真っ直ぐな男 (タッチアップ)
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前日譚

物語は藤山直球の高3の春から始まる。


?「フンッ!!」

 

ズバーン!

 

『で、出ました!150キロ!!九回で球数は既に160球目にも構わず、此処で150!!』

 

真夏並の日射しが照りつく、甲子園球場。

 

第一回戦、優勝最有力候補の高校No.1スラッガー清本率いる西強高校と対峙するは、21世紀枠で甲子園初出場を決めた力第一高校。

 

非常にマッシブで力強い打線が魅力的なのだが、自慢の強力打線も西強に今一歩届かず、守備・走塁面では完敗。

 

プレイボールと共に、トップバッターに初球をライトスタンドへ放り込まれ、更に4番の清本にスリーランを食らったり等で初回から既に七失点の大炎上。

 

大会最多得点、最多失点も狙えるのでは?

 

と一部の記録マニアが期待する中、着々と失点を積み重ねる力第一高校…

 

 

 

ビュッ

 

ズバーン!

 

 

『ストライッ!バッターアウッ!スリーアウトチェンッ!』

 

九回表、清本に回る一歩手前で三番をその豪腕で三振で捩じ伏せる。

 

 

?「俺達はまだ負けてねえ!!心が折れてねー限り必ず奇跡は起きる!!

 

良いな!?」

 

「お、おう…」

 

エースの少年に鼓舞され、動揺しながらも声を出す部員達。

 

藤山 直球

 

その名を現す通り誰よりも真っ直ぐな男。

 

確かに台詞はクサイが、最後まで諦めようとしない心意気は中々の物。

 

が、スコアボードに刻まれた西強高校の計30得点という現実逃避したくなるような点数を入れさせた戦犯でも有る…

 

 

ビュッ

 

ズバーン!

 

「ストライッ!バッターアウッ!ゲームセット!」

 

?「ハァ…ハァ……終わった…のか?」

 

清本「ああ…」

 

圧勝の筈が、急に疲れが訪れ完投した少年は地面に片膝を着け、ファーストの清本が駆け寄り肩を担ぐ。

 

完投した少年は、桑名 大志。

 

全国で三本の指に入る大エース。

 

現に強力打線の力第一を一失点で抑えた程。

 

 

「両校…礼!!」

 

『ありがとうございました…』

 

満身創痍の両校。

 

30対1。

 

試合時間は3時間半。

 

この試合で、西強高校はセンバツでの一試合の最多得点、安打、本塁打、塁打等の輝かしい記録を更新。

 

逆に力第一高校は最多失点をメインに、ワースト系を殆どを更新してしまう結果となる。

 

 

 

桑名「ハァ…ハァ…」

 

最後の握手を藤山と交わそうとする桑名。

 

桑名(なんでコイツ…息切らしてねーんだ?)

 

あれだけフルボッコにされ、球数も自分より遥かに投げた筈…

 

しかもこの炎天下の中で、この男は…真っ直ぐな曇り無き眼で俺を捉える。

 

 

藤山「がはははははっ!

 

流石は西強の桑名!強かった!!どうやらアンタ達の方が、勝利への真っ直ぐな気持ちが強かった様だな!!」

 

桑名(はぁ?なんだコイツ…なんで若干上から目線なんだ?)

 

 

 

清本「藤山。少し聞いても良いか?何故…お前は変化球を投げなかった?」

 

桑名も気になっていた事を清本が代弁してくれた。

 

桑名(そうだ…コイツは仮にも150キロを投げてたんだ…オマケに初回から全力でフルスロットルで投げては、今も平然としているスタミナに悪くは無いコントロール……変化球を投げてたらもしかしたら俺達が……)

 

 

藤山「ん?そんなの曲がらねーからだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半年後…

 

力第一高校

 

藤山「今日で俺達は引退だ!残念ながら、最後の大会は初戦敗退だった……が、俺達はあの甲子園に行けたのは疑い無い事実!!

 

お前達ならまた辿り着ける筈だ!頑張れよ!!」

 

「はい!」

 

藤山達3年生最後のスピーチも終わり、新しい次代にバトンタッチされる。

 

 

 

藤山「さてと、どうすっかなー」

 

真っ直ぐ帰り道を進む藤山。

 

悩んでいるのは就職か進学。

 

 

 

?「よぉ。ちょっと良いか?」

 

藤山「ん?」

 

ガラの悪そうなオッサンに突如声を掛けられる。

 

が、そのオッサン、何故か学ランを着ているので恐らく学生だ。

 

?「お前、藤山直球だろ?」

 

藤山「いいえ、人違いッスね」スタスタ

 

男木「まあ、まてまて。俺は極亜久高校三年、男木だ」スッ…

 

その男は財布を取り出すと免許証を取り出し提示する。

 

藤山「…なんでアンタ、もう免許証持ってんだ?」

 

男木「ふっ、ソイツはちょいっと教えられねえな」

 

藤山「まあいいわ。そんで男木さん。俺に何か用ッスか?」

 

男木「ああ…お前、進路決まったか?」

 

藤山「……」

 

男木「その様子ならまだっぽいな。なら、進学も視野に有るって事だな?」

 

藤山「…だとしたら?」

 

男木「なら話は早い。

 

藤山直球。俺と一緒に黒龍館で……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やらないか?(全国制覇)

 

藤山「!」キュピーン

 




本編の補足①です。

藤山が変化球を投げても曲がらない発言


当小説内では割りと見られる光景として扱います。

握り、リリースを幾ら練習しても曲がらない棒球、或いは肩肘への負担が凄まじい事。

球速、制球、変化球、何か一つでも優れていれば、選手層の薄い所ではエースとしてマウンドに上がる事が多々あります。



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前日譚②

ー帝王実業高校ー

 

 

ブン!

 

ブン!

 

室内練習場にて唯一人、一心不乱に素振りを続ける元帝王(キャプテン)の友沢。

 

既にスポーツ推薦で帝王大学への進学を表明している。

 

 

友沢「……」

 

ブン!

 

ブン!

 

 

ガチャ

 

?「まだやってるんですか?」

 

友沢「…久遠か…」

 

急に室内練習場の扉が開けられ、現帝王の久遠が呆れた表情を浮かべる。

 

久遠「ホント学習しない人ですね…三時間もマスコットバットで素振りしてたら、手首イカれますよ?」

 

友沢「…俺の勝手だ…」

 

久遠「ハイハイ。まあ、僕には関係ない事なんで別に良いですけど。あっ、それとちょっと雨降って来たので、今から室内メニューに切り替えるんで、すみませんが邪魔なんで帰ってくれません?」

 

やたらトゲの有る言い方をされ、ストレスが急激に溜まる友沢。

 

が、今の権限は久遠に有る。

 

渋々友沢は荷物を纏め、室内を乱暴に退室する。

 

 

友沢「クソ!」

 

後輩にあんな舐められた態度を取られ、行き場の無い怒りが脳内を駆け巡る。

 

友沢(だが…俺が悪いんだ…俺が…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は久遠から帝王勝負を挑まれ、日付を予選大会開会式の前日にした。

 

だが、約束した時には既に肘は再起不能レベルに達しており、最後の大会を期にピッチャーは引退する予定だった。

 

が、その勝負の同日…つまり、予選開始二日前。

 

久遠との対決前の最後の調整の時、俺の肘は限界を迎えた…

 

 

想像を絶する痛みが襲い、救急搬送され全治2ヶ月の重症の診断結果。

 

勿論野球所の話では無かったので、俺は大会を欠場。

 

俺自身のアピールのチャンスを棒に振ったのは痛かったが、事態は想像以上に深刻だった。

 

帝王でエースで4番の俺が急遽抜けた事によりチームは混乱してしまい空中分解、予選は初戦敗退となった…

 

 

そう…俺は久遠との約束を破っただけでは無く、帝王の看板に泥を塗ったのだ…

 

そして監督から、プロ入りは絶望的と言われ、早々と進学を進められたのだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー友沢さん、大学に行くんですね…

 

ーああ…

 

ーまあ、僕にはどうでもいい事ですけどね。自己中な人のする事なんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友沢(本当にすまなかった久遠…)

 

後輩を裏切り、チームまでもをめちゃくちゃにした俺…

 

だが全ては家族の為…!

 

こんな所で立ち止まる訳にはいかない!!

 

友沢(母さん…!朋恵…!翔太…!

 

待っててくれ…俺は、必ずプロ入りしてみせる!!)

 

 

 

ー聖タチバナ学園高校ー

 

?「やっほー聖♪」

 

水色髪の少女、学長の孫娘、橘 みずきが本校のユニフォーム姿で現れる。

 

六道「うん?みずき、その格好…」

 

橘「ふっふーん、やっとお爺ちゃんから許しが貰えたんだー。どう?可愛いでしょ?」

 

クルクルと回りイエローカラーの新品のユニフォームを見せびらかす橘。

 

六道「?よく分からないが、良いと思うぞ」

 

橘「へっへー。ありがとね☆」

 

 

ザァ…

 

シュ

 

 

クククッ

 

バシッ

 

マウンドに上がる橘。

 

左のトルネードサイドから投じられたボールは、利き腕側へ深く、そして鋭く曲がり、六道のミットに収まる。

 

彼女のウイニングショット、高速スクリュー・クレッセントムーンだ。

 

橘「ナイスキャッチ!すっかり捕れる様になったじゃない」

 

六道「ああ。すまなかったみずき、待たせてしまって…」

 

橘「謝らない♪謝らない♪どちみち、私は高校じゃあ野球出来なかったんだから」

 

本校の学長で有る、祖父源之助による教育方針により、学園では勉学に励み部活動は禁止されていた。

 

従って、表向きには野球は出来ず、他の生徒会メンバー共々隠れてするしか無かった。

 

だが姉、聖名子が大リーガーの神童と婚約、彼の人間性と野球の良さを知り、遂にスポーツの全面解禁された。

 

が、それが決まったのはついこの間の話。

 

橘みずきの夏はとっくに終わりを迎えていた。

 

 

 

 

 

六道「イレブン工科大学?」

 

橘「そ!私の第一志望♪まあ、私なら余裕だけどね♪あ、勿論硬式野球部もちゃんと有るから、みずきちゃんの野球部デビューだね!」

 

ウキウキ気分の橘。

 

六道(みずき楽しそうだな。だが良かった…みずきが学生野球を満喫出来そうで…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

橘「あ、そいえば聖。貴女も進学しなさい!」

 

六道「なー!わ、私は就職予定なのだが…」

 

橘「い・い・か・ら☆

 

ね?」

 

六道「……」

 

橘みずきと出会ってから自分の進路がポンポンと決められる…

 

橘「聖との美少女バッテリー楽しみだね♪」

 

六道「……」

 

 

 

ー西強高校ー

 

桑名「アァ"!?ふざけんなよマジで!!」

 

自分のスマフォを見て、激昂する桑名。

 

清本「どうした桑名?」

 

桑名「清本か…あ、ああすまねえ、大きな声出しちまって。

 

それがよ、スマフォで俺の情報みたらさ…」スッ…

 

『桑名対藤山、三時間半の熱投!!』

 

『西強高校、2回戦敗退。桑名、力尽きる』

 

桑名「未だに春の大会のニュースばかり出るんだぜ?夏の優勝ピッチャーなのにさ」

 

清本「うむ…」

 

桑名「あぁぁぁぁぁ!!何で俺があの真っ直ぐだけの奴と同列扱いなんだよ!?

 

フルボッコにして大会記録も作ったワンサイドゲームなのに、何が熱投だよ!!」

 

清本「余りにも目立ち過ぎたな…その後に敗退したのも痛手だな…

 

だが桑名。あの藤山とかいうピッチャーの実力は多少なり認めた方が良い」

 

桑名「チッ、ああ分かってるさ…」

 

今年の春夏の甲子園で、唯一150km/hを出せたのは藤山唯一人。

 

自分でさえ140がMAX、アベレージでは130前後。

 

そして藤山はアベレージでも145km/hを出している。

 

 

桑名「なあ清本」

 

清本「?」

 

桑名「お前…進路は?」

 

清本「いつも言ってるだろ?プロだ」

 

桑名「だよなー。んじゃ、甲子園優勝ピッチャーからアドバイスだ♪有り難く聴けよ?

 

お前はプロに確実に行ける実力は有るし、今すぐ通用する筈ぜ?」

 

清本「どうした急に?」

 

桑名「フッ…俺、あの藤山って奴がもし進学するならさ…俺も進学するわ」

 

清本「……」

 

桑名「リーグは違うかも知れねーし、絶対にやりやう保証もねーけどさ…アイツをボコボコにしねーと収まりが着かねんだよな~」

 

清本「……」

 

桑名「まあ、アイツが進学するならの話だな。しねーなら、無難にプロ志望届出す予定だ」

 

清本「フッ、フハハハハハハ!!」

 

桑名「ど、どうした清本!?」

 

腕組をし、仁王立ちする清本が盛大にバカ笑いする。

 

清本「面白い!俺もあの男には興味が有る!俺もお前に合わせようではないか!!」

 

桑名「はぁ…?」

 

清本「それに大学で頂点を極めるのも悪くは無い!!よし、では俺と一緒に西強大に行くぞ!!」

 

桑名「え?何?もう進学確定?てか、大学も西強大で強制なの?」

 

立場逆転、すっかり進学の方に意欲を出す清本。

 

桑名(あー、コイツ一度決めたら曲げねんだよな~。頑固って言うか、真面目って言うか…)

 

だが高校No.1スラッガーが共に来てくれる。

 

これ程心強い事は無い。

 

桑名(待ってろよ大学野球…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

『以上で、本年度のドラフト会議を終了いたします』

 

 

ーパワフル高校ー

 

 

?「終わったな矢部君」

 

?「そうでやんす」

 

部室のテレビにてドラフト会議中継を観ていた少年二人。

 

一人は眼鏡を掛け、いかにもヲタク系と呼ばれそうな少年。

 

もう一人は短髪が似合う、誰もが想像つく高校球児。

 

名は小浪 球也と矢部 明雄。

 

3ヶ月前まで、此処パワフル高校の野球部だったが、今は引退し、大学受験に備える者達だ。

 

 

小浪「て事は、清本とか桑名は、やっぱり進学…?」

 

矢部「そうでやんすね」

 

小浪「うわぁ…あんな化物と四年間一緒かよ…」

 

矢部「何を言ってるでやんすか?先ずオイラ達は受かる事に集中でやんす」

 

小浪「うっ、確かに…」

 

現実に戻された小浪は、再び目の前に有る過去問の参考書を凝視する。

 

小浪「てか寒っ…!何で教室とか図書室じゃ無いの?」

 

矢部「フッ、それは勿論…」

 

ピッ

 

♪~♪

 

中継後のチャンネルを変えた瞬間懐かしいアニメーションが流れる。

 

矢部「このガンダーロボSPEED(スピード)を観る為でやんす!」グッ

 

小浪「ハァ…」

 

 

そして時が流れ…

 

ーパワフル大学ー

 

ザワザワザワ…

 

小浪「えーと、俺の番号…俺の番号……あ、あった!」

 

見事第一志望のパワフル大学に受かった小浪。

 

矢部「うおぉぉぉぉぉ!!オイラもあったでやんす!!」

 

小浪「え、ホント矢部君!?やったぜ!!」

 

バンザーイ

 

バンザーイ

 

 

(うわぁ…男同士で抱き合ってるぜ…)

 

 

 

ーイレブン工科大学ー

 

橘「よーし!!」グッ

 

掲示板に自分の番号を確認する橘。

 

橘「さあ~て、聖に報告♪報告♪(あんたも来年受かりなさいよ?)」

 

 

ー帝王大学ー

 

友沢「……」

 

特待生の為、既に受かっている友沢はバイトの準備をする。

 

 

そして藤山・男木の双方共にめでたく合格。

 

それぞれの大学野球が始まろうとする。

 

 




はい、走り書きの駄文ですが。取り合えず高校編?完結です。

此処で軽く第二世代の補足。

友沢は大怪我+初戦敗退でスカウトからの評価が著しく無いと監督から聞かされ、早々とスポーツ推薦で進学した設定です。

みずきちゃんはフィアンセ(パワプロ君)がいなかった為に野球部に入るタイミングを逃した事です。

というよりも、友沢のパワプロ13での設定が今思うとツッコミ所満載ですね。

監督が蛇島にスライダーの投げ込み禁止の伝達係りをさせる←いや、監督のお前の仕事だろ

肘を壊して直ぐに復帰←直ぐに復帰出来るって…


次回はキャラ紹介、それから本格的に本編開始予定です。



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第1話・入部

4月1日

 

ー黒龍館大学ー

 

藤山「ッス!おはよー男木!!」

 

男木「ああ…」

 

藤山「なんだその元気のねぇ返事は?俺達今日から大学生だぜ?目指せ全国制覇だ!!」

 

男木「あー、分かったから静かにしろ…朝はちょっと機嫌が悪いんだ俺は…」

 

 

藤山「そ言えばさ、俺達のクラスは何処だ?」

 

男木「んなもん知るか。自分で見て来いや」

 

藤山「ハァ…分かったよ」

 

男木「あ、俺様のも夜露死苦(死語)」

 

 

藤山「さてと…(流石は黒龍館だな…どいつもこいつも真っ直ぐな良いガタイをしてやがるな…)」

 

見渡す限り女子は皆無、ガタイの良い野郎ばかり。

 

 

藤山「えーと、オッサン(男木)と俺は、と…

 

!?」

 

目の前の群衆の中に、他の屈強な男どもより頭一つ抜き出た身長・まるで関取クラスで有ろう肩幅に体格の男。

 

クル

 

ドーーーンッ!!

