IS×DMC~赤と青の双子の物語~ (storyblade)
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序章 End and reincarnation
終わりから転生へ


全ての命には終わりがある。例えそれが人ならざる者であっても……。

 

 

「やれやれ、俺もついに迎えが来るか…」

 

 

とある国である男の命が終わろうとしていた。

彼の名はダンテ。

便利屋「Devil May Cry」を経営していた彼には裏の顔があった。

 

デビルハンター(悪魔殺し)

 

彼はその狂人的、驚異的な強さで数多くの悪魔絡みの事件、魔界の侵略から人々や世界を度々救ってきた知られざる英雄であった(本人はそのつもりは一切なかったが)

そんな彼には限られた者しか知らない秘密があった。

 

「人と悪魔のハーフ」

 

母は人の美しい女性エヴァ、父は悪魔でありながらエヴァと共に生きる事を望んだ魔剣士スパーダ。そのふたりから生まれたダンテは人としての優しさと心、そして悪魔の強さを併せ持つ極めて異質とも言える存在だったのだ。

 

しかしそんな彼には常に周りに誰かがいた。

 

嘗て自らの所にスパイとして送りこまれたが、やがて相棒とも言える存在になった悪魔の女性。

 

借金がらみで悪態をつきながらも付かず離れずの関係を最後まで続けた女性のデビルハンター。

 

うるさく小言を言っても最後まで良き仕事仲間として付き合い続けた男性。

 

強気で生意気ながらもデビルハンターの先輩として、自分の弟分として可愛がった甥。

 

彼らはダンテに振り回されながらも、それぞれ人生が終わるまでずっと良き仲間としてあり続けた。

 

…そんな彼にはもうひとり家族とも言える存在がいた。

名はバージル。ダンテの双子の兄であり、幼い頃に両親を失ったダンテからすればたったひとりの肉親だったがその関係は複雑、いや最悪に近かったかもしれない。

彼は人として生きると決意したダンテと違ってひたすらに「力」を求め、幾度か事件を起こした事もある。

 

父の遺産を手に入れるために魔界を人間界と繋げる(結果利用された)。

魔界の王の手先として襲いかかる(彼の意志ではないが)。

自分を取り戻すために息子に宿った力を奪い取る(後に和解した)。

 

その度にダンテはバージルと数多くの死闘を繰り広げた訳だが、後半は共通の目的で魔界を閉じるために共に魔界へと降り、数年後共に戻って来てからは腐れ縁のような関係となり、良好?とも言える関係が続いていた。

 

そしてバージルも一年前にこの世を去り、今はダンテ唯ひとりとなってしまった。そして彼ももうまもなく終わろうとしている。半人半魔の彼も普通より長寿とはいえ不死ではない。

 

「今思えば俺は一体どれだけ戦ってきたんだろうなぁ。死んだ後の事なんてわからないが……、もし俺の様な者でも生まれ変われるのなら……、次は戦いなんてない世界で……いや、そんな世界なんて…俺には…似合わ…ねぇ……なぁ……バージ……」

 

 

今、ダンテの命が終わった……。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、新しい世界で生きてみない?」



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オープニング① 神?との出会い

俺は死後の世界なんて興味は無い。

死んでそれで終わっても構わない。。

魔界で悪魔になるのは未練たらたらで死んだような奴や悪魔と馬鹿な契約をしたような奴だけ。

神仏なんてもんにもこれっぽっちも興味ない。

まぁ悪魔や邪神と言える様な奴らをこれまで数多くぶっ殺してきた俺が言うのも説得力はまるでないが…。

 

そんな俺だが今どういう状況かっつーと……、

 

「どこだここは…?」

 

どこまで行っても真っ白な空間。

先を見通そうと思ってもひたすら真っ白。見えるのは自分の身体だけ。おまけに妙なことがある。

まずめちゃ身体が軽い。まるで若返ったみたいだ。死ぬ直前は身体が1ミリも動かせなかったんだが死んだらこうなるのか?

そしてもうひとつ。服が変わっている。死んだ時はローブを纏っていたのだが、今着ているのは自分が若い時愛用していた服装だ。

 

全体的に黒い服、レザーブーツ、そして彼のトレードマークとも言える赤いロングコート

 

当時は気にならなかったが今思えば重量だけでも相当な重さがあったあの時の服装が今は何ともない。

 

「まさか本当に若返っているのか…?」

 

思わず顔をさすってみたが死んでるためか手の感触がわからない。

 

「っち、鏡になる様な物もねぇし…とりあえず進むしかねぇか…」

 

違和感を感じながらも俺は歩を進めようとした……

 

 

「ねぇ」

 

 

急にすぐ真後ろから声が聞こえた。

気配が一切しなかった事もあって俺はつい慌ててしまって振り返った。

 

「っと!?」

 

振り返るとひとりの少女が立っていた。

体格からしておそらく10歳位。長い金髪に白いワンピース。成長すれば間違いなく美人になるだろう。ただ・・

 

(なんか…あいつを思い出しちまうな…)

 

嘗て依頼人として一時期一緒に暮らしていた少女を思い出し、思わず嬉しいような困ったような表情をしてしまう。

そんなことを考えていると少女が語りかけてきた。

 

「ねぇ、あなたダンテでしょう?」

 

名前を知っているのが一瞬気になったが、ここが死後の世界だとするならなんでもありか。そう思って俺は乗っかる事にした。

 

「こいつは光栄だな。死後の世界でも俺の名が知れ渡っていたのか。まぁこんないい男は他にいないか。誰かに聞いたのか?」

 

「ううん、私は全てを知っている。あなたが人と悪魔の子供であること。英雄スパーダの息子であること」

 

「ほぉー。あんた神様かなんかか?」

 

「神ほどじゃないけどそれに近いかもね(ニコ)。私はあなたの願いを叶えるために来たの」

 

「俺の願い?」

 

「あなた死ぬ前に言ってたでしょう?「生まれ変わるなら戦いのない世界で」って。だから叶えてあげるために来たの」

 

俺は自分が死ぬ直前に言った言葉を思い出して納得した。

 

「あぁ、そういえばそんなこと言ってたな。だがなんでそんな事しに?言っちゃ悪いがあんなもん願いってほどのもんじゃないぞ?」

 

「だってあなたこれまで数多く世界を救ってきたでしょ?だからご褒美よ」

 

「ご褒美っつんなら金くれるか、ピザをたらふく食わせてくれた方が嬉しいんだがな、まぁ良いや。せっかくだがお断りだ」

 

「あらどうして?生まれ変わりたいという願いを持つ者はすっごく多いのに?」

 

「平和な生活なんて俺には似合わねえんだよ。最後に付け足したろ?」

 

「じゃあどういう世界なら良いの?」

 

「そうだな…、強いて揚げるとすればある程度過激で経験したこと無い様な世界が良いかな?つっても世界戦争なんか御免だぞ?あと悪魔もだ。もううんざりだからな。つっても戦いはあった方が良いかな?強い奴がいれば尚良しだ」

 

「ふんふん…戦争や悪魔は無しで以前と全く違った戦いありのライバル付きで過激な世界ね。だったら…うん、あの世界ならバッチリ!案内するわ!」

 

突然ガッツポーズをして急かす少女に俺はなんか意味不明な不安にかられた。

 

(おいおい本当に大丈夫かよ…)

 

そんなダンテの不安をよそに少女はこう思っていた。

 

(本当に良かった!あの世界なら彼の願望にも適っているしバッチリね!……あ!そうだ!もうひとりの彼も呼ぼうっと!)

 

 

 

 

もうひとり?




次回あの人登場!


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オープニング② 思わぬ再会

死んだと思ったら突然少女の様な神?に出会い、いきなりご褒美という名目で別の世界に生まれ変わらせてあげると言われた俺。最初は興味無かったんだがついつい流されてちまって希望する世界を言っちまったらそれに叶う世界があったらしく、俺の了承も得ないで勝手に案内されちまっている。にしても……

 

(幼いとはいえ、妙な女に会ってしまうのは俺のジンクスらしいな…やれやれ)

 

そんな自分の女運の悪さを恨みながらも俺は少女に訪ねた。

 

「おい、あんたが言うその世界ってどんな世界なんだ?」

 

「あとのお楽しみ!でも心配しないで、あなたの希望にピッタリな世界だから!」

 

「もう一回言うが戦争や殺しはご免だぞ?俺はなんでも屋兼悪魔退治屋だが戦争屋や殺し屋じゃねぇ。あと悪魔や怪物の類もだ。」

 

「大丈夫!任せて!」

 

(ハァ…)

 

そんなやりとりを重ねていると少女が突然、

 

「あ!あとあなたのこれから行く世界に同行者を付けることにしたからね」

 

「は?同行者!?」

 

「そっ!そしてそれはあなたのもう一つの願いを叶える事にもなるのよ。」

 

「俺のもうひとつの願い?」

 

そう言われて俺は歩きながら慌てて急速に頭をフル回転させて考える。

 

(もうひとつの願いってなんだ?死ぬ直前言った事と言えばさっきこの少女が言った通りだけの筈だが、、、。金が欲しい?ピザをたらふく食いたい?いやそんな事は一回も言ってないし、そもそも同行者という奴に結び付かねぇ。俺専門の銀行員や雇うピザ職人が付いてくる訳なんて無えし……。あーっもう考えるのは止めだ!会えばどんな奴かわかるだろう!)

 

「なぁ、まだ着かねぇのか?」

 

「もうすぐよ。ほらあそこ、見えてきたでしょう?」

 

少女が指さした方向を見てみると真っ白な空間の中ににうっすらではあるが何かが見える。

 

(……門?)

 

それはまだ遠くではあるがはっきりココからでも見える事から恐らく相当大きな門だった。

 

「あの門の向こう側があんたが言ってた世界なのか?」

 

「そうよ!…あ、同行者はもう来ているみたいね。ほら門の前で待ってるわ」

 

良く見てみると確かに門の前に誰かがいる。そして近づくにつれてどんな奴かが判断できてきた。

 

体格からして男、俺と同じ位。

服装は俺と同じく黒い服装。ただ違うのは自分は赤いロングコートだがそいつは青いロングコート。

髪の色も俺と同じで銀髪で……!?

 

俺はそいつが誰か確信し、思わず天を仰びながら言った。

 

「お前かよ……バージル……」

 

それは紛う事無くダンテの双子の兄、バージルそのものだった。




ダンテとバージルが行く世界とは?


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オープニング③ インフィニット・ストラトス

「バージル……なんでお前がいるんだよ?」

 

「……知らん。いきなりその少女と同じ様な奴に身体を再生された揚句、ここに転送されたんだ。」

 

詳しく聞いた話によるとバージルは俺と違い世界を危機に晒した罪から転生などの話は無かったらしく、魂だけの存在となってココとは別の世界にいたらしい。そんな時俺を案内した少女から別の仲間に連絡があったらしく、「俺の願い」を叶える為の特例として急遽身体を再生、ここに転送させ、俺の同行者としたらしい。

 

(同行者がバージルとは……。……いやいやそんな事より!!)

 

「おい!」

 

「な~に~?」

 

「なんで俺の願いで同行者がバージルなんだ?俺はそんなこと死ぬ前に一言も言ってねぇぞ。」

 

「ちゃんと言ってたもん、最後に彼の名前。思い出してみて?」

 

そう言われて俺はふと思い返す。

 

(俺には…似合わ…ねぇ…なぁ…バージ……)

一部抜粋

 

「あっ」

 

俺は天を仰いだ。

 

「……それはこちらも同じだ。まさか死んだ後でもお前と会う事になるとは。やっと静かになったと思ったのに勘弁してほしいものだ」

 

「ほう、言うじゃねぇか。なら久々にケンカするか?生憎どちらも武器なしだ。正々堂々殴り合いのケンカをよ」

 

「何時までガキなんだお前は…」

 

思わぬ再会に嬉しいような悲しいようなムカつくようなやり合いをしていると少女が俺たちに語りかけてきた。

 

「はいはい注目~!じゃあ早速だけどあなたたちがこれからについて説明するね。あなた達にはインフィニット・ストラトスが存在する世界に言ってもらいます。」

 

「インフィニット…ストラトス?」

 

「なんだそれは?怪物とかじゃないだろうな?」

 

「そんな物じゃないわ。インフィニット・ストラトスというのは女性にしか使えない特殊兵装、パワードスーツの事よ。」

 

俺は自分の耳を強く疑って聞き直した。

 

「……今何つった?」

 

「インフィニット・ストラトスというのは女性にしか使えない特殊兵装、パワードスーツ。」

 

(…)

 

俺は再び天を仰いだ。バージルもアクションこそないがうんざりとした表情だ。

 

「おいおい勘弁してくれよ……。そんな世界に俺たちを送るつもりか?言っちゃ悪いがそんな世界に俺達が行く意味があるのかよ?」

 

「そんな世界だからこそ面白いんじゃない♪あなたが言うとおり今まで経験したことない世界♪それにインフィニット・ストラトスは一種のスポーツだけど戦う事もできるの。あなたが望んでいたような今まで経験したこと無い様な戦いができるわ♪」

 

「……変更はできないのか?」

 

「無理ね。もう登録しちゃったから♪」

 

((ハァー…))




ダンテとバージル。どちらも女性が苦手そうなイメージは私だけでしょうか?


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オープニング④ 少女の願い

数多の悪魔たちや魔界の侵略から世界を守ってきた伝説のデビルハンター、ダンテ。そんな彼にもとうとう命の終わりが訪れた。

死後の世界?に踏み入れたダンテはひとりの少女に出逢う。

「新しい世界で生きてみない?」

突然の提案に戸惑うダンテ。
流されるがまま少女についていくとやがて目の前に巨大な門、そしてその前に先に命を終えた自らの双子の兄、バージルが待っていた。

再び巡り合った半人半魔の双子の兄弟。
そんな彼らに少女が提案したのは女性のみが動かせるという特殊兵装「IS インフィニット・ストラトス」が存在するという世界だった・・・。


(インフィニット・ストラトス…。女のみが使える特殊兵装が存在する世界。よりにもよってそんな世界に行くことになるとは…。しかもそれが影響して女尊男卑の世界ときた。改めて思うが本当に女が絡んでくるのは俺のジンクスらしいな…やれやれ…。)

 

かつて自分がいた悪魔が存在する世界でも十分すぎる位変わってるのに、今度は女尊男卑というある意味悪魔より手ごわいかもしれないかもしれない世界に行くという現実にダンテは悩んでいた。そんな中バージルが少女に問う。

 

「……おい女。ふたつ聞きたいんだが。」

 

「な~に~?」

 

「まず1つ。さっきお前はインフィニット・ストラトスは「女にしか動かせない」と言った。そんな世界に俺達が行ってどれ程の意味がある。俺たちは男だ。女ではない」

 

「それについては問題ないよ♪あなた達もISが動かせるようにしといてあげるから♪しかも今なら特別に専用の機体まで用意してあげるという特典付きだよ♪」

 

「俺達専用?」

 

少女「そっ!少数だけどISには決められた人しか乗れないその人専用の機体があるんだよ。それをあなた達にも用意してあげる♪あと性別も問題ないよ。男で動かせるのはあなた達だけじゃない予定だから」

 

(俺達だけじゃない……?)

ダンテはふと考えた。

 

「まぁ良い…。2つ、ISというのは兵装といったが、それは云わば兵器ではないのか?俺は戦争をするつもりはない。そいつで戦争や命の奪い合いをする事になるというのであれば、そんな世界お断りだ。死んだままの方が良い」

 

「それも心配しすぎる事は無いよ。確かにISには基本武装が搭載されているけどそれはあくまで競技の範囲内。ISはスポーツとされているからね。」

 

「だがスポーツといえど武装が積まれている時点で兵器だ。力には違いない。力を持った者の中には更に強い力を求めようとする者が必ず現れる。その先にあるのは「本物の戦いへの危機」だ。悲しいかな人はそれを繰り返してきた。それが人の歴史だ。人間全てが善人では決してない」

(かつての俺の様にな……)

 

(……バージル。お前変わったな)

 

「うん…そうだね。確かに人はそうやって戦争を繰り返してきた。あなたの言いたい事はわかるわ…。でもそれを望まない者がいることも確かよ。例えばあなたの父スパーダは魔族の英雄とまで言われる程の強い力を持ちながら、あなたの母と人々を守るために自らの地位を捨て去り、人として生きることを選んだんじゃないの?それが「強い力を持っていながらそれに囚われなかった強い心を持つ者」がいるという証じゃないの」

 

(……)

 

「それに何よりもあなた達よ。あなたもダンテも世界をひっくり返せるだけの力を持っておきながら結局そうはしなかった。あなたは最初は違ったけどね。ダンテに止められた事もあったし。その後も度々激しくケンカする事はあったけどそこで終わり。しかもある時は魔界の侵略から人間界を兄弟で守った。最初ただ悪戯に力を求めていたあなたからしたら随分変わったじゃない。それが学ぶ者もいるという何よりもの証じゃないの?」

 

(……)

 

「でもあなたの言う事ももっともね。確かにISを動かせる人全てが正しい人な訳じゃない。あなたの言うとおり戦いを望む者もいると思うわ。だから私個人としてのお願い。もしそんな者が現れたら、、どうか止めてほしい。皆を守ってほしい。あなた達に専用機を用意するのはそういう意味もあるの。あなた達ならそれができると信じてる。英雄の息子だからじゃなく人の心と、人として生きる事を望んだ者の力を受け継ぐあなた達なら…」

 

((……))

 

初めて見る少女の真面目な顔に俺もバージルも何も言えなかった。




次回、双子の兄弟ついに行きます!


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オープニング⑤ 双子の兄弟 行く

女性のみしか動かせないという「IS」インフィニット・ストラトスが存在する世界。

かつて力を追い求め、その結果世界を危機に陥れた事もあるバージルはそんなISの世界に行く事を躊躇う。

そんなバージルに少女は「あなたは力に囚われなかった。あなたは変わった。そんな者も確かにいる。どうか守ってほしい。」と心からの願いを伝えるのだった。


((……))

 

少女のこれまでに無い表情と訴えにふたりは言葉を失っていた。

 

(こいつこんな気持ちを秘めていたのか…。さっき知り合ったばかりだが…ふざけていながらも時には思い切った事をする。ふっ、つくづくアイツに似てるな…)

 

「まぁやっぱりそうならないのが一番だけどね!♪(ニコ)だから……」

 

 

そう少女は言うとダンテに近づき、耳元でなにか呟いた。

 

「!?」

 

「……いいだろう、引き受けてやろうじゃないか」

 

「お前…」

 

「まぁいいじゃないかバージル。こいつの言う事を信じる限りISってのは普段スポーツなんだろ?命に関わる事なんて極めて少ないだろうし。そうなった時はその時だ。それにいざお前が言うの様なバカが現れた時は俺たちが止めてやれば良いさ。それに新しいルールでケンカするのも悪くないしな!」

 

「…全く何時までガキなんだお前は。……だがまぁそれも一興か……ふっ、そういえばケンカの勝敗カウントは同点のままだったな。新しい世界で決着をつけるとしようか」

 

「あぁ!」

 

「決定ね♪」

 

こうしてダンテとバージルはISの世界に行くことを決めたのであった。

 

 

…………

 

「さて。そういえばさっき言ってた俺達の専用の機体だっけか?どういった物になるんだ?」

 

「それについては向こうに行ってからのお楽しみ♪因みにこれがあなた達の機体の待機状態よ。普段はこういったアクセサリーみたいな状態なの。装着を願えば使えるようになるわ。多分あなた達なら簡単に使いこなせる筈♪というかあなた達以外使えそうもないからね」

 

((これが……))

 

ふたりが少女から渡されたのはふたつのアミュレット。

ダンテの物は銀の縁が掛かった物。バージルは金の縁が掛かった物であり、中央に赤い宝石が埋め込まれていた。

 

「何か他に希望する事はある?今ならあとひとつぐらいつけてあげるよ♪」

 

「つってもなぁ。ISとやらに関しては行ってから勉強するしかないだろうし…。あぁ、この際だから覚えを良くしてくれるか?久々の勉強だからな」

 

「自分で覚える気にならんのか全く」

 

「うるせーな」

 

「まぁそれ位なら簡単ね。でバージルは?」

 

「俺は……そうだな……、「魔具」の設計図が欲しい」

 

「魔具って…昔あなた達が戦いで使っていたアレ?」

 

「そうだ。あれは本来悪魔の力によって生み出していた物だが、これから行く世界には存在しないのだろう?だったら生み出すのではなく造れる様になっておきたい。念のためにな」

 

「OK!じゃあ時期を見てあなたの所に届くようにしておくわね!」

 

「感謝する」

 

「どういたしまして。さて、これで全て終りね!じゃあ二人とも…良い旅をね!」

 

パチンッ!

ゴゴゴッ!!

 

少女が指を鳴らすと門が大きい音をたてて開いた!

 

「んじゃあ~、行くか~」

「あぁ」

 

かくしてふたりの新たな旅は始まる。憎しみでも腐れ縁でも無く、兄弟の旅として。

 

(……にしても驚いたぜ。まさかあいつが合言葉を知っていたなんてな。デビル・メイ・クライの合言葉を…。なんでだろうな?……)

 

 

 

 

 

(……ダンテ、また会えて良かった…。昔の私のボディーガードさん♪)




次回はふたりの説明です。


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Mission00① 双子転生(双子の人物紹介)

とある小さな国のとある場所に一組の夫婦がいた。夫はその国の生まれ。妻は日本人である。その仲の良さは国中に知れ渡るくらいのものだったが彼らには子供がいなかった。

そんなある日、彼らが外に出ていると……


「「~」」


「っ!…ねぇあなた、何か聞こえませんか?」

「そういえば……、声?」


「「~~」」


「確かに声の様に聞こえますね…」

「あぁ、しかもこの声の感じ動物じゃない、人…赤ん坊の泣き声か?」


「「~~~」」


「しかも1人だけじゃない、2人?」

「あちらから聞こえます、行ってみましょう!」


夫婦は声の方向へ走った……。


「!?」

「こ、これは!?」

「「~~~!」」


夫婦が眼にしたのは2人の赤ん坊。布に包まれてはいるがその様子は今まさに生まれたばかりという感じだった。


「あぁよしよし、もう大丈夫よ…」

「一体どうして…。とりあえずギャリソンに連絡…ん?なんだろう、これは……」


夫が見つけたのはまるで2人の赤ん坊を守るかの様にあった赤い宝石が輝きを放つアミュレットだった……。


ダンテとバージル。彼らのこの世界での設定を紹介していきます。

 

まずはダンテから。

 

名前

火影(ひかげ)・藤原・エヴァンス

 

性別

 

年齢

16歳(半人半魔である転生前は100歳以上)

 

趣味

音楽(自分の部屋にジュークボックスを置くほど)

料理(得意ジャンルはイタリアンとデザート。得意料理はピザとパフェ。ただしオリーブは苦手)

バイク(16歳になって直ぐ免許を取った。愛車は自分のカスタム)

クレー射撃(普通レベルでは話にならないので彼専用のプログラムがある)

 

容姿

炎の様に赤い眼と銀髪。火影という名前は育ての親となった夫婦が彼の炎の様に赤い眼から名付けた。髪型は首まで伸びてストレートに下ろしている。

16歳時点で身長は175cm,体重65kg

 

前世の世界で命を終えた双子の弟ダンテが転生した姿。赤ん坊の状態で転生したがある夫婦に保護され育てられた。藤原は母の、エヴァンスは父の姓である。

基本的に沈着冷静で落ち着いている。しかしいざという時は相手が何者だろうと決して怯まず立ち向かっていく(ただし一部限られた人には弱い)。どんな困難な状況でも決して諦めないなど強い心はダンテ譲り。本気の時は怒りを隠さない事も。

少女への願いの影響か、転生前よりもかなり物覚えが良く頭が良い(兄には劣る)。基本日本語だが英語中国語フランス語を習得している。

 

一人称は基本僕(後に俺に戻ります)

 

CVイメージ

原作と同じく森川智之

 

 

続いてバージル行きます。

 

名前

海之(みゆき)・藤原・ エヴァンス

 

性別

 

年齢

火影と同じく16歳(前世はダンテと同じ100歳以上)

 

趣味

剣の鍛錬(幼い頃から武士の血を継ぐ母やギャリソンから教わる。独自の流派を生み出している)

読書(主に詩を好む)

料理(得意ジャンルは和食)

機械いじり(自分の工房を持つほど)

 

容姿

深い海を思わせるような青い目をしていて名前は彼の眼の色から。髪は銀髪。

双子というだけあって眼の色以外火影と正に瓜二つの風貌。少しでもわかりにくくするために髪型は前世のバージルと同じくオールバックにしている。

身長体重も火影と全く同じ。

 

前世で命を終えた双子の兄バージルが転生した姿で、弟と一緒に夫婦に育てられる。

弟以上に沈着冷静であまり喋らないクールな性格。

弟と同じく内に強い心を秘めている。表に出すことはあまり無いが自分の大切なものが傷つけられたりすれば一切容赦しない。(ただし弟と同じく一部の人には負ける)

こちらも語学に堪能で、英語フランス語ドイツ語を習得している。

機械いじりが趣味なだけあって弟が使う銃や魔具なども彼が作る。

弟以上に頭が良い。動物好き。

 

一人称は「俺」

 

CVイメージ

原作と同じく平田弘明

 

 

補足キャラ紹介

 

ギャリソン

 

夫婦に使える老紳士執事で極めて優秀。沈着冷静頭脳明晰。武道にも優れる。家事もでき、特に料理は絶品。

夫婦が亡くなってからは火影と海之の良き親代わりとなり、2人もあつく信頼している。

兄弟がIS学園に転校する事になってからは召使いと共に家を守り、広くサポートする。




彼らが転生した国は架空の永世中立国にする予定です。これは国代表として争う事を防ぐためです。また彼らのISは国所有でなく彼らの持ち物にする予定。

ギャリソンというのは某アニメから取りましたスーパー執事の名前です。風貌も同じと思って頂いて構いません。

オリジナルの設定を決めるのって難しいですね(汗)次回は兄弟の専用ISについて紹介します。


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Mission00② 双子転生(IS紹介)

人物設定に続き、IS紹介です。
原作を本格的に読んでいないため疑問を感じることもあるかと思いますが、お許しいただければ幸いです。


まずは火影のIS紹介

 

 

名前

アリギエル

(モデルはダンテの名前の由来となった詩人ダンテ・アリギエールより)

 

待機状態

銀縁が掛かった紅い宝石のアミュレット

(DMCシリーズでダンテが持っていたもの)

 

コアNo

Wー02

 

風貌

炎を思わせるような赤く輝く装甲であり、隙間部分は黒い装甲。頭部まで装甲が展開するが顔面部分のみバイザーとなっており、外からは表情が見えない。

(イメージとしてはDMC3のダンテ魔人形態。生物的デザインからそのまま機械的に変化した様な物。バイザー部は機動戦士ガンダム00Fより、ガンダムアストレア TYPE-Fの様なバイザー考えてます)

 

武装

 

アリギエル専用大剣「リべリオン」

刀身から柄まで真黒な大剣。鍔部分にスカルの彫刻が彫られている。見た目はダンテが使っていたリべリオンそのもの。意思があるかのように手から離れても元に戻ってくる。

 

拳銃「エボニー&アイボリー」

アリギエル専用大型自動拳銃。黒い銃がエボニーで白い銃がアイボリー。拳銃なので1発の威力は低いが連射性が高いのと火影の早打ちも重なって威力の低さを見事にカバーしている。使うのは通常弾だがSEを消費してビームを打ち出すこともできる。火影が最も扱い慣れている銃。弾数無限。

 

散弾銃「コヨーテ」

アリギエル専用ショットガン。IS用に調整されているので威力は非常に高く、至近距離からの威力は絶大。重さも反動も大きいが火影はこれを片手で軽々と扱う。弾数無限だが連射ができない。

 

 

続いて海之の機体です。

 

名前

ウェルギエル

(モデルはバージルの由来、詩人ウェルギリウスより)

 

待機状態

金縁が掛かった紅い宝石のアミュレット

(DMCでバージルが持っていたもの)

 

コアNo

Wー01

 

風貌

青い炎を思わせるような青く輝く装甲と関節部は黒い装甲。

装甲は頭部まで。顔面はアリギエルと同じくバイザーが展開する。

(モデルはDMC3のバージル魔人形態)

カラーリングや所々の装飾は良く見るとやや違うものの、デザインはほとんどアリギエルと同じ。

 

武装

 

ウェルギエル専用刀「閻魔刃(ヤマト)」

ウェルギエル専用の刀。ウェルギエル(海之)以外には鞘から抜くこともできない。海之の剣術も重なって絶大な威力を誇る。

 

光剣「幻影剣」

銃を装備していない(使う気がない)ウェルギエルが使うビームでできた剣型遠隔兵器。

SEを消費することで使用できる。海之の思念操縦によって変幻自在な動きを行う。通常遠隔操縦兵器は使用している間自分が動けない等の無防備になることがあるが、海之は鍛錬によってこの弱点を見事に克服しているだけでなく、剣術にも生かしている。

 

秘儀「残影」

残像能力のこと。この残像は熱量をもっておりレーダーにも探知される。バージルはこれを自らの戦術にも利用している。

 

 

 

次は2体共通の機能についてご説明します。

 

①再生

 

アリギエルとウェルギエルのみに搭載された機能。

全てのISには基本自己修復能力があるがダメージによっては時間がかかる。だがこの2体は例え剣で串刺しになっても銃で撃たれても手足を吹き飛ばされても僅かな時間で元通り再生してしまう。しかし再生するとはいえ傷ついた瞬間に生じる痛みはそれ相応のものであり、強い精神力を持たない者はその痛みだけで死ぬこともありえる非常に危険な物とも言える。

 

②防御無視型SE(シールドエネルギー)

 

通常ISは何を行うにしてもSEを消費して機能の拡大を行っているが、アリギエルとウェルギエルは防御に使うSEを心臓部と頭部だけの急所のみに使い、残り全てを攻撃と回避にまわしている。これによってSEの持ちを大幅に良くしている。

 

③封印

ワンオフ・アビリティー(唯一仕様の特殊能力)と思われるが封印されているため、使う事が出来ない。




オリジナル設定を考えるのって楽しいですがかなり難しいですね。
これで良いのかどうかと思うこともありますが、なんとか頑張ってやってみたいと思います。

基本的に仕事の合間でやっているのではかどる時もあれば間が亀更新になることもあります。

こんな話ですがお読みいただければ幸いです。

次回より突入です。


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第一章 Red and blue twins
MIssion01 赤と青の光舞う


ストーリー始めていきます。
オリジナル展開含むこともありますが、宜しくお願い致します。


とある海上の夜空に一機の小型旅客機が飛んでいる。

旅行を楽しむ家族、仕事で出張の会社員、睡眠をとっている者等、乗客はみな思い思いに時間を過ごしていた。海上なので下には一点の灯りも無く、月がやんわりと機体を照らしているのみ。全てが正常な飛行、乗員も乗客も誰もが安心しきっていた…しかし…。

 

 

………ドンッ!!!!

 

 

「「「…!?」」」

 

~~~~~~~~

 

突然機体の後方部で凄まじい爆音が起こった。そして間もなく非常事態を伝えるアラームがコクピット内に響き渡る。

 

「なっ、何が起こったの!?」

 

女性の機長が男性の副操縦士に問う。

 

「今調べてます!……機長大変です!機の尾翼が全て吹き飛んでいます!さらに爆発で吹き飛んだ破片で燃料タンクが損傷した模様!燃料が漏れだしています!」

 

「なんですって!?…機内全員に非常事態と生命維持装置着用を促します!ここから一番近く降りられる場所は!?」

 

「一番近い空港でもまだ1時間はかかります!今の機の状態ではとても…」

 

「くっ!」

 

燃料タンクに火が飛んでいないのがせめてもの救いだったが、今の状況のまま一時間以上自力で飛ぶことはどう考えても不可能だった。

 

「やむを得ないわ。海上へ不時着を心みます!近くの国に救助要請を!」

 

「りょ、了解!」

 

(…とはいっても夜の闇に覆われている海に不時着なんて極めて危険ね。突入角度によっては不時着どころか墜落の可能性も十分考えられるわ。どうしたら…)

 

「機、機長大変です!燃料漏れによる影響が予想以上に激しく、右スラスターの燃料がもうすぐ0に近いです。急がないと!」

 

「くっ!やるしかないわね!」

 

女機長は操縦桿をぐっと握り直し心を決めた。だがほんの数分後、機体は激しく揺れ出し大きく傾いた。もはや異常な角度であること、そして墜落の可能性がほぼ間違いなしな事は誰の目にも明らかだった。

 

(もうダメ!!)

 

もはや誰もが諦めて眼を瞑った。

 

 

………………………?

 

 

誰もがおかしいと頭を上げた。

墜落していない…?、それどころかさっきまで異常だった角度が正常とまでは言えないが元に戻っており、ゆっくりだがちゃんと飛んでもいる。

 

(一体何が…?)

 

機長は首をかしげていた。それは乗員乗客も同じだった。

そんな時窓際に座っていた一人の子供が窓の外を指さしながら母を呼んだ。

 

「ねぇママ~、見てアレ!キレイ~!」

 

「えっ何?……!!」

 

母親は窓の外を見て驚いた。飛行機の下から赤色と青色の激しい2つの光が漏れているのが見える。火でも燃料でもない。何なのか確認しようにも月がちょうど隠れていてわからなかった。唯一つわかっているのは自分たちが乗る機がその2つの光に助けられたという事だった。

やがて旅客機はゆっくりと海面に着水した。幸い脱出装備に被害はなかったので救助が来るまでなんとかなる。誰もがただただお互い無事を祝った。

同時に赤と青の光は機からゆっくりと離れて飛び去っていった。その瞬間隠れていた月が表れ、うっすらながらも機長は姿が見えた。

 

「赤と青の…人?……いえ、あれはISなの……?」

 

こうして絶望的だった旅客機墜落は2つの光、ISによって救われた。乗員乗客の証言からこの件は速報で大きく取り上げられ、世界中に知られる事になった。

 

 

…………

 

日本

 

黒髪の少年

「なぁ千冬姉!今朝のニュース見たか!?」

 

千冬と言われた女性

「あぁ、旅客機の墜落未遂事故か。今朝からあの話で全局持ち切りだな」

 

「そうそう!乗客の話だと助けたのはふたつのISなんだろ?凄えよな~!」

 

「だが話によればあの時表れたISはどこの国も心当たりがないとの事らしい。一体どういうことだ…」

 

「まぁ今はいいじゃねぇか。誰一人死なずにすんだんだからさ!」

 

「まぁそうだな。っとこうしている場合ではない。試験に遅れるぞ!」

 

「おっといけねぇ!!」

 

場所は変わって駅前。駅の前では事件の号外が配られていた。

 

ポニーテールの少女

(旅客機を救ったふたつのIS……。ISか…。あの人は今どうしているんだろう…姉さん…。それに…一夏……)

 

 

…………

 

再び場所は変わり、ここはある学校の一室

 

青い髪の少女

「ふ~ん、旅客機奇跡の着水!救ったのは赤色と青色のISか…。この旅客機はロシア国籍らしいからロシア代表の私としてもこの子達には感謝したいとこね♪」

 

青い髪の眼鏡をかけた少女

(……本当にヒーローみたい。私にも現れてほしいな…)

 

 

…………

 

中国

 

ツインテールの少女

(二人のISねぇ…。どんな奴なのかな?見た人の話だと赤と青としかわからないし…。っとこうしてる場合じゃないわ!もうすぐ転校するんだから早く準備しなきゃ!それにあの学校に行けばいずれわかるでしょ!)

 

 

…………

 

イギリス

 

金髪の長い髪の少女

(赤と青に輝く二人のIS・・。旅客機に乗っていた方々からしたらまさしく英雄ですわね。やはり男性なんて女性に比べれば大したことないですわ。ましてや……あの人なんて…。っとこうしている場合ではありませんわね。引越しの準備を致しませんと…。)

 

 

…………

 

フランス

 

気の強そうな女性

「ねぇ!あの二人のISに関しては本当になにもわからないの?」

 

夫と思える男性

「あぁ全くといってわからない。どんな姿なのかもわからない。そんなIS、今の今まで私も知らなかったよ…」

 

「全く、ただでさえ我が社の注目度は落ちているのにどこの誰かが余計な事したために更に忘れられた感じよ!世間はみんなあのISの話で持ち切りなんだもの!」

 

金髪の少年?

(……)

 

 

…………

 

ドイツ

 

眼帯をしている銀髪の少女

(……おかしい、我々の持てる技術を全て使って探しているというのに一向にあのISの行方や正体がわからない。今現在確認されているISに旅客機を持ちあげる程のパワーを持つ様な物は確認されていない。悔しいが私の機体にも無理だろう…。一体どういうものなんだ…?)

 

 

…………

 

???

 

兎の様な耳を付けている少女

(…う~ん、やっぱりわからないや。全てのISのコア情報を全て簡単に把握できるこの束さんがあの2人のISに全く気付かなかった…信じられないけど。…まさか束さんが作ったコアじゃないとでも?いやいやそれは無いでしょ!…と言いたいけど、でもそうでもなきゃ説明できないんだよね~、この束さんが知らないISなんてさ~。どうにかしてあの子たちと接触できないかな~。でもこれだけ世界中が探しても見つからなかった位巧妙に隠されていたんだから普通のやり方じゃ恐らく無理だね~…、普通のやり方じゃ………!)

「そうだ!」

 

銀髪の少女

「び、びっくりしました…。どうされたんですか束様?」

 

「クーちゃん仕事だよ~♪」




赤と青の二人のISに興味津津の束という女性。
はたして彼女が考えた作戦とは?


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MIssion02 ふたりの兄弟

「墜落間違いなしの旅客機奇跡の着水!救ったのは赤と青の光!ISか!?」

この事故の一連はニュース新聞ネットで世界中に知れ渡った。
未知のISに興味引かれた束という女性はなんとかこのIS達に接触したいとある計画を進め始めた。



前代未聞の墜落未遂事故から早くも一ヶ月。

世間は少しずつではあるが事故直後からすれば多少の落ち着きを取り戻していた。生き証人たちである機の乗員乗客も事故直後はマスコミというマスコミから凄まじい質問の嵐だったが、ISなのかどうかはっきり姿を見た者が1人もいない。断言できる様な証言を行える者もおらず、ひと月もすれば「赤と青の光」とだけ取り上げられるようになっていた……。

 

ところ変わって、ここはスメリアという小国。

スメリアは多国間の争いや紛争には一切干渉しないと国際法で認められた世界で最も小さい永世中立国である。しかし政治や暮らしのレベルもしっかりしており、自然環境も良い。更にスメリアは難民も進んで受け入れており、戦争から逃げてきた難民たちからすれば正に理想の国とも言えた。ただ難民というと中には犯罪者の類が難民に化けて潜り込むという心配もあるが、スメリアはそんな事全くない国として知られ、平和な国を作っていた。そんなスメリアのとある島から物語は始まる。

 

 

…………

 

とある大きなお屋敷

 

赤い眼の少年・青い眼の少年

「「帰ったぜ(ただいま)ギャリソン」」

ギャリソンと呼ばれた老紳士

「お帰りなさいませ、火影様、海之様」

 

赤い目の少年は火影、青い眼の少年は海之といった。

 

「お試験の方はどうでございましたか?」

 

「全く問題ないぜ。まだ時間があったんで終わるまで昼寝をしちまった位だよ」

 

「調子に乗り過ぎて名前を書き忘れたりしていないだろうな。見直しは?俺は忘れず行ったぞ」

 

「ダイジョーブだって。にしても真面目だな海之は。学校トップの成績で名前の見直しって」

 

「万が一ということもある」

 

「へいへい。色んな勝負してきたけどテストだけは海之にいまだに一回も勝てないんだよなぁ」

(…前の世界でもだけどな…)

 

「さぁさぁ火影様も海之様もお疲れでしょう。お茶とお菓子をご用意致しますので、それまではお部屋でお休みください」

 

「「ありがとう」」

 

僕と海之はそれぞれの部屋に戻っていった。

 

 

…………

 

火影の部屋

 

「あ~疲れた~。受験なんてもう何年ぶりだろ?いやもしかしたら前の世界じゃ受けたことないんじゃねぇか僕?…」

 

そう俺、いやこっちの世界じゃ僕で通しているか。まぁ今は回顧録なんで俺でいいか。俺は以前の自分であるダンテの記憶を受け継いでいる。もちろんバージルも、いやこっちでは海之だな。あいつもとっくに思い出している。俺たちは赤ん坊の姿でこの世界に転生してきたらしい。さすがに赤ん坊の頃は自分が何者かなんてわからなかったが、成長するにつれて自分がどういう存在なのかを思いだしてきたのだ。まぁ今となっては遥か昔の遠い思い出だが…。

 

俺と海之はここスメリアという国のある夫婦に拾われ、そのままその夫婦の養子となった。俺達を育ててくれたこっちの世界の父さんはまだ若干20歳という若さでどんな侵入者・犯罪者も見逃さないという革新的なセキュリティシステムを開発した。父さんが開発したシステムはすぐにスメリアで正式採用され、スメリアの平和維持に大きく貢献した。難民受け入れに積極的なこの国で難民による犯罪が今現在も起こらない理由の約9割はその効果と言っていいだろう。父さんのシステムは世界でも採用され、その結果、わずか5年という短い期間で父さんの会社は世界的大企業になり、父さんは巨万の富を得た。しかし母さんと恋に落ちるとすぐに信用できる部下に任してあっさりと社長を辞め、母さんとの時間を何よりも大事にするようになった。その一年後に俺たちは拾われたって訳だ。まぁ会社を辞めた後も会社の相談役やプログラマーみたいな事もしてたんでそれだけでも十分すぎる程の収入だったが。余談だが父さんが社長時代、その貢献からスメリアの大統領にという話もあったらしいが父さんはあっさりと蹴ったらしい。

 

そして俺達が6歳の頃、母さんの故郷である日本であの事件が起きた。

 

「白騎士事件」

 

IS・インフィニット・ストラトスの生みの親である篠ノ之束が「ISが現行兵器全てを凌駕する」と言う事を証明するために起こしたとされる事件。2000発以上のミサイルと数百機の戦闘機や戦艦、果ては衛星まで使って日本を襲わせ、それを自ら生み出したIS「白騎士」を使い、全て無事故無被害で防いでみせるというある意味究極のショーだ。これを機にISは一気に爆発的に広がり、今は近代兵器の代表的なものとなっている。

最初ISは宇宙での活動を主な目的として開発された云わば平和貢献のためのマルチパワードスーツだったそうだ。しかしISの有効性を否定された篠ノ之束は自らの発明の有効性を示すというただそれだけのためにこの事件を起こしたとされている。

 

当時俺も海之もそれはそれは激しく憤ったものだ。表には出さなかったけどな。母さんの生まれた国だったという事もあったが何よりそんな理由でこんな馬鹿げた事件を起こした篠ノ之束と白騎士に怒りが湧きあがった。

だがそんな俺達を宥めたのは意外にも父さんと母さんだった。

 

「好きでこんな悲しい事件を起こすなんて人なんていないさ。もし本当に恨んでいるのなら、あのISとやらを使ってミサイルを防いだりしなかっただろうからね。僕は篠ノ之束という人もあの白い騎士も、本当はだれも傷つけたくなかったんだと信じているよ・・」

 

「最初はとても驚いたけど、今は私の家族やお友だちが無事で良かったという気持ちの方が大きいわ。これはお母さんの考えだけど、きっと篠ノ之さんという人もああするしか無かったと思いこんじゃったんだと思う。篠ノ之さんからしたらあれは自分の子供みたいな物だもの。私たちにとってのあなた達みたいにね。自分の子供がいらないなんて言われたら悲しいし、怒っちゃうもの…」

 

俺達を拾ってくれた人がこの二人であった事をあの時心から神に感謝した。 

その一年後、ふたりは死んだ。ISの機密情報を持っているという科学者が乗った飛行機の自爆テロに巻き込まれて・・・。

 

(あれからもう十年か…。)カチャリ。

 

俺は自分の宝物でもあるアミュレットを握りしめた。

 

(……もう誰も、俺の大事なものを、傷つけさせはしない!)

 

コンコンッ

 

「火影様、お茶とお菓子のご用意ができました。海之様も御待ちです。本日はショートケーキですよ」

 

「ああ、今行くよ。ギャリソンのショートケーキ久しぶりだな!」

 

火影はアミュレットを首にかけ直して部屋を出た。




次回、赤と青の光が再び舞う。

次回まで仕事の関係で少しお時間頂きます。


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Mission03 予期せぬ遭遇

かつてダンテとバージルだった頃の記憶を継承し、新たな世界で生きる火影と海之。

自分達を育ててくれたこの世界の両親の想いに感謝しつつ、火影は自らの今を守り抜く事を改めて誓うのであった。


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ありがとうございます!今後も引き続きお読み頂ければ幸いです。


夜も老けてここは海之の部屋。

「人生とは自転車のようなものだ。倒れないようにするには、走り続けなければならない。 アインシュタイン」

 

「…」

 

夕食を終え、寝る前はこうして詩を詠む事が今の俺、海之・藤原・エヴァンスの日課となっている。かつて人であることを忘れ悪魔として生きる事を選んだ俺。そんな俺がまさかこうして人間に生まれ変わり、穏やかな日々を送る機会が来ようとは…。だが今はこんな生活も悪くないと思っている。前世で両親を失った悲しみと自分の無力さへの憎しみから、あの時の俺はただひたすらに力を求めた。

 

もっと力を!!

 

……だが力に溺れた俺はダンテに敗れ、更に挙げ句のはてには魔王に操られる事になった。もはや生きる希望も力も失いかけていた俺が何故生き続けたのかはわからない。だが、

 

「俺たちがスパーダの息子なら受け継ぐのは力じゃない!誇り高き魂だ!」

 

「俺は今度こそ、もう誰も死なせねぇ!!!」

 

もしかしたらあいつらが俺の魂を繋ぎ止めたのかもな…

 

あの少女は言った。信じていると。俺に守ってほしいと。

 

(……)

 

良いだろう。どうせ何度も死んだ身。今さらあの時と同じ様になろうとは思わん。父と母を救う事はできなかったがせいぜい守ってやる。俺のこの世界での命尽きるまで。

 

俺は詠んでいた詩集を閉じ、首にかけていたアミュレットを外して床に着いた。

 

 

…………

 

それから数時間後……。とある海上上空にひとつの航空機が浮かんでいた。不思議な形状をしたその航空機はまるで何かを探している様にゆっくりと飛行していた。すると

 

…ドンッ!

 

突然その航空機から火の手が上がった!

操縦不能なのかその航空機はバランスを大きく崩し、もはや墜落する事は明らかだった。

 

操縦士

(……!)

 

しかしそうはならなかった。

数日前に墜落しかけた旅客機を救ったのと同じ、赤い光と青い光が目に見えない位のスピードで接近し、航空機を支えたのだ。支えられた機体はバランスを取り戻し、そのまま海上に着水した。と同時に月の光が一層強くなり、ふたつの光を照らし出した。

 

操縦士

(!!!)

 

それはISだった。

赤と青の炎を思わせる様な輝きを放つ機体。

黒い悪魔の羽を思わせる形状のスラスター。

カラーリングや細かい部分に違いはあるがそれはまさに双子と呼べる位よく似ていた。

 

ふたりのIS

(…)

 

ISは何も言わなかった。

そしてそれらが飛び去ろうとした……その時、

 

「ちょっと待ったーーー!!!」

 

「「!?」」

 

突然航空機の外部スピーカーから凄まじい声が上がった。あまりの突然の爆音に驚いたのだろう、ふたりのISも思わず立ち止まって振りかえる。

 

「とうとう見つけたよ!いや~やっぱりISだったんだ!てかスゴいね!本当にたったふたりで飛行機持ち上げちゃうなんて!一体どんな構造してるの?てかなんでそんなにそっくりなの?量産型のISってわけでも無さそうだし!まさか本当に双子?もしそうなら相当レアじゃん!会えて本当にラッキー!」

 

「「……」」

 

あまりのマシンガントークに何も言えないのか完全に黙りこんでしまっているようだ。

 

「…様、落ち着いて下さい。はいお水です。」

 

「はぁ、はぁ、ありがとクーちゃん(ごくごく)、ぷはーうまい!もう一杯!おっとそうじゃなかったね!いやいやゴメン、自己紹介がまだだったね!私は篠ノ之束!束さんと呼んでね~ブイブイ!顔はもう知ってるよね!」

 

「「!!!」」

 

「さあ次は君たちも顔を出して自己紹介して!目には目を、歯には歯を、顔には顔をだよ!某ヒーロー番組でも言ってたでしょ!高貴な自己紹介には高貴な自己紹介で返せって!」

 

「束様、それを言うなら高貴な振る舞いには高貴な振る舞いで返せ、です。まあそれはともかく、私からもお願いします。束様がこんなに興奮するのは本当に珍しいのです。それに先ほどのお礼をちゃんと顔を見て言いたいのです」

 

「「……」」

 

やがてふたりのISは観念したのか、ゆっくり顔を被うバイザーを外した。

 

「……えっ?」

 

「……ふ、双子!?しかも男性!?」」

 

彼女たちが見たのは赤い目と青い目をしている銀髪の双子の男。

そう、火影と海之であった。




次回、双子と篠ノ之束の思わぬ関係、そして互いの思いを打ち明けます。


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Mission04 双子と束と束の過去

前世の自分の行いを悔い、改めて新しく生きる事を決意する海之(バージル)。

一方、またしても航空機の墜落未遂事故が発生!
…と思いきや、その航空機に搭乗していたのは、世界中が血眼になって探しているあの白騎士事件の発端であり、全てのISの生みの親、篠ノ之束だった。


場所は変わってここは先ほど墜落?しかけた飛行機の中。大事故に思えた爆発だったが実はあまり大した被害はなく、簡単な修理で再び飛ぶ事ができた。その理由は後ほど語るとして……、飛行機の中では火影、海之、束、クロエ(あの後名乗った)がいた。しかし何故か先ほどまであんなマシンガンだった束が2人の顔を見てからずっと黙り込んでいた。

 

「……」

 

(束様どうしたのでしょう?先ほどまであんなにお元気でしたのに…)

 

「……おい、どうした?さっきまであんなにひとりマシンガントークを繰り広げて失笑かってたのにさ」

 

「……えっ」

 

火影に声をかけられて束はようやく口を開いた。

 

「やっと声出したな。なんだかこっちが心配になってくるぜ。さっきと態度がまるで違うんだからな。まさか多重人格か?」

 

「…ち、違うもん!束さんだっていつもあんな調子でいるわけじゃないもん!精々9割9分8厘だもん!」

 

「…いや限りなく100じゃんか。クロエと言ったか?お前も大変だな」

 

「そんな事はありませんよ。まあ騒がし過ぎて力尽きて倒れる位ならありますけどね。その度に束様をベッドまでお運びしなければなりませんから」

 

「クーちゃんゴメン」

 

~~~~~

なぜかみんなで笑った。

 

「そういえば自己紹介がまだだったな。僕は」

 

すると火影が挨拶をする前に束が切り出した。

 

「……赤い目の君は火影・藤原・エヴァンスくん。青の君は火影くんのお兄さんの海之くんでしょ?」

 

「「「…?」」」

 

火影と海之、クロエも何故?という表情だ。

 

「因みにお父さんはアルティスさんでお母さんは藤原雫(しずく)さんだよね?」

 

「父さんたちの事まで…」

 

「……何故知っている?父たちの事もだが、俺たちの事まで知っている理由が思い浮かばない」

 

火影も同じ意見だ。まさか篠ノ之束が自分たちの事を知っているなんて。

 

「…簡単だよ。それは昔、私が君たちに会ったことあるからさ。君たちはまだ小さかったから覚えてないみたいだけどね」

 

「「なんだって(なんだと)?」」

(出会った事がある?いつ?)

 

当然ながらふたりは困惑する。

 

「君たち白騎士事件は知ってる?」

 

「あれを知らないやつがいると思うか?あんたが日本に最大の恐怖を与えたISの御披露目ショーだろう?」

 

火影は少し皮肉を込めて言った。

 

「まあね!私の可愛いISを馬鹿にした奴らに目にもの見せてやるために世界中の兵器をハッキングして日本に一斉攻撃してやったの♪誰もが日本壊滅の危機?とそこに颯爽と正義の騎士登場!たったひとりで日本を救った英雄!世界中の人間が興味を抱くであろう!「あの騎士は何か!?」と。そして望むであろう!「あれが欲しい!」と。こうしてISは表舞台に立ち、今や世界を代表する存在となったのであった!いや~あの時の馬鹿共のへこへこ顔は今でも目に浮かぶね♪たかがISコア一個だけに数十億なんて出すし、ざまあって感じだよね~♪」

 

「束様…」

 

「「……」」

 

火影は険しい表情をしていると自覚していた。隠すつもりだったが時には怒りを見せる事もある。海之だったそうだ。

 

「……ただ」

 

((…?))

 

「ただアルティスさんと雫さんの気持ちを裏切ってしまった事だけは、本気で反省してるかな」

 

((!?))

 

火影と海之は更に不思議がった。

 

「あんたと父たちの間に何が?」

 

海之は尋ねた。

 

「ああ君たちは知らなかったんだよね。さっきも言ったけど昔束さんがISを世界に発表した時、散々バカにされたんだ。あんなガラクタなんの役にも立たない、宇宙なめんな、遂には束さんが女だからという理由で鼻にもかけない奴もいた。ほんとそんな奴ばっかだった。束さんだけが否定されるならまだいいよ。でもISまで馬鹿にされてまるで自分の子供たちまで無駄だと思われてるみたいだった。ほんとに悔しかったよ。」

 

((……))

 

「そんな中で唯一声をかけてくれたのがその時発表会に来ていたアルティスさんと雫さんだったんだ。アルティスさんは天才プログラマーとして、雫さんは特別枠で招待されてたからね。二人は私がISを造った理由を聞いて感動したと、あなたなら絶対に夢を叶えられると言ってくれた。本心からの言葉とわかった。本当に嬉しかった。そんなふたりが手を引いて歩いていたのが、まだ幼かった君たちだよ♪だからさっきバイザーを解除した君たちの顔を一目みて確信したんだ!あの時のあの子達だって。でもあの時の束さんは大人にはなりきれなかった。結果は知っての通りだよ。でも雫さんのご実家がある地域は攻撃対象から外しておいたよ。それだけはどうしてもできなかったんだ。まあそれでもあの人の国を狙った事には変わらないけどね…。さぞ向こうでめちゃ怒られるだろうなぁ…、ガクガクぶるぶる」

 

「束様…」

 

火影達は彼女の行動に隠された想いをこの時初めて知った。だから自分達も伝える事にした。

 

「……いや、それは多分大丈夫だと思う」

 

「えっ?」

 

「あの事件の後、父さんと母さんが言ったんだ……」

 

※詳しくはMission02をご覧ください。

 

「…」

 

「父さんと母さんはおそらくあんたの気持ちをわかっていたんだと思う。あんたの無念さや苦しみを。だから決して最後まであんたを責める事はしなかった。まあ仮にあんたが母さんの故郷まで狙っていたとしても問題無い。母さんの家には父さんが提供した特別防衛プログラムがある。ミサイルなんてなんの役にもたたないだろうな」

 

「……あなた達はどうお思いですか?束様を恨んでますか?」

 

「そりゃ最初は許せなかったよ。なんてひどい奴だって。でも父さんや母さんの想いを聞いたら少しずつそんな気持ちも薄れてきた。ふたりが許しているのに僕たちが許さないわけにいかないだろ」

 

「それに恨むといっても俺たち自身は特に何もされていない。こいつの言う通り父や母が既に許しているなら俺たちが許さない道理はない」

 

火影も海之も正直に伝えた。罪を憎んでなんたらという訳ではないがもうこれ以上この件に関してはどうこうしようとは思っていない。例え事件を起こした張本人が目の前にいるとしても。

 

「ただもし万一またあんな事件を起こしたなら、全力で阻止させてもらうぜ。例えあんたを殺す事になってもな」

 

「それについては俺も同意する。ましてや俺たちの大切なものに手を出そうものなら、容赦はしない」

 

そう言う火影と海之の目はまるで炎が宿ったような輝きと強い意思を表していた。

 

「…」

 

「束様?」

 

「おいどうした?またガソリン抜けか?」

 

「……う」

 

「う?」

 

「うわあああああ!!!」ガシッ!

 

「「「?!」」」

 

束は突然大泣きし始め、同時に火影と海之を抱き締めてきた。

 

「た、束様!?」

 

「ど、どうした?そんな怖かったか?」

 

「うわああああ!アルティスさんごめんなさい!!雫さんごめんなさい!!ごめんなさーい!!!」

 

束はこの時思っていた。自分を応援してくれた思いを裏切り、あんな事件を起こしてしまった。なのにあの人たちは私を責める事もせず、理解してくれていた。しかもあの人たちはIS絡みの自爆テロに巻き込まれて死んだ。直接的ではないがそれも私のせいだ。私があんな事さえしなければあの人たちは今も生きていたのかもしれないのだ。この子たちと幸せに暮らしていただろう。私があの人たちとこの子たちの幸せを奪ってしまったという現実に、束はひたすら謝るしかなかった……。

 

((……))

 

そして火影達もこう思っていた。泣きながら、僕たちを抱き締めながらずっと謝罪の言葉を叫んでいる。それは普段ふざけてばかりいる彼女が初めて見せた、本当の想い、素顔だったのかもしれない、と……。




次回、束が二人にある提案をします。
その提案とは?


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Mission05 束のお願い

運命的な出会いを果たした火影・海之兄弟とISの生みの親である篠ノ之束。束はかつて自分を認めてくれていた兄弟の両親の想いを知り、自分の行いを悔い、涙するのであった。


「…ヒック、グスッ…」

 

あれからしばらく束は泣き続けてやっと落ち着いてきた。彼女が泣いている間は本当に大変だった。父さんと母さんの名前を叫びながら謝ったり、僕たちの名前を呼びながらぎゅうぎゅう抱き締めたり、クロエがその度に束をあやしたりしていた。

 

「落ち着いたか?」

 

「……うん。ありがと。もう大丈夫。ふたりもクーちゃんもほんとにゴメンね」

 

「気にするな。多少驚いたが」

 

「私も驚きました。でも少し良かったです。束様の意外な一面を知る事もできましたし♪写真撮っておいて良かったです♪」

 

「えっ!クーちゃん写真撮ってたの?!」

 

私は超焦った!あんなの記録されたら!

 

「撮ってません。冗談です♪」

 

「! もうやめてよクーちゃん~」

 

~~~

またみんなで笑った。

 

そうしてる中で火影は束に聞きたい事があった事をすっかり忘れていたのを思い出して聞いてみる事にした。

 

「なぁ束さん。今さらなんだけどなんでこの飛行機あんな大事故起こしたのに今も問題なく飛べてるんだ?大した修理もしてないのにさ」

 

「あぁそういえばまだ説明してなかったねひーくん。あれはフェイク、ニセモノなんだよ。言ってみれば3D映像と束さん特性のでっかい蚊取り線香が燃えただけ♪」

 

「…なんだそのひーくんって?」

 

「火影くんだからひーくんなんだよ。因みに海之くんはみーくんね。今後はそう呼ぶからね♪これってスッゴい名誉な事なんだよ!君たちも遠慮なく呼ばせてくれたまえ!」

 

((ハァ…))

 

すっかり元に戻った彼女に安心した反面火影らは心の中でため息を吐いた。

 

「話を戻そう。あの事故はフェイクだと言った。何故そんな事を?」

 

「それは勿論君たち、いや正確には君たちのISに会いたかったからだよ♪」

 

「…アリギエルとウェルギエルの事か?」

 

「アリギエルとウェルギエル?そういう名前なんだね!まぁとにかくあのISに会いたかったんだよ。この束さんが知らないISなんてあるはずないと思ってたからね。でもどこから来るのかわからなかったし、普通のやり方では出会えそうもない。そこであの航空機墜落未遂事故を思い出したんだ。あの飛行機と全く同じ時間に全く同じルートで全く同じ事故を再現すればいつか出会えるんじゃないかって。ほとんど賭けみたいなものだったけどでももう出会えるなんて私って運が良い~♪でもまさか双子のISだったなんて!しかも操縦者がどちらも男だったなんて!流石の束さんも驚きのハーモニーだよ♪」

 

束のマシンガントークも復活したようだ。

 

「……会ってどうする?奪うつもりだったか?」

 

この女の事だからそれ位の事はしたがるだろう。本来ISは国が所有・管理するが俺たちの機体は父の会社の功績から特例として俺たちの所有物として認められている。だから俺たちの意思で使う事ができるし、受け渡しもできる。まあ勿論渡すつもりは無いがな。

 

「そうしたかったんだけど……止めた!」

 

「え?」

 

「どうしてですか束様?あんなに喉から手が出るほど欲しがってましたのに?」

 

意外な答えに束以外のみんなが驚いた。

 

「うん、最初は勿論そのつもりだったんだけどね…。束さんならそんな事わけないし。でもあの子たちの操縦者がひーくんとみーくんとわかって、なんでかその気急降下?あとアルティスさんたちの話聞いたら更に自由落下?まぁとにかくそんな気分になったわけ。だからふたりが話してくれる様になるまで待つのも良いかなと思って。それにこの子達なら間違ってもあの子たちを悪い事に使ったりしないだろうしね」

 

「…束さん…」

 

「……」

 

「束様…」

 

思いもよらない束さんの言葉に三人は少し感動しかけた。が…、

 

「まぁ細かく調べられなくても大まかならいくらでも調べられるからね~♪」

 

「「「…ハァ」」」

 

束以外のみんなは前言撤回した。

 

「……その代わりといってはなんなんだけど…、ひーくんとみーくんにひとつお願いがあるの」

 

束さんは突然火影と海之に提案してきた。

 

「なんだ?」

 

「君たちIS学園って知ってる?」

 

「あぁ、ISを動かせる人のためにISを学ぶために造られた日本にある学校……まさか」

 

「ど、どうした海之」

 

海之はいきなり理解した様だ。そして海之は答えた。

 

「この人…俺たちにIS学園に行けと言いたいんだ」

 

「へっ?」

 

火影は自分の耳を疑った。しかし海之は嘘を言う様な男ではない。

 

「ピンポーン!大正解!いやみーくん頭良いね♪その通り!君たちにIS学園に行ってほしいんだよ!知ってるかもしれないけどISは本来女性にしか動かせない。男性しかも双子の男性操縦者なんて世界からしたら超超レア物なんだよ!!君たちも多分大丈夫とは思うけど今後どうなるかわからない。世界は君たちみたいな良い子ばかりじゃないからね!あ、束さんも一緒か♪まあ君たちを守るという意味でも行ってほしいんだよ!それにIS学園は生徒の人権も最大レベルで保証されてるからね!ましてや君たちスメリアでしょ?二重の意味で安心!ブイブイ!あっ、そうだ!なんなら今からでも転校届けを!」

 

返事を聞く暇もなく束は電話を手に取ろうとする。

 

「ちょ、ちょっと待て!僕たちまだ行くなんて一言も行ってねぇし!僕たちもう高校行ってるし!もっと言えば行く理由が0だし!」

 

「ああ。それにISを動かせる男性操縦者はまだいるだろう?織斑一夏、あの世界一のIS操縦者、織斑千冬の弟が。そちらの方が俺たちよりよほど貴重だと思うが」

 

そう、実は例外はふたりが初めてではない。織斑一夏。世界一のIS操縦者でありブリュンヒルデと呼ばれる生きる伝説、織斑千冬の弟。彼もまたISを動かせる男である。彼は本来別の学校を受けるつもりだったが、誤ってIS学園の試験会場に入ってしまい、そこに置かれていたISを偶然にも動かしてしまったのだ。これは世界的トップニュースして取り上げられ、瞬く間に彼の名前は世界中に知られてしまった。彼の身を案じた姉千冬はその後、IS学園に彼を転入させることを決めたのである。

 

「世界初の男性操縦者の織斑一夏。しかもその姉の織斑千冬は生きる伝説。これほどの貴重な存在はそうそういないだろう。そんな所に俺たちが行って更に余計な混乱を招きたくない。それにあんたも言ったが一応俺たちには国の後ろ盾もある。安全は問題無い」

 

海之の言葉に火影も同意した。すると束はやや真剣な表情で答えた。

 

「うん、だからこそ君達に行ってほしいんだよ」

 

「…というと?」

 

「実は…織斑一夏と織斑千冬は私の幼馴染なんだ。束さんはいっくん、ちーちゃんと呼んでる。今回の件でいっくんはきっと世界中から注目される。良い意味でも悪い意味でもね。でも候補生でも代表でもないいっくんには君達の様な国の後ろ盾もない。どちらかといえば国の宣伝、研究材料として利用されると思う。ちーちゃんは確かにいっくんのお姉さんだけど、ブリュンヒルデという立場的な問題もある。いわばこれは君達にふたりを守ってほしいという束さんとしてのお願いも含まれているかな」

 

「……」

 

「それにもうひとつあります。実は今年束様の妹の箒様がIS学園に入学する事になっているんです。ですが束様は白騎士事件からあまり箒様と交流できず、いえ正確には箒様が束様を避ける様になってしまいました。束様はそれに苦しんでおられます。表には決して出しませんけどね。でも束様にとっては数少ないお友だちとご家族ですから」

 

「…だから代わりに僕達に傍にいて守ってほしいと?」

 

「私はそう思います。私からもお願いします。束様の願い、引き受けて頂けませんか?」

 

「……」

 

世界初の男性IS操縦者の織斑一夏。

その姉でありブリュンヒルデでもある織斑千冬。

ISの生みの親である篠ノ之束。

その妹の箒という女性。

 

一夜にしてこれ程多くの存在を知ってしまったのはなにかの運命か。それとも神の悪戯か。

本当なら関わらない方が良いのかも知れない。転生者である自分たちはおそらくこの世にいない筈の人間だ。そんな自分たちが表舞台に立ったら思わぬ弊害が出るかもしれないのだから。

 

…だがこの世に自分達を転生したあの少女の言葉を思い出してしまう。

 

 

(…みんなを守ってほしい。あなたたちなら…)

 

 

……暫くの考慮の後、火影は口を開いた。




束の願いに対して火影・海之の出した答えは!?


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第二章 Infinite Stratos
Mission06 IS学園  (人数が増えるので、今回より台詞の前に名前を記入します)


自分の大切な家族である妹。そして幼馴染を守ってほしいと火影と海之に依頼してきた束。

自分達の存在の異質性をわかりつつも少女の言葉を思い出す火影。
はたして彼らの答えは?


火影・海之兄弟と束の思わぬ邂逅から数日後。

場所は変わり、ここは日本にある島のとある空港。

ここに火影と海之兄弟がいた。

 

火影

「……なぁ海之。なんかさっきから視線を感じねぇか?あちらこちらから」

海之

「同意する。まぁIS学園は女しか生徒がいない。教師も男性はほんの数人しかいないと聞いている。大方男がここにいる事が珍しいんだろう。ましてや俺たちみたいな学生はな」

火影

「なるほど。しかし、束さんの紹介とは言え入学試験も何も無しにいきなり入学決定とはな。試験受けた生徒から白い目で見られそうだ」

海之

「お前が安請け合いなどするからだ」

 

…………

 

そう。あの時彼らは束の依頼を引き受け(正確にいえば海之は巻き込まれた)、IS学園行きを決定したのだ。そしてその後の進行はとてつもない勢いであれよあれよと進められた。

まず束は兄弟が行くという返事を聞いてすぐIS学園にいる織斑千冬に電話を入れた。どう話したかというと、

 

「ああもしもしちーちゃん?お久しぶりだね~!ねぇねぇ早速で悪いんだけどさ!双子の男の子のIS操縦者って興味ない?束さんの友達なんだけどさ!……え?束さんに友達なんているのかって?失礼だなー。まあそれはともかくとして聞いてよ!あの飛行機墜落未遂事故覚えてる?あれを助けた赤と青のISいたでしょ?あのIS操縦者が男、しかも双子だったんだよ!……え?どうやって見つけたのかって?そりゃ束さんの裏ワザだよ!……どうせろくな方法じゃないだろうって?いやいや其ほどでも♪まあとにかく会ってみてよ!めちゃ良い子達だから。ああ入学試験とかこの子達には無意味だからいらないよ!あと束さん推薦プラス紹介状も書くからね♪んじゃねー♪」

 

という訳だ。

その後も学校に急な転校届けを出すわ、家や会社に事情説明して引っ越し手続きをするわ(ギャリソンや会社の社長でもある叔母が旨くまとめてくれたのであまり問題ではなかったが)、国にIS学園に行く事を通達するわ(スメリア代表としてではなく個人として行くので国の問題としないためにだ)、本当に大変だったのだ。まあ何とか学期の始まりには間に合ったわけだが。ふたりは今学園からの迎えを待っている。

 

火影

「しっかし小さいとは云え島の半分以上使って学園を建てるとは。世界がISにどれだけ力を入れているかが如実にわかるな」

海之

「束も言っていたがあの事件でISが注目されたのは兵器としての部分が大きい。一般的にはISはスポーツとなっているが、裏では世界はISを力として見ている。少しでも優れたISと操縦者を持つことが世界をリードする事につながる。生徒達は見事に操られていると言っても過言ではないだろう。愚かな話だ」

火影

「力か…。しかしお前がそんな事を言うなんてな。何回聞いても不思議な感じがするぜバージル」

海之

「おい、頼むから今後は気をつけろよ。俺もお前ももはや前世の半人半魔、バージルとダンテではない。普通の人間なんだ」

火影

「わかってるよ。……とお迎えが来たようだぜ」

 

見ると入口からひとりの女性がこちらに歩み寄ってくる。黒いスーツ姿で髪は後ろで縛っている。一見すると普通のキャリアウーマンの様だがふたりはその女性が放つ気と隙の無さから只者ではない事を瞬時に感じ取った。

 

スーツの女性

「遅れてすまない。君達があのバカ…失礼、篠ノ之束の話で聞いた双子の男のIS操縦者か?」

火影

「ええ。所であなたは?」

スーツの女性

「ああ失礼した。私はIS学園で教師を務めている織斑千冬という者だ。宜しく頼む」

火影

「織斑千冬って噂のブリュンヒルデの?これは光栄ですね。まさか生きる伝説直々のお迎えとは」

千冬

「そんな大層なものではない。あと生きる伝説等、どこかのバカが言った事が大袈裟になってしまっただけに過ぎんよ。全く迷惑な話だ。気にしなくて良いぞ」

火影

「そう言ってくれるとこちらとしても助かる。固いことは苦手なんで。ああ自己紹介が遅れた。スメリアの火影・藤原・エヴァンスです。宜しくお願いします」

海之

「海之・藤原・エヴァンスです。一応俺が兄になります。宜しくお願いします」

千冬

「……」

海之

「…何か?」

千冬

「あっ失礼。しかし束から双子と聞いていたがまさかここまで瓜ふたつとは…。違うのは眼の色位か」

火影

「ええまあ。あとこいつが髪型変えてる位ですね」

千冬

「そうか。所で君達のエヴァンスという姓だが、まさかお父上は…」

海之

「そうです。父はアルティス・エヴァンス。ESC「エヴァンス・セキュリティ・コーポレーション」創始者です。まあ父と言っても俺たちは養子ですが」

千冬

「やはりそうか。スメリアでエヴァンスといえばそれが筆頭だからな。ああすまない、話込んでしまった。取り合えず学園に向かおう」

 

千冬・火影・海之の三人は車に乗り込み、IS学園に向かう事になった。

 

…………

 

その車内

 

千冬

「そういえば束から君達の学園入学に関して推薦状を書くと聞いたのだが」

海之

「預かってきています。…これです」

千冬

「…確かにあいつの字だ。えっと……ハァ」

火影

「ど、どうかしましたか?」

千冬

「読んでみろ」

 

そういうと彼女は手紙を返してくれたので僕たちは読んでみた。その内容はというと、

 

束の推薦状の中身

「ちーちゃんへ

この手紙を読んでくれているってことは無事にひーくんみーくんに会えたんだね!良かった良かった。

前にも電話で話したけどこのひーくんみーくんの入学に関してはこの束さんがしっかり推薦するよ!エッヘン!IS学園の入学試験ってたしか教師との模擬戦だったよね。まあ男子には試験と言うより力試しみたいなものかな。でもひーくんみーくんには関係ないよ。というかおそらく相手にもならないからねきっと!それにさ、飛行機を墜落から救った英雄に試験なんてありえないでしょ!あっそれはカンケイなし?まあとにかくそういう事。

因みにふたりが持っている専用機だけどわかる限りでいいのでわかったら教えてもらって良いかな?といっても無理だろうけどね。何しろそのIS、世界でも指折りのセキュリティがかかってるんだよね~。突破できるのはせいぜいこの束さん位かもね。まあ感想程度でも良いので教えてもらえたら嬉しいな♪それじゃいっくんと箒ちゃんにもよろしくね♪それじゃね~」

 

火影・海之

「…ハァ…」

 

千冬の苦労がよくわかるような気持ちの火影と海之だった。

 

千冬

「まったくあいつときたら…。ところで本当にあの旅客機墜落を防いだのは君たちなのか?しかもたったふたりで」

火影

「ええまあ…」

千冬

「…まあ束があそこまで言うのだから間違いないか。あいつはふざけるが私に対してウソはつかないからな。あと君達の専用機だが話からして束は開発に関わっていない。かといってスメリアがISを開発なんてありえない。どういう事だ?」

海之

「申し訳ない。俺たちにもわからないんです。物心ついた時には持っていたので。両親も知らなかったようなので」

千冬

「そうか…」

 

海之達は話さない事にした。あれらは本来この世に存在しないものだ。ましてや神から貰った等、とても信じてもらえる様な話ではない。

 

海之

「あと俺たちは本当に試験無しでも良いのですか?いくら束さんの推薦とはいえ」

千冬

「それに関しては問題ない。ISの生みの親であるあいつの影響は思った以上に大きい。そんなあいつの推薦とあらば聞き入れざるを得ない。どちらかといえば君達の事を聞いてからの方が大変だったよ。ISの操縦者に男がいただけでも相当、ましてやふたり目三人目が出てくるとは。あの時の仕事の量といったら今でもゾっとする位だ。しかも学期が始まるまでに間に合わせないといけなかったし。全く忙しくて堪らなかったぞ」

火影

「…すいません」

海之

「…申し訳ない」

千冬

「ああ気にするな。君達を責めるわけじゃない。寧ろ弟に…、っともうすぐ到着だな」

 

そうこうしている間にIS学園が見えてきた。

 

 

…………

 

千冬

「着いたぞふたりとも。ようこそIS学園へ」

火影

「ここが…」

 

「IS学園」

日本にあるIS操縦者を育成するために建てられた国立の高等学校。操縦者だけでなくIS専門のメカニックなどISに関連する人材はほぼこの学園で育成される。また学園の土地はあらゆる国家機関に属さない、云わばこの学園そのものが一種の独立国であり、いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対して一切の干渉が許されないという国際規約が認められている。最も全く干渉されないわけではないが…。

あと敷地内にはISの訓練用のアリーナや食堂、大浴場も設けられている。因みに全寮制である。

 

火影

「…ハァ」

千冬

「どうした?今になって疲れが出たか?」

火影

「いえ、ここって本当に女子ばかりなんですよね?そんな中でこれから過ごすのが気が重くて…」

千冬

「まあそれには慣れてもらうしかないな。恨むならあのバカを恨めよ。ああ、あと2人は私のクラスに転校してもらう事になっている。1-1だ。因みに私の弟もいるから良ければ仲良くしてやってくれ」

火影

「織斑先生の弟さんってことは、織斑一夏って奴ですね。あっすいません、奴なんて呼んでしまって。偶然にもISを動かしてしまったっていう」

千冬

「ああその通りだ。全く世話のやける弟だ…。ちょうど今はHR中だ。では行こうか」

 

火影と海之は千冬に連れられて自分達のクラスである1-1を目指して歩き出した。




次回よりついに本格的に本編スタートです。宜しくお願いします。


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Mission07 織斑一夏

束からの依頼を引き受け、IS学園の入学を決めた火影と海之。
日本に着いた二人を迎えたのは世界一のIS操縦者であり、ブリュンヒルデの称号を持つ織斑千冬だった。

空港や車中でのやりとりを経て、火影と海之はついにIS学園へ。
彼らが世界初のIS男性操縦者、織斑一夏と出会うのはもう間もなくであった。




場所は変わってここはIS学園、1-1の教室。

IS学園はISの学校。ISは本来女性にしか動かせないため、必然的に生徒は1-1含め全て女子である。……だがそんな女子達で埋め尽くされる教室で項垂れている不幸な男子が1人いた。

 

黒髪の男子

「…つ、つらい…」

 

彼の名は織斑一夏。彼こそ世界初の男のIS操縦者である。彼は本来全く別の学校を受けたのだが、偶然IS学園の試験会場に入ってしまい、そこに安置されていたISに触れてしまい、なぜか起動してしまったのだ。更に運悪くその瞬間を目撃されて世界中に知られる存在となってしまい、そのままIS学園への入学が決定した。今彼は教室どころか廊下にいる他のクラスの女子からも興味津津の眼で見つめられている。

 

一夏

「…はあ、なんでこんなことに…。俺は珍獣かよ…。と言っても元はと言えば千冬姉の言った通り試験会場を間違った俺のせいだからなあ。せめてあとひとり位男子が。それか知り合いでもいれば少しは気分が晴れるんだが…」

 

そういいながら俺は周りを見渡すとひとりの少女が目に入る。ポニーテールをしていてどこか気の強そうな女子。よく見ると彼女もこっちを見ている様だが俺がそっちを向くとプイッと顔を反らした。

 

一夏

「あの子は…」

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

そんな時HRの開始時間を伝えるチャイムが鳴った。一夏を見に来た女子たちも教室に戻って行く。そして暫くするとひとりの女教師が入ってきた。緑色の髪で眼鏡をかけた大人しそうな女性である。

 

緑色の髪の女教師

「み、皆さん、入学おめでとう。わ、私は副担任の山田真耶です。よ、よろしくね」

 

真耶と名乗る教師は生徒全員に挨拶をした。だが…

 

「「「ジー…」」」

 

HRになっても女子生徒はみんな一夏にくぎ付けだった。

 

一夏

(…おいおい!俺を見てる暇があったら山田先生を見てやれよ!先生困ってるだろ!?)

真耶

「え、え、え~と…とにかく初日なので自己紹介から始めていきますので、よ、よろしくお願いします~」

 

そういうと生徒達は順番に前に出て自己紹介を始め出した。

 

 

…………

 

一夏

(…はあ。正直かなり辛いと思っていたがまさかここまでとは。パンダってこんな気分なのかな?)

真耶

「…斑くん?」

一夏

(さっきも言ったけどせめてもう一人男子がいればなあ。あとそう言えばさっきの女子もやっぱ見覚えある気がすんだよなあ…)

真耶

「織斑くん!」

一夏

「ハッハイ!」

真耶

「次、織斑くんの自己紹介ですよ」

一夏

「あっすすいません!」ガタッ

 

俺は呼ばれて慌てて前に出た。

 

一夏

「…」

生徒達

「「「………」」」

一夏

(やばい。俯けないからさっきより辛い!と、とりあえず何か言わないと!)

「お、織斑一夏です!!」

生徒達

「「「………」」」

 

生徒達は一夏の更なる紹介が気になっている様だ。

 

一夏

「………………以上です!!」

 

 

「「「ドガシャーン!!」」」

 

 

本当に鳴ったわけではないがほぼ全員豪快にコケた。

その時、

 

バコーン!

 

突然一夏の頭に何かが思い切り当てられた。出席簿のようだ。

 

千冬

「全くお前は…。自己紹介も碌にできんのか?」

一夏

「…げっ!ラオウ!?」

千冬

「誰が世紀末の覇者だ、バカ者」 バコーン!

 

そういうと一夏は2度目の出席簿を受けた。

 

一夏

「いってー!…千冬姉、なんでここに?」

千冬

「織斑先生だ。なぜもどうも私はお前の担任だ」

一夏

「げっ!マジか!」

千冬

「マジもなにも大マジだ。さあ早く席に戻れ。後が閊えてるんだ」

 

そういうと一夏は頭を押さえながら席に戻った。それと同時に自己紹介は再開した。

 

 

…………

 

一通り終わって最後に千冬が前に出た。

 

千冬

「諸君、改めてIS学園入学おめでとう。私は今後諸君の担任を務める織斑千冬だ。因みにそこにいる織斑一夏は私の弟でもある。諸君にひとつ言っておく。私は例え代表候補生だろうが代表だろうが世界初の男性操縦者だろうが特別扱いはしない。私の生徒となった以上、授業に付いて来れない者は容赦なく叩き落とすつもりだからそのつもりでいることだ!」

 

千冬は生徒に気を込めて言った。その一方で生徒の方は…

 

「キャーキャー!あの織斑千冬様よー!」

「まさかあの生きる伝説のブリュンヒルデに教えてもらえるなんて!」

「お母さんお父さん!私の人生に誇りとなる物ができました!」

「先生!もっと強く罵ってー!」

「ねぇねぇ織斑くんって織斑先生の弟さんなんだって!ってことは織斑くんと付き合えたら…キャー!」

 

……ほぼ全員方向違いな考えをしていた。

 

千冬

「静かにしろ!!…全く揃いも揃ってなぜ変わり者ばかりなんだ全く…」

一夏

(おいおい、俺もなんか噂に巻き込まれてるぞ…)

 

千冬も一夏もうんざりした様子だった。

 

千冬

「良いか?しつこい様だがもう一度言うぞ。私の生徒になった以上、口答え及び勝手な行動は許さん。そして付いて来れない者は容赦なく放っておく。努力しない者も同様だ。くれぐれも忘れるなよ!」

 

…しかしそれでも一部の女子の妄想は止まらなかったようで、千冬は無視して話を進めた。

 

千冬

「ああそれから、急な話だが新たにふたりの生徒がこのクラスに入ることになった。本当に急だったのでつい先ほど日本に着いたばかりだ。では紹介する。おい、入ってこい」

 

そういうと教室の扉が開いて…

 

一夏・生徒

((!!!!))

 

一夏と女子達はみんな驚きを隠せなかった。何故なら入ってきたのは…

 

一夏

(お、男!?し、しかも双子!?)




次回、双子が一夏達と出会います。


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Mission08 三人の男性IS操縦者

女子たちが埋め尽くすIS学園。
その中で世界初の男性IS操縦者である一夏は自身の置かれた状況に困り果てていた。頼りになりそうな者と言えば担任であり、自分の姉でもある織斑千冬。そしてよくわからないが会ったことがある様なひとりの女子。
そんな状況の中、彼のクラスにふたりの転校生が入ることになった。

その転校生とはどちらも男、しかも双子であった。




千冬

「では紹介する。おい、入ってこい」

 

入ってきたのはどちらも男。しかも双子。ひとりは火の様な赤い目をしていて髪をストレートに伸ばしている。もうひとりは海の様な青い目で髪はオールバックだ。

 

千冬

「では自己紹介をしろ」

火影

「はじめまして。今回IS学園に入る事になった火影・藤原・エヴァンスです。見てわかると思いますがこの隣の海之とは双子で一応僕は弟です。趣味は音楽、バイク、料理で得意なのはピザとパフェです。あと射撃です。ああ、あと僕とこいつはみなさんよりひとつ年上です。でも年上とか関係なく接してもらえればと思います。宜しく」

海之

「…海之・藤原・エヴァンスです。火影の兄になります。趣味は剣の鍛錬、読書、あとこいつと同じく料理です。あとは機械いじりです。俺の事も年上関係なく接してください。宜しくお願いします」

 

生徒達

「「「…………」」」

火影・海之

(…ん?(む?)なんかマズッたか?(失敗したか?))

 

火影と海之は沈黙が続いていた事になにか失敗したかと思っていた。

 

生徒達

「「「…キャ」」」」

火影

「え?」

生徒達

「「「キャアァァァァーーーー!!!」」」

火影

「のわ!?」

海之

「!?」

 

女子達の思わぬフェイントに火影は耳を抑え、海之は表情を歪めた。

 

「双子!しかもどちらも超イケメン!!」

「カッコいい!!」

「火影様に海之様。素敵な名前!!あとなんてきれいな目!!」

「火影くんは織斑くんとはまた違ったワイルド系!海之くんはクール系!」

「料理作れるって主夫ーー!!」

火影

(おいおいマジかよ……)

海之

(……やはり断るべきだった)

 

火影と海之はこの時初めて後悔した。

 

一夏

(…確かに俺から見てもふたりともすげーかっけー。あとほんとに瓜ふたつだ。まあ双子だから当たり前か。にしても俺の時はあんなに騒ぎになったのに、ふたりの事は全然今の今まで知らなかったな。なんでだ?まあ良いか。それより折角の男のクラスメートだ。しっかり交流しねーとな!)

千冬

「静かにしろ!…因みにエヴァンス兄弟はスメリア国籍で父親がスメリア人、母親は日本人だ。ではふたりとも席に着け」

 

そう言われて僕と海之は後ろの方の席についた。と同時にHR終了のチャイムが鳴り、小休憩となった。

 

 

…………

 

火影と海之は何とも言えない雰囲気に言葉が無かった。というのもこのクラスはおろか、数分の休みである小休憩だというのに他のクラスの女子も押し寄せて廊下から自分達を見つめていたからだ。しかもみんな笑顔で。

 

火影

「……なぁ海之」

海之

「……なんだ?」

火影

「悪魔共に囲まれた時以上に辛いと思わねぇか…?」

海之

「……奇遇だな。同感だ」

 

そんなやりとりをしていると向こうから男子が近づいてきた。

 

一夏

「ちょっといいか?」

火影

「ん?ああ、確か織斑一夏だっけか?世界初の男子操縦者っていう。火影・藤原・エヴァンスだ。火影と呼んでくれ。宜しくな」

海之

「海之・藤原・エヴァンスだ。俺も海之でいい」

一夏

「火影と海之だな。いやほんとに良かったよ。俺以外に男子がいないのかと半ば諦めてたからな。仲良くやろうぜ!俺の事も遠慮なく一夏と呼んでくれ」

火影

「ああわかったよ、一夏」

海之

「宜しく」

 

そのやりとりまで女子達はきらきらした目で見つめていた。

 

火影

「…きついな」

一夏

「だろ?」

海之

「…ハア」

 

キーンコーンカーンコーン

 

やがて小休憩が終わり、真耶による一時間目の授業が始まる。

HR時は頼りなかった真耶はさっきとはまるで別人でしっかりとした口調だった。

火影と海之も手元のタッチスクリーン型筆記道具にしっかり筆記していく。ISに関しての勉強は数日前までした事もなかったがそこは前の学校でトップだった海之と、海之ほどではないが記憶力に自信はある火影は難なく進めていた。一方…、

 

真耶

「以上でISに関する説明はここまでです。それでは織斑君、ここまでで何か質問はありますか?」

一夏

「えっと…その…」

真耶

「はい、何ですか?織斑君。何でも良いですよ?」

一夏

「あの……」

真耶

「はい」

一夏

「全部わかりません!」

 

思い切ったのか一夏ははっきりと言った。

 

真耶

「ぜ、全部ですか…?」

一夏

「はい、本当に全部です!」

 

自信さえ持ってそう答える一夏に困惑する真耶。やがて千冬が一夏に後ろから語りかける。

 

千冬

「織斑、お前入学する前にテキストが送られてきただろう?読んでいないのか?必読と書いてあった筈だぞ?」

一夏

「え?…あっ、もしかしてあの分厚い電話帳くらいの本?…しまった…電話帳と思って捨ててしまいました…」

千冬

「バカ者!」ゴンッ!

 

そういうと千冬は思い切り一夏に強烈な鉄拳制裁を食らわした。

 

一夏

「いっつーー!」

千冬

「後で事務所に行って再発行してもらってこい!あと内容は一週間で覚えろ!」

一夏

「い、一週間って、あの電話帳を一週間って…」

千冬

「いいな!?」

一夏

「…わかりました」

千冬

「全く…。エヴァンス兄弟は大丈夫だろうな?転校まで時間が無かったが。それじゃ試しに兄の方、ISの世代について説明してみろ」

海之

「はい。……」

 

海之は見事に一語一句逃さず答えた。

 

千冬

「ふむ、問題無いようだな。では次に弟の方、ISの基本についてだ」

火影

「わかりました。……」

 

こちらも淀みなく答える火影。

 

千冬

「こちらも問題無いようだな」

真耶

「でも凄いですよ。他の生徒より時間がなかったのにここまで習得するなんて」

千冬

「まあ基本だからな。当然だ。織斑、授業以外はエヴァンス兄弟に教えてもらえ。同じ男子の方が良いだろう」

一夏

「わかりました。…すまん火影、海之」

火影

「気にすんな」

 

キーンコーンカーンコーン

 

やがて一限目終了のチャイムがなり、休憩になった。

 

 

…………

 

火影・海之・一夏の三人が集まっている。

 

火影

「大丈夫か一夏?さっきの織斑先生の鉄拳すげー音がしたぞ?」

一夏

「ああ参ったよ全く…。しかしふたりとも良く覚えてたな。どれ位掛かったんだ?」

海之

「あれ位二日でマスターできる。覚えるのと覚えなくていいポイントをつかめればな」

一夏

「マジか!?」

火影

「ああマジだ。まあ心配すんなって。手伝ってやるから。その代わり今度飯おごれ」

一夏

「ああそれ位で済むなら大助かりだぜ!」

 

三人はすっかり打ち解けた様だ。




次回より、ヒロイン三人が登場予定です。


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Mission09 転校一日目からの波乱

火影、海之兄弟は織斑千冬が担任である1-1に転入する事に。そこには千冬の弟であり世界初の男子操縦者、織斑一夏もいた。

他のクラスメートが全員女子、更に自分達以外男子がいないということもあり、直ぐに打ち解けた三人であった。




一限目の授業が終了し、今は次の授業まで休憩中。

火影・海之・一夏の三人は次の時間まで会話をしながら過ごしていた。特に盛り上がったのは全員揃って料理が好きということで、何れ互いの料理の腕を競おうと約束した。

 

すると…

 

ポニーテールの少女

「…ちょっといいか?」

火影

「…ん?」

海之

「?」

一夏

「えっ?あっ!」

 

三人に入ってきたのはひとりの少女。腰辺りまで伸びた長い髪を後ろでポニーテールに縛っている。一見すると普通の少女という感じだが、火影と海之は千冬には程遠いがこの少女も中々の手慣れだと瞬時に感じ取った。

 

火影

「知り合いか一夏?」

一夏

「あ、ああ。まさか…箒か?」

箒と呼ばれた女子

「…久しぶりだな…一夏。…エヴァンス兄弟、悪いが一夏を少し借りて良いか?」

一夏

「借りるって俺は物かよ」

海之

「ああ構わん。一夏行ってやれ」

火影

「久しぶりなんだろ?ゆっくり語らってこい」

「感謝する。いくぞ一夏」

 

そういって箒は一夏の手を引っ張って行ってしまった。

 

火影

「…なあ海之。今箒って」

海之

「わかっている。どうやら彼女が篠ノ之束の妹らしいな」

火影

「やはりそうか」

(篠ノ之箒。彼女が篠ノ之束のたった一人の妹か…)

 

ふたりが彼女について話していると反対側から今度は自分達?を呼ぶ声がする。

 

「ねぇねぇ、ひかりん~、みうみう~」

火影

「…へ?」

海之

「…何?」

 

振り向くとそこにはのんびりとした雰囲気を醸し出すひとりの少女がいた。

 

「ねぇねぇ、ひかりん~、みうみう~」

火影

「あの…なんだそのひかりんって?もしかして僕の事か?」

海之

「…みうみう…」

「そ~だよ~、火影だからひかりん、海之だからみうみうね~。ね~ちょっと良い~?」

火影

「…良いも何も君は?」

「あ~ごめんね~。私は布仏本音。みんな「のほほんさん」って呼んでるよ~。だからひかりんもみうみうもそう呼んでね~」

火影

「あ、ああ」

海之

「…断る事は出来ないのか?」

本音

「だめ~」

海之

「…ハア」

火影

「で、そののほほんさんが僕達に何の用だ?」

本音

「あ、そうだった~。ねえねえさっき聞いたんだけど~ひかりんもみうみうもおりむ~も料理できるの~?」

火影

「おりむ~ってもしかして一夏の事か?まあそれは置いといて。ああできるぜ。僕はイタリアンとスイーツ。海之は和食だな。一夏はわからねぇけど。今度競い合おうと約束したよ」

 

するとのほほんさんの表情が一層明るくなった感じがした。

 

本音

「じゃ~ね~じゃ~ね~、私も参加して良い?といっても私は審査員だけど~」

火影

「ああ良いぜ。競い合うのに審査員は必要だからな」

本音

「ほんと~!ありがとう~!約束だよ~!」

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

そうこうしている内に休憩は終わり、

 

火影

「ああ約束だ。ほら早く席に戻れ」

本音

「は~い」

 

そうしてのほほんさんは席に戻った。一方、一夏と箒はギリギリ間に合わず織斑先生の出席簿を受けていた。

 

 

…………

 

特に問題は無く二限目は終わり、火影達はまた三人で集まっていた。

 

火影

「また喰らったな一夏」

海之

「脳細胞死滅しない様気をつけろ」

一夏

「そうするよ…いつつ」

 

三人で話していたその時、

 

「ちょっとよろしくて?」

火影・一夏

「「ん?」」

海之

「…」

 

話しかけてきたのは金髪の女子だった。箒程ではないが長い金髪の髪。雰囲気からしてヨーロッパの生まれに見える。

 

「まあなんですのその空返事は?青い目の貴方に至っては返事さえ致しませんし!やはり男というものはその程度の存在という事でしょうか。この私に話かけられるだけでも大変光栄で名誉な事だといいますのに!」

火影

「…いや名誉も何も僕と海之は自己紹介が終わってから入ってきたから君の事知らないんだが…」

「…ああ、あなた達はそうでしたわね。それについては失礼致しました。でもあなた、織斑さんは私の自己紹介も聞いてらっしゃる筈ですが?」

一夏

「…ああ御免。聞いていなかったかも」

 

それを聞いて少女はやや声を荒げて言った。

「まあなんて失礼な!この私の言葉を聞き逃すなんて無礼にも程がありますわ!このイギリス代表候補生、セシリア・オルコットのありがたいお言葉を!」

 

少女は自分の事をセシリアと名乗った。

 

一夏

「…それはごめん。所で…代表候補生ってなんだ?」

セシリア

「な・な・な!あなた本気で仰ってますの!?」

 

セシリアは信じられないという表情で顔を真っ赤にして言った。

 

海之

「一夏。代表候補生というのはその名前の通り、国の代表として候補に挙げられたIS操縦者の事だ。これになると政府または企業から専用のISが与えられる。またその国の選抜代表選手権等にも参加することが許される。云わば未来の国の代表だ」

一夏

「へぇ、そいつは凄いな」

セシリア

「そう!私は限られたエリート!あなた達と違うのです!そういえばあなた達は入学試験で試験官の方と戦われたと思いますが、結果は如何でしたか?まあどうせあっという間に敗れたのでしょうけど。私ほどの腕になりませんと試験官と対等に戦う等不可能でしょうから!」

 

セシリアはそう自信満々に高々と言った。

 

一夏

「試験官って、ああ、あれか。それなら俺も倒したけど」

セシリア

「…へ?」

一夏

「と言ってもあれは倒したことになるのかな。勝手に突っ込んできて避けたらそのまま壁に突っ込んで勝手に自滅しただけだけどな」

「…そ、そんなまさか。私だけではありませんの?」

 

思わぬ展開にセシリアは言葉を失っている様だ。

 

一夏

「ああ、そういえば火影と海之はどうだった?勝ったのか?」

セシリア

「そ、そうですわ!あなた達はどうですの!?」

 

そう言われて正直に答えた。

 

火影

「いや、僕と海之は推薦で来たから試験を受けてない」

一夏

「え?そうなのか?」

セシリア

「な、なんですって!?推薦!?私でさえその様な話聞いておりませんわよ!」

火影

「そう言われてもな。本当に試験も一切無く入ることになったんだ。ある人の推薦を受けてな。因みに誰かは言えないが。何なら織斑先生に聞いてみると良い。紹介状持ってるからな」

セシリア

「!?」

一夏

「紹介状!へえそいつは凄いな。でもあの千冬姉が珍しいな。そんな物をすんなり受け取るなんて…あの、オルコットさん?」

 

セシリアはまるで何も言えなくなったかのようにプルプル震えていたがやがて、

 

セシリア

「こ、このお話はまた次の機会に!覚えておく事ですわ!」

 

そう言ってセシリアは自分の席に歩いて行った。

 

火影

「なんだったんだ一体?」

一夏

「さあ…?」

海之

「…」

 

転校一日目から波乱の予感であった。




次回はクラス代表生推薦イベントの予定です。


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Mission10 決闘の申し込み

すっかり打ち解けた火影・海之。一夏の三人。

他にも一夏の幼馴染であり、束の妹と思われる箒という少女。
話していると思わずこちらも気が緩んでしまうのほほんさんこと本音。
イギリスの代表候補生であるやや高飛車な少女、セシリア。

転校一日目からいきなり波乱の予感を感じる火影と海之であった。


学校一日目。授業は4限目が終わる頃に差し掛かっていた。

初日かつ1限目から失敗してしまった一夏は3限4限目も山田から質問を当てられたが、火影と海之から次の時間のポイントを先に教わっていたため、たどたどしくも何とか返答する事もでき、授業は問題なく進んでいた。

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

そして4限目の授業が終了した。この日は入学一日目と言う事もあり、授業は4限目で終わる予定だ。すると…、

 

千冬

「…では本日の授業はここまで!明日からはこの程度ではすまないからそのつもりでいるように!それと本日は最後にこのクラスの代表を決めようと思う。自薦推薦は問わん。誰かいるか?」

 

クラス代表とは今後のクラス対抗戦等に出場する、文字通りクラスの代表者である。

 

女子1

「織斑先生!私は織斑君を推薦します!」

一夏

「げっ!俺!?」

女子2

「私は火影くんが良いです!

火影

「おいおいマジかよ…」

女子3

「海之くんならクラスを冷静に引っ張ってくれると思います!」

海之

「…ハア」

 

他の生徒も立て続けに一夏、火影、海之を推薦していく。

 

「今のところ織斑とエヴァンス兄弟か…。他に誰もいないなら…」

 

そんな時、

 

セシリア

「それは納得できませんわ!!」

「「!?」」

 

突然セシリアが声を出して否定しだした。

 

セシリア

「この誇り高きイギリス代表候補生の私を差し置いて男が代表なんてふざけるにも程がありますわ!この様な文化レベルも低い後進国で3年も過ごさなければならない事にさえ耐えがたい屈辱ですのに、更に私に屈辱を味わえというのですか?そんな事納得できる訳ありませんわ!」

 

一夏はその言葉に少し腹がたった思いがした。一方火影と海之は相手にしていない感じだ。

 

千冬

「しかしオルコット。これはクラスの全員で決めることだ。お前ひとりの意思で決める事ではない」

セシリア

「ならば私は自分を自薦しますわ!この私に勝る代表なんてこのクラスにいるわけ無いのですから!ましてや男性になどこの国のどこにも!」

 

一夏は我慢できなくなった表情でセシリアにもの申そうとしたが、その前に火影と海之が冷静に意見する。

 

火影

「…そういうイギリスには何か誇れるものがあるか?いっちゃ悪いが食べ物に関して言えばイギリスよりこの日本の食い物の方が比べ様にならない位ウマいものが多いけどな」

セシリア

「なっ!?あなた私の祖国を侮辱致しますの!?」

海之

「それに関してはこちらもそのまま返させてもらう。今あんたは自分の祖国を馬鹿にされて怒っている。それは先ほどあんたに日本を馬鹿にされたこの場にいる日本人全員も同じ気持ちだ。自分だけが被害者面するのは違う。こちらに謝罪を求めるなら先に日本を侮辱したあんたがこの場にいる日本人全員に謝罪すべきだ」

セシリア

「!…だ、誰が日本人なんかに…!」

海之

「では聞くが、ISの生みの親である篠ノ之束。そしてブリュンヒルデである織斑先生。そして男でありながら世界で初めてISを動かしたこの一夏。これらはあんたからして低俗な日本人か?俺たちからしたら彼らの気持ちを考えずにそんな風に罵詈雑言を浴びせるあんたの方がよほど低俗だと思うがな」

セシリア

「!!」

火影

「それにこれに関しては俺(本気)もかなり怒っている。俺達の母さんは日本人だ。本当の親ではないけどな。その母さんが愛した日本を、そして日本人である母さんをあんたは今馬鹿にしている。それだけは許せない」

 

ふたりの言葉に他のクラスメートは何も言えなくなっていた。

そしてやがてセシリアが、

 

セシリア

「け、決闘ですわ!!そこまで言うなら私より優れていることを証明していただきたいですわ!!もし私に勝てば身を引いてさしあげますし、皆さんに謝罪も致しましょう!でも私が勝てばあなた達には私の召使いになってもらいます!それで文句はございませんでしょう!?」

 

雰囲気に耐えられなくなったのか、セシリアは三人に決闘を申し出た。

するとこれに対して一夏が、

 

一夏

「…いいぜ。わかりやすいやり方でちょうど良い!受けて立つぜ!」

 

火影と海之はどうするか考えているとそこに千冬が入ってきた。

 

千冬

「織斑、オルコットの相手はお前がしろ。エヴァンス兄弟は出なくて良い。今のオルコットにはお前達と戦う意味も無いからな」

セシリア

「な、織斑先生!それはどういう意味ですの?」

 

セシリアは千冬に訪ねた。自分を責めた張本人と戦うことができないとは。

 

千冬

「この際だからはっきり言っておこう。お前達、2ヶ月前にあった旅客機墜落未遂事故は覚えているか?」

セシリア

「もちろんですわ。あれには私の祖国の議員も乗っておりましたから」

一夏

「ああ俺も覚えてるよ。赤色と青色の光に助けられたってゆう。でも千冬姉、それがどうかしたのか?」

 

他の生徒も同意見なようだ。

 

千冬

「織斑先生だ!…まあいい。旅客機墜落を阻止したのは赤色と青色の光となっているが、その光とはISの事。そしてそのISとは……ここにいるエヴァンス兄弟だ」

 

 

…………っえ?

 

 

千冬・火影・海之以外の全員

「えーーーーーーーーーーーーーー!!」

一夏

「そ、それは本当なのか!?ち、いや織斑先生!!」

「ま、まさかこのふたりが!?」

セシリア

「あの飛行機を救った光、いやIS…!?」

千冬

「ああ。確かな情報だ」

 

クラス全員驚きを隠せない様だ。それはそうだろう。あの墜落を防いだ英雄がまさかこんな少年で、しかもこんな近くくにいたとは。

 

千冬

「これでわかっただろう、オルコット。今のお前にはこの兄弟と戦う意味も資格もない。お前にできるか?自分の命が危ないとわかっていながらも全く関係ない人間を救うために、自分の身を盾にして旅客機を救ったこいつらと同じような事が」

セシリア

「…」

 

セシリアは何も言えなかった。火影と海之は自分よりも何もかもが違いすぎる。はるかに強い。心も身体も。それを如実に感じ取ったからだ。

 

千冬

「よって今回は織斑とオルコットの一騎打ちとする。ああそれからエヴァンス兄弟。お前達には織斑とオルコットの試合の後、悪いが兄弟同士で試合をしてもらう。

火影・海之

「「え?」」

千冬

「お前たちは確かに優れた操縦者なのかもしれんが、我々はまだお前達のISも能力も見ていない。ここらで一度ちゃんと確認しておきたいからな」

火影

「まあそう言う事なら大丈夫ですよ」

海之

「…俺も問題ありません」

千冬

「決まったな。では一週間後、織斑とオルコットでクラス代表の決定試合。その後エヴァンス兄弟で模擬戦を行う。では解散!」

 

そしてHRは終了した。随分時間はかかったが一週間後、

織斑一夏VSセシリア・オルコット

火影VS海之

試合を行う事が決定した。




決闘を行う事になった一夏とセシリア。
はたしてどうなるか!?


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Mission11 篠ノ之箒 そしてセシリアの謝罪

学校一日目の授業が終わり、クラス代表を決める事になった1-1。
クラスの大半が火影達の名を推薦する中、只一人イギリスの代表候補生、セシリア・オルコットは自分こそふさわしいと異議を唱える。

話し合いの結果、一週間後に一夏とオルコットによる代表決定戦。そして火影と海之の模擬戦を行う事になった。


長いHRを終えて火影、海之、一夏は学園の食堂に向かっている。授業は一応午前で終わったが、ここの食堂は授業のあるなしに関わらず、年中無休で開いているのだそうだ。

 

一夏

「しっかし驚いたぜ!まさかあの事故を防いだのが火影と海之だったなんてなー」

火影

「…あんまり大きな声で言わないでくれよ?織斑先生にも言われたろ?」

一夏

「おっとそうだった」

 

尚、HRにおいて二ヶ月前の旅客機墜落未遂事故を防いだのが火影と海之だった事が明らかになったが、余計な騒ぎにならないようこの件はその場にいた者、1-1だけの内密になった。…やがて食堂にたどり着き、火影達は食券を買って自分達の注文を受けとる。

 

一夏

「えっとどこか…、あっ」

 

一夏が見た先には篠ノ之箒がいた。

 

一夏

「よう箒!ここいいか?」

「一夏、それにエヴァンス兄弟。…ああ構わない」

火影

「ありがとな」

海之

「失礼する」

 

四人は一緒に食事をとり始めた。

 

一夏

「しかし午前も会ったが久しぶりだな箒。束さんは元気か?」

 

すると箒がやや顔をしかめて答える。

 

「…知らん。あの人とは暫く会っていないからな」

一夏

「わ、悪い」

火影

(束さんの言う通りやはり姉妹仲はあまり良くないみてーだな…)

 

…………

 

やがて終わりに差し掛かると火影が一夏に尋ねる。

 

火影

「そういえば一夏、お前決闘真っ先に受けてたったがどうするつもりだ?お前ISに関しては初心者なんだろ?あまりにも不利すぎると思うが?」

一夏

「う~ん、それなんだよなぁ。さっきはつい怒りに任せて言っちまったが改めて考えるとなぁ…」

 

すると隣に座っていた女子が話に混じってきた。

 

女子

「ねえねえ、あなたが1-1の織斑一夏くん?」

一夏

「へ?…ええまあ」

女子

「話で聞いたんだけど今度クラス代表を賭けて決闘するんだって?なんなら私が教えてあげようか?私こう見えてもIS適正ランクAなんだ♪良かったら教えてあげるけど!」

一夏

「え、ええと…どうしようかな…」

 

突然の誘いに一夏は困っている様だ。すると黙っていた箒が突然、

 

「すいませんが織斑くんには私が教えます。私の姉はIS開発者の篠ノ之束なので」

女子

「篠ノ之束さんの?…じゃあしょうがないわね…」

 

そう言うと女子は残念そうに立ち去った。

 

一夏

「ありがとな箒。なんか助かったよ。でも本当に教えてくれるのか?」

「あ、ああ勿論だ。任せておけ」

一夏

「サンキュー♪あっ、ちょっとトイレ行ってくるわ」

 

そう言うと一夏はトイレに行ってしまった。箒は一夏の後ろ姿を見つめていた。

 

「…」

火影

「…なぁあんた」

「ん?ああすまない、なんだ?」

 

火影はストレートに聞いてみた。

 

火影

「あんた、一夏に惚れてるな?」

「!!??」

 

箒はあっという間に真っ赤になった。それは正に図星である証だった。

 

「なななななな!?い、いきなり何を言う!!私はそんな」

火影

「隠さなくてもわかるって。あんたさっき一夏が篠ノ之束の事を話した時その話はするなって言った。でもさっき他の女子生徒が一夏に自分がコーチに、という話を持ちかけた時は自分から篠ノ之束の妹だと言って話を止めた。例え嫌いな話でもそれ以上に一夏を取られたくなかった。違うか?」

「う…」

火影

「おまけに今日一夏と僕達が話してた時、話に入って来て一夏の手を引っ張って行っちまった。あれも同じ様なもんだろ?」

「あ、あれは…す、すまなかった。…お前の言う通りだ。私は」

火影

「謝んなくてもいいって。別にあんたの気持ちを邪魔するつもりはない。応援してるぜ」

「ほ、本当か!?」

火影

「ああ頑張れ。因みにこれからは僕の事は火影って呼んでくれ。エヴァンス兄弟の何々とか邪魔くさいだろ?海之もいいよな?」

海之

「好きにしろ」

「ふふっ、わかった。火影と海之だな。では私の事も箒と呼んでくれ。篠ノ之と呼ばれるのはどうも苦手でな」

火影

「ああわかった」

 

やがて一夏が戻ってきた。

 

一夏

「悪い悪い…あれ箒、帰るのか?」

「ああ。一夏、明日から頼むぞ」

 

ほぼ入れ替わりで箒は食事を終えて帰って行った。

そして暫くすると三人に話しかける者がいた。

 

セシリア

「あの…」

火影・海之・一夏

「「「ん?」」」

 

三人に話しかけてきたのは先ほどHRで決闘を申し出たセシリアだった。

 

火影

「オルコットさん…?何か用か?」

セシリア

「あの…その…」

海之

「…話しにくい事なら場所を変えるか…」

 

 

…………

 

場所は変わって屋上。

火影・海之・一夏・セシリアの4人がいた。

 

セシリア

「……」

海之・一夏

「「?」」

火影

「なんなんだ…?」

セシリア

「…も」

火影

「も?」

セシリア

「申し訳ありませんでした!!」

火影・海之・一夏

「「「!?」」」

 

突然のセシリアの謝罪に三人は動揺していた。

 

セシリア

「本当に申し訳ありませんでした!あなた方のお気持ちを考えず、数々の罵詈雑言、どうか、どうかお許し下さい!」

火影・海之・一夏

「「「……」」」

セシリア

「特にエヴァンス兄弟のおふたりには本当に失礼な事を申し上げました!知らなかったとはいえ、あなた方の様な立派な方々に私はなんて事を…!そうぞおふたりのお好きな様に私を…!」

 

その必死ぶりから彼女が本当に反省していると三人は理解した。

すると…

 

火影

「…くっ」

セシリア

「…え?」

火影

「く、あははははははは!!」

海之

「ふっ」

一夏

「あっはっはっはっはっは!!」

 

火影・海之・一夏の三人は豪快に笑った。

 

セシリア

「な、何故笑うんですの!?私は本当に!」

火影

「ああ、悪い悪い。まさかそんなに必死で謝ってくるなんて思わなかったから。つーか気にしなくて良いよ。僕も海之も気にしてねーから。寧ろ僕達も悪かったな。あんたには酷い事を言ってしまった」

海之

「ああその通りだ。イギリスにも立派な文化があるし、英国紳士と呼ばれる位立派な人間は沢山いる。俺の知っている人にもな」

 

ふたりもセシリアと同じく心から謝罪した。

 

セシリア

「そんな!あなた方が謝る必要な等ございません。あれは私が!」

火影

「はいストップ!もう謝罪は終わりだ。あんたの気持はわかったから」

一夏

「俺もだ。しかし…何故そんなに男を毛嫌いするんだ?さっきのHR時はかなりきつかったぞ。何か訳ありか?」

セシリア

「え?…実は…」

 

そういうとセシリアは語り始めた。

 

彼女の両親は彼女が物心付いた時から既に夫婦と呼べる様な関係ではなかったらしい事。

彼女の母親は家を守るために必死で働き、大きくした。そんな母親は彼女の一番の誇りである事。

一方父親は誰に対してもへこへこしたり、母親からどんなに辛く当てられても謝ってばかりで全く頼りなく、彼女はそんな父親がずっと嫌いだった事。

そんな両親を数年前に事故で同時に亡くしてしまい、彼女は頼れるものを失ってしまった事。

しかし母親が自分のために残してくれた家を守るために必至で頑張り、国家代表候補生にまでなった事などを明かした。

 

一夏

「…そうか、そんな事が」

火影・海之

「……」

セシリア

「私はそんな恥ずかしい父を見て、男とはこんな人ばかりなんだと今まで思い込んでおりました。でもそれは間違いでした。改めて、どうかお許しください」

一夏

「もういいってオルコットさん。気にしてないって言ったろ?なあ火影、海之」

火影

「…ああ」

海之

「その通りだ」

セシリア

「あ、ありがとうございます」

火影

「ただし後日他の生徒にもちゃんと謝れよ」

セシリア

「はい。必ず」

一夏

「良し!それじゃ次は決闘だな。ここで更に男がやるもんだって所を見せてやるぜ!覚悟しなよオルコットさん!」

セシリア

「ふふっ。私も負けませんわ!」

 

そう言って一夏とセシリアは戻って行った。

そして残った火影と海之は…

 

火影

「なあ海之」

海之

「…好きにしろ」

火影

「了解~」

 

そういうと火影は電話を手に取った。

 

「……ああギャリソンか、僕だ。ちょっと調べてほしいんだが…」




はたして火影のギャリソンへの依頼とは?
次回は寮の部屋決め。そして一夏の訓練の予定です。


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Mission12 ルームメイト と 一夏の特訓

火影・海之・一夏が揃って食堂に行くとそこには篠ノ之束の妹、篠ノ之箒がいた。彼女の一夏への想いを知ったふたりは陰ながら応援する事に。

その後、セシリアの突然の謝罪と彼女の過去を知ったふたりは謝罪を受け入れ、同時にある調査をひっそりと行い始めた。



皆さんからの感想、ありがとうございます。全て目を通させて頂いています。
なにぶんこの様な事は初めてなもので色々おかしかったり下手なところも数多くありますが、皆様の小説を参考に少しでも修正できるよう頑張りますので、本当に気軽に読んでいただければ幸いです。


セシリアの思わぬ謝罪から数刻後……。

 

火影と海之は屋上を離れて職員室に向かっていた。食堂に向かう前に山田先生より、寮の部屋の鍵を渡すので後で来てほしいと言われたからだ。

 

職員室

 

火影

「失礼します。山田先生はいらっしゃいますか?」

真耶

「…はいはい。あっ、エヴァンス兄弟のふたり共、お待ちしてました」

海之

「すみません。昼食が終わったらすぐ伺うつもりだったのですが」

真耶

「気にしなくて良いですよ。えっと寮の部屋の鍵でしたね。…はい、これが弟くんの部屋の鍵で、こっちがお兄さんの部屋の鍵です。別々の部屋でごめんなさいね」

 

そういうと真耶はふたりにそれぞれ別々の部屋の鍵を渡した。火影は1039、海之は1044となっている。

 

海之

「ありがとうございます。確か相部屋と伺いましたが」

真耶

「そうなんです。あっ、あと基本説明なんですが、トイレは同じ階の一部を使えるようにしておきました。ここは基本女子高なので男子トイレが無かったので。まあ部屋にもありますけどね。あと各部屋にはシャワールームはありますが男子はまだ浴場が使えないんです。こちらもごめんなさいね」

火影

「気にしなくて良いですよ。僕は基本シャワーなんで。海之は風呂好きだけど」

真耶

「暫く経ったら君達も使えるようにしますから」

海之

「わかりました」

真耶

「ああ因みに織斑くんも同じ階です。部屋は1026ですから」

火影

「わかりました。では失礼します」

真耶

「ルームメイトと仲良くしてくださいね」

 

 

…………

 

学生寮

 

火影

「…1039、ここか」

海之

「俺は1044だ。じゃあな」

火影

「ああ」

 

火影は海之と別れ、自分の部屋に入った。

 

ガチャ

 

火影

「…こんにちは」

 

入室の際、先にいるであろうルームメイトに挨拶する。すると、

 

本音

「…いらっしゃ~い。…ってあれ、ひかりんじゃん~」

 

そこにいたのは知り合った本音だった。

 

火影

「布仏さん?君ここの部屋なのか?」

本音

「ひかりん~、のほほんさんだよ~!そだよ。あれひょっとしてひかりんがルームメイト?山田先生から今日からルームメイトが入るって聞いてたけど、ひかりんだったんだ~」

火影

「ああそうだ。知ってる顔で良かったぜ。よろしくな」

本音

「うん。よろしく~」

 

そういうと火影は先に届いていた自分の荷物を解き始めた。そして荷解きが終わった辺りで再び本音が話しかけてきた。

 

本音

「ねぇねぇ、ひかりん~」

火影

「ん?」

本音

「お菓子作って~」

火影

「…は?」

本音

「ひかりんデザート得意なんでしょ~。だから作って~」

火影

「いや何故…それに作れといっても材料が」

本音

「それなら冷蔵庫になにかあるから勝手に使って良いよ~」

火影

「良いのかよ…。ハア、ちょっと待ってろ、…え~っと…玉子と牛乳、あとパンがあるな…フレンチトーストなんかどうだ?」

本音

「うん!良いよ~!」

 

そういうと火影は本音にフレンチトーストを作る羽目になった。とはいっても家では作る機会がなかなか無いのでそれなりに楽しかった。因みに本音の好みに合ったようでかなり好評だった。

 

火影

(…そういえば作っている途中に遠くから一夏の悲鳴が聞こえたような…気のせいか)

 

 

…………

 

…数刻前、1044

 

海之

「ここか、…失礼する」

 

海之は挨拶をしながら部屋に入った。しかし返事がない。

 

海之

「誰もいないのか?……あっ」

 

それは違った。デスクの上で作業をしている、…いやずっとパソコン画面に食い付いて何か見ている少女がいる。薄い青い髪の眼鏡の少女。1-1では見かけなかった事から別のクラスの生徒のようだ。

 

薄い青い髪の眼鏡の少女

「………」

 

どうやら見ているものに夢中で海之の事には気づいていないようだ。なので少し近づいて再び声をかけた。

 

海之

「…あの」

少女

「…キャッ!…びっくりした…。えっと…誰?…あっ、もしかして…今日からルームメイトになるっていう…」

海之

「どうやらそうらしい。1-1の海之・藤原・エヴァンスだ。宜しく頼む」

少女

「あっ…、うん…宜しく…」

海之

「ずいぶん熱心に見ていたようだが…、これはアニメか?」

少女

「…うん。…おかしいかな…?」

海之

「いや別に」

 

見ると少女のデスクにはロボットアニメやそのキャラクター等のフィギュアが置かれている。海之は気にせず、自分の荷物の荷解きにかかった。

 

少女

「……」

 

私は一瞬彼に集中してしまった。海の様な深い青色の目で髪は銀色。

 

少女

「……」

(…きれいな人…)

 

海之

「…?…どうした?」

少女

「あっ!う、ううん…、ごめんなさい…」

海之

「そうか…。そういえばそちらの名前を聞いていなかったな」

少女

「えっ、あっ、そ、そうだったね。…簪…です。宜しく…」

海之

「わかった。簪さん」

 

少女の名を聞いたのを最後に、互いの作業に戻った。

 

海之

(…?今しがた一夏の声がしたような気がするが…、関係無いか…)

 

 

…………

 

翌日、教室に入るとまだ始まってもないのに既にのびている一夏がいた。聞いた話だと一夏は箒と相部屋だったらしいが、入室の際に運悪くシャワーあがりの箒と出くわしてしまい、彼女の怒りを買ったんだとか。その後激しく追いかけまわされるわ、誤解を解くまで約3時間謝る事になるわ、大変だったらしい。

 

火影

(……そういえば今日から一夏のISの特訓を始めるんだったな。後で見に行くか)

 

…………

 

放課後

 

体育館・剣道部

 

火影と海之は一夏と箒の訓練を見物していた。最も訓練と言っても一夏が箒に一方的にやられていたのが実情だが…

 

「何故だ…」

一夏

「ハアハア、ゼイゼイ…」

「何故ここまで弱くなっている?お前最後に会った時は私より強かったはずだぞ!」

一夏

「最後っつっても…ゼイゼイ、もう、6年も前だろ…?お前は知らねえけど…ハアハア、あの後剣道は辞めてたんだよ。忙しい千冬姉の代わりに…家事とかしなきゃいけなかったからな…」

「そ、それにしても…!」

火影

「まあまあそう怒んなって箒。昔の一夏がどれ位強かったかは僕は知らねえが、弱くなっちまったもんは仕方がないだろ?こいつだって織斑先生を助けようと思っての事だったみてぇだし。一夏からしたら本当はずっと続けたかったんじゃねえか?」

「む、むぅ…」

海之

「弱くなったのであればお前が鍛えてやればいい。一夏のISこそ届いていないが、ISは操縦者自身の運動神経や反射能力がほぼ直接伝わる物だ。お前なら知っているだろうが、剣は相手の動きを、剣がどこから飛んでくるかを読む事や間合いが重要だ。その感覚を取り戻すだけでも十分役に立つ」

「あ、ああそうだな。よし、一夏!決闘当日までみっちりしごいてやるから覚悟しろ!」

一夏

「げえ…。所で火影と海之はどうすんだ?」

火影

「僕と海之は少しやる事がある。それに代表決定戦と違って模擬戦だからな」

「大丈夫なのか?兄弟だからって手を抜いたら織斑先生に怒られるぞ?」

火影

「心配ねーよ。こいつに手を抜くとかありえねえから」

海之

「そうだな。俺とこいつはいつもお互い殺すつもりでやっている」

一夏

「こ、殺すって、そんな物騒な…」

火影

「ははは。じゃあな」

 

そう言って火影と海之は部屋を出た。




次回、やっとクラス代表決定戦に移ります。


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MIssion13 クラス代表決定戦① 開戦!一夏VSセシリア

学園1日目の全工程を終了した火影と海之は真耶より寮部屋の鍵を受け取る。
ルームメイトは火影はのほほんさんこと本音。海之は簪と名乗る控えめな少女だった。

一方、代表戦に向けて一夏は箒に剣道の訓練を受ける。一夏の実力が弱った事に箒は憤慨しつつも最後まで付き合うのだった。


それから時は過ぎ、ここは学園内にあるアリーナ。

 

今日はいよいよ一夏とセシリアのクラス代表決定戦。そして火影と海之の模擬戦当日である。

いつもなら授業を終えた生徒達は部活や生徒会といった活動があるのだが、この日はクラス代表戦があることから中止となり、多くの生徒がここアリーナに見物に来ている。勉強のために来ている者もいれば、決闘と聞いて面白いかもと思った者や暇つぶしで来ている者。しかし生徒の多くは一夏や火影や海之達、男子の操縦者が目当てだろう。その為アリーナ内はかなり盛り上がっていた。しかしこの世界は女尊男卑。ほとんどの生徒が男子等大した事ないだろうと思っていた。

 

 

アリーナ内東側ピット

 

一夏、そして許可を得て同席を許された箒、更に千冬がいた。セシリアは反対側のピットで準備を進めている様だ。

…さて、一夏だが少し困った問題が発生していた。

 

一夏

「…なあ箒?」

「…何だ?」

一夏

「…ISの訓練教えてくれるんじゃなかったのか?剣道しかやってなかったんだが?」

「……プイ」

一夏

「顔をそらすな」

「し、仕方がないだろう、お前のISが何時になっても来なかったんだから…」

 

そう。肝心の一夏のISが今の今になってもまだ届いていないのだ。

更に専用機は文字通りその人物専用の機体であるため、一旦製造過程で出来たシステムをリセットする初期化と、その人物の使い方に合わせて最適化を行う必要がある。しかしそれを行う事も出来ない位、今の一夏には時間が無かった。

 

千冬

「それについてはすまない。製造元がぎりぎりまで調整したいと駄々をこねてな。何しろ世界初の男性操縦者のためのISだ。普通より気合いが入っているんだろう。本来代表候補位にならないと持てない専用機だ。壊すなよ織斑?」

一夏

「は、はい…。そういえば火影と海之は?放課後から姿が見えねーんだけど?」

「あいつらなら少ししてから来るって……、ああ、来たぞ」

 

そこに火影と海之が走ってきた。

 

火影

「悪い!遅くなった」

一夏

「どこ行ってたんだよ?」

火影

「ちょっとお届け物を受け取りにな…。ところでお前へのお届け物はまだなのか?」

一夏

「ああ、そうなんだよ。やばいー!」

 

するとそこに真耶が慌てて走ってきた。

 

真耶

「織斑くん織斑くん!き、来ましたよ!織斑くんの専用機!」

千冬

「よし。織斑行くぞ!」

一夏

「は、はい!」

 

全員で真耶が走ってきた方向に向かった。

向かった先には解放されたコンテナがあり、その中には一機のISがあった。

 

真耶

「これが一夏くんの専用機、「白式」です!」

 

その機体は名を白式(びゃくしき)といった。見た所全体的に白銀色に輝く機体である。

 

一夏

「これが俺の…専用機…」

「名前の通り白を基調としているな」

千冬

「織斑、まず機体に触れてみろ」

一夏

「は、はい」

 

そう言われて一夏は目の前にある白式に触れてみた。すると…

 

キイイイイイイイイイイン!

 

一夏

「!?」

 

その瞬間、一夏は頭の中に急速に何かが流れ込んでくる感覚がした。

 

(……なんだこの感覚は…?俺はこいつを知っている…?)

 

「…一夏、大丈夫か?」

一夏

「え、あ、ああ大丈夫だ」

千冬

「時間が無い。織斑、直ぐに乗りこめ。ぶっつけ本番となるが初期化と最適化は試合中に行うんだ」

一夏

「わ、わかりました」

 

そういうと一夏は目の前にあった白式を纏った。

そんな一夏に、

 

海之

「一夏。前にも言ったがISは操縦者の感覚がほぼそのまま伝わる。ISを纏っているからと言ってそれに惑わされるな。自分の感覚を信じろ」

火影

「ああ。あとオルコットさんの機体は遠距離戦闘重視の機体だ。つまり近接戦に持ち込めばお前でもわずかに勝ち目はある。白式にどんな武装があるかはわからねえが、勝ち目があるとすればそこしか無い。一点集中を心掛けろ」

一夏

「ああ、わかった。…しかし2人共すげえな。まるで長い間ずっと戦ってきたみたいだぜ」

火影

「…気のせいだ。んじゃ、せいぜい頑張れ」

一夏

「ああ。…箒」

「な、なんだ?」

一夏

「行ってくる」

「!…ああ、勝ってこい!」

千冬

「頑張れよ」

真耶

「頑張ってください。織斑くん!」

 

そして白式はアリーナへ飛び立った。

 

 

アリーナ中央

 

一夏が近づくとそこにはセシリアが青いISを纏って一夏を待っていた。

 

セシリア

「……来ましたか」

一夏

「悪い。遅くなった!」

セシリア

「構いませんわ。ただレディを待たせるのは紳士としては少し失格ですわね」

一夏

「うっ、す、すまん」

セシリア

「ふふ、冗談ですわ。あなたの専用機が来るまで時間が掛かっていたのでしょう?どうせでしたら初期化と最適化が済んでからでも良かったですのに。それ位ハンデを差し上げませんと」

一夏

「!…へっ、言うじゃねーか。前のあんたに戻ったようだぜ。まあそれも俺を奮い立たせるための悪戯なんだろ?」

セシリア

「あら、わかってましたの?ですがハンデとしては本当でしてよ。あなたはまだISに乗られてまだ間が無さ過ぎますでしょうから」

一夏

「確かにな。でもここまで来たら逃げやしねぇよ。俺はチャレンジャーだ。全力で行かせてもらう!」

セシリア

「…わかりました。私も敬意を払ってお相手致しましょう!」

 

管制塔

「……それでは、試合を開始してください!」

 

~~~~~~

 

試合開始のアラームが鳴り響く。

 

一夏

「行くぜ!」

セシリア

「見せて差し上げますわ!私と私の専用機、ブルーティアーズの華麗なワルツを!」




一夏とセシリアの対決やいかに!?


※次回より初めて戦闘を書いていきます。未熟ですが頑張ります。


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MIssion14 クラス代表決定戦② 激闘!一夏VSセシリア

遂に迎えた一夏とセシリアによるクラス代表決定戦。
そして試合開始数分前になってようやく一夏に専用機が届けられた。

白銀に輝く機体の名は「白式」

初期化も最適化も済んでおらず、ISの操縦経験もセシリアに圧倒的に劣る一夏だが、今の自分にできる精一杯の事をしたいと決意し、セシリアに向かっていくのだった。


~~~~

 

試合開始のアラームが鳴り響いた!

 

一夏

「行くぜ!」

セシリア

「受けなさい!私とブルーティアーズの奏でるワルツを!」

 

一夏はまず白式の動きをつかむことを最重点とした。何しろISを動かしたのは入学試験の時以来。しかもその時は大した動きもせず終わってしまった。だからまずセシリアの攻撃をひたすら動きながら避けようと考えていた。

 

セシリア

「まずはこれを受けてもらいますわ!」

 

セシリアは小手調べという感じで、自身の持つスターライトというレーザーライフルを構え、一夏に向けて数発打ってきた!

 

一夏

「くっ!?」

 

一夏はまともに当たりはしなかったもののわずかに当たってしまい、自らのエネルギーを削られる。

 

セシリア

「そんな動きでは私にダメージを与えることなどできませんわよ!」

 

続けざまにセシリアは速度を変えたり、またはフェイントを交えて一夏に向けてライフルを撃ち続ける。

それに対して一夏は大きいものは受けなかったものの確実にダメージを受けていた。

 

一夏

「くっ!これがIS!そしてオルコットの実力!」

 

………

 

アリーナ東側ピット

 

火影達はスクリーンで一夏とセシリアの勝負を見守っていた。

 

「一夏…」

真耶

「やはりオルコットさんが優勢ですね…」

千冬

「まあ経験では圧倒的に劣るから当然ではあるがな」

「……」

火影

「大丈夫だ箒」

「えっ?」

火影

「よく見ろ。試合開始時と比べてこの短時間であいつの動きは良くなっている。その証拠にオルコットの攻撃を避ける頻度も多くなってきただろ?」

海之

「…だがそろそろ攻勢に出ないと、このままでは避けるだけで終わってしまいそうだがな」

 

感想はそれぞれだった。

 

………

 

一夏はようやくISの動きをつかみ始めていた。海之の言う通りISを纏っている事に余り気を使わず、自分の思い通りに動くようにイメージすると先ほどより上手く避けられている気がした。

一方のセシリアもつい最近まで素人だったとは思えない一夏の動きに驚きを隠せなかった。

 

セシリア

「…改めて謝罪致しますわ織斑さん。ここまで耐えたのはあなたが初めてでしてよ」

一夏

「それはどうも!」

セシリア

「だからそろそろ私も本気で行かせていただきますわ!…ブルーティアーズ!」

 

するとセシリアの機体から4機の個体が飛び出し、一夏を攻撃し始めた!

 

一夏

「うわ!なんだこりゃ!?」

セシリア

「これがブルーティアーズの奥の手。ビットによる全方位攻撃ですわ!」

 

その言葉の通り4機の個体は一夏のまわりを動き回って一夏に襲いかかった!

変則的なその攻撃に惑わされる一夏。

 

一夏

「くっ!このままじゃジリ貧だ!」

火影

(一点集中を心掛けろ…)

一夏

「…集中か…。こうなったらシールドを削られるのを覚悟して、行ってやるぜ!」

 

そう決意した一夏は今自分に出せる全速力でセシリアに向かっていく!

 

一夏

「うおぉぉぉぉぉ!!」

セシリア

「!…なんて無茶を!」

 

思わぬ一夏の動きに動揺したセシリアはビットの制御への集中を崩した。すると動きが鈍ったビットの一機を一夏が刀で撃破する。

 

一夏

「!…そうか、こいつらはあんたの操作が無ければまともに働かない!そしてこれを動かしている間あんたは他の操作ができない。つまり無防備ってわけだな!」

セシリア

「…!」

 

そういうと一夏は残りのビットも撃破し、そのまま無防備のセシリアに切りかかった!

 

一夏

「とどめだぁぁ!」

 

しかし、

 

セシリア

「残念ですわね!」

 

セシリアの横で何か動いたと思いきや、一夏に向かってきた!

 

一夏

「なっ!ミサイル!?」

セシリア

「これで終わりでしてよ!」

 

バシュウウウウ……ドオォォォォン!!

 

発射された2機のミサイルが一夏に直撃した!

 

……

 

東側ピット

 

「一夏!」

真耶

「織斑くん」

火影・海之・千冬

「………」

「そ、そんな…」

 

箒は泣きそうな表情だ。

その時、

 

火影

「箒、あいつは大丈夫だよ」

「……え?」

海之

「見てみろ」

 

そう言われて箒はスクリーンを見た。すると煙の中からわずかに光が漏れているのが見える。

 

千冬

「何とか間に合ったか……」

 

千冬も内心落ち着きが無かったのかほっとした表情をしたのだった。

 

……

 

煙が晴れたそこには白式、一夏がいた。ただし先ほどまでの白式とは形も違っており、更に手には光輝く大きな刀が握られていた。

 

セシリア

「な、なんですのそれは?まさか、一次移行(ファーストシフト)!?ではあなた、今まで初期状態で戦っていたのですか!?」

一夏

「う~んそこらへん良くわかんねえんだけど、なんか助かったようだな。あとこいつは…雪片、雪片弐型だ。今わかったんだけどな」

セシリア

「雪片弐型…」

一夏

「こいつは…千冬姉も使っていた雪片と同じ物。千冬姉の刀が使えるなんて最高だ。…俺はこいつで、俺の大切なものを守る。そう決めたんだ!」

 

そういって一夏はそれまでに無いスピードでセシリアに接近する。

 

セシリア

「くっ!?」

 

セシリアも負けずにスターライトを打つ。しかし一夏はダメージを受けながらもセシリアの目の前まで近づき、そして一気に雪片弐型を振り下ろす!

 

一夏

「おぉぉぉぉぉぉ!!」

 

一夏の強烈な一撃がセシリアにダメージを与えた。

そして……

 

 

管制塔

「両者、SE(シールドエネルギー)エンピティーのため、ドロー!」

 

………~~~~~~~~!

アリーナは歓声に包まれた

 

一夏

「なんかよくわかんねえけど、引き分けになったみてえだな。強かったぜ。さすが代表候補生だな、オルコット!」

 

俺はオルコットに握手を求めた。

 

セシリア

「……」

一夏

「…オルコット?」

セシリア

「…セシリア…」

一夏

「…へ?」

セシリア

「…これからはセシリアとお呼びください」

一夏

「ん?ああ、わかった。セシリア」

 

そう言って俺とセシリアは握手し、試合は終わったのだった。




次回、ついに兄弟行きます!

※今回初めて戦闘を書いてみましたが、思ったより楽しいと感じました。上手く書けたかはわかりませんが、頑張ります。


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Mission15 起動!双子のIS

クラス代表を賭けた一夏とセシリアの対決。
ISの操縦にまだ間が無い一夏はセシリアの射撃やビットによる戦術に苦戦するも、徐々に動きに慣れ始めていく。

やがてセシリアの裏をかいた攻撃に遂に一夏は敗れる…と思いきや、その瞬間白式の初期化と最適化が完了。一夏はかつて姉の千冬が使っていたのと同じ「雪片弐型」を手に入れ、形勢は逆転。結果は引き分けと勝利こそならなかったものの、一夏とセシリアは互いの健闘を称えるのだった。


アリーナ東側ピット

 

試合を終えた一夏はセシリアと共に東側のピットに戻って来た。それを火影、海之、箒、千冬、真耶の5人が出迎える。

 

「一夏!」

真耶

「お疲れ様です、織斑くん!オルコットさんも!」

一夏

「ありがとうございます。……ハア、なんか今になってすっげえ疲れが出てきたぜ…」

千冬

「まあはっきり言ってなんの準備も済んでいない機体でいきなりの実戦だったからな。無理もないだろう」

真耶

「…とか何とか言って先輩もすごく織斑くんの事心配してましたからね~♪」

千冬

「…山田先生、余計な事は言わなくて良い」

一夏

「だけどあのミサイル受けた時はもうダメかと思ったぜ…」

セシリア

「私もあの瞬間、勝利を確信していたのですが…、油断は禁物と言う事ですわね」

千冬

「勝って兜の緒を締めよ、だ。心しておけ。…さて次はエヴァンス兄弟の試合だが、アリーナの整備が完了するまで少し待っていろ」

火影・海之

「「わかりました」」

 

 

………

 

火影はスポーツドリンクを購入し、一夏とセシリアに手渡した。

 

火影

「ほらよ2人共」

一夏

「サンキュー」

セシリア

「ありがとうございます」

「しかし本当に惜しかったな一夏」

一夏

「ああ。しかしなんで俺のエネルギーまで切れちまったんだろ?」

千冬

「…ハア、わかっていなかったのか?それはお前の白式のせいだ」

一夏

「…へ?」

千冬

「正確には白式の単一仕様能力だがな。「零落白夜(れいらくびゃくや)」という。それを起動したためだ」

一夏

「起動って、俺そんな覚えないんだけど?」

千冬

「恐らく一次移行の際に同時に起動してしまったんだろう。話を戻すが、零落白夜とは相手のSEを無効化し、バリアーを切り裂いて相手のSEに直接ダメージを与えられるというものだ。ただ自分のSEを大量に消費するため、多くは使えんがな」

海之

「なるほど。だからオルコットの機体だけでなく白式のSEも0になったのですね」

千冬

「そういう事だ。零落白夜は云わば諸刃の剣。使い時を間違えば自分が負ける。良く覚えておけ織斑」

一夏

「は、はい!」

 

そこに真耶が走ってきた。

 

真耶

「先輩!アリーナの準備ができました!」

千冬

「そうか。ではエヴァンス兄弟、準備をしろ」

 

………

 

一夏

「いよいよ火影と海之の対決か~!正直楽しみだな。どんなISなんだ?」

セシリア

「確か御二人は推薦で入ったのですよね。先生方は御二人のISは?」

千冬

「いや、実は私も山田先生も知らない。だから今回の模擬戦でできるだけデータを取るつもりでいるが、…難しいかもしれんな」

「何故ですか?」

千冬

「ちょっとな…(束位の技術力が無いとという話だからな…)」

「?」

真耶

「では二人共、ISを展開してください」

火影・海之

「「はい」」

 

そう言うと二人は自分達が首から下げているペンダントを手に取った。

 

セシリア

「それが御二人のISの待機状態ですのね」

一夏

「でかい宝石だなー!」

「一夏、静かに」

 

火影

「行くか、アリギエル」

海之

「来い…、ウェルギエル」

 

カッ!!

 

二人のペンダントの宝石が光り出し、黒い光に包まれた。やがて2体のISが出現した。

 

「「「「「!!」」」」」

 

それを見た一瞬、彼らは言葉を失った。

通常ISは操縦者の胴体部分が見える様になっており、その部分には目には見えないシールドが張られている。そして手足の部分は大きくなっているのが普通だ。白式もブルーティアーズも例外ではない。

 

だが二人のISはそれとは全く別物だった。

全身を覆うタイプで火影は炎の様に赤く、海之は青い炎を思わす様な装甲。そして鎧と言うより少々厚い服とも言える位薄い。

手先足先には機械的ではあるが爪を思わせる様なものがある。

頭部も装甲で覆われ、顔部分はバイザーとなっていて外からは表情が伺えない。

背中には黒い翼を思わせるスラスターが付いている。

そしてアリギエルは背中にスカルの彫刻が施された真黒な大剣を背負い、ウェルギエルは腰に黒塗りの鞘の刀を携えていた。

頭部の装飾や所々違う点は見られるものの二人の容姿はほぼ同じで、それは正に双子とも言える物だった。

 

「ぜ、全身装甲!?」

真耶

「こ、これが二人のIS!?」

セシリア

「で、ですがこんな機体、見た事も聞いた事もありません!」

一夏

「す、すげー!ヒーロー?いや…まるでダークヒーローじゃねーか!」

千冬

「……」

 

4人はそれぞれ感想を述べたが千冬だけが他とは違う事を思っていた。

 

千冬

(なんだ…この異常さは…?オルコットも言っていたがこんなIS見たことが無い。これでは束がわからないと言ってたのも頷ける。…彼らは一体どこでこんなものを?)

 

一夏

「カッコいいな!二人共」

火影

「ありがとよ」

海之

「…」

千冬

「では二人共、アリーナに出ろ」

火影・海之

「「はい」」

「お互い頑張れ」

セシリア

「御二人の力、見せて頂きますわ」

真耶

「頑張ってくださいね!」

 

………

 

アリーナ中央

 

ピットから飛び出した火影と海之は向かい合っていた。

一方、一夏達以外にも彼らの試合を注目の目で見ている者がいた。

 

 

観客席

 

「……」

本音

「ね~かんちゃん~、ひかりんもみうみうもかっこいいね~!」

「う、うん、そうだね…」

(…織斑一夏のISを見るのは嫌だったから来ないでおこうと思ったんだけど…。あ、あの青いIS、あっちが海之くんかな…?)

 

 

…………

 

とある教室

 

簪に似ている少女

(いよいよね。さっきの織斑くんだっけ?あれも凄かったけど…私にとってのメインイベントはこっちなのよね!何しろあの篠ノ之博士の推薦というんだから。さあ火影くんと海之くんだっけ。二人の力、見せてもらうわよ!)

 

 

…………

 

???

 

束「ふっふ~ん♪とうとうあの二人が戦うんだね♪さあ見せてもらおうか!この束さんでさえ知らなかった二人のISの性能とやらを!なんちゃって♪」

 

 

…………

 

再びアリーナ中央

 

無言で向かい合っていた火影と海之だがやがて火影が口を開く。

 

火影

「…まるで見世物だな」

海之

「まるでも何もそうだろう」

火影

「まあな。僕たちはいつも通りやるだけだ」

海之

「…お前と戦うのは、何度目だ?」

火影

「…どうだかな?もう今さらだし、数えちゃいねえよ。……ふっ」

海之

「……ふっ」

 

 

火影

「始めようぜ海之!久々のケンカを!」ジャキッ!

 

 

火影は背中の大剣リべリオンを抜いて構えた。

 

 

海之

「……」チンッ!

 

 

海之は無言で腰の閻魔刀を手にとり、鍔を指で弾いて抜刀する。

 

管制塔

「それでは試合を開始してください!」

 

~~~~~~~~

 

火影

「おらぁぁぁ!!」

海之

「でやぁぁぁ!!」

 

アラームが鳴ると同時の二人は突進した!




次回、双子激突です。
互いの戦いとそれを見る者達の気持を書くつもりです。

※火影と海之の台詞、一部DMC5のアレンジです。


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Mission16 双子の戦い そして 思う者達

一夏とセシリアの試合が引き分けという結果で終わり、次はとうとう火影と海之の模擬戦。
初めて見る二人のISの異常さに戸惑う一夏達。
アリーナにいる者達や遠くから見守る束等、多くの者が2人の試合に注目する中、とうとう火影と海之の試合(ケンカ?)が始まった!




管制塔

「それでは試合を開始してください」

 

~~~~~~~

 

火影

「おらぁぁぁ!!」

海之

「でやぁぁぁ!!」

 

キィィィィィィンッ!!

 

アラームが鳴ると同時に火影と海之は互いに突進し、剣と刀が激しい音でぶつかった!

 

 

…………

 

観客席

「……………」

 

火影と海之の試合が始まって数分、観客達は静まりかえっていた。というのも……

 

キンッ!キンッ!ガキンッ!!キンッ!ガキンッ!!………

 

激しく鳴り響く剣と刀がぶつかる金属音。

火影の剣が繰り出されれば海之は刀でそれを受け流し、逆に海之が切りつければ火影はそれを受け止める。しかも高速で地面を走ったり空を縦横無尽に飛んだりしながら。そんな応酬がもう数分以上続いていたからだ。しかも未だにどちらも全くダメージも受けていない様だ。

 

 

…………

 

ピット

 

一夏・箒・セシリア・千冬・真耶

「「「「「………」」」」」

 

何も言えなくなっていたのは彼らの戦いをスクリーンで見ていた一夏達も同じだった。

 

一夏

「……なあ、……見えるか?あいつらの剣の動き」

「……いや……」

セシリア

「……全く……」

真耶

「二人共、なんて動きなんですか……」

千冬

「……」

(……あの動き、そして剣捌き。とても数ヶ月とかそんなレベルではない。…才能か?…それとももっと早くから動かしていたのか?……)

 

 

…………

 

観客席

 

本音

「……ね~、かんちゃん。ひかりんもみうみうもすごいね~。私全然見えないよ~。かんちゃんは?」

「……ううん、私も全然……」

 

 

…………

 

ある教室

 

簪に似た少女

「…あの動き…そして攻撃の正確性。さっきの織斑くんとオルコットっていう子には悪いけど格が違うわ。あんな子達がいたなんて…、そして今の今までこの私が知らなかったなんて…」

 

 

…………

 

???

 

「♪♪♪」

(いや~すごいね!ひーくんとみーくん!あの動き、そしてあの剣も刀も!普通ならあんだけ切り結んだら折れたりしちゃうんだけどね~!あの剣たちも異常クラスだね♪)

 

 

…………

 

アリーナ

 

空で火影と海之の近接戦闘が続いていたがやがて二人が距離を置いた。そして火影はリべリオンを背中に戻し、代わりに彼の両手には二丁の拳銃が表れ、それを海之に向かって打つ。

 

ズダダダダダダダダダダダッ!!

 

ふたつの銃口から無数の弾丸が向かっていくが海之は冷静にそれを閻魔刀で切り払う。

 

キキキキキキキキキキキキンッ!!

 

全て切り払うと今度は海之がお返しという様に、何も無かった空間から自分の周囲に光り輝く剣を数本出現させ、それを火影に放つ。

 

ビュビュビュビュビュン!!

 

すると火影は手に持っていた拳銃を戻し、今度はショットガンを出現させた。それを飛んでくる光の剣に向かって打つ。

 

バンッ!!バンッ!!

バリン!バリン!バリン!

 

放たれたショットガンの強烈な散弾は光の剣を全て破壊した。因みに当たらなかった弾は先と同じ様に海之が切り払っていた。

二人は飛び道具が無駄だとわかると、再度剣と刀に持ち替え、再び近接戦に突入した。

 

 

…………

 

ピット

 

一夏

「マジかよ…」

「あれだけの銃弾を…全て刀で切り払った…」

セシリア

「あの拳銃、そして散弾銃。あれだけの連射なら凄まじい反動の筈ですのに、それを軽々に…しかも散弾銃は片手で…」

 

一夏と箒は海之の剣術に、セシリアは火影の銃の扱いに特に驚いている様だ。

 

真耶

「織斑先生…あの二人は一体…」

千冬

「…」

 

 

…………

 

再びアリーナ

 

やがて二人の戦いに変化があった。海之が火影の一瞬の隙をつき、閻魔刀を火影の腕に刺したのだ。貫通こそしなかったが傷からはわずかに出血が見られた。

 

火影

「くっ!この!」

 

すると今度は火影がリべリオンを海之に振り下ろした。刀が火影に刺さったままの海之はそれをもう片方の手で直接受け止める。こちらもその為に出血した。

 

海之

「ちぃっ!」

 

アリーナ内の全ての者達

「「「「!?」」」」

 

ISを纏っている二人の出血を見て一部の観客が驚いている様だ。無理もないだろう。やがて二人は互いの剣を抜いて距離を取る。するとその瞬間互いの傷は無かったかの様に消え、再び戦いを再開した。

 

 

…………

 

ピット

 

一夏

「な!…、傷が…治った!?」

「い、いや、それ以前になぜ身体に刃が届くんだ!?」

セシリア

「しかも出血してらっしゃいましたわよ!?」

真耶

「おおお織斑先生!なんですかあれ!?」

千冬

「……わかりません。本来全てのISにはバリア、そして絶対防御が張られている筈なんですが…それにあの傷の再生の早さ…一体…」

 

 

…………

 

観客席

 

本音

「だ、大丈夫かな!?ひかりんもみうみうも!」

「……」

(…剣が身体を貫通?ISが出血?…一体…。大丈夫かな、二人共…)

 

 

…………

 

ある教室

 

簪に似た少女

「……」

(あの異常な傷の再生速度、そして出血ですって…。一体あれは…。そしてその操縦者の火影と海之という男子。彼らは一体…。これは少し調べてみる必要があるかもね…)

 

 

…………

 

???

 

「…いや~まさかこれ程までとはね~。あの剣捌きや銃捌きだけでも驚きなのに、あの再生能力は何よりも驚きだね~!出来ればバラしてみたいとこだけど…止めとこ!二人に嫌われたくないもんね~♪」

 

 

…………

 

アリーナ

 

やがて戦いに再び変化が起きた。

火影が上空から海之に強烈な勢いで剣を振り下ろし、海之はそれを受け止める。

 

海之

「ぐうっ!」

 

海之は体制を崩しながらもこれに耐え、火影を弾き飛ばした。弾き飛ばされた火影はアリーナの壁に背中から激突した。そして地面に落ちる。

 

火影

「ぐあっ!…ぐぐっ」

海之

「ハア、ハア…どうだ?以前のような生身と今と、どっちが戦いやすい?」

火影

「くっ…どうだろな。お前は?」

海之

「どうかな…もう遠い昔の話だ」

火影

「へっ、そうだな。随分昔だ。まあでも今はそんな事より…」

海之

「決着といこう…はっ!」

火影

「おらぁ!」

 

そういうと二人は構え直し、再度突進する。

 

その時、

 

~~~~~~~~~

 

アリーナのアラームが鳴る。

 

管制塔

「試合が続いていますがタイムリミットにより、これにて終了とします」

 

管制塔から試合終了を伝えるコールがアリーナに鳴り響いた。

 

「……………」

 

暫く静寂に包まれる観客席だったが、やがて、

 

 

ワアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

 

歓声が上がった。

 

火影

「…時間切れかよ…」

海之

「…らしいな…」

火影

「ハア……なぁ?…こっちでも…決着なんて付かねぇんじゃねぇか?」

 

そう言うと火影は地面に寝っ転がる。海之は地面に座り込んだ。

 

海之

「…かもな…。だが時間ならある。…ふっ」

火影

「…へっ」

 

くたくたになりながらも二人は笑っていた。




未熟ながらダンテとバージルの戦闘を書くのも楽しいです。あと彼等は出血なんて全然問題としてない気がします。


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Mission17 千冬、双子に問う

火影と海之の双子による模擬戦。
先の一夏とセシリアの試合をはるかに超える激闘に会場の者達も驚きを隠せない。

切りつけられた身体、出血、そして傷の一瞬の再生。

あまりにも異常な2人の戦いに様々な思いが巻き起こる中、試合は時間切れという結末で占めくられるが、観客は2人に最大の歓声を送るのであった。


アリーナ東側ピット

 

ケンカを終えた僕と海之はピットに戻ってきた。時間切れという結果で僕と海之からすりゃ不完全燃焼な気がするが、一夏達はえらく興奮していた。

 

一夏

「お疲れー!すげーな二人共!俺驚きの連続だったぜ!!」

「ああ全くだ。まさか二人がここまでやるとは思わなかったぞ」

セシリア

「本当ですわ!あんな戦い初めて見ましたわ!」

火影

「はは、そうか?そんな大したもんじゃねぇけど。おまけに時間切れで終わっちまったし」

海之

「ああその通りだ。あとあれ位いつもの事だ」

一夏

「いつもの事って、お前らいったいどんな訓練してんだよ…」

「それもあるが…、お前達のIS、あれは一体何なのだ?剣が刺さったり血が出たり」

一夏

「そう、そうだよ!どうなってんだアレ?そういえばお前ら何ともないのか!?」

火影

「あぁ大丈夫だ。えっとだな…」

千冬

「…エヴァンス兄弟」

 

みんなで話合っていると千冬がやってきた。

 

千冬

「話がある。二人共付いてこい」

火影

「あ…はい、わかりました。みんな悪い、後でな」

一夏

「おう、先に帰ってるぜ」

 

僕と海之は一夏たちと別れると織斑先生に連れられて行った。

 

……

 

火影

ボソボソ「…なあ海之、織斑先生の話って間違いなくあれだろうな…」

海之

「…だろうな」

 

……やがてある部屋にたどり着き、中に入るとそこには山田先生もいた。織斑先生が何かのスイッチを押すと部屋の窓にシャッターが閉められ、扉から電子音が鳴る。これは隔離システムだろうか。

 

千冬

「見ての通りこの部屋には隔離システムがある。ここで話した内容は決して外に漏れる事は無い。話というのは他でもない。お前達のISの事だ」

火影・海之

「「……」」

 

千冬は本気で問いただそうという目をしている。

 

真耶

「あ、あの先輩。顔が怖くなっていますよ」

千冬

「大丈夫です。…単刀直入に聞く。あのISをどうやって手に入れた?」

火影

「…どうやってと言っても…、気付いたら持っていたとしか…」

千冬

「…では質問を変えよう。あれの事をいつ知った?お前達は前に言っていたな?あれは「物心ついた時から持っていて何時からかは両親も知らなかった」と。だがおかしいんだ」

真耶

「…どういう事ですか?」

千冬

「知っていると思うが…、ISの始まりというのは今から10年前、束と白騎士というISが起こした「白騎士事件」が発端だ。あれがきっかけでISは爆発的に広がった。世界中で凄まじい開発競争が繰り広げられたよ…。とはいっても当時まだまだISについては不明な点も多くてな。開発者である束の援助があってやっとここまで発展したんだ」

真耶

「そうですね…」

千冬

「そこでお前達の話に戻る。あれに束が関わっていないのはわかっている。そしてお前たちは「物心ついた時から」と言った。個人差はあるが物心つくと言うのは一般的に約3、4歳から6、7歳とされている。白騎士事件が起こったのは今から10年前、お前達が6歳の時だ。そして「何時からかは両親も知らなかった」とも言った。調べてわかったがお前たちの両親、エヴァンス氏と奥方は9年前の自爆テロで亡くなっている。つまりお前達は御両親が亡くなる迄にあれを手に入れていなければその会話が成り立たないと思うのだ。考え過ぎでなければだが。そうなると考えられる事は2つだ。白騎士事件が起こった10年前から御両親が亡くなる9年前までの1年間の間にあれを手に入れたか。若しくは…白騎士事件が起こる前に既に手に入れていたか。どうだ?間違っているか?」

火影・海之

「「…」」

真耶

「二人共…」

 

僕も海之も何も言えなかった。

…やがて海之が織斑先生の質問に答える。

 

海之

「…すみませんでした、織斑先生。実はあのIS、正確には待機状態のアミュレットですが…、赤ん坊だった俺達が両親に拾われた時、俺達の直ぐ傍に落ちていたのを両親が拾ったらしいんです」

 

海之は真実と虚構を織り交ぜながら説明した。赤ん坊だった頃は本当だが、実際は落ちていたのではなく僕たちの首に掛かっていたのだが。

 

千冬

「お前達が赤ん坊と言う事は約16年前か…。とするとその時にあのISは存在していたというのか…?」

海之

「いえ、それは違います。拾った当時、あれは普通のアミュレットだったと亡くなる前に聞いています。あれがISという事がわかったのは白騎士事件が起こった後です。あの事件が起こってからあのアミュレットが突然ISとして起動したんです」

千冬

「……なに?」

真耶

「そ、そんな。ただのアミュレットが突然ISとして起動したというんですか?そんな前例聞いた事が…」

 

ここでも海之は少し真実を捻じ曲げて伝えた。あのアミュレットは最初からISの待機状態だった。しかし実際に動かせるようになったのは本当は9年前からだ。おそらく僕達がある程度成長するまで封印された状態だったのだろう。

 

海之

「ただあれが何故俺達の傍に落ちていたのかはわかりません。そして誰が造ったのかも。ただ俺達が初めてあれを動かしたのは9年前です。記録では数ヵ月となっていますが…余計な混乱を防ぐために嘘の記述をしました。それに関しては申し訳ありませんでした。どうか俺達を罰して下さい」

 

俺は頭を下げながら謝罪した。火影も同じ様にした。

 

千冬

「……」

(本当にそれで全てか…?だがこいつらがISをそんな昔から動かしていたというのは納得できる。でなければあれ程の動き、できる筈無いからな…。この件については今はこれ位にしておくか…)

 

完全に納得したわけではないが千冬は話を切り上げた。

 

千冬

「わかった。この件については今はこれで良い。日数を誤魔化したのは今回は特別に不問にしてやる」

真耶

「良かった…」

 

千冬と真耶は二人に頭を上げさせた。

 

千冬

「では次の質問だ。先ほどの試合でお前達、剣が身体に突き刺さったり出血したりしていたが、あれは何故だ?バリア若しくは絶対防御の故障か?」

 

海之と火影が答える。

 

海之

「あれは故障ではありません。そもそもあれにはバリアも絶対防御もありません」

千冬

「…なに!?」

真耶

「えっ!?」

火影

「あ、正確にはあるんです。ただ心臓や頭部等急所のみに限ってですけどね。そこ以外にはありません」

千冬

「それはつまり…攻撃を受ければ遮る物が何もない、ダメージをほぼそのまま受けるという事か?」

真耶

「そ、そんな!そんな危険なISがあるなんて!?」

 

千冬と真耶は信じられない表情をしていた。本来、宇宙活動が目的として生み出されたISは何より防御に重点を置いているのが基本だからだ。

 

火影

「そうです。そして防御を無視している分、回避に重点を置いています。あと僕達の機体は通常のISより遥かに高性能な再生機能があります。先ほどの試合でも見たでしょう?」

真耶

「で、でも傷を負った時の瞬間的な痛みはあるんでしょう!?」

火影

「ええ、まあ」

真耶

「っ!そんな危険なISを持たせるわけにはいきません!今すぐに」

 

真耶は2人のためにISを渡してほしいとお願いしようと思っていた。しかし、

 

千冬

「山田先生」

真耶

「…先輩?」

千冬

「…構わん。そのままにしてやれ」

真耶

「!で、でも…」

千冬

「気持ちは良くわかる。だがこいつらは何年も前からあれを動かしていた。あれがどんなに危険かをわかっていながらな。私の予想だが…お前達にはその危険性以上に、あれを持っていなければならない理由があるんだろう?」

火影・海之

「「はい」」

 

火影と海之は迷いなく答えた。

千冬はその理由を聞きたかったが今は止めておく事にした。

 

千冬

「…わかった。お前達の好きにすれば良い。責任は私が持つ。…すっかり話が長くなってしまった。試合直後で疲れている所申し訳無かったな。今日はこれまでにしておこう。もう戻って休め」

 

火影

「はい」

海之

「…」

千冬

「…どうした?エヴァ…えっと今はすまん、海之」

海之

「いえ。先ほどの不問といい今といい、織斑先生って結構優しいのですね」

千冬

「なっ!!!…ば、馬鹿なことを言っている暇があったら早く休め!」

火影

「はい」

海之

「失礼します」

 

そう言って火影と海之は出ていった。

 

千冬

「……」

真耶

「…先輩…」

千冬

「大丈夫ですよ、山田先生。あの二人は大丈夫です」

真耶

「…はい。…それはさておき先輩のあんな慌てた顔、久々に見ましたね~」

千冬

「な!!わ、忘れてください!」




次回は少し変わった話の予定です。

※なんかものすごく無理やりにしてしまった感じです。すいません。


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MIssion18 父と母の真の姿

激闘となった火影と海之の試合。
皆その内容に興奮冷めやらぬ様子だったが、千冬だけは2人のISに大きな疑問を持つ。

試合後、千冬は二人を呼びよせて問い詰める。火影と海之は自分達が転生者という正体を隠しながら質問に答えていく。結果、千冬の疑問は完全には晴れなかったものの今はこれでいいと話を切り上げるのであった。


※誤字をご指摘頂きまして申し訳ありません。少しでも減らせるよう頑張ります。


一夏とセシリアによる代表決定戦と双子の模擬戦から数刻後、

 

 

セシリアの部屋

 

セシリアは試合の汗を流すためにシャワーを浴びていた。その中で彼女は今日の試合を思い返していた。

 

(……先ほどの試合、引き分けとなりましたが、はっきり言って私の負けですわね…。今までISを動かした事が無かったような方に引き分けてしまったんですもの…)

 

…織斑一夏

 

自分より技術も経験も圧倒的に劣る彼を相手に、セシリアは自らの勝利を疑わなかった。しかし彼は見事に形勢を逆転した。

 

(俺はこの力で、俺の大切なものを守る!)

 

彼はそう力強く断言した。その時の一夏の目は自分が今まで出逢ってきた男とは大きく違っていた。

 

(…ふふ。負けたと思っていますのに、少し嬉しいと感じるのは何故なんでしょうね…)

 

そしてもう二人。火影と海之の兄弟。

 

彼等の戦いを見てセシリアは悟った。…彼等は自分より遥かに強い。心も身体も技術も何もかも…。

 

(私は今まで誤解していたようですね。父を見て男なんて全てがそうだと思い込んでいました。でもあの人たちは違う。…もう一度ちゃんとお礼を伝えませんと…)

 

そしてセシリアはシャワーを終え、身体を拭いて服を身につけ、外に出た。

 

 

廊下

 

セシリア

(皆さんはどちらでしょう…。食堂でしょうか?…あっ!)

 

セシリアの視線の先にはこちらに歩み寄ってくる探し人達がいた。

 

火影

「ようオルコット。改めてお疲れさん。ちょうど良かった、探したぜ」

セシリア

「あ、はい。お疲れ様です・・・って、探していた?私を?」

一夏

「ああそうなんだよ。と言っても俺は2人に呼ばれただけだけどな」

セシリア

「そうでしたか…、でもどうして?」

海之

「あんたに伝えておきたい事があってな。一応事情を知る一夏にも来てもらった」

セシリア

「私に伝えたい事?」

火影

「ああ、ちょっと場所を変えようぜ」

 

 

IS学園屋上

 

日は傾き始め、空はオレンジ色だった。

 

火影

「ここなら大丈夫だろ」

セシリア

「あの…私に御話というのは?」

火影

「ああ…。話と言うのはオルコット、あんたの両親についてだ」

セシリア

「…っえ?…お母様とお父様?」

 

セシリアは驚いた。まさか火影から自分の両親の話が出るとは。

 

一夏

「セシリアの両親の話って…、どういうことだ火影?」

火影

「実は…先日のオルコットの話を聞いてちょっと気になってな。勝手で申し訳ないが、知り合いに調べてもらったんだ。その結果わかった事もあってな。…オルコット、あんたには結構予想外の話かもしれない。それでも聞いてもらえるか?」

セシリア

「…は、はい」

 

セシリアは少し考えたが了承した。今さら、特に父の話などとは思ったが。

 

火影

「オルコット、あんたの両親はあんたが幼い頃から既に仲が悪かったと言ってたな?」

セシリア

「え、ええ。何時頃からかは存じ上げませんが、少なくとも私が小学校に上がる時には既に夫婦とは呼べませんでしたわ。いつもお父様がお母様の後ろに付いている様な感じで」

火影

「そうか…。何故2人はそんな仲だったのに最後まで別れなかったんだろうな。聞いた事はあるか?」

セシリア

「…いえ…」

 

だがセシリアも少しおかしいと思った事はある。あのような父と別れても母にとってそれほどの影響があるとは思えなかった。なぜなら…

 

火影

「まあいい。次にあんたの母親の会社だが、それは全て母親が纏めていたのか?」

セシリア

「ええ、その筈ですわ。あのお父様にできるとは思いませんもの」

 

…そういう訳だ

火影は更に問う。

 

火影

「…じゃあ最後に。あんたは複数の会社を持つ母親の娘。云わば令嬢だ。そんな身分の子供は幼い頃から見合いとか縁談の話をよくすると聞く。本人の意思に関わらずな。そんな話は無かったか?両親が亡くなる迄で良い」

セシリア

「……はい。僅かですがそのような話は全く無かった訳ではありません。ただそれもお母様が全てお断り致しておりましたが」

火影

「……」

 

火影は手に持つ何かの資料を見て考えている。

 

セシリア

「あの…でもどうしてそんな事を?」

一夏

「そうだぜ火影」

 

やがて火影は手に持つ資料を差し出し、セシリアが手に取る。

 

火影

「見てみろ」

セシリア

「…?これは…会社の面会記録?お母様の……!?」

 

それを見てセシリアは驚いた。

そこには大企業や財閥、果ては政治家等複数の名前が書かれている。それも大量に。

 

火影

「見ての通り、あんたの母親は亡くなるギリギリまで数多くの著名人と面会している。まあその内の幾らかは仕事の話だろうが、理由のほとんどはそいつらの息子とあんたとの縁談の話だ。確認も取れている」

セシリア

「!!でっ、でもこの様な事、お母様は私に…!」

火影

「そりゃそうだろう。当時のあんたにはまだ遠い話だしな。大方、金がらみの汚い縁談話に巻き込みたくなかったんだろ。きっと父親も同じ思いだった筈だぜ」

セシリア

「…え?…お父様が?」

 

海之が答える。

 

海之

「見ての通り、そこには数多くの著名人の名前がある。やり手の母親とは言え、たった一人でそれら全ての意図に気づくのは荷が重い。自分の目が届かない所から幼いあんたに直接手を出してくる可能性もある。そこで父親は考えた。

「自分が誰よりも駄目な頼りない男を演じる。そうすれば娘を狙う奴らはまず自分を懐柔させようと近づいてくるかもしれない。娘に近づかれる位なら自分が釣り餌になった方が良い」とな。あんたの父親は自らおとりとなり、馬鹿共からあんたを守ってたんだ」

セシリア

「!…そ…そんな…そんな事って…」

火影

「もうひとつある。その資料にはあんたの母親が責任者となっている会社のリストもある。表向きにはそうなっているが、その約半分は実は父親が影の責任者だったらしい。そっちも裏取れてるよ」

一夏

「マジか…。そうか、2人は最近これを調べてたから忙しかったのか」

セシリア

「……」

 

セシリアは何も言わなかった。いや言えなかった。今まで軽蔑さえしていた父親。それがまさか自分を守るために道化を演じていたなんて…。そしておそらく母も知っていたのだろう。でなければ自らの会社を任せる筈がない…。だから二人は最後まで別れなかったのだ…。

 

セシリア

「……」

一夏

「セシリア…」

火影

「オルコット…。あんたがどう思うかは勝手だ。両親への気持ちが変わらなければそれで良い。亡くなった今となっちゃもう文句も言えない。謝る事もできない。でも…これだけはしっかり覚えとけ。あんたの父親は立派だった…」

セシリア

「………うっ」

 

すると突然火影が慌て出した。

 

火影

「一夏悪い!後頼むぜ!」

一夏

「ええっ!?ちょ、ちょっと待ってくれよ!」

火影

「女の泣き顔は苦手なんでね。じゃ~な」

 

そう言って火影と海之は立ち去った。

 

 

 

余談だがこの後、案の定セシリアは両親を呼びながら大泣きし始めた。一夏はそれを宥めるのに必死だったそうだ。




こんな設定もありかと思いました。
あと火影と海之がここまで調べられたのは家と父の会社のおかげです。火影も前世では何でも屋ですから。


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Mission19 IS実習

試合を終えたセシリアは一夏達に改めてお礼を伝えようと思い探していた所、同じく向こうも自分を探していたという一夏や火影達に出会い、「話がある」と言われて屋上へ移動する事に。
セシリアが火影と海之から伝えられた事。それは自分の父親が頼りなかったのは自分を守るための芝居であり、本当は母親と一緒に自分を守ってくれていたという真実だった。
両親の愛を知り、セシリアは涙するのであった。

※お気に入り100件に到達致しました!ありがとうございます!


試合が終わった翌日

 

1-1の生徒達はISスーツを着てアリーナに出ていた。この日の最後の授業は専用機を持っている者が実際にISを生徒の目の前で動かし、模範演習をするというものである。箒や本音を含む生徒達の前には火影、海之、一夏、セシリアが整列していた。因みに担当教師は真耶ではなく千冬である。

 

千冬

「それではこれより、専用機持ちの操縦者による模範演習を実施してもらう!行うのはISの装着、飛行、武器の展開だ。専用機持ちは専用機を持っていない者達の見本になる様に励め!いいか!」

火影・海之・一夏・セシリア

「「「「はい」」」」

千冬

「それでは専用機持ちは順番にISを展開してもらう。まずはオルコットと織斑!」

セシリア

「はい!」

織斑

「は、はい!」

 

そうして二人はISを展開した。間近で見る彼等の機体に生徒から「カッコいい~」「キレイ~」等の感想が上がったが千冬はそれを無視した。

 

千冬

「…オルコットは0.9秒、織斑は2秒か。遅いぞ織斑、せめて1秒で出せる様精進しろ」

一夏

「は、はい!」

千冬

「では次にエヴァンス兄弟、展開しろ」

火影・海之

「「はい」」

 

二人もISを展開した。こちらも様々な感想が上がる。

 

「な、何これ!?」

「ISまで双子!?」

「カッコいい?怖い?いや怖カッコいい!」

「剣や刀持ってる~!まるでダークヒーローだね~!」

 

千冬

「ほう、二人とも揃って0.6秒か。流石だな」

 

千冬は先の模擬戦と兄弟達の話から納得していた。

 

千冬

「では次は飛行と降下を行ってもらう。先程と反対でエヴァンス兄弟から順番に飛べ。そして全員到着したら順次降りてこい。目標高度は500m。着地目標は地上10cmだ」

火影・海之

「「はい」」

 

ドンッ!!ドンッ!!

 

彼等はほぼ同時に飛び上がる。その勢いで地面が少し抉れてしまった様だ。

 

一夏

「は、はえぇ」

セシリア

「ええ、本当に…」

千冬

「おい、おまえらもぼさっとするな!」

一夏・セシリア

「はい!」

 

ドンッ!ドンッ!

 

そして2人も飛び上がる。一夏はセシリアに比べ、少し遅れている様だ。

やがてセシリアが兄弟が待つ地点に並ぶ。

 

火影

「順調だなオルコット」

セシリア

「いえ、御二人程ではありませんわ」

海之

「大したことではない」

セシリア

「…あの、御二人共」

火影

「ん?」

セシリア

「昨日は本当にありがとうございました。御二人のおかげで両親への、特に父への誤解が解けましたわ」

火影

「気にすんな。勝手にやっただけだ」

セシリア

「それでも本当に感謝しています。…あの、御二方…これからは私の事をセシリアと、名前で呼んでくださいませんか?」

火影

「いいのか?じゃあ僕達も名前で呼んでくれ。海之もいいよな?」

海之

「構わん」

セシリア

「わかりましたわ。ありがとうございます、火影さん。海之さん」

 

そうこうしていると一夏がやっと到着した。

 

一夏

「や、やっと追い付いた…」

 

それを地上から見ていた千冬が通信で話しかけてくる。

 

千冬

「何をしている織斑。エヴァンス兄弟はともかくとして、スペックはブルーティアーズより白式の方が上だぞ」

一夏

「うへぇ。マジか」

火影

「お疲れさん一夏…でも確かに少し遅すぎやしないか?」

一夏

「それを言うなって。俺からしたらお前らが早すぎる位に感じるぜ。なんかコツあるのか?」

海之

「慣れろ」

一夏

「はやっ!」

セシリア

「ふふ。ですがそれに勝る物はありませんわ。こればかりは幾度もやってみて自分自身で最適な方法を習得しませんと」

一夏

「う~ん、やっぱりそうなのか~」

 

4人で会話していると…

 

「おい一夏!いつまで話している!早く降りてこい!」

 

見ると地上で箒がインカムで呼びかけていた。

 

火影

「やれやれ、行くか」

海之

「ああ」

セシリア

「はい」

一夏

「お、おう!」

 

全員順番に降下を始める。

火影・海之・セシリアは難なく目標地点で停止できた様だが、一夏は…

 

ヒュー――――、ズドオォォォォォン!!

 

漫画的に落下していた。

 

千冬

「…誰が地面に穴を空けろと言った?…ハァ、織斑、後でキレイに埋め直しておけ」

一夏

「は、はい…」

 

自らが空けた穴から一夏が這い上がって出てきて答えた。

 

セシリア

「大丈夫ですか?一夏さん」

一夏

「あ、ああ、少しくらくらするけどな……一夏さん?」

「!?」

 

…………

 

千冬

「…では次に武装の展開を行う。まずは織斑からだ。始めろ」

一夏

「は、はい!来い!雪片弐型!」

 

……カッ!

 

約1.5秒後、一夏の手に雪片が表れた。

 

千冬

「遅い。せめて一秒以内を目指せ」

一夏

「は、はい!」

千冬

「では次に…そうか、白式には射撃兵装は無かったな。ではオルコット、始めろ。まずは射撃兵装からだ」

セシリア

「はい。お出でなさい!スターライト!」

 

…カッ!

 

間もなくセシリアの手にスターライトが表れる。だが…

 

千冬

「ふむ、問題はなさそうだな。だがそのポーズははっきり言ってなんの意味もない。直しておけ」

 

そう。セシリアはスターライトを呼びだす際、手を横に広げるオーバー動きをしていたのだ。

 

セシリア

「で、でもこれは私の」

千冬

「いいな?」

セシリア

「…わかりましたわ」

 

千冬の凄みにセシリアは何も反論できなくなった様だ。

 

千冬

「では次、近接兵装だ。もうオーバーな動作は止めろよ」

セシリア

「はい。お出でなさい、インターセプター!」

 

………

 

だが何も起こらなかった。

 

セシリア

「…ああ、もう!インターセプター!」

 

…カッ!

 

そうやく彼女の手にインターセプターという短剣が表れた。

 

千冬

「…何をやっている。お前は実戦でも出てくるまで待っていてもらうつもりか?」

セシリア

「じ、実戦では相手に近づかせる事はありませんわ!」

千冬

「ほう…、前日の試合で織斑に切られておいてか?」

セシリア

「うっ。そ、それは…」

千冬

「遠距離戦重視の機体とはいえ、近接戦闘への対策も忘れるな。いいな?」

セシリア

「はい…」

千冬

「…よし。では次にエヴァンス兄弟だが、近接兵装はもう出しているな…。では二人には代わりに抜刀の早さを見せてもらう。良いか?」

火影・海之

「「はい」」

千冬

「…よし抜け!」

 

そして火影は背中のリべリオンを、海之は腰の閻魔刀を鞘から抜いて構えた。

 

千冬

「火影は0.5秒、海之は0.3秒か。やはり剣をやっているだけあって抜刀は海之の方が早いな」

海之

「ありがとうございます」

千冬

「次は射撃兵装だ。では始めろ」

 

そして火影はエボニー&アイボリーを。海之は幻影剣を4本出現させた。

 

千冬

「火影0.5秒。海之は0.7秒か。こちらは火影が上だな。所で海之、その光の剣を動かしている間、お前も同時に動けるか?」

海之

「はい。問題ありません」

千冬

「そうか」

一夏

「…あの、千冬姉?」

千冬

「織斑先生だ。…なんだ?」

一夏

「いえ、大した事ではないんですけど、何故二人を名前で呼んでるのかなと思いまして」

千冬

「そんな事か。別に大した意味は無い。いちいちエヴァンス兄弟のどちらかなんて言うより言いやすいと思っただけだ。海之、火影。お前達も良いだろう?」

火影・海之

「「はい」」

 

キーンコーンカーンコーン

 

授業終了のアラームが鳴った。

 

千冬

「む、ちょうど良い時間だな。では本日の授業はこれまで」

生徒達

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

千冬

「ああそういえば織斑。空けたあの穴は埋めておけよ!」

一夏

「げぇ~」

火影

「手伝うぜ一夏」

一夏

「すまねぇ…。いつかまた礼するよ」

火影

「気にすんな。それに早くしないと俺達も遅れる」

一夏

「遅れる?もう授業は終わっただろ?」

海之

「後でわかる。今は急ぐぞ」

 

三人の穴埋め作業は急ピッチで行われるのだった。




次回は代表決定&パーティーイベントです。


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Mission20 唐突な代表決定

試合に続いてセシリアの両親の話という内容が濃かった一日が終わり、翌日の最後の授業は専用機持ちの模範演習。その中でセシリアは火影と海之に感謝の言葉を伝えると、お互いこれからは良きクラスメイトとしてやっていく事を約束する。

授業が終わった後、一夏は火影達から「この時間にここに行け」と言われ、向かうとそこには…


最後の授業が終わって数刻後。

ここはある広い教室。ここに1-1の生徒達、そして担任の千冬と真耶がいた。

 

真耶

「…ではこれから、1-1の代表となった、織斑一夏くんのお祝いパーティーを開催します!後さっき気付いたんですけど、よく考えたら1-1の一夏くん。1つながりで良い感じですね~!では皆さん、一夏くんに盛大な拍手をお願いします!」

 

~~~~~~~~~

 

そういうと生徒たちから一夏に向けて拍手が贈られる。

 

一夏

「先生!質問です!!」

 

一夏が真耶に訪ねる。

 

真耶

「はい、なんですか?織斑くん」

一夏

「なんで代表が俺で決定しているんでしょうか!?まだ昨日の今日ですよね試合から!おまけに幕まで用意されているなんて!?」

 

一夏は代表決定戦からまだ一日しか経っていないのになんでもう自分が決定しているのか、その上何で自分の代表決定祝の幕まで用意されているのか不思議だった。

するとセシリアが、

 

セシリア

「それなら簡単ですわ。試合の数日前に先生方に私が伝えておりましたの。「今度の試合でもし一夏さんが余りにも恥ずかしい結果にならない限り、私は辞退し、代表は一夏さんにお譲りするつもりです」と」

千冬

「そういう事だ。だからあらかじめ準備しておいた。本気でやらせるためにお前だけには

伝えずにな」

一夏

「え?」

セシリア

「1-1の皆さん一人一人にも私自ら説明しておりましたの」

 

生徒達はみんな頷いている。

 

「そうそう。本当に驚いたよね~」

「でもオルコットさんの事見なおしたよ。しかもあの後親切に謝ってくれたしさ」

「うんうん」

 

一夏

「まさか、箒、お前もか?」

「試合の二日前にな。すまん一夏」

一夏

「な、なんで!?」

セシリア

「なんでもなにも気まぐれですわ♪」

一夏

「そ、そんな~!!」

 

……本当は決闘申し込みの後に聞かされた火影と海之の件。そして一夏が必死で訓練していた事を知ったセシリアが、一夏の可能性を見てみたいというワガママもあったがそれは伏せておいた。

 

一夏

「じゃ、じゃあ火影と海之は!?あいつらなら俺なんかよりもよっぽど…」

火影

「一夏、代表決定戦を行ったのはお前とセシリアだ。参加してない僕たちは元から関係ねぇんだよ。それに…」

一夏

「それに?」

海之

「言っただろう?「大切なものを守るために強くなる」と。だがお前はもっと経験を積まねばならん。代表になれば嫌でも戦う機会が増える。自分の夢に近づきたいのであれば頑張る事だ」

火影

「そういう事」

一夏

「う~ん…、なんかウマく纏められた感がするけど…、そういう事か…。わかった。頑張るよ!」

 

そう言われて一夏はようやくやる気になった様だ。

そして一夏のささやかな代表決定パーティーは始まった。

 

火影

「さて、今日のパーティーの料理だが僕からの祝い代わりだ。みんな好きに食ってくれ。ピザは焼き立てだから熱い内にな」

 

テーブルの上には火影が作ったマルゲリータ、クアトロフォルマッジ、ビスマルク等のピザがグツグツ音を立てて並べられていた。

 

「うわ~!おいしそ~!!」

「すっごい本格的!!」

「うん!本当にすっごく美味しい!」

「ってあんたもう食べてるの!?」

 

みんなその味に満足している様だ。

 

火影

「あと冷蔵庫にストロベリーサンデーも準備してある。欲しい人は言ってくれ」

本音

「はいはい~!わたし欲しい~!」

一夏

「火影!このピザ本当にウマいな!」

「ああ、確かに美味しい。デリバリーとはまるで違うな」

セシリア

「本当ですわ!」

火影

「どうも」

本音

「ね~ひかりん~、このストロベリーサンデーもおいしいよ~!」

 

本音もストロベリーサンデーに満足している様だ。

 

火影

「それは何よりだ。…おい、そんな慌てて食うなよ」

 

そう言うと火影は自らのハンカチで本音の口元に付いているクリームを拭く。

 

本音

「う~、えへへ~♪」

火影

(…?なんか周囲から視線を感じるが、気にしないでおくか…)

「ああ後一夏。海之からも祝いがあるんだがそっちはまだ完成していなくてな。もう数日待っててくれ」

一夏

「祝い?」

海之

「何れわかる」

 

…………

 

パーティーが続く中、セシリアが一夏に話しかける。

 

セシリア

「一夏さん。もし宜しければ今後の訓練は私が教えてさしあげますわ。一夏さんにはクラス代表としてもっとしっかりしてもらわなければいけませんもの」

 

するとそこに箒が入ってきた。

 

「必要ない。一夏は私が教えているからな」

セシリア

「あら、IS適正値Cの篠ノ之箒さんではありませんか」

「て、適正値は関係ない!一夏がどうしてもというから引き受けているんだ!」

セシリア

「なら私とあなた、二人でお教えするというのはどうですか?それなら問題ないでしょう?」

「だ、だが!」

 

すると小声で火影が箒に話しかける。

 

火影

(箒、あんまり熱くなるなって。一夏に強くなってほしいというのは本当だろ?)

(し、しかし!)

火影

(大方一夏がセシリアに取られたりしないか心配なんだろ?…これは僕の直感だが…あいつは自分に向けられる感情、特に恋愛とかそういったものには頗る疎いと感じてるんだが?)

(……)

 

箒の沈黙が図星だと明確に物語っていた。

 

火影

(まあそんな心配すんなって。あいつはそれ位で気付きやしねーよ。それに負けない位、お前が頑張って教えれば良い)

(…う、うん)

「…よし、わかった!言っとくが抜け駆けは無しだぞ!2人で教えるんだ!」

セシリア

「ええ、勿論ですわ」

 

するとそこに千冬が入ってきた。

 

千冬

「おいお前ら、何を言っている。授業初日にも言ったが、私から見ればお前たちは全員ひよっこだ!適正値等何の意味もない。全員素人だと思って鍛えるから覚悟しておけ!」

一夏

「は、はい。…そういえば火影と海之の適正値はどれくらいだ?」

火影

「ああ、僕たちは…」

 

火影はどう答えようか迷った。その結果は「ERROR」だったからだ。とそこに、

 

眼鏡をかけた少女

「はいはい!君達ちょっと良い?」

火影・海之・一夏

「「「え?」」」

眼鏡をかけた少女

「君達が話題の男子操縦者ね♪私は新聞部の黛薫子♪宜しくね!君達にインタビューしたいんだけどちょっと時間良い?」

一夏

「は、はあ」

海之

「…火影、一夏、二人に任せる」スタスタッ

火影

「おい!」

薫子

「ふむふむ、青い目の彼は恥ずかしがり屋さんってことね♪まあ急ぎではないから今回は二人でもいいか!じゃあ質問するよ~」

火影・一夏

「「ハア…」」

 

…………

 

薫子

「二人ともありがとね~。じゃあ最後に専用機持ちのみんなで記念撮影しよっか!じゃあこっちに並んで!」

火影

「おい海之、写真位付き合えよ」

海之

「…やれやれ」

 

するとセシリアが薫子に、

 

セシリア

(あの薫子さん?その…もし良ければツーショットもお願いできますか?)

薫子

(うん良いよ♪)

 

そういうと専用機持ちの4人は並んで写真を撮る事になった。

……と思いきや、実際はその後ろに他の生徒がいたり、火影に押される感じで一夏の隣に箒が来たりしていたのだが。

 

そんな感じでパーティーはお開きになった。因みに写真撮影の後、セシリアは一夏とツーショットで写真を撮ろうとしたが箒が頑なに阻止し、結果的にツーショット写真は撮れなかったらしい。




海之の一夏への贈り物とは?


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Mission21 双子語る

1-1のクラス代表は一夏で決定した。
突然の代表決定、そして祝賀パーティーの開催に驚きを隠せない一夏だが、火影やセシリア達の気持を受け、一夏は了承する。

クラス代表となったからには一夏にもっとたくましくなってほしいとセシリアと箒は自分達で一夏を鍛える事を約束する事になった。
(最も他に理由が無いわけではないが)


一夏の1-1代表決定パーティーが終わって数日後。

 

この日の授業が終了し、海之はISの整備室に来ていた。目的は自身のISの調整と一夏への贈り物の作製のためである。

海之のISウェルギエル。そして火影のアリギエルはバリアも絶対防御も基本的に存在しない。おまけに受けた傷も直ぐに治る等、他のISを遥かに凌駕する再生能力を備えているため、メンテナンスも大して必要無いのだが全くという訳ではない。そしてウェルギエルの射撃兵装の幻影剣はビームで作られた剣なので、実弾兵器がメインのアリギエルよりはSEを消費してしまうのである。だからたまにはこうして調整を行う必要があるのだ。因みに今整備室は海之1人である。

 

海之

「……」

 

海之が作業しているとそこに火影が同じく整備をしに入ってきた。

 

火影

「よう海之。どうだ?一夏へ渡す予定のあれは?」

海之

「お前か…。もう数日という感じだな。今最終調整だ」

 

そういう海之の手元には一振りの剣があった。

 

火影

「やっとか…。しかし設計図があるとはいえ、やっぱり直接作るとなると時間がかかるもんだな「魔具」って。今作っている奴だけでも2年位掛かったんじゃなかったか?」

海之

「仕方がないだろう。あれは本来「悪魔達の命や魔力の残り香」若しくは「悪魔そのもの」だ。同じ様にはいかん。おまけにこの世界には「魔力」そのものが無い。この世界で使おうと思えば設計そのものから作り変えねばならん。俺達が知っている物とは似ている様で根本的には全く別物だ」

火影

「なるほどな…。一夏に贈るのもそうだが、俺とお前のは?」

海之

「それも間もなく完成だ。一夏のよりは少し遅れるがな」

 

そういう海之の前の画面にはふたつの籠手の様な物のデータがあった。

 

…………

 

火影と海之。正確には二人の前世であるダンテとバージルだが、こちらに転生される際、少女に自分達がかつて使っていた「魔具」の設計図を依頼した。

※詳しくはプロローグをお読みください

 

その約束通り今から3年前、二人が自己訓練のためにISを起動した所、いつの間にかウェルギエルの中にこのデータ、「魔具」の設計図が追加されていたのだ。だが本来魔力によって動くそれらは前世で自分たちが使っていた物とは全く別の物と言ってよく、依頼した海之自身もなかなか時間が掛かっていた。

 

火影

「しっかし、随分変わった世界にいたんだな俺達って。この世界に来てからマジそう思うぜ」

海之

「それについては同意する。だがもはや悪魔も魔界も無い。俺たちはこの世界で生きて行くしかないんだ。前にも言ったがもう遠い昔の話だ」

火影

「まあな。しかしつい思い出しちまうんだよなぁ。俺達のIS見てっと」

 

そういうと火影は整備スペースに立っている自分達のISを見た。

 

アリギエルとウェルギエル。

機械的なものにこそなっているがあるがあれはかつての彼等を模したものだ。だから最初にあれの姿を見た時は二人ともそれなりに驚いた。おまけに武装までそのまま。幻影剣が魔力からビーム仕様に変わった事以外、見た目も含めほぼそのままと言っても過言ではない。なぜここまで同じなのかはわからない。もしかしたらあの少女の遊び心かもしれない。

 

火影

「あとバリアと絶対防御が急所以外に無いっていうのも驚いたな」

海之

「そうか?俺からすればそんな物必要無い。痛みを感じないと戦いの意味まで忘れてしまう。まあ本来ISは宇宙での活動、若しくはスポーツが目的だから必要かもしれんが。だが兵器として利用するのであればそんなもの無くて然るべきだ」

 

そう。ISは本来、束が宇宙での活動を目的として作られたパワードスーツ。そしてバリアも絶対防御も宇宙の危険から操縦者を守るために作られた。しかし世界の裏側ではISを兵器として見ている者も多い。それを海之と火影は危惧していた。

 

火影

「確かにな。あと気になるといえばアレだが…」

海之

「ああワンオフアビリティー(唯一仕様)か…。ずっと封印されたままだが…」

 

そう。アリギエルとウェルギエルには一夏の白式が持つ「零落白夜」の様な唯一仕様があるという事がわかったのだが何故か強固に封印されているのだ。

 

火影

「まあそれについては今は放っておいても大丈夫だろ。9年間使っている俺達も特に違和感も感じねえしさ」

海之

「……そうだな」

 

火影と海之が話していると整備室の扉が開いた。

 

火影・海之

「「ん?」」

 

振り返るとそこには海之のルームメイトの簪がいた。

 

「…あっ……海、いや、エヴァンスくん」

海之

「ああ、簪さん」

火影

「知り合いか海之?」

海之

「ああ。俺のルームメイトだ」

火影

「そうか。海之の双子の弟で火影だ。宜しくな」

「は…はい…宜しく…」

火影

「じゃ海之、後でまたな」

海之

「ああ」

 

そういうと火影はアリギエルをアミュレットに戻し、整備室から出て行った。海之はまた自分の作業に戻る。

 

「……」

 

簪は立ち尽くしていた。

 

海之

「…?もしかして邪魔か?なんなら出て行くが?」

「あっ!!う、ううん、なんでも無いの…。だから続けて」

海之

「そうか」

 

そう言うと簪は隣の作業スペースに移動して何かの作業に入る。

 

(…海之くんが作っているのは…剣?もしかしてISの?…海之くんってISの武器も造れるんだ…。あっそんな事より)

「あの…エヴァンスくん?」

海之

「何だ?」

「この前の試合、怪我してたよね…?大丈夫?」

海之

「ああ大丈夫だ。…心配してくれてたのか。ありがとう」

「!! う、ううん!」

 

簪は頬を染めて顔を反らした。

 

海之

「…そういえば簪さん」

「え?…何?」

海之

「さっき俺の事を一瞬名前で呼びかけてまた名字で呼び直したが、別に名前でも構わないぞ」

「…え?ほ、本当?」

海之

「ああ」

「う、うんわかった。…海之くん」

 

そう言って二人はお互いの作業を再開した。因みに簪は暫くの間頬を染めたままだった。

 

 

…3日後

 

IS学園の校門前にキャリーケースを持った一人の少女がいた。箒やセシリアよりも少し小柄でツインテールの少女である。

 

ツインテールの少女

「ここがIS学園ね♪…待ってなさいよ一夏!」




次回、ヒロイン1人登場です。

あと今回久々にDMCの情報を入れてみました。剣や籠手の正体も後ほど明らかにします。


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Mission22 鳳鈴音

一夏が代表に決定して数日後。

火影と海之は自分達のISの調整と一夏へ贈る物の作製を行っていた。
その中で2人はかつての自分達にそっくりなISや魔具等、改めて自分達がこの世界にとって異質な存在であることを再認識するのであった。

一方そんな2人がいるIS学園に、また新たな風を起こしそうな者が表れようとしていた。





IS学園に火影と海之が転校してから間もなく3週間近くが経とうとしていた。学園は今一限目と二限目の間でちょうど休憩に入ってる。

 

そんなIS学園の校門、正面ゲート前にツインテールの少女がいた。大きなキャリーバッグを持ったままでいることからつい今ほど着いたという感じである。

 

ツインテールの少女

「はあ、やっと着いた。ここがIS学園ね。待ってなさいよ一夏!…とは言ったものの、先に受付に行かないといけないわね。えっと本校舎一階総合事務受付…って一階のどこよ?…あ~こんなに広いとわかっていたらどこにあるのか聞いてくれば良かった~」

 

少女は学園の想像以上の広さに正直参っている様だ。

 

少女

「地道に探して時間つぶすのもなんだし…、こうなったら誰かに聞くしかないかな。確か今の時間はちょうど休憩中の筈…、あっ、ちょうど人が……!?」

 

少女の先には真耶から資材を受け取りに来てほしいと依頼され、職員室に向かっている火影がいた。だが少女は何より男子がいると言う事に驚いている様だ。

 

少女

(だ、男子?しかも制服着てるってことは生徒?一夏以外にも男子がいたの!?そんな話……、って今はそんな事より早く行かなきゃ!)

 

そう言うと少女は火影に近づく。

 

少女

「ね、ねぇ?」

火影

「ん?」

少女

「あ、あなたここの生徒?」

火影

「…まあここの制服着てるからな」

少女

「あ、それもそうか…。じゃなかった!ねぇ本校舎一階総合事務受付ってどこ?私今日から転校してきたんだけど今着いたばかりでここの事わからないのよ。良かったら教えてくれない?」

火影

「そうなのか。総合事務受付なら確か職員室の隣だ。僕もちょうど職員室に行くから案内しよう」

少女

「ほんと?ありがと♪」

 

そう言って火影と少女は歩きだした。

その道中少女は気になったことがあったので聞いてみる事にした。

 

少女

「ねぇあなた。ここの生徒と言う事は…もしかしてIS使えるの?」

火影

「ああ使えるぜ。一応専用機持ちでもある。おっと自己紹介が遅れたな。1-1の火影・藤原・エヴァンスだ。宜しくな」

少女

「私は鳳鈴音。こちらこそ宜しくね。私は1ー2に行くの。あなたも専用機持ちなんだ」

火影

「?…もって事は鳳さんもか?ああ、あと僕の事は気軽に火影って呼んでくれて良いぜ。これから一緒に学ぶなら双子だと呼びにくいだろうし。因みに兄も僕と同じクラスだから良ければ仲良くしてやってくれ」

「あ、うん。じゃあ私の事も鈴って呼んで。…って双子!?しかも兄って…兄弟でIS操縦者なの!?」

火影

「ああそうだ…っと、着いたぜ鈴」

「え、あっ、本当ね。どうもありがとう」

火影

「良いって。じゃあな」

 

そう言って火影は職員室に入って行った。

 

「……、あっそうだ。行かないと」

 

そして鈴も総合事務受付に入って行った。

 

 

………

 

受付

「はい。本日転校される鳳鈴音さんですね。ようこそIS学園へ」

「ありがとう。あとついでに聞きたいんだけど、織斑一夏ってどこのクラスですか?」

受付

「織斑くんなら1-1です。鳳さんのクラス1-2の隣ですね。因みに織斑くんは1-1のクラス代表です」

「へえ、そうなんだ…。ねぇ、1-2のクラス代表ってもう決まってるの?」

受付

「はい、決定していますけど…それがなにか?」

「…ちょっとね♪」

 

 

…………

 

2限目終了後の休憩中、1-1

 

生徒達が集まって何か話をしている。

 

「ねぇ聞いた!隣の1-2に今日から転校生が入るんだって!」

「へ~そうなんだ。どんな子かな」

「まだ学校が始まって一ヶ月も経っていないのに多いね~!」

「なんでも今度の子は中国からの転校生らしいよ」

 

生徒達の話を聞いて一夏は思う事があった。

 

一夏

(中国か…あいつ、どうしてるかな…)

 

そんな一夏の表情を見て箒が尋ねる。

 

「なんだ?転校生が気になるのか一夏?」

一夏

「えっ?…ああ、まあ」

「ふん。そんな余裕あるのか?2週間後にはクラス対抗戦だろう。情けない結果残してくれるなよ?」

一夏

「う、わ、わかってるよ」

本音

「本当だよおりむ~。今回の対抗戦には学園のスイーツ半年フリーパスが懸かってるんだからね~。まあ私はひかりんにお願いすれば作ってもらえるからいいんだけどね~♪」

火影

「…僕は専属パティシエじゃねぇぞ」

本音

「まあでもおりむ~が頑張ればクラス全員幸せなのだ~!」

セシリア

「ですがこんな時期にまた転校生とは…。大方、代表候補生である私の事を警戒しての事かもしれませんわね!」

 

セシリアは声を高くしてそう言った。

 

生徒1

「それはわからないけど…、まあでも今専用機持ちは私達のクラスと4組しかいないから楽勝だと思うよ♪」

一夏

「…っへ?4組にもいるのか?」

「…一夏、それ位覚えておけ。いるぞ。確か名は…」

「その情報はもう古いわよ!」

 

教室の外から声がした。

 

「悪いけど1-2にも専用機持ちが入ったの。そう簡単に勝てるなんて思わないことね!」

 

見ると鈴が腕を組んで立っていた。

そんな鈴を見て一夏が呟いた。

 

一夏

「……お前……鈴か?」

「そっ。中国代表候補生、鳳鈴音よ。久々ね、一夏!」

 

そう言って鈴音は一夏に向けて指さした。そんな二人の様子に箒とセシリアは動揺しているのか何も言えなくなっている様子だ。一方先ほど会っている火影は冷静だった。

 

火影

「やっぱり転校生というのは鈴の事だったか」

「あ、さっきはありがとね火影。あんたのおかげで迷わずにすんだわ」

火影

「それは良かったな」

海之

「知り合いか火影?」

火影

「ああ、さっきちょっとな」

「あっ、もしかしてあんたが火影の双子のお兄さん?本当にそっくりね!目の色と髪型位しか違わないじゃないの」

海之

「ああ。海之という。宜しく頼む」

「わかったわ。私の事も鈴と呼んでくれていいわよ」

海之

「わかった。ところで鈴。今すぐ教室に戻った方が良い」

「どうして?」

火影

「後ろ…」

 

パコーンッ!

 

千冬

「…海之の言う通りだ。早く教室に戻れ」

「ち、千冬さん…」

千冬

「織斑先生だ。馬鹿もの」パコーンッ!

 

二度目の出席簿を受けた鈴はたまらず教室に戻ろうとするが、

 

「と、とにかく一夏!逃げるんじゃないわよ!あと火影!あんたにも後で話聞かせてもらうわよ!」

 

そう言って鈴は帰って行った。

 

火影

「……なんか色々騒がしい奴だな」

一夏

「まあな…。でもいい奴だから。でもまさか鈴までIS操縦者だとは思わなかったぜ…」

 

パコーンッパコーンッ

 

千冬

「静かにしろ。授業を始める!」

 

火影と一夏も千冬の出席簿を喰らったのであった。




次回は鈴との交流の回です。


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Mission23 もう一人の幼馴染

真耶に頼まれて職員室に向かっていた火影はその途中で1人の少女に呼び止められる。鳳鈴音と名乗るその少女は1-2に転校してきた中国の代表候補生であり、一夏の知り合いでもあるようだった。
1-1にやって来た鈴は一夏や火影達へとりあえず挨拶をすませ、教室へ戻る。その様子に火影達はまた一波乱ありそうな予感がするのであった。


鈴の突然の到来から数刻後。食堂に向かっている火影、海之、一夏、箒、セシリアがいた。しかし…

 

箒・セシリア

「お前(一夏さん)が悪い(悪いのですわ)!!」

一夏

「なんでだよ…」

 

箒とセシリアはかなり気が立っていた。

と言うのも二人は先ほど、突然教室にやってきて一夏を名指しで呼んでいた鈴。そして彼女を知っているらしい一夏。そんな二人が気になって授業に全然集中できなかったのだ。おまけにそれを千冬にしっかり見破られ、昼休憩までに何発も千冬の出席簿を受ける羽目になったのである。一夏からしたら理不尽極まりないが彼女らはそんな事を考える余裕も無いようだ。そんな彼女らに海之が言った。

 

海之

「落ち着け二人共。織斑先生に怒られたのは結局二人の自業自得だろう?授業に集中していればそんな目に合わなかったんだ。それをこいつのせいにするのはお門違いだ。それに彼女は後で会うと言っていただろう?慌てずとも彼女の正体は後1、2時間で自然にわかるのだからそれまで待てば良かったんだ」

「うっ…」

セシリア

「た、確かにそうですわね…」

 

海之の正論極まりない意見に二人は何も言えなくなる。

 

一夏

「海之って大人だな」

火影

「まあそれなりに人生経験してるからな…」

一夏

「えっ?」

火影

「いや、気にしなくて良い。…って、お待ちかねみてーだぜ」

 

見ると待ち受けいたのか、食堂の券売機の前で陣取っている鈴がいた。

 

「待っていたわよ!一夏!あと火影!」

一夏

「…凄んでいる様だけど全然似合ってねーぞ?」

「う、うっさいわね!」

火影

「落ち着け。ちゃんと話はする。あとそこに立っていたら購入者の邪魔だぞ」

「うっ、ご、御免なさい。席は取ってあるから早く来てよね!」

 

そういうと鈴は席に歩いて行った。

 

火影

「…やっぱり色々騒がしいな」

海之

「…全くだ」

 

 

…………

 

火影や一夏達は自分達の注文を受け取り、鈴が待つ席に向かった。因みに席は一夏の左隣に箒、次にセシリアの順。反対側で一夏の正面に鈴が座りその右隣に火影、海之の順だ。

 

一夏

「お前相変わらずラーメンかよ」

「い、いいじゃない好きなんだから!」

「さて…、今度こそ話を聞かせてもらおうか。一夏、お前とこの女はどんな関係だ?」

セシリア

「そうですわ!いきなり名前で呼び合うなんて。…ま、まさか付き合ってらっしゃるなんて!?」

「な!バ、バカ言うんじゃないわよ!こいつとは…」

一夏

「違うよ。俺と鈴はただの幼馴染だよ」

「……そうよ」

 

一夏の答えの内容に少し落ち込んだかのような鈴。その様子を見て火影は鈴も一夏に惚れているなと感じた。自慢ではないが前世の仕事で色んな人に会っただけあってこういった感情を見抜くのは結構自信があった。

 

火影

「幼馴染なら名前で呼んでいたのも納得だな。…あれっ?同じ幼馴染なのに箒は知らねぇのか?」

一夏

「ああ。鈴とは箒と別れた直後で知り合ったんだ。入れ違いってやつだな。と言っても鈴ともそんな何年もいた訳じゃねぇけど」

火影

「そういうことか」

「私と別れた後で知り合ったのか…。そういえば挨拶が遅れたな。一夏の最初の幼馴染、篠ノ之箒だ。宜しく」

「私の前…、あっうん。同じく幼馴染の鳳鈴音よ。宜しくね」

 

そういう二人の間には火花が見えた気がした。

 

火影

(…お前も大変だな)

一夏

(へっ?なにが?)

火影

(ハァ…)

一夏

(?)

 

すると今度はセシリアが言いだした。

 

セシリア

「ちょっと!この私を無視するなんて失礼ではありませんか!?」

「…あんた誰?」

セシリア

「なにか凄く失礼な態度の様な気もしますが…、まあよろしいですわ。イギリス代表候補生、セシリア・オルコットですわ。以後お見知りおきを」

「ふ~ん、そっ」

セシリア

「なっ!?」

 

そんなセシリアを尻目に鈴は今度は火影に訪ねる。

 

「それはそうとあんたにも聞きたいんだけどさ火影。一夏の時はニュースや新聞であんなに話題になったのに、あんたと海之の事は今の今まで全く知らなかったわよ!私最初にあんた見た時かなり驚いたんだから!」

火影

「ああ、それはな…」

 

…火影は自分と海之がIS学園に入った経緯を話した。

 

「ふ~ん、ある人からの推薦ねぇ。所で私のクラスでもちょっと聞いたんだけど、あんたと海之って兄弟で試合やったんでしょ?どうだったの?」

火影

「時間切れの引き分け。不完全燃焼だ」

海之

「同じく」

一夏

「いやいや、あれが不完全って…。見ていた全員お前らの試合にまるで付いていけてなかったじゃねーか。鈴にも見せたかったぜ、2人の凄すぎの激闘を」

「そ、そんなに凄かったんだ…。なんなら今度私とも戦ってみない?あっ、そうだ一夏!あんたも専用機持ちなら私が操縦教えてあげよっか?」

 

その言葉に箒とセシリアが強く反論する。

 

「必要無い!一夏は私達で教える!」

セシリア

「そうですわ!あなたの出る幕ではありませんわ!」

「私は一夏に聞いてるんだけど?2人には聞いてないわよ」

 

鈴の言葉に箒とセシリアは更に反論しようとするがそれを阻止するかの様に海之が割って入る。

 

海之

「鈴、一夏の事を思うお前の気持ちはありがたい。しかし今はタイミングが悪い。2週間後にはクラス対抗戦も行われるしな。今お前が一夏を教えたら1-1の生徒は1-2がスパイ活動を行っていると反論するだろう。更に1-2の前の代表はお前を信じて代表の座を渡したんだろう?だったら代表者としてクラスメイトの思いを無駄にするような事をしてはいけない」

 

海之の正論に鈴は…

 

「た、確かにそうね…。わかったわ。一夏いいわね!幼馴染だからって手加減はしないわよ!」

一夏

「お、おう!」

「…じゃあ私はこれで。あっ一夏。今日放課後空いてる?」

一夏

「ん?ああ悪い、今日は火影達や箒達と訓練するから無理かも。明日なら空いてるぜ」

「そっ。じゃあ明日の放課後空けといて!それじゃ。火影もまたね」

 

そう言って鈴は去って行った。

 

箒・セシリア

「「…」」

火影

「ふ~、昼休みなのにどっと疲れたな…」

海之

「全くだ。……二人共。反論するならちゃんと相手を納得させられる理由を考えてからにした方が良い。子供が自分の持ち物を取られたく無くて駄々こねるのと変わらんぞ」

箒・セシリア

「…そうですね(わね)…」

 

反論しようがない箒とセシリアはそう言うしか無かった。

 

一夏

「やっぱり海之って大人だな…」

 

一夏はただただ感心していた。




次回、海之の贈り物がわかる回です。


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Mission24 その名はアラストル

IS学園の1-2に転校してきた中国の代表候補生、鳳鈴音。
一夏や火影達は食堂で彼女と再会し、互いの自己紹介をしながら交流を持つ。
鈴は一夏に訓練のコーチを自薦するが、クラス対抗が近い事などからとりあえず保留にする事に。そして鈴は一夏に明日の放課後再び会う約束をとりつけ、去って行くのだった。


IS学園内 アリーナ

 

鈴を交えた昼食と午後の授業も終わり、本日の工程は終了した。放課後は生徒が自主的にアリーナを借りて訓練したり、部活や生徒会活動に勤しむ時間帯である。

 

そんな中火影、海之、一夏、箒、セシリアの5人は今日もアリーナを借りて訓練していた。一夏が代表となってからは箒とセシリアが約束通り2人で一夏のコーチをし、火影と海之はその付き添いだ。実力からすれば2人に教わるのが確実なのだが、一夏曰く戦い方や技術が今の自分には程遠いレベルであり、追いつけそうにないと自ら辞退した。とはいえ…

 

「こうビュンッと避けて、思い切りズガーンッという感じだ!」

セシリア

「もっと相手の盲点に入るための瞬間的な速度をあと7.82%ほど上げて…」

 

聞いての通り箒とセシリアの両名とも教え方にやや難があるため、2人はそのサポートとして参加している。因みに箒は専用機を持っていないので学園の訓練機を借りている。そんな調子で訓練は進み…。

 

「それじゃ今日はここまでだ」

セシリア

「お疲れ様でしたわ、一夏さん」

一夏

「あ~疲れた~」

火影

「お疲れさん。ほらよ3人共」

 

そういって火影は3人にドリンクを差し入れした。そして3人がISを解除しようとすると、

 

火影

「ああ一夏、お前はちょっとまだ待て。渡す物がある」

一夏

「渡す物?」

火影

「ああ。この前言ったろ?海之からの贈り物の件。あれが完成したんだよ」

一夏

「本当か!?」

「そう言えばそんな話があったな…。ISと関係あるものなのか?」

火影

「まあな。海之」

海之

「ああ」

 

そう言って海之は手を前に翳し、バススロット(拡張領域)を起動させる。因みにバススロット(拡張領域)とはISの武装を量子変換させてしまって置ける外付けHDDの様な物である。

やがて海之の手には一振りの剣が握られていた。

 

「剣だと?」

セシリア

「見たこと無い剣ですわね」

一夏

「カッケー!もしかしてこれが?」

海之

「ああそうだ。受け取れ」

 

そういうと海之は一夏に手渡した。

鞘に収められているそれは全体的に黒に近い灰色。鍔の部分はドラゴンの頭部と翼を模した様な彫刻が彫られ、その開かれた口から刀身が伸びている様に見える。従来のISの武装に余り見られない特徴はアリギエルの持つリべリオンに近い印象が見られた。

 

火影

「そいつは海之が造ったんだ」

「なんだと!?」

一夏

「マジか!?すげーな海之!」

海之

「ああ。因みにそいつの名はアラストルという」

セシリア

「アラストル…。ゾロアスター教の魔神の名前ですわね…」

火影

「ああ。本来ならそいつは僕達が使う予定だったんだけどな。お前の白式の特徴を知ってお前にやる事にしたんだ」

一夏

「白式の特徴?」

海之

「一夏。お前の白式の基本戦闘スタイルは相手の攻撃をかわし続けて隙をついて高速で接近、零落白夜で一気に相手のエネルギーを奪う、というものだ。つまり攻撃をどれだけ上手く避けれるかが勝利の鍵と言っても良い」

 

一夏、箒、セシリアは頷いた。海之は続ける。

 

海之

「だがお前ははっきり言ってまだ白式のスピードを上手く活かしきれていない様に思える。最初よりは幾分マシにはなったがまだ無駄な動きが多い」

一夏

「…まあな…」

 

その原因は自分のコーチの教えにある様な気がしたが一夏は黙っておいた。

 

海之

「そこでこのアラストルだがこいつにはちょっとした機能があってな。ISの基本スピードを上げる事ができる。最大出力で約3倍だ」

「な!3倍だと!?」

一夏

「マ、マジかよ…」

セシリア

「本当にですの!?」

海之

「ああ。だが決していきなり最大で使用するな。今はせいぜい1.2倍位にしておけ」

一夏

「へ?なんで?」

火影

「高速で動くという事はそれだけ身体に負担がかかってしまう。ジェット機やロケットで重力の話聞いたこと無ぇか?あれの操縦士はまず重力に耐える訓練から始めるんだよ。発射や飛行中に発生する重力に身体が潰されないようにな。…ちょっと話がずれてしまったが。因みに今の白式のスピードの3倍で動く場合、計算上6~7Gに近い力がかかる。わかりやすく言えばお前の体重の6倍の重量が正面から向かってくるのと同じだ」

一夏

「ゲッ!」

海之

「だから最初は低いレベルから行え。そしてそのスピードに十分慣れてからレベルを上げろ。そうすれば重力の影響も受けにくくなるだけでなく、今の白式のスピードが遅い位に感じられる様になるだろう」

一夏

「マジか!?」

火影

「ああマジだ。因みにもうひとつの機能だが白式のインターフェースにアラストルが追加されているはずだ。使ってみな」

一夏

「あ、ああ………!」

 

一夏はアラストルを鞘から抜き、手に持って起動させた。するとやがて刀身のまわりに青色の電気が発生した。

 

海之

「見ての通りそいつは空気中の静電気を集め、刀身に一種のプラズマエネルギーを纏わせる事ができる。切れ味も普通より上がるだろう。ただSEを消費するから使いすぎには注意しろ」

火影

「もちろんそのままでも切れ味は折紙付きだ。雪片弐型にも負けないぜ」

一夏

「スゲー…。サンキュー2人共!」

 

一夏は喜んでいる様だ。

 

「…しかしどうするんだ?白式には拡張領域の空きが無かっただろう。量子化できないぞ…?」

一夏

「あっ!」

火影

「大丈夫だって。そのために鞘を付けたんだ」

「…へっ?」

海之

「そいつの鞘は特別性でな。鞘に入れておけば拡張領域の消費が0になる」

「…凄いな2人共…」

一夏

「よっしゃあ!さっそくこいつで訓練…」

セシリア

「ま、待ってください。本日はもうアリーナの貸出は終わりですわ」

 

何時の間にか空もオレンジに染まっていた。

 

火影

「そういえばそうだな。すっかり話が長くなってしまった。じゃあ帰ろうぜ」

一夏

「おう」

「一夏、明日はあの女と会うんだろう?」

セシリア

「決して油断なさらないでくださいまし。何かあったら直ぐに私を呼んでください!」

一夏

「だ、大丈夫だって」

「おいセシリア、抜け駆けはダメだと言った筈だぞ!」

火影

「…一夏も大変だな」

海之

「…ハァ」

 

そして一行はアリーナを後にした。




初めて具現化してみました。アラストル。
デビルメイクライ第1作に出てきた非常に有用な剣です。
原作でアラストルは使ったらスピードが大幅に上がるので白式には役立つかもと思い、一夏の物としました。あと原作では魔力の雷ですがこちらでは静電気を利用しています。

ある意味御都合主義です。すいません。


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Mission25 鈴の涙

アリーナで訓練に励む一夏達。
そんな一夏に火影と海之は代表決定の祝として、アラストルという一振りの剣を与える。
持ち主のISのスピードを向上させ、さらにプラズマエネルギーによって相手を切り裂くというそれに一夏は大喜び。訓練に更なるやる気を見せながらその日の訓練を終了するのであった。


一夏にアラストルを贈った日の翌日。

 

この日の授業も特に問題なく終了した。…まあ多少なりの騒ぎはあったが。

というのは今日も千冬指導によるIS実習が行われたのだが、その中で一夏はさっそく火影達が贈ったアラストルを使った。今まで誰も見たことが無い上にまさか新しい武器があるとは思わなかった生徒達、そして千冬も真耶も驚いていた。一夏はアラストルの機能で白式のスピードを上げた所(因みにレベルは海之の言った通り1.2倍)、見事にスピードに振り回される形となり、止めるのに時間が掛かってしまった。結果その日の授業はアラストルの説明と一夏の操縦指導で潰してしまったのである。

 

結果、間接的とはいえ授業を潰す原因となったアラストルを造った火影と海之は反省文2枚を書く事になり、今火影は職員室に提出して部屋に帰る途中である。空はすっかりオレンジに染まっていた。

 

 

寮内の共通スペース

 

火影

「やれやれ…。ん?」

「……」

 

鈴は共通スペースのソファーの上で脚を抱えて蹲っていた…。

 

火影

(鈴?…そう言えば今日は一夏と放課後に会うと言ってたが、もう終わったのか。…にしては様子が変だな?)

 

気になってしまった火影は鈴に話しかけた。

 

火影

「おい」

「っ!………火影…」

 

顔を上げた鈴は酷く落ち込んだ様な表情だ。おまけについ先ほどまで泣いていたのか涙の跡が痛々しい感じがする。

 

火影

(…一夏となんかあったか?)

「…どうした?」

「……あんたには関係ない…」

 

そう言って鈴はまた顔を伏せてしまった。

……火影は鈴の隣に腰を降ろした。

 

火影

「……」

「……」

火影

「……」

「……」

 

沈黙が続いているとやがて鈴が伏せながら話しかけてきた。

 

「……なんで何も言わないの?…」

火影

「…関係ないと言われたからな…。だが放っておくのもなんだしな…」

「……変わってるわねあんた…」

火影

「……かもな」

 

 

…………

 

火影と本音の部屋

 

 

本音

「ひかりんおかえり~。ってあれ~、えっと~確か1-2の…鳳さんだっけ?どうしたの~?なんか元気ないよ~?」

「う、うん…」

火影

「ちょっとな。ほら、適当に座れ」

 

鈴は招き入れられ、火影のベッドに腰掛ける。

 

本音

「ね~ひかりん~、今日のデザートは~?」

火影

「ああ、今日はオレンジのシャーベットだ。昨日作って凍らせておいた。今出してやるから待ってろ」

本音

「わ~い。ねぇ鳳さんもどう~?ひかりんのデザートは美味しいよ~」

「えっ…う、うん…」

火影

「わかった」

 

少しすると火影が2人分のオレンジのシャーベットを持って戻ってきた。

 

本音

「ん~やっぱり美味しい~♪鳳さんは~?」

「う、うん。…美味しい」

火影

「どうも」

 

2人は気にいってくれたようで直ぐに食べ終えてしまった。

 

鈴・本音

「ごちそうさま(~)」

火影

「ああ。…さて鈴、言いたくなければ別に言わなくて良いが、…何かあったか?…おそらくだが、多分一夏が関係してんだろ?」

「えっ…えっと…」

火影

「大丈夫だよ。本音は一見のんびりしてるがこう見えて口は固い奴だからな。誰にも言ったりしない」

本音

「うん、安心して良いよ~」

「……うん」

 

そう言うと鈴は今日あった事を話しだした。

授業の後、鈴と一夏は屋上で2人だけで会い、別れた後お互いどうしていたか話しあっていたらしい。やがて話は2人が別れた際に一夏と鈴が交わしたというある約束の話になった。その約束とは、

 

「大きくなったらあんたのために私が毎日酢豚作ってあげるわ!」

 

…一見するとプロポーズの様にも聞こえる内容である。(というかそうにしか聞こえないが)

鈴は別れた後もずっと一途に一夏を想い続け、いつかその約束を果たそうと思って頑張ってきた。そしてこの度一夏が自分と同じくIS学園に入る事を知り、大喜びで転校してきたのだ。そして一夏と再会した鈴はあの時の約束の返事を聞こうと呼びだしたのである。ここまでは特に問題は無かった。だが…

 

一夏

「覚えてるぜ!大人になったら一人暮らしでも毎日酢豚を御馳走してくれるんだろ?」

 

…………ここで全てが狂った。

一夏は鈴のプロポーズじみた約束を文字通りそのままの意味で受け取ってしまい、プロポーズとは露ほども思っていなかったのだ。この答えに鈴は激しく怒った。同時に全く疑問を持っていない一夏も怒りだし、そして鈴は一夏にビンタをしてケンカ別れしてしまったのである。そのまま寮の共通スペースで泣いていた所、火影が帰って来たというわけだ。

 

火影

「…あ~、何っつうか…、なぁ?」

本音

「おりむ~…それはないよ~…」

「ほんっとムカつく!」

火影

「まぁ、確かにショックだろな…。だが、知り合って間が無い僕からしてもあいつの鈍感ぶりはわかる。ましてや幼馴染のお前は尚更だろ?僕の想像だが一夏には少しわかりにくかったんじゃねぇか?」

「うっ…」

本音

「でもね~、ストレートに言うのも恥ずかしいよね~」

「そ、そうよね!そうなのよ!なのにアイツ~!」

火影

「…でも好きなんだろ?」

「……」

火影

「僕は恋愛事とか正直わかんねぇし、今日の話でこれからお前がどうしたいかは自由だ。だがもし好きならその気持ちを持ち続けろ。そして伝え続けろ。結果的にそれが一番の近道だ。ましてや一夏みたいなバカ正直な奴にはな」

「……うん、ありがと。…火影って優しいのね…。この前も助けてくれたし」

火影

「変わり者なだけだ」

「お礼に今度あんたにも酢豚作ってあげるわ」

火影

「そいつぁどうも」

本音

「ね~そういえばさ~、夕飯どうする~、皆で食堂行く~?」

 

見ると空はすっかり暗くなっていた。すると火影が…

 

火影

「…いや、今日は俺が作ろう。鈴、お前も食っていけ」

「…えっ?」

火影

「一夏に会っちまう可能性もあるからな。気まずいだろ?それに涙跡まだ消えてねぇぞ。見られるのも嫌だろうしな。まず顔洗って、食ってから帰れ」

「えっ…あっ…」

本音

「わ~い!ひかりんの料理だ~」

火影

「さてっと……、ジェノベーゼで良いか?」

本音

「いいよ~」

「…ありがと火影。…あとあんた本音だっけ?私の事は鈴で良いわよ」

本音

「わかった鈴~」

 

火影達は3人で食事を取った。




のほほんさんは誰とでも仲良くなれる気がします。
火影(ダンテ)は女性が苦手でも結果的に世話焼いてしまう気がします。


※ジェノベーゼとはバジルのパスタです。


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Mission26 伝える事の難しさ

部屋に帰る途中だった火影は項垂れていた鈴に出会う。聞くと昔一夏と別れる際、鈴はプロポーズの様な約束をしていたのだが、当の一夏は全く違ったとらえ方をしていたため、そのショックでケンカ別れしたという事だった。
そんな鈴に火影は「伝え続けろ」とアドバイス。鈴はそんな火影の気持ちと優しさに感謝するのであった。


あれから数日が経ち、クラス対抗戦まであと1週間となった。

 

一夏は火影と海之から貰ったアラストルを使い、スピードと剣に慣れる訓練を続けている。そのためかまだ低いレベルではあるが白式の上がったスピードに慣れ始めてきた。さらにその間一夏はイグニッション・ブースト(瞬時加速)という技を千冬から教わり、相手の隙を突く訓練も同時に行う様になっていた。因みに剣術は箒が、遠距離戦闘術はセシリアが引き続き担当している。

 

火影

「ようやくスピードにも慣れてきたようだな」

一夏

「おかげさんでな。しかしスゲーなアラストルって。よくこんなもの作れるよな海之」

海之

「まあな。他の作業と合わせて一年近くかかったが」

一夏

「マジか?大事に使わねーと」

セシリア

「それに私の射撃にも段々対応できるようになってきましたわね。まあ教えて差し上げているのが私ですから当然ですが」

「ふん。そもそも射撃兵装が無い白式にはあまり意味がない。最初に言っただろう。私だけで十分だと」

セシリア

「あら。先日私との模擬戦で私の攻撃に当たって負けたのは何方でしたでしょうか?」

「!…ほう、言うではないか。なんならもう一度勝負するか?もう同じ手は通用せんと思え!」

セシリア

「望むところですわ!」

 

だんだん訓練がおかしな方向に進みつつあった。

 

一夏

「あの二人ってあんなに仲良かったっけ?」

火影

「……お前な」

海之

「ハア…」

 

とその時、

 

「一夏!」

 

見るとアリーナ入口から鈴が近づいてきた。因みにISは展開しておらず制服である。

 

「鳳…、なぜここにいる?」

セシリア

「まさか…一夏さんを狙って!」

海之

「落ち着け二人共。ならば制服で来たりしないだろう」

 

海之にそう言われて二人はとりあえず落ち着いた。

 

一夏

「何の用だよ鈴?」

「この前の話についてだけど、…ごめんなさい」

一夏

「この前って…、ああ、あの屋上での話か」

「そっ。突然怒り出して悪かったわ。あとビンタしたのもね。それについては謝るわ」

「ビ、ビンタだと?鳳、お前何を!?」

セシリア

「せ、説明しなさい!」

 

そんな二人を無視して一夏は答える。

 

一夏

「それについてはもう良いよ。お前がそんな奴だって事は知ってるから。昔から怒りっぽかったからな、お前は」

「うっ…、だ、誰のせいだと思ってんよ!怒った私も悪いけど、元はと言えば約束をちゃんと理解していなかったアンタも悪いんだからね!」

一夏

「約束ってちゃんと覚えてただろ?」

「意味が違うのよ意味が!」

一夏

「意味って…どう違うんだよ?」

「そ、それは…!少しは察しなさいよ!」

一夏

「…お前謝りに来たんじゃないのかよ。お前あれから変だぞ?急に怒ったり謝ったり」

「う、うっさいわね!」

一夏

「…んだよ貧乳……あっ」

 

……………プッツン!

 

その時その場にいた全員が、目に見えない糸が切れた様な気がした。全員がゆっくり鈴を見ると顔を俯けながらプルプル震えている。

 

「……言ってはいけない事を言ったわね…」

 

鈴から発せられるその怖さに一夏も思わず後ずさる。

 

一夏

「あ、あの、鈴?」

「もう怒った!あんた許さないから!対抗戦では覚悟してなさい!!」

 

そう言って鈴はアリーナから出て行った。

だがこの中で事情を唯一知っていた火影だけは気づいていた。鈴が見えない涙を流していた事を。

 

一夏

「……」

火影

「…海之、あと頼めるか?」

海之

「?…ああ。行ってやれ」

火影

「すまねぇ。一夏、鈴の事は任せとけ。お前は訓練に集中しろ」

一夏

「…悪い、火影」

火影

「気にすんな。箒とセシリアも頼んだぜ」

「う、うん」

セシリア

「…わかりましたわ」

 

そして火影は鈴を追いかけた。

 

 

…………

 

火影

「…鈴、どこにいんだ…」

 

あれから火影は鈴を探していたが中々見つけられずにいた。部活動は行っている時間帯であるから目立つ場所にいるとは考えにくい。とすると屋内、教室か寮の自室だろうか…?

 

火影

「とりあえず行ってみるか…」

 

 

IS学園 寮内廊下

 

火影は職員室で鈴の部屋番号を聞き、部屋に向かっていた。聞いたついでに教室も覗いてみたがそこにも鈴はいなかった。

 

火影

「鈴の部屋はこの先か…………って、あ」

「……」

 

そこに鈴はいた。部屋の前で足を抱えて踞っている。ただ鈴の部屋ではなく、そこは火影と本音の部屋の前だった。

 

火影

(事情を知ってる僕か本音が帰ってくるまで待ってたのか?)

「……おい」

「!……」

 

鈴はゆっくり顔を上げたが何も言わなかった。ただ昨日の様に涙の跡が痛々しかった。

 

火影

「ハァ…、入れよ」

「……コク」

 

鈴はただ静かに頷いた。本音はまだ帰ってきてないのかいなかった。

 

 

…………

 

火影

「ほらお茶。烏龍茶じゃなくて悪いな」

「……」

 

前と同じく火影のベッドに腰かけた鈴は黙って受けとる。火影は椅子に座ってただ見守る。

 

火影

「……」

「……」

 

沈黙が続いていたがやがて鈴が口を開く。

 

「……頑張ったんだよ、私」

火影

「……」

「昔と違ってちゃんとまず謝ったし、あの時一夏が思い出さなくても、一言謝ってくれたら全部チャラにしようって思ったの。約束とか関係なくね。でも…やっぱりできなかった」

火影

「……」

「難しいね…伝えるって…」

火影

「……」

「……ねぇ、火影?」

火影

「…なんだ?」

「……なんで来てくれたの?今さらだけどあんたには関係無い話じゃん。どうして?一夏に言われた?」

火影

「……関係無い話に付き合っちゃ悪いか?僕がそうしたいからそうした。一夏は関係ない」

「!……はは、カッコいいじゃん。……でも、ありがと」

火影

「気にすんな」

 

鈴は火影の然り気無い言葉が、気遣いが嬉しかった。そしてふと思った。

 

(…あの時、…もし知り合っていたのが、………あんただったら、……変わっていたのかな。……………………あれ?…………私?)

 

鈴は自分の中に今までと違う気持ちがある事に驚く。そしてその先にいたのは…。

 

火影

「何か言ったか?」

「う、ううん。何でもない!……ねぇ火影、お願いがあるんだけど」

火影

「なんだ?」

「今度のクラス対抗戦なんだけど…私の事、応援してくれる?」

火影

「? 僕は元から一夏もお前も応援するつもりだが?」

「………ふふっ♪」

 

ガチャッ!

 

本音

「ただいま~。あれ~?鈴もいるじゃん。どうしたの~?」

火影

「ああそれは…」

「ちょっと火影のデザートがまた食べたくなっただけよ♪」

本音

「あ~ずる~い!ひかりん私も私も~!」

火影

「へいへい」

 

そして火影・鈴・本音はまた三人でデザートも夕食も取ることになった。




火影の台詞の一部、DMC4より一部アレンジ

原作
「大事な物を人にやっちゃ悪いか?お前に預けたいからそうする」

「関係ない話に付き合っちゃ悪いか?僕がそうしたいからそうする」


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Mission27 海之と簪

一夏の訓練を続ける火影たちの前に鈴が現れた。
鈴はあの時の自分の行いを謝罪するつもりだったのだが上手くいかず、またケンカ別れに終わってしまう。
そんな鈴の事情を唯一知っていた火影は鈴を追いかけ、再び部屋に招き入れる。
火影の優しさに救われた感じがした鈴は改めて感謝の気持ちを伝え、対抗戦を頑張る事を約束するのであった。


IS学園内 整備室に続く廊下

 

海之は整備室に向かっていた。

あの騒動の後、一夏が少し気落ちしていた事もあったので訓練は控えめにして解散となった。

 

海之

(あの火影の様子からすると…、一夏と鈴の間に何があったのか知っているのだろうな。…まぁその件についてはあいつに任せておくとしよう。とりあえず俺は当初の予定通り、一夏の訓練とあれの完成を急ぐとするか…)

 

そして俺は整備室の扉を開けた。そこには…

 

「……」

海之

「……簪?」

 

簪がデスクのひとつに座っていた。ただ…

 

「すー、すー」

海之

(寝ているのか。作業中で寝てしまうとは……ん?これは…ISか?)

 

簪がいたデスクの画面には設計段階と思われる一体のISがあった。

 

海之

(簪がよく部屋や整備室で見ていたのはこれだったのか。まさかこれは簪が造っている物なのか…?。まぁ後で聞けば良いな)

 

そう言うと海之は簪の隣のデスクに座り、自分の作業を開始した。一夏のアラストルの製作作業を終えた海之が今造っているのは2つの籠手のような物だ。これも嘗て自分と火影が使っていた物を模したものである。

 

「…う、う~ん…」

 

やがて隣の簪が目覚めた。

 

海之

「起きたか」

「ふぇっ!?み、海之くん!?ご、御免なさい。私寝ちゃって…」

海之

「気にするな」

 

そう言いながら海之は作業を進める。

 

「それって…籠手?海之くんって前は剣作ってたよね?」

海之

「ああ、完成したから知り合いにやった」

「そうなんだ…。凄いね海之くんって。ISの武器を造れるなんて」

海之

「大した事じゃない。…どちらかと言えばお前の方が大したものだと思うぞ。その画面に映っているIS」

「え?」

海之

「先ほど見てしまったのだ、許してくれ。俺はISの武装は造れるが、IS本体を造るのはさすがに無理だ。武装さえも下手すれば何年もかかる。だがお前はIS本体をそこまで組み上げた。十分凄いと思う」

「あっ…ありがとう。…嬉しい」

海之

「ところでお前はそれを一人で組み上げているのか?折角整備室に来ているのだから、お願いして手伝ってもらう事もできるだろう?」

「う、うん、そうなんだけどね…。でも私はなんとしても…これを1人で完成させたいの…。絶対、誰の助けも借りずに、自分だけで」

 

その言葉を聞いた海之は作業中の手を止めて訪ねた。

 

海之

「…何故だ?」

「う、うん。実は……私にはお姉ちゃんがいるんだけど、ものすごく強くて頭も良い人なの。お姉ちゃんは自分のISを一人で完成させちゃったわ。だから…」

海之

「だからその姉に負けたくなくて全て一人でやりたいとそういうわけか?」

「う、うん…」

海之

「……」

 

考えていた海之は再び考えて簪に問う。

 

海之

「簪。お前は先ほど姉が自分のISを全て一人で造り上げたというが、本当にそうか?」

「…え?」

海之

「ISの装甲に使われる材質。無数の精密部品。エンジン。通信装置。武器。そしてISコア。これら全てお前の姉が一人で用意したのか?精密部品は金型の段階から作る必要がある。材質も無論だ。極めつけはコアだ。あれは篠ノ之束が造ったものでお前の姉が造ったものではないだろう」

「!!」

海之

「お前の姉がどれだけ優れているのかは知らんが、お前の姉は決して一から一人で造ったわけではない。多くの人の協力があって初めて造られたものだ。少なくともお前が一人で全て造る理由は無いと思うが?」

「……で、でも…」

 

簪は迷っていた。今まで自分のISを造るのを手伝いたいと名乗り出てくれた人は実はいなかった訳ではなかった。実際そうすればもっと早く完成していただろう。でも自分はそれを全て断ってきた。姉に負けたくないという自分のプライドが邪魔して。その度に相手を傷つけてしまっただろうに今さらどう頼めばよいのか…。

 

そんな簪に海之が言った。

 

海之

「…簪。少し長くなるが…俺の話を聞いてもらえるか?」

「えっ?…う、うん」

海之

「…俺の古い知り合い、ある男の話だ。男はある小さな街で両親と弟と一緒に暮らしていた。だがある日、両親をあっけなく失ってしまった。自分の無力さに絶望した男は願った。

「力が欲しい。誰にも負けない強い力が欲しい」と。

男はそのために枷になると思うものは全て捨て去り、人として生きる事を止めた。友も、唯一の肉親である弟も、過去も未来も、そして自らの子さえ……。やがて男は悪魔となった」

「えっ、あ、悪魔?」

 

簪は驚いている様だ。

 

海之

「…ああ、悪魔だ。力を求める余り、心も身体も闇に支配されてしまったんだ。

…話を続けよう。だが全て捨ててまで力を求めた男にはいつも敵わない奴がいた。男は憎んだ。いや本当は羨ましかったのかもしれない。自分の様に力にすがる訳でもないのに強いそいつが。そいつは言ったよ。大事なのは力ではなく心だと、そして魂だと」

「…心……」

海之

「だがその時の男にはまだわからなかった。やがて男は最後に僅かに残っていた純粋な心さえも捨て去った……、と思っていた。

だがそうではなかった。捨てた筈の心が男を探し求め、戻ってきたんだ。そのせいで男は力の大半を失った。だが不思議な事に男は落ち着いていた。おそらくだが、自らの身体を探し求める内に出会ったものたちが、男の心に何らかの影響を与えたのだろう。

……そして男は変わった。ただ単に力を求める事から、かつて自分を負かした者達に純粋に戦士として勝ちたいという目的にな。やがて男は旅に出た。自らが犯した罪を償うための終わりなき贖罪と戦いの旅へ」

「……その人、……どうなったの?」

海之

「…さあな。もう死んだかもしれんし、或いはどこかで生きているかもな…」

 

海之は何かを思い返す様な表情でそう言った。

 

「……」

海之

「簪。お前が誰にも頼りたくないならそれで良い。自分だけで成し遂げたいというのもお前の勝手だ。だがそれに縛られ続ければやがて自分を苦しめる事になる。大切なものを失うぞ。お前は決して男の様になるな。頼りたければ頼れば良い。今さらと思うなら謝れば良い。そして辛い時は泣けば良い。頼るのも自分の否を認めるのも、弱さであり強さだ」

「……うん、……わかった」

 

簪は静かに頷いた。そして、

 

「…ねぇ、海之くん?」

海之

「…なんだ?」

「その…もし、…海之くんに頼りたくなったら、助けてくれる?」

海之

「俺で役立つならな」

「!……ありがとう」

 

簪は微笑して答えた。

 

海之

「…」

「…?どうしたの?海之くん」

海之

「…簪が笑うの初めて見た気がしてな」

「えっ…」

海之

「…少し話疲れた。紅茶でも飲みに行くとしよう。簪はどうする?」

「あ、うん。じゃあ私も。先に行ってて、少し片付けるから」

海之

「わかった」

そう言って海之は作業中のそれをしまい、整備室を出ていった。

 

「ありがとう、海之くん……あれ?何時から私を簪さんじゃなく簪って…?」

 

誰も居なくなった整備室で簪が呟いた。




※バージル(海之)は両親を助けられなかった事による絶望と無力感で一時は力に取り付かれました。
そんな彼を変えたのは弟であるダンテと息子、彼の心が擬人化した某キャラクターが関係していると思います。力への衆望の中にあった僅かな良心が、ダンテや息子との交流で成長したという感じでしょうか。
何れ息子との関連も書きたいです。


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Mission28 クラス対抗戦 一夏VS鈴

一夏の訓練を終えた海之は作業を行うために整備室へ。するとそこにはISの設計を行う簪が来ていた。海之は簪が自身の姉に負けたくないという理由で全て自分1人で組み立てたいという想いを聞く。

そんな簪に海之はかつて力に縛られて全てを失った昔の自分(知り合いの男としている)の話をする。
「自分(男)の様になるな。頼りたい時は力になる」
海之の言葉に簪は想いを巡らせると同時に、そんな自分を認めてくれた海之に感謝するのであった。


火影と鈴、海之と簪。

それぞれの交流から更に一週間が経った。

 

今日はいよいよ一夏と鈴、それぞれのクラス代表による対抗戦である。

この1週間の間、一夏はアラストルによる高速移動と瞬時加速の訓練を繰り返していた。その効果もあり完全ではないが瞬時加速の成功率も上がってきていた。

今はアリーナのピット内で、相手となる鈴のISについて火影たちと共に最終確認をしている所である。

 

 

アリーナ東側ピット

 

こちらは1-1側。白式を纏った一夏に火影達が付き添っている。

 

海之

「いいか一夏。鈴のIS「甲龍」は近距離中距離の戦闘を念に置いた機体だ。「双天牙月」という双剣による近接戦闘が主だから射程だけで言えば白式と似た様なものになる。だがこいつの最大の特徴は「龍咆」という衝撃砲、空気圧を圧縮して弾として放つものだ。空気を弾とするから視認が出来ない。発射の瞬間もな」

一夏

「見えない砲弾ってわけか…」

海之

「そうだ。出力次第で機銃の様に連射もできる。欠点と言えば射程が短いという事だろうな」

火影

「つまり戦術としては…龍咆の射程外から瞬時加速による高速接近。龍咆の連射を高速で避けながら懐に潜り込み、零落白夜で切る…、という感じだろうな」

「ならセシリアの時より比較的楽かもしれんな。瞬時加速、高速移動共に集中して訓練を行ってきたしな。一夏、負けるなよ!」

セシリア

「頑張ってくださいませ!」

一夏

「おう!」

火影

「油断するなよ一夏。鈴も代表候補生だ。アラストルの情報も既に向こうに伝わっているだろう」

海之

「その通りだ。調子に乗ると足元すくわれるぞ。あと覚えているだろうが零落白夜はSEを大きく消費する。節約を心掛けろよ」

一夏

「そ、そうだな!よし、行ってくるぜ!」

 

そして一夏はアリーナに出て行った。

 

火影

(頑張れよ…二人共)

 

 

…………

 

アリーナ中央

 

一夏が出て行くとそこには赤いISを纏う鈴が既に待っていた。

 

「遅いわよ!」

一夏

「悪い、遅くなった!」

「前にも言ったけど全力で行くからね!あっという間に終わらせてあげるわ!」

一夏

「なんだよ、まだ怒ってるのか?」

「そんなんじゃないわ。というかもうあんな事どうでもいいのよ。後…昔の事もね」

一夏

「えっ?」

「ハァ…、あんた何時かマジで誰かに刺されるわよ…、っとそれは置いといて。いいわ!私に勝てれば幾らでも酢豚作ってあげるわよ。勝てればだけどね!」

一夏

「言っとくけど俺だって強くなってるんだからな。甘く見んなよ!」

 

管制塔

「それでは試合を開始してください」

 

~~~~~~~~~~~

 

一夏・鈴

「「はぁぁぁぁぁ!!」」

 

 

…………

 

観客席

 

一夏と鈴の試合が始まって数分が過ぎ、火影達は観客席に移動し、二人の戦いを観戦していた。一夏はアラストルで、鈴は双天牙月という双剣で斬り合いを演じていた。

 

火影

「…近接戦闘はほぼ互角か。スピードは一夏が、一撃の威力は鈴が勝っているという感じだな」

「うむ。双天牙月という武装だが、凄まじい一撃だ」

セシリア

「ですが一夏さんも負けておりませんわ。アラストルの効果もあって剣速も上がっておりますし」

海之

「そろそろ動くか…」

 

 

…………

 

一夏

「やるな鈴!すごいパワーだぜ!」

「当然でしょ!でもやっぱり速いわねその剣!火影達が作ったって聞いたけど!」

一夏

「ああ!あいつらが託してくれたんだ!」

「ならばこれでどう!」

 

スダダダダダダッ!

 

一夏

「!?」

 

一夏は突然、衝撃の連鎖を食らった様な気がしてたまらず鈴から距離を取った。

 

一夏

「な、なんだ今のは!重くは無かったけどなにか食らったぞ!…まさか今のが!?」

「そう!これが甲龍の龍咆よ!」

 

ズドンッ!

 

一夏

「!?」

 

一夏は間一髪回避したおかげで直撃を免れた。

 

「何時まで避け切れるかしらね!」

 

ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!

 

 

…………

 

「一夏!」

セシリア

「あんなに連射されたら入り込む隙がありませんわ!」

海之

「…予想より龍咆の弾速と連射速度が早い…。アラストルに対抗するためか」

火影

「やるな鈴…さあどうする一夏」

 

 

…………

 

その一夏は直撃こそしていないものの、龍咆の猛攻に確実にSEを消費していた。

 

一夏

(くっ!このままじゃ近づく前にやられちまう!何とかしねーと!…仕方ねぇ、悪い海之!約束を破るぜ!)

 

すると一夏はアラストルのスピード向上機能をひき上げた。

 

「「「!?」」」

 

突然白式のスピードが上がった事に会場の者たちは皆驚いている様だった。

 

 

…………

 

海之

「……一夏の奴、アラストルの機能を上げたな」

「なんだと!大丈夫なのか!?」

火影

「…あいつを信じるしかない」

セシリア

「一夏さん……」

火影

(…一夏、…鈴)

 

 

…………

 

「スピードが上がった!?」

一夏

「くっ!やっぱりきついな!だがこれなら!」

 

一夏は高速で龍咆の攻撃を全て避け切ると一度射程外に脱出、次に瞬時加速を起動する準備に入った。

 

「…あいつには剣しか装備が無い。正面から向かって来る気ね。おそらく次で決めようとしてくる…!…いいわ!受けて立つわよ!」

 

そう言うと鈴は双天牙月を構える。

 

一夏

「うぉぉぉぉ!!」

(絶対負けない!あいつも見てくれてるんだから!)

「はぁぁぁぁ!!」

 

そして二人の剣がぶつかろうとしていた……………その時、

 

 

ズドォォォォォォンッ!!

 

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

突然アリーナ中央に空から強烈なレーザーが降りかかった。その衝撃に地面は抉られ、砂埃が起こる。突然の事態に会場のあちこちから悲鳴の様な声が上がる。

 

「えっ!?」

一夏

「な、なんだ!?」

 

 

…………

 

職員の部屋

 

千冬

「どうした!何が起こった!」

真耶

「わ、わかりません!外からの攻撃としか!」

千冬

「何者だ…?アリーナのシールドを破る程のレーザーだと…?」

 

 

…………

 

「一夏!」

セシリア

「な、なにが起こったんですの!?」

海之

「…火影」

火影

「ああ。どうやら…空気を読まないお邪魔虫がいるようだな」

 

全員が慌てる中、火影と海之の二人は冷静だった。

 

 

…………

 

一夏

「一体何が…!?り、鈴!上!」

「えっ?…!」

 

見上げるとアリーナのシールドには先ほどのレーザーによって空けられた大穴が空いていた。そしてそこから何かが降りて来るのが見える。

 

一夏・鈴

「「!」」

 

それは一体のISだった。全身装甲で黒色をしたそれは右手に巨大な剣、左手にはライフルを持っている。そして先ほどのレーザーの発射口らしき物が胸部分にあるのがうっすらとわかる。一見中世の騎士を思わせるそれはやがて会場の誰にもわかる距離まで降りてきた。

 

一夏

「な、なんだお前は!?」

謎のIS

「………」

「黙ってないでなんか言いなさいよ!」

 

そして、

 

ドンッ!ドンッ!

 

一夏・鈴

「「!?」」

 

ISは突然二人にライフルを向けて襲いかかってきた!




※原作を細かく読んでいないので乱入者(ゴーレム?)の設定はややオリジナル仕様になると思います。
※火影と海之(ダンテとバージル)は大抵の事は驚かないのでできるだけ同じにしたいと思います。


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Mission29 謎のIS

一夏と鈴によるクラス対抗戦。

鈴の怒涛の攻撃になかなか手が出ない一夏は火影達との約束を破り、白式のスピードを上げて反撃を決意。一方の鈴もそんな一夏の覚悟に応えようと正面から迎え撃とうとしていた。

……しかしその時、アリーナのバリアを破って謎のISが出現。何も語らないそれはいきなり二人に襲いかかってきた!

※UAが15000に到達しました。多くの方に見て頂いて嬉しいです。と共に誤字が多くて申し訳ありません。


ドンッ!ドンッ!

 

一夏・鈴

「「!?」」

 

それは突然二人に向けて左手のライフルを発射した。突然の攻撃に二人は急速で回避する。

 

一夏

「くっ!」

「い、いきなり何すんのよ!」

謎のIS

「……」

 

やはり謎のISは何も言わず攻撃を続けてくる。

 

一夏

「くっ!うぉぉぉぉ!」

 

攻撃を避けた一夏は謎のIS(以降、敵ISと記載)に零落白夜で切りつけようとした。しかし、

 

一夏

「な!避けた!?」

 

敵ISは無駄のない動きで一夏の攻撃をかわし、隙ができた一夏を右手の剣で斬りつけようとする。

 

「一夏!」

 

それを鈴が龍咆を打ってなんとか阻止する。敵ISは一旦距離をとった。

 

一夏

「鈴!悪い!」

「いいから!来るわよ!」

 

 

…………

 

その頃、火影達は千冬や真耶と合流していた。

 

「千冬さん!山田先生!」

真耶

「みんな!早く退避してください!」

セシリア

「先生、あれはなんですの!?」

真耶

「わ、わかりません!侵入者の様ですが…、とにかく2人を退避させないと!」

 

そういうと真耶は一夏と鈴に通信を入れた。

 

真耶

「織斑くん、鳳さん聞こえますか!なんとかそこから退避してください!教師陣が制圧に向かいます!」

一夏

「でもまだ観客席には生徒が残ってます!今退いたらみんなが狙われるかもしれません!」

「そうです!先生達が来るまで誰かが戦わないと!」

真耶

「しかし危険です!」

一夏

「大丈夫です!もう通信を切ります!」プツッ

 

そういうと一夏は通信を切った。

 

真耶

「織斑くん!鳳さん!」

千冬

「落ち着け山田先生。君の言う事もわかるがあいつらの言う事もわかる。少し冷静になれ」

 

一見冷静な千冬はそう言いながら手に持つコーヒーに砂糖を入れた。だが…

 

真耶

「先輩、それ塩…」

千冬

「………」

 

千冬も落ち着いていないのは誰の目にも明らかだった。とその時、別の教師が走ってきた。

 

教師

「お、織斑先生大変です!アリーナ内の扉が全てロックされています!これでは生徒を退避させられません!」

真耶

「!そ、そんな!じゃあ織斑くん達の救援に向かうことも…!」

千冬

「……」

 

千冬のカップを持つ手が僅かに揺れていた。

そこに火影が、

 

火影

「先生。僕達が行きます。良いですか?」

千冬

「……………すまない。海之、火影、一夏達を頼む」

海之

「はい」

真耶

「危険です!それに二人のISは!」

火影

「大丈夫ですよ先生。海之、お前は先に生徒達を逃がせ。その間僕が引き受ける」

海之

「わかった」

セシリア

「私も行きますわ!」

火影

「んじゃ行くぜ」

セシリア

(……?そういえば箒さんはどちらに?)

 

 

…………

 

その頃、一夏と鈴は敵ISと戦いを続けていた。

一夏と鈴は二人がかりだが先の対抗戦で既に消耗していたため、エネルギーもほとんど残っておらず、まともに動けない状態だった。

対して敵ISはノーダメージではない筈だがその勢いを衰えていなかった。その異常さに一夏は思った。

 

一夏

「…あいつ、本当に人が乗ってるのかな?」

「何言ってんの?無人機なんてどこもまだ成功していないでしょ…」

一夏

「う~ん、それはそうとお前のIS、SEは?」

「…もうほとんど残ってないわよ…、あんたとの戦いで消費しすぎたわ」

一夏

「マジか…俺の方も精々零落白夜1回分って感じだな…。どうする………!!」

 

その時敵ISが瞬時加速で接近して切りつけてきた。一夏は迎え撃つが受け止めきれず、後方には弾き飛ばされる。

 

一夏

「うわぁぁぁ!」

「一夏!」

 

一夏を倒したそれは次に鈴にライフルを向ける。だが鈴にはそれを避けるだけの力が残っていなかった。

 

敵IS

「………」

「くっ…」

 

敵ISはゆっくり引き金を引こうとしていた。

 

一夏

「鈴!!」

(…もう…駄目なのかな…。こんな事ならあの時…ちゃんと伝えとけば…よかったな。あの時、話を聞いてくれた時に……、あいつに…………!?)

 

鈴は目を瞑った。

 

(……そっか。あの時も今も……私、やっぱりあいつが……。火影の事が……)

 

 

ドンッ!

ドシュッ!!

ズダダダダダダダダダダダダッ!!

 

 

「………………あれ?…私?」

 

鈴は自分が撃たれていない事を不思議に思い、目を開けた。

 

「!!」

 

目を開けるとそこにはアリギエルを纏い、エボニー&アイボリーを構えた火影がいた。敵ISは火影の連射をまともに受けたために装甲に損傷を負い、距離を取っていた。

 

火影

「……やれやれ、大丈夫か鈴?」

「その声…火影?…な、なんで………えっ!?」

 

鈴は言葉を失った。火影のわき腹に先ほど敵ISが打った銃弾を受けた跡があったのだ。しかも出血までしている。

 

「あ、あんたそれ、まさか…私を庇って!?」

火影

「ああ避ける暇がなかったからな。心配すんな。慣れっこだ。それに」

 

その時アリギエルの再生機能が起動し、傷は直ぐに完治した。

 

「き、傷が治った!?」

一夏

「火影!大丈夫か!?」

 

後方から一夏が戻ってきた。

 

火影

「ああ心配すんな。後は僕達がやるから2人は…」

「一夏ぁぁぁぁ!」

火影・一夏・鈴

「「「!?」」」

 

その時アリーナの場内放送が鳴り響いた。管制塔を見るとそこにはいなくなっていた箒がいた。

 

「お、男なら立て!そんな奴に勝てなくてなんとする!!」

一夏

「箒!」

 

その時、こちらに向かって来ていた敵ISが管制塔に向きを変えて向かっていった。

 

「!!」

一夏

「箒!!」

火影

「ちっ!一夏!零落白夜を起動させろ!」

一夏

「えっ?あ、ああ!」

 

そう言われて一夏は零落白夜を起動させた。

 

火影

「舌噛むなよ。それとしっかり自分で止まれ」ガシッ!

一夏

「え?え?」

火影

「おおおぉぉぉぉぉりゃあぁぁぁぁぁ!!」

 

火影は一夏を思い切り敵ISに向かってぶん投げた。

 

一夏

「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ズガガガガガガガガッ!

 

謎のIS

「グォォォォォォォォ!」

 

敵ISと交差する形となった一夏は起動していた零落白夜で切りつけた(偶然当たっただけともいえる)。敵ISはエネルギーの大半を奪われ、もはやまともに動けなかった。

 

火影

「セシリア!」

セシリア

「了解ですわ!」

 

空中で待機していたセシリアが敵ISに向けてライフル、ビットによる一斉射撃を浴びせる。

 

敵IS

「!!」

 

ドオォォォォォンッ!!

 

やがて耐えきれなくなったそれは爆発を起こし、活動を停止した。

 

火影

「お疲れさんセシリア。ナイスアシストだ」

セシリア

「お疲れ様です」

火影

「あああと悪いが一夏の回収を頼む。あいつも動けないだろうからな。そのまま医務室に連れてってやってくれ」

セシリア

「わかりましたわ」

 

セシリアは一夏を回収しに行った。

 

火影

「おい、お前は動けるか鈴?」

「……」

火影

「鈴?」

 

……ガシッ!

 

鈴は火影に抱きついていた。

 

火影

「鈴?」

「…ごめん、…本当にごめんね。私のせいで…」

火影

「気にすんなっつったろ?…よく頑張ったな」

「ぐすっ…うん…ありがと」

火影

「……あ~、ところで鈴、早くここを離れた方がいい」

「どうして?」

火影

「…どうやらパーティーはまだ終わりじゃねぇらしいからな」クイッ

「えッ?…!!」

 

火影が顔で差すとそこには先ほど倒した謎のISがまた空からやって来ていた。それも今度は複数。

 

「そ、そんな!」

火影

「こいつらは僕に任せて、早く下がれ」

「な、何言ってんのよ!あんた1人置いて…」

火影

「大丈夫だよ」

 

ドオォォォォンッ!

 

その時敵ISの一体が破壊された。破壊したのは、

 

海之

「……」

 

ウェルギエルを纏い、手に閻魔刀を持っている海之だった。

 

「あ、あの青いISってもしかして海之?あいつを一撃で!?」

火影

「そういう事だ。だからここは僕達に任せて下がってろ」

「…わかったわ。火影、負けたら承知しないわよ!」

 

そう言って鈴は出て行った。そして海之が火影の所に降りてきた。

 

火影

「やれやれ派手な登場だな。今さらノコノコ出てきて主役気取りかよ」

海之

「そういうお前も大丈夫なのか?傷を負ったみたいだが?なんなら下がっていて良いぞ。俺一人でも事は足りるからな」

火影

「そう言うなよ。俺(本気)にも付きあわせろって。それより……なぁ海之、やっぱあれって」

海之

「言うな。…分かっている」

 

火影と海之は何か考えていた。

 

海之

「…さてどうする?お前は下がっていて構わんが?」

火影

「へっ、悪いがそれは無理だな。このままじゃ気がすまねぇ。気晴らしだ。久々にパーっとド派手なライブといくか!!」

 

そして火影と海之は集団に向かっていった。

 

 

…………

 

その後は火影と海之による一方的な蹂躙だった。

ものの数分で集団は全滅した。その一方で二人は全くの無傷だった。戦っている途中でわかったが、やはり一夏の言う通り敵ISは無人機であり、人は乗っていなかった。

やがて虫の息となった最後の一体の頭部に火影はエボニーを向けて言った。

 

火影

「ビンゴ」

 

ドンッ!




※今回少し長くなりました。
ダンテと言えば「ジャックポット(大当たり)」ですが、今回の「ビンゴ」というのはアニメ版デビルメイクライのMission1のOPでのみ使った言葉です。こちらも結構好きです。
「ジャックポット(大当たり)」はまた何れ。そして二人の戦闘ももっと細かく書きたいです。


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第三章 Variant
Mission30 束との再会


一夏と鈴による試合途中で乱入してきた謎のIS。
何も言わず襲いかかってきたそれを相手に試合の疲労もあった二人は敗北を覚悟するが、アリギエルを纏った火影がそれを救う。

謎のISは数を増やして更に襲撃してくるが火影、そして合流した海之はいとも簡単に殲滅する。しかしその謎のISを見て二人は何か思う事があったらしかった。


謎のISの襲撃から数刻が経ち、空はすっかり黒に染まっていた頃、千冬と真耶は解析室に来ていた。目的は勿論、先程襲撃してきた謎のISの解析である。

 

真耶

「…先輩、先程の謎のISについてわかったことですが」

千冬

「ああ、報告してくれ」

真耶

「はい。まず既に判明している事ですが、先に現れた機体は全て無人機でした。人工知能で動いていたと思われます」

千冬

「つまり何者かにプログラムされていたという事だな」

真耶

「はい。次に武装ですが剣、実弾ライフル、胸部レーザー砲です。それ以外には見られません」

千冬

「それも最初に見た通りだな」

真耶

「はい。そして最後にコアですが、やはり先輩の言った通り未登録のコアでした。現在確認されている何れにも該当しません。というより…これは篠ノ之博士が造った物では無い気がします」

千冬

「…どういう事だ?」

真耶

「あ、すいません。この無人機に使われていたコアなんですが…、いえ、そもそもコアといえるのか…」

千冬

「なんなんだ?」

真耶

「…違うんです」

千冬

「何?」

真耶

「中身が全く違うんです。外郭はコアに似せていますが、寧ろバッテリー、電池に近いと思います」

千冬

「……」

真耶

「あと戦闘記録や機体データも全て消去されていました」

千冬

「証拠隠滅のためか」

真耶

「おそらく」

千冬

「……」

(外郭だけコアに似せたバッテリー。そして自動消去プログラム。確かにあいつがそんな物を造るとは思えんな…)

真耶

「先輩」

千冬

「…この件は我々と学長だけに収めておこう。他言無用だ」

真耶

「…はい」

 

 

…………

 

翌日の早朝。

火影と海之はアリーナで早朝訓練を行っていた。ただし剣ではなく格闘。普段は剣で戦う彼等だが時々こうして拳を交える事もある。武器が使えない時も戦えるし、彼らの新たな装備のためでもある。

 

ビュッ!

 

火影のパンチが海之の腹に当たる寸前で止まる。

 

火影

「火影選手、1点リード!」

海之

「数え直せ。同点だ」

 

ここでも相変わらずな二人。そこに、

 

千冬

「…海之と火影か?」

 

千冬がジャージ姿でやって来た。

 

火影

「織斑先生」

海之

「おはようございます」

千冬

「ああおはよう。早いな。朝の鍛錬か?」

海之

「はい。織斑先生もですか?」

千冬

「ああそうだ。しかし大丈夫なのか?昨日あのような事があったのに」

火影

「大したこと無いですよ」

千冬

「そうか」

(…二人には話しておいても良いか…)

火影

「先生?」

千冬

「ん、ああすまない。実は…」

 

その時、

 

海之

「…!、二人共伏せろ!」

火影

「!」

千冬

「!?」

 

 

ズドオォォォォォォンッ!………パラパラッ

 

 

火影

「な、なんだ一体…?」

海之

「大丈夫ですか先生?」

千冬

「うう、なんとかな…!?」

 

千冬は一瞬止まってしまった。二人より反応が遅れた千冬は海之に庇われる形になっていたからだ。

 

海之

「先生?」

千冬

「…はっ!だ、大丈夫だ!」

 

千冬は慌てて飛び起きた。

三人は今落ちてきた物を見た。よくわからないがパッと見、巨大なニンジンのようにも見える。それを見て火影と海之は思った。

 

火影・海之

(なんか(なにか)悪い予感がする)

 

するとそのニンジン?の上部が開き、何かが飛び出してきた。

 

「シュワッチ!!」

火影・海之・千冬

「「「!?」」」

 

やがてそれは千冬のところ目指して落ちてきた。

 

「ちーーちゃーーん!」

千冬

「束!?」

 

それは千冬の幼馴染であり、火影と海之がIS学園に入ったきっかけとなった篠ノ之束であった。束はそのまま千冬に抱きついた。

 

「いやーーほんとーーーに久しぶりだね。ちーちゃん!会いたかったよーーー!もう何年ぶり!?もしかしてあれ以来ぶり!?いやーそんなに離れ離れだったなんて束さんよく生きていたもんだ!でももう心配ご無用!さあ久しぶりに熱―――く二人の愛の営みをヘヴァ!!」

 

千冬は束に鉄拳制裁を食らわした。その衝撃で束は少し地面にめり込む。

 

千冬

「落ち着けバカ者」

「グォォォ、やっぱりちーちゃんのアイアンナッコォは強烈だね~。でもなんか嬉しいぞ~。もしよければ70%位でもう一回やって~!」

千冬

「ん?望むなら良いぞ?ただし70ではなく170だがな」

「いやいや!ちーちゃんの170ってマジやばいから!!じゃあ次のお楽しみって言う事で♪あとね…」

 

そういうと束は火影と海之の2人をハグした。

 

「ひーくんみーくんもお久しぶりぶりブロッコリーだねー!元気そうで何よりだよ~!あとお願いもしっかり聞いてくれているみたいだね!いやー感心感心!流石は束さんの自慢の友達だね~♪」

火影

「はは…」

海之

「ハァ…」

 

束の勢いに流石の火影、海之もタジタジだった。

 

「束様、落ち着いてください。皆さん困っておられます」

「え~~~、クーちゃんのケチ~。はっ!もしかして自分がやりたいと!?いいよ!かわいい娘の頼みを聞くのは母親の役目だ!さあ遠慮なくハグしたまえ!」

クーちゃんと呼ばれた少女

「違います」

 

そんな少女に火影が言った。

 

火影

「ようクロエ、久々だな。相変わらず大変だなお前も」

クロエ

「ご無沙汰しています火影様。いつもの事ですから」

海之

「心中察する」

クロエ

「海之様もお久しぶりです。あぁそれと」

 

クロエは千冬に近づいて自己紹介をした。

 

クロエ

「織斑千冬様ですね。束様の助手を務めておりますクロエ・クロニクルと申します。宜しくお願いします」

千冬

「あ、ああ宜しく。…!?」

クロエ

「…?何か?」

千冬

「い、いや、何でもない」

クロエ

「そうですか」

千冬

「……」

(あいつに似ている気がするが…、偶然か?)

 

「ところでひーくんみーくん!先月の君達のバトル凄かったね~!束さんがあんなに興奮したのちーちゃんが第1回モンドグロッソで圧勝で優勝した時以来だよ~!何あの能力!?束さんでもあんなの造れないよ!ずるいよ!あー思い出したらやっぱり欲しくなってきた~!二人のISって双子なんでしょ?片っぽくれない?」

火影

「お断りします」

海之

「同じく」

「ガビーン!即答!?」

クロエ

「落ち着いてください束様。どうせ冗談でしょう?それに今回はそんな話で来たのではありませんよ」

「クーちゃんクール…。う~んしょうがない。では次の機会にして本題に入りますか♪」




果たして束の話とは?


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Mission31 束への依頼

千冬と真耶は先に襲撃してきたISについて調べていた。
ISコアに似せたバッテリーや記録の自動消滅プログラム等、束の幼馴染である千冬は束が造った物ではないと考える。

時は進んで翌日。朝の鍛錬に励む火影、海之、千冬。そんな彼等の前に突然、束とクロエが現れた。


IS学園アリーナ内

 

千冬

「で、束?突然何の用だ?生憎今日は平日で授業もある。さっさと話してもらえると助かるんだが」

「そりゃもちろんちーちゃんとの数年ぶりの愛の…いやいや冗談だってば!ちーちゃんそのグーをしまって!」

千冬

「お前がふざけるからだ。…もしかして昨日の事か?」

「おー流石はちーちゃん!まさしくその通りだよ!で、さっそく聞きたいんだけど…、なんなのアレ?」

千冬

「やはりお前が関わった物ではなかったか…」

「あったり前だよ!あんなブサイクなの束さんが造るわけないじゃん!いい迷惑だよこっちとしても!まぁでもアレのおかげでいっくんの白式やあの剣のデータも取れたんだけどね~。そういう意味じゃあれに感謝しなくちゃね~!ってそれじゃ本末転倒か♪あはは~」

火影

「束さん、あの剣というのはアラストルの事ですか?」

「あらすとる?カッコいい名前だね!あれも中々凄いね!ISのスピードをUPさせるなんて!どしたのアレ?」

海之

「俺が造りました」

「マジで!?すごいねみーくん!学園卒業したら束さんの研究所で働かない?」

クロエ

「束様、話がずれていってますよ」

「おっとそうだったね。みーくん考えておいてね♪さて、あれの事こっちでも色々調べたんでしょ?教えてくれない?」

 

千冬はあの謎のISについて分かった事を束に説明した。

※詳しくは前回をご覧ください。

 

 

…………

 

「ふ~ん、ISコアに似せて造ったバッテリーねぇ」

火影

「まるでISというよりロボットですね」

千冬

「ああそうだ。何か分からないか?」

「う~ん、手がかりになるかもしれない話はあるといえばあるけどね」

千冬

「本当か?」

クロエ

「束様、もしかしてあの事ですか?」

「そだよクーちゃん。いや実はね~、今から1年前なんだけどうちらにハッキングをかけてきた奴がいたんだよね~」

千冬

「な、なんだと!?」

 

千冬は束がハッキングを受けた事に驚いている様だ。

 

「うん!この束さんが気付かないなんて人生どころか前世・今・来世全部合わせて最大の屈辱だよ!あー思い出すのも腹立つ!ムキー!」

クロエ

「落ちついてください束様」

千冬

「束でも気付かないとは…。それで何か盗まれたのか?」

「はぁはぁ。う~ん基本的にはなにも無かったんだけどね、束さんのスリーサイズと同じ位トップシークレットであるコアの内部構造のデータも無傷だったし。しいて挙げれば…コアのデザインのデータ位かな」

千冬

「下らん事を極秘レベルにするんじゃない。あとデザインだと?」

クロエ

「はい。コアの極秘データや設計段階のISのデータ等は全て無事でした。唯一のものといえば先ほど束様が申し上げました通りコアのデザイン、大きさのデータ位です。最もそんな物盗んだ所でコアそのもののデータが無ければなんの意味もありませんが…」

「そっ!だから束さん達も無視していたんだよね~。あ、もちろん犯人探しは続けてるよ!絶対おしおきしてやるんだから!…話を戻すね。でもちーちゃんの話を聞いてある程度納得できたね」

海之

「…つまり束さんにハッキングを仕掛けた者と今回の襲撃は関係していると?」

「そう言う事!」

海之

「……」

千冬

「お前でも犯人はわからないのか?」

「それが難しいんだよね~。ハッキングの時もめちゃ追跡してみたんだけどね~。多分いくつも使い捨てのアカウントがあるんだろね~。でも調査は継続中だから何かわかったら知らせるね!」

千冬

「わかった。…と、随分話込んでしまったな。そろそろ教職員が出勤する頃だ。二人共去った方が良い」

クロエ

「確かにそうですね。ではそろそろ…」

海之

「ちょっと待ってください」

 

海之が呼びとめた。

 

「なに?みーくん」

海之

「…あなたに渡したい物があります」

 

そういうと海之はバススロットを展開し、何かを取りだした。

取りだしたそれを見て火影が言った。

 

火影

「海之、お前それ…」

海之

「分かっている。だがお前が俺ならどうせ同じ事をするだろう?」

火影

「…否定はできねえな」

千冬

「それは…何かのデータか?」

「どれどれ見せて~。……!!」

クロエ

「こ、これは!」

千冬

「どうした、……!!」

 

そのデータを見た三人は随分驚いている様だ。

 

海之

「それをあなたに託します」

「……どうして私に?」

海之

「さあ…そこの所なんですが、俺にもよくわからないんですよね。ただ…両親の様に俺達も信じたくなった。そんなところでしょうか」

火影

「まあでもそれを悪用しようものなら全力で阻止しますけどね」

「…」

海之

「因みに報酬は必要な分だけ請求して頂いて構いません」

「…フ、フフ」

 

束は突然笑い出した。

 

千冬

「束?」

「フ、フフフ、アハハハハハハハハ!……いいよ!任された!しっかり耳まで揃えて完成させてあげるよ!…ああ後報酬はいらないよ!こんな凄いの貰ったんだからね!…ああでもひとつだけ!いつでも良いから君達の家にご招待してくれると嬉しいなぁ!と言うかしてね♪つーか必ずしろ!」

クロエ

「束様、最後強制になってますよ。でもこんなに喜ぶ束様も久しぶりです。お二方のご依頼に必ず応えてくれると思います。私も全力でサポートします」

海之

「頼む」

火影

「礼を言うぜ」

千冬

「…もういいか?ではそろそろ帰れ。時間がもうマズイ」

クロエ

「そうですね。行きましょう束様」

「束さんお名残惜しゅうございます~」

千冬

「なんだそれは。ほらさっさと行け」

 

そして束とクロエは去って行った。

 

千冬

「…さあ、あと一時間で授業だ。その前にお前達も一度シャワーを浴びてこい」

火影・海之

「「はい」」

 

火影と海之は出て行った。

 

千冬

「……」

(海之…火影…お前たちは一体……)

 

 

部屋への道中

 

火影

「…しかし、お前が束さんに「魔具」の設計データを渡すなんてな」

海之

「用心に越した事はないと思っただけだ。できれば必要無い事を望むがな」

火影

「…やはりあれか?」

海之

「ああ、…あれは余りにも似すぎている。かつて魔王の人形となった俺に…」




※クラス対抗戦で出てきた謎のISの容姿はデビルメイクライ1の某敵キャラクターと同じ容姿を考えていただければ良いです。ヒントはバージルの言葉です。魔具は全てとはならないと思いますが後ほど随時出していきたいと思います。


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Mission32 それぞれの休日

火影・海之・千冬の元に突然現れた束とクロエ。その目的は先日の謎のISについての事だった。
千冬の思った通りあれは束が関わったものではなく、更に束も1年前にハッキングにあい、データの一部を奪われたらしい。
2人の話と見覚えがある謎のIS。それにある危機感を抱いた火影と海之は束に魔具のデータを渡し、完成させてほしいと依頼。束は喜んで引き受けるのだった。


束との思わぬ再会から数日が経ち、今日は日曜日で学校は休み。加えてこの日は業者によるアリーナの整備と校舎内の一斉清掃の日でもあり、部活動もISの自主訓練も教職員の作業も全て禁止となっていた。

そんな訳で生徒の大多数は寮に残るか街に繰り出している。とはいえ島の半分以上を有するIS学園は本来女子高のため、島全体を通して男性は少なめだった。

そんな中…

 

 

島の某レコードショップ

 

火影

「……」

 

そこに火影はいた。

全体的に黒っぽい服で黒のブーツ。その上からは赤いロングコート。ダンテの頃の記憶だけでなく容姿もほぼ若い頃の彼そのままな事もあり、どうしても同じ感じの服になってしまう。そんな火影はあるレコードを探していたのだが…、

 

火影

(…やっぱりこっちの世界には無いか…。あの少女に願いを聞かれた時に頼めばよかったかな。…しっかし、ただレコードを探しているだけだっつーのにそんなに珍しいか?男がいる事が)

 

そう。ここでも火影は周りの女性の注目を集めていた。最も火影と海之、加えて一夏もかなり美形なので女性からすれば無理もないのかもしれない。

その時、

 

「火影!」

「ひかりん~!」

火影

「ん?ああお前らか」

 

それは鈴と本音であった。

 

火影

「どうした?お前らもレコード探しか?」

「違うわよ。本音と歩いていたら中にあんたがいたのが見えたから声をかけようって」

本音

「そ~そ~」

火影

「そうか」

(三人でよく一緒に飯を食ったりしてんのが関係してんのか、最近この二人よく一緒に行動してんな)

火影

「そういえば本音。お前部屋変わるんだろ?もう片付けは終わったのか?」

本音

「うん、もう一通り終わったよ~。ね~ひかりん~、本当にまたデザート食べに来て良い~?」

火影

「ダメっつってもどうせ来るだろ?」

本音

「正解~!」

「何あんた?部屋変わるの?」

本音

「うん。なんかまた明日転校生が来るからその子のためだって~」

「へ~そうなんだ…」

(これでハンデは無くなった訳ね!)

火影

「あとそういえば鈴。今日は休みなんだから一夏の所行かなくて良いのか?」

「ああうん。もうそれは良いのよ。あいつには今頃二人位付いてるしね。それに私は…」

火影

「ん?」

「な、何でもない!それよりあんた随分熱心に探してたけど音楽が趣味なの?」

火影

「まあな。これでも家の自分の部屋にジュークボックスを置いている位だぜ」

「へー、大きな部屋なのね。どんなの好きなの?」

火影

「結構なんでも聞いてるぜ。一番好きなのは…エレナ・ヒューストンの『Mermaid ROCK』と『It's my Rock'n'Roll』か」

「ごめん知らないかも。本音は?」

本音

「わたしも知らない~」

火影

「だろうな…。さてと、そろそろ昼だな。どっかで飯でも食うか」

「あ、それなら最近話題の中華レストランなんてどう?」

本音

「賛成~!」

 

そういって三人は店を出た。

 

(ねえ本音?)

本音

(ふぇ?)

