助けて邪神様!(助けて旧神様!×GATE) (VISP)
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プロローグ

本編終わってからGATE世界に来るまで


 あのクラインの壺での繰り返しが終わってから長い、本当に永い時が過ぎ去った。

 

 人を止め、人外に成り、遂には邪神の一柱と成った。

 だが、その後も彼女達の戦いは終わらなかった。

 寧ろ、これからが本番とばかりに、その戦いは加熱し、加速した。

 理想は未だ遠く、崇拝し、尊敬し、憧憬し、熱愛する二人はいつも血塗れで先にいた。

 それでも、あの二人の後ろなら耐えられた。

 だが、それが崩れたのは何時だったろうか。

 彼ら夫婦は、大十字九朗は、アル・アジフは、マスター・オブ・ネクロノミコンは、旧神は、無垢なる刃は、邪悪を討つ狩人は……

 

 

 『           !!!!!!!!!!!』

 

 

 何時からかその精神を摩耗させ、ただただ邪悪を討つ力の塊と化していた。

 その名を渦動破壊神。

 あらゆる邪悪を滅ぼすために、あらゆる宇宙を滅ぼす災厄の化身。

 

 「もう言葉も忘れたか…。」

 「やるぞ、アーリ。」

 「あぁ。行こっか、リーア。」

 

 こうして、堕ちた旧神と反逆した邪神の戦いは始まった。

 その戦いは秘術を、知識を、魔力を、神秘を、力を、己が全てを出し切る戦いだった。

 片や邪悪なる全てを破壊せんとする堕ちた旧神。

 片や旧神を屠るために鍛造された無貌の邪神の一欠片。

 その戦いは前神未到にして空前絶後。

 万物が消滅し、概念が破壊され、無が創造される。

 剣の一振り、拳の一当てで一つの銀河が、一つの宇宙が両断され、砕け散り、消えていく。

 神々ですら慌てふためいて逃げ去り、戦きながら逃げ出すその闘争を、しかし無貌の神はしっかりと見ていた。

 

 「そう、これだ。君は、君達はこのために生み出された。」

 「全てが消え去る前に、元凶を消し去る。それがお前達の本来生まれ持った役目なのだ。」

 「肥大化に肥大化を重ね、遂には癌化した最も新しき旧き神。」

 「それを切除するのは、人の如く自己を研鑽し、人を愛し、人と共にあらんとする我が化身。」

 「「さぁ、全てが終わる前に、君達の全てを終わらせてくれ。」」

 

 その闘争が何時終わったのかは誰も知らない。

 何せ時間という概念すら破壊した果て、空間すら濡れた紙の様に引き裂かれた後の事。

 両者の戦いが終わり、彼らがどうなったのかは誰にも分からなかった。

 しかし、親としての繋がり故に、無貌の神だけは己が子供らが何処へ墜ちていったのかは知っていた。

 

 

 ……………

 

 

 東京某所 どこかのマンション 

 

 「あぁ~~だる~~。」

 「あ”あ”あ”あ”あ”~~。」

 

 無地で白のタンクトップとパンツだけとそっくりな銀髪碧眼の双子の少女が、窓全開にした状態で片や日陰でアイスをかじり、片や扇風機の前で意味のない声を垂れ流す。

 こいつら、完全に弛みきっていた。

 

 「あんな濃過ぎる決戦したんだから、百年単位でぐーたらしても良いと思うんだ。」

 「誰に言ってんだ誰に。」

 

 そんなメタい会話を挟みながら、二人とも動かない。動きたくない。

 家事に関しては気が向いた時だけで、後は召喚したショゴス(給料は1日10kgの最高級鶏肉)にやってもらう。

 もう一度言おう、こいつらだらけ過ぎである。

 なお、時折どっかの益田照夫とその奥さんや親戚同然の暴君が遊びに来たりする。

 

 「んあ?」

 「む。」

 

 不意に、二人の視線が彼方へと向けられる。

 その先にあるのは日本の首都東京、その中心に近い銀座。

 未だ姿こそ現していないが、その只中に一瞬だけ「この世界の理から外れた門」が現れた事を知覚していた。

 その姿こそ変わりないが、一瞬にして纏う雰囲気が「狩人」の其れへと変質した。

 

 「何だこりゃ?」

 「転移門だな。しかし、随分雑な…」

 

 とは言え、見過ごす道理はない。

 二人は久方ぶりの己に課した使命を果たすべく、行動を開始した。

 

 「行くぞ、アーリ。」

 「あいよ、リーア。」

 

 こうして、何処とも知れない世界で、未だ誰とも知られていない者達との闘いが始まった。

 

 

 ……………

 

 

 ファルマート大陸 帝国領 アルヌスの丘

 

 

 『おお、今度は若い娘か。』

 『肌の艶も胸や尻の大きさも良い。高く売れるだろな。』

 

 其処には既に一万近い古代ローマに酷似した帝国軍歩兵が展開していた。

 目的は一つ、アルヌスの丘に現れた『門』を通じて、異世界へと侵攻する事。

 現在彼らが行っているのはそのための下準備であり、下種なお楽しみだった。

 

 『暴れるなら子供や老人を殺して見せしめにしろ。上玉には傷をつけるなよ。』

 『はっ!』

 

 彼らは既に何十人も銀座にいた一般市民を拉致し、侵攻を目的とした情報収集のために拷問を加えたり、労働・愛玩向け奴隷として帝都へ送っていた。

 拷問を受けた者は大抵が死に、生きていても商品価値が無いからと殺され、商品価値が低いと見做された女性は兵士達に下げ渡され、犯された上で殺された。

 男性の場合はもっと悲惨で、生きた的や篝火にされて死んでいった。

 そして、こんな騒ぎが許可される程度には、情報収集もそろそろ十分だと判断されていた。

 

 『門』が開いた当初こそ、侵略の可能性に怯えてこれら一万近い先遣隊を派遣した。

 しかし、『門』の向こうからは誰かが攻め寄せてくる気配もなく、覗いてみれば帝国とはまた違う極めて豊かな都市が存在していた。

 そこで帝国は近年無くなっていた有望な侵略先を、この『門』の向こうの世界へと求めたのだ。

 そこからは話が早かった。

 帝国の魔導技術の粋を集めて『門』を解析し、その固定化に成功すると、積極的に『門』の向こうから市民を拉致し始めた。

 その人数、既に20人を超えており、そのせいか標的となる人間も少なくなってしまった。

 更に全く言語・文化体系が異なり、情報収集も進まない。

 となると、周辺国の多くを併呑・属国化してきた侵略国家たる帝国がどの様な行動に出るのか考えるまでもない。

 

 即ち、侵攻である。

 

 彼らの視点で言えば、攫った異世界人は全て軟弱かつ臆病で、ちょっと小突いた程度で泣き喚き、死んでしまう弱小の異民族だった。

 これなら我ら帝国の武力を持ってすれば異世界を征服するのも赤子の手を捻るが如き!

 この時点で、彼らは本気でそう思っていたのだ。

 

 

 「成程成程。事態は把握した。」

 「どーするよ?」

 「無論、いつも通りだ。」

 「ってーとつまりは…」

 「「見敵必殺。」」

 

 

 『門』の向こう側から、二人の幼気な少女の姿をした亜神が来るまでは。

 

 

 ……………

 

 

 (アーリは制圧射撃。私は救助活動を。)

 (あいよー。)

 

 アーリは『門』の前から動かずに3銃身のガトリング砲を展開、周囲の帝国兵へと向けて派手に弾丸をばらまく。

 外見こそM134ミニガンに似たラインだが、その実態は魔術によって編まれた対霊重機関銃であり、人間どころか現代の主力戦車の正面装甲を楽々抜いてくる程の威力があり、その弾薬も術者の魔力が続く限り=実質無限である。

 そんな化け物兵器を向けられて、魔術的な加護など殆どかかっていない帝国兵の防具で防げる理由もない。

 これがこの世界の亜神なら、神鉄を用いたドワーフ製の武器である程度は耐えるだろうが、秒間500発以上のキワモノを防ぎ切れる道理はない。

 だが、相手がそんなミジンコ並の圧倒的格下であっても、二人の中に容赦の文字は微塵も浮かばない。

 

 何故なら、彼らは既に一線を踏み越えていたからだ。

 

 無辜の民草に危害を加えない。

 その一線が守られる限り、彼女らは国家・組織間の争いに関与しない。

 何故なら、それがポリシーであり矜持だからだ。

 現世に干渉するを良しとする邪神でありながら、人間の側となって戦い続ける魔を断つ狩人としての。

 戦友にして弟子にして信仰対象にして愛する者を討った者として、彼女らは最後まで人の側に立ち、外敵から守り続ける。

 そんな彼らからすれば今回の件は限りなくグレーだが、一線を超えてきたとなれば話は別だ。

 

 (取り敢えず、拉致された人の救出。)

 

 その後、こいつらを滅ぼすか適当に痛めつけるかすれば良い。

 手に召還したバルザイの偃月刀で帝国兵を武器ごと両断し続けながら、リーアはそんな事を考えるのだった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後、一万近い帝国軍はたった二人の少女を相手に敗走した。

 その場にいた拉致したばかりの異世界人も全て奪い返され、その矜持を大きく傷つけられた。

 それでも、彼らは未だ侵攻を諦めてはいなかった。

 何せ『門』の向こうの土地の豊かさはそれだけ彼らの欲に眩んだ目には眩く映り、珍しい奴隷を売った金は彼らの懐を潤し、下げ渡された奴隷を甚振るのは快感だったから。

 双子の少女の亜神は確かに脅威であり、恐怖だった。

 しかし、彼女らは二人だけで、尚且つ所詮は亜神なのだ。

 冥府の神ハーディ直々の侵略の許可、それを受けた皇帝からの号令があった故に、彼らは止まる事を知らなかった。

 その浅ましい欲望を、ニタニタと嗤う者がいると知らずに。

 

 

 

 

 「さぁ番外編の始まり始まり。皆様どうかこの道化の喜劇をご覧くださいませ♪」

 

 

 

 

 

 




久々で戦闘描写が(汗


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第一話 開幕の喇叭

 その日、銀座で行方不明になっていた人々が一斉に「何もない通り」に現れた。

 位置自体は銀座のど真ん中、しかしそこは何の建物のない虚空で、突然人が現れるのはどう考えてもおかしい。

 加えて、行方不明になった人々と言っても把握されている総数の3割程度しかいない。

 そして、最もおかしな事は行方不明になっていた人々が口々にこう語っている事だった。

 

 曰く、「異世界に浚われていた」と。

 

 いきなり口を塞がれ、背後へと引っ張られたと思ったら、暗闇の中を拘束されて引き摺られて運ばれた。

 暫くすると、まるで古代ローマの様な鎧や武具一式を纏った軍勢の前に引き出され、縄を打たれた。

 ついた場所は大きななだらかな丘の様な場所で一面が草に覆われ、中心には石造りの門があり、彼らはそこを通って日本にやってきていた様だった。

 そこからは凄惨だった。

 身包みを剥がされ裸にされ、拷問されたり、悪戯に嬲られたり、女性なら性的暴行を加えられたりと正しく古代や中世の奴隷か何かと思う様な扱いを受けた。

 もう日本に帰れず、ここで嬲り殺されるか、一部の人々が奴隷商らしき者達に引き取られた様に売られるのだと思った。

 しかし、そうはならなかった。

 双子の少女、銀髪碧眼の彼女らが来てくれたから。

 彼女らはどこからともなく銃火器と鉈の様な剣を取り出すと、それらを振るってローマ兵達を蹂躙し、周囲を臓物と鮮血で彩ると、自分達を解放し、手当をしてくれた。

 そして大よその事情を話すと、自分達を元いた銀座へと案内してから、また門の向こうへと戻った。

 「まだ生きている日本人がいるかもしれない」と言い残して。

 

 無論、こんな与太話を信じる者は殆どいなかった。

 彼らの扱いは連続行方不明事件の被害者から、何らかの理由で錯乱した人達とされてしまった。

 しかし、彼らの体に刻まれた凄惨な傷跡は真実だった。

 治療され、傷は塞がっていたものの、どう考えても拷問されたとしか思えない者や性的暴行を受けたのが体内の残留物等を確認できた女性がいた事はマスコミには漏らされなかったが、警察関係者は一同首を傾げた。

 彼ら行方不明者はずっと必死に真実を話したが、それが信じられる事はなかった。

 だが、真偽の程は別としてこの話は広まっていく。

 特にインターネットで燃料を欲している暇人達を中心に、様々な憶測が語られる事となる。

 

 彼らの話が本当に信じられるのは一か月後、銀座に『門』が出現し、異世界の軍勢が侵攻し、虐殺を開始してからになる。

 

 

 ……………

 

 

 「妙だ。」

 

 アルヌスの丘で帝国軍を殲滅し、その場にいた拉致された人々を治療して銀座に帰した後、他の被害者を助けるべくこの世界の探索を開始した。

 無論、『門』本体に関しても結界で隠蔽し、侵入を遮断している。

 こうして諸々の準備を終えて直ぐに探索を始めたリーアとアーリだったが、早々におかしな点に気付いていた。

 

 「神代にしては大気中の魔力が薄い。なのに、瘴気だけはやたら濃い。加えて、この世界の魔術師共に『門』を繋げ、維持するだけの技術力は無い。」

 「だな。精々ちゃちな攻撃魔法を使うだけだし。」

 

 精々が普通のマフィアに毛が生えた程度の脅威度でしかなく、あの『門』との隔絶した技術レベルには違和感しかない。

 だと言うのに、この世界の魔力は門の向こう側よりは濃いものの、ファンタジー主体の世界にしては薄い。

 それに反比例する様に、瘴気の濃度だけはやたら濃く、こうしている間にも本当にゆっくりとだが、その濃度は濃くなっている。

 まるで魔力と瘴気が置き換わる様に。

 大気成分を変化させ、テラフォーミングするかの様に。

 このまま変化していけば、その内アーカムや東京、ロンドンという世界三大魔都=魔術的超危険地帯が発生しかねない程と言えばその危険性が分かるだろうか。

 

 「極め付けに、こいつらだ。」

 

 げしり、と足元に転がっていた躯を蹴り飛ばす。

 それは魚介類を無理矢理人型にした様な異形の怪物。

 この世界に住まう海生亜人種ともまた異なる、そして二人にはとても見覚えのある者達。

 CCD、つまりCthulhu Cycle Deitiesであり、クトゥルー眷属邪神群である「深き者共」、ディープ・ワンズだ。

 デモンベイン原作にて、九郎にエロガス吹き掛けた奴の同類と思えば思い出せるだろうか。

 要はこの世界にはいない筈の存在だと言う事だ。

 

 「帝都の悪所なら情報集まるとは思ってたけど…。」

 「予想外のがかかった、か。」

 

 悪所の一角、下水道の結節地点の一つにて。

 薄暗く悪臭ばかりが漂うこの場所には、別に死体が転がっていてもおかしくはない。

 だが、最近この界隈では行方不明者が悪所においても異常な程に増えており、帝国の貴族層を中心に最近では既存の神々とは全く異なるカルト宗教が流行っているとか。

 うん、もう3アウトチェンジどころか一発でレッドカードものである。

 

 「帝都ごと焼くには巻き添えが多過ぎる、か?」

 「っつーても避難させるにはこっちにゃ伝手は無いぞ。」 

 

 うぬぬ、と今後の方針=どうやって吹っ飛ばすかに頭を捻る二人。

 

 「いや、その前に拉致被害者助けねば。」

 「そっちが先だな。」

 

 うむうむと互いに頷く。

 最悪、こっちの世界がどうなろうと二人は知ったこっちゃない。

 こっちの連中が邪神に唆され、滅びようがどうしようがそれは彼らの責任だ。

 しかし、自分達が快適に過ごしている世界にチョッカイをかけられるのは我慢ならないし、目障りだ。

 それに加える形で、かつてのホラーハンター時代の名残として、一般人である拉致被害者を助ける。

 かつてと違い、より我欲に寄るようになった彼女らからすれば、これは当たり前の判断だった。

 

 「いやぁ、それはボクとしちゃちょっと困るかなぁ。」

 

 その声を聞いた瞬間、リーアとアーリの二人は己が最速で以て術式を編み、この短時間で生み出し得る最強火力を一切の容赦呵責なく叩き込んだ。

 

 「「イア・クトゥグア―――ッ!!」」

 

 半神半人の少女と、半書半人の少女の織り成す魔術が、とある神性を呼び出す。

 術式の多くを省略したため、その威力は彼女らが出せる最大最強のものに比べれば100分の1にも満たない。

 しかし、呼び出したるはフォマルハウトに住まう旧支配者、生ける炎クトゥグア。

 今は本体の万分の一程度でしかない、咆哮し、燃え盛る獣。

 その炎は一切を焼却し、邪神眷属すら焼滅させる。

 特に敵対している這い寄る混沌にとっては天敵であり、かつては混沌の住処だったン=ガイの森を焼き払ったという。

 例えそれ本体の数%と言えど、生半可な怪異の類では一撃で灰すら残さず燃え尽す火力を持つ神炎。

 

 「えい♪」

 

 そんな炎を、暗がりから這い寄ってきた声の主はまるで焚火から出た煙の様に、少し不快だからといった様子でただ手を軽く振り払う。

 それだけで、約4000度相当の神炎は一瞬で霧散した。

 炎が確かにあったという証拠は、僅かに上昇した下水道内の空気と通路に残った焦げ跡だけ。

 

 「やぁやぁ久しぶり。二人共、元気そうだね。」

 「どの面下げて出てきやがったクソオブクソ。」

 「下水で洗顔して1億回転生してから出直せ。」

 

 胸元を大胆に開けた濃い紫のスーツを着た、黒髪赤目の妙齢の美女。

 一目見れば誰もが魅了されそうな美貌だが、その実態を知る者からすればそれがソイツの持つ無尽蔵なまでの顔の一つに過ぎないと分かる。

 リーアとアーリの二人は顔を最大級の嫌悪に歪ませつつも、内心では災害級の警戒へと移っていた。

 

 「ふふ、酷い酷い。とは言え、今回の一件は元を正せば君達のためなんだ。甘んじて受けてくれよ。」

 

 ニヤニヤと粘着質な、猫が食べもせず鼠を甚振る様な笑みを浮かべて、ナイアは続ける。

 

 「平和ボケした君達に折角のリハビリの機会をあげたんだ。寧ろ感謝してほしい位だね。」

 「バルザイの偃月刀・多重召喚!」

 

 戯言に耳を貸さず、下水道の壁という壁から無数の偃月刀の刀身が生え、一斉にナイアへと殺到する。

 それはまるで飢えたサメが新鮮な肉に食らいつかんとする様であり、事実、ナイアの肢体はものの数秒でバラバラに引き裂かれる。

 しかし、その程度で無貌の神が滅びる訳がない。

 

 「あハハはははははハハハハハははハハハはハハハハハははハハハハハハハはッ!!」

 

 心底おかしいとでも言うように、下水道内に悪意に満ち満ちた哄笑が響き渡る。

 同時、砕け散っていた肉片が暗黒そのものへと変化、下水道内全てを埋め尽くさんと爆発的に広がる。

 

 「チィ!」

 

 残った15本程の偃月刀が主を守るべく、結界を敷く。

 同時、アーリの体が解け、本来の魔導書「泥神礼賛」のページとなり、主と一体化する。

 マギウス・スタイル。

 魔術師と魔導書が物理的・魔術的に一体化するこの形態は、極めて高い戦闘能力を術者に付与する。

 しかし、高位の魔術師であればある程にこの形態を補助輪扱いして頼る事をせず、又は精神汚染の関係で使用しない。

 しかし、極まった果ての果てたる3組の主従にとって、リスクらしいリスクは微塵も存在しない。

 全身をSFとファンタジーの混ざった独特の装甲で覆い、身長3m近い異形が姿を現した。

 マギウス・スタイル、或いは変神形態、その名もゼルエル。

 力天使の名を持つが、そのデザインはギルティギアのジャスティスそのもの。

 しかし、その色は嘗ての深い紺色から灰色へと変わり果てている。

 並みの神性、それこそダゴンやハイドラ程度ならこの状態でも単なる膂力によって撲殺可能だが、こと這い寄る混沌を前にしてそれは無意味だ。

 下水道内を埋め尽くす外宇宙の深淵の如き暗黒に、ゼルエルは成す術なく飲み込まれていった。 

 

 

 

 

 



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第二話 開戦

 20××年 夏 東京都中央区銀座 午前11時50分

 

 その日、銀座は真夏の真っただ中。

 コミケ開催日という事もあって、普段よりも大勢の人々で混雑していた。

 昼前という時間帯もあり、日差しは強く、人々は強すぎる紫外線の中を出来るだけ日陰を意識して歩いていた。

 

 そんな時だった。

 銀座の中心に、石造りの巨大な門が現れたのは。

 

 その門は銀座の大通りを塞ぐ程に大きく、扉もなく真っ黒な空間と通じるそこから、まるで古代ローマの様な鎧兜を纏った軍勢が現れた。

 その軍勢は多数の人間とは思えない姿をした人型の生物を率い、中には全長5mを超える前肢が翼となっているワイバーンに騎乗する者もいた。

 呆然とし、スマフォや携帯で撮影する人々が殆どの中、一部の勘の良い人々は足を止めた群衆と異なり、通報やその場からの離脱を急いだ。

 彼らは漠然とだが理解していたのだ、この後に何が起こるのかを。

 を後目に門の周辺への展開を終えると、一際目立つ軍装を纏った壮年の指揮官らしき者が開戦の号令を挙げた。

 

 『全軍、かかれェッ!!』

 

 直後、21世紀の先進国日本の首都、その銀座において異世界からやってきた古代ローマ風の軍勢による虐殺が幕を開けた。

 

 

 ……………

 

 

 2時間後 銀座の某ビル屋上にて

 

 「アーリ、被害報告!」

 『損傷無し!軽度の汚染あれどオールグリーン!』

 

 這い寄る混沌ナイア●ラ□ホ◆ッ▼の繰り出した暗黒に飲まれたリーアとアーリの二人は、今現在日本へと空間転移していた。

 門も介さず、一切の予備動作なく行われた世界間転移という超常の存在による御業への感動など微塵もなく、二人は必死に状況把握に努める。

 

 「場所は…銀座か。しかし、これは」

 『この前通ってきた門から出てきてる軍勢が無差別に攻撃してる。装備から多分所属は同じ。』

 「介入する。急ぐぞ。」

 『ちょい待ち。この装備だと警戒される。』

 「仕方ない。分離して、非難誘導及び民間人の守りはそちらに任せる。」

 「オーライ。じゃーやりますか。」

 

 ゼルエルの姿がページへと解け、中身と外身が二人の双子の少女となる。

 その姿は嘗ての旧神の妻の方が着ていた礼装を改造したもの。

 リーアは露出を抑えて黒をメインにし、重厚な膝まであるブーツと指抜きグローブを纏っている。

 アーリは白をメインにほぼそのままだが、こちらもやはり露出は抑えられ、下は短パンになっている。

 

 (いや、あのローライズは無いでしょ。)

 (九郎向けのセックスアピールのためだしなアレ。)

 

 なお、そんな理由で露出が抑えられているかは定かではない。

 

 「行くぞ。何時二の矢が来るか分からん。」

 「合点承知!」

 

 こうして、銀座事件は次のステップへと移る。

 

 

 ……………

 

 

 捨て駒として放たれた怪異が先行し、未だ驚きが抜けずにいる人々に襲い掛かる。

 重装騎兵達が突撃し、逃げるために混雑していた人々を蹴り潰す。

 大楯を持った歩兵達が制圧し、後続の邪魔にならないように死体となった人々を一か所に集め、山積みにする。

 ワイバーンに乗った竜騎兵が空を舞い、要所要所で抵抗を試みる警官達を蹴散らす。

 今、大勢の人々によって賑わっていた銀座は、紛争地帯も斯くやの地獄と化していた。

 

 『蛮族共よ、よく聞くがよい!我が帝国は皇帝モルト・ソル・アウグスタスの名においてこの地の領有を宣言する!』

 

 先程まで平和に生きていた人々の躯の山に旗が掲げられた。

 

 

 無論、こんな真似を黙って見ている程、日本の警官や自衛隊、そして政府は無能ではなかった。

 

 「銀座4丁目にて緊急事態!突然出現した大量の暴漢の集団に襲われ、多数の死傷者が発生!」

 

 その第一報を機に次々と寄せられる情報に警察が真っ先に動き、事件の余りの規模に機動隊だけでなく、自衛隊にも応援要請が伝わる。

 これが地方都市であるならまだしも、既に多数の民間人の犠牲者が発生しており、更には日本の首都のど真ん中かつ皇居が目前にあるという事が事態を後押しした。

 ここまで早い対応は、先進国でも早々見れないだろう。

 これなら、帝国軍はその日の内に撃退・逮捕も可能だ。

 帝国軍だけならば、と付くが。

 

 『司令、前線が停滞中!このままでは包囲されます!』

 『ジャイアントオーガを出せ。奴らに敵陣を突破させよ。』

 『司令、そちらはあの亜神対策なのでは?それに奴らを暴れさせては味方も巻き添えに…。』

 『ぬ…。』

 

 副官の言葉に、司令は口をつぐむ。

 あの亜神と思われる双子を相手に大損害を被った帝国軍は、対策として大楯と棍棒で武装したジャイアントオーガとベルナーゴ神殿より派遣された魔術師達を参陣させていた。

 とは言え、どちらも戦力としては安定性に欠けているため、余り使いたくはなかった。

 しかし、門の向こうで想定されていなかった抵抗を受けた事に加え、大軍を追加で投入するには門の向こうの土地は狭くて大軍の利を活かし切れないため、ここで投入する事を決定した。

 

 『よし、ベルナーゴ神殿付き魔術師達よ。敵陣を破壊してくれ。』

 『お任せを。必ずや戦果を挙げてみせましょう。』

 

 前線司令の命令により、門の向こうから現れたのは黒いフードを被った如何にも怪しげな集団だった。

 黒いフードの集団は全員が目だけはギラギラとし、何処か饐えた匂いを漂わせ、慇懃無礼を感じさせる。

 その中のリーダーは古びた魔導書を持ち、それを視界に入れると何故か妙な寒気に襲われる。

 

 『いあぁぁいあぁぁ…。』

 

 黒フード達は死体の山の前に行くと、一斉に詠唱を開始した。

 帝国兵らが今まで聞いた事のない詠唱を訝しむと同時、彼らから感じる寒気、否、怖気は益々強くなっていく。

 

 『いあ・いあ!にゃるらとほてぷ!』

 

 詠唱の完了と共に次々と死体が起き上がり、ゾンビとなって偽りの生を開始した。

 魔術で操られているものの、彼らの目的は一つ、

 帝国兵らは知る由もないが、彼らは特地における這い寄る混沌の信者であり、その中でもグールで構成されたゾンビ作成に特化した魔術師らだ。

 無論、彼らでリーアやアーリを止める事は億が一、兆が一にもあり得ない。

 だが、この世界の平和ボケした日本人ならどうだろうか?

 そして、さっきまで生きていた日本人をリーアとアーリ達が蹂躙する様を、多くの日本人はどう見るだろうか?

 混沌からすれば可愛い程に些細な悪戯に過ぎない。

 しかし、二人ならば間違いなく中指を立てるか親指を下に向けるだろう。

 

 「皇居だ!皇居の方に逃げ込め!」

 「よく狙って撃て!民間人に近づけるな!」

 「皆さん、落ち着いて素早く移動してください!」

 

 その頃、原作主人公こと伊丹耀司は警察と皇宮警察と連携し、陛下の許可の下、避難民を皇居に受け入れ、半蔵門を通って反対側へと誘導していた。

 大凡の方針が決定し、避難誘導が始まると伊丹は制服を着ていないから誘導係としては不適と判断し、現在は警官隊と共に避難民へと攻撃を加えようとする帝国軍に対してバリケードを構築、防戦に当たっていた。

 

 「ワイバーン!頭伏せろ!」

 

 そこにワイバーンに乗った騎兵が現れ、上空からブレスによる掃射を行ってくる。

 

 「ぎゃあああああああ!?!」

 

 それに一人が直撃し、火達磨になって燃え上がり、やがて動かなくなる。

 

 「っ、被害報告!」

 「一人やられました!」

 「もう一度水被れ!次は全滅するぞ!」

 

 現状の装備ではワイバーンの鱗を貫く事は出来ない。

 そこで何とか被害の軽減に努めようと、火災現場でするように水を頭から被っていたのだ。

 しかし、この猛暑と何度もやってくるブレスでは焼け石に水に近く、今のは伊丹達の運が偶々良くて無事だった。

 次はこの場の半数が戦死する。

 そうなれば、避難民の列に帝国軍が突っ込んでくる事となる。

 

 「機動隊は、自衛隊はまだか!」 

 

 原隊の、特殊作戦群での装備ならあのワイバーンにも通じるかもしれないのにと伊丹は歯噛みする。

 そんな伊丹の視界に、旋回して接近してくるワイバーンの姿が目に入る。

 

 (すまん、梨紗!)

 

 不意に妻の顔が頭の中を過る。

 成程、これが走馬灯かと納得しつつも、何とかバリケードから飛び退いてブレスから逃れようとして…

 

 

 「お仕事お疲れさーん!!」

 

 

 そんな陽気で幼げな声と共に、大型車両同士が衝突した様な轟音と衝撃が響き渡り、伊丹達は目を瞑って伏せた。

 

 「んな装備でよくやった!感動した!こっからは攻守逆転だ!」

 

 快活な声に目を開けると、そこにはバリケードを潰す形で墜落したワイバーンを、その上で騎士を殴り飛ばして笑う銀髪碧眼の少女の姿があった。

 その服装は袖無しの白いワンピースに黒いネクタイ、白の半ズボンを合わせたややパンクなファッションだが、その手に握られているのはM134ミニガンに似たファンタジーなのかSFなのか分からないアレンジを加えられた重機関銃であり、それでワイバーンを蜂の巣にしたらしい。

 

 「ほれ、これやっから弾幕張っててくれ。」

 「うおっと!」

 

 そんな彼女は気前よくそのナンチャッテM134ミニガンを伊丹に渡すと、自身は何処からか取り出した2丁のグロスフスMG42機関銃?(やっぱりファンタジーとSF混じりのデザイン)を構え、陽気に笑う。

 

 「こっちの連れが引き付けてるから、あんたらももうちょっと頑張ってくれ。ソイツは弾切れとか心配せずに適当にばら撒いてりゃ当たるからさ。」

 「わ、分かった!気を付けてくれ!」

 「アイアイサー!」

 

 そう言って白いパンクな少女アーリは、警戒して遠巻きにしていた帝国兵に向け、銃弾をばら撒いた。

 

 (やっべー。この人って伊丹二尉じゃん。って事は此処ってGATEじゃん。)

 

 この世界がどんな世界なのか漸く気付きながら。

 

 

 




なお、この時の伊丹は二重橋の英雄ってないからまだ三尉


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第三話 異形

 『司令!例の亜神を確認いたしました!既にかなりの損害が出ている模様!』

 『よし、逐次投入せずに全て出せ。どうせアレは使い捨てだ。』

 

 リーアとアーリによって前線部隊が吹っ飛び、侵攻が停滞した頃、敵司令官にも二人の情報が届いた。

 そして二人への対策として投入されたのが、身の丈10m近い武装したジャイアントオーガだった。

 体の正面、特に正中線と足回りに対して、皮革で内貼りし、木で補強し、鉄板で覆った特注の大型鎧で武装したジャイアントオーガ。

 強靭ながらも小柄な亜神二柱対策に、下からの攻撃には特に注意して対策が成されている。

 外見こそ原作漫画版のソレに近いものの、その右手に握るのは単なる鉄板で覆った丸太(握りの部分だけ握り易く削ってある)ではない。

 少しでも命中率・攻撃範囲の向上を目指して、握りから先端にかけてまるで旗か垂れ幕の様に大量の鎖がぶら下がっていた。

 これなら敵歩兵への蹂躙にも使えるし、攻撃範囲も広がるから多少は命中率の向上も期待できる。

 更に、これまでの怪異兵とは違うのは、魔獣の使役に特化した魔導士をやや後ろから随伴させ、単純な命令を受け付けるという所だ。

 これまでの怪異兵は人の言葉を聞いても好き勝手に暴れるだけで、精々が戦闘の最初に突っ込むか最後に集めて檻に入れるか位しか出来なかった。

 しかし、魔導士による薬物・魔術を用いた使役により、ある程度安定しての運用を可能にした。

 無論、その手間と人材の関係で多数は運用できないものの、装甲化された自走式の攻城兵器と考えれば中々に強力だ。

 最大の問題は装備の費用及び薬物の副作用による寿命の激減、使役魔導士が死んだ場合は高確率で暴走する事だった。

 特に寿命は問題で、使役及び身体能力の向上と鎮痛の薬物・魔術の副作用によるものだ。

 しかし、それらが無ければ単なる強力な怪異兵(常に暴走の危険有り)になってしまうので、強力だが超高価な使い捨て兵器となっているのが現状だった。

 

 『ゴガアアアアアアアッ!!!』

 

 咆哮と共に、武装化したジャイアントオーガが7体、後方の随伴魔導士の指示に従って、最も帝国側が被害を受けている地点へと向かう。

 そこには今正に巨大な偃月刀によって膾切りにされている帝国兵とリーアの姿があった。

 

 「ふん」

 

 迫り来る脅威に、しかしリーアはつまらなそうに鼻を鳴らす。 

 この我らが寝取られ系残念主人公リーアちゃん(苦労人系熟女)、お忘れの方もいるだろうが、無限螺旋突破組にしてあの益田輝夫もといマスターテリオン(クラインの壺補正無し)を相手に勝率4割を誇り、更には堕ちた旧神討伐実績持ちである。

 

 「では久々に…」

 

 アフリカゾウよりも尚大きく重い足音を響かせながら、鎖付き棍棒を振り被った武装ジャイアントオーガの足元。

 僅か140cmにも満たない体躯、しかも無手の状態。

 しかし、生身のマスターテリオンを相手に、今や互角以上に殴り合いが出来る彼女ならば…

 

 「 邪ッッ!! 」 

 

 一撃で大気を切り裂き、音を置き去りにし、舗装されたアスファルトを粉微塵に踏み砕いて放たれた拳打は、ただの一撃でもって装甲化されたジャイアントオーガの右足を消し飛ばした。

 

 「…っッ……ーーっ!??!!?!!!」

 

 例え痛みに極端に鈍くなろうとも、出血のショックやバランスの崩壊、何より己の利き足を吹っ飛ばされるという視覚的衝撃に、ジャイアントオーガは先程までの戦意を完全に喪失して倒れ込み、言葉にならない絶叫を上げた。

 

 「五月蠅い。」

 

 だが、それは直ぐに止まる。

 倒れこみ、悶えるジャイアントオーガの頭頂部付近、そこに移動したリーアにより、あっさりとその頭蓋を砕かれる事で止められる。

 

 「さて」

 

 くるり、と未だ痙攣を繰り返す巨大な肉塊から視線を外してリーアは振り返る。

 その視線の先には恐怖で顔を歪ませた帝国兵と二の足を踏むジャイアントオーガの姿があった。

 

 (にっこり)

 (に、にっこり…?)

 

 いっそ無垢と言って良い笑顔を向けられ、兵士達も何とか愛想よく引き攣った笑みを返す。

 そんな彼らに、リーアは素晴らしい笑顔で告げた。

 

 『死ね。』

 

 態々ファルマート大陸公用語を用いての死刑宣告に、兵士達はその場から遁走した。

 ジャイアントオーガもまた、武器を捨ててその場から逃げ去っていく。

 

 「まぁ良い。末路は同じだ。」

 

 その無様な様子を、リーアはただ冷めた目で見つめるだけ。

 それは当然だ。

 今、彼女の後方から多数の射撃音にヘリのローター音が響いている。

 事件開始から数時間、漸く自衛隊の到着が間に合ったのだ。

 それに加え、この付近一帯の瘴気濃度が上昇し続けている。

 自分が先程見かけたゾンビの類が魔術によるものだとは分かっていたが、それだけではこの上昇は説明できない。

 これでは耐性の無い人間や亜人の類は1時間と保たないだろう。

 加えて、今の門の周辺に、生体反応は殆ど無い。

 それが答えだった。

 

 

 ……………

 

 

 『馬鹿な……こんな短時間に……。』

 

 完璧な、十二分な戦力の筈だった。

 10万近い精鋭の重装歩兵や重装騎兵、多くの竜騎兵や攻城兵器、そして武装化したジャイアントオーガにベルナーゴ神殿付き魔導士達。

 強大な帝国でも近年では類を見ない程の大戦力が、たった数刻で崩壊しようとしていた。

 最初は小賢しい抵抗だと笑った。

 次に恐るべき双子の亜神を警戒した。

 そして、鉄の天馬や鉄の車、鉄の棒を持つ緑の服を着る軍勢に、圧倒された。

 双子の亜神()を除けばどれもこれも彼の持っていた知識・経験にない事象であり、強大な国家である帝国の高級軍人にして貴族として順調に出世してきた彼にとって認め難い事態だった。

 既に状況を伝えた伝令は走り去り、他の部隊へと後退の指令を伝えに向かった。

 

 『司令殿、どうしたのですかな?その様に慌てて。』

 

 その横で、今までゾンビを生産していた魔導士が先程と変わらない慇懃無礼な声で話しかけていた。

 

 『ぬ、うぅ…!魔導士殿よ、前線は崩壊した様だ。何とかならぬか?』

 『ふーむ。それには司令殿の許可が必要ですな。』

 『なに?』

 

 二つの疑問に、司令が目を丸くする。

 この不利を覆す方法があるのか、そして許可とはどういう事か。

 

 『簡単です。ただ「ササゲル」と言って頂ければ良いのです。』

 『……わかった。』

 

 司令には「ササゲル」の意味が分からなかった。

 それがファルマート大陸公用語ではなく、この国の、日本の言葉だったから。

 それがどんな意味か分かっていたら、多くの神々の恐ろしさを知る彼は絶対に言わなかっただろう。

 

 『「ササゲル」。』

 

 だが、彼には日本語は分からず、あっさりと口にしてしまう。

 それが合図だった。

 

 

 OK 契約成立だ

 

 

 司令の目の前に立つグールの口から、悍ましい程に妖艶な女の声が響く。

 同時に、司令は自らの肉体の不調に気づく。

 

 『が、ご……げぼぉ!?』

 

 口からどす黒い血を喀血し、指先の皮膚が剥がれて…、否、腐り落ちていき、肉からは蛆虫が何処からともなく湧いてきた。

 

 『な、あんでぇ…?』

 

 助けてもらおうと周囲に目を向けて、漸く気づいた。

 既に周囲には誰も生者はいない。

 自分についていた副官も、門の守備兵も、敗走してきた兵士達も。

 皆が皆、自分と同じ様に生きながら死体に変わり、蛆に集られていた。

 目の前に立つ魔導士とその部下達も、黒いローブの下は蛆虫の塊と化していた。

 

 『ありがとう。これでちゃんと妖蛆の秘密を起動できたよ。』

 『あ ぁあ ぁぁ』

 『大丈夫だ。君達の魂まで、ボクがしっかり有効活用してあげるよ。』

 

 今更ながら、司令は最後に理解した。

 自分は決して、エムロイにもハーディーにも召し上げられる事は無いと。

 

 『喰らい、啜り、肥え太れ。』

 

 蛆虫が腐肉を喰らい、肥え太り、そして蠅となって卵を産んでまた増えていく。

 物理的だけでなく、魂や生命力等の魔術的にも重要な餌は今の銀座には大量にあったから。

 繁殖のサイクルがものの10秒で繰り返され、外法によって生まれた妖蛆と妖蠅はあっという間に膨大な数の群れを形成していく。

 銀座中央を埋め尽くした邪悪な蛆と蠅の群れは、その規模を瞬く間に拡大させながら、しかし反比例する様に一か所へと集まり、一つの形となっていく。

 

 

 『暴食せよ、ベルゼビュート。』

 

 

 時間と空間、世界と宇宙の壁を超えて、この世界で最初の鬼械神が顕現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最初召喚されるのは永劫か無垢なる剣かと思った?
残念!答えはベルゼビュートちゃんでした!

なお、キャストがナイアさん本人やお人形ばっかなのは彼女の手駒に出来そうな丁度良い人材が帝国中枢にいなかったから。

いたら?無限螺旋内でのティベリウス(CV矢尾一樹)


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第四話 機械仕掛けの神

推奨BGM ttps://www.youtube.com/watch?v=QDCr8uejl3o


 銀座事件後、其れを見て生き残った人々は口々に語った。

 

 「あの時、確かに死を覚悟した」と。

 

 それまでにあった異世界の古代の軍勢の侵攻も、ゾンビやモンスター等の襲撃も比べ物にならない。

 ただただ濃厚な死と退廃、冒涜的な気配を匂わせる20m程の巨体に、その場にいた人々は死を覚悟した。

 それは後に捕虜となった数少ない帝国兵らも同様で、彼らは自らを切り捨てる様にあんなものを戦線に投入した帝国へ見切りを付けた様で、捕虜となった後は大人しくしていたという。

 

 「なんだ、ありゃ…。」

 

 銀座方向からゆっくりと進んでくる今までにない巨体に、伊丹達二重橋で防衛戦を行っていた者達は唖然としていた。

 

 「あちゃー、ここまでやるかー。」

 

 また伊丹の下にやってきたアーリも、そう言って頭を抱えた。

 この後の展開、具体的には己が半身の事を考えると頭が痛かった。

 しかし、自分達がやらねばならない。

 何せ相手は鬼械神、紛い物と言えども神の似姿であり、極まった魔導の産物。

 余りにも高い情報密度を持つため、通常の物理攻撃はその存在情報を破損させる事が出来ないために無力だ。

 破壊するには同じく高い情報密度を持つ鬼械神か魔術理論を応用した兵器、或いはもっと異質なナニカに限られる。

 

 (取り敢えず、合流するまで時間稼ぎかな……?)

 

 そろそろ攻撃範囲に入るベルゼビュートを眺めつつ、そんな事をアーリが考えていると、不意に見知った気配を感じ取る。

 

 「リーア!」

 

 そして、声をかけてから気づいた。

 己の半身の持つ碧色の瞳の冷たさに。

 それこそ物理的な温度すら超えた、正に負の無限熱量たるハイパーボリア・ゼロドライブ並の冷たさに。

 

 「アーリ、やるぞ。」

 「ア、ハイ。」

 

 逆らう気なんて起きない。

 元々そんな気なんて無いけれど、何時だったか無限螺旋の時にショッピングをデモンベイン&無敵ロボのバトルで台無しにされた時に近い感じだ。

 

 「っと、自衛隊か?」

 

 そんな時、未だゆっくりと移動中だったベルゼビュート目掛け、9機もの戦闘ヘリが向かっていく。

 自衛隊の持つ戦闘ヘリコプターAH-64Dアパッチ・ロングボウだ。

 ロケット弾ポッドに空対地ミサイル「ヘルファイア」、30mm機関砲を備え、量産開始から既に30年が経過しているのにアップデートを繰り返しながら各国で運用され続けている名機だ。

 冷戦時代のワルシャワ条約機構軍の戦闘車両部隊の対策として開発され、異例の重装甲・重武装を誇る「空飛ぶ戦車」とも言われる。

 日本では調達コストの高騰で配備数は13機と少ないものの、第二世代のD型にロングボウ・レーダー装置を搭載した仕様で、装甲目標に対する広範囲の索敵能力を有する。

 とは言え、今回の相手は死体と蛆と蠅他正体不明のナニかで構成された鬼械神ベルゼビュート。

 正直言ってレーダーは頼りにならないが、その移動速度はゆっくり歩いている事もあって旧式の重戦車と比べても遅い。

 だが、それは彼ら対戦車ヘリコプター隊の勝利を約束するものではない。

 

 「やばい!下がらせろ!」

 「通信機もなんも無いから無理だ!」

 

 アーリの言葉に、伊丹が叫ぶ。

 直後、9機のAH-64Dから対戦車ミサイル・ロケット弾・30mm機関砲が一斉射される。

 しかし、それらはベルゼビュートの表皮を僅かに凹ませるだけで、生物的な弾力と鬼械神の中でも特に高い自己再生能力を持つベルゼビュートには意味を成さない。

 否、鬼械神というカテゴリに対し、通常の物理攻撃は意味を成さないのだ。

 それこそスーパーロボットの様に極めて強大なエネルギーをぶつける位しないと、その存在情報を破損させる事は出来ない。 

 

 「って、やっぱりかー。」

 

 その攻撃を煩わしく思ったのか、ベルゼビュートが対戦車ヘリ部隊に頭部を向ける。

 すると、ものの数秒で4機のAH-64Dが見えない掌に握り潰される様に爆発四散した。

 

 「んな!?」

 

 それを見た伊丹は驚愕で叫ぶ。

 自衛官だからこそ、戦闘ヘリの中でも重装甲・重火力で知られるAH-64Dとそのパイロットらの精強さを知る彼だからこそ、その驚きは大きかった。

 

 「ちっアーリ」

 「あいよ、グレネードにイブンガズイの粉薬っと。」

 

 それ見た事かと舌打ちをするリーアの声に応え、アーリの両手にあったグロスフスMG42機関銃が変化し、ダネルMGLという南アフリカ製の回転弾倉式の擲弾発射器となる。

 

 「ほらよ!」

 

 しゅぽぽぽ!という独特な発射音と共に擲弾が発射され、ベルゼビュートの周囲にある何もない筈の中空で爆発して内部の粉薬を、イブンカズイの粉薬を周辺に散布した。

 

 「う、げ」

 

 吹き掛ければ不可視の存在を視認可能にし、霊体を物質化させるイブンカズイの粉薬の力により、その場に隠れていた不可視の存在が明らかになる。

 伊丹始め、未だ二重橋で防衛に努めていた警官らが絶句、或いは呻き声を上げた。

 それだけ彼らが見たものは彼らの常識に無いもの、否、そもそもこの星の生態系においては有り得ざる存在なのだから当然の反応だった。

 彼らが目撃したのはスターヴァンパイアと言われる地球外生命体だ。

 触手で構成された球体から、5本の太い触手が放射状に生えているヒトデにも似た姿をしている。

 加えてUFOの様に不規則な飛行と浮遊が可能であり、それを活かしてベルゼビュートの周囲を警戒する様に4体のスターヴァンパイアが飛行している。

 それらは先程のAH-64Dへの攻撃で搭乗者の生き血を啜ったからか、僅かに血管が浮き出ている。

 今は自分達を見る人間達の恐怖や嫌悪の視線を感じてか、クスクスと少女の様な笑い声で嘲笑していた。

 それらを視認し、生き残った5機のAH-64Dは一斉に離脱を開始する。

 彼らの任務は対地攻撃であり、例え空対空ミサイルを搭載してる時だろと、光学迷彩を搭載した正体不明の飛行生物を相手取るには余りにも機動性・運動性が足りない。

 しかし、そんな彼らを見逃す程、星の精は善良ではない。

 

 「はいカットー!」

 「ナイスカット。」

 

 なので、襲い掛かろうとするスターヴァンパイアを、空かさずアーリが編んだ対物狙撃銃バレットM82に似た魔銃により撃ち落とされる。

 

 「で、どうする?こっちにヘイト向いちゃったけど。」

 「なに、いつもの事だ。」

 「そーだけどねー。」

 

 白と黒の双子の少女に、今更ながら多くの視線が集まる。

 あの巨大なロボ?と不気味な生物もそうだが、この二人もまた日本での日常を知る人々からすれば異常極まりない。

 しかし、二人は動じない。

 そんな視線は慣れてるし、何よりもするべき事は微塵も変わらないからだ。

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■ーッ!!」

 

 ベルゼビュートが咆哮する。

 己の眷属の食事を邪魔された所か、害された事で怒りを抱いたのだ。

 反撃とばかりに、その巨大な全身から無数の黒い煙が噴き出る。

 否、それは煙ではなく、人や怪異兵の死体に群がり喰らい成長した蠅の大群だ。

 無論、ただの蠅ではなく、人や動物に卵を植え付けて寄生させるどころか、生きたままその血肉を食らう人食い蠅の大群だ。

 肉食化した蝗害か飢えた鼠の地走りが近いだろうか。

 兎も角として、事前知識や準備がない限りはどうしようもない人為的大災害だった。

 

 「バルザイの偃月刀、過剰召喚!」

 「超攻性防御結界、展開!」

 

 故に、専門家には効きはしない。

 魔術にて鍛造された五百本もの偃月刀が宙を舞い、或いは舗装されたアスファルトに突き刺さり、触れる邪悪を焼き尽くす防御壁を展開する。

 これにより、銀座方面と皇居は完全に遮断された。

 だが、それはあくまで蠅に限っての話である。

 

 「■■■■■■■■■……!!」

 

 遂に皇居前までやってきたベルゼビュートは、怒りのままに結界を殴りつける。

 鬼械神による打撃、その衝撃に耐えかねて、一部の偃月刀に罅が入り、結界にも綻びが生まれ始める。

 だが、それで十分だ。

 それまでにけりを付ければ良い。

 

 「じゃ、行ってきまーす。」

 「な、待て待て待て!」

 

 気軽に結界の外へと赴こうとする二人に、何処かで分かっていながらも伊丹が引き留めようとする。

 自衛官の、大人としての良識は二人を絶対に止めるべきだと言う。

 しかし、オタクとしての知識と勘が行かせるべきだとも言っていた。

 

 「なーに、ちょいと悪党ボコってくるだけだよ。」

 「これ以上、この一件で死人を出す訳にはいかない。」

 

 あくまで気軽に返すアーリに、冷厳なまでの覚悟を秘めた声で返すリーア。

 対照的な二人に、伊丹はごくりと唾を飲んでから、改めて言葉を送った。

 

 「それじゃ、きちんと無事に帰って来てくれ。お礼に飯でも奢るからさ。」

 「あいあい。」

 「分かった。」

 

 気軽に手を振るアーリと、僅かに口元を綻ばせるリーア。

 そして二人は周囲の人々が固唾を飲んで見守る中、ごく自然に結界へと歩み、あっさりと踏み越えた。

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」

 

 待っていたとばかりに咆哮し、ベルゼビュートがその腕を振り上げる。

 それを幼気な双子の少女は、不敵に笑って見上げていた。

 そして、轟音と共に振り下ろされる両腕、巻き上がる粉塵と周囲を揺らす衝撃に、誰もが悲鳴を上げ、目を覆う。

 しかし、しかしだ。

 そんな在り来たりな悲劇なんて詰まらない。

 

 「え…?」

 

 誰かの漏らした声。

 それに釣られて目を開ければ、結界の向こう側に、光があった。

 

 「本の、ページ?」

 

 双子の片割れ、ボーイッシュで白装束のアーリの体が解け、本のページとなって二人の周囲を漂っている。

 先の衝撃など何の痛痒も与えていないとでも言うように、二人は無傷だった。

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」

 

 ベルゼビュートは自棄になった様に両腕で打撃を繰り返すが、ページの張る強固な結界を超える事が出来ない。

 それは双方の格の違いを、何よりも明確にしていた。

 そして、今日の事件の終わりを始めるため、邪悪を狩る刃鋼を呼ぶための聖句を唱える。

 

 「永劫(アイオーン)! 時の歯車 断罪(さばき)の刃 久遠の果てより来る虚無」

 「永劫(アイオーン)! 汝より逃れ得る者はなく 汝が触れし者は死すらも死せん!」

 「「機神招喚!」」

 

 その言葉に、編まれた魔術に、解放された字祷子に、二人の周囲に光と共に魔法陣が立体的に展開される。

 

 「■■■■■■!?!?」

 

 悲鳴と共にベルゼビュートが弾かれる。

 顕現しようとする存在の情報密度との余りの格差に、ただ傍にいただけで存在情報を破壊されかけたからだ。

その間隙を突く形で、精密無比なる魔術によって編まれた数兆を超えるパーツが組み合わさり、ただ一つの刃鋼となって静かにその場に降り立つ。

 それは宙に流した墨の様であり、それは騎士の様であり、何よりもそれは怒りに満ちていた。

 全身漆黒の装甲の中、唯一の例外たる真紅のカメラアイが、眼前の邪悪に烈火の如き怒りを込めて向けられる。

 

 

 「「アイオーン・リスタート!」」

 『オオオオオオオオオオオオオッッッ!!!』

 

 

 この世界では初めて、嘗てあった三千世界においては数えるのも無駄になる程。

 その銘を鬼械神「永劫(アイオーン)再動(リスタート)」 

 或いは魔を断つ剣以上に邪悪と戦った邪悪への怒りの具現、その最新の後継が姿を現した。

 

 

 




長い、このままでは長く成り過ぎてしまう…!
だってやっぱりロボもの書くとなったら外せない描写ってあるでしょ?
んで思い付いたの全部入れたら当初の15話程度の予定が30話位になりそう(白目)
アイェェェ…


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第五話 衝突

やっぱロボものの戦闘シーンは長くなっちゃうなー


 それは人型だった。

 それは刃鋼だった。

 それは神の似姿だった。

 それは間違いようもなく、激怒していた。

 憤怒していた、赫怒していた。

 その姿はまるで不動明王の其れであり、漆黒の装甲から覗く真紅の瞳には、邪悪へのこれ以上無い程の怒りに満ちていた。

 

 「Guuuu……。」

 

 アイオーン・リスタート。

 数々の改修を経たアイオーン・リペアシリーズの情報を改めて精査し、燃費ではなく汎用性に重点を置いて再設計された。

 というのも、複数の鬼械神を運用するのは例え招喚が可能でも、術者側への習熟の問題がある事から、それを解決した上での汎用性、あらゆる環境下・敵戦力の殲滅が求められた。

 その結果、この鬼械神は要求性能を満たすために設計段階から機体を構成する無数のパーツを再配置する事で必要に応じた性能を満たす形態へと変化する。

 今は人口密集地という事で過剰な火力を控え、白兵戦を主体とした最もオーソドックスな形態になっている。

 そんな鬼械神の各部から、唸り声に似た稼働音が漏れ出す。

 デザインされ、しかし長らく平和だったために使われてこなかったが故の各機関の試運転によるものだ。

 

 「やるぞ。」

 「あいよ!」

 「■■■■■■ッ!!」

 

 先程の反撃とばかりに衝撃から復帰したベルゼビュートが吠え、掴み掛る。

 それをアイオーンはサイドステップで小さく回避、その拳を叩き付ける。

 

 「む」

 

 しかし、相手は腐肉と蛆と蠅、一部に魔術にて編まれた金属パーツを持つ

再生能力に特化したベルゼビュート。

 あっさりと表面を砕かれ、内部構造にまで攻撃が及ぶも、破損した部分は逆再生する様に復元し、ダメージにならない。

 

 「■、■、■、■。」

 「右腕、結界術式展開。」

 「よーそろー。」

 

 まるで笑う様にその身を震わせ、再度殴り掛かるベルゼビュート。

 それに対し、点の打撃で通らないのならば面の打撃でとばかりに右掌に展開された結界で、ベルゼビュートの体躯を殴打し、衝撃によって押し戻し、強制的に距離を取らせる。

 

 「魔銃展開!」

 

 空かさず、左手に編まれたスタームルガー・ブラックホーク似の銃より、一瞬の内に6連射され、発射直後に再装填される。

 命中した銃弾は狙い通りベルゼビュートの装甲を貫通、内部に達した時点で炸裂し、その躯体を大きく破損させる。

 

 「ひっ!」

 「うわぁ…。」

 

 固唾を飲んで見守っていた人々が、その損傷した部分を見てうめき声を上げた。

 その場所には、無数の肉塊が蠢いていた。

しかも、ただの肉塊ではない。

 それらは、顔だった。

 帝国軍の兵士の顔だった。

 犠牲になった日本人の顔だった。

 老若男女を問わない、この戦いで犠牲になった人々の顔だった。

 彼らの顔は一様に苦悶と絶望、苦痛と恐怖に染められていた。

 それも当然だろう。

 彼らは全員本来の所属する世界の理を捻じ曲げられ、ベルゼビュートのパーツとして燃料として使用されているのだから。

 

 「あ、ぁあぁぁああぁぁぁぁあ」

 「な!?おい、しっかりしろ!」

 

 そして、そんな光景を直視してしまったが故に、精神の均衡を崩してしまった者も出てきた。

 幸い、周囲の人間に取り押さえられ、今は被害は出ていないが、この状況が続けば錯乱して周囲の人間を害する者から自殺者まで大量に発生する事だろう。

 一刻も早く、ベルゼビュートを排除する必要があった。

 

 「っ、力を与えよ力を与えよ!」

 「魔刃鍛造、多重召還!」

 

 しかし、それには今一つ手をかけねばならなかった。

 ここは破壊と再生、混沌と秩序の坩堝たるアーカムでもなければ、世界最大の財閥のお膝元でもない。

 極々普通に発展した世界有数の商業都市であり、人口密集地のど真ん中なのだ。

 暮らしているのは騒動慣れしたアーカム市民ではなく、平和ボケして久しい日本国民が殆どなのだ。

 彼女ら二人と伊丹他大勢の有志と警官達の活躍によって主戦場からの退避は完了したが、取り残しは多い。

 故に、未だ周囲のビルには逃げ遅れた人々が取り残され、細い路地には帝国兵の生き残りもいた。

 

 「■■■■■■■■!」

 

 ビル内の生き残りの保護のため、バルザイの偃月刀を再度多重召還し、攻性結界の構築を試みる。

 しかし、それを狙い澄ましたベルゼビュートの攻撃により中断されてしまう。

 

 「ちぃ!」

 

 別に、勝てなくはない。

 この程度の相手、その気になれば10秒とせずに塵にしてしまえる。

 しかし、その後に残るのは嘗ての消された歴史にてクトゥグアの炎で灰燼と化したロンドンと同じ光景だ。

 それだけは避けねばならない。

 何故なら、自分達は魔を断つ剣の一振りなのだから。

 その矜持と背負ってきたもの、踏み躙ってきたものに賭けて、その一線を超える事は出来ない。

 

 「アーリ、術式制御に専念!」

 「あいよ!超攻性防御結界、展開!」

 

 ほんの10秒にも満たない無防備な時間、それを狙って再度ベルゼビュートは攻撃を行う。

 しかも、今度はただの打撃ではない。

 全身の黒い皮染みた装甲が剥がれ落ち、飛び散っていく。

 否、それは装甲ではなく、死体を苗床に育った人食い蝿の群れだ。

 蝿の群れはアイオーンに纏わりつくと、その装甲の隙間から構成術式に侵入、存在情報を破損させていく。

 

 「■■■■■ッ!!」

 

 更に蝿の皮を失って、再び内部の肉塊を晒したベルゼビュートは、自身を構成する人々からその怨念を吸収・収束していく。

 元気玉の負のバージョンと言えば分かり易いだろうか、数万もの無念の死を迎えた人々から抽出した怨念は、並の魔術師と鬼械神では一撃で破壊されてしまうだろう。

 その技の名は怨霊呪弾。

 術者が今まで殺し、収集してきた魂から怨念を抽出して放つという、魔道書「妖蛆の秘密」に記された最大攻撃奥義である。

 

 「緊急防御!」

 「エルダーサイン!」

 

 その直撃を受けたアイオーンは辛うじて防御結界、独特な星形した旧神の印が盾となって現れる。

 しかし、構築こそ間に合ったものの、無数の蝿に集られて全身から攻撃を受けている状態ではまともに受身も出来ない。

 放たれた怨念と呪詛の塊を諸に受け、蝿諸共倒れ付す。

 

 「■、■、■、■、■、■!」

 

 その無様な様子を嘲笑うベルゼビュート。

 さぁ邪魔者はいなくなった。

 次は面倒な結界を破壊し、更なる虐殺をして更なる力を蓄えよう。

 そう思って、ふと立ち止まる。

 何故、アイオーンを倒した筈なのに結界が消えない?

 その解答は、あっさりと返ってきた。

 

 「攻性防御結界、展開完了。」

 

 銀座周辺のビル郡、それら全てを守るように飛来したバルザイの偃月刀。

 それらを基点に発生した結界が暖かな光と共にビルを包み、戦闘の余波から人々を守っていた。

 つまり、もう余計な気を回さずに済むという事だ。

 

 「焼熱呪法、発動。」

 

 傲!と倒れ伏した蝿の塊から、真紅の炎が巻き上がり、全てを灰塵と化していく。

 まるで超小型の恒星の様な膨大な熱量と共に、ソレは炎の中から新生する様に立ち上がった。

 全ての蝿は塵も残さず燃え尽き、放たれた怨念と呪詛は最早その残滓も感じ取れない。

 一歩踏み出せば、舗装されたアスファルトや電柱、車両等が瞬く間に赤熱し、炎上し、溶解していく。

 しかしてその瞳だけは炎よりもなお赤々と燃え盛り、その余りの威容に、威圧に、異常に、誰もが息を飲んだ。

 

 「■■、■!■■■!?」

 

 馬鹿な、信じられない、有り得ない。

 信仰する神より授けられたこの力が破られる等、在ってはいけない。

 

 「そんなに不思議か?ご自慢の術式が破られたのが。」

 

 炎を纏い、漆黒の装甲を燃える炭の様に紅く染め上げ、ベルゼビュートへと一歩ずつ迫るアイオーン。

 その姿を見て、ベルゼビュートは恐れ戦き、後退りした。

 

 「なーに、簡単な理屈さ。」

 

 まるで明日の天気予報を教える様な軽さで、二人は答えた。

 

 「こんなもの、当の昔に食い飽きた。」

 

 思い出すのは、無限螺旋の序盤にて体験したティベリウスによる十年を優に超える陵辱の日々だ。

 

 身体の自由を奪われ、やたら露出の多いサーカス風の衣装を着せられ、あらゆる命令を下された。

 ある時は身体を凌辱されながら、身体を死ぬ一歩手前まで破壊されるも、無理矢理快楽を感じる様にさせられた。

 ある時は若男女問わずあらゆる人種の人間を殺させられた。

 ある時は感謝と喜びの声を上げさせながら、触手の海で凌辱された。

 ある時はティベリウスの操る亡者達の苦痛や恐怖、憎悪を一身に浴びせられた。

 ある時は蟲達に満ち溢れた暗闇の密室に長期間放置された。

 ある時はブラックロッジの構成員達に輪姦され、孕まされ、出産した赤子を目の前で殺され、その死肉を無理矢理食わせられた。

 ある時は、ある時は、ある時は……。

 そんな日常を、時に人里で普通に過ごす期間を挟んで、不定期に繰り返される。

 凡そ人間が想像し、人外の力を用いて初めてできる様な所業は凡そ体験させられた。

 お陰で目は完全に死んで、表情筋は働くのを止めた。

 少しでも心を鈍くする事で身を守る事を選んだが、ティベリウスはそうしたオレの防衛術を全て抜いて「オレ」の心を蝕み続けた。

 

 結果的に、あの日々は自分の中の邪悪への憎悪を芽生えさせる決定的な体験となり、こうして魔を断つ剣の一振りとなったのだが、あんな濃過ぎる体験、薄れる訳がない。

 他にも、無限螺旋の中においては精神を破壊されかける事は腐る程にあった。

 そんな彼女らにとって、今更この程度の呪詛など、何の益もない野次に過ぎない。

 

 「■■■■■!!」

 

 ベルゼビュートが苦し紛れに不可視の使い魔、スターヴァンパイアを放つ。

 数は8と先程よりも多く、四方八方から迫ってくる。

 

 「馬鹿め。」

 「魔銃展開。」

 

 アーリが今度は二挺拳銃を編み、リーアは霊視にて不可視を見破り一瞬の内に全ての星の精を撃ち落した。

 次いで、即席で編んだ特製の銃弾を三発打ち込むと、ベルゼビュートはその動きを大きく鈍らせた。

 

 「■、■■…!?!」

 「生憎と、実は火よりも水の方が得意なんだ。」

 

 暴君より譲渡された二挺の特製魔銃の一つ、イタクァを模倣した氷結弾。

 本家よりも威力は劣るが、その分コストが低い良心的な代物だ。

 これにより、衝撃や斬撃に滅法強いベルゼビュートをあっさりと無効化した。

 

 「そろそろ決めるぞ。」

 「オッケー!呪文螺旋(スペル・ヘリクス)--神銃形態!!」

 

 二挺の銃が魔術文字に解け、更に追加で空中に無数の光り輝く魔術文字が乱舞する。

 まるで巨大な光の柱の様なそれは、ただ一つの魔術式の螺旋だ。

 光が終息し、アイオーン・リスタートの手に現れたのは、その全長を超える程に巨大な黒金の質量。

 アイオーンの頃から殆ど変わらない、魔法使いの杖にして銃。

 巨大な杖を両手で腰だめに構えると、その先端が獣の咢の様に展開して砲口を形成、その先に魔方陣が浮かび上がる。

 アイオーンの持つ最大火力にして最大奥義を放つ、必殺の構え。

 しかし、このまま放っては如何に結界で守ってあるとは言え、周辺への被害は甚大なものとなってしまう。

 

 「フーン機関、展開!」

 「突撃ぃ!!」

 「ヒャッハー!!」

 

 アイオーンの背部、そこにあるバックパックの装甲の一部がスライドし、内蔵した推進器たるフーン機関を露出、呪文螺旋を銃剣の様に構えると、動きの封じられたベルゼビュート目掛け突撃する。

 その物理法則を超越した加速力を遺憾なく発揮し、一歩目から音速を超過、大気の壁を蹂躙しながら突撃する。

 

 「確保ぉ!」

 

 その一突きは狙い違わずベルゼビュートの胸部を穿ち、しかし展開された術式によって貫通もされずに捕縛され、突撃の勢いのまま進む。

 

 「ブレーキィ!」

 

 しかし、そのまま突き進む事なく、ベルゼビュートが招喚された門の付近まで行くと急停止、その杖先を真上へと向け、ベルゼビュートを持ち上げる。

 それはつまり、もう誰も巻き込まないという事。

 

 「収束完了!射線確保!」

 「イア・クトゥグアーーーーーッ!!」

 

 そして、杖先から炎が放たれた。

 その炎は巨大な獣の形を取り、怒りに満ちた咆哮とその顎に捕らわれたベルゼビュートと共に空高く上っていく。

 やがて、地表より遥か遠く、それこそ一部の航空機しか到達できない高度に達すると、

 

 「「爆・散!」」

 

 莫大な熱量と光が炸裂し、消滅した。

 それらが収まった時、既に銀座には瘴気の残りも人々の遺骸もなく、無数の人食い蝿や蛆は勿論、二体の鬼械神の姿もなく。

 先程までの絶望が嘘だったかの様な、綺麗な青空しか残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後に、生き残った銀座事件の被害者達は挙って語る事になる。

 

 曰く、「あの日の銀座には太陽が三つも存在した」と。

 

 

 

 




覇道財閥もなけりゃアーカムでもないんだし、そりゃ格下でも苦戦するわなって
ただし元々の性能差がダンチなので苦戦以上はしないというね


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第六話 暗躍

 「あ~~だりぃ~~。」

 「あいす…うめ…うめ…。」

 

 久々の鬼械神同士の戦闘から既に一か月。

 突如銀座に開いた異世界との門に関する事件において、正体不明の美少女双子姉妹と言われて今なお世界中で語り草にされ、各国の諜報機関並びマスコミ他多数が血眼になって捜索している二人はと言うと、相変わらず残暑厳しい東京某所のマンションの一室で堕落の限りを貪っていた。

 片や窓際の一番風当りの良い場所で寝転がり、片や日陰で今週のジャ○プ読みながらアイスを齧っている。

 先日までの凛々しく美しい姿は微塵もなく、「何それ幻覚?お薬でもキメてたの?」ってな具合だった。

 

 「あーもう!2人とも邪魔邪魔!ゴロゴロしてないで散歩にでも行ってなさい!」

 

 各種サブカルチャーグッズに囲まれた二人の楽園に、しかし今日は珍しく第三者がいた。

 その名も暴君ネロ、またの名をエンネア。

 あの無限螺旋において常に我が子に殺され続ける宿命を背負わされていたロリママである。

 ついでに大十字九郎ガチ勢の一人である。

 

 「だってマスゴミとかが五月蠅いし…。」

 「日光で溶ける…溶けちゃう……。」

 「溶けないし、マスゴミなんて今更どうとでもなるでしょ!こんなずっとゴロゴロしてたら不健康!いい加減に動きなさーい!」

 

 ネロの一喝に、渋々リーアとアーリもクソダサTシャツとパンツから着替えるべく動き出す。

 なお、Tシャツに書かれているロゴはそれぞれ「Arts」と「Quick」で、勿論色は青と黄緑だ。

 ……どこでこんなもん買ってきたのだろうか?

 この世界ではまだFGOは始まっていないと言うのに。

 

 「ママだ……ネロママ……。」

 「ママみ……これがママみ……。」

 「貴方達のママになんてなってないよ!ってコラ!抱き着くな!」

 

 小さなロリボディに溢れ出る母性を感じてか、リーアとアーリの二人は今は同じ様な体型のネロに甘えようと生存者に群がるゾンビの様に、或いは蜘蛛の糸を求める亡者の様に縋り付こうとする。

 そこで、唐突に玄関がガチャリと開き、ある人物がこのカオスな状況に参加した。

 

 「なら僕も混ぜてくれないかな、母さん!」

 「なんで貴方まで参加してくるのー!?」

 

 金髪金眼の美少年、自称大学生のボンボンことペルデュラボー君(婚約者エセル付き)が現れた!

 

 「あ、お邪魔するわ。はいコレお土産。」

 「おひさー。さ、狭い所だけど上がってよ。」

 

 そしてちゃっかりとアーリは一緒に入ってきた旧知の友人たるエセルからお土産のケーキを受け取るのだった。

 なお、ケーキはケーキでも3○のケーキ型アイスな模様。

 

 

 ……………

 

 

 「で、どうすんのさ?」

 

 一同にケーキと氷入り麦茶がサーブされ、もそもそとケーキをぱくついた後、ネロが唐突に切り出した。

 なお、ケーキはいつも行列のできる美人パティシエで有名な店なのだが、ペルデュラボーのウインク一つでほぼ並ばずに済んだそうな。

 

 「どうとは?」

 「とぼけないで。また混沌のお遊びに付き合う気?」

 

 ジロリ、とネロがリーアを睨む。

 並みの魔導士では失神しかねない程の威圧に、しかしリーアは困った様に、すまなそうに眉根を寄せるだけだった。

 その様子に、エンネアはただ溜息をついた。

 

 「二人が九郎とアルの真似しなくちゃいけない道理なんて無いんだよ。」

 「あるとも。何よりも私達がそう思っている。」

 

 リーアの言葉に、アーリもまた黙って頷く。

 あの戦い、斬魔大戦とも言われる数多の宇宙を巻き込んだ戦いにおいて、渦動破壊神となったデモンベインを討った二人は、その志を引き継ぐ事を誓った。

 大十字九郎、アル=アジフ、デモンベイン。

 彼らを尊敬していた、慕っていた、愛していた。

 師として、友として、恋人として、母代わりとして。

 だからこそ、道を違えてしまった彼らを泣きながら殺した。

 その魂が今何処の世界にあるかももう知らない。

 しかし、例え知った所で二人は決して会いに行かないだろう。

 その志を継いだとは言え、彼らを殺した当人は自分たちなのだ。

 今更どの面下げて会いに行けば良いのだと、二人は自戒していた。

 

 「頑固なのはちっとも変わってない。」

 「悪いな。これだけは譲れない。」

 

 そんなリーアとネロを、残り三人は穏やかな目で見守っていた。

 

 「無論、そっちにゃ迷惑はかけない。」

 「今現在進行形でかかってるんだけど?」

 「「ごめんなさい。」」

 

 ネロの言葉に、リーアとアーリは綺麗に揃って土下座を披露する。

 混沌関係なく、この三人の関係は決まっていた。

 

 「ふふふ、三人とも相変わらずだねエセル。」

 「そうですね。相変わらず元気な様です。」

 

 そして万年新婚熟年夫婦はのほほんと麦茶を啜りながらその様子を眺めるのだった。

 

 

 なお、この後滅茶苦茶スマブラやってお開きになった

 

 ……………

 

 

 現在、世界中はパニックに近い様相だった。

 

 何せファンタジーの存在が実際に確認されたのだ。

 それも異世界だけでなく、恐らく地球産のものまで。

 これはリーアとアーリが態々アイオーンに搭乗しての戦闘時、外部音声をONにしたまま戦闘を行っていた事に由来する。

 彼女らの詠唱は日本だった事もあって日本語だし、その内容は基本クトゥルー神話を基とした魔術である。

 加えて、あの日の銀座には多くの外国人旅行客も存在し、その中には有名な国際ニュース番組に努める人物もいた。

 更に昨今では個人の携帯端末の発展も著しく、彼女らの活躍はかなりの人々が見て、撮影に成功していたし、監視カメラ等にもばっちり映っていた。

 この映像、当初は規制されたものの、大勢の人々から流出した事もあって規制に失敗していた。

 戦闘シーン、特にベルゼビュートが招喚されてからは精神に異変を来たす人々が多く発生したためだ。

 しかし、そんな危険を踏まえてもあの事件の映像を見たい・広めたいと某動画サイトでは削除される量の倍以上の映像が投稿されてしまい、規制は不可能だった。

 また、事件後の封鎖された銀座の惨状、特に銀座中心の門及びビル以外のほぼ全てが圧倒的熱量でドロドロに溶けた様子は、動画以外でもあの事件の余りの非現実さ、異常さを知らしめていた。

 更には以前の銀座での集団行方不明事件の被害者らにも再度注目が集まり、テレビや新聞で門の向こう側の世界の情報が知られ始めると、事態はより一層混迷を深めた。

 特に日本は彼らの他にも多数の拉致被害者が現在も門の向こうにいる事を知り、派兵するか防衛に徹するかで大いに揉める事になった。

 こうした物証により、世界はファンタジーの実在を、神々の実在を確信する事となる。

 これには宗教関係者を中心に万歳三唱だったものの、逆にクトゥルー神話を知る人々は絶望の余りにSAN値チェックが入る者が続出した。

 だって、クトゥルー神話である。

 絶望と混沌、恐怖と冒涜が蔓延るカルト的人気を誇る神話である。

 そうした人々から、或いはニュースや雑誌で得た知識により、それまでクトゥルー神話を知らなかった人々もあの神話の存在を知り、絶望に膝をついたりした。

 特にアメリカ等は宗教的にも、神話の舞台的にも不味いと感じ、国内での徹底的な調査を実行し、異種族やカルト教団等を発見してしまい、一部で州軍並び国軍が出動する事態にもなっていた。

 そんな訳で世界は異世界の門ヤッター!ではなく、クトゥルー神話とか絶望じゃないですかヤダー!と叫ぶ破目に陥っていた。

 

 世界中がそんな事になっているのを尻目に、リーアとアーリはさくっと各種準備を進めていた。

 具体的には各国の地脈の結節点、龍穴に拠点を設営、そこから湧き出る地球のオドを貯蓄し、いつでも使えるように仕立てたのだ。

 無論、守護神銀鍵機関等の文字通り無尽蔵の魔力を汲み出せる炉はあるのだが、それでも用心に越した事はない。

 加えて言えば、奴がこちら側で何かやらかす場合、無よりも利用できる有の方が手間が少ないと判断する可能性もある。

 そういった場合の防犯ブザー程度の役割も兼ねている。

 これにはリーアとアーリだけではなく、「しょうがねーなー」となんだかんだ付き合いの良い邪神一家三人衆の手も借りている。

 何せ世界中の龍穴であり、中にはでっかい建物が建ってたり、大都会のど真中だったりするのだ。

 幾ら隠形や認識阻害の術をかけた所で、ばれる可能性は常に存在する。

 良くも悪くも有名人になってしまった弊害だった。

 他にもイブンカズイの粉薬の材料を始め、有用そうな素材やら何やらを片っ端から集めつつ、神代の彼方へと去った地球の神々に代わって地球の霊的防衛網(実際は精々早期警戒網程度)の構築に勤しむのだった。

 

 

 ……………

 

 

 アメリカ合衆国 ホワイトハウス

 

 

 「門はフロンティアだよ。」

 

 そこの主人たるディレル大統領は、居並ぶ補佐官や副大統領、閣僚に向けて告げた。

 

 「同時に、極めて危険な兵器に成り得る。」

 

 大統領は、あの門の性質にすぐに気づいた人間の一人だった。

 自国の優れた研究機関及び同盟国たる日本からの情報から辿り着いた結論。

 それはあの門の向こう側の世界の商業的価値、そして門そのものの戦略的価値だった。

 

 「もし仮に、あの門が中華等の東側に渡ってみたまえ。絶対的な兵站を手に入れるだけでなく、何時何処でも大軍を展開できる上に、最悪ノーリスクの戦略兵器に化けるぞ。」

 

 例えば、敵国の首都と海を繋げたとする。

 津波にも似た被害により、敵国の首都は機能不全に陥り、何も出来なくなるだろう。

 また、好きな時好きな場所に自国の軍を展開できれば、圧倒的に有利となる。

 そうなれば、数だけは多い中華相手に、米国と言えどもどれだけ持ち堪える事が出来るか分からない。

 

 「加えて言えば、あの魔法使いの少女達。彼女らが使った魔法もまた極めて危険だ。」

 

 この世界で初の鬼械神同士の戦いの現場となった銀座では、あらゆる科学的調査が行われた。

 幸いと言うべきか、そこは多少の瘴気の残滓こそあったものの、人に害なす怪異や魔性の類は全て焼き払われた後だったため、調査に当たった人員に被害が出る事は無かった。

 そこで行われた調査で判明したのは、科学の輩では及びも付かない超常現象が起きたという事だった。

 先に出現した多数の生物兵器を扱うロボット?。

 特に後から少女達が魔法で呼び出したロボット。

 無論、彼らもまた後者が街や人々への被害を避けるために最大限の配慮を行った事は映像からも確認されていたが、それ即ち彼女達が国家の敵ではないという事の証明にはならない。

 前者のロボは遠距離からの飽和攻撃でまだ何とかなるかも知れないが、後者は核ミサイルの飽和射撃位しか手立てがない。

 何せあの黒いロボット、極小範囲で極短時間であったものの太陽の表面温度に匹敵する炎を放っていたのだ。

 更に最後に出した炎の獣に関しては、試算だが最新の戦略核弾頭を超える威力を発揮した可能性すら指摘されている。

 一個人、それも見た目は幼い少女二人が大国に匹敵するかそれ以上の戦力を運用している?

 その事実に、大統領は頭が痛くなりそうだった。

 

 「現在、我が国だけでなく、日本も公安や警察を最大限動かして捜索しています。ですが…」

 「分かっている。過去の映像記録は多少あれども、他の痕跡は一切無いのだろう?」

 

 現在、リーアとアーリは世界各国が注目する中、その所在の一切を掴ませなかった。

 無論、目撃情報や監視カメラの映像から東京都内の何処かに定住しているとは推測しているが、それ以上は無理だった。

 

 「仕方あるまい。魔法使い相手の追いかけっこなんて、何処の国も想定していないからね。」

 

 偏にこれに尽きた。

 彼ら日本の治安維持組織は日常に隠れ潜む犯罪者や工作員を炙り出すのは経験も実績もあるのだが、魔法使いというファンタジーの住人、それも人類史上でも最高峰を相手にしてはどうしようもなかった。

 

 「それで、国内の調査はどうなっているかね?」

 「現在、あの神話の舞台のモデルとなった土地に関しては調査が進んでおります。お手元の資料をご覧ください。」

 「ふむ…。」

 

 大統領の持つ資料、当然の用にトップシークレットと判を押されたソレを読み進める大統領。

 その表情は最初から最後まで険しいままだった。

 

 「広大かつ自由を標榜する我が国とは言え、ここまでこの様な連中がのさばっていたとは…。」

 「正直、このタイミングで気付けたのは幸運だったかと。遅ければもっと被害が拡大していました。」

 「おぉ神よ…。」

 

 その資料には悍ましく、冒涜的で、人命を何とも思っていない者がこの合衆国に潜んでいた事がありありと分かる内容が記されていた。

 

 「押収した各種資料は全て研究班に持ち込まれていますが…。」

 「研究員が発狂するケースが相次いだので、直接触れるのではなく電子機器を介在する形になりました。」

 

 覇道鋼道っぽい事をやって最適解を導き出す辺り、アメリカの持つ人材の有能さと層の厚さ、柔軟性がよく分かる。

 

 「もしバイオハザードが発生した場合、分かっているね?」

 「勿論です。常に研究所周辺には海兵隊一個師団に加え、爆撃機が待機しています。」

 「よろしい。」

 

 最悪の場合はガチの滅菌作戦の辺り、彼らはしっかりとクトゥルー神話関連のブツの危険性を認識していた。

 が、その程度ではまだまだ足りないのを彼らはまだ知らない。

 

 「今後も国内の浄化は手を抜かないように。対抗策の開発もね。」

 「は。」

 「門に関しては今現在の我々では手を出せないし、出すべきではない。初手のリスクは日本に負わせよう。」

 

 正直、国内の混乱が収まるまでは派兵とかはしたくないし、出来ない。

 国内の浄化が終わるまで、何時何が起こるか分からない。

 もしもの時の戦力を考えると、迂闊な行動は出来なかった。

 

 チリリン

 

 「ん?」

 

 不意に、大統領の耳に鈴の音が届いた。 

 途端、数名の閣僚らが部屋の中央のテーブルから後ずさった。

 

 「どうしたのかね?」

 「大統領、それが突然電話が…。」

 

 部屋に備え付けの電話は、大統領の執務机に置いてある。

 だが今、部屋の中央のテーブルには、古風なアンティーク調の黒電話が置かれていた。

 それには電源ケーブルもアンテナ類も無かった。

 なのに、古い時代のドラマに出てくるかの様な呼び出しベルの音が響いていた。

 

 「大統領、ご無事ですか!?」

 

 室内の異変を感じ取ってか、即座に控えていたSPがやってきた。

 大統領は彼らに示すように、テーブルの上の黒電話を指差した。

 

 「すまないが、誰か取ってくれないかな?」

 

 大統領のその言葉に、誰もがギョッとした。

 無理もない。

 よくある怪談の様に呪いの電話とかだったらと思うと、誰も取りたくなかった。

 

 「では私が。」

 「すまないな。」

 

 そこでSPらの中で最も年嵩の人物が名乗り出る。

 彼はこの場のSPの指揮官でもあり、合衆国への忠誠も部下達からの信頼も厚い男だった。

 

 「私に何か異変を感じたら、迷わずに撃ってくれ。」

 「了解。」

 

 素早く指示を出し、ゆっくりと受話器を手に取り、顔に当てる。

 

 「ハロー?」

 『ハロー。そちら、ホワイトハウスで合っているかな?』

 

 その声は、彼も映像で何度も聞いた事のある声だった。

 

 「その声は銀座の魔法少女か。一体どうやって電話を置いたんだい?」

 『その部屋には120度以下の鋭角が無数にある。幾らでも潜り込めるさ。』

 

 なんて事のないように話す少女の言葉に、知らず耳を澄ませていた一同は戦慄する。

 この魔法使いの少女は例えあのロボットに乗っていなくとも脅威なのだと、銀座での生身での戦いで猛威を振るっていた様子は一切の誇張が存在しないのだと、彼らは改めて思い知らされた。

 

 「それでは、ご用件をどうぞ。」

 『大統領と話したい。』

 

 その言葉に、その場にいた者が目を丸くする。

 が、当然とも考える。

 今この場には大統領をトップに合衆国の中枢と言える人材が揃っている。

 そして、何か話をするのなら、これ程丁度よいタイミングもない。

 それでも、大統領に電話を渡すべきか否か、熟練の兵士たるSPにも判断がつかなかった。

 

 『内容は協力の提案だ。今後のためにも、米国とは仲良くしたい。』

 「よし、私が代わろう。」

 

 聞こえてきたその言葉に、ディレルは腹を括った。

 

 

 

 

 

 

 

 後に、ディレルは大統領退任後、この日の事を日記でこう述懐している。

 

 曰く、「あの日の電話と同じ位緊張したのは、大学の合否と大統領選の結果以来だったよ」と。

 

 

 

 

 



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第七話 足場固め

 その日、合衆国の、世界の歴史に残るだろう電話会談があった。

 その内容は公開される事はないものの、合衆国の非公式な記録にして重大な引き継ぎ事項の一つとして受け継がれる事となる。

 

 

 「ふぅぅぅ………。」

 

 受話器を置いた大統領は、額の汗を拭う事もせず、深く深く息を吐いた。

 それだけの緊張が彼の両肩にかかっていた。

 

 「よろしいのですか、大統領?」

 「現状、彼女らが世界で唯一の専門家である事に間違いはない。何より他の国に持ち込まれたくない。」

 

 実際、もしロシアや中華辺りに持ち込まれたら、どんな事態になるか見当もつかない。

 あのロボットが量産されでもしたら、それこそ第三次大戦待ったなしになってしまう。

 加えて、COD対策は本当に喫緊の課題であり、大統領としては異端とされる彼女らの手も借りたかった。

 

 「それに分かり易い利益も提示してくれた。」

 

 大統領の視線の先には、先程黒電話の下にある引き出しから出したものがあった。

 一つはUSB。一つは奇妙な五芒星の刻んであるよく磨かれた大理石。

 そのどちらも、今の合衆国には大変価値あるものだった。

 

 「直ぐに研究班に持ち込んでくれ。後、用心のためにくれぐれも素手で触らないように。それと…」

 「この部屋の改装、ですね。」

 

 こうして、事件発生から約一か月、アメリカは次のステージへと向かう事となる。

 

 

 ……………

 

 

 「んで、良かったん?国の紐付きになって。」

 「あぁ。」

 

 アーリのその言葉に、リーアは懐かしいものを思い出しながら答えた。

 

 「シュリュズベリィ先生を覚えているか?」

 「そりゃねぇ。」

 

 二人にとっては魔術の師匠の一人であり、狩人としての先達であり、ミスカトニック大学の教師としての先輩であり、そして家族でもあった人だ。

 彼は老いてからホラーハンターとなった人間であり、世界に広がるクトゥルー崇拝の拡大を阻止しようとその脅威を訴え続けた人でもある。

 が、そんな事してたら崇拝者や眷属どもに追われるのは当たり前で、逃げに逃げて遂にはセラエノにまで逃げ遂せた。

 そして、彼はこの地の大図書館にて邪悪なる神々、特に旧支配者と彼らが持つ知識を調べた。

 しかし、彼はその過程で敵の、人類の脅威の余りの巨大さに心折れ、絶望し、遂には両の目を抉った。

 だが、彼は最後には立ち直った。

 セラエノの大図書館で20年に渡り調査を続け、遂には己の得た情報を纏めた魔導書「セラエノ断章」を著して地球へ帰還し、ホラーハンターとして改めて戦う事を、後進を育てる事を誓ったのだった。

 

 「いやー今思い出しても超☆アメリカン!な先生だったよなー。」

 「まーなー。」

 

 邪神復活の儀式にダイナミックお邪魔しますしたり、悪名高きインスマウスの悪魔の岩礁に核ミサイルぶち込んだり、邪神の眷属を崇拝して生贄の儀式やってる邪悪な孤島の少数民族をやっぱり核投下したり、復活しかけてたクトゥルーに核爆弾ぶち込んでまた押し込めたりと、実にやりたい放題なファンキーな爺様だった。

 なお、これらは全てミスカトニック大学の陰秘学科の生徒達を連れ、米軍と共同しての事である。

 ついでに言えば、自分で書いたセラエノ断章の精霊ハヅキは孫扱いですんごく甘かったりする。

 ハヅキはハヅキでダディと甘え、「うちのレディを嫁に出すなら私より強くなくてはな」「私と契約するならダディを安心させられる位じゃないと」と互いに言ってたりする。

 そして何より、どんな窮地であっても絶対に生徒達を見捨てない人だった。

 

 「私らもあーすると?」

 「懐かしき教師生活も悪くあるまい。」

 

 しょっちゅう見合い勧められたり、告白されてたミスカトニックでの教師生活。

 今思えば何もかにも懐かしい。

 

 「こちらの米国にどれだけ適正がある者がいるのかは未知数だが、始めねば芽も育たない。」

 「だぁね。とは言え、フットワークは重くなる。その点だけは覚悟しとけよ。」

 「言われるまでもない。」

 

 後進を、自分達だけでなく、人の中から時代の抵抗者を育てる。

 それはとてつもなく困難であり、そのためにより大勢が死ぬかも知れない。

 しかし、やらねばならない。

 あの斬魔大戦を経てもなお、全ての宇宙から邪悪が去る事は無かった。

 ならば、少しでも増やさねばならない。

 邪悪と戦い続ける者を、志を継いでくれる者を、圧倒的邪悪を前にしてなお立ち上がる者を。

 かつての世界では覇道財閥とミスカトニックがそれを成したが、この世界にはどちらもない。

 なら、ノウハウを持つ自分達でやるしかないのだ。

 

 「所で渡して良かったの?破壊ロボシリーズの基礎設計図。」

 「寧ろなんで渡さないと思ったし。」

 

 あれら、デモンベインの前では性能負けしてるものの、あれはデモンベインが異常なだけで、純粋科学の産物としては異常なまでに強いのである。

 魔術理論搭載前であっても、ある程度は鬼械神に対抗可能であり、場合によってはデモンベインを撃破できる可能性すらあるのだ(実際、初期型デモンベインは結構負けてたりする)。

 魔術理論搭載後はあのマスターテリオンもちょっとびっくりする位には凄いし、五体合体のスペシャル仕様はワダツミⅡを撃破した実績もある。

 加えて、破壊ロボの系譜は広まって対邪神眷属への戦力として採用された世界すらあるので、既に実績もあるのだ。

 まぁ魔術理論込みはまだ早いと思って、その辺は添削してあるが。

 

 「まぁ他にもブラックロッジの平構成員向けのパワードスーツや完全人型仕様とかなんちゃってATもあるけどさ。」

 「それ確かドクターん所にいた時に作った趣味の奴だろ?」

 「当たり。死蔵するよりマシだろう?」

 「米軍でリアルウォーマシンとか簡易エステバリスとかイェーガー軍団が見れるのか……胸が熱くなるな…。」

 

 そんな実にオタク心擽られる会話はさておき、二人がディレル大統領に提案した事は一つ、技術提供並び人材育成の協力である。

 大まかな内容は以下の通りとなっている。

 

 

 ① リーア&アーリは対CODにおいてアメリカ合衆国に協力する。

 ② リーア&アーリが対CODにおいてアメリカ合衆国に協力を要請した場合、アメリカは率先して協力する。

 ③ 対CODに向け、リーア&アーリはアメリカに対し技術提供並び魔術師の育成を行う。

 ④ リーア&アーリが合衆国の不利益となる行為を行った場合、後日必ずその不利益を超える利益を出す事で償いとし、尚且つ正式に謝罪する。逆もまた同じである。

 ⑤ この関係は双方にとって不利益となるまで続けるものとする。

 ⑥ 大統領交代後、可能な限り早急に契約を更新するものとする。更新が無い場合、この契約を破棄する。

 

 

 敢えて穴空きガバガバな内容になっているが、何もかにもを雁字搦めにしたら咄嗟の事態に際して動けないため、こんな感じになった。

 なお、手始めに黒電話の下の台座部分の引き出しに、お守りとして機能するエルダーサインの彫られた護符と破壊ロボットの基礎設計図他多数入りのUSBを入れておいた。

 また、米国の方でも早速公的身分の作成を行ってもらう事になっている。

 

 「所で日本でなくて良かったん?」

 「現場は兎も角、外交に政治屋や隣国、9条とか諸々片付くまでは本籍置くのはちょっと…。」

 

 残当だった。

 

 「つーか、いい加減西日本一帯で暴れてる隣国からの盗賊共どうにかせんと霊的治安崩壊しかねんぞ。」

 「だよなー。仏像盗難どころか寺や神社に火ぃつけたり封印の札とか石仏とか壊すのマジ勘弁。」

 「盗んだ仏像とかを『ウリの国のもんニダ』とかマジやめろ。」

 

 なおガチリアル話である(憤慨)。

 

 「霊的治安が崩壊した所に侵食とか大得意のクトゥルー系魔術でいつの間にか大規模招喚術式が刻まれて…」

 「やめろください。」

 

 実に洒落にならない話だった。

 というか、日本は世界中の龍脈の結節点に当たるので、霊的治安が崩壊すると即座に世界中に波及するのでマジふざけんなという話である。

 

 「京都とか東京はまだマシなんだよなー。」

 「イギリスとか欧州も比較的な。」

 「問題はアメリカさんなんだよな。新大陸開発のために原住民皆殺しとかしてたせいで、霊的治安が脆弱なんだもん。」

 「下手に滅んだり弱体化したりして世界的に治安が悪化すると、邪悪に転ぶ連中が増えるしな。」

 

 基本、平和で満たされてる生活を送ってれば、人間は邪悪に転ばない。

 しかし、治安が崩壊して生活に困窮すると、途端に転ぶ人間は増えるのである。

 

 「最悪、門を壊して封鎖かなぁ…。」

 「その前にあっちでの奴の根拠地にクトゥグアで。」

 

 そんな話をしつつ、二人で魔術師のひよこを育てるためのテキストや教材の作成を進めるのだった。

 なお、題名は「チキチキ★これで貴方も新米魔術師~ポロリ(臓物)しないように~」だったりする。

 

 

 

 

 そんなこんなで次回に続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第八話 教育

 銀座事件から二か月が経った頃。

 当事者の日本では事態の責任追及ならび憲法改正や特別法案の通過等で首相の交代含む政治劇が行われていた頃は、同時に世界各国が神秘が戻ってきた事による混乱に対して慌てている頃だった。

 妖怪が、精霊が、幽鬼が、動死体が、カルト教団が、狂信者が、崇拝者が。

 ありとあらゆるファンタジーの負の側面の存在がそれまでの静寂を破る様に表に現れだした頃だった。

 歴史ある国や民間にまだまだ呪術師や祈祷師が息づく国や地域は対処法もしっかりと伝わっているために、まだこの混乱に民間レベルでは対処できた。

 しかし、その歴史の上で過去を汚物として排除した国や過去を蹂躙して成立した国ではそうはいかない。

 地脈やその土地固有の存在を鎮めるための寺社仏閣に神殿や巨大石等を取り除いてしまった結果、その土地は荒れ果て、人に仇成す怪異を呼び込んでしまう。

 中東やアフリカを始めとした宗教・民族対立が酷い地域では互いの信仰を懸けての紛争が激化した。

 対して先進国はと言うと、多くの者が崇める三大宗教の神々の降臨を願いつつも、噴出するファンタジー系問題に対処するので精いっぱいだった。

 また、ヴァチカン等は頻発する悪魔や悪霊の脅威に専門の悪魔祓いの神父らが駆り出され、余りの人手不足に悲鳴を上げていた。

 こうした混乱はその歴史から中国・ロシア・アメリカが最も酷く、混乱が続いた。

 そして、この中で最も早く立ち直ったのが、唯一の超大国となってしまったアメリカ合衆国だった。

 

 アメリカ合衆国国防総省 統合参謀本部付き大会議室

 

 アメリカは大なり小なり混乱する他国よりも遥かに迅速かつ積極的に行動していた。

 その結果、ここには今現在、米軍の中から選抜された陸海空全てから集まった軍人達が集まっていた。

 その内訳は多種多様過ぎて、最早混沌としている有様だ。

 老若男女は言うに及ばず、階級は新兵の二等兵や初等空兵から一目で歴戦と分かる佐官まで揃っていた。

 今日、彼ら彼女らがこの場に集まったのは、たった一つの新設部隊に配属される前の合同説明会に参加するためだ。

 対COD特殊任務部隊、それが新設される特務部隊の正式名称だ。

 アメリカ国内のみならず、世界各地で続々と発見される人類に敵対的な非科学的存在及び現象に対処するために新設される部隊であり、主に通常の軍では対処できないと判断された場合に出動が決定する。

 場合によっては国内のみならず、国外にも迅速に展開する必要もある。

 また、対CODをメインに新たな戦略・技術・概念等の立証実験や実戦試験等も行うため、特殊部隊と試験部隊の相の子の様な感じになる予定だ。

 そして今日、今まで機密とされていたこの部隊の指揮官が姿を現した。

 

 「今日から君達と共に対魔術戦略研究教導隊に所属するリーア・アシュトンだ。」

 「同じくアーリ・アシュトン。よろしくー。」

 

 室内に動揺が走る。

 彼女らをこの場の全員が知っていた。

 驚く程美しい、銀髪碧眼の双子の美少女。

 あの銀座事件において、彼女らの活躍が撮影された多くの資料を彼らは全員が穴が開く程に閲覧していたのだから。

 しかし、それでも彼女らの外見は幼い少女だ。

 幾人かはその実力を映像で見たというのに、懐疑的な表情を浮かべている。

 

 「ふむ、皆こう思っているだろうな。『どうして此処にいるのか』と。」

 

 にやにやと笑うアーリを横に、リーアが壇上でそう告げる。

 実力的にも、日本で活動していた事実からしても、彼女らがアメリカで新部隊の指揮官になる理由が分からない。

 

 「とは言え、色々語る前に必要な事を済ませよう。」

 「全員、歯ぁ食いしばれよー。下手すると死ぬ。」

 

 は?と疑問に思った者が大半で、幾人かの勘が良い者だけは(あ、やばい)と思って言う通りにした。

 その次の瞬間、

 

 

 「では死ね。」

 

 

 リーアが「少しだけ」威圧した。

 少しと言っても、それは彼女の主観からだ。

 普段は抑えているものを、ちょっと開放したに過ぎない。

 邪神一家相手なら、遊んでる最中にちょっと漏れたり出し合ったりする程度のジャブにもならないもの。

 しかし、考えてみてほしい。

 彼女は白と黒の王に続く、灰の王。

 そして、今や渦動破壊神をも討伐した、三千世界でただ一振りとなってしまった魔を断つ剣なのだ。

 そんな半邪神半人の気当たりが、鍛えているとは言え普通の人類にはどう感じるのだろうか?

 

 

 「「「「「「「「「「「「「………………ッ!?」」」」」」」」」」」」」

 

 

 その場にいた全員の総身が総毛立つ。

 凍る寸前にまで冷えた水を浴びせられた様な寒気が全身を走り抜ける。

 全身の神経一本一本全てが抉り出され、冷氷に浸したと思う程の強烈で鮮烈で、悍ましい感覚。

 そのまま凍死するに違いない程の、物理的衝撃すら感じさせる威圧感。

 それは、その場の全員にこれまで経験したどんな体験よりも死を実感させた。

 

 Q、どうなってんの?

 A、マステリ初登場時の威圧相当。失神するか最悪魂消る。

 

 広い会議室に沈黙が横たわる。

 この場にいた多くの者が圧倒的強者の、絶対者の存在感を前に気絶という形で逃げたのだ。

 何とかギリギリ気絶していない不幸な者もいるが、そんな彼らをしてガチガチと歯の根が合わない有様だった。

 こんなもん食らっといて動けるとかシスター・ライカと九郎君はすごいなぁ(こなみ)。

 

 「困ったな。この程度では対COD戦で前には出せないんだが…。」

 「まぁそれは要訓練って事で。」

 

 不意に、物理的圧力すら感じる気配が消えた。

 それで漸く室内に喧噪が戻り始める。

 何とか気絶しなかった(出来なかったとも言う)者が周囲の気絶した者を起こす。

 酷い者は失禁・脱糞のオンパレードなのだが、周囲は嫌そうな顔もせず起こす。

 彼彼女らは思ったのだ、アレは仕方ないと。

 

 「君達が戦う事となる者、遭遇する可能性がある者の中には、今の様な事を呼吸する様に行う存在だっている可能性がある。それを念頭に置き、職務に励んでほしい。」

 「で、説明会を始める前にー」

 

 ぐるり、と今まで黙っていたアーリが告げた。

 

 「先ずは30分の休憩な。トイレと着替え済ませてこい。」

 

 ぎこちない動きで、全員が一斉に動き出した。

 

 

 

 

 なお、同じ様な訓練を定期的に繰り返す事で、ある程度耐性が付く事になる。

 被害?徐々に減っていったけど、新入りは毎回洗礼の如く「見せられないよ!」してるよ。

 

 

 ……………

 

 

 「トイ・リアニメイター」という自動作業ロボットがある。

 元々はあのドクター・ウェストの作品だったのだが、無限螺旋の最中にデモンベインの応急修理用キット(後にデットウェイト扱いで削除)として組み込まれ、一緒に覇道財閥へと所属しちゃった代物である。

 これの良い所は一体作ると自分を複製し、登録されたものの作成・修理をほぼ全自動で行ってくれる処にある。

 

 「と言う訳で、これがそのトイ・リアニメイターだ。」

 

 殆ど端折った説明と共に実物を示すリーア。

 学者や科学者、整備班等がおぉ…と声を漏らし、ジャンクの山から自分の同型個体を複製しまくっているトイ・リアニメイターへと注目していた。

 

 「君達の仕事は簡単だ。こちらの渡すデータに則って色々作ってもらう。」

 「それに任せてはダメなんですか?」

 

 一人の年配の整備員の声に、リーアは首を横に振った。

 

 「ダメだ。あれはデータにあるもの、或いは計測したものしか作れないし、整備できない。あれにデータを入れるためにも、一度は我々で実物を作る必要がある。」

 

 既に米軍で採用されている大抵の兵器や装備のデータは入れてあるので、それらの複製・整備に関してはできるのだが、それはさておき。

 正面に設置されたモニターに、とある図面が表示された。

 

 「我々が作るのは先ず2つ。歩兵用汎用パワードスーツ、仮称ウォーマシーン。対中型怪異用汎用人型兵器、仮称エステバリスの2つとなる。」

 

 ウォーマシーンはデザインそのままのアイアンマンの親友が装備しているアレである。

 が、こちらは飛行機能はオミットし、生産性・整備性・信頼性を優先した構造となっている。

 飛行機能を付けるのはノウハウを積んだ後の予定だ。

 エステバリスは後に対鬼械神並び下位神格用のイェーガーや破壊ロボ等を作成・運用するためのノウハウを積むために作成する。

 性能的には高級なATとも言うべき代物で、戦車も入れない不整地かつ戦闘ヘリでは火力や閉鎖空間等の問題で対処できない様な状況で運用するためのもので、装備にもよるがある程度は鬼械神にも対抗できる(魔導理論採用したレールガン等)。

 なお、脱出機能はあるが、バリア機能も換装機能もワイヤードフィストもないし、頭部デザインはアカツキ機のデザインなので悪しからず。

 運用思想としては、鉄のラインバレルに登場する対マキナ用パワードスーツ?であるパラディンが近いだろうか。

 

 「これらを作るのが我々の仕事、ですか…?」

 「いや、これらはノウハウを積むための下地であり、最終目標はそこじゃない。」

 

 次に表示された図面に、先程よりも大きな動揺が走った。

 

 「対鬼械神用汎用人型兵器、仮称イェーガー。これこそが現在の我々の最終目標となる。」

 

 そこに表示されたのは、映画でも登場したある有名なロボの姿だった。

 全長は50mと原作よりは小さいが、その分コスト等は抑えられ、尚且つややこしい操縦系統はしていない。

 機体を操る操縦士と武装ほぼ全般を担当する火器管制の二人乗りは同じだが。

 限定的ながら魔術理論を組み込む事で対鬼械神・下位神格用の決戦兵器として設計された機体だ。

 元々はループ中にデモンベイン用兵装や新構造、新素材等を試験するために生まれた人型ロボットが原型だが、ドクターの下にいた頃にはデモンベインと幾度も戦った実績ある機体でもある。

 それらから試験用の要素を取っ払い、実戦用に信頼性・整備性・生産性を高めたものがこちらだ。

 デザインはほぼそのまんまジプシーデンジャーだが、動力炉は新開発の熱核融合炉(これだけで米国の州一つの電力を余裕で賄える)を使用し、両肩にマウントしたレールガン並び腕部に内蔵した電磁加速式パイルバンカーを主武器とする他、幾らかの内蔵武器やオプションを持つ。

 「核兵器を使わずに鬼械神を撃破するための兵器」であり、エステバリスで対処できない大型怪異等に対して、その質量と大火力を用いて撃破する。

 当初はプラズマ兵器の採用も視野に入ったが、ノウハウが足りな過ぎるので持ち越しになった。

 お値段?リーア&アーリが基礎設計も実戦運用も終わらせてる分のコストが浮いてなかったら、アメさんでも二の足踏む位です(白目)。

 

 「さて諸君、我々に残された時間は少ない。それぞれ大いに励んでくれ。」

 

 こうして、各人はお気に入りの玩具を得た少年の様な生き生きとした目で作業に取り掛かるのだった。

 

 

 ……………

 

 

 「百聞は一見に如かず!先ずは実際にクリーチャーと戦ってみようか!」

 

 そんなアーリの言葉と共に、兵士達の目の前でナイトゴーント(夜鬼)が召喚された。

 四肢の構造は人間に似ているが、皮膚はクジラやイルカの様な質感かつ真っ黒であり、コウモリに似た翼を持ち、顔があるはずの所には何もなく、牛の様な角と長い尻尾を持っている。

 まるっきり西洋の悪魔を彷彿とさせる姿に、さしもの兵士達も驚き、数歩後退る。

 

 「大丈夫だ。こいつは私が召喚したから、指示あるまでお前らに害さない。」

 

 召喚されたっきり、ずっと動かない怪物の姿に、徐々に兵士達にも落ち着きが戻ってくる。

 それでも警戒を解かず、腰のホルスターに手をかけている辺り、ちゃんと警戒はしているようだが。

 

 「さて、今日は先ずはコイツとサシでやりあってもらう。クリーチャーの類がどんなもんか、実地で体験してみようや。」

 

 にたり、とアーリが分かりやすく意地悪な笑みを浮かべる。

 

 「全員やるまで返さないかんな。ただし誰か一人勝てば終了な。」

 「あの、武器は……?」

 「栄えある米軍なんだから、先ずは素手で頑張ろうか。」

 

 室内演習場に、兵士達の悲鳴が響き渡った。

 如何に一体だけとは言え、ナイトゴーントは立派なクトゥルフ神話のクリーチャーである。

 武器無しで簡単に勝てる相手ではない。

 特に天井のある室内演習場(体育館みたいなもの)であっても、ある程度は飛べるし、鞭の様にしなる尾もある。

 屈強な兵士と雖もクリーチャー相手は新兵同然な彼らは、あっさりと捕まっては天井付近から落とされて死亡判定を受け続けた。

 それでもなお、無事夕飯前に終わった辺り、彼らの適応力と実力は本物であると言える。

 

 「よーし、明日は屋外演習場で装備ありの状態で、同数のナイトゴーントと対戦な!」

 

 しかし、アーリによるしごき(ループ中に九郎始めミスカトニック大学生らで実践済み)は終わりが見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何故原作デモベSS増えないん…?
いや、ここで書いてる方々は皆面白いSSばっかりなんだけどさ
Fate系とかに比べると数がね?


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第九話 日米

なお、ここまでほぼ原作組と絡みなし


 銀座に門が開き、ちょっと人類じゃ太刀打ちできない巨大ロボバトルが行われたあの日から、日本は超頑張った。

 

 具体的には理不尽な要求ばっかりしてくる諸外国(主に特亜)の難癖を避けつつ、被害者への賠償や各種生活保証を行い、銀座周辺の土地を買い上げ「店主死亡や撤退企業が多かったのでそこそこ安かった)て陣地化を行い、更に門の向こう側へと乗り込んで報復及び拉致被害者の救助を行うための法案成立と向かわせる自衛隊の編成と選抜や物資の手配と、それはもうすんごく頑張ったのだ。

 しかし、世界トップクラスの経済大国にだって、出来ない事はあった。

 

 そう、彼らは国内のファンタジー系問題に関して、殆ど何も出来なかったのだ。

 

 元々、戦前の陰陽寮の末裔や寺社仏閣の関係者、時々民間からの突然変異なんかの有志が国内の霊的治安を守っていた。

 必要な経費に関しては持ってる所が出すか、時々公安なんかの機密費等から出ていた。

 なお、本来ならちゃんと国が出すべきなのだが、GHQの頃にその辺の予算関係が一掃されてしまったため、こうして七面倒で表に出ないやり方でしか予算が出せなかった。

 現在は度重なるファンタジー系問題に対して正式な予算案が通過し、近々関連法案も通る予定になっている。

 なお、これら全てはマスゴミと外患誘致しまくる野党とか外国人によるデモ隊とかに妨害されている事を特筆する。

 アメリカの様にその筋の超専門家もいないのに、この対策へのスピードは流石災害大国日本と言うべきだろうか。

 しかし、しかしだ。

 どうにもならん問題もあるのだ。

 それを前にして、大泉首相は頭を抱えていた。

 

 「霊的諸問題へ対処する人材が、まるで足りません…。」

 「国内の人員で、使えそうな者はもういないのか…?」

 「いません。寺社仏閣の関係者も、新たに地鎮祭等をしっかりしないと祟る事例が多発し、時には無関係の一般人に障る事例も報告されています。他の事例も併せて民間からの依頼が激増しており、とてもではないですが門の調査に出せる人材がいません。加えて、例の盗賊団の問題がありまして…。」

 「警察に発破をかけろ。外交的な問題は何とかするから、必ず連中を捕えろ。後の始末がそいつらが無礼をした方々がつけてくれるだろう。」

 

 西日本を中心に好き放題をしている隣国からの盗賊団の所業により、西日本の霊的治安はガタガタと言って良かった。

 かろうじて国家規模での破滅的な事態は国内の関係者らの頑張りによって防がれているが、それ以外の部分はもう目も当てられない有様だった。

 それでも何とか一般人への被害が未だに極小なのは、昔からの習慣や行事をしっかり守ってくれる神主さんやお坊さん達、そして術者の皆さんがいるからだ。

 加えて、最近では米国による外交的圧力が加えられ、隣国からの盗賊団は減少傾向にある。

 が、それでも完全には消えず、寧ろブラックマーケットでは日本製のそうした遺物は品数が減少した分だけ希少価値が上がり、被害が出続けている。

 また、他の連中はその分大陸方面に向かっており、貴重な遺跡等を漁って文化財を盗み出してお守りや骨董品として売り捌いているらしい。

 

 「最早、我が国だけではどうにもならんか…。」

 

 そう言って総理が目を落としたのは、とある資料だった。

 最重要機密・部外秘と赤く英語で印字されているソレには、洒落にならない情報が載っていた。

 

 その内容は三つ、「神州世界対応論」と「門に対する現時点での調査結果」、「昨今の霊的事件の多発についての調査結果」。

 

 一つ目の神州世界対応論だが、これは「日本と世界の各地は地脈(龍脈とも)で繋がっており、日本列島の形状は世界の大陸の配置と対応させられる」とする論だ。

 首相は当初「月刊ムーの記事かな?」と思って読んだが、超頼りになるが無茶ぶりしてくる同盟国アメリカからの資料なので真面目に読んだ。

 この論を応用する事で、世界各国の動きを先読みしたり、日本の影響下に置く事ができるとされているが……それは悪い意味でも通じる。

 つまり、「日本で起きる悪い出来事は、地脈を通じてその土地に対応する国や地域でも起きる」という事である。

 で、だ。

 これを念頭において、次の二つの情報を見てみよう。

 

 二つ目の「門に対する現時点での調査結果」。

 こちらは文字通りのものであり、あの門に対する現段階での調査結果の報告書だ。

 首相は知らないが、作成者はあの二人である。 

 調査報告書によれば、あの門の正体は異なる世界を繋ぐ、云わば「次元アンカー」の様なものなのだと言う。

 そして、異世界と地球のあるこちら側の世界はどの様な関係にあるかと言うと、「互いに自転と公転を続ける惑星」に近いのだと言う。

 で、今回の事例は公転軌道上で一番近い位置に並んだ惑星直列状態になった惑星同士が門というアンカーで繋がった状態だ。

 その状態なので、アンカーを通じて行き来できるが、その状態でも互いの惑星は自転と公転を行っている。

 惑星そのものじゃないので今はまだ大丈夫だが、何れ空間の歪が蓄積され、アンカーの破損か切断と同時に歪は解放されてしまう。

 そう、まるでプレートの歪が解放されて起きる地震の様に。

 地面ではなく空間で起きる地震に似た現象、空間震の発生である。

 門が繋がり続ける限り、歪は蓄積され続け、空間震はそのエネルギーを増大させる。

 これは距離で減衰する事無く、地球全土にほぼ同時刻に到達し、最終的には震度7以上となるだろう、と報告書は締め括っていた。

 

 三つ目、「昨今の霊的事件の多発についての調査結果」。

 他二つに比べれば専門用語が多くてやや難解だが、これも超大問題だった。

 要約すると、「門の向こうの世界は現在クトゥルー神話系の邪神からの侵略を受けており、物理法則にすら浸食を受けている。門を介してこちら側にも影響が発生しており、こちら側の世界そのものがカウンターとして嘗て神代の頃に去った神秘法則を呼び覚ましている。この状況が進めば、世界は神話の時代に逆戻りし、現代文明は不可逆の混沌に飲まれ、消失する可能性が高い」と言っている。

 新手の厄介なウイルスに感染した人体みたいだった。

 

 さて、これら二つ目と三つ目を頭に入れつつ、一つ目の「神州世界対応論」を読んでみよう。

 特に注目すべきは「日本で起きる悪い出来事は、地脈を通じてその土地に対応する国や地域でも起きる」の部分だ。。

 

 

 Q つまり?

 A 日本で起きてる様々な厄ネタが自動的に全世界にばらまかれます★

 

 

 世界で唯一となってしまった超大国アメリカ様が頭を抱えるのも当然な事態だった。

 現状のまま事態が推移すれば、地球はクトゥルー神話世界の神秘法則と空間震の二大災害に飲み込まれ、最終的災厄に見舞われるだろう。

 情報自体の信憑性はともかく、真実だったとしたらとてもではないが日本一国でどうにかなる事態ではなかった。

 

 「…アメリカを頼ろう。ホットラインを準備してくれ。」

 「畏まりました。」

 

 こうして、日本国首相は(現実って何だろう…)と思いつつ、自身の常識とか色々と戦いながら、世界最強の同盟国米帝様を頼る事にするのだった。

 

 

 ……………

 

 

 正式に日本からの救援要請を受けた米国の動きは素早かった。

 僅か三日で本国から選抜された兵士達がニミッツ級航空母艦(原子力空母)に乗って、横須賀在日米軍基地へと移動を開始した。

 また、他にも佐世保と沖縄(普天間と喜手納)の三基地にも合計一個師団が追加配置され、太平洋艦隊からも選抜された小艦隊が真珠湾から出発し、有事に備える予定だ。

 その中には対COD特殊任務部隊、通称「ホラーハンターズ」の姿もあった。

 他所の兵士達の多くが彼らの最新兵器に注目し、或いはあんなんが役に立つのかと疑問を感じているが、公開されたウォーマシンとエステバリスのシミュレーション(made inリーア&アーリ)をプレイしてみると、退屈な船旅もあってか誰もが夢中になった。

 何せ男の子なら誰もが夢見るパワードスーツとロボットなのだ。

 兵士達は童心に帰ったようにシミュレーションに入り浸り、熱中した。

 白熱する勝負に平然と賭博も行われ、その様子は備え付けのモニターだけでなく、悪乗りしたアーリによって食堂にも中継された程だった。

 

 「うちの隊長に50ドル!」

 「俺は100ドル!」

 「相手側には誰も賭けねぇのか!?」

 「「「「「だって隊長が勝つし。」」」」」

 「あーもう!賭けにならねーだろうが!」

 

 そしてリーアは選手として堂々と参加した。

 そのお姫様かお人形の様な容姿に突っかかってきたり眉を顰める兵士もいたが、その全てを実力で黙らせて勝利をもぎ取っていく姿は、ホラーハンターズからは畏怖され、それ以上に信頼されていた。

 

 「私に一度でも勝てたら、私特製の黄金の蜂蜜酒をやろう。」

 「え」

 「それ、隊長が作った『効果も凄いけど美味過ぎて飲み尽された』蜂蜜酒!?」

 「あぁ。つまみに特製ベーコン(何の肉かは秘密★)も付けるぞ。」

 「うおおおおおおお各員死ぬ気で挑めェーーー!!」

 

 こんな感じで兵士達との連帯を深めつつ、合間合間に日本からのデータを基に兵士達と戦訓の共有や図面引いたりと仕事をしつつ、遂に横須賀基地に到着した。

 

 「これから我らが極東の友人と共に赴くのは前人未到、正体不明の異世界の大地だ。多くの困難が予想されるだろう。だが、私は君達となら何の不安もない。必ずやその任務を果たしてくれるだろうと信じている。それは何故か!」

 「「「「AHEAD!AHEAD!GO AHEAD!」」」」

 「そうだ!どんな化け物だって殺してみせる!我らこそホラーハンターズ!どんな化け物にも怯まず前に出ろ!」

 「「「「AHEAD!AHEAD!GO AHEAD!」」」」

 「よろしい!さぁ諸君、上陸だ!お行儀よくな!」

 「「「「Yes,Mam!」」」」 

 

 こうして、米軍特殊任務部隊「ホラーハンターズ」はリーア&アーリの当初の目論見通り、遂に日本へと上陸したのだった。

 

 

 

 

 

 



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第十話 位置について

ちょい中途半端だけど、文字数の区切りが良いのでどうぞー


 日本へとやってきた「ホラーハンターズ」が先ず第一にした事と言えば、一緒に持ってきた各種怪異やモンスター等のデータが入ったシミュレーター(歩兵・戦闘車両向け)を自衛隊にプレゼントする事だった。

 既に彼らはそれなりに対人外戦闘の経験を積んでいるとは言え、それは日本国内の妖怪変化か特地産がメインであるため、クトゥルー系の経験は原産地に当たる米国よりも少ない。

 また、欧州文化圏の怪異は基本物理系が多いが、東・東南アジア圏の怪異は呪殺系が多いため、その辺りの情報もしっかり交換しておく。

 こういう形で戦訓の共有ならび新商品のシミュレーター(現在は米国から委託を受けた企業が生産・開発中)の体験プレイをしてもらいつつ、いよいよ来週には門を潜るという段階まで来た。

 

 で、リーア&アーリの二人が何をしていたのかと言うと、態々北海道にまで来ていた。

 というのも、神州世界対応論によれば北海道は北米大陸に対応する場所だ。

 なお、根室と北方四島は南米に対応している。

 つまり、この地で異変が起これば、即座に北米に異変が起きるという事だ。

 北米側では表に出てきてるものは既に二人率いるホラーハンターズに根切りにされている。

 よって、北米側での再度の騒乱を防ぐために来たのだ。

 そして、北海道の山林の一部はかつて大陸の成金らによって無秩序な乱開発をされ、一部が荒れている。

 管理された農地等はそうでもないのだが、耕作放棄地や荒れた山地はどうしても増加傾向であり、そんな場所には魑魅魍魎や妖怪変化が発生し易いし、廃屋や寂れた神社に古井戸等は厄が溜まりやすい。

 無論、地元の寺社仏閣関係者に古くから存在するアイヌの人々もいるため、門が接続直後はそれなりに荒れていたものの、現在はかなり落ち着いている。

 しかし、彼らをして「とても手に負えない」という場所も存在する。

 

 「死ね。」

 「Gygigyaaaaaaa……。」

 

 耳障りな断末魔の叫びを残しながら、名も無き怪異が消滅していく。

 

 「ここもクトゥルー系かー。」

 「北米は原産地だからな。仕方あるまい。」

 

 ここ五日で何とかピックアップされた地点全てを回って討伐したが その全てがクトゥルー神話体系だった。

 クトゥルー系の何が他よりやばいかと言うと、その侵食力だ。

 外来種同様に、他には無い侵食力で既存の神話体系を汚染し、己のものとする。

 一度でも侵略を許すと、例え一度滅ぼしたとしても気を抜くと再び発生し、また侵食を開始する。

 封じるにはその場所を完全に清め、封じ込めるしかない。

 そのため、そういった場所を事前に日本国政府と相談し、CIAの極東支部所属のペーパーカンパニーを通じて土地を購入し、都市部なら教会を建て、それ以外なら要石や石碑を設置する事でその地を鎮める。

 幸い、先進国の中で真っ先に立ち直った米国では神父らの数に比較的余裕があり、従軍神父らの中でも特に選抜した者を北海道に送っていた。

 また、北海道は日本式仏教だけでなく、その開拓の歴史の中で多数の御雇外国人が活躍した事もあり、十字教への偏見もないため、割とあっさり受け入れられる事となる。

 

 「よし、後は後続の仕事だ。急いで銀座に戻ろう。」

 「あいよー。んじゃ鋭角から行くぞー。」

 

 こうして、北米はほぼ完全に霊的治安を取り戻す事となる。

 

 

 ……………

 

 

 さて銀座、正確には東京都である。

 

 で、この中心に当たる銀座だが、実は世界でも屈指の霊的防御力の高い場所だったりする。

 理由はその狭い土地に江戸時代から多数の寺社仏閣や道祖神等の石碑や御利益がある歴史的遺物が無数現存し、現人神たる陛下のお住まいたる皇居まであるからだ。

 第二次大戦の空襲で多少は減ったが、建て直されたものも多く、それは今日までしっかりと首都の霊的治安の工場及び対外防衛において機能していた。

 が、世界屈指の大都会として成長したが故に、その光には必ず陰が付き纏う。

 繁栄の影で溜まりに溜まった厄はそうした防衛・浄化機構でも消化しきれず、遂には門という巨大な異世界からの厄を招くに至ってしまった。

 

 「普通に攻城戦を想定していたら、いきなり爆撃機がやってきたでござる。」

 

 銀座の霊的防衛網から門の存在を見ると、こうなる。

 まっっっっったくの想定外の所からの攻撃に、関係各位も流石に対応できなかったのだ。

 これが神隠しだとかだったらまだどうにかなったのだが、次元アンカー(神造兵器)とか神話の時代終わってるのにどないせいと言うのだ。

 また、変なもの突っ込まれたせいであちこちの結界やら縄張りやらがガタガタになっており、それの立て直しに関係各位は不眠不休の努力を強制されている。

 

 「とは言え、国からも正規の予算が来るようになったお陰で、やっとどうにか出来そうですよ。」

 「それは良かった。こちらとしても、その点は懸念事項でしたから。」

 

 公安の人間として、門関係を担当しているという駒門からの報告に、リーアはそう返した。

 

 「我々が行うのは、要は外科手術です。悪い部分を切る。しかし、その予後に関してはその土地に合った処置が必要となります。」

 「術後の肥立ちが悪く……なんて事態は御免被りたいですな。」

 

 斯く言う駒門の目は、公安所属という事もあって一切笑っていない。

 寧ろ彼らにとって、リーアとアーリはあの銀座事件まで一切彼らの情報網に引っかからない個人で戦略級核兵器を超えうる戦力を保持した人物なのだ。

 そんな人物が秘密裏に、一切の情報を残さずに自由に密入国できる。

 はっきり言って、敵であったら負けを覚悟で絶望的な戦いに身を投じるしかない相手だった。

 

 (ホント、味方で良かったぜ。)

 

 門が開いてからこっち、米国は同盟国という事もあって日本とは歩調を合わせてくれている。

 常に新しい市場を、フロンティアをもとめる米国とは思えぬ程に慎重に門への対処に協力してくれる様子に、駒門は感謝しつつも油断なく情報を収集する。

 

 (そして、このお嬢さん?は間違いなくこの件の中心だ。パイプの構築及び情報収集は必須だな。)

 

 そんな事を考えられている事を予想しながら、リーアはどうやって日米両政府にとって得になる、或いは損にならない門の閉じ方を考えていた。

 

 (日本にとっては報復戦争かつ長年の資源問題を解決する可能性。米国にとってはこの諸々の事態の原因。どう考えても向こう側に配慮する必要性は薄い。)

 

 原作でこそ日本は弱腰とも言える程に丁寧な対応を心がけていたが、それは占領地政策において米国が味わったアフガンやイラクの様な泥沼な事態を避けるためだ。

 加えて言えば、民間人に犠牲が出たとは言え、自国の戦力でどうにでもなる相手だったからとも言える。

 が、今回においてはそんな余裕はなく、隙を見せたらどんな手段をしてくるか分かったものではない連中が相手となると、そんな丁寧な事は期待できない。

 加え、あの門の構造的欠陥を既に上層部が認識している。

 最善は素早く向こう側にいるであろうハーディ神とクソオブクソをぶちのめした後に門を破壊して縁切りする事だが、国家としての体面がそれを許さない。

 

 (最悪、別の門を開く事も視野に入れねば…。)

 

 各種新技術は科学分野に関しては別に良い。

 それは何れ人類が到達するだろう領域だろうし、技術者や使用者が精神汚染される事もない。

 だが、魔導技術に関しては駄目だ。

 今現在は地球由来のもののみに限定して、才能のそこそこある者に教えて科学技術でエミュレートさせ始めているが、米国の厚い人材層にしても完全に未知の分野なので余り進んでいない。

 だと言うのに、門を開けて維持するにはどうしても魔導技術が、それも地球外由来のクトゥルー系のそれが必要となる。

 

 (地球内部なら地脈に乗って移動する術とかがあるんだけどなぁ…。)

 

 通常の異界なら兎も角、流石に完全な異世界間の移動は無かった。

 

 (逆説、科学技術で門を開ける人材さえいれば解決するんだよなぁ。)

 

 それが可能な人材が、脳裏に高笑いとエレキギターの不協和音と共に登場するが、努めて無視する。

 

 (流石にもう死んでるし……いや、英霊召喚ならワンチャン……でも本人が死者蘇生系嫌いだしなぁ…。)

 

 覇道鋼造の様に一生を一つの世界で後の世のために使い切る覚悟があるのなら兎も角、中途半端な魔導技術の拡散だけは避けねばならない。

 

 (難しいな、どうにも…。)

 

 リーアの苦悩は深かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十一話 出発侵攻

 「所定の時刻まで、後30秒です。」

 「よし、作戦を開始する。」

 

 こうして、自衛隊による門の向こう側、特地への侵攻が開始された。

 なお、結果は当初の想定と異なり、遥かに容易だったために迅速に進んでいった。

 

 

 ……………

 

 

 こうした日本の軍事的侵攻に対し、特亜の国々から非難声明が出た。

 だが、それだけだった。

 それ以外の余裕が無かった故に。

 

 

 現在、中華並び朝鮮半島は地獄絵図の状態だった。

 

 

 元々西日本より多量の文化財を盗難し、国家規模でお目溢ししていた半島南の国には多種多様な日本の重要文化財が存在していた。

 だが、それらの中には寺社仏閣の中で「封印」されていたものも多かった。

 また、未発見(という名の封印や放置)の古墳から発掘された曰く付きの品々も多く、それらを自分達の国の文化財と詐称して博物館に展示したり、返還を求める日本や好事家に売り払う等の所業を行ってきた。

 しかし、その所業も今までは日韓友好と謡う野党や在日外国人に売国奴、それらに乗せられた人々によって擁護されてきたが、ファンタジー案件が表に出て、かつ広く知られるに至り、日本国政府も腹を括った。

 と言うか、西日本を襲う連日連夜の怪奇現象と自然災害の多発にキレた。

 何より、半世紀以上かけて寝た子を寝かしつけた米国から起きるように言われたのだ。

 今までのあれやこれを取っ払うには十分な契機だった。

 

 「我が国は外国人による重要文化財の窃盗及びその支援国家に対して遺憾の意を表明すると共に、断固たる対処を行う!」

 

 具体的には半島国家に対する各種非難声明を堂々と外交の場で非難し、各種文化財の返還を要求した。

 要請ではなく要求であり、国際法廷にて争う事も有り得ると明言した上でだ。

 これに関しては絶賛西日本と繋がっているせいでファンタジー案件の悪化している欧州勢と頼りになる米帝様も賛成に回り、逆に韓国に味方する声明を発したのはおらず、中国すら中立を保った。

 それに対する韓国政府からの返答は罵詈雑言に塗れたもので余りにも聞き苦しかったため、要約すると

 

 「寝言は寝て言え。」

 「ウリが手に入れたものだからウリのものニダ。」

 「犯罪国家たる日帝には我ら偉大なる朝鮮人民に永遠に償う義務がある。」 

 

 等の寝言による返答を行ってきたため、予定通り日本政府は強硬手段に出た。

 各種物資の禁輸措置に在日韓国資本の凍結等の経済制裁、更には在日韓国人の強制返還、そして今まで散々批判してきた慰安婦・徴用工問題を過去の判決並び当時の資料等を根拠として「これらはねつ造並び既に償いの終わった問題である」として、これまでの行いに対する謝罪と賠償を要求した。

 これに対して韓国政府ではこれまでの日本では有り得なかった強硬な態度に驚き、盟主国と同盟国()に助けを求めたのだが、その反応は冷淡そのものだった。

 

 「お前達の過去の行いの結果だ。」

 「今忙しい。どうでも良い事で呼ぶな。」

 

 この反応に困った韓国は相変わらずの火病を発揮し、日本を非難するだけで具体的な軍事・外交行動に移る事が出来なかった。

 と言うのも、現在韓国では今まで盗んできた秘仏や曰く付きの品々(祟り神・疫病神・国津神等)、更には明らかに封印されていたヤバい品から遂に呪詛が発揮され、国家規模の大災害に襲われていたのだ。

 首都では毎夜、大通りにて百鬼夜行が練り歩き、絶滅した筈の天然痘が流行し、地震・水害・旱魃・火災が相次ぎ、大量の人々が悪夢や怪奇現象に魘され、不審な死や発狂を遂げた。

 民間の呪術者が防ごうにも、精々が呪いの矛先を移したり、身代わりを用意するだけで、寧ろ民間レベルで呪殺合戦が流行り、事態を悪化させる有様だった。

 急激な開発により都市部の歴史ある宗教施設、それも日本の道祖神に当たる様な細かいながらも必須なものが絶滅状態であり、祖霊を崇拝した所で特に力もなく、何処の神に祈ろうとも業が深すぎて拒絶される事例が相次いだため、今度は数少ない外国人が持ち込んだお守りや十字架等が狙われる始末だった。

 遂には日本による各種強硬措置するに当たり、完全に経済が紐無しバンジー状態となり、大韓民国ウォンがジンバブエドル並みかそれ以下にまで落ち込んだ。

 これにより多くの精密加工や電子関連企業が倒産又は大幅な縮小を余儀なくされた。

 この結果、失職または有り金が紙にになった多くの人々がまともに食料の購入も出来なくなり、食うに困って商店への襲撃や盗難・略奪が相次ぎ、治安も崩壊する事になってしまった。

 怪異に、災害に、金に追い込まれて生きる希望も未来も見えなくなった人々、それもこれまで下に見てきた隣国からも見下された人々はプライドも生活もズタズタにされ、ただ只管に今を生き延びるために暴徒に成るしか道は残っていなかった。

 こうなってしまっては軍は必死に国内の災害並び治安維持に奔走するしかなく、とてもではないが日本に対して動く事など出来なかった。

 

 「さ、過去に無理矢理連れて来られたんだから、喜んでお帰り下さい。」

 

 にっこり笑顔の日本政府の言葉に、在日韓国人及びその子孫の方々は一様に拒否を示したが、既に日本人と結婚して家庭を築いている場合も多かったため、一人一人細かく査定して強制帰国させる事に決めた。

 とは言ってその基準は簡単で、犯罪歴並び利敵行為の有無だけだった。

 が、結構これに引っかかる者も多かった。

 主にヤの付く自営業や無許可の売春を行っていた者、そして企業の情報漏出や無許可のデモ行為をした者(平和を訴えつつ略奪や打ちこわしを行った)がこれに該当し、こういった者は荷物を纏めさせて、強制的に韓国(絶賛地獄絵図)に送還された。

 残った在日韓国人らは比較的まともな者が多かったため、要監視とされたものの、日本で暮らす事を許可された。

 その監視も、事態が落ち着けば解かれると明かされた上で、だ。

 が、その途端にやらかした者が発生したので、やはり暫くは監視が必要と判断されるのだった。

 

 「日帝の行いには不満があるが……あの連中に関わっている暇がない。」

 

 韓国にとっての宗主国に当たる中国でも、絶賛怪異と災害が大暴れしていた。

 嘗ての文化大革命で社会主義による文化の創生を謳い、既存宗教・文化の否定を行った。

 それには観光資源になりそうもない寺社仏閣や各種文化財の破壊や焼き討ちも含まれ、その霊的防衛体制はガタガタとしか言いようがなかった。

 更には無理な統一によるものか、現地の怪異同士の争いも頻発し、結果として人口密集地を中心に怪異による被害が多発し、風水等を用いて辛うじて自然災害だけは被害を軽減している状況だった。

 

 「民間の風水師の雇用はどうなっている?」

 「そちらは順調です。若いながらも優秀な人材も拾えました。」

 「よし、予算と人員を増強し、早急に対策を立てるのだ。」

 

 党主席の鶴の一声により、辛うじて最善手を模索する事には成功していた。

 

 「首都改造による霊的防衛都市の建造……。」

 「如何しますか?」

 「この通りは無理だな、予算がかかり過ぎる。」

 「それでは地震や水害で壊れた道路の補修として、陣の役割を持った新しい道路の敷設はどうでしょう?これなら比較的低コストで済みます。」

 「……まぁ良い。許可しよう。」

 

 こうして、中国の首都北京はその外延部に新しい道路を敷説し、それを結界とする事に成功する事となる。

 そう、比べるべくもなく小規模で脆弱だが、「あのアーカム」の様に。

 

 「それで、例の風水師は何という名前だ?」

 「ネェイリーと名乗っています。偽名なので調べていますが、中々…。」

 「多少の怪しさは構わん。役立つのなら使え。だが必ず首輪はつけるように。」

 「承知しました。」

 

 日本と米国が異世界で銃火を放っている頃、世界は新たなステージへと進み始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さぁ、手早く仕込みを済ませちゃおうか。」

 

 暗闇の中、燃える三つの眼が妖艶な女の声で呟いた。

 

 

 



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第十二話 焦土

 防衛のためにやってきた帝国軍13万を恨み骨髄の自衛隊(米帝様による補給チート付き)があっさりと打ち砕き、翌週にやってきた連合諸王国軍も同様に一方的に殲滅した後の事。

 

 「焦土作戦並び怪異や亜人を用いた攪乱を行う。」

 

 自衛隊の余りの強さを警戒したモルト皇帝はベルナーゴ神殿より派遣された魔術師や神官らと相談した後、今後の戦略を決定した。

 

 「アルヌスから帝都への全ての町や村で物資を徴発し、井戸に毒を撒くのだ。」

 「それはまた…しばし税収が低下しそうですな。」

 

 その臣下の言葉に、皇帝も頷く。

 

 「仕方あるまい。園遊会並び離宮の建設は無期限延期とする。また、残った村民にはアルヌスの者共が食料を持っていると伝えよ。」

 「成程、流石は皇帝陛下。直ぐに取り掛からせましょう。」

 

 こうして帝国は自衛隊・米軍が最も警戒していた戦略を取った。

 だが、それ故に彼らの逆鱗とトラウマに触れる結果となってしまうのだった。

 

 

 ……………

 

 

 この特地において、死後の魂は三つに大別される。

 一つは戦死者の魂。

 これは死と断罪と狂気と戦いを司るエムロイ神の管轄であり、尚且つ「己の心を偽ることなく、かつその責任も投げださず、人生を全うした者」の魂のみを迎え入れる。

 二つ目は普通の死者の魂。

 冥府、というよりは通常人々の暮らす世界から外れた空間を担当する女神ハーディの管轄であり、大部分の死者の魂は冥府行きとなり、その死後を冥府にて過ごす。

 なお、ハーディの管轄には地下や異空間も含まれており、地下資源各種や異なる世界と世界を繋ぐ道を作り出す事も出来る。

 三つ目は、特地の歴史上でも極めて数少ないが、神となる道だ。

 通常の生命体から主に正神から加護を賜る事で亜神となり、千年かけて正神となる。

 こうなると肉体の縛りから抜け出し、神格を得るため、その魂は冥府等に行く事はなくなる。

 

 これが特地における魂の動きであり、ハーディとエムロイは死者の魂を奪い合う関係から非常に険悪な関係になっている。

 しかし今現在、この関係に変化が生じている。

 

 

 ハーディ神がその役割を放棄し、特地にて死者の魂が溢れ出したのだ。

 

 

 これには他の神々も大いに驚き、ハーディを詰問しようとその領域に向かったのだが、そうした神々の多くが這う這うの体で撤退するか、滅ぼされてしまった。

 数少ない生き残りの正神が言うには、「ハーディは異界の神に取り込まれた」という信じ難い事だった。

 最初は神々の誰もが信じなかったが、次第にそれが事実であると分かると、異界の神の排除を決定、肉体を失っている正神総出で排除へと移った。

 

 だが、返り討ちにされた。

 

 異界の神は特地の神々を嘲笑うかの様に翻弄し、その力を削っていった。

 どの神々も必死の抵抗をした。

 特にこの特地の秩序を担い、混乱や滅びを抑える役目を持つ光と秩序を司るズフムートは必死に抵抗したものの、健闘敢え無く撃退されてしまった。

 

 

 「ふふ、君達は何の心配もいらないよ。ちょっと遊び場を貸してもらうだけだからさ。」

 

 

 そう言って嘲笑する異界の神に対し、神々も何の対策を取らなかった訳ではない。

 ハーディがその役割を手放したのは、取り込まれながらも未だその意識を失っていないからだ。

 恐らく、それが今彼女に出来る最大の抵抗だったのだろう。

 そのせいで現世に死者が溢れ返っているが、その死者の魂全てが異界の神の力にされる事に比べれば、被害は遥かに少なかった。

 取り敢えず、急場しのぎでエムロイ神が戦死者以外の魂も回収する事を決定し、その他の神々もまたこれ以上の異界の神からの侵食を防ぐべく、各々の領域と管轄の許す限り奔走する事となる。

 

 「ちょ、魂多過ぎぃ!こんなんじゃ何時まで経っても終わらないわよぉ!」

 

 そして、急に過剰な量の仕事を任せられたゴスロリ亜神は今日も死なない体で悲鳴を上げながら頑張るのでした。

 

 

 …………… 

 

 

 さて、その頃の自衛隊と米軍は、正直に言えば困りに困っていた。

 何せ最大の懸念事項だった難民爆弾&焦土戦術が炸裂してしまったのだ。

 いくら米帝様の支援があるとは言え、門から持ってこれる物資の量は限りがあるし、その内訳は特地に展開した人員のための各種物資であり、アルヌスの丘を要塞化するための大事な資材なのだ。

 難民向けのキャンプ設備や食料に医薬品なんて、とてもではないが運び切れない。

 この事に頭を抱えるのは自衛隊で、ガタガタ震えるのがイラクでトラウマを抱えた米軍だった。

 これら難民の内、どれだけの敵の間者がいるのか分からないし、どれだけ病気持ちやファンタジー案件持ちなのかとてもではないが分かったものではない。

 最悪なのは流行り病や感染型の呪い持ち(吸血鬼やゾンビ等)の存在であり、アルヌスに建設予定の基地周辺が全て難民キャンプとなる事態だ。

 情報部門並び専門家をお呼びして判別してもらっているが、何時終わるのか分かったものじゃなかった。

 もしこの場所で再度戦闘が起こった場合、どれだけの人命が巻き込まれ、後方で政権批判に繋がって政治的混乱が起こるか等、考えたくもなかった。

 

 「と言う訳で、なんとかならないでしょうか…。」

 「我々からもお願いする。」

 「えぇ……。」

 

 北海道の霊的治安の維持が終わり、ホラーハンターズと共に各種新兵器の実戦運用と共に特地での霊的事象の調査を行っていたリーア&アーリの元に話が飛んできた。

 

 「要は物資が届けば良いと?」

 「えぇ、まぁ。」

 「出来れば難民そのものをどうにかしたいが、そちらはこちらを治める帝国次第ですからね…。」

 「うーむ……。」

 

 悩む。

 一応解決策が無いでも無いが、それやると悪用されそうなのだ。

 

 「んー物資だけで良いならなかったっけ?」

 「アレか。ハリポタ風味のやつ。」

 「そーそー。フォイフォイが調整してた奴。」

 

 劇中でドラコ・マルフォイがホグワーツに持ち込み、苦心して調整した何処でもドア的な機能を持ったクローゼット?がある。

 名前は忘れたが、あーいうものに似た道具なら、リーアは以前ループ中に作った覚えがある。

 とは言え、大質量を召還可能な虚数展開カタパルトや鬼神招喚の術式が完成してからそっち頼りだったので、割と出番が無かったのだ。

 

 「非生物のみのどこでもドアとか、需要ある?」

 「魔術師以外の生物が通ると漏れなく異界に落ちるんだが…。」

 「寧ろ何故いらないと思ったのか。」

 「ください(迫真)」

 

 そういう事になった。

 

 「と言う訳で、ちゃっちゃと作ろう。」

 「手合わせ錬金術ー。」

 「バリバリー。」

 

 日米両政府の許可の下、あっという間に特地と首都圏外の僻地とを繋ぐどこでもドア(縦10m、横幅20m)を作ると、あっさりと物資の流通量は三倍を超え、何とか難民キャンプ設営のための準備が整い始めた。

 

 「それ、米国と特地も繋げられますか?」

 「いーよいーよ。」

 「ちょい待ってな。」

 

 そしてあっさりともう一つが設営された。

 流通とスペースの関係上、アルヌスの丘の下に作られた新しい二つの門は、物資しか送り出せないものの、その後の日米関係者にとって本来の門に並ぶ最重要防衛拠点の一つとして数えられる事となる。

 そして、両国の兵器以外の軍需物資製造関連の企業が小躍りする程度には多くの物資が順調に運び出されていった。

 

 「……で、人が通れるバージョンは……。」 ヒソヒソ

 「……日本の北海道となら、地脈を利用して割と簡単に……。」 ヒソヒソ

 「……どれ位ですかね……。」 ヒソヒソ

 「……転移ポータル形式にして、大部隊を重量無視して安定して……。」 ヒソヒソ

 「……大統領に持っていきます。」

 

 後に、日米安保条約に加えて、密かに日米の軍事条約が増えるのだが、それはまた別の話なのだった。 

 

 

 

 

 

 



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第十三話 参戦確定

 皆さんは、遠野物語を知っているだろうか?

 

 

 柳田国男先生の初期三部作(他に後狩詞記・石神問答)の一つであり、日本の民俗学の先駆けともいえる名著だ。

 岩手県の遠野市在住だった佐々木喜善(民話蒐集家兼小説家)から聞いたその地由来の伝承を柳田先生が筆記・編纂する形で出版され、作者も大学当時民俗学の講義で大変お世話になった。

 その内容は主に三つに分かれており、妖怪関連に神とその祀り方や行事・風習等、そしてそれらに分類されない不思議な記録等から構成される。

 当時の人々の暮らしや文化を調べる上でとても重要な内容であり、ファンタジーが、神秘が復活したこの世界で、改めてこうした民俗学の分野が注目を集める事となった。

 全国で復活した妖怪変化に魑魅魍魎、そして発生したクトゥルー系の怪異やクリーチャー。

 これらの存在の内、前者に対抗するため、日本国内ではこうした知識が大いに重宝された。

 専門家が多忙故に手が借りられず、警察では対処不可能で、自衛隊では出動に多大な手続きが必要だ。

 そういった時、こうした知識が必要であり、各地に存在する文系大学の民俗学的資料とそれに詳しい教授や大学生らは専門家との繋がりから、しょっちゅう呼ばれるようになる。

 また、今はインターネットがあらゆる分野で全盛であり、多くのアニメやゲームでの妖怪ブームもあり、そうした知識に触れる機会は多くあった。

 政府でも自治体レベルでこれ幸いと簡単なガイドブックが配られ、少しでも知識を補完しようと躍起になった。

 そのため、初期も初期、緊急性の低い案件では民間レベルで十分とは言えぬまでも対処できていた。

 

 しかし、相手が土蜘蛛や鬼、龍や気合の入った悪霊ともなると話は異なる。

 

 当時の人々ですら大変難儀した物理的に強い存在、通常の対処では対応できない神格や霊格、怨念を持った存在は専門家が一致団結して対処する必要があった。

 しかし、そんな専門家は各霊地や政府の重要機関や要人を守るために掛かり切りであり、とてもではないが各地に派遣できない。

 これには各地の霊的守護を司る専門家らも頭を抱えた。

 が、ここで一つの事例が彼らの方針を転換させた。

 

 

 とある20年ものの猫又が、悪霊から飼い主を守ったという報告。

 

 

 元々この猫は飼い主の祖母が飼っていたが、祖母が死んでからは孫が面倒を見ていた。

 銀座事件後間もなく猫又になり、近くの寺に相談した折、人語にて住職と「今後もよろしくお願いしますね」「任せな」と仲良く会話してのんびりと暮らしていた(元々近所のボス猫だった模様)。

 しかし、飼い主がカラオケの帰りにうっかり悪霊を連れ帰ってしまい、危うしという所でその猫又が活躍し、撃退に成功したのだ。

 この事例を受け、専門家らは悟った。

 

 曰く、「人間が足りないなら、人外の手を借りれば良いじゃん。」と。

 

 そういった事例は古今東西あり、畏れ多いがそもそも神仏の威光や加護を受ける事だってその範疇に含まれる。

 こうして、その地の妖怪変化と契約し、人々を守ってくれる契約を交わす事例が増えていった。

 この傾向は特に国家災害級の事案が比較的少ない東日本(詳細不明の厄ネタや土蜘蛛案件はある)を中心に全国的に広がっていった。

 結果、ネットの掲示板等を中心に山中で遭難中に天狗に助けられた、増水した川に落ちた子供が河童に助けられた、風呂を洗おうとしたら垢舐めが綺麗にしてた等の報告が数多く寄せられ、何とか人外との共存及び治安の向上が見られた。

 無論、女っ気のない自分が濡れ女と同棲中とか、うちの死んだ犬三匹がケルベロスになって帰ってきたとか、納屋の古道具が動き出して何処か行ったとか、不思議体験とか突っ込み所満載の話も多数出てきたが。

 なお、恐山等の有名な霊山や霊地、有力な寺社仏閣の敷地やその近所は安全地帯だったので、この人外ブームからは外れていた。

 こうして、取りあえずの安息を得た日本の人々だったが、それと同時にこの動きに対して現代では当然とも言える動きも起きた。

 

 「保護して10年の猫が猫娘になって嫁になってくれた。」

 

 とある掲示板に投稿され、専門家らも頭を抱える事件の始まりだった。

 投稿主の話では、嫁になってくれた猫娘は現在妊娠(動物・人間向けの病院両方で確認)しており、事が事なので、清められた大学病院(各種専門家付き)で様子を見ているそうな。

 投稿主は現在、家内安全・安産祈願の後利益の名高い神社で毎日朝早くお祈りをしているそうだが、この一件に対して世間は大いに揉めていた。

 

 即ち、「妖怪とそのハーフに人権を付与すべきか否か」である。

 

 これに対して、人権派と言われる人々の間でも大いに意見が割れていた。

 妖怪よりも先に多くの人間に日本国籍を与えるべきだ(無関係派・売国奴多数)

 妖怪もそのハーフもダメだ(積極的反対派)

 もう少し様子を見てから判断すべきだ(消極的反対派)

 妖怪は兎も角、そのハーフなら与えるべきだ(消極的賛成派)

 人と共存可能な妖怪とそのハーフなら与えるべきだ(積極的賛成派)

 こんな具合で世論やマスゴミは揺れ動いており、子供が生まれるまでに決まるかどうかも定かではなかった。

 また、今は共生しているとは言え、いつ何時関係が拗れて敵対するとも限らない妖怪の扱いには慎重にならざるを得なかった。

 この解決には、どうしても時間が必要だった。

 なお、日米首脳部においては、

 

 「特に金かけずに新しい票田増やせるし、共存可能な個体かつ本人の賛成もあるなら良いかと。」

 

 何より、人口増加のカンフル剤になるかもしれないぞ。

 そんな甘言に日本政府はホイホイ乗り、ホワイトハウスの主は「将来、特地のアニマルガールが来てくれた際の事前準備としては良いかもしれない」と官僚と相談するのだった。

 

 なお、東北沿岸部ではロシア系、つまりスラブ系の怪異の出現も多数報告されたが、現地の共生関係のある怪異の協力もあり、割とあっさり対処したり共生関係を結んだりと特筆すべき事態にはならなかった。

 

 

 ……………

 

 

 で、残りの海外=主にロシアと欧州だが、未だ混乱が続いているものの某半島みたいに国家機能や経済が麻痺する様な事態には至っていない。

 それぞれ最善に近い次善を打てたからだ。

 欧州はその古い歴史から、多くの怪異への対処法が残っており、また教会を始めとした霊的防御力を持った歴史的建造物が多数現存していた事から、「何かあったら教会に逃げ込め。十字架やお守りを手放すな。」で大体解決していた。

 ロシアの方は長年の社会主義政権下でそうした施設の多くが破壊されてしまったため、この様な手は取れなかった。

 では、どう対処したのか?

 

 「怪異とて銃弾を完全に無効化できる訳ではない。ならば効くまで撃ち続けるのだ。」

 

 プ〇チン大統領の声に従い、ロシア軍は各地に小規模だが多数の即応部隊を設立し、即時出撃可能な体制を整えた。

 民間が通報→警察が報告→軍が許可→近場の即応部隊の一部が出撃というプロセスを取って、ロシア軍は圧倒的鉄量によって怪異を掃討していった。

 無論、その分戦闘のあった場所は荒れるし、民間人への被害も馬鹿にできない。

 だが、分かりやすく効果のある対策だったために、銃弾を無効化する様な怪異を除いて、基本的に一律この様な対応を続けていく事となる。

 流石は嘗ての超大国、兵が畑から取れるの逸話に偽りは無しだった。

 

 「それはそれとして、ちゃんと怪異の研究もする。予算は付けるから、専門家を集めたまえ。」

 

 が、柔軟な思考の下で、しっかりとするべき事はしていた。

 

 

 ……………

 

 

 特地、某街道にて

 

 

 「あ、あの大丈夫ですか?」

 

 一人の少年が、断続的に痙攣しながら股間を濡らして倒れている黒ゴス少女に声をかけていた。

 

 「マスター、心配は無用だ。彼女はどう見ても大丈夫ではないが、大丈夫だ。」

 「何処が!?」

 

 突っ込み所満載の相方の一本角少女の言葉に、少年はつい突っ込みを入れてしまった。

 

 「彼女の症状は降霊、それも超連続かつ長時間続いたが故の精神的疲労によるもの。また、その肉体は既に人類を逸脱しており、体力や外傷による消耗は自動的に回復されるため、問題ない。」

 「え、いやでもこのままじゃ…。」

 

 おろおろとする少年に、一本角の少女は言葉を重ねる。

 己の主君にして契約者たる少年を、少しでも成長させんと。

 それこそが執筆者たる父を亡くしても生き残った魔導書の務めだと知っているから。

 

 「再度言うが心配は無用だ。彼女はただ単に長時間性的快楽を受け続けていただけだ。簡単に言うと連続絶頂し過ぎてアヘってるだけだ。」

 「うん、取り敢えず君がこの人に関わりたくないと言うのだけは分かったよ。」

 

 少年はその美貌を、銀髪金瞳の人外的なまでに美しい様子を呆れの形に歪めた。

 

 「肯定。しかし、同時に否定。彼女からこの世界に関する情報を得られる可能性がある。」

 「つまり、関わり合いになりたくないけど関わる必要があるって事か。」

 

 がしがしと、母が困ったり悩んだりした時と同じ様な仕草で、やや垂れ目の少年はため息をついた。

 

 「仕方ない。リトル・エイダ、僕が近場の村か街まで担ぐから、周辺警戒よろしくね。」

 「了解、マイマスター・アレク。」

 

 こうして、邪神の血を四分の三引く少年とその魔導書は異世界での第一歩を刻んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ここ何処ー!?お兄ちゃん、僕は此処だよーー!!」

 「いぁ……お腹減った……。」

 

 なお、妹とその魔導書もいたりする。

 

 

 




最後まで悩んだけど、全人類規模の大災害を一組では対処し切れないと判断して子供組も出しました。
なお、二闘流のお二人は出ません。


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第十四話 エンカウント ちょっと加筆

 特地 コダ村から20km地点の街道にて

 

 

 「へー、皆さん自衛隊の方々でしたか。」

 「そーそー。んでドラゴンが出たから避難する村人達のお手伝い中。大人数は動かせないしねぇ。」

 

 逃避行を続ける村人達の列の最後尾にある高機動車の助手席、本来なら一人用のそれには今、二人の男性の姿があった。

 一人は伊丹二尉。

 二条橋の英雄として昇進し、嫁に「生きて帰って来てください!」と泣きながら見送られてきた、特殊作戦群に所属する自衛官だ。

 もう一人はアレク・アシュトン。

 銀髪に金瞳、少し垂れ目がチャーミングな絶世の美ショタである。

 黒いコートと同色の半ズボンから覗く太腿がまぶしく、その手の嗜好が無くてもつい犯罪に走りかけそうな人外の美貌の持ち主だ。

 

 「ボク達は母さんがこっちに来てると聞いて会いに来たんですよ。もう何年も会えてなくて、でも元気でやってるって分かったから。」

 「ほうほう。」

 

 なお、アレクと連れの黒ゴス少女を見つけたのは街道であり、アレクは兎も角黒ゴス少女の方は気絶していたために(診察した黒川が顔を引き攣らせていた)今は持っていた大型のハルバートと共に高機動車の後部スペースにごろりと転がされていた。

 

 (しかし、こっちに母親がいる?容姿からして日本人はあり得ない。んで、特地に来ている米軍さんに女性は多少はいるが、こんな如何にも怪しい子と関係あるなんて一体誰だ?)

 

 終始和やかな会話をしていながらも、伊丹の内心は警戒が過半を占めており、少しでも情報を得ようと会話を続けていた。

 最底辺とは言え特戦群、その手のスキルも本人の持つ他人に警戒され辛い雰囲気を利用して、多少は得意としていた。

 

 「あ、そう言えばこの車何処に向かってるんです?ボク、一応アルヌスに用があるんですけど。」

 「なら、俺らの駐屯地も今そこにあるから、この人達を安全地帯に送ってから一緒に行こっか。」

 「Oh,Japanese Army!噂以上に紳士的ですね!」

 「あはは、一応世界でも災害対応や平和活動が得意だからねぇ。あと、自衛隊だからSelf Defense Forceって言ってくれると助かるかな。」

 「あ、すみません!」

 

 面と向かってのちょっとアレだが称賛の言葉に、伊丹も苦笑いが出てくる。

 現時点において、この美少年が脅威にならないとは言い切れないが、それでも僅かながら警戒度を下げるのだった。

 

 

 ……………

 

 

 特地 帝国首都 帝都にて

 

 

 「ふむ……。」

 

 その地に住まう人々の動きを鋭角の中から見つめる姿があった。

  

 「やっぱ本命の痕跡は無しだ。見つかるのは深き者共や邪神崇拝者、グール共の痕跡だけだ。」

 「そうか……。」

 

 アーリの言葉に、リーアは眉根を寄せる。

 彼女らの目的は一つ、以前助け損ねた日本人拉致被害者の保護である。

 しかし、既に残った幾人かの姿は帝都にはなく、奴隷として売り払われた後だった。

 しかも幾つかの人手を介して売り払われたらしく、売った側もその後の行方を知らないと来た。

 

 「何としても見つけてやりたいんだが…。」

 「取り敢えず、目につく問題から解決してくしかないわなぁ。」

 

 言って、周囲を見渡す。

 鋭角の中、通常の生物が存在し得ない位相空間。

 ならば、そこにいるのはこの世ならざる存在に他ならない。

 

 「Grrrrrr…….」

 「Gygygygy!」

 「Gofuuu….」

 

 全体のシルエットこそ犬に似ているが、その体を構成するのは正体不明の複数の臓器から成る肉塊であり、乱杭歯の奥から覗く舌は太く曲がりくねって、鋭く伸びた注射針にも似ていた。

 粘液塗れの青みがかった脳漿に似た肉片を全身から滴らせる様は、余りにも不浄で異常で冒涜的だった。

 

 「「「Gygaaaaaaaaaaaaa!!!」」」

 

 目の前の新鮮な餌を前に、獰猛で絶えず飢えて執念深い事で知られるティンダロスの猟犬が我慢なんて出来る訳がない。

 時間が生まれる以前の超太古、異常な角度をもつ空間に住む不浄な存在にして、マイノグーラ(這い寄る混沌の従姉妹にあたる女神)とシュブ=ニグラスの子らは涎を滴らせながら飛び掛かった。

 

 

 ……………

 

 

 「来る…。」

 「各員、周辺警戒!」

 

 ふと、空を見つめて呟いたアレクの言葉に、伊丹は直感的に無線機に怒鳴っていた。

 自衛官としての経験よりも、オタクとして、生物としての直感が叫んだのだ。

 

 曰く、「何か恐ろしいモノが来る」と。

 

 殊、自衛隊内でも特に才能ありと対人外への対処訓練で専門家に判を押された伊丹である。

 加えて、原隊である特戦群において危機察知能力においては群を抜く彼の判断は正しかった。

 不意に避難民の隊列の後方に影が差したかと思うと、上空から巨大な質量が降ってきたのだ。

 古代龍、その中でも炎龍に分類され、しかも人や亜人の血肉の味を覚えた個体。

 特地に住まう人々にとって、絶望と同意語たる存在が現れたのだ

 

 「ぎゃあああああああああ!?」

 「うわあああああああああ!!」

 「逃げろ!逃げろおおおおおおっ!」

 

 我先にと避難民は散り散りになって逃げ惑う。

 狂乱し、暴れ出した馬による事故が多発し、碌に逃げ出す事も出来ない。

 そして、驚きに固まった人間はその場で炎龍に踊り食いされていく。

 逃げようとした者は手加減された炎の吐息によって火炙りにされ、絶叫しながら死の舞を踊り、やがて食われていく。

 それでも必死に逃げていくが、次々とその甲斐無く捕食されていく。

 起きたばかりで空腹で、更に言えばとある理由から余計に空腹である炎龍にとって、彼らは程良く抵抗して楽しませてくれる餌だった。

 

 「戸津、軽装甲車に積んでたミニミ取って来い!各員戦闘用意!」

 

 だが、彼らは奇跡的に幸運の女神の前髪を掴んでいた。

 

 「アレク君、荷台に移るんだ!」

 「あ、お構いなく。あの程度では死にませんから。」

 「…あーもう!怪我しても知らんからな!」

 

 にっこりと笑う少年の笑みに、伊丹は時間がもったいないと思考放棄してぶん投げた。

 

 「全車、ドラゴンの気を逸らすんだ!攻撃開始!」

 

 こうして、史上初の自衛隊お家芸「怪獣退治」が始まった。

 

 「くそ、小銃じゃ通らない!」

 「軽装甲機動車は牽制!キャリバーを叩き込め!」

 「了解!」

 

 街道を出て、整地されていない凸凹だらけの平野を第六偵察隊の車両が駆けていく。

 その奇妙な姿に炎龍も警戒するが、先程から飛んでくる鉄の粒では傷つけられないと分かると、途端に煩わしさが湧く。

 今までの小銃や機関銃とは異なる大きな銃声が響いて炎龍は一瞬驚く。

 が、それだけ。

 有効打にはならない。

 

 「効いてないッスよ!?」

 「良いから撃て!当て続けろ!」

 「っ、ブレス来ます!避けて!」

 

 炎龍の呼吸及び首の動作から次の行動を読んだアレクの警告に、空かさず伊丹が指示を出す。

 

 「こっちを向いた!ブレス来るぞ、回避ー!!」

 

 全車が素早くハンドルを切った次の瞬間、平野を一直線に炎の吐息が奔り抜ける。

 辛うじて全車が回避に成功するが、その威力たるや直撃すれば確実に搭乗員全てが消し炭になるだろう。

 

 (威力とかも調整できるのか!?だとすればヤバい!)

 

 もし広範囲に対して薙ぎ払いや連続照射が可能なら、次の一発で全滅する可能性も高い。

 否、手持ちの装備で有効そうなのが一発しか持ってきてないパンツァーファウストの点で「あ(察し)」だった。 

 

 「目!目を狙ってください!そこなら鱗がない!」

 「! 全員、目を狙え!」

 

 その指示に、全車が素早く炎龍の両目に火線を集中させる。

 結果、顔面への攻撃に警戒を強めた炎龍がその翼で身を守る様に覆い、動きを止める。

 

 「勝本、パンツァーファウスト!」

 「後方の安全確認……撃ちます!」

 

 そして、一瞬の間を置いて、ロケット弾頭が炎龍目掛けて飛翔した。

 

 「…?」

 

 その飛んでくる何かを、炎龍は無防備にその胸部で受け止めた。

 途端、今まで経験した事が無い程の衝撃と熱量、閃光と激痛がその巨体を襲った。

 

 「■■■■■ーーッ!?」

 

 誰もが初めて聞く炎龍の悲鳴が、平野に長々と響き渡る。

 爆発による粉塵が過ぎ去った時、炎龍の胸部は肉が大きく捲れ上がり、一部では骨が見えていた。

 

 「■■■■■■■■■■…!」

 

 だが、それはまるで映像の巻き戻しの様に、見る見るうちに塞がっていった。

 

 「な……。」

 

 その光景に、想像力豊かな伊丹も思わず絶句する。

 虎の子のパンツァーファウストはあれ一本。

 そして、今ので確実に士気は落ちた。

 最早、全滅を覚悟で時間稼ぎに徹するしかない。

 

 (すまん、梨紗!)

 

 内心で残してきた妻に詫びる。

 生きて帰るという約束を破る事になってしまう事、これから部下を死なせてしまう事。

 その二つに深い罪悪感を抱きつつも、ここで伊丹はその身を散らす覚悟を決め

 

 

 「あぁ、何だ、こっち案件か。」

 

 

 ようとして、ゾッとする程の威圧感に気付いた。

 

 「、アレク君」

 「あぁ、伊丹さん。後はこっちに任せてくださいね。」

 

 にっこりと微笑む様は、先程と変わりない。

 しかし、その金の瞳の奥で燃え盛る怒りの熱量に、伊丹は絶句した。

 

 「伊丹さん達は避難民への対処を。後は仔細こちらにお任せを。」

 「何を言っている!危険だ!君だけでも逃げろ!」

 

 染み付いた自衛官としての経験故の叫び。

 しかし、伊丹は内心で察していた。

 その優れた直感が告げるのだ。

 曰く、「目の前の生き物は、己よりも遥かに格上だ」と。

 

 「っ、隊長!ブレス来ます!」

 「回避ー!」

 

 全車が指示通りハンドルを切るも、炎龍は彼らの想像を上回った。

 嘲笑う様に一瞬の溜めを作ると、そのブレスを真上に吐いたのだ。

 そして降ってくるのは炎の雨、炎龍を中心とした周囲一帯を焼き尽くすための応用技だ。

 

 (あ、やば)

 

 その範囲の中に、誰あろう伊丹の乗る高機動車が入っていた。

 今度こそ死んだと、搭乗員全員の脳裏に走馬燈が走っていく。

 

 「エルダーサイン!」

 

 しかし、その炎は車体を覆う傘の様に展開した独特な五芒星の結界により阻まれた。

 エルダーサイン、旧神の紋章。

 自衛官では今や誰もが知っている、とある人物らの使用するクトゥルー系魔法の一つ。

 

 「アレク君、君は…!」

 「詳しいお話は後で。今は、アレをどうにかする事を優先しましょう。」

 

 にっこりと微笑む超絶美少年に、伊丹は色々と飲み込んで叫んだ。

 

 「任せたヒーロー!怪獣退治を頼む!」

 「任されました!」

 

 途端、アレクの懐からページが、0と1の輝く数字が溢れ出し、宙を舞う。

 それらは魔導書「死霊秘本 機械言語訳」に記された無数の魔術文字。

 世界を侵食する情報因子たる字祷子が複雑に絡み合い、幾重にも螺旋を描き、星気領域に情報を刻み、意味を形成し、人の可識領域を容易く超越する。

 これが魔術の発動、言霊の蛮名化であり、人智を超えた論理が世界に干渉し、奇跡を具現化するための方程式。

 後はそれを承認するための最後のコードが入力されるだけ。

 

 「おいて、リトル・エイダ。」

 「マスター、コード入力。」

 

 いつの間にか、少年の隣には一人の少女が浮かんでいた。

 金髪碧眼の、人にしては余りにも無機質な印象を受ける少女は額から機械の様な角を生やし、その左半身は未だ0と1の輝く数字に解けている。

 その光景に、その姿に、その異様に、しかし伊丹は見覚えがあった。

 あの日、あの灼熱にして地獄の銀座の日。

 伊丹は確かにこれと酷似した光景を見ていた。

 そして、唱えられるは世界最強の聖なる詩。

 絶望の海、誰かの嘆き、人ならざる存在の理不尽を砕くための怒りにして祈り。

 幾度世界が滅びようとも連綿と受け継がれてきた、人々の希望。

 

 

 「 憎悪の空より来たりて

   正しき怒りを胸に

   我らは魔を断つ剣を執る!

 

   汝、砕けぬ刃 デモンベインーーー!! 」

 

 

 最終コード承認と同時、虚空より立体的な魔法陣が展開され、異なる位相と繋がる。

 

  「虚数展開カタパルト起動。鬼神招喚。」

 

 リトル・エイダの言葉と共に、術式が完成する。

 この邪悪に侵食された世界に一体の刃金が顕現する。

 瞬間、汚染された世界の理そのものが悲鳴を上げ、周辺に存在していた怪異や汚染情報が駆逐され、退散していく。

 そう、彼こそは嘗て無限の螺旋にて無限に鍛え上げられ、無限に折られた剣の後継。

 世界を犯す邪悪を相手に、幾度負けようとも無限に立ち上がり、戦い続ける最弱にして最強の狩人。

 消滅してしまった先代の予備パーツと新たに書き上げられた設計図を元に生まれた、新しい魔を断つ剣。

 その銘をデモンベイン・R。

 こうして、彼の初陣が始まった。

 

 

 

 

 

 




???「やっべ、演出しといてなんだけど超ワクテカするw」


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