 

藤山「Σうわぁ!?」

 

?「ん~?あー、すまない、大丈夫か?」

 

巨男が180°反転した際に真後ろにいた藤山にその巨体が直撃、藤山は軽々と吹っ飛ばされる。

 

藤山「イテテ…お、おう大丈夫だ!気にするな!!(な、なんというパワーだ…この真っ直ぐな俺がこうも軽々と…)」

 

体幹をメインに、全身を満遍なく鍛え上げた筈。

 

が、こうもアッサリと吹き飛ばされるとは…

 

黒龍館大、恐るべし!!

 

 

 

男木「おせーじゃねーか。何処ほつき歩いていやがったんだ?」

 

藤山「悪い悪い…いやー、ちょっとデカイ男に阻まれて見えなかったんだ」

 

吹き飛ばされた事は秘密にする藤山。

 

男木「デケー男だぁ?その男の特徴は?」

 

藤山「身長は2mは有るかな?んで関取の様なバカデカイサイズだ」

 

男木「髪型は?」

 

藤山「アフロだった」

 

男木「そいつは満腹高校のマンボ鈴木だな。間違いねえ…因みに多分野球部入部だな」

 

藤山「な、なんだマンボって!?」

 

男木「んな事知るかよ!本人がそう名乗っているらしいからな。オマケに甲子園にも出場してるし、其処でも登録をマンボで登録した野郎だぜ」

 

藤山「なん…だと?」

 

な、なんて漢(おとこ)だ!!

 

 

そして時が流れ…

 

グラウンド

 

ザワザワ

 

 

座子田「皆さん、黒龍館大学にようこそ!私が監督の座子田だ!」

 

『おう!!』

 

爽やかさ、フレッシュさを微塵も感じさせない重低音の野太い声がグラウンド内に響き渡る。

 

座子田「良い返事だ!では早速自己紹介をしようか!じゃ、端の君から出身校とポジションを言ってくれ!」

 

「はいッス!出身は…」

 

 

「蒔田です。出身はパワフォー高校、ポジションは外野です」

 

男塾に出てきそうな強面な男達から一辺、至って普通な選手の自己紹介。

 

マンボ鈴木「俺は鈴木万歩。満腹高校出身、ポジションはサード、まあ、マンボって言ったら分かりますかね?なんで、登録名はマンボ鈴木でよろしく~。因みにマンボはガキの頃からのアダ名なんッスけど、気にいってるんで頼みますね~」

 

藤山(なっ!ガキの頃のアダ名を気にいってるだと?な、なんて純粋で真っ直ぐな男なんだ!?

 

カ、カッコいいぜ!!)

 

 

男木「俺様は男木だ。極亜久高校で、ポジションはファーストだ」

 

藤山「俺は藤山直球!!力第一出身!ポジションはピッチャー!!夢は真っ直ぐ全国制覇!!」

 

藤山の馬鹿デカイ声の挨拶で締められ、彼ら一年の大学野球がスタートする。

 

 

 



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※大学野球の設定説明part1(藤山&男木編)

本作での大学野球の設定を説明を致します。

現実とは違い、御都合設定になっていますが、宜しくお願い致します。

※具体的には、試合数等。



藤山「おーいオッサン!」

 

男木「オッサンじゃねーよバカタレ!!なんだ?」

 

藤山「わりーけど、大学野球の仕組みを教えてくれ!」

 

男木「ア”!?なんで俺様が態々そんなメンドクセー事しなきゃいけねーんだ」

 

藤山「頼むよ~」

 

男木「ったく、仕方ねえな。んなら説明してやるから有り難く覚えろよな!」

 

藤山「おう!」

 

 

※現実の大学野球設定とは異なる部分が多々あります。

 

男木「先ずテメーの事だ。大学は木製バットで打つって違いしか分かんねーよな?」

 

藤山「ああ!」

 

男木「自信満々に答えるじゃねーよったく…

 

まあ、確かに大学は木製バットだな。だけど知っての通り、木製は折れる。だから自分用のバットはしっかり用意しろ」

 

藤山「え、部費とか大学で用意してくれねーのか?」

 

男木「んな事したら部費が幾ら有っても足りなくなるだろ?だけど、ウチの鬼頭さんの様に、プロ注目選手とかなら大学が負担してくれるケースも有る」

 

藤山「鬼頭?」

 

男木「まあ、後で登場するが、分かりやすく言うと、ウチの最強バッターだ」

 

藤山「了解だ!」

 

 

男木「他には有るか?」

 

藤山「練習時間を教えてくれ」

 

男木「そうだな。先ず月から金の平日、此処は基本的に講義が終わってからの参加になるから、大体15時から始めるな」

 

藤山「成る程…」

 

男木「そんで平日は自由参加だ。講義が終わったらバイト、趣味、デート、休息、と、まあ自由に使っても問題無しだな。だから平日は自主練だと思え」

 

藤山「オッケー」

 

男木「だが土日祝日は朝の9時から全体練習、これは強制参加だ。そんで終了は夜の9時までだ」

 

藤山「おっ、結構長いんだな!」

 

男木「まあ、ウチはスポーツ系の大学だからな。これ位はな」

 

藤山「了解だぜ」

 

男木「他にはどうだ?」

 

藤山「そうだな……あ、高校野球との試合の違いを教えてくれ」

 

男木「となるとリーグ戦の事だな。

 

先ず大学野球には2つのデケー大会…春季リーグと秋季リーグがある」

 

藤山「フム…」

 

男木「だがついでだ。先ずは連盟から説明してやる……が、これは長くなるが着いてこれるか?」

 

藤山「バッチコーイ!」

 

男木「了解。んじゃ、説明すんぜ」

 

 

男木「先ず大学野球は、高校の都道府県でNo.1を決めて、その代表が甲子園に行くってシステムじゃねーんだ」

 

藤山「ほお…」

 

男木「連盟というのに属して、その連盟からNo.1を決めて全国大会の開催地、神宮を目指す方式だ。

 

そんで、俺達黒龍館の属する連盟は、『頑張大学野球連盟』は計8大学ある。

 

そんで決め方だが…まあ、この紙を見ろ。説明すんのがダリィーぜ(ペラッ)」

 

藤山「なになに…」

 

 

 

1、春季は4月から5月までの2ヶ月間行い、全国大会開催日は6月。

 

2、秋季は9月から10月までの2ヶ月間行い、全国大会開催日は11月。

 

3、試合は期間内の土日(1日2カード)に各大学総当りでの1試合で行い、計7試合での勝率で競う。

 

4、同率1位の場合、直接対決の結果、それが引き分けの場合、チームの得失点差で決める。

 

 

男木「以上だな。つまり高校との違いは…

 

1試合落とした位じゃあまだ終わってねーが、必ず全校とやらなきゃいけねーって事だ。まあ、要するに勝ちゃ良いんだよ勝ちゃー」

 

藤山「そうだな!全勝すればオッケーだもわな!!」

 

 

藤山「あんがとよオッサン!分からんねえ事有ったらまた頼むぜ!」

 

男木「あ、ちょっと待て藤山」

 

藤山「ん?」

 

男木「説明料、受講料、授業料、キッチリ払わねーとな?」

 

藤山「な!?金取るのかテメー!?てか、全部意味一緒じゃねーのか!?」

 

男木「フッ、違うぜ?先ず受講料を払い俺様からの講義を受ける料金を支払い、次に俺様の口から説明するという労力で有る説明料を支払って、最後に“場所代”として授業料が発生するって訳だ…さあ、耳揃えて支払って頂くぜ?」

 

藤山「ふ、ふざけんな!!俺は絶対に払わねーからな!!

 

あばよ!!」ダッ

 

男木「あ、待てよゴラァ!!」ダッ

 

 

※良い子は絶対にマネしないように

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第2話・新入生の実力①

藤山「おせーぜ男木。パワー自慢らしいが、男なら足も鍛えろよな?」

 

男木「ゼェ…ゼェ…う、うっせー…」

 

番外編で追い掛けられた藤山だが、圧倒的なスタミナと脚力で軽く捻り潰す。

 

 

シュタタタ

 

ズサァー

 

シュタタタ

 

「お、中々の脚だなアイツ」

 

「誰だアイツ?」

 

ベースランニングで早くも注目を集めるは、パワフォー高校出身の蒔田。

 

足のピッチ、スピード、スライディング、スライディング後の立ち上り、からの即座のダッシュ力。

 

全てにおいて無駄が一切見られず、瞬く間にホームへ生還。

 

 

「16.8秒!」

 

「ヒュー、やるぜ一年!!」

 

「フレッシュ戦、トップバッターかもな!!」

 

蒔田「ありがとうございます」ペコリ

 

 

?「ほぉ…良い脚していますね監督」

 

座子田「お、鬼頭か!講義終わったのか?」

 

鬼頭「ええ…」

 

スキンヘッドに色黒にサングラス…パッと見、海坊主な風貌の彼は、鬼頭 直人。

 

ポジションは4番キャッチャー。

 

今年2年生に進級…そしてまだ未成年。

 

高校時代から既にプロからも注目を集める逸材であったが、安全策、そして腕を磨く為に進学した男。

 

進学後瞬く間に実力を発揮し、昨年の頑張秋季リーグにて、1年なからベストナインに選ばれた程。

 

 

カキーン!

 

カキーン!

 

入学祝いにプレゼントされた木製バットで、思う存分マシーンを使ったフリーバッティングに励む新入生達。

 

球速は130km/h台。

 

※本作の大学平均速度

 

 

 

「毎年の事ながら、打つ方は逸材が集まりますねー」

 

座子田「ああ…まあ、打つ方はだがな(笑)」

 

 

 

 

 

 

男木「オラァ!」

 

カキーン!

 

 

 

 

ガシャアアアアン!!

 

ミサイルの様な弾速でフェンス直撃を連発する男木。

 

 

藤山「オッサンスゲーな!口だけじゃ無かったんだな!」

 

男木「あん?テメー、俺様に喧嘩売ってんのか?」

 

青筋を浮かべキレ気味になる男木。

 

 

座子田「男木…一般で入った子で、大振りが目立つが、芯を外れても強引に外野まで飛ばすパワーが有るな」

 

「大したもんですよ。オマケに当たれば軽々とフェンスまで到達させていますしね」

 

 

 

カキーン!

 

 

バキッ

 

座子田「あ、アイツ早速折りやがったな。

 

てか、誰だあのアフロに関取の様な体型の奴は?」

 

「鈴木って言いますね。あ、登録名はマンボ鈴木で行くみたいです」

 

座子田「マンボだ~?また変な奴が来たもんだなー(てか、アイツ…折りながら外野まで飛ばしやがったかのか…普通折れるって事は芯じゃない所で打ったって事なんだが、なんて力だ…今年の…所か、パワーだけなら鬼頭や他の上級生を差し置いて一番だな)

 

おーいマンボ!!お前こっちに有る竹バットで打て!」

 

マンボ鈴木「ッス!」

 

座子田「というかお前…変わった構え方だな…」

 

まるで相撲の仕切りの様に、深く沈み込んだ極端な前傾姿勢…

 

クラウチング打法に近いのだが、踏み脚がホームベース寄りでは無く両脚が均等なままなのが大きな違い。

 

マンボ鈴木「これは満腹高校伝統の打ち方ッス!」

 

座子田「う、うむ…成る程な…了解だ(まあ、打てなくなってから矯正すれば良いか?)」

 

 

 

 

 

 

カキーン!

 

カキーン!

 

蒔田「ッ…」ビリビリ

 

両打ちの蒔田。

 

左右で10打席ずつ、計20打席打ち込みゲージから退出する彼は若干苦悶の表情を浮かべる。

 

蒔田(手首と手の甲が…)

 

 

 

鬼頭「ナイスバッティングだ」パチパチ

 

蒔田「あ、ありがとうございます。えーと…」

 

鬼頭「鬼頭だ。君は?」

 

蒔田「あ、蒔田って言います?」

 

鬼頭「まいた?まきた?」

 

蒔田「あ、まきたですね」

 

鬼頭「了解だ。それにしても、左右の打席でムラ無く打てるとは、大した奴だ…

 

そんでどうだ?木の感触は?」

 

一通り自己紹介を済ませ、鬼頭が質問する。

 

蒔田「あ…そうですね…先ず金属より軽いんですけど、振ると重いんですよね…何でですか?」

 

鬼頭「それは重心が違うからだ…人間というのは、身体に近ければ近づける程力が入りやすい。それで金属は重心がグリップよりで、本体の部分が空洞で作られている、つまり重心が手元だから振りやすい…

 

だが木製は反対に中身が空洞じゃねーから必然的に太いヘッドの方向が重い…するとスイング時に遠心力でヘッドの方向へ引っ張られるから身体が外に泳ぐ…まあドアスイングになるって言えば分かりやすいな」

 

蒔田「は、はぁ…」

 

鬼頭「まあ、口では難しいよな…

 

すまない、次良いかな?」

 

新入生「あっ、はい!どうぞどうぞ!」

 

 

「おい鬼頭が打つぞ」

 

「おーい1年共!ラッキーだな。鬼頭大先生のバッティング講座だぜ」

 

 

鬼頭が打席に左打席に入るや否や、一気に場の空気が引き締まり息苦しくなる…

 

 

 

鬼頭「良いぜ」

 

「あ、はい!いきまーす!」

 

ビュッ

 

 

カキーン!

 

 

 

 

 

 

ガシャアアアアン!!

 

初球からいきなりライトフェンス直撃。

 

「相変わらずのバットコントロールだな。竹であんだけ飛ばせるんだからよ」

 

新入生「竹!?」

 

新入生一同は驚く。

 

竹は今日貰った木製バットより更に芯が少ない。

 

それを向かってくるボールにこうも楽々と真芯で捉えるとは…

 

カキーン!

 

 

カキーン!