(負けないからね♪)

本音

(!!…うん)

火影

「なにしてんだ。置いてくぞ」

鈴・本音

「「は~い」」

 

三人の休日が過ぎて行く…。

 

…………

 

所変わってこちらはとある喫茶店。

 

海之

「……」

 

そこに海之はいた。

普段から火影以上に訓練や勉学に余念がない彼も時には休息が必要である。そんな彼は今喫茶店でお茶を飲みながら読書をするのが趣味となっている。因みに彼も火影と同じく私服であり、内容は前世のバージルと同じく黒い服に青いロングコートという感じである。因みに彼もまた周りの女性の目を惹いていたが一切気にしていない様子だ。

 

「毎晩眠りにつくたびに私は死ぬ。そして翌朝目をさますとき生まれ変わる。 ガンジー」

 

海之

(生まれ変わる…か…。俺ほどこの言葉が当てはまる奴もいないかもな…)

 

転生者である自分自身が何よりもの証拠である海之はそう思っていた。

 

「海之」

海之

「?」

 

海之が顔を上げるとそこには千冬がいた。

千冬も普段のスーツでなく私服。ジーンズにハイヒール。黒い半袖の服にノースリーブの白い上着という感じである。

 

海之

「あっ、こんにちは織斑先生。どうしました?」

千冬

「ああすまん。家にいたら篠ノ之とオルコットが一夏を訪ねて来てな。邪魔になるのもなんだから外に出てきたんだが、窓からお前がいるのが見えてな。ここ良いか?」

海之

「どうぞ」

 

そう言うと海之は本を閉じ、千冬は海之の向かいに座って注文を取った。

 

千冬

「すまないな。折角の休暇を邪魔した様で」

海之

「気にしなくて良いですよ。…私服の先生初めて見ましたね。最初見た時印象が違うので分からなかったです。すみません」

千冬

「謝らなくて良い。普段はスーツだからな。似合わないのは自分でも分かってる」

海之

「そんな事ないですよ。良くお似合いです」

千冬

「あ、ありがとう。お前も良く似合ってるぞ」

海之

「ありがとうございます」

 

そんなやりとりをしていると、

 

「海之くん、織斑先生」

海之・千冬

「「ん?」」

 

そこには簪がいた。

 

千冬

「お前は…4組の更識か」

海之

「簪」

(更識?それが簪の苗字か。変だな、なぜ最初の自己紹介で教えなかった…ん?更識?聞いたことがある様な…)

「すみません。散歩してたら窓から見えたものですから…。あの、一緒にいいですか?」

千冬

「ああ構わん」

海之

「ああ」

 

そう言うと簪は千冬の隣に座り注文を取った。そして簪が海之に話しかける。

 

「あの…海之くん」

海之

「なんだ?」

「私の話…聞いてくれる?」

海之

「ああ」

「海之くん…この前言ってくれたよね?頼りたい時は頼れ、それも強さだって。実は…あの数日後に…整備室の皆にお願いしたの。「今まで御免なさい。どうか私に力を貸してください」って。…そしたらみんな「やっと頼ってくれたね。一緒に頑張ろうね」って言ってくれたの。凄く嬉しかった。目の前が開けた気がした。ほんの小さな勇気を出せばこんなに良い景色が見れるんだって」

海之

「そうか」

千冬

「良かったな。更識」

「はい。…それで…お願いなんだけど…海之くんも…力を…貸してくれない…かな?…ダメ?」

海之

「言っただろう?俺で役立つ事があれば力になると」

「!…ありがとう…」

千冬

「私もできる事があれば協力しよう。遠慮なく言ってくれ」

「ありがとうございます。織斑先生」

千冬

「それで来月のトーナメントには間に合いそうなのか?」

「えっと、おそらく今からでは間に合いそうに無いですね。でも良いんです。焦らずゆっくりやって行きます。歩く様な速さでしっかり」

千冬

「そうか。それで良い。頑張れ」

 

こちらも3人だけの時間が過ぎて行った…。




※エレナ・ヒューストン『Mermaid ROCK』『It's my Rock'n'Roll』
アニメ版デビルメイクライ、エピソード6より紹介です。


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Mission33 金と銀の転校生

とある日曜日。IS学園の生徒達は思い思いに休日を過ごしていた。

火影はレコードショップに思い出の曲を探しに来ていると鈴・本音と出会い、共に食事に行く事に。
海之の方は趣味の読書をしていたところ千冬・簪に出会い、共にお茶をする事に。

みな日々の喧騒を忘れ、ゆっくり休日を過ごすのであった。



日曜が空けて月曜日。今日からまた新しい1週間の始まりである。

思い思いに休日を過ごした生徒たちはみなリラックスした様で、それは火影達も例外ではない。

だがここにそんな感じがしない落ち込んでいる生徒が1人いた。

 

一夏

「………」

 

少し離れた所で話し合う火影達。

 

火影

「なぁ、一夏どうしたんだ?」

本音

「わかんな~い。今朝来てからずっとこんなだよ~」

「箒とセシリアは昨日一緒だったんだよね?なにか知らない?」

セシリア

「私は存じ上げませんわよ。一緒に食事を作った時もずっとお元気でしたもの。箒さんのも私のも全部召し上がられましたし」

海之

「箒はなにか知らないか?」

「わ、私の口からは…言えん。一夏に聞いてくれ」

箒以外の全員

「?」

 

そんな話をしているとクラスの隅で女子生徒が集まり、何か話しているのが見えた。

 

「ねぇ聞いた!?来月のトーナメントで…すると…できるんだって!」

「えーほんとに!?ほんとに…できるの!?」

「ねえそれって…もなの?」

 

どうも来月行われるトーナメントが関係している様だが、とある部分になると小声で話しているので聞き取れなかった。すると箒が、

 

「!?」ガタッ!

「ど、どうしたのよ!?」

「い、いや。なんでも、ない」

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

やがてHRの時間になり、鈴が出て行ったのと入れ替わりで千冬と真耶が入って来た。チャイムの音が鳴ったためか一夏もようやく顔を上げた。

 

千冬

「諸君おはよう。さて、諸君も知ってると思うが来月はトーナメントが行われる。それに合わせてという訳ではないが、本日からより本格的にISを使った実習を行っていく。全員気を緩めずに励め。いいな!」

生徒達

「「「はい!」」」

真耶

「えっと、では授業を始める前にお知らせがあります。既にご存じの方もいると思いますが、本日から新たに転校生が入ってくる事になりました!それも二人です。皆さん仲良くしてあげてくださいね」

千冬

「では紹介しよう。おい、入ってこい」

 

やがて扉が開き、二人の生徒が入って来た。

 

生徒達

「「「!!」」」

一人は金髪の髪を後ろで纏めている生徒。もう一人は流れる様な銀髪の生徒である。ただ…

 

生徒達

「「「お、男の子!?」」」

 

そう。最初に入って来た金髪の生徒は小柄であり、一見顔も少女の様に見えるが服装は男子の物だったので少年と思われた。やがてその生徒が挨拶をする。

 

金髪の少年

「皆さん初めまして。フランスから来ましたシャルル・デュノアです。男子のIS操縦者になります。宜しくお願いします」

 

そのシャルルの自己紹介に教室のあちらこちらから小さく歓声が上がる。

 

一夏

「四人目か~!また友達できるな!」

火影

(……?)

海之

(……)

真耶

「お、落ち着いてください皆さん!まだ自己紹介は終わってません。で、ではもう一人の方、お願いします」

銀髪の生徒

「……」

 

もう一人の生徒は先の少年とは違い、紛れも無く少女であったがその雰囲気は普通の少女とは違うものであった。着ている服装は一見制服の様だがどちらかといえば軍服に近い。左目には眼帯をしており、発する気はまさに兵士の様。歴戦の戦士である火影と海之はそれを敏感に感じ取っていた。

 

火影・海之

「「……」」

真耶

「あ、あの~自己紹介を…」

千冬

「ボーデヴィッヒ、挨拶をしろ」

ボーデヴィッヒと呼ばれた少女

「…はい教官。…ラウラ・ボーデヴィッヒだ……」

真耶

「……あ、あの~、以上ですか?」

ボーデヴィッヒ

「そうだ」

千冬

「ハァ…。では二人共席に着け。あとボーデヴィッヒ。もはや私はお前の教官ではない。ここでは織斑先生と呼べ。いいな?」

ラウラ

「…了解です」

真耶

「で、では席についてください」

 

そういうとシャルルとラウラは自分の席に歩いて行った。

…と思いきやラウラは突然一夏の席の前で止まった。

 

一夏

「…?なんだよ?」

ラウラ

「…貴様が…貴様が!」

 

そう言ってラウラは突然手を振りかざした。

 

生徒達

「「「!?」」」

 

当然の出来事に生徒達も驚きを隠せない。ラウラは容赦なく平手打ちを繰り出そうとした…その時、

 

ガシッ

 

ラウラ

「!?」

 

止めていたのは海之であった。

 

海之

「…」

ラウラ

「貴様、何をする?」

海之

「そのまま返そう。何をする?」

ラウラ

「貴様には関係ない。離せ」

海之

「確かに関係ない、だからお前に従う必要もない」

ラウラ

「離せ!こいつのせいで教官は!」

 

そのラウラの言葉に様子を見ていた火影が応える。

 

火影

「あんた織斑先生を随分尊敬しているみたいだが、その尊敬している人の大切な弟が目の前で殴られたらその人はどう思うかな?」

ラウラ

「!?」

 

ラウラが後ろを見るとこちらに目を向ける千冬がいた。

 

ラウラ

「…くっ!いいか覚えておけ!私は貴様を認めない!」

 

ラウラはそう言って自分の席に着いた。

 

一夏

「すまねぇ二人共…」

火影

「気にすんな。だがあのラウラとかいう奴。お前の事知っているみたいだったが、覚えあるか?」

一夏

「いや、何とも…」

海之

「……」

火影

「どうした海之?」

海之

「…何でもない」

千冬

「さあ無駄話はこれで終わりだ。一限目はアリーナで実習を行う。全員着替えて集合だ!織斑、海之、火影はデュノアの面倒を見てやれ。同じ男子の方が気楽だろう」

生徒達

「「「はい!」」」

 

 

…………

 

一夏

「とりあえず簡単に自己紹介しておくぜ。織斑一夏だ。宜しくなデュノア。気軽に一夏って呼んでくれ」

火影

「スメリアの火影・藤原・エヴァンスだ。宜しく頼む。俺も火影で良いぜ」

海之

「海之だ。宜しく」

シャルル

「分かった。じゃあ僕もシャルルって呼んで一夏。それに火影と海之…って双子!?」

海之

「ああ。俺が兄でこいつが弟になる」

シャルル

「兄弟でIS操縦者なの!?」

火影

「ああそうだ。珍しいみたいだけどな」

シャルル

「珍しいなんてものじゃないよ!そんな話全く…」

海之

「悪いが急ごう。時間が無い」

一夏

「っとそうだな!早くしねーと!」

シャルル

「え?え?」

火影

「理由は後で話す。急ぐぜ」ガシッ

シャルル

「わっ!」

 

火影、海之、一夏、そして訳がわからない様子のシャルルは火影に手を取られて走り始めた。





一夏が何故元気が無いのか。おわかりの方は多分おわかりかと思います。


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Mission34 思わぬ試合

日曜があけて月曜日。

1-1の生徒達はHRの中で千冬と真耶から新たに二人の転校生が入る事を伝えられる。一人は金髪の少年。もう一人は銀髪の少女であった。
その銀髪の少女は突然一夏に手を上げようとするが海之がそれを阻止し、場はとりあえず収束する。

騒がしいHRが終わり、一夏や火影達はアリーナへと急ぐのであった。


IS学園 アリーナ

 

二人の転校生のやや波乱の自己紹介が終了し、本日一、二限目の授業は実習である。一組と二組の生徒による合同授業だ。

そんな中、本日転校したばかりのシャルル・デュノアは心の中で思う事があった。

 

シャルル

「…」

(火影くんと海之くん。まさか一夏くん以外にも男子がいたなんて…。一夏くんの事はニュースや新聞であんなに大々的に取り上げられてたのに、二人の事は今の今まで全く知らなかった…。どういう事なのかな…?)

一夏

「どうしたシャルル?」

シャルル

「あ、うん。大丈夫だよ。…そういえばさっき何であんなに急いだの?」

火影

「ああ。簡単にいえばここは女子高だから男子の更衣室が無いんだよ。だから女子が着替える前に急いで着替えないといけないってわけだ。女子が着替えた後だと間に合わねぇからな」

シャルル

「あ、なるほど」

 

そんな話をしているとやがて千冬と真耶がやって来た。

 

千冬

「みんな用意はできたか?それでは授業を始める!本日一限目は実戦形式の実習だ。尚今回の授業には山田先生も参加してもらう。山田先生はかつて訓練候補生まで務めた程の腕前だ。経験もお前達より上だから精々邪魔しないように!」

真耶

「よ、宜しくお願いします」

千冬

「尚、デュノアとボーデヴィッヒは今回は他生徒達と同じ様に見学しておけ。代わりに…篠ノ之!訓練機を貸してやるから代わりに出ろ」

「は、はい!」

デュノア

「わかりました」

ボーデヴィッヒ

「了解」

 

そして一夏、箒、セシリア、鈴、真耶の五人が呼ばれて前に出た。

すると、

 

「あの先生、火影と海之は?」

一夏

「? 確かに二人はどうすんだ千冬姉?」

千冬

「織斑先生だバカ者」ゴンッ!

一夏

「す、すいません」

千冬

「全く…。さて話は戻るが、お前達は五人で組となり海之・火影ペアと戦ってもらう」

 

…………

 

生徒達

「えーーーーーーーーーー!?」

一夏

「ち、織斑先生!いくらなんでもちょっときつくねぇか?」

セシリア

「そうですわ!2対5なんて!」

 

そんな反応に千冬ははっきり答える。

 

千冬

「いらぬ心配だ。お前達だけでは二人には敵わん。正直傷一つ付けられるかも怪しい。もし二人に勝てれば…私にも十分勝てるだろうな」

ラウラ

「!?」

 

その千冬の一言にラウラは動揺する。

 

シャルル

「あ、あの織斑先生がそんな事言うなんて、二人ってそんなに強いの!?」

海之

「大したことは無い」

火影

「ああ。俺達はただケンカしてるだけだしな」

シャルル

「け、ケンカって…」

 

そんなやりとりをしていると五人が言った。

 

「……いいわ。やってやろうじゃん!一度火影達とも戦ってみたかったしね!」

「ああ。そこまではっきり言われたらやらないわけにはいかんな」

セシリア

「正直勝てる自信はありませんが、せめて一太刀でも浴びせてさしあげますわ!」

一夏

「ああ。訓練の成果をみせてやるぜ!」

真耶

「みんなやる気十分ですね!」

 

五人はすっかりやる気になっている。

 

千冬

「その意気や良し。二人も良いな!」

海之

「はい」

火影

「構いません」

 

二人が答えたその時、

 

ラウラ

「教官!」

 

突然ラウラが声を上げた。

 

千冬

「織斑先生だ!…何だ?ボーデヴィッヒ」

ラウラ

「私も戦わせてください!」

生徒達

「「「え?」」」

 

突然のラウラの提案に生徒達は驚いている様だ。

 

千冬

「却下する。先ほども言ったはずだ。お前は下がっていろ」

ラウラ

「っ!…レーゲンのテストも兼ねたいんです!どうか私にも戦いの許可を!必ず勝ってみせます!」

千冬

「……」

 

千冬は少し何か考慮していたがやがて、

 

千冬

「…良いだろう。ただし必ず五人で協力しろ。良いな?」

ラウラ

「ありがとうございます」

千冬

「山田先生。すまんがボーデヴィッヒと交代してくれないか?」

真耶

「わかりました」

千冬

「ではお前達!ISを展開しろ!」

 

そういうと5人はISを展開する。

 

「ねぇ!ボーデヴィッヒさんのIS見て!」

「すごい…、あれってドイツの第3世代だよね?」

 

ボーデヴィッヒのISは全体的に黒を基調とした機体で肩部に巨大なレール砲らしき物が付いている。一夏達の物と比べれば重厚感がある感じだ。

 

「それがあんたのISなのね。ま、宜しく頼むわ」

ラウラ

「勘違いするな。邪魔になるようならまずお前達から倒す」

「なんですって?」

「落ち着け鈴。あとボーデヴィッヒも織斑先生から協力しろと言われた筈だぞ」

ラウラ

「…ちっ」

一夏

「…大丈夫かな?」

セシリア

「同感ですわ」

千冬

「ハァ」

 

千冬はわかってはいたがラウラの態度にため息をつく。

 

千冬

「では二人もISを展開しろ」

火影・海之

「「はい」」

 

カッ!!

 

火影、海之はアリギエル、ウェルギエルを纏う。

 

シャルル

「!!な、何このIS!?こんなの見たこと無い!!」

ラウラ

(全身装甲だと!しかしなんだこの異様な感じは!?)

火影

「織斑先生」

千冬

「なんだ?」

火影

「今回の実習で新しい武器を試してみたいのですが良いですか?」

千冬

「新しい武器だと?いいだろう、許可する」

一夏

「また何か造ったのかよ?」

海之

「まあな」

千冬

「よし。では他の生徒は退避しろ」

 

そういうとシャルルや本音、他の生徒は観客席に移動していった。

 

 

…………

 

やがてアリーナ中央には7人のISが残った。

 

千冬

「全員準備はいいか?」

7人

「はい」

千冬

「よし!始めろ!」

 

ドンッ!ドンッ!

 

その瞬間火影と海之は急上昇し、遥か上空にいた。

 

ラウラ

「!!」

一夏

「やっぱ相変わらずはえぇ~」

セシリア

「ええ。以前よりまた速くなっている気がしますわ」

「本当だな…」

「なにしてんの!私たちも行くわよ!」

一夏

「お、おう!」

 

そう言うと5人も飛び立った。…そして少し遅れて全員同じ場に立った。

 

一夏

「火影!海之!お前らに手加減なんてしねえからな!」

「一手ご教授願おう!」

セシリア

「私達の全力、見せてさしあげますわ!」

「二人共、手加減なんてしたら恨むからね!」

ラウラ

「…」

(教官は仰った。お前達を倒せば自分にも勝てると…。それはつまり教官より強いという事。…認めん!そんな事断じて認めんぞ!)

 

火影

「気合い入ってんな。…いいぜ。かかってこい!」

海之

「行くぞ」

 

そして彼らの試合が始まった!




※次回、人数は多いですが頑張って書いてみます。


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Mission35 火影・海之 VS 一夏・箒・セシリア・鈴・ラウラ

シャルル・ラウラという転校生を迎えたこの日の一限目は一、二組合同によるISを使った実戦演習。
千冬が指示したのは一夏、箒、セシリア、鈴、真耶の五人を相手に火影と海之の二人という一見無茶な内容だった。だが千冬はそれでも勝負にならず、しかももし二人に勝てば自分にも余裕で勝てると断言。千冬のそんな言葉に衝撃を受けたラウラは自分も参加を懇願。考えながらも千冬はそれを受け入れる。
波乱を予感させる試合が始まろうとしていた。


千冬の試合開始の号令で空に飛び上がった七人。

火影はリべリオン、海之は閻魔刀を抜く。対峙する一夏達もそれぞれの近接武器を展開する。箒は刀。ラウラの機体はビームの爪の様なものである。

 

少しの沈黙が続いた後、海之がゆっくりと呟いた。

 

海之

「行くぞ」

 

シュンッ!シュンッ!

 

一夏達

「「「「「!?」」」」」

 

目の前にいた火影と海之が消えた。

 

「ど、どこだ!」ズシャッ!「ぐあっ!」

一夏

「箒!?」ザンッ!「うわあああ!」

 

突然二人がよろめいて吹き飛んだ!

 

「な、後ろ!?」

 

振り向くと先ほどまで正面にいた火影と海之がいた。

 

セシリア

「まさかあの一瞬で正面からすれ違って後ろから切りつけたというんですの!?」

「嘘でしょ!?」

ラウラ

「…」

(私にも全く見えなかった…)

一夏

「くっ!うおぉぉぉ!」

 

態勢を立て直した一夏がアラストルの機能を使って斬りかかって来た。

 

海之

「…」

 

ガキィンッ!

 

一夏

「受け止めた!?」

 

一夏もあれから訓練を続け、アラストルの機能を更に引き上げることができていた。しかし海之はそれを難なく見切って受け止めた。

 

海之

「アラストルをそこまで使いこなせる様になったか。上出来だ」

一夏

「そう言うなら当たれっつーの!」

「一夏!はあぁぁ!」

 

箒が一夏とは反対側から海之に切りかかる。しかし、

 

ガキィィン!

 

「!鞘だと!?」

 

右手で一夏の剣を受け止めていた海之は左手で閻魔刀の鞘を抜き、箒の剣を受け止めていた。

 

海之

「箒。お前とちゃんと戦うのは初めてだが筋は良いな」

「感心するのはまだ早い!」

 

一夏と箒は立て続けに剣を繰り出すが海之には届かない。そして海之が再び受け止めた時呟いた。

 

海之

「…円陣」

 

ビュビュビュビュビュン!ギュイーーーーン!

 

突然海之を中心とする様に幻影剣が円形に出現し、それが回転鋸の様に高速回転しだした。

 

「ぐわあぁぁぁ!」

一夏

「うわあぁぁぁ!」

 

その攻撃をまともに受けた二人のSEは大きく削られ、たまらず一旦距離を取る。

 

「ハア、ハア。くっ、一夏大丈夫か?」

一夏

「あ、ああ、何とかな。…くっそ、ここまでレベルが違うのかよ」

海之

「…」

 

海之は全く息を切らしていなかった。

 

 

同じ頃…

 

ガキィィィン!キンッ!ガキンッ!

 

火影のリべリオンと鈴の双天牙月が激突していた。

 

火影

「やるじゃねえか鈴」

「当たり前でしょ!でもあんた全然本気じゃないわね!こっちはとっくに全力なんだから!」

セシリア

「鈴さん!どいてくださいまし!」

 

ビュビュビュビュン!

 

鈴はその言葉で距離を取り、セシリアはビットを展開し火影に向かわせる。だが火影はそれを全てかわし、持ちかえたコヨーテでビットを狙い破壊した。

 

バンッ!バンッ!

ドオォォン!ドォン!ドォォン!!

 

セシリア

「!!」

火影

「セシリア。前に比べてビットの技術は上がったが、まだ教科書が抜けてねぇな」

 

その時、

 

ラウラ

「どけぇぇぇ!」

 

ラウラがビーム手刀を構えながら鈴を押しのけて迫ってきた。

 

「きゃあ!」

セシリア

「鈴さん!あなた何しますの!?」

ラウラ

「うるさい!こいつらは私が倒す!」

火影

「…」

 

火影は直ぐそこまで迫っていたラウラに向かい、リべリオンを振り上げて構える。

 

ラウラ

「そんな見え見えの攻げ」ドゴォッ!「グハァッ!…な、何!?」

 

見るとラウラの横腹に火影が蹴りを入れていた。

 

火影

「剣を振りかぶったからって必ず剣が来るなんて限らねぇぞ。覚えとけ。あと鈴にちゃんと謝れよ」

ラウラ

「くっ!」

 

ラウラも一旦距離を取る。接近戦が不利と思った三人は火影を囲む様に展開し、3方向からそれぞれの射撃兵装で攻撃を仕掛ける。鈴は龍咆、セシリアはスターライト、ラウラは肩の大型レール砲だ。

 

「食らいなさい!火影!」ズドンッ!

セシリア

「行きます!」ドギュンッ!ドギュンッ!

ラウラ

「くたばれぇぇ!」ズドンッ!!

 

それぞれの攻撃が火影にまっすぐ向かっていく。そして、

 

ズドオォォォォォン!!

 

やがて火影のいた所から激しい爆発が起こる。

 

ラウラ

「…ふんっ!口ほどにもないな」

「油断しちゃだめ!火影はこの程度で!」

セシリア

「……」

 

その時、

 

ズドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!

ドガァンッ!ドォォォンッ!ドガァァンッ!

 

鈴・セシリア・ラウラ

「「「!?」」」

 

突然の激しい衝撃。

見ると三人の射撃兵装がそれぞれ破壊されていた。

 

ラウラ

「なっ!ばかな!?」

「一体どこから!?」

セシリア

「!上ですわ!!」

 

三人は上空を見た。そこには、

 

火影

「ヒット」

 

こちらに向けてエボニー&アイボリーを構える火影がいた。

 

「い、何時の間に!?」

セシリア

「しかもあの距離から拳銃で正確に私達の武器だけを破壊するなんて…」

ラウラ

「なんて連射だ…!」

 

ラウラは火影の正確な射撃と連射に信じられない様子だ。

 

「くっ、手加減するなって言ったけど少しは手抜きなさいよね」

セシリア

「鈴さん、それ支離滅裂してますわよ」

ラウラ

「…」

(くそっ!負けない!負けてたまるか!!)

 

 

同時刻、観客席

 

生徒達はほぼ全員がその試合を見て沈黙していた。圧倒的不利な状況である筈の試合が逆に兄弟のワンサイドゲームになっている現実に。

 

千冬

「…やはり思った通り、いやそれ以上の状況になっているな」

真耶

「まさかここまで一方的だなんて…」

本音

「ひかりんもみうみうも凄すぎるよ~」

シャルル

「…」

(あんな二人がいたなんて…、そして今まで知られてなかったなんて信じられない…。火影くん、海之くん…君達は何者なの…?)

 

 

アリーナ上空

 

一夏、箒と相対している海之。

 

海之

「…」

 

海之は突然手に持っている閻魔刀を鞘に収め、抜刀の構えに入った。

 

一夏

「刀を収めたぞ?」

「油断するな一夏」

 

キンッ!キンッ!キンッ!

 

海之は一見、刀をほんの少し抜くと直ぐ鞘に収めるという動作を繰り返した。

 

一夏

「なんだ?ほんの少し抜いただけ」ズガガガガッ!「うわああああああ!!」

「一夏!?」ズガガガガッ!「ぐああああ!!」

 

突然斬られた様な凄まじい衝撃を受けて二人は態勢を大きく崩し、再びSEが大きく削られた。

 

一夏

「うっ…くっ…」

「な、何だ今のは…?離れてるのにいきなり切られた様な感じがしたぞ…」

海之

「…次元斬」

「何?」

海之

「次元斬だ。超高速の抜刀で次元の狭間を切り、それによって生じた真空波で離れた相手を切るというものだ。射程距離は短いがな」

一夏

「な、なんだって!」

「そんな事が…」

 

そう。ほんの少し抜いただけに見えていた抜刀は目に見えない速度でしっかり抜かれていたのである。一夏と箒は海之の剣にただただ驚くしかなかった。

 

 

一方火影と戦う鈴達は自分達の射撃兵装が破壊されたため、やむを得ず接近戦を挑んでいたが全く好機を見いだせないでいた。

 

ガキィィィンッ!

 

やがてお互いに一旦距離を置く。

 

「ハア、ハア…」

セシリア

「一撃も当てられる気がしませんわね…」

ラウラ

「…くそっ!」

火影

「…さて、そろそろこいつのお披露目と行くか」

 

そういうと火影はリべリオンを背中に戻し、一見無防備となった。それを見て自分がなめられていると感じたラウラは激高した。

 

ラウラ

「!…貴様なめるなぁぁぁ!」

「ま、待ちなさいラウラ!」

 

ラウラは無視して突っ込み、火影にビーム手刀を振りかざす。

 

ガキィィィィンッ!

 

ラウラ

「!?」

 

ラウラは目を疑った。

火影の両手に突然燃え上がる籠手が出現し、攻撃を受け止めていたのだ。それは正に異形の姿で一見ドラゴンを思わせる様である、

 

火影

「おらぁ!!」

 

ドゴォォ!ボガアァン!

 

火影は籠手を装着した拳でラウラの腹部に凄まじいパンチを繰り出した。そして同時にそこから小規模な爆発が起こった。

 

ラウラ

「ぐぁぁぁぁぁぁ!!」

 

その衝撃によってラウラは大きく吹っ飛ぶ。

 

「なっ、炎の籠手!?もしかしてあれが新しい武器!?」

 

「イフリート」

火影(ダンテ)が前世で使っていた炎の籠手型の魔具で、ダンテの父スパーダの盟友とされる悪魔が魔具として変化したものだ。攻撃範囲は剣よりも落ちるがその一撃の威力と衝撃はリべリオンを超える。因みに前世では魔力による炎を用いていたが、こちらではSEを炎に変換している。

 

「近距離では剣と籠手。遠距離では多種多様な銃器。全く隙が無いわね…」

セシリア

「その通りですわ…」

ラウラ

「…くそっ!!」

 

こちらも火影の実力に何も言えなくなっている三人であった

 

 

同時刻 観客席

 

相変わらず生徒達の大部分は沈黙していた。

 

シャルル

「…すごい…」

千冬

「…空間を超えて斬る真空の刃。そして炎の籠手…」

真耶

「…もう言葉が出ません」

本音

「二人共かっこいい~」

千冬

「さて、これ以上やると次の授業に支障をきたすな。それにあの五人が心配だ」

 

そう言うと千冬は七人に演習の終了を命じた。

 

 

…………

 

暫くすると七人は降りてきたのだが、火影と海之以外は緊張の糸が切れたためか疲れがピークで碌に立てない状態だった。真耶がそれそれにスポーツドリンクを差し出していた。

 

火影

「おい、大丈夫か?」

一夏

「こ、これが大丈夫に見えるか…?」

「一撃さえも当てられないとは…」

「ほんとにどんだけ強いのよ…あんたも海之も」

セシリア

「わかってはいましたが…これほど迄とは…」

ラウラ

「……」

海之

「落ち込む事はない。一夏はスピード、剣速共に以前に比べて大幅に向上している。箒も剣術だけなら一夏より上だ。」

火影

「その通りだ。鈴、お前も一夏との試合の時と比べて龍咆の命中精度も剣の腕も上がってるぜ。セシリアも近接戦闘の腕が随分上がってるしな。あとボーデヴィッヒ。初めて戦ったが全体的な技術は一番高いな。すげえよ」

ラウラ

「……」

海之

「だが少し感情的になり過ぎだな。精神面ではレベルが低い」

ラウラ

「何だと!?」

 

ラウラはその言葉に憤慨するが、

 

千冬

「止めろボーデヴィッヒ!感情的になるな。今まさに海之に言われただろうが」

ラウラ

「!…わかりました、き、織斑先生」

千冬

「ふぅ…、皆の疲労が大きい様だから次の授業は少し時間を短縮する。良いな」

生徒達

「「「はい」」」

 

こうして実践演習は火影・海之の圧勝で終わったのであった。




アラストルに続き、イフリートを具現化しました。
DMC5のバルログと悩みましたがこちらの方がカッコいいと思うのと一応彼の父スパーダの盟友なので。
ネタばれになりますがもう一つの籠手型の魔具はDMC3より「ベオウルフ」です。これは後ほど海之の装備とする予定です


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Mission36 昼食会

火影・海之の兄弟ペアと一夏・箒・セシリア・鈴・ラウラのチームによる試合。
剣が主武装の一夏と箒は自然に海之との勝負になるが、海之の圧倒的な実力に打つ手がない。
一方セシリアと鈴、そしてややチームワークに不安があるラウラは火影に挑むが火影の剣と銃。そして新たな武装にこちらもなす術がなかった。

結果試合は千冬の睨んだ通り、火影と海之の圧倒的な勝利で終わったのであった。


授業は二限目に入っていた。

ただ一夏、箒、セシリア、鈴の4人は一限目の試合の疲労が思った以上に大きかった様で、千冬はやむなく4人を見学させる事にした。最初ラウラも休ませようとしたが、ラウラが固辞したので二限目も参加させる事にした。そしてそれが火影達への対抗意識からの物だとも気づいていた。

 

千冬

「さて、少々遅れたが二限目を開始する。お前達にはグループ毎に別れて実際に訓練機の操縦を行ってもらう。尚、専用機持ちである海之、火影、デュノア、ボーデヴィッヒはグループリーダーとなって操縦方法を指導しろ。予定より指導する人数が少なくなった分テキパキ動けよ」

 

「火影くん、私に操縦教えて!」

「海之くんならきっとわかりやすく教えてくれるよね!」

「デュノアくんの操縦ってどんななの!?」

「一目見てファンになりました!ボーデヴィッヒお姉さま!」

 

一部やや変な傾向にある者もいる様だが何とか偏り少なく分かれる事ができた。

 

本音

「ひかりん~よろしく~」

火影

「へいへい」

 

海之

「乗りこむ時はもっと機体にもたれ込む感じで良い」

 

シャルル

「腕を振って歩く時は…」

 

ラウラ

「……」

 

 

そんな感じで授業が進んでいる一方…

 

「むぅ~!」

一夏

「…」

「どうした一夏?」

一夏

「ああ…。あいつらってほんと凄いなと思ってな。火影と海之」

セシリア

「そうですわね…。全く疲れてらっしゃらない様に見えますわ」

「確かに…。ボーデヴィッヒもだが、あの二人は特別の様にさえ感じる」

一夏

「…あいつらって本当に数ヶ月しかIS動かしてないのかな?」

「どういう事?」

一夏

「いや、ただ単に思っただけだ。気にすんな。でも…なんでだろうな…あそこまで圧倒的な差を見せつけられたのに…なんか嬉しいんだ」

セシリア

「嬉しい?」

一夏

「ああ、目標ができたみたいで。いつかあの二人に並ぶ位になりたい。凄くそう思うんだ」

箒・セシリア

「「一夏(さん)…」」

「へ~、あんたもそう思う事あんのね。でもちょっとわかるかも」

(一夏、小声で話せ。…良かったら…昼食、屋上で一緒にどうだ?)

一夏

(? ああ別にいいけど)

(ほ、本当か?約束だぞ!)

 

箒は一夏と人知れず一緒に食事をする約束をした。

そうこうしている内に二限目の授業は終わり、数刻後約束の時間になった。一夏と一緒に食事を取れる事に箒は喜んでいた。…筈だったが。

 

 

昼休憩 屋上

 

「……なんでこうなった?」

一夏

「えっ?一緒に昼食をとるんだろ?だったら皆も一緒にと思って」

 

そう。一夏はあの後火影達にも一緒に食事しようと呼びかけたのである。箒からすればそうならない様人知れず約束したのだが一夏はどうやら想像以上に手強かった様だ。今は二人以外にも火影、海之、セシリア、鈴、そしてシャルルもいる。因みにラウラは見つからなかった。そんな状況で一夏以外の者が箒にこっそり話しかける。

 

火影

(箒。なんで僕達に先に相談しなかった?あらかじめ知ってりゃ断ってたのによ)

(そうよ。あいつの幼馴染なら知ってるでしょう?あの次元外れの鈍感さを)

(…一生の不覚)

シャルル

(ねぇ火影、もしかして篠ノ之さんて一夏の事)

火影

(そうだ)(シャルルに小声で事情説明)

シャルル

(うわ~…)

セシリア

(箒さん。抜け駆けは無しと代表決定パーティーの時仰いましたよね♪)

(うっ…)

海之

(ハァ…)

一夏

「みんな何してんだ?早く食おうぜ」

 

全員で昼食会が始まった。

 

シャルル

「でもさ、みんなには悪いんだけど僕昼食持ってきてないんだ」

火影

「ああそれなら心配すんな。ちゃんと用意してある」

 

そう言うと火影は一つのランチボックスを差し出す。

 

シャルル

「えっ!あ、ありがとう。どうしたのこれ?」

火影

「今日からルームメイトだからな。挨拶代わりだ」

海之

「数日前に織斑先生から転校生が来る事と火影がそいつとルームメイトになる事を聞いてな。火影に伝えて用意させた。昼食を用意していない可能性があったからな」

一夏

「…ほんと海之って感が良いな」

「誰かさんも見習ってほしいものだ」

セシリア

「同感ですわ」

一夏

「?」

シャルル

「あ、ありがとう火影。有り難くいただくね」

 

見ると中にはチーズ、ハム、チキン、野菜等色彩豊かな具材のパニーニ。横にはプチトマトやボイルした海老等が添えられている。シャルルはパニーニのひとつに口を付ける。

 

シャルル

「…すごく美味しいよ火影!」

火影

「どうも」

「ねぇ火影、私の春巻きとあんたのパニーニ、一つ交換してよ♪」

火影

「ああ」

「サンキュ~。その春巻き食べてみて!自信作なんだけど」

火影

「へぇ、パリッ…」

「ど、どう?」

火影

「…旨いな…うん、凄く旨い」

 

この時火影は不覚にも少し感動していた。母との思い出が少ない事もあるのか、何とも言えない感情が起こった様であった。

 

「!…あ、ありがとう。また作ってあげるわよ。あっ海之。あんたにも一つあげるから卵焼きちょうだい♪」

海之

「ああ。……ほう、確かに旨いな」

「良かった。じゃああんたのも……!って何この卵焼き!凄く美味しいんだけど!」

海之

「大したことは無い」

 

海之は謙遜するがその料理の腕は火影と同じ位高い。彼の弁当も玉子焼き、鮭の西京焼き、筑前煮等色合い豊かだ。

 

一夏

「へぇ、そんなに旨いのか?海之、俺にも」

「一夏!私のから揚げひとつやろう!」サッ!

一夏

「あ、ああサンキュ!…」

「ど、どうだ?」

一夏

「…うん。旨いな!」

「そ、そうか!ではまた」

セシリア

「一夏さん。私のサンドイッチも召し上がってくださいな♪」

一夏・箒

「「!!」」

火影

(…?なんか一夏と箒の顔がえらく引きつってるが…?)

 

 

…………

 

やがて昼食が終わりに差し掛かるとシャルルが火影に訪ねてきた。

 

シャルル

「ねぇ火影。ちょっと聞きたいんだけどさ。火影と海之の母国ってスメリアって言ったよね?」

火影

「ああそうだ。父親がスメリア人で母親が日本人だ。最も僕らは養子だがな」

「え?」

一夏

「そうなのか?」

海之

「ああ。俺達は赤ん坊の時に拾われたんだ。だから本当の親は分からない」

 

海之はここでも転生者である真実は隠しておいた。

 

火影

「知ってるだろうがスメリアは難民の受け入れに積極的な国だ。大方僕らもその生まれじゃねぇかな?」

シャルル

「ご、ごめん…」

火影

「気にすんな」

セシリア

「あの…、御二人は確かエヴァンスと仰いましたが、もしかして」

海之

「ああ。俺達を拾ってくれたのはアルティス・エヴァンス。ESC創始者だ」

シャルル

「!」

「な、何ですって!?」

一夏

「ESCって大企業じゃねぇか!」

「ああ私も知っている。スメリアどころか世界的にも有名だ」

海之

「できればあまり言いふらさないでくれ。騒ぎになっては困る。知っているのは織斑先生位だ」

一夏

「千冬姉も知ってるのか…。そう言えばシャルルもデュノアって言ったが、あのデュノア社の事か?」

シャルル

「う、うん。父がデュノア社の社長なんだ」

一夏

「へ~すごいな。しかし考えてみれば俺らのクラスって結構凄いメンツが揃ってるんだな」

「確かにな。男性操縦者が3人。ESC、更にデュノア社の関係者とは」

シャルル

「…という事はさ、火影と海之ってスメリア代表か、もしくは候補なの?僕や鳳さんやオルコットさんみたいに」

火影

「いやそうじゃない。つーかスメリアに代表はいない」

「えっ?でもあんた達のISってスメリアのでしょ?国が管理する決まりなんだから」

海之

「俺達のは特例で国から個人の物と認められている。父の会社の功績だそうだ」

セシリア

「そんなことが…」

「ほんと凄いわねあんた達」

海之

「俺達は何もしていない」

シャルル

「……」

火影

「どうしたシャルル?」

シャルル

「う、ううん!なんでも!」

一夏

「っと!そろそろ昼休憩終わりだぜ」

「そうだな。今日はこれでお開きとしよう」

火影

「だな。ああそれからシャルル。今日から宜しくな」

シャルル

「あ…、う、うん。宜しく!」

 

そう言って皆で屋上を出た。

因みにこの後、シャルルは箒、鈴、セシリアともお互い名字でなく、名前で呼び会う事を約束したらしい。




※ESCとは火影(ダンテ)と海之(バージル)が転生したこの世界での父親の会社、「エヴァンス・セキュリティー・コーポレーション」の略です。
詳しくはMission06をご覧ください。


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Mission37 それぞれの依頼

二限目の授業が行われる中、一夏は先の試合で火影・海之と自分の間に圧倒的な差がある事を感じとりながらもその力に感銘を受け、自分はもっと強くなる事を決意。
やがて昼休憩となり、皆で昼食を取る事に(本当は違うのだが)
互いに交流を深めて行く中で火影と海之は自分達が拾われた子である事を告白。そんな二人を一夏や箒達、転校生のシャルルも受け入れ、今後も仲良くやっていく事を約束した。


火影と海之が自分達の過去を一夏達に話した昼食会から数刻後。

午後の授業と一夏達の訓練も終わって、今火影は寮に帰る途中である。クラス対抗戦以降は鈴も訓練に加わる様になったので、それに並行して訓練の終了もやや遅くなった。空は黒に近いオレンジである。因みに今日から火影のルームメイトはシャルルで、転校の疲れもあってと先に部屋に戻っていた。

 

火影

「一夏の奴随分張り切ってたな。まぁこっちとしてもあいつが強くなんのは…、ん?」

 

寮に向かっていた火影は立ち止った。

見ると校舎から少し離れた所にあるベンチに一人の女性が座っているのが見える。幸いすぐ横に外灯があったので姿恰好は伺い知れる事ができた。

 

(生徒じゃないな。…だが教職員という感じでもない)

 

見た所制服でもスーツでもないその女性は座ったまま俯いていた。そんな女性に火影は気にせず行こうとしたのだがあるものが彼の目を惹いた。

 

(……金髪)

 

女性は美しい金髪だった。それが同じ金髪である前世の彼の母親を思い出させたのだ。気付いたら火影は女性に近づき、声をかけていた。

 

「あの…」

 

女性はゆっくりと顔を上げて火影を見た。長い金髪を後ろで纏め、茶色い瞳をしているその女性はゆっくり話だした。

 

女性

「…何か?」

火影

「あっ、すいません。何か元気が無い様に見えたんで」

女性

「ああ、そうだったの。心配かけたみたいでごめんなさいね」

火影

「いえ。大丈夫ですか?先生呼んできましょうか?」

女性

「ええ大丈夫よ。気分が悪いわけじゃないの。ちょっとね…」

火影

「?」

女性

「ねぇ。あなたここの生徒さん?」

火影

「ええ。まあ」

女性

「そう…。ねぇ、良かったら少しお話し聞いて頂けないかしら。本当に少しで良いんだけど」

火影

「ええ。良いですよ」

女性

「ありがとう」

 

火影は女性の隣に座った。

 

火影

「それで話ってのは?」

女性

「…ええ。実は…ある女の子を探しているのだけれど…、その子、今とても辛い思いをしているの。本当の自分を出せないで…苦しんでいるの」

火影

「本当の自分?」

女性

「ええ。でも…それを決して誰にも打ち明ける事はできない。打ち明けてはいけないと思っているの」

火影

「何故?」

女性

「それが…自分の運命だと思っているから。そうしてしまうと…自分の居場所が無くなると…思いこんでしまっているから」

火影

「運命…」

女性

「……ねぇ、ひとつお願いがあるのだけれど、聞いてくれない?」

火影

「え?は、はい」

 

火影は思わず言ってしまった。

 

女性

「ありがとう。…もし、あなたがその子に会ったら…伝えてほしいの。もう苦しむ必要はない。これからはあなたの幸せのために生きなさい。本当はみんなそれを願っているからって。そして…ずっと見守ってるからって…」

火影

「…? どうして僕に?」

女性

「…あなたなら。そう思ったからかしら」

火影

「…」

 

火影は女性の言葉の内容に変な違和感があったものの、引き受ける事にした。更に女性は、

 

女性

「これをあなたに。話を聞いてくれたお礼の代わりにでもしておいてね。…あの子の事、宜しくお願いします」

 

女性はそう言うと自分の薬指にはめている指輪を外し、それを火影の手を取って手渡した。紫色の宝石が嵌った指輪だ。

 

火影

「…いやでも、大切な物なんでしょう?。あとその子ってどんな…………?」

 

指輪から視線を戻すと、その女性はいなくなっていた。

 

「……?」

 

火影の掌の指輪が今の出来事が現実である事を物語っていた。

 

「……帰るか」

 

火影はその指輪をポケットにしまい、自分の部屋に戻る事にした。

 

…………

 

シャルル

「あっ、おかえり火影。遅かったね。どうしたの?」

火影

「ああ。ちょっとな」

シャルル

「? あっ、御免だけどシャワー先に貰ったよ」

火影

「ああ。んじゃ飯でも行くか」

シャルル

「うん」

 

火影とシャルルは部屋を出て食堂に向かった。

 

…………

 

翌日 校舎内廊下

 

教室に向かう海之がいた。

 

海之

「そういえば簪のISの進捗具合はどうなっているだろうか。後で久々に見に行って……?」

 

海之が歩いているとある部屋の前でじっとしている一夏がいた。

 

海之

「一夏、どうした?」

一夏

「あ、海之…」

 

すると室内から声が漏れてきた。

 

「これだけ申し上げても駄目なんですか!?教官!!」

海之

(この声…ボーデヴィッヒか。それに教官という事は、織斑先生も一緒の様だな)

ラウラ

「なぜ教官程の御方がこの様な生ぬるい所で教鞭等振るっておられるのです!」

千冬

「……」

ラウラ

「まともに戦える様な者もいない。おまけにISをファッションかおもちゃの様にしか考えていない様な者達相手では教官の折角の素晴らしい才能が腐って行くだけです!どうか今一度、我がドイツで教えを!!」

千冬

「……」

ラウラ

「あいつですか?織斑一夏の存在ですか!?教官の輝かしい功績に泥を塗った」

千冬

「黙れ!!」

ラウラ

「!?」

 

ラウラは思わず後ずさる。

 

千冬

「言わせておけば好き勝手言うではないか小娘。たかがIS一機に選ばれた位で随分偉くなったものだな」

ラウラ

「わ、私はそんなつもりは…」

千冬

「勘違いするなよ。私がここにいるのと弟の件は全く関係ない。それにお前、先程ここにはまともに戦える様な者もいないと言ったな?では…あの二人、海之と火影はどうだ?」

ラウラ

「!」

千冬

「私が覚えている限り、お前はあの二人になす術もなく無様に完敗していた気がするが?」

ラウラ

「あ、あれは私の周りの奴らが邪魔したからです!次は必ず!」

千冬

「愚かだな。相手と自分の力の差がわからぬとは。一端の操縦者であれば、あの最初の蹴りを受けた時点で力の差を見抜けるだろうに。はっきり言っておこう。今のお前では天と地がひっくり返る様な事があってもあの二人には勝てんよ」

ラウラ

「!!」

千冬

「話は終わりだ。もう出ていけ」

ラウラ

「…くっ!」

 

そう言うとラウラは部屋を出て行った。海之達には気づかなかった様だ。

 

千冬

「そこの二人」

一夏

「ゲッ!」

海之

「…はい」

千冬

「盗み聞きとは感心しないぞ」

海之

「申し訳ありません」

一夏

「す、すいません。…なぁち、織斑先生。あいつって」

千冬

「…関係ない。私が勝手にやった事だ。何も言うな」

一夏

「…」

海之

(この二人とボーデヴィッヒ。過去になにかあった様だな)

千冬

「話は終わりだ。もう行け」

一夏・海之

「「はい」」

 

そう言って一夏は離れて行った。そして海之も行こうとしたが突然千冬に呼び止められた。

 

千冬

「ちょっと待ってくれ。海之」

海之

「?」

千冬

「その…、すまなかったな。お前と火影を巻き込んでしまった。ボーデヴィッヒだが…、もしかしたら何か問題を起こすかも知れん」

海之

「気になさらないでください」

千冬

「…ふっ。一夏も良く言っているがお前は随分大人だな。16の子供とは思えん」

海之

「買い被りですよ」

千冬

「…海之。一夏を、ボーデヴィッヒを頼む」

海之

「? 何故ボーデヴィッヒを俺に?」

千冬

「…お前なら。そう思ったからかな」

海之

「俺で役立つ事があれば」

千冬

「…ありがとう」

 

火影と海之。二人はそれぞれの願いを聞き入れた。




オリジナル設定を考えてみました。


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Mission38 海之の提案

訓練が終わって寮に帰るところだった火影は、その途中で一人の女性に出会う。気になって話を聞くと女性はある少女を探しているらしく、その少女は本当の自分を出せず苦しんでいるらしい。女性からその少女を探してほしいとお願いされた火影はやむを得ず引き受ける事に。
一方、海之は激しく口論する千冬とラウラに出会っていた。ラウラは千冬に自らの祖国であるドイツに戻って来てほしいと懇願するが千冬は相手にしなかった。出て行ったラウラの事が本当は心配だった千冬は海之に彼女の事を頼むのであった。


火影が名も知らない女性、海之が千冬からそれぞれ依頼されて数日が経った。

来月のトーナメントに向けて今日も専用機持ち達は訓練に精を出している。

 

火影

「射撃で重要なのは相手の動きを読むことだ。立ってる的を狙ってるんじゃねぇんだからな。相手が動き続けている中で例え銃口が相手に向いてても当たる可能性はほぼ無いと思え。当たるまいとしている相手の動いている方向、目線、スピード等から次に相手がどこにいるかを予測しろ。幾らか無駄玉になっても気にすんな。寧ろけん制になって動きを制限できる。あと撃っている間は自分も動き続ける事を忘れんなよ。自分が的になるからな」

「なるほどね」

セシリア

「確かに私はブルーティアーズを操作している間は動けませんものね。早く改善しませんと…」

シャルル

「一夏は剣しか武装がないから銃の特性を良く知っておく必要があるね。実弾かレーザーかで特性に大きな違いがあるから」

一夏

「う~ん、確かにそっちが勉強不足だったかもな。俺の白式は剣しかないから如何に剣を当てるかばかり考えてた気がする…」

シャルル

「それも重要だけどね。でも瞬時加速は速い分直線しか進めないから読まれたら一瞬で不利になるんだよ。後…」

 

一方、海之は箒に説いていた。

 

海之

「箒。戦術において先手必勝という言葉があるがそれは忘れろ」

「何故だ?相手の先手を打つのは兵法の鉄則ではないのか?」

海之

「それは何が起こっても覆せるだけの力量と自信があればの話だ。それが無ければ時に思いもよらない結果を招く事になる。特にお前はその傾向が強い。クラス対抗戦の時の管制塔の件だったり、先日の俺との試合で一夏を助けようとして闇雲に斬りかかったりな。これは俺の予想だが、あの時一夏の事しか頭になかったのではないか?」

「!…」

海之

「やはりな。箒、一夏の力になりたいと思うのは良い。だが我慢も覚えろ。己を見失うな。何れ取り返しがつかない事になるぞ」

「…うん」

 

その時、

 

火影

「伏せろ一夏!」

一夏

「えっ!?」

 

ズダダダダッ!

ボガアァァァァァァン!

突然銃声と一発の爆発が起こった。

 

「な、何!?」

セシリア

「皆さんあれを!」

 

全員がその方向を見るとISを纏ったラウラがこちらに向けてレール砲を構えていた。

 

ラウラ

「……」

火影

「随分過激な挨拶だな」

「火影!何があったの今?」

火影

「あいつが一夏に向かってレール砲を撃ってきたんだよ。だから弾を撃ち落とした」

 

見ると火影の手にはアイボリーがあった。

 

シャルル

「レール砲の弾を撃ち落とすなんて…」

「貴様!なんのつもりだ!」

ラウラ

「…戦え」

「なに?」

ラウラ

「織斑一夏…私と戦え」

一夏

「…嫌だね。どうせトーナメントで戦うだろ」

ラウラ

「…ならば戦う様にするまでだ!」

 

ズドンッ!

ラウラが再びレール砲を撃って来た。だが、

ズダダダッ

ボガアァァン!

 

ラウラ

「!」

火影

「…」

 

砲弾は再び火影に破壊されていた。

 

セシリア

「なんて正確な精度ですの…」

火影

「まだやんのか?」

ラウラ

「当たり前だ!」

 

互いに銃を構えたその時、

 

海之

「火影」

火影

「ん?」

海之

「任せろ」

火影

「…わかったよ」

 

火影は下がり、海之が前に出た。すると海之がラウラに話しかけた。

 

海之

「ボーデヴィッヒ。一つ賭けをするか」

ラウラ

「何?」

海之

「俺にレール砲を撃ってこい。もし俺の身体にかすり傷一つでもつける事ができたら…、俺と火影は学園を出て行ってやる」

火影以外の全員

「なっ!?」

 

思いもよらない提案に皆が驚く。

 

一夏

「海之!お前何言ってんだよ!」

セシリア

「そうですわ!御二人がそんな事する必要はありませんわ!」

「そうよ!悪いのはあいつでしょ!」

「バカな事考えるな!」

シャルル

「海之!」

 

みんなが反対していたその時、

 

火影

「…心配ねーよ、みんな。あいつは大丈夫だ」

「でももし失敗したらあんたまで!」

シャルル

「火影…」

火影

「あいつを信じろ」

海之

「…だがもし失敗すれば、二度と先ほどの様な事はするな」

ラウラ

「…良いだろう!後悔するなよ!」

 

そういうとラウラは海之にレール砲の照準を合わせる。そして海之は閻魔刀だけを展開し、ラウラに向ける。

 

ラウラ

「?…刀だけだと?何故ISを出さん?」

海之

「使う必要もない」

ラウラ

「! 貴様あぁぁぁぁ!」

 

ズドンッ!

ラウラがレール砲を海之に向かって撃った。砲弾は真っすぐ向かっていく。

 

火影以外の全員

「海之(さん)!」

 

そして当たる瞬間、

キン!!

 

火影以外の全員

「!?」

 

全員が驚いていた。

砲弾は間違いなく当たった筈だ。だが当たった筈の砲弾が明後日の方向に飛んで行き、やがて爆発した。因みに海之は刀を向けたまま無傷だった。

 

ラウラ

「なっ!?」

一夏

「何があった!?」

シャルル

「今当たったよね!?」

火影

「ああ狙いは正確だった。だから外したんだよ。飛んでくる砲弾にギリギリ斬らない角度でそっと剣先を当て、弾道を変えたんだ」

「な、なんですって!?」

セシリア

「そんな事が…」

「あんなに柔らかく動く剣、見たことが無い…」

 

その後もラウラは海之を何度も狙うが全て結果は同じだった。

 

海之

「…」

ラウラ

「そんな、そんなばかな…」

 

やがてその騒動を聞いて教職員がやって来た。

 

職員

「君達、何をしている!」

海之

「時間切れだな。賭けは俺の勝ちだ。約束は守ってもらうぞボーデヴィッヒ」

ラウラ

「……」

 

ラウラは言葉を発する気力も無くなったのか、何も言わず去って行った。

 

一夏

「海之!大丈夫か!」

海之

「問題ない」

「もうハラハラしたわよ」

セシリア

「でも良かったですわ」

「ああ……」

シャルル

「火影も凄いけど海之も凄いね」

 

そんなやりとりをしているとアリーナの終了時間が迫って来ていた。

 

火影

「っと、そろそろ時間だな。今日はお開きにするか」

海之

「そうだな…。火影、少し話がある。みんなは先に帰っていろ」

一夏

「ああわかった」

シャルル

「火影、先に帰ってるね」

 

みんなはアリーナを出て行った。

 

火影

「んで、話って?」

海之

「…ボーデヴィッヒの事だ」

火影

「だと思ったぜ。お前があんな提案するなんて珍しいからな。んで、あいつがどうした?」

海之

「…お前は手出しするな。…それだけだ」

火影

「……あいよ」

 

火影は海之の態度に思う事があったようだが敢えて言わず、海之の提案を受け入れた。多くは語らずとも彼等は理解していた。それは正に兄弟の姿であった。

 

 

こちらは一夏達。

 

一夏

「しかしあいつらには度々驚かされるなぁ~。砲弾を撃ち落としたり刀で反らしたり」

シャルル

「うん…、そうだね」

「さすが火影と海之ね」

(……私にもあんな力があれば……)

セシリア

「箒さん、どうしました?」

「い、いや。なんでもない」

 

 

一方、海之との賭けで負けたラウラは、

 

ラウラ

「…」

(エヴァンス兄弟。…よくも、よくも恥をかかせてくれたな!必ず報いを受けさせてやる!覚悟しておけ!!)

 

想いそれぞれであった。



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Mission39 少年の真実

来月行われるトーナメントに向けて火影達は鍛錬に励んでいた。
するとそこに一夏との戦いを望むラウラが現れ、レーゲンのレール砲で襲い掛かるが火影がそれを阻止する。
更に海之がラウラに「自分に攻撃を当てられれば自分達は出て行き、逆に当てられなければ今後一切向かってくるな」という賭けを提案。ラウラは賭けに乗って向かってくるが、海之はそれを簡単に撥ね退ける。
結果はラウラの敗北。しかしラウラは人知れず火影と海之への復讐を誓うのであった。

UAが20,000を突破致しました!ありがとうございます!


ラウラの襲撃があった翌日。

この日も訓練を行う予定だったので火影、海之、鈴、セシリアはアリーナに来ていた。シャルルは今日は疲れてるという理由から訓練には参加しなかった。箒は一夏と一緒にくると言っていたが…

 

~~~~~~~~~

 

その時火影の電話が鳴った。

 

火影

ピッ「はい。ああ箒か、どうした?……は?……ああそれは災難だな……。ああわかった。じゃあな」ピッ

「どしたの?」

火影

「ああ、箒からだったんだが…一夏が急に腹壊してダウンしたらしい」

セシリア

「一夏さんが!?大丈夫なんですの!?」

火影

「ああ。今日一日休めばよくなるとさ。今箒が世話してる」

(…しかし「あのサンドイッチの時間差攻撃か」とはどういうわけだ?)

セシリア

「! こうしてはいられませんわ!私も行きませんと!」

 

そう言ってセシリアは走って行ってしまった。残ったのは火影、海之、鈴の3人だけ。

 

海之

「…人数が少なくなってしまったな。今日は訓練は止めにしておこう」

火影

「そうだな。鈴もいいか?」

「しょうがないわね。あっ火影、もし良ければあんたの部屋行って良い?久しぶりにあんたのデザート食べさせてよ♪」

火影

「…なんかお前最近本音に似てきてねえか?」

「気にしない気にしない♪」

 

という訳で本日の訓練は急遽中止となった。

 

 

…………

 

火影と鈴は海之と別れ、火影の部屋に向かっていた。因みに鈴が久々だからと本音も呼び出し、今は3人で向かっていた。

 

本音

(ね~鈴~。ひかりんのデザート食べれるのは嬉しいけどなんで私も呼んでくれたの~?)

(う~ん勿論2人きりなら良かったんだけどね…。まあどうせシャルルもいるからそれは無理だし、折角なら大勢で食べた方が良いでしょ)

本音

(ありがと~)

火影

「シャルル~、入るぞ~」ガチャッ

 

そういって火影は扉を開けた。

 

シャルル

「……」

火影

「……」

 

そしてそこには先に帰っていたシャルルも確かにいた。いたのだが……。

 

「どうしたの火影?早く入って……えっ!?」

本音

「どうしたの~?……ほぇ?」

 

そこにいた全員が固まった。時が止まった気さえした。

部屋には確かにシャルルがいた。着替え中だった。だが身体付きが明らかに男子のものではなく……女性のものだった。

まず沈黙を破ったのはシャルルだった。

 

シャルル

「ひ、火影…、鈴…。き、今日訓練の筈じゃ…」

火影

「ああ、人数が少なくなって止めたんだ。…所でお前…」

「な、何あんた達向かい合って話してのよ!?ああそうじゃなくて火影!あんた一旦外に出てて!早く!」バタンッ!

 

そういうと鈴と本音だけが入り、火影は外に放りだされた。中でドタバタ騒いでいるのがドア越しに分かる。

 

火影

「ハァ…」

 

またまた一波乱ありそうな予感がする火影であった。

…数分後、部屋のドアが開いて本音が声をかける。

 

本音

「ひかりん~、もういいよ~」

 

そう言われて火影はようやく部屋に入れたのであった…。

 

 

…………

 

火影

「ほらお茶」

 

部屋には火影、鈴、本音、そしてシャルルの4人。火影は全員に茶を出した。火影は椅子に、鈴と本音は火影のベッドに、シャルルは自分のベッドにそれぞれ腰かけている。シャルルは暫く黙っていたが、やがて喋りだした。

 

シャルル

「…う~ん、まさかこんなに早くバレちゃうなんてね…」

「シャルル、あんた…」

シャルル

「そう、僕は…女の子。本当は男の子じゃないんだ…」

本音

「火影は知ってたの~?」

火影

「いや、知らなかった。……ただ、何か変だなとは思ってたよ」

シャルル

「え?」

火影

「転校してきたシャルルを見た時妙な感じがしてな。男子にしちゃやけに肩幅も狭いし顔つきも女っぽいし。でもこういう男もいるんだろうと気にしないでおいたんだが」

「う~ん、確かに言われてみれば男の子っぽい顔つきではないかも」

シャルル

「あはは、参ったな…初日から怪しまれてたんだ」

本音

「でもさ~、なんでシャルルンは男の子の格好なんてしたの~?」

シャルル

「シャ、シャルルン?」

本音

「うん、シャルルだからシャルルン♪」

シャルル

「シャルルンか、な、なんか可愛いな…。あっ御免、そうじゃなかったね。実は…」

火影

「…会社を救うためか?」

シャルル

「……えっ」

「火影、それどういう事?」

火影

「実は…シャルルが転校してきた翌日知り合いに調べてもらったんだ。シャルルの実家のデュノア社は今運営状況が芳しくない。各国が第3世代のISの研究・開発に差し掛かっている中、デュノア社は一回り遅れている。このままでは政府からの援助も断ち切られてしまうだろう。そこでデュノア社がどうするかだが、シャルルが女とわかって確信したよ。お前会社から男装スパイを命じられたな?目的は…一夏の情報か?」

鈴・本音

「!!」

シャルル

「……うん、そうだよ。世界初の男性操縦者である一夏と一夏のISの情報を探る。それが僕に与えられた任務」

 

シャルルは火影の言葉を認めた。

 

「そ、そんな!あんたデュノア社の社長の息子、じゃない娘でしょ!?なんであんたがそんな事やらされるのよ!?」

シャルル

「…それは…僕が愛人の娘だからだよ…。僕はある町でお母さんと一緒に暮らしてたんだけど、2年前にお母さんが死んじゃったんだ。僕がデュノア社の社長の娘だとわかったのはお母さんが亡くなる時さ。身寄りが無くなった僕を父は自分の責任として引き取ってくれたんだけど…、正直会社に居場所なんてなかったな。義母さんとも上手くいってないし…。一時は財産を横取りする泥棒猫なんて言われた事もあるよ。父は一応認知してくれているから庇ってくれたけどね…」

「そんな…」

本音

「…」

シャルル

「そんな時に父から命じられたんだ。IS学園に男子生徒として入り、会社のためにスパイ活動を行えという命令をね。でも…もうそれも失敗しちゃったから、この学校にはいられない。国に強制送還されて…良くて牢獄かもね…」

鈴・本音

「!!」

火影

「…」

 

鈴と本音は驚いている。火影はずっと黙ったままだ。

 

「なんであんたがそんな目にあわなきゃいけないのよ!あんたは何もしてないでしょ!?なにか…そ、そうだ!確かIS学園の特記事項に「本学園における生徒は、在学中においてありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない」というのがあったわ!つまりここにいる間は大丈夫って事じゃないの!」

本音

「そ、そうだよ~。それにシャルルンが女の子である事知っているのは本音達だけだし、黙っていれば大丈夫だよ~」

シャルル

「……」

 

その時火影が口を開いた。

 

火影

「…いや、二人共それは違う。確かに特記事項にはそうあるが、それでも完全とはいえない。国同士の約束なんて賄賂や裏情報なんかで簡単に崩れ去る。それに今は僕達しか知らないとしても何れバレるのは時間の問題だ。もし会社から帰還命令がきたらどうする?ISの調整とかいう名目でな。デュノア社の所属であるシャルルは帰還せざるを得ないだろう。例え行き着く先が牢獄だとしても」

本音

「そんな~」

「じゃあどうすんのよ…」

シャルル

「…」

 

シャルルはずっと黙ったままだった。そんなシャルルに火影は尋ねた。

 

火影

「シャルル、お前はどうしたい?」

シャルル

「…えっ?」

火影

「お前の事情はわかった。それでお前はどうしたい?」

シャルル

「…どうするも何も…会社の」

火影

「会社は関係ない。お前は、シャルル・デュノアはどうしたいんだ?」

シャルル

「…僕は…」

火影

「このまま会社の言いなりになるか?それが自分の運命と思って流されるか?それがお前の本心か?」

シャルル

「…」

 

黙ったままのシャルルに火影が声を荒げた。

 

火影

「…シャルル!!」

シャルル

「!……ぼ、僕だって、僕だって言いなりになんてなりたくないよ!でもどうすれば良いのさ!僕だって男の子のふりなんてしたくないよ!普通の女の子として過ごしたいよ!買い物もしたいし好きな事もしたい。女の子として恋だってしたいよ!!…でも、でも…どうしたら…」

 

シャルルは大粒の涙を流して言った。

 

鈴・本音

「シャルル(ン)…」

火影

「…それで良い」

シャルル

「…えっ?」

火影

「それで良いと言ったんだ。お前の願いは聞いた。…俺(本気)が何とかしてやる」

本音

「ほ、ほんとひかりん~!?」

火影

「信じろ。……それでシャルル、もう一つ聞きたいんだが」

シャルル

「なに?」

 

すると火影はメモを取り、急に筆談をしだした。

 

火影

(良いか?良く聞け…)




火影が突然筆談しだした理由とは?


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Mission40 簪のIS

訓練が中止となり火影と鈴、そして鈴に呼ばれた本音は火影の部屋で過ごす事に。しかし部屋に帰った一同を待っていたのはシャルルが本当は女性という真実だった。
3人が聞いてみるとシャルルは自らの父親と義母から男装してIS学園に入り込み、一夏と白式のデータを盗む事を指示されたという。父親のあるまじき行為に鈴と本音は激怒。火影もシャルルの心の声を聞き、助ける事を約束する。


火影達がシャルルが女性という思わぬ真実を知った頃とほぼ同時刻。

一夏の腹痛という思わぬハプニングから訓練が中止となり、時間ができた海之は整備室に向かっていた。理由は自身の装備の確認もあるがそれ以上に、

 

海之

「簪の様子でも見に行ってやるか…」

 

そう。簪が設計中というISの確認である。以前は自分一人で造ると言っていた簪も今では整備課の生徒に手伝ってもらっているらしく、順調に進んでいるらしい。そんな簪の様子を見に行こうと海之は思ったのだ。そしてやがて整備室に到着。

 

海之

「…」

「あっ…海之くん。…来てくれたんだ」

 

そこには簪がいた。整備課の生徒も一緒である。海之が来てくれた事に嬉しそうな表情を見せる簪に生徒の何人かが静かに話しかける。

 

生徒1

(ねぇねぇ簪ちゃん♪。あの人が簪ちゃんの気になってる人?)

(…ふぇっ!?い、いきなり何を!?)

生徒2

(だって~。最近私達にその人の事凄く嬉しそうに話すんだもん。そりゃ気になるよ~♪)

(そ、そんな事!)

生徒2

(あるから言ってるんだよ♪)

(…)

 

その指摘に簪は何も言えなくなってしまう。

 

海之

「…何か?」

生徒1

「ううんなんでもないよ。そうだ簪ちゃん。私達ちょっと休憩してくるね♪」

生徒2

「どうぞごゆっくり~♪」

「えっ、えっ!?」

 

そう言うと他の生徒は出て行ってしまった。残ったのは海之と簪だけである。簪はやや赤くなって無言になっている。

 

「…」

海之

「…邪魔したか?」

「う、ううん!何でもない!何でもないよ!」

海之

「?」

 

簪の反応にやや疑問が残りつつ、海之は設計中のISに近づく。

 

海之

「進捗はどうだ?」

「あ、うん。みんなが手伝ってくれているおかげで順調だよ。来月のトーナメントにはやっぱり間に合わないけどね」

海之

「急いては事を仕損じる。焦らなくて良い」

「うん、わかってる。…でも、できれば間に合わせたかったな。そうすれば…」

海之

「なんだ?」

「う、ううん。何でもない」

海之

「そうか。…ところで簪、一つ聞きたいんだが?」

「なに?」

海之

「お前は棒術の心得はあるか?若しくは槍術や薙刀でも良い」

「棒術はないけど薙刀ならあるよ。私のお姉ちゃんが槍を習ってて私も習ってたの。お姉ちゃんには敵わないけどね…。私のISにも薙刀を搭載する予定なの。それがどうかしたの?」

海之

「ああ。実は知り合いに頼んでお前のIS用に武器を造ってもらっている。それが棒なんだ。まあ完成には時間がかかるし、あとそれだけじゃないがな」

「えっ…私のために!?」

海之

「迷惑だったか?」

「う、ううん!そんなこと無い!!凄く…嬉しい…。あれ?それだけじゃないって?」

海之

「その武器は少し変わっていてな。武器としては一つだが3つの形態になるんだ。今言った棒、三節棍、フレイルの3つだ」

「凄いね…。あと三節棍って?」

海之

「2尺位の長さの棒三本を輪と鎖で繋いだ物だ。使いこなすにはかなりの訓練がいるがな。まあ仮に三節棍は無理でも棒とフレイルだけでもかなり使える筈だ。良ければ使ってくれ」

「海之くん…ありがとう」

(せっかく海之くんが私のために用意してくれてるのに…。使いこなせる様になりたいな…)

海之

「まあ訓練したいというのであれば火影に頼んでみると良い」

「火影って…海之くんの双子の弟さんだよね?」

海之

「そうだ。腕は確かだから聞いてみろ。俺からも伝えておく」

「ありがとう」

 

その後、二人は戻って来た整備課の生徒と一緒に開発作業を再開した。それから数刻が過ぎ、海之と簪は生徒と別れて食堂にお茶を飲みに来ていた。

 

「今日はありがとう海之くん」

海之

「気にしなくて良い」

「…ねぇ海之くん。もし良ければ、私の話、聞いてもらって良いかな?」

海之

「ああ」

「ありがとう。実はね…、もう知っているかもしれないけど、私は一応、日本の代表候補生なの」

海之

「…知っている」

「うん…。そしてこれも知ってると思うけど、代表候補生には国若しくは企業から専用機が提供されるの。私にもね。それで、実は私の専用機というのが、今私が造っているISなんだ。最初はね、ちゃんと企業が開発して完成までやってくれる筈だったの。でもね…」

 

海之が答えた。

 

海之

「…一夏の白式か?」

「!…知ってたんだ。そう、織斑一夏くん。世界初の男性のIS操縦者のニュースが出てから全てがそれ一色になったわ。特にIS関連の会社はね。どこの会社もみんな彼の事ばかりで他の事は後回しになった。設計中だった私のISも同じ。そして私のISを造ってくれてた企業が織斑くんの専用機を造る権利を得たの。そこからは全て白式に時間も人手も回された。私のISは…すっかり片隅に追いやられた」

海之

「…」

「でも白式が完成しても私のISの開発が再開される事はなかった。…悔しかった。だから私は…ISの開発権を企業から引き取る事にしたの。自分で完成させるために…」

海之

「…そうか」

「思えばあの時からかもしれない。人を信じ切れなくなって自分でやるしかないと思ったのも、お姉ちゃんに負けたくないという気持ちが強くなったのも…

海之

「でも今は違うのだろう?」

「…えっ?」

海之

「簪。当時のお前がどれ程悔しくどれ程辛い思いだったかは俺にはわからない。だが俺から見て今のお前は一ヶ月前とは違う。過去の自分の非を認め、自らの夢に向かって正しく歩けている様に思える」

「…夢…」

海之

「頑張れ簪。ISだけじゃない。姉の事もいつかちゃんと決着を付けるんだ。」

「…うん!」

 

海之の言葉にまた勇気付けられた気がした簪であった。




※次回。オリジナル展開です。


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Mission41 飛んで火にいる者達

火影がシャルルの真実を知った同じ頃、海之も簪のISの進捗状況を知るために整備室にいた。順調に進んでいると喜ぶ簪。海之の方も現在簪のISの武器を造っていると伝えると彼女は更に喜ぶ。
その日の作業が終わり、簪は海之に更に打ち明けた。自分がISを造っているのは姉に負けたくないという気持ちの他に、自分のISが忘れられてしまったために誰も信じられなくなったからという事であった。そんな簪の気持ちを聞いた海之は言った。「それは過去の事。今のお前は違う」と。


シャルルの正体が判明して3日が経った。

時刻はすっかり日が暮れ、空は黒に染まっている。外に出ている生徒はほぼおらず、全員が食堂で遅めの夕食や部屋で休んでいる頃である。

 

「………」

 

そんな夕闇の中を人知れず動いている者達がいた。見た所生徒や教職員ではない。その者達は真っすぐアリーナに入っていった。

 

「………」

 

薄暗い廊下の中、やがてその者達は更衣室の前にたどり着いた。更衣室には誰か入っているのか灯りが付いている。そしてその内の一人がゆっくりと音も立てず更衣室の扉をほんの少し開け、中を伺った。

 

「………!」

 

見ると更衣室の中のベンチに座っている一人の少女らしき姿がある。ISスーツを着ていて黄色に近い金髪。後ろ姿で顔は見えなかった。その少女は扉を開けられた事に気づいていない様子だった。

 

「………」

 

謎の者達はその少女の後ろに足音を消してゆっくりと近づく。そして一人が真後ろに立つ。

 

謎の女

「…ごめんなさいね。…シャルル」

 

後ろに立った女と思える者は突然その少女を後ろから羽交い締めにした!………だが、

 

「!!」

 

少女と思っていたのは…人形だった。

 

謎の女

「なっ!?」

「深夜の美女か」

 

その声に侵入者達は驚き、後ろを振り返った。

 

謎の女

「な、誰!?」

 

そこに立っていたのは赤い目の銀髪の少年、火影であった。

 

火影

「残念だがシャルルはここにはいないぜ。あんたらはまんまと掛かったってわけだ…」

 

 

…………

 

時は3日前、シャルルが火影達に打ち明けた直後まで遡る。

火影はシャルルの願いを聞くと、更に気になる事があるのかシャルルに再び訪ねた。

 

火影

「シャルル、一つ良いか?」

シャルル

「なに火影?」

 

すると火影は何故かメモを取り出し、筆談を始めた。

 

火影

(良いか?関係ない話をしながら筆談で会話しろ)

 

そこにいたシャルル、鈴、本音は頷いた。

 

火影

(シャルル、学園に来る前に何か渡された物は無かったか?父親や義母からなら尚更だ)

 

続いてシャルルがノートに書きだす。

 

シャルル

(特に何も無かったよ。強いて言えばこのリボン位かな?義母さんから貰ったの。こっちに来てから付けなさいって)

火影

(そのリボン見せてもらえるか?)

 

そう言うとシャルルはリボンを火影に手渡す。火影は何かを探す様にそのリボンを見ている。そして何かを見つけたのか目を細めた。

 

(どうしたの火影?)

火影

(多分盗聴器だ)

シャルル・鈴・本音

「!!」

 

みんな驚いた様子だが火影に止められて口には出さなかった。

 

(なんでそんな物が!?)

火影

(大方シャルルの会話から情報を得るためだろう)

シャルル

(そんな)

本音

(ちょっとひかりん~!、という事は!)

火影

(ああ俺たちの今の会話も聞かれたろうな。シャルルが女である事がバレた事も知られているだろう)

(マジで!?とすると?)

火影

(早急に証拠を潰しにかかるだろうな。おそらく今週中だ。だが帰還命令は使えないだろう。転校してきてそんな急にするのは無理がある。あるとすれば人知れず誘拐する事だろうな。帰った理由は適当に考えてな)

シャル

「!」

本音

(ひかりん、もうどうしようもないの?)

火影

(心配するな。手はある。だが俺達だけでは無理だ。いいか?今から教える事を良く覚えとけ)

 

それから火影はある計画を立てた。

まず火影は担任である千冬に正直に事を打ち明けた。シャルルが女である事。デュノア社の命令の事。そしてこれを知っているのが自分と鈴、本音の3人だけである事を。千冬は驚いたが思った程ではなかった。というのも千冬もシャルルに対して少なからず疑問を持っていた様で話を聞いて確信したらしい。千冬は協力を約束してくれた。

次に火影が行ったのは罠を仕掛ける事だ。もしシャルルを誘拐しにくるとなれば人知れず行わなければならない。そして失敗は許されない。しかし授業中は勿論不可能だし、寮にいる時を狙うにも周りの生徒に気づかれる可能性が高い。

そこで火影は夜のアリーナで訓練というフリを考えた。夜に訓練を行ったりアリーナに出入りする生徒が滅多にいないのは知っていたし、アリーナの屋根を閉じてしまえば誰かに見られる事もない。後は更衣室にシャルルの偽者を置き、敵が罠にかかるのを待つだけである。敵が入った瞬間にこっそりアリーナの扉を全てロックすれば逃げる事もできない。誘拐犯は袋小路というわけだ。そして今に至る。

 

 

…………

 

「…最初から全て仕組まれてたって事なのね。…それであの子は?」

火影

「勿論安全な場所にいる。所であんた、あいつをシャルルって呼んでたがもしかして?」

「…ええそうよ。私があの子の義母。そしてデュノア社長の妻。そして…」

火影

「?」

「…元フランスの代表候補であり、デュノア社私設IS部隊の隊長よ!!」バリンッ!

 

そう言うとその女は突如ISを展開し、アリーナに続く扉を破壊してアリーナに逃げ出した。共にいた者達もそれに続く。

 

火影

「…やれやれ」

 

火影は面倒そうに追いかけた。

 

 

アリーナ

 

火影がアリーナに行くとISの部隊が待ち受けていた。因みに屋根は閉じているので出る事はできない。

 

火影

「後で扉弁償しろよ。それよりどうすんだ?どうせ逃げられないぜ」

シャルルの義母

「ええこのままじゃ逃げられないわね。でも後でそれ位なんとでもなるわ。唯一の目撃者であるあなたさえ駆除すればね」

火影

「なるほどな。俺(本気)を倒してから脱出ってわけか」

シャルルの義母

「その通りよ。あとあなたのISも貰っていくわ。織斑一夏の機体のデータが手に入らないのは残念だけど、そちらも興味あるからね」

火影

「できるかな?」

隊員1

「甘く見ない事だな。ここにいるのは全員元フランス代表候補生である隊長から直々に鍛錬を受けた者達だ」

火影

「へぇ」

隊員2

「貴様!」

隊員3

「おい熱くなるな。因みに良い事を教えてやる。お前のISの武装は社長の娘から送られてきた情報で判明している。貴様に勝ち目はないぞ」

火影

「…盗聴器を見た時思ったがやっぱりそうか。んで?それがどうかしたか?武装で勝ち負けを判断するのが隊長様の教えならどちらも大した事ねぇな」

隊員3

「! 良いだろう。その言葉、あの世で後悔するが良い!」

シャルルの義母

「我がデュノア社の栄光のため、あなたには眠ってもらうわ!」

 

そういうと部隊は全員で火影に向かってきた。

 

火影

「やれやれ、ショウタイムって奴か」カッ!

 

火影もアリギエルを纏う。そしてリべリオンを構え、隊員の一人に斬りかかった。

 

ガキィィン!

 

隊員

「ふん!言った筈だ。貴様の戦いは」ドゴォォ!!「ぐああああ!な、なにぃ!?」

 

見ると火影は左手にイフリートを展開し、隊員の腹に打ち込んでいた。

 

火影

「俺の戦いは何だって?」

隊員

「ば、ばかな…同時に2つの武器を展開するなんて」ドゴォォ!!「ぐあああああ!!」

 

隊員が気を取られている内に火影はリべリオンを戻して右手にもイフリートを展開し、更に打ちつける。

 

火影

「おらぁぁ!!」ドゴォォォォンッ!

 

火影は素早く左手でアッパーを食らわす。打ちこまれた隊員はダウンした。

そのいきなりの光景に全員が驚き、たまらず火影から距離を取る。

 

シャルルの義母

「なんてパワーなの!たった3発のパンチで私の部下を…」

隊員1

「隊長はお下がりください!おいっ!挟み撃ちだ!」

隊員2

「ああ!」

 

そして2人の隊員が向かっていく。しかし、

 

ズドンッ!

ドガアァァァン!

 

隊員2

「ぐああああああ!」

隊員1

「!?」

 

突然凄まじい爆発が起こり、気がつくと隊員の一人は落ちていた。共に向かっていた隊員が火影の方を見直すと、こちらにイフリートを構えているのが見える。

 

隊員

「銃は出していない…?まさか、あの籠手が!?」

 

「メテオ」

イフリートが発する凄まじい高熱を火球に変換し、離れた相手に打ちこむというものである。

 

火影

「久々だな、これやんのも」

隊員

「くっ!あんな技があったとは!おい、こうなったら全員で一気に仕掛けるぞ!」

 

そういうと残りの隊員は全員で火影に向かっていった。……だがものの2分もしない間に部隊は隊長機を残し全滅した。隊員達は火影の武装は知っていたつもりだった。しかし例え武装は知っていても力、技、スピード。その全てが相手の方が自分達より遥かに高いものであると悟った時、もはや勝ち目は無かった。

 

シャルルの義母

「……」

火影

「さて、残りはあんただけだぜ。どうする?降参するか?」

シャルルの義母

「…まさかここまでなんて…。どうやら私の負けの様ね…。ねぇ、ひとつお願い聞いてもらっても良いかしら?」

火影

「…内容によるな」

シャルルの義母

「正々堂々剣で勝負したいの。一騎打ちでね」

火影

「…いいぜ。来な」

 

火影はリべリオン、彼女は自らの機体の剣を抜く。

互いに距離を取って向かい合い……そして、

 

二人共

「はあぁぁぁぁぁぁ!」

 

キィィィィィィィンッ!

 

………やがて彼女のISが前のめりに倒れ、解除された。





シャルの義母の設定は完全にオリジナルです。次回に続きます。


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Mission42 隠れた真実

夜の学園内を動く謎の者達。
それはシャルルが女という事がバレた事で自分達の計画が公になる事を恐れたデュノア社がシャルルを誘拐するために入りこんだ社長婦人率いる部隊であった。
夜のアリーナに忍び込み、シャルルの誘拐に成功…と思いきや、それは全てを予測していた火影が仕組んだ罠であった。
女と部隊は火影に襲いかかるが実力は歴然。成す術もなく敗れ去り、計画は失敗したのであった。


アリーナ内のとある部屋。

そこには先の戦いで敗れたシャルルの義母がいた。部屋には他に火影と事情を知っている千冬もいる。尚、部隊の隊員達は別室に閉じ込められていた。そちらには千冬から事情を聞かされた真耶が今見張りに付いている。

 

シャルルの義母

「……」

千冬

「デュノア社社長婦人ともあろうお方が随分無茶な事をされたものですね。学園への不法侵入、器物損壊、誘拐未遂。もっといえば私の生徒に対する傷害。まあ傷はついていませんから未遂でしょうが。さらに娘とはいえ盗聴までしたとなってはもはや言い逃れはできませんね」

義母

「言い逃れなんてする気もないわ。ここまでの事をしたんだもの。それにどうせ会社ももうお終い。少し早くなっただけよ」

千冬

「デュノア社のIS開発が遅れているのは知っています。でもそんな事のために娘にスパイをさせるなんて。父親母親としても許されるものではありませんね」

義母

「母親?笑わせないで。どうせ愛人、義理の娘だもの。向こうも何とも思っていないでしょうし。あの子も捕まって良かったと思ってるかもね」

千冬

「……」

 

彼女の態度に千冬ももはや何もかける言葉もない感じだ。そして次に火影が話しかける。

 

火影

「なぜシャルルに男装スパイなんてさせた?」

義母

「言ったでしょう。織斑一夏と彼の機体のデータを手に入れるためよ。男装させたのは同じ男子なら接触する可能性も高まるから。まぁ他にもいるなんて聞いていなかったけど」

火影

「そりゃ災難だったな。だが何故そこまで拘る?一夏のデータを手に入れた所で男子の操縦者や機体が量産できるわけでもねぇし、拘る意味がねぇだろ?データが欲しいなら、金出して素直に友好国にでも頼みこめば良い。同じヨーロッパのイギリスやドイツは既に第3世代を開発してるんだ。その方がよっぽど早いと思うが」

義母

「普通ならそうでしょうね。でもね。あなたは理解してないみたいだけど男性操縦者、そしてその機体のデータなんて各国が喉から手が出る程欲しいものなのよ。ましてやそのデータを解析したなんてなったらとんでもない宣伝材料なのよ。デュノア社はそれに賭けたってわけ」

火影

「ずいぶん無茶な賭けをしたもんだ」

千冬

「……」

 

千冬は弟が宣伝材料と言われた様で怒りを感じたが抑えた。

 

火影

「…あとこれもあいつから聞いたが、あんたはあいつにずいぶん辛辣に当たるらしいじゃねぇか?」

義母

「…だってそうでしょ。あの子は知らない間にできてた愛人の子よ。そんな子が突然出てきて納得できると思う?夫は責任だからって認知したけど妻の私とすれば冗談じゃないわ。私からすれば会社に置いてあげている分感謝してほしいくらいね」

 

彼女まるで悪気がない様子だ。

 

火影

「…あんたの言葉を聞いてると、昔会った一人の女を思い出すぜ。その女はある富豪の隠し子でな。富豪が死ぬと同時に莫大な財産を受け取る予定だった。だがそれを良しとしない富豪の家族は財産を受け取らせまいと女に刺客を送りこんだ。だが女の方が一枚上手だった。自分に刺客が送り込まれた事に気付いた女は自分と同姓同名の少女が孤児院にいる事を知り、ある計画を立てた。その少女こそ本物の娘で自分は別人だと信じ込ませ、刺客の目を少女に向けるという計画をな。あとは少女が死んだ後に自分が何食わぬ顔で出て行って財産を受け取り、家族は殺人罪で逮捕ってわけだ。まあ結果的に計画は失敗、誰も死にはしなかった。せめてもの罪悪感というところか、女は匿名で少女に非常に優秀なボディーガードをつけていたからな」

千冬

「最低だな」

義母

「…」

 

火影は続ける。

 

火影

「……まあ、あんたもシャルルの父親も、その女よりは若干マシなのかもな」

義母

「…えっ?」

千冬

「どういう事だ火影?」

火影

「実は調べてみてわかった事があるんです。シャルルの父親はあいつの学園行きを一夏の話が出てくる前から進めてたらしいんです。そして同時期にシャルルの方も会社に身を置いてから居場所が無いと苦しんでいたと聞いてます。それを聞いて思ったんです。もしかしたらシャルルの父親はあいつを逃がすために学園行きを進めてたんじゃないかって。表向きは男装スパイの任務として。まあ経営陣は本当にスパイをさせるつもりだったのかもしれませんが」

千冬

「なるほどな。確かにIS学園には「本学園における生徒は、在学中においてありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない」という特約があるからな。完全でないとはいえ、会社の中で生きるよりはそちらの方が安全というわけか」

火影

「ええそうです。ただいくら社長とはいえ、この世は女尊男卑。妻のあんたの方が実質的な裏の支配者だ。あんたの許可がなければ社長はシャルルを学園に行かせられない。そんな中で偶然出てきたのが一夏の話だ。社長からすれば一夏と一夏の機体のデータを取るという格好の名目ができた。だがさっきも言ったがそれでもかなり無茶な賭けには違いない。会社の支配者が取るべき行動とは思えん。だがあんたは最終的には了承した。これも勝手な想像だが、あんたは夫の願いを叶えてやりたかったんじゃねぇか?社の未来よりもよ」

義母

「……」

火影

「沈黙ということはそうだと捉えさせてもらうぜ?まああんたからすれば一応愛人の娘なんだから色々複雑だっただろうけどな。…良ければ聞かせてくれないか?あんたの気持を。心配しなくてもここには僕達しかいない」

義母

「……絶対あの子には話さないと約束して」

 

やがて彼女はゆっくりと話し始めた。




長くなりそうなので次回に続きます。
話としては完全にご都合主義です。すいません。


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Mission43 親子

シャルルの義母率いる部隊を撃退し、火影と千冬は婦人への尋問を行っていた。二人の尋問に悪態を言い続ける婦人。
だが火影は先に調べていた情報からある仮説を唱える。シャルルの父親は表向きはシャルルをスパイとして送り込んだが、本当はIS学園に逃がすためだったのではないかというものだった。そして婦人はそれに知っていながら協力したのではないか、と。
思いもよらない言葉に婦人は黙り込んでしまうがやがて口を開きだした。


「シャルルの父親はシャルルを逃がすために学園に送った。そしてあんたもそれをわかってたんじゃないか?」

(※詳しくは前回を見てください)

 

思いもよらない火影の言葉。やがて彼女はゆっくり話し始めた。

 

彼女は生まれつき子供が産めない身体であり、それがずっとコンプレックスだったらしい。そんな中知ったのが愛人とシャルルの存在だった。2人への憎しみの念が湧く一方、自分が妻として至らないからだという自責の念にも駆られた。やがてシャルルの母親が亡くなり、シャルルは会社に引き取られた。彼女は夫が自分の責任だからという裏で実はシャルルを愛していた事を感じ取っていた。最初は彼女もシャルルに何とか打ち解けようと思ったが、感情がそれを許さなかった。シャルルが実の母親を忘れられなかった事もあるが、シャルルを見ると夫の子でも自分の子ではないと考えてしまうから。

そして間もなく夫がシャルルをIS学園に行かせたいと言い出した。表向きは次世代IS開発のためのデータ収集としていたが、妻である彼女はシャルルを思っての事だと感じ取っていた。だが彼女や経営陣からすればそんな事よりもよそに金を渡し、情報を買う方が効率的だとして反対した。

そこに飛び込んできたのが世界初の男性操縦者のニュースであった。どこも喉から手が出るほど欲しい情報を手に入れたい(表向きは)と社長は再びシャルルの学園行きを提案。そんな様子を見た彼女は反対する他の経営陣を押しのけ、夫に賛成する事にしたのである。自分が何よりも大切な夫のために。だが先の通り計画は失敗。証拠を消すために彼女は裏の支配者として全ての責任を負う覚悟で奪還作戦を決行したのであった…。

 

火影・千冬

「……」

義母

「思えば罰が当たったのかもね。仮にも義理の娘にあんな事をさせてしまったんだもの。ある時期から急に経営も上手くいかなくなったし…、どちらにしてもこうな」ガチャッ!「!」

 

その時急に部屋の扉が開いた。立っていたのは、

 

シャルル

「…」

義母

「あ、あなた!?なんでここに、まさか…今の話!」

シャルル

「…うん、隣で聞いてた…」

義母

「!あなた、騙したの!?」

火影

「いや、「ここにはいない」と言ったが隣の部屋とは言ってないぜ?」

義母

「!…ひきょう者!」

シャルル

「……」

 

シャルルは何も言わなかった。ただゆっくり彼女に近づき、そして…、

 

義母

「!?」

シャルル

「……」

 

自らの義母を抱きしめていた。

 

義母

「な!あなた何を!?」

シャルル

「…ごめんなさい。…僕…ずっと思い違いしてた…。お父さんにも…嫌われてるって思ったから…。でもそうじゃなかったんだ…。僕は…お父さんに…大切に思われてたんだ…。でも…それがあなたを傷つけてしまった…。あなたは…お父さんに…愛されたかったんだ…。ごめんなさい…」

義母

「!……」

 

彼女はシャルルに黙って抱きしめられていた。

そこに火影が、

 

火影

「…なああんた。さっきある頃から会社の経営が上手くいかなくなったと言ってたが…その理由を知りたいか?」

義母

「…えっ?」

火影

「実は…デュノア社の経営陣の何人かが、とある匿名の誰かに会社の資金を密かについ最近まで横流ししていたらしい。ただその理由と目的までは不明だ」

義母

「なっ!?」

千冬

「横流しの情報は巧妙に隠されていましたが、こいつの知り合いが暴いてくれたんです。云わばあなた方はその誰かの肥やしを耕すために利用されていたんですよ」

義母

「…そんな…」

火影

「まあその情報は既に知り合いがデュノア社の社長に送ってくれている筈だ。もうそっちについては心配しなくて良い。それより、あんたはシャルルとこれからどうするかを考えれば良い」

義母

「……」

 

彼女は暫く黙っているとシャルルが彼女に話しかける。

 

シャルル

「ねぇ?一つ…お願い聞いてもらって良い?」

義母

「…えっ?」

シャルル

「これからは…あなたの事…お母さんって…呼んでも良い?」

義母

「!!……私は…あなたにスパイまがいの事をさせたのよ?…泥棒猫なんて言った事もあるのよ?…そんな私を…許すというの?」

シャルル

「…うん。だってお母さんは…お父さんの愛する人だもの」

義母

「!!」

 

彼女もシャルルを抱きしめていた。大粒の涙を流して。

そんな二人を残し、火影と千冬はそっと部屋を出た…。

 

 

…………

 

翌日の早朝。生徒達が起き出す前に婦人は警察に出頭した。最初シャルルも止めたが彼女は「罪を償う」と拒否した。後日「デュノア社社長の妻、IS学園へ不法侵入!目的は義娘の誘拐?」という前代未聞の犯行はそれなりに大きく取り上げられたのだが、「今回の件はデュノア社も社長も一切関わっていない。全て自分個人の犯行である」という婦人本人の必死で断固とした主張が認められた事。更に器物損壊と傷害未遂については千冬と火影が黙っていて無かった事にされた事も重なり、会社の存亡の危機はどうにか免れた。また匿名の者に賄賂を送っていたというデュノア社の幹部達は即日解雇され、こちらも余罪追及で逮捕された。勿論この裏には火影の知り合いの協力があったのは言うまでもない…。

 

 

婦人が警察に出頭した同日の朝。

火影とシャルルは屋上にいた。まだ生徒が起き出すには少し早い。

 

シャルル

「本当にありがとうね火影。僕の事もお母さんの事も、そしてお父さんの事も。…全部火影のおかげだよ」

火影

「気にすんな。僕は知り合いの仕事を手伝っただけだ」

シャルル

「ううん。そんなこと無い。会社はまたいちから建て直しだろうけど…それでも良いんだ。きっと大丈夫」

火影

「ああそれなんだがシャルル、ほらこれ。僕の知り合いからだ」

 

そういうと火影はひとつのデータを渡した。

 

シャルル

「?これは?」

火影

「ESCとデュノア社の業務提携の提案書だ。後で親父さんに渡しとけ」

シャルル

「………えっ?えーーーーーーーーーー!!」

火影

「そんなに驚く事か?」

シャルル

「当然だよ!どうしたのこれ!?」

火影

「言ったろう?知り合いの仕事を手伝っただけだと」

シャルル

「!ま、まさかその知り合いって…い、いや、もういい。これ以上驚いたら大変だし…。…本当に、本当にありがとう火影。あ、あと知り合いの人にも伝えといて」

火影

「わかった」

シャルル

「お父さんもきっと喜んでくれるよ。お母さんも。…それに亡くなったおかあさんも…」

 

シャルルは空を見上げた。そしてシャルルの横顔を見た火影の脳裏に最近出会ったある女性が浮かび上がった

 

火影

「!……なぁシャルル、ひとつ聞きたいんだが…お前のお袋さんってのは、お前と同じ金髪の髪を後ろで纏めてて茶色い瞳か?」

シャルル

「えっ?う、うんそうだよ。でもなんで?」

火影

「…これに見覚えは?」

 

そういうと火影はシャルルの手に一つの指輪を手渡した。

 

シャルル

「これは…おかあさんが持っていたものだ!」

火影

「確かか?」

シャルル

「う、うん、間違いないよ!おかあさんがずっと付けてたもの!お父さんから贈られた大切な物って。でもなんで火影が!?」

火影

「…ある女性が僕に渡してったんだ。話を聞いてくれたお礼にって。その人はこう言ってたよ。本当の自分を出せなくて苦しんでいる少女を助けたいってな」

シャルル

「!!そ、その人は!?」

火影

「…消えたよ。あとこうも伝えてほしいと言ってた。自分の幸せのために生きなさい。みんながそう願っている。そして…ずっと見守っているってな」

シャルル

「!!…そんな…まさか…」

火影

「……じゃあ、僕は先に行ってるぜ」

 

火影はシャルルの肩に手を乗せてそう言うと屋上を出て行った。誰も入ってこない様に入り口に立ち入り禁止の看板をかけて。背にシャルルの泣き声を感じながら。

 

 

学園外

 

火影

「ふぁ~あ。徹夜しちまったな…、ん?」

 

火影の目線の先には先日出会った金髪で茶色の瞳の女性が立っていた。その女性は火影に笑みを見せると…ゆっくりと消えていった。

 

火影

「…ふっ」

 

その時後ろから、鈴と本音が走って来て挨拶した。

 

「火影~!おっはよ~!」

本音

「おはよう~ひかりん~!」

火影

「…ああ」

 

今日も新しい一日が始まる。

しかしこれより数刻後。再び思わぬ出来事が起こる事になる。




※アニメ版デビルメイクライ、エピソード7とシャルを合わせたオリジナルの回でした。
賄賂の送り先等残った謎は何れ明らかにする予定です。


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Extramission01 少年少女の休日

初めて番外編を書いてみます。
これは火影がシャルルの真実を知ってから襲撃があった日迄の間にあったお話です。


シャルルの真実を火影、鈴、本音が知った翌日。

この日は祝日で学園は休み。火影がどう過ごそうか考えていると一夏がメールで連絡してきた。

 

「新しい大型のゲームセンターができたらしいからたまにはみんなで集まって遊ぼうぜ!」

 

昨日腹を壊していた頃からしたら嘘の様な回復力である。しかし確かにこれまで休日を全員で過ごした事がない気がした火影は鈴、本音、そしてシャルルと共に約束の場所へ向かっていた。

 

「シャルル。一応女であることがばれない様気をつけなさいよ。あんたはまだ男の子ってゆう設定なんだから」

シャルル

「大丈夫だよ。ありがとう鈴」

 

因みに盗聴器付きのリボンは外してきている。

 

本音

「あ、もうみんなきてるよ~」

 

見ると一夏、箒、セシリア、そして海之がいた。

 

一夏

「おう来たか!」

火影

「一夏。腹の方は大丈夫なのか?」

一夏

「ああもうすっかり大丈夫だ!箒とセシリアが付きっきりで看病してくれたお陰でな」

「お、おう。礼には及ばん」

セシリア

「そうですわ。今後もこの様な事がありましたら遠慮なく言ってくださいね一夏さん!」

(…ハァ、誰のせいだと思ってる…)

一夏

「どうした箒?}

「い、いや何でもない。それより行くぞ!」

海之

「…行くか」

 

みんなでゲームセンターに入って行った。

 

 

…………

 

火影達が入った新しいゲームセンターは規模としてはかなり大きく、おまけに開業間もないということでかなり盛り上がっていた。

 

本音

「すごい人だね~」

シャルル

「離れない様気を付けないとね」

「ねー火影、手つないで貰える?離れちゃうと大変だし♪」

火影

「? ああ」

本音

「ひかりん~わたしも~!」

一夏

「じゃあシャルル、俺の手に…」

箒・セシリア

「!!」ガシッ!ガシッ!

 

気がつくと一夏の手は両側に箒とセシリアにつながれていた。

 

海之

「シャルル、掴まれ。逸れるぞ」

シャルル

「ありがとう海之」

火影

「ゲームセンターか。…こんなとこ来るの初めてだな」

海之

「そうだな」

一夏

「マジか!?お前ら人生の半分は損してるぜ」

「大袈裟すぎよ…。あ、あれ。本物のバイクを使ってやるレースゲームですって」

 

見ると本物のバイクに跨って行う最新レースシミュレーターゲームがあった。

 

火影

「バイクか…、暫く乗ってないな」

セシリア

「そう言えば火影さんはバイクが御趣味でしたわね」

「え?あんたバイクの免許持ってんの?」

火影

「ああ、バイクも持ってるぜ。僕のカスタムだ。キャバリエーレってゆう名前も付けてる」

「すごいな。自分で改造するとは」

一夏

「なあ折角だからやってみようぜ!」

 

という訳で火影、一夏、鈴がチャレンジしてみた。…結果は火影の圧勝だった。

 

一夏

「…どんだけ無茶な運転すんだよ…」

「本当よ…。壁を登って行くなんて…」

火影

「地面だけがコースとは限らねぇからな」

 

 

…………

 

次にみんなが目にしたのは射撃ゲーム。ただし拳銃で狙うタイプではなくスナイパーライフルである。

 

火影

「スナイパーライフルのシューティングゲームとは珍しいな」

セシリア

「これなら私も少し自信がございますわ!」

シャルル

「僕も少しは自信あるかな」

海之

「より正確な狙撃でできるだけ多くのターゲットを狙うというものか。火影、お前が出てしまうと圧勝で終わってしまう可能性があるから止めておけ」

火影

「う~ん、確かにな」

一夏

「火影が出ないなら俺も出るぜ!」

「私もやってみるか」

本音

「わたしも~」

「私は止めとくわ。さっきのレースで疲れたから」

 

という事で火影・海之・鈴以外のみんなでやってみる事にした。

…結果、セシリア、シャルル、本音、箒、大きく離れて一夏 という順だった。

 

「私もだがお前は特に情けないぞ一夏!」

シャルル

「う~ん、ちょっと余りにも当たらなさすぎだね…」

本音

「おりむ~、へたっぴ~」

セシリア

「次回から避け方だけでなく使い方もお教え致しますわ」

一夏

「お願いします…」

 

 

…………

 

次にみんなが見たのはパンチングマシーン。ただし一発ではなく連打力、更にどれだけ正確に打ちこむかが鍵となる物である。

 

火影

「これは格闘か。ちょうどいい海之、ひとつ勝負しようぜ」

海之

「…いいだろう」

一夏

「二人の対決か~」

本音

「すごい対決の予感~」

「とくと拝見させてもらおう」

シャルル

「な、なんかみんな凝視してるね…」

セシリア

「それはそうですわ。あの御二人ですから」

「二人共頑張って~」

 

そして火影と海之の対決が始まった。

…その結果、

 

火影・海之以外の全員

「……」

 

全員開いた口が塞がらなかった。。…あまりの衝撃の連鎖で壊してしまったからだ。

 

火影

「脆いマシンだな」

海之

「全くだ」

火影・海之以外の全員

「いや違う(います)から!!」

 

全員の声が響いた。

 

 

…………

 

「あれはクレーンゲームか?」

シャルル

「大きいクレーンゲームだね」

 

それは一回り大きいクレーンゲームであった。中に入っている商品はヒーロー物やロボットアニメのフィギュアや超合金だ。

 

本音

「ここはわたしにまかせて~」

セシリア

「のほほんさんお得意ですの?」

本音

「うん、まあね~。かんちゃんの付き添いでいつもやってるし~」

一夏

「かんちゃん?」

 

そういうと本音は見事な操作であっという間に数体のフィギュアを獲ってしまった。

 

海之

「ほう、すごいな本音」

本音

「えっへん!」

 

 

…………

 

その後もゲームで思い切り遊んだ一向は何時の間にか昼になっていたので昼食を取る事にした。

 

一夏

「そういえば近くに馴染みの店があるんだ。行こうぜ!」

 

一夏についていくとそこは「五反田食堂」という看板が掲げられた正に大衆食堂と言って良いものだった。一夏が先導して中に入る。

 

一夏

「こんにちは~」

女性

「いらっしゃい…ってあら一夏くん。久しぶりねぇ。それに鈴ちゃんも!」

「お久しぶりです。おばさん!」

女性

「ほんとねぇ。あらあらお友達みんなで来てくれて嬉しいわ~。えっと八人ね。こちらにどうぞ。あっ弾と蘭を呼ぶわね。弾~、蘭~、一夏くんよ~」

 

女性はそう言うと奥の厨房に入って行った。その入れ替わりで同い年位の男子が入って来た。

 

同い年位の男子

「お~、久しぶりだな一夏!それに鈴も随分久々じゃねーか!おまけにこんな綺麗どこまで一緒とは。くぅ~羨ましいぜ!俺もIS動かせたら今頃はって…あんたら双子の男子か!?おまけにもう一人!?」

火影

「火影・藤原・エヴァンスだ。宜しくな」

海之

「海之だ。一応俺が兄になる。宜しく」

シャルル

「シャルル・デュノアです。宜しくね」

「宜しくな。一夏と鈴の幼馴染で五反田弾だ。弾って呼んでくれ」

 

そういうともう一人同い年位の女子が入って来た。

 

同い年位の女子

「!い、いらっしゃい一夏くん。あと…鈴さんもお久しぶりです」

一夏

「おう。久々だな蘭」

「お久しぶりー。元気だった蘭?」

「は、はい。元気です。あっ他の方々も初めまして。五反田蘭です」

 

それぞれ自己紹介していると先ほどの女性が人数分の水を持って現れた。

 

女性

「さて、何にしましょう?」

一夏

「ここの名物は業火野菜炒めだぜ」

セシリア

「豪華?…なんだか凄く立派そうなお名前ですね」

本音

「じゃあわたしそれ~」

 

他のみんなも折角だからと名物を注文する事にした。

 

女性

「はいはい業火野菜炒めを八つね。一緒だと助かるわね~。業火野菜八つ~!」

 

女性がそう言うと奥から男性と思われる返事が来た。多分その人が作っているのだろう。

 

女性

「繰り返しだけどみんなで来てくれて嬉しいわ~。おまけにみんな美男美女ばかりじゃないの。ねぇ弾?蘭?」

「なんで俺達に言うんだよ」

セシリア

「美女だなんて。奥様はお上手ですわね♪」

シャルル

「び、美女…」

本音

(シャルルン~)

シャルル

(はっ!ご、ごめん)

火影

「美男か…。前はクールで決めてたがこっちではそっちを重視してみるか」

海之

「止めておけ」

「い、一夏さん。学校生活はどうですか?」

一夏

「色々難しいけど楽しいぜ。最初は男子は俺一人だけかって焦ったけど火影も海之もシャルルもいるからな!」

「そうですか。良かったですね」

一夏

「おう!」

「…」

 

一方弾が鈴にこっそり話かけてきた。

 

(なぁ鈴。お前一夏へのあの告白の返事はどうなったんだ?)

(へっ?何であんた知ってんの?)

(大衆食堂の情報網をなめんなよ。それで?)

(ああそれはね)

(詳しくはMission25をお読みください)

(……ああ、その…色々不運だな)

(もう良いのよ。ああいう事もあるんだと良い経験になったわ。それに今は…)

 

鈴の目線は火影に向いていた。

 

(どうした?)

(なんでも♪)

 

一方箒も蘭に話しかけていた。

(あの、すまん。蘭と言ったか?違っていたら悪いんだが…その、お前…一夏を?)

(!!…あの、言わないでくださいよ。…はい。…箒さんもですか?)

(!…ああ)

(そうですか…箒さん、私負けるつもりはありませんから♪)

(なっ!?…ふふっそうだな。私も負けん!)

(じゃあライバルですね♪)

(そうだな♪)

一夏

(?なんだ二人共向かい合って笑って。もう仲良しになったのか?)

 

やがて人数分の業火野菜炒めが運ばれ、みんなで食事を取る事になった。折角だからと弾と蘭も一緒に。数日後にあのような事が起こるとも知らず、今はただ休日を満喫する八人であった。




たまにはこんな平和なものもあって良いかと思いました。


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Mission44 ラウラの過去

海之
「………」
黒いIS?
「グアァァァァァァァァァ!!」

ドスッ!!

一夏
「海之ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「……えっ?……海之…くん…?」
火影
「……」


時は数刻前まで遡る。

 

シャルルの義母が自らの罪を認め、学園の生徒達に知られない様警察に出頭したこの日の朝のHR。1-1の生徒はほぼ全員集まっていたが、その中でシャルルとラウラの姿が見えなかった。

 

火影

(シャルルの奴、まだ気持ちの整理がつかないのか…)

 

するとそこへ真耶が入って来た。なぜか少し疲れている様にも見える。

 

真耶

「皆さん、おはようございます。…え~…それでは…HRを初めて行きたいんですが…、その前に一つみなさんに大事なお知らせがあります。実はこの度また新しい生徒さんが入る事になりました。…最も新しいと言えるのかわかりませんが…。…では入って来てください」

 

ガラッ!

 

1-1の生徒全員

「「「「!!」」」」

 

生徒達はみな驚いた。そこにいたのは女子の制服を纏う…シャルルだったのだ。

 

シャルル

「みなさん、初めまして…というのは違うのかな?ふふっ、シャルロット・デュノアです。宜しくお願いします!」

真耶

「シャルルくんは…シャルロットさんでした…」

 

少しの沈黙が続き、

 

「えーー!」

「うっそー!!デュノアくんって女の子だったの!?」

「マジで!?」

「う~ん。何か複雑な気分…」

一夏

「おいおいマジかよ…」

「俄かには信じがたいが…」

セシリア

「でもどう見ても女の子ですわね…」

本音

「シャルルンかわいい~!」

 

生徒達はみな驚いている様だ。そんな中海之は、

 

海之

(まさかとは思ったが…やはりそうだったか)

火影

(気づいていたのか海之?)

海之

(確証は無かったがな。ただ顔つきも明らかに女だし、この前みんなで遊びに出た時、はぐれない様手を繋いだだろう?男にしては妙に指が細かったからな。…お前こそ実は知っていたんだろう?みんなと違って慌ててないぞ?)

火影

(…まあな)

 

とそこへ教壇から移動してきたシャルロットが火影の前に立った。

 

シャルロット

「火影」

火影

「シャルル…いやシャルロットか。それがお前の本当の名前なんだな」

シャルロット

「うん、おかあさんが付けてくれた名前なんだ。…もう僕は自分を偽らない。これからは本当の僕で生きる。会社の問題も無くなったから」

火影

「…ふっ。そうか」

シャルロット

「改めて宜しくね。火影♪」

火影

「ああ。…シャルロット」

 

二人は互いに笑みを交えた。

 

生徒1

「先生~、ボーデヴィッヒさんは?」

真耶

「ボーデヴィッヒさんは今日はお休みされるそうです。理由はわからないんですけど…」

海之

「……」

 

 

…………

 

そんなシャルロットの自己紹介があったこの日の授業も終わり、時刻は放課後。

セシリア、鈴は先にアリーナに来ていた。一夏と箒は間もなく、火影、海之、シャルロットは真耶からの頼み事があるので後ほど合流するとの事だった。

 

「…そっか。あの子打ち明けたのね」

セシリア

「鈴さんはご存知だったんですの?」

「ちょっと訳ありでね。私以外に本音と火影は知ってたのよ」

セシリア

「どうりであまり驚かれなかった訳ですわ」

「でもそういう事なら全部解決したって事ね!ようやく来週のトーナメントに向けて訓練に集中できるわ」

セシリア

「そうですわね」

 

その時、

 

ドオォォォォン!

 

セシリア・鈴

「「!!」」

 

 

…………

 

同時刻

 

火影、海之、シャルロットの三人は真耶から頼まれた手伝いが終わった所だった。

 

真耶

「三人共ありがとうございます。助かりました。あ、そうそう火影くん、デュノアさん。今部屋割りを考え直している所ですからもう少し待ってくださいね」

火影

「わかりました」

シャルロット

「は、はい…全然…」

(…寧ろ僕は今のままで良いのになぁ…)

火影

「?何か言ったかシャルロット?」

シャルロット

「う、ううん!何でもないよ!じゃ、じゃあ先生失礼します!」

火影・海之

「「失礼します」」

 

三人は真耶に挨拶をしてアリーナに向かった。その途中、

 

「あっ。海之くん」

海之

「簪か」

火影

「確か海之のルームメイトさんだよな?」

シャルロット

「そうなんだ。あっ、初めまして。一組のシャルロット・デュノアです。シャルロットって呼んでください」

「うんわかった。シャルロットさん」

シャルロット

「さんもいらないよ」

「あ、ごめんなさい。シャルロット。じゃあ私の事も簪って呼んでね。丁度良かった。あの…海之くんが用意してくれているって言う武器の事なんだけど…、使いこなせるようになりたいから、火影くんに訓練お願いして良い?」

海之

「ああ構わん」

火影

「話は聞いてるぜ。遠慮なく言ってくれ」

「うん、ありがとう」

 

その時、

 

「ハァハァ…!ひ、火影!海之!」

火影

「どうした箒?」

「き、来てくれ!鈴とセシリアが!一夏が!!」

火影・海之

「!」

 

火影と海之は箒に連れられて走った。

 

シャルロット

「簪さん!僕達も行こう!」

「う、うん!」

 

シャルロットと簪も続く。

 

 

…………

 

火影

「これは…」

「うっ、くっ…」

セシリア

「うぅ…」

一夏

「くっそ…」

 

火影達が見たものは倒れている鈴、セシリア、一夏。

そして…

 

海之

「…ボーデヴィッヒ…」

ラウラ

「…来たか…」

 

その中央に佇んでいるレーゲンを纏ったラウラであった。

 

シャルロット

「こ、これは…」

「…ひどい…」

「一夏!…貴様ぁ!!」

ラウラ

「…安心しろ。デッドゾーンぎりぎりで止めている」

火影

「…やれやれ。とんだじゃじゃ馬だな」

海之

「…ボーデヴィッヒ。この前の賭けでお前は負けた筈だが?」

ラウラ

「織斑一夏には今は用は無い。あるのは…エヴァンス兄弟。お前達だ」

火影

「どういう事だ?」

ラウラ

「…」

 

その時騒ぎを聞いて千冬が走って来た。

 

千冬

「!これは…。…ボーデヴィッヒ、なんのつもりだ?」

ラウラ

「教官…申し訳ありません。…しかし…自分にはやらなければならない事があるんです」

千冬

「何?」

ラウラ

「自分の存在を…証明する事です」

千冬

「……」

ラウラ

「…エヴァンス兄弟。私と戦え!」

火影

「…いいだろう、俺が」

海之

「火影」

 

火影の言葉を海之が遮る。

 

海之

「俺がやる」

火影

「…わかったよ」

「海之くん!」

海之

「大丈夫だ。織斑先生、良いですね?」

千冬

「………頼む」

ラウラ

「……」

海之

「火影、箒、シャルロット。一夏達を頼む」

「あ、ああ」

シャルロット

「わかった」

 

火影達は倒れている一夏達を下がらせた。一夏よりダメージが大きかったセシリアと鈴はシャルロットが医務室へ連れて行った。

 

一夏

「くっ、気をつけろ海之。あいつ前より強い…」

海之

「大丈夫だ」

ラウラ

「貴様か…。あの時の屈辱、今ここで晴らさせてもらおう」

海之

「ひとつ聞く。俺達と戦うためだけにこんな事をしたのか?」

ラウラ

「こうでもしなければ戦わんだろう?」

海之

「…先ほどお前は自分の存在を証明すると言ったな?」

ラウラ

「そうだ。貴様らを倒し、私は自分の力を、存在を証明する!」

海之

「…力が存在の証明か…。それは…お前がそのために造られたものだからか?」

ラウラ

「…!!」

火影

「…は?」

一夏

「つ、造られただって!?」

「何だと…!」

千冬

「…」

 

その一言にラウラ以外の者も驚いている。驚いていないのは千冬だけだ。

 

海之

「お前の事を色々調べた。ラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツ陸軍IS配備特殊部隊「シュヴァルツェア・ハーゼ」隊長。そして遺伝子強化による強力な兵士を量産する事を目的として生み出された人造生命体。…つまり純粋な人間ではない」

一夏

「なっ、人造生命体!?」

「つまり…造られた人間!?」

ラウラ

「…そうだ。私は生まれながらにして兵士として生きる事を義務付けられた。生まれて間も無い頃から毎日毎日、ただひたすらに優秀な兵士になる事だけのために生きてきた。親の顔も知らず、友と呼べる者も無く」

千冬

「…」

海之

「…だが兵士としての能力は高い一方IS操縦士としての適正値は何故か低かった。それを見たドイツ軍の幹部はお前をただそれだけの理由で処分しようとした。…失敗作としてな」

「!そんな…」

ラウラ

「っ!…ああそうだ。当時ISが次世代の兵器として注目されかけていたばかりの時だ。私は純粋な兵士としては一番の成績を収めていた。兵器の扱い方も身体能力も。しかしある時ISとの同調訓練の際に不適合とされ、私は一気に価値なしと判断された。…自分を呪ったよ」

「…」

ラウラ

「貴様らにはわかるまい!この世に生まれ落ちた時から戦うだけの存在と運命づけられ、ただそれだけのために生きてきたのに、ある日突然「できそこない」「失敗作」と言われた私の絶望が!自分の無力さを痛感する日々を送るみじめさが!」

海之

「……」

一夏

「あいつにそんな過去が…」

「悲しすぎる…」

 

そこにいた全員がラウラの思わぬ過去に言葉を失っていた。

 

ラウラ

「…だが…ある日そんな私を認めてくださった方が現れた」

火影

「それが織斑先生ってわけか」

海之

「ドイツ軍にISの教育のため、教官として赴任されたんだな」

ラウラ

「…ああ。私は教官の指導の元、本当に死に物狂いで、それこそ何度も地獄を見る様な特訓を繰り返した。そして遂にドイツ軍IS部隊の隊長の座にまで登り詰めた。教官も褒めてくださったし、私を「できそこない」「失敗作」と見なしていた者たちがまるで掌を返す様に態度が変わったよ。そしてその時思った。この世で生きていくためには、そしてあの様な馬鹿共を排除するためには何よりも強い「力」が必要だとな。私は教官に救われた。そして生き方も教えてくださったのだ」

千冬

「…」

海之

「…本当にそうか?」

ラウラ

「だが貴様らはそんな私をあっさりと倒しただけでなく、教官からも既に強い信頼を得ていた。例え天地が引っくり返っても私は貴様らに勝てんと。貴様らに勝てば自分にも勝てると…。教官より強い者がこの世にいるなど私は認めん!だから私は貴様らを倒す!教官にお教え頂いた者として!私の力を証明する!」

海之

「……」

千冬

「海之。改めて頼む。…あいつを、ボーデヴィッヒを解放してやってくれ」

火影

「海之、あいつは…」

海之

「…わかっている。みんな、手出しは無用だ」カッ!

 

そういうと海之はウェルギエルを纏った。

 

「海之くん…」

火影

「簪。あいつは大丈夫だ」

ラウラ

「…さあ、行くぞ!!」




※次回から海之(バージル)とラウラの戦いです。かつてラウラと同じ様に力に囚われたバージルとラウラを戦わせる事は最初から考えてました。もう二話位を予定しています。

また、今後更新が捗ったりまちまちになったりゆっくりになったりすると思いますが、頑張って書いてきますので、今後ともよろしくお願い致します。


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Mission45 海之VSラウラ

火影と海之の元に突然走り込んできた箒。箒に連れられて来た先で見たのは一夏、セシリア、鈴を倒したラウラであった。ラウラは火影と海之に自分と戦えというと海之がそれに受けて立つ。
海之はなぜこの様な事をするのかと尋ねるとラウラは自らの過去を話したうえで、自分の力を証明する事が存在の証明になると言い放つ。
ラウラの答えを聞いた千冬は海之に彼女を助けてやってほしいと改めて頼む。海之はそれを聞き入れ、ウェルギエルを纏うのであった。

※遅くなりましたがUAが25000。お気に入りが150を突破致しました。ありがとうございます!


千冬

「海之。…ラウラを助けてやってくれ」

火影

「海之」

海之

「みんな手出しは無用だ」カッ!

 

海之はウェルギエルを纏った。

 

ラウラ

「…さぁ、行くぞ!!」ガシャンッ!

 

ラウラはレール砲を海之に向ける。

 

ズドンッ!

 

「海之くん!」

海之

「…」

 

キイィィィンッ!

 

海之は前回の時と同じく、閻魔刀でレール砲の砲弾を反らしていた。

 

「!…レール砲の弾を刀で弾いた!?」

ラウラ

「…ちっ!やはり!」

海之

「…」

 

そして海之は閻魔刀を収めた。

 

ラウラ

「?…なぜ刀を収める?」

海之

「落ち着け。ちゃんと戦ってやる。かかってこい」

 

海之はラウラを挑発した。それにラウラが再び激高した。

 

ラウラ

「!…貴様!また愚弄するか!」

 

そういうとラウラはビーム手刀を展開し、海之に迫った。

 

一夏・箒

「「海之!」」

火影

「…」

ラウラ

「うぉぉぉぉぉ!」

 

手刀が海之に向かって振り下ろされた。しかし、

 

ガキィィィン!

 

ラウラ

「なに!…それは!」

海之

「…」

 

ラウラのビーム手刀は海之の腕に受け止められていた。いや正確には腕では無く、海之の腕に装着されていた光輝く籠手にであった。

 

一夏

「あれは火影のものと同じやつか!」

「…いや、少し違う」

「あれは前に整備室で海之くんが造っていた…」

海之

「はあぁぁぁぁぁ!」

 

ドゴォォォォン!

 

海之の籠手を纏ったもう片方の手の正拳突きがラウラに直撃した。

 

ラウラ

「ぐあぁぁぁぁぁ!!」

 

衝撃にラウラが吹っ飛ぶ。

 

ラウラ

「ぐっ、ぐぐ」

海之

「休んでいる暇などないぞ」ドンッ!

 

そういうと海之は上空へ飛び上がった。

 

ラウラ

「なっ!」

海之

「おぉぉぉぉぉ!」

 

海之が急降下しながらキックを繰り出してきた。みると火影と違い脚にも具足をはめているのが見える。

 

ラウラ

「!くっ!」

 

ラウラはよろめきながらもギリギリで避ける。しかし、

 

ドオォォォォォォン!!

 

ラウラ

「うわぁぁぁぁ!」

 

避けたにも関わらずその衝撃で再び吹っ飛ぶ。

 

「…なんて破壊力だ」

火影

「あれがあいつの新たな武器さ」

 

「ベオウルフ」

かつて二人の父スパーダによって封印された悪魔ベオウルフが魔具として変化した姿。前世の戦いで復讐として息子である二人に襲いかかるが敗れ、魔具として力になる。ダンテのイフリートと同じく範囲は狭いが一撃の威力、衝撃共に高い。またこちらは具足もある。

 

ラウラ

「うぅぅぅ」

海之

「まだやるのか?」

ラウラ

「当たり前だ!」

海之

「…何故そうまでして戦う?」

ラウラ

「言ったはずだ!貴様らを倒し、自分の存在を証明するためだ!」

海之

「証明するも何も…お前はここにいるだろう?」

ラウラ

「!…黙れ!私は強くなければならない!弱ければ存在価値はない!私はずっとそうやって生きてきた!」

海之

「それは過去のお前だろう。今のお前は何故戦う?」

ラウラ

「なんだと…?」

海之

「過去のお前は確かにそうだったかもしれない。強ければ生き、弱ければ死ぬ。そんな世界で生きてきたのかもしれない。…だが今のお前は必至の努力によってドイツ軍のIS部隊の隊長にまで登り詰めた。これからはもっと別の目的を持っても良いだろう?」

ラウラ

「気休めを言うな!」

 

ラウラはそう言って再び立ち上がる。

 

ラウラ

「私は生まれながらの兵士!戦う以外の価値は無い!私は銃そのものだ!」

 

バシュバシュバシュ!!

 

そう言うとラウラは数本のワイヤー型ブレードを飛ばしてきた。

 

海之

「…」

 

ビュビュビュン!

キキキキキンッ!

 

海之は幻影剣を展開しそれらを弾く。更に、

 

海之

「烈風」

 

海之がそう言うと展開していた幻影剣がラウラに向かっていく。

 

ラウラ

「くっ!」

 

ラウラは向かってきた幻影剣を全てではないものの何とかビーム手刀で弾く。だがダメージは先のものも重なり間違いなく大きかった。一方の海之は全くのノーダメージで息も切らしていなかった。

 

海之

「…」

ラウラ

「ハァハァハァ…」

一夏

「すげー…」

「桁違いだ…」

「あれが海之くんの実力…」

ラウラ

「…くっ!ならばこれを受けてみるが良い!」

 

そういうとラウラは手を海之に向け、集中する。

 

一夏

「!やべえ海之、避けろ!」

ラウラ

「もう遅い!」

 

すると海之は自分の動きが封じ込められた様に感じた。

 

海之

「これは…」

ラウラ

「どうだ!動けまい!これがレーゲンの力、AIC(アクティブイナーシャルキャンセラー)!物体の動きを強制的に停止させる能力だ!貴様といえど動けんぞ!」

一夏

「しまった!」

「海之くん!」

ラウラ

「これでは刀もその籠手も使えまい!くたばれ!」

 

そういうとラウラは手を向けながらレール砲を海之に向ける。

だがその時海之が呟いた。

 

海之

「…五月雨」

ラウラ

「?貴様何を言って」ズドドドドドッ!「ぐあああああっ!な、上からだと!?…これは!」

 

見るとラウラの上空に地上に降ってくるかの様な形で幻影剣が展開していた。それが次々とラウラに襲いかかる。

 

ラウラ

「くっ!邪魔だ!」

 

やむを得ずラウラは上空の幻影剣の動きを止めるためにそちらにAICを向ける。その影響で幻影剣は動きを止める。しかし、

 

海之

「遅いな」

ラウラ

「!?」

 

その瞬間に海之はラウラの懐に入りこんでいた。

 

海之

「はあぁぁぁぁぁ!!」

 

ドドドドドドドッ!

 

凄まじい高速連続キックを繰り出す。

 

ラウラ

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

これまでに無い衝撃で大きく吹っ飛ぶラウラ。そのダメージは甚大であり、もはや碌に動けないようだった。立ちあがる事もできない様子のラウラに海之が近づき、話しかける。

 

ラウラ

「ぐっ、あぐっ…」

海之

「もう終わりだ。諦めろ」

ラウラ

「まだ、まだだ…」

海之

「お前は十分戦った」

ラウラ

「何故だ…何故お前はそこまで強い?」

海之

「強くなどない。ただわかっただけだ。本当の強さとは何かを」

ラウラ

「本当の強さだと?…ばかな、強さとは力だ!私はそう教えられた。教官からな!」

千冬

「…」

(…違う。それは違うぞ…ボーデヴィッヒ…)

海之

「…そう思っている内はお前は俺にも火影にも、そして次は一夏達にも敵わん」

ラウラ

「…くっ!」

 

ラウラ

(力が欲しい…!全てを超える、何にも勝る力が!)

 

その時、レーゲンが彼女に話しかけてくる様な気がした。

 

(力を求めるか?)

ラウラ

(!…お前は何者だ?レーゲンか!?)

レーゲン?

(お前は力を求めるか?何にも勝る絶対的な力が)

ラウラ

(…ああ!力が欲しい!お前がレーゲンというなら私の力となれ!お前の真の力を私に寄越せぇ!)

レーゲン?

(了解…。VTS(ヴァルキリー・トレース・システム)…起動)

 

レーゲンと思われるものがラウラの問いに答える。

……しかし暫くすると別の声が聞こえた。それはレーゲンの声よりもはっきりとラウラに届いていた。

 

 

「…では試させてもらおう…」

 

 

ラウラ

「…えっ?」

 

するとラウラは自分が黒い何かに飲み込まれる感覚に陥った。

 

ラウラ

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

全員

「「「!!」」」

 

突然ラウラが絶叫して黒い炎に包まれた。海之も一旦距離を取る。

 

海之

「…?」

一夏

「な、なんだ!?」

千冬

「ボーデヴィッヒ!」

ラウラ

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

炎に包まれた苦しさか声を上げるラウラ。そして炎の隙間から彼女のISの装甲が崩れ落ちるのが見える。そしてラウラの身体が完全に炎に包まれ、暫くすると強烈な閃光が走った。

 

カッ!!

 

一夏

「くっ!」

「な、なんだ!?」

「眩しい!…!」

火影・海之

「「…?」」

千冬

「あれは…!」

 

そこにいたのはレーゲンではなく、どこか禍々しい気を放つ謎の黒いIS。そして、

 

一夏

「お、おい千冬姉!あれって」

千冬

「雪片…」

 

ISが持っていたのは千冬がかつて使っていた雪片であった。最も彼女が使っていたそれとは違い、黒ずんでいる。

 

一夏

「…あいつ許せねェ!」

「!一夏!」

 

突然飛び出そうとする一夏。それを箒が止める。

 

一夏

「離せ箒!あれは、あれは千冬姉だけのものだ!あいつはそれを汚しやがった!」

「だからって今のお前が行ってどうする?海之の邪魔になるだけだ!」

一夏

「わかってる!でも俺は!」

 

その時、

 

海之

「一夏!!」

一夏

「!」

 

突然海之が大声で一夏を止める。

 

海之

「…俺を信じろ」

一夏

「!…」

火影・箒

「「一夏…」」

千冬

「一夏、お前の気持ちは嬉しい。だが…今はあいつを信じろ」

一夏

「…わかった。海之…あいつを頼む!」

海之

「ああ」

「海之くん…」

 

そういうと海之はラウラ?と再び対峙する。

 

海之

「…ボーデヴィッヒ。お前は先ほど言ったな。自らの力を証明すると。織斑先生から受け継いだ力で証明すると。…それがそれか?そんなものがお前の力か?…織斑先生の真似事がお前の力か?」

黒いIS

「……」

海之

「言葉も聞こえんのか…。お前を見るとかつてのある男を思い出す。お前と同じ様に自分の無力さに絶望し、徒に力を求め、挙句の果てにやがて心まで捨てた哀れな男をな…」

火影

「お前…」

海之

「…いいだろう。お前の憎しみ、怒り、絶望。俺にぶつけてこい。それで俺が倒せるならな」

黒いIS

「ガアァァァァァァァァ!!」

 

やがてその黒いISは手に持つ黒い雪片を構え、突進した。そして…

 

ドスッ!!

 

火影以外の全員

「「「「!!!」」」」

 

海之

「……」

黒いIS

「……」

中のラウラ

(……えっ…?)

一夏

「海之ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「……えっ?……海之…くん…?」

火影

「……」

 

黒いISの雪片が海之を貫いていた……。




※ようやくベオウルフが出せました。
次回決着です。


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Mission46 強さとは

ラウラの挑戦を受けた海之。
ラウラは殺気をむき出しにして襲い掛かってくるが、海之は新たに造った魔具ベオウルフ。そして幻影剣を駆使して簡単に撥ね退ける。
もはや戦う力がほとんど無くなったラウラであったがその時レーゲンに秘密裏に搭載されていたヴァルキリー・トレース・システム。そして謎の声がラウラを変貌させる。
黒い力に囚われたラウラを止めるため、海之は…。


海之

「お前の苦しみ、怒り、絶望、全て俺にぶつけてこい!」

黒いIS?

「グアァァァァァァァァ}

 

ラウラのレーゲンが変貌した謎の黒いISはその手に持つ黒い雪片を構え突進した。そして…。

 

ドスッ!!

 

海之

「……」

黒いIS?

「……」

 

海之の身体を貫いた。

 

一夏

「海之ぃぃぃぃぃぃ!!」

「そんな…」

「……海之…くん?」

千冬

「海之!」

火影

「……」

 

火影以外のみんなはその光景に言葉を失っていた。そしてそれは黒いISの中にいたラウラも同じだった。海之の身体を貫いた瞬間、微かに自我を取り戻したのだ。

 

ラウラ

(…えっ?…私…何を…?私が…やった?…私が?)

 

ラウラは目の前の自分がやった事が信じられなかった。通常のISでは剣が身体を貫くこと等無いのだ。更に軍人として生きてきたつもりだったがその手で誰かの身体を貫くという経験は彼女も初めてだった。それが彼女に何とも言えない恐怖を与えた。

 

ラウラ

(…嫌だ…嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁ!)

 

いくら否定しても自分の目の前の光景が事実を物語っていた。自分が海之を殺したという事実を…。

 

その時、

 

ガシッ!

 

ラウラ

(!!)

火影

「……」

火影以外の全員

「「「「!!」」」」

 

ラウラも含めて火影以外の全員が驚いていた。貫かれた海之が雪片を掴んだからだ。

 

海之

「…勝手に死んだと思うな…」

千冬

「海之!」

 

海之は腹に雪片を刺されたまま、黒いISの中にいるラウラに語りかける。

 

海之

「…ボーデヴィッヒ。俺はかつてお前と同じ様に自分の無力さを嘆き、只管に力を求めた。俺には…追い付きたい者がいた。お前にとっての織斑先生の様にな。…俺はその者の様になりたかった。その者と同じ力を手に入れれば強くなれると、そう信じていた。…だが、そんな俺にある男が言った言葉がある。…今度は俺がお前に伝えよう」

 

海之は剣を握りながら言葉を続ける。

 

海之

「…例え力を手に入れても、お前はお前以外の誰にもなれない。お前が織斑先生の教え子なら…受け継ぐべきなのは力ではない。…もっと大切な、心と、誇り高き魂だ!」

「…!」

ラウラ

(!!)

ドゴォッ!

 

海之は片手のベオウルフで黒いISに打ちつけた。その反動で剣が海之から抜ける。傷口からは血が吹き出す。

 

海之

「くっ…」

「海之よせ!無茶するな!」

「やめて海之くん!死んじゃうから!」

 

その時、

 

火影

「二人共!!」

箒・簪

「!!」

火影

「ちゃんと見ていろ…あいつらの戦いを」

一夏

「火影…」

千冬

「海之…」

 

数秒後、ウェルギエルの傷が完全に塞がり、無かった様に消える。

海之は再度ラウラに言う。

 

海之

「…そして俺の魂がこう言っている。お前を止めろと。お前を助けろとな!…お前の魂はどう言っている?ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

ラウラ

(!!)

 

ラウラは海之の「助ける」という言葉を聞き、何とも言えない感情が湧いた。

 

ラウラ

(…苦しい…。…助けて…助けて!)

 

ラウラの心の声が悲鳴を上げていた。すると、

 

黒いIS?

「!!ガガガガッ!」

一夏

「お、おいなんか様子が変だぜ?」

「…苦しんでいる?」

 

黒いISは苦しんでいるかの様に動きが乱れ始めた。

 

千冬

「海之、頼む!」

火影

「海之!」

海之

(閻魔刀よ…。かつての様な力は失ってしまったが、黒に囚われた哀れな少女を救うため、今一度力を貸せ!)

 

海之が今は何も応えない閻魔刀に話しかけた…その時、

 

「………ドクンッ」

 

海之

「!?」

黒いIS

「グオォォォォォ!」

 

苦しんでいたそれは再び雪片を構えて向かってきた。

 

海之

「おぉぉぉぉぉぉ!!」

 

海之は閻魔刀を抜いて向かっていく。そして、

 

キイィィィィィィィィィィン!!

 

剣がぶつかって激しい閃光が辺りを照らした。

…その瞬間、海之とラウラは心が通じ合った気がした。

 

海之

「……」

ラウラ

「……もう一度聞きたい。…お前は、何故そこまで強い?」

海之

「言った筈だ。俺は強くなどない。ただ知っただけだ。俺にとっての強さとは何かを」

ラウラ

「…それは?」

海之

「それは自分で見つけるものだ」

ラウラ

「…私に…見つけられるだろうか?戦う事しか知らない私に…」

海之

「見つからなければ頼れば良い。それも強さだ」

ラウラ

「…頼る?誰に?」

海之

「誰でも良いさ」

ラウラ

「………お前は……どうだ?……頼っても…良いか?」

海之

「……話し相手位にはなってやる」

ラウラ

「……ふふっ」

 

ラウラは笑っていた。

 

 

…………

 

やがて閃光が晴れた時にみんなが見たのは眠るラウラを受け止めた海之であった。

 

「海之くん!」

一夏

「大丈夫か?」

海之

「ああ。こいつもな」

 

ラウラは笑って眠っている様に見える。

 

「…笑っている?」

千冬

「こんな笑い方もするんだな。ボーデヴィッヒ」

火影

「お前にしては時間がかかったな。まあお疲れだ」

海之

「大した事はない」

一夏

「いやありすぎだろ!大丈夫なのかよ!腹貫かれたんだぞ!?」

海之

「問題無い。もう完治している」

「…つくづく驚かされるよ。お前達には」

海之

「織斑先生、ボーデヴィッヒをお願いします。…一夏、あれを見ろ」

一夏

「あれ?…!」

 

そこには先ほど斬り結んだ時に弾き飛ばされたのであろう黒い雪片が地面に突き刺さっていた。

 

海之

「お前が斬れ」

一夏

「えっ?」

火影

「お前の雪片で紛い物の雪片をぶった斬ってやれ」

一夏

「!…ああ!」

 

バキィィィィン!!

 

一夏は自らの雪片弐型で黒い雪片を破壊した。その欠片は砂となって消えた…。

 

一夏

「これで少しはムカつきが晴れたよ」

火影

「ボーデヴィッヒには何か言わなくて良いのか?」

一夏

「……う~ん、もうそれはいいや」

海之

「そういえば簪。嫌なもの見せてすまなかったな」

「ううん、大丈夫。…ねぇ海之くん?」

海之

「なんだ?」

「…やっぱり良い」

(さっき海之くんが言ってた事、前に海之くんが言ってた知り合いってゆう人の話と同じ…。まさかあの話…ううん、そんな筈ないよね)

一夏

「さて…そろそろ医務室行こうぜ。セシリアと鈴が心配だしな」

海之

「そうだな」

「…」

火影

「どうした箒?」

「いや、なんでもない…」

(私にも…海之や火影の様な力が欲しい。…一夏と共に戦える力が)

 

一方の海之も、

 

海之

(…あの時閻魔刀からほんの一瞬感じた僅かな脈動。…気のせいか…?)

 

思いそれぞれであった。

 

 

…………

 

医務室

ラウラの部屋

 

ラウラ

「う、うん。…ここは?」

千冬

「気がついたか」

 

眠りから覚めたラウラの横には千冬がいた。

 

ラウラ

「き、…織斑先生…」

千冬

「動くな、まだ体力が戻っていない」

ラウラ

「一体私は…それになぜこんなところに?」

千冬

「覚えていないのか?…まぁ無理もないか。お前はレーゲンに、VTシステムに意識を飲み込まれたのだからな」

ラウラ

「…えっ…?VTシステムって…あの違法の?」

千冬

「そうだ。お前のレーゲンに搭載されていた。過去のモンドグロッソ優勝者の力と姿をそのままコピーするという物だがその危険性と異常性故に現在は禁止されている。お前の機体に搭載されていたのも恐らく秘密裏だろうな」

ラウラ

「…そんな…」

千冬

「そしてアレは機体のダメージ、操縦者の精神状態、願望等の条件が揃って発動する。これの意味がわかるか?」

ラウラ

「…私が…力を望んだから…発動したんですね」

千冬

「…まあな」

 

だがラウラには一つ気になる事があった。

 

ラウラ

(…あの時最後に聞こえた声。あれもそうなのか…?)

千冬

「どうした?」

ラウラ

「いえ。…あの織斑先生、あいつは、海之は?」

千冬

「あいつなら無事だ。傷もウェルギエルの能力で完治している。全く大した奴だよ。腹を貫かれたのにな」

ラウラ

「…あいつは私を助けてくれた。あんな傷を負ってまで、助けると言ってくれた。なぜあいつはそこまで…」

千冬

「…お前には教えておいても良いかもしれんな。お前は3ヶ月前にあった旅客機墜落未遂事故を覚えているか?」

ラウラ

「えっ?はい。確か墜落寸前の旅客機を赤と青の光が救ったという」

千冬

「そうだ。その赤と青の光とは…アリギエルとウェルギエル。つまり火影と海之だ」

ラウラ

「!!…あの二人が…」

千冬

「念のため秘密にしておけよ。普通なら誰にもできない事だろう。私にも無理だ。あいつらは例え自分の身が危なくても、誰かを助けるために自分を犠牲にできる。そう言う奴らだ」

ラウラ

「……」

千冬

「…そして同時に生きようとする気持ちも心得ている」

ラウラ

「生きようとする気持ち?」

千冬

「ああ。例え自分を犠牲にして誰かを救ったとしても残された者達の心には深い悲しみが残り、真の幸福は訪れない。あいつらは誰も、そして自分も死なない事を心掛けている」

ラウラ

「…誰も、自分も死なない…生きようという気持ち…」

千冬

「…ボーデヴィッヒ!」

ラウラ

「!…はい」

千冬

「お前は誰だ?どう生きたい?」

ラウラ

「えっ………、私は…私は…」

 

海之

(…お前の魂はどう言っている?ラウラ・ボーデヴィッヒ!)

 

ラウラは自らの胸に手を当てて言った。

 

ラウラ

「…私は…ラウラ、ラウラ・ボーデヴィッヒとして、生きたいです…」

千冬

「…ふっ、それで良い。…ではな。私は向こうの様子を見てくる。あああと、お前は今回の騒ぎを起こした罰として来週のトーナメント開始日まで自室謹慎だ。懲罰房に行かないだけ幸運と思えよ」

ラウラ

「うっ…ありがとうございます」

 

そういうと千冬は出ていった。

 

ラウラ

「……」

 

ラウラの脳裏に先ほどの戦いでの海之の言葉が浮かぶ。

 

(受け継ぐのは力ではない。もっと大切な、心と誇り高き魂だ!)

(見つからなければ、誰かに頼れば良い)

(俺でも話し相手位にはなってやる)

 

ラウラは自分の胸の内が熱くなる気持がした。千冬に向けたものとは違う感情だ。

 

ラウラ

(この気持ちは…?)




上手く書けたかはわかりませんが海之(バージル)とラウラの戦い終了です。DMC3にてダンテがバージルに言った言葉を、バージルがラウラに伝えました。

閻魔刀の脈動。そしてラウラが聞いた謎の声とは?


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Mission47 パートナーはどうする?

ラウラの挑戦を受けて立ち、圧倒的な強さで終始優位であった海之だったが、ラウラの機体に搭載されたVTシステム?によって変貌したラウラに身体を貫かれる。
火影以外の誰もが最悪の展開を予感したが、海之はその怪我を気にせず、謎の黒い力に縛られたラウラを止め、救い出すと断言。見事に果たすのであった。


先の戦いで負傷したラウラと千冬が話していた一方。

シャルロットによって別室に運ばれたセシリアと鈴の見舞いに火影、海之、一夏、箒、簪が来ていた。因みに二人が運ばれた後の事は火影によって説明されていた。

 

「ふ~ん、そんな事があったんだ。まさかあいつにそんな過去があったなんてね」

セシリア

「でもそれと私達を襲ったのは別問題ですわ!本当にいい迷惑です!」

「まあそれは確かに」

一夏

「あはは…」

 

三人の話だと、セシリアと鈴が訓練を始めようとしていた時に突然ラウラの砲撃を受けたらしい。最初は互角だったらしいがあのAICを受けて形勢は逆転。一方的にダメージを受けていた所に一夏が零落白夜で助けようとするも不発。一夏は自分が引き受けている間に箒に火影達を呼んでくる様頼んだらしい。そして帰って来たちょうどの所で倒れたとの事。

 

「すまん一夏。私がもう少し早ければ」

一夏

「気にしなくて良いって」

セシリア

「ですがAICを受けたからとはいえ私達三人で挑んでも勝てなかったのに、海之さんはお一人で圧倒されるなんて…。やはりお強いですのね」

海之

「大した事はない」

一夏

「そんな謙遜すんなって。物凄かったぜ、おまけに新しい武器というおまけつきだしな」

「新しい武器か…。ねぇ火影、海之。私達にもなにか造ってよ。確か簪だっけ?あなたは今造ってもらってるんでしょ?」

「うん。完成はまだ先らしいんだけどね。火影くんに使い方を教えてもらう事になってるの」

「…えっ?」

火影

「使い方が難しい武器でな。教えるようにと海之からの依頼だ」

「海之から?なんだそっか~」

シャルロット

「……」

海之

「そうだな。知り合いにも話しておこう」

「宜しくね」

海之

「簪の武器ももう少し待っていてくれ」

「うん、大丈夫」

「…専用機か…」

一夏

「どうした箒?」

「ああ…、ちょっとな」

 

とそこへ三人のISの状態を調べていた真耶が入ってきた。

 

真耶

「お待たせしました。皆さんのISの状態がわかりました。織斑くんの白式に関してはとりあえず大丈夫そうなのですが…、オルコットさんと鳳さんの機体は残念ですがトーナメントには間に合いそうにないですね。ダメージレベルが危険領域ギリギリまで達しています。一度大がかりな整備が必要です」

「ああやっぱり…。なんかそんな気がしてたのよね…」

セシリア

「残念ですわ…」

火影

「いいじゃねぇか。トーナメントは成績とかには関係ないらしいし。この機会にゆっくり休め」

「う~ん、確かにそうなんだけど…」

セシリア

「ええ、残念なのはそれだけでは無いのですわ…」

火影

「?」

 

その時、廊下から騒がしい音が聞こえる。

どどどどどどどどどどっ!!

どうやら足音のようだ。

 

 

一夏

「な、なんだ!?」

火影・海之

「「?」」

 

バンッ!!

勢いよく医務室の扉が開いた。

 

「織斑くん!」

「火影くん!」

「海之くん!」

 

大勢の女子が入り込んできた。

 

一夏

「なななな、何!?」

生徒1

「私と組んで!」

生徒2

「いや私と組んで!」

生徒3

「ずるい!私だって組みたいのに!」

 

生徒はみんな興奮している。

 

「これなのよ…」

セシリア

「ええ、これなのですわ…」

火影

「えっ?」

海之

「………ん?」

 

海之は足元に落ちているプリントを拾って見た。

 

海之

「……。二人共読んでみろ」

火影

「?…えーっと…今月開催する学年別トーナメントでは、より実践的な模擬戦闘を行うため、二人組での参加を必須とする。…ああ、そう言う事か」

一夏

「二人組…タッグって事か?」

生徒4

「そういうことなの!だからお願い!」

生徒5

「いえ私と!」

 

どうやら来週のタッグトーナメントで一夏、火影、海之と組みたいと押し寄せた様である。すると海之が、

 

海之

「みんな落ち着け。ここは医務室で見ての通り怪我人もいるんだ。騒いで怪我に障る様な事があったらどうする。俺達も今知ったばかりだから急には決められん。少し考える時間をくれ」

 

すると後ろからも、

 

千冬

「海之の言う通りだ。廊下をバタバタ走っただけでなく安静第一の医務室で騒ぐとは良い度胸だな?だが運が良い事に今の私は少しばかり機嫌が良い。不問にしてほしければ今すぐ出て行く事だ」

 

ラウラの部屋からこちらに来た千冬が生徒達に話しかける。

 

生徒全員

「「「!!失礼します!」」」

 

女子達は全員去って行った。静かに、廊下を走らず。

 

「…凄かったね」

シャルロット

「…うん」

一夏

「つくづく海之って大人だな」

千冬

「全く騒がしい」

火影

「織斑先生。ボーデヴィッヒは?」

千冬

「うむ。思ったより大丈夫そうだ。ただ今回の罰として来週まで自室謹慎とトーナメントの出場不可とした。あいつの機体に搭載されていたVTシステムについても調べねばならん」

海之

「そうですか」

一夏

「なぁ千冬姉。今回のトーナメントがタッグってほんとか?」

千冬

「織斑先生だ!…まぁしかし今は授業ではないから不問としてやる。そういうことだ」

(これがあるから、火影と組むために頑張ってたのに~!)

セシリア

(一夏さんとのペアが…、恨みますわよボーデヴィッヒさん!)

一夏

「とはいってもなぁ。俺なんかと組みたい奴なんているのかなぁ」

一夏以外の全員

「「「ハァ…」」」

 

一夏以外のみんなが深いため息を吐く。その時シャルロットが火影に話しかける。

 

シャルロット

「…あの…火影。火影ってもう誰と組むか…決めてる?」

火影

「えっ?いやまだだ。というかタッグの事は今初めて知ったからな」

 

それを聞いたシャルロットが嬉しそうに聞く。

 

シャルロット

「じゃあさ!僕と組んでくれない?…ダメかな…?」

火影

「いや、構わないぜ。宜しくな、シャルロット」

シャルロット

「!…うん!」

(…!)

 

その一方で簪が海之に話かける。

 

「あの…海之くん?」

海之

「なんだ?」

「あの、タッグの相手なんだけど…、もし…良ければ、私と組んでほしい…」

 

簪が顔を少し紅くして言った。

 

海之

「だがお前の機体は完成していないのでは?」

「うん、そうなんだけどね。でも訓練機に私の専用機に搭載する予定の武装の一部を積んで出る事が許可されたの。だからそのテストも兼ねたいの」

海之

「そう言う事か。構わん。宜しく頼むぞ簪」

「!…ありがとう」

 

火影とシャルロット、海之は簪とタッグを組む事が決まった。

 

一夏

「二人共いいなあ、スムーズに決まって。俺はどうす」

「一夏!」

一夏

「!ど、どうしたんだよ急に」

「あっ!す、すまん。そのトーナメントのタッグなんだが、私と組まないか?」

一夏

「えっ?あ、ああ。俺で良いなら」

「ほ、本当か!?約束だぞ!」

一夏

「わ、わかったってば。そんな必死にならなくても」

 

一夏も箒とペアを組むことが決まったようだ。それを見て悔しそうな人が一人。

 

セシリア

(本当に、本当に不本意ですが!今回は仕方ありませんわね…)

 

一方鈴はシャルロットに話しかけていた。

 

(ね、ねぇシャルロット。ちょっといい?…あんたって…もしかして火影の事)

シャルロット

(えっ!!……うん。って…もしかして鈴も…?)

(…うん。まあね…。ハァ~、私が好きになる奴ってなんで女子に好かれる奴ばかりなのよ)

シャルロット

(…ふふっ。それだけ火影が良い人ってことじゃない。負けないからね、鈴♪)

(!…いいわ。私だって負けないんだから。今回は残念だけど、絶対負けないからね♪)

 

二人はお互いライバル宣言?をしたがその顔は笑顔であった。

 

火影

「…?なんかえらく仲良くなったなあの二人」

千冬

「どうやらここにいる奴はタッグが決まったようだな。全員恥ずかしい結果を残すなよ」

全員

「「「はい」」」




※次回はトーナメントに向けてそれぞれの様子を書く予定です。


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Mission48 大会に向けて

鈴とセシリアの見舞いに来た火影達。
するとそこに大勢の女子達が駆け込んできた。どうやら今度開かれるタッグトーナメントの相手を探しているらしい。
海之と千冬が言い聞かせたことによって女子達は退散。火影達もパートナーをどうするか考えているとシャルロットは火影と、簪は海之と、箒は一夏と組みたいとそれぞれ提案。男性陣もそれを了承し、改めてトーナメントに向けて訓練を始める事になった。


海之とラウラの戦いから1日が経った。

ラウラの怪我は幸い大したことは無く、翌日には部屋に戻れたものの、千冬の言った通り騒ぎを起こした罰として自室に謹慎する事になった。生徒達には怪我の療養という事で誤魔化されている。また彼女の機体についても千冬始め教師陣が調べているが特に怪しい点はこれといって見られず、明日にはラウラに返却されるらしい。

 

そんな日の放課後、タッグトーナメントのパートナーが決まった者達はそれぞれの機体の特徴や戦術を掴むために訓練若しくは話し合いを行っていた。

 

火影とシャルロットの部屋

 

ペアとなった火影とシャルロットは3日後に迫ったトーナメントに向けて作戦会議を行っていた。

 

火影

「シャルロットの機体って訓練機のラファール・リヴァイヴの改造型なんだよな?」

シャルロット

「うん。ラファール・リヴァイヴは僕のお父さんの会社が造った機体なんだ。それを僕用にカスタムしたの」

火影

「なるほどな。自分とこの物なら一番理解しているからな。改造もしやすいし都合が良いってわけか。量産機の改造だから扱いもしやすいしな。ただ専用機だけあってお前のは随分変わっているようだな。高速切替(ラピッド・スイッチ)によって瞬時に武装交換できるし。あのバンカーもなかなかイカすな。分厚い装甲も貫けそうだ」

シャルロット

「グレースケールは僕も気に入ってるんだ。でも変わっているって言ったら火影のISの方がずっと変わってるよ。この前の授業で見たけど全ての機能が圧倒的なものだったし。あんな機体どうやって手に入れたの?」

火影

「ああ。…誰かさんからプレゼントされたんだ。ただあのデザインはちょっと変わり過ぎだよな」

シャルロット

「そんなこと無いよ。確かに変わったデザインだけどカッコいいと思う。でも誰かさんて?」

火影

「気にすんな。因みに僕の武装は剣と籠手。そしてハンドガンとショットガンだ。だから近・中距離戦向きだな。シャルロットは?」

シャルロット

「僕の機体は一応全距離対応型だけど、得意なのは火影と似た様な装備かな。ブレードとかショットガンとか。あと防御も強いから多少の攻撃にも耐えられるよ。…ねえ火影?」

火影

「なんだ?」

シャルロット

「その…、大した事じゃないんだけど…、もし良かったら…、僕の事、何か別の呼び方で…、呼んでくれないかな…?ああいや、決して変な意味じゃなくて!シャルロットってなんか長いじゃない?パートナーになるんだからもっと…あの…その」

火影

(なんでそんなたどたどしいんだ?)

「そうだな…、シャルなんてどうだ?縮めただけみたいで悪いが」

シャルロット

「シャル…。うん、良い!すごく自然だよ!これからはそう呼んで火影!」

火影

(今度は急に元気になった)

「あ、ああ。じゃあ宜しくな。シャル」

シャルロット

「うん!…シャル…ふふっ♪」

火影

「どうした?」

シャルロット

「何でも!」

 

二人はその後も話し合いを重ねた。

 

 

…………

 

こちらは海之と簪。

二人は簪が使う機体についての確認を行っていた。機体は訓練機の打鉄だが武装を簪仕様にしている。

 

海之

「それが簪の専用機に搭載予定の武装か」

「うん。山嵐っていうミサイルポッドなの。今は単一の目標しか狙えないんだけど、将来的にはマルチロックオン出来る様にするつもりなんだ。あとは長刀。本当はもう一つあるんだけどね」

海之

「どんな武装だ?」

「「春雷」って言う荷電粒子砲なんだけど、そっちはまだ実験段階だから何時完成するかはわからない」

海之

「そうか。完成すると良いな」

「うん」

海之

「さて…簪の機体は長刀とミサイルか。…どちらも扱いが難しいが、刀よりも長刀の方が範囲は広いし凡用性も高い。ひとつの対象しか狙えないとはいえ、ミサイルを集中させれば破壊力も大きい。例え全弾当たらなくても相手の隙を作ったり行動を制限できる。後は操縦者の腕次第だがそれは日本の代表候補生であるお前だ。心配はしていない」

「ありがとう…。海之くんの機体は刀と籠手と具足。あとあのビームの剣だね。あの剣って凄いね。自分から離れた所にもいきなり展開できるんだもの」

海之

「ああ幻影剣という。俺は銃を持たないからな。あれで離れた相手に攻撃する。後は次元斬か」

「次元斬?」

海之

「ああ簪は知らなかったか。簡単に言えば刀で離れた相手を切る技だ。何れ見る事もあるだろう」

「そうなんだ。ところでなんで銃を持たないの?」

海之

「……美学、というやつだ」

「へっ?…ふふっ、海之くんもそんな事言うんだ。ちょっと意外かも」

海之

「…俺も人間だからな」

 

そんなやりとりを行いながら二人は互いの武装を確認し、戦術を確認していった。

 

 

…………

 

その頃、一夏と箒も自分達の部屋で話し合いを行っていた。

 

一夏

「さて、どうするか…。正直俺も箒も近接戦闘向きだからな。お互い後方支援とかは難しいだろうな」

「ああ。おまけに私の機体は専用機でも簪の様な仕様機体でもない」

一夏

「戦術とすれば俺もお前も剣の腕を上げて一対一でも戦えるようになる事位か。でもやっぱり最大の壁は…あいつらだなぁ」

「火影と海之…」

一夏

「…ああ。最初の頃に比べてアラストルの使い方にも慣れてきたとはいえ、それでもまだあいつらには正直敵う気がしないんだよなぁ。…悔しいけど」

「…確かにな」

一夏

「……」

「…どうした?」

一夏

「いや…箒がそんな事言うの珍しいと思って」

「えっ?」

一夏

「少し前のお前なら「戦う前から諦める気か!」とか言ってた様な気がするけど?」

「えっ?…あっああ、すまん。ただ…あの二人の強さを見るとな…」

 

火影と海之の強さを十分に理解していた箒はやや自信を失っている様だった。

そんな箒に、

 

一夏

「…箒。俺もお前と同じくあの二人に勝てる気がほとんどしねぇのは正直本当だ。でもさ、俺は少しワクワクしてるんだ」

「…えっ?」

一夏

「だって試合とはいえあんな強い奴らと全力で戦えるんだぜ!強い相手と戦えるのは武人の誉れってやつだろ?」

「!…武人…」

一夏

「例え勝てないとしても最初から諦めたくはない。それは武道をやる者の恥だからな」

「…一夏」

 

箒はそう言う一夏の表情にやや魅入っていた。

 

「…すまん一夏。…そうだな、お前の言う通りだ。例え勝てないとしても、せめてあいつらに一太刀位浴びせてやろうではないか!」

一夏

「おう!」

 

そう言うと二人は早速道場に向かった。

それぞれの想いが交錯する中、ついにタッグトーナメント当日が訪れた…。

 

 

…………

 

タッグトーナメント当日

 

先に着替えた火影、海之、一夏は出場選手の控室にいた。今はそこに設置されていたモニターで会場の様子を見ている。

 

一夏

「しっかし凄い人だな」

火影

「そうだろな。このトーナメントには海外からも観客が来ている。まあその大半は応援よりもスカウト若しくは視察が目的だろうな」

一夏

「スカウト?視察?」

火影

「代表を持たない国。テストパイロットを持たない企業。そんなのが自分とこで使う操縦者探し。もしくはライバル国のISやその代表の偵察だ」

海之

「ISは今や世界的に非常に大きな地位を占めている。より優れたIS。そして操縦者を持つ事が世界をあらゆる面でリードする事に繋がる。政治・宗教・軍事開発等な。…馬鹿げた話だ。」

一夏

「でもISはスポーツって…」

火影

「表向きはな。勿論そう思っている奴もいるだろうさ。だが、そう思っていない奴も同じ位いるという事だ」

一夏

「…」

火影

「…まぁ、あいつらがどう思おうとどうでも良い。僕はいつも通りやるだけだ」

海之

「そうだな。良い試合をしよう。お互い手加減は無しだ」

一夏

「ああ勿論だ!二人にそんな真似しねぇ。だから二人も本気で来い!」

火影

「ふっ、後悔するなよ」

 

そしてそこに箒、シャルロット、簪も来た。

 

「すまん!待たせた」

シャルロット

「遅れてごめん。ちょっとお父さんに挨拶してた」

火影

「そうか。元気だったか?」

シャルロット

「うん、元気そうだった。それに…お母さんの事、待ってるって」

火影

「…そうか。良かったな」

シャルロット

「…うん!」

「宜しくお願いします。皆さん」

一夏

「ああ」

「手加減は無用だぞ」

「はい!」

 

互いに挨拶をしているとトーナメント試合の抽選が行われ、全員モニターにくぎ付けになる。

そして…、

 

火影

「…ほう」

海之

「…」

一夏

「えっ!」

「なっ!」

シャルロット

「えっ!」

「…!」

 

結果を見てほぼ全員が驚いた。海之・簪は別のペアが相手だったが…、

火影・シャルロットと一夏・箒が第一試合でぶつかる事になったからだ。

 

一夏

「…いきなり火影とか…」

「…」

 

いきなり初戦から火影・シャルロットとぶつかる事に驚きを隠せない様子の二人。

そんな二人に火影は、

 

スッ

 

何も言わず握手を求めた。

 

火影

「…いい闘いをしようぜ。二人共」

一夏

「!…ああ!」

「うむ!」

シャルロット

「宜しくね二人共!」

 

お互いは健闘を約束した。



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Mission49 全力の勝負 火影VS一夏 

火影とシャルロット。海之と簪。一夏と箒。
それぞれのタッグがトーナメント当日までの間を過ごす中、ついにトーナメント当日が訪れた。
それぞれが健闘を約束する中、試合の順番を決める抽選が行われる。そして最初の第一試合は火影・シャルロットペアと一夏・箒ペアであった。



タッグトーナメントの第一試合。

試合を行う一夏・箒、火影・シャルロットはそれぞれ東西のアリーナに分かれ、それぞれの最終点検を行っていた。

 

西側ピット

一夏・箒

 

「まさか一回戦で火影達に当たるとはな」

一夏

「…」

「一夏?」

一夏

「ん?ああ、悪い。今になって急に緊張してきたぜ…」

「ふっ、三日前私にあんな事言っておいて情けないぞ。私達は言わばチャレンジャーも同じだ。全力でぶつかろうではないか」

一夏

「…ああ!」

 

やる気十分の二人であった。

 

 

東側ピット

火影・シャルロット

 

火影

「シャル。予想だが…一夏は僕との闘いを挑んでくるだろう。もしそうなったら箒はお前に任せて良いか?」

シャルロット

「うん。わかった。僕は全力で火影のサポートをするから」

火影

「ありがとよ。これはタッグマッチだ。危なくなったら助けてくれ。お前が危なくなったら僕も助けるからな」

シャルロット

「うん!」

 

やがて試合開始の時刻になり、それぞれがアリーナ中央に集まる。

海外からの観客の多くは男性操縦者の機体に。更に火影のアリギエルを初めて見る者も多く、驚きの声を上げている者もいた。また観客席の中には参加できなかった鈴とセシリア。そしてこの日まで謹慎していたラウラも少し離れた所で観戦していた。

 

 

観客席

 

「まさかあいつらが第一試合なんてね。でもいきなり注目の試合かも」

セシリア

「ええそうですわね。一夏さん、御武運を…」

ラウラ

「…あいつの弟か…」

 

 

アリーナ中央

 

一夏

「火影!手加減なんてしたら一生恨むからな!」

火影

「いいのか?生半可じゃすまねぇぞ?」

「望む所だ!」

シャルロット

「……」

 

管制塔

「それでは試合を開始してください!」

 

~~~~~~~~~~~~~

 

一夏

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」

ドンッ!

 

アリーナの音が鳴ると同時に一夏がアラストルの機能を加えた瞬時加速で火影に向かってきた。

 

火影

「…ほう」

 

ガキィィィィィン!!

 

だが火影はアラストルの一撃をリべリオンで受け止める。

 

火影

「更にアラストルの機能を使いこなせている様だな」

一夏

「まあな!だがそれだけじゃねぇ!」

火影

「…!」

 

ガキィィィィン!!

 

見ると一夏は右手にアラストルを持ったまま左手に雪片弐型を展開。更に切りつけたが、それを火影はエボニーで受け止めていた。

 

一夏

「銃で受け止めた!?どんな馬鹿力だよ!」

火影

「驚いたな、二刀流か。だが」

一夏

「えっ?」ドゴォッ「ぐあぁぁ!」

 

見ると火影の蹴りが一夏の腹部に直撃した。堪らず一夏が距離をとる。

 

火影

「腕しか無いと思って油断するなよ。いくぜ!」

ドンッ!

 

一夏

「なっ!?」

 

ガキィィィン!

 

火影は片手でリべリオンを前に構えたまま向かってきた。至近距離からの突然の攻撃。一夏は両手の剣でなんとか受け止めるが衝撃は食らっていた。

 

一夏

「ぐうぅぅぅ!!片手でしかも瞬時加速でもないのにこの威力だって!?こっちは両手持ちだってのに!」

火影

「受け止めたか。だがまた油断したな」

一夏

「なに!?」バアンッ!!ドオォォォン!!「ぐああああ!!」

 

その衝撃に一夏は吹っ飛ぶ。見ると火影の左手に持っていたエボニーがコヨーテに変わっていた。それをゼロ距離で受けたのだ。

 

一夏

「ぐぐぐっ…、やっぱり強えぇ…」

火影

「どうした?手抜いてほしいか?」

一夏

「いんや!これ位でなきゃ面白くねぇ!」

火影

「へっ。それで良い。来な!」

一夏

「うおぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

…時は少し戻ってこちらは箒達。

 

「一夏!」

 

瞬時加速で火影に向かっていった一夏を追いかけようとした箒は、

 

シャルロット

「きみの相手は僕だ!」

ドドドドドドド!

 

シャルロットと戦っていた。

 

「くっ!邪魔をするな!」

 

箒が刀を持って向かっていく。

 

ガキン!キン!キン!

 

シャルロット

「くっ!やっぱり近接戦闘は僕の方が不利!でも負けるもんか!」

「どいてくれシャルロット!」

シャルロット

「そうはいかない!火影の、二人の邪魔はさせない!」

「!私が邪魔だと!?」

シャルロット

「試合の前に火影が言ってたんだ!一夏は必ず自分に向かって来る。その思いに受けて立つって!だから邪魔させない!」

「!…なら先にお前を倒す!一夏と一緒に闘うために!」

シャルロット

「はあぁぁぁぁ!」

 

こちらもお互いの想いをぶつけていた。

 

 

観客席

 

「わかってはいたけどやっぱり強いわね火影」

セシリア

「ええ。それに一夏さんもなんというか…楽しそうですわ」

「確かに…。一夏だけじゃない、火影もそう見えるわ。まるで一夏が成長しているのが嬉しそうね」

ラウラ

「……」

 

 

控室

 

「…すごい…」

海之

「…あいつら楽しそうだな」

 

 

アリーナ

 

箒とシャルロットの闘いは続いていた。

シャルロットはライフルとショットガンで距離を取りながら。箒はそれを全てではないが避けながらなんとか接近戦を挑もうとしていた。

 

「くっ!流石はシャルロット!実力と専用機持ちは伊達ではない。だがこちらも負けられないんだ!」

ドンッ

 

そう言うと箒は瞬時加速でシャルロットに迫った。ダメージ覚悟で急な瞬時加速を行った事はシャルロットの意表を突く事になった。

 

シャルロット

「!!」

「おおぉぉぉぉ!!」

 

バキィィィン!!

 

箒の刀が直撃し、シャルロットが吹き飛ばされる。

 

シャルロット

「うわぁぁぁぁぁ!!」

「もらったぁぁぁぁ!!」

 

箒が更に追撃を行ってとどめを刺そうとする。

 

シャルロット

「!火影…ごめん!」

 

シャルロットが目を瞑る。やがて刀が振り下ろされ…

 

ガキィィィィン!!

 

シャルロット

(………あれ?僕…?)

 

斬られていないと感じたシャルロットは目を開けた。

そこには、

 

シャルロット

「!!」

「なっ!?」

火影

「ふぅ」

 

火影がリべリオンで箒の刀を受け止めていた。一夏の隙をついて火影は瞬時加速で駆け付けた様だった。

 

シャルロット

「ひ、火影!何時の間に!?」

火影

「言ったろ?危なくなったら助けるってな」

シャルロット

「!」

 

その時遠くから一夏が瞬時加速で迫って来た。

 

一夏

「うおぉぉぉぉ!!」

火影

「シャル。あとは頼んだぜ」

バキンッ!

「くっ!」

 

火影は箒を撥ね退けると再び一夏に向かっていった。

 

シャルロット

「……」

「くっ!まさかあの距離から来るなんて…」

シャルロット

「…また助けてもらっちゃった。…僕も火影を助けたい!勝負だ箒!」

「望む所!」

 

ドンッ!ドンッ!

 

箒もシャルロットも刀と剣に持ち替え、互いに瞬時加速で向かっていく。

 

箒・シャルロット

「「はぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

キィィィィィィィン!!

 

…両者のSEは共にゼロになり、相打ちとなったのであった。

 

 

一方、火影と一夏の闘いも大詰めを迎えていた。これまでダメージゼロの火影に対し、一夏のダメージは大きかった。

 

一夏

「ハァ、ハァ…」

火影

「どうやらシャルと箒は引き分けた様だな。一夏、俺(本気)達もそろそろ決めようか」

 

そういうと火影はリべリオンを構える。

 

一夏

「ハァ、ハァ…。へへっ、火影、やっぱお前強いよ。はっきり言って無茶苦茶だ。とても今の俺じゃ敵わねぇ…。だがよ、ただじゃ終わらねぇ。最後の最後にせめて一撃でも当ててやるぜ!」

 

そう言うと一夏も雪片弐型を構える。

 

火影

「良いぜ。もし俺に一撃でも当てられたらとっておきのピザ食わせてやる」

一夏

「いいねぇ。その言葉後悔するなよ!」

 

そして、

ドンッ!ドンッ!!

 

二人は瞬時加速で突撃した。

 

火影

「おらぁぁぁぁ!」

一夏

「はぁぁぁぁぁ!」

 

バキィィィィィィィィン!!

 

互いがぶつかり、一瞬激しい閃光が起こる。

 

会場

「「「「!!!」」」」

 

…やがて閃光が消え、観客が見たものは、

 

火影

「……」

一夏

「……」

 

火影が一夏に肩を貸している様子だった。

 

一夏

「はぁ~やっぱり負けかぁ~。せめて一撃でも当てたかったよなぁ」

火影

「一夏、これ見てみろ」

一夏

「えっ?…あっ」

 

見ると火影の腕に良く見ないとわからない位のかすり傷ができていた。

 

一夏

「これって…」

火影

「こんなんじゃとても一撃とは言えないが、一撃には違いない。約束通り今度ピザ食わせてやる」

一夏

「……へへっ…、とっておきのやつ頼むぜ…」

火影

「ふっ」

 

 

地上では、

 

「…一夏」

シャルロット

「一夏嬉しそうだね、なんか」

「ああ…」

 

 

観客席

 

セシリア

「一夏さん、笑っている様に見えますわ」

「まあアイツにしては頑張ったじゃん。でもまぁ火影にはまだまだ及ばないけどね♪」

ラウラ

「……あれもひとつの強さか…」

 

 

控室

 

海之

「…ふっ」

「海之くん、今笑った?」

海之

「俺も人間だからな。…さて簪、俺達も準備に入ろうか」

「あっ、うん!」

 

こうして一回戦は火影・シャルロットの勝利で終わった。

なお、このしばらく後に行われた海之・簪の初戦は二人の圧勝で終わった。火影と海之それぞれのペアはその後の試合も順調に勝ち上がり、決勝まで進んで行くのであった。




※次回、新たな展開です。


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Mission50 異形襲来

タッグトーナメント一回戦。
それは火影・シャルロットペアと一夏・箒ペアの勝負であった。

一夏は火影に全力で向かっていくがやはり火影に全て弾かれる。だが一夏は全力で戦える事を楽しく感じていた。
一方箒はシャルロットと激突。一夏を助けたいという思いから一時はシャルロットを追い詰めるがそこに火影が介入し、シャルロットを救う。シャルロットもまた火影の思いに感謝し、箒と一騎打ちを展開。結果引き分ける。
火影と一夏も最後の一騎打ちを展開。結果は火影の勝利で終わるものの傷ひとつ与えられた事に一夏は満足そうであった。


火影・シャルロットが一夏・箒ペアに勝利し、トーナメントは続いていた。火影・シャルロットペアは第2、第3試合を危なげなく勝利し、順調に決勝まで勝ち進んだ。トーナメント後半で出番となった海之・簪ペアも初戦を危なげなく勝利し、やはりこちらも順調に勝ち進んでいた。

ほとんど圧倒的ともいえる彼等の強さに観客(主に海外からの客)の中には自らの国の代表候補生や企業のテストパイロットを難なく倒していく彼等の姿に言葉を失っている者も多かった。

そして…、

 

管制塔

「それではこれより、火影・藤原・エヴァンス、シャルロット・デュノアペアと、海之・藤原・エヴァンス、更識簪ペアによる決勝戦を行います!」

 

 

観客席

 

ワアァァァァァァァァァァ!!

 

「予想はしてたけどやっぱりこの組み合わせになったわね!」

セシリア

「ええ。思った通りですわ」

一夏

「やっぱり強いなぁあいつら。全然危なげなく勝ち進んで行ったもんな」

「ああ。だが一夏、お前も大したものだ。火影に一撃入れられたんだろう?」

一夏

「一撃つってもかすり傷だけどな。でも正直に嬉しかったぜ」

セシリア

「一夏さんも成長されているという事ですわ!」

「そりゃ少しは成長してくれなければ困るわよ」

ラウラ

「……」

 

 

管制塔

 

一方こちらも感想は似た様なもので。

 

真耶

「少なからず予想はしていましたが…、やっぱりこういう結果になりましたね」

千冬

「ああ。正直あまり驚く事はないな。だが一夏の成長ぶりは少し驚いたが」

真耶

「やっぱり先輩も心配だったんですね。でも一夏くんも確かに強くなっていると思いますよ」

千冬

「当然だ。それ位なってもらわなければ困る。まぁ海之や火影には一生及ばないかもしれんが」

真耶

「ふふ。でも先輩嬉しそうですよ?」

千冬

「…気のせいだ」

 

 

ある教室

 

簪に似た少女

「やっぱりこうなったわね。エヴァンス兄弟による決勝戦に。しかもあの青いIS。海之くんだっけ?あの子のパートナーが簪ちゃんなんてね。あの子も変わったわね。自分から「訓練機でも良いから出たい!」って言い出したって聞いた時、少し吃驚しちゃった…」

女性

「お寂しいですか?お嬢様」

少女

「う~ん、半々かな」

本音

「正直じゃないな~かっちゃんも~」

 

 

アリーナ

 

火影

「やっぱりお前か」

海之

「当然だ。所でお前一夏に傷を付けられたらしいな?腕が落ちたか?」

火影

「ちげーよ。あいつも強くなってるってこった。まぁ嬉しくもあるがな。お前もだろ?」

海之

「…さあな」

 

兄弟が話している中、シャルロットと簪も話していた。

 

「シャルロット。君も強いね。流石はフランスの代表候補生だよ。でも…それ以上に何か…火影くんの力になりたいという思いがそうさせてるのかな?」

シャルロット

「…うん、まあね。僕は火影に救われた。まだ会って一ヶ月位なのにたくさん救われたんだ。だから僕も火影の力になりたいって思った。簪も同じなんじゃない?積極的に海之のサポートをしてたじゃない」

「…うん。海之くんに出会ってなければまだ何も変われてなかった。海之くんは私を変えてくれた。力になってくれた。だから…少しでも恩返しがしたいの」

シャルロット

「ふふっ、似た者同士だね僕らって!」

「…そうだね!」

 

やがて、

 

管制塔

「それでは決勝戦を開始してください!」

 

~~~~~~~~~~~

 

4人はそれぞれの武器を構える。そして火影と海之がぶつかろうとしていた。……その時、

 

 

バリィィィィィィィィン!!

 

 

会場内の全員

「「「「!?」」」」

 

突然アリーナ全体の気が揺れた様な気を感じた。

 

海之

「!…上だ!みんな避けろ!」

火影

「ちっ!」

シャルロット

「えっ!?」

「きゃあ!」

 

ドオォォォォォォォンッ!…パラパラッ

 

何かが空から降って来たのか、地響きの後に強烈な砂埃が巻き起こる。

その影響で観客席の一部は騒がしくなっていた。中には既に退避を始めている者も見える。

 

火影

「大丈夫かシャル?」

シャルロット

「う、うん。ありがとう火影…」

海之

「簪、怪我はないか?」

「ありがとう、海之くん。…でも一体何が?」

 

その場の4人は落ちて来た物が何かわからなかった。少しずつ砂埃が晴れていき…それが姿を現した。

 

シャルロット・簪

「「!!」」

火影

「!…おいおい」

海之

「……!」

 

それはあまりに異形なものであった。

八本の巨大な脚。サソリの様な巨大な尾らしきもの。全身黒い機械造りで関節部からは赤い光が漏れ、口部にはレーザーの発射口らしき物がある。一見するとそれは巨大な…機械の蜘蛛であった。

 

機械蜘蛛

「グアァァァァァァァァァァァ!!」

シャルロット

「な、なにこいつ!?」

「き、機械の…蜘蛛!?」

火影・海之

「……」

 

驚いている二人に対し、火影と海之は意外なほど冷静であった。それはまるで……それがなんなのか知っているかのように…。

 

 

観客席

 

機械蜘蛛が咆哮を上げると観客席はパニックになっていた。

 

セシリア

「な、な、なんですのあれは!?」

「く、蜘蛛の化け物!?」

「なんて異形な姿だ…あんなもの見たこと無いぞ!」

一夏

「止まっている場合じゃねぇ!みんなを避難させるぞ!」

ラウラ

「…なんだあれは…あれもISなのか…!?」

 

 

管制塔

 

千冬

「山田先生!急いで会場の全員に避難指示を!」

真耶

「は、はい!で、でも先輩、一体アレは!?」

千冬

「…私にもわからない。あんなものは見たことがない…。でも今は会場の人々の避難が先だ。急げ!」

 

 

ある教室

 

少女

「簪ちゃん!!」

女性

「落ち着いてくださいお嬢様!今行けばお嬢様まで危険です!」

少女

「だけど!」

本音

「大丈夫だよかっちゃん!ひかりんやみうみうが守ってくれるから!絶対に大丈夫だから!」

少女

「…簪ちゃん…」

 

少女はモニターを見つめるしか無かった…。

 

 

アリーナ

 

機械蜘蛛

「グアァァァァァァァ!!」

ドンッ!!

 

その蜘蛛は突然飛び上がり、急降下してきた。

 

火影

「みんな避けろ!」

 

ドオォォォォォォォォン!!

 

機械蜘蛛はその身体で押しつぶそうとしていた様だ。

 

「あ、危なかった…」

火影

「…シャル、簪。二人は避難しろ」

シャル

「えっ?」

海之

「奴は俺達が何とかする。お前達は下がれ」

「そ、そんな事!」

 

~~~~~~

その時全員の通信が鳴った。千冬、真耶からだった。

 

真耶

「皆さん聞こえますか!?急いで退避してください!あとは私達が」

火影

「…山田先生。それは難しそうです。あいつは既に僕達をターゲットにしてる様なんで」

海之

「俺と火影で何とかします。ですから先生方は待避してください」

真耶

「そんな事できるわけありません!」

 

そこに千冬が割って入って来た。

 

千冬

「…海之、火影。……お前たちなら…やれるのか?」

海之

「ご心配なく」

火影

「はい」

 

二人は迷い無く答えた。そんな二人に千冬は、

 

千冬

「………わかった。任せる」

真耶

「先輩!?」

千冬

「…真耶、二人を信じよう」

真耶

「でも…」

海之

「ありがとうございます。大丈夫です先生。もう通信を切ります」

 

そう言ってふたりは戦闘態勢に入る。

 

火影

「シャル、簪。二人は」

シャルロット

「嫌だ!」

火影

「…シャル?」

 

シャルロットも簪もそれぞれの銃を構えた。

 

シャルロット

「僕達も戦う!今の僕達はパートナーでしょ?」

「シャルロットの言う通りだよ。二人が戦うなら…、私達も戦う!」

海之

「…」

火影

「へっ。大したもんだ。頼りにさせてもらうぜ」

シャルロット・簪

「「うん!」」

 

 

…………

 

管制塔

 

一夏

「千冬姉!!火影達は!?」

千冬

「……」

真耶

「火影くん達は…あれと戦うって…」

「そんな!たった四人で!?」

セシリア

「そんなの無茶ですわ!」

「…火影、海之…」

一夏

「くそ!俺も戦えれば…!」

「一夏…」

 

 

アリーナ

 

火影、海之、シャルロット、簪は謎の蜘蛛に対峙していた。

 

火影

「二人とも聞け。奴を甲虫と考えたら弱い所はどこだと思う?」

シャルロット

「甲虫ってカブトムシとかの事?う~ん、身体の表面は固いから…顔とかお腹とか?」

海之

「正解だ。奴の装甲は並みの攻撃では弾かれるだろう。攻撃が通るとすればあのレーザー発射口がある頭部、もしくは腹だろうが腹を狙うのは難しいだろう」

「じゃああの頭部を狙うしかないってことだね」

火影

「そうだ。俺と海之で狙うから2人は援護を頼む。攻撃し続けて動きを止めてくれ」

シャルロット

「うん!」

「わかった!」

海之

「いくぞ」

 

四人は機械蜘蛛に向かっていった。

 

機械蜘蛛

「グアァァァァァァ!!」

スダダダダダダダダダッ!

 

蜘蛛の頭部から機関銃の様なものが発射されるが、火影も海之もそれを無駄の無い動きで避ける。

 

火影

(こんなものまで付いてるのか…。あの野郎には無かった。…機械だからか?)

 

火影と海之が注意を引いている間に敵の左右からシャルロットと簪がライフルとミサイルで攻撃を仕掛ける。

 

シャルロット

「はぁぁぁぁ!!」

ズダダダダダダダッ!

「いっけえ!」

ドドドドドドドドッ!

 

ボガアァァァァァァァン!!

 

機械蜘蛛

「グアァァァァァァ!!」

 

ダメージは小さい様だが両側からの攻撃による衝撃は伝わった様で姿勢が崩れる。

だが今度は自らの脚を上げて二人に襲いかかって来た。

 

シャルロット・簪

「「!!」」

 

ズダダダダダダダダダッ!

ズガガガガガガガガガッ!

 

機械蜘蛛

「グオォォォォォォォ!!」

 

だが攻撃は通らず敵の方が銃弾の嵐と斬撃を受けた。

見ると蜘蛛の攻撃を避けながら火影がエボニー&アイボリーで、海之が次元斬で二人を守っていた。

 

シャルロット

「火影!」

「ありがとう海之くん!」

火影

「気にすんな」

海之

「お前達に手出しはさせん」

機械蜘蛛

「…グアォォォォォ!」

 

見ると蜘蛛は砂埃に紛れて今度は尻尾を振り回して攻撃してこようとした。

 

シャル

「! また来るよ!」

 

…しかし、

 

キィィィィン!!

 

全員

「「「「!」」」」

 

突然繰り出されようとしていた尻尾が止まった。

 

シャルロット

「止まった…?」

「…!ねぇ、あれ!」

 

簪はある方向を見て指さした。そこには、

 

火影

「!…ほう」

海之

「お前は…」

ラウラ

「……」

 

レーゲンを纏い、AICで尻尾を止めているラウラがいた。

 

ラウラ

「今だ!」

火影

「シャル!簪!」

シャルロット・簪

「「はあぁぁぁぁぁ!!」」

 

ズダダダダダダダッ!

ドドドドドドドドッ!

 

ボガアァァァァァァァンン!!

 

機械蜘蛛

「グオォォォォォォォォォ!!」

 

蜘蛛は大きくバランスを崩した。

それを見た二人はリべリオンと閻魔刀を構え、突進した。

 

火影

「はあぁぁ!」

海之

「おぉぉぉ!」

 

ドスッ!ドスッ!

 

機械蜘蛛

「グアァァァァァ!!」

 

レーザー発射口に剣を刺した。そして、

 

火影

「でえぇぇりゃぁぁぁ!」

海之

「むんっ!」

 

火影はキックを、海之は掌底を当て、剣を敵の体内に押し込んだ。

 

ズガガガガガガガガガガガッ!!ドスッ!ドスッ!

 

2本の剣は敵体内を傷つけながら進み、やがて反対側から突き破って飛び出してきた。そして帰還機能で二人の手元に戻る。体内を大きく傷つけられたそれはもはや文字通り虫の息であった。

二人は距離を取り、火影はエボニー&アイボリーを展開する。

 

シュバババババババ!

 

機械蜘蛛

「グオォォォ」

スダダダッ!バシッ!

 

最後のあがきか蜘蛛は機銃で火影の手からエボニーを弾き飛ばす。しかし、

 

パシッ!

 

海之がそれを受け止めた。二人は銃口を向ける。

 

海之

「まさかこっちでもアレを言うのか?」

火影

「決め台詞だからな。覚えてるか?」

海之

「…ふっ」

 

そして二人は背中合わせになり、揃って言った。

 

 

火影・海之

「「JACKPOT!」」

 

 

ドギュゥゥゥゥゥゥン!!

 

ガガガガアァァァァァァァン!!

 

二人の銃口から放たれた赤と青のビームは機械蜘蛛の頭部を直撃。跡かたも無く大破した。

 

海之

「やはり品のない台詞だ」

火影

「そういうなって」

シャルロット

「火影!」

「海之くん!」

火影

「二人ともよくやったな」

シャルロット

「ううん。僕らは守ってもらってばかりだった」

「本当にね」

ラウラ

「…」

海之

「ボーデヴィッヒ」

ラウラ

「!」

海之

「お前にも助けられた。礼を言う」

火影

「サンキューな」

シャルロット

「ありがとうね」

「ありがとうございます」

ラウラ

「!…いや…あの」

 

ラウラは照れている様だった。

 

 

管制塔

 

一夏

「…終わった…のか?」

「…らしいな」

真耶

「ハァ~!!どうなるかと思いました~!!」

セシリア

「まさか本当にあんな怪物を倒してしまうなんて…」

「あら、私は全く心配してなかったわよ。火影と海之だもん」

一夏

「うそつけ。ずっと小声で「火影、火影」って言ってたじゃねぇか」

「なっ!!大きな声でバカ言ってんじゃないわよ!」

千冬

「ふざけた事ばかり言っている場合ではない。直ぐに四人に救護班を送れ」

真耶

「は、はい!」

千冬

「………」

(こんな状況下でもあの冷静さと戦いぶり。…やはりあの二人は…私達とは違う…もっと別の何か…)

(…やはり…欲しい。私にも戦える力が…)

 

妙な予感がしていたのは火影たちも同じだった。

 

火影

(海之。今はダンテとして話す。…あいつは…)

海之

(ああ…。先の黒騎士型のISと同じく、似ている…。奴の配下に…)




※Mission50にしてようやくあの決め台詞を出せました。

私事ですがDMC3で一番好きなシーンはバージルがダンテに「決め台詞を覚えてるか?」と訪ねられた時に笑う所です。


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Mission51 自分にできる事

火影・シャルロットペアと海之・簪ペアによる決勝戦。
しかし試合開始直後に謎の襲撃を受ける。それは巨大で機械造りの蜘蛛の様なあまりにも異形な存在であった。
火影と海之は自分達で撃退すると千冬達に進言。シャルロットや簪も協力を志願する。ラウラの協力もあって撃退に成功し、とりあえず一安心する一同。しかし火影(ダンテ)と海之(バージル)には気になる事があった。

「あれは似ている…。奴の配下に…」


タッグトーナメント決勝戦は謎の襲撃者の乱入という思わぬ形で中止となった。襲撃者を撃退した火影達は今食堂で休憩を取っている。ついでに本音も加わって。

 

火影

「やれやれ。まさかあんな事になるなんてな」

シャルロット

「でも被害も大したこと無くて良かったよね。なんとか倒す事もできたし」

本音

「そーそー。ひかりんもみうみうもシャルルンもかんちゃんもみんなカッコよかったよ~!」

「ほ、本音!」

一夏

「だけど結局優勝とかは無くなったみてぇだな。まぁ無理もねーけど」

「うむ…」

「それにしてもどこから来たのかしらあいつ。まるで突然降って来たように見えたけど…」

セシリア

「そうですわね。先生方も接近に気付かなかったと仰っていましたし…」

海之

「……」

「海之くん?」

海之

「ああすまん。なんでもない」

「?」

 

彼らが会話しているその一方で女子達が集まって何やら話している。

 

「優勝…無くなった…」

「ということは…あの約束も無効…」

「そんな~…」

 

なにやら酷く落ち込んでいる。

 

火影

「…なんだあいつら。それに約束って…優勝したら何かあったのか?」

セシリア

「え、えっとですね…」

「う~んと~…」

シャルロット

「簪は知ってる?僕ちょうどその時色々あったから知らないんだ」

「ううん、私もトーナメント用の機体の調整で忙しかったから…」

本音

「わたしも~」

 

その時一夏が箒に話しかける。

 

一夏

「ああそういえば約束で思いだした。箒。お前のあの約束、守っても良いぜ。付き合う事」

「…へっ!?」

セシリア

「!!!」

シャルロット

「そ、それってまさか!?」

本音

「ほえ?」

火影・海之・鈴

「「「……」」」

一夏

「いやだから付き合っても良いって…ぐあ!」

 

一夏のその言葉を聞くや否や箒は一夏の胸倉を掴んで近づけた。

 

「本当か!本当だな!?」

一夏

「あ、ああ。優勝はできなかったけど幼馴染の頼みだからな。それ位聞いてやるさ」

「そ、そうか!やっと、やっと分かってくれたか!!」

一夏

「ああ付き合うさ、買い物位」

 

…………沈黙。

 

ドゴッ!

 

一夏

「ぐほっ!!…な、なんで…」

バタンッ

 

見事に箒のアッパーが顎に決まり、一夏は気絶してしまった。

 

「…期待した私が馬鹿だったわ!フンッ!先に部屋に戻る!」

 

そう言うと箒はさっさと行ってしまった。

 

「…えっ?えっ?」

シャルロット

(…鈴。一夏ってさ。わざとじゃないよね?)

(であればみんな今頃苦労してないわよ。箒もセシリアも、前の私も)

セシリア

「ほっ…」

火影・海之・本音

「「「ハァ…」」」

 

その時真耶が入って来た。

 

真耶

「織斑くん火影くん海之くん!朗報…ってどうしたんですか織斑くん!?」

火影

「ちょっと天罰が当たっただけです。それより朗報って?」

真耶

「そ、そうですか。で、では。喜んでください。とうとう男性陣もお風呂が解禁されました!」

火影

「そうなんですか。良かったな海之。お前は風呂派だもんな」

海之

「余計な事は言わんで良い」

真耶

「今日は本当は違うんですが、二人共闘いの疲れを取ってほしいという事で特別に使えますから是非入ってくださいね。お湯も新しくしますので」

火影・海之

「「ありがとうございます」」

 

 

…………

 

その日の夜、大浴場にて。

あの後気絶からさめた一夏にも事情を説明し、三人は風呂に入っていた。

 

一夏

「いたた、まだいてぇよ。ったく箒の奴約束守るって言ったのになんであんなに怒るんだよぉ。おまけに今も不機嫌だし…」

火影・海之

「「ハァ…」」

 

今日はえらくため息が多い二人。

 

一夏

「まあ折角の風呂なんだからそれは置いといて堪能するか。…にしてもお前ら、髪下ろしたら本当に目の色しか違わねぇじゃん」

火影

「…このリアクション何回目だろうな?」

海之

「さあな」

一夏

「そういえば二人ってスメリア人と日本人の夫婦に育てられたんだよな。どんな人だ?」

海之

「…そうだな。良い人だったよ」

一夏

「だったって…?」

火影

「…死んだんだ。9年前の飛行機自爆テロに巻き込まれて」

一夏

「!…悪い…」

火影

「気にすんな、もう過ぎた事だ。因みに一夏の両親ってどんな人なんだ?」

一夏

「う~ん、実は知らないんだ」

火影

「…?」

一夏

「俺と千冬姉の両親は俺が赤ん坊の頃に突然いなくなったらしいんだ。だからどんな人なのかもわからない。千冬姉も話したがらないからな」

海之

「…」

火影

「こっちこそ嫌な事を思い出させちまった」

一夏

「気にすんなって。俺には千冬姉もいるし。他にも良くしてくれる人がいるからな」

火影

「そうか。良かったな」

一夏

「ああ。ところで今の話を聞いて思ったんだが…、二人が三ヶ月前の旅客機の事故を防いだのはもしかしてそういった理由で?」

火影

「ん?ああ、飛行訓練していたらたまたまあの旅客機が落ちそうなのに出くわしてな。気付いたらそうしてた。今思えば無茶したもんだなと思ってるよ」

一夏

「でもすげえよ。下手すりゃ自分達の命が危なかったかもしれねぇのにさ。俺ならとても無理だ」

海之

「…それで良いんだ」

一夏

「えっ?」

海之

「俺達にしかできない事がある。そして、お前にしかできない事もある。お前はお前ができる事を精一杯やれば良い」

一夏

「俺にしかできない事…?」

火影

「その通りだ。そしてそれはお前にしか見つけられない。とは言っても焦ろうとすんなよ?ゆっくり探せば良いさ。…さて、僕はそろそろ上がるぜ」

海之

「俺も出るか…。じゃあな一夏」

一夏

「……」

 

一夏はそれからも暫く考えていた。

 

 

…………

 

翌日、SHR。

 

一夏

「…………」

 

一夏はのびていた。

 

セシリア

「どうしましたの一夏さん?」

一夏

「…気にすんな…ただの湯疲れだ…」

火影

「どんだけ浸かってたんだよお前」

一夏

「約2時間…」

シャルロット

「そりゃふやけちゃうよ…」

海之

「ハァ…」

 

そこに千冬と真耶が入って来た。

 

千冬

「みんなおはよう。昨日は思わぬ事態が起こったため、みんなさぞ驚いた事と思う。先のクラス対抗戦に続いて今回の不祥事、学園の人間としてただただ申し訳ない。学園としては引き続き更にセキュリティを固めていくつもりだ。そして同時に如何なる事態が起こっても、全員が慌てずしっかりとした対処と行動ができる様更に励んでもらいたい。いいな!」

生徒達

「「「はい!」」」

真耶

「頑張ってくださいね。さて、では授業を始めて行きますがその前に皆さんに一つご報告があります。…では入って来てください」

 

ガラッ

扉を開けて一人の生徒が入って来た。

 

生徒達

「「「!」」」

一夏

「あっ…」

火影

「……」

海之

「…ボーデヴィッヒ」

ラウラ

「……」

 

入って来たのはラウラだった。

 

千冬

「ボーデヴィッヒが全員に伝えたい事があるそうだ。話して良いぞ、ボーデヴィッヒ」

ラウラ

「はい。…みんな本当にすまなかった。これまでの罵詈雑言そして暴力まがいの数々。どうか…許してほしい。これからは心を入れ替え、クラスメートとして一緒に頑張って行きたいと思う。私の事は今後名前で呼んでほしい。どうか宜しく、お、お願いします」

 

そう言うとラウラは頭を下げた。それを見て生徒達は、

 

「宜しくねラウラちゃん♪」

「最初はちょっとこわかったけど、もう気にしなくて良いよ」

「仲良くしようね♪」

 

ラウラ

「あ、ありがとう…。あと、織斑一夏。お前には転校初日から悪い事をした。すまなかった」

一夏

「あ、ああ。もう良いって。宜しくなラウラ」

ラウラ

「ああ宜しく。そしてオルコット、お前にも酷い事をしてしまった。どうか許してほしい」

セシリア

「…もういいですわ。皆さんが許しているのに私だけ許さない訳にはいきませんもの。あと私も名前で構いませんわ」

ラウラ

「わかった、セシリア」

千冬

「…ボーデヴィッヒ。一番謝らないといけない者がいるだろう?」

ラウラ

「わかっています。教官」

 

そう言うとラウラは海之に近づき、

 

ラウラ

「海之。お前には本当にすまない事をした。そして今の私がこうしているのもお前のおかげだ。…ありがとう」

海之

「気にしなくて良い」

ラウラ

「だから…私は決めた」

海之

「? 決めたとはな…!」

千冬・真耶・生徒

「「「!!!」」」

 

ラウラは海之に口付けていた。そして、

 

ラウラ

「お前を私の嫁にする!これは決定事項だ!異議は認めん!」

海之

「……俺は男だが?」

生徒

「「「普通に返したー!」」」

 

するとラウラは今度は火影を指さして言った。

 

ラウラ

「それから我が弟よ!」

火影

「……もしかして僕の事か?」

ラウラ

「当然だろう。お前は私より年上らしいが海之は私の嫁だ。お前が海之の弟なら私にとっても弟だ!だが様々な点でお前は姉である私より優れている。宜しく頼む。あと私を姉上と呼べと言いたいところだが名前で良いぞ!」

火影

「…はは。ああ宜しくラウラ。あと…頑張れよ、海之」

海之

「ハァ…」

千冬

「ボーデヴィッヒ!バカな事言ってないで早く席に着け!」

 

今日も騒がしい一日が始まる。

 

 

…………

 

束の移動研究所

 

一方その頃、火影と海之から魔具の設計図を受け取り開発を依頼されていた束は開発を進めていたと同時に、ラウラのVTシステムやタッグトーナメントに出てきた謎の物体についても既に知っていた。

 

「…一体何なんだろうねあれは?あんなブッサイクな物もISというなら造った奴の美的感覚を著しく疑っちゃうね。と言ってもあれからもコア反応が感知できなかったし、もしかしたらちーちゃん達が言ってたバッテリーで動いていたってゆう奴と同じなのかもしれないね。全く腹立つ話!

あとあのVTシステム!この束さんが造ったISになんて事してくれてるんだろね。仕返しにドイツからコアぶん盗ってやろうか?…でもちょっと気になるのはあのすぐ後にVTシステムを造ってた研究所が木端微塵に吹っ飛んじゃったことだね~。ドイツの馬鹿どもが必死でもみ消して世界には知られてないけど…もしまた同じことしたら束さんが世界中をジャックしてリークしてやる!

さて、ムカつく話はそろそろ置いといてひーくんとみーくんの依頼を再開しますか♪

改めて見るとやっぱり凄いね~。特にあの「デビルブレイカ―」だっけ?拡張領域に入れておくのでも展開する訳でもなくグローブみたいに腕に付けるだけなんだものね~♪」

 

~~~~~~~~~

すると束の電話が鳴った。

 

「はっ!この呼び出し音を登録している相手はこの全宇宙でただ一人!」バビューンッ…ピッ「はいはいひねもす~!みんなのアイドル、束お姉さんだよ~!ずっと待ってたよ~!」

「…姉さん」

「何もいうでない妹よ!分かってるよ!箒ちゃんの考えている事は「1+1=2」という答え位分かってるよ!力が欲しいんだね!いっくんと一緒に戦うために!既に準備してあるよ~♪」

 

はたして箒の依頼とは?





原作では風呂イベントでしたがどうも苦手で書けませんでした。ごめんなさい。
魔具ではないですがデビルブレイカ―も出します。


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Extramission02 双子 脅す

これはトーナメントが終わってから食堂で過ごすまでにあったお話です。

UAが30000到達しました!ありがとうございます。


IS学園会議室にて。

 

「どうか君達の話を聞かせてほしい!」

「おい!あんた達だけずるいぞ!」

「私が先だ!飛行機を待たせてるんだからな!」

「ねぇ女の私が先でしょ!?」

 

火影・海之

「「……」」

千冬

「…すまん二人共…」

真耶

「ごめんなさい…」

 

一体何でこうなったのかというと時は数分前に遡る。

トーナメント決勝にて謎の機体を破壊した火影達は医務室で検査を受けていた。だが全員たいした怪我等もなかった事もあって必要以上の検査を受ける事も無く、僅かな検査で火影と海之は解放された。シャルロットと簪はもう少しかかるそうだ。その間火影と海之は千冬に報告に行こうとしていた所、今回の騒ぎに巻き込まれた。

質問しているのは海外から視察やスカウトに訪れた客人達。先ほどの騒ぎで一目散に逃げていたのだが、無事解決したとわかるとすぐに戻って来ていた。その狙いは火影と海之であるのは言うまでも無い。二人は心底迷惑そうであった。

 

火影・海之

「「……」」

 

「頼む!君たちのISを見せてくれ!」

「いや是非私の国に来てくれ!最高の待遇を約束しよう!」

 

彼らの勢いは収まる気配は無かった。

 

千冬

「…二人共、気にしなくて良いぞ。これは」

火影

「良いですよ」

千冬

「!?火影!」

真耶

「火影くん!?」

 

そう言うと火影は自身のアミュレットを外して見せた。

 

男性1

「おおこれが君のISか!」

火影

「ええ好きなだけ調べてください。ただひとつ条件があります」

男性1

「何かね!報酬なら幾らでも」

 

すると火影は言った。

 

火影

「今ここで調べてほしいんです。あなた方の端末で」

男1

「えっ?今ここでかね?」

火影

「ええ」

 

ある男性は火影の意外な言葉に少し驚いた様子だ。それを聞いた別の男が言った。

 

男性2

「では私がやろう!飛行機を待たせてるんだ!」

 

そういうと男はそのアミュレットを奪って隣の小部屋に移動した。

 

千冬

(火影…、どういうつもりだ?)

火影

(……)

 

 

…………

 

数分後。男が出てきたのだが、

 

男性

「………」

 

何故か酷く落ち込んで帰って行った。しかも自分の端末を放っておいて。

 

千冬

「…なんだ?」

真耶

「な、なんか酷く落ち込んでおられましたね…」

 

火影

「さて…。次は何方か御調べになりますか?」

女性

「では私が!」

 

そういうと次はある女がアミュレットを調べ出したのだ。

そして数分後、

 

女性

「…………」

 

女は先の男と同じ様にが顔色悪く帰って行った…。

その様子に流石に他の連中も少し動揺しているようだ。

 

真耶

「い、一体なんなんでしょうか…?」

海之

「山田先生。その端末を調べてみてください」

真耶

「えっ!で、でもよその方の端末を…」

海之

「大丈夫です。もういらないみたいですから」

真耶

「う~…、で、では。えっと…!?」

千冬

「山田先生、どうしました?」

真耶

「…無くなってます。データも、HDDも、プログラムが全て消滅しています…」

客人達

「「「!!」」」

千冬

「なんだと…?」

 

するとアミュレットを再び首にかけ直した火影が言った。

 

火影

「そうそう。言い忘れてたが、俺(本気)とこいつのISはちょっと変わった機能があってな。無理にアクセスしようとすっと、アクセス側に自動的にウィルスを送りこむんだ。アクセス側にあるデータを文字通り根こそぎ、きれいさっぱり消滅させるウィルスをな」

男性

「なっ!?」

海之

「お前達は運が良い。もしこいつを国や会社のコンピュータで調べていたらほんの2、3分でウィルスが蔓延していただろう。中枢にまで入り込み、下手すれば国の存亡に関わっていただろうな」

女性

「そ、そんな…」

火影

「因みにこのウィルスを止める手立てはねえ。いったん流れてしまったら全てを食いつくす。後に残るのはただの置物だ」

 

その言葉に客人はみんなすっかり沈黙してしまった。そこに更に火影が追い打ちをかける。

 

火影

「折角だ。もう一つ良い物を見せてやるよ」カッ!

 

そういうと火影はアリギエルの腕部分だけを展開し、

 

火影

「先生。何か刃物ありませんか?はさみとかカッターとか」

千冬

「…!お前まさか」

火影

「実際見せるのが一番説得力ありますから」

千冬

「…ハァ、確かにな。ほら」

 

そういうと千冬は部屋の机の引き出しからカッターを取り出して火影に渡した。そして火影は、

 

ブスッ!

それを自らの腕に刺した。

 

客人達

「「「!!」」」

 

みな声を失っていた。とても信じられないという表情だ。

 

火影

「見ての通りだ。こいつは普通のISじゃねえ。ある意味最悪の失敗作だ。あんたらこんな物造りたいと思うか?」

 

火影の言葉はある意味正しかった。通常のISなら身体を貫通する事等ありえない。これは今は人間とはいえ火影(ダンテ)や海之(バージル)だからこそ扱えるものであって、他の者では全く使えないだろう。まさにある意味究極の失敗作だ。

 

海之

「お前達はこんな危険な物を歳場も行かない少女に使わせる気か?」

客人達

「「「……」」」

 

もはや何も言えなくなっている。

 

火影

「あと俺達のISはよそと違って国の所有じゃなくて俺達の所有物だ。つまり手に入れようと思えば俺達から奪うしかねえ。最もそうなったら…当然対応はさせてもらうがな?」

海之

「実力行使以外にも…人質をとって交換という手段も考えられるが、もし俺達の大切なものに手を出せば…。話はこれで終わりだ」

 

そして、

 

火影

「消えな」

海之

「失せろ」

客人達

「「「……」」」

 

火影と海之が昔の悪魔も怯むその目で睨みながら言うと、全員何も言わず顔面蒼白で出て行った。千冬と真耶も二人の様子に言葉を失っている様だ。

 

千冬・真耶

「「……」」

 

海之

「…」

火影

「ふう~。やっと静かになったな。…どうしました先生?」

千冬

「…お前達…本当に海之と火影か…?随分雰囲気が違ったが」

真耶

「すすす、凄い迫力でした…。こここ、怖い位に…」

海之

「大したことはありません。ああいう連中が嫌いなだけです」

火影

「だから少々脅しをかけました。多分もう大丈夫でしょう」

千冬

「…だろうな。あそこまで黙ってしまっては。しかし束位の技術力がなければ解析できないというのはそういう訳か」

火影

「ああでも、もし僕達の大切なものや学園のみんなに本当に手を出してきたら、本気で潰すつもりですけどね」

海之

「ええ」

千冬

「…お前らが言うと冗談に聞こえん」

真耶

「ほんとうです~…」

 

その時シャルロットと簪が入って来た。

 

シャルロット

「…すみません!遅くなりました!」

「…あの、ここに来る途中なんか大勢の人が力無く帰っていったんですけど…なにかあったんですか?」

火影

「気にすんな」

海之

「大したことは無い」

シャルロット・簪

「「?」」

 

シャルロットと簪は不思議そうだった。




※一瞬だけダンテとバージルに戻ったような二人の回でした。

このウイルスに名前をつけるとすればDMCウイルス、或いはDD(Devils・Die)ウイルスという感じでしょうか?


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第四章 Naval battle
Mission52 少女達は張り切る


謎の機体の襲撃を退け、火影や一夏達男性陣は解禁された風呂で身体を休めていた。三人は様々な話をして過ごしたが、一夏は海之に言われた「自分にしかできない事」というものについて考える様になる。
やがて翌日の朝のHR。生徒達を待っていたのはラウラの心からの謝罪だった。全員が彼女を許しスムーズに終わると思いきやラウラは海之を自分の嫁にすると宣言。またまたひと騒ぎ起こしてしまうのであった。
そしてその一方、箒は自らの姉である束に何かを依頼していた。


ラウラが海之を嫁にすると宣言した翌日の朝。とはいえまだ夜明けよりまだ少し早い時間帯。海之と簪の部屋に近づく誰かの影があった。

 

「……」

 

その影は部屋の鍵を巧みなピッキングで開けると物音立てない様に海之のベッドに近づく。反対側のベッドで眠る簪は眠りに落ちていて気付いていない。

 

「すぅ…すぅ…」

「……」

 

そしてその影が海之のベッドに手をかけた瞬間、

 

海之

「誰だ?」

「わっ!」

 

簪のベッドの頭側にある彼女の机の椅子から海之が影に声をかけた。歴戦の戦士である海之(バージル)にとっては気配を読む事等簡単であり、待ち構えていたらしい。影も簪の机に誰か座っているなんて思いもしなかったらしく、酷く驚いてつい声を上げてしまった。そしてその声に海之は聞き覚えがあった。

 

海之

「…ラウラ?」

ラウラ

「うぅ…」

 

影はラウラだった。

 

海之

「こんな時間になにしている?ここは俺と簪の相部屋だが?あとなんでシーツを纏っている?」

ラウラ

「そ、その…、昨日言った通り、お前は私の嫁だ…。私の副官に聞いたのだが…夫婦というのは包み隠さずすごし、更に一緒の布団で眠ると聞いてな…。だから…」

海之

「…お前の副官とやらがどんな事を言ったのかは知らんが、俺の両親は確かに同じ部屋で眠っていたが、お前が想像している様な事は一切無かったぞ?」

ラウラ

「そ、そうなのか…?」

海之

「ああ。だからばれないうちに戻れ。今のうちに戻れば安全だ」

ラウラ

「……」

 

ラウラは黙っていたがその裏にもうひとつ事情がある事に海之は何となく気付いた。

 

海之

「…どうした?」

ラウラ

「い、いや。実は…、私の部屋なんだが…、今私一人で使っていてな…。あの…」

海之

「……まさか、怖いのか?」

ラウラ

「い、いや。最初は何でもなかったんだ。ただ…最近自分の弱さを理解する様になってから、色々な物が全く違う様に感じる様になってな…。急に誰もいない部屋というのが…その…」

 

…結局怖いという事を意味していた。

 

海之

「ハァ…。…簪が起きる前には戻れ。それまでは俺のベッドを使え」

ラウラ

「…いいのか?」

海之

「ああ。…あと言っておくが他の連中にはくれぐれも知られるなよ?」

ラウラ

「…あ、ありがとう」

 

簪が起きるまでの間、ラウラは海之のベッドで眠る事になった。

 

海之

(…ハァ…、疲れる…)

 

 

…………

 

そんな感じで朝から誰も知らないところでひと騒動あったものの、その日の授業は何事も無く終わった。

 

生徒

「「「「ありがとうございました!」」」

千冬

「それでは本日の授業はこれまで!それから、知っているかと思うが来週は1年全員参加の臨海学校だ。一日目は自由行動だが二日目三日目の訓練は何時も以上に厳しくいくつもりだからあまり羽目を外さない様に!遊び過ぎて翌日ダウン等してくれるなよ」

 

そういうと千冬は職員室に戻って行った。授業が終わった生徒達も来週行われる臨海学校に向けてそれぞれ集まって話し合っている。それは火影達も一緒の様で。

 

火影

「海か…。実際行くのは数年ぶりだな」

一夏

「そうなのか?」

海之

「ああ。スメリアの俺達の家にはプールがあるからな。海は暫く行っていなかった」

火影

「なあ海之。来月の夏季休暇、みんなを招待してやるってのはどうだ?全員の都合が合う数日だけでもよ」

海之

「…そうだな。それも良いか」

一夏

「いいのか?マジで!?約束だぜ!!」

火影

「決まりだな。じゃああいつらにも…って、あいつらどこ行ったんだ?」

 

 

同時刻、食堂

 

火影達がそんな話をしている頃、火影達に関係する女子達はみんな集まっていた。話題は当然、…来週の臨海学校の事である。

 

本音

「いよいよ来週は臨海学校だね~。楽しみ~!」

「うん、そうだね」

本音

「海って久々だもんね~。2年位前にかんちゃんやかっちゃんと一緒に行って以来かも~」

「かっちゃん?」

本音

「!う、ううん。なんでもないよ~」

シャル

「今度の休みに僕水着買わないと。男子のふりしてたから女の子の水着持ってきてなかった」

「そういえばあんた。ばれてなかったらどうするつもりだったのよ?」

シャル

「…Tシャツ着るつもりだった」

「それは余りにもちょっと無理があるんじゃない?…まあ私も学校から配布された水着しか持ってないんだけどね。私も買いに行こうっと」

ラウラ

「えっ?何故買いに行く必要があるのだ?すでに配布されているではないか?」

「いやアンタ。あれはないから」

本音

「そうだよ~。折角だから可愛らしいものじゃなきゃ~」

ラウラ

「!…可愛らしいもの」

(可愛いければ海之にも褒めてもらえるだろうか…)

「どうしたのラウラさん?」

ラウラ

「い、いや何でもない!」

「?」

シャル

「じゃあさ、今度の休みでみんなで行かない?水着買いに」

「いいわね。たまには私達だけで外に出るのも」

ラウラ

「…わ、私も一緒に行っても良いだろうか!?」

シャル

「うん良いよ」

ラウラ

「そ、そうか!感謝する!」

 

こうして5人は一緒に水着を買いに行く約束をした。全員の心中はただ一つ。

 

鈴・シャルロット・簪・ラウラ・本音

(火影(海之)に可愛いって言ってもらいたい!)

 

そしてこちらも…

 

セシリア

「箒さん。今度の臨海学校ではズルは無しですからね♪」

「な、なななな、何を言う!私がいつズルをした!?」

セシリア

「この前の屋上での昼食の時」

「うっ…」

セシリア

「お互いフェアの勝負で行きましょうね。それでどうでしょう?今度のお休み、一緒に水着を買いに行きませんか?私家に忘れてきてしまいまして」

「…ほ、本当にフェアだろうな?」

セシリア

「ええ。お約束致しますわ」

「う、うむ。承知した。ではみんなと一緒に行こうではないか」

 

先の5人と同じくこちらの心中もただ一つ。

 

箒・セシリア

(一夏(さん)に可愛いって言ってもらいたい!!)

 

女子達の思いはそれぞれであった…。

 

 

…………

 

時刻は変わってここはここは千冬の部屋。

本日の業務も終わり、そろそろ寝床に入ろうとしていた時だった。

 

~~~~~~~~

千冬の携帯が鳴った。

 

千冬

ピッ「はい」

「ひねもすー!ちーちゃんおひさしブリザード!みんなの可愛らしいアイドル、束さんだよー♪」

千冬

「……」ピッ

 

束は電話を切った。すると5秒もせずまた電話が鳴った。

 

千冬

「……」ピッ

「ちーちゃんひどいよ~!」

千冬

「…こんな時間に何の用だ束?」

「あっ!そうか~。この時間は日本は夜だったね~。ちょうど今日本の反対側にいるから忘れてたよ~メンゴメンゴ♪」

千冬

「…で、用件はなんだ?下らん用事なら直ぐ切って着信拒否にするぞ」

「ちーちゃんひどいよ~。まあでも束さんがジャックして操作すれば簡単に解除できるけどね~♪」

千冬

「言っておくがそんな事すれば即殺してやる」

「いやいや!ちーちゃんのそれはマジで脅しなんてレベルじゃないから!!」

千冬

「…遊びはこれ位にして用件をさっさと言え」

「ちーちゃんクール。とまあ確かにここまでにしときましょうか♪」

 

束は千冬にVTシステムと先日の謎の機体について説明した。

 

千冬

「そうか…あの機体については何もわからないか…。それもそうだが…VTシステムの研究所があの騒ぎの後にきれいさっぱり無くなったというのも引っかかるな…」

「そうだよね~。まるで誰かが見てたみたいだよね~。証拠隠滅のためにさ。まあ今回の事でドイツはしばらく馬鹿な考えは起こさないと思うけどね♪あとあのブサイクな蜘蛛もISコアの反応が無かったから多分バッテリーみたいなもんじゃないかな」

千冬

「……」

「まあ今分かってるのはそんな感じ♪ああそうおう、ちーちゃん。来週だけど臨海学校でしょ!ちょっと遅れるけど私も行くから♪」

千冬

「…はっ?」

「箒ちゃんに渡したいものがあるんだよね~!いっくんにも会いたいしさ!あとひーくんみーくんに頼まれてた物、全部じゃないけどとりあえず完成した物も渡したいし!あっ住所はリサーチ済だよ~ん♪んじゃまた来週現地でね~おやすみー」プツ!

千冬

「お、おい!…ハア」

 

どうか何事もなく終わってほしいと願う千冬であった。




※次回はちょっとしたイベントです。


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Mission53 Thief may cry 泥棒も泣く

臨海学校に向けて箒や鈴達が張りきっている中、火影と海之は一夏達を来月の夏季休暇中に招待する約束をした。
一方束は千冬にVTシステムと先日の謎の襲撃者について説明していた。多くの謎が残る中、束は来週の臨海学校に自分も行くと宣言。また千冬は悩むのであった。

※お気に入りが200に到達しました!ありがとうございます。
私事により、次回数日後になります。


束が千冬に電話してから数日後。この日は日曜である。

そんな休日の昼のとある喫茶店。

 

カランカランッ

 

火影・海之

「「……」」

 

そこに火影と海之が入店してきた。

休日をどう過ごそうか考えていた二人は、とりあえず先程一夏に電話してみたのだが。

 

一夏

「火影か?今日はちょっと千冬姉と山田先生の買い物に付き合わなきゃいけないんだ。折角電話してくれたのに悪いな!」

 

そう言って電話は切れた。その様子から二人はそっとしておこうと思い、それ以上の電話はしなかった。因みに鈴達も用事があるらしく電話は繋がらなかった。だから二人は馴染みの喫茶店に来たのである。因みにカウンター席だ。座った途端二人は、

 

火影・海之

「「いつもの」」

 

そうマスターに伝えた。すると男性のマスターは無言で冷蔵庫からストロベリーサンデーとあんみつを出し、二人に差し出した。

 

火影

「?やけに早いな」

マスター

「そろそろ来られる頃だと思いまして」

海之

「……昨日から待ってたわけではなさそうですね」

マスター

「当然です」

 

馴染みの店というだけあってマスターもタイミングを掴んでいる様である。と、

 

カランカランカランッ!

 

また喫茶店の扉が開いた。

 

「あ~涼しい~!」

「ずっと外あるいてたもんね~」

火影・海之

「「?」」

 

火影と海之は声に聞き覚えがある様な気がしてそっと振り向いた。すると、

 

シャル

「そういえば一夏荷物持ちだったよほとんど。でもあんまり嫌そうじゃ無かったね」

「何だかんだ言ってやっぱり一夏は千冬さん大好きだからね」

本音

「しののんもセッシ―も手伝ってあげてたし~、少しは助かるんじゃない~」

ラウラ

「なるほど、あれが禁断の姉弟愛というものか」

「いや違います!」

 

思った通りやはりみんなだった。彼女達は火影たちとは離れた席に座ったために気づいていない様だった。邪魔してはいけない様な雰囲気だったので二人もそのままにしておく事にした。因みに二人とも私服だが夏のためかいつものロングコートではなくジャケットである。それも気付かない原因のひとつだろうか。

 

ラウラ

「しかし疲れたな…」

「でも可愛らしいものが見つかってよかったわね」

「うん」

本音

「せっかくだからラウラン試着すればよかったのに~」

ラウラ

「いや、その、なんだ。汚れては困る…」

シャル

「ふ~ん。もしかしてお披露目は海之にって事かな~?」

ラウラ

「だ、断じて違うぞ!」

 

何やら自分達の名前も出ているが引き続きそっとしておく二人。とその時、

 

バンッ!

 

いきなりドアが勢いよく開かれ、黒づくめの男達が入って来た。

 

男1

「おまえら!動くんじゃねぇぞ!!」

男2

「大人しくしろ!!」

客達

「きゃあ!」

「うわぁ!」

シャル達

「「「「「!!」」」」」

男3

「やかましい!!」

 

見ると外にはパトカーが来ていた。警察官がスピーカーで話しかける。

 

警察官

「お前達は完全に包囲されている!大人しく出てこい!」

男2

「うるせえ!」

ズダダダダダッ!

 

男の一人が銃を撃ってきた。

 

警察官

「くっ!」

男1

「逃走用の車を持ってこい!もしできなければ人質の命はねえぞ!」

 

話の内容からどうやら逃亡中の強盗犯の様であった。

 

男2

「ちっ!まさか籠城とはな!おいお前ら!抵抗すんじゃねえぞ!」

客達

「「「……」」

ラウラ

「くっ、客さえいなければ制圧できるのだがな…」

 

IS操縦者であるシャル達、特に軍人でもあるラウラにとってこんな強盗を抑え込む事は実はそれほど難しくは無いのだが他の客の安全を考えるとうかつに行動できないでいた。

そんな中…

 

男3

「…ん?」

 

男がカウンター席の奥を見るとカウンター席に座る二人の男が全く表情を変えておらずに引き続き食事をしていた。マスターも表情を変えずにグラスを拭いていたのだが、それ以上に男は二人の男が気に入らなかった様だ。その男とは勿論、

 

火影・海之

「「……」」

男1

「おいお前ら!頭を伏せろ!」

 

しかし二人は全く相手にしていない様に見える。その様子に男達のいらつきはピークに達し、二人に銃を向けて近づいてきた。

 

男2

「おいお前ら!聞いてるのか!?」

火影・海之

「「……」」

 

しかし二人は構わず食事をしている。

 

男3

「お前ら!バカにしてんのか!?」

 

バリンッ!バリンッ!

男はそう言うと二人の前にあったストロベリーサンデーとあんみつを払いのけた。

 

火影・海之

「「……」」

 

男1

「早く頭を下げろ!」

チャキッ!

 

そして男が銃を火影に向けようとした。その時、

 

ジャキッ!

 

男1

「な!?」

 

それよりも早く、火影の右手にあったエボニーが男の眉間を捉える。

 

火影

「…どうしてくれんだよ、俺(本気)のストロベリーサンデー…」

男1

「!!」

 

男は火影のその声と迫力に何も言えなくなっていた。

 

男2

「て、てめえ!」

 

そう言うと別の男が火影に銃を向けた。しかし、

 

スッ!

 

男2

「!!」

海之

「…」

 

海之の左手の閻魔刀が男の首に当てられた。

 

海之

「…食事は神聖なものだ。そして近距離では剣の方が早い。覚えておけ」

男2

「ヒッ!!…」

 

こちらの男も戦意喪失した。

 

(火影!)

ラウラ

(海之!)

 

男3

「く、くそ!お前来い!」

本音

「きゃあ!」

 

男は直ぐ近くにいる本音を人質にして銃を向けた。

 

「本音!」

男3

「静かにしてろよ!こいつの命が惜しければな!」

 

それを見た火影は、

 

火影

「…」

本音

「ひ、ひかりん…」

男3

「抵抗するなと言ってんだ!」

火影

「…」

男3

「は、早く頭を下げろ!」

火影

「…」

 

火影は無言で自らの殺気を隠さず相手に向けた。それにやがて男は酷く怯え始める。

 

男3

「な、な、なんだよ…。早く頭を下げろって…!」

火影

「…」

 

だがそれでも表情ひとつ変えること無く無言のまま殺気むき出しの目で睨み続ける火影。やがて男は火影の殺気に負けたのか、狂いだした様な声を上げだした。

 

火影

「…失せろ」

男3

「う、うああああ…」

 

男は自然に崩れ落ちた。それにつられて本音も倒れようとするが火影が支える。

 

火影

「大丈夫か?」

本音

「う、うん。ありがとう…」

 

男達の最大の不運。それは強盗に失敗した事よりたまたま逃げ込んだ店に二人がいた事かもしれない…。

 

 

…………

 

その後、彼らは店を出て帰路についていた。火影と海之は店の修復の弁償を申し出たがマスターは断固受け入れず、逆に感謝されてしまった。

 

「一時はどうなるかと思ったけど、海之くんと火影くんのおかげで助かったね」

ラウラ

「うむ。流石は私の嫁と弟だ。私ももっと鍛えなくては」

本音

「ひかりんもみうみうもかっこよかったよ~」

海之

「大したことは無い」

「でもあの店のマスターも堂々としてたわね。全然怯んでなかったし」

火影

「ああなかなかの人だよ。店主である自分が怯んだら店を守れないからだとさ」

シャル

「でも二人共本当に凄いね。僕達何もできなかったし…」

火影

「気にする必要ねぇよ。寧ろ僕達が変わってんだ。お前らは何も悪くない」

海之

「その通りだ。もしまたあの様な事があれば、俺達が守ってやる」

鈴・シャル・本音・簪・ラウラ

「「「「「……」」」」」

 

一瞬女子陣は赤くなって沈黙した。

 

火影

「…どうした?」

シャル

「う、ううん!何でもない!…あっ、そうだ!二人共時間あったらちょっと付き合ってくれる?」

 

 

…………

 

シャル達に連れられて二人がやって来たのはとあるクレープ屋だった。

 

火影

「ここか?」

本音

「そ~だよ~」

シャル

「すいませ~ん、ミックスベリーってまだありますか~?」

店主

「ああごめんなさい。ミックスベリー味はもう品切れなんですよ~」

「あちゃ~そっか~…」

「やっぱり幻なんだね」

ラウラ

「残念だ…」

 

その時海之が店の中を見回して言った。

 

海之

「……小ぶりのサイズはできるか?」

店主

「はいできますよ」

海之

「ではストロベリーとブルーベリーを小ぶりで5つずつ頼む」

店主

「…お客さんやるねぇ」

 

暫くして出されたそれは少女達に渡された。

 

「あ、ありがとう」

「でもなんでこの二つ、しかも小ぶりサイズなの?」

海之

「普通のサイズだと大きいだろう?ミックスベリーを食べるには」

本音

「ほえ?」

火影

「…ああ、そう言う事か」

シャル

「どういう事火影?」

火影

「ストロベリーとブルーベリーを合わせて食ったらミックスベリー味になるだろ?」

「えっ?…あっ」

ラウラ

「なるほど」

海之

「店内のメニュー覧には無かったからな。だからこの方法しか無かった。すまない」

「メニューに無い?…あっ…だからあの噂…」

火影

「噂?」

「う、ううん!何でも!」

 

すると本音が火影に話しかけてきた。

 

本音

「ね~ひかりん~」

火影

「なんだ?」

本音

「わたしのストロベリー、一口あげる~」

 

それを聞いた他の少女達も、

 

「火影。私のも一口あげるわ」

シャル

「僕のも」

「海之くんも良かったら、一口どうぞ」

ラウラ

「お前は私の嫁だ。遠慮する事はないぞ」

 

その様子に少し戸惑い気味の火影と海之ではあったが、

 

火影

「なんかよくわからんけど…まあさっきストロベリーサンデー途中だったから、んじゃありがたく」

海之

「…礼を言う」

 

そう言うと二人は一口ずつクレープを食べた。

…しかし二人は知らなかった。この行動が彼女達にとって大きな意味になる事を。

 

鈴・シャル・本音・簪・ラウラ

「「「「「♪♪」」」」」

 

みんな笑っていた。

 

火影・海之

「「?」」




オープニングはアニメ版のエピソード5より。

バージルの好物が全くわかりませんでした。和食好き設定の海之に合わせてあんみつにしました(汗)


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Extramission03 喫茶店の裏側で

間隔は狭いですがExtramission第3弾。

これは前話の間とその後にあったお話です。火影や海之は出てきません。

※UAが35000に到達しました!ありがとうございます。


今日は少女達が買い物の約束をした当日。

 

ここは島にある大型ショッピングモール。島半分を占めるIS学園に合わせてモール内は女子向けの店が約7割を占めている。そんなモールの入口広場に男子陣を抜いたいつものメンバーが集まっていた。

 

シャル

「ごめん!遅くなっちゃった」

ラウラ

「すまない」

セシリア

「気になさらなくて良いですわ。私達もそれほど待っておりませんから」

「…ってラウラ。あんたなんで軍服なのよ?」

ラウラ

「何を言う?これは外向け用の普段着だ」

「いや違いがわからないぞ」

「水着と合わせて服も買えばいいじゃないですか」

本音

「そ~そ~」

セシリア

「しかしこう見るとかなりの人数ですわね」

「そういえばそうね。…てかみんな火影や一夏達には気づかれてないわよね?」

「うむ。問題ない」

ラウラ

「しかし何故内緒にするんだ?一緒に探せば良いではないか?」

シャル

「う~ん。でもお披露目は当日にしたいじゃない」

ラウラ

「そういうものか」

本音

「じゃ行こう~」

 

そして少女達はモール内に入って行った…。

 

 

…………

 

モール内の女性向けの洋服店。

夏本番に向けて特設の水着売り場も出来ていてそれなりに盛況だった。そして彼女達も、

 

ラウラ

「…ほ、本当にこんな薄いものを着るのか…?」

本音

「そうだよ~」

「やっぱりセパレートは恥ずかしい…」

「どんな物が一夏の好みだろうか…」

セシリア

「やはり私と言えば青色でしょうか」

シャル

「こっちも良いけど…こっちも捨てがたいなぁ…」

「前のとは違った色にしてみようかな…」

 

そんな感じでみんなお気に入りの物を選んでいたのだが、

 

女子1

「ねぇ聞いた?駅前の公園にあるクレープ屋さんの話」

女子2

「聞いたよ~!恋が叶う幻のミックスベリーの話でしょ!」

女子3

「私も聞いた!でも幻といわれてるだけあっていつも売り切れらしいんだよね~」

女子1

「あ~やっぱりそうなんだ。いつ買いに行けば良いのかな~」

 

全員

「…恋が叶うミックスベリー…?」

 

 

…………

 

シャル

「時間はかかったけどみんな決まったね」

「うん」

ラウラ

「…ほ、本当にこんな薄いものを着るのか…?」

「いやあんたそれさっきの台詞の繰り返しだから」

本音

「ねぇあれ~、おりむーじゃない?」

箒&セシリア

「「えっ?」」

 

見ると向こう側から一夏が千冬と真耶と一緒に歩いている。どうやらこちらに向かって来ている様だ。

 

シャル

「一夏荷物持ちやらされてない?」

セシリア

「ど、どうしましょう。全員でいる所を見られたら感の良い織斑先生の事、からかわれる気がしますわ」

ラウラ

「うむ。教官ならありうる話だ」

「しかも私達みんな手に持っているしな…」

「ねぇ。二人の水着持って帰ってあげるわ。二人は何気に探すフリしてなさいな」

シャル

「そうだね。二人だけなら特に何とも思われないかも」

「…すまん。感謝する」

「じゃあ私達は先に帰ってるね」

 

そういうと箒とセシリアだけ残り、他のメンバーはばれない様に帰って行った…。

そこへ、

 

一夏

「…あれ?箒、セシリア」

「ギクッ…い、一夏。あ、それに織斑先生、山田先生。こんにちは」

真耶

「篠ノ之さん、オルコットさん、こんにちは」

一夏

「どうしたんだよ二人共?」

千冬

「…お前な。水着売り場で女がいる理由と言えばひとつしかないだろうが?」

一夏

「……あ、そ、そうか。悪い」

セシリア

「気になさらないでください。…所で一夏さん、そのお荷物は?」

一夏

「あはは。二人の荷物持ちやってんだ」

真耶

「ごめんなさい織斑くん…」

千冬

「軽い筋トレと思えば良い」

「一夏、手伝うぞ」

セシリア

「私もお手伝いしますわ」

一夏

「いいのか?二人とも水着を探してたんじゃ?」

「ああそれならもう大丈夫だ」

一夏

「?」

セシリア

「それより先生方も水着をお探しに?」

千冬

「ああ。たまにはと思ってな」

 

そう言うと千冬は水着を物色し始め、暫くすると色違いの2つを手に取る。

 

一夏

「白か黒か…。千冬姉だったら…俺は黒かな」

「うむ。私もそう思う」

セシリア

「よくお似合いと思いますわ。先生」

千冬

「ふむ、そうか。ではこれにしようか。一夏、支払いだ」

一夏

「へ~い」

 

そう言うと千冬と一夏は会計に行った…。と箒とセシリアに真耶がこっそり話かける。

 

真耶

(…二人、いえ皆さん水着は決まりました?)

箒・セシリア

「「!!」」

 

二人は思い切り焦った。まさか千冬よりも先に真耶から指摘されるとは。しかも皆さんという事はもしかして…、

 

(…あ、あの山田先生、気付いてらっしゃったんですか?)

真耶

(たまたま見ちゃいまして。安心してください、先輩と織斑くんは気づいていませんから)

セシリア

(そ、それならとりあえず安心です…)

真耶

(ふふ、可愛いって言ってもらえると良いですね)

箒・セシリア

((……))

 

二人は赤くなった。とそこへ、

 

一夏

「お待たせ~。ってどうした二人とも?」

セシリア

「な、なんでもありませんわ!」

「そ、その通りだ!決して何でもないぞ!」

一夏

「?」

 

 

…………

 

やがて買い物も終わり、5人は帰路に就くために駅に向かっていた。

 

「ねえねえ聞いた!?街の喫茶店で強盗があったんだって!」

「それ私も聞いた!でもお客さんが解決したって聞いたけど」

「そうそう!なんでも男性が二人でだって!すごいよね~!」

 

千冬

(…強盗を退治した男二人?…まさか)

真耶

「どうしました先輩?」

千冬

「あ、いや何でもない。篠ノ之もオルコットも悪かったな。付き合わせて」

「いえ構いません」

セシリア

「…あっ!そうですわ!みなさんちょっとお時間宜しいですか?」

一夏

「えっ?ああ俺は大丈夫だ。千冬姉と山田先生は?」

千冬

「構わん」

真耶

「私も良いですよ」

 

そして5人がやって来たのは…、

 

一夏

「このクレープ屋かセシリア?」

セシリア

「そうですわ。すみません、ミックスベリーってございますか?」

店主

「ああすみません。ミックスベリーは品切れなんですよ~」

セシリア

「そうなんですの…」

「やはり幻なのだな…」

 

するとそこに千冬が、

 

千冬

「…失礼。小ぶりのサイズはできるか?」

店主

「はいできますよ」

千冬

「…ではストロベリーとブルーベリーを小ぶりで2つずつ頼む」

店主

「お客さんやるねぇ」

 

やがて出されたそれは箒とセシリアに渡された。

 

千冬

「ほら。今日の買い物に付き合わせたお礼に奢ってやる」

「あ、ありがとうございます。でもどうしてこれを…」

千冬

「ストロベリーとブルーベリーを合わせて食べたらミックスベリー味になるだろう?」

箒・セシリア

「「……あっ!」」

一夏

「ああなるほど。そういう裏ワザもあるんだな」

真耶

「さすが先輩」

 

そして、

 

「一夏!私のストロベリー一口やる」

セシリア

「では私のブルーベリーも」

一夏

「お、いいのか?サンキュー」

 

そして一夏は二人のクレープを食べた。

 

箒・セシリア

「「♪♪」」

 

二人は笑っていた。…とその時店主が千冬に小声で話しかけた。

 

店主

「ところでお客さん。あんたさっきの人の知り合いかい?」

千冬

「えっ?」

店主

「さっきお客さんと同じ様に注文した人がいたのさ。銀髪の青い目の兄ちゃんだったけどな」

千冬

「…銀髪の青い目?…!」

真耶

「先輩それって…海之くん?」

店主

「やっぱり知り合いか。一言一句全く同じ様に言ったからそうだと思ったよ。兄弟ってゆう感じでもないし恋人か?」

千冬

「な!!ばばば、バカなこと言わないでもらおう!私と海之はそんな関係ではない!」

一夏

「千冬姉~、海之がどうしたって?」

千冬

「な、なんでもない!!」

 

千冬は暫く顔の赤みが止まらなかった。




最近箒とセシリアが出番少なかったので書けて良かったです。


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Mission54 夢での再会

とある休日、火影と海之は馴染みの喫茶店へ。するとそこに買い物を終えたらしき鈴や簪達もやって来た。
互いに休憩を取っているとそこに強盗らしき黒ずくめの男たちが乱入。店内は騒然とする中、火影と海之は全く気にせず逆に圧倒的な強さで男達を制圧。まさにThief may cry、男達はこの店に押し入った事を深く後悔するのであった。



???

 

火影

「……どこだ、ここは……?」

 

見渡してみると当たりは真っ白な空間。見る限り何も見当たらない。

 

火影

「俺は確か臨海学校へのバスに乗っていた筈…。それがなんで」

「ぷっ!あはは!ねぇ聞いた?こいつが臨海学校だって!」

「ふふっ。確かに想像できないわね」

火影

「!」

 

後ろから急に笑い声がしたので振り向くとそこに二人の人影らしきものが見える。ただ輪郭だけで表情などは伺えなかった。ただ声色からして二人とも女性である事は想像できる。

 

火影

「…誰だ?」

女性1

「久しぶりね、ダンテ。いや、今は火影…だったかしら?」

女性2

「随分可愛くなっちゃったじゃないの。若返れて羨ましいわ」

火影

「……お前らか…」

 

姿は見えなかったが火影は二人の声と口調にしっかり聞き覚えがあった。

 

火影

「お前らがいるってことは…ここは夢の中か。にしてもまたお前らに会うなんてな…」

女性1

「冷たい言い方ね。久しぶりに会いに来てあげたのに」

女性2

「そっ。特にダンテやあんたと違って人間の私はすっごく久し振りにね」

女性1

「あら、女に歳の話はタブーよ。まあ女って言っても私は魔界生まれだけどね」

火影

「…夢のわりには随分リアルな会話だな」

女性2

「あら、気づいてなかったの?まあ無理ないかもね。ここは夢であって夢じゃないわ。ダンテ、あんた達が今使っているアレ…ISだっけ?それのコアという物には人格が宿っているって聞いたこと無い?」

火影

「…ああ、確か束さんがそんな事言って…。って待て、まさか…」

女性1

「そう言う事。前より随分頭が良くなったみたいね」

火影

「…マジかよ…」

女性2

「あんたが可愛い女の子達に囲まれて浮かれているのも知ってるわよ~♪幻滅しちゃうかもね、あの子達が前世のあんたを知ったら♪」

火影

「…勘弁してくれ…。で、用件はなんだ。今まで一度も出てこなかったお前らがこうして出てくるって事はなんかあんだろ?」

女性1

「…ええ。ダンテ、あなたに話があって来たの」

火影

「……あの妙な奴らの事か?」

女性1

「気づいていたのね。ダンテ、あなたも思う事があったでしょう?あの黒い騎士、そしてあの蜘蛛の様な物体を見て。…あれは…あまりにも酷似している。かつてあなたや私、そしてバージルが関わった存在に…」

火影

「……」

女性1

「何かが起ころうとしている。でも今のあなたはかつての様な半人半魔ではない。普通の人間。如何にあなたのISが強力でもそれは変わらないわ」

火影

「……」

女性2

「でもあんたはきっと戦うんでしょ?お願いだから否定しないでよ?そんなあんた想像できないからね」

火影

「……約束しちまったからな。それに…人生は刺激があるから楽しい、そうだろ?」

女性1

「…ふふっ。そうね」

火影

「せいぜい戦い抜いてやるさ。ダンテではなく、今度は火影・藤原・エヴァンスとしてな」

女性1

「それでこそ伝説のデビルハンターダンテ、…いえもう違ったわね」

女性2

「…これ、あげるわ。もう私には使えないし」

火影

「…お値段は?」

女性2

「…守りぬくと約束して。もう私の様な子を…生みださないで」

火影

「…わかってる。でもあいつらも強えよ。お前らみたいにな」

女性2

「……」

女性1

「……さて、そろそろ現実の貴方が目覚める頃の様ね」

火影

「…どうせまたいつか出てくんだろ?アリギエルのコアなんだから」

女性1

「さあどうかしらね…。久しぶりに会えて嬉しかったわ」

女性2

「ほんの少しだけどね。勘違いしないでよ」

火影

「…ふっ。じゃあな」

 

そう言うと火影は歩いて行き、見えなくなった。

 

女性2

「……」

女性1

「ふふっ、もしかして寂しい?」

女性2

「!ば、バカな事言わないでよ!生まれ変わったとは言ってもダンテよ!私があいつにどんな感情を抱く訳!?」

女性1

「さあね♪」

 

 

…………

 

???

 

海之

「ここは…?」

 

海之もまた火影と同じ様な空間にいた。すると、

 

「おい」

海之

「!」

 

やはり後ろから声がしたので海之は振り返ると同じ様に二人の影があった。こちらも表情は伺えない。ただ先ほどの声色から一人は若い男性の様だった。

 

海之

「何者だ?」

「…名前などない。まだ生まれて2日目だもの…」

 

もう一人の方も若い男性の様に聞こえた。

 

海之

「……」

男性2

「…冗談だ…。もう9年だ…」

男性1

「…久し振りだな」

海之

「……お前達か」

 

海之もまた、二人の声に聞き覚えがある様だった。

 

海之

「お前はともかく、…お前とこの姿で会うのは初めてだな。9年ということは…お前達ウェルギエルの…」

男性2

「…そうだ。…そうでなくてもお前の事は良く知っている。…こいつよりもな…」

男性1

「それは同意するぜ。一緒に過ごした事なんて全くといってもいい位ねえし。おまけにこいつには右腕ぶっち切られたんだ。死ぬかと思ったぜ」

海之

「……」

男性2

「敵を許すほうが、友達を許すよりは容易である。…あれがあったから父親に会えたんだ。もう許してやれ」

男性1

「……」

男性2

「…転生とは…どんな気分だ?」

海之

「…よくわからんな。身体は16のくせに記憶は100年以上だ。ある意味化け物かもな」

男性2

「…否定はしないさ」

海之

「…何しに来た?」

男性1

「あんたに忠告があってな」

海之

「忠告?」

男性1

「ああ。あんたももうわかってるんだろ?あいつらの事」

男性2

「…あれはかつてのお前。そして…俺でもある。正確には違うがな。粗悪な模造品だ…」

男性1

「それにあの蜘蛛野郎。実際見た事はないがダンテの話で聞いた事だけはある。あいつらが現れたという事はなにかある。本来ならありえない何かがな」

海之

「…そうだな」

男性2

「…だがそれでも…お前は戦うのだろう?」

海之

「当然だ。俺はそれしかできん。…だがかつての俺では無い。海之・藤原・エヴァンスとして戦い抜く。徒に戦うのではなく、…守るために」

男性1

「……」

男性2

「…ふふ、わかっているさ。俺は、いや俺達は、身体こそ分かれたがいつも繋がっていたんだ。…汝が枝は我が枝と交わり、我らが枝は一つとなれり…」

海之

「忠告は受け取っておこう。…話は終わりか?」

男性2

「…ああ。もういい」

海之

「…ではな」

 

そう言って海之は行こうとすると、

 

男性1

「…おい」

海之

「?」

男性1

「やるよ」

海之

「…大事な物なのだろう?」

男性1

「大事な物をくれてやっちゃ悪いか?…あんたに預けたいからそうする。それにもう俺には使えねぇしな」

海之

「…礼を言う。…世話になったな」

 

そういうと海之は行ってしまった。

 

男性1

「……」

男性2

「良かったのか?もっと話さなくて」

男性1

「どうでもいい。もう昔の話だ。…ただ、最初からあんな奴だったら…、もう少しクソを付けず、普通に親父って…呼んでたかもな…」

 

 

…………

 

シャル

「…げ、…火影」

火影

「う、う~ん…」

本音

「みうみう~、もう着くよ~」

海之

「む…」

 

火影の隣のシャルロットと海之の隣の本音が二人に呼び掛ける、どうやら二人とも眠ってしまっていたようだ。あれは夢だったのか?しかし二人の中にはそうでない確信があった。




二人のコアNOは「W」。双子であり、宿る人格も複数という意味でとらえて頂ければと思います。今回出てきたのは誰か。彼らの口調を上手く再現できたかどうか心配です。


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Mission55 海にて

臨海学校に向かうバスの車内。その中で火影と海之は眠ってしまい、夢の中でそれぞれに前世で縁があるらしい者達と再会する。彼等は生まれ変わったダンテとバージルへの挨拶もそこそこにし、口をそろえてこう言った。

「何かが起ころうとしている」

しかしそれに対しての二人の返答は自信に満ちたいつもと変わらないものだった。

「戦い続ける。守るために」

それを聞いて安心した様に彼等は二人に武運を祈ると共に贈り物を与え、消えて行くのであった。


火影と海之が夢を見ている間にバスは臨海学校中世話になる宿の直ぐ近くに来ていた。隣にいたシャルロットや本音の話によると二人はバスの行程の半分位に差し掛かった時に突然眠ってしまい、それからずっと起きなかったらしい。夢が気になった二人は何気に自分達のISを確信してみた所、互いに新たな武装が追加されていた。それはまさにあの夢が幻で無かったと共に、交わした話の内容も嘘でない事を物語っていた。そうこうしている間にやがてバスは到着した。

 

千冬

「いいか。ここがお前達がこれから三日間お世話になる花月荘だ。余計な事をして従業員の方々の仕事を増やす事をしない様にな!」

生徒達

「「「お世話になります!」」」

「「「宜しくお願いします!」」」

女将

「はい。宜しくお願いします。今年も皆さん元気が良いですね。しかも今年は男の子まで三人もいて賑やかですね」

一夏

「えーっと、織斑一夏です。宜しくお願いします」

火影

「火影・藤原・エヴァンスです。御世話になります」

海之

「海之・藤原・エヴァンスです。宜しくお願いします」

女将

「これはこれはご丁寧に。どうぞ宜しくお願いしますね」

真耶

「さて。それではみなさんとりあえず荷物を部屋まで運びましょうか。今日この後は夕方まで自由行動です。夜19時から夕食なので、その時間になったら皆さん大広間に集合してくださいね」

生徒達

「「「はーい!」」」

 

そう言うと生徒達はみんなそれぞれに部屋に移動を開始した。しかし、

 

一夏

「なあち、…織斑先生、俺と火影と海之の部屋は?」

火影

「そういえばしおりにも書いてなかったな」

千冬

「心配するな。付いてこい」

 

三人は千冬に付いて行った。着いた先は、

 

一夏

「?…ここって先生の隣の部屋?」

千冬

「そうだ。お前達三人は私と山田先生の部屋の隣に宿泊する」

海之

「…ああそう言う事ですか」

火影

「どういうことだ海之?」

海之

「俺達の部屋に女子が押し寄せない様に。また反対に俺達が女子の部屋に行かない様にだ」

千冬

「そういうことだ」

真耶

「ごめんなさいね。どちらかと言えば三人の安全のためなので。でも良いお部屋ですよ。小さいながら露天風呂もありますから」

海之

「構いませんよ」

火影

「同じく」

一夏

「へ~い。んじゃ荷物置いたら俺達も海行こうぜ!」

 

そう言うと三人は着替えて海へと向かった…。

 

 

…………

 

「あっ!織斑くんたちだ!」

「ねぇねぇ火影くんと海之くん見て!」

「すごいしっかりした筋肉してる!」

「直接肌が見れないのが残念!でもかっこいい!」

 

一夏はトランクスタイプ。火影と海之は全身を覆うタイプの水着でいわゆるアクアスーツというものだ。

 

一夏

「二人のそれって競泳で着る様な物みたいだな」

火影

「ああそうだ。泳ぎでも競ってたからな」

海之

「付き合わされる俺の身にもなってみろ…」

一夏

「あはは…」

「ひかりん~」

「一夏さん」

一夏・火影・海之

「「「ん?」」」

 

三人が声がした方を振り返った。すると本音、セシリアがこっちに走って来た。

 

本音

「やっほー!ねぇひかりんどうこの水着!可愛いでしょ~!」

 

本音が着ているのは火影や海之と同じく全身を覆うタイプの物だった。ただ…、キツネのようなデザインでしかも耳付きの帽子まで付いている。

 

一夏

「のほほんさん、それ売ってたの?」

本音

「そだよ~」

火影

「最近の水着って色々あんだな。でも本音によく似合ってると思うぜ。いや本音だからこそと言うべきか」

本音

「ありがとう~!」

セシリア

「一夏さん!私のは如何ですか?」

 

セシリアの水着は鮮やかな青色の物でセパレートのタイプである。

 

一夏

「……」

本音

「どうしたのおりむ~?」

海之

「大方目のやり場に困っているんだろう」

一夏

「は、はっきり言うな!……似合ってるぜセシリア」

セシリア

「ありがとうございます!」

本音

「ほらほら、恥ずかしがってないでかんちゃんも~」

「ほ、本音!」

海之

「…簪?」

 

見ると本音の後ろにピッタリ見えない様に隠れている簪がいた。

 

本音

「折角可愛いの買ったんだから~。張り切ってたじゃん、みう」

「わーっ!!…う~…」

 

やがて観念したように簪が現れた。簪の水着はピンクのワンピースだ。

 

「ど、どう…かな。変じゃないかな?」

海之

「……」

 

海之はこう言った事の知識は少なかったが、生前母からこう言えば女の子は喜ぶと教えられた言葉を言ってみた。

 

海之

「…可愛いと思うぞ」

「!!」

火影

「ああ僕もそう思うぜ簪」

「!」……ボンッ!

 

突然耳に聞こえる様な爆発音がしたと思いきや、簪はその場にへたってしまった。

 

一夏

「お、おい大丈夫か!?日射病か!?」

本音

「大丈夫大丈夫。きっと恥ずかしすぎて倒れちゃっただけだから。みうみう~、悪いんだけど運ぶの手伝って~。あっそれからひかりん~私達向こうでビーチバレーやるから後で来てね~」

海之

「仕方ないな」

 

そういうと海之と本音はのびた簪を連れて行ってしまった。

 

セシリア

「あの一夏さん。私ひとつお願いがあるのですが」

一夏

「なんだ?」

セシリア

「サンオイル塗って頂けませんこと?」

一夏

「……今なんと仰いましたでしょうかセシリアさん?」

セシリア

「?なぜそのようなお言葉に?まあいいですわ。お願いできませんか?」

一夏

「い、いやぁさすがにそれは」

火影

「良いんじゃねぇか?やってやれよ一夏」

 

火影が少し悪い顔でそう言った。

 

一夏

「な!?」

セシリア

「決まりですわね♪では行きましょう!あちらに場所をとってありますの♪」

一夏

「お、おいちょっと待って!おい火影ー!」

 

そう言うとセシリアは一夏の手を引いて行ってしまった。

 

火影

「頑張れ一夏」

 

とその時、

 

「ひーかーげー♪」ズシッ!

火影

「!?」

 

いきなり誰かに背中に飛びつかれた。その声からして、

 

火影

「…降りろ鈴」

「えへへ、わかっちゃった?…よっと」

火影

「お前な。もっと恥じらいを持てよ」

「いいじゃん減るもんじゃなし。…どうこの水着。似合ってる?」

 

鈴のは白いセパレートだ。

 

火影

「…ああ。可愛いよ鈴」

「!…ま、まあ当然よ!」

(やばい、めちゃ恥ずかしい…)

「あ、そうだ火影!せっかくだからあの浮きの所まで競争しない?」

火影

「…結構な距離あるぞ?お前大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫!負けた方はアイス奢りね!じゃスタートー!」

 

そう言って鈴は駆けだして先に行ってしまった。

 

火影

「ハァ…しかたない、付き合ってやるか…ん?」

 

良く見ると少し離れた所で鈴が前に進んでおらず、その場でもがいている様に見える。そしてやがて見えなくなった。

 

火影

「…あのバカ!」

 

そういうと火影も急いで泳ぎだし鈴の元へ駆けつける。思った通り鈴は水中で溺れていた。火影は鈴を回収してなんとか浜辺に戻ったが水を飲んでいるのか鈴は意識が無かった。

 

火影

「おい鈴!しっかりしろ!」

「…」

 

だが鈴は目覚めない。

 

火影

「おい!…っち、しょうがねぇ」

 

そう言うと火影は鈴に人工呼吸を行った。すると、

 

「…ゲホッ!ゲッホ、エホッエッホ!」

火影

「おい大丈夫か?」

「エッホ…。う、うん、なんとか…」

火影

「お前準備運動もせずいきなり入ったろ?」

「うん。脚がつっちゃって」

火影

「そんなこったろうと思った。まあでも無事で良かったよ」

「……」

「二人共」

火影・鈴

「「ん?」」

 

二人が見るとそこには白い水着の箒が来ていた。

 

「…どうした鈴?なにか疲れているようだが…大丈夫か?」

「ああ…うん。ちょっと溺れちゃってね。火影が助けてくれたの」

「そうか、無事で良かった」

火影

「全くだ。あと、良く似合ってるぜ箒」

「そ、そうか。ありがとう。ああ所で二人共、一夏を知らないか?」

火影

「ああ一夏ならさっきセシリアに連れられてビーチパラソルのとこ行ったぜ。サンオイル塗ってほしいんだとさ」

「なに!そ、そうか、わかった!礼を言う!」

 

そう言うと箒は走って行ってしまった。

 

「一夏も大変ね」

火影

「はは。ああそういや本音からビーチバレー誘われてんだった。鈴も行くか?少し休んでるか?」

「ううん大丈夫」

 

火影と鈴は揃って歩き出した。その時の鈴の心中は、

 

(…絶っ対に言えない!駆けつけてくれたギリギリまで意識あったなんて!人工呼吸される直前で目が覚めたなんて!……でも…やっぱり火影カッコいいな…)

 

 

…………

 

ビーチバレー場には先に海之と本音と簪が来ていた。

 

本音

「あ、ひかりん。ちょっと待ってね~。今から女子同士の対決だから~。鈴~、かんちゃんと一緒にどう~?」

「そうね。やってやろうじゃん!」

火影

「さっきあんな目にあったのにえらい元気だな」

「火影!海之!」

 

見るとそこにはシャルロットと…、もう一人異様な者がいた。

 

「……」

火影

「…シャル、なんだそのバスタオルのミイラは?」

シャル

「あはは、うんとね…」

「うう…」

海之

「…ラウラ?」

 

声色からしてそれはラウラだった。しかし何故ミイラなのか?

 

シャル

「ほら~、折角選んだんだから見てもらわないとダメでしょ?」

ラウラ

「うう…しかし…」

シャル

「早くしないと海之が他の子に先に取られちゃうよ~」

ラウラ

「!…ええい取れば良いのだろう取れば!!」バサッ!

 

そう言うと纏っているバスタオルを取る。すると黒い水着を着るラウラがいた。

 

海之

「……」

ラウラ

「わ、笑いたければ笑えば良い!どうせ私にはこんな物似合わん!」

シャル

「そんな事ないと思うけどな~。ねぇ海之?あっ火影、僕もどうかな?似合ってる?」

 

そういうシャルロットは腰にパレオを付けた黄色い水着だ。

 

海之

「…可愛いと思うぞラウラ」

火影

「シャルのも髪の色と合ってるな。良い感じだぜ」

ラウラ

「!!か、可愛い…。私が…?」

シャル

「えへへ♪」

本音

「ひかりん~、みうみう~。試合終わったよ~。折角だから二人でやってみたら~?」

火影

「そうだな。どうだ海之?」

海之

「…良いだろう。手加減なしだ」

シャル

「あっ、じゃあ火影。僕とやろ!」

 

そういうと三人はコートに出た。そしてそれと入れ替わりに一夏とセシリアがやって来た。

 

セシリア

「むぅ~。折角一夏さんにやって頂いてましたのに~」

一夏

(た、助かった…。あのままいけばヤバかった…。感謝するぜ箒…。でもどこ行ったんだろ?なんか電話するって言ってたけど)

「…あれ?どうしたラウラ?」

ラウラ

「可愛い…。私が…可愛い…」…ボンッ!

 

真っ赤になりながらラウラは倒れた。

 

一夏

「お、おいどうしたラウラ!日射病か!?」

 

 

…………

 

火影

「おらぁっ!」

海之

「むん!」

 

火影・シャルロットと海之・本音の試合は白熱していて観客もできていた。というのも、

 

一夏

「こんだけ打ちあっててまだ0対0かよ…」

セシリア

「見てるだけで息詰まりそうですわね…」

 

そう、まだお互い無得点。つまりずっとラリーが続いていたのだ。

 

「あっ、織斑先生、山田先生」

「織斑先生モデルみたい!」

 

そこへ黒い水着の千冬と緑の水着を付けた真耶が来た。

 

真耶

「すごいですね先輩。火影くんと海之くん。しかも全身タイプの水着であの動きなんて」

千冬

「ふむ。…どれ、一戦御所望願おう」

 

そう言うと千冬はコートに近づき、

 

千冬

「海之、火影。どちらか相手をして貰おうか?」

火影

「あ、先生」

海之

「…では自分が。宜しいですか?」

千冬

「構わん。手加減など無用だぞ」

海之

「こちらも不要です」

千冬

「言ったな。後悔するなよ」

 

本音はセシリアと交代し、海之・セシリアと千冬・真耶との試合になった。

 

千冬

「やっ!」

海之

「はっ!」

 

やはりこちらも互角だった。

 

シャル

「凄いね海之。織斑先生と互角なんて。あんなに打ち合った後なのに」

「ほんとだね。…かっこいい」

ラウラ

「流石は教官と嫁だ」

「海之といい火影といい、どんな体力よ全く」

本音

「でもなんか楽しそうだね~織斑先生」

一夏

「……」

火影

「どうした一夏?織斑先生取られて悔しいのか?」

一夏

「なっ!何言ってんだよ!?」

一夏以外の全員

「「「…わかりやすすぎる(ぎますわ)…」」」

 

こうして臨海学校一日目、自由行動は過ぎて行った…。



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Mission56 女子会と告白会

火影と海之が見た夢。それは決して幻等ではなく、確かにあったものであった。二人は夢の内容を再確認し、新たな装備と共に彼らの想いを受けとる。

そして始まった臨海学校一日目。この日は翌日からの訓練に向けてまる一日自由時間である。火影や海之達は束の間の休みを。そして久しぶりの海を楽しむのであった。


臨海学校初日の盛り上がった自由時間はあっという間に過ぎ、夕食になった。一夏の隣には箒とセシリア。火影の隣にはシャルロットと本音、向かいに鈴。海之の隣にはラウラと簪がいた。

 

一夏

「やっぱり海の宿だけあって魚が旨いな~!」

「うむ。新鮮で良い味だ」

一夏

「そういえば箒、さっきの電話なんだったんだ?」

「ああ、明日わかる。楽しみな半面…ちょっと困った事もあるがな…」

一夏

「?」

セシリア

「…つつっ」

一夏

「おいセシリア、大丈夫か?正座が辛いなら脚崩して良いぞ」

セシリア

「そ、そうさせて頂きますわ…」

(正座って思ったよりきついですのね。でも一夏さんの隣にいれるのならこれ位!)

 

一方シャルロットも何やら悶絶していた。

 

シャル

「!!~~~」

火影

「お、おいどうしたシャル?」

「…あんた、まさかワサビ丸ごと食べたの!?」

シャル

「だ、だいひょうふはよ。ふうひははっへおいひいはは~」

本音

「全然大丈夫じゃないよ~!」

火影

「…シャル。ほら、このマヨネーズ食べてみろ」

 

火影は自分の箸でサラダのマヨネーズを多めに取ってシャルの口に差し出す。

 

シャル

「へっ?ふ、ふん…はれ?辛いのが楽になった?」

火影

「マヨネーズにはワサビの辛味成分を抑える働きがあるんだ」

シャル

「そうなんだ。ありがとう火影」

(…あれ?もしかして今のって間接キス?…間接キスだよね!?)

本音

「ひかりん物知り~」

(…良いなぁ~)

海之

「…一夏の言う通り、確かに良い魚だな」

「そういえば海之くんは和食が好きだったんだよね?」

ラウラ

「ふむ。嫁の好みは和食か」

「海之くんって自分でも料理するの?」

海之

「ああ。今度一緒にやるか?」

「えっ本当?ありがとう!」

ラウラ

「海之!もし良ければ私にも今度料理を教えてくれないか?恥ずかしながら…私はそれ程経験が無くてな」

海之

「時間が合えばいつでも構わん」

ラウラ

「そうか!約束だぞ!」

 

そんな感じで食事は過ぎて行った…。

 

 

…………

 

食後の自由時間。

火影と海之は自分達の部屋に備え付けの露天風呂につかり、夜風に当たるために散歩に繰り出そうとしていた。

 

火影

「…そうか。お前の夢にはあいつらが出てきたんだな」

海之

「ああ。予想外だったがな」

火影

「お前はまだ良いよ。しっかり縁がある奴らだからな。俺の方が予想外だぜ」

 

ガラッ

 

隣の千冬と真耶の部屋から一夏が出てきた。

 

火影

「よう一夏。先生方のマッサージは終わったのか?」

一夏

「ああ終わった。ただ今度はゆっくり散歩にでも行って来いと言われてな」

海之

「何かあったのか?」

一夏

「マッサージしてたら部屋の前に何時の間にか箒達が集まってたんだよ。それを見た千冬姉が部屋にみんなを招き入れてな。そしたら今度は「一時間位ゆっくり散歩でもして来い」だとさ」

海之

「…なるほど」

火影

「散歩なら僕達も付き合うぜ。なんならこっから歩いてすぐのゲームセンター行こうぜ」

一夏

「お、いいね!」

 

そう言うと三人は散歩に繰り出した。

 

 

…………

 

場所は変わってここは千冬と真耶の部屋。

部屋には二人以外にも箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪、本音がいた。千冬は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、豪快に飲みだしてあっという間に一本空けてしまった。

 

千冬

「くぅ~、やっぱり風呂の後のこれは格別だな」

「…あの千冬さん。臨海学校とはいえまだ勤務中じゃ…」

千冬

「固い事いうな。もうこの後は何もないしもっと気楽にしろ気楽に。あそうだ。お前らの分も用意してある。好きなの取れ」

 

そう言うと千冬は二本目と同時に冷蔵庫からオレンジジュース、アップルジュース、グレープジュース、カルピス、ラムネ、サイダー、コーラ、麦茶等を取りだし、全員それぞれ手に取った。

 

全員・真耶

「「「い、頂きます…」」」

 

千冬は全員が口にした事を確認すると、

 

千冬

「…飲んだな?」

全員・真耶

「「「えっ?…あっ」」」

千冬

「というわけでココで起こった事は他言無用だ。いいな?」

全員・真耶

「「「……はい」」」

 

どうやら口止め料だった様だ。そして間髪入れず千冬は尋ねた。

 

千冬

「…で、さっそくだがお前ら。あいつらのどこに惚れた?」

女子全員

「「「!!」」」

 

いきなりの質問に何人かむせた者もいた。

 

「ななな、織斑先生!?」

千冬

「大丈夫だ。ここで喋った内容は一切漏れん。はっきり言って構わん。…そうだな、ではまず篠ノ之、オルコット。お前達が一夏に惚れているのは知っている。どこにだ?」

箒・セシリア

「「!」」

 

二人は急に振られた事で酷く動揺していた。他のみんなもこの後は自分達と分かっているためか笑えなかった。

 

箒(サイダー)

「…わ、私は幼い頃に助けられてから…、ずっとと言いますか…、あいつの優しさに一目惚れというか…」

セシリア(アップルジュース)

「わ、私は…クラスの代表として…もっとしっかりしてほしいですし、一夏さんの可能性を見たいと言いますか…」

千冬

「よし。ではあいつにそう伝えておこう」

箒・セシリア

「「言わなくていいです!!」」

千冬

「冗談だ。まあお前らの気持ちはよく分かっている。どうだ欲しいか?」

箒・セシリア

「「くれるんですか!?」」

千冬

「…そう簡単にやるか小娘」

箒・セシリア

「「え~…」」

千冬

「まずそれ以前にあいつが気付くかどうかが大前提だ。はっきり言って一番難しい問題だぞ?」

箒・セシリア

「「う~ん…」」

 

そう言うと二人は何も言えなくなってしまった。まさにその通りなのだから。考えている二人を余所に千冬は次に、

 

千冬

「…では次にデュノア、布仏、そして鳳。お前達は火影のどこに惚れた?」

 

シャル・本音・鈴

「「「!!」」」

 

こちらも一瞬沈黙した。

 

本音(コーラ)

「わ、私はどこにというより…、気付いたらいつの間にか好きになってましたから…よくわかりません。ただ、ひかりんの優しい所が好きというのは断言できるかな~。あとひかりんのデザートも好きだし~」

「そういえば本音は今また火影と同じ部屋だったな」

本音

「うんそうだよ~。またひかりんのデザート食べれる~!」

シャル

「三日に一回は来てたけどね」

 

少し前まで火影のルームメイトだったシャルは今ラウラと相部屋になっており、本音は再び火影と相部屋になっていた。

 

千冬

「ふむ。デュノア、お前は?」

 

千冬は三本目に入っていた。

 

シャル(オレンジジュース)

「…僕は…火影に救われたんです。みんなも既に知ってるけど、僕は少し前まで男の子のふりをしていました。会社の命令でそうするしかないと思って。自分の運命だって全部諦めてました」

「…そうだったわね」

シャル

「…でも火影は言ってくれたんです。「会社とか運命とか関係ない。僕の心はなんて言ってる?」って。そう言われて僕は初めて正直になれたんです。結果それが僕だけじゃなく、僕の大切な人達全てを助けることにもつながって。火影に出会わなかったら…僕は何もわからないままでした。僕を救ってくれたんです。それからです。火影の事が好きになったのは…」

真耶(ラムネ)

「…良かったですねデュノアさん…」

千冬

「わかった。…さて次は鳳。お前は少し前まで一夏の事が好きだったようだが…今は違うようだな」

鈴(麦茶)

「…はい。私は…前は確かに一夏が好きでした。でも…今は火影が好きです」

セシリア

「なにかありましたの?」

「…特別な事は何も…。だから好きになったというか」

ラウラ

「どう言う事だ?」

「私ね。昔一夏に一方的な約束をしてたの。ぶちゃけ告白みたいなね。でもみんな知ってると思うけど一夏って鈍感じゃない。案の定覚えてなくって…。正直凄く悲くかったな…」

千冬

「…全くあいつは…」

「そんな時にあいつは、火影は傍にいてくれたの。私が関係ないと言っても傍にいてくれた。労いの言葉をかけてくれる訳でも慰めてくれる訳でもなくって、ただずっと話を聞いてくれたの。妙に救われたというか…、いつの間にかあいつの事が自分の中でどんどん大きくなって。そして以前私があの黒いISにやられそうになった時、気づいたらあいつの名前を呼んでました。その時はっきりわかったんです。私は火影が好きなんだって」

シャル

「よかったね鈴」

千冬

「ふっ。あいつも隅に置けんな。だが残念な事に火影も一夏と同じ位鈍感だと思われる。難しいぞ?」

シャル

「あはは、そうですね。でも良いんです。負けませんから」

本音

「そ~そ~」

「私も同じです」

 

三人は晴れやかな表情だ。

 

千冬

「そうか。…さて最後に更識、ボーデヴィッヒ。お前らが海之に惚れているのは良く分かってる。どこに惚れた?」

 

千冬は四本目の缶を開けた。

 

簪(カルピス)

「!…海之くんは私を変えてくれたんです。私はある事情でなんでも自分一人でやろうと、頑張ろうとしてました。弱音を吐けば負けだと思ってましたから。周りから手を差し伸べられても助言されても受け入れず、何時の間にかみんなから距離を取ってしまっていました」

「そうなのか…」

「…そんな時海之くんは言ってくれたんです。一人で全てを成し遂げられる人なんていない。頼るのも強さだって。だから私はみんなに相談してみたんです。そしたらこんな私をみんな受け入れてくれて。…海之くんは私を変えてくれて、そして力になると言ってくれた。自分の問題にも向き合おうと決心できたんです。気が付いたら…、海之くんの事が好きになってました」

本音

「かんちゃん~」

千冬

「ふっ…。最後はボーデヴィッヒだな。私は聞いたが改めて聞こうか」

ラウラ(グレープジュース)

「はい。みんな既に知っていますが…、私は生まれつき兵士として生き、闘い、そして死ぬ事だけを目的に生きてきました。生まれてから正直ほんの数日前、海之と戦うあの日まで。強くなることが私の存在意義。存在を証明する唯一の方法。そう信じていたんです」

千冬

「……」

ラウラ

「しかし敗北を受け入れらず、力を望んだ私は結果あんな無様な姿に…。そんな私を海之は命がけで救い出してくれました。あの黒いものに囚われた私に言ってくれたんです。大事なのは力ではなく、どんな困難にも負けない強い心と魂だと。もし何かあったら頼れと。そんな言葉は初めてでした。嬉しかったです。同時に今までに無い位胸が熱くなりました。そして分かったんです。これが好きという感情だと」

千冬

「…そうか。改めて良かったなボーデヴィッヒ」

ラウラ

「はい!…というわけで簪、お前には負けんぞ。海之は私の嫁だからな」

「えっ。……うん、私だって負けない!」

真耶

「海之くんも隅に置けませんね~」

「私も一夏のどういう所が好きなのか。もっと真剣に考えんとな…。ただセシリア、お前には負けんぞ!」

セシリア

「望むところですわ!」

千冬

「…さてすっかり話が長くなってしまったな。そろそろ…」

ラウラ

「あっ、少し待ってください。教官」

 

その時ラウラが千冬に話しかけた。

 

千冬

「?なんだボーデヴィッヒ?」

ラウラ

「あの、その、もし間違っていたら申し訳無いんですが。決して確証がある話ではないのですが…」

千冬

「構わん言ってみろ」

 

そう言いつつ千冬はビールを口に運ぶ。

 

ラウラ

「では申し上げます。教官も…海之の事が好きなのですか?」

全員

「「「……えっ!?」」」

千冬

「っ!!」

 

予想外の質問に千冬は思い切りむせた。

 

ラウラ

「大丈夫ですか!?」

千冬

「あ、ああ大丈夫だ…。ってそうではない!なんだその質問は!?」

ラウラ

「申し訳ありません。ただ数日前から教官の海之を見る目が他の生徒とは違う様な気がするのです。どう違うのかは分からないのですが…。それに教官は他の者とは違い、いつも海之の名前を先に出すので…」

シャル

「…そう言えば…」

セシリア

「確かに織斑先生だけ海之さんのお名前を火影さんより先にお呼びしますわよね」

真耶

「おまけに今日のビーチバレーも先輩とても楽しそうでしたもんね♪」

千冬

「あ、あれは別にそう言う理由では…。それに海之の名前を先に出すのもあいつが火影の兄だからだ!」

ラウラ

「…なるほど。さすがは教官」

「それで納得すんのね…」

千冬

「さあもうあいつらも戻ってくる。お前達もそろそろ部屋に戻れ」

全員

「「「ありがとうございましたー!」」

真耶

「すみません、私ちょっとお手洗いに行きますね」

 

そう言うと千冬以外の者は出て行った。

 

千冬

「…ハァ…やれやれ…」

 

しかし千冬の心中では先ほどのラウラの言葉が再び浮きあがった。

 

「教官は…海之の事が好きなのですか?」

「数日前から教官の海之を見る目が他の生徒と違う様な気がするのです」

 

千冬

「……数日前……!」

 

千冬には一つ思い当たる事があった。あのクレープ屋の店主の言葉。

 

「兄弟ってゆう感じでもないし恋人か?」

 

千冬

「…まさか…。いや馬鹿な、ありえん。あいつは子供だぞ。若干16だぞ。私がそんな事…」

 

「教官は…海之の事が好きなのですか?」

「兄弟ってゆう感じでもないし恋人か?」

 

千冬

「………私が………海之を…?」

 

またまた大いに悩む千冬だった。



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Mission57 ばれた!二人の秘密

臨海学校一日目が終わり、生徒達は夕食と食後の自由時間に突入していた。
火影・海之・一夏は夜の散歩へ。そして箒達は千冬達の部屋で千冬の尋問?を受けていた。観念した様に全員が火影・海之・一夏への想いを口にする中、ラウラが千冬に海之の事をどう思っているか尋ねる。その場を旨く誤魔化した千冬だったが、その心中は穏やかでないままであった。


夜が明け、この日は臨海学校二日目。

この日と明日は本格的な訓練。専用機を持っている者達は千冬指導の特別訓練。それ以外の者は訓練機を使った訓練の予定だ。簪は一応専用機持ちではあるのだがまだ機体が完成していないので今回は特別訓練には参加しない。その代わりにある人物がいた。

 

千冬

「…さて。専用機持ちは集まったな」

「……」

一夏

「…あの千冬姉。箒は専用機持ってないんじゃ…」

千冬

「織斑先生だ!…確かにな。だがこれで良いんだ、直に分かる」

一夏

「そうなのか?」

「うむ。安心して良い」

海之

「残念だな簪。機体が間に合わなくて」

「ううん、しょうがないよ。機体の方はほぼ出来てるんだけど…、肝心の荷電粒子砲がまだ設計段階だからね」

火影

「そうか…。その分三節根の訓練を頑張らねぇとな」

「うん」

ラウラ

「…ところで教官。既に全員揃っていますが…、まだなにかあるのですか?」

千冬

「うむ…。実はな…」

 

とその時、

 

生徒1

「ねえ、あれ何かな?」

生徒2

「何か…こっちに飛んで来てない!?」

 

見ると上空から何かがこっちに向かって来る!

 

千冬

「…!全員伏せろ!」

 

 

ドオォォォォォォォォン!!……パラパラ

 

 

一夏

「いってて。ななな、なんだ一体!?」

「なんか…落ちてきたみたいだけど…!?」

セシリア

「…!な、なんですのあれは!?」

 

見ると砂浜になにか落ちている、…というか刺さっている。その姿は一見巨大なニンジンの上部分の様にも見えた…。

 

ラウラ

「なんだこれは…?」

「大きいニンジン…?」

シャル

「ブースターがある…。ロケットの様にも見えるけど…」

 

ほとんどの者が驚く中、

 

火影・海之・千冬

「「「……なんか(なにか)悪い予感がする…」」」

 

とその時ニンジン?の上部がパカッと開き、何かが飛び出してきた。

 

「シュワッチ!!」

全員

「「「!?」」」

 

影ははるか上空まで飛び、そのまま落ちてきた。それは、

 

「ちーーーちゃーーーん!!」

一夏

「…!?あれって!」

「…ハァ」

 

それは束だった。そして前と同じく千冬に向かって落ちてきている。そして千冬にぶつかる直前に、

 

千冬

「…サッ」

「ヘヴァ!!」

 

千冬が見事に見切り、束は漫画的に地面に大穴を開けて墜落した。しかし、

 

「…ぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

穴の底から再び飛び出してきた。そしてそのまま千冬に抱きついた。

 

「ちーちゃんひどいよ~!せっかく一ヶ月ぶりに会えたのに~!!」

千冬

「お前がふざけた事するからだ。それにたった一ヶ月だろうが」

「一ヶ月もだよ!ローマだって一日で成るってゆうでしょ~!」

一夏

「いやそれを言うなら一日にして成らずじゃ…」

「へぇ、あんたもそんなことわざ知ってるのね」

「あ~いっくん久々だね~!元気だった?」

一夏

「ええおかげさんで。相変わらずですね束さんも」

「いや~それほどでも♪…あと」

「……どうも」

 

束は高速ダッシュで箒に飛びついた。

 

「ぶほっ!」

「箒ちゃんよ!我が妹よ!会いたかったよ~!暫く見ない間にすっかり大きくなって~!特に女性の象徴が」

「…殴りますよ?」

「気にしない気にしない♪」

「こっちは気にするんです!」

一夏

「ははは。やっぱり相変わらずだな…」

セシリア

「あの一夏さん…。あの方は?それに束さんってもしかして…」

「あっそうだった!自己紹介がまだだったね!ここにおわすお方を何方と心得る!恐れ多くもみんなのアイドルにしてIS達のお母さん、篠ノ之束さんだよ~ブイブイ!」

生徒達

「えっーーーーーーーーーー!?」

シャル

「あの人が篠ノ之博士!?」

「かなりフレンドリーな人ね」

一夏

「違うぞ鈴。あの人は超限定的に人を選ぶから気をつけろよ…」

「そうなの?」

「…あの人が篠ノ之博士…」

 

とそこへ少し遅れてロケットからクロエも来た。

 

クロエ

「束様、先程の自己紹介はすこし無茶があるのでは?」

「え~そう?はっ!そうか!助さん格さんが足りなかった!クーちゃん頭良い♪」

セシリア

「そういう問題でも無い様な気も致しますが…」

クロエ

「ハァ。あっ、そう言えば私も自己紹介がまだでしたね。皆さん初めまして。束様の助手を務めております、クロエ・クロニクルと申します。お見知りおきを…」

ラウラ

「!!」

「どうしたのラウラ?」

ラウラ

「い、いや…なんでもない」

(あの顔…まさか、あの人は…)

クロエ

(…やはり彼女もはなにか感じている様ですね。無理もありませんね。…でももう昔の話ですから、私からは何も言わない事に致しましょう)

千冬

(あのクロエという少女。やはりボーデヴィッヒに似ている…。恐らく彼女もまた…)

「ひーくんみーくんも久々だね~!」

火影

「はは」

海之

「ご無沙汰しています」

一夏

「あれ?二人とも束さんと知り合いなのか?つーか二人も愛称で呼ばれてんの!?」

火影

「ああ、まあちょっとな」

「そだよ~!二人共束さんのお友達なんだ♪あと二人の推薦状を書いたのも束さんだよ~♪」

千冬

「束!」

 

生徒達

「えーーーーーーーーーー!!」

 

セシリア

「御二人の推薦状を書いたのが…篠ノ之博士!?」

一夏

「マジか!!」

「姉さんが二人の推薦状を…」

「推薦状って、そんな話聞いてないわよ二人共!」

シャル

「本当なの火影!?」

ラウラ

「…流石は私の嫁と弟だ」

「海之くんと火影くんってやっぱりすごいね…」

本音

「ほんとだね~!」

火影

「はは…」

海之

「ハァ…」

 

生徒達の多くはまだ興奮冷めやらない感じだ。

 

「…あれ?これってもしかして言っちゃいけなかった?」

クロエ

「そのようですね」

千冬

「騒ぎにしたく無かったから言わなかったんだ。全く余計なことをしおって…」

「あ、あはは…。まぁいいじゃん。もう終わった事だし♪」

一夏

「でも束さんがわざわざ二人に推薦状を書くなんて…。言っちゃ悪いが千冬姉と箒と俺以外にはほとんど関心ない束さんがそんな事するなんて、俄かに信じらんねぇ…」

シャル

「それどころかIS学園に今まで推薦状で入った生徒なんて聞いたこと無いよ!」

「でもどんな事してそんな物書いてもらえたのよ?というか二人はどうやって篠ノ之博士に知り合ったのよ?」

火影・海之・千冬

「「「!」」」

 

三人は嫌な予感がして束を止めようとしたが、

 

「ああそれはね~♪二人があの4ヶ月前の旅客機墜落事故を防いだからだよ~♪それでそのヒーローに会いたいと思って♪知ったのは会ってからだけどね♪ヒーローに推薦状なんて必要無いでしょー♪」

 

…遅かった。

 

生徒達(1-1以外の)

「……えーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

本日一番声が響いた。

 

シャル

「旅客機の事故って…あの旅客機墜落未遂事故の事!?確か赤と青の光に救われたっていう…。あの事故を防いだのが…火影と海之!?」

「それに赤と青の光って確かISだって聞いたわ!アリギエルとウェルギエルの事だったの!?」

「あの旅客機を救ったのが…海之くんと火影くん。本当にヒーローだったんだ…」

ラウラ

「…やはり私などまだまだ足元にも及ばんな…。もっと鍛えなくては」

火影

「はは、みんなばれちまった……」

海之

「…ハァ…」

 

生徒達は真相を聞こうと火影と海之のまわりに押し寄せている。これから訓練というのに火影と海之はもう疲れた表情だ。

 

「…って、もしかして…これも言っちゃいけなかったやつ?」

クロエ

「…みたいですね」

千冬

「……」

一夏

「あの…千冬姉?」

「どしたの~ちーちゃ…!」

 

束は千冬の顔を見て酷く焦り始めた。

 

千冬

「束…、覚悟はできてるだろうな?」ゴキッ!ゴキッ!

