にはなりたくないのでね。それに、君たちなら面が割れていないはずだ」

「でも」

「行きますよ」

 

食らいつこうとした俺をマネージャーが引き離す。

いや力強っ!

俺が負けるって相当強いんじゃない?

やっぱり喰種かマネージャー。、

この数年間気付かなかったとは不覚である。

 

というか俺、俺顔割れてるじゃん!

意味ないって、これ!

と思ったらマネージャーがニッコリ笑って言う。

 

「変装、得意でしょう?」

「え、うん。まあ」

「頑張ってくださいね」

 

有無を言わさず。

どうやら俺は頑張らないといけないらしい。

失敗したら死ぬから頑張らなくちゃ。

 

スタスタと歩く俺達。

そしてマネージャーは俺に一枚の紙を渡してきた。

 

「何これ」

「新しい戸籍です。確認してください」

「仕事早いな」

「ええ、マネージャーですから」

 

名前は(くれない)(すばる)

ほとんど同じだ。

名前の呼び方さえ変わらなければ大丈夫だろう。

 

しかし。

ケイちゃんとアカリちゃんと別れなくてはならないのは辛いことだ。

折角唾つけて……もとい友達になったのに。

まあきっと幸せになってくれるでしょう。

2人で。

いやどうだろう?

やっぱり百合の間に挟まった方がいいのでは?

 

変な思考にズレた。

話を戻そう。

 

ともかく、この場所から避難しなければならないのだ。

向かう先はわからない。

ただただマネージャーに連れられて進むだけだ。

 

しかしスムーズに進むもんだ。

俺だって路地裏に結構詳しくなった気になってたが、これほどのスピードで動くのは無理だ。

目標が決まってない、ジグザグに進むだけならまだしも、目的地に向かうのにこうやって迅速に動くのは苦手だ。

行き当たりばったりと言ってもいい。

 

しかし、なんだか連れられて歩くのが懐かしい気持ちになる。

まるで、はるか昔にこうやって連れられて歩いたかのような気持ち。

いや、昔って言ってもこの身体なのかどうかも分からないけど。

 

 

 

「こちらです」

「うわぁ……」

 

開けた場所に出たら、なんと大きな屋敷が見えた。

しかもいつか見たような形。

ああ、多分月山家の屋敷って奴だな?

なんで?

 

「こちらで匿ってもらう算段がついてます」

「仕事早い」

 

そりゃ安心だ。

なんせマネージャーの仕事だ。

抜かりはないはずだ。

そうでなかったら俺は既に死んでいるはず。

それくらいには信頼してる。

 

 

 

……そんなわけで。

俺は月山家の使用人兼学生として、雇われ学生になったのであった。

 

 

 

 

……ああ、それにしても。

あいつらは大丈夫なのか?

ちょっと心配になってきた。

 

 

 



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業務

何というかこう、難産でした。
いやあれだけ間が空いた後のこれで正直申し訳ないというか。
頑張っていきます。


今日の日記。

いや厳しいねこの環境。

学校に行きながら執事のお仕事を覚える日々。

楽しいと言えば楽しいんだけど。

 

「駄目ですね、やり直し」

「はい!」

 

教育係がマネージャーだったりするのはどうかと思う。

いや、知り合いがやってくれるのはいいんだけどさ。

なんで俺メイド服なの???

馬鹿なの???

いや文句は言わないけどさ。

 

だって俺が生きてるのはここの人たちのおかげなわけで。

そんな人たちに文句を言う気にはなれないというか。

というかそんなこと言って追い出されたら死ぬ、間違いなく。

 

「はぁ……」

「何疲れてんの?」

 

学校での話。

どうやら月山家の息がかかった学校に入学させてもらった模様。

学力検査らしきものを受けさせられたが、ほぼスルー案件だった。

だって小学生レベルだったし。

 

「いや、何でもない」

「そうかぁ?」

 

とりあえず、話しかけてくる気さくな少年を追いやる俺。

心配してくれるのは嬉しいんだが、あんまり他人と接触するのはボロが出る可能性がある。

いや、ほぼ喰種の学校でそんなの気にする必要はないのかもしれないが。

 

ちなみにであるが。

俺の格好は普通の学生服。

というか男物のブレザーである。

ちょっと違和感があるのが困りもの。

家でのメイド姿の方がしっくりくる。

 

授業は楽勝、しかし友達は作らず。

何とも味気ない学校生活だが、なんだか友達を作る気にもなれない。

付かず離れずの生活を繰り返す日々。

 

うんまあ、ずっとあの2人のことが気にかかってるわけである。

あとにゃんこ達。

大丈夫かなー?