 

男木「流石は鬼頭さんだぜ…空振りしねーのもそうだが、竹であんだけ当てたら手が痺れてヤバイ筈なんだがな…」

 

つまり殆ど真芯で捉えている証拠。

 

腕力任せな自身やマンボ鈴木、その他大勢の屈強な男達を遥かに上回っている技術力だ…

 

 

 

 

 

 

鬼頭「ストップだ」

 

「あ、はい!」

 

鬼頭「……」

 

突如構えを解き、打席から出る鬼頭は男木の元へと歩を進める。

 

男木「き、鬼頭さん…お、押忍!お疲れッス!!」

 

散々威張り散らしていた男木だが、鬼頭の前では縮こまり敬礼する。

 

鬼頭「入学おめでとう男木…相変わらず凄まじいパワーだな」

 

男木「きょ、恐縮です!ですが、まだまだ鬼頭さんの足下にも及ばない若輩ですが…」

 

鬼頭「俺ぐらい直ぐに越えるさ……

 

それよりも男木。お前が見つけた150km/h投げる子は?」

 

男木「あ、はい!直ぐに…

 

おい藤山!!こっちに来やがれ!!」

 

藤山「ん?何だ急に」

 

ピッチャー志望の他の新1年達とランニングしていた藤山を乱暴に呼ぶ男木。

 

男木の口の悪さには流石に慣れてきた藤山、別に何も思わず男木の元へと向かう。

 

 

藤山「んなデケー声出すなよな…それよりもどうした?」

 

男木「コイツが…」

 

鬼頭「了解…

 

君が男木が見付けた150km/h投げれる藤山君?」

 

藤山「ッス!藤山直球!!150km/h出てるかは分かりませんけど、真っ直ぐを投げる事なら誰にも負けません!!」

 

鬼頭「良く言った。それでは早速見せてくれないか?君の真っ直ぐを…」

 

視線をマウンドに向ける鬼頭。

 

マウンドに行け…

 

そして鬼頭はキャッチャー。

 

だが手に持ってるのはミット等では無くバット。

 

という事は…

 

 

 

藤山「了解ッス!」

 

鬼頭「よし、誰かマシーンを外して防球ネットを頼む」

 

藤山「あ、いらないッス!そんな邪魔なもんが有ったら、俺の真っ直ぐがしっかりと伝わらないんで」

 

男木「おい藤山。テメー、あんまし鬼頭さん舐めねえ方が良いぜ?この人のバットコントロールなら、1球目でピッチャー返しも可能なんだぜ?」

 

藤山「へん!ピッチャー返しが怖くてピッチャー出来るかよ!こっちとら今まで何百球、何千球と食らってるんだよ!!」

 

男木「なッ…テメー…人の助言を…」

 

鬼頭「オーケー。君がそこまで言うなら…無しでも構わないんだな?」

 

藤山「おう!男に二言はねえ!!」

 

鬼頭「了解だ。なら…早速始めようか」

 

 

 



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第3話・藤山VS鬼頭

ザワザワ

 

「おい、鬼頭が1年と対決するらしいぜ!」

 

「マジかよ!どんな奴とだ!?」

 

「確か…藤山とかいう奴だぜ。ほら、去年の去年のセンバツで西強にフルボッコにされた高校のピッチャーだな」

 

「あー、いたいた。幻の150km/h男。えっ、て事は…」

 

「見れるかもな150km/h…まあ、故障してなければな」

 

150なんて投げ続けたら…肩可笑しくなっちまうよ(笑)

 

 

「俺が四年のキャッチャーだ…試合の時は控えだろうが、捕るだけならアイツ(鬼頭)より巧いから安心しろ」

 

鬼頭よりも縦も横も一回りデカイ先輩が大学初パートナーとなる。

 

藤山「どーもッス先輩!宜しくッス!!」

 

「おう!なら早速サインだが…お前は何種投げれる?」

 

藤山「直球一本ッス!」

 

「直球オンリーね。了解」

 

 

 

藤山の様に、変化球が投げれない人は無数にいる。

 

現に自分も投げれない。

 

教科書通りの握り方、投げ方を幾ら試しても、肌身に合わなければ曲がらない、曲がっても肩や肘に負担が掛かり痛みが発生する。

 

だが、アジャストすれば、初球から変化する者もおり、中にはストラックアウトで明らかな手投げの素人が投げれてしまう事さえ有る。

 

こればかりは、努力でどうこう出来る物では産まれた時からの天賦の才能で決定してしまう…

 

 

 

 

だが悲観ばかりでは無い。

 

確かに一種類でも多く投げれる事に有利は代わり無いが、たった1つの分野でも周りを圧倒する程に特出していれば下克上も十分に可能。

 

もし藤山が本当に150km/h投げれるのであれば…

 

寧ろ150km/hの方が希少性が高い(黒龍館で最速はエースの四年生の140km/h)

 

 

藤山はマウンドを、鬼頭は左打席を慣らし、それぞれの準備が整う。

 

鬼頭「さてと……藤山君、本当にネット無しで大丈夫かい?」

 

藤山「問題無しッス!!」

 

鬼頭「(こういう熱血タイプは変にハンディとかルールを言うと仲が険悪になるからな…まあ、シンプルに行こうか)

 

ルールは1打席勝負、じゃあ始めようか?」

 

藤山「ッス!」

 

 

ザァ…

 

去年の夏を最後に、久しぶりに打者相手に投げ込む。

 

やっぱりマウンドは血が騒ぐ…!

 

藤山(オッサンに誘われなければ、俺の野球人生は夏で途切れていた…)

 

多分草野球に入っただろうが、こんなにも心が騒ぐ事は無い。

 

構えられるは、ど真ん中。

 

藤山(初球から…全力だぁぁぁぁぁぁぁ!!!)

 

ビュッ

 

鬼頭「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズバーン!

 

男木に、そして苦楽を共にするで有ろう部員、指導者全てに対し、感謝を…そして挨拶を含めた全力のストレートが捕手の構えるど真ん中へぶち込まれる。

 

 

シーン…

 

「イテテテ…(な、なんて速さと球威だ!?)」

 

 

鬼頭「監督…何キロです?」

 

静まり返る場内にて、最初に開口するは鬼頭。

 

座子田「149km/h。ウチの最速記録を大幅更新しちまったよ」

 

鬼頭「そうッスか…(これが150km/hの世界か…)」

 

 

 

「なあ今の?」

 

「ああ。メチャクチャ速かったぜ…何キロだったんだ?」

 

「なんか149km/hらしいぜ?」

 

「マジかよ。あれがマシーンじゃ無くて、人間が投げる150km/hかよ…」

 

「てか、アイツ西強高校にフルボッコにされたんだろ?どんだけヤベーんだよあの高校…」

 

「それよりあの鬼頭ですら反応出来なかったんだぜ?ウチのNo.1バッターのアイツですら…」

 

 

鬼頭「ふぅ…それでは次、お願いしようかな?」ビュ

 

藤山「ッス!」バシッ

 

投げ返されたボールを掴み、フォーシームの握りをする。

 

 

ザァ…

 

藤山「フンッ!」

 

ビュッ

 

セットポジションから剛球が発射。

 

(うおッ!真ん中に!!)

 

鬼頭(真ん中低め!!)

 

カキーン!

 

ガシャアアアアン!!

 

鬼頭「ッ……!?」

 

アウトローへリードしたが、逆球となり真ん中へ。

 

フルスイングする鬼頭だが、ボールは強烈なバックスピンを掛けたままバックネットへ直撃、ファールとなる。

 

これでカウントは※2ー0。

 

※当時はSBOでしたので、本作では先に表記されるのがストライクカウント。

 

 

 

蒔田「す、凄い…」

 

マンボ鈴木「へぇー、やるじゃん」

 

男木(お、オイオイ鬼頭さん…?まさかあの人が負けるなんてこたぁー…)

 

 

鬼頭「フゥ…」

 

打席内で一呼吸置き、再び藤山に向き直る。

 

藤山「良いッスか?」

 

鬼頭「ああ…」

 

 

ザァ…

 

「ん?」

 

一瞬だけチラリと鬼頭の様子を伺うキャッチャーの先輩。

 

そして本のちょっと異変へと気付く…

 

藤山「フンッ!」

 

ビュッ

 

 

 

 

 

 

 

 

カキーン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポトッ

 

アウトコースの本の僅かにボール球になった剛球をコンパクトに振り抜き、詰まりながらもレフト前へポトリと落とす。

 

藤山「す、スゲーッス先輩!!」

 

打たれた藤山。

 

だが鬼頭の芸術的なバットコントロールにすっかり感服してしまう。

 

 

 

 

鬼頭「……監督」

 

座子田「?」

 

鬼頭「今から別メニューでも宜しいですか?」

 

座子田「まあ、構わないが…リーグ戦近いしホドホドな」

 

鬼頭「ありがとうございます」

 

藤山はガン無視し、監督に一礼した後、踵を返し立ち去ろうとする。

 

座子田「あ、鬼頭!」

 

鬼頭「はい?」

 

座子田「おめでとさん。2球目は150、んで最後は……151km/hだったぜ」

 

鬼頭「あ、はい…」

 

 

 

 

 

藤山「先輩!!」

 

鬼頭「ん?ああ…済まない」

 

痺れを切らした藤山が鬼頭の目の前に立ち塞がる。

 

藤山「どうッスか?俺の直球は!?」

 

鬼頭「良い真っ直ぐだったよ藤山。君とバッテリーを組む時は、溢さない様に努力するよ」

 

藤山「先輩なら楽勝ですよ♪俺の直球をヒットにした男なんですから」

 

 

 

鬼頭「……そうだな…」テクテク

 

一瞬陰りの有る表情を見せる鬼頭。

 

そのまま室内へと入って行く。

 

 

藤山「…先輩、何で鬼頭先輩、勝ったのに浮かない顔してるんッスか?」

 

一瞬の異変を見逃さなかった藤山は、今回バッテリーだった先輩へと訪ねる。

 

「あ、ああ…アイツはちょっと変わってるんだ」

 

藤山「変わってる?」

 

「最後の球の時にな、アイツバットを短く持ってやがったんだ。それにヒット狙いにコンパクトなスイング。

 

それはアイツにとって負けらしいんだよ」

 

藤山「はぁ!?打って負けって…何でッスか?」

 

「知らねーよ俺に聞かれてもよ。

 

去年入った時からそうなんだよ。ヒット打っても険しい表情する時があって、そん時はあーやってコソコソ先にどっかに行きやがるんだ」

 

藤山「そうなんッスね…」

 

「まあ、明日にはケロッとして戻ってくるぜ。もうじきリーグ戦だからよ。

 

それよりナイスピッチングだったぜ!!骨が折れるかと思ったぜ!!」

 

藤山「あざーす!だけど俺はまだまだ速くなりますよ!!誰にも打てない真っ直ぐを!!」

 

そう…俺の大学野球は始まったばかり!!

 

この楽しそうな奴らと一緒に、目指すは全国制覇!!

 

 

 

藤山「よーし一年共!!グラウンド100周、行くぜ!!」

 

蒔田「うん!」

 

マンボ鈴木「え~?走るの~?」

 

男木「あ”ん?何でテメーが指図すんだよ?」

 

藤山「つべこべ言わず着いて来い!!」

 

我先に走り出す藤山。

 

その後ろで、素直に着いていく蒔田・めんどくさそうなマンボ鈴木・ブツブツと愚痴りながらの男木、そして他の一年達。

 

 

 

 

 

 

座子田「アイツ…フッ、行けるかもな!!」

 

全国制覇!!

 

 

 

 

 

 



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※黒龍館大学(part1)

主な学部…スポーツ学部、経済学部、商学部。

 

設定…厳つい風貌、筋肉隆々の野郎ばかりが目立つ極めて男子校に近い大学(女子もいるが、比率は9対1)

 

戦力分析

 

打撃力…A

機動力…D

守備力…E

投手力…E

 

総合…C

 

頑張大学野球連盟、三強の一角。

 

打撃に特化した攻撃野球が最大の特徴で有り、打撃の他にはラフプレー気味な荒っぽいプレーが目立つ。

 

だがその分、守りにも粗が有る。

 

 

選手紹介

 

『藤山直球(1年・男)』

 

登場作品・パワポタ4

 

誕生日・1月1日(オリジナル)

 

バット・黒/木

 

グラブ・オレンジ

 

リストバンド・無し

 

ポジション・(先発タイプ)

 

右投右打

 

投手能力

 

スリークォーター(セット)

 

球・150km/h

制・D(120)

体・A(180)

変・無し

 

投手得能

重い球

速球中心

 

野手能力

 

スタンダード

 

弾・4

打・G(1)

力・G(12)

走・E(6)

肩・B(12)

守・F(5)

捕・F(5)

 

野手得能

無し

 

本作の主人公。

 

馬鹿みたくに明るく、唯ひたすらに真っ直ぐ生きる事を心情とする熱血漢。

 

MAX150キロの豪速球と試合終了までフルスロットルで投げれる化物染みたスタミナが武器。

 

得意練習は基礎と球速。

 

 

『男木(1年・男)』

 

登場作品・パワプロ11

 

誕生日・7月10日(オリジナル)

 

バット・黒/黒

 

グラブ・コルク

 

リストバンド・無し

 

ポジション・

 

右投右打

 

 

野手能力

 

スタンダード

 

弾・4

打・G(1)

力・B(130)

走・F(4)

肩・F(5)

守・G(3)

捕・G(1)

 

野手得能

無し

 

藤山をスカウトした怖そうな男。

 

得意練習は打撃。

 

 

『蒔田(1年・男)』

 

登場作品・パワポタ4

 

誕生日・3月8日(オリジナル)

 

バット・木/木

 

グラブ・コルク

 

リストバンド・無し

 

ポジション・

 

左投両打

 

 

野手能力

 

スタンダード

 

弾・2

打・E(3)

力・F(40)

走・C(10)

肩・D(8)

守・E(6)

捕・E(6)

 

野手得能

盗塁4

 

黒龍館では逆に珍しい、特徴の無い普通な少年。

 

貴重な守備型として期待が高まる。

 

得意練習は走塁。

 

 

『マンボ鈴木(1年・男)』

 

登場作品・パワポタ4

 

誕生日・5月1日(オリジナル)

 

バット・木/黒

 

グラブ・オレンジ

 

リストバンド・無し

 

ポジション・

 

右投右打

 

 

野手能力

 

オリジナル(飯田)

 

弾・4

打・G(1)

力・A(140)

走・G(1)

肩・E(6)

守・F(4)

捕・F(4)

 

野手得能

パワーヒッター

体当たり

野手威圧感

強振多用

チームプレイ×

(身長高い)

 

満腹高校出身、2m150㎏の肉体にアフロヘアーという奇人。

 

巨漢ゆえ、体格の劣る他者を見下す傾向がある。

 

得意練習は筋力。

 

 

『鬼頭(2年・男)』

 

登場作品・オリジナル

 

誕生日・5月18日

 

バット・木/黒

 

グラブ・黒

 

リストバンド・左(黒)・右(黒)

 

ポジション・

 

右投左打

 

 

野手能力

 

オリジナル(ローズ)

 

弾・4

打・C(5)

力・B(120)

走・G(3)

肩・C(11)

守・E(6)

捕・D(8)

 

野手得能

アベレージヒッター

ローボールヒッター

ブロック○

強振多用

 

黒龍館最強のバッター。

 

色黒、スキンヘッド、サングラスという強面の風貌だが、性格は冷静沈着。

 

向上心の塊で有り、自身の目指すバッティング道の為に日夜猛練習に励む努力人。

 

得意練習は打撃。

 



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第4話・パワフル大学

時同じく…

 

ーパワフル大学ー

 

小浪「おはよー矢部君!」

 

矢部「おはよーでやんす小浪君!」

 

桜舞う校門前で、数日ぶりの再会を果たす両者。

 

 

小浪「俺達も大学生か~。高校の時は想像もしなかったなー」

 

矢部「フッフッフッ、でやんす」

 

突如不気味な笑みを浮かべる矢部。

 

小浪「ど、どうしたの矢部君急に?」

 

矢部「遂に大学生でやんす…つまり、アレが合法的に出来るでやんす!」

 

小浪「アレ?」

 

矢部「フッ、相変わらず小浪君は鈍いでやんすね~。そう!合コンでやんす!流石にお酒はまだ駄目でやんすが、オイラもこれでリア充の仲間入りでやんす」ニヤッ

 

小浪「合コンね…それよりも俺はやっぱり野球だ!!」

 

矢部「うわぁ…まだ野球バカ状態でやんす…」

 

 

小浪「そういえば、矢部君学部何にしたの?」

 

矢部「オイラは工学部にしたでやんす」

 

小浪「あっ、矢部君作る系得意だもんね」

 

矢部「それほどでもでやんすね~。だけどいつかは本物のガンダーロボを……」

 

話の途中、不意に矢部の会話が途切れる。

 

小浪「ん?どうしたの矢部君?」

 

矢部「ムムム、ア、アレは…まさか…いや、そんな筈は…」ブツブツ

 

小浪「ちょっ、本当にどうしたの?」

 

矢部「小浪君。彼処に居る女の子を見るでやんす」

 

キャンパスの庭園で一人だけで歩いている少女…

 

矢部の言う通り、確かに誰かに見覚えが…

 

 

小浪「え?ウソ!?」

 

矢部「行ってみようでやんす!」

 

 

矢部「すみませんでやんす」

 

?「キャ!だ、誰ですか…?」

 

ボーとしていた所に矢部が急に声を掛けた為、驚く少女。

 

涙目になり、恐る恐る小浪達に向き直る。

 

小浪(うわぁ…え?マジでソックリなんだけど…)

 

パッチリとした二重に、緑色のセミロング…

 

そう、今プロ野球で活躍中の……

 

 

矢部「突然で一人やんすが、まさか早川あおい選手でやんすか!?」

 

そう!女性プロ野球選手第一号。

 

あの、早川あおい選手がまさに目の前に!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?「あー、すみません、人違いですよ(笑)」ニッコリ

 

その少女から怯えが消え、爽やかな笑みで否定する。

 

小浪「ですよね~(あービックリした…)」

 

矢部「本当でやんすか?」

 

?「はい!野球知っている人からは良く聞かれるんですけど、あおい選手とは全くの無関係ですよ~

 

あっ、ですけど、あおい選手を知ってるって事は、野球好きの方々ですか?」

 

小浪「あっ、はい!俺は小浪!今年入学した者で野球部に入るつもりです!」

 

矢部「オイラは矢部!右の小浪君とは同じ高校出身で、同じく野球部に入るつもりでやんす!」

 

早山「あっ、じゃあ同級生なんだね。それじゃあタメ口でオッケーだね♪

 

私は早山葵(ハヤマ アオイ)。実は私も野球部に入るつもりなんだ!」

 

小浪「あれ?葵って…」

 

矢部「ムムム、早山という名字…」

 

似たような名字に同じ名前、そしてソックリな容姿…

 

早山「あはは…やっぱり混乱しちゃうよね。それじゃあ更に……」スッ

 

ポケットからヘアゴムを取りだし、手慣れた手付きで髪を三つ編みにしていき…

 

 

早山「じゃーん!!

 

どう?“ボク”の髪型?似合うかな?」

 

『う、うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

まさに早川あおい本人。

 

二人のテンションがピークに達する。

 

早山「じゃあ、早く教室に行こ♪

 

あっ、因みにボクは調理学なんだけど、二人は?」

 

小浪「あっ、俺スポーツ学部!」

 

矢部「奇遇でやんす。オイラも調理学でやんす」

 

早山「ホント!?良かったー!一人じゃ心ぼそがったんだ!」

 

矢部「えへへでやんす~」デレデレ

 

 

小浪「おーい矢部君…嘘付いたら駄目だよ?」

 

 

なにはともあれ、小浪達の大学生活がスタート!!

 



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第5話・パワフル大学(part2)

その後…

 

小浪「ふぅ、なんとか初日の講義終了だな…」

 

既に頭がパンク寸前となる小浪…

 

只単に体育の授業の延長かと思いきやとんでもない。

 

だが…

 

小浪(楽しい!!)

 

高校までは勉強は嫌いだった。

 

というか、今でも勉強は嫌い。特に数学…

 

数式等、なんの為に学ぶのかと…

 

だが今は違う。

 

例えば嫌いな数式も、大好きなスポーツを科学的に研究する為に使うのなら、なにも苦痛と感じない。

 

更に只教わり実行していたストレッチやクールダウンも、その役目もしっかりと理解できた。

 

まさに目から鱗。

 

 

小浪(学ぶ事の楽しさか…父さん、母さん、ありがとう…俺、野球は勿論だけど、勉強も頑張るぜ!!)

 

 

小浪「あ、矢部君!おつかれー!」

 

矢部「おつかれでやんす!」

 

小浪「どうだった?じゅ…じゃないや、講義は?」

 

矢部「んー、まだ分からないでやんすね。唯、早速レポートでやんす…」

 

小浪「あはは…まあ、しょうがないさ。それより、早速野球部行こうぜ?」

 

矢部「そうでやんすね」

 

 

 

 

 

 

 

 

早山「あっ、小浪君矢部君」

 

小浪「あっ、早山さん」

 

向かう最中、廊下で早山と出合う二人。

 

矢部「早山さんも終わったでやんすか?」

 

早山「うん!今から野球部に向かおうと思って♪」

 

小浪「あっ、じゃあ俺達も今から行く予定だから、一緒に行こう!」

 

早山「オッケー!」

 

 

小浪「そーいえば早山さん、結局お下げのままなんだ」

 

早山「うん。実習が有るから結局は結ばないと駄目だし、一々外したり結んだりするのめんどくさいしね」

 

矢部「しかし、こうして見ると本当あおい選手ソックリでやんす。親戚とかじゃ無いでやんすか?」

 

早山「ないない(笑)」

 

 

~グラウンド~

 

小浪「着いたー!!」

 

矢部「流石に大学ともなると広いでやんすね!」

 

 

?「ん?部活見学者か?」

 

小浪「あ、はい!野球部に入るつもりで来まして、よろ……」

 

背後から声が掛かり振り返る三人。

 

 

 

 

胸筋ではち切れそうになるユニフォーム。

 

更に腕組みされている上腕筋も見事な膨れ上がり。

 

そして極め付きは、五分狩りに見事な揉み上げ……そして見た感想は一言で表すなら…

 

(ゴリラだ…)

 

 

 

?「そうかそうか。じゃあ、新入生は向こうに集まってるから、お前達も向かうウホッ!」

 

(ウホッ!?)

 

まさかの見かけ通りの語尾。

 

というより、リアル大学生でウホッって言う人がいるのか…

 

 

 

 

矢部「すんごい濃い先輩でやんすね…」

 

小浪「うん…」

 

早山「けど…なんだか優しそうな先輩だったね」

 

確かに温厚なオーラ全快で、キツそうなオーラは一切無かった。

 

小浪「まあ、向かおうぜ?」

 

『うん(でやんす)』

 

 

舞海「よし、新入生も集まった事だし、改めて自己紹介をしよう。

 

俺が監督の舞海だ。よろしく」

 

「宜しくお願いします!」

 

舞海「おっ、良い返事だ!

 

よし、皆も知っての通り、ウチの今の立ち位置は丁度真ん中だ。今年こそ、打倒三強と行こうじゃないか!」

 

「はい!」

 

小浪(!?

 

先輩方、凄い気合だ!これは俺も頑張らなくちゃな!)

 

舞海「じゃあ、キャプテンから順番に自己紹介だ」

 

「はい!私が4年のキャプテン…」

 

 

江崎「俺は3年の江崎だ。宜しく!」

 

 

熊谷「わしは2年の熊谷や。まあ、よろしゅー頼んますわ」

 

常盤「僕は常盤。ポジションはショートです。宜しくお願いします」

 

五月女「俺は五月女ウホッ!ポジションはファースト!宜しくウホッ!」

 

堀「私は堀!ポジションは……一応外野かな?よっろしくー!!」

 

 

小浪「俺は小浪!ポジションはピッチャーですが、サードと外野も出来ます!」

 

矢部「矢部でやんす!ポジションは外野でやんす!」

 

早山「早山です。ポジションはピッチャー。宜しくお願いしまーす」

 

 



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第6話・パワフル大学(part3)

ザワザワ

 

 

早速早山の周りに男達がワラワラと群がる。

 

「は、早川選手でしょうか!?」

 

早山「ふふふ、ざーんねん♪人違いだよ」

 

口々に聞かれるあおい本人かの質問に、やんわりと答えていく早山。

 

 

 

矢部「葵ちゃん、モテモテでやんすねー」

 

小浪「うん…」

 

俺達が先に会ったのになあ…

 

 

堀「あれあれ?貴方達はあの娘(早山)の所に行かないの?」

 

ショートヘアーが特徴の、ボーイッシュな雰囲気の女性がブルーな気持ちとなっている二人に訪ねる。

 

小浪「あ、貴女は?」

 

堀「Σひど!?この紅一点“だった”堀 四葉ちゃんをもう忘れたの!?」

 

小浪「あっ、す、すみません…」

 

堀「えーん(泣)」

 

小浪(うわぁ…めんどくさい先輩だぁ…可愛いけど)

 

明らかな嘘泣きだとバレバレ…

 

 

 

 

常盤「堀さん、彼らが困るからその辺で」

 

堀「はーい」

 

今度は落ち着いた雰囲気の優男が現れる。

 

その男が一声掛けるや、ケロッと元気になる堀。

 

矢部「貴方は常盤先輩でやんすか?」

 

常盤「ん?僕なんかを良く覚えていてくれたね?」

 

矢部「フッ、ライバルとなる男はチェックしているからでやんす」キリッ

 

常盤「?」

 

小浪(いやー、絶対に勝てないと思うよ?)

 

ジト目になる小浪。

 

ルックスに差が……

 

 

 

五月女「おーいお前ら!!早く練習するウホッ!」

 

小浪「あっ、ゴリ…五月女先輩?」

 

常盤「フッ…ゴリ君。今日は一段と元気だね」

 

五月女「とーぜんウホッ!大会も近いし、後輩も出来てやる気全開ウホッ!!

 

それじゃ、行くウホッ!!」

 

ダダダダダッ!!

 

小浪「はやっ!?」

 

とんでもない敏捷性を見せる五月女。

 

常盤「ゴリ君は最強の男だからね(ニコッ)

 

ベンチプレス150キロ、スクワット・デッドリフトはどっちも180キロ、極め付きに50m走は6.1。全く、とんだ化物だよ」

 

ダッ!

 

堀「さてと…それじゃ、私はフリーバッティングまで寝てるねー

 

ふわぁ…ねむぅ…」

 

小浪「え!?

 

行っちゃった…」

 

三人の先輩は瞬く間にいなくなり、ポツンと残される小浪と矢部の両者。

 

 

 

江崎「やれやれ。アイツも十分に化物なんだよな」

 

小浪「あ、貴方は!?」

 

江崎「俺は江崎。そして隣のボーッとしてるのが熊谷だ」

 

熊谷「ワハハ!ボーッとはちょっと酷すぎやせん江崎さん!」

 

江崎「ハハ!そうだな!すまないすまない。まあ、何か分からない事が有ったら、俺達に遠慮無く質問しに来い!」

 

小浪「あっ、はい!宜しくお願いします!!」

 

熊谷「おっ!えー返事や!まあ、怪我だけは気をつけや」

 

矢部「はいでやんす!

 

で、江崎先輩。さっき言いました事でやんすが…」

 

江崎「ん?さっき?」

 

矢部「はい、常盤先輩が化物って話…」

 

江崎「あ、ああ!その事か。実はアイツ…妖怪なんだ」

 

『え~~~~(でやんす)!?』

 

熊谷「江崎さん…ボケるならもうちょい現実性の有る冗談で言わんとあきまへんがな」

 

江崎「いやー(笑)まあ、二人もオーバーリアクションありがとな!」

 

『あっ、はい!(良かった…冗談で…)』

 

 

江崎「まあ、話を戻して…

 

常盤の奴はな…去年の秋季リーグのベストナインなんだ」

 

小浪「えぇぇぇぇぇ!?す、すげぇ!!て、事は…」

 

熊谷「そや!この地区No.1ショートちゅー事」

 

矢部「ちょっと待ったでやんす!!それに常盤先輩って…」

 

江崎「2年生…つまりアイツは“1年”で選ばれたって事だ」

 

小浪「なんて人だ…」

 

熊谷「いやー、アイツはホンマ天才やで!なにせ全てが凄い!

 

その中でも特に凄いんが守備!派手な動きは少ないんやが、兎に角堅い!」

 

江崎「お前もピッチャーなら、守備が良いショートは安心するだろ?」

 

小浪「あっ、はい」

 

 

 

 

早山「ふぅ…ただいまー」

 

小浪「あっ、お帰り早山さん」

 

すっかりくたびれた早山が小浪と矢部の所に帰還する。

 

矢部「フッ、葵ちゃん。お疲れなら、オイラがマッサージでも…」

 

早山「小浪君!早く君のピッチング見せて見せて!」

 

小浪「オッケー!それじゃ、向こうのブルペンに行こうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

矢部「…グスン」

 

 

 

~ブルペン~

 

小浪「どっちから投げる?」

 

早山「じゃあ小浪君から」

 

小浪「了解!

 

じゃあ、行くよ!!」

 

ザァ…

 

ビシュッ

 

早山「!?」

 

 

 

 

 

パシッッッッッ!!

 

 

投げ込まれたボールがネットを舞い上がらせる。

 

早山「は、はやぁ~…」

 

唖然とする早山。

 

オーソドックスなオーバースローから投げ込まれた速球は、間違いなく130後半は出ている。

 

小浪「次…変化球行こうかな…」

 

人差指と中指でガッシリとボールを握る。

 

ビュッ

 

 

クッ

 

パシッ!

 

無回転のボールがホームベース手前で小さく落ちる…

 

早山「今の…フォーク?」

 

小浪「当たり!それじゃあ、これは…どう!」

 

ビュッ

 

 

ククッ

 

パシッ!

 

早山「スライダー…かな?」

 

小浪「当たり!!凄いよあおいちゃん!全部当てたぜ!?」

 

早山(凄いのは小浪君だよ…豪速球に二種類の変化球…私…私…)

 

ポンッ!

 

早山「Σキャ!?」

 

小浪「次は葵ちゃんの番だよ!」

 

早山「あっ、えっ、あ、うん//////」

 

不意に肩をタッチされ、赤裸々となる早山であった。

 

 

 

ザワザワ

 

「ちょっ、押すなよ!狭いんだよ!」

 

「お前こそ邪魔!」

 

早山の投球に成や否や、一気にギャラリーが集まる。

 

矢部「フッ、小浪君だけ葵ちゃんの初めてを独占するのは許さないでやんす!」

 

小浪「矢部君…その言い方危ないから止めてくれないか?」

 

 

早山「…ふぅ…」

 

息を整え、精神統一する早山。

 

「やっぱりアンダースローかな?」ヒソヒソ

 

ザァ…

 

ビュッ

 

パシッッ!

 

(き、来たァァァァァァァ!!)

 

大方の予想通りの投球フォーム。

 

そう、早川あおいの代名詞で有るアンダースロー。

 

早山「ど、どうかな?僕のス…」

 

矢部「次!マリンボール、お願いでやんす!!」

 

早山「え?」

 

「おっ、そうだった!あおい選手といえば、マリンボールだよな?」

 

「そうそう!あの、美しくしなやかなフォームから投げられ、見る者を魅了し、バッターのバットをヒラリとかわす高速シンカー…

 

あ~、まさかリアルで拝めるなんて…」

 

早山「い、いや、あの…今投げた私の…」

 

『マ、リ、ン!マ、リ、ン!マ、リ、ン!』

 

ブルペン内に響き渡る、マリンボールコール。

 

 

小浪「お、おい皆落ち着…」

 

早山「了解!只、ボクのシンカーは普通のシンカーだよ?それでも良いかな?」

 

『ばっちこーい(でやんす)!!』

 

早山「よーし、なら行くよ!」

 

ザァ…

 

ビュッ

 

 

 

ククッ

 

パシッ!

 

早山「へへへ、どう?ボクの自慢のシンカーは?」

 

『うおッッッッ(でやんす)!!』

 

ギャラリーのボルテージは最高潮。

 

大歓声が巻き起こる。

 

小浪(ん?まあ…………良いか…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィーーーン!

 

ガキィーーーン!

 

小浪「す、すげぇ!!」

 

まるでピンポン球かの如く、五月女の放つ打球が放物線を描く。

 

矢部「見かけ通りのゴリラっぷりでやんす!」

 

早山「コラ!先輩をゴリラって呼んじゃあ駄目!」

 

常盤「良いんだよ早山さん」

 

早山「あっ、常盤先輩!」

 

常盤「ゴリラは彼公認のアダ名。寧ろ彼自身がそう呼ぶ様に言っているからね」

 

早山「ぅ…そうなんですか?」

 

常盤「まあ、女の子の君には呼び辛いと思うから、素直に五月女で大丈夫だよ」

 

 

カキーン!

 

「ッシ!2年ラスト、常盤!!」

 

常盤「はい!」

 

小浪「い、いよいよベストナインの打撃が見れるね矢部君?」

 

矢部「やんす」

 

 

 

 

 

 

堀「んーーーー」

 

常盤「あっ、堀さん。おはよう」

 

延びをしながら、堀が再びグラウンドに顔を見せる。

 

堀「おっはよー。空いた(打席)?」

 

常盤「え?あっ、うん」

 

矢部「えっ、あれ?堀先輩、次は常盤先輩の番でやn…」

 

余りにも身勝手さに、流石の矢部も意を唱えようとしたが、それを常盤が首を左右に振り制止させる。

 

 

堀「ありがとね☆

 

じゃあ失礼しまーす」

 

なんの躊躇いもなく、バッティングゲージに入る堀。

 

 

 

小浪「良いんですか常盤先輩?」

 

矢部「そーでやんす!ちょっといい加減でやんすよあの先輩!」

 

小浪、矢部だけでは無く、先程の堀の割り込みに早くも他の新入生達からも反感を買う。

 

 

常盤(早速か…まあ、仕方無いか…)

 

予期した事態になった…只その説明が早くなったか遅くなったかの違いだな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

常盤「新入生の皆、先程の彼女の割り込み、心から謝罪する」

 

矢部「へ?何で常盤先輩が頭下げるでやんすか!?」

 

小浪「俺達は別に割り込み食らった訳じゃ無いし…寧ろ被害者は常盤先輩ですよ?」

 

被害者…

 

この言葉が更に常盤の胸に突き刺さる。

 

 

 

常盤「実は堀さん……右目が見えないんだ…」

 

『え…』

 

 

突然のカミングアウトに新入生達の怒りでヒートアップした空気が急速に凍り付く…

 

常盤「いや…正確には霞んでは見えるらしいんだけど…どんなに矯正しても変わらないらしいんだ…」

 

『……』

 

常盤「理由は高2の時の交通事故。部活の帰りに轢かれたらしくてね…」

 

『……』

 

常盤「両膝の靭帯断裂、肩の筋肉もズタボロ…っと、まさに野球に必要な部位を的確に負傷しちゃったんだけど……一番の後遺症は、右目の視力の急激な悪化…」

 

『……』

 

常盤「医者からは復帰は絶望的と言われたらしい…まあ、当然だよね。私生活に支障が有る位なんだから…

 

だけど彼女は帰ってきた…このパワフル大学で、このグラウンドに、選手としてね」

 

理由は簡単、それ程までに彼女は野球が好きなんだ…!

 

 

 

 

 

 

 

カキーン!

 

カキーーン!!

 

カキーーーン!!!

 

堀「四葉ちゃん絶好調♪」

 

引っ張り気味の打球が多く、8割がレフト前、残り1割ずつがセンター、ライトと言った所。

 

だが殆どミスショットが無く、的確に芯で捉えている。

 

とても女性が打つ打球…否、片目で打てる打球では無い!

 

 

小浪「す、すげぇ……

 

って、嘘でしょ?あれが片目で打つ人の打球の訳が…」

 

常盤「嘘ならどんだげ良かった事か…」

 

素直な感想が自然に口から溢れてしまう常盤。

 

 

 

 

 

 

 

 

堀「ハァ…ハァ…」

 

ガタッ!

 

『!!?』

 

ゲージから出るなり、その場で左目を抑えながら片膝を着く堀。

 

1年生全員、騒然とする。

 

小浪「大丈夫ですか先輩!?」

 

堀「ハァ…ハァ…や、やあ♪小浪君…だっけ?

 

ふぅ…大丈夫大丈夫!ちょっと疲れただけ♪それじゃあ、お姉さん終わったからね」

 

顔面蒼白に発汗というよりも冷や汗に近い大量の汗の量…

 

ほぼ片目だけを酷使した代償…強烈な眼精疲労から来る頭痛が堀を襲う。

 

 

 

 

バットを杖替りにし、ヨロヨロとした歩みで堀は常盤の元へ向かう。

 

早山「だ、大丈夫ですか堀先輩…?」

 

堀「ん…?大丈夫大丈夫♪それよりも…これから宜しくね葵ちゃん♪女の子同志、仲良くしましょ♪」

 

心配になり介抱に向かう早山にウインクする堀。

 

 

堀「ごめんね常盤君…サボり魔の私なんかに練習の場をくれて…」

 

常盤「サボり魔のものか…君は誰よりも練習している…君は大学No.1だ」

 

堀「へへへ…ベストナイン様から言われちゃった//////」

 

そうだ…こんなボロボロの身体で…

 

 

 

 

 

 

五月女「ゆっくり休むウホッ!」

 

堀「ありがとねー。それじゃ、お先に~」バイバイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

常盤「宜しくお願いします」

 

「はい!行きまーす!」

 

ガゴッ

 

ビュッ

 

常盤「……」

 

『へへ、凄いでしょ?私は常盤君の様に、走ったり、投げたり、守ったり、3~4打席も立てる集中力も無いけど、1打席での一発勝負なら、ベストナインの君にも…ううん、世界中の誰にも負けないんだからね♪』

 

常盤(堀さん…貴女は凄い…野球への情熱、打撃への情熱、それになにより、そんな障害を抱えながらも元気に振る舞える所…)

 

カキーーーーーン!!!

 

 

 

 

ガッシャアアアアン!

 

常盤(僕も…負けられない!!)

 

 

 



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第7話・初戦の相手と登板制限説明(藤山&蒔田)

今回も本作オリジナルの、野球ルールの説明が入りますので、宜しくお願い致します。


ー黒龍館大学ー

 

蒔田「2、さ……ふ、藤山君…お願いします…」プルプルプル

 

藤山「よーし、オーケー」

 

此処はウエイトルーム。

 

ベンチプレス40㎏を10レップ、2セット目にて限界に達した蒔田の補助を行う藤山。

 

蒔田「ふぅー、ありがとう。おかげでオールアウト出来たよ。

 

うわっ…もう胸が…」

 

藤山「おっ、良い感じだな!しっかり効かした証だな!」

 

しかし中々の設備だ…

 

パワーラック4台にベンチプレス8台と、ジム顔負けの大掛かりな設備。

 

流石はスポーツ大学と言った所だ。

 

 

 

 

 

 

 

マンボ鈴木「蒔田ー。そのままで」

 

蒔田「あっ、鈴木君」

 

藤山「よっマンボ!」

 

重りを外そうとした矢先、マンボ鈴木に呼び止められる。

 

蒔田「鈴木君も今からトレーニング?」

 

マンボ鈴木「まーな。まあ、久しぶりにベンチやりたいと思ってな♪

 

あっ、わりーけどお前ら、左右に15㎏2つ付けてくれない?」

 

蒔田「え!?」

 

藤山「マジかよ…」

 

40㎏に左右に15㎏×2つずつ…つまり60㎏の増量で計100㎏。

 

 

マンボ鈴木「そんな100㎏位で驚くなよ~。高校の時最高で110㎏なんだし~」ニヤニヤ

 

素っ気なく、だが自慢気に語るマンボ鈴木。

 

 

 

マンボ鈴木「……フンッ!」

 

ガシャン!

 

ガシャン!

 

蒔田「す、凄い…」

 

藤山「110㎏をフルレンジかよ…」

 

マンボ鈴木「どすこーい!」

 

ガシャン

 

マンボ鈴木「こんなに軽かったか?悪いけど二人共、後20㎏ずつ追加で」

 

『え!?』

 

見事に驚きがハモる両者。

 

藤山(嘘だろ…?100㎏に40㎏追加するんだぜ?)←自己ベスト80㎏。

 

マンボ鈴木(驚いてる驚いてる♪ホントは自己ベスト160㎏だから、まだ余裕なんだよなー)

 

心の中で優越感に浸るマンボ鈴木。

 

そして、その後も超人的なパワーを見せ付けられた藤山と蒔田の二人であった。

 

 

座子田「全員集合!!」

 

ザッ!

 

座子田「明日からいよいよ春期リーグ戦だ!

 

1年生は、残念ながらフレッシュリーグまで出場出来ないが、先ずは先輩達の試合を見て、大学野球を知ってくれ!」

 

『はい!』

 

座子田「良し!先ずウチの試合は第一球場の第二試合、相手は…あかつき大学だ」

 

『!』

 

座子田「知っての通りウチ含めた三強の一角だ。

 

要注意選手は…恐らく先発だろうエースの正木。左打者に食い込んで来る強烈なシュートと本場仕込みのツーシームが武器の軟投手派の投手だ。それともう一人…昨年鬼頭と共に1年で秋季ベストナインを受賞した四人の内の紅一点…地区最速の、宇田川だな」

 

『……』

 

座子田「正木は去年の秋は登板制限でウチとの試合では投げていないから、春の時の対戦データに…」

 

 

藤山「なあ蒔田?登板制限ってなんだ?」

 

蒔田「あれ?藤山君、ピッチャーなのに知らないの?」

 

藤山「おう!」

 

座子田「藤山!静かにしろ」

 

藤山「はい!

 

で、なんだ?」

 

蒔田「じゃあ、このミーティングが終わったら説明するね」

 

 

蒔田「よーし、じゃあ説明するよー」

 

藤山「あっ…わりーけど…タダか?」

 

蒔田「ん?タダって事はお金の事?」

 

藤山「ああ…」

 

藤山の脳裏に男木に詐欺られそうになった記憶がフラッシュバックする。

 

蒔田「そんなの取らないよ~。チームメイトに教える位で」

 

藤山「蒔田…お前…最高だぜ!」

 

蒔田「あはは…大袈裟大袈裟。

 

じゃあ、説明するね。

 

ゴホンッ、先ず出場枠はピッチャー9人まで、野手が16人までの計25人。これはリーグ戦開始3日前までに監督が連盟に提出されて、途中変更は出来ないんだ」

 

藤山「おっ!流石は大学ともなるとプロ並の枠だな!」

 

蒔田「うん!そして肝心の登板制限なんだけどね…

 

まあ、分かりやすい様に例を上げながら説明するね」ガサゴソ

 

蒔田は自分の鞄から、大学ノートを取り出す。

 

 

例1

 

藤山9回完投。

 

蒔田「先ず藤山君が9回まで投げきって完投した場合なんだけど…この場合、藤山君には“3試合の登板制限”が掛かるんだ。つまり、3試合はマウンドには上がれないんだ」

 

藤山「なッ!?たった1試合ごときで、3試合もだとぉ!?俺のスタミナを舐めんなよゴラァ!!」

 

語尾を荒げ、蒔田に詰め寄る藤山。

 

蒔田「だ、だってルールだから仕方無いんだ…まあ、あの、一応試合には出れるんだよ?野手としてなら?しかも、野手としての出場でも登板制限の日数消化は出来るから」

 

藤山「むっ…まあ、肩には自信は有るから、守備固めなら監督も使ってくれるかもな…」

 

蒔田「うんうん!藤山君の肩は、鬼頭先輩と並んでウチのトップクラスなんだしね!!」

 

藤山「おっ、そうか?照れるな~」

 

蒔田「(ふぅ…、何とか気を逸らせれた…)じ、じゃあ、次の例を上げるよ」

 

藤山「おう!」

 

 

例2

 

藤山8回。

 

抑え1回。

 

蒔田「これは藤山君が8回まで投げて、9回を抑えの人が投げて締めた場合なんだけど…

 

この場合、1試合の“最多投球回(イニング)”と“最多投球数”を藤山が満たしちゃったから、藤山君には2試合の登板制限が適用されちゃうんだ。

 

因みに、どちらか片方だけなら、1試合だけの登板制限で済むんだ。だけどその場合、大抵は二人以上が該当しちゃうから、その分次の試合に出れなくなるんだけどね。

 

因みに…例えば、1試合で3人投手を使って、全員3イニングずつで同じ球数だった場合、その3人に最多投球回と最多投球数が記録されちゃうんだ。つまり、3人共2試合の登板不可って事」

 

藤山「ウゲ…完投よりかはマシだけど、それでも2試合か…てか、どれも簡単に条件達成するんだが、そんな状態でピッチャー足りるのか?」

 

座子田「フッ、よくぞ言ってくれた!!」

 

『か、監督!?』

 

突如座子田登場。

 

座子田「そう!高校と違って、投手の運用に縛りが有る。他には、2連投した者も、1試合の登板制限が掛かり(登板→野手出場→登板の場合はセーフ)、後野手もピッチャーとしてマウンドに上げれるが、その場合…

 

適用出来るのは1試合一人まで、更に1イニング限定、次の回には強制的に正規の投手との交代の義務(再び別のポジションの守備着くことも不可)、そして1試合の出場不可の制限が設けられるんだ。あ、後代打で投手を起用した場合、その投手も次の回には強制的に今度は正規の野手との交代になり、この場合は1試合の出場不可になる」

 

藤山「うわ……野手まで出場不可になるケース有るんッスね…てか、ピッチャーに制限まだ有るんッスね…」

 

座子田「ああ、これは投手と野手、互いの役割を尊重する為の処置らしい。野手をマウンドへ、投手を代打で、これを互いのポジションに対する冒涜という事で出来たルールらしいな。

 

とまあ、確かにやたら制限が多いが……その代わり高校の時より、更に戦略がより重要となる。ピッチャーのシフトの管理、球数、イニングの調整、まあピッチャーの代打は兎も角、時と場合によっては、投手経験の有る野手をマウンドへ上げてイニングの消化を量ったり等、やりくりは大変だが、そこがまた奥が深いんだよな~」

 

『はぁ…』

 

座子田「まあ、長くなったが、お前らはこの春のリーグ戦で大学野球を学んで、お前らの本番となる6月開催の1年生のみの大会、フレッシュリーグに備えてくれ!」

 

『あっ、はい!』

 

 

 

 

 




此方で改めて登板制限についてと、本編で説明されなかった事を簡潔にまとめ書きますね。


投手編

・完投した場合(正確には、9イニング以降も投げた場合で、9イニングまでにコールド勝ちした場合は該当外)←3試合の登板制限。

・最多投球回、最多投球数を満たした場合←1つ満たす事に1試合の登板制限、最大2試合。

・複数の投手が一緒に最多投球回、最多投球数を満たした場合←満たした条件一つに着き、全員に適用される。

・2連投した場合←1試合の登板制限。

野手としての起用法。

・試合途中に投手→野手のポジションに着く事は可能だが、再び投手に戻した場合、野手登板ルールが適用される(後述)

・代打、代走に起用された場合、次の回には強制的に正規の野手との交代が義務となり、1試合の出場不可のペナルティーとなる(控え野手がいない、代打、代走での起用不可。起用後に次の控え野手がいない状態のまま、次イニングに跨いだ場合、コールド負けとなる)

・登板制限中の投手を野手としての出場は可能だが、スターティングメンバー限定で有り、控えからの途中出場及び投手としての起用方は不可。

野手編

投手としての起用方(野手登板ルール)。

・1人まで、1イニング限定で登板可能。次の回の投球までに、正規の投手との交代が義務となり、1試合の出場不可のペナルティーとなる(次の回までに、控え投手に交代出来ない場合、コールド負けとなる)


長くなりましたが、今回はここまでです。



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第8話・春期リーグ開幕(1年目)

4月の第一週土曜日。

 

ー頑張市営第一球場ー

 

ザワザワ…

 

男木「チッ、観戦だけとかマジだりぃな…」

 

蒔田「仕方がないよ。1年生はどちみち選ばれないしね…しかも僕達だけじゃ無いしね…」

 

観客席にて観客となる黒龍館大のベンチ外部員達。

 

だが、凄い観客数。

 

8大学の部員は勿論、一般客等を含めると一万人はいる。

 

蒔田「す、凄いお客さんだね…」

 

男木「そりゃあ、アタリめーだろ?なにせ、この第一球場の方に三強全部来たんだからよ」

 

試合は第一球場と第二球場の2場所で行われる。

 

 

マンボ鈴木「ねみぃ…てか、自分らの学校の試合だけじゃ駄目なのか?てか、藤山の野郎は?」

 

蒔田「あ、なんでも今から始まる大学に先輩が居たから挨拶しに行くって」

 

マンボ鈴木「カァ~、よくもまあ、そんなメンドクセー事出来んなオイ」

 

 

ー通路ー

 

藤山「金剛先輩!お久しぶりです!!」

 

金剛「ん?お前は………あー!藤山!藤山かオイ!」

 

この方は金剛先輩!

 

俺の2つ上の先輩。

 

俺以上の力強い真っ直ぐと俺と違って変化球も投げれる憧れの先輩だ。

 

多分、高校時代誰よりも意気投合出来た唯一の方だが、残念ながら1年しか一緒に入れなかったのが悔やまれる。

 

 

 

 

 

金剛「まさかお前も進学とはな……しかもその格好…黒龍館大か?」

 

藤山「ッス!先輩は?」

 

金剛「ん?見りゃ分かるだろ?ほねおり工業だ」

 

“ほ”と掛かれた帽子に白と緑を主としたユニフォーム。

 

8大学中、理系の学校の一つで、その名の通り工業関係に力を入れている大学。

 

 

金剛「しかしお前が黒龍館大か~。こりゃまた、キッツイ所に入ったもんだな~」

 

藤山「そうッスか?1日練習は休みの日だけで、後は自由参加ッスよ?」

 

金剛「いや、練習量ならウチも負けてはいねーと思うが、お前のチームは只でさえ馬鹿みたくに打ちまくるくせに、今はあの鬼頭までいやがるからなぁ…」

 

藤山「鬼頭先輩って、そんな凄いんッスか?」

 

金剛「ああ、なにせ去年1年でベストナイン取りやがった化物の一人だからな」

 

藤山「一人…?」

 

一人という単語とあの金剛が化物と比喩する言葉を耳にし、目の色を変える藤山。

 

鬼頭は初見で自分の直球を捉えた一流バッター。

 

そして自分の尊敬する、あの金剛が化物と称する他の者にも興味が湧く。

 

金剛「そうだ。お前の所に居る鬼頭を含めて四人、1年のくせに受賞した奴らがいる…

 

先ずお前の所のキャッチャーの鬼頭、強肩もそうだが、一番はやっぱあのバットコントロールだな。アイツ、最初はフルスイングで大振りなんだが、追い込まれたら時のヒット狙いになった瞬間打つ事打つ事。ったく、追い込んだと思った瞬間打つとか、マジでドSだぜ…

 

次にパワフル大のショートの常盤。派手じゃねーが、兎に角守りが堅い。それに打つ方も、走る方も他のショートと比べて差がねーから、守備の分勝っているって感じだな。

 

次はあかつき大のセンターの宇田川。女のくせに目茶苦茶脚が速い。それに肩もレーザービームの様な強肩で本当に女か疑うレベルだな。

 

そして最後に……」

 

藤山「?

 

どうしました先輩?」

 

不意に金剛の会話が途切れ、顔がにやつく。

 

金剛「噂をすればなんとやらだ。お出でなさったわ」

 

藤山「………!?」ゾクッ

 

背後から強大な威圧感を感じる…

 

そして振り返る事が出来ない!?

 

藤山(だ、誰だ!?まさか…清本か!?

 

いや、アイツよりも更にデカイ威圧感だ!?)

 

今まで出会った人物の中で一際威圧感を放った清本を連想する。

 

だが背後に居るモノはその清本以上だ……

 

一体…

 

 

?「おー、金剛殿ではないか!今日はお手柔らかに頼みますぞ!」

 

金剛「オイオイ、テメーら相手に手加減出来る余裕なんか有ると思うか?ましてやベストナイン様が相手なんだぜ?」

 

?「ガハハ!心配なさるな!ワシは今日は控え、先発は下井じゃ!」

 

金剛「下井か…まあ、誰であれ全力で叩き潰してやる!そんでテメーをマウンドへ引きずり出してやる!!」

 

?「その意気込みや良し!

 

だが……貴殿だけで、この“王”に果たして辿り着けるかな?」

 

藤山「!?」ゾクッ

 

更にプレッシャーが強まる…

 

み、身動き所か…こ、呼吸が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金剛「お、オイ藤山!しっかりしろ!?」

 

藤山「え…?」

 

気が付くと金剛先輩が俺の眼前に居る。

 

王「お~、済まない済まない。ちょっと、威を放ち過ぎたようだな(笑)」

 

金剛先輩の頭上から見下ろす、先程から絶大なプレッシャーを放つ者を視界に捉える。

 

まるで獅子を連想しそうな鬣(たてがみ)の様なヘアースタイルに、身長は優に2mは有り、鍛え抜かれた金剛先輩が細く見える程の見事な逆三角ボディーを誇る。

 

藤山「お、俺は一体…」

 

ついさっきの記憶が途切れ途切れ…

 

金剛「いや、お前何も覚えてねーのか!?急に倒れやがったんだぜ!?」

 

藤山「た、倒れた!?俺が!?」

 

王「藤山と言ったか?お前はワシが金剛殿に放っていた威に耐えきれなかったのだ」

 

藤山「威…」

 

王「そうじゃ。

 

それはそうと、お前は1年か?」

 

藤山「あ、ああ…そうッスけど…それが?」

 

王「(ほぉー、1年ながらワシの5割程の威には耐えたか!今年入った、あの生意気な小坊主共と同じ位だな。まあ、まだ金剛殿に放った8割には遠く及ばないがな)

 

ふぅん、こりゃ秋が…否、ウチのガキ共とのフレッシュリーグが楽しみじゃな」

 

藤山「?」

 

王「では金剛殿!貴殿の実力、とくと観させて頂くぞガハハ!」

 

最後も豪快な高笑いをし、王は廊下の奥へ消えていく…

 

藤山「金剛先輩…誰ッスかあの人は?」

 

金剛「奴が最後の四人目、帝王のエース、王だ。チッ、年下のくせに上から目線の嫌な野郎だぜったく…

 

だが実力は今の頑張リーグで間違いなくNo.1だ。感じただろ?奴のプレッシャーを?」

 

藤山「……」

 

素直に首を縦に振る藤山。

 

とてもでは無いが、今の自分とは差が有りすぎる。

 

 

金剛「さてと、お前の所を助ける義理は無いが、俺の可愛い後輩の為だ。

 

下井をノックアウトにして、奴を登板制限で出れなくしてやるか♪」

 

藤山「金剛先輩!」

 

金剛「じゃあ、そろそろ俺も行くからな。

 

藤山!大学は高校と違って、間違いなくお前と戦うチャンスが有る!その時俺らがどんな状態かはさておき、全力で行くぜ?」

 

藤山「はい!挑む所ッス!」

 

 

 



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第9話・帝王VSほねおり(春①)

帝王大学 オーダー

一番 中 川島
二番 一 宇野
三番 左 鈴木
四番 右 江久瀬
五番 三 宮崎
六番 捕 鳥井
七番 遊 柴原
八番 二 原
九番 投 下井





ほねおり工業 オーダー

一番 二 伊東
二番 遊 林
三番 中 井上
四番 投 金剛
五番 捕 小山
六番 右 遠藤
七番 左 佐藤孝
八番 一 曽根
九番 三 佐藤五郎


蒔田「あっ、藤山君、おかえりー」

 

藤山「おう!」

 

 

蒔田「どうだった先輩は?」

 

藤山「やっぱちょっと大人って感じだったなー。もっと熱かったって感じだったんだけど、落ち着いちゃったなーって思った」

 

意気投合していた時とは雰囲気が変わってしまい、ちょっぴり寂しい…

 

だがそれは仕方がない事。

 

人は成長する生き物だからな!

 

 

「両校、整列!」

 

審判団の合図と共に、両ベンチから選手が出てくる。

 

いよいよ頑張春期リーグの開幕!

 

第1試合は帝王大学VSほねおり工業大学。

 

 

 

 

ー控え室ー

 

鬼頭「いよいよか…(王の奴はベンチか…なら、ほねおりにも勝機は有るな…)」

 

頼むぜほねおりさんよ?

 

此処でアンタらが下克上してくれたら、俺達助かるんだからよ?

 

 

『一番 センター 川島』

 

帝王大学トップバッターの川島が左打席に入る。

 

『プレイ!』

 

 

 

金剛「ふぅ………!」

 

 

 

 

 

 

 

ガバッ!

 

『!?』

 

左足を地面から垂直になるまで上げ、そこから振り下ろす!

 

ビュッ

 

 

ズバーン!

 

『ストライッ!』

 

ど真ん中の剛球を見送り、ファーストストライク。

 

マサカリ投法…

 

昨年まで帝王に在籍していた、山口賢と同じフォーム。

 

世間からは力の金剛、技の山口と呼ばれ、一躍注目されたのは記憶に新しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

ガバッ!

 

ズバーン!

 

『ストライッ!バッターアウッ!』

 

初回は見事三者凡退で締める金剛。

 

 

 

 

 

 

藤山(やっぱスゲーぜあの人!!)

 

大地から真っ直ぐ延び上がった脚。

 

そこから地に振り下ろし、大地を力強く踏みつけ、自慢の豪腕を唸らす。

 

多少性格は変わったけど、昔から拘るあのフォームを変えない真っ直ぐな信念。

 

やっぱり、先輩は先輩だ!!

 

俺の……永遠の憧れ!!!

 

 

 

~スタンド~

 

?「友沢。お前なら、今のインハイのストレート打てたか?」ニヤニヤ

 

友沢「少なくも、アンタよりかは前に飛ばせる自信は有るけどね」

 

?「なッ!テメー!」

 

?「オイオイ…喧嘩するなって友沢、坂本」

 

?「そ、そうだよ二人共…」

 

観客席内で友沢を煽る様な質問をし、カウンターを食らい逆ギレする男…坂本。

 

そして、そんな一触即発状態を宥めるのは、同級生の豊福と加賀。

 

彼ら四人、今年帝王大学に進学した新入生である。

 

 

豊福「全く…喧嘩する位元気なら、カメラ持ち頼むぜ?」

 

『やだ』

 

豊福「うわぁ…コイツら…

 

それに加賀…お前は目を離した隙に…」

 

加賀「zzZZ」

 

豊福「ハァ~」

 

 

バシッ!

 

『アウッ!』

 

下井も負けずに、初回から三者凡退。

 

「わ、わりぃ金剛…お前に回せなかったわ…」

 

金剛「良いッスよ♪そんじゃ、ちゃちゃっと終わらせるッスよ!」

 

ピッチャーで有りながら、チームNo.1の打力を誇る為4番に抜擢されている金剛。

 

先の凡退した先輩達を責めず、軽い足取りでマウンドへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弍土「頼みましたよ江久瀬」

 

江久瀬「はい!」

 

『4番 ライト 江久瀬』

 

 

金剛(4番か…コイツを叩けば、主導権を握れる…!)ギュッ

 

人差指と中指で、ガッシリとボールを挟む。

 

 

 

ガバッ!

 

ビュッ

 

 

 

フワッ!

 

江久瀬「くっ!」

 

バシッ!

 

『ストライッ!』

 

初球は落差の有るフォーク。

 

明らかなボール球になる起動だが、江久瀬のバットが思わず回ってしまい空振り。

 

 

江久瀬(ッ!山口さんより変化はマシだが、速い!)

 

ガバッ!

 

金剛(次はもっと速いぜ?)

 

ビュッ

 

 

ククッ!

 

江久瀬(落ち…)

 

スッ…

 

金剛の投じた2球目、フォークより浅めに握り投じ、フォークの起動から速球並の速度で落ちる変化球…SFF(スプリット・フィンガー・ファスト・ボール)。

 

余りの鋭いキレにキャッチャーが捕球出来ず、股下をすり抜けしかも判定はボール。

 

 

 

 

 

弍土「ふふふ、相変わらず変化球となると制御出来ず、コントロールが悪いな」

 

1球目のフォークは振らされたが、同じ起動の球種という事で見切る事が出来た江久瀬。

 

 

ガバッ!

 

ビュッ

 

 

 

ズバーン!

 

『ボォ!ツー!』

 

高めギリギリに外れてしまい、これでワンストライクツーボール。

 

江久瀬(149km/h…!間違いなくリーグトップクラス!)

 

確かに王より速い。

 

が、王より絶望感は無い!

 

ガバッ!

 

金剛「ッ!」

 

ビュッ

 

 

 

 

カキーン!

 

金剛「チッ…」

 

低めのストレートを軽打させ、センター前へポトリと落とす江久瀬。

 

 

 

弍土「良くやりました江久瀬君!さぁ、続いて下さいね皆さん!」

 

「はい!」

 

王(ほー、江久瀬殿も中々渋いバッティングしますの…さてさて、金剛殿のお手並み拝見と致しましょうか)

 

 

ガバッ!

 

ビュッ

 

 

バキッ!

 

金剛「おわっ!?」

 

インコースのストレートを捉えた打者のバットがへし折れ、先端が金剛を強襲。

 

スパイクで蹴り飛ばし無傷だが、三塁線でボテボテに転がった打球をサードが捕球、二塁を諦め一塁へ投げワンアウト二塁。

 

「大丈夫か金剛!?」

 

金剛「へーきへーき♪次ッス次!」

 

 

 

藤山「Σあぶな!?」

 

蒔田「折れたバットも襲ってくる…これが木製バットの怖さだね…」

 

 

カキーン!

 

金剛「なッ!?」

 

 

 

 

 

 

ドンッ!

 

ワァァァァァ!!

 

六番打者が真ん中に抜けたフォークを見逃さず捉え、打球はレフトスタンドへ飛び込み2ラン。

 

先制したのは帝王大学。

 

藤山「お、オイオイ嘘だろ?」

 

あの先輩が…

 

あの金剛先輩が、こうも簡単に打たれるなんて…

 

 

 

~あかつき大学控え室~

 

宇田川「正木さん…何故金剛さんは、ああも簡単に打たれるのですか?調子でも悪いのでしょうか?」

 

正木「いや、球は走ってるし、荒れてはいるが、ストライクゾーンには入っている…」

 

原因はなんだ…?

 

だが、心無しかアイツ…投げ辛そうに見えるが…

 

 

金剛「オラァ!!」

 

ガギィーーーン!!

 

下井「!?」

 

 

 

 

 

 

ガッシャアアアアン!!

 

外へ逃げるスライダーを力任せにフルスイング、打球はレフトフェンスに直撃。

 

 

 

 

バシッ!

 

『セーーーフ!!』

 

二塁は間一髪セーフ。

 

レフトへのツーベースヒット。

 

 

 

 

 

「相変わらず、すげえパワーだな…」

 

「お、おう。とてもピッチャーが打つ打球じゃねーぜ」

 

「ああ言うのを“パワーヒッター”って言う…」

 

「あ、おい、馬鹿」

 

「あっ」

 

鬼頭「……」

 

鬼頭の前でちょっとしたNGワードを言い掛けた部員達は慌てて素知らぬ顔をし、会話を中断。

 

鬼頭「……」

 

神妙な表情で再び視線をモニターへと移す。

 

 

コンッ!

 

ズサァァァァァ!!

 

『セーーーフ!』

 

「ッ!」

 

ビュッ

 

バシッ!

 

『アウッ!』

 

後続が手堅く送りバントとスクイズで、ツーアウトと引き換えに金剛をホームへ生還させ1点を返すほねおり工業。

 

金剛「よっしゃー!!あざっす皆!!」

 

「何言ってんだよ!こっちこそ、ピッチャーのお前を走らせたって云うのによ」

 

金剛「大丈夫大丈夫♪あの程度の走塁でへばる俺じゃねーから!

 

んな事より、次!行くぜ!!」

 

まだまだ闘志を絶やさず、次の回に備える為キャッチボールを始める。

 

 

弍土(ぐぬぬ、やるではないかほねおり工業…いや、金剛め…)

 

試合はその後均衡し、七回に入った所で3対1。

 

リードしているとはいえ、一発の有る金剛がまだマウンドに立つ以上、まだ油断ならない。

 

しかも次の裏のほねおりの攻撃、3番からなので最悪ランナーを出してしまった状態で回してしまう恐れが有る。

 

敬遠も十分に有りだが、それでは意味が無い…

 

ほねおりを戦意損失させるには…

 

弍土「(やはり“バッター”金剛を完膚なきまで叩くしかないか…)

 

王。準備は宜しいでしょうか?」

 

王「御意」

 

 

ズバーン!

 

『ストライッ!バッターアウッ!』

 

金剛「ッシ!」

 

ガッツポーズする金剛。

 

これで七回110球3失点、奪三振は10個。

 

金剛「監督!まさか…代打って事無いッスよね?」

 

「フッ、ここまで来たらこの試合、お前と心中だな!!」

 

金剛「よっしゃ!!

 

皆!まだ負けてねえ!!逆転すんぞ!!」

 

「おう!」

 

 

『帝王大学、選手交代のお知らせです。

 

ピッチャー、下井に代わりまして、王』

 

ワァァァァァ!!

 

金剛(お出でなさったか化物め…

 

チッ、ベンチから俺にばかり威圧感放ちやがって!!)

 

序盤の乱調の原因…それは王が自身にだけ放った威圧感。

 

ホームランを打たれるまで、まるで重力が増したかの様な錯覚に悩まされ、克服するのに苦戦したが、今は平気。

 

てか、アイツ本当に人間か!?周りの奴らの様子を見るに、俺だけに狙いを絞り、“威圧感”とかいうよく分からんオカルトを出して来ている訳だが…

 

しかし、確かに肌で感じた…

 

周りとは、一線を画する威圧感…

 

そして、そんな化物がマウンドに立ちやがった…!

 

 

 

 

 

 

 

王(まさか監督も本当にワシを起用するとはの)

 

金剛殿は楽しみじゃが…それ以外はちぃと物足りないがな…

 

 

『三番 センター 井上』

 

(デ、デケェ…やっぱ…)

 

自身の伸長が175に対し、王は優に2m。

 

しかもマウンドで更に割り増し、まるで山が立っている…

 

 

 

幾分かの投球を終え、試合再開。

 

金剛(ん?野郎から全然威圧感感じねえぜ…)

 

先程までの全身に乗し掛かるかの様な威圧感を微塵も感じさせない王。

 

 

ザァ…

 

ビュッ

 

 

 

バシッ!

 

『ストライッ!』

 

初球は角度の有る真ん中高めのストレート。

 

(あ、あれ?思ってたより遅い…のか?)

 

確かに角度が有って打ち辛い…が、これなら…!

 

 

 

金剛(128km/h?

 

野郎…思いっきり手抜きしてやがるな…!)

 

 

奴のMAXは確か150で俺と同等。

 

試合は既に終盤。

 

ロングリリーフになる回でも無く、更にリードしている立場なので、此処はフルスロットルで投げ込むのが定石。

 

 

 

弍土(ぐっ…またアイツの悪い癖が出たな…)

 

起用して置いてだが、弍土は頭を抱える。

 

王は確かにズバ抜けた実力を誇る…

 

だが、態度から分かる通り、性格は傲慢で慢心の塊。

 

何度注意しても、一向に変わる気配も無い。

 

特に慢心している面が酷く、端から見ても明らかな手抜きが悪目立ち。

 

昨年も、強豪・注目選手相手には絶対的な強さを見せ付けたが、格下相手に打たれる場面も多々有り。

 

本当は黒龍かあかつきで起用するのが正解なのだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビュッ

 

クッ

 

バシッ!

 

『ボッ!フォアボッ!』

 

左打者に食い込むシュートを投じたが、僅かに外れフォアボールを許す。

 

王「スマンスマン!手が滑ってしまったわ!」

 

余裕綽々の王。

 

金剛(こんの野郎!!人を舐め腐るのも大概にしやがれ!!)

 

『四番 ピッチャー 金剛』

 

 

 

 

 

 

 

 

ズンッ!!!!

 

金剛「なッ!?」

 

打席に入った瞬間、先程までの王への怒りが一瞬で圧し沈められる…

 

ググググッ…

 

藤山「ぐっ…」

 

男木「な、何だよ!?この息苦しさはよォ!?」

 

 

 

 

 

 

友沢「ッ!?」

 

坂本「す、すげぇ…」

 

 

鬼頭(王の雰囲気が変わった…

 

モニター越しでも分かるこの強大なプレッシャー…多分、観客席のアイツらでも感じてるだろう…そして、打席の金剛さんには地獄だろうな…)

 

 

ゴゴゴゴッ

 

金剛「……」

 

王(フッ、流石は金剛殿!ワシの最大の威に耐える精神力、見事!!それでこそ、張り合いが有る!!)

 

ザァ…

 

「ワインドアップ!?チッ、ランナーは無視かよ!?」

 

一塁にランナーを背負っているにも構わず振りかぶる王。

 

すかさず走る一塁走者。

 

王(走れぃ走れぃ。ランナーなんぞ興味無し。有るのは…)

 

ビュッ

 

王(貴殿のみ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズバーーーーーーン!!!

 

今日一番のミット音が鳴り響く…

 

ランナーは悠々と二塁へ到達だが、インハイの剛球に、ピクリとも全く反応が出来なかった金剛…

 

『ストライッ!』

 

金剛(ひゃ、151km/hだと…?お、俺の150を越えやがった…しかも、コースギリギリに投げ込んだ、このコントロール…)

 

強い…!

 

洒落にならねーぜコイツ!

 

 

 

 

ザァ…

 

(また振りかぶりやがったな!)

 

ダッ!

 

またランナーがスタート。

 

ビュッ

 

 

金剛「ッ!」

 

パキーーーーーン!!

 

『ス、ストライッ!ツー!』

 

インローの剛球に慌ててバットを出すが、打球は金剛のバットを折り…否、粉砕しミットへ収まる。

 

金剛「ッ~~~~~~!?」

 

その場にうずくまる金剛。

 

尋常では無い痺れが襲い掛かり、悲痛な叫びを上げたくなるが、出かける声を喉元でなんとか飲み込む。

 

金剛(なんだコイツの球は!?鉛でも入ってんじゃねーのか!?)

 

今まで何度もバットが折れる所は見ている…

 

だが、こんな砕けたって仕方は一度も無い。

 

しかも、砕きながらミットに収まるなんて事態が有り得ない。

 

 

 

金剛(つ、強ぇ…

 

だがランナーは三塁。なんとか当てて一点追加してやる…)

 

新しいバットを取り出し、再び打席に入る金剛。

 

『プレイ!』

 

ザァ…

 

プレイを聞き、金剛が構えるのを確認してから再び振りかぶる王。

 

王(さてと金剛殿。そろそろ終幕と致しましょうか)

 

まるで手の平で包み込むかの様な握り…

 

ビュッ

 

金剛「!?」

 

遅い…先程までの剛速球が嘘かの様なゆっくりと、やんわりとした球。

 

金剛(そうだ!コイツには、コレが有ったんだった!?)

 

忘れていた…

 

違う、剛球ばかりに気を取られていて、すっかり頭から消えていた。

 

金剛(剛の速球に、柔のパームボール!!)

 

 

バシッ!

 

『ストライッ!バッターアウッ!』

 

完璧にタイミングを外され、金剛のバットが豪快な空振りをする。

 

金剛「…クソったれが…」

 

王(うむ!非常に楽しかったですぞ金剛殿!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後次打者にスクイズを決められ一点差にされた所で王は降板。

 

3番手ピッチャーが六番をサードフライに抑え、そのまま続投。

 

八回、九回を六者連続で抑え、金剛に打席を回す事無く締めくくり、3ー2で帝王大学の勝利。

 

 

藤山「先輩…」

 

蒔田「差は殆ど無かったね…あの王さんって人との対戦がターニングポイントだったね」

 

男木「だが、次の奴にアッサリスクイズ決められた所は笑えたぜ!

 

だが走者ガン無視のワンマンピッチングはちょっとヤバイな。本当に俺らより年上なんか?」

 

マンボ鈴木「腹減った~」

 

 

「鬼頭!行くぜ!」

 

鬼頭「はい!」

 

第2試合、あかつきVS黒龍館、スタート!!

 

 



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第10話・黒龍館VSあかつき(春①)

ー控え室ー

 

「鬼頭!そろそろ行くぞ!」

 

鬼頭「ええ…(予測通り帝王が勝ったな…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男木「テメーら!いよいよ先輩達の番だァ!

 

良いか!?死ぬ気で応援しやがれェ!!」

 

『おう!!』

 

マンボ鈴木「うぃーす」

 

藤山「Σうわ!オッサン急に仕切りだしたぜ!?てか、あの偉そうなマンボが従った!?」

 

蒔田「纏め役だけなら、既にキャプテンだね…」

 

 

「両校、礼!」

 

『お願いします!』

 

ワァァァァァァァァァ!!

 

いよいよ試合開始。

 

球場は大歓声に包まれる。

 

坂本「オイオイ、俺らの時より歓声デカくねーか?」

 

豊福「しょうがないよ。今回は三強“同士”の試合だからな。お客さん的に…まあ、ほねおりの方達には申し訳無いけどね?」

 

 

先攻、黒龍館の攻撃。

 

鬼頭(先発はやはり正木さんか…)

 

あかつき大学の先発はサウスポーエースの正木。

 

右打者には外へ、左打者には内へ食い込んで来るシュートボールを操る軟投派。

 

そして、アメリカ仕込みのツーシームとスクリューとを持ち球としている。

 

 

鬼頭(去年の秋でのウチとの対戦は、試合には勝ったが、正木さんが投げた六回までは無得点…後続を打って勝っただけだ)

 

リベンジと行きますよ、正木さん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシッ!

 

『ボッ!フォアボッ!』

 

鬼頭(ッ!最悪の奴が塁に出てしまった…!)

 

試合は六回表、あかつき大学の攻撃。

 

この回の先頭打者は九番センターを務めるあかつき大の紅一点、宇田川。

 

バッティングはかなり…否、全くのダメダメ。

 

普通に攻めれば難なく抑えれる筈(本日、2打席連続三振)なのだが、此処でまさかの四球。

 

 

 

 

 

 

 

打順が一周し、一番打者が左打席に入る。

 

鬼頭(ノーアウト一塁でランナーは宇田川か…)

 

一塁ランナーの宇田川はやや広めなリードを取る。

 

ビュッ

 

バシッ!

 

『セーフ!』

 

一塁へ牽制。

 

だが、アッサリと戻る。

 

 

監督(そうだ。お前が広めなリードを取るだけで、勝手に相手が意識する!)

 

 

脚に自信の有る選手は少々使い辛いからな…

 

いや、少し語弊があった。

 

それ自体は大変素晴らしい事。

 

使い辛いというのは、脚に自信の有る選手は総じて負けず嫌いが多く、そして走りたがり屋が多い傾向が有る。

 

自分ならセーフとなる!自分が得点源になる!

 

積極的な姿勢は好きだが、それが行き過ぎると冷静な判断や自制心が出来なくなり、無茶な暴走や、牽制死になりやすい…つまり“無駄”なアウトが増えるだけ。

 

指揮官として、

 

特に捕手の肩ばかり気にしてクイックを軽視する傾向が多い。

 

何故クイックという技術が作られたかと……

 

 

 

その点、彼女は使いやすい。

 

真面目で従順な性格。

 

我々ベンチの指示が有るまでちゃんと“待て”が出来、しかもモーションに入るのを見てから走る傾向。

 

確認の分、到達タイムは遅くなるが、そこは持ち前の脚で十分にカバー出来る。

 

 

 

 

 

ビュッ

 

バシッ!

 

『セーフ!』

 

カウント2ー2で三度目の牽制球。

 

鬼頭(走らないか…)

 

出来れば牽制でアウトにしたかったがな…

 

 

(良し!予定通りエンドランだ!)

 

(はい!)

 

宇田川(はい!)

 

先程までのサインはシンプルに打てだけだったが、此処でエンドランのサインが出る。

 

宇田川(モーションに入ったら走ります…!)

 

 

 

 

ザァ…

 

ダッ!

 

『!?』

 

鬼頭(チッ!やっぱ来たか!?)

 

ビュッ

 

 

カキーン!

 

打球は三塁への緩いゴロ。

 

鬼頭「(二塁は無理か…!)

 

サード!ファースト!ファースト!」

 

ビュッ

 

 

バシッ

 

『アウッ!』

 

無難に一塁へ送球、ワンアウト。

 

 

 

 

鬼頭(リーグ最速か…)

 

速い…!マジで速い!

 

確か一塁到達タイムが最速で4秒4と聞いたな…

 

て事はリード距離も考慮すれば盗塁も同じ位か…

 

どちらにせよ、速すぎるぜ…!

 

鬼頭(肩には自信は有るが……先輩のクイックでは…)

 

 

カキーン!

 

 

 

 

 

 

 

 

ズサァァァァァッ!

 

『セーフ!』

 

 

男木「う、嘘だろオイ…?」

 

マンボ鈴木「今ので4点差。もう決まったんじゃねーの?」

 

試合は九回表。

 

点差は6ー2のビハインド。

 

六回に宇田川がホームまで生還したのを皮切りに、毎回着実に点数を重ねるあかつき大学。

 

正木は八回1失点の好投。

 

その後後続から1点入れたが、依然苦しい展開は続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『4番 キャッチャー 鬼頭』

 

 

 

 

バシッ!

 

『ボッ!フォアボッ!』

 

鬼頭(まあ…そうするよな…)

 

先頭打者鬼頭を歩かせ、後続と勝負するあかつきバッテリー。

 

 

 

 

カキーン!

 

バシッ!

 

ビュッ

 

『アウッ!』

 

ビュッ

 

『アウッ!』

 

サード併殺。

 

もう後が無い黒龍館。

 

 

 

 

 

 

カキーーーン!!

 

 

「宇田川!」

 

宇田川「はい!」

 

ズサァァァァァ!

 

バシッ!

 

ワァァァァァァ!!

 

右中間を襲うライナーボール。

 

ライトの宇田川がスライディングキャッチのファインプレーでゲームセット。

 

黒龍館の黒星スタートが決定。

 

 

 

 

?「流石は先輩達だ。さーて、お出迎えに行くぞ心」

 

?「あっ、はい!兄さん!」

 

 

ー通路ー

 

蒔田「え?」

 

藤山「あ?どした蒔田?」

 

男木「まさか…ありゃ…」

 

通路を歩き、先輩達の控え室を目指す一年生一向。

 

そんな彼らの前方にそっくりな顔付きの青年が二人。

 

 

 

 

藤山「ソックリだなー。双子か?」

 

男木「テメー、あの二人を知らねーのか!?

 

俺らと同じ地区だった、あかつき高の双子バッテリー、鹿島真(マコト)と鹿島心(ココロ)だろうが!」

 

藤山「う~ん、なんか聞いた事有るような無いような…」

 

蒔田「確か…カイザースの猪狩兄弟の親戚だよね?」

 

男木「ああ…猪狩兄弟と違って兄がキャッチャーで弟がピッチャーなんだが…」

 

というより、奴等がこんな所に入るって事は、十中八九あかつき大に進学しやがったな…

 

 

 

 

マンボ鈴木「鹿島って、あの鹿島?高校No.1キャッチャーの?」

 

男木「あ、ああ…やっぱ県外のお前でも知ってんのか?」

 

マンボ鈴木「そりゃーお前らと違って、俺は甲子園出場者だからな(笑)対戦した事はねーけど」

 

藤山「俺も甲子園経験者だぜ?」ドヤッ

 

男木「テメーは21世紀枠だろ?」

 

藤山「あ、はい。サーセン」

 

マンボ鈴木「というより、初耳だぜ?鹿島に双子の弟?が居るって話」

 

蒔田「う~ん、僕もあんまり知らないんだよね…」

 

男木「確か怪我してたって話だな弟の方は。言われて見れば、1年の夏には既に公式戦でエース張ってた記憶だが、2年の夏には消えてたな…」

 

マンボ鈴木「あー、て事は兄弟揃って大学野球でリベンジって訳?」

 

素晴らしい兄弟愛じゃねーか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒔田「何はともあれ…大学野球、かなりの激戦だね…」

 

男木「ああ…リーグ戦全てが総当たり、しかもあかつき大には鹿島兄弟、帝王にはあの化物ピッチャー。

 

嫌でも強ぇ奴等と当たるんだぜ?」

 

藤山「上等!!金剛先輩、あかつき大、帝王大、全員ぶっ倒すまで!!」

 

 

 



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第11話・イレブン工科大学

今回はイレブン工科大学編です。

時間は少し遡って、春期大会前です。


橘「♪~♪」

 

鼻唄を奏ながら、ウキウキ気分で身支度を整える橘。

 

橘「ガス、電気、水道よーし!じゃあ、しゅつぱーつ!!」

 

誰にも束縛されない憧れの一人暮らし。

 

そして遂に今日から大学生活…そう、野球が出来る!

 

橘(ふふふ、出遅れちゃったけど、この橘みずきちゃんを見て驚きなさいイレブン大!!)

 

 

橘「え…何これ」

 

早速グラウンドへ訪問に来た橘は絶句する。

 

 

 

 

ワイワイガヤガヤ

 

橘「や、野球のユニフォームを着た人が…サッカーしてる…」

 

目をパチクリさせ、何度もグラウンドを確認する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、

 

「食らえ!無回転シューーーー!!」

 

ゴーーーール!!

 

 

 

見間違いなんかでは無い。

 

短パンでは無く、野球のズボンとストッキング…そしてその足下には白黒のボールが…

 

そしてもう、無回転とかゴール!ってハッキリ言っちゃってるよ!?

 

橘(え?嘘でしょ!?だって、オープンキャンパスの時、普通に野球してたよ!?)

 

確かあの時、バッティングゲージが有りフリーバッティングをしていた。

 

それが一体…

 

 

?「ん?新入生?」

 

橘「え?あっ、はい…」

 

呼び掛けられ慌てて振り向いた先には、タオルでバンダナをしており、イケメンの分類に入る青年。

 

西園寺「俺、三年の西園寺!

 

君は…野球部かな?それとも…サッカー部?」

 

橘「あー…一応……野球部…です」

 

西園寺「おっしゃ!!やりー!!」

 

橘「!?」

 

 

西園寺「おっと、ごめんごめん。

 

いやー、まさか君の様な可愛い娘が入ってくれ(ry」

 

ドコッ!

 

西園寺「Σはう!?」

 

橘「Σ!?」

 

突如西園寺の頭部にサッカーボールが直撃。

 

 

?「あ、すまない先輩。大丈夫か?」

 

橘(え?女…の子?てか、身長高っ!?)

 

腰まで有る綺麗な髪をなびかせ、凛とした端麗な顔の女性。

 

身長は175㎝程でモデル体型。

 

160㎝程しかない自分とでは頭一つも違う。

 

 

西園寺「な、難波ちゃん…今のは……マジ、効いた…ぜ…?」バタッ

 

難波「ん?ちょっと不味いか?どう思う?」チラッ

 

橘「え、え?私?」

 

難波「他に誰がいる?

 

それより君に聞きたいのは……このまま先輩を放って置くか、何処かに運ぶかなんだが…?」

 

う~んと頭を悩ます難波。

 

橘「えーとですね…多分何処かに運んだ方が良いかと…?」

 

難波「フム、成る程な。では運ぶとしよう」

 

ヒョイ

 

橘「Σ!?」

 

肩に乗せ、軽々と持ち上げる難波。

 

難波「あ、すまないがそこのサッカーボールを取ってくれないか?」

 

橘「あっ、はい」スッ

 

難波「ありがとう」ニコッ

 

ガシッ!

 

橘「Σ!?」

 

今度は片手でサッカーボールを鷲掴みする。

 

 

難波「さてと…自己紹介が遅れた。私は難波 綾

 

君は?」

 

橘「あ……橘…みずき…です…」

 

まるで昔の引っ込み思案が甦った感じとなる橘。

 

難波「フフ、そう怯えるな。別に大した事ではないぞ?」

 

橘(イヤイヤイヤ、普通の女性が大の男を担いだまま、サッカーボールを鷲掴みなんて無理ですよ!?)

 

 

 

 

 

 

 

難波「それよりみずき」

 

橘「Σひゃい!(ヤバッ!噛んじゃった!)」

 

難波「此処に来たという事は…君はサッカー部か野球部、どちらかに用があるのか?」

 

橘「あ、えーと……」

 

難波「フッ、私と君の中では無いか?素直に言ってくれないか?」

 

橘「(出会ってまだ5分足らずなんですが!?)

 

あ、あの…野球部に入ろうかなって…」

 

 

難波「フフ、やっぱりな」

 

橘「え?」

 

意味深な言葉を呟き、サッサッサッと軽やかな足取りで歩いていく難波。

 

橘(な、何今の発言!?)

 

 

野球部・グラウンド

 

西園寺「ん?う~ん」

 

難波「ん?目が覚めたか」

 

長椅子に横たわらせていた西園寺が目を覚ます。

 

西園寺「難波ちゃん…あ、あれ?俺何でベンチで寝てるんだ…?」

 

事故の記憶が全く無い西園寺。

 

難波「知らん」

 

西園寺「だよねー」

 

 



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第12話・イレブン工科大学(part②)

ザワザワザワ。

 

橘「うん?何々?」

 

 

ざわつくグラウンド。

 

それは、注目が一人の男に集まっているからだ。

 

橘(背高ぁ…)

 

先程の先輩二人を遥かに凌駕する高身長。

 

優に2mは有る。

 

そして、左手にはグラブが、右手には硬球が握られている。

 

これから投げ込みをするのが一目で分かる。

 

 

 

 

 

ザァ…

 

ギュル!

 

橘「え!あのフォームは!」

 

キャッチャーに背中を見せるまで捻るあの独特なフォーム。

 

そう、自分と同じトルネードフォーム。

 

そして、全身をまるで鞭の様にしならせ、その2mの角度から一気に振り下ろす。

 

ビュッ

 

 

(速い!が、満田の方が速い!

 

これなら…)

 

クッ

 

ビシィ

 

「ッ!」

 

ストライクゾーンの捕球に失敗。

 

橘(す、凄い……てか、何処で見た事有るって思ったら、神帝学園高校のエースで4番だった大久保じゃない!?)

 

大久保 一樹。

 

去年の甲子園、決勝で西強高校に敗れ準優勝だったが、あの特徴的なトルネードフォームと日本人離れした体格で一躍騒がれた超高校級ピッチャー。

 

プロ入りも噂された実力者であり、仮に進学したとしても、間違いなく“場違い”な存在。

 

橘(なんでこんな怪物があかつきや帝王じゃなくてウチに…)

 

ビュッ

 

クッ

 

ズバーン!

 

大久保(我が神は何故此処を…)

 

 

小学4年生。

 

『あ、おかーさん。あれ何?』

 

『あれは野球っていう運動よ』

 

『ふ~ん』

 

(なさい…)

 

『え?』

 

(野球を始めなさい)

 

『おかーさん。今何か言った?』

 

『ううん、何も』

 

『え~~~、今確かに、野球を始めなさいって言ったよー』

 

『言ってない!言ってない!』

 

(野球を始めなさい)

 

『ほら!また聴こえた!

 

おかーさん。僕、野球やりたい!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日突然、頭の中で声が聞こえる様になった。

 

正確には野球を見てからだ。

 

俺のいきなりの発言に、当初母は困惑する。

 

当然だろう。

 

何せ、始めようとした理由が好奇心では無く、自分にしか聴こえない意味不明なお告げだからだ。

 

だが、丁度何かスポーツをさしてみたかった両親と考えが一致し、割かしすんなりとOKを出してくれて、俺の野球人生がスタートする。

 

 

『先生ぇ~、小さい文字打つの教えてー』

 

丁度パソコン授業が解禁となり、俺は早速インターネットで野球を調べる。

 

早く知りたいのは瞼の裏に鮮明と写る、ボールを投げていた人の姿。

 

“ピッチャー”と呼ばれるポジションだ。

 

 

 

 

 

『オーバースロー…サイドスロー…』

 

ボールの投げ方…色々有るんだなー。

 

上からだけじゃなく、横から投げたり、はたまた下から投げるってやり方も有るらしい。

 

 

 

 

『うん?』ピコーン!

 

有る一つの記事に、俺は興味を引かれる。

 

『トルネード?へぇー』

 

カッコいい…

 

(その投げ方でなさい)

 

『また…』

 

また聴こえた…

 

『よし、この投げ方でやろ!』

 

 

 

 

 

ザァ…

 

『此処から体を捻るんだな』

 

ギュル!

 

『!』

 

体が自然に動く…

 

初めて投げる投げ方なのに…

 

ビュッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハァ…ハァ』

 

気が付けば辺りは黄昏時。

 

優に100球程投げてみた。

 

手応え……有り!

 

投げていて楽しかった!

 

これが…これが野球!

 

これがピッチャー!

 

これがトルネード!

 

 

 

ギュル!

 

ビュッ

 

 

 

ズバーン!

 

『よし!』

 

中学になった俺は軟式に参加、遂にトルネードをお披露目となる。

 

結局リトルには不参加、勿論シニアもやるつもり無い。

 

なにせ直ぐにフォームの矯正ばかり。

 

なんで俺のトルネードを直ぐに弄りたがる?

 

俺の身長は入学時には175㎝になっておりまだ成長中。

 

既に同級生の中では一番身長が高い。

 

そう、神様は俺の身長が誰よりも高くなるのを知っていたのだ。

 

そしてこのダイナミックなフォームは俺の力の全てを余す事なくボールにパワーを伝えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『志望届けの期限まで後一週間か…』

 

最後の夏、清本・桑名のKKコンビに完敗したが結果は甲子園準優勝。

 

対抗馬の桑名が進学するとの事らしいので、今ならドラフト一位も十分に有ると言われた。

 

 

俺がプロか…

 

正直考えた事も無かった…

 

だが今なら指名もほぼ確実。

 

しかもドラフト一位ともなれば契約金も破格…

 

仮に失敗しても箔が付く。

 

『…フッ…』

 

只単な“お告げ”だけで野球を始め、何不自由なく万人の夢の一つ、プロ野球選手に手が届き掛けている。

 

普通なら迷う必要など無い。

 

そう…普通ならな…

 

 

 

 

 

『し、進学!?』

 

『あぁ…』

 

『お前、なn(ry』

 

『俺の人生だ。口出し無用』

 

バッテリーを組んでいた、最も親し…“かった”友人にいの一番に自分の進路を伝えた。

 

 

 

 

 

 

前日…

 

~自室~

 

(大学へ行きなさい)

 

そろそろだと思った…

 

実に3年ぶりだな…我が神の言葉を聞くのは…

 

そして神の言葉は…大学、つまりは進学。

 

(我が神よ……何故進学を?)

 

初めて俺は、我が神に質問する。

 

(今の貴方に力が無いからです)

 

成る程…

 

しかし…

 

(我が神よ。傲る訳では無いが、俺をドラフト上位で指名する噂も聞く。

 

ドラフト指名されそうな男を実力不足と評価されるのは何故?)

 

(確かに貴方は“現時点”で名実共にプロ入りの条件を満たしているでしょう…)

 

(では何故?)

 

(それは貴方が、本当にプロになりたいかどうかで悩んでいるからです)

 

(俺が本当に…)

 

(ええ…そもそも本気でプロになりたいので有れば、私の声を待たずとも、確固たる意志を持って表明している筈です。それを未だに悩むという事は、まだ貴方にプロに挑戦する資格が無い、なによりの証拠)

 

(ッ…!)

 

(悔しいですか?存在するかどうかも分からない私に言われて?悔しいので有れば、早く志望届けを出すのです)

 

 

(ぅ…)

 

だ、駄目だ…

 

今更になって怖くなった…

 

もし指名されたとして、やっていけるか…

 

(ふふふ、指名されなかったらという恐怖では無く、指名されてしまったらで怖じ気ついたのですか?

 

問題外ね)

 

『ッ…』

 

完 全 敗 北

 

 

『さて…決めるか…』

 

友人と関係者に進学を伝え、家に戻った俺は早速行動に移る。

 

『先ず日本地図を出して…』

 

懐かしいなこのやり方…

 

中学の時は地元オンリーで学校名をなぞるだけだったが、今度は全国だからな。

 

(先ずは連盟決めからだな…)

 

北海道に指を置き、目を閉じ神経を集中。

 

ゆっくりと指を下になぞらせる。

 

高校を決めた時と同じ様に、自然に指が止まる筈。

 

其所が俺の行くべき場所!

 

 

 

 

 

 

 

ピクッ

 

『此処か…』

 

この場所はと………有った!

 

頑張八大学!!

 

(え~と、あかつき大と帝王大の所か…)

 

この二大学、勿論オファー有り。

 

しかし…

 

 

(此処では無いか…)

 

渡された案内資料を取り出すが、ピンと来ない。

 

(じゃあ、黒龍館か………違うな)

 

パワフル…しるこ…ほねおり…白樺…

 

どれも来ない…

 

(となると、最後の…)

 

ピコーン!

 

(イレブン工科大学…?)

 

指がピタリと止まる。

 

神は此処を示している。

 

 

 

 

 

 

 

『…成る程。スポーツより、工業や科学方面に精通した学者輩出に力を入れている理系大学か…』

 

卒業後の進路は大半が勉強方面。

 

スポーツ系は1%未満。

 

そして野球部の去年の秋季大会の結果は6位。

 

白樺としるこに勝利したのみで、残りは全敗。

 

(確かに卒業後の保険の為に、何かしらの資格を取るのも有りだな…)

 

工業系ならほねおり、科学系ならしるこの方が特化している感じだが、こっちはその中間と行った所。

 

つまり幅広い選択肢が有る。

 

(だが勉強か…)

 

正直苦手だ…

 

こうなったら、入学だけは、なんとしてでもスポーツ推薦で決めて、その後どうにかするしか!!

 

(善は急げ!スポーツ推薦の締め切りも後3日しか無い!)

 

こうして俺はイレブン大を受験しようと決意。

 

早速両親、学校関係者に報告し、なんとかスポーツ推薦で出して貰った。

 

 

~現在~

 

帰路

 

大久保(そして合格してイレブン大に来た訳だが…)

 

果たしてこの選択は正しかったのか…

 

イメージと違ったのは、思いの外打撃のチームだった事。

 

天秤打法の西園寺先輩、女性ながら四番を打つ難波先輩の実力は頭一つ抜けており、一浪されて同級生扱いだが雪村さんのバッティングも目を見張る。

 

ピッチャーは…2年生の満田さんが目立った。

 

140km/hは軽く越えてそうな、威力の有る速球が武器。

 

そして…水色の髪の少女、橘 みずき。

 

キャッチャーの構えた所へピタリと投げ込むコントロール。

 

そして…俺も初めて見る、高速スクリューの使い手だ。

 

大久保(あれが高速スクリューか…緩やかな曲線で斜めに曲がる普通のスクリューと違って、鋭く沈むって印象だったな…)

 

有れ程のボールを投げる投手が居たとは…

 

しかも女でだ。

 

 

 

 

大久保(後は……あー、あれか)

 

一番驚いた事を忘れていた。

 

どうやら定期的にサッカー部と“じゃんけん”を行い、グラウンドの配分を決めるらしい。

 

今回は7対3の比率をサッカー部が勝ったらしく、この配分ともなるとグラウンドでの実践練習が非効率と判断される為、サッカー部の練習参加or室内練習での期間になるらしい。

 

合同練習はさておき、グラウンドの共有は中学以来となるので懐かしい気持ち(神帝では専用グラウンドだった為)

 

 

 

 

 

 

大久保(確かに楽しそうでは有る……が、あれじゃまるで“部”じゃ無くサークルだな…)

 

明後日からリーグ戦だと言うのに、覇気が全く感じられない。

 

正直…このヌルイ空気はちょっと苦手かもな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大久保「ん?あれは…」

 

『パワ堂』の店内に見覚え有る人影が…

 

大久保「橘みずきか……」

 

今日逢ったばかりの橘みずき…と、後知らない女の子がお茶している。

 

大久保(分からん。まあ、知り合いだろうな)

 

別に興味無い。

 

詮索するのも野暮な話、此処は静かに退散…

 

 

タタタッ!

 

橘「やっほー大久保君!」

 

大久保「……」

 

橘「ふふ~ん、このみずき様から逃げられると思ったのかな?」ニヤニヤ

 

大久保「……」

 

橘「『何故バレた』って思った?そんな身長してたらバレバレだよ(笑)

 

まあそんな事より、大久保君も」グイッ

 

大久保「……」

 

橘みずきに腕を引かれ、俺は店内に歩を進める。

 

 

 

 

 

 

 



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第13話・イレブン工科大学(part③)

カランカラン

 

『いらっしゃいませー』

 

橘「1名追加で☆」

 

『かしこまりました』

 

 

六道「どうしたのだみずき?急にそんなにあわ…」

 

大久保「ん?」

 

同席で座るもう一人の少女と目が合う。

 

六道「Σはわわわわわわわわわわ!?」

 

そして突如パニクりだす。

 

橘「聖!落ち着きなさい!」

 

六道「ほ、へ、だっ、だって、みみずき……(嘘だ…なぜ此処に…)」

 

大久保「!?」

 

ザワザワザワ

 

橘「あちゃ…ちょっと場所変えよっか」

 

ボソボソと噂話が聞こえ出したので、俺も頷く。

 

そして動揺しまくる少女をみずきが介抱し、店を後にする…

 

 

~広場~

 

橘「はぁ…落ち着いた?」

 

六道「す、済まない…」

 

ベンチに座り落ち着きを取り戻した六道が二人に一礼する。

 

気が付けば真っ暗となっており、自分達以外誰もいないベンチを街灯が照らすのみ。

 

橘「全く…聖があんなに取り乱すなんてね(笑)」

 

六道「わ、笑うなみずき!だって…」チラッ

 

軽く横目で俺を見る、聖と呼ばれる少女。

 

橘「(ニヤリ)だよねー☆だって聖、大久保君のファンだもんねぇ~?」

 

六道「Σなー!はわわわわわわ!!み、みずき!!//////」

 

橘の爆弾発言に、頬を赤らめまた慌ただしくなる六道。

 

 

大久保「ファン…?

 

え?…俺の?」

 

橘「そ☆去年の甲子園なんて凄かったんだよ?地元の応援なんてそっちのけ、ミーハーアンチ、なのに県外の大久保君の高校ばかり……てか、大久保君“を”ずっーと応援してたんだよ?」

 

六道「なー!//////」

 

橘「し・か・も!

 

聖!私に黙って決勝観に行ってたんだよね?」ニヤニヤ

 

六道「はゎゎゎゎゎ…//////」

 

大久保(決勝を…?)

 

そうか…あの試合を…か…

 

 

カキーン!

 

カキーン!

 

グワッキィィィィィン!!

 

 

 

 

ビュッ

 

ククッ

 

ズバーン!

 

 

ビュッ

 

グワッキィィィィィィン!!

 

 

強い…!

 

連投と猛暑でコンディションは悪かった方だったが、それは相手も同じ事。

 

というより、清本・桑名、この化物二人が同時に居やがったのが不運過ぎた。

 

どっちかだけなら、まだ善戦出来たかも知れないが、二人同時は無理が有った…

 

なんでコイツ等は春に2回戦で負けたのか…

 

試合中はそればかり疑問に思っていた…

 

 

六道「それでだ先輩…その……こ、甲子園はどんな感じだった?」

 

大久保「どんな感じ…」

 

 

どんな感じだったか。

 

六道さんが初めてでは無く、色々な人から聞かれた質問だ。

 

緊張した、一生の思い出、プロになって帰ってきたい。

 

様々な人のインタビューを聞くと、定型化しつつ有るがしっかりと前向きなコメントをしている。

 

だが俺は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大久保「分からない…な」

 

六道「そ、そうか…」

 

橘「え~!つまんなーい。分からないって……何かこう、達成感とか無い訳?」

 

大久保「ああ…」

 

冗談抜きで、俺には本当に無い。

 

いや…今考えると、甲子園所か高校3年間の思い出ですら虚無だ。

 

厳しい練習もした、仲間達と助け合い、競い合い、悲しみ合い、励まし合いと過ごした…

 

だが……どれも心に残っていない…

 

大久保(マジで俺って最低だな…)

 

冷めていると云うより、此処まで来ると最早人形だな…

 

 

六道「先輩…その…」モジモジ

 

大久保「?」

 

六道「私……実はキャッチャーをしているのだが…」

 

コイツは驚いた。

 

てっきりマネージャーかと思ったが、まさか選手とは…

 

しかも野手のポジションの中で最もハードなキャッチャーとはな…

 

六道「それでだ……その……ゎ…(ボソボソ)」

 

大久保「ん?」

 

最後の方は全く聴こえない…

 

大久保「済まない六道さん…聴こえなかったから、もう一度良いかい?」

 

六道「Σす、済まない!

 

その…わ、私に……」

 

 

 

 

 

 

橘「あーーー!!まどろっこしいわね聖!!

 

ハッキリと言っちゃいなよ!『私に捕らせて』って!」

 

六道「!!」

 

大久保「捕らせて?

 

あー、そういう事か…」

 

どうやら、この娘は俺の球を受けたいらしい。

 

大久保(俺の球をか…)

 

恐らくこの娘は橘みずきとバッテリーを組んでいた娘だろう。

 

あの高速スクリューを放る橘みずきの球を受けれるならそれ相応の実力者だろう。

 

だが、俺と橘みずきとでは球威が全く違う。

 

しかも俺の球は…少々特殊。

 

怪我をしないか心配だが……

 

 

 

大久保(まあ、そこは加減すれば大丈夫だろう…)

 

それに…俺のファンって言ってくれた娘を邪険にしてはいけない。

 

しかも、今は女性選手も正式に認められる時代。

 

差別は良くない。

 

大久保「OKだ六道さん。だが今日はもう真っ暗だ。また後日な」

 

 

丁度良い切り上げのタイミング。

 

俺は直ぐ様帰ろうと…

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシッ

 

は、出来なかった。

 

橘「私お腹空いた〜」ニヤニヤ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後俺は、3人分の食事代を支払う羽目となった。

 

 

 



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