「い、いやいやもう終わった事だし~。…そ、それにさ~いつかばれる事じゃ」

千冬

「問答無用!!」

「!!…箒ちゃんいっくんクーちゃん助けてー!」

「自業自得です」

クロエ

「同じく」

一夏

「すんません束さん…そう言う事なんで」

「そんな~!」

千冬

「覚悟しろ!!」

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」

 

それから約一時間授業が遅れたのであった。




次回は箒の機体。そして束に依頼した新たな装備が出ます。


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Mission58 紅椿とデビルブレイカ―

臨海学校二日目。
訓練を行うためにみなが集まった中、突然そこに束とクロエがやってくる。箒や一夏との再会を喜ぶ束だったがうっかり火影と海之の推薦状の件、そして以前起こった旅客機墜落未遂事故の件をみなの前で話してしまう。生徒達のほぼ全員が驚き、訓練どころでは無くなってしまった原因を作った束に千冬は制裁を食らわすのであった…。


束とクロエが火影や一夏達の前に現れ、火影達の秘密をばらしてしまってから約一時間後。火影と海之の秘密に一時騒然となった現場もようやく落ち着きを取り戻し始めていた。そんな状況を作った張本人である束はというと千冬の粛清を受け、現在気絶していた。

 

「…………」

火影

「見事にのびてんな」

一夏

「…千冬姉、少しやりすぎじゃ…」

千冬

「構わん」

「感謝します、千冬さん」

シャル

「あんな織斑先生初めて見た」

ラウラ

「ああ。ドイツでもあんな教官は見たことが無い…」

セシリア

「でもどうしましょう。このままという訳にはいきませんでしょうし…」

 

みんながどうしようか迷っている中クロエが、

 

クロエ

「大丈夫です」

「…………」

クロエ

「コアラのマーチ食べます?」

「もらおうじゃないか!」

生徒

「「「はや!!」」」

クロエ

「問題解決ですね」

千冬

「う、うむ。…所で束、そろそろこっちに来た理由を話せ」

「そうだね!…では皆々様。上空をご覧あそばせ!」

 

全員が上を見上げるとそこに一体の赤いISが上空で待機していた。やがてそれはゆっくりと降下し、全員の前に降り立った。

 

一夏

「束さんこれは?」

「ふっふ~ん!よくぞ聞いてくれました!これぞ我が最愛の妹、箒ちゃんのために作った専用機、「紅椿」(あかつばき)だよー♪」

「紅椿…。これが私の…専用機」

「コアは勿論パーツまで全てが束さん特製!どんなISにも後れをとらないよ~♪…一部を除いて」

一夏

「一部って?」

千冬

「…束、それは海之と火影のISか?」

「あったり~!悔しいんだけどひーくんとみーくんのISは束さんも分からない機能が多いからね。あと二人の常人離れの身体能力も重なってどんどん強くなってるんだよ~。残念だけど束さんにも無理!あ~思いだしたらやっぱりばらしたくなってきた~!ねぇひーくんみーくん」

火影・海之

「「お断りします」」

「ガビーン!また即答!」

クロエ

「束様。前回と同じパターンですよ」

シャル

「前に火影がアリギエルはプレゼントされたって言ってたけど…篠ノ之博士じゃ無かったんだ」

「篠ノ之博士でも造れないなんて…」

「まいいや。あとこの紅椿には新しい装備を搭載しているからね♪」

「新しい装備?」

「そっ!その名も展開装甲!攻撃、防御、スラスター等目的に応じて使い分けられる万能装備だよ♪使いこなすには練習がいるけどね」

「展開装甲…」

「さてと、それでは箒ちゃん。初期化と最適化を始めようか!束さんも手伝うから直ぐに終わるよ♪」

「…はい。宜しくお願いします」

 

そういうと束と箒は作業に入った。

 

「ねぇ、篠ノ之さん専用機造って貰ったの?」

「なんかずるい…。私も頑張ってるのに…」

「まあ妹の特権ってことなんじゃないの?」

 

火影

「……」

「どうしたの火影?」

火影

「ああいや、箒が大丈夫かと思ってな」

シャル

「どういう事?」

海之

「代表候補生であるお前達なら分かるだろうが、専用機というのは数多くの努力と実績を積み重ね、更に政府や企業から認められて初めて持つ事が許される。あいつは確かに腕は悪くない。だがISの操縦歴で言えばお前達よりも劣る。幾ら束さんの妹とはいえ、あっさり持ってしまって果たして良いものか…。下手に動いて失敗しなければ良いが」

「海之くん…」

セシリア

「確かに私もブルーティアーズを得るまで何年もかかりましたわ…」

ラウラ

「なんとなくわかるな。私も…力に飲み込まれたからな」

一夏

「まああいつも一所懸命努力してきたんだし、大丈夫だよ」

火影

「……」

 

 

…………

 

そしてやがて箒と紅椿の設定と試運転は終わった。

 

一夏

「あの紅椿っていう機体、火影や海之の程じゃねえけどはえぇな」

「じゃあ設定はこれで終わりだね♪お疲れ様箒ちゃん」

「ありがとうございます…」

(これで私も戦える…一夏と一緒に…。もう一夏や火影達の足手まといにはならない…)

一夏

「お疲れ、箒」

火影

「ま、改めてこれから宜しく頼むぜ」

「ありがとう二人共」

千冬

「束。紅椿は何世代になるんだ?」

「あ、忘れてた!紅椿はいっくんの白式と同じく第4世代だよ♪」

シャル

「第4世代!」

「各国がやっと第3世代に取りかかったばかりなのに…」

セシリア

「さすがは篠ノ之博士ですわね…」

一夏

「つーか白式って第4世代だったんだ…」

「遅いのよあんた!…因みに火影、あんたと海之のって何世代なの?」

火影

「ああ僕達のは…0世代だ」

「はっ?第0世代!?」

シャル

「そんなの聞いた事無いよ!」

海之

「俺達にもわからん。だが登録ではそうなっている。俺のウェルギエルが0世代の1号機、アリギエルが2号機だ」

「わからない?…あ、そか。あんた達のISって誰かから貰ったものって言ってたっけ」

火影

「さっき束さんが言ってたが、僕達のISは使い手と共に成長する機体だ。大方可能性が無限大、ゼロっていうことじゃねえか?」

一夏

「…ほんとお前らって色々すげえな」

千冬

「……」

クロエ

「束様。あとは」

「わかってるよクーちゃん。次はあれだね♪」

千冬

「まだあるのか束?」

「まあね!ちょっと待ってて!」

 

そう言うと束は一旦ロケットに戻る。…そして戻って来た束の手は少し大きめのアタッシュケースがあった。

 

「よいしょっと!」

一夏

「束さんそれは?」

「ふっふ~ん。これはひーくんみーくんの依頼だよ♪」

火影

「僕と海之?…てことはまさか」

「そ!それではオープン!」

 

ガチャッ!プシュー!

束はケースを開けた。その中には、

 

シャル

「これって…籠手?」

セシリア

「義手の様にも見えますわね…」

 

籠手の様にも義手の様にも見える物が3つあった。

 

火影

「…デビルブレイカ―」

「正解~」

海之

「…まさかこんなに早く。しかも3つも」

「とりあえず先にできた物を渡すね♪」

海之

「ありがとうございます」

「お礼を言うのは束さんだよ!貴重なデータが得られたし~♪」

「ねえ火影。これは?」

火影

「ああ。これはデビルブレイカ―という武器だ」

シャル

「これが武器!?」

「ただの武器じゃないよ。これは拡張領域もいらないし展開する必要もない。腕にはめるだけで使えるんだよ~!」

「そんな物が…」

海之

「ああ。そして…これはお前達に使ってもらう」

「…えっ!?」

ラウラ

「私達が?」

火影

「ああそうだ。理由としては…対抗するためと言っておこうか」

シャル

「対抗って…、もしかして火影、あの機械の蜘蛛とかの事?」

火影

「…そうだ。お前達も分かっているだろうがアレは前例が無い未知の存在だ。前回は被害も少なく倒すことができたが次も上手くいくかわからねぇ。いつも僕や海之がいるとは限らねぇしな」

海之

「その通りだ。だからこそお前達にも今まで以上により強くなってもらう必要がある。そのためのこれだ。使いこなすには鍛錬がいるがな」

全員

「「「……」」」

火影

「どうだ?覚悟はあるか?」

一夏

「…良いぜ、やってやろうじゃねえか。いつまでもお前らに頼るのも悪いし。俺もアラストルを結構使いこなせるようになって来たしな」

「…うむ。折角専用機を持ったんだ。私も足手まといにはならん!」

セシリア

「私ももっと強くなりますわ!」

「同じくよ!でも絶対いなくならないでよ!あんたも海之も」

シャル

「みんなが一緒なら怖くないよ!」

ラウラ

「私はいつも海之。お前と共にいよう」

「少し怖いけど、私も頑張る!」

 

みんなやる気に満ちていた。

 

千冬

(海之と火影、二人がみなに良い影響を与えているな。しかし先程の言葉、まるでこの後あの様な事が再び起こる事を確信している様にも思える。海之、火影、お前達はやはり我々とは違うのか。…もしかしたら…私も何れ再び立たねばならんかも知れんな…)

「ところで海之くん。今あるこれは誰に使ってもらうの?3つしかないけど?」

海之

「ああ。今ここにある物は…セシリア、鈴、そしてラウラ。お前達に渡す」

セシリア

「本当ですか?」

「ありがとう!」

ラウラ

「嫁からのプレゼントか。良い響きだ」

火影

「束さん。「ケルベロス」と「パンドラ」は?」

「「ケルベロス」の方は来月には渡せるよ。「パンドラ」はもうちょっとかかるね。ていうかなにあの構造!あんなの見たこと無いよ!」

クロエ

「まあでも束様。もの凄く嬉しそうに造られてますから心配なさらないでください」

海之

「ありがとうございます」

「海之くん。「ケルベロス」って?」

海之

「ああ。それこそお前に渡す武器だ。あと「パンドラ」はシャル、お前にだ」

シャル

「僕の?」

火影

「そうだ。そしてこの「パンドラ」だが…少しお楽しみがあるからな」

海之

「というわけだ簪。もう少し待っていてくれ」

「ありがとう海之くん。それに篠ノ之博士」

シャル

「お楽しみか~」

 

とそこへ真耶が慌てた様子で走って来た。

 

真耶

「せ、先輩大変です!」

千冬

「山田先生、どうした?……! 全員注目!訓練は中止!これより特殊任務に移行する。専用機持ちは付いてこい!」




デビルブレイカ―3種、キングケルベロス(省略でケルベロス)、パンドラ登場決定です。パンドラはかなり特殊な魔具ですが予定は出来てますので頑張ります。


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Mission59 ふたつの出撃

ISの生みの親である束の登場というサプライズ。束は妹の箒に専用機「紅椿」を渡す。束の妹とはいえ、いきなり専用機を持ってしまう事になった箒に火影や海之はやや不安が残る。やがて赤椿の調整が終わると束は今度は二人から依頼されていた物のひとつとしてアタッシュケースを取りだす。それはかつての自分達の仲間が使っていた武器、「デビルブレイカ―」であった。
束からの思わぬプレゼントにみなが驚きと感謝を述べる中、真耶が慌てて駆け込んでくるのであった。


臨海学校二日目。時間はうっすら夕方に差し掛かろうとしていた。

 

この日行われる予定だった訓練は全て中止となり、専用機持ちで無い者は部屋で待機を命じられた。因みにクロエは彼女達が勝手な行動を取らない様、千冬と束から監視を命じられている。火影や海之、一夏達専用機持ちは全員花月荘のある部屋にいた。尚そこには専用機持ちになったばかりの箒も参加していた。

 

千冬

「よし、専用機持ちは全員集まったな。それでは現状を説明する」

全員

「「「……」」」

千冬

「今から約二時間前。ハワイ沖で稼働訓練中だった米軍とイスラエル軍による共同開発のISが突然暴走、高速で監視空域を離脱し消息を絶った。そして約一時間前、そのISを再び確認。計算によると今から約一時間後、ここに最接近するという事が確認された」

ラウラ

「そのISとは?」

千冬

「米軍とイスラエル軍による共同開発にして第3世代型軍用IS、シルバリオ・ゴスペルだ」

シャル

「軍用IS…」

「ラウラのISとかと同じってわけね」

一夏

「でもち、織斑先生、それと俺達とどういう関係が…?」

 

すると一夏の質問に海之が答えた。

 

海之

「…織斑先生。最接近する時を見計らい、一番近くの俺達にそのISを止めろというのですね?」

 

セシリア

「なっ!?」

火影

「…なるほどな」

千冬

「…その通りだ海之。現時点で最もその可能性が高い我々にそのISを止めろという学園上層部と政府からの命令が先ほど届いた…」

「!」

火影

「…理解できませんね。専用機持ちとはいえ、ただの子供である僕達にその様な命令が何故来るのか。相手は軍のISでしょう?」

「そ、そうですよ!なんで軍が動かないんですか!?アメリカやイスラエルが一番動かないとダメじゃないですか!?」

千冬

「…私もそれについて先ほど問い合わせたが、「一番近いから」の一点張りだったよ。しかし学園長はこの様な命令をなんの考えも無しにする方では無い。大方他方からの圧力だろうな…。おまけに我々教員は海上封鎖に専念し、実際事に当たるのはお前達だとさ…。全く腹がたつ話だ」

真耶

「皆さんごめんなさい…」

海之

「気にしないでください。先生方が悪い訳ではないでしょう?」

一夏

「そうだよ千冬姉。山田先生も頭上げてください」

千冬

「…そう言ってもらえると助かる。口惜しいが命令である以上従わねばならない。ではこれより作戦会議を始める。意見がある者は挙手しろ」

セシリア

「はい。目標の全情報開示を提案致します」

千冬

「よかろう。ただこれは軍事及び国家機密で一切他言無用だ。独房に行きたくなければな」

セシリア

「承知しました」

 

すると目の前の画面にあるISが映し出された。

 

一夏

「これがシルバリオ・ゴスペル…。軍のISか」

「……広域殲滅を目的とした射撃型…か。一番近いのはセシリアのブルーティアーズかな」

シャル

「でも機体スペックは僕達の機体より高いね。さすが軍の新型と言ったところか…」

ラウラ

「偵察はできないのですか?」

千冬

「無理だな。こいつの最高速度は時速2000km以上だ。追いつける偵察機は限られる。それに最接近のタイミングを逃せば恐らく次は無い。機会は一回きりだろう」

「一回だけ…」

海之

「…先生。先ほど火影が申し上げましたが我々は子供です。もし仮に失敗する様な事があった場合、責任の追及などはされませんか?」

千冬

「ああそれについては心配するな。例え今回の作戦が失敗してもお前達に一切の責任は追及しないという約束を学園長が取りつけてくれた。向こう側も流石にそこまでの事はしなかったようだ」

海之

「…わかりました」

シャル

「でも止めると言ってもどうしよう…。現時点で一番の策は…やっぱり火影と海之かなぁ」

千冬

「ふむ…」

 

みんなの視線が二人に集まる。確かに火影と海之なら可能かもしれない。あとは、

 

千冬

「或いは…織斑の白式か」

一夏

「えっ、俺?」

「あんたの零落白夜で一気に相手のSEを0にするのよ」

火影

「なるほどな。その手もあるか…」

海之

「だが一つ問題がある。零落白夜は自らのSEを使って行う。更に一撃で事を収めるとなると全エネルギーをそれに回す位で無ければならん。移動に使うエネルギーさえも惜しい。誰かが一夏を現場まで運ばなければならんだろう」

ラウラ

「確かに」

火影

「まあ運ぶのは僕や海之でもできるけどな。…どうだ一夏。お前がやるか?」

一夏

「…俺が…」

海之

「もし自信が無いなら俺達が」

 

その時、

 

「一夏!」

全員

「「「!」」」

 

叫んだのは箒だった。

 

「しっかりしろ一夏!そんな弱気でどうする!お前はつい先ほど言ったではないか!いつまでも火影や海之に頼ってはいけないと!あの時の言葉を忘れたのか!?」

一夏

「…箒」

「火影や海之の言う通りだ。私達も強くならねばならん!だったらこれ位の試練、乗り越えられなくてなんとする!?」

一夏

「……」

火影

「篠ノ之…お前…」

「それに現場への移動は心配ない!私の紅椿で運んでやる!安心しろ!」

千冬

「待て篠ノ之。お前は紅椿を先ほど得たばかりではないか。いきなり前線に出るつもりか?」

セシリア

「そうですわ箒さん。私のブルーティアーズの高速パッケージなら」

「必要無い!」

セシリア

「!」

「あっ…ご、ごめん…セシリア。酷い事を言ってしまった…。謝る…。ただ…今回は私にやらせてくれないか?私も戦いたいんだ…。皆の様に一夏と一緒に…」

「あんた…」

シャル

「箒…」

火影・海之

「「……」」

 

少しの沈黙の後、

 

千冬

「……おい束、どうせ聞いてるんだろう?」

 

ガラッ!

押し入れの戸が開いた。

 

「やっぱりばれてたか♪」

全員

(((何時からそこに?)))

千冬

「話は聞いていたと思うが、紅椿なら本当に可能か?」

「問題無いよ!ちょこっと調整すれば」

 

すると一夏が口を開いた。

 

一夏

「……わかったよ箒」

「一夏!」

一夏

「お前の言う通り、確かに火影達に頼りっぱなしじゃ駄目だって言ったばかりだもんな!やってやろうぜ!」

「うむ!任せろ!」

千冬

「…決まったようだな。では今から30分後、織斑・篠ノ之の両名によるシルバリオ・ゴスペル制圧作戦を決行する!各員は準備に入れ!」

「よし!そうと決まれば急ぐよ箒ちゃん!」

「はい!」

 

そういうと火影、海之、一夏、千冬、真耶以外の者は出て行った。

 

海之

「……一夏」

一夏

「わかってるよ海之。箒の事だろ?」

海之

「…気づいていたか」

火影

「紅椿を手に入れた事もあるんだろうが…あいつ焦っているな。早く強くならなければいけないと、そう思っている様に見える」

海之

「ああ。そして浮かれている。お前と一緒に戦えるという事にな」

千冬

「……」

真耶

「篠ノ之さん…」

一夏

「心配してくれてありがとうなみんな。…でも俺さ、あいつの言葉で目が覚めたんだ。それにあんな生き生きとしたあいつ見るのは久々だしな。…必ず成功させてみせるぜ」

火影

「……ふっ。まあ頑張れ。前に僕に傷を付けた位の奇跡を起こして見せろ」

一夏

「おう!」

 

 

…………

 

それから約30分後。出撃準備が整った。

 

セシリア

「一夏さん、御武運を」

「頑張んなさいよ!」

シャル

「気を付けて!」

ラウラ

「油断するな」

千冬

「いいか二人共。くれぐれも無茶はするな。もし作戦継続が困難だと判断した場合直ぐに戻れ。これは最重要命令だ」

一夏・箒

「「はい!」」

千冬

「よし…行け!」

 

ドンッ!ドンッ!

 

かくして白式と紅椿は発進した。

 

火影

「…二人共、無事でな…」

海之

「……」

千冬

「海之、火影」

 

千冬が二人に話かける。

 

火影

「どうしました先生?」

千冬

「…お前達に話がある。来てくれ」

海之

「? はい」

 

そういうと残った全員は再び千冬に連れられ、仮指令室に入った。そこには束もいた。

 

ラウラ

「どうしました教官?」

千冬

「…今から話す事は先ほどの件と同じく一切口外禁止だ。いいな?」

全員

「「「はい」」」

千冬

「……実は、先ほどの会議ではISは突然暴走して空域から飛び去ったと言ったが……、実はそうではない」

シャル

「暴走じゃない?」

セシリア

「どういう事ですか?」

千冬

「……これを見てくれ」

 

そういうと千冬はスクリーンに映像を写した。

 

「…!火影、あれって!」

セシリア

「あの時の!」

火影

「……」

 

そこに写っていたのは以前のクラス対抗戦で出現した謎の黒い騎士の様なIS。しかも以前より遥かに数が多い。それがどこかの軍に襲いかかる様子だった。軍の方は急な襲撃で対応できなかったのか一方的に痛めつけられていた。

 

千冬

「……これは今から約3時間前にあったハワイ沖での映像だ」

ラウラ

「!教官、それはまさか」

千冬

「ああ。黒いISと戦っているのは米軍とイスラエル軍だ」

セシリア

「…!皆さんあれを!」

 

映像には敵と戦うシルバリオ・ゴスペルの姿もあったが、やがて煙を上げて敗北した。そこで映像は途切れた。

 

シャル

「シルバリオ・ゴスペルが…」

「数が多いと言っても軍の最新型があんな簡単に…」

海之

「…そういう事か」

ラウラ

「どうした海之?」

 

海之はある結論に達した様だ。

 

海之

「…シルバリオ・ゴスペルは暴走したのではなく、…奴らに鹵獲されたのですね?」

 

セシリア・鈴・シャル・ラウラ

「「「「!!」」」」

「みーくんさっすが~♪」

千冬

「…その通りだ。映像には残っていないがゴスペルはこの後あの黒いISに鹵獲、回収され、戦闘空域から去った…。両軍のメンツに関わると言ってその時の映像は公開されないままだがな」

「でもこの束さんの頭脳ではそんなの無意味だよ♪ほんの少し脅しをかけたらあのISを奪われた事をあっさりと自白したんだ♪」

シャル

「脅しって…、いや、なんでも無いです」

千冬

「…話を戻そう。そしてこの映像から約一時間後。今まで消息を絶っていたゴスペルが再び出現した。それこそ暴走状態でな。因みに生体反応があることから中に操縦者はいる筈だが応答がない。恐らく気絶しているのだろう」

「で、でもさ!捕まっていた物がいきなり出てきたなんて危ないんじゃない?もし細工なんかされてたら」

「う~ん、それについては多分大丈夫だよ。出動前にあのISのシステムにハッキングしてみたけど計算されたスペックと何も変わって無かったから。多分捕まる前と同じ筈だよ」

セシリア

「そ、そうですの…。それならとりあえず良かったですわ…」

「ただ問題は別にあるんだよね~」

セシリア

「えっ?」

 

すると千冬から驚く事が明かされた。

 

千冬

「実は…ゴスペルを鹵獲した物と同じ例の黒いIS群が先ほど突如出現し、こちらに向かって来ているという事が分かった。接触は…今から20分後だ」

火影・海之

「「…!」」

「なっ!?」

ラウラ

「教官、その数は!?」

千冬

「…大まかに分かるだけでも…約100機」

シャル

「ひゃ、100機!?」

セシリア

「そ、そんなの私達だけではどうしようもありませんわ!今すぐ避難しないと!」

「でも一夏と箒が!」

「う~ん今から生徒達全員連れて逃げても間に合わないね。直ぐに追いつかれるよ」

千冬

「また、二人にはゴスペルの制圧に専念してもらう為にこの事は伝えていない。真実を知れば集中できなくなるかもしれんからな。だが…私達がここを離れれば奴らが二人の方へ向かうかもしれない」

「そんな…」

シャル

「いったいどうすれば…」

 

とその時、

 

火影・海之

「「先生」」

「お!ひーくんみーくん!」

千冬

「……二人共、……やってくれるか?」

海之

「はい」

火影

「もちろん」

 

海之と火影は笑ってそう言った。

 

「!まさか、あんた達だけでやるつもり!?」

セシリア

「そんな!あまりにも多勢に無勢ですわ!」

シャル

「そうだよ火影!相手は100機だよ!?いくら二人が強いって言ったって!」

ラウラ

「わ、私も行くぞ海之!戦力は多い方が!」

海之

「駄目だ。お前達はやつらと戦うだけの力をまだ身につけていない」

火影

「お前達はここを守れ。そして僕達の戦いを見学してろ」

「でも!」

火影

「大丈夫だよ鈴。大船に乗った気でいな。お前達の誰も死なせねぇよ」

シャル

「火影…」

 

泣きそうな表情の鈴とシャルロットに火影は何時ものように余裕に満ちた表情で話しかけた。

 

海之

「織斑先生、簪をここに呼んでください。あいつもいずれ戦う時が来ます。学ばなければなりません」

千冬

「…そうだな。わかった」

「束さんは全く心配してないからね二人共♪」

火影

「ありがとうございます。…んじゃ僕達は行きますね。できるだけ奴らを離したいですから。行こうぜ海之」

海之

「ああ」

 

そういうと火影は先に出た。海之も行こうとした時、

 

千冬

「…海之」

海之

「? はい」

千冬

「……気をつけて」

海之

「はい、ありがとうございます」

 

そういうと海之も向かった。

 

千冬

「海之、火影、…お前達も私の生徒なのにな…。頼ってばかりの自分が情けない…」

ラウラ

「教官…海之…」

「大丈夫だよちーちゃん…」

セシリア

「皆さん。御武運を…」

鈴・シャル

「「火影…」」

 

二つの戦いが始まろうとしていた。




※次回、久々に二人の蹂躙です。そして装備公開です。


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Mission60 暗雲を払う双子

臨海学校二日目に起こった突然の事態。それは米軍とイスラエル軍が共同開発したISが突如暴走し、自分たちの所に急接近しているというものだった。対応を検討していると箒が自分と一夏で止めると言いだす。一夏もその気になり、ISは二人に任せる事に。
しかし実は隠された真実があった。暴走して去ったと思っていたISは実は以前出現した謎の黒いIS群に連れ去られていたことが判明。更にそれと同じと思われる黒いISが100機以上で向かって来ているらしい。全員が対応に困る中、火影と海之は自分達で殲滅すると断言。2対100という一見絶対的不利な戦いが始まろうとしていた。

UAが40000に到達致しました!ありがとうございます。


米軍とイスラエル軍が例の黒いISの集団に襲われたという事実を一夏・箒以外のメンバーが知ってから約15分。ここは花月荘から約200km程離れたとある海の上。

 

火影・海之

「「……」」

 

そこにアリギエル、ウェルギエルを纏った火影と海之がいた。花月荘に向かって来ているIS群を迎撃するために。

 

千冬

「海之、火影。間もなくIS群が視認できる距離に入る」

火影・海之

「「了解です」」

「火影!もし死んだりなんかしたら…、絶対許さないからね!」

火影

「大丈夫だ鈴。安心しろ」

シャル

「二人共絶対、絶対勝って!」

火影

「心配すんなシャル。任せとけ」

セシリア

「御二人の御無事をお祈りしていますわ!」

火影

「サンキュー、セシリア」

「海之くん!」

海之

「簪か」

「海之くん…ごめんなさい。私、海之くんや火影くんにいつも守られてばっかり…」

海之

「気にしなくて良い。お前は何も心配するな」

「海之くん…」

ラウラ

「自分の嫁の力になれないとは…。私は自分が情けない」

海之

「大丈夫だ。ラウラ」

「二人共!頑張ってね♪」

火影

「はは。でもそれ位気楽にしてくれた方がやりやすいです」

真耶

「二人共頑張ってください…。あっ、織斑くんと篠ノ之さんも先ほどISと接触したそうです」

火影

「そうですか。あいつらも上手くやってくれるといいが…」

海之

「二人を信じよう」

火影

「ああ」

千冬

「…二人共。必ず生きて帰ってこい」

火影・海之

「「はい」」

 

ピッ

 

火影

「なあ海之。どっちが多く倒せるか競争しねぇか?」

海之

「本当にお前という奴は…。まぁいい、付き合ってやる」

火影

「…しかし奴ら、何故あのISを捕まえたりしたんだろうな?しかも折角捕まえたのに何もせずに放すとは」

海之

「さぁな…。用がすんだらもう必要無くなった、という訳かもな」

火影

「調べる?…まぁ今はそんな事考えても仕方ねぇか」

海之

「そしてもう一つ。なぜ奴らは花月荘に向かっているのか」

火影

「確かにな…。何かを狙っているのか。普通で考えれば束さんか。彼女は世界中から狙われているからな。もしくは…」

海之

「…その話は後だ。来たぞ」

 

よく見るとまだ遠い場所にISらしい群れが確認できた。大まかに見ただけだが確かにかなりの群れである事は確認できる。

 

火影

「何年振りだろうな?俺ら二人でこんな状況になんのは?」

海之

「俺達がクリフォトの根を断つために魔界に降りていた時位ではないか?」

火影

「もうそんなになるか…。その間地上はあいつに任せてたし、帰ってからお前は直ぐに旅に出たしな」

海之

「ああ。…思えばあいつにはすまない事をした。だが今回はあの頃とは違う。今の俺達は…俺達の守るべきもののために戦う」

火影

「ははっ、確かに。さて先手必勝といくか!」

 

そう言うと火影はイフリートを、海之はベオウルフを展開し、長く力を込めた。

 

火影・海之

「「はあぁぁぁ…はっ!!」」

 

イフリートから火球メテオが、ベオウルフからは光弾ゾディアックが放たれた。

 

ドオォォォォォォン!ドオォォォォォォン!

 

「「「!!」」」

 

通常より長くチャージされたそれは普通より威力が大きいものになり、今ので軽く5、6機は破壊されたようだった。そしてその破壊と同時に敵も二人に気づき、襲い掛かって来た。

 

火影

「いかれたパーティーの始まりか!」

海之

「…行くぞ」

 

ドドドドドドドドドドッ!

 

前にいるIS達が二人に向かってライフルを撃ってきた。しかしそれを二人は難なくかわし、イフリートとベオウルフを敵腹部に打ちつける。

 

火影

「おらぁ!」

海之

「はっ!」

 

そのまま押し進んで複数の敵を巻き込み、そのまま今度はアッパーで上空まで登る。

 

火影・海之

「「ライジングドラゴン!!」」

 

ドガガガガガガガガン!

 

二人は敵達の上空まで上がり、今度はそのまま急降下する。

 

火影

「でやぁ!」

ドゴッ!ボガアァァァァァァン!!

 

火影は拳を敵に叩きつけ、周囲に爆発を起こす。その爆発に何体か巻き込まれた。

 

海之

「おぉぉぉぉぉ!!」

ズドドドドドドドン!!

 

海之は以前ラウラ戦で見せた急降下からの流星脚を放った。やはりこちらも多くが巻き込まれる。

 

「「「……」」」

 

敵ISは二人の起こした爆煙で居場所を見失っているようだ。その時、

 

火影・海之

「「おぉぉぉぉぉ!!」」

 

ズドドドドドドドドッ!!

 

「「「!!」」」

 

煙の中からリベリオンと閻魔刀を前に付きだして火影と海之が突進してきた。突然の事態に敵は慌てふためく。

 

火影

「でりゃあ!」

 

ブン!

シュバババババ!

ズガガガガガガガガ!!

 

「「「!!」」」

 

火影はリベリオンをブーメランの様に高速回転させながら敵に繰り出す。敵は堪らず距離をとる。だが、

 

ズドドドドドッ!

ズガガガガガガガガ!!

 

「「「!!」」」

 

逃げた先の上空に展開された幻影剣が雨の如く襲いかかった。敵は袋のネズミだった。

 

ブンブンブン…パシッ!

 

火影

「さてと、準備運動はこれくらいでいいか」

海之

「ああ。…今迄でもう41潰したがな。お前が20、俺が21だ」

火影

「しっかり数えてんのかよ!まぁいいや、勝負はこれからだ!」

 

そして二人は敵の群れに向かって行った。

 

 

…………

 

同時刻 花月荘 仮指令室

 

束以外の全員

「「「……」」」

「いや~初めて間近で見たけどやっぱすごいね~♪前よりまた強くなってるね二人共!動きもキレキレだね!もはやあれは機械じゃなくて人間の動きだね~♪」

セシリア

「いくら御二人が強いとはいえ、100機もの敵を相手にここまで一方的だなんて…」

シャル

「信じられない…。しかも二人共全くダメージを受けてないよ…」

「本当に凄すぎよ…。でもカッコいいじゃん、二人共」

「うん。海之くんも火影くんも……本当にヒーローみたい」

ラウラ

「流石は私の嫁と弟だ」

千冬

「……」

(米軍とイスラエル軍、さらに最新型のゴスペル。それらが束になって挑んでも勝てなかった奴らを、たった二人でこうも簡単に…。余りにも戦い慣れすぎている…。海之、火影。お前達は本当に何者なんだ…)

真耶

「先輩!篠ノ之さんから連絡です!織斑くんの白式による零落白夜が失敗しました!これより戦闘を継続し、再度零落白夜を挑むとのことです!」

千冬

「なに!?二人は大丈夫なのか!?」

真耶

「あと一回位はいけるとの事です。それが失敗した場合、戦域を離脱するとの事です!」

千冬

「…くっ」

セシリア

「一夏さん…箒さん…」

 

 

…………

 

場所は戻って火影と海之。

 

海之

「アレだけは言うなよ!」

火影

「心配すんな、まだ言わねぇよ!」

 

二人曰く準備運動が終わってからはお互い調子を更に上げ、蹂躙が続いていた。その様子はまるで鏡に映った様な動きで振り向き様に剣を振れば互いの後ろにいた敵を切ったり、剣を前に突き出して高速で突きを決めたりと一切の無駄が無かった。やがて残りは僅かとなった。

 

火影

「…さてっと、そろそろあいつを使ってやるか。久々に暴れたいだろうしな」

 

そう言うと火影はリべリオンを収納した。それを見て敵の一体が正面から向かってきた。そしてぶつかる瞬間、

 

ドスッ!

「!」

 

見ると腹部に短剣かナイフの様なものが刺さっているのが見える。更に、

 

「!」

 

アリギエルの手に拳銃でもショットガンでもない、巨大なランチャーがあった。そして

 

火影

「行きな!」

 

ボシュッ!

ボガァァァァァン!!

 

突然飛び出してきたミサイルが短剣が刺さっていたISを跡かたも無く大破した。更に、

 

ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!

ボガァァン!ドガァァン!ボガアァァン!!

 

追撃のミサイルが他の敵を追尾、撃破した。

 

火影

「へへ、威力は鈍ってねぇな。しかも前は連結しないと使えなかったビーム砲までサービスしてくれるとは」

 

カリーナ・アン・ランチャー

かつて火影(ダンテ)の仲間が使っていた多目的ミサイルランチャー。名前はその仲間の母親の名から来ている。使い回しは決して良くはないが一発の威力は非常に高い。多目的だけあって多弾頭や数種類の弾を使えるだけでなく、SEを消費してビームを打つ事も出来る。

 

一方海之の方も問題無く戦闘を進めていた。そんな中、敵の一体が海之の後ろから襲いかかろうとしていた。しかし、

 

ジャキッ!

ズドドン!

ボガン!!

 

「!」

 

敵ISの頭部が吹っ飛んだ。見るとウェルギエルの手にはふたつの銃口、そして銃身に青い薔薇が描かれているリボルバー型の一見変わった拳銃が握られていた。

 

海之

「…まさか俺がこんな物を使うとは…。だが…折角のあいつからの贈り物だ。たまに気が向いたら使ってやるか…」

 

ブルーローズ

かつて海之(バージル)に縁がある者が使っていた回転式大型拳銃。二つの銃口というありえない構造をしているという理由から、同じくありえない青い薔薇の名を付けられた。二つの銃口から繰り出される弾丸が全く同じポイントに刹那の時間差でぶつかる事で抵抗を限りなくゼロにし、威力を大きく高めている。

 

海之

「…もう一つの方はどうするかな。…いずれ機会があればな」

火影

「お!お前もようやく銃の素晴らしさが分かったか」

海之

「馬鹿をいうな。こいつ以外使うつもりはない」

火影

「へへっ。さて、いつの間にか残りはあいつら二体だけだな。今のカウントは?」

海之

「49と49だ」

火影

「マジか…しゃあねぇ、今回も決着はつかずだ。最後はお互いアレで豪快に決めようぜ」

海之

「…いい迷惑だな全く」

 

そうしていると残り二体のISは二人に向かってきた。二人はそれぞれの敵にエボニー&アイボリー、そしてブルーローズを向けて、

 

ジャキッ!ジャキッ!

 

火影・海之

「「JACKPOT!」」

 

ドギュン!ドギュン!

ガガガンッ!!

 

それぞれが放ったビームが残った二体も跡かたも無く大破した。米軍とイスラエル軍、そしてゴスペルでもたちうちできなかった100機のIS群を二人はほんの10分足らずで殲滅したのであった。

 

火影

「ふぅ」

海之

「なんだ疲れたのか?俺はまだやれるぞ」

火影

「ちげーよ。少し腹減った」

 

~~~~~~~~~~~

 

千冬からの無線だ。

 

千冬

「二人共大丈夫か?…本当によくやってくれた」

海之

「平気です」

火影

「どうって事ないです」

「火影!本当に心配ばっかかけて!!」

セシリア

「でも本当に良かったですわ…。御二人とも御無事で」

シャル

「本当に…、本当に良かったよぉ…」

「海之くん…早く帰って来て…ゆっくり休んでね」

ラウラ

「嫁をいたわるのが亭主の役割だ。今日は存分に甘えてくれて良いぞ」

「束さんは全然心配してなかったよ~♪しかも二人共また新しい武器を使えるようになったみたいだね!」

「そういえば火影くんのはミサイルランチャーで、海之くんには変わった形の拳銃だったね」

火影

「ああ、それは帰ってから説明するよ」

「帰ったらとっておきのデザート作ってもらうわよ!私達全員にね!」

火影

「へいへい」

千冬

「…本当に良かった…」

海之

「…先生。一夏と箒はどうなりましたか?」

千冬

「あ、ああそうだったな。それが」

真耶

「!せ、先輩大変です!織斑君が!」

千冬

「どうした?…!! すまん二人共、疲れている所悪いが急いで戻って来てくれ!」

 

ピッ

そう言うと通信は切れた。

 

火影

「…海之」

海之

「…どうやら、まだ終わりでは無い様だな…」

 

二人は急いで花月荘に戻った。そして負傷した一夏とやや顔面蒼白ぎみな箒と再会したのはそれからわずかであった。




※某キャラクターの銃、ブルーローズは海之(バージル)に逆伝授されました。もうひとつに関してはまた後日です。
銃を持たないバージルがと思われるかもしれませんがこういうのもありかと思いまして。

次回更新、少し遅れます。すいません。


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Mission61 少女達の決意

一夏と箒が暴走したシルバリオ・ゴスペルの制圧に向かったのとほぼ時を同じく、火影と海之も黒いIS群を殲滅するための作戦に入っていた。2対100という圧倒的な数の差がある中、二人はそれをものともせずに新たに手に入れた武装と共に瞬く間にIS群を殲滅する。
これで一安心…とみんなが思ったその時、一夏と箒による作戦が失敗したという報告が入ってくるのであった。


出撃から数時間後。時間はすっかり夜になり、外は暗闇に染まっていた。火影と海之は無事に作戦を成功したが一夏と箒はIS討伐に失敗し、逆に一夏が負傷する結果になってしまった。その一夏は自室で眠っており、今はセシリアが看病している。

 

花月荘 仮指令室

 

火影

「先生。一夏の様子は?」

千冬

「…幸い命に別状はないが、まだ意識が戻っていない。負傷した際、頭を強く打ったようでな…」

火影

「…そうですか」

「一夏…」

 

作戦から戻って来た火影と海之は千冬から一夏達の作戦の経過を聞いていた。最初の零落白夜を失敗してしまった一夏と箒だったが、紅椿、そしてアラストルの効果でスピードが上昇した白式はゴスペル相手に最初は優勢だったらしく、自分達のペースで進んでいた。しかしその途中突然ゴスペルが二次移行(セカンドシフト)を起こし、機体性能が大幅に上昇した。それでもなんとか隙を付く事ができ、零落白夜を発動しようとした所、周辺の海域に密漁船を発見。箒は犯罪者は放っておけと言ったが一夏はそれを拒否。密漁船を守るために零落白夜のためのSEを消費してしまう。

 

一夏

「なんでお前そんな事言うんだよ!密漁者でも命だろうが!」

 

一夏のその言葉を聞いて箒は自分が発した言葉に激しく動揺してしまい、その隙をゴスペルに付け込まれて砲撃を受ける。撃墜を覚悟した箒だったが、瞬時加速で戻った一夏が箒の盾となり、負傷してしまう。自分の前で起きた事に茫然となってしまった箒は千冬の指示を受け、気を失った一夏を連れて戻って来たという事だった…。

 

シャル

「…先生。そういえば箒は?さっきから見当たらないんですが…」

千冬

「…私にも分からない。だが今はそっとしておいてやれ。それから今後については現在検討中だ。お前達も次の命令があるまで待機を命じる。いいな?」

ラウラ

「…了解」

 

指令室からみんなが去り、部屋には千冬と火影が残った。

 

火影

「…」

千冬

「…すまんな火影。お前や海之も疲れているというのに。…もしかしたらまたお前達に頼らねばならんかもしれんが…」

火影

「気にする必要はありません。…それに僕も海之も一夏がこのまま終わるとは思っていません。あいつは強い」

千冬

「…ふっ。お前や海之にそう言われると心強いな。…海之はどうした?」

火影

「…ちょっとね」

 

 

…………

 

花月荘近くの浜辺。そこに一人の人影があった。

 

「……」

 

それは箒だった。

 

「…私のせいだ…。私の勝手な行動が…一夏を傷つけた…。私が…図々しく前に出なければ…。私が…自分でやるなんて言わなければ。みんなの言う通り…火影達やセシリアに任せていれば。いや、そもそも…専用機なんて持たなければ」

 

任務から戻ってきた彼女はずっと自身を責め続けていた。

 

「私は…どこで間違ってしまったんだろう。私は…一夏と一緒に戦いたかった。一夏と一緒に戦っているみんなが…羨ましかった。一夏が目標としている火影や海之が…羨ましかった。…それだけの筈なのに…」

 

自分の軽はずみな行動が一夏を傷つけたという事実に箒の心は押しつぶされそうであった。

とそこへ、

 

「…箒」

「!…海之…」

 

それは海之だった。海之は何も言わず、箒の隣に立った。

 

海之

「……」

「……」

海之

「…みんなお前を待っているぞ」

「……」

海之

「箒。俺はお前に前に言ったな。一夏の力になりたいと思うのは良い。だがそれに先走って己を失えば、何れ取り返しがつかない事になると」

「っ…」

海之

「一夏が負傷した件は間違いなくお前のミスだ。焦りと浮かれていたお前のな。それについては慰めたり等しないさ。…ただ、お前はそれでもう何もしないのか?」

「……」

 

箒はずっと黙っていたが、やがて言った。

 

「わ、私は…、もうISには…乗らない」

 

すると海之が間髪いれずに言った。

 

海之

「ならそのISを捨てろ」

「…!」

海之

「欲望抱けど行動せぬものは災いなり。己の目的のために力を求めて、束さんにISを造らせておいて、いざその時が来れば失敗する事への恐怖心から行動する事を恐れる。そんな臆病者が持っていても意味は無い。戦う意味を無くし、恐れる者に持たれた所で、そのISからすれば不本意だろうしな」

「!」

 

海之の容赦ない言葉に今まで黙っていた箒も声を出す

 

「…言わせておけば…!お前に、お前に何がわかる!?元から強いお前に私の気持ち等わかるか!」

海之

「…少しはわかるさ。俺も昔は散々敗れ続けたものだ。あいつにも…、あいつにも…。…そして奴にもな」

 

海之はかつてバージルだった頃の時を思い出していた。

 

「…えっ?…お前が?」

海之

「お前は俺を万能の神か悪魔か何かだと思っているのか?…まぁ、以前ならあながち間違ってはいないな」

「…えっ?」

海之

「気にするな。…それよりやっと喋ったな。どうする?お前はこのまま立ち尽くしているか?まぁそれでも別に構わんが、先程も言った通りもし戦わないなら今すぐそのISを捨てろ。そしてもう二度と関わるな。戦おうとするな。それは頑張っている奴らへの冒涜だからな」

「っ……」

 

箒は口ごもっていたが再び声を出した。

 

「私は…一夏と共に戦いたいと思った。そのためにこれを求めた。だからこれは…私が私である証なんだ。これを捨てる事は…、私自身を…、私の一夏への想いを捨て去る事と同意義だ。それだけは、それだけは嫌だ!」

海之

「……」

「私は、私はもう一度、一夏のために戦う!もう二度と負けはしない!」

 

その時、

 

火影

「…ようやくその気になりやがったか」

「…えっ?」

「遅いのよあんた」

セシリア

「全く随分待たされましたわ。…まあその分一夏さんの看病ができて少し良かったですけど」

シャル

「元気になったようで良かったよ」

ラウラ

「落ち込んだお前などらしくないからな」

「大丈夫だよ箒ちゃん!それでこそ我が妹だ!うん!」

「みんな…、それに姉さん…」

海之

「束さん。奴の居場所はわかりますか?」

「モチのロン!奴の居場所だけどさっき戦闘があった場所から移動してないよ。長時間のフライトでお疲れ気味かな?」

火影

「お前達の出撃許可は得ている。ただし今回僕と海之は戦闘に参加しないが」

「…えっ?」

「あっ、そういえばあんた知らなかったんだっけ。あんたと一夏がゴスペルの討伐に向かっている間、花月荘が襲われそうになったのよ。ほら、あの黒い騎士のISにね。それも100機もよ。それを火影と海之が二人で殲滅したの」

「なっ!二人で100機だと!?」

シャル

「そうだよ。僕達も行こうとしたんだけど…、火影達の邪魔になりそうだったから」

セシリア

「でも御二人の戦いを拝見して思ったのですわ。私達ももっと強くならなければならないと。そのためにはより多くの経験を積むことが大事だと」

ラウラ

「ああ。それに二次移行したとはいえ相手は一機だ。それに対してこちらは五人。これ位どうにかできなければ海之や火影に並ぶことなど夢物語だからな」

「だから今回は二人には見てもらうだけにしてもらったの。私達だけで戦うためにね」

「そうだったのか…」

火影

「まぁ心配すんな。どうしようもなくなれば助けてやっから。一夏はクロエや簪が見てくれてっから心配ない」

海之

「あとはお前次第だ。改めて聞こう。お前はどうする?」

「……私は、……戦う!」

「箒ちゃん!」

セシリア

「頑張りましょう箒さん!」

「たまにはいいとこ見せないとね♪」

シャル

「絶対勝とう!みんなで」

ラウラ

「うむ!」

「よし、みんな少し待っていてくれ。一夏に一言伝えてくる」

セシリア

「わ、私も行きますわ!二人だけにしたら何するか分かりませんもの!」

「な、何を考えているんだお前は!?…ええい、勝手にしろ!」

 

そう言うと箒とセシリアは行ってしまった。

 

「相変わらずねぇあの二人」

シャル

「ふふ、でもあんな箒久しぶりに見たね。なんというか…雰囲気が違う気がするよ」

ラウラ

「…なるほど。あれがオーラというものか」

シャル

「う~んちょっと違うなぁ」

 

…するとそこに千冬が来た。

 

千冬

「篠ノ之は行ったか…」

「あっ、ちーちゃん」

「どうして千冬さんがここに?」

火影

「僕が連れてきたんだ」

 

どうやら自分がいると箒が遠慮してしまうかもしれないと思い、今まで隠れていたらしい。

 

千冬

「…ありがとうみんな。それに海之。お前がはっきり言ってくれたお陰かもしれん」

海之

「聞いていたのですか?」

千冬

「まあな。…私は篠ノ之の事は良く知っている。一夏に心底惚れているくせに全くと言っていいほど素直になれない。その上一夏の事となると人が変わった様になる事もある。まぁその結果が今回の事を招いたというのは間違いない。そんなあいつには誰かから一度アレ位はっきり言ってもらった方が良かったのかもしれん。私や束とは違う誰かにな。…まあしかし、これであいつも多分大丈夫だろう。肝心の一夏はまだ目覚めんがな…」

「大丈夫だよちーちゃん!いっくんはちーちゃんの弟だもん♪」

千冬

「…そうだな。…さぁ、お前達も出撃準備に入れ。そして勝ってこい!」

鈴・シャル・ラウラ

「「「はい!」」」

 

そう言って三人も戻って行った。

 

千冬

「二人共待ってくれ」

火影・海之

「「?」」

 

千冬は同じく戻ろうとする二人を呼びとめた。

 

「どしたのちーちゃん?」

火影

「先生?」

海之

「……?」

千冬

「…いや、今から話す事は独り言だから気にしないで良い。…お前達の過去に何があったのかは私は知らない。だがいつか話してほしい。例えどのようなものでも私は受け入れる。信じているぞ」

火影・海之

「「!……」」

「ちーちゃん…」

千冬

「…時間をとって悪かったな。もう行け。…あいつらを頼むぞ。二人共」

火影・海之

「「…はい」」

 

そう言うと二人も戻って行った。

 

千冬

「……」

「…ちーちゃんも気付いてたんだ」

千冬

「も、という事はお前もか。非現実的だがな。ただあの二人は私達とは違う。上手くは言えん。違うとしか…」

「そうだね。あの子達といい二人のISといい…。でもあの二人は絶対良い子だよ!」

千冬

「ふっ、そうだな」

「…なんかちーちゃん最近よく笑う様になったね♪」

千冬

「さぁな。お前こそ随分柔らかくなった様だが?」

「まぁね。ひーくんみーくんのおかげかな♪でもちーちゃんの場合別の理由があるかもね~」

千冬

「別の理由?なんだ?」

「さぁね~。言ってみれば………恋?」

千冬

「……なっ!?」

 

 

…………

 

火影

「…海之」

海之

「分かっている。先生は気付き始めているようだな。俺達の異常性に」

火影

「だよな…。もしかしたら束さんもそうかもしれないぜ?そんな気がする」

海之

「だが先生は待っている、信じていると言った。いつ話すかは俺達が決めて良いのだろう。…その時は近いかもしれんがな」

火影

「まぁ仕方ねぇさ。元々俺達はこの世界の存在じゃねぇんだから。隠し事はいつかばれるもんさ。みんながどう思うかは分からんがな…。今は俺達がやる事をやろうぜ」

海之

「…そうだな」

 

そして二人はみんなと合流し、決戦の場所へと向かうのであった。

 

 

…………

 

???

 

一夏

「ここは…どこだ?」

 

その時一夏は真っ白な空間にいた。それは火影や海之がかつての縁ある者達を出会った場所に酷似していた。

 

一夏

「なんとなく覚えている。俺は箒と一緒にゴスペルと戦って、もう少しという所で奴がセカンドシフトして…、箒を庇って…、俺…死んだのか?」

 

その時、

 

「死んでないよ」

一夏

「うわ!」

 

いきなり後ろから声がしたので一夏は驚いてしまった。そして振り向いた一夏が見た者は人らしき輪郭。大きさからして大人というより子供に近かった。

 

一夏

「…君は?」

少女

「初めまして。…ううんそうじゃないか。君とこうして会うのは初めてだけど、いつも会っていたからね」

一夏

「?? まぁいいか。さっき君は言ってたけど、俺はまだ生きているのか?」

少女

「そうだよ。君はまだ死んでない。だから安心して」

一夏

「そっか。じゃあ君はあの後、何があったのか知ってるかい?」

少女

「うん。あの後君は気絶しちゃって一緒に戦っていた子に助けられたんだ。随分落ち込んでたよ。自分のせいで君が傷ついたって」

一夏

「箒…」

少女

「でも君もあの子も良いお友達を持ったね。あの後たくさんのお友達があの子にもう一度戦う勇気を与えてくれたんだってさ」

一夏

「友達…、もしかして火影達の事か…?…ああ、良い友達だよ。って、何で君がそんな事知ってるんだ?」

少女

「だって君の傍で聞いてたもん。…そしてこうも言ってたよ。君のために、みんなと共に戦ってくるってさ」

一夏

「戦うって…、シルバリオ・ゴスペルとか!?こうしちゃいられねぇ!俺も行かないと!…って、どうやったら行けるんだ?」

少女

「それについては心配ないよ。…でもその前にひとつ良い?」

一夏

「ん?」

少女

「君はさっきあのISと戦って負けた。それだけじゃない、強くなる前のあいつ相手にもやっとだった。はっきり言ってさっきのはたまたま運が良かっただけ。打ち所が悪かったら死んでたかもしれない。次は助からないかもしれない。それでも君は行くの?」

一夏

「……ああ。分かってるよ。あのISは強い。俺なんかじゃ勝てないかもしれない。…でもみんなが戦っているのに俺だけ眠っている訳にはいかない。それに…火影や海之に頼るばかりにはいかないしな」

少女

「あの双子の事?」

一夏

「ああ。あいつらは強い。そしてどんな状況でも絶対に諦めない。俺なんか比べものにならない位全てにおいて強い。力も心も。俺もそんな人間になりたいんだ。例え二人ほどでなくても…二人の様に守れる人間になりたい。俺を守ってくれた千冬姉みたいに」

少女

「……」

一夏

「だから俺も諦めない。なに、運でも勝ちかける事はできたんだ。また同じ事を起こせば良いさ。だから…行くよ」

 

そう言うと少女は笑った様に見えた。

 

少女

「・・ふふっ、わかってるわ。なにせ私は…ずっと君を見てきたんだもの。君の考えは手に取る様にわかるわ♪」

一夏

「えっ!ど、どこから?いや何時から!?」

少女

「…ハァ…、精々あの子達を怒らせない様に気を付けなさい。じゃあ君を元の世界に帰すわね。あああと君のお友達が少し変わりたがってるから、仲良くしてあげてね」

一夏

「えっ?」

少女

「なんでもない。じゃあ気をつけてね」

 

そういうと一夏は急に酷い眠気に襲われた。薄れゆく意識の中、うっすら聞こえた様な気がした。

 

少女

「…ばいばい。ううん、これからも宜しくね。私のマスター…」



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Mission62 白の進化と紅の奇跡

シルバリオ・ゴスペルの討伐に失敗した一夏と箒。一夏は負傷し、箒はただただ自分を責め続けていた。そんな箒に海之は行動しようとしない者は災いにしかならないと容赦ない言葉をぶつける。そんな言葉に我慢できなくなった箒は自分が抑え込んでいた本音をぶつけるが、彼女の言葉を聞いた海之や火影達は安心したように彼女に説く。みんなの想いを受け取った箒は、一夏を守るために求めた紅椿を捨てる事は一夏への想いを捨て去る事と同じと悟り、再び一夏のために戦うと決意。仲間達と共にゴスペルに挑む事を決意する。

一方の一夏は夢の中で一人の少女に出会い、一夏も自分の想いを語る。それに安心したように少女は去って行くのであった。


一夏が夢の中で少女と対話していたちょうどその頃。

ここは先ほど一夏と箒がゴスペルと対峙した場所から僅かに離れた地点。

 

「…見えた!」

 

はっきりではないが少し先にシルバリオ・ゴスペルの姿が確認できる。動いているわけでも無く、ずっとその場に停止しているようだ。

 

シャル

「あれがシルバリオ・ゴスペル…」

「だけどさっき映像で見たものとは形が違うわね」

セシリア

「箒さんの言う通り、やはり二次移行したようですわね」

ラウラ

「厄介だな」

「ああ。特にあの光の翼、あれは距離に関係なく攻撃できるようだ」

 

箒の話では一夏と先に挑んだ際、互いのスピードと連携でゴスペルの武装でありスラスターの役割もする特殊武装「銀の鐘」を破壊し、ようやく倒せると思った直後に二次移行したらしい。SEが全快しただけでなく、更に破壊した銀の鐘も光の翼に生まれ変わった。スピードは先の状態に劣るようだがその分攻撃方法がより複雑になった。更にこの光の翼は大きさも自由に変える事ができ、自分に接近する者を一切近づけさせない。これが接近戦主体の一夏や箒が苦戦した理由の一つでもある。

 

セシリア

「あの翼には恐らく遠隔武装も防がれてしまいますわね」

ラウラ

「ああ。私のレール砲でも破るのは難しいだろうな…。海之や火影の攻撃なら可能だろうが…」

「おそらくね…。考えてみればこういう時、火影や海之がいつも守ってくれてたもんね。シャルはあの蜘蛛と戦ったけど」

シャル

「ううん、僕も守られてばかりだったよ。二人がいなければきっとやられてた」

「…私もそうだ。あのクラス対抗戦で勝手な行動を取ってしまったために一夏やみんなを困らせた。火影に助けてもらわなければ今頃…」

「…あんたまだ気にしてたのね」

シャル

「…でもこれからはそれだけじゃ駄目、なんだよね?」

ラウラ

「ああ。私も強くなって嫁に並ぶ位にならなければならん」

シャル

「僕も同じだよ。せめて火影を支えられる位になりたいと思ってる」

セシリア

「そうですわね。一夏さんもきっとそう思っている筈ですわ。私も一夏さんと共に戦いたいですもの」

「あの二人は千冬さんと同じ位一夏の目標だからな。…あとお前には負けんぞセシリア」

「はいはいストップストップ。…でもまだ数ヶ月、特にシャルやラウラなんてまだ一ヶ月と少しなのに、あの二人ってまわりにすごく影響を与えてたのね。まぁ私も同じだけど」

「ああ。だからせめてこの戦いは私達だけで見事に勝とうではないか!」

シャル

「うん!…さて、話を戻すけどあいつは射撃で倒すのは難しいだろうね。危険だけどここは接近戦で仕留めるのが一番かも」

「…とすると箒。一番速いあんたがやりなさい!私達はあいつの注意をさらしつつ、あんたを援護するから」

ラウラ

「そうだな。機体性能が相手の方が上である以上ここは数で勝負だ」

「…わかった。みんな…頼むぞ!」

セシリア

「はい!」

「任せなさい!」

シャル

「うん!」

ラウラ

「ああ!」

 

そして少女達はゴスペルに向かって行った。それぞれの想いを胸に秘めて。

 

 

…………

 

そこから更に少し離れたポイント。ここに火影と海之がいた。二人は箒達から戦いへの参加を止められたため、こうしてここで行方を見守っている事にしたのである。

 

火影

「あいつら無理しなきゃいいが…」

海之

「……」

火影

「お前もあいつらの事が心配か?」

海之

「…いやそうじゃない。あいつらも強いからな。…先ほどの織斑先生の言葉の件だ」

火影

「…ああ」

海之

「…俺達はイレギュラーな存在だ。以前とは違い只の人間である事は違いないが。俺やお前のISといい、…そして奴らといい、もしかしたら俺達が生まれたためにあのような事が、と思ってな…」

 

海之のいう奴らとは先ほどの黒いIS、そして以前襲ってきた蜘蛛型のISである。あれは自分達が知っている存在に酷似している。そして先刻の夢といい、自分達がこの世界にいる事で本来この世界であり得ない事が起こっているのではないかと危惧していた。

 

火影

「…それでも良いさ」

海之

「?」

火影

「あの少女が言ってたろ?俺達に守ってほしいって。もしお前の考え通りだとしても、俺達は今はこの世界で生きている人間だ。ただ普通より記憶を大目に持ってる、な。それにあいつらにも約束しちまったからな」

海之

「……」

火影

「俺達の正体を話してあいつらがどんな風に思うかはわからねぇ。拒絶されるかもしれねぇし、先生みたいに受け入れてくれるかもしれねぇ。ただ、俺達はどこに行っても自分を変えねぇ。そうだろ?」

海之

「……そうだな」

 

二人の前世、ダンテとバージルは例えどんな状況でも自分を変えなかった。それはここでも変わりは無い。

 

とその時、

 

~~~~~~~~

 

火影

「? 何かが接近してくる…。…これは…へぇ~」

海之

「…ほぉ…」

 

火影と海之は接近して来るものを見て笑った。

 

 

…………

 

場所は戻って箒達。

箒達はシルバリオ・ゴスペルと戦闘を継続していた。一番速い箒が敵の隙を掻い潜って接近戦を仕掛けていたがやはり相手も軍の最新型。さらに二次移行した力は並大抵のものでなく、苦戦を強いられていた。

 

「……」

「ハァ、ハァ…。わかっちゃいたけどやっぱり強いわね…」

ラウラ

「くっ、何とかAICを仕掛けられれば動きを止められるんだが…、あの攻撃の前では集中する暇がない…」

セシリア

「しかも偏光射撃まで可能だなんて…。本当に場所は関係ありませんわね…」

シャル

「…みんなSEにも余裕が無くなってきてるね…箒は?」」

「私もだ…。元々私の紅椿は一夏の白式と同じく燃費が悪いからな…。高速で動いていると切れも早い…」

 

とその時、

 

「!」

 

ドドドドドドドドドッ!!

 

ゴスペルが光の翼から無数の光を繰り出してきた。

 

ドンッ!ドンッ!

 

「キャア!」

ラウラ

「くっ!しまった!」

 

スピードに若干遅れがある鈴とラウラに光が当たり、二人は姿勢を大きく崩して落ちてしまった。

 

セシリア

「鈴さん!ラウラさん!」

シャル

「! 危ないセシリア!」

セシリア

「!」

 

ドォォォォォン!

 

セシリア

「キャアァァァ!」

シャル

「うわぁぁぁ!」

 

 

セシリアに当たりそうだった光をシャルロットがシールドで防御するも抑えきれず、二人共やられてしまう。

 

「セシリア!シャル!…おのれぇ!!」

 

そう言うと箒はゴスペルに向かっていく。だが援護無しな上にSEも切れかけていた紅椿だけでは懐に飛び込むどころか回避するのがやっとであった。堪らず距離をとる箒。

 

「くっ…、ハァ、ハァ…」

 

そして、

ズドンッ!

 

一筋の大きな収束された光が箒に向かって放たれた。だが箒には回避する余裕が無かった。

 

セシリア

「箒さん!」

鈴・シャル・ラウラ

「「「箒!」」」

(…くっ、もう…駄目…なのか。…すまん一夏…約束…守れな…)

 

力が入らなくなった箒は目を瞑る。そして光が箒を飲み込んだ…。

 

(………あれ?……私?)

 

あの光を受けたのに何ともない?不思議に思って箒は目を開いた。するとそこにあったのは、

 

「!!」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

箒の前に手に持った剣で光を弾いている一体の白い機体がいた。良く見るとそれは、

 

「あ、あぁぁ…まさか…まさか…」

一夏

「誰もやらせねぇ!みんなは俺が守る!」

 

そこにいたのは紛れも無く、白ISを纏った一夏であった。やがて収束された光は途切れた。エネルギーを出しつくしたのかゴスペルは少し動きが鈍る。

 

一夏

「ハァ、ハァ。待たせたな!箒!」

「一夏…一夏あ!!」

 

他のみんなも通信で呼び掛ける。

 

セシリア

「一夏さん!よく御無事で!」

「遅いのよ!あんた!」

シャル

「一夏!良かった!」

ラウラ

「さすがは嫁や弟が見込んだ男だ!」

一夏

「みんなも無事みたいだな」

「一夏!もうなんとも無いのか!?」

一夏

「ああ大丈夫だ。なんでかわかんねぇけど傷も全く無くなってな」

「そ、そうか!…あと一夏、お前のその機体、白式か?」

一夏

「ああ、どうやら二次移行したらしいんだ。「白式・雪羅」つうらしい。俺にも良くわかんねぇんだけどな」

 

一夏の白式もシルバリオ・ゴスペルと同じく二次移行したらしい。そのきっかけがあの少女との会話だったのかはわからないが。

 

「そ、そうか。驚きすぎて何が何やら…」

一夏

「ああ。だが今はゆっくり話してる暇はねぇ!まだ奴は動いてるんだ。行けるか箒?」

「あ、ああ!任せろ!」

一夏

「よし!…ああその前にこれだけ。…はい」

 

そう言うと一夏の手には一つの綺麗なリボンがあった。それを箒に差し出す。

 

「? 一夏これは?」

一夏

「今日誕生日だろ?おめでとう」

「えっ?…あっ」

 

「!」

 

黙っていたゴスペルは再び動き出した。

 

一夏

「! 行くぜ!」

 

そう言うと一夏は向かって行った。

 

「一夏…」

 

一夏は大きく上昇した白式のスピードでゴスペルの攻撃を避けながらチャンスを伺う。

 

一夏

「化け物め!これでも食らえ!」

 

そう言うと一夏は片手を前に翳し、エネルギーを込める。そして、

 

キュィィィィン…ズドンッ!!

ドガァァァァン!

 

「!?」

 

自らの翼で防御しようとしたゴスペルだが、耐えられず爆発を起こした。それによって片方の翼が破壊され、エネルギーが大きく消耗する。

 

一夏

「これが…白式の新しい武器…」

 

これが白式・雪羅の新しい武装、荷電粒子砲である。その威力は従来の遠隔武装の威力を上回るものだが、

 

一夏

「…なっ?SEが一気に少なくなった!?」

 

そう、その威力故にSEを大きく消耗するのが欠点である。燃費が悪い白式にとって荷電粒子砲は貴重な遠隔武装である半面、諸刃の剣でもあるのだ。

 

一夏

「くっ!ここに来るまでにSEを消費しすぎたな!」

 

やがて態勢を整え直したゴスペルが一夏に攻撃を繰り出そうとする。

 

「!!」

一夏

「くっ!」

「一夏!」

(私は、私は…一夏と共に戦いたいんだ!守りたいんだ!力を貸してくれ!紅椿!)

 

すると、

 

パアァァァァァァァァァ!

 

その場にいる全員

「「「!!」」」

 

突然箒の声に呼応したかの様に紅椿から黄金色の光が漏れだした。

 

一夏

「箒!」

「これは…いったい、……絢爛舞踏?…これは!一夏!私に掴まれ!」

一夏

「えっ!あ、ああ!」

 

そう言うと一夏は箒の手を握る。すると、

 

一夏

「!SEが回復していく!」

「これが紅椿の単一仕様能力、絢爛舞踏だ。SEを補給できる!行け、一夏!」

一夏

「…ああ!わかった!」

 

そういうと一夏は再びゴスペルに向かっていく。

 

「!!」

 

ゴスペルは一夏に向かって再び光を飛ばそうとした。その時、

 

ガキィィィィィィン!!

 

「!?」

 

突然ゴスペルの動きが止まる。見ると、

 

ラウラ

「くっ!!」

 

見るとラウラのレーゲンが全エネルギーによるAICを発動して動きを止めていた、不足していたSEをコア・バイパスで譲り受け、発動できたようだ。

 

ラウラ

「行け!一夏!」

セシリア

「一夏さん!」

シャル

「一夏!」

「決めなさい!」

「一夏!決めろ!」

一夏

「うぉぉぉぉぉぉ!」

 

一夏は雪片弐型を展開し、零落白夜を起動させる。

 

一夏

「終われぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「!!!」

 

周辺が激しい光に包まれた…。

 

 

…………

 

やがて光が鎮まるとシルバリオ・ゴスペルの姿は無くなり、代わりに操縦者と思われる女性が一夏の腕の中にいた。

 

一夏

「……」

「一夏…」

一夏

「…帰ろうぜ箒。みんなの所へ」

「あ、ああ。……あの一夏。私」

一夏

「もう言いっこなし!改めて宜しくな、箒♪」

「!…ああ!」

 

二人は笑い合っていた…。

 

セシリア

「今回は仕方ありませんわね」

シャル

「あはは。でも本当によかったよね」

ラウラ

「うむ。これが終わりよければ全て良しというものか」

「当たってるじゃん!…でもどうする?私達もうIS動かせる分も無いし…」

 

その時、

 

火影

「ほら、掴まれ」

 

直ぐ後ろに火影と海之がいた。

 

シャル

「!二人共、何時の間に!?」

セシリア

「吃驚しましたわよ!」

火影

「大袈裟なんだよ。…よくやったなみんな」

「う、うん。ありがとう。でも二人共なんでここにいるの?」

海之

「戦闘には参加しないと言ったが、送り迎えに参加しないとは言ってないからな。ほら」

ラウラ

「あ、ありがとう…」

 

火影はシャルロットを後ろで鈴を前で抱っこし、海之はセシリアを後ろでラウラを前で抱っこする形になった。

こうして銀の暴走は生まれ変わった白と、紅の奇跡によって終息を迎えるのであった。

…余談だが火影と海之に掴まった四人は花月荘に帰る迄、真っ赤になって一言も喋らなかったらしく、二人はずっと不思議に思ったらしい。

 

鈴・シャル・ラウラ・セシリア

「「「「……」」」」

火影・海之

「「??」」



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Mission63 戦いを終えて

戦う意思を取り戻した箒はセシリア、鈴、シャル、ラウラと共にシルバリオ・ゴスペルに再度戦いを挑む。だが軍の最新型と二次移行という条件が重なった相手はますます強力になり、箒達は苦戦を強いられる。
とうとう箒達のSEも限界を迎え、敗北を覚悟した彼女達であったが、それを救ったのは怪我から復活し二次移行をは果たした白式を駆る一夏であった。
一夏が無事だった。その事に涙し、自分も戦いたいという箒の意思に答える様に紅椿も光を取り戻し、白式をサポートする。力を取り戻した一夏はシルバリオ・ゴスペルに零落白夜を起動。見事討伐に成功し、戦いはようやく終焉を迎えるのであった。


時間は日を跨ぐ数時間前といったところ。シルバリオ・ゴスペルとの闘いを終え、一向は花月荘に戻って来ていた。ゴスペルのパイロットは戻って来て直ぐ近くの病院に運ばれて検査を受けた。疲労が激しい様だがそれ以外特に目立った異常は無く、ゆっくり休めば翌朝には治るだろうとの事だった。そして…、

 

一夏

「………」

 

一夏は正座をさせられていた。その理由は、

 

千冬

「今回の作戦の成功、御苦労だった。…だが、お前の作戦参加の許可を許した覚えはないが?クロエや更識も困っていたぞ」

 

そう。一夏は目覚めた後、千冬や真耶に会う事も出撃の許可を得る事もせず、ただ箒達の元へ行く事だけを考えて無断で飛び出してしまったのだ。そのため作戦成功の功労者である一夏は現在千冬からのお説教の真っ最中であった。

 

「あ、あの千冬さん…。一夏は私達のために」

千冬

「お前は黙っていろ。それにそれとこれとは別問題だ」

「…はい」

 

箒も千冬の前ではタジタジである。

 

真耶

「あ、あの先輩。もうその位で…。織斑くんもですが何より皆さんを休ませないと…。それに織斑くんがそんな状態じゃあ皆さんも落ち着いてゆっくり休めませんよ…」

千冬

「……ふむ、それもそうか。運が良かったな一夏。実はお前達が戦ったゴスペルの操縦者は私の同級でな。同級生が助かったということで私も機嫌が良い。いつもより大分優しく接してやっているんだぞ?」

全員

(…どこが)

 

パシーーーーーーンッ!

 

口に出したわけでもないのにその場の全員に千冬の出席簿がヒットした。

 

「痛い…」

セシリア

「いたたっ…」

「うぅ…」

シャル

「なにもぶたなくても…」

ラウラ

「流石は教官…」

真耶

「なんで私まで…」

千冬

「さぁ、馬鹿な事言ってないでお前達も早く検査を受けろ。そして休め。それから………良くやったな」

全員

「「「えっ!?」」」

 

全員が驚いて視線を千冬に向ける。

 

千冬

「なんだ?もう一発欲しいのか?」

全員

「「「なんでもありません!!」」」

 

全員が全力で否定した。

 

一夏

「いたた、ここに来ての長時間正座はきついぜ…。ところで千冬姉、火影と海之は?」

千冬

「あの二人なら戻って来てからずっと訓練しているよ」

シャル

「え!?」

千冬

「ゴスペルとの戦いに参加できなかったからその分身体を動かしたいのだそうだ。それとお前達は先の戦いで疲れているだろうから説教が終わり次第すぐに休ませてやってほしい、とさ」

セシリア

「御二人もあれ程の戦いを終えて間が無いですのに…」

シャル

「しかも僕達を気遣ってくれてるしね」

「今回はお言葉に甘えましょ。確かにどっと疲れたわ」

ラウラ

「嫁の好意に甘えるか。悪くない響きだ」

「手を貸そう一夏」

一夏

「す、すまねぇ」

 

 

…………

 

花月荘から少し離れた場所。

数刻前から訓練を行っていた火影と海之は訓練を終え、火影は帰路についていた。海之は少し泳いでから帰るらしい。

 

火影

「あ~腹減った。そういや帰ってから何も食ってなかったな。厨房借りて何か作るか」

 

とそこへ、

 

本音

「ひかりん~」

火影

「ん?」

 

現れたのは本音だった。事件が終わったので待機命令も解除され、出てきた様である。

 

火影

「どうした本音、こんなところで」

本音

「うん、ちょっとね…。ねぇひかりん、さっき何かあったの?すごく慌ただしかったけど?」

火影

「ああ…、ちょっとな。まぁ気にすんな。無事に終わったから」

 

流石に本音にゴスペルの件や黒いIS群の事を話す訳にはいかず、火影は誤魔化した。

 

本音

「……」

火影

「早く帰ろうぜ本音。少し腹減っちまってさ」

 

そして火影が歩き出そうとした時、

 

バッ

 

火影

「!」

本音

「…」

 

本音が火影に抱きついていた。

 

火影

「…本音?」

本音

「…んね」

火影

「えっ?」

本音

「ごめんね、…火影」

火影

「? 何謝ってんだよ?それにお前」

 

自分の事を何時ものあだ名で無く、名前で呼ぶ本音を火影は不思議がった。

 

本音

「勝手な想像だから気にしないでね。…火影、多分私達のために…戦ってくれてたんでしょ?おそらくかなり危険な。日程が全部中止になって…、自室で全員待機命令なんて…、余程の事だもん。おまけに火影達専用機持ちのみんなだけ集められてさ…。絶対何かあったんだって思うよ。クロエさんだっけ?あの子も何も教えてくれなかったから…」

火影

「……」

本音

「私、悔しい…。私は火影達と同じ様に戦えないから…。一緒に戦えないから…。私達だけ守られているのが…、火影の、みんなの足手纏いみたいなのが…、悔しい……」

火影

「…」

 

泣いている様な声で話す本音のそんな気持ちを知った火影は、

 

火影

「ハァ…、何言ってんだよ本音」

本音

「…えっ?」

火影

「僕もあいつらも、お前やみんなに戦ってほしいなんてこれっぽっちも思ってねぇよ。ましてや足手纏いなんて露程にも思っちゃいねぇ。お前達がいてくれるから僕達は戦えんだ。…それにお前はもう立派に戦ってる。生きるという戦いをな…」

本音

「火影…」

火影

「お前はそのままでいいんだ。いやそのままでいろ。僕だけじゃない。みんなそう思ってる。だからこれからも何時もみたいに迎えてくれ。それがお前の役割だ」

本音

「!…うん」

 

本音はやっと笑った様だ。

 

火影

「…さて、早く帰ろうぜ。寝る前に少し腹に物を入れたいし」

本音

「は~い」

 

二人は一緒に歩きだした。すると、

 

「あっ、やっと見つけたわよ火影」

シャル

「あれ、本音もいたの?」

火影

「鈴、シャル」

本音

「なんか目が覚めちゃったから、ひかりんに何か作ってもらお~って思って」

「…ふ~ん、じゃあ行きましょ。…あっ、そうだ火影!とっときのデザート作ってもらう約束、守ってもらうわよ!」

火影

「一方的な約束だった気がするが…、まぁいいか」

 

そして四人は歩き出した。…火影の前を歩く三人は、

 

(…ねぇ本音。あんた何もなかったでしょうね?)

本音

(さぁね~♪)

シャル

(! 抜け駆けはダメだよ本音!)

本音

(ん~なんの事かな~?)

火影

「?」

 

 

…………

 

ほぼ同時刻、海岸

 

海之

「……ぶはっ!…はぁ、はぁ…」

 

誰も泳いでいない海には海之の姿があった。火影との訓練を終えた後、海之は一人残って暫く泳いでいた。

そしてゆっくり浜辺に上がる。

 

海之

「……そろそろ戻るか」

 

海之も宿に戻ろうとしていた時、

 

千冬

「海之…」

海之

「?」

 

そこにいたのは千冬だった。一夏の説教が終わった後、火影と海之が訓練している事を知っていた千冬はここに来ていた様である。

 

海之

「先生?…どうしたんですか?こんなところで」

千冬

「…少しお前と話がしたくてな。…少しだけ時間良いか?」

海之

「…構いませんよ」

 

そういうと二人は浜辺に備え付けのベンチに座る。

 

海之

「…それで話とは?」

 

海之は以前自分達の正体について千冬から指摘を受けた事があったので、それに関する事かとも思った。

 

千冬

「…お前に礼を言いたくてな」

海之

「…えっ?」

 

予想外の言葉に海之は少し驚いてしまった。

 

千冬

「なんだその顔は?私がこんな事を言うのがおかしいか?」

海之

「そんな事は…」

千冬

「ふっ、冗談だ。…ただあのIS達から生徒達や花月荘の方々を守ってくれたのは本当に感謝している」

海之

「お礼を言われる事はありません。当たり前の事をしたまでです」

千冬

「……当たり前…か」

海之

「…先生?」

千冬

「…海之。如何に強いとは言え、お前も火影も私の生徒だ。子供だ。本来なら教職員である我々がお前達を守らなければならん立場だ。…だが実際はいつもお前達に頼っている。クラス対抗戦にしろタッグマッチ戦にしろ、そして今回にしろ…。その度に私がどれだけ自分の無力さを痛感したかわかるか?」

海之

「!…す、すいません。そんなつもりは」

千冬

「…ふふっ、これも冗談だ。からかって悪かったな」

海之

「…先生?」

 

海之はいつもの千冬と違う気がした。

 

千冬

「…なぁ海之。お前と火影は何故そこまでできる?普通なら未知の存在、ましてやあの蜘蛛や100機もの敵を目の前にすれば逃げたいと思うものだ。あの時のオルコットやデュノアの様にな。私だって100機もの敵を一人や二人で相手にするなんてはっきり言って難しい。ましてやお前達の様に無傷でなど…、不可能だろう」

海之

「…」

千冬

「一夏や生徒達を守るために戦うのは何の抵抗もない。…だが私だって人間だ。戦いたくないと思う事や死にたくないと思う事もある。だがお前達を見ていると、死ぬ事に何も感じてない様に思える。撃たれたり身体を貫かれたりされたのに。お前達は誰も、そして自分も死なない様心がけているのはわかっている。だがあんな無茶をすればいつか本当に死ぬかもしれない。お前は戦う事が…、死ぬ事が怖くないのか?」

海之

「…」

 

海之は普段の千冬らしくない質問にやや戸惑ったがそれに答える。

 

海之

「…そうですね…。昔ははっきり言って全く怖くはありませんでしたね。もしかしたら今もかもしれません。…ただそれ以上に、俺の大切なものが失われる方が嫌ですね。俺達が戦う事でそれが守れるなら、何度でも戦います。これは俺も火影も変えるつもりはありません。…例えそれで周りから拒絶されても。…それに、俺にできる事は戦う事位ですから」

千冬

「!…そんな事を言うな!」

海之

「…先生?」

 

海之は再び戸惑った。

 

千冬

「お前ができるのは戦う事だけだと!?ふざけるな!お前だって人間だ!戦い以外に生きる権利だってある筈だ!」

海之

「…」

千冬

「それにお前は先ほど自分が拒絶されると言ったが、そんな事をあいつらがすると思うか?ましてや更識やボーデヴィッヒがお前を否定する等、ある筈ないだろう!それに先ほど私も言った筈だ!例えどんな事があったとしても私は受け入れると!もし、お前達を否定する様な者がいたら…、それこそ私が許さん!!」

海之

「…先生」

 

海之は千冬の様子に驚きつつも、その言葉をありがたいと思っていた。以前の自分では、バージルだった頃の自分では決してありえない言葉だと思っていたから…。

 

千冬

「…あっ、す、すまない…。私らしくなかった」

海之

「…いえ。ありがとうございます、先生」

千冬

「ま、まぁそういう事だ。情けないかな恐らく今後も、お前達を頼る事になるだろう。だがお前達は私の生徒だ。私ができる全てを使って私もお前達を守ってやる。一夏達と同じくな。だから…、安心しろ」

海之

「…はい」

千冬

「……なぁ、海之。……ひとつ聞いて良いか?」

海之

「なんですか?」

千冬

「…さ、さっきお前は言ってたが…、お前の言う大切なもの、というのは…、その…、わ、私も含まれていたり、するのか…?」

海之

「? はい。当然ですが」

千冬

「!!…そ、そうか……」

海之

「…先生?」

千冬

「い、いや良い!忘れてくれ!そ、そろそろ戻ろうか。もう遅いからな」

海之

「? はい」

千冬

「……」

 

千冬は暫く顔が熱くなるのを止められなかった。

 

 

…………

 

翌日朝。

予定外の事はあったが臨海学校は無事三日間の日程を終え、生徒達は全員岐帰路につくためにバスに乗っていた。

 

1-1のバス

 

一夏

「色々あったけどやっぱり楽しかったな」

「うむ。実りある内容だった」

本音

「でも織斑先生の尋問にはびっくりだったよね~」

火影

「尋問?」

シャル

「火影は気にしなくて良いよ!」

海之

「あまり浮かれるなよ。帰ったら期末試験だからな」

一夏

「それ今ここで言う!?」

セシリア

「大丈夫ですわ一夏さん。私がしっかりお教えしてあげますから♪」

ラウラ

「…嫁の隣の席というのは、け、結構緊張するものだな…」

 

とその時、バスの入口から声がした。

 

「失礼。織斑一夏くんはいらっしゃいますか?」

 

見ると金髪でドレスを着た女性が立っている。

 

一夏

「え?あっはい、俺ですけど…」

ナターシャと名乗る女性

「まぁそうですか!あなたが…。ああ初めまして。私はナターシャ・ファイルスと申します。シルバリオ・ゴスペルの操縦者ですわ」

シャル

「えっ?」

セシリア

「あなたがあのゴスペルの操縦者…」

ナターシャ

「ええそうですわ。今回の件、本当にありがとうございました。あの子を止めて頂いただけでなく私まで救って頂いて。本当に感謝しております」

一夏

「い、いえそんな」

ナターシャ

「いつか私の国にいらしてくださいね。これはお礼に」

一夏

「えっ…!」

 

そしてナターシャは一夏の頬にキスをした。

 

箒・セシリア

「「!!」」

ナターシャ

「それでは…」

火影

「失礼」

 

その時火影が立ち上がり、ナターシャに話しかけた。

 

本音

「ひかりん?」

ナターシャ

「あなたは?」

火影

「ああすいません。僕は火影・藤原・エヴァンスといいます。織斑と同じく男子のIS操縦者です」

ナターシャ

「…そうですか。あなたが…。噂は聞いておりますわ。確か双子だとか…。それでなんでしょう?」

火影

「ファイルスさん。あなたがゴスペルに乗っている間、何があったか覚えていませんか?どんな事でも構いません」

 

公にはなっていないがナターシャはゴスペルと共にあの黒いISに囚われ、連れ去られている。火影は彼女が何か覚えていないかと思った。

 

ナターシャ

「…ごめんなさい。私も織斑くんに助けて頂くまでずっと気絶していましたから…」

火影

「そうですか…」

ナターシャ

「………あっ」

火影

「えっ?」

ナターシャ

「いえ、気のせいかもしれませんが…、一度だけ声が聞こえた様な気がします。…男の人の声が」

火影

「男の声?」

海之

「……」

ナターシャ

「はい。本当に気のせいかもしれませんが。ごめんなさい」

火影

「あっ、いえ。ありがとうございます。助かりました」

ナターシャ

「ありがとうございます。…それでは皆さん、ごきげんよう」

 

そう言うとナターシャは去って行った。

 

「一夏。後で話がある」

セシリア

「私もですわ」

一夏

「は、はい…」

ラウラ

「一夏の奴大変だな」

火影

「…男の声…」

シャル

「どうしたの火影?」

火影

「ん、ああ。なんでもない。心配かけて悪いな」

本音

「なんかあるなら遠慮なく話してね」

火影

「サンキュー本音」

海之

「……」

 

やがてバスはIS学園に向けて走り出した。だが火影と海之の心にはナターシャが聞いたという男の声というのがずっと引っかかっていた…。

 

 

…………

 

???

 

(……あの赤と青の機体、……もしやと思うたが…、いや、まだ早計か…)

「…どうなされました?」

(……気にするな。……ただ、もしそうであれば…、宿命、と思ったのだ…)

「…?」




ようやく敵側?サイドが出せました。といっても声だけですが。


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Mission64 夏季休暇に向けて

黒いIS群。そしてシルバリオ・ゴスペルの襲来をなんとか退けた火影達。そんな彼らの前にゴスペルの操縦者、ナターシャ・ファイルスがお礼を伝えるために現れる。火影は彼女にゴスペルに乗っている間に何があったのか覚えていないか尋ねると彼女は「男の声が聞こえた様な気がする」と伝える。それを聞いて考える火影と海之。そして彼等とは別の所で謎の声が発されていた。


臨海学校が終わって数日が経った。

知っての通りIS学園は基本的にはISに関する事を学ぶ学校だ。しかしそんなIS学園もやはり学校には変わりなく、数学や国語、科学や社会科、英語や倫理等の普通科目もある。そしてもちろんテストもあるわけで。彼等は一学期最後の期末テストを終え、その結果を受け取った所であった。その結果はというと…、

 

一夏

「…なぁ、箒?」

「…なんだ一夏?」

「…って言わなくても何んとなく聞きたい事わかるけどね~」

セシリア

「私もわかりますわ…」

シャル

「僕も…」

火影

「やっぱここでも海之がトップか~。しかもマイナス1点だけとは」

 

そう。海之はここでも前の学校と同じ様に全生徒でトップ。しかも全教科の内一つだけを除いて全て満点であった。ISの技術に関する筆記テストもあったがそれも当然。更にこれに関しては火影も満点であった。

 

海之

「不覚をとってしまったな…」

「そんな事無いよ!こんな点取れる人なんて普通いないよ!」

ラウラ

「そんなに凄いのか?」

本音

「そうだよ~!」

一夏

「逆にマイナス1点の科目が何なのか知りたいぜ!」

海之

「音楽だ。俺はその方には疎いからな」

シャル

「それでも1点…」

「火影はあんまり驚かないのね」

火影

「僕は小学校から見てきたからな。後で分かったんだがIS学園の前の本来の志望校の試験でも満点から2点マイナスだっただけだし」

「…凄いな」

一夏

「なぁ、もうテストの話すんの止めようぜ?なんか疲れた…」

 

赤点をなんとか阻止できた位の結果だった一夏の疲れはなかなかだった。

 

セシリア

「そうですわね。では夏季休暇の話でもしましょうか」

一夏

「そうだな!…あっそうだ忘れてた。夏季休暇と言えば、もし都合が合えば火影と海之がスメリアの家に泊まりがけで招待してくれるんだってよ。みんなどうする?」

少女達

「「「………えっ?」」」

 

みんな暫く沈黙してから反応した。中でも火影と海之に好意を抱く少女達は慌てた。

 

シャル

「ほ、本当火影!?」

「一夏!そんな大事な事なんでもっと早く言わないのよ!」

本音

「わ~い!ひかりんとみうみうの家~!」

ラウラ

「嫁の実家に御招待か…。良い響きだ」

「……」

 

只一人簪は黙っていた。

 

「?どうした簪」

「う、うん。私は…もしかしたら行けないかも…」

シャル

「厳しい親なの?」

「ううん。そんな訳じゃないんだけど…」

海之

「……」

 

海之は少なからず簪の事情を知っていたので難しいのだろうと思った。

 

海之

「無理しなくて良い簪。問題が解決してからでも遅くない。いつでも来れば良い」

「…うん。ごめんね海之くん」

火影

「土産たくさん持ってきてやるよ。あと来月の末には簪の武器も渡せるからな」

「ありがとう火影くん」

一夏

「セシリアと箒はどうする?」

セシリア

「そうですわね。行ってみたいですわ。スメリアは初めてですから」

「私は…地元の祭りの前なら行けるな」

シャル

「地元のお祭り?」

一夏

「ああそうか。みんな知らなかったんだっけ。箒の地元の神社では毎年来月の中頃に夏祭りがあるんだ。しかも箒が神楽舞をやるんだぜ」

「い、一夏!」

本音

「へ~、すごーい」

海之

「神楽舞か…。確か母も若い頃に剣舞をやっていたと言っていたな」

「女の人で剣舞?」

海之

「珍しいだろう?だが腕は確かだった。武家の生まれだったからな。俺の剣の師匠だった人でもある」

一夏

「海之の師匠ってことは相当強い人だったんだな」

ラウラ

「……」

火影

「どうしたラウラ?」

ラウラ

「…いや、みんな家や家族があるんだなと思ってな…」

「ラウラ…」

 

思い出した。ある種人造人間の様な存在であるラウラには帰る家もなければ自分を生んでくれた母や父もいないという事を。

 

ラウラ

「?…何だ?私は何も気にしていないぞ。ドイツに戻れば仲間もいる。それにここにはみんなが。…何より嫁や弟もいるからな」

海之

「……ふっ、そうか」

火影

「んじゃ箒とセシリアは来月の初め頃なら行けそうだな。鈴達はどうする?」

「当然行くわ!私も国に戻るつもり無かったから何時でも行けるわよ」

シャル

「僕も大丈夫だよ!」

本音

「私も~!」

火影

「んじゃ来月の初め頃の予定にしておくか。にぎやかになりそうだな。…ところで今日の授業は午後は一限目までだが、みんな放課後予定はあるか?特に鈴とセシリアとラウラは」

「放課後?私は大丈夫よ。なにかあるの?」

セシリア

「私も大丈夫ですわ」

ラウラ

「私もだ。…もしかしてこのメンバーは…」

海之

「ああ。お前達に例のデビルブレイカ―を渡そうと思ってな。それと同時に使い方を説明する」

「ああ、あれね!」

セシリア

「了解ですわ」

ラウラ

「嫁からのプレゼントか。結婚指輪の前に受け取るのも一興だな」

 

他のメンバーも放課後に集まると言ってくれた。

 

シャル

「でもさ火影、海之。あんなのどうやって造ったの?束さんも「貴重なデータが貰えた」って言ってたけど…、という事は束さんが考案したんじゃないんだよね?」

「…うむ。それについては私も考えていた。あのデビルブレイカ―といい、先日の新たな二人の武器といい、今まで私達が見た事もないような物ばかりだったな…。どうやって手に入れたんだ?」

海之

「……」

火影

「うーん…、それは…」

 

二人はどう伝えようか迷った。あれは自分達、そして自分達のISと同じくこの世に本来存在しない物なのだから。

 

セシリア

「…というより御二人も御存じ無いんじゃありませんか?だって御二人のISは誰かから頂いた物なのでしょう?その中にあったデータなら御二人も知らないのも無理ありませんわ」

「…あっ、なるほど」

シャル

「確かにそうかもね。ごめんね二人共」

火影

「気にしなくて良いさ。悪いな…」

海之

「………」

 

事情が事情とはいえ、話せないことに二人は申し訳ないと思っていた。

 

一夏

「それは置いといて結構な人数になりそうだな。飛行機予約取れると良いけど…」

海之

「それなら心配ない。日程さえ決まればプライベートジェットで迎えに来てもらう手筈になっている」

本音

「プライベートジェット!?すご~い!」

「つくづく規格外ねほんと」

火影

「凄いのは父さんさ。ああそれからシャル。前に僕が仕事手伝ったっていう人がお前に会いたいってさ。予定組んどくからな」

シャル

「前に仕事手伝った人って………えっ?ええっ!?」

セシリア

「ど、どうしましたの?」

火影

「行けば分かるよ」

 

酷く驚いている様子のシャルとセシリアに火影は笑ってそう言った。そうこうしている間に休憩は終わり、次の授業の時間になった。




次回、3種のデビルブレイカ―を出します。


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Mission65 デビルブレイカ―を継ぐ者達

一学期最後の試験も終わり、学校全体が夏季休暇の雰囲気になっていた頃、火影と海之はいつものメンバーにスメリアの自宅に来ないかとみんなを誘う。すると当然の様にみんな了承するが、簪は自身の都合でキャンセルする事に。次に火影と海之はセシリア、鈴、ラウラを放課後にアリーナに来てくれと呼びだす。その理由はかつての彼等の仲間の武器であるデビルブレイカーを渡すためだった。


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IS学園の某アリーナ

 

本日の授業は何時もよりも一時間早く終了し、火影達は放課後に学園内のアリーナに来ていた。理由は午前に話した通り、セシリア、鈴、ラウラの三人にデビルブレイカ―を渡し、その使い方を訓練するためである。尚、自分の目で見ておきたいと千冬も同席している。

 

海之

「…みんな揃ったな。ではこれから三人にデビルブレイカ―を渡す。その後簡単に使い方を説明する」

「OK~」

セシリア

「わかりましたわ」

ラウラ

「了解」

 

そういうと海之は束から受け取ったアタッシュケースを取り出し、開く。

 

一夏

「なぁ火影。臨海学校の時は簡単に武器って説明されたけど、デビルブレイカ―ってどういうものなんだ?」

火影

「ああそうだったな。デビルブレイカ―ってのは…、腕にはめて使う変形型特殊兵装だ。通常の武器として使う方法とSEをチャージして使うブレイクエイジという機能がある」

千冬

「変形型の兵装とはまるで箒の紅椿の展開装甲みたいだな」

「そうですね」

火影

「ただ覚えておいてくれ。臨海学校でも言ったが、今から渡すのは今まで前例がない、そして使い方を間違えれば極めて危険な物だ。その覚悟はあるんだな?」

「愚問よ火影。私はとっくにできているわ」

セシリア

「私も同じです」

ラウラ

「恐れる事は何もない」

火影

「…わかった」

海之

「そうだな…。ではまずセシリア。お前に渡すのはこれだ」

 

海之がセシリアに渡したのは赤いラインが走り、手の先端に4つの爪が出ている様な物だった。

 

セシリア

「これはどうやって付けるんですの?」

海之

「普通に腕にはめてみれば良い。それは付ける者の腕にピッタリ合う様にできている。手の感覚もそのままな筈だ」

 

そう言われてセシリアは早速はめてみた。すると先端の形など関係なく何の違和感も無い様に動かせた。

 

セシリア

「本当ですわ…。まるで腕そのものみたいにスムーズに動かせますわ」

海之

「お前に渡したそれの名は「ローハイド」という」

セシリア

「ローハイド…。鞭、ですか?」

海之

「ああそうだ。使ってみろ」

 

そういうとセシリアはローハイドを起動させた。

 

ガキンッ!シュバババババババッ!

 

すると約3メートルはあるであろう長い金属性の鞭が出現し、セシリアを守るかの様に展開した。

 

一夏

「す、すげぇ…」

「なんて変形だ…」

海之

「見ての通りそれはとてつもなく長い金属性の鞭となるデビルブレイカ―だ。お前のブルーティアーズの特性に合わせて用意した」

火影

「ブルーティアーズはほぼ全ての武器がSEを使う兵装だ。いわば使い続けたらあっという間にエネルギー切れを起こしちまう。唯一の接近兵装も短剣だと心もとないしな」

セシリア

「…確かにその通りですわね。特に一夏さんの零落白夜の様なSEに直接ダメージを与える物は天敵ですわ」

火影

「その点コイツはSEをほとんど気にしないで使う事ができる。先ほど見せた全方位に攻撃できる鞭の機能と、鞭を縮めて蛇腹剣として使える機能だ」

「すごい…。これが二つの武器になるのか」

セシリア

「確かにこれならエネルギーに頼らず戦えますわね。これからは剣の訓練も一層励みますわ」

海之

「そしてそいつのブレイクエイジ機能だが…、実際やってもらった方が早いな。セシリア、あれを見ろ」

 

海之が指さしたのは巨大な岩。先ほど火影が運んで来たものだ。

 

海之

「あれをローハイドのブレイクエイジで持ち上げて振り回せ」

一夏

「…はっ?軽く象二頭分位の大きさあるぜ!?」

火影

「大丈夫だ。自信を持ってやってみろ」

セシリア

「わ、わかりましたわ」

 

そう言うとセシリアはローハイドにSEをチャージし、岩に向けて鞭モードで使ってみた。

 

ガキンッ!ブンブンブン…!!

 

セシリア

「!!まるで重さを感じませんわ!」

「嘘でしょ…」

ラウラ

「なんというパワーだ…」

火影

「見ての通り、そいつはあれ位の大きさ、重さの物なら簡単に持ち上げられる。仮にできなくても相手の動きを拘束し、コントロール下に置く事なら十分可能だ。上手く使え」

セシリア

「ありがとうございます!これでSEだけに頼らない戦術が組めますわ!」

火影

「喜んで貰えたなら何よりだ」

 

セシリアは喜んでくれているようだ。

 

海之

「…では次に鈴。お前にはこれだ」

 

次に海之が鈴に渡したのは黄色で腕部分が花のつぼみの様な形状の物だった。やはりこれも手にはめるだけで簡単に使う事が出来た。

 

「ほんとだ…。ものすごく自然に動くわ」

火影

「そいつの名前は「ガーベラ」という」

シャル

「ガーベラ…。花の名前だね」

千冬

「海之。これはどのような物だ?」

海之

「一つは鈴のISに搭載されている龍咆の機能をUPさせる効果があります」

火影

「鈴。そいつを起動させたままお前の龍咆を真下に撃ってみな」

「真下に?うん」

 

そういうと鈴はガーベラを起動させ、次に龍咆を真下に撃ってみた。すると、

 

ドンッ!!

 

「!」

 

龍咆からでた衝撃波がブースターとなり、鈴はものすごい加速で上昇した。

 

シャル

「な、なんて加速…」

火影

「どうだ鈴?」

「び、吃驚したわよ…」

海之

「そのガーベラを使えばお前の龍咆をブースターとして使う事ができる。敵からの攻撃を急速回避するのに役立つだろう」

 

そう言われて鈴は何回か龍咆を撃ってみた。するとあらゆる方向に急速で動く事ができた。

 

「ちょっとこの加速に慣れる必要があるわね。でも確かに今までの甲龍のスピードとは比べ物にならないわ…」

火影

「あとそいつを使うと龍咆の衝撃波を盾として使う事もできる。いわば空気圧の盾だ。実弾や実体剣の兵器なら十分有効だからな」

千冬

「回避と防御をサポートする効果か…。これのブレイクエイジはなんだ?」

火影

「そうですね。鈴、それにSEをチャージしてくれ」

「わかったわ」

 

そう言われて鈴はガーベラにエネルギーをチャージし出した。すると、

 

ガシャンッ!

突然腕のつぼみの様な部分が開いた。

 

シャル

「変形した!」

火影

「鈴、ガーベラを空に向けて撃て!」

「えっ?う、うん!」

 

キュイイイン…ズドオォォォォンッ!!

 

ガーベラから大出力のレーザーが放たれた。暫くすると段々光線は収まり、消えた。

 

セシリア

「な、なんという出力のレーザーですの…」

海之

「ガーベラのブレイクエイジは大出力のレーザーを撃つ事ができる。鈴、お前のISには熱線兵器が無いだろう?龍咆と合わせてお前にはうってつけと思ってな」

火影

「因みに先程の大出力のレーザーともう一つ拡散レーザーの二つの撃ち方がある。戦況に合わせて使い分けろ。ただしチャージに少し時間がかかるから注意しろよ」

「甲龍にもレーザーやビームの武器が欲しいと思ってたのよ!ありがとね火影、海之!」

 

鈴もガーベラに喜んでくれている様だ。と、ここで海之が一夏に話しかける。

 

海之

「そう言えば熱線兵器でひとつ思い出した事がある。一夏、簪がお前に話があるそうだ」

一夏

「簪が俺に?」

「み、海之くん!」

海之

「もう今のお前なら大丈夫だ簪。だから言ってみろ」

「う、うん…」

 

簪は何か話にくそうだ。それを見て勘違いしている者が二人。

 

箒・セシリア

((まさか…告白!?))

一夏

「簪。話って?」

「う、うん。実は…、一夏くんの白式の…、荷電粒子砲のデータを、貸してほしいの…」

一夏

「白式の荷電粒子砲のデータ?」

「う、うん。その…、私の専用機の武装の一つが、荷電粒子砲なの…。だからそのデータが欲しいんだけど…、いいかな?」

一夏

「なんだそんな事か。全然良いぜ」

「!あ、ありがとう」

千冬

「良かったな更識」

海之

「これで完成の目途がたったな」

「うん!」

箒・セシリア

((ほっ…))

海之

「さて、話を戻そう。最後にラウラ、お前に渡すのはこれだ」

 

そう言って海之がラウラに渡したのは黒いデビルブレイカ―。良く見ると腕部分に飛行機のウイングと肘部分に超小型のブースターらしい物が付いている。

 

「海之くん。ラウラのこれは?」

海之

「そいつの名前は「パンチライン」という」

ラウラ

「パンチライン…。名前からして腕に関する武装と想像するが」

火影

「まぁ使ってみればわかるぜ。ラウラ、それを前方にある的めがけて使ってみろ」

ラウラ

「ふむ」

 

そう言ってラウラは正面にある的にパンチラインを向けた。すると

 

ガシャンッ!ズドンッ!

腕部分のウイングが開き、パンチラインが打ち出された。

 

ドカァァァァァン!

 

飛び出したパンチラインは的を粉々に破壊した。そしてそれは再びラウラの腕に戻った。

 

ガシャンッ!

 

ラウラ

「素晴らしい威力だ…」

「カッコいい…。ロボットアニメに出てくる武器みたい…」

火影

「パンチラインは腕部分にあるウイングとその後ろ側にある小型ブースターで目標に向かって飛翔する遠隔兵器だ。さっきの的は一発で破壊できたが一旦狙った物をロックオンすればどこまでも追尾し、さらに連鎖的にダメージを与える」

ラウラ

「追尾機能まであるのか…」

海之

「さらにこれはお前の機体のビーム手刀とリンクさせる事もできる。この状態で使うとSEを使う代わりにウイング部分にビームを帯びたブレード機能を追加し、更にリボルバーの銃弾の様に螺旋運動をしながら飛ぶ。貫通力と切断力が共に上昇するから普通では通じにくい相手にはこの状態を試してみると良い」

ラウラ

「了解した」

千冬

「鳳のガーベラと違い、こちらは攻撃向きの物だな…。あとはブレイクエイジだが」

火影

「そうですね。ラウラ、あれを見ろ」

 

そう言って火影が指さした先には先ほどセシリアがローハイドで振り回していた岩があった。

 

海之

「先に説明しておこう。パンチラインのブレイクエイジはISのブースターとパンチラインのブースターの両方を同時に起動させ、凄まじい加速状態にする。そしてその加速状態のまま対象にパンチラインを打ち込むというものだ。接近戦だがその威力は俺のベオウルフや火影のイフリートに並ぶぞ」

ラウラ

「そ、そんなにか?」

火影

「どうした?怖くなったか?」

ラウラ

「…いや。それ位できなければお前達に並ぶことなどできぬからな。早速試してみるぞ!」

 

そういうとラウラはパンチラインにSEをチャージし、起動した。

 

ドドンッ!

 

レーゲンとパンチライン両方のブースターが起動し、凄まじい加速を起こす、そしてそのままラウラは前方の岩に向かっていく。

 

ラウラ

「おぉぉぉぉぉぉ!」

 

ドゴォォォォォォォン!!

 

繰り出された攻撃は目の前の岩を完全に破壊した。

 

ラウラ

「……これが私の新しい力」

 

ラウラもパンチラインに満足してくれている様だ。

 

「なんて破壊力よ…」

海之

「使いこなしは問題なさそうだな。それもガーベラと同じく加速を利用して相手の意表を突く事もできるだろう」

千冬

「SEを使わない全方位攻撃と拘束機能のローハイド、防御向きながら大出力のレーザー砲を持つガーベラ、遠隔兵装ながら遠近共に戦えるパンチライン。…どれも類を見ない物ばかりだな…」

(…海之、火影。やはりお前達は…)

火影

「まぁ三人なら使いこなすのに其ほど時間はかからねぇだろ」

セシリア

「本当にありがとうございます。御二人共」

「ありがとね♪火影、海之」

ラウラ

「嫁からのプレゼント。大事に使わせてもらう」

海之

「束さんにも伝えておこう」

一夏

「すげーなー。俺も欲しいぜデビルブレイカ―」

火影

「そういや束さんがまた新たに造っているって聞いたけど…」

一夏

「マジか!楽しみだな箒!」

「お前な…。二次移行を果たしたばかりだろうが」

火影

「あっそうだ。シャル、お前の機体のデータを少しばかり貸してくれねぇか?束さんが欲しいんだとさ」

シャル

「篠ノ之博士が?うんいいよ。でも何に使うんだろ?」

火影

「まぁ、お楽しみだ」

海之

「簪。お前の機体も間もなくだ。頑張れよ」

「ありがとう海之くん」

 

こうして火影と海之のかつての仲間が使っていたデビルブレイカ―は、彼らの新たな仲間達に受け継がれたのであった。




ローハイド、ガーベラ、パンチラインの3種を具現化しました。
3種ともISに合わせてそれそれやや改良を施しています。


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第五章 Home
Mission66 織斑家での一日①


火影と海之はとある日の放課後。セシリア、鈴、ラウラの三人にデビルブレイカ―を渡す。いずれも今まで類を見ない性能にその場にいた全員が驚愕と感謝の声を上げる中、千冬だけはやはり自分達と二人の違いにますます確信を持ったようであった。


火影と海之がセシリア達にデビルブレイカ―を渡してから数日。IS学園は夏季休暇に入っていた。生徒達のほとんどは実家や自分達の国へと帰り、今残っているのは受験勉強のために寮に残る僅かな生徒か、或いはクラスメートの家に泊ったりする者である。それは火影と海之も例外ではなく、

 

一夏

「折角だから俺の家に泊ってけよ。部屋ならたくさん空いてるし、千冬姉も構わねぇっ言ってくれてるしさ」

 

火影と海之は一夏の誘いで一夏と千冬の家にスメリアに行くまで泊らせてもらっていた。二人の家は一軒家だが千冬の有名度も影響して二人で住むには十分な大きさの家だった。火影と海之はそこの来客用の寝室を使わせてもらっていた。その間ただ御世話になるだけでは悪いので家事を手伝ったり、たまには学園で訓練をしたりしていた。そして三日目、三人が学園から帰宅途中。

 

一夏

「くっそ~やっぱり勝てねぇ~。つーか二次移行して強くなった筈なのに未だに二人にはダメージさえ与えられねぇなんて…」

海之

「訓練しているのはお前だけではない」

火影

「それにお前の白式だが強くなったのは良いが更にエネルギー効率が悪くなってるぜ。荷電粒子砲を無暗に使いすぎだ。幾ら強い武装でも当たらなければ意味が無い」

一夏

「う~ん、確かにそうなんだよなぁ…。なんであんなに燃費悪いんだろ?」

 

一夏の白式は元々エネルギーの消費が悪い機体だったが、進化するとそれが改善どころか益々悪くなってしまっていた。荷電粒子砲を数発撃つとあっという間に無くなってしまうのである。

 

海之

「何にせよこれからは射撃も訓練せねばならんな。…一夏、アラストルを暫く貸してもらえるか?新たな機能をUPしておこうと思う」

一夏

「お、マジで!」

火影

「…ん?…あれシャルじゃねぇのか?」

一夏

「えっ?」

 

見ると一夏の家の前にシャルロットがいた。そのシャルは何故かずっともじもじしていた。

 

シャル

(…どうしよう…、火影達が泊っているって聞いたから来ちゃったけど…、いきなりじゃ迷惑かな…?でも電話するのもなんか恥ずかしかったしなぁ…)

 

どうやら火影を訪ねて来たようである。

 

火影

「シャル?」

シャル

「うわ!!」

 

少々オーバーな位シャルは驚いた。

 

シャル

「ひ、火影!?それに一夏や海之も!なんでここに!?」

火影

「なんでって、学園で訓練して今帰って来たんだよ。それよりどうした?」

シャル

「あ、あ、あ、あの…、ぼ、僕IS学園のシャルロット・デュノアと申しますがここは織斑一夏くんのお宅で間違いございませんか!?」

一夏

「……ほんとどうしたお前?…まぁいいや。とにかく早く上がろうぜ。暑いしさ」

シャル

「う、うん…」

 

 

…………

 

一夏

「ほい麦茶」

シャル

「あ、ありがとう…。一夏の家って綺麗だね。しっかり整理整頓されてるし」

海之

「俺達も最初に来た時は驚いた」

一夏

「まぁな。千冬姉がこういう事めっぽう苦手だからなぁ」

シャル

「そうなんだ…。ちょっと意外かも」

 

といいながらシャルロットはさりげなく三人を見る。三人とも自分達のISと同じ色の服を着ている。つまり一夏は白、海之は青、そして火影は赤だ。

 

シャル

(…やっぱり火影は赤色が似合うなぁ…)

火影

「シャル。今日の服も似合ってんな」

シャル

「!! あ、ありがとう!!」

 

いきなりの不意打ち発言に激しく動揺してつい大声で返事するシャル。

 

シャル

(び、びっくりした…、でも似合ってる…か…、えへへ♪)

 

とその時、

ピンポーン!

 

一夏

「ん?誰だろ?はーい」

 

そう言って一夏は玄関に向かった。…暫くすると一夏につられて箒とセシリアが来た。

 

箒・セシリア

「「おじゃまします」」

「ああシャルもいたか」

セシリア

「こんにちは。火影さん、海之さん」

シャル

「箒、セシリア」

火影・海之

「「ああ」」

セシリア

「一夏さん。これ御土産ですわ」

一夏

「お、サンキュー!」

 

更に、

ピンポーン!

 

一夏

「?今日はお客さんが多い日だな?はーい」

 

そういうと再び一夏は玄関に行った。

 

火影

「この流れはおそらく…」

海之

「ああ、多分な」

シャル

「どうしたの二人とも?」

 

すると玄関から来たのは、

 

「こんにちは~火影~♪…ってシャル?」

シャル

「あ、あはは…」

火影

「おう鈴」

ラウラ

「失礼する。おはよう海之、火影」

「お邪魔します…。こんにちは海之くん、火影くん」

海之

「ああおはよう」

火影

「おはよう二人とも」

「随分大人数になったな。後は…本音位か」

「あ、本音は今日は家の用事で来れないって言ってた」

セシリア

「そうですのね」

(シャル~、抜け駆けは駄目っていったでしょ)

シャル

(ち、違うよ!そんなのじゃないって!)

(ほんとに~?…まぁ今回は信じてあげるわ)

「あっ、ほら一夏。これ差し入れ」

一夏

「サンキュー…って、これってさっきセシリアがくれたのと同じ店か?」

セシリア

「…ほんとですわね。最近できたばかりのケーキ店ですわ。折角ですから皆さんで頂きません事?」

一夏

「いいね。さっきまで訓練してきたから丁度腹減ってたし」

海之

「では俺は紅茶を入れよう。キッチン借りるぞ一夏」

 

そう言うと海之は立ち上がってキッチンへ入っていった。

 

「あっ、海之くん手伝うよ」

ラウラ

「海之、私も手伝うぞ」

 

簪とラウラも海之の後を追いかけた。

 

「…海之も隅におけんな」

セシリア

「本当ですわね」

一夏

「? なんの話だ?」

火影

「ああ。だがあいつは決して鈍くは無い。あの二人の事もしっかり考えてるし、守るべきものとして認識してるさ」

 

火影は海之が、かつてのバージルである彼は以前とは大きく変わったと思っている。多分自分以上に。

 

「…あ、あのさ火影。ひとつ聞いて良い?」

火影

「ん?」

シャル

「じゃ、じゃあさ、火影にとって僕や鈴は…、どうなのかな…?」

火影

「どうもこうも当たり前だろ?鈴もシャルも、僕にとって大切な存在だ。…一夏、トイレ借りるぜ」

 

そういうと火影はトイレに行ってしまった。

 

鈴・シャル

「「……」」

セシリア

「なんというか…やっぱり凄い方ですわね」

「うむ。…良かったな二人とも。まぁ好意という意味では少し物足りないかもしれんが」

「…ううん。あいつらしいもん」

シャル

「うん。僕も同じ…」

一夏

「? なぁ何の話だって?」

「…こいつにも見習ってほしいものだ」

セシリア

「同感ですわ…」

一夏

「?」

 

 

…………

 

火影達はセシリアや鈴が持ってきてくれたケーキと海之が入れた紅茶でティータイム。因みに苺が好きな火影はここでもショートケーキ。海之は抹茶のケーキを選んでいた。とそこへ、

 

ガチャッ

玄関の扉が開いた音がして入って来たのは千冬だった。

 

一夏

「おかえり千冬姉」

千冬

「ああ。…これは随分大人数だな」

全員

「「「お邪魔しています。先生」」」

一夏

「千冬姉。セシリア達が持ってきてくれたケーキがまだあるけど食べる?」

千冬

「いやいい。お茶だけ貰えるか?」

一夏

「へ~い」

 

そう言うと一夏はお茶を取りにキッチンに行き、千冬はリビングのソファに腰掛けた。

 

(…千冬さん…)

ラウラ

(ふむ。休暇の時の教官はこんな感じなのか)

シャル

(いつもと全然違う…)

 

そう。千冬は日頃の仕事着とはまるで違うラフな格好だったのだ。その違いに少女達はみんな驚いている様であった。

 

一夏

「はい」

千冬

「すまんな。…どうだ海之、火影。二人ともゆっくりできているか?」

海之

「はい。問題ありません」

火影

「ありがとうございます」

千冬

「それなら良い。…そうだ海之、お前が昨日作ってくれた酒のあて。旨かったぞ」

海之

「喜んでいただけて何よりです」

一夏

「千冬姉気にいってたもんな~」

セシリア

「そういえば男性御三方はみんなお料理できるんでしたわね」

一夏

「ああ、二人の手順凄いぜ。全然無駄が無いんだ。おまけに料理もめちゃ旨かったしな」

シャル

「確かに前に食べた火影のパニーニも凄く美味しかったね」

「海之の玉子焼きだってそうよ」

海之

「大したことは無い。ギャリソンには遠く及ばない」

「ギャリソンさんって?」

火影

「ああ、俺達の家の執事長だ。今度スメリアに行った時紹介するよ」

 

~~~~~~

とその時千冬の携帯が鳴った。

 

千冬

「…はい。ああ真耶か……ふむ、わかった」ピッ「一夏、すまんがまた出る。帰りは遅くなるからな。お前達もゆっくりしていけ。ただし…泊りは無しだ」

全員

「「「は、はい!」」」

 

少女達は妙に緊張して返事をした。と出て行く前に千冬は海之に話しかける。

 

千冬

「…海之。スメリアに行くのは四日後だったな?」

海之

「はい」

千冬

「その…、お前さえ良ければだが、それまで私の酒のあてを、作ってもらって良いか?」

海之

「? はい、構いません」

千冬

「そ、そうか。ありがとう。…ではな」

 

そういうと千冬は出て行った。

 

ラウラ

「教官…」

「織斑先生…やっぱり…」

シャル

「これは…、ラウラと簪に強力なライバル出現の予感…」

セシリア

「ええ、本当に強敵ですわ…」

「…まさかあの千冬さんが…」

「大雪が降らなきゃいいけど…」

男性陣

「「「?」」」

 

気付いていないのは男性陣だけの様である。

 

一夏

「そういえば飯で思い出したけど夕飯どうする?折角だからみんな食べてくか?」

「一夏達さえよければそうさせてもらおうか」

 

他のみんなも同意見だった。

 

一夏

「りょーかい」

火影

「んじゃ今日は誰が作る?」

海之

「先生のあてを作らねばならんから俺が」

一夏

「ああ海之。山田先生の呼び出しで夜遅いという事は飲んでくるから今日は多分いいぜ」

海之

「…ふむ、そうか」

「じゃあ家に招待してもらうお礼も兼ねて今回は私が作ってあげるわ」

「ふむ。一理あるな。では私も作ろう」

シャル

「僕も久しぶりにやってみようかな。以前は良く作ってたから」

ラウラ

「無論、私も加勢する」

「じゃあ私はみんなを手伝うよ」

セシリア

「もちろん私も」

 

とその時、

 

一夏

「セシリア!俺と一緒に作ろう!」

セシリア

「へ?ほ、本当ですか!?」

 

一夏がセシリアと一緒にやると言いだした。さぞ箒が反対すると思いきや、

 

「そ、そうだな!一夏、手伝ってやれ!」

 

以外にも箒も賛成した。

 

セシリア

「ありがとうございます!」

(…一夏さんと一緒に。…最高ですわ!)

一夏・箒

((…ほっ…))

火影

(どうした二人とも?)

一夏

(…聞かないでくれ…)

(あの悲劇を繰り返すわけにはいかん…)

火影

(?)

 

その後全員でゲームをしたりしながら夕方まで時間を過ごした。




次回後半に続きます。


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Mission67 織斑家での一日②

IS学園は夏季休暇に入り、火影と海之は一夏と千冬の誘いでスメリアに行くまでの間二人の家で世話になることになった。ある日訓練から三人が帰ってくると家の前で入りたそうにしているシャルに遭遇。すると立て続けに他のメンバーも合流。賑やかな一日となった。


一夏の家にいつものメンバーが合流してから数刻後。時間帯は夕刻に差し掛かっていた。現在女子陣(+一夏はセシリアの監視)は先の約束通り夕食の調理中である。火影と海之も手伝おうとしたが断固拒否されたのでただその場にいて邪魔をするのも悪く、外に散歩に出ていた。

 

火影

「あいつら大丈夫かな。…特に一夏が」

海之

「ああ。思えばセシリアの料理に関しては今まで一夏や箒が妙な反応をしていたが…、先程ので理解できた」

 

二人は一夏の身を案じていた。というのもセシリアの調理方を見ての事である。何しろトマトソースを作ろうとすれば赤い色をもっと濃くしようとチリペッパーや一味を大量に放り込もうとするわ、ニンジンを切ればとても火が通りそうにない位でかいサイコロみたいな物になったりと、その一つ一つに適宜指示を入れて既にくたくたな様子だったのだ。

 

火影

「まぁ食う時の事を考えれば今食いとめた方がいいだろし任せておこうぜ。…しっかし久々の家か…。ギャリソン達元気にしてっかな」

海之

「ああ元気そうだった。先日一夏達を連れて帰郷する連絡をした時とても喜んでいたよ」

火影

「そっか。…しかしほんの数ヶ月だってのになんか随分久々な気がするな」

海之

「それだけ多くの事があったという事だ。良い意味でも…悪い意味でもな」

火影

「…確かにな」

 

二人が言っているのは当然あの黒いIS。そしてタッグマッチの時に襲撃してきた機械蜘蛛である。さらに夢の中で出会ったかつての仲間達からの警告。

 

海之

「…それにゴスペルの操縦者が言っていた言葉も気になる…」

 

先日シルバリオ・ゴスペルの操縦者であるナターシャは黒いIS達に囚われていた時「男の声が聞こえた」と話した。もし聞き間違いでないとするとその男があのISや機械蜘蛛に関わっている可能性が高い。そしてもしかしたら自分達にも何らかの形で関わっている可能性が高い。それもかつての自分達、ダンテとバージルに。

 

火影

「男の声か…。だがまだ手がかりが少なすぎるな。それに俺達の考え通りならあいつらの言う通りこれで終わりとは思えねぇ。必ずまた何か起こる筈だ。今は待つしかねぇだろ」

海之

「…そうだな」

火影

「しっかし、俺もお前も前世であんなに戦ったってのに生まれ変わってもやっぱり戦ってるんだな。あの少女は「ちょっと刺激がある」程度みたいに言ってたのに」

海之

「あの少女がこの事を知っていたのかはわからんがな。だが俺達はまだその必要があるという事だろう。戦いが終わりさえすれば違う生き方を模索すれば良い」

火影

「はは、確かに。…もう戻ろうぜ。もうそろそろできあがる頃だしな」

 

段々空が薄暗くなっていく中、二人は仲間たちが待つ家に戻った…。

 

 

…………

 

「あっ、二人共お帰りなさい。丁度できたところだよ」

 

二人が帰るとリビングのテーブルの上に料理が湯気を立てて並べられていた。

 

火影

「へー、こりゃすげぇ。一人一品ずつ作ったのか?」

シャル

「うん。僕はシーザーサラダ作ったの。ドレッシングもお手製だよ」

一夏

「お、おう二人共お帰り~…」

海之

「…疲れている様だな一夏」

一夏

「あはは…」

 

そんな事を言っているとやがて全員が集まった。

 

全員

「「「いただきます(まーす!)」」」

「ねぇ火影。私の酢豚食べてみて!」

一夏

「鈴の酢豚は最高だぜ。……ん~、何度食ってもやっぱりうめぇな!」

火影

「へー、それじゃひとつ…」

 

火影は酢豚を口に運んだ。

 

「ど、どうかな?」

 

自信があると言った鈴だが火影に食べてもらうと思うとやはり緊張する様だ。

 

火影

「…うん、本当に旨いな」

 

その表情から本当に旨いのだなと鈴は感じていた。

 

「と、当然よ。私の一番の得意料理なんだから」

(…良かった。やっぱり緊張するわね)

火影

「前食べた春巻きも旨かったし鈴は料理が上手いな。良い奥さんになれるぜきっと」

「……えっ!」

(な、ななななな何言ってんの!?というかなんでそんな台詞簡単に言えちゃうのよ!?)

 

鈴は心で文句と嬉しさを呟きながら真っ赤になって黙ってしまった。

 

ラウラ

「海之。味噌汁は私が作ったのだ。食べてくれないか?」

海之

「ふむ…。じゃがいもや玉ねぎ、トマトまで入れているのか。確かドイツにはアイントプフという野菜のスープがあるが、それを味噌汁にアレンジしたのか」

ラウラ

「流石は海之だな。海之は和食が好きと知っていたからな」

海之

「頂こう。…良い味だ。野菜のうまみが良く出ている」

「…うむ。海之の言う通り旨いな」

ラウラ

「そ、そうか!人に作るのは始めてなんだ。そう言ってもらえて…嬉しい」

火影

「いやほんとに旨いぜラウラ。…シャル、サラダ貰っていいか?」

 

シャルロットが作ったシーザーサラダは様々な野菜を使っているらしく色合い豊かだ。

 

シャル

「あっ、うん。食べる時はこのドレッシングかけてね」

「ドレッシングは私が作ったの」

火影

「ではまずこドレッシングだけ。…これは…アイオリソースベースか?」

「うんそうだよ。良くわかったね。シャルに教わって作ってみたの。上手くできたか心配だったんだけど」

海之

「そんな事は無い。良い出来だ簪」

「あ、ありがとう!」

火影

「野菜も全部食べやすい大きさに切られててドレッシングと良く絡む。旨いぜシャル、簪」

シャル

「えへへ♪ありがとう火影」

一夏

「箒。このアジの南蛮漬けも旨いよ!」

「あ、ありがとう。最近覚えたのでやや不安だったが…」

「…おいしい!揚げ具合がしっかりしてるわね」

シャル

「それにお酢の加減も丁度良いよ」

火影

「揚げ物は揚げてすぐに漬けると旨みをよく吸う。僅かな漬け時間でも十分なんだ。歯ごたえも残るからな」

「良く分かっているな火影」

ラウラ

「なるほど」

 

みんなそれぞれが作った料理を満足している様だ。

 

火影

「…あれ、そういやセシリアは?」

海之

「そういえば食事開始の号令から姿が見えんな」

一夏

「ああ、セシリアなら」

セシリア

「お待たせ致しました」

 

そう言うとセシリアは料理を乗せたトレーを持ってやって来た。

 

海之

「…これはラザニアか?」

セシリア

「さすが海之さんですわ。ミートソースも一夏さんに教わりまして作ってみましたの」

 

どうやら先ほどのトマトソースとニンジンはミートソースの材料だったようである。

 

一夏

「味は保証するぜ」

(俺が全段階で味見したからな…)

「…うん。確かに美味しい」

(ほとんど一夏の料理だし…)

火影

「…ほう。旨いな」

(一夏の努力の賜物だな…)

「…うん。アツアツで美味しいです」

セシリア

「よかったですわ!これからもより練習しなくては」

一夏

「!暫く練習つきあうぜセシリア!」

「私もだ!」

 

~~~~~~~

 

全員笑っていた。そんな感じで賑やかに一夏宅での夕食は進んでいった…。

 

 

…………

 

ところ変わってここは街のとあるバー。

ここでは今千冬と千冬を呼んだ真耶が酒を酌み交わしていた。

 

真耶

「良かったんですか先輩。折角の休みで一夏くん達と過ごせるのに」

千冬

「構わん。そうでなくてもいつも教室で顔を合わせているからな。たまには離れていた方が清々する」

真耶

「素直じゃないんだから…」

 

千冬と長い付き合いである真耶は千冬が一夏の事を誰よりも心配している事。そしてそれを正直にできない様な性格である事も真耶は良く知っている。

 

真耶

「でも最近一夏くん頑張ってますよね~。白式も二次移行しましたし休み中も訓練しているようですし」

千冬

「当たり前だ。私からすればもっと鍛えてもらわなくては敵わん。それに二次移行した今でもあの二人には足元にも及ばんしな」

真耶

「火影くんと海之くんですか…。やっぱりあの二人凄いですよね。一夏くんだけじゃなく篠ノ之さん達にも良い影響となっているのが分かります。でも…本当に何者なんでしょうね。あの二人」

千冬

「…気付いていたのか」

真耶

「これでも二人の副教師ですから…。といっても何というか…何か違うとしか。二人にしろ二人のISにしろ…、私達とは…何か違う」

千冬

「……」

 

それについては千冬も分かっていた。しかし、

 

千冬

「…まぁいいじゃないか、真耶」

真耶

「先輩?」

千冬

「海之も火影も信頼できる人間だ。それだけは私の勘が間違いないと言っている。…それに、あいつらはその内自分達の事を話す時がきっと来る。私達はその時を待っていれば良い。それまでは教師としてあいつらを出来るだけ守ってやろうではないか。私達の生徒なんだからな」

真耶

「先輩…」

千冬

「いいな?」

真耶

「…はい!そうですね!おかしな事言ってすいません!」

千冬

「構わん」

真耶

「……あの、先輩。ひとついいですか?」

千冬

「? なんだ?」

 

そう言いながら千冬はワイングラスを口に運ぶ。

 

真耶

「先輩って、やっぱり海之くんの事好きなんですか?」

千冬

「!!」

 

予想外の質問に千冬は再びむせた。

 

千冬

「ななな、何を言いだすんだお前まで!?」

真耶

「す、すいません!…ただ、これもなんとなくなんですけど、先輩が二人の事を話す時、凄く穏やかな表情になるっていうか…。それに先日の臨海学校で二人があのIS達を殲滅した時、先輩すごくほっとした表情していましたし」

千冬

「う…」

 

千冬は何も言えなくなった。正に的を得ていたからだ。普段はのんびりしている真耶だがそこはやはり教師、しっかりと周りを把握している様である。

 

真耶

「だからあの二人、特に海之くんには何か思う事があるんじゃないかって…。…あの、先輩?」

千冬

「……」

 

千冬は暫く黙っていたがやがて口を開く。

 

千冬

「…わからないんだ」

真耶

「えっ?」

千冬

「私は…今迄恋というものをしたことが無い。…ましてや特定の誰かとその様な関係になったり等。そんな暇など無かった。一夏を守るのに手一杯だったし、ISに関わってからはずっとそちらの方ばかりで。ブリュンヒルデと呼ばれる様になってからは益々な。正直に言えば近づいてくる男連中はいるにはいた。だが何れも私の名誉を狙う碌でもない奴らばかりだった。だから自分にはそんな事、縁がない話だと思っていたんだ」

真耶

「……」

千冬

「だがあの二人は、海之は私をそんな風には見ていない。最初出会った時はそう呼ばれた事もあった。だが私が忘れてくれというと直ぐにそうした。私をブリュンヒルデでは無く、一人の人間として見てくれた。なんというか…嫌な気分ではなかったな…。で、でもあいつは子供だ!まだ16だ!ましてや私の生徒だぞ!そんな、そんな事…」

 

そういう千冬だが先日海之から自分も守るべき大切なものの一人と言われた時の顔の熱さを思い出していた。

※詳しくはMission63をご覧ください。

 

真耶

「先輩!!」

 

ドタンッ!

 

真耶は勢い良く突然立ち上がった。その声で周りの客も一瞬驚く。

 

千冬

「な、なんだ!?」

真耶

「あっすいません…。飲みましょう先輩!今日は私が全部奢ります!先輩の初恋祝いに!」

千冬

「は!?は、初恋って」

真耶

「私は先輩を全力で応援します!更識さんやボーデヴィッヒさんや他の方々と同じ様に!それと先輩はさっき歳の事気にしてましたけどそんなの全然気にすることはありません!歳の差なんてほんの数年です!愛があれば歳の差なんて、です!それに海之くんは確かに生徒ですが世界には生徒と教師が結婚した例もあります!」

千冬

「ど、どうしたんだ真耶?…って、ま、待て!!結婚ってどういう」

真耶

「そんな事気にしなくて良いです!さぁ行きますよ!」

 

そして千冬は異常にテンションが高い真耶に付き合ってこの後何軒かはしごする事になった。

 

 

…………

 

織斑宅。時刻は真夜中の午前一時。あの後真耶に付きわされた千冬はようやく帰って来た。

 

千冬

「う~ん…飲み過ぎた。真耶のやつ、今度会ったらただじゃおかん…」

 

そう言って千冬はリビングに行き、電気を付ける。一夏・火影・海之は既に眠っているのか姿は無かった。

 

千冬

「…あいつらはもう寝たのか。…まぁ疲れたのだろうな。…シャワー浴びたら私も休むか…」

 

そして千冬がリビングの中央にあるテーブルに腰掛けようとする。すると、

 

千冬

「ん…手紙?それにこれは薬か?」

 

そこには手紙と酔い止めがあった。千冬は手紙を開く。

 

「飲まれていると思うので薬を置いておきます。あとキッチンにスープを作っておきましたのでもし良ければ召し上がってください。胃腸に優しいかと。

飲み過ぎにはお気を付け下さい。

                      海之」

 

千冬

「……」

 

どうやら夕食の後に海之が用意したようだ。

 

千冬

「…ふっ、子供のくせに生意気な事を言う。……ありがとう」

 

そう言うと千冬は海之の気持ちに感謝し、スープを温めるためにキッチンに向かった。




次回からスメリアに行きます。数話にかけてやる予定です。


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Mission68 スメリアへの帰郷

IS学園の夏季休暇。
火影と海之は一夏と千冬の家にお世話になっていた。この一学期の間に起こった出来事を振り返る中、二人が考えるのはやはりあの事だった。
自分達と同じく本来ならこの世界に存在しない筈のものたち。だが二人は自分達の大切なものを守るため、戦い抜く事を改めて決意する。



IS学園の夏季休暇は始まりから一週間が経ち、翌月に入っていた。今日は火影と海之の故郷であるスメリアに行く日。そして今火影達は彼等のプライベートジェットでスメリアに向けて飛行中であった。

 

海之

「予定ではあと3時間程で到着予定だ」

一夏

「人に気を使わずに飛行機乗れるって最高だな!あと思った以上に快適だし!」

「席も最高級ソファーだもんね♪シャルのとこも飛行機持ってるんじゃないの?」

シャル

「あるにはあるけどこんなに大きくないよ。流石はESCだな~」

火影

「今思えば父さん、なんでこんな大きい物持ったんだろうな。まぁお陰で助かったけど」

「そうだな。大人数だったから心配だったがあと10人位は余裕で乗れそうだ」

セシリア

「母の御仕事の付き添いで何度か乗った事はありますが…、ここまでのものは中々ございませんわ」

ラウラ

「しかも専属のキャビンアテンダントまで付いているからな」

本音

「あ、私オレンジジュースお願いしま~す」

 

みんなそれぞれ空の旅を満喫している様であった。

 

 

…………

 

それから約3時間後。火影達を乗せた飛行機は無事に予定通りスメリアに到着した。

 

本音

「わ~い着いたー!」

「これがスメリア…。聞いてはいたが自然が多い国だな」

火影

「ああ。無理やり建物を造ったりしねぇからな。環境を大事にしてるんだ」

 

スメリア

人口約100000人

日本と同じく島国であるこの国は世界で最も小さい国の一つであり、永世中立国である。ほんの20年ほど前まではそれ程の国ではなかったが、二人の父親、アルティス・エヴァンスが画期的なプログラムを開発したことにより、飛躍的な進歩を遂げた。更にこの国は難民の受け入れにも積極的であり、毎年約30000人の難民を受け入れている。つまり人口の30%は難民という事だ。ただし徒に建造物を建てたり無理に開発を推し進めたりすることはせず、科学と自然が上手く共存した国造りを実現している。因みに日本とは友好国である。

 

海之

「電気は全て自然発電と再生可能エネルギー。汚水処理システムは完璧だから幾ら下水を海に流しても汚れん」

一夏

「…すげぇな」

シャル

「あと難民を積極的に受け入れてるだけあってやっぱり色々な人がいるんだね」

セシリア

「確かに。ヨーロッパ系アフリカ系アジア系。白人黒人。色んな方がいますわ」

ラウラ

「しかし総人口の30%もの難民を毎年受け入れて何故この国はパンクしないんだ?」

火影

「ああそれはそういう人達が大きくなったら自然と他の国へ行ったり自分達の国へ戻って行くからだよ」

「えっ?」

海之

「スメリアで育ち、学んだ人達は引き続きスメリアで暮らす人。更に知識を深めたいと他の国に行く人。自分の学んだ知識を母国で役立てたいと帰国する人に分かれる。ほとんどは後者二つだ」

「なんでそのままスメリアに暮らす難民は少ないの?」

火影

「それは僕もよくわからないが…。もしかしたら自分達と同じ様な難民をもっと迎えてほしいっていう願いじゃねぇかな?だがそのまま自分達が残ってしまったらさっきラウラが言った様な人口の増えすぎの問題があるかもしれない。だからその人達の席を空けるために外に旅立って行くのかもな。単に想像だけどな」

シャル

「でももしそうだとしたら…ちょっと寂しいけど良い話だよね。次の子達にバトンを渡す、みたいな」

セシリア

「そうですわね。国から逃げのびた人達がスメリアで学び、今度は自分達の祖国を救うために戻っていく。確かに立派ですわ」

海之

「……さぁそろそろ迎えの車が来る。移動しよう」

 

そして彼等は迎えに来ていた車に乗り、空港から火影と海之の家へと向かった。そして約10分後、彼らを乗せた車はやがて大きな門をくぐり抜け、広い緑地を横断する道に入っていった。

 

本音

「ねぇひかりん~。ここは公園かなにか~?」

火影

「いや。これは一応庭だよ。5分もすれば直ぐ家さ」

一夏

「……うっそだろおぉぉぉ!」

 

周辺に一夏の声が響いた…。

 

 

…………

 

暫く車は進み、彼等を乗せた車は一軒の大きな屋敷の前に到着した。目の前にあるその屋敷は一見洋風だが良く見ると所々に和のデザインを用いている。おそらく二人の母の故郷である日本を、そして遠く日本から嫁いできた母を想った父の考えに違いない。

 

一夏

「やっぱ大きい家だなー!」

本音

「ほんとだねー!」

火影

「今日驚いてばっかだぞお前ら」

シャル

「…驚くなという方が無理だと思う」

セシリア

「…ですがESCの創始者様の御自宅としては…少しすっきりとした感じですわね。まだ私のお家の方が少し大きい様に感じますわ」

「そうなの?」

海之

「無駄に大きすぎても使いきれないからな。あえてそうした作りにしてあるらしい。…では入ろうか」

 

ガチャンッ。

玄関らしい大きな扉を開けるとそこには数人のメイドと執事、そして彼等の前に白髭を生やした英国紳士らしい男性が立っている。

 

「「「お帰りなさいませ!」」」

白髭の男性

「お帰りなさいませ。火影様、海之様」

火影

「ああただいまギャリソン。みんな」

海之

「ただいま。大人数で帰って来て申し訳ない」

ギャリソン

「何を仰います。御二人が日本で作られた御友人の方々をお連れになってご帰宅された事、このギャリソン甚く感動しております」

火影

「相変わらず大袈裟だなぁ」

一夏

「火影、この人は?」

火影

「ああそうだったな。彼はギャリソン。この家の執事長だ」

ギャリソン

「挨拶が遅れ、大変失礼致しました。火影様と海之様の御友人の方々でいらっしゃいますね。ギャリソンと申します。恥ずかしながらこの屋敷の執事長を務めさせて頂いております。以後お見知りおきを」

一夏達

「「「よ、宜しくお願いします…」」」

 

一夏達はギャリソンの振る舞いや雰囲気を見て只者では無い事を感じ取ったのか、やや緊張して挨拶と自己紹介を済ませた。

 

火影

「ギャリソンは父さんの頃からずっとこの家に仕えてくれてんだ。父さんと母さんが亡くなってからは僕達の親代わりの様なもんだな」

シャル

「そうなんだ…。凄い人なんだね」

海之

「ああ。今のこの家があるのも彼のおかげと言っていい」

ギャリソン

「私の様な者に…、もったいなきお言葉でございます…。うぅ…」

ラウラ

「ど、どうしたんですか!?」

 

ラウラですら敬語で話していた。千冬が聞いたらさぞ驚くだろう。

 

火影

「大丈夫だ。涙もろいだけだから」

海之

「…さぁ、お前達の滞在する部屋は既に用意させてある。係に案内させよう」

一夏

「んじゃまた後でな二人共」

「ありがとうございます」

セシリア

「それでは後ほど」

本音

「わ~い、荷物置いたら探検しよ~」

「子供かあんたは」

シャル

「火影。また後でね」

ラウラ

「後でな海之」

 

一夏達はそれぞれの部屋に案内されて行った…。

 

海之

「やれやれ…。ギャリソン、そしてみんな。留守の間申し訳なかったな」

ギャリソン

「めっそうもございません。御二人の元気なお姿を拝見できて…私も皆も」

火影

「だから泣くなって…。ところでギャリソン、レオナ叔母さんは元気か?」

ギャリソン

「ええお元気でいらっしゃいます。久しぶりに御二人にお会いできる事をとても喜んでおられますよ」

火影

「う~ん…、あの人の場合あんまり元気すぎんのもなぁ…」

海之

「…うむ」

 

二人は何か想う事があるようだ。

 

ギャリソン

「さぁさぁ御二人も長旅でさぞお疲れでしょう。お荷物はお部屋にお運びしますからどうぞお休みください」

火影・海之

「「ありがとう」」

 

二人もそう言われて自分達の部屋に戻った。

 

 

…………

 

火影

「あ~やっぱ学園の寮の部屋と自分の部屋は違うな。帰って来たって感じするぜ~」

 

火影は自分の部屋のベッドに大の字になって休んでいた。とそこへ、

 

コンコンッ

ドアがノックされて外から声が聞こえた。

 

「火影~、いる~?」

火影

「…鈴か?入っていいぜ」

 

ガチャッ

来たのは鈴、シャルロット、本音だった。

 

本音

「おじゃましま~す♪…うわ~大きな部屋~。あと大きい箱~!」

「ジュークボックスよ。前に部屋に置いてるって言ってたけどほんとだったんだ」

火影

「そいつは1950年製だ。今じゃ結構レア物だぜ。音声調整ができる様改造してもらった」

シャル

「ねぇ火影!これってビリヤード!?」

火影

「ああ趣味だ。ところで部屋はどうだ?気になった事があったら遠慮なく俺達や手伝いに言えよ」

「気になるどころか逆にこっちが恐縮になる位の立派な部屋よ!あと部屋は箒とセシリア、私と本音、シャルとラウラがそれぞれ相部屋よ。一夏は一人で部屋使ってるわ」

本音

「おりむ~部屋一人で使えて嬉しそうだったね~」

シャル

「学園では箒と相部屋だしね。色々気を使う事があるのかも」

火影

「そいつぁ良かったな。…あそうだ。あいつの様子を見に行くか。お前らも来るか?」

「あいつって?」

火影

「ついてくれば分かる」

 

そう言うと彼等は外に出た。

 

 

…………

 

同時刻、海之の部屋。

 

海之

「父さん母さん。…今帰りました」

 

自分の荷物を整理した後、海之は机の上に置いている両親の写真に挨拶をした。これは昔から海之の習慣になっている。因みに火影の部屋にも同じ写真がある。

 

コンコンッ

こちらでも誰か海之を訪ねてきた。

 

一夏

「海之~。いるか~?」

海之

「…鍵は開いている」

 

ガチャッ

入って来たのは一夏、箒、セシリア、そしてラウラだった。

 

一夏

「おじゃましま~す!」

ラウラ

「…嫁の部屋に入るのも緊張するものだな」

セシリア

「さすが海之さん。部屋の使い方に無駄がありませんわね」

「…しかし凄い本の数だな。これ全部読んだのか?」

海之

「まぁな。部屋の方はどうだ?問題ないか?」

一夏

「全然ないぜ!あんな良い部屋一人で使えて気分良いぜ♪」

「私達も問題ない。…海之、このトロフィー達はなんだ?」

海之

「ああそれは昔の居合の試合で取ったものだ」

セシリア

「こちらも凄い数ですわね…。確か海之さんの剣の先生はお母様でしたっけ」

海之

「ああ。母が亡くなってからはギャリソンが師を務めてくれた」

ラウラ

「雰囲気から感じたがやはり只者では無かったのだな。…これがお前の両親か?」

 

ラウラが机の上にある写真を見て尋ねた。

 

海之

「ああ。俺達が5歳の頃だ」

「そうか、この二年後に。さぞ辛かったであろうな」

一夏

「……親か」

セシリア

「どうしました一夏さん?」

一夏

「ん?ああ何でもない」

海之

「……」

 

一夏の親の件は海之も知っているので黙っている事にした。

 

海之

「…さて、あと3時間もすれば夕食になる。それまでは俺が屋敷を案内するとしよう」

「助かる」

ラウラ

「うむ。いずれ私の家にもなるからな。しっかり覚えておかねば」

一夏

「いやラウラ。それは話飛び過ぎだから…」

 

そう言って彼等は海之の案内で外に出た。

 

 

…………

 

場所は変わり、ここは屋敷の外にあるガレージらしき場所。そこに火影達が来ていた。その中で黒人らしい少年がなにやら作業している。

 

火影

「ようニコ。久々だな!」

ニコと呼ばれた少年

「…火影!もう帰って来てたのか!ずっと作業に集中していて気付かなかったよ」

火影

「相変わらず仕事熱心な奴だな。どうだ調子は?」

ニコ

「愚問だね。俺を誰だと思ってるの?24時間365日いつでも120%だぜ!」

「…ねぇ火影。この子は?」

火影

「ああこいつはニコ。ここの整備士だ」

シャル

「へーそうなんだ。…って、えっ!どう見ても僕達より年下だけど!?」

火影

「ああニコはまだ11歳だ。だが機械に滅法強くてな。ここで整備士かつ技師として働いてもらってる。もちろん学校に行きながらな」

本音

「すごいねー!」

ニコ

「君達って火影の日本の友達?へー火影も隅に置けないね♪美人ばっかじゃん」

シャル

「び、美人って…。あぅ…」

 

美人といわれてシャルは真っ赤になって黙ってしまった。

 

火影

「ニコは元戦災孤児でな。戦争で両親を失って3年前にこの国に来たんだ。そこを俺達が雇った」

本音

「そうなんだ…。辛かったね」

ニコ

「…まぁね。でも今は昔の事ばかり考えず、未来を見て生きる事に決めたんだ。父ちゃんも母ちゃんもそれを望んでいる筈だしさ」

「…強いねあんた」

火影

「…ところでニコ。アレは万全か?こっちにいる間使おうと思ってんだが」

ニコ

「おう、抜かりは無いぜ!あれは芸術だからな!」

 

そしてニコは一台のバイクを指さした。一見すると流線型だが所々に生物の皮膚を思わせる様なデザイン。更に前輪には剣を模した様な飾りがある。

 

火影

「久々だなキャバリエーレ」

「あ、そうか。確か火影ってバイクも乗れるんだったわね」

本音

「かっこいいね~!」

シャル

「なんとなく火影のアリギエルに似てるね」

火影

「…そういわれりゃそうだな。あっそういやシャル。例のお前に会いたいっいう人だが明後日に予定組んだからな」

シャル

「あっそうだった!…う~ん、緊張するなぁ~」

「ねぇほんとに誰なのよ火影?」

火影

「今は秘密だ。当日はどうする?俺と一緒にこいつで行くか?」

シャル

「火影と一緒にって……も、もしかしてこれで火影の後ろに乗って!?」

火影

「ああそうだ。もし心配なら他のみんなと車で」

シャル

「行く!火影と一緒に行く!絶対!」

火影

「そ、そうか」

 

シャルロットの元気な返事にやや引き気味な火影。すると、

 

「ね、ねぇ火影?明日と明々後日って他に予定ある?」

火影

「え?いや無ぇよ。こっちにいる間は大部分みんなに合わせるつもりだからな」

「じゃあさ!どっかで私と本音に付き合って!できればバイクにも乗せて!」

火影

「あ、ああ」

本音

「やったー。約束だよー!」

(これで条件は一緒ね!)

シャル

(むぅ~!)

ニコ

「…火影、お前も大変だな」

火影

「えっ?」

 

ニコは気づいた様だが火影はやはり気づいていない様だ。

 

 

…………

 

その夜、一夏達は家中を挙げて派手に持て成された。夕食は火影の要望でギャリソンが腕を振るう事になり、当のギャリソンは恐縮ながらも久々の調理ということで張り切っている様だった。彼の料理を食べた感想を一夏達に聞いてみると…。

 

一夏達

「……」

海之

「どうしたんだお前達?」

一夏

「…いや。ギャリソンさんの料理が…あまりに旨くて…」

火影

「だろ?」

「ああ…。激しく同意する…」

セシリア

「驚きましたわ…」

「前に火影や海之も言ってたけど…その通りだったわ…」

シャル

「あんなの食べたこと無いよ…」

本音

「美味しかった~…」

ラウラ

「…どれだけ練習すればこれ程のものができるだろうか…」

ギャリソン

「もったいなきお言葉でございます」

 

みんなその味に感動している様だった。とその時、

 

ドーーーーンッ!

 

街の方から何やら大きな音が聞こえる。

 

一夏

「…?なんだ?」

火影

「ああそういや忘れてた。今日はちょうど花火を挙げる日だったな。ベランダから大きく見えるぞ」

本音

「花火!私見たい!」

シャル

「僕も見た事ないから見たいな!」

「じゃあみんなで行きましょ!ほら火影も!」

ラウラ

「行くぞ海之!」

火影

「へいへい」

海之

「…はぁ」

 

そう言いながらも二人も付いていく。それを見てギャリソンは心で思った。

 

ギャリソン

「…アルティス様、奥様。火影様と海之様は日本で良い御友人を持たれましたな…」

 

こうしてスメリアへの里帰り一日目は賑やかに終わった。




ジュークボックスとビリヤード台はDMCの事務所に置いているので火影の部屋にも置いてみました。あとニコはオリキャラです。
庭を車で走るひとこまはアニメ版ストリートファイターII Victoryから考えました。


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Mission69 スメリアの人々

火影と海之は一夏達を連れて自分達の故郷であるスメリアに帰国する。今まで行ったことが無いスメリアの街並みや火影と海之の家に驚く一行。ギャリソンの料理等にも感動しつつ、一日目を楽しむのであった。


スメリア滞在二日目。

みんなやはり疲れていたのか昨晩はベッドに入るとあっという間に眠ってしまった。そんな日の翌朝。朝食にはまだ早い時間帯。

 

エヴァンス邸 客室前の廊下

 

ガチャッ

 

シャル

「あっ鈴、本音。おはよう」

ラウラ

「おはよう二人共」

「おはようシャル、ラウラ」

本音

「おっはよー!う~ん良く寝た!」

シャル

「ほんとだね。にしても本音は朝から元気だね」

 

同タイミングでシャルロット達と鈴達がそれぞれの部屋から出てきた。すると、

 

ガチャッ

 

「ああみんな。おはよう」

セシリア

「おはようございます。皆さん」

ラウラ

「箒もセシリアもおはよう。良く眠れたか?」

セシリア

「ええもうぐっすり。…一夏さんは?」

ラウラ

「まだ見ていない。まだ寝ているのではないか?」

「まったくあいつは…。昨夜はしゃぎすぎだ」

本音

「一番元気だったもんね~」

 

女子は全員起きてきたが一夏はまだ眠っている様だ。とそこへ、

 

ギャリソン

「おや皆さま。おはようございます。良くお休みになられましたか?」

シャル

「あっ、ギャリソンさん。おはようございます。はい、おかげさまで」

ギャリソン

「それは何よりでございました。朝食はもう少しで準備できますので申し訳ありませんがもう少々お待ち下さい」

「あ、ありがとうございます。…あのギャリソンさん、海之と火影はもう起きてますか?」

ギャリソン

「はい。お二人でしたら…」

 

 

…………

 

エヴァンス邸私有地内 簡易射撃場

 

火影

「……」

 

パパパパパパパパパパパパパッ!

 

火影

「!」

 

バババババババババババババッ!

 

そこでは火影が朝練を行っていた。普通のクレー射撃だと火影には話にならないので彼特製のメニューがある。そして朝なので迷惑にならない様銃はサイレンサー付きの専用銃である。

 

火影

「ふぅ」

本音

「ひかりん~!」

 

そこへ鈴、シャルロット、本音。そしてセシリアが来た。

 

火影

「ああお前らか。おはよう」

「ああお前らか、じゃないわよ。朝練するならなんで誘ってくれないのよ~」

火影

「疲れてると思ってな。良く眠れたか?」

シャル

「うん。…射撃の訓練してたの?」

火影

「ああ習慣だからな」

本音

「ひかりんえらーい」

セシリア

「見た所クレー射撃の様ですけど…随分違いますのね」

火影

「ああ。普通はショットガンを使うが僕はハンドガンを使うんだ。あとディスクが単発じゃなくていろんな場所から複数立て続けに出る様になってる」

シャル

「ハンドガンで当たるの?」

火影

「当たりやすいショットガンだと物足りねぇからな。僕にはこれ位が丁度良い」

セシリア

「だからこそあんな正確な射撃ができますのね…」

「あっ忘れてた。もう少しで朝食だって」

火影

「ああわかった」

 

 

…………

 

数刻前 エヴァンス邸私有地内 小道場

 

海之

「………」

 

そこでは海之が朝の鍛錬を終え、瞑想していた。

 

海之

「………もう入って来て良いぞ」

箒・ラウラ

「「!」」

 

どうやら瞑想中の海之を気遣って外で待っていた様である。

 

ラウラ

「さすがだな海之。気配は消していたつもりだったが」

「…小さめだが良い道場だな。手入れがしっかりされている」

海之

「道場は武をやる者にとって神聖なものという母の意向だ」

「同意しよう。…なぁ海之。こちらにいる間私も参加させて貰ってよいだろうか?」

ラウラ

「私もやるぞ海之。パンチラインを使いこなすために接近戦も学ばねばならんからな」

海之

「構わない」

「そうか。ありがとう」

ラウラ

「感謝する。…そうだ。もうすぐ朝食だ。そろそろ戻った方が良いな」

海之

「そうか」

 

その後、女子達と訓練を終えた火影と海之達。そして遅れて起きてきた一夏も交えて全員朝食を取った。

 

火影

「良く眠れたか一夏?」

一夏

「ああバッチリだ!」

 

朝食を終えた一行は今日の予定を考えていた。その結果昨日は街を見ることができていなかったので、今日はリクエストでゆっくり街の観光をする事になった。海之や一夏達は車で、そして火影と昨日「火影の後ろ順番ジャンケン」で勝った本音はキャバリエーレで向かう事になった。

 

ドゥルルルルンッ!ドゥルルルルルルンッ!

 

火影

「やっぱニコの整備は完璧だな。落ちんなよ本音」

本音

「よろしくねひかりん~♪」

(良いなぁ~。でも帰りは私だからね!)

シャル

(…いいもん!明日は僕だもん!)

一夏

「やっぱバイクってカッコ良いよなぁ。俺も免許取ろっかな」

箒・セシリア

「「頑張れ!(頑張って下さいまし!)」」

 

そして全員で街に向かった…。

 

 

…………

 

スメリアは世界で最も小さい国。更に島国なので大きい街は本当に数える位しかない。しかし今一行がいる街はこの島で最も大きく、大型ショッピングモール、映画館や水族館、学校、大型プール、観光客用のホテル等施設はそれなりに充実していた。

 

セシリア

「結構大きい街ですわね」

ラウラ

「ああ。それに昨日以上に様々な人がいるな」

シャル

「…でもみんな楽しそうだよね。難民の楽園と呼ばれてるだけの事はあるよ。これが平和っていう事なのかもね」

火影

「世界には未だに紛争や人種差別、貧困等様々な問題がある。こんな場所が一つ位あっても良いさ」

海之

「…さて、ここからは基本自由行動にするか。みんな見たい場所もあるだろう。事前にMAPも渡されたな」

「でも大丈夫かな。私達はここは始めてだし…」

火影

「大丈夫大丈夫。なにか分からなければそこらにいる人に気軽に聞いてみな。みんな喜んで教えてくれっから。ここでは間違っても犯罪なんて起きやしねぇし安心しな」

 

そしてみんな待ち合わせの時間を確認し、それぞれのパーティーに分かれて街歩きを始めた。

 

 

…………

 

海之・ラウラ 

 

当たり前の様に海之と一緒に回りたいと言ったラウラは海之に自分が行ってみたいという場所を提案し、良い場所が無いかと尋ねたところ、海之は心当たりがあるとある店に向かった。

 

海之

「着いたぞラウラ」

 

そこは一軒のブティックだった。

 

ラウラ

「ここがお前のおススメの店か?」

海之

「ああ品揃えに関しては保証しよう。しかしお前がこんな店に行きたいと言うとはな。意外だった」

ラウラ

「う、うむ。制服と軍服以外持っていなかったのでな。昔の私からすれば考えもしなかった事だ。だが…今は違う。私も変わらねばならん」

(…海之のためにも)

海之

「…ふっ、そうだな。先ほどの俺の言葉は謝罪しよう。では入ろうか」

 

カランッ

 

二人は店内に入った。すると茶色い髪の女性店員が話しかけてきた。

 

女性店員

「いらっしゃいま…。あら~海之くんじゃない!!元気してた?」

海之

「ええ元気ですよ。お久しぶりです、シンディアさん」

ラウラ

「知り合いか海之?」

海之

「ああシンディアさんという。この店のオーナーの娘さんだ」

シンディア

「うちのママと海之くんの亡くなったお母さんが友達だったのよ。その頃からの付き合いってわけ♪…って可愛らしい子ね~。ひょっとして彼女~?海之くんもそんな歳になったのね~」

ラウラ

「う、うむ!海之は私の嫁だ!」

 

そう言ってラウラは海之の腕を掴んだ。

 

海之

「…気にしないでください」

シンディア

「照れない照れない♪それにしても大胆ね~もう妻宣言なんて~♪…もしかして今日は未来の奥様のために服を御所望?」

海之

「だから…、もう良いです。まぁそうです。繕って頂けますか?」

シンディア

「オーライ♪じゃあ未来の奥様、こちらへどうぞ♪」

ラウラ

「う、うむ。世話になる…」

 

そう言うとラウラとシンディアは奥に行って服を選ぶ。そして暫く待っているとまた扉が開いた。

 

カランッ

 

金髪の大柄の男性

「お~いシンディア、…って、海之じゃねーか!久々だなぁ!いつ戻ったんだよ?」

海之

「ザックか。相変わらず暑苦しい奴だな」

ザック

「おめぇもその口は相変わらずだっつーの。それより今日はなんだ?ここに売ってんのは女モンの服だぞ?」

海之

「友人の付き添いだ。お前こそどうした?まだシンディアさんに尻を敷かれているのか?」

ザック

「馬鹿いっちゃいけねぇよ。驚け!確か日本に行ってたおめぇは知らねぇだろうけど正式に付き合う事になったんだぜ!」

海之

「それは良かったな」

シンディア

「海之くん、できたよ~♪」

ラウラ

「ちょ、ちょっと待て!心の準備が」

 

見るとそこには黒い服の上に茶色いワンピースを着たラウラがいた。

 

ザック

「……おや~、おめぇも隅に置けねぇな海之~。勉強意外にちゃんとやる事やってんじゃねぇか~♪」

シンディア

「こらこら下品なこと言わないのザック」

ラウラ

「…ど、どうだ?…に、似合ってるか?」

海之

「…ああ。可愛いと思うぞラウラ」

ラウラ

「!そ、そうか。よ、良かった」

 

そう言われたラウラは赤くなりながらも倒れる事はなかった。彼女も多少は免疫が付いたようである。

 

海之

「シンディアさん。もう一、二点位お願いできますか?一式頂きます。支払いはこれで」

ラウラ

「えっ!ま、待て!私が」

シンディア

「いいのいいの。未来の旦那からのプレゼントなんだから受け取っておきなさいな♪ザック、包装お願いね」

ザック

「あ、へいへい」

 

やはり尻に敷かれているなと海之は思った。

 

ラウラ

「あ、ありがとう海之。いつか礼をする」

海之

「気にするな」

ラウラ

(…こういうのも…本当に悪くないものだな…)

 

その後、海之とラウラは後ほど降りてきたオーナーの計らいで休憩を貰ったシンディア、ザックと一緒に時間を過ごす事になった。

 

 

…………

 

一夏・箒・セシリア

 

同じ頃、一夏達は久々に映画を見ようと映画館に立ち寄り、映画を観終わって街に出ていた。因みに見た映画は、

 

一夏

「一回ああいうホラー映画を大画面のスクリーンで観てみたかったんだけど…思った以上の迫力だったな!」

箒・セシリア

「「………」」

 

そうホラー映画である。思った以上の怖さに劇場内は数多くの悲鳴が聞こえた。それは一夏に付いてきた箒とセシリアも同じだった様で、映画が流されている中ずっと一夏にしがみついていた。そんな二人の心中は、

 

箒・セシリア

((…今度は二人きりで観に来よう(来たいですわ)♪))

 

…しがみついていた理由はどうやら怖さだけでは無かったようである。

 

一夏

「なぁ、あそこの喫茶店で休まないか?」

セシリア

「そうですわね」

 

そう言って三人は目の前の小さな喫茶店に入った。

 

カランカランッ

 

黒い長髪の男性

「…いらっしゃいませ」

 

カウンターには黒い長髪の青年が仕事をしていた。マスターにしては若く、自分達とそう変わらない位に思える。店にはテーブルに客が2、3名だった。

 

男性

「3名様ですか。…こちらへどうぞ」

一夏

「あ、はい。ありがとうございます。……さて、何飲む?」

「私は…ほう、おススメはストロベリーサンデーか。奇遇だな。火影が喜びそうだ」

男性

「…?失礼。先ほど火影と仰いましたが…、お客さま方は火影・藤原・エヴァンスさんのお知り合いの方ですか?」

「…え?はい、そうです。火影を知ってるんですか?」

男性

「ああ申し訳ありません。私は火影さんの同級生でデウスと申します」

セシリア

「まぁ同級生でしたの!どうりでお若いと思いましたわ」

デウス

「火影さんとは中学校まで一緒だったんです。彼も僕もストロベリーサンデーが好きでして。彼と海之さんはお元気ですか?」

一夏

「ええ元気です。俺達は日本で同じ学校にいるんですが夏休みに誘われまして」

デウス

「そうですか。ではまた近いうちに来られるかもしれませんね。彼は兄が作るストロベリーサンデーが好きですから」

 

カランッ

 

白髪の男性

「すまなかったなデウス、留守番させて。…ああお客様、いらっしゃいませ」

「あ、こんにちは」

デウス

「お帰りなさい、アル兄さん」

 

アルといわれた男性は裏で仕事着を着た後、カウンターに出てきた。

 

デウス

「アル兄さん。こちらのお客様方、火影さんと海之さんのお知り合いだそうです」

アル

「左様でしたか。…アルと申します。二人の事は幼い頃から知っておりますよ」

一夏

「そうだったんですか~。…どうした箒、セシリア?」

「…失礼、お二人は剣の御経験は?」

デウス

「! 良くおわかりになりましたね。私もアル兄さんも共に剣を学んでおります」

「やはりそうでしたか。気配から御二人共只者ではないと感じました」

一夏

「俺全然気付かなかった…」

アル

「火影くんや海之くんとは剣を通じて知り合ったのです。私はもう今は辞めてしまいましたがね。二人の腕は昔から抜きん出ていました。それ以降は当店のストロベリーサンデーを気にいって頂きまして今でも時々来られますよ」

セシリア

「そうなんですか。…あの、御二人はご兄弟ということですが…あまり似ておられない様に思えるのですが…もしかしてお二人は…」

アル

「…はい。私と弟の親は共に難民で互いに違う人種です。私は母の、弟は父の血が良く出ています」

セシリア

「…申し訳ありません」

デウス

「お気になさらないでください。私達の親は20年前にこのスメリアに来ました。両親もその後生まれた私達も人種の違いで嫌な思いをしたりしていません。学校でもその様な事は一回もありませんよ」

アル

「血とか種の違いとか関係ありません。私はこの国でそう学びました」

「本当に良い国ですね」

デウス

「…そうですね。本当に平和です。…ずっと続いてほしいです」

 

その後、一夏達は店のおススメであるストロベリーサンデーを注文し、アルとデウスと話をしながら時を過ごした。特に火影や海之の過去の事などを聞けて結構盛り上がったんだとか。

 

 

…………

 

火影・鈴・シャルロット・本音

 

その頃火影達はショッピングモールを回ったり小休憩を取った後、街に出ていた。そして今は火影が行きたいという場所に向かっていた。

 

「あのショッピングモール、いつも行ってるショッピングモールより色んな店があったわね」

シャル

「そうだね。あれならお土産買いに行く時も困らないよ」

本音

「美味しそうなデザートの店もたくさんあったね~!」

火影

「あそこは元難民の人も多く出店してるからな。色んな国の色んな商品が出てんだ」

シャル

「本当に良い国だね。世界中がこんな国だったらみんなひとつになれるのに」

火影

「まぁな。でもそう上手くはいかないもんさ。…それに全部がそれで正しいとは限らねぇしな」

本音

「ほぇ?」

火影

「心をひとつにするってのは確かに素晴らしい事だ。だが大きく見りゃそれじゃいつまでも一人でいるのと変わらない。喜んだり笑ったり悲しんだり、そして時にはケンカしたり憎しみ合ったり、そうして世界は歩み成長してきた。良くも悪くもな。俺達がすべき事は…未来を夢見て死んでいった者達の意思を無駄にしない様に生きる事だ」

「火影…」

 

鈴は火影がきっと両親の事を考えているのだろうと思った。火影や海之と生きる夢を叶える事ができなかった二人の両親を。

 

火影

「そろそろ見えると思うんだが…あ、あれだ」

 

そう言った火影達が行きついたのはあるジュエリーショップだった。火影は店のドアを開ける。

 

カランッ

 

店内は20点位の指輪が並んでいた。デザインからしてオリジナルだろうか。

 

本音

「どれもキレイ~!」

シャル

「ほんとだね。それにお値段もどちらかといえばお手頃な方だね」

「でも火影、なんでこのお店に来たの?」

火影

「ああそれは」

 

すると返事を終える前に奥から二人の人物が出てくる。一人は眼鏡をかけた黒髪の背の高い男性、もう一人は同じく眼鏡をかけた長い茶色い髪の女性だ。

 

火影

「ブラックさん。アンジェラさん。お久しぶりです」

ブラックと呼ばれた男性

「!火影さん!お久しぶりです!」

アンジェラと呼ばれた女性

「まぁ!本当に御無沙汰しておりますわ」

火影

「ええ。お店出来たんですね。おめでとうございます」

ブラック

「ありがとうございます。まだ始まったばかりですが」

アンジェラ

「…あら?火影さん、そちらの御連れの方々は?」

火影

「ああ、今僕が行ってる学校の友人です」

「こんにちは。鳳と言います」

シャル

「シャルロット・デュノアです。初めまして」

本音

「布仏本音です。こんにちは」

火影

「僕と海之は今日本にいるんです」

アンジェラ

「まぁそうでしたの。初めまして。アンジェラと申します。宜しくお願いしますね」

ブラック

「ブラックといいます。こんにちは」

「ねぇ火影。このお店もだけどこちらのお二人とはどうやって知り合ったの?」

火影

「ああそうだったな。実は」

ブラック

「火影さん、僕からお話しします。…実は僕は元難民でね。今から10年前にスメリアに来たんです。当時僕は18歳でした。家族を戦地で失い、生きる希望も何も見いだせない状態でかなり荒んでいたんです。手を差し伸べてくれる人は沢山いたのに…どうしても信じる事ができなくて。…全く情けない話です」

鈴・シャル・本音

「「「……」」」

ブラック

「そんな時に出会ったのがアンジェラでした。彼女の献身的な深い優しさに僕はやがて恋に落ちたのですが…彼女の父は当時ESCの重役でしてね。身分の違いという理由から僕達の交際をあまり歓迎してくれなかったんです」

アンジェラ

「…そんな父にある時、火影さんと海之さんのお父様であるアルティスさんが仰ったんです。「身分の違いで愛が許されないなら自分も妻と縁を切らなければなりません。更に言えば子供達とも縁を切らなければなりませんね」って」

火影

「……」

ブラック

「その後義父さんは関係を認めてくれました。僕とアンジェラはアルティスさんになんとかお礼をしたいと申し上げるとアルティスさんはこう云われたんです。「何年かけても良いからいつか僕と妻のために最高の指輪を作ってほしい。それが君から貰うお礼だ」とね。当時宝石の細工職人をしていた僕は必ずと約束しました。…でも…その約束は果たせませんでした」

シャル

「…火影と海之のご両親は、9年前の自爆テロで…」

ブラック

「…はい。本当に残念でした。そして悔しかったです。僕達はアルティスさんのおかげで救われたのにこのまま何もできないのかって。そして決めたんです。お二人への約束は果たせなかったけれども、一人でも多くの人の幸せのために最高の指輪を作ると。アンジェラと共に」

「そうだったんですか…」

本音

「ひっく…ぐすっ」

火影

「おいおい泣くなよ本音。まぁ僕達とブラックさん達が知り合ったのはそれがきっかけだ」

シャル

「そんな事があったんだ…」

火影

「という訳で、…折角だから買ってやるよ」

鈴・シャル・本音

「「「………へっ!?」」」

アンジェラ

「そんな!火影さんからお金なんて頂けません!」

火影

「いえ。払わなければ父さん達に怒られます。少ないですが御二人が作る最高の指輪の足しにして下さい」

ブラック

「火影さん…ありがとうございます」

火影

「ほら。三人とも好きなの選んで良いぜ」

「…本当に良いの?…」

シャル

「ありがとう火影…」

本音

「ありがとうね…」

 

そして鈴は緑、シャルロットは白、本音は赤の宝石の指輪を其々選んだ。三人は火影に貰った指輪を絶対に放すまいと心の中で誓った。

 

やがて待ち合わせ時間となり、みんなお互い今日起こった事を話し合いながら帰路に就いた。




シリーズ最長になりました(汗)
今回のオリキャラは全てアニメ版DMCのゲストキャラクターがモチーフです。エピソード3、5、10です。


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Mission70 ESC訪問

スメリア滞在二日目。
この日は前日見ることができなかったスメリアの街をそれぞれのグループに分かれて探索する事になった。探索する中で火影や海之、その両親の知り合いという人々に出会う一夏達。彼等の歓迎を受けながら一夏達は二人の故郷であるスメリアを改めて良い国だなと感じていた。


多くの出会いがあったスメリア二日目が過ぎ、滞在は三日目となった。

この日は火影と海之の父アルティスが興した会社、エヴァンス・セキュリティ・コーポレーション。通称ESCの本社を訪れる予定である。全員前日の夕食時にその予定は聞き、みなそれなりに緊張していたがESCの社長と会う事を只一人知っているシャルロットの緊張は一際だった。

 

シャル

「……」

一夏

「シャル、そんなに緊張すんなって」

セシリア

「緊張するなという方が無理ですわ…。でもシャルロットさんは特にですわね」

本音

「一言も喋って無いよ~?」

「ESCか…。その本社となれば確かに緊張するな。制服を持ってくればよかったか」

海之

「気にしなくて良い。ESCの社員は普段私服での出勤だ。それに今は夏季休暇中の社員もいるから何時もより人は少ない」

「世界的企業にしては結構ラフな会社なのね」

ラウラ

「なるほど。これがクールビズというものか」

火影

「いやそれは夏だけだって。んじゃ行くか。シャル、乗れ」

シャル

「あ!うん!」

 

そう言うと火影とシャルロットはバイクで。海之達は車で向かう事になった。

 

 

…………

 

そして家を出発してから約20分後。一行はESCの本社前に到着した。

 

シャル

「これがESCの本社…」

本音

「大きいね~!」

セシリア

「ええ流石ですわ。おまけに周りに多くの施設もありますし、まるでここ自体が一つの街みたいですわ…」

「本当だな」

 

ESC(エヴァンス・セキュリティ・コーポレーション)

火影と海之の父であるアルティス・エヴァンスが興した会社。主な業務はプログラムやソフトの開発である。ESCが生み出した多種多様なそれらは世界中で使われており、特にセキュリティに関する物はスメリアの島全体で、そして世界の最重要施設で使われている(IS学園には現時点でまだ使われていない)。

私有地の中には本社の建物以外に社員のための社宅、小さ目ではあるが競技場、ショッピングセンター、病院、コインランドリーや簡単な娯楽施設もあり、一見ひとつの街の様だ。

 

「ねぇ火影。ここってどれ位の広さがあるのよ?」

火影

「ん~考えた事ねぇが…少なくともIS学園よりは大きいのは違いないな」

一夏

「……うっそだろおぉぉぉ!」

 

ここでも一夏の声が響いた。

 

海之

「…では入ろうか」

ラウラ

「うむ」

 

そして一行はESCに入った。

 

ガーッ

ピッ!キュイィィィィィィィン!

 

すると突然自分達の周りで機械音がしだし、更にレーザーが当てられる。

 

一夏

「えっ!な、なんだ!?」

火影

「ああ言い忘れてた。これは入社の際に行うチェックシステムだ。不審物を持って入られない様にな」

海之

「刃物類、化学物質、爆発物、更に危険人物特定等何重ものチェックを行う。また中でも造られないようあちこちに秘密のシステムがある。因みにどのようなシステムかは俺達はおろか社員も知らない。知っているのは社長始め僅かな者だけだ」

セシリア

「社員の方々も知らないって…大丈夫ですの?」

火影

「大丈夫大丈夫。怪しい事さえしなけりゃなんにもねぇから堂々としときゃ問題ねぇって」

「そ、そういうものか」

 

一行はチェックを無事クリアし、社内に入った。外からは分からなかったが建物は中央部分が屋上にあたる部分までほぼ吹き抜けとなっており、上まで見渡せた。夏季休暇中以外の社員達は上の階にいるのかメインフロアに社員は受付嬢以外に見られなかった。

 

本音

「きもちいいね~!」

海之

「地上60階建。屋上は空中庭園になっている」

一夏

「空中庭園!後で行ってみようぜ」

「そうね。みんなで行きましょ」

海之

「わかった。ではその前に…シャルやお前達に会いたいという人の所へ連れて行こう…」

シャル

「…う~ん緊張するなぁ~」

ラウラ

「どうしたシャル?…それに火影も」

火影

「ああ…大丈夫だ…ちょっとな。んじゃ行くか…」

火影・海之・シャル以外

「「「??」」」

 

そして全員はメインフロアを横切ってとある部屋の前にたどり着く。その部屋には…「President's office」と書かれていた。

 

一夏

「…なぁ火影、海之。シャルや俺達に会いたい人って…」

火影

「…まぁそう言う事だ…」

シャル

「あはは…僕も同じ気持ちだよ…」

「…やはり制服を持ってくればよかった」

セシリア

「ご、御無礼が無い様にしませんと!」

「へ、変なところないわよね!?」

本音

「う~んだいじょぶだと思うよ~?」

ラウラ

「こんな状況でも変わらぬお前が羨ましいぞ…」

海之

「…ふぅ」

 

コンコンッ

 

全員

「「「失礼します!」」」

 

ガチャッ

そう言って扉を開ける。しかし、

 

海之

「…?」

火影

「あれ?」

 

一行は疑問に思った。

入った社長室はやはりそれなりに大きな部屋。手前側に応接スペース。そして奥に社長が使うと思われる大きいデスク。更にその奥には外に続いているのか大きい窓とガラス製の扉がある。外には芝生のヘリポートもあり、おそらく出張や外出から帰った時にすぐ部屋に行ける様にしているのであろう。しかし鍵は開いているのに肝心の社長らしき人物はいなかった。

 

セシリア

「…誰もいませんわね」

一夏

「もしかして留守か?」

「しかし扉は開いていたぞ」

火影

「変だな。時間通りの筈だが…」

 

一行が悩んでいた。…その時、

 

ゴオォォォォォォォォォォ

外の方から大きくはないが何か音が聞こえる。

 

「な、なに!?」

ラウラ

「…空気の流れ?しかし飛行機やヘリ程では無い様だが」

 

みんなが考えていたその時、

 

ゴォォォォォォォ…ボフッ

奥のヘリポートに何やら着陸してきた。

 

全員

「「「えっ!?」」」

 

全員驚いた。どうやらパラシュートの様である。そして降りてきた人物はヘルメットを外しながらゆっくりとこちらに向かって来て外に続く扉を開けて入ってきた。肩までの短い髪で金髪の女性である。

 

ガチャッ

 

女性

「いや~すまん!予定より29秒程遅れてしまった!約束の時間までまだ15分程あったんでな!ただ待って時間つぶすのもつまらんし、折角だからひとっ飛びしてきたのだ!」

一夏達

「「「……」」」

 

一夏達は何も言えない様子だった。そんな中火影と海之は、

 

火影

「はは…相変わらずですね…。レオナさん」

海之

「…お久しぶりです」

レオナと呼ばれた女性

「ほんっと久々だなひー坊もみー坊も!といっても数ヶ月だけどな。しかし驚いたぞ!お前達がISを動かせるのは知ってたがいきなりIS学園に行くなんて聞いた時はな!まぁ篠ノ之束博士の推薦と聞いちゃこっちも協力せざるをえんかったが大変だったんだぞ!あの短期間で仕事やりながら二人と二人のISに関するもの全部終わらせないといけなかったんだからな!お礼に今度家に招待しろ!ギャリソンの飯食わせろ!」

 

二人の肩をバンバン叩きながらレオナという女性は大声で言う。

 

火影

「いててて…。す、すいませんでした。わかりました、こっちに帰っている間にいつでもどうぞ。ギャリソンにも伝えておきます」

レオナ

「そうか!ハッハッハ!いや楽しみにしておくよ!あと酒も忘れるなよ!」

海之

「…ええ」

一夏達

「「「……」」」

 

一夏達は何も言えなくなっていた。この女性に関してもだがどんな時でも余裕な表情を崩さない火影と海之がここまで委縮するとは…。そんな中ただ一人それを感じていない者がいた。

 

本音

「ねぇひかりん~?この人は~?」

火影

「!本音!」

レオナ

「…ひかりん?ハッハッハ!そうかお前そんな風に呼ばれているのかー!いやこいつは傑作だ!お前がそんなあだ名を許すとはな!…っとああすまん、自己紹介が遅れたな。私はレオナ・エヴァンス。ひー坊とみー坊の父親、といっても育ての親か。アルティス・エヴァンスの妹で一応ここの社長を務めている者だ。宜しくな!」

一夏達

「「「……えーーーーーーーーーーーーー!!」」」




レオナのイメージとして、一番近いキャラクターとしては作品は違いますがコードギアスのノネット・エニアグラムです。原作をあまり見ていないのでこちらも主にオリジナル小説やゲーム知識です。


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Mission71 レオナの愛情

スメリア滞在三日目。
この日は火影と海之の父アルティスが興した会社、ESCを訪問する事に。世界的大企業だけあって一行が緊張する中、社長室を訪れると誰もいない。…と思いきや外のヘリポートに一人の女性がパラシュート降下してきた。その女性は火影と海之だけでなく、一夏達を圧倒する元気の良さで自分こそがESCの社長であり、二人の叔母であると打ち明けるのであった。


レオナ

「私はレオナ・エヴァンス。火影と海之の叔母でここの社長を務めている者だ。宜しくな!」

一夏達

「「「えーーーーーーーーーーーーー!!」」」

 

衝撃の事実に皆大声を上げる。

 

シャル

「こ、この人がESCの社長…」

セシリア

「予想外ですわ…いや予想以上と申しましょうか…」

一夏

「…気のせいかな…千冬姉や束さんとはまた別の凄さを感じる」

「安心しろ一夏。私もそうだ…」

「ある意味あの二人以上かもしれないわ…」

ラウラ

「嫁や弟があそこまで小さくなるとは…」

本音

「ラウラン~、今は嫁や弟って呼ぶの止めた方が良いと思うよ~」

レオナ

「ハッハッハ!!褒め言葉として受け取っておこう!」

一夏

「…違う気がする」

火影

「はは…。まぁレオナさんは一見こんな人だけど経営者としての実力は本物だ。若干22という若さで幹部になり、30で社長になったんだ」

「30歳でESCの社長!?」

レオナ

「大袈裟だねひー坊。私なんて兄さんの足元にも及ばないさ」

海之

「そんな事はありません。父も貴女に会社を継いでいただいて誰よりも喜んでいる筈です」

レオナ

「…嬉しい事言ってくれるじゃないのさ。じゃあますます元気で頑張らないとね!」

火影

「いや…今でも十分すぎる気が」

一夏達

(うんうん…)

 

みんな心の中でそう思った。

 

レオナ

「…で、君達がひー坊とみー坊の日本の同級生かい?」

一夏

「あっ、はい。俺は…」

 

みなそれぞれ自己紹介を始めた。そして最後にシャルが自己紹介をする。

 

シャル

「は、初めまして。シャルロット・デュノアです…」

レオナ

「君がひー坊が言っていたデュノア社社長の娘さんなんだね」

シャル

「は、はい…。エヴァンスさんには父の会社を助けて頂いて本当に感謝してます」

レオナ

「気にすんな。困った人を放っておくのは嫌だからな。それに珍しく甥っ子からのお願いだったんだ。聞いてやりたくなるってもんさ。あと私の事はレオナで良いよ」

シャル

「あ、ありがとうございます…」

 

先ほどとは雰囲気が違うレオナにシャルも一夏達も少し気が楽になった。そして全員応接ルームに移動し、茶を出されてようやく一息つくことができた。

 

レオナ

「ああそうだ二人共。社員達にも会いに行ってやったらどうだ?きっと喜ぶぞ」

 

ESCの社員の中には二人の父アルティスの頃からの付き合いの者もいて二人の事を知っている者も多い。

 

海之

「しかしまだ勤務中では…」

レオナ

「固い事いうな。それに今は休暇中の者もいて仕事のペースもゆっくりだ。この子達の事は私に任せてお前らは気にせず行ってこい」

火影

「…分かりました。レオナさん、お願いします」

レオナ

「ああ任せておけ」

海之

「…ふぅ」

火影

「じゃあみんな後でな」

 

そう言うと火影と海之は部屋を出て行った。

 

バタンッ

 

そして扉が閉まった瞬間レオナが笑って女子達に訪ねる。

 

レオナ

「……で、君達の誰が二人の女なんだい?」

全員

「「「!!!」」」

 

予想外のいきなりの質問にみんな(一夏以外)酷く慌てた。

 

「い、い、いきなり何を仰るんですか!?」

レオナ

「ハッハッハ!いやすまん。私はあの二人がおしめをしていた頃から知ってるが二人がこれ程多くの女の子を連れてくるなんて今までなかったからな!ちょっと気になったのだ」

セシリア

「そ、それにしてもあまりに唐突では…」

「まるであの時のデジャヴの様だ…」

レオナ

「う~ん……さっきひー坊を愛称で呼んだ君!君はひー坊に惚れていると思うがどうだ?もしかしてもう付き合っているのかい?」

本音

「ふぇっ!?え、えっと、えっと…」

 

突然の指摘に本音は言葉に詰まる。と、

 

鈴・シャル

「「付き合ってません!!」」

 

その言葉を聞いて本音ではなく鈴とシャルロットが大きく反応する。

 

レオナ

「……ハッハッハ!そうかそうか。しかし惚れている事はさっきの様子でわかるとして、この子じゃなく君達が反応するってことは…君達もあいつに惚れているってことだね?」

鈴・シャル

「「…あっ!!」」

 

そう言われた二人は真っ赤になって黙ってしまう。どうやら上手く乗せられてしまったようだ。

 

レオナ

「純情だね~。次にみー坊だが……君!」

 

そう言うとレオナはラウラを指さす。

 

ラウラ

「!な、なんで!?」

レオナ

「さっき話していた時に君だけ細かく動いてあいつの傍にずっと付いていたからね。気付く奴は簡単に気づくと思うよ」

ラウラ

「そ、そうなのか…!?」

 

自分でも気付いていなかった無意識の動きを指摘されて恥ずかしくなったのかラウラさえも赤くなって黙ってしまう。レオナは次に箒とセシリアを見比べる。

 

レオナ

「……君達はあの二人では無い様だね。さては」

箒・セシリア

「「言わなくて良いです!!」」

 

箒とセシリアは全力で止めた。

 

レオナ

「ハッハッハ!わかったわかった。…でもそんなにはっきり言うと認める様なもんだよ。良いねぇ若いって」

 

女子達は思った。

 

「「「「「千冬さん(教官)や束さん(姉さん)より凄い人だ…」」」」」

 

その一方一夏は、

 

一夏

「…なぁ、さっきからどうした?みんな大声ばっか挙げて」

レオナ

「……頑張んなよ二人共」

箒・セシリア

「「…はい」」

 

ここでも一夏の攻略の難しさを感じる二人であった。

 

レオナ

「いやからかってすまなかったね。あいつらが日本でどんな子達と一緒に学んでいるのか知りたかったんだ。でも良い子達ばかりで安心したよ」

「こ、こっちはかなりドキドキしましたけど」

レオナ

「ごめんごめん。でも本当に嬉しいんだよ?さっきも言った様に私は赤ちゃんの頃から二人を知ってるが…、こんなに多くの友達を連れてきた事は今まで無かったからさ」

セシリア

「そうなんですか?私達は昨日街でお二人の御友人の方々とお会いしましたけれど…」

レオナ

「ああ確かに友達はいるよ。でもそれは兄さ、…二人の両親の付き合いの延長で知り合った人が大半なのさ。どちらかと言えば同年代の友達は少ないかもしれないね」

 

…確かに昨日出会った人達も全てではないが火影達より年上の人が多かったとみんなは思った。

 

レオナ

「それにあいつらってさ、本当に16の子供か?って思う時があるんだよね。私より長く生きてるんじゃないかって感じる時があるよ。君達もそんな事は無いかい?」

一夏

「…そういえば…」

「…確かにそうかもしれんな…」

セシリア

「…はい。お二人共とても一つしか違わないなんて、と思う時がありますわ」

シャル

「うん。僕も二人が時々凄く大人っぽく感じる時があるよ」

「そうね。それにいつも冷静で二人が慌てているところなんて見た事無い気がするわ。まぁストロベリーサンデーが好きなんてところは子供っぽいけど」

ラウラ

「うむ。確かにあの冷静さと判断力は年相応のものとは思えん」

本音

「まぁそこがカッコいいところだけどね~♪」

「…ま、まぁね」

シャル

「う、うん…」

ラウラ

「…ああ」

 

みんなそれぞれ二人に対してそれなりに思う事があるようだ。

 

レオナ

「…君達も感じたんだね。…実は…これはあの二人には言ってないんだけどね。私がESCの社長になった時、私は二人を引き取ろうと思ったんだよ」

一夏

「レオナさんが?」

レオナ

「ああ。私が社長に就いた時二人は9歳だった。まだまだ子供だったし保護者になる人が必要だろうってね。収入面も問題なかったし密かに相談していたギャリソンらも賛成してくれていたし。……でも、できなかったんだ」

本音

「どうしてですか?」

レオナ

「……わからん」

「えっ?」

レオナ

「多分私が二人に打ち明ければできたとは思う。でも…なんというか、ある日私みたいな奴には無理かもって感じたんだ。あいつらは…こう、なんだろう、特別というか。…おかしな話だろう?いい歳した大人がたかが小学生位の子供相手に恐縮するなんて」

一夏達

「「「………」」」

 

みんなは黙って聞いていた。若干30という若さで世界的大企業の社長にまでなったレオナ。しかしそのレオナさえも火影と海之は自分とは違う特別な存在であるという。

 

レオナ

「だから私はギャリソンやみんなと一緒に二人を見守る事にしたんだ。誤った方向に行きそうになったらその時は出て行って助けてやろうってね。そしたら私達の心配なんてどこへやら、二人共勇気に溢れていて頭も悪くなくて腕っぷしも良い。そして誰かのためにという気持ちが人一倍強いあんないい子に育ったよ。私がもう15年若ければ惚れてしまう位ね」

シャル・鈴・本音・ラウラ

「「「「…えっ!?」」」」

 

再び二人に好意を持つ四人は声を出した。

 

レオナ

「…ぷっ、あははは!冗談だ。本当に純情だな君達は」

シャル・鈴・本音・ラウラ

「「「「うぅ…」」」」

 

再び四人は赤くなって黙ってしまった。

 

レオナ

「…話を戻すよ。…でもだからこそ時々心配になるんだよ。あいつらは余りにも周りの事ばかり考えて自分の事を疎かにする。無茶ばかりしがちなんだよ。その上決して弱音を吐かない。私でさえ聞いた事がないからね。…だから君達にお願いしたいんだ。もし…あいつらが悩み苦しんだら、その時は力になってやってほしい。これはおそらく君達しかできない。…頼む」

一夏達

「「「………」」」

 

一夏達はレオナの本心を黙って聞いていた。そしてやはり彼女も二人の事を心から愛しているという事をみんな感じ取った。

 

一夏

「…俺はレオナさんが言った事、何となくわかります。火影と海之が俺達とはどこか違うっていう事。歳もそうですが、男性のIS操縦者ってだけじゃ説明できない…。多分、あいつらには俺達が知らない何かがある。それもかなり大きな」

「一夏…」

 

同じ男子として普段から過ごす事が多い一夏も二人に対して何かを感じ取っている様だった。

 

一夏

「…でも一つだけはっきり分かる事があります。あいつらは良い奴です。例えあいつらの秘密がわかってもそれは変わりません。何があってもこれからも俺の友達です。俺が何度も助けられたように俺もあいつらを助けます。約束します」

本音

「うん!ひかりんもみうみうも私達の友達だよ!」

「うむ。助けられてばかりじゃ真の友とは言えません。私も二人を助けます」

セシリア

「そうですわね。火影さんも海之さんも、私の守りたい大切なお友達ですわ」

「当たり前です!むこうが来るなって言っても離れたりしてやりません!」

シャル

「僕も同じです!火影達だけに背負わせたりしません!」

ラウラ

「当然です。家族も友達も助け合うものです」

レオナ

「…ありがとう、みんな」

 

全員が同じ思いだった。火影と海之を信じていた。…その時丁度火影と海之が帰って来た。

ガチャッ

 

海之

「戻りました」

火影

「すいません、…あの、どうしました?」

一夏

「な、なんでもねぇよ~」

レオナ

「ああなんでもない。ただお前達への告白はいつするのか彼女らに聞いていただけだ♪」

シャル

「!!レ、レオナさん!?」

「なんでもない!冗談だから気にしないで!!」

本音

「わ、忘れてね~!?」

ラウラ

「私は既に嫁宣言しているが…」

海之

「余計な事を言うな」

火影

「レオナさんも遊ばないでくださいよ…」

レオナ

「ハッハッハ!…さてと、まだまだ楽しませてもらいたいところだがこの後退屈な会議の時間だ。悪いな」

海之

「いえ。時間を取って頂いて感謝しています」

火影

「あとほんとに元気で」

レオナ

「またいつでも来いよ二人共。まぁでもあと丸四日いるんだろ?帰る迄に家行くからな。ギャリソンとも久々に酒飲みたいしな」

シャル

「ギャリソンさんってお酒飲むんだ」

火影

「ああしかも二人共かなりの酒豪だ。酔ってるとこ見たこと無い」

レオナ

「兄さんは全然だったけどな。さ、私は忙しい。この後はゆっくり社内見物だったりなんなりするといい」

一夏達

「「「ありがとうございました」」」

火影

「じゃあレオナさん。失礼します」

海之

「お手数おかけしました」

 

バタンッ

そう言うとみんなは出て行った。

 

レオナ

「…ひー坊、みー坊。良い友達を持ったな。…みんな、二人の事頼むな」

 

レオナはそう呟いて会議に発った。




次回更新また少し遅れます。すいません。


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Mission72 意外な来訪者 

一夏達は火影と海之の案内でESCに、そして二人の叔母でありESCの社長でもあるレオナと出会う。レオナの強烈な性格にやや引き気味の一夏達だったが、彼女もまた二人の事を深く思っている事を知る。

「自分の分まで二人を助けてやってほしい」

彼女の願いを聞いた一夏達は二人の助けとなる事をレオナに約束し、別れたのであった。


ESCへの訪問とその社長レオナとの対面から翌日。スメリア滞在は四日目に突入していた。スメリアには一週間の滞在予定であり、明々後日には帰る予定である。残った時間を有効に使いたいと一夏達は今日は何をしようか朝食を終えて考えていた。

 

本音

「それで今日は何をする~?」

シャル

「折角だからプールに行くのはどう?あっみんな水着持ってきてる?」

ラウラ

「ああ抜かりはない」

「臨海学校の時はあまり泳げなかったからな。私も賛成だ」

「私も賛成~!」

火影

「…鈴、前みたいな失敗すんなよ?」

「プールではしないわよ!」

(…それに寧ろ得したっていうか)

一夏

「失敗って?」

「な、なんでもない!」

セシリア

「さすがにプールではサンオイルは難しそうですわね」

 

どうやら今日の予定はプールに決まりそうだった。とその時、

 

ギャリソン

「…失礼致します。海之様、お客様が御見えでございます」

海之

「客人?名前は?」

ギャリソン

「それがどうしてもお名前を申し上げられませんでして…。皆様を訪ねて来られたと。皆様と同じ位の女性の方でございます。あと青色の髪をしてらっしゃいますね」

火影

「海之の名前を知ってて僕達と同じ位で青い髪の少女…!海之!」

一夏

「まさかそれ!」

海之

「…直ぐに行く」

 

そう言うと一行は玄関に向かう。そして、

 

「…驚いたぞ」

シャル

「本当…」

海之

「……簪」

「えへへ…」

 

青い髪の少女とは……やはり簪だった。

 

本音

「かんちゃん~!?」

「本音、それにみんな。…来ちゃった」

一夏

「マジ驚いたぜ!」

ラウラ

「全くだ。どうやってここまで来たのだ?」

「昨晩の飛行機で来たの。だからスメリアに来たのは昨日だったんだけどあまり遅いと迷惑かなと思ってその日はホテルに宿泊して。そこからはタクシーで来たんだよ」

セシリア

「そうだったんですの…。お一人で?」

「ううん。お手伝いさんが一人来てくれたよ。今はホテルにいるんだ」

「にしても思い切った事するわねー!」

海之

「…簪。家は大丈夫なのか?」

「…うん。最初は無理かなと思ってたんだけど…でも来たかったから行きたいって伝えたの。…そしたら許してもらえた」

本音

「良かったねかんちゃん~!」

火影

「…まぁ許してもらえたんなら良いか。歓迎するぜ簪」

「ありがとう火影くん」

海之

「とにかく荷物を置いてくるといい。ギャリソン、頼む」

ギャリソン

「畏まりました、海之様」

ラウラ

「簪。水着を持ってきているか?早速だがこの後プールに行く予定だ」

「うん。大丈夫だよ」

 

そして簪はとりあえず荷物を簡単に整理し、その後全員揃って街にあるプールに向かう事になった。因みにこの日の「火影の後ろジャンケン」の結果は行きが本音、帰りが鈴であった。

 

 

…………

 

一行が来たのはスメリア最大のプール。ウォータースライダーやアスレチック、さらには競泳用のプールも置いていて規模としては結構大きい。着替えを終えた一行はエリア入口を超えてすぐのパラソルエリアで合流した。

 

「やっぱ凄い人ねー」

本音

「すご~い!滑り台やアスレチックまであるよ~」

一夏

「さっそく泳ごうぜー!」

「あ、一夏待て!」

セシリア

「私達も行きますわ!」

 

一夏達は早速プールへと繰り出した。残ったのは火影、海之、簪の三人。

 

火影

「やれやれ、元気なこった」

海之

「…どうした簪。移動の疲れが出たか?」

「ううん、大丈夫。海之くんは泳がないの?」

海之

「なに、時間はある。ゆっくりしても良いだろう。簪こそ行かないのか?」

「…うん。もう少ししたら行こうかな」

(…久しぶりだし…もう少し一緒にいたい)

火影

「…それじゃ僕も行くか。簪、頑張れよ~」

「…へっ?ひ、火影くん!」

 

そう言って火影もプールに繰り出そうとした時だった。突然プールに向かった鈴が戻って来た。

 

「火影!ちょっと来て!」

火影

「な、なんだよ鈴」

「良いから早く!」

 

そう言うと鈴は火影を引っ張って行ってしまった。

 

海之

「…?俺も行くか。行けるか簪?」

「うん」

 

海之と簪も後を追いかけた。

 

 

…………

 

…辿り着いたのはある大きいウォータースライダーだった。それはこのプールの中でも全工程を数分かけて巡る一番大きいスライダーだった。そこには…、

 

シャル

「来ると思ったよ鈴」

本音

「ずるいよ鈴~」

「あ、あはは…」

 

シャルロットと本音がいた。会話からしてどうやら待ちかまえていた様である。鈴に全速力で引っ張られてきた火影は既にややお疲れだった

 

火影

「つ、疲れた…」

海之

「鈴。このスライダーに何かあるのか?」

「…あっ、もしかして…あれ?」

 

簪が指さしたのはとある看板。

 

「夏休み特別企画!!二人乗りの特別ボードで夏の想い出と互いの仲を深めよう!!」

 

シャル

(一緒に遊んでいたのに突然いなくなったからなんでだろうと思ったら…抜け駆けは駄目って鈴も言ったよね?)

本音

(そーそー!)

(…はい)

 

どうやら鈴は火影と一緒にこれに参加したかったようである。

 

海之

「二人乗りのボードか…。なら火影が三回乗ってお前達は一回ずつ乗れば良いではないか」

火影

「いやいや三回も乗ったら僕でも疲れるって…」

「あっ、でも二人乗りについては一人一回って書いてあるよ」

海之

「…つまりこれに限定するなら火影は一回のみということか」

鈴・シャル・本音

「「「むぅ~…」」」

 

火影と一緒に乗りたい三人は互いに目に見えない戦いを繰り広げていた。そして火影は、

 

火影

「それなら四人乗りの方にすれば良いじゃねぇか?これなら全員一緒に乗れんだし」

 

確かにもうひとつ四人乗りボードのコースもある。

 

「…そうね。そうしましょ。それが一番平和だわ」

シャル

「うん。みんなで一緒に乗ろ!」

本音

「私もそれで良いよ~!」

 

鈴達と火影は四人乗りボートのコースで回る事になった。すると簪が、

 

「…ねぇ海之くん」

海之

「なんだ?」

「…あの、もし良かったらでいいんだけど…、私、海之くんと二人乗りボードに…乗りたい…」

 

簪は頬を紅くしてそう言った。

 

海之

「……」

「…やっぱり駄目?」

海之

「…いや、構わん。俺で良いならな」

「ほ、ほんと?…ありがとう」

 

簪は嬉しそうだった。

 

鈴・シャル・本音

「「「良いなぁ~…」」」

 

 

…………

 

スライダーのスタート地点は二人乗りと四人乗りで入口が別れており、火影達と海之・簪は途中で別れた。二人乗りボードは透明なビニールの球体の中に二人乗りのボードが固定されているという一風変わった物だった。簪は今まで以上に直ぐ隣に海之がいる状況にやや緊張していた。

 

海之

「簪、持ち手から手を離すなよ」

「う、うん…」

 

そして二人が乗るボールはゆっくりとスタートした。

スタートしてすぐボールは100メートル以上ある真っすぐなコースを下って行き、その後渦巻きの様なコースへと入って行く。最初の加速で勢いがついていたのでボールも大きく揺れたが簪は踏ん張っていた。

 

「~~~~!」

 

やがて渦コースの真ん中に来ると今度はそのままトンネルに入る。トンネル内部は虹色に輝くライトが点灯し、暗くはなかったが先はまだ続くようだった。

 

「綺麗…」

 

やがてトンネルを抜けて少し行くとそこは先ほどと同じような渦巻のコース。しかし先程よりも勢いがついて速い。どうやらトンネルを巡っている間にスピードが付いていたようだ。先ほど以上に激しく揺れる。海之は大丈夫そうだが簪はやや不安そうだった。

 

海之

「大丈夫か簪?」

「だ、大丈夫!」

 

二つ目の渦巻きを終えるとそのまま真っすぐ下って行き、こんどはそのまま円錐形のトンネルへと流れつく。先ほどの渦と真っすぐなコースを下って来たためかこちらも勢いが付いていてボールがやや傾いてしまった。

 

ザバーンッ!

 

「!キャアッ!」

 

その勢いで簪が持ち手から手を離してしまった。

 

海之

「簪!」

 

一瞬放り投げられそうになった簪の手を海之が掴み、そのまま自分に引き寄せる。自然と簪は海之に抱きしめられる形となる。

 

「!!」

海之

「その腕ではもう無理だ。ゴールまでもう少しだからこのまま掴まっていろ」

「あっ…」

 

ボールは円錐コースからスラロームコースへ入り、そのまま三回目の渦コースへ突入。…そして中心に着くと今度はそのまま40メートル程のほぼ垂直のフリーフォールへと突入した。

 

「キャアァァァァ!」

 

ザバーンッ!……

…着水し、ボールはゆっくりプールに向けてプカプカ流れて行く。どうやら今のが最後の仕掛けだったらしい。

 

「……」

海之

「大丈夫か簪?」

「う、うん。大丈夫…!」

 

簪は自分が抱きしめられている形になっていたのを思い出した。

 

「ご、ごめんね海之くん!あ、ありがとう!もう大丈夫だから!」

海之

「そうか」

 

そう言って簪は海之から離れた。

 

(…び、吃驚した…。…また海之くんに迷惑かけちゃったかな?…どうしよう…)

 

経緯とはいえ抱きしめられた喜びともしかしたら海之に迷惑をかけたかもという不安で簪の心は穏やかではなかった。するとそんな簪を察したのか海之が言った。

 

海之

「…簪。もし迷惑かけたとか考えているなら、気にしなくて良い」

「!……ありがとう」

 

海之の言葉に簪はほっとした様子だった。

 

 

…………

 

その後全員集まって昼休憩を取る事になり、パラソルエリアに集まっていた。

 

「…美味しい」

「だろう?でもギャリソンさんの料理はもっと美味しいぞ」

火影

「そういや簪はまだ食ってなかったな。日本に帰る前位に食っていけ。といってもレオナさんが来るから頼まなくても良いか」

一夏

「そういや昨日聞く暇なかったんだけど…火影と海之ってひー坊みー坊なんて呼ばれてんだな♪」

セシリア

「私も驚きましたわ。可愛いらしいですわね♪」

海之

「…俺はずっと止めてほしいと言ってるんだがな」

「ひ、ひー坊?」

火影

「…そっとしておいてくれ」

 

そんな中鈴達が簪にそっと話しかける。

 

(ねぇ簪~どうだった?海之と二人きりで乗ってみて)

(えっ!!…うん、…良かった…よ…)

 

簪は真っ赤になってそう言った。

 

シャル

(羨ましいな~)

本音

(ラウランにはヒミツにしておくねかんちゃん♪)

(う、うん…)

ラウラ

「…?どうした四人とも」

シャル

「な、なんでも無いよ~」

 

そんな調子で楽しく時は過ぎて行った…。

 

…………

 

楽しい時間はあっという間に過ぎ、時刻は夕方前にさしかかっていた。それぞれ思い切り遊んでくたくたな中、火影がみんなに話しかける。

 

火影

「…みんな、少しだけ付き合ってもらって良いか?」

「私は別に良いけど?」

 

他のみんなも同意見だった。

 

火影

「ちょっと行きたい所があるんだ」

シャル

「行きたい所?」

海之

「…ああそうか」

 

そう言うと火影と海之はまず花屋に立ち寄って花を買い、目的地に向かって走り始めた。

そして約10分程走り、一行はその場所へと到着した。そこはスメリアの街を見渡せる位の高台だった。沈みゆく夕陽がとても美しい。

 

セシリア

「なんて美しいんですの…。それに街並みもはっきり見えますわ」

ラウラ

「本当だな…。昔は何も感じなかったが今はとても美しく感じる」

「ねぇ火影。ここになにがあるの?しかも花まで買って」

火影

「すぐわかるさ。…ほら、あれだ」

 

火影が指さしたのは高台の上に見えるひとつの石だった。それはまるで…。

 

一夏

「…なぁ二人共、あれって…」

「もしかして…」

海之

「……」

 

そこにあったのは墓だった。そこにはふたつの名前が刻まれている。

 

「アルティス・藤原・エヴァンス そしてその愛妻 雫・藤原・エヴァンス」

 

「二人の…お父さんとお母さんの…」

セシリア

「とてもたくさんのお花とお供え物ですわ」

火影

「ああ…毎日誰かしら来てくれてるらしくてな。管理人が大変だって言ってたよ」

「…本当に愛されていたのね、みんなに」

「しかし何故この様な所に二人の墓を…?」

海之

「父と母の願いだそうだ。立派な墓なんていらないから自分達が死んだ時はこの島で一番美しい場所に一緒にしてほしい。とな」

火影

「…だがここには二人の遺体は無い。つーか誰の亡骸も見つかってないそうだ。まぁあれ程の事故だったからな、当然だ。だからせめて二人の願いだけでも叶えてあげたくてな」

シャル

「火影…」

本音

「ひかりん…」

 

そして火影と海之は花を供え、祈りをささげる。そして一夏達も祈りをささげた…。

 

火影

「……さて、帰るか。付き合わせて悪かったな」

シャル

「ううん、そんな事無いよ。寧ろ嬉しかった」

ラウラ

「うむ。お前達の親なら私にとっても親だからな。来て当然だ」

「あんたそれ大袈裟よ。でも来て良かったというのは本当よ」

「うむ。私も同じ気持ちだ」

セシリア

「私も今度お家に帰りましたら真っ先に母と父に会いにいきますわ」

本音

「なんか私もお母さんとお父さんに会いたくなったな」

「ふふ。きっと喜ぶと思うよ」

火影

「……ありがとよみんな」

一夏

「……親か…」

 

ここでも一夏は自分の両親について考えている様だった。

 

海之

「…一夏。色々あるだろうが…悲しむ事はない。お前にはまだ織斑先生がいる」

一夏

「!…そうだな。ありがとよ海之」

海之

「気にするな。…帰ろう」

 

そして一行はその場を離れた。火影と海之は一行の最後尾で墓に向かって一瞬振り向き、再度皆と共に歩き始めた。




時間を開けてしまいました。
今後もこういう事よくあるかもしれませんが頑張ります。


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Mission73 兎 エヴァンス邸へ

スメリアも滞在は四日目に突入していた。
この日はみんなでプールに行こうと予定を組んだところ突然客が訪れる。それはなんと行けないと言っていた簪であった。思わぬ来訪だったが全員は喜び、みんなでプールに遊びに行く事に。
楽しい時間はあっという間に過ぎた中、突然火影がある場所に行きたいと言い、全員でとある場所に向かう。それは火影と海之の両親の墓だった。


スメリア滞在五日目。この日は前日のプールで遊び過ぎた事もあり、みんな疲れている様なので家でゆっくりする事に。簪の部屋は一夏が一人で部屋を使っていたので同じ部屋にという話も出たが簪の事情を知っている海之が他の男子と同じ部屋にまだ慣れていないと上手くフォローし、結果ラウラが一夏と相部屋となって簪はシャルと相部屋になった。(もちろん箒とセシリアは一夏と相部屋になりたそうにしてた)そんな日の翌日昼過ぎ、彼等は広間に集まってある事をしていた。

「違うぞ一夏。この問題を解くカギは別にある」

一夏

「ああくっそ~違ったか…」

セシリア

「頑張ってください一夏さん。あと少しで解けますわ」

「…ねぇシャル。これの訳はこれで合ってる?」

シャル

「えっと…。うん大丈夫だよ」

ラウラ

「……よし!なんとか解けたぞ!」

本音

「やったねラウラン~」

「といっても10分位かかったけどね。ラウラって大抵の教科できるのに哲学や倫理は苦手なのね」

 

そう、彼等は今課題の真っ最中であった。幾ら旅行とは言っても有効な時間を使って課題はしなければならない。しかしそこに火影と海之の姿は無かった。

 

一夏

「しっかしあの二人何時の間に課題進めてたんだよ~。海之なんてもう八割も終わらせてたなんて…」

本音

「ひかりんも七割近く終わらせたって言ってた~」

セシリア

「何でも私達の旅行があるので普段以上にペースを早めたという事ですわ」

一夏

「そんなに終わらせてたなら少し位手伝ってくれても良いのによぉ~」

「文句ばかり言わないの。明日のために頑張んなさい」

シャル

「そうだよ一夏。海之が言ってたけど明日はこの国一番の花火大会なんだから」

「それにしてもあの二人は気が利くな。私達のために浴衣を手配しに行ってくれるとは」

 

火影と海之はギャリソンを伴って二日目に海之とラウラが行ったシンディアのブティックに彼女らの浴衣を手配しに行っているのである。

 

「いいのかな、みんなと違って昨日来たばかりなのに私まで用意してもらって…」

「気にしない気にしない。用意するって言うんだから甘えておきなさいな」

ラウラ

「浴衣か…。着た事ないのだが私に似合うだろうか…」

シャル

「大丈夫。もっと自信を持ってラウラ」

 

ガチャンッ

その時玄関の扉が開く音がした…。

 

海之

「ただいま」

ギャリソン

「皆さま、留守にし申し訳ありませんでした」

「あっ、お帰りなさい二人共、ギャリソンさん」

火影

「悪いな遅くなって。はいこれアルさんとデウスの店のケーキ」

ギャリソン

「では私はお茶の準備を致しましょう」

海之

「すまない」

 

そう言ってギャリソンは厨房に向かった。

 

本音

「ねぇひかりん~、私達の浴衣は~?」

火影

「ああシンディアさんに頼んできた。随分張り切ってたぜ」

シャル

「ありがとね火影。浴衣僕も初めてなんだ。楽しみだな~」

「私も久しぶりだ」

 

とその時、

 

…ドンッ!!…

 

ラウラ

「!なんだ!」

 

突然外から何か大きな音がした。するとギャリソンが来る。

 

ギャリソン

「海之様、火影様。何かが御庭に落下してきた様でございます!」

海之

「なんだと?馬鹿な、セキュリティは探知できなかったのか?」

ギャリソン

「はい、熱源はおろか何も感知できませんでした。まるで隕石でも落ちてきたかのように。直ぐに部下を向かわせますので皆様は」

火影

「いやギャリソン。ここは僕と海之が行く。ギャリソンは念のために待機していてくれ」

ギャリソン

「しかし危険でございます!」

海之

「大丈夫だ。もしもの時はISを使う。みんなはここで待って」

一夏

「ストップ!それは無いぜ二人とも。俺も行くぜ!」

ラウラ

「私も行くぞ海之」

シャル

「火影達だけ行かせるわけにいかないよ!」

 

全員同じ気持ちだった。

 

火影

「…わかった、んじゃ行くぞ。本音は危ねぇからここにいろ」

本音

「うん…気をつけてねひかりん、みんな」

海之

「ギャリソン、一応警備レベルを上げておいてくれ」

ギャリソン

「皆様…どうかお気をつけて…」

 

 

…………

 

そして火影達はそのポイントに到着した。良く見ると確かにある物が落ちてきていた。それを見て火影達は、

 

全員

「「「………」」」

 

全員黙っていた。ただしその理由は落ちてきたそれが何か分からなかったからではない。はっきりわかったからである。何故ならそれは、

 

一夏

「…なぁ箒…これって」

「……」

「目がおかしくなければ…あれよね?」

セシリア

「ええ…あれですわ…」

「…うん、あれだと思う…。このニンジン…」

 

そう、目の前にあるのは巨大なニンジン。正確に言えばニンジン型のロケット。全員がそれに心当たりがあった。すると、

 

パカッ

突然ロケットの側部が開いた。そしてそこから、

 

「ほーーきちゃーーん!!」

「えっ!?」

 

突然勢い良く走り出てきたそれは箒に抱きついた。

 

「うわっ!」

「箒ちゃーん!我が愛しの妹よ!お久しぶりー!」

一夏

「はは。やっぱり…」

火影

「…もう驚く気にもならん」

海之

「…ハァ」

 

それはやはり箒の姉、束だった。

 

「ね、姉さん離してください!恥ずかしいんですから!」

「え~なんで~?折角の仲良し姉妹の感動的再会なのに~!」

「どこが感動的ですか!火影達やみんなに迷惑かけて!」

「あっそうだった。ごめんねひーくんみーくん。てへ♪」

 

…反省はしていない様である。すると遅れてクロエも来た。

 

クロエ

「ご無沙汰しております火影様、海之様、それに皆さん。あと御迷惑をおかけし大変申し訳ありません」

火影

「クロエ。いやお前が謝る事ねぇが、ただ少し焦ったぞ。何が落ちてきたんだと思ったからな」

海之

「だがロケットなら何故セキュリティが反応しなかった…?」

セシリア

「そうですわね。ギャリソンさんのお話では熱源も生命反応も出なかった様ですし…」

クロエ

「それでしたらご説明できます。…確かに普通のロケットなら直ぐに探知されてしまいます。ですが私達のロケットは少々特別でして生命反応が探知されない、あとステルス機能をもつ特別なコーティングを施しています。更に」

「まってまってクーちゃん!束さんにも説明させて!でもそれだけじゃアルティスさん家のセキュリティには簡単に引っかかると思ってさ。なにせあの人のシステムだもんね。だからちょっとした裏ワザを使ったんだよ♪」

ラウラ

「裏ワザ?」

 

すると何やらロケットを見ていた海之が言った。

 

海之

「…束さん。ロケットの地面へのこの突入角度からして…システムの範囲外、ここの真上からエンジンも電気系統も切って自由落下しましたね?」

束・クロエ以外全員

「「「!!」」」

クロエ

「その通りです海之様」

「ピンポーン♪いや~相変らず冴えてるねみーくん!」

一夏

「な、なんだってー!?」

「なんてバカな事!」

シャル

「…やっぱりレオナさんより凄い」

「全くだわ…」

海之

「…まぁひとまず安全である事はわかった。一旦家に戻ろう。みんな心配している筈だ」

 

束とクロエを引き連れて一行は家に戻る事になった。思わぬ来客に家の者達は驚いた様だったが火影達が事情を説明してなんとか場は収拾した。尚、彼女らのロケットは全員で家の直ぐ近くまで運ばれた。

 

 

…………

 

エヴァンス邸 広間

 

束とクロエは客人として迎えられた。

 

「う~んここのお店のケーキ美味しいね~!」

クロエ

「はい。あとこの紅茶もとても良い香りです」

火影

「…で束さん、クロエ。二人共どうしてここへ?」

「ああそうだった!…前に二人共お家に招待してくれるって言ったでしょ?だから来たんだよ~!場所ならリサーチして知ってたしみんながいるのは衛星で見て分かったし、今がジャストタイミング~って思ってね♪ちーちゃんもいれば更に良かったんだけどね。今から日本に飛んでって連れてこよっかな~?」

「お願いだから止めてください!」

海之

「約束…ああ俺達が魔具の設計図をお渡しした時の…」

ラウラ

「?魔具とはなんだ?海之」

海之

「ああ。お前達のデビルブレイカ―や一夏のアラストルの事だ。総称して魔具と呼ぶ。魔法の道具、とでも覚えておけ」

「魔法の道具…魔具…」

 

本来はそうではなく魔力を持った武具という意味なのだが海之は誤魔化した。

 

「あっ!魔具で思い出した!もうひとつあったんだった!ちょっと待ってて~!」

 

そう言うと束は全速力で外へ走って行った。

 

本音

「束さん相変わらずだね~」

「我が姉ながら…本当に申し訳ない」

「クロエだっけ、あんたも大変でしょ?束さんの助手って」

クロエ

「…まぁそれなりに。でもああでなければ束様では無い様な気もしますし」

火影

「はは、まぁ確かに。ああそうだギャリソン、束さんとクロエの部屋の準備を宜しく頼む」

ギャリソン

「ご心配ありません。既にできております、火影様」

セシリア

「流石ギャリソンさん。お仕事が早いですわ」

シャル

「そういえば…火影達と束さん達がいつ知り合ったのは前に聞いたけどクロエさんは束さんとはどうやって知り合ったの?」

クロエ

「…私は…ある場所で生き倒れていた所を束様が見つけてくださったんです。それから束様の助手を務めております」

シャル

「!……ごめんなさい」

クロエ

「気になさらないで下さい。もう過去の事です」

ラウラ

「……」

火影

「クロエも僕や海之と同じく拾われたのか…。まぁそういう事なら同じ拾われっ子同士、これからより仲良くしようぜ」

海之

「フォローになってないぞ。…まぁ言いたいことはわかる。クロエ、お前も俺達をもっと頼って良いからな」

一夏

「もちろん俺達もだぜ!クロエ」

 

全員が三人の言葉に頷いた。

 

クロエ

「…ありがとうございます火影様、海之様。それに皆さん」

 

クロエは笑って返事をした。…そして束が外から戻って来た。何やら手に大きなアタッシュケースを持っている。

 

「よいしょっと!」

ラウラ

「大きいケースだな」

セシリア

「そうですわね。私達のデビルブレイカ―が入っていたケースかそれ以上ですわ」

海之

「…束さん、まさかこれは」

「そ♪やっとできたんだよ~ワンちゃん!」

一夏

「わ、ワンちゃん?」

クロエ

「そんな名前ではありません。「ケルベロス」といいます」

ラウラ

「それって…」

「この前臨海学校で火影が言ってた…」

火影

「でも束さん。予定では末頃になるって…」

「タイミングを合わせるために急ピッチで進めちゃった♪」

海之

「流石です、ありがとうございます束さん。待たせたな簪。お前に約束していたものだ」

「…これが私の…」

セシリア

「ケルベロス…。ギリシャ神話に出てくる3つ首の犬の怪物ですわね」

「その通り♪3つの力と形態を持つ武器なんだ!箒ちゃんの紅椿の展開装甲みたいだけど全然違うものだよ」

「3つの力…なんだか聞いただけで凄そうね」

海之

「簪。あとはお前の専用機の完成を待つだけだな」

本音

「かんちゃんおめでとう~!」

シャル

「良かったね簪!」

「うん…ありがとうみんな。そして篠ノ之博士」

「んじゃさっそく試してみようか♪」

「…えっ?今から?」

「モチ!」

「で、でも私まだ」

火影

「心配すんなって。海之と僕がサポートするから」

「…うん、わかった」

「んじゃ早速レッツゴー!…あ、いっくん運ぶの手伝って~♪」

一夏

「へ?は、はい」

 

そして全員屋敷の外へ移動した。




次回 キングケルベロス登場です。


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Mission74 ケルベロス再誕

スメリア滞在五日目。この日一夏達は夏季休暇の課題を行っていた。そんな中エヴァンス邸の庭に謎の物体が飛来、墜落してくる。火影達が駆け付けるとそれはセキュリティに掛からない様文字通り自由落下で墜落してきた束とクロエのロケットだった。しかし束とクロエは墜落などものともせず、火影達との再会を喜ぶ。何故来たのかみんなが尋ねると、以前約束(一方的に)した火影達の家に泊まりに来たとの事。そしてもうひとつ、束に依頼していた簪の魔具、キングケルベロス(通称ケルベロス)を渡すためだった。


エヴァンス邸 アリーナ

 

ここはエヴァンス邸の敷地内にある簡易アリーナ。簡易といっても観客席が小さいだけで規模としては競技を行うには十分な大きさがある。そこに一行は来ていた。

 

「火影達の家ってこんなアリーナもあるんだ」

本音

「凄いね~!」

セシリア

「シャルロットさんのお家にもあるのではありませんか?」

シャル

「会社にはあるけど家には流石に無いよ」

ラウラ

「でもなんでお前達の家にこんなものがあるのだ?」

海之

「父が学校や競技選手達のために用意したのだ。球技や陸上競技を行うために必要だとな」

「本当に良い人達だね。みんなのために建設するなんて」

 

少し遅れてキャリーケースを運んできた一夏達が来た。

 

一夏

「つ、疲れた…」

「お疲れ~いっくん♪」

クロエ

「ありがとうございます。織斑様」

「…姉さん。ここまで来るなら最初家に運ばなくても直接ロケットから運べばよかったじゃないですか」

「…あっそうか!メンゴメンゴ♪」

火影

「まぁ元気出せ一夏。後で課題手伝ってやっから」

一夏

「おう!もうすっかり元気になったぜ!」

「…お前って本当に単純だな…」

「…さて、それでは一同とくと見よ!」

 

ガチャッ、プシューッ!

 

束はアタッシュケースを開ける。その中には三本の棒が大きい輪で繋がれている一見フレイルやヌンチャクの様に見える物があった。棒の先端部には美しい結晶がはめ込まれている。

 

ラウラ

「これがケルベロスか」

セシリア

「美しいですわね…」

海之

「簪、手に取ってみろ」

「う、うん」

 

そう言うと簪はケースからケルベロスを取り出す。

 

「!すごく軽い…」

「それじゃ…えっと御免、君の名前は?」

「あ、す、すいません。更識…更識簪です…」

「了解!んじゃこれからはかんちゃんと呼ぶね♪んじゃかんちゃん、ケルベロスの使い方を説明するね」

「は、はい。宜しくお願いします」

「……」

本音

「どうしたのしののん?」

「…いや、姉さんがあんな気軽に話かけるのが…信じられなくてな」

一夏

「ああ俺もそれあるかも。今までの束さんなら考えられない事だからな」

シャル

「そうなの?僕は以前の束さんは知らないから分からないけど」

「私もだけどそんな感じの人には見えないわ」

火影

「気になんなら後で話してみたらどうだ?今日は束さんも泊るんだし」

「……」

 

 

…………

 

簪は学園から貸出てもらっている訓練機を持ってきていた。

 

「んじゃケルベロスの使い方を説明するね!クーちゃんも宜しく!」

クロエ

「はい束様。先ほどもお話しましたがこちらのケルベロスは3つの形態と力を持っています。現在の形態がフレイル形態、そして氷の力を持ちます」

「氷の力?」

海之

「ISのSEを使って空気中の水分を氷に変え、攻撃や防御に利用する。簪。棒の一本を持って振るってみろ」

 

簪は言われた通りのやり方でケルベロスを振るってみた。すると簪の周りに冷気が発生し始める。

 

ビュオォォォォォォォォ…

 

一夏

「…さぶ!」

海之

「簪、ケルベロスを地面に思い切り打ちこめ」

「う、うん!」

 

ドゴォッ!ビキィィィィィィィィィン!!

 

火影・海之・束以外の全員

「「「!!」」」

 

簪は言われた通り地面に思いきりフレイルを打ち込む。すると目の前に瞬く間に氷の柱が出現した。

 

本音

「すご~い!」

セシリア

「何もないところから氷の柱が!」

「大成功~!」

クロエ

「見ての通りです。それを勢いよく打ち込むと氷柱を形成し、氷の槍でダメージを与える事ができます。相手に連続で打ち込むと氷漬けにして動きを封じる事もできます」

「こ、氷漬けって…」

海之

「…さて次だ。簪、中央に大きな輪があるだろう?それに腕を通して振り回してみろ」

 

簪は棒を繋いでいる大きな輪に腕を通し回転させる。すると簪を囲むように空気中の水分が凍り始め、バリアの様になった。

 

「まるで氷のバリアだな」

海之

「その通りだ。実弾や爆発によるダメージを軽減できる。SEの消費量によって自分だけじゃなく広範囲にも使える様になる」

「…凄い…」

 

簪自身が一番驚いている様だ。

 

「フレイルについてはとりあえずこんな感じだね♪んじゃ次行くよ。かんちゃん、フレイルから別の形態に変形させてみて」

「…どうやってやるんですか?」

クロエ

「更識様。ケルベロスはISの世代に関係なくインターフェースを展開できます。スティック、三節棍、そして今のフレイルから形態を選択してください」

「は、はい」

 

簪はケルベロスの形態をスティックに合わせた。すると瞬く間にフレイル上から棒状に変形し、

 

ボオォォォォォォォォォッ!

 

先端から炎が噴き出ているスティックとなった。

 

一夏

「す、すげぇ!」

ラウラ

「ああ凄まじい火力だ」

「簪!あんた熱くないの!?」

「う、うん。私は全然…」

シャル

「…もしかして使い手は何も感じないのかもしれないね。さっきの冷気も僕らと違って簪は平気だったし」

海之

「簪。その形態の基本戦術は炎を纏った棒術だ。打ち・突き・払い・殴ぐ等千変万化の攻撃を繰り出す。長刀を使っているお前には一番使いやすいだろう」

「あとSEをチャージして相手に打ち込むと周辺を巻き込む爆発を起こすよ♪多数を相手の戦い向きだね」

ラウラ

「先程の氷のフレイルはどちらかといえば一対一の戦い。炎の棒は一対多数向きか」

「スティックに関しては以上だね。では最後に三節棍行ってみよ~♪」

本音

「ねぇさんせつこんってなに~?」

「中国の武器で二尺位の棒を三本、鎖でつないだものよ。扱いがかなり難しいんだけど…火影は使えるのよね?どうやって覚えたの?」

火影

「ああ自分で会得したんだ」

クロエ

「では更識様。ケルベロスを変形させてください」

 

そう言われて簪はケルベロスを変形させる。すると、

 

ビリリリッバチチチッ

 

今度はケルベロス全体に紫色の電流が走った。

 

一夏

「うわ!」

セシリア

「び、吃驚しましたわ!」

「大丈夫か簪!」

「う、うん。驚いたけどこれも何ともない。…あの火影くん。私まだ三節棍の事知らないし、教えてもらって良い?」

火影

「ああそうだったな。んじゃこれに関しては僕が見せてやるよ」

 

そう言って火影は簪からケルベロスを受け取る。その時火影は心の中で「久々だなワンちゃん」と思った。

 

「んじゃひーくんによる三節棍口座はじまりはじまり~!パチパチッ」

火影

「…簪、さっき鈴も言ったが三節棍っつーのは三本の棒を鎖でつないだ物でいわば長い棒を短く三本の棒に分けた物と思えば良い。ただ短くなった半面三本共しっかりコントロールしねぇと振り回したりした時自分に当たっちまったりするから気をつけろ」

「うん」

火影

「で、こいつの持ち方だが基本は4つだ。真ん中と端の棒を持って端のもう一本をフレイルの様に振るうやり方。真ん中の棒を両手で持って振り回し、両端の棒で打つやり方。片側の端の棒を持って広範囲に振り回すやり方。そして最後に両端の棒を持つやり方だ。これは主に防御の持ち方だな」

シャル

「本当に難しそうだね」

火影

「で、見ての通りこいつは超電圧の電流を伴なった雷の三節棍だ。今から見せるから良く見てろ」

 

そして火影は三節棍形態のケルベロスを振るう。その中で雷を伴った弾や放電による攻撃。さらに三節棍を前に広げて電磁波によるシールドを張ったりして見せた。

 

本音

「ひかりんかっこいい~!」

「ほんとに使いこなしてるわ」

一夏

「すげーな火影、あんな武器まで使いこなせるなんて」

火影

「まぁこんなもんだ。簪、とりあえず今は三節棍とこいつの特性を掴む訓練からだな」

「ありがとう火影くん」

「ふぅ~、これでケルベロスの説明は取り合えず終わったね!お疲れかんちゃん♪」

クロエ

「お疲れ様でした」

「あ、はい。ありがとうございます。篠ノ之博士、クロエさん」

海之

「簪、どうだ?使えそうか?」

「凄く難しいそうとは思う…、けど頑張るよ。折角海之くんや篠ノ之博士達が造ってくれたんだもん」

 

言葉では不安そうだが簪の目はやる気に満ちていたので海之や火影は大丈夫だろうと感じていた。

 

火影

「…それじゃ戻るか。一夏の課題手伝わなきゃなんねぇし」

一夏

「…げっ!途中だったの忘れてた!」

海之

「束さんとクロエもお越しください」

「ありがとー♪」

クロエ

「御世話になります」

「………姉さん」

「?な~に箒ちゃん。あっ!もしかしていっくんへの告白」

「違います!…そうじゃなくて…」

「?」

 

 

…………

 

その日の夕方、エヴァンス邸浴場

客室にはそれぞれお風呂が備え付けられているが屋敷の広い浴場もある。その中の湯船に二人の人物がいた。

 

「……」

「いや~!我が最愛の妹である箒ちゃんからお誘いを受けるなんてほんと久しぶり!気分爽快だね~♪」

「…話がしたいとは言いましたが一緒にお風呂に入りたいとは言ってません」

「気にしない気にしない♪裸の付き合い♪全部さらけ出して話そうよ♪」

「…ハァ」

 

あの後箒は束と二人きりで話がしたいと言ったのだが束が何を思ったか一緒に風呂に入りたいと言い出したのだ。

 

「それで箒ちゃん。話って?」

「……大した事では無いんです。ただ…姉さん変わりましたねと思って」

「えっ本当?嬉しいな♪まだ身長伸びたんだ!」

「そういう事ではありません。…なんというか、昔に戻ったというか…」

「?どゆ事?」

「…はっきり言いますね。あの…白騎士事件を起こしてからの姉さんは…自分以外の事に全く関心が無い。命を命とも思わない。交流があるのは私や一夏や千冬さんの三人だけ。私から見ればまさに異常でした。なんでこんな人が自分の姉なんだろうって思った事も何回もあります」

「いや~それほどでも♪」

「…ハァ。…でも先程や先月の臨海学校の時の姉さんは…私達以外の人とも普通に喋ってたり火影と海之のお願いも聞いたりして、今日なんて殆ど話もした事が無い簪に武器の使い方を教えたりなんかしてましたし。私も一夏も正直驚きました。今までの姉さんなら考えられない。まるであの事件を起こす前、私がまだまだ小さい頃の、ずっと昔の姉さんに戻ったみたいだって。…何かあったんですか?」

「ん~~~~~何にも変わって無いと思うんだけどなぁ…。まぁ強いて言えば……ひーくんとみーくんかなぁ」

「火影と海之?」

「うん。実はね~…」

※詳しくはMission04をお読みください。

 

 

…………

 

「…というわけ♪」

「火影と海之が…、そして二人の御両親が…」

「うん。…束さんはあの時の自分の気持ちなんて絶対誰にも理解してもらえてないって思ってた。でもアルティスさんと雫さんは全部わかっていた上で私を許してくれた。ひーくんとみーくんもね。それを聞いた時思ったんだよ。束さんがISなんて造らなければあの人達は今も幸せに暮らせてたんだろうなって。そしたらめっちゃ泣けてきて。本当に心から謝ったよ。あんなにごめんなさいを言ったのは初めてじゃないかな」

「……」

「だから決めたんだよ。束さんを信じてくれたアルティスさんと雫さんのためにもISを正しい方向に必ず発展させてみせるって。そしてひーくんとみーくんの力になるって。ひーくんみーくんの友達なら束さんにとっても友達だからね♪だから協力は惜しまないよ」

「…姉さん…」

 

箒は心の中でかなり驚いていた。しかし同時に僅かだが何とも言えない嬉しい様な感情があったのも事実だった。

 

「…で箒ちゃん。いっくんには何時告白するの~?」

「…それがなければもう少し…」

 

先程の嬉しさが一気に引いてしまった様に感じた箒だった。

その後束とクロエ、簪、更にレオナも加わり、全員でギャリソンの料理を堪能した。特に束はその余りの美味しさにクロエに弟子入りを指示したが箒が全力で阻止した。そんな箒は相変らず苦労していたが、以前とは少し違った目で姉を見ることができる様な気もしていた。



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Mission75 スメリア最後の夜

スメリア滞在五日目にして突然やって来た束とクロエ。その目的はエヴァンス邸への宿泊と簪に魔具「ケルベロス」を渡すためだった。他人のために武器を造る、そんな束に違和感を覚えた箒は思い切って二人で話す事を持ちかける。その中で束は昔、白騎士事件の様な大罪を起こした自分を信じてくれたエヴァンスとその妻雫。そして彼等の子供である火影と海之のために変わる事を決めたと打ち明ける。意外な答えに箒は驚くが同時に嬉しくもあった。


スメリア滞在は最終日前日の六日目を迎えた。明日は昼過ぎに日本に帰国予定のため、夜は今日が最後である。

前日の五日目の夜は束とクロエ、更に火影達の叔母であるレオナもやって来て今まで以上に賑やかであった。しかも束とレオナが妙に意気投合してしまい、ギャリソンまで巻き込んで派手な飲み会まであった。もちろん少年少女達はソフトドリンクだったが。そんな日の翌朝、火影達がやや遅くに起きてきた時には既に束とクロエ、そして彼女らのロケットも無く、代わりに彼女らの部屋には手紙が置いてあった。

 

「おっはよー!!昨日は本当に楽しかったよ!束さんもクーちゃんもあんなに笑ったのは久しぶりだった!また学園にも顔出すからね!あ、朝ごはんなら心配いらないよ。ギャリくんがお弁当用意してくれたから♪レオナっちにも宜しくね~!

束さん&クーちゃんより♪」

 

…どうやらみんなが起きてくる前に二人は出発した様であった。ギャリソンがみんなにお別れは良いのかと尋ねると疲れてるだろうから良いよと言われたらしい。そんな束に改めて変わったなと感じる箒や一夏であった。

そんな朝を迎えた六日目。この日は前日の話にも出た通りスメリア一の花火大会の日である。スメリアで何故ここまで花火が打ち上げられるのかというとそれはやはり火影と海之の両親の影響。スメリアと日本の友好の懸け橋となった彼らが花火が好きだった事もあり、こうして定期的に開催される。中でも今日は最大の日であった。そして今火影達は街に来ている。

 

一夏

「やっぱスメリア一の花火大会という事もあってもうみんな動き出しているみてぇだな。…でももっと人で溢れかえると思ってたけど想像程じゃねぇな。カップルは多いけど」

海之

「この国は高層マンションが多くて基本平地だからな。更にどこから見てもそれなりによく見える様に計算されて打ち上げ場所を選んでいる。態々外に出なくても家からで十分なのだろう」

火影

「それにみんな良く見える場所を知ってるからな。実はアルさんの店も隠れスポットだ。今日はこの夏一番忙しいかもって言ってたぜ」

一夏

「…しかし遅いなぁ。やっぱ女の着替えって」

 

箒達は今向こうの店にあるシンディアの店で浴衣に着替え中だ。

 

火影

「まぁ七人もいたらしょうがねぇだろ。…と、終わったようだぜ」

 

やがてシンディアの店から立て続けに彼女達が出てきた。先頭を来るのは本音だった。彼女らしい。

 

本音

「お待たせ~!ねぇ見て三人とも!すっごく綺麗でしょ~!」

 

本音は白い生地に黒いラインと所々白と赤い花で模様付けされている浴衣だ。

 

一夏

「のほほんさんは箒と同じでやっぱ赤色が似合うな」

火影

「ああ似合ってるぜ本音」

本音

「ありがとう~!」

「本音、浴衣で走ったら危ないでしょ!あっ、ねぇ見てよ三人とも。どうかな?」

 

鈴は薄緑の生地に赤色や黄色の花が散りばめられた浴衣だ。

 

火影

「やっぱ鈴は緑が似合うな。良い感じだぜ」

海之

「ああ悪くない」

「ま、まぁ当然よ!」

 

続けてセシリアとラウラがやって来た。

 

セシリア

「あのシンディアさんと言う方、少し変わってらっしゃいますがセンスは素晴らしいですわね。どうですか一夏さん?」

ラウラ

「ど、どうだ?初めて着たのだが…似合っているか?」

 

セシリアは水色の生地に青や濃い蒼色の花、ラウラは黒い生地に小さい黒い花と大きい桃色の花の浴衣だ。

 

一夏

「セシリアと言えば青色だよな。髪の色とも合ってるぜ」

海之

「ラウラも髪と黒が合っている。よく似合っているぞ」

セシリア

「本当ですか?ありがとうございます!」

ラウラ

「あ、ありがとう海之…やはりまだ慣れんな」

 

セシリアもラウラも喜んでいる様だ。最後に来たのはシャルロットと簪、そして箒だった。

 

シャル

「お待たせみんな!」

「遅くなって御免なさい。…に、似合ってるかな」

「さすがに七人もいるとシンディアさんも大変でな」

 

シャルは黄色い生地に白い花と緑色の葉で模様付けされたもの、簪は白い生地に水草の様な模様で3匹ほど金魚が見えるもの、そして箒は赤い生地に黒のライン、そして大きい赤色の花の浴衣というものだった。

 

火影

「可愛いぜシャル」

海之

「自信を持って良い。良く似合っている簪」

一夏

「箒もやっぱり赤色が合うよなぁ。似合ってると思うぜ」

シャル

「ありがとう火影♪」

「嬉しい…。ありがとう海之くん」

「あ、ありがとう一夏」

 

三人とも喜んでくれている様だ。

 

「…でも本当に良いの?私達全員に浴衣をプレゼントしてくれるなんて…」

海之

「気にするな。シンディアさんが安く提供してくれてな」

火影

「ああそういや昨日店を出る時にシンディアさんに渡された物があった。手紙みてぇだがお前達が全員着替えて揃ってから渡せって言ってたぜ。ほら」

 

そう言うと火影はとりあえず最後にきた箒に渡す。箒は渡された手紙を開いて読んでいるとその横から他の皆も読んでみる。

 

女子達

「「「…!!」」」

一夏

「ど、どうした?何が書いてあるんだ?」

「な、何でもない!お前達が読む様な物では無い!」

 

一夏が読もうとすると箒が全力で止める。その内容は、

 

「誰が未来の旦那さんをゲットするか楽しみにしてますね♪」

 

女子達はみんな赤くなっていた…。

 

 

…………

 

着替えを終えた一行はアルティスと雫の墓がある丘の上に来ていた。近すぎる訳ではないがここは街を一望できる場所だけあって全ての花火が良く見える。他の見物客も少なからずいたがゆっくり見るには十分だった。やがて花火大会は始まり、様々な色の光が夜空を覆う。

 

一夏

「た~まや~ってか!」

シャル

「あ、あれ!タワーから花火が上がってるよ!」

ラウラ

「凄いな…火事になったりせんのだろうか?」

「そ、その心配は無いと思うけど…」

本音

「すごいね~!」

セシリア

「見事ですわ…素晴らしいですわね」

「国を挙げての花火と言っていたからな。流石だ」

「…あれ?火影と海之は…あっ」

 

火影と海之は…アルティスと雫の墓の前にいた。きっと明日帰る前に別れを言っているんだろうと思い、そっとしておくことにした。

 

海之

「……」

火影

「…ここが全ての始まりだ。俺達が父さんと母さんに出会った」

海之

「…ああ」

 

今から16年前に二人はここで両親に助けられたのである。二人のアミュレットと共に。

 

火影

「俺は拾ってくれたのが父さんと母さんだったのが最大の幸運だと思ってるぜ。…今思えば母さんは…母さんに似てたかもな。父さんと親父は…違うか。つっても親父の記憶はあんまねぇけど」

海之

「俺も殆どない。…俺達に閻魔刀とリべリオンを託してから直ぐに旅立ってしまった」

火影

「…まぁ母さんが死ぬまで愛してたんだから…案外親父と父さんも似てるのかもしんねぇけどな。少なくとも外見はブサイクじゃないね。俺を見たらわかるもんだ」

海之

「自分で言ってみっともなくないのか?…まぁいい」

火影

「向こうでみんなは俺達がISを動かせる事知ってどう思ってるだろうな。驚いてっかな?」

海之

「…案外受け入れているかもしれんぞ」

火影

「はは、不思議と俺もそんな気がする。……また来ます」

海之

「…それでは」

 

そう言って二人はみんなの所に戻った。

 

シャル

「あ、火影」

ラウラ

「遅いぞ海之」

火影

「悪い悪い」

海之

「一夏と箒とセシリアはどうした?」

「あっうん。もっと近くで見たいと言って一夏くんが行っちゃったんだけど箒とセシリアも追いかけてそのまま…」

火影

「…まぁ日本に帰ったら課題に追われるだろうから今の内に楽しんどくのもいいだろ」

 

 

……………

 

一夏・箒・セシリア

 

一夏

「ほら二人共来てみなよ!この角度からだと奥の花火も重なるぜ!」

セシリア

「本当ですわね」

「わかったから落ちつけ一夏」

 

箒とセシリアは走って行った一夏を追いかけ、やっと追い付いた所だった。

 

「普通の服と違って私達は浴衣なんだからな」

一夏

「ああ悪い悪い。…なぁ、二人共スメリアはどうだった?」

セシリア

「とても楽しかったですわ。それに良い方々ばかりでした」

「うむ。私も同じだ。火影と海之がとても大事にしているのが良くわかる」

一夏

「ああ。そして少し理解したぜ。あいつらはこの国とこの国に生きる人々。多くのものを背負っている。そしてこの国の人々もみんな二人を心から信用している。束さんがあいつらと出会って変わったのも…よくわかる」

「……」

一夏

「正直今の俺なんかじゃとてもかなわねぇ。でも改めて思ったぜ。俺もあの二人の様に強くなりたい。守れる様になりたいってな」

セシリア

「…きっとできますわ。一夏さんなら」

「ああ。それに一夏、お前一人ではない。私達みんなで強くなるんだ」

一夏

「…ありがとな二人共」

 

 

…………

 

海之・簪・ラウラ

 

同時刻、火影達も違う場所に移動し、海之達はその場所でゆっくり花火を眺めていた。

 

海之

「そろそろ最終局面だな。…二人共…、すまん、簪は半分ほどだったな。この国はどうだ?楽しめたか?」

ラウラ

「うむ。とても多くの想い出を作ることができて満足している。感謝しているぞ海之」

「私も楽しかったよ。海之くんと火影くんはこんな良い国で育ったんだね」

海之

「それは良かったな。…父と母が生きていれば多分誰よりも喜んだだろう。きっと向こうでも喜んでいる筈だ」

ラウラ・簪

「「海之(くん)…」」

海之

「俺は命を救ってもらったあの二人に何もできなかった。だからせめてこの命で大切なものを守ろう。二人が愛したこの国、人々。そしてお前達もな」

ラウラ

「…ああ。私も嫁であるお前を、そしてお前の大切なものを守ろう。お前がくれたパンチラインと共に」

「…私もケルベロスを必ず使いこなせるようになる。もっと強くなる。だから海之くん。これからも…私達と一緒に…いてほしい」

海之

「…ありがとう…二人共」

 

 

…………

 

火影・鈴・シャルロット・本音

 

火影達は一夏達と同じ様に別の場所から花火を見物していた。

 

本音

「そろそろラストスパートだね~!」

シャル

「ほらあっち!ものすごく綺麗だよ!」

「子供ねぇ二人共。…わぁすごい!!」

火影

「人の事言えねぇぞ。…三人ともどうだった、スメリアは?」

「とっても楽しかったわ。良い人達ばかりね。あんたの周りって」

シャル

「本当にね。できるならもっといたい位だよ」

本音

「私ももっといた~い!」

火影

「気にいってもらえてなによりだ。まぁまた誘ってやるよ。日本に帰ったら用事あるんだろ?」

シャル

「うん。日程はバラバラだけどセシリアもラウラも帰郷するって言ってたし、僕も一度国に帰ろうと思う。鈴は?」

「う~ん、私はそのまま日本に残ると思うわ」

本音

「中国帰らないの~?」

「帰っても軍に召集されるだけだしね。それなら日本にいた方がマシ」

火影

「…あれ?」

シャル

「どうしたの?」

火影

「この前買ってやった指輪、三人とも今日はしてんのな。もったいないから付けないって言ったのに。でも良く似合ってるぜ」

「あ…ありがとう…」

シャル

「えへへ……」

本音

「ありがとねひかりん…」

 

鈴達は想い出をより覚えておきたいとこの日は火影に買ってもらった指輪をしてきたのであった。

 

シャル

(鈴、抜け駆けは禁止だからね?)

本音

(大丈夫だよシャルルン。私も見張ってるから)

(な、なんの事かな~?あはは…)

火影

「?」

 

こうしてそれぞれの心に深い想い出を残し、スメリア旅行は幕を閉じたのであった。




スメリア編終了です。里帰り位平和に過ごさせたいと思いました。二学期からは戦いも多くなりますから。


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Extramission04 お化け屋敷パニック

これは火影達がスメリアから帰って来た数日後のお話です。


スメリアから帰国して数日が経った。

セシリア、ラウラ、シャルロットは今現在それぞれの国に帰国中。一夏、箒、簪、本音はぞれぞれの家へ。火影、海之、鈴は寮に残っている。そんなある日の昼頃、外出していた火影と海之が帰って来た。

 

火影

「あの辺りの海域や島は一通り調べたが…やっぱ何も無かったな」

海之

「…うむ」

 

二人は先月の臨海学校の際、あの黒いIS群と戦ったのだがその反応が出現したというポイントを調べてみたいと思い、千冬にお願いしてそのポイントを教えてもらって早朝から調査に行っていたのだ。しかしその地点を中心に周辺の海域や島等一通り調べてみたのだが何も新たな発見はなかった。ならばせめてパーツだけでもと思ったがこちらもまるで回収された様にひとつも見つけられなかった。

 

火影

「ちっ、以前の俺らなら目で探さなくても魔を感じる事ができたんだがな。…ってああこっちにはそもそも魔力は無かったか」

海之

「ああ。奴らも似ているとはいえ所詮只の機械だからな。魔力は無い。仮にあったとしても今の俺達には無理だ。無念だがな」

火影

「やっぱ次の動きを待つしかねぇか…」

 

その後二人は千冬に結果を報告して別れた。海之はこの後一夏の家に行って課題を手伝う予定である。一方の火影はまだ予定が決まってなかった。

 

火影

「やれやれ…部屋に戻ったらシャワー浴び…ん?」

 

火影は自分と本音の前に誰かがいるのが見えた。…鈴だ。入ろうか入らないかで悩んでいる様である。火影は構わず近づく。

 

火影

「どうした鈴?」

「ひゃあ!…ひ、火影!あんたなんでここにいるの!?」

火影

「ああ、海之と出かけてて今帰って来たんだよ。お前こそどうした?」

「う、うん。実はこんなもの貰ったんだけど…良かったら一緒に行かない?と思って…。へ、変な勘違いしないでよ!使わなきゃ勿体無いし…」

 

鈴が見せたそれは遊園地のペアチケットだった。

 

火影

「どうしたんだコレ?」

「ショッピングモールの福引きで当たったのよ。それで…どうかな?」

火影

「ああ別に付き合ってやっても良いぜ。今日はこの後何も予定ねぇし」

「ほ、ほんと?…良かった…」

火影

「良かった?」

「な、なんでもない!じゃあ私は着替えてホールで待ってるから!」

 

そう言って鈴は自分の部屋に戻って行った。

 

火影

「…んじゃさっさとシャワー浴びて準備するか」

 

そう言うと火影も準備を始めた…。

 

 

…………

 

それから数刻後。火影と鈴は電車で遊園地に向かった。その遊園地は島唯一の遊園地であり、本島からも多くの人が来る人気のスポットだった。夏季休暇という事もあって人はやはり多い。

 

火影

「やっぱすごい人だな」

「そうね。家族連れもたくさんいるわ。子供連れの親とか迷子にならないかって大変そうね」

 

とその時火影が手を差し出す。

スッ

 

「…えっ?」

火影

「掴まれ。逸れんなよ」

「…あ、ありがとう」

 

そして二人は遊園地に入っていった…。

 

 

…………

 

「次!あれ行くわよあれ!」

火影

「へいへい」

 

二人は遊園地のアトラクション、特に絶叫系をひたすら味わっていた。ジェットコースターやフリーフォールは勿論、スペースショット、ドロップタワー、ウォータースライダー等々。鈴はこう言ったものは大好物なようで全く大丈夫な様だ。火影は言わずもがな何の問題も無さそうである。そして次に鈴が指さしたのは、

 

火影

「…これか?」

 

それはゴーストハウス、いわゆるお化け屋敷だった。しかし何故か二人以上必須となっている。

 

火影

「お前大丈夫か?ここって確か…」

「大丈夫大丈夫!私こんなの全然平気なんだから♪あんたこそ大丈夫でしょうね?」

火影

「…後悔すんなよ?」

 

鈴は余裕の表情で火影の手を取って入っていった…。

 

 

…………

 

「グアァァァァァァァァ!!」

「ギャアァァァァァァァ!!」

「グオォォォォォォォォ!!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

火影

「……」

 

二人は入ってからもう15分位進んでいたが鈴は途中からずっと火影にしがみついていた。さっき火影が言いかけたが実はこのお化け屋敷、「お化け屋敷好きでも入りたくない怖いお化け屋敷」として今話題となっている場所であった。火影はそれを事前に知っていたのだが鈴は知らなかったらしく悲鳴が止まらなかった。いつもの鈴なら火影にしがみついているので嬉しがるところだが今はそんな余裕はなさそうだった。

 

火影

「おい大丈夫か鈴?」

「だ、大丈夫…よ」

(…まさかここまで怖いなんて思わなかったわよ~…)

「あ、あんたよく平気ね…?怖くないの?」

火影

「全然」

 

前世で本物の悪霊や悪魔を山ほど相手してきた火影にとってはこんなもの子供の遊びの様なものだ。

 

「ど、どんな神経してんのよあんた。私でさえちょっとビビる位なのに…」

火影

「まぁ慣れってやつだ。………ん?なんだこの扉」

 

歩いて行くと目の前と横に扉があった。どうやら前の扉が出口な様だが扉は開かなかった。

 

「何で開かないのよ!」

火影

「落ち着け鈴。もうひとつの扉も調べてみようぜ」

 

次に二人は横の扉を調べた。こちらはスイッチで開く自動扉でスイッチを押すと直ぐ開いたがスイッチから手を離すと閉まってしまう造りだった。扉の先は薄暗く奥に続く部屋になっている様である。

 

火影

「ん?これは指示書きか?…ええと「誰かがここに残ってスイッチを押して扉を開け、別の誰かが中の部屋から出口を開けるための鍵を見つけなさい」か…、ああだから二人以上だった訳か」

「じゃ、じゃあ別れないといけないって事!?ど、どうしよう…」

火影

「…しゃあねぇな。僕が行って来るから鈴はここに残っててくれ。鍵見つけたらノックして知らせるからよ」

「わ、わかったわ…早く鍵を見つけてきてよ!」

 

そして鈴は扉を開けるために残り、火影は部屋に入って行こうとしたが、

 

火影

「…なぁ、なんで扉を開けっぱなしにするんだよ?」

「い、いいでしょ別に!」

 

そして火影は鍵を探すために部屋に入って行った…。

 

「早く帰って来てよ~…」

 

30秒も経ってないのだが只待つ鈴にとっては長い時間の様だ。…と、

 

ガタッ!

待っている者を驚かす仕掛けなのか何か音がした。

 

「きゃあ!なに!なに!?」

 

…だが特に何も無い様だ。そして約数秒後、

ガタガタッ

また先程と同じ様な音がした。

 

「きゃあぁぁ!…もう何なのよ~!火影~早くしてよ~!」

 

すると約30秒位経った頃だろうか、部屋の奥から大声で火影の声がした。

 

火影

「お~い鈴、見つけたぜ~」

「よ、良かった…。は、早く出ましょこんなとこ!」

 

鈴は部屋の奥にいるだろう火影に呼び掛けた。…するとその時、

 

「グオォォォォォォ!」

「オォォォォォォォ!」

 

最後の仕掛けか、ゾンビの群れが鈴に近づいてきた。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

突然の事態にスイッチに手を置いたまま腰が抜けてその場に座り込んでしまう鈴。火影が急いで戻ってくるとゾンビは去って行った。火影の姿を見た途端、鈴はしがみついた。

 

「うぅ~、ヒック…」

 

どうやら泣いてしまっている様だ。

 

火影

「そんなに怖かったか。…おい大丈夫か鈴?立てるか?」

「……無理ぃ、立てないぃ…」

 

鈴は完全に腰を抜かしてしまったらしく立てないでいた。

 

火影

「じゃあ立てるまで待ってやるよ」

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…早く出たいよぉ…」

火影

「…ハァ、よっ」

「…きゃっ…!!」

 

鈴は自分の顔が火影の胸部分にあり、背中と脚に手を回されて持ち上げられる。いわゆるお姫様だっこをされた事を理解した。驚きの余り涙も引っ込んでしまう鈴。

 

「なななな、何を!?」

火影

「動けねぇんだろ。いいから掴まってろ」

「……」

(お、重くないかな?…い、いやそうじゃなくて!臨海学校の時といい、なんでこいつはこんな事簡単にできるのよ!?されているこっちの身にもなってみなさいよ!……け、決して嫌じゃないけど…)

 

火影はそのまま出口への扉を開けて外に出た。途中「お熱いね」「若いわねぇ」等の声が聞こえて鈴は真っ赤になったが火影は気にせず近くのベンチに移った。そして数分位経って、

 

火影

「大丈夫か?」

「…うん、もう大丈夫。…なんかごめんね、手間かけさせて」

火影

「そんな事は良いけど…まさか自分から誘っといてあんな怖がるなんて思わなかったよ」

「うっ…しょ、しょうがないじゃない!あんなに怖いものなんて思わなかったんだから!」

火影

「はは。…さてどうする?もう夕方だがそろそろ上がるか?」

「…じゃああとひとつだけ乗っていい?」

 

 

…………

 

「…綺麗~」

 

鈴が乗りたいと言っていたのは観覧車だった。そこからは学園を含めた街を一望でき夕陽も重なって美しい景色を見ることができた。

 

「ありがとうね火影。今日は楽しかったわ」

火影

「別に良いって。こっちも予定無かったし。あと鈴が幽霊が苦手ってのもわかったし」

「もう!誰にも言わないでよ!」

火影

「…そう言えば鈴、お前スメリアでも言ってたが中国に帰らないのか?みんな帰ってんのに。向こうにも家族がいるんだろ?」

「…うん。…ねぇ火影。少し話聞いてもらって良い?」

火影

「? ああ」

「…実はね。私が幼かった時、私の両親は中華料理店を開いてたの。結構繁盛したのよ。一夏も時々食べに来てて。一夏や千冬さんと知り合ったのもその時かな。…でもある時ね、私のお母さんとお父さんが離婚しちゃって…それでお店も閉めてしまってそのせいで私も中国に帰らざるを得なくなっちゃって…」

火影

「……」

「だから中国に家族はいないの。親戚の人達はいるよ。良い人だし。会いたいとは思うんだけど…でも、ね…」

火影

「…それで両親は?」

「…わからない。叔母さんとかは連絡取り合ってるって言ってたから元気でいるとは思うんだけど…」

火影

「ならそれで良い」

「えっ?」

火影

「無事でいるならそれで良い。会いたいと思えばまた会いに行ける。死んじまったらもう二度と会えないんだからな…」

「!…ごめん火影」

火影

「気にすんな。まぁ会いたくなったら会えば良い。あと親戚の人にも会いたくなった時に帰れば良いさ」

「うん…ありがとう火影」

 

そして自分達のゴンドラは地上に戻り、空は夕刻に差し掛かっていた。

 

火影

「…さて、そろそろ腹減ったな。なんか食って帰るか?」

「じゃあ久しぶりに火影の料理が食べたい♪」

火影

「久しぶりって…臨海学校の時にデザート作ってやったけど」

「あれはデザートよ!今度は料理!」

火影

「へいへい。…笑ったな」

「えっ?」

火影

「いつものお転婆で男勝りのお前らしく戻ったって事だ。そういう鈴の方が僕は好きだぜ?」

「だ、誰がお転婆で男勝りよ!……えっ、最後なんて…!?」

火影

「さぁな」

「ちょ、ちょっと!待ちなさいよ~!」

 

また赤くなりながら火影の後を追いかける鈴であった。




夏休みはもう1、2話続く予定です。


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Mission76 篠ノ之神社のお祭り

スメリア滞在六日目。
この日は国を挙げての花火大会。女子達は新しい浴衣を手配されて大喜び。やがて花火大会が始まりみんなが盛り上がっている中、火影と海之は両親の墓の前に来ていた。二人が拾われたのは両親の墓が立っている正にここであったのだ。二人は両親の墓にまた来ると約束し皆の元へ。それぞれ想い出をつくり、スメリア旅行は幕を閉じたのであった。


IS学園の夏季休暇も順調に過ぎ、残りは約10日程となった。セシリアとラウラはまだだがシャルロットは既に戻って来ていた。簪はケルベロスの訓練をしたいとまだ家で頑張っているらしい。本音も簪を応援したいといってギリギリまで簪に付き合っているとの事だ。そして鈴も実は数日前から中国に戻っている。先日の火影とのデートで会いたい時に会いに行けば良いと言われたのがきっかけだったのか急に帰る気になったとの事だ。

 

そんなある日の夕刻に差し掛かる頃、ここは篠ノ之神社という場所。篠ノ之という名前の通りここは箒の生まれた家、つまり箒はこの神社の巫女である。ここの巫女は「剣の巫女」と言われ、祭りの時期に神楽舞を行う習慣があるのだ。そして今回神楽舞を行う箒は今叔母の仕事を手伝っていた。

 

箒の叔母

「ごめんなさいね箒ちゃん。結局仕事を手伝ってもらっちゃって」

「気にしないでください叔母さん。これ位お安いご用ですよ。それに…本当ならこれは私達の役目なのですから」

叔母

「そんな事気にしなくて良いのよ。…それで、束ちゃんとはその後は?」

「…えぇ…まぁ。…先日話したりはしました」

叔母

「そう…。でも話す事はできたのね。それだけでも良かったわ」

「…はい。…またいつか話そうと思います」

叔母

「そうね。それが良いわね」

 

長年積み重なった束への気持ちは完全なる雪解けにはまだ時間がかかりそうあった。しかし箒の中でいつまでもそれではいけないという気持ちが表れ始めているのも事実だった。

 

一夏

「よう箒!」

 

そこには一夏、火影、海之、そして浴衣姿のシャルロットがいた

 

「! い、一夏!それに火影達も。吃驚した…」

叔母

「一夏くんじゃない!久しぶりねぇ。そちらの皆さんはお友達?」

一夏

「ご無沙汰してます叔母さん。はい、みんな俺や箒の同級生です」

火影

「火影・藤原・エヴァンスです。初めまして」

海之

「初めまして。火影の兄で海之と申します。宜しくお願いします」

シャル

「シャルロット・デュノアです。こんばんわ」

叔母

「まぁまぁご丁寧に。箒ちゃんの叔母です。みんな箒ちゃんの神楽舞を見に来てくれたの?」

一夏

「ええまぁ」

「み、見世物では無いぞ!それにそんなに大したものでは無い」

叔母

「…そう言いながら箒ちゃん嬉しそうよ?お友達、特に一夏くんがいるからかしら♪」

「!お、叔母さん!」

叔母

「ふふっ。…折角だから箒ちゃんも神楽舞が始まる迄みんなと一緒に回ってきなさいな。ここは私がやっておくから」

「ですが手伝いが…」

叔母

「いいからいいから。楽しんでらっしゃい」

「…すいません」

一夏

「……」

火影

「どうした一夏?」

一夏

「ああ、箒の巫女姿って初めて見たけど…綺麗だなと思って」

「………私は夢を見ているのか?或いは空耳か?」

火影

「心配するな箒。気持ちは分かるが現実だ」

「そ、そうか!…ああ…」

一夏

「?」

 

 

…………

 

一行は出店の通りを歩いていた。時間も夕刻を過ぎたあたりなので盛り上がりも大きくなってきていた。

 

火影

「こんな場所も随分久々だな」

海之

「ああ…幼い頃に母の実家に来た時以来か」

シャル

「僕も初めてだよこんな場所に来るの」

「篠ノ之神社はこの一帯でも大きいからな。こういった出し物の規模も大きい」

一夏

「やっぱこういう所に来たら一番は食い物系だよな~…ん?あれは…」

 

そう言って一夏が見た先には、

 

千冬

「…ああお前達。来ていたのか」

 

そこには浴衣姿の千冬がいた。

 

シャル

「こんばんわ、織斑先生」

一夏

「来てたのかってこっちの台詞だよ。千冬姉も来たのか」

千冬

「ああ、たまには篠ノ之の叔母さんに挨拶しておこうと思ってな。こういう時でなければお会いできないから。…そういえば篠ノ之、一夏から聞いたが今回お前が神楽舞を行うらしいな。折角だから拝見させてもらうぞ」

「…一夏ぁ、余計な事を…」

一夏

「ま、まぁそう言うなって。ほんとに楽しみにしてたんだから」

「…ありがとう」

千冬

「…では私は叔母さんに挨拶してこよう。……海之」

海之

「? はい」

千冬

「その…すまないが付いてきてもらえるか?うるさい奴らの虫避けを頼みたい」

シャル

「虫避け?」

一夏

「千冬姉もてるからなぁ~]

千冬

「余計な事は言わんで良い」

海之

「わかりました」

 

そして千冬と海之は行ってしまった。するとシャルと箒が何やらこっそり話をし始めた。

 

シャル

(…ねぇ、箒)

(…わかっている。ここは…)

一夏

「? どうした二人とも」

シャル

「う、ううん別に!…あっそうだ火影!僕と一緒に回ってくれない?さっき言った様に僕こういうの初めてなんだ」

火影

「ああ構わないぜ」

「い、一夏!神楽舞が始まるまで私を持て成せ!」

一夏

「持て成せって…。まぁ別に良いけどよ」

 

こちらもそれぞれの組み合わせに別れ、出店を回る事になった…。

 

 

…………

 

火影・シャルロット

 

シャル

「凄い人だねやっぱり。でもこういうのが良いんだろうねきっと」

火影

「ああそうだな。シャル掴まれ、逸れるぞ」

シャル

「…え!あ、ありがとう…。あっねぇ火影、あっち射的があるよ」

火影

「ほぅ」

 

火影と一緒に回っていたシャルが指さした先にあったのは射的の出店だった。

 

店主

「どうだい?お似合いカップルのお二人さん」

シャル

「!カッ、カップルって、ぼ、僕と火影がカップルって…」

 

シャルロットは一気に茹でダコみたいに真っ赤になってしまった。

 

火影

「シャル、なんか取ってほしいものあるか?」

シャル

「…えっ?ええっと…あ、あの髪飾り良いな」

 

シャルが指さしたのは白い花の髪飾りだった。

 

店主

「お嬢さん良い目してるねぇ。あれは中々の物だよ。まぁ全部高得点当てなきゃいけないけどね」

火影

「了解」

 

パシュ!パシュ!パシュ!

火影は見事に全部高得点の的に当てた!

 

シャル

「凄い火影!」

火影

「大したこと無い」

店主

「おめでとう~!いやー兄ちゃん凄いね!愛の力ってやつかい?はい、お譲ちゃん」

シャル

「あ、ありがとうございます」

(あ、愛の力。ど、どうしよう…)

 

シャルロットは色々言われて心中穏やかでは無かった。そして彼女は火影に、

 

シャル

「あの…火影。お願いがあるんだけど…この髪飾り、付けてもらって良い?」

火影

「ああ良いぜ」

 

火影はシャルロットから髪飾りを受け取り、彼女の髪に付けてあげた。

 

火影

「よく似合ってるぜシャル」

シャル

「あ、ありがとう火影。大切にするね…」

 

シャルロットは赤くなってそう言った…。

 

 

…………

 

海之・千冬

 

その頃、海之と千冬は箒の叔母の家に来ていた。

 

叔母

「いや~嬉しいわ!まさか一夏くんだけじゃなく千冬ちゃんまで来てくれるなんて」

千冬

「すみません叔母さん。暫くご挨拶できずに」

叔母

「良いのよ良いのよ。学校の先生ともなると忙しいでしょうし。でもまだちっちゃい頃に家で剣を学んでいた千冬ちゃんがこんなべっぴんさんになって~」

千冬

「お、叔母さん」

海之

「先生はこちらで剣を?」

千冬

「ああそうか、海之は知らなかったな。私と一夏は篠ノ之の父君から剣を学んでいたんだ。篠ノ之や叔母さんとはその頃からの付き合いでな」

海之

「そうでしたか」

千冬

「叔母さん。こちらの海之も私の生徒です。彼も剣の腕は確かですよ」

叔母

「ええ先ほど一夏くんと一緒に来てくれました。でも随分大人っぽい子ねぇ。私はてっきり千冬ちゃんのお付き合いしている方だと思ったわ~」

千冬

「! ななな何を言ってるんですか!?私と海之はそんな関係じゃありません!」

海之

「はい。教師と生徒として付き合っています」

千冬

「!! 海之!紛らわしい返事をするな!」

叔母

「ふふっ、御免なさい。だって千冬ちゃんが男の方を連れてくるなんて初めてなんですもの。海之さんでしたっけ。千冬ちゃんの事、宜しくお願いしますね」

海之

「はい」

千冬

「!! み、海之!頼むからもう少し考えて喋れ!」

叔母

「…これは留袖を用意しておかないといけないかしらねぇ♪」

千冬

「お、叔母さん!」

海之

「?」

 

何時も以上にらしくない千冬に海之は不思議がった。

 

 

…………

 

一夏・箒

 

その頃、一夏と箒は境内のベンチにいた。

 

一夏

「食い過ぎた…」

「調子に乗るからだ馬鹿もの」

 

別れた後二人、主に一夏は露天のメニューを食いまくり、現在満腹で休んでいた。

 

一夏

「だってこういう時のああいうものって旨いだろ?つい食べ過ぎちまった…」

「まぁ分からなくもないがな。……なぁ一夏、何年ぶりだろうな、お前とこうしているのは…」

一夏

「? どうした急に」

「…本当なら私はこの神社でずっと育ち、父と母、…姉さん、そしてお前や千冬さんと一緒に時を過ごせる筈だった。…しかしあれが、白騎士事件があってから全てが変わってしまった。姉さんは世界中から狙われる身となり、私達一家は逃げる様にこの地を離れた。はっきり言うと当時の私は姉さんを恨んだよ。あの人のせいだ、あの人があんな事件さえ起こさなければ平和に暮らせたのに、お前や千冬さんとも一緒にいられたのにってな…」

一夏

「……」

「正直今でも姉さんへの恨みの気持は…まだ完全に消えてはいない。…でも先日姉さんと話した時、姉さんも変わってきたんだなと感じた。限定的だけどな。…でも、私も以前の様にただ恨むのではなく…知らなければいけない、変わらなければいけない。未来のために。…そう感じたよ」

一夏

「…それでいいんじゃねぇか?」

「えっ?」

一夏

「前にスメリアで火影と海之が話してたのを聞いたんだけどさ…」

 

 

…………

 

火影

(もし父さんと母さんがあの飛行機に乗らなければ、二人の運命は…違ったのか?今も二人は…生きていただろうか?)

海之

(…さぁな。生きていたかもしれんし、帰りの飛行機で死んだかもしれん。仮に生きていてもその後病気で死んだかもしれんし、また別の事故で死んだかもしれん。…何時など誰にもわからん。…俺達だって明日死ぬかもしれんぞ?)

火影

(はは。…何時なんてわからねぇか…その通りだな)

海之

(過去はこれからどう生きるかという自分の道標だ。俺達はそれを心に刻んで未来を目指していくしかない)

火影

(…そうだな…)

 

 

…………

 

「あの二人、やはり悩んでいたんだな…」

一夏

「ああ…。でもあいつらは過去を受け入れて前を目指している。常に全力で生きている。そう思ったよ。…それにさ、あの事件があってから確かに一度は別れたけど、今はこうして一緒だろ?」

「…えっ」

一夏

「…こんな事言ったら怒られるだろうけどさ。俺は今の人生、結構好きだぜ。最初はかなり驚いたけど自分がISを動かせるって知ることもできたし、そのお陰でみんなにも出会えた。もちろん箒にもな」

「…一夏」

 

箒は普段の一夏からは想像できない様な言葉に少し驚いてた。

 

一夏

「お前が束さんや昔の事で思う事があるのは当然だと思うよ。今はそれで良いじゃねぇか。慌てる事なんてねぇさ。俺もお前もまだ若いんだからゆっくり考えれば」

「…年寄りくさいぞ一夏。…ふふ」

一夏

「うっせー」

 

二人は笑い合った。

 

一夏

「…って箒、そろそろ時間だぜ?」

「ああそうだな、では行って来る…一夏、見ていてくれよ」

一夏

「おう、頑張れよ」

 

そして箒は神楽舞の準備に向かった…。

 

 

…………

 

数刻後、巫女装束を纏った箒が舞台に姿を現し、太鼓や笛の音色と共に舞が始まった。

 

「……」

 

彼女の舞は実に美しく、地元の者や観光客等多くの者が魅了された。そして少し離れた所で火影達も見ていた。

 

シャル

「綺麗だね箒」

火影

「…そうだな。一夏、惚れ直したんじゃねぇか?」

一夏

「………へっ?」

海之

「…どうやら箒やセシリアはまだ苦労しそうだな」

千冬

「…全くこいつは」

一夏

「??」

 

するとシャルが火影に質問した。

 

シャル

「あのさ…火影、ひとつ聞いていい?」

火影

「なんだ?」

シャル

「あ、あくまで参考なんだけどね。…その、惚れると言えばさ…火影ってさ…、どんな女の人が…好きなのかな?」

火影

「僕の好きな女性?…う~ん…あんまり深く考えたこと無ぇけど…やっぱり母さん達みたいな人かな。清らかで優しくそして強い女性」

シャル

「そうなんだね…ん、達って?」

火影

「気にすんな」

 

火影の心に浮かんだのは今の自分の母、そして前世の母の二人の姿だった。

 

シャル

「清らか、強く優しい人か…僕になれるかな…」

火影

「なんか言ったか?」

シャル

「な、何でもないよ~」

 

そしてその一方、

 

千冬

「…海之、お前も…火影と同じか?」

海之

「…そう…かもしれません。はっきり分かりませんが」

千冬

「そうか…」

海之

「織斑先生はもう十分お強くてお優しいじゃないですか」

千冬

「! だ、だから先程も言ったがお前はもっと言葉を!」

一夏

「いやいやそれはねえって海之。千冬姉はラオウだぜ?強いのは当たってるけど」

千冬

「…一夏、帰ったら覚えておけ」

一夏

「申し訳ございません…」

 

そんな感じで夏祭りの夜は老けて行った。

 

そして物語は波乱多き新学期に向かう…。




夏休み編終了です。次回より新学期に入ります。
様々なキャラクターが出る二学期ですが火影と海之を上手く絡ませられる様頑張ります。

また少し開けます。すいません。


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第六章 A turbulent new semester
Mission77 新章幕開け


かつてとある世界で伝説のデビルハンターとして生きた魔人ダンテ。そして兄弟でありながら宿敵でもあったダンテの双子の兄バージル。
新たな世界に転生し16歳となったふたりはこの数カ月の間に多くの事を経験した。
IS学園入学、新たな仲間達との出会い、前世の仲間達との再会、そして…見覚えがある異形な者達との対峙。ふたりは言い知れない予感を感じていた。世界はどうなるのか。ダンテとバージルの新たな姿、火影と海之の次なるパーティーが開幕。

※UAが55000に到達しました。ありがとうございます!


一ヶ月以上に渡った夏季休暇が遂に終わり、IS学園は新学期に突入した。休暇の間母国や地元に戻っていた生徒達はすっかりリラックスできたようでみんな生き生きとした表情だ。それは彼らも例外ではない。

 

IS学園 1-1

 

セシリア

「おはようございます、みなさん」

一夏

「ようセシリア、久々だな」

火影

「おはよう。こっちには何時戻ったんだ?」

セシリア

「一昨日ですわ。母と父の弔いをし直しておりましたの。二人の真実が分かる前は色々とできなかった事がありましたから改めて。もちろんISもローハイドも訓練はしっかり行っておりましたわよ」

火影

「ああ気配でわかるよ」

セシリア

(…ねぇ箒さん?私がいない間、一夏さんと何もありませんでしたわよね?)

(! む、無論だ!)

セシリア

(ならいいですわ)

「ああそういえば箒さん、今年は神楽舞をされたんですよね。拝見できなくて残念でしたわ」

「いや気にするな。見られるのも恥ずかしいしな」

 

すると次にシャルロットとラウラが入って来た。

 

シャル

「おはよう♪」

ラウラ

「おはようみんな。久々だな」

海之

「シャル、ラウラ。おはよう」

火影

「ようラウラ。休めたか?」

ラウラ

「ああ問題ない。部下も皆元気そうだった。私に嫁や弟ができたと言ったら皆凄く驚いていたぞ」

一夏

「そ、そりゃそうだろうな…」

海之

「パンチラインの調子はどうだ?」

ラウラ

「無論何も問題ない。嫁からの大事なプレゼントだからな。壊したり等しないさ」

シャル

「…ラウラ、本当に誤解を招くから気を付けた方が良いよ」

 

とその時鈴が入って来た。

 

「おっはよー♪」

「鈴か、新学期早々元気だな」

一夏

「いつ戻ったんだ鈴?」

「おとついよ」

セシリア

「あれ?鈴さんは母国に戻らない予定だったのでは?」

「最初はね。でもやっぱり向こうの家族に会いたくなっちゃって」

火影

「親戚の人は元気だったか?」

「ええ元気だったわ。叔母さん達にみんなの事話したら今度連れてきなさいってしつこく言われたわよ」

火影

「そいつぁ良かったな」

「うん。火影のおかげ…って何でもないわ!」

「後は本音か、簪は4組だが」

火影

「一緒に来ると言ってたぜ」

シャル

(…ねぇ鈴。僕が帰ってる間火影と何もなかった?なんかさっき火影の名前呼んだ気がしたけど)

(き、気のせいよ。…シャルこそ私と入れ替わりで帰って来たんでしょう?どうだったのよ?)