何してるのかなー?

ちゃんと餌貰ってるかなー?

どうにも集中できない。

 

 

 

「―――――というわけなんだけど、様子わかる?」

「こちらを」

 

マネージャーに相談してみるとあら不思議、2人の隠し撮り写真が!

仕事がお早い。

というか早過ぎて怖い。

 

パラパラを見ていくと、どうやら仲良くやっている様子。

あ、にゃんこ達はちゃんとケイちゃんが飼うことになったのね。

それに関しては安心した。

 

……しかし、手をつないでいちゃいちゃいちゃいちゃと。

なんかむかむかしてくる。

何だろうこの気持ち。

嫉妬……?

いやいや、そんなわけがないでしょ。

だってあの2人が仲良くしてるだけでしょ?

それに嫉妬するとかありえないって!

 

「……本当にそうでしょうか?」

「え、何その顔」

「さて……何のことか」

 

何やら意味深な表情のマネージャー。

え、なに?

なんかあるの?

やめてよそういうの。

怖いじゃん。

 

 

 

というか。

なんだか知らないけどメイドとして働く以上、旦那様がいるわけでして。

旦那様はいい人なわけでして。

何故知ってるかというと、まあ知っていたからとしか言えないのだけど。

 

「君は確か習くんと年齢が近いようだったね」

「はい」

「あんまり近づかないように!」

「??? はい」

 

なにやら真剣な顔で懇願された。

いやまあ、どこの馬の骨かわからん奴に溺愛する息子を近寄らせたくはないだろうけどさ。

というか知らせたよね、俺が男だって。

え? 教えてない?

マネージャーなんで???

 

「まあいいではないですか」

「いいではないですか……じゃないよっ」

 

しれっと言い切るマネージャー。

いやいやいや。

それはおかしい。

だって雇い主にそういうこと言わないとか不義理じゃない?

え、そこは問題ない?

あ、はいわかりました。

 

 

 

なんか誤魔化された気がする……。

用意された布団に入りながらぼーっとする。

うん、使用人に用意するものとしては異様なくらい上等な奴。

なにこれふわっふわなんだけど、と驚いたのも数日だけか。

今はこれじゃないと眠れない感ある。

 

と思っていたら、唐突にドアが開く。

うん、誰だろ?

すーっと耳を澄ませると、聞きなれた足音。

なんだ、マネージャーか。

 

身体の力を抜いて寝る準備。

いつものことだ。

ぶっちゃけ慣れた。

なんかいつも寝室に入ってくるって割と怖いけど。

 

ぎぃ、とベッドに体重を乗せてくるマネージャー。

ん、いつもと違う?

なんか嫌な予感が……。

 

 

 

「愛していますよ、スバル」

「―――――」

 

 

 

ドアを閉めていなくなるマネージャー。

あーうん、いや驚いた。

なんていうか、想定外だ。

 

だってマネージャー男だし。

 

あーんーまー……。

いや、嫌いじゃないんだけどさ。

なんというかこう、恋愛感情に発展する可能性がないというか。

親愛はあるんだけどさ。

いやもう、こう、混乱してる。

どうしてこんなことになってしまったんだって感じ。

 

うーんもやもやする。

最近こんなことばっかりだ。

食事も定期的に貰えるし、外に出る必要もない。

どうしようかなぁ。

 



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事件

マネージャー便利過ぎ問題。


スタンスタンと剣を振るう。

赫子を出さずに木刀で叩き合う。

剣を払う突く打つ削る。

うん、あれの使い方を思い出す。

そういえば家に放置してきてしまったが、どうなったのか。

なんか大変なことになってそう。

 

「中々使えますね」

「慣れてるもんで」

 

執事さんの内の1人に鍛錬の相手をしてもらってる。

どうやら甲赫の使い手のようで、慣れた手つきで鋭い攻撃を繰り出してくる。

いや本当に強い。

これまで戦った内の5本の指に入るくらい強い。

いやまあ、雑魚としか戦ってないと言えばその通りなんだけど。

 

木刀を振り上げ、相手の攻撃を誘う。

しかし相手はその誘いに乗らずに普通に的確な攻撃を繰り出してくる。

いや、これつらい。

普通に負けるわ。

お強い。

持ち手を短く持って柄の部分も使ってどんどん弾くけど、手数で押される。

 

「……まいりましたっ!」

 

もう無理―!

両手を上げて降参のポーズ。

完全に技量で負けている。

というかいつものメイド服姿で戦うのもどうなんだろ、と思いつつ。

まあいいかと思ってる自分もいる。

 

「ふむ、筋はいいな」

「あ、ありがとうございます」

 

終わった後にタオルを投げてくれる執事さん。

いい人だ。

あいつらは人に気を使わなかったからな。

ああいや、多分気が使えなかったんだろうけど。

それくらい余裕がなさそうだった。

 

 

 

いやーそれにしてもユウマさんはいい人だなぁ。

 

 

 

「何ですか? それは自分がいい人ではないように聞こえるのですが」

「わひゃあっ!?」

 

ちょっと漏らしたら唐突に背後からマネージャーの声がした。

怖い。

というか昨日の件から更に怖く感じる。

やべー奴だよ絶対。

前からそんな気はしてた。

 

え、俺もやばい奴?

そうかなぁ?

よくわからないなぁ。

よくわからないって言ってるでしょ!

……誰に言い訳してるんだか。

 

とにかく。

いきなり後ろから声をかけて来たマネージャーを軽く睨む。

 

「もうっいきなり声かけてこないでよねっ! びっくりしたじゃん!」

「猫被るのは忘れないんですね」

「これが素ですぅー!」

 

いや素ではないんだけど。

反射的に答えてしまった。

まあ、半分くらい本当だからいいんだけど。

最近どっちが本当の自分か分からないこともあったりなかったり。

嘘だけど。

 

「それよりも、そろそろ時間ですよ」

「え? あ、そっか」

 

汗をぬぐいながら思い出す。

そうだ、カラオケ行くんだった。

この間、誘いを断り切れずにカラオケに行くと約束してしまったのだった。

うん、なんで約束しちゃったのかよくわからない。

 

まあしかたない。

約束しちゃったからには俺の歌唱力を見せつけるしかない。

驚け慄け平伏するのだ。

はーっはっはっは!

 

 

 

「はぁー……」

 

失敗した。

よくよく考えてみれば俺、レパートリーが自分の曲しかねぇじゃん。

それでうっかり原曲キーで歌ったもんだからバレかけた。

なんとか誤魔化してその場を切り抜けたが、怪しんでる奴がいるかもしれない。

 

どうしようか。

マネージャーに頼んで消してもらうか?

……いや、本当に消しかねないからやめておこう。

仕事が完璧すぎるんだよなぁあの人。

 

ううん、仕方ない。

放置で。

暫くして噂が広がってなければセーフだろう。

そうだ、そうしよう。

 

 

 

「あ、記事に出てる……」

「アウトですね」

 

翌日、週刊誌に俺の写真と少年Bの証言が載っていた。

うん、これはアウト。

どうしよう?

 

「この会社は既に潰してあるので、流通の可能性はほぼ0です。ご安心ください」

「わーいお仕事早ーい」

「恐縮です」

 

仕事早過ぎ笑えない。

いや、会社潰すってどうやったの?

え?

聞きたくないからやっぱりやめて。

 

「少年Bは地下に隔離してありますが、いかがいたしますか?」

「えっ?」

「このまま転校したことにしますか?」

「えっ」

「えっ」

 

これは危ない。

危険が危ない奴。

社長がブレーキ役だった奴だなこれ?

怖っ。

社長なんでこんな人物を横に置いてたの?

度胸あるなぁ。

いや、あったんだなぁ、か。

 

しかし。

本当に社長は死んだのだろうか。

なんか殺しても死なない気がしてならない。

……なんか逆に怖くなってきた。

 

「というかいいよ。普通に解放してあげて」

「よろしいので?」

「いいったらいいの!」

 

自分も似たようなことやった気がするけどスルー。

というか何やってるんだマネージャー。

もっとこう、手心をあげてもいいんじゃないかな。

 

念押しした。

絶対にトラウマになるようなことはしないって。

うんまあ、俺のせいでもあるし?

いやほとんどマネージャーのせいなんだけどさ。

 

「はい、問題なく」

 

にっこりと笑うマネージャー。

いや、本当にそう?

既にやっちゃったぜ、ってことなのかな???

 

 

 

……うんまあ、いっか。

あとは何とかするでしょ、マネージャーだし。

俺に迷惑かけることだけはしないだろうしね。

 

 

 

 



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