それはフラスコから生まれた (危険信号)
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原作までの様々な出会い
プロローグ


ホムンクルスを知っているか。

様々な言い方も名称も多いが、人造人間、文字通り人間が造り出した人間である。魔術師や錬金術師が造る知識を持ったまま産まれる者、曰く、フラスコの中でしか生きられないフラスコベイビー。ラテン語でホムンクルスを「小人」と訳す。人よりその身体は小さいらしい。

強制的に肉体を成長させるのでその寿命は僅か3年余りだとか・・

 

「つまるところ私は生後1ヶ月どころか産まれたての赤子にも等しく残り僅かな3年の寿命の中で生きていくことになりますね」

 

艶のある真白の髪、血を彷彿とさせる赤眼、病人の様な白い肌、ビスクドールと問われても可笑しくない程美しい顔、それが今日生まれたホムンクルス第一号、文句無しの成功作であった。淡々としていながらどこか陰のある、しかしそれこそが少女の美しさであるかのようにとにかく彼女は美しかった。

 

「あぁ、あぁ、我が子よ。我が手から産まれし我が愛しい子よ!!

なんと、あぁ、なんと素晴らしいんだ!その髪、その目、その身体、

神でさえもお前の美しさに感嘆のため息をつくだろう!私の研究を馬鹿にしたゴミ共め、やはり私は間違っていなかった!私が正しい、神が私を認めたのだ!間違っていたのはお前達だ!!!!」

 

「お父様、どうか落ち着いて。心音が乱れています、軽い興奮状態に陥っています」

 

「そうだ、その通り、父だ、私がお前の父なのだ。私が造った可愛い我が子よ」

 

少女は達観した目で男を見ていた。確かに自分を造った人ではあるが、それとこれとは別である。もう少し掘り下げて言うなればここから飛び出し今のこの状況について激しく聞き及びたいのである。

 

どうやら私、死んで生まれ変わった様です。誰か!このSAN値ピンチ系爺をどうにかしてください!!かの邪神降臨並にSAN値が危ない!!!

 

最後の記憶はトラックだ。確かあれは仕事の帰り道だった、もしかしたら出勤途中だったかもしれないし遊びに行く予定があったかも、はたまた社会人ではなく学生で自分は女ではなく男だっかもしれない、そのくらい記憶はあやふやで、自分が何者であったかも思い出せない。ともかく最後の記憶はトラックで撥ねられたか、吹き飛ばされたか、車同士の衝突か、もしかしたら自殺かもね。トラック自体錯覚かもしれないが、それでは本末転倒。

けれど何となく、こういう展開はそれこそ死ぬ程見飽きてる気がして瞬間思った「これ転生小説でよくあるパターン」ふと思ったにしては的を得ていた。実際そうだし、転生っていうか生まれ変わってるし、創作小説とか二次小説も馬鹿に出来ないなぁなんて考えたりエトセトラ

 

「あぁ我が子よ、我が娘よ、身体に不調は無いかね、不快は無いかね、美しい娘、私が造った美しい子よ」

 

こいつまだ喋ってやがった、いい加減我が子とか美しいとかゲシュタルト崩壊寸前なんですけど。

 

「えぇお父様、不調はありません、不快はありません。ご心配することなど何もありません」

 

目が覚めたら真っ赤な液体にしわくちゃのおじいさん、私の第六感が叫んだ。大人しくしていろ、いずれ好機は訪れる。そして3日も経たずに水槽から取り出された、私の感は冴えていた。

 

「その美しい身体を眺めていたいが風邪を引いたら大変だ、お前に用意していた服を取ってこよう。そこから動かず大人しくしていなさい」

 

「えぇわかったわ、お父様」

 

とんでもないロリ発言。やはり近いうちにここから逃げよう。

1度死んでいるのだ、二や三度など今の私には恐るるに足りない!!

待っていろ、新しい世界よ!

 

 

すぐに私は後悔する

平々凡々、凡庸にイージーモードに生きてきた1度目に比べ、2度目は些かハードな世界が待ち受けているとは思わずに・・・

 

 

というかホムンクルス造ってる時点でここ普通じゃない。

 



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ここはどこ

ヒヨコは卵から孵化したその瞬間、初めて見た物を親として認識する。別にそういう機能を持った生き物はおかしくない。母とは、親とは子に寄り添う者であり、共に成長する生き物なのだから。

その点、人間の場合は刷り込みと称したほうがより分かりやすい。己が親だと、家族であると、語り掛け続けるのだから。それは既に洗脳の域に達していてもおかしくはない。母であると父であると語り続け幼い子供はそれに決して疑問を抱くこともないので与えられた情報を飲み続けるだけでいい。

 

「美しい、なんと美しいだ我が子よ。どのような装いもまるでお前の為に用意されたようだ」

 

「ありがとうお父様、とても嬉しいわ」

 

はやくも疲労困憊、ゲシュタルト崩壊も崩壊どころか大暴落。囁かれる美しい美しい美しい美しいとそろそろ美しいとは何だと哲学的なところまでいきそうなスピードというかステップというか何が言いたいかと言うと逃げたい、もはやこれ以外言葉など浮かばない。

もの凄い勢いで洗脳してる。正直言ってキツい、同じ単語が右から左へ流されるけどこれは酷い。互いにSAN値削りあってない?

 

「女神の如き美しさ、お前は神が与えた私だけの女神なのだな。もっと私にその顔を見せておくれ」

 

限界が近い、この華奢な腕や脚で何が出来るか分からないけど色々と限界は近い。さっさと殺って逃げるか隙をみて逃げるか選択は2つ。今更道徳とか気にしてはいけない、美少女スキル「大抵の事は何をやっても優位に立てる」を執行すれば怖くはない。今の自分の考えに若干恐怖したがまぁ大丈夫。

 

「お父様、此処はどこ、私たちはどこにいるの?」

 

話を反らせ、少しでも情報を集めて現状をどうにかするのだ。

 

「あぁ、そうだね、光の入らないこんな地下では場所の特定も出来ないね。ここはヨルビアン大陸に位置する郊外の寂れた田舎さ」

 

ヨルビアン大陸、はて?どこかで聞いた様なそれとも似た何かか。

 

「大きな都市としてはやはりヨークシンシティだねぇ、若者の流行の最先端だろう。1年に1度大きなオークションも開催されている」

 

オークション、なるほどこれだけでは全く場所も時代も大まかにしか掴めない。あまり掘り下げて聞いて不審に思われたら元も無い。困ったなぁ。

 

「昔ほど戦争や希少民族の虐殺が少なくなったとはいえ、今でも命をかける馬鹿共はいるものだ。ハンターになる為のライセンスの取得でさえ命懸けなんぞ何を考えているんだか」

 

「ハンター・・・・」

 

何やら嫌な予感がする。身体が、心が、それを考えてはいけないと危険信号を発する様に。少ない情報とジジイの世間話、ハンターという強烈な単語から導き出される答え。ヨルビアン大陸にヨークシンシティ、そしてハンター。成程、全て繋げれば辻褄が合わないこともない。

 

「あぁもうこんな時間だ、すまないね我が子よ、私は少し出掛けなければ。仕事なんだ、帰りは遅くなるから家で待っていなさい。しっかりご飯を食べて睡眠をとるんだよ」

 

「わかったわ、お父様。行ってらっしゃい」

 

「いってくるよ」

 

おそらく地上へ通じる扉から出る父。施錠の音は特になく、コツコツと革靴を響かせながら足音は遠ざかる。逃げる時間は十分にあるし、暫くのんびりしてもいいぐらいだ。しかしながら私は脱力し両手を床につけ疲れたように声を絞り出す。

 

「HUNTER×HUNTERとか、転生トリップとか、そこは神様からの説明があるんじゃないんですかー!!!」

 

神は死んだ、まさに、私の中の神は既に死んでいたのである。



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この世で最も美しいものは

もう少しズルズル主人公ターンを伸ばしたかったのですがいい加減誰かを登場させようということでクロロターン入りマース




男の名前はクロロ=ルシルフル、職業「盗賊」その危険度はA、幻影旅団、通称クモと称され人々に恐れられている。行ってきた残虐無慈悲は両手で足りないほど、しかし極たまに慈善活動もしているという噂も。総合的に考えれば行き着く先は結局同じ、ネジの飛んだやばい奴らである。

そのクモの中でもトップに君臨するのが上記の男だ。眉目秀麗であり頭脳明晰、冷酷さも持ち合わせカリスマEXも伊達ではない。天に二物も三物も与えられた女性の理想の男性図である。しかし、この男、決して暖かな家庭で育ったのではない。世界から存在しないと明記されている街「流星街」でその幼少期を過ごしたのである。ガラクタが山の如く積み上げられたそこで泥水を啜り腐りかけのパンを食み、仲間達で身を寄せ合い寒さをしのぎ、1日の生きるのが精一杯なそこで生きてきた。奪い奪われ、子供ながらに彼はこの世の理不尽に嘆き、苦しんだ。空は排気ガスで覆われ流星なんぞ見たこともなくそれでもここは流星街。降り注ぐガラクタが流星なのかと皮肉げに呟いた。ならば己達の手で世界を変えようと、存在を主張しようと立ち上げたクモは瞬く間に人々に認知された。存在しない街で生まれた存在しない自分達、未来は簡単に切り開けたのだ。

狙う獲物は美術品や骨董品、希少民族の人体や古書。一通り愛でれば売っぱらってしまう。それなりに目利きも良いので基本美しいものに目がない。女性経験も豊富であちらからふらふらと寄ってくるのでそういう事には困らない。しかし、女性に対して美しいだの綺麗だの、そういった認識は低いので1度抱いた女を一々覚えたりしない。彼の美的感覚は全て盗品にしか向かないのだ。

 

しかし彼は真に美しいものを見つけた。とある繁華街、日も沈みかけた夕方、帰宅ラッシュに差し掛かり人通りはやけに混む。立ち止まったりウロウロしている人間は基本的に邪魔であり、目だけで文句を言う者、そくさくと通り過ぎる者、わざとぶつかり喧嘩を売る者と三者三様である。相手にどのような対応をされてもクロロの目には1点しか映らない。そこだけ切り取られた、空間が別に存在する様に、思わず誰もが1度足を止め魅入ってしまい、決して踏み入る事の出来ない聖域に目を向け、諦めたように帰路につく。声をかけることすらはばかられる。自分の容姿は自他共に認めるほど整い、羨ましがられるが彼女はそもそも次元が違う。美しさとは、人の求める美とは、それらを詰め込み具現化した、神が造り上げた人形のように、陳腐な言葉で言い表せないほど少女は美しいのだ。

 

「・・・美しい」

 

恍惚とした甘い声がよもや自分の口からでようとはクロロさえも気付かなかった。視線の先にいた少女とパチリと、目が、合った。

頭の中の何かが弾かれ、脳より先に身体が動いた。少女と目を合わせたまま距離を縮め、迫り、逃げられない様に腕を掴み、人生で初のナンパを試みた。

 

「あの、どこかでお茶でもどうかな」

 

今時のナンパ師でも使わない古臭いセリフに言った本人が自分を殴りたくなるがとにかく目の前の少女をどうにか逃がさないようにするのが現時点での最優先事項である。

 

少女が地上に出てきたのは約1時間前、脱出を決意したのは2時間前であった。クロロがぐうたら古書を読みふけていた2時間前、少女は戦慄していた。犯人の犯行現場を偶然目撃してしまったかのような、そんな気分で。

モブの生死が極めて危険な世界、HUNTER×HUNTERと分かった少女はここに留まるか思い切って外に飛び出すか究極の2択に迫られていた。地下に備えられている本を熟読し食事を済ませ、考え込んでいた。衣食住が完璧に揃った自宅(仮)しかしSAN値をゴリゴリ削られるジジイの相手をする生活or身一つで飛び出し宛もなくさ迷うしかしSAN値は削られない若干精神を取り戻す生活、で悩みに悩んでいた。

実際に一日平均何人死んでいるんだろう、某暗殺一家に盗賊集団、バトルマニアなイケメンピエロに世に蔓延るハンター達。可笑しい、もう詰んでる。美しさで生き残る時代は終わった、私完全にカモネギじゃん。鍋もカセットコンロも持参してるよ。捕まれば奴隷市場に配達のちにお先真っ暗な人生、転生特典に最強とか付属してないかな、大抵の夢女はそれがあるから乗り切ってんだよ!!

パラパラっと流して読んだだけだから大まかな設定とかキャラしか知らないし時系列も詳しくない、最終的に暗黒大陸がどうとか。もっと働け私の脳みそ。まぁざっくり考えれば顔の整ってるやつは主要キャラ、これで乗り切ろう。ともかく部屋の探索をさっさとすませて・・

 

ガチャん!!

 

「おや・・閉まってる」

 

鍵の掛かっている少々分厚い扉。いかにも秘密が詰まっていますよと激しく主張する扉を少女は、

 

「さまざまな知識を取り入れたのがアダとなったな、ピッキングなんて朝飯前よ」

 

この数時間で大変強くなられた。自室(仮)からヘアピンを持ち出し頭の中に詰め込まれている知識からピッキングを披露。カチャカチャと弄くり回す事1分でカチャリと呆気なく解錠した。

 

「女スパイみたいでドキドキするね」

 

宝探しをしている子供の気持ちが分かる、そう考えて扉をゆっくり開ける。何があるのだろうか、ドキドキする胸を抑え中を覗き込む。現実はしかし、残酷であった。

 

中は薄暗くけれど光が無かった訳では無い。どこか見覚えがある。ここは、

 

「私が生まれた、私を造った装置・・?」

 

目についたのは空っぽの大きなビーカー、そして並ぶ同じ機械。中を満たしているおそらく培養液の色は赤で確かに自分もこの中に入っていた。ということは、ここに入っている子達は

 

「顔は似てるけど別人、妹や弟達」

 

白髪の子供達、目を閉じているから分からないけどおそらく瞳は赤眼だろう。なんとも多い、軽く30人はいるぞ。生まれる度にあのリアクションは疲れる。

一通り眺めて奥に進む。少し薄暗いけど目は慣れてきているから問題ない。子供達の装置も中を照らしているので部屋に何が置いてあるかは大抵見える。しかし部屋の奥、薄暗くて見えにくいが小さな山が出来ている。2、3個はある。書類か機械か、それにしては一つ一つの山が大きい。近づくにつれ正体がわかった。

 

「ひっ!!」

 

腕や足、はたまた頭や胴体、人であった。もっと詳しく言えば、おそらく姉や兄、失敗作のホムンクルス。服を着ている者もいれば裸体のまま、足が無い手が無い頭が無い。色んな死体が積み重なっていた。開きっぱなしの瞳と同じ赤が、紅が、あるいは変色した黒が兄弟達に降り注いでいた。

自分が初めての成功作では無い、服を着るところまでクリアしている子を見るに、おそらくどこかで父の機嫌を損ねた、あるいは欠陥があった。ここにいても安全では無い、最後の審判を下すのが父である限り、自分は量産されている人形のうちの1つに過ぎないのだから。ならば私の答えは既に決まっている。

 

「逃げなくちゃ、ここから」

 

自我が成立する前に死んだのであろう兄弟達の顔に恐怖は無かった。けれど、勝手に造られ造作もなく終わってしまう未来など耐えられない。

逃げよう、この世界に産まれたのならば、命が燃え尽きるその瞬間まであの男から逃げなければ!!

 

逃げる準備に少々手間取り1時間かけて外へ飛び出し、電車に揺られること1時間、繁華街に足を踏み入れクロロにナンパされているのが現在、紙の向こうにいたキャラクターとまさかここで相見えるとは夢にも思っていなかった少女は極度の急激なストレス、紫外線、人酔いに倒れた。

 



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不思議な力を

唯一の心残りと言えば、残してきた妹や弟達だ。積み上げられた兄や姉の仲間入りか、父のご機嫌取りか、逃げ出すか、私の様に自我の成立が早ければ発狂する場合もある。逃げた私の寿命さえも長くて3年、短くて2年とちょっと。行き着く先は変わらない、私達は生まれたその瞬間からあの男に囚われているのだから。

 

最後の記憶は男だ。ファーストネームしか知らないがクロロ、ファミリーネームはやけに長く噛みそうな名前だった気がする。私のポンコツな脳みその中にいる辛うじて覚えていた男の名前。ところでここはどこだろう、

 

「あぁ、目が覚めたね。医者を呼んでくるから待ってて」

 

クロロはいた!が、すぐに消えた。清潔そうな白いベッドに白い壁、窓から零れる陽射しは生まれたばかりの私の肌には刺激が強い。真四角な部屋には均等に並べられたベッドが幾つか。謎は呆気なく解ける

 

「病院かぁ・・・」

 

医者を呼んでくると彼は言っていたのだからそれで察せない奴はいないだろう。最後の記憶はあやふやだが凄く気持ち悪かった。足取りはふわふわしていたし太陽がやけに眩しかった、おまけに人はめちゃくちゃいるし一人ひとりの視線もギラギラしていて吐きそうで、紙の向こうにいたイケメンにまさか声を掛けられるとは思ってもいなかったからパニックで、そんで倒れた。

私の身体は思ったより繊細で弱い。強く生きよう、皆使ってるあの不思議パワーをどうにか習得して。

 

「気分はどうだい、お嬢さん。軽い貧血と日射病だと思うんだけど倒れた時のことは覚えてる?」

 

「はいドクター、しっかり覚えています」

 

「肌が極度に日に弱いね、夕方であっても長い外出はおすすめしないね。特に昼間の外出は控えた方がいいよ」

 

「ご忠告ありがとうございます」

 

予想はしていたけど思ったよりキツイな、私の身体繊細過ぎる。

 

「ここにいる彼が運んでくれたんだ、今日はもう暗いし一日泊まっていきなさい」

 

それじゃあ私はこれで、そう言い終わると案外呆気なく病室を後にした。クロロと2人は気まずい、しかもめっちゃニコニコしてるし何がそんなに楽しいのだろう。もっと冷酷無慈悲かと思ったが私の記憶違いなのか。

 

「急に声を掛けてごめんね、でも何だか放っておけなくて。俺はクロロ、君は?」

 

「ありがとうクロロ、ビックリさせてごめんなさい私は・・・?」

 

名前、名前、私の名前。そういえば、我が子我が子と壊れたカセットテープ並に繰り返していたあの男から私の名前は1度も出されていない。おっと、名前が、無い!!

 

「・・・ごめんなさい、私に名前は無いの」

 

「・・・は・・・・え?」

 

可哀想に、目の前の男は人間の言葉を忘れてしまったようだ。衝撃を与えたのはこちらなので仕方ない、なんとか上手くフォローを

 

「名前を貰う前に逃げてきたというか、つい数時間前に生まれたというか、記憶喪失とかではなく本当にただ名前が無いだけという訳で」

 

少々SFっぽくなってきた。普通の人間じゃありえないことまで口走ってしまったが聞こえていないことを祈ろう。

 

「ちょっと待って、つまり君は既に完成された少女の姿で産まれて名前を与えられる前にそこから逃げてきて俺と出会ったと」

 

なんて優秀な頭脳、私の情報を繋ぎ合わせかつ分かりやすく翻訳してきた。生まれたてほやほやな私への配慮かな、大変ありがとうございます。出来ればこのまま見逃してくれないかなァ。

 

「ただの美少女の言葉を鵜呑みにするんですか、嘘をついてるかもしれませんよ」

 

「この世には人が感知出来ないことも沢山あるんだ、俺はそれを見てきたし体験してる。今更人は造れるといっても不思議には思わないよ。確かに自他共に認める美しさだね、全然嫌味たらしくない」

 

「生まれた途端、1分に1度は囁かれてましたから」

 

もはやSAN値/zeroの狂人と言われても可笑しくない。直葬されてしまいなさい。

 

「行く宛とかあるの、お金や寝床は?」

 

外出に手間取ったのはそこが問題、まずお金。家の中をひっくり返す勢いで探して見つけた数枚のお札。会話が難なくこなせているということは、こちらの世界の生活や言葉を脳が正常に理解しているとみている。前世の記憶はもはやおまけ、ポケットにねじ込んでいる金額はざっと10万ジェニー。お金の計算も自然と出来るのでこれからの生活に支障はない。次に寝床。ホテルを練り歩くにしろ1週間も持たない。家を借りるにしろ持っているお金では足りない。働くという手段もあるが戸籍も無いし経歴を偽るのも苦労する。最後に行く宛、あるわけが無い。知り合いは父ただ1人、私を知っているのは父だけで私はそこから逃げてきた。お先真っ暗ではあるが上手く逃げる事も出来たし何とかなるだろう。1人で自己解決していたらクロロが話しかけてきた。

 

「良かったら俺が君の面倒を見ようか?」

 

「・・・・・・・」

 

落ち着け私、相手は危険度EXの冷酷無慈悲なクロロ団長。ボランティア精神など欠片も持ち合わせていないはず、美少女に目が眩むのは仕方ないが私は「人」ではない。さっき説明したし本人もしっかり理解している、ならば利用価値か、貧弱な私にハニートラップでもさせる気か、わからない!!

 

「まあ、警戒するよね。でもこれは紛れもない俺の本心だし、美しい少女に心を射貫かれた哀れな男と思ってくれて構わない」

 

構うんです。貴方が危険な人だと私は知っています。

 

「興味があるんだ。君が倒れた後、俺の他にも何人か手を貸してくれた人がいてね、近くの病院が、自分の家の主治医が、とにかく沢山いてね、俺はビックリして暫く動けなくて男が1人、君に触れたんだ」

 

途端に雷が降ってきてね

 

「・・・カミナリ?」

 

空から降ってくるあのイナズマが、あの夕暮れに、降ってきた?

 

「もちろん空は晴れてたし夕暮れ、雷雲も無ければ雨も降ってなかった。けれど狙ったように男に直撃、黒焦げだよ」

 

辺りは騒然としたけど何人かは君から目を離さなくてね、合計で5人くらいかな、夕暮れの雷で死んだのは。

ワクワクしたような、楽しそうな顔で私を見つめるこの男は表情で語っている、お前が何かしたのかと。それが私のチート能力だとしたら発動条件が分からない。相手が男は除外、倒れる前にクロロに腕を掴まれた。倒れたから、これがしっくりくる。意識の無いうちは相手が誰であろうと攻撃、では私を運んだクロロは何故無事なのか。相手を選んだ、ストーリーに欠かせないキャラは除外?一理ある、けど説明出来ない。

 

「俺以外でも死んでないヤツらはいるよ、君を助けようとして触れた人達、男も女も関係無く。それと眠っている間少し実験させてもらった、これなんだと思う?」

 

手に持っているのはひしゃげたボールペンと思しきもの。

 

「これで君を刺そうとした」

 

!?

 

「雷を危惧して投げたんだよ、そしたら、見えない何かに阻まれてね」

 

ボールペンはこの有様

 

「つまり君の絶対的な防御壁の発動は君に対する直接的な害意や敵意、それらに対して裁きを下す」

 

「死んだ男は下心とかそう言ったのだろうね、美しい君を助けたふりして連れ込んで色々と・・」

 

念とはまた別の未知なる存在、ここで逃したくはない。クロロは目下この少女を如何にするか、考えていた。少女が持つのは絶対的な防御力、害あるモノを容赦なく殺戮するその力は強大かつ恐ろしい。

 

「・・・私の寿命は3年余り、衣食住の提供に、退屈は無く刺激と楽しみを私にくださいますか?」

 

これは一種の賭けである。この物語の流れなど分からない、けれど産まれたからには世界の夢女が羨むような未来をこの手に!!大丈夫、何とかなるよ!

 

少女はお察しの通り少々理性が蒸発していた

 

「俺はクロロ=ルシルフル、職業は盗賊で世界に名が知られているほど有名なんだよ」

 

「私は生後数時間のホムンクルス、フラスコベイビーとも呼ばれます。生まれながらに知識を持った者です」

 

生まれながらに不思議な力、絶対的な防御力を持つホムンクルスの新たなる人生の爆誕である!!!




ホムンクルスは皆何かしら不思議な力を持っているという暖かい目でご覧下さい。主人公な防御力を持っていますがチートではありません


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私は人ではなく

主人公のモデルはFate/Apocryphaのジーク君!!



誤っても私を人と認識してはいけない。

造られたモノ、創作物、短命なる運命、決して子を成すことの出来ない不完全なモノ、備え付けられた感情。全てを生まれる前に揃えられ、遺伝子を組み換えられ、出来上がったのが私たちホムンクルスなのだ。身体は1週間で幼体まで成長し、その急激な成長に伴い寿命を持っていかれる。私たちを造って何をしようとしていたのかは分からないがあのジジイの様子を見るかぎり人類の為だの世界の為だのと建前を用意して碌でもない方法に使うに違いない。しかし皮肉な事に結果論であるのだが

 

 

「お腹は空くの?」

 

「えぇ、生きていますから」

 

クロロに拾われ一日が過ぎた。結局あの後クロロは私を担ぎ上げ病院を後にし、煌びやかな洋装のホテルへ移動した。素人目から見ても超が付くほど高級なのはわかった、初めての体験に物置のごとく固まった。解凍したのは部屋に着いてすぐクロロが私を下ろし好きにくつろいでと言ってくれたからだろう。キラキラして高級リゾートの内装な部屋にちょっとはしゃいだ。

 

ベッドに突っ伏した後の記憶が無いのはすぐに寝落ちしてしまったから。気が付けば日は昇っており大きな窓から見える外の景色にポカーンとしてしまった。ダイニングルームを見てみればクロロが優雅にコーヒーを飲んでいるではないか、イケメンは何をしても絵になる。

 

「起きたんだね、一緒に朝食でもどう?」

 

という訳で冒頭に戻る。

 

「好きな食べ物とかはある?」

 

「いえ、目覚めてから食事をとったことはないのでなんとも言えませんね」

 

つやつやと輝いているフルーツに焼きたてのパン達、ゼリーやヨーグルトにスムージー、机の上に並べられた朝食達。

ちょっと量が多すぎではと思うほど敷き詰められている。クロロは気にせずパンに手を伸ばしている。私は目の前に置かれているゼリーを手にとった。

 

ふむふむ、なるほど

 

「・・・・美味しい?」

 

「はい、少なくとも味覚はしっかりと機能しています」

 

クロロは何か言いたげな顔で私に聞いてきた、何かおかしかっただろうか?一通り食して分かったことは、肉体の維持に食事は必要だけれど私の身体に食べ物を美味しいと感じる味覚が人より劣っているといったところだろう。病院食ってこんな感じなんだろうなー、食べた事ないけど。

 

「敬語なんて使わなくてもいいよ、いい所のお嬢様風に見えるけど俺から見れば違和感半端ないよ」

 

この男、さてはメンタリストか。本性出せやゴラァという意味で間違えはないはず。

 

「なら聞くけど、どうして私を拾ってくれたの。慈善活動、そういうのが似合う人ではないでしょう、そっちこそ化けの皮剥いだらどうなの」

 

ニコニコ笑顔は崩れない。

 

「俺さ、珍しい物とか、希少な物、特別な物が好きなんだよね

 

「盗賊やってそういうもの沢山盗んで来たよ

 

「盗んで愛でて、飽きたら売る。何年も繰り返してきたよ

 

「だけど満たされなかった

 

「普通の家庭で育たなかった俺は他人と少しズレているんだよ

 

「心のどこかで俺の中を満たす何かを探してた

 

「君を見た時、欲しいと思ったんだ

 

「今までの比ではないくらい、君の事がね

 

「今回はちょっとした実験みたいなものかな

 

「君が俺の心を満たすのが先か、

 

「俺が君に飽きて売り払うのが先か

 

「精々飽きられない様に頑張ってね」

 

そう締めくくるとクロロは携帯を片手に電話してくると言って部屋から出ていった。馬鹿みたいにダラダラとクロロの心境を話された私はふと、あのジジイを思い出した。

 

何かを追い求めホムンクルス(私たち)を造るあのジジイと、自分の心を探すため世界のあらゆるモノを求めるクロロ。

つまり

 

「人は結局、同じね。」

 

少なくとも私は思い通りにはなってやらない。1度死を垣間見た私に怖いものなどない、足掻く?笑止、それはお前たちの方だ!

この時代のホムンクルスになにが出来るか分からないけど次はクロロの元からの脱出、これはそこまで難しくはない。

幸せな毎日を享受して3年後ポックリ逝くなんて駄作にも程がある!読者が喜ぶどころか短編小説にもならない。原作なんて知るもんか、私が生まれてきたからにはここは私の世界。独自解釈、原作崩壊大いに結構。

面白可笑しく世界中を引っ掻き回してやる!

 

「お待たせ、とりあえず仲間と合流したいからここ、か、ら・・」

 

半分以上残されたフルーツやパン、雲一つ無い晴天に冷たい風。開かれた窓にクロロが持ち合わせていた鞄が消えている。

逃げた・・・!

 

「あいつ!!」

 

窓に駆け寄るがこの部屋は最上階、下は見えても肉眼でハッキリと目視は出来ない。彼女の能力を考えれば命綱無しのバンジージャンプも恐らく可能。あらゆる危険を喪失させる能力、まさかここで逃げられるとは

 

「・・・・狙った獲物を逃したことはないのでね、絶対に捕まえる」

 

部屋から飛び出しホテルを後にする。あれだけの容姿、逃げたとしても顔を隠さない限り目撃者は多いはず。

 

窓から逃げたという固定概念にクロロはまんまとハマってしまった。冷静になり、部屋の中を捜索すれば、こういう事態にはならなかっただろう。いない相手をどれだけ探しても見つかるわけがない、少女はまだホテルのバスルームに隠れていたのだ。

 

「・・・よし、取り敢えず今日1日はここにいよう」

 

結局1日中近くの街を探し周り、気付いた時にはホテルはもぬけの殻、しかしこれがきっかけでクロロの逃げた少女への執着は年々強まり少女はそれに気付かず再会した1年半後、かなりの波乱を巻き起こす事になる。

 

 

 

 




クロロはヨークシンまでお留守番


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命名「ドール」

感想のコメが思った以上にガチだから戦々恐々としています


ホムンクルス少女の主な特性は絶対的な防御力に傾国の美少女と言わしめる程の美貌である。街を歩くだけで誰もが凝視、2度見する程。しかしその美しさ故に自ら声をかける人もいない。今時流行りのSNSで情報が拡散すれば一躍スターになるかもしれないのに、誰も彼もがその姿を肉眼に焼き付けようと、恍惚のため息をもらしながら少女を眺めるのだ。

 

彼の幻影旅団からよく1年半も逃げ仰せたものだと少女はごちた。作戦参謀とか情報を取り扱っている仲間が1人くらいは絶対にいるはず。何故彼女が見つからなかったのか、察しの良い方は気付くだろう。少女を保護し面倒を見てくれる人がいるからだ。けして感想欄のよくクロロから1年半も逃げれたネ!的なコメントで閃いた訳では無い。

 

「ドール、もうすぐ出番だよ」

 

「はーい」

 

白いドレスはフリルやリボンで溢れかえってる。踵の高い白のハイヒールは何度履いても慣れない。白いベールで顔を覆い隠せば歌姫「ドール」の出来上がり。

幕が上がりスポットライトに人々の目線、やはり慣れない。そう考えながらも口は簡単にメロディーを口ずさむ。観客は息を飲み、あっという間にドールに魅了される。歌い終わればぺこりとお辞儀して幕の中に消える。一拍遅れてスタンディングオベーション、拍手の合間からアンコールを願う声も聞こえるがドールの出番は1度きり。フィナーレを飾る最後の公演にしか現れない。会場を後にしながら客の歓声を聞く、やはり慣れない。ベールを脱げば血も滴る赤眼に美し過ぎる顔はホムンクルス少女であった!

 

ホムンクルス、現在の名をドールを拾ったのはサーカス団の座長だった。各地域の流れ者やはみ出し者などを集めて結成されたそのサーカス団は荒削りではあるが大変評判がよくそれなりに有名であった。どちらかと言うと拾われたと言うよりスカウトが正しい。美しいドールを全力で口説き落とそうとした座長にドールも満更でもなかった。それはホテルから逃げ出した午後の話である。訳ありだと話しても引かない座長にドールも大変気を良くした。顔を晒せないと言えば少々渋ったが今の現状には満足しているに違いない。ドールの名は瞬く間に広がりサーカスの追っかけにドールのファン、どの地域でショーを行うにしても満員御礼、世界的に有名になるほど。

 

「お疲れ様ドール、いつ聞いても惚れ惚れする歌声だね」

 

「ありがとうジョーカー、そういう貴方もお疲れ様」

 

にっこり微笑む美形。気づいた方はいらっしゃいます?美形です、素敵なお顔です、ジョーカーと呼ばれています。

 

ヒソカさんです。

 

いやいや驚き、結構びびった。巷ではラスボスと恐れられている自他ともに認める変態。確かにピエロ、奇術師を名乗るだけはある。なんでここにいるかは知らないけど私は知ってる、みんな大好きハンター試験が始まれば何とかなるはず。シックスセンスを信じるんだ!

 

「少し聞きたい事があるんだ、ボクの知り合いが人を探していてね♥この世のものとは思えない程美しい少女を探しているんだけど、それってキミの事かな♠」

 

やはり世の為ここで始末するのがこの世界の運命のようね。

 

絶対的な防御力を信じてドールはヒソカに立ち向かう!!!




そろぼちハンター試験かなァ


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