シャル

(ぼ、僕も何もないよ~)

(ふ~ん…まぁいいわ)

「あ、そうだ聞いてよ!火影、海之。ガーベラの加速に結構付いてこられる様になったわ♪魔具だっけ?あれってやっぱり凄いわね~」

火影

「凄いのは造った束さんだ。俺達は設計図を渡しただけだし」

一夏

「謙遜すんなって。俺のアラストルもパワーアップしてくれたじゃねぇか」

セシリア

「アラストルを?」

「ああ。海之がアラストルにケルベロスの様な雷弾を撃つ機能を加えたんだ。荷電粒子砲はこいつの射撃の腕ではまだ荷が重いからな」

一夏

「…言い訳できねぇ」

セシリア

「大丈夫ですわ一夏さん。射撃は私が訓練して差し上げますから」

 

するとそこに本音と簪が入って来た。

 

本音

「おはよ~みんな~!」

「おはようございます」

シャル

「本音、簪もおはよう。久しぶりだね」

火影

「元気だったか二人共?」

本音

「うん、元気だよ♪」

一夏

「はは、元気じゃないのほほんさんは想像できねぇな」

ラウラ

「うむ、それは確かに」

海之

「久々だな簪」

「うん。海之くんもみんなも元気そうで安心した」

「よくは知らんのだが…家の問題とやらは大丈夫だったか?」

「うん。そっちは特に…。ただ…ちょっとね」

「?」

火影

「簪、ケルベロスの訓練の方は順調か?」

「あっうん。棒とフレイルは結構大丈夫だけどやっぱり三節棍がまだまだって感じ」

セシリア

「それでもふたつは使いこなせていますのね。流石日本の代表候補生の簪さんですわ」

一夏

「…えっ?簪って日本の代表候補生だったのか?」

「今さら!?」

「う、うん、専用機が完成してなかったから今まで出ることはできなかったけど…」

一夏

「そうなのか…大変だな」

「……」

海之

(…簪)

シャル

「そういえば簪。今日朝職員室行った?」

「職員室?行ってないけど?」

シャル

「そう…。さっきラウラと一緒に行ったんだけど簪に良く似た人がいたから。でもちょっと雰囲気が違ったんだよね」

本音

「かんちゃんに良く似た人?ああそれなら」

 

キーンコーンカーンコーン

 

SHRのチャイムが鳴り、鈴と簪は自分の部屋に戻って行った。そして入れ替わりに千冬と真耶が入って来た。

 

真耶

「みなさんおはようございます。お元気でしたか?」

千冬

「おはよう。皆夏季休暇は有意義に過ごせたか?さて、今日から新学期だが早速今月の末には学園祭がある。更にまだ先だがキャノンボール・ファーストや専用機持ち専用のタッグマッチ戦。イベントは多数だが当然、それに向けての訓練やその分授業は更に過密なものになる。一学期の様な気持ちのままだとあっという間に置いて行かれるだろうからそのつもりでいる事だ!」

一夏

(うへぇ…)

 

ビュン!…カーンッ!

 

一夏

「あだ!」

 

千冬のチョークが一夏のおでこに直撃した。

 

シャル

「あ、あの距離から当てるなんて…」

ラウラ

「さすが教官」

千冬

「…さて、本日一限目は体育館にて全校集会がある、早速移動するぞ。織斑、号令!」

一夏

「は、はい!」

 

 

…………

 

IS学園 体育館

 

一限目を使っての全校集会及び始業式。座る所は自由らしく火影達はいつものメンバーで固まった。先ほど学園長による挨拶と話が終わったところであった。

 

一夏

「や、やっと終わった…。校長先生の話が長いのはどこも共通だな。中学もそうだったし」

シャル

「…そうかな?僕の前の学校の校長先生は結構あっさりしてたけど」

セシリア

「私もですわ。こちらに来てから知りましたわ」

一夏

「マジか…じゃあ日本だけなのか?」

 

とその時、進行役の生徒が次のカリキュラムを言う。

 

「それでは最後に、生徒会長からお話がありますので上がって頂きます。それでは生徒会長、どうぞ」

 

一夏

「…げえまだ続くのか…って!」

 

すると上がって来たのはひとりの少女。水色の肩までの髪の毛に赤い目…その見た目は簪に良く似ていた。

 

「…あれは簪?」

火影

「…いや簪はここにいるぞ。それに少し感じが違う」

ラウラ

「シャル、もしかしてあの娘ではないのか?私達が見かけたのは」

シャル

「うん…そうかも」

海之

「そうか簪、あれがお前の」

「…うん」

 

海之は以前簪から姉がいるという話を聞いていたのを思い出し、前の少女がその人物と思った。

 

簪に似た少女

「みんなおはよう!そして今日初めて会う子は初めまして!一学期は色々あってご挨拶がおくれて申し訳なかったね!IS学園の生徒会長、更識楯無です。宜しくね♪」

 

楯無と名乗った少女はそう言うといきなり扇子を開いた。そこには「宜しく!」と書かれていた。

 

本音

「かっちゃんここでも相変わらずだね~」

火影

「知り合いか本音?…それに更識ってことは」

海之

「ああ。あれが簪の姉だ」

「簪にお姉さんなんていたんだ」

一夏

「知ってたのかよ海之?しかし簪に良く似てんなぁ」

セシリア

「確かにそうですわね」

「だが姉妹とはいえ簪とは随分性格が違う気がするな」

本音

「あはは、まぁね~」

「……」

 

火影達が言っている間に少女の話は始まった。

 

楯無

「では改めて、一学期はみんなに挨拶できる時がなくてごめんなさい。その分二学期はみんなと色々やりたいし交流していきたいと思っているからね♪それでは早速だけど今月末にはみんなお待ちかねの学園祭があります!そこで生徒会からの提案なのですが、あっ提案と言うよりもう半分決定事項なのでみんな協力してね~♪」

 

ザワザワザワザワ

 

いきなりの発表に少々ざわつく生徒達。

 

シャル

「…ほんと簪とは違うね…」

ラウラ

「うむ。果断即決にして豪胆無比だ」

「なんかわかるわ~」

「…もうお姉ちゃんったら…」

 

多くの者が困惑する中、楯無は言葉を続ける。

 

楯無

「もう知ってると思うけど今年はみんなお望みの男子、それも三人もいるわ!しかも揃ってイケメン!今年の一年生は運が良いわねぇ♪とまぁそんな訳で今学園祭限定の企画を開催します!その名も…「各部対抗織斑一夏争奪戦」!はい拍手~!」

 

パチパチッ

そう言うと楯無は一人拍手する。他の生徒達は暫く黙っていたがやがて、

 

生徒

「「「えーーーーーーーーーーーーーー!」」」

一夏

「は~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」

 

当の一夏は一番の仰天の声を上げた。楯無は話を続ける。

 

楯無

「はいはい静かにね~。ルールは簡単♪各部はそれぞれ催し物を行ってもらいます。生徒みんなには一枚ずつ投票用紙を持ってもらって一番良かったと思う部ひとつに投票してもらいます。その結果、一番評価が良かった部に織斑くんを強制入部させましょう!」

生徒

「「「おーーーーーーーーーーーーーっ!」」」

一夏

「ちょっと待て―ーーーーーーーーーーー!!」

 

思わぬ企画に驚きと喜びを含んだ歓声が生徒達から上がった。対して一夏の方は冗談じゃないという様子だ。すると一番前の生徒が楯無に問う。

 

生徒1

「あの~生徒会長、エヴァンスくん達はどうするんですか~?」

生徒2

「二人の名前が無かったですけど~?」

生徒3

「私は火影くんか海之くんが良いでーす!」

「? そういえばそうね?」

「うむ。確かに一夏しか呼ばれていないな。何故だ?ふたりは何か部に入っているのか?」

火影

「いや入ってない。てかそんな暇無かったしな」

海之

「うむ」

一夏

「じゃ、じゃあ尚更何で!?」

 

一夏達はもちろん火影や海之も疑問に思っていた。すると生徒の問いに楯無が答える。

 

楯無

「うん、良い質問だね♪それは簡単だよ!エヴァンスの…ああもうこの呼び方ややこしいから名前で呼ぶね。火影くんと海之くんは…たった今から生徒会に入ってもらう事にしました~!はい拍手~!」

 

パチパチッ

 

火影・海之

「「…!」」

生徒達

「「「えーーーーーーーーーーーーーっ!」」」

「お、お姉ちゃん何を!?」

ラウラ

「き、聞いてないぞふたり共!」

セシリア

「い、いえラウラさん。あの方のお話からして多分おふたりも知らなかったのではないでしょうか?」

シャル

「僕もそう思う…。「たった今決めた」って言ってたからね」

「火影、事前に話は無かったの?」

火影

「…ああ全く」

海之

「…ハァ」

「なんと強引な。…まぁお前達はどの部に入ってもおそらく主力級の活躍を見せるだろうから妥当かもしれんな」

一夏

「じゃあやっぱ俺だけなのかよぉ~…って、のほほんさんは火影達の事あんま驚いてないのな」

本音

「そ、そぉ~?」

 

するといる場所に気付いていたのか楯無は火影と海之を指さして言う。

 

楯無

「学園に入って以来怒涛の活躍を見せる双子のイケメン兄弟!ふたりとも文武両道!その上半年前、旅客機を命懸けで救う行動を見せる勇気!そんな君達が生徒会に入ればこのIS学園はより良くなること間違いなし!期待してるよ二人とも♪早速今日の放課後、ふたり共生徒会室に来てね~!…それでは私のお話はこれで終わります。今日も一日頑張りましょう~」

 

楯無はまた扇子を広げ、そこには「意気軒昂」と書かれていた。その後、全校集会は終了した。

 

 

…………

 

同日 放課後

 

火影と海之、そして同行を願い出た簪の三人は生徒会室に向かっていた。

 

「ふたり共…本当にごめんね。お姉ちゃんが勝手な事言って迷惑かけて」

火影

「気にすんな簪、お前は悪くねぇよ」

海之

「ああ」

「うん…。でもなんであんな事言いだしたんだろ」

火影

「さぁな…もしかしたら俺達を調べたいのかもしれねぇな」

海之

「或いは監視下に置きたいのかもしれん」

「…えっ、ど、どういう事!?」

 

簪は二人の言いだした事に驚いた。

 

火影

「あの後考えたんだけどな。よく考えりゃ今まで良く無事だったなって思ったのさ。俺達は身元こそはっきりしてっけど…大部分ははっきり言って異常だからな。俺達のISといい戦い方といい。そんな俺達を100%信用できるかっていったら全員がはっきりできるって答えられるものじゃねぇかもしれねぇ。だからこれを機に俺達を監視下に置いて安全性を確かめたいのかもしれんってな」

海之

「その結果信用されなければ…退学という事も考えられる。或いはISの強制回収等な」

「! そ、そんな!?」

 

簪は酷く驚いている。しかしその次に力強く言った。

 

「私は、私は海之くんと火影くんを信じる!例えお姉ちゃんが何か言っても私はお姉ちゃん以上にふたりを信じる!もしふたりを悪く言う人がいたら絶対に許さない!…ううん私だけじゃない、きっとみんなも同じだよ!一夏くんも箒もセシリアも鈴もシャルもラウラも本音も、みんなふたりを信じてるよ!絶対!」

火影・海之

「「……」」

 

火影と海之はかなり驚いていた。簪がこんな声ではっきりと言うとは。

 

「…あっ!ご、ごめんなさい。私…」

海之

「…いや。ありがとう簪」

火影

「ありがとな。まぁあくまでも最悪の結果の場合だ。安心しろ」

「う、うん…」

 

火影と海之は安心させるように簪に語りかけ、生徒会室に向かった。




おまけ

同日の昼休みにて


「ねぇそういえば火影。あんた一人称今まで「僕」だったのに今日は「俺」って呼んでるの?」
火影
「ああ。思ったんだが俺の普段の喋りと「僕」ってのがどうも合わない気がしてな。だから「俺」にしたんだ。変か?」
(俺自身合わない気がしてきたしな…)
本音
「ううん、そんなことないよ~。自然~」
シャル
「確かに僕もそう思うな。カッコいい」
火影
「どうも」

こうして火影は「僕」から「俺」になった。


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Mission78 更識楯無との会合

IS学園は夏季休暇が終わり、新学期が始まった。火影や海之、一夏達も久々にいつものメンバーで集まって再会を喜ぶ。
そんな新学期初日の第一限は体育館での全校集会。そこで火影達が出会ったのは生徒会長にして簪の双子の姉、楯無であった。彼女は今月の末に開かれる文化祭の話の後、火影と海之のふたりを生徒会に強制入会させると言いだす。新学期早々波乱を予感する火影と海之であった…。


IS学園 生徒会室前

 

本日の総会で火影と海之は生徒会長である更識楯無によって生徒会に強制的に入会させられる事になった。更に楯無から放課後に生徒会室に来てほしいと言われた火影と海之は簪と一緒には部屋の前に来ていた。

 

火影

「ここか…」

海之

「…簪。お前は入らない方が良い」

「…えっ?」

海之

「今のお前は先程の例え話を聞いて少し心が乱れている。そうなるとは限らんが万が一そうなった場合お前と姉とで言い争いになってしまう可能性がある。それは俺達の望む事ではない」

火影

「…確かにそうだな。簪、後は俺達だけで行くぜ」

「で、でも…」

海之

「心配するな」

 

火影と海之に止められて簪は渋々了承した。そして、

 

火影・海之

「「失礼します」」

 

ガチャッ

二人は扉を開けて入って行った。

 

楯無

「いらっしゃ~い♪良く来てくれたね、えらいえらい!」

眼鏡をかけた女性

「お待ちしておりました」

 

部屋の奥のデスクには楯無がいた。その横には女子生徒が二人。一人は一見自分達の先輩であろう眼鏡をかけた女性。そしてもう一人は、

 

本音

「ひかりん~、みうみう~、いらっしゃ~い」

 

本音だった。

 

火影

「…本音?お前生徒会所属だったのか?」

本音

「うんそうだよ~。書記をやってるの~」

海之

「…とすると日頃の仕草は芝居か。能ある鷹はなんとやらだな」

楯無

「ううんそんなこと無いよ。本音はいつもこんな感じだから~」

本音

「いや~それほどでも~」

火影

「褒めてるわけじゃねぇと思うが…。そちらの人は?」

女性

「申し遅れました。私この生徒会で会計を担当しております布仏虚と申します。お見知りおきを…」

本音

「因みに私のお姉ちゃんで~す♪」

火影

「…だと思ったよ。外見が良く似ている。…外見だけは」

海之

「ああ外見だけはな」

本音

「ほへ?」

「…お恥ずかしい限りです。…ああ申し訳ありません。只今お茶をお入れしますね」

楯無

「虚ちゃんの入れてくれるお茶は美味しいから期待して良いよ♪さ、座って座って」

 

 

…………

 

火影

「…美味しいです」

海之

「ええ」

本音

「でしょ~」

「ありがとうございます」

楯無

「やっぱみんなに愛される味だよね~!でも君達も料理上手いんでしょ?本音から聞いたよ。今度作って来てよ?」

「お嬢さま、少々強引では?」

楯無

「気にしない気にしない♪…ああそういえばちゃんとしたご挨拶がまだだったね。先ほども名乗ったけど私は更識楯無。2年生だよ。宜しくね♪」

扇子

(宜しく!)

本音

「かっちゃんはロシアの代表でもあるんだよ~」

火影

「ロシアの?へぇそれは凄い。1-1の火影・藤原・エヴァンスです。初めまして」

海之

「海之です。宜しくお願いします」

楯無

「君達の事は本音からよく話聞いてるよ。特に火影くんの話なんてしょっちゅう」

本音

「わーわー!」

楯無

「あと海之くん。簪ちゃんと仲良くしてくれてありがとうね」

海之

「礼を言われることはありません。俺は助言しているだけです」

楯無

「ううん、そんなこと無いよ。タッグマッチに出たいと言った事も先日のスメリアに行きたいと言い出した事も。前のあの子からしたら考えられないもの。…あなたや火影くんの影響かな」

海之

「俺達は何もしていません。簪の強さです」

火影

「簪はそれほど弱くはありませんよ」

楯無

「そう言われると姉の私としても嬉しいわ♪」

海之

「……簪とは最近は?」

楯無

「…う~ん…なかなかね…、まだあの子側に遠慮があるみたいだし」

火影

「? 先日のスメリア行きの相談時に話してないんですか?」

楯無

「…まぁね」

本音

「かっちゃん…」

「お嬢さま…」

火影

「…更識さん。ひとつ聞いても良いですか?」

楯無

「? なに?火影くん」

火影

「何故俺と海之を生徒会に?」

楯無

「言ったでしょ?君達の才能が欲しいんだよ♪」

火影・海之

「「……」」

 

火影と海之は楯無が中々本音を見せないのでこちらから仕掛けてみる事にした。

 

火影

「…良いんですか?俺達の様な者を入れても」

楯無

「…どういう意味?」

火影

「単刀直入に聞きます。あなたは…俺達を監視するために生徒会入りを決めたのでは無いですか?」

本音

「…えっ?」

「……」

楯無

「ふふっ、何言ってるの?私は」

海之

「失礼な事を言っているのは分かっています。ですが俺達は本気で話しています。そちらも本気でお話いただきたい」

楯無

「……」

 

楯無はふたりの言葉に嘘はない、本気であると感じていた。そして、

 

楯無

「…はぁ、織斑先生の言ってた通りね~。君達って本当に16歳?なんかもっと人生経験してる先輩っていう位の気迫を感じるんだけど。…まぁ良いや、君達の本気に答えて私も話してあげるよ」

「お嬢さま…」

本音

「かっちゃん…?」

火影・海之

「「……」」

 

火影と海之は黙って聞く事にした。

 

楯無

「私は君達の事を入学した時から知ってたんだけどね。その時から興味があったって言うのはほんとだよ。何しろあの篠ノ之束博士の推薦で、しかも博士も知らないIS持ちって聞いたからね。私も凄く驚いちゃった。あっ因みにそれは織斑先生から聞いたのであって別に盗み聞きしたわけじゃないからね?…で、興味が一層強くなったのは一組のクラス代表決定戦後の君達の試合を見た時かな。ふたりとも正直とても数ヶ月で動かせる様な動きじゃなかったしね。だから私の方でも悪いけど色々調べさせてもらったんだよ」

 

火影

「…と言う事は俺達のISを動かしていた期間についても」

楯無

「うん、織斑先生から聞いたわ。実は数ヶ月どころか9年間も動かしていたなんて。でもそれじゃあの動きも納得できるわ。ふたりとも国家代表レベルどころかそれ以上だもん」

火影

「…本音、お前も知ってたのか?」

本音

「…うん、…ごめんねひかりん」

火影

「…気にすんな。どうせ何時か分かる事だ」

楯無

「…そしてこの数ヶ月で色々わかったよ。ふたりとも共に赤ん坊の時にスメリアで拾われて出生は不明。記録も無し。まぁふたり共捨て子なら記録が無いのも理解できるからこれは仕方ないよね。でも実の兄弟である事は判明している。保護者はスメリアの今は亡きエヴァンスご夫婦。その後ご夫婦の養子として育てられる。おまけで調べた事も話すとふたり共文句無しの文武両道。特に海之くんなんて小中に続いてここでも全校一の成績。更におまけでどちらも超イケメン♪…とまぁ君達本人の事は出生以外ははっきり言って何も疑問無し。…ただ、どうしても分からない事があるの」

 

火影と海之はその言葉を聞いて次の言葉が分かった。

 

火影

「俺達のIS…ですね?」

楯無

「その通りよ。先ほども言った通り君達のISは9年前、突然君達のアミュレットが起動した事によって世に出てきたとあったわ。そして篠ノ之博士はそれの開発に関わっていない事もわかってる。でも9年前と言えばISが世に出てまだ一年しか経っていない頃よ。そんな時に篠ノ之博士以外の人がISを造れるなんてちょっと考えられない。もっと言えばそのアミュレットは赤ん坊だった頃の君達と一緒に拾われたんでしょ?もし最初からそのアミュレットにプログラムが組み込まれていたなら16年以上も前にそれがあった事になる。そんなの考えられないわ」

火影・海之

「「……」」

楯無

「もっと言えば君達のISは他のものとは違いすぎる。従来のデザインには無いデザイン、急所部分のみの絶対防御、剣や銃弾をそのまま受ける装甲。更にISは操縦者の技術がダイレクトに反映されるけど君達のそれは度を超えている。オーバーテクノロジーとかそんな話じゃないわ。はっきり言って異常なのよ」

火影・海之

「「……」」

本音

「か、かっちゃん、ちょっと言い過ぎじゃ」

「…黙っていなさい本音ちゃん」

楯無

「結果、君達のISについては何ひとつ分からなかったわ。正直お手上げ~。でもとても君達以外の誰かに使える様な物じゃないわね。正直危険すぎるわ」

火影

「…それでどうします?俺達を」

楯無

「…どうするって?」

海之

「そんな危険な物を持っている俺達が学園にいたら色々不都合でしょう?しかもタッグマッチ戦の頃に俺達の存在は少なからず世界に知られてしまっています。場合によっては俺達を退学させたりした方が宜しいのではと思いまして」

本音

「! み、みうみう何を言ってるの!?」

楯無

「……」

火影

「本音。これは決して簡単な問題じゃない。学園の安全に関する問題だ」

本音

「ひかりん…」

「……」

 

楯無は黙っていたがやがて口を開く。

 

楯無

「…確かにそれが最善なのかもしれないけどね」

 

その時、

 

ガラッ!

生徒会室の扉が勢いよく開いた。

 

その場の全員

「「「!!」」」

「お姉ちゃん!」

 

そこにいたのは簪だった。彼女は気が高ぶっている様子だった。

 

海之

「簪…!」

火影

「お前…」

本音

「かんちゃん!」

「簪様…」

「なんで、なんでそんな事言うの!?海之くんも火影くんも何も悪いことしてないじゃない!なんでふたりを危険とか言うの!?なんで二人を退学とか言ったりするのよ!?」

楯無

「簪ちゃん…」

海之

「簪…お前今の話を…」

「…ごめん海之くん。聞いちゃった…」

海之

「…そうか」

火影

「簪、生徒会長が言っている事は間違ってはいない。学園のためには当然の考えだ」

「…それでも、それでもさっき言った通り私はふたりを信じる!みんなだって!海之くんや火影くんがいてくれなかったら、私は今もきっと変わってなかった。ふたりは私やみんなをたくさん助けてくれた。ふたりがみんなを危険にさらすとかそんな事ある筈無い!ふたりのISだってそう!確かに分からない事だらけかもしれないけど…、海之くんと火影くんのISだもの。きっと大丈夫だよ!」

 

簪は力強くそう言った。更に楯無に訴える。

 

「だから、だからお願いお姉ちゃん!ふたりを学園から出て行かせないで!ふたりを信じてあげて!みんなからふたりを取りあげないで!……私から…くんを…取りあげないで…」

楯無

「…簪ちゃん」

 

簪は半分泣きながら最後は消えそうな声で訴え、海之にしがみついた。

 

本音

「…かっちゃん、私からもお願い。確かにひかりんやみうみうのISは他とは違うよ。それは私もなんとなくわかるよ。でもひかりんとみうみうだもん。きっと大丈夫だよ…」

楯無

「本音…」

「本音ちゃん…」

 

楯無は簪や本音を見て暫く何も言えなくなった。そして二人がただ変わっただけでなく強くなったという事も感じていた。

 

「…簪様、大丈夫です。最後までお嬢さまのお話を聞いてあげてください」

「……えっ?」

楯無

「…火影くん、海之くん。君達がさっき言った通り、最初は学園から出て行ってもらった方が良いと私も思ったわ。それについては否定しない。ごめんなさい。でも君達は…既に多くの人に良い影響を与えているわ。君達の一組だけじゃなく他のクラスのみんなにも、かんちゃんや本音にもね。…安心して。君達をどうこうしたりなんてしないから」

「ほ、ほんと!?」

楯無

「ええ本当よ」

火影

「…まぁそういうわけだ」

海之

「安心しろ、ふたり共」

「…うん…うん」

本音

「信じてたよ~かっちゃん!」

楯無

「それにふたりに何かしたら夜も眠れない位女子生徒達からストライキを起こされるかもしれないし♪」

扇子

(一揆!)

火影

「一揆って…」

 

火影はそう言うが学園にいる男子は火影、海之、一夏の三人だけ。その内のふたりも辞めるなんて事になったら学園の女子生徒達はパニックになってしまうだろう。

 

楯無

「まぁでも予定通り君達は生徒会に所属してもらうね。その方が色々やりやすいでしょ?因みに役職だけどそれは追々決めるわ。まぁ君達ならなんでもできそうだけどね~」

扇子

(博学多才)

火影

「随分かってくれるんですね」

楯無

「まぁね!でもそこまで簪ちゃんや本音の心を掴んでしまうなんて…なんか妬けちゃうわねぇ♪」

「ええ私も妬けちゃいます」

「! お、お姉ちゃん、虚まで!」

楯無

「…うん、決めたわ!」

海之

「? 決めたとは?」

楯無

「早速最初の指示よ♪今から私と戦って!」




おまけ

本音
「…そういえばひかりん。ひかりんとみうみうって9年前からIS動かしてたんだよね~?」
火影
「ああ。隠してて悪かったな」
本音
「ううん、それはいいんだけど…」
海之
「どうした?」
本音
「9年前って言ったらひかりんとみうみうって7歳でしょ?IS纏ったら大きさどうなるの?」
火影
「ああ…等身大サイズだからあれがそのまま縮小した感じだ」
楯無
「へぇ~!じゃあ昔は小悪魔だったんだ~。か~わ~い~い~♪」

「お嬢さま。それは意味が違うかと…」


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Mission79 ウェルギエルの奥義

火影と海之は楯無からの指示で生徒会室を訪れる。部屋には楯無の他に書記を務める本音、そして本音の姉でもある会計の虚がいた。
話しあいの中、火影と海之は何故自分達を生徒会に入れたのか、その真意を楯無に聞くと楯無は火影と海之に興味を持った事とそれ以上にふたりのISの危険性とそれを持つ二人が気になっている事を素直に打ち明ける。
するとそこに部屋の外で聞いていた簪が乱入し、ふたりを信じてほしいと必死に訴える。彼女らの説得に応える形で楯無はふたりに何もする気はないと約束。一同が安心する中、楯無がいきなり火影と海之のどちらかと戦いたいと言ってくるのであった。


IS学園内 某アリーナ

 

あの生徒会室の一件の後、火影や楯無達はここに来ていた。そして中央にISスーツを身につけた楯無、そして海之がいた。観客席には火影や簪達、そして一応アリーナを使うので千冬もいた。

 

千冬

「全くいきなりアリーナを貸してほしいというからなんだと思ったら…」

「すいません先生…」

千冬

「ああいや更識、お前のせいではない。気にするな」

 

発端となったのは楯無の一言だった。

 

楯無

(生徒会長として君達に命令します!どちらか私と勝負しなさい♪)

 

火影と海之に関しての生徒会の一件の後、楯無はいきなりふたりに勝負を願い出た。理由は?と聞くと、

 

楯無

(一度戦ってみたかったのよね~♪もし勝ったら君達に悪い気持ちを持たせてしまったお詫びにひとつだけ何でもお願い聞いてあげるわよ~♪)

扇子

(約束!)

 

如何にも至極簡単な理由である。そして話し合った結果、名乗り出たのが海之であった。

 

火影

「しかし日本じゃなくロシア代表か、候補とかでもねぇんだな」

「はい。お嬢さまのIS「ミステリアス・レイディ」はロシア製のIS「モスクワの深い霧」をベースにお嬢さまご自身で造り上げた機体です。故にロシアの代表という形態を取っておられます」

本音

「おまけにかっちゃん自身もめちゃんこ強いからね!」

火影

「成程」

「……」

千冬

「更識と海之か…どんな勝負になるかな」

 

千冬も含め、誰もが勝負の行方が気になる様子だった。

 

 

…………

 

アリーナ中央

 

楯無

「海之くん。付き合ってくれてありがとね♪」

海之

「いえ」

楯無

「クールねぇ~。でも嫌いじゃないわよ♪」

海之

「……」

楯無

「…あと海之くん。簪ちゃんの事…ほんとにありがとね」

海之

「? 先程も言いましたが俺は助言しただけです」

楯無

「うん、君からすればそうかもしれないね。…でも簪ちゃんは君や火影くんに凄く感謝してると思うよ。約半年前までのあの子からしたらまるで別人みたいだもん。…なんだか羨ましいな」

海之

「?」

楯無

「簪ちゃんは君たちを、特に君を信頼しきってる。私なんかよりよっぽど。私が自分のISを自分で組みたてたりロシアの代表になったりした辺り…ううん、もしかしたらもっと前からかもしれない。あの子が私を避ける様になったのは…。私はそんなつもり無いんだけど…どうもあの子は私に対して劣等感を持ってるみたいなんだよね…。どうすればいいだろうって考えている間に今まで来ちゃって…」

海之

「…本当に苦手なら先程あなたがいる生徒会室に入ってきたりしないでしょう。俺達の事で勢いもあったとは思いますが。…ですが簪もいつまでもこのままではいけないと考えています。俺に話してくれましたから。あとは互いが歩み寄ろうとするタイミングだと思います」

楯無

「!…そう、あの子が。…うん、そうだね、…そうなのかも知れないね」

海之

「それに俺は間違いなく世界で最も仲が悪かった兄弟を知っています」

楯無

「え?」

海之

「…ふっ、気にしないでください」

 

かつて自分と火影、正確にはバージルとダンテは存在そのものが戦う理由となる位殺し合う仲であった。まぁその半分以上は自分の方に非があったのであるが…。そんな自分達が生まれ変わったとはいえ共に新しい人生を生きているのだから皮肉なものだ、と海之は感じていた。しかしだからこそ楯無と簪もきっとやり直せると思っていた。

 

楯無

「それじゃそろそろ始めましょ♪言っとくけど女だからって手加減なんていらないからね!」

海之

「無論です。そちらも手加減なんて無用ですよ」

楯無

「当然よ!ぶっ殺すつもりで行くんだから♪」

 

そして楯無は自身のISを展開する。全体的に水色のカラーで巨大なランスを携えた機体だ。

 

海之

「…それがあなたのIS」

楯無

「そ!これが私のIS、ミステリアス・レイディよ!覚えておいてね♪」

海之

「…わかりました」カッ!

 

そして海之もウェルギエルを展開する。

 

楯無

「…近くで見るのは初めてだけどやっぱり変わってるわね~。なんか悪魔みたい…ああごめんね、はっきり言っちゃって」

海之

「気にしないでください。案外間違ってませんから」

楯無

「…えっ?」

海之

「なんでもありません。…では始めましょう」

 

~~~~~~~~~~~~~

そして二人の戦いを始めるアラームが鳴った。

 

ドンッ!!

 

すると同時に海之が前に出る。

 

楯無

「!!」

 

急な反応に楯無は反応できずウェルギエルの閻魔刀の一撃を受けた。

 

ザシュッ!

 

…と思ったのだが、

 

海之

「…!」

 

確かに切ったと思ったそれは手ごたえが無く、やがて水の塊となって崩れ落ちた…。

 

海之

「…今のは水?」

楯無

「そうよ!」

 

すると上空の方に楯無がいた。

 

楯無

「これがミステリアス・レイディの能力!ナノマシンによって水を操る事ができるの。今みたいに自分の分身体を作り出す事もできるわ♪」

海之

「…成程」

楯無

(危なかった…。念のために準備しておいて助かったけど後もう少し遅かったらまともに受けていたわ。なんて加速なの…)

「それじゃ今度はこちらから行くわよ!」

 

ズドドドドドドドドッ!

 

楯無は自らが持つランスからガトリングガンを斉射する。

 

海之

「…」

 

キキキキキキキキンッ!

 

一方の海之も幻影剣を展開しそれらを全て弾く。その時、

 

楯無

「はぁぁぁぁあ!」

海之

「!」

 

ガトリングガンを弾いている間に楯無がランスを構えて突進してきていた。しかし、

 

キィィィィィィン!

 

海之は閻魔刀でそれを受け止める。

 

楯無

「さすがね!今の攻撃に対応するなんて!」

海之

「どうも…円陣!」

 

ギュイイイイイン!

 

海之は幻影剣を回転させ斬りつける。…しかしそれも先程と同じく水の塊だった。今の会話の間にどうやらに分身を生成していた様だった。本物の楯無はまた離れた所にいた。

 

海之

「…流石ですね。今の瞬間に分身体を作っただけでなく更にそんな場所まで離れているとは」

楯無

「それはこっちの台詞よ。正直傷のひとつ位できるかと思ったんだから。最も君のISは凄い再生能力だから何の意味もないだろうけど」

海之

「ええ。ですから先程も言った通り殺すつもりでどうぞ」

楯無

「当然!」

 

 

…………

 

火影・千冬以外全員

「「「……」」」

火影

「流石はロシア代表だけの事はある。言っちゃ悪いが鈴やラウラ達より強いな…、ってどうしたんだみんな?」

本音

「えっと…やっぱみうみう凄いな~って思って」

「ええ。あのお嬢さまがここまでしても一撃も当てられないなんて…信じられませんわ」

「…うん」

千冬

「まぁ海之だからな。今までの相手とは違うのかもしれん。おまけに更識とは違ってあいつにはまだ余裕がある」

「…海之くん…お姉ちゃん…」

 

 

…………

 

海之と楯無の勝負は続いていた。どちらもまだ決定的なダメージは受けていなかったが海之の攻撃をナノマシンでかわし続けていた楯無の方がSEの消費は大きかった。

 

キイイイイインッ!

 

鍔迫り合いから二人は距離を取った。

 

海之

「流石です。お強いですね」

楯無

「はぁ、はぁ…そう言ってもらえて嬉しいわ」

海之

「貴女の腕ならあの黒いIS達も倒せる」

楯無

「…でも君まだまだ余裕がある感じね。お姉さんはこう見えてももう結構本気なのよ。…ねぇ、そろそろ君の本気も見せてよ♪」

海之

「…気付いていたんですか」

楯無

「もう意地悪ねぇ~、君がこの程度の訳ないでしょ!はっきり言うけど私の方がチャレンジャーだからね。お・ね・が・い♪」

海之

「……」

 

海之は目を閉じて暫く黙っていたがやがて、

 

海之

「…では少しだけ」

 

ドンッ!!

 

目つきが変わった海之は今まで以上のスピードで突如突進した。

 

楯無

「!! 速い!」

 

ナノマシンを生成する暇がないと感じた楯無は自身のランスで刀を受け止めようとする。しかし、

 

ガキィィィィン!

 

楯無

(! 刀じゃなくて鞘!?)

 

受け止めたのは刀が収まったままの鞘だった。その反動で抜かれた閻魔刀が上段から振り降ろされる。

 

ズガァァァン!

 

楯無

「きゃああああ!」

 

強烈な一撃を受けた楯無は地面に降下するが落ちる前に体勢を整える。しかし、

 

ズドドドドドドド!

 

楯無

「えっ!?」

 

無数の幻影剣が間髪入れず迫って来た。慌ててナノマシンを展開してそれらを避ける楯無。

 

楯無

「くっ…油断したわ…」

 

そして幻影剣を全て受け止め、身に纏う水のヴェールを解除した瞬間、

 

ズドズドズドズドズドンッ!

 

強烈な衝撃が楯無を襲った。

 

楯無

「きゃああああ!…な、なに!?…!」

 

楯無が目にしたのはブルーローズをこちらに向ける海之。幻影剣の後に展開し連射した様だ。

 

海之

「まだ戦いは終わっていませんよ」

楯無

「…くっ、スピードも攻撃もさっきまでとは段違いだわ。まさかこれ程までなんて…」

 

因みにこの間約数十秒。楯無は海之の力に驚きを隠せなかった。

 

 

…………

 

火影

「海之の奴一瞬本気だったな」

本音

「…みうみう速~い…」

「…信じられませんわ。あのお嬢さまが…圧倒されているなんて…」

千冬

「海之のレベルは代表候補や代表どころではない…最早次元が違う…」

「……」

火影

「簪、辛いなら見なくてもいいんだぞ?」

「…ううん大丈夫だよ火影くん。…私は大丈夫」

(これ位耐えられないと…お姉ちゃんに追いつく事なんて、海之くんを支える事なんてできない!)

 

 

…………

 

海之と楯無の勝負は佳境に入っていた。未だに決定的なダメージを受けていない海之に対し、楯無は先程のダメージが大きかった。

 

楯無

「くっ…、君って本当に強いわねぇ」

海之

「大した事はありません。まだ修行中の身です」

楯無

「それビミョーに傷つくんだけど…。どうやら勝負は私の負けが濃厚ね。でも簡単にはやられてあげたりしないわよ!……さっきからなんか蒸し暑くなってると思わない?」

海之

「?……!」

 

海之は周囲の異常に気付いた。見るといつの間にか周りに深い霧が発生していた。

 

海之

「これは…」

楯無

「見せてあげるわ。ミステリアス・レイディの真の力を!」

海之

「真の力…?」

楯無

「そうよ!君のISはダメージを直接受けるからできればこれは使いたく無かったけどね。でもこれ位しないと君には勝てないだろうから使わせてもらうわ!…受けなさい!」

 

カッ!!

 

楯無

「クリアパッション!!」

海之

「!」

 

ドガァァァァァァァァァァァァァァァン!!

 

突然海之の周囲で連鎖的な爆発が起こった。海之は避ける間も無くその爆発に巻き込まれるのだった…。

 

 

…………

 

千冬

「海之!」

「海之くん!」

本音

「みうみう!」

「…お嬢さま…まさかアレをお使いに…」

火影

「水蒸気爆発か…」

「確か海之くんのISって直接傷を受ける…そんな…そんな!」

千冬

「楯無の事だ、威力は抑えているだろうが…海之…」

火影

「…大丈夫ですよ先生、簪」

「えっ?………!」

千冬

「……あれは!」

 

 

…………

 

爆発による煙はまだ上がっていた。それに遮られて海之の姿は見えない。

 

楯無

(クリアパッションは自分のSEとレイディのナノマシンを犠牲にして行う一回きりの切り札…。これに耐えた者は今まで一度たりともいないわ。正直彼のISにこれは危険だから使いたくなかったけど。…でも間違いなく)

 

その時、

 

「…今のは驚きました」

楯無

「!!」

 

楯無は後ろから声がしたので振り向いた。するとそこには、

 

海之

「……」

 

無傷のウェルギエル、海之がいた。

 

楯無

「む、無傷!?そんな!」

海之

「成程…水を操れる力を用いた水蒸気爆発ですか。ただあれ程の攻撃、消費エネルギーも大きい様ですね」

楯無

「な、なんで!?さっき確かに爆発に巻き込まれた筈よ!?いくら再生能力が凄いって言ってもそんな簡単に」

海之

「ええあのままでは確かに受けましたよ。だから貴方と同じ手を使いました」

楯無

「? 私と同じ?」

「そうです」

楯無

「…えっ!?」

 

楯無は再び自分の後ろから声がしたので振り向いた。見るとそこには、

 

海之?

「……」

 

海之がいた。だが高速で移動した訳ではない。前と後ろに海之がいたのだ。

 

楯無

「!? ど、どう言う事なの!?」

海之

「これが俺のウェルギエルの秘儀「残影」です。貴方の機体と同じく分身を作り出せる能力です」

楯無

「!?じゃ、じゃあさっき爆発に巻き込まれたのは」

海之3

「ええ。これによって作った分身体です」

 

今度は上空に海之がいた。因みにこれも分身の様だ。

 

楯無

「も、もうひとり…、で、でも爆発に巻き込まれた君は確かにISの反応があったわよ?」

海之2

「俺の分身は熱源も質量も持っています。だからレーダーにも反応します」

海之4

「因みに分身体は無尽蔵に生み出す事が可能です。更に自在に操る事ができます」

海之5

「最もSEの消費が大きいのであまり多くは使えませんがね」

 

新たに横にふたりの分身が現れていた。楯無の周りには五人のウェルギエルがいた。

 

楯無

「…はぁ、ほんとに君達のISって規格外なのね…でも面白いじゃん♪」

海之

「どうします?先程の攻撃でそちらのエネルギーは殆ど尽きかけていますが…、まだやりますか?」

楯無

「…当然!降参なんて私の心が許さないわ!最後まで君には付き合ってもらうからね!」

 

楯無は笑ってそう言い、ランスを構える。

 

海之

「…分かりました。では俺も敬意を払います」

 

すると海之は閻魔刀を収め、海之と全ての分身体は楯無の周りを回る様に高速回転し出した。

 

楯無

「!」

 

囲まれる形になった楯無は逃げることができず、そして海之が言った。

 

海之

「次元斬…絶!!」

 

ズガガガガガガガガガガガガガガガガンッ!!

 

その言葉と同時に全てのウェルギエルが次元斬を使い、楯無の周辺に凄まじい真空の斬撃が起こった。

 

楯無

「きゃああああああああああ!!」

 

無数の次元斬を受けISも強制解除されて倒れかける楯無。それを海之が支える。

 

楯無

「…イタタ」

海之

「大丈夫ですか?」

楯無

「ええ。…君、大したダメージにならない様に攻撃してくれたでしょ?普通あれだけの攻撃受けたらこんなものじゃ済まないもの」

海之

「貴方が傷つくと簪や虚さん達が悲しみますから」

楯無

「…ありがとうね」

海之

「気にする事はありません」

楯無

「簪ちゃんが惹かれるだけの事はあるわ。あーあ、もっと早くに知り合っとけば良かったな~。惜しい事しちゃった♪」

海之

「…?」

 

 

…………

 

火影以外全員

「「「……」」」

火影

「久々にアレ使ったなあいつ。アレ使わせるなんてやっぱあの人強えよ」

本音

「みうみう…凄すぎだよ~…」

「ええ本当に…。まさかこれ程の方がいるなんて」

「……」

(海之くんもお姉ちゃんも無事で良かった…。私がずっと越えたいと思っているお姉ちゃん、そんなお姉ちゃんを簡単に倒してしまった海之くん。今の私にはとても届かない…。でも諦めない。頑張って、ケルベロスも使いこなせるようになって、もっと強くなってみせる!)

千冬

「……」

(海之のあの力…。それにきっと火影の奴も同じ位の力を持っているんだろう…。こんな力を持つ二人を更識が危険視する気持ち、教師としては分からなくはない。…しかし私にはどうしてもふたりを手放す気になれない。ふたりは信じられる、…必要な存在だ)

 

想いはそれぞれであった。




ようやくウェルギエルの残像能力と次元斬・絶を出すことが出来ました。
あと海之の一撃目が鞘で二撃目が剣というのはるろうに剣心の双龍閃・雷から考えてみました。


お詫び
Mission77にて楯無の初登場時、彼女を簪の双子と謝って書いておりました。読者の方にご指摘頂いて間違っていると気付きました。78,79には双子を表す記載は書いていませんでしたので大丈夫でしたが、間違いました事、大変申し訳ありませんでした。


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Mission80 学園祭は何をする?

「どちらか私と勝負しなさい!」

楯無からの突然の勝負の申し込み、それに海之が受けて立つことになった。最初は良い勝負の様に思えたが楯無は海之の圧倒的ともいえる力に次第に追いつめられる。
やがて楯無は自らのエネルギーを犠牲にして放つ切り札「クリアパッション」を使うがそれすらもウェルギエルの秘儀「残影」によって回避されてしまい、勝負は海之の圧勝で終わる。しかし楯無の表情はどこか満足そうであった。


楯無と海之の人知れず行われた勝負から三日が経った。

楯無の怪我はそれほど大したものではなく、二日目には既に完治していた。彼女の言う通り海之がレイディのエネルギーをちょうど0にする位のダメージにした事が幸いだったようである。彼女が完治した後、火影と海之の役割を何にするかを生徒会全員で考えた結果、特別実行委員という形に落ち着いた。これはもしそれが必要であるならば教師や先輩の許可を得る必要無く、二人の独自の判断で動いても良いというものである。ふたりの力を信じた楯無の配慮であった。そして三日目の放課後、火影と一夏は共に帰宅していた。

 

寮内廊下

 

一夏

「ふ~ん特別実行委員ねぇ~。非常時は勝手に動けるってのは融通が利いて良いな」

火影

「その分責任も大きくなるがな。万一の時は判断が委ねられるんだから」

一夏

「まぁでもお前や海之なら心配いらねぇだろ。俺達が保証するぜ。…おっと俺の部屋前か、じゃあな火影」

 

そう言って一夏は扉のノブに手をかけ、火影もそこを離れた。

ガチャッ

 

「おかえりなさい!わたしにします?私にします?それともワ・タ・シ?」

火影

「……へっ?」

一夏

「……」

 

…パタンッ

一夏は部屋の扉をゆっくり閉めた。自分の部屋に向かおうとした火影も先程の声が聞こえて戻って来た。

 

火影

「おい一夏、今お前の部屋から…」

一夏

「……」

 

火影の問いに一夏は何も答えなかった。そしてまたゆっくり扉を開ける。

ガチャッ

 

楯無

「おかえりなさい!わたしにします?私にします?それともワ・タ・シ?」

火影・一夏

「「……」」

 

それはよく見ると水着の上にエプロンを付けた楯無だった。火影と一夏は暫く黙っていたが、

 

火影・一夏

「「……なんだ(なんじゃ)こりゃーーーーーー!?」」

 

 

回想

 

楯無

(私に織斑くんの訓練を?)

海之

(はい。会長にお願いしたいのです)

 

二人の役割が決まった後、楯無は約束通り勝負に勝ったお礼に自分へのお願いを何にするか海之に尋ねた。すると海之は彼女に一夏の訓練をしてほしいとお願いしたのだった。

 

楯無

(でもなんで私に?君や火影くんがやった方が確実だと思うんだけど?)

海之

(もちろんできる時は俺達もやります。しかし色々な人から教えられるのも必要です。あいつは…一夏は必ず強くなります。会長の手で鍛えてやってほしいのです。それに…俺と火影には他にもやる事がありますから)

火影

(……)

楯無

(……)

(二人がやらなきゃいけない事…おそらく例の正体不明のIS達が絡んでるんでしょうね…)

 

楯無は暫く考えたがやがて、

 

楯無

(…わかったわ!任せなさい♪あと折角だからお友達のみんなも時々見てあげるわ!あと私の事はこれからはふたり共……刀奈でいいわよ)

扇子

(更識刀奈)

火影

(? 刀奈って…じゃあ今の名前は?)

楯無

(ああ、楯無っていうのは私の家で代々受けつがれる名前なのよ。私は17代目の楯無なの。知るのは虚と本音と簪ちゃん、織斑先生、学園長だけよ。それを知れるなんて結構名誉なことなんだから♪ああでもみんなの前では楯無って呼んでね。一応秘密だから)

火影

(そういう事ですか。分かりました)

海之

(ありがとうございます。俺達も…ってもう呼ばれていますね)

楯無

(でもちょっと意外なお願いねぇ~。てっきり付き合ってほしいなんて言われるかと思ったわ~。まぁ君達ならいつでも大歓迎だけどね。イケメンだし頭も良いし強いし♪そうだ!織斑くん争奪戦と並行して男子イケメン選手権もやろうかな~?きっと盛り上がるよコレも~♪)

火影

(ははは…)

海之

(ハァ…)

 

回想終

 

 

こうして楯無は一夏のコーチをする事になった。名前の事だけを隠して火影から事情を聞いた一夏はとりあえずそれについては納得した。しかし問題はまだあった。

 

一夏

「それでなんで俺と相部屋になってるんですかーーーーーーー!?」

 

そう、海之からの依頼では楯無はコーチだけの約束だったのだが、その後彼女は一夏と自分を会長特権を使って相部屋にしたのである。尚一夏と相部屋だった箒は今日から鈴と相部屋にしたという。

 

火影

「か…楯無さん。海之はただ単に訓練をお願いしただけなんですが…」

楯無

「気にしない気にしない♪互いの癖ややり方を知るためにはこれ位やらないとね。その人の暮らし方や健康状態を知るのもコーチの重要な役割よ♪」

一夏

「そ、そんな事いきなり言われても…」

楯無

「さて…私の引っ越しも終わったし、明日から早速やるよ!それではその前に一夏くん、何かおやつ作って♪」

一夏

「…はい?」

楯無

「これも会長特権ってやつよ♪」

一夏

「こんな事に特権使わないでくださいよ…。おい火影、お前も手伝え。お前にも責任あるんだぜ?」

火影

「……やれやれ」

楯無

「ふふっ、男子二人から専属でおやつ作ってもらえる女子って私が初めてかな~♪」

 

こうして一夏と火影は楯無のデザートを作る羽目になった。

 

 

…………

 

翌日。火影と一夏は昨日起こった事を海之や他のみんなに話した。

 

海之

「そんな事が…。すまん一夏、良かれと思ったのだが逆に迷惑をかけてしまったようだ」

火影

「わりい…」

「海之くんや火影くんが悪い訳じゃないよ…ごめん一夏くん。それに箒も」

一夏

「ああいや、コーチをしてくれるのは素直に嬉しいんだけどさ。何しろロシア代表、あと後から聞いたけどあの人って学園でも随一と言われる実力者らしいし。ただ…天才と奇人は紙一重っつーか」

「う、うむ…。私もいきなり言われたのだが気付けば流されるまま部屋を変えられていた。なんというか凄い人だな…」

「私もいきなりルームメイトと箒が変わったと聞いて「はぁ~?」って思ったわよ」

火影

「…まぁ一夏の延長でみんなにも教えてくれるって言ってたから色々学ぶと良いと思うぜ。一夏もさっき言ったが腕は確かだから」

セシリア

「それは嬉しいですわね」

ラウラ

「しかし流石は海之だな。ロシア代表をあっさりと倒してしまうとは」

本音

「うん、かっちゃんをあんな簡単に倒しちゃうなんて私も驚いちゃった!」

海之

「あっさりは言い過ぎだ。次も上手くいくかはわからん」

シャル

「僕も見たかったなぁふたりの試合。でもそう考えると海之、あと火影もだけどもう代表とか以上のレベルなのかもしれないね」

セシリア

「確かアリギエルとウェルギエルはおふたりの所有なんですよね。更に母国も完全中立国のスメリア。無理に国際大会に出る必要もありませんけど…それだけのお力なのに世に出ないとはなにかもったいない感じがしますわね」

「一体どんな人なんだろうね?あんた達のISを造った人って」

火影

「…さぁな」

海之

「……」

「……」

(海之くん達のISは9年前、それどころかもっと前からあったかもしれないってあの時言ってた…。ISが初めて世に出たあの白騎士事件よりも前から…。でも…そんな事ありうるの…?鈴も言ってたけど…一体誰が造ったんだろう。そしてあれを造った人は…なんでふたりに…)

本音

「どうしたのかんちゃん?」

「えっ?う、ううん。何でも」

一夏

「ところで話は変わるが今日この後の授業ってクラスの出し物決めんだろ?」

「ああ確かその予定だ。鈴のクラスはもう決めているんだったな?」

「うん、中華喫茶やるの。まぁでも客は少ないと思うなぁ」

ラウラ

「何故だ?」

「だってすぐ隣の教室に学園唯一の男子が揃ってるのよ~?みんなそっち目当てで来る筈よ」

一夏

「へっ?なんで?」

一夏以外の全員

「「「…ハァ」」」

 

みんな恒例のため息を吐いた。

 

火影

「じゃあ休憩中になったら覗いてやるよ」

シャル

「僕も時間ができたら行くよ」

「お願いね♪」

 

キーンコーンカーンコーン

 

休憩終了のチャイムが終了し、それぞれが自分の教室に戻る。次の一組の授業は予定通り文化祭についてだ。最初に千冬と真耶から今年の学園祭の説明があり、その後に今年の出し物を決める。

 

一夏

「…それでは学園祭で何をやりたいか、みんな意見をお願いします」

 

教壇に立った一夏の指示でみんなそれぞれ意見を言っていった。……そして数分後、

 

一夏

「え~…みんなの意見もある程度揃った様なのでこれから順番に発表します」

 

そして一夏は黒板に書いたアイデアを読み上げていった。その内容はというと…

 

男子とポッキーゲーム

男子のスペシャル執事

男子と王様ゲーム

男子とお姫様だっこでツーショット写真館

男子とShall We ダンス

……

 

一夏

「…全部却下だぁーー!」

生徒

「えーーー?」

「なんでーーー?」

「納得いかなーーーい!」

一夏

「あほか!誰が嬉しいんだこんなモン!俺らの人権無視か!?」

火影

「確かに…ちょっと偏ってる気がする」

海之

「……」

 

男子三人は苦い顔をしている。だが女子達はそれに対して、

 

生徒

「私はどれでも嬉しいわ!断言できる!」

「同感です!三人は我がクラス、いえ学園の共有財産です!」

「そーだそーだー!」

「多数決しましょ!多数決!」

 

女子達はすっかりやる気になっている。

 

(一夏とポッキーゲーム…。しかしそんな事すればみんなが一夏とポッキーゲームできる事に!…ど、どうする!?)

セシリア

(一夏さんと一緒にダンスしたいですわ~♪)

シャル

(火影が執事したらどうなるかなぁ~似合いそうだなぁ~)

本音

(ひかりんに執事してもらったらデザートとか食べさせてくれるのかなぁ~)

ラウラ

(結婚前に嫁と写真を撮っておくのも悪くないな…)

 

どうやら箒達もやる気まんまんな様であった。

 

一夏

「で、でも火影も言ってたけどこれ余りにも偏りすぎだろう!先生方もそう思いますよね!?」

 

聞かれた真耶と千冬のふたりは、

 

真耶

「ふぇっ!?わ、私は…い、いいと思いますよ?特にポッキーゲームした事ありませんから…ちょっと興味あります…」

火影

(いやいや先生、なんつーもんに興味持ってんですか)

一夏

「ちふ…織斑先生からも何か言ってください!……先生?」

千冬

「……」

(執事か…。海之が執事姿をしたら…画になるだろうな…)

 

…千冬もどうやら別の世界に行っている様だった。

 

火影

(織斑先生まで…)

海之

(…ハァ)

一夏

「千冬姉~。う~んでもなぁ~…」

 

とその時ラウラが言った。

 

ラウラ

「…それではメイド喫茶なんてどうだ?」

生徒

「「「!!」」」

 

その言葉に全員が目を向ける。火影達もまさかラウラからそんな言葉が出るとはと驚いている様だ。

 

ラウラ

「客受けは間違いなく良いだろう。喫茶だから経費の収入が見込めるし。それにメイド喫茶なら海之達が執事で出ることがあっても違和感無いしな」

生徒

「「「おーーーーーーーー!!」」」

 

他の生徒達もラウラの意見に乗り気の様だ。

 

火影

「んじゃ俺と海之と一夏は調理の方メインで入ろうぜ」

海之

「…そうだな。それでいい」

一夏

「…まぁ先の物に比べりゃマシか」

シャル

「じゃあ火影達の中でひとりずつ交代交代で執事やるっていうのはどう?男手もあれば助かるし」

(火影の執事姿見たいし♪)

生徒

「「「賛成ーーー!」」」

海之

「執事か…ギャリソンの仕事は子供の頃から良く見ているが俺にできるのか…」

ラウラ

「問題ない。お前達はいるだけでも立派に画になる」

生徒

「「「その通り!!」」」

一夏

「ハァ…もう却下できる雰囲気じゃねぇな。それじゃ出し物は…メイド喫茶で良いですか?」

生徒

「「「はーい!」」」

千冬

(海之の執事姿か…時間があったら見に行ってみるか。…って何考えているんだ私は!?)

 

こうして一組はメイド喫茶で決まったのだった。




おまけ

一夏
「さて、出し物は決まったわけだけど衣装はどうする?」
火影
「俺と海之は家にパーティに使う燕尾服があるからそれ送ってもらうか…」
シャル
「似合いそう~」
本音
「メイド服はどうする~?」
海之
「…いっそ作るか」
ラウラ
「裁縫もできるのか海之?」
海之
「難しい事じゃない」
火影
「教本通り針と糸を正確に扱えば誰にもできるさ」

「料理に裁縫…女子力高いなふたり共…」
セシリア
「私ももっと頑張りませんと…」

妙なライバル心を持つ女子達であった…。


※次回までまた間が開きます。すみません。


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Mission81 楯無の訓練

楯無と海之の勝負は海之の勝利に終わり、楯無は海之にお願いは無いかと尋ねると、海之は一夏達の訓練を頼みたいとお願いし、彼女は聞き届ける。すると早速楯無はその為の必要な事(自分の意見)として一夏と自分を相部屋にしてしまい、火影や一夏達を驚かせた。
そんな日の翌日、火影達の一組は学園祭で何をするか話し合う。男子と女子達で意見が噛み合わず、中々決まらないところでラウラがメイド喫茶を提案。収入が見込めて需要もあり、更に男子ばかり働かせる事もない。全員の意見はなんとか纏まったのであった。

※UAが60000に到達致しました。ありがとうございます。
また同時に誤字のご報告も多く頂いております。こちらもありがとうございますと同時にすみません。今後少なく出来るよう頑張ります。


IS学園 アリーナ

 

一組の出し物がメイド喫茶(+男子陣による執事のおまけ付き)に決まった当日の放課後、一夏はアリーナに来ていた。目的は昨日言った通り楯無による訓練を受けるためである。一夏の他にも当然の様に箒とセシリア、鈴、シャルロット、ラウラ。そして虚も来ていた。理由を尋ねると「お茶を入れるため」だそうだ。因みに火影と海之、そして簪と本音は来ていない。

 

楯無

「うん、よく来たね!えらいえらい」

扇子

(勤倹力行)

一夏

「ははは、来ないとどうなるか怖いですからね」

楯無

「お友達のみんなも良く来てくれたね。訓練も捗るよ♪。あと篠ノ之 箒ちゃんだっけ?昨日はいきなりの引っ越しでごめんね~。引越し先の方には前日に連絡してたんだけど君への連絡をすっかり忘れちゃってたんだ~」

「い、いえ。確かにいきなりで驚きましたがもう大丈夫ですから気になさらないでください」

楯無

「あそう?そう言ってもらえると助かるよ。ああちゃんとした自己紹介がまだだったね。生徒会長兼ロシア代表を務めてる更識楯無だよ。そして横にいるのは友達の布仏虚ちゃん。宜しくね♪」

扇子

(宜しく!)

「宜しくお願い致します」

一夏

「布仏ってことはのほほんさんの?」

「はい姉でございます。妹が御世話になっております」

「そうでしたか。あっ、篠ノ之箒です。こちらこそ宜しくお願い致します」

セシリア

「イギリス代表候補のセシリア・オルコットと申します。お会いできて光栄です」

「中国代表候補の鳳鈴音です。初めまして」

シャル

「シャルロット・デュノアです。一応フランスの代表候補です」

ラウラ

「ドイツ陸軍IS部隊「シュバルツェア・ハーゼ」所属にしてドイツ代表候補、ラウラ・ボーデヴィッヒであります。宜しくお願いします」

楯無

「はいはい宜しくね~。にしても未来の代表候補がここに四人も!しかも専用機持ちは全員なんて貴重だねぇ。もういっそ来年は専用機持ちのみのクラスを作ろうかな~♪」

一夏

「専用機といえば今日火影と海之は?」

「火影さんと海之さんは簪様と一緒におられます。簪様のIS作成が最後の作業に入っているので手伝ってくださっているのです」

シャル

「とうとう簪のISも完成するんだね」

楯無

「…っと時間がもったいなかったね、早速始めようか。んじゃまずは君達のISの使い方や基本の動き、あと簡単でいいから武器なんかもみせてもらえる?」

 

全員

「「「はい!」」」

 

そしてみんなそれぞれISを展開して動き始めた。

 

 

…………

 

それから数刻後、それぞれの動きを見た楯無が全員集合させた。片手に虚が入れた紅茶のカップを持ちながら。

 

楯無

「みんなお疲れ~。…うん、流石はみんな専用機持ちまたは候補生だけの事はあるわ。悪くないよ」

全員

「「「ありがとうございます!」」」

楯無

「ただちょっと気になる事があったから説明していくね」

 

そして楯無は一夏を指名する。

 

楯無

「まずは一夏くんね。ストレートにはっきり言わせてもらうけど…SEを無駄に使いすぎてるね。特にその原因となっているのはやっぱり荷電粒子砲。あと動き方もよ。確か君のISのスピード上げる剣、アラストルだっけ?それの効果も重なってスピードはかなりあるけど細かい部分にまだ無駄な動きが多いわ。そのせいでこれまた余計なエネルギーを使ってる。まぁ君の機体の燃費が非常に悪いってのもあるけどね」

一夏

「そうなんですよね…」

楯無

「そこでこれは火影くんや海之くんも同意見なんだけど…遠距離はアラストルの雷弾をメインにして荷電粒子砲は零距離で使って行きましょ。つまり相手を掴んで直接撃ちこむってわけ。そうすると命中率が格段に上がるし、無駄にSEを消費する事も少なくなるわ。元々君の機体は接近戦主体だから戦術にも合ってるしね」

一夏

「なるほど」

楯無

「そのためには今まで以上にSE消費とダメージを抑えつつ相手との距離を詰める訓練が必要ね。そうね~…篠ノ之さんとオルコットさん、手伝ってもらえる?」

「は、はい」

セシリア

「わかりましたわ」

楯無

「ふたり共、円状制御飛翔(サークル・ロンド)をやってもらえる?」

「円状制御飛翔って…円を描く様に動くものですよね?」

セシリア

「あれは射撃中心の動きだと思いますが…」

楯無

「うん。でもあれは攻撃しながら同時に相手の攻撃を細かいマニュアル動作でかわし、少しずつ距離を詰める訓練でもあるのよ。一夏くんの場合は攻撃をとにかくかわし続け、少しずつ零落白夜若や荷電粒子砲の範囲まで近づく訓練ってわけ。因みにこれは接近戦ならみんな使えるから篠ノ之さんにも役立つ筈よ♪」

「…なるほど。確かに私の紅椿も展開装甲があるとはいえ接近戦主体の機体ですからね」

セシリア

「よくわかりましたわ。箒さん、早速やってみましょう」

 

そして箒とセシリアによる円状制御飛翔(サークル・ロンド)が始まった。

 

ビュビュビュビュビュン!

ドンッ!ドンッ!ドンッ!バシュッ!バシュッ!

 

ふたりは円を描く様に飛び交い、その過程でそれぞれの射撃兵装であるスターライトとビット、そして刀から繰り出されるエネルギー刃の光が飛ぶ。

 

一夏

「箒もセシリアも上手いな~」

シャル

「流石だね箒。まだ専用機を持って間が無いのにもう動きが様になってるよ」

ラウラ

「ああ。それにセシリアの奴もまだ完全ではないようだが以前と違いビットを動かしながら自身も動けている。しっかり鍛錬を続けていた様だな。」

「ビットだけじゃない。今のセシリアにはローハイドもあるわ。剣の腕は箒や一夏程じゃないにしても接近戦もそう簡単には負けない筈よ」

 

それぞれが意見を述べていた中、

 

楯無

「……えい!」

一夏

「はっ!?」

 

突然楯無が一夏に抱きついた。

 

「なっ!?」

セシリア

「えっ!?」

 

当然箒とセシリアも驚く。その時、

 

ドオォン!ドオォン!

 

箒・セシリア

「「きゃあああ!」」

シャル

「あっ!」

ラウラ

「ふたり共!」

 

余所見をしている間に二人共お互いが放った攻撃に当たってしまった。

 

楯無

「お疲れさま~、もう良いよ~」

 

楯無はふたりを呼び戻した。

 

「ふたり共大丈夫!?」

「う、うむ、一応エネルギーは最小限にしておいたしな」

セシリア

「ええ。ですが更識さん、何故あのような事を…!」

 

すると楯無が少し真剣な表情で二人に言う。

 

楯無

「…それが君達の気になる点だよ。しの…もうみんな名前で呼ぶね。箒ちゃんもセシリアちゃんも、特に箒ちゃんは一夏くんに何かあると直ぐに注意を反らしてしまうんだよ。今のも撃ち合っている時なのに私のあんなイタズラで止まっちゃうし。もしあれが本当の戦いだったらふたり共撃ち落とされてるよ?」

ラウラ

「…確かにそうだな。それに関しては私も同意見だぞ?」

箒・セシリア

「「う…」」

楯無

「好きな子になにかあったらという気持ちはわかるけどね。でも戦いの場ではちょっとした油断が大きな過ちになる事もある、その事を肝に銘じておきなさい。それと箒ちゃんの紅椿だけど…一夏くんの白式と同じ位燃費が悪いわね。でも紅椿ってワンオフアビリティーでSEを補給できるって聞いたけど?」

「は、はい。ただどうも発動条件がはっきり分からなくて…、多分私がまだ紅椿を使いこなせていないからだと思うんですけど」

楯無

「確か紅椿って篠ノ之博士が造ったのよね?聞いてみたりした?」

「ええ一応…。そしたら一夏と一緒に戦えば良いって」

シャル

「一夏が関係しているって事?」

楯無

「…まぁそう言う事なら何れわかるでしょ。とりあえず今はエネルギーの節約、そして油断大敵。これを忘れない様にしなさい。特に一夏くん関連で」

「は、はい!」

一夏

「……」

「どうしたのよ一夏?さっきから黙って」

一夏

「…なぁ、さっきから度々俺の名前が出てるんだけど…箒とセシリアの訓練で俺が何か関係してるのか?」

一夏以外の全員

「「「……」」」

一夏

「あと更識さん。さっき俺に抱きついたのは何でですか?」

楯無

「う~んそれはね~…好きだから♪」

箒・セシリア

「「!」」

 

その言葉に二人はまた驚くが一夏は、

 

一夏

「好きって…何がですか?」

楯無

「……大変とは聞いてたけど…本当に大変ね。ふたり共頑張んなさいね。因みにさっきのは冗談だから気にしないでね♪」

箒・セシリア

「「は、はい…」」

シャル

(一夏~)

(まさかここまでとは思わなかったわ…)

ラウラ

(…馬鹿者)

楯無

「それじゃ一夏くん。私が相手になってあげるから今の動きやってみようか?」

一夏

「は、はい!」

 

 

…………

 

楯無

「ほらほら~またロックオンされてるよ~♪そんな大きく動いてちゃ簡単に囚われるよ~」

一夏

「くっ!うおぉぉぉ!」

 

先程から一夏は楯無の指示の下サークル・ロンドの訓練を行っていた。しかしやはり実力の差か動きを読まれ続けている一夏は先程から楯無のロックオンを受け続けていた。

 

ラウラ

「やはり動きが全く違うな…」

シャル

「うん…全て読まれてる。一夏も以前に比べて速くなっているのに…」

セシリア

「ええ…。それに一夏さんも時々攻撃していますがそれも全てかわされてますわ…」

「あれがロシア代表の力…」

「一夏…」

 

 

…………

 

一夏

「くっ…、も、もうダメだぁ…」

 

攻撃されているわけでもないのだが激しい動きの連続で一夏は疲れ切っていた。

 

楯無

「もうくたびれちゃった?終わる?」

一夏

「ぜい、ぜい…」

楯無

「…う~んこの子に関してはふたりの予想が外れたかな~?」

一夏

「…えっ?」

楯無

「君の訓練を海之くんと火影くんからお願いされた時にね、ふたりが言ってたのよ。君は必ずもっと強くなるってね」

一夏

「火影と海之が…?」

楯無

「うん。悔しいけど私は海之くんにコテンパンにやられたわ。多分、いやきっと火影くんと戦っても負けてたでしょ。あの二人は間違いなく学園、いや世界のレベルよ。そのふたりがそこまで言うんだから君も可能性がある子かなと思ったけど…外れだったかな~」

一夏

「……」

 

自分にとって姉の千冬と同じ位目標である火影と海之。その彼等が自分はもっと強くなると信じてくれている。その言葉に一夏は、

 

一夏

「せ、先輩。お願いします!」

 

再び気を取り戻した。

 

楯無

(…眼の力が戻ったわね。…ふふっ、あのふたり程じゃないけど中々根性あるじゃん♪)

「OK~♪んじゃ行くよ~!」

 

そして一夏と楯無はまた動きだした。

 

シャル

「一夏、なんかまた元気になった感じだね」

「あいつ単純だからなんか言われたんじゃないの?」

ラウラ

「男が女から言われて喜ぶ言葉……。愛の告白とかか?」

箒・セシリア

「「!」」

 

一部勘違いが発生している中、彼等の訓練はこの後も続いた…。




おまけ

訓練休憩中、楯無が鈴、シャルロット、ラウラに話しかけた。

楯無
(ねぇちょっと聞きたいんだけどさ~♪君達三人って火影くん派?それとも海之くん派?)
鈴・シャル・ラウラ
(((!?)))
楯無
(だって~さっき私が一夏くんに抱きついても表情変えなかったんだもん♪だから火影くんか海之くんの方なのかなと思って)
シャル
(ひ、秘密です!)
楯無
(ふ~~ん…教えてくれなきゃ今度はあのふたりと相部屋になろうかな~♪)
鈴・シャル・ラウラ
(((それは!)))
楯無
(それは~?)
鈴・シャル・ラウラ
(((だ、駄目…です)))

そして鈴とシャルロットは火影、ラウラは海之に好意があると自白した。この時三人は同じ事を願った。

「千冬さん、束さん、レオナさん、そして楯無先輩。どうか同じ場所に集まる事がありませんように」

と…。


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Mission82 完成!打鉄弐式

一組の出し物がメイド喫茶に決まった日の放課後、一夏達は楯無の訓練を受けるためにアリーナにいた。それぞれの動きを見る中、彼女は一夏のSEの無駄遣いを指摘する。そこで楯無は自分と対峙する形で一夏に必要な動きであるサークル・ロンドを教える事に。だがどんなに手を抜いても力の差は歴然。一夏は疲れきっていたが、楯無から火影と海之が必ず一夏はもっと強くなると思っていると聞き、やる気を取り戻す。そして彼等は再度訓練を始めるのであった…。
…一方火影と海之は簪のISを完成させるべく、彼女らと作業を行っていた。


IS学園 整備室

 

一夏や箒達がアリーナで楯無の訓練を受けていたのとほぼ同時刻。火影と海之、簪、本音は整備室にいた。理由は言うまでも無く簪のISである。本音始め整備科の生徒も加わり、力を合わせて作成は順調に進んでいたが、武装のひとつである荷電粒子砲が設計途中であったために、完成目前で再び滞っていた。しかし夏季休暇前に一夏の白式よりそのデータを借りた事で設計が再び進み、そして今日、遂に完成の日を迎えたのである。

 

「遂にできた…私の…専用機」

 

簪やみんなの目の前にそれは佇んでいた。全体的に簪の髪の色と同じ水色のボディ。背部には白式から流用した荷電粒子砲とミサイルポッド「山嵐」が備え付けられた巨大なブースターが付いた機体。

 

整備科の生徒

「簪ちゃん!」

「遂にできたね!」

「お疲れ様~!」

海之

「おめでとう簪」

火影

「おめでとさん」

本音

「おめでとうかんちゃん!」

「ありがとうみんな…。ありがとう海之くん、火影くん、本音…。本当に…みんなのお陰だよ。みんながいなきゃ…きっと今も何もできていなかったと思う」

 

感情が高ぶっているのか簪は少し涙を浮かべている。

 

本音

「はいはい泣かないの。それに私達はかんちゃんの言う通りに手伝っただけだから、一番頑張ったのはかんちゃんだよ」

海之

「その通りだ」

火影

「そういうこった。それでこの機体の名前はなんていうんだ?」

「うん。名前は…「打鉄弐式」っていうの」

火影

「打鉄弐式…。成程な、確かに所々打鉄に似てるぜ」

生徒1

「でも当然性能は比較にならないよ~!武装も最新の荷電粒子砲システム「春雷」。そしてまだ完全ではないけどマルチロックオン式ミサイルポッドの「山嵐」。そしてなんといっても簪ちゃんの想い人のみゆ」

「わー!!」

 

生徒の一人が何か言いかけたが簪が必死で止めた。

 

生徒2

「はいはい遊ばないの。あと海之くん達がくれたマルチウェポンのケルベロスだね。あれって凄いよね~!簪ちゃんから聞いたけどあれって海之くん達とあの篠ノ之束博士の共同制作なんでしょ?流石よね~!」

海之

「? 簪、お前の機体には確かまだ薙刀があったのでは?」

「うん。でも薙刀は止めてケルベロス一本でやる事にしたの。棒なら薙刀と使い方は良く似ているから大丈夫だと思うし。それに大事にしたいから」

海之

「お前がそうしたいならそれで良い」

生徒1

「何しろ愛しの人からのプレゼ」

「わー!!……もう遊んでない!?みんな!」

 

~~~~~~~~~~

みんなで笑い合った。

 

本音

「じゃあかんちゃん!早速最適化やろうよ!」

「あっ、うん!」

 

そして全員で整備室を出てアリーナに向かった…。

 

 

…………

 

簪達は楯無達がいるアリーナとは別のアリーナに来ていた。

 

海之

「それでは簪。今からお前の専用機の最適化を行う。その方法だが…火影を相手に実戦形式で行う」

「火影くんとの実戦!?」

本音

「ちょ、ちょっとそれ無茶すぎじゃないみうみう~?」

火影

「ああでも心配すんな。しっかり手加減するし、実戦つってもほんとに勝負するんじゃなくて俺達の言う通りに動いてくれりゃ良い。どういう風に動くかは適宜指示するから」

海之

「簪、お前は代表候補とはいえまだ実戦経験が不足している。だからこの形が一番良いと思ってな」

「…わかった。頑張るよ」

本音

「かんちゃん大丈夫?」

「うん。私は大丈夫だよ本音」

(…これ位できるようにならないとお姉ちゃんに、海之くんに近づけない!)

火影

「よし、んじゃ早速始めるか」カッ!

 

火影はアリギエルを纏う。整備科の生徒から「カッコいい!」「見たこと無い!」等の声が上がる。

 

海之

「簪。お前の打鉄弐式は防御より機動性を重視しているとある。今から火影の軌跡を追う様に動いてみろ。離されない様しっかり付いて行くんだ」

「う、うん!」

火影

「んじゃ行くぜ」

 

ドンッ!

 

火影は急速に上昇した。

 

生徒1

「は、速い…」

生徒2

「もうあんな所まで…」

本音

「かんちゃん頑張って!」

「行くよ…打鉄弐式!」

 

ドンッ!

 

ISを纏った簪も火影を追いかけて飛翔した。

 

(くっ!これが弐式のスピード!最適化もまだなのに…。訓練機とは全然違う!)

 

そして簪も遅れて到着。

 

火影

「中々のスピードだな簪」

「ありがとう火影くん。でも火影くんも今の全然本気じゃないんでしょ?」

火影

「まぁな。今ので約3割位ってところか。だからって気を落とす必要はねぇぜ?まだ最適化も終わってねぇんだしさ」

「い、今ので3割…」

火影

「んじゃ続き行くぜ!」

 

 

…………

 

それから暫く簪は火影を必死で追った。急上昇急降下、急旋回、急加速、小刻みに動いたりフェイントを含んだ運動、更に瞬時加速もその過程で学んだ。そして気が付けば最適化も終了していた。

 

「はぁ、はぁ…」

本音

「お、お疲れ様かんちゃん」

海之

「よく頑張ったな簪」

火影

「ほら水。正直途中でバテるかなと思ったんだけどな。良くやったと思うぜ」

「ありがとう海之くん、火影くん」

生徒1

「簪ちゃんもだけど…火影くんあんなに動いて疲れてないの?」

火影

「俺はもう慣れてるからな。…さて簪、移動に関してはこれ位だ。この後は戦闘に関する訓練の予定だがどうする?疲れてるなら今度で良いぞ?」

「ううん大丈夫。お願い火影くん」

海之

「無理する必要はないぞ簪。お前は今日弐式を持ったばかりだ」

「ありがとう海之くん。でもやらせてほしいの。始める前に言ってたでしょ?私はみんなより経験不足だって。私自身もそうだなって思う。だったらみんなより人一倍頑張らないといけないって思った。だから…やらせてほしい」

本音

「かんちゃん…凄いね」

海之

「…ふっ。案外簪が実は一番活発かもしれんな。…わかった」

火影

「とことん付き合ってやるぜ」

生徒1

「壊れてもまた直してあげるからね♪」

「…みんなありがとう」

 

 

…………

 

それから約20分後、アリーナ中央には再びISを纏った火影と簪がいた。

 

海之

「簪。今から行うのは弐式の武装のチェックだ。火影がこれから行う攻撃を武装を使ってかわしつつ火影を攻撃しろ」

火影

「もちろん威力は極力抑えるから安心しな。ただしそっちは抑えなくて良いぜ。遠慮なく殺すつもりでかかってこい」

「うん!」

本音

「かんちゃん頑張ってね!」

 

ドンッ!ドンッ!

 

二人は再び上空に飛び上がった。

 

火影

「行くぜ!」

 

ズダダダダダダダダッ!

 

火影はエボニー&アイボリーを撃った。簪はそれを避けながら対抗策を考える。

 

(くっ…銃弾を避ける方法は……そうだ、あれなら!)

 

そういうと簪はケルベロスを三節棍で起動し、その両端の棒を持って前に構える。

 

バチバチバチバチ…!

 

三節棍のケルベロスが発す電流のシールドが飛んでくる銃弾を弾いた。

 

「やった!よし、このまま!」

 

キュイイン…ドギューーーンッ!

 

簪はそのまま荷電粒子砲「春雷」を放った。しかし火影も難なくそれを回避する。

 

火影

「ほう、それじゃ次だ」

 

そう言うと火影は手にイフリートを展開し、手にSEをチャージする。

 

火影

「はぁぁぁぁぁぁ…はっ!」

 

ドンッ!

 

イフリートから火球メテオが飛び、簪に向かって飛んでいく。

 

「炎には……これ!」

 

ビュオォォォォォォ!

簪は手に持つケルベロスを氷のフレイルに変換し、それを振り回す。すると、

 

キィィィィィィィィン!

ドオォォォォン!…シュワァァァ…

 

簪を守る様に展開した氷のバリアがメテオの炎を掻き消し、雲散霧消させた。

 

「今度はこちらから!」

 

ボオォォォォォォォッ!

 

簪はケルベロスを棒に変化させ、火影に向かって突進した。

 

ガキンッ!

 

火影はそれをリべリオンで受け止める。

 

火影

「やるじゃねえか簪。もっとどんどん打ってこい!」

「はあぁぁぁ!」

 

ガキンッ!キンッ!ガキンッ!ガキンッ!

 

簪は続けて攻めるが火影はリべリオンで受け止め続ける。

 

生徒

「…火影くん凄い。全部受け止めてる」

「簪ちゃんもあれでまだ訓練の段階だなんて信じられない…」

海之

「簪、ケルベロスの特性を上手く使えているようだな」

本音

「家でずっと頑張ってたんだよー。早くみうみうやひかりんの力になりたいんだって」

海之

「……」

 

火影と簪はそれぞれ距離を取る。

 

火影

「ふぃ~、大丈夫か簪?」

「はぁ、はぁ…う、うん」

火影

「上等だ。…思えばその状態のそいつとこうやって戦うのは初めてだったな」

 

火影は簪が持つケルベロスを見て言った。

 

「えっ?」

火影

「いや、何でもねぇ。さてそれじゃ最後にこいつ行くか」

 

ジャキッ!

 

火影は次にカリーナ・アン・ランチャーを展開した。

 

火影

「簪、今から追尾型のミサイルを数発射出する。それを弐式の山嵐でロックオンして撃ち落とせ」

「で、でも山嵐のマルチロックオンシステムは…」

火影

「それなら心配ない。さっきお前が休憩している間に海之が改良を施しておいた」

「えっ!み、海之くんが?」

火影

「時間が足りなかったのでまだ完全ではないがな。それでも約半分は可能な筈だ。だから自信を持ってやってみろ」

「…うん、わかった!」

火影

「あああと信管は抜いてるから安心しな。んじゃ行くぜ!」

 

ドドドドドドンッ!

 

ランチャーから複数のミサイルが射出される。簪はロックオンのために距離を取るが、

 

「くっ…なんて高性能な追尾能力!」

 

いくら回避行動をとってもミサイルは追尾してくる。そこで簪は止まらずに動きながらロックオンし、一度に全て撃ち落とそうと考えた。

 

「何とかしてミサイルを纏めて一度にロックオンしないと!でもどうすれば……そうだ!」

 

ドンッ!

 

すると簪は突然瞬時加速で急上昇した。ミサイルも追いかける。しかし、

 

「…よし!ミサイルが私を一直線になって追ってくる。これなら!」

 

これは簪の作戦。目標が遥か高度に上昇するとミサイルもそれを追う形で追いかけてくる。但しその場合ミサイル同士の幅が狭まり、一度に纏めてロックオンしやすくなるのだ。

 

「…よし、全弾ロックオン!…いっけえ!」

 

ドドドドドドドドドッ!

 

ポッドから複数のミサイルが発射される。そして、

 

ドオォォォォォォン!!

 

山嵐のミサイルが追尾してきたミサイルを全て撃ち落とした。

 

「や、やった……はぁ…はぁ……」

 

全てを終えた簪は急に身体中の力が抜けた様な間隔に陥った…。

 

 

…………

 

「……んっ…」

「…ちゃん!」

「う~ん…あ、あれ…?…私」

本音

「かんちゃん!」

「…本音?」

本音

「よかったよ~!」

海之

「気が付いたか」

火影

「大丈夫か?」

「海之くん…火影くん。私……ここは?」

火影

「お前と海之の部屋だ。まぁ覚えてないのも無理ねぇか。お前山嵐撃った後に急に意識を失っちまったんだよ。多分緊張による疲労がピークだったのと全部終わった事で一気に力抜けたんだろうな」

本音

「心配したんだよ!ずーっと上からかんちゃん落ちてくるんだもん!そこをひかりんがキャッチしたの」

「そうなんだ…ありがとう火影くん。…他のみんなは?」

海之

「みんなは弐式の整備をしている。…すまなかった簪、お前には無茶をさせてしまった。やはりあの時無理にでも止めていれば…」

「ううん海之くん、謝る必要なんてないよ。私が望んでやったことだから。それに…私本当に感謝してるの。だから悪かったなんて…全然思わないで」

海之

「……」

本音

「でわでわかんちゃんも無事復活したし、あとはみうみうに任せようよひかりん♪」

火影

「…ああそうだな。じゃあな簪、ゆっくり休めよ。海之、あと頼むぜ」

本音

「じゃあまったね~かんちゃん♪」

 

そう言うと火影と本音は出て行った。

パタンッ

 

「……」

(二人ったら…、丸わかりだよ…)

 

二人の考えに気付いたのか簪は少し顔が赤い。

 

海之

「何か飲むか?」

「えっ?…う~ん、今はいいや。もう少し…寝ようかな。……ねぇ海之くん、ひとつだけ、お願い聞いてもらって良い?」

海之

「なんだ?」

「…あの……手、握ってもらって良い?私が寝付くまででいいから」

海之

「? ああ」

 

そう言うと海之は簪のベッドの傍に椅子を持ってきて座り、簪の手を両手で握った。

 

海之

「これで良いのか?」

「ありがとう海之くん。ごめんね、子供みたいで」

海之

「気にしなくて良い。…そういえば…昔俺が寝付けない時も母がこうしてくれたな」

「そうなんだ」

海之

「ああ。もっとも俺に母と同じ事はできんがな」

「ううん…そんなことない。…すごく…落ち着くよ」

海之

「そうか」

「……ねぇ、海之くん」

海之

「なんだ?」

「あの…私ね、……………ううん…なんでもない」

(やっぱりまだ勇気出ない…。でも…焦らなくても…良いよね)

海之

「…さぁもう休め。眠るまで傍にいてやる。……良く頑張ったな」

「…うん、ありがとう…」

 

それから数分もせず簪は眠りについた。海之は彼女の眠りが深くなる迄手を握り続けた。




おまけ

本音
「ねぇひかりん~」
火影
「ん?」
本音
「さっき良くわかったね。かんちゃんとみうみうをふたりにしたいって事」
火影
「簪の奴が海之に惚れているのは知ってるからな。あいつ今日頑張ったし、たまには良いさ」
本音
「やっぱりひかりん優しいね~。ねぇひかりん、今日は私ひかりんの料理が食べたいんだけどダメ~?」
火影
「昨日デザート作ってやったじゃねぇか」
本音
「あれはデザートだよ~。今度は料理♪」
火影
「…本音が鈴に似てきたのか、鈴が本音に似てきたのか、わからなくなってきたな…」


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Mission83 謎の女

一夏達が楯無の訓練を受けている時、火影と海之は本音と共に簪の専用機、「打鉄弐式」の完成の場に居合わせていた。一度は断念しかけていた夢が叶い、簪は喜びを隠せず涙ぐむ。
そして全員で最適化のためにアリーナへ。海之は経験を積む事と武装の確認も兼ねて簪に火影との実戦形式を用意。本音や周りが心配する中、簪はお願いすると申し出、用意された課題を全てクリアする。疲労でクタクタとなった簪は海之に手を握ってもらい、眠りにつくのであった。


簪の専用機が完成してから数日が経った。簪はあの後結局翌日の朝まで眠ってしまい、目が覚めた時は登校時間になっていた。長く眠っていたのが幸いしてか疲れは取れた様で、看病していた海之と共に問題なく登校した。

寧ろ大変だったのはその後だった。一緒に登校してきたふたりに教室で本音が、

 

「かんちゃ~ん、治ったんだね~!みうみうの熱~い看病のおかげだね~!」

 

と、茶化す様な事を大声で言ったお陰で軽い騒ぎになったのだ(特にラウラが)。海之と簪が昨日あった事を説明し、場は収束したのだがその代わりラウラは海之に次の休日にデートの約束を取り付けた。そして同じ日に火影と一夏はメイド喫茶で使う服を作るための資材を購入しに街に行くと言うと本音、箒、セシリアも一緒に行くことになった。因みにシャルロットは用事があって行けないと残念そうだった。そして今日は約束の休日である。

 

 

ショッピングモール 入口広場

 

火影と海之、一夏、そして箒とセシリアは広場に来ていた。あとは本音とラウラである。…と、

 

ラウラ

「すまない。遅くなった」

 

向こうから私服のラウラが走って来た。

 

一夏

「ああラウラ、おはよう」

「今日は随分感じが違うな」

ラウラ

「う、うむ。これはスメリアで海之が買ってくれた服だ」

セシリア

「まぁそうでしたの。よくお似合いですわラウラさん」

ラウラ

「そ、そうか?…どうだ海之」

海之

「良く似合っている。自信を持てラウラ」

ラウラ

「! そ、そうか…」

(良かった…3時間迷ったかいがあった)

火影

「…あれ?」

ラウラ

「? どうした火影」

火影

「いや…ラウラ今日は眼帯外してんだな」

ラウラ

「えっ?……!?」

 

火影に言われてラウラは初めて気付いた様だ。

 

ラウラ

(し、しまった!着替えに夢中になって外していたのを忘れていた!)

一夏

「ほんとだ。へぇ~ラウラの左眼ってそんな色だったんだな」

ラウラ

「うぅ…」

 

実はラウラのこの左眼には秘密があった。彼女の左眼は越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)といい、一種の生体部品である。使用するとISへの適合能力、そして空間処理能力や動体視力を高める効果があり、それの証がこの金色の瞳である。かつて力に縛られた彼女からすればコレも力として利用してきた。しかし人間としてひとりの少女として生きる事を決めた今のラウラにとってこれは昔の自分を思い起こすものである。故に彼女は…これを嫌っていた。

 

ラウラ

「……」

セシリア

「どうしましたのラウラさん?」

「具合でも悪いのかラウラ?」

ラウラ

「い、いや。なんでもない」

(…いかん、今日は折角の嫁とのデートなんだ。夫として心配させてはならん!)

 

眼の事を忘れて気を持ち直そうとするラウラ。するとその時海之が、

 

海之

「ラウラ」

ラウラ

「えっ?」

海之

「その眼…綺麗な色だな。お前に良く似合っているぞ」

ラウラ

「…えっ!?」

火影

「ああ。俺もそう思うぜラウラ」

 

海之と火影がそう言うと一夏達も揃って同意した。

 

ラウラ

「ほ、ほんとう…か?」

海之

「ああ」

ラウラ

「そ、そうか…。そんな風に言われたこと無いから…驚いた。…嬉しい」

(…そうだ…私はもうあの時の私ではない。海之や火影が、みんながいる。この眼も…みんなが綺麗と言ってくれるなら…いつか好きになれそうな気がする)

 

ラウラは心の中でそう思った。そして、

 

ラウラ

「…よし!それでは早速行くぞ海之!」

海之

「? みんなで行くのではないのか?」

ラウラ

「何を言う!今日は私とお前、夫婦のデートだろうが!もっと私の嫁という自覚を持て!」

海之

「…ハァ」

火影

「へへっ、海之を頼むぜラウラ」

ラウラ

「うむ、嫁をエスコートするのは夫の役目だ。さぁ行くぞ!」

 

ラウラは微笑んでそう言うと海之の手を取って行ってしまった…。

 

一夏

「…変な奴だなぁ。元気無いと思ったら急にめちゃ元気になった」

「…むっ、あれは本音と虚さんではないか?」

 

箒が指さした先には本音と虚がこっちに向かって歩いてくるのが見えた。

 

本音

「ごめ~ん遅くなっちゃった~」

「申し訳ありません皆さん」

セシリア

「大丈夫ですわ。虚さんも来られたんですのね」

本音

「お姉ちゃんにも手伝ってもらお~って思って」

火影

「虚さんに?」

本音

「うん。お姉ちゃんはかっちゃんのお友達であると同時にかっちゃん家に仕えてるんだよ。だからメイドとか裁縫も得意なんだよ~。因みに私も」

「メイドと裁縫が得意なのは関係ありませんが…」

 

とその時、

 

「…あれ?一夏じゃねぇか?」

一夏

「えっ?」

 

そこにいたのは、

 

「こんな所で何してんだ?」

「こ、こんにちは…一夏さん、みなさん」

火影

「確か一夏の幼馴染の…弾と蘭だっけか」

「久々だな弾、それに蘭も」

セシリア

「御無沙汰しておりますわ。みんなで食事に行った時以来ですわね」

一夏

「ああ俺はこの前飯食いに行ったけどな。お前らこそ何してんだよ?」

「ああ。この前今度お前らの学校である学園祭のチケットくれただろ?蘭が行きたいって言ってな。そのための服を買いたいんだとさ。俺は付き添い」

「お、お兄!余計な事言わないで!」

「…なんかまたキレイどころが増えている気がするけど」

一夏

「ああそういや虚さんはお初だったな。虚さん、こっちは五反田弾、そしてこっちが妹の蘭。俺の中学の幼馴染です」

「そうですか。…布仏虚です。本音の姉です。宜しくお願いします」

「は、はい…宜しく」

「……」

「? どうしたのお兄?」

「い、いやなんでもねぇ!」

「……」

火影

「二人も服関係か…。なんならみんなで行くか?俺らも文化祭で使う服を作るための資材を買いに行くんだ」

一夏

「そうだな、そうするか。ふたりはどうする?」

「えっ?あ、ああ俺は良いぜ!蘭はどうする…て聞くまでもねぇな。お前はどうせいち」

 

ドンッ!

突然蘭が弾の背中にキックした。

 

「あだ!」

「こんの馬鹿お兄!…あ!ご、ごめんなさいみんな、はしたない真似を…。あの…私も一緒に行って良いですか?」

一夏

「はは、ああ良いぜ。みんなも良いよな?」

「ああ」

セシリア

「もちろんですわ」

本音

「どぞ~」

「はい。…あの、大丈夫ですか?弾さん」

「は、はい!大丈夫です!まったく問題ありません!」

一夏

「んじゃ行こうぜ」

 

そして一行は歩き始めた。…その途中、

 

(あ、あの…虚さん)

(はい、何ですか?)

(虚さんは……もしかして一夏さんを?)

(えっ?ふふっ、ご安心ください。私は一夏さんにも火影さんにもそんな気持ちは持っておりませんよ。蘭さんは一夏さんでしょう?ライバル多いですから頑張ってくださいね)

(は、はい…)

 

そういう虚だったがその目はひとりの男子に良く向けられていた…。

 

 

…………

 

それから数刻後。

 

一夏

「ふぅ~、こんなもんか」

火影

「ああ。ありがとうございます虚さん。お陰で助かりました」

「いえいえ。私も久しぶりにこの様な買い物ができて嬉しかったですわ」

「ああ虚さん。荷物俺が持ちますよ」

「えっ…あ、ありがとうございます弾さん」

本音

「この後はどうする~?」

一夏

「確か蘭は服を探し来たんだっけ?そっちを見に行くか」

「あ、ありがとう一夏さん」

箒・セシリア

((むむむ…))

「では私は先に戻っていますわ。お嬢さまの稽古に付き合う予定ですので」

セシリア

「大変ですわね虚さん」

「ああじゃあ虚さん。俺がお送りしますよ」

「えっ、ですが弾さんは蘭さんの」

「良いんですって。蘭も俺なんかより一夏達が良いよな?」

「…お兄!」

 

蘭は反抗するが嫌そうではない。

 

「という訳ですので」

「…ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせていただきます。それでは皆さん、また学園でお会いしましょう」

 

そう言うと虚と弾は帰って行った…。

 

「…では私達も行くか」

一夏

「お~……悪い、先に行っててくれ!ちょっとトイレ行って来るわ!」

 

そういうと一夏はトイレに走って行った。

 

本音

「おりむー我慢してたのかな~?」

「やれやれ。…では先に行くか」

セシリア

「そうですわね」

 

そして一夏以外のみんなも女性服の店に向かった…。

 

 

…………

 

それから約10分後、トイレから長引いたらしい一夏が出てきた。

 

一夏

「は~すっきりした~。…さて、女性物の服の売り場はこっちだったな」

 

そして一夏はみんなの後を追いかけようとした。その時、

 

「あの~、あなたもしかして…」

一夏

「えっ?」

 

一夏は後ろから誰かに呼び止められた気がしたので振り向くと、

 

「あなた…もしかして織斑一夏さんじゃありませんか?あの世界初の男子IS操縦者の」

 

そこには一人の女性がいた。オレンジ色のロングヘアーの女性だ。

 

一夏

「…はい、そうですが…。あの、どちら様ですか?」

「ああこれは失礼致しました。私、こういう者です」

 

そういうと女性は一夏に名刺を差し出す。

 

一夏

「IS装備開発企業「みつるぎ」、渉外担当、巻紙礼子…」

礼子

「はい。私共はそちらに書かせて頂いております通りISの装備を開発している者です」

一夏

「そうなんですか。それでそのみつるぎの巻紙さんが何故俺を?」

礼子

「はい。実は私は今月にIS学園で行われます文化祭の方に伺わせて頂くつもりなんです。それで下調べも兼ねてこちらの島に来たのですがあの織斑一夏さんがおられましたからついお声をかけてしまいました。申し訳ありません」

一夏

「い、いえそれは全然気にされる事はないですが。あと俺ってそんなに有名なんですか?」

礼子

「もちろんですわ。IS業界で一夏さんの事を知らない者等おりません」

一夏

「そ、それは光栄ですね」

礼子

「あの…良かったら少しお話聞かせていただけませんか?少しでも良いのですが」

一夏

「え?…あ、ああ、はい分かりました。本当に少しなら…」

礼子

「ありがとうございます。では」

 

とその時、向こうから火影が二人に近づいてきた。

 

火影

「おーい、一夏ー」

一夏

「あっ、火影。どうしたんだよ?」

火影

「どうしたじゃねぇよ。遅いから見に来たんだよ。みんな心配してるぞ」

一夏

「ああ悪い。…というわけですみません巻紙さん。お話は文化祭の時でも構いませんか?」

礼子

「え、ええ。もちろんですわ。こちらこそ忙しい時に申し訳ありませんでした」

火影

「? 一夏、こちらの方は?」

一夏

「ああ。この人は巻紙礼子さん。「みつるぎ」っつーISの装備を造る会社の人だってさ」

火影

「…みつるぎ…?」

一夏

「巻紙さん。彼は同級生の火影です。彼もIS操縦者ですよ」

礼子

「!…まぁ、ではこの方があの…。「みつるぎ」の巻紙礼子です。初めまして」

火影

「…火影です。こちらこそ初めまして」

礼子

「貴方の事もよく存じておりますわ。以前のタッグ試合の時も実は拝見しましたの。なんでもスメリア出身の双子の御兄弟とか」

火影

「…えぇまぁ」

礼子

「私どもはIS専用の装備を開発しておりますの」

火影

「そうでしたか。…だからですか?胸のホルスターに拳銃を隠しているのは」

礼子

「…!」

一夏

「…えっ?」

礼子

「…よくわかりましたね。ええ、一応護身のために。何分社内の機密情報を持ち合わせている身ですから…」

一夏

「ああそうなんですか。大変ですね」

火影

「……」

礼子

「…あっ、申し訳ありません。御友人を待たせては申し訳ありませんわね。では私はこれで。また文化祭の時に伺わせて頂きますわ」

一夏

「ええどうぞ」

礼子

「では…」

 

そう言うと礼子は立ち去ろうとした。

 

火影

「あの…」

礼子

「…はい」

 

礼子は振り返らずに背を向けたまま止まった。

 

火影

「…その脚首に隠している仕込みナイフ、もっと上手く隠さないとばれますよ」

礼子

「!…どうも」

 

礼子はそのまま立ち去った…。

 

火影

「……」

一夏

「よく分かったな火影。あの人が拳銃やナイフ持ってるなんて。俺全然気付かなかったぜ」

火影

「…まぁな。それより早くみんなのとこ戻ろうぜ。遅れると飯おごらせるとか言ってたぞ」

一夏

「な!お前それなんでもっと早く言わねぇんだよ!急ぐぜ!」

 

火影と一夏は走って向かった…。

 

 

…………

 

それから数分後、礼子はモール内の休憩所にいた。

 

礼子

「…銃だけじゃなくナイフの事まで…あの火影という男…一体…?」

 

グシャッ!

礼子は手に持った缶コーヒーの空き缶を握りつぶした。その表情はなぜか怒りと悔しさに満ちていた…。




※次回更新までまた間が空きます。


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Mission84 ふたりの覚悟

とある休日。火影達は文化祭で使う衣装の資材を買うためにショッピングモールへ。久々に弾や蘭とも再会したりして賑やかに買い物していた。
そんな最中で一夏はひとりになった時に巻紙礼子という女性に呼び止められる。どうやらIS専門の装備を造っている企業の人間らしい。彼女から少し話を聞きたいと言われて了承しかけた一夏だったがその時偶然火影が入って止める形になる。また後日と言い残して去った礼子。だが火影は彼女に何か不穏な空気を感じていた…。


IS学園 アリーナ

 

一夏

「おぉぉぉぉぉ!」

「はぁぁぁぁぁ!」

火影

「……」

 

ガキィィィンッ!!

 

火影はリべリオンで一夏のアラストルを、カリーナ・アンの銃剣で鈴の双天牙月を受け止める。

 

一夏

「そこ!」

 

すると一夏は片手の荷電粒子砲をほぼ零距離で撃とうとする。

 

火影

「ほう零距離か…しかし!」

 

ドンッ!

火影は二人の剣を受け止めたまま瞬時加速を行い、振り払う。

 

一夏

「うぉ!」

「くっ!逃がさないわよ!」

 

ドンッ!ドンッ!

鈴はガーベラの連続加速で火影を追いかける。しかし距離が近づくと、

 

ボシュボシュボシュ!

火影のカリーナからこちらに向けて無数のミサイルが飛んできた。追尾される鈴。

 

「…逃げられない!なら!」

 

キュイィィィィン!

 

鈴は逃げながらガーベラにエネルギーをチャージし、そして

 

「開きなさい!ガーベラ!」

 

ドギュゥゥゥゥゥゥン!ドガガガガン!

 

鈴は空中で拡散レーザーを射出し、なんとか撃ち落とした。

 

「はぁ…、そうだ火影は!」

火影

「遅い!」

 

キィィィィィン!

 

火影は鈴の一瞬の隙をついて瞬時加速で近づき、リべリオンで斬った。

 

「きゃああああ!」

火影

「油断したな鈴!一夏は…」

一夏

「そこだぁぁぁぁぁ!」

火影

「!」

 

ガキィィィィィン!ビシュッ!

 

火影は遥か上空から振り下ろしてきた一夏の剣を受け止める。しかしその剣圧で腕に僅かに傷を付けた。

 

一夏

「見たか火影!この前みたいなかすり傷なんかじゃなく確かに見える傷だぜ!」

火影

「…そうだな。大したもんだ。だが、また油断したな」

一夏

「えっ?」ドォォォンッ!「ぐあぁぁぁ!な、後ろから!?」

火影

「さっきミサイルを一発だけお前にロックオンしておいたんだよ。おそらく必死で気付かなかったんだろうけどな」

一夏

「くっそぉぉ…」

 

そのダメージで一夏の白式のエネルギーはゼロになり、降りて行った。とその時、

 

「火影ー!」

火影

「!」

 

見ると前方から鈴がこちらに向けてガーベラを展開していた。何時の間にか離れ、一夏に隠れていて見えなかったようだ。

 

「いっけぇ!」

 

ドギューーーーン!

 

鈴はガーベラのレーザーを収束モードで撃った。

 

火影

「!」

 

火影はガーベラのレーザーに飲み込まれた…。しかし、

 

ジャキッ!

 

「!」

 

実は違っていた。飲み込まれる瞬間瞬時加速していたのか、火影は鈴の後ろに立ってコヨーテを向けていた。

 

「い、いつの間に!?」

火影

「残念。惜しかったな。あの時名前さえ呼んでなけりゃ当たってたかもな」

「…はぁ、降参よ」

 

一夏と鈴のペアと火影の実戦トレーニングは火影の勝利で終わった。

 

 

…………

 

それと同刻、

 

「はぁぁぁぁ!」

セシリア

「たぁぁぁぁ!」

 

箒とセシリアは海之と戦っていた。但し正確には海之本人ではなく、ウェルギエルの残影で作った分身体だ。ひとり一体ずつ。剣の訓練の為にと海之が一対一で戦わせているのだ。

 

キイィィィィィィィンッ!!

 

「くっ…、本物の海之じゃない。分身体なのにこれ程とは…」

セシリア

「確かこの分身は海之さんの10分の1と仰ってましたわ…それなのになんという動きと剣ですの…」

「…だか強くなっているのはあいつらだけではない!必ず勝ってみせる!」

セシリア

「ええ、もちろんですわ!」

 

海之の分身の強さに二人は驚愕しつつも果敢に向かっていく…。そして本物の海之は今、ラウラ、シャルロットと戦っていた。

 

ラウラ

「おぉぉぉぉぉ!」

 

ラウラはレーゲンのワイヤーブレードを飛ばす。海之はそれを切り払おうとするが、

 

シャル

「させないよ海之!」

 

ドドドドドドドドッ!

 

シャルロットが反対方向からライフルを撃つ。

 

海之

「……では」

 

ガキキキキキキキキン!!

ズドズドズドズドズドズドンッ!

ドガン!ドガガガガガン!

 

ラウラ・シャル

「「!?」」

 

海之は閻魔刀でシャルロットの銃弾を切り払い、もう片手に持ったブルーローズでラウラのワイヤーブレードを撃ち落としていた。

 

シャル

「くっ!さすが海之。剣だけじゃなく銃もハンパじゃない!」

ラウラ

「ならば!」

 

ドンッ!

 

ラウラはパンチラインのブレイクエイジを起動し、海之に向かっていく。

 

海之

「…いいだろう受けてたってやるぞラウラ」

 

海之はベオウルフに持ち替え、そして、

 

海之・ラウラ

「「はぁぁぁぁぁぁぁ!」」

 

ドーーーーンッ!

 

ベオウルフとパンチラインが凄まじい勢いで正面からぶつかった。

 

ラウラ

「くっ!」

海之

「やるなラウラ。パンチラインの威力が増している」

ラウラ

「感心するのはまだ早い!」

 

するとラウラはもう片手のビーム手刀を展開し、海之に向ける。しかし、

 

ガキンッ!

 

海之はもう片方のベオウルフでそれを受け止める。その時、

 

ガシッ!

 

突然ラウラが海之の腕を掴む。

 

海之

「!」

ラウラ

「今だシャル!」

シャル

「はぁぁぁぁ!」

 

突然後ろからシャルロットがグレースケールを展開して向かってきた。

 

海之

「成程、考えたな。だが忘れているぞ?」

 

ギュイィィィィィン!

 

突然海之の周りに幻影剣が展開し、ラウラに襲いかかる。

 

ラウラ

「うあぁぁぁぁぁ!」

 

凄まじい剣撃を受け、ラウラはダウンした。

 

シャル

「ラウラ!…!!」

 

シュバババババババ!

 

ラウラがやられて動揺し、一瞬動きが止まったシャルロットの周りに幻影剣が集まる。一歩でも動いたら全てが向かってくるだろう。

 

海之

「よそ見する暇はないぞシャル」

シャル

「ま、参った…」

 

シャルもその攻撃の前に降参せざるを得なかった。こちらも火影と同じく海之の勝利で終わったのであった。

 

 

…………

 

トレーニングが終わった後、全員で食堂に来ていた。

 

一夏

「くっそぉぉ、一撃当てられたとしてもやっぱこう負けてばっかだと悔しいよなぁ」

「ほんとどんだけなのよあんたらの強さって。全く隙がないじゃないの。火影反応速度が速すぎよ…」

「海之に至っては10分の1の力の分身相手にこっちは全力でやっと勝てた位だからな…」

セシリア

「…そうですわね。私もローハイド、それにビットを動かせる訓練をしっかりしてなければ間違いなく勝てなかったですわ」

ラウラ

「私も脚を止めるのに精一杯だった」

シャル

「僕も同じだよ…。一瞬の油断が駄目だった」

 

全員やはり負けた事にそれなりに悔しい様だ。

 

火影

「気を落とすなって。全員しっかり強くなってるじゃねぇか。今日の一夏の一撃は今まで以上に強いものだったし、鈴はしっかりガーベラの特性を掴んでたぜ」

海之

「うむ。ラウラのあのパンチラインの一撃もこちらが全力で相手するほど強いものだった。シャルもラウラに脚を止めさせて攻撃しようとしたのはよく考えられていた。箒とセシリアも同様だ。みんな確実に成長している」

一夏

「…へへっ、ありがとよ。今度こそは勝ってやるからな!」

 

他のみんなも元気を取り戻したようだ。

 

「…それにしても毎回思うがやはり二人のISは変わっているな。デザインといい、あの能力といい」

シャル

「うん、僕もそれは思ってた…。ねぇ火影、あのISについて本当に何もわからないの?誰が造ったのかも」

火影

「…ああ。寧ろこっちが知りたいぜ」

セシリア

「ああそう言えばすっかり聞き忘れておりました。ずっと気になっていたのですが、お二人のISは何故剣や銃弾が通るんですの?普通はバリアやシールドがあるものでしょう?」

「それ私も気になってた。クラス代表戦の時に火影が私を庇ってくれた時に銃弾を受けて出血してたよね?あの時ほんとに焦ったわよ…」

ラウラ

「…うむ。私も以前その手に持った剣で海之を貫いた…」

海之

「もう気にするなラウラ」

火影

「鈴もあん時は恐い思いさせて悪かったな。……そうだな…わかる範囲でよければ話してやるか」

一夏

「マジか。教えてくれよ」

 

 

…………

 

火影と海之はアリギエルとウェルギエルが9年前に起動した事だけを隠し、それ以外の情報についてはみんなに話した。流石にみんな驚きを隠せなかった。

 

一夏

「な、なんだって……!?」

シャル

「ぜ、絶対防御もバリアも無いISなんて…そんな事ってあるの…!?」

海之

「正確にいえば急所以外だ」

セシリア

「で、ではおふたりのISは全ての攻撃をほぼそのまま受けると言う事ですの!?」

火影

「ああまぁな」

「まぁな、じゃないわよ!それってどれだけ危険な事か分かってんの!?防ぐものが何もないんじゃそれで死んでしまう可能性だってあるってことじゃないの!」

「…そうか。ふたりのISのあの異常な再生速度はそのために」

海之

「そうだ。アリギエルとウェルギエルは頭部または心臓が破壊されない限り再生し続ける。剣で刺されようとも銃で撃たれようとも手足が吹き飛ばされてもな。まぁ頭か心臓がやられれば死んでしまうが」

ラウラ

「! ぶ、物騒な事をいうな海之!」

シャル

「そ、そうとも知らずに僕達はふたりに…」

 

シャルロットの台詞を聞いた火影は、

 

火影

「シャル、そしてみんなも聞いときな。今の話を聞いて今後もし俺達を戦わせまいとか戦いたくないと考えているなら…もう俺達に関わらない方が良いぜ?」

全員

「「「…えっ!?」」」

海之

「俺達は寧ろアリギエルとウェルギエルがあれで良かったと思っている」

ラウラ

「…どういう意味だ海之?」

海之

「それを話す前にひとつ話しておこう。…以前束さんも言ったが、本来ISは宇宙での活動のために生み出されたものだ。それ故生命を守るためにISは防御に重点を置いている。これは知っているな?」

セシリア

「ええもちろんですわ。ですがその計画は今はほぼ凍結状態と伺っておりますが…」

「……」

海之

「そして今のISの現状はスポーツとされている…が、その裏では兵器として見られている。あの軍用ISのゴスペルがいい例だ。宇宙活動のために使われる筈だったISが兵器として、そして宇宙の脅威から命を守るための筈の絶対防御やシールドが、今は戦うための盾という意味に変わってしまっている」

全員

「「「……」」」

火影

「だがそれは云わば戦いでの痛みを感じにくくしてるって事だ」

「…?ダメージが軽減されるなら良いんじゃないの?」

火影

「…まぁな。だが…本来戦いってのは痛みがあって然るべきだ。昔の戦争とか考えてみな。兵士は銃弾の一発でも受けたら死んじまってたし、戦闘機ならミサイル1発でも直撃すれば終わりだ。そんな戦いを経験するからこそ人は多くの事を学び、実感できる。その無意味さも、そして二度とあんな事あってはならないという気持ちをな」

「…そういうものかもな」

火影

「ああでもお前らのISが悪いって言ってんじゃねぇぞ?もうここまでISは発展してしまってるわけだし今さらそれを変える事なんてできねぇさ。だが…それはISを使えるお前らみたいな幼い者が、今後万一起こるかもしれない戦いに使われる可能性があるって意味を含んでる。俺達のと違ってお前らのISは国が管理しているんだしな」

全員

「「「!!」」」

 

全員言葉を失った。二人の言う通り確かにほぼ全てのIS、そしてコアは国が管理している。そしてISに関わる多くの武器や兵器が同時に開発されている。それはつまり今後ISが従来の戦闘機や戦車に変わる新たな兵器に成り代わるかもしれないのだ。代表候補であるセシリアや鈴、シャルロットはまだいい。その気になれば候補を降りる事もできる。だが既にロシア代表であるここにはいない楯無やドイツ軍人であるラウラはそうはいかない。

 

海之

「話が少し逸れてしまったな。さっきも言った通りアリギエルとウェルギエルが誰に造られたのかはわからない。でも俺達はこれを造ってくれた人に感謝してる。痛みを忘れない様にしてくれた事。そして守るための力を与えてくれた事を」

火影

「だから俺達はこれを捨てる気はない。どんなに傷つこうともな。これは誰かに従っているわけでもない。俺達の本能に従っている。だが…もし今の話を聞いて俺達が怖くなったんなら…もう俺達に関わらない方が良い。何回も血を見ることになるかもしれねぇからな。……さて、今日は風呂が使える日だったな。折角だから入るか。じゃあなみんな、お疲れさん」

海之

「…俺も戻るか。ではな」

 

そう言って火影と海之は先に出て行ってしまった。残されたみんなは暫く黙っていたがやがて、

 

一夏

「あいつら…あんな気持ちで今まで戦っていたんだな」

「…どんなに傷ついても守るために戦い続ける…か。凄い覚悟だな」

セシリア

「…ええ。簡単にできることではありませんわ。でもおふたりのあの目は…本気ですわね…」

「戦いの痛みを忘れない様に…か。全然考えた事も無かったな」

シャル

「…僕もだよ。もっともっと考えないといけない事があるんだね…」

ラウラ

「…うむ」

 

火影と海之の覚悟を知ったみんなはそれから暫く考え込む事になった…。





お久しぶりです。この先もこういった事があると思いますので、すみませんが気長にお待ちいただければ幸いです。完結まで必ず書きます。


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第七章 Assault and omen
Mission85 IS学園学園祭一日目①


ショッピングモールの出来事から数日後。火影、海之、一夏達は訓練を重ねていた。相変わらずの火影と海之の強さに悔しがる一夏達だったが、自分達も確実に成長していると二人から褒められて皆素直に喜ぶ。
そして話は二人のIS、アリギエルとウェルギエルの性能の話に。一部を除いてバリアも絶対防御も無いというその内容にみんな酷く驚く。しかし火影と海之は痛みを忘れさせない様にしてくれたとそんな性能に逆に感謝し、その上でこれからも守るために戦い続けると宣言するのであった。


IS学園 某日

 

この日学園はえらく盛り上がっていた。というのも…

 

「ねえ~どこが良かった~?」

「私はあの部の出し物が良かったな~」

「あんたそれ自分の部の出し物じゃないの。はっ!もしかして織斑くんの入部を狙ったわね~」

「え~いいじゃん、自分の部に投票したらダメなんて言われてないし~♪」

「ねぇそういえば1-1のメイド喫茶行ってみた~?何でも織斑くんやエヴァンスくん達が執事してくれるらしいよ!」

「マジで!?絶対行かないと!」

 

所々で上記の様な会話が聞こえていた。

そう、この日はIS学園の生徒達が待ちに待った学園祭の日。二日間にかけて実施され、一日目は生徒が招待した外の客も交えての通常イベントが。二日目は学園挙げての生徒会考案のイベントが行われると言う。なんでもこんな事は今年が初めてだとか。

そんな一日目、各クラスや部が様々な催し物を行っている中、前述の通り今年は異常に盛り上がっていた。というのも今年は例年とは違い、一夏や火影や海之達男子がいるのである。しかも彼らのクラスではその男子達が執事役で持て成してくれると聞き、女子達は皆眼の色を変えている。其の噂を聞きつけて招待客の中にもそれを目当てにしている者もいた。その上一夏に至っては一番人気だった部に強制入部という生徒会長楯無のオリジナル企画に盛り上がった女子達がなんとか自分の所属する部に一夏を入れたいと必死だった。

 

 

…………

 

1-2(中華喫茶)前の廊下

 

「ねぇ、あのデザート美味しかったよねー!」

「なんでも織斑くんの手作りらしいよー!」

「海之くんの執事姿カッコ良かったよね~!あれだけでごはん3杯いけるわ!」

「いやいやどんな性癖よあんた…」

 

多くの生徒が一組から出てくる中、鈴がいる二組の出し物は中華スイーツを楽しめる中華喫茶だ。鈴もチャイナドレスを着てスタッフをしていたがすぐ隣で大繁盛している一組と違い、こちらはあまり人は来ていない様子だった。

 

「…やっぱり直ぐ隣であんな企画されたらみんなそっち行くわよねぇ~。流れてうちのクラスにも来てくれると思ったんだけどな~」

 

どちらかというと暇な様子の鈴はそう言った。その心中は、

 

(…火影も執事してるんだっけ…。凄く見たいけど私が休憩中にいるとは限らないしなぁ…。あいつ休憩中に来てくれないかしら…)

 

とその時、

 

火影

「よぉ鈴」

「…えっ!?」

 

見ると入口に燕尾服を着た火影がいた。

 

「火影!?な、なんでここにいるの!?」

火影

「ああ、生徒会の役割で今まで校内を巡回してたんだよ。それで着替えてきてこれから喫茶の仕事だ」

「そ、そうなんだ…」

(…やばい、めっちゃ似合ってる。想像以上だわ。てかこれから仕事って言ってたわね。という事は暫くはいるって事よね♪)

火影

「…どうした鈴。やっぱ似合わねぇかコレ?」

「…えっ?う、ううんそんな事無いと思うわ。あんたにしては良く似合ってるわよ」

(…もう!なんで私っていつも素直に言えないのよ!前にあんなに反省したのに~!)

火影

「ありがとよ。鈴もそのドレス良く似合ってるぜ」

「あ、ありがとう…」

火影

「…おっと邪魔したな。じゃあ俺行くから頑張れよ」

「うん、あんたもね。後で行くから」

 

そして火影は一組に入って行った。

 

「…さっ、頑張ろっと♪あっ、いらっしゃいませー!」

 

さっきまでの事はどこへやら、鈴はすっかりやる気を取り戻した。

 

 

…………

 

1-1(メイド喫茶)

 

火影達のメイド喫茶は大繁盛していた。火影が入ってくると女子達の「キャー!」「かっこいい!」という声が聞こえてきたがそれを無視し、今メイド役をしているシャルロットとラウラとセシリアに話しかける。

 

火影

「三人とも、待たせたな」

シャル

「あっ、ひか…」

ラウラ

「おお火影。…良く似合っているぞ。まあ海之程ではないがな」

セシリア

「本当に良くお似合いですわ!銀髪と赤い目が映えますわね」

火影

「ありがとよ。三人もよく似合ってるぜ。わざわざ作ったかいがあったな。…にしても凄い人気だな。どうだ状況は?」

ラウラ

「ああ、今のところ海之の指示で上手く回しているから問題ない。今はあいつが執事として対応している。一夏は厨房、箒は手伝いだ」

セシリア

「一夏さんと海之さんの料理も凄い人気ですわ!さっきまでは一夏さんが執事をされていたんですのよ。良くお似合いでしたわぁ!」

火影

「へぇそいつは楽しみだ。……どうしたシャル?」

ラウラ

「シャル?」

シャル

「…はっ!ご、御免なさい!」

(火影…カッコいい…。確か一緒に写真撮るサービスがあったよね!?後でお願いしようっと!)

 

すると厨房に行っていた海之が戻って来た。

 

海之

「お前か」

火影

「ああ。…お前そんな格好でその髪型してると益々親父に似てるな」

海之

「…ほっとけ」

シャル

「火影達のお父さんもこんな感じだったの?」

火影

「ああ気にすんな。そう思っただけだ」

 

すると厨房から一夏も出てきた。

 

一夏

「おお火影、良い所に来た!生徒会の仕事終わったんなら手伝ってくれ!さっきから注文が多くて大変なんだ!」

火影

「ああわかったよ」

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

男子陣が三人揃った所で益々室内の黄色い声が高くなった。

 

 

…………

 

火影が合流して数刻後、火影とシャルロットが厨房に、一夏は小休憩、箒はメイドに戻った。

 

シャル

「前に一夏の家に行った時に言ってたけど…火影本当に無駄がないね。いろんな注文があるのにそれぞれ時間差があまりなく出来あがってるよ」

火影

「繰り返しやってれば慣れるさ。できあがる時間を計算しつつ全部一緒に出せる様にするだけだ」

シャル

「それが難しいんだよぉ」

火影

「はは、ならまた今度ふたりで一緒にやるか?」

シャル

「えっ、ほ、本当!?」

眼鏡の少女

「はいは~いちょっと良い~?」

火影・シャル

「「えっ?」」

 

厨房に入って来たのは、

 

火影

「あなたは確か…黛先輩」

薫子

「そう!お久しぶりだね火影くん」

シャル

「知り合い?火影」

火影

「ああ、前にクラス代表の祝いで写真撮ってくれたんだ。でもなんでここに?」

薫子

「写真部の活動であちこち写真撮って回ってるのよ。でも流石は学園唯一の男子陣が集まっているだけあってここは大人気ねぇ!写真のとりがいがあるわ~」

火影

「ありがとうございます…というべきなのか?ここは」

薫子

「…という訳で早速ここで撮ろうか!表でならこの後幾らでも撮れるし、キッチンで一緒に料理する夫婦ってのも中々レアだしね♪」

シャル

「ふ、夫婦!?」

火影

「…ハァ。黛先輩はいったん決めると引きませんからね。いいかシャル?」

シャル

「う、うん大丈夫だよ!何にも問題ないよ!!」

薫子

「んじゃお願いね♪じゃふたり共腕組んで笑って~、ハイ!……いいねぇ♪これはレアだわ~!あっ、写真は後で送るから楽しみにしててね!」

火影

「ありがとうございます。でもあまり広めない様にしていただけると助かりますけどね。…おっと、調理中だったな」

シャル

「……」

(…夫婦、…僕と火影が…夫婦。…腕まで組んじゃった…。どうしよう…、もう今日火影の顔見れないかも…)

 

シャルロットは暫く顔の熱さが収まりそうになかった…。

 

 

…………

 

その頃、火影・シャルロットと交代した一夏は小休憩が終わって執事に、箒は小休憩に入っていた。

 

一夏

「やっぱ俺この格好似合わねえと思うんだよなぁ。作ってくれた火影達には悪いけど」

「そんな事ないと思うぞ。他のみんなも言ってたし、それにお前の希望を全部聞いて作ったものだから借り物とかよりよっぽど良い」

一夏

「ああそれはまぁな。箒のそれも良く似合ってるぜ。まぁこの前の巫女の姿の方がもっと似合ってたけどな」

「う、気にしている所を…。ま、まぁ確かに着なれていないからなこんな服は。…ところで一夏」

一夏

「ん、なんだ?」

「こ、この前私が巫女をしていた時…お前は私を、き、綺麗と言ったな?」

一夏

「? ああ言ったぜ。綺麗だった」

「! そ、それは…その…わ、私が女として魅力的だった…という事か?」

一夏

「……えっ?」

 

バンッ!

 

「だ、だからだな!私があの時女として魅力的に見えたのかと聞いているのだ!」

 

箒は周りの事もすっかり忘れて机を叩いて一夏に迫った。

 

「……」

一夏

「…あー、まぁ見えたかな。うん」

「! そ、そうか!」

生徒

「織斑くーん、指定入ったよ~!」

一夏

「あ、はーい」スタスタ…

「ああ…やっと…やっと…」

 

箒が少し夢心地になっている一方、

 

一夏

「お帰りなさ…ってセシリア?」

セシリア

「はい!休憩中に入りましたので指定させて頂きましたの♪」

一夏

「そうなのか。えっと…デザート奉仕セットか。しかしセシリアは良く似合ってるなそのメイド服」

セシリア

「あ、ありがとうございます!」

(一夏さんに似合っているって言っていただけましたわ♪ありがとうございます火影さん、海之さん!)

 

と同時にケーキが運ばれてきて、

 

一夏

「…それではお嬢様、本日のデザートはストロベリーのタルトでございます」

セシリア

「食べさせてくださるかしら?」

一夏

「畏まりました…。お嬢様、お召し上がりください」

(何を言ってるんだろうな俺…)

セシリア

「ありがとう」

(…幸せですわぁ♪)

 

セシリアも夢心地なのであった…。

 

 

…………

 

整備科

 

一方、こちらは整備室。こちらでは簪と整備科の部員、そして本音がある出し物をしていた。それは、

 

「…ねぇ本音。本音やみんなの気持ちは嬉しいけど…ここまで大袈裟にしなくても…」

本音

「いいのいいの~」

生徒1

「折角なんだからかんちゃんの頑張りをみんなに見てもらいたいじゃん」

 

整備科はつい先日完成した簪の専用機であり整備科の努力の結晶、打鉄弐式の作成記録を写真付きで展示していた。もちろん極秘の部分は隠して。最新の機体ということで注目度も高く、将来整備士を目指す者にとってはこれは嬉しかった。

 

生徒2

「あと簪ちゃん。予備で作っておいた薙刀で良かったの?ケルベロスを見せなくて」

「うん。良いのこれで」

(…あれは簡単に公開とかしちゃいけない気がするし、それにあんまりしたくない)

生徒1

「鈍いわね~。愛しの人からの贈り物なのよ。大事にしたいじゃない♪」

「! もうまたみんな!…それより良いの本音?クラス行かなくて」

本音

「いいのいいの。私が行かなくても魅力的な子沢山いるし。あとひかりんにはいつもデザートや料理作ってもらってるし♪」

生徒2

「良いなぁ本音は。相部屋の特権利用しまくりじゃないの。簪ちゃんも行きたいんじゃないの?」

「ううん、良いよ。私はここで」

生徒1

「うわ~余裕だね~」

(……この前のあれで…今は十分だから……)

 

簪は海之に握ってもらった手を見て心の中で呟いた。




おまけ

一夏
「……」
火影
「どうした一夏?」
一夏
「ああいや、箒達のメイド服についてなんだけどさ。あれってオーダーメイドなんだよな?」
海之
「そうだ。其々の希望の色に合わせて作った」

箒は赤、セシリアは青、シャルロットは黄色、ラウラは黒、他に白や緑等もある。

火影
「それがどうかしたのか?」
一夏
「…思ったんだけどさ、なんか戦隊ヒーローもんとかできんじゃね?ロボットはISで」
火影
「…ああ成程。専用機持ちならあと鈴がいるな。あいつなら緑が似合うだろうし」
一夏
「…じゃあ来年はそれで芝居やってみね?」
海之
「…ハァ」


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Mission86 IS学園学園祭一日目②

IS学園の学園祭の日が訪れた。
多くの生徒や招待客がでごった返す中、その多くの目的はやはり火影達がいる1-1のメイド喫茶。火影や海之、一夏のもてなしにみんな満足している様子。それはいつものメンバーも同じ様で、みんな日頃見ない彼らの姿や仕草にやはり満足している様子だった。


UAが65000に到達致しました。ありがとうございます!


1-1(メイド喫茶)

 

「織斑くんの執事姿も良かったねー!さっき一緒に写真撮っちゃった!」

「私はさっき海之くんと!」

「火影くんてワイルドよねぇ~。それでデザートも美味しいし!」

 

一日目も後半に差し掛かっていた。一組では一夏が執事を、海之と火影は厨房を担当していた。一組の繁盛ぶりは相変わらずで先程までしっきりなしに生徒がやって来ていたが丁度少しペースダウンした様子だった。女子達も何人か休憩に入っている。

 

「お疲れ様だ一夏」

一夏

「お~……。しかしさっきから客の殆どが俺達の名前呼んでんなぁ。そんなに物珍しいのかなぁ。みんなもの好きなもんだ」

シャル

「…そういう訳じゃない様な気もするけど」

 

とその時、

 

「全くだぜ…」

一夏

「ん?おお弾、蘭。あれ?それに虚さんも」

「こ、こんにちは一夏さん」

「お疲れ様です皆さん」

ラウラ

「ふたりも来たのか。しかし何故虚さんが一緒に?」

「ええ。弾さんと蘭さんをお見かけしたので校内をご案内させて頂いているのです」

「助かりました蘭さん。……一夏さん、よくお似合いだと思います」

一夏

「おう、サンキュー」

「蘭の奴行く前からお前の事ばっかり言っててよ~。こっちは耳にタコができ…いでででで!」

一夏

「どうした?」

「なんでもありませんよね~お兄~?」

 

蘭は弾のおしりをつねっていた。

 

「いてて…。…あ、あの~虚さん?もし良かったらでいいんですが…まだ見てない所一緒に回りませんか?」

「…ええ、私は構いません。しかし蘭さんは…」

セシリア

「蘭さんなら私達に任せてください」

「…えっ」

「…そうですか。わかりました。では弾さん、御一緒致しますわ」

「は、はい!じゃあ蘭、帰りまたな」

 

そして弾と虚は出て行った。

 

(…皆さん共良くわかりましたね。虚さんとお兄の事)

セシリア

(ふふっ、誰でもわかりますわ)

(いや…そうでもない奴がひとり)

一夏

「…変な奴だなぁ?」

(…なっ?)

(みたいですね…)

セシリア

(…ところで蘭さん。もしお時間がありましたらこの後私達とお話しませんか?今ちょうど客のペースも落ち着きましたので休憩しておりましたの)

(…良いんですか?)

シャル

(うんもちろん)

ラウラ

(異議はない)

(私が知らない中学時代のあいつの事とか教えてくれるとありがたい。私も小学時代の事を教えよう)

(は、はい!)

 

その後、蘭を加えた女子陣は暫く一緒に過ごして盛り上がっていた。

 

 

…………

 

その頃、厨房にいた火影も執事の仕事に入っていた。そして火影に指名が入る。指名したのは、

 

「火影~、来てあげたわよ~♪」

 

チャイナドレスを着たまま休憩に入った鈴だった。

 

火影

「お前かよ鈴。こっちで良いのか?向こうでみんな話してるぞ?」

「良いの良いの。私ひとりいなくても十分盛りあがっているみたいだし」

(何より火影の奉仕の方が魅力的だし♪)

「…さて、折角御指名してあげたんだからしっかり仕事しなさいよ」

火影

「へいへい。御注文は…デザート御奉仕+一緒に写真コースか。…畏まりました。少々お待ち下さいませ」

 

そして数分後、火影がケーキを持って戻って来た。

 

火影

「お待たせ致しました、お嬢様。桃のケーキと紅茶のセットでございます」

(…やっぱ慣れねぇ)

「ありがとう。じゃ食べさせてくれる?」

(…本当に画になってるわね)

火影

「畏まりました、……お嬢様、どうぞ」

「う、うん」

 

そういうと鈴は火影の持つケーキを口に含んだ。

 

「すっごく美味しいわ!」

火影

「喜んでいただけてとても嬉しく思います。お嬢様」

 

火影が微笑すると鈴は少し赤くなった

 

「! そ、そう…」

(こいつのこの格好でこの笑顔は…卑怯レベルだわ)

 

……そしてやがてケーキセットを食べ終え、次は写真撮影に移る。

 

火影

「それではお嬢様。当店の写真サービスはお嬢様のご希望に沿った御写真をお撮りするというサービスになっております。どんな御写真を御望みでしょうか?」

 

火影がそう問いかけると、

 

「…えっとね……えっと…」

 

鈴は何やら恥ずかしそうだ。

 

火影

「はい」

「…えっと…後ろから抱きしめる様な感じで…撮ってほしい」

火影

「畏まりました」

 

そう言うと火影は鈴の後ろ側に回り、腕を彼女の首の横から通して後ろから抱きしめる感じとなる。

 

「!!」

火影

「…これで宜しいですか?お嬢様」

 

後ろから抱きしめられる形なので自然と二人の頭も近くなる。火影が鈴のすぐ横で呟く。

 

「え、ええ…大丈夫よ」

(大丈夫じゃない…全然大丈夫じゃない!近い近い近い!顔が近いから!!)

 

自分で指示しておきながらどの様なものか体感してみて鈴は急激に恥ずかしくなった。とそこに撮影役の薫子が、

 

薫子

「これも良いねぇ♪英国紳士男子とチャイニーズ娘の異国人恋人同士って感じねぇ♪」

「……」

 

そう言われて鈴は真っ赤になって黙ってしまった。一方火影は、

 

火影

(おそらくアミュレットからあいつらも見てんだろうな…。次会ったら絶対からかわれるぜ…)

 

火影はアリギエルのコアに宿る二人の人物を思い出していた。更にこの後、一連の事を見ていたシャルロットが休憩時に同じ注文をしたのは言うまでもなかった。

 

 

…………

 

それから数刻して、休憩に入った海之は同じ休憩だったラウラ(というより一緒にしてもらった)と一緒に外に出ていた。

 

ラウラ

「見てみろ海之、ここは占いをやっているみたいだぞ」

 

ふたりが通りかかったのはある部活が出している占いスペースだった。

 

海之

「占いか…。俺はこういうものは当てにしない主義だが」

ラウラ

「見てみろ、今人気の占い師だ。前テレビで見た事があるぞ。ここの生徒の遠い親戚だからわざわざ来てくれたとある。なぁ折角だからやってみないか?私も占いやってみたい」

海之

「…仕方ないな」

 

そしてふたりは小部屋に入って行った。中はカーテンで覆われて薄暗く、中央に丸いテーブル、そして向こう側に女性が座っている。オレンジのローブで銀の髪飾りを付けている。

 

女性

「よくいらっしゃいました…。どうぞ、そちらの席へ…」

 

そう言われてラウラが座る。海之もいようとしたがラウラに外で待っていてほしいと頼まれたので外で待つ事にした。

ラウラ

「あ、あの…」

女性

「ふふっ、今の方との相性をお知りになりたいのですね?」

ラウラ

「! な、なぜ!?」

女性

「先程の貴女のお言葉や仕草を見ればわかりますわ。素敵な方ですね」

ラウラ

「う、うむ。私の嫁だからな。素敵で当然だ!」

女性

「まぁ…ふふっ、仲睦まじくて羨ましいですわ。…さて、それでは始めましょうか」

 

すると女性は目の前にある水晶玉に触れ、更にタロットを数枚取り出して占いを始める。

 

女性

「……」

ラウラ

「……」

 

女性は水晶玉とタロットを交互に見、そして、

 

女性

「……成程」

ラウラ

「! わ、わかったのか!?で、どうだ!?」

女性

「…御安心ください。貴女とあの人の相性は決して悪くありませんよ。貴方と彼は以前同じ様な境遇だったようですね。そのため、お互いの弱い部分等を良く理解でき、そして補う事ができます。良い相性だと思いますよ」

ラウラ

「! そ、そうか!」

女性

「ええ。…ですが…彼に好意を抱いているのは貴女だけではないようですね。多くの方が想いを寄せておられる様です。もしかしたら…貴女もそれをご存じなのではないですか?」

ラウラ

「…うむ」

 

ラウラはその言葉にひとりの少女とひとりの女性を想い浮かべた。

 

女性

「そうですか…。ですが貴女もこの事でその人達との関係を壊したくはないと御思いの様ですね。寧ろ大切だと思っている」

ラウラ

「…うむ」

女性

「ふふっ、優しい方ですね。…結論を申し上げると貴女と彼との相性は良いです。ですから慌てる事はないと思いますよ。頑張っていつか想いを伝えられると良いですね」

ラウラ

「う、うむ!」

 

ラウラは素直に喜んだ。と、女性は話を続ける。

 

女性

「…それから…これは彼についてなのですが…、彼はとても大きな隠し事をされている様ですね」

ラウラ

「…えっ?」

女性

「ああ御安心ください。女性に関してではありません。これはおそらく…彼の過去についてだと思います」

ラウラ

「海之の過去?」

女性

「ええ…。ですがそれが何かはわかりません。…しかし言えるのは…彼を信じてあげてくださいという事、そして彼はあなたや多くの方に必要な人であると言う事です」

ラウラ

「ああわかっている。海之は私やみんなに必要だ。もちろん火影もな」

 

ラウラは力強く応えた。

 

女性

「…ふふっ、それでしたら大丈夫ですわ。頑張ってくださいね」

ラウラ

「うむ!感謝するぞ!ではな!」

 

そしてラウラは笑顔で外に出て行った。…すると女性は再び占いを始め、

 

女性

「……やはり見えない。あの海之という方の光、そしてその隣のもうひとつの赤い光。過去も……未来も……。一体これは……」

 

 

…………

 

その後、学園祭一日目は順調に進んで終了の時間となり、各クラスや各部が一日目の後片付けに追われていた。特に繁盛していた1-1も時間はかかったが何とか片付けも残り僅かとなり、最後に火影と海之が残ってチェックしていた。因みに空はもうすっかり夕刻に差し掛かっている。

 

海之

「…後残りはなさそうだな」

火影

「ならさっさと戻ろうぜ。明日もあるし、何より午後からは楯無さんの特別企画っつーのがあるんだろ?…正直嫌な予感しかしねぇんだよなぁ」

海之

「…確かにな。お前は先に戻っていろ。俺は最後にもう一回りチェックしてから戻る」

火影

「相変わらずご丁寧だな。じゃあ明日な」

 

そう言って火影は出て行き、海之は最後に簡易的なチェックをしていた。すると、

 

「…海之」

海之

「? 織斑先生」

 

声をかけたのは千冬だった。

 

海之

「お疲れ様です」

千冬

「ああ。…大変だった様だな。凄い人気だったと聞いたぞ」

海之

「おかげさまで。ですがみんなが頑張ってくれたおかげで無事に終われました」

千冬

「そうか…。ほら」ポイッ

 

そういうと千冬は海之に何かを投げた。海之が受け止めるとそれは温かい紅茶だった。

 

海之

「…ありがとうございます。…先生、良ければケーキ召し上がりませんか?」

千冬

「えっ?いや気にするな。片付けしたんだろう?」

海之

「大丈夫です。折角紅茶頂きましたし良かったら。こちらにどうぞ」

千冬

「…そ、そうか。じゃあ…頂こうか」

 

千冬は言われた通り席に座った。数分後、厨房から海之がバターケーキも持ってきた。

 

海之

「お待たせしました。明日に使うケーキですので熟成しきっていませんがどうぞ」

千冬

「あ、ありがとう…」

(…やはり画になるな)

 

千冬は心でそう思いながらケーキを口に運ぶ。海之は向かい側に座った。

 

千冬

「…旨いな。ああそういえば以前お前達が家に泊った時にお前わざわざスープを用意してくれたんだな。礼を言い損ねていた」

海之

「気にしないでください。ですがやはり飲みすぎになったんですね」

千冬

「ああ大変だったよ。真耶の話に付き合わされてな」

海之

「どんなお話だったんですか?」

千冬

「ああそれは……!!」

 

千冬はあの時の真耶の話を思い出し、急速に赤くなった。

※詳しくはMission67をご覧ください。

 

海之

「…どうしました?」

千冬

「な、な、なんでもない!忘れてくれ!」

海之

「? わかりました」

千冬

「うぅ……」

 

千冬は紅茶を飲んで少し落ち着く。

 

千冬

「ふぅ~。…なぁ海之、ひとつ聞いて良いか?」

海之

「? はい」

千冬

「お前は…親に会いたいと思った事はあるか?エヴァンス夫妻でなく、お前達の本当の親にだ」

海之

「……なぜそんな事を?」

千冬

「…いや、ちょっとな。…なんでもない。すまん、忘れてくれ」

 

千冬はそう言ってごまかした。そんな千冬に海之は少し考えて答える。

 

海之

「……そうですね。今さら会いたいとは思っていません。それに二度と会えませんし」

千冬

「…?どういう意味だ?まだ生きているかもしれんぞ」

海之

「…いえ、それはありません。あと…俺達は確かに捨て子ですが、俺も火影も実の親を恨んでいませんよ」

千冬

「…全くか?」

海之

「ええ…。親父も母も…俺達を救おうとした…。俺を探していた…。死ぬまで…。だから恨んでいません」

千冬

「海之…」

 

千冬は海之が何を言っているのか正直分からなかったが、その目は嘘ではないと確信を得るに十分だった。

 

海之

「先生はどうですか?前に一夏から少しだけ聞きました。何でもあいつが幼い時に出ていったとか」

千冬

「…ああ、まあな…」

 

千冬は言葉を濁した。それを聞いて海之はあまり入っていくべきでは無いと感じ、

 

海之

「…話たくなければ構いません」

千冬

「すまんな海之。私から聞いておいて」

海之

「気にしないで下さい」

千冬

「ふふっ、何度も言うがつくづくお前は大人だな。一夏とは大違いだ」

海之

「そんな事はありませんよ。一夏も日々成長しています」

千冬

「そうかな?……ところで海之。ひとつ頼みがあるのだが…」

海之

「はい」

千冬

「その…、お前がその姿でいる内に、ひとつ注文したいのだ。内容は…この、3つ質問コースで」

海之

「ええ構いませんよ。お金も要りませんから」

千冬

「いやそうはいかん、後で払っておく。それで早速ひとつ目の質問だが…」

海之

「はい」

千冬

「…その、お前には…今、特別の付き合いをしている者は…いるか?男子ではなく女子でだ」

海之

「? 特別というのがどういう意味かわかりませんが…ひとりに限ってはいませんね。ああしかし簪やラウラとはよく一緒に行動している事が多いですね」

 

海之の返事に千冬は交際している女子はいないのだなと思った。

 

千冬

「そうか…。ではふたつ目だが…先日のお祭りの際、お前は私の事を強くて優しい女性と言ったが…あれは本心か?」

海之

「ええもちろんです。織斑先生は強くて優しい方だと思います」

 

迷いない海之の返事に千冬は少し赤くなり、

 

千冬

「し、しかし…私はいつも生徒達に厳しく当たっているし…女らしさも薄い。家に来た時見たろう?あんな恰好でいるし家事はいつも一夏に任せっぱなしだし…」

海之

「誰にでも得意不得意はあります。普段学園で頑張っていらっしゃるんですから家では多少力を抜かれても良いと思います。それに一夏も家事をするのは嫌でないと言っていました。…あと先生が厳しいのは生徒達に傷ついてほしくないと御思いだからでしょう?ISを動かすには多くの危険が伴いますから。だから先生はそのままでも良いと思います」

千冬

「……助かるよ」

 

海之の言葉に千冬は感謝した。

 

海之

「…それでみっつ目の質問はなんですか?」

千冬

「えっ?…あ、ああそうだったな。…あの…その…」

海之

「?」

 

海之は少し疑問だった。いつもの千冬らしくないと。まるで先日の箒の叔母に会った時みたいだと。

 

千冬

「いや…、これは質問というより、頼みに近いのだが…」

海之

「なんですか?」

 

そして千冬は顔を赤くして言った。

 

千冬

「海之、これからは私の事を…名前で呼んで…くれないか?」

海之

「…えっ?しかし失礼では」

千冬

「良いから!…千冬と…呼んでほしい」

 

海之は少し考えたがやがて、

 

海之

「……分かりました。ではこれからは千冬先生と」

千冬

「先生もいらん、さん付けで良い」

海之

「流石にいきなりは失礼です。千冬先生と呼ばせて頂きます」

千冬

「…真面目だな。ふふっ、わかった。それで良い」

 

ほんの少しの事かもしれない。しかし千冬にとっては大きな事だった様だ。




一日目が終了です。次回はあの企画が始まります。


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Mission87 灰被り姫(シンデレラ)

IS学園学園祭。火影達1-1のメイド喫茶は大盛況のまま一日目の幕を下ろした。男子達はかなり大変そうだったが女子達や千冬はみんな満足そうだった。
そして日は開けて学園祭二日目。この日は午後より生徒会長である楯無考案の特別企画があるという。それを聞いて火影達はなぜか嫌な予感しかしなかった…。


IS学園学園祭二日目、午後。

 

学園内のとある一角。ここに何故か隠れるように火影達がいた。しかも仮装して。

 

一夏

「はぁ、はぁ、はぁ……ほんっとどこまでしつけーんだよ…」

火影

「…やれやれだぜ…」

海之

「…ハァ」

 

珍しく火影や海之も疲れている様だった。

 

火影

「やっぱ悪い予感が当たったか…。恨むぜ楯無さん…」

 

何故こんな事になっているのか。事は数刻前まで遡る。

 

 

…………

 

学園祭は二日目に突入していた。二日目の午前中は昨日に続いて出し物や催し物を行い、午後は生徒会長考案の特別企画を行う予定である。そんな二日目の午前の部も無事に終わり、時間帯は午後に差し掛かろうとしていたのだが…。

 

1-1

 

一夏

「つ、疲れた…」

シャル

「みんなお疲れ~!昨日に続いて大盛況だったね~」

「うむ。おかげで経費も十分賄えた。もしかしたら人気トップかもしれないぞ」

ラウラ

「…しかし過ぎればあっという間だったな。折角嫁や弟が服を作ってくれたのにもう着る機会がないと思うと…なんか寂しい気がする」

「気にいってたのねあんた…、まぁわかるけどさ。それってオーダーメードなんでしょ?」

セシリア

「そうですわ。御二人が私達の希望通りに作ってくださいましたの。例えば私のは青色の生地に白いリボンですわ」

シャル

「僕のは黄色い生地に緑のリボンだよ」

海之

「もし気にいったのなら持ってても良いぞ。もう必要ないからな」

ラウラ

「本当か!?」

火影

「ああ。本音と簪は…まだみてぇだな」

「二人の整備科も人気だったぞ。休憩中に見に行ったが、最新型の弐式が将来ISの整備士を目指す生徒や装備メーカーへの就職を狙う生徒の注目の的だった」

「へ~。……どうしたのよ一夏?」

一夏

「…箒、お前が整備科に行った時にオレンジの長髪の女の人はいなかったか?」

「オレンジの長髪の女性?…いや見なかったな。その女の人がどうかしたのか?」

一夏

「いや、只の知り合いだ。…巻紙さんも来ると思ったんだけどな。ISの装備メーカーの人なら」

火影

「……」

一夏

「まぁいいや。それより午後の特別企画ってやつだけど結局何すんのかわからねぇままだな。火影達は聞いてるか?」

火影

「いや、俺達も聞いてない」

セシリア

「生徒会員のおふたりもご存じないなんて」

 

~~~~~~~~~~~

 

とその時、校内放送が鳴った。聞こえてきたのは、

 

楯無

「…コホンッ。え~エヴァンス兄弟のふたり、そして織斑一夏くん。以上三人は急いで生徒会室に来てね~。…あああと女子達は全員体育館に集合してくださいね~。以上!」

 

楯無の声だった。

 

全員

「「「…………」」」

 

全員は暫く黙っていたがやがて、

 

火影

「…行くか」

海之

「…ハァ」

一夏

「そうだな。…んじゃみんな、後でな」

シャル

「うん。また後でね」

 

そういうと男子組は女子達と別れて生徒会室に向かった…。

 

 

…………

 

生徒会室

 

火影

「失礼します」

 

ガラッ

 

火影達は扉を開けた。…しかし中には誰もいなかった。

 

一夏

「? なぁ、誰もいないぞ?」

海之

「変だな…確かに生徒会室に来いと楯無さんが…」

火影

「おい、ここに3つ袋があるぜ」

 

火影の言う通り机の上に3つの袋があった。

 

一夏

「…これは服か?」

火影

「名前もある」

 

それぞれの袋には名前も書かれている。おそらく自分の名前が書かれているのが自分の袋なのだろう。そしてそこには手紙もあった。その内容は、

 

「火影くん海之くん一夏くんへ

お疲れ様!来てくれて申し訳ないけど楯無さんは準備で忙しいから先に行ってるね!袋はそれぞれの名前が書かれている物だよ!それじゃ準備が出来たらアリーナに来てね~♪

楯無さんより」

 

火影・海之・一夏

「「「……」」」

 

服が入っているらしい3つの袋とこの手紙を見て三人は何故か嫌な予感がした。しかしやらない訳にもいかず、

 

海之

「…着替えるか?」

火影

「それしかねぇだろ…。とっとやって終わらせようぜ」

一夏

「…そうだな」

 

三人は袋に入っていた服にそれぞれ着替え、アリーナに向かう事にした…。

 

 

…………

 

アリーナ

 

数刻後、着替え終わった三人はアリーナに来ていた。…しかし、

 

一夏

「…なぁ、なんで俺だけこんな格好なんだ?」

 

一夏にあてがわれた服は膝部分までしかないズボンの下に白タイツ。赤い服にラフカラー。そしてマントに王冠と、一見昔の英国貴族の様な格好である。

 

火影

「知るかよ。つーか俺達も同意見だっての…」

海之

「…全くだ」

 

火影の服は一夏と同じく赤い服だが一夏のとは感じが違う物で、他には白いズボンに黒のブーツ。マント。腰には一振りの剣。そして胸の部分に銀の勲章の様な物がある。

一方海之は火影の服と色違いで色は青。腰には火影と同じく剣。そしてこちらは金色の勲章がある。ふたりとも一見騎士の様な格好だった。

 

一夏

「二人はまだ良いよ…。せめて俺にも剣があれば良かったのにな」

火影

「剣と言っても模造品だがな。…しかし遅えなぁ、もう20分位経ってるぞ」

海之

「……」

 

~~~~~~~~~~~

 

とその時アリーナ中にアラームが鳴り響く。その音はまるで映画の開幕前のアラームに似ていた。そして、

 

楯無

「…皆様。大変長らくお待たせ致しました。只今より生徒会特別企画、「シンデレラ」を開演致します」

 

楯無の声がした。どうやら管制塔にいるらしい。

 

一夏

「び、吃驚した…」

 

すると突然アリーナのスクリーン画面に絵が映し出された。そして同時に楯無のナレーションが始まる。

 

楯無

「むかしむかし、とある国のとある街にひとりの女の子がいました。少女の名前はシンデレラ。その街で最も美しいと言われている少女。ある日の夜、お城で開かれた舞踏会に参加したシンデレラは、そこでとある国の王子と名乗る人物と出会います。彼の優しさにシンデレラは瞬く間に恋に落ちてしまいました。そして王子の方も、彼女を好きになったと伝えました。夢心地のシンデレラは近い内にまた必ず会いましょうと王子と約束し、その日は別れる事にしました」

火影・海之

「「……」」

一夏

「なんかストーリーが違う気が…」

 

三人を尻目に楯無のナレーションは続く。

 

楯無

「翌日、まだ夢心地が覚めないまま街で買い物をしていたシンデレラは、立て看板を見ているらしき人混みと出会います。何事だろうと自分も近づき、人混みを割って立て看板を見る事にしました。そして…そこにはこう書かれていました」

 

「敵国に雇われたスパイ!?この似顔絵の人物、王子と偽って極秘文書を盗んだ疑いあり!捜索隊に協力してくれる勇士募集!」

 

火影・海之

「「…!」」

一夏

「…なんかえらい話になってきたな」

楯無

「シンデレラはそれを見て驚愕します。書かれていた似顔絵の人物はなんと…昨日自分が出会った王子そのものだったのです!一国の王子を名乗っていた人物が実はスパイだったという衝撃の事実に、彼女は激しくショックを受けてしまいました。……と思いきや、シンデレラの心には別の感情がありました。それは……」

 

「純粋で清らかな女の子の恋心を、乙女心を傷つけた…。許さない!!必ず私の手で捕まえてやる!!」

 

火影・海之

「「……」」

一夏

「シンデレラってこんなキャラクターだったっけ…?」

 

楯無のナレーションは更に続く。

 

楯無

「偽王子への復讐を決意したシンデレラはその翌日お城に出向き、捜索隊に参加する事にしました。実は彼女は街一番の美少女であると同時に、街で一番の女剣士でもあったのです。実力が認められ、参加が許された彼女ら捜索隊に王は伝えます」

 

「王子に扮したその男はふたりの手練れの剣士を護衛につけている。決して油断するでないぞ!!打った証としてその男の王冠、または剣士の勲章を持ち帰るのだ!そうすれば何でも望みのものを授けようぞ!」

 

火影・海之

「「!」」

一夏

「王子とふたりの剣士って……」

 

楯無

「その王の言葉に捜索隊の面々は凄まじいやる気となりました。そしてシンデレラも」

 

とその時、

 

火影

「!」

 

カキイィィィィンッ!!

 

火影は腰の剣で後ろから来た何かを受け止めた。それは、

 

「くっ!やっぱりやるわね火影!」

 

槍(木製)を振るってきた鈴だった。

 

火影

「…は!?」

一夏

「鈴!?…って、お前、なんだその格好?」

 

火影や一夏は驚いた。というのも…鈴はシンデレラの様な純白のドレスを纏っていたからだ。

 

「そんな事は今はどうでもいいの!一夏!あんたの王冠を渡しなさい!火影に海之!あんた達の勲章でもいいわ!」

 

鈴の狙いはどうやら一夏の王冠、または火影と海之がつけている勲章の様だ。すると、

 

海之

(…赤い光?…これは…レーザーサイト?…!)

「伏せろ一夏!」

一夏

「えっ!?」

 

一夏は言われて素早く頭を下げた。すると、

 

ボソッ!

 

突然地面に穴が空き、土が飛んだ。

 

一夏

「な、なんだ!?」

海之

「…これはゴムの弾か?……!」

 

海之は飛んできた方向を見ると観客席からセシリアがこちらにライフルを構えているのが見えた。

 

セシリア

「流石ですわね海之さん。当たると思いましたのに。でも諦めませんわ!あの王冠は必ず私が!」

 

話の流れからしてセシリアの狙いもどうやら鈴と同じらしかった。

 

一夏

「あ、あぶねぇ…」

海之

「…!」

 

ガキンッ!ガキンッ!

 

海之もまた剣を抜き、何かを払いのけた。

 

一夏

「今度はなんだぁ!?」

海之

「…ラウラ」

 

見るとドレスを纏ったラウラがいた。

 

一夏

「…作りもんのナイフ?ラウラ!お前あぶねぇだろ!」

ラウラ

「…嫁よ。王冠かその勲章を渡せ。逃げられはしないぞ。学園中がお前達を狙っているんだ!」

一夏

「訳わかんねぇっつーの!」

 

とその時、楯無のナレーションが聞こえた。

 

楯無

「さぁ始まりました!自らの願いを叶えようとするシンデレラ!目指すは偽王子がもつ王冠!もしくは護衛の騎士の勲章!それを手に入れようとシンデレラは雨に降られても砂埃を被っても灰を被ってもひたすらに進みます!その姿はまるで兵士そのもの!そんな彼女を人々はこう呼びました…「灰被り姫」と。果たしてシンデレラは願いを叶える事が出来るのか!?」

 

とその時、

 

~~~~~~~~~~~~~

 

アリーナ入口から大量の女子達が入って来た。しかもみんなドレスを着ている。

 

「一夏くーん!」

「火影くーん!」

「海之くーん!」

 

火影

「…そういう事か。お前らはシンデレラで俺らはその王子と騎士。そして一夏の王冠か俺らの勲章を取れば…お前らの望みを聞いてもらえるってわけだな?」

一夏

「な、なんだって~!!」

海之

「…ハァ」

「そういう事!だから早く渡しなさい!この状況ではもう逃げられないわよ!」

 

そう言いながら鈴は今度は丸腰の一夏に襲いかかる。

 

火影

「一夏!コレ使え!」

 

火影は自らの剣を一夏に投げて渡す。

 

ガキィィィィン!

 

一夏

「あ、あぶねぇ~!サンキュー火影!」

「ああもう~!」

 

そうこうしている間に外から他の生徒も迫ってくる。

 

ラウラ

「くっ…素直に渡してくれ海之!嫁のお前に傷を付けたくはない!何よりそれを他のみんなに渡したくないんだ!」

海之

「…どうかな?逃げられないと決めつけるのはまだ早いぞラウラ」

 

すると海之は自らの懐から何かを取り出し、それを放り投げる。

 

カランカランッ…ボンッ!!

 

生徒達

「「「!!」」」

一夏

「うぉ!」

「えっ!?」

ラウラ

「なっ!スモークグレネード!?」

 

周辺にものすごい白煙がたつ。観客席から狙うセシリアも困惑している。

 

セシリア

「これでは照準が定まりません!」

海之

「俺が造った護身用だ。まさかこんな遊びに使うとは思わなかったが。因みに無害の煙だから安心しろ。ふたり共、行くぞ」

火影

「おう!」

一夏

「あ、ああ!」

 

三人は煙に紛れて逃走した。…そして煙が晴れた時には三人の姿は無くなっていた。多くの女子が残念がっている中、

 

(さすがは火影と海之。あと一夏も。やっぱそう簡単には行かないってわけね…。でも諦めないわよ。必ず私が王冠取ってみせる。そして…火影と相部屋になってやるんだから!)

セシリア

(あんな物を隠し持っていたなんて…。ですがチャンスはまだある筈ですわ。3つの内のひとつで良いんですもの!必ず一夏さんと相部屋になってみせますわ!)

ラウラ

(まさかあんな物を持っているとは…。海之の奴やはりやるな…。だがそれでこそ私の嫁だ。…待っていろ、お前との相部屋の権利は誰にも渡さんからな!)

 

鈴達はますますやる気の様であった。一方今の様子を管制塔から見ていたこの企画立案張本人の楯無は、

 

楯無

「ふっふ~ん♪やっぱやるねぇ火影くん海之くん。スモークグレネードとは正直恐れ入ったよ。…でもそれで良いよ。まだ企画は始まったばかりなんだから♪そんな簡単に捕まっちゃ面白くないからね~!」

 

楯無は悪戯っ気で一杯の笑みを浮かべていた…。




おまけ

その頃、先程姿が見えなかった簪と本音は…、こんな所にいた。

火影と本音の部屋

本音
「ねぇいいの?かんちゃん~。みんなと一緒に参加しなくて~。このままじゃみうみうとの相部屋の権利取られちゃうよ~?」

「…うん、わかってる。でも…」
本年
「でも~?」

「…あんな企画に参加して…海之くんを困らせたくないもん…。相部屋でなくなるのは嫌だけど…、海之くんに変に思われるのは…もっと嫌」
本音
「かんちゃん~…」

「…本音はいいの?火影くんとの相部屋が無くなるかもしれないよ?」
本音
「…かんちゃんがここまで頑張ってるのに私が頑張らないわけにいかないでしょ~?」

「…ごめんね本音」
本音
「いいの~!私とかんちゃんの仲だしね♪」

「…ふふっ」

ふたりが一番大人かも知れない…。


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Mission88 シンデレラの猛攻

IS学園の学園祭二日目。
この日は午後より生徒会考案の特別イベント開催される予定。何をやるか分からないまま、火影達はそれぞれ準備に入る。

着替えが終わってアリーナで待機していると突然物語が始まると同時に男子組は女子達から襲撃を受ける。その企画とは一夏の王冠か火影・海之の持つ勲章を奪った女子は何でも願いを聞いてもらえるという会長の楯無の遊びで生まれたものだった。なんとかその場を脱する火影・海之・一夏の三人。しかし女子達は全く諦めておらず、追跡を開始する。


IS学園のとある一角。アリーナからなんとか脱出した男子組は目立たない場所に潜んでいた。

 

一夏

「はぁ、はぁ、はぁ……ほんっと酷い目にあった…」

火影

「…やれやれだぜ…」

海之

「…ハァ」

 

珍しく火影や海之も疲れている様だった。

 

火影

「やっぱ悪い予感が当たったか…」

一夏

「まぁでもふたりのおかげで瞬殺は免れたな。…しかし海之、あんなもん何時から持ってたんだ?」

海之

「常に携帯している。ひとつだけだがな」

火影

「ああそういや一夏、護身のために俺の剣はそのまま持ってろ。俺にはこれがある」

 

そう言うと火影は先程ラウラが投げた2本のナイフ(模造品)を持ってきていた。

 

一夏

「すまねぇ助かるよ。丸腰じゃ心許ないからな」

火影

「…さて、どうするか。ここも見つかるのは時間の問題だし…別々に分かれるか?」

海之

「それが良いだろうな。固まっていれば不利なだけだ」

一夏

「やっぱそうだよなぁ…」

火影

「一番厄介なのはやっぱラウラだろうな。一応軍人だから身体能力も優れているし…」

 

とその時、

 

女子

「いたー!ここよー!!」

 

ひとりの女子が上から見下ろしていた。その声に反応して多くの女子の近づいてくる声が聞こえる。

 

一夏

「やべ!見つかった!」

 

すると火影は後ろの窓から外を覗きこみ、

 

火影

「…二人は先に逃げろ。俺はみんなを引き付ける」

一夏

「引き付けるってどうやって!?」

火影

「心配すんなって。だから行け」

海之

「行くぞ一夏」

一夏

「すまねぇ火影!無事でな!」

 

そう言って海之と一夏は行ってしまった。そして反対方向から大量の女子が来る。

 

女子達

「「「火影(藤原)(エヴァンス)くーん!!」」」

火影

「おいおい…。あいつらには悪いが…あの必死の形相…アレ見たら悪魔達も逃げ出しそうだな。…ってそんな事言ってる場合じゃねぇな。ギリギリまで引き付けて…」

 

そして火影と女子達の距離が残り2、3メートルとなったところで、

 

火影

「悪いな。よっ!」

女子達

「「「「……!!」」」

 

火影は後ろの窓から遥か下まで飛び降りた。…と思いきや、

 

ダンッ!ダンッ!ダンッ!

 

火影は壁から僅かに出っ張った部分を使い、そこを蹴って飛び移りながら少しずつ下に移動して行ったのだった。

 

「な、なにアレ!?」

「壁を蹴ってる…」

「嘘でしょ…」

「カッコいい…」

 

女子達はみんなその光景に茫然とするしかなかった…。

 

火影

「…よっと!…やれやれ、昔の通りできるかちょっと心配だったがなんとかなるもんだな。って感心してる場合じゃねぇな。ここも何時までもつか分から……?…あれは…」

 

 

…………

 

その頃、火影と別れた海之・一夏も更に途中で別れていた。そして一夏は、

 

一夏

「はぁ、はぁ…火影も海之も上手く逃げれたかな?あいつらなら多分大丈夫だろうけど…」

 

とその時、

 

シャル

「一夏!こっち!」

一夏

「シャル!」

 

影からシャルロットが一夏を呼んだ。そこは周りからは見えにくくなっている場所だった。

 

一夏

「はぁ、助かったぜシャル」

シャル

「ううん。なんか大変だね。…火影と海之は?」

一夏

「火影は俺達を助けるために囮になってくれたんだ。海之は一緒に逃げてたけどさっき別れた。捕まったっていう情報が無いから多分まだ二人共大丈夫だと思うけど」

シャル

「そうなんだ。……ねぇ、一夏。ひとつお願いがあるんだけど…」

一夏

「なんだ?」

シャル

「あの…一夏の王冠、…僕に譲ってくれない…?」

一夏

「えっ?コレ?…ああいいぜ。シャルなら変なお願いもしねぇだろうしな」

シャル

「ほ、ほんと!?」

(一夏の王冠か火影・海之の勲章のどれかを取ればお願いを聞いてもらえるってあった。でも火影や海之が相手じゃはっきり言って分が悪いし、ここは一夏に譲ってもらうのが一番いいもんね!)

「じゃ、じゃあ王冠ちょうだい!」

一夏

「ああほら」

 

一夏は手に王冠を取った。

 

シャル

「……」

(これでまた火影との相部屋に!)

 

そして王冠がシャルロットの手に渡りそうになったその時、

 

バリバリバリバリバリバリバリバリッ!!

 

一夏

「あばばばばばばばばばばばばばっ!」

シャル

「い、一夏!?」

 

突然一夏の身体に強烈な電流が走った。やがて電流は止み、一夏の身体から煙がくすぶる。

 

一夏

「…な、なんだコレ…?」

シャル

「だ、大丈夫一夏?」

 

とその時、校内放送でまたナレーションが鳴り響く。

 

楯無

「シンデレラから逃げ続ける偽王子達。しかしどんなに追い詰められても王子達には自首や勝手に王冠を渡すことは許されない。何故なら…その王冠や勲章には防衛プログラムが組み込まれているからだ。これは偽王子達の雇い主が彼らが裏切ったりしない様密かに付けたもので、自首やそれに近い行動をとると自然に電流が走るというものである。任務遂行は絶対!それが雇い主の命令であり、同時に偽王子達が自分にかしている使命であった…」

 

一夏・シャル

「「……」」

 

二人はそのナレーションを聞いて暫く黙っていたが、

 

一夏

「なんじゃそりゃー!じょ、冗談じゃねぇ!という訳でこいつはやれなくなった!悪いなシャル!」

シャル

「えっ!ちょ、一夏!」

 

そういうと一夏は猛スピードで走って行った…。

 

シャル

「…ああんもう!もう少しだったのに~!楯無さんのバカー!」

 

 

…………

 

一夏

「はぁ、はぁ…つ、疲れた。…ったくとんでもない企画考えてくれたもんだぜ楯無さん」

 

しょっぱなのアリーナ包囲網からの脱出、そして2回目、更にシャルロットから逃げた一夏の疲れはピークを迎えていた。

 

一夏

「こうなったら終わる迄どっかに隠れてるしか…、? つーかこの企画っていつ終わるんだ?タイムリミットとかあんのかな…」

 

ガタッ

 

一夏

「! こんどは誰だ!?」

「…一夏」

 

そこにいたのは箒だった。

 

一夏

「な、なんだ箒か…。もしかしてお前もこれを?」

「……ああ」

一夏

「…やっぱな。はぁ、悪いけど幾らお前でもやれねぇぞ?やったらこっちが大変なんだ」

「いや、譲ってもらおうなんて思っていない」

一夏

「…?」

「…一夏、今ここで私と戦え。正々堂々の勝負だ。そしてもし私が勝てば…その王冠を貰い受ける」

一夏

「……」

 

欲望丸出しの他の女子と違い、箒から邪な気持ちが感じられなかった一夏は、

 

一夏

「…手加減はできねぇぞ?」

「無論だ。本気で来い!」

 

そういうと箒は自らの木刀を、一夏は模造剣を構える。お互いの心は、

 

(…すまんなみんな。…特にセシリア。だが…私にも譲れないものがあるんだ!)

一夏

(箒と生身で戦うのは久々だな…。正直疲れはあるが…やってみるさ!)

 

一夏・箒

「「たぁぁぁぁ!!」」

 

キイィィィィィィンッ!

 

 

…………

 

その頃、一夏と別れた海之はあの後他の女子達の追走にあったりしていたが、いずれもかわしきって無事であった。

 

海之

「やれやれ全く…。それにしても自首も不可とは…楯無さん随分酷な事を言ってくれる。火影はともかくとして…一夏の奴自分で渡そうとしていないだろうな…」

 

数刻前に一夏はそれをしようとして見事に電流を食らうはめになっていた事を海之は知らなかった。

 

海之

「…まあいい。一先ずどこかに身を隠して」

 

とその時、

 

シュバババババ!

 

海之

「!」

 

キィィィィンッ!

 

海之は剣で飛んできた何かを弾く。それはラウラのナイフだった。そして、

 

「はぁぁぁぁ!」

海之

「!」

 

ブンッ!

 

後ろから鈴が振りかぶってきたが海之はそれを避ける。しかし、

 

セシリア

「そこですわ!」

 

ドンッ!

 

海之

「くっ!」

 

海之の逃げた先にセシリアがライフルで狙っていた。流石にかわしきれないかと思う海之。しかし、

 

ビュンッ!

キイィィィィンッ!

 

セシリア

「!」

火影

「ふぅ~」

 

突然火影が飛び出してきて海之に当たりそうだった弾をナイフで弾き飛ばした。

 

海之

「…余計な事を」

火影

「素直じゃねぇな。結構危なかったぜ」

海之

「大したことはない。それより何していた今まで」

火影

「…ちょっと野暮仕事をな。だが見失った」

海之

「…?」

ラウラ

「海之、火影。頼む、お前達の勲章を渡してほしい」

「私達どうしても叶えたいお願いがあるの」

火影

「電流の罠さえなけりゃそれも考えたんだけどな。正直早く終わりにしたいっていう気持ちが強えぇし」

海之

「同感だが今それを言っても仕方ないだろう。欲しければ俺達を倒すしかない」

ラウラ

「やはりそうなるか…。いいだろう、全力で行くぞ!」

「負けてなんかやらないんだから!」

セシリア

「…参りますわ!」

 

その場にいる各々が武器を構える。……とその時、

 

~~~~~~~~~~

 

突然火影と海之の通信機が鳴る。特別実行委員になってから何時でも連絡が取れるようにふたりに渡されたものだ。

 

海之

「はい」

千冬

「海之、火影、聞こえるか?」

火影

「織斑先生?」

 

火影の声から千冬の名前が出た事でラウラ達も武器を降ろす。

 

千冬

「すまないが少々…、いやかなり厄介な事態だ。詳しい事はこっちに来てから知らせる。とにかく指令室に来てくれ」

火影

「厄介な事態?」

千冬

「ああ。他の専用機持ちにも追って知らせる」

海之

「…わかりました。因みにここにセシリアと鈴とラウラがいますので俺から伝えます」

千冬

「そうか。では頼んだぞ」

海之

「了解」ピッ

セシリア

「おふたり共。織斑先生はなんと?」

火影

「詳しくはわからねぇ。…だがそれほど簡単な話じゃないらしいな。急いだ方がよさそうだ」

「…でしょうね。さっき厄介って聞こえたわ」

海之

「とにかく合流しよう。他のみんなは…」

 

とその時、

 

「火影!海之!みんな!」

 

箒が向こうから走って来た。

 

セシリア

「箒さん!」

火影

「箒、丁度いい所に来た。…一夏を見なかったか?」

「それが…今迄私と戦っていたのだが…いつの間にかいなくなってしまった」

「いなくなった?」

「ああ。私と一夏が戦っていると突然強い光が見えてな、眩しくて目を閉じてしまったのだ。目を開けた時には」

ラウラ

「もういなくなっていた…というわけか」

 

とその時火影が、

 

火影

「…箒、一夏を最後に見たのはあっちか?」

「あ、ああ」

火影

「…わかった、俺が行く。海之、みんなを連れて先に先生の所へ行ってくれ」

「私も行くぞ!」

セシリア

「私も!」

火影

「いや、俺ひとりで良い。ふたりは海之と一緒に指令室に行け。人手がいるだろうしな」

「指令室?」

セシリア

「…わかりましたわ。火影さん、一夏さんをお願いします」

火影

「ああ任せとけ」

ラウラ

「シャルと簪には私が連絡しておく」

海之

「よし、行くぞ」

 

こうして火影は一夏の捜索に、海之達は指令室に走るのであった…。




一夏に何があったのか?そして千冬が伝えた事態とは?

※次回まで少し時間頂きます。
また、今回でちょうど100話に到達致しました!ありがとうございます。


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Mission89 ファントム・タスク<亡国機業>

生徒会長の楯無が考案した特別企画「シンデレラ」。
一夏達が身に付ける王冠若しくは勲章を奪うと何でも願いを叶えるという彼女の遊びとしか思えないその企画に火影・海之・一夏の三人も日頃経験したことが無い疲れを感じていた。
そんな中、火影と海之に千冬から突然連絡が入る。不穏な事態を悟った彼等は企画を中断し、指示通り指令室に向かおうとするがそこに箒が一夏がいなくなってしまったと駆けこんでくる。そして火影は一夏の捜索に、海之達は指令室に向かう事になった。


空は夕刻にさしかかり、陽が傾き始めていた。

 

「シンデレラ」の進行中に火影と海之の元に突然入った千冬からの連絡。事態を重く見た海之、そして火影と一夏を除いた専用機持ち一行は指令室に向かっていた。他の生徒達は校内放送で企画の一時中断の連絡と自室待機を命じられ、学園内は先程とは違って静かなものだった。

 

IS学園指令室

 

指令室の扉を開け、一行が入るとそこには千冬、真耶、そして楯無がいた。

 

海之

「先生、楯無さん」

千冬

「来たかお前達。…一夏と火影はどうした?」

「それが…」

 

箒は事情を説明した。

 

千冬

「そうか…」

真耶

「一夏くんはこちらからも連絡がつかないんです。どうしたんでしょう…?」

シャル

「連絡がつかない?」

「…変ね。電話持ってる筈だけど」

楯無

「…気になるわね。…まぁ一夏くんは火影くんに任せましょ。彼なら大丈夫だろうし」

箒・セシリア

「「一夏(さん)…」」

シャル

「…そういえば先生。何があったんですか?」

千冬

「ああそうだったな。実は……またあの例の黒いIS達が現れた。そして進行ルートからして…目的地は…ここだ」

海之以外の全員

「「「!!」」」

海之

「…何故ここに?」

千冬

「…わからん。臨海学校の時はゴスペルや束がいた事等が考えられるが、今回は…」

「関係ありませんよね…」

真耶

「…因みに接触は今から約20分後の予定です」

ラウラ

「敵の数は?」

千冬

「約20機程だ。以前と比べて随分数は少ないな」

「20機…」

海之

「……」

(確かに以前に比べて随分少ない。まだ何かあるのか…?)

楯無

「……」

「どうしたの海之くん?」

海之

「…いや、なんでもない。わかりました、では俺が」

 

とその時、

 

「ちょっと待って海之。ここは私達にやらせて!」

海之

「…なに?」

ラウラ

「その通りだ海之。お前の手を煩わすまでもない。私達にやらせてくれ」

真耶

「そんな!危険です皆さん!」

シャル

「そんな危険な事を海之ひとりだけにさせるわけにはいきませんよ」

海之

「しかしお前達は…」

セシリア

「大丈夫ですわ海之さん。私達も強くなっているのですから」

「その通りだ。それに私も以前と違ってもう力に浮かれたりしない。信じろ」

シャル

「僕達考えたんだ。以前火影や海之、どんなに傷ついても自分達の大切なものを守るために戦うって言ってたよね?」

海之

「……」

「それは私達も同じよ。正直まだまだあんたや火影の足元にも及ばないけど…私達も守りたいって思ってるわ。そしてそのために強くなりたいってね」

ラウラ

「鈴の言う通りだ。だから…お前や火影に頼ってばかりでは駄目なんだ」

千冬

「お前達…」

真耶

「皆さん…」

「私も戦う」

海之

「簪」

楯無

「簪ちゃん」

「大丈夫。私だって海之くんや火影くんにずっと訓練をしてもらってたもの。弐式も完成したし、私も戦えるよ。ケルベロスもある。だから…大丈夫!」

 

彼女らの強い意志を見た海之は、

 

海之

「……わかった。では俺は緊急時に備えて待機しておこう」

楯無

「じゃあ私がみんなと一緒に出るわ」

海之

「宜しく頼みます。楯無さん」

楯無

「任せといて♪…じゃあみんな行くよ!」

女子達

「「「はい!」」」

 

そう言うと海之、千冬、真耶以外は出て行った…。

 

真耶

「…みなさん、気をつけて…」

千冬

「…頼ってばかりでは駄目…か…」

海之

「……千冬先生」

千冬

「あ、ああ。なんだ?」

海之

「少しお話が…」

 

 

…………

 

その頃、行方が分からなくなっていた一夏は、

 

一夏

「……う、…う~ん……あ、あれ…?」

 

気絶していたのか、一夏はゆっくり目が覚めた様子だった。そして立ち上がる。

 

一夏

「…ここは…学園の倉庫?…なんでこんな所に?…確か俺は…箒と戦っていて、でも疲れてたから負けそうになって…、そしたら突然光って」

 

一夏はゆっくり思い出し始める。数刻前、一夏は箒と自身の王冠をかけて一対一の戦いを繰り広げていた。しかしこれまで逃げ続けていた疲れから勝負は劣勢になり始め、もう負けるかと思っていた時に突然強い光が発され、同時に何かに引っ張られた様な感覚に陥った。そして気が付いた時にはこの倉庫にいたのである。

とその時、

 

「…大丈夫ですか?」

一夏

「! 誰だ?」

 

周りに誰もいないと思っていたので一夏は大きく反応する。するとそこにいたのは、

 

礼子

「気がつかれたんですね」

一夏

「! あ、あなたは……巻紙さん!」

 

影から現れたのは数日前、ショッピングモールで声をかけてきた巻紙礼子と名乗る女性だった。

 

礼子

「お久しぶりですね。織斑さん」

一夏

「え、ええ。…ですが巻紙さんが…なんでここに?」

礼子

「ええ…、学園内を歩いていたら織斑さんと女性の方が戦っているのが見えまして、織斑さんが危なかったのでつい助けてしまいました。申し訳ありません」

一夏

「! ではあの光は…」

礼子

「ええ。私が起こした物です。驚かせてしまったようですね」

一夏

「い、いえ、もう大丈夫です。最初は何が起こったのかと思いましたが…ありがとうございます」

 

一夏はきっと助けてくれたのだろうと思って礼子に礼を言った。すると…、

 

礼子

「…そうでしたか。それは良かったですわ。…折角貰い受ける白式に傷がついてしまったら大変ですものね」

一夏

「は、はぁ………えっ…?」

 

一夏は一瞬耳を疑った。礼子から白式の名前が出た様な気がしたのだ。

 

礼子

「単刀直入に申し上げますわ。…織斑さん、あなたの白式を譲って頂きたいのです」

一夏

「!ちょ、ちょっと待ってください!な、なんで白式を!?」

礼子

「もちろん、白式をより有効に使うためですわ。それは本来こんな所で使われる様な機体ではありませんもの」

一夏

「ど、どういう意味ですか?白式がなんだって言うんですか!?」

礼子

「あなたに説明する意味はありませんわ。大人しく譲って頂けません?」

 

礼子は笑みの表情を変えなかったが、声色と雰囲気は先程とまるで違うと一夏は感じていた。

 

一夏

「……お断りします。どんな意味があってどんな理由があるのか知りませんが…白式はお譲りできません」

礼子

「……」

 

一夏ははっきり返答した。すると礼子は、

 

礼子

「……ふふふふっ、どうやらもう化ける必要な無さそうだなぁ~」

一夏

「!?」

礼子

「なら力づくで奪い取るまでよ!」

 

ダダダダダッ!ドゴッ!

 

礼子は突然一夏に向かって走りより、一夏の腹部に蹴りを食らわす。その衝撃で一夏は後ろに吹っ飛ばされる。

 

一夏

「ぐあっ!……がはっ!…くっ、巻紙さん、あんた…一体!?」

礼子

「ああ?礼子ぉ~?…はっ!あたしはそんな名前じゃねぇ。オータムっつんだ、覚えときな。

…さて、どうする?大人しく白式を渡せば三分の一殺し位ですませてやるぜぇ?」

一夏

「くっ…ふざけんな!あんたみたいな奴に白式は絶対渡さねぇ!…白式!」カッ!

 

そして一夏は白式雪羅を展開する。

 

オータム

「へっへっへ。後悔すんなよ?ケンカを売ったのはそっちだからなぁ。…アラクネ!」カッ!

 

そしてオータムの身体が光に包まれ、消えると同時にオータムはISを纏っていた。黒と黄色の配色で8本の脚にも触手にも見えるものがあるISだ。

 

一夏

「IS!?」

オータム

「おうよ、冥土の土産に覚えとけ!アメリカからぶんどったISでアラクネってんだ。てめぇの白式と違って第2世代だが、まぁ操縦者がおこちゃまじゃあ話にならんわな」

一夏

「何だと!」

オータム

「ほんとなら無傷で奪い取るつもりだったがまぁ仕方ねぇ。てめぇをぶっ飛ばしてゆっくりいただくぜぇ!」

一夏

「…やれるもんならやってみやがれ!」

 

ドンッ!

 

そういうと一夏はほとんどフルスピードで向かって行く。しかし、

 

オータム

「わかんねぇかなぁ~?…怒りに我を忘れるのがおこちゃまだっつてんだよ!」

 

ジャキジャキジャキッ!

 

オータムは数本アラクネの触手を前に向け、その先を開く。

 

一夏

「! 銃!?やべっ!」

オータム

「食らいやがれぇ!」

 

ドドドドドドドドドドドッ!

 

アラクネの触手の先からマシンガンの様に銃弾が飛んでくる。

 

一夏

「くっ!アラストル!」

 

一瞬早く反応できた一夏はアラストルの機能で急速回避する。

 

オータム

「ほ~よくかわしたなぁ、だが何時まで持つかなぁ!」

 

オータムは引き続きマシンガンを撃ち続ける。一方一夏は避けることはできていたが白式のエネルギー消費を考えるとずっとこのままという訳には行かなかった。

 

一夏

「くそっ!避けれちゃいるがSEの持ちを考えると俺が不利だ。サークルロンドの要領でなんとか近づかねぇと…よし!」

 

ビュビュビュビュン!

 

旋回行動を止めた一夏は小刻みの動きで飛んでくる銃弾を避けながら素早く近づいていく。

 

オータム

「ほぉ~、やるねぇ~」

一夏

「うおぉぉぉぉ!」

 

そして一夏は手に雪片弐型を持ち、零落白夜を起動。オータムに振りかぶる。

 

一夏

「食らえ!!」

オータム

「おせぇ!」

 

ガキイィィィィィン!

 

一夏

「なっ!?」

 

雪片を振りかぶろうとした瞬間、刀身はアラクネの触手に捕まって動きを止められていた。

 

一夏

「くっ!離せぇ!」

 

一夏は何とか雪片を離そうとするがびくともしない。すると、

 

オータム

「甘いぜぇ!」

一夏

「なに!?」ドドドドドッ!「ぐあぁぁ!」

 

一夏は死角から残りの触手による砲撃を受けた。

 

オータム

「はっはっは!よそ見は厳禁だって」ドゴォッ!「ぐっ!…なにぃ~!?」

 

見ると腹部に一夏の蹴りが入った。一夏に集中し過ぎていて気付かなかった様だ。その隙をついて一夏は距離をとる。

 

一夏

「はぁ、はぁ、はぁ…。…へっ!よそ見厳禁!さっきの言葉返すぜ!」

(火影からあのやり方受けといて良かったぜ!)

オータム

「…こぉんの、ガキィ~!!」

 

ドドドドドドドドドドドドッ!

 

怒り狂ったオータムは触手の銃と手に持ったライフルを向けてくる。

 

一夏

「くっ!さっきより弾が増えやがった!…しかしあいつ、怒りのためかさっきに比べて狙いが単純になってる様に見える。今なら!」

 

そして一夏は砲撃の隙間を抜け、オータムに接近していく。そして、

 

一夏

「これで終わりだぁ!」

 

射程内に入った一夏は再び雪片弐式を持ち、零落白夜を起動する。そしてもう少しで当たる所まで来たその時、

 

オータム

「…ざ~んねん!」

 

ガシィッ!

 

一夏

「な、なに!!…これは!?」

 

見ると自分の身体が蜘蛛の糸の様な物で捕獲されていた。

 

オータム

「ば~か!こっちの芝居に簡単にかかりやがってよ~!だからおこちゃまっつうんだよ!」

一夏

「!…まさかさっきの単純な攻撃は!」

オータム

「そう~!おめぇをおびき寄せるための芝居さ。白式が接近戦重視の機体である事は知ってっからなぁ。まさかこんな簡単にひっかかるとはねぇ」

一夏

「くっ!しまった!」

 

一夏はなんとか動こうとするが糸にがんじがらめにされてびくともしない。

 

オータム

「さ~て、それでは白式を頂こうかぁ~!」

 

そう言うとオータムは四本の脚が付いた妙な機械を取り出す。

 

一夏

「なんだそれは!?」

 

無言でそれを白式に付けた。すると、

 

バババババババババババババッ!

 

一夏

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

突然一夏の身体に電流が走る。そして電流が収まると同時にISが解除されてしまった。浮遊する物が無くなり、一夏の身体は地面に落ちる。

 

一夏

「ぐあっ!…ぐぐ…」

 

オータム

「へっ、もう終わりか?世界初の男性操縦者さん?」

一夏

「ま、まだだ!…白式!」

 

一夏は再び白式を展開しようとする。……しかし何も起こらなかった。

 

一夏

「…!?」

 

一夏は驚いた。見るとガントレットに嵌っている筈の白式の待機状態であるクリスタルが無くなっている。

 

一夏

「なっ、なんで!?」

オータム

「お探しものはこれかぁ~?」

 

見るとオータムの手の中に白式のクリスタルがあった。

 

一夏

「な!?」

オータム

「ふっふ~ん。さっきおめぇに使ったのはリムーバー、剥離剤っつってなぁ~。こいつを使うとISを強制解除し、更に奪う事ができんのよ!」

一夏

「…てめぇ…、返しやがれぇ!」

 

一夏は立ち上がって向かって行く。しかし、

 

オータム

「うぜぇ!」

 

ドゴッ!

 

オータムの触手の一本が一夏に襲いかかり、弾かれる。

 

一夏

「ぐあぁぁ!…ぐ、ぐ…」

 

這っている一夏にオータムは近づく。

 

オータム

「まるでいも虫だなぁ。……さて、さっき三分の一殺しで済ませてやると言ったが気が変わった。俺に蹴り入れてくれた罰として殺してやるよ!」

 

ジャキッ!

 

オータムは手に持つ銃を一夏に向ける。

 

オータム

「…ああそうだ、冥土の土産に良い事を教えてやる。…織斑一夏、おめぇは昔ガキの頃…まぁ今でもガキか。何者かに誘拐された事があったろう?覚えてっか?」

一夏

「!な、なんでおまえがそれを!?」

オータム

「ふっふっふ、話は簡単だ。何故ならおめぇを誘拐したのは…俺らファントム・タスク、「亡国機業」の人間だからさぁ~!」

一夏

「!!…………おまえらの、おまえらのせいで…俺は!千冬姉は!!…ぐ!」

 

衝撃の事実に一夏は怒り、立ち上がろうとするが身体が思い通り動かない。

 

オータム

「感動の再会ができてもう満足だろう?…じゃあな」

 

ジャキッ!

 

一夏

「…くっ!」

 

オータムは銃を一夏の顔に向けた。……その時、

 

ズドドドドドドドドッ!

ドガンッ!ドガガンッ!

 

一夏

「!!」

オータム

「!! な、なんだと!?」

 

突然オータムの手に持つ銃と触手が数本爆発した。思わぬ事態にうろたえるオータム。

 

オータム

「い、一体何が…」

「これはこれは、もうハロウィンか?」

 

影から声が聞こえてふたりはそちらに目を向ける。すると出てきたのは、

 

火影

「衣装がでかすぎるぜ。センスも最悪だしな。…大丈夫か一夏?」

 

両手にエボニー&アイボリーを持った火影だった。

 

一夏

「ひ、火影!」

オータム

「てめぇはあの時の!どこから入ってきやがった!?ここは全部ロックしてんだぞ!?あと何時の間に近づいてやがった!?全然気配を感じなかったぞ!?」

火影

「質問が多いな。アホか?鍵かかってんなら開けりゃいいのさ」

(あいつに鍵開けの術教わっといて良かったぜ)

「あとあんたが気付かなかったのは知らねぇよ。鈍いだけじゃあねぇのか?」

オータム

「!てめぇ!!」

 

ズドドドドドドドッ!

 

激高したオータムは触手から銃を撃つ。

 

火影

「…ふっ」

 

ズドドドドドドドッ!

 

火影もエボニー&アイボリーを撃つ。

 

キキキキキキキキキキキン!

 

オータム

「なっ!?」

 

オータムは驚愕した。自分が撃った銃弾が火影が撃った銃弾に全弾撃ち落とされたのだ。

 

一夏

「じ、銃で銃弾を撃ち落とした!?」

火影

「まだやるか?お・じょ・う・ちゃ・ん?」

オータム

「! こぉんのガキィー!」

 

先ほどと違って余裕が無いオータムは火影の挑発に激高して向かって行く。

 

火影

「一夏を傷つけたのも許せねぇが…あんたには聞きたいこともあるんでな。サイズ直ししてやるよ」カッ!

 

火影はアリギエルを展開し、リべリオンを構えた。




火影(ダンテ)にとって鍵がかかった扉なんて本来ぶった斬るところですが一応学生なんでそれは無しで(汗)
因みに彼に鍵開けの術を教えたのは同じデビルハンターと思っていただければ。一応何でも屋ですから。

※これと次回アップすればまた間を頂きます。


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Mission90 双子の蜘蛛退治

千冬からの指示で指令室に来た海之達は千冬や真耶からまた例の黒いIS達が現れた事、更に何故か学園に向かって来ていると聞いて驚く。迎撃に出ようとする海之だったが、いつまでも海之や火影ばかりに頼ってはいけない、自分達も守るために戦いたいと箒や簪達に止められる。彼女らの意思を受け取った海之はこの場を彼女らに任せ、自身は独自で動く事に。

…一方一夏は学園の倉庫で先日出会った巻紙礼子と遭遇。ただしそれは仮の姿で本来の目的は一夏の白式を奪おうとして近づいてきた「亡国機業」に属するオータムというIS操縦者だった。一夏は一人奮戦するが敗れ、更に白式も奪われてしまう。死を覚悟した一夏を救ったのは彼を探して一人行動していた火影だった。


亡国機業のオータムの攻撃と策略によって絶対絶命の窮地に陥った一夏を救った火影。オータムは一夏もろとも火影も倒そうとするが攻撃は全て弾かれる。そして、

 

火影

「まだやるか?お・じょ・う・ちゃ・ん?」

オータム

「…こぉんの、ガキィー!」

 

火影の挑発にオータムは激高して向かって行く。

 

一夏

「き、気をつけろ火影!そいつ強いぞ!」

火影

「心配すんな一夏。それに…こいつにはちょっと聞きたい事があるんでね。そのISもろともサイズ直ししてやるよ」カッ!

 

火影はアリギエルを纏い、リべリオンを構える。

 

ガキィィィン!

 

オータム

「それがてめぇのISか!えらく細身で非力そうじゃねぇか!」

火影

「見た目重視っつんならなんでてめぇのそれはそんな悪趣味で最悪なんだ?」

オータム

「! 言いやがったな!」

 

ガキンッ!キンッ!ガキィィン!

 

オータムは手に持つブレードで攻撃を続けて繰り出すが火影はそれを難なく全て受け止める。

 

オータム

「くっそ!」

火影

「さっきファントム・タスクって名乗ったな?どういう集まりだ?てめぇみたいな悪趣味な奴らのサークルか?」

 

火影は余裕で質問する。対してオータムは益々激高する。

 

オータム

「てめぇ…いつまでそんな減らず口が叩けるかな!?」

 

ガキィィンッ!

 

オータムの全力の一振り。しかしそれをも火影は受け止める。

 

火影

「へっ、決まってんだろ?」

 

ボォォォォォッ!ドゴォォォン!!

 

オータム

「ぐああああああ!」

 

突然の強烈の一撃にオータムは激しく吹っ飛んで壁に激突する。右手のリべリオンで受け止めた瞬間に左手にイフリートを展開、強烈な一撃を食らわせたのだ。

 

火影

「そりゃ、死ぬまでさ」

 

余裕の表情でそう返答する火影。

 

一夏

「す、すげぇ…。火影の奴、前に戦った時より更に、…いや比べもんにならねぇ…」

オータム

「ち、ちっくしょおぉぉ…」

火影

「やれやれ、まだやんのかお嬢ちゃん?」

オータム

「まだ言いやがるかてめぇ…。ならこれを受けやがれぇ!」

 

ドンッ!

ガキィィィンッ!

 

オータムは瞬時加速で向かって行き、火影と剣がぶつかる。その瞬間、

 

オータム

「かかったなガキが!」

 

バッ!ガチャリッ!

 

火影

「…!」

 

見るとアリギエルの胸部に先程一夏の白式を奪ったものと同じリムーバーが装着されていた。

 

一夏

「! やべぇ!火影!」

オータム

「はっはっはぁ!てめぇのそのISも白式と一緒に頂くぜぇ!………!?」

 

その時オータムは不思議に思った。確かにリムーバーが付いているのに…先程の一夏の時と違って電流が発されるどころか何も起こらなかったのだ。

 

ズガァァンッ!

 

オータム

「ぐあぁぁぁ!」

 

火影はリムーバーの異常に気を取られていたオータムの一瞬の隙を突いて斬りつけた。

 

火影

「おい、てめぇの切り札ってのは…このおねんねする虫みたいなメカか?」

一夏

「! 大丈夫なのか火影!?」

オータム

「ば、馬鹿な…!リムーバーはどんなISも強制的に解除して奪うものなんだぞ!」

火影

「ほ~そんな物なのかこれは。だが残念だな…てやぁ!」

 

ガシッ!…ザンッ!バリィィンッ!

 

火影は自らのアリギエルに付いているリムーバーを自分で剥がし、リべリオンで両断した。

 

火影

「生憎俺のISにゃ俺でも手こずる奴らがついてくれてるんでね。こんなんなんか相手になんねぇよ」

 

火影は以前出会った自らのISに宿る人物を思い出していた。

※詳しくはMission54をご覧ください。

 

火影

「それに考えがあったのはお互い様だったみてぇだな。これ、なんかわかるか?」

オータム

「?……!!」

 

オータムは驚愕した。火影の持っていたのは白式の待機状態のクリスタルだったのだ。どうやら先程の斬り結びの最中に奪ったらしい。

 

オータム

「い、何時の間に!」

火影

「だから言ってんだろ?我を忘れすぎだって。怒りは絶望を忘れさせると同時に自分も忘れやすくなるもんなのさ。一夏、こいつを!」

 

ビュンッ!パシッ!

 

投げられたクリスタルを一夏は受け取る。

 

一夏

「白式…悪かったな…。ありがとよ火影」

火影

「気にすんな」

オータム

「ちぃぃっ!ならばこれならどうだぁ!」

 

ボロボロになりながらもオータムは立ち上がり、手先を何やら動かし始める。すると、

 

ガシッ!

 

火影

「これは…」

 

みると火影の身体に蜘蛛の糸の様なものが絡みついていた。これは先程一夏を拘束したものと同じだった。

 

一夏

「しまった!火影!」

オータム

「はっはっは!なぶり殺しにしてやるぜぇ!」

 

オータムは勝利を確信して再び向かって行く。……しかし、

 

火影

「…ふっ」

 

…ドンッ!

 

すると火影も今迄に無い位の高速スピードでオータムに向かって突進した。

 

オータム

「なっ!?」ドゴォォッ!「がぁぁぁぁ!」

 

オータムは驚愕した。拘束された状態のまま火影が自らにタックルを繰り出してきたのだ。思いもよらない攻撃になす術もなくまともに食らうオータム。更に、

 

ドゴォォッ!

 

オータム

「がはぁっ!」

 

続けざまに火影はキックを繰り出した。火影のアリギエルと違いオータムのアラクネはシールドが張られているため、身体に直撃しているわけではないのだが、攻撃のレベルが強すぎてまともに受けている感覚になってしまっていた。やがて効果が切れたのか火影を拘束している糸も消えた。

 

火影

「武器だけが戦う手段と考えてんなら大間違いだぜ?武器が使えねぇならタックルでもヘッドバッドでも、できる攻撃をすりゃ良いのさ」

一夏

「そ、そんな簡単には…」

オータム

「ぐ、ぐぐ…」

 

オータムのダメージは大きい様だ。

 

火影

「さぁどうする?」

 

火影は更に尋ねる。…すると、

 

オータム

「…くっくっく」

 

オータムは不気味な笑みを浮かべた。

 

火影

「?」

一夏

「てめぇ…何を笑ってやがる!?」

オータム

「くっくっく、万一のために保険を掛けといてよかったよ」

火影

「…保険?」

オータム

「ああ。本当は俺の脱出をサポートするためのものだったんだが…こうなっちゃ仕方ねぇ」

一夏

「どういう事だ?」

オータム

「わかんねぇか~?こんな計画、俺単独でやってる訳ねぇだろ?」

 

~~~~~~~

 

すると突然火影の通信機が鳴った。

 

火影

「はい」

千冬

「火影か?良かった!やっと繋がった!…何があった?一夏はどうした?」

火影

「実は…」

 

火影は簡単に事情を千冬に説明した。

 

火影

「…というわけです」

千冬

「…まさか侵入者がいたとはな…。だが一夏もお前も無事で良かった…」

真耶

「本当に、本当に無事で良かったです!」

一夏

「すまねぇ千冬姉、山田先生…」

千冬

「それでその侵入者は?」

一夏

「火影が倒して今目の前でぶっ倒れてますよ」

千冬

「そうか、至急回収に向かわせよう。…まぁまだ全て解決したわけではないが」

火影

「まだ何かあるのですか?」

千冬

「ああ実は、先程例の黒いIS達が再び出現したのだ。ここを目的地にしてな」

一夏

「な、なんだって!?」

火影

「!」

千冬

「だがそっちは多分心配ない。更識や篠ノ之達が討伐にむかっている。数も少ないから多分大丈夫だとは思うが」

一夏

「箒達が?」

 

とその時オータムが、

 

オータム

「…くっくっく。見事に陽動にかかってくれたなぁ」

一夏

「!? 陽動ってどういう意味だ!」

 

とその時、通信機の向こうから真耶の声が聞こえた。

 

真耶

「! そ、そんな!? 先輩大変です!」

千冬

「どうした!まさかあいつらが!?」

真耶

「い、いえ!別の敵が突然アリーナに現れました!これは…例の蜘蛛のISです!」

千冬

「な!?」

一夏

「なんだって!?」

火影

「……これがてめぇの作戦か」

オータム

「くっく、そういうこった。外のあいつら、「アンジェロ」はここの専用機持ちをできるだけおびき寄せる囮役さ。そしてここの防御が手薄になっている間に「ファントム」をアリーナに呼び出し、その混乱の間に逃げる作戦だったんだが…こうなっては仕方ねぇからな」

火影

「!!……アンジェロ……ファントム…」

 

その名を聞いて火影は声にこそ出さなかったが珍しく驚いていた。

 

一夏

「なんだよそのアンなんとかって!?」

オータム

「くっく、そんな事言ってる暇あるのか?早く行かねぇとファントムがますます暴れ出すぜぇ~?」

一夏

「くっ!…確かにこうしちゃ」

 

すると火影が千冬に問う。

 

火影

「…先生、海之も箒達と一緒に?」

千冬

「えっ?いや、海之は学園に残っている。先ほど出て行ったが…」

火影

「……そうですか。なら問題ねぇな。心配すんな一夏、放っとけ」

一夏

「えっ?」

オータム

「なに!?」

火影

「残念だがな、ここにはこの世で唯一俺を殺せるかもしれねぇ位強えぇ奴がいるんだよ」

 

火影は笑ってそう言った。

 

 

…………

 

指令室

 

オータムが言ったファントムという例の機械蜘蛛の突然の襲撃。まだアリーナ内に留まっているが何れ外に出てくる可能性が高い。その前に対策を考える必要があった。

 

真耶

「先輩!直ぐに教職員を送りましょう!」

千冬

「ああわかっている!」

(…くっ、暮桜を凍結封印しているこんな時に!)

 

とその時、

 

真耶

「! こ、これは!」

千冬

「どうした!?」

真耶

「アリーナ内にもう一つの反応が!これは……ウェルギエルです!」

千冬

「!…海之!」

 

 

…………

 

IS学園 アリーナ

 

ファントム

「グアァァァァァァァl!!」

海之

「……」

 

学園に残っていた海之はそれと対峙していた。海之も先程通信が可能になった火影から情報を、そして目の前にいる敵がファントムという名前である事も聞いていた。

 

海之

「ファントム……まさかとは思ったが同じ名とはな。更に例の黒いISはアンジェロか…」グッ!

 

海之は拳を強く握り締めた。

 

~~~~~~~~~

 

その時千冬から連絡が入った。

 

千冬

「海之!お前何故そこにいる!?」

海之

「千冬先生。見回りをしていた結果、ここにたどり着いただけです」

真耶

「見回りって…海之くん予測していたんですか!?」

海之

「…確証はありませんでしたが。行方がわからなかった一夏、そして火影のあの時の「野暮用」と「見失った」という言葉。もしかしたら…学園以外の者が入りこんでいる可能性がある。同時にもしかしたらそれが一夏がいなくなった事と関係しているのではないかと。そして同時にあの…アンジェロ達の襲撃。これらが全て繋がっているとしたら…まだ何かあるかもしれないと思いまして」

真耶

「は、はぁ…」

千冬

「それより海之!すぐに下がれ!お前ひとりでは!」

海之

「いえ千冬先生。奴は俺が撃退します。先生方は学園の警備に回ってください」

真耶

「そんな!海之くんだけなんて無茶です!」

海之

「大丈夫です。信じてください」

千冬

「海之……」

海之

「ああそれから楯無さんやみんなにはこの事は知らせないでください。もう切ります」ピッ

 

そして海之は改めてファントムに相対する。

 

海之

「貴様に構っている暇はない。速攻で終わらせてもらうぞ」チンッ!

 

海之は閻魔刀を構える。

 

ファントム

「グアァァァァァ!!」

 

ズダダダダダダッ!

キキキキキキキキンッ!

 

ファントムは自ら機銃を撃ってくるが海之はそれを全て弾く。

 

海之

「…ふっ」

 

ドンッ!

ズガガガガガッ!

 

ファントム

「グアァァァァァッ!」

 

海之は跳躍し、顔面に斬撃の連打を食らわす。堪らず悲鳴を上げるファントム。

 

ファントム

「…オォォォォォッ!」

 

ドンッ!

 

するとそれに激高したか、咆哮を上げてファントムは高く跳び上がった。そして、

 

海之

「……」

 

ドスゥゥゥゥゥンンッ!

 

自らの巨体でウェルギエルを押し潰した。

 

ファントム

「……グアァァァァァッ!」

 

勝利したと思い、咆哮を上げるファントム。

……しかし、

 

グググッ

 

ファントム

「!?」

 

ファントムは不思議がった。自らの身体が何かに押し上げられている様な気がする。

 

海之

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

ドゴオォォォォォォンッ!

 

ファントム

「!!」

 

それは押し潰されたように見えたウェルギエルだった。展開したベオウルフの強烈なアッパーによってファントムの身体は高く放りあげられた。

 

ドンッ!

 

瞬時加速でそれを追い越す海之。そして、

 

海之

「はぁぁぁぁ…はあっ!!」

 

ズガガガガンッ!

 

ウェルギエルの強烈な回し蹴り「月輪脚」がファントムの顔面に直撃した。その威力は絶大で木端微塵に破壊された。

 

海之

「……」

 

ドガァァァァァァァァァンッ!

 

着地した海之の後ろでファントムは爆発、霧散した。この間わずか1、2分の出来事だった…。

 

 

…………

 

指令室

 

千冬・真耶

「「……」」

 

海之の戦いの様子をモニターで見ていた千冬と真耶は暫く言葉を失っていたが、

 

真耶

「…敵IS、沈黙…」

千冬

「……凄い」

 

~~~~~~~~~

 

海之

「千冬先生、山田先生。聞こえますか?」

真耶

「は、はい聞こえます!大丈夫ですか海之くん!」

海之

「問題ありません。それより他に敵は見当たりませんか?」

真耶

「は、はい!大丈夫です!」

海之

「そうですか。…千冬先生?」

千冬

「……」

真耶

「先輩?」

千冬

「はっ!す、すまない!よ、良くやってくれたな海之。怪我はないか?」

海之

「問題ありません」

千冬

「そうか…良かった。……いや違うぞ!お前何故押しつぶされた時に避けなかった!お前なら簡単に避けられた筈だぞ!!」

海之

「…問題ないと思いましたから」

千冬

「馬鹿者!見ている方の気にもなれ!!どれだけ心配したと思ってるんだ!!」

真耶

「せ、先輩…」

 

千冬の声を聞いて本気で心配していたのだと海之は感じた。

 

海之

「…申し訳ありません。以後気を付けます」

千冬

「い、いや、すまない…。私も言い過ぎた。…だがもうあんな無茶はするな。良いな?」

海之

「善処します」

千冬

「お前になにかあったら…私は…」

海之

「…先生?」

千冬

「な、なんでもない!」

 

 

…………

 

IS学園 倉庫

 

海之がファントムを撃破した事は火影達にも伝わっていた。

 

火影

「…だ、そうだ」

一夏

「…お前といい海之といい、もう驚きすぎて言葉も出ねぇよ…」

オータム

「ば、馬鹿な…。ファントムのやろうが…3分持たずだと…!?」

火影

「海之ももうすぐこっちに来るそうだ。てめぇはこの後先生方に引き渡す。だが…その前に俺からてめぇに聞きたい事がある」

 

すると火影はオータムに近づき、表情を変えた。

 

火影

「アンジェロ、そしてファントム…。何故あいつらを知っている?」

オータム

「な、なにを言ってやがる!?」

一夏

「…火影?」

 

今までに見せた事が無い様な真剣な表情と声の火影。それに一夏は少し困惑していた。

 

火影

「…聞こえなかったのか?何故てめぇがあいつらを知っている?どうやって手に入れた?」

オータム

「だ、だから何を言って」

 

ドンッ!

 

一夏・オータム

「「!!」」

火影

「……」

 

火影のエボニーの弾がオータムの頬をかすめた。

 

火影

「質問してんのは俺だが?」

一夏

「お、おい火影。ちょっとやり過ぎじゃ…」

 

一夏は話かけるが火影は表情を崩さない。その火影の怒りと殺気むき出しな表情にオータムはたまらずつい答える。

 

オータム

「わ、私は何も知らねぇよ!あいつが、あいつが造り出したアレを使っているだけだ!」

火影

「…あいつとは?」

オータム

「……」

 

オータムは黙り込んでしまった。絶対に言わないという表情だ。

 

一夏

「火影、あとは千冬姉達に任せようぜ」

火影

「……わかったよ」

 

するとその時、

 

ゴォォォォォォォッ!

 

一夏

「な、なんだ!?」

 

ドォォォォォォン!!…パラパラッ

 

倉庫の天井を何かが突き破って来た。




ようやく黒いISと蜘蛛のISの名前が判明しました。分かる方は多分分かるかと思います。火影(ダンテ)と海之(バージル)、初めて関係するかもしれない者と接触です。

あと海之(バージル)の戦い方はDMC3のバージルとベオウルフの戦い(正確には後始末)から考えました。


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Mission91 少女達戦う

オータムと名乗る謎の女に追いつめられた一夏を救った火影。オータムは火影にも襲いかかるが火影の圧倒的な強さに全く歯が立たず、白式までも奪い返されてしまう。脱出の手段であった例の機械蜘蛛も海之に破壊され、もはや後がなくなったオータムは火影の尋問を受ける。それによると例の黒いISはアンジェロ、機械蜘蛛はファントムという事。そしてそれらは「あいつ」が造り上げたという。聞き覚えのある名前と「あいつ」が気になった火影はさらに聞き出そうとするがその時、何かが降りかかって来た!


時刻はやや戻って、一夏とオータムが戦っていた頃。空は夕闇に差し掛かっていた。

 

箒・セシリア・鈴・シャルロット・ラウラ・簪、そして楯無の七人はIS学園の校外空域にいた。IS学園に向かって来ているという例の黒いIS、アンジェロの群れを迎撃するためだ。

 

千冬

「…まもなく接触する。良いなお前達、前回のゴスペル戦と同じくこれは訓練でも試合でもない。戦いだ。くれぐれも無茶はするな。我々もできるだけ通信でサポートする。さら…いや今は二人いるんだったな。楯無、現場の指揮は任せるぞ。それからボーデヴィッヒ、お前は他の者より戦いに慣れている。サポートを怠るな」

楯無

「了解です織斑先生」

ラウラ

「は!了解しました!教官!」

「…千冬さん、一夏から連絡は?」

千冬

「…まだ連絡がつかない。織斑の事は火影に任せておけ。あいつなら心配ない」

シャル

「箒、一夏は大丈夫だよきっと」

「…うむ」

セシリア

「箒さん、気持ちはわかりますが今は目の前の敵に集中した方が良いですわ。もし私達が倒れたら一夏さんにも会えなくなりますわよ?」

「そうよ。あいつを守るんでしょ?」

「! ああ!」

「…先生、海之くんは?」

千冬

「海之は今独自で行動している。心配ない。だから頑張れ」

「は、はい!」

真耶

「…みなさん!間もなく接触します!」

楯無

「了解です。……いいわねみんな、さっき織斑先生も言ったけどこれは戦い、戦闘なんだからね。おまけに火影くんも海之くんもいないんだから。絶対に油断しないで」

ラウラ

「こちらは七人に対して相手は約20機。数では三倍近い。囲まれればこちらが不利だ。何人かでペアになって敵を分散させる」

楯無

「なら私は一人で良いわ。みんなは二人ずつでペアを組んで。お互いの背中を守るのよ」

シャル

「そんな!無茶ですよ!」

「お姉ちゃん…」

楯無

「大丈夫よ。これでもロシア代表だからね♪……見えたわ」

 

やがて遠くの方に敵の群れが見えた。

 

「じゃあまずは先手必勝ね!」ガシャンッ!

 

すると鈴はガーベラを展開した。先ほどからチャージしていたようだ。

 

「吹っ飛びなさい!」

 

ズド――――ンッ!

ドドドンッ!

 

鈴はガーベラのレーザーを収束モードで発射した。それに何機か直撃し、爆発したのが見えた。

 

「やりぃ♪」

セシリア

「相変わらず凄い威力ですわね」

「感心してる場合じゃないよ!向こうも気付いたみたい!」

「行くぞ!」

 

敵もこちらに気づいて急速に向かってくる。箒達もそれぞれに分かれてそれに相対した。

 

 

…………

 

アンジェロ

「……」

 

ドドドドンッ!

 

敵は無言のまま自らのライフルを発射する。

 

「紅椿のスピードを甘く見るな!」

 

箒は全速でそれを見事に回避し、終わると同時に自らの剣で迎え撃つ。

 

ガキィィィィンッ!

 

「流石!だが負けん!」

 

ガキンッ!キンッ!ガキキンッ!

 

暫し剣の応酬が繰り広げられる。そして、

 

「そこ!」

 

ザシュッ!

 

アンジェロ

「!」

 

ドガァァァンッ!

 

箒の剣が敵の腹を真っ二つにし、爆発霧散した。

 

「やった!」

 

喜ぶ箒。しかしその時別の敵が横から迫って来ていた。

 

「!」

セシリア

「箒さん!」

 

シュバァァァァ!ガシッ!

 

アンジェロ

「!?」

 

迫って来ていた敵はセシリアのローハイドによって捕獲されていた。

 

セシリア

「今です箒さん!」

「! ああ!」

 

ズガッ!

ドォォォォン!

 

捕獲された敵は箒の攻撃で倒された。

 

「すまんセシリア!感謝する!」

セシリア

「構いませんわ!参りましょう!」

 

 

…………

 

キュイィィン…ズドンッ!

 

アンジェロの胸部からレーザーが発射される。

 

シャル

「やらせないよ!」

 

ババババババババッ!

 

シャルロットは自らの大出力シールド「ガーデン・カーテン」を展開して防ぐ。そこへ、

 

「はぁぁぁぁ!」

アンジェロ

「!」

 

ドンッ!……ズガンッ!ボガァァァアン!

 

敵がシャルロットに気を取られている内に、鈴がガーベラによる加速状態のまま双天牙月の強烈な一撃を繰り出した。まともに食らい、敵は爆散した。

 

シャル

「ナイス!鈴!」

「まあね!次来るわよ!」

 

更に敵が襲いかかってくる。

 

ガキィィンッ!

 

鈴の双天牙月と敵の剣が激突した。

 

シャル

「はあぁぁぁぁ!」

 

鈴に気を取られている的にシャルロットはグレースケールを展開して突撃する。と、

 

「!シャル、後ろ!」

シャル

「えっ?…!」

 

後ろを見るとシャルに銃を向ける別の敵がいた。

 

シャル

「しまった!」

 

攻撃を食らうのを覚悟するシャルロット。すると、

 

ドスッ!

 

アンジェロ

「!?」

 

ドガーンッ!

 

突然後ろから敵の腹部を槍が貫き、敵は撃破された。

 

楯無

「大丈夫?」

 

槍で貫いたのは楯無だった。

 

シャル

「! 楯無さん、ありがとうございます!」

楯無

「気にしなくていいわ。…シャルロットちゃん、あなたの機体は防御は優れているけど武装や反応はみんなより劣るわ。あんまり無茶はしないようにね」

シャル

「う…、そ、そうですね。気を付けます」

 

鈴も先程の敵を倒し、こちらに来た。

 

「大丈夫シャル?」

シャル

「うん、大丈夫だよ」

楯無

「よし、私は次に行くわ。二人共油断しない様にね!」

 

楯無は次の敵に向かって行く。

 

「私達も行くわよシャル!」」

シャル

「う、うん!」

(…確かに僕の機体は他のみんなと違ってまだ第2世代型だもんね…。僕ももっと強い力があればなぁ…)

 

 

…………

 

ガキンッ!キンッ!キンッ!

 

こちらでは先程から簪が炎のケルベロスで敵と交戦していたが、簪の方がやや劣勢だった。

 

「くっ!」

ラウラ

「簪!離れてろ!」

 

そう言われて簪は下がる、そこへ、

 

ドギューン…ドゴォッ!

 

ラウラ

「貫けぇっ!」

アンジェロ

「!」

 

ズガガガガガッ!ドガーーーン!

 

ラウラのビーム手刀を加えたパンチラインが直撃し、敵を貫いた。

 

ラウラ

「大丈夫か簪?」

「う、うん!ありがとうラウラ」

ラウラ

「そうか。なら良い」

セシリア

「大丈夫ですか二人共」

 

そこへセシリアと箒が近づいてきた。と、

 

「!二人共、後ろ!」

箒・セシリア

「「!!」」

 

ズドドドドドドドッ!

 

別の敵が二人の背後からライフルを撃ってきた。

 

「危ない!」

 

バリリリリリリッ!

 

素早く入った簪はケルベロスの三節棍によるバリアを展開し、攻撃を防いだ。

 

「簪!」

「大丈夫!…よし!このまま!」

 

すると簪は攻撃が止むと同時に、

 

「春風…いっけぇ!」

 

ドギューーンッ!

 

アンジェロ

「!!」

 

ドガァァァァンッ!

 

弐式の荷電粒子砲「春風」が直撃、敵を破壊した。

 

「凄いな簪」

ラウラ

「やるではないか簪」

セシリア

「さすが簪さんですわ」

「あ、ありがとう…」

 

みんなに褒められて簪は照れた様子だった…。

 

 

…………

 

一方楯無は自らを囲むように展開する三機のアンジェロと対峙していた。

 

楯無

「……」

 

キュイ―ン…

 

三機のアンジェロがそれぞれ胸部のレーザーをチャージする。そして、

 

ズド――――ンッ!

 

それぞれ中央の楯無に向かって発射した。

 

ドガ―――――ンッ!…パラパラ…

 

三機から放たれたレーザーが中央の楯無に同時にぶつかり、激しい爆発を起こした。

すると、

 

ザシュッ!

 

アンジェロ

「!?」

楯無

「残念♪今のは分身よ」

 

ボガーーンッ!

 

敵の一体が後ろから楯無のランスによって切り裂かれ、爆発した。

 

ズドドドドッ!

 

敵は楯無に向けてライフルを撃つ。しかし楯無はそれを全てかわす。

 

楯無

「海之くんや火影くんとは比べ物にならない位簡単ね!」

 

楯無はかわしきると敵に向かって瞬時加速で接近し、

 

ズガッ!ズガッ!………ドドォォォォォンッ!

 

すれ違いざまに二体を斬った。

 

楯無

「他愛も無いわね♪」

「…やっぱり凄いわね」

セシリア

「ええ…、見事な動きでしたわ」

「お姉ちゃん…」

 

楯無の見事な戦闘を見たみんなは驚いている様子だった。…そしてどうやら今ので最後の敵だった様だ。

 

楯無

「ふぅ~、みんなお疲れ様。怪我はない?」

「ええ何とか。ありがとうございます」

セシリア

「私も大丈夫ですわ」

ラウラ

「…しかし海之や火影程ではないにしろ思ったより楽に倒す事ができたな」

シャル

「それだけ僕達も強くなっていると言う事じゃない?」

「そりゃ火影達や楯無さんの訓練を受け続けてきたからこれ位はできないとね」

「うん、そうだね」

 

~~~~~~~~~~~~

 

と、その時通信が鳴った。

 

千冬

「…お前達、無事か!?」

ラウラ

「教官!ご安心ください。全員無事です。大した被害もありません」

真耶

「良かった…!」

セシリア

「ですが一夏さんは間に合いませんでしたわね…」

「そういえば千冬さん。一夏はまだ?」

千冬

「ああ、さっき通信が来た。一夏だが…あの後、オータムとかいう謎の女に拉致され、交戦していた事がわかった」

全員

「「「!!」」」

 

その内容を聞いてみんな驚いた。中でも箒とセシリアの慌て様は一際だった。

 

「ち、千冬さん、それは一体!?い、いや、それより一夏は大丈夫なんですか!?」

セシリア

「ま、まさか一夏さん!」

千冬

「ああ心配するな。疲労が激しい様だが無事だ。火影が助け出してくれた」

「そ、そうですか…ああ」

「火影も無事だったんだ。…良かった」

ラウラ

「教官、それでその女は?」

千冬

「問題ない。火影が倒してくれたよ」

シャル

「火影…」

楯無

「さすが火影くんね♪」

真耶

「それから…これは更になんですが…、実はあの後、学園のアリーナにあの例の機械蜘蛛も現れたんです」

シャル

「! あの機械蜘蛛が!?」

千冬

「ああそうだ。だがそれも心配するな。こちらも海之が撃破してくれた」

「えっ!?」

「あの化け物を一人で!?」

千冬

「ああ、あっという間にな。どうやら海之は敵の出方が気になっていたみたいでな。万一に備えて警戒していた様だ。お前達に連絡するなと言ったのもあいつだ。集中を切らせてはいけないとな」

「海之くん…やっぱり凄い…」

ラウラ

「流石は私の嫁だ」

千冬

「お前達も御苦労だった。はやく」

 

とその時、

 

~~~~~~~~~~~~~

 

全員

「「「!!」」」

 

全員のアラームが鳴り響いた。そして千冬や真耶のいる指令室にも鳴り響く。

 

千冬

「何事だ!」

真耶

「…! 何かが高速で接近してきます!反応からして…ISです!」

千冬

「何だと!どこからだ!?」

真耶

「…! みなさんがいる方角からです!接触まで約2分!」

千冬

「! まさか増援か…!お前達聞こえているな?未確認のISが接近中だ!一機だけの様だが正体が分からん!決して油断するな!」

楯無

「了解です!」

シャル

「未確認ってことは…さっきのIS達じゃないよね?」

「うん。一体なんだろう…?」

「わからん。だが決して油断するな!」

ラウラ

「……あれか!」

 

…ラウラの言う通り、一機のISらしき影が遠方から近づいて来ているのが見える。速度はかなりのものの様だ。やがて形が少し見える様になると突然セシリアが反応する。

 

セシリア

「!あれは!…まさか!?」

「どうしたのセシリア?」

 

そしてそれははっきり見える距離まで近づいた。全体がセシリアのブルーティアーズの青を更に深めた様な色。特徴は蝶の羽の様なスラスターと触角の様なヘッドパーツ。見た目は正に青い羽の蝶であった。

 

シャル

「蝶…?」

「油断しないでみんな!」

 

すると突然、

 

バババババッ!

ドギュドギュドギュンッ!

 

謎のISは接近しながらビットを展開し、攻撃してきた。

 

「! ビット!?」

ラウラ

「みんなかわせ!」

 

突然の攻撃だったが何とか全員かわすことができた。

 

「あいつ、あれ程のビットを動かしながら迫ってくる!」

楯無

「来るわよみんな!」

 

全員次の攻撃に備えて構える。…しかし、

 

全員

「「「!?」」」

 

ドンッ!

 

謎の青いISはその場にいる彼女達を相手にせず、瞬時加速で通り過ぎて去った。

 

シャル

「攻撃してこなかった…?」

ラウラ

「相手にもしないという事か!?なめた真似を!!」

「見て!あいつ学園に向かってる!」

「追うぞ!…どうしたセシリア?」

セシリア

「やはり、やはりあれは…」

「セシリア、あのISを知ってるの?」

楯無

「セシリアちゃんって確かイギリスの…。やっぱりそうか…、どこかで見た機体だと思ったのよね…」

シャル

「えっ?」

 

するとセシリアが答えた。

 

セシリア

「…あれの名前はサイレント・ゼフィルス…。私のブルー・ティアーズと同じビットを使うISで…、行方不明になっていた…ブルー・ティアーズの2号機ですわ…」



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Mission92 魔人、蝶を翻弄する

箒達は楯無の指示の下、初めて黒いIS「アンジェロ」達と交戦する。数だけでは3倍近い相手ではあったが、以前より遥かにレベルアップしていた彼女達は大した被害はなくそれらを殲滅する。
互いに健闘を称える箒達。しかしそこに突然アンジェロとは違う謎のISが接近してくる。全員が何者かと思う中、唯一セシリアとロシア代表の楯無ははそれを知っていた。
機体の名はサイレント・ゼフィルス。ブルー・ティアーズの後継機であり、過去に強奪され、今まで行方不明になっていた機体であることを…。

UAが70000
お気に入りが300
到達致しました!ありがとうございます。


IS学園 倉庫内

 

火影によって倒されたオータムは火影の尋問を受けていた。何故彼女がアンジェロ、そしてファントムの事を知っているのか。そして先程言っていた「あいつ」とは誰の事なのか。だがその人物の事については頑なに口を閉ざすオータム。…とその時、

するとその時、

 

ゴォォォォォォォッ!

 

一夏

「な、なんだ!?」

 

ドォォォォォォン!!……パラパラ

 

倉庫の天井を何かが突き破って来た。

 

火影

「…!」

一夏

「あ、IS!?」

 

それは先程外で箒達が遭遇したIS、サイレント・ゼフィルスであった。

 

「……」

 

沈黙しているパイロット。とそこへ、

 

バンッ!

 

海之

「無事か二人共!」

 

先程アリーナでファントムを撃退した海之が入って来た。

 

一夏

「海之!」

海之

「…火影、なんだこいつは?」

火影

「…さあな。だがお友達って感じじゃなさそうだ」

 

~~~~~~~~~~~~

 

とその時連絡が入る。千冬からだ。

 

千冬

「海之!火影!一夏!聞こえるか!?」

一夏

「千冬姉!?」

「…!」

海之

「…?」

千冬

「良く聞け!謎のISが更識達がいる地点を突破して学園内に侵入した!十分に警戒しろ!」

一夏

「…警戒も何も…今目の前にいるよ」

千冬

「なっ!?」

 

するとオータムが謎のISのパイロットに話しかける。

 

オータム

「て、てめぇ…なんでここに?」

「…命令だ。撤退する」

オータム

「命令って…あいつのか!?それともスコールか!?」

「…どちらもだ」

 

話からしてオータムと謎のパイロットは知り合いらしかった。そして敵は声色からして女の様だった。

 

一夏

「どうやらあいつ、オータムって奴と知り合いらしいぜ」

火影

「…へっ、そっちからわざわざ出向いてくれるとは、今日はラッキーデーだな」

一夏

「いやどこがだよ…ってそうじゃなくて!なんだお前は!」

「……こいつをやったのはどちらだ?」

火影

「俺だ。選手交代か?」

「オータムをここまでにするとは…。ファントムの奴もあっという間に破壊された様だな」

海之

「そちらも知っているのか…。どうやら本当に当たりの様だな」

一夏

「答えろ!何でこんなことしやがる!?」

「……行くぞオータム。動けるか?」

オータム

「当たり前だ!…ちっ、しょうがねぇ。あいつのはともかくスコールの命令じゃあな」

一夏

「逃がすか!」

 

ドンッ!ドンッ!

 

一夏は二人を取り押さえようとするが一瞬遅く、オータムのアラクネとゼフィルスは飛び去っていく。

 

火影

「あのオータムって奴、まだ動けたのか」

一夏

「くっ!白し」

火影

「待て一夏!お前はまだ完全に回復していない。俺が行く。海之、一夏を頼むぜ」

海之

「ああ任せておけ」

一夏

「火影!俺も」

火影

「お前が死んじまったら悲しむ奴がいるだろうが!」

一夏

「!!」

 

火影の言葉に一夏は動きを止める。そして一夏は思い出した。火影、そして海之は他人の命を何よりも特に重視している事を。

 

火影

「弾は無駄にしても良いが…命を無駄にするな。良いな?」

一夏

「…わかったよ。火影、気をつけろよ!」

火影

「ああ。海之、あと頼んだぜ」

 

ドンッ!

 

火影も天井の穴から二人を追いかけていった。…その後ろ姿を見て一夏は思っていた。

 

一夏

「……」

(俺が死んだら悲しむ奴がいる、か…。だがよ、それはお前も同じだろ火影…)

海之

「……」

 

 

…………

 

学園校外

 

飛び去ったゼフィルスを追いかけて箒達は学園に向かっていた。すると、

 

「…見て、あれ!」

 

少し先に見える学園からゼフィルスともう一体のISが飛び出してくるのが見えた。

 

楯無

「あれは…アメリカの第2世代のアラクネ?行方不明になっていたって聞いたけど」

セシリア

「ゼフィルスもいますわ!」

ラウラ

「逃がすか!」

「…待て!まだ何か出てくるぞ!」

 

箒の言った通りもう一機の何かが飛び出してくる。それは先程の二機を遥かに超えるスピードだった。

 

「あれは…アリギエル!火影!」

シャル

「な、なんてスピードなの…。前よりまた速くなってる」

 

 

…………

 

箒達より少し先の空域。

 

バッ!

 

火影

「……」

「…!」

オータム

「なっ!?」

 

火影のアリギエルが逃げようとする二人の前に立ちふさがった。

 

オータム

「な、なんてスピードだよ…!?」

「…まさかこうまで簡単に追いつかれるとはな」

火影

「悪いがあんたらにはまだ聞きたい事があるんでね。あんたらの組織についてもだが…何よりさっきの「あいつ」とかいう奴についてだ」

オータム

「し、しつけぇんだよてめぇ!」

火影

「答えろ。あいつらを造ったっていう「あいつ」とは……誰だ?」

「…聞いてどうする?それに簡単に教えると思うか?」

火影

「…いや、そう言うだろうと思った。分かりやすくて良い」

「…オータム、下がっていろ。今のお前は足手まといだ」

オータム

「何だとぉ!!…ちっ、しょうがねぇ」

 

そう言うとオータムは離脱する。

 

「オータムをあそこまで痛めつけた程の力、見せてもらう!」ジャキッ!

 

敵は先に銃剣が付いた大型のライフルを展開し、火影に向ける。

 

火影

「へ~、早撃ち勝負か」ジャキッ!

 

そして火影もエボニー&アイボリーを向ける。そして、

 

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

ふたつとひとつ、それぞれの銃口から火花が吹いた。だが女の撃った銃弾は火影のアイボリーの弾と相殺されて当たらなかった。一方エボニーの弾は直撃していた。

 

「!…なに」

火影

「…ふっ」

 

ズダダダダダダダダダダッ!

 

火影は高速で動いて拳銃を連射する。それに対して敵は回避行動をとる。

 

「……速い!」

火影

「へ~、動きは悪くねぇな。だが」

 

ドンッ!

 

その瞬間火影は瞬時加速で接近し、相手の行きつく先に来ていた。

 

「!」

 

ボシュ!ボシュ!ボシュ!

 

加速中に武装を拳銃からカリーナに変更していた火影はランチャーからミサイルを発射した。

 

「!」

 

ドォォォォォォォォォンッ!

 

ミサイルがゼフィルスに直撃した。……しかし、

 

火影

「!…ほぉ」

「……」

 

撃破されたと思いきや、敵はミサイルをガードしていた。見ると展開されたビットからエネルギーで作られたシールドが張られていたのだ。

 

火影

「ビットで防御したか…。さっきの大型ライフルといいビットといいセシリアの機体の様だな」

「防御だけではないぞ!」

 

ビュビュビュビュンッ!

ビシュッ!

 

すると今度は突然ビットからレーザーが放たれた。その内の一本のレーザーが火影の頬をかすめた。

 

火影

「へ~便利なもんだな。それにビットも動かしながら自分も動けてるし、やるじゃねぇか」

「そんな事を言っている暇があるのか?」

(シールドが発動しなかった…?なんだ奴のISは…)

 

ズダダダダダダッ!

キキキキキキンッ!

 

火影はビットに向かって銃を撃つ。しかしシールドによって全て弾かれてしまう。

 

「無駄だ。その程度の攻撃ではゼフィルスのビットは落とせん」

火影

「ふ~ん、そうかい」

 

だが火影はふざけた表情を崩さない。

 

「…そのふざけた態度を二度とできない様にしてやる!」

 

ビュビュビュビュンッ!

 

怒った女は火影に向かって全ビットから砲撃した。そして、

 

ドォォォォォォォンッ!

 

全レーザーが直撃し、火影がいた地点で大爆発が起こった。煙が消えた時、火影もアリギエルの姿も消え失せていた…。

 

「…ふん、口ほどにもない」

 

勝利を確信するゼフィルスのパイロット。……しかし、

 

ドォォォォンッ!

 

「!?」

 

突然ビットのひとつが破壊された。そして立て続けに、

 

ドンッ!ドドンッ!ドンッ!

 

残りのビットも全て破壊された。

 

「な、何だ!?」ドゴォォォォォッ!「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

突然背中に強烈な衝撃を受け、前方に吹っ飛ぶゼフィルス。

 

「ぐっ!!な、何が!?」

オータム

「馬鹿野郎!後ろだ!」

「!?…!!」

 

オータムの忠告を聞いて女は最初後ろを振り返ろうとした。しかし無意識からか動物的本能から来る行動だったのか、女は振り返らずに自然に身体を前に動かしていた。

 

ブンッ!!

 

その時女は感じた。背中に強烈な衝撃の風があった事を。もし動いていなければ衝撃そのものを再び背中に受けていた事だろう。少し離れた女は改めて振り返る。するとそこにいたのは、

 

火影

「ほぉ、俺の気配を感じたか。やるな」

 

イフリートを展開したアリギエル、火影だった。

 

「!…何故だ?お前は先程確かに攻撃が当たった筈だ!」

火影

「俺の身体がバラバラになった所まで見たのか?当たる瞬間に避けた。それだけだ」

「! 馬鹿な!あんな一瞬でだと!?」

火影

「んじゃ、もう一度見せてやる」

 

シュンッ!

 

すると目の前で突然火影の姿が消えた。そして同時に、

 

ザンッ!

 

「ぐああああ!」

 

女は背中に再び攻撃を受ける。みるとリべリオンで斬りかかった火影だった。

 

「ぐうぅぅ…な、なんだ今のスピードは…!?」

火影

「俺のアリギエルにはエアトリックっつうちょっとした技があってな。SEをちと多めに使う代わりに瞬間移動できんだよ。さっきてめぇのビットを破壊したのもこいつを使ったのさ」

オータム

「しゅ、瞬間移動だと!?」

「そんな事が…!」

 

火影の力に女もオータムも言葉を失っていた…。

 

 

…………

 

一方、彼らの戦いを少し離れた所で見ていた楯無や箒達も驚きを隠せない様子だった。

 

シャル

「……ねぇ、誰か今の火影の動き…見えた?」

「ううん、全然…」

楯無

「…もはや瞬間移動のレベルね…」

セシリア

「あんな事ができるなんて…」

「あいつといい海之といい…日に日にどんどん強くなっていくわね…」

ラウラ

「若しくは…元々それ位強いのかもしれんな」

「それにしてもあいつら、あれだけの強さを一体どこで…」

「私達も強くなったつもりだけど…まだまだ足元にも及ばないわね…」

シャル

「…うん」

「悔しいが…一夏が目標としているのがよくわかるな」

 

少女達は自分達と火影達の実力の差を改めて認識していた。

 

 

…………

 

場所は戻って火影、オータム、そしてゼフィルスを操る女。

 

火影

「さて…どうする、おとなしく捕まった方が良くないか?」

「……」

オータム

「…ちぃっ、まさかこれ程の奴がいるなんて聞いてなかったぜ…。こうなったら止むを得ねぇか…おいM!」

 

ガシャガシャッ!

 

するとオータムは突然自身のアラクネのコアを本体から外し始めた。コアを失ったオータムは自動的にISが解除された。そこをゼフィルスが抱える。

 

火影

「…?何の真似だ?」

オータム

「へっへっへ。てめぇは確かに強えぇよ。素直に認めてやらぁ。だがよ、俺らにはできててめぇには絶対できない事があんのよ!なんかわかるか?」

火影

「…?」

オータム

「良いか?俺らはいわば悪だ!悪は何だってできる!誰のもんを奪おうと、誰がどれだけ死のうと関係ねぇ!完全に自由だってことだ!」

 

ドンッ!

 

そしてオータムは手に持ったコアを高速で発射させた。向かう先には……、箒達みんながいた。

 

オータム

「ひゃはははは!あのコアにはちょいと特殊な改造がしてあってな!人体に反応して追尾し、自爆する様にできてんのよ!」

火影

「!」

オータム

「しかもコアの装甲を更に強化してっからそこらの銃器では撃ち落とせねェ!かといって直接ぶった切ればその途端にドカンッだ!早くなんとかしねぇと大事なお仲間が危ねぇぞ~?」

Mと呼ばれた女

「……醜い」

火影

「……」

 

ドンッ!

 

その瞬間火影はエアトリックで瞬間移動した。

 

オータム

「さ~て帰ろうぜ~。コアをひとつ失ったがまぁなんとかなるだろ♪」

Mと呼ばれた女

「……」

 

そしてオータムと女はその場を離脱した。

 

 

…………

 

一方、箒達も自分達の方に何かが向かってくるのが見えていた。

 

「…?なにかこっちに来る!」

ラウラ

「…アレは…ISのコア?」

楯無

「…なんかやばそうな感じね」

 

と、その時

 

シュンッ!

 

彼女らの前にエアトリックで瞬間移動してきたアリギエルが現れた。

 

セシリア

「火影さん!」

火影

「おめぇら離れろ!あれは爆弾だ!」

「ば、爆弾ですって!?」

火影

「簡単には壊せねぇみてぇだし直接斬ったら一発アウトだ。だから早く逃げろ。あと俺に近づくなよ」

 

そう言って火影はコアに向かって近づいた所で旋回する。するとコアも誘導される様に向きを変える。

 

「向きを変えた…感知式の爆弾ってこと!?」

シャル

「まさか…僕達を守るために囮に!?そんな!」

「火影!」

 

みんながそう言っている間にも爆弾はアリギエルを追尾し続ける。

 

火影

「ちぃ!」

 

ズダダダダダダダダダッ!

キキキキキキキキキキンッ!

 

火影はエボニー&アイボリーを撃つが貫けない。

 

火影

「強度が改造されてるってのはマジな様だな。かと言ってぶった切ると爆発か…」

 

シールドが無いアリギエルだと爆発のダメージをもろに受ける可能性があるため、それは避けたい。かといってみんなに近づける事はできない。

 

火影

「あの女はあれは人体に反応するっつった…………しゃあねぇな」

 

火影はなにか閃いた様だ。そしてリべリオンを展開する。

 

「火影の奴、爆弾を斬る気か!?」

「そんな!あれを斬ったら……!?」

シャル

「えっ!?」

ラウラ

「何だと!?」

セシリア

「火影さん!」

楯無

「なっ!」

「……」

 

その瞬間全員言葉を失った。何故なら…

 

ザンッ!!

 

火影は自らの、アリギエルの腕を、リべリオンで斬り落としたからだ…。




海之(バージル)が分身を使うのに対して火影(ダンテ)は瞬間移動を使う設定にしました。


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Mission93 動き始める運命

火影と一夏がオータムと対峙していた時に現れた突然の乱入者。それはセシリアの母国イギリスより奪われ、行方不明になっていたIS、サイレント・ゼフィルスとそれを駆る謎の女であった。謎の女はオータムを連れて逃げ出そうとするが火影がそれを阻止せんとする。逃げられないと悟った女は戦いを仕掛けるが先のオータムと同じく女も火影の強さに徐々に押されてしまう。
そんな状況の中、オータムが突然自らのアラクネのコアを解除し、箒達に向けて自爆装置を作動させる。みんなを守るために火影は爆弾を自分に引き付け、更に驚くべき行動に出た!


コアに追われて逃げ続ける火影は突然リべリオンを展開する。そして、

 

ザンッ!!

 

火影は自らの、アリギエルの左腕を斬り落とした。

 

火影

「ぐうぅぅぅぅぅ!!」

シャル

「…火影----!!」

「………………え?」

 

火影の思わぬ行動にシャルロットは絶叫し、鈴は言葉を失っていた。

 

ブンッ!

 

火影は自ら斬り落とした左腕を掴み、それを追って来るコアめがけて放り投げる。するとコアは放り投げられた左腕に反応し、そして、

 

ドガァァァァァァァァァァン!!

 

追って来ていたコアはアリギエルの左腕もろとも爆発した。幸い爆発のダメージが火影やみんなにまで及ぶ事はなかった。

 

火影

「やれやれ…なんとか上手くいきやがった…ぐっ!」

 

二の腕の途中から下を失ったアリギエルの左腕からは大量の血があふれ出る。

 

火影

「ちっ、やっぱ痛みが激しいな。まぁ当たり前か…前ん時も腕無くすなんて事…くっ」

 

そんな火影の元にみんなが近寄る。特にシャルロットは既に涙を浮かべている。

 

シャル

「火影!火影!」

「大丈夫か!!」

ラウラ

「なんて事をするんだお前は!!」

セシリア

「そんな事を言っている場合じゃありませんわ!直ぐに手当てしないと!!」

火影

「だ、大丈夫だっ…ちょっと待ってろ」

「何を言っているの!?大丈夫な訳な……!!」

 

カッ!

 

するとアリギエルの失われた左腕に変化があった。まずみるみる内に骨格が再生し、そこにまとわりつく様に筋肉や血管、神経繊維等が修復され、腕は何事も無かったかのように元通りになったのだ。

 

「う、腕が元通りになった!?」

楯無

「嘘でしょ!?」

火影

「…くっ。あ、ああそうか、楯無先輩と簪は知らなかったか。俺のアリギエルは頭部と心臓が破壊されない限り、再生し続けるんだよ」

「そ、そういえば以前その様な事を言っていたが…」

セシリア

「で、でも先程失った血は!?」

火影

「ああ…それも大丈夫だ。失った分の血も元通りになっから。前に海之が腹の傷治ったの知ってるだろ?…まあ再生するまでの痛みは人並みだけどな」

 

火影は左腕を触りながら答える。

 

「………」

シャル

「本当に、本当に大丈夫!?」

火影

「ああ心配すんな。もう痛みもねぇよ」

「一夏といいお前といい…本当に心配させる天才だよ…」

ラウラ

「…しかし火影。先程の者達はなんだったのだ?」

火影

「ああそうだったな。とりあえず地上に降りようぜ」

 

そして火影達は一番近くの地に降りた後、火影はここまで起こった事をみんなに話した。一夏がファントム・タスクのオータムと名乗る女と交戦していた事。そしてオータムやあのゼフィルスの女がアンジェロやファントムと関わりがある事。そしてあの爆弾の事等…。

 

「アンジェロ、ファントム、そして…ファントム・タスクという奴らか」

楯無

「…まさかあいつらが関わっていたなんてね」

シャル

「楯無さん知ってるんですか?」

楯無

「聞いたことがある範囲でだけどね…。秘密結社って話だけど…多くは謎に包まれているわ。でもアラクネもサイレント・ゼフィルスも奴らに奪われていたってことね」

セシリア

「更にアンジェロやあのファントムも同じ組織のものという事ですわね」

「…でも火影くんの話だと…、アンジェロとファントム…。それはアラクネやゼフィルスと違って自分達で造ったっていう話なんだよね?」

ラウラ

「…つまり敵側にもISを造れる程の科学者がいるという事か…」

火影

「……」

 

火影はオータムが言っていた「あいつ」という言葉がずっと気になっていた…。敵の言葉を信じる通りもし「あいつ」とやらがあれらを生み出したのなら…考えられる事は…。

 

シャル

「火影?どうしたの?やっぱり痛む?」

火影

「…ん?ああ何でもねぇ…。そろそろ戻ろうぜ、一夏や先生方にも報告し」

 

その時、

 

パアァァァァァァン!

 

全員

「「「!」」」

 

突然場に乾いた音が響いた。それは…今迄黙っていた鈴が火影の顔に思い切りビンタしたからだ。

 

「……」

シャル

「り、鈴!?」

火影

「…鈴、お前なに」

「……てんのよ」

火影

「…えっ?」

「…なにバカなことしてんのよって聞いてんのよ!!」

全員

「「「!」」」

 

火影含め全員は再び驚いた。ここまで怒り声を上げる鈴を見るのは一夏の件に続いて二回目だ。ただあの時と違い特に彼女を傷つける事等していないと火影は思っていた。

 

「り、鈴。どうしたお前?」

「黙ってて!…もう一度聞くわよ火影!なんであんなバカなことしたの!?爆弾の前に立ちふさがるだけでも結構なのに、その上私達が爆発に巻き込まれるのを防ぐために囮になって、更に自分の腕斬り落とすなんて!!どんな神経してんのよ!?」

火影

「…いやしかしあれは」

「しかしも何もない!!拳銃で破壊できないならあんたのカリーナでもイフリートでも使ってみれば良かったじゃない!!それでも無理なら私のガーベラでも簪の春雷でも頼めば良いじゃない!それでも無理ってんならみんなの攻撃を合わせてぶつけてみれば良かったじゃない!違う!?」

 

言い続ける鈴の目にはいつの間にか涙が溜まっていた。

 

「鈴…」

「レオナさんが言ってたわ!あんたも海之もいつも他人の事ばかり考えて、自分の事はいつも疎かにして、何でも自分達だけで背負い込もうとするって!なんでよ!?私達やみんなの事はいつも真摯に考えてくれたり守ったりしてくれるのにあんた達はなんでそうなのよ!?もっと周りを頼りなさいよ!私達仲間じゃないの!?」

 

やがて鈴の目からは大量に涙があふれ出た。

 

ラウラ

「鈴…もうそれ位にして」

「あんたは守ってるつもりかも知れないけど守られてる方だって辛いのよ!自分が頼りないからまた迷惑かけたってね!まして目の前であんな助けられ方されて喜ぶ子がいると思う!?一番好きな奴が…誰よりも大切な奴が…自分の腕斬り落として、それで助けられて喜ぶ女の子がいると思う!?そんなの大間違いよ!!バカにすんじゃないわよ!!」

 

火影

「……」

シャル

「鈴…」

楯無

「鈴ちゃん…」

セシリア

「鈴さん…あなた…」

 

鈴は涙を流しながら必死に訴える。話の中でほぼ告白じみた事を言っているのはその場にいるみんなも鈴自身も気付いていたがそんな事を気にしてはいなかった。

 

火影

「鈴……」

「でもあんたはどうせこれからもそんな戦いを続けるんでしょ。前も言ってたし。ほんとは力づくでも止めさせたいとこだけど…私には無理だし。だからせめて約束しなさい!これからどこに行くにも戦うにも、必ず私達も連れて行きなさい!時間稼ぎでも足止めでも何でもやってあげるから!あんた達が無茶しない様に見張り役に付けなさい!…もし…もし…さっきみたいな事またしたら…絶対許さないんだから…ただじゃおかないんだからぁーー!!」

 

そう言って鈴は大泣きしながら火影に抱きついた。そして、

 

シャル

「…火影、鈴の言う通りだよ…。もうあんな事しないで…。僕も…もっと強くなるから、みんなを守れる位強くなるから…、火影に…あんな事させない位…強くなるから、だから…お願いだよぉ…」

 

シャルロットもまた涙を流して火影に抱きついた。彼女も鈴の言葉を聞いて想いが溢れ出た様だった。

 

火影

「…鈴…シャル…」

楯無

「…女の子をそこまで泣かせるなんて大きな罪よ火影くん。もう二度とあんなことしないと誓いなさい。でないと…ふたりとも決して貴方を許さないわよ?」

扇子

(海誓山盟)

火影

「……鈴、シャル。…悪かった。もう二度としない。約束すっから…」

 

火影は今も泣きながら離れない鈴とシャルロットの頭を撫でながら約束した。

 

楯無

「簪ちゃん、あとラウラちゃんも言っとくわ。多分、いや絶対海之くんもいざとなったら火影くんと同じ様に無茶をするだろうから…馬鹿な事しない様しっかり見張ってなさいよ」

「!!…うん!」

ラウラ

「うむ!海之は、嫁は私が守る!弟の火影もだ!」

楯無

「箒ちゃんとセシリアちゃんもよ?一夏くんも二人に負けない位正義感が強いからね」

「は、はい!」

セシリア

「分かりましたわ!」

楯無

「…まぁ一夏くんは私も見張ってるけどね♪」

箒・セシリア

「「…えっ?」」

 

その後、鈴とシャルロットが泣き止むまで暫く待ち、全員で学園に戻ると火影は早速千冬と真耶に呼び出された。火影の事はレーダーを通してふたりも見ていた様で、あの後ものすごく叱られる事になった…。

 

 

…………

 

???

 

その頃、火影との戦いで離脱していたオータムとMと呼ばれた女は彼女らの拠点らしい場所に戻って来ていた。

 

オータム

「やれやれ…どうにか無事に帰ってこれたぜ」

「……」

 

そんなふたりの元へひとりの女性が歩み寄ってくる。長身で金髪、火影程ではないが赤い目をしている。

 

「お帰りなさいふたり共。大変だったみたいね、大丈夫だった?」

オータム

「おおスコール、今帰ったぜ~。散々な目にあったが何とか大丈夫だ」

「…スコール、あの方は?」

スコールと呼ばれた女

「あの人ならずっと自室に籠ってるわよ。何か考え事があるみたいね。相手にしてもらえないから私も寂しいわ」

「……」

オータム

「まぁいいじゃねぇか。放っといてくれって言ってるんだしよ」

スコール

「ところでオータム。あなた白式の回収に失敗したようね?あの人が言ってたわよ?」

オータム

「…ちっ!あんにゃろう余計な事を…。つーか聞いてくれよ!ほんとにもう少しで奪える筈だったんだよ!なのに邪魔が入りやがって…」

スコール

「…邪魔って?」

オータム

「ほら、以前言ったろ?私の銃やナイフを見抜いた奴がいたって。あいつだよ!確か…火影とか言ってたな。それにもうひとりいんだよ!あたしが脱出のために用意していたファントムを簡単にぶっ倒した奴!…確かそっちの方は海之って言ってたぜ。てかそいつらだったんだよ!前に俺らがゴスペルを奪った際に使ったアンジェロ達を殲滅した奴ら!」

スコール

「…火影…海之。…そう、そのふたりがあの時の…」

「…だが邪魔が入ったにせよ任務を果たせなかったのはお前の責任だ。おまけにアラクネのコアまで消費してしまった…。代償は大きい」

オータム

「なんだと!?そういうてめぇだってあの野郎に歯が立たなかったじゃねぇか!」

「……」

スコール

「…貴女達が揃って歯が立たない相手、少し興味あるわね…。まぁ今はその話はよしとしましょう。オータム、理由はどうであれコアを失ってしまったから貴女は当分戦えないわ。暫くの間はISを使わない任務に動いてもらうから。まぁあの人が何とかしてくれるでしょう。ああそれからM、帰還次第あの人が部屋に来てくれって言ってたわよ」

「…了解した」

 

Mはそう言われるとその場を去って行った。

 

オータム

「…ちっ」

スコール

「はいはいそう悔しがらないで。貴女も知ってるでしょ?私達には彼女が、それにあの人が必要だって事」

オータム

「…わーってるよ。つーか…あの野郎、どうやってあんなもん造れんだろうな」

スコール

「? どうしたの急に?」

オータム

「さっき言った火影って奴が言ってたんだよ。アンジェロやファントムの奴らをどうやって知った?どうやって手に入れた?ってな。…思えば確かにあいつ、なんであんなもん造れんだろ?」

スコール

「……さあね」

 

 

…………

 

ある部屋の前

 

「…私です」

「……入ってくれ」

 

ピッ!ウィィィン

 

Mは部屋の中から聞こえてきた指示によって部屋に入った。部屋の中は電気を付けていないのか暗く、外からの光によって僅かに見えるだけだった。良く見るとデスクの前の椅子にひとりの人物が座っているようだがその風貌までは伺い知る事はできなかった。だが声色からして男である事はわかる。

 

「……」

「…先程帰還致しました。報告します」

「……聞こう」

 

それからMは全てを話した。オータムが火影という男に敗れ、白式を奪い返された事。ファントムが海之という男に簡単に敗れ去った事。自身も戦ったが手が出なかった事も隠さず全て。

 

「……」

「申し訳ありません…」

「…構わない、気にするな。…無事で何よりだ」

「!…ありがとうございます」

「しかしオータムの奴め、貴重なコアを失うとはな…。いや…その火影と、そして海之という奴の仕業か」

「……」

「まぁ次の作戦は考えてある…。御苦労だったな。下がって休め」

「…承知致しました」

 

ウィィィン

 

そう言ってMは部屋から出ていった。

 

「………」

 

謎の男は暫く黙っていたがやがて口を開いた。だが先程とはやや様子が違う様に聞こえる。

 

(ふっふっふ…)

「…どうなされました?」

(火影、そして海之という双子…。そ奴らが持つIS…。更に傀儡共を圧倒する力。まさかと思っていたが…やはり、やはりそうだったか…)

「ではそのふたりが…」

(…お前は運命とやらを感じた事はあるか?)

「もちろんです。貴方との出会いこそが私の運命であり、宿命でした」

(…そうか。…これからも頼むぞ)

「…仰せのままに。我が主、我が神よ…」

 

部屋の中で声が小さく響いていた…。

 

 

…………

 

その頃、千冬と真耶の説教が終わった火影は屋上で海之と話していた。

 

火影

「いつつ……一生分の出席簿食らった気分だ。おまけに鈴やシャルには泣きつかれるし」

海之

「自業自得だ。鈴の言う通り、少し考えれば方法はあっただろうに」

火影

「うっせー、あの時はそこまで考えが浮かばなかったんだよ。…まぁ確かに今回はあいつらに悪い事をしちまった。もう二度とあんな事はしねぇよ」

海之

「そうしておけ」

火影

「……ところで海之」

海之

「ああ。予想はしていたが……やはりだったか」

火影

「あの時のお前にそっくりなあの黒い奴もあの蜘蛛野郎も…単に良く似てるだけじゃなかったって事だな…」

海之

「……」

火影

「本当にいると思うか?……俺達と同じ奴が」

海之

「……さぁな。だがもはや偶然では片づけられんだろう。…問題は仮にそうであるとして……誰が、という事だが」

火影

「……誰、か」

海之

「………」

 

ふたりはそれから暫く黙りこんでいた…。




※次回までまた暫く間を頂きます。すみません。


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Mission94 姉弟の過去

オータムが繰り出した爆弾を止める方法として火影は驚くべき方法をとる。それは自らの腕を斬り落とし、爆弾をそちらに誘導させて爆発させるというものだった。作戦は上手くいったが火影のあまりの無茶な行動に鈴は激怒。涙を流しながら気持ちをぶちまけ、シャルロットと共にもう二度とあんな事はしないと約束させる。

一方、火影との戦闘から離脱したオータムやMは彼女らの拠点に帰還していた。そこではスコールという女性と、もうひとり謎の人物がいた。その人物はMから報告を受け、Mを部屋から出て行かせると、どこにいたのか今度はもうひとつの声と話し始める。その声は言った…。

「火影と海之という双子…、やはり…、これが運命か…」


オータム、アンジェロの群れ、ファントム、そしてMと名乗るゼフィルスのパイロットと、多くの襲撃があった日の翌日。この日は前日の事もあって臨時休校となった。混乱を防ぐために一部の生徒を除いて生徒達には襲撃があった事は極力隠され、ただ単に文化祭によるものと説明されている。突然の事だったので不思議に思う生徒も少なからずいたが、より詳しく模索しようとする生徒はなく、特に問題は起こっていない様子だった。

 

 

医務室

 

ガラッ

 

火影

「一夏、身体はどうだ?」

一夏

「おお火影、みんなも。もうすっかり平気だって言ってんのに…箒やセシリアや千冬姉が明日の登校までしっかり休めって帰してくれねぇんだよ」

「油断大敵という事もある!」

セシリア

「その通りですわ!火影さんがいなかったらどうなっていた事か!」

一夏

「…まぁそれは素直に認めるよ。でも火影、お前も随分無茶したらしいじゃねぇか?千冬姉から聞いたぜ。俺も正直ぶったまげたよ」

火影

「はは…。お陰で数日の間、部屋と風呂以外に鈴とシャルのどっちかが一緒にいて見張りについてる事になったよ」

「…自分でまいた種なんだから我慢しなさい」

シャル

「本音に教えないだけでもありがたく思ってよ…」

「本音は怒らせたら恐いよ?」

火影

「…悪かったよ」

ラウラ

「そう思うならもう二度とあんな真似はしない事だ、弟よ。あと海之、頼むからお前もあんな無茶はしないでくれよ?この歳で未亡人は嫌だぞ」

海之

「心配するな。俺は効率的に動く」

一夏

「そう言えば楯無先輩は?」

海之

「楯無さんは事後処理で来れない。明日文化祭の件でまた集会だそうだ。最も真実は話されないだろうが」

 

ガラッ

 

千冬

「お前達も来ていたのか」

 

扉が開け、入って来たのは千冬だった。

 

一夏

「ああ千冬姉、…なぁ」

千冬

「駄目だ」

一夏

「…まだ何も言ってねぇけど?」

千冬

「お前の考えなど手に取る様にわかる。もう本当に大丈夫だから部屋に帰してくれねぇか?、とでも言いたいのだろう?」

一夏

「…一言一句その通りです」

「流石千冬さん。一夏の事はわかりきってるわね」

千冬

「…火影、本当ならお前も同じく閉じ込めておきたいところだが既に何ともない以上そうもいかん。だが自分がやった事は決して忘れるなよ?」

火影

「…はい」

千冬

「お前、そして海之にも言っておく。お前達は確かに強いし頭も良い。状況把握力も指揮能力もある。…だがいつもお前達が言っている様にお前達も頼る事も覚えろ。如何にお前ら自身は死なない、大丈夫と思っていても見ている側は辛いと思う事があるんだ。最早この学園においても…もうお前達はお前達だけのものではないんだぞ」

火影

「…はい」

海之

「わかりました…」

火影・海之・千冬以外

「「「………」」」

 

みんな暫く黙っていた。そしてやがて火影が口を開く。

 

火影

「そう言えば織斑先生、ひとつ聞きたい事があるんです」

千冬

「なんだ?」

火影

「俺は一夏がオータムに追いつめられていた時に割って入ったんですが…、その時に一夏が奴に気になる事を言ったんです」

千冬

「気になること?」

火影

「はい。お前らのせいで」

一夏

「! 火影!」

 

その時一夏が割って入って止めた。

 

「どうした一夏?」

一夏

「い、いやなんでもねぇ…」

火影

「……」

 

火影は一夏の様子を見てきっとみんなに聞かれたくないのだろうと思い、何も言わないでおこうとした。すると千冬が何かを察したのか口を開く。

 

千冬

「…火影、一夏がその女に対してそう言ったのか?」

火影

「…ええ」

千冬

「……」

 

千冬はまた暫く黙っていたがやがて、

 

千冬

「…わかった。私から話す」

一夏

「千冬姉!」

千冬

「…もう黙っている意味は無い。それにまた同じ事が起こらんとも限らん。白式目的とはいえ実際お前は拉致された訳だし…、話しておいた方が今後のためにもなるだろう」

「…同じ事?」

一夏

「千冬姉…」

「ねぇ火影、さっきの話ってなんの事よ?」

ラウラ

「まさか…」

シャル

「ラウラ、何か知ってるの?」

ラウラ

「…確信はない。だが私が思っている通りなら…おそらく」

 

他のみんなと違ってラウラは何か思い当たる事があるようだ。

 

海之

「千冬先生、その話とはもしかして以前先生とラウラが言い合っていた事と何か関係が?」

千冬

「……まぁな」

一夏

「そういえばあの時海之もいたんだっけな」

セシリア

「…織斑先生、一体どういったお話なんですの?」

 

その問いにまず火影が答える。

 

火影

「…一夏、お前は昨日あいつに言ったな?「お前らのせいで自分や織斑先生は」と」

一夏

「…それは…」

 

すると今度は海之が口を開く。

 

海之

「…先程の千冬先生の「同じ事」という言葉と、そして今回お前が拉致された件。…一夏、お前以前も同じ様な事があったのではないか?」

一夏

「っ…!」

「なっ!?」

セシリア

「そ、そんな!?」

火影

「……」

千冬

「…それについては私が話そう」

ラウラ

「教官…」

千冬

「あれは今から四年程前、私が出場していた第2回モンド・グロッソの決勝戦が行われる日だった…。決勝まで無傷のまま勝ち進んだ私は、もう僅か数分後に行われる試合に向けてISの最終調整を行っていた所だった。そんな時に突然、ドイツ軍からある連絡が私の所へ飛び込んできた。それは…一夏が何者かに誘拐された、という連絡だった」

全員

「「「!!」」」

火影・海之

「「……」」

一夏

「……」

千冬

「だが同時にドイツ軍は一夏の監禁場所の情報も既に掴んでいた。私は周囲が止めるのも聞かずに試合を放棄し、ISを纏ったままその場所に急行した。途中で兵器群との少しの戦闘の後、私は一夏を救い出した。発見された時に一夏は気絶こそしていたがそれ以外に被害は見当たらなかった」

「良かった…」

一夏

「…よくねぇよ!」

「!」

一夏

「千冬姉はそれ以来ずっと自分を責め続けて来たんだ!俺を危険な目に合わせたってな!おまけに周りの連中の中には千冬姉がモンド・グロッソを連覇できなかった事を責める様な記事を書いた奴もいた。…なんでだよ!?悪いのは誘拐された俺なのに、なんで千冬姉がそんな目に合わなきゃいけねぇんだよ!?千冬姉は俺を助けるために必死で戦ってくれたってのに!」

 

一夏は自分の歯痒さと責任を感じたのか涙を浮かべながら叫んだ。

 

火影

「一夏」

「ご、ごめん…一夏」

一夏

「……」

 

そんな一夏に千冬が語りかける。

 

千冬

「一夏、自分を責める必要はない。これは私が自分で決めた事だ。さっきも言ったが…お前が誘拐されたと聞いた時、周りの中にはドイツ軍が助け出すから大丈夫と言って私が行くのを止めた者もいた。だが私の耳には入らなかった。お前を助け出す、私の選択肢はそれ一択だけだったんだ」

一夏

「千冬姉…」

千冬

「寧ろお前には謝り足りない位だ。当時の私はブリュンヒルデという立場もあってお前にろくに相手になってやれなかった。してやる暇も無かった。私がより上に行けばお前を守ってやれるという謝った考えまで持つようになった。他にも方法はあった筈なのにな…。許してくれ」

一夏

「千冬姉…」

全員

「「「……」」」

 

みんな暫く言葉を発しなかった。

 

 

…………

 

千冬

「落ち着いたか一夏?」

一夏

「…ああもう大丈夫だ。みんなも悪かったな」

「…いや、謝らなければいけないのは私の方だ。お前の気持ちも考えずに」

セシリア

「私達も同じですわ…。どうか許してください」

「ごめんなさい…」

シャル

「ごめんね一夏…」

「……」

ラウラ

「…すまない。今思えば転校時、私はとんでもない事をしようとしていた」

一夏

「もう良いってみんな。それにラウラ、謝る必要ねぇよ。俺の居場所を突き止めてくれたのはドイツの人達なんだからさ」

シャル

「…あっそうか、先生とラウラが知り合ったのはそれで」

千冬

「ああ、情報の見返りとして一年間ドイツへ教官として赴任したのだ。ボーデヴィッヒと出会ったのはその時だ」

火影

「……成程な」

「どうしたのよ火影?」

火影

「今の話を聞いて一夏のあん時の言葉の意味がわかったよ。四年前にお前を誘拐したのも…今回と同じファントム・タスクってわけだな?」

一夏

「…ああそうだ。あのオータムって奴は前の誘拐も自分達がやったって言ってた」

「な、なんだと!」

セシリア

「で、では一夏さんを取り戻そうと!?」

一夏

「…いやそれはねぇと思う。今回の奴らの目的は白式だった。俺には特に用は無さそうだったな」

海之

「…寧ろ四年前の事件の方が妙だ」

「どういう事?海之くん」

海之

「誘拐や拉致というのは非常にリスクが高い。下手をすると自分達の犯行を見られるし、ほんの少しでも計画に狂いが生じれば成功の確率は著しく低下する。そして実行したからには当然それなりの要求をしてくるのが普通だ。だが四年前の事件は身代金を要求される事も無かった様だし…。考えられるとすれば…先生の連覇を阻止しようとする者達だが」

千冬

「いやそれは考えられん。決勝戦の相手は私も覚えているが真面目というものをそのまま具体化した様な人物だった。あの後何故決勝を降りたのか私に訪ねてきたが、直ぐに理解してくれたよ。優勝を返上しようとしていたのを止めるのに大変だった」

シャル

「じゃあ何が目的でファントム・タスクは一夏を…」

「要求を出す前に一夏を取り戻されたとか?」

ラウラ

「……教官、実は教官に話していなかった事があるのです」

千冬

「なんだ?」

ラウラ

「四年前のあの事件、我がドイツ軍が一夏の居場所を特定したとありましたが…実際は何者かによる情報のリークだったのです」

千冬

「なに?」

ラウラ

「しかも奇妙な事に一夏が誘拐されたという情報と居場所の情報をセットにして伝えてきたらしいのです。男の声で」

火影

「…男?」

千冬

「…どういう事だ?奴らも馬鹿ではない。もし一夏の言った通り四年前の事件も奴らの仕業なら…そんな簡単に情報が外に漏れるとは思えん…。何か他に理由があったのか…?」

「確かに海之くんの言う通り奇妙だね…」

ラウラ

「うむ…」

「…まぁ今はそれを考えても答えは出ないでしょ。それに多分だけどあいつらはまた接触して来るだろうからその時にとっ捕まえて話させればいいんじゃない?」

「…そうだな。確かな事もわからないまま想像だけしていても益は無い」

セシリア

「そうですわね。…あら、お話が長かったみたいですわ。もう空が夕暮れ近いです」

一夏

「お、ほんとだ。…なぁ千冬姉」

千冬

「今日は風呂が使えるから行かせてくれ、とでも言いたいのだろう。却下だ。明日登校前にシャワーを浴びてから行け」

一夏

「……」

シャル

「どうやらまた一言一句同じみたいだね…」

「では私達も戻ろうか…一夏、良く休めよ」

 

そしてみんなが部屋を出て行こうとした時、

 

一夏

「火影、海之。ちょっと待ってくれ」

火影

「…?」

一夏

「ちょっと話があるんだ。みんなは外で待っててくれるか?直ぐに終わるからよ」

「しょうがないわね」

「じゃあ外で待ってるね」

 

そして部屋に残るのは火影、海之、一夏、千冬だけとなった。

 

火影

「一夏、話って何だ?」

一夏

「ああ…。火影、お前があのオータムって奴に聞いていたことが気になってな。例のあのIS達…、アンジェロとファントムだっけ?お前それを造ったっていう奴に妙に拘ってたが…どうしてだ?」

火影

「!…それは…」

 

火影は悩んだ。今ここで打ち明けてしまっても良いものかを。確かにアレは自分達が知っている存在に良く似ている。名前まで同じだ。しかし全くの偶然という可能性も完全には捨てきれない。もしかすると自分達という存在がやって来たために生まれただけかもしれない。自分達と同じ様な存在がいるという確証もまだ得ていない。しかしかつての仲間達の言葉を考えると全く関係ないとも思えないのだが…。

 

海之

「……」

千冬

「……」

(火影も海之も…やはりまだ私達に言えない秘密があると言う事か。単に想像だが…多分例のIS達、そしてそれを造った「あいつ」とやらが絡んでいるのだろう…。ふたりは知っているのか…?)

火影

「一夏…それは…」

 

火影はどう答えようか悩んでいた時、

 

一夏

「……ははっ、なんてな」

火影

「…はっ?」

海之

「…?」

千冬

「一夏?」

一夏

「ってのは冗談で…、今すぐ答えにくいなら今は良いよ。誰にだって秘密のひとつやふたつはあるもんだ。答える気になった時に答えてくれたら良い。お前らの事は信じてっからさ」

火影

「一夏…」

海之

「お前…」

一夏

「…ただ何時か必ず教えてくれよ?俺だけ秘密話したんじゃ不公平だからな」

火影

「…分かった。何時か必ず」

海之

「…ああ」

千冬

「……」

一夏

「んじゃ俺は話し疲れたし少し寝るわ。ふたり共早く行った方が良いぜ?特に火影は」

火影

「…ハァ、確かに。じゃあ帰るわ」

海之

「ではな一夏。失礼します、千冬先生」

 

そう言って火影と海之は出て行った。外ではやはりみんなが待っていた様で外からの声が聞こえてきた。

 

千冬

「…一夏、良かったのか?何も聞かなくて」

一夏

「…良いさ。何時か話してくれるっつったんだから…気長に待つさ」

 

一夏は笑ってそう言った。

 

千冬

「…ふっ、そうか」

 

千冬もその答えに満足している様子だった。

 

一夏

「あっそうだ、千冬姉にもひとつ聞きたいことがあんだけど?」

千冬

「? なんだ?」

 

この時千冬はやや油断していた。

 

一夏

「聞き間違いじゃねぇと思うんだけど…、海之が千冬姉の事を千冬先生って名前で呼んでた気がすんだけど…なんでか知ってるか?」

千冬

「……!!」

 

千冬はその質問を理解すると瞬く間に真っ赤になってしまった。

※詳しくはMission86をお読みください。

 

一夏

「千冬姉?」

千冬

「なななな何でもない!大した理由じゃない!…私も戻る!よく休めよ織斑!」

 

そう言うと千冬も部屋を出て行ってしまった。

 

一夏

「…まだ答え聞いてねぇけど。あと何で急に苗字なんだ?」

 

一夏の疑問はまたひとつ増えるのであった。




おまけ

医務室から出た一行は帰路についていた。その途中、

セシリア
「…そういえば海之さん、ひとつお聞きしたい事があるのですが宜しいですか?」
海之
「? なんだ?」
セシリア
「聞き間違いではないと思うのですが…、海之さん織斑先生の事を千冬先生とお名前で呼ばれていた様な気がするのですが、どうしてですか?」

「…そういえばそうね」
シャル
「気付かなかった」

「私は知っていたぞ。確か昨日からだ」
海之
「ああ…、一日目の締めの作業中に来られてな。コース最後に今後は苗字でなく名前で呼ぶ様にと頼まれたんだ」
火影
「締めの作業中って事は俺が帰った後か…。どうりで遅いと思ったぜ」

海之の答えにみんな納得していた。しかし約二名は別の考えがあった。


(……やっぱり織斑先生も海之くんの事…。でも…負けたくない!)
ラウラ
(流石は教官…。しかし、私にも譲れないものがある!)


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Mission95 兎がじゃじゃ馬連れてやって来た

オータムとMによる襲撃の翌日。火影達は一夏の見舞いに医務室へ来ていた。その中で火影は一夏に、オータムに「おまえらのせいで」と言った意味を問う。
するとその問いに同じく医務室を訪れていた千冬が答えた。実は一夏は4年前、千冬のモンド・グロッソ決勝当日にファントム・タスクによって誘拐されており、千冬は大事な試合を蹴って一夏を助けていたのである。自分のせいで千冬を苦しめたと一夏は自分を責めるが、千冬は何よりも弟の一夏が大事だったと優しく声をかける。多くの謎が残ったままではあるが一夏と千冬の姉弟の絆を感じる一行であった。


一夏がファントム・タスクによって四年前にも誘拐されていたという衝撃の話から翌日。一夏の容態も完治し(正確にはとっくに治っていたのだが)、元気に登校していた。また一昨日、一時的とはいえ左腕を失った火影もとっくに問題ないのだが、鈴とシャルから「暫く火影をひとりにしないように」と念入りにお願いされていた本音が一緒に登校していた。それを聞いた本音も少なからず何かを感じ取った様だが火影を問い詰めることは無かった。

そんな日の一限目、楯無による集会が開かれるため、生徒全員は体育館に集まっていた。

 

 

体育館

 

楯無

「みんなおっはよ~♪学園祭はどうもお疲れ様!思った通り、今年は今までに無い位盛り上がったと学園長もお喜びでした。昨日は急に決まった休みだったけどよく休めた?シンデレラは中途半端な形になって残念だったけど何時か埋め合わせはするから勘弁してね~♪」

 

生徒達

「「「………」」」

火影

「…なんか生徒達の落ち込みようが激しいな」

シャル

「気持ちは分かるけど…仕方ないよね」

一夏

「? どういう訳なんだ?」

「…ほんとにあんたは」

簪・本音

「「……」」

「どうしたのだ簪?」

セシリア

「本音さんも先程から静かですわね?」

「! な、なんでもないよ!」

本音

「そ、そーそー!」

箒・セシリア

「「?」」

ラウラ

「しかし具体的に何があったのかはやはり話さない様だな。まあ無理も無いか」

海之

「話しても混乱を招くだけだ。ましてやテロリスト等」

 

みんなが話している間に楯無の話は続き、終盤に差し掛かっていたのだが、

 

楯無

「…では最後に学園祭のもうひとつの特別企画、「各部対抗織斑一夏争奪戦」の結果発表を行いたいと思います!ここで人気トップになった部にはお約束通り、織斑一夏くんを卒業まで強制入部させますのでみんな安心してねー♪」

生徒達

「「「おーーーーーーーーーーーー!!」」」

 

その言葉を聞いて先程まで落ち込み気味だった生徒達のボルテージは一気に上がる。

 

一夏

「げっ!そういえばその事忘れてた!」

(ねぇ箒、セシリア。ふたり共自分の部に票入れてたでしょ?)

(! き、気付いていたのか…)

セシリア

(なんか恥ずかしいですわね…。因みに皆さんはどちらの部に?)

シャル

(安心して。僕らは投票してないから。選ぶなんてできなかったからね)

本音

(そーそー)

火影

(ああ俺と海之はふたりの部にそれぞれ一票ずつ投票しといたぜ。不公平にならない様にな)

(そ、そうか。ありがとう)

一夏

「…なぁ、何を小声で話してんだよ?」

セシリア

「な、なんでもありませんわ!」

楯無

「それでは結果を発表します、……審査の結果!」

生徒達

「「「………」」」

 

女子生徒達はみんな聞き逃すまいと耳を傾ける。

 

楯無

「数が足りないため無効となりましたー!よって織斑一夏くんは我が生徒会に入会してもらいます!」

生徒達

「「「………えっ?」」」

 

楯無のその言葉にみんなキョトンとする。それは一夏達も同じ様で、

 

一夏

「無効?助かったー!……ってなんだそりゃーーーー!!」

「か、数が足りないって…」

ラウラ

「ひょっとして…」

生徒1

「会長!それはどういう事ですか?」

生徒2

「そうですよ!一番人気だった部に織斑くんを入部させるんじゃないんですか?」

楯無

「だって~、あの後何べんも数え直してみたんだけど票数がどうしてもあと5票足りなかったんだもん。だから生徒の総意というわけじゃないし。おまけにどの部も拮抗してるからその5票次第ではどこになるかわからなかったんだもん!だから今回は無効って事で♪」

生徒3

「そ、そんな~!」

生徒4

「誰よ入れなかった子ー!?」

「…足りない5票って…」

セシリア

「もしかして…」

鈴・シャル・ラウラ・簪・本音

「「「……」」」

海之

「…トーマス・フラーは言っている。下手な言い訳は黙っているより悪い、と。だがふたりに謝るだけですむなら他の生徒に気づかれていない今の内だぞ?」

鈴・シャル・ラウラ・簪・本音

(((すいませんでした!!)))

「…ハァ」

セシリア

「…仕方ありませんわね…」

 

ふたりはがっかりしていたが当日はそれどころでない事も分かっていたので責める事もなかった。他の生徒達は納得できていない様だったが楯無が続ける。

 

楯無

「はいはい落ち着いてみんな。確かに折角の企画でみんな頑張ってたもんね~、このまま何も無しに終わるのは可愛そうか…。じゃあこうしましょう!織斑くんを数ヶ月単位の交代制で各部にマネージャーとして派遣します。仕事内容も各部にお任せします。それでどうですか?」

生徒5

「う~ん…まぁそれなら…」

生徒6

「うちの部ってあんまりおもしろい出し物できなかったもんね。ある意味そっちの方が良いかも」

一夏

「い~~…」

「まぁそれもありか」

セシリア

「そうですわね」

 

他の生徒達も楯無の提案に了承した様だ。

 

楯無

「じゃあそれで決定で♪どの部からは放課後に話し合いで決めてね。貸出のごまかしは厳禁ですから♪」

扇子

(絶対厳守!)

一夏

「俺はレンタル家具かーーーーー!」

 

一夏の叫びは喜びあう生徒達の声にかき消された…。

 

 

…………

 

一夏

「ハァ…なんでこんな目に…」

火影

「まぁいいんじゃねぇか?どっかの部に永久的に入る必要が無くなったんだからさ」

海之

「…しかし順番を決めるだけで生徒全員で話し合いとはな」

本音

「すっごい人気だねおりむ~」

一夏

「生徒会に入るんだったら火影や海之みたいに実行委員にしてほしかったなぁ~」

 

その日の放課後、火影・海之・一夏・本音はアリーナに来ていた。他の生徒達は一夏の派遣する部の順番を決めるために現在体育館で話し合いの真っ最中だ。しかも部長のみでなく部員も総動員しての話し合いと言う事で、今学園は体育館以外極めて静かであった。

 

火影

「ところで本音、なんでお前がここに?」

本音

「鈴とシャルにお願いされたんだよ。話し合いの間ひかりんに付いててって」

火影

「…俺ってそんな信用ねぇのかなぁ」

一夏

「…んっ?あれは…」

海之

「…?」

 

海之は空の一点を指さした。良く見ると遠くに何か見える…。そして、

 

本音

「……なんか近づいて来てない?」

 

それは急速なスピードでこちらに近づいてきていた。

 

一夏

「ロケット…!?」

火影

「…みんな伏せろ!」

 

 

ドギュゥゥゥゥゥゥゥゥン……

 

 

ロケットとみられるそれは地面に墜落しようとしていたが、

 

 

グインッ!……プシュー……

 

 

寸前で止まり、機体の向きを修正して静かに着陸した…。

 

火影・海之・一夏・本音

「「「……」」」

 

飛んできたそれを見て四人は何も言わなかった。何故なら目の前にあるそれは、

 

パカッ!

 

「シュワッチ!………いっくーーーーん!」

 

そう、飛んできたロケットは束のロケットであった。そして飛び出してきたのは束本人だった。

 

一夏

「やっぱり束さ…んぎゃっ!!」

 

 

ドオォォォォォンッ……パラパラ

 

 

火影・海之・本音

「「「……」」」

一夏

「あ、あがががが…」

 

どうやら一夏は飛びついて来た束の衝撃をもろに食らった様で地面に開いた大穴の底でのびていた。

 

「はっ!どうしたのいっくん!?誰かにやられたの!?おのれ何奴!」

クロエ

「…間違いなく束様だと思われます」

 

いつもの様にロケットから遅れてクロエも出てきた。

 

火影

「よぉクロエ、久々だな」

海之

「ああ」

本音

「ク~ちゃんお久しぶり~」

クロエ

「お久しぶりです、みなさん」

火影

「そういえばクロエ、スメリアん時寝てる俺らを気遣って黙って帰ったんだよな。水くせぇことしなくて良いのに」

クロエ

「すみません火影さん。起こすのは申し訳ないと思いまして」

本音

「ク~ちゃん達あの後どうしてたの~?」

クロエ

「色々な場所を回っていました」

海之

「しかし何故今日はここに?…もしや」

クロエ

「はい。実は」

 

その時束と一夏が穴から上がって来た。

 

「ちょっとちょっと待ったー!束さんを忘れないでー!」

一夏

「し、死ぬかと思ったぜ…」

海之

「お久しぶりです束さん。…大丈夫ですか?」

「御無沙汰みーくん!あとひーくんとほんちゃんも!ダイジョーブイ!束さんのボディは親方の石頭より固いんだ!」

一夏

「自由落下しても無傷でしたもんね…」

「ところでちーちゃんや箒ちゃんは~?」

火影

「ああ実は…」

 

 

…………

 

火影は事情を説明した。

 

「ふ~ん人気者だねーいっくん♪将来の義姉として嬉しいぞよ!」

一夏

「こっちは大変ですけどね…。とまぁそんな訳で箒は今体育館で、千冬姉は会議中です。…?義姉って?」

火影

「そういえば束さん、クロエ。ふたり共なんでここに?」

「ああそうだった!今日はふたつの用事があるんだ!まずひとつ目ね。いっくんと箒ちゃんのデビルブレイカ―ができたので持って来たんだよー♪」

一夏

「へぇ~俺と箒のデビルブレイカー……って俺と箒の!?」

火影

「そういえば以前新しいものを造っていると言ってましたね」

クロエ

「そうです。今お持ちしますね」

 

そう言ってクロエはロケットに取りに行った。

 

「ところでみんな、大変だったみたいだねこの前。私達も衛星から見てたよ」

一夏

「見てたんですね。…ええほんとに大変でしたよ。火影と海之のおかげで助かりましたけど」

海之

「俺達だけではない。お前や箒達も頑張った。その結果だ」

火影

「その通りだぜ一夏。もっと自信を持て」

本音

「かっちゃんやかんちゃんも言ってたよ~」

一夏

「…ありがとよ三人共」

「でもひーくんも思い切った事するよねー!私びっくムグググ!!」

 

束は後ろから一夏によって口を塞がれていた。本音に知られるとまた騒ぎだすに違いない。

 

一夏

(束さん!…ゴニョゴニョゴニョ)

(……OK!)

火影・海之

「「…ハァ」」

 

とその時クロエがロケットからアタッシュケースを持って戻って来た。

 

クロエ

「お待たせしました」

「ありがとクーちゃん♪それではオープン!」

 

ガチャッ…プシューッ!

 

開けられたそのケースの中にはふたつの同じデビルブレイカ―が入っていた。ひとつは白、もうひとつは赤い色をしている。

 

海之

「これは…トムボーイですね」

「正解~」

一夏

「これが…俺と箒のデビルブレイカ―」

火影

「? でも色が違いますね」

クロエ

「はい火影さん。おふたりのISに合わせてみたんです。白い方が一夏さんで赤い方が箒さんです」

本音

「トムボーイって面白い名前ですね~」

「因みに意味は「じゃじゃ馬」って意味だよ~♪」

一夏

「じゃ、じゃじゃ馬ですか…?」

火影

「心配すんな一夏。名前は面白いが能力は強力だからよ」

「ねぇねぇひーくんみーくん。これなんだけどさ、いっくんのをトムボーイで、箒ちゃんのをトムガールって名前にしない?」

海之

「造ったのは束さんですからね。御自由にどうぞ」

「ありがと~♪んじゃさっそく付けてみていっくん」

一夏

「は、はい!」

 

言われて一夏は白式を展開し、トムボーイを装着した。

 

一夏

「…?何も変わらないみたいだけど?」

海之

「一夏、トムボーイは他のデビルブレイカ―とは少し違う。そいつを展開したまま何か武器を出してみろ」

 

言われて一夏は雪片弐型を展開する。すると、

 

ウィィィィィィンッ!!

 

一夏

「! 雪片のパワーが上がっていく!」

「どうやら上手くいったみたいだね♪」

海之

「一夏、そいつは他とは違って独自の武器等になる事はない。その代わりに自分が持つ武器とリンクし、パワーを上げる事ができる」

火影

「威力だけじゃないぜ。そいつを使ってアラストルの加速機能も上げる事が可能だ。そのままでも十分だがチャージすればする程効果が上がるからな」

一夏

「スゲー…」

「いっくんと箒ちゃんのISは第4世代型。特に箒ちゃんの紅椿には展開装甲があるからね。新しい武器よりこういった物の方が良いと思ったんだよ」

海之

「…成程、あれは様々な武装になりますからね」

一夏

「ありがとうございます束さん」

「うむ!礼には及ばぬぞよ!ああそれとひーくん、「パンドラ」ももう少しだから気長に待っててね♪」

火影

「はい。…本当に凄いですね。あれは他よりも遥かに複雑な魔具なのに」

クロエ

「しかも今回は束様のオリジナルも含めてますから」

本音

「どう違うんですか~?」

「それは完成までのお楽しみって事で♪…さて、本日ふたつ目の用事だね」

一夏

「なんですか?」

 

すると急に束の表情が変わった。

 

「…ひーくんみーくん、そしていっくん。…聞かせてくれない?この前の事全部」

一夏

「…えっ!?」

火影

「束さん…」

海之

「……」

クロエ

「すみませんみなさん。…でも束様はあの時本当に心配されてたんです。みなさんの無事を」

本音

「……」

「私は部外者だけど…お願い。何か私にもできることがあるかも知れないし」

一夏

「束さん…」

 

束の表情は本気だ。

 

海之

「…わかりました」

火影

「海之」

海之

「隠しておく事はできん様だ。一夏も良いな?」

一夏

「…ああ良いよ。それに束さんは四年前の事は既に知ってるし」

「やっぱりあの件も絡んでるんだね…」

 

そして海之は先日起こった事(火影の腕の事以外)と四年前の一夏の件についても合わせて伝えた。

 

 

…………

 

海之

「…という訳です」

本音

「おりむー…そんな事があったんだね…」

クロエ

「本当に御無事でなによりでした…」

「それにしても…ファントム・タスク。やっぱ絡んでたか…」

一夏

「知っているんですか?」

「…ちょっとね…。あと今のみーくんの話を聞いてひとつ分かったよ。以前私のコンピュータにハッキングしてコアの情報を奪ったのも…奴らだったんだ」

海之

「アンジェロやファントムを造るためですね?」

「…多分ね。ISじゃなくロボットを造るつもりならコアの極秘情報までいらないし。大方心臓部の寸法を知りたかったってとこじゃないかな?…でも単なる機械でもあれだけの物、あれだけの数を造れるなんて並大抵のレベルじゃない。相当の奴が向こうにいると思って間違いないね」

クロエ

「束様がそこまで仰るなんて…、一体誰が…」

火影・海之

「「……」」

「……」

(ひーくんとみーくんのふたりは何か心当たりがあるみたいだけど…きっと今はまだ答えてくれないだろうなぁ…。でもなんでふたりが知ってるのかな…?)

一夏

「…まぁ今度奴らがきたらその時に吐かせてやりますよ!もう油断はしませんから!」

火影

「…ふっ、ああそうだな。その通りだ」

海之

「ああ」

本音

「三人ともかっこいい~」

(…まぁその事は今は良いか。ふたり共何時か話してくれるだろうし)

「ふふっ、心強いね。みんなで力を合わせればどんな事が起こってもなんとかできる気がしてきたよ♪」

クロエ

「…ええ、そうですね」

 

その後、学園の者達が気付かない内に束とクロエは学園を去っていった。束達が来ていた事を後で知った箒や千冬達はえらく驚いていた。また、トムボーイ改めトムガールを受け取った箒は「全く姉さんは…」とやや呆れ顔で呟いたがその心中では素直に感謝していたのだった。




新たなデビルブレイカ―、トムボーイとトムガール。
純粋なパワーアップ効果なのでエネルギー持ちや拡張領域が悪い白式と紅椿にとっては役立つと思いました。


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Extramission05 簪と本音の秘密

これは火影達が一夏の見舞いを終えてから翌日の集会までのお話です。


一夏の見舞いを終え、医務室を出た一行は帰路についていた。みなそれぞれ自分達の部屋に向かう中、火影は鈴とシャルロットが約束通り付いてきていた。

 

「…ねぇ火影、しつこい様だけど今度あんなことしたら許さないからね」

火影

「わかってるよ鈴。もう二度としねぇって約束しただろ?」

シャル

「…本当に約束だよ?絶対しちゃ駄目だよ?」

火影

「大丈夫だよシャル。俺だってもうお前らのあんな泣き顔は見たくねぇし…」

「千冬さんも言ってたけどあんたはもうあんた達だけのものじゃないんだからね。あんたや海之は学園にも、そして私達にも必要不可欠だって事、もっと自覚しておきなさい」

シャル

「…なんか鈴に全部言われちゃったなぁ。でもその通りだよ火影」

火影

「…ありがとよふたり共」

 

そんな話をしている内に部屋の前に着いた。

 

ガチャッ

 

本音

「ひかりんお帰り~って鈴とシャルルンも。どうしたの~?」

火影

「ああちょっとな」

「ねぇ本音、これから当分火影を絶対ひとりにしちゃダメよ?」

シャル

「絶対だからね?暫くは一緒に登校してね?」

本音

「ほえ?…うん、わかった」

「お願いね。よし、それじゃ帰るわね。おやすみ」

シャル

「また明日ね。火影、本音」

 

そう言って鈴とシャルロットは自室に帰って行った。

 

火影・本音

「「……」」

火影

「とりあえず入れてくれ」

本音

「あっ、うん」

 

 

…………

 

本音

「ねぇひかりん、おりむ~どうだった?」

火影

「全く問題ねぇよ。風呂に入りたそうだったな」

本音

「そうなんだ~。……ねぇひかりん?」

火影

「ん?」

本音

「もし間違ってたらごめんね。………ひかりん、また何か無茶したでしょ?さっきお願いされた時の鈴やシャルルンの表情。まるでひかりんを放っといたら何するかわからないからっていう感じだったもん…。だからよっぽどの事だったんじゃないかなって」

火影

「……」

 

火影は内心驚いていた。普段のんびりしている本音だがやはり彼女も楯無の家に仕える者。いざという時はみんなに負けずとも劣らない位鋭い。

 

本音

「やっぱり…。でも私はなにも言わないよ。ひかりんの事は信じてるし、困った事言ってひかりんを困らせたくないもん。それにいつも通りの私でいるのがひかりんやみんなのためにできる事だもんね♪」

火影

「…悪いな本音」

本音

「えへへ」

火影

「…湿っぽくなるのはやめて飯にしようぜ。今日は俺が作ってやる」

本音

「わ~い!…あっそうだひかりん~、昨日のシンデレラって結局どうなるのかな?今日かっちゃん言ってなかったんだけどなんか聞いてる?」

火影

「…いや何も聞いてねぇな。やっぱ中止じゃねぇか?」

本音

「…ねぇひかりん~、ひかりんってあの勲章、まだ持ってる~?」

火影

「勲章って…シンデレラのか?あああるぜ、ほら」

本音

「…じゃあさ!記念にわたしにちょうだ~い?」

火影

「…記念って何のだ?まぁ良いか」

 

そして火影は本音に勲章を渡した。本番じゃないためか電流は発生しなかった。

 

本音

「ありがと~!」

火影

「…ところで本音の願いってなんだったんだ?」

本音

「ヒミツだよ~♪」

火影

「?」

 

本音は笑ってそう言った。

 

 

…………

 

ほぼ同時刻、海之と簪とラウラ。

 

ラウラ

「一夏の怪我も大した事無くて良かったな」

海之

「ああ」

「うん。……ねぇ海之くん。絶対無茶しないでね?」

海之

「…どうした?」

「…昨日ね、火影くんが爆弾から私達を守ってくれた時に…お姉ちゃんが言ったの。海之くんもいざとなったは火影くんと同じ様に無茶するかもしれないから気をつけてって」

ラウラ

「だからそうさせない様にしっかりついててやれとの事だ。まぁ夫である私は言われるまでもないが…。だからお前も私達から離れようとするなよ?鈴やシャルと同じくどこへでも連れていけ。異議は認めん…」

海之

「……」

「…お願い海之くん。もし海之くんが…あんな事になったら…私、私…」

 

簪は昨日の火影と海之を重ねている様だ。そしてラウラも口調こそいつも通りだが本当に心配している事を海之はわかっていた。そんなふたりに海之は彼女らの頭に優しく手を置いた。安心させる様に。

 

海之

「大丈夫だ。信じろ」

「…うん」

ラウラ

「信じてるぞ海之。…おっと私の部屋か、ではなふたり共」

 

そう言うとラウラは部屋に入り、海之と簪も自分達の部屋に戻った。

 

海之

「では俺は風呂に行くか」

「…ねぇ海之くん。もうひとつ聞きたい事があるんだけど…ちょっと良い?」

海之

「なんだ?」

「あ、あのね。大した事じゃないんだけど…昨日のあのお芝居って、結局どうなったの?」

海之

「…芝居とはシンデレラか?生憎だが俺も知らん。中断してそのままだからな。まぁ中止だろう」

「そうなんだ…。ねぇ海之くん、その…海之くんの勲章って…まだ?」

海之

「ああそのままだ」

「…じゃあさ、あの、良かったらでいいんだけど…、それ…貰えない、かな?…あっ、け、決して変な意味じゃなくて!その、あの…」

 

簪は顔を赤くして落ち着かない様子だった。

 

海之

「…まぁ構わんぞ」

「…えっ、ほ、本当?」

海之

「ああ。もう意味は無いだろうし、それにあったとしてもお前なら変な願いもしないだろう」

 

そう言うと海之は簪に自らの勲章を渡した。やはりこちらも電流は走らなかった。

 

「あ、ありがとう…」

海之

「…簪、お前の願いとは…いや、俺が深く聞く事ではないな」

「……」

 

簪は考え事をしているのか海之の言葉には答えず、ただ顔を少し赤くしたまま暫く黙っていた。

 

 

…………

 

翌日、まだ一限目が始まる時間前。

 

楯無

「さぁ今日も張り切って行きましょー♪今日もお願いねふたり共」

「宜しくお願いします。……どうしたの本音ちゃん?」

本音

「う、うん…。…あのね、かっちゃんにお願いがあるんだけど~」

楯無

「な~に?本音」

本音

「…はい」

 

本音が出したのは……火影と海之の勲章だった。

 

「! 本音ちゃんこれって…」

楯無

「これは驚いたね~。いつ手に入れたの~?」

本音

「ひかりんから貰ったの。あとみうみうのはかんちゃんが貰ったんだよ」

楯無

「…ほんとあの子大胆になったわね…。油断しちゃったわ~。まさか罠が起動しない終了後に譲ってもらうなんて、やっぱり恋は女を強くするのかしらねぇ♪」

「本音ちゃんもよ。まさかここまである種図々しくなるなんて思わなかったわ~、ふふっ」

本音

「も、もうお姉ちゃん!…それでかっちゃん、もうこれって…やっぱり期限切れ?」

楯無

「う~ん本当は駄目なんだけど………、今回は良いよ♪」

「宜しいのですかお嬢さま?」

楯無

「良いの良いの♪黙ってさえいれば問題ナッシングだし、それに時間外とはいえ手に入れた事は違いないしね♪でも本音ちゃん、絶対他の子に言っちゃだめよ?もしバレて校内大混乱になったら……………コワイヨ?」

「コワイデスヨ?」

扇子

(秘密主義)

本音

「わわわわわわ、わかった~!」

楯無

「と、いうことで本音ちゃん。どんなお願いを聞いてほしいの?あと簪ちゃんは?」

本音

「ああそういえばかんちゃんからお手紙貰ってたんだった。はいこれ~」

楯無

「…お手紙ね」

 

楯無は簪が良い意味で変わる事を喜ぶ半面、まだ素直に面と向かって話しあう事ができない事にちょっとばかり寂しくもあった。そして手紙を読むと、

 

楯無

「…やっぱりね。わかったわ、それ位なら簡単よ♪…それで本音ちゃんのお願いは?」

 

本音は答えた。それは偶然か簪の手紙と一部を除いて全く同じだった。何故なら、

 

本音・簪の手紙

「「ひかりん(海之くん)とこのまま一緒の部屋にして下さい」」




本音と簪が漁夫の利を得た形ですね。この後前回の集会に続きます。

また次回まで暫く間を頂きます。すいません。


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Mission96 兄弟の第2ラウンド!

学園祭から二日後。この日一限目は労いと企画の結果報告を兼ねての集会。その結果、一夏はどの部にも所属せずに生徒会メンバーとなって各部に派遣されるというものだった。思いもしない結果に一夏は再度大声をあげる事になった。
そして放課後、アリーナにいた火影達の所に一夏と箒のデビルブレイカ―を持って束とクロエがやってきた。先日の事を詳しく聞いた束は以前自分の所にハッキングしてきたのもファントム・タスクだと予想する。謎はまだまだ残るままだったが火影や海之、一夏達の様子を見て束はきっと大丈夫と感じていた。


IS学園アリーナ

 

火影・海之

「「……」」

 

とある休日の土曜。アリーナ中央にアリギエルとウェルギエルを纏った火影と海之が目を閉じて向かい合って立っていた。それぞれリべリオンと閻魔刀を携えて。

 

真耶

「…それでは始めてください!」

 

~~~~~~~~~~~

 

カッ!

ドンッ!ドンッ!

 

ガキィィィィィィィンッ!

 

アラームと同時にバイザーに隠された赤と青の瞳が開かれ、ふたりは突進した。リべリオンと閻魔刀が激しくぶつかり、激しい閃光が走った。

 

 

…………

 

何故こんな事になったのかは前日金曜の放課後まで遡る。その日の放課後、火影と海之は一夏に誘われて食堂に来ていた。当然他のみんなも行こうとしたが、一夏が先にふたりに話があるから終わるまで待ってほしいと教室で待ってもらっている。食堂には他に生徒はちらほらと数人しかいない。どんな話かというと…、

 

火影

「俺と海之に戦ってほしい?」

一夏

「ああ!クラス代表戦の時みたいにお前らの戦いをもう一度見せてくれ!頼む!」

 

火影と海之は一夏から突然この様な事を言われたのだ。急に何を言い出すのかと思うふたりだったが、一夏の表情はふざけている様には見えない。

 

海之

「…どういう事だ?」

 

すると一夏は話し始める。

 

一夏

「俺…この前オータムって奴と戦った時…手も足も出せなかった。おまけにそれどころか危うく白式まで奪われかけた…。思いもよらない相手だったり兵器だったりとはいえ、マジで情けねぇと思ったよ…。この前医務室でセシリアが言った様に、火影がいてくれなかったら正直殺されてたろうな。…でも火影、お前は俺と同じくあいつは初めての相手だったのにまるで赤子の手をひねるかのようにあっさりと倒しちまった…」

火影

「あっさりは言い過ぎな気もするが」

一夏

「あとあいつがファントムって奴を出した時火影言ったろ?この学園にはこの世で唯一自分を殺せる位強い奴がいる。だから何にも心配ねぇって。絶対海之の事だって思ったよ」

海之

「…またお前は余計な事を」

一夏

「その通り海之はひとりでファントムを簡単に倒しちまった。おまけに火影はあの後に出てきたあのIS。サイレント・ゼフィルスだっけ?そいつまで簡単に倒しちまったってあの後箒達から聞いたよ…。マジですげぇって思ったぜ。そして同時に思ったんだ。クラス代表戦の時はただただ驚いてばかりだったけど…今度は違う。強くなるために、お前らの戦いを見て色々学びたいってな。ふたりには訓練で色々教えてもらってるけど…見て学べる事もあると思うんだ。だから頼む!」

 

一夏は土下座までして頼んだ。そんな一夏に火影は問う。

 

火影

「…ひとつ聞く。強くなってどうする?あいつらに復讐でもするのか?」

一夏

「…いや、そうじゃねぇ。数ヶ月前の俺ならそう思っていたかもしれねぇ。もう二度と負けるかってな。…でも今は違う。守るために強くなりたいって思ってる。実際見てねぇが火影、お前みんなを救うために…自分の腕を斬り落としたんだろ?…でもさ、もし俺に力があってあの時オータムをひとりで倒せてたら、お前がそんな事しなくても良かったかもしれねぇんだろ?」

火影

「それはわからねぇよ。仮にお前が倒してたとしてもし奴が同じ様に爆弾使ってたらどうする?もっとやばかったかもしれねぇぞ?あと俺があんな馬鹿なことしたのは少し冷静さに欠けてた。誰のせいでもましてやお前のせいでもない。俺のミスだ」

一夏

「…ああわかってる。でもそれはもしもの話だ。実際は負けてお前やみんなに迷惑をかけちまった…。俺はもう自分の事で千冬姉やみんなを心配させたくねぇんだ。正直どんなに強くなってもふたりには一生かなわねぇと思う。でも…俺も本気でお前らみたいにみんなを守れる位強くなりてぇんだ。言い方は悪いかもしれねぇが…そのために利用できることは何でも利用する!…だから頼む!」

 

一夏は再度頭を下げた。その強い意志を感じ取った火影は了承し、海之も仕方ないと受け入れ、翌日に行う事にしたのだった。そして別れ際に火影が笑いながら言った。

 

火影

「ただし…俺らのマジのケンカはR指定だぜ?」

一夏

「…えっ?」

 

 

…………

 

アリーナ観客席

 

一夏は一番良く見える場所に来ていた。そしてみんなも同じく。

 

一夏

「……」

シャル

「一夏の顔、今までに見たこと無い位真剣だね」

セシリア

「…素敵ですわ」

「昨日言ってたふたりへの話ってこういう事だったのね」

「…一夏に感謝しよう。私もあのふたりの勝負、今一度拝見したいと思っていた」

ラウラ

「そう言えば一夏と箒とセシリアは以前見たことがあるんだったな。ふたりの戦いを」

「ああ。正直驚いてばかりで全く付いていけなかったがな」

セシリア

「私も同じですわ。思えばあの時から既に力の差は歴然でしたわね…」

「私も観客席から見てた。ふたりと同じで全然付いていけなかったけどね…」

本音

「ドキドキハラハラしてたよね~」

「…でもずっとそれじゃいけない。火影にどこまでも付いて行くって約束したんだもん。置いて行かれない様に…私だってもっと強くなってみせるんだから!」

ラウラ

「私も同じだ。海之の夫として、火影の姉として、あいつらに必死に付いて行ってやる!」

「…うん、そうだね」

シャル

「そういえば楯無さんは?」

セシリア

「楯無先輩は先生方と一緒に管制塔で見られているらしいですわ」

一夏

「……」

(見せてもらうぜ火影、海之。お前らの戦いを!)

 

 

…………

 

管制塔

 

真耶

「しかし驚きましたね。一夏くんがふたりにこんなお願いしてたなんて」

楯無

「近いうちに私もお願いしようと思ったけど先を越されちゃったわね♪」

扇子

(迅速果断)

千冬

「それだけあいつらに少しでも追いつきたいという想いが強いと言う事だろう。先日の件の事もあるから余程な。まぁその想いは一夏だけじゃないだろうから良い機会かもしれん。…私にもな」

真耶

「先輩もですか?」

千冬

「ああ。…あのふたりは間違いなく学園、いや世界中探しても勝てる者はほぼいないだろう。…私も含めてな」

「織斑先生がそこまで仰るなんて…」

千冬

「……」

楯無

「…そういえば織斑先生。先日御依頼された件ですが現在急ピッチで実行中です。更識の科学者も協力してくれてます」

扇子

(電光石火)

千冬

「…すまんな楯無」

真耶

「依頼って…なんですか先輩?」

千冬

「……桜のつぼみを開く作業だ」

 

 

…………

 

アリーナ中央

 

火影

「…一夏の奴、目を皿みたいにしてるな。どんだけ必死だよ」

海之

「…一夏だけではない。他のみんなもだ。ここからでも分かる」

火影

「目いいなお前。そこだけは昔と変わらねぇんじゃねぇか?」

海之

「…火影、なぜ一夏の願いを聞き入れた?はっきり言うが…俺達の戦い方はあいつらのものとは違う。正直言って真似できるものでも理解できるものでもないだろう。嫌な血を見るだけかもしれんぞ?」

火影

「…かもな。でもよ、一夏の奴言ってたろ?それはもしもの話だって。真似できるかもしれねぇし理解できるかもしれねぇ。可能性はゼロじゃない。…それによ、今後もしかしたらマジで一夏やあいつらを頼る時がくるかもしれねぇ。そんな時に俺達が傍に付いて必ず守ってやれるかもわからねぇ。だったら…あいつらが生き残れる様、俺ができる事は全部やってやりてぇのさ。生きててほしいからな。お前だって簪やラウラに生きててほしいだろ?」

海之

「……」

火影

「無言は肯定と受けとるぜ?まぁそういう訳だ。それともうひとつ…」

海之

「…?なんだ?」

火影

「決まってんだろ?ケンカの続きだ!この前は時間切れの不完全燃焼だったからな、丁度良い機会だ!」

海之

「…少しでも関心した俺が馬鹿だった。全くお前という奴は…。……まぁ昔からそうだったがな。お前も、俺も」

火影

「へへっ、お前も随分ノリが良くなってきたじゃねぇか」

海之

「不本意だが…双子だからな」

火影

「…ああそうだな。…なぁ、今回だけ久々にあの名前で呼び合わねぇか?ここじゃ多少大声出しても聞こえねぇし、仮に聞かれても誤魔化せば良いしよ」

海之

「…どうなっても俺は知らんからな」

 

そう言いながら海之も乗る気の様だ。そしてふたりは試合開始まで精神統一に集中する。

 

火影・海之

「「……」」

 

やがて、

 

真耶

「…それでは始めてください!」

 

~~~~~~~~~~~

 

カッ!

ドンッ!ドンッ!

 

アラームと同時にバイザーに隠された赤と青の瞳が開かれ、ふたりは突進した。リべリオンと閻魔刀が激しくぶつかり、激しい閃光が走った。その瞬間ふたりは言った。

 

ガキィィィィィィィンッ!

 

火影

「かかってこい、バージル!」

海之

「来い、ダンテ!」




※火影(ダンテ)と海之(バージル)、次回第2ラウンドです。


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Mission97 R指定?な兄弟ゲンカ!

とある金曜日の放課後。火影と海之は一夏に呼び出され、あるお願いをされる。それは以前のクラス代表戦の時の様にもう一度ふたりで戦ってほしいというものだった。何故かとふたりは尋ねると一夏はふたりの戦い方を学び、自分も大切なものを守れる位強くなりたいと答える。一夏の真剣さを感じた火影は願いを聞き入れ、海之も了承する。
やがて翌日になり、アリーナへ。一夏や千冬、みんなが真剣な表情で見ている中、火影と海之は互いをかつての名前で呼び合い、久方の兄弟ゲンカを始めるのだった。


ガキィィィィィンッ!!

 

火影

「行くぜバージル!」

海之

「来いダンテ!」

 

剣と刀がぶつかる音がゴングとなり、ふたりは前世の名を呼んだ。

 

ガキンッ!キンッ!ガキン!ガキィン!

 

以前の時よりも凄まじい剣と刀の応酬。そして

 

ドゴオォォッ!ドンッ!ドンッ!

 

今度は互いに瞬間でイフリートとベオウルフに変え、拳の応酬が始まる。

 

…ドゴォッ!…メキメキ

 

火影の右腕と海之の左腕がぶつかった。力は全くの互角だ。

 

火影

「ぐっ!」

海之

「くっ!…円陣!」

 

その瞬間海之の周囲に幻影剣が展開される。

 

火影

「!」…シュン!

 

同時に火影はエアトリックで後方に瞬間移動する。すると海之は幻影剣を火影に向けて撃ってきた。火影は瞬時加速を繰り返して逃げるが幻影剣はしつこく追って来る。

 

海之

「後ろからだけとは限らんぞ!」

火影

「!」

 

火影がみると前や横からも新たに出された幻影剣が迫って来ていた。

 

火影

「ちっ!」ジャキッ!

 

すると火影はコヨーテを展開する。そして、

 

バババババババババババババッ!

ドガンッ!ドガ!ドガガガンッ!

 

火影はコヨーテをヌンチャクのごとく振り回しながら連射し、迫りくる幻影剣を次々に破壊する。……それが暫く続き、コヨーテからの硝煙と砂煙が舞い上がって視界がやや悪くなった。すると、

 

ドドドドドドドンッ!

 

舞い上がる煙から無数のミサイルが飛び出してきた。カリーナ・アンによる多弾道ミサイルの様であった。

 

海之

「……」

 

キンッ!キンッ!キンッ!

……ドガンッ!ドガガガガンッ!

 

海之の閻魔刀から発された次元斬の結界がミサイルを次々と撃ち落としていく。…やがて全てを撃ち落とした…その時、

 

ビュンッ!ドスッ!

 

海之

「! くっ!?」

 

何かが飛び出してきて海之の腕に刺さった。よく見るとナイフの様な小型の刃物だ。そして、

 

ギュンッ!

 

海之

「何!?」

 

海之に刺さったままナイフが猛スピードで回収される。その先にはカリーナを持った火影がいた。刺さったナイフはカリーナの銃口に付いていたナイフであった。

 

火影

「もらったぜ!」

 

火影はもう片腕にリべリオンを展開していた。それが引き寄せられる海之に襲いかかろうとしていた…その時、

 

ガキィィィィィンッ!

 

火影

「!?…それは!」

海之

「……」

 

リべリオンが海之の左手にある剣によって受け止められた。ただし閻魔刀ではない。

 

ドゥルルルン!ドゥルルルン!

 

グリップになっているのか、海之が柄の部分を捻るとオートバイのエンジンの様な爆音と炎が吹き出し、剣自体に凄まじい衝撃が加わる。そして、

 

海之

「うおぉぉぉ!」

火影

「…ぐぁっ!」

 

強烈な斬撃が火影に襲いかかった。そのパワーに押されて吹き飛ぶ火影。

 

海之

「おぉぉぉぉぉぉ!」

火影

「!」

 

更にそのまま海之は振りかぶって来る。

 

ドオォォォォォォォン!!…パラパラ

 

剣の一撃は勢いそのまま地面にぶつかり、約十数メートルにわたって亀裂を生み出していた。

 

海之

「……」

 

シュンッ!

 

海之の横に火影が現れた。どうやら間一髪でエアトリックで逃げたらしい。

 

火影

「ひゅ~。驚いたな、それはあいつの剣か。そんな隠し玉があったとは。銃と一緒にプレゼントされたのか?」

 

「レッドクイーン」

海之(バージル)に縁ある者が使っていた大剣。柄の部分がグリップになっており、捻る事で剣内部にある推進機能が起動し、爆音と共に炎が噴き出して剣の破壊力と剣速をアップさせる事ができる。その威力は絶大であるが余程の腕力と剣に精通している者でなければまともに扱う事はできない。

 

海之

「押しつけられたんだ。正直こんな叩き斬る様な剣は俺には合わん」

火影

「へへっ。にしては嬉しそうだぜ?以前あいつの事、俺の知ったことか、なんてまで言ってた割りによ」

海之

「……下らん事言っている暇があったら勝負を続けるぞ」

火影

「上等!」

 

そう言ってふたりは再び剣を向けてケンカを再開した。

 

海之

「でやぁぁぁ!」

火影

「おらぁぁぁ!」

 

 

…………

 

観客席

 

 

全員

「「「………」」」

 

一方一夏達はふたりの試合(ケンカ)を見て暫し言葉を失っていたが次第に落ち着いてきた様で、

 

「…凄い。…ふたり共、先日よりも更に強くなっている…」

セシリア

「火影さん…、あの無数の幻影剣をショットガンひとつで…、信じられない銃捌きですわ…」

「前に束さんがふたりの動きは機械じゃなく人間の動きって言ってたけど…、ほんとそうね…。あんなのIS纏って動ける動きじゃないわよ…」

ラウラ

「それもあるが海之の奴、また新たな武装を出してきたな。あれも凄まじい威力だ」

「うん。まるで剣の中にエンジンがあるみたい。あんなの私達が持ってたら逆に振り回されちゃうよ」

本音

「でもさ~、ひかりんもみうみうもあんな戦い方したら危ないよ~!」

シャル

「…うん、そうなんだけど。…なんかふたり共楽しそうだね。本音の言う通りあんな危ない戦いしてるのに」

「おそらく互角同士の力で、本気で戦えるのが嬉しいのだろうな…」

「…なんだか海之が羨ましいわね」

ラウラ

「そう言うなら私も火影の奴が羨ましいぞ」

一夏

「………」

 

みんなただただ驚愕するばかりであった。

 

 

…………

 

管制塔

 

それはこちらも同じ様であった。

 

千冬

「………」

真耶

「…もう…なんて言ったら良いのか…、凄すぎて付いていけません…」

「織斑先生が言った通りかもしれませんね。おふたりの実力は測り知れませんわ…」

楯無

「…あの戦い方。そして武装。全てが従来にも前例にもないやり方だわ。ふたりに追いつこうと思ったら、一夏くんの言う通り、ふたりの戦い方をもっと研究しないといけないかもね」

千冬

(……海之…火影、…お前達は…)

 

 

…………

 

再びアリーナ

 

みながそれぞれの感想を言っている間もふたりの戦いは続いていた。

 

ガキンッ!キンッ!キンッ!

 

リべリオンと閻魔刀がぶつかり合い、

 

ズダダダダダダダダダダ!

ズドズドズドズドン!

 

エボニー&アイボリーとブルーローズの弾が飛び交う。

 

ドシュッ!

 

火影

「ぐぼぁっ!」

 

閻魔刀がアリギエルの腹部を貫通すれば、

 

火影

「ぐっ…、くっ!でりゃあ!」

 

ドゴオォ!

 

海之

「ぐああっ!」

 

イフリートの強烈な衝撃がウェルギエルに襲いかかる。

ふたり共いくつか被弾もし、出血もし、痛みも感じている筈だがお互いそれを気に留める様子は一切無かった。因みにふたりからの忠告でアリーナには事前にシールドが張られていたため、みんながいる観客席や管制塔に被害は無かったが、戦いによってグラウンドはボロボロになっていた。

 

ガキィィンッ!

 

火影

「そろそろ決着の時だな!」

海之

「昔を思い出すな!」

 

シャルロットの言う通り、ふたりは殺し合いさながらの戦いをしているのに実に楽しそうだった。今のふたりは火影と海之としてではなく、ダンテとバージルとして戦っている様であった。しかしあの頃と違い、その心にあるのは憎しみや怒りではない。兄弟として、戦士としてどちらが強いかそれだけであった。

 

海之

「はっ!」

 

ガキンッ!

 

海之は火影のリべリオンを火影の手から弾き飛ばした。

 

火影

「くっ!」ドゴッ!「ぐほぁ!!」

 

一瞬の隙を付き、海之は左手に持つ鞘を火影の腹部に付き当てた。衝撃で吹き飛ぶ火影。…その瞬間、

 

ガシッ!

 

海之

「!」

火影

「でりゃぁ!」

 

火影は海之の左手より鞘を奪い、海之目掛けて全力で放り投げる。

 

ガキィィンッ!ズザザァァ…!

 

海之は鞘を刀で受け止めるが後ずさりしてしまう。

 

海之

「くっ…」

火影

「おぉぉぉぉ!」シュンッ!

海之

「!」ドゴォォッ!「ぐあぁぁ!」

 

バガンッ!!

 

海之が鞘に気を取られていた瞬間火影は海之の後ろにエアトリック、イフリートを打ちつけたのだ。背後からの攻撃を受けて大きく吹き飛んだ海之は壁にぶつかり、その衝撃で砂埃が舞い上がる。

 

火影

「ハァ、ハァ、ゼェ、ゼェ……」

 

ドンッ!

 

その時海之が再び高速接近で向かってきた。

 

火影

「くっ、往生際が悪いんだよ!」

 

火影は再び構え、向かってくる海之に打ちつける。

 

ブンッ!

 

火影

「!?」

 

…だが違った。飛び出してきたそれは本物では無く海之の残影、分身だったのだ。

 

火影

「ちっ、しま」ドゴォッ!「ぐあぁ!…がはっ!……ぐぐっ」」

 

衝撃を真正面から受けて大きく吹き飛び、地面をバウンドしながら倒れ込む火影。本物の海之は分身にピッタリ隠れる様に付いており、火影が分身を倒した所で更に攻撃する二重の手段をとっていたのである。

 

海之

「ハァ、ハァ…。先程のお前のやり方を使わせてもらった。見えない所からの攻撃は防ぎきれんだろうしな」

火影

「ぐっ……。へへっ、お前もそういうやり方ができる様になったんだな…。しかし、結構疲れてるんじゃねぇのか?さっきより威力落ちてるぞ」

海之

「…それはお前もお互い様だろう。SEが切れかけているぞ?」

火影

「……ふぅ~。始めてからもう二時間ってところか…。俺らのISは持ちは良いがこんだけ撃ったり飛んだりしてたらまぁそうなるか…。次でラストにするか?」

海之

「…そうだな、…来い」

 

そしてふたりはリべリオンと閻魔刀を向けて再び向かい合い、意識を集中させる。

 

火影・海之

「「……」」

 

そして、

 

火影

「バージル!!」

海之

「ダンテ!!」

 

ドンッ!ドンッ!

ガキィィィィィィンッ!…ギリギリギリッ!

 

フルスロットルからのお互い最後の一撃。しかしそれでも全くの互角であり、力の押し合いに発展する。

 

火影

「…これで終わりだぁぁぁぁぁ!!」

海之

「…負けるものかぁぁぁぁぁ!!」

 

ふたりとも限界を超えて力を込め、何時終わるかもしれない力比べが続いた…。そして、

 

ギリギリギリッ!…カッ!…キュイィィィィィン…

 

火影・海之

「「…?」」

 

突然アリギエルとウェルギエルが同時に強制解除された。どうやら互いの最後の一撃でSEがお互い0になった様であった。

 

火影

「……おいおい…。前回時間切れで…、今度はエネルギー切れかよ…。また決着付かずか…」

海之

「……その様だ」

 

またもあっけない結末となった事に互いに不満そうだが、ふたり共疲れからか息を切らし、その場に座り込む。

 

火影

「…このままじゃ…マジで決着…つかねぇぜ…?」

海之

「…そうだな。……だが、前も言った通り…、時間なら…幾らでもある。……ふっ」

火影

「…ははっ」

 

…ドサッドサッ

 

最後にふたりは笑い、そこで意識が途切れた…。

 

 

…………

 

火影・海之

「「………」」

 

力無くその場に倒れこんでいるふたり。……そこにみんなが走ってきた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ…火影!!」

「海之くん!!」

「おい!ふたり共!しっかりしろ!!」

火影

「…ぐ~」

海之

「……」

ラウラ

「……大丈夫だ。ふたり共眠っているだけだ。気力と体力を使い切ったんだろうな」

シャル

「ほ、本当!?……はぁ~、もう!心配ばっかりさせて!目が覚めたらふたり共たっぷりお説教してやるんだからね!」

本音

「しゃ、シャルルン恐いよ~。でも本当に無事で良かったよ~」

セシリア

「ええ本当に心配しましたわ。おふたり共急に倒れてしまいましたから…」

一夏

「………」

「と、とりあえずふたりを早く医務室に連れて行こうよ!」

「そ、そうね。行きましょ!」

 

そしてふたりは医務室に運ばれていった。…だが一夏は何か考えているのかその場に立っていた。

 

一夏

「……」

「…?どうした一夏?そう言えばお前さっきからずっと何も言わなかったが…何かあったのか?」

 

その問いに一夏はようやく口を開く。

 

一夏

「…すげぇ」

「…えっ?」

一夏

「俺さ、ふたりの戦いを一心不乱に見てたんだ。それこそみんなの話が耳に入らない位必死で。自分の意識を目の前の戦いだけに向けてた。全部とは言わなくてもあいつらの戦いから少しでも技術を、戦い方を学ぶためにな…でも」

「…でも?」

一夏

「…何にもわからん!」

「へっ?」

一夏

「凄すぎて全くわからん!なんであんな動きができんのかも、あんな風に武器を扱えんのかも、全てが今の俺とケタ違い過ぎて全くわかんねぇ!はっはっは!すげぇよあいつら!本当にすげぇ!」

 

一夏はそう言いながら本当に楽しそうに笑っていた。

 

「い、一夏?」

一夏

「…でもよ。あんな凄い戦い見せられたらやる気出さねぇ訳にはいかねぇだろ!…やるぜ俺は!火影と海之程じゃなくても、せめてあいつらの背中を守れる位になってやるぜ!」

「!…ふっ、そうだな。お前はそういう奴だったな。…そんなお前だから私は…」

一夏

「ん?なんか言ったか箒?」

「な、なんでもない!…それより早くみんなを追いかけるぞ。男手のお前がいなければふたりを運ぶのは大変だろうしな」

一夏

「お、そうだった!悪い」

 

そして一夏と箒もみんなを追いかけ、みんなと共に火影と海之を医務室へ運んだ。

……その道中、一夏の心にはある疑問があった。

 

一夏

(…にしてもあれどういう意味だろうな?……「ダンテ」と「バージル」って)

 

 

…………

 

ほぼ同時刻 管制塔

 

千冬

「……」

真耶

「せ、先輩!直ぐにふたりに救護班を送りましょう!」

「…その必要はなさそうですよ。ほら、もうみなさんが」

真耶

「あっ、本当ですね」

楯無

「…はぁ~、一夏くんといいあのふたりといい、女の子を心配させるのが得意な男の子ばっかりねぇ。なのになんであんなにもてるのかしら?」

「それはあまり関係ないと思いますが…。でも私は何となくわかりますわ。本音やあの子達の気持ち」

楯無

「お~お~、彼氏持ちの意見は違うわね~♪」

「!!な、なにを!?」

楯無

「…まぁそれはさて置き、これからの一夏くんが楽しみね。あんな必死に見てたんだもの。良い傾向になってくれると良いんだけどね。みんなや私にとっても」

真耶

「みなさん…」

千冬

(…あのふたりの戦い方。以前から気になっていたが…間違いない。あれは「試合」等ではなく「戦闘」だ。相手の逆手をとる戦術。形式に当てはまらない武器とその使い方。ルールに縛られない動き。あれは数多くの「命を懸けた戦いを経験した者」しか持てない技術だ。…海之と火影は9年前からあれを動かしていたと言っていた。だが彼等は戦地にいた訳ではないし、もしいたとしても10代ちょっとの子供が覚えられるレベルではない。…束の奴も感じていたあの違和感がこれだとするなら…、海之、火影、まさかお前達は…。いや馬鹿な、そんなお伽話みたいな事が…)

 

新たな決意と謎の両方を生み出した火影と海之のケンカはこうして幕を閉じたのであった。




一夏がふたりの前世の本名を、そして千冬はふたりの強さの秘密を。まだどちらも確信は何もありませんが、今後いつかわかるであろうふたりの秘密にはじめて気付いた回でした。


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Mission98 医務室での微笑ましい宣戦布告

一夏の依頼から本気の試合(ケンカ)をすることになった火影と海之。一夏達のこれからの成長のきっかけのために、そして何より前回中途半端な結果に終わった決着をつけるためにふたりは全力で戦う。互いに数多くの手をうつがいずれも決定的な一撃には至らず、結果はエネルギー切れの引き分けとなった。
疲れてその場に倒れ込んだふたりを医務室に連れて行くみんなとそれを管制塔から見守る者達。その中で一夏と千冬の心にはある思いがあった…。

「ダンテとバージルって…」
「お伽噺話の様な話だが…ふたりはまさか…」


火影(ダンテ)と海之(バージル)のケンカの翌日。この日は日曜日で学園は休み。火影と海之はあの後、一夏達の手によって医務室に運ばれた。お互いの傷はISの機能によって自動修復され、既に完治しているのだが疲労の方が激しかった様でふたりは医務室で未だ眠っていた。そんな日曜、時刻は昼過ぎに差し掛かっていた…。

 

 

火影の個室

 

火影

「…ぐ~」

シャル

「……」

 

火影の傍にはシャルロットがいた。怪我もなく、基本ずっと眠っているだけなので放っておいても問題ないし、目が覚めたら連絡すると医師から言われたのだが、どうしてもそんな気になれなかったみんなは交代で傍に付いている事になった。

 

シャル

「あと数時間で丸一日…、よっぽど疲れたんだね。…もう、本当なら今日久しぶりに火影をデートに誘おうと思ってたのに…。一夏があんなお願いするから…」

 

こうなるとは思ってなかったとはいえ、直接の原因を作った一夏にやや不満をこぼすシャルロット。しかし火影が断りきれない性格だと言う事も分かっていたのでそれ以上は言わない事にした。

 

シャル

「……」

 

彼女は火影の前髪を手で払いのけて顔を見る。

 

シャル

「…そういえば火影の寝顔見るのって僕が男の子のふりをしている時以来かな…」

 

シャルロットはIS学園に転校してきた時を思い出していた。彼女は父親の会社の命令で一夏と白式のデータを盗むために男子操縦者、シャルル・デュノアとして転校してきた。あの時は全部運命だと諦めてしまっていた。こうしなければ自分の居場所が無くなると思い込んでいた。…そんな彼女を救ってくれたのが火影だった。

 

(このまま会社の言いなりになるか?それが自分の運命と思って流されるか?それがお前の本心か?お前はどうしたいんだ、シャルル!)

 

…あの言葉があってシャルロットは初めて自分をさらけ出すことができた。そして計画は崩れさり、結果的に父親と、そして今の母親との仲も改善できた。あの時の感謝の気持ちを今でも彼女は忘れていない。いや決して忘れはしないだろう。

 

シャル

「火影がいなかったら…、僕はきっと…今も何も知らないまま流されるだけだった…。火影はきっと気にするなって言うんだろうけど、…本当にありがとう」

 

そう言うとシャルは火影のおでこにそっと自らの唇を当てた。…その時、

 

ガラッ

 

「お疲れ様シャル。…火影まだ起きない?」

シャル

「う、うん!まだ全然起きてないよ!!」

本音

「シャルルン~、医務室では静かにした方が良いよ~」

シャル

「そ、そうだね!ごめんごめん!」

(吃驚した…、ほんとに吃驚した!…あとなんて恥ずかしい事してんの僕は!?)

 

誰もいなかったとはいえ、先程の行動を猛烈に恥ずかしがるシャルロットであった。

 

火影

「ぐ~…」

「はぁ~、全くこんなに可愛い女の子達が揃って心配してんのに呑気に寝ちゃって。本当なら折角の休日、どうせ退屈してるだろうからデートにでも誘ってやろうかなと思ってたのに…。今度めちゃ奢らせてやるんだから!あと原因作った一夏も同罪ね!」

本音

「あ~ずる~い鈴!私もひかりんと過ごしたかったのに~」

 

どうやら鈴と本音もシャルロットと同じ考えだった様だ。

 

シャル

「……」

「?どうしたのシャル?」

シャル

「…あのさ。…この前火影が僕らを助けてくれた時…、鈴、火影に…告白したよね?」

「…………へっ!?ななななに言ってんの!?わわわ私が何時よ!?」

本音

「鈴~、静かに~!」

「ご、ごめん…。…シャル、何時の事よ?」

シャル

「ほら…、あの時鈴泣きながら言ってたじゃん…」

※詳しくはMission93をお読みください。

 

シャルロットは爆弾の件だけを隠しながらあの時の事を話した。

 

「………」

 

確かに言っていた事を思いだして鈴は赤くなった。

 

本音

「ずる~い、鈴~」

「あ、あれは…つい思い切ってというか…、あの、その…」

シャル

「…じゃああの時の言葉は嘘なの?一番好きだって事も誰よりも大切って事も?」

「違うわ!……あっ」

シャル

「…ふふっ、やっと認めたね」

本音

「鈴大胆だね~!」

「うぅ…」

 

鈴は暫く黙っていたがやがて、

 

「…………ふぅ~。そうね、素直に認めるわ。というか臨海学校でもう認めてるけど。……私は火影が好き。誰よりも好きで、誰よりも大切な人だと思ってる。あの時の言葉に嘘はないわ。まぁあんな状況だったから火影は気付いてないだろうけどね。…でも何時か、ううん、近いうちに正直に言うつもりよ。…だって」

シャル

「…だって何?」

「あんな戦いしてたら…、何時か本気で倒れてしまうかもしれないもの…。もう後悔はしたくないから」

シャル

「…わかった。ごめんね鈴、ひっかけるみたいな事して」

本音

「どうしたのシャルルン?」

シャル

「ううん、気にしないで。……ねぇ鈴、本音。僕負けないよ?火影を想う気持ちはふたりにも、誰にも負けない自信があるから」

本音

「私だって負けないよ~!ひかりんの事好きだもん!」

 

シャルロットと本音も想いをさらけ出す。

 

「ふふん、じゃあ改めて宣戦布告ね♪」

シャル

「そうだね♪」

本音

「布告~♪」

 

三人とも物騒な事を言っている様だがその顔は晴れやかだった。

 

「じゃあ今日は折角だからこの後三人で過ごしましょ!こいつはどうせずっと眠ってるだろうしね♪」

本音

「サンセイ~!」

シャル

「良いね行こう♪」

 

そう言って三人は部屋を出て行った。

 

パタンッ

 

火影

「…………………やっと行ったか」

 

火影はそう言って目を開けた。

 

火影

「あんなでかい声出しっぱなしだったら起きない方がおかしいっつーの。………参ったな」

 

どう言ったら分からなくて困る火影であった…。

 

 

…………

 

海之の個室

 

海之

「……」

ラウラ

「……」

 

一方海之も火影と同じく昨日からずっと眠っていた。そんな彼の傍には今ラウラがいた。というより昨日からずっと付いていた。というのも、

 

ラウラ

「嫁の世話をするのは夫として当たり前の事だ」

 

と、他のみんなが世話を願い出るのを断っていたからだった。とそこへ、

 

ガラッ

 

「失礼します…」

ラウラ

「簪か、海之ならまだ眠っているぞ」

「そう。…ねぇラウラ、交代するよ。徹夜明けでしょ?」

ラウラ

「大したことは無い。一日位の徹夜など軍ではよくある事だ。だから任せろ。これは夫である私の役目だ」

「……」

 

簪は少し考えた後、やや不満そうな表情を見せて言った。

 

「…ずるい」

ラウラ

「? なに?」

「…ずるいよラウラ。私だって海之くんに付いててあげたいのに…。きっと私だけじゃない、みんなも心配してるのに…」

ラウラ

「……」

 

すると今度はラウラがやや寂しそうな表情を見せて言った。

 

ラウラ

「…羨ましい」

「…えっ?」

ラウラ

「…私はお前が羨ましい。…まだ数ヶ月とはいえ私よりも海之と長く過ごしていて、部屋もずっと一緒だし、お前の機体を完成させるために…たくさん協力し合ったと聞いた。…あとお前は臨海学校の時に言っただろう?海之のおかげで、今まで自分が避けてきた全ての事と向き合おうと思えたと…。あの時、海之がどれだけお前の力になってきたか、そしてお前が海之をどれだけ強く想っているか、分かった気がした…」

「……」

 

ラウラは更に続ける。

 

ラウラ

「でもそれは私だって同じなんだ…。かつて力に縛られ、全く周りが見えていなかった私を…海之は命懸けで助けてくれた。あの時の胸の高まりは今もはっきり覚えている。だから私も海之の助けになりたいと思った。…しかし助けられているのは…いつも私ばかりだ。臨海学校の時も先日も。私が海之の助けになってやれた事等一度もない…。おまけにお前の様に一緒に協力した事もなければ、同じ部屋で一緒に過ごした事もない。だからこれ位はしてやりたいんだ……」

「……」

 

簪は暫く黙っていたが、

 

ガシッ

 

ラウラ

「…!ちょっ!?」

「……」

 

突然ラウラの肩を掴んで自分に向かせる。その顔は真剣だ。

 

「…ねぇラウラ。ラウラは海之くんを信じてるんでしょ?」

ラウラ

「あ、当たり前だ!考えるまでもない!」

「じゃあさ、海之くんは友達や仲間を優劣をつけて見る様な人だと思う?私達をそんな風に見てると思う?」

 

その問いかけにラウラは少し考え、

 

ラウラ

「………いや、海之はそんな男ではない」

「うん、私も同じ。海之くんはどっちが役立つかとかどっちが長く過ごしたからとか、そんな理由で人を見たりする様な人じゃないよ。きっと私もラウラも平等に見てくれてると思う。スメリアでも言ってたでしょ?自分の命をかけて大切なものを守る。ラウラや私達もって」

ラウラ

「……」

 

簪は更に続ける。

 

「…それにさ、ラウラは私が羨ましいって言ってたけど…、私だってラウラがいつも羨ましいんだよ?」

「…えっ?」

 

ラウラは意外といった様子だ。

 

「だってラウラ。海之くんへの好意を包み隠さないし、もうお嫁さん宣言してるし、生徒の中にはもうそうなんだって本気で信じてる子もいるよ?あんなに堂々と言えるラウラが私何時も羨ましいって思うもん。それに前…夜中に私達の部屋に入ってきた事もあったでしょ?あれも海之くんと一緒にいたかったからだよね?」

ラウラ

「!! き、気づいていたのか?」

「一瞬だけだったけどね。ふふっ、でも安心して?誰にも言ったりしないから」

ラウラ

「そ、そうしてもらえると助かる…」

 

今思えばなんとも大胆な行動だったとラウラは反省している様だ。

 

「あとさ、以前ラウラと海之くんが戦った時、ふたり共心が繋がった様な感覚があったって聞いたよ?」

ラウラ

「ああ…」

 

ラウラは思い出していた。かつて自分がヴァルキリー・トレース・システムの力に飲み込まれた時を。お互い最後の剣がぶつかった時、ラウラと海之は一瞬互いの気持ちを交流した感じがしたのだ。医務室で目覚めるまで夢かどうかはっきりしなかったがどうやらあれは現実だったらしい。

 

「あの時何があったのかは私もわからない。前に一夏くんが聞いた事あったけど「勝手に話すとあいつに悪い」って断ってたから。だからきっと大切な事だったんだろうなって思う」

ラウラ

「…海之が…」

 

ラウラは海之の気遣いが嬉しかった。そしてあの時の事は自分と海之だけの秘密だと思うと妙な嬉しさもあった。

 

「だから私は本当に羨ましいんだ。海之くんの事を正面から好きと言えて、ふたりだけの繋がりを持っているラウラの事が。…だからラウラも自信を持って?海之くんはラウラをきっと大切に思っている筈だから」

ラウラ

「…簪…」

 

ラウラは自分を恥じた。海之が自分より簪を気にかけているのではないか、そして簪もそう思っているのではないかと一瞬でも考えてしまった自分を。彼女の言葉が嘘や冗談ではない事は目を見ればわかった。ただありがたかった。

 

「…でも」

ラウラ

「?…でも?」

「…海之くんが好きって気持ちだけはラウラにも負けないけどね。ふふっ♪」

ラウラ

「……」

 

先程まで簪の気持ちに感動さえしていたラウラはその言葉に一瞬ぽけっとしたが、

 

ラウラ

「…上等だ。私も負けるつもりはないぞ!ここからが本当の勝負だ!」

「うん♪」

 

こちらも互いに笑顔で宣戦布告するふたり。と、

 

海之

「……なんの騒ぎだ…」

簪・ラウラ

「「!!」」

 

突然の海之の言葉にふたりはひどく驚いた。

 

「み、海之くん!」

ラウラ

「大丈夫か海之!?」

海之

「問題ない。ただ少し寝過ぎた様だな…。迷惑をかけた」

「ううん、全然気にしないで。…良かった…」

ラウラ

「ほぼ丸一日眠っていたんだぞ。全く折角の夫婦の休日なのに…、一夏の奴ときたら」

海之

「あいつを責めるな。俺達がやり過ぎただけだ。……ところで

「? なに?」

海之

「先程のお前達の勝負とはどういう意味だ?」

ラウラ

「えっ!…い、何時から聞いていた?」

海之

「いや、その言葉で目が覚めた。…それで?」

「え、ええっと…、そ、そうだ!来月にあるキャノンボール・ファーストの事!お互い負けないよって言ってたんだよ!ねぇラウラ!?」

ラウラ

「あ、ああ!その通りだ!決して何でもないぞ!!」

海之

「?…そうか」

 

やや疑問が残りながらも海之はそれ以上深く聞かない事にした。……その海之の個室の前では、

 

千冬

「……」

 

千冬が壁に背中を預けて立っていた。

 

千冬

(…更識もボーデヴィッヒも本当に変わったな。……教師としてはあいつらの事を応援してやるべきなのかもしれない…。でも…私としては、織斑千冬としては…。……私はどうすればよいのだろう……)

 

簪やラウラと同じく、千冬もまた海之に惹かれる者として大いに悩むのであった…。



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Mission99 魔人の新たな謎 そして 新たな動き

かつてダンテとバージルだった頃の如き凄まじい戦い(ケンカ)を終えた火影と海之はそれぞれの部屋で深い眠りに落ちていた。翌日になっても目が覚めないふたり。そんな彼等の傍に付いていた少女達は目覚めないのを良い事に(火影は目覚めていたのだが)それぞれ火影と海之への想いを打ち明け合い、笑顔で宣戦布告をするのであった。


日曜が過ぎて翌日の月曜日。ほぼ丸一日眠っていた火影と海之は疲れも取れ、無事に登校してきていた。

 

IS学園 1-1

 

ガラッ

 

火影

「よぉみんな」

海之

「おはよう」

一夏

「火影!海之!もう大丈夫なのか?」

火影

「ああ全く問題ねぇよ。なんかえらく心配させたみてぇだな」

「ああ本当に心配したぞ。昨日の朝まで全く目覚めなかったんだからな。シャルや簪から連絡を聞いて安心した」

セシリア

「まぁあれ程の戦いをしたのですから仕方ありませんわ。でもおふたり共元気そうで良かったです」

一夏

「全くだぜ…。あと昨日は見舞いに行けなくてすまねぇ。ずっと箒達や楯無先輩に教えてもらってたんだ」

海之

「気にするな」

ラウラ

「一夏、元はと言えばお前がふたりにあんな願いをしたからだぞ」

「そうよ。少しは反省しなさい」

一夏

「う…、悪いふたり共。まさかあんな事になるとは思わなかった。…でも嬉しかったぜ。お前らの本気を見せてくれてよ」

火影

「気にすんな。俺らも久々にケンカできたし。…まぁつってもまた不完全燃焼の引き分けだったが。今度こそは決着を付けるぞ」

海之

「当然だ」

シャル

「もう…やめてよふたり共。あれで不完全って言うなら…、決着なんて本当にどちらか死んじゃうよ…」

本音

「でもふたりって…そんなに引き分けが多いの?」

火影

「ああなんだかんだでな。あとISだけじゃなくあらゆる競技でも競ってるぜ。…テストの点数だけは譲ってやってっけど」

海之

「ぬかせ」

「この前のテストも学園一番だったもんね海之くん。そういえばもうすぐ中間試験もあるから勉強しなきゃ」

一夏

「げ~もうそんな時期か~」

本音

「頑張れおりむ~」

「ふたりに刺激されて訓練ぱかりしてるだけでは駄目だという事だ。私達の本業は学業だからな」

セシリア

「昨日も一夏さん、訓練張り切っておられましたからね。素敵でしたわ」

一夏

「折角ふたりが頑張ってくれたからな。トムボーイも付いたし」

ラウラ

「…しかしふたりの直接の戦いを見たのは初めてだがやはり凄いな。動きや武器の扱い方だけではない。根本的に私達のものとは違う様な気がしたぞ」

「まぁあんた達のは本当に色々違うらしいからね」

火影

「……」

 

皆が感心する中、火影はやや悩ましげな表情をしていた。

 

本音

「? ひかりんどしたの?」

火影

「いや…、気のせいかも知れねぇんだが…ちょっとな」

シャル

「なにかあったの?」

海之

「…火影、もしアリギエルの事なら気のせいではない。俺も同じだ」

火影

「ウェルギエルもか…」

「? ふたりのISがどうかしたの?」

 

キーンコーンカーンコーン

 

火影

「おっともうこんな時間か。まぁ気にすんな、思い違いかもしれねぇから」

 

丁度SHR開始のチャイムが鳴った。火影のその言葉で話は終わり、皆それぞれの教室に戻っていった…。

 

 

…………

 

同日放課後 整備室

 

海之

「………」

 

その日の授業が終わった放課後、海之は整備室に来ていた。スペースにはウェルギエル、そして隣にはアリギエルもあり、何やら作業している様であった。

 

ガラッ

 

するとそこに紅茶の缶を持った火影が入ってきた。

 

火影

「ほらよ」ポイッ

海之

「……」パシッ

 

火影が投げた缶を海之が受け取る。

 

火影

「…で、どうだ?」

海之

「……機体そのものには問題は無い。スペックの数値も駆動系も異常無しだ。まぁそもそも俺達のISは再生機能のためにメンテナンスも要らんからな。当然だが」

火影

「そうか…。以前に比べて装備や機能が増えた事による不具合の可能性は?」

海之

「それもないだろう。そもそもあれは以前の俺達が使っていたものであって異物ではない。拡張領域もまだ余裕がある」

火影

「…じゃああの時のあれは一体…」

 

 

…………

 

それは先日の火影と海之の勝負の時だった。

 

海之

「おぉぉぉぉぉぉ!」

 

海之は上空から火影に向かって月輪脚を繰り出そうとしていた時、

 

火影

「あめぇよ!」

 

火影はそれを避けようとしていたのだが、

 

…ジジッ!

 

火影

「!?…くっ!」

 

ガキィィィィィンッ!!ビシュッ!

 

火影

「ぐぅ!」

 

ほんの一瞬だったが火影は自らの足、正確にはアリギエルの足の反応が遅れ、避けるのが間に合わなかったのだ。繰り出される一撃を火影は仕方なく両腕のイフリートで受け止めたが、その衝撃は彼の腕にダメージ、出血を与える結果となった。

 

またある時は…、

 

火影

「ちぃ!」

 

ズダダダダダダダッ!

 

火影が海之に向かってエボニー&アイボリーを撃つ。

 

海之

「ふっ」

 

キキキキキキキンッ!

 

海之はそれを華麗に閻魔刀で弾く。……しかし、

 

ビシュッ!

 

海之

「!!」

 

声には出さなかったが海之は驚いた。ウェルギエルの腕の反応が一瞬鈍くなり、飛んでくる弾を一部受け止め損ねたのだ。海之もまた、火影の様に己の機体に違和感を感じていたのであった。

 

 

…………

 

火影

「あん時は疲れか気のせいかと思ったけどな。まぁお前も感じてたんならそれは違うわけだな」

海之

「一瞬とはいえ何時ものお前らしくない動きだと思っただけだ。俺達以外の者が見てもきっとわからんだろう」

火影

「…しかしアリギエルとウェルギエルに同じタイミングでこんな事が起こるとはな。今までお前とは何度もケンカしてきたが…こんな事は初めてだぜ」

海之

「……」

 

海之は少し考えて言った。

 

海之

「……或いは今だからこそ起こったのかもしれんな」

火影

「…どういう事だ?」

海之

「お前も知っている通り俺達のISは俺達と共に成長する機体だ。…だが所詮は機械。限界を迎えればガタがくる」

火影

「まさか…、それが今来ているってのか?」

海之

「…あくまでも仮説だがな。だがそう考えると納得できる点がひとつ出てくる」

火影

「…?」

海之

「アリギエルとウェルギエルはかつての俺達を模したものだ。そしてその姿はかつて俺達が再度出会った時のもの、あのテメンニグルの時のな」

火影

「ああ…」

 

火影は思い出していた。かつて彼等の父、スパーダによって封じられていた巨塔テメンニグル。そこで兄弟は再会した。父スパーダの力を手に入れようと企んだバージルとそれを止めようとしたダンテ。激しい戦いを繰り広げる中でダンテは悪魔化、魔人化を果たした。アリギエルはその時の姿を模したものなのだ。ウェルギエルも同じ。

 

海之

「俺もお前も、…正確にはお前だけだがな。その後もずっと戦いを続け、強さを増してきた。そしてそれと同時に魔人の形態も姿を変えてきた。…だが」

火影

「ISではそれは起こらない…」

海之

「ああ…。もし俺達の力が以前よりも成長していて、ISがその成長に追い付いていけてないとしたら…、あの異常も納得がいく。今まで気付かなかったのは先日の戦い程本気で戦った事が今まで無かったからだろう。何しろSE切れまで起こしたのも初めてだったからな」

火影

「…俺達の成長に付いていけてないってのか…?」

 

火影は悩んだ。もし海之の仮説通りなら今後も同じ様な異常が頻繁に起こる可能性も捨て切れない。ISの限界以上の力を出さなければさほど問題はないだろう。しかしこの先本気で戦わなければならない時があるかどうかわからない。正体不明の謎の敵もいるのだ。

 

火影

「…ちっ、あいつらなら何か知ってるかもしれねぇけどな。こっちが願って出てくるってわけでもなさそうだし…」

海之

「……」

 

火影と海之は自分達のISのコアに宿る者達を思い出していた。あれから一度も夢に出てきていない。

 

海之

「……もうひとつ気になる事がある」

火影

「…なんだよ?」

海之

「以前俺とラウラが戦った時があったろう。いや、あの黒い存在に飲み込まれたラウラだったか。あの闘いの時、俺は閻魔刀に語りかけたのだ。無意味とわかっていたがな。……だが、一瞬だけだったが感じたのだ。閻魔刀の脈動をな…」

 

それを聞いて火影は目を大きく開いて驚く。

 

火影

「……はっ?冗談だろ?この世界は魔の力とは無縁の世界だぜ?そんな状態で閻魔刀が反応するわけねぇだろ?…それ以降は?」

海之

「アンジェロやあのファントムの時も試してみたが…応える事は無かった」

火影

「んじゃ気のせいじゃねぇか?」

海之

「……」

 

そういう火影だったが海之が嘘を付く様な性格ではない事も知っているので一応頭の片隅に置いておくことにした。

 

火影

「…ちっ、使ってる俺らが言うのもなんだが謎ばかりだな。封印されたままのワンオフアビリティーといい、閻魔刀といい。まさかリべリオンもって訳じゃねぇだろうな…」

海之

「……」

 

ふたりはその日就寝に付くまで悩む事になった…。

 

 

…………

 

???

 

スコール

「オータム、ここにいたのね」

オータム

「よ!スコール!何か用かい?」

スコール

「ええ。貴女のアラクネだけど…何とかなりそうだわ。あの人が新しいコアを用意してくれるそうよ」

オータム

「なんだあいつか。……って、コアを用意した?どっからか盗んできたのか?」

スコール

「詳しくは分からないけど…。あと少し手を加えるそうよ」

オータム

「…は!?マジかよ!コアを弄れるのって篠ノ之束しかできねぇ筈だろ!?あいつそんな事までできんのか?」

スコール

「さぁ、あの人は秘密主義だから。…あと貴女の機体自体にちょっとした機能を加えるそうよ。もう少しかかるから楽しみにしてなさいって」

オータム

「ちっ、あの野郎俺のISを。……まぁ良いか、そう言うなら気長に待つとするぜ」

 

 

…………

 

??? とある部屋

 

そこは整備室の様な場所。そこで一人の男が誰かと話しながら何やら作業をしていた。

 

「…承知致しました。ではその時に」

 

ガーッ

 

「主、参りました」

 

扉を開けて入ってきたのはサイレント・ゼフィルスのパイロットのMだった。

 

「…ああ。すまんな」

「いえ。…主、失礼ですが…今しがたまで誰かと話されておられましたか?」

「…何故だ?」

「……いえ、忘れてください。それより私に御用ですか?」

「うむ。近い内に再びお前の力を借りねばならなくなるだろう。宜しく頼むぞ」

「承知致しました」

「同時にお前にあれを持たせる。上手く使え」

「完成したのですか?」

「無論だ」

「承知致しました。必ず使いこなしてみせます」

「うむ。…話は終わりだ。下がれ」

「はっ」

 

そう言うとMは部屋を出て言った。

 

ガーッ

 

「……」

(さて…、どうなるか…)

「問題は無いでしょう。あ奴の闇は深い。ましてやあの者達が絡んでくるとね」

(…まぁいい、そのために新たな傀儡も持たせるのだ。…あれはどうなっている?)

「御心配なく。まだ実験段階ですが十分な成果を上げていますよ…クククッ」

(……)

 

男は再び誰かと会話していた。しかし不思議な事にその場にはひとりしかいなかった…。




近々敵側も新たな動きを見せそうです。

※仕事のため次回までまた暫く間を頂きます。すいません。

※もうひとつお知らせです。おそらく来月頃から本業の方が忙しくなりますため、これまでの様に纏まって投稿するのが難しくなると思います、そのため数日に1~2話のペースになってしまいますが、これまで申し上げました通り必ず最後までしっかり書き上げますので、今後も退屈しのぎ程度でお楽しみいただければ幸いです。応援して下さる皆様、今後とも宜しくお願い致します。


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Mission100 兄弟、真実の告白

一昨日の勝負から無事に回復した火影と海之。みんなはそれを喜ぶが当のふたりの心は複雑であった。アリギエルとウェルギエルに今までに無い違和感が生じていたのだ。海之は自分達の成長にISが付いて来れていないのではないかという仮説をたて、更に以前自分が体験した閻魔刀の件についても思いだす。

「魔力が無いのに閻魔刀が反応した?」

衝撃の事実に火影も驚きを隠せない様子。

一方、暫く姿を見せなかったファントム・タスクも次の作戦に向け、虎視眈々と準備を進めていた…。


※今回一話だけの投稿となります。


IS学園 アリーナ

 

……ジジッ…シュンッ!

 

火影

(……ちっ)

 

火影と海之の勝負から数日。あの後ふたりは授業や訓練の旅にISを展開し、その都度さり気無く例の違和感が無いかを調べてみたが、あの時の様に全力で戦ったりしない限り特に問題は無さそうだった。しかしふたりで模擬戦を行ったり稀に本気を出したりすると時折ではあるが先日の様な事が起こり、あれが幻や気のせいではない事を物語っていた。実際今、火影はエアトリックを繰り出している途中で突然それを感じて動きを止めた。

 

生徒1

「すごーい!全然見えないよー!」

生徒2

「どうすればあんなに速く動けるのー!?」

セシリア

「相変わらず全く見えませんわ…」

「悔しいが私の紅椿でも追いつける気がしないな…」

海之

「……」

 

キーンコーンカーンコーン

 

その時授業終了のチャイムが鳴った。

 

千冬

「時間か。…それでは本日の授業はこれまで!……さて、皆も既に知っているだろうが再来週はいよいよキャノンボール・ファーストが行われる。これも知っているだろうがキャノンボールは高速下という状態でのより正確なIS操作や戦術を測るものだ。普段アリーナで行っている動いたり止まったりという生ぬるい試合とは違う。一歩間違うとあっという間に撃墜や墜落という可能性も十分あり得るから覚悟しておけ!」

真耶

「尚、明日から本番に向けて高速機動の訓練を行っていきます。皆さん頑張ってくださいね」

生徒達

「「「はい!」」」

千冬

「……海之、火影。お前達は着替えた後、職員室に来い」

火影

「? はい」

海之

「わかりました」

千冬

「では解散!」

 

…………

 

放課後、職員室に向かったふたりはその後、以前千冬によって尋問された部屋よりもやや大きい部屋に連れて行かれた。あの時と同じく完全な密室。そして部屋には真耶、楯無もいた。

 

楯無

「ふたり共お疲れ様」

真耶

「お疲れ様です。火影くん、海之くん」

火影

「楯無さん、山田先生。お疲れ様です。…おふたりがここにいると言う事は」

海之

「…いや…それだけではない。……いるのでしょう?…束さん」

 

パカッ!

 

すると突然部屋の片隅の床下が開いた。

 

「てへ、やっぱりばれちゃったか♪」

クロエ

「き、窮屈でした…」

 

中から出てきたのは束とクロエだった。

 

火影

「束さん、クロエ。…どっから出てきてんですか。つーか何時来たんですか?」

「ちーちゃんに呼ばれて来たんだ♪ロケットは学園の外に隠してあるよ。そこから束さん特製のステルス迷彩で入ってきたんだ♪」

クロエ

「こそこそ隠れる様な事をしてすいません…」

海之

「……千冬先生。束さんとクロエまで呼んでこの部屋と言う事は…」

千冬

「……まぁな」

 

すると千冬は前にある椅子に座り、真剣な表情でふたりに視線を向けて言った。

 

千冬

「単刀直入に聞く。海之、火影。お前達の事を全て話せ。命令だ。拒否は認めん」

海之

「……」

火影

「…それは」

 

ふたりは黙っていたが千冬の表情は絶対に逃がさんという表情をしている。

 

真耶

「御免なさいふたり共…。でもどうか誤解しないでください。私達はみんなふたりを信じています」

楯無

「前にも話した通り、私達が調べられる限りの事は全て知ってるわ。…でも、君達にはもっと多くの秘密がある様な気がして仕方ないのよ。ふたりのISの事も含めてね」

扇子

(意味深!)

火影

「…束さんとクロエも知ってるんですか?」

「モチのロン♪…といってもちーちゃん達と同じ程度だけどね。でもアリちゃんウェルちゃんといい魔具といい、束さんは随分前から何かあるなって思ってたよ。だからちーちゃんから今回の話を聞いて飛んで来たんだよ~♪」

クロエ

「千冬様より連絡を受けて最優先で来たんです」

海之

「……」

千冬

「私も最初は何れお前達が話してくれるまで待とうと思っていた。…だが、最早あの時とは状況が違っている。火影、一夏から聞いたがお前はあの時オータムとかいう侵入者にやたら詰め寄ったそうだな?例のIS達について。何故だ?…あいつらを知っているのか?」

火影

「……」

真耶

「火影くん…」

千冬

「もっと言えばお前達の戦い方はとてもただの子供ができるレベルでは無い。お前達は何時どこであんな戦い方を学んだのだ?…答えろ」

火影・海之

「「……」」

 

火影と海之はどうしようか悩んでいる様子だ。

 

「…ひーくんみーくん。今年の春に出会った時、ふたりは私を信じてくれたよね?アルティスさんと雫さんの様に。もう一度信じてくれないかな?例えふたりがどんな話をしても私は信じるよ。そして決して嫌いにもならないよ。ふたりは私の大切なお友達だもん」

クロエ

「私も同じです。おふたりは以前、私に困った時があったらいつでも頼れって言ってくれました。あんな優しい言葉をかけて頂いたのは束様以来です。例えおふたりが何を言われても…私は信じます」

火影

「…束さん…クロエ…」

楯無

「大丈夫よふたり共。ここでの話は決して外に漏れることはないし、真に私達だけの秘密よ。誰にも言ったりしない。だから安心して」

扇子

(絶対安全)

真耶

「お願いします…」

千冬

「……」

 

千冬もどうか頼むという表情だ。言葉はきつく聞こえるがその心は本当にふたりを心配しての事。そして臨海学校の時、彼女は例えふたりが何を言っても信じると言ってくれた。………ふたりは決めた。

 

火影

「…わかりました。はっきり言ってとても信じて頂けないと思いますが」

海之

「ええ。…ですが俺達がこれから話すことは全て紛れもない事実です。宜しいですか?」

千冬

「ああ」

「モチ♪」

楯無

「わかったわ」

真耶

「わかりました」

クロエ

「はい」

火影

「……みなさんは「転生」という言葉をご存じですか?」

真耶

「…てんせい?」

楯無

「知ってるよ~。確か死んだ後に全く新しい存在となって生まれてくるっていう。どっかの宗教的な教えでしょ?それがどう………って」

クロエ

「そ、それってまさか!?」

千冬・束

「「………」」

海之

「お話します。俺達の…、いや、かつての俺達の話を…」

 

 

……それから火影と海之は千冬や束達に全てを話した。

 

火影と海之はかつてダンテとバージルと言う双子の兄弟であり、人間の女性と悪魔のハーフであった事。

 

ダンテ(火影)はデビルハンターとして数多くの悪魔や魔王を相手にし、仲間達と共に幾度も魔界からの侵略を防いできた事。それに対しバージル(海之)は力に囚われ、魔界を呼び起こして世界を危機に陥れた事。

 

兄弟でありながら一時は殺し合う程憎んでいた宿敵同士であり、何年にも渡って剣を交えた事。

 

そんなふたりも最後は魔界の侵略を防ぐために共に魔界に降り、長い時を経て無事に帰還した事。

 

そしてふたりが前世で生涯を終えた後、転生者としてこの世界に生まれ、エヴァンス夫妻に助けられた事。ふたりのISは前世の姿を模したものであり、生まれてきた時から既持っていた事を…。

 

 

…………

 

火影・海之以外

「「「…………」」」

 

ふたりから聞かされた衝撃の真実に、流石に誰もが言葉を失っていた…。

 

海之

「…以上が俺達の真実です」

火影

「信じられなくても構いません。…そして今の話を聞いて俺達を遠ざけたいと思われたのなら…どうぞ好きになさってください」

 

ふたりは正直退学位は覚悟していた。…とその時ひとりが声をこぼした。

 

「…ふっ、ふふっ」

火影

「…束さん?」

海之

「…?」

千冬

「束?」

 

それは束だった。そして、

 

「ふっ、ふふふっふふ、あははははは!あはははははははは!!」

 

束は笑っていた、実に楽しそうに笑っていた。ふたりはさぞ冗談と思われているのだろうと思っていたのだが、

 

「あははは!凄い!凄いよふたり共!!あははははははははは!!」

火影

「た、束さん?」

クロエ

「束様。落ち着いてください。…きのこの山食べます?」

「貰おうじゃないか!……いや~、こんなに楽しいのは久々だよ♪…それにしてもふたり共、すっっごい人生を送って来たんだねぇ!いや悪魔だから魔生?それともハーフだから魔人生?」

真耶

「そ、それは普通に人生でいいかと…」

「あそう?とまぁそれは今は良いか♪いやまさかひーくんみーくんにそんな凄い秘密があったとは!デビルハンターか~!カッコいいね~!でもそれならいろんな点で納得いくよね~!」

楯無

「…そうですね。ふたりがあれ程に強いのは前世からの戦いの記憶を受け継いでいるから。そしてふたりのISや魔具は、前世でふたりが使っていた物だったという事ですね」

真耶

「もしふたりの話が本当だとすると…ふたりは9年どころか何十年もの間戦ってきた、という事なんですね…」

「正確にはISはふたりの姿そのものらしいけどね♪あと魔具は本来魔力ってやつで動いてたんだっけ。それがこっち来てSEで動く様になったんだねぇ」

クロエ

「どうりで束様がご存じなかったのも納得いきますね」

 

思った以上にみんなすんなり受け入れている様子にふたりはかなり驚いている。

 

火影

「…信じてくれるんですか?こんな突拍子も無いお伽噺みたいな話を?」

「モチロンだよ♪さっきも言ったでしょ?束さんはどんな話でも信じるって!」

クロエ

「私も信じます。おふたりを」

真耶

「…悪魔とかふたりが殺し合いとか、正直半分もまだ理解できていませんが…ふたりが嘘を付く様には思えませんからね」

楯無

「私も信じるわ。…でもまだ他のみんなには話さない方が良さそうね。前世の話とはいえふたりが悪魔と人のハーフとか殺し合いをしてたとか、刺激があり過ぎるわ」

海之

「そうして頂けると助かります」

千冬

「……」

 

束や楯無達がそう言っている中、千冬だけは黙っていた。

 

真耶

「…先輩?」

「およ?どしたのちーちゃん?…もしかしてふたりを信じられない?」

火影

「しかたありません。正直とても信じれる話ではありませんからね」

海之

「その通りです。虚偽の申告をしたとみなされても構いません」

「ちょ、ちょっとふたりとも!ちーちゃんもなにか言ってよ!」

 

ふたりの言葉に束が動揺する。すると千冬が口を開く。

 

千冬

「…落ち着けふたり共、それに束も。誰も信じないと言っていないだろう?」

「…へっ?」

火影・海之

「「…!」」

千冬

「正直理解しきるには時間がかかりそうだが…約束したからな。…信じよう。お前達を」

真耶

「先輩…」

楯無

「流石織斑先生。度胸がおありです」

「私は信じてたよちーちゃん!」

クロエ

「良かったですね火影さん、海之さん」

火影

「…ありがとうございます」

海之

「感謝します」

千冬

「……さて、お前達の正体については納得できた訳だが…、まだ謎は残っているぞ?」

火影

「…ええ。例のIS達、何故俺達があれに拘ったのか」

 

すると束がふっと言葉を出す。

 

「ひょっとしてあれもふたりの世界の奴らとか?なんて~」

火影・海之

「「……」」

 

束の言葉にふたりは黙る。

 

「…あれ?もしかして……大当たり?」

クロエ

「…おふたりを見るとどうやらその様ですね」

真耶

「ほ、本当ですかふたり共!?」

火影

「…いえ、正確には違います。よく似てはいますが…あれは俺達の世界のものではありません」

楯無

「よく似ているけど違う?」

海之

「俺達の世界では奴らは悪魔、完全なる生物でした。…しかしあれは機械、根本的に違うものです」

真耶

「だからふたり共、あれを見た時に驚かれたんですね」

 

すると千冬が火影に訪ねる。

 

千冬

「……ひとつ気になることがある。確か火影が例の女から聞いた話だと…あれは誰かが造ったものと言ったな?それがお前達の世界にいた生物、悪魔か。それに似ていると言う事は……、まさか…」

火影

「…ええ」

「ちーちゃんもそう思ってるんだね…」

真耶

「…どういうことですか?」

「全くの想像だけど…他にもいる。多分、ふたりと同じ世界からの転生者が…」

楯無

「なっ!?」

真耶

「そんな!?」

千冬・クロエ

「「……」」

「全く別々の世界のものが…ひとつならともかくふたつも限りなく似ているなんて、ちょっと偶然とは考えにくいからね。もしあれを造ったのがふたりと同じ世界から来た転生者なら…、そっくりなのも納得がいくし」

火影

「…はい。俺達もそう思っています」

千冬

「…そしてそれがファントム・タスクにいる…」

海之

「…おそらく」

楯無

「だから火影くんあの女に聞きだそうとしたのね。そいつが誰なのか…」

千冬

「……はぁ…」

 

千冬は頭を押さえ、とても疲れた様な表情をしている。全てがあまりにも非現実的なものだったので無理もないかもしれない。

 

火影

「…俺達は突き止めなければなりません。それが誰なのか、そして何をしようとしているのか。…これは誰にもさせるわけにはいきません。俺達がやらなければならない事です」

海之

「こいつの言う通りです。だから」

千冬

「断る」

海之

「…?」

真耶

「先輩?」

千冬

「断ると言ったんだ…。大方、これに首を突っ込むな、とでも言うつもりだったのだろう。ふざけるな。奴らは既に多くの生徒達を危険に晒し、ましてや一夏の誘拐にも絡んでいる。言わば私にとっても奴らは因縁の相手だ。…それに、お前達の前世に関わる問題だとしても、今のお前達はこの世界の人間だ。私の生徒だ。お前達に関わる問題は、担任である私の問題でもある。だから断る」

火影

「先生…」

海之

「……」

「流石ちーちゃん♪ひーくんみーくん、束さんも協力するよ!いっくんをさらったのもひーくんを傷つけたのも許せないし。それに束さんの大事なISをあんなブサイクなものにされたり、正直ムカつくからね!」

クロエ

「束様…」

真耶

「火影くん、海之くん。もうふたりだけで抱え込まないでくださいね。私でも話相手位ならできますから」

楯無

「後輩くん達だけに背負い込ませるわけにはいかないわよ♪」

火影

「みんな…」

海之

「……」

 

ふたりは声にこそ出さなかったがある種感動していた。前世・転生・悪魔。普通ならとても信じられる話では無い。しかし自分達を信じてくれる、使命を理解してくれる人達がいる。その事に何とも言えない感情が湧き出ていた様だった。

 

「あれ~ひーくん、もしかして泣いてる~?」

火影

「…気のせいですよ。悪魔は泣かないもんですからね」

千冬

「…違うだろう。今のお前達は人間だ。悪魔では無い。忘れるな」

火影

「…はい」

楯無

「それでこれからどうするの?」

海之

「やつらはまた必ず接触してくる筈です。残念ですが手がかりが無い以上こちらはその時を待つしかないでしょう…」

真耶

「ファントム・タスクが何処にいるかもわかりませんものね…」

「……」

千冬

「? どうした束?」

「ううん、なんでもないよ。…さて、そうと決まったら私はパンドラの完成を急ぐとしますか♪来月には渡せるからね♪」

火影

「ありがとうございます。…それと束さん。少し聞きたい事があるのですが…」

 

 

…………

 

火影と海之はアリギエルとウェルギエルに起こっている異変について相談してみた。

 

「…ふむ。ISの動きが鈍くなっている、ねぇ…」

千冬

「そう言えば先程の授業で妙なタイミングで止まっていたりしたが…、あれはそれによるものだったのか」

海之

「…ええ。それでどうでしょう?」

「…多分だけどみーくんの言う通りだと思うな。限界を超えて機能している事でISが付いていけてないんだと思う。臨海学校の時に言ってたけど、アリちゃんウェルちゃんはふたりと一緒に成長していくんだよね?でもふたりの成長がアリちゃんウェルちゃんの成長を追い越してしまったという可能性もゼロじゃないと思うよ」

火影

「やっぱりそうなのか…」

楯無

「一度オーバーホールとかしてみたらどう?」

「それでも多分無理だよ。というかあれは自動でメンテされるんでしょ?だったらそんな事する必要も無い筈だし」

海之

「…その通りです」

クロエ

「束様。おふたりのISですが…、セカンドシフトする可能性は?」

「考えられなくも無いけどね~。…でも何がきっかけで起こるかはわからないなぁ。今はなるべく負担を与えない様にするしかないと思う。本気を出しさえしなければ問題ないんでしょ?なら当分は大丈夫だと思うよ。そうでなくてもふたりは十分強いんだから♪」

真耶

「そうですね。でも一応気をつけて下さいねふたり共」

千冬

「…すまんなふたり共。もしこの前の戦いのために起こったのなら…」

火影

「いえ織斑先生、一夏は悪くありません。…わかりました。では当分は暫くそのままにしておきます」

海之

「ありがとうございます、束さん」

「いやいや、今日は最高に面白い話も聞けたし問題ナッシング~♪益々開発頑張れるよ♪」

火影

「?まだ何か造ってるんですか?」

「ちょっとね~♪」

クロエ

「……」

千冬

「…さて、すっかり遅くなってしまった。今日はとりあえずこれ位にしておくとしよう。ふたりはもう戻って休め」

海之

「…それだけですか?」

千冬

「なに?」

海之

「これだけ重要な話を今迄隠していた俺達を…処分しないのですか?」

千冬

「…何故そんな必要がある。お前達は正直に話してくれた。必要ない。それに…お前達の力はこれからも必要だからな」

海之

「……ありがとうございます先生。…失礼します」

火影

「…失礼します。ああそれから束さん、クロエ。また何れ」

 

そう言って火影と海之は出ていった。

 

パタンッ

 

千冬

「……」

楯無

「あのふたりにまさかあんな裏話があったなんてね…。想像をはるかに超える内容だったわ…」

真耶

「生まれ変わりに悪魔…。神話や伝説だけの話だと思ってましたが…」

「ん?そんなに不思議な事かな?悪魔の伝説は世界中にあるし、実際いる世界があってもおかしくないよ。パラレルワールドや異次元世界みたいなもんさ。…まぁあのふたりの前世が人と悪魔のハーフっていうのはちょっと驚いたけどね。でも今はそれは関係ないよ。ひーくんもみーくんも今はれっきとした人間なんだから。それで良いんじゃない?」

クロエ

「はい、そうですね」

千冬

「…束、お前変わったな」

「ひどいな~ちーちゃん!束さんだってまだまだ身長伸びてるんだよ~?」

真耶

「そ、そういう意味じゃないような…」

「…まぁでも一番驚いたというか面白い話はやっぱあれかな♪」

千冬

「…なんだ?」

「…みーくんが前世で子持ちだったって話♪」

千冬

「なっ!?」

楯無

「お、織斑先生、どうしたんですか!?」

千冬

「! い、いや、なんでもない…」

「ふっふ~ん♪」

 

実に楽しそうな表情の束。激しく動揺してしまった事に恥ずかしがる千冬。苦笑いを浮かべる真耶。それを不思議そうな表情で見る楯無とクロエ。全員が火影と海之の秘密に大変驚いた事は間違いない。しかしだからといって何も変わる様な事はなく、これまで通りふたりを信じる気持ちも変わらなかった…。




おまけ

IS学園からの帰り 束のロケット内


「あ~面白かった♪…そういえばクーちゃん、ちょっといい?」
クロエ
「? なんですか束様」

「前に会った時からひーくんみーくんに対して随分フレンドリーになったね。様って呼んでたのが「さん」付けになったり。何かあった?…はっ!もしかしてクーちゃんふたりの事を!?…う~んひーくんもみーくんも相手としては申し分無いけど親である束さんとしてはそんな急には~」

束が何を考えているのかクロエはすぐさま感じ取り、

クロエ
「ちょ、ちょっと束様!そんな事ではありません!以前おふたりが私にもっと気軽に話してほしいと言われたのでそうしただけです!決してそんな事ではありません!むしろ私にとっておふたりはお兄さんみたいな人です!」

「あそう?」
クロエ
「そうです!」

「な~んだ残念。…………んっ?」
クロエ
「今度はどうしました?」

「…今お兄さんって言った?ひーくんとみーくんが?」
クロエ
「!!そ、それは…えっと、その…」

クロエはひどく恥かしそうな顔をしている。そんなクロエを見て束はまた楽しそうな表情をする。


「そうなのか~お兄さんなのか~♪これはますますアレの完成が楽しみだねぇ♪」
クロエ
「た、束様!」


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Mission101 明滅瞬時加速(ブリンク・イグニッション)

ある日の放課後、火影と海之のふたりは千冬にある部屋に連れていかれる。そこには真耶と楯無、更に千冬に呼ばれて束とクロエも待っていた。ふたりは予想しながら連れて来られた理由を尋ねると千冬はふたりの事を全て話してほしいという。もはや隠しておけないと悟ったふたりは自分達の前世、謎のIS達、そして自分達のISに起こっている異変について全てを話す。
とても信じてもらえないだろうと思っていたふたりだったが千冬や束達は疑うことなくふたりの言葉を受け入れ、更に協力を約束してくれた。彼女達の温かい言葉に、ふたりは心を熱くするのであった。


千冬達との話から二日。

火影や海之、一夏達は来週に行われるキャノンボール・ファーストに向けて訓練を行っていた。そして今日も訓練が終わり、全員で食堂に来ていた。

 

 

IS学園食堂

 

一夏

「ふぃ~、今日も終わった~」

本音

「おりむ~、おじさんくさいよ~?」

セシリア

「それはさて置きいよいよ来週末はキャノンボール・ファーストですわね。ブルーティアーズのストライクガンナーをようやくお披露目できますわ」

一夏

「? ストライクガンナー?」

セシリア

「ブルーティアーズのビットをスラスターに使用する高速仕様パッケージですの。攻撃には使いにくくなりますがその分今まで以上のスピードが出せますのよ」

「そういえば臨海学校の時にも言ってたわね」

「そういえば火影くん、残念だったね。エアトリックが使用禁止なんでしょ?」

火影

「まぁな。でもなんとかするさ」

一夏

「お前には悪いけど俺からしたらラッキーだよ。あんなの反則みたいなもんだからな。でもだとすっと俺にも勝機はあるかもしれねぇ。なんてったってアラストルとトムボーイがあるからな」

「それを言うなら私も展開装甲とトムガールがあるぞ」

「私は高速パッケージは無いけどガーベラの加速機能があるから甘く見てもらっちゃ困るわよ!」

ラウラ

「私のパンチラインも同じだぞ」

シャル

「いいなぁみんな。それぞれ装備があって」

一夏

「? シャル、お前にはないのか?」

シャル

「うん。でも今はそれよりもっと優先すべき事があるから。お父さんも会社を建て直そうと頑張りながらお母さんの仕事もやっているしね」

一夏

「そ、そうだったな…。悪い」

「シャル、私だって高速機動の装備は少ないよ。それに大切なのは速さだけじゃない筈だよ」

海之

「その通りだ。キャノンボール・ファーストは高速下という条件で如何に正確に動くか、そして攻撃を確実に当てて足止めできるかが重要になる。スピードだけで勝敗が決する訳ではない。お前はお前のやり方で挑めば良い」

シャル

「ありがとう簪、海之」

火影

「せめてパンドラが間に合えば良かったんだけどな。ごめんなシャル。今束さんも一生懸命頑張ってくれてっからさ」

シャル

「火影もありがとう。僕は大丈夫だから」

セシリア

「パンドラ…。ギリシャ神話に出てくる女性の名前ですわね。決して開けてはならぬという箱を好奇心から開けてしまい、世界に災いを振りまいてしまいましたが最後には希望を残したと言う」

「パンドラの箱ね」

本音

「な、なんかすごそうだね~」

火影

「あれは魔具の中でも結構ややこしいからな。時間もかかってる。つっても束さんがやってくれなきゃもっと掛かってたが」

 

そんな感じでみんなで話していると、

 

「…ねぇ海之くん。…この前だけど何かあったの?随分帰ってくるの遅かったけど…?」

本音

「そういえばひかりんが帰ってくるのも遅かったよ~?」

一夏

「…それって三日前の事かな。確か千冬姉がふたりを職員室に呼んだ日」

「なに?なんかお説教でもされてたの?」

「しかし私もあの後行ったが三人ともいなかったぞ?」

火影

「…ああ気にすんな。大した事じゃねぇから」

海之

「ああ。ちょっと出かけていただけだ」

「……」

(ふたりはああ言っているけど…きっと大事な話だったんだ。そして多分お姉ちゃんも一緒にいたんだろうな…。生徒会室にもいなかったから。…私達にはまだ教えられない話。わかってはいるけど…、やっぱり寂しいな…)

ラウラ

「どうした簪?」

「う、ううん!何でもないよ!…御免」

海之

「……」

一夏

「…まぁお前らがそう言うならいいか。それはさておきキャノンボールの方に今は集中しねぇとな」

「その前に来週始めに行われる中間試験もあるぞ一夏?」

一夏

「それは今は言いっこなし!」

火影

「…そういえばみんな、明日放課後時間空いてるか?ちょっとした技を教えてやるよ」

一夏

「お!マジで!」

「私は大丈夫よ火影」

シャル

「僕も大丈夫だよ」

 

他のみんなも翌日の放課後の訓練参加を約束し、その日は別れたのであった…。

 

 

…………

 

海之と簪の部屋

 

みんなと別れた後、海之と簪は部屋で勉強していた。

 

「…えっとここは…」

 

机に向かっている簪。すると後ろで同じく机に向かっている海之が姿勢をそのままにしながら言った。

 

海之

「簪」

「えっ!…あ、ご、御免ね。…なに?」

 

急に声をかけられ、やや驚きながら簪は振り向いて返事をした。

 

海之

「…すまない」

「…えっ?」

海之

「先程は何も言えず、すまない」

「さっき?………あっ」

 

簪は先程食堂で自分がした質問の事を思いだした。

 

「う、ううん。私も御免ね…、ついあんな事聞いて」

海之

「気にするな。…ひとつだけ話しておこう」

「……」

 

海之は変わらず机に向かっている。簪はそんな海之の背中を見つめながら聞く。

 

海之

「今はまだ…全てを話す事はできない。話せばお前達とこうして過ごす事もできなくなるかもしれんからな…。俺も火影も…」

「…え」

 

簪は海之のその言葉に耳を疑った。…海之と火影がいなくなる…?

 

海之

「だが何時か必ず全てを話そう。約束する。今は」

 

とその時、

 

スッ…

 

海之

「!」

「……」

 

簪が海之の首に手を回して後ろから抱き付いていた。彼女の表情は伺えなかった。

 

「…やだ」

海之

「簪?」

(泣いているのか?)

「嫌だ…嫌だ…。海之くんが…いなくなっちゃうなら…、話してくれなくても良い。ずっと話してくれなくても良い。だから…だから…」

海之

「……」

 

消えそうな簪の声。海之は自分も向きを変えて簪の顔を見る。彼女はやはり泣いていた様で海之は彼女を安心させるように答える。

 

海之

「…大丈夫だ。俺を信じろ」

「海之くん…」

海之

「ただし何時かは話さなければならん。これは避けられん。その時、お前は話を聞いてくれるか?」

「……うん、わかった。…でも約束して?例え全て話しても…、絶対いなくならないって」

海之

「…ああ」

 

海之はしっかりと約束し、簪もその言葉で安心した様だった…。

 

 

…………

 

翌日 放課後

 

その日の授業が終わったいつもの面々は昨日の約束の通りアリーナに来ていた。

 

一夏

「全員揃ったな」

本音

(…かんちゃんどうしたの?)

(ううん、何でも無いよ本音。私は大丈夫)

本音

(?)

ラウラ

「それで弟よ。ちょっとした技とはどういうものだ?」

火影

「ああ。今から教えるのはちょっとしたテクニックだ。今度のキャノンボール・ファーストでも十分使えっけど完全に習得するまで結構時間がかかるから間に合わなくても許してくれよ?」

シャル

「そんなに難しいの?」

火影

「ああ…。つっても前に見せた事あるけどな」

一夏

「へっ?何時?」

海之

「覚えていないか?以前俺と火影が戦った時、俺が放った幻影剣を火影が細かい加速で避け続けた事があったろう?」

「…あああの時ね!確か瞬時加速を連続でやってた様に見えたわ」

火影

「ああそうだ。まぁもう一回見せてやるか」カッ!

 

すると火影はアリギエルを展開し、みんなから離れると瞬時加速の態勢に入った。そして、

 

ドンッ……ドンッ……ドンッ……ドンッ!

 

火影は瞬時加速を発動して一瞬止まり、また瞬時加速を発動して一瞬止まる。という動作を繰り返し、様々な方向へ高速移動していた。

 

「…凄い。あんな瞬間瞬間で瞬時加速と停止を繰り返すなんて…」

セシリア

「ええ。しかも瞬時加速は発動すればその加速力で急に止まれない事が多いですが…、火影さんはしっかりコントロールされてますわね…」

「あと停止って言ってもほんとに一瞬しか止まってないから補足も難しいね」

 

ドンッ!…シュンッ!

 

やがて火影は動きを終えるとみんなの所に戻ってきた。

 

一夏

「すげぇな火影!どうやってたんだ?」

火影

「ああ。普通瞬時加速をする場合フルスロットルで加速するだろ?だがさっき俺がやったのはほんの一瞬だけ、70~80%の出力でスラスターを起動させるのさ」

シャル

「70~80%の出力で?」

火影

「ああ、だから普通の瞬時加速に比べたら若干遅い。その代わり加速に振り回されずコントロールしやすいだけでなく、無駄に必要以上な距離を飛ばなくて済む。そして自分の動きが止まった時に再度素早くまた同じ出力で加速する。これを繰り返すのさ。そうする事で単に真っすぐな移動でなく、さっきみたいに様々な方向へ短距離的に加速を行える」

ラウラ

「成程…。確かに瞬時加速は素早く動ける半面、動きが読まれやすいからな」

海之

「最も止まった時は本当に素早く再加速しなければそこを狙われてしまうから注意が必要だ。それこそ刹那の瞬間にな。次にどっちに動くかとかぐずぐず考えている暇は無い。瞬間的に最適な出力の決定、停止位置の目測とそれに合わせたスラスター起動のタイミング、自分が動く方向を見極めねばならん」

「ほんとうに難しそうだね…」

火影

「これが明滅瞬時加速(ブリンク・イグニッション)だ」

一夏

「明滅瞬時加速(ブリンク・イグニッション)…」

海之

「これは特に一夏、そして箒。お前達には是非習得してほしい」

「私と一夏に?」

火影

「ああ。ふたりにはトムボーイとトムガールがある。それを使う事で通常よりもよほど速いブリンク・イグニッションが可能だろう。特に一夏はアラストルも上手く合わせれば俺らのスピードにも並ぶかもしれねぇぞ?」

一夏

「ま、マジか!?」

火影

「ああ。まぁあくまでも俺のエアトリックや海之の残影を抜けば、だがな。おまけにさっきも言った通りこいつは完全に習得するまで大分時間がかかる。その上結構大変だ。それでもやるか?」

一夏

「…当然だろ!俺は決めたんだ!お前らに近づけるならなんでもやってやるぜ!」

「そうだな。私も是非習得したいぞ」

 

一夏と箒はやる気満々の様だ。他のみんなも立て続けに参加を申し出た。

 

火影

「…ふっ、いいだろう。では始めるか」

 

気合い十分なみんなは早速、ブリンク・イグニッションの訓練を始めるのであった…。

 

 

…………

 

そして約一時間後、

 

一夏

「お、おえっぷ…。き、気持ち悪いぃ~…」

海之

「…今日はこれ位にしておくか」

ラウラ

「あ、ああ。頭も少しクラクラする…」

「はぁ…はぁ…」

火影

「度重なる加速酔いだ。こればかりは慣れるしかねぇな」

本音

「はいみんなお水~」

「あ、ありがとう…。確かにこれは慣れるのに時間かかりそうだわ…」

セシリア

「大変って…こういう事でしたのね…」

「ましてや展開装甲やトムガールと合わせれば…もっとキツイかもしれんな…」

シャル

「火影と海之は大丈夫なの…?」

火影

「俺らはもう慣れてっから」

 

その言葉を聞いてやはりふたりは規格外だなと呆れながら感じるみんなであった。





明滅瞬時加速(ブリンク・イグニッション)というのはオリジナルです。BLINK(点滅)を用いたのは加速と停止が点滅の様に連続で繰り返されるからです。明滅というのは点滅という言葉の類似語です。


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Extramission06 たまには思い思いに

これはキャノンボール・ファーストの前に行われた中間試験とその放課後のお話です。

※UAが80000に到達致しました!ありがとうございます。


IS学園 1-1

 

「「「………」」」

 

とある平日のある日の午前。教室は静かだった。いや1-1だけでは無い。全ての教室がだ。というのも…。

 

真耶

「試験終了まであと一分です」

 

今日は学園の中間試験、そして今は最終日の最後のテストであった。終了までの間見直しをしている者、もう終わっている者、最後の詰めに入っている者様々である。……やがて、

 

キーンコーンカーンコーン

 

真耶

「はい終了です。回収していきますので皆さんペンをしまってくださいね」

生徒

「あ~やっと終わった~」

「あの問題だけ解けなかった~!」

「疲れた~」

 

みんな感想はそれぞれであった。それは彼らも同じ様で、

 

一夏

「………」

 

一夏は妙に色が薄かった。

 

セシリア

「どうしました一夏さん!?」

シャル

「多分だけど…燃え尽きたんだと思う」

「だから訓練ばかりするなと言ったのに…自業自得だな。赤点だけは阻止してる事を祈ろう」

本音

「そだね~」

ラウラ

「海之と火影はどうだった?」

海之

「これといって特に問題はないと思うが」

火影

「俺も問題ないぜ。さて今日はこの後どうすっか…、たまには訓練も休んでゆっくりしたいけどな」

海之

「俺も久々にひと休みしたい気分だな」

セシリア

「…では今日はそれぞれ思い思いに過ごしません事?最近皆さんで集まっていることが多かったですし、たまにはそんな息抜きも必要ですわ」

「…そうだな。私も賛成だ」

ラウラ

「うむ、本当なら嫁と過ごしたいところだが夫婦にもそれぞれプライベートは必要だからな」

本音

「私も賛成~」

シャル

「じゃあ鈴と簪には僕から連絡しとくね」

 

と言う訳で今日の放課後はみんな思い思いに過ごすことになった…。

 

 

…………

 

寮の調理室

 

火影

「……」

 

火影はなにやらオーブンの前で腕を組んで立っていた。どうやら何か作っているらしい。とそこへ、

 

「…おや、火影」

「ほんとだ。どうしたの火影くん?」

ラウラ

「何か調理中か?」

 

サッ

 

火影は手を出して三人の言葉を止める。…そして10秒程経って、

 

火影

「…よし」

 

火影はミットをはめてオーブンを開け、中から何かを取りだす。出したのは…ピザだった。

 

火影

「見た目は良い感じだがどうだろな」

「ピザを焼いていたのか…ってこの匂い、チョコレートか!」

「それにこれって…苺?凄く甘い匂いだね」

ラウラ

「チョコと苺だけでないな。…これはマシュマロか?」

火影

「ああ。ストロベリーとマシュマロのチョコレートピザだ。良かったら試食してくれ。そこ席空いてっから」

 

そう言うと火影はピザを切り分け、それぞれの皿に盛る。三人とも通り過ぎただけなのだがそこはスイーツ大好き女子。良い匂いに惹かれて思わず席に着く。

 

箒・簪・ラウラ

「「「い、頂きます」」」

 

そう言うとそれぞれピザを口に運ぶ。…すると、

 

「…美味しい!」

「チョコレートが甘さ控えめなのが丁度良いね」

ラウラ

「ああ、文句の付けようがないぞ火影」

火影

「どうも。…にしても今日は珍しい組み合わせだな三人共」

 

そう言いながら火影は三人に紅茶を出す。

 

「ああ。今日はテスト明けという事で部も休みでな。思い思いに過ごすとしたのは良いが、どうも思いつかなくて…」

「私も同じなの」

ラウラ

「私もみんながいないと逆にどうも落ち着かなくてな…。結局誰か探していたら箒と簪に出会ってしまった。火影、お前は?」

火影

「俺も同じ様なもんさ。暇だからこの前アルさんに教えてもらったピザをやってみようと思ってな」

「そうか。ふふっ、みんな結局似た様な感じという訳だな」

 

そして四人は暫く会話をした。すると、

 

火影

「…でおまえら、あいつらとは少しは進展したのか?」

箒・簪・ラウラ

「「「!!」」」

 

思わぬ火影のフェイントに三人は驚いた。

 

ラウラ

「ききき、急に何を言い出すんだ弟よ!?」

火影

「…いや今さらだろ?俺らからしたらモロバレだし」

「…わ、私からすればまだ何も…」

火影

「…そうかな?俺からしたら大分進展つーか、一夏が変わってきたと思うぞ?祭りの時もお前の巫女の姿見てキレイって言ってたし、この前の学園祭の時もはっきり話してたみたいだしな?」

「う、うむ。あれは私もかなり驚いた。同時に嬉しくもあったが…」

火影

「…まぁあいつの場合は二歩進んで一歩下がるって感じだろうな。頑張れ。…簪、ラウラ。海之の奴はどうだ?」

「…うん。私も箒と同じかな。でも海之くんは私の事もラウラの事も大切に考えてくれているっていう事を知ってるから。だから焦ってないよ」

ラウラ

「簪の言う通りだ火影。それに急は事を仕損じるというからな」

火影

「…そうか。…ふたり共、これからもあいつを頼むぜ」

「うん」

ラウラ

「無論だ」

「…ただ海之の場合、もうひとりいるんだけどな…」

簪・ラウラ

「「あ…」」

火影

「?」

 

ふたりの頭にはある女性が思い浮かんでいた。

 

ラウラ

「…そ、そういえば火影。お前こそ気付いていないのか?何時も一緒にいるくせにあいつらの気持ちに気付いていないならお前も相当だぞ?」

「そ、そうだぞ火影!お前も鈍い方だが一夏程じゃないだろう!」

火影

「…さりげなく酷い言われ方してる気がするが、まぁいいか。………ああ、知ってるよ」

 

火影の頭には三人の少女が浮かびあがった。

 

「火影くん知ってたんだ…」

火影

「この前医務室で寝てたら大きい声で喋っててな。その時に気付いた。……だけどどうすれば良いか分からなくてな。…あいつらの気持ちは嬉しい。俺もあいつらの事は大切に思ってるつもりだ。…ただ本当にどうすれば良いのか…、こんな事は初めてでな。接し方を変えるのも違う気がするし…」

 

前世の頃から火影にはこういった経験は無かった。そのためどうすれば良いのかというのは正直な感想で悩むところだった。そんな火影に三人は、

 

「…ふふっ、お前でもそんな弱音を言う時があるんだな」

火影

「ん?」

ラウラ

「レオナさんが言っていたぞ?お前達が弱音を吐いた所を見たことがないと。そのお前がまさかこんな話で弱気になるとはな。あの人が聞いたら何と言うだろうな?くっくっく」

※Mission72をご覧ください。

火影

「…頼むからそれだけは勘弁してくれ…」

「…大丈夫だよ火影くん。本音達に火影くんの気持ちはちゃんと伝わっているからさ。焦って答え出す必要なんて無いよ」

火影

「……悪い」

「気にする必要なんてないさ。私も一夏の件で色々話を聞いてもらっているからな」

ラウラ

「ああそうだ。それに弟の悩みを聞くのも姉の役割だ」

火影

「…ふっ」

 

火影はこういった時間も悪くないと思った。それから暫くの間、四人は引き続き一緒に過ごした。

 

 

…………

 

とある喫茶店

 

海之

「………」

 

海之は行きつけの喫茶店にいた。以前強盗騒ぎに巻き込まれた喫茶店である。

※Mission53をご覧ください。

 

「人間の偉大さは恐怖に耐える誇り高き姿にある プルタルコス」

 

海之

(恐怖、か…。以前の俺なら恐怖する事等無かったな)

 

海之がいつものあんみつを食べながら読書をしていると、

 

カランカランッ

 

扉が開いて誰かが入ってきた。

 

楯無

「あれ?海之くんじゃない」

「あ、ほんとだ」

セシリア

「お疲れ様です、海之さん」

海之

「セシリアに鈴、それに楯無さん。…珍しい組み合わせですね」

「まぁね。何をしようかな~って同じく思ってたセシリアと会って。そしたら今度は楯無さんと会って、せっかくだからお茶でもしようかなって話になって」

セシリア

「そうなんです。宜しければ海之さん、テーブル御一緒して宜しいですか?」

海之

「…ああ構わん」

 

そして三人は海之のテーブルに着いて注文を取る。

 

「またあんみつなのねアンタ」

楯無

「海之くんはあんみつ好きなの?」

海之

「嫌いではないですね」

セシリア

「そういえばスメリアでも食べておられましたわね」

楯無

「そういえばみんな行ったんだったね。いいな~。ねぇ海之くん、今度私も行って良い?」

海之

「どうぞ」

 

そんな感じでこちらも話をし、暫くすると、

 

楯無

「…でそれで諸君、それぞれの進展はどう~?♪」

鈴・セシリア

「「!!」」

海之

「……」

 

鈴とセシリアは驚き、海之はこれと言って反応は無い。

 

楯無

「あれ~海之くんはいたってクールねぇ~。もしかして余裕な感じ~?」

海之

「いえ。ただ何の事を言っているのか分からなくて…」

楯無

「あそういう事。えっとね~、かんちゃんやラウラちゃんとはその後どう~?」

海之

「? どうというのがどういう意味か分かりませんが…、簪もラウラも俺の良き友人でいてくれています。ありがたいですし、守ってやりたいと思っています」

「…火影もだけどアンタも凄いわね…」

セシリア

「おふたりが羨ましいですわ」

楯無

「うんうん、お姉さんとしては妹がそこまで想われて鼻が高いよ♪…まぁふたりからしたらちょっと物足りないかも知れないけどね。それで鈴ちゃんとセシリアちゃんは?」

セシリア

「わ、私はこれと言ってはまだ…。ISの組み合わせが良いとか、テストの勉強を一緒にしたりとかはしてますけど。あああと先日のメイド喫茶ではケーキを食べさせて頂きましたの!幸せでしたわぁ♪」

 

思い出しているのか、セシリアは夢の世界に入っている様だ。

※Mission85をご覧ください。

 

楯無

「あはは…。それで鈴ちゃんは?…てまぁあんだけぶっちゃけたらもうわかってるけどね♪」

「わ、私も…」

 

とその時海之が口を開いた。

 

海之

「…鈴」

「へ?な、何?」

海之

「…礼を言う」

「えっ?」

海之

「あいつにはっきり言ってくれた事、礼を言う。あいつは昔から時々馬鹿な事をしがちだからな。周りの事等全く考えずに。…だがお前の様に止めてくれる者がいれば安心だ。…お前さえ良ければ、これからもあいつを頼む」

 

それは海之の本心だった。

 

「……うん。任せといて!」

楯無

「…私からもお願いね鈴ちゃん」

「え?は、はい!」

海之

「……」

 

楯無は先日の話で火影と自分の隠された真実を知っている。きっとそれを思っての言葉だろうと海之は思った。

 

「…そ、そういえば楯無さんもどうなんですか?最近一夏を見る目が違う様な気がするんですが?気のせいならすいません」

セシリア

「…!ぜ、是非私も伺いたいですわ!」

 

夢からセシリアが戻ってきた。

 

楯無

「…うーん、まだはっきりとはわかんないわねぇ。でも決して嫌いじゃないわよ♪結構ガッツもあるし」

セシリア

「…そ、そうですか」

楯無

「あれ~、セシリアちゃん。まさか今の言葉で気持ち揺らいじゃった?そんな簡単に揺らいじゃったら箒ちゃんや私が一夏くん取っちゃうよ~?」

セシリア

「!!…いいですわ!望む所ですわ!決して負けません!箒さんにも楯無さんにも!」

楯無

「よーし!それでこそね♪」

「な、なんか凄い事になってきたわね…」

海之

「ハァ…」

 

そんなこんなありながら暫く四人で過ごす事になった…。

 

 

…………

 

一夏side

 

五反田食堂

 

その頃、テストが終わって燃え尽きていた一夏は腹ごしらえのために五反田食堂に来ていた。

 

「…て訳でやけに食が進んでるわけか」

一夏

「おう。普段以上に頭使ったためか食欲が湧いてくるぜ!」

 

一夏はここまでに既に3杯おかわりしていた。…とそこへ、

 

ガラガラッ

 

本音

「こんにちは~、ってほえ?おりむ~」

シャル

「本当だ。お疲れさま一夏」

一夏

「おうシャル、のほほんさん。ふたりも昼飯?」

本音

「そうだよ~。久しぶりに食べに来ようって。ああこんにちはだんだん。この前はありがとね~」

シャル

「? この前って?」

本音

「この前おねえ」

「ええっとお嬢様方!御注文はいかが致しましょうか!?」

 

本音が言いきる前に弾が勢いよく注文を迫ってきた。そして注文を取り終えると弾は真っ先に厨房に入って行ってしまった。

 

一夏

「…弾の奴どうしたんだ?えらく慌てて」

本音

「さあ~ね~♪あ、おりむ~ここいい?」

 

そう言って本音とシャルも一夏の前に座る。

 

一夏

「てか珍しいな。のほほんさんとシャルだけなんて」

シャル

「あ、そうか。一夏は知らなかったんだっけ」

 

シャルロットは一夏に今日は久々にそれぞれ思いのままに過ごしている事を伝えた。

 

一夏

「成程な。ふたりは何で一緒に?」

本音

「私がお昼ごはん食べに来ようとして途中であったんだよ~」

シャル

「…考えればこの三人だけっていうのも珍しいね。初めてじゃないかな」

 

とその時、

 

ガラガラッ

 

「帰ったよ~!……って一夏さん!?」

一夏

「おう蘭。寄せて貰ったぜ。蘭は出前帰りか?」

「は、はい!あ、ありがとうございます!ゆ、ゆっくりしていってくださいね」

 

とその時、奥から弾と蘭の母親が出てきた。

 

弾と蘭の母

「おかえり蘭。御苦労だったね。あとはもう良いからあんたも昼休憩したら良いよ。…そうだ、一夏くん達と一緒に食べたらどうだい?良いかいみんな?」

一夏

「ええいいですよ」

本音

「もち~」

シャル

「一緒に食べよ」

「は、はい!」

 

と言う事で四人で同じテーブルに着いた。とそこへ、

 

~~~~~~~~

 

誰かの電話が鳴った。

 

一夏

「ん?おれか。…千冬姉か。悪い、ちょっと電話してるわ」

 

そう言って一夏は外に出た。残ったのは女子三人。

 

シャル

「相変わらず千冬さんに弱いなぁ一夏は」

「…あの、本音さんとシャルロットさんでしたね?」

本音

「そだよ~、ランラン~」

「あの、おふたりは…」

本音

「えっ?ううんちがうよ~、私もシャルルンもひかりんだよ~」

シャル

「ちょ、ちょっと本音!そんなはっきり!」

 

はっきり言った本音に対し、恥ずかしさでうろたえるシャルロット。

 

「…ふふっ、知ってますよ。先日の学園祭でもお話しましたからね。でもそんなにはっきり仰るなんて本当に好きなんですね、火影さんの事。羨ましいです」

シャル

「……あぅ」

本音

「そういえばランランはその後おりむ~とは~?」

「そうですね…。やっぱり別々の学校ですからどうしてもここだけしかお会いしにくいですね…。それが残念です…」

シャル

「でもさ。この前一夏言ってたよ?蘭ちゃんや弾くんの顔を見るとホッとするって。ここならISとか関係なくゆっくりできるってさ」

「えっ?…一夏さんが?」

本音

「そ~そ~。だからさ、ランランも自信を持って。おりむ~はランランやだんだんの事も凄く大切に思ってるからさ~」

「…ありがとう本音さん。シャルロットさん」

 

とそこへ一夏が戻ってきた。

 

一夏

「悪い悪い、……どうした三人とも?」

本音・シャル・蘭

「「「なんでも~♪」」」

一夏

「?」

 

と言う訳でこちらも四人で暫く一緒に過ごしたのであった。




※次回よりキャノンボール・ファースト編です。オリジナル展開も今まで以上に増えてくると思いますが頑張って書いて行きます。


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Mission102 キャノンボール・ファースト開幕

火影と海之が千冬や束達に真実を話して数日後。学園はキャノンボール・ファーストに向けて動き始めていた。そんな一夏達に火影と海之は新たな技を教える事にする。その技とは瞬時加速と刹那の瞬間的停止を点滅の様に繰り返す事で細かい高速移動を行うという技、明滅瞬時加速(ブリンク・イグニッション)であった。連続の超加速という慣れない技に苦労するみんなであったが、完全に学べば自分達にも近づけると言われた一夏は必ず習得してみせると決心するのだった。


IS学園 アリーナ

 

ドンッ!……ドンッ!……シュンッ!

 

一夏

「くっ…、はぁ、はぁ、ぜぇ、ぜぇ…」

 

火影と海之による訓練から数日後。一夏はあれからずっとふたりに教えてもらったブリンク・イグニッションの訓練を続けていた。

 

ラウラ

「…今ので約6割強ロックオンされたぞ一夏」

一夏

「はぁ、はぁ。…くっそぉぉ、まだそこまでかぁ~」

 

今は停止した瞬間にロックオンされない様に直ぐ瞬時加速する訓練をしている。あれから必死に訓練して成功率は少しずつ上がってきてはいるがそれでもまだまだという感じだった。

 

 

…………

 

セシリア

「はい、お水とお薬ですわ」

一夏

「お、おう。サンキュー…」

「今日はもうこれ位にしておこう。キャノンボール・ファーストは明後日だ。今体調を崩してしまったら元も子もない」

シャル

「そうだね、そうしよう」

一夏

「俺はまだ…っといいてぇ所だが…まだ頭がクラクラすんな…」

「そりゃあんだけ毎日毎日やってりゃそうなるわよ。火影と海之も言ってたじゃない、そんな直ぐに習得は無理だって」

ラウラ

「…まぁ気持ちはわかるがな。嫁と弟はたった一週間程で慣れたという話だし。昨日も一回もロックオンされる事が無かったからな」

 

火影と海之は昨日も同じくブリンク・イグニッションを実践し、一発もロックオンされずに見事な動きでやり遂げていた。因みに今日ふたりは生徒会の仕事で来ていない。簪は弐式の調整、本音は付き添いである。

 

「…だけどあのふたりって凄いけど不思議よね。まだISを動かしてたった数ヶ月位なのに何時あんな事までできる様になったのかしら?ISの操縦歴なら私達の方が長い筈なのに…」

シャル

「そうだよね。いつも一緒にじゃないけどほとんど一緒に訓練してるし、訓練量だけならそれ程違いは無いと思うんだけど…」

一夏

「……」

「? どうした一夏?」

一夏

「ん?ああ…ちょっとな。思い出した事があって…。前にふたりと一緒に風呂入った時にさ、あの旅客機の事故の話になったんだけど…」

※Mission51をご覧ください。

「ああ火影と海之が助けた旅客機の話?」

一夏

「ああ。ふたりはあの旅客機を自分達の飛行訓練中に見つけたのを助けたって言ってたんだけど…。でもさ、ちょっと変だなって思って…」

シャル

「変?」

一夏

「あの事故ってさ、俺がISを動かせる事がわかった時より前に起こったんだぜ?そして俺の件は速報でその日の内に流れたから…」

「…あ!」

ラウラ

「…そうか」

セシリア

「どうしましたのおふたり共?」

ラウラ

「…わからないか?あの事故は一夏が世界初のIS操縦者というニュースが流れるよりも数日前に起こった事故だ。その事故を救ったのが海之と火影。と言う事は…」

「!…火影と海之は…一夏よりも前からISを動かしていた!?」

シャル

「……きっとそうだよ。それも大分前からだと思う。いくらふたりでも飛べる様になったり落ちかけている飛行機を受け止めるなんて、急にできる筈無いと思うし…」

「…確かに。考えれば最初に見たふたりの戦いも動かせる様になって一ヶ月とは思えない内容だった。…あれは随分慣れた者の動きだ」

「で、でもさ?だとしたらなんで今まで知られなかったのよ?私達だってここに転校してきてからふたりの事初めて知ったんだから!」

一夏

「…それは多分アリギエルとウェルギエルがふたりの所有だからじゃねぇかな?国の所有じゃねぇんだから公に出す機会も少ないだろうし、おまけにセキュリティが頑丈なスメリアだから幾らでも隠し様もあるだろうし」

「あ、そ、そっか」

ラウラ

「…まだ気になる事がある。スメリアにはISはおろか、訓練の類となる様なものがあると言った話は聞いたことがない。前にスメリアに行った時も一度もそんな話は聞かなかった」

セシリア

「…まさか…最初からアリギエルとウェルギエルを…?」

シャル

「確か誰かから貰ったって火影言ってたよね?…一体何時だろう?」

「あれって束さんが造ったものじゃ無いのよね…。臨海学校の時に言ってたし…」

「…ふたりのIS。そして魔具。…一体誰が造った物だ…?…そして何故ふたりに…」

 

その場にいるみんなが悩んでいた。そんな中、

 

一夏

「…まぁ今はいいじゃねぇか」

「…えっ?」

一夏

「確かに火影と海之には俺らが知らねぇ事が多いかもしれねぇ。…でもよ、だからといってあいつらが俺の友達って言う気持ちは変わらねぇぜ。レオナさんも言ってたろ?もしあいつらが悩み苦しむ時があったら助けてやってくれって。あいつらは今まで俺達をずっと助けてくれた。火影の奴は腕ぶった切ってまでな。…正直あいつらに追いつけるかどうかわからねぇけど…、俺はあいつらを信じるぜ。あいつらがもっと強くなれるって、俺を信じてくれてるみたいによ」

箒・セシリア・鈴・シャルロット・ラウラ

「「「………」」」

 

五人は一夏のその言葉を黙って聞いていた。

 

「ははっ、たまには良い事言うじゃない一夏」

一夏

「たまには余計だよ」

「…そうね。考える事もなかったわ。火影を信じてどこまでも付いて行ってやるって約束したんだもん。それに火影も海之もこのまま秘密を黙り通す様な事はしないだろうし、ふたりが話してくれるまで気長に待つわ。私達はその時を待っていれば良い。な~んにも変わらないわ」

シャル

「…そうだね。僕も火影に約束した。それに火影も海之も何の意味も無く秘密にしているわけじゃないだろうし、きっと訳があるんだよ。僕達は今まで通りふたりを信じていれば良いと思う」

「…そうだな。それにかつて私が自信を失いかけた時、ふたりは力になってくれた。あのふたりに同じ様な事があるか分からんが…、その時は私がふたりを助ける番だ。…姉さんもきっと賛成するだろうし」

ラウラ

「私は元から何も変わらんぞ?例えふたりにどのような秘密があっても。家族は信じるのが当たり前だからな」

セシリア

「…一夏さんの仰る通りですわ。それに私がおふたりから受けた御恩は決して忘れられないものですもの。これ位でおふたりへの信頼の気持ちは変わったりしませんわ」

 

全員が同じ気持ちだった。火影と海之には確かにわからない事が多いかもしれない。しかしだからと言ってふたりへの信頼が、気持ちが揺らぐ事はない。

 

一夏

「よぉ~し!そうと決まったら休んだし訓練再開だ!」

シャル

「えっ!もう夕方だけど!?」

一夏

「ほんじゃあと一回だけだ!」

「…ハァ、全く。…ふふっ、まぁいい。付き合おう」

セシリア

「私もやりますわ!」

「やれやれ、付き合いますか」

ラウラ

「無論だ」

 

そしてみんなは再び訓練を再開したのであった…。

 

 

…………

 

キャノンボール・ファースト 会場

 

そしてそれから二日後。いよいよキャノンボール・ファースト当日となった。キャノンボール・ファーストは簡単にいえばISによるレース競技。しかしただ高速で飛びまわる訳ではなく、互いに攻撃・妨害も許されている言わばバトルレース。その人気はかなり高く、国際大会も開かれる程である。学年ごとに訓練機部門と専用機部門に分かれ、まず最初は一年生による訓練機部門のレース。その後に火影や一夏達が出場する一年の専用機持ちのレースだ。

 

火影

「キャノンボール・ファーストか…。こうしてしっかり見るのは初めてだな。ましてや自分が出場する時が来るとは思わなかったぜ」

一夏

「俺も同じだよ。今年の春ごろまで思いもしなかったな」

海之

「…それはそうと一夏、ぎりぎりまでブリンク・イグニッションを練習していたそうだな。大丈夫か?」

一夏

「当たり前だぜ!少しでもお前らに追いつこうと頑張ってんだぜ!…それでも6割は受け損ねてるけど」

火影

「この短期間でそれだけできれば上出来だ」

 

とそこへ他のメンバーがやってきた。

 

「すまない、遅くなった」

セシリア

「私達全員の出場登録をしていましたら時間かかってしまいました」

本音

「ごめんね~」

火影

「…そういえば本音。お前確かこの後の訓練機部門に出んだろ?気をつけろよ」

本音

「大丈夫だよ~。私だってみんなと一緒に時々訓練してたんだから」

「本音はこう見えても結構うまいんだよ?ISの操縦」

シャル

「そういえば授業でもミスとかした所見た事ないかもね」

 

とその時、

 

アナウンス

「お知らせします。IS学園一年生による訓練機部門のレースに出場される選手は、メインゲート前に集合してください。お知らせします…」

ラウラ

「…むっ、もう集合時間の様だな」

本音

「ねぇひかりん、私が優勝できたら特別なデザート作ってほしいんだけど~?」

火影

「できたらな」

本音

「わ~い頑張るぞ~!」

「…ほんっと子供ねアンタ。まぁ頑張んなさい」

 

そう言って本音は集合場所に走って行った。

 

一夏

「…大丈夫かなのほほんさん、あんな調子で」

「私の直感だが結構良い線行くと思うぞ?」

海之

「まぁ拝見するとしよう」

 

そして全員で生徒専用の席に移り、本音が出場するレースを見学する事にした…。

 

 

…………

 

ラウラ

「…まさか本当に優勝してしまうとはな」

「ああ驚いたぞ。凄いな本音」

本音

「えっへん♪」

 

その結果、本音は一年訓練機部門のレースで見事に優勝したのである。

 

セシリア

「良い線行くとは思いましたけどまさか優勝してしまわれるなんて…」

本音

「約束どおりデザート作ってねひかりん♪」

火影

「ああわかったよ。頑張ったな本音」

本音

「えへへ~♪」

一夏

「食い物の執念ってやつか」

「…それだけじゃないわねきっと」

シャル

「…きっとね」

一夏

「?」

 

とそこへ、

 

千冬

「お前達、ここにいたのか」

一夏

「あっ、千冬姉」

シャル

「お疲れ様です織斑先生。何かありましたか?」

千冬

「ああ大した事ではない。お前達のレースはコースの整備が終わり次第行う。約30分後だ。それまではISの調整や整備等しておくが良い」

「わかりました」

ラウラ

「了解です」

千冬

「ではな」…コンコンッ

火影・海之

「「…!」」

 

そう言いながら千冬はさりげない仕草で耳に当てているインカムに触れた。火影と海之はそれを見て自分達へのメッセージだとわかった。

 

火影

「…んじゃ、俺は少し走ってくるか」

一夏

「えっ?大丈夫か?くたびれるぞ」

火影

「ウォーミングアップってやつだ。海之、お前も付き合えよ」

海之

「…いいだろう」

「時間までには戻ってきなさいよ」

 

そして火影と海之は走って行った。…と見せかけてみんなには見えない所で止まり、少し待つ。すると先程の合図の通り千冬から連絡が来た。

 

千冬

「ふたり共聞こえるか?」

火影

「ええ聞こえます。何かあったのですか?」

千冬

「…ああちょっとな。気になった事があって…」

 

すると千冬が答える前に海之が言った。

 

海之

「…先生。今回もおそらく…例のファントム・タスクが何か仕掛けてくる、先生はそうお考えなのではないですか?」

千冬

「!…その通りだ、海之」

火影

「…成程。クラス対抗戦に始まり、タッグマッチ、臨海学校、そして学園祭。これまで行事毎に奴らは仕掛けてきましたからね。今回もその可能性があると?」

千冬

「あくまでも私の完全な予想だがな。…だがここまで立て続けだと可能性も捨てきれん。ましてや今回は今までよりも遥かに多くの観客がいる。彼等に被害を出すことは許されん。そこで…」

海之

「その時は俺達が引き受けます」

千冬

「……すまんなふたり共…。ふたりのISも万全ではないというのに…」

火影

「気にしないでください先生」

千冬

「そうはいかんよ…。私は情けない…。教師でありながら…生徒であるお前達ばかりに押しつけている自分が…」

 

姿は見えていないが千冬が本当に悔しいのだと声からふたりは感じとった。そんな千冬に対して海之が言った。

 

海之

「…千冬先生。そんな事はどうか露程も思わないでください」

千冬

「…え?」

海之

「俺も火影も先日申したでしょう?これは俺達がやるべき事、俺達が望んでやっている事です。押しつけとか全く思われる必要はありません。…それに寧ろ俺達は感謝しています。こんな俺達を信じてくれる、そして心配してくれるあいつらや先生方に」

千冬

「海之…」

海之

「大丈夫です。あいつらも観客も俺達が守ります。千冬先生も」

千冬

「!…あ…」

海之

「…もう切りますね。レースが近いですから」

 

そしてふたりは連絡を切った。

 

火影

「……」

海之

「? なんだその表情は?」

火影

「…お前ほんとに変わったよ。良い意味でも悪い意味でも、罪作りな奴だ。…行こうぜ」

海之

「…?」

 

ふたりは周りを暫く見て回ってから集合場所に向かった。そしてこの後、三人の予感は的中する事になる…。



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Mission103 第3の異形

火影達から教わったブリンク・イグニッションの訓練を重ねる一夏達。しかしその中で火影達が何時からあんな技を、そして何時からISを動かしていたのかという話になり、みんなは考える。しかしそれでもふたりへの信頼や気持が少しも揺らぐ事はなく、ふたりが何時か話してくれる時を待つ事にする。

そして遂に迎えたキャノンボール・ファースト当日。
一年の訓練機部門は本音の優勝で終わり、次は火影達が出場する専用機部門のレース。しかし火影と海之、そして千冬は何か嫌な予感を感じていた…。


キャノンボール・ファースト会場 メインゲート前

 

レース開始3分前。そこへ千冬との連絡を終えた火影と海之が歩いてきた。

 

シャル

「あっ、来た!」

ラウラ

「遅いぞふたり共」

火影

「悪い悪い」

海之

「すまない」

「間に合わないかとヒヤヒヤしたわ。一体どこまで行ってたのよ?」

火影

「ああちょっとな。…って一夏は?」

セシリア

「一夏さんでしたらお手洗いですわ。…ああ来ました」

一夏

「すまねぇ。…おおふたり共、間にあったんだな。中々来ないからヒヤヒヤしたぜ」

火影

「悪いな」

「…しかしこういった事はやはり緊張するものだな。今になって急にどきどきしてきたぞ」

「お客さんの数もタッグマッチの時よりずっと多いからね」

海之

「そういえば一夏と箒以外は国の関係者も来ているのだろう?」

「そうよ。まぁ一応代表候補だからね。遊び半分のレース競技だけど自分達と他国の違いが気になるって感じじゃない?」

「私も弐式は最近完成したばかりだけど日本の候補生だから」

一夏

「大変だな代表候補って。…ああそうだ火影、海之。言っとくが手加減なんて一切いらねぇからな!」

火影

「…いいのか?後悔すんなよ?」

「上等だ!まだ及ばずとしても、私達とて日に日に成長しているのだからな」

ラウラ

「ふたりの言う通りだ。甘く見るなよ?」

海之

「…ふっ、そうだったな。ならば俺達もそれに応えよう」

 

~~~~~~~~~~~

 

開始間近を知らせるアラームが鳴る。

 

シャル

「あ、始まるみたいだよ」

セシリア

「では参りましょうか」

 

そして全員が入場口に向かう中、

 

火影

(…結局ぎりぎりまで周辺を見たが何も無かったな。…考えすぎだったか?)

海之

(わからん…。だが警戒するにこしたことは無い。千冬先生も言った通り今回は無関係な人間が多い。何があっても被害を出す訳にはいかんからな。いざという時は…)

一夏

「…?お~いふたり共~!」

火影

「…とりあえず行くか」

 

ふたりもみんなの後を追いかけた。

 

 

…………

 

~~~~~~~~~~~~

 

会場は凄まじい熱気に包まれていた。まぁ無理も無いだろう。今年は例年に比べ一年の専用機持ちが多いだけでなく、更に去年まではいなかった男子操縦者が三人もいるという事もあり、客席も増設しないと追いつかない位の客数だったのだ。そんな中開始を告げるアナウンスが入る。

 

「さぁ皆さん、お待たせしました!いよいよIS学園一年生、専用機部門レースの開幕です!今年は代表候補生の方々はもちろん、専用機を持つにふさわしい程の実力者。しかもしかも驚くなかれ!世界でたった三人しかいない男子IS操縦者。それが全員集まっているという、まさに本日のメインイベントにふさわしいものとなっております!はたしてそんな夢の様なレースの優勝者は誰なのか!?…それでは選手達の入場です!」

 

~~~~~~~~~~~

 

観客席が更に盛り上がる中、順番に名前が呼ばれる。(苗字あいうえお順)

 

「1番!早速の登場!話題の男子IS操縦者!しかも双子!そして弟くん!名前にもある様に火の如き赤い目が刺激的!火影・藤原・エヴァンス選手!」

火影

「……やれやれだぜ」

 

「2番!同じく話題の男子IS操縦者にして、先程の火影選手の双子のお兄さん!その青い目は澄んだ海そのもの!海之・藤原・エヴァンス選手!」

海之

「……くだらん」

 

「3番!なんと開始三人目で男子操縦者そろい踏み!みなさんご存じ!世界初の男子IS操縦者!伝説のブリュンヒルデ、織斑千冬様の弟!織斑一夏選手!」

一夏

「…あははは…」

 

「4番!その流れる様な金髪が美しい!イギリスの代表候補生!セシリア・オルコット選手!」

セシリア

「や、やっぱりなんか恥ずかしいですわね…」

 

「5番!我らが日本の将来の希望となるか!?専用機である打鉄弐式はなんと自身の手造りだそうです!日本の代表候補生!更識簪選手!」

「…私だけじゃない。みんなで組み立てた弐式だよ」

 

「6番!流星の如く現れた実力者です!お姉さんはISの生みの親であるあの篠ノ之束博士!篠ノ之箒選手!」

「…今はそれは関係ないだろうに…」

 

「7番!守ってあげたい系の男の子!…と、思っていたら実は可憐な女の子だった!フランスの代表候補生!シャルロット・デュノア選手

シャル

「…も~、忘れてほしいのに~…」

 

「8番!出場者の中では一番のパワー少女か!?中国の代表候補生!鳳鈴音選手!」

「がんばりま~す!」

 

「ラスト9番!現役のドイツ軍人にして勝気!しかしそこが良い!?ドイツ代表候補生!ラウラ・ボーデヴィッヒ選手!」

ラウラ

「……」

 

~~~~~~~~~~~~~

 

全員の紹介が終わると再び歓声があがった。そしてそれぞれがスタートラインに着く。

 

「さぁ以上の九名によって行われる注目のレース!果たしてどのようなレース展開となるでしょうか!?」

 

海之

「……やはり出場を辞退するべきだった」

火影

「まぁいいんじゃねぇか?たまにはこういうのも」

「ねぇ火影!もし私が一位になったら私にも特別のデザート作ってくれない?」

シャル

「あ~鈴だけずるい!火影、勝ったら僕にも作ってよ!」

火影

「俺達に勝てたらな」

鈴・シャル

((やった!))

ラウラ

「…海之。もし私が勝てば…、なにか褒美をくれないか?」

海之

「褒美?……では今度の休日、お前に一日付き合ってやる」

ラウラ

「! ほ、本当か?嘘ではないな?約束だぞ!」

「……あの、海之くん。私も同じお願いして良い?」

海之

「? ああ」

「あ、ありがとう!」

「い、一夏!私が勝てば今度の休み、私に付き合え!」

セシリア

「箒さんだけずるいですわ!一夏さん、私も!」

一夏

「お、おお。別に構わないぜ?週末は予定無いし」

箒・セシリア

「「約束だぞ(ですわよ)!」」

 

男子達の言葉に女子達はみんなやる気になっていた。…そしてやがてカウントダウンが開始される。

 

「さぁそれでは………IS学園一年生、専用機持ち部門レース、スタートです!!」

 

「5」

「4」

「3」

「2」

「1」

 

そして電子掲示板のカウントが残り1になった…………その時、

 

 

ヴゥーーーーーーン!!!

 

 

会場内の者達

「「「!!!」」」

 

突然会場内に響き渡る異音。……見ると会場中央の空中に何か異変があった。

 

火影

「……?」

一夏

「な、なんだありゃあ?」

「空間が……歪んでいる!?」

セシリア

「な、何が起こってるんですの!?」

 

会場の観客だけじゃなく一夏達も困惑している。

 

バチチチチチッ

 

暫くすると今度はそこに電流が走った。…そしてよく見るとその中に何かが見える。

 

「ね、ねぇ。中になにか見えない?」

ラウラ

「……翼?」

「…まさか!!」

シャル

「ど、どうしたの!?」

海之

「簪も気づいたか。……間違いない。あれは…ISの展開だ!」

「ISだと!?じゃ、じゃああれは!」

 

…徐々に中にいるものの姿が見えてくる。そして、

 

火影

「! みんな下がれ!」

 

…ボォォォォンッ!!

 

それは突然小規模の爆発をおこし、白煙に包まれた。その様子に観客の一部は驚き、VIP等の中には既に避難している者もいる。

 

シャル

「び、吃驚した…」

ラウラ

「な、なんだ一体…?」

 

そして煙が徐々に晴れてくると……それは姿を表した。

 

一夏達

「「「!!」」」

火影

「……てめぇもか」

海之

「……」

 

全体的に茶色い装甲。先端部がビームでできた身体の半分以上を占める大きな翼。奥にレーザーの発射口が見える口と大きなクチバシ。機械的なかぎづめと角。それは先のファントムと同じ位見る者をぞっとさせる存在。機械ではあるが凶つ鳥、凶鳥というに相応しいものであった。

 

「グアァァァァァァァァッ!!」

一夏

「な、なんだこいつは!?」

「と、鳥の化け物!?あれもISだっていうの!?」

ラウラ

「こいつ…どことなく造りがあのファントムという奴に似ている。…まさか!?」

火影・海之

「「……」」

 

そして先のアンジェロやファントムに続き、目の前に現れたそれも火影と海之は見覚えがあった。

 

「グアァァァァァッ!!」

 

するとそれはこちらに向けて口を開いた。

 

一夏

「! みんな避けろ!」

 

ドギューンッ!……ドオォォォンッ!

 

謎のISの口から電流を纏ったレーザーが射出された。そのビームによる衝撃が地面を削り取る。

 

「あ、危なかった…」

セシリア

「い、いきなり何しますの!」

 

バチチチチチッ!

 

すると今度はそれの角らしきものに電流がチャージされる。そして

 

バババババババババッ!……ドドドドドンッ!

 

角から広い範囲に電流が放たれ、それによってフィールドの地面が再び削られる。幸い観客席までは届いていなかった。

 

シャル

「くっ!あのファントムって奴と同じだ。急に襲いかかって来た」

「のんきに話してる場合では無いぞ!このままこいつを放っておいたら周りにも被害が!」

 

とその時、

 

ビュンッ!…ドスッ!

 

「グオォォッ!」

一夏達

「「「!!」」」

 

一夏達は驚いた。見ると謎のISに火影のカリーナから飛び出したナイフが刺さっていた。

 

火影

「先生!」

 

火影がそう言うと会場の上部シールドが展開し、空が見えた。

 

火影

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

火影は高速で旋回し、ナイフが刺さったままのそれを勢いよく振り回す。そして、

 

ブンッ!!!

 

ハンマー投げの様に火影は謎のISを上部シールド隙間から外に放り投げた。遥か上空にまでそれは飛ばされていく。

 

火影

「海之!」

海之

「ああ!」

 

ドンッ!ドンッ!

 

一夏

「火影!海之!」

 

火影と海之もそれを追いかける。その後直ぐシールドは元に戻った…。

 

 

…………

 

会場内のとある場所

 

「…ちっ、「グリフォン」の奴が外に出されたのは計算外だったが…まぁいい、データは取れる。それに私の目的の障害は引き付けたからな。…さぁ、それでは始めようか…」

 

ある声が静かに響いていた…。

 

 

…………

 

数分後 会場遥か上空

 

グリフォンと呼ばれた存在

「グアァァァァァァァッ!!」

※以降グリフォンと呼びます。

火影・海之

「「……」」

 

火影と海之はグリフォンを視認していた。向こうはまだこちらに気づいていない。

 

火影

「…やれやれ、鎧野郎に蜘蛛野郎。そして更にチキン野郎か…。まさかとは思ったが…、やっぱり出てきたな…」

海之

「これまでと同じく模造品だがな…。だがどうやら間違いない様だな…」

火影

「…まぁその話は後にしようぜ?ここなら地上に被害は出ねぇし。さて、先手必勝と行くか」

 

そして火影が背中のリべリオンに手をかけた時、

 

「火影ー!」

「海之くーん!」

火影・海之

「「!」」

 

ふたりが見ると下から鈴、シャルロット、簪、ラウラの四人が上がってきた。

 

シャル

「やっと追い付いた!」

ラウラ

「あの短時間でここまで登っているとはな」

海之

「お前達…何故」

「海之くんごめんなさい…。でも心配で」

火影

「だけどシールドは閉じた筈じゃ…?」

「千冬さんに頼みこんで開けてもらったのよ!」

火影

「…なんで」

シャル

「…ねぇ火影。僕達前に言ったでしょ?どこに行くにも付いて行くって。役に立てるかもわからないけど…、それでも付いて行くって!」

火影

「シャル…」

海之

「しかしお前達は…」

ラウラ

「海之。先ほど箒も言っていたろう?私達とて日に日に成長している。お前達に心配されすぎる程弱くはないつもりだ。それに…私も以前どこへにも連れて行けと言った筈だ。異議は認めんともな」

「お願い海之くん。私達も一緒にいさせて!」

海之

「…お前達」

「……」

火影

「…鈴、そういや約束したんだったな、連れていくって。…シャルも悪かった」

シャル

「…うん」

「…覚えてんなら…、もう二度と…勝手に行ったりしないで…」

 

そう言いながら鈴とシャルは火影の手をとった。…そしてそうこう話している間に気づいたのか、グリフォンはこちらを向いて補足した様な声を上げた。

 

グリフォン

「グアァァァァァァァ!!」

海之

「…気付いた様だな。お前達、無茶はするなよ」

「私達は大丈夫よ!」

火影

「よし、そうと決まったら……? そういや一夏達はどうした?」

シャル

「……えっ?あれ?」

「箒とセシリアもいない…?」

ラウラ

「後にしろ!来るぞ!」

 

六人は戦闘に突入した。




アンジェロ、ファントムに続き、グリフォン登場の回でした。
一夏達が何故いないのかは後日明らかになります。

※次回までまた間を頂きます。次回は一週間前後になる予定です。


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Mission104 凶鳥を撃ち落とせ!

遂に訪れたキャノンボール・ファースト当日。
一年訓練機部門が終わり、レースは次の一年専用機部門へ。出場する火影達の紹介が終わり、レースはいよいよスタート!
…と思ったその時、突然会場内に異変が表れ、同時に新たな謎の存在が出現した。火影と海之は会場に被害を出す訳にはいかないとそれを会場外に出し、外で撃退する事に。やがてふたりを追いかけてきた鈴・シャルロット・簪・ラウラの四人も合流、共に戦う事になった。

その頃、会場のとある場所で謎の存在を「グリフォン」と呼ぶ声があった…。

※UAが85000、お気に入りが350に到達しました。ありがとうございます!


キャノンボール・ファースト会場 遥か上空

 

グリフォン

「グオォォォォォォ!!」

 

火影達に気付いたグリフォンは高速で突進してきた。

 

火影

「みんな散開しろ!」

 

ビュンッ!

 

その場にいた全員は火影の言葉でバラバラに散り、突進をかわした。

 

「び、吃驚した…」

シャル

「! 気をつけて!また来るよ!」

 

シャルロットの言う通り、それは急旋回して再びこちらに向かってきた。

 

ラウラ

「食らえ!」

「当たって!」

 

ズドンッ!ズドンッ!

 

ラウラと鈴は向かって来るそれに向けてレールガンと龍咆を撃つ。

 

グインッ!

 

するとグリフォンも今度は急上昇してそれをかわす。

 

ラウラ

「ちっ!あの巨体でなんという回避だ!」

「大きいけど流石は鳥ね!速いわ!」

火影

「奴を倒すには動きを止めた瞬間を狙うのが手っ取り早そうだな」

海之

「うむ。みんな、俺と火影が奴の攻撃を引き付ける。その間の隙を狙って攻撃しろ」

「私達が!?」

「で、でも攻撃を引き付けるなんて危険だよふたり共!」

火影

「大丈夫だよ簪。俺達を信じな。…つーわけで鈴、シャル。俺らの命預けるぜ?」

「……わかったわ!任せておきなさい!」

シャル

「わかったよ火影。僕頑張る!だから気を付けて!」

海之

「簪、ラウラ。ふたりも行けるか?」

ラウラ

「無論だ海之。大船に乗った気でいろ」

「……うん、わかった!海之くん達は私達が守るから!」

火影

「…ふっ、言うじゃねぇか。でもまぁ心配すんな、これまで通りお前らには傷ひとつ付けさせやしねぇからよ」

海之

「ああ。お前達は俺達が守る。だから安心しろ」

鈴・シャル・簪・ラウラ

「「「うん(ああ)!」」」

火影

「んじゃ行くぜ!」

 

ドンッ!ドンッ!

 

火影と海之はグリフォンに向かって突進した。グリフォンははふたりの存在を確認するとそちらに向かって方向を変え、向かって来る。そして

 

グリフォン

「グオォォォォォッ!」

 

バババババババババッ!

 

角からの雷撃を拡散して撃ってきた。その隙間隙間を縫う様にふたりは避ける。

 

火影

「あのチキン野郎もビリビリしてやがったな。蜘蛛野郎がレーザーを吐きだしてやがった様にここらへんも似せてんのか」

海之

「今はその話は後だ。俺達の役割はできるだけ奴の攻撃手段をさらし、あいつらが攻撃しやすい様足を止める事だ」

火影

「わーってるよ。んじゃ、精々足止めするかね!」チャキッ!

 

火影はリべリオンを展開し、グリフォンに向かって行く。

 

火影

「おおぉぉぉ!」

 

…ガキンッ!

 

だが届かなかった。リべリオンはグリフォンのクチバシで受け止められていたからだ。しかし、

 

シャル

「当たれ!」

ラウラ

「今度は逃さん!」

 

ドドドドドドドッ!

ズドズドンッ!

ボガアァァァァンッ!

 

グリフォン

「グアァァァァッ!」

 

グリフォンはシャルロットのライフルとラウラのレールガンを背中に受けた。クチバシで受け止めさせたのは火影の作戦であり、こうする事で動きを止めるためだったのだ。

 

グリフォン

「グオォォォォッ!」

 

バババババババッ!

 

すると今度はふたりに向けて電撃を発するグリフォン。

 

シャルロット・ラウラ

「「!」」

 

ふたりは当たると思った。しかし、

 

シュンッ!……シュンッ!

 

シャルロット・ラウラ

「「!?」」

 

ふたりは攻撃を受けなかった。海之がブリンク・イグニッションで急接近し、ふたりを抱えて離れたのだ。

 

海之

「大丈夫か?」

シャルロット

「あ、ありがとう海之!」

ラウラ

「すまない!」

海之

「気にするな。油断するなよ」

 

そして海之は再度グリフォンに向かった。

 

シャル

「い、今の一瞬で僕達ふたりを抱えて離れるなんて…」

ラウラ

「…やはりまだまだ敵わんな」

シャル

「さすがはラウラの旦那さんだね♪」

ラウラ

「……う、うるさい。あと海之は嫁だ!」

 

 

…………

 

グリフォン

「ガアァァァァァァァッ!」

 

ズギューンッ!

 

グリフォンが口から収束されたレーザーを撃ってきた。

 

火影

「へっ!」

 

ドギューンッ!……ドォォォォン!

 

火影もカリーナからチャージしたビームを撃ち、互いにエネルギーがぶつかる。その瞬間、

 

火影

「鈴!簪!」

「ええ!開きなさいガーベラ!」

「行って!春雷!」

 

ドギューンッ!ズギューンッ!

ドガアァァァァァァァン!

 

グリフォン

「グオォォォォォ!」

鈴・簪

「「やった!」」

 

グリフォンがレーザーを撃って動きを止めている間に鈴と簪がロックオンし、ガーベラのレーザーと春雷の荷電粒子砲が襲った。グリフォンは両側から攻撃を受けて悲鳴を上げる。

 

グリフォン

「グオォォォォォ……」

 

…ヴィ――――ン……

 

するとグリフォンのビームでできた翼が突然強く光り始める。

 

「な、なんか様子がおかしいよ?」

シャル

「…なんだろう…、あれって…どこかで………!」

ラウラ

「まさか!?」

「あれってあいつの!」

 

ドドドドドドドドンッ!

 

すると突然ビーム翼から多数のレーザーが襲ってきた。

 

火影

「ちっ!」

海之

「!」

 

ドドドドドドドッ!

 

周辺にいくつもの爆発が起こる。その爆発に全員巻き込まれた…。

 

………シュンッ!シュンッ!

 

……と思われたが、全員火影と海之のブリンク・イグニッションで回収、離脱されていた。

 

火影

「ふぅ~、驚いたな。大丈夫か鈴、シャル」

「う、うん。ありがとう火影」

シャル

「僕も大丈夫だよ」

海之

「簪、ラウラ。無事か?」

ラウラ

「すまない、また助けられた」

「私も大丈夫。ありがとう海之くん」

火影

「…しかし今の攻撃…、まさか…」

海之

「ああ…間違いない。あれは……ゴスペルの銀の鐘だ。データで見た」

 

それは以前臨海学校の時に戦ったシルバリオ・ゴスペル。それが使っていた銀の鐘だった。

 

シャル

「でもなんであいつが…!?」

「確かゴスペルってあのアンジェロってISにさらわれたんだよね?…まさか!」

火影

「…ああ。おそらくアンジェロが連れ去ったゴスペルのデータを盗み出したんだろうな」

ラウラ

「そしてそれをあの鳥のISにも流用した…!」

「じゃあやっぱりあの鳥もファントム・タスクって訳ね!」

海之

「奴を倒すにはまずあの翼を何とかした方が良いだろう」

 

海之の提案に全員同意したが、

 

「でもどうしよう…。あれって距離に関わらず攻撃できる兵器だよね?」

シャル

「うん。セカンドシフトしたゴスペルの光の翼程じゃないみたいだけどね…」

ラウラ

「私のレーゲンのAICを使えば動きを止められるが…あの大きさでは片翼位しか無理だな…」

火影

「…つまり、あの翼を黙らせりゃ良いわけだな?」

「どうするの火影?」

海之

「いいか、よく聞け。…………」

シャル

「…!!ほ、本当にそんな事できるの!?」

火影

「任せとけ。だからその後は頼むぜ?」

ラウラ

「……わかった。気をつけろよふたり共」

「責任重大ね…。でも絶対成功させるから!」

海之

「シャルと簪も良いな?」

シャル

「…うん!わかった!」

「海之くんも火影くんも気を付けて!」

海之

「ああ。…では行くぞ!」

 

ドンッ!ドンッ!

 

火影と海之は再びグリフォンに向かって行く。そしてグリフォンもふたりに向けて再びレーザーを撃ってきた。

 

グリフォン

「グアァァァァッ!」

 

ドドドドドドドドドドドドンッ!

 

火影

「へっ!抜け毛の時期にゃまだ早いぜ!チキン野郎!」ジャキッ!

 

ズダダダダダダダダダダッ!

ドドドドドドドドドドドンッ!

 

火影はエボニー&アイボリーのビームでレーザーを撃ち落としていた。

 

海之

「……」チンッ!

 

ズバンッ!ズバンッ!ズババンッ!

 

海之は閻魔刀で自身に飛んでくるレーザーを斬り払っていた。…そんなふたりの動きを見ていたみんなは再び驚きを隠せなかった。

 

「…海之くん…凄い…。本当にレーザーを斬ってる…」

シャル

「火影もあのレーザーを全て撃ち落としてる…」

「ほんと出鱈目よね…、あのふたり」

ラウラ

「感心している場合ではない!私達も位置に着くぞ!」

 

 

…………

 

火影と海之はそれから暫くグリフォンの銀の鐘に対処し続けた。飛んでくる無数のレーザーを撃ち落とし、斬り払い、時にはブリンク・イグニッションでかわして。途中いくつか身体を掠めたものもあったがふたりは気にせず、只管に攻撃に対処し続けた。すると、

 

グリフォン

「グオォォォォ…」

 

やがて連続でレーザーを放出したための疲労か、グリフォンの動きが徐々に鈍くなり始め、遂に銀の鐘からの攻撃が止んだ。ふたりはその瞬間を逃さなかった。

 

海之

「!」

火影

「今だ!」

 

火影がそう言うと上空から、

 

鈴・シャル・簪・ラウラ

「「「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」

 

鈴はガーベラの高加速状態で双天牙月、シャルロットはグレースケ―ル、簪はフレイル形態のケルベロス、ラウラはブレイクエイジのパンチラインをそれぞれ構え、上空からグリフォンに向かってきた。そして、

 

ドオォォォォォォォォォンッ!

 

グリフォン

「グオォォォォォォォッ!」

 

四人の攻撃は翼の付け根部分を破壊した。その攻撃で翼は完全に大破し、グリフォンのダメージは大きいものになった。

 

「やった!翼が壊れたよ!」

火影

「よくやった、後は任せろ!」

 

火影はそう言うとイフリートに変え、もはや虫の息になりかけているグリフォンに高速で接近し、そして、

 

火影

「キャッチ・ディス!」ドゴォ!「ライジング・ドラゴン!」

 

ドゴォォォォ!

 

グリフォンを捕えたまま上空へと登っていく。その先には、

 

海之

「おぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

何時の間にか上空に上がっていたベオウルフを付けた海之が流星脚を繰り出しながら降下してきていた。そして、

 

火影・海之

「「うおぉぉぉぉぉぉ!!」」

 

ズガガガガガガガガッ!……ドガァァァァァァァンッ!

 

すれ違いにふたりの攻撃がグリフォンを貫いた。ダメージに耐えきれなくなった敵は完全に爆発・霧散した……。

 

 

…………

 

火影

「…ふぅ~。やれやれ、なんとかなったな。少し時間かかっちまったが」

海之

「仕方あるまい。奴がどの様な手段を使ってくるか把握したかったからな」

火影

「まぁな。でもまぁ奴の攻撃パターンは一通り掴んだし今度はもっと有利に戦える。……しかし…」

海之

「…ああ。アンジェロ、ファントム。…そして奴はおそらく…」

火影

「……」

 

とその時みんながふたりの所へ近づいてきた。

 

「火影ー!」

「海之くん!」

火影

「おおお前ら、お疲れさん。怪我は無いか?」

シャル

「本当にお疲れ様。僕達はみんな大丈夫だよ」

「どうなるかとハラハラしたけどね。でもあんた達のお陰でみんな無傷よ」

海之

「それは何よりだ。みんな本当によく頑張ったな」

「ううん、私達はふたりに守ってもらいながら戦ってたから。鈴の言う通りふたりのお陰だよ」

ラウラ

「…ああそうだな。ふたりがいなければ幾つも被弾、若しくは撃墜されていた可能性も十分あり得る」

火影

「そう言うなってラウラ。簪も。生き残れたのは自分達の実力だ。それに奴に大半のダメージ与えたのはお前らじゃねぇか」

海之

「その通りだ。意図的とはいえ隙ができたのは偶然だ。お前達はそれを見逃さずに攻撃していた。自信を持っていい」

「えへへ。ありがとね」

シャル

「…でもさ、なんで僕達に攻撃させたの?ふたりがやればもっと早くに終わらせられたと思うんだけど?」

「それは私も思った。ふたりならブリンク・イグニッションとか使ってもっと早く倒せたんじゃ…?」

 

ふたりの疑問に鈴とラウラも同意した。

 

海之

「…ああ。お前達の言う通り確かにそれは可能だったかもしれん。しかし何時までもそれではお前達の成長にならんと思ってな。…それに俺達が今後いない時が無いとも限らんだろうし」

「…え?」

「……」

火影

「だからそんな顔すんなって鈴。みんなも。あくまで万一の話だ。そんな時が今後本当に全く無ぇとも限らねぇだろ?だから簡単に倒さずに奴の攻撃方法をできるだけ把握しておく必要があったんだ。分かってたら対策を立てられるだろ?お前らだけじゃなく俺達の経験にもなるしな。だから安心しろ」

海之

「そう言う事だ」

「…まぁそう言うことならそれで良しとしますか」

ラウラ

「ああ。確かに火影が言った事は一理あるし、良い経験になった事も事実だ」

シャル

「うん、そうだね。次はもっと…ってこんな事あってほしくないけど…きっとそういう訳にはいかないもんね」

「…うん。私達も強くならないと」

シャル

「でも勝手に出ていったりだけはしないでよ?」

火影

「わかってるよシャル。信用無ぇなぁ」

 

火影は苦笑いしながら言った。

 

(…信用してるから心配なのよ…)

火影

「……そういえば結局一夏達は来なかったな。どうしたんだ?」

シャル

「あっ、そういえば思い出した!さっき連絡してみたけど繋がらなかったんだ!」

海之

「繋がらない?箒やセシリアもか?」

シャル

「うん。一体どうしたんだろう…」

 

~~~~~~~~~~~~~

 

とその時火影と海之のインカムに連絡が入った。千冬からの様だ。

 

海之

「はい。……ええ、こちらは終わりました。みんな無事です。そういえば先生、そちらに一夏達は?………!本当ですか?」

火影

「それであいつらは?………そうですか、ならとりあえず良かったです。……はい、分かりました。帰還します」

 

ふたりは通信を切った。

 

ラウラ

「ふたり共、教官はなんと?」

シャル

「一夏や箒達もやっぱりいたの?」

火影

「…ああいた。ただどうやら三人共…別のパーティーをしていたらしいぜ」

鈴・シャル・簪・ラウラ

「「「…へ?」」」




果たして一夏・箒・セシリアに何があったのか?

※いつもお読み頂いている皆様へ
ありがとうございます。以前書かせて頂きました通り、今後約一週間毎に1~3話の投稿になります予定です。今後とも宜しくお願い致します。


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Mission105 M 強襲

キャノンボール・ファースト会場に突然現れた謎の存在グリフォン。火影と海之は追いかけてきた鈴・シャルロット・簪・ラウラと共に戦闘を開始する。動きを止めながら上手くダメージを与えていく中、敵は予想外の攻撃を見せる。それは以前戦ったシルバリオ・ゴスペルが持っていた光の翼であった。奴を倒すにはまずあの翼から。そう思った火影と海之は敵の攻撃をひたすら自分達に集中させ、疲労した所で鈴達に翼を破壊させる作戦を取る。結果作戦は成功し、六人は見事グリフォンの撃破に成功する。

……一方、一夏・箒・セシリアの三人は…。

※次回にきれいに続けるため、今回短めです。


キャノンボール・ファースト会場

 

一夏・箒・セシリアに何があったのか?時は火影と海之がグリフォンを追いかけた後、シールドが閉まった直後にまで遡る……。

会場では既に観客達の避難活動が始まっていた。一方一夏達はグリフォンを追いかけて飛び出して行った火影と海之を追おうとしていたがシールドが開かず、千冬に通信で訴えていた…。

 

一夏

「おい千冬姉!シールドを開けてくれ!火影達を追いかけねぇと!」

セシリア

「そうですわ!おふたりだけ行かせるなんて事!」

千冬

「いいからお前達は残っていろ!あいつらに任せておけば問題ない!」

「!……まさか千冬さん、ふたりがこうする事を知っていたんですか!?」

千冬

「……知っているも何もこれは私が頼んだ事だ」

シャル

「織斑先生が!?」

千冬

「…ああ。また以前の時の様にもしなにかしらの異常があれば…その時は頼むとな。しかし会場内であんな奴と戦えば周りに被害が出る。だからあいつらは外にあの妙な奴を追い出す事にしたんだ。その後は自分達に任せろと言ってな」

「…そんな…」

ラウラ

「しかし教官!先程のは今までに見た事が無い奴です!どんな力を持っているか!」

千冬

「…大丈夫だ。あいつらは…きっと…」

一夏

「…千冬姉…」

 

千冬もまた、ふたりの前世の秘密を知っているひとりである。確証は無いがおそらく先程の存在も、ふたりが前世でかつて戦った事があるものであり、そして勝った事がある。千冬はそう予測していた。故に心配はあったが大丈夫だと信じていた…。そんな千冬に鈴が静かに訴える。

 

「……千冬さん、お願いです。シールドを開けてください」

千冬

「鳳、言った筈だ。それはできん。ふたりに任せておけ」

 

やはり拒否する千冬。しかし、

 

「……はい。確かに火影達ならきっと問題ないでしょうね…、それはわかってます。……でも私は前に…、火影が私達を守って自分の腕を斬った時…約束したんです。何があっても火影に付いて行くって。もうあんな馬鹿な事しない様に…傍についてるって!………だから…」

「鈴…」

「……織斑先生、私も行きたいです。前に私が海之くんにそんな事はしないでってお願いした時、決してしないって言いましたけど…、でもわかるんです。いざって時は海之くんもそれ位平気でしちゃう人だって…。考えすぎかもしれませんけど…、そんな事をしない様についててあげたいんです!」

セシリア

「簪さん…」

千冬

「………」

シャル

「織斑先生、お願いします!僕も火影と約束したんです!正直僕なんて火影達の役に立てないと思うけど……それでも!」

ラウラ

「教官!!」

 

鈴、簪に続いてシャルロット、ラウラも訴える。

 

千冬

「…お前達…」

一夏

「…千冬姉。もう一度頼む。俺達を行かせてくれ」

「足手まといにはなりません!」

セシリア

「お願いします!先生!」

千冬

「……」

 

一夏達の心からの頼みに千冬は遂に、

 

千冬

「………シールドを開く。だが覚悟しておけ?戻ったら全員反省文だ」

 

そしてシールドは解除された。真っ先に鈴、簪、シャルロット、ラウラが出て行き、次に一夏が出ようとした…その時、

 

ヴィーンッ!

 

一夏

「!!」

 

直ぐ様シールドは元通り閉まってしまった。

 

「シールドが閉まった!」

一夏

「千冬姉!なんで閉じんだよ!?」

 

一夏は千冬に訴えるが返事は予想外のものだった。

 

千冬

「私にもわからん!急に閉じたのだ!………駄目だ、こちらのコントロールを受け付けん!」

セシリア

「コントロールを受け付けないって…どういう事ですの!?」

「故障か?…まさか…或いはコントロールを乗っ取られ……!ふたりとも避けろ!」

一夏・セシリア

「「えっ!?」」

 

ズギューンッ!

 

その時一夏達の後ろからレーザーが襲ってきた。一夏達は何とかギリギリで避けられた。

 

一夏

「あ、あぶねぇ~。今のは一体…?」

「ISのレーザーの様にも見え…! 後ろだ一夏、セシリア!」

一夏

「何!……お前は!?」

 

一夏が後ろを振り返るとそこにいたのは、

 

「……」

セシリア

「サイレント・ゼフィルス!」

 

先日の学園祭の時に襲撃してきたサイレント・ゼフィルス。そしてその操縦者であるMだった。

 

「どうしてあのISがここに!?」

「……織斑一夏」

 

Mの視線は一夏に向けられていた。

 

一夏

「! お前も俺を知ってるのか!?…いやそんな事は今はどうでも良い!さっきの鳥野郎はお前の仕業か!?」

「……」

「どうやらその様だな。会場のシールドのコントロールを乗っ取っているのもお前か!何故そんな事を!」

「……余計な邪魔が入らん様にするため。…そして織斑一夏、貴様を逃がさん様にするためだ」

一夏

「…俺を?」

セシリア

「何故一夏さんを狙うんですの!?」

「…答える必要はない。…織斑一夏、私はお前を倒す。そのための障害も排除したからな」

一夏

「障害?……火影と海之の事か?」

「…ああ。あの時のあの妙なISの男。そしてファントムを一瞬で撃破したという奴。それらを同時に相手というのは流石に荷が重すぎる。そのためにグリフォンを使ったんだが、まさか外に放り出されるとはな…。まぁ結果的に排除はできた。邪魔が入らん今が好機だ。他の雑魚には用は無い。死にたくなければどいていろ」

一夏

「ふざけんな!お前達みたいな奴に負けてたまるか!」

「その通りだ!一夏は私が守る!それにあの時の様な不覚はとらんぞ!」

セシリア

「そうですわ!それにそのサイレント・ゼフィルスは元々我が祖国のもの。今ここで返して頂きますわよ!」

「……良いだろう。邪魔立てするというなら…織斑一夏共々、纏めて沈めてやる!」

 

ビュビュビュビュンッ!

 

そう言うとMはサイレント・ゼフィルスのビットを展開し、三人に襲いかかって来た。

 

 

…………

 

同じ頃、一夏達の様子を見ていた別室でモニターしていた千冬は、

 

千冬

「一夏!篠ノ之!オルコット!……くそ!まさかあのIS以外にも既に侵入されていたとはな…!いや、正確には同じファントム・タスクか。ジャミングされているのか海之や火影達とも連絡がとれん。…くっ!一夏やあいつらが戦っているというのに私は……!」

 

自分が何もできないという現実を、千冬はただただ悔しかった…。

 

千冬

「…お前は…先程私を守ると言ってくれたが…やはり何もできないのは辛いよ………海之…」




次回、一夏・箒・セシリアとMの戦い本編です。

※次回までまた間を頂きます。


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Mission106 一夏・箒・セシリア それぞれの成長

突如襲来したグリフォンを外へと追放し、追いかける火影と海之。一夏達もふたりを追いかけようとするが千冬がシールドを開く事を拒否し、身動きが取れない。しかしふたりと一緒にいたいというみんなの心からの頼みを聞き、千冬はシールドを開く。……しかし一夏が通ろうとした瞬間シールドは再度閉じ、更に千冬も開く事ができないという。全員が何が起こったのかと思っていると突然背後から襲撃を受ける。それは一夏を狙って会場内に侵入していたサイレント・ゼフィルスを纏うMであった。


※こんばんは。みなさま台風は大丈夫でしたか?
連休+台風のハプニングで時間ができましたため、一話だけ書き上げる事ができました。良ければご覧ください。


ビュビュビュビュンッ!

 

Mはサイレント・ゼフィルスのビットを繰り出してきた。

※以降、ゼフィルスと省略。

 

「織斑一夏!私はお前を倒す!」

 

そう言うとビットは一夏を中心として向かって行き、レーザーを撃ってきた。

 

ドドドドドンッ!

 

「一夏!」

一夏

「くっ!本当に俺だけ狙いって訳かよ!」

 

一夏は瞬時加速で真横に避ける。しかし、

 

「…それで避けたつもりか?」

 

ギュンッ!

 

まっすぐ一夏を狙ってきたレーザーが突然曲がり、再び一夏の方へ向かってきた。

 

一夏

「! レーザーが曲がった!?」

セシリア

「あれは…偏光射撃!」

「見ての通りだ。こいつのレーザーは単純に避けられる様なものでは無いぞ?」

 

レーザーが逃げ続ける一夏に迫る。

 

一夏

「くっ!アラストル!トムボーイ!」

 

キィィィィィンッ!ドォンッ!!

 

トムボーイの効果で一夏の白式が大きくスピードアップし、レーザーを間一髪で避ける。

 

「!…なに?」

一夏

「ハァ、ハァ…。初めて合わせて使ったけど、ま、まさかこんな速くなるなんて。…あいつらと束さんに感謝しねぇと」

「…なんだ今の急加速は…?」

 

予想外の白式のスピードに驚くM。そこへ、

 

「敵を前にして動きを止めるとは大した余裕だな!」

「!」

 

Mの一瞬の隙をついて横から箒がトムガールを使っての加速モードで雨月を繰り出してきた。

 

ガキィィィィィンッ!

 

Mはそれをギリギリ、ゼフィルスのショートソードで受け止める。

 

「くっ!今の攻撃を受け止めるとは!」

「こいつも以前の時より速くなっている…?」

「はあぁぁぁぁ!」

 

ガキンッ!キンッ!ガキンッ!

 

箒は連続で攻撃を繰り出す。Mは短い剣で全てを受け止めるのが難しいのか少し圧されている様に見える。

 

「どうした!このままでは消耗するだけだぞ!」

「…それはどうかな?」

「何!?……!」

 

箒は驚いた。背後からゼフィルスのビットが狙っていたからだ。そしてその隙をついてMが箒の剣を弾く。

 

ガキンッ!

 

「キャア!」

 

一瞬怯んでしまう箒。

 

「まずいっぴ」

一夏

「箒ーーーー!」

「!」

 

ドドドドドンッ!

 

ビットから箒に向かってレーザーが放たれる。

……だが箒にレーザーは当たらなかった。直前に一夏が再度、アラストルとトムボーイによる瞬時加速で箒を回収し、ギリギリかわしたのだった。

 

一夏

「ハァ、大丈夫か箒?」

「あ、ありがとう一夏。……って馬鹿者!なんという無茶を!」

一夏

「そう言うなって。確かに俺はちょっと当たっちまったけどお前は無傷じゃねぇか?俺にはお前やみんなが傷つかない方が大事だからよ」

「…一夏」

 

その言葉の通り一夏は少し被弾ししたのかややダメージを受けている。

 

一夏

「しかし当たっちまったのはやっぱりカッコ悪いよな。火影と海之ならきっと当たらないだろうし。…って今はそんな事言ってる場合じゃねぇ。行くぜ!」

 

そう言うと一夏は向かって行った。

 

「……誰がカッコ悪いものか。お前は昔も今も私の……。……私ももっと強くなりたい。火影と海之がみんなを守ってくれる様に、お前が私を守ってくれる様に、私も一夏、お前を…守りたいんだ!」

 

箒が一夏への気持ちを口にした……その瞬間、

 

 

………カッ!

 

 

紅椿がゆっくり光始めた。

 

「!…これは………まさか!!」

 

 

…………

 

一夏が箒を助け出した時、Mはセシリアと交戦していた。

 

ドギュンッ!ドギュンッ!

 

ティアーズとゼフィルスの激しいライフルの撃ち合いが展開されていた。途中幾らかダメージを受けたセシリアと違い、Mは無傷だった。

 

セシリア

「くっ!流石はティアーズの上位機!威力もあちらの方が上ですわね!」

「そういえばゼフィルスは貴様の祖国のものと言ったな?どうだ?姉妹機にこれから撃ち落とされる気分は?」

セシリア

「そんなの最低の気分ですわ!それにまだ勝ちを断言するのは早いですわよ!」

 

そう言うとセシリアはライフルをしまい、ローハイドを剣で展開し、ゼフィルスに向かって行く。

 

セシリア

「はぁぁぁぁ!」

「正面から向かって来るとは死にたいようだな」チャキッ!

 

そう言って再びMはライフルを構える。

 

セシリア

「掛かりましたわね!」シュバァァ!

「!」

 

ガキンッ!…ドガァンッ!

 

セシリアはローハイドを鞭に変えてゼフィルスのライフルに絡ませ、破壊した。そして、

 

ガキィィンッ!

 

そしてそのまま剣に戻して再度斬りかかる。Mも自らのショートソードで受け止める。

 

「…成程。ふたつの形態に瞬時に切り替えられる武装か。…だが貴様、ゼフィルスの姉妹機に乗っているなら忘れていないか?」

セシリア

「!?…はっ!」

 

ドドドドドンッ!

 

その時真上からセシリアに向かってビットが襲ってきた。堪らず急遽Mから離れ、回避行動を取るセシリアだったがビットは追跡して来る。

 

セシリア

「くっ!困りましたわ。ティアーズはビットの攻撃機能を封印していますし、でも解除すれば機動力が落ちてしまう。どうすれば…」

「後ろだけ注意して良いのか?」

セシリア

「!」

 

ビュビュビュンッ!

 

すると何時の間にか前にもビットが展開され、セシリアの行く手を塞いだ。後ろからもビットが攻撃状態に入っている。

 

セシリア

「駄目!間に合わない!」

 

セシリアは被弾を覚悟した。……その時、

 

ドガン!ドガン!

 

セシリア

「!」

 

突然セシリアの前方向にあったビットが爆発、破壊された。それによって挟み撃ちを免れ、急速回避したセシリアは何とかダメージを免れていた。

 

セシリア

「い、今のは…?」

 

シュンッ!

 

一夏

「ハァ、ハァ。な、なんとか間に合った。大丈夫かセシリア?」

セシリア

「い、一夏さん!今のは一夏さんが!?」

一夏

「ああ。瞬時加速しながら白式の零落白夜でぶった斬ったんだ。間に合ってよかったぜ…」

セシリア

「一夏さん…」

一夏

「…さてセシリア、お前は下がっていろ。あいつはどうやら俺に用があるらしいからな。俺がやる!」

 

ドンッ!

 

そう言って一夏は再度Mに向かって行った。

 

セシリア

「あんな必死になってまで私を…。一夏さん…やはり貴方は素晴らしい紳士ですわ…。私負けません!火影さんや海之さんと同じく、私も貴方をお守り致します!」

 

 

…………

 

一夏

「おぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

ガキィィィンッ!ガキンッ!キンッ!

 

セシリアと別れた一夏はそのままMと交戦していた。一夏は雪片で斬りかかるがMには通らない。

 

「剣の腕はまだまだだがスピードだけはあるようだな」

一夏

「褒めんのかけなすのかどっちかにしろ!」

「…しかし考えたな、ビットのエネルギー・アンブレラを断ち切るためにシールドを無効にする技を使うとは」

一夏

「何を言ってるのかわかんねぇけど、俺の仲間を傷つけるんなら俺が相手になってやらぁ!」

「こちらも元より貴様以外に用は無い。ここで私が終わらせてやる」

一夏

「上等だ!食らえ!荷電粒子砲!」

 

ヴィーーン!!

 

そして一夏はほぼ零距離で荷電粒子砲を発射しようとする。

 

「…愚かな。零距離なら当たると思ったか!」ドンッ!

一夏

「なに!?」

 

突然一夏の前からMが瞬時加速で消えた。そして、

 

ザンッ!

 

一夏

「ぐああ!…な、なに!?…!」

 

突如後ろから斬りかかられる感覚があった一夏。驚いて振り向くとそこにはゼフィルスがいた。

 

「……」

一夏

「お、お前今の動きは!?」

「瞬時加速で一度貴様から離れてまた近づいた。単にそれだけだ」

一夏

「くっ…火影や海之程じゃねぇがこいつまで」

「あの時の男か…。奴にも大きな借りがあるが今はどうでも良い。私の標的は貴様だからな」

一夏

「何故俺を狙う!?お前もあのオータムって奴と同じく白式が狙いか!?」

「…何度も言わせるな。標的は貴様だと言った筈だ。…最もその程度の腕ではその機体が泣くがな」

一夏

「!……俺は、…俺は負けられねぇんだ!」

 

そう言って一夏は雪片を構える。…しかし、

 

 

…キュゥゥゥゥン…

 

 

一夏

「!」

 

一夏は驚いた。白式のSEがほぼ0になりかけていたのだ。度重なる瞬時加速と先程ビット破壊のために零落白夜を使った事で気付かない内に消費していたらしい。

 

一夏

「しまった!白式のSEが!」

「…どうした?強がった割にはそんなものか?ではもう終わらせてもらおう」

 

そう言うとMはビットを一夏に向ける。

 

一夏

「くっ!」

 

撃墜を覚悟する一夏。…とその時、

 

ズダダダダダダダダッ!

 

一夏・M

「「!」」

 

ガキキキキキキンッ!

 

突然横からMに向かって砲撃があった。それをMはビットのシールドで防ぐ。

 

「…なんだ?」

楯無

「…惜しかったわねぇ、もうちょっとだったんだけど。大丈夫?一夏くん」

 

それはミステリアス・レイディを纏った楯無であった。

 

一夏

「た、楯無先輩!どうして!?」

楯無

「忘れたの?私もキャノンボール・ファーストの出場者よ?ならここにいるのは当たり前じゃない♪」

「……楯無。…そうか、貴様があの更識楯無か。貴様も私の邪魔をするのか?」

楯無

「可愛い後輩が目の前でやられそうなのを黙って見てるのは性に合わないのよね。ああでもあなたと最後まで戦う事はしないわよ?私は一夏くん復活までの足止めだから♪」

「…ふん、そいつは最早何もできん。邪魔するのならまず貴様から沈めてやる」

楯無

「上等ね!現役のロシア代表の腕を見せてあげるわ!」

 

ドンッ!

 

そう言うと楯無はMに向かって行く。

 

一夏

「楯無先輩!……くっそぉ…、復活っていったって白式のSEはもう殆ど尽きかけてるし…、どうすりゃ…」

 

殆ど満足に動くことさえできない一夏の白式。…するとそこに、

 

「一夏―――!」

一夏

「箒、どうした!?……それは!」

 

 

…………

 

ガキンッ!キィィィィンッ!ドドドドドッ!

 

一方、楯無とMの戦いは一夏達よりも高速で激しいものだった。剣と槍がぶつかり、槍からの銃撃とビットの砲撃が交差する。だが多少とはいえダメージ、そして武装の差でMの方がやや不利であった。…暫くの後、互いに距離を取る。

 

ガキィィィィィンッ!……バッ!

 

「……ちっ、現役の国家代表だけの事はある。流石にきついか」

楯無

「あら、先程までの強がりは消えたの?ちょっと戦ってみて思ったけど…貴女もかなり強いみたいだけど火影くんや海之くんにはまだまだ敵わないわね」

「貴様も奴らを知っているのか…。答えろ、奴らは何者だ?」

楯無

「何者もなにも火影くんと海之くんよ。それ以外の何者でもないわ」

「ふざけるな!あれ程の力を持つ者が何故こんなところにいる!?」

楯無

「あら?ふたりが強いってこと自覚してるのね」

「! ちっ!……火影…海之…。まさか……奴らが主の…」

楯無

「…えっ?」

 

楯無が聞き返したその時、

 

一夏

「うおぉぉぉぉ!!」

「!!」

 

ガキキキンッ!

 

Mは剣で一夏のアラストルの一撃をかろうじて防いだ。

 

「織斑一夏!?貴様何故!?」

一夏

「そんな事お前に言う必要はねぇ!…けどまぁひとつ言えるとすりゃ仲間のお陰だ!」

 

 

…………

 

やや数刻前、

 

「一夏―――!」

一夏

「箒、どうした!?……それは!」

 

一夏が見たのは光輝く紅椿に乗る箒だった。

 

「ああ、紅椿の単一特殊能力「絢爛舞踏」だ!」

一夏

「だけどそれは使い方が分からなかったんじゃ…?」

「ああ。でもなんとなく分かった気がする。こいつの使い方がな……」

 

 

…………

 

(回想)

 

楯無

(確か紅椿って篠ノ之博士が造ったのよね?聞いてみたりした?)

(ええ一応…。そしたら一夏と一緒に戦えば良いって)

シャル

(一夏が関係しているって事?)

 

※Mission81をご覧ください。

 

 

…………

 

(あの時の姉さんの言葉は……おそらくこういう事だったんだ。………感謝します……姉さん)

 

箒は心で束に礼を言った。

 

一夏

「箒?」

「…なんでもない。さぁ急げ一夏!SEを補給しろ!」

一夏

「あっ、そうだな!すまねぇ!」

 

 

…………

 

こうして一夏と白式は復活したのであった。

 

「ちっ!」

 

思わぬ事態にとっさに対応できないM。とその時、

 

セシリア

「一夏さん!どいてくださいまし!」

一夏

「おう!」

 

セシリアの合図でその場を離れる一夏。すると、

 

ドドドドンッ!

 

一夏の背後から突然レーザーが飛んできた。それはティアーズのビットのレーザーであった。

 

「馬鹿め!直線の砲撃など!」ドンッ!

 

そういうとMは瞬時加速で避ける。しかし、

 

…ギュンッ!

 

ティアーズのビットからのレーザーが曲がった。それは先程のゼフィルスと同じものであった。

 

「! なに!」

 

ドドドドドドドンッ!

 

思わぬ攻撃に回避しきれなかったMは急遽ビットのシールドでそれを防御する。

 

「くっ…、まさか貴様も偏光射撃できるとはな」

セシリア

「…いいえ、今までの私にはできませんでしたわ。…でも私、先程一夏さんに助けられた時、強く願いましたの。一夏さんの力になりたいと!…そうしたらティアーズが私の想いに応えてくれましたわ!」

「戯言を!」

一夏

「おぉぉぉぉぉ!」

「!」

 

シュン!ドガァァァン!…シュンッ!ドガァン!

 

Mがセシリアの相手をしていた一瞬、一夏はトムボーイとアラストルによる高加速でブリンク・イグニッションし、もう片手に持った雪片による零落白夜でビットのシールドを斬り裂き、破壊した。

 

ガキィィィンッ!

 

「くっ!先程よりまた動きが速くなっている!?」

一夏

「……さっきお前が言った通りだよ。俺はまだまだ弱え。ひとりじゃお前にもとても敵わねぇ…。でも俺には仲間がいる!守りたいものがある!…そして追いつきたいやつらがいる!そしてそいつらは信じてくれてるんだ!俺がもっと強くなる事を!だからお前らなんかに負けねぇ!」

「ぐっ!こんな!」

 

ドガァァァァン!

 

「うわぁぁぁあ!!」

 

攻撃を受け続けてきたゼフィルスのショートソードが一夏の攻撃で耐えきれず、遂に破壊された。その衝撃でMが吹っ飛ぶ。

 

一夏

「とどめだ!零落白夜!」

 

一夏は雪片の零落白夜を起動し、Mに斬りかかろうと接近する。武装を全て失ったMはなす術が無かった。……とその時、

 

 

ヴゥン!!

 

 

一夏

「えっ!?」

 

一夏は目を疑った。目の前にいたMの周囲に突然、先程のグリフォン出現の様な空間の歪みが発生したのだ。そして気付いた時には……Mの姿は無かった。

 

一夏

「き、消えた!?瞬時加速?……いや違う!箒、セシリア、楯無さん!あいつは!?」

「い、いや。こっちにも反応がない…」

セシリア

「こちらもですわ…」

楯無

「……私のレイディにも反応が無いわ。どうやら逃げた様ね」

「に、逃げたってあんな一瞬で…?」

楯無

「だって近くにいないならそういう事でしょ?」

セシリア

「…一瞬で消えた…。まるで火影さんのエアトリックのようですわね…」

楯無

「…でも火影くんのとはおそらく違うわよ。もしあいつも使えたならとっくに使っていただろうし」

セシリア

「確かに…。しかし変でしたわね先程の。まるであの鳥が現れた時の様でしたわ…」

「あの女とあの鳥が同じ様な事を…。そしてあの女はファントム・タスクの人間。…という事は…」

楯無

「ええ。箒ちゃんの言う通り、あの鳥もファントム・タスクのものと考えていいわね」

セシリア

「あの鳥も…。そして何故あの人は一夏さんを…。…………一夏さん?」

一夏

「………」

 

キュゥゥゥゥンッ…ドサッ!

 

一夏は突然白式を解除、その場に倒れてしまった。

 

箒・セシリア

「「一夏(さん)!!」」

 

ふたりは一夏に近づく。すると、

 

一夏

「ぐ~~!」

 

一夏は大きないびきをかいて寝ていた。

 

「ね、寝てる?」

楯無

「どうやら体力を使い切った様ね。まぁ仕方ないわね。あれだけ頑張ったんだもの。…でもやっぱりガッツあるじゃない♪」

セシリア

「……ええ。本当に素敵でしたわ一夏さん」

「……一夏」

 

三人は救援が来るまで一夏の傍を離れなかった。こうしてキャノンボール・ファーストは思いもよらない形で終わりを迎えたのであった…。

 

 

…………

 

その頃、別室で一夏達の無事を確認し、火影達との通信を終えた千冬は、

 

千冬

「……一夏。それに…箒もセシリアも、楯無も無事で良かった。……だがおそらくこのまま終わる事はないだろう。また先程の者も、そしてあの謎のISも、また何れ現れる可能性が高い。………早く開花してくれ、…………暮桜よ…」




おまけ

その頃、会場から突然消えたMはオータムやスコールの所へ戻って来ていた…。

スコール
「お帰りなさいM。無事で良かったわ」

「……」
オータム
「けっ!あんだけ調子こいて出てったわりにゃ無様な結果だなぁMゥ~?」

「……否定はしない」
スコール
「はいはいよしなさいオータム。M、戻ったらあの人が部屋に来てほしいって言ってたわよ」

「…わかった」

そう言うとMは出て行った…。

オータム
「……けっ」
スコール
「はいはい。……でも織斑一夏の事もあるけど、気になるのはもう片方の方ね。衛星で見てたけど…新型のグリフォンをあんなあっけなく倒すなんて…」
オータム
「あいつの新型も大した事ねぇなぁ~」
スコール
「…それにしても簡単に倒し過ぎるわね。…特にあのふたつのそっくりなISが中核ね」
オータム
「あの赤い野郎…、コアをまともに食らっても生きてやがったのか…」
スコール
「……あの赤色と青色のIS……一体…?」


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Mission107 更なる予兆

火影と海之、鈴達がグリフォンの撃破に成功した頃よりほんの数刻前、一夏・箒・セシリアの三人も会場でMが駆るサイレント・ゼフィルスと対峙していた。最初はやはりMに圧される一夏達であったが、一夏への想いから目覚めた箒の紅椿の絢爛舞踏やセシリアのティアーズの偏光射撃。楯無の参戦。そして一夏の自分を支えてくれる者達のために負けられない想いが次第にMを圧し始める。そして一夏がとうとうMにとどめを!……そう思った瞬間、Mは彼等の目の前から忽然と姿を消した。
一体Mはどこへ…?謎は残ったが取り合えず目の前の問題を解決し、互いの無事を喜び合うみんなであった…。


Mとグリフォンによるキャノンボール・ファースト襲撃から二日が経った。

あの後一夏は以前火影と海之がほぼ丸一日眠った様に、翌日の夕刻まで全く起きずに眠り続けたのだった。当然その間は箒とセシリア、そしてふたり程ではないが楯無も交代で一夏の看病をしていた。そして……、

 

 

IS学園 医務室前の廊下

 

一夏

「ありがとうございました~」

 

ガラッ

 

「一夏、先生はなんと?」

一夏

「全く問題ないってさ。もうすっかり大丈夫だ」

セシリア

「良かったですわ!」

本音

「ほんとだね~!」

「あんたは昔から怪我の治りは早かったもんね。インフルエンザなんかも一日で治ってたっけ?」

「イ、インフルエンザって一日位じゃ治らないんじゃ…?」

一夏

「俺もそう思ってたけど翌日にはウイルスも全部無くなってスッキリだったぜ?」

ラウラ

「成程。これが馬鹿は風邪ひかない、というやつか」

シャル

「ラウラ、それは意味も違うし言い過ぎ…。まぁでもみんな無事で良かったよね。サイレント・ゼフィルスもあの鳥も倒せたし、幸い観客にも誰ひとり被害はなかったって聞いたし」

ラウラ

「ああ。しかし一夏達がゼフィルスと戦っていたとはな…。結果とはいえ分断してしまったのは不味かったか」

セシリア

「仕方ありませんわ。あんな事になるなんて誰も思いもしなかったですもの」

「ああ。…それに全部が悪かった訳ではない。私は紅椿の特性も掴めたし、セシリアはビットを更に使いこなせるようになったからな」

シャル

「紅椿の特性?」

「そ、それは秘密だ。…ところでお前達もよくあんな奴を倒せたな。火影と海之もいたとはいえ」

「ううん。私達はふたりの指示に従って戦ってたから。私達が危なかった時も全部助けてもらってたし、そのお陰でみんな無傷だったんだよ」

「そうね。火影達がいなきゃ危なかったわ。私達が最適な攻撃ができる様に囮同然になってくれたのよ。まぁふたり共簡単に蹴散らしてたけど」

一夏

「……やっぱあいつらすげぇな」

「そう言うな一夏。お前も私達を助けてくれたではないか。本当に感謝しているぞ」

セシリア

「そうですわ一夏さん。貴方は立派なナイトでしたわ」

一夏

「…へへっ、ありがとなふたり共。…所で火影と海之は?」

本音

「ひかりんとみうみうはかっちゃんと一緒に織斑先生の所に行ったよ~?お話があるんだって」

 

 

…………

 

その頃、火影と海之は千冬・真耶・楯無と一緒に先日の事態について話し合っていた。

 

千冬

「……成程。やはりあの時現れたのも…お前達がかつて前世で戦った事があるものだったか」

海之

「確証はありませんがおそらく間違いないと思います。先のふたつと同じく良く似ていましたから。まぁ奴も機械という意味では違いますが」

真耶

「と言う事はふたりはあれの名前も知っているんですか?」

火影

「ええ。おそらくあれの名は……「グリフォン」といいます」

楯無

「グリフォン、か…。神話に出てくる生き物にも同じ名前のものがいるわね。言われてみれば形もよく似てるわ」

千冬

「……だが奴にはゴスペルの武装である銀の鐘が使われていた」

火影

「ええ。俺達が前世で戦った奴にはあの様な武装も技もありませんでした。おそらく新たな武装として付け加えたんでしょう。ゴスペルのデータを流用して」

真耶

「…じゃあやっぱりあの時ゴスペルとファイルスさんを誘拐したのも…」

楯無

「ファントム・タスクでしょうね…。そしてグリフォンという新たな敵…。これでますます確実性が増したわね。以前篠ノ之博士が言った通り……向こうにもいる。君達の様な転生者が」

火影・海之

「「……」」

 

何も言わなかったがふたりも多分間違いないと感じていた。

 

千冬

「今はその事を話しても仕方ないだろう。手がかりも無いからな。それよりグリフォンだが…倒す事は可能なんだな?」

海之

「はい。多少武装が変わっているとしても奴の戦い方は把握しています。それに奴は悪魔と違って機械です。プログラム以外の事はできません」

火影

「しぶとさで言えば寧ろ俺達が知っている奴らの方が上でしたね。鈴や簪達も経験していますし、次はもっと有利に戦えるでしょう。あれがアンジェロの様に数で来れば厄介ですが…その時は俺達がやります」

真耶

「無茶はしないでくださいねふたり共」

楯無

「そうよ。ふたりのISだって万全じゃないんだからね。私も手伝うから」

海之

「ありがとうございます」

千冬

「……」

火影

「先生?」

千冬

「あっ、す、すまない。……グリフォンという奴についてはこれ位にしておこう。次はゼフィルスだが…」

火影

「…すいません。俺達が現場を離れたばかりにみんなや観客を危険に晒してしまって」

真耶

「そんな!ふたりは悪くありません!みんなを守るために戦ってくれたのですから」

楯無

「その通りよ、君達は悪くないわ。だからそんな風に考えるのはよしなさい。良いわね?」

海之

「…ありがとうございます」

火影

「しかしまさかMが入りこんでいたなんてな」

真耶

「M?」

火影

「ああ、以前俺が戦った時にあのオータムって奴がゼフィルスの操縦者をそう呼んでいたんです」

楯無

「…M…。おそらくコードネームでしょうね」

海之

「そういえば箒達から聞きましたが…、ゼフィルスの操縦者は一夏の命を狙ってきたのですね?」

楯無

「ええ。あの女の話からすればその様だったわ。でもそのまま挑んだら君達に邪魔される。そうさせないためにグリフォンを使ったみたい」

真耶

「…なんで織斑くんを…。先日のオータムって人は白式が目当てだったらしいですから織斑くんが直接の狙いだった訳では無いらしいですけど…」

火影

「…Mとオータムとでは目的が違ったという事か…?Mの狙いは一夏の命…」

千冬

「……!!!」

 

その時一瞬だけだが千冬の表情が変わった。

 

海之

「? どうしました先生?」

千冬

「……いや、何でもない」

海之

「……」

 

海之は何かを感じ取ったようだがその場ではそれ以上追及しない事にした。

 

海之

「もうひとつ。一夏がゼフィルスにとどめを刺そうとした時、奴は目の前で急に消えたのですね?」

真耶

「…はい。本当にいきなり。あの鳥…グリフォンでしたっけ?あれが出現した時の様な空間の歪みみたいなものがあの人を覆って、気付いた時には…」

火影

「…いなくなっていた」

真耶

「はい…」

海之

「……」

(グリフォンの突然の出現、ゼフィルスの操縦者の消失。………まさか、………いやありえん。この世界には魔力はない。それに俺達以外の転生者とはいえ、人間に転位等できる筈は無い………)

楯無

「でも今度はそう簡単に負ける事はないと思うわよ?箒ちゃんもセシリアちゃんもパワーアップしたみたいだし、一夏くんはあの件で益々やる気になってるみたいだしね♪」

火影

「…それは楯無さんも同じなんじゃないですか?なんか雰囲気が違いますよ?」

楯無

「さぁ~どうかしらね~♪…まぁでもふたりにばかり任せる訳にはいかないと言うのは本当よ?そのためにより強くなろうと思うし。それに織斑先生もね」

火影

「先生?」

千冬

「いずれ分かる。…さて、今日はこれ位にしておくとしよう。わかっていると思うがここでの会話は一切他言無用だ。いいな?」

真耶

「もちろんです」

火影

「……」

楯無

「? どうしたの火影くん?」

火影

「…なら束さんにも聞かせないでくださいよ」

真耶

「えっ?篠ノ之博士はここにはいませんけど!?」

海之

「……机の上のメモ用紙」

楯無

「えっ?」

 

みんなが見てみると机の上に確かにメモ用紙の束が置かれてた。しかしその一番上の用紙の真ん中部分が不自然にやや膨らんでいる。

 

千冬

「……」

 

千冬がそれをめくると……そこには兎の形の小さな置物があった。そしてそこから声が聞こえてきた。

 

(……てへ♪やっぱりばれちゃったか。しかも今回はひーくんに気づかれるとは。ひーくんもまたできる様になったね!)

火影

「…まぁ盗聴器は初めてじゃありませんから」

※Mission41をご覧ください。

真耶

「篠ノ之博士!?そ、それに盗聴器って!」

楯無

「い、何時から…?もしかして織斑先生…」

千冬

「……すまん。あの時のグリフォンとの戦いを衛星から見ていたらしくてな。あの後すぐ送りつけてきた…。全く面倒な奴だよ」

(いや~それ程でも~♪ひーくんみーくんお疲れ様ね~!またブサイクな奴をやっつけてくれて、全てのISのお母さんである束さんとしたら嬉しい限りだよ♪)

海之

「…どうも」

火影

「束さん。誰にも今の話言わないでくださいよ?」

(ガビーン!!ひーくん疑ってるの~!?束さん大ショーック!!)

千冬

「盗聴器なんて送りつけてくるお前が悪い」

火影

「はは、冗談ですよ束さん。…クロエ、どうせお前もそこで聞いてんだろ?相変らず大変だなお前も」

クロエ

(………)

 

火影の言う通り束の傍にはクロエがいた。…しかし彼女からの返事は無かった。

 

海之

「…クロエ?」

クロエ

(はっ!す、すみません!ちょっとボーッとしちゃって)

(あれ~?クーちゃんもしかして照れてる~?早速おにい)

クロエ

(わ―――!!!)

 

奥からクロエの大声が聞こえた。

 

楯無

「び、吃驚した…」

火影

「どうしたクロエ?」

クロエ

(な、なんでもありません火影さん!私は大丈夫です!)

火影

「そ、そうか」

(クーちゃんかわいい~♪)

クロエ

(……う~……)

海之

「?」

 

その後、束とクロエも交えて少し話した所で全員解散となったのであった……。

 

 

…………

 

??? オータムの部屋

 

スコール

「オータム、入るわよ」

 

ウィーン

 

オータム

「おおスコール。何か用か?」

スコール

「ええ。オータム、あの人が呼んでるわよ」

オータム

「…けっ、スコールが用があった訳じゃあねぇのか。…まいっか、あいよ。スコールも付いてきてくれよ?」

スコール

「ふふっ、甘えん坊さんねオータムは。わかったわ」

 

 

…………

 

?の部屋

 

ウィーンッ

 

「……」

オータム

「おーい来てやったぜ~。ありがたく思いやがれよ?」

スコール

「待たせて御免なさいね。Mは?」

「……ゼフィルスの修理と改良中だ」

オータム

「だろうな。つってもあんなコテンパンにやられたら暫くはISの活動はできないだろうな。大口叩いてる割りに大したことねぇ」

スコール

「こぉら、オータム。ねぇ、オータムを呼んだって事はもしかして?」

「ああ。アラクネの修復が完了した。基本性能もUPさせてある」

オータム

「やっとか。随分掛かって待ちくたびれたぜ」

「それと新たな機能を追加しておいた」

スコール

「新たな機能?」

オータム

「おい!俺のISに何勝手な事してくれてんだ!」

「怒るな。お前も力が欲しいだろう?」

オータム

「……ちっ。どんな機能なんだよ一体?」

「心の底から望めばそれは力を貸してくれる」

オータム

「なんだそりゃ?望めば力を貸すって…まるでVTSみてぇだな」

「あんな出来損ないとは違う」

スコール

「なんという機能なの?」

 

スコールが尋ねると男はゆっくり答えた。

 

「…DNS。正しくは………」




果たして「DNS」とは何を意味するのか?


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第八章 Confession
Mission108 労い会と思わぬ告白


Mとの戦いから二日後。死んだ様に眠っていた一夏はすっかり元気になっていた。目覚めた一夏は鈴達から新たに現れたグリフォンさえも火影と海之は簡単に倒したと聞き、改めてふたりとの力の差を感じる一方、箒達から自分も確かに強くなっていると励まされ、喜ぶ。その火影と海之は千冬や楯無、束達にグリフォンもかつて自分達がいた世界で戦った存在であると話し、今後の対応策について検討するのだった。

……一方、ファントム・タスクのオータムは謎の男から自身のアラクネに新たな機能を取り入れたと説明される。男はその名を「DNS」と言った。


IS学園 とある一室

 

「……よし、これで完了。ふぅ~、なんとか間に合ったな。そっちは?」

「問題ない」

「こっちも大丈夫だぜ~。……つってもまたこれを着る意味あんのか?」

「まぁいいじゃねぇか。あいつら頑張ったんだからこれ位で喜ぶのなら一回位安いもんだ」

「……ハァ」

 

 

…………

 

IS学園 廊下

 

キャノンボール・ファーストが終わって初の休日。この日箒達は学園内のある部屋に向かっていた。というのは前日の授業が終わった直後、突然一夏が教壇に上がり、みんなにある発表をしたからであった。

 

一夏

(明日みんなでここに来てくれ!俺は先に行ってるからな!あああと制服じゃなくてもいいからな!)

 

……という訳で箒達だけでなく、一組内で行ける生徒達みんなで一夏から指示された部屋に向かっていたのだった。

 

「なんだろうね~?織斑くんからのお誘いって」

「分からないけどきっと何か考えがあるんだと思うよ~?篠ノ之さん達だけじゃなく私達まで呼んでくれたんだもん!」

「行けなかった子、「一生の不覚!」って青ざめてたよ」

 

セシリア

「…一体何でしょう一夏さん。私達だけじゃなく一組の皆さんまで」

シャル

「そうだよねぇ。箒は何か聞いてない?」

「ああ私も聞いていないんだ。聞いても教えてくれなくてな…。火影なら何か聞いているかなと思ってあの後聞いてみたんだが、何も知らなかったそうだ」

ラウラ

「私も海之に聞いたが同じ返答だったな。…そういえば本音、火影はどうした?」

本音

「ひかりんなら朝早くからみうみうと出かけたよ~?大事な用事があるから行けないって~」

「なんなのよ一体…。……というか大事な用事って、まさかまた勝手に危ない事しようってんじゃないでしょうね!?もしそうなら許さないわよ!」

本音

「お、落ち着いて鈴~!ひかりんそんな様子無かったよ~」

シャル

「う、うん。それに織斑先生もそんな話してなかったから僕も多分違うと思うな…」

「海之くんも心配するなって言ってたから多分違うよ鈴。だから安心して?」

「…………うん」

「…しかしどこに行ったんだろうなふたり共。おまけに一夏とも今朝から連絡がとれんし…」

ラウラ

「まぁふたりなら問題ないだろう。取り合えず一夏の言う通り行ってみようではないか。誘った以上間違いなくいるだろうしな」

セシリア

「そうですわね。……あっ、あの部屋でしょうか?」

 

気付かない内に一夏が指定した部屋が見えてきた。

 

シャル

「多目的室?」

「……取り合えず入ろうか」…コンコン「失礼します」

生徒達

「「「失礼しまーす!」」」

 

ガラッ

 

彼女達はノックして扉を開けた。するとそこにいたのは……、

 

 

火影・海之・一夏

「「「お帰りなさいませ、お嬢様方」」」

 

 

先の学園祭の時に見た、執事姿の火影・海之・一夏の三人だった。

 

女子達

「「「………」」」

 

目の前で起こっている思いもよらない事態にとっさに反応できない少女達。

 

火影

「本日は先に行われた学園祭、そしてキャノンボール・ファーストでの、お嬢様方の疲れを少しでも労いたいと我々、この様な企画を計画致しました」

海之

「勝手な事をし、誠に申し訳ありません。テーブルの上にありますのは私達が全て手作りしたものでございます」

一夏

「大したものではありませんがどうぞごゆっくりお楽しみくださいませ」

 

三人の言う通り、机の上には様々なケーキやパフェ、タルトに和の甘味、ゼリーにクッキー、更にはサンドイッチやピザまで多くのデザートや料理が並んでいた。

 

女子達

「「「………」」」

 

説明を受けても相変らず反応できない。だが暫くすると、

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!

 

 

思った通り一斉に黄色い歓声が上がったのだった……。

 

 

…………

 

「あ~もう最高♪今日死んでもいいわ!」

「私学園際の時、部の出し物で来れなかったのよ!夢みたい!」

「一夏くん達のスイーツ絶品ね~!ダイエットの決心が揺らいじゃうわ!」

「夢にまで見た火影くん達の執事姿……。ああ神様、私は幸せです!」

「やっぱり海之くんの執事姿は画になるわぁ~!カメラ持ってくれば良かった~!」

 

労い会は予想以上の反響だった。

火影達が用意したデザートや料理を存分に堪能する者。

火影達の執事姿に妙な妄想をしている者。

そんなこんなで大成功?していたのである。そして喜んでいるのは彼女達も例外ではない様で、

 

本音

「う~ん!やっぱりひかりんのストロベリーサンデーは美味しいね~!」

「…うむ。確かに一夏の手作りのクッキーの味だ…。懐かしいな」

セシリア

「このゼリーに使われているの…果物でなくて野菜ですわ!デザートにも合いますのね!」

シャル

「ねぇラウラ、前に火影が食べさせてくれたっていうピザってこれ?」

ラウラ

「ああそうだ。ストロベリーとマシュマロのピザ。私一回食べただけで好物になってしまったぞ」

「海之くんの手料理…。初めて食べたけどすごく美味しい…」

「そう言えば簪は前の食事会の時はいなかったのよね。良かったわね食べれて」

 

みんな楽しそうにしていた。……火影達はそんな彼女たちの様子を離れた所からジュースを手に眺めている。

 

火影

「みんな楽しそうだな」

一夏

「そうだな。思いつきでやってみたが良かったぜ」

海之

「…こういうのも悪くないか…」

 

 

…………

 

時は少し遡って二日前。火影・海之・一夏は食堂にいた。

 

海之

「…労い会?」

一夏

「ああ。あいつらのために開かないかと思ってな。学園祭の時もできなかったし、キャノンボール・ファーストの分も合わせてな」

火影

「どういう事やるんだ?」

一夏

「大して難しい事はしなくて良いさ。例えば……三人で料理やデザートを用意するとかな。経費は学園祭の時の支度金がまだ残ってるし。ほら、服を手造りしたろ?あれで浮いた分が結構あんだよ。更に収入金も大分あったからな。場所は千冬姉に許可をもらえば良いし。…でどうだ?」

火影

「俺は別に構わないぜ。面白そうだしな」

海之

「あいつらには日頃世話になっているからな。…良いだろう」

一夏

「んじゃ準備に入るとすっか」

 

 

…………

 

それから三人は千冬に事情を話し、部屋の確保と材料の用意の承諾を貰い、本日の労い会を実施したのであった。

 

火影

「まぁキャノンボール・ファーストに関しては中途半端に終わっちまったけどな。みんな楽しみにしてたらしいし」

海之

「仕方あるまい。状況が状況だった。見物客に負傷者が出なかっただけ良しとするべきだろう」

一夏

「だな。…しかしやっぱふたりは強いよなぁ。俺なんて箒やセシリア、それに楯無さんも助けにきてくれなけりゃ間違いなく勝てなかったし…まだまだだ」

海之

「……一夏、気落ちする事は決して無いぞ」

一夏

「え?」

火影

「海之の言う通りだぜ。考えてみろ?半年前のお前はISを動かすのもやっとという感じだった。それが今はどうだ?白式を進化させたりゴスペルを倒したり、ブリンク・イグニッションも少しずつだが使える様になってきた。そして逃げられたとはいえ今回のゼフィルスの撃退。お前は十分過ぎる位成長してるよ」

海之

「その通りだ。…それに俺も火影も最初から力があった訳ではない。特に俺など、以前は散々敗れ続けたものだ」

一夏

「えっ海之が!?マジか!!」

海之

「……箒と同じ反応するんだな。…まぁいい。一夏、焦る事はない。お前はまだ若い。これからの努力次第だ」

火影

「そう言う事だ。お前なら必ずもっと強くなれるさ」

一夏

「……ありがとよふたり共」

 

ふたりの言葉に一夏は感謝するのだった。

 

一夏

「……しっかしふたりって本当に16歳か?さっきの海之の言い方といい、なんかじいちゃんみたいな話し方だぜ?お前はまだ若いって。年齢誤魔化してんじゃね~の~?」

火影

「…はは」

海之

「……」

 

まさか記憶だけは100年以上という事等言える訳はなく、ふたりは苦笑いするのだった。

 

セシリア

「一夏さん達もこちらにいらっしゃって下さい!」

ラウラ

「そうだぞ海之。遠慮するな!」

シャル

「といっても火影達の料理だけどね」

一夏

「…行くか」

一夏

「ああ」

海之

「うむ」

 

三人もみんなの中に加わる事にした。

 

「やっと来たな三人共。……しかし正直に凄く驚いたぞ。まさかこんな事をしているとは」

一夏

「悪いな箒。驚かしたくて」

本音

「鈴なんてスッゴク心配してたんだよ~!ひかりん達に連絡繋がらないから~」

「おまけに凄く怒ってたよね?また勝手な事して!って。ふふっ」

「ちょ、ちょっと本音!簪まで何言ってんの!」

火影

「……悪かったな鈴。また勝手な事して」

海之

「…すまない」

「えっ!う、ううん!ふたりは何も悪くないから!私が」

 

とその時、ひとりの女子が火影に声をかけてきた。

 

少女

「…ちょっといい?」

火影

「ん?俺か?」

少女

「このピザって火影くんが作ったんだよね?すごく美味しいよ」

火影

「そいつはどうも」

少女

「…………あのさ、火影くん。ちょっと…聞きたいん事があるんだけどさ?……良いかな?」

火影

「ああ。何だ?」

 

少女はもじもじしながら驚く質問をした。

 

少女

「……あの…火影くんって………、好きな子とか……いる?」

火影

「…好きな子?」

鈴・シャル・本音

「「「!!」」」

 

少女からの思わぬ質問に火影に好意を抱く三人は動揺する。

 

少女

「ごめんね?いきなりこんな事聞いちゃって……」

火影

「…いや、別にかまわねぇが…。でもなんでだ?」

 

火影は疑問に思って聞いてみた。すると少女は答えた。

 

少女

「うん。……あのね、…それでね?もし…もしいないのなら……、私と……付き合って…ほしい……。駄目…?」

鈴・シャル・本音

「「「!!!」」」

火影

「……」

 

少女からの思わぬ告白に横から聞いていた鈴達は先程以上に激しく動揺していたが、周りの目を考えているのか声に出せない。因みに他の女子達はそれぞれ盛り上がっているらしく少女の言葉に気付いていなかった。……一部を除いて。

 

(お、おい!もしかしてこれは!!)

(もしかしても何もそうだよ!!)

セシリア

(どどど、どうされるのでしょう火影さん!?)

ラウラ

(き、気持ちはわかるが落ち着けみんな!)

海之

「……」

一夏

「?なぁなんでみんな小声で喋り出したんだ?」

 

………少しの時間の後、質問された火影がゆっくり口を開いた。

 

火影

「……ありがとよ。俺みたいな奴にそんな事言ってくれるなんてな……。素直に嬉しいぜ」

少女

「……」

鈴・シャル・本音

「「「……」」」

 

火影の言葉を正面から聞く少女。気付かれない様横から聞き耳を立てる鈴達(プラス箒達)。少女達は一見冷静な様だがその心中は全く穏やかでは無かった。

………そして火影が出した返事は、

 

火影

「…………だけど悪い。あんた、いや…君の気持ちに……応える事は…できない」

鈴・シャル・本音

「「「!!」」」

 

火影は静かに少女の申し出を断った。

 

女子

「……好きな子がいるの?」

鈴・シャル・本音

「「「……」」」

 

少女からのその質問に鈴達は緊張する。火影はゆっくりと答えた。

 

火影

「……わからねぇ」

少女

「…えっ?」

鈴・シャル・本音

「「「…?」」」

火影

「わからねぇんだ…俺には。今までそんな風に人を想った事が無かったからな…。君の言う…誰か特定のひとりだけ、特別な感情を持つっていうのがな…。両親にも聞かなかったし、俺には全く縁がない話と思ってた位だ…」

少女

「……」

火影

「……ただ」

少女

「…?」

 

言葉を考えながらか、火影はゆっくり話を続ける。

 

火影

「上手く言えねぇけど……、君の言う「特に好きって思う子」はいないかもしれねぇけど………、「特に守りたいって思う子達」は……いるかもしれねぇ。俺の事を信じてくれて…、君みたいに俺の事を…好き、と言ってくれる」

鈴・シャル・本音

「「「!!!」」」

少女

「……」

火影

「でも間違えないでくれ。君も俺の守りたいって思うひとりだ。つーかこの学園の人みんなそうだ。全部…俺の大切なものだ。それはどうか信じてほしい。君の事は決して嫌いじゃない。大事なクラスメートだ。だから…君の気持には応えられねぇけど、君さえよければ……これからも友達として……交流してほしい」

少女

「……」

 

火影が話している間、少女は黙ったまま俯いていた。そしてゆっくり顔を上げる。

 

少女

「……ふふっ」

 

彼女は笑っていた。

 

少女

「うん、もちろん。火影くんの彼女になれないのは残念だけど…火影くんから大切って言ってもらえたのは…私凄く嬉しい。…これからも良い友達でいてね」

火影

「…ああ」

 

火影と少女は互いに握手をした。

 

少女

「あっそうだ火影くん。ひとつ教えておくね?さっき火影くん「特に好きな子はいないけど特に守りたい子達」はいるって言ったよね?…それもう完全に気になる子がいるってことだから♪あと「子達」ってことはひとりじゃないってことね♪」

火影

「……えっ?」

鈴・シャル・本音

「「「!!!」」」

少女

「頑張ってね♪」

 

そう言うと少女は笑顔で再び友達の中に戻って行った…。

 

火影

「……」

 

黙ったままの火影。そんな火影に海之が声をかける。

 

海之

「お疲れの様だな?」

火影

「……戦いとは全く違う、な。……俺はあの子を傷つけたろうな…」

海之

「そうだな」

火影

「…遠慮ねぇな」

海之

「お前にその気がないまま応える方がより彼女を傷つけるだけだ。ならはっきり断った方が良い」

火影

「……」

海之

「…人間とは悩む生き物だ」ポンッ

 

そう言って海之は火影の肩に手を置いた。

 

火影

「…そうだな」

 

今迄にない経験をした事で火影もまた成長したようであった。

……ふたりがそんな話をしている一方、こちらはまた別の話をしていた。

 

(ど、どう思う?先程の彼女の意見…)

(ど、どうって言われても…)

セシリア

(でも確かに筋は通ってますわ。特に守りたい人がいるというのと気になる人がいるというのが同意義というのは)

ラウラ

(……しかしもしそうだとして今後の鈴達が心配だな。果たして無事に過ごせるかどうか…)

(確かにな。この前の会話から火影の奴はあいつらの気持ちに気付いている様だが…、ここまではっきり言われてしまうと嬉しいより寧ろ落ち着かないぞ)

(…私達は暖かく見守るしかないのかも)

一夏

「…なんかまた箒達小声で話してんな。さっきはみんな一言も喋らなかったし…、なぁ鈴。………鈴?」

鈴・シャル・本音

「「「……」」」

 

一夏に話しかけられた鈴達は何も話さずに俯いていた。その心中は、

 

(……言ってた。……さっき火影、確かに言ってた。自分の事を好きって言ってくれる子達って……。も、もしかして…あの時の医務室での会話……。ううんそんな訳ない!あの時火影寝てたもの!………でも、はっきり言った時と言えばあの時位しか…。ど、どうしたらいいのよ~!あんなぶっちゃけた告白もし聞かれてたら……)

シャル

(ま、まさか火影、僕が火影のおでこにキスした時も起きてたんじゃ…!!う、ううんそれは考えすぎか…。あの時寝てた事は一緒にいたから知ってるし…。で、でもそれじゃ何時から!?もしあの直ぐ後なら…僕がふたりに言った言葉も聞かれてるかもしれないって事だよね!?……どうしよう……)

本音

(わわわわ私だったよね!あの時一番大きい声で最後にひかりんの事好きって言ったの!ももももしかしてあれで起きちゃった!?ででで、でもあれで起きたなら鈴やシャルルンの言葉は知らない筈だし…。じゃじゃ、じゃあもっと早くから!?どどどど、どうしよう~~!)

 

鈴達の顔は揃ってストロベリーの様に真っ赤となるのであった…。

※三人の告白についてはMission98をご覧ください。




火影の気持ちを知った鈴・シャルロット・本音。

そしてその三人の気持ちを知っている火影。

果たして彼等はどうなるか?


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Mission109 愛しき者達

キャノンボール・ファーストから数日経ったとある休日。箒や鈴達いつものメンバーと一組の生徒達は前日に一夏から招待を受け、指示された部屋に向かう。そこで彼女達を待っていたのは先の学園祭とキャノンボール・ファーストの疲れを労いたいと労い会の準備をした火影・海之・一夏だった。
彼等の気持ちにみんな満足している中、ひとりの少女が火影を呼びとめ、いきなり告白する。…だが火影は自分は少女を含むみんなの事を守りたいと思いながらも、もっと守りたいと思う存在がいると打ち明け、少女の想いを断る。改めて人間とは難しいものと感じ、またひとつ学んだ火影。
……対して鈴・シャルロット・本音の三人の心中は穏やかではなかった。

※UAが90000に到達致しました。ありがとうございます。また次回まで一週間ほどお時間を頂きます。


学園祭とキャノンボール・ファーストの合同労い会から数日。思わぬハプニング?もあったものの当日は何事も無く無事に終える事ができた。だが予期せぬ形で火影の気持ちを知る事となった鈴・シャルロット・本音の三人はずっと緊張し続け、その影響は未だ続いていた。例えばある休み時間、

 

火影

「なぁシャル、今度……シャル?」

シャル

「ふぇ!?なななななな何火影!?こ、こんばんわ!」

 

酷く慌てて返事をするシャルロット。

 

火影

「……やっぱり良い。疲れてる様だからまたな」

 

そう言って火影は再び席に戻った。

 

シャル

(あ……。も~!折角話しかけてきてくれたのに~!しかもこんばんわってなに!?僕のバカバカバカ~!!)

 

……更に別の時には、

 

火影

「なぁ本音、今日お前」

本音

「!!」バタンッ!「…すぅすぅ」

 

声をかけてきた火影の目の前でいきなりタヌキ寝入りをする本音。普通ならつっこむところだが、

 

火影

「………」

 

…火影は何も言わず帰って行った。

 

本音

(…あ、あれ~?ひかりん何もない…。私自身も悪いと思うけど……だって恥ずかしいんだもん!!)

 

……更に更に翌日の登校時には、

 

火影

「よぉ鈴、箒。おはようさん」

「ああおはよう火影」

「!…ごめん、私急ぐから」すたすたすた…

 

そう言って鈴は足早に去って行った。

 

火影

「……」

(…鈴の奴…)

 

その鈴は教室の自分の机に付くと、

 

(ハァ、ハァ……。ハァ、私なにやってんだろ…。挨拶も返さないなんて、これじゃ私普通に嫌な奴じゃないの。……どうすればいいの……?)

 

こんな感じで三人ともまともに話す事さえできない始末。どうやら先日の労い会での出来事は彼女達の心に想像以上に影響を与えた様である。

 

 

…………

 

その日の昼。この日は屋上でみんなで集まって食べる事になった。

 

一夏

「…んっ?火影。そのポットお茶じゃなくてスープか?」

火影

「ああこれはハリラっつうモロッコのスープだ。ニコに教わったんだ」

セシリア

「ニコさんって確か火影さん方のお家の整備士さんでしたわね?懐かしいですわ。お元気ですか?」

火影

「ああ元気だぜ。全く問題ねぇよ」

一夏

「良い匂いだなぁ。ちょっとくれよ、そのゴリラってスープ」

火影

「ハリラだよ。……ほら」

一夏

「サンキュー、……うめぇ!」

「…ほぉ、確かに旨い。スパイスが効いているな」

ラウラ

「なぁ海之。玉子焼きひとつ貰って良いか?前に鈴が絶賛していたし、夫としてお前の好みの味を知っておきたいんだ」

海之

「…理由はさておき構わん。……簪、お前もどうだ?」

「えっ…い、良いの?…ありがとう!」

一夏

「鈴達もどうだ?ほんとに相当旨いぞこれ!」

「えっ?…え、ええっと…」

シャル

「…ぼ、僕は…あの、その…」

本音

「わ、私は~…」

 

火影の料理という理由だけでここでも答えに困る三人。

 

火影

「…無理すんな三人共。誰にでも好き嫌いはあるさ。俺だってオリーブ嫌いだしな」

「えっ、…ち、違う!そうじゃなくて!」

火影

「良いって良いって。気にすんな」

鈴・シャル

「「……」」

本音

「ひかりん…」

 

…三人はまた黙ってしまった。

 

海之・箒・セシリア・簪・ラウラ

「「「………」」」

一夏

「なんだ…?まぁいいや。そういや再来週には専用機持ちのタッグマッチだっけか?」

海之

「…ああ。キャノンボール・ファーストの時と違い、専用機持ちなら学年に関係なくタッグを組める。…とはいえ先生の話では参加者は大分少なくなりそうだがな」

ラウラ

「何故だ?」

火影

「ほら、前のファントムや先日の鳥野郎の襲撃なんかがあったろ?あれで出たいって生徒が減ってんだよ。専用機を持たせてる国側も今回ばかりは仕方ないと了承しているそうだ。流石にそこまで国も鬼じゃねぇって事だな」

海之

「だからお前達も無理に出る必要はない。…ああ楯無さんは出るそうだ。ロシア代表としては出なければならんとな」

「……」

火影

「あと俺と海之も出るぜ。今度こそ決着を付けてぇしな」

一夏

「ふたりが出るなら俺も出るぜ!」

 

一夏に続いて箒、セシリア、ラウラも参加を決めた。

 

「…鈴、シャル。お前達はどうする?」

「えっ?え、ええ。もちろん出るわ」

シャル

「…うん。僕も参加しようかな」

海之

「簪、お前はどうする?無理する必要は無いが」

「……」

 

簪は暫く考えた後、

 

「…私も出るよ。自分の可能性を知りたいから」

海之

「そうか」

セシリア

「立派ですわ簪さん」

 

そんな感じで時間は過ぎ……、

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

一夏

「おっと、もうこんな時間か」

「では今日はこれでお開きとしよう」

 

そして片付けをしている中、火影がある者達に声をかけた。いつもの彼らしくない真面目な表情で。

 

火影

「…鈴、それにシャルと本音。…後で話がある。放課後またここに来てくれ。他に用事があんなら別の日でもいい」

「えっ!…う、うん。わかったわ…」

シャル

「…うん。僕も行ける」

本音

「…私も大丈夫だよ」

火影

「…わかった。じゃあ後でな」

 

そう言うと火影は先に戻って行った。その後ろ姿を鈴達は黙って見つめている。

 

鈴・シャル・本音

「「「………」」」

(な、なんか火影の奴、いつもと様子が違ったな)

セシリア

(ど、どうされるんでしょう?)

(分からないよ…)

ラウラ

(あいつの事だ。問題は起こさないとは思うが……)

海之

「………」

一夏

「…ほんとなんなんだ?」

 

 

…………

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

そしてやがて放課後になり、鈴達は屋上に向かっていた。…だがその足取りは重い。

 

本音

「…ねぇ、ひかりんの話ってなんだろう…」

シャル

「…わからないよ…。あんな表情の火影普段見ないもの…」

「……」

本音

「まさかひかりん、もう私達と一緒にいたくないとか言うんじゃ…」

シャル

「ちょ、ちょっと変な事言わないでよ!」

 

これまで経験した事がない緊張が鈴達を襲っていた。

………そしてやがて屋上の扉の前にたどり着いた。

 

シャル

「来ちゃった……」

本音

「…す~、は~…」

「……行くわよ」

 

ガチャ

 

そう言って鈴達は扉を開けた。

……しかし、

 

「………火影?」

本音

「…? いないねひかりん…」

シャル

「…おかしいね。時間も場所も合ってるのに…」

 

火影がいない事に不思議がる鈴達。

………すると突然、

 

 

「わっ!!!」

 

 

「きゃっ!!」

シャル

「わぁ!!」

本音

「ひゃあ~!!」

 

突然後ろから声をかけられ、ひどく驚く鈴達。

 

火影

「くっ…あっはははははは!!」

 

声をかけたのは火影だった。鈴達の驚きっぷりに腹を抱えて笑う火影。

 

シャル

「ひ、火影!何時の間に!?」

本音

「び、吃驚した~!」

「ちょっと火影!あんた何してんのよ!」

火影

「くくっ…いや悪い悪い」

「悪い悪いじゃないわよ!ほんとに吃驚したんだからね!?」

シャル

「し、心臓飛び出すかと思ったよ。本当に何してんのさ!」

本音

「もう~!罰としてひかりん今度私達にデザートふたつずつー!」

 

本気で驚いたらしいシャルロットと本音。怒る鈴。そんな彼女達を見て火影は、

 

火影

「…そうだよ。そうでなきゃお前ららしくねぇ」

シャル

「…えっ?」

火影

「お転婆で男勝りだけど泣き虫な鈴。大人しく見えて活発なシャル。そしていつもデザートをねだるのんびりな本音。それでこそお前らだ」

本音

「あ~ひかりんひど~い!」

「ま、また言ったわね~!おまけに泣き虫って遊園地の時よりひとつ増えてるじゃないの!……あっ!」

シャル・本音

「「………鈴~?遊園地って何の事(かな)~?」」

「え、えっと……それは…」

※Extramission04をご覧ください。

 

その後、鈴はシャルと本音から少しの間追及され、その様子を見て火影は再び大笑い。そんな火影に鈴はポカポカ叩きながら怒り、シャルと本音もそれを見て笑うのであった…。

 

 

…………

 

空がうっすらオレンジ色に差し掛かり、ようやく落ち着いた四人は昼にみんなで食事したスペースに座った。

 

(…ギィッ)

シャル

「ところでさ火影、なんで僕達を呼んだの?」

 

シャルロットの質問に火影は答える。

 

火影

「お前らと話がしたいと思ったんだよ。ここ最近のお前ら、妙におかしかったからな。話しかけても目も合わせねぇし」

本音

「ご、ごめんなさ~い」

「だ、誰のせいだと思ってんのよ!あ、あんたがあんな事言うから!」

火影

「……あんな事ってのは労い会で俺があの子に言った事か?それとお前らがおかしかったのとなんの関係がある?」

「!…そ、それは…」

シャル

「え、ええっと…」

本音

「…う~んと~…」

 

鈴達はなんと答えたら良いか分からなくて困っている様だ。

 

火影

「…俺からすりゃ医務室でお前らが言ってた事の方が衝撃だったけどな」

「…えっ!?」

本音

「ふぇっ!?」

シャル

「…火影…やっぱりあの時」

火影

「ああ。鈴が違う!って大きい声で言った時に起きたんだ。そりゃあんだけ大きい声揃いも揃って出したら起きない方がおかしいって」

鈴・シャル・本音

「「「……」」」

 

恥ずかしさのあまり真っ赤になって黙ってしまう鈴達。そんな鈴達に火影は、

 

火影

「……ありがとう」

「……えっ」

シャル

「…火影?」

本音

「ひかりん?」

 

鈴達は火影の方こそ何か何時もらしくないと感じた。

 

「ど、どうしたのよそんな事言うなんて。あんたこそらしく無いわよ?」

火影

「…そうか?………なぁ三人とも。少し話聞いてもらって良いか?」

シャル

「う、うん」

火影

「……先日の労い会でも話したが…、俺は今迄特定のひとりだけに特別な感情を持つって経験、まぁあの場合、恋ってやつか。それをした事がない。興味がなかった訳じゃねぇ。ただ俺には本当に縁が無い話だと思ってたんだ。だからあの時本当に困ったよ。どう答えたら良いのかな」

本音

「ひかりん誰かに告白とかされなかったの~?」

「そうよ。あんたはっきり言って顔は悪くないんだからそれ位あったでしょうに?」

火影

「……わかんねぇ。もしかしたらあったかもしれねぇけど…気付かなかったのかもな」

「あんたといい一夏といいほんっと鈍感ね。まぁ恋って単語が出ただけあんたの方がマシだけど」

火影

「…否定はしねぇよ。まぁそんなんだから、あの時偶然にも医務室でお前らの気持ち聞くまで全く気付かなかった。……悪い」

「お、思い出さないでよ恥ずかしいから…。あと謝んなくても良いわよ」

シャル

「そうだよ火影。あれは僕達が悪いんだから。……あれ?悪いのかな?」

本音

「さぁね~?」

火影

「ふっ。………それでな、俺があの時あの子の告白に対して言った言葉、覚えてるか?「好きな子はいないけど特に守りたい子はいる。だから気持ちに応えられない」っていう」

シャル

「う、うん」

火影

「…そんな俺の返事に対してあの子が言った言葉、「特に守りたい子がいるという事は好きな子がいるという事」だと。あの時は正直よくわからなかったが…、あれから少し考えてみた。……そして気付いた事があったんだ」

「…な、何…?」

 

三人は緊張しつつも火影の言葉を黙って聞く。

 

火影

「…もし、もしあの時…あの子が言った事が正しいんだとしたら。……俺が特に守りたいと思ってる子が…、俺が好きだと思ってる子だとしたら……」

 

……そして火影はこう続けた。

 

火影

「それは……鈴…シャル…本音。………お前らの事なんじゃねぇのかな…って」

「…………え」

シャル

「…ひ、火影」

本音

「…それって…」

 

鈴達は火影のその言葉に一瞬何も言えなくなった。但しその心中にあるのは以前の時の様な緊張ではない。好きと言ってもらった事に対する喜び・嬉しさ・愛おしさ。それに加えてほんの少しの恥ずかしさ。鈴達は喜びの声を出そうとした。…だが、

 

火影

「…だからこそすまねぇ」

「…え?」

シャル

「…?」

本音

「ひかりん?」

 

続けざまの突然の謝罪に鈴達は声を止めた。火影の声はこれまでより小さく、そして寂しそうだった。

 

火影

「…正直に言う。俺はお前らに、みんなに話していない事がある。大事な話だ。ああでも安心しろ、ほんとはお前らの敵だったとかそんな話じゃねぇから。ただ大事な話だ。そして…今はまだ話す事はできない。もし話したら……それこそ本当におまえらと、一緒にいられなくなるかもしれねぇから」

鈴・シャル・本音

「「「!!!」」」

 

予想だにしていなかった火影からの更なる告白。その内容に鈴達は先程の喜びが急激に下がっていく感じがした。

 

火影

「…お前らの気持ちは凄く嬉しい。これに嘘はねぇ。そして俺がさっき言った事も本心だ。お前らの事は…好き、なんだろう。……だが俺はお前らを裏切っているともいえる。居心地の良いと感じる場所にいるために自分の事を話せない、云わば臆病者だ。…そんな俺なんか」

 

この時火影の心には無意識的に、前世であまり経験した事がない感情が本当に僅かにあった。

 

全てをさらけ出す事で自分の居場所を失うかもしれない虚しさ。

周りから拒絶されるかもしれない恐怖。

 

何時かは話さなければならない。それはわかっている。だが今はまだ……。そうやって逃げている様な気がする自分を火影は情けないと思った。だからこの後、「俺なんかいなくても」と言葉を続けるつもりだった。しかし、

 

バッ!

 

火影

「!」

 

火影が気付いた時、鈴が自分の胸に飛び込んでいた。

 

「火影!もしこの後自分はいらないとかいなくなった方が良いとか言ったら私は今度こそあんたを許さないわよ!!……わかってるわよ!あんたと海之に何か大きな事情がある事くらい!なんとなくだけどそんな事みんな気付いてるわよ!……でもね火影!私は火影が好きなの!!一緒にいたいの!!私だけじゃない、シャルと本音も!それに言った筈よ!どんな事があってもあんたの傍にいるって!忘れたとは言わせないわよ!!」

火影

「…鈴…」

 

するとその横からシャルロットと本音も近づき、火影の手をとった。

 

シャル

「火影、鈴の言う通りだよ…。僕も火影の事が好き。この気持ちなら誰にも負けない自信がある。確かに火影、そして海之もだけど…わからない事があるよ。でもそれ位でみんなの、僕達の火影を想う気持ちは揺らがないから。だから…そんな悲しい事言わないで。これからも…僕達と一緒にいて…?」

本音

「そうだよ火影。私は鈴やシャルルンの様に火影と一緒には戦えないけど…、前に火影言ってくれたよね?普段の私でいる事が何よりも嬉しいって…。私嬉しかった。こんな私でも火影を支えられてるんだって。あの言葉でもっと火影の事が好きになったの。例え何があっても…私は火影を信じるよ」

 

ふたりもまた、火影を安心させる様に優しい笑顔で打ち明けた。

 

火影

「シャル…本音…」

「わかった?もう一回言うけど、あんたは私達に必要なの。私達の事がす、好きって言うなら、黙ってこれからも一緒にいなさい!ラウラじゃないけど拒否は認めないから!」

火影

「……」

 

火影は何も言わなかった。いや言えなかった。かつてダンテだった頃、ある時は自分に関わると災いを招く。またある時は友の敵とあらぬ言われをされた事もある。生まれ変わり、今の自分には関係無いとは言えそんな自分に、両親以外にもこうまで自分を想ってくれる者がいるという事に、彼の心は熱くなった。

 

本音

「…あれ~?もしかしてひかりん泣いてる~?」

火影

「……雨だよ」

シャル

「…降ってないみたいだけど?」

火影

「気にすんな。…ありがとう鈴。シャルも本音も。そして悪かった。もう二度と言わねぇから」

「…ほんとよ。可愛い女の子をまた泣かせて、おまけにあんな恥ずかしい事言わせて。今度お詫びに何か奢りなさい。私達全員にね!」

本音

「サンセイ~♪」

シャル

「ふふっ、今回ばかりは僕も賛成かな?驚かせた罰として♪」

火影

「おいおい…、まぁいいか。…………しかしな」

本音

「ほえ?」

 

すると火影は入口のドアを見つめ、

 

火影

「………」すたすた

シャル

「えっ?」

 

ガチャッ!

 

火影はそっとドアノブに手をかけ、一気に引いた。すると、

 

一夏・箒・セシリア・簪・ラウラ・楯無

「「「わぁ(きゃあ)!」」」ドドドドッ!

 

…なだれ込んできたのは一夏達だった。しかもどこで嗅ぎつけたのか楯無も一緒だった。

 

セシリア

「いたたた」

楯無

「あ、あはは。やっぱり火影くんにはバレてたか」

シャル

「み、みんな!い、一体何時から!?」

「あの…その…だな」

火影

「俺達が座った時からだろ?扉開ける音聞こえたぞ」

ラウラ

「さ、流石だな弟よ」

「よ、良かったね!三人共」

 

…どうやら今の会話は全て筒抜けだったのだろう。それに気付いた三人、特に鈴はここでも一際赤くなった。

 

「あああ、あんた達~!!」

一夏

「やべっ!逃げるぞ!つっても鈴の奴なんであんなに怒ってんだ~!?」

 

そう言って六人は全速で逃げて行った。

 

火影

「…やれやれだぜ」

シャル

「というか一夏…。もしかして……今の流れでまだ気づいてない?」

本音

「……おりむ~~」

「ハァ…、なんかまた明日から色々突っ込まれそう…。と、気付けば結構な時間ね。そろそろ戻らないと…?って火影、なにそのポット?」

火影

「ああこれは…」

 

そう言って火影はそれを紙コップに入れて鈴達に差し出す。すると三人が気付く。

 

シャル

「これって昼間の?」

本音

「あの時のスープだね~」

「確かハリラだっけ?どうしたのこれ?」

火影

「お前ら飲んでねぇだろ昼。だから温め直したんだよ。それでちょい遅れちまったけど」

鈴・シャル・本音

「「「……火影(ひかりん)……」」」

 

鈴達は火影の優しさに感謝しながらその温かいスープを口に運んだ。

 

鈴・シャル・本音

「「「…美味しい!」」」

火影

「どうも」

 

笑った四人を夕焼けが優しく照らしていた。




おまけ

そんな彼らを気配を消して見守る者がふたり。

海之
「………やれやれ、やっと終わったか」
千冬
「一夏といい火影といい世話の焼ける奴らだ。…まぁ今回は鳳らも同じだがな」
海之
「愚弟がご迷惑をおかけしました」
千冬
「お前が気にする必要はない。担任の私としても最近のデュノアや布仏らは感心しなかったからな。…だが少し心配したぞ。火影の奴が話さないかとな」
海之
「あいつもそこまで馬鹿ではありませんよ。あいつは馬鹿ですが、俺などより余程マシな人間ですから。鈴やシャルらが不幸になる様な事はしません。…ですがあいつも俺も何時か話す時が来るでしょう。恐らくそう遠くなく…」
千冬
「……そうだな」

海之は少なからず予感していた。みんなに真実を伝える時が近づいているのを…。そしておそらく火影も。

海之
「…さて、それはともかく本当にお騒がせしました。千冬先生には何かお詫びしなければなりませんね」
千冬
「そんな事を気にする必要はな………。海之、それなら…ひとつお願いして良いか?」
海之
「なんでしょうか?」
千冬
「…そのだな。お前さえ良ければなんだが…、また私の酒のあてを…作りに来てもらって良いか…?」
海之
「? そんな事で良いなら何時でも構いませんよ」
千冬
「そ、そうか。あ、ありがとう」

こちらも顔を赤くした者がひとり…。


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Mission110 災厄の復活 パンドラ・リヴァイヴ①

学園祭とキャノンボール・ファーストの合同労い会は無事に終わった。
……しかしそれからも鈴・シャルロット・本音の三人は火影に話しかける事もできない程落ち着けないでいたのだった。
そんなある日、火影から話があると言われ、三人は屋上へ。そこで火影は鈴達こそ自分が守りたい、好きだと思っている事を告白。同時に自分がある大事な秘密を抱えている事。そしてそれを話したらもう一緒にはいれないかもしれないと打ち明け、暗に遠ざけようとする。
…だがそんな火影に対し、鈴達は火影の事を深く愛している事。そしてこれからも傍を離れないから火影も傍にいてほしいと、自分達の想いをぶつけるのだった。


IS学園 アリーナ

 

火影と鈴達の件から二日が経ち、この日は日曜。アリーナには火影と海之、一夏達、更に千冬と真耶もいた。今回何故こんなに集まったのかというと、

 

千冬

「…間もなく時間だな」

真耶

「大丈夫でしょうか篠ノ之博士。一応指名手配されている身なのに…」

火影

「全く問題ないと言われていましたから大丈夫だと思います」

海之

「……」

一夏

「まぁあの束さんだからな。大丈夫だよきっと。…にしても遂にシャルの魔具が完成したんだな!なんてったっけ?パントマイムだったっけ?」

千冬

「パンドラだ馬鹿者」

 

そう、この前火影達が束達と通信で話し合っている時、最後に束がシャルロットのために造っていた魔具「パンドラ」が完成したので本日渡しに来ると言ってきたのだ。本来なら火影と海之、そして使う事になるシャルロットだけで良いのだが、新しい魔具という事で一夏達、更に千冬達も同行を願い出たという訳だ。そして今彼等はその束の到着を待っている。

………だが少し離れた所で少女達が小声で別の話を繰り広げていた。

 

ラウラ

(鈴、それにシャルと本音も。この前は良かったな♪)

本音

(い、言わないでよ~もう~!)

(そう言うな。それに羨ましい位だ。あんなにはっきり告白できたお前達がな♪)

セシリア

(本当ですわ♪)

シャル

(あうぅ…)

(こ、告白ってそんなつもりじゃ…)

楯無

(ぜ~んぜん説得力無いわよ~?シャルちゃんと本音ちゃんはあんな優しい表情で手握って、鈴ちゃんに至っては抱きついて泣きながらぶっちゃけてたじゃな~い♪)

鈴・シャル・本音

「「「………」」」

 

揃って茹でダコの様になる鈴達。

 

(……しかしあんなわかりやすい状況でも一夏だけは気付いていない様だな。全く…私達はどれ程の告白をすれば良いのか…)

セシリア

(先は長いですわね…)

楯無

(いっその事全てさらけ出して誘惑するしかないかしらね~♪)

(!! そ、それはちょっと…)

(……でも本当に良かったね三人とも。火影くんと仲直りできて。私達も安心したよ)

シャル

(仲直りっていっても火影は何も悪くないよ。僕達が勝手に避けていただけだもん)

(今思えば本当にバカしてたわね、私達)

 

事情が事情とはいえ、自分達の行動を恥じる鈴達。

 

楯無

(それで三人はこれからどうするの火影くんとは?あの後誰を選ぶのか迫ったりしたの~♪)

ラウラ

(だがあんなにはっきり伝えられたら火影の奴も誰を選ぶかとかやりにくいな)

シャル

(ちょちょちょ、ちょっと!!何言ってんのラウラまで!?)

本音

(そ、そうだよかっちゃんも!それに本音達そんな事言ってないから!)

(そうなのか?)

(うん。実はね…)

 

鈴はあの時火影が話した事をみんなに話した……。

 

(……そうか。火影の奴そんな事を…)

セシリア

(…そう言えば火影さんのお話が一時聞こえにくくなりましたわ。そういう事だったんですのね…)

ラウラ

(私達にまだ話せない秘密…か。…バカな事を、どんな話だろうと私達は受け入れるというのに…)

シャル

(うん。でもよっぽどな話なんだと思う。あんな寂しそうな火影の顔…初めてだったから…)

(……火影)

 

みんなが火影の言葉の意味を考える中、

 

「……」

(火影くんの話って…前に海之くんが話してくれた事と同じかな?…多分同じだよね…。話したら一緒にいられなくなるかもしれない……。一体なんなの?…海之くん)

 

簪は以前海之から似た様な話を聞いたのを思い出していた。そして、

 

楯無

「……」

(私が話して良い事じゃないわね……)

 

この中で唯一真実を知る楯無は何も語らない事に決めていた。その時が来るまで。

 

楯無

(…まぁ今はその話は止めましょう。何時かは話してくれるって言ったんでしょ火影くん?だったらその時を待ちましょ。彼を信じて)

全員

(((はい)))

 

みんな楯無の言葉に同意した。

 

「……」

(そういえば最近ふたり共、お姉ちゃんや織斑先生と良く大事な話をしてるって言ってた。お姉ちゃんは知ってるのかな……?)

セシリア

(…所で話は戻りますがそのお話と皆さんがお付き合いを申し出なかったのとどういう関係がありますの?)

ラウラ

(…そうだな。直接の関係は見当たらない気もするが)

 

そんな疑問に対して鈴が答えた。

 

(うん…。多分やろうと思えばできたと思う。そして真剣に考えてくれたと思うしね。……でもね、私達、火影に更に背負わせたくないって思ったの)

ラウラ

(…背負わせる?)

(さっきも言った通り火影は大事な事を抱えてる。それなのにいつも私達の事を真剣に考えてくれてる。守ってくれている。…だから今はこれ以上は望んだらいけないかなって思ったの。私達が付き合ってほしいなんて言ったらあいつの負担になるでしょ?)

シャル

(うん。僕も鈴も本音も、自分達の想いを押しつけてまで火影とそうなりたいなんて思ってないよ。急がなくてもいい。目の前にある問題を解決してって全部終わって、その時に聞けばいいかなって思ってるんだ)

本音

(そ~そ~。それにひかりんは今でも十分私達のために色々してくれるもん!デートもしてくれるしデザートも作ってくれるし、三人共大事にしてくれるんだ♪だからだいじょぶだよ)

(……それにね)

(…それに?)

 

鈴・シャル・本音

(((「好き」って言ってもらえたから…)))

 

そう言った鈴達の表情は赤くなりながらも笑顔だった。

 

楯無

(…はいはいごちそうさま~♪)

ラウラ

(全くあいつも隅に置けん。まぁ海之には負けるがな)

(ふふっ、そうだね)

セシリア

(羨ましいですわお三方)

(そうだな。一夏の奴も見習ってほしいものだ)

 

その時後ろから、

 

一夏

「俺がどうしたって?」

「!い、一夏!な、何でもない!!」

セシリア

「どうしましたの?」

一夏

「いやどうしたもみんな離れてるからどうしたのかと思って。早く来いよ」

 

 

…………

 

そしてそれから約五分後、遠くの空から何かがこっちに向かって来るのが見えた。

 

真耶

「…あっ、もしかしてあれでしょうか?」

海之

「大丈夫とは思うが、みんな衝撃に備えておけ」

 

言われてみんなやや下がる。そして、

 

 

……ドオォォォォォォォンッ!……パラパラ

 

 

それは少し離れた場所に墜落同然に到着した。確かに束のロケットだ。

 

シャル

「や、やっぱりあのロケットの登場は何回やっても驚くよね」

「し、尻餅着いちゃった…」

千冬

「全くあいつは…もっと静かに着陸できんのか」

本音

「前に来た時はちゃんと着いたんだけどね~」

ラウラ

「そういえば前は私達がいない時に来たんだったな」

 

みんな驚きながらも束のいつもの登場を待つ。

…………しかし、

 

一夏

「…あれ?」

火影

「…出てこねぇな」

 

30秒程経ったが束もクロエも出て来なかった。

 

セシリア

「ま、まさか中で気絶されているとか…」

「ちょ、ちょっと!変な事言わないでよセシリア」

千冬

「あいつがそんなタマか。…まぁそれはそれで静かで良いが」

「全くです」

「あははは…」

楯無

「…にしてもほんとに出てこないわね。どうしたのかしら」

 

その時、

 

ズズズズズッ

 

ロケットの傍の地面が少し盛り上がった。

 

真耶

「な、なんですか!?」

本音

「大きなモグラ~?」

一夏

「いやそれはねぇだろ!」

 

ズズズズズッ!

 

とその時地面がまた少し盛り上がり、そして、

 

「どおぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁ!」

 

ドォォォォォンッ!

 

全員

「「「!!」」」

 

全員沈黙した。盛り上がった地面が割れ、中から何かが飛び出してきたのだ。それは、

 

「けほけほっ。やぁみんな!お久しぶり~!みんなの永遠のアイドルにして、この世で初めて某怪獣王と同じ登場シーンをやってのけた人間!篠ノ之束さんだよ~!ブイブイ!」

 

全員

「「「………」」」

 

思いもしなかった登場にみんな唖然としている。

 

「ふっふっふ、流石にこんな登場は予測していなかった様だね♪甘いよみんな♪ジャンプからの登場シーンはもう何回もやってるしもしかしたら防御されるかもしれないし、かといって何もやらないのは面白くないからね♪本とかブログとかでもタイトルが肝心って言うし、登場シーンはインパクトあるものが一番印象があるからね♪…でもこれ一回やってしまったらもうやれないのが悩みの種なんだよなぁ~。だってもう慣れちゃったでしょ~?次はまた新しい登場シー、ブフォッ!ヘヴァッ!」

 

パラパラ…

 

……束は千冬のブローを腹に受け、更に鉄拳を受けて地面にめり込んだ。

 

「ち、ち~ちゃん…。連撃とはお主もできる様になったのぉ…」

千冬

「…二度とその口を開けぬ様にしてやろうか」

本音

「だ、大丈夫かな今の~?」

火影

「大丈夫じゃねぇかな?自由落下しても無傷だった位だし」

一夏

「それにああ見えてあれはふたりのじゃれあいみたいなもんだから」

千冬

「馬鹿を言うな一夏。迷惑極まりない」

「いや~それ程でも♪…ところでみんな、先日は大変だったみたいだね~!ひーくんみーくんサイドは何の心配もいらなかったけどいっくん!それに箒ちゃんもセッちゃんも!無事で何よりだよ~!」

セシリア

「そちらの方も見ておられたんですか?」

「モチのロンだよ!…でも三人共ちゃんとデビルブレイカーを使いこなせていたみたいだし、安心したよ!」

一夏

「トムボーイには本当に助けられました。ありがとうございます、束さん」

セシリア

「私も同じですわ。ありがとうございます」

「……感謝します」

 

恥ずかしいのか箒は上手く言えない様だ。

 

「ああそういえば箒ちゃん。紅椿の絢爛舞踏の使い方掴めた~?」

「え?え、ええ。なんとなくですが…」

「ほんと!良かった~。可愛い妹の力になるのは最大の喜びだからね~♪これからもいっくんと頑張ってね♪」

「は、はい」

 

ゆっくりではあるが姉妹間の雪解けは着実に進んでいる様だ。

 

火影

「…あれ、束さんクロエは?」

「そういえばまだ出てこないわね?」

「あれ~おかし~な~。おーいクーちゃん、出といでよ~?」

 

束はまだロケットの中にいるクロエに呼びかける。すると、

 

クロエ

「……」

 

手に小さなケースを持ってクロエが現れた。しかし緊張しているのか俯いている。

 

海之

「元気かクロエ」

クロエ

「ふぇ!?は、はい海之さん、御無沙汰してます!」

火影

「? どうしたクロエ。なんか様子おかしくねぇか?」

 

火影はクロエの顔を覗き込む。

 

クロエ

「! だ、大丈夫です火影さん!」

火影

「そ、そうか」

「ただ恥ずかしいだけだもんね~クーちゃん♪」

クロエ

「た、束様!」

一夏

「恥ずかしいってなんの?」

「秘密だよ~♪」

一夏

「?」

 

その間もクロエは恥ずかしそうに俯いている。

 

千冬

「束、そろそろ本題に入りたいんだが?」

「おっとそうだったね!んじゃ早速♪」

 

そう言って束はクロエが持ってきたケースを受け取る。手に乗る程のサイズだ。

 

真耶

「もしかしてその中に入っているのがパンドラというものですか?」

ラウラ

「随分小さいな」

火影

「まぁな。さぁシャル、その箱を開けてみな?」

シャル

「う、うん」

 

そう言われてシャルロットは束の掌にある箱を開ける。

 

シャル

「……えっ?」

「これって…」

「…シャルのISと同じ…?」

 

中に入っていたのはシャルロットのIS、ラファールの待機状態と同じペンダントトップだった。

 

千冬

「束、どういう事だ?」

「それはお楽しみだよ♪さぁシャルちゃんだっけ?それを持ってISの展開を命令してみて?」

シャル

「ISの展開を?…は、はい」

 

シャルロットは言われた通りやってみる。するとペンダントトップが突然光り出した。

 

カッ!

 

シャル

「うわ!」

 

……やがて光が収まると、

 

シャル

「…!」

楯無

「!…これは」

ラウラ

「……シャルのラファール?」

 

目の前に立っていたのは……シャルロットのIS、ラファール・リヴァイヴ・カスタムIIとこれまた全く同じものであった。唯一の違いと言えばコアが無いのかその部分が空になっている位である。

 

セシリア

「シャルさんのISと全く同じですわね」

「うん。パーツやスラスターまでそっくり」

「しかしコアが無いからこのままでは動かんな」

一夏

「束さん、これは?」

「ふっふ~ん♪よくぞ聞いてくれました~!」

 

すると束が目の前のISの横に立ち、

 

「これこそラファール・リヴァイヴとひーくんみーくん提供の魔具「パンドラ」を融合させた、この世でひとつだけのラファール、いやもうラファールじゃないね!シャルちゃんの新たな専用機!その名も「パンドラ・リヴァイヴ」だよ~!」

 

火影・海之・クロエ以外

「「「………」」」

 

一瞬だけ場が沈黙し、そして、

 

シャル

「え――――!!」

一夏

「マジか!?」

「…パンドラ・リヴァイヴ」

「しかもシャルの新しい専用機!」

楯無

「…でも見た目は全く変わらないわね?」

「それについてはこれから説明するよ。クーちゃんお願い~」

クロエ

「畏まりました。シャルロットさん。このパンドラ・リヴァイヴは確かにシャルロットさんのISと見た目は同じですが…システムは全く違います」

真耶

「どう違うんですか?」

 

すると横から火影と海之も説明に加わる。

 

火影

「シャル。これは以前お前に借りたデータを基に機体を新たに造り、そこにパンドラのシステムを組み込んだんだ」

シャル

「僕のデータ?……あっ、前に火影に渡したアレの事!」

千冬

「その前にパンドラとはどういう物だ?」

海之

「パンドラは他の魔具やデビルブレイカーと違ってかなり特殊な魔具です。基はスーツケースの様な形なのですが特定のプログラムを入力する事で原形をほぼ無視する様々な形の武装に変形します。その数は全て合わせると666にもなります」

一夏

「…はっ!?」

「ろ、ろっぴゃくろくじゅうろくですって~!?」

セシリア

「666…、ヨハネの黙示録に出てくる魔の数字ですわね。成程、パンドラという名前にも納得できますわ」

シャル

「そ、それがこのラファール、あっ、パンドラか。それに組み込まれてるって事!?そ、そんなの僕に扱えないよ!」

 

心配そうな声を上げるシャルロット。

 

火影

「大丈夫だよ。そのために機体も造ってもらったんだ」

ラウラ

「? どういう事だ?」

クロエ

「確かに仰います通りいくら拡張領域に余裕があるラファールでも600以上もの武装はとても無理でした。計算してみた所7つがやっと。しかもそれ全てを基の状態からいちいち変形させるのは無駄があります。だから少し工夫をしたのです」

シャル

「工夫?」

海之

「パンドラから選りすぐりの武装を選び出し、それぞれ独立した武装としたのだ。こうするといちいち変形させる必要もないからな」

楯無

「……成程、考えたわね」

火影

「しかしそれを直接シャルのラファールにやるとその間シャルはISを使えなくなる。だから新しい機体を造ったんだよ」

「そういう事~♪苦労したんだよなかなか~!機体をチューンアップしたのもあるけど何より600以上もの中から選んで組み立てないといけなかったからね~!只でさえ魔具は難しい武装だからね~!」

ラウラ

「それで時間がかかった訳か」

千冬

「機体をチューンアップとはどういう事だ?」

「それはね~、普通のラファールだとパンドラのパワーに付いていけないんだよ~。でもシャルちゃんのなら可能だからね。その意味も兼ねてイチから造ったんだ♪本当はデザインも新しくしようかなと思ったんだけどひーくんから頼まれたからね、シャルちゃんのラファールのまま似せてくれって」

火影

「シャルの親父さんの会社がシャルのために造った機体だ。思い入れもあったろうしな」

シャル

「……ありがとう、火影。…嬉しいよ。束さんもありがとうございます」

 

シャルロットは自分の機体を変えてくれなかった火影と束の心遣いに感謝した。

 

真耶

「あ、あのひとつ良いですか?これがデュノアさんの機体になるとして勝手にしても良いのですか?ISは国が管理しているのでしょう?」

一夏

「あ!」

「そ、そういえば…」

クロエ

「ご安心下さい。それでしたら束様がフランス政府とデュノア社、それからESCのレオナ様にもご連絡して許可を頂いております」

「政府に「君んとこのシャルちゃんのISをサラッピンに造り直してあげるよ♪その代わり変に検索したらコワイヨ?」ってね。そしたらふたつ返事でOK貰っちゃった♪」

セシリア

「そ、それって半分脅迫では…」

「気にしない気にしない♪レオナっちなんて大笑いしてたし~」

火影

「…でしょうね。そういう人ですから」

海之

「…ハァ」

クロエ

「因みに皆様の母国にも連絡はちゃんとしておりますからご安心下さい」

「ああそうだったの。どおりでガーベラ付けてても向こうで何も言われなかった訳ね」

ラウラ

「私もパンチラインの訓練をしていても上部から何も言われなかったな」

セシリア

「納得できましたわね」

「しかし国も随分あっさり引いたものだな」

 

すると火影が笑みを浮かべて答える。

 

火影

「そりゃ俺と海之のアミュレットと同じ防衛プログラムがある、なんて言われたら調べたくなくなるだろうしな」

真耶

「えっ!?」

一夏

「ど、どうしたんですか?」

千冬

「…聞かない方が良い」

 

千冬と真耶は以前火影と海之のアミュレットを調べた者の末路を見た事があったので何も言わなかった。

※Extramission02をご覧ください。

 

シャル

「…魔具を組み込んだIS…、パンドラ・リヴァイヴ。僕に扱えるのかな…」

 

シャルロットはまだ不安そうだ。そんな彼女に火影が話しかける。

 

火影

「大丈夫だよシャル。お前の技術はみんな知ってる。お前の強さも。自信を持て。それにお前なら間違ってもこの力を悪くは使わないだろう?」

シャル

「……ありがとう火影」

楯無

「やっぱり想い人の励ましが一番ね~♪」

シャル

「…うぅ…」

「ではではシャルちゃん、早速調整に入ろうか」

シャル

「は、はい!」

 

シャルロットは束と共にパンドラ・リヴァイヴの調整に入った。




おまけ

シャルロットと束が調整に入っている間、こちらでは、


(…ねぇクロエ、ちょっといい?)
クロエ
(? はい、なんでしょうか?)

(勘違いならすまないが…先程火影と海之が話しかけた時、クロエ妙に恥ずかしがっていたが…どうしてだ?)
クロエ
(!!そ、それは…)
本音
(も、もしかしてクーちゃん…ひかりんかみうみうの事…)
クロエ
(ち、違います!!私はおふたりにその様な感情は抱いていません!決して!)

(ほ、本当…?)
ラウラ
「……」
(貴女には悪いがほっとしました…)
セシリア
(で、では一夏さんに!?)
クロエ
(それも違います!!もうみなさん!)
楯無
(あはは。ごめんごめん)
クロエ
「……」
(…あのロケットでの件から束様が私の前でずっとおふたりの事をお兄さんとかお兄ちゃんとか言うから……つい緊張してしまうんですよぉ…)
※Mission100をご覧ください。
火影
「おーいクロエ~」
海之
「ちょっといいか?」
クロエ
「は、はいぃ!」

クロエは走っていった。

楯無
(……ああは言ったけど何かあるわね)

(…なんだろう)

(…謎だ)

パンドラとは全く違う事で悩むみんなだった。


※今回は一話だけの投稿となります。次回はパンドラの武装について紹介していくつもりです。


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Mission111 災厄の復活 パンドラ・リヴァイヴ②

とある日曜日。火影や海之達は束より魔具「パンドラ」が完成したので届けに行くと言われ、一夏達とアリーナにいた。
やがて到着した束とクロエ。しかし彼女らから渡されたそれはシャルロットのISと一見全く同じもの。それはラファール・リヴァイブとパンドラを掛け合わせた新しいラファールかつシャルロットの新たな専用機、パンドラ・リヴァイヴであった。魔具を組み込んだISにシャルロットは自分に使いこなせるか不安がるが、みんな、そして火影の後押しを受け、乗る事を決意したのだった。



ラファール・リヴァイヴと魔具「パンドラ」を組み合わせたIS、パンドラ・リヴァイヴの調整は順調に進んでいた。あとはシャルロットのラファールよりコアを取り出し、パンドラに移した後、初期化と最適化を行うだけだ。

 

「それではシャルちゃん、君のラファールからコアを取り出してパンドラに移すよ?良いね?」

シャル

「……はい、お願いします」

 

そう言われて束は作業を始める。……そしてやがてラファールよりコアが取り出された。コアを失ったラファールは機能を完全に停止した。

 

セシリア

「…なにか寂しい気がしますわね」

「今までずっと一緒に戦ってきたからね」

シャル

「……ありがとう、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ。君にはたくさん助けられた。…ゆっくり休んでね…」

 

……そしてコアはこれからのシャルの愛機となるパンドラに移される。

 

クロエ

「ではこれよりコアをパンドラとの順応作業、及び初期化と最適化を行いますので少々お待ち下さい」

「本来なら一日はかかる作業だけど束さんとクーちゃんなら数十分も掛からないよ♪……あっそうだ、みーくんとかんちゃんも悪いけど手伝ってもらえる?ふたり共ISの武器や機体造った位だからふたりが手伝ってくれたらもっと早くなるからね♪」

海之

「わかりました」

「は、はい!」

 

海之と簪も協力し、作業に入る。

 

一夏

「今更だけど凄えーな束さん。一日かかる作業をほんの数十分で終わらせられるなんて」

楯無

「まぁ全てのISのお母さんだから当然でしょうね」

千冬

「……それだけではないかもしれんな」

真耶

「どう言う事ですか先輩?」

 

真耶の質問に千冬は答える。

 

千冬

「………あいつは変わった。以前のあいつは私と一夏、そして妹である箒以外とはまともに話す事はおろか、誰とも交流を持とうとしなかった。誰に対しても素っ気なくて、どんな事があっても無関心で、もっと言えば誰がどのような目にあっても興味ない。そんな奴だった…」

一夏

「…あ~…確かにそうかも…。って悪い!箒。お前の姉さんなのに」

「気にしなくて良い一夏。私も以前は千冬さんと同じ気持ちだった」

千冬

「…だが今のあいつは限定的ではあるものの、ああして多くの者達と交流している。火影や海之のために推薦状を書き、みんなのためにISや魔具を造り、更には命の心配まで…。ひと昔前のあいつからしたら考えられん事だよ」

「そういえば前に一夏も言ってたわね」

ラウラ

「きっと余程の事があったのだろうな。あの人の心を動かす何かが」

 

すると箒が口を開く。

 

「……あの人を、姉さんを変えたのは……火影達なんです」

火影

「俺達?」

一夏

「どう言う事だよ箒?」

「実は……」

 

箒は以前スメリアであった束との交流について話した。

※Mission74をご覧ください。

 

「…という訳です」

千冬

「…そうか…、火影達の御両親が…」

セシリア

「…なんて素晴らしい方々…。簡単に言える事ではありませんわ…」

「自身の故郷が危ない目にあっても信じる…。確かに中々できる事じゃないわね」

ラウラ

「ふたりは良い親を持ったのだな」

本音

「私も会いたかったな…。ひかりんのお父さんとお母さんに」

火影

「…俺達を見つけてくれたのが父さんと母さんだったのは…最大の幸運だった。今でもそう思ってるよ…。海之の奴もな」

「…しかし自分がISを世に広めたせいで火影達の両親は死んだ…。姉さんはそう思っている様です…」

一夏

「束さん…」

楯無

「ISを本来あるべき方向に発展させる。自分を信じてくれたエヴァンス夫妻の子供である火影くんや海之くんを助ける。それが博士にとってのせめてもの罪滅ぼし、という訳ね」

「でも火影、あんたも海之もよく束さんを責めなかったわね?」

火影

「そんな事してもふたりは戻ってきやしねぇ。それにふたりが許してんのに俺達が許さねぇ訳いかねぇだろ?……あと……あの人は本当はそんなに悪い人じゃねぇよ」

 

火影は初めて自分達が束と出会った時の事を思い出していた。自分達を抱きしめながら涙を流して謝り続けた束。あの時の彼女こそ本当の姿だと火影は思っている。

 

「………」

千冬

「…感謝するぞ火影。あいつの事を理解してくれて」

 

そんな感じで話をしていると、

 

「みんな~終わったよ~!早速テストしよ~♪」

火影

「お、終わったか。…行こうぜみんな」

 

 

…………

 

「よっしゃ!それじゃシャルちゃん、今からパンドラの武装チェックを行うよ!数が多いからしっかり付いてきてね♪」

シャル

「は、はい!」

クロエ

「それではシャルロットさん。まずは何でも構いませんから展開してみてください。順番に説明していきます」

 

そう言われてシャルロットはインターフェースからひとつを選び出す。出てきたのは、

 

一夏

「な、なんだこれ!バズーカみてえ!」

ラウラ

「…弓矢か?しかし随分大きいな」

 

それは一見弓矢に見える巨大な武器。しかし良く見ると矢ではなく砲口がある。

 

真耶

「デ、デュノアさん重くないですか!?」

シャル

「は、はい、大丈夫です。…というか見た目ほど重くは無いです」

「デビルブレイカ―やケルベロスと同じなのかもしれないね。私達も何の違和感もなく使えるし」

「そう言えばそうだな」

クロエ

「弓矢の形はしていますが撃つのは矢ではありません。弓矢型のミサイルランチャーで名前はエピデミックといいます。射程距離は広くないですが弾の速度が高く、威力が高いのが特徴です」

千冬

「だろうな。これ程の大きさだ」

「じゃあ次行ってみよー!」

 

そう言われて2番目にシャルロットが展開したのは、

 

セシリア

「これは…円盤ですか?」

 

彼女の左手に展開されたのはブーメランにもディスクにも見える巨大な兵器。三枚のウイングの様なものがあり、良く見るとそれ全てにカッターの様な刃が付いている。

 

海之

「円盤型の遠投兵器、グリーフという。ブーメランのように高速回転しながらウイングについているエッジで斬り刻む。ロックオンしてから投げると相手を追尾し続ける」

「…シールドがあるとわかっててもなんだか恐いわね」

本音

「シャルルン~、あんまり人に使わないでね~」

シャル

「う、うん」

クロエ

「因みにですが戻ってくる時はオートコントロールですからご安心ください」

 

グリーフを解除し、3番目に展開したのは、

 

楯無

「…これはわかりやすいわ。機関砲ね」

真耶

「なんか可愛いですね。まるでカバンから出てるみたいなデザインです」

 

それは大型のガトリング砲であった。本音の言う通り良く見ると砲台部分がカバンかスーツケースの様であり、砲塔はそこから飛び出ている様にも見える。

「高速機関砲で名前はジェラシーっていうんだよ~。一発一発の威力は低いけど従来のアサルトライフルやマシンガンより遥かに高い連射力を持ってるからね。あとパンドラの武装で一番軽いから空での使用もおススメだよ♪」

一夏

「じぇ、ジェラシー?」

ラウラ

「日本語で嫉妬という意味だな。名付けの意味は分からんが」

火影

「嫉妬というのは人間の業のひとつだからな。そっから来てるのかもしれねぇ」

 

次は4番目。折り返し地点に差し掛かった。

 

ラウラ

「これはまた大きい砲塔だな」

「カッコいい。まるで戦隊ヒーローに出てくる大型武器みたい」

 

シャルロットの丁度前面部に現れたのは巨大な砲台の様な物。その口径は先程のエピデミックよりも遥かに大きい。

 

海之

「超高出力レーザー砲、名はリヴェンジという。見ての通り超大口径のレーザーを撃つ事ができる。その威力はパンドラの中でも一二。反対に重量が一番重いのと連射が利かないから使い回しは悪いがな」

「でしょうね。コレ程の大きさだもの」

火影

「使うなら地上での方が良いだろう。これでようやく半分だ。どうだシャル?」

シャル

「うん、大丈夫だよ。パンドラの武装についてはまだ勉強が必要だけど機体の方に関しては全く問題ないよ。新型とは思えない位しっくりきてるんだ」

火影

「まぁお前のデータを組み込んでるから当然だろうな」

「しかしこれだけの武装を如何に使うか覚えるのは大変だな」

クロエ

「ご心配いりません。そのために新しいシステムを組み込んであります」

「新しいシステム?」

「シャルちゃんの使ってたラピッドスイッチの発展型、ハイ・ラピッドスイッチ。ラピッドスイッチのおよそ1.5倍早い速度で処理を行えるだけでなく、更にその場の状況で最適な武器の選択をオートで提案してくれるんだ♪そのために空間把握能力もUPさせているよ。音声入力式だから手を使う必要も無いんだ♪」

千冬

「成程な。拡張領域が広いデュノアの機体だからこそできる事か」

「そういう事♪じゃあ次行ってみよ~!」

 

続いてシャルロットが選択したのは、

 

シャル

「!」

一夏

「な、なんだこれ!?カッケー!」

千冬

「…乗り物か?追加装甲の様に見えるな」

 

シャルロット含め一夏達もそれを見て驚いた。展開されたのは彼女を覆う様に現れた巨大な兵器。一見乗り物の様にも見える。更に大きさは小さいがこれにも無数の砲塔が付いている。

 

「ふっふっふ~、これにはちーちゃんも驚いた様だね♪これがパンドラの中で最も大きいかつ強力な形態!重火器ユニットのアーギュメントだよ!無数の砲塔による攻撃力は随一!展開中はシールドも出てるから防御もバッチシ!更に飛行もOKのスペシャルユニットなんだ!ただその半面SEの消費も他より遥かに大きいから3分位しか使えないけどね~」

シャル

「3分…」

楯無

「まさに切り札ね…。使い時には注意しなさいシャルちゃん。上手くしないと両刃の剣になりかねないわよ?」

「あああとできれば人には使わないであげてね~?強力すぎるし、どっちかと言えばあのおかしな奴らに対抗するために造った物だしね」

シャル

「は、はい!」

「おかしな奴らって…ファントムやあの時の鳥の事かな?」

セシリア

「きっとそうですわ…。あれらに対抗するための力という事ですわね」

「……」

 

みんながアーギュメントについて話す中、箒はひとりだけ先程の束の言葉を聞いて驚いていた。

 

 

「強力だから人には使わないであげて」

 

 

一夏

「…どうした箒?」

「い、いや。…なんでもない」

クロエ

「これであとふたつです。あとのふたつはシャルロットさんが使っていた武装の発展型ですから慣れるのは時間がかからないと思いますよ」

シャル

「ラファールの?」

 

そう言われたシャルロットが次に出したのは、

 

ラウラ

「…これは…グレースケールに良く似ているな。かなり大型だが」

 

シャルロットの左腕に展開されたのはラファールにも使われていたバンカー型の武装、グレースケールの様なもの。但しそれよりも見た目はかなり大きい。

 

海之

「それは見ての通りシャル、お前の使っていたグレースケールの純粋な発展型と言っても良い兵器だ」

火影

「リボルバー式大型杭打ち機、グラトニーだ。以前グレースケールがお気に入りってシャル言ってたからな。パンドラの中にピッタリのがあって用意した。ついでに言っとくとグラトニーってのは暴食って意味だ。打ち貫くまで装甲に食い込もうとする様子から名が付いた。一回使うとリロードする必要があるがラピッドスイッチがオートでやってくれっから心配すんな」

「これだけの大きなバンカーだ。威力も高い事は間違いないな」

シャル

「…スピードローダーも付いてる。確かにグレースケールと殆ど変らないから慣れるの早そうだよ。ありがとう」

千冬

「…さて、次でようやく最後か」

真耶

「流石に七つもあると紹介も大変ですね」

「といっても最後のは武器じゃないけどね~。じゃあシャルちゃん宜しく~♪」

 

そう言われてシャルロットは最後の武装を展開する。それは、

 

セシリア

「これは…美しい光の膜ですわ」

本音

「キレイだね~」

 

パンドラの周辺に光を放つ膜が現れた。淡い茶色い輝きを放っている。

 

「綺麗でしょ~?但しただ綺麗なだけじゃないよ、高性能なシールドなんだ♪」

「…確かに言われてみればシャルの使ってたガーデン・カーテンに似てるね」

火影

「簪の言う通りガーデンカーテンの発展型さ。名前はアンバーカーテン。SEの調整で自分だけでなく周辺も守ることができるからな」

「簪のケルベロスのシールドと同じって訳ね」

一夏

「アンバーってどういう意味だ?」

楯無

「アンバーというのはパワーストーンのひとつよ。濃いオレンジの様な茶色の様な色をしてるわ。マイナスのエネルギーをプラスにするって効果があると言われてるけどね」

クロエ

「因みに名前を付けたのは火影さんです」

シャル

「火影が?どうして?」

 

シャルの小さな質問に火影は答えた。

 

火影

「ああ、それはなシャル。お前を生んだお袋さん、あの人から取ったんだ」

シャル

「………えっ」

 

思わぬ返答に言葉を失うシャルロット。

 

「どういう事火影?」

火影

「ああ。前にシャルの死んだお袋さんに会ったんだが…その人が茶色い瞳をしてたんだよ。それでよく似た色の宝石から考えたんだ。お袋さんが守ってくれてるって感じがするだろうってな」

※Mission43をご覧ください。

セシリア

「シャルロットさんのお母様が…」

「ひーくんからお話を聞いた時に束さんも感動しちゃったよ♪」

シャル

「………」

 

シャルロットは何も言わずに俯いている。そんな彼女を見て火影は悲しんでいるのかと思った。

 

火影

「迷惑だったか?辛い事思い出させてしまったなら…」バッ!「わっ」

シャル

「……」

 

火影は驚いた。突然シャルロットがパンドラを解除し、火影の胸に飛び込んできたのである。そして彼女は小さい声で話し始めた。泣いているのか若干涙声だ。

 

シャル

「……ありがとう、ありがとう火影。……迷惑なもんか。…嬉しいよ。……本当に嬉しい」

火影

「そいつは良かったな」

「…今回ばかりはちょっと仕方ないわね」

本音

「…うん」

 

 

…………

 

それから少し経ち、シャルロットはようやく落ち着いた様であった。

 

シャル

「…みんな御免なさい。火影も御免ね?」

火影

「気にすんな」

海之

「これでパンドラの説明も終了だな。どうだシャル、使えそうか?」

シャル

「…うん。すごく大変だと思うけど…頑張るよ。火影や海之、束さんやクロエちゃんが一生懸命造ってくれたんだもん。パンドラ・リヴァイヴ、必ず使いこなしてみせるよ!」

 

彼女は力強くそう言った。

 

ラウラ

「シャルの奴、いつにも増してやる気に満ちているな」

「まぁそりゃ当然でしょ。私達も負けてられないわね」

「そう言ってもらえると束さんも造った甲斐があるってもんだよ。これでようやくもうひとつの方に集中できる~♪」

千冬

「…そういえば前にそんな事言っていたな。一体何を造っているんだ束?」

「それはできてからのお楽しみだよ~!まぁ因みにヒントをあげるとするなら………束さんの真剣な遊び?」

真耶

「あ、遊び?」

火影

「誰が使うんですか?」

「それも秘密だよ~♪ねぇクーちゃん?」

クロエ

「えっ?は、はい。…秘密です」

火影

「?」

一夏

「…とまぁそれはさておきシャルもパワーアップしたし、次はとうとうタッグマッチだな!あの時よりみんな強くなってるから盛り上がりそうだぜ。あとはタッグの相手だけど…」

 

とその一夏の一言でみんなが一斉に動いた。

 

シャル

「火影!僕と組んで!パンドラの練習に付き合ってほしいんだ!」

「シャルは前に組んだでしょ?次は私よ!」

ラウラ

「海之!私達は夫婦だ!組むのは当然だ!」

「そ、それはずるいよラウラ!」

セシリア

「箒さん!前回は貴女でしたから今度は私が一夏さんと!」

「た、確かにそうだがあれは打鉄だ!紅椿でしか試せない事もある!」

 

少女達はみんな目の色を変えて男性陣に迫る。

 

本音

「み、みんな怖いよ~」

「なんかわかんないけどみんな盛り上がってるねー♪」

楯無

「恋する乙女のパワーは強烈ね」

扇子

(戦々恐々)

真耶

「あはははは…」

 

とその時千冬が割って入ってある事を伝える。

 

千冬

「静かにしろ!!…全く。そういえば伝え忘れていた事があったが…海之と火影は今回参加させない事になった。詳しくは明日説明する」

火影・海之

「「…!」」

一夏

「えっ!?」

少女達

「「「え―――!!」」」




おまけ

それはシャルロットがアンバーカーテンの件で落ち着くのを待っていた時の事。

千冬
「………」

千冬は何か考え込む様な表情をして黙っていた。

ラウラ
「どうしました教官?」
千冬
「……いや、ちょっと気になった事があってな。さっきの話で」
真耶
「さっきのお話?」

「それって…シャルの亡くなった母親の話ですか?」
千冬
「……ああ。まあな」
セシリア
「どうおかしいんですの?」

何がおかしいのかみんな疑問を持っている様だ。そんなみんなに千冬は話を続ける。

千冬
「……聞き間違いではないと思うんだが…。先程火影の奴、デュノアの無くなった母親君に会ったと言ったろう?その人の瞳の色から考えたとも」
一夏
「…ああ確かに言ってたな」

「火影くん優しいね。シャルのために探してくれるなんて」
千冬
「そうだな。……だが問題はそこでは無い」
一夏
「だからどういう事だって?」

まだ疑問が晴れない一夏達。……するとその横で、

海之
「…成程」
楯無
「やっぱりそうよね…」
真耶
「……あっ!!」

「ややややややっぱりそういう訳!?」
本音
「…だだ、だってそうでなきゃおかしいもんね~…」

こちらの五人は少なからず気付いた様である。海之と楯無は冷静に、鈴と本音、そして真耶は落ち着きが無い。


「どど、どうしたのだ鈴、本音。それに山田先生まで」
千冬
「海之や鈴達は気付いた様だな…」
ラウラ
「どういう事ですか?」

すると千冬はゆっくり答えた。

千冬
「…デュノアの前の母。つまりあいつの実母は……2年前に亡くなっている。つまり火影の奴が会ったという事等…ありえん」
一夏・箒・セシリア・ラウラ・簪
「「「……………あ」」」

……大人数にも関わらず、その場がどこよりも静かになった。


※今回出しましたグラトニー、アンバーカーテンはオリジナルです。バンカーは火影(ダンテ)の声優でもある森川智之様が役をしている別作品の某キャラから考えました。そのキャラもバンカーを使いますので。ヒントは「打ち貫く」です。


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Mission112 兄弟の役割 そして 簪の決心

束が造り出したシャルロットの新しいIS、パンドラ・リヴァイヴ。今迄見たことが無い武装や火影達のアイデアが数多く組み込まれたそれを、シャルロットは必ず使いこなしてみせると高々に宣言した。
とりあえず一段落。次はいよいよタッグマッチへと張り切る火影達。そう思った時、千冬がみんなに発表した。

「海之と火影のふたりは今回参加させない事にした」

……どうやらまだまだ一段落という訳にはいかなそうであった。

※今回2話投稿です。次回までまた間を頂きます。


キーンコーンカーンコーン

 

 

1ー1

 

束とクロエがパンドラを届けた翌日の朝。火影達の一組に何時ものメンバーが集まっていた。

 

一夏

「ふぁ~~あ、なんかあんま休めた気がしねぇな~」

火影

「だから無理に来なくても良いっつったろ。長くなりそうだからって。どうせこれから何時でも見れんだし」

一夏

「だってよー新しい魔具だぜ?折角だからできたて見てぇじゃん?」

「オーダーメイドの家具じゃないんだから。でも想像以上に凄い物だったわね」

セシリア

「ええ。デビルブレイカーやケルベロスでも十分凄いですのに魔具そのものをISのシステムとするなんて…」

ラウラ

「しかし海之。どうやってあんな物を手にいれたのか…本当に知らないのか?」

海之

「…ああ。気づいた時にはウェルギエルの中に入っていた。だから本当にわからない…」

 

実際魔具のデータはいつの間にかウェルギエルの中に組み込まれていたので半分は事実である。

 

「以前も同じ事を話したが…一体お前達のISや魔具を造ったのは誰なのだろうな」

「うん。それになんであんなに似てるんだろう…。海之くんと火影くんが双子っていうのも関係してるのかな?」

シャル

「確かにアリギエルとウェルギエルって細かい所は違うけど双子っていう感じがするよね。待機状態も同じだし」

本音

「それにカッコいいけど変わったデザインしてるもんね~」

 

アリギエルとウェルギエルはかつてのふたり、ダンテとバージルの真の姿である「魔人」を模した姿であり、その待機状態は彼らが持っていたアミュレットを模したものであった。

 

火影

「持ってる俺らもなんであんなデザインにしたのかって思ったよ。…造った奴に会えたら聞いてみたいけど……まぁ無理だろな」

海之

「……」

 

火影と海之はアミュレットを渡し、自分達をこの世界に案内した少女の事を思い出していた。そしてもう会う事はできないであろう事も。

 

一夏

「…まぁ何時か分かる時がくるだろ。なんでかそんな気がする」

「呑気だなお前は…。まぁ確かに考えすぎてもわからんか」

「そうね。それよりも今は来週のタッグマッチについて考えましょ。…って思い出した!千冬さん言ってたけどなんで火影と海之が参加できないんだろ?」

ラウラ

「わからんが教官の事だ。おそらく何か考えがあってのことだろう。嫁と組めないのは残念だが」

セシリア

「まぁ放課後のHRで話されるらしいですから今は待ちましょう。……っと、もうこんな時間ですわね」

 

やがて授業の開始時間になり、皆それぞれのクラスに戻って行った…。

 

 

…………

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

時間は過ぎ、やがて本日の授業が終わってHRになった。そしてそこには何故か鈴と簪の姿もあった。

 

一夏

「あれ?なんで鈴と簪がいるんだ?」

「授業が終わったら来いって言われたのよ。大方タッグマッチの事だと思うけど」

「私もそう。…あっ、先生来たよ」

 

言う通り千冬と真耶が入ってきた。

 

千冬

「遅れてすまない。……さて、今日のHRは来週行う専用機持ち限定のタッグトーナメントについてだ。普段の訓練や授業では中々見ることができない専用機持ちの戦いを間近でみられる良い機会だ。皆それをしっかり意識して学んでもらいたい。また参加する専用機持ちは自分達の動きひとつひとつが見ている生徒達に影響を与える物と意識し、恥じない試合をするよう心掛けろ!いいな!」

女子達

「「「はい!」」」

真耶

「頑張ってくださいね、みなさん」

千冬

「……しかし残念な事に今大会は例年に比べ、参加者が非常に少ない。というのもこれも皆知っているとは思うが先のタッグマッチ。そして先日のキャノンボール・ファーストの際に起こった様な謎の襲撃が大きな原因だ。あれで専用機持ちの多くが辞退しているだけでなく、国や企業が生徒の安全を考え、参加を個人の意思に委ねる様にしている」

シャル

「前に火影達が言ってた通りだね…」

「自分達のプライドや面子優先で生徒を万一死なせたりでもしたら洒落にならんからな」

「…まぁでもそう言いながら本音では出てほしいでしょうね…」

本音

「ほえ?私?」

一夏

「いやのほほんさんじゃねぇって。紛らわしいな」

千冬

「無駄話はよせ!…だがそんな状況でも自ら参加を志願した者達もいる。彼等の気持ちに応える意味も兼ねてしっかり学んでほしい。いいな!」

生徒

「「「はい!」」」

一夏

「!ち、千冬姉が俺達を褒めた!?」

 

カーンッ!(チョーク)

 

一夏

「イッテー!」

千冬

「全くお前は…織斑先生と呼べと何度言えばわかるんだ?」

ラウラ

「相変わらずのコントロールだ教官」

 

カーンッ!

 

ラウラ

「痛っ!」

千冬

「お前も同罪だボーデヴィッヒ」

ラウラ

「も、申し訳ありません…」

(さ、最近言われなかったから油断してしまった…)

千冬

「…因みに今回の参加者について先に話しておく。一組からは織斑、篠ノ之、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒの5人。二組からは鳳。四組からは更識妹。そして二年の更識姉の合計8人だ」

セシリア

「たった8人…。それも私達だけではないですか…」

本音

「ほんとに少ないね~」

「それだけ例のファントムや機械鳥に危機感を抱いていると言う事だろう。何しろあれ程の存在だからな」

「ロボットだけど姿は殆ど怪物とかモンスターっていう感じだもんね」

 

みんなが話す中、一夏が例の事で質問してみた。

 

一夏

「そういえばちふ…織斑先生。火影と海之が出ないのはなんでですか?俺達一緒に申し込みしたんすけど?」

「そうでした!何故ですかち…織斑先生?」

(危ない危ない…)

 

一夏や鈴だけでなく、それを知った他の生徒達も疑問の声を上げる。

 

千冬

「それについては今から説明する。確かにふたりも当初参加する予定だった。だが学園側としてふたりは今回参加させずにある役割に就いてもらう事に決定したのだ」

火影

「…役割?」

海之

「…?」

千冬

「皆も知っての通り、ここ最近の学園のイベントは数多くの問題が発生している。前学期のクラス対抗戦時の黒いIS襲撃から始まり、前タッグマッチ、臨海学校、そして先日のキャノンボール・ファースト。…情けないが我々は幾度も予想外の襲撃を受け続けている。そしてその度にお前達、生徒達を危険な目に合わせてしまっている。……申し訳ない」

真耶

「本当に御免なさいみなさん…」

 

千冬と真耶は生徒達に頭を下げて謝罪した。

 

一夏

「先生。謝る必要なんてないっすよ。ここにいる誰ひとり先生達を恨んでなんていませんから」

生徒

「「「はい!」」」

「「「うんうん!」」」

 

全員一夏の言葉に賛同した。

 

真耶

「…ありがとう皆さん。皆さんの様な優しい生徒がいて…私は幸せ者です」

千冬

「…感謝する。…話を戻そう。そして考えたくはないがこれ程立て続けになると、今回行われるタッグマッチでも何かしらの問題が発生する可能性がある。本来なら大会の中止も考える所だが…多くの国から大会の実施を望む通達が来ている。大方専用機持ちのデータを少しでも収拾したいという目的だろう。当日は多くの関係者も来るらしいからな」

シャル

「やっぱりそうなんだ…」

ラウラ

「表では心配してそうにしながら裏ではやはり私欲が大事か。…愚かな」

千冬

「お前達の気持ちはわかる。しかし最早実施は避けられん。故に何が起こっても対処できるようできる限りの対策を取っておく必要がある。…そこで」

 

するとそこに海之が割って入った。

 

海之

「千冬先生。俺と火影に万一に備え、大会を防衛しろと仰るのですね?」

生徒

「「「!!」」」

火影

「成程な」

一夏

「なっ、なんだって!?本当か千冬姉!」

セシリア

「そ、そんな!なんで火影さん達にそんな事させるんですか!おふたりも一生徒でしょう!」

千冬

「……」

 

驚いて呼び方が戻っている一夏だが気にしているどころでは無い。そして千冬の沈黙が答えが正解である事を証明していた。

 

「そんな…。海之くんと火影くんのふたりだけなんて…」

真耶

「勿論ふたりだけにはさせません!教師陣からも警護に回します。…ですがそれでも生徒達や各国の要人を警護するのが精々。しかももし戦いとなった場合不安があります。情けない話ですが…実力で言えば圧倒的にふたりに劣りますから…」

千冬

「……それに万一ファントムや先日のような奴が複数で掛かってくるような事があれば更に不味い。また新たな未知の存在が出てくる可能性も捨てきれん。そうなった時に最も被害が少なく対処できるのは…海之と火影のふたりだけだ」

「だ、だからって!」

 

声を荒げる鈴達に火影が代わりに答える。

 

火影

「落ち着け鈴。先生達だってきっと辛いんだ。……それに良く考えりゃそれが一番最良かもしれねぇ」

「…えっ?」

本音

「どういう事ひかりん?」

火影

「まず俺達のISは国の所属じゃねぇ。俺達個人の物だ。大会に参加しようがすまいが俺達の自由に使える。おまけに俺らは特別実行委員としてある程度自由に動けるからな。もし仮に俺達自身やISが傷ついてもスメリアには迷惑かからねぇ。学園への批判も最小限で抑えられるだろう」

海之

「それに何か起こるとすれば先生方の言う通り先日の様な謎の襲撃者達による可能性がある。ならばそれらに対抗できる力を持った者が防衛の任に就くのが合理的だ」

火影

「なっ?俺達が一番適任だろ?」

「た、確かにそうだが、それでもやはりふたりに任せるみたいではないか!」

一夏

「千冬姉!せめて俺も火影達と参加させてくれ!」

ラウラ

「私もです教官!私には軍人として民間人を守る義務があります!」

 

一夏とラウラは自分達も警護に回ると願い出たが、

 

千冬

「…織斑、お前は駄目だ。白式の企業から是非出てほしいと通達が来ている。…それにボーデヴィッヒ、お前はドイツ政府と軍から通達が来ているだろう。無茶を言うな」

一夏

「マジかよ…」

ラウラ

「…くっ」

 

悔しそうな表情をするふたり。

 

火影

「そんな顔すんなふたり共。それに先生が俺達にそんな仕事をさせんのは…多分俺達を思っての事だろうしな」

シャル

「えっ?」

海之

「観客の中には多分俺達の事を調べたいと来る者もいる筈だ。さっき先生も言ったろう?専用機持ちのデータが欲しい奴らが集まると。一応俺達も男子のIS操縦者だからな。欲しい奴なら喉から手が出る程だろう。だが俺達が参加しないちゃんとした理由があればそいつらを諦めさせる事もできる」

火影

「そういうこった。だから一夏も皆も気にすんな。それに第一に絶対何か起こるなんて限らねぇだろ?何も起こらないならそれに越した事はねぇんだから」

 

火影はいつもの様に余裕ある表情でそう言った。

 

「火影…」

「海之くん…」

千冬

「…本当にすまないと思っている。もしもの時は私も出るつもりだが…何分私のISはまだ封印されている身。しかし量産機では十分とは言えん。またふたりの力を…貸してほしい」

海之

「はい」

火影

「勿論です」

 

ふたりはふたつ返事で了承した。

 

真耶

「…ありがとうございます。ふたり共」

千冬

「感謝する。当日お前達はもし何かしらの問題が発生した場合それに対処。緊急の場合は特別実行委員として自己の判断で行動してくれて構わん」

火影・海之

「「はい」」

千冬

「…さて、すっかり話が長くなった。とりあえず今日の所はこれで終わりにしよう。織斑!号令!」

 

何時もより長いHRは終了したのであった。

 

 

…………

 

HRが終わった後、みんなは食堂に来ていた。

 

一夏

「すまねぇふたり共。せめて俺だけでも手伝えりゃ…。たく国が管理してるってのは結構厄介なもんだな…」

ラウラ

「私も家族の力になれんのが悔しい…」

火影

「しょうがねぇさ。普通はそれが当たり前だ。そういや箒、ひとつ思い出したんだがお前のISは日本の所属になんのかやっぱ?」

「いや。紅椿は機体もコアも姉さんが用意した物だから正確には国の所属ではなく、ふたりの様に私個人の物なんだ」

「あっ、やっぱそうなんだ。いいな~」

「それを思い出して私も協力できないか聞いてみたのだが…、今大会は人数の問題からこれ以上は無暗に抜けられないらしい」

シャル

「確かに箒が抜けたら七人になっちゃうから中途半端になるもんね…」

火影

「まぁ警備の方は俺達に任せてお前達は試合を頑張んな」

セシリア

「…ええ。ですがこれでタッグの相手を決めるのは少し楽になりましたわね」

本音

「そういえばみんな昨日凄かったね~」

海之

「ひょっとして…まだ誰も決めていないのか?」

「う、うん…」

「あははは。ついね…」

 

どうやら多くの者は火影・海之とペアになる事以外考えていなかった様である。

 

一夏

「そういや楯無さんは誰と組むつもりなのかな?まさか俺と組む訳じゃねぇだろうし…」

箒・セシリア

「「……ハァ」」

ラウラ

「簪や本音は知らないか?」

「!う、ううん。私も…知らない」

本音

「私も知らないよ~?」

「ってゆうか一夏は誰と組むつもりなのよ?」

一夏

「俺?……う~ん、まだわかんねぇや」

海之

「………」

シャル

「とりあえずタッグの相手は明日から決めようよ。もう今日は遅いし」

本音

「じゃあ今日はとりあえず解散って事で~!おりむ~、号令~!」

一夏

「いや全然似てもかすってもいないって」

 

こうして今日は解散する事になった…。

 

 

…………

 

海之と簪の部屋

 

一緒に戻ってきた海之と簪。すると海之が簪に話しかけた。

 

海之

「……簪。ちょっといいか?」

「え?うん、いいよ。どうしたの?」

海之

「ああ。来週のタッグマッチについてだが、お前はもうパートナーは決めているのか?」

「えっ?う、ううん。私もまだだよ。…本当は海之くんと組みたかったんだけど…」

海之

「…すまない」

「あ、謝らないで!海之くんは何も悪くないから!」

海之

「……助かる。…それで俺からの提案なんだが……、パートナーが決まってないなら…一夏と組まないか?」

「…えっ?……一夏くん?」

 

簪はその名前が出た事に少し驚く。そして海之は言葉を続ける。

 

海之

「驚かせたならすまない。ただこれはお前のためになると思ってな」

「…どういう事?」

海之

「以前お前の専用機である打鉄弐式の完成が一夏の白式のせいで中断した、という話を思い出してな…。その影響のためか、実際お前は一夏の話に乗る事はあるもののお前が一夏に話しかける場面をあまり見たことがない。あの春風の件以外。まだお前の中で一夏への意識が完全に溶け切っていないと感じたのだ」

「……」

 

簪自身も思い当たる事があるのか黙っていた。海之は更に言葉を続ける。

 

海之

「お前は今度のタッグマッチで自分の可能性を知りたいと言った。そのためには今の自分を見つめ、問題を克服しようという意志が無ければならん。それができてこそ新しい可能性が見えてくる。そして…自らに立ちふさがる壁を乗り越える事もできる」

「……自分を見つめる。…壁を乗り越える……」

 

簪は海之の言葉を心で反芻していた。そして改めて意識した。壁とは…自分が誰よりも越えたいと思っているひとりの存在である事を。

 

「………」

海之

「勿論これは俺の勝手な望みだ。無理に聞く必要はない。別に今だけが機会という訳では無いからな」

 

簪は暫く黙っていたが……やがて、

 

「………ううん……わかった。私…やるよ、海之くん!一夏くんと組む。そして…、必ず乗り越えてみせるよ。自分の壁を!」

 

簪はそうはっきり答えた。

 

「…そうか」

 

海之もその力強い決心に安心したのか、笑みを浮かべて返事するのであった。




それから一時間位経ち、海之が風呂に行く支度を整えていると簪が話しかけてきた。


「海之くん。あの……私もひとつお願いがあるんだけど……聞いてもらって良い?」
海之
「? 俺にできる事ならばな」

「あ、ありがとう。……あのね。海之くん今度の御休み、空いてる?」
海之
「…特にこれといった用事は無い」

それを聞いた簪は恥ずかしそうに話し始める。


「じゃ、じゃあね。…もし、もし海之くんが良かったらなんだけど……、今度の御休み、私と…私と……デ、デートして……ほしい…」

恥ずかしさからか最後はとても小さい声、そして真っ赤になりながら海之にお願いした。

海之
「……」

「……」

返事が無い事に簪はやや不安そうな表情をしている。すると、

海之
「…生憎俺はそういった事に詳しくない。お前が望む様なものになるかわからんが、……それでも良いなら構わん」

「……えっ、ほ、本当!?」
海之
「ああ」

その返事に簪は、


「ありがとう!」

喜びが抑えきれなかったのか、嬉しさのあまり海之に抱きついた。

海之
「……」

「あっ!!ご、御免なさい!私ったら!」
海之
「気にしなくて良い」

海之はそう言うが簪は告白した鈴達に負けない位真っ赤だった。


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Mission113 それぞれの想いを持って①

シャルロットにパンドラ・リヴァイヴが届けられた日の翌日。この日の授業も終わり、一夏達はHRで千冬と真耶からタッグマッチについて。そして火影と海之が何故参加許可されないのかの説明を受ける。過去のイベントでの経緯を危ぶんだ学園は、園で最も実力があるであろうふたりを大会の警備に当てる事にしたのだった。一夏達は驚くが火影と海之は苦い顔ひとつせずそれを了承する。

一方一夏達参加者はタッグを誰にするか決めかねていた。そんな中、海之は簪に今後の事、そして過去を乗り越える意味も兼ねて一夏と組む事を提案する。最初は戸惑った簪だったが海之からのフォローを受け、一夏と組む事を決意した。


IS学園 1-1

 

 

「一夏くん。タッグマッチの相手、私と組んでほしい」

 

 

千冬からタッグマッチについて説明があった日の翌日朝。簪は一組に来ていた。目的は見ての通り一夏にタッグマッチでのペアをお願いするためである。何時もの大人しい彼女らしくない、とてもしっかりとした口調だった。

 

一夏

「えっ?…あ、ああ。俺で良いなら別に構わねぇ…けど…」

 

一夏は少々困惑していた。普段いつも同じメンバーで集まってはいるものの、簪とは多分一番話していない。別のクラスという事もあって一緒にいる時間も少ない。そんな彼女がよりによって自分と、しかも向こうからペアをお願いして来るなんてはっきり言って無いと思っていた。

 

「ありがとう。じゃあ今日からできるだけ訓練しましょ。時間は合わせるから決まったら連絡お願いね」

 

そう言うと簪は部屋を出て行った。

 

一夏

「……」

本音

「な、なんかかんちゃん。随分力入ってたね~」

火影

「…そうだな。海之、何か知ってるか?」

海之

「……後で話す」

 

実質簪がああするきっかけとなった海之は先程の簪を見て大丈夫だと思った。

…とそこに箒とセシリアが入ってきた。

 

「おはよう皆」

セシリア

「おはようございます。皆さん」

本音

「おはよ~しののん。セッシー」

火影

「おはようさん」

海之

「おはよう」

一夏

「おはよう箒、セシリア」

箒・セシリア

「「!」」

 

一夏の姿を確認するや否やふたりは一夏に詰め寄り、そして、

 

箒・セシリア

「「一夏(さん)!タッグマッチでは私と組んでくれ(くださいませんか)!」」

 

こちらも先の簪に負けない位の迫力のふたり。そんな彼女達に一夏は、

 

一夏

「あ、ああそれなんだけどさ。もう俺ついさっき簪と組む事になったんだ。悪いな」

 

それを聞いたふたりは更に詰め寄る。

 

「な、なんだと!!簪とだと!?」

セシリア

「い、一夏さんからの要望ですか!?いえきっとそうですわよね!?簪さんがそんな事言われる筈ありませんもの!」

一夏

「い、いや簪の方からだ!俺じゃねぇって!つーかなんでそんな必死なんだ~!?」

 

一夏はふたりから更に詰め寄られていて暫く掛かりそうだ。そんな中他のメンバーも登校してきた。

 

シャル

「おはよう火影、みんな。……って、どうしたの?箒とセシリア」

ラウラ

「一夏の奴えらい剣幕で迫られているな」

「あいつの事だからまた何か怒らせる事したんじゃないの~?」

火影

「…いや、一夏の奴は全く悪くない……筈だ」

本音

「う~ん、でもふたりの気持ちを考えるとね~」

海之

「…ハァ」

 

海之は箒とセシリアにほんの少しだけ悪いと思った。その後、ふたりの押し問答は授業開始のチャイムが鳴る迄続いたのであった……。

 

 

…………

 

IS学園 アリーナ

 

一夏

「つ、疲れた~」

 

その日の放課後、一夏はタッグを組む事になった簪と共に訓練を行っていた。基礎や応用、最後は実戦練習まで。その内容ははっきり言ってハードだった。

 

「じゃあ今日の所はこれ位にしようか。でもこれ位でバテてる様じゃ今度の試合勝てないよ」

一夏

「そ、そうはいってもいきなりこんなハードとは…。ってか簪強えなぁ。初めてだっけ?こうして戦うのは」

「これでも一応日本の代表候補だからね。それにケルベロスの訓練も兼ねて海之くんや火影くんに時々単独で教えてもらってたし」

一夏

「そ、そうなのか」

「うん。じゃあ今日はお疲れ様。また明日ね」

 

そう言って簪は戻って行った。

 

一夏

「な、なんかあいつ凄いやる気だなぁ。それにさっきの話し方、まるで楯無さんみてぇだ。…ってそうか、姉だから当たり前か」

 

すると外から海之と火影、そして本音が入ってきた。

 

本音

「お疲れ~、おりむ~」

一夏

「ん?おお、のほほんさん。火影と海之も」

火影

「お疲れさん。訓練は終わったのか?」

一夏

「ああ今さっきな。随分なやる気だよ。簪の奴」

火影

「…確かに随分張り切っているな。…まぁタッグの相手がお前で、かつ自分の壁を乗り越える機会だから何時も以上に張り切ってるんだろ」

一夏

「? タッグの相手が俺だから?」

海之

「ああ…。実はな……」

 

 

…………

 

それから海之は自分が知るだけの事を全て一夏に話した。簪の専用機である打鉄弐式が偶然且つ直接の責任で無いとはいえ、一夏の出現と白式の開発で殆ど中止同然となってしまい、彼女の心が大きく傷ついた事。そして周りの協力もあって最近やっとの思いで完成した事。その間簪は開発に集中するあまり、代表候補としての役割ができずに悔しがっていた事。そして今回のタッグマッチで実の姉である楯無に勝ちたいと思っている事を。

※Mission40をご覧ください。

 

一夏

「……そうか。俺のせいで簪の夢が遅れてしまったのか…」

火影

「俺もさっき海之から聞いたばかりだ。まぁある程度は聞いてたけどな」

海之

「もちろん全部お前に責任がある訳じゃない。お前の出現は誰ひとり予想できなかった。ただ完成間近という状況でそうなったためにあいつも素直に受け止めきれなかったのだろう」

一夏

「…それもあるけどあいつ、楯無さんにそんな感情があったんだな。…考えりゃ確かにあいつから楯無さんに話しかけているの見たこと無い気がする…」

本音

「…うん。お家でもなんだ。でもあれでも随分良くなったんだよ~?最近はかっちゃんの言葉に返したりしてるもん~」

火影

「俺らと一緒にいるときは紛れて会話できてんだろうけどな。でも今までがそうだったから急には無理って事だろ…」

海之

「簪はこの大会でこれまでの自分とケジメを付けるつもりだ。だから…お前も協力してやってくれないか?…あいつが悔いなき結果が得られる様に。勝敗に拘らずな」

 

海之がそう頼むと一夏は、

 

一夏

「……へへっ、なんかお前らに頼み事されるなんて初めてな気がするな。…もちろんだぜ!但し、やるからにゃ勝つつもりでいくぜ!楯無さんにもな!」

火影

「そう言うだろうと思ったよ。んじゃ飯でも行くか」

本音

「じゃあ折角だからかんちゃんも呼ぼー!」

 

簪も合流し、みんなで夕食に向かったのであった。

 

 

…………

 

学園内道場

 

ブンッ!ブンッ!

 

一方、こちらは学園内にある道場。そこではひとりの少女が竹刀を振るっていた。

 

「ハッ!!」ブンッ!

 

それは箒だった。一見みると何の変わりも無い鍛錬だが…彼女の心中はというと、

 

(一夏の奴、許せん!!私に組もうと持ちかけなかったのは致し方ない!あいつの性格上それは難しいと思う。しかし私でもセシリアでも、ましてや同じクラスのシャルやラウラでも無く、わざわざ別のクラスの簪と組むとは!!)

 

どうやら一夏が簪と組んだ事にまだ腹を立てている様だ。とそんな箒に話しかける者がいた。

 

楯無

「……箒ちゃん?」

 

それは楯無であった。

 

「…あっ、楯無先輩。お疲れ様です。どうしたのですか?ここは道場ですよ?」

楯無

「部の先生に用事があったの。それで戻る途中だったんだけど、道場からもんの凄く気合い入った声が聞こえたから…なんか聞いた事ある声だな~って思って」

「そ、そんなに大きな声でしたか。申し訳ありません……」

 

楯無が聞いたと言う声はもちろん箒。どうやら集中し過ぎていて自らの声に気付いていなかった様である。

 

楯無

「ううん。むしろそれだけの気合いが入った訓練はどんどんやっていいと思うわよ。タッグマッチに向けての訓練?ってゆうか箒ちゃんってタッグの相手決まったの?まぁ誰と組みたいかはもう丸わかりだけど♪」

 

楯無は間違いなく一夏狙いだと思っていた。

 

「…ええ。その事なんですが……、一夏は簪と組む事になったんです」

楯無

「…えっ?…簪ちゃん?」

「はい。海之から聞いたのですが…今朝方簪が一夏に申し込んだ様でして」

楯無

「簪ちゃんが一夏くんに……」

 

顔には出さないが楯無はその事実に驚いている様だ。すると、

 

楯無

「箒ちゃん、この後良かったらちょっと付き合ってくれる?」

「えっ?あ、はい!」

 

 

…………

 

IS学園 大浴場

 

楯無

「ふ~、見事に貸し切り状態ね~♪」

「え、ええ。そうですね……」

 

箒が連れて来られたのは学園の大浴場だった。因みに今ふたり以外に入っている生徒はいない。

 

楯無

「……それにしても箒ちゃん、随分発育がいいわね~。なんか妬けちゃうわ~♪」

「ちょっ!何を仰るんですか楯無さんまで!」

楯無

「気にしない気にしない♪それはむしろ女として誇るべきよ?それで一夏くんも誘惑したりしてるの~?」

「そ、そんな事してません!それに一夏にはそんな事しても…ってそうじゃなくて!というかそんな事言うために私を呼んだんですか!?」

楯無

「あははは、ごめんごめん♪…実はね、この際箒ちゃんにも話しておこうと思って。私と簪ちゃん、そして…一夏くんについて」

「…えっ、一夏と簪?」

楯無

「ええ。ああでも安心してね?決して好きとかそんな事じゃないから。簪ちゃんは海之くん一筋だし~♪…って話か、実はね……」

 

 

…………

 

それから楯無は箒に話した。ISを組み立てた事や操縦技術。成績や若干17という歳で国家代表にまでなっている等、様々な経緯で数年前から簪が自分に対してコンプレックスに似た感情を持っている事。そしてISを巡る簪と一夏の事情についても。

 

楯無

「…と言う訳なのよ~」

「……そんな事が。そういえば学園に入学してまだ間が無い頃、4組に専用機持ちがいるとは聞いていましたが…一度もその者を見たことがありませんでした。あれは…簪の弐式が完成していなかったからなんですね。そしてその理由が…一夏の白式」

楯無

「正確に言えば一夏くんには責任ないんだけどね。彼からしたらそんな事言われてもって感じだろうし。…ただ感情がそれを認めなかったんだと思うわ」

「……そして簪と楯無さんの間にそんな関係があったなんて…。今まで気付きませんでした」

楯無

「まぁ私は平静を装ってたし自然体でいたから無理もないと思うわ。私は何とも思っていないんだけど…やっぱり簪ちゃんの方がね。劣等感なんて全く感じる必要無いし、私にとってかけがえのない只ひとりの妹なのにね」

「……」

 

箒は楯無の話を黙って聞いていた。そして何故か他人事とは思えなかった。自分も姉である束と現在も解消されない問題を抱えているからだろう。そしてもしかしたらそれがわかっていて楯無も自分に話をしたのかもしれないと箒は思った。

 

楯無

「…でもさ、さっき箒ちゃんからあの子が一夏くんと組んだって事を聞いて思ったよ。…あの子は前に進もうとしてるって。だから数ヶ月前まであんなに恨んでた筈の一夏くんと組んだんだと思う。そして……私と戦おうとも思ってる筈。堂々と正面からね」

「楯無さん……」

楯無

「まぁでもやっぱりそのきっかけになったのは海之くんだろうけどね!恋は女を強くするからね~♪…でもあの子がその気なら私も堂々と受けてたつよ!手加減なんて一切せず!そんなことしたらあの子にますます怒られるからね」

「……」

 

箒は感じ取っていた。普段通りに見える楯無だがその心には熱い闘志を秘めている事に。そして箒は、

 

「…楯無さん。タッグマッチ…私と組んでくれませんか?」

 

楯無にタッグを願い出た。純粋に楯無の力になりたいと思ったのだった。

 

楯無

「モチのロンだよ♪頑張ろうね箒ちゃん!鈍感な一夏くんに気付いて貰えない気持ちをぶつけてやろう!」

「そ、それが本命じゃないですが…、わ、わかりました!宜しくお願いします!」

 

こうして楯無と箒のタッグが完成した。




一夏と簪。箒と楯無のタッグが決定しました。次回に続きます。


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Mission114 それぞれの想いを持って②

「一夏と組め。前に進め。そして自らの壁を乗り越えるんだ」

海之の言葉を聞いた簪は翌日の朝、一夏にタッグを申し込んだ。彼女の気迫にやや押されながらも一夏は申し込みを聞き入れ、訓練に励む。その最中、海之達から自分と簪の間にあった経緯を聞いた一夏は彼女の力になる事を約束した。
一方、時を同じくして箒は楯無と話をしていた。その中で箒もまた楯無から一夏と簪の隠された経緯。そして姉妹の間にある関係について知らされる事に。箒は楯無の心にある思いを感じ取り、彼女を助けたいとタッグを申し入れるのであった。


キーンコーンカーンコーン

 

 

「さあ一夏くん、今日も行くよ!」

一夏

「お、おう!」

 

一夏と簪のペアが決まった翌日。相変わらず簪はやる気に満ちており、一夏もそんな彼女に付いてアリーナに走って行った。

 

火影

「昨日に続いてやる気十分だな簪」

「私もこの後空いているから楯無さんに訓練を頼もうか…」

海之

「箒は楯無さんと組んだか。一夏達にとってはますます強敵だな」

セシリア

「……」

 

 

…………

 

学園内 アリーナ

 

セシリア

「そこ!」

 

ドギュンッ!

 

ラウラ

「甘い!」

 

ドンッ!ドンッ!

 

昨日箒と同じく一夏とタッグを組めなかったセシリアは、一夏達とは別のアリーナで訓練していた。パートナーはラウラ。偏光射撃を使える様になったものの精度はまだ完全とは言えなかった。更なる訓練が必要と感じたセシリアは経験が皆の中では一番多いラウラに相手をお願いしたのである。開始から約一時間半、互いの攻撃がぶつかって相殺された所で、

 

ラウラ

「……ふぅ。セシリア、もう今日はこれ位にしておこう。息が上がっているぞ」

セシリア

「だ、大丈夫ですわ!まだこれ位…」

 

そう言うセシリアだがその腕はライフルを持ちあげるのもやっという感じだ。

 

ラウラ

「そんなに無理をしてはタッグマッチの前に明日の授業に差し支える。今日はもう止めだ」

セシリア

「……わかりましたわ」

 

 

…………

 

アリーナ控室

 

ラウラ

「ほら」

セシリア

「あ、ありがとうございます…。御無理を言ってすいませんでした、ラウラさん」

ラウラ

「気にするな。私もレーゲンの新パッケージの良い訓練ができたしな」

セシリア

「あの両肩に装備された大砲ですわね」

ラウラ

「ああ、パンツァー・カノーニアという。何時ものレールガンよりも小ぶりだがその分連射と動きが良くなった。それに対物シールドもある」

 

先日ラウラのレーゲンにもティアーズの様な新しい装備がドイツから届いていた。

 

ラウラ

「しかし随分張り切っていたなセシリア。まぁ理由はなんとなくわかるが。一夏とタッグを組めなかったのがそんなに悔しかったのか?」

セシリア

「た、確かにそれもありますが…、それだけではないのですわ。……ラウラさん。少しお話を聞いて頂いて良いですか?」

ラウラ

「ああ構わん」

セシリア

「ありがとうございます。実は……先日のキャノンボール・ファーストの時でのお話なのですが…、あのMという方が操るゼフィルスと戦った時、私、一夏さんに助けられましたの。自らも危ないですのに。あの事でますます一夏さんの力になりたいと思いましたわ。そのお陰でティアーズも強くなったと思っておりますし」

ラウラ

「良かったではないか」

 

聞く限り悪い話ではないとラウラは思った。

 

セシリア

「はい、本当に感謝しておりますわ。……でも、その一方で、心の隅でこうも考えていましたの」

ラウラ

「? どんな考えだ?」

 

すると突然セシリアの表情が変わった。

 

セシリア

「はっきり申します。…私は、一夏さんよりもずっと前からISに携わってきましたわ。ティアーズを持つのも何年も掛かりましたし、イギリスの代表候補にまでなれた。……でも、一夏さんはまだほんの半年程しかISに関わっていない。…なのに最早私達と同等、もしかしたらそれ以上に強くなられてしまっている」

ラウラ

「……」

 

ラウラは黙って聞いていた。

 

セシリア

「一夏さんが成長されるのは私もとても嬉しいですわ。それは本心です。…でもなんと言えば良いのか…、ほんのちょっとですが…同時に悔しくもありましたの…。一夏さんがどんどん成長されていく事に。…そして箒さんも。あの方もほんの数ヶ月なのに私達と並ぶ位にまで成長されましたわ。…はしたないお言葉かもしれませんが……負けたくない!…そう思いましたの。もしこのまま差をつけられる様な事があればおふたりに、一夏さんに置いて行かれそうで……怖くて…」

 

どうやらセシリアは一夏や箒の成長に焦りを感じていた様であった。……そんな気弱になっているセシリアにラウラは、

 

ラウラ

「セシリア!」

セシリア

「!は、はい!」

 

突然大きな声で呼ばれた事にセシリアは驚いている。そしてラウラは言った。

 

ラウラ

「セシリア。お前は一夏を信じているか?」

セシリア

「えっ?え、ええ。当然ですわ」

ラウラ

「ならば聞く。お前は一夏がそんな理由で見限る様な男と思うか?例えお前が一夏より弱いとしても、自分より弱い者を見捨てる様な薄情な男と思うか?」

セシリア

「! い、いえ!そんな方ではありませんわ!」

 

ラウラの問いかけにセシリアは全力で否定する。

 

ラウラ

「ならば信じろ、あいつを。そして強くなれ。どうせなら誰よりも一夏を支えられる位を目指して。お前がそう思う限り、お前はもっと強くなれる」

セシリア

「……」

ラウラ

「お前は一夏の事が好きなのだろう?ならば信じるのだ。一夏はお前の事もきっと大切に思っている筈だ」

セシリア

「ラウラさん…」

 

それは以前ラウラが簪に問われた言葉と似たものであった。あの時同じく自信が揺らいでいたラウラに簪が言った言葉。

 

ラウラ

「だから余計な心配は不要だ。まぁ一夏は確かに鈍感で馬鹿で、女心もわからないし、嫁の海之に比べれば全ての点で負けるが、大切なものを守りたいという気持ちだけは足下位には及ぶ。ふふっ」

セシリア

「………」

 

セシリアはラウラの暖かい言葉が嬉しかった。

 

セシリア

「…ありがとうございますラウラさん。貴女のお陰で不安が消えましたわ」

ラウラ

「それは良かったな」

セシリア

「はい。………あのラウラさん。今度のタッグマッチ、私と組んで頂けませんか?」

ラウラ

「ああ、私で良いなら構わん。宜しく頼む」

 

こうしてセシリアとラウラのタッグが完成したのであった。

 

セシリア

「ですがラウラさん。ちょっと一夏さんに厳しくありません?」

ラウラ

「そうか?」

 

 

…………

 

整備室

 

シャル

「基本的には消費SEが低いジェラシーとエピデミックでけん制して…グリーフやグラトニーで確実にダメージを…」

 

セシリアとラウラがタッグを組んだ頃、授業を終えたシャルロットは整備室で作業をしていた。先日束から預かったパンドラの武装の再確認と的確な戦術の組み立てのためである。

 

シャル

「グラトニーやアンバーカーテンはラファールで使い慣れてるけど他の武装は全部初めてだからなぁ。おまけにほぼ全部前例の無い武器ばかりだから教科書も無い…。前は量産機の武器を使い回してたりしてたから比較的簡単な物が多かったし。…でも今回はパンドラの、僕だけの武器なんだよね」

 

シャルロットのIS、パンドラ・リヴァイヴの武装は全て魔具「パンドラ」に収納されていたもの。元々この世界に無い武器であるから教科書が無い事も仕方が無かった。故に最適な使い方は勉強かつ訓練を繰り返して覚えるしかない。

 

ガラッ

 

とそこに扉を開けて誰かが入ってきた。

 

「あれ?シャル。ここにいたのね」

 

それは鈴であった。

 

シャル

「やぁ鈴、お疲れ様。どうしたの?」

「特にこれと言った用事は無いんだけどね。あんたが見えなかったからなんとなく探してたの。……パンドラの勉強してたの?」

シャル

「うん。大会迄にタッグの相手も決めなきゃいけないけど…でもそれよりこっちを優先したくて」

「? それ逆じゃない?パンドラの勉強はタッグの相手を決めてからでもできるんじゃない?まずは相手を決めないと最悪出られないわよ?何せ参加者が少ないんだから」

シャル

「う~ん…そうなんだけどね。でも僕からしたらタッグマッチよりもこっちの方が大事なんだ。折角火影や束さんが僕のために造ってくれたんだもの。早く使いこなせる様になりたいから」

「ま~なんとなく気持ちわかるけどね~。でもちょっと休憩しない?多分だけど…あんた授業終わってからずっとでしょ?」

シャル

「あははは…、そうだね。わかった」

 

 

…………

 

屋上

 

その後ふたりは飲み物を買って屋上に来ていた。空はすっかりオレンジ色になっている。

 

シャル

「もうこんな時間になってたんだね。全然気付かなかったよ」

「やっぱりずっと整備室に籠ってたのね」

シャル

「……ねぇ鈴。この空の色、そしてこの場所。…思い出すね。この前の事」

 

シャルロットが言っているのはもちろん、先日あった火影と自分達の会話の事である。

 

「い、言わないでよ。意識しない様にしてたのに」

シャル

「ふふっ、ごめん。……ねぇ鈴。僕…あの時の火影の言葉、はっきり覚えてるよ。僕達を守りたいって。そして僕達を好きだって言ってくれた事。…僕嬉しかった。本当に嬉しかった。お母さんお父さんと仲直りできた事と同じ位。…ううん、正直もっと嬉しかった」

 

シャルロットは満足そうな表情で言った。

 

「…ええ、そうね。私も嬉しかったわ…。以前一夏の件で失恋しちゃったから余計にね。……でも今思えば…あの時、失恋して良かったのかもしれないと思ってる。結果論だけどね」

シャル

「えっ、どういう事?」

 

シャルロットは思わず驚きの声を上げる。今は火影を好いているとはいえ、鈴は前は一夏を一途に思っていた筈だったから。

 

「…あの件があったから…、火影に出会えたから…、私は自分の気持ちに正直になろう、強くなろうって思った。それでもやっぱり時間かかっちゃったけどね。告白したのもつい最近だったし。でも…火影は私の気持ちを受け入れてくれた。…好きって言ってくれた。…本当に涙が出る程嬉しかったわ」

シャル

「ふふっ。実際一番泣いてたじゃない」

「う、うっさいわね…」

 

シャルロットは鈴の言葉を笑みを浮かべて聞いていた。…しかし、

 

「…でも……だからこそちょっと怖い」

シャル

「…えっ?」

 

鈴の声色が変わり、怖いという言葉が出た事にシャルロットは再び驚いた。

 

「ほら、シャル。火影あの時言ってたでしょ?私達には話せない事があるって。そしてそれを話したら…一緒にいれなくなるかも…って」

シャル

「!」

 

シャルロットは思い出した。あの時火影は言っていた。自分達にはまだ話せない大事な話がある事。そしてそれを話したら自分達といられなくなるかもしれないと。今まで見たことが無い様な寂しい表情で。

 

「火影、そして海之もだけど…、多分何かしらの秘密があるって事は分かってたわ。千冬さんも束さんも言ってたけど…ふたりといいふたりのISといい、私達とどこか違うもの…。でも…それがわかったらふたりが、火影がいなくなっちゃうかもなんて事まで…想像してなかった…」

シャル

「…うん。…そうだね」

 

ふたりは同じ意見だった。そしてここにはいないが同じく火影が好きな本音も多分何かしら感じているに違いない。

 

「…だから怖いの。話してほしいとも思うけど……、それでもし本当に火影が…、いなくなっちゃったらと思うと……、凄く…怖い」

シャル

「…鈴」

「…ねぇシャル、あいついなくなっちゃったらどうしよう…。私、やっと自分の気持ちに…正直になれたのに。…誰よりも好きな人に出会えたのに。……好きって、言ってもらえたのに…」

 

不安を落ち着かせようとしているのか鈴は自身を抱き、俯いている。火影がいなくなるかもしれないと想像するだけで大きな不安に襲われていた。普段の彼女を知る者はきっと今の彼女を見たらとても驚く事だろう。一夏など病気を疑うかもしれない。それだけ今の彼女は弱々しく見えた。

 

スッ…

 

「!…シャル」

シャル

「……」

 

そんな鈴を落ち着かせるように、シャルロットが鈴を優しく抱きしめていた。

 

シャル

「大丈夫だよ…」

「えっ?」

シャル

「大丈夫だよ鈴。火影が鈴や本音や、僕達を置いてどこかに行っちゃう訳無いよ。火影も言ってたでしょ?もう勝手に行ったりしないって」

「…でも…」

シャル

「確かに火影はとんでもない無茶をする事はあるよ。…でも火影は何時でも僕達の事を考えてくれてるじゃない。そして何時でも余裕ある顔してるじゃない。それに前にレオナさんが火影達の家に来た時、言ってたでしょ?火影と海之は心配かける事はあっても誰かを悲しませたりする事は絶対しないって」

「……」

 

鈴は思い出していた。前に自分達がスメリアに滞在していた時、レオナが火影と海之の家に食事に来た時があった。そして火影と海之がちょうど席を外している時、彼女が自分達に言った言葉がある。

 

 

レオナ

(ひー坊とみー坊はいつも自分の事を疎かにするからね。きっと心配かけさせる事はざらにあると思う。…でも、あいつらは心配かける事はあっても悲しませる事はしない。それは断言できる。ましてや君達を悲しませるなんて絶対にしない。…だからふたりを信じてあげてくれ)

 

 

「……」

シャル

「鈴。火影を信じよう?…それにさ、もし勝手にどこかに行こうとしたら…その時は僕達で止めよう。力ずくでも。僕もそのためならリヴェンジでもアーギュメントでもなんでも使うから」

 

さり気無く恐ろしい事を言うシャルロット。

 

「……ふふっ、何それ。めちゃくちゃ怖いんだけど?……でもそうね、シャルの言う通りね。万一の時は無理やりにでも止めましょ!なんなら大泣きして訴えましょ!可愛い恋人候補達を置いてどっかいなくなっちゃうなんて許されるとでも思ってんの!?とかね♪」

シャル

「うん、そうだよ!それでこそ僕やみんなが知ってる鈴で…、僕の恋のライバルだ!」

 

どうやらシャルロットの言葉で鈴は元気を取り戻した様だ。そんなに鈴に対して彼女は言った。

 

シャル

「あっ、そうだ。すっかり忘れてた。ねぇ鈴、もしタッグマッチの相手が決まってないなら…僕と組まない?」

「…ふふっ、もちろんよ!宜しくね、シャル!」

シャル

「うん!」

 

色々あったが無事に鈴とシャルロットのタッグも完成し、無事に皆ペアが決定したのであった。




一夏と簪
箒と楯無
セシリアとラウラ
鈴とシャルロット

それぞれタッグ完成しました。

※また時間を頂きます。


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Mission115 その笑顔のために①

一夏は簪と、箒は簪の姉である楯無と組むことが決定した。
一方、一夏と組めなかったセシリアはラウラと訓練している中、自分が一夏達と差ができ始めているのではないかという不安をさらけ出す。しかしラウラはそれを否定し、一夏の力になりたいと思い続ける限りもっと強くなれると助言する。セシリアはラウラの言葉に感謝し、同時にタッグを申し入れた。
同じ頃、整備室でパンドラの勉強をしていたシャルロットは、鈴と屋上で先日の出来事を思い出していた。共に改めて火影への想いを口にするふたりは、火影の「話していない事がある。話したらいれなくなるかもしれない」という言葉が気になりながらも火影の傍から離れないと改めて約束し、こちらも同時にタッグが完成したのであった。


一夏達出場者のタッグ相手が全員無事に決まって数日が経った。この日は学生も勤め人も嬉しい日曜。趣味に没頭したり旅行に行ったりデートしたりと彼等の目的は様々。しかも今日は何かしらのイベントでもあるのか街も何時もよりかなり賑わっている感じがある。

そんな中、島のとある駅前の広場にふたりの少女の姿があった。ひとりはこの日海之とデートの約束をしている簪。デートなので何時もより着飾っている様子。そしてもうひとりは、

 

「………なんでラウラがここにいるのさ?」

ラウラ

「ふふん、私は海之の夫だぞ?嫁の日々の行動を知るのは立派な役目だ」

 

ラウラであった。しかも彼女も着飾っている。

 

ラウラ

「……と、いうのは冗談だ。実は先日本音が零したのを偶然聞いてしまったのだ。お前が海之をデートに誘った、とな」

(…本音~)

 

心の中で本音をほんの少しだけ恨む簪であった。

 

ラウラ

「本音を責めないでやってくれ。あいつも悪気は無かった筈なのだ。…ただ…、それを聞いて私も妙に落ち着かなくなってしまって。そわそわしてしまって。お前に悪いと思ったんだが……、私もどうしても海之と過ごしたかった…。…御免」

 

簪のデートの邪魔をしてしまった事にラウラも少なからず申し訳なさを感じている様である。そんなラウラに簪は、

 

「……はぁ~、…もう良いよ。本音に悪気が無いのも知ってるし、ラウラの気持ちも分かるし。それに私から誘ってなんだけど…海之くんとふたりきりで一日過ごすのは、まだちょっと緊張するだろうから」

 

勇気を出して自分から海之をデートに誘った簪だがやはりずっと緊張していた様である。

……とそこに当の海之がやってきた。

 

海之

「すまない。待たせたな」

 

海之は黒っぽい服に青い上着、ブーツに手袋という格好だ。

 

「あ、海之くん。ううん、あんまり待ってないから大丈夫だよ」

海之

「…ラウラ?」

ラウラ

「あ、あの…」

 

ラウラがどう言おうか考えていると、

 

「折角だからラウラも誘ったんだよ♪」

ラウラ

「!簪…」

 

ラウラの代わりに笑顔でそう答える簪。

 

海之

「ふむ、そうか」

「うん♪」

ラウラ

「あ、ああ!」

(…ありがとう簪。この礼は必ずする)

(良いよお礼なんて)

海之

「…ふたり共。その服良く似合っている」

「! ほ、本当?こんな格好あまりした事無いから…、嬉しい」

ラウラ

「…嫁に誉めてもらうのは何度でも嬉しいものだな」

 

服を褒められた事に嬉しがるふたり。

 

「海之くんはやっぱり青色が似合うね。カッコいいよ」

ラウラ

「そうだな。青が好きなのか?」

海之

「…まぁそういう事にしておこうか。さて、ふたり共どこか行きたい所はあるか?」

ラウラ

「私は後で構わん。簪、どうだ?」

「……じゃあちょっと行きたい所があるんだけど…良い?」

 

 

…………

 

海之

「…ここは以前一夏達と来たゲームセンターだな」

 

簪に案内されながら来たのは以前一夏達と遊びに来た巨大ゲームセンターだった。

※Extramission01をご覧ください。

 

ラウラ

「…休日にしても随分人が多いな。何かあるのか簪?」

「…うん。あれ」

 

そう言って簪が指さしたのは催し物を記した掲示板。そこには、

 

「歴代ロボットアニメ展!本日のみの限定商品解禁!長い歴史の中でチャンスは本日のみ!」

 

アニメ好きな簪にとってはまさに喉から手が出る程嬉しい企画である。

 

「ご、ごめんね。わざわざこんな所に付き合わせちゃって…」

海之

「気にしなくて良い」

ラウラ

「うむ。付き合うぞ簪」

「……ありがとう。じゃあ行こ!」

 

ふたりのその言葉に簪は安心した様だ。

 

 

…………

 

催しは建物の二階にあるイベントスペースで行われていた。やはり凄い人だかりだ。

 

「すごーい!あのキャラクターのフィギュア、レア物だ~!あっ!こっちにはあのロボットの超合金まである!」

 

簪は興奮冷めやらぬ様子だ。

 

ラウラ

「ふふっ、簪の奴凄く楽しそうだな」

海之

「部屋で様々なアニメを良く見ているからな」

「わーわー!……あっ!ご、御免なさい。また私」

海之

「気にするな。それより何か目当ての物はあるのか?」

「え、え~っと…確か今回あれが出品されてるんだけど…………あっ!あった!」

 

簪が指さしたのはあるロボットのフィギュアだった。かなりのレア物なのかケースに一体だけ入っている。

 

ラウラ

「…凄いな。これだけ特注の箱だ。価格も他より高い。しかもこれ一体だけと書いてある」

「当然だよ!何しろ本当にめったに出ない限定版なんだから!それに私の一番好きな作品なんだ!」

海之

「それで今日はこれを買うのか?」

 

海之はそう思ったが、

 

「…ううん。とてもじゃないけどちょっと買えない…。実物を見れただけでも十分だよ。それ位レアで大好きな作品だから…」

 

そう言う簪であったが諦めきれてないのは明らかであった。そんな簪にふたりは、

 

海之

「…不足額は幾らだ?出してやる」

ラウラ

「それなら私も出そう。軍からの給金も入ったからな」

「えっ!?そ、そんな良いよ!私が勝手に欲しいだけだから!…あっ!」

ラウラ

「ふふっ、やっぱり欲しいのではないか」

「……」

 

本音が出てしまった事に簪は恥ずかしくて赤くなる。

 

海之

「時には甘えても構わん」

ラウラ

「そうだぞ簪。ああ少し私が多めに払おう。先程の礼だ♪」

「…………ありがとう!」

 

簪はとても嬉しそうだった。

 

海之

「礼とは何のだ?」

ラウラ・簪

「「秘密だ(だよ)♪」

海之

「?」

 

 

…………

 

ロボット展を暫く見た後、ゲームセンターを出た海之達は街の中のとある店に来ていた。

 

海之

「ここかラウラ?」

ラウラ

「あ、ああ。このブティックだ。クラスの女子達が噂しててな。これからの季節のための服を見ておきたくて…」

 

以前海之に服を買ってもらって以来ラウラは身だしなみやファッションに気をかける様になっていた。第一の理由はもちろん海之に相応しい女の子になるため。改めて以前の彼女からすれば考えられない事である。

 

「じゃあ入ろっか」カランッ

 

三人は扉を開けて店に入った。すると店員らしい女性が話しかけてきた。

 

店員

「いらっしゃいませ。どういった御用件でしょうか?」

ラウラ

「あ、あの…その」

 

すると海之が割って入った。

 

海之

「すまないがふたりの服を見繕ってくれ。支払いは自分が」

簪・ラウラ

「「えっ!?」」

店員

「…ふふっ、かしこまりました」

 

そう言うと店員は慣れた手つきで服を選んでいく。

 

ラウラ

「み、海之!見るだけで良いと言った筈だぞ!」

「い、良いよ海之くん!私の分まで!」

海之

「気にするな。この際だ」

店員

「…用意できました。こちらへどうぞ」

 

そう言われてふたりは試着室に行く。その間海之はその場で待っていたのだが、

 

海之

(………やけに視線を感じるが気のせいか…?)

 

海之は気付いてなかった。自分が良い意味で他の女性客や店員の注目を集めている事に。

一方試着室のふたりは、

 

ラウラ

(これも良いが…もっと可愛らしい感じの物の方が良いだろうか…)

(…どんな感じの服なら…海之くんに可愛いって思ってもらえるかな…)

 

やがてふたりは試着室の幕をほんの少しだけ開けて、

 

店員

「如何でしょうか?」

 

するとふたりは揃ってこう言った。

 

簪・ラウラ

「「……その…もう少し…可愛いのがいいです(いいな)…」」

店員

「…ふふっ、かしこまりました♪」

 

赤い顔でそう言ったふたりの意図を汲んだらしい店員は嬉しそうだった。

 

 

…………

 

ブティックでの買い物を終えた海之達。すると、

 

海之

「…ふたり共。もし良ければ少し寄っていいか?駄目なら遠慮なく言ってくれて構わん」

「えっ?ううん、全然駄目じゃないよ」

ラウラ

「気にしなくて良いぞ海之」

海之

「…助かる。幸い直ぐ近くだ」

 

そう言って歩き出す三人。ほんの数分でたどり着いたのは一軒の家だった。

 

「…海之くん、ここは?」

海之

「今に分かる」

 

そう言って海之は家のチャイムを鳴らす。…少し経つとインターホンからではなく直接扉が開いた。すると、

 

 

「ワンッ!」

 

 

玄関から一匹の犬が飛び出してきた。

 

ラウラ

「わっ!」

「驚いた…。可愛いね」

海之

「……」

「ワンワンッ!」

 

まだ幼く見えるその犬はずっと海之の足元に付いている。やがて玄関から、ひとりの男の子と母親らしい女性が出てきた。

 

子供

「こらライフ!また…あっ、お兄ちゃん!」

母親

「まぁまぁ。お久しぶりです」

海之

「…ええ。元気そうですね」

男の子

「もちろんだよ!…でもちょっと悪戯好きになっちゃって困ってるんだよ~」

ラウラ

「…海之、この人達は?」

海之

「俺が以前散歩の時に出会ったのだ。…少し訳ありでな」

子供

「凄いんだよお兄ちゃんは!僕とライフの命を救ってくれたんだ!」

「……えっ?」

ラウラ

「君とこの犬の命を…?」

母親

「数日前の事です。ある御休みの日に私達がライフを散歩させていた際、途中でライフが急に走り出して、その時この子が謝ってライフの手綱を放してしまって…」

子供

「僕も直ぐに追いかけてなんとか追いついたんだけど、気付いたら道路に出てて…。そしたらその横をトラックが走って来たんだ」

簪・ラウラ

「「!!」」

 

話の内容に驚くふたり。

 

子供

「その時に助けてくれたのがお兄ちゃんなんだ。凄かったんだよ!道路の反対側から走って来て僕とライフを抱えて助けてくれたんだ!」

母親

「本当にあの時はありがとうございました。なんと感謝して良いか…」

海之

「気にしないでください」

「…やっぱり海之くんはヒーローだね」

ラウラ

「夫として誇らしいぞ」

 

海之を見つめながらそう話すふたり。そんなふたりに男の子が話しかける。

 

子供

「ねぇ、お姉ちゃん達お兄ちゃんの彼女~?」

「えっ!?」

ラウラ

「なっ!?」

母親

「こら!なんて事言うのこの子は!」

海之

「……」

「……ワンッ!」

 

 

…………

 

ちょっとした騒動も終わり、時間は昼をほんの少し過ぎた頃。海之達は昼食をとろうと海之の案内でとある日本料理店にいた。奥座敷で一息つく三人。

 

「あれ?メニューはないのかな?」

海之

「ああ、ここは主がその日仕入れた食材で料理を考えるのだ。故に決まった品書きは無い。苦手な物があれば言え」

ラウラ

「私は特に好き嫌いは無いから大丈夫だ」

「私も。…小さいけど立派なお店だね。どうやって知ったの?」

海之

「全くの偶然だ。ここの主曰く、どうも俺と火影に対して借りがあるらしくてな」

「海之くんと火影くんに?」

ラウラ

「借りとはどういったものだ?」

 

ふたりの質問に海之は答える。

 

海之

「当時ふたりもいたが…、以前俺と火影が良く行く喫茶店に強盗が乱入してきた時があったろう?覚えていないか?」

※Mission53をご覧ください。

ラウラ

「…あああの時か。良く覚えているぞ」

「あの時はふたりのおかげでみんな助かったね。それで?」

海之

「その時ちょうど店内の別の席にここの主の娘と孫がいたらしくてな。あの事件の後、話を聞いた主がマスターに俺と火影の事を訪ねてきたらしい。そしたら後日呼ばれてな、感謝と共に言われたのだ。何時でも店に来てくれ、俺達及び関係者は生涯サービスさせてもらうから、とな」

「そうだったんだ…。凄い偶然だね」

ラウラ

「うむ。しかしふたりだけでなく私達まで生涯サービスするとは…、余程感謝していたのだろうな」

海之

「大した事をしたつもりはない。それにお前達が無事だったならそれで良い」

簪・ラウラ

「「!…海之(くん)…」」

 

海之は何時もの彼らしい涼しい顔でそう言った。ふたりは海之の言葉を嬉しく思いつつ、運ばれてきた食事に箸を付けるのであった…。




次回に続きます。

この度章分けしました。
火影と海之には実家からのものだけでなく、レオナからも小遣いを頂いている設定です。一応ふたりはまだ高校生ですから。
あと海之の動物好きという設定をようやく出せました。


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Mission116 その笑顔のために②

一夏達タッグマッチトーナメント出場者のタッグ相手が全員決まった日から数日、とうとう海之と簪がデートする日がやってきた。
……筈だったが、それを知ったラウラが自分も過ごしたいと簪に願い出てきた。最初は残念がってた簪もラウラの気持ちもわかると話し、同行を許す。
ロボット展、ブティック、そして海之が過去の経緯から出会った親子の家や料理店等にも立ち寄ったり、三人のデートは後半へと進む。



食事を終えた海之・簪・ラウラの三人は普段皆で良く行くショッピングモールに向かっていた。

 

「あそこのお店美味しかったね」

ラウラ

「うむ。食材の良さが感じ取れたな。海之の言う通り店主は中々の目利きだと思われる」

海之

「…む?」

 

やがてショッピングモールが直ぐ近くになった時、海之は少々驚いた。そこは普段、特に今日みたいな休日は多くの人で賑わっているのだが今日は特に人が多い感じがした。しかもその9割以上は女性に見える。

 

「…なにか今日は随分女の人が多い気がするね」

ラウラ

「……あっ、もしかしてアレではないのか?」

 

ラウラが指を指すとそこには一枚の大きな看板があった。そこにはこう書かれていた。

 

 

「本店大フロアにてジュエリー展開催中! 今話題の宝石職人、世界中より本日来日!」

 

 

どうやら今日はモールのイベントスペースにてこの催し物を行っている様である。

 

「きっとそうだよ。…どおりで女の人が多いと思った」

ラウラ

「……なぁ嫁よ。少し覗いてみて良いか?女が惹かれる物について勉強したいのだ。同じ女性として」

海之

「構わん。簪はどうだ?」

「あ、うん。じゃあ私も行こうかな」

 

そう言うと海之達はモールに入って行った。

 

 

…………

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

モールの中はやはり女性客で大変な盛況となっていた。そしてやはりその多くは先程のジュエリー展の様である。

 

「な、なんか凄い人だね。さっきのロボット展にも負けない位だよ」

ラウラ

「あちらはいわゆるコアなファンが多いのだろう。レアな物も多かったらしいからな。比べてこちらはジュエリー。しかも世界から職人が来日しているからどちらも客も多いのは当たり前かもしれん」

「そうだね。…でもやっぱり宝石だけあって高いね」

ラウラ

「昔の私ならこんな物、ただの石ころとしか思っていなかったな」

 

簪とラウラはジュエリーを見ながら話し合っている。海之はそんなふたりに付いていたが、

 

海之

「…ん?」

「どうしたの海之くん?」

海之

「……あれは…」

ラウラ

「海之?」

 

海之がある場所に向かって歩き始め、簪とラウラも付いて行く。

…そして海之がたどり着いたのは一件の店。見た所店員は黒髪の男性と茶色い髪の女性。夫婦だろうか。

 

「このお店?…素敵なデザインの指輪だね」

ラウラ

「ああ。なのに他の店に比べて安い位だ」

 

ふたりが商品に目を向ける中、海之が夫婦らしいふたりの店員に話しかける。

 

海之

「…失礼」

男性店員

「はい。なにか御所望………!あ、あなたは!」

女性店員

「? どうしたのあな……あっ!」

 

ふたりは海之を見て驚いていた。何故ならそのふたりは、

 

海之

「やはり御ふたりでしたか。御無沙汰しています。ブラックさん、アンジェラさん」

ブラック

「やっぱり海之さん!」

アンジェラ

「ご無沙汰しておりますわ!」

 

それは以前スメリアに行った時、火影が鈴達と共に立ち寄ったジュエリーショップのブラックとアンジェラ夫妻だった。

 

ラウラ

「知り合いか海之?」

海之

「ああ。正確には父と母のな。ブラックさんとアンジェラさんだ。」

アンジェラ

「初めまして。アンジェラと申します」

ブラック

「ブラックといいます。こんにちは」

「こ、こんにちは」

海之

「そういえば先日はご挨拶に行けずすみませんでした。それに火影が御世話になったそうで」

ブラック

「とんでもありません。海之さんもお忙しい身でしょうから」

アンジェラ

「くれぐれもお気になさらないでくださいね」

「火影くんも知り合いなんだ」

海之

「ああ。とはいえ俺と火影はまだ御ふたりには数える位しか会ったことが無い。御ふたりも少し訳ありでな」

ラウラ

「どんな経緯で知り合ったんですか?」

ブラック

「……うん。実はね…」

 

 

…………

 

ブラックとアンジェラは以前火影や鈴達に話した事と同じ経緯を話した。

※Mission69をご覧ください。

 

ブラック

「…と言う訳なんだ」

ラウラ

「…そんな事が…。では御ふたりは海之と火影の両親のお陰で…」

アンジェラ

「はい。結婚に断固反対だった私の父を説得してくださったんです。身分で付き合う相手を選ぶなら自分も奥さんや子供と別れなければいけないなって」

ブラック

「義父さんは僕が宝石職人として少しは認められれば結婚を許すと言ってくれました。寝る間も惜しんで本気で頑張って、その結果義父さんにもようやく認めてもらって、さぁこれでアルティスさん達と御約束した指輪作製に専念できる。…そう思っていた矢先に…」

「…あの飛行機の事件…」

海之

「……」

ブラック

「はい。本当に残念でした…。だからせめて御ふたりに約束したんです。アンジェラと一緒に人々の幸せのために指輪を作り続ける。そして何時か最高の指輪を作り上げてみせますって」

ラウラ

「そうだったんですか。…すまんかった海之。お前にも辛い事を思い出させてしまった」

海之

「気にするなラウラ。…ところで御ふたり共、随分遅れましたが今日は何故ここに?」

ブラック

「ああそうでしたね。実はESCのレオナ社長が私達の指輪を気に入ってくださいまして。こちらのイベントを紹介してくださったんです。恐れ多いと申したのですが…、これも世界一の指輪職人になるための勉強だ!って仰いまして」

「レオナさん、相変らず凄い…」

 

因みにESC本社でレオナに会えなかった簪はその後、火影達の家に来た時に出会っていた。案の定色々突っ込まれたが。

 

アンジェラ

「とても身に余るお話でしたがお引き受けしたんです。…でもそのおかげでこうして海之さんにもお会いできましたし。来て良かったです」

海之

「こちらこそ。……さて、折角だから頂こうか、ふたり共好きなの選べ」

簪・ラウラ

「「……えっ!!」」

 

急にふられたのでふたりは驚いた。

 

「み、海之くん!そんな、そんなの悪いよ!」

ラウラ

「そうだぞ海之!き、気持ちは嬉しいが!」

海之

「気にするな。火影の奴も鈴やシャル達に買ってやっている。もちろんお前達さえ迷惑でなければだが」

「め、迷惑な訳無いよ!もちろん嬉しいけど…」

海之

「なら買わせてくれ。ブラックさん達を応援する意味でもある」

ラウラ

「そ、そんな風に言われたら断れんではないか…」

「う、うん…」

 

海之が引かないのでふたりは買ってもらう事にした。そして簪は水色の、ラウラは紫の宝石の指輪を選び、

 

「…あ、あの…海之くん。…良かったらこの指輪…付けてもらって良い?」

ラウラ

「み、海之。私も頼めるか?」

海之

「構わん」

 

そう言って海之は彼女達の手を取り、それぞれの指輪をはめる。格好こそ違うがそれはまるで、

 

アンジェラ

「ふふっ、まるでプロポーズみたいですね。画になりますわ♪」

簪・ラウラ

「「……」」

 

恥ずかしさからか俯いてしまうふたり。余談だがこの時の様子を周りの女性達も目撃し、結果ブラックの店の指輪が相当数売れる事になったのである。

 

 

…………

 

そんな感じで進んでいた三人のデートも気付けばそろそろ夕方。空はうっすらオレンジ色になりかかっている。

 

「あ、あの…海之くん。最後にもうひとつ行きたい所があるんだけど…良い?」

海之

「構わんがあまり遅くなるといかんぞ?」

ラウラ

「だ、大丈夫だ。学園のすぐ近くだから…」

 

ラウラはどこに行くのか知っている様だ。海之は了承してふたりに付き添う事にした。

 

 

…………

 

三人が来たのは学園からほんの少し離れた海も見える小さめの公園。隠れている様な場所にあるのであまり利用者はいないのか他に人はいなかった。海之達はそこのベンチに座る。

 

海之

「…学園の傍にこんな場所があったのか」

「うん。前にみんなで外に出ていた時に見つけたの。…海之くん、今日はありがとう。…とても楽しかった」

ラウラ

「私も同じだ。…今迄の外出で…一番楽しかった」

海之

「そうか。望んだとおりのものになったのかわからないが」

「ううんそんな事無い。本当に楽しかったから。…それに指輪まで買ってもらえるなんて…」

ラウラ

「ああ。予定より早い婚約指輪だが…感謝しているぞ」

海之

「気にするな。…あとラウラ、話が飛び過ぎている」

「ふふっ。……ねぇ海之くん、ひとつお話して良い?」

海之

「? ああ」

 

すると簪は少し真面目な表情をして、

 

「前にね、鈴達が話していたんだけど…火影くん、私達に話せない話があるって言ってたらしいの。それを話したら…私達と一緒にいられなくなるかもって。それって…海之くんが前に私に言った話と同じなんでしょ?」

海之

「…!」

ラウラ

「やはりそうか…。だが言っておくぞ海之。お前達の話がなんであれ、私達は受け入れる。だからお前達が話したくなった時に話してくれて良いからな」

「うん」

 

ふたりは海之を安心させる様に言った。しかし海之は、

 

海之

「………少し違う」

「…えっ?」

ラウラ

「……?」

海之

「確かに火影が話した事と一部同じかもしれん。だが……俺の場合少し違う」

「……違う…って?」

ラウラ

「なんなのだ海之?」

 

すると海之の表情がやや曇る。

 

海之

「…俺は…火影とは違う。俺は……かつて大罪を犯した。とてつもなく大きな、な」

「……え……大罪…?」

 

海之から大罪という言葉が出て簪は言葉を失い、

 

ラウラ

「ば、バカを言うな!お前がそんな事する筈ないだろう!!以前お前の経歴を調べたが黒はおろか灰色ひとつ見つからなかったぞ!?模範になりそうな位白そのものだった!」

 

ラウラは酷く慌てていた。

 

海之

「…ああ、確かに俺では無い。だが……俺なんだ」

 

かつてバージルだった頃、彼は力を追い求めるあまり世界を恐怖に陥れた。魔界への扉を開き、挙句の果てには魔王にまで成り下がり、ダンテや息子とも死闘を繰り広げた。海之自身が犯した訳ではない。しかし記憶を継承している限り、彼の心から罪悪感が消える事はなかった。

 

簪・ラウラ

「「……」」

 

ふたりは何も言わなかった。自分ではあるが自分では無い。正直何を言っているかわからない。しかし海之の寂しそうな表情は彼が言った事が嘘ではない事を証明していた。

 

海之

「…お前達には本当にすまないと思っている。真実を話せない事に。だが…俺は本来ここにいる筈が無い。もっと言えばいる資格もない人間なのだ。なのに俺は…居心地が良いと感じる場所で今こうして過ごしている。……全く、火影の事を碌に言えんなこれでは。俺自身が一番臆病者かもしれん」

 

海之は自嘲気味に笑った。その時、

 

簪・ラウラ

「「そんな事言わないで(言うな)!!」

海之

「!」

 

ふたりが突然声を出し、海之の声を止める。

 

「海之くんが言った大罪とか、自分だけど自分じゃないとか、私には正直わからない。…でもこれだけは分かるよ!海之くんがいる資格が無いとか臆病者とか、そんな事ある訳ない!あんなに私達の事を助けてくれて、支えてくれて。見ず知らずの子供や仔犬を命がけで助けたりしてるじゃない!本当に悪い人ならそんな事できるわけない!海之くんが誰よりも優しい人だって事、私知ってるもの!」

ラウラ

「そうだぞ海之!お前は先程自分がここにいる資格は無いと言ったが、それはお前が決める事では無い!私達が決める事だ!お前は決していらない人間なんかじゃない!私達にはお前が必要だ!もしお前や火影の存在を否定する者がいれば、それこそ私達が全力で否定してやる!」

海之

「……」

 

ふたりの強い言葉に何も言えなくなる海之。そして簪は、

 

「…海之くん。こんな時にこんな場所でなんだけど…、本当ならもっと後にしようって思ってたけど…、もう気持ち抑えきれそうにないから…、私もう言っちゃうね?」

 

そう言うと海之の正面に立ち、

 

「私は…私は海之くんの事が好き!誰よりも!一緒にいてほしい!海之くんが誰であっても、この気持ちは絶対変わらないから!!」

海之

「………」

 

何時もの簪とは違う想いが籠った力強い言葉。それは彼女だけでなく、

 

ラウラ

「私も改めて言っておくぞ!海之、何があってもお前は私の最愛の嫁だ!異議は認めん!離れる事も許さん!」

海之

「………」

 

ラウラもまた海之への想いをはっきりと伝えた。そんなふたりの気持ちを聞いた海之は、

 

海之

「………改めて言うが、俺が先程話した事は本当だ。嘘では無い。そして…いつか全て話す。そう遠くない未来」

簪・ラウラ

「「……」」

海之

「…だが、それでもお前達が良いと言ってくれるのであれば…、そして…もしこの言葉が、お前達へのせめてもの償いになるのなら…、言わせてほしい」

 

その時海之の心には先日の少女の言葉があった、

 

 

(特に守りたいと思っている子がいるのは好きな子がいるのと同じだから)

 

 

海之

「…簪、ラウラ。俺はお前達を守りたい。………好き、だからな」

簪・ラウラ

「「!!」」

 

ふたりは言われた瞬間、大きく目を見開いた。

 

「うん、うん!私も大好き!」

ラウラ

「やっと、やっとその言葉が聞けた!」

海之

「……」

 

そう言って海之の胸に飛び込んだふたりは今日最高の笑顔だった。嬉し涙を見せながら…。

生まれ変わっても自分の罪は消えないかもしれない。しかし自分には守りたいものがある。こんな自分を好いてくれている者達がいる。そして…この笑顔を守るためなら戦える。海之はそう思った。




※また次回まで時間頂きます。


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Extramission07 兄弟、写真モデルになる

これは一夏達タッグの相手が決まってから日曜日までにあったお話です。

※UAが100000に到達致しました!ありがとうございます。


海之

「……思えば下らん事引き受けたものだな」

火影

「仕方ねぇだろ、あんなに必死に頼まれたら断りにくいしよ」

一夏

「箒、大丈夫か?ガチガチじゃねぇか」

「だ、大丈夫だ。心配ない…」

 

とある日の夜。四人はやや重い足取りでとある場所に向かっていた。一体何があったのか…?

 

 

…………

 

IS学園 1ー1

 

事の発端は昨日の放課後、火影達のクラスに来たある人物だった。

 

薫子

「…ねぇ、織斑くんに火影くん、海之くん、篠ノ之さんいる~?」

一夏

「ん?は~い」

 

それは写真部の黛薫子だった。

 

火影

「黛先輩?お疲れ様です」

薫子

「うん、お疲れ様~。あっ!そうだ火影くん、海之くんと一夏くんも。この前の文化祭はありがとね♪君達の執事姿写真とっても好評だったよ~!またあんな企画どんどん考えてね!何時でも写真撮りに行くから♪」

一夏

「あははは…、何が好評なのかわからないですけどね」

薫子

「いやいや本当に大好評だったんだよ。あと女の子達のメイド姿も受けてたよ!アイドルに誘いたいからどこにいるのか教えてほしいって電話が来た位♪」

「は、恥ずかしいですがお役に立てたなら嬉しいです」

セシリア

「あ、アイドル!?……どど、どうしましょう!」

ラウラ

「……アイドル」

シャル

「いやいやふたり共。なに微妙にやる気になってるのさ…」

火影

「…黛先輩。それで今日はどんな御用事で?」

薫子

「ああそうだった!結構急ぎの用事だったんだ!いや実はね、今言った四人にお願いがあるんだよ!ハイこれ!」

 

薫子が皆の前に出したのは一冊の雑誌だった。

 

「これは今女の子の間で評判の雑誌ですね」

本音

「そうだね~!今活躍中の女の子や男の子を紹介してる結構有名な雑誌だよ~」

「でもこれと黛先輩となんの関係があるんですか?」

薫子

「良く聞いてくれました!実はね、私のお姉ちゃんがこの雑誌の編集社に勤めてるんだけど…次号で取り上げる子を探してるのよ。今度のテーマは「新星」。突如出現した著しい活躍をしている子っていうのよ~。おまけに次号は出版100号目!だから会社も気合い入ってるらしいのよ!でも中々見つからなくて…」

一夏

「それは大変ですね。…新星、今著しい活躍をしてる人か~」

薫子

「そうなのよ。…だからね」

「……へっ?」

火影

「…まさか」

海之

「……」

 

バンッ!

 

すると突然薫子が土下座して言った。

 

 

薫子

「お願い!火影くん海之くん織斑くん篠ノ之さん!次号の写真モデル引き受けて!」

 

 

火影・海之・一夏・箒

「「「…………」」」

 

四人は固まっていた。

 

生徒達

「「「お―――――――!!」」」

本音

「すご~い!」

一夏

「ちょ!みんな何言ってんだ!俺達学生だぞ!おまけにIS操縦者だぞ!モデルとか関係ねぇだろ!?」

 

と一夏は言うがここで女子の操縦者達が話し始める。

 

「あら一夏、知らなかったの?IS操縦者とかって結構そういう活動してんのよ?私も中国でやった事あるわ」

一夏

「…へっ?マジで?」

ラウラ

「鈴の言う通りだ。専用機持ち、つまり代表や候補生、または企業専属の操縦者だな。宣伝や広告活動も兼ねてそういった事も行うのだ。私も以前テレビの取材に出た事もある」

セシリア

「私もプロマイド撮影を行いましたわ」

シャル

「そう言えば僕も以前誘われた事あったな。その時はお断りしたけど」

「私も以前お姉ちゃんと一緒に出ないかって言われた。やってはいないけどね」

 

どうやら嘘では無いらしい。

 

火影

「だがそれは代表や企業専属の操縦者だろう?俺達はそんなのとは関係ないぞ?何も宣伝する物もねぇし」

海之

「うむ。出来ればお断りしたい所だ」

一夏

「う~ん、俺もあんまり気が乗らねぇかも…」

薫子

「そう言わないで~!前に私が撮った写真をお姉ちゃんとこの会社の編集長さんが見ちゃって是非君達にって言ってるらしいんだよ~!ねぇお願い!私とお姉ちゃんを助けると思って!それにさ!君達の写真なんて売れ行き爆発間違いないし!」

生徒達

「「「それは間違いない!!」」」

 

必死で頼み込む薫子。周りの生徒も是非やってほしいという目をしている。

 

「火影、やってあげたら?こんなに言ってるんだし」

セシリア

「一夏さん、これもIS操縦者の御仕事ですわ」

ラウラ

「海之。私の嫁としてやってみせろ」

シャル

「僕もやってあげて良いと思うよ火影」

「…海之くん。先輩を助けてあげて?」

本音

「ひかりん~、私もサンセイ~」

 

そんな鈴達の心中は、

 

鈴・セシリア・ラウラ・シャルロット・簪・本音

(火影(ひかりん)・海之(くん)・一夏(さん)の写真…欲しい!!)

一夏

「……ハァ。しょうがねぇなぁ、そこまで言われたら断りにくいじゃんか。なぁ箒?」

「わ、私はまだやるなんて言って無いぞ!?」

 

箒はまだ悩んでいる様だ。

 

薫子

「まあそう言わずに~。編集長さんが君にもとても興味があるって言ってるんだよ。何せあの篠ノ之博士の妹さんだからね。是非うちで真っ先に紹介したいって」

「……」

 

束の名前が出た事に箒は黙ってしまう。そこに、

 

火影

「…黛先輩。箒は束さんの妹だからISを動かせる訳でも、ここまで成長できた訳でもありませんよ。全てはこいつ自身の努力の成果です。束さんは関係ありません」

海之

「箒は確かに束さんの妹ですが、その前に篠ノ之箒というひとりの人間です。先輩のご家族の会社がそう言った目でこいつを見るのなら…俺達はお断りします」

「!…火影…海之」

一夏

「…そうだな。ふたりの言う通りだ。先輩、お姉さんに伝えてください。箒を束さんの妹では無く箒自身として扱ってくれるなら、俺はお引き受けします。でももし無理なら…、俺もお断ります」

「一夏…」

生徒達

「「「………」」」

 

先程まで騒いでいた生徒達も三人の言葉に皆黙っていた。

 

薫子

「……うん。そうだね、その通りだね。ごめんね篠ノ之さん。必ずそうする様にお姉ちゃんに伝える。約束する。…だから改めてお姉ちゃんを助けたい私としてお願いしたいんだけど…、今回の件、引き受けてくれないかな?」

 

…その言葉に嘘は無いと感じた火影達は、

 

火影

「…わかりました」

海之

「…仕方ありませんね」

一夏

「いいですよ」

「はい」

 

全員了承した。

 

薫子

「ありがとう!じゃあ早速だけど明日の夜ここに来てね!…ああ後コレ!今回の撮影のお礼!きっと引き受けてくれるって信じてたから先に貰っといたよ!じゃあ私はお姉ちゃんに伝えてくるから!」

 

そう言って紙袋を渡すと薫子は走り去って行った。

 

一夏

「…はっ?なんてった?明日!?」

火影

「…また急だな」

「まず予定を聞いてから考えるべきだった…」

海之

「…迂闊だった」

 

火影達は予定を聞く前に引き受けてしまった事を後悔した。

 

「まぁ引き受けたからには頑張りなさいな。……所でお礼って何?火影」

火影

「ん?ああ。ええっとこれは……チケット?」

 

火影が自分の紙袋に入っていた封筒を開けると中にはチケットらしい紙切れがあった。二枚ある事からペアだと思われる。

 

セシリア

「!!これってあの○○○ホテルのディナーペアチケットですわ!」

シャル

「○○○ホテルって…あの五つ星の!?」

「しかもそれSPチケットじゃない!一日一組限定コースよ!」

「確か中々予約取れなくて大変って聞いたことがあるね」

ラウラ

「大変どころではない。VIPでも中々入れない位の有名店だ」

本音

「すご~い!」

一夏

「そ、そんなに凄いのか…?」

生徒達

「「「うんうん!!」」」

 

皆の力の入り様から本当に凄い事の様だ。それは彼女も同じ様で、

 

「一夏!引き受けて良かったな!」

一夏

「あ、ああ」

 

先程の落ち込みはどこへやら、箒もすっかり元気になった様だった。

 

火影

「…まぁこれをどうするかは追々考えるとして、向かう場所は島内の様だな」

海之

「千冬先生に許可を頂かねばならんな…。ハァ…」

 

 

…………

 

こうして無事許可を貰った火影達は指定された集合場所に向かっているのであった。……そしてもうすぐという所で突然箒が三人を呼び止める。

 

「…一夏、火影、海之」

一夏

「ん?」

火影

「なんだ箒?」

海之

「?」

「…あの、昨日はありがとう…。お前達の言葉…、嬉しかった」

 

箒は昨日の一夏達の言葉に感謝していた。束の妹では無く箒自身を見てほしい。そう言ってくれた一夏達に。

 

一夏

「…へへっ、当然だろ?」

火影

「本当の事を言った迄だ」

海之

「気にするな」

「…うん」

 

箒は再び心の中で感謝し、歩き始めた。

 

 

…………

 

火影達が着いたそこはとある小さいホテルだった。薫子から貰った情報によると撮影はどうやらそこの広間で行われるらしい。四人がホテルのロビーで待っているとひとりの女性が話しかけてきた。

 

「ああ!もしかして君達が妹が話していた子達!?」

火影

「? もしかして…貴女が黛先輩の?」

渚子

「ええ、渚子といいます。宜しくね!今回はうちの無茶なお願いを聞いてもらってありがとう!本当に大変だったのよ~、テーマに合った子が決まらなくて!候補に挙がってた子は先に他の会社に取られちゃうし。そんな時に妹から君達の事聞いて、写真を見てコレだ!って思って直ぐ即決よ!いや~本当に助かったわ~!」

「は、はぁ」

一夏

(…なんか黛先輩がそのまま大きくなった感じだな)

海之

(…ハァ)

 

そしてそれぞれ簡単に自己紹介を済ませ、渚子に連れられてエレベーターに乗る。その室内で、

 

渚子

「…ねぇ篠ノ之さん?」

「は、はい。あっ、箒でいいです」

渚子

「じゃあ箒さん。…先日は本当に御免なさいね。妹から聞いたわ。貴女を篠ノ之博士の妹としてではなく、箒さんとして見てあげてって。…確かにその通りだわ。貴女には嫌な思いをさせてしまったわね。安心して?そんな目で貴女を見たりしないから。……良いお友達を持ったわね」

「あ、ありがとうございます。…はい、良い仲間です」

一夏

「照れる事言うなって」

火影・海之

「「…ふっ」」

 

そんな話をしている内に目的の階に到着し、準備は進み始めた…。

 

 

…………

 

一夏

「しかしやっぱふたりって執事姿似合うよなぁ」

火影

「俺はこんな格好は苦手なんだけどな。でもまさか俺達もこの服をほんの二ヶ月位で3回も着るとは思わなかったよ」

海之

「……」

 

スケジュールはまず簡単にそれぞれに取材を行い、その後何パターンか写真を撮るとの事である。因みに服装は男子は執事服が、女子はドレスが必須。それ以外は各々が気にいっている物で良いらしい。と、

 

「すまない。遅れてしまった」

 

一番最後に着替えが終わった箒が出てきた。ドレスを持っていないという事だったので会社側で用意されたドレスを着ている。真紅のドレスで箒に良く似合っていた。

 

火影

「おお箒。中々似合ってるぜ。大人の女性って感じがする」

海之

「ああ」

「あ、ありがとう。こういうのは着慣れていないから緊張する」

火影

「なぁ一夏?」

一夏

「あ、ああ。良く…似合ってるぜ箒」

「!そ、そうか。…ありがとう」

 

一夏に言われたからか箒は恥ずかしそうだ。

 

渚子

「はいは~いお待たせ~!…おお!やっぱり実物で見ると余計に似合うわねぇ!じゃあまずはこっちで簡単にインタビューやるから来て~。その後撮影に入るから♪」

 

 

…………

 

火影

「休みの日はピザ焼いてたりレコード探している事が多いですね」

 

海之

「詩はよく読む方です。ウィリアム・ブレイクとか…」

 

一夏

「そうなんです。間違って入った所にISがあって。何も考えずにそれに誤って触っちゃって…。あの時は本っっ当に大変でしたよ…」

 

「私も結構料理は好きです。あとは…舞でしょうか…。先日は神楽舞をやりました」

 

火影達へのインタビューは問題なく進んでいた。渚子の言う通り箒へのインタビューでは束の名前が出る事は無く、やがて全て終了した。そしてその後はそれぞれの撮影へと移る。時にはふたり、時には三人、そして時にはこんな要望も。

 

渚子

「じゃあ次に箒ちゃん。誰かにお姫様抱っこされている形で撮ってもらって良い?」

火影

「一夏、お前がやってやれ」

海之

「そうだな。一夏、頼む」

「!!なな、何を言うふたり共!そそ、そんな撮影私!」

 

当然箒は恥ずかしがるが、

 

一夏

「俺?まぁ良いけどさ。…箒、俺がやっても良いか?」

「へっ!?……うぅ、し、仕方ない…。お前がそう言うなら…」

 

箒はそう言うが決して嫌そうではない。

 

渚子

「ありがとう箒ちゃん、織斑くん。じゃあ宜しくね♪」

 

そう言われて執事の一夏が箒をお姫様抱っこする。

 

一夏

「窮屈だったら言えよ箒」

「だだだ、大丈夫だ!そそそ、それよりお前も重かったら言えよ!?」

一夏

「心配すんな。そんなに重くねぇよ」

「……」

(後で特別に写真貰えないかな…?)

 

 

…………

 

小休憩の後、次は各々が気にいっている服で撮影を行う。一夏と箒は既に着替え終わり、火影と海之を待っていた。

 

一夏

「遅いなぁふたりとも。なぁ箒………おい箒?」

「ふぇっ!な、なんだ一夏!?」

一夏

「いや…ふたりが遅いなぁって思って」

「そ、そうだな!全く何をやっているのか…」

(いかん。冷静に、冷静に…)

 

まだ先程のペア写真の緊張が解けていない様である箒。

……とそこにようやく火影と海之が来た。

 

火影

「悪い。遅くなっちまった」

海之

「すまんな」

 

ふたりとも共に黒い服の上に火影は赤、海之は深い青色のロングコート。そして共にブーツとグローブを付けている。

 

一夏

「相変わらず凄い私服だな~」

「ああ…なんというか、貴族という感じがするぞふたり共」

火影

「寧ろハードボイルドって呼んでくれ」

海之

「…ハァ」

 

 

…………

 

後半の撮影も順調に進み、やがて終盤に近づいた所で渚子が四人に最後のリクエストをする。

 

渚子

「じゃあね~、織斑くんと箒さんでカップルみたいな感じで頼める~?」

「!か、か、かっぷる!?」

一夏

「どんな写真が良いんですか?」

渚子

「そうね~…じゃあこのマフラーを織斑君、箒ちゃんの首に巻いてあげて。その場面を撮るから♪」

一夏

「わかりました。良いか箒?」

「あ、ああ。頼む…」

 

そう言うと一夏が箒に向かい合い、彼女の首にマフラーを巻いていく。

 

(…これも後で写真貰えるか聞いてみよう…)

 

 

…………

 

渚子

「……OK~♪じゃあ最後に双子くん!君達でキメの写真行こう♪何でも良いから何かふたりでポーズやって!」

火影

「…んじゃああれはどうかな。渚子さん、確か小道具の中に拳銃がありましたよね?」

 

そう言われて渚子はふたつのモデルガンを火影に渡し、火影はそのひとつを海之に渡す。

 

海之

「…お前…」

 

海之は火影の考えが読めた様だ。

 

火影

「あれが一番分かりやすいだろ?」

海之

「…今回だけお前に付き合ってやる…」

 

ふたりがとったポーズ。それは、

 

ジャキジャキッ!

 

背中合わせになり、カメラに向けて共に銃を構える。そんなポーズであった…。

 

こうして全行程は無事終了し、渚子と別れた四人は今まで感じた事が無い疲れを感じながら帰路に就くのであった。数日後、四人が載った雑誌は100回記念号として発売された。予想されていた通りその刊の売れ行きは凄まじく、渚子曰く会社始まって以来の爆発的なものとなったらしい。




※最後のポーズはもちろんDMC3のあのポーズ。あとホテルの名前はご想像にお任せします。


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第九章 Anomalies that have begun to appear
Mission117 幕開けの前日


海之・簪・ラウラの三人によるデートは午後へと続いていた。そんな中海之は出張出店に来ていたスメリアの宝石職人であるブラック・アンジェラ夫妻と偶然再会する。互いに再会を喜んだ後、海之は火影が鈴達に指輪を贈ったのと同じく、簪とラウラ其々にも指輪を贈った。

やがて時刻は夕方。今日のデートの感想の後、海之は簪とラウラに自分がかつてバージルの時に大きな罪を犯している事を暗に話す。しかしふたりは例え海之が何者であっても信じる事、そして海之の事が好きだと告白。それに対して海之もふたりの事を守りたい、好きだと思っている事を打ち明け、彼女達の笑顔を守るために戦うと決意した。

※次回までまた間を頂きます。


キーンコーンカーンコーン

 

 

海之達のデートがあった日曜日の翌日。女子達はみんな既に登校していた。

 

IS学園 1-1

 

本音

「ねぇねぇかんちゃん~。みうみうとのデートはどうだった~?」

「ちょ、ちょっと本音!声が大きいってば!」

「へっ?あんた海之とデートだったの?海之もそういうの言うのね~」

「う、ううん。海之くんじゃなく私から誘ったの。あとラウラも一緒だったよ」

シャル

「簪から?へぇ~意外だね~。そういうの奥手かと思ってたよ~」

セシリア

「…あれ?でもなんでラウラさんもご一緒でしたの?デートと言えばおふたりでやるものかと…」

ラウラ

「あ、ああ。それはだな…」

 

ラウラは自分も参加した成行を説明した。

 

「……本音。そう言うのはむやみやたらに口にするべきでは無いぞ?」

本音

「ご、ごめんなさい~」

「気にしないで本音。それにラウラが一緒にいてくれて良かったと思ってるし」

「? なにかあったの?」

 

簪は昨日のデートであった事を話した。海之が言っていた「大罪」というものについては伏せておきながら…。

 

シャル

「……そっか、ふたりも海之から好きって言ってもらえたんだ。良かったね!」

「…うん!」

ラウラ

「何よりも望んでいた嫁からのプロポーズを聞く事ができた。婚約指輪も貰えたしな」

「いやいやプロポーズとか婚約指輪って飛躍しすぎだってば。…でもふたりも私達みたいに付き合うとかそんな話はしなかったのね」

「…うん、色々あってね。でも慌てなくても良い。海之くんの気持ちは私達も良くわかってるから」

ラウラ

「ああそうだな。今はあの言葉だけで十分だ」

セシリア

「でも本当に羨ましいですわ。…私も何時か一夏さんに…」

「…負けんぞセシリア。しかしそんな危ない状況で子供と仔犬を助けるとは…、流石は海之だな」

「ブラックさん達も来てたのね。知ってたら挨拶行ってたのにな」

本音

「スメリアの時以来だもんね~」

ラウラ

「そういえば鈴達も火影から貰ったそうだな。ブラックさんから聞いたぞ?」

「…うん。私達みんなに買ってくれたの。は、恥ずかしいから他の子には言わないでよ?」

「ふふっ、そうだな。そんな事他の子に知られたらどうなるかわかったもんじゃないし。私達だけの秘密にしておこう。未来のお嫁さん候補達?」

シャル

「!お、お嫁さん!?……火影の…お嫁さんかぁ~」

本音

「……ほわぁ~」

「……火影と…」

 

別の世界に行っているらしい三人。とそこへ、

 

火影

「おはようさん。…ってどうした?」

「ふぇっ!?ひ、火影!」

本音

「な、なんでもないよ~、ただお嫁さんの想像してただけだから~!」

シャル

「いやそこ言っちゃ駄目だって本音!」

火影

「ははは…」

 

とそこに一夏と海之も入ってきた。

 

一夏

「おはよう~」

海之

「おはよう。…簪、ラウラ。ふたり共、昨日はありがとう。礼を言う」

「おはよう。私もありがとう海之くん。凄く楽しかったし、…嬉しかった」

ラウラ

「ああ。…本当に感謝しているぞ、海之」

一夏

「なんだ?昨日何かあったのか三人共?」

「野暮な事聞くもんじゃないぞ一夏」

セシリア

「そうですわ。ふふっ」

一夏

「??」

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

一夏の疑問は晴れないまま、今日の授業も始まるのであった。

 

 

…………

 

昼休憩 屋上

 

この日は楯無も合流して皆で昼食を取っていた。

 

火影

「みんな明日はとうとうトーナメントだが、準備は順調か?」

シャル

「問題なくいってるよ。パンドラの勉強もぎりぎりまで頑張ったんだ」

「私も大丈夫よ。ガーベラも龍咆もバッチシだわ」

海之

「そうか。外の事は俺達に任せてお前達は思い切りやると良い」

一夏

「ああわかってる。誰が相手でも負ける気しねぇよ。例え相手が楯無さんでもな!なぁ簪!」

「う、うん!」

「精々甘く見ん事だな一夏?例えお前が相手でも容赦せんぞ」

楯無

「そうね。本気で来なさい♪」

セシリア

「ラウラさん頑張りましょうね!」

ラウラ

「無論だ!」

本音

「みんな頑張ってね~」

 

それぞれがやる気十分な様子だ。するとここで、

 

「…あそうだ!ねぇ火影、海之。優勝したら何かご褒美くれない?頑張れるし、そういうのでモチベーション上げるのも必要じゃない?」

ラウラ

「…そうだな。私も賛成だ」

 

他の女子達も同意見の様だ。

 

海之

「…とは言ってもな…」

火影

「ん~~……あっ、じゃああれなんかちょうど良いんじゃねぇか?」

本音

「なに~ひかりん~?」

 

すると火影が言ったのはみんなを驚かせるものだった。

 

火影

「ほら、この前俺達が黛先輩から貰ったチケットあったろ?優勝したらあれやるよ」

海之以外全員

「「「!?」」」

 

全員その内容に驚きのあまり言葉を失っていた。

 

楯無

「チケットって…もしかして○○○ホテルのディナーペアチケットって奴!?箒ちゃんから聞いたけど!」

海之

「……そうだな。俺もそれで良い」

「ちょ、ちょっと待ってふたり共!あれはふたりが先輩から撮影のお礼として貰った物でしょ!?」

シャル

「そ、そうだよ!それにあれは本当に珍しい物なんだよ!?そんな簡単にあげちゃって良いの!?」

 

みんな遠慮しているが、

 

火影

「良いって良いって。今回の主役はお前らなんだからよ」

海之

「ああ。お前達の役に立つならそれで良い」

 

…という訳で優勝者にはふたりが持つ○○○ホテルのディナーペアチケットが贈られる事になった。そしてそれが決まった時の彼女達の心中はと言うと当然、

 

鈴・シャル・簪・ラウラ

((優勝したら……火影・海之(くん)とディナーデートできる!!))

 

やる気が炎の如く燃えているのであった。そしてこちらも、

 

セシリア

(…もし優勝できましたら…私が一夏さんをお誘いして…!)

一夏

「な、なんかあいつらの様子違くね?」

「あ、ああ。それに気のせいの筈だが…燃えている様に感じる」

楯無

「…本当に気のせいかしらね~」

扇子

(爆熱!)

本音

「でもひかりん~、それじゃあ私がかわいそうだよ~」

火影

「えっ?ああそういや本音は出ないのか。まぁ心配すんなって。今度埋め合わせすっから」

本音

「絶対だよ~?」

 

そんな感じで昼休憩は終わったのであった。

 

 

…………

 

会議室(秘密)

 

その日の放課後、火影と海之は千冬、真耶に例の会議室に呼び出された。

 

火影

「……成程、教職員はアリーナ内にて主に生徒やVIPの警護を担当と言う事ですね」

千冬

「ああ。すまないがそれで手一杯なのが正直なところだ。だからもし以前の様な戦闘となった場合は」

海之

「わかっています。それが俺達の役目ですから」

真耶

「本当に御免なさい。ふたりにばかり手間をかけてしまって…」

火影

「気にしないでください先生」

千冬

「…それから、もし万一必要と感じた場合は私も打鉄で出るつもりだ」

海之

「千冬先生が?」

千冬

「心配するな。これでも元ブリュンヒルデ。お前達には及ばずとも邪魔にはならないつもりだ」

火影

「…邪魔だなんてそんな事は…」

千冬

「ふっ、良いんだ。お前達の戦いを見れば自分の力位わかるさ。それにお前達は年齢こそ子供だが戦闘経験は誰よりも遥かに多い。及ばんのは当り前だ」

火影

「…先生」

海之

「……わかりました。その時はお願いします。ですが忘れないでください。以前もお話しした様に、先生方も俺達が守る対象だという事を」

千冬

「!……ああ、ありがとう海之」

真耶

「ありがとうございます。本当に心強いです」

火影

「ところでアリーナですがシールドの方は問題ないのですね?」

千冬

「ああそれは問題ない。あの時の失敗も踏まえて実は束に強化してもらったのだ。並大抵では乗っ取られる事はないだろう。強度もアップさせている」

 

以前キャノンボール・ファーストの際、アリーナのシールドが乗っ取られた事で一夏達が出られなくなるという事態が発生した。これを重く見た千冬は匿名で束にシールドの強化をお願いしていたのであった。

 

真耶

「…あの、それからひとつ気になる知らせがあるのです」

海之

「? なんですか?」

千冬

「これは極秘なのだが…、今から数週間前、とある国の軍の施設からISコアがひとつ消えたらしい。痕跡も何も残さず突如な」

火影

「ISコアが………!」

 

その言葉を聞いて火影は思い当たる節があった。

 

千冬

「火影。以前お前がファントム・タスクのあの女、オータムと交戦した時、奴は逃げるために自らのアラクネのコアを爆弾として放棄しただろう?コアを失ったISは動かす事はできない」

海之

「…では奴らがそのコアの代わりを奪ったと?」

千冬

「可能性はある。…だがもしそうだとすると、奴らが再び行動を起こす可能性がますます高くなったという事になる。…IS絡みのな」

真耶

「……」

 

千冬と真耶は心配そうな表情をしている。そんなふたりに対して、

 

火影

「……心配いりませんよ、先生」

千冬

「…?」

真耶

「えっ?」

海之

「例え何があったとしても…皆で力を合わせればきっと乗り越えられます。一夏や簪達も日々成長しているのですから」

火影

「そういう事です。それに…人生は刺激があるからこそ楽しいもんです」

 

火影と海之は何時もの余裕ある感じでそう言った。

 

千冬

「……」

真耶

「…ふふふ。何でかわかりませんが…、どんなに深刻な状況でも、ふたりがそう言うと何とかなりそうな気がしてきますね」

千冬

「……やれやれ、全く」

 

真耶は苦笑いをし、千冬は半分呆れている様にも見える。

 

千冬

「……だがそんなお前達だからこそ、数々の戦いを生き抜いて来たのかもしれんな。…ふたり共、明日は改めて宜しく頼むぞ」

火影・海之

「「はい」」

 

こうしてその日の会議は終了となった…。

 

火影

「ああそれから先生。先週お願いしていたアレは?」

千冬

「ああそれなら大丈夫だ。ギリギリになったが明日の開始までには届く。着き次第お前の言う通りアリーナに配置させておこう。…しかしあんな物どうするのだ?」

火影

「まぁそれは明日のお楽しみで。とはいえ使わないのが一番良いですがね…」

 

 

…………

 

……その頃、

 

??? オータムの部屋

 

ウィィィン

 

スコール

「オータム、入るわよ」

オータム

「おおスコール………てめぇも一緒か」

「………」

スコール

「明日への準備は大丈夫?」

オータム

「ああ問題ねぇよ。ってかMの野郎はどうした?」

スコール

「あの子ならゼフィルスの改造の真っ最中よ」

オータム

「ふ~ん。…ところで何か用か?」

スコール

「いえ。用があるのは彼の方よ」

「……明日の件は分かっているだろうな?」

オータム

「…けっ!ああわーってるよ。狙いは織斑一夏ではなくあの妙な赤と青のISなんだろ?」

「そうだ。今回の目的はあの二体のデータ収集だ。忘れるな」

オータム

「へいへい」

スコール

「織斑一夏の白式は良いの?」

「どうにでもなる。…それから…あの赤と青の奴らはお前ごときが敵う相手では無い。例えDNSを用いたとしてもな。くれぐれも馬鹿な真似をしてまたコアを壊してくれるなよ?」

オータム

「……ちっ!!」

 

オータムは悔しさこの上ない表情だが実際そうなので反論できない様だ。

 

スコール

「でも随分あのISをかってるのね?まるで昔の恋人に出会ったみたいじゃない?なんだか妬けちゃうわね♪」

「……」

オータム

「…あんだよ?なんか言えよ」

 

すると男は言った。

 

「…運命…いや…因縁…か。…………我々のな」

スコール

「…? 我々って?」

「……気にするな」

 

暗雲漂う中、物語は翌日のタッグマッチトーナメントへと進む。




おまけ

話し合いの後、海之はそのまま風呂へ。火影は自室に戻ってきた。

本音
「おかえり~。ねぇねぇひかりんちょっといい~?」
火影
「? なんだ?」
本音
「あのね~、この広告見てよ~」

本音が出してきたのは一枚のイベント告知らしい広告。日付は10月31日。この日といえば、

火影
「これは……ハロウィンのイベントか?」
本音
「そうそう~、街の広場でやるんだ~。結構大きいイベントなんだよ~!」
火影
「らしいな。…でこれがどうかしたのか?」

すると本音は言った。

本音
「うん。実は私そのイベントに手伝いで参加するんだけどさ~、ひかりんにも手伝ってほしいんだ。子供達に配るお菓子作ってほしいの~!それがさっき言った埋め合わせ~♪」
火影
「? そんな事で良いなら別に構わねぇけど」
本音
「やったー!ひかりん大好き!」

大喜びする本音。その一方火影はこんな事を考えていた。

火影
(…しかし散々悪魔ぶっ殺してきた俺が、仮装とはいえ悪魔のためにお菓子を作るとは…。本当にわからんものだな)
本音
「なんか言った~?」
火影
「いや気にすんな」

こうして今週末、ハロウィンに参加する事になった火影であった。


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Mission118 招かれざる客人

一夏達専用機持ちによるタッグマッチトーナメントが翌日に迫ったこの日。火影と海之は千冬や真耶と最終確認を行っていた。その中で千冬から数日前にISコアが某国から秘密裏に盗み出されたという話をされるが、ふたりは自分達のやる事は変わらない、守るために全力を尽くすと何時も余裕ある表情で答える。千冬と真耶はそんなふたりにやや呆れながらもとても頼もしく思っていた。

……一方、ファントム・タスクも当日に向けて不穏な動きを見せ始めていた。男はオータムに命令した。「赤と青のISのデータを集めろ」と…。


キーンコーンカーンコーン

 

 

IS学園アリーナ管制塔

 

一夏達が参加する専用機持ちタッグマッチトーナメント当日。火影と海之はアリーナ周辺を巡回警備して戻って来た。

 

ウィィィン

 

火影・海之

「「失礼します」」

真耶

「お疲れ様です。ふたり共」

千冬

「御苦労。それでどうだ?」

海之

「現状ではこれといった異常は内部外部共に確認できませんでした。最も開始当時になればわかりませんが」

千冬

「…そうだな。お前の言う通り現時点で何かしらの異常が見つかる可能性は低いかもしれん。何か起こるとすればその時だろうな。…まあ不審物が見つからなかっただけ良しとしておこう」

火影

「入場者に不審人物は?」

真耶

「それも大丈夫だと思います。来客全てチェックしていますから。もちろん持ち物もです。隅々まで調べるのはやや気がひけますが…」

千冬

「止むを得んだろう。前回のキャノンボールの一件もあるんだ。油断しないに越したことはない。…野蛮な話だがな」

海之

「大丈夫ですよ先生。みんな先生方の気持ちを分かっている筈です」

千冬

「……そう言ってもらえると助かる」

火影

「先生、一夏達の様子はどうですか?」

千冬

「あいつらならそれぞれのピットでもう待機しているよ。会いに行ってやったらどうだ?お前達が声をかけてやるのが一番の薬だろう?一部の者にはな」

真耶

「間違いありませんね♪」

 

 

…………

 

一夏・簪サイド

 

海之

「簪、一夏」

「あっ、海之くん」

一夏

「おお海之。どうしたんだ?」

海之

「様子を見に来たのだ。緊張等していないか?」

一夏

「全く問題ねぇよ。寧ろ楽しみだぜ。何しろいきなり箒と楯無さんだからな!」

 

一夏と簪のペアは一回戦から箒・楯無ペアと戦う事が決定していた。

 

海之

「そうだな。…簪、お前は大丈夫か?」

「…全く緊張していない事は無いかな。でも自分がやってきた事を信じて精一杯頑張るよ。悔いを残さない様に」

 

簪の目は真剣なものだった。

 

海之

「それで良い。頑張れ。…一夏、しっかりサポートしてやれよ?」

一夏

「ああわかってる。任せておけって!…あっ、ちょっと悪い。最後にトイレ行ってくる!」

 

そう言って一夏は走って行った。

 

海之

「では俺は」

 

去ろうとする海之。すると簪が、

 

「あ、あの…海之くん。ひとつだけ…、お願い聞いてもらって良い?」

海之

「なんだ?」

 

すると簪は恥ずかしそうに言った。

 

「あ、あの…本当に良かったらでいいんだけど……、私、ちょっとまだ緊張してるから…、あの…、ぎゅって…してもらって良い…かな?…あっ、べ、別に全然変な意味じゃなくて!ほら!前に手を握ってもらった時にとても落ち着いたから!だからまた同じ様な事やってほしいなって思っただけで…、あの…」

海之

「……」

 

簪は自分の発言に動揺しているようだ。海之は黙っていたが、

 

スッ…

 

「!…あっ」

 

安心させる様にそっと簪を抱きしめた。

 

海之

「落ち着け。…これで良いのか?」

「……うん。……ありがとう」

(…ラウラに悪いかな?…でもデートふたりきりでできなかったし、良いよね)

 

そう心で思いながら簪は一夏が戻って来るまで暫し海之に身を預けていた。

 

 

…………

 

箒・楯無サイド

 

火影

「箒、楯無さん」

「おお火影」

楯無

「あら火影くん。様子を見に来てくれたの?」

火影

「まぁそんなもんです。聞きましたよ、最初から一夏と簪のペアと当たるそうですね」

「ああそうだ。こんな事言うのもなんだが嬉しい気持ちだ。一夏とは一度本気で戦いたかったからな」

火影

「お互い同じデビルブレイカ―もあるし、力としてほぼ五分五分という感じだろうな。楯無さんはどうですか?」

楯無

「もちろん万全よ。箒ちゃんとは毎日訓練してたし毎日一緒にお風呂入って友好を深めてたし♪」

「ちょ、ちょっと楯無さん!それは秘密にしてくださいと言ったでしょう!」

楯無

「いいじゃな~い。それに聞かれて恥ずかしいのは一夏くんでしょ~?」

「それでも恥ずかしいんです!」

火影

「ははは。全然問題無さそうですね。…でも安心しました。簪相手でも全く加減する気は無さそうで」

楯無

「あら、当然でしょ?そんな事あの子が一番望んでいないし、あの子の気持ちに応える意味でも全力でやらせてもらうわよ。悪いけど完勝するつもりで行くんだから♪」

「…私も全力でサポートします。楯無さん」

楯無

「うん。ありがとう箒ちゃん」

 

ふたりの闘志は熱く燃えていた。

 

楯無

「…それにあの子には何より海之くんへの熱い想いがあるからね~♪今頃抱き締められたりしてるんじゃないかしら~?」

「た、楯無さん!」

火影

「ははは…」

 

…僅かにその闘志が冷めた気がした箒であった。

 

 

…………

 

セシリア・ラウラサイド

 

海之

「セシリア」

セシリア

「ああ海之さん。お疲れ様ですわ」

海之

「お互いにな。…? ラウラはどうした?」

セシリア

「ラウラさんなら先程忘れ物とか言われて……ああ来ました」

ラウラ

「おお海之。来てくれたのか?」

海之

「様子を見に来たのだ。それにふたりが頑張っていたのは知っているからな。今さら心配は不要だろう?」

ラウラ

「…ふふっ、よく分かっているではないか。お前の言う通り、私もセシリアもしっかり準備してきたつもりだ。勝てる自信もある」

セシリア

「ええそうですわね。信用して頂いていると考えましょう」

海之

「ああその通りだ。…ところでラウラ、先程セシリアに聞いたが何か忘れたのか?」

ラウラ

「ああ、お前に貰った指輪を部屋に置いてきたのだ。付けたまま試合に出てもし壊してしまったり等したら一生後悔するからな」

セシリア

「…というかラウラさん。普段から指輪はめているおつもりですの?」

ラウラ

「当然だろう?私と海之は夫婦なのだからな。セシリアも今度一夏にねだったらどうだ?少しは気付くかも知れんぞ?」

セシリア

「わ、私はそんな大胆な事は…」

海之

「…まぁその話は終わった後で良いだろう。ふたり共頑張れ」

ラウラ

「うむ。終わったらディナーデートだ」

セシリア

「ラウラさん、それは優勝しないと……そうですわね。優勝したら良いのでしたわね。頑張りますわ!」

海之

「……まぁ張り切っている様で何よりだ」

 

ふたりのやる気に感心する半面、ほんの少し不安になる海之だった。

 

 

…………

 

鈴・シャルロットサイド

 

火影

「鈴、シャル」

シャル

「あっ、火影!」

「どうしたの?心配して来てくれた?」

火影

「様子を見に来たんだ。それに心配はそんなしてねぇよ。お前らの事は信用してっから」

「え~少し位は心配してくれても良いんじゃない~?薄情者~」

シャル

「ふふっ、でも言葉と違って鈴嬉しそうだよ?さっきも言ってたじゃん、火影来てくれないかな~って」

「ちょ、ちょっとシャル!」

火影

「はは…。…なぁ鈴、シャル。この前はありがとよ。お前らや本音の言ってくれた事本当に嬉しかったぜ。…もうお前らに黙ってどっか行ったりしねぇから」

「…うん」

シャル

「約束守ってね?」

 

火影からその言葉を聞いて安心するふたり。すると鈴が、

 

「……ねぇ火影。本当にあの時の事感謝してる~?」

火影

「? ああマジだって」

 

その言葉を聞いた鈴は何か思い付いたのか、悪戯心を含んでいる様な笑みを浮かべて更に続ける。

 

「じゃあさ~?言葉より行動で示してほしいな~♪」

シャル

「鈴、あんまり火影を困らせちゃ駄目だよ」

火影

「……」

 

火影は少し考慮するとふたりに近づき、そして、

 

鈴・シャル

「「!!!!」」

 

鈴とシャルの頬にそっとキスをした。瞬間的にトマトみたいに真っ赤になるふたり。

 

火影

「こんなんでいいのか?」

「いいいいいきなり何してんの!?マジで何してんのよ!?」

シャル

「ななな、なんで僕までしてくれたの!?じゃない、したの!?」

火影

「いや行動で示せっつったから。あと鈴だけしたらシャルに悪いしな」

「本当にするなんて思わないでしょ!やっても抱きしめるとかそんなんでしょ!予想外過ぎるのよ!」

シャル

「もー火影ったら!心臓に悪いよ!」

 

……ふたりはそう言うが火影が去った後、

 

(ねぇシャル!この事は絶対皆には内緒よ!特に本音には!私達だけの秘密だからね!)

シャル

(う、うん!わかってる!本音には悪いけど…絶対言わない!)

 

…決して嫌ではなさそうであった。

 

 

…………

 

そうこうしている間にやがて時刻は試合開始まもなくになった。現時点でもまだ目立った事は起こっていない。何が起こってもできるだけ直ぐ対応できる様、千冬からの指示で教職員は観客の警備に重点を置き、火影と海之のふたりは予定通りフリーで行動する手筈になっている。

 

管制塔

 

千冬

「間もなく試合開始時間になるな。…周囲の状況はどうだ?」

真耶

「現時点では何も反応ありませんね。それから来客チェックも何も問題ありませんでした」

千冬

「そうか。どうか何事も起こらなければ良いが…」

 

無事に事が始まる事を願う千冬。………しかし、

 

 

~~~~~~~~~~~~~!

 

 

突然異常を知らせる警報が鳴り響いた。

 

千冬

「!何事だ!?」

真耶

「!!え、遠方より接近して来る反応あり!多方向より数複数!」

千冬

「…ちっ!やっぱりこうなるか!海之と火影に」

 

と千冬が言おうとしたその時、

 

~~~~~…………

 

鳴り響いていた警報が突如鳴り止んだ。

 

千冬

「…?……どうした?」

 

不思議がる千冬。

 

真耶

「……!せ、先輩!反応が全て消失しています!」

千冬

「何だと?……まさか」

 

~~~~~~~~~

 

とその時通信機が鳴った。

 

火影

「…聞こえますか、先生」

千冬

「火影か?…何があった?」

 

すると火影は何事も無かったかのように言った。

 

火影

「先程遠方から何機かアンジェロが出てきましたので海之と片付けました」

真耶

「!簡単に見ただけでも30機程確認できたのにあんな一瞬で!?」

火影

「大した事はありませんよ。それより他に敵は見当たりませんか?」

真耶

「は、はい。今は大丈夫です…」

火影

「了解です。引き続き警戒します」ピッ

 

そう言うと火影は通信を切った。

 

真耶

「……先輩」

千冬

「…全く、頼もしいなんてもんじゃないな…」

 

ふたりの動きに良い意味で苦笑いを浮かべる千冬だった。

 

 

…………

 

アンジェロを撃退した火影と海之はアリーナ上空で待機していた。

 

火影

「もうすぐ開始時間か…。さっきの奴の出現から特に何も起こらねぇな…」

海之

「油断するな。現に奴らが現れたんだ。また何か起こる可能性は高い」

火影

「わーってるよ。…しかしさっきの奴ら見て思ったが…、まるで俺らが外に出てくるのを待っていたかのように現れたな…」

 

火影の言う通り、先程火影と海之が外に出たのと全く同じタイミングでアンジェロは出現していたのである。そのタイミングが火影は不思議に思った。

 

海之

「…俺達が出てくるのを待っていたのか、或いは…何者かが知らせたのか…」

火影

「…やれやれ、もてる男は辛いねぇ」

 

とその時、

 

 

ヴゥゥーーーン!

 

 

火影・海之

「「!」」

 

突然ふたりの周辺に異常が起こった、それはまるで先のキャノンボール・ファーストの際の様な空間の歪みであった。

 

火影

「…海之」

海之

「…来るぞ」

 

 

ドォォォォォォン!

 

 

やがて異変があったその場所が爆発する。

 

グリフォン

「「グオォォォォォォォ!!」

 

そこに現れたのは先のキャノンボール・ファーストの時に現れたグリフォン。しかも今度は二体である。更に加えて数十体のアンジェロ。そして、

 

「久しぶりだなぁ~赤いの!」

 

爆発による煙の中から聞こえたのは人間の声。声色からして女性であるのが伺える。そして火影はその声に聞き覚えがあった。

 

火影

「…あの蜘蛛女か」

 

それは以前学園祭にてMと共に襲撃してきたアラクネを纏うオータムであった。

 

オータム

「蜘蛛女っつーのはムカつくが今はいい。そういうこった赤いの!あとそっちの青いのはファントムを即殺した奴だな!」

海之

「……」

オータム

「おいおい無言かい?折角良い女が話しかけてるっつーのに連れねぇなぁ~」

海之

「…御託は良い。…何しに来た?」

オータム

「もちろん遊びに来てやったに決まってんじゃねぇか~!なんか楽しそうな事してるしよ!私も混ぜてくれよ?」

 

~~~~~~~~~~

 

するとふたりの通信が鳴る。千冬からだ。

 

千冬

「ふたり共!何が起こっている!今上空に突如反応が……まさか!」

海之

「ええ、その様です。以前火影や一夏が交戦したファントム・タスクの者もいますね」

火影

「先生。一夏達にはそのままピットで待機させてください。直ぐに終わらせるので。あとシールドは絶対開けないでください」

千冬

「………本当に大丈夫なのだな?」

海之

「問題ありません」

火影

「そういう事です」

 

海之と火影ははっきり答えた。

 

千冬

「……わかった。ふたり共…、頼むぞ」ピッ

 

千冬は通信を切った。

 

火影

「さ~て、さっさと終わらせるか~」

 

火影はめんどくさそうに答える。その態度を見て怒りが頂点に達したらしいオータム。

 

オータム

(……あいつは倒すなって言ってたが知ったこっちゃねぇ!ぶっ殺す!!それに織斑一夏達の方は手は打ってあっからな!)

「さぁ!力を貸しな!」

 

するとオータムは何かに訴えかける様な言葉を発した。

……………しかし、

 

火影・海之

「「……?」」

 

数秒程経ったが何か起こった様子も何かが起こりそうな様子も無かった。

 

オータム

「!!……おいおいいってぇどういうこった!力貸してくれんじゃねぇのか!?」

 

オータムは何も起こらない事に慌てている様だ。

 

火影

「お~いどうした?かかってこないのかお譲ちゃん?」

海之

「戦う気が無いならご退場願おう。付き合っている暇は無い」

オータム

「……へっ!どうせあいつの造ったもんなんて当てにしてねぇ!直接ぶっ殺してやらぁ!」

 

そう言ってオータムはグリフォンやアンジェロと共に向かって来る。

 

火影

「…そいつらもあいつとやらが造ったもんじゃねぇのか?」

海之

「……」

 

そう言いながらふたりはオータム達との戦いに突入した。



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Mission119 兄弟が最も嫌いな事

遂に一夏達専用機持ちによるタッグマッチトーナメントが開催される日がやってきた。火影と海之は自分達の仕事を行いながら皆にそれぞれ励ましの言葉をかけ、健闘を祈った。

……しかしやはりと言うべきか、ここでもファントム・タスクによる乱入が発生。アラクネ操るオータムがアンジェロやグリフォン達と共に襲来してきたのである。一夏達や観客に被害が出ない様、火影と海之はアリーナの外でこれを撃破する事にした。

※また間を頂きます。


オータム

「貴様らは私がぶっ殺す!」

 

そう言いつつオータムはグリフォン・アンジェロと共にふたりに襲いかかってきた。

 

火影

「…やれやれ。だがさっきも言った様に今日はのんびり付き合ってやる気はねぇ。速攻で終わらせてもらうぜ」パチンッ!

 

そう言うと指を鳴らす火影。

 

オータム

「ああっ?何の真似」

 

とその時、

 

~~~~~~~~

 

遠くの方から何か音が聞こえてきた。それは徐々に近づいてくる。

 

オータム

「な、何の音……!!」

 

オータムは驚いた。アリーナの外壁面を何かが登ってきたのである。それはよく見ると、

 

 

ドゥルルルルルルルルルルン!!

 

 

オータム

「! バイクだと!?」

 

オータムの言う通りそれはバイクであった。自動操縦なのか誰も乗っていない。そしてそれは壁面を登りきるとこちらに向かって飛んできた。

 

ズガガガガガガガッ

ドガンッ!ドガガンッ!

 

それはまるで空中を走る様に数体のアンジェロをそのタイヤで巻きこみ破壊した後、

 

ガシャガシャンッ!

 

異常な変形でふたつに分離し、火影の両腕にひとつずつ収まった。

 

火影

「へっ、……いやっほぉ!!」

 

ギュイィィィン!

ズガガガガガガガガンッ!

 

火影は重そうなそれを豪快に振り回す。その衝撃で数体のアンジェロが巻き込まれた後、

 

火影

「はっはー!」

 

ズガガガガガガガッ!

 

グリフォン

「グォォォォォ!!」

 

そのままグリフォンの背中に乗り、手に持つそれを食いこませて引きずる。チェーンソーの様になっているのか引きずった部分は大きな傷ができていた。

 

オータム

「バイクが武器になりやがった!?」

火影

「エンジン順調!肩慣らしにはちょうどいいな!」

 

キャバリエーレ

火影(ダンテ)が使っていたバイク型の魔具。通常はバイク状態だがふたつに分割・変形し、タイヤ部が回転鋸の様になって連続的にダメージを与える事ができる。大型武器且つ重量故扱いが難しい。ダンテはこれに跨って悪魔をひいたり、バイクのまま振り回したりしていた。補足情報として前輪と後輪でエンジンは別々。火影と整備士ニコの共同制作である。

 

火影

「見た目えげつねぇから人間相手なら躊躇するとこだが、無人機なら悪魔と同じく遠慮なくブン回せっからな!」

オータム

「貴様何をわけ」ザンッ!「ぐああああああっ!なっ、何!?」

 

突然後ろから強烈な一撃を受け、前のめりになるオータム。後ろを振り返ると海之が斬りかかっていた。

 

海之

「呑気に話している余裕は無いぞ女」

オータム

「…クッソッタレェ~!」

グリフォン

「グオォォォォォッ!」

 

ズギュ――ンッ!

 

するともう一体のグリフォンがレーザーをこちらに向かって撃ってきた。

 

海之

「……」

 

ドゥルルルルンッ!

 

それに対し海之は左手にレッドクイーンを展開、そして、

 

ガガガガガガガガッ……バシュゥッ!

 

海之は閻魔刀とレッドクイーンを交差させてレーザーを受け止め、そして払いのけた。

 

海之

「はっ!」

 

ヴゥンッ!……ドガアァンッ!

 

グリフォン

「グアァァァァァッ!」

 

海之が手に持つ刀と剣をそのまま振り下ろすとX字の衝撃波が発生し、それがグリフォンに命中してこちらも強烈なダメージを与えた。

 

海之

「あいつが見せた技だが俺でも使えるか…」

オータム

(…なんなんだこいつらは!?こんな状況だっつーのに全く怯んでねぇ…!ちっ!まあいい、目的はできるだけこいつらのデータを集める事だ。ぎりぎりになったら下がれば良い!それまでは精々付き合ってもらうぜ!)

 

 

数では圧倒的不利な筈なこの状況。なのに寧ろ楽しんでいる様にさえ見える火影と海之にオータムは動揺していたが、自身の任務を思い出すと更に数体のアンジェロを呼び出し、ふたりに再び襲いかかった。

 

 

…………

 

管制塔

 

その頃、管制塔の千冬と真耶は試合開始の一時中断命令を出し、ふたりの戦いをモニターで伺っていた。

 

真耶

「ななな、なんですか火影くんのあの武器は!?バイクが剣みたいになりましたよ!」

千冬

「先週のHRの後に火影がスメリアから届けてもらう様手配してほしいと言ったのはこのためか」

 

先週ふたりがトーナメントの護衛に回る様依頼されたHRの後、火影はキャバリエーレをスメリアの自宅から送ってもらっても構わないかと依頼していたのである。

 

真耶

「あれも魔具という物でしょうか?」

千冬

「だろうな。あれもあいつが前世で使っていた物なのだろう。……しかし前の臨海学校の時もそうだったが…、数の差等あいつらにとっては問題では無いのか?」

真耶

「あはは…」

 

とその時、

 

~~~~~~~~~~~~~

 

再び警告音が鳴り響いた。

 

千冬

「!どうした!」

真耶

「……!せ、先輩!アリーナに急接近する反応が!」

千冬

「どこからだ!?」

真耶

「……!真下です!」

 

 

…………

 

鈴・シャルロット・セシリア・ラウラのアリーナ

 

試合一時中断の命令が出た事で鈴達は一旦控室に戻っていた。

 

「……」

シャル

「…火影と海之、大丈夫かな?」

ラウラ

「心配無い。私の嫁と弟があんな奴らに負ける訳なかろう?」

セシリア

「それはわかっていますが…いざその時になると心配ですわ」

 

みんなふたりが負ける等とは思っていないがどうしても心配するのは仕方ないと言うべきか。…すると先程から黙っていた鈴が口を開く。

 

「……止めましょ」

シャル

「えっ?」

「止めましょって言ったの。今火影達は私達や生徒達を守るために頑張ってくれてるんだから心配するのは失礼だわ。きっと大丈夫。私達はふたりの頑張りを無駄にしない様に試合に向けて集中すれば良いわよ」

セシリア

「……そうですわね。私達のために御ふたりはこの任務に就いてくださったんですもの。私達が信じなくてはいけませんわね」

ラウラ

「ああそういう事だ」

シャル

「……そうだね。それに火影も海之も、何時も僕達を守ってくれてるもんね♪」

「そう言う事よ♪じゃあ」

 

その時、

 

 

ズドオォォォォォォォォォンッ!

 

 

鈴・シャルロット・セシリア・ラウラ

「「「!!」」」

 

アリーナのフィールドから突然爆音がした。

 

 

…………

 

一夏・箒・簪・楯無サイド

 

一方、一夏達も控室で待機していた。

 

一夏

「…くそ、こうして待っている間もふたりは戦ってくれてるってのに…俺は…」

「一夏、ふたりはきっと大丈夫だ。私達が信じてやらなくてどうする」

一夏

「…ああそれはわかってる。ただ…こんな時に俺はいつも守られ側に立っちまってるのが…悔しいんだ…」

「……」

 

簪は何も言わなかったがその表情は明らかにふたりを心配している顔だ。すると楯無が、

 

楯無

「…簪ちゃん、一夏くん。君達は悔しい?ふたりが心配?……もしそう思うならそれはあのふたりに対して失礼よ?」

一夏・簪

「「えっ?」」

楯無

「火影くんも海之くんも私達のために一生懸命頑張ってくれてるの。そしてふたりが今私達に望んでいるのは悔しいとか心配してほしいとかじゃない。試合を頑張ってほしい、ただそれだけよ。ふたりは大丈夫。私達の心配なんて不要だわ。そんな事してる余裕があったら精神統一でもしてなさい」

一夏

「楯無さん…」

「……」

 

楯無の迷い無いはっきりとした言葉に圧されるふたりだったが、

 

一夏

「…そうですね。俺達が精一杯戦うのがあいつらのためですね」

「うむ。その通りだ」

「…うん、そうだね」

 

楯無の言葉に同意する一夏達。そして簪は前から思っていた事を勇気を持って聞いてみる事にした。

 

「………あの、お姉ちゃん」

楯無

「なに?簪ちゃん」

「…お姉ちゃんは……海之くん達の事」

 

簪が続けようとしたその時、

 

 

ドオォォォォォォォォォォンッ!

 

 

一夏

「な、なんだ!?」

楯無

「会場から…?皆行くわよ!」

 

 

…………

 

一夏達が会場に着くとそこには、

 

ファントム

「「グアァァァァァァァッ!!」」

 

ファントムが会場内に侵入していた。しかもこれまでと違い二体である。

 

一夏

「なっ!あいつは!!」

「ファントムだと!一体どこから!?」

「! ね、ねぇ!アレ!会場の地面に大きな穴があいてるよ!」

 

見ると確かにフィールド中央に巨大な穴が開いていた。先程の音はこの音だったのだろう。

 

楯無

「……どうやら地中を掘り進んできたみたいね!」

 

 

…………

 

管制塔

 

その頃、千冬達もファントムの出現に既に気付いていた。

 

千冬

「ちっ!まさか地面の下を掘り進んでくるとはな!」

真耶

「!先輩!もうひとつのアリーナにもファントムが出現!」

 

~~~~~~~~~

 

その時通信が入った。一夏達からである。

 

一夏

「千冬姉!会場にあの蜘蛛野郎が!」

ラウラ

「こちらにも確認しました!どうやら地中を移動してきた様です」

千冬

「ああわかっている!ちっ!海之と火影がまだ交戦中のこんな時に!止むを得ん私が」

 

千冬は自ら出撃しようとした。すると、

 

一夏

「…千冬姉!俺達が引き受ける!」

真耶

「そんな!危険です!」

「でも先生。火影と海之にはもっと危険な事をさせてるでしょう?」

千冬

「ふたりとお前達は違う!それ位わかるだろう!」

シャル

「…はい。確かに僕達はまだ火影達には程遠いかもしれません。…ううん、間違いなく程遠いです。でも、僕達だって何もしないままここまで来た訳じゃありません!」

セシリア

「その通りですわ!それにこの状況で一番早く動けるのは私達ですから!」

ラウラ

「ファントムとの戦闘は以前も僅かながら経験しています。私達だって戦えます!」

「私達だって日々進歩しているつもりです!大丈夫です!」

一夏

「簪、お前はどうする?何なら下がってても」

「…ううん!私も戦う!みんなを守るために!」

楯無

(……)

一夏

「それじゃあ行くぜ!」

 

すると一夏達は全員通信を切った。

 

千冬

「おい!…くっ、あいつら!」

真耶

「先輩…」

 

 

…………

 

アリーナ上空

 

その頃、こちらはやはり火影と海之のほぼ一方的なペースで進んでいた。先程から続けて増援が出ていたアンジェロはほぼ全滅。グリフォンのダメージは深刻。オータムもSEが残り三分の一を切っていた。

 

火影

「どうした?それまでか?」

オータム

「…ちっくっしょおぉ、これ程までとは…」

 

~~~~~~~~~

 

とその時ふたりに無線が入った。千冬からだ。

 

千冬

「ふたり共聞こえるか!?」

火影

「先生、どうしました?」

千冬

「アリーナ内にファントムが出現した!地下を通ってだ!」

火影・海之

「「!」」

 

その言葉に言葉を詰まらせるふたり。

 

海之

「…先生。それで一夏達は?」

千冬

「ファントムの迎撃に出た。お前達の手を煩わせたく無いと言ってな。…すまない、私がもっと早く気付いていれば」

火影

「織斑先生のせいではありません。俺達が気を配れなかったのが原因です。…了解しました。こちらを片付けたら直ぐに戻ります」ピッ

 

そう言ってふたりは通信を切った。

 

火影・海之

「「……」」

オータム

「…はっは~、侵入されたのがそんなにショックか~?だが生憎だなぁ~そう簡単にてめぇら」

 

とその時、

 

火影

「……おいてめぇ。俺達が最も嫌いな事知ってっか?」

 

火影は低い声でそう言った。

 

オータム

「…あんだと?」

 

オータムが聞き返すと次の瞬間、

 

シュンッ!…シュンッ!

 

グリフォン

「!」

火影

「…チェックメイト」ジャキッ!

 

ズドズドズドズドズドッ!

ボガアァァァァァァンッ!

 

火影はエアトリックでグリフォンに一気に接近すると頭部にコヨーテを連射した。その威力にグリフォンは頭部を破壊され、撃破された。

 

オータム

「なっ!?」

火影

「…ひとつ。下らねぇ事で飯の時間を邪魔される事」

 

ドンッ!

 

すると今度は海之がもう一体のグリフォンに瞬時加速で近づき、

 

シュンッ!

 

グリフォン

「……」

海之

「……」………チンッ!

 

ドガァァァァァァンッ!

 

一瞬だった。海之は今のすれ違いざまに閻魔刀でグリフォン頭部を両断していたのだった。そして刀を収めると同時に頭部は爆発、こちらも破壊された。

 

オータム

「う、嘘だろ!?あんな一瞬でだと!」

海之

「…ふたつ。大切なものを馬鹿にされる事」

火影

「そして…」

オータム

「!」

 

オータムが海之に一瞬目が行っていた内に火影はカリーナを展開。上空からこちらにロックオンしていたのだ。更に、

 

海之1・2・3

「「「みっつめは…」」」

オータム

「!!」

 

先程グリフォンに攻撃する前に展開していたのだろう。海之の残影がオータムのアラクネと残ったアンジェロを囲むように配置されていた。そして、

 

 

火影・海之

「「真面なケンカ(真剣勝負)を邪魔される事だ!!」」

 

 

ドドドドドドドドドドドドッ!

ズガガガガガガガガガガガガッ!

 

オータム

「ぐあああああああああああああっ!!」

 

火影が放ったカリーナの多弾頭ミサイルと海之の次元斬・絶による同時攻撃。残りのアンジェロは木端微塵に破壊され、オータムは凄まじいダメージを受けたのだった。




※キャバリエーレ、武器で初登場です。基本バイクなので機会はあまりないかもしれませんがバイクだけで終わらせるのは惜しい魔具でしたので。
次回は一夏達の戦闘を書きます。


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Mission120 魔人の守護

オータムによる突然の襲撃。しかし火影と海之は新しい魔具や技を用いてやはり自分達のペースに持ち込み、オータムやグリフォン達を圧倒していた。一方、事態が収束するのを待っていた一夏達がいるアリーナに地下からファントムが出現。千冬は自分が出ると言うが一夏は自分達で撃退すると言いだし、箒達もこれに同意するのだった。その事を千冬から聞いた火影と海之は自分達の不甲斐なさを感じると共に彼等の真剣勝負を邪魔したオータムへの怒りを爆発させるのであった。


一夏達のアリーナ

 

時は少々遡り、一夏達はファントムの迎撃にかかろうとしていた。会場内には相変らず二体のファントムがうろついている。幸い観客席は束強化のシールドによって守られていたので被害は無かった。

 

一夏

「くっ、一体でも厄介そうなのに二体で来るとはな!」

「簪!お前は以前火影達と共に奴らと戦ったが戦い方等覚えているか?」

「う、うん!弱点はあのレーザー発射口のある頭かお腹だって。それ以外はあまりダメージにはならないかもって火影くん達言ってた!」

一夏

「頭と腹…。あいつらの腹を狙うのは難しそうだし、ここは頭一択だな!」

楯無

「…だけどあいつらって確かあの大きさでかなりの跳躍力があった筈。狙うにしてもタイミングが重要ね。まずは何とかして動きを止めましょう」

「敵は二体。ならばこちらも別れた方が良いですね。一体でも放っておいたら厄介です」

一夏

「賛成だ!ここはタッグの組み合わせで行こうぜ!いけるか簪?」

「う、うん!」

楯無

「行くわよ箒ちゃん!予定は違っちゃったけど訓練の成果見せるわよ!」

「はい!」

 

一夏達はぞれぞれに分かれ、ファントムに向かって行った。向こうも一夏達に気付いた様で戦闘態勢に入った。

 

ファントム

「グオォォォォォ!!」

一夏

「おぉぉぉぉぉ!」

 

一夏は最初、様子見も兼ねて剣で斬りかかったが、

 

ギイィィィィィィィン!!ギリギリ…

 

やはり外殻の頑強さに剣が通らない。

 

一夏

「くっ、硬ぇ!やっぱ直接は無理か!」

「一夏くん危ない!」

 

見るとファントムが尻尾で一夏に襲いかかってきた。

 

一夏

「!!」

「山嵐!」

 

ズドドドドドドドッ!……ボガァァァァァンッ!

 

ファントム

「グォォォォッ!」

 

簪がミサイルポッド「山嵐」で攻撃し、動きを一瞬止める。その隙を突いて距離を取る一夏。

 

一夏

「簪!すまねぇ!」

「良いよ!それより私が何とか動きを止めるからその隙に一夏くんが頭を狙って!」

一夏

「わかった!」

 

一夏達の横で楯無と箒ももう一体のファントムとの戦闘を既に開始していた。

 

ファントム

「グアァァァァ!」ドンッ!

 

ファントムは跳躍し、ふたりを押し潰そうとする。箒は避けるが楯無はその場に少しとどまる。

 

「楯無さん!?」

楯無

「今がお腹を狙う機会!」

 

ババババババ……ドガアァァァンッ!

 

ファントム

「ガアァァァッ!」

 

楯無がランスのガトリング砲で腹部を攻撃。ダメージが通った様で苦痛を上げる。それを確認して楯無も避ける。

 

楯無

「上手くいったわね。これならお腹も狙える!」

 

そのやり方を見ていた一夏は、

 

一夏

「…そうか。よおし!」

 

そう言って一夏はファントムから少し離れ、

 

一夏

「こっちだぜ蜘蛛野郎!」

「一夏くん!?」

 

ドンッ!

 

するとそんな一夏の挑発に乗ったのかファントムは跳躍し、一夏を狙って来る。

 

一夏

「今だ!荷電粒子砲!」

 

そう言って一夏はファントムの腹部を狙って荷電粒子砲を構える。…しかし、

 

楯無

「危ない!」

一夏

「!」

 

ドスゥゥゥゥゥン!!

 

一夏は自分が楯無によって身体が動かされていたのを理解したのはファントムが着地した後だった。

 

一夏

「た、楯無さん!」

楯無

「なにやってるの!?今のままじゃ荷電粒子砲のチャージが完了する前に潰されてたわよ!」

一夏

「! すいません!」

 

ドギュ――ンッ!ドギュ――ンッ!

 

すると二体のファントムが一夏、楯無に向けてレーザーを撃ってきた。

 

一夏・楯無

「「!!」」

 

ババババババババババッ!

 

「くっ!持ち答えろ!」

「はぁぁぁぁぁ!」

 

箒が展開装甲の盾、簪がケルベロスの雷のシールドでレーザーを防いだ。

 

「ま、間に合った…」

「大丈夫か一夏!楯無さん!」

一夏

「ふたり共!すまねぇ!」

楯無

「ありがとう箒ちゃん!簪ちゃん!…一夏くん、さっき私がやった攻撃はかなり危険だからよしなさい。君にはまだ早いわ。あくまでも頭部攻撃に集中して!確実な方法で行くのが結局一番早いんだからね?」

一夏

「は、はい!」

楯無

「じゃ行くわよ!」

 

そう言ってそれぞれに分かれ、再び戦闘を開始した。

 

一夏

(…俺にはまだ早い…か…)

 

 

…………

 

一方、鈴やラウラ達も自分達のアリーナに出現していたファントムと戦いを始めていた。

 

ドギュ――ンッ!

 

ファントムはセシリアに向かって尻尾の先からもレーザーを撃ってきた。

 

ラウラ

「セシリア!」

 

バババババババババッ!

 

ラウラはセシリアの前に立ち、レーゲンの盾で受け止める。その隙を突き、

 

ラウラ

「カノーニア…発射!」

 

ズドドンッ!……ドガァァンッ!

 

ラウラの両肩にある大砲が命中。更に、

 

セシリア

「まだですわ!」

 

ズドドドドドンッ!……ドガガガガンッ!

 

ファントム

「グオォォォォォッ!」

 

後方からセシリアのビットによる援護射撃。決定的ではないもののダメージは与えられている様だ。

 

セシリア

「ラウラさん、ありがとうございます!」

ラウラ

「気にするな!この調子で行くぞ!」

 

そのちょうど反対側では、

 

ズダダダダダダダッ!

 

ファントムの機銃による攻撃。それを鈴とシャルロットが避ける。

 

「龍咆!」

シャル

「エピデミック!」

 

ズドンッ!ドンッ!

 

ふたりによる左右からの同時攻撃。しかし、

 

ファントム

「ガアァァァァァッ!」ドンッ!

 

それをファントムも跳躍で避ける。

 

「くっ!あんななりしてなんて動き!」

シャル

「…もしかしたら強化されているのかもしれない。前の時よりも動きが機敏になっている気がする…。でも弱点は変わりないと思う!さっき顔にグリーフを当てたら効いていたみたいだから!」

「だけど顔を狙うっていってもあの動きじゃあね。…まぁいいか!戦いながら考えるわよ!」

 

とその時、

 

ファントム

「グオォォォォォッ!」

 

シュバアァァ!

 

突然ファントムの口の発射口からレーザーとは違う光が飛び出した。急だった事もあって鈴とシャルロットは受けてしまうがダメージは感じなかった。しかし、

 

「! な、何これ!?」

シャル

「う、動きにくい!あと身体が重く感じる!」

 

それはまるで糸に縛られた様な感覚だった。実際の糸では無く、それはまるでラウラのレーゲンが使うAICの様に身動きがとれなくなるという物であった。

 

「くっ、蜘蛛の糸なんて卑怯よ!」

ラウラ

「鈴!」

セシリア

「シャルロットさん!」

 

ふたりは助けに行こうとするが自分達が相手にしているファントムに阻害されて叶わない。そして、

 

ファントム

「グオォォォォォォッ!」

 

ドギュゥゥゥゥンッ!

 

ファントムは動けぬふたりに対してレーザーをチャージし、発射寸前だった。

 

「くっ!」

シャル

「駄目!」

 

ふたりは撃墜を覚悟した。とその時、

 

 

ザンッ!ズガガガガガガガッ!

 

 

ファントム

「グオォォォォォォッ!」

 

突然ファントムが絶叫を上げた。見ると背中が激しく損傷したのか煙を上げている。その衝撃でレーザーのチャージも消滅した。更に、

 

 

ボガァァァァンッ!

 

 

ファントム

「グアァァァァッ!」

 

もう一体のグリフォンの頭部に何かが撃ちこまれた。直撃したのかこちらも激しく悶えている。

 

「な、何!?……!」

 

鈴達は驚いた。何故ならそこにいたのは、

 

ラウラ

「…お前!」

シャル

「ええっ!?」

セシリア

「火影さん!」

 

外で戦っている筈の火影だった。カリーナを構えている事からどうやら先程の爆発はこれによるものであった様だ。

 

火影

「大丈夫か鈴、シャル?」

「ひ、火影!なんで!?」

シャル

「今外で戦っている筈じゃ!?」

火影

「ああ後は後始末だけだ。お前らがこうなってんのをシールド越しに見てな。エアトリックで入って来たんだよ。こん位の距離なら障害物関係なく入れっからな」

「お、脅かすんじゃないわよ!……御免、そうじゃなかったね。…ありがとう」

シャル

「ありがとう火影。…助かった」

火影

「ラウラ、セシリア」

セシリア

「私も大丈夫ですわ」

ラウラ

「問題ない」

火影

「そうか。……本当に悪い」

「えっ?」

 

鈴達は何故火影が謝るのか不思議だった。

 

火影

「…いや、今はその話は後だ。あいつの動きを止めたいんだったな。…鈴、ラウラ。これを使え。この中でふたりが腕力あるし、まだ登録してねぇからふたりにも使える」

 

そう言って火影が鈴とラウラに渡したのは分離したキャバリエーレだった。

 

ラウラ

「…これはチェーンソーか?」

火影

「さっき奴に傷をつけたのもそいつさ。そいつで奴の脚の関節部分を攻撃しろ。光が漏れているから多分他の部分に比べて若干軟い筈だ。そいつならぶった斬れる」

 

見ると確かに脚の曲がる部分は他の場所より細身で光が漏れていた。

 

火影

「自信を持て。お前らなら勝てる。…じゃあ俺は戻るぜ」シュンッ!

 

そう言うと火影は再びエアトリックで外に出ていった。

 

ラウラ

「我が弟ながら…本当に抜け目のない奴だな」

セシリア

「ええ。御自身も忙しいのにここでも私達の心配を…」

鈴・シャル

((…やっぱり火影はいつも守ってくれる…))

 

ファントム

「グアァァァァァッ!」

 

するとちょうどファントム達も再び動き出した。

 

ラウラ

「!…私と鈴で奴らの脚を狙う。セシリア、シャル。援護してくれ!」

セシリア

「了解ですわ!」

シャル

「わかった!」

「行くわよ!」

 

そして四人は再び戦闘を再開した。

 

 

…………

 

その頃、一夏達の所にもファントムの動きの止め方について連絡が鈴達から入っていた。

 

楯無

「……成程ね。確かに脚の関節部分なら他の部位に比べて装甲は薄いかもしれないわ。そこを切断し、奴らの動きを封じるって訳ね」

一夏

「なら俺と箒でやります。俺達にはトムボーイとトムガールがありますし、ブリンク・イグニッションで接近して狙います!」

「…そうだな、わかった。楯無さん、良いですか?」

楯無

「…そうね。剣ならふたりの方が扱いは上手いだろうし。なら私と簪ちゃんで動きを止めるわ。ふたりはその隙を狙って」

一夏

「了解です!良いな簪?」

「う、うん。分かった!」

一夏

「じゃあ行くぜ!」

 

そして一夏と箒がまずそれぞれ敵の注意を引き付け、

 

「春雷!」

楯無

「食らいなさい!」

 

ドギュ――ン!!

ババババババ!!

 

ドガガガガガガガガンッ!

 

ファントム

「ゴアァァァァ!!」

 

簪と楯無がそれぞれの射撃武器で動きを止め、

 

「今だ!トムガール!」

一夏

「アラストル!トムボーイ!」

 

ふたりはブリンク・イグニッションで超至近距離まで一気に移動し、

 

一夏・箒

「「はぁぁぁぁぁぁ!」」

 

ザンッ!……ドガアァァァァンッ!

 

ファントム

「グオォォォォォォォォッ!」

 

それぞれの剣に力を込めて振り下ろす。すると見事に脚の関節部分を切断できた。ダメージに苦しむファントム。

 

「やった!」

一夏

「よっしゃあ!この調子で」

 

とその時、

 

ファントム

「グオォォォォォォッ!」

 

ダメージに苦しんだのか被弾して怒ったのか動きが激しくなるファントム。

 

一夏

「ちっ!これじゃあ近づけねぇ!」

「…!危ない箒!」

 

一夏と簪が戦っていたファントムが闇雲からか箒にレーザーを向けていた。

 

「しまった!油断した!」

 

そしてレーザーが撃たれようとした…その時、

 

 

ズドドドドドドドドドドドッ!

 

 

ファントム

「グアァァァァァッ!」

 

突然絶叫の声を上げるファントム達。見ると身体や脚先等に光輝く剣が刺さっている。良く見るとそれは、

 

一夏

「!こ、これは!?」

「幻影剣!?」

 

それは外で戦っている海之のウェルギエルが持つ幻影剣だった。

 

「で、でもどうして!?海之くんいないのに…」

楯無

「…皆、アレ」

 

楯無が上空を見上げているので皆も見上げると、

 

海之

「……」

 

それはシールドの向こう側から五月雨幻影剣を放った海之だった。五月雨幻影剣は自分から離れた場所にも展開が可能なのである。

 

「海之くん!」

楯無

「皆、今のうちに全員で脚を狙って!」

一夏

「え!?…そうか!今なら動きが止まってるから狙える!」

「そうだな!やるぞ!」

 

そして一夏達は全員でファントムの脚を攻撃した。

 

 

…………

 

一方、鈴達の方は大詰めを迎えようとしていた。

 

セシリア

「ラウラさん!今です!」

ラウラ

「おぉぉぉぉ!」

 

ズガガガッ……ドガァンッ!

 

ローハイドの拘束機能で動きを封じ、ラウラがキャバリエーレで最後の脚を切断した。

 

ラウラ

「よしとどめだ!セシリアは押しの一撃を頼む!」

 

そういうとラウラはパンチラインにSEをチャージすると一気に突撃し、

 

ラウラ

「はぁぁぁぁ!」

 

ドゴオォォォォンッ!

 

ブレイクエイジをファントムの顔面に炸裂させ、大きな穴を開けた。

 

セシリア

「ティアーズ!とどめですわ!」

 

ドドドドドドンッ!…………ドガァァァァァァァン!!

 

更にそこにセシリアのビットによる砲撃が集中。やがてダメージに耐えきれなくなったらしいファントムは爆発霧散した。

 

セシリア

「やりました!勝ちましたわ!」

ラウラ

「ああ。…どうやらあちらの方ももうすぐ終わりそうだな」

 

ラウラが見たのは、

 

ズダダダダダダダダッ!

キキキキキキキンッ!

 

シャル

「……」

 

ファントムの機銃による攻撃。しかしシャルロットはそれをアンバーカーテンで全て受け止めていた。彼女の実母の瞳と同じ色のカーテンで。

 

シャル

(…おかあさん…)

 

ズガガガガガッ……ドガァンッ!

 

その隙を見てこちらも鈴がキャバリエーレで攻撃、最後の脚を破壊したのであった。

 

「これでラスト!あとはとどめね!…ねぇシャル。折角だからアーギュメント試してみたら?訓練の時それだけ使ってなかったから見てみたいのよね」

シャル

「う、うん…。でも大丈夫かなぁ…」

「あいつはもう反撃できない位弱ってるしコレも確認よ。それにお偉方に見られても大丈夫でしょ。束さんもそう言ってたし」

シャル

「う、うん。わかった!」

 

そう言うとシャルロットはパンドラの重装備ユニット「アーギュメント」を展開し、そして、

 

シャル

「……よし!全砲門ロック!…行けぇ!!」

 

ドドドドドドドドドドドドドドドッ!

 

トリガーを引いた途端、アーギュメントの砲門と言う砲門からレーザーや機関銃やミサイルが雨の様にファントムに襲いかかった。

 

ファントム

「!!」

 

………ドガアァァァァァァァァァァンッ!

 

全ての攻撃が当たったファントムは塵ひとつ残らず大破。それだけに収まらずファントムがいた場所から半径十数メートル位で大きなクレーターができていた……。

 

セシリア

「………」

ラウラ

「篠ノ之博士が人に使うなって言ったのも頷ける…」

シャル

「…ねぇ鈴、後で一緒に先生に謝ってね?」

「……御免」

 

あまりの破壊力に鈴達は言葉を失うのであった…。

 

 

…………

 

一方、攻勢に出た一夏達の戦いも既に大詰めを迎えていた。ファントムの脚は全て破壊され、とどめを刺そうとしていた。

 

楯無

「みんな!」

一夏・箒・簪

「「「はい(うん)!」」

 

一夏のアラストルと簪のケルベロス。箒の空烈と楯無の蒼流旋でそれぞれファントムの頭部を攻撃した。

 

ドガガガガガガガガガガガンッ!

 

箒と楯無が攻撃したファントムは爆発し大破。一夏と簪が攻撃したファントムは爆発はしなかったものの動きを完全に停止した。

 

「……終わったの?」

「…らしいな」

一夏

「やったぜ!俺達でも勝てた!」

楯無

「お疲れ様みんな。良く頑張ったわ」

「ありがとうございます。火影のサポートがあればこそですけどね」

「うん。それに海之くんも大変なのに幻影剣で私達を助けてくれたし」

一夏

「…分かっちゃいるけどつくづく凄ぇな」

 

そして一夏と簪が倒したファントムに背を向けた……その時、

 

「!! 簪!後ろだ!」

「えっ!?…!」

 

……ドギュ――ン!

 

見ると倒したと思っていたファントムが簪に向けてレーザーを撃ってきた。突然の不意撃ちに反応できない簪。

 

一夏・箒

「「簪!」」

 

とその時、

 

ガガガガガガガガッ!

 

楯無

「ぐうぅぅぅぅぅ!」

「! お、お姉ちゃん!」

 

楯無が水のプロテクトも纏わないまま簪を庇った。苦痛を上げている事からして少なからず痛みはあるのだろう。

 

楯無

「……くっ、ハァ…ハァ…」

「お姉ちゃん!」

「楯無さん!」

一夏

「…くっそぉぉ!!」

 

ズガンッ!……ドガガガガガガガンッ!

 

すかさず一夏が攻撃すると今度こそ爆発を起こして大破した。先程のは満身創痍の最後の一撃であったのだろう。

 

「お姉ちゃん!お姉ちゃんしっかりして!」

楯無

「だ、大丈夫よ。…よかった、簪ちゃんが無事で…」

「念には念です!すぐに救護班を呼びましょう!」

 

そして楯無は三人の付き添いで医務室へと向かった…。

こうして楯無の負傷はあったものの一夏達はなんとか観客達に被害を出さず、ファントム撃破に成功したのであった。



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Mission121 DNS そして DIS

火影・海之がオータム達と戦闘を続けていた頃、一夏達もアリーナに出現したファントムとの戦闘に入っていた。以前より動きや武装がパワーアップしているらしいファントムに楯無以外はややおされつつある状況の中、外の戦いをほぼ終わらせた火影や海之の幻影剣が一夏達を救う。ふたりのサポートを受けた皆は遂にファントムを撃破。楯無が負傷するというアクシデントはあったものの、なんとかこれで事態は収まりそうな感じであった。

※また時間を頂きます。


火影・海之

「「俺達の最も嫌いな事。それは真面なケンカ(真剣勝負)を邪魔される事だ!!」」

 

ドドドドドドドドドドドドッ!

ズガガガガガガガガガガガガッ!

 

オータム

「ぐあああああああああああああっ!!」

 

火影と海之の同時攻撃がオータムを含む敵の全てに襲いかかった。アンジェロ達は全て木端微塵になり、

 

オータム

「…ぐ…ぐぐぐ…」

 

オータムのアラクネは戦闘続行は不可能な程大きなダメージを受けている様だった。

 

火影

「心配すんな。動ける程度に加減してやってるよ…!海之悪い、ちょっと抜けるぜ」シュンッ!

 

火影はエアトリックでどこかに行ってしまった。

 

海之

「…?…まぁいい。どうせこいつはもう何もできん」

オータム

「…ちっくしょおぉ…。こんな、こんなガキに私が二度も…。てめぇら…一体…!?」

海之

「…言っても貴様には理解できん。……それより、先程貴様が言ったあいつという者について聞かせてもらおうか」

オータム

「…てめぇも…あの赤い奴と同じ事言いやがるんだな…!なんなんだおま」

 

ドンッ!

 

海之のブルーローズの弾がオータムを掠めた。

 

オータム

「!」

海之

「貴様に聞く権利は無い。俺は火影の奴と違って甘くはないぞ」

 

シュンッ!

 

その時火影が戻ってきた。

 

海之

「どこに行っていた?」

火影

「まぁちょっとしたおせっかいだ。……おい女、あいつらはこれから真剣にケンカしようとしてたんだ。なのにお前らが余計な事したせいでオジャンになっちまった。…てめぇの罪は重いぜ」

海之

「本来なら斬り捨てる所だが…貴様にはまだ聞きたい事があるのでな。連行させてもらう」

 

火影と海之の見下す様な目。それがオータムの中で更に怒りとなった。

 

オータム

(こいつら…ガキの分際でそんな蔑んだ目で私を見やがって!どこまでもなめ腐りやがって!!…力が欲しい!もっと力が欲しいっ!こいつらをぶっ倒す力が!!)

 

オータムの心に湧く強い力への衆望と憎しみ。

…とその時、

 

 

(………力が欲しいか?)

 

 

オータム

「…だ、誰だ!?」

火影・海之

「「……?」」

 

突然自らを呼ぶ小さな声が聞こえた気がし、オータムは反応する。

 

 

(………力を望むか?)

 

 

その声は力が欲しいかどうかオータムに訪ねてきた。それに対して、

 

オータム

「力だと?……ああ!ああ欲しいとも!力が欲しい!」

火影

「…なんだ?」

海之

「この女、誰と話している…?」

 

火影と海之には謎の声は聞こえていない様だ。

 

オータム

「何でも良い!こいつらをぶっ倒す力をよこせぇ!!」

 

そう言って謎の声に訴えるオータム。すると、

 

 

「………では始めようか」

 

 

オータム

「……え?」

 

オータムは一瞬驚いた。最後のその声は先程までと違い急に耳元で囁かれた様にはっきり聞こえた。そして、

 

 

ーDreadnoughtsystem 起動ー

 

 

……ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

突然オータムの足元からどす黒い炎が起こり、アラクネごとあっという間に包み込まれてしまった。

 

火影・海之

「「!!」」

オータム

「あ、あああああああああああああああっ!」

 

炎に焼かれている苦しみか絶叫を上げるオータム。突然の事態に思わず下がる火影と海之。そしてふたりはこれに見覚えがあった。

 

火影

「おい海之…あれは!」

海之

「……あの時のラウラと同じ!」

 

それは以前海之がラウラと戦った時の事。海之によって追い込まれたラウラが突然黒い炎に包まれた事があった。今起こっている事象は正にそれと同じものであったのだ。

※Mission45をご覧ください。

 

オータム

「ぐああああああああああああああっ!」

火影

「…つぅ事はまさか…」

海之

「……」

 

嫌な予感がするふたり。……とその時

 

 

「「………ドクンッ」」

 

 

火影・海之

「「!!」」

 

その時ふたりは感じた。ほんの一瞬だったがはっきりと、リべリオンと閻魔刀の脈動を。声は低いものの以前経験した海之と違い、火影はかなり驚いている。

 

火影

「……マジかよ」

海之

「…この件は後だ。もしあの時のラウラと同じならこの後」

 

 

……カッ!!

 

 

突然オータムを覆っていた黒い炎が吹き飛び、強い光が放たれた。こちらもあの時のラウラと同じである。……そして光が弱まってそこにいたのは、

 

火影

「!…ちっ」

海之

「……」

 

それはファントムやグリフォンと同じく機械ではあるが光り輝く4枚の翼、そして鋭いかぎ爪がある手足と尻尾を持っていた。全身黒く、その表面をうっすら光が走っている。頭部はまるで禍々しい獣の様。身体の大きさも倍以上になっている。

 

オータム?

「…コロス……コロス…」

 

声はオータムではあったが理性を失っているのか会話は不可能そうだった。

 

海之

「……どうやら自己を保てていない様だな。愚かな、力に飲み込まれたか」

火影

「ここもラウラの時と同じってわけか。おいお譲ちゃん、仮装コンクールに出てみたら?優勝間違い無しだろうぜ」

海之

「ふざけている場合ではない。閻魔刀達の脈動といい、こいつは最早只事では済まなくなった」

火影

「……わかってるよ」

 

ふざけた口調だが火影の目は真剣だった。

 

~~~~~~~

 

とその時千冬から通信が入った。

 

千冬

「ふたり共何が起こっている!?なんだそいつは!?」

火影

「…先生、事情は後で説明します。今はこいつを排除するのが先決ですから」

千冬

「しかしそいつはアラクネよりも遥かに強力な反応だ!」

海之

「大丈夫です。己の力に飲み込まれる様な者等に負けません」

千冬

「海之…」

火影

「こいつの言う通り、直ぐに終わらせます」

 

ふたりのこれまでと変わらぬ強い返事に千冬は、

 

千冬

「……わかった。……ふたり共気をつけて」

火影・海之

「「はい」」

 

それだけ言うと千冬は通信を切った。

 

火影

「よけい心配させちまったかな?」

海之

「…さっさと終わらせるぞ。一夏や簪達も戦っているんだ」

火影

「おっとそうだった。わからねぇ事は今は後だ」

 

そう言ってふたりは再び目の前の存在に相対する。

 

オータム?

「…コロス…コロス!」

海之

「どのような仕掛けか知らんが制御しきれなければ意味は無い」

火影

「今のあいつに口で言ったって多分駄目だぜ?」

 

そう言いながら火影はリべリオンを前方に構え、

 

火影

「身体で分からせなきゃな!」

海之

「……ふん!」

 

ガキンッ!

 

海之は閻魔刀を振り上げ、リべリオンと交差させた。それが戦闘の合図になった。

 

火影・海之

「「はぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

ふたりは異形の姿と化したオータムに向かって突進していった。

 

 

…………

 

???

 

同時刻、この様子を見ていた者達がいた。

 

「…起動したか…」

スコール

「初めて見たけど確かに凄いわね。…あれが、貴方が言っていた」

「…DNS。…Dreadnoughtsystem(ドレッドノートシステム)だ。前も言ったが心から願えば力となるだろう」

スコール

「…あれもISなの?」

「安心しろ。確かに異形ではあるがISには違いない。…そうだな、DIS(ディス)、とでも呼べ」

スコール

「DIS?」

「…DIS、Devils・Infinite・Stratos(デビルズ・インフィニットストラトス)」

スコール

「…Devil…悪魔。…成程、それでDISね。確かに見た目も悪魔っぽいわ。……でもあの子大丈夫なの?なんか苦しんでいたみたいだけど?」

「痛みはほんの一瞬に過ぎん。…最も死んだ方がマシと思う程辛いがな。力を得るにはそれなりの代償が必要という事だ。オータムの奴は得るどころか振り回されている様だがな。…それに」

スコール

「……それに?」

「例えDNSを用いたとしてもオータムはあれには勝てん。絶対にな。精々10分もてば上出来だ。それ程までにあの二体は強敵なのだ」

スコール

「………」

「怖いか?」

スコール

「……いいえ全然。面白くなりそうだわ。それとDNSだけど是非私にも使わせて頂戴♪」

 

スコールは本気で楽しそうだ。

 

「…良いだろう。精々オータムの様に振り回されない様気をつける事だな」

スコール

「あら?心配してくれるの?優しいのね♪…じゃあ私はあの子の迎えの準備に行くわ。貴方の話ではそうのんびりする時間も無さそうだしね」

 

そう言ってスコールは部屋を出て行った。部屋に残ったのは今まで話していた男ひとりだけ…。

 

「………」

 

すると、

 

(…あの女、暴走しているようだな)

「元から期待等しておりません。まぁもう少し改良は加えましょうか。使う者全てがオータムの様に暴走してしまえば騒々しいですので。くくく…」

(……好きにするが良い)

「さあオータム、精々良いデータを取ってくれ。……くくく」

 

自分以外誰もいなくなった部屋で男は一人ほくそ笑んでいた…。




※アラクネが変化した姿、分かる方には分かると思います。


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Mission122 転生の魔人VS偽りの悪魔

戦いの末、オータムを撃ち破った火影と海之。すると突然、追いつめられた彼女の耳に謎の声が聞こえ始める。

「力が欲しいか?」

その声に迷いなく力が欲しいと応えるオータム。すると突然黒い炎が彼女とアラクネを覆い尽くし、たちまち異形な怪物の姿に変貌させてしまった。それに反応するかの様に脈動するリべリオンと閻魔刀。火影と海之は嫌な予感を感じながらも再び向かって行くのであった。

その頃、それを見ていたある男は言った。

「あれはDIS、Devils・infinite・stratos(デビルズ・インフィニットストラトス)」と…。


DIS(オータム)

「グアァァァァァァァッ!」

火影・海之

「「はあぁぁぁぁぁぁっ!」」

 

異形の怪物となったオータムと、火影と海之は互いに向かっていく。

 

火影

「獣だけあってスピードあるな!来いよ、散歩の時間だ!」

DIS(オータム)

「…ブッコロスッ!」

 

オータムは剛腕とも言えるその太い腕を縦横無尽に振り回してくる。火影はそれをリべリオンで受け止める。

 

ガキンッ!キンッ!ガンッ!

 

火影

「パワーも上がっててやる気たっぷりって感じだな。もっと掛かってこい!」

オータム(DIS)

「ゴアアァァァァッ」ドガァンッ!「ガアァァァッ!?」

 

突然後ろから攻撃を受けて悲鳴を上げるオータム。見ると海之がブルーローズを向けていた。

 

海之

「だが頭の悪さはさらに酷くなった様だな」

 

ザンッ!

 

DIS(オータム)

「ガァァァァァッ!」

 

海之に気を取られた隙に今度は先程まで相対していた火影が後ろから斬りかかった。

 

火影

「筋肉以外にもちゃんと中身は詰まってんのか?」

 

堪らず距離を取るオータム。すると、

 

DIS(オータム)

「……タタキツブス!!」

 

カッ!…ズドドドドドドドドドドドドンッ!

 

突然光輝く翼から無数の光弾がふたりに襲いかかってきた。それはゴスペルが使っていた光の翼であった。

 

火影

「…やっぱあれもあのゴスペルやチキン野郎と同じやつだな!」

海之

「あの翼から予想はできていた。…だが!」

 

その隙間を縫う様にブリンク・イグニッションで接近する海之は閻魔刀からベオウルフに替え、

 

ドガァァァァァンッ!

 

DIS(オータム))

「グアァァァァッ!」

海之

「使い手がそんなではな!」

 

顔面部に月輪脚を食らわせた。痛みのあまり腕を無造作に振り回すオータムから海之は距離を取る。

 

海之

「…そういえばこれは奴の力が具体化したものだったな。自らの力で撃たれるのもいっきょ……!」バッ!

 

すると海之は何故か突然アリーナに向けて手をかざす。

 

DIS(オータム)

「ブッコロスッ!」ドンッ!

 

海之がアリーナに注意を向けている隙を狙って突進して来るオータム。その剛腕で襲いかかろうとしたその時、

 

ガキィィィィィィンッ!

 

イフリートを装備した火影が割って入り、それを間一髪で食い止める。

 

海之

「…お前に助けられるとはな」

火影

「よそ見とはお前らしくねぇな?なんかあったか?」

海之

「お前と同じ少しおせっかいを焼いただけだ。気にする…な!」

 

ドゴォォッ!ドゴォォッ!

 

DIS(オータム)

「ガアァァァァァァァッ!」

 

イフリートの突きとベオウルフの蹴りの同時攻撃がヒットする。

 

DIS(オータム)

「グゴゴゴゴ……グガガガガガアァァァッ!」

 

ドギュゥゥゥンッ!

 

すると今度は目に当たる部分から高出力のビームを撃ってきた。

 

火影

「退屈さしてくれねぇな!」

 

ズドドンッ!

 

それに対してふたりはエボニー&アイボリーとブルーローズのビームを合わせて迎え撃つ。

 

ガガガガガガガガガガッ!……バシュウウウゥゥ……

 

互いのビームが激しく激突し、相殺されて消えた。しかし、

 

ズドドンッ!

ドガァァァァンッ!

 

DIS(オータム)

「グアアァァッ!」

 

オータムは続けざまに飛んできたビームの直撃を受けていた。

 

火影

「消えたからって直ぐまた撃たねぇとは限らねぇぜ?」

 

DIS(オータム)

「…グアァァァァァッ!」

 

しかしそれでも怯まず向かって来る。

 

火影

「しぶとさだけは元の奴譲りだな。…人間が入ってるからか?」

海之

「わからんがアンジェロやファントムとは別物であるのは確かだな」

火影

「やれやれ、ちょっと楽させてほしいんだけどな!」

 

 

…………

 

管制塔

 

その頃、千冬と真耶はその戦いをモニターで伺っていた。ふたりの強さにも改めて驚いたが今は何よりもISがあの様な変化をした事に驚きを隠せないでいた。

 

真耶

「……先輩、一体どういう事なんでしょう…?」

千冬

「…わからない…。感じとしてはファントムやグリフォンに似ている。恐らくあれも海之達が言う悪魔を模したものなのだろう。……ただ今までの奴とは違い、あれは明らかにISだった。しかも有人機。そういう意味では全く違う物と言って良いかもしれん」

真耶

「ISがあんな変化をするなんて…、……まるでVTSみたいです」

 

それを聞いて千冬も心の中で思っていた。

 

千冬

(確かにあの変化した時の様子、以前ボーデヴィッヒがVTSを使用した時と同じだ。…だがあれは本来のそれとは全く異なる変化。…VTSとは違うのか…?)

真耶

「…でも流石火影くんと海之くんですね。あんなもの相手でも全く負けていませんよ」

千冬

「あれもかつてふたりが戦った事があるものなのだろう。だとしたら戦い方も知っているのだろうな。…真耶、ふたりはともかく織斑達はどうなっている?」

真耶

「あっ、はい、そうでした!すいません!つい今しがた鳳さんやオルコットさん達の方は無事解決したと連絡が来ました。救護班へ連絡します」

千冬

「そうしてやれ。…ああそれからふたりが戦っている事はあいつらには伝えるな。また勝手に出て行かれては敵わんからな」

真耶

「は、はい」

 

 

…………

 

アリーナ上空

 

一方、火影・海之とオータムによる戦いは続いていた。とは言えただ力を振り回すだけのオータムに対し、火影と海之はそれに冷静に対処していたため、戦況は相変わらずふたりのペースであった。そして、

 

DIS(オータム)

「オォォォォォォ……」

 

…ダメージが重なっていたのかオータムの声には力が無くなっていた。動きも大分鈍くなっている。

 

海之

「限界の様だな。…では、そろそろ終わらせてもらう」

 

そう言ってふたりは互いにリべリオンと閻魔刀に持ち替え、構えると、

 

火影・海之

「「はっ!!」」ドンッ!ドンッ!

DIS(オータム)

「!!」

 

シュンッ!シュンッ!

 

ふたりとも瞬時加速で高速接近し、正面からすれ違いざまに音も無く斬った。

 

DIS(オータム)

「……グオォォォォォォォォ……」

 

それがとどめとなったのだろう。雄叫びを上げると同時にたちまち獣の身体が崩れて行き、最後にオータムの姿が現れた。気絶しているのか地面に向かって落ちて行く。

 

火影

「おっと!」

 

直ぐに回収に向かおうとする火影と海之。すると、

 

 

ヴゥゥーーーン!

 

 

火影・海之

「「!」」

 

突然オータムの周囲に先程の様な空間の捻じれが発生、同時にオータムを抱き抱える様に一体のISが出現した。全身が金色で巨大な尾の様なものがあるISだ。

 

オータム

「………」

「ふぅ~、間に合って良かった。10分持てば良い方って言ってたけどぎりぎりだったわね」

海之

「…?」

火影

「…誰だ?」

 

バイザーの奥で海之は目を顰め、火影は現れたISに訪ねる。

 

スコール

「あらあら、御免なさい。そういえば貴方達に会うのは初めてだったわね。…私はスコール、スコール・ミューゼル。そしてこの私のISはゴールデン・ドーンよ。覚えておいてね。そちらも自己紹介してくれない?初めて会うのだからそれが筋というものよ?」

 

自らの名前とISを答えたスコールはふたりに質問を返す。

 

火影

「…火影だ。苗字は遠慮願いたい」

海之

「…海之という」

スコール

「火影と海之…。そう…、前にオータムが言ってたのはやっぱり貴方達の事だったのね。アンジェロの群れやファントムをふたりだけで全滅させたっていう。正直ちょっと半信半疑だったけれど…さっきの戦いぶりを見れば確かに納得できるわ。あの人の言う通り、本当に凄まじい強さね」

火影

(…あの人…)

「一応お褒めに預かり光栄っつっておこうか。…で、何しに来たんだアンタ?」

スコール

「もちろん御挨拶に伺ったのよ。あとそれからこの子の迎えにね。この子はうちの大切な戦力だから」

海之

「やはり貴様もファントム・タスクの人間か…」

 

とその時、

 

千冬

「海之!火影!」

 

千冬が打鉄を纏ってやって来た。

 

火影

「織斑先生!」

海之

「何故ここに?」

千冬

「事態が一応収束したので来たのだ。さて…何者だ、貴様?」

スコール

「これはこれは…、貴女が噂高い織斑千冬。伝説のブリュンヒルデとこうしてお会いできるなんて光栄ね」

千冬

「戯言はいい。貴様もファントム・タスクか?」

スコール

「ええそうよ。私はスコール・ミューゼル。以後お見知りおきを、ブリュンヒルデ様?」

千冬

「貴様…ふざけるな!」

 

千冬はふざけた調子のスコールに激高する。

 

海之

「落ち着いてください先生。…スコールと言ったな?貴様がファントム・タスクの人間なら聞きたい事がある」

火影

「まぁそんな簡単に答えてくれるなんて思ってねぇけどな。こういう場合「力づくで聞いてみたら?」とかか?」ジャキッ!

 

そう言いながら火影はエボニーを向ける。それに対しスコールは、

 

スコール

「…そうね、私としても貴方達とは戦ってみたいし本当ならそう言いたい所だけれど…、この子もいるし今は止めておくわ。それに幾ら私でも貴方達ふたりを同時というのは相手が悪すぎるものね。更にブリュンヒルデまで加わっては」

海之

「…素直に話すという事か?」

スコール

「ええ、勝ったのは貴方達だし、ご褒美として特別に答えてあげるわ。但しひとりひとつまで。あと年齢とスリーサイズの質問も駄目よ?」

 

…その言葉に嘘は無いと感じとった火影は銃を降ろす。

 

火影

「そいつより話がわかって助かるぜ。なら是非聞かせてもらいてぇな?…そいつやあのMって奴が言っていた、ファントムやアンジェロを造ったっつう「あいつ」ってのは…誰だ?」

 

火影が聞きたい事は決まっていた。そう、前世で自分達が出会った存在を知っているかもしれないその男についてだ。

 

スコール

「…やっぱりその事ね。以前この子が言っていたわ、随分拘っていたって。…でも貴方には悪いけれど正直私も彼の事は多くは知らないのよね…。あまり自分の事話してくれないし。一応名前はオ―ガスというらしいけれど」

火影

「……オ―ガス?」

海之

「……」

 

火影も海之もその名前には聞き覚えは無かった。

 

スコール

「逆に教えてほしい位よ。貴方達あの人を知っているの?この子が言う限り、少なくともファントム達の事は知っていたみたいだけど?」

海之

「貴様に聞く権利は無い」

スコール

「クールねぇ。でも貴方みたいの嫌いじゃないわよ?」

千冬

「下らん事は良い。そのオ―ガスとやらが例の奴らを造ったのか?」

スコール

「ええ。でも何故あんな物を造れるのかはわからない。私達が彼と知り合った頃から既に知っていたらしいから使わせてもらっているのよ。だって面白いじゃない♪」

千冬

「…外道共が」

 

スコールの答えに千冬は怒っている様だ。

 

海之

「…答えろ。先ほどのそいつの妙な変身はなんだ?何か知っているのではないのか?」

 

海之の質問は先程のオータムのISが変化した事についてだった。

 

スコール

「…ええ。あれも彼が造ったものらしいわよ。といってもあれについては私もさっき知ったばかりで仕組みも殆ど分からないのだけどね。今分かっているのは願えば力となる事。そして呼び方位かしら」

火影

「…呼び方?」

スコール

「彼が言うには…DIS。デビルズ・インフィニットストラトスっていうらしいわよ」

火影

「!…デビルズ・インフィニットストラトス…」

海之

「……悪魔…」

 

悪魔という言葉が出た事にふたりは驚いている様だ。

 

スコール

「まぁあれに関しては私もこれから御勉強が必要ね。…さて、約束も守ったしそれでは私はそろそろ失礼しようかしら。早くこの子を介抱してあげないとね」

千冬

「この状況で逃げられると思っているのか?」

 

スコールはオータムを抱えているので満足には動けない。火影達を無視して逃げ切るのは不可能に見える。が、

 

スコール

「…ええできるわ。では皆さん、ごきげんよう」サッ

 

 

ヴゥゥーーーン!

 

 

スコールが左手を上げると周囲に再び歪みが発生した。

 

海之

「!」

火影

「ちっ!」

 

火影は止めようとしたが瞬時にスコールとオータムの姿は消えてしまった。

 

千冬

「消えただと!?…真耶!周囲に反応は!?」

真耶

「い、いえ…全く反応ありません先輩…。あの時の、キャノンボール・ファーストの時のゼフィルスみたいに…突然消えました」

千冬

「…くっ、迂闊だった」

火影

「おい海之、今のは…」

海之

「ああ間違いない。気になっていたが…あれは転位だ。…考えにくい事だがな」

 

ふたりは目の前で起こった転位に驚いている。無理もない。あれは普通の人間ができる事ではない。転生したふたりにも。火影のエアトリックは瞬間移動できるがそれとは全く別物である。

 

海之

「申し訳ありません先生。俺達がもっと早く気づいていれば」

千冬

「いや、気にするな海之。お前も火影もよくやってくれた。お前達のお陰で観客や生徒達も皆無事で被害も最小限に抑えられた」

火影

「…?何かあったのですか?」

千冬

「ああ…。たて…いや刀奈の奴が簪を庇って負傷したのだ。とはいっても大した傷では無いから心配するな」

海之

「!……そう…ですか」

火影

「…くっそ」

 

ふたりはもっと自分達がしっかりしていればと悔しく思った。

 

千冬

「そんな顔するな。心配ないと言っただろう?気絶とかもしていない。なんなら後で見舞いに行ってやれ。今は医務室で休んでいる。お前達も戻って休め。先程のスコールという奴の話からして今日はもう大丈夫だろう。後始末は私達に任せろ。フィールドに大穴が空いている状況では試合も無理だからな」

火影・海之

「「…わかりました」」

 

三人は取り合えず学園に戻る事にした。こうしてまた新たな謎を残し、タッグマッチトーナメントは思わぬ形で幕を降ろしたのだった…。

 

 

…………

 

???

 

その頃、オータムを回収したスコールは拠点と思われる場所に戻って来ていた。

 

オ―ガスの部屋

 

ウィィィンッ

 

スコール

「ただいま」

「……」

スコール

「あらM。どう?ゼフィルスの改造は上手くいってる?」

「…主も手伝ってくれているのだ、問題ない。…それより良く無事だったものだ」

スコール

「あら、心配してくれたの?ありがと。でもオータムは暫く休息が必要ね。今治療カプセルで寝かせてきたわ」

「…情けない奴だ。自らの力に弄ばれるとはな」

スコール

「そう言わないの。初めての実戦投入だったんだから」

 

ウィィィンッ

 

その時オ―ガスという男が入ってきた。

 

オ―ガス

「…スコールか」

スコール

「ええ、ただいま」

オ―ガス

「良く無事だったな」

スコール

「貴方も心配してくれてたの?みんな優しいわね。…ああコレ、オータムから預かってきたわ」

 

そう言ってスコールが渡したのは先程の戦闘のデータが収められているらしいメモリだった。

 

オ―ガス

「…御苦労。この後お前達の機体にDNSを組み込む。準備をしておけ」

「…了解しました」

スコール

「ありがとう。…ああそれからオ―ガス、彼等と少し話したわよ。随分貴方の事を知りたがっていたわ」

オ―ガス

「…そうか、……ふっ」

 

スコール

「…? じゃあ私は先に行っているわね」

「…失礼します」

 

そう言ってふたりは出て行った。

 

オ―ガス

「……」ピッ

 

オ―ガスは壁にあるディスプレイを起動させる。

 

オ―ガス

「…知りたがっていた、か…。…いいだろう、では次は私が会うとしようか。…土産も添えてな」

(…間に合うのか…?)

オ―ガス

「ええ、コレについては問題ありません。…ですがやはりアレには紛い物でない、アレだけのものが必要ですね」

(…そうか…)

オ―ガス

「…まぁそれについては何れ。今はコレの完成を急ぐとしましょう。くくく…)

 

そう言うオ―ガスが見つめる画面には……ふたつの機体が映っていた…。



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Mission123 姉妹の時間が動きだす

謎の怪物と化したオータムに対し、火影と海之は驚きながらも戦いに突入。相手がしぶとくはあるもののやはりこの戦いも圧倒的なペースで進めるふたり。…やがてとどめを刺し、オータムを連行しようとするがあと一歩の所で割って入ってきたスコールに邪魔されてしまう。ふたりはスコールに問いただすとファントム達を生みだしたのはオ―ガスという男であり、オータムの先ほどの妙な変身はDISという、悪魔の名を持ったものであると知った。

…数刻後、当のオ―ガスは戻ってきたスコールからデータを受け取るとディスプレイに浮かぶ二体の機体を見ながら言った。

「…次は私自らが会うとしよう…。土産も添えてな…」

※また時間を頂きます。


IS学園 医務室

 

全てが終わった後、医務室には簪を庇って負傷した楯無が運び込まれていた。幸い気絶したり何日も治療が必要な程の怪我ではなかった様で、今は一夏と箒、そして簪が付いていた。

 

「楯無さん、本当に大丈夫ですか?」

楯無

「大丈夫よ。先生も言っていたでしょ?目立った傷も無いし、こうして寝てるのも念のためで明後日にはもう通学しても大丈夫って」

「ええ、それはわかってるんですが…楯無さんの場合そう言ってふざけてはぐらかす癖がありますから」

楯無

「心配してるのかけなしてるのかどっち~?」

「……」

一夏

「…すいません楯無さん。俺があの時しっかり仕留めていれば」

楯無

「気にしなくて良いわよ一夏くん。あの時確かに一瞬反応が消えたんだから誰だって仕留めたって思うわよ。それにあの後しっかり倒してくれたじゃない。ありがとね♪」

一夏

「…でも火影達ならこんなミスはしないでしょうし…」

「一夏、そう自分を責めるな。次への反省にすれば良い」

楯無

「そういう事よ一夏くん。過ちをただ否定的に捉えて自分を責めるのは止めなさい。何も生み出しはしないわ」

一夏

「……」

 

ガラッ

 

扉が開き、入ってきたのは火影と海之だった。

 

「…あっ、海之くん、火影くん」

楯無

「あらふたりとも、もしかしてお見舞いに来てくれたの?」

海之

「ええ。…先生から話は聞きました。大丈夫ですか?」

楯無

「大丈夫よ。これでもロシア代表よ。それ程柔じゃないわ。先生が大袈裟に伝えてるだけだから」

扇子

(問題無!)

 

そんな彼女の調子を見て取り合えず安心したふたり。すると、

 

火影

「…みんな、本当にすまねぇ。折角お前らが真剣なケンカをしようとしてたってのに。…俺達がもっと注意していれば」

海之

「ああその通りだ。もっと俺達が気を配っていればお前達の勝負を邪魔される事も楯無さんが余計な傷を受ける事も無かった…。すまない」

 

そう言って深々と頭を下げる火影と海之。

 

一夏

「い、いやお前らが謝る必要なんてねぇって!」

「そうだぞふたり共!ふたりがいてくれなければもっと被害が出ていたのだ!ふたりが謝る必要なんて微塵も無い!」

「お願いだから頭を上げてふたり共!」

 

一夏達は必死でふたりを庇う。

 

火影

「しかし折角お前ら頑張ってたってのに…」

楯無

「火影くん。真剣勝負なんて何時でもやり直しできるわ。でも命にやり直しはできない。ふたりは私達や生徒達を救ってくれたのよ?この子達の言葉がそれを証明してる。だから自分達が悪いなんて考えるのは止めなさい。それは却ってこの子達に悪いわよ?」

「そうだよ。それに私達が戦っている時もふたりは助けてくれてたじゃない。だからそんな風に思わないで。…お願いだから」

 

簪は海之の手を取って伝える。

 

一夏

「まぁそういう事だ。寧ろ俺達が礼を言わなきゃなんねぇさ」

「その通りだ。ありがとうふたり共」

火影

「……ありがとよ、皆」

海之

「…すまない」

楯無

「海之くん、そこは「ありがとう」でしょ?」

海之

「……ありがとう」

 

一夏や楯無達の言葉に火影と海之は感謝した。

 

楯無

「…さて、じゃあ私は少し寝ようかしら。これでも一応今日明日は怪我人らしくしてないとダメだからね。私でも織斑先生のお説教は勘弁してほしいし♪」

一夏

「ははっ、違いないですね。じゃあ俺達は帰ります」

「では失礼します。お大事になさって下さい」

「私も」

 

するとそこに海之が入る。

 

海之

「簪、試合が終わったら楯無さんに言いたい事があったのだろう?」

楯無

「…えっ?」

「へっ!?」

火影

「…ああそうだったな。俺達は先に行ってるぜ」

「…うむ!ではな簪。ほら一夏、行くぞ」

 

火影と箒は少なからず気付いた様だ。

 

一夏

「…? まぁいいか。じゃあ簪、後でな」

 

そう言って皆出て行った。残ったのは刀奈と簪だけだ。

※ふたりきりなので刀奈とします。

 

刀奈

「……」

「…え、えっと…」

 

暫し沈黙が流れる…。すると、

 

刀奈

「…簪ちゃん。ちょっとお話しない?…簪ちゃんさえ良かったらだけど」

「えっ、……う、うん」

 

簪は刀奈の直ぐ傍に移る。…しかしそれでもふたりきりになるのが久しぶりな事もあってか、妙に緊張して何を話したら良いのか分からず困っていた。

 

「……」

刀奈

「…ねぇ簪ちゃん」

「…えっ?」

 

 

刀奈

「私、海之くんの事好きになっちゃった」

 

 

「…………………………ふぇ!?」

 

予想外の告白に思わずうろたえる簪。すると、

 

刀奈

「…ぷっ、あはははは!」

 

突然大笑いしだす刀奈。

 

「お、お姉ちゃん!?」

刀奈

「あははは…御免御免、まさかそんなにうろたえるなんて!あははは」

 

どうやら先程の告白は簪をからかうためにやった様だった。

 

「も、もうお姉ちゃん!何言ってるのこんな時に!」

刀奈

「だから御免なさいってば♪でも少しは緊張ほぐれた?」

「……ほぐれたも何も吹き飛んじゃったよ。…もう」

刀奈

「それは良かった♪…でもあんな冗談丸出しの告白であそこまで焦るなんて。よっぽど海之くんの事が好きなのねぇ♪」

「……うぅ」

 

実際間違ってはいないので言い返せない簪。

 

刀奈

「……簪ちゃん。さっきは守ってくれてありがとうね」

「…えっ?」

刀奈

「ほら、私が一夏くんを助けた時にレーザーに撃たれそうになった時守ってくれたじゃない?ありがとうね」

「う、ううん、大した事はしてないよ。…それにそれを言うならお姉ちゃんの方が私を守ってくれたし。…でもそのためにお姉ちゃん怪我しちゃって…、ごめんなさい」

 

簪は自分のせいで刀奈が怪我してしまったと落ち込んでいる様だ。そんな彼女に対して、

 

刀奈

「…当たり前でしょう?大事な妹なんだから」

「…え」

 

その言葉に簪は少し動揺していた。

 

刀奈

「良い簪ちゃん?簪ちゃんは私の妹。この世でたったひとりだけの大事な妹なのよ。守りたいと思うのは当たり前じゃない。この傷も妹を守れた言わば名誉の負傷なの。決して無念とかそんな風に思ってないわ」

「……」

刀奈

「簪ちゃん、例え簪ちゃんが私をどういう風に思っていても、…例え嫌っているとしても、それでも良い。簪ちゃんが毎日元気でいてくれたら…私は幸せなの。どうかそれだけは信じてほしい…」

「…お姉ちゃん」

 

刀奈は今まで伝えたくても伝えられなかった気持ちを簪に話した。そしてそれを聞いた簪の心に先程海之から言われた言葉が浮かんだ…。

 

 

…………

 

それは試合前、海之が簪と一夏の元を訪れていた時だった。

 

(……ありがとう海之くん。…もう大丈夫)

海之

(そうか)

 

そう言われて海之は簪から離れる。すると、

 

海之

(…簪、今回の件が終わったら…刀奈さんとちゃんと話せ。勝敗に関わらずな)

(…えっ?)

海之

(今のお前はもう昔のお前では無い筈だ。関わろうとしなかった一夏とこうしてタッグを組み、刀奈さんとも正面から向き合おうとしている。お前は強くなった。…もう大丈夫だ)

(…海之くん…)

海之

(溜めこんだものを吐き出せ。心を伝えるんだ)

 

 

…………

 

「……ねぇ、お姉ちゃん」

刀奈

「何?」

「……少し、私のお話、聞いてもらっても良い?」

刀奈

「…勿論」

 

やがて簪はゆっくり話始めた。

 

「……正直に言うね。……私、お姉ちゃんの事…羨ましかった」

刀奈

「…羨ましい?私が?」

「…うん。…私とほんの一年しか違わないのに…ロシアの国家代表にまで上り詰めて、ひとりでISを組み立てて、頭も良くて、本当に私に無いものを全て持っていた様な気がして…」

刀奈

「…そんな事…。それに私のISは…」

「…うん、わかってる。…でも前の私は…そんな風に考える余裕無かったから。私の専用機の事もあったし…。…正直、なんでこんな家に生まれてしまったんだろうって思った事もあった。完璧なお姉ちゃんがいるのに…なんで更識の妹として生まれてしまったんだろうって。双子じゃないけど、優性と劣性、どちらもいなきゃいけないのかなって…」

刀奈

「…そ、そんな事!」

「大丈夫、今はそんな風に思ってないから安心して?昔の話。……だから私、とにかく頑張ろうって思った。企業から弐式の権利を買い取って、ひとりでイチから全部やって、ひとりで完成させて証明したかった。私でもできるんだって。…お姉ちゃんに…負けないって」

刀奈

「……」

 

刀奈は只黙って聞いていた。

 

「…でも…ダメだった。私だけじゃ…何もできなかった。皆が、海之くんがいなきゃ…何にもできなかった…。弐式の完成も…みんなと並んで戦う事も…一夏くんとタッグを組もうとも…お姉ちゃんと真っ向から戦おうって思う事も…何もできていなかった。それどころか…お姉ちゃんに怪我までさせちゃって…。…御免なさい。…御免…なさい」

 

簪は涙を流し始めた。すると、

 

スッ…

 

「!」

刀奈

「……」

 

刀奈は簪を抱きしめていた。

 

「…おねえ…ちゃん」

刀奈

「御免ね」

「…えっ?」

刀奈

「御免ね。…簪ちゃんがそんなに思い詰めていたなんて考えて無かった。…自分を劣性とまで思っていたなんて」

「……お姉ちゃん。それは昔の」

刀奈

「昔の話でもよ。……御免ね、……本当に御免ね」

「……」

 

見ると刀奈もうっすら涙を浮かべている。簪はそんな刀奈の背中に手を回し、

 

「…お姉ちゃん」

刀奈

「…何?」

「…さっきお姉ちゃんが私を庇ってくれた時、…私、はっきりわかった。……私は、お姉ちゃんがいなきゃダメなんだって。お姉ちゃんがいてくれなきゃダメなんだって。…お姉ちゃんがいなくなったら…ダメなんだって…」

 

それは簪の本心だった。そして刀奈も、

 

刀奈

「…バカねぇ簪ちゃん。そんなの…私も当たり前じゃない。私も簪ちゃんがいなきゃダメなのよ。多分、いえ、きっと簪ちゃんよりもずっと…」

「!…………うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

簪の目から大量の涙が溢れ出た。刀奈はそんな彼女を優しく抱きしめ続けた。

 

 

…………

 

……その時部屋の外では、

 

虚・本音

「「………」」

 

見舞いに来ようとしていた虚と本音がいた。

 

(…本音ちゃん)

本音

(うん、分かってるよお姉ちゃん。今はふたりきりにしてあげよ♪)

(…ようやくおふたりの時間が進みそうね)

本音

(ちょっぴり時間はかかったけどね~。…でもやっぱり姉妹だね~。本当はお互い大切に思っていたのにね~)

(…そうね。ある意味似た者同士ね。…さぁ、邪魔者は去りましょうか)

本音

(そうだね~。っあ、そうだ!)

 

ギュッ

 

本音はそう言うと虚の左腕に抱きついた。

 

(ちょ、どうしたの?)

本音

(ただお姉ちゃんに甘えたいだけ~)

(……ふふ)

 

ふたりはそっと医務室の前から離れた…。

 

 

…………

 

その頃、火影達は食堂に集まり、彼女達の事情を皆に話した。

 

「……そっか、あのふたりそんな事があったのね」

セシリア

「簪さんが随分気合い入っていたのはそういう理由があったんですのね。知りませんでしたわ」

一夏

「俺も火影達から教わって初めて知ったんだ」

火影

「つっても俺も知ったのは最近だけどな」

「一夏とタッグを組んだのもそういう理由だったわけだな。…す、すまん一夏、そうとは知らずにあの時」

一夏

「ああそれはもう良いって。…かなり恐かったけど」

セシリア

「ほ、本当にすいませんでした一夏さん」

シャル

「…でも大丈夫かな簪。ちゃんと気持ち伝えられてるかな?」

海之

「…大丈夫だ。きっとな」

ラウラ

「ああ。あいつは、簪は心配するほど弱くない。海之の言う通りきっと大丈夫だ」

 

その言葉に皆頷く。

 

「…ああそうだ火影。全然関係ない話なんだけど…、あんたさっき私達を助けてくれた時、私達に謝ってたよね?アレってなんで?」

シャル

「…そういえばそんな事あった気がする」

 

ふたりはあの時の火影の「悪い」という言葉が気になっていたので聞いてみる事にした。

 

火影

「…ああそれはな…、守り切れなかった事に謝ったんだよ」

ラウラ

「? どう言う事だ。お前も海之も私達を守り切ってくれたではないか?私達だけじゃない、生徒も観客も」

 

他の皆も同意している。

 

海之

「…いや、俺達はお前達の勝負を守り切れなかった。お前達の頑張りを、意気込みを無駄にしてしまった」

火影

「ああそうだ。地下から来る事を想像していなかったのは俺達のミスだ。そのせいで楯無さんまで怪我してしまった。…悪い」

 

ふたりは再度謝った。そんなふたりに皆は、

 

シャル

「…はぁ、もう何言ってんのさふたり共。ふたりがいてくれたから僕達みんな助かったんだよ?ふたりがいなきゃあんな数の敵、とてもなんとかできなかったし、ファントムも倒せなかったかもしれない。だから全くそんな風に考えないで?」

セシリア

「そうですわ。おふたりがいてくれなければ間違いなくもっと多くの被害が出ていましたわ。下手すれば死傷者まで出ていたかもしれません。おふたりが責めを感じる必要なんて全くございませんわよ」

ラウラ

「そうだぞ。寧ろ感謝してもしきれん。私達だけでは皆を守りきる事はできなかった。ファントムを倒すだけで手一杯だったろう。あの時あの場にいた命を守ったのは間違いなくお前達だ。何、勝負なんて何時でもできるさ」

「アンタ達が責任を感じやすい性格っていうのは知っていたけど…、まさかここまでなんてね。火影も海之も、そんな風に考えるのは止めなさい。私達皆アンタ達に感謝してるんだから。ね?」

 

そう言って鈴は手を火影の肩に置く。

 

「はは、やられたなふたり共」

一夏

「そういうこった。ふたり共全然気にすんな」

火影

「…ありがとよ」

海之

「…すま、…いや、ありがとうか」

 

彼等の言葉に感謝するふたりだった。

 

一夏

(…でもやっぱり凄ぇなぁふたり共。たったふたりであれだけの敵を倒して皆を守り切った。……俺にもふたりみたいな力があればなぁ…)

火影

「…さて、もう今日は代休らしいし夜までまだ時間あるし、久々にあの店のストロベリーサンデー食いに行くか」

シャル

「あ、僕も行く」

「じゃあ皆で行きましょ」

「一夏、行くぞ」

一夏

「お、おう!」




おまけ

その頃、医務室の簪と刀奈は、

刀奈
「じゃあ私は今度こそ少し眠るわね。これでも一応怪我人だから」

「あ、うん。じゃあ私は帰るね。また明日来るよ」

そう言って簪が帰ろうとすると、

刀奈
「あっそうだ簪ちゃん。簪ちゃんが一夏くんとタッグを組んだのって…やっぱり海之くんの後押し?」

「…えっ、…うん、そう。海之くんが応援してくれたの。お姉ちゃんと話す勇気が持てたのも海之くんのおかげ」
刀奈
「そっか~。やっぱり旦那の言葉は勇気が湧くのね~♪」

刀奈は笑いながらそう言った。


「!!ななな何言ってるの!?私と海之くんはまだ…」
刀奈
「まだ~?」

「!だ、だからそうじゃなくって…、も、もうお姉ちゃん!早く寝て!怪我人でしょ!」
刀奈
「はいはい♪…でも困ったわね~、この歳でまだ叔母さんになるのは早すぎだわ~♪」

「…? お、叔母さんってそれ……!!!…もう知らない!!」

簪は真っ赤になって帰路に就くのであった。


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Mission124 束の怒りとクロエの告白

ファントム・タスクの襲撃を退けた火影達。生徒会長の更識刀奈が負傷したものの幸い大した程では無く、それを聞いて一安心する一同。
そんな中、部屋には簪と刀奈のふたりきりになり、簪は自分が今まで刀奈に対して思っていた事を全て告白する事に。自分が劣性とまで思いつめていた事を知った刀奈は決してそんな事は無いと必死で庇うと同時に謝罪する。簪と刀奈は互いが必要な存在であり、決していなくなってほしくないと話して涙した。姉妹の止まっていた時間は漸く流れ出すのであった。

※今回、そして来週は一話のみの投稿予定です。


キーンコーンカーンコーン

 

 

IS学園 1-1

 

ファントム・タスクによる思わぬ襲撃があったタッグマッチトーナメントの翌日。アリーナはファントムの出現によって生まれた損害の修復工事のため、この日は全クラスISによる実習は行われず、座学のみの授業であった。そして本日の授業も終了し、

 

生徒達

「「「ありがとうございました!!」」」

千冬

「では今日の授業はこれまで。海之、火影の両名は私と山田先生に付いて来い。…では解散!」

 

そう言ってふたりは千冬、真耶と共に行ってしまった。

 

シャル

「…なんだろう先生?」

ラウラ

「おそらく昨日の事後報告だろう。昨日は楯無さんの件でできなかったらしいからな」

セシリア

「そういえばそうでしたわね。…ああそういえば昨日は私達も楯無さんのお見舞いに伺えませんでしたわ。この後皆さんで行きませんか?」

「そうだな。では行くか一夏。……一夏?」

一夏

「…え?ああ悪い。そうだな、行くか」

「…?」

シャル

「じゃあ鈴には僕から連絡しておくね」

本音

「かんちゃんはきっと行くだろうから大丈夫だよ~」

 

 

…………

 

会議室(秘密)

 

千冬

「さて…では」

 

とその時、

 

海之

「待ってください先生。…束さん、クロエ。そこにいるんでしょう?」

 

海之は部屋の隅の空間に向かって声をかける。

 

火影

「…ああほんとだ。こんにちは束さん、クロエ」

真耶

「…えっ?えっ?」

「………………も~う!もう少し驚いてくれても良いんじゃない?ふたり共~」

 

すると隅の空間が揺れ出し、束とクロエの姿が現れた。

 

クロエ

「束様、もう皆さん予想できているのだと思いますよ?……あ、すいません火影さん。こんにちは」

火影

「ステルス迷彩ってやつか。便利なもんですね」

真耶

「び、吃驚しました…。おふたり共一体何時から!?」

千冬

「ついさっき来ると私の所に連絡が来た。断る暇も無かった」

「ちーちゃんシドイ!…とまぁそんな事はさておき、私も是非話を聞きたくて来たんだよ~」

クロエ

「今回の事も私達は衛星を通して拝見していたのです。皆さんの戦いを、…そしてあの妙なISも」

火影・海之

「「……」」

真耶

「それって…あのファントム・タスクのISが変化した件ですよね?」

千冬

「ああそうだ。私達はモニターを通して見ていたので詳しくは分からないが…海之と火影はあれを目の前で見ていた。…ふたり共。報告を頼む」

火影

「はい。…先生方も見られていたと思いますが、俺と海之は、トーナメントを襲撃してきたあのオータムというファントム・タスクの人間、そしてそいつが展開したらしいアンジェロやグリフォンと交戦し、戦闘の末それらを沈黙させました」

「そうだったね。相変わらず強いねふたり共~。あとひーくんのあの武器なに!?バイクがノコギリみたいになるなんて!本当に魔具ってのは色々あって面白いね~♪」

千冬

「束、今は無駄話は良い。…続けてくれ」

火影

「オータムのISは明らかに戦闘不能の状態で、俺達は奴を連行しようとしました」

真耶

「はい。そこまでは私達も確認できています。あの人のIS…アラクネのダメージは明らかに甚大でした」

火影

「…しかし、その時突然オータムに異変が、いえ、異変と言えるのかどうか…」

千冬

「…なんだ?」

海之

「…突然何者かと話をしだしたのです。内容は聞こえませんでしたが」

クロエ

「プライベート通信ですか?」

海之

「……いや違う。そんな感じでは無かった。まず最初の言葉が誰だ、だったからな。奴にも相手が誰かわかっていない様だった。…そして奴はこう言った。力が欲しい、力を寄こせ、と」

千冬

「…力を寄こせ…」

火影

「ええ。…そして次の瞬間には奴の身体がISごと突然黒い炎に包まれ、凄まじい悲鳴を上げました。そしてあんな変身を…」

千冬

「…海之、奴のあの時の変身は…」

海之

「…ええ。状況からして多分、あの時のラウラに起こったものと同じかと思います。良く似ている…いえ、全く同じでしたから」

「それって以前あのドイツの子が使ったVTSの事だよね?……う~~ん…」

 

束は渋い表情をしている。

 

真耶

「…どうしたんですか博士?」

「いやね、あの時はムカついて忘れてたんだけど、VTSはあんな変身はしないはずなんだよね~。黒い火で焼かれるなんて…。ましてやVTSは過去のモンドグロッソ優勝者のデータを再現するものの筈。あんなモンスターみたいなのになる筈無い」

クロエ

「VTSとは違うシステム…という事でしょうか?」

「わかんない…。調べたくてもVTSの研究所はあの騒ぎの後木端微塵に吹っ飛んじゃったからね~」

 

あのラウラの件の後、ドイツにあったVTSの研究所は原因不明の爆発事故を起こして消滅していたのである。ドイツ政府が情報統制等必死にひた隠ししたので世間には知られていないが。

 

千冬

「…ふたり共、あのオータムの変身した姿だが…あれもお前達の知っている存在なのか?」

海之

「…ええ。あれも前世で俺達が戦った存在です」

火影

「とは言ってもやっぱり機械ですけどね。名前はベオウルフ。こいつの魔具、ベオウルフの元となった悪魔です」

真耶

「…え!?」

「そういえば魔具の設計図にも書いてあったね~。魔具の中には悪魔が持つ力や命が具現化して生まれた物もあるって~」

火影

「とはいってもこっちの世界では勿論そんな力はありま………」

 

火影は言葉を止めた。

 

千冬

「…?どうした火影?」

火影

「……いえ、実は気になる事があって…」

クロエ

「どんな事ですか?」

海之

「…反応したんです」

千冬

「なに?」

 

海之はあの時起こった事、ふたりが最も驚いた事を話した。それは、

 

 

海之

「…オータムがあの黒い炎に包まれた時、閻魔刀とリべリオンが…脈をうったんです。そしてそれは……魔力に反応したという事を意味します」

 

 

千冬・束・真耶・クロエ

「「「!!」」」

 

流石に皆驚きを隠せない様だ。千冬も束も。

 

火影

「といっても一瞬でしたから僅かな力でしょうけど。…しかし閻魔刀とリべリオンはあの時確かに脈をうちました。…多分、あの変身の際に発生した魔力に」

千冬

「……では、あの変身にはその魔力という力が使われている、という事か?」

火影

「確証はありませんが恐らく。しかし魔力が使われているとしたら…悪魔に変身したのも納得できます。…それにあの後出てきたあのスコールという奴はあれの事をDIS、デビルズ・インフィニットストラトス、と呼びましたから」

真耶

「…デビル。…悪魔、という意味ですね」

千冬

「悪魔のIS…。まさにその通りだな」

「……」

クロエ

「…あの、魔力とはどういった力なんですか?ファンタジーの小説や映画等で聞いた事だけはありますが」

火影

「ああ。確かに魔力というのは一般的には魔法なんてもんを使うための力とか神秘的な力で知られているが…俺達の、いや前の俺達の世界か。そんな生易しいもんじゃない」

海之

「魔力とは…文字通り魔の力。負の力とも言う。悪魔達の力の源で奴らの世界、魔界を満たすエネルギー。そう考えてくれれば良い」

真耶

「…本当に凄い世界で生きていたんですねふたり共」

火影

「俺達が元いた世界では人界と魔界は表裏一体。入り込もうとすれば雑魚の悪魔なら可能だったんです。強力な悪魔なら「扉」をくぐる必要がありますが」

千冬

「…扉?」

海之

「人界と魔界を結ぶ文字通り扉です。ふたつの世界の間には一種の結界の様な物があるのですが…力が強い悪魔は自らの力のせいで結界に阻まれてしまいます。そのため扉をくぐらなければ人界に来る事が十分にできなかったのです。故に多くの邪悪な者が己の欲や望みのために扉を開こうとしました。……かつての俺の様に」

火影

「お前…」

「……」

千冬

「…まぁ「扉」や「魔界」については今は良い。お前達曰くこの世界はそれらとは無縁なのだろう?」

火影

「ええそれは間違いない筈です。……しかし」

クロエ

「だからこそおふたりの剣が反応したのが何故なのか…という事ですね…」

真耶

「どういう事なんでしょう…?」

海之

「考えられるとすれば……俺達の他の転生者が魔力に関わる何らかの力を使う事ができる、という事でしょうか。しかしそう考えるとひとつ疑問が出てきます」

千冬

「なんだ?」

火影

「悪魔と人間のハーフであるかつての俺も、そしてこいつも魔力を持っていました。…しかしこの世界に転生してからは只の人間。例え俺達以外に転生した者がいたとしても…そいつが魔力を持っているとは考えにくいんですが…」

千冬

「……確かに言われてみればそうだな」

「……」

 

場に少しの静寂が流れる。

 

火影

「ですが今回の事で確信を得ました。ファントム・タスクには間違いなく、俺達以外の転生者がいるという事。そしてそいつは魔界や悪魔に詳しい者である、という事」

海之

「ああ。そして向こうの方も多分俺達の事に気付いている。その内必ず姿を見せるだろう」

真耶

「…そうですね。そうでなくてもこれまでの襲撃は全て失敗している形ですから…。その人もきっと注意している筈です。ふたりの事を」

千冬

「…束、お前はどう思う?…………束?」

「……」

クロエ

「束様?」

 

束は腕を組んで俯いたまま答えなかった。考えてみれば先程から一言も喋って無く、姿勢も崩していない。その事に全員不思議がっていたが、

 

「…ふ」

千冬

「…何?」

 

 

「フザケンナァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

束以外全員

「「「!!!」」」

 

突然何かに対して大声で反論する様な声を上げる束。彼女のいきなりの声に皆動揺してしまう。

 

クロエ

「た、束様!?一体どうされ」

「何がDISだ!何がデビルズ・インフィニットストラトスだ!!ふざけんな!私のISに勝手な事しやがって!例えテロリストのISだろうとISは全部私の子供だ!私の夢のためのもんだ!それをあんな醜い姿にしやがって!私の夢を汚すような事しやがってー!!」

 

束は酷く興奮している。

 

真耶

「あわわわわわ…」

火影

「な、なんかわかんねぇけどめっちゃキレてんな」

千冬

「あ、ああ。私もこんなこいつは久しく見たことが無い」

クロエ

「わ、私もです」

海之

「…ハァ」

 

皆なんと言ったら良いのか分からなかったので暫くそのままにしておく事にした…。

 

 

…………

 

数分後…、漸く束は落ち着き始めた。

 

「はぁ、はぁ……」

千冬

「落ち着いたか?」

クロエ

「…タケノコの里食べます?」

「もらおうじゃないか!」

火影

「…うん、どうやら戻ったようだ」

真耶

「良かった~。…でもなんでさっきあんなに怒ったんですか?」

「これが怒らずにいられるかってのー!良い?ISは本来宇宙での活動を目的に造ったものなの!言わば人類のこれからの路を開いてくれるかもしれない物なの!そのために造ったの!…最近まで忘れてたんだけどね。めちゃくちゃ大事な事なのにさ…」

 

束の言う通り、最近まで彼女は過去の記憶からISの本来の目的を忘れてしまっていた。しかしそれは火影と海之、そして彼等の両親の想いを知って修正された。時間はかかりはしたが。

 

「どこの国が造ったものでも例えテロリストのもんでも、ISは束さんにとって全部子供同然!それをあんな姿にされて…、親である束さんとしては許せないよ!」

千冬

「…お前」

「あれを造ったオーガスって奴がどんな奴かは知らないしどんな仕組みなのかも分からないけど…絶対に許さない!ひーくんみーくん!束さんにできる事があったら必要以上になんでも言って!ふたりの敵は私の敵!ふたりがそいつを止めるっていうなら私も止めるよ!クーちゃんも同じでしょ!お兄ちゃん達の役に立ちたいでしょ!?」

クロエ

「は、はい!」

 

束の勢いに圧されて思わず返事をするクロエ。

 

火影

「……はは、束さんめちゃくちゃやる気ですね。…でもありがとうございます」

海之

「心強いです。…ですがあくまで戦うのは俺達の役目。束さんもクロエも…もう俺達が守る範疇に入っているんです」

「ありがとひーくんみーくん!」

クロエ

「…私の様な者に…嬉しいです」

千冬

「……」

 

千冬はそんな束を見てひとり思っていた。

 

千冬

(…束、お前本当に変わったよ。10年前の事を、お前は今償おうとしているんだな。ISを正しい方向に導くためにできる事をなんでもしようとしているんだな。………私もできる事をやらなければならんな。…10年前、あの事件に携わった者として…)

真耶

「どうしました先輩?」

千冬

「ん?ああいや何でもない。ちょっと思い出してただけだ…」

真耶

「?」

「そうと決まったらクーちゃん!あれの完成急ぐよ!大部分はもうできてるけど一番肝心なのはクーちゃんだからね!」

海之

「クロエが?」

クロエ

「え、ええっと…それはできたらわかります」

火影

(…一体何を造ってんだ…?)

「…あ、そうだひーくんみーくん!アリちゃんウェルちゃんはあれからどう~?調子悪くなったりしていない?」

 

束は以前火影達から聞いたふたりのISの不調について訪ねてみた。すると、

 

海之

「…実は…、最近本気を出さなくても妙な違和感が出始めている様です。昨日の戦いで気付いたのですが…」

千冬

「…本当か?」

 

海之の言う通り、アリギエルとウェルギエルの謎の不調はゆっくりではあるものの日に日に頻度が多くなっていた。昨日の戦闘でも何度か発生していたのである。

 

火影

「幸いそのせいで被弾する様な事は無かったですけど…、こいつの言う通り確実に増えてはいますね。でもまぁ気にしないでください。あれが俺達自身に問題があるならどうにかしますから」

千冬

「……」

「ごめんねふたり共。見てあげたいけどふたりのISは束さんもわからない事が多いから…。せめて設計図でもあればなぁ~」

海之

「ありがとうございます。大丈夫です」

クロエ

「くれぐれも気を付けてください」

真耶

「無茶しないでくださいねふたり共…」

 

心配する皆に対し、ふたりは笑って返事を返すのであった…。

 

 

…………

 

気がつけば時間は過ぎ、夕刻が迫ったのでこの日の会議は締めくくる事にした。

 

「じゃあ束さん達は帰るね♪」

クロエ

「皆さん。それではまた」

 

そう言って帰ろうとする束とクロエ。そこを真耶が呼び止める。

 

真耶

「あ、そうです博士。全然関係ない事なんですけど聞いて良いですか?…ひとつ気になった事があって」

「ん~なに~?」

 

その時真耶はある事が気になっていた。それは、

 

真耶

「あの…多分聞き違いじゃないと思うんですけど…、博士さっきクロエさんに、お兄ちゃん、て言ってた様な気がするんですけど…?」

「へ?」

クロエ

「…あっ!!」

 

落ち着いている束とは対照的にクロエはその言葉に動揺している様だ。

 

火影

「ああ…、そういや確かに言ってたな」

千冬

「私も聞こえた。聞き違いではなかったか」

海之

「クロエ。お前には兄がいるのか?」

クロエ

「そそそ、それは…」

 

どうやら気になっていたのは真耶だけではなかった様である。当のクロエはなんと言ったら良いか考えていると束が横槍を入れる。

 

「クーちゃんもう正直に話しちゃったら~?」

クロエ

「は、話したらって、束様がこぼしてしまったせいじゃないですかー!」

「え~でも何時かはわかる事でしょ~?」

クロエ

「黙ってたらわからなかったですよー!」

 

思わぬ形でバレたのが恥ずかしいらしいクロエは束に反論している。

 

火影

「クロエ。なんかあんなら遠慮せず言ってみな?気にしなくて良いからよ」

クロエ

「え、ええっと……、あのですね……」

 

相変らず恥ずかしそうに黙っているクロエ。そんな彼女を見て束はまたつい言ってしまった。

 

 

「…も~クーちゃん、そんなに難しい事じゃないでしょ~!ひーくんみーくんにお兄ちゃんになってほしい、って言う事位~」

 

 

火影

「…えっ?」

海之

「……」

千冬

「…何だと?」

真耶

「…ええっ!」

クロエ

「! た、束様!」

 

火影達は言葉を失い、クロエは赤い顔をしている。

 

海之

「…クロエ、どう言う事だ?」

「実はね~♪」

 

とここでも束が言おうとする。すると、

 

クロエ

「た、束様!止めてください!私が自分でお話しますから!」

 

クロエがそれを止め、自分で話すと言いだす。

 

「おし!よく言った!頑張れクーちゃん!」

クロエ

(…束様がお話されたら過剰話だったり作り話もされかねませんからね…)

火影

「クロエ、できれば詳しく話してくれると助かる」

海之

「ああ」

 

ふたりにクロエは深呼吸して話し出す。

 

クロエ

「……は~。…あの、火影さん。そして海之さん。…わ、私は…今までおふたりに、といってもまだ数ヶ月ですけど、優しく接して頂いたり暖かい言葉をかけて頂いたりして、スメリアでもいきなり伺ったのに嫌な顔ひとつなさらず暖かく迎えて頂いたり、もっと頼って良いとか言って頂いて、凄く嬉しかったんです…。束様以外にそんな事をしてくださる方は今までいなかったですし、ましてや同じ年頃の方からそんな風にして頂いた事も今まで無くて…」

火影

「…そうなのか」

クロエ

「はい。それでなんというか…、とても温かい気持ちになって、胸が熱くなって…。あっ、で、でも決して恋愛感情とかそんな事じゃなくて!それは本当です!寧ろなんというかその…あの…」

 

もじもじしながら話すクロエに、なんとなく理解したらしい海之が聞き返した。

 

海之

「…恋愛感情というよりも安らぎ。家族の様な感覚。…つまり、俺達を兄の様に感じた、と?」

クロエ

「…………はい」

 

その言葉に恥ずかしながらも遂に認めるクロエであった。

 

火影

「…そうか。前の通信の時といいパンドラを届けに来た時といい、何んとなくお前の様子が変だったのはそういう訳か」

「そういう事らしいんだよ~。で、どうかなひーくんみーくん?クーちゃんのお願い、聞いてあげてくれない?母親代わりである束さんとしては聞き届けてあげたいんだよ~」

 

さっきまでおふざけモードだった束もこの言葉はふざけてはいない。彼女にとってクロエも子供同然。純粋に願いを叶えてあげたいのだ。

 

真耶

「ふたり共…」

千冬

「…やれやれ」

火影・海之

「「……」」

クロエ

「……」

 

ふたりの返事が無い事にクロエは心配そうな顔をしている。

 

火影

「…クロエ、お前歳は?」

クロエ

「え?あ、はい。一応16です。今年17になります。」

火影

「俺らと同いか…。俺らも皆よりひとつ上だからな」

 

それを聞いて火影は少し考慮する。そして、

 

火影

「………………まぁ別に良いぜ」

クロエ

「…えっ?」

 

火影のその返事に目をキョトンとさせるクロエ。

 

海之

「お前…」

火影

「別に問題ねぇだろ?年上ならおかしいけど同い年ならぎりだし。それになっても別に困りはしねぇしさ」

 

火影は苦笑いしながら言った。

 

海之

「……ハァ、………好きにしろ」

 

海之はため息をついたが最終的には火影と同じく了承した。

 

「ありがと~ひーくんみーくん!信じてたよ~!良かったねクーちゃん!」

クロエ

「………本当に良いんですか?…本当に、おふたりをお兄ちゃんと思って良いんですか?」

 

自分が言いだした事とはいえ、受け入れてもらえた事にクロエはとても驚いている様だ。

 

火影

「気にすんなクロエ。それよりお前の方こそ良いのか?俺らみたいなややこしいのが兄でも」

 

火影の質問にクロエは、

 

クロエ

「私は…私は………おふたりが良いです。火影さんと海之さんが…お兄ちゃんでいてほしいです!」

 

そうはっきり答えた。

 

火影

「…そうか、わかった。じゃあクロエは今から俺らの妹ってわけだな」

クロエ

「!!」

海之

「だがクロエ、そのお兄ちゃんというのは…止めてもらえないだろうか?可能であれば別の呼称に変えてくれ」

クロエ

「あっ、わ、わかりました。えっと………お兄様?」

火影

「様なんて俺らには似合わねぇって。……兄さんで良いぜ。良いよな海之?」

海之

「…そうだな。それで良い」

クロエ

「!!…あ、ありがとうございます!火影さ…あ、違った。火影兄さん、海之兄さん!」

 

クロエはとても嬉しそうな笑顔でそう言った。

 

真耶

「…良い話ですね」

千冬

「…そうか?…やれやれ全く」

 

真耶は感動し、千冬は疑問符を浮かべたが良い意味の苦笑いも見せるのだった。 尚、クロエはそれから一日中ずっと上機嫌だったらしい。




クロエを火影、海之の義妹とする事は話を続けて行くうちに思い付きました。今後とある理由で更に交流を続けて行く予定ですのでお楽しみにして頂ければ幸いです。


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Extramission08 見覚えのある者達

これは以前火影と本音が約束したハロウィンのお話です。

※12月31日にストーリーに沿った特別編を投稿する予定です。もし良ければご覧ください。


「ハロウィン」

 

その起源は古代ケルト人の時代にまで遡り、その語源は彼等が行っていたという「サウィン」というお祭りと言われている。彼らの時代では11月1日が新しい一年の始まりと言われ、その前日である10月31日が今で言う大晦日とされていたらしく、新年を祝うために先祖の霊達がそれぞれの家に戻って来ると信じられていた。しかし同時に関係ない悪霊達まで引き連れてしまって来るとも言われ、家の者達はなんとか悪霊を追い払う方法は無いかと考えた。そこで家の者達は悪霊よりも怖い姿恰好をすれば悪霊は驚いて帰ってしまうのではないかと考え、仮面を被ったり仮装をしたりした。これが一番早いハロウィンの始まりとされている。その後時代は過ぎて秋の実りが豊かになる時期と重なる事もあり、それらの収穫を祝うと同時に悪霊を追い払う祭へと変化。そこから更に時代は過ぎ、今では子供達が怖い仮装をして「トリック・オア・トリート!(お菓子くれなきゃいたずらするぞ!)」というお決まりのセリフを言って大人からお菓子をもらう、というのが定番となっている。しかし形や方法は変わったにしても悪霊を追い払う、という意味では時代を超えて共通しているのであった。そしてこの世界でも…。

 

 

日付は10月31日。時間は夜。場所は島のとある広場にて。

 

子供達

「「「トリック・オア・トリート♪」」」

火影

「へいへい」

 

そこに火影はいた。理由は勿論、タッグマッチの前日に本音に頼まれたハロウィンイベントの手伝いである。イベント会場である広場は円形となっており、円に沿う形で様々なハロウィン用のお菓子を出しているブースが並んでいる。そのひとつが本音の知り合いがやっているらしく、火影はその手伝いをする事になったのだ。で、その知り合いとは誰かというと…、

 

「すみません火影さん、妹が御迷惑をかけて…」

「俺も悪いな火影。折角の休みなのに手伝ってもらってよ。いやしかし本当に助かったぜ。俺も一夏に聞いてみたんだが時間が合わなくてな」

火影

「なに、たまにはこういうのも良いさ」

 

それは虚と弾であった。大きいイベントなので街からも協力しようという事になったらしく、弾達の家である五反田食堂も手伝う事になったのだが、料理はともかくお菓子作りの経験が薄かった事やその間店を空ける訳にはいかない理由等から誰か手伝ってくれる者がいないかという事が虚から本音の耳に入り、その結果火影が手伝う事になったのである。

 

「しかし火影もこんなに菓子作りが上手いなんて知らなかったぜ!これみんな手作りなんだろ?正直プロレベルだぜ!」

「ええ、妹やお嬢様から伺っておりましたが本当にお上手ですね」

 

ふたりの言う通り火影は前日からクッキーやらマカロンやらチョコのお菓子を作り、それを器用にラッピングしていたのである。

 

火影

「いえ、あくまでも趣味のレベルですし包装は皆も手伝ってくれましたし。……ところで弾、本音はどうした?さっきから姿見えねぇけど?」

「あああいつなら…」

 

とその時、

 

「「トリック・オア・トリート♪」」

 

 

前から声が掛かり、火影が対応しようとする。

 

火影

「あ、はいは…」

 

火影は一瞬黙ってしまった。何故ならそこにいたのは、

 

本音・蘭

「「お菓子くれなきゃイタズラするぞ~♪」」

 

本音と蘭だった。しかも御丁寧にふたり共魔法使いの仮装までしている。

 

火影

「…本音、お前何してんだよ?」

本音

「あれ~、知らないのひかりん~?このイベントは中学生迄なら参加できるんだよ~?」

火影

「いやそれは知ってっけど…、蘭はOKとしてお前は無理だろ?高校生だし」

本音

「気にしない気にしない~♪一緒に回ってればばれないって~♪」

「実際他の場所も回ってみましたがばれませんでしたよ」

「…まぁ本音ちゃんの場合喋り方だけなら高校生とは思いませんでしょうね」

本音

「エヘヘ~それほどでも~♪」

 

どうやら悪気は全く感じていない様である。

 

火影

「バレても知らんぞ。…まぁいいか、ほらお菓子」

本音

「わ~い♪」

「ありがとうございます。…じゃあ本音さん、次に行きましょう♪」

本音

「は~い。ひかりん~後で手伝いに来るからね~」

 

そう言ってふたりは並んでスキップしながら次の場所に行った。

 

「…確かにああしていたらとても高校生とは思えねぇかも」

「…姉としてお恥ずかしい」

火影

「ははは。……さて、どうやら少し落ち着いたかね。……!」

 

そう言って火影は思い付いた。

 

火影

「ふたり共。ここは俺に任せて外に行ったらどうだ?夜のデートってのも一興だろ?」

「…えっ!?」

「な、何を言ってんだよ火影!」

 

火影にそう言われてふたりは酷く慌てだす。

 

火影

「ペースは今ちょっと落ち着いたし、暫くは俺ひとりでも回せる。イベントが終わる片付けの頃に戻って来てくれたら良いからよ。ああほら、ふたりの分」

 

そう言って火影はふたり分のお菓子を差し出す。

 

「!そ、そんな!それにこれは子供達の」

火影

「大丈夫ですよ虚さん。余裕をもって作ってますから。気にせず行ってください」

 

そう言って火影はふたりに勧める。

 

「…そ、そこまで言うなら…、虚さん、行きましょうか?」

「……わかりました。火影さん、本当に大丈夫ですか?」

火影

「大丈夫ですって。本音と蘭が戻ってきたら目一杯手伝わせますよ」

「……わかりました。…では宜しくお願いします」

「すまねぇ火影。ちゃんと終わりには戻ってくるから」

 

そして弾と虚は会場外に行った。

 

火影

「…分かりやすいふたりだよなぁ。一夏もアレ程で無くてももうちょい箒やセシリアの気持ちに気付いてやりゃあ…」

子供達

「「「トリック・オア・トリート♪」」」

火影

「あ、へいへい」

 

そんな事を感じながら作業に戻る火影だった。

 

 

…………

 

「トリック・オア・トリート♪」

 

暫くして新しい子供がやってきた。しかしその格好は少し変わっていた。山羊の様な角飾り。しかし山羊にはある筈のない翼。そして大きな爪が付いた手袋をしている。もちろん本物ではなく全て着ぐるみであるが。(ゴートリング)

 

本音

「ヤギさんだ~」

「でも翼が生えてますね。なんか伝説の生き物みたいです」

 

ふたりがそんな感想を持った中、

 

火影

「…なんかどっかで見た様な形だな。まぁいいや」

 

火影はそんな事を思ったのであった。そしてそれが暫くそれが続く事になるとはこの時の火影は思ってもいなかった。

 

 

…………

 

「トリック・オア・トリート♪」

 

また新しい子供が来た。今度の子供は帽子をかぶっているだけだが変わった帽子だ。後頭部に青い鳥の羽根飾り。その真ん中に一番大きな飾り。そして大きな耳飾りをし、目から鼻にかけての部分がクチバシみたいにとがっている。(アサルト)

 

本音

「今度は鳥さんかな~?」

「でも耳飾りが付いてますね、鳥というより…鳥人、という感じでしょうか」

火影

「…これもどっかで見た気がするななんとなく…」

 

 

…………

 

「トリック・オア・トリート♪」

 

次の子供は脚先まである真っ黒いローブを纏っている。そして目の部分だけが青く大きい、赤い仮面を被っている。(メフィスト)

 

火影

「…黒いローブはありきたりだが…この仮面は…」

本音

「怖いけどなんかカッコいいね~」

「魔法使い?死神?…う~んどっちでしょう」

 

 

…………

 

「トリック・オア・トリート♪」

 

今度の子供は黒というよりも白に近いローブを頭から纏った子供。手には赤いプラスチック製の宝石が埋め込まれた杖の玩具を持っている。(ダムドビショップ)

 

本音

「今度は魔法使いさんかな~?」

「黒じゃなく白いローブの魔法使いって新しいですね」

火影

「…なんでこう見覚えのあるもんばかりなんだ…?」

 

 

…………

 

「トリック・オア・トリート♪」

 

次に来た子供も先の子供と同じく黒いローブ。そして目を引くのは、

 

本音

「で、でっかいハサミだね~!」

 

子供の背丈程はある大きなハサミだった。(デスシザーズ)

 

「ね、ねぇボウヤ~?それって本物、じゃないよね~?」

少年

「いやだなぁお姉ちゃん、単なるビニールだよ~。ハロウィン用なんだ~」

 

触ってみると確かにそれはビニールのおもちゃだった。

 

本音

「最近の玩具ってリアルだね~」

火影

「うん、もう勝手にしてくれ」

 

 

…………

 

「トリック・オア・トリート♪」

 

今度は変わり種ではなく、皆が良く知るマミー。いわゆる包帯ぐるぐるのミイラだった。

 

火影

「久々にまともだな。まぁ何をもってまともなのかはわかんねぇけど。ほら」

子供

「ありがと~。……あれ~?」

 

子供は火影を見て疑問の声を上げる。

 

「どうしたの坊や?」

子供

「…お兄ちゃん、なんか海之のお兄ちゃんに似てるね?」

本音

「ほえ?みうみう?」

「海之さんって…、確か火影さんの」

火影

「少年、海之の知り合いか?海之は俺の兄貴だよ」

子供

「え、そうなの?そうか~!よく似てると思った~」

 

子供は納得と言う表情をしている。

 

本音

「坊やみうみうのお友達~?」

子供

「…みうみう?…まぁいいや。うん、海之お兄ちゃんは僕とライフの命の恩人なんだ!」

「…えっ!」

本音

「どどどどういう事~!?」

子供

「あのね~…」

 

子供は海之と知り合った経緯を話した。

※Mission113をご覧ください。

 

火影

「…そうか、簪とラウラがあの時話してたのは少年の事か」

「海之さん凄いですね」

本音

「ほんとだね~!」

火影

「海之に宜しく伝えとくぜ」

子供

「ありがとう。…ねぇ、お姉ちゃん達お兄ちゃんの彼女~?」

「えっ!う、ううん違う違う!」

本音

「はわわわわわわわ!!」

火影

「ははは……」

 

仮装とは別の疲れを感じた火影だった…。

 

 

…………

 

そんな感じで順調に進みながらハロウィンイベントは無事終了を迎え、時間は夜遅くになろうとしていた。火影が多めに用意したお菓子達もほぼ無くなり、あと残った分は火影達と弾達で半々に分ける事にした。

 

本音

「皆お疲れ様~!楽しかった~♪」

「虚さん。それに火影も本音も。今日は本当にありがとさんだぜ!イベントも大成功だったみたいだし、俺ら五反田食堂の役割も無事に果たせたしよ!」

「な~に言ってんの。中間位からは火影さんに任せっきりだったくせに」

「すいません蘭さん」

「あ、いえ、虚さんは悪くありませんから気になさらないで下さい」

「…お前ほんっとに俺と皆で態度違うよな」

火影

「それより良いのか?片付け手伝わなくて。全然付き合うぜ?」

「いや良い良い。せめてこれ位は俺が頑張るぜ。お前は気にせず先に帰ってくれ」

「本音ちゃんも先に帰りなさい。私は弾さんと蘭さんを手伝ってから帰るから」

本音

「うんわかった~」

火影

「…じゃお言葉に甘えて帰るか。じゃあな」

本音

「おやすみ~」

「ありがとうございましたー!」

 

火影と本音は虚、弾、蘭と別れて帰路に就いた。

 

 

…………

 

学園迄の帰り道

 

本音

「今日はありがとねひかりん~」

火影

「気にすんな。正直少し疲れはあるけど楽しくはあったし。あと礼を言うなら俺もだぜ、本音があんなに子供受けするとは思わなかった」

 

本音はその雰囲気や喋り方が子供に近い感じがあったためか、メンバーの中で一番子供の相手が上手かった。

 

本音

「えへへ~♪ねぇひかりん、子供ってかわいいね~。みんな仮装してて更に可愛く思えたよ~」

火影

「…今思えば少しおかしい仮装もあったけどな」

 

なんであの姿恰好があるんだ?と疑問が出るものが幾つかあったなと思う火影であった。

 

本音

「ねぇひかりん~、私本当に役に立ったのかな~?」

火影

「…え?ああ役に立った」

本音

「じゃあさ~、なんか御褒美ちょうだ~い?」

火影

「御褒美って…、ハロウィン用のお菓子やったりしてたじゃねぇか」

本音

「あれはハロウィンだよ~。ちゃんとしたご褒美~」

火影

「つってもいきなり言われてもな…………、あ」

 

その時火影の頭に思い出した事があった。

 

火影

「そういや鈴とシャルにはしてたが本音にはまだだったな」

本音

「なにか言った~?」

 

疑問符を浮かべる本音。すると火影は突然脚を止め、

 

本音

「!!!」

 

本音の頬にキスをした。タッグマッチ当日に鈴とシャルロットにした様に。

 

火影

「こんなんで御褒美になんのかわかんねぇけどな。……さて、今日は確か男子は風呂使える日か。久々に入るかな」

 

そう言いながら再び歩き出す火影。一方本音は火影の不意を撃つ行為に少し固まっていたが、

 

本音

「………ふぇ?、ふぇええええええええ!!ちょ、ちょっとひかりん待って!待ってってば~!」

 

やはりというか、真っ赤になりながら大慌てで火影の後を追うのであった。




おまけ

寮に帰ってくると鈴とシャルロットが共有スペースでお茶を飲んでいた。

シャル
「あ、お帰りなさいふたり共。ハロウィンイベントはどうだった?」
火影
「ああ結構な盛り上がりだったぜ。なぁ本音?」
本音
「う、うん!すっごい結構な盛り上がりだったー!」

「ほ、本音。アンタ声が大きいわよ。もう遅い時間なんだから」
本音
「ご、ゴメン!」

「でもそんなに盛り上がってたなら良かったわね。休みだったから言ってくれたら手伝ったのに」
火影
「頼まれたのは俺だからな。ああほら、余ったお菓子」
シャル
「え、僕達も良いの?ありがとう♪」

「♪…本音珍しいわね?欲しがらないなんて」
本音
「わわわ、私はもう貰ったから~!」
火影
「蘭と一緒にがっぽり貰ってたから」
シャル
「あはは、本音らしいね」
火影
「じゃあ俺は風呂に行ってくるわ」

「あ、うん。行ってらっしゃい」

火影はそのまま浴場に歩いて行った。

本音
「……」
シャル
「本音どうしたの?疲れた?」
本音
「ふぇ!?う、うん。そうだね~!疲れたかもね~!」
鈴・シャル
「「?」」
本音
(…絶対にさっきの事を言わない様にしないと~!)

真相を知らないふたりとひとりであった。


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ExtramissionXX ゆく年くる年 (後書きにメッセージ)

年越しに合わせて作りました。現時点よりほんの少しだけ未来のお話です。外伝ではなくストーリーに沿っております。宜しければご覧下さい。


12月31日、大晦日。時刻は午後23時を回り、後1時間で年越し。新年を皆で迎えようといつものメンバーは織斑家に勢揃いした。

 

一夏

「もう一時間位で新年か~。毎年相変わらず早いよなぁ」

「老人臭い事を言うんじゃない一夏」

一夏

「…でもたった今自分で言っといてなんだけど今年はいつもより長かった気がするな。一日一日が」

セシリア

「色々ありましたからね。IS学園入学から始まってこの一年本当に様々な出来事がありましたわ」

楯無

「そうね~。でもこんな時だけど去年の今より私はずっと充実してるわ。簪ちゃんとも仲直りできて新年を迎えられるんだから♪」

本音

「私も嬉しいよ~」

「…ふふ。…でも随分大人数になっちゃったね。すいません織斑先生」

千冬

「気にするな。どうせ私と一夏のふたり、いや今はあいつらもいるか。たまには良いさ。…それよりお前達、本当に家や国に帰らなくて良かったのか?待っている者もいるだろうに」

「大丈夫です。年が明けてから帰ると言ってますから」

シャル

「僕は本当は帰ろうかなと思ったんですけどお父さんがお友達と一緒の方が楽しいだろうから気にせず残りなさいって」

「そうなのか。きっと気を使ってくれたんだろうな」

シャル

「…うん。…こんな賑やかで、温かい気持ちで新年お祝いするなんて初めてかも。おかあさんが死んじゃってから」

千冬

「…早く家族で新年を祝えられると良いな。御父上と…義母上と」

シャル

「…はい!」

一夏

「ラウラ、セシリアは?」

セシリア

「私も年が明けてから一度帰る予定してますわ」

ラウラ

「私もそうするつもりだ。部下達にも連絡してある。…いや私はそもそも軍人だからな。年越し等あまり関係無いのだ。だから…こういうのも新鮮な感じだ」

 

直接の家族がいないラウラは毎年自分が率いる隊の者達と過ごす事が多かったが、シャルロットと同じくこんなにゆったり過ごす年越しは初めてらしかった。

 

ラウラ

「それに例年と違い、今の私には嫁も弟もいる。それにあの人も。どうせなら家族と一緒に過ごしたい」

「……ほんと恥ずかしげなくそういう事言うねラウラ」

楯無

「でも色んな言い訳あるけど大半の子は結局ラウラちゃんと同じでしょ~♪あのふたりと一緒にいたいんでしょ~♪」

鈴・シャル・本音・簪

「「「………」」」

セシリア

「…まぁでもお気持ちはよくわかりますわ。あんな事がありましたものね。でも本当に良かったですわ…」

「…ああ。本当にな…」

千冬

「……」

 

実はほんの数日前にとある出来事があったのだが……その話はまた何れという事に。

 

シャル

「そ、そういえばさ。日本のお正月って初めてなんだけどどんな事するの?」

一夏

「基本的には大晦日に大掃除したり年越し蕎麦食ったり、新年初日はおせちやお雑煮食ったり初詣したりだな」

「なんかそんな感じで言うと食べてるだけみたいじゃないのよ…。外れてはないけど。まあメインイベントは初詣かな。あとお年玉♪」

セシリア

「お年玉とはなんですの?」

楯無

「お正月に子供が大人から貰うお金やおこづかいの事よ。鏡餅のお下がりの「歳魂」をもじったとか、年の始まりの賜物の「年賜」から始まったとか言われてるけどね」

ラウラ

「しかし私達はもう高校生だ。まだもらう範疇に入るのだろうか?」

「流石にまだ子供とは思うけど…」

「え~、入らなかったらショックだな~」

本音

「ずっと子供でいたいなぁ~」

「お年玉は良いとして…確かにまだ大人は早いかな」

 

何人かそんな事を言うと千冬がふと思いついた。

 

千冬

「…ほぉ、お前達はずっと子供で良いのか。そうかそうか。では色々な事が永久にできんな」

シャル

「色々な事?」

一夏

「なんだよ千冬姉?」

千冬

「例えば…想い人の伴侶になる事とかな。子供には無理だ」

一夏以外全員

「「「やっぱり早く大人になりたいです(わ)!!」」」

 

全力で先程の言葉を無かった事にする少女達。

……そんな事を言いながら過ごしているとキッチンから火影と海之、そしてもうひとり出てきた。

 

火影

「おーいできたぜ~」

海之

「クロエ。溢さん様に気をつけろ」

クロエ

「大丈夫ですよ海之兄さん」

 

もうひとりとはクロエだった。三人共盆を持っている。乗せているのは…年越し蕎麦。

 

千冬

「一夏、手伝ってやれ。人数が多いんだ」

一夏

「ああ悪い!そうだった!」

 

 

…………

 

「「「いただきます(まーす!)」」」

 

全員で火影達が作った蕎麦に下鼓をうつ。

 

本音

「ひかりんとみうみうとクーちゃんのお蕎麦おいし~♪」

楯無

「この御出汁絶品ねぇ♪」

海之

「知り合いの日本料理の店から教わったんです」

「あっ、もしかしてそれ、私とラウラが前に連れてって貰った?そっかぁ」

セシリア

「所で日本に来てから知ったのですが年越し蕎麦ってどういう意味ですの?」

「ああ。蕎麦は他の麺類よりも軟らかくて切れやすいんだ。だから蕎麦を食べる事で今年一年の災いを断ち切る、という願掛けも兼ねての事らしい」

シャル

「そうなんだ~。ねぇ火影、もしかしてこの蕎麦って手打ち?」

火影

「ああそうだ。蕎麦は俺、出汁は海之、きつねはクロエが担当したんだ」

「アンタ蕎麦打ちまで出来るのね」

一夏

「へ~やっぱ違うな。このきつねもしっかり味染みてるし旨いぜクロエ!」

ラウラ

「…本当に美味しいです」

海之

「腕を上げたなクロエ」

クロエ

「あ、ありがとうございます」

火影

「最初の頃とは大違いだな♪」

クロエ

「も、もう火影兄さん!」

 

火影がこう言うのは訳があった。クロエは基本的にはどんな事も卒なくこなすのだが…、料理だけは壊滅的に駄目だったのだ。…本当に。それを見かねた火影と海之がここ数日料理を教える光景が多くなっていた。

 

クロエ

「でも本当にそう言って頂けて嬉しいです。…束様にも、食べさせてあげたいです」

「クロエ…」

火影

「…じゃあその時のためにもっと練習しとこうぜ。そうすりゃもっと旨い蕎麦食わせてやれるからよ」

クロエ

「!…ありがとうございます、火影兄さん」

 

確かにここには束がいなかった。その理由もまた近い内に…。

 

海之

「お口に合いますか先生?」

千冬

「ああ旨いよ。…ところで海之、火影。今さらだがお前達も本当に帰らなくて良かったのか?」

火影

「事情が事情ですからね。今帰る訳にはいきませんよ」

「でもギャリソンさんとかレオナさんとか寂しがってたんじゃないの?」

火影

「それがそうでもねぇんだよな。寧ろ俺達にそこまで良い友達ができたって事に喜んで嬉し泣きしてたし」

本音

「相変わらずだね~」

海之

「レオナ叔母さんもギャリソンの正月料理を一人占めして酒が飲める、と言って喜んでいたな」

「あはは、レオナさんらしいね」

火影

「まぁ鈴やラウラと同じで年明けに顔を見せに行くさ」

「それが良い。口ではそう言っててもきっと会いたがっておられる筈だ」

一夏

「ギャリソンさんのおせち料理か~。凄そうだな~」

海之

「何れ来ると良い。皆喜ぶ」

シャル

「じゃあ次は皆で行こう!」

 

そんな感じで今年の残り短い時間は過ぎ、そして気が付けば…。

 

セシリア

「あ、皆さん。あと3分で新年ですわ!」

ラウラ

「本当だ。気付かなかったな」

一夏

「じゃあ10秒前になったらカウントダウンしようぜ」

楯無

「そうね。皆でやりましょ」

 

そして、

 

10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、

 

 

「「「明けましておめでとうございます(ございまーす!)」」」

 

 

そして続けて、

 

 

「「「今年も宜しくお願いします(しまーす!)」」」

 

 

ゴーン…ゴーン…ゴーン……

 

こうして様々な事があった古い年は終わりを告げ、新しい年となったのであった…。

 

 

…………

 

夜が明け、時刻は朝を迎えた。少女達は何やら楯無と簪の家に用があると言って戻り、火影と海之は一夏、千冬と一緒に篠ノ之神社の前にいた。当たり前ではあるが初詣客で随分盛り上がっている。

 

篠ノ之神社

 

一夏

「ぶるぶる…」

千冬

「情けない、これ位の寒さで」

一夏

「いやいや十分寒いって。雪もこんな残ってるし。…つーか遅いなぁあいつら。何してんだろ?」

火影

「何やら準備があると言ってたけどな。おまけにクロエまで連れてったし」

海之

「……ああ成程」

 

海之は何か察した様だ。

 

千冬

「流石に勘が良いな海之」

海之

「予想ですが。千冬先生も行かれたら宜しかったのでは?」

千冬

「何、もうそんな歳では無いさ」

海之

「そんな事ありませんよ、きっと良くお似合いだと思います」

千冬

「そ、そうか。……お前がそういうなら……今度着てみようか…」

火影

「……ああそういう事か」

一夏

「…?何の話だ?」

火影

「もうすぐわか…、ってもう見えてるぜ、ほら」

楯無

「お待たせしました~!人数が多かったから着付けに時間がかかっちゃって」

 

楯無を筆頭にみんなやって来た。…正月らしく着物を着て。

 

火影

「へ~、こりゃ見事なもんだな」

「えへへ、そうでしょ?虚さんや本音が着せてくれたんだ。で、どう?似合ってる?」

「着物に合わせて髪型も変えてみたんだけど…変じゃないかな?」

セシリア

「浴衣とはまた違った趣ですわ。…如何でしょうか?」

 

少女達は意見を聞いてくる。それぞれの想い人に。

 

火影

「…ああ、皆綺麗だぜ。見違えた」

海之

「良く似合っている。自信を持って良い」

一夏

「何時もと違って新鮮な感じがすんな。でも良い感じだぜ」

 

普段鈍い一夏も流石にこれだけ違うと意見もふたりに近かった。

 

シャル

「えへへ、惚れ直した?」

火影

「…かもな」

「!は、はっきり言わないでよ恥ずかしい」

ラウラ

「……成程、これが幸せ、というものか」

本音

「ラウラン当たってる~!」

「う、嬉しいが一夏がこんなにすんなり褒めてくれるなんて…。明日は豪雪か?」

楯無

「寧ろ飛び越えて雹が降るかも知れないわよ?」

 

そして一番後ろにクロエがいた。着物を初めて着たらしくやや不安定な足取りだ。

 

本音

「クーちゃん大丈夫~?」

クロエ

「は、はい。すみません、あまりこういうのは慣れて無くて。…あのおかしくないでしょうか?」

海之

「ああ良く似合っている」

千冬

「お前も立派な女の子だ。自信を持って良い」

クロエ

「…ありがとうございます」

一夏

「んじゃ早くお参りしようぜ。人も多いしさ」

 

そして一行は本殿へと進み始めた。尚、全員揃いも揃って美女美男子である事や有名人でもある千冬がいる事が関係し、途中多くの人の目を引きつけていた…。

 

…………

 

本音

「ねぇ皆何お願いする~?」

海之

「いや、初詣は願い事を言っては駄目だ。昨年の感謝と今年の目標を伝えるのが正式らしい」

楯無

「そう言えば聞いた事あるわ。あと住所氏名も伝えた方が良いって」

「へ~結構決まり事あるのね。じゃあやりましょうか」

 

そして其々参拝する。作法通りまず住所氏名を伝え、去年の感謝と今年の目標を。

 

 

火影・海之

((……全てを終わらせる。……奴を…))

一夏

(…強くなってみせる。…守るために…)

千冬

(…私の大切なものを守る。一夏もあいつも生徒達も。…そして…あいつも…)

(…取り戻す。…そして守る。一夏を、皆を。…そして今年こそ、一夏に……)

セシリア

(…皆さんのお役に立てるよう頑張りますわ。全て終わったら一夏さんに…)

(絶対負けない。戦いも…恋も…。あいつと…、火影と…)

シャル

(皆を、火影を支えたいです、誰よりも。…だから負けません)

ラウラ

(…最後まで戦い抜く。仲間のために、…そして家族のために)

(…みんなの、海之くんの力に慣れる様、一生懸命頑張ります)

楯無

(去年はありがとうございました。簪ちゃんと仲良くできました。今年はもっと仲良くなります。そのために頑張ります)

本音

(私には戦う事はできないけど…精一杯皆を、火影を支えたいです。そして…)

クロエ

(…私にお兄さんができるなんて…想像もしていませんでした。ありがとうございます。…妹としてお兄さんの力になりたい。…そして必ず…)

 

 

男性陣・千冬・クロエ以外

(((火影(海之又は一夏)と恋人になれる様頑張ります!!)))

 

 

少女陣はそんな感じで昨年の感謝と今年の目標を願った。

 

一夏

「よし、昼までまだ時間あるし露店も出てるし、折角だから回ろうぜ!」

「あんたにしては良いアイデアじゃない♪」

本音

「サンセイ~♪」

 

 

…………

 

火影

「本音…お前の綿菓子でかすぎねぇか?」

本音

「だいじょうぶだいじょうぶ♪ねぇ皆はなんの味にした~?」

シャル

「僕はみかん味だよ」

「私は葡萄よ。火影は?」

火影

「俺はこれしかない。苺だ」

「ほんと苺好きねアンタ」

本音

「私はメロンだよ~。ねぇひかりんの苺、少しちょうだ~い♪」

火影

「自分の食う前にかよ。まぁ良いか、ほら」

 

火影はそのまま本音に差し出し、本音は一口パクつく。

 

本音

「ありがと~♪じゃあ私のもあげる~」

鈴・シャル

「「火影、私(僕)のもあげるから一口ちょうだい♪」」

火影

「へいへい」

 

そんな感じで綿菓子を食べさせ合う火影達であった。

 

 

…………

 

ラウラ

「海之、これは何だ?」

海之

「ああこれはカンザシという髪飾りだ」

クロエ

「簪さんと同じ名前なんですね」

「そうなの。ややこしいなって私も思った事ある…」

ラウラ

「髪飾りと言ったがどうやって使うんだ?」

海之

「基本は髪を結んだ後や髪形の留め具として使う。…欲しいのか?」

ラウラ

「い、いやそう言う訳では」

 

そういうラウラだが興味はやはりある様だった。

 

海之

「買ってやる。…そうだな、ラウラはこれで…簪はこれが合うかもしれんな」

ラウラ

「…す、すまん海之。私はわかりやすいのかな?」

「…ありがとう海之くん。大切にするね」

海之

「クロエも選べ」

クロエ

「い、いいですよ。私までそんな」

海之

「気にするな、妹が兄相手に遠慮する必要は無い」

クロエ

「!……ありがとうございます、…海之兄さん」

 

 

…………

 

一夏

「甘酒か~。なんか久々だな~」

「ああ、去年は飲めなかったからな」

 

一夏達は甘酒をたしなんでいた。するとセシリアが何故かとても楽しそうだ。

 

セシリア

「~~~♪♪」

楯無

「どうしたのセシリアちゃん?」

セシリア

「なんだかとっても楽しい気分ですわ~♪♪」

 

その口調は妙に明るく、脚もややおぼつかない。

 

「お、おいこれって…まさか甘酒で酔ったのか?」

一夏

「いやでもこの甘酒ノンアルコールだぜ?」

楯無

「…どうやら場酔いってやつみたいね」

セシリア

「うふふ~、一夏さ~ん♪」

一夏

「わっ!」

 

そう言って一夏に抱きつくセシリア。それを見て、

 

楯無

「これは負けてられないわね。…えい♪」

 

そう言って楯無もくっ付く。

 

一夏

「ちょ、ちょっと楯無さん!お、おい箒!なんとかして……!」

 

一夏は言葉を失った。箒には…炎が宿っていた。

 

「…一夏…何を嬉しそうな顔してるんだぁー!!」

一夏

「なんで俺が怒られてんだー!?」

 

 

…………

 

千冬

「やれやれ…あいつらときたら、正月位静かにできんのか」

 

千冬は境内のベンチで参拝者に配布されていたお神酒を飲んでいた。一夏達の騒動は通りかかった千冬によって強制停止されていた。

 

千冬

「…まぁ最近は色々あったからな。気が紛れるならたまのケンカ位と思うが他の参拝者に迷惑かけるのは勘弁できん」

 

そんな事を言いながら休んでいると、

 

海之

「千冬先生、お疲れ様です」

千冬

「…海之か。簪達はどうした?」

海之

「全員揃って御守り売り場とおみくじに行っています」

千冬

「そうか。お前は行かないのか」

海之

「御守りはともかくおみくじとかはあてにしない主義ですので」

千冬

「そうか。…隣座れ」

 

そう言われて千冬と並んで座る海之。すると千冬が話しかける。

 

千冬

「……なぁ海之。あいつら楽しそうだな」

海之

「……はい」

千冬

「お前と火影は見ていないが本当に大変だったんだぞ?あいつら揃いも揃って。……まぁまだ問題は残っているが…」

海之

「……」

千冬

「…あいつ、無事だろうか…」

 

千冬は今この場にいない人物を思い出していた。

 

海之

「…ジェシー・ジャクソンは言っています。「希望を生かし続けろ」と。希望を捨てない限り大丈夫です。きっと」

千冬

「………希望、か。……そうだな」

 

千冬は海之の言葉を信じようと思った。

 

千冬

「そろそろ行くか。あいつらも用事を済ませているだろう」

海之

「そうですね。…あ、忘れていました。先生、これを」

 

そう言って海之が千冬に渡したのは、

 

千冬

「…これはカンザシか?」

海之

「ええ。先程簪やラウラやクロエに買ってやったんですが、店主がお礼にもうひとつ選べと言って下さったんです。色からして先生にお似合いかもしれない、と」

千冬

「これを…私に?」

海之

「ええ。もし要らなければ遠慮なく処分なさってくださいね。では俺は先に行っています」

 

海之はそう言って皆のいる御守り売り場に歩いて行った。

 

千冬

(……ありがとう海之……)

 

 

…………

 

時間も良い感じに過ぎ、丁度昼前に差し掛かっていた。クロエ以外の少女達は全員御守りを買い(もちろん恋愛成就の御守り)、おみくじを引いていた(もちろん恋みくじ)。

 

一夏

「じゃあそろそろ帰ろうぜ。俺と火影達でお節料理作ってっからよ」

本音

「ほんと!?わーい♪」

「…あ、そうだ火影。あんたさっきおみくじ引いてたけどなんて書いてあったの?」

火影

「あ~……ん~と、な…」

「鈴、おみくじの結果は人に見せてはいけないという話もあるぞ?」

「あ、そか」

シャル

「ねぇ早く帰ろ。丁度お腹もすいちゃったし」

千冬

「やれやれ…帰るか」

 

そう言って一行は織斑家に向かって歩き出した。……その後ろで、

 

海之

(……火影、先程のおみくじ、何が書いてあった)

火影

(えっ?何だお前も気になんのか?)

海之

(先程鈴に聞かれた時のお前の反応が気になっただけだ。…何かあるのか?)

火影

(………願い事成就の覧)

 

そして火影は自らのおみくじを見せる。

 

海之

(………成程)

火影

(信じる訳じゃねぇ。……でも鈴達に知られんのはな。只でさえ先日の事もあるし。…まぁあんま気にしなくても良いさ)

海之

(………ああ)

一夏

「おーいふたり共、置いてくぜ~」

 

そう言われてふたりは皆の後を追いかけた。………火影のおみくじにはこう書かれていた。

 

 

「吉 強く願えば必ず叶うでしょう。しかし貴方の大切な時を失うでしょう)




御読み下さっている皆様へ。

こんばんわ、storybladeです。いつも私の駄文をお読み下さいましてありがとうございます。今年の6月から思い付きで始めた本作品、早くも半年が経ちました。皆様の温かい感想やメッセージ、忠告や訂正の報告、全てありがたく読ませて頂いております。ありがとうございます。

ダンテとバージルという、キャラクターが既に出来上がっている者が他作品に入るクロスオーバー。キャラクターをできるだけ壊さない様に注意しながら書くのは中々難しいですが、学生の頃のふたりはこんな感じだろうかと想像しながら書くのは楽しいです。デビルメイクライファンの方には果たして火影と海之はどう映っていますでしょうか?
進行スピードは掲載初期に比べ、随分遅くなってしまいましたが、ラストまでの構想は自分の中でほぼ出来上がっていますので、これからも引き続き御付き合い頂ければとても嬉しいです。


火影と海之に起こった出来事とは?
何故クロエが火影達と共にいるのか?そして何故束がいないのか?
そして…火影(ダンテ)と海之(バージル)の言う「奴」とは?


2019年ありがとうございました。2020年も「IS×DMC 赤と青の双子の物語」をどうぞ宜しくお願い致します。

※次回投稿は来週になります。


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第十章 Those who go to battle
Mission125 白騎士の正体


専用機持ちによるタッグマッチトーナメントから翌日。
火影と海之は千冬と真耶、そして束とクロエも交えてトーナメント当日の事を報告していた。
オータムのISの妙な変身、スコールという新たな敵、そしてリべリオンと閻魔刀の異変によってわかった魔力を持つと思われるDISと火影達以外の転生者の存在。
全員が疑問を浮かべる中、只一人束は自らのISを勝手に変えられた事に怒りを爆発。改めて火影達への協力を約束する。そんな束を見て千冬も自らができる事をしなければならないと思い始めるのであった。


明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します。


キーンコーンカーンコーン

 

 

IS学園 食堂

 

タッグマッチトーナメントから一週間が経った。楯無(刀奈)の怪我はすっかり完治し、アリーナの修理は完了。学園は落ち着きを取り戻していた。そんなある日、この日の授業も終わって放課後を迎え、火影達は食堂にいた。

 

「楯無さんもうすっかり大丈夫みたいですね」

楯無

「大丈夫大丈夫♪もう一週間も経っているのよ?怪我も大した事無かったし、幾らなんでも皆心配しすぎよ」

扇子

(杞人之憂!)

「大丈夫だよ。もうすっかり元気だから。正直もうちょっと、ううんもっと控えてほしい位」

 

楯無と簪はあの件から時々一緒に行動している。まるで今までの時間の隙間を埋めるかの様に。

 

楯無

「ガ―ン!一夏く~ん、簪ちゃんがお姉ちゃんを虐める~!」ダキッ

 

そう言いながら隣の一夏にしがみつく楯無であった。

 

「…とまぁこんな調子だから」

一夏

「あはは…、確かに大丈夫そうっすね」

「た、楯無さん離れてください!」

セシリア

「そうですわ!もう大丈夫なのでしょう?」

楯無

「う~んどうかな~♪」

シャル

「…絶対大丈夫だね」

ラウラ

「間違いない」

本音

「大丈夫だよ~、かっちゃんは前からこんなんだから~」

「寧ろ前よりハイになってない?」

 

驚いたり呆れたり皆感想はぞれぞれな様子だ。

 

楯無

「とまぁ冗談はさておいてほんとに大丈夫よ。寧ろあの怪我のお陰で簪ちゃんとも仲直りできたし逆に良かったかも♪それに後一カ月後には修学旅行もあるんだから休んでられないわ。色々考える事もあるしね」

本音

「そういえばそうだね~!楽しみ~!行き先はどこだっけ~?」

「虚さんが言ってたけど…確か京都じゃなかったかな」

「京都か…。私初めてだから確かにちょっと楽しみかも」

シャル

「京都って歩く距離でいろんな見る場所があるって聞いたことがあるよ。ねぇ火影、一緒に回ろうよ♪」

ラウラ

「それに確か京都には芸者とか言う者がいるらしい。…聞くとそれは男の」

「ラウラ!何を言うつもりか知らんが言わなくて良い!」

 

そんな感じで皆それぞれ修学旅行に想いを寄せている中、ひとりの人物が近づいてきた。

 

千冬

「お前達、ここにいたか」

 

それは千冬だった。

 

セシリア

「織斑先生?お疲れ様ですわ」

一夏

「千冬姉、どうしたんだ?」

千冬

「ちょっとな…。海之、火影。ふたり共今日の夜は空いているか?」

海之

「今日の夜ですか?…はい、空いています」

火影

「俺も大丈夫です」

千冬

「そうか。ではすまないが夜にふたりで第一アリーナに来てほしい。お前達だけで」

火影

「俺達だけ?」

一夏

「千冬姉、俺達は?」

「私達も行っては駄目ですか?」

千冬

「ああ、お前達は来るな。もし違反すれば反省文ひとり1000枚+特別トレーニングだ」

火影・海之以外

「「「絶対行きません!!」」」

 

その罰の恐さに思わず大声で返事する一夏達。

 

千冬

「時刻は後ほど通信で伝える。…ではな」

 

そう言って千冬は去って行った。

 

海之

「……」

シャル

「なんだろう先生?なんか思い詰めた様な顔してた…」

ラウラ

「わからんが教官の事だ、何かお考えがあっての事だろう」

「うん。…一応気をつけてねふたり共」

火影

「ありがとよ簪」

海之

「大丈夫だ」

楯無

「……」

(火影くんと海之くんだけって事は間違いなくふたりに関する話ね。でもなんでそれなら会議室で話さないのかしら?)

 

その後、みんなで修学旅行の話をしながらその日の集まりは解散となった。

 

 

…………

 

IS学園 アリーナ

 

その日の夜。千冬からの指定した時間に火影と海之がやって来た。

 

火影

「なんだろうな先生。俺達だけって言うからには多分…俺達に関する話だとは思うが」

海之

「行けばはっきりするだろう。…確か会場の方に来てほしいと言っていたな」

 

そしてふたりが会場内に入ると予定通りそこには千冬がいた。…但し、

 

千冬

「…来たか。待っていたぞふたり共」

 

訓練機の打鉄を纏った千冬がいた。

 

火影

「…先生?」

海之

「……」

 

不思議がる火影と沈黙する海之。

 

千冬

「すまんな。詳しい事を何も伝えずここまで来てもらって。…いきなりだが、お前達に頼みがある」

 

そして千冬は続けて言った。

 

 

千冬

「海之、火影。どちらか私と戦え。本気の勝負だ」

 

 

火影

「…先生…」

海之

「……」

 

唐突にふたりに勝負を申し込む千冬。しかし決してふざけている様子は無い。それどころか今の彼女は目に見えない凄まじい闘志に満ちている。歴戦の戦士であるふたりはそれを如実に感じ取り、決して油断ならない状況である事を察していた。

 

海之

「…わかりました。俺がお相手します。但し、俺も訓練機を使います。宜しいですか?」

千冬

「お前の自由にしてくれれば良い」

 

そう言って海之はもう一体打鉄を持ってきてそれを纏った。

 

海之

「火影。すまんが合図を頼む」

火影

「……わかった」

 

そして相対する海之と千冬。

 

海之・千冬

「「……」」

 

互いに何も言わない。それは正にこの勝負に言葉は要らないという事の表れ。互いに構えながら火影の合図を待つ。……そして、

 

火影

「…始め!」

海之

「でやぁぁぁぁぁ!!」

千冬

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ガキイィィィィィンッ!!

 

 

…………

 

ガキンッ!キイィィンッ!キンッ!ガキンッ!……

 

試合開始から十数分が経った。海之と千冬の真剣勝負は見た所はやはり実戦経験の勝る海之の方が優勢だったが千冬もやはり生きる伝説と言われる元ブリュンヒルデ、互いに決定的な決め手が無いまま刀がぶつかり合い、そして時には避けるという応酬は続いていた。補足であるが打鉄には本来アサルトライフルも標準装備されているが千冬、そして海之はお互い刀しか装備していなかった。

 

…ガキンッ!……バッ!

 

数十回、いや既に100回は超えているだろう。ある斬り結びの後、ふたりは互いに距離を取った。

 

千冬

「ハァ…ハァ…」

海之

「……ふぅ」

 

だが前述の通りやはり経験の差であろうか、だんだんと息の切れが見え始めてきた千冬に対し、海之にまだ呼吸の乱れは無かった。

 

千冬

「…ハァ、…これだけ動いて息を切らさんとは流石だな海之。まぁ当然か、お前も火影も、100機もの敵を10分足らずで殲滅できる程だ。これ位簡単か?」

海之

「買いかぶり過ぎです」

千冬

「…何故勝負を申し込んだのか聞かないのか?」

海之

「そんな事は後回しでも良いでしょう。心の宿った剣の勝負に言葉は要りません」

千冬

「!……そう言ってもらえて嬉しいぞ。…さぁ…続きだ!」

 

そしてふたりは再度刀をぶつけて行った。

 

 

…………

 

ガキンッ!…キイィィンッ!…ガンッ!

 

千冬

「ハァァ……ハァァ……ハァァ……」

海之

「ゼィ…ゼィ…」

 

それから更に十数分が経った。海之は漸く少し息が乱れ始めてきたが千冬は限界が近いのか最早息が続かず、更に刀を持ちあげる事も難しくなっていた。

 

海之

「…まだ続けますか?」

千冬

「…ハァァ…、む、無論…だ」

 

そう言って全力で刀を上げる千冬。そんな千冬を見て海之は、

 

海之

「……わかりました」

 

何も言わず刀を向けて応えた。

 

千冬

「…そうだ、…それで良い。…礼を言うぞ海之」

海之

「……」

 

これがもう何回目であろう、再び互いに刀を構えるふたり。そして、

 

海之・千冬

「「はぁぁぁぁぁ!!」」ドンッ!ドンッ!

 

互いに瞬時加速で接近し、

 

ガキィィィィィィィンッ!………バキィィィィィィンッ!

 

何百回という衝突に最早耐えられなくなったのだろう。千冬が持った刀が衝撃に耐えきれず折れてしまった。そしてそれは千冬の敗北も意味していた。

 

海之

「……」

千冬

「……ふっ」

 

千冬は僅かに笑みを見せると体力が尽きたのか、身体から力が抜けて気を失った。それを海之が抱きとめる。

 

千冬

「……」

海之

「……」

 

 

…………

 

アリーナ選手控室

 

千冬

「………う、…うん…」

 

数刻後、気を失っていた千冬が目を覚ました。

 

千冬

「…ここは…アリーナの控室…か…?」

 

千冬は上体を起こし周囲の状況を確認する。どうやら自分はソファーに寝かされ、毛布をかけられていたようだ。

 

火影

「気付かれましたか先生」

 

声をかけたのは隅の方で座っている火影だった。

 

千冬

「火影…か?…私は…、そうか、私は海之との勝負で…」

火影

「ええ。最後に気を失って倒れられたんですよ。本当なら医務室にお連れしたかったんですが生憎夜遅くでしたもので…」

千冬

「ああそれで良い。余計な気を使わせたくない。……火影、海之の奴は?」

火影

「あああいつなら」

 

ガチャッ

 

とそこにトレーを持った海之が入ってきた。

 

海之

「先生、気付かれましたか。良かったです」

千冬

「…海之。どうやら手間をかけさせたようだな。大丈夫か?」

海之

「ええ、俺は大丈夫です」

千冬

「そうか。……海之、そのトレーは何だ?」

海之

「ああ、先生がお目覚めになる時のためにスープを作って来たのです。食堂の厨房を貸して頂きました。申し訳ありません」

千冬

「い、いや気にするな」

 

そして海之はトレーに乗った皿にスープを注ぎ入れ、スプーンで千冬の口に運ぼうとする。

 

千冬

「だ、大丈夫だ海之!自分で食べれるから!」

 

少し赤くなって反論する千冬だったが、

 

海之

「ご無理なさってはいけません。今まで気絶されていたのです」

千冬

「……うぅ、し、仕方ない…」

 

海之に言われて千冬は海之からスープを食べさせてもらう。

 

千冬

(…このスープは…前に海之が作ってくれたのと同じか…)

「……美味しい」

海之

「ありがとうございます」

 

 

…………

 

千冬

「…ご馳走様」

海之

「お粗末様です」

 

スープを食べ終え、千冬の顔色は先程に比べて良くなった様だ。

 

火影

「…先生、もし良ければ聞いても宜しいですか?もしお疲れなら後日でも」

千冬

「いや、構わん。寧ろ誰もいない今が一番良い」

 

そう言って千冬はふたりに身体の向きを向ける。

 

千冬

「お前達が聞きたいのは分かっている。…何故私がお前達との戦いを希望したか、だろう?…答えは単純明快だ。今の私の力を知りたかったからだ」

火影

「…え?」

海之

「千冬先生の力?」

 

ふたりはその答えにやや驚いた。力を知るも何も千冬は元ブリュンヒルデ。その力は学園はおろか世界でもトップクラスの実力。それは誰もが知っている。ふたりもそうだ。

 

千冬

「ああ。あいつらを守るために、…そしてお前達の力になるためにな」

火影

「…俺達の力になるというのは?」

千冬

「先日の会議でも言っていたが…、お前達はこれからも奴ら、ファントム・タスクとの戦いを続けるのだろう?いや正確には奴らの中にいるという、お前達と同じ転生者だが」

火影・海之

「「……」」

千冬

「正直なところ私にはお前達の言う魔力とか悪魔とかはよくわからん。実物を見た事も無いし、アレはあくまで良く似ているだけの別物らしいからな…だがこれだけははっきりしている。奴らは間違いなくこれからも戦いを仕掛けてくる。その目的は不明だがな。お前たちなのか一夏なのか白式なのか、或いはこの学園そのものなのか…」

 

確かに今現在ファントム・タスクから度重なる襲撃をうけているものの、彼等の本当の目的ははっきりしていない。オータムは白式を奪おうとしたり、Mは一夏本人を狙ったり。更に先日スコールという者が言っていたオ―ガスという人物が何か別の目的を持っている可能性もある。

 

千冬

「お前達の実力は知っている。…だが教師としてお前達や一夏達だけに任せる事はできん。ましてやお前達のISは本調子では無いのだろう?今後ますます悪化してくる可能性も十分に考えられる。だから万一に備えて戦えるものはひとりでも多い方が良いと思ってな」

火影

「…先生」

海之

「しかし先生。先生は戦士である前に教師です。教える立場のお方です。それはISに関する事だけでは無い、命の尊さについてもです。そんな先生が下手をすれば命に関わる戦いに参加されるというのは…」

千冬

「…いいんだ。…それに、これは私自身の罪を償う意味でもある」

火影

「…え?」

海之

「先生の罪?」

 

ふたりは再び驚いた表情をしている。そして千冬は話し始める。

 

千冬

「……ふたり共、10年前の「白騎士事件」については知っているだろう?まぁあれを知らない奴等いないと思うが」

火影

「…ええ。10年前に束さんが自ら造ったIS「白騎士」を使って起こした事件ですね」

海之

「世界中の基地のコンピュータをハッキングしてミサイルのコントロールを奪い、更に戦闘機や戦艦、衛星まで使って日本を襲わせたがそれを白騎士が被害ひとつ出さずに解決したという。まぁ全て予め工程が決められていたISの御披露目ショーですが」

千冬

「…ああそうだ。………さてふたり共、ここで問題だ。その白騎士事件に使われたIS「白騎士」だが………誰が使っていたと思う?」

火影

「白騎士を使っていた人物?そういえばあれの操縦者の事は殆ど知られていませんね…。でもなんで今そんな………!」

海之

「……まさか」

 

何かに気付いたのかふたりは目を大きくして千冬を見る。そんなふたりに千冬は答えた。驚くべき答えを。

 

 

千冬

「気付いた様だな。…………そうだ。10年前あの白騎士事件で束に協力し、白騎士を使っていたのは……………この私なんだ」

 

 

火影・海之

「「!!」」

 

予期せぬ答えに火影と海之も驚きを隠せなかった。

 

千冬

「…10年前、束の奴が自らのISを散々否定された事は知っているだろう?あの時のあいつは本当に悔しそうだった。悔しいどころか憎しみもあったかもしれん。だからあいつはあの事件を起こした。ISの有用性を世界に、自分を馬鹿にした者達に見せつけるために。まず世界中の軍事拠点のコンピュータをハッキングし、2000発を超えるミサイルを日本に向けて発射した。そしてあいつは私に頼んできた」

海之

「…白騎士を纏って日本を救ったヒーローを演じてほしい、と?」

千冬

「そうだ。最初はもちろん私も断った。しかしその時既にミサイルはもう発射された後。海之の言う通りもちろん実際に落とすつもりは無かったかもしれんが何しろ2000以上のミサイルだ。予想外の被害が出るやもしれん。私はやむ無く束の頼みを聞き入れ、白騎士として日本を守る役柄を演じた。私が了承する事が分かっていたのかまるで私の手足みたいにすんなり動かす事ができたよ。……結果作戦は成功。これを機にISの有用性は世界中に知られ、急速且つ爆発的に広まった。……日本の人々に凄まじい恐怖を与えた結果だ」

海之

「……」

 

白騎士の活躍で日本には被害も死傷者も無かった。しかし例え目に見える被害は無くても、舞台とされた日本の人々はミサイルや兵器群の襲来で激しく恐怖し、心に大きな傷を負った筈だ。あらかじめ予定されていた事とはいえ、被害が無かったのは所詮結果論でしかない。

 

火影

「……先生、その事を一夏達は?」

千冬

「いや、私と束だけだ。…束がした事は決して許される事では無い。そしてそれはあいつの計画に加担した私も同じ。まああいつは最近まで悪気を感じていたか分からんが。…だがあいつは、束は今確かにあれを罪と感じ、自分ができる事で少しでも償おうとしている。お前達、そして自分を信じてくれたアルティス夫妻のために。そしてISを本来の目的に修正するために。……そんなあいつを見て思った。私も自分ができる事で少しでも償いたいと。私には束の様にISを造る事も魔具を造る事もできん。そんな私ができる事はお前達を、一夏達や生徒達を守るために戦う事だ」

火影

「先生…」

海之

「……」

千冬

「だから海之、火影。私の好きにさせてくれ。私の専用機はまだ眠りから覚めないし、立場上毎回と言う訳にはいかんかもしれんが…私も守るために戦わせてくれ」

火影・海之

「「……」」

 

千冬は真剣な表情でふたりに向かってそう言った。火影と海之は自分達がもう何を言っても彼女が意志を変えない事に気付いた。そして、

 

海之

「……千冬先生。お手数ですがもう一度会場に出て頂けますか?」

 

 

…………

 

そして再びアリーナの会場に出た三人。

 

千冬

「どうした海之、何かあるのか?」

海之

「……」

 

シュンッ………ドスッ!

 

すると海之は拡張領域からある物を取りだし、それをそのまま地面に突き刺した。

 

千冬

「…これは…!」

火影

「お前これ…」

 

それはウェルギエルの武装のひとつ、レッドクイーンだった。

 

海之

「千冬先生、それは先生が持っていてください」

千冬

「…え?」

火影

「……」

海之

「登録は解除しておきました。千冬先生の守るための戦いに役立ててください。先生なら使いこなせる筈です」

千冬

「…いやしかし」

海之

「俺には閻魔刀があります。正直なところ俺にはこんな叩き斬る剣は合いませんから。…それに先生の様な方に持たれた方が、こいつの本来の持ち主も喜ぶでしょう」

千冬

「本来の持ち主?」

火影

「…ふっ」

海之

「最も先生にも雪片があるらしいですから不要かもしれませんがね」

千冬

「……」

 

千冬は目の前のレッドクイーンを見つめる。そして、

 

千冬

「…………いや」

海之

「……」

千冬

「雪片はもうあいつの、一夏の剣だからな。………ありがとう海之。ありがたく使わせてもらう」

 

そう言って千冬は目の前にあるレッドクイーンに手をかけ、引き抜く。

 

千冬

(!…重い…。海之はこれを、片手で簡単に扱っていたのか…)

 

そして千冬はレッドクイーンを高く掲げる。

 

千冬

(レッドクイーンと言ったな、…私に力を貸してくれ)

 

こうして赤の女王は青い魔人から黒い戦女神へと受け継がれた。




おまけ

そうこうしている内に時間はいつの間にか日を跨ぐ位にまで迫っていた。

千冬
「…もうこんな時間か。すまなかったなふたり共、迷惑をかけた」
海之
「気になさる必要はありません。それより先生は早く部屋に戻ってお休みください。明日もお早いでしょうから」

そして海之は食器を片づけるために食堂に向かおうとすると、

千冬
「…海之、ひとつ聞いて良いか?……お前は先程あの剣の本来の持ち主も、と言ったが…持ち主はお前では無いのか?」

千冬はレッドクイーンについて気になった事を聞いてみた。

火影
「先生、あの剣は前世でこいつと深い関わりがあった奴がこいつに託した物なんです」
千冬
「…深い関わり?」
海之
「………父親らしい事を殆ど何もしてやれなかった愚かな男の血を継いだ者、とでも言っておきましょうか。……おやすみなさい」

そう言うと海之は出て行った。

火影
「…正直じゃねぇな。では先生、失礼します」

続けて火影も出て行き、残ったのは千冬だけ。

千冬
「……血を受け継いだ者……子供?それに海之と深い関わり……!!ま、まさかあいつの…!」

わかったらしい千冬は妙に落ち着かなくなった。


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Mission126 謎の声は企み、束は不気味に笑う

トーナメントから約一週間が経ち、学園はすっかり落ち着きを取り戻していた。放課後いつものメンバーで集まっていると千冬が火影と海之を夜にアリーナに呼び出し、やってきたふたりに勝負してほしいと願い出る。そして海之が彼女の相手をする事になり、勝負の末に海之が勝利する。

その後、意識を取り戻した千冬はふたりに話し始めた。千冬は10年前の白騎士事件の時、IS「白騎士」を纏っていたのは自分である事。そして友である束の願い且つ日本を守るためとはいえ、千冬は日本の人々を恐怖に陥れたこの事件に参加した事をずっと後悔していたのだった。先日の束と同じく罪を少しでも償いたい、それは学園や皆を守るために自分も戦う事だという千冬の強い決心を知ったふたり。そんな彼女に海之は自らの剣「レッドクイーン」を託すのだった。

※次回は日曜の予定です。


千冬が火影と海之に自身の秘密を打ち明け、戦いへの意志を示した一方、別の場所でもとある者達が次に向けて動き出していた。これはそんな者達の話…。

 

 

??? 整備室

 

ここはファントム・タスクの拠点としている場所。とある日、兼ねてより続いていたMのIS、サイレント・ゼフィルスの改造が完了していた。

 

「…遂に完成した」

スコール

「これが…黒騎士」

 

Mとスコールの前にあるのは一体の黒いIS。名を黒騎士という。MのISであるサイレント・ゼフィルスの改造機である。改造機というだけあって所々その面影が残されているが武装等も新しくなり、性能も大きく上昇しているらしい。

 

「そうだ。盗品等ではない、…私の専用機」

スコール

「おめでとうM。…だけどよくISの改造なんてできたわね。あの篠ノ之博士もいないのに」

「これ位大した事はない。主も手伝ってくれたからな」

スコール

「それにDNSも加えたんでしょう?」

「無論だ。私はオータムとは違う。どの様な力でも必ず使いこなしてみせる。そして必ず…奴らを」

スコール

「奴らって…」

「………」

 

Mは答えない。奴ら、という事は一夏だけでは無いという事だろうか?

 

スコール

「それに黒騎士という名前…。やっぱり貴女」

「無駄話は良い。それよりお前やオータムの方は問題無いのか?」

スコール

「…ええ、私の方は大丈夫よ。でもあの子のISはまだもう少し掛かるわね。あの子もまだ治療中だし、DNSも改造しないといけないし、あと数日という所かしら。まぁ来月にあるっていう京都への修学旅行には間に合いそうね。さっき連絡が来たわ」

「言っておくが奴は、織斑一夏は私の獲物だ。邪魔立てはするなよ?」

スコール

「はいはい分かってるわよ。邪魔なんてしないわ。貴女の好きになさい。…それに私もどっちかと言えば織斑一夏よりもあのふたりと戦ってみたいのよね♪」

「あの赤い奴と青い奴か…」

スコール

「ええ。赤い方が火影、青い方が海之って言うらしいわ。先日ほんの少しだけ話したけど…オータムの言う通り只者じゃないわねあの雰囲気は。ファントムやグリフォンをあっさりと倒しただけじゃなく、DNSで強化したオータムさえまるで歯が立たなかったんだもの。はっきり言って強いわ。でもだからこそ、ね♪」

「火影と海之。…奴らは一体…」

スコール

「な~に?もしかして貴女も気になっている?」

「勘違いするな。……主の事だ」

スコール

「オ―ガス?」

「……昨日の事だ」

 

 

…………

 

それは昨日、Mがオ―ガスと共に黒騎士の確認をしていた時だった。

 

オ―ガス

「…動きはどうだ?気になる所はあるか?」

「問題ありません。この調子でしたら数日で全ての機能を掌握できます」

オ―ガス

「そうか。流石だM」

「いえ、私だけではここまでできませんでした。これも全て主の御力添えのお陰」

オ―ガス

「それは違う。私は力を与えただけだ。全てはお前の才能だ」

「…!」

オ―ガス

「これからも頼むぞM」

「…ありがとうございます。この力で…今度こそ奴らを…」

 

ISの完成とオ―ガスの言葉でMは笑みを浮かべていた。そんな彼女に対してオ―ガスは言った。

 

オ―ガス

「…いやM。あの赤い奴と青い奴には手を出すな。お前ではまだ勝てん」

「…主?」

オ―ガス

「もう一度言う。あれを倒そう等と今は決して考えるな。あれは私の相手だ。あれの対策は我らに任せておけば良い」

「……」

オ―ガス

「良いな?」

「……わかりました」

 

重ねて言われた事でMも了承せざるを得なかった。

 

オ―ガス

「良い子だ。…お前はもう下がって休んでおけ。黒騎士の整備は行っておく」

「…はい」

 

そう言われてMは部屋を出て行った。

 

(……我ら…?)

 

 

…………

 

「……という事があった」

スコール

「そう、あの人がそんな事言ったの…」

「私はあれには決して敵わない。主はそう言われた…。あれは自分の相手だとも…」

スコール

「自分で倒したいと思う位彼もあのふたりに興味がいったという事かしらね?」

「……いや、そんな物とは違う。…もっと別の様に感じた」

スコール

「…へぇ、どんな風に?」

「上手くは言えないが……まるで以前から良く知っている。そんな風に思った。…それに」

スコール

「それに?」

「……いや、いい…」

(あの時主は「あれを倒すのは我ら」と言った。…我らとはどういう意味だ?私達の事では無いのか?)

スコール

「……」

(以前から良く知っている……。そうね、確かに彼、あのふたりの事を前から知っていた様な

雰囲気を感じる事があるわ。私にもそんな事言っていたし。……でも不思議なのよね、私達でさえあのふたりの事を知ったのは本当に最近だったし、おまけにふたりともまだ十代の歳場も行かない子供の筈なのにあの強さははっきり言って異常レベルだわ。火影と海之…一体何者なのかしら…?)

 

ふたりはオ―ガス、そして火影と海之について考えを巡らせるのであった…。

 

 

…………

 

オ―ガスの研究室

 

その頃、当のオ―ガスはディスプレイを見ながら何やら作業を行っていた。

 

オ―ガス

「……これにスコールのゴールデン・ドーンのデータを加えたとして…」

 

オ―ガスは目の前のディスプレイになにやら入力している。…すると、

 

 

~~~~~~~~!

 

 

オ―ガス

「…ちっ」ピッ!…キュウゥゥゥゥン……

 

突如警告音が室内に響き渡った。オ―ガスは入力を中止し、システムをダウンさせる。どうやら失敗した様だ。

 

オ―ガス

「……やはり駄目か。…現状存在する物でどれか適合しないかとありとあらゆる機体のコア情報を入力しているが…どれも適合しない。こうなるとやはり……」

 

何やら悩むオ―ガス。

 

(無駄か…)

オ―ガス

「…ええ。最もそう簡単に上手くいくとは考えていませんがね。…ですがこの調子では恐らくどれを持ってしても不可能でしょう。例え奴らのコアを使ったとしても。…まぁ仮に適合したとしても使うつもりはありませんがね。奴らのコアを使うなど…我らの望む事ではありませんし。……残された方法としては……紛い物でもコピーでもない、「あれだけのコア」を造り出す事でしょうか」

(…可能か?)

オ―ガス

「……いえ、残念ながらコアの製造方法については…開発者である篠ノ之束の最重要極秘事項です。我々には不可能でしょう」

 

オ―ガスの言う通り、ISコアの製造はISの生みの親である束のみが知る極秘情報であり、彼女にしかできない。それが彼女が世界中から狙われている理由のひとつでもある。しかしどの国も彼女の行方を掴む事はできていない。それはファントム・タスクも同じだった。因みにIS学園やエヴァンス邸に訪れた時もその痕跡は見事に消されているため、千冬達でさえどこにいるかは分からない。

 

オ―ガス

「コアを造り出すにはどうにかして篠ノ之束を捕まえるしかありません。しかしどうしたものか…」

 

どうにか束と接触する方法はないか、オ―ガスが思案していると謎の声が再び話す。

 

(…奴らにDISの事を話したと言っていたな?)

オ―ガス

(…?ええ、先日のトーナメントとやらの時にスコールが奴らと元ブリュンヒルデに話したそうです。…それが?)

(……容易い事だ。……餌をやれば良い)

 

 

…………

 

束の隠れ家

 

「…クーちゃん!次でラスト!」

クロエ

「ハァ、ハァ、……はい!」

 

一方、こちらは束とクロエがいる彼女達の隠れ家兼研究所。先日の学園での会議後、ふたりは火影達に秘密で造っているというものの作成を急ピッチで続け、今日はその調整を行っていたのであった。何やら束が指示を出し、クロエは疲れているのか息を乱しながらそれに従っている。………そして暫くして、

 

「よし!クーちゃんバッチシ!もう良いよ!」

クロエ

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…」

「お疲れ様~!お茶用意しといてあげるからシャワー浴びといで♪」

クロエ

「あ、ありがとうございます…。お言葉に、甘えさせて頂きます…」

 

そう言うとクロエはふらつく足取りでシャワールームに歩いて行った。

 

「うんうん、もうクーちゃんの方も殆ど問題無いね!あと数日位って感じかな?ふふふ、もうすぐだよ皆~♪」

 

束は今行っていた事の結果を見て満足そうな顔をしていた…。

 

 

…………

 

シャワーを浴び終えたクロエは束と休憩を取っていた。

 

「はいクーちゃん」

クロエ

「あ、ありがとうございます」

「しかしよく頑張ってるねクーちゃん!まだあれから一ヶ月も経ってないのにここまで成長するなんて。流石は束さんの娘兼助手!」

クロエ

「いえ、束様御考案の特別カリキュラムのお陰です。そうでなければまだまだです」

「ふっふ~んまぁね~♪でもそれでもやっぱり頑張ったクーちゃんが一番偉いよ!正直束さんもまだ早いんじゃないかなって思ってたし、だから驚いてるんだ!やっぱり妹としてお兄ちゃんの助けになりたいっていう気持ちがそうさせてるのかな~♪」

クロエ

「そ、そういう事じゃありません!あとお兄ちゃんではなく兄さんです!」

「恥ずかしがらない恥ずかしがらない♪それに時々お兄ちゃんって呼んでるじゃない♪」

クロエ

「…うぅ」

 

先日火影と海之が兄になった事をクロエは相変わらず喜んでいたが束のからかいは更に多くなってしまい、それが今のクロエの悩みの種であった。

 

「で、話は戻るけどどう?上手くやれそう?」

クロエ

「……そうですね、機能はほぼ全て記憶できていますからなんとか大丈夫だと思います。不安と言えばやはり仮想訓練のみしか経験できていない事でしょうか」

「まぁね~こればっかりはねぇ~。でもそれを見越してカリキュラムを組んでたし、それに本番さながらのVR訓練はしっかりやってきたから大丈夫だよ!束さんが保証する!」

 

束はVサインをしながら大丈夫だと力強く言った。

 

クロエ

「ありがとうございます。…ですが本当なら、あれも使わないに越したことはないですけどね」

「……うん。まぁ、確かにね…」

 

クロエからそう言われて束は表情が少し硬くなる。

 

クロエ

「も、申し訳ありません束様!失礼な事を申しまして…」

「謝んないでもいいよクーちゃん。クーちゃんの言ってる事は正しいもん。本当なら使われない方がずっといい。戦いのためなんて…本来のISの姿とは違う。今の束さんならそれが分かる」

クロエ

「束様…」

「……でもねクーちゃん、今の束さんは前よりちょっと充実してるんだ。目標ができたんだもん。もう一度夢に向かって頑張りたいっていう目標がね。……私は必ずISを正しい方向に修正してみせる。でもそのためには今のこの状況をなんとかしないといけない。今はそれが何よりも重要。だから今は夢は胸の奥にしまっておく時。…クーちゃん、もしその時が来たら、私に力を貸してくれる?」

クロエ

「束様…」

 

束はクロエに尋ねた。するとクロエは束に向き直って話し始めた。

 

クロエ

「…束様。私は昔束様に命を救われた時から…束様を支え続けると誓いました。如何なる道でも、地獄の底までも、と。束様は私からあの忌々しい物を取り除いて下さり、そして外の世界を見せて下さいました。今の私があるのは全て束様のお陰です。本当に感謝しています」

「クーちゃん…」

クロエ

「ですから先程の様な御心配は全く御考えになる必要はありません。私は束様の助手であり…娘です。これからも支え続けていきます。…それにあれを使うのは確かに兄さん達のためという意味もありますが…何よりも束様を御守りするためにです。だから訓練も頑張れるんです。…これからの事を思うと少し寂しくはありますが…こうする事で束様にとって一番のためになるのでしたら…私は…」

「……」

 

クロエは束の目を見ながらはっきりとそう答えた。すると束は彼女の手を取って、

 

「ありがとクーちゃん。…これからも宜しくね」

クロエ

「…はい!」

「…よし!それじゃ夜ご飯にしよ!疲れてる所悪いけど今日は久々にクーちゃんのコロッケ食べたいな♪」

クロエ

「え!?…は、はい。分かりました…」

 

そう言うとクロエは何故か浮かない顔をして調理のためにキッチンに向かうのであった…。

 

 

…………

 

夕食後、束は自分の部屋にあるコンピュータに向かっていた。クロエは夕食の後片付けをしている。

 

「しっかし今日も迷惑メールが3000を下らないねー!全く何百回アドレスを変えりゃ0になんのかな~。これでも数百ケタ位文字並べてんのにさ~!ひたすらメールばら撒いているチームでもいんのかね~?そんだけ暇あんならもっと仕事しろっつーの!…もいっそのこと電話もメールも閉じちゃおっか?でも極稀に面白そうな題のメールもあったりすんだよな~。例えば………………?」

 

すると束は膨大なメールの中にある一通のメールに気付いた。束はまず自身のセキュリティプログラムを起動して安全である事を確認。そしてメールを開く。

 

 

「……………………ふ」

 

 

内容を見た束の口角が大きく上向きに歪んだ……。




謎の声の言った「餌」とは?そして束の笑みの意味とは?

近日明らかになります。


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Mission127 感謝の心はお互いに

ファントム・タスクの拠点ではMやスコールが自身のISの改造を完了させていた。そしてオ―ガスは自身の研究室で何やら作業を行っていたが、その完成のためには特別なコアが必要だという。しかしコアを造れるのはISの生みの親である束のみ。どうしたものかと考えていると謎の声が何やら提言するのだった…。

一方その頃、束はクロエと共に何やら作業を行っていた。束はクロエに全てが終わったら今度こそ自分は夢に向かって正しく向かう事を誓い、クロエもそれを支えると約束した。…その夜、束はあるメールを見て不気味に笑っていた。まるで物凄く面白い物を見つけた子供の様に…。

※次回来週です。


キーンコーンカーンコーン

 

 

IS学園 屋上

 

この日は11月6日。放課後、一夏に誘われて火影と海之以外のメンバーがここにいた。何故ふたりがいないのかと言うと一夏がここに集まる事を知らせていなかったからだ。その訳は、

 

シャル

「…感謝会?」

セシリア

「火影さんと海之さんにですか?」

一夏

「ああ。俺達日頃火影と海之には世話になってるだろ?訓練なり勉強なり。おまけにトーナメントの時も守ってもらったし。そのお礼も兼ねてやってみないか?っていう話」

「だからふたりは今この場にいないのか」

一夏

「どうせなら秘密にして驚かしたいだろ?…でどうだ?」

 

一夏からの突然の提案に皆は、

 

本音

「私サンセイ~!ひかりんとみうみうにお礼伝えた~い!」

「…そうね。私も賛成。今まで火影達には色々な事で驚かされっぱなしだし、たまには私達が驚かせるのも一興ね♪」

「そ、そんな深い意味はないと思うけど…。でも、私もやりたいな。海之くんにも火影くんにもいつもしてもらってばかりだったし」

「私もトムガールのお礼がしたいと思っていたしな。やってやるか♪」

シャル

「うん、僕も賛成だよ!」

ラウラ

「ああそうだな。夫として嫁を、姉として弟を気遣ってやろう」

セシリア

「私も賛成ですわ。これまでの御恩、おふたりに御返ししたいですから」

楯無

「皆やる気ね~。面白そうだから私も協力するわ♪」

 

こうして火影と海之への感謝会開催が決定した。

 

「…で、どういう事をするつもりだ一夏?」

一夏

「う~ん、最初は以前俺達がやった様な労い会みたいな形でと思ったんだけど…、でも料理に関してはここにいる大半のメンバーはふたりに敵わねぇだろ?」

セシリア

「う…、否定できませんのが辛いですわ」

ラウラ

「まぁここにいる中では……一夏と鈴位だろうな」

「確かに料理なら自信あるけど…あと箒も十分上手いじゃん」

楯無

「じゃあ旅行にでも行ってもらう?私達皆でお金出しあって~」

「そ、そういうのはちょっと違うと思う…」

本音

「う~ん、どんなものがいいのかな~」

シャル

「じゃあプレゼントとかってどう?僕達ひとりひとりからさ?」

ラウラ

「…そうだな。物によっては形に残るし、少なくとも驚かせられる事は違いない」

セシリア

「ええ、確かに良いかも知れませんわね」

一夏

「じゃあ皆それぞれふたりにプレゼントを渡すって感じで良いか!」

 

ふたりへの感謝会はプレゼント譲渡会に決まった。

 

「…でもプレゼントといっても何を贈ってあげたら良いんだろう?海之くん何か欲しいものがあるとか聞いた事ないや…」

本音

「みうみうも~?ひかりんもそうなんだよ~」

セシリア

「一緒のお部屋のおふたりもご存知ないんですの?」

シャル

「一夏はどう?ふたりとそんな会話した事ない?」

一夏

「……うーん言われてみれば俺も無いかも」

「確かに聞いた事ないわね…。というのもあのふたりって全くと言って良い位欲が無いのよね~」

「そうだな。いつも私達に与えてくれるばかりで…」

楯無

「まぁでも実家があのエヴァンス家だから大抵の物はあるだろうけどね~。そう考えるとプレゼントも難しいわね…」

ラウラ

「しかしプレゼントは気持ち、と聞いた事があります。気持ちを込めれば例え大した事ないものでも嬉しいんじゃないでしょうか?」

「め、珍しくラウラが正論言ってる…!」

楯無

「う~んそれもそうね~。プレゼントと言えばお誕生日とかだけど…みんなどう?ふたりは何かくれたりした?参考に聞いときたいんだけど」

本音

「したよー。ひかりんはバースデーケーキを焼いてくれて、みうみうはその時その時の旬の果物をくれるんだ~。しかも凄く高いんだよー!私はさくらんぼだった~!」

一夏

「そう言えば俺は誕生日無花果貰ったな。めちゃくちゃ旨かったからあっという間に食っちまったぜ」

「私の時はマンゴーだったな」

シャル

「料理と果物…、ふたりの得意分野だね」

「ねぇ~、もうそれぞれが自信ある物で良いんじゃない~?誕生日って訳じゃないんだからさ?ラウラじゃないけどプレゼントは気持ちとも言うし」

「…そうだね。意見が同じだとプレゼントが被ってしまう可能性もあるもんね」

一夏

「よし!じゃあ一週間で考えようぜ。開催はその日の放課後って事で良いか?」

全員

「「「りょ~かい!!」」」

 

こうしてふたりへのプレゼント譲渡会は一週間後の11月13日に決まったのであった。

……ただひとつ心配ごとが。

 

楯無

「ねぇ本音~?口が滑ってふたりにばらしたらダメよ~?」

本音

「なんで私だけ~!?」

 

皆、本音の口の軽さを心配していた。本音は反論するが、

 

鈴・シャル

「「…お嫁さんの想像…」」

「…海之くんとのデート…」

本音

「…………気を付けます~」

 

何も言い返せなかった…。

 

 

…………

 

そして一週間が経ち、予定されていた11月13日となった。放課後、火影と海之は一夏に呼ばれて寮のとある部屋に向かっていた。

 

火影

「なんだろうな一夏の奴。俺達に話があるって。話なら食堂とか教室で話しゃ良いのに。他の奴に聞かれたくない話なんだろか?」

海之

「行けばわかるだろう」

火影

「…もしかして箒とセシリア。あっ、今は刀奈さんもか。皆の気持ちに気付いてどうすれば良いかの相談か!?やっと気付いたかあいつも!!」

海之

「どうだかな。可能性は低いぞ?」

火影

「…………だよなぁ」

 

一夏との付き合いはまだ数ヶ月だがその鈍感さはふたりとも熟知していた。

 

火影

「…しかし一夏が呼んだとなると間違いなく皆も絡んでんだろうな。今日に限って皆早く帰っちまったし。もしかしたら一緒にいんのかね」

海之

「さぁな。しかしもしそうなら好都合だ。あれの具合は良いか?」

火影

「ちょっと早いけど良い頃合いだぜ。しかし偶然ってあるもんだな。ちょうどこの日に出すなんてよ」

 

そんな話をしながら歩いているとやがて指定された部屋にたどり着く。

 

火影

「…ここか?」

海之

「…らしいな」

 

コンコンッ

 

火影

「一夏いるか?来たぞ~」

一夏

「お、来たか。入ってくれふたり共」

 

ガチャッ

 

そう言われてふたりは扉を開け、部屋に入る。中には一夏がひとり、そしてその部屋にはやや大きいテーブルが置かれている。

 

海之

「…?随分大きいテーブルだな」

火影

「どうしたんだコレ?」

一夏

「まぁこれからわかるって♪さぁ座って待っててくれ」

 

そう言って一夏はふたりをテーブルに座らせると自分は部屋の外に行ってしまった。

 

火影

「…?なんで出て行くんだ?」

海之

「……」

 

ふたりが不思議がっていると、

 

ガチャッ

 

火影・海之

「「!」」

 

扉を開けて一夏が入って来た。但しその後に箒達も続いて。

 

火影

「…えっ、え?」

海之

「…?」

 

何が起こっているのか分からなく茫然とするふたり。

 

「ふふっ、驚いている様ねふたり共♪」

シャル

「第一段階大成功だね♪」

一夏

「じゃあまずは誰から行く?」

「じゃあまずは私から。鈴等は後が良いだろう」

「うん、お願い」

 

そう言って箒は手に持つ紙袋をふたりに渡す。中に入っていたのは…冬向きの手袋とマフラー。色違いで火影は黒、海之は白だ。

 

火影

「…もしかして俺達に?」

「ああ。ふたりとも季節に関わらず手袋をしているからな。これから寒い季節になるし。火影は私服が赤色だから黒で、海之は青色が多いから黒よりも白が合うと思ってな。良い物だから良かったら使ってくれ」

海之

「…良くはわからんが…くれるのであればありがたく頂いておこうか」

 

 

…………

 

次に渡してきたのはセシリア。彼女もそれぞれに小箱を渡す。中に入っていたのは…高級な紅茶の缶だった。

 

海之

「…これも俺達に?」

セシリア

「私が一番好きな紅茶葉ですの。おふたり共、特に海之さんは紅茶がお好きなのは知っていますし、火影さんもデザートの時によく飲まれていますから。良ければ召し上がってください」

火影

「あ、ああ、ありがとう。頂くぜ」

海之

「セシリアは紅茶にこだわりがあるからな。楽しみにさせてもらおう」

 

 

…………

 

次に渡してきたのはシャルロット。彼女が渡したのはセシリアのよりも小さい小箱。中に入っていたのは…腕時計だった。どちらもアナログ時計だが形は微妙に違う。火影のはメカニカルな、海之のはどちらかと言えばシンプルなデザインだ。

 

シャル

「火影は銃とかバイクとか使ってるからどちらかと言えば機械的なイメージがあったんだ。海之は刀とか本とか良い意味で古風だからシンプルなのにしたの」

火影

「そうなのか。ありがとよ」

シャル

(…因みに火影の時計の裏に僕の名前があるのは僕だけの秘密♪)

 

 

…………

 

次に出てきたのは本音。本音が出してきたのは果物。火影のは林檎、海之のは葡萄だ。

 

本音

「かっちゃんかんちゃんのお家でおススメを聞いたんだよ~。良い物だからきっと美味しいと思うな~」

火影

「そいつは楽しみだ」

本音

「ひかりん~、今度それ使ってデザート作ってね~♪」

「…本音、目的が違ってるんじゃない?」

 

 

…………

 

次に出てきたのはラウラ。ふたりに箱を渡す。紙や木ではない頑丈なケースだ。中に入っていたのは、

 

火影

「ナイフとはなかなか驚きのプレゼントだな」

海之

「…只のナイフでは無い。軍や警察で使われている様なナイフだ」

ラウラ

「そうだ海之。私が所属するドイツ軍正式採用の物だ。ちょっとした刃物が必要な時に使ってくれ」

一夏

「さ、さすが軍人…」

ラウラ

「本当ならUSPでもと思ったのだがあれはやや問題があるらしくてな」

火影・海之以外全員

「「「問題どころじゃない(から)!」」」

 

 

…………

 

続いて出てきたのは鈴。部屋の厨房から何かを持って出てきた。

 

「はいどうぞ♪」

 

鈴が持ってきたのは…ラーメンだった。

 

火影

「どうしたんだコレ?」

「私が一番得意な事って言ったら料理だからね♪だから一番好きなラーメンにしたの。ああ後麺もスープも自家製よ。数日前から部屋で仕込んでたんだ♪」

一夏

「流石は鈴だな」

火影

「へ~、じゃあ遠慮なく。…………」

「……ど、どう?」

 

鈴はやや緊張して感想を待つ。今までもそうだったがやはり火影の感想は気になるらしい。

 

火影

「そんな緊張すんなって。…凄ぇ旨ぇよ、鈴」

「…!」

 

鈴は嬉しそうだ。海之も同意見だった。余談だがイベントが全て終わった後、彼女のラーメンは皆に振舞われた。

 

 

…………

 

次は順番的に簪だが横に一緒に楯無もいる。楯無は火影に、簪は海之に紙袋を渡す。すると簪が話し出す。

 

「あ、あの海之くん。そして火影くん。…ありがとう」

海之

「…?どうした?」

楯無

「あらあら、後で皆で言うつもりだったのに。我慢できなくなったのかしら~」

火影

「どういう事ですか?」

「…あの、私がここまで成長できたのも…お姉ちゃんと仲直りできたのも…全部ふたりのおかげだから…。だからありがとう」

海之

「気にするな。お前の心の強さがもたらした結果だ」

「ううん、そんな事ない。本当にふたりのお蔭だよ」

楯無

「貴方達の影響は思ってるよりもずっと大きいのよ?…私だって同じ」

「お姉ちゃんとふたりで作りました。上手じゃないけど…、良かったら使ってください」

 

箱には男性用のハンカチが入っていた。火影のは赤い、海之のは青い糸で複雑な刺繍が入っている。細かい作業が得意な簪らしかった。

 

 

…………

 

そして最後は一夏となった。一夏が持っているのは今までに一番小さい小箱だ。

 

ラウラ

「随分小さい箱だな?」

「ああこの大きさだとまるで鍵くらいしか入らんぞ?」

一夏

「まあ開けてくれればわかるさ」

 

そう言ってふたりは箱を開ける。中には、

 

火影

「…鍵?」

シャル

「まさか本当に鍵が入ってたよ」

セシリア

「一夏さん、これは何の鍵ですの?」

一夏

「ああそれは俺と千冬姉の家の鍵だ」

海之

「…何?」

本音

「え――!」

一夏

「夏休みの時にふたりを泊めてたのを思い出してな。ほら、ふたりの家ってスメリアだろ?それで気軽な連休なら家に泊ってもらうのもいいかなって。ゴールデンウィークとかな。千冬姉にも相談して決めたんだ」

「よく千冬さんが許可したわね?」

一夏

「そんな反対もしなかったぜ?どちらかと言えば嬉しそうだったな。…つー訳で遠慮せず来てくれ」

火影

「あ、ああ」

海之

「…感謝する」

 

ふたりはこの時偶然にも同じ事を思っていた。

 

火影・海之

((…箒とセシリアにやれ(よ)…))

 

 

…………

 

そんな感じで皆のプレゼント譲渡が無事に成功したところで、

 

火影

「…あの、そろそろ聞いて良いか?皆どうして」

 

 

全員

「「「いつもありがとう(ありがとよ)!!」」」

 

 

火影

「…へ?」

海之

「…?」

 

火影の声を遮る様に皆一斉に声を出す。ふたりはまるで分からないという表情で目をキョトンとさせている。

 

「ふふっ、大成功だな♪」

セシリア

「ええ。おふたり共勘がよろしいですから成功するか不安でしたが上手く行きましたわね♪」

本音

「私も無事約束守れてほっとした~!」

海之

「…どういう事だ?」

「御免ね海之くん。…私達、海之くんと火影くんに感謝の気持ちを伝えたくて」

火影

「感謝の気持ち?」

シャル

「僕達…いつもふたりに御世話になってるでしょ?ISの訓練も勉強も。更にファントム・タスクとの戦いじゃ何時もふたりに守ってもらってるじゃない?」

「おまけに臨海学校の時や学園祭の時はふたりに本当に助けてもらっちゃってたしね。大袈裟じゃなく命まで助けて貰ったともいえるわ」

ラウラ

「しかし私達は与えてもらってばかりで今までお礼的な事を何もしてこれなかった。だから少しでもしてやりたいと思ったのだ。まぁこれは一夏の提案だったんだけどな」

楯無

「私は皆ほどふたりと付き合いは無いけど簪ちゃんと仲直りできたっていうとっても大きな恩があるからね。協力させてもらったのよ♪」

火影・海之

「「……」」

一夏

「ふたりには本当に感謝してんだ。この前のタッグマッチといいな。だから少しでも伝えたいってこんな事を考えたんだ。だまってて悪かったな」

 

皆それぞれ心からの感謝の気持ちを伝える。

 

火影・海之

「「……」」

楯無

「あれ~、もしかして感動のあまり言葉も無い~♪?」

 

火影と海之は無言だった。すると、

 

 

火影

「……ふ、ふはははははははは!!」

海之

「…ふっ」

 

 

火影は豪快に、海之は口角を上げて笑った。

 

一夏

「…え?」

「な、なんで笑っているんだ?」

「ど、どうしたのよ一体?私達本気で!」

 

予想外の反応に他の皆も驚く。

 

火影

「くくくっ、いや悪い悪い。そういう事か~、納得したぜ」

シャル

「…納得?」

 

すると次に火影と海之が言った言葉が皆を沈黙させた。

 

 

火影

「ああ、皆には言ってなかったが実は今日11月13日は俺と海之の誕生日なんだよ。でもそれを皆知らねぇ筈なのにプレゼントくれっから何で知ってんのかな~って思って。でもそういう事なら納得できたぜ。…ほんとありがとよ」

海之

「今日をもって17となる。改めて宜しく頼む。そして……ありがとう」

 

 

全員

「「「…………」」」

 

一夏達はその内容に驚き、言葉を失っている様だ。

 

海之

「そういえばここに皆がいるのは好都合だ。火影」

火影

「了解。ちょっと待ってな」

 

そう言って火影は一旦外に出て行った。

 

「…ね、ねぇ海之くん。さっきの話……本当…?」

セシリア

「今日が…おふたりのお誕生日だという話ですが…」

海之

「ああ。正確にはこの世に誕生した日という意味では無く、俺と火影が両親に見つけられた日がこの日なのだ。だから今日を誕生日にしている。分かりやすいだろうと思ってな」

 

ガチャッ…ガラガラ

 

とその時火影が戻って来た。但し普通にでは無い。ホテルで料理を運ぶ際に使われる様なワゴンを押してだ。

 

火影

「待たせたな、ケーキ持って来たぜ。バターにドライフルーツ、チョコレートにあとケーゼクーヘンだ。お前らのタッグマッチの労いに用意しておいたんだ」

海之

「まだ熟成しきっていないが食ってくれ」

本音

「わーい!ひかりんとみうみうのケーキ♪」

本音以外

「「「……え――――――――!!!」」」

 

 

…………

 

本音

「やっぱり美味しいね~♪」

本音以外

「「「………」」」

 

その後、皆で火影達のケーキを食べているのだが何故か本音以外は皆浮かない顔をしていた。

 

火影

「…あれ、もしかして口に合わなかったか?」

シャル

「う、ううん凄く美味しい!……美味しいんだけど…」

「…ああ。本当に美味しいんだ。…でもな…」

一夏

「……素直に喜べねぇ…」

楯無

「まさか365日ある中でよりによって今日がふたりの誕生日だったなんてねぇ~」

 

どうやらふたりを驚かせようと思っていたのが逆に自分達の方が何倍も驚かされた事に微妙な感じになっている様だった。

 

海之

「…もし悪い事をしてしまったのならすまなかった」

「う、ううんそんな事無い!謝らないで海之くん」

ラウラ

「ああそうだ。お前達は何も悪く無い。ただ…タイミングが悪かっただけだ」

セシリア

「本当に偶然とは恐ろしいものですわね…」

「火影~、なんで今日が誕生日って教えてくれなかったのよ~」

火影

「聞かれなかったからな。…それにどっちかと言えば誕生日の事は思い出さない様にしてたんだよ」

一夏

「え?」

「何故だ?」

火影

「父さん母さんの事を思い出しちまうからな…」

「……あ」

 

ふたりはこの日にエヴァンス夫妻に出会い、助けられた。彼らが生きている時はそれは盛大に御祝いしたものだった。だがその夫妻が亡くなってからは控えめにしていた。ギャリソンやレオナ達もそれは分かっていた。

 

シャル

「ご、御免なさいふたり共…」

海之

「気にするな。それに今日は良い日だった」

「…え?」

火影

「ああ、お前らの温かい気持ちをたくさん受け取ったからな。だから良い日だったぜ」

 

ふたりも心からの感謝を伝えた。

 

本音

「…えへへ♪」

一夏

「…へへ。そう言ってもらえて良かったぜ。…おし!御返しにお前らのケーキ全部キレイに食ってやるからな!」

「おい一夏、数は決まってるんだぞ?」

セシリア

「大丈夫ですわよ。そんなに焦らなくてもこちらにおかわりもありますわ」

楯無

「はぁ、仕方ないわね、こうなったら私もやけ食いしてやる~♪」

 

どうやら一夏達は元気を取り戻したようだ。

 

火影・海之

「「…ふっ」」

「どうしたのよ火影?」

ラウラ

「海之?」

 

微笑んだふたりは揃って言った。

 

 

火影・海之

「お前ら(お前達)やあいつらが笑ってんのが(笑っているのが)俺達にとって最高の礼だからな」

 

 

本音

(……ひかりん~!)

(…海之くん。本当に…ありがとう…)

シャル

(火影……。もう、ほんと敵わないなぁ~♪)

ラウラ

(海之、火影。お前達が家族で私は幸せだぞ…)

(…はぁ、惚れた女の弱みって思うしかないかなぁ。……好きだよ、火影)

 

予定外の事もあったがふたりの事を改めて強く想う少女達。そして良き友たち。お互いの企画は無事大成功?したのであった。

 

 

…………

 

数刻後、千冬の部屋の前。時間はすっかり夜になっていた。

 

千冬

「……おや、もうこんな時間か。では私も風呂に行くかな」

 

そう言って仕事を中断し、風呂支度を済ませた千冬は部屋を出て行こうとすると、

 

ガチャッ…コンッ

 

千冬

「?」

 

扉を開けると何かが当たった様な気がした。見るとドアの下に小さい箱がある。

 

千冬

「なんだ…?…箱と手紙?」

 

箱には手紙が添えられてた。中を開けて見てみると、

 

 

(一夏より話を聞きました。あんな大切な物をありがとうございます。お礼という訳ではないですがケーキを置いておきます。もし良ければ召し上がってください。  海之)

 

 

千冬

「………」

 

千冬が箱を開けると中にはバターケーキとケーゼクーヘンがあった。バターケーキをほんの少しつまんで口に運ぶ。

 

千冬

(………ふっ)

 

千冬は微笑みながら心の中でそう思うと箱を閉じ、冷蔵庫に入れて再び浴場に向かって歩き出した。




おまけ

火影と海之の感謝会(誕生日会)から二日後…、


「クーちゃん~、遅れるよ~!」
クロエ
「は、はい!」

どうやら束とクロエはどこかに出かける予定の様だ。


「まぁ忘れ物があっても直ぐに取ってこれるから大丈夫だよ。じゃあ行くよ~♪」

そう言ってふたりが操縦するロケットは出発した。


「いよいよだねクーちゃん♪緊張してる?」
クロエ
「は、はい。こんな事は初めてですから…」

「そだね~。でも大丈夫だよ!今のクーちゃんにはお兄ちゃんもいるんだもん♪」
クロエ
「だ、だからお兄ちゃんじゃ……ハァ。……ですが本当に大丈夫でしょうか、こんないきなりで」

「大丈夫大丈夫~♪ちーちゃんと私はこの世で一番の仲良しだもん!どんな無茶振りも聞いてくれるよ~!ふふっ、皆の驚く顔が目に浮かぶね~♪」

そう言って束は笑いながら自らのロケットを飛ばしたのであった。

クロエ
(はぁ……本当に大丈夫でしょうか……。まぁそれについては成る様になるしかありませんね。頑張りましょう)

するとクロエは何やら首からぶら下げている物を手に取り、

クロエ
(これから宜しくお願いしますね。………………ベアトリス)


※11は秘数字では特別なものとの事、13は「13日の金曜日」から考えました。


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Mission128 天使ベアトリス

11月のある日、箒達は一夏から火影と海之に日頃の感謝を伝えようとドッキリで感謝会をしないかと提案され、箒達もそれを了承する。そして一週間後、一夏達はふたりを部屋に呼び出し、そこで一夏達はふたりに其々プレゼントを贈ると同時に感謝の気持ちを伝える。
……しかし逆に一夏達は驚かされた。実はこの日は偶然にも火影と海之の誕生日でもあったのだった。更にふたりは先日のトーナメントの労いを兼ねてケーキまで用意していた。その事に皆は何とも言えない気持ちになるがふたりからも心からの感謝を伝えられ、こういうのも悪くないか、と感じた。感謝会は無事?成功したのであった。


IS学園 寮内

 

ラウラ

「海之、魚の塩加減はこれ位で良いか?」

海之

「ああ問題無い。腹身の方から焼いていけ」

「ねぇ海之くん。お味噌はこの位で大丈夫?」

海之

「…もう少し入れても良いだろう。溶かす時は煮詰めない様に弱火でな。俺は玉子焼きを調理するからそのまま頼む」

「わかった」

 

一夏達による火影・海之への感謝会の翌々日。この日は日曜日で時刻は朝8時を回った所。火影達はたまには自分達で朝食を取ろうと食堂でなく寮の調理室に集まっていた。調理しているのは海之と彼の手伝いを願い出た簪とラウラ。そんな三人を共同スペースの椅子に座って皆は眺める。

 

楯無

「……」

本音

「どうしたのかっちゃん?」

楯無

「うん、簪ちゃん楽しそうだな~って思って」

「確かに最近笑う事が多くなった様に感じますね」

シャル

「箒もそう思う?僕も簪と知り合ったのは最初のタッグマッチの時だけど…なんというか元気になったね」

セシリア

「やはり海之さんのお陰でしょうか?」

本音

「う~ん勿論それもあると思うけど~、元々かんちゃんはあんな感じだったよ~」

「そうなの?私達はこの数ヶ月のあの子しか知らないから分からないけど」

楯無

「小学生位迄はそうだったわね。でも中学生位から少しずつ静かになっていってしまったわ。私がロシアの代表になったりしてからね。弐式の件もあったし」

一夏

「その節は御迷惑かけてすいませんでした」

楯無

「ああ一夏くんは気にしないで良いのよ。あれは中途半端にした企業が悪いんだから。ほんと腹立つ話。まぁそんな感じで色々あったからね。…でももうそれは昔の話。あの子は今を頑張ってるわ。………皆、これからも簪ちゃんの良いお友達でいてあげてね?」

「はい、勿論です」

一夏

「任せてください。海之と同じ位俺達も守ります」

楯無

「……ありがとう。でも一夏くんには私を守ってほしいなぁ♪」

 

そう言いながら隣の一夏に引っ付く楯無であった。

 

箒・セシリア

「「た、楯無さん!」」

「…こう見るとどっちが姉か妹か分からないわね」

シャル

「あはは。……あれ?火影はどこいったのかな?さっきから姿見えないけど」

本音

「ひかりんならさっき調理室の奥に行ったよ~。なんかあるのかな~」

シャル

「行ってみようか?」

「皆~、できたから順番に回していって~」

「あ、はいは~い」

 

できあがったらしいので取り合えずそちらを用意する事にした。

 

 

…………

 

白ご飯、焼き魚(塩鮭)、味噌汁(ナメコとわかめ)、卵焼き、じゃこおろし、漬物と日本の朝の定番らしいメニュー。

 

「相変らず海之の卵焼きは美味しいわね~♪」

楯無

「ほんとね~!海之くん卒業したら更識家の板前にならない~?」

「も、もうお姉ちゃん!」

本音

「かんちゃんのお味噌汁もラウランのお魚も美味しいよー」

一夏

「ほんとに旨いぜ」

海之

「それは何よりだ。簪もラウラも腕を上げたな」

ラウラ

「そ、そうか。何時でも結婚できる様頑張っている甲斐があった」

セシリア

「でも本当に夫婦みたいでしたわよお三方共♪」

「ふ、夫婦って…、あぅ…」

シャル

「ふふっ、ところで火影どうしたんだろう?早くしないと冷めちゃうよ」

 

とその時、調理室の奥から、

 

火影

「待たせたな」

「おお火影、先に頂いているぞ」

本音

「どしたのひかりん~?」

火影

「これを作ってたんだ」

 

見ると火影は両手に持っている物をテーブルの上に置く。

 

「…え!何これ!?」

 

それはまるで大きな薔薇の花。しかし良く見ると、

 

シャル

「…この匂い…林檎?」

火影

「ああ、林檎を薄く切って花弁の様に広げて焼くアップルパイだ。本音から貰った林檎があったからな、昨日夜に下処理しておいたんだ。デザートに食ってくれ」

本音

「わ~いありがと~♪」

ラウラ

「凄く綺麗な焼き色だな。流石火影だ」

セシリア

「ええ。林檎の赤色が引き立ってますわ」

楯無

「う~ん火影くんも捨てがたいわね~。私としては一夏くんに板前に来てもらいたいけど簪ちゃんからしたら海之くんだもんね~。いっそ火影くんはパティシエとして全員来てもらおっかな~?」

「も、もうお姉ちゃんいい加減にして!」

火影

「ははは…、ほんとあんま似てねぇなこのふたり」

一夏

「まぁ確かにそれなら就職には困らないけど…」

火影・海之

((そういう意味じゃねぇって(ではないのだが)…))

楯無

(う~ん、ほんと難攻不落ね~。まぁでもその分陥落した時の喜びが増すってもんよ♪)

(違うんだが…まぁ今回は良かったと思っておこう…)

セシリア

(今日だけは感謝致しますわ一夏さん)

(火影と夫婦になったらお店やるっていうのもありかな~♪)

シャル

(もし火影と…結婚できたら…毎日こうして一緒にご飯食べたいな~♪)

本音

(ひかりんがかっちゃん達のお家に来てくれたら一緒に働けるしデザートも食べれる~♪)

(もうお姉ちゃんったら…。ま、まぁ海之くんと一緒に過ごせるのは良いけど…でもそうなったら毎日からかわれるだろうし…う~ん…)

ラウラ

(早く夫婦水入らず過ごせる様になりたいものだな)

 

少女達が各々想像している感じで朝食は進んでいると、

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

誰かの携帯が鳴った。

 

海之

「すまん俺だ。…千冬先生?」ピッ「はい。先生おはようございます。いえ大丈夫です、なんでしょうか?」

 

すると数秒程して、

 

海之

「………わかりました。では10時にアリーナに向かいます。はい、では後程」ピッ

火影

「召集か?」

「しかもアリーナって………まさか…」

 

何かを感じ取った箒。

 

海之

「…ああ。そのまさかだ」

 

 

…………

 

IS学園アリーナ

 

朝食を終え、後片付けを終えた一行はアリーナに来ていた。千冬と真耶は先に来ていた。

 

本音

「も~ひかりんのアップルパイまだ食べて無いのに~」

「大丈夫だよ本音。ちゃんと冷蔵庫に入れてきたから」

セシリア

「…それにしても今回は何の御用でしょうか?篠ノ之博士」

「多分だけど…束さんが造ってたって物ができたんじゃないかな?前に言ってたじゃん?」

シャル

「…あっ、確かパンドラ届けに来てくれた時にそんな事言ってたね。あと「真剣な遊び」だとも」

ラウラ

「しかしそれだけではどういった物かわからんな…」

一夏

「その事なのか千冬姉?」

千冬

「…いや、わからん」

真耶

「私達にも教えてくれないんです。見てからのお楽しみって言われて…」

「姉が迷惑をかけてすみません…」

千冬

「気にするな箒。もう慣れている」

楯無

「まぁでも篠ノ之博士がそう言うんだからきっと私達を驚かせてくれる様な物だと思うわよ」

火影・海之

「「………」」

一夏

「どうしたふたり共?」

火影

「…いや…何でか分からねぇが…、なんか全く予想だにしてなかったもん造ってそうな気がして…」

海之

「……ああ」

「アンタ達がそう言うと妙に説得力あるわね。まぁ今は待ちましょ」

 

そして暫く待っていると…、

 

「………あっ、何か見えるよ。もしかしてアレじゃないかな?」

 

簪が指さした方向から確かに何か向かって来るのが見えた。………しかし、

 

本音

「あれ~?なんかふたついない~?」

 

まだはっきり形は見えないが良く見ると確かにふたつ影がある様に見える。

 

セシリア

「確かにふたつ見えますわね…。ひとつはロケットでしょうか?火が見えますわ」

千冬

「恐らくブースターだろうな。多分あちらが束のロケットだろう。しかしもうひとつは…」

 

そしてロケットと別のそれは更にスピードを上げ、火影達の上空を超高速で通り過ぎ、その後急旋回してこちらに向かって降りてくる。そしてその姿が次第にはっきり見えてくると、

 

火影・海之

「「!!」」

楯無

「え!?」

千冬

「なに!?」

一夏

「お、おい火影!海之!あれって!?」

 

 

皆大きく目を開き、本当に凄く驚いた。何故ならその姿は………………アリギエルやウェルギエルとそっくりだったからだ。

 

 

…………

 

それはゆっくり上空から火影達の所に降りてきた。火影のアリギエルや海之のウェルギエルと非常に良く似ている機体。従来のISに見られない位の薄い装甲。黒いバイザーで顔部分が覆われた頭部。爪が生えた様な手足。

大きな違いは3つあった。アリギエルは炎の様な赤、ウェルギエルは深い海の様な青だがこれは白、純白に近い白色をしている。

そして前者の二体はまるでロングコートを着ている様に見えるのに対し、これはロングスカートを履いている女性の様なデザインをしている。

そして最も大きな違いは……、

 

本音

「キレイ~!」

「…まるで天使の翼だな」

 

そう、アリギエルとウェルギエルは悪魔の様な黒い翼だが目の前にあるそれは天使を思わせるような白い翼があったのである。女性的な白いボディと翼も重なり、それは「天使」と呼ぶに相応しかった。

 

火影・海之

「「……」」

 

流石の火影達も驚いているのか黙っている。と、

 

 

ズドォォォォォォンッ!……パラパラ……

 

 

その少し横で束のロケットも遅れてお馴染みの不時着をしたのだった。謎のISにすっかり目が行ってロケットの事を忘れていた多くの者はその衝撃で豪快に尻餅を付いたりこけたりしてしまった。

 

真耶

「いたたた…び、吃驚しました」

シャル

「す、すっかり忘れてた…、束さんのロケットの事…」

ラウラ

「う、迂闊だった…」

「…ハァ、…もう姉さん…」

 

パカッ!

 

するとロケットの横の扉が開き、普通に束が現れた。

 

「いや~皆おまっとさんでした♪ごめんね~少し遅れちゃったよ~!あっ!何時もの挨拶がまだだったね!天知る地知る人が知る!皆の永遠のアイドル!アイデアのピッチングマシーン!ISのイヴ!篠ノ之束さん参上~!」

全員

「「「………」」」

「ふっふ~ん♪流石の皆も驚いて声も出ない様だね!今回のコンセプトは、まずこの子を颯爽と登場させてそちらに皆を釘付けにし、そこにロケットによる時間差不意討ち!更に三連続来るか!?と思いきやそこはあっさり束さん登場!というある意味期待を裏切るやり方!いや~毎回皆面白い様にかかってくれるから束さんも遣り甲斐があるってもグホッ!ヘヴァッ!ヘブシッ!」

 

腹へのブロー、顎へのアッパー、頭への拳骨振り下ろしという千冬の三連続が見事に決まった。

 

「さ、流石ちーちゃん…。三連チャンには三連チャンという訳かね…」

千冬

「期待を裏切るやり方を好むなら今度はこちらもそうしてやろうか?」

「ヒエー!箒ちゃーん、ちーちゃんが苛めるよ~」

「自業自得です」

一夏

「ははは、このやりとり見るの今年だけで何回目だろ?……ってそんな事どうでも良かった!束さんこのISは何なんすか!?」

セシリア

「そうですわ!なんでこれ程までおふたりのISに似てるんですの!?」

「もしかしてこれが…篠ノ之博士が造っていたっていう…」

「で、でも確か火影達のISは束さんでも造れないって…!」

 

皆はまだ驚きが冷めない様だ。

 

火影

「…束さん教えてください。…これは一体…?」

海之

「それも気になるが…、まさか動かしているのは…」

「ふっふ~ん、流石みーくん。察しが付いた様だね♪」

 

カッ!

 

すると目の前のISは光を放ち、展開を解除する。

 

千冬

「!」

真耶

「えっ!?」

ラウラ

「あ、貴女は!」

海之

「…やはりか…」

 

謎のISを纏っていたのは……、

 

 

クロエ

「…こんにちは」

 

 

束の助手であり、娘の様でもあり、先日火影と海之の妹にもなったクロエだった。しかし、

 

火影

「クロエ…お前だったのか。てかお前その髪、それにその目…」

 

火影はやや驚いた。腰の辺りまであったクロエの髪が襟首当たりまでバッサリ切り揃えられ、ボブカットになっていたからである。更にカラコンを入れているのか目の色も灰色になっている。

 

クロエ

「はい。少し事情がありまして束様に切って頂いたんです。似合っていますでしょうか?」

本音

「久しぶりクーちゃん!似合うよ~。なんかカッコいい」

「……本音、少しは驚きなさいよ。…ってそうじゃなかった!髪型もそうだけどさっきのIS、クロエが動かしてたの!」

クロエ

「はい、御無沙汰しております皆さん」

「…これは予想外だったな」

一夏

「あ、ああ全くだぜ…」

ラウラ

「………」

シャル

「どうしたのラウラ?」

ラウラ

「い、いや、…何でもない…」

海之

「クロエ、先程のISは……まさかお前の?」

クロエ

「はい、海之兄さん」カチャッ

火影

「!お前それ、…俺達のと同じ」

 

火影は再び驚いた。クロエが首からぶら下げていたのは赤い宝石のまわりに銅(アカガネ)色の縁が掛かったアミュレット。それは火影と海之のアミュレットと見た目全く同じ物だった。

 

クロエ

「そうです火影兄さん。これが私のISの待機状態です。束様にお願いしてお揃いにして頂きました」

「長男のみーくんが金、次男のひーくんが銀だからクーちゃんは銅にしたんだ♪粋な計らいでしょ~♪」

火影

「は、はぁ…」

海之

「…ハァ」

 

クロエは微笑み、束は楽しそうに笑い、火影と海之は驚きからか何んとも言えない表情だ。

……その一方、一部の者はそれとは別に気になる事があった。

 

「…ね、ねぇクロエ~、ちょっと聞いて良い~?…今アンタ火影の事……兄さん、って言わなかった…?」

「う、うん。…それに海之くんの事も言ってたね…」

クロエ

「はい。火影さんと海之さんは私の兄さんです」

千冬・真耶・ラウラ以外

「「「「いやだからなんでですか(ですの)!?」」」

 

事情を知る千冬と真耶以外は先のISと同じ位驚いていた。ラウラは何も言わなかった。

 

千冬

「…お前達、その件については後にしておけ。……束、そろそろ聞かせて貰おうか?先程のISについて」

真耶

「それに先程クロエさん、あれを私のISと言ってましたが…それってもしかして」

「じゃあクーちゃん、一旦それを渡してもらって良い?」

 

そう言われてクロエはアミュレットを束に渡した。束はそれを再び展開する。

 

「白いアリギエル…、いやウェルギエルか…?」

楯無

「やっぱり火影くんと海之くんのISにそっくりねぇ。見た目はスカートとか履いてて女性っぽいけど」

一夏

「束さん…なんなんですかこのISは?」

「じゃあ説明するね~♪」

 

すると束はそのISの横に立ち、

 

 

「きっかけはこんなの造ってみたい!っていう束さんの真剣な遊び心だった!しかし!やがて皆を助けたいという束さんとクーちゃんの熱い想いによって生まれ変わった!これこそアリちゃんウェルちゃんの兄妹機にしてクーちゃん専用機!その名もベアトリスだよ~♪」

 

 

火影・海之・千冬

「「「…!」」」

一夏

「な、なんだって~!」

「アリギエルとウェルギエルの…兄妹機!?」

「ベアトリス…!」

セシリア

「しかもクロエさんの専用機!」

本音

「すごーい!」

シャル

「…確かにここまでそっくりだと兄妹っていってもおかしくないね」

ラウラ

「…ベアトリス…、貴女の専用機…」

 

皆その内容に驚きを隠せない。

 

「じゃ、じゃあこのISもアリギエルやウェルギエルと同じ第0世代っていう事ですか!?」

「…う~んそこはちょっと違うんだよね~。というのもふたりのISは傷が瞬時に再生するという点。そして操縦者と共に成長するという点のふたつの大きな特徴があるんだけど…残念ながら再現できなかったんだよね~。だって剣が貫いたり銃弾が撃ち込まれたりってそんなの危険極まりないでしょ~?だからこの子は従来のISと同じくシールドや絶対防御はあるんだ。だから準0世代、って感じかな?」

真耶

「よ、良かった、シールドや絶対防御はあるんですね。それだけでも少し安心です…」

千冬

「しかし準と言うからにはなにかあるのだろう?」

「ふっふっふ~!流石ちーちゃん♪当然そこはただでは転ばない束さん!」

「…なんか違う様な…?まいっか、で、どこが違うんですか?」

「確かにベアトリスはアリちゃんウェルちゃんの様に傷は治る事はない。その代わりにSEが自動回復されるんだよ~♪」

千冬

「なんだと?」

シャル

「そんな事ができるんですか!?」

「できるよ~♪というか皆もう見てるじゃん」

一夏

「え?……あ」

「紅椿の…絢爛舞踏ですか?」

「そ!あれを応用して造ったんだ♪云わば箒ちゃんの紅椿の絢爛舞踏自分だけバージョン、って考えてくれたら良いかな~」

セシリア

「確かにそれなら納得いきますわね…」

 

皆がベアトリスの機能に驚く中、海之が束に質問する。

 

海之

「しかし束さん。何故態々俺達のISに似せたんですか?」

楯無

「…そうですね。別に新しいデザインでも良い様な気がしますが?」

「うん。きっかけは…確か臨海学校の時かな?ほら、あの時ひーくんとみーくんがふたりであの黒いISを全滅させたでしょ?それを見てどうしても造ってみたいなぁって思ったんだ!カッコ良かったしね♪でもアリちゃんウェルちゃんの情報はふたり共絶~対教えてくれないし~、でも諦めきれなくて、それなら自分で造ってみるしかないかなぁって」

千冬

「それで造ったのがこのISという訳か…」

「うん。でも実を言うとこの子はあくまでも束さんの趣味、興味本位で造ろうと思った試作品。だから例え完成しても本当は表に出すつもりは無かったんだ。最初武器も付けて無かったんだよ」

「えっ、そうなんですか?」

ラウラ

「ではどうして…?」

 

その質問にクロエが口を開く。

 

クロエ

「…私が束様にお願いしたのです」

本音

「ほえ?クーちゃんが?」

「…うん、そうなんだ。ほら、前ここの学園祭の時にファントム・タスクの襲撃があったでしょ?あの時の戦いやひー……、まぁその時の出来事があって、何日か経ってからクーちゃんが言いだしたんだよ。もし完成したらこの子に乗せてくれないかってね」

火影

「…クロエ、お前何故そんな事を…」

クロエ

「……守りたいと思ったからです。皆さんや兄さん達が戦っているのに…私は自分が何もできないのが悔しかった…。そして火影兄さんが皆さんを守るために行った行動を見て…より気持ちが強くなったんです。…私も…私の大切なものを守るためにできる事をしたいって!」

「…クロエ、アンタ…」

「最初はもちろん駄目って言ったよ。だってクーちゃんは束さんのかわいい娘だもん。娘を戦わせるなんて嫌じゃん?…でもこの子の気持ちの強さを知って聞いてあげる事にしたんだ。徒に庇ったり守ったりする事だけが親の愛情じゃないしね、子供の意志を尊重するのも親の役目だから」

海之

「……」

火影

「お前…」

 

束の言う通り、ふたりはクロエの瞳の奥に強い意志があるのを感じ取った。

 

千冬

「しかしクロエ、お前ISは…」

クロエ

「それなら御心配には及びません。必要な事は行ってきました。それに……私は本来これが役割ですから…」

「…役割?」

ラウラ

「………」

「心配はいらないよ。クーちゃんの技術は束さんが保証する。ベアトリスの方も問題ない。だからこの子の好きにさせてあげてほしいんだ。お願い」

クロエ

「お願いします、皆さん」

全員

「「「………」」」

 

全員どうしようか考えている様子だった。そんな中火影がクロエに言った。

 

火影

「…………条件がひとつ」

クロエ

「…?…はい、なんでしょう?」

火影

「…死ぬな。危なくなったら直ぐに助けを求めてこい。それが条件だ。でなきゃ認めねぇ」

 

火影の言葉には絶対そうしろという雰囲気が見てとれた。

 

クロエ

「…はい。御約束します」

火影

「もう誰も死なせたくねぇんだ。…仲間や大切な人、ましてや家族はな…」

クロエ

「!……家族……私が、ですか…?」

海之

「…妹なのだろう?」

クロエ

「…!」

一夏

「へへ、クロエは俺達の友達だからな。助けるのは当然だぜ?」

「……はぁ、しょうがないわね。そんなにやる気なら断る訳にはいかないじゃん。但し、火影の言う通り助けが必要なら何時でも呼びなさいよ?」

シャル

「うん、絶対だよ?クロエちゃんも僕の大事な友達なんだからね」

「ああその通りだ。友達は助け合うものだからな」

セシリア

「一緒に戦いましょう。お互いの大切なものを守るために」

「宜しくお願いします。クロエさん」

楯無

「まぁ皆ならそう言うと思ってたわ。こちらこそ宜しくね♪」

ラウラ

「……宜しく、お願いします」

本音

「私は皆と違って戦えないけど一杯応援するよ~!」

 

皆はクロエの気持ちをくみ取ったようだ。

 

クロエ

「…ありがとうございます、兄さん。皆さん」

「良かったね~クーちゃん♪」

千冬

「…やれやれ、全くどいつもこいつも世話ばかりかける事しおって…」

真耶

「ふふ、でもそう言いながら先輩嬉しそうですよ?」

千冬

「……気のせいだ」

「よし!そういう訳で意気込みタイムと宣誓タイム終了~!では次はこの子の能力お披露目会行こう!という訳で誰かクーちゃんと試合やってくれない~?実戦形式で紹介した方がわかりやすいでしょ~?」

一夏

「あっ、じゃあ俺が相手しても良いですか?新しいISと戦ってみたいです!」

「…全く子供なんだから…」

「OK~!クーちゃん良い~?」

クロエ

「はい、問題ありません。宜しくお願いします」

 

そして一夏とクロエは準備に入るのだった…。




おまけ

一夏とクロエが試合の準備を進めている間、皆は改めてあの質問をしてみる事にした。


「…あの~火影、そろそろ聞いて良い~?……火影と海之がクロエのお兄さんって…どういうわけ?」
シャル
「そ、そうだ忘れてた!どういう事火影!?」
火影
「ああそれは…」

火影と海之はいきさつを話した。

海之
「…という訳らしくてな」

「そうなんだ…。だからふたりの事をお兄さんって言ったんだね」

「最初にまずそこを説明してくれたら驚かなかったぞ」
セシリア
「でもクロエさんも大変でしたのね。同年代の方と今まで過ごされた事が無いなんて」
本音
「クーちゃん可哀想…」
ラウラ
「……」
楯無
「でもやっぱりふたり優しいわね。クロエちゃんの頼みとはいえあっさりOKするなんて」
火影
「大した事無いです」
海之
「ああ」

疑問は無事解決した。…だが少女達は思った。

「「「これ以上ライバルが増えなくて良かった…」」」

と…。

※次回は2月2日(日)の予定です。


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Mission129 時を操る「蝸牛」

感謝会から2日目の朝、何時ものメンバーで朝食をとっていると海之の電話に千冬から束とクロエが来るらしいという連絡が入る。アリーナで待っていた彼等の前に現れたのは束と、そしてクロエが操るアリギエル・ウェルギエルにそっくりなIS「ベアトリス」だった。予想だにしていなかったもの登場に火影や海之も含め皆が驚く中、クロエから自分も大切なものを守るために戦う、という強い気持ちを受けた気持ちを聞いた一行は彼女の気持ちを理解し、協力する事を約束するのであった。


IS学園 アリーナ

 

束の最新型でありクロエの専用機「ベアトリス」の紹介が終わり、次にその能力のお披露目も兼ねて一夏との試合が行われようとしていた。既に一夏とクロエもISを纏い、向かい合っている。

 

一夏

「束さんの最新型か~、聞くだけでワクワクするぜ!宜しくなクロエ!」

クロエ

「………」

 

クロエは先程からずっと黙っている。バイザーに隠れた瞳も閉じたまま。

 

「…なにかクロエの様子おかしく無いか?」

本音

「え、そ~?」

「…そう言えばさっきから一言も喋って無い気がするね。…緊張してるのかな?」

楯無

「…いえ、あれは緊張というより集中してるんだわ。ISは操縦者の感覚が伝わる物。それをしっかり意識しようとしてるんだと思うわ。指先からつま先までね。様はISを感じない様にしているって訳」

セシリア

「ISを感じない…?」

火影

「俺達と同じって訳か…」

「火影達と同じ?」

シャル

「…そうか、火影と海之はISを纏っていながら攻撃もそのまま通る。つまり生身でいるのと大差ないから…」

海之

「そう。一度の被弾が大きい傷に繋がる。故に感覚を研ぎ澄ませる必要があるのだ。多分クロエは今それを行っているに違いない。最もあいつのアレは俺達のと違いシールドがあるらしいが」

千冬

「…だがシールドの有無に関わらず良い心掛けだ。全員覚えておけ」

 

皆が其々感想を述べる中、束が一夏に無線で話しかける。

 

「それじゃあ始めるよ~♪いっくん!手加減なんて一切いらないからね~。さっきも言ったけどクーちゃんの技術は束さんが保証するし、装備も十分な物を積んであるし、これまでひーくんみーくんの戦闘を基にしたカリキュラムで猛特訓してきたからね~♪」

一夏

「火影と海之の戦闘を基にした?」

「そ!ふたりがこれまで戦ってきた相手やふたりのデータから造った模擬戦闘訓練だよ」

千冬

「分かりやすく言えば架空の相手としてアンジェロやファントム達、そしてふたりを相手に訓練してきたという意味だ」

海之

「…あと束さん。もしかしてベアトリスには魔具を?」

「そのとーり♪ベアトリスの武装は全てアリちゃんやウェルちゃん、そしてシャルちゃんのパンドラの様に魔具で固めてるよ!」

真耶

「……これは強敵そうですね」

一夏

「そうとわかれば加減してる場合じゃねぇな、……よし!」

クロエ

「……」

「では……スタート!」

 

束から模擬戦開始の合図が入った。

 

一夏

「行くぜ!」ドンッ!

 

一夏は雪片を構えて突進した。

 

クロエ

「…行きます」ドンッ!

「! 速い!」

 

一方のクロエも突進したが武器は持っていない。

 

セシリア

「武器も無しに!?」

一夏

「おぉぉぉぉぉ!」

 

一夏は雪片を向かって来るクロエに向かって振り下ろす。

 

カッ!

ガキイィィィィィンッ!

 

一夏

「くっ!何!?」

クロエ

「……」

 

突然光輝いたと思った瞬間、何かが一夏の雪片と斬り結んだ。クロエが持っていたのは……白銀に輝き、背丈ほどもある巨大な鎌だった。

 

火影

「…あれは…」

「な、何アレ!鎌!?」

シャル

「ま、まるで死神が持ってる様な鎌だね…!」

「あれがベアトリスの近接武装、オシリスっていう天使の大鎌だよ~♪」

クロエ

「はぁぁぁぁぁぁ!」

 

ガキィィンッ!キイィィィンッ!ガキンッ!

 

一夏

「くっ!」

 

激しく斬り出すクロエ。一夏も何とか応戦する。

 

「大鎌だから剣とかよりもずっと広範囲に攻撃できるから一対一はもちろん、対大人数の武器としても使えるよ~♪おまけにあんな大きさで質量ゼロっていうんだからほんと魔具って凄いよね~」

「だからクロエさんあんな軽々と振り回しているんですね…」

 

 

…………

 

ガキンッ!ガキキキンッ!

 

クロエのオシリスに対し一夏は雪片とアラストルの二刀流でなんとか応戦していた。剣の腕は間違いなく一夏の方に分がある筈だが、訓練を積み重ねたクロエも大型武器のパワーが重なって負けていなかった。

 

一夏

「くっ!二刀流でも両手持ちの大型武器相手じゃパワーが不利か!」ドンッ!

 

そう言うと一夏は一旦離れる。しかし、

 

クロエ

「逃がしません!」カッ!

 

するとクロエが持つオシリスが再び強い光を放った。そして、

 

一夏

「何だ!?…!」

 

一夏は驚いた。クロエが今まで持っていたオシリスが無くなった途端、彼女の周囲に複数の大きな刃が出現した。一見それは忍者が使う手裏剣の様な物だった。

 

 

クロエ

「行って…アキュラ!」

 

 

ギュイィィィィィィィンッ!

 

クロエがアキュラと呼んだそれは高速回転しながら一夏に襲いかかって来た。

 

一夏

「!くっ!」

 

 

…………

 

「一夏!」

楯無

「あれは…手裏剣?鎌が手裏剣に変形したの?」

「アキュラっていうビット兵器だよ♪元々両手持ちの武器なんだけどビットに改造したんだ。近接ならオシリス、遠距離ならアキュラとして使い分けられるよ♪」

セシリア

「変形して使い分ける…私のローハイドや簪さんのケルベロスとも似ていますわね。でもビットという事は…クロエさんBT適性があるのですか?」

「ううん無いよ」

千冬

「…どう言う事だ?何故BT適正が無いのに操れる?」

「だってアキュラはBT適正なんて必要無いビットだもん♪入力次第で自由自在に操れるんだ~。起動を直角に曲げたりサークルロンドしたりね」

ラウラ

「そんな事が…」

火影

「………」

「どうしたのよ火影?さっきから黙って」

火影

「……いや、あのふたつの魔具だが……なんでだろうな?使った事ねぇ筈なのに…凄え見た事ある気がする…」

海之

「…不思議だ。俺も同じだ…」

 

火影と海之は妙な感覚になっていた…。

 

 

…………

 

その頃、一夏は追跡していたアキュラをなんとか振りほどこうと考えていた。

 

一夏

「くっ!どうなってんだあの手裏剣みたいの!?アラストルの雷弾で撃ち落とそうとしたら急に曲がったり止まったりして!まるでセシリアの偏光射撃みてぇだ!……まてよ?今クロエにはあの鎌が無い、あの手裏剣は俺を追いかけ続けてる…、ここは最大級の瞬時加速で一気に接近して斬りかかるぜ!」

 

そう決断した一夏は、

 

一夏

「トムボーイ!アラストル!」

 

キュイィィンッ!ドンッ!!

 

トムボーイとアラストルの加速を加えた瞬時加速で一気に接近した。真向から向かっていく。

 

クロエ

「…かかりましたね」カッ!

 

突然ベアトリスの両手が光る。

 

一夏

「何!」

 

 

クロエ

「撃ちます…カリギュラ!」

 

 

ズドドドドドドドドドドドッ!

 

光が止むと同時にベアトリスの両手から凄まじい勢いで雨の如く銃弾が襲いかかって来た。

 

一夏

「くっ!」

 

一夏は両手に持つ剣でそれを防ぐが瞬時加速の途中だった事もあって完全に避ける事ができず、幾らか被弾してしまう。

 

一夏

「くそ!油断した!まさか手そのものが銃になるなんて!だが射程は短い様だな!一旦広く距離を取る!」ドンッ!

 

そして一夏はカリギュラという銃の射程外にでた。

 

クロエ

「この距離…アキュラでもカリギュラでも届きませんね」

 

そう言うとクロエはカリギュラをしまい、アキュラをオシリスの状態に戻して持ちかえる。

 

クロエ

「…では、これならどうです!」

 

カッ!キュイィィィン……

 

すると今度はベアトリスの天使の翼が光輝き始め、

 

一夏

「…!なんだ!?」

 

 

クロエ

「舞いなさい…セラフィックソアー!」

 

 

バサッ…ズドドドドドドドッ!

 

ベアトリスの翼から幾つもの羽の様な光が舞い落ちた瞬間、それが一夏に向かってきた。

 

一夏

「!…あれって…あのゴスペルの持ってたやつか!?」

 

そう言って一夏はそれを避ける。しかし光の羽は一夏を追尾し続ける。

 

一夏

「くそ!そう来ると思ってたけどやっぱり追いかけてくんのかよ!」

 

一夏は再び逃げながら対応策を考えるのであった…。

 

 

…………

 

本音

「ほわ~、綺麗な羽だね~!」

真耶

「ももも、もしかしてあれって!」

シャル

「もしかしなくてそうですよ!ゴスペルの光の翼です!」

「あんな物までいれたんですか!?」

火影

「…いや、あれはゴスペルのアレじゃねぇ。よく似ちゃいるがな」

「良く似ているけど違う?…じゃああれも魔具なの?」

「ピンポーン♪無尽翼「セラフィックソアー」っていう魔具だよ。違いとしてはあのゴスペルやブサイクな鳥が飛ばすのは光弾で、セラフィックソアーは光の羽って感じかな。優雅さではこっちの方が断然勝ってるでしょ~?」

「そ、それだけの違いなんですね…」

千冬

「…それに先程ベアトリスの両腕が機関砲の様に変形したな。使い道からして恐らく…オシリスが手元に無い時のための保険用か?」

「ちーちゃんしどっ!束さんの台詞とったー!ワ―ン!」

 

思い切り嘘泣きを始める束。

 

千冬

「………泣き止んだらアポロやる」

「ピタ」

全員

(((はやい)))

「さっきクーちゃんが出したのはカリギュラっていうガトリング銃だよ♪牽制としても使えるし、ちーちゃんが言った様に手にオシリスが無い時の護身としても使えるね。ライフルとかだと照準合わせないといけないけどあれなら多少外しても当たるでしょ~?下手な鉄砲も数撃てば当たるっていうし~♪」

楯無

「それ褒め言葉じゃない様な…。でもそう考えると全く隙が無いわね…あのベアトリスってISは」

扇子

(隙無!)

真耶

「流石博士の最新型というだけの事はあります」

「えへへ~それ程でも~♪…でも驚くのはまだ早いよ!」

ラウラ

「まだ何かあるんですか?」

「ふっふ~!ベアトリスにはまだとっておきがあるのだよ♪そしてそれが決まりさえすれば多分ひーくんみーくんも参っちゃうと思うよ!」

シャル

「火影や海之でも!?」

セシリア

「一体どんな能力ですの!?」

「それはクーちゃんが使う時のお楽しみだよ~♪」

 

束は実に楽しそうだ。

 

 

…………

 

その頃一夏はなんとか突破口を開こうとしていたが近づこうとすればカリギュラ、遠くであればセラフィックソラ―が襲いかかるため、チャンスが見いだせないでいた。しかしやがて思い付く。

 

一夏

「こうなったらブリンク・イグニッションの連続で後ろに回りこむしかねぇ!あの羽もジグザグの動きには完璧に付いて来れにくいだろうし!後ろに最接近して零落白夜を当てる!」

 

そして一夏はまず単純な瞬時加速で避ける真似をし、そして真正面から向かって行くかの様に動く。

 

一夏

「うおぉぉぉぉ!」

クロエ

「単純な動きですよ!」ジャキッ!

 

そしてクロエが再びカリギュラを向け、撃ち始めようとしたその時、

 

一夏

「今だ!」ドンッ!

クロエ

「!」

 

クロエの前方から一夏の姿が消えた。

 

クロエ

「この動き…」シュンッ!「!」

 

一夏はブリンク・イグニッションでクロエの後ろに移動していた。零落白夜は既に起動状態になっていた。

 

一夏

「もらったあぁ!」

 

そして雪片が振り下ろされようとした……その時、

 

 

ヴゥンッ!……

 

 

一夏

「………え?」ズガアァァァンッ!「うわあああ!!」

 

一夏は雪片が振り下ろされる前にクロエのオシリスの一撃を受け、吹き飛ばされた。

 

クロエ

「今のは危なかったですね」

一夏

「いててて…。な、何だ!今何が起こった!?一瞬…急に身体の動きがめちゃくちゃ悪くなった様な感じがして…零落白夜が当たる前に斬られた!?あとほんの数センチだった筈なのに!」

 

そしてもうひとつおかしな感覚を一夏は感じていた。

 

一夏

「……それに、今斬られた時もおかしかった気がする。斬られて……少し遅れて吹っ飛ばされた…!?」

 

一夏は自身の身に起こった不思議な感覚の正体が分からずただただ困惑するのだった…。

 

 

…………

 

一方、今の瞬間を見ていた皆も違和感を感じていた。

 

シャル

「………ねぇ、今一夏おかしくなかった?なんか…急に攻撃を躊躇った様に見えたんだけど…気のせいかな?」

セシリア

「い、いえ、多分気のせいでは無いと思いますわ…。私もそう見えましたから」

千冬

「…いや躊躇したのではない。直前の一夏の表情は間違いなく本気で攻撃しようとしていた。だから隙を作ろうとブリンク・イグニッションをしたのだ」

「わ、私もそう思います。……でもだとしたら…あのほんの一瞬は一体?」

「それもあるけどなんか一夏が攻撃された時も変だったわね…」

楯無

「ええ。まるであの時だけ時間がゆっくりだったみたい…」

火影

「時間がゆっくり………まさか」

海之

「…お前もそう思うか火影」

「ふたり共、何が起こったかわかったの?」

「ふっふ~ん♪まぁ説明はふたりが戻ってきてからするよ!オッケーふたり共!もう十分だよ、戻って来てー!」

 

 

…………

 

真耶

「はいふたり共、お疲れ様です」

一夏

「あ、ありがとうございます」

クロエ

「ありがとうございます」

「大丈夫か一夏?」

セシリア

「お怪我などしておりません?」

一夏

「ああ大丈夫だって。しっかし強いなぁクロエ。俺まともに攻撃当てる事も出来なかったよ」

クロエ

「いえ、私も最後の攻撃しか決定打になりませんでしたからまだまだです。それに一夏さんの最後の攻撃は危なかったですから」

一夏

「そうなんだよな~、あれさえ決まってたら…」

ラウラ

「あの瞬間何かあったのか一夏?」

一夏

「いやそれが変なんだよ。よく分からねぇんだけど…なんか急に白式の動きが鈍くなった気がしたんだ。そのせいで攻撃する前に斬られてしまったんだ」

千冬

「…白式の動きが鈍くなっただと…?」

シャル

「やっぱりあれ見間違いじゃなかったんだ…。僕達からも見えたよ。一夏の動きが急に止まった様に見えたんだ」

本音

「そーそー。しかもおりむ~変だったよー?クーちゃんの攻撃当たってほんのちょっとした後にドーン!って飛ばされちゃったんだもん」

一夏

「やっぱそうだったのか!?気のせいじゃなかったのか…」

 

多くの者が悩む中、束は満足そうな表情をしていた。

 

「どうやら上手く起動したみたいだね~♪良かった良かった!」

一夏

「…起動って…?」

海之

「…一夏、白式の動きが鈍くなる前に何か違和感が無かったか?お前自身では無い。あの時のあの場所にだ」

一夏

「場所?…………そういや…上手く言えねぇけど…なんと言うか…空気が変わったというか、雰囲気が変わったというか」

「何よそれ?」

一夏

「いやわかんねぇんだって。そして気がついたら…」

「白式の動きが悪くなったって事?」

火影

「…そういう事か」

海之

「どうやら間違いない様だな」

 

火影と海之はわかった様だった。

 

「ふたり共どういう事だ?」

火影

「一夏、お前があの時受けたのはおそらく…あるデビルブレイカーの力だ」

「デビルブレイカー?ガーベラやパンチラインみたいな?」

海之

「そうだ。最もそれはラウラやセシリアの様な攻撃型でも、鈴や一夏、箒の様な能力を高めるものでも無いが」

千冬

「一体どういう」

「はいはーいそこんとこの説明は束さんとクーちゃんにお任せあれ~♪確かにあれはひーくんみーくんご想像の通り、デビルブレイカ―「ラグタイム」を参考にしたものだよ!」

一夏

「……ラグタイム?」

火影

「やっぱそうなんですね。…でもさっき腕に無かったですけど?それに参考って?」

「うん、カリギュラを付けたために付けられなかったんだ!だから仕組みだけもらったんだよ♪だから参考ってわけ」

海之

「…しかし良く再現できましたね」

「結構考えたけどね~♪最初見た時に是非これはやってみたいって思ってさ!丁度クーちゃんの件もあったから試験的に入れてみたんだ~!」

千冬

「…そろそろ説明してくれると助かるんだが?」

「あ~そうだったメンゴメンゴ♪で、さっきクーちゃんが使ったものこそ!ベアトリスの単一特殊能力「蝸牛」だよ!」

本音

「…カタツムリ~?」

楯無

「ラグタイム…そして蝸牛。タイムラグって言葉は聞いたことあるけど……ってまさか!?」

「ど、どうしたのお姉ちゃん?」

 

 

「かっちゃんは気付いた様だね!じゃあまずラグタイムから説明すると、簡単に言えば時間を遅らせる事ができるデビルブレイカ―だよ~ん♪」

 

 

火影・海之・クロエ以外

「「「…………」」」

 

その正体を知っている三人以外はその言葉に暫し沈黙していたが、

 

千冬以外

「「「え――――――――!!」」」

千冬

「時間を…遅らせるだと…!?」

本音

「びっくり~!!」

セシリア

「そ、そんな事が本当に可能なのですか!?」

「だってたった今見たじゃん皆♪」

シャル

「た、確かにそうですけど…」

ラウラ

「そんな兵器が存在するとは…」

火影

「俺もこれは再現できねぇかと思ってたんだが…どうやったんですか束さん」

海之

「それは俺も聞きたいですね」

 

火影と海之は束に訪ねる。

 

「りょ~か~い♪…まぁといってもラグタイムを完全に再現する事は束さんにも不可能だったんだ。だって設計図によるとあれは本来生き物にも対応するものだからね~」

「生き物って…人や動物にって事ですか!?」

「そ。特殊な力を使って人や動物の動作や時間の感覚を超スローモーションにさせるんだ♪長かったら10秒位スローにさせられるんだよ~」

「そ、そんな事ができるなんて…とても信じられない…」

「わかるよ~!束さんもひーくん達から魔力の事」ゴンッ!「!!~~~」

 

束は千冬の拳骨を受けていた。

 

一夏

「ど、どうしたんすか?」

千冬

「なんでもない。なぁ束?」

「う、うんそうだね~……。とまぁそこの部分は流石の束さんにもできなかったんだよね~。でもそこんとこなんとかして造れないかなぁって思って~。だってこんな面白そうな物絶対造ってみたいじゃん♪そしてやがて生き物相手じゃなくてもIS相手ならなんとかなるんじゃないか?っていう結論に達した訳なのだよ♪」

楯無

「それでちゃんとできてしまったんですね…」

「あったりー!ISやメカの動きを遅くさせるっていう束さん特製ウィルスプログラムを造ったんだ♪ほんでこのプログラムを仕込んだ特殊な波をベアトリスの半径数メートルの範囲で放出・拡散するってワケ♪で範囲内に入ったら」

セシリア

「先程の一夏さんみたいになると…」

「そゆこと~♪システムにウィルスが浸食すると通常の約1/180程度の激ノロになっちゃうんだ♪180キロのスピードで走ってたのがたったの1キロ程度にまで落っこちちゃったり、3分位のペースで時計の針が1秒だけしか動かなかったりするよ♪」

千冬

「1/180だと…!?」

一夏

「どおりでこっちが攻撃する前にされるわけだ…」

「…あの…ひとつ聞きたいんですけど、そのウィルスの効果はどれ位続くんですか?」

クロエ

「はい。ISなら約5秒程。機械の場合はどれだけ複雑かにもよりますが単純なものなら5分位、スーパーコンピュータでも約3分は可能と思います」

「5分も!?」

ラウラ

「ISなら5秒…。短い様だが戦いでは決して油断できんな…」

真耶

「あ、あの~もうひとつ聞いて良いですか?仮にウイルスに感染したとして…直す方法はあるんでしょうか…?」

クロエ

「それでしたら大丈夫です。このウィルスは一定時間を超えると自然消滅する様にできています。自身の痕跡を消すために発生した異常も全て修正して」

「即行で仕事をこなして、迷惑をかけない様後始末もしっかりして最後はクールに去るってわけさ!良い子だね~♪」

火影・海之・千冬以外

「「「どこが(ですか)!?」」」

「あははは♪まぁ唯一の難点としては連発できないとこだけどね~」

千冬

「勘弁してくれ、そんなものを絶え間なくされたら対処できるものがいなくなる」

シャル

「蝸牛を避ける方法はあるんですか?」

火影

「あるさ。一夏が感じた違和感を感じたら素早く範囲外に出りゃいいんだよ。効き目が出るまで0.4秒位の差があるからな」

「か、簡単に言ってくれちゃって…」

「あちゃーそこを知ってたか~。流石元持ち主…って何でも無いからね!ちーちゃんグー解除!」

千冬

「…残念」

「シド!」

 

~~~~~~

久々に全員で笑った。

 

海之

「…まぁシステムについては良くわかりました。流石ですね、束さん」

「いやいや~!束さんも楽しかったし、お礼はギャリくんのご飯で良いよ♪」

火影

「はは、知らせておきます」

 

すると一夏がクロエに質問した。

 

一夏

「…なぁクロエ、ひとつ聞いて良いか?お前さっきVR訓練で火影達とも戦ってみてたんだろ?結果どうだった?」

クロエ

「はい。兄さん達の仮想戦闘データは現時点での強さを大凡に測ってみたものですが…これまで全戦全敗、つい先日やっと一撃を入れられた感じです。30%に抑えたデータですが」

「30%でも一撃だけ…」

「それでも入れられたのか。凄いな」

一夏

「……」

(…じゃあクロエに一撃入れるのがやっと、まぁ結果的には失敗したから無効か。俺はまだまだ、って事か……)

千冬

「やれやれ、またとんでもないものを造りおって…。そもそもクロエはお前といるのだから頻繁に戦う事も無かろうに…」

 

すると千冬の言葉を聞いた束は妙な事を言い出した。

 

「ああそれだったら問題ないよ。クーちゃんこれから暫く皆と一緒だから~♪」

クロエ

「……」

一夏

「……へ?」

火影

「…それどういう事ですか?」

「ハイこれー」

 

そう言って束はひとつの封筒を千冬に渡す。

 

千冬

「何だこれは?」

「見てくれたらわかる!」

 

そう言って千冬は封を開け、中身を取り出して見てみる。

 

千冬

「…………何?」

 

千冬はそれを見て静かに驚いた。火影や海之達も千冬から受け取って見てみる。それにはこう書かれていた。

 

 

「IS学園 転入学願書」 入学希望者名:シエラ・シュヴァイツァー

 

 

海之

「…このシエラ・シュヴァイツァーという名前…まさか」

クロエ

「はい。クロエ・クロニクル改め、シエラ・シュヴァイツァー。宜しくお願いします。皆さん」

「てな訳で宜しく~♪」

千冬

「……ハァ」

火影

「…色々ありすぎだな」

本音

「わ~い♪宜しくねクーちゃん…じゃなかった、シーちゃん!」

それ以外の全員

「「「え―――――――――――!!」」」

 

まだ昼過ぎだというのに今日だけで何回目かのため息と絶叫がアリーナに響いた…。




※クロエ専用機「ベアトリス」

名前はダンテの元ネタ、ダンテ・アリギエーリの初恋の相手、ベアトリーチェ・ポルティナーリからもらいました。

次回は2月9日(日)の予定です。


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Mission130 兎の娘と黒兎の少女

クロエ専用機「ベアトリス」の能力紹介も兼ね、クロエは一夏と模擬戦を行う事になった。大鎌「オシリス」、オシリスから変形するBIT兵器「アキュラ」、ガトリング銃「カリギュラ」、無尽翼「セラフィックソアー」と、次々繰り出される魔具に一夏は手こずるが一瞬の隙を付いて零落白夜を繰り出そうとする。
……が、その時不思議な事が起こった。突然一夏は自分の白式の動きが鈍くなった様に感じ、その隙を突かれて逆に攻撃を受けてしまう。一夏含め戸惑っている皆に束とクロエはデビルブレイカ―「ラグタイム」を参考に造ったベアトリスの単一特殊能力「蝸牛」の効果であり、これを受けるとISや機械をスローにする、と話すのだった。驚く一行に対し、束は更に驚くべき事を言った。

「クーちゃん暫くIS学園生徒になるから宜しく~♪」


IS学園 1-1

 

クロエ

「スメリアから留学生として来ました。シエラ・シュヴァイツァーと申します。宜しくお願い致します」

 

束とクロエの思わぬ訪問から翌日。火影達がいる一組の教壇には偽名のシエラ・シュヴァイツァーとして自己紹介するクロエの姿があった。

 

生徒達

「わ~すっごい美人!」

「なんかお嬢様って感じするわ~。難民だったなんて思えないね~!」

「スメリアって事は火影くんや海之くんと同じって事?夏休みとか一緒に帰れるじゃない!いいなぁ~」

「なんかシエラちゃんって前に臨海学校で会ったクロエちゃんに似てる気がするね~。髪型は違うけど」

「え、そう?ちょっとしか見てないから覚えてないや」

火影

「……まさか、こんな事になるなんてな」

海之

「…全くだ」

一夏

「ああほんとに驚いたぜ…。まさかクロエが転校生として入ってくるなんて想像もしてなかった…」

 

 

…………

 

前日 アリーナにて

 

「…という訳で暫くクーちゃんをこの学園の生徒として入れてほしいんだ♪」

真耶

「で、ですが幾らなんでもそんな急には…」

「大丈夫大丈夫~、必要な書類は全て作成済みだし、ちゃんと変装もしてるし、クーちゃんのこれまでの経歴も造っておいたから♪もちろん全部偽装だけどね。流石に束さんの助手という事は書く訳にはいかないじゃない?おまけにクーちゃんは臨海学校の時に皆に会ってるし」

千冬

「当たり前だ。そんな事したらどんな事になるかわかったものじゃない。……偽名はシエラ・シュヴァイツァー。国籍はスメリアか。まぁあの国は難民の国でもあるから設定するとすれば妥当な所か。…この住所が空白なのは?」

「それも考えてあるよ~♪ひーくんみーくん、ふたりの家の住所使わせて~」

「な、何を言うんですか姉さん!そんな勝手な事!」

海之

「………いや、クロエの事を考えればそれが妥当かもしれん」

火影

「俺達の家には住み込みで働いているメイド達、それにニコの様な元難民の奴もいる。それと同じ扱いにすりゃ或いは…」

「そゆ事~♪それにもしバレたとしてもひーくんみーくんが知らんかったふりしてくれたらふたりやふたりの家には迷惑掛からないだろうしさ~♪」

楯無

「な、なんか簡単そうに言ってるけど凄く駄目な事してる気がするのは気のせいかしら…?」

「間違いじゃないと思う…」

一夏

「ははは…それを簡単な感じにしてしまうのがこの人の凄いところだな」

「それはそうと…クロエ、アンタ本当に良いの?束さんと離れる事になっても」

シャル

「う、うん。そうだね。期限付きっていっても…ほんとに大丈夫?」

 

これまでクロエは束と共に暮らし、行動し、如何なる時も一緒にいた。そんなふたりが離れる事を心配する声も当然と言えば当然かもしれない。

 

クロエ

「……正直なところ全く不安が無い、と言ったら嘘になります。…ですが…私が兄さんや皆さんと共に戦う事が…束様を御守りする事にも繋がりますから」

一夏

「…え?」

セシリア

「…わかりましたわ。篠ノ之博士のためにも、戦いを早く終わらせるために私達と共に戦う、という事ですのね?」

クロエ

「…はい。私の最も大切は何より束様です。…ですが只御側にいるだけでは何もできない。戦いを早く終わらせる事で束様の一刻も早い安心に繋がるのなら、…そう思ったのです」

ラウラ

「………」

「クーちゃん…クーちゃんの様な娘を持って束さんは幸せ者だよ~!ワ―ン!」

 

そう言って束はクロエに抱きつく。

 

火影

「はは…、なんかこう見るとほんとの親子みてぇだな」

本音

「そだね~♪」

「ぐすん…。それでね、クーちゃんからその決意を聞いた時にどうせなら学生生活も経験させてあげたいって思ってさ~、今回入学希望を出した訳なんだ♪」

クロエ

「…本当にいきなりで申し訳ありません…。ですが聞き届けて頂けるなら…宜しくお願い致します」

千冬

「………ハァ、……真耶、休日出勤だ」

真耶

「……仕方ありませんよね」

 

 

…………

 

そんな訳でその後千冬と真耶は必死にクロエの転入手続きに追われる事になった(因みにその横で束はふたりの必死さを見てずっと笑っており、その度に千冬の鉄拳を受けていた)。まぁそのお陰でなんとか翌日には間に合い、こうしてクロエは一組の生徒になったのであった。

 

クロエ

「あとそちらにおられる火影さんと海之さんは私の兄さんです」

生徒

「えー!!」

「何それ!?どういう事!?」

 

生徒達は当然この言葉に落ち着きを失うが、

 

千冬

「やかましい!…シュヴァイツァーがふたりの家のメイドとして働いている内にそういう関係になったのだそうだ。大した理由では無い。無駄な騒ぎを起こすな」

クロエ

「そういう事です」

 

その言葉に生徒達は落ち着くがここでひとりの生徒がある事を言う。

 

生徒

「ねぇ、シエラちゃんってクロエちゃんにもだけど…なんかラウラちゃんに似てない?」

「そういえばそうね~」

ラウラ

「……!」

本音

「ほんとだ~」

一夏

「そういえば確かに良く似てるぜ!」

「ああ、眼帯しているから気付かなかった」

シャル

「僕は最初からそう思ってたよ。髪の色といいそっくりだもん。まぁ性格はク…じゃないシエラちゃんの方が女の子らしいけど」

ラウラ

「…どういう意味だシャル?」

セシリア

「でも本当に良く似てらっしゃいますわ。ラウラさんは何か御存じありませんか?」

ラウラ

「…え、えっと…あの…」

クロエ

「…申し訳ありませんが私とそちらのラウラさんという方は何の繋がりもありません。似ているだけの他人です」

ラウラ

「!……」

 

迷い無きクロエの言葉にラウラは黙ってしまう。

 

生徒

「あそう?まぁ確かに良く似た人がひとり位いてもおかしくないか」

「そうね、ごめんねシエラちゃん、ラウラちゃん」

クロエ

「気になさらないで下さい」

ラウラ

「……」

 

生徒達は皆それ以上の追及を止めたようだ。

 

一夏

「まぁ確かに似てる人がひとり位いてもおかしくねぇか」

火影・海之

「「………」」

千冬

「……さぁもう自己紹介も良いだろう。シュヴァイツァーは火影の隣の席に着け。授業を始める!」

 

自己紹介は終わり今日の授業は始まったのであった…。

 

 

…………

 

その日の授業も無事終わり、放課後になった。

心配だったのはクロエのベアトリスだった。授業中その事で案の定生徒達から何故アリギエルやウェルギエルと似ているのか?、と疑問の声が上がったが、

 

「火影くん達の妹なら似てるのも当然か~」

「ISまで兄妹なんて羨ましい~」

 

と、生徒達が勝手に勘違いしてくれたために幸い大袈裟にはならずに済んだ。最も「蝸牛」だけは秘密にしていたのだが。

 

「無事に入れて良かったねク、あ、御免、シエラちゃんだったね」

「でも折角なら私のクラスに来てほしかったなぁ。私と簪以外全員一組なんだもん。話し相手がほしいわ~」

クロエ

「それは申し訳ありません。ですが…私としては兄さん達と一緒のクラスで良かったです」

「兄さんか…。そういえば火影と海之は私達よりひとつ年上だからそういう意味でも合っているな」

火影

「ん?ああそういや皆は知らなかったな。シエラは俺や海之と同いだぜ?」

セシリア

「私達より年上でしたの?」

シャル

「知らなかった!御免ね、シエラちゃんなんて呼んじゃって」

クロエ

「気になさらないでください。私の呼び方もシエラで良いですよ」

一夏

「そう言ってくれて助かるぜ」

本音

「改めて宜しくねシーちゃん~」

「本音の場合は年上とか関係ないわね。…それにしても今後は名前を呼ぶときは気を付けたほうが良さそうね」

一夏

「はは。…あれ、そういやラウラは?」

「…そう言えば先程から姿が見えんな」

「あの……なんか気のせいかな?ラウラ…昨日から少し様子おかしくない?」

シャル

「あ、それは僕も思ってた。部屋でも何時より静かだったんだよね」

セシリア

「何かあったんでしょうか…?」

火影・海之・クロエ

「「「………」」」

 

とその時、外からラウラが戻ってきた。

 

「おおラウラ」

本音

「どこに行ってたの~?」

ラウラ

「あ、ああ。ちょっと…外の空気を吸いに行っていた。落ち着きたかったから。……あのク、…じゃないシエラさん。…少し良いでしょうか…?」

クロエ

「………はい。構いませんよ」

 

クロエは少し考える様なそぶりを見せたが了承した。

 

海之

「……ラウラ、俺達も行った方が良いか?」

ラウラ

「…いや、大丈夫だ海之。…皆も来ないでくれ」

クロエ

「では皆さん、また…」

 

………そう言ってラウラはクロエを連れて出て行った。

 

本音

「ラウランやっぱりなんかへ~ん」

一夏

「追いかけてみっか?」

「う、ううん止めとこうよ。良くわかんないけど…なんか邪魔しちゃいけない様な感じだったし…」

セシリア

「…ええ、そうですわね」

「ねぇ火影、あのふたりって…ホントにお互い知らないのかな?」

火影

「……さぁな」

海之

「……」

 

火影と海之はラウラとクロエが出て行った入口を見つめていた…。

 

 

…………

 

IS学園 屋上

 

ラウラとクロエは屋上に来ていた。他に生徒は誰もおらず、ふたり並んで座り場に腰を預けている。

 

クロエ

「…ここなら名前でも良いでしょう。……それで、私に何か御用ですか?ラウラさん」

ラウラ

「……」

 

クロエはラウラに質問するがラウラは返さない。

 

クロエ

「…どうしました?何か言ってくれなければわかりません」

ラウラ

「……え、…えっと…」

 

クロエは再度聞くがやはりラウラは返さない。と言うよりなんと言ったら良いのか迷っている様にも見える。

 

クロエ

「…何も御用が無いなら失礼します」

 

そう言ってクロエは立ち上がろうとする。すると、

 

ラウラ

「ま、待って!待って下さい!ちゃんと…話します」

クロエ

「……」

 

ラウラは慌てて呼び止め、クロエは再び座り直す。そして漸くラウラが話し始める。

 

ラウラ

「あ…あの…クロエさん…。お聞きしたい事があるのです」

クロエ

「…なんでしょうか?」

ラウラ

「…あの…変な事をお聞きする様ですが、貴女は…貴女はもしかして……あの…」

クロエ

「……私がなんですか?」

ラウラ

「……」

 

聞きにくい事なのかラウラは言葉が続かない。するとクロエが口を開いた。

 

 

クロエ

「…私が貴女と同じかどうか、という事でしょうか?」

 

 

ラウラ

「!!」

 

クロエのその言葉にラウラは激しく動揺する。

 

クロエ

「…その慌てぶり、やはりその事みたいですね」

ラウラ

「……やっぱり…気付いていたのですね」

クロエ

「ええ…。臨海学校とやらの時に貴女を見た時からわかっていましたよ。…ラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツ政府によって兵士として生みだされた人造生命体。そして私が…貴女の失敗作だと」

ラウラ

「な!?し、失敗作ってそんな!!」

クロエ

「違うのですか?」

ラウラ

「わ、私はそんな事全く!!」

クロエ

「貴女はそう思っていないかもしれません。ですが少なくとも…ドイツ政府の人間は私をそうとしか見ていないでしょう。私が貴女の、「ラウラ・ボーデヴィッヒの出来損ない」「ラウラ・ボーデヴィッヒの失敗作」としかね」

ラウラ

「………」

 

話の内容にラウラは言葉が出ない。

 

クロエ

「…ところで、貴女のその左目の眼帯…下は越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)ですか?」

ラウラ

「!な、何故それを!?」

クロエ

「…私にも同じ物があったからですよ。最も私は貴女の様に左目だけでなく、両の目でしたが」

ラウラ

「両目!?し、しかし今の貴女の目には何も…!?」

クロエ

「ええ。束様に助けて頂き、共に暮らす様になってから束様に取り除いて頂いたんです。あれは私にとって忌々しい、そして無力の象徴ですから」

ラウラ

「…忌々しい」

クロエ

「成りきれなかった私には不要の長物ですから」

ラウラ

「……」

 

クロエの言葉にラウラは再び黙っていたが気を取り戻して訪ねる。

 

ラウラ

「…あの…ひとつ聞いて良いですか?」

クロエ

「何でしょうか。答えられる事だと良いのですが」

ラウラ

「…貴女は…臨海学校の時から私の事に気づいていた、と言いましたが…、それでしたら、どうして今まで」

 

ラウラはどうして今まで自分に訪ねてくれなかったのか?と聞こうと思った。

 

クロエ

「……随分酷い事を聞かれるんですね」

ラウラ

「……え?」

 

クロエは笑みを浮かべて答えるがその声は酷く冷めていた。

 

クロエ

「聞けると思いますか?失敗作として廃棄され見捨てられた私が、完成品である貴女に」

ラウラ

「…私が…完成品…」

クロエ

「ええ。貴女は私や…私の姉妹達がなろうと思ってなれなかった。…いえ違いますね。正確には、させられようとしてなれなかった、の方が正しいでしょうか。だからなれた貴女は完成品という訳です。…多くの姉妹の犠牲によって生まれた、ね」

ラウラ

「!!犠牲……」

クロエ

「ああでも安心してください。だからといって私は貴女を恨んではいませんよ。知らない貴女には何の罪もありませんし、貴女も私も、そして姉妹たちも望んでそうなりたかった訳でもありませんでしょうから。たまたまこの世に生を受けた時からそうなる様運命づけられていただけの事です。心無い者たちの手によって。生まれ方も人本来のものではありませんでしたが」

ラウラ

「……」

 

ラウラは何も話さなかった。いや話せなかった。自分を生みだす迄にクロエだけでは無い多くの姉妹たちの犠牲があったという事実を再認識した事で。ラウラ自身には罪は無い。クロエも自分を恨んでいないと言った。しかしラウラからすればそんな簡単に済む様な話ではない。

 

クロエ

「…それで?」

ラウラ

「……え?」

クロエ

「私の正体についてお聞きしたかった、という事は分かりました。…それで貴女はどうするおつもりですか?」

ラウラ

「…どうって?」

クロエ

「私を抹殺でもするおつもりですか?自分の失敗作である私を」

ラウラ

「!!そ、そんな事考えていません!!」

 

質問の内容にラウラは驚くが自分はそんなつもりは無いと答える。

 

クロエ

「そうですか。……では軍や国からそういう命令が来ればどうしますか?」

ラウラ

「…え?」

クロエ

「ドイツ政府からすれば私は歴史から処分してしまいたい汚点。そんな私が仮にこうして生きている事が分かれば政府の人間は困るでしょう。もしかしたら抹殺命令が来るかもしれません。その時貴女はどうしますか?軍人として国に忠を尽くしますか?それとも反逆しますか?ラウラ・ボーデヴィッヒである貴女が」

ラウラ

「そ……それは……」

 

ラウラは答えられなかった。もし仮に国からそういった命令が来た時、軍人としては従うべきなのだろう。しかしラウラにとってクロエは自分とある意味同じ。年は違うが双子、姉の様な存在である。昔の彼女からすれば任務優先だったかもしれない。今のラウラにとってはそんな簡単に割り切れる問題では決して無かった。海之や火影、多くの者達と出会い、好きになるという感情を知った今となっては…。

 

クロエ

「……失礼しました。下品な質問でしたね。どうか許して下さい」

ラウラ

「あ、謝らないでください!貴女が謝る事なんてありません!…それと、先程の質問ですが…申し訳ありません、まだ…答えは出せません。私は…シュヴァルツェ・ハーゼの隊長として多くの部下をまとめる立場ですから…」

クロエ

「………」

ラウラ

「ですが、ですがこれだけははっきり言えます!私は…貴女を自分の意志で傷つける様な事はしません!それは絶対に絶対です!」

クロエ

「………」

 

ラウラのしっかりとした言葉にクロエは、

 

クロエ

「………わかりました。貴女を信じます」

ラウラ

「あ、ありがとうございます!」

 

久々にラウラの顔に笑顔が出た。

 

クロエ

「そんなに喜ばれなくても良いですよ。…それで、貴女の聞きたい事はこれで終わりですか?」

ラウラ

「え?…あ…はい。…とりあえず、ですが…」

クロエ

「そうですか。……では、今度は私から貴女にひとつ質問良いですか?」

ラウラ

「え?は、はい!なんでしょうか?」

 

ラウラはクロエの言葉に驚くが交流のきっかけができた事を嬉しく思った。

 

クロエ

「全く話は変わってしまいますが…貴女は海之兄さんと火影兄さんを自身の家族と思われている様ですね?海之兄さんが貴女の亭主、火影兄さんが弟と」

ラウラ

「えっ?は、はい。そうです。…海之は嫁ですが」

クロエ

「…その事をおふたりは?」

ラウラ

「は、はい。海之も火影も…許してくれているかと」

クロエ

「そうですか。………」

 

クロエはラウラの返事を聞くと顎に手をあてて少し考慮する様な仕草を見せる。

 

ラウラ

「…あの…何か…?」

クロエ

「…いえ、ちょっと考えていまして。…火影兄さんと海之兄さんは先日私を妹と、家族と認めて下さいました。私にとっての一番は勿論束様ですが、おふたりも私にとってもう大切な方です」

ラウラ

「は、はい」

クロエ

「…さて、ここでややこしいのですが…、貴女にとっても私にとってもおふたりが家族なら…、貴方と私の関係は…どうなるのでしょうね」

ラウラ

「え……あ」

 

ラウラは気付いた。自分にとってクロエは云わば姉。海之は自分の嫁で火影は弟である。しかしクロエにとって海之と火影は兄。そして彼女にとって自分は…。

 

クロエ

「ああでも勘違いしないで下さい。私にとって貴女は家族ではありませんから」

ラウラ

「……え」

 

ラウラはクロエの言葉に一瞬言葉を失った。

 

クロエ

「当然でしょう?貴女と私はこれまでお会いこそした事はあれど交流はおろか、殆ど話した事も無いのですよ?そんな私達がいきなり家族同然の様な関係を築く等難しいとは思いませんか?貴女は私の事をどうお思いかわかりませんが、私にとっては貴女はまだ一クラスメートでしかありません」

ラウラ

「……」

クロエ

「友達になるにも、今後家族になる可能性があるとしても、先ずはお互いの理解を深める事です。そうしなければ何も始まりません」

ラウラ

「……そう、ですね」

 

クロエの言葉にラウラはやや落ち込むが、

 

クロエ

「ですが貴女が兄さん達を家族と思い、兄さん達もそれを認めているならば私はそれに対して何も申したりはしません。貴女と兄さん達の意志を尊重します。…ですから貴女も兄さん達と私の関係に口を挟む様な事はしないでくださいね?」

ラウラ

「は、はい。勿論です。ありがとうございます!」

 

ラウラはしっかり約束した。

 

クロエ

「……こちらこそ感謝します。私がお聞きしたかった事はこれで終わりです。お時間取らせてしまい、申し訳ありません」

ラウラ

「い、いえ!とんでもありません」

クロエ

「では今日はこれ位にしましょう。…これから宜しくお願いしますね。…ラウラさん」

ラウラ

「は、はい。…シエラさん」

 

そしてクロエは屋上を去り、ラウラだけが残った…。

 

 

…………

 

クロエが階段を下りていると、

 

火影

「クロエ」

 

その先に火影と海之がいた。どうやら待っていたらしい。

 

クロエ

「…兄さん」

海之

「…話は終わったのか?」

クロエ

「…はい」

火影

「そうか。……海之、行ってやれ」

海之

「……頼む」

 

そう言って海之は屋上に上って行った。残ったのは火影とクロエだけ。

 

クロエ

「……あの…火影兄さん、私とあの子の事は…?」

火影

「…ああ。以前ラウラとちょっとあった時に海之が調べたんだ。俺はあいつに聞いたんだがな」

クロエ

「そうですか…」

 

クロエはなんと言ったら良いのか困っている様だ。すると、

 

…ポン

 

クロエ

「…!」

 

火影は自身の手をクロエの肩に優しく当てた。

 

火影

「急ぐ必要なんてねぇさ、時間はたっぷりあんだ。あれ程憎しみあってた俺とあいつだって今こうして一緒に過ごしてんだぜ?お前らができない道理は無ぇよ」

 

火影は安心させる様に笑って言った。

 

クロエ

「…ありがとうございます。…火影兄さん」

 

クロエは安心したのか微笑んで返事した。

 

 

…………

 

その頃、屋上にひとり残ったラウラは疲れからかため息をついていた。

 

ラウラ

「……はぁ」

 

ガチャッ

 

ラウラ

「!……海之」

海之

「……」

 

扉を開けたのは上ってきた海之だった。海之はラウラの隣に座る。

 

海之

「……」

ラウラ

「……」

海之

「少しは話できたのか?」

ラウラ

「……うん」

海之

「……そうか」

ラウラ

「……」

海之

「……」

ラウラ

「海之。…わ、私は」

 

…ポン

 

ラウラ

「え…」

 

海之もまた、自身の手をラウラの肩に乗せた。

 

海之

「急ぐ必要等無い。これからだ、お前達は」

ラウラ

「……」

 

…ポフ

 

ラウラは自分の頭を海之の肩に預けた。

 

海之

「…どうした?」

ラウラ

「…御免。…少しだけ…少しだけこのままで…いさせてくれ…」

海之

「……」

 

海之は何も言わず支える。それがありがたかったのかラウラは目を閉じ、安心した表情をしていた。




今後台詞文ではクロエは公の場では「シエラ」、火影達しかいない場では「クロエ」と使い分けていきます。

※次回は15日(土)、少し変わった番外編を投稿予定です。今後は毎週土曜に投稿していきます。日曜に続けての投稿はその時その時になる予定です。


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Extramission09 異次元での女子会

今回はこれまでとはちょっと違う特別編です。たまにはこんなのも良いかなと思って書いてみました。時系列的にはクロエが転校してきて間もなくという感じです。因みに男子組は出てきません。もしよければご覧ください。

※お気に入りが400に到達致しました。ありがとうございます!
また、次回は22日(土)の予定です。遅くなってすみません。


ここはとある場所。……そこに彼女達はいた。

 

「………なぁ、なんで私達はこんな場所にいるんだ?」

セシリア

「わかりませんわ…。しかも寝間着姿でなんて…」

「私、さっき寝ようって思って寝床に入ってたのよ?」

シャル

「僕も…。もしかしてこれって夢なのかな?」

ラウラ

「…しかし夢であるとしても何故私達全員揃っているのだろう?……しかも教官や山田先生まで」

千冬

「…知るか」

真耶

「私は部屋で読書していたのですが寝落ちしてしまったんでしょうか…」

「私も部屋でアニメ見てたんですけど…急に凄く眠くなったのは覚えてます」

楯無

「…あとなんでこんな場所なのかしら?畳の大広間、ご丁寧に人数分のお布団まで並べられて。まるで旅館みたい」

 

楯無が言ったように今彼女達がいるのはまるで旅館の大広間の様な和室。人数分の布団が並べられているだけでなく大きい座卓や冷蔵庫まであった。しかし部屋の入口らしき場所はどこにも無かった。

 

本音

「なんかそう考えると楽しいね~♪」

「もう本音ちゃんたら…、こんな時まで…」

「で、でも本当にどこなんでしょうここは。入口も見当たりませんし…」

 

部屋には虚と普段あまり会わない蘭までいた。そして、

 

千冬

「そして何故こいつまでいるのかもな…」

「あ~ちーちゃんヒドーい!私も立派な可憐なヒロインのひとりだよ~!」

クロエ

「…束様、失礼ながら束様に「可憐」という言葉は似合わないかと」

「…クーちゃん何気にもっとヒドい」

 

そこには束までいた。しかし本当に驚く事がまだあった。

 

「まぁでも束さんはまだわかりますよ。重要人物ですからね。……ただ」

セシリア

「…ええ…どうして」

「どうして…貴女までいるんですか…」

 

そう言う箒達の視線の先には、

 

 

箒・セシリア・鈴・シャル・ラウラ・簪・本音

「「「レオナさん!!」」」

 

 

そこにいたのは火影・海之の叔母であり、スメリアにいる筈のレオナだった。

 

レオナ

「ハッハッハ!いや私にもなんでかわからんのだ。目が覚めたらここにいたからな。しかし君達にまた会えて嬉しいぞ!」

「やっほ~レオナっち~♪」

クロエ

「ご無沙汰しています。レオナ様」

レオナ

「束もクロエも久々だな!…そういえば初対面の方もいたな。初めまして。恥ずかしながらESC代表を勤めさせてもらっているレオナ・エヴァンスです。宜しく」

千冬

「!……では貴女が海之と火影の。こちらこそ初めまして、IS学園の教諭で担任の織斑千冬です。こちらは同じく教諭で副担任の山田真耶です」

真耶

「ややや、山田です!すす、凄い方だったんですね!」

楯無

「IS学園二年生、更識楯無です。宜しくお願い致します」

「三年の布仏虚です。初めまして」

「ごご、五反田蘭です!宜しくお願いします!」

 

皆それぞれレオナに挨拶した。

 

レオナ

「そんなに畏まらなくて良いさ。伝説のブリュンヒルデや更識家当主までおられるとは。お会いできて光栄だ」

千冬

「そんなに大したものではありませんよ。レオナ殿は束と随分親しいのですね」

「そだよ~♪前にひーくんみーくんのお家に行った時に会ってから仲良しになったんだ♪…ああそういえばこの部屋だけど大丈夫だと思うよ。さっきこんなお手紙見つけたんだ~♪」

真耶

「手紙?…えっと…」

 

真耶は束から手紙を受け取ると読み上げた。

 

 

「前略 皆さんへ

今回は普段ストーリー、特に同じMissionでは絶対に揃わないヒロインの皆さんが揃った記念すべき回です!男子組はいないので女子会気分で何時も以上に本音をぶっちゃけちゃって下さい!ここであった出来事や喋った内容はストーリーには関係しませんし、起きたら全部キレイさっぱり忘れているのでご安心ください!それでは皆さんごゆっくり!」

 

 

全員

「「「…………」」」

「ね~?」

本音

「わ~い!皆で女子会しよ~!」

「…ほんとアンタはどこにいても変わんないのね」

「ま、まぁまぁ。ここがどういう所かもわかったし、誰が用意したのもわかったし、とりあえず怪しい場所じゃないだけ良かったじゃない?」

千冬

「……ハァ、全く。…ま、そういう事なら勝手に使わせてもらうか。どうせ今回だけらしいからな」…ガチャ「…ほぅ、酒もあるとは気が利く。…どうだ?お前達も飲むか?」

「千冬さん!私達は未成年ですよ!」

千冬

「どうせ飲んでも誰にもばれはせんだろう?」

セシリア

「そそ、そういう問題じゃありません!」

千冬

「なんだつまらん。束、真耶。お前達は飲むだろう?」

「もち~♪レオナっちも飲も~」

レオナ

「おう!」

真耶

「…拒否権はなさそうですね」

楯無

「仕方ないわね。先生の言う通り慌てても始まらないし、こんな機会だから楽しみましょ!」

「楯無さんまで…。ハァ、ほんとにタフな人達だ」

「お嬢様はこういう事は大好きですからね」

クロエ

「束様もこんな事は久しぶりですからいつも以上に嬉しそうです」

シャル

「あはは。…でも僕もちょっと嬉しいかな。小学生のお泊り会みたいじゃない?こういうのやってみたかったんだ」

セシリア

「ふふっ、それなら私もちょっと興味ございますわ」

「わ、私も嬉しいです。皆さんともっとお話したいと思ってましたし。一夏さん達がおられないのは少し寂しいですが」

ラウラ

「まぁあいつらがいないこんな時こそ本音で語り合える、というのも一理あるか」

「郷に入っては郷に従えってやつよ♪」

 

こうして異次元?での女子会はスタートした。

 

 

…………

 

楯無

「じゃあレオナさんはまだ独身なんですか?そんなにおキレイなのに」

レオナ

「ハッハッハ!お世辞でもそう言ってもらえると嬉しいねぇ。一応求婚してくる男もいるし見合いも進められるが最近の男は皆大したこと無い!なんというか気合が足りん気合が!」

千冬

「貴女とは気が合いそうですねレオナ殿。全く同感です。女と男の力の関係性が逆転した事もありますが…今と違って昔の男はもう少しマシだったものです」

「それってみーくんみたいな~?」

千冬

「海之か?…そうだな、あいつ位ならまだ…って、レオナ殿の前で何を言わせるんだお前は!!」

レオナ

「ほぉほぉ、ブリュンヒルデにそう思われるとはみー坊もやるねぇ~♪」

千冬

「レ、レオナ殿も冗談を言われては困ります!」

束・レオナ

「「あはははは♪」」

真耶

「…凄い。先輩が弄ばれている…」

 

大人組(+楯無)は随分盛り上がっている様だった。

 

「…なんか凄く盛り上がっているな向こうは」

クロエ

「ええ。特に束様とレオナ様のおふたりですね」

「う、うん…。それになんでお姉ちゃんいるの?」

本音

「わかんな~い。ラムネ持って最初から参加してるよ~?」

セシリア

「…何故でしょう、不思議と違和感がありませんわ」

「全くお嬢様…」

シャル

「あの中に入る勇気はなかなか無いね。織斑先生、束さん、楯無先輩。更にレオナさんまでいるんだもん」

「山田先生大変そうですね…」

「まぁ向こうは向こうで盛り上がってるし、こっちも適当に流してましょ。…でどうする?こんな機会だし色々話す?」

ラウラ

「そうだな。臨海学校の時みたいにやるのもいいかもしれんな」

 

すると聞き耳を立てていたのかレオナがこっちにやってきた。そして、

 

レオナ

「なんだなんだ恋バナかい?だったら是非聞かせてもらいたいな!」

少女達

「「「…えっ!?」」」

 

突然の質問にうろたえる少女達。

 

レオナ

「人の恋バナは良い酒のあてだからな♪」

「なになに~?私も混ぜて~!」

千冬

「…ふむ、臨海学校の時も聞いたし、今の進行状況について聞いてみようか」

真耶

「み、皆さんそんないきなり……ま、まぁ私も興味ありますけど…」

 

立て続けに大人組が押し寄せてきた。

 

楯無

「私は一夏くんと色々進展しましたよ~♪」

レオナ

「ほぉ~、楯無ちゃんは一夏くんか!色々とはどんな風にだい?」

楯無

「えっとですね~」

「楯無さん!変な事言わないでください!」

セシリア

「そ、そうですわ!レオナさん冗談ですから!」

「じょ、冗談なんですね。…良かった…」

楯無

「え~残念だな~」

「もうお姉ちゃん!…レオナさん、お姉ちゃんは一夏くんのコーチをしてくれたりしてるんです」

レオナ

「へ~そうなのかい。しかし楯無ちゃんは箒ちゃんやセシリアちゃんより随分積極的だね~。なんかきっかけあったのかい?」

楯無

「それはですね~。前にキャノンボール・ファーストで一夏くん凄くかっこよかったからです~♪」

「…そうですね。確かにあの時の一夏は今まで以上に…男らしかった」

セシリア

「ええ。立派なナイトでしたわ一夏さん…」

「…私も見たかったです。一夏さんの素敵な姿」

千冬

「まぁ確かにあいつにしてはよくやったな」

真耶

「素直じゃないですね先輩」

「いっくんもモテモテだね~」

真耶

「…でも学園祭の時はちょっとひやっとしましたけどね。一夏くんが襲われて…白式も奪われそうになりましたし」

「一夏さんが!?」

ラウラ

「心配するな蘭。疲れが激しかったが一夏は大丈夫だった。火影が助け出してくれた」

「…寧ろ大変だったのは火影くんの方だったよね」

楯無

「そうね…。あれは私も流石に驚いたわ」

本音

「…ねぇ皆~、あの時ひかりん何があったの~?どうせここの話は忘れるんだから教えてよ~?」

シャル

「そういえば本音は知らなかったんだっけ。……うん、あのね。あの時火影、僕達を守るために、自分の腕を…切断したんだ」

「…え!?」

本音

「ひ、ひかりんが!?」

レオナ

「…その話詳しく聞かせてくれるかい?」

 

本音と蘭は凄く驚き、レオナは何時になく真剣な表情をしている。

 

千冬

「私がお話します。…学園祭が行われていた時、学園が敵の襲撃を受けたのです。何とか撃退には成功したのですが、その時敵が逃げる手段としてISのコアを爆弾として利用したんです」

レオナ

「……それで、その爆弾の盾にひー坊は自分の腕を使った…?」

千冬

「はい。自分が囮となってこいつらから遠ざけたんです。最後は自分の左腕を切り落として」

本音

「……そんな」

鈴・シャル

「「……」」

クロエ

「火影兄さんの腕はISの機能で無事に治りましたが…、あの時衛星で見ていた束様も私も言葉を失いました」

セシリア

「そういえばあの時の鈴さんとシャルロットさん、特に鈴さんは凄かったですものね…」

「…うん、もの凄く怒りました。今までに無い位。そして…私もシャルも約束させたんです。もう二度とあんな事しないで。あともうバカな事しない様どこに行くにもついていくって」

シャル

「あんな事されたら…いつか本当にいなくなっちゃう様な気がしたから。でも…僕達が絶対そんな事させない!」

本音

「私もいる!私は皆と違って戦えないけど…普段ずっとひかりんの側にいる!」

「本音ちゃん…」

レオナ

「……鈴ちゃんシャルロットちゃん、あと本音ちゃんも。あのバカタレがもしまた妙な事やったら…半殺しにしてやってくれ。私が許す」

真耶

「は、半殺しって…」

千冬

「私も認める」

鈴・シャル・本音

「「「は、はい!」」」

 

レオナと千冬の迫力に負けて返事をする鈴達であった。

 

「…しかし思えばあれからだな。お前達と火影が急接近したのは」

楯無

「そうよね~、三人共好きって言ってもらえたし~♪」

「ひーくんも罪深いねぇ~。お嫁さん候補を三人も作っちゃうなんてねぇ~♪」

鈴・シャル・本音

「「「……」」」

 

さっきまでの威勢は消え、恥ずかしさで黙る鈴達であった。

 

レオナ

「ハッハッハ!頑張りたまえ!……しかしひー坊がそんなだとみー坊も馬鹿な事しないか心配だねぇ。あいつはひー坊より頭も良いし冷静だけど無茶しがちなとこは全く同じだからね」

「…あっ、そういえば海之さんも確か前に車に引かれそうになった子供を助けたって…。確かハロウィンイベントに来てくれた子が言ってました」

「…うん。逃げちゃった仔犬を追いかけようとして道路に出ちゃった子供を助けたらしいの」

ラウラ

「道路の向こう側から走ってきて子供と仔犬を抱えながらな。私達も聞いて吃驚したよ…」

クロエ

「海之兄さんらしいですね…」

千冬

「…ハァ、全くどいつもこいつも…」

「でもみーくんのそういう所がふたり共好きなんでしょ~?」

「……はい。不謹慎かもしれませんが、海之くんのそんなヒーローらしい所が…好きです」

ラウラ

「家族として誇らしいです」

レオナ

「……家族、か…。あいつらは家族に縁が薄いからそう言ってもらえれば私も嬉しいよ」

「家族と言えばレオナっち~。クーちゃんもふたりの家族になったんだよ~♪」

クロエ

「ちょ、ちょっと束様それは!」

レオナ

「…へ?あいつら浮気でもしたのかい?」

クロエ

「そうじゃありません!」

真耶

「あ、あはは…。レオナさん、クロエさんは火影くんと海之くんに義妹と認められたんです。だから家族っていう事なんですよ」

レオナ

「あ~そういう事なんだね。まぁ良いんじゃないか。家族が増えるの良いことさ♪」

クロエ

「あ、ありがとうございます」

シャル

「さ、流石レオナさん。懐が深いというかなんというか…」

楯無

「本当の家族になるのは一体誰かしらね~♪」

「も、もうお姉ちゃん!いい加減にして!」

「好きといえば蘭。虚さんと弾はどう?うまくやってる~?」

 

今度は虚と蘭の兄である弾の関係の話に。

 

「ちょ、ちょっと鈴さん!」

「ふふ、とてもうまくいってますよ。ハロウィンの時も夜のデートとしゃれこんでましたし」

「あ、あれは火影さんがそうしろって無理に…」

シャル

「確か火影と本音が手伝ってたイベントだよね?」

「そうです。火影さんが気遣ってくれたらしくて。全く虚さんの様な素敵な方があんなバカ兄のどこに惹かれたのか何時も疑問なんです」

本音

「だんだんかわいそ~。お姉ちゃんはだんだんのどこが好きになったの~?」

「そ、それは……良くわからないわね。気が付いたら好きになっていた…かも」

「そういえば学園祭の時には既に親密でしたね」

レオナ

「いいねぇ若いって。……あそうだ束。あと千冬殿も山田先生もだが、好きな男っているのか?」

真耶

「へ!?わわわ私はいませんよ!」

「ちーちゃんはいるよ~」

千冬

「…束、お前いい加減にしないと」

 

するとここでクロエがレオナを援護する。

 

クロエ

「それでは兄さん達と一夏さんの中で、恋人に選ぶとしたら誰が良いですか?」

「…成程。選ぶなら誰かというあくまでも仮定の話だからそれなら答えやすいな」

真耶

「ほ、本当に答えないといけないんですか~?」

セシリア

「私達全員答えたんですから先生方も答えていただかなければ不公平ですわ♪」

 

すると第一に発表したのは、

 

「う~~んとね~~。……いっくんかな?」

箒・セシリア・蘭

「「「!」」」

 

箒達は凄く驚いた顔をしている。

 

楯無

「お~こんなところに意外なライバルが!」

「いやね~。束さんの中ではひーくんみーくんはどっちかって言うと凄く頼れるお兄さん、て感じなんだよね~。そう考えると必然的にいっくんかなって。いっくんとは昔からの付き合いだし~」

 

すると今度は真耶が答える。

 

真耶

「私も………一夏くんでしょうか?」

箒・セシリア・蘭

「「「!!」」」

 

そういわれて3人は更に驚く。

 

真耶

「みみみ皆さん落ち着いて!あくまでもあの子達しかいない場合の例え話です!」

千冬

「…真耶、火影や海之を選ばなかったのは?」

真耶

「火影くんや海之くんは……なんというか……そう、博士と同じでしょうか…?」

レオナ

「束も山田先生もあのふたりをそう感じるんだね…。前にこの子達には話したけどあのふたりって随分長生きしてる様な雰囲気を醸し出すトコあんだよね。なんでだろ、そんな訳ないのにね…」

千冬

「……」

(やはりレオナ殿も知らないんだな…。あいつらの秘密を)

 

火影と海之のふたりが記憶だけならば前世のものも含め100年位以上のものである事をレオナは知らない。

 

「しかしこう見るといっくんモテモテだねぇ♪ちーちゃんも正直に言ったら~?どうせここだけなんだしさ~?」

千冬

「!……うぅ、しかし」

 

千冬はまだ抵抗があるようだ。そんな千冬を後押ししたのは意外なふたりだった。

 

「…先生、正直に言ってください。私達は皆もうわかっていますから。先生が海之くんをどう思っているか。だから言って頂いても驚きません」

ラウラ

「そうです教官。私達は正直に話しました。例えそうであっても、これに関しては私達は負けるつもりは一切ありません。例え相手が教官でも」

 

ふたりは笑っているがその目には言葉の通り絶対に負けないという想いが見られたような気がした。そんなふたりの意思を感じ取った千冬は、

 

千冬

「…………そうだな。…皆正直に話したし私だけ話さないのは情けない。それにこんな私はらしくない」

 

観念したのか話す事に決めた。

 

千冬

「……お前達の言う通りだ。私は海之が好きだ。何時からか……多分臨海学校の時からではないかな。アンジェロ迎撃に向かうあいつに声をかけたし、あいつの守る対象に私も入っていると聞いた時、凄く驚いた。そして…嬉しかった。ちゃんとしたきっかけはその時だ。その後学園祭でも声をかけたし、あいつがファントムに潰された様に見えた時も我ながらひどく焦ってしまった」

真耶

「あの時の先輩の怒り方凄かったですよね…」

千冬

「う、うむ。そして同時に自分が情けないという気持ちもずっと持っていた。あいつや火影やお前達ばかりに戦わせる事に。…だから私はあいつらに願い出た。自分と戦ってくれと」

「じゃあ、先日の夜に来てくれというのは…」

千冬

「ああそうだ。そのためにあいつらを呼んだんだ。結果海之が私と戦ってくれて…そして私はあいつに負けた」

セシリア

「!!織斑先生が!?」

ラウラ

「海之が…教官に勝った…」

「嘘でしょ…って言いたいけど…海之ならあり得るかもって考えてる私はおかしいかな…?」

千冬

「ふふ、構わん。私も驚かなかった。多分火影と戦っても結果は同じだったろう」

レオナ

「ブリュンヒルデの千冬殿にここまで言わせるなんてな…。我が甥ながら全く大した奴らだ」

千冬

「何故こんな事をと聞いてきたふたりに対し、私は言った。大切なものを守るために私も戦いたいんだ、と。そして海之は私にレッド・クイーンを託してくれた。私の戦いに役立ててくれとな」

「レッド・クイーン…海之くんが持っていたあの剣ですね」

シャル

「…でも先生。生徒を守りたいという気持ちはわかりますけど…何故そこまで?」

 

すると千冬はやや表情を暗くしつつ答えた。

 

千冬

「……私の償いでもあるからだ」

「…織斑先生の償い?」

千冬

「…ああ。ただこれに関しては今は待ってくれないか?どうせ忘れるといっても…簡単な話では無くてな。それに聞かせたくない者もいる…」

 

10年前の白騎士事件で千冬こそが白騎士であった事を知るのは本人と束、そして火影と海之のみ。例え夢であると分かっていてもそう簡単に打ち明けられる話ではないらしい。それにここにはあの事件を起こした張本人である束もいる。そして箒も。ふたりのためにも今はまだ伏せておくべきと千冬は思った。

 

(ちーちゃん…10年前の事…。きっと私を想っての事だよね…。……ありがとちーちゃん)

全員

「「「………」」」

 

全員千冬の話を聞いて静かになっていると、

 

 

本音

「ひかりん~、今日の朝ごはんなに~?」

 

 

全員

「「「へ?」」」

本音

「ふにゅ~…ZZZ」

「すーすー」

 

全員見ると本音と蘭が寝落ちしていた。

 

レオナ

「ハッハ…おっとすまんすまん。眠っているのならば大声を出すべきではないな」

楯無

「どうりでさっきから声が聞こえないと思ったら…。しかも本音に至っては夢の中で夢見てるわ」

真耶

「ふふ、きっと話疲れたんでしょうね。運んであげましょう」

「では妹は私が」

クロエ

「夢であっても眠くはなる様ですね。そして目が覚めた時は現実、という事なのでしょう」

「束さんはまだまだいけるよ~♪」

千冬

「休みたい者は勝手に順次休め。……簪、ラウラ。先程の話で納得できたか?」

「……はい。先生が海之くんを好きだって事、はっきり聞けて良かったです。…でも先生、私、決して負けるつもりはありません」

ラウラ

「私もです教官。教官は私の上官ですが…海之に関してはライバルです」

千冬

「……ふふ、面白い。いいだろう、覚悟しておけ」

 

3人は恋の闘志を燃やしていた。

 

「な、なんか今後が凄く大変そうね…」

シャル

「まぁ僕達からしたら助かったけどね。…鈴、火影は渡さないよ♪」

「…上等よ♪」

楯無

「箒ちゃん、セシリアちゃん。一夏くんが欲しければ君達も本気で来なさい♪」

「はい!当然です!」

セシリア

「もちろんですわ!」

 

そんな感じで騒がしい女子会は徐々に幕を閉じていった…。

 

 

…………

 

「「「ZZZ」」」

 

数刻後、騒いでいた皆はひとり、そしてひとりとそれぞれ眠りにつき、起きているのは千冬と束、そしてレオナだけ。そんな彼女達もそろそろ眠りに付こうとしていた。

 

レオナ

「今回は本当に楽しかったよ。あの子達にも束にも、それに千冬殿にも会えて実に有意義な時間だった」

「私も嬉しかったよ~♪正直こんな機会無いって思ってたし~」

千冬

「私も同感です。ただ残念な事にここでの会話は全部忘れてるらしいですが」

レオナ

「そうだな、残念だ。…まぁ良いさ、いつか現実で会う事もあるだろう。……千冬殿、束。これからもあいつらの事、宜しく頼みます」

 

レオナは深々と頭を下げた。

 

千冬

「…レオナ殿、頭を上げてください。…お願いされるまでもありません。火影と海之は…私達が必ず守ります。守られてばかりでは教師の名がすたりますから」

「そ~そ~!任せておいてレオナっち!」

 

千冬と束はレオナに笑顔でそう言った。

 

レオナ

「…ありがとうふたり共。……さて、私ももう休むか。ではふたり共、何れまた会おう」

 

安心したらしいレオナはそう言って寝床に入った。

 

「ふふ、レオナっちやっぱひーくんみーくんが可愛くて仕方ないんだね~。…さ~て~残念だけど何時までも寝ない訳にはいかないし、束さんも」

 

そう言って束も寝ようとすると千冬が声をかける。

 

千冬

「ちょっと待て束。最後にひとつだけ良いか?」

「なに~ちーちゃん?…はっ!もしかして今日の明日でみーくんへの告白を!」

千冬

「茶化すな。…………お前、何か馬鹿な事を考えていないだろうな?」

「……なんでそんな事聞くの~?」

千冬

「単に勘だ。勘違いなら構わん」

「………嫌だな~ち~ちゃん。馬鹿な事は束さんの専売特許でしょ~?心配無用!問題ナッシング!」

 

何時もと変わらない表情でそう答えた。

 

千冬

「…………そうか。すまなかったな」

「ううん、寧ろ心配してくれて嬉しいよ~。ありがとねちーちゃん♪おやすみ~」

千冬

「ああおやすみ。…またな」

「…うん、またね~♪」

 

そう言って束は寝床に入り、千冬も続いて寝床に入る事にした。こうして大騒ぎと妙な予感を残した異次元での女子会は幕を閉じたのであった…。




おまけ

火影と本音の部屋

火影
「おい本音、朝だぜ」
本音
「…うにゅ~、おはよ~…ひかりん~」
火影
「ああおはようさん。…なんか随分楽しそうな表情してたが、良い夢でも見てたのか?」
本音
「…ほえ~?…なんだろ~…覚えてないや~。ああでも楽しい夢は見てた気がする~」
火影
「そいつは良かったな。…ああそういや一度だけ寝言言ってたぜ?なんか「今日の朝ご飯何~?」とか」
本音
「そうなんだ~。…朝ご飯の話聞いたらお腹すいちゃった~。一緒に食堂行こ~ひかりん~♪」


…………

海之と簪の部屋


「……う、う~ん」
海之
「起きたか簪」

「あ…海之くん。おはよう。……あれ?」
海之
「どうした?」

「あ、ううん。…なんか、凄く楽しい夢見てた気がするんだけどな…」
海之
「…そういえば寝言言っていたな。「負けない」とか。怒鳴り声でなく楽しそうな声だったが」

「そんな事言ってたんだ。…なんだろう。…あ、そんな事より学校だね。準備するから一緒に行こう海之くん」

その後、皆も本音や簪と同じく何も覚えてはいなかった。ただ唯一「楽しい夢を見た」は共通していて?マークを浮かべるのだった。


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Mission131 接触

クロエの入学という束の急で無茶なお願いは千冬と真耶の頑張りもあって実現し、シエラ・シュヴァイツァーとして一組の生徒となったクロエは生徒達から歓迎される。
…そんな中、ひとり様子がおかしかったラウラがクロエを屋上に呼び出し、ふたりは初めてふたりきりになる。ラウラがなんと話そうか迷っているとクロエの方から話を切り出す。それによるとクロエはラウラが生まれる前に独政府によって生みだされたラウラと同じ人造人間であり、成功せずに放棄された失敗作、だと打ち明けるのであった。クロエは自分の完成形でもあるラウラに自分をどうするつもりか尋ねるとラウラはクロエをどうこうするつもりは無いと必死で訴える。クロエはラウラの言葉を信じ、まずはクラスメートとして交流していこうとラウラと約束するのであった。

※UAが120000に到達しました。ありがとうございます!
次回は29日(土)の予定です。


IS学園 アリーナ

 

…ガキィィィィィィンッ!

 

火影

「ちっ!」

海之

「くっ!」

 

ガキンッ!キンッ!キィィィンッ!

 

クロエ

「はぁぁぁぁあ!」

「たあああああ!」

 

クロエとラウラの屋上での話から翌日。この日の午後の授業は一組と四組による試合形式の合同授業である。アリーナの半分では火影と海之が、もう半分ではクロエと簪が試合を行っていた。そして…、

 

千冬

「…よし!それまで!」

 

千冬からの試合終了の声が上がった。

 

一夏

「お疲れさんふたり共」

火影

「ハァ…へへ、今ので付けた傷では2点リードだな」

海之

「バカを言うな、まだ同点だ。前にも言ったが算数からやり直せ」

シャル

「はいはい、ほんとに勝負に関してはふたり共負けず嫌いなんだから」

セシリア

「ですが相変らず流石ですわ」

ラウラ

「ああ。銃を使わないという条件とはいえ、本当にここまで拮抗するものなのか」

一夏

「ほんと凄ぇよな~。俺とは大違いだ」

「そう言うな一夏。お前も先程私と戦った時優勢だったではないか。以前より上達している」

一夏

「…う~んでもなぁ、こんなゆっくりな進歩じゃ一体何時になったらふたりに追いつけんのか…」

海之

「焦りは何の役にも立たん。お前は確実に山を登っている。次に足を付ける場所を間違えるな」

一夏

「……」

 

一方クロエと簪の試合も終わった。優勢だったのはどちらかといえばクロエの方だった。

 

本音

「かんちゃんもシーちゃんもお疲れ様~」

「ハァ、ハァ…」

クロエ

「ハァ…、大丈夫ですか?簪さん」

「う、うん、大丈夫。ありがとう。…シエラさん強いね」

クロエ

「訓練のお陰です。簪さんもお強かったですよ、ケルベロスの使い方も磨きがかけられている様に感じました」

「そ、そう?だと嬉しいな」

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

千冬

「ちょうど良い時間だな。では本日の授業はこれまで!」

生徒

「「「ありがとうございました!!」」」

 

 

…………

 

その日の放課後。街のとある場所にて。

 

カランカランッ

 

楯無

「あ、来たわよ皆」

「待ちくたびれたわよ~」

「すまない、待たせた」

クロエ

「…お待たせしました」

 

ここは普段皆でよく行く喫茶店。今入ってきたのは用事で遅れていた箒とクロエ。店内には先に来ていたそれ以外の皆がいた。実はこの日の放課後、何時ものメンバーで集まって簡単なクロエの歓迎会を行う事にしたのである。因みに火影と海之は用があるとかでいない。

 

クロエ

「私のために御迷惑をおかけしたみたいで…申し訳ありません」

セシリア

「そんなにお気になさらなくても構いませんわ」

「私達が好きでやってるんだから心配しないで」

本音

「クーちゃん、私とラウランの間が空いてるよ~」

ラウラ

「よ、宜しければどうぞ」

クロエ

「では失礼致します」

 

そう言ってクロエは本音とラウラの間に座った。

 

 

…………

 

そして暫くして皆の飲み物やひと通りの食べ物が揃った所で、

 

一夏

「…よし、んじゃ揃った所でクロエの入学歓迎会開始~」

本音

「わ~♪」

「大丈夫か?本名で呼んで。一応公の場だが」

シャル

「まぁ大丈夫じゃない?変装もしてるし、それにクロエさんと臨海学校で会ったのは僕達一年だけだし」

楯無

「クロエちゃん、何でも頼んで良いからね?喫茶店だけど」

クロエ

「は、はい…」

セシリア

「どうしましたのクロエさん?緊張されてますか?」

クロエ

「……正直なところ。この様な事は本当に初めてなので…どうしたら良いのか」

「かしこまらなくて良いってば。…そうだ!折角だから何か聞きたい事とか無い?今日はアンタの歓迎会なんだからなんでも答えてあげるわよ」

一夏

「へ~、それなんか面白そうだな」

クロエ

「き、聞きたい事ですか?……えっと……じゃ、じゃあ、皆さんの…好きな食べ物はなんですか?」

「ふふ、教科書みたいな質問だね。う~んそうだなぁ…」

シャル

「僕は…クレープかな?皆知ってる?クレープはフランス発祥なんだよ」

一夏

「へー」

ラウラ

「…私は…アイスバインでしょうか…」

「私はやっぱラーメンかな~」

本音

「私はひかりんの作ってくれるデザートだよ~♪特にストロベリーサンデーがおススメ~」

「そ、そうね~!私も火影の料理が好きかな~」

シャル

「う、うん!クレープも好きだけど僕もそうかな~」

「わ、私は一夏の料理は何でも好きだ!」

セシリア

「私もですわ!」

一夏

「あ、ありがとよ。因みにクロエは何だ?」

クロエ

「わ、私ですか?……えっと、えっと……!す、スメリアで頂いた…ギャリソン様のお料理…でしょうか?」

全員

「「「そう来たか(来ましたか)~!」」」

 

その答えに全員即納得した。

 

クロエ

「…あの…兄さん達の好きな物は…ご存じですか?」

「火影達?ええ知ってるわよ。火影はやっぱり苺でしょうね。あとピザかな?子供よねぇ全く」

「海之くんは和食かな?お弁当のおかずも学食も和食が多いよ」

楯無

「あとあんみつも好きみたいね。……因みにクロエちゃん、篠ノ之博士の好きな物ってなんなの?ちょっと興味あるんだけど」

「楯無さん、それなら箒の方が詳しいんじゃないですか?」

「…いや、正直な所あまり知らない。あの一件以来…ずっと別々に暮らしていたから…」

「…あ…そ、そうか…。御免、箒…」

「いや良い。クロエ、姉さんは何か知っているか?」

クロエ

「…えっと…一応色々あるにはある筈なんですけど…その…」

 

箒のその質問にクロエは答えにくそうだ。

 

セシリア

「? どうしましたの?」

クロエ

「その…実はですね、私があまり料理が上手くなくて…いえ、あまりどころかかなり。…それで何を召し上がられても同じ反応で…。何がお好きなのか具体的にわからないのです」

「そ、そうなんだ…。ちょっと意外だった。…あ、御免」

シャル

「あはは、まぁ誰にでも苦手な事ってあるよね。あそうだ、よかったら今度火影や海之に教えてもらったら良いじゃない?僕達も時々教えて貰ったり、一緒にご飯作ったりしてるんだ」

一夏

「俺も暇だった時に教えてやるよ」

クロエ

「あ、ありがとうございます」

本音

「あ、そうだクーちゃん。ルームメート、かっちゃんが入るんだって~?」

楯無

「事情が知る者がいた方が良いでしょ?クロエちゃんの場合は特にね」

クロエ

「ご迷惑をおかけしてすいません…」

 

これにはクロエの正体を知っているからと理由以外に、火影と海之の秘密を共有しているからという理由もある。

 

一夏

「まぁ俺はひとりで部屋使えるから嬉しいけどな。どうも女の子と同じ部屋ってのはまだ落ち着かなくて…。でもそう考えたら火影と海之を同じ部屋にしてのほほんさんと簪を同じ部屋にしたらバランス良いんじゃ」

簪・本音

「「だ、駄目(だよ~)!」」

一夏

「…あそう?…ケンカでもしてんのかな?」

簪・本音

「「…ハァ」」

 

すると今度は楯無がクロエに質問した。…少し悪戯顔で。

 

楯無

「…じゃあさ~?私からクロエちゃんに聞きたいんだけど~、クロエちゃんって好きな人いる~?もちろん男の人で」

クロエ

「…好きな男性の方ですか?はい、火影兄さんと海之兄さんです。あと一夏さんも」

一夏

「サンキュ~」

一夏と楯無以外

「「「!!!」」」

 

その言葉に多くの少女が驚くが、

 

クロエ

「…!ち、違いますよ皆さん!おふたりはお兄ちゃんとして好き、という意味です!一夏さんもお友達としての意味です!以前もそうお話したでしょう!?」

「そ、そう言えばそうだったわね…」

本音

「びっくりした~!」

ラウラ

「本当にな…」

セシリア

「全くですわ…」

楯無

「ふふふ。本当に皆見ていて飽きないわね~♪」

「も、もうお姉ちゃん!絶対わざとでしょ今の!」

 

安心したり怒ったりする面々。そんな皆を見てクロエは尋ねる。

 

クロエ

「…あの…皆さんは…兄さん達や一夏さんの事を」

楯無

「えぇ私も含めそうなのよ~♪で、割り当てはね」

一夏・クロエ以外

「「「こんな所でぶっちゃけないでください(ぶっちゃけないで~)!!」」」

 

皆は全力で楯無の言葉を止める。

 

一夏

「お、おい。ここは店なんだから静かにしろって」

「そ、そうだった。…もう楯無さん!」

シャル

「なんかこの数分でどっと疲れた気分だよ…」

楯無

「あはは、ごめんごめん♪という訳でクロエちゃん、悪いけど後で各々に聞いておいてね♪」

クロエ

「は、はい」

 

すると続けざまに本音が訪ねる。

 

本音

「ねーねークーちゃん。さっきひかりん達の事、お兄ちゃんって言った~?」

クロエ

「……え!?」

 

クロエは感極まった時等に兄さんではなくお兄ちゃんと言う癖があるのであった。それが恥ずかしいとは思いつつもなかなか直らない。

 

楯無

「あら本音~、そこ聞いちゃうなんていけずね~。私気づいていたんだけど黙ってたんだけどな~。クロエちゃん恥ずかしがるだろうから♪」

クロエ

「……」

 

赤くなるクロエ。それを見て微笑む皆。そんな感じの賑やかで騒がしいクロエの歓迎会は進んで行った…。

 

 

…………

 

そして暫くして…、

 

一夏

「…なぁクロエ。今さらだけど本当に良かったのか?束さんの指示とはいえ離れてしまってさ?」

「そうね~。クロエを置いて帰る時めちゃ泣いてたからね~」

「ふたり共思う程心配する必要は無いと思うぞ。姉さんは昔から泣き癖があったし」

「も、もしかして今頃泣いてたりして…」

クロエ

「…大丈夫です。ベアトリスが完成してから束様はご自分から私にこうする事を指示されましたから。…寂しい気持ちもありますが、今は何より、今起こっている問題を解決する事です」

ラウラ

「…クロエさん…」

楯無

「ふふ、じゃあクロエちゃんと篠ノ之博士が早くまた一緒に暮らせる様頑張らなきゃね♪」

「……」

 

箒は何か思い詰めた表情をしていた。

 

本音

「どうしたの~しののん?」

「……ああ。私も…一度話してみようと思うんだ…。姉さんともう一度、できれば近い内に」

セシリア

「それが良いですわ」

シャル

「うん、僕も賛成だよ箒」

クロエ

「……箒様。私からも…どうかお願い致します。束様は何時も、箒様の事を話されておられました。束様は箒様の事を誰よりも大切に想っておいでです。ですから…どうか…」

 

クロエは頭を下げて箒にお願いした。

 

「………ああ、わかったクロエ。約束する。ああ後私の事も普通に箒と呼んでくれ。様等いらないから」

 

箒はクロエに約束した。そんな箒をみて一夏も嬉しそうだった。

 

一夏

「へへ。…さて、じゃあ上手く纏まった所でそろそろお開きにするか?」

楯無

「そうね、今から帰れば門限には間に合うわ」

クロエ

「…皆さん、本当に今日はありがとうございました」

「私達も楽しかったわよ。簡単なものならまた何時でもやりましょ♪」

ラウラ

「わ、私もしたいです」

クロエ

「…はい」

 

こうしてクロエの歓迎会は終わった。

 

 

…………

 

IS学園 整備室

 

海之

「……」

 

その頃そこでは海之がアリギエルとウェルギエルを並べ、状態のチェックをしていた。その隣で火影は自身の銃のメンテナンスを。今は最後のエボニー&アイボリーである。

 

ガチャッ!

 

火影

「よし」

海之

「終わったのか。…しかし銃とはやはり手間がかかる物だな。定期的に手を加えなければならんとは」

火影

「その手間がまた面白ぇんだよ。特にこいつとは長い付き合いだからな。あの人が与え、俺が初めて組み立てたもんだし」

海之

「二―ル・ゴールドスタイン…。あいつの相棒の祖母、という事だったな」

火影

「ああ。そしててっきりお前が殺した…と思っていた。結果別人だった訳だけどな」

海之

「よく考えれば分かる事だろう。あの時の俺は人間等興味は無かったのだから」

火影

「うっせー。必死だったしガキだったんだから急にそんな判断付く訳ねぇだろ。…まぁしかし俺もお前も随分運命弄ばれたもんだな。……特に奴には」

海之

「思い出すのも忌々しい歴史だがな……」

火影

「………話を変えっか。さっきの戦いだが…やっぱか?」

海之

「…ああ、ウェルギエルもアリギエルもだ」

火影

「そうか…。ちっ、何か嫌な感じがすんな。束さんの事といい…」

海之

「…ああ。何故あの時束さんは俺達に魔具の設計図を返したのか。しかもクロエにも知らせずに…」

 

そう、実は束は帰る直前、以前ふたりから渡された魔具の設計図をこっそり返していたのである。娘であるクロエにも黙って…。

 

火影

「束さんは「必要なデータを取ったから返すだけ」と言っていたが…。だがそれならあの人がそのまま持ってても良いと思うんだがな。あの人の居場所は誰も知らねぇんだから。安全のためにクロエも連絡先は教えられてねぇみてぇだし…」

海之

「……」

 

ウィィィンッ

 

と、その時扉が開いた。

 

千冬

「海之、火影。やはりここにいたか」

真耶

「お疲れ様です。ふたり共」

火影

「織斑先生と山田先生?お疲れ様です」

海之

「どうされましたか?…それにやはり、というのは?」

千冬

「…先程のお前達の戦いが気になってな。それで整備室に来ていると思ったのだ」

火影

「気になる事?」

 

すると千冬は言った。

 

千冬

「…正直に言え。お前達のIS、再生が以前より遅くなっていないか?」

火影・海之

「「……」」

真耶

「急にすいませんふたり共。…でも私も以前より遅くなっている気がするんです。気のせいかとも思いましたが…先輩は間違いないと言って…」

千冬

「まぁあいつらや生徒達はまだ気づいていないし、そもそもお前達が被弾する事等滅多に無いが…以前お前達が試合を行った時よりも何秒か遅くなっている様な気がしてならん。どうだ?間違いなら間違いで構わん」

火影・海之

「「……」」

真耶

「ふたり共…」

 

するとふたりは話し始める。

 

火影

「…はは、流石ですね」

海之

「先生方のご指摘通り、ここ最近になって確かにアリギエルとウェルギエルの再生速度に遅れが生じています。平均して約3秒、という位でしょうか」

千冬

「…やはりそうだったか」

真耶

「それって…やっぱり以前から続くというふたりのISの不調によるものですか?」

火影

「確証は無いですけどまぁその可能性は高いでしょうね」

海之

「……」

 

すると真耶が切り出す。

 

真耶

「ふたり共、教師として私からお願いがあります。おふたりのIS、渡していただけませんか?」

火影

「…え?」

海之

「……」

千冬

「真耶」

真耶

「無茶を言っている事は分かっています。しかしこのままでは…何時かふたりに何か起こる気がしてならないんです。……嫌な予感がするんです。ISの故障だけなら良いんです、直せば良いのですから。ですがふたりのそれは命に関わる危険な物です。何か起こるという事は…ふたりの身に何かが起こるという事と同意義です。もし、もしふたりが戦っている時に何かあったらどうするんですか!?」

火影・海之

「「……」」

真耶

「ふたりが自らの使命とやらで戦おうとするのはわかります。でもそれはふたりの前世の話じゃないですか!ふたりはもう十分すぎる程戦ってきたんじゃないですか!今のふたりは悪魔と人のハーフなんかじゃなく普通の人間です!普通の子供で、私と先輩の生徒です!」

千冬

「真耶…」

摩耶

「それにふたりの身に何かあったら皆が…何よりあの子達がきっと凄く悲しみます!私はそんなの見たくないんです!お願いです、ふたりのISを渡してください!」

火影・海之

「「……」」

 

千冬は真耶のこんな様子は久々に見た気がしていた。…多分、四年前一夏の誘拐事件があった時以来から。それ位本気で心配しているのだ。

 

火影

「……ありがとうございます、山田先生。俺達の事をそこまで心配して頂いて…ありがたいです」

真耶

「……」

火影

「…ですがすいません。それはできません。例え何があろうとも。誰に頼まれた訳でもない。俺達が自分の意志で決めた事です。先生が生徒のやろうという気持ちを邪魔しちゃだめでしょう?」

海之

「こいつの言う通りです。ISがどうとかではありません。俺達は戦い抜きます」

火影

「そういう事です。それに今の俺らは確かに人間ですが…人間には悪魔には無い力があります。だから大丈夫です」

海之

「俺達は死にませんよ」

 

迷いない目で答える火影と海之。

 

千冬

「…真耶、お前もわかっているんだろう?ふたりがこう言う事を」

真耶

「……」

 

そしてやがて諦めたのか、

 

真耶

「…ハァ、やっぱり駄目なんですね…」

火影

「すみません…」

真耶

「……わかりました。でも…本当に気をつけてください。先ほども言いましたが…ふたりに何かあったらあの子達が」

海之

「分かっています。肝に銘じて置きますよ」

千冬

「……絶対だぞ」

火影・海之

「「はい」」

 

火影と海之はしっかりと約束した。

 

 

…………

 

???

 

その頃、ここはファントム・タスクの拠点がある場所。そこの入口と思える場所にMとスコールがいた。

 

スコール

「間もなく到着ね」

「……本当に来るのか?」

スコール

「彼は必ず来ると言っていたわよ?間違いなく来るってね」

 

どうやらふたりは何かを待っている様だった。

 

「…しかしよく連絡がついたものだな」

スコール

「詳しくはわからないけど…なんでも特上の餌を使ったって言っていたわ」

「…餌?」

スコール

「……あ、もしかしてあれじゃないかしら?」

 

良く見ると遠くの方向から何かが近づいてくるのが見える。そしてそれは、

 

 

ドオォォォォォォンッ!……パラパラ

 

 

Mとスコールの前で豪快に墜落した。良く見るとロケットの様だ。

 

スコール

「…これはまた派手な登場ね~」

「……死んではいないだろうな?」

スコール

「流石にそれは無いと思うけど…」

 

パカッ!

 

するとロケットの側面にある入口が開き、中からひとりの女性が出てきた。

 

「……お前が…」

スコール

「お会いできて光栄ですわ。お待ちしておりました。………篠ノ之束博士」

「………」

 

それは束だった……。




おまけ

クロエの歓迎会の帰りの電車内


「…あ、そうだ楯無さん。部屋の事でひとつ思い出したんですけど…シンデレラって…もうしないんですか?」
楯無
「えっ?ああそういえば忘れていたわね」
シャル
「当日はいきなりだったからちょっと驚いたけど…今思い出せばちょっと楽しかったよね」
ラウラ
「ああ。メイド服とは違ってあんな恰好は初めてだから良い経験だったな」
一夏
「勘弁してくれ…もうあんな目は御免だぜ」
楯無
「それにどちらかといえば皆のお目当ては演劇よりも報酬の方でしょ~?」
セシリア
「そ、そんな事は…」

「……いやセシリア、もう隠しても無駄だ。私達全員もうバレバレなのだから」
楯無
「う~んそうね~、今すぐには無理かな~。何より肝心の一夏君達にもうばれてるから全く新しい物を作らないと警戒されちゃうでしょ?」

「…確かにそうですね」

「ざ~んねん」
クロエ
「…?本音さんと簪さんは随分ほっとした表情されてますね?」

「そ、そんな事ないよ~!」
本音
「う、うん。私はいつもと変わらないよ~!」
シャル
「そりゃあだってシンデレラに関係なくずっと火影と海之と同じ部屋だもん。いいなぁ~」
ラウラ
「ああ全くだ…」
楯無
「そ~ね~、ふふっ♪」
簪・本音
「「……」」


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Mission132 闇は兎を引きずり込む 

ある日の放課後、一夏達はクロエの入学祝いを行っていた。その中でクロエは束の妹である箒に何時か束と話してほしいとお願いする。箒の方も何れ話さなければと思っていたらしく、クロエの頼みを聞き入れるのだった。

その頃、火影と海之は整備室にいた。ふたりのIS、アリギエルとウェルギエルの不調は傷の再生能力にまで及んでいたのだ。命の心配をする真耶はこれ以上戦わないようふたりに頼むがふたりはそれを断り、これからも戦う事を宣言する。そんな火影と海之に真耶も千冬も諦めるしかなかった。

そして一方、ファントム・タスクのスコールとMの前に束が訪れていた。

※次回は7日(土)、8日(日)の連日投稿予定です。


ファントム・タスクが拠点としているとある場所。そこに束が自らのロケットでやってきていた。その束をスコール、そしてMが出迎える。

 

「う~んやっと着いた~!」

スコール

「…ようこそお越しくださいました、篠ノ之束博士。さぞかしお疲れでしょう」

「いやほんと大変だったよ~!この場所地図にも載ってないんだもん~!しかも御丁寧に超高性能なカモフラまでしてあるし~、朝ごはんも食べずに来たからお腹ペコペコだよ~!」

スコール

「ふふ、それは失礼致しました。ですが何分この場所を他の人間に知られる訳にはいきませんので、どうかご了承頂ければ幸いですわ」

「……こいつが篠ノ之束」

「あれ~?もしかして疑ってる~?酷いな~、私こそ全てのISのお母さんである篠ノ之束さんだよ!ブイブイ♪」

「……」

スコール

「ふふ、元気なお方。…さて、折角ですからお食事等如何ですか?朝食も取られていないのでしょう?」

「ほんと~?ワ―イ♪」

 

そして束はスコールとMに連れられ、入って行った…。

 

 

…………

 

「…う~んこのお肉美味しいね~♪焼き加減も束さんの好みピッタシって感じだし♪ほら、良くレアとかミディアムとかだと血がしたたったりするじゃん?私あれ苦手なんだよね~、こんなウェルダン位が丁度ベストマッチだよ~!良いシェフ雇ってるね~♪」

スコール

「お褒め頂き恐縮ですわ」

 

束はスコールを前に食事をしていた。

 

「ま~でもギャリくんの腕にはまだまだ敵わないかな~♪ギャリくんは間違いなく世界大会金メダル級の料理人だから比べるのはシェフの子に酷だけどね~。あっ、ワイン貰うね♪」

 

そんな感じで食事を楽しんでいる束にスコールが話しかける。

 

スコール

「…さて、篠ノ之博士。御食事されながらでも構いませんので少々お話でもどうでしょうか?」

「ん~なに~?」

スコール

「まずは…そうですね。篠ノ之博士は……今この世界をどう思われますか?」

「おお、一発目からスケールでかい質問!そうだね~…ほんの数ヶ月前まではつまらないもんだって思ってたけど今は楽しいかな~?色々な物が見れたり知れたりできてるからね~♪」

スコール

「ふふ、それは宜しい事ですわ。…何かあったのですか?そう思わせる様な事が」

「うんあったよ~♪でもそれに関してはプライバシーに関する事だから出来れば秘密にさせてほしいな~。あっ、プライバシーと言えばスリーサイズに関してのお話も駄目だよ~?それは束さんにとって5本の指に入る位大事な事だからね~♪」

 

ファントム・タスクの幹部を前にしても自分を崩さない束であった。

 

「ね~?束さんからもひとつ質問して良い~?……君のその身体どしたん?」

 

束がそう言うとスコールはやや目を細める。

 

スコール

「………流石ですね。気付かれていたのですか?」

「束さんの心理眼をなめたらいかんヨ♪…ふむふむ…全身至るところに裂傷の跡。骨だけでなく広範囲の火傷もあるね~。オマケに左右の腕と右足が作り物か。…昔火事か爆発でも巻き込まれた~?」

スコール

「………折角の博士からのご質問なのでお答えしたいところですが…秘密にさせていただきますわ。女には秘密の引き出しが幾つもあるものですから」

「あーずる~!」

スコール

「ふふっ。………そう言えば博士、もうひとつお聞きしたいのですが…ある変わったISをご存じですか?赤色と青色のISで…一見双子の様に良く似ているのですが」

「うん、知ってるよー。あれって凄いね~!どっかから出てきたのか分からないけど黒いISやブッサイクなでっかい蜘蛛や鳥をバッタバッタ倒しちゃうんだもんね~♪興奮したよ~!」

スコール

「…やはり博士がお造りになったものでは無いのですね」

「うん違うよー。君は予想が外れてザンネン!束さんは造れないのでザンネン!…つーか束さんからしたらあの変な奴らの方が気になるんだよね~、一体どうやって造ってんのかね~?」

スコール

「…さぁ」

 

ウィィィンッ

 

とその時扉が開いた。

 

「…お知りになりたいですか?」

 

入ってきたのはふたり。ひとりはM。もうひとりは鼻の下から顎まで白髭がある茶色の目の男。

 

スコール

「あらオーガス、待っていたわよ」

「キミ誰~?」

「…貴様!」

オ―ガス

「M、下がっていろ」

「…は」

オ―ガス

「お見苦しいところを見せてしまい、大変失礼致しました。篠ノ之博士…ですね。この度はようこそお越し下さいました。…オ―ガスと申します。以後お見知りおきを」

「これはこれはご丁寧に~。私は全てのISのお母さんにして高名な、…あ、自分で言うのもおかしいか♪まぁいいや、篠ノ之束さんだよ~、ヨロシク~♪」

 

何時の様に元気な返事をする束。

 

オーガス

「ふふふ…元気なお方だ。…私も是非とも話をさせて頂きたいですね。できれば一対一で、同じ科学者として」

「うん良いよ~、じゃ早速レッツゴー♪あ、ごちそうさまね、あと話せて楽しかったよ!」

スコール

「私もですわ」

「主、私は」

オーガス

「いらん心配だM。下がっていろ。何があっても呼ばれるまで入ってくるな。良いな?」

 

そしてオーガスと束は部屋を出ていった…。

 

「……」

スコール

「まぁあの人がああ言うんだから大丈夫でしょう。M、片付けるの手伝ってくれる?」

「…ああ」

 

 

…………

 

オーガスの部屋

 

オーガスに連れてこられた束は彼の部屋で対面していた。

 

オーガス

「飾り気の無い無骨な部屋で申し訳ない。研究に勤しむあまりどうしても無頓着になる」

「ううん全然気にしなくて良いよ~♪私の部屋なんてもっと味気無いし~、お掃除してくれる子がいなきゃとっくにゴミ屋敷になってるよ~。寧ろ研究者たるもんはそっち以外あんま気ぃ付かないもんね。いんのかね、お掃除好きの研究者や学者って。あはは♪」

 

全ての元凶かもしれない男を前にしても束は何時もの様なおふざけを崩さない。

 

オーガス

「そう言ってもらえれば気が楽です。…しかし本当に来てくださるとは」

「当たり前じゃん~。あんなメールを見たら、ね」

 

 

…………

 

数日前、束の部屋にて

 

「…いっそメールも電話も閉じちゃおうか?でも稀に面白そうなものもあったりすんだよな~。例えば……………?」

 

その時束はあるメールに目が留まった。セキュリティにかけたがウィルスの類は無い。束は封を開いてみた。書かれていたのは一文のみ。

 

 

「171・286・275」

 

 

「171・286・275…………………ふ」

 

 

…………

 

「あの数字の羅列は一見なんの変哲もないけど、あれは英単語の出現度の数を指しているっていうのはすぐに思いついたよ。暗号解読の基本だもんね♪そして…答えがD・I・S、であることも」

オーガス

「…流石ですね。…回りくどい事をして申し訳ない。博士となんとか接触しようと色々試案を重ねた結果です。本当に限りない数の餌をばら撒きました。もちろんすべて違う竿でね。博士以外の者にも届いてしまった場合、読まれないようにする必要もありましたから。まぁ例え読まれても知らない者にとっては何の意味もなさない答えですがね。…しかし、こうして来て下さったということは…あの言葉の意味をご存じ、と捉えてよいのでしょうか?」

「餌と竿ってわたしゃ魚かい!…まぁいいや、もし宜しければ聞かせてほしいな、君のご自慢の発明を。いや宜しければじゃなく聞かせてね、っていうか聞かせろ!」

 

束はやや高い声で問いかける。

 

オーガス

「ふふ、そうですね。折角こうしてお越しいただいたのです。私からも聞いて頂きたい事もありますし、答えさせていただきましょう。…それで何からお聞きしたいですか?」

「話がわかって助かる~♪…じゃあまずあの妙な黒い奴とか奇妙な蜘蛛とかモンスターみたいな鳥とか、全部君が造ったもの?」

 

するとオーガスは答える。

 

オーガス

「ええ、あれは私が造ったものです。…そういえば篠ノ之博士。以前博士のコンピュータにハッキングした事、深くお詫び致します。博士は既にご存じかと思いますがアンジェロやファントムは自立起動型の兵器です。動力は単純にバッテリーですから生産も容易いのですが、開発の参考としてコアの寸法を知りたかったのです。如何に無駄なく造るためにはコアの場所にそれを持ってくるのが一番ですからね」

「ハッキングについては今はもう良いよ。どうせ大した情報は取られてないし。…でもなんであんな形にしたわけ?蜘蛛とか鳥とかさ?」

オーガス

「そうですね。小さい子供が自分のヒーローや怪獣等を考えるのと一緒と思っていただければ良いですよ。………まぁ強いて上げるとすれば、人間で言う、昔の思い出、でしょうか」

「…思い出?」

 

思い出、という言葉に束は引っかかった。火影達が言うにはあれはかつて過去の彼らが戦った相手を模したもの。それが思い出とはどういう事だろうかと。

 

オーガス

「…ええ、とるに足らない思い出です。…さて、次は何をお聞きになりたいですか?」

「…うーんとね~、じゃちょっと難しい質問。君はなんであんな物造れんの?君って一体何者?」

 

束の質問にオーガスは、

 

オーガス

「私が何者かですか…。そうですね、博士は自分が何者かお答えになれますか?」

 

束の質問にオーガスは、逆に問いかけた。

 

「私?私は私だよ~」

オーガス

「……ほう、至極簡単にして神のごとき答え。私は私…。私も同じですよ、篠ノ之博士。オーガスという紛れもない普通の人間です。…今はね」

「えっ?」

オーガス

「いえいえ、こちらの話です」

「……」

 

嫌な男だ。と束は思った。一見紳士ぶりを装ってはいるがその目は決してそうではない。話の中で手掛かりの様なことはちらつかせるが答えは決して話さない。こちらを試している。そう思った。

 

「…じゃあそろそろ本題に入ろっか。DISって何なのか、なんであんなもの造ったのか」

 

埒があかないと思った束は本題を切り出した。自分が最も聞きたかった事を。

 

オーガス

「……宜しい。博士はVTSをご存知ですか?まぁ貴女には愚問かもしれませんが」

「もちろん知ってるよ。ISの損傷度や操縦者の精神状態、更に願望等が加わって過去のモンドグロッソ優勝者の姿や力をコピーする。その代わり代償として操者への負担が大きく、場合によっては命の危険もある。全くふざけた商品だよねー」

 

束は思う通りに言った。

 

オーガス

「…ええ。私も同感です。あんな出来損ないは世に出すべきでは無い。………ですが博士、私はVTSの機能でひとつだけ評価している点があるのです」

「ん?」

 

束は心の中で密かに喜んだ。ようやくこの男の真意を聞くことができると思ったからだ。

 

オーガス

「篠ノ之博士。博士は今のこの人の世をどう思いますか?」

「…急になにさ?」

 

するとオーガスは話し出す。

 

オーガス

「…篠ノ之博士、私は常々思うのです。人の世とはなんと不安定で矛盾に満ちて不公平であると。同じ人間同士でありながら人種の違いや肌の色の違いという理由による差別。思想の違いや宗教の違いでいつまでも終わらない紛争や戦争。優れた力や才能を持っていながら経済的な格差、運の良し悪し、時には時期尚早という何とも下らない理由で陽の目を見る事ができずに終わる者もいる現実。優れたものを生み出しながら無能な人間達にあざけ笑われ、夢を叶えられない者もいる。……貴女には良くわかるでしょう?」

「……」

 

束は昔の事を思い出していた。自分のISを馬鹿にしていた者達の事を。

 

オーガス

「そこで私がVTSで優れていると思っている事ですが…、それは「願いによって力を得られる」という事です。これは実に素晴らしいと私は思うのですよ。人は皆一度は夢を見るものです。叶えたいと思う願いがあるものです。そして…誰しもが力を望むものです。しかし先程私が述べた通り各々の理由で叶わず、悲しみ嘆く者もいる。いや殆どがそうでしょう。それが「強い願い」を持てば力が手に入る。人種の違いも肌の違いも経済的な差も、あまつさえ男と女の差別も無い。もちろん他にも努力する事はありますがね。どうです?画期的とは思いませんか?」

「……」

 

束はただ黙って聞いている。

 

オーガス

「しかしながらVTSは過去のIS操者の力しか再現できない。つまりそれ以上にはなれない。それでは大した意味がない。だから私はVTSに代わる新たなシステムを開発したのです」

「…新たなシステム…?」

オーガス

「ええ、DNS。Dreadnoughtsystem。それこそDISを生み出す力。そして可能性を秘めた力。…そう、DNSは過去のデータ等当てにしない!使う者の願いが強ければ強い程DNSは真価を発揮する!正に無限の可能性!夢を叶える力!残念ながら今はISにしか組み込めない為に女にしか使えませんがね。しかし何れは男も使える様にするつもりですよ。いやそれだけじゃない、男も女も、子供も老人も誰もが力を手に入れられるようになる!DNSの恩恵を!DISの力をね!」

「……!」

 

オーガスは両手を大きく開き、笑いながら声高々に言った。その表情は若干狂気付いている様にも見える。

 

オーガス

「くくく、つい興奮してしまいました。申し訳ない。……さて篠ノ之博士。話をお教えしたお礼という訳ではありませんが、ひとつ私のお願いを聞いて頂けませんか?」

「……なに?」

オーガス

「そんな緊張なさらず。……実は私はあるISを造ろうと思っているのです。それも少々変わったISを。具体的な構成はほぼ完成しているのですが…ひとつだけ大きな問題がありましてね。…しかも貴女にしか解決できない問題が」

 

ISにおいて束にしか解決できない問題。束は直ぐに理解した。

 

「…コア…」

オーガス

「くくく、その通り。残念ながら肝心のコアのいちからの造り方がどうしてもわからない。既存のコアやISのコア情報等も試してみましたがどれも一致しなかったのです。故に全く新しい「それだけのコア」を造る必要があるのです。…引き受けていただけませんか?我らの夢を叶えるために」

「……」

(…我ら…?)

 

束は黙っていたがひとつ尋ねる。

 

「……君の夢って何?」

 

オーガスは答えた。

 

オーガス

「…私は昔、ある者達と力比べの様なものをしていましてね。勝った者が上に、上手くいけば全てを手に入れられる筈だったのです。……しかしそれは妨げられた。しかも二度も。一度目は優れた力を持っていながら全てを捨て去って生ぬるい世界で生きる事を選んだ愚か者に。そして二度目は……中途半端な存在に。私は二度も自分の夢を妨げられたのです。だから今度こそ叶えたいのです」

「……」

オーガス

「どうでしょう?同じく夢を否定された似た者同士、仲良くしようじゃありませんか?」

「!!」

 

このオーガスの一言が束の逆鱗に触れた。

 

「…ふっざけるなよクソジジイ!!私とお前が似た者同士だと!?一緒にすんな!それに黙ってただただ聞いてりゃふざけた事ばかり言いやがって!あんな醜いもんが人の夢をつかむための力だと!?御託は寝言までにしろ!」

オーガス

「……」

 

オーガスは束の怒りの言葉を黙って聞いている。

 

「ISはあんな醜いもんになるためにあるんじゃない!ましてお前のためでもない!ISは未来のためのもんだ!宇宙開拓のためのもんだ!全てのISは…私の夢のためのもんだ!」

オーガス

「…ですが貴女はその夢を否定され、自ら壊したではありませんか」

 

オーガスは白騎士事件のことを持ち出した。

 

「…ああそうだよ。あの時の私はISを否定された怒りに任せてあんな事件を起こした。結果自分で宇宙という夢を遅らせる原因を招いた訳だ。今思えば全く愚かで滑稽だよ……」

オーガス

「……」

「でも私を信じてくれた人達もいた。私なら夢を叶えられる、頑張ってねって言ってくれる人達がいた!私があの事件を起こしても信じてくれていた!自分の故郷が危なかったにも関わらずね!」

オーガス

「……」

「私の犯した罪は決して消えやしないさ。それは認めるよ。でもそんな私を今でも応援してくれている人達がいる。あの人達や皆のために今度こそ夢を叶えてみせる。それが私の償いだ!私はもう間違えない!だからお前の願いも聞き入れない!」

 

束は目の前のオーガスを指さして宣言した。そんな束にオーガスはため息をついて返事する。

 

オーガス

「……ハァ、…仕方ありませんね…。しかし私も今度こそ自分の夢を諦めるわけにはいきません。少々強引ですが無理にでも従っていただきましょうか」

「そう上手くいくかな~。こう見えても私はそこら辺の奴なら触れさせる前に倒せる自信あるよ。おまけに薬なんかも効かない。まさに細胞レベルでオーバースペックなのさ!私とまともに肉弾戦で戦えんのはせいぜいちーちゃんかひーくんかみーくん位だね。君は一見、つーか絶対3人程の力は無いね。てか私がここに来たのは君の正体を掴むためだからね。最初から協力するつもりはないよ!」

 

大げさに聞こえるが束は実際のところ極めて強い。体格にも似合わず格闘ではそこらの者では全く歯が立たない程。更に冗談でなく自白剤等の薬も効かない。まさにオーバースペックである。

 

オーガス

「…ええ。確かに肉弾戦では貴女には敵わないでしょうね」

 

そう言いながらオーガスは余裕の表情を崩さない。

 

オーガス

「ですから……こうするまで」

 

 

…ヴンッ!

 

 

「……え?」

 

オーガスがそう言うと突然部屋の電気が消え、目の前にいたオーガスが見えなくなった。束は自分の身体も見てみるがそれすらも見えない。正に暗闇だった。

 

「何の真似か知んないけどこんなので私が驚くとでも思ってんの?」

 

束はオーガスに尋ねたが返事は無い。すると、

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「!?」

 

突然束の周囲に映画のようなビジョンが現れた。よく見るとミサイルや戦闘機、戦艦、衛星と様々な軍事兵器が映し出されている。そして同時に一体のISの姿が映し出された。

 

「…あれは……白騎士!?」

 

それは10年前、束が世界で自初めて造ったIS、白騎士だった。

 

「…じゃあこれは…この映像は…!」

 

束は理解した。白騎士、そして数多くの軍事兵器。目の前に映し出されているのは…白騎士事件だった。

 

 

「ミサイルが、ミサイルが飛んでくる!!」

「死にたくない!死にたくない!!」

「ねぇお母さんお父さん…私達、死んじゃうの?」

「なんで、なんでこんな事に…」

「誰か!誰か助けて!!」

………

 

 

「!?」

 

束は目を開いた。耳に突然響いてきたのは数多くの悲鳴。死を覚悟した者。母や父にすがる子。自らの運命を呪う者。そんな者達の絶望の声だった。

 

「……篠ノ之束」

「! 誰だ!?」

 

突然それらの声に交じって束は自分に呼びかける声が聞こえた。それはオーガスとは違った声だった。

 

「……これはおまえのせいだ。お前が起こした悲劇だ」

「! どういう事だ!?」

「お前が引き起こした白騎士事件とやらのために多くの者が恐怖した。運命に絶望した。己の死を覚悟した。…おまえのせいだ」

「! 私のせい…!?」

 

束は驚愕した。…いや心の底ではわかっていたかもしれない。しかし今までそれをはっきり誰かに言われたことがなかった故、驚いてしまったのかもしれない。

 

「そうだ…全てお前のせいだ」

「で、でもあの事件では誰も死んでない!誰も傷ついていない!どこにも被害は出てない!全部白騎士が!」

「目に見える傷はな」

「…!!」

「篠ノ之束、お前のせいで多くの者が傷ついた。一生消えない程の恐怖を与えた。心の傷を作った。お前がIS等造らなければ、こんな事は起こらなかったのだ。…全てお前のせいだ」

「!!」

 

これ以上人々の悲鳴を聞きたくないと束は自分の耳を塞いだ。しかし声は束にはっきり伝わってくる。まるで自分の中から聞こえてくる様に。

 

「お前は自らの夢を叶える事で罪を償うと言った。同じ言葉をこの者達の前で言えるか?そんな事でお前の罪が償えると思うのか?お前があんな物を生み出したのがそもそもの始まりだ。そうでなければあのような悲劇は起こらなかったのだ。…全てお前のせいだ」

「…やめろ…やめろ!!」

 

彼女の心には大きなダメージとなっている様だ。

映像の人々の声も本当で無いかもしれない。だが当時の生の声など録音されている筈も無い。録画もされているとは思えない。だが今の束にはそんな事を考える余裕は無かった。

 

 

…ヴンッ!

 

 

「…!?」

 

すると突然その場の映像や声がぴたりと止んだ。そして次に映し出されたのは……ある飛行機の映像だった。

 

 

……ドガァァァァァァァァンッ!!

 

 

「!?」

 

突然映像に映る飛行機が爆発し、炎上した。

 

「お前を信じた者の死だ。あれもお前のせいだ」

「!!…ま、まさか…」

「気づいたか。……もうひとつ真実を教えてやろう。あれには………」

「!!!」

 

それを聞いた途端束の目が今まで以上に大きく開かれた。

 

「……それが真実だ」

「そ、そんな……。そんな事、そんな事全く…」

「…お前のせいだ。お前が殺したんだ」

「ちが…違う…」

「お前が元凶だ。お前のせいだ」

「…いやだ…いやだ…!」

 

束は目も耳も閉じるがそれでも飛行機の爆発音、そして謎の声、そして束を責める声は止まない。

 

お前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだ…

 

「誰でも良い!箒ちゃん…ちーちゃん…いっくん…クーちゃん…ひーくん…みーくん…誰か、誰か助けて!!」

 

無意識からか束は目も耳も塞いだまま走り出していた。この場からただ逃げたい。その気持ちしか無かった。すると、

 

「姉さん!」

「…!!」

 

突然束を呼びかける声がした。よく見ると箒だった。笑顔だった。

 

「姉さん大丈夫です!私はここです!」

 

箒は束に手を差し伸べる。

 

「箒ちゃん!」

 

束も箒に向かって手を差し伸べた。そしてふたりの手が結ばれる。

 

…ドロドロドロドロッ

 

「…!?」

 

すると突然箒の表情がドロドロに崩れ始め、別の顔になった。その顔は言った。

 

 

「我に従え、…篠ノ之束ぇぇぇ!!」

 

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~」

 

 

…………

 

数分後、

 

ウィィィィン

 

「主」

スコール

「お話は済んだ…ってあら、寝ちゃったの?」

オーガス

「うむ。話疲れた事と酒による酔いのためか眠られてな」

「………」

 

束は寝息を立てて眠っている。

 

オーガス

「スコール、部屋までお連れしろ。十分な休息を取れるように。それから…博士は暫くこちらにおられるそうだ」

スコール

「え?…そう、それは楽しみね。…わかったわ」

 

そう言ってスコールは束を運んで行った。

 

オーガス

「…Mよ」

「は」

オーガス

「仕事に掛かろう…」




束が聞かされた真実とは。
そして束に聞こえた声とは。

次回より新展開です。


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第十一章 Reunion beyond dimensions
Mission133 動き出した作戦


ファントム・タスクの拠点に訪れた束。彼女を呼び出したのは火影達が自分達と同じ転生者ではないかと怪しむオーガスであった。束と相対したオーガスは自らの生み出したDNSとそれによって生み出されるDISは人々の夢を叶えるための力であると豪語し、さらに束に自らの夢を叶えるためにISのコアを造ってほしいと依頼する。それを聞いた束は怒りを爆発、ISの存在価値はそんなものじゃない!とオーガスの頼みを拒絶する。

……そんな束に暗闇と共に謎の声が話しかけてきた。声は言った。白騎士事件、9年前のエヴァンス夫妻が巻き込まれた旅客機自爆テロ事件。そして束も知らなかったある真実を。それを聞いた束は深く悲しみ、傷つき、眠りについてしまう。

そしてオーガスは次の作戦に向けて動き出すのであった……。


IS学園アリーナ 11月25日

 

 

ガキィィィィィィンッ!

 

「オォォォォォォォォッ!!」

火影

「ちぃ!」

海之

「くっ!」

 

その時、火影と海之は謎のISと交戦していた。

 

火影

「ぐ、ぐうぅぅぅ…!」ドゴォッ!「ぐあぁ!!」

 

 

…バキィィィンッ!

 

 

敵の攻撃によってアリギエルのバイザーが砕け散った。吹き飛ばされる火影。流血し、痛みに苦しむ。

 

火影

「がは!…ぐっ…あっ…ぐ、く!」

「ひ、火影!」

「ガアァァァァッ!!」ドンッ!

「!!」

火影

「!…おぉぉぉぉぉ!」

 

キィィィィンッ!

 

鈴に襲い掛かろうとしていた敵を間に入って受け止める火影。

 

「火影!」

火影

「下がってろお前ら!」

「海之くん!」

海之

「俺達に任せろ!」

火影

「箒!一夏を連れていけ!」

「!」

一夏

「くっ…お、俺はまだやれる…!」

 

そう言って一夏は立ち上がろうとするが力が入らないのか弱々しい。

 

海之

「まともに動けもせんのに余計な真似するな!」

火影

「一夏行け!今のお前じゃ足手まといだ!!」

一夏

「!!」

海之

「ダンテ!こいつらを外へ出すぞ!できる限り離れる!!」

火影

「わかってるよ!いいかお前ら!絶対ついてくんなよ!!」

 

ドンッ!ドンッ!

 

アリーナ天井の隙間から外へ出ていく火影と海之。それに続いて謎のISも出て行った。

 

一夏

「あ、あいつら…好き放題言いやがって…ぐ!」

「ま、待て一夏!」

一夏

「離せ箒!くっ!俺が…俺が足手まといだと!なめてんじゃねぇぞ!火影ぇぇぇ!!」

 

一夏の悔しさと怒りを含んだ声がアリーナに響いた……。

 

 

…………

 

全ての事の始まりは昨日、昼休憩の時からである。

 

一夏

「昨日は魚だったから…今日はからあげにすっか」

「私はラーメン一択ね♪」

シャル

「僕はたらこスパゲティにしようかな。火影は?」

火影

「ん~とな…」

 

食堂に昼食をとりに来た火影達。そこへ、

 

千冬

「お前達、ここにいたか」

「ちふ…織斑先生。お疲れ様です。先生もお昼ですか?」

千冬

「いや、そうではない。海之、火影。…それにシエラ(クロエ)もいたほうが都合が良いか。ちょっと来てくれ」

クロエ

「私もですか?」

千冬

「ああ昼休憩にすまんな。真耶と楯無も既に来ている。行こうか」

火影

「あ、はい。皆後でな」

海之

「すまない」

クロエ

「皆さん、また後程」

 

そう言って三人は千冬に連れられていった…。

 

セシリア

「何でしょう織斑先生…?」

「もしかして来週にある修学旅行が関係していたりするのかな?ほら、海之くんと火影くんは実行委員だし」

ラウラ

「…しかしそれなら何故シエラさんまで呼ばれたんだろう…?」

本音

「まぁそれは後でひかりん達に聞いてみて今はご飯にしようよ~」

一夏

「そうだな。行くか……」

 

 

…………

 

IS学園 会議室

 

火影・海之・クロエが千冬に連れてこられた時には既に真耶と刀奈が先に部屋で待っていた。

 

刀奈

「来たわねふたり共。あらクロエちゃんもいたのね。ちょうど良いわ」

真耶

「すみません、お昼休みなのに来てもらって」

火影

「いえ、気にしなくても良いですよ。俺達だけ呼ばれたって事は…なんかあったんですか?」

千冬

「…まぁな。真耶、あれを」

 

そういわれて真耶が出したのは…封が開けられた一通の手紙だった。

 

海之

「…手紙ですか?」

刀奈

「今朝学園の郵便受けに置かれていたらしいの」

クロエ

「…差出人は?」

千冬

「いや書かれていない。切手も貼られていない。誰かが直接入れたとしか考えられんな」

 

すると封を開けられた手紙を見た火影が、

 

火影

「中身は見たんですか?」

千冬

「ああ。不審物だったら困るから検査も行ってみたが普通の手紙だったので開けてみた。一通の手紙だけだ。…そしてそれがお前らの呼んだ理由でもある」

クロエ

「どんな事が書かれていたんですか?」

真耶

「…見てください」

 

そう言われて手紙は海之に渡され、中を見る。その横から火影とクロエも見てみる。その手紙には……

 

 

「京都へ来い トニーとギルバ」

 

 

火影・海之

「「…!!」」

クロエ

「…悪戯…とかではありませんよね…。あまりにも不自然すぎます」

真耶

「京都って来月行われる修学旅行の実施先ですね。…偶然でしょうか?」

千冬

「…いや、その可能性は低いだろう。これまでの事もある」

火影

「俺も同意見です」

刀奈

「ではこれもファントム・タスクが絡んでいる…と」

 

ファントム・タスクはこれまでIS学園が、正確には火影達が関わるほぼ全てのイベントに乱入してきた。今回修学旅行先の京都の文字が書かれていたとなるとその可能性は高い。

 

真耶

「で、でももしそうだとしてなんで旅行先がわかったんでしょう?行先は生徒達と教師陣しか知らない筈なのに…」

海之

「…しかも今回は今までとは違う傾向が見られる」

クロエ

「そうですね。今まではその可能性があったにしてもその時になってみないとわかりませんでした。…ですが今回は向こうから直接次の狙いを指定してきました…。まるで予告の様に」

火影

「……先生」

 

すると火影が次の言葉につなげる前に、

 

千冬

「言うな、わかっている。……行くつもりなのだな?」

火影

「ええ。修学旅行の下見なんて名目でね。それについてお願いがあります。行くのは俺と海之だけです」

真耶

「! 火影くんと海之くんだけなんて危険すぎます!今回は特に何があるかわからないんですよ!?さっきこれまでとは違うと話されていたじゃないですか!」

海之

「だからこそです。これははっきり言って罠。もし大人数で行けばそれだけ狙われる者も増えるし、周りへの被害も大きくなる」

刀奈

「被害を少なくする意味でも少人数で行った方が良いという事ね」

火影

「…それにもうひとつ気になる事があります」

千冬

「…名前だな?」

クロエ

「トニーとギルバ…。昔兄さん達が前世で一時期使っていたという偽名と同じですね…」

 

火影(ダンテ)と海之(バージル)は幼い頃、自宅が悪魔達によって襲撃された。奇跡的に逃げ延びたふたりは偽名を使って隠れ生きていた。ダンテはトニーと、バージルはギルバと。最もバージルの場合は真実は違っていたのだが、何故その名前が手紙に書かれているのか…。

 

海之

「そうだ。トニーはともかくギルバという名等滅多にいない。この手紙は間違いなく俺達の事を知っている奴が絡んでいる」

火影

「ああ。この手紙の差出人には聞かなきゃなんねぇ事が山ほどある。…お願いします」

刀奈

「ふたり共…」

真耶

「先輩…」

千冬

「……」

 

 

…………

 

1-1 その日の授業終了後のHRにて。

 

千冬

「それでは今日の授業はこれまで!」

生徒達

「「「ありがとうございました!」」」

千冬

「…さて、突然だが来月初めはいよいよ京都への修学旅行の予定だ。各々準備を進めている事と思う」

本音

「は~い。ばっちり進めてま~す♪」

一夏

「部屋割り決める時ものほほんさん張り切ってたもんな」

 

他の生徒達もそれに同意する声を上げる。

 

千冬

「…だが、ひとつ気になることがある。そしてもう既に何人か気にしている者もいると思う」

ラウラ

「……ファントム・タスク」

 

ラウラのその言葉に生徒の何人かが騒めく。

 

千冬

「…そうだ。タッグマッチ・トーナメントの時と同じく、今回も全くその可能性が無いと限らない」

セシリア

「で、ですが今回は限定された一施設ではなく京都という都市ですわ。範囲が広すぎませんこと?」

「…いや、相手はテロリスト同然の奴らだ。どこにいようとも、例え街でも関係ないのかもしれん。考えたくはないがな…」

シャル

「キャノンボール・ファーストの時も他所のアリーナで他の人もいるのに出てきたもんね…」

千冬

「その通りだ。だが生徒達の大半が今回のイベントを楽しみにしているのも事実。他所の場所を選定するのは時間と日時さえ変えれば可能だとしてもイベントそのものを中止にするのは難しいだろう。…そこでだ、本イベントの前に下見を行う事に決定した」

セシリア

「下見ですか?」

千冬

「どんな場所が狙われやすいか、どういった時間帯に特に多くの人がいるか、スポットや交通手段の警備状況、盲点の様な場所は無いか、それを直接確認しに行く。メンバーは特別実行委員の海之と火影。生徒会長の更識。引率の山田先生の4人だ」

ラウラ

「!たった4人ですか?」

シャル

「実行委員の火影と海之はわかるけど…それにしてもちょっと少ないような気がするね。もうちょっと一緒に行った方が良いんじゃないかな…」

クロエ

「……」

一夏

「それなら俺が行こうか?」

「…一夏、授業さぼりたい訳じゃなかろうな?」

一夏

「う…」

本音

「おりむ~ずぼし~」

千冬

「話を勝手に進めるな。事態が事態とはいえ単なる下見に多いのも不自然だ。それにこの4人は学園内でも選りすぐりだ。問題ない」

シャル

「でも…」

火影

「心配すんなシャル。先生の言う通りこれは下見なんだからなんか起こる可能性も低い。起こるとすれば修学旅行当日だろうしな」

ラウラ

「ぶ、物騒な事を言うな火影…」

海之

「そうならない様に念には念を入れるだけだ。楯無さんも了承している」

千冬

「そういう事だ。…さて、それでは今日のところはこれで終わる。織斑!号令!」

 

 

…………

 

その日の放課後、鈴と簪。そして楯無も合流して食堂に集まっていた。

 

「…そう。修学旅行の下見に京都へ行くんだね」

一夏

「仕事とはいえ良いよな~。先に見物できんだしさ」

楯無

「遊びじゃないのよ一夏くん。これも学園と生徒のためにやる生徒会の立派なお仕事よ」

「でも少数精鋭とはいえ確かにあの広い京都を4人で見るっていうのは中々大変ね。気を付けてね火影」

火影

「わかってるさ鈴。心配すんな」

「それで何時行くのだ?」

海之

「突然だが明日の朝の予定だ。そして夜に帰ってくる」

シャル

「な、なかなかのハードスケジュールだね。これは確かにゆっくり見物とかできないね」

火影

「そうだな」

(…最も奴らがどんな手段で来るかわかんねぇ以上、はっきり確約もできねぇけどな)

クロエ

「……」

ラウラ

「しかし引率は教官ではなく山田先生なのだな。てっきり教官かと思っていたが」

火影

「まぁ単に引率だからな。態々先生が行く程の事でもないって事だろう」

(…というのは嘘でちゃんと理由があるんだけどな…)

 

 

…………

 

昼休憩の会議にて火影と海之が自分達だけで行くと聞いた千冬は、

 

千冬

「……わかった。許可しよう。但しお前達だけというのは駄目だ、危険すぎる。私と更識が同行しよう。良いな更識?」

刀奈

「はい、構いません」

 

すると海之が口を開く。

 

海之

「…いえ千冬先生。先生は学園にいてください」

千冬

「…何故だ?」

 

千冬にそう言われて海之は説明する。

 

海之

「先ほども申しましたが手紙の内容を見る限り今回は明らかに罠。俺たちが無視できないのを知っていて誘いをかけています。京都に行くことで必然的に俺たちは学園を離れる」

クロエ

「…成程、兄さん達が学園を離れている間に学園が再び襲われる可能性がある、という事ですね?」

海之

「その通りだ。自惚れという訳ではないが奴らにとって最大の邪魔者は俺達だ。俺達を京都に来させて学園から遠ざけ、その隙に学園を再襲撃する事も十分考えられる。向こうには一夏を狙うMという奴もいるからな」

火影

「だからこそ先生には学園に残っていてほしいんです。学園と皆を守るという意味でも」

千冬

「……」

 

千冬は顎に手を当てて黙っている。

 

真耶

「先輩。私が代わりに引率役として行きます。私は皆さんの様な力は無いですが…私もできる事をしたいんです。それに京都で絶対何かが起こるなんてギリギリ限らないでしょう?だったら危険なのは学園の方です」

刀奈

「そうです織斑先生。京都の事は私達に任せて下さい」

 

火影達の言葉を聞いて千冬は、

 

千冬

「………ハァ、わかった。…だが約束しろ。必ず全員…無事で帰ってこい」

火影達

「「「はい」」」

 

こうして千冬は学園に残る事になったのだ。

 

火影

「さて、んじゃ」

海之

「ちょっと待て。…刀奈さん、クロエ」

刀奈

「なに?海之くん」

クロエ

「何でしょう海之兄さん?」

海之

「……頼みがある」

 

 

…………

 

??? オーガスの部屋

 

ウィィィンッ

 

スコール

「失礼するわ」

オーガス

「…どうしたスコール」

スコール

「先ほど連絡が来たわよ。あの火影と海之っていうふたりは明日の朝、京都に向かうらしいわ。同行者は更識家当主の更識楯無。そして教師が一名のみだそうよ」

オーガス

「明日か…、他の者は?」

スコール

「聞いていないけど?」

「…主」

スコール

「わかっている。M、そちらは任せる。存分にやるといい」

「ありがとうございます」

オーガス

「お前達もわかっているなスコール、オータム」

オータム

「…てめぇの考えなんざどうでもいい。あいつらをぶっ殺せるなら何でもやってやるぜ」

スコール

「無茶しちゃだめよオータム。まだ怪我が治って間がないんだから。あと私は大丈夫よ。作戦とはいえ久々の戦いだもの。楽しみだわ♪……ああそうだわオーガス。篠ノ之博士なんだけど…大丈夫?ずっと熱心に何かしてるんだけど?」

オーガス

「いらぬ心配だ。問題ない」

スコール

「……そ。じゃあ私はISの調整に行くわね」

「私も行こう。では主」

オータム

「…けっ」

 

そう言って三人は出て行った。

 

オーガス

「明日か…予定より早かったな。向こうも必死と見える。まぁ良い、準備はできているからな。………そうだ、この際もうひとつ面白い事をしてやろうか。…くくく」

 

 

…………

 

一夏の部屋

 

その夜、一夏はルームメイトの楯無がいなくなった部屋でひとり過していた。

 

一夏

「下見か…。まぁ千冬姉の言う通り確かに此れまでの事もあるし、用心しておくに越した事はねぇよな。しかし明日なんてえらく急だなぁ」

 

そう言いながら自分のベッドに寝転がる一夏。

 

一夏

「火影と海之、そして楯無さん。まぁ間違いない面子だよな。……俺も何時になったらあいつらに追い付けるんだろ…。強くなってるって皆も言ってくれてるし実感も無い事ねぇけど…あいつらは常に俺の遥か先を行ってるんだよな…。トーナメントの時も周りを守りながら戦ったあいつらと違って俺は自分の戦いで一杯一杯だったし…おまけに仕留め損ねて楯無さんは怪我しちまったし…」

 

前にふたりの戦いを見てから一夏は少しでも追い付きたい、もっと強くなりたいと益々訓練に力を入れていたが、それでも中々縮まらない自分と火影達との実力の差にどうやら焦りを感じ始めているらしかった。

 

一夏

「俺にもあいつらみたいな力がありゃ…」

 

そんな事を願う一夏であった。

 

 

…………ピッ

 

 

一夏

「…?なんか音がした気がするけど……気のせいか。ま、寝よ寝よ」

 

一夏は気にせず寝てしまった。

……だが一夏は気づいていなかった。一瞬だけガントレットの白式のクリスタルが点滅した事を。

 

そして夜は明け、時は運命の朝を迎える……。




キレイに分けるため明日に続きます。

※一夏とVの声は同じ声優さんだそうです。


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Mission134 京都と内通者

とある日の昼頃、火影達は千冬に呼び出された。話を聞くと学園に妙な手紙が届き、内容からしてそれは火影達を指定する様な内容らしい。

「京都へ来い トニーとギルバ」

手紙の内容からこれもファントム・タスクが、そして自分達の過去を知る敵が関わっている。罠の可能性が高いが手がかりには違いない。そう思った火影と海之は京都行を決意。刀奈(楯無)と真耶が付き添い、翌日に4人は京都へと行く事になった。


IS学園 校門前

 

火影・海之・楯無・真耶の4人が京都に向かう朝。

 

本音

「ひかりん~、おみやげ宜しくね~♪」

「本音、だから遊びじゃないんだってば。…気を付けてね皆」

楯無

「大丈夫よ簪ちゃん。ありがとうね♪」

海之

「心配するな」

「予定では今日の夜遅くに帰る予定だったな。明日も学校なのに大変だ」

火影

「はは、まぁ来週の本番のためにしっかりやってくるぜ」

シャル

「気を付けてね火影」

セシリア

「…あれ?そういえばクロエさんがいませんね?」

千冬

「ああ、あいつは今日はちょっと体調が優れないらしくてな。休むと連絡が来た」

ラウラ

「!ルームメイトの楯無さんがいなくなったらあの人は…」

楯無

「ああそれなら全く大丈夫よ。虚ちゃんが傍についてくれているから」

海之

「……」

一夏

「おい、そろそろ行かねぇと列車の時間に間に合わないぜ?」

真耶

「あっ、ほんとですね。……では三人共、行きましょうか」

海之・楯無

「「はい」」

火影

「んじゃちょっと行ってくる。……皆、気をつけてな」

千冬

「…頼むぞ」

 

そして4人は出発していった。皆はそれを見送る。

 

一夏

「んじゃ戻るか」

「…鈴、どうした?」

「………なんでもない」

千冬

「…さぁ早く教室に戻れ。授業が始まる」

 

 

…………

 

京都行の列車内

 

火影と真耶、海之と刀奈で隣同士になり、4人は席を向かい合わせて座っていた。

 

火影

「京都か…。前に一回母さん家に里帰りした時に立ち寄って以来だな」

海之

「そうだな。……ちょうど10年前か」

真耶

「10年前という事は…あの白騎士事件が起きた年でもありますね」

海之

「ええ。俺達が立ち寄ったのはその年の初めですから…、それからほんの数ヶ月後です」

刀奈

「あの時は本当に大変だったわ。子供だったけど今でもはっきり覚えてるもの。家の者はもちろん街の人々は皆慌てふためくし、パトカーや消防車のサイレンが一日中止むことなく鳴りっぱなしだったわ。別にどこも被害にあってないのにね。あの白騎士の活躍で」

真耶

「白騎士……篠ノ之博士が開発した世界初のIS。あの白騎士の異常な性能がISの重要性を世界に広めたといっても過言ではありません。……最も方法は間違っていたかもしれませんが」

火影

「…ええ、そうですね」

刀奈

「でも今は博士もしっかり理解されているみたいですし、もうあんな過ちを犯す事はないでしょう。…そういえば今どこにいるんでしょうね。あの子もどこにいるかわからないみたいですし」

 

クロエがIS学園の生徒になって以来、束の行方はわかっていない。定期的に連絡だけするとは言っていたがまだ連絡は来ていない。

 

真耶

「まぁ博士なら大丈夫だと思いますよ。……そういえば白騎士で気になったんですけど…白騎士事件で白騎士を纏っていたのは誰なのでしょうか。それだけが今でもわからないんですよね…」

刀奈

「博士は知ってるのかしら。まぁ造った人だから当たり前よね。今度聞いてみようかしら」

火影・海之

「「……」」

 

火影と海之は白騎士の操縦者が千冬である事は誰にも話していない。自分達と同じ様にそれは千冬本人が話すべきものであると思っている。

 

火影

「…まぁ白騎士の正体については何れわかる時がくるでしょう」

(…そういえば白騎士ってあの事件の後どうなったのかな?織斑先生の専用機は確か暮桜っていうISだし、やっぱ束さんが持ってんのか…?)

 

そんな事を考えながら火影は携帯を見る。

 

海之

「……」

刀奈

「どうしたの海之くん。やっぱり今回の事緊張してる?」

海之

「…いえ、こういった事は何度も経験していますからそれについては特に。先ほどの里帰りの話で少し母の事を思い出していただけです」

真耶

「…そういえばおふたりの両親は9年前の事件で…」

火影

「…ええ。父が日本への出張で母は付き添いでした」

刀奈

「そう…。確かあれってISの開発に関わる科学者が狙われたって聞いたわ。当時ISは今とは比べ物にならない位競争が激しくて、それに関わる人も安全の為に情報が極秘だったから、誰かはわからないけど」

 

刀奈の言う通り当時はISがまだ世に出たばかりな事もあり、世界中がその情報を求め、少しでも他の国を追い抜こうと躍起になっていた。どの国も大金という大金をつぎ込み、開発に使えそうな優秀な科学者を喉から手が出る程欲しがった。酷いと誘拐沙汰の様な事もあった。そういった経緯により、当時ISに関わる人物は安全のため、全て極秘扱いとなっていた。

 

海之

「……あとどうも妙な予感が頭から離れない」

火影

「妙な予感…?」

 

火影は海之がそんな事を言うなんて珍しいと思った。バージルであった時も含め、彼がそんな事を言うなんて極めて珍しい。

 

刀奈

「君が言うとなんか説得力あるわね…、何も起こらない事を祈りましょ」

海之

「…まぁあくまで予感ですからあまり気にしないで下さい」

真耶

「…気をつけてくださいね…皆さん」

火影・海之・刀奈

「「「はい」」」

 

そんな会話をしながら彼らが乗る列車は京都に向かっていた。

……その同じ車両内に、

 

 

三つ編みの黒髪の少女

「あれがエヴァンス兄弟っスか…、間近で見るのは初めてっス」

金髪の少女

「ああ。赤い目の方が弟の火影、青い目の方が兄で海之っていう名前らしい」

「~~の叔母さんも言ってたっスけど…確かに只者じゃない感じっスね…」

「そうだな。叔母さんだけじゃない、あの織斑先生や篠ノ之束博士も認める程の実力者だ」

「まともにぶつかったら部が悪そうっスね」

「…まぁ私達は言われた通りやるだけさ。…手筈はわかってんな?」

「もちろんっス…」

 

 

…………

 

数刻後、一行を乗せた列車は京都に到着した。日本でも指折りの観光地だけあってか平日にも関わらず人は多い。

 

京都駅

 

真耶

「京都が人気の観光地というのは知っていましたけど…やっぱりすごいですね」

刀奈

「今は紅葉のシーズンでもありますからなおさらですね」

火影

「…さて、取り合えず来たのは良いけどどうすっか…。手紙には京都に来い、としか書かれてなかったし」

海之

「誘いをかけてきたのはあちら側だ。何れ向こうから接触してくるだろう。俺達が今日来た事を知っていればの話だがな」

 

火影と海之は携帯を見ながら答える。

 

刀奈

「まぁ何も無く終わればそれはそれで何よりだし、取りあえずは下見に向かいましょ。それも目的のひとつではあるし。良いですか先生?」

真耶

「…そうですね。ピリピリしても始まりませんし行きましょう。何か起こったら直ぐに知らせてください。こまめに連絡を取り合いましょう」

 

そう言って刀奈と真耶も携帯を開く。

 

火影

「…じゃあ当初の予定通り、俺と海之は単独行動で、先生と刀奈さんは一緒に行動するという事で」

真耶

「…くれぐれも気を付けてくださいねふたり共」

海之

「大丈夫です。おふたりも気をつけて」

刀奈

「じゃあ行きましょう」

 

こうして火影、海之、刀奈と真耶それぞれに分かれ、行動を開始した。

 

 

…………

 

刀奈・真耶

 

真耶

「ここですか?」

刀奈

「そうです♪来たかったんですよね~、京都でも指折りの縁結びスポット、地主神社♪」

 

その言葉の通り境内には恋愛成就の願掛けのために多くの人で賑わっている。

 

刀奈

「もし修学旅行行けたら一夏くんと一緒に来たいです~♪」

真耶

「…刀奈さん、目的を忘れてませんか?」

刀奈

「だいじょうぶだいじょうぶ♪しっかり覚えてますから。あ、そうだ、ここの近くには他に美御前社(うつくしごぜんしゃ)っていう美容の神様が祭られている社があるんですよ♪そこに湧き出ている美容水っていうお水を肌にぬるともっと美人になれるとか」

真耶

「行きましょう!」

 

♪♪♪

 

真耶

「! 連絡ですね…」

刀奈

「………」

 

 

…………

 

火影

「木嶋坐天照御魂神社(このしまにますあまてるみたまじんじゃ)か…、噛みそうな名前だな。蚕と染色を日本に広めたっていう奴が建立したことから「蚕ノ社」とも言われているらしいがそっちのままでも良いんじゃねぇか…?」

 

火影がいるのは木嶋坐天照御魂神社。全国的にも珍しい三本柱の鳥居がある隠れたパワースポットであるが人の出入りは少なく、今は火影以外誰も見られない。

 

♪♪♪

 

火影

「……連絡か」

 

携帯の着信音が鳴り、画面を見る火影…。

 

 

…………

 

海之

「……誰もいないな」

 

海之がいるのは「大岩神社」というとても小さな神社。他の神社仏閣よりもひっそりと佇み、特徴的な鳥居が美しいがあまり知られていないのか人気は全くなく、こちらも海之以外誰の姿も見えない。

 

♪♪♪

 

海之

「……」

 

海之は何も言わずに自分の携帯を開いた…。

 

 

…………

 

それから数刻ばかり経ち、火影はとある店に入っていた。店内の一番奥、壁を背にし、窓からちょっと離れている席。入口が見えるように座っている。

 

火影

「……何とかなったか」

 

火影は携帯を見ながらそう言った。どうやら何か連絡が来ていた様である。

 

火影

「…あれからあちこち歩いてみたが…まだ何も起こらねぇな…」

 

何も起こらないのが逆に気になる火影。…とその時、

 

 

金髪の女性

「…失礼。隣良いかしら?」

 

 

火影に声をかけてきたのは金髪の美しい女性。

 

火影

「え?ああかまわ……」

女性

「ありがとう。では失礼するわね」

 

そう言って火影の隣に座る女性。

 

火影

「……」

女性

「ふぅ~、凄い人ね。流石京都だわ」

 

一見旅行客の様に話す女性。するとそんな女性に火影が視線を店の入り口に向けたまま話しかける。

 

火影

「………ようやくデートのお相手に出会えたか」

女性

「あら、何の事かしら?私は」

火影

「とぼけなさんな。…あんたの気配、そして雰囲気。以前出会った奴と同じだ。………スコール・ミューゼル」

 

すると女性もまた火影と視線を合わさない様にして話始める。

 

スコール

「………どうしてわかったの?私は貴方とは一度だけ、しかもその時私はISを纏って顔は見せていないんだけど?」

火影

「言ったろ?気配でわかったって。あと声も同じだ。…それにそれを言うなら何でそっちも俺だとわかった?俺も一度もツラ見せていないぜ?」

スコール

「…さぁ?貴方曰く、気配、ってやつかしらね?ふふっ」

 

スコールは笑いながら答える。そんな彼女に火影は更に、

 

火影

「…俺を追ってた奴にでも聞いたのか?」

スコール

「……」

火影

「今は狙おうと思っても無理だろうけどな。室内で背中に壁あるから後ろからは狙えねぇし、上は天井だから無理だ。とすると狙えるのは俺から見て正面しかねぇ」

 

どうやら火影はそれを狙ってわざわざ奥の席に座った様である。

 

スコール

「…何時から気づいていたの?」

火影

「京都に着いた時からさ。大方例の手紙もそいつにやらせたんだろ?」

スコール

「……」

火影

「オーガスって奴の狙いは俺と海之だ。だから京都に着いた瞬間にバラバラに別れた。こっちが分かれたらそっちも分散せざるを得ねぇしな。そして俺達は人気が無い所ばかりを選んで回った。他人をできるだけ巻き込まない様移動以外は人気が少ない見通しの良い場所ばかりな。こっちも見えやすくなるが逆に言えば向こうも俺達から見えやすい。後は気配を逃さない様に気をつければ良い。俺にはアンタがついてるとなると、海之にはあの蜘蛛女でもついてんのかね」

スコール

「………ふぅ、貴方達って本当に何者なの?オーガスも言っていたけど本当に単なる高校生とは思えないわ」

火影

「いんや、ばっちり普通の高校生さ。…ただ生まれ方がちょいおかしいだけだ」

スコール

「…え?」

火影

「…んで、どうすんだ?こうやって直接顔を見せたとなると俺をコソコソ殺すつもりはねぇんだろ?」

スコール

「…ええ。貴方と一度戦ってみたいっていうのが本音かしらね。何しろあのブリュンヒルデや篠ノ之博士が絶大の信頼を寄せる貴方達だもの。一度お手合わせしたいわ」

火影

「戦う事で俺に何かメリットでもあんのか?まぁ戦うしかねぇようだがな」

スコール

「…そうね。じゃあ私に勝ったらひとつとっても大事な事を教えてあげるわ。それでどう?」

火影

「……」

 

少し考えた後、火影は席を立った。

 

 

…………

 

ほぼ同時刻、とある竹林で、

 

海之

「…貴様か」

 

海之がそう言う後ろには……火影の予測通りオータムがいた。凄まじい怒りの表情が見える。

 

オータム

「……」

海之

「殺気に満ち満ちているな。それだけ出していれば否が応にでもわかる。追跡者としては失格だ」

オータム

「…てめぇ…前ん時と同じく俺を愚弄するか」

海之

「事実を言った迄だ。それなら学園を出てから追ってきていた奴の方がまだマシだな。まぁ既に手は打ってあるが」

オータム

「…気付いてやがったのか。ならなんで放っておいた?」

海之

「俺達の目的は先程の奴らではない。ましてや貴様等でもない。…応えろ、オーガスという奴はどこにいる?」

オータム

「……てめぇぇ…何時までも調子に乗ってんじゃねぇぞ!」カッ!

 

海之のまるで相手にしていない表情にオータムは激高し、ISを展開した。

 

海之

「……やれやれ、少々飽きたが付き合うか」カッ!

 

 

…………

 

京都タワー 

 

ここは京都でも一番高い建物である京都タワーの展望台。そこに刀奈がいた。

 

刀奈

「……信じたくは無かったけど…まさか本当に学園の生徒だったなんてね…」

 

彼女が相対しているのは、

 

金髪の少女

「……まさかこんなに早く見つかるとはな」

黒髪の三つ編みの少女

「……油断したっスね」

 

それは先程、火影達と同じ列車に乗っていたふたりの少女。

 

刀奈

「貴女達の事は学園を出た時から知っていたわよ。同じ車両にいた事も、怪しげな行動をとっていた事もね…」

 

 

…………

 

前日の会議にて、

 

海之

「刀奈さん…頼みがあります」

刀奈

「なに海之くん?」

海之

「急になりますが、これまでに何か妙な行動をとった学園関係者がいないか、調べてみてもらえませんか?無断欠席や一時行方が分からなかった者がいないか」

真耶

「…え?なんでそんな事を…?」

火影・クロエ

「「……」」

千冬

「…学園関係者に…敵に内通している者がいる。お前はそう考えているのだな?」

海之

「…はい」

刀奈

「…わかったわ」

真耶

「そ、そんな!そんな事あるわけありません!!」

火影

「山田先生、俺も海之もそう信じたいんです。…しかし最早そうとしか説明できない事が多すぎます。キャノンボールのスタート時間に合わせた襲撃、そして今回の旅行先を知っていた事。これは学園内にいる誰かしかわからない事です」

クロエ

「…更にこの手紙は郵便を通さず学園のポストに直接入れられていました。学園関係者ならできても全く不自然ではありませんね…」

真耶

「…で、ですが!」

千冬

「…真耶、お前の言いたい事はよくわかる。こいつらもそうでないと良いと思っている筈だ。…だが、生徒達の命が懸かっているのだ…。疑いは全て晴らさねばならん。取り返しがつかない事が起こる前にな…」

真耶

「……」

 

 

…………

 

刀奈

「海之くんの依頼で総出で全生徒と全教員を調べたわ。貴女達、先日のトーナメントの時自国にISの調整の為に帰国していたって事だったらしいけど…確認したらそんな事実は無かったそうじゃない。母国の方々も驚いていたわよ」

ダリル・フォルテ

「「……」」

刀奈

「今日に関しては学園を無断欠席してるしね。それなのになんで私達が乗っていた列車、しかも同じ車両に乗っていたのかしら?…アメリカ代表候補3年生、ダリル・ケイシー。ギリシャ代表候補2年生、フォルテ・サファイア…」

ダリル

「…流石は更識家当主にして、ロシア代表だな」

フォルテ

「うまく隠したつもりだったっスけどね…」

ダリル

(……しかし列車はともかくなんで同じ車両にいることまで分かった?)

刀奈

「学園のイベントや生徒達の行く先々に何か起こったのは…貴女達の仕業なの?貴女達が敵に…ファントム・タスクに知らせていたの?」

ダリル・フォルテ

「「……」」

刀奈

「貴女達が知らせたせいで…多くの生徒が危ない目にあったの…?」

ダリル・フォルテ

「「……」」

刀奈

「…答えなさい!!」

 

詰め寄る刀奈。その時、

 

ドガァァァンッ!

 

フォルテという少女がISを展開、後ろにある展望台のガラスを破壊した。

 

刀奈

「くっ!?」

観光客

「な、なんだ!!」

「きゃああ!!」

 

思わず怯む刀奈。突然の事態に悲鳴を上げる観光客達。

 

ドンッ!ドンッ!

 

破壊された穴から外に飛び出すダリルとフォルテという少女。

 

刀奈

「…!」カッ!

 

刀奈もレイディを展開し、ふたりを追いかけた…。

 

 

…………

 

同時刻、火影とスコールは人気の無い場所に移動していた。

 

ドォォンッ!

 

火影

「…!なんだ?」

 

火影が空を見ると京都タワーの展望台から2体のIS、それを追いかける楯無の姿が見えた。

 

スコール

「あらあら、派手にやったわねあの子達」

火影

「……刀奈先輩」

スコール

「追いかけなくて良いの?」

火影

「心配ねぇよ。あの人は強い」

スコール

「…ふふっ、あの子達もオータムも始めているみたいだし、私達も始めましょうか。久しぶりの戦いなんだから楽しませてもらうわ♪」

火影

「…悪い気はしねぇな!」カッ!

 

ふたりはそれぞれのISを纏い、大空へ飛び上がった。

 

 

…………

 

京都上空

 

刀奈が追いかけると逃げたダリルとフォルテが待ち受けていた。

 

刀奈

「……どういうつもり?」

ダリル

「決まってんだろ?あそこじゃ戦うのに不便だからな。だから動きやすいとこに来たまでさ。ここなら周りを気にする必要もねぇしな」

フォルテ

「現役の代表で学園生徒一とも言われる貴女が相手となるとこっちも色々不利っスからね。勝率は少しでも上げさせてもらうっス!」

 

どうやら素直に捕まるつもりは無い様だ。

 

刀奈

「…話し合いは無駄な様ね。……IS学園生徒会長として、日本を守る更識の人間として、貴女達を逮捕、連行します」

 

そして互いに戦闘態勢をとった。

 

ダリル

「行くぜ!ヘル・ハウンド!」

フォルテ

「コールド・ブラッドの氷、受けてみるっス!」

刀奈

「更識楯無、ミステリアス・レイディ。…行くわ!」

 

火影とスコール、海之とオータム、刀奈とダリル&フォルテ。

京都の空で三つの戦いが始まろうとしていた。




次回は14日(土)の予定です。


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Mission135 京都編① 火 vs 火

謎の手紙に導かれ、火影・海之・刀奈・真耶の4人は列車で京都へ。しかし同じ車両にそんな4人を見張るように謎のふたりの声が…。

やがて京都へと到着し、各々は京都中を手掛かりを求めて散策する。そしてやがて火影はスコール、海之はオータムと接触し、互いに戦闘に突入する。
……そんな中、刀奈は京都タワーで自分達を追ってきていた人物と相対していた。それは同じIS学園の生徒であり、代表候補生でもあるダリル・ケイシーとフォルテ・サファイアの2名だった。同じ生徒でありながらファントム・タスクに協力していたのかと刀奈は怒りを露わに。こちらも戦闘に突入するのだった。


京都 上空

 

火影とスコールはISを纏い、京都遥か上空まで飛び上がっていた。

 

火影

「これ位離れたら下には被害出ねぇだろ。…つか、やるなアンタ。マジじゃねぇとはいえアリギエルに追いついて来るとは」

スコール

「お褒め頂いて嬉しいわ。…それにしても貴方のそのIS、物凄いスピードね。Mから聞いていたけどそれに加えて瞬間移動も出来るんでしょう?」

火影

「ああ短距離だけどな。…そういやあのMって奴はどうした?アンタもあの蜘蛛女もいやがんのに」

スコール

「…ふふ、さぁ。あの子はちょっと自由なところがあるから。それにあの子は私達よりオーガスの命令を最重要としているから私達でもわからない事があるのよね」

火影

「……」

(…Mはこいつらとは違うのか…?)

スコール

「まぁ、今はそんな事は良いじゃない。…さぁ、久しぶりの戦いなんだから、精々私を楽しませてちょうだい!」…ゴオォォォォォッ!!

 

そう言ってスコールは両腕から炎を形成した。

 

火影

「…へへっ、物覚えは良くなったがいちいち考えんのはやっぱ俺には合わねぇな!」ジャキッ!

 

火影はエボニー&アイボリーを向ける。

 

スコール

「はあぁぁぁ!」

 

スコールは両腕の炎を繰り出してきた。火影はそれを避ける。しかし炎は鞭の様な動きで火影に襲いかかる。

 

火影

「ほう…さしずめ炎の鞭ってとこか!」ズドドドドドドッ!

 

火影は自身に襲い掛かる炎にエボニー&アイボリーを撃つ。しかし、銃弾は炎に飲み込まれ、蒸発させられた。

 

火影

「炎を狙っても無駄か…なら!」ズドドドドドッ!

 

火影は操るスコール自身に銃を撃つ。

 

スコール

「無駄よ!」

 

するとスコールの周りに突然熱の壁の様な物が発生し、彼女を守る様に包んでしまった。その炎に銃弾は再び飲み込まれる。

 

火影

「!」

スコール

「私のゴールデン・ドーンは炎を自在に操るの。銃弾なんて無力よ」

火影

「へ~、んじゃ!」シュンッ!

スコール

「消えた!」シュンッ!「!」

 

火影はエアトリックでスコールの真上に移動していた。

 

火影

「なら直接ぶっ潰す!」ジャキッ!

 

そう言って火影は拳銃から持ち替えたリベリオンを構えていた。

 

スコール

「甘いわね!」

火影

「!」

 

その時、火影に向かって両腕の物とは違う別の炎が襲い掛かってきた。よく見るとそれはゴールデン・ドーンの尻尾だった。

 

火影

「ちぃっ!」

 

火影は急速回避するが完全には避けられず、片腕が炎に包まれてしまった。腕を振って火を消す火影。

 

火影

「アッチ!…そうかそのISにゃ尻尾があったんだったな。単なる長い飾りじゃ無かった訳か」

スコール

「ええそうよ。貴方の言う通りこの尾は今の様な場合の奇襲に使う第三の腕でもあるの。こんなに早くお披露目するのは予想外だったけどああしないとダメージを受けていただろうし。あとよく避けられたわね。並みの操縦者なら今の攻撃で焼き尽くされているところだけど」

火影

「そりゃぞっとしねぇな」

 

やがて今の炎による傷が修復される。しかしその時火影は再生が遅れている事を感じていた。

 

火影

(…ちっ、やっぱ再生が遅れてんな)

スコール

「! 火傷が治った…。再生能力っていうのは本当の様ね…。そういえばオータムが言っていたけど貴方、以前アラクネのコアを自らの腕を囮にして防いだそうね。それもそのISの機能で回復したの?」

火影

「…まぁな。まぁそんな事しなくても何とかなったのかもしんねぇけどあん時は仲間を助けんのに一杯だったから考える余裕なかったし」

スコール

「…そう、仲間を助けるために…」

火影

「……どうした?」

スコール

「…いいえ、なんでもないわ。さぁ、勝負を再開しましょう♪」

 

スコールは両腕、そして尻尾からも両腕と同じ炎を出す。それに対し火影も再び銃を手に向かっていく。

 

 

…………

 

その頃、海之はアラクネを纏うオータムと交戦していた。オータムはアラクネの8本の足先からそれぞれレーザーブレードを繰り出した。

 

海之

「以前は無かった装備だな」

オータム

「ああ、てめえらには銃よりもこっちの方が良さそうだから改造したのさ!前のようにはいかないぜ!」

海之

「手数だけで戦いが決まると思うなら素人の考えだ。それよりさっさと変身したらどうなんだ?」

オータム

「…んだと!?」

海之

「貴様はあの醜い姿にならん限り俺とまともには戦えん。本気で倒そうと思うならさっさとなんにでもなるが良い」

オータム

「…その減らず口を二度と叩けない様にしてやる!」ドンッ!

 

そう言ってオータムは8本の剣で襲いかかってきた。海之はその場から動かず、

 

海之

「そして貴様、先ほど手数では勝っていると言ったな。…果たしてそうかな?」

オータム

「ほざけぇ!」

 

そしてオータムは8本全てのレーザーブレードをあらゆる方向から繰り出した。

…しかし、

 

ガキキキキキキキンッ!!

 

オータム

「なっ!?」

海之

「……」

 

オータムは言葉を失った。自分の攻撃が全て受け止められていたのである。海之の閻魔刀と繰り出した2本の幻影剣によって。

 

海之

「こいつの使い方も随分慣れてきた。向こうでは思う様に使えたがこちらでは兵器という扱いだからな。一本一本自在に動かすのは少し手間がかかった。さぁかかってくるが良い」

オータム

「何を訳わかんねぇ事言ってやがる!うおぉぉぉぉぉ!!」

 

そう言ってオータムは8本の剣で襲いかかる。

……しかし海之の閻魔刀、そしてたった2本の幻影剣に全てはじかれてしまう。

 

オータム

「くそ!」ガキンッ!「ぐあ!」

海之

「…消えろ(DIE)…」

 

ズガガガガガガガガガッ!

 

オータム

「ぐあああああああああ!!」

 

はじいた隙を見逃さなかった海之は凄まじい剣の連撃を浴びせる。大きなダメージを受けるオータム。そしてたまらず距離をとる。

 

オータム

「ぐぐぐ…ち、ちっくっしょおぉぉ!あたりさえすりゃ貴様なんかぁ!」

 

すると海之は、

 

海之

「…なら当ててみろ。剣はしまってやる」

 

そう言って海之は幻影剣を消し、閻魔刀を下し、無防備になる。

 

オータム

「!なんの真似だ!?」

海之

「当ててみろと言ったのだ。耳が悪いな」

オータム

「…ならリクエストに応えてやらぁ!!」ドンッ!

 

ドスッ!

 

そう言ってオータムは剣をウェルギエルの腹部に突き刺した。シールドが無いため簡単に貫通、傷口から出血する。

 

海之

「……」

オータム

「はっはっはっは!バカか!?まさか本当に当てさせ」ガシッ!「!!」

 

その時オータムのアラクネの脚が海之に掴まれた。

 

海之

「これでは逃げれまい」

 

ズガガガガガガッ!!

 

オータム

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

海之

「はっ!!」ザシュッ!

 

海之はオータムを掴んだまま円陣幻影剣を繰り出す。最後は自身の閻魔刀で切りかかった。その衝撃で吹き飛ばされるオータム。

 

オータム

「ぐ、ぐぐぐぐ…」

 

苦しむオータム。そして暫くして海之の傷も回復するが、

 

海之

「…やはり回復が遅い」

 

こちらもダメージの回復の遅さを感じる海之。

 

オータム

「な、なんだ…なんなんだおめぇ!あんなぶっ刺されて平然としてるなんて化け物か!?」

海之

「それはお互い様だ。剣や銃弾などもう数えきれない程喰らっているんでな」

オータム

(!…こいつら…マジで一体なにもんだ…!?)

海之

「……火影の奴も遊んでいる様だな。相手は…あのスコールという奴か」

オータム

「ちっ…へへ、ああそうさ!スコールは私よりもはるかに上の実力者だ!助けにいかねぇと……って、遊んでいるってどういうこった!?」

海之

「そのままの意味だ。あんな女に負ける様な奴ならば…俺も今まで苦労はせん」

 

 

…………

 

火影とスコールの戦いも続いていた。炎の鞭による連続攻撃と銃弾を燃やす程の炎の壁による防御で火影の攻撃を許さないスコール。そして火影の方も被弾こそ一回のみで未だ決定打は無い。

 

火影

「ふぅ~、やっぱアンタ強ぇよ。少なくともあのオータムやMって奴よりずっとな。どうやって鍛えたんだ?」

スコール

「これでも戦いの経験はあの子達より長いからね。…ところで貴方、先程から本気で攻めてくる気が無いわね?どうして?」

 

スコールの言う通り、火影は先ほどから拳銃による攻撃ばかりで直接攻めてくる様な事はしなかった。

 

火影

「気づいてやがったか。…まぁ戦いを楽しみたかったんだよ。あとアンタの戦術を見ていた。今後の参考のためにな」

 

するとバイザーに隠れた火影の口角が上向きになり、

 

火影

「…だがそれも十分だ。悪いが今回の目的はアンタじゃあ無いんでね。…そろそろ終わらせてもらう」

 

そう言って火影はリベリオンに持ち替えた。

 

スコール

「それで斬りつけるつもりかしら?その前に私の炎を受ける事になるわよ?」

火影

「んなことわかってるよ」ジャキッ!

 

すると火影はリベリオンを逆手に持ち替え、後ろ側に構える。

 

火影

「はあぁぁぁぁ…」カッ!

スコール

「…!剣が…!」

 

するとリベリオンの刀身がみるみる黒い光に包まれた。身構えるスコール。

 

火影

「…おらあぁぁぁ!!」…ズバアァンッ!!

 

火影は全力でリベリオンを上向きに振るった。すると凄まじい衝撃波が猛スピードでスコール目掛けて向かってきた。

 

スコール

「くっ!?」

 

思わず防御姿勢をとるスコール。しかし、

 

バアァァァンッ!

 

スコール

「きゃあああ!」

 

凄まじい衝撃波を受け、スコールは怯む。ダメージもあるが何よりその衝撃の強さに思わずバランスを大きく崩してしまう。

 

スコール

「くっ!なんて風圧なの!?触れてもいないのに」

火影

「遅いぜ!」

スコール

「!!」

火影

「はあああ!」

 

ズガガガガガガガガガッ!

 

スコール

「きゃあああああ!!」

 

スコールが怯んでいる間に火影は瞬時加速で一気に接近。リベリオンの連続突きを食らわした。吹き飛ぶスコール。

 

スコール

「…くっ…あの一瞬で…」

火影

「まだ終わらねぇぜ」ジャキッ…ズドンッ!

 

火影は続いてカリーナからミサイルを射出した。

 

スコール

「実弾は通らないわよ!わかっているでしょう!」

火影

「当てるなんていってねぇよ」ジャキッ!ドンッ!

 

ドガアァァァァンッ!

 

スコール

「なっ!?」

 

火影はスコールにもう目の前まで迫っていたカリーナのミサイルを右手のエボニーで撃ち落とした。そしてその途端に物凄い爆風が起こる。

 

スコール

「…くっ!どこ!?」

火影

「後ろだ」

スコール

「えっ!?」バアァァンッ!「あああああ!!」

 

後ろからコヨーテの直撃を受けるスコール。前のめりになるが何とか姿勢を保ち、そのまま距離をとる。

 

スコール

「しゅ、瞬間移動で後ろに…。バリアを張る暇も無かったわ…。でもどうして炎まで消え…!まさか!」

火影

「ああ。さっきミサイルを着弾直前で爆破させたのは爆風を起こして炎の勢いを弱体化させるため。いわゆる爆風消火ってやつだ。さっきも同じさ。リベリオンのドライヴが生み出す風圧で消したんだ」

スコール

「……本当に子供とは思えない戦い方ね。さっきまでの戦いは本当に様子見って訳だったのね」

火影

「それはお互い様だろう。そっちもまだ全力を出してねぇ。それにあんたも持ってんだろ?あの妙な変身能力を」

スコール

「…DNS。…でも、あれを出すのはまだ早いわ。その前にゴールデン・ドーンの能力を見せてあげる!」

 

ゴォォォォォォォォッ!

 

スコールがそう言うと突然彼女の周囲に数えきれない程の無数の火球が出現した。

 

火影

「…成程。炎を操るアンタらしい技だな」

スコール

「ゴールデン・ドーンの特殊武装、ソリッドフレアよ!大きさ数限らず炎を生み出す事ができるの。……さぁ、受けなさい!」

 

ズドドドドドドッ!

 

その全てが火影に襲い掛かってきた。火影もそれを高速でよけながら回避する。しかし炎がまるで意志を持っているかの様に追跡してくる。

 

火影

「追跡もしやがるのか。…?しかしさっきに比べて数が少ねぇな……!」

 

ドンッ!

 

とその時、追いかけてきた炎とは別のものが別の方向から襲いかかってきた。後ろに注意がいっていた火影は一瞬怯み、被弾してしまう。

 

火影

「ちっ!」

スコール

「ソリッドフレアは私の意思で自在にコントロールできるの。所謂炎のビットみたいなものと考えてくれたら良いわね」

火影

「…成程な。炎は一直線にしか飛ばねえと思い込んで正直油断したぜ」

スコール

「…そして今も」

火影

「なに…!」

 

火影は気づいた。自分の周囲が火球に覆われていたのだ。自分でも気づかない内にまた新たな火球を形成し、配置していたらしい。

 

火影

「…逃げていたつもりがうまく誘導されていた訳か。まるで海之の幻影剣みたいだぜ。やっぱアンタ強ぇな」

スコール

「子供にやられっぱなしというのは大人として恥ずかしいからね。少しは驚かせてあげないと。……それより大丈夫なの?瞬間移動でも使わない限り不利なんじゃない」

火影

「あれは結構SE喰うんでね。温存しときてぇんだ」

スコール

「そう…。なら、もう戦えない様にしてあげるわ!」

 

そう言ってスコールは火影に周囲の火球を全て向けた。

 

火影

「!」

 

ズドドドドドドドドドドドドッ!

 

凄まじい爆発音と同時に火影が爆炎に包まれた……。

 

 

…………

 

海之・オータム

 

その炎の衝撃はこちらにも伝わっていた。勝負は海之が相変わらず優勢だったがそれより海之はウェルギエルの不調が気になっていた。

 

海之

(…やはり動きにガタが出始めてきている様だな。これは勝負を」ドドドドンッ!「!」

 

その時海之の耳に遠くから爆音が聞こえた。方角からして火影達がいる方向だ。

 

オータム

「…へ~、スコールの奴あれを出すとはな。相当本気と見える。…だがスコールのあれを食らって無事でいた奴は今まで一度たりともいねえ!あの赤い奴はこれまでだな!」

 

オータムは勝ち誇ったような声を上げる。そんなオータムに対して海之は、

 

海之

「…今までは、だろう?」

オータム

「なに!?」

海之

「貴様も、そしてあのスコールとかいう奴も、あいつを理解していない」

 

 

…………

 

スコールのソリッドフレアをまともに受ける形となった火影は煙に包まれていた。姿は全く見えない。

 

スコール

「……倒せたの?それにしてはあっけないわね。でもあの攻撃は確かに当たった筈だし、ダメージは負った筈だけど…」

 

スコールは警戒しつつも攻撃が通ったと確信している様だ。

 

スコール

「……まあ倒せたとしたらそれはそれで」

 

とその時、

 

 

…ゴオォォォォッ!

 

 

火影を覆っていた煙が吹き飛び、再び激しく燃え上がり始めた。

 

スコール

「! な、何なの!?…!!」

 

そしてスコールは気づいた。…良く見るとそれはただの炎ではなく炎に包まれた、いや炎を纏ったアリギエルだった。両腕にはいつの間にかイフリートがあり、それが一際激しく燃えている。

 

火影

「…誰が倒せたって?」

スコール

「!…まさか、あの攻撃を受けて…なんともないというの!?」

火影

「良い事を教えてやる。炎を操れんのはてめえだけじゃねぇ!」

 

すると火影を覆っていた炎が更に大きくなった。同じ炎を操れるスコールも怯む程の勢いだ。

 

スコール

「くっ!私が炎に怯むなんて!」

火影

「うおおぉぉぉ!!」…ドンッ!!

 

すると炎を纏ったまま火影は体当たりを繰り出してきた。

 

スコール

「突っ込んでくるつもり!?…なら受けてたってあげるわ!」

 

スコールはソリッドフレアを収縮させ、巨大な火弾を作り出した。

 

スコール

「これはどうかしら!!」…ドォン!

 

作り出した火球を向かってくる火影に向けて撃つ。……しかし、

 

スコール

「!!」

 

スコールが撃った火球が火影、正確にはアリギエルの炎とぶつかった途端、更にアリギエルの炎を大きくしたのである。

 

スコール

「私の炎を…吸収した!?」

火影

「おぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

ドガアァァァァァァァァァンッ!

 

 

スコール

「きゃああああああ!!」

 

火影の炎を纏った体当たりがスコールに直撃した。その瞬間爆発が起こり、スコールは体当たりと爆発の両方を受ける事になった。本来ゴールデン・ドーンは火の攻撃を無効化できる能力があるが、それさえも受け付けない程火影の攻撃はすさまじいものであったのだ。

 

スコール

「くっ……なんて…力…!」

火影

「こちとら火をも焼き尽くす地獄の業火に焼かれた事もあるんでね。それに比べりゃ並みの火なんて大したことねぇ」

(…つっても今までより熱さを感じたな。不具合なのと人間だからか…)

スコール

「…炎に焼かれる…?…貴方…一体、昔何が」

火影

「まぁ良いじゃねぇかそんな事。それより立ちな。大して効いてねぇ筈だ。今の体当たりはただの脅しだ。それとも降参か?」

 

するとスコールはよろめきながらも体勢を整える。

 

スコール

「…ふふふ。貴方…本当に強いわね…。こんなに刺激的な気分になったのは久々だわ。もう15年にもなるかしら…。大人げないかもしれないけどもっと、もっと戦いたくなるわ」

 

するとスコールの耳にあの声が聞こえた。

 

(……力を望むか…?)

 

スコール

「!…いいわ。貴方の希望通り…、そして私の望みに従い、使ってあげる。…DNSを!」

火影

「!」

 

ゴォォォォォォォォォォォッ!

 

スコール

「あああああああああああああ!!」

 

するとスコールの身体がISごと、あの黒い炎に包まれた。焼かれる痛みに絶叫を上げるスコール。そして、

 

 

……ドクンッ!

 

 

火影

(…リベリオンが!……やはりあれには魔力が使われている)

スコール

「ああああああああああ!」

 

…カッ!!

 

そしてスコールの身体が完全に黒炎に包まれ、それが激しい光と共に散った。

 

火影

「……」

 

そこにいたのは…妖艶な姿をしたIS。従来のISよりも露出が多く、一見裸婦にも見える。その上に羽織るのは蠢いている多くの黒い影。それが集まってドレスの様な物を形成し、それらひとつひとつが凄まじい雷撃を放っていた。

 

スコール(DIS)

「ハァ…ハァ…。これが……DIS。…オーガスの言う通り…凄まじい力の流れを感じる…」

火影

「…こんどはそいつか。しかしアンタはあいつと違って意識を失っていないようだな」

スコール(DIS)

「…炎から雷になったのはちょっと違和感あるけど…これも新しい経験だわ」

(…でもこれを使っても多分彼には敵わないでしょうね…。先ほどの戦いを見れば私にもわかるわ。でも…それ以上に純粋にこの子との戦いを楽しみたい。そんな気持ちで一杯だわ…!)

「さぁ、第2ラウンドを始めましょう!私を楽しませてちょうだい!」

 

するとスコールは自身が纏う多くの影を分散させ、戦闘態勢に入った。

 

火影

「…ご期待に応えてやるぜ!」ジャキッ!

 

火影もエボニー&アイボリーを構えた。

 

 

…………

 

その頃、スコールがDNSを使った事に発された魔力はこちらにも伝わっていた。

 

 

……ドクンッ!

 

 

海之

(…!閻魔刀が…)

「どうやら、あの女はDNSとやらを使ったようだな」

オータム

「!なんだと…!バカな…、あのスコールが…そこまで追いつめられるだと…!」

海之

「さて。貴様はどうするのだ?それともあれを使うのはもう怖いか?」

オータム

「…ざけんな!15年前のあん時に比べりゃこんな痛みなどかすり傷にもなりゃしねぇ!…いいだろう!望み通り使ってやろうじゃあねぇか!!」…カッ!

 

そう言ってオータムもDNSを起動させるのであった。

 

海之

「…あちらこちらで悪魔同士の戦いか…笑えん冗談だな」

 

そう言って海之もまた、閻魔刀を構えなおすのであった。




※次回は21日(土)投稿予定です。
※UAが125000に到達しました。ありがとうございます!


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Mission136 京都編② 力を持った者の明暗

京都上空での火影達とスコール達の戦い。

火影はスコールの炎を操る攻撃に有効な攻め手が出せないでいた。
……と、いうのは実は火影の芝居であり、スコールの攻撃を知るために様子見を行っていたのだった。スコール以上の炎を操る能力によって一気に形勢逆転する火影を前に、スコールは遂にDNSを発動。一方の海之もオータムとの戦いでオータムを終始圧倒し、後が無くなったオータムも海之を殺す目的でDNSを発動させた。
…そしてその頃、刀奈はダリル・ケイシー改めレイン・ミューゼル、そしてフォルテ・サファイアと戦っていた。


火影と海之が其々スコール・オータムと戦っていた一方、その数分前から別の場所で刀奈とダリル・ケイシー、フォルテ・サファイアの戦闘も開始していた。

 

ダリル

「行くぜぇ!燃えろヘルハウンド!」ゴォォォォォッ!

 

するとダリルのIS「ヘルハウンド」の両肩にある獣の顔の様に見える装甲から凄まじい炎が噴き出す。

 

刀奈

「こちらも行くわよ!アクア・ナノマシン展開!」

 

刀奈も自らのレイディの水を操る力を利用して空気中にナノマシンを散布する。

 

フォルテ

「させないっスよ!コールド・ブラッド!」キイィィィィンッ!

 

するとフォルテのIS[コールド・ブラッド」の周辺に凄まじい冷気が発生した。同時に刀奈が散布したナノマシンが凍りだして出力が落ちる。

 

フォルテ

「これでご自慢のヴェールの能力は激落ちっすね!」

刀奈

「!…成程ね。確かにレイディの水のヴェールも凍っては役に立たないか。…でも変ね。貴女のISも調べたけどそれほどの能力は無かった筈。改造したの?」

フォルテ

「そうっス!でも私だけじゃないっス!」

ダリル

「その通りだあぁ!!」

刀奈

「!」

 

ガキィィンッ!

 

ダリルがイフリートの様な炎を宿した剣で斬り掛かってきた。刀奈も自らのランスで応戦する。

 

刀奈

「! このパワー…貴女のISも改造しているの?」

ダリル

「おうよ!ヘルハウンドver2.8!叔母さん達にパワーアップしてもらったのさ!」

刀奈

「…叔母さん?」

ダリル

「そうさ!スコール・ミューゼル!ファントム・タスクの幹部だよ!あの人が私の叔母さんさ!」

刀奈

「!!……そう、だから協力していたのね」

ダリル

「家族に協力すんのは当たり前だろ!…そして私のコードネームはレイン。レイン・ミューゼルってんだ!覚えときな!」

刀奈

「…レイン・ミューゼル…!」

 

ガキンッ!

 

その時反対側からフォルテも自らの剣で襲いかかってきた。刀奈ももう片方の手に蛇腹剣「ラスティ―ネイル」を持って応戦する。

 

フォルテ

「私も忘れてもらっちゃ困るっス!」

刀奈

「フォルテ・サファイア、貴女はダリルの正体を知っていたの…?」

フォルテ

「ダリルがファントム・タスクだろうが関係ないっス!私が一番信じるのはダリルっス!ダリルがそうするなら私もそうするまでっス!」

刀奈

「…そう。なら遠慮はいらないわね!」

 

ガキィィィィンッ!

 

刀奈は全力でランスと剣を振るった。その勢いでダリル・フォルテの両名を振り払う。

 

ダリル

「…ちっ!やっぱ学園一の名は伊達じゃねぇって訳かい…。パワーアップしたとはいえ、ひとりで私達を振り払うとは…」

刀奈

「私が学園一?……ふふふ…あはははははははは!」

 

刀奈は大笑いしだした。

 

フォルテ

「…何がおかしいんスか?」

刀奈

「これがおかしくない訳ないでしょ。私が学園一なんて…もう随分昔の話よ」

(9年前から既にね)

ダリル

「!!それって…あのエヴァンス兄弟のふたりの事か?」

刀奈

「ええそうよ。貴女達は永久にあのふたりに敵わないわ。そして私にもね!」

ダリル

「面白れぇじゃねぇか!」

フォルテ

「簡単に勝てるなんてはなから思ってないっス!せめて度肝抜かせて見せるっス!」

 

 

…ドォォォォンッ!

 

 

その時遠くから何かが爆発したような音が聞こえた。

 

刀奈

「…!なに?」

フォルテ

「なんか爆発した様な音っスね」

ダリル

「爆発か…。多分だが叔母さんのISの攻撃じゃねぇかな?」

刀奈

「…スコール・ミューゼル…。誰かと戦っているの?」

ダリル

「そうさ。叔母さんのゴールデン・ドーンは炎を操るISだ。私のヘルハウンド以上のね!叔母さんはファントム・タスクでもトップクラスの実力者だ!並大抵の操縦者じゃ相手にすらならねぇぜ!」

刀奈

「へ~」

フォルテ

「…!えらく余裕な表情っスね!お友達が危ないかもしれないんスよ?」

刀奈

「本当に貴女達、あのふたりの事わかっていないのね♪まぁあっちは火影くんや海之くんに任せておけば問題ないわ。私達は勝負を再開しましょ。というか私は貴女達の方が許せないからね。同じIS学園の生徒でありながら皆を危険に晒したんだもの!」

フォルテ

「さっきも言ったように私の道はダリルの道っス!ダリルのためなら…学園なんて関係ないっス!はぁぁぁぁ!」

 

…キイィィィィィンッ!

 

フォルテの周りにいくつもの氷の槍が形成され、それが矢のように飛ばされる。それを刀奈は左手のラスティ―ネイルで払う。

 

刀奈

「そこ!」ズドドドドドッ!

 

その隙にすかさず刀奈は右手のランスのガトリング砲を撃つ。

 

フォルテ

「そうはいかないっス!」キィィィンッ!

 

するとフォルテも自分の前に氷の壁を形成し、刀奈の攻撃を防ぐ。

 

フォルテ

「…かかったっス!」

刀奈

「かかったって何が…!」

 

ビキビキビキ…!

 

刀奈は驚いた。先ほど氷の矢を払った自分のラスティ―ネイルに纏わせていたアクアナノマシンが凍り出し、刀身を覆ってしまったのである。

 

刀奈

「…まさかさっきの氷の矢の冷気が?」

フォルテ

「私のISは氷を操るっス!これ位簡単ッス!」

ダリル

「そしてぇ!」

刀奈

「!」

 

すると今度は再度ダリルが炎の剣を繰り出してきた。すかさずそれを凍ったままの剣で受け止める。…しかし、

 

ピシッ!

 

刀奈

「!」

ダリル

「アンタがフォルテにかまってたおかげで更にチャージできたぜ!私のヘルハウンドは炎をチャージすればするほど攻撃の威力があがるのさ!…おらぁ!!」

 

ドゴォッ!……バキィィィンッ!

 

刀奈

「! ラスティ―ネイルが!?」

 

刀奈のラスティ―ネイルが二発目の剣撃によって折れてしまった。すかさず距離をとる刀奈。

 

ダリル

「ハッハー!流石のアンタも驚いたようだな!見たか!私達のISのパワーを!」

刀奈

「…どうやら今までのデータはまるであてにならない様ね。正直に驚いたわ」

 

すると刀奈はランスを下す。

 

ダリル

「あ?なんの真似だ?アンタが降参なんてするなんて思えねぇぞ」

刀奈

「当然よ。降参なんかしないわ。貴女達みたいな…雑魚にはね」

ダリル

「!んだとぉぉぉぉ!」ドンッ!

フォルテ

「ダリル!待つっス!」

 

フォルテの静止を無視し、ダリルは瞬時加速で接近して攻撃しようとする。

 

ダリル

「砕け散りやがれぇぇ!」ブンッ!

 

ドゴォッ!

 

ダリル・フォルテ

「「!!」」

刀奈

「…ふふん♪」

 

ダリルたちは驚いた。ダリルの炎の剣が、刀奈の手によって受け止められていたのである。いや正確には刀奈が腕に着けているものに。そして、

 

刀奈

「はぁぁぁぁ!!」

 

バキイィィィンッ!

 

刀奈のそれによってダリルの剣がいとも簡単に握り壊されてしまった。

 

ダリル

「なんだと!?」

フォルテ

「一体何が起こったっスか!?」

 

慌てるふたり。刀奈はそれを見て笑った。

 

刀奈

「これは快感ねぇ♪」

 

 

…………

 

それは束とクロエが学園に来た日の事。千冬と真耶がクロエの入学手続き作業の邪魔になるとして束は追い出され、火影達と一緒に火影が作ったアップルパイを食べていた。

 

「ひーくんのアップルパイ美味しいね~♪」

本音

「ほんとです~♪」

火影

「気に入ってもらえたなら何よりです」

「ギャリくんのデザートは超絶品だけどギャリくんのはたまにしか食べないからこそ凄い感動ものなんだろうね~。あんなの毎日食べてたら良い意味で茫然としてしまう毎日だよ~」

一夏

「ああ、確かにそれは言えるかもしれないですね。俺なんかおかわりしたいのに旨さの衝撃から出来なかったすから」

「そうか?三杯位おかわりしてた気がするが…。おや?海之とラウラはどうした?」

「海之くんとラウラなら先生達とクロエさんにパイの差し入れに行ってるよ」

「相変わらず気が利くわね」

「…あ!そういえば思い出した!差し入れじゃないけどもうひとつ造ったものを持ってきたんだった!アップルパイ食べたら一緒に取りに行こう!」

シャル

「もうひとつって…ベアトリス以外にもまだあったんですか?」

「そ!でも誰に渡すかまだ決めてないんだよね~。これはちょっと野蛮というか~、付ける人を選ぶというか~」

セシリア

「や、野蛮とはまた物騒な物の様に思えますわね…。付けるという事はデビルブレイカー、でしょうか?」

「そだよ♪」

刀奈

「デビルブレイカーなら私欲しいな~。だって私だけまだ魔具がないんだも~ん」

一夏

「い、いや楯無さんはそんなの無くても十分に強い気が」

刀奈

「え~、い~や~だ~!私もほ~し~い~!」

「じゃあ君にあげるよ」

刀奈

「やった~♪それでなんて言うんですか~?」

「デビルブレイカー「バスターアーム」だよ♪」

 

 

…………

 

刀奈の腕に付けられていたそれ、「バスターアーム」は巨大な爪の様なものが付いているデビルブレイカーだった。

 

刀奈

「バスターアームは簡単に言えば腕力、そして握力を大幅に上げることができるの。腕だけの単純なパワーアップだけどその数値は最大でノーマルの10倍よ♪」

ダリル

「なっ!10倍だと!?」

刀奈

「そして…」ドンッ!

 

すると刀奈はバスターアームをひらいたまま瞬時加速で接近し、

 

ダリル

「くっ!」

 

ダリルは回避が間に合わず防御の姿勢をとる。しかし、

 

ガシッ!

 

ダリル

「! な!?」

 

ISがシールドごとそれに掴まれたような感じがするダリル。

 

ブンブンブンブンッ!

 

更にそのまま持ち上げられ、豪快に振り回される。

 

ダリル

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

フォルテ

「ダリル!」

刀奈

「おおぉぉりゃあぁぁぁ!!」ブンッ!

 

ドガァァァァァァンッ!

 

ダリル・フォルテ

「「きゃああああああ!!」」

 

ダリルはフォルテ目掛けて投げ飛ばされ、激しくぶつかった。

 

刀奈

「癖になるかも♪このバスターってやつ」

フォルテ

「な、なんて野蛮な戦い方っスか!」

刀奈

「テロリストには言われたくないわね!」

フォルテ

「ならこれはどうっス!」キィィィンッ!

 

フォルテは再度氷柱を作り出し、撃ってきた。

 

バリィィン!!

 

するとバスターアームをハンマーの様にふるい、粉々に砕く。

 

フォルテ

「なっ!!パワーアップした私の氷を軽々と!?」

刀奈

「ほんと魔具ってスゴイわね~♪さぁ、かかってらっしゃい!」

ダリル

「ちぃっ!流石は現役ロシア代表って事かい…!」

 

 

…………

 

…一方、海之はDNSを起動させ、変化したオータムと戦っていた。黒炎に焼かれ、変貌したオータムの姿は以前のものとよく似ており、全体的に筋肉質で頑強な姿。特徴としては腹の部分に口の様な穴があった。

 

海之

「以前と姿が違うな」

オータム(DIS)

「…くっ…、やっぱきついなこれはよ。ああ、あの野郎が言ってたのさ!DNSは使う者の念が強いほど力を発揮するってな!俺の憎しみが増す度に俺のISも進化するってわけだ!」

海之

「前と違い意識もはっきりしているか。だが言葉の下品さは成長していない様だ」

オータム(DIS)

「ほざけぇぇ!!」ドンッ!

 

オータムは高速で突っ込んできた。その勢いで剛腕を繰り出すオータム。それを海之は避け、

 

海之

「ふん!」

 

閻魔刀を振り下ろす。しかし、

 

ガキンッ!

 

海之

「!」

 

閻魔刀の一撃はオータムの変異した腕に受け止められた。

 

オータム(DIS)

「はっはー!初めて驚き顔を見ることができたな~!オラァッ!」ブンッ!

 

反対の腕を振り上げるオータム。それを海之は冷静にかわす。続けざまに海之は今度は頭に刀を振るうが、

 

キィィィンッ!

 

それでもやはり通らない。どうやら以前戦ったものよりも装甲は各段に上がっている様だ。

 

海之

「頭も駄目か…」

オータム(DIS)

「無駄無駄!そんな攻撃効かねぇぜ!」

 

続け様にオータムは剛腕による攻撃を繰り出す。一方、海之の方もそれを華麗に避ける。

 

オータム(DIS)

「ちぃ!流石に素早いな!」

海之

「通常の攻撃は通じんか…」ジャキッ!ズドドン!

 

海之はブルーローズにエネルギーをチャージし、ビームを撃った。しかし、

 

ギュゥゥゥゥゥンッ!

 

海之

「!」

 

突然オータムの腹にある穴が光り出した。すると海之の撃ったビームが穴に吸い込まれた、いや飲み込まれた。

 

海之

「ビームを飲み込んだ…!」

オータム(DIS)

「驚くのはまだ早いぜぇ!」

 

ズドドンッ!

…ビシュゥッ!!

 

海之

「!…くっ」

 

スコールに飲み込まれたビームが突然穴から撃ち出されてきた。それがウェルギエルの肩に当たる。

 

オータム(DIS)

「どうやら俺のこいつはこういった能力の様だな!銃弾やビームは効かねぇぜ!」

海之

「…ならば」キンッ!

 

そう言った海之は次元斬を放った。

 

…ギュンッ!

 

しかしこれも発動する前の状態のまま、飲み込まれる形となった。そして

 

…ヴンッ!キンッ!

 

そのまま腹の穴から撃ち返されてきた。その剣撃を海之は何とか閻魔刀で受け止める。

 

海之

「これも駄目か」

オータム(DIS)

「へぇ~便利なもんだなこれは♪」

海之

「成程、見た目と言いその能力と言い、奴か…。どうやら、単純な者には単純な奴が憑くらしい」

オータム(DIS)

「…てめぇ…まだ愚弄するか!?」

海之

「喚くな。…………どれ、もっとくれてやろう」ズドドドッ!!

 

何かを考慮するような沈黙の後、そう言って海之は幻影剣を撃つ。するとやはりその口に飲み込まれる。しかし海之を止めず、光の剣を撃ち続ける

 

ズドドドドドドッ!

 

オータム(DIS)

「はっはっは!な~にやってんだ!?わざわざエネルギーをくれるな」ドガァァァァァンッ!「ぐあぁぁぁぁぁ!!…な、なにぃ…!?」

 

オータムは驚愕した。見ると腹部の穴がまるで内部から爆発したかの様に破損していたのだ。

 

オータム(DIS)

「な、何故だ……何故爆発しやがった…?」

海之

「当然だろう。貴様は飲み込んだエネルギーを放出しないまま溜め込んでいたんだぞ。どんなに大きい器でも出口を作らなければため続ける水がいずれ暴発するのは自明の理だ」

(最もSEも使ったがな。SE消費率も大きくなっているのか…?)

「そして…」ドンッ!

 

ザンッ!

 

オータム(DIS)

「ぐああああっ!」

 

瞬時加速で損傷した穴を斬られ、オータムはダメージを受ける。

 

海之

「これで弱点ができたな」

オータム(DIS)

「く…くっそたれがあぁぁ」

 

オータムは苦しみながらも再び構える。

 

海之

「ほぉ、先の言葉は訂正しよう。しぶとさは単細胞では無い様だ」

オータム(DIS)

「…てめぇ…また言いやがったな!」

海之

「事実を言ったまでだ」

オータム(DIS)

「俺は、てめえの様な見下す野郎は一番嫌れぇなんだよ!!」

(…今に見ておけ!もう少ししたらそのクールな表情を慌てさせてやるぜ!)

 

 

…………

 

場所は戻り、刀奈とダリル・フォルテの戦い。二対一、更に刀奈の予想を超えるパワーで彼女の武器を破壊するなどして最初こそ有利に立っていたふたりであったが、そこはやはり代表と代表候補の違いか時間をかける内に、更に「バスターアーム」の登場で虚を突かれた事も重なり、ゆっくりではあるが次第に形勢は傾きつつあった。

 

ガキィィィンッ!

 

ダリル

「ちっ!なんなんだあの妙なクローみたいな武器は!全力の俺の剣を弾きやがるなんて!」

フォルテ

「ダリル!スコールさんに貰ったあれを使うっス!」

ダリル

「そうだな!頼むぜフォルテ!」

 

そしてフォルテは何かを入力し始める。すると、

 

ヴゥゥゥンッ!

 

突然空間に歪みが発生し、

 

刀奈

「!…これは…まさかあの時の!」

ダリル

「さぁ出てきやがれ!」

 

ドォォォォンッ!

 

それが小規模な爆発を起こした。

 

グリフォン

「グオォォォォォッ!」

 

中から現れたのはキャノンボールやタッグ・トーナメントでMやオータムが使っていたグリフォンだった。

 

フォルテ

「へ~、初めて実物見たっスが本当に変わってるっスね!」

刀奈

「何故貴女達がそれを…!?」

ダリル

「へへへ、今回の作戦のために叔母さんからもらってたのさ!危なくなったら使えってな」

刀奈

「そんなものまで使うなんて…本当に堕ちたわね、貴女達」

ダリル

「アンタに勝つためにはこれ位しねぇとな!」

 

グリフォンは刀奈に向けて突進してきた。それをギリギリでかわす。

 

刀奈

「くっ!」

 

ババババババババッ!

 

かわされたグリフォンは今度は角から電流を放出してきた。

 

刀奈

「これ位避けられない私だと」

フォルテ

「はぁぁぁ!」

刀奈

「!」

 

フォルテは自身の周りに氷の障壁を展開。雷の嵐の中、氷の刃で刀奈に襲い掛かる。

 

刀奈

「なんて無茶を!」

フォルテ

「氷は絶縁体っス!氷のバリアを張ってればこの雷の嵐の中でも動けるっス!」

刀奈

「考えたわね!でもそれなら私のレイディも」バババッ!「!」

 

刀奈の肩をグリフォンの電流がかすめた。あと数センチずれていれば直撃していただろう。たまらず距離をとる刀奈。しかし、

 

ダリル

「逃がさねぇぜ!」ドンッ!

刀奈

「くっ!」

 

ダリルの炎による攻撃。それを自らのランスで何とか受け止める。

 

ダリル

「ちぃ!惜しい!」

刀奈

「危ない危ない…。でもさっきグリフォンの電流がどうして……あ!」

フォルテ

「気づいたっスか。そうっス。貴女の水の能力は戦い始めに弱まっているっス。だから電流もダメージを受けるっス!」

刀奈

「そういえばそうだったわね…。貴女達の攻撃が当たらなかったから忘れてたわ」

ダリル

「何時まで強がっていられるかな!数の差、そしてアンタのISの能力は完全じゃねぇ。幾らアンタでもひとりじゃ流石に不利じゃねぇのか?降参でもするか?」

楯無

「あら?言ってくれるじゃないの。更識の人間は…決してテロには屈さないわ」

 

そうはっきり宣言する刀奈。

 

ダリル

「そうかい…じゃあ仕方ねぇな!グリフォン!」

 

するとグリフォンは光の翼を撃とうとする。しかし刀奈は避けようとしない。そしてそのままふたりに言い放った。

 

 

刀奈

「それに私はひとりじゃないわ。私には……天使の加護があるのよ♪」

 

 

ズガガガガガガッ!

 

グリフォン

「グオォォォォォッ!」

ダリル・フォルテ

「「!!」」

 

その時、突然グリフォンが悲鳴を上げた。よく見ると片方の翼が損傷したのか煙を上げている。

 

ダリル

「な、なんだ!?」

フォルテ

「…ダリル!避けるっス!」

 

ギュィィィィンッ!

 

突然ふたりに襲いかかるカッターの様な兵器。どうやらグリフォンを傷つけたのはこれの様だ。

 

ダリル

「く!な、なんだ!新手か!?」

フォルテ

「ダリル!後ろっス!」

ダリル

「何?…!」

 

ふたりは振り返ってみた。そこにいたのは…、

 

 

クロエ

「……大丈夫ですか?楯無さん」

 

 

天使の様に美しい純白のIS「ベアトリス」を纏ったクロエであった。




ダリルとフォルテは情報が少なかったのですが、敵側も新たなキャラを出したいので参加させました。

※次回は28日(土)です。


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Mission137 京都編③ 魔人達の策

火影とスコール、海之とオータムが戦っている一方、刀奈とダリル&フォルテ組も戦いを始めていた。ダリル改めレイン・ミューゼルと、フォルテ・サファイアの予想を超えるISのパワーに最初は苦戦する刀奈だったが、自身の技術とデビルブレイカー「バスターアーム」によって形勢を押し返す。
しかしダリル達は今度は自らの加勢としてなんとグリフォンを召喚。作戦の実行前にスコールから与えられていたのだ。得意の水のヴェールも使えないこの状況でダリルは降参を提案するが、刀奈はそれを一蹴し、更にこの状況で笑顔で言い放った。

「私には天使の加護が付いているのよ♪」

その瞬間ダリル達に襲い掛かる影があった。それはIS学園に残っている筈の……。


ズガガガガガガガガガッ!

 

グリフォン

「グオォォォォォォッ!」

 

シュバババババッ!

 

突然ダリル達に襲いかかる攻撃。

 

ダリル

「な、なんだこの攻撃は!一体どっから」

フォルテ

「!ダリル!後ろっス!」

ダリル

「なに!?……!!」

 

突如ダリル達やグリフォンを攻撃した謎の影。それは…、

 

クロエ

「…大丈夫ですか?楯無(刀奈)さん」

 

IS学園にて体調不良で休んでいる筈のクロエであった。先のグリフォンへの攻撃は彼女のIS「ベアトリス」の遠隔武装、アキュラであった。

 

刀奈

「くろ…じゃなかった。シエラ(クロエ)ちゃんナイスタイミング~♪」

ダリル

「てめぇは…確かつい最近学園に転校してきたっていう!」

フォルテ

「そうっス!確か名前は…シエラ、シエラ・シュヴァイツァー!そしてその専用機ベアトリスっス!なんでここに!?」

 

予想外の乱入者に驚くダリルとフォルテ。そんなふたりにクロエは言った。

 

クロエ

「……追跡していたのは貴女達だけでは無かったという事ですよ……」

 

 

…………

 

前日 昼休憩の会議室にて。

 

刀奈

「…わかったわ。そっちのほうは任せておいて。家の者も使って急ピッチで調べてあげるわよ。今日の夜には連絡するわ」

海之

「ありがとうございます。…それでクロエ、お前にもひとつ頼みがある」

クロエ

「なんでしょうか?海之兄さん」

 

すると海之はクロエに言った。

 

海之

「もし学園内に内通者がいるとした場合、俺達が京都に行くと分かれば何かしら行動に出る筈だ。もしかしたら学園から俺達を見張って京都まで追ってくるかもしれん」

火影

「…成程。お前の言いたい事わかったぜ。もしそういう奴がいたらクロエに見張っていてほしいという訳だな」

千冬

「…確かに。オーガスはお前達が無視できん理由も知っている。こちらの行動を把握するために影から追ってくる可能性も捨てきれんな。裏をかくという訳だな」

海之

「そういう事です。罠に飛び込む以上こちらは不利ですからね。少しでも有利に立てる材料が欲しい」

真耶

「正直考えたくはありませんけどね、…でも仕方ないんですね…」

クロエ

「私にその様な大役が務まるでしょうか…?」

 

やや不安がるクロエ。

 

刀奈

「大丈夫よクロエちゃん。あの束さんの娘で、このふたりの認める妹でしょ?自信を持ちなさい」

火影

「…はは、という訳だクロエ。任せたぜ?」

海之

「頼む。だが無理はするな。危ないと感じたら直ぐに離れろ」

クロエ

「…はい!」

火影

「ああ…それからクロエ、これを持っていけ」

 

火影はクロエに物凄く小さい何かを手渡す。

 

クロエ

「これは…盗聴器ですか?」

火影

「ああ。こんな見た目だが十分な機能がある。超小型の電池だから数時間しかもたないが京都にいる間なら十分だろ。もしチャンスがあれば使え」

クロエ

「ありがとうございます」

刀奈

「良く思いついたわね」

火影

「盗聴器は初めてじゃありませんので…」

 

 

…………

 

クロエ

「昨日の夜に楯無さんから連絡をいただいてからずっと貴女達を見張っていました。兄さん達が列車に乗り込む前に駅にいた事も知っていますよ」

ダリル

「…そうか!なんで俺達が同じ列車どころか同じ車両にいたのかわかったのは!」

フォルテ

「…ずっと見られていたという事っスね…。アンタ只者じゃないっスね…、私達に気配も感じさせないなんて…」

クロエ

(…ドイツにいた時の訓練がまさかこの様な形で役立つとは思いませんでしたね…)

刀奈

「目には目をってやつよ。シエラちゃん、山田先生は?」

クロエ

「山田先生は先ほどの件で後処理を行ってくださっています。もう少ししたら来られると思います。その前に今はこの状況を何とかしましょう。お手伝いします」

刀奈

「ありがとね♪」

ダリル

「ちっ、仕方ねぇ!グリフォン!てめぇはあいつの相手をしろ!」

 

ダリルはグリフォンをクロエ操るベアトリスに向ける。

 

グリフォン

「グオォォォォォッ!」

クロエ

(グリフォン…兄さん達が前世で戦ったという存在。実戦は初めてですがやってみせます。兄さん達の妹として、恥じない戦いをしてみせます!)

 

ババババババババッ!

 

先程と同じく雷の嵐を放つグリフォン。それに対してクロエは回避行動をとりつつ、避けられないものはシールドを張って冷静に対処する。

 

クロエ

「あの雷の結界はレーザーより厄介ですね…。私のISには火影兄さんのエアトリックや海之兄さんの残影の様な回避行動はできませんからね。ちょっと強引な方法で行きましょう」

 

クロエはシールドを張りながらオシリスを前方に構え、そのまま瞬時加速で突進した。

 

クロエ

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ズガアァァァンッ!

 

グリフォン

「グオォォォッ!」

 

クロエの瞬時加速+オシリスの一閃がグリフォンの角を切り裂いた。

 

クロエ

「多少シールドがダメージを受けましたが束様がベアトリスにSE自動回復機能を付けて下さって良かったです。これであの雷は撃てませんね」

グリフォン

「グググ…グオアァァァァァッ!」ドンッ!

 

攻撃を受けた事に怒ったのか、グリフォンは高スピードで飛びながらレーザーをクロエに向けて撃ってくる。それをかわしながら、

 

クロエ

「次はあのスピードを少しでも遅くしましょうか…」

 

バサッ…ドドドドドドドンッ!

 

するとクロエはセラフィックソアーをグリフォンに向けて射出した。

 

グリフォン

「グオォォォォォッ!」ドンッ!

 

しかし追跡する無数の天使の羽をグリフォンは高スピードで飛び回りながら避ける。………やがて全て避けきり、

 

グリフォン

「グアァァァァァァッ!」

 

再びクロエに照準を合わせようと方向転換しようとする。…しかし、

 

クロエ

「…かかりましたね」

 

 

ドガァァァァァンッ!

 

 

グリフォン

「!?」

 

突然グリフォンの周辺に爆発が起こった。そのダメージを多少受けるグリフォン。

 

グリフォン

「グルルルルルル…!!」

 

グリフォンは気づいた。自分の周辺に無数の羽が舞っていることを。そして理解した。それは先程自分が避けたセラフィックソアーの光の羽だという事を。

 

クロエ

「セラフィックソアーに何故無尽翼という名があるのか、それはこれに合わせたもうひとつの魔具、「無尽剣ルシフェル」の能力故です。空中に配置できたり」

 

ドガガガガガガガガガンッ!

 

グリフォン

「グオォォォォォッ!」

クロエ

「機雷のように自分のタイミングで爆発できたりできるんですよ。…ダメージは与えられたようですね。では続けましょうか」ジャキッ!

 

クロエは再びオシリスを構えた。そんなクロエの戦い方をみていたこちらは、

 

ダリル

「アイツ、グリフォン相手に物ともしていねぇ!」

フォルテ

「無茶苦茶っス!」

刀奈

「おとなしそうに見えてあの子冷酷な戦い方するわねぇ。気にいったわ~♪」

 

 

…………

 

その頃、海之とオータム(DIS)の戦いは佳境を迎えていた。

 

オータム(DIS)

(……そろそろ良いか…)

 

するとオータムは自らの変身を解除し、アラクネに戻った。

 

海之

「変身を解除する事もできるのか。だが何故だ?諦めるのか?」

オータム

「…ふふふ、バカな事言ってんじゃねぇよ。諦めるのはてめぇの方じゃねぇのか?」

 

するとオータム拡張領域を展開し、何かを取り出した。…一見何かのスイッチの様にも見える。

 

海之

「……?」

オータム

「これがなんなのか知りたいか?まぁ待てよ。おい、てめえに問題だ。「18」、この数字が何かわかるか?」

海之

「……」

 

海之が黙っているとオータムは答える。

 

オータム

「京都市にある鉄道の路線の数だ。その路線の数だけ一日に多くの列車が走っている。更に京都は観光都市、おまけに今の時期という事もあって利用客も多い。そこでこのスイッチだが……これが何を意味するかわかるか?」

海之

「……」

 

海之が引き続き黙っているとオータムは勝ち誇ったように言い出した。

 

 

オータム

「くくく…驚け!これは爆弾の起爆スイッチだ!市内を走るひとつの路線のある車両に仕掛けてある!これを押すと瞬時に爆弾が爆発する!多くの乗客が河童微塵に吹っ飛ぶってっ訳だ!!」

 

 

海之

「……」

オータム

「くくく、あまりの驚きで言葉も出ないか?散々なめた事言ってくれやがって…。てめぇらは確かに強ぇよ。認めてやらぁ。…だがな、以前あの赤い野郎には言った事あったが、俺には守るもんなんかねぇ!自分達のためだけに行動する!誰がどうなろうと知ったこっちゃねぇ!だがてめぇらはそれはできねぇ!それがてめぇらの限界だ!今みたいになぁ!」

海之

「……」

オータム

「……だが、俺も完全な悪魔じゃぁねぇ。事によっちゃあ爆弾のありかを教えてやっても良いんだぜぇ。今までの否を素直に認め、負けましたって土下座でもすりゃ許してやらん事もねぇがよ?」

 

勝ち誇ったように降参する様に提案するオータム。

………すると、

 

海之

「……良く囀る」

オータム

「……んだと!?」

 

それまで俯いて黙っていた海之が口を開いた。ひどく冷たい声で。

 

海之

「いいだろう。押せ。止めはせん」

オータム

「!!」

海之

「多くの命をそんなものひとつで一瞬にして終わらせる覚悟が貴様にあるのならば、遠慮はいらん。今すぐ押せ」

 

そう言いながら海之はゆっくりと近づいてくる。

 

オータム

「…て、てめぇ…正気か!?」

 

オータムは無意識でやや恐怖していた。冗談を言っている様には思えない。今の海之は先ほどまでとは何か違う様に思えた。まるで人の命などなんとも思っていない様な…。

 

海之

「どうした?さっさとやれ。それともやはりできんか?塵芥の如き貴様には」

オータム

「!!」

海之

「後悔せんのならば、真の悪夢を見る覚悟があるならば、その悪夢の中で絶望を抱き、死ぬ覚悟があるならば…やってみるがいい」

 

そう言いながら海之はゆっくり近づいてくる。

 

オータム

「…く、来るな!本気で押すぞ!?」

海之

「………」

 

無言のまま海之は近づいてくる。オータムはその姿にまるで「悪魔」を見たような気がした。

 

オータム

(…く!しっかりしろ!相手はただのガキだ!悪魔なんかじゃねぇ!…こうなったら押してやろうじゃねぇか!俺がどうせ押せないって思って脅迫してきてるだけだ!凄んでも所詮ガキだ!実際押されたら動揺するに決まってる!こんなガキになめられてたまるか!!)

 

そして、

 

オータム

「…いいだろう!押してやろうじゃねぇか!!悪夢を見るのはてめぇの方だぁぁぁ!!」

 

オータムは勢いよくスイッチを押した。

 

 

…………

 

その頃、火影とDNSを使って変化したスコールの戦いは新たなラウンドに突入していた。

 

スコール(DIS)

「さぁ、第2ラウンドを始めましょう!私を楽しませてちょうだい!」

火影

「いいだろう、ご期待に応えてやるぜ!」ジャキッ!

 

火影はエボニー&アイボリーを構える。

 

火影

(こいつは確か前ん時は地面から雷や影を飛ばしてきたな。だがISは空の戦いが中心。前とは違うと考えたほうが良いか…)

 

するとスコールは自分が纏っていた影を分散させた。それらは雷を纏った蝙蝠の様な姿をし、集団で火影に襲い掛かってきた。

 

火影

「例え蝙蝠だろうが俺には単純な動きだね!」ジャキッ!ズドドドッ!

 

火影はそれらを撃ち落とそうと銃を撃つ。すると、

 

サッ!

 

それらは突然スピードを上げ、更により複雑な動きを見せて銃弾を避けた。それらは再度火影に向かってくる。

 

火影

「!ほう」ジャキッ!

 

火影はとっさにリベリオンに持ち替える。雷を伴った蝙蝠が自分に体当たりを仕掛けてくると思い、直接落とそうと考えた。しかし、

 

バシュバシュッ!

 

火影の予想は外れた。それらは体当たりを仕掛けてきたのではなく、電撃を放出してきたのだ。それに困惑するも何とか避ける火影。

 

火影

「! ちっ、急に速度上げたり電撃撃ってきたり。まさか…これもビットか?」

スコール(DIS)

「驚いてくれて嬉しいわ。ご想像の通りSEが続く限り撃てるビットみたいな物よ。私も今気づいたんだけどね。そして…こういうのもあるわ!」

 

ヴゥゥゥゥゥンッ!

 

影を戻したスコールは今度は自分の前方に帯状に広がった雷の壁の様なものを複数出現させ、

 

ドドドドンッ!

 

それを時間差で火影に向けて撃ってきた。

 

火影

「前よりデカいな。…なら!」シュンッ!

 

火影はエアトリックで壁と壁の隙間を移動する様にそれを回避。徐々にスコールに近づく。

 

ゴオォォォォッ!

 

すると今度は突然スコールの手から突然炎が上がり、襲い掛かってきた。それは先ほどスコールのゴールデン・ドーンが使っていた炎の鞭だった。

 

火影

「ちっ!変身前の能力もあんのか!」

 

火影は瞬時にイフリートに変え、襲い掛かってくる炎の鞭をそれで受け止める。

 

スコール(DIS)

「くっ!しかしかかったわね!」

火影

「何?」バチバチバチッ!「!」

 

ドォンッ!

 

スコールの炎の鞭が消えると同時に彼女の腹部から高速で雷弾が飛び出してきた。真っすぐ火影に向かっている。

 

火影

「くっ!」ジャキッ!バァンッ!バァンッ!バァンッ!

 

一方避けられないと思った火影もすぐさまイフリートからコヨーテに持ち替え、雷弾を撃ち落とそうと連射する。そして、

 

…ドォォォォォォンッ!

 

火影

「くっ!」

スコール(DIS)

「きゃあ!」

 

銃弾を受けたためか雷弾はふたりの中間辺りで爆発した。お互い距離があまりなかった火影もスコールもその爆風を受ける形となり、たまらず距離をとる。

 

火影

「くっ…油断したぜ」

スコール(DIS)

「はぁ…、貴方流石ね。あんな近い距離から一瞬で切り返すなんて…」

火影

「驚いたのは俺も同じだぜ。ビットの動かし方もセシリアやあのMって奴以上だし」

スコール

「これでも経験はあの子達の倍以上はあるから」

火影

「元のあいつは雷と影を使ってたがそれがISになって変わったって事か」

スコール(DIS)

「…元の?」

火影

「気にすんな」

(遠くは雷で、近くは火って感じだな…。おまけにあれは無制限のビット…SEが続く限り永遠に撃ち続けられるしスピードも上がってるか…)

「…んじゃ、いっちょ久々にあれでいくか!」

 

そう言って火影は高速で接近する。スコールの方も再び蝙蝠型の実体がないビットを展開、体当たりさせるために火影に向かわせる。それでも火影は剣も銃も出さずに突っ込んでくる。

 

スコール(DIS)

「どうするつもりかしら!この子達のスピードは貴方の射撃を避ける位速いんだけど?さっき貴方も見たでしょう!」

火影

「んな事わかってるよ。だったらこっちもそれ相応の手で行くまでさ!」

 

ドゥルルルルルルンッ!!

 

そう言った火影が展開したのは分離状態のキャバリエーレだった。

 

火影

「大掃除にはこいつが一番いいぜ!」

 

ギュイィィィィィィンッ!

 

火影はそれを豪快に振り回す。それに巻き込まれる形で複数のビットを撃破する。

 

スコール(DIS)

「!そういえば貴方にはそんな武器もあったわね!」

 

それを見てスコールはビットを火影から離し、雷弾による攻撃に切り替える。

 

ドドドドンッ!

 

火影

「そしてこういう使い方もあるぜ」

 

…ガシャガシャンッ!

 

そう言って火影は両手に持っているキャバリエーレを再び合体させ、バイク形態にする。

 

スコール(DIS)

「ここでバイクですって…!?」

火影

「単なるバイクじゃねぇけどな!」

 

そう言って火影はバイク形態のキャバリエーレを盾にしてビットの雷弾を受け止める。そして攻撃が止むと、

 

ヴゥン!ヴゥン!

 

今度はバイクのままそれを同じく豪快に振り回し、ビットを巻き込む。

 

スコール(DIS)

「なんて大胆な…バイクを振り回すなんて!」

火影

「スタイリッシュだろ?…そして」

 

ドゥルルルルルルルルルルンッ!!

 

すると火影は手に持っていたバイクに跨り、そのままスコールに向かって飛行、……いや走って突っ込んでくる。

 

スコール(DIS)

「!あのバイク…空を走っている!?」

火影

「ニコの奴、上手く改造してくれたな」

スコール(DIS)

「くっ!でもそれじゃ先ほどの瞬間移動も使えないわよ!今度こそ当ててあげるわ!」

 

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

スコールは雷の壁を撃ち出す。しかし火影は構わず突っ込んで来る。

 

火影

「避けるなんて言ってねぇさ!」

 

バババババババッ!

 

するとキャバリエーレの前輪についている剣が突然電気を纏った。そしてそのまま、

 

…バリィィィンッ!

 

スコール(DIS)

「雷の壁を破った!?」

火影

(こいつは元々あいつの力で生まれたもんだ!雷なら負けねぇぜ!)

 

ヴゥン!!ヴゥン!!

 

スコール(DIS)

「そのまま突っ込んで来るつもり!?しかしその前に私の炎に焼かれなさい!バイクごと蒸発させてあげる!」ゴォォォォォッ!

 

スコールは炎の鞭、更に自らの周囲に熱線の壁を展開する。

 

火影

「確かに並みの速さならそうなるな。…だが!」ピピピッ

 

すると火影は何かを入力し始める。するとキャバリエーレ全体が突然赤く染まった。

 

スコール(DIS)

「…!バイクが赤くなった!」

火影

「Rモードっつってな。SEを使う代わりにスピードを何倍も引き上げるのさ」

 

そう言うと突然火影は走っているキャバリエーレの上に立ち、

 

ドンッ!

 

そのまま前方に飛び出した。腕にはイフリートを付けている。

 

火影

「はぁぁぁぁ!」

スコール(DIS)

「!!」

 

ドォォォォォォォンッ!

 

斜め上からの火影のイフリートの一撃とスコールの炎の壁が激しくぶつかった。

 

スコール(DIS)

「くっ!バイクの推進力を利用してパワーを上げてるの!」

火影

「前方不注意だぜ?」

スコール(DIS)

「えっ?」ドゴォォォォォォンッ!「きゃあああああ!!」

 

前方から超スピードで突っ込んできたキャバリエーレが激突した。激しく吹っ飛ぶスコール。

 

スコール(DIS)

「…くっ!まさかそのまま突っ込ませて来るなんて…交通事故もいいところだわ…」

火影

「アンタには色々驚かされるからな。こっちも驚かせてやらねぇと。少し戦ってみてわかったぜ。どうやら火と雷を同時に使う事はできねぇみたいだな。さっきも雷弾を炎の鞭で俺を縛ってりゃ当たってたろうし、壁が消えてから炎を展開していたしな」

スコール(DIS)

「仕方ないでしょう?まだこの状態に慣れてないんだから」

火影

「…で、どうする?流石に今のは効いただろ?もう降参して話してくれても良いんじゃねぇか?傷つけなくて済むしよ」

スコール(DIS)

「……いいえまだよ、まだ終わらないわ。私の心は満たされていない!まだ付き合ってもらうわよ!それと同じ手にはかかってあげるつもりは無いから!」

火影

「……いいね、益々やる気が出てきたぜ」ドゥルルンッ!

 

火影はキャバリエーレのエンジンをふかした。

 

 

…………

 

海之VSオータム(DIS)

 

一方、爆弾のスイッチを押したオータムに異変が起こっていた。

 

オータム

「……な、何故だ!?なんで爆発が上がらねぇ!?」

 

オータムは不思議がった。起爆スイッチを押したのに京都のどの場所からも爆発が起こった気配がない。例え遥か上空でも列車を破壊するほどの爆発。何かしら気づく筈だ。地下鉄に仕掛けてはいない。なのに何も異常がない。するとそんな慌てるオータムを見て、

 

海之

「…ククク…はっはっはっはっは!!」

 

大笑いする海之。

 

オータム

「て、てめぇなに笑ってやがる!?」

海之

「これが笑わずにいられるか。貴様らの計画など全て知っているのだよ……」

 

 

…………

 

それは火影達が京都に着いた時から始まっていた…。

 

京都駅にて

 

海之

「誘いをかけてきたのはあちら側だ。何れ向こうから接触してくるだろう。俺達が今日来た事を知っていればの話だがな……」

 

♪♪♪

 

携帯(クロエ)

「D(ダリル)・F(フォルテ)両名も下車。誰かと連絡を取っている様です。隙を見て盗聴器を仕掛けます」

(火影・海之・刀奈・真耶)

「「「了解(しました)」」」

 

…………

 

地主神社にて

 

♪♪♪

 

真耶

「連絡ですね…」

刀奈

「……」

 

(クロエ)

「Fは火影兄さんを。Dは海之兄さんを追跡。また、何やら工作活動を行っている模様」

(海之)

「了解した」

(火影)

「工作活動とは?」

(クロエ)

「まだ不明です。Dが連絡を取っているので引き続き追跡します」

 

…………

 

木嶋坐天照御魂神社にて

 

♪♪♪

 

火影

「連絡か…」

 

(クロエ)

「脱出のための工作として○○○線の車両に爆弾を仕掛けたとの事」

(真耶)

「警察に知らせたほうが良いのでは!?」

(海之)

「知られるとすぐに爆発される可能性があります」

(刀奈)

「どの車両かわかる?」

(クロエ)

「車両番号は不明。追跡を続けます」

(火影)

「気を付けろよ」

 

…………

 

大岩神社にて

 

♪♪♪

 

海之

「………」

 

(クロエ)

「車両番号判明。私が解除に向かいます」

(真耶)

「危険すぎます!」

(クロエ)

「束様の助手の私には簡単な作業です。またDとFは追跡を止めて合流との事。京都タワーです」

(刀奈)

「じゃあ私がそちらに向かうわ。クロエちゃんは爆弾をお願い」

(真耶)

「私はクロエさんに合流します。車掌さんや乗客の皆さんに説明しないといけませんから」

 

…………

 

火影が入った店にて

 

♪♪♪

 

(クロエ)

「爆弾発見。これより解除を行います」

(真耶)

「乗客の皆さんには騒がない様に外に出てもらいました」

(海之)

「了解です。クロエ、念のため爆弾に蝸牛を使え」

(火影)

「本当に大丈夫か?」

(クロエ)

「ISを造る事に比べれば簡単です」

(海之)

「わかった。俺達は敵を引き付ける」

(刀奈)

「私も彼女達の前に顔を出すわ」

(火影)

「信じてるぞ、クロエ」

(クロエ)

「ありがとうございます」…ピッ

 

火影

「…ハァ…何とかなったか…」

 

 

…………

 

 

海之

「…そういう事だ」

オータム

「くっ!何もかも全てバレてたって事かよ!……そうか、戦いの場所をこんな必要以上に上空に持ってきたのは…地上への被害を出さない以外に、列車に注意を向けない様にするため!」

海之

「その通りだ。爆弾解除を行っている事や避難活動を知られたくなかったのでな。…さて」

 

ズドズドズドズドズドズドンッ!

 

オータム

「ぐあああっ!」

 

海之はブルーローズを連射し、アラクネの脚を全て破壊する。

 

オータム

「て、てめぇ…!」

海之

「先ほど俺は言った筈だ。悪夢を見る覚悟が、絶望を抱く覚悟が、そして殺される覚悟があるならやれとな。だからそうするまでだ。子供の戯言だと思ったのか?」

オータム

「…くっ!…マジかこいつ!頭いかれてんのか!?」

海之

「貴様に言われたらおしまいだ」

 

そう言って海之は閻魔刀を向ける。

 

オータム

(…ちっ!作戦どころじゃねぇ!今はこの状況をなんとかしねぇと!しかし転移すんにしてもその前に斬られちまう!なんか…………あれは!……こうなったら仕方ねぇ、予定は狂ったが最後の最後に目に物見せてやるぜ!!)




果たしてオータムは何を見たのか?そして考えとは?

※次回は来月4日(土)の同時投稿の予定です。


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Mission138 京都編④ 火影の怒りと海之の決意

ダリルとフォルテ、そしてグリフォンの攻撃から刀奈(楯無)を守ったのは火影達の依頼でダリル達を見張っていたクロエだった。クロエは初の戦闘ながらベアトリスの特性を生かした戦術で優位に戦闘を繰り広げる。

一方、海之とオータムの戦闘の最中、オータムは秘密工作として列車のひとつに爆弾を仕掛けたと宣言。爆発されたくなければ降参しろと迫る。
……しかし爆弾は実はクロエによって既に解除されていたのであった。逆に追い詰められる形となったオータムは……。


火影とスコールの戦いは続き、海之がオータムを追い詰める一方、クロエ操るベアトリスとグリフォンの戦闘はクロエの相手の武装や能力を破壊・弱体化させる戦いが功を奏し、有利に進めていた。そして、

 

グリフォン

「グオォォォォォ……」

クロエ

「どうやらダメージが深刻レベルに達したようですね。…ではそろそろ終わらせましょうか」ドンッ!

 

そう言うとクロエは瞬時加速で一気に接近した。

 

グリフォン

「!グオォォォォッ」カッ!!

 

それに対してグリフォンは撃ち落とそうと銀の鐘を起動させるがその前にクロエはベアトリスのあの能力を起動した。

 

 

クロエ

蝸牛(かたつむり)…起動!」

 

 

ヴゥンッ!

 

 

グリフォン

「!!??」

 

グリフォンは困惑した。身体を動かそうとするが動きが非常に遅くなっている事。そして銀の鐘の発射も遅くなっている事に。そして、

 

クロエ

「終わりです」

 

ズガガガガガガガガガッ!

 

グリフォン

「!!!」

 

……ドガアァァァァァァァァァンッ!

 

グリフォンが戸惑っている間にクロエはオシリスの連撃をグリフォン顔面に浴びせた。それが決定的なダメージとなり、グリフォンは大破したのであった。

 

クロエ

「…5秒もあれば止めには十分ですね。最初の実戦としては上場でしょうか」

 

そんなクロエの戦いを見たこちらは、

 

ダリル

「あの野郎、グリフォンをたったひとりであんな一方的に!それに最後のあれはなんだ!?」

フォルテ

「なんかゆっくり動いた気がするっスけど……」

 

の事を知らないふたりがその機能に驚いていると、

 

刀奈

「よそ見してるなんて随分余裕じゃない!」

ダリル・フォルテ

「「!」」

 

刀奈は右手のバスターアーム。そして左手のランスにレイディのアクア・ナノマシンを纏わせた。そしてそのまま前方に向けて突進してくる。

 

ダリル

「しまった!」

刀奈

「遅い!!」

 

ズガァァァァァァァァンッ!!

 

ダリル・フォルテ

「「きゃあああああああ!!」」

 

防御も回避も間に合わず、ダリルとフォルテは直撃を受けたのだった。

 

ダリル

「…く!ちっ、ちくしょおぉぉ…」

フォルテ

「よそ見してる間になんて…ずるいっスよ…」

 

今までの戦いのものが重なったかダメージは大きそうだ。

 

刀奈

「だから貴方達に言われたくないわよそんな事」

クロエ

「楯無さん。お疲れ様です」

刀奈

「シエラちゃんもお疲れ様。…さて、もう諦めなさい。そんな状態じゃもう戦えないでしょ?」

ダリル

「くっ…」

 

するとその時、

 

真耶

「更識さん!シエラ(クロエ)さん!」

 

地上から訓練機のラファールを纏った真耶がやってきた。

 

クロエ

「山田先生!」

真耶

「おふたりとも大丈夫ですか!?」

刀奈

「ええ。おかげさまで。もう関係者への説明は終わったんですか?」

真耶

「ええそちらの方はなんとか。……ところで」

 

すると真耶は目の前のダリル、フォルテを見た。

 

真耶

「……ケイシーさん、サファイアさん……」

ダリル

「山田先生っすか…」

フォルテ

「先生に見られたらもう学園には戻れないっスね。まぁ別にいいっスけど…」

真耶

「…正直…全然信じたくありませんでした…。ケイシーさん、サファイアさん…、本当に…貴女達が…内通していたんですか…?どうして…、どうしてなんですか!?」

ダリル

「…大した理由じゃねぇっすよ…。そこに家族がいるから…理由はそれだけです」

フォルテ

「…私はダリルがそうしたからっス。それが私の理由っス」

真耶

「………」

刀奈

「ふたり共、降参しなさい。そんな状態では精々飛行するだけで」

 

~~~~~~

とその時、ダリルに無線連絡が入った。

 

ダリル

「…はい。…………ええ!?わ、わかりました!…おいフォルテ!あれをやるぜ!」

フォルテ

「きゅ、急にどうしたんすか!?それにあれってあれっスか!?あ、アレは人前でやるのは」

ダリル

「そんな事言ってる場合じゃねぇ!いいからやるぞ!」

フォルテ

「わ、わかったっス!」

 

ふたりはそう言うと突然口づけをした。すると、

 

 

キィィィィィィィィンッ!

 

 

突然ふたりを囲むように氷の幕が出現した。そしてその中に炎が燃えている様に見える。

 

クロエ・真耶

「「!!」」

刀奈

「!しまった!あのふたりにはアレが!」

 

 

ダリル・フォルテ

「「いくぜ(いくっス)!凍てつく炎(アイス・イン・ザ・ファイア)!!」」

 

 

ふたりがそう言った瞬間、ダリルが内側から氷を砕いた。すると氷の中に見えていた炎がまるで封じ込められていたものが一気に爆発した様な凄まじい勢いで刀奈達に襲い掛かる。

 

刀奈・クロエ

「「くっ!」」

真耶

「きゃあ!」

 

そしてその爆発に紛れ、ダリルとフォルテが急速でその場を去っていく。

 

真耶

「ふ、ふたり共大丈夫ですか!」

クロエ

「は、はい!」

刀奈

「…くっ、油断した!追いかけましょう!あのダメージではそう遠くに」

 

 

…ドンッ

 

 

とその時遠くの方から妙な大きい音がした。例えるなら爆発の様な音。

 

真耶

「!な、なんですか今の音」

クロエ

「……地上からではありませんね。爆弾は解除しました。…まるで空の上から聞こえた様な」

真耶

「…!み、皆さん!あれを!!」

刀奈

「え?……………!!嘘…!?」

 

刀奈達が見たのは驚くべきものだった。

 

 

…………

 

その数分前、海之とオータムは…

 

海之

「覚悟はできているだろうな?」ジャキッ

オータム

(…くっ!今は何とか逃げ出さねぇと、………あれは!………ちっ!こうなったら仕方ねぇ!)

 

オータムは何やら思い付いた様だった。そして、

 

オータム

「…ダリル!今すぐ来やがれ!急ぎだ!」

 

オータムはダリルと瞬時に通信したようだ。

 

海之

「逃げられると思っているのか?」

オータム

「爆弾は防がれたが最後に度肝抜かせてやらぁ!またコアを使うことになるがこっちにはあの篠ノ之束もいんだ。コアぐらいなんとかならぁ!」

海之

「…!! どういう事だそれは!?」

 

ドンッ!

 

するとオータムは自らのアラクネのコアを射出、発射した。それは海之の横をかすめる。

 

海之

「!?」

オータム

「ハッハッハッハ!精々頑張りやがれ!」

 

ISを失ったオータムは急速に地上に落下を始める。……しかし、その途中で2体のISに保護され、瞬時に消えた。どうやら転移した様だった。

 

海之

「ちっ!逃げられたか…しかし今のアレは」

 

 

ドガァァァァァァンッ!

 

 

その時だった。突然自分の上空後方から爆発音が聞こえた。海之は振り返る。

 

海之

「!!」

 

海之が見たもの。それは……

 

 

…………

 

その少し前、火影とスコールの戦いは続いていた。

 

スコール(DIS)

「先程までとは違うわよ!」

 

ゴォォォォォッ!

 

その言葉の通り先程まで雷の壁だったのが今度は火の壁として襲いかかってきた。

 

火影

「!へぇ、確かに違うな。んじゃ!」ドンッ!

 

ゴォォォォォッ!

 

火影はキャバリエーレから飛び出すと手にイフリートを展開。更に自身に炎を纏わせ、そのまま壁に突っ込んだ。それによって火影は火の壁を一切気にせず突っ込んで来る。

 

スコール(DIS)

「!なるほどね、でもそれだけじゃないわ!」

 

ババババババババッ!

 

するとスコールは今度は炎の鞭ではなく雷でできた鞭を振るってきた。

 

スコール(DIS)

「これならその籠手で掴めないわね!」

火影

「そうだな。…だがその必要はねぇ!」

 

ヴゥン!ヴゥンッ!

 

すると火影とスコールの間に先ほど離れたキャバリエーレが割り込んできた。前輪のブレードに纏わせた雷で雷の鞭を破壊する。

 

スコール(DIS)

「くっ!」

火影

「こいつは遠隔操作もできんのさ!」

スコール(DIS)

「ならやむを得ないわね!」

 

ゴォォォォォッ!

 

スコールは止む無く自分を纏う熱線の壁を最大で発動する。

 

 

ドゴオォォォォンッ!……ボガァァァァンッ!!

 

 

火影・スコール(DIS)

「「くっ!!」」

 

火影の炎の体当たりとスコールを纏う壁が激しく激突。するとエネルギーに耐え切れなかったのか爆発し、ふたりに衝撃が走る。

 

スコール(DIS)

「…くっ、何とか最低限のダメージで防げてよかったわ…。でもこの力の使い方…少しずつ理解してきたわ。どうやらこのDISというのは戦っていく内に成長もしていくみたいね」

火影

「どうやらそうみてぇだな。敵ながら大したもんだ。……しかしわからねぇな。今までの戦い方を見ただけだが…あんたはどうもあのオータムやMとは違う気がする。卑怯な手は使わねぇし、戦いを楽しみ戦士って感じがするぜ。余計なお世話かもしれねぇが…なんでテロなんてやってんだ?」

スコール(DIS)

「………私も色々あるって事よ。知ってる坊や?女には多くの秘密の引き出しがあるのよ」

火影

「……まぁアンタがそういうなら無理に聞かねぇけどな」

スコール(DIS)

「それよりも戦いを続けましょう。……と言いたいけど、そろそろSEが危ないのよね。貴方との戦いが楽しくて忘れてたわ。それにこの状態はSEを使う攻撃ばかりだから消耗が激しいわ。…どう?次の攻撃で勝者を決めましょうか」

火影

「…良いぜ。それに俺には本来の目的がある」

スコール(DIS)

「…本来の目的。なら今のはウォーミングアップって意味なのかしら?」

火影

「…ああ。最もアンタの強さに感銘を受けたのは本当だぜ?だがさっきも言ったようにこっちにはまだ本番があるんでな。そろそろ終わりにさせてもらうぜ」

スコール(DIS)

「!……言ったわね。なら…本番前のウォーミングアップで終わりにしてあげる!次の攻撃に…私の全ての力を籠めるわ!」

 

火影の言葉がスコールの心に火をつけた。自分は精一杯死力を尽くして戦っていたというのに、この男はまだ余力を残していたのか、と。そう考えると怒りの様な、驚きの様な、戦う者としての喜びの様な、だが悪い感情は無い、何とも言えない感情が湧いてきた様な気がした。

 

 

ゴォォォォッ!バババババッ!

 

 

スコールは自らの火の力と雷の力を合わせ、巨大なエネルギー弾を作った。全ての力を、という先程の言葉は嘘ではないらしく、そのエネルギーに火影もやや驚いた。

 

火影

(!…こいつは生半可な攻撃じゃ跳ね返せそうにねぇな。…とはいえ俺のISも調子が完全じゃねぇし、……まぁなんとかしてみるさ)

 

そう言うと火影は迎え撃つためにエボニー&アイボリーにエネルギーをチャージする。

……すると、

 

 

………ゴォォォォッ!バババババッ!

 

 

火影

「…?」

 

火影は気づいた。エボニー&アイボリーに勝手にこれまで以上の力が集まっている事に。……そしてその力の中に自分のものではない別の力もある事に。ひとつは自分の火の如き力。もうひとつは…懐かしい雷の力。

 

火影

(!…そういやアリギエルの中にはあいつもいんだったな…。これやんのも久々だな)ジャキッ!

 

そして火影はエボニー&アイボリーをスコール目掛けて構える。

 

スコール(DIS)

「…どうやらお互いとっておきの一手になりそうね!」

火影

「らしいな。正に決闘だ。観客がいないのが残念だがな!」

 

そしてふたりは自らの攻撃を撃とうとした。……その時、

 

 

ドォォォォォォォォォォォン!!

 

 

火影・スコール

「「!!」」

 

突然ふたりの耳に聞こえた確かな爆発音。それがふたりの戦闘態勢を解除した。互いの攻撃は消え、スコールの形態は元に戻った。

 

火影

「な、なんだ今のは…!?」

スコール

「地上…からじゃないわね…。空…!あれは…!」

火影

「………!!」

 

火影とスコールが目にしたもの。それは……、煙を上げながら何とか飛行している、……飛行機だった。

 

火影

「………」

スコール

「一体何が…!?」

 

呆然とするふたり。とそこへ刀奈から通信がはいる。

 

刀奈

(火影くん!!聞こえる!?)

火影

「!…刀奈さん、一体何が」

刀奈

(聞いて!飛行機が見えてる!?あれはファントム・タスクの仕業よ!海之くんと戦っていたオータムがコアを撃ち込んだの!脱出のための爆弾が解除された代わりとして!)

火影

「!…あの蜘蛛野郎が…」

スコール

「えっ?オータム…?」

刀奈

(海之くんは飛行機に向かってるわ!私達もこれから向かうから!貴方も来れる!?)

火影

「……ええ、了解」

 

そう言って火影は通信を切った。

 

火影

「……やれやれ、全くテロリストってのは」

スコール

「…向かったところでどうするつもりかしら?」

火影

「救うさ」

 

火影は迷わず即答した。

 

スコール

「! 本気なの?」

火影

「ああ。………おい、ひとつだけ聞く。あれもてめえらの作戦のうちか?」

 

火影は小さい声で聞く。

 

スコール

「…いいえ違うわ。貴方も聞いたでしょう?多分あの子が脱出のための時間稼ぎか、注意を向けさせるために」

火影

「…まぁどっちでもいいさ。勝負は止めだ」

スコール

「良いの?こんな中途半端に終わって」

火影

「関係無いね」

スコール

「情報が欲しくないの?あんなに必死だったのに」

火影

「どうでも良い」

スコール

「下手すると死ぬわよ?」

火影

「かもな」

 

迷いは一切無いらしい火影の返事にスコールは更に尋ねる。

 

スコール

「……何故そこまで。一応赤の他人でしょう?何故そこまでできるの…?」

 

すると火影はゆっくりと言った。

 

火影

「……俺の大事な人達が9年前に飛行機で死んだ。繰り返させたくない。それだけさ」

スコール

「! 9年前の飛行機って……、もしかして、あの旅客機が爆破された事件の事?ISの情報を持った科学者が狙われたという」

火影

「…ああ。俺達は捨て子でね。とても素晴らしい夫婦に拾われたんだが…、ふたりはあの飛行機に乗っていたんだ。そして事件に巻き込まれた…」

スコール

「!……そう。あの時の飛行機に貴方達のご両親が…」

火影

「……話は終わりだ。とっと消えな。今はお前に付き合ってる暇はねぇよ」

 

火影はスコールに背を向けて行こうとする。

 

スコール

「…ねぇ」

 

ドンッ!!

 

スコール

「!!」

 

スコールの頬を火影のエボニーの弾が掠める。

 

火影

「近寄るなテロリスト!…命をなんとも思わない、悪魔以下のゲス共が!…悪魔でさえ命を、人を愛する奴もいるんだ!!」

 

顔はバイザーで見えないがその声はこれまでにない程の怒りを含んでいた。

 

火影

「二度と顔見せんな!もし次会った時は…容赦無くぶちのめす!!」ドンッ!

 

そう言って火影は全速力で飛行機に向かっていった。怒りと、そして救うという強い気持ちを持って。

 

スコール

「……」

 

シュンッ!

 

オータム

「ふぅ~、やっとあいつらに一泡吹かせてやれたぜ。つっても俺達全員ボロッボロだがな。この分じゃ暫く戦えそうもねぇ…。まぁ私達の役割は十分だろ。あとはMの仕事だ。帰ろうぜスコール?レイン達も待ってるしよ」

スコール

「……ええ」

 

 

…………

 

火影より先に飛行機を補足していた海之は、

 

海之

(………俺は…、防ぐ事ができなかった。一度目は母を悪魔共の手から…。そして二度目は…)……グッ!

(…しかし、もうあんな事は起こさせん。あんな思いをするのは…俺達だけで十分だ!…繰り返しはさせん!二度とさせはせん!!)

 

拳を握りしめた海之の心には繰り返させないという揺るぎない決意があった…。

 

 

…………

 

その数分前、IS学園の食堂。

 

 

ガタンッ!

 

 

「…!!」

 

皆で集まっていると鈴が突然勢いよく立ち上がった。

 

一夏

「ど、どうした鈴!?」

「…………ううん、なんでもない。ごめん…」

一夏

「?」

「どうした簪?何か震えているぞ。寒いのか?」

「…ううん。そんなのじゃないんだけど…、何だろ…」

セシリア

「シャルロットさんもラウラさんも…何か元気ありませんわよ?」

シャル

「…そう?…大丈夫だよ。ごめんね心配かけて」

ラウラ

「…ああ。すまん…」

一夏

「のほほんさんもなんか食欲無かったしな。明日は雹でも降るかな」

本音

「あ~ひどいおりむ~。…なんでか食欲わかなかったんだよね…」

「大方あいつらがいなくて寂しいのだろう?心配せずとも夜に帰ってくるさ」

「だ、だからそんなんじゃ…」

一夏

「そういやあいつら今どうしてるかな。連絡してみるか…」

 

 

…………

 

場所は戻り京都。オータムのコア爆弾によって損傷した飛行機は煙を上げながらもなんとか飛行している状態だった。しかし翼が爆発で破損しているためか姿勢をうまく保てず、やや傾いている様に見える。それを少し離れた所で海之・刀奈・クロエ・真耶は見ていた。

 

海之

「…く」

刀奈

「不味いわね…、何とか飛べてはいるみたいだけど、このままじゃ…!」

クロエ

「一番近くの空港まではどんなに急いでもまだ30分はかかります!」

真耶

「一体どうしたら…」

 

とその時火影も合流してきた。

 

火影

「皆!」

クロエ

「火影兄さん!」

火影

「状況はどうなってる!?」

刀奈

「まだそんなじっくりは見てないけど速度はそれ程落ちてない様に見えるわ。もしかしたらそっちは壊れていないのかもしれないわね。でもこのままじゃ何れ墜落は免れないわ!」

真耶

「墜落までに着陸できる場所があればよいのですが…ここからでは一番最寄りの空港は30分はかかります!」

 

飛行機の状態からして30分も持つとはどうしても思えない。とするとどこかに不時着するしかないが…。

 

海之

「…クロエ!機の操縦席に通信を繋げられるか?可能であれば直ぐに頼む!」

クロエ

「え?は、はい!」

 

言われてクロエは数秒で通信回線を開く。すると海之が飛行機の操縦席と話し始める。

 

海之

「操縦席!誰でも良い!聞こえるか!?」

機長

(な、なんだ君は!?どうやって通信を!?)

海之

「そんな事はどうでも良い!聞け!つい今しがたそちらはテロリストの攻撃を受けて損傷した!」

機長

(!!……だから急に操縦が利かなくなったのか!?)

海之

「操縦が利かないだと!?全くか!?」

機長

(い、いや!速度は何とかコントロールできている!)

刀奈

「という事はエンジンはまだ完全には死んでいないのね…」

機長

(だが姿勢制御や方向転換がほとんど出来ない!このままでは墜落は避けられん!)

真耶

「そんな!方向転換ができなければ空港に向けることもできません!」

クロエ

「下は市街地ですし、周りには山もあります。もしこんな場所で落ちてしまったら…」

 

すると火影が話を変わる。

 

火影

「…おい!こっから最も早く着陸できそうな場所はわかるか!どこでも良い!」

機長

(え!?どうしてそんな)

火影

「いいから早くしろぉ!!」

機長

(!わ、わかった!………………ここから数分程飛んだところに大きな湖がある!水上着陸するなら十分可能かもしれんが)

火影

「そこが一番近くで間違いないんだな!?」

機長

(あ、ああ!だが方向が反対側だ!この機で向かうには……)

 

すると火影は続けて驚く事を言った。

 

 

火影

「………なら、俺達が湖まで運んでやる!」




※次回は11日(土)。京都編最終を投稿予定です。

コロナが全国的に広まっております。皆さまくれぐれもお気を付けくださいませ。


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Mission139 京都編⑤ 赤と青の奇跡再び

京都上空で繰り広げられる火影とスコール、海之とオータム、刀奈&クロエとダリル&フォルテの戦い。
火影とスコールはそろそろ決着をつけようと互いに最後の一撃を撃とうとしていた……、しかしその時それに割って入るように爆発音が発生。驚いたふたりが見るとそれは煙を上げている飛行機であった。刀奈からの通信によると追いつめられたオータムが自らのISのコアを飛行機に撃ったとの事だった。
その事を知った火影は怒りを爆発。

「悪魔でさえ命や、人を愛する事を知ってるんだ!」

勝負や情報等一切捨てて救助に向かって行ったのであった…。一方海之の方も

「一度ならず二度も俺は救う事が出来なかった…。もう繰り返させはせん!」

そう決意を固めるのであった。


オータムのコア爆弾を受け、正常な航行が不可能となってしまった飛行機。最早どこかに不時着するしか方法が無いがそれが可能であろう湖はここから全く反対の方角だという。誰もが絶望的と捉える状況の中、火影は驚くべきことを提言した。

 

火影

「なら俺達が湖まで運んでやる!」

 

クロエ・刀奈・真耶

「「「!!!」」」

海之

「…やはりそれしかないか」

機長

(な、なんだって!?バカな、そんな事できるわけ…)

海之

「いらん心配だ!以前にも似た事をしている!」

機長

(!!……まさか君達、あの墜落しかけた旅客機を救ったという)

火影

「んなこたぁいいからそっちは操縦に集中してろ!」

海之

「必ず俺達の指示に従え!全員生きて帰りたければな!」

機長

(!…りょ、了解!)

 

そして通信は一旦切れた。

 

火影

「海之!わかってんな!?」

海之

「ああ」

刀奈

「貴方達正気!?本気で墜落寸前の飛行機を空中で受け止めて湖まで運ぶつもり!?あまりにも危険すぎるわ!」

クロエ

「そうです!それに兄さん達は先の戦闘で消耗しているではないですか!」

真耶

「お願いですからやめて下さいふたり共!」

 

本気でそう訴える三人。しかしそんな彼女達に火影と海之は、

 

火影

「……誰かに命じられた事でもしなきゃいけない事でもない。…やりたい事なんです」ドンッ!

海之

「皆は離れていてください。巻き込まれない様気をつけて」ドンッ!

 

そう言うとふたりは飛行機の下に移動していった。

 

真耶

「ふたり共!」

クロエ

「兄さん!」

刀奈

「……本当に…なんて子達なの」

真耶

「で、でもこのままじゃ…、ふたりのISは万全じゃないのに……」

クロエ

「…私達…何もできないんですか…?」

刀奈・真耶

「「……」」

 

 

…………

 

船体の下側に移動した火影は前方、海之は後方にいる。

 

海之

「湖は確かにここから正反対の方向15分程の所にある。だが方向が正反対だ。180度旋回しなければならん」

火影

「15分か…中々だな。…だがエンジンさえ生きてんなら方向転換さえ乗り切りゃ何とかなりそうだな」

海之

「油断するな。前と違って俺達のISは万全ではない。とはいえ本気でかからなければこちらが不味い」

火影

「わかってるよ。…んじゃ始めるか」

 

傾く飛行機の勢いに潰されない様気を付けながらふたりは機体に触れる。

 

火影

「しかし二度あることは三度あるというが…こんなのあり得ねぇよな。三度目の正直で終わらせたいもんだ!」

海之

「…そうだな。……いくぞ!」

 

そして、

 

 

……ドンッ!!!!

 

 

ふたりは傾いている機体を安定させるため、アリギエル・ウェルギエルのパワーを一気に全開にした。

 

 

グググググググググググググググググ………

 

 

火影

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

海之

「うぅぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

…………

 

IS学園 食堂

 

その頃、一夏は火影達に電話してみるのだが、

 

一夏

「………駄目だ出ねぇ。一時間前は普通に繋がったのにな…」

「…チャットも既読にならん。昼過ぎまでは送って直ぐに返事が来たのに…」

セシリア

「何かあったのでしょうか…」

鈴・シャル・本音・簪・ラウラ

「「「………」」」

 

其々が妙な不安に駆られていた……。

 

 

…………

 

 

ガガガガガガガガガガガガガガガガガ………

 

 

機長

(!機体の姿勢が完全では無いがやや安定し始めた…!本当に持ちこたえたというのか!?)

火影

「くっ、…おい!エンジンはまだ死んでねぇか!?」

機長

(あ、ああ!次はどうすれば良い!?)

海之

「このまま俺達で機の向きを変える!エンジンの出力を最低限にしろ!切るんじゃないぞ!再点火できるかわからんからな!」

機長

(! し、しかしそれじゃ機の全重量が君達にかかるぞ!)

火影

「構わねぇよ!向きを変えたら直ぐ戻してくれりゃ良い!急げ!」

 

……そう言われた飛行機のエンジンはゆっくりと落ち、機の速度は急激に低下。

 

 

ズンッ!!!

 

 

火影

「ぐっ!!やっぱ前と違ってダメージを受けてるぶんキツイぜ…!」

海之

「急がんと俺達も持たん!直ぐに軌道を変えるぞ!」

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 

前側の火影と後側の海之は湖がある方角、180度旋回する様力の入れ方を変える。急ぎすぎて内部に揺れを起こすと乗客への負担になるし、遅すぎれば支えているふたりへの負担が大きくなる。最適な速度で旋回する必要がある。しかし小型とはいえ約300tの金属の塊。ほぼ0の速度。機体の損傷。更に致命的なものとしてふたりのISの不調。

 

…ガクンッ!!

 

火影

「!?ぐっ!急に重くなった気がしやがる!パワーダウンだと!?こんな時に!」

海之

「こちらも同じだ!だが諦めるな!俺達が諦めれば全ては終わりだ!」

火影

「わかってるよ!あいつでもいりゃあの悪魔の腕の馬鹿力が助けになるんだがな」

海之

「あいつはこんな無茶はせん。……と考えるのは俺だけだろうな。全く誰に似たのか」

火影

「本気で言ってんのか?お前のガキの頃にそっくりだぜ」

海之

「……冗談を言っている暇があったら集中しろ!」

火影

「へっ、照れ隠ししやがって。…しかしマジできついな…ちっ!今さえ乗り切れれば…!」

 

様々な要因が重なり、以前よりもはるかに難しく感じるのだった。……とその時、

 

 

ガシンッ!…ガシンッ!ガシンッ!

 

 

火影・海之

「「!!」」

クロエ

「兄さん!」

刀奈

「私達も手伝うわ!」

真耶

「大丈夫ですかふたり共!」

 

火影と海之の間に刀奈が、そして翼にはクロエと真耶が入り込んできた。

 

海之

「クロエ!刀奈さん!先生!…何故!?」

刀奈

「ふたりが止めてくれたお陰で来れたのよ!」

火影

「危険だ!離れてろ!」

刀奈

「後輩君だけにおいしいとこは持っていかせないわよ♪!それにこんな時こそバスターアームの本領発揮でしょ!」

クロエ

「私と山田先生で翼と傾きを支えます!何とか湖まで頑張ってください!」

火影

「先生まで…!」

真耶

「貴方達だけに全て委ねたりなんかしません!昨日もお話ししたでしょう!私は皆さん程の力はありませんができることをしたいんです!皆さんの教師として!」

火影

「……へへ、無茶が好きだな皆」

海之

「ああ、全くだ」

刀奈

「君達だけには言われたくないわ♪!」

クロエ

「同じです♪!」

真耶

「本当ですよ♪!」

火影

「…おし!」

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 

五人は機体をできるだけ平行にしながら力を合わせてゆっくりと向きを変える。そしてやがて、

 

クロエ

「皆さん!方角は大丈夫です!」

刀奈

「くっ!お、オーケー!」

海之

「操縦席!このまま真っすぐ飛べ!その間の姿勢制御は任せろ!」

 

海之の指示を受けた機は湖まで飛行を始めるのだった。

 

 

…………

 

………それから約10分後、火影達の必死の行動により、飛行機は無事に湖に着水した。救助隊には機長が既に連絡しており、今はその到着を待っている。危惧された機内への浸水は幸い大した事は無いらしく、乗務員で対処できるとの事である。怪我人も爆発の時の衝撃で身体を打った者がいるらしいがこちらも幸い命に別状は無いらしい。流石に疲れたか火影や海之達5人は少し離れた浜辺で座り込んでいた。

 

火影

「……やれやれ、多少手こずったが何とかなったな」

クロエ

「機長さんから伝言が来ましたよ。「乗務員乗客、全てを代表して感謝する」だそうです」

海之

「そうか。無事なら良いさ…。三人は大丈夫か?」

刀奈

「…怪我は無いけど…、もう精魂疲れ果てたわ…。本当に一時はどうなるかと思ったわよ…」

真耶

「あ、あははははは…。しょ、正直今も自分がやった事が信じられないです。…二度とこんな事したくないですね…」

火影

「はは、それについては俺達も全く同感です」

クロエ

「……」

海之

「どうしたクロエ?疲れたか?」

クロエ

「い、いえ。疲れたというより…茫然としてしまって…。まさかこんな事になるなんて想像もしていませんでしたから…、すいません」

火影

「俺達も同じさ。でもよく頑張ったなクロエ」

クロエ

「あ、ありがとうございます」

刀奈

「今度労いも兼ねて何かご馳走してよ。なんなら君達の手料理♪」

海之

「そんなもので良ければ何時でも構いませんよ」

クロエ

「……それより兄さん達は何ともないんですか?一応飛行機を持ち上げたんですよ?」

火影

「ああ心配すんな。悪魔に飲み込まれたり全身めった刺しされるよりは楽さ」

刀奈

「…全く君達には付いていける気がしないわね」

火影

「でも今回は三人が助けてくれなければ危なかったと思います」

海之

「そうだな。ありがとうございます」

クロエ

「…そう言っていただけて嬉しいです」

刀奈

「えへへ♪なんか初めて君達の助けになれた感じね」

真耶

「ふふふ、教師として凄く嬉しく思います」

 

5人は漸く笑った。

 

真耶

「しかし……結局何も情報は得られませんでしたね。京都までわざわざ来させた意味も」

 

とその時、

 

 

ヴゥンッ!

 

 

突然何かが火影達の目の前に現れた。透かさず立ち上がる。

 

真耶

「! な、なんですか!?」

刀奈

「…これは転移?……!」

海之

「…貴様は…」

スコール

「……」

 

転移してきたのは……先程まで火影と戦っていたスコールであった。

 

クロエ

「ファントム・タスクの…スコール・ミューゼル!」

刀奈

「そしてダリル…いえ、レイン・ミューゼルの叔母でもあるわね」

スコール

「……驚いたわ。本当に飛行機を救ったのね。…良かったわね、皆助かって」

真耶

「な、何を言ってるんですか!自分達でやっておいて!」

火影

「……何しに来た?」

 

火影の質問にスコールは意外な答えを返した。

 

スコール

「…約束を果たしに来たのよ」

火影

「約束だと?」

スコール

「勝負に勝った約束」

火影

「…?勝負は止めた筈だが?」

スコール

「ええ一応はね。…でもあのまま戦っていたらきっと私は負けていただろうから。だから約束を果たしに来たってわけ。勝負に勝ったら良い事を教えるという約束をね」

海之

「…戦う気は無いという事か?」

スコール

「ええ。それに私もさっきそこの彼との戦いで結構大きなダメージを負ってしまったから。この状況で戦いを挑むなんて無謀な事はしないわ。貴方達も飛行機の近くでそんな事したくないでしょ?」

刀奈

「……どうやら嘘は言っていない様ね」

 

火影達は警戒を最低限にしつつ武器を下す。

 

火影

「…で、何を教えてくれんだ?そこまで言うからには結構なものと思いたいがな」

スコール

「そうね。貴方達からしたら結構どころかかなり重要な話よ。じゃあ早速だけど教えるわね。……貴方達の大事な知り合いの、篠ノ之束博士が…今私達のところにいる」

クロエ

「!!」

火影

「…なんだと!?」

刀奈

「篠ノ之博士が!?」

真耶

「そ、そんな!どうして!?」

 

当然火影達は驚く。中でもクロエの驚きは一際だった。

 

海之

(オータムが言っていた事は本当だったのか…)

「…この際手段は後回しだ。答えろ、それはあの人の意思か?」

 

その質問にスコールは首を横に振って答える。

 

スコール

「わからない。オーガスに呼ばれて来たらしいんだけどね」

火影

「! オーガスにだと?」

真耶

「で、でもなんで博士の場所が…。私達も皆知らないのに…」

クロエ

(…まさか束様、これを見越して私をIS学園に…!?)

「そ、それで束様は無事なんですか!?」

 

クロエはあまりの衝動に自分が偽名を使っている事も忘れて尋ねる。

 

スコール

「…束様?まぁいいわ。…ええ大丈夫よ、乱暴な扱いはしないわ。あれ程のお客様だもの。……ただ」

海之

「…?なんだ?」

スコール

「博士なんだけど…ちょっと変なのよね。私達に全く構わずずっと何かやってて、食事の時も一言も喋ろうとしないのよ。来た時はあんなに楽しそうに私とも話してくれたのにね」

火影

「…確かにあのお喋り大好きな束さんからしたら考えられねぇな」

スコール

「私達が話しかけても一切返事せずにオーガスの仕事をずっと手伝っているのよ」

刀奈

「博士が…ファントム・タスクに協力を!?」

クロエ

「そんな…そんな事ある筈ありません!」

 

クロエはじめ、皆とても信じられないという感じだ。

 

海之

(……確かに今の束さんがそんなことをするとは思えん。…何かあると考えるべきだろう。脅迫されているのか、しかしそれだけでは性格まで変わってしまうとは思えんが。……洗脳?バカな、あの人がそんな簡単に)

真耶

「貴女達はどこにいるんですか!?」

スコール

「流石にそこまでは教えられないわ。でも心配はいらないわよ。さっきも言った通り博士は重要人物だもの。オーガスも手を出す気は無いみたい」

刀奈

「今は、でしょう?今後どうなるかわからない。違う?」

スコール

「……」

クロエ

「なら力ずくでもあの方の居場所を話してもらいます!」

 

スコールの沈黙を刀奈の質問の肯定だと思ったクロエが構える。

 

海之

「クロエよせ!」

クロエ

「しかし海之兄さん!」

海之

「今ここで戦ったら飛行機にも被害が出る。それに無暗に手を出せば束さんに危機が及ぶ可能性も捨てきれん。耐えろ。助け出すまで」

クロエ

「………」

 

火影も今の海之の「助け出すまで」という言葉を聞いて思う。

 

火影

(俺達が束さんと最後に会ったのはほんの10日程前。わざわざオーガスが連絡どころか呼びつけてまで束さんが必要になったって事は…そう簡単に済む話じゃねぇ。多分だが…まだ多少猶予はある…か)

スコール

「後…もうひとつサービスで教えてあげるわ。どうせ教えても問題ないだろうし」

海之

「…まだ何かあるのか?」

火影

「えらく大盤振る舞いだな。なんの真似だ?」

スコール

「…ただの気まぐれと思ってくれて良いわよ。飛行機を救った英雄様への敬意も払ってね」

全員

「「「……」」」

 

するとスコールは話始めた。

 

スコール

「この作戦は全てオーガスの指示よ。彼の狙いは貴方達をおびき寄せる事。そして消耗させる事よ。特に貴方達兄弟をね」

火影

「俺達をだと…?」

海之

「おびき寄せる……!」

刀奈

「ま、まさか!」

 

自分達をおびき寄せる。それが何を意味するかを海之や刀奈は直ぐに理解した。

 

スコール

「気づいた様ね。貴方達の想像通りIS学園は今襲撃を受けてるわ。攻撃しているのはMよ」

火影

「ちっ、どうりでこっちにいなかった訳だぜ」

刀奈

「簪ちゃん…皆!」

海之

「…何故学園を襲う?オーガスの狙いは俺達の筈だろう?」

火影

「……一夏か」

スコール

「ええ。でもMの狙いは織斑一夏だけじゃない。あの元ブリュンヒルデもよ」

真耶

「先輩も!?どうして!?」

スコール

「それについてはあの子にでも聞いて。まぁ簡単には話さないだろうけど」

火影

(Mは一夏だけじゃなく織斑先生も狙ってるってのか…。しかしなんでだ?あのふたりとMになんの関係が…?)

海之

「………」

スコール

「……さて、約束は果たしたし私はそろそろ失礼させてもらうわね。こう見えても結構いい歳だから疲れてるのよ。ほんと歳は取りたくないわね」

クロエ

「逃がしませんよ!まだ束様の居場所を!」

火影

「落ち着けクロエ!さっきも言ったろう!それに今は学園だ。今ここに束さんがいたら間違いなくこういう筈だ。「自分よりも箒や一夏を助けてやれ」ってな」

クロエ

「…!」

 

火影のその言葉を聞いてクロエは動きを止める。

 

海之

「束さんは必ず助ける」

クロエ

「……わかりました」

火影

「…おい、オーガスに伝えろ。俺達をご所望なら何時でも会ってやる。ダンテとバージルが、ってな」

スコール

「……ダンテ?バージル?…まぁ良いわ。彼に伝えておくわ」

 

そしてスコールは背を向けて転移しようとする。

 

火影

「あと……教えてくれてありがとよ」

スコール

「……どうも」

 

そしてスコールは転移し、消えた。

 

火影

「…さぁこうしちゃいられねぇ。直ぐに助けに行か…!!」

海之

「!!」

 

その時だった、火影と海之の身体に同時に異常があった。一瞬だが今まで感じたことが無い程の激しい痛みが全身を襲ったのだ。

 

火影・海之

「「ぐっ!!」」

 

ふたり共大きくふらつき、息が乱れる。突然の事態にクロエ達も慌てる。

 

クロエ

「に、兄さん!?」

真耶

「ど、どうしたんですかふたり共!?」

海之

「ハァ、ハァ……なん、だ。…今のは…?」

刀奈

「もしかして…身体をどこか痛めたんじゃないの!?」

火影

「……いや、今は何ともねぇ。ほんと何だったんだ…ってそんな事言ってる場合じゃねぇな」

海之

「ああ、急いで戻らねば…」

真耶

「ふたり共無茶しないでください!これ以上は無理です!」

刀奈

「学園には私とクロエちゃんで行くわ!ふたりは休んでなさい!」

クロエ

「お願いします兄さん!」

火影

「大丈夫ですよ。…と言いたいとこだが流石に少しマズくなってきたな。この件が終わったら一回本格的に俺もお前もISを点検しねぇといけねぇかも」

海之

「…そうだな。終わったら必ず休みます。だから行かせて下さい」

 

ふたりの意思は固いものだった。

 

刀奈

「……わかったわ。なら急ぎましょう!」

真耶

「救助隊と警察への事情聴取は私が残って行っておきます!ですから皆さんは先に行ってください!」

海之

「ありがとうございます先生。あとは頼みます」

火影

「行くぜ!」

クロエ

「はい!」

真耶

「皆さん気をつけて!」

 

火影・海之・刀奈・クロエは全速でIS学園に、仲間達のところに向かうのであった……。

 

真耶

(…火影くん、海之くん…)

 

 

…………

 

スコール

「……」

 

その時、転移したと思っていたスコールは離れた所からそれを見ていた。

 

スコール

(あんな状態でも仲間を助けに行くのね。…………あの時、もしあの子達みたいな人間がいれば、私の運命も変わっていたのかしらね……)

 

遠ざかる火影達を見送りながらスコールは何かを思っていた。




今回で京都編終了です。
次回より学園に戻り、一夏達に移ります。
次回投稿は来週の18日(土)です。前回も書きましたがコロナが広がっております。皆様くれぐれもお気をつけ下さいませ。


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Mission140 復讐のM

オータムのコア爆弾による飛行機への攻撃。安全な着陸が不可能と判断した火影と海之は自分達が比較的安全に不時着できる湖まで運ぶと提案。刀奈やクロエ、真耶は当然止めるがふたりは聞かず、救助作戦を実行する。
様々な要因があって手こずる火影と海之だったがふたりの諦めない思いと刀奈達の加勢もあり、飛行機は何とか湖への不時着に成功する。

これで一安心…、と思いきや彼らの前に突然スコールが現れ、衝撃の事実を打ち明ける。束が自分達のところにいる事。そしてMがIS学園を襲撃している事。それを聞いた火影と海之は自分達の謎の異変に苦しみながらも大切なものを救うため、飛ぶのであった。


とある場所の上空…

 

刀奈

「簪ちゃん、皆。…無事でいて…!」

 

スコールから真相を聞かされた火影・海之・刀奈・クロエの四人はIS学園に戻るため、飛行を続けていた。

 

クロエ

「兄さん達大丈夫ですか!?」

火影

「ああ心配すんなクロエ。もうさっきの様な痛みはねぇよ…」

刀奈

「それでも無茶するんじゃないわよ?」

海之

「ありがとうございます。大丈夫です」

火影

「今は俺達より学園ですよ」

海之

(…だがあの様な事は今まで一度も起きたことが無い。あれも異常のひとつとすると…本当に限界が近いのかもしれんな…。くっ、せめて以前の様にあいつ等と話せれば…)

 

 

ヴゥゥゥンッ!

 

 

全員

「「「!!」」」

 

そんな会話や思考をしていると突然目の前、そして周辺に空間の歪みが発生した。明らかに転移。そして、

 

 

ドォンッ!ドンッ!ドンッ!ドォォォンッ!

 

 

グリフォン

「「「グアァァァッ!」」」

白いIS

「「「……」」」

 

無数のグリフォンと謎の白いIS達が姿を表した。

 

クロエ

「グリフォンに…見たことないIS!?しかもこんなに!」

海之

「時間稼ぎのつもりか…、ふざけた真似をする」

火影

「大方これも俺達を消耗させるためだろうな…。にしてもこの白い奴は鎧野郎の亜種か」

刀奈

「くっ!私達は急いでるの!力づくでも通らせてもらうわよ!」

クロエ

「押し通らせて頂きます!」

火影

「パーティ会場はここじゃねぇぜ!」

海之

「…邪魔だ!」

 

四人は武器を構えた。

 

 

…………

 

IS学園 食堂

 

時は火影達による飛行機の救助が始まった頃、一夏がふたりに連絡してみた直後にまで遡る。一夏がすぐもう一度電話しようとしたその時、食堂にひとりの女子生徒が慌てて走ってきた。

 

生徒

「ねぇ!ニュース見てニュース!」

「え?ニュース?」

 

言われたひとりの生徒が慌てて食堂に備え付けの大型テレビの電源を付ける。

 

 

「……繰り返し速報をお伝えします。今日未明京都府の有名観光スポット、京都タワーにおきまして、展望台の窓ガラスが爆発、損傷するという事態がありました。更にこの時できた穴から外へと飛び出す影が確認されており、目撃者の話によりますとインフィニット・ストラトス、ISではないかとの事です」

 

 

全員

「「「!!」」」

 

「……尚、これとは別に京都の遥か上空にて複数の爆発が確認されており、警察は京都タワーでの爆発との関連を…」

 

生徒

「京都タワーで爆発!?マジで!?」

「京都って…確か今度の修学旅行先よね?」

「なんだか怖いわ…。なにがあったのかしら…」

 

多くの生徒達がそんな感想を言っている中、

 

「京都…、IS…、爆発……!!」

「ま…まさか!」

セシリア

「まさか…火影さん達でしょうか!?」

 

何があったか分かったらしい箒達。

 

ガタンッ!

 

すると一夏が立ち上がって歩きだす。

 

「一夏!どこへ!」

一夏

「京都に決まってんだろ!助けに行かねぇと!」

シャル

「でも今から行っても数時間は掛かっちゃうよ!」

一夏

「ならISで直接行けば良い!全速で飛ばせばそんなに掛からねぇ!」

「…そうね。行きましょう!」

ラウラ

「しかし教官が許可して下さるだろうか…」

一夏

「そこは頼み込むしかねぇだろ!急がねぇとあいつらが危」

 

 

ドガァァァァァァァァンッ!

 

 

その時外の方から爆発音が聞こえた。その音で食堂は騒ぎとなる。

 

生徒

「!!」

「きゃあ!」

「な、何!?何!?」

「アリーナの方から聞こえたわ!」

 

~~~~~~~

その時一夏の携帯に電話があった。千冬からだ。

 

千冬

(一夏!聞こえるか!)

一夏

「千冬姉!なんださっきのは!」

千冬

(わからん!だがISの反応だ!)

一夏

「ISだって!?」

ラウラ

「…ファントム・タスクか!?くっ、まさかこんな時に!」

千冬

(直ぐに教師陣を確認に向かわせる!お前達は避難していろ!どうせ全員そこにいるだろう!)

 

避難しろという千冬に対し、一夏は、

 

一夏

「…いや千冬姉、俺達が行く!」

千冬

(! 馬鹿を言うな!お前達だけでは危険すぎる!海之や火影、楯無もいないんだぞ!)

一夏

「これがファントム・タスクの仕業なら先生達より俺達の方があいつらに慣れてる!」

「…そうだな、一夏の言う通りだ。私達が行こう!」

「ええ当然よ!」

 

他の皆もふたりの意見に同意した。

 

千冬

(……わかった。ISの使用も許可しよう。但し決して無茶はするな!私も直ぐ合流する!)

一夏

「ああ任せてくれ!」

セシリア

「では行きましょう!」

「本音は危ないからここにいてね!」

本音

「う、うん。気を付けてね皆!」

シャル

「じゃあ行こう!」

 

 

…………

 

IS学園 アリーナ

 

一夏達は爆発音が聞こえたアリーナに来た。アリーナは観客席がやや破壊されているが誰も使っていなかったので幸い怪我人はいなかった。

 

シャル

「!…なに?あのISは…!」

「黒いIS?…でもアンジェロとかじゃない」

 

するとアリーナ中央で待ち構えていたように佇んでいたのは今まで見たことが無い黒いIS。

 

セシリア

「……ゼフィルス?」

ラウラ

「! それは確かイギリスから盗まれたというサイレント・ゼフィルスというISで、あのMという奴が使っている機体だな」

「ああそうだ。…言われれば確かに似ているが…だが微妙に違うな」

 

箒達がそんな会話をしていると目の前のISが声を出す。そしてこちらも聞き覚えがあるものだった。

 

「…来たか、…織斑一夏」

一夏

「…その声!やっぱお前は!」

「気付いてくれた様だな。物覚えする程度の脳みそはあるようだ」

「私もわかったぞ。…M!」

「でもなんでISが違うのよ!?よく似ているけど」

「似ているのは当然だ。これはかつてサイレント・ゼフィルスだったものだ。最ももうあんなガラクタでは無いがな」

セシリア

「! 我が祖国が生み出したISを…ガラクタ呼ばわりするんですの!?」

 

セシリアは自分の国が精魂込めて造り上げたゼフィルスを馬鹿にされて憤慨する。しかしMは言葉を続ける。

 

「何を怒っている?貴様らみたいなひよっこに敗北する様なIS等、ガラクタ以外何者でもないだろう?もともと盗品だから期待もそれほどしていなかったがな」

「何を言うか!貴様、自らの敗北をISのせいにするか!」

シャル

「そうだよ!学園祭の時も火影に簡単に負けたくせに!」

「あの負けっぷりを自分は悪くないと思うなんてあんた結構頭悪いのね」

「………」

 

その言葉を聞いたMの心にオーガスから言われた言葉が浮かぶ。

 

オーガス

(…Mよ。あの赤と青の二体には決して手を出すな。お前には勝てん。絶対にな…)

 

(……私は、私は勝つ!織斑一夏にも織斑千冬にも!そして奴らにも!……そうでなければ…)

「…聞け!このISの名は…黒騎士。量産機でも訓練機でもゼフィルスの様な盗品でもない、真の私の専用機よ!」

ラウラ

「! 黒騎士だと!」

「あの白騎士と対比的な名前だね…」

一夏

「へっ!そんな名前に怯む俺だと思ってんのか!今度こそは逃がさねぇぜ!」

「ほざけ。今回はあの妙な兄弟もいない。助けは期待できんぞ。奴らは今大変らしいからな」

「…えっ、なんでアンタがそれを……まさか!」

「そうだ。奴らも見事に誘いに乗ったものだ。…いや、あえて乗ったのかもしれんな」

セシリア

「やはりあの京都での件は!」

シャル

「誘いって…どういう事!?」

「そのままの意味だ。奴らは京都まで来いというこちらの誘いに乗って京都まで行ったのだ。自分達だけで。まぁ教師や更識の人間というおまけも一緒だがな」

「…そんな、…火影」

「お姉ちゃん、…海之くん…」

「ああ他にもうひとり妙な白い奴もいたらしいな」

ラウラ

「白いISだと?……まさか、クロエさんか!?」

「織斑千冬が離れてくれれば更に都合が良かったが…まぁいい。おかげで私の手で直接、織斑一夏とまとめて排除できる」

一夏

「千冬姉もだと!?お前千冬姉も狙ってんのか!?」

「あの人を甘く見ると痛い目見るわよ!アンタもあの人がどんな人か位知ってるでしょう!」

「…ああ…、よく知っているとも…。何故なら、あいつは…」

「……?どうした?」

「……語るには飽いた。織斑一夏!私と戦え!」

一夏

「いいぜ!お前は俺が倒す!千冬姉に手出しはさせねぇ!」ドンッ!

 

そう言うと一夏は加速してMに近づく。他の皆も追おうとしたが、

 

「貴様らは邪魔だ」バッ!

 

 

ヴゥゥゥゥゥンッ!

 

 

一夏・全員

「「「!!」」」

 

Mが何かを起動させると突然彼女とそれに近づいていた一夏を覆う様にドーム状の幕が発生した。箒達はそれを突破しようとするが、

 

キィィィンッ!

 

「な、なんだ!通り抜けられない!」

「もしかしてバリア?いや結界なの!?」

シャル

「これじゃ助けに行けないよ!」

 

 

ヴゥゥゥゥゥンッ!

 

 

すると今度はアリーナ上空に複数の空間の歪み、転移が発生した。

 

「…な、なに!?」

セシリア

「あれは…あの時のグリフォンの出現と同じですわ!」

ラウラ

「だとしたら…!」

 

 

ドォォンッ!ドォン!ドドドドンッ!

 

 

全員

「「「!!」」」

 

転移があった場所がいきなり爆発し、中から複数の影が出現した。

 

グリフォン

「「グオォォォォォォッ!」」

謎のIS群

「「「……」」」

 

出てきたのは2体のグリフォン。そして見た事が無い2タイプのIS。ひとつは前面全てを隠すほどの巨大な盾を構えた白いIS。もうひとつは背丈ほどもある巨大な大剣を持った白いISだった。

 

「貴様らはこいつら相手に遊んでいろ」

シャル

「グリフォン!2機も!」

セシリア

「それだけじゃありません!見た事が無いISもいますわ!」

「アンジェロの完全近接型、デュエル・アンジェロ。そして重装甲型のスクード・アンジェロだ。今までのアンジェロとは少し違うぞ」

 

そしてグリフォンやIS群はアリーナの屋根から外に出て行こうとする。

 

「え?出ていく!?」

「のんびりしていていいのか?早く奴らを何とかしないと街を襲い始めるぞ?」

ラウラ

「なっ!卑怯な!」

 

それを見て一夏が言う。

 

一夏

「皆!こいつは俺に任せて、奴らを食い止めろ!」

「一夏!?」

一夏

「このバリアは簡単には破れねぇ!考えてる間にも街が危ねぇんだ!」

セシリア

「しかし一夏さんだけでは!」

一夏

「俺なら大丈夫だ!いいから行ってくれ!」

ラウラ

「………わかった。行こう皆」

「しかし!」

「一夏の言う事も最もでしょ!それにもうすぐ千冬さんも来てくれるわ!私達は街を守らないと!」

「……そうだね。お姉ちゃんや海之くんや火影くんもいない。私達全員必死でかからないとあの数相手では防げない!」

シャル

「うん!のんびり考えてる暇はないよ!」

「…………わかった。一夏!私達が戻るまで持ちこたえろよ!」

一夏

「心配すんな!お前らよりも早く倒して見せるぜ」

セシリア

「一夏さん!ご武運を!」

 

箒達はそう言うとアリーナ天井から出て行った。一夏はその後ろ姿を見る。

 

一夏

「……」

「さて、邪魔者はアンジェロ共に任せて、始めるとしようか」

一夏

「…やっぱり街を襲わせる気は無かったんだな?」

「…ほう、気付いていたか。そうだ、アンジェロやグリフォンは貴様のとりまきの遊び相手として呼び出しただけにすぎん。街の奴ら等興味はない。私の目的は織斑一夏、貴様と織斑千冬だけだ」

 

あくまでも自分の狙いは一夏と千冬というMに一夏はやや冷静になって尋ねる。

 

一夏

「戦う前にひとつだけ教えろ。……お前やたら俺を恨んでいる様だがなんでだ?はっきり言ってお前なんて学園祭の時まで会ったことも無いぞ?」

 

一夏の率直な質問にMはやや考えた後、こう答えた。

 

「…………貴様は私を、私の存在を傷つけた。…それだけだ」

一夏

「…存在…だって?どういう事だ…!?」

 

だがそれに答えることなくMは自らの剣を抜く。

 

「語るには飽いたと言った筈だ。覚悟しろ!織斑一夏!」

一夏

「ちっ!答える気は無いか、…なら俺が勝ったら喋ってもらうぞ!」

 

一夏も雪片を展開する。

 

「お前は私が倒す!この黒騎士でな!」

一夏

「それはこっちの台詞だ!俺の白式と雪片の力を見せてやる!」

 

一夏とMは互いの剣を向け、向かっていった。

 

 

…………

 

その頃、白いアンジェロ群とグリフォンを追いかけていた箒達は相手の異常に気付いた。

 

「……奴らの動きが先程からおかしい」

シャル

「…そうだね、街を狙うには方向が違う…。それに本気で狙うんだったらもっと本気で飛ぶだろうし、まるで誘いをかけているみたい」

 

シャルロットの言う通りグリフォンもアンジェロ達も街とは違う方向、そしてスピードも比較的ゆっくりで飛行していた。

 

「…もしかして本当に誘いをかけてるんじゃないかな。本当の狙いは街じゃなく、私達を一夏から離す事なのかも」

セシリア

「そうまでしてあの方は一夏さんと戦いたいというのですか…!」

ラウラ

「しかしそうだとしてもあんな奴らを放っておくわけにはいかん」

「そうね。できるだけ迅速に何とかして一夏を助けに行きましょう!」

「しかしこちらも手を抜いて勝てる相手じゃない。パワーアップしているらしいアンジェロが数えるだけでも約20機近くはいる。そしてなんといってもグリフォンが2機もいる」

シャル

「そうだね…。しかもあの白いアンジェロは初見だし…。こんな時に火影や海之がいてくれたら…」

「…うん。お姉ちゃんもクロエさんもいないし…私達だけで勝てるのかな…」

セシリア

「そうですわね…。私達はおふたりは愚か、楯無さんにもかないませんし…」

 

自分達しかいないこの状況にシャルや簪やセシリアは弱気になっている様だ。

 

「しっかりしなさい!こんな事位で弱気になってどうするの!あいつらの力になれる位強くなるんでしょ!」

ラウラ

「そうだぞ!それにあいつらは…今もきっと戦っている。私達や多くの人のために。そんな気がするんだ」

シャル

「鈴、ラウラ…」

「これ位の事何とかできないであいつに、火影に付いていく事なんてできない!あいつや海之ならやれる。だから私もやる!絶対諦めない!火影が何時も諦めない様に!」

「…諦めない…」

ラウラ

「海之の力になりたいんだろう、簪?」

「……うん!」

シャル

「ごめんふたり共!」

「セシリア、お前も同じ気持ちでは無いのか?お前も一夏の力になりたいのではないのか?お前の一夏を助けたいという気持ちはこれ位で揺らぐものなのか?」

セシリア

「!…いいえ、それは違いますわ!私の気持ちを、一夏さんに受け止めていただくまで死ねませんわ!」

「…ふっ、それでこそ私のライバルだ♪」

 

皆はやる気を取り戻したようだ。

 

「さて、戦い方と割り当てだがどうする?のんびり考える時間は無いが」

ラウラ

「時間をかけずにせん滅するためにはやはり一度に全て相手にしなければならんだろうな」

シャル

「じゃあグリフォンは僕が何とかする。皆はパンドラをお願い!」

セシリア

「シャルロットさんだけなんて無茶ですわ!」

シャル

「ううん。僕のパンドラはどっちかと言えばあいつやファントムみたいな大型の相手向きだよ。グリフォンとは前も戦った事あるし。大丈夫。いざとなったらアーギュメントも使うから」

ラウラ

「気をつけろよ?あれは精々3分が限界だ。使い時を間違えてはならんぞ」

「気をつけてねシャル」

シャル

「ありがとうふたり共」

「じゃあ私達はあの白いアンジェロを何とかしましょう!」

「承知した!…行くぞ!」

 

箒達六人もまた、敵の群れに向かっていくのであった…。

 

 

…………

 

その頃、学園のとある場所にて千冬は、

 

千冬

「漸く蕾が開く…」

 

そう言う千冬の前には一体のIS。そしてその隣には海之から託されたレッド・クイーン。自分の髪を後ろに縛りながら千冬は言った。

 

千冬

「…この髪型にするのも久しぶりだな。…もうすぐだ。直ぐに助けに行くぞ、一夏、お前達!」




※UAが130000に到達しました。ありがとうございます!
次回ですが私事で来週はお休みさせていただきたく思います。次回は再来週、来月の5月2日(土)です。


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Mission141 開戦!魔に挑む少女達

火影達が京都にて飛行機の救助を行っているその頃、学園に残っている一夏や皆は妙な予感を感じながら彼らの帰りを待っていた。

そんな時学園を襲う突然の爆発。それは新たなISを身に着け、学園を襲撃してきたMであった。Mの目的はやはり一夏、そして千冬。それを聞いた一夏は何故かと尋ねるとMは答えた。

「お前は私の存在価値を傷つけた」

一夏は真意を問うがその前にMは剣を抜き、一夏もやむなく構える。残された箒達も街を守るため、Mが呼び出した敵と交戦するのだった。


シャル

「じゃあ皆、宜しくね」

「…ねぇシャル、やっぱりシャルひとりだけじゃ」

シャル

「大丈夫だよ。それよりもあいつらをお願い」

「ええ任せなさい。そっちには絶対に行かせないから!」

セシリア

「気を付けてくださいシャルロットさん」

「では行くぞ!」

ラウラ

「了解だ!」

 

6人はそう言うと敵の群れに突撃した。

 

「山嵐!」

ラウラ

「カノーニア!」

セシリア

「スターライト!」

 

ズドドドドドドドドドドドドッ!

 

簪、ラウラ、セシリアが敵の群れに向かって先手の一斉射撃を行う。すると群れの中のSアンジェロという盾を持つアンジェロが集団で盾を構える。

(※スクードアンジェロをSアンジェロ、デュエルアンジェロをDアンジェロと略します)

 

ドガァァァァァァァァンッ!

 

簪達の撃った砲撃が当たり、激しい爆煙を起こした。

 

「どう…?」

ラウラ

「わからない。間違いなく当たってはいるが…」

 

効き目を模索する簪達。……しかし、

 

セシリア

「……! 皆さん!」

Sアンジェロ

「「「………」」」

 

そこには変わりなく盾を構える敵がいた。しかもあれほどの攻撃を受けながら盾にさえ全く異常がない。

 

「今の攻撃で…無傷!?」

ラウラ

「ちぃ!なんと硬い盾だ!ファントムでもまだ怯むぞ!」

 

敵の盾の強度に驚く三人。すると、

 

Dアンジェロ

「「グオォォォォッ!」」ドンッ

 

Sアンジェロの後ろからDアンジェロが2機、剣を構えて瞬時加速で向かってきた。

 

ガキィィィンッ!ガキィィィンッ!

 

Dアンジェロの剣は其々箒が雨月、鈴が双天牙月で受け止めた。

 

Dアンジェロ

「「……」」

「流石大剣!勢いが高いわね!」

「だが剣なら望むところだ!そしてこれで奴らの注意は私達に向いた!シャル!行け!」

シャル

「うん!」…ドンッ!!

 

箒のその合図で後方に待機していたシャルロットが最大の瞬時加速で突入した。目指すは更に後方にいるグリフォン。

 

グリフォン

「オォォォォォ…!」

シャル

「お前達の相手は僕がやる!」ジャキッ!ズドドドドドッ!

 

ドガガガガガッ!

 

グリフォン

「グオォォォッ!」

 

シャルは自分に注意を向けさせるためにジェラシーをグリフォンに撃つ。ダメージは少ないがその結果グリフォンの注意は2体とも揃って彼女の方に向いた。それに気づいた敵の何機かも続いて追いかけようとするが、

 

ズドドドドド!

 

アンジェロ達

「「「!」」」

ラウラ

「お前達の相手は私達だ!」

「シャルの邪魔はさせないわよ!」

「箒、鈴!ふたり共どいて!」

セシリア

「もう一回撃ちます!」

「わかった!」

「はぁぁぁ!」

 

ガキンッ!

 

ふたりは何とかDアンジェロの剣を払い、相手の腹に蹴りを入れて距離をとる。そこに、

 

ズドドドドドドドドドッ!

 

ラウラ達はDアンジェロに向かって撃つ。間違いなく当たるコースだ。

 

ガガガガガガガガガガッ!

 

全員

「「「!!」」」

Sアンジェロ

「「「……」」」

 

だが当たらなかった。SアンジェロがDアンジェロを庇うように再び盾を展開したからだった。

 

「あいつ…自分の仲間を守った!?」

ラウラ

「今までにない動きだ…。まるで指揮官を守る部隊の様な動きだった」

「もしかして本当にそうなのかな?剣の奴は盾の奴より数が少ないし」

「…確かに剣の敵は5機程。そして盾の敵はその約2、3倍はいる。…もしかすると剣の奴一機につき盾が何機か付く、という事かもしれん」

ラウラ

「…成程、小隊編成という訳だな。其れなら先ほどの戦い方も頷ける」

セシリア

「では分かれて其々敵を引き付けた方がよさそうですね。固まっていては数が少ない分こちらが不利ですわ」

ラウラ

「そうだな。もし私達の予想が正しいのなら剣の奴を相手にすれば盾の奴も自然とついてくるだろう」

「了解よ。簪、行けるわね!」

「うん!」

ラウラ

「互いの戦況もできるだけ見る様にするんだぞ。危なくなったらお互い助け合うんだ!」

「無論だ!よし、では行くぞ!」

 

箒達は其々敵に向かっていく。それにつられる形で敵側も動きだす。

 

「先ずは小手調べ!」ドンッ!

 

箒はまず確認もかねて一体のDアンジェロに向かって斬りだす。

 

ガキンッ!

 

Sアンジェロ

「……」

 

しかしやはりDアンジェロに届く前にSアンジェロの盾による防御が入る。何度かDアンジェロに向かおうとするが途中でやはり盾の敵が割って入る。

 

「やはりこいつら周りの奴を守ろうとする様だな。ならば盾の奴を先に何とかするか、あるいは剣の奴がこちらに向かってきた所を斬るしかないか……は!」

 

キィィンッ!

 

箒が考えていると盾に隠れながらもう片手に持つ剣で攻撃してくる。天月で受け止める箒。

 

「盾に隠れながら剣でも攻撃してくるのか!」

 

ドンッ!

 

するとSアンジェロに先ほど庇われたDアンジェロが真上から箒に襲い掛かる。

 

ガキィィィンッ!

 

「くっ!やらせない!」

 

簪が炎のケルベロスで食い止める。そのまま交戦に入る。

 

「簪!」

「箒!こいつは私に任せてそいつを先にお願い!多分だけど真後ろなら攻撃が通ると思う!」

「! 成程、後ろには確かに盾はない。試す価値はあるな!…はっ!」ドンッ!ドンッ!

 

箒はすぐさまブリンク・イグニッションで素早く目の前のSアンジェロの背後につく。

 

「たぁぁぁぁ!」

 

ズガァァァァンッ!

 

Sアンジェロ

「!!」

 

空裂で斬りつけると撃破こそできなかったが確かにダメージは通った。簪の言う通り後ろは前ほどの防御力は無い様だった。

 

「手ごたえがあった!簪の言うとおりだ!」」

 

ガキィィィンッ!

 

「きゃあああ!」

 

Dアンジェロのパワーに押されて簪が劣勢になる。

 

「簪!やらせん!」ドンッ!

 

箒が間に入って払い、簪を救う。

 

「大丈夫か簪!」

「う、うん。ありがとう。気を付けて!あいつの剣速い!」

「防御はできるだけ省いてスピードと剣に特化しているようだ。流石は完全近接型というわけか。しかしあの盾の奴の攻め方はわかった。簪、お前の言う通りだった」

「アニメやゲームではおなじみの設定だから!」

「そ、そういうものなのか。い、いやそんな話は後だな。油断するなよ!」

「うん!」」

 

箒と簪は再び敵と交戦していく。

 

ビュビュビュビュンッ!

 

一方、セシリアもビットによる攻撃でSアンジェロを狙う。敵はレーザーを受け止めようとそちらの方向に盾を構えるが、

 

セシリア

「今の私にはこういう事も出来るんですのよ!」

 

ビュビュビュビュンッ!

 

盾に当たる直前でレーザーが曲がり偏光レーザーとなった。そして敵の背後に回り込む。

 

セシリア

「後ろから撃ち落させていただきます!」

 

曲がったレーザーはSアンジェロの背後を狙う様に向かっていく。

 

ババババババッ!

 

セシリア

「!」

Sアンジェロ

「……」

 

しかし攻撃は通らなかった。当たるよりも少し前に別のSアンジェロが割り込み、仲間の背後を撃たせまいと邪魔をしたのだった。

 

セシリア

「…成程、互いに援護しあっているわけですのね。人間なら優秀な上官と言いたいところですが敵なら容赦しませんわよ!」

 

ドンッ!

 

その時背後からDアンジェロが剣で斬りかかってきた。

 

セシリア

「!」

 

ガキィィンッ!

 

セシリアは瞬時にローハイドの剣形態でなんとか受け止める。

 

セシリア

「…くっ!アンジェロよりもスピードがかなり速…!」

 

ジャキンッ!

 

するとDアンジェロは大剣とは別の隠し持っていたもうひとつの短剣で攻撃してきた。それが横からセシリアに襲い掛かる。

 

ガキンッ!

 

だがセシリアもまた自らの短剣インターセプターで防いでいた。

 

セシリア

「あ、危なかったですわ…!私も剣の腕は成長していますの!甘く見てはいけませんわよ!…そして!」

 

 

ドンッ!ドガァァァンッ!

 

 

Dアンジェロ

「!」

セシリア

「きゃあ!」

 

セシリアは一夏との戦いの時に裏をかくのに使ったミサイルを撃った。爆風で互いに飛ばされる。

 

セシリア

「はぁ…はぁ…」

 

すると近くで戦っていた鈴が近づく。

 

「セシリア!あんた何やってんのよ!」

セシリア

「鈴さん。…大丈夫ですわ、威力は抑えてましたし一発だけでしたから。でも意表を突くことは出来ましたわね」

「全く無茶して。…あんたもあいつらに影響されたんじゃないの?」

セシリア

「…ふふ、そうかもしれませんわね。…来ますわよ!」

「了解よ!」

 

セシリアと別れた鈴は自分に向かってきたDアンジェロと交戦する。

 

「はぁぁぁぁぁ!」

 

ガキィンッ!ガキッ!ガキキキンッ!

 

鈴は双天牙月でDアンジェロにかかるが敵は背丈ほどもある巨大な剣を簡単に振るい、鈴の攻撃を全て受け止める。

 

「もう!そんな大きな剣なのになんて軽々と扱うのよ!」

 

攻撃が通らないことに焦る鈴。すると

 

ドンッ!

 

もう一機別のDアンジェロが鈴の背後から襲い掛かってきた。

 

「! 嘘!後ろから!?」

 

前の敵を相手しているので咄嗟に応戦できない鈴は、

 

キュイイィィンッ…ガキィィンッ!

 

止む無くガーベラと龍咆が作った空気圧の盾で受け止める。、

 

「くっ!ガーベラに盾の力があって助か」ザンッ!「きゃああ!」

 

鈴が背後の敵に注意を向けていた一瞬の隙をつき、相手をしていた敵が短剣で斬りつけた。

 

「くっ、隠し武器なんて卑怯よ!」

 

ドンッ!ドンッ!

 

上空からラウラがカノンを撃って鈴を援護し、Dアンジェロを引き離す。鈴とラウラが背中合わせになって話す。

 

ラウラ

「大丈夫か鈴!」

「う、うん。ありがとうラウラ!」

ラウラ

「いやすまん!私の撃ち漏らしだ。…しかしこいつらアンジェロより数段パワーが上だな」

「みたいね。あの剣の奴は動きがずっと速いわ…。それにあの盾の奴が邪魔して攻撃が通りにくいのよね」

ラウラ

「ならあの盾の奴を先に何とかした方がよいかもしれんな…。先ほど箒から連絡があったが簪の話によるとどうやらあの盾の奴は後ろは防御が薄いらしい。鈴、ガーベラの加速を生かして奴らの背後を狙え!」

「わかった!油断しないでよ!」

ラウラ

「ああお互いにな!」

 

鈴とラウラも分かれて互いの敵に向かっていく。先にSアンジェロを何とかした方が良いと判断したラウラはその内の一体に向かう。

 

ラウラ

(AICが使えれば動きを止められるがあれは自分も動けなくなるからな…。悔しいが私には海之ほどの剣の腕も火影ほどの精密射撃もできん。故に一機ずつ潰していくしかない!)

 

ジャキッ!…ズドンッ!

 

ラウラは威力重視で両肩のカノンからレール砲に装備を変更し、それを敵に向けて撃つ。

 

ドォォォォンッ!

 

レール砲は命中し、爆煙が舞う。

 

Sアンジェロ

「……」

 

……しかし、それでもやはり敵の盾は無傷だった。

 

ラウラ

「レール砲も駄目か…。なら、これはどうだ!」

 

ラウラはパンチラインにSEをフルチャージしたブレイクエイジを繰り出す。

 

ラウラ

「砕けろおぉぉぉ!」

 

ドゴォォォォォッ!!

 

パンチラインの最大級の攻撃が敵の盾と激しくぶつかった。………しかし、

 

……ピシッ

 

ラウラ

「!」

Sアンジェロ

「……」

 

それでも盾を貫く事は出来ず、ヒビが入っただけだった。

 

ラウラ

「ちぃ!パンチラインのブレイクエイジでも貫けんとは!だが今までより手ごたえはあった!もう一撃」

 

ガシャガシャンッ!

 

すると盾が突然変形し、中央にある紋章らしきものが開き、そこから砲口が現れた。

 

ラウラ

「な!しま」ドォォォォンッ!「うわぁぁぁ!!」

 

Sアンジェロからの思わぬ砲撃をよけきれず、受けてしまうラウラ。

 

ラウラ

「くっ…、あんな隠し玉があったとは…!」

 

ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!

 

ラウラ

「ちぃ!」

 

立て続けに砲口からビームが放たれる。その間を当たらない様に避けながら動いていると、

 

ドンッ!

 

Dアンジェロが瞬時加速で剣の一撃を仕掛けてくる。

 

ラウラ

「! しまった!」

 

キィィィィンッ!

 

だがこちらも間一髪敵の剣をセシリアがローハイドの剣で防ぐ。

 

セシリア

「まだですわ!」

 

ガキキキキキンッ!

 

Dアンジェロ

「!」

 

セシリアはローハイドを剣から鞭に変形させ、それを敵の大剣に絡ませた。

 

セシリア

「ラウラさん!今です!」

ラウラ

「! おお!」ドンッ!

 

ブリンク・イグニッションで背後をとるラウラ。

 

ラウラ

「今度こそ落ちろぉ!」

Dアンジェロ

「!!」

 

ドゴォォォォッ!!……ボガァァァァンッ!

 

パンチラインのブレイクエイジが敵の身体を背後から貫き、爆破された。

 

セシリア

「やりましたわ!」

ラウラ

「感謝するぞセシリア!思った通りどうやら剣の奴はスピード重視の分防御が弱い様だ。でかいのを一撃入れれば倒せる!」

セシリア

「了解ですわ!」

 

 

…………

 

ガキィンッ!キィィンッ!

 

「はぁぁぁ!」

 

その頃簪は一機のDアンジェロと交戦していた。剣の腕では敵の方が上かもしれないが簪も海之や火影に単独で訓練をしてもらっていた事もあり、その成果もあってケルベロスの腕も確実に上達していた。

 

ドドドドンッ!

 

そこにSアンジェロの群れがレーザーで砲撃してくる。

 

「くっ!」

 

Dアンジェロから距離をとる簪。Sアンジェロ達はそんな簪にレーザーの軌道を変えて撃ってくる。逃げ回る簪。

 

(やっぱり一対複数だとどうしても不利になっちゃう…。なんとか少しでもこちらの攻める時間を作らないと……よし、あれを使ってみよう!)

 

すると簪はいったん離れてミサイルポッド「山嵐」を展開した。その様子を見て複数のSアンジェロが防御の構えに入る。

 

「皆!敵から一旦離れて!」

「簪!」

ラウラ

「どうするつもりだ!」

「まぁ見てて!……よし、マルチロックオン!…発射!」

 

ズドドドドドドドドドッ!

 

山嵐から放たれたミサイルが一斉に向かう。マルチロックオンシステムは既に完成していた。

 

アンジェロ達

「「「!!」」」

 

 

ズドドォォォォォォンッ!!

 

 

Dアンジェロは剣で斬ったりして避け、Sアンジェロは何機かはレーザーで破壊して当たらなかったが半分以上は命中した。しかし先ほどと同じく敵の装甲は貫けていない様だ。だが簪の狙いはこれではなかった。

 

 

…ビキビキビキビキ

 

 

Sアンジェロ

「「「!?」」」

 

その時、ミサイルを防御した敵に異変があった。ミサイルを受けた敵が若干凍り付いたのである。

 

「!敵が凍った!?」

「皆!今の内!」

「あ!そうか!」

ラウラ

「了解だ!」

 

簪の合図で一斉にそれぞれに最も近い敵にブリンク・イグニッションで突撃する箒達。

 

箒・セシリア・鈴・ラウラ

「「「はぁぁぁぁぁ!!」」」

 

 

ドガンッ!ドガンッ!ドガガガガガガガガガガンッ!!!

 

 

箒はトムガールを加えた剣、セシリアはローハイドの剣、鈴はガーベラのブレイクエイジ、ラウラはパンチラインのブレイクエイジを動きが鈍ったSアンジェロの背後に食らわし、破壊したのだった。

 

アンジェロ達

「「「グオォォォォォ…」」」

「やった!」

セシリア

「すごいですわ簪さん!」

「ケルベロスの氷の力を流用したミサイルだよ。何回も使えないけど」

「だが盾の奴は半数は潰せた、これは大きいぞ!」

ラウラ

「そうだな!この調子でいくぞ!」

 

 

…………

 

一方、グリフォンを引き付け、皆からひとり離れたシャル。

 

グリフォン

「グアァァァァァァッ!」

シャル

(よし、あいつらの標的は僕だけみたいだ!何とか引き離す事に成功したみたい。皆の所に戻すわけにはいかない。なんとしてもここで倒さないと!)

グリフォン

「グオォォォォォォッ!」

シャル

(………だけどファントムでさえ皆と一緒に戦ってなんとか倒せた位なのに…今回は僕だけ、しかもいきなり2機か…。言ったのは僕だけど本当に倒せるかな…。せめてアーギュメントがもう少し長く使えたら…)

 

ひとりになった事も重なったのかシャルは急に不安になってきた。

 

グリフォン

「「グアァァァァァァッ!!」」ドンッ!ドンッ!

 

しかしそんなシャルの気持ちも関係なく、グリフォンは高速で突進してくる。

 

シャル

「! くっ!悩んでる暇はない!」

 

ギリギリでそれを避けるシャル。通り過ぎたグリフォンは旋回し、

 

ババババババババババババッ!

 

そのまま角から雷の嵐を撃ってくる。2機が一斉に放ってきたので範囲も大きい。

 

シャル

「! アンバーカーテン!」キュィィィィイン!

 

防御を選択したシャルはパンドラの防御壁アンバーカーテンを展開してそれを防ぐ。

 

グリフォン

「グオォォォォッ!」

シャル

「!」

 

ドガァァァァァンッ!

 

シャル

「うわぁぁぁぁぁぁっ!」

 

雷の嵐を防ぐことに注意を割いていた時、片方のグリフォンが隙をついて突進を繰り出してきた。カーテンのおかげで直撃は避けられたが衝突の衝撃までは防げず、悲鳴を上げるシャル。グリフォンはひるんで姿勢を崩したシャルに再度突撃してくる。

 

シャル

「速い!だけど二度目はさせない!こっちに向かってきてる今なら!」ジャキッ!

 

シャルはエピデミックを向かってくるグリフォンに向ける。しかし、

 

ドギューンッ!

 

雷の嵐を放っていた方のグリフォンが今度はレーザーを撃ってきた。

 

シャル

「!」

 

瞬時に何とか回避するシャル。しかしグリフォンはレーザーを撃ちながら向かってくる。更にもう片方のグリフォンも突進を止めない。その隙間をカーテンを張りながら避け、なんとか攻撃にうつろうとするのだが、

 

シャル

「くっ!攻撃が早くて近づけない!改良されてるの!?」

 

グリフォンのスピードに翻弄されるシャル。

 

シャル

「避けきれな」ドガァァァァァンッ!「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

突進をもろに受けたらしいシャルは吹っ飛んだ。

 

ギュオォォォォォ……、

 

そのままグリフォンがレーザーをチャージする。シャルは撃ち返そうとして、リヴェンジを展開するが、

 

シャル

「…お、重い!やっぱり脚が着いてないと…!」

 

脚をつけて使用する前提のそれは重すぎた。照準が定まらない。その間にもレーザーが迫ってくる。するとシャルが何やら思いつく。

 

シャル

「そうだ!リヴェンジ発射!」

 

……ズドオォォォォンッ!

 

グリフォン

「!」

 

リヴェンジのレーザー発射をブースターの代わりにしてシャルはその場から急速で離脱した。それでレーザーから逃げる。

 

シャル

「あ、危なかった…。でも見たか!こういう使い方もあるんだ!今思いついたんだけど。……でもやっぱり強い。二対一っていうのもあるんだろうけどこうなったらアーギュメントを使うしかないかな。……ううん駄目だ、あれは使い時を間違うと逆にやられちゃう。こんな上空でエネルギー切れなんて起こしたらひとたまりもない…」

 

一応アーギュメントの使用時間が過ぎても最低限のレベルで動かせることは出来るのだが戦闘できる程ではない。SE以外に気を付けないといけないのはこういった理由もあった故、無暗に使うことができないのだった。

 

シャル

「長期戦は僕に不利だからコアを狙うしかない。とするとやっぱりリヴェンジやグラトニーだけど…」

 

シャルが逆転の方法を考えていた時、

 

グリフォン

「グオォォォォォォッ!」

シャル

「!!」

 

レーザーを撃っていたものとは別のグリフォンの方が声を上げた。よく見ると銀の鐘の発射態勢になっていた。

 

シャル

「い、いつの間に!…まさか僕が逃げた先を読んで!?マズイ!ここじゃ当たる!」

 

そう思ったシャルは緊急離脱を試みるが、

 

グリフォン

「ガアァァァァァァッ!」

シャル

「!」

 

もう片方のグリフォンも銀の鐘を起動していた。先のグリフォンは近距離から、こちらは遠距離で撃ってくるつもりの様だ。しかもシャルのスピードならどこに逃げても当たる様な場所。正に前方の虎、後門の狼の様な状況だった。

 

シャル

「あ、あいつまで!そんな…同時に撃ってくるつもりなの!?」

 

 

…………

 

一方、アンジェロ達と闘う箒達。簪の機転もあってやや優勢を感じ始めていた箒達だったが、

 

アンジェロ達

「「「………」」」

 

アンジェロ達が急に動きを止めた。剣を下ろし、盾も構えず。

 

「……待て!何か様子がおかしい…。動きが…止まった?」

「でも今なら一気に!」

「……!見て皆!」

 

 

………ガシャガシャガシャガシャンッ!!

 

 

箒達

「「「!!」」」

 

けたたましい機械音が鳴ったと同時に敵に動きがあった。アンジェロ達の装甲が限界ギリギリまで解除、パージされたのである。元から薄かったDアンジェロはますます細身になり、Sアンジェロはやや細身になった。そして、

 

ガシャガシャッ!

 

Sアンジェロの解除した装甲は自分達が持つ盾と合体し、大きくしたのである。

 

ラウラ

「敵の姿が…形が変わった!?」

セシリア

「あの盾の敵は盾がますます強化された様に見えますわ…。とするとあの剣の敵は…」

 

ドンッ!ドンッ!……ズガガガガガッ!!

 

セシリア・簪

「「きゃあああ!」」

「セシリア!」

「簪!」

 

セシリアと簪が前方から迫ってきたDアンジェロに斬られる。更に追撃しようとする敵。

 

ガキンッ!!…ドドドドンッ!

 

その直前に箒と鈴が加速でギリギリ割って入って止める。そこにラウラが両肩のカノンを撃つが敵は急速回避で離れる。

 

「大丈夫かふたり共!」

「あ、ありがとう…、大丈夫だよ」

セシリア

「す、すみません。…ですがやはり思った通りですわ。あの剣のIS、余分な装甲を更に削った分動きが更に速くなってますわ!」

「古来の剣術に介者剣法(かいしゃけんぽう)という攻撃特化の剣術があるが…奴のそれに近いかもしれんな。守りを無視した分攻撃は更に激しくなったと考えて良いだろう」

「ますます厄介ね…」

「山嵐のミサイルもあのスピードと剣速では当たらないかもしれない…。盾も貫けるかどうか」

ラウラ

「…箒、鈴。この中で加速に優れるお前達が剣の敵を頼む。盾の奴は私とセシリアと簪で何とか食い止めよう」

「…わかった。気をつけろ!」

「奴らは任せておきなさい!」

 

再び戦闘に突入するのであった…。




読者の皆さんこんにちは。storybladeです。
お待たせしました。先週投稿できなかった事、すみません。また宜しくお願いします。
次回投稿は来週9日(土)の予定です。



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Mission142 束のドッキリと希望と災い

Mが召喚した新たなアンジェロ達とグリフォンに挑む箒達。
箒達はアンジェロ以上に剣に精通しているDアンジェロとファントム以上の強固なSアンジェロとの闘いで苦戦するも徐々に攻略法を模索しながら有利に立ち始めていた。……様に思えたのだがその時アンジェロ達の奥の手ともいえる能力が発動し、形勢は再び押し返される。
一方、アンジェロ達を箒達に任せ、ひとりグリフォンと闘うシャルロット。しかしこちらもこれまでよりスピードが上がっているらしいグリフォンに苦戦を強いられ、シャルは決定的な手が出せない。そんな中で遂に銀の鐘が発動。ロックオンされたシャルにこれまで以上の危機が押し寄せていた。


「はぁぁぁぁ!!」

「たぁぁぁぁ!!」

 

箒と鈴はSアンジェロをラウラや簪、セシリアに任せ、Dアンジェロと闘っていた。彼女達が止めているため敵の連携は何とか阻止できていたがそれでもDアンジェロはまだ4機残っているため、割り当てでひとりで2機相手にしなければならない。

 

シュンッ!シュンッ!……ガキキキンッ!

 

Dアンジェロ

「「「……」」」

「くっ!なんてスピードと剣速だ!」

「ガーベラやトムガールの加速加えてやっとなんてね!おまけにさっきまで一刀流だったのが二刀流になってるし!」

 

隠し武器扱いだった短剣も常時左手に持っており、敵が二刀流になった事も先ほどの戦い方とは違っていた。

 

ガキンッ!

 

「こんな大剣を片手で軽々と扱うとは!」

「でも今ならこれで!」ガシャンッ!

 

そう言って鈴は龍咆を開く。

 

「零距離で受けなさい!」ズドォォンッ!

 

目の前の敵に撃つ鈴。……しかし、

 

バババババババババババ

 

「!!」

 

龍咆の目に見えない衝撃波の弾を自らの大剣で真っ二つに断ち切っていた。

 

「龍咆の衝撃波を斬るですって!?海之みたいな事してんじゃ」ズガァァンッ!「きゃあああ!」

 

後ろから別のDアンジェロが斬りかかってきた。意表を突かれた鈴は受けてしまい、吹っ飛ぶ。

 

「鈴!邪魔だぁぁぁ!」ガキンッ!

 

箒は全力で目の前の敵を払い、鈴に更に斬りかかろうとしていた鈴の護衛に入る。

 

「鈴!大丈夫か!」

「え、ええ。ありがとう箒。油断したわ」

「私が前に出るから鈴は援護を」

「おっと!それは無しよ箒。あんたも自分の相手で精一杯でしょ」

「しかし!」

「大丈夫よ。仲間が信じられない?」

 

そんな事を言われたら箒も黙るしかなく、

 

「……わかった。気をつけろよ。互いに敵を引き付けよう。半分は任せろ!」ドンッ!

 

そう言って箒は自分の担当を引き付けて離れる。鈴は引き続き目の前の敵と対峙する。

 

ジャキジャキッ!

 

「…私は…アンタ達なんかに負けるわけにはいかないのよ!」

 

剣を構えるDアンジェロ達に向かい、鈴は再び双天牙月を構えた。

 

 

…………

 

一方、Sアンジェロ達と闘う簪・ラウラ・セシリア達は…、

 

ラウラ

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

ドゴオォォォォンッ!

 

ラウラは先ほどと同じくパンチラインのブレイクエイジを撃つが、

 

Sアンジェロ

「……」

 

パワーアップされたらしい盾には先ほどと違いヒビも入らなかった。

 

ラウラ

「ちっ!ブレイクエイジでもダメとは!やはりどうにかして隙間を狙うしかないか!」

セシリア

「ならばお任せください!」

 

ビュビュビュンッ!!

 

ラウラの後方からセシリアのビットが飛ぶ。更にそのレーザーが偏光射撃であらゆる方向から飛んでくる。

 

セシリア

「あらゆる方向から同時に狙えば防ぎ切れない筈!」

「…!見て!」

 

ガシャガシャガシャンッ!

 

簪が指差した先にいたSアンジェロの盾が突然複数に分裂した。

 

ラウラ

「! 盾が分裂しただと!?」

 

ドドドドドドドドンッ!!

 

更にそれらはセシリアのレーザーを防げる最適なポイントに飛び、飛んでくるレーザーを全て防いでいた。

 

セシリア

「! 分裂した盾が…私のレーザーを防いだ!?」

「それにも驚いたけど…あの盾の飛び方、…なんかビットに似ている気がする」

 

簪の言う通り、分裂した盾は自在に飛び回り、そのひとつひとつが様々な方向から飛んできたレーザーを防いでいた。更に、

 

ズドドドドドドドッ!

 

そこから砲口が出現し、機銃を撃ち出してきた。

 

セシリア

「! あんなものまで!まさしくビットですわ!」

ラウラ

「確かゼフィルスにも同じ様なシールドがついているビットがあると聞いた。まさかそれの技術を使っているのか!」

セシリア

「簪さん、先ほどの氷のミサイルは使えませんか?」

「使えない事無いけどあんな物があったら撃ち落されちゃうよ…!」

ラウラ

「……」

 

 

…………

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

その頃、2機のアンジェロと闘っていた鈴は消耗が激しく、敵に挟まれる形となっていた。

 

Dアンジェロ

「「……」」ジャキッジャキッ

「はぁ…くっ、お互い同時に剣を構えて…面倒だから同時に仕掛けて一気に決めようって訳?なめてくれるじゃないの!」

 

そういう鈴だったが自分にも余裕がそろそろ無くなりつつある事もわかっていた。

 

(…疲れが出てきたから剣技じゃ敵わない。スピードも不利。奴の裏をかくにはどうしたら………同時に仕掛けて……!……だけどもしこれに失敗したら…間違いなく私の負け…か…)

 

鈴の頭に何か浮かんだようだが危険性が高いのか失敗した時の事を恐怖しているらしい。

………すると鈴の心にタッグマッチトーナメントの時に掛けられた火影の言葉が浮かぶ。

 

 

火影

(…自信を持って戦え。お前らなら勝てる…)

 

 

(!……もう、全く簡単に言ってくれちゃって。……いいわ、やってやろうじゃないの!上手くいったらデートしてもらうわよ!)

 

 

…………

 

一方Sアンジェロ達の攻略を闘いながら模索する簪達。すると、

 

ラウラ

「…ふたり共、できるだけ攻撃を連続して奴らの動きを止めてくれ」

「え?」

ラウラ

「私に考えがある。頼むぞ!」ドンッ

セシリア

「わ、わかりましたわ!行きなさいティアーズ!」ドドドドドンッ!

「山嵐…発射!」ズドドドドドッ!

Sアンジェロ

「「「!」」」

 

ラウラに頼まれた簪とセシリアは其々の攻撃を連続でたたき込む。対して敵はシールドビットを展開しながら防ぐ。

 

「やっぱり防がれる…!」

セシリア

「でも今はラウラさんを信じましょう!」

 

……それがほんの少し続いた時、

 

ラウラ

「……よしここだ!食らえ!」

 

 

キィィィィィィンッ!!

 

 

Sアンジェロ

「「…!?」」

 

先程離れていたラウラがAICを起動し、動きを止めていた。離れていたのはこれをより大勢巻き込むための最適なポイントを見つけるためだった。それによって2機の敵が補足されていた。

 

ラウラ

「思った通りこいつらはビットを展開している間動けない!どうだ!いくら貴様達でもこれなら動けまい!」

セシリア

「ラウラさん!」

ラウラ

「今だふたり共!捕まった奴らを撃て!」ドガガガンッ!!「ぐあああ!」

 

しかしその影響で動けないラウラは他のアンジェロの攻撃を受ける。

 

ラウラ

「…くっ、…しかし解除はしないぞ!」

簪・セシリア

「「ラウラ(さん)!」

ラウラ

「大丈夫だ!早く奴らを!」ドンッ!「ぐうぅぅ!」

「セシリア!私がラウラを助けるから奴らをお願い!」

セシリア

「…心得ましたわ!」ドンッ!ドンッ!

 

セシリアはAICにかかった敵を撃つためブリンク・イグニッションで接近する。しかしその前に別のアンジェロが立ちはだかる。

 

セシリア

「今の私を止められると思いなさりませんように!」ドンッ!

Sアンジェロ

「!」

 

ドガァァァァン!!

 

セシリアはSアンジェロに向けて奇襲のビットミサイルを発射した。爆発に一瞬うろたえる敵。その横をくぐり、セシリアはAICにかかった敵の後ろにつく。ローハイドを構えるセシリア。

 

Sアンジェロ

「「!!」」

セシリア

「落ちていただきます!!」

 

ザンッ!ザンッ!……ドガァァァァァァンッ!!

 

ローハイドの剣閃が2機のSアンジェロの装甲の隙間を切り裂いた。その瞬間2機のアンジェロは破壊された。

 

ラウラ

「やった!よしもう一度」

「駄目だよラウラ!AICはリスクが大きすぎるよ!…私に任せて!」

ラウラ

「どうするんだ!?」

「ラウラのおかげで思いついた事があるの!」

 

すると簪は春雷を展開する。

 

「春雷…発射!」ズドォォォォォン!!

Sアンジェロ

「!!」ガシャガシャンッ!

 

ガガガガァァン!!

 

簪は春雷を撃つが敵は分裂していたビットを再びまとめてそれを防御していた。

……すると、

 

ガガガガガガガガガガ

 

Sアンジェロ

「!?」

 

その時攻撃を受け止めた敵に異変が起こった。盾に突如電流が走り、更に盾を持っていた本体にも電流が移ったのだ。そのためなのか動きが鈍くなる敵。

 

ラウラ

「! これは!」

「ケルベロスの雷のエネルギーでパワーアップした春雷だよ!ラウラ!今の内!」

ラウラ

「おお!」ジャキッ…ズドンッ!!

 

ラウラはビーム手刀のエネルギーを回したパンチラインを飛ばした。

 

ラウラ

「盾は厚い様だが装甲をパージしたお前達ならこれでも貫ける!」

Sアンジェロ

「!!」

 

ドガァァァァァァンッ!!

 

ラウラのパンチラインが敵の身体を貫き、大破した。

 

「やった!」

セシリア

「おふたり共、大丈夫ですか!?」

「大丈夫だよ。でもラウラ!全く無茶して!」

ラウラ

「…ふっ、先ほど簪に海之の力になりたいんだろうと言った手前、私もこれ位できんとあいつの夫ではいられんからな。だがこのまま一気に……何!」

「ど、どうしたの……え!?」

セシリア

「…こ、これは!?」

 

その時ラウラとセシリアに異変があった。いや正確には彼女達のある物に。

 

 

ラウラ

「パ、パンチラインが…!」

セシリア

「私の…ローハイドも!」

 

 

…………

 

場所は先ほどの鈴の時点に戻る。火影の言葉に勇気付けられた気がした鈴は微笑み、何故か武器を下ろし、何か集中しているのか目を閉じる。

 

「……」

 

静かに沈黙する鈴。そんな鈴を見て、

 

Dアンジェロ

「「!!」」ドンッ!ドンッ!

 

Dアンジェロは同時に突撃した。前と後ろから迫ってくる。そして互いに剣を構えて斬り込もうとしたその時、

 

 

「今だ!」ドンッ!!

 

 

鈴はガーベラの力を加えた最大加速を行った。

 

Dアンジェロ

「「!!」」ドォォォォォンッ!

 

突然の思わぬ回避にDアンジェロは驚くが既に斬り込もうとしていたので急に止まる事ができず、剣で互いを斬る事は防げたが激突してしまった。

 

シュンッ!!

 

気付いた時鈴は背後にいた。先程の回避は単なる瞬時加速でなくブリンク・イグニッションだった。

 

「柔よく剛を制す!スピードに溺れたわね!開けガーベラ!!」

Dアンジェロ

「!」

 

ズドォォォォォンッ!!

 

鈴は片方のDアンジェロにガーベラのレーザーを撃った。結果、敵は避けきる事ができずに大破した。

 

「よし!これで残り一機!一対一なら負けはしないわよ!このまま………え!?」

 

その時、鈴のガーベラに異変があった。やんわりと光を放ち始めたのだ。それは先ほどラウラとセシリアに起こったものと同じ。

 

「ガーベラが…!何が起こってるの!?」

 

 

DEVILBREAKER SKILLCOMPLETE(使用条件に到達しました) NIGHTMAREMODE READY(ナイトメアモード 起動します)

 

 

鈴・ラウラ・セシリア

「「「!」」」

 

キイィィィィィィィィィンッ!!

 

そうアナウンスが流れ、インターフェイスに文字が浮かんだ途端、ガーベラ、パンチライン、ローハイドがより強く光を放ち始め、同時にSEがチャージされていく。

 

「な、何!?」

セシリア

「動かしていませんのに勝手にチャージされている!?」

ラウラ

「一体…何が…?」

 

三人は驚きの色を隠せない。……やがて、

 

 

シュバァァァァァァッ!!

 

 

鈴・ラウラ・セシリア

「「「!!」」」

 

光が消えると鈴達それぞれに大きな変化があった。

鈴の手にはガーベラのレーザーと同じ色をしている光輝く巨大な大斧が。

ラウラの腕には異質な形をした銃の様な物が。

そしてセシリアの周りには特徴ある形をしたビットの様な物が複数浮かんでいた。

 

「な、何が起こったの…?」

「これは…?」

 

 

(((あ~、あ~。ただいまマイクのテスト中~)))

 

 

突然鈴・ラウラ・セシリアの三人に同時にとある声が聞こえてきた。

 

「誰か聞こえてる~?…ってテープ再生されたんだから聞いてるの当然か、テヘペロ♪」

「!この声……、束さん!」

ラウラ

「篠ノ之博士!?」

セシリア

「ど、どうして、一体どこから!?」

 

それは束の声だった。それを聞いた三人は其々の場所で反応する。

 

(これを聞いてるって事は誰かが無事デビルブレイカーの(ナイトメア)モードを起動したって事だね~!上出来上出来~♪鈴ちゃんかな~?ラウちゃんかな~?それともセッちゃん~?もしかしたらもしかすると三人一緒とか~?そんなんだったらマジ凄いね~♪いっくんや箒ちゃんやかっちゃんはまだだと思うんだよね~。渡すのちょっと後だったからね~)

「…え?あ、これを聞いてるという事は録音テープか。…(ナイトメア)モードって…、このビームの斧みたいな物の事かな?」

(といっても(ナイトメア)モードって何~?って聞きたそうだね~!いやきっとそうに違いない!というわけで説明するね~。(ナイトメア)モードってのはデビルブレイカーに付けた隠し機能だよ♪)

セシリア

「! デビルブレイカーの隠し機能!?」

(デビルブレイカーを使いこなす、熟練度っていうのかな~?それが十分になった時に新たな形態として起動するようにしたんだよ♪SEを通常より結構使っちゃうんだけどその力は自信もって保証するよ♪本当ならそんなもの付けられて無いんだけど設計図通りに造るだけじゃ面白くないと思ったからさ~。だってデビルブレイカーって二十歳そこそこの女の子が造ったって事なんだもん~。科学者の先輩としては悔しいじゃん!驚かせたいじゃん!裏技位仕込みたいじゃん!)

ラウラ

「は、はぁ…」

 

ドンッ!

 

その時、鈴にDアンジェロが襲いかかる。

 

「!って今はゆっくり聞いてる場合じゃ無かったー!」

 

回避に間に合わないと思った鈴は止む無く光の斧で受け止める。すると、

 

ガキィィィィン!……グググググッ

 

Dアンジェロ

「!」

「!…凄い。このパワーなら!はあぁぁぁぁぁぁ!」

Dアンジェロ

「…!」

 

鈴は手に持つそれに更に力を籠める。するとその力に驚いたのか敵は鈴から距離を離した。

 

「逃がさない!」ドンッ!

 

鈴はそのままガーベラの加速を加え、勢いそのままで斬りかかる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

Dアンジェロ

「!!」

 

ズガガガガッ!……ドガァァァァン!

 

鈴が全力で振るったその光の斧は剣ごと敵を一刀両断してしまった。

 

「凄い……!」

 

(鈴ちゃんのガーベラの(ナイトメア)モードは見ての通りガーベラが放つレーザーのエネルギーを凝縮して作り出すビームアックスだよ。「アービター」っていう斧の魔具があって、それを参考にして考えたんだ♪レーザーの時と違って射程は随分狭くなっちゃうけどその分威力は大きく上昇しているよ♪その切れ味は自分の目で試してね~!)

「斧なら私の戦い方にうってつけね!ありがとうございます束さん!」

 

ウィィィィィィ……

 

ラウラは腕に装着されたその銃にエネルギーをチャージする。…すると銃口に巨大なエネルギー球が形成された。

 

ラウラ

「…いっけぇぇぇぇぇ!!」

 

ズドォォォォォンッ!!

 

ラウラは一杯までチャージされたらしいエネルギーを前方にいるSアンジェロに向けて撃った。Sアンジェロはそれに気づき、盾を向けるが

 

Sアンジェロ

「!」

 

…ドガァァァァァァァンッ!!

 

撃ち出されたエネルギーは敵の盾を粉々に破壊してしまったのだった。

 

ラウラ

「……なんて威力だ。レール砲はおろか、パンチラインのブレイクエイジでも傷をつけるのがやっとだったあの盾を粉々に…!」

(ラウちゃんのパンチラインに仕込んだのは「アルテミス」っていう腕に装着して使うハンドキャノンだよ♪威力がパンチラインよりもずっと高い弾を撃つスフィアと、広範囲に多くの敵をロックオンするアシッドレインの二通りの撃ち方ができるよ。チャージしないといけないのとさっき言った様にSEの消費が大きいからうまく使ってね。特にスフィアはね)

ラウラ

「…承知しました博士。必ず使いこなして見せます!」

 

ビュビュビュビュンッ!

 

ローハイドがバラバラになった様な複数のビットらしい物が縦横無塵に飛び回る。そしてそれらが一体のSアンジェロに向かう。

 

Sアンジェロ

「!!」

 

やはり敵はそれを分裂したシールドビットで受け止める。しかし、

 

ドスッ!ドスッ!ドスッ!

 

Sアンジェロ

「!」

 

飛んできたそれはそのまま盾に突き刺さった。

 

セシリア

「まだですわ!」

 

ギュイィィィィンッ!ズガガガガガガガッ!

 

それらは更にそのままドリルの様に高速回転しだした。盾を削りながら内部に侵入し。

 

Sアンジェロ

「!!」

 

ドガアァァァァァンッ!

 

ダメージに耐え切れなくなったのか粉々に破壊されたのだった。

 

(セッちゃんのローハイドに仕込んだのは「ケブーリー」っていうちょっと変わった魔具を参考にして造った突撃型ビット兵器だよ♪ダーツの様に敵に向かって飛ぶんだけどただ当たるだけじゃなくて、ドリルみたいに回転しながら敵の装甲に食い込み、内側から破壊するんだ♪)

セシリア

「ビットでしたら私にピッタリですわね。感謝いたします、博士!」

「これが…デビルブレイカーの新たな力…」

(((まぁ皆なら使いこなすまで大した時間はかからないと思うよ♪頑張ってね!)))

 

デビルブレイカーに新たな力を隠していた束のドッキリに驚きながらも感謝する三人であった。

 

 

…………

 

時は少し前まで遡り、こちらはシャルロットとグリフォン達の戦い。2機のグリフォンから銀の鐘で狙われていたシャルは追い詰められていた。

 

グリフォン

「「グオォォォォォォ…」」

シャル

(ぼ、僕じゃ勝てないの?何もできないでこのままやられちゃうの…?皆の、火影の、何の力にもなれないで……)

 

そうしている内にも敵の攻撃は迫る。

 

シャル

(嫌だ……死にたくない!……誰か、誰か助けて!)

 

 

自分の置かれた状況に諦めと絶望が浮かぶシャル。

…………そんな彼女の心にひとつの言葉が浮かんだ。

 

 

(お前はパンドラ。希望で…)

 

 

シャル

「…!!」

 

グリフォン

「グアァァァァァァッ!」

「グオォォォォォォッ!」

 

ズドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!

 

グリフォンの翼から無数の光弾が放たれた。それらは全てシャルとその周辺に向かい、そして、

 

 

ドガァァァァァァァァァァァンッ!!

 

 

シャルのパンドラに命中。爆煙が起こった。

 

グリフォン

「「グオォォォォォォォォォォ!!」」

 

凄まじい爆煙に包まれたシャルを見てグリフォン達は勝利の雄たけびを上げる。

……………とその時、

 

 

ギュイィィィィィンッ!!!

 

 

突然煙の中から何かが高速で回転しながら飛び出してきた。それは近くにいた方のグリフォンに向かい、

 

ズガガガガガガ!!

 

グリフォン

「グアオォォォォォォ!」

 

そのボディを切り裂く様にダメージを与えた。突然の攻撃にひるむグリフォン。やがて煙が晴れ、中が見える。そこにいたのは、

 

グリフォン

「「!!」」

シャル

「………」

 

アンバーカーテンを全開にして攻撃を防いだシャルだった。カーテンを張りながらシャルはグリフォンに宣言した。

 

 

シャル

「僕は……パンドラ!お前達の……災いだ!」

 

 

…………

 

数日前、整備室にて。

用事があったらしくシャルと火影が何やら作業を終えて休憩していた。

 

シャル

「……ねぇ火影、本当にありがとうね。僕、皆がちょっと羨ましかったんだ。僕以外皆第3世代や第4世代のISだったから」

火影

「そういやそうだったな。まぁ見た目は前のと変わらねぇけど内容は全く違うからある意味新世代の仲間入りだな。武装だけで言ったら4世代に並ぶかもな」

シャル

「そうだね。……火影、今更だけどなんで僕にパンドラを預けてくれたの?」

火影

「そうだな…。シャルの能力を買ってという事が第一だが……シャル、お前はパンドラの意味を知ってるか?」

シャル

「パンドラの意味って…パンドラの箱の事だよね?……う~んごめん、それ以上詳しく知らないや」

火影

「パンドラってのは世界で初めて生まれた女性の名前だ。彼女は神によって地上に産み落とされた際ある箱を授かった。神はパンドラに言った。「この箱は絶対開けてはならない」とな」

シャル

「それがパンドラの箱なんだね」

火影

「だがある時、好奇心に負けた彼女は誓いを破って箱を開けてしまう。すると箱からは様々な災いが飛び出してきた。疫病や災害、争い、あと人間の闇とかな。彼女は慌てて蓋を閉めるが一旦出てしまった災いは戻ることはなかった。これが今のそれらの始まりってされてる」

シャル

「でも最後は希望が残ったんだよね?」

火影

「ああ。箱の一番底に残っていたのがひとかけらの希望だったんだ。後に残された人々はその希望を忘れずにいたおかげで生き残り、後に繁栄していったって話だ。箱の災いのせいで多くの命が死んだが…それから得た事もあったろう。病気があるからこそ人は強い身体になれるし、災害があるからこそ自然を大事にする。それに人間てのは闇の部分も無きゃいけねぇだろ?善い部分ばかりじゃ心は生まれねぇ。心ってのは善と悪のバランスなんだからよ。争いは度が過ぎちゃいけねぇがな」

シャル

「そういうものなのかもしれないね。……あれ?でもそれと僕にパンドラをくれたのとなんの関係があるの?」

 

シャルは再度率直に聞いてみた。

 

火影

「ああそうだったな。回りくどくなって悪い。…シャル、お前が希望と重なったからだよ」

シャル

「…え?…僕が希望?」

 

思わぬ事を言われてとまどうシャル。

 

火影

「ああ。シャル、お前は希望なんだ。お前のお袋さん達や、親父さんにとってのな」

シャル

「……!!」

火影

「亡くなりはしてしまったがお前がいたからお袋さんは最後まで精一杯生きたんだし、親父さんや今のお袋さんにとってはお前がいる限りこれからも頑張れるだろ?だから云わばお前はあの人達にとっての希望なんだよ」

シャル

「僕が…お母さん達の………」

 

自分が母親や父親の希望と言われてシャルは何やら深く考えている様である。そんな彼女に火影は続ける。

 

火影

「…そして同時にシャル。お前は災いとなれ」

シャル

「…え?わ、災い!?」

 

今度は災いと言われた事に先ほど以上に激しく動揺するシャル。

 

火影

「ああそうだ。奴らってのはこの場合アンジェロやファントムみたいな奴だ。あいつらにとって災いって事だ」

シャル

「……あ、そういう意味の災い!?吃驚した~!もう火影!驚いちゃったじゃない!!」

 

シャルロットは火影の頭をポカポカ殴る。

 

火影

「いてて、悪い悪い。ちょい言い方がややこしかったな。…でもまぁそういう訳だ。お前はおふくろさんや親父さんにとっての希望で、アンジェロ達にとっての災い。云わばお前自身がパンドラなのさ」

シャル

「……僕自身が……パンドラ」

火影

「ま、そういう事だ。頑張れよ」

 

 

…………

 

その言葉に勇気付けられたシャルロットは再びやる気を取り戻したのだった。

 

シャル

「僕は…僕は負けられない!おかあさんやお父さんお母さんのため、皆のため、そして火影のために!」

グリフォン

「「グオォォォォォォ!」」

 

ズドドドドドドドドドッ!

 

2機のグリフォンから再び一斉に銀の鐘によるエネルギーがシャルに向かう。

 

シャル

「カーテン全開!」キィィィィィィンッ!

 

シャルは先程と同じくアンバーカーテンを最大出力で展開。

 

ドドドドドドドドドンッ

 

グリフォン

「「!?」」

 

強力なシールドが銀の鐘の攻撃から彼女を守る。

 

シャル

「もう撃たれっぱなしにはならないよ!ジェラシー!」ジャキッ!ズドドドドドドッ!

グリフォン

「「グオォォォォッ」」

 

続いてガトリング砲「ジェラシー」を展開し、相手を牽制する。

 

シャル

「やっぱりハイ・ラピッドスイッチのおかげで武器交換が早いのと以前より一度に複数展開できる!」

 

シャルのパンドラのもうひとつの特徴であるハイ・ラピッドスイッチは彼女が以前使っていたラピッドスイッチの強化版であり、彼女の音声によって武器交換が以前よりも早く行える上、更に複数の武装を同時展開が可能なのだ。

※詳細はMission111をご覧ください。

 

シャル

「…でも2機一緒に相手にするのはやっぱりキツイ。なんとか分散させないと……よし、一か八かだ!」

 

シャルは何か考えたようだ。そして、

 

シャル

「開けグリーフ!」ジャキーンッ!

 

右手に遠隔遠投兵器「グリーフ」を出現させ、

 

シャル

「…ロックオン!行けぇぇ!」

 

ギュイィィィィィン!!

 

グリフォン

「グオォォォォォッ!」

 

それを片方のグリフォンにロックオンして投げた。グリフォンはグリーフから逃げるために飛び回る。

 

シャル

「うまくいった!よし、この間に片方を倒す!」ドンッ!

 

シャルは高速でもう一体のグリフォンに正面から接近する。

 

グリフォン

「グアァァァッ!」

シャル

「逃げてばかりじゃ駄目だ!」

 

するとグリフォンは正面から向かってくる彼女を撃ち落とそうとして口を開け、レーザーを発射しようとする。…しかしそれはシャルの狙いだった。

 

シャル

「それが狙いだよ!…エピデミック!」ジャキッ!ズドズドンッ!

 

強力な爆発効果をもつ高速ミサイル「エピデミック」が射出される。そしてそれは、

 

ドォォォォォォォォンッ!

 

グリフォン

「ガァァァァァァァッ!」

 

レーザーを撃とうとしていた口に着弾して爆発した。ダメージを受けて怯むグリフォン。

 

シャル

「今だ!…ブリンク・イグニッションッ!」ドンッ!

グリフォン

「…!?」

 

そう言ってシャルはブリンク・イグニッションで変化的高速移動を行った。一瞬姿を見失うグリフォン。すると、

 

シャル

「これなら安定するね…」

グリフォン

「!!」

 

気が付くとシャルはグリフォンの背中に乗っかっており、大型レーザー砲「リヴェンジ」を展開していた。

 

シャル

「リヴェンジは重いから脚が着かないと安定しない…、ならこいつの背中を利用すれば使える!」

 

グリフォンの背を足場にして確実に狙い撃つようにしたのだった。そして、

 

シャル

「リヴェンジ砲…発射!!」

 

ズドォォォォォォォォッ!!

 

鈴のガーベラや簪の春風以上の高出力なレーザーが発射された。零距離の効果も重なってその威力は凄まじいものになり、そのままグリフォンの身体を貫く。

 

グリフォン

「!!」

 

ドガァァァァァァァァァンッ!!

 

動力炉もろともグリフォンは爆発雲散した。シャルは直前に離れていて無事だった。

 

シャル

「はぁ、はぁ、はぁ…。や、やった!」

グリフォン

「グオォォォォォォォッ!」

 

その時グリーフに追われていたグリフォンがそれを払ってシャルに向かってきた。

 

シャル

「くっ!のんびりはできないか!だけどこれで残り一体!」

グリフォン

「グアァァァァァァァァァッ!」ズギューンッ!

 

レーザーを撃ってくるグリフォン。冷静にそれを避けながらシャルは次の戦術を検討する。

 

シャル

「SE残量は約5割手前か…。長期戦は不利…、なら悩んでる暇はない!」

 

そして決断した。

 

シャル

「アーギュメントシステム、起動!」

 

キュイィィィィィィン……ガシャガシャガシャンッ!!

 

シャルがそう宣言するとハイ・ラピッドスイッチが反応し、すぐさま彼女のISを追加装甲及び多くの武器が覆う。

 

シャル

「装着完了!行くよ…パンドラ!」ドンッ!

 

アーギュメントを纏ったシャルはグリフォンに真っ向から向かっていくのであった。




おまけ

パンドラについての会話にはまだ続きがあった。

シャル
「ねぇ火影。パンドラって人なんだけど…、箱を開けた後どうなったの?」
火影
「ああ。あんま詳しくは知らねぇけど幸せになったみてぇだぜ?結婚もして子もできて」
シャル
「そうなんだ。……ねぇ火影。火影って…結婚とか興味ある?」
火影
「……ん~…はっきり言って前は全っ然無かったが……そうだな、母さん父さんを思い出して考えると…良いものかもな」

それを聞いたシャルロットは恥ずかしながらも勇気を持って思いきって聞いてみる。直視できずに俯いてであるが。

シャル
「………あの、火影。聞きたいんだけどさ?火影から見て僕は……………相手としてどんな感じ…かな?」
火影
「……」

すると火影は彼女が何を聞きたいか理解したのか立ち上がって彼女の肩に手をポンと置き、言った。

火影
「そういう大事な事はもう少し大人になってから聞くべきだぜ素敵なレディ?…じゃあな」

やや微笑みながらそう言って火影は出ていった。ひとり残ったシャルの心中はというと、

シャル
(………も~、なんでこんな時まで余裕なのさ~。恋愛とか苦手なんじゃなかったの~?こっちは結構思いきって聞いたのに~。乙女心わかってないんだから…)

火影の答えにやや不満だったが、

シャル
(……素敵か。……えへへ~♪)

大丈夫そうだった。


※次回は来週16日(土)の予定です。


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Specialmission 敵側機体紹介①

色々増えてきましたのでこれまでに出てきた敵側の機体についてご紹介します。


・アンジェロ

 

初登場

Mission28 クラス対抗戦 一夏VS鈴

 

一夏と鈴のクラス代表戦にて突然現れた。ライフルと剣。そして胸部にレーザー砲を装備した機体。

外見は黒い騎士の様な姿をしていて、その姿はかつてバージルが操られた存在であるネロ・アンジェロに酷似している。集団による戦闘方法をとるいわば兵士的な役割。動力はコアではなくバッテリーの様な物であり、そのため大量生産がしやすい。

 

 

・ファントム

 

初登場

Mission50 異形襲来

 

第一回タッグマッチトーナメント決勝戦において突然空から降ってきた。

足が八本ある蜘蛛の様な姿をしているが全身が剣を通さない程の強固な外殻(関節部はそれほどではない)、他にサソリの様な巨大な尾を持つモンスターの様である。

武装は顔面横にある機銃、口部レーザー砲、尾にもレーザー砲がある。また範囲は狭いがエネルギーでできた網の様なものを射出でき、これを受けると蜘蛛の糸にかかった様に動きを封じられる。また鈍重な見た目とは裏腹に動きも早く、さらに跳躍力があるため、これを利用して押しつぶす戦法も得意とする。因みに飛行はできない。

 

 

・グリフォン

 

初登場

Mission103 第3の異形

 

キャノンボール・ファーストのスタート時に会場に侵入していたMによって呼び出された。外見は角を持った猛禽類の様な姿でまさに巨大な怪鳥である。名前を聞いた楯無は伝説の魔獣グリフォン、またはそのモデルとなったロック鳥を思いついた。鳥らしく高いスピードを持ち、重量も重なって突進力も強い。

武装は角から放つ雷の嵐、ファントムと同じく口部からのレーザー砲、スピードを生かした突進。更にグリフォンの翼には軍用ISであるシルバリオ・ゴスペルが持つ武装「銀の鐘」が搭載されている。これはファントム・タスクがゴスペルを鹵獲した時にデータを盗んだからである。前世で戦ったグリフォンにはない武装だったため、火影達も最初は驚いた。

 

 

・DISベオウルフ

 

初登場

Mission121 DNS そして DIS

 

火影と海之に追いつめられたオータムが力を望んだ結果、搭載されていたDreadnoughtsystem(DNS)によって彼女のISが変化した姿。顔が獣の様になり、全身が強固なものとなって光が走っている。背中には翼もある。モデルとなったのはかつてダンテとバージルが滅ぼした悪魔。

得意とする戦法はその頑強な肉体と獣らしいスピードを組み合わせた肉弾戦だがオータムが理性を失っていたため十分に力を発揮できなかった。また目からはレーザーを撃つこともできる。DISは従来のISを超える力を得る反面、操縦者への負担、特に変化の際が最も大きく、オーガス曰くその苦しみは「死んだほうがマシ」とする位である。

 

 

・DISネヴァン

 

初登場

Mission135 京都編① 火 vs 火

 

火影と戦ったスコールの力への衆望が彼女のISに搭載されたDNSを起動させ、その結果彼女のISを変化させた姿。

黒いドレスを纏った様な細身の女性的な姿をしているが、それはSEが作り出す蝙蝠形のビットであり、スコールはこれを自在に操る。またSEが0にならない限り無尽蔵に生み出す事ができる。更に帯状に広がった雷の壁を作り出すことができ、これはシールドとしても撃ちだす事も可能。他には高速で射出する雷弾もある。スコール曰くDISは使うほど強くなるらしく、実際これまでなかった炎の壁や電撃の鞭なども使うことができるようになった。モデルとなったのは前世でダンテが戦った同名の悪魔で、スコールが変化したそれは雷と彼女のISが得意な炎であったが、前世のそれは雷と影を操っていた。

 

 

・DISゴリアテ

 

初登場

Mission136 京都編② 力を持った者の明暗

 

海之に挑発される形でDNSを使ったオータムの新たな姿となったDIS。オータム曰く憎しみ等の憎悪が増す度にDISも進化するという。

特徴としては以前変異したDISベオウルフの様な肉弾戦だが以前のそれよりも装甲が強化されており、海之の閻魔刀も受け付けなかった。腹部には穴の様なものがあり、これはエネルギー系統の武器(レーザーやビーム)を吸収し、それを逆に攻撃として撃ちだす事ができる。また次元斬(発動前ではあるが)のような遠隔攻撃等も吸収することから銃等の実弾系統のものも吸収できると思われる。それ故防御の点ではベオウルフより大きく向上している。

 

 

・デュエル・アンジェロ

 

初登場

Mission141 開戦!魔に挑む少女達

 

Mが箒達の足止めのために召喚した新たなアンジェロ。

背丈ほどもある巨大な大剣を装備している。遠隔武装的なものは一切装備しておらず、Mの言う通り完全な近接型。メイン武装の大剣のほかに奇襲用の短剣も装備している。装甲を解除、パージする機能があり、これを使用すると装甲はほぼゼロになるが俊敏性と機動性、更に剣速は大きく上昇し、そのスピードはトム・ガールやガーベラの加速機能を使ってやっと追いつく程。更に大剣の一刀流から隠し武器の短剣も装備した二刀流になる。

 

 

・スクード・アンジェロ

 

初登場

Mission141 開戦!魔に挑む少女達

 

デュエル・アンジェロと共に召喚されたアンジェロ。

身体前面を全て隠すほど大きい盾が標準装備で、その役割は集団で敵の攻撃を防いだり、仲間を盾で防御したりするなどサポート的な役割が多い。この盾にはレーザー砲もついており、攻撃してきた敵への奇襲に有効。Dアンジェロと同じく装甲をパージする機能があり、パージされた装甲は盾と合体してそれを更に強化する。その強度はパンチラインのブレイクエイジも完全に防ぐ程。更にこの盾は分裂し、機関砲もあるシールドビット形態にもなる。




箒達の戦いはもう2話位を予定しています。


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Mission143 それが私の強さの証

箒達とアンジェロ群との戦いは続く。
スピードが増し、更にシールドビットを操る敵に鈴達は翻弄されるもそれでも決して諦めず、少しずつではあるが撃破に成功していく。するとその時、鈴・ラウラ・セシリアのデビルブレイカーが異様な形態に変化。それはデビルブレイカーに束が仕組んだナイトメアモードという新たな機能であった。通常よりも威力が大きくなっただけでなく、其々の戦い方に合ったもので鈴達は勢いづくのだった。
一方、シャルロットも最早これまでかと諦めかけたその時、火影の言葉を思い出す。

「お前はパンドラだ。皆の希望で、奴らの災いになれ」

その言葉に勇気づけられたシャルはパンドラの機能を最大限に生かし、グリフォンの一機を破壊。アーギュメントを展開してもう片方のグリフォンに果敢に挑んでいくのだった。

そしてその頃、箒は…。


鈴・ラウラ・セシリアが新たな力を得、シャルが戦う気力を取り戻した少し前。鈴から敵を引き離し、別れた箒は2機のDアンジェロと正面から激突していた。

 

「おぉぉぉぉぉぉ!」

Dアンジェロ

「「……」」

 

ガキンッ!キィィンッ!ガンッ!キンッ!!

 

「ちぃ!こいつら機械だからか全く衰えが感じられん!もう何十回も斬り結んでいるのに!」

 

箒の言う通り体力の有無という生身と機械の決定的な違いが災いし、徐々にではあるが圧され始めていた。箒の言う通り何回も斬り結び、

 

ガキィィンッ!!

 

もう何回も弾き飛ばされていた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

アンジェロ

「「……」」

 

箒は既に息が上がっているが機械の敵に勿論その気配は無く、再度剣を構えてくる。

 

「はぁ…くそ…!こんな事をしている場合ではない。早く一夏の元に戻らねばならんのに!」

(…一夏…無事だろうか…)

 

箒は何よりも今もひとり戦っていると思われる一夏の事が心配だった。

 

ドンッ!ドンッ!

 

するとそんな事を考えた一瞬の隙を付き、敵は同時に襲い掛かってきた。

 

「!! しまった!」

 

慌てて向かってくる敵に対して構える。すると、

 

シュンッ!!

 

「!」キィィィンッ!

 

箒の目の前で敵が一機消えた。一機の敵は目の前で受け止めるが、

 

「くっ!もう一機はど」ザンッ!!「うわあぁぁぁ!!」

 

先ほど見失った敵が後ろから斬りつけてきた。その動きから箒は判断した。

 

「今のは…ブリンク・イグニッション!?何故……まさか、私との戦いで学んだのか!」

 

それは正に自分達が使うブリンク・イグニッションだった。彼女との戦いで学習したのだろうか。

 

「…という事は戦いが長引く程こいつらは強くなるという事か…。くそ…全く面倒な!」

 

この時箒は焦っていた。そんな彼女の心に海之から言われた言葉が浮かぶ。

 

 

海之

(箒、一夏の力になりたい気持ちはわかるが我慢も覚えろ。いずれ取り返しがつかない事になるぞ)

 

 

(…あの時海之に言われた通りだ。一夏の力になりたいと焦れば焦るほど…)

 

ドンッ!ドンッ!

 

そんな箒の気持ちなど露知らず、敵は再び襲い掛かってきた。

 

「! ブリンク・イグニッション!」ドンッ!

 

キンッ!ガキキキンッ!キィィンッ!!

 

箒もブリンク・イグニッションでなんとか応戦するがやはり疲労があるのか敵の方が勢いが強い。

 

 

一夏

(なんでお前そんな事言うんだよ!密猟者でも命だろうが!)

海之

(一夏の負傷はお前のミスだ。焦りと浮かれていたお前の。俺は言った筈だ)

 

 

「…くっ、私は」ザンッ!「うわぁぁ!!」

 

不注意から生まれた箒の隙を付き、敵は更に斬りかかった。たまらず箒は離れる。

 

「くそ…まただ!今も余計な事を考えたために…」

(…あの時も、あの時も、そして今でさえ。…私じゃ…一夏の力になれないのか…)

 

箒の心にこれまでの失敗が浮かぶ。だが敵はやはり何も変わらず剣を向け、再び迫ってきた。箒の剣を持つ腕の疲労はピークで直ぐに対応できない。止む無く避ける箒。

 

「くっ、これ以上当たるわけにはいか…………あれは!?」

 

何とか避けた箒だったが…その時目にあるものが見えた。細い布のような物が宙を舞っている。

 

(……一夏がくれたリボン!?)

 

それは以前、臨海学校時でのゴスペルとの戦いの時に一夏が箒の誕生日プレゼントとしてくれたリボンだった。戦いの中、なんらかの弾みで箒の髪から外れてしまったのか。そして…

 

Dアンジェロ

「……」シュッ!

 

目に入るのが邪魔だと思ったのか、アンジェロは箒の目の前でそれを断ち切ってしまった。

 

「!!」

 

ドンッ!ドンッ!

 

箒に再度迫るアンジェロ。片方はブリンク・イグニッションで背後に迫る挟み撃ちの形。

 

「……」

 

だが箒は動かない。アンジェロ達はどちらも同じタイミングで自らの剣を箒の紅椿に振るってきた。

 

 

ガキンッ!ガキンッ!

 

 

Dアンジェロ

「「!」」

「……」

 

箒は俯いたまま雨月と空裂でアンジェロ達の攻撃を受け止めていた。

 

 

パァァァァァァァ……!

 

 

Dアンジェロ

「「!!」」

「…一夏が…一夏がくれたリボンを……よくも…」

 

箒の紅椿がやんわりと金色に輝き始めた。それは紅椿の絢爛舞踏の光だった。

 

 

一夏

(今日誕生日だったろ?おめでとう!)

 

 

「…貴様らぁぁぁぁ!よくもぉぉぉぉぉ!!」ドンッ!

Dアンジェロ

「「!?」」

 

箒の勢いにアンジェロ達は押し返された。更に、

 

「許さんぞ貴様らぁぁぁぁぁ!!」

 

ガキィィンッ!キィィンッ!キンッ!

 

箒の剣がアンジェロ達の剣を払いのけた。箒の中に生まれた激しい怒り。そして同時に一夏への強い気持ち。それが箒にこれまでの疲労を吹き飛ばすほどの強い力を与えていた。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」

Dアンジェロ

「「…!!」」

 

ガキィィンッ!!

 

先ほどまでとは違う力強い太刀筋に敵は吹き飛びさえしていた。

 

「はぁ…はぁ…。やったぞ、初めて奴らを押し切った!…………!………そうか、そうだったのか。…やはり私は…」

 

何やらわかった様な箒。そして箒は心の中で想った。

 

海之

(焦りと紅椿を得て浮かれていた…お前のミスだ)

(……海之よ、お前の言う通りだ。嘗ての私は焦っていた。一夏の事ばかり考えるあまり、そして紅椿を得た事で調子付き、結果一夏や皆に迷惑をかけた。それも全て私の一夏への想いが強すぎたために起こった事。大いに反省している…)

 

 

パァァァァァ……!

 

 

すると紅椿の絢爛舞踏の輝きが強くなり始めた。箒は更に続ける。

 

「…だが海之よ。忠告は受け取るが私は変わるつもりは無い。私の最も大きな力になるのは…あいつへの、一夏への想いだ!…そんな気持ちなど足手まといだと思う者もいるだろう。邪念と思う者もいるだろう。でもそれでも良い!良き意味でも悪い意味でも、一夏は私にいつも力をくれる!子供の頃からずっと!だから…私は私を捨てる気は無い!私はこれからもそれを心に刻み込んで戦い続ける!」

 

 

パアァァァァァァァァッ!!

 

 

箒の絢爛舞踏による光がますます強くなる。それはまるで箒の意志の強さを表している様だった。

 

 

「あいつが火影や海之の背中を守れる様になりたいと目指すのであれば…私はあいつを守れる位になりたい!一夏への想いが、…いや一夏そのものが私の、篠ノ之箒の強さの証だぁぁ!!」

 

 

箒は力強くそう宣言した。…すると、

 

 

…シュバァァァァァァァァァッ!!

 

 

「!!」

Dアンジェロ

「「!?」」

 

紅椿の金色の光が今までにない位激しい光を発した。………やがて光が収まり、箒は自分の姿を見た。

 

「な、なんだ…これは…?」

 

箒の、正確には紅椿の手足に変化があった。紅椿の装甲がこれまでの様な深紅でも絢爛舞踏発動時の金色でもなく銀色。その表面に赤色の光が走っている。そして箒の顔にも同じ様な色のフェイスマスクが新たに付けられていた。

 

「これは一体…?」

(あ~、あ~、箒ちゃん聞こえるかな~?)

 

その時箒のインターフェースに流れてくる声があった。それが誰なのか箒にはすぐわかった。

 

「この声…、姉さん!?」

「このメッセージを聞いてるってことはより一層強くなったって事だね!流石我が妹♪」

「このメッセージをって…、録音か…」

 

それは先の鈴達と同じ録音テープだった。

 

「この度は紅椿の「展開装甲」「絢爛舞踏」と並ぶ第三の能力「衝撃鋼化(ギルガメス)」を無事発動させてくれてありがとう~♪」

「…衝撃鋼化(ギルガメス)?」

 

見た事も聞いた事も無い言葉に動揺する箒。

 

Dアンジェロ

「「!」」

 

するとその時、光に弾き飛ばされた敵が再び襲いかかってきた。

 

「! 雨月!空裂!」

 

箒は二振りの刀を展開。…するとその瞬間手にある刀が腕や脚のそれと同じ状態になった。銀色で赤い光が走っている。だが箒は構わずそれで敵の剣を受け止める。

 

ガキンッ!ガキンッ!

 

Dアンジェロ

「「…!」」

「はぁぁぁぁ!」

 

ガキンッ!ガキキキンッ!

 

箒は全力で剣を振るう。その威力は先ほどよりも強く、重く硬い。敵もそれを感じたのか数発打ち合った後、堪らず再び距離をとった。箒は剣を持つ手を握りしめる。

 

「…力が、…力がみなぎる…!」

衝撃鋼化(ギルガメス)っていうのはちょっと面白い魔具でね~。展開装甲は箒ちゃんの戦い方に応じて攻撃なり防御なり移動なりなんにでも変化してきたじゃん?それを更にパワーアップしてくれるというか~、一番わかりやすく言えば箒ちゃんと紅椿をより強化してくれるものなんだ。これを使うと紅椿の装甲はもちろん、更には箒ちゃんの手脚がより硬質化して格闘とかできたりするんだよ~しかも手を通して剣や盾にも硬質化が伝わるんだ!剣や盾の強度はもんの凄く上がるし、衝撃波も含めて武器の威力も上がるよ~」

「これもやはり魔具なのか…」

「でもトムガールもあるのになんでこんなの仕込んだんだって思ってる?きっとそうだよね~!箒ちゃんの考えてる事はお腹が空けば腹の虫が鳴く位よくわかるからね~!衝撃鋼化(ギルガメス)の発動条件はずばり!絢爛舞踏をも超える箒ちゃんの「いっくんを想う気持ち」だよ~♪箒ちゃんの事だから将来の花婿さんであるいっくんの背中を守りたいと思ってるでしょ~?だから束さんの得意分野でそれを応援してあげようと思った訳~♪」

「な、なんか凄く恥ずかしい条件…。あ、あとそんなハッキリ言わないでください!あと私の考えとお腹の虫を一緒にしないでください!」

 

箒は今周辺に誰もいない事に心底良かったと思った。

 

「……でもそれだけ箒ちゃんが命を掛けた戦いをしてるって事だから本当は嬉しく思っちゃいけないんだろうけどね。箒ちゃんには束さんと違って波乱無い人生を生きてほしいもん…」

「…姉さん…?」

 

箒は束の声がいつもと違う気がした。

 

「でもあのアンジェロって奴がIS学園に現れた時、いっくんが戦っているのを箒ちゃんが見てるとしたら…って考えたら容易に想像できちゃったんだよね~。ああ、箒ちゃんはきっといっくんと一緒に戦いたいと思ってるんだろうなって…。だからあの時箒ちゃんから連絡が来る前に紅椿を準備しといたんだよね。箒ちゃんを守ってくれる様私の持つ技術を全てつぎ込んで。ああ魔具に関してはひーくんみーくん提供だけどね、テヘ♪」

 

「…姉さん…」

 

束の言葉を黙って聞く箒。

束はそんな事まで考えてくれていたのか。

自分の考えを全て読んでいたのか。

それを知ったうえで紅椿を用意してくれたのか。

 

「………」

「あ~なんかお腹の虫の話したらなんかお腹すいてきちゃったな~。クーちゃんに何か作ってもらおっと♪それじゃ説明はこの辺で!ちなみに細かい使い方は自動でダウンロードされるマニュアルを見てね~?という訳で愛するいっくんと一緒に夫婦これからも頑張ってね~!サラダバー!」

 

それだけ言うとメッセージは切れた。

 

「ま、まだ夫婦じゃありません!…いやそうじゃなくて!…あーもう!全く!」

 

以前のスメリアの時と同じく、調子が崩される箒であった。

 

ドドンッ!

 

その時今まで沈黙していたアンジェロ達が突進してきた。箒は再び構える。

 

「…私は負けん!この想いがある限り!」

 

 

…………

 

シャル

「はぁぁぁぁぁ!」

グリフォン

「グオォォォォッ!」

 

ズドドドドドドドドッ!

バババババババババッ!

 

アーギュメントを駆りながらシャルロットはグリフォンと真っ向対決を繰り広げる。アーギュメントのキャノンやレーザーが火を噴き、グリフォンの銀の翼や雷の嵐が雷鳴を上げる。

 

~~~~~~~~

 

すると突然パンドラの操縦席にアラームが鳴った。アーギュメントの残り使用時間が一分になると発生する警報だ。

 

シャル

「!ダメージを受けてたためかアーギュメントのリミットが近い!この後の事を考えると残り20秒ってところかな。………よし、まだテストもしてないけどこれを使おう!」

 

すると何か考えが浮かんだのか、シャルは真っすぐグリフォンに向かっていく。

 

 

…………

 

時は再び整備室。

 

シャル

「ごめんね火影。本当なら鈴が手伝ってくれる予定だったんだけど急用で来れなくなったって聞いて」

火影

「気にすんな。パンドラに関しての事なら多少わかる。……にしてもよくこんなもん付けるなんて気になったな。おまけに名前まで決めちまって」

シャル

「うん。前に火影がやったのを見て僕もやってみたいって思ってね。アーギュメントのキャノンの一部を外せばできるかなって、クロエさんにお願いして作ってもらったんだ」

火影

「成程な」

 

 

…………

 

グリフォン

「グォォォォォッ!」

 

そんなシャルの様子を見てグリフォンは攻撃を繰り出そうと一瞬止まる。シャルはその一瞬を見逃さなかった。

 

シャル

「今だ!」ガシャンッ!

 

するとシャルは右手側にあるものを起動させた。それは数日前に火影と協力して付けたもの。一見するとそれは…UFOキャッチャーにある四つ足のクレーンの様なものだった。

 

シャル

「グレイプニル、セット!」ジャキィィンッ!「いっけぇぇ!!」

 

ズドォォンッ!

 

シャルがグレイプニルと呼んだそれはクローショットのように飛び出し、真っすぐグリフォンに向かっていく。

 

ジャキィィンッ!

 

グリフォン

「!?」

 

それはグリフォンの脚をつかんだ。

 

 

「グレイプニル」

シャルロットが火影の協力を得てアーギュメントに取り付けたクレーンアーム。以前火影がカリーナのナイフを使った戦術を見て自身もやってみようと思ったシャルが火影やクロエの協力を得て作成した。先端がUFOキャッチャーのアームの様な形をしており、更に超強度ワイヤーロープによって遠く離れた相手を掴む事ができる。

 

 

シャル

「捕まえた!このまま一気に決める!」ドンッ!

 

シャルはクローを高速で回収、それと同時に近づきながらアーギュメントの攻撃を撃ち続ける。グリフォンもレーザーを撃とうとするがシャルの攻撃に防がれる。

 

ズドドドドドドドッ!

 

グリフォン

「グオォォォォォォッ!!」

シャル

「4…3…2…1…」

 

カウントしながらグリフォンとの距離を測り、

 

シャル

「…0!今だ!アーギュメント解除!」

 

接触直前にアーギュメントを解除した。そして解除の瞬間、

 

 

ドスッ!!

 

 

グリフォン

「!!」

 

シャルはグリフォンの腹部にあるものを突き刺した。それはパンドラの大型杭打機「グラトニー」であった。

 

シャル

「グラトニー!」

 

ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!……

 

連続で打ち込まれるグラトニーの杭がグリフォンの体内に徐々に侵入していく。

 

グリフォン

「グオオォォォォォ!!」

シャル

「貫けえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

ズドォォォォン!!…ボガァァァァァァァァン!!

 

やがてグラトニーの杭がグリフォンの腹部を動力炉ごと貫いた。ダメージに耐え切れなくなったそれは先のグリフォンと同じように爆発、霧散するのであった。

 

シャル

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ、…や…やった。僕ひとりで倒せた!」

 

流石に疲れた様子を見せるシャル。だが彼女にとっては大きな自信に繋がった様である。

 

シャル

「……ううん違う。僕だけの力じゃない。パンドラと、そしてあの時の火影の言葉がなかったら…僕は勝てなかった……。火影が守ってくれたように、僕もこの力で皆を守る。僕の大切な人達を…!」

 

不安から一時は挫きかけたシャル。しかし今の彼女の心に迷いはなかった。

 

 

…………

 

その頃、箒とアンジェロ達との戦いも終盤に差し掛かっていた。箒の体力は更に消耗していたが自らの、そして束の言葉から伝わった気持ちが彼女を動かしていた。

 

「はぁぁぁぁぁ!」

 

ギリギリ…バキィィィィンッ!!

 

Dアンジェロ

「!!」

 

激しい応酬の後、ついに箒の剣が敵の剣を斬った。いかに相手の剣が優れているといえど何れは消耗するもの。対して箒の剣は衝撃硬化の影響で無事だった。

 

「刃こぼれとて己の恥と思え!覚悟ぉぉぉ!!」

Dアンジェロ

「!!」

 

ザシュッ!!……ドガァァァァン!!

 

箒の空裂が生み出した衝撃波の一閃がアンジェロの身体を断ち斬り、敵は大破した。

 

「はぁ…はぁ…、よし!これであと…は!」

 

シュンッ!ガキィィンッ!……バキィィィンッ!

 

するともう片方のアンジェロが疲労していた箒の一瞬の隙を付き、箒の手元を狙って攻撃してきた。箒はそれを何とか剣で防いだがその勢いから雨月と空裂の両方を手放してしまった。

 

「しまった!」

Dアンジェロ

「!」

 

一見無防備となった箒に再び襲い掛かるアンジェロ。

 

ガキィィンッ!

 

Dアンジェロ

「!」

「…成程。姉さんの言う通り、確かにこのままでも戦える」

 

しかし攻撃は届かなかった。箒が硬化している両手で…真剣白刃取りをしたのである。

 

「剣だけが私の戦いだと思うな!」

 

ドゴォォォッ!

 

Dアンジェロ

「!!」

 

アンジェロの脇腹に箒の蹴りが炸裂した。硬化の影響で威力が上昇しているらしく、剣から手を放して横に吹っ飛ぶ。

 

「下品だがこれも戦術よ!」ドンッ!

 

箒は瞬時加速で追いかけながら右手にSEをチャージする。それと同時に銀色の手が輝く。

 

衝撃鋼化(ギルガメス)にはこういう使い方もある!」

Dアンジェロ

「!!」

「砕け散れぇぇぇぇぇ!!」

 

ザンッ!!……ドガァァァァンッ!!

 

箒の力を込めた手刀がアンジェロの身体を横薙ぎに真っ二つにした。それによってアンジェロは跡形もなく大破した。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…、や…やった!」

 

同時に箒の紅椿の装甲も銀色からいつもの鮮やかな紅色に戻った。

 

「以前スメリアにいた時…海之やラウラに僅かながら体術を教わっていたのが幸いだったな…。これからはそちらも訓練せねば…。……ああそういえば。……ありがとうございます。……姉さん」

 

箒は束に感謝した。…そんな箒のもとに、

 

「箒ー!」

 

鈴達がやって来た。あの後、新たな力を得た彼女達は他のアンジェロ達を全て撃破していた。

 

セシリア

「箒さん!ご無事ですか!」

「あ、ああ大丈夫だ。かなり手こずったがな。そっちも何とかなったようだな」

「うん。皆のデビルブレイカーがパワーアップしたの。それで何とかなったんだよ」

ラウラ

「確かに今までの敵よりも遥かに強かったな。ナイトメアが発動しなければ私達も危ないところだった」

シャル

「僕も結構危なかったんだけどね。パンドラの力を出し切って何とか全部倒せたよ」

「…けど箒のさっきの光、凄い光だったわね。あれって絢爛舞踏の光?」

「!…う、うむ。まぁな…」

(いかんいかん!あんな恥ずかしい事を聞かれてたらなんと言ったらよいのかわからん!)

 

箒はきっと聞かれていないと安心している様子。すると、

 

「…あと箒、ちょっとアンタに言いたいんだけどさ?」

シャル

「あ、僕も」

ラウラ

「私もだな」

セシリア

「……」

「なんだ?」

「あ、あはは…」

 

その答えにセシリアは沈黙し、簪は何か答えにくそうだ。

 

「…アンタねぇ、告白するならもうちょっと小さい声でやりなさいよ」

「……………………えっ!?」

 

瞬時に真っ赤になる箒。

 

「き、聞こえてたのか…!?」

シャル

「聞こえてたのかどころか丸聞こえだったよ。一夏への想いが自分の強さの証だ!って。あれだけ大きな声なら聞こえるよ~♪」

ラウラ

「うむ、確かに大きな声だったな♪」

「聞いてる私達も恥ずかしかったよね。あはは…」

セシリア

「ずるいですわ箒さん。一夏さんがいないとはいえ、あんなハッキリ仰るなんて…」

「まぁ必死だったんだろうけど一世一代の告白よねぇあれは♪私達より凄いわ~」

ラウラ

「あれをそのまま伝えればあの鈍感の塊みたいな一夏にも通じるんじゃないか?」

シャル

「あははは、確かに」

「そそそ、そんな事できるわけないだろう!!」

セシリア

「では私が先に一夏さんにお伝え致しますわ!先ほどの様な言葉をお聞きしたらじっとしてはいられませんもの!」

「そ、それはずるいぞセシリア!告白は一緒にという約束だった筈だ!」

「……こりゃ一夏大変ねぇ」

シャル

「楯無さんが聞いてなくてよかったね」

「あ、あの…皆。今はそんな事話してる場合じゃないんじゃないかな?」

「そ、そうだった!急いで学園に戻らねば!」

セシリア

「一夏さんが心配ですわ!」

ラウラ

「ああそうだな!」

 

皆は気を取り直して学園に急いで戻ろうとした。

……と、その時、

 

 

……ヴゥゥゥゥンッ!ドォォォォォォン!!

 

 

グリフォン

「グオォォォォォォォッ!!」ドギュ―――ンッ!!

 

 

突如発生した空間転移からグリフォンが出現した。更にそれと同時にレーザーが発射される。

 

「な!?」

「グリフォン!?」

ラウラ

「簪!危ない!!」

「!!」

 

レーザーは真っすぐ簪に向かっていた。全員あまりの突然の攻撃に対処できない。防御も回避も。このままでは間違いなく直撃を受ける。

 

 

……キィィィィィィィィィンッ!!

 

 

その時、簪の手の中にあるものが光始めるのだった…。




※次回は来週23日(土)の予定です。

読者の皆様、アンケートに沢山ご協力頂き、ありがとうございます。締め切りはとりあえず今月22日(金)とさせて頂こうと思います。宜しくお願い致します。


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Mission144 簪、王との対面

鈴・ラウラ・セシリアが新たな力を得たその時、箒もまたDアンジェロと戦っていた。スタミナ切れが近づき、剣を持つ腕も疲れがピークに来ていた箒だったが目の前で一夏から貰ったリボンが断ち切られ、怒りを爆発、力とやる気を取り戻した。それによって自分の力は一夏への想いによって得られるんだと箒は悟る。そんな箒を応援するように紅椿が光を放ち始め、衝撃鋼化という新たな力を発動。自らの想いと束の想いの両方から力を得た箒は一気に敵を撃破するのだった。シャルロットも新たな武装でグリフォンを撃破し、全員何とか無事と安心する。
……するとそんな彼女達のすぐ傍に空間転移と共にグリフォンが出現し、同時に簪に攻撃してくるのだった。不意を突かれる形となった簪は…。


グリフォン

「グアァァァァァッ!」ズギュ―――ンッ!!

「!!」

全員

「「「簪(さん)!」」」

 

グリフォンのレーザーは真っすぐ簪に向かう。思わぬ奇襲で避ける暇もない。直撃を覚悟し、簪は思わず目を閉じる。

 

 

…キィィィィィィィィンッ!

 

 

その時彼女の手の中にあったものが光を放ち始めたのだった。彼女に受け継がれたあれが…。

 

 

…………

 

「……………………………?」

 

簪は不思議に思った。いつまでもグリフォンの攻撃が来ない。何故かと簪はゆっくり目を開けてみる。

 

「……!!」

 

???

 

そこは今までの、自分がいた場所とは全く違う場所だった。周りは白い霧に覆われていて向こう側は全く見えない。そして自分は空を飛んでいたはずなのに地に足がついている。おまけに弐式も展開していない。わかっているのは周りに皆も敵の姿も全くなかった事。

 

「ここ………どこ?……皆、どこ!?返事して!」

 

必死に皆を呼ぶ簪だったが、

 

……………

 

しかし簪の声に答える声はなかった。簪の心はどんどん不安になる。

 

「………私、もしかして……死んだの?…………今の、グリフォンの攻撃で」

 

頭に過るのは最悪の結末。静寂が支配する空間。

 

 

……ズンッ

 

 

「……!」

 

その時遠くから何か音が聞こえた。気のせいではない。そしてそれはよく聞くと、

 

……ズンッ……ズンッ……ズンッ……ズンッ……

 

「……な、なに!?」

 

一定のリズムで聞こえてくる。それはまるで…

 

ズンッ……ズンッ……ズンッ……

 

「……足音?…動物?で、でもこんな大きい足音立てる動物なんて…!?」

 

…ズンッ…ズンッ…ズンッ…ズンッ……

 

足音らしいそれは段々と大きくなっている。つまり霧の向こうから自分の今いる所に近づいてきていると簪は理解した。

 

「に、逃げなきゃ!」

 

恐怖のあまり簪は逃げようとするが、間もなく自分の意変に気づく。

 

「…?な、なんで?足が動かな……!!」

 

簪は動かない自分の脚を不思議に思って見てみた。

 

(嘘…!足が…凍ってる!?)

 

いつの間にか自分の足先から膝辺りまで氷に覆われていることに。気づかなかったのは冷たさを感じなかったからだろうか。そうこうしている間にも足音らしい音は近づいてくる。

 

ズンッ…ズンッ…

 

「い、いや!助けて!お姉ちゃん!海之くん!皆!」

 

動くこともできず、周りに誰もいない事をわかっていながらも声を立てる簪。足音は数メートル先まで迫ってきている程近づいていた。そして……

 

ズンッ!…ズンッ!

 

「!!」

 

やがてそれは霧の向こうからゆっくりと姿を表した…。

 

 

「………」

 

 

簪の考えていた通りそれは確かに動物、近いなら豹の様な顔をしている。だがその大きさは他の動物とは比べものにならない程大きい。しかし何よりも驚くことは、

 

 

「…頭が……三つ!?」

 

 

目の前のそれは三つ首の、三つの頭を持っていた。それが千切れた鎖を引きずってゆっくり歩いてきたのだ。見たところ毛がほとんどなく、強固な肉体のその全身はうっすら氷に覆われている様に見える。そして真ん中の頭はよく見ると口の端から冷気が、向かって右側の頭は炎が、左側の頭は電気が漏れていた。それが今、簪の目の前で足を止め、動けない簪を見下ろしている。

 

三つ首の獣

「グルルルゥゥゥゥ……」

「あ…ああ…」

 

あまりにもその異形な姿に恐怖し、涙を浮かべ、声も出せない簪はその場に座り込んでしまう。そんな簪に獣の中央の首が顔を近づける。

 

獣(中央の首)

「………」

「ひっ…!」

 

怯える簪を黙って見る獣。そして暫くして動きがあった。

 

獣(中央の首)

「……………………なんと弱い」

「! え!?今…喋った!?」

 

言葉を発する獣。簪は驚きの余り声が変になる。

 

獣(右の首)

「弱い。そして脆い…。奴等はこんな弱き人間に我を託したのか…。全くなめた真似をしてくれる。表に出ていけさえすれば直ぐに食い殺してやるものを」

「……!!」

 

簪は一瞬「食い殺す」という言葉に動揺したが声には出さなかった。目の前の獣は言葉を続ける。

 

獣(左の首)

「……だが貧者とはいえ、それでも奴等が見込んだ人間。本来の力を失ったとはいえ我を短い時の中で操るとは…多少の見込みはあるという訳か」

「…え、…操る…?」

 

何を言われているのかわからない様子の簪。

 

獣(中央の首)

「…立て人間よ。食いはせん」

「……」

 

相変わらず茫然としている簪に目の前の獣は、

 

獣(中央の首)

「…立てぇぇぇい!!」

「は、はい!!…わっ!とっと…」

 

そう言われて簪は思わず直ぐ立ち上がる。足が凍っているのでよろけそうになるが何とか立てた。

 

獣(中央の首)

「それで良い…」

 

中央の首が代表しているのか左右の首はもう喋らない様だ。

 

「あ、あの、…何もしない…の?」

「望むなら骨まで平らげてやるが?」

「い、嫌ですごめんなさい!………あの、…言葉が通じるなら良いんだけど、……貴方は?」

 

何もされないのと話が通じる事に安心したのか、少しずつ冷静になりながら簪は目の前の獣に問いかける。すると獣は答えた。

 

ケルベロス

「……我は王。全てのケルベロス族を統率する王よ…」

「…え、…ケルベロス?私のケルベロスと…同じ名前!?」

 

その名前に簪は驚く。

 

ケルベロス

「驚くことは無い。何故ならそれは我なのだからな」

「…え?それってどういう…?」

ケルベロス

「言葉の通りだ。貴様の持つ魔具「ケルベロス」は我が力が変化した物よ」

「! 私のケルベロスが…貴方!?」

 

衝撃の事実に驚きを隠せない簪。ケルベロスは更に続ける。

 

ケルベロス

「最も真に変わったものでは無いがな。最早我は現実では姿を表すことは叶わぬ故…」

「…え、現実ではって、ここは現実じゃないんですか?…じゃあ私はやっぱり…」

 

ケルベロスの言葉に自分はやはり死んだのかと思う簪だったが、

 

ケルベロス

「案ずるな人間。現実では無いが冥府でもない。…ここは貴様の中、正確には貴様の纏っているものの心の中だ。そこに我が力を繋いでこうして姿を見せている。周りの霧はそのためだ」

「纏っているって…弐式の事?心って…コアの事かな?……あの、さっき何があったんですか?」

ケルベロス

「貴様があの下らん傀儡に撃たれかけた時、我が力を開放して救ってやったのだ。ありがたく思え」

「そ、そうなんだ…、ありがとうございます。………!で、でも皆はどうなったんですか!?もしかしてあの攻撃で!皆まだ戦ってるんじゃ!」

ケルベロス

「心配はいらん。ここは外の世界と違い、時という概念は無い。あの瞬間で時は止まっている」

「!…そ、そうですか」

(時の概念とかなんかわからない事だらけだけどもう今はどうでもいいや…)

「……あの、もうひとつ聞きたいんですけど、…なんで私を?」

ケルベロス

「…始めから総て話さんとわからんのか?」

「ご、ごめんなさい。ちょっと頭が混乱しちゃって…」

ケルベロス

「…まぁいい。…貴様が託された者だからだ。奴等からな」

「…え、託された?…束さんの事かな?それか…」

 

簪が考えているとケルベロスが先に言う。

 

ケルベロス

「しかし姿を見せただけで震えて動けない様な小娘に我を与えるとは…。我も随分なめられたものよ」

(…驚くなという方が無理だと思う…)

 

そんな事を心で考えながら簪は聞いてみる。

 

「あの…貴方が言っている人って、…もしかして海之と火影っていう人達ですか?」

ケルベロス

「…?何を言って……そうか、奴らは今はそんな名だったか。…そうだ、奴らは我らに力と自らの強い意志を示した。それ故に我も力を貸してやることにしたのだ」

「やっぱりそうなんだ…」

(…でも…一体いつの事なんだろう…?前に生徒会室で聞いた時もそんな話はなかったな…。もしかして、前に海之くんが言ってた大罪っていうのと何か関係があるのかな…?)

 

簪が考えているとケルベロスが話しかける。

 

ケルベロス

「…それでどうするのだ人間?」

「…え?どうする、って?」

ケルベロス

「再び表に出ていくか?言っておくが我が貴様を助けるのはこの一度きりだけだ。二度目は無い。再び先の様な事があれば貴様は只ではすまん」

「…あ…」

 

簪は先程の事を思い出していた。ケルベロスの言う通り、あの時救われなければ死んでいたかもしれない。死ぬまではいかなくても大怪我を負ったのは避けられなかっただろう。一瞬ではあったがあの時の恐怖ははっきりと簪の記憶に焼き付いていた。

 

「……」

ケルベロス

「恐怖したか?」

「……」

ケルベロス

「もう戦うのは嫌になったか?」

「……」

 

簪が黙っているとケルベロスは、

 

ケルベロス

「…………所詮この程度か。どうやら奴らの見込みは外れたようだな」

「…え?」

ケルベロス

「本来我を操るには多少なりともその資格を、力を持つ者である事を示さねばならぬ。奴らが、あの者たちが王たる我を託すのにふさわしいと思った者。どれ程の者かと期待し、何れそれがわかる時が来ると思っていたが…、一度の恐怖を味わった位で足が竦んで動けなくなるとは…。奴らの見込み違いだったか…」

「…海之くんと火影くんが、…私を…」

 

そう言ってケルベロスは身体の方向を変え、歩き出そうとする。

 

「…ど、どこ行くの?」

ケルベロス

「恐れる者に力を与える意味は無い。我は出ていく」

「出ていくって…どうやって?さっき貴方は現実には帰れないって…」

ケルベロス

「…確かに真の我ならば出ていく事はできん。ならあの傀儡共と同じようにやるまでよ」

「…傀儡…って、グリフォン、とかの事?」

ケルベロス

「さよう。奴らと同じ様な機械の身体であれば可能だろう。貴様の持つそれを力の媒体とし、我は復活する。そして奴らの身を骨まで食らってくれるわ」

「!! そ、そんな!お願い!そんな事止めて!!」

 

必死に止める簪。そんな彼女にケルベロスは言う。

 

ケルベロス

「…では貴様が身代わりになるか?そうすれば表の人間共は助けてやろう」

「……え」

 

そう言われて簪は一瞬黙る。

 

ケルベロス

「我は偉大なるケルベロス族の王。先ほども言ったが戦う意志も持たぬ者に使われる意図はない。しかし弱き者とはいえ貴様は我を手にする者だ。貴様が割れの腹を満たし、力となるというのであればその意志を認め、外の者達だけは助けてやろう。どうだ?」

「……」

 

簪は答えられなかった。このままでは皆がグリフォンもろとも目の前のこの獣に襲われる。それに対して自分が犠牲になれば少なくとも皆が襲われることはない。しかしそれは自分の死を意味する。「死」。その言葉が簪の言葉に封をしていた。

 

ケルベロス

「できぬだろう?しかし気に病む事は無い。所詮人間は誰も自分が助かれば良いのだ。自分さえ助かれば他はどうなっても良い。それが人間の本性だ。貴様に限ったことではない」

「……」

ケルベロス

「…我はそろそろ行くぞ。空腹なんでな」

 

そう言ってケルベロスは簪に後ろを向けて去ろうとする。

 

「……待って!」

 

突然声を上げる簪。ケルベロスは立ち止まり、簪の方へゆっくり振り向く。

 

ケルベロス

「……」

「……本当に、私を食べたら……皆を襲わないなら……いい。私を……食べても良い!」

 

そうはっきり答える簪。

 

ケルベロス

「……ほう。貴様、仲間の為に命を捨てるというのか?」

「……うん!」

ケルベロス

「死が怖くないと?」

「怖いよ!当り前じゃない!だって死んじゃうんだもの!正直こうやって貴方と向かい合っているだけでも凄く怖いよ!怖くない訳ないでしょ!」

 

簪は大声でそう反論する。

 

「……でも私が死ぬこと以上に、皆が死んでしまうかもしれないのはもっと嫌なの!お姉ちゃんが、海之くんが、本音が、火影くんや皆、私の大切な人達が危険な目に合うのはもっと嫌なの!私の命ひとつで皆が助かるかもしれないのなら…私はどうなってもいい!」

ケルベロス

「……」

「それに…さっき貴方は人間は全部自分さえ助かれば良いって思ってるって言ってたけど、でも決してそんな人ばかりじゃない!確かに貴方の言う通りそう言う人が多いのは事実だよ。だから戦争とかいろんな事件が何時まで経っても絶えない…。何年、何十年、ううん何百年経ってもずっと…人は学習してないって言われても仕方ないと思う…」

ケルベロス

「さよう。それが人間だ」

「…でも全ての人がそうって言ったらそれは絶対間違ってる!少なくとも私の知ってる人は皆そんな人じゃない!自分の身を犠牲にしても、盾にしても、大切なものを守る。そんな優しい心の人ばかりだよ!私も何回も助けられた!だからこそ好きになった!凄く感謝してる!だから…私も命を懸けて、大切なものを守りたいの!」

ケルベロス

「……」

「だからお願い!皆を襲わないで!私ひとりの命で済むなら…そうして!!」

 

簪は両手を広げて必死で訴える。

 

「……」

ケルベロス

「………良かろう。ならば、望み通り食らってくれるわ」

 

そう言うとケルベロスは再び簪の方に身体を向き直す。そして鼻先を簪に近づける。

 

ケルベロス

「グルルルルル……」

「……」

 

簪は涙を浮かべながらも怯まず向かい合う。

 

ケルベロス

「…グアアアアアオォォォォォォ…」

「ひっ……!」

 

目の前で大音量の咆哮を上げるケルベロス。簪は怯えるが先ほどの様に座り込む様な事はせず、立っている。そんな簪を見てケルベロスは、

 

ケルベロス

「…………………これか」

「…………え?」

 

突然ケルベロスが発した言葉に簪はきょとんとする。

 

ケルベロス

「自らを盾としても想う者を守ろうとする力。それが奴らが貴様に見た強さ、という訳か…。」

「…私の…強さ?」

ケルベロス

「友を思う心、というものか。我も嘗て同胞の仇を打とうと奴に挑んだ事がある。似た様な事かもしれんな。……以前の我なら下らんと思うたが、何故か今は不思議と面白い気分よ。…我もあやつらの毒に当てられたか。……ふっふっふっふ…」

 

笑った様な気がしたケルベロス。

 

「……あの、…食べ…ないの?」

ケルベロス

「魂まで吸いとってほしいのか?」

「……皆を襲うなら」

 

そういう簪の表情は真剣だ。

 

ケルベロス

「落ち着け人間。…もう良い」

「!…じゃ、じゃあ何もしないの?…本当?」

ケルベロス

「そう申しておる。第一貴様ひとり如きで我が腹が満たされる訳なかろう。……それにやりかたはどうあれ、汝は我に示した」

「ほ、本当に…本当?」

ケルベロス

「そんなに疑うなら今すぐ食らってやっても良いぞ?」

「し、信じます!許してください!」

 

簪は再度謝る。

 

ケルベロス

「更に申せば貴様は大事な事を忘れている。今の我は貴様の纏うそれによって力を得ている身。貴様の死は我の死をも意味するのだ。云わば真の主よ。貧弱極まりない主だがな」

「ご、ごめんなさい。……あれ?じゃあさっきの私を無視して外に出ていくっていうのは…」

ケルベロス

「当然我の戯言だ。ああでも言わぬ限り言葉を発しなかっただろう?」

(………王様の割にはなんかずるいなぁ)

ケルベロス

「…何か言いたそうだな?」

「う、ううん!何でもないよ!」

 

簪は慌ててごまかした。

 

ケルベロス

「…まぁいい。……にんげ、いや娘よ。今一度問う。汝はどうしたいのだ?」

 

ケルベロスの問いかけに簪は、

 

「……私は……戦いたい。守るために、皆の力になりたい。でも私はまだまだ弱い。だから…貴方さえ良ければこれからも、私に力を貸してほしい…!」

 

そうはっきり答えるのだった。

 

ケルベロス

「……良かろう。娘よ、弱さを自覚しているのであれば、強くなれ。そして足掻け。恐れるな」

「……うん。わかった」

 

簪はケルベロスに約束した。

 

ケルベロス

「では汝を現実に戻すとしよう。それから…汝に我が眷属をひとつ使わす。使いこなしてみせるが良い」

「…眷属?」

ケルベロス

「直ぐにわかる。…では帰るがいい。汝のいるべき場所へ…」

 

 

…………

 

グリフォン

「グアァァァァァッ!」

 

ズギュ―――ンッ!!

 

全員

「「「簪(さん)!」」」

 

…キィィィィィィィィィィンッ!

 

(! ケルベロスが!)

 

バシュゥゥゥゥゥッ!

 

ケルベロスが光を放ったと同時にグリフォンのレーザーが何かに弾かれたかの様に消える。

 

セシリア

「! レーザーが弾かれました!」

「な、何が起こったの!?」

 

光が徐々に強くなっていく。そして、

 

 

シュバァァァァァァァァァァァ!!

 

 

「!!」

ラウラ

「うわ!」

シャル

「な、何この光!?」

「簪!」

 

ケルベロスの放つ光が真っすぐ見れないくらい強いものになり、皆思わず目を閉じる。

 

セシリア

「い、今のは一体………!」

ラウラ

「なっ!」

「か、簪!?」

「……」

 

 

「グルルルルルルル……」

 

 

その場にいた全員が一瞬言葉を失った。簪の打鉄弍式の背後にグリフォンやファントムとほぼ同じ位の大きさの機械の獣が存在していたからだ。狼の様な風貌で四つ足。最大の特徴は三つの頭がある事。どれも首輪をしており、そしてその口からは冷気に似たものが溢れている。よく見ると皮膚表面にもうっすら氷が張っている。ファントムが火、グリフォンが雷と例えるならこの獣は氷だろうか。そんな異形な存在が簪の直ぐ後ろにいた。

 

 

「…ガアァァァァァオォォォォォォ!!」

 

 

「ななななな、ナニアレ!?」

ラウラ

「怪物!?頭が三つもあるだと!?」

「ま、まさかあれもグリフォンやファントムと同じものか!?危ない簪!離れろ!」

セシリア

「い、いえ、お待ち下さい箒さん。何か変ですわ」

「………」

「……守って…くれたの…?」

「グルルルルル……」

 

その機械の獣はまるで簪の指示を仰ぐかの様に簪に顔を近づける。

 

シャル

「あの獣、簪の言う事を…聞いてる?」

「力を…貸してくれるの?」

「……ガアァァァァオォォォォォッ!」

 

その獣は暫し黙った後、高々と咆哮を上げた。

 

「……ありがとう。……宜しくね」

 

何を言っているのか他の皆にはわからなかったが簪はそれを肯定の印だと受け取ったようだ。そして簪は目の前のグリフォンに目を向け、宣言した。

 

「行って、……ケルベロス!」

ケルベロス

「グアァァオォォォン!!」ドンッ!

 

簪の指示でケルベロスは駆け出す。ケルベロスの脚が付く場所には自らが生み出す冷気によるものだろうか、空気が凍って足場となるようなものが形成され、それによってまるで宙を駆ける様な動きで移動できていた。

 

グリフォン

「グオォォォォッ!」

 

それと同時にグリフォンも突進する。

 

ドオォォォォォォォォォンッ!!

 

ケルベロスとグリフォンが正面からぶつかり、そのまま機械の獣同士の高速戦に突入する。互いの突進の衝撃がぶつかり、爪が斬りかかる。グリフォンのクチバシが刺さり、ケルベロスの牙が食い込む。

 

グリフォン

「グオォォォォォォォッ!」

ケルベロス

「ガアァァァァァァァッ!」

「ナナナ、ナンカモノスゴイコトニナッテナイ!?」

シャル

「ま、まるで怪獣映画みたいだね…」

「わ、私達は入らない方がよさそうだな…」

 

多くが呆然としている中、簪が動く。

 

セシリア

「…簪さん?危険ですわ!」

「あの子だけ戦わせるわけにいかないよ」

ラウラ

「あ、あの子って…、やはりあれを動かしているのは」

 

言い切る前に簪も戦いに参加する。グリフォンの注意をこちらに反らすために春雷を撃った。

 

グリフォン

「!…グオォォォォォッ!」ドドドドドドドドドドドドッ!

 

邪魔をされた事に怒ったのか、グリフォンは銀の鐘を簪に向けて撃つ。

 

「! 簪!」

ケルベロス

「オォォォォォォォォッ!!」

 

キイィィィィィィィンッ!…ドドドドドドドドドドンッ!

 

グリフォン

「!」

 

するとケルベロスの力によるものか、氷の壁が簪の周囲に形成された。それによって銀の鐘の攻撃が防がれ、簪への攻撃が通らずに終わった。

 

「ありがとう!良い子ね!」

シャル

「あの三つの頭の奴…やっぱり簪を守ってる!」

セシリア

「じゃあやっぱりあれは簪さんの…!」

「どうやら間違いないようだな。先ほど簪はあの獣をケルベロスと言ったし」

「今度はこっちの番だよ!…山嵐!」

 

バリバリバリンッ!ドドドドドドドドドッ!

 

簪は山嵐を発射した。氷の壁を突き破り、ミサイル群がグリフォンに向かう。グリフォンは追尾してくるミサイルを避けるために旋回する。

 

グリフォン

「グオォォォォォォ……」

 

ドドドドドドドドンッ!

 

するとグリフォンも逃げ回る間にチャージしていたのか銀の鐘を起動させ、それを迫りくるミサイルめがけて発射。結果全てのミサイルを撃ち落とす。

 

「ケルベロス!お願い!」

ケルベロス

「オォォォォォォォ……」

 

キィィィィィン……ドドドドドンッ!

 

ケルベロスの力か、周囲の空気中の水分が凍りだした。…それは次第に巨大な氷柱となり、それが矢のようにグリフォン目掛けて発射される。

 

ズガガガガガガガガッ!!

 

グリフォン

「グオォォォォォォォ!!」

 

氷の矢はグリフォンの翼に立て続けに命中。それによって翼は破壊され、銀の鐘が発射不可能になったと同時に大ダメージを受けた様だった。

 

「よし!とどめ行くよケルベロス!合わせて!」

ケルベロス

「グルルルルルルル……」ギュオォォォォォォォ……

 

三つの口にそれぞれエネルギーがチャージされる。そして、

 

ケルベロス

「…グアァァォォォォォォッ!!」

 

ドギュ―――――ンッ!!

 

三つの口からエネルギーが撃ち出され、更にそれはひとつにまとまって高出力のレーザーとなった。レーザーの軌跡が凍り付いていることからそれは氷のブレスといえるものであった。

 

「春雷…行けぇ!」ズギュ――――ンッ!!

 

反対側から簪も春雷をグリフォンにロックオンして発射した。

 

グリフォン

「!!」

 

 

ドガガガガアァァァァァァァン!!!

 

 

 

両者から挟まれる形で攻撃を受けたグリフォンは木端微塵に破壊されたのだった。

 

「やった……。はぁ……」

ケルベロス

「オォォォォォォォォォ……」

 

ケルベロスは咆哮をあげると光に包まれて消えた。

 

「…ケルベロス。…ありがとう」

 

手に持つそれに向かって簪は感謝を告げるのだった。そんな簪の下に皆が飛んでくる。

 

セシリア

「簪さん、大丈夫ですか!?」

シャル

「って言っても結構大丈夫だったよね。…っていうか凄いねさっきの!」

ラウラ

「ああ全くだ。しかしあれは何なのだ?」

「あ、うん。あれはケルベロスだよ。わかりやすく言えば…私のお友達、かな」

「お、お友達って…。ってかやっぱりケルベロスって」

「皆、興味あるのはわかるが今は早く学園に戻ろう!一夏が心配だ!」

セシリア

「そうですわね!急いで」

 

~~~~~~~~~

 

とその時、ラウラに通信が入った。

 

ラウラ

「はい。…教官!ええこちらは皆無事です。………なんですって!一夏が!?…了解しました」

「ラウラ!今のはどういう意味だ!?」

セシリア

「一夏さんがどうかされましたの!?」

ラウラ

「……一夏は……」

 

果たして一夏に何があったのか…?




※次回は30日(土)の予定です。

アンケートにご協力頂きましてありがとうございました。
結果と致しましては、今後のストーリーを知りたいという票20、知りたくない票が10と、知りたいという意見が倍という事でした。ですのである時点で今後のストーリーを一話分(おまけ程度)を使いまして告示する予定で進めております。知りたくないという方のご意見も大切にさせていただきます。

重ねてありがとうございました。


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Mission145 黒騎士の力 白夜VS闇夜

戦いを終えた箒達のもとに突如出現したグリフォンが簪を襲う。
そして気が付いた時、簪は今までと違う場所にいた。何が起こったのか困惑する簪のもとへと現れたのは彼女の武器であり、嘗てダンテが戦った魔界の上級悪魔、キングケルベロスであった。彼女の危機を救ったというケルベロスはこれからどうするのかと尋ねるが、一瞬の死の恐怖を味わったことで直ぐに返答ができず、ケルベロスはそんな彼女を見限ろうとする。
……しかし簪は仲間や大切な人達を救うためなら命を差し出す覚悟があると、そしてこれからも守るために戦いたいと打ち明ける。彼女の力強い答えを聞いたケルベロスはこれからも彼女の力になる事を約束。更に自らの眷属であるケルベロス(氷)を支援機として贈る。ケルベロス達の力を得た簪はグリフォンを無事撃破。今度こそ事態は収束すると思ったのだが…。


一夏に何があったのか、話は箒達がアンジェロ達を追いかけていった直後にまで戻る。

 

「貴様は私が倒す!織斑一夏!私の黒騎士の力を思い知るが良い!」

一夏

「千冬姉に手出しはさせねぇ!俺の白式の力を見せてやる!」ドンッ!

 

黒騎士を纏うMと一夏の戦いが始まった。一夏は先手を打ってMに攻撃を仕掛ける。

 

「相変わらず単調だな。しかも剣も持たんとは」

一夏

「俺の武器が剣と荷電粒子砲しかねぇと思うな!」

 

ギュィィィィンッ!!

 

すると一夏の左腕から突如ビームの爪の様なものが出現した。ラウラのビーム手刀より遥かに大きい、一見ビームクローのような物である。

 

「!」

 

ガキィィィィンッ!!

 

それをMは同じく展開させた大型のランスで防ぐ。

 

「…ほぉ、貴様のそれは荷電粒子砲以外にもそんな使い方があったか」

一夏

「剣と射撃の訓練で最近まで忘れてたんだけどな!でもこっちの方が荷電粒子砲よりもずっと俺向きだぜ!」

「自らのISの機能も把握できていないとは…。こんな愚か者に一度とはいえ追い詰められたと思うと…全く虫唾が走る」

一夏

「何をぉぉぉ!」

 

ガキンッ!ガキキキンッ!ガキンッ!!

 

一夏は左腕のビームクローで何度も襲い掛かるがMはそれを全て自分のランスで防ぐ。そんなうちに一夏は違和感を感じた。

 

一夏

「おい!なんでそっちから仕掛けてこない!さっきから受け止めてばかりじゃねぇか!」

「ほぉ、気付いたか。ただだた単純に攻めているだけだと思ったぞ。…心配しなくてもとっくに仕掛けている」

一夏

「何?」ドゴォォォンッ!「ぐあああ!」

 

その時一夏は後ろから何かに襲われる感じがした。同時にMはランスで怯んだ一夏を切り払う。

 

ガキィィィンッ!

 

一夏

「ぐぅっ!な、なんださっきの後ろか」ドォォォォンッ!「うわぁぁぁ!」

 

すると再び後ろから何かに襲われた。Mは離れているので剣などではない。銃の類でもない。

 

一夏

「な、なんださっきから!どこから撃たれてる!?」

 

一夏は周囲を見渡すが何もない。すると、

 

一夏

「…は!」

 

ガキィィンッ!

 

一夏が謎の攻撃に意識を飛ばしている間にMがランスで仕掛ける。それを間一髪雪片で防ぐ。

 

一夏

「ぐっ!」

「望み通り仕掛けてきてやったぞ。よそ見をしていていいのか?」

一夏

「くっ、ふざけやが」ドォォンッ!「うわぁぁ!」

 

すると再びどこからか攻撃を受けた。一夏は堪らず離れる。

 

一夏

「ど、どうなってるんだ!」

「私の攻撃を止めた褒美に種明かしをしてやるか」

 

ヴゥゥゥゥン…!

 

するとMの左右に突然ふたつの物体が姿を現した。形状はビットの様にも見える。

 

一夏

「! 何もない所からいきなり出た!?」

「ゼフィルスのシールドビットを改造したものだ。以前の様なシールド機能は無くなったが…そのかわりこいつには面白い機能があってな」

 

ヴゥゥゥンッ…!

 

一夏

「き、消えた!」ドォォンッ!「ぐっ!」

 

一夏の目の前でビットは忽然と姿を消した。更にそれからほぼ一瞬で一夏に先の様な衝撃が走った。

 

一夏

「くっ、姿を現したり消したり……まさか!」

「わかったようだな。今のも、そして先の攻撃もあれによるものだ。ステルス迷彩で回りに溶け込み、その状態のままレーザーもしくは直接攻撃もできる。ハイパーセンサーにもレーダーにも映らない」

一夏

「ステルス…だって!?くっ、厄介なもんを…!」

「さぁ、さっさとアレを使ったらどうなんだ?貴様お得意の零落白夜を」

一夏

「何!?」

「はっきり言ってやろう。あれを使わない限り私を一気に倒す事は不可能だ。本気で私を倒そうと考えるなら残された全ての力を使ってあれに懸けるしかないのではないのか?」

一夏

「あれはとっておきだ!そう簡単に出すのは惜しいんだよ!」

 

一夏は強がるがMは見抜いていた。

 

「正直に言え。貴様のISは通常よりもエネルギーの消耗が激しい。武装もエネルギー消費量が大きい武装ばかりだ。荷電粒子砲に至っては数発であっという間にエネルギー切れを起こしてしまう。違うか?」

一夏

「…くっ」

「おまけに今回はあのSEを回復してくれる赤いISもいない。SEをよく考えながら戦わねばあっという間に戦闘不能になるだろう。故に荷電粒子砲も零落白夜も無駄に使えんのだ。…無様なISだな。取り巻きがいないとまともに戦えないのか?」

一夏

「なんだと!?」

「貴様など私が直接手を出すまでも無い。こいつらに任せよう」

 

ガシャガシャンッ!ビュビュビュビュンッ!

 

Mは再びビットを展開した様だ。目に見えない衝撃が一夏に襲い掛かる。

 

一夏

「くっ!見えないうえにセシリアのビット以上に縦横無尽に襲ってくる!たった二機しかねぇってのに!」

「貴様は私に指一本触れることもできず、そいつにISも身体も削り取られるのだ」

一夏

「そうはいかねぇ!アラストル!トムボーイ!」キィィィィィィンッ!

 

一夏はアラストルのスピードUPの機能をトムボーイの出力で上げ、離脱しようとする。だが、

 

一夏

「このスピードについてこれるか!?」ガキィィィンッ!「ぐあ!…な、何!?」

 

急に一夏を襲う一撃。だがやはりMは動いていない。

 

一夏

「Mは動いていない。……まさか今のも!」

「言ったろう?スピードに特化していると。そいつのスピードは以前貴様と戦った時のスピードを計算して作ってある。その妙な籠手と剣のスピードにも対応可能だ」

一夏

「くっ!まさかアラストルとトムボーイを加えたスピードにまで追いついてくるなんて!」

「まだ言葉を発する余裕があるな。…ではこれはおまけだ!」

 

ズドドドドドドドッ!

 

Mは更に自らの腕部から機関砲を乱射してきた。

 

一夏

「くっそ!考えさせる気もねぇって事か!」

 

一夏は目に見えない敵の相手をしながら対策を必死に考えていた…。

 

 

…………

 

???

 

その頃、オーガスはMを通じてその光景を見ていた。

 

オーガス

「…ククク、Mの奴随分張り切っているようだな…」

(さぁ…、果たしてこの戦いで奴のあれが機能するかな…)

 

ウィィィン

 

スコール

「オーガス、入るわよ」

オーガス

「スコールか…。ご苦労だったな」

スコール

「ほんと苦労したわ。久々の戦いだったといってもね。私達のISは皆ボロボロだし、オータムやあの子達も強がっていたけど戻ってきたらすぐに眠ったわ。また暫く治療が必要ね。…あの子は?」

オーガス

「問題ない。…だがまだまだ甘いな。まだ切り札を隠しているとはいえ、愚かにも自らの手の内を敵に教えるとは」

スコール

「それだけ自信があるって事じゃないの?」

オーガス

「…まぁ奴の好きにさせておくか。それよりどうだ?実際奴らと戦ってみた感想は」

スコール

「……そうね。確かに強いわ。力は勿論だけど……なんというか、それ以上に強い信念がある。正直子供とは思えないわね。……ああ、あと変な事言ってたわ」

オーガス

「…どんな事だ?」

スコール

「確か……悪魔でも人を愛する、とか」

 

その言葉を聞いたオーガスは不気味に笑った。

 

オーガス

「…………そうか…悪魔、か。………クククク」

スコール

「……?ああ、あと御免なさい。オータムがあんな馬鹿な事したのは私達を助けるためで」

オーガス

「馬鹿な事?……ああ、あの蠅を落としかけた事か?気にするな。予定に変わりはない。寧ろ奴らの力を確実に消耗することができた分よくやったと言っておこう」

スコール

(…蠅…)

「…そ。じゃあ私は部屋に戻るわね。休みたいし」

 

そう言ったスコールが部屋を出ようとすると、

 

オーガス

「奴らに学園襲撃の事を教えたのは何故だ?」

スコール

「………別に。個人的な約束よ」

 

ウィィィン

 

オーガス

「ふん」

(……悪魔でも人を愛するか。………奴も嘗て同じ事を言った。………クククク。全く、親子共々愚かな奴等よ…)

 

 

…………

 

場所は戻って一夏とMの戦い。スピードでビットを撒くことができず、更に見えない敵ということも重なり、一夏は苦戦していた。雪片とアラストルの二刀流で防御重視で被害を最小限にしつつ対策の手段を考えていた。

 

「何時まで逃げ回っているつもりだ?荷電粒子砲やその剣の雷弾を使っていないとはいえ、そのままでは何れエネルギー切れになるぞ?」

一夏

「くっ!お前にそんな事言われなくても俺が一番よくわかってらぁ!」

「ならさっさと零落白夜を使ったらどうだ?私は無防備だ。一撃必殺できるかもしれんぞ?」

 

言葉の通りMはビットを動かす事だけに集中していて一向に攻撃してくる気配がない。まるで己の獣を使って獲物を刈り取る主人の様だ。すると、

 

一夏

(確かにこのままじゃああいつに一撃入れる前にやられちまう!……こうなったらアレを使うしかないか!SEを結構使ってしまうけど今の俺にできる方法といえばこれしかねぇからな!)ジャキッ!

 

一夏は何かを思いついたのかアラストルをしまい、雪片を両手で持った。そして目に見えぬビットが一夏に向かって迫ってきた………その時、

 

一夏

「…食らえ!零落白夜!」キュイィィィィィィンッ!

 

一夏は零落白夜を起動させた。

 

「それで斬るつもりか?だが貴様に私のビットの動きを……何!」

 

 

ババババババババババババッ!

 

 

Mは驚いた。一夏の雪片から発せられたエネルギーがまるで一夏を覆うような形に変化したのだ。すぐ直前にまで迫っていたらしいビットは避け切れず、広がったエネルギーにぶつかる。

 

「なんだあの形態…バリアか?しかしそんなものなど私のビットには……!」

 

Mはバリアらしきエネルギーにぶつかったビットを回収しようとした。しかしどういう訳かコントロールできず、ぶつかったところで止まり続ける。

 

ガガガガガガガガガガッ!

 

「どういう事だ…!?何故ビットが………!まさか…そのバリア、先ほどの零落白夜の…!」

一夏

「ああ!零落白夜のエネルギーをバリアにできるのさ!これにぶつかったビームやレーザーはエネルギーを失って消滅する!こういう突撃型のビットなら打ってつけだぜ!」

 

どうやらビットは零落白夜のバリアでSEを失ったため、機能不全に陥っていたらしい。

 

一夏

「今だ!はぁぁぁぁ!」

 

ザンッ!ザンッ!…ドガァァァァァンッ!

 

一夏は機能停止したビットを切り裂いて破壊した。

 

「くっ…、成程…考えたな。確かにそれならビットも効かんか…。しかしそんなものを今まで使わずに温存していたという事は…それもSEの消費が大きいようだな」

一夏

「まぁな。零落白夜一発分位使ってしまう。だけどこれでビットは使えねぇ!さぁ男らしく剣での勝負だ!」ジャキッ!

 

再び雪片を構える一夏に対し、Mは、

 

「私は女だ!……いいだろう。ビットなどで沈んでもらっては私もつまらん。望み通り相手をしてやる。……こいつでな」

 

そう言ってMは手を前に出し、

 

「さぁ…白と黒の激突の時だ」ジャキッ!

一夏

「………え!?」

 

一夏はMが持つその剣に激しく動揺していた。Mが持っていたそれは…一夏の雪片と見た目は全く同じもの。正に色だけの違いであった。

 

「ふっ、流石に驚いたようだな」

一夏

「お前、その剣はまさか!?」

「…そうだ。これは黒騎士と同じく私専用の剣。名を「黒焔(コクノウ)」という」

一夏

「コクノウ…だと!?」

「貴様らを倒すのにこれ以上のものはあるまい。貴様と織斑千冬の雪はこの黒き焔が消し去ってやる。そして貴様の白式も絶望という闇に沈めてくれるわ」

一夏

「ふざけんな!それは千冬姉と俺のもんだ!名前だけでなく色まで変えやがって!許さねぇ!」

 

雪片への思い入れが強い一夏は以前ラウラがDNSで変化した姿が偽物の雪片モドキを持っていた時、激しく怒っていた。今回、しかも黒く染め上げられただけでなく名前まで変えられた事で以前よりも怒りは大きかった。それ故かやや感情的になる一夏。

 

「ならば私を倒して見せろ。貴様お得意の零落白夜で我が黒焔を断ち切ってみたらどうだ?」

一夏

「…いいだろう!その言葉後悔するなよ!」キュイィィィィ……!!

 

一夏は雪片に白式のSEをチャージする。更にトムボーイも使って出力もアップさせる。ギリギリまで送ったらしく次の一回で決めるつもりだ。それに対してMは手に黒焔を持ったまま動かない。

 

一夏

(動かないだと…?どういうつもりかわからねぇけど…でもあいつだけは許すわけにはいかねぇ!あいつの言う通りあの偽物の雪片をぶった切る!)ドンッ!

 

一夏は真っ向から向かっていく。そして、

 

一夏

「食らえ!零落白夜ぁぁぁ!!」

 

一夏は全力でそれを当てようとしていた。………すると、

 

ヴィィィィィィィィン

 

一夏

「!?」

 

突如Mの持つ黒焔に変化があった。何も無かった黒い刀身に更に黒いオーラの様なものが纏われた。そして、

 

「貴様にそれは使いこなせん!!」

 

Mはその状態の黒焔で斬りかかってくる。

 

 

ガキキキキキキキキキキキキッ!!

 

 

一夏の零落白夜状態の雪片とMの黒きオーラを纏う黒焔がぶつかった。

 

一夏

「! な、何!?くっ、負けてたまるかぁぁぁ!!」

「おおおおおおおおお!!」

 

ギリギリギリギリギリギリッ

 

ふたりの剣が激しくぶつかる音を立てる。だが一夏は不思議だった。零落白夜がここまで手こずる事に。本来バリアを切り裂く零落白夜はもっとすんなり切り裂く事ができる筈なのだ。シルバリオ・ゴスペルと戦った時もそれは変わらなかった。

 

一夏

「はああああああああ!」

「ぬうううううううう!」

 

やがて、

 

キィィィィィィィィィィンッ!!

 

一夏

「うわああああああああ!」

 

パワーの差か残りSE量で負けたのか、一夏は押し返されてしまった。地面にぶつかり、倒れ込む一夏。

 

「はぁ…、全力でいったにも関わらず思った以上に手こずったな。その妙な籠手のためか」

一夏

「くっ、そんな…馬、鹿な…!零落白夜が…押し返されるなんて…!」

「SE吸収機能も起動しなかったところを見ると…同じ機能のぶつかり合いで相殺されたか」

一夏

「お、同じ機能だと!…まさか!?」

 

雪片と同じ剣。そして先ほどの刀身を纏うオーラの様なエネルギーは正に、

 

「…零落闇夜…」

一夏

「なに!?」

零落闇夜(れいらくあんや)だ…。黒騎士の単一特殊能力。能力は見ての通りだ。織斑一夏、貴様の白式と同じくバリアを貫通し、SEに直接ダメージを与える事ができる。更に与えたダメージの分は自らのSEに還元できるのだよ」

一夏

「…ふ、ふざけんな…、雪片だけじゃなく零落白夜まで盗んだのかよ…!卑怯な事しやがって!」

「…卑怯だと?貴様は聖者でも相手にしているつもりか?戦いに卑怯も何もない。どんな手を使っても勝たなければ意味がない。でなければ死、あるのみだ」

一夏

「そんなものは戦いなんていわねぇ!只の殺し合いだ!」

「…貴様は本当に生ぬるい世界で生きてきたのだな…。それが今の敗北に繋がった事に気付かないか?」

一夏

「…何!?」

「教えてやろう。実力よりも、そしてISの機能よりも貴様と私の決定的な差。それは…殺意。殺す覚悟よ」

一夏

「…!殺す覚悟だと…!?」

 

殺すという言葉に驚いている一夏にMは続けた。

 

「貴様は私を絶対に倒すと言ったな?…だが貴様はどんな状況であろうと、例えどんなに憎い相手でも、その相手の命を絶つ事まではできんだろう?貴様の言う倒すという意味はあくまでも「相手を戦闘不能にし、動けない状態にする事」。違うか?」

一夏

「……」

 

一夏は反論できなかった。Mの言う事は当たっていたからだ。例えMがどんなに憎くても許せなくても、その命を奪う事までは考えていなかった。

 

「図星の様だな。だが私は違う。私は相手の命を奪う事等なんとも思っていない。立ちはだかる敵は殺す。弱き者が死に、強き者が生き残る。それが戦いのルールだ。貴様やあの女達の覚悟など私のそれに比べればひよっこと同じよ」

一夏

「ひよっこ…だと!ふざけんな!お前やあのオータムを倒すためなら俺は!」

「では貴様、今の零落白夜の威力を最大限で使わなかったのは何故だ?」

一夏

「…!」

「貴様は既に知っているのだろうが…貴様の零落白夜や私の零落闇夜はISのバリアを貫通し、SEそのものに直接ダメージを与える事ができる。これが何を意味するか、つまり下手をすれば相手を直接傷つける事ができるという事。最悪命に関わる傷を付けるという事だ」

一夏

「……」

 

これもMの言う事は当たっていた。零落白夜は己のエネルギーを使ってシールドを切り裂き、相手のエネルギーそのものにダメージを与える。ISはSEが無ければ動かないため、完全に決まりさえすればまさに一撃必殺の剣になる。ではISやシールドはおろか操縦者にとっての最後の壁でもある絶対防御も起動できない程までエネルギーが無くなればどうなるか?操縦者を守るものがなにも無くなる裸同然という事になる。以前ラウラが鈴とセシリアを襲った時、ダメージが危険領域に達するまでダメージを与えた事があった。その時でもふたりは命の危険はないものの怪我を負っていた。もしSEに与えるダメージが大きすぎ、絶対防御も起動しないそんな状況でもし剣が止まらなかったら……そんな怪我の比ではない。

 

「貴様は相手を過剰に傷つけすぎる事を恐れ、能力の出力を調整していた。あくまでも相手のISの戦闘力を奪う程度にまでな。だから貴様は何時までも本気を出せない。その籠手を使っても私の本気の一撃を消し去るのがやっとだ。それが生ぬるい世界で生きてきた貴様の限界だ」

 

Mは一夏に吐き捨てる様に言う。そんなMに対して一夏は反論する。

 

一夏

「…生ぬるい世界だと!?俺はそんな風に思ったことはねぇ!親こそいねぇし小さい頃にさらわれたりした事もあったが、俺は今に満足している!千冬姉がいて!箒達の様な仲間がいて!親友がいる!俺の世界を馬鹿にするのは許さねぇ!そういうからにはお前はさぞ立派な世界を生きてきたんだろうな!?」

 

一夏のその言葉にMは、

 

「………ああ、生きてきたさ。…そして味わってきた…。地獄以上の残酷さをな」

一夏

「…地獄以上の…残酷…?」

 

その言葉に一夏は驚く。

 

「…しかし貴様らはともかくとして…、あの妙な兄弟、火影と海之だったか。奴等もまた貴様らとは違う生き方をしてきた様に思えるな。でなければあれ程戦い慣れているとは思えん。そう考えれば奴等は貴様らより我々に近いかもな」

一夏

「火影と海之がお前らに近いだと!?ふざけた事を言うんじゃねぇ!」

「……無駄話は最早終わりだ。まだ織斑千冬が残っているんでな」

 

そう言ってMは黒焔を振り上げる。

 

一夏

「…くっ!」

「無念を抱いたまま逝くがいい!…死」

 

 

 

ドォォォォォォォォン!!

 

 

 

一夏・M

「「!!」」

 

突然別の方向から破壊音がした。見ると一夏とMを覆っていたシールドのある部分が破壊され、大穴が空いていた。

 

一夏

「な、なんだ!?」

「……馬鹿な…、シールドが破壊されただと…!?」

 

 

…ヴゥンッ!!

 

 

「! ぐっ!」ドガァァァァンッ!「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

すると砂煙の中から突然今度は衝撃波の様な一閃がMに向かって襲い掛かってきた。Mは瞬時に受け止めたが不意打ちを食らった形で吹き飛ばされる。

 

「な、何!?」

一夏

「い、今のは…!」

 

一夏とMは攻撃が飛んできた方向に集中する。やがて煙が晴れるとあるひとりの影が見えた。

 

一夏

「…!」

「…貴様は…!」

千冬

「……」

 

そこにいたのは黒い全身装甲のISを纏い、右手に雪片壱型を持った千冬だった。先程の衝撃波はそれから起こされたものだった様だ。

 

千冬

「…無事か?一夏」

一夏

「ち、千冬姉!」

「…織斑…千冬!!」

 

一夏とMは揃って驚く。特にMの驚きは激しい。

 

千冬

「すまない。遅くなってしまった」

一夏

「い、いや大丈夫だ。…てか千冬姉!そのIS!」

千冬

「…そうだ。暮桜…、封印されていた私の専用機だ。時間がかかったが…漸く蕾が開いてくれた。…それより…アレはなんだ?」

一夏

「あ、ああ。あいつはMだ。そして…あいつのISは…黒騎士っていうあいつの専用機らしい。前ん時より遥かに強くなってる!」

千冬

「!……黒騎士、…黒騎士か…」

 

何かを思うような表情の千冬。

 

一夏

「……千冬姉?」

千冬

「…何でもない。…一夏、お前は下がっていろ。後は私がやる」

一夏

「! だ、大丈夫だ!俺もまだ戦える!」

 

下がれという千冬に対し、一夏はそう言うが、

 

千冬

「…お前の白式はもうSEが尽きかけている。戦っている間に万一切れたらどうする。それにお前自身ももうスタミナが切れかけているだろう」

 

実際千冬の言う通りだった。キャノンボール・ファーストの時も本来白式はSE切れを起こしていた。箒の紅椿の絢爛舞踏が無ければ続けて戦えなかっただろう。白式の残りSE量はあと僅かであった。

 

一夏

「だ、だけど千冬姉だけ戦わせるなんてできるかよ!」

千冬

「大丈夫だ。お前達を守るのは私の役目だ。……それにあいつは…」

 

千冬はMを見て言葉に詰まる。

 

一夏

「…なんだ?」

千冬

「…私に任せろ一夏。……頼む」

一夏

「!……」

 

一夏は内心とても驚いた。千冬の「頼む」という言葉に。生活面ではよくあるがそれ以外では千冬が自分にお願いする事など極めて珍しい。千冬の態度を見て一夏は何を察した。母親代わり、守護者、そして唯一の家族である彼女の何かに気付いた。故に一夏は大人しく従う事にした。

 

一夏

「……わかった。…千冬姉、気をつけろよ!」

千冬

「ああ任せておけ」

 

一夏は少し離れ、千冬は前に出てMと対峙した。

 

千冬

「……」

「……会いたかった。会いたかったぞ!織斑千冬!」

 

長年の友に会ったかの様にMは歓喜の声を上げる。そんなMに対して千冬は言った。

 

千冬

「……私は二度と会いたくなかったがな…。会う事もないだろうと思っていた」

 

そんな事を話した千冬に一夏は、

 

一夏

(…どういう事だ?千冬姉は…あいつと会った事があるのか…!?)

「織斑一夏は最早何もできん。貴様を倒せば奴を仕留める等簡単な事よ!」

千冬

「一夏にこれ以上手出しはさせん」

「…それが貴様の専用機か?」

千冬

「…ああ、そうだ」

「そいつは良い。貴様とはいえ訓練機が相手ではつまらん。本気の貴様を倒してこそ意味があるというものだ」

千冬

「…私に勝てると思うか?…甘く見られたものだな、小娘」

「!……いいだろう、ならば貴様から地獄に送ってやる!先に逝って弟を待っているがいい!」ジャキッ!

 

Mは手に持つ剣を目の前の千冬に向ける。

 

千冬

「……」ジャキッ!…ドスッ!

 

そして千冬も手に持つ雪片を地面に突き立てて構える。

 

「死ね!織斑千冬!全ての業を背負ったままな!」

千冬

「…私はまだ死ねん。そして…お前は私が止める!」

 

黒騎士と黒き戦女神の戦いが始まろうとしていた。

 

一夏

(千冬姉……。……ちくしょう、俺は、俺はまた守られてばかりなのか……。俺にも、俺にも力があれば……あいつらみたいな力が……)




※次回は6日(土)の予定です。

黒騎士の武装は部分的に以下の通りオリジナルを加えてます。一夏とは正反対のイメージで作りたかったです。

「黒焔(コクノウ)」
形は一夏や千冬が使う雪片と全く同じもの。
色は雪片の白の部分が漆黒になっている。
「白き雪をかき消す黒き焔」という意味でMが名付けた。

「ステルスビット(フェンリル)」
ゼフィルスのシールドビットを独自に改造したもの。シールドを外した代わりにハイパーセンサーやレーダーにも映らない特殊迷彩機能があり、いかなる場所にも溶け込む。レーザーを撃つこともできるがビット自体で突撃もできる。スピードに特化しており、以前アラストルとトムボーイの機能を知ったMがその対策として作り上げた。

「零落闇夜(れいらくあんや)」
黒騎士の単一特殊能力。
機能は一夏の白式が持つ零落白夜と同じく、シールドを切り裂き、相手のエネルギーに直接ダメージを与える事ができる。更に与えたダメージの分を自らのSEに還元する。零落白夜と同じく一撃必殺の剣ではあるが同じエネルギー同士でぶつかると機能が相殺され、純粋な力の勝負になる。


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Mission146 紫電の黒騎士

学園に突如現れたMとその専用機黒騎士。一夏はビームクローや零落白夜のバリアーを駆使して何とか対抗するが過去の戦いを参考にして作り出した黒騎士は強敵であった。更にMは雪片に瓜二つの剣、その名も「黒焔」を展開。それに怒った一夏は零落白夜で斬りかかるがこれにもMは零落白夜の強化版である黒騎士の単一特殊能力「零落闇夜」で打ち勝つ。
Mは一夏に「殺す覚悟も無い者は何時までも本気を出せない。だが地獄よりも残酷な世界を生きてきた私は違う」と言い放つ。
Mは動けない一夏に黒焔を向ける。とその時、ふたりの間に割って入る影。それは専用機「暮桜」と愛刀「雪片壱型」を持った千冬だった。



一夏の危機を救った千冬は一夏に下がらせ、自身はMと対峙していた。千冬は雪片を、Mはランスを向ける。

 

「暮桜…。それが貴様の専用機か。そして貴様のその剣は…」

千冬

「ああ。雪片の初期型、雪片壱型。暮桜と並ぶ私の戦友だ」

「やはりそうか。しかし貴様のそれは織斑一夏のあれと比べ随分古い様だな。先ほどの衝撃波で剣自体にも相当な負荷がかかった筈。そんなナマクラで私の黒騎士とやりあうつもりか?」

一夏

「! 雪片がナマクラだって!?馬鹿にすんな!!」

 

雪片をナマクラ呼ばわりした事に一夏は起こるが千冬は冷静に対処する。

 

千冬

「…では、何故お前の剣は雪片と同じにしているのだ?先ほど一瞬見たが…お前の剣は雪片と形は全く同じの色違い。ナマクラと言うならそんなものに似せる事も無いだろう?」

「………」

 

Mは黙ったまま。それに対して千冬は言った。

 

千冬

「…羨ましいのか?」

「! なんだと!?」

千冬

「正直に認めたらどうだ?お前は今の自分に自信を持てないのだ。これを使わなければ勝てないかもしれないと。だから雪片にそっくりな剣を持ち、更に自らのISに…黒騎士などという名を付けた。違うか?そうでなければわざわざそっくりなものを作ること等しないだろう」

「……黙れ…」

千冬

「そしてこれは推測だが雪片にそっくりな剣からしておそらくお前のそのISの能力は」

「黙れぇぇぇぇ!!」ドンッ!

 

ガキィィィンッ!

 

Mは黒焔ではなく自らのランスで向かってきた。しかしそれは千冬の雪片壱型によって止められる。

 

「ちぃ!」

千冬

「お前の剣は出さないのか?」

「貴様のそんなナマクラの相手等に黒焔を使うまでもない!はぁぁぁぁ!」

 

ガキィィィンッ!キィィンッ!ガキンッ!

 

Mは自らのランスで引き続き襲い掛かるが千冬の雪片に全て止められる。

 

千冬

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ザシュッ!!

 

「ぐああ!!」

 

千冬はMの一瞬の隙を付き、下段から斬りかかった。

 

「くっ!」

千冬

「怒りのあまり足元が疎かになっているぞ?」

「黙れ!私に説教の真似をするな!」

千冬

「そうやって怒りに任せて攻撃している時点で私の言っている事が全て当たっているという証明になっている事に気付かないか?」

「黙れと言っている!」

 

Mは再び千冬に襲い掛かるが怒りに任せての攻撃は冷静に対処する千冬にやはり全て止められていた。

 

一夏

「…流石千冬姉だ。Mの攻撃を全て受け止めてるだけじゃなく、怒りを誘って冷静さを無くさせてる…」

 

千冬の戦い方に感心する一夏。すると不利と思ったのかMは離れ、

 

「ちぃ!だが貴様のそれに銃器の類はあるまい!」ズダダダダダダダダッ!

 

続けて腕部ガトリング砲を移動しながら撃つ。しかし、

 

キキキキキキキキキンッ!

 

「!」

 

千冬は雪片を回転させ、全て受け止めていた。そしてそれが終わると、

 

千冬

「私に銃等不要。剣さえあれば十分!」…ヴゥンッ!

 

ガガガガガガガガッ!

 

千冬は続けてそのまま雪片から衝撃波を撃つ。それをMはランスで何とかガードする。

 

「くっ!」

千冬

「武装の差で勝敗が決まると思うのは大きな間違いだぞ?」

一夏

「…さっきの銃弾の避け方。以前海之がやったのと同じだ…」

 

 

…………

 

それは以前、ある日の授業の休憩中の事。

 

一夏

「なぁ火影、海之。お前らの戦いでよくやってる「剣で銃弾を斬る」ってやつだけどさ。あれってカッコいいよな」

シャル

「うん。まるでアニメの剣劇アクションみたいだよね。あれってどうやってるの?」

火影

「ん?ああアレか。まず最初に言っておくとアレは斬ってるわけじゃねぇんだ」

「え?しかし実際斬っている様にしか見えないが…?」

海之

「それは違う。よく考えてみろ。飛んでくる銃弾を身体の前面で斬っても自らに破片が当たる可能性もある。例え斬っても弾速はそのまま残るのだからな」

セシリア

「…そういえば確かにそうですわね」

ラウラ

「ではどうしているのだ?」

 

するとここで千冬が入る。

 

千冬

「ボーデヴィッヒ。お前が以前海之と戦った時、レール砲の弾が海之に弾かれた事があっただろう?覚えていないか?あれと同じだ。銃弾が刃にぶつかる瞬間にギリギリ斬らない角度で剣先を当てて弾道を変えているのだ。故に斬った様に見えるのだ」

海之

「その通りです。あと飛んでくる銃弾に垂直になるように刀身を向けて当てる。こうする事で飛んでくる弾を受け止めるだけでなく、場合によっては相手に跳ね返す事もできる」

火影

「まぁそういう簡単な話さ」

真耶

「な、成程…」

「そんな事簡単なんて言えるのアンタ達だけよ…」

 

他の生徒達も驚きを隠せない。

 

火影

「そうだ、お前らに面白いもん見せてやるよ。海之、ちょっと付き合え」

海之

「……ハァ。先生、よろしいですか?」

千冬

「構わん」

 

そして火影と海之は向かい合う。

 

火影

「テメンニグルん時のあれやるぞ」

海之

「…やれやれ」

 

ズダダダダダダダダダッ!

 

そういうと火影はエボニーを海之に向かって連射する。

 

海之

「………」

 

キキキキキキキキキンッ!

 

海之はそれを風車の如く回転させた閻魔刀で防ぐ。……やがて刀の動きが止まるがそれだけでは終わらなかった。

 

「「「!!」」」

 

千冬を除いた全員は驚いた。弾かれたと思っていた弾丸が刀に残り、海之はそれを綺麗に地面に並べたのだ。

 

海之

「ふん!」ブンッ!

 

地面に置いたそれを海之は閻魔刀で火影に返す。するとそれに対して火影はリベリオンを上段に構え、

 

火影

「てりゃっ!」ブンッ!

 

……ババババババッ!

 

「「「!!」」」

 

丁度縦に列に重なった時を見計らい、それをリベリオンで全弾真っ二つにしたのだ。分断された弾丸は左右に均等に飛び散り、後方に飛んで行った。

 

「「「………」」」

 

皆はその流れる様な一連の動作に言葉もない様子。

 

千冬

「…見事だな」

海之

「今のも先ほど言った様にこいつが撃った弾に刀身を当てて受け止めたのだ。本当ならそのまま飛んでいくが高速回転で起こる風でそのまま刀にとどめておいた」

火影

「まぁ皆にはシールドもあるし武器は俺らのに比べて幅が広いから使う事もねぇだろうさ。因みに綺麗に真っ二つにできたのは真っすぐ上から斬ったからだ。慣れればこれ位できる様になるって」

千冬以外

「「「できるかー!!!」」」

 

 

…………

 

その後、千冬は鍛錬によってその動きを掴んでいたのだった。

 

千冬

「銃や槍にばかり頼ってないでそろそろ見せてみたらどうだ?お前の剣を」

「………いいだろう!その言葉後悔するなよ!」ジャキッ!

 

Mは再び黒焔を展開した。

 

千冬

「黒い雪片…」

「そしてこれを見て更に驚くがいい!」ヴゥゥゥゥンッ!

 

すると先ほど一夏に使ったものと同じく黒いオーラが黒焔の刀身に纏われる。

 

「食らうがいい!私の黒焔を!そして零落闇夜をなぁぁ!!」ドンッ!

 

Mは零落闇夜を起動させて千冬に向かっていく。

 

一夏

「千冬姉避けろ!それは俺の零落白夜と……!」

 

ヴゥゥゥゥゥゥン

 

すると千冬の持っている雪片壱型にもオーラが纏われた。

 

千冬

「ふ…。いいだろう受けて立ってやる」

「!貴様…それは!?」

 

それは一夏のそれと同じ、

 

千冬

「……零落白夜!!」

 

ガキィィィィィィンッ!

 

千冬の雪片とMの黒焔がぶつかった。

 

ガキキキキキキキキキッ!!

 

千冬

「おおおおおおおお!!」

「ぐううううううう!!」

 

一夏の時と同じく互いの力の押し合いとなる。そして、

 

バキイィィィィィィンッ!!

 

「うわああああああ!!」

 

一夏の時と違い、ここではやはり歴戦の戦士でありブリュンヒルデの千冬が勝った。Mは吹き飛ばされ、倒れる。

 

……ジジジジジジ……

 

千冬

「……」

「ぐ…お、おのれ…!」

千冬

「目には目を、歯には歯を、そして零落白夜には零落白夜をか。やはりその黒い雪片と言い、お前のISの能力は零落白夜だったのだな。だが同じもの同士がぶつかると互いの長所が消え、単に力比べになるという事か。それなら負けはせんよ」

「き、貴様もそれを使えるとは…!」

千冬

「零落白夜を使えるのは一夏だけだと思ってもらっては困るな。あれは元々私の暮桜の能力。それを雪片と同じく一夏の白式にも与えられたのだ。リサーチ不足だったな」

一夏

「雪片は知ってたけど零落白夜も千冬姉が使っていたものだったのか…」

「くっ…ビットを失ったのは失敗だったか!」

 

すると千冬はMに向かって言い放った。

 

千冬

「偉そうな事言っている割にお前の力はそんなものか?………マドカ」

 

「!!」

一夏

「…マドカ?Mから始まるからあいつの名前か?でも千冬姉があいつの名前を知ってるって事は…やっぱり会った事あるのかな?」

 

一夏がそんな事を考えているとMが口を開いた。

 

「……その名で、その名で私を呼ぶな!!」

千冬

「……」

「その名前は私にとってもはや無意味だ!…いいだろう、見せてやる!私と黒騎士の本当の力を!DNSの力をな!!」

千冬

「!」

一夏

「…ディーエヌエス?…」

「さぁ!私の願いを聞け!私に奴らを倒す力を貸せぇぇぇ!!」

千冬

「よせ!」

 

Mの言葉に答える様に、黒騎士のインターフェースにあの言葉が浮かんだ。

 

 

ーDreadnoughtsystem 起動ー

 

 

…ゴオォォォォォォォォォォォ!!

 

するとたちまち黒騎士の足元からどす黒い炎がたちあがり、あっという間にMを覆いつくしてしまった。

 

「ぐあああああああああああ!!」

一夏

「!! な、何だ!?」

千冬

「…くっ!」

 

千冬はそれを阻止しようと接近するが炎の勢いに近づけない。

 

一夏

「え、Mの身体が真っ黒な炎に包まれて……!あ、あれって…あの時のラウラと同じ!」

千冬

「…馬鹿者が…!」

「ああああああああああああ!!」

 

炎にその身を焼かれるMは悲鳴を上げる。そして、

 

 

シュバァァァァァァァァァ!!

 

 

千冬・一夏

「「くっ!」」

 

やがてMから光が走り、彼女を覆っていた黒い炎が飛び散った。

 

 

…………

 

その頃、

 

オ―ガス

「ククク…Mの奴、DNSを使いおったか。ブリュンヒルデ相手では流石の奴も分が悪いからな。さてさてどこまでやれるか。……しかしMの奴、相変わらずいい憎しみの気を発しておるな。まぁ無理もないか。織斑千冬もその弟織斑一夏も奴にとっては……。ククク、さぁもうひとつの方は果たしてこの戦いで発動するかな……?」

 

 

…………

 

一夏

「くっ…、一体何が……!!」

千冬

「……」

 

Mを見た一夏は驚き、千冬は渋い表情をしている。そこにいたのは黒騎士とは全く別のIS。全体的に黒い甲冑に覆われ、身体中に紫色の光が走っている。頭部には二本の角。右手には今までの黒焔とは違う形をした大剣。両肩にはまるでドラゴンの様な蝙蝠の様な翼に似せた大きい装甲があった。それは正に紫電を纏う黒騎士と言える存在であった。

 

一夏

「な、何だ!?あいつのISどうなっちまっったんだ!?まさか二次移行!?」

千冬

「落ち着け一夏。あれは二次移行ではない。…DNS、そしてDISか。こうやって対峙するのは初めてだな」

一夏

「なんなんだよ千冬姉!ディーエヌエスとかディスって!」

千冬

「それについては終わってから説明してやる」

M(DIS)

「ハァ…ハァ…ハァ。……この力。…これがDNSか…」

千冬

「…意識は残っているようだな」

M(DIS)

「当たり前だ…。私はオータムとは違う。システムに操られたり等しない。この力で貴様も、そして織斑一夏も地獄に送ってやる!」

千冬

「………そんなに私が憎いのか」

M(DIS)

「貴様だけではない。貴様と、織斑一夏のせいで私は、私という存在は…」

一夏

(…存在…って俺にも言ってた。…どういう事なんだ、千冬姉と俺とあいつに何の関係が…?)

 

すると千冬は黙って雪片を構える。

 

千冬

「…いいだろう。確かにお前の事は私にも責任が無いことはない。ならばせめて…私の手でかたを付けてやる」

M(DIS)

「…付けられるかな?」……ジャキッ!!

 

Mは持つ大剣を振るうと刀身が僅かに変形した。中心部分が分離して四つに分かれた様になり、その中央に紫電が走っている。それをMは高く掲げた。

 

バババババババババッ!!

 

千冬

「!」

 

その直後、千冬のすぐ周辺に紫電の落雷が走った。千冬はそれを慌てて避ける。落雷は千冬の跡をたどるように追ってくる。

 

一夏

「千冬姉!」

千冬

「く!落雷による遠隔攻撃か!だが覚えさえすればこんな攻撃!」

M(DIS)

「それだけだと思うな!」

 

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

すると今度はMの方から雷弾が撃ち出されてきた。スピードは正に落雷のスピードと互角。上と横からの光速の攻撃である。

 

千冬

「く!早い!だが雷弾といえど!」

 

ガキキキキキキキキッ!!

 

千冬は落雷を動いて避けながら雪片で襲ってくる雷弾をはじく。

 

…ジジジジジ…!

 

千冬

「…ちっ!今度はこちらだ!はぁぁ!」ヴゥンッ!!

 

千冬は雪片による衝撃波をMに向かって繰り出す。すると、

 

ガシャンッ!…ガガガガガガガッ!!

 

千冬

「!なに!?」

 

Mの肩の装甲が突然真っすぐ下に伸び、左腕を盾の様に覆った。それによって生じた強力なバリアによってMは衝撃波を受け止め、ダメージが通らなかった。

 

M(DIS)

「そんな攻撃は通用しない!行くぞ!」ドンッ!

 

Mは千冬に向かって突進する。

 

千冬

「まさか肩がそんな変形をすると…!!」

 

ガキィィィンッ!!

 

その時だった。向かってくると思っていたMが一瞬の間に千冬の目前にまで迫り、剣を繰り出してきたのだ。千冬は慌てて雪片で止める。

 

千冬

「ぐぅ!」

M(DIS)

「流石だな!今の攻撃を受け止めるとは」

一夏

「な、何だ?今何が起こったんだ!?なんであんな一瞬に!」

 

離れて見ていた一夏の目にはまるで突然Mが千冬の前に移動したように見えた。そんな一夏を尻目に千冬とMはそのまま剣の応酬に突入する。

 

ガキンッ!ガキィィィンッ!キンッ!キィィンッ!

 

千冬

「変化して動きが早くなっている様だが対応できない事は無い!」

M(DIS)

「それはこちらも同じだ!先ほどの私と同じと思うな!」

一夏

「……すげぇ…」

 

バキィィィィンッ!

 

何秒かの剣の応酬が終わった後、互いに距離をとる。Mは千冬と周辺に落雷を撃つ。

 

ババババババババッ!!

 

その合間合間を縫うように千冬は動き、一気に接近してMに斬りかかる。

 

ガキィィィンッ!

 

しかしこれもMの盾で防がれる。

 

千冬

「直接でも駄目か!」

M(DIS)

「言った筈だ!そんなナマクラ効かんとな!」ズドンズドンズドンッ!

千冬

「! ちぃ!」

 

ガガガガガガガガッ!

 

目の前の千冬に向けてMは雷弾を撃つ。千冬は間一髪離れ、それを雪片で防ぐ。

 

…ジジジジジジジ…

 

千冬

(……)

M(DIS)

「ちっ、惜しいな。だがそれでこそだ。簡単に倒れられてはつまらん」

千冬

「それはこちらの台詞だ。わざわざあんな目にあってまで強くなったんだ。簡単に倒れてくれるなよ?」

M(DIS)

「!……言ってくれるな。…気が変わった。今の言葉は取り消しだ。その減らず口を二度と叩けない様にしてやる!」

 

ギュゥゥゥゥゥゥゥンッ!

 

するとMの持つ剣にあの黒きオーラが纏われる。零落闇夜だ。

 

一夏

「! あいつ、あの状態でも使えるのかよ!」

千冬

「……いいだろう。戦士として受けて立ってやる」キュィィィィィンッ!

 

千冬の方も零落白夜を起動し、構える。

 

M(DIS)

「言っておくがDNSで進化した私の今のパワーは先ほどの比では無いぞ!くたばれぇぇ!」ドンッ!

 

Mは千冬に向かって加速した。すると、

 

シュンッ!

 

千冬

「!」

一夏

「ま、また一瞬で!?」

 

先程と同じく向かってきたと思った瞬間、一瞬で距離を詰めていたM。Mは千冬に零落闇夜を振り下ろす。千冬も零落白夜で迎え撃つ。

 

M(DIS)

「零落闇夜ぁぁぁ!!」ブンッ!

千冬

「零落白夜!!」ブンッ!

 

ガギギギギギギギギギギッ!!

 

互いの剣がぶつかり、刃が激しくぶつかる音をたて、エネルギーが放出される。

 

千冬

「はあああああああああ!」

M(DIS)

「ぬううううううううう!」

一夏

「! あいつ!千冬姉と互角!?」

 

Mの言った事は正しく、変化前よりもその力は大きく向上していた。技ならば千冬の方がまだ上であるかもしれないが、単純な腕力、パワーは負けていない様であった。

 

千冬

「おおおおおおおおおお!」

M(DIS)

「ぐううううううううう!」

 

互いに一歩も譲らないまま数秒程が過ぎたその時、

 

……キュゥゥゥゥンッ!

 

千冬・M(DIS)

「「…!」」…バッ!

 

突然互いの剣を纏っているオーラが消え去った。どうやら長いつばぜり合いの末に連続使用可能時間を過ぎたようであった。ふたりはそれを見て一旦離れる。

 

M(DIS)

「時間切れか…、流石にしぶといな。……ふっ。だが…」

千冬

「……」

 

Mは悔しがりつつも何故か小さく笑い、千冬は何故か黙ったまま。

 

一夏

「千冬姉大丈夫か!大丈夫だ!千冬姉なら勝てる!千冬姉には暮桜も雪片もあるんだ!」

 

一夏は黙ったままの千冬に向かって言う。すると千冬は驚くべき事を言った。

 

千冬

「………いや」

一夏

「…え?」

M(DIS)

「織斑一夏。奴の雪片を見てみるがいい」

一夏

「何?………!!」

 

 

………ピシ…ピシピシ!

 

 

千冬の右手に持たれた雪片壱型の刀身表面に…小さな音を立てながらヒビが入っていた。そして……、

 

 

…バキィィィィィィィィィィンッ!!

 

 

千冬

「…!!」

 

千冬の雪片壱型はけたたましい音をたて…真っ二つに折れてしまった。最初の衝撃波に始まり、度重なる剣劇や防御。そして今のつば競り合いでダメージが限界を迎えてしまった様である。そして途中の異音は雪片のダメージが蓄積されているものであった様だ。

 

一夏

「! ゆ、雪片が…折れた!?千冬姉の雪片が!!」

 

一夏は激しく動揺している。千冬は折れた雪片を何も言わず見つめている。

 

千冬

「……」

一夏

「千冬姉の雪片が…。そんな、そんな馬鹿な…」

M(DIS)

「ククク…いくら貴様でもこれは堪えた様だな。どうだ?戦友とまで呼んだ自らの剣が砕かれた感想は?」

一夏

「……テメェェェェェ!なんて事しやがんだ!!」

 

一夏は憤怒するがMは気にもせず言い放つ。

 

M(DIS)

「何を怒っている?形あるものはいつか壊れるものだ。今度はこいつの剣の番だった。それだけの事だろう?」

一夏

「ふざけるな!あれは、雪片は単なるものじゃない!雪片は千冬姉の!!」

千冬

「……」

 

千冬は相変わらず黙ったまま。

 

M(DIS)

「さぁどうする?見た所貴様に他の武器は無い。幾ら貴様でも何の武器もないまま戦うのは辛いだろう?嘗ての、10年前の救世主よ」

千冬

「…!!」

一夏

「…10年前?…救世主?………!!」

 

Mのその言葉を聞いた一夏の頭にひとつの考えが浮かんだ。「10年前」「救世主」その言葉が当てはまる事等…ひとつしかないのだから。

 

M(DIS)

「流石の貴様も気付いたようだな…。まぁ当然だ。10年前で浮かぶ事等あれしか思いつくものは無いからな」

千冬

「……」

一夏

「…ま、…まさか…」

M(DIS)

「…そうだ。こいつこそ、織斑千冬こそ10年前のあの忌々しい事件、白騎士事件の篠ノ之束と並ぶ立役者のひとり。そして全てのISの始まりとなったIS、「白騎士」の操縦者だ!!」




遂に一夏に知られてしまった千冬の正体。沈黙したままの千冬は?

※次回は13ニ日(土)の予定です。
最近急に暑くなりましたね。そのせいか最近疲れやすいのが悩みの種です。暑さに気をつけて確実に進行できる様頑張ります。皆様もお気を付けくださいね。

因みにMのDIS体はDMC5よりキャバリエーレアンジェロです。


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Mission147 炎刃の戦女神

一夏の危機を救った千冬はそのままMとの戦いに突入した。最新鋭の黒騎士と武装を操るMに対し、旧式の雪片一本という千冬だったがやはり剣技と戦闘技術はMを大きく上回り、圧倒していた。

そんな中千冬はMの事を「マドカ」と呼ぶ。それに激しく反応したMは怒りからDNSを起動、黒騎士を紫電を操る黒騎士へと変貌させる。戦いの中で千冬とMは互いに零落白夜と零落闇夜を繰り出し、その押し合いは引き分け……と思えたその時、衝撃に耐えきれなかった千冬の雪片が折れてしまった。その光景にショックを受ける一夏に対し、Mは言った。

「こいつこそ白騎士事件の当事者!「白騎士」の操縦者だ!」


M(DIS)

「ここにいる織斑千冬こそ、篠ノ之束と並ぶ10年前の白騎士事件における当事者のひとり!全ての始まりとなったIS、「白騎士」の操縦者だ!!」

 

Mは千冬を指差しながら一夏に話した。

 

一夏

「!! ち、千冬姉が…白騎士事件の、…あの時の白騎士、だって…?…う、嘘だ!そんな馬鹿な!!」

千冬

「……」

一夏

「嘘だろ千冬姉!!あいつのでまかせなんだろ!?」

千冬

「……」

 

当然一夏は激しく動揺して千冬に問いかけるが肝心の千冬は沈黙したまま。

 

M(DIS)

「不思議に思わなかったのか織斑一夏?何故白騎士とは言えたった一機で無数の兵器群をなんとかできたのか?それは白騎士が織斑千冬のオーダーメードの様に設計されていたからだ。そうでなければ赤の他人にその様な事ができる筈ないだろう?世界中から無視されあざけ笑われた奴の発明など誰が使おうと思う。奴等だからこそできた事なのだ」

一夏

「……そんな…」

 

衝撃の事実に一夏は言い返すことができない。以前千冬から束のISが世界中から散々な評価を受けた事は聞いていた。それによって束が怒りのあまり白騎士事件を起こした事も。しかし白騎士の事は伝説として知れ渡っていたがその操縦者については全くといってもいい位知られていなかった。それがまさか千冬だったとは…。

 

千冬

「……」

M(DIS)

「ふふふふ……流石にショックが大きいようだな。まぁ無理もないか、ご自慢の雪片が折られただけでなく、最愛の弟に知られてしまったのだからな。自分が歴史に残る罪人だという事をな」

一夏

「…罪人だと!?ふざけんな!千冬姉はそんなんじゃねぇ!」

M(DIS)

「では貴様はあの白騎士事件が正しい事だというのか?篠ノ之束の身勝手極まりない動機で引き起こされたあの事件を?世界中の軍事施設を掌握し、兵器という兵器を乗っ取り、日本の者達を恐怖のどん底に陥れたあの事件を!?その首謀者のひとりが大罪人でなくてなんだというのだ!」

一夏

「そ、それは……。で、でも!あの事件は白騎士のおかげで被害な何も」

M(DIS)

「そんなものは結果論に過ぎん。もし一発でもミサイルを撃ち落とし損ねたらどうなっていたと思う?その一発でもし誰かの家が破壊されたら?もし誰かが傷ついたら?そして万一その誰が死亡したら?どう責任とるつもりだったのだ、嘗ての白騎士?」

千冬

「……」

一夏

「で、でも後で聞いたけどあれはやみくもじゃなく全部束さんがコントロールしてたんだ!そんな失敗!」

M(DIS)

「それも同じく結果論に過ぎんさ。篠ノ之束とて普通の人間。そして兵器を造り、整備していたのも人間。もし篠ノ之束の思いもよらない様な事が起こったらどうなっていたと思う?ミサイルの軌道が途中で変わったら?衛星に何か事故があってコントロールできなくなったら?そして誤って万一核ミサイル等でも発射されたら?……全てはたまたま運がよかっただけ」

一夏

「……」

M(DIS)

「織斑千冬、貴様と篠ノ之束が起こした白騎士事件のせいで多くの人間が傷つき恐怖した。更にそれまでの世界のバランスを大きく崩した。その一方で篠ノ之束は世界の最重要人物として扱われ、貴様は後に最強のブリュンヒルデという生きる伝説となった。さぞいい気持ちだったろうな?」

千冬

「……」

一夏

「てめぇ…!それ以上千冬姉を侮辱したら本当に許さねぇぞ!」

M(DIS)

「…ではどうするのだ?お前が戦うか?つい先ほど無残に敗北したばかりのお前が?」

一夏

「…くっ…」

 

それが一夏自身不可能である事は感じていた。

 

M(DIS)

「ふふっ、だが安心しろ。白騎士の正体を知ったところで私はどうこうしよう等と思ってはいないさ。ましてや警察等に告発しよう等とも」

一夏

「…どういう事だ?」

 

するとMは言った。

 

M(DIS)

「……織斑一夏、貴様は先ほど聞いたな?何故私が貴様達を狙うのかと。ではひとつだけ教えてやろう。私が貴様達を狙う理由のひとつ、それは……この手で織斑千冬を倒し、世界最強のIS操縦者になる事」

千冬

「…!」

一夏

「な、何だって…?世界最強のIS操縦者!?」

M(DIS)

「そうだ。織斑千冬を超える戦士。私はそうなるために生まれてきた。……だがそれは……四年前のあの日…」

 

Mは何か言いたそうだが黙ってしまう。

 

一夏

「…なんだよ、何が言いたいんだ!」

M(DIS)

「……御託は終わりだ。織斑千冬、貴様は私が倒す!そして世界最強のIS操縦者となる!そしてその後は貴様だ織斑一夏!私という存在を証明するためにな!」

千冬

「……」

一夏

(こいつの言っている事…まるで前のラウラみたいだ…。じゃあこいつもドイツの?…いやそれは無いか…。ラウラもこいつの事は知らなかったみたいだし。じゃあ一体Mの正体って…。それにそもそも俺達とMがどう関わってるんだ?俺は本当にMに会った事はない。でも千冬姉はMの事を知っている。…どういう事なんだ千冬姉…)

千冬

「……」

M(DIS)

「さぁ、伝説のブリュンヒルデ。いや救世主よ。勝負の再開といこうか」

千冬

「……」

M(DIS)

「どうした?雪片が折れた事がそんなに堪えたか、それとも弟に正体がバレた事か。貴様の心はそんなに貧弱なのか?」

 

黙ったままの千冬にMは辛辣な言葉を浴びせ続ける……。

 

千冬

「…………ふ」

M(DIS)

「……?」

千冬

「ふふふ……」

一夏

「え?」

千冬

「ふははははははは!あはははははははは!」

 

すると突然千冬が笑い始めた。それは本当に面白そうに。

 

一夏

「! ち、千冬姉?」

 

一夏は困惑していた。千冬がこれ程までに大笑いするのは本当に珍しい。

 

千冬

「私を倒して世界一のIS操者を証明するだと?あはははははははは!」

M(DIS)

「何を笑っている。気でも狂ったか?」

千冬

「ククク…いやいや、すまん。…だがそれは違うな。寧ろ気が狂っているのはお前の方かと言ってやりたい位だ。私を倒した位で最強になれると本気で思っているのか?」

M(DIS)

「…何だと!?」

 

その言葉にMはやや動揺しているが千冬はまるで気に留めてない。

 

千冬

「まぁそれは今はさておき……。おい小娘、随分なめてくれるものだな。私が白騎士であった事を一夏に知られてショックか、だと?……構わんよ。どうせ何時かわかる事。寧ろ遅すぎた位だ。ただ私が直接話すつもりだったがな」

一夏

「千冬姉…。じゃあ、Mの奴が言ったことは…」

 

千冬は一夏に答える。

 

千冬

「…一夏、今まで黙っていてすまなかった。…全てはあいつの言う通りだ。確かに私は10年前、束と共に白騎士事件を起こした。白騎士の操縦者として。…あいつを放っておけなかったのだ。お前も話だけは知っているだろう?ISを馬鹿にされた当時のあいつの状態を。…本当に酷いものだったよ。数多くの罵詈雑言を浴びせられ、怒りに支配されたあいつの姿はな。だがそんな事は言い訳になりはしない。私はあいつを止められなかった。ただただ従った。結果多くの人々にぬぐい切れないほどの恐怖を与えた。だがその時の私にはどうやって償えば良いのかわからなかった。素直に自首しようとも考えた。しかしまだ小さいお前を置いてそれが出来なかった。私自身もまだ10代半ばの学生だったし、両親もいなかったからな…」

一夏

「…千冬姉…」

M(DIS)

「……」

千冬

「それから本当に間もなくしてISの貴重性、重要性が世界に爆発的に広がった。兵器開発者の間で束はある種神的存在となった。あいつをあざけ笑った者達も掌を返してあいつにIS開発の助力を求めた。世界は一気にIS一辺倒となり、更に動かせる者は女しかいないという事から女尊男卑というアンバランスを生み出した。しかも白騎士を救世主扱いする者も出始めた。…全くふざけた話だ。多くの人々を恐怖に陥れた罪人が神とか救世主とか呼ばれるとはな」

M(DIS)

「そうだ。貴様は救世主等ではない。篠ノ之束と並ぶ歴史に名を刻む大罪人だ」

一夏

「…そんな、千冬姉も束さんもそんなんじゃ」

千冬

「…ありがとう一夏。でもいいんだ。間違ってはいない。……しかしな一夏。お前も知ってる通りあいつは、束は変わった。あいつを信じてくれた人達が変えてくれた。そして自分ができる事で少しでも償いたいと思ったんだ。例えどんなに些細な事でもやらないよりはやった方が良いと。それからのあいつはどこか楽しそうだった。そして私はそんなあいつが…羨ましかった」

一夏

「ち、千冬姉が束さんを羨ましいって…。酸性雨でも降らなきゃいいけど…」

千冬

「そんなあいつを見続けている内に思ったのだ…。世界をこんな風にしてしまった者として、私も何かしなければならないと。そして私は決めた。私の…大切な者達を守るために戦おうと。お前や篠ノ之、あいつらや生徒達。真耶や叔母さん…。そして…私にそう気づかせてくれたあいつらを…守るため。10年前とは違う守護の剣になろうとな」

 

隠れてはいたが千冬の目は迷い無き目をしていた。

 

一夏

「…千冬姉…」

千冬

「それからな、よく聞け小娘。私の雪片が折れた事だが……構わん」

M(DIS)

「…何だと?」

千冬

「構わんと言ったんだ…。お前の言う通りさ。形あるものは何時か滅ぶ。今度は私の雪片の番だった。それだけだ。どんな名刀も使い続ければやがて折れるもの。そして剣は戦で死ぬのが本望。ずっと眠っていたこいつも華やかに散って喜んでいるだろうさ。寧ろこいつに謝りたい位だ。私の未熟さがお前を散らせてしまったとな…」

一夏

(…そうか。…千冬姉が折れた雪片を見てて何も言わなかったのは…きっと雪片に…)

千冬

「…一夏、これで雪片を持つ者は世界でお前ひとりとなった。…大事にしてやれよ」

一夏

「! あ、ああ!もちろんだ!」

千冬

「…マドカ。お前の言った通り私の行った事は消え去る事は無い。きっと私が生きている間も。…だが私は止まらない。例えどんなに些細でも、私は自分ができる事をする。それが戦う事ならば私は戦う。私の大切なものを守るために」

 

千冬はそういうと再びMに向き直り、

 

千冬

「そしてマドカ。お前は私が止める。そして救ってやる!それが…私がお前に対してできる事だ!」

M(DIS)

「!! 私を…救うだと…!?……ふざけた事を抜かすな!!」ジャキッ!

 

Mは再び剣を千冬に向けて構える。

 

M(DIS)

「貴様がどう考えようと私にはどうでもいい!そして私が救われるとすれば…それは貴様らを倒した時だ!」ドンッ!!

 

Mは千冬に向かって加速する。一方の雪片を失った千冬は無防備だ。

 

一夏

「千冬姉!!」

M(DIS)

「いかに貴様が強くとも武器が無ければ相手にならんわ!くたばれぇぇ!!」

 

Mは何も持たない千冬に襲い掛かる。

 

千冬

(……さらばだ雪片()よ。今まで私に力を貸してくれた事心から感謝する。安らかに眠ってくれ。……そして)カッ!

 

 

ガキィィィィィィンッ!

 

 

Mの剣が何かに妨げられた。

 

M(DIS)

「何!?……!」

一夏

「…あれは!」

千冬

「お前の意志は…この剣が受け継ぐ!」

 

千冬の手には海之から託されたあの剣があった。

 

一夏

「あの剣は海之の!」

M(DIS)

「雪片ではない?…なんだその剣は!」

千冬

「力を貸してもらうぞ、…レッド・クイーン!」ドゥルルルルンッ!

 

千冬はレッド・クイーンのグリップを捻った。

 

千冬

「はあぁぁぁぁぁぁ!!」

M(DIS)

「!!」

 

ガキィィィィィィンッ!!

 

千冬はMの剣を押し返す。更にそのままMに飛びかかる。

 

ドゥルルルンッ!…ゴオォォォォォォォォ!!

 

千冬が再度グリップを捻るとレッド・クイーンの機関部らしき部分からジェット噴射のごとく凄まじい火炎が噴出した。そしてそのまま上段から剣を下向きに構えて振り下ろす。

 

千冬

「おおおおおおお!!」

M(DIS)

「ちっ!」

 

ガキィィィィィィンッ!!

 

Mは千冬の振り下ろしたそれを左腕の盾で受け止めるがその剣圧に足が地面にめり込む。

 

…ズンッ!

 

M(DIS)

「ぐぅっ!?腕が震える!なんて衝撃だ!」

千冬

「こいつは結構な暴れ馬でな。最初は両手でやっとだったが最近漸く片手で使いこなせる様になった」

M(DIS)

「貴様が使いこなせない程のものだと!?」

 

補足情報であるが海之が託され、今は千冬が継いだこのレッド・クイーンは嘗ての持ち主の意向で出力を極限まで高める「イクシード」という機構が搭載されている。生半可な者が持てば逆に剣に振り回されてしまうだろう。実際千冬もレッド・クイーンの鍛錬を始めたばかりの頃は両手でもやっとだった。

 

千冬

「…お前は先ほど言ったな?私を倒して最強を証明すると。ではこちらもひとついいことを教えてやる。この剣の前の持ち主は海之というお前が完敗した火影の兄だ。そして…海之は私を地に伏せさせた。お互い打鉄での真剣勝負でな」

M(DIS)

「何だと!?」

一夏

「! 海之が…千冬姉に…勝った…!しかも同じ打鉄で!………で、でも、確かにあいつの腕なら…。そして多分、海之と互角の火影も…」

 

千冬の言葉にMも一夏も共に衝撃を受けるがふたりの強さを知っている一夏は少なからず納得できている様だ。

 

千冬

「だから言ったろう?私を倒しても最強にはなれんと。そして私相手に手こずっている様ではお前はあいつらには勝てん!はぁぁぁぁ!」

M(DIS)

「ぐぅっ!!」

 

ドガァァァンッ!

 

レッド・クイーンのパワーに押されたMは堪らず距離をとる。振り下ろされた剣は地面に激突して深い傷と小規模の爆発を作った。

 

千冬

「逃がさん!」ドンッ!

M(DIS)

「何!?」

 

千冬は刀身が炎で真っ赤になったレッド・クイーンを構えたまま突進。

 

千冬

「でぇぇやぁぁぁ!!」

 

ズガァァンッ!ズガァァンッ!ドガァァァンッ!

 

M(DIS)

「ぐああああああ!!」

 

Mに向かって炎の斬撃の連打を浴びせた。

 

M(DIS)

「ぐぐ…、おのれ…!」

一夏

「…すげぇ…。千冬姉も勿論だけどあの剣のパワーも並みじゃねぇ」

千冬

「先ほど迄の勢いはどうした!」

M(DIS)

「…ぐぅっ!ならばこれを受けてみるがいい!」ギュゥゥゥゥゥンッ!

 

Mは再び自らの剣にオーラを纏わせ、零落闇夜を起動させる気の様だ。すると、

 

キュイィィィィィンッ!

 

千冬もまた、レッド・クイーンを構えると同時に自らの零落白夜を起動させるのだった。

 

M(DIS)

「…貴様!まさかその剣でも!?」

千冬

「言った筈だ。こいつを使いこなせるのに時間がかかったと。そしてこうも言った筈だ。雪片の意志はこいつが受け継ぐとな」

M(DIS)

「…いいだろう!ならばその剣も貴様の雪片と同じく叩き折ってくれるわ!」ドンッ!

 

Mは零落闇夜を発動すると同時に加速した。すると、

 

千冬

「させん!」ドンッ!

M(DIS)

「!!」

 

その時、千冬もMの目前まで加速し、零落白夜で一気に斬りかかった。

 

ガキィィィィィンッ!ガガガガガガガガッ!

 

千冬の零落白夜とMの零落暗夜がぶつかり合うが即座に対応せざるを得なかったMがやや押され気味になる。

 

M(DIS)

「ぐっ!しまった!」

千冬

「やはりな。先ほども今も、お前の瞬間移動は発動する前にほんの少しの溜めがいるのだ。その証拠が姿が消える前のあの加速だ。それを見抜けば対応は可能だ!」

 

ドォォォォォォンッ!

 

M(DIS)

「うあああああ!」

 

Mは千冬のパワーに押され、吹っ飛ばされた。

 

千冬

「安心しろ。手加減してやっている」

M(DIS)

「ぐ、くくく…。まさか、私の瞬間移動が見破られるとは…!」

千冬

「更に加えて言えば瞬間移動は火影のもので何度も見ているんでな。最もあいつのそれは溜め等いらん故、未だにタイミングが掴めん。…それより立て。お前の力はそんなものではないだろう?マドカ」

M(DIS)

「またその名を呼んだな!」

千冬

「お前だけの名前だからな。名前はその者の存在を示すものだ。大事にしろ」

M(DIS)

「どの顔して私に命令している!…貴様があの様な事さえしなければ…私は、私達は!」

 

表情は伺えないが声の感じからしてMの声にはどこか悲痛なものが含まれていた事を千冬は感じ取った。

 

千冬

「海之の言葉を借りる様で悪いが私もお前に伝えよう。お前の怒りを、憎しみを私にぶつけて来い!全て受け止めてやろう!」

M(DIS)

「!……いいだろう!受け止めきれるものならばな!」

 

千冬にMは再度向かっていく。それに対して千冬も再び剣を構える。

 

一夏

「千冬姉…!」

(……ちっくしょう。俺は、俺は見てるだけしかできないのかよ。何もできないのかよ…!)

 

ガキィィィィンッ!ギィィィンッ!

 

M(DIS)

「くそっ!盾でも奴の剣圧を受け止めきれない!」

千冬

「先ほどまでと違い防戦一方になっているぞ!」

M(DIS)

「くっ!」

一夏

(俺は…俺は何時も千冬姉に迷惑かけてばかりだ…。千冬姉は10年前からずっとひとりで苦しんできたんだ…。俺にも誰にも話さず、いや話せなかったんだ。俺を巻き込まない様に。…凄い重圧を受け続けてたにも関わらず、ずっと俺を守ってくれた。4年前のあの時も、そして今も守ってくれてる…)

 

ガキィィンッ!ガンッ!キィィンッ!!

 

千冬

「どうした!あんな死ぬような思いをしてまで強くなったのだろう!なのにその程度か!」

M(DIS)

「煩い!」

 

目の前で繰り広げられる千冬とMの戦い。それを見ていた一夏の心にある想いが生まれた。

 

一夏

(俺にも…俺にも戦える力があれば…。千冬姉の様に、火影や海之の様に…誰かを守れる様な、そんな強い力があれば…)

千冬

「でやぁぁぁぁぁぁぁ!」

M(DIS)

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

その時一夏は強く願った…。

 

 

一夏

(……強くなりたい…。俺ももっと強い力が欲しい!守れる力が…、戦える力が欲しい!!)

 

 

そう心から強く願った…。

 

 

 

(……貴方は力を望みますか?)

 

 

 

一夏

「……えっ?」

 

その時、突然一夏に聞こえた謎の声。一夏は周りを見たが誰もいない。千冬やMが言ったわけでは無い。箒達はアンジェロ達の迎撃に行っているのでいない。だが声ははっきりと聞こえた。まるですぐ傍にいる様に。

 

(力を望みますか?)

一夏

「な、なんだ!誰だ!一体どこから!?」

(私が何者かはどうでも良い事です。…貴方の望みを叶えましょう)

一夏

「…え?俺の…望み?」

(そうです。貴方は力を望みますか?)

一夏

「……力、だって?」

 

一夏は反応する。

 

(そうです。貴方の大切なものを守るために、そして戦うために、力を望みますか?)

一夏

「…それを望めば俺も戦えるのか?」

 

一夏の問いかけに声は応える。

 

(はい。私の声に答えていただければ…貴方は力を手に入れられます。どんな者にも負けない、救世主の力が…)

一夏

「…救世主の…力!」

 

この時一夏はやや冷静さを失っていた。自分も何かやりたいと思った。このまま何もせずにいるのは嫌だった。千冬の力になりたかった。火影や海之の様に強くなりたかった。敵を倒したかった。そんな時に聞いた救世主の力という言葉。………一夏は心を決めた。

 

(もう一度問います。貴方は力を望みますか?)

一夏

「………ああ。力が欲しい。皆や千冬姉を助ける力が、戦える力が、誰にも負けない強い力が欲しい!!」

 

一夏ははっきりその声に答えた。

 

(良いでしょう。貴方に力を授けましょう。……DNSの力を…)

一夏

(…D…N…S…!)

 

すると一夏の白式のインターフェースにあの文字が浮かび上がった。それは…

 

 

ーDreadnoughtsystem 起動ー

 

 

一夏

「……ドレ…ッド、ノート…システム?……!!」

 

 

ゴォォォォォォォォォォォォォォ!!

 

 

すると一夏の身体が白式ごと、あの黒い炎に包まれた。

 

一夏

「ぐ、ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

千冬・M

「「!!」」

 

炎に焼かれ、絶叫を上げる一夏。彼の悲鳴に驚いた千冬とMは思わず戦闘を中断し、一夏の方を見る。

 

一夏

「ああああああああああああああ!!」

千冬

「い、一夏!?」

M(DIS)

「! DNSだと!?何故奴が、いや白式に搭載されている!?」

 

予想もしていなかった出来事に驚きを隠せない千冬とM。

 

一夏

「熱い!!熱いぃぃぃぃぃ!!」

千冬

「一夏!白式を強制解除しろ!!」

 

一夏は苦しみのあまり激しく動き回る。千冬は訴えるが炎に苦しむ一夏の耳には届かない。

 

千冬

「くっ!炎の勢いが強すぎて近づけない!」

M(DIS)

「何故、…何故奴が…」

 

千冬は無理やり白式を解除しようとするが近づけない。Mは呆然としている。

 

一夏

「ああああああああああああああ!!」

 

やがて…、

 

 

シュバァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

千冬

「くっ!一夏!」

M(DIS)

「ぐっ!?」

 

強い光が一夏と白式を覆っていた黒い炎が払った。

 

千冬

「くっ…い、一夏!だいじょ……!!」

M(DIS)

「…何、だと…!?」

 

そこにはこれまでと同じく違うISがいた。だが、

 

千冬

「ば、馬鹿な。……アレは!」

「何故、何故あのISが!?」

 

その姿を見た千冬とMは非常に驚いていた…。

 

 

…………

 

???

 

オーガス

「……クククク、ついに起動したか。こんなにあっさり上手くいくとは…。それだけ力への欲望が強かった、という訳か。全くやはり人間とは愚かな存在よ…」

 

話の内容からして白式のDNSもオーガスの仕業の様であった。

 

オーガス

「そしてやはり織斑一夏のISにはアレのコアが使われていたのだな。奴のISについて調べていた時、よもやと思ったのだが…どうやら当たりだった様だ。あとは全てのコア情報を知っている篠ノ之束にDNSのプログラムデータをコアに送りこませれば良いだけ……」

 

オーガスは自分の考えが当たっていた事に満足している様子。

 

オーガス

「さぁ貴様の望みのままに存分にその力を振るうが良い。ふっふっふっふ……」




声に誘われるままDNSを使ってしまった一夏。果たして一夏の変化した姿とは…?

※次回は20日(土)の予定です。



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Mission148 救世主出現……?

「織斑千冬こそ10年前の白騎士事件の犯人のひとり、白騎士だ!!」

Mの口から聞かされた衝撃の真実。一夏は激しく動揺するがMは千冬を責める口を止めず、更に自分の目的は千冬をも超える最強のIS操縦者になる事だと打ち明けるのだった。
その時、今まで黙っていた千冬が突如大笑い。自身が白騎士である事を素直に認めると同時に、束同様自分もできる事をするつもりであると宣言。折れた雪片の意志を継ぐとして海之のレッド・クイーンを展開。自身の技と剣のパワーで一気に形成を逆転する。そんな千冬の戦いを見ていた一夏の心には「自分も戦いたい」「力が欲しい」という強い願望が渦巻いていた。……その時、一夏の耳にあの声が響く。

「貴方は力を望みますか?…救世主の力を望みますか?」

声に誘われるまま、一夏は答えてしまうのだった……。


千冬

「ば、馬鹿な…アレは!?」

M(DIS)

「何故…何故あのISが…!?」

 

一夏を覆っていた黒い炎が激しい閃光によって払われ、その下にあった存在が姿を現した。そこにいたのは白式とは違う別の白いIS。白式と違って胸部も覆われた全身装甲で、その姿は白式よりもかなり細身である。機体背部には大型のスラスター。手には雪片とは違う大型のブレードがあった。

 

一夏

「ハァ…ハァ…ハァ。……これが……俺の新しい力」

 

聞こえてくる声は一夏のものであった。

 

千冬

「! い、一夏!お前か!?」

一夏

「…ああ、俺は大丈夫だ。……それより千冬姉」

M(DIS)

「…うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」ドンッ!

 

するとその時、Mが千冬の横を通り越して変化した一夏に向かってきた。

 

千冬

「! しまった!」

M(DIS)

「くたばれぇぇぇ!織斑一夏ぁぁぁぁ!」ブンッ!

 

激しい怒りのままMは自らの剣を変化した一夏に振るう。…しかし、

 

ガキィィィィンッ!

 

千冬

「!」

M(DIS)

「何!?」

 

Mが全力で振るったその剣は一夏のブレードで受け止められていた。しかも片手で。

 

一夏

「…軽い…」

M(DIS)

「くっ!うおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

怒りの感情に支配されているらしいMは黒騎士のランスも展開して二刀流での怒涛の攻撃を繰り出す。しかしそれを一夏は手に持つブレードで全て受け止める。

 

ガキンッ!ガキィィンッ!キンッ!キィィンッ!……キィィィンッ!

 

M(DIS)

「ハァ、ハァ、ハァ、…く、くそ!」

一夏

「……見える、見えるぞ、こいつの動きが全て!これが救世主の力。これが……「白騎士」の力!」

 

そう。一夏の変化した姿を見た千冬、そしてMが過剰に驚いた理由。それは一夏の変化した姿が全ての始まりとなったIS、千冬が使っていた白騎士だったからだ。

 

千冬

(やはりあれは白騎士…!しかしあれは明らかにDNSの力で変化したもの。DNSは本来、あいつらの世界の者達に変化する筈。それが何故白騎士に…!?)

M(DIS)

「くっ!ならば距離をとって!」ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!

 

Mは一夏から離れて雷弾を撃つ。

 

一夏

「…これも見える!」

 

シュンッ!シュンッ!シュンッ!

 

だがこれも一夏は無駄のない動きで避ける。

 

一夏

「どうした?さっきまで偉そうにしてたお前の力はそんなもんか?」

M(DIS)

「ば、馬鹿な!」

 

一夏の動きにMが驚く。……しかし千冬の反応はMとは違っていた。

 

千冬

(………おかしい。いかに白騎士とはいえ今の一夏にあの様な見事な動きができる筈は…)「い、いや今はそれよりも一夏、離れてろ!お前は手を出すな!」

 

千冬は一夏に下がれと命令する。しかし、

 

一夏

「大丈夫だ千冬姉!俺が戦う!俺にやらせてくれ!」

千冬

「無茶だ!今のお前では」

一夏

「俺も戦いたいんだ!千冬姉や火影や海之の様に!もう守られてばかりじゃ嫌なんだ!」

千冬

「一夏!」

M(DIS)

「く…戦いの途中で呑気に話すとは随分余裕ぶってくれるじゃないか!では、これでどうだ!」ドンッ!

 

Mは再びランスを構え一夏に突進した。

 

千冬

「まずい!あの動きは!」

 

シュンッ!

 

それは一夏を驚かせた瞬間移動だった。それによってMは瞬時に移動し、

 

M(DIS)

「貴様のこの動きが見切れるか!食らえ!!」

 

Mは一夏の真後ろから襲い掛かった。……しかし、

 

ブンッ!

 

M(DIS)

「!!」

 

Mが振り下ろした剣は空しく空を切った。

 

M(DIS)

「な、何処だ!」

一夏

「後ろだ!」

M(DIS)

「何!」ザンッ!!「ああああああ!!」

 

一夏は今の一瞬でMの後ろにブリンク・イグニッションで移動していた。そのスピードは白式の比では無かった。後ろに付いた一夏はブレードの二刀流で素早く攻撃した。

 

一夏

「どうした!居眠りでもしてたのか!?」

M(DIS)

「ぐっ!馬鹿な…、貴様如きが私の背後をとるなど…!」

千冬

(…やはり、やはり何か違う。あんなスピード一夏には…)

一夏

「おいお前、今まで随分言いたい放題言ってくれたな。俺は弱いんじゃないのか?なら何でお前はそんな弱い俺相手にそんなになってるんだ?お前の方が強いなら俺なんて簡単に倒せるんじゃないのか!?」

M(DIS)

「くっ、おのれぇぇぇl!」ドンッ!

 

Mは怒りに任せて剣とランスの二刀で攻撃する。しかし先ほどの千冬の時と同じく、全て一夏に受け止められる。

 

一夏

「おらぁぁぁぁ!」

 

ドゴオォォォッ!

 

M(DIS)

「ぐあああ!!」

 

一夏は隙を付いてMの横に蹴りを入れた。その衝撃でMが吹っ飛ぶ。

 

M(DIS)

「ぐぐぐ…よくも私を足蹴にして」

一夏

「そこだぁ!」

M(DIS)

「!!」

 

ギィィィィィィンッ!!

 

Mが姿勢を保つ間に一夏は接近していた。瞬時に斬りかかる一夏の剣に対し、Mは辛うじて盾を張って防ぐ。

 

一夏

「くっ!惜しい!」

M(DIS)

「いつまでも好き勝手にはさせると思うな!はぁぁぁ!」

 

ガキンッ!

 

Mは全力で手の剣を振るい、一夏を遠ざける。

 

一夏

「くそ!もう少しだったのに!だけどもう二度目は無いぜ!」

M(DIS)

「ハァ、ハァ…。多少強くなったとはいえ調子に乗るなよ!」

一夏

「煩い!二度目は無いぜ!今度こそ俺と白騎士で終わらせてやる!」

M(DIS)

「それはこちらの台詞だ!」ギュゥゥゥゥゥンッ!!

 

再びMの剣に黒きオーラが宿った。零落闇夜だ。

 

一夏

「俺はお前を許さねぇ!千冬姉や束さんをさんざん馬鹿にした罪を償わせてやる!」

 

すると一夏も二刀流から一刀流に戻し、剣を構えた。そして互いに突撃した。

 

千冬

「一夏!よせ!」

M(DIS)

「馬鹿め!零落白夜が使えなければ私の零落闇夜を止める術はない!沈めぇぇ!!」

 

Mは迫ってくる一夏目掛けて再び零落闇夜を向けた。…しかし、

 

……ブンッ!

 

M(DIS)

「!?」

 

Mの零落闇夜は先ほどの剣と同じく再び空を切った。

 

一夏

「遅いって言ってんだ!!」

 

ズガガガガガガガッ!

 

M(DIS)

「ぐああああああ!!」

 

バガァァァァァンッ!!

 

千冬

「!!」

 

Mの剣が振り下ろされる瞬間、一夏は再びブリンク・イグニッションで背後に付き、剣の連撃を浴びせた。その衝撃でMは勢いで激しく地面に激突した。

 

……キュゥゥゥゥゥン……

 

更にこれまでのダメージが蓄積していたのかMのDISが解除され、通常の黒騎士に戻ってしまう。

 

「ぐ、ぐぐぐ…、馬、鹿な…」

一夏

「年貢の納め時ってやつだな、M」

「貴様…!最初から撃ちあう気等無かったのだな!…卑怯な真似を!」

一夏

「卑怯?お前からそんな言葉が出るなんて思わなかったぜ!お前さっき言ってたよなぁ?勝負に卑怯もくそもない、勝てばそれで良いって。だから俺もそうさせてもらった。お前が俺ならきっとそうするだろうと勝手に思い込んでただけだ。それよりどうだ?自分よりも弱いと思っていた奴に見下される気分は?あの時の俺の気持ちは少しは理解したか!」

「…黙れ!!」

千冬

「……?」

 

この時千冬は一夏にいつもとは違う何かを感じていた。

 

一夏

「……だけどなぁM。俺はお前を許すつもりはねぇ。俺だけじゃなく千冬姉や束さんを散々馬鹿にし、更に千冬姉の大事な雪片まで折った。もっと言えば学園祭の時に火影が腕を切ったのも半分はお前のせいだ。お前は多くの罪を犯した。そんなお前に千冬姉や束さんを犯罪者呼ばわりする権利はねぇ!お前の過去に何があったのかは知らねぇ。でも俺にはそんな事どうでもいいし関係ない!」

 

一夏の心は激しい怒りと憎しみに支配されていた。家族や仲間を傷つけたMに対して。

 

一夏

「どうした!這い蹲ってないでさっさと立てよ!えらそうな事言ってた割にはそんなもんか!?そんなんで世界最強のIS操縦者になりたいなんて聞いて呆れるぜ!」

「ぐぐっ…黙、れぇ!」

千冬

「一夏…お前…?」

 

一夏の挑発にMは立ち上がろうとするがダメージが大きいのか上手くいかない。

 

一夏

「…立てないなら、これで終わらせてやらぁ!!」ドンッ!

 

すると一夏は剣を構え、未だ立てないM目掛けて突進した。

 

千冬

「! 一夏待てっ!!」

「ぐ、ぐぐ…!」

一夏

「覚えておけM!これが俺の力だ!お前が蔑んだ俺の力だ!この力があればもう俺は」

 

 

 

ドクンッ

 

 

 

一夏

「…………え?」

 

その時、一夏に不思議な感覚があった。

 

……ドクンッ……ドクンッ……

 

何かの脈動みたいな音が聞こえる気がする。自分のものとは思えない。だが耳元で聞こえた位それははっきりと感じた。そして、

 

「…ツカマエタ」

一夏

「…!!」

 

聞くだけでぞっとするような声。その瞬間一夏の視界が一瞬にして閉ざされ、意識が急速に遠のいていった……。

 

 

…………

 

一夏

「…………………ん……!!」

 

そして気が付いた時、一夏は妙な場所にいた。周りは全く自分の身体さえも何も見えない真っ暗闇。そこが今までに自分がいた場所で無い事はすぐにわかった。

 

一夏

「な…なんだここは!?俺はさっきまでMを…!Mは!?千冬姉は!?おいふたり共!どこにいる!」

 

………だが返事は無い。気配も無い。突然の事態に一夏は慌てる。

 

一夏

「一体…一体何が」……シュルシュル……「!!」

 

足元に妙な感覚がある気がして見た一夏は驚いた。真っ黒い何かが足元から這い上がってくる。周りは一切の闇なのにそこだけはもっと深く黒い、漆黒の何かが纏わりついてくる。それはゆっくりと足元から上に上にと上がってくる。

 

……シュルシュルシュル……

 

一夏

「な、なんだこれは!?…やめろ!来るな!!」

 

一夏は払おうとするがその闇は足元からやがて一夏の顔周辺まで上がってくる。

 

……シュルシュルシュルシュル……

 

一夏

「い、嫌だ!やめろ!やめろ!」

 

悲鳴を上げる一夏。そんな一夏の耳元に先ほどと同じ声が聞こえた。先ほどよりもはっきりと。声は言った。

 

「…恐れることは無い。ただ受け入れるのだ」

一夏

「! な、なんなんだ!アンタ誰だ!?」

「我が弱さから救ってやろう。……そして委ねるが良い。力という魔力にな!!」

一夏

「~~~~~~~~~~~~~~!!」

 

やがて闇は一夏の全身を覆った。それと同時に一夏の意識は再び薄れていった……。

 

 

…………

 

オーガス

「これで余興の準備はできた…。……わかっているぞ?貴様達もじわじわ近づいていると。早く来ないと大事なお友達がどうなるかわからんぞ?……クククク」

 

 

…………

 

一夏

「………」

千冬

「…な、何だ…?」

「…?」

 

今までの激しさが嘘のように静まった一夏。腕はだらんと垂れ下がり、まるで魂が抜けたかのように力が無い。

 

千冬

「…一夏?…おい!」

一夏

「………」

 

千冬の声掛けにも一夏の返事は無い。

 

「貴様…相手にする気も失せたというのか!ふざけるなぁ!!」ドンッ!

千冬

「! しまった!」ドンッ!

 

自分が相手にもされなくなったと思い込んだMは沈黙している一夏に襲い掛かる。千冬も追いかけるが間に合わない。

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

千冬

「一夏避けろぉ!」

 

Mは全力で黒焔を一夏の頭部目掛けて振るう。……しかし、

 

…パシッ!

 

M・千冬

「「!!」」

 

Mの一撃は届かなかった。Mの剣は一夏のブレードどころか、片手で掴まれて止められたのである。いかにMが消耗しているとはいえ、こんな簡単に止められる事はMにも千冬にも予想外だった。Mは剣を引きはがそうとするががっしりと掴まれて離せない。そして、

 

 

……ギュンッ!!

 

 

白騎士の目に当たる部分が真っ赤に光った。

 

一夏?

「……グオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

一夏は突然獣の如き咆哮を上げた。

 

千冬

「い、一夏!?」

「なんだ!一体何が起こって」ドゴオォォォッ!!「ぐああああ!!」

 

驚いているMの横から一夏のもう片方のパンチが入った。その衝撃でMは黒焔から手を放してしまう。そして、

 

ドゴォォォォォッ!!

 

「ぐああああああ!!」…バガァァァァァン!!

 

更にそのまま一夏はMから奪った黒焔でこん棒の如く殴りつけた。ISの武器は本来登録しないと使えないが武器としてでなく物としてなら持つ事ができる。白騎士は奪った黒焔の刀身を持ちながらそのまま殴りつけたのだった。

 

千冬

「!!」

「ぐ、ぐぐ、…おの…れ!」

一夏?

「オォォォォォォォォォ!!」ドンッ!

 

ダメージに苦しむMに一夏は再び襲い掛かる。

 

「く!」シュンッ!

 

ドゴォォォォッ!

 

攻撃が届く前にMはその場から緊急回避。Mのいた壁に襲い掛かる直前だった黒焔が食い込む。

 

一夏?

「オオオオオォォォォォォォッ!!」

 

ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!…

 

攻撃がかわされた事に気付いていないのか怒りなのか、一夏は手の黒焔を壁に叩き続ける。はたから見たらそれは気が狂っている様にしか見えない。

 

「き、貴様!」ドゴォォォッ!「グボァ!!」

 

一夏は回避したMに黒焔を全力で投げつけた。それが顔面に命中し、Mは悲鳴を上げる。

 

一夏?

「グオオオオオオオオ!!」ドンッ!

 

苦しむMに対し、一夏は武器も持たずに向かってくる。殴りかかる気の様だ。

 

「ぐぐ…貴様ぁぁぁ!!」

 

ドゴォォォォォォッ!!

 

Mも拳を繰り出し、両者の拳がぶつかった。…しかし、

 

……バキィィィィィィンッ!

 

「ぐあぁぁぁ!!」

 

白騎士の拳が黒騎士の腕の装甲を破壊した。今までの蓄積されたダメージが爆発したのだろう。

 

ガシッ!ドドドドドドドドッ!!

 

更にMの腕を逃げられない様掴み、もう片方の手で激しく殴り続ける。シールドに守られているといえ、激しい攻撃に苦しむM。

 

一夏?

「グルアァァァァァッ!!」

「ぐっ、ぐぅぅぅぅ!!」

千冬

「…違う、あんな戦い方は一夏じゃない。…まさか、DNSに操られて!」

白騎士

「オォォォォォォォォォォ!!」

(※台詞、一夏から白騎士に変更)

 

ドゴォォォォォ!!

 

「ぐわぁぁぁぁぁ!!」……バガァァァァンッ!

 

痛みに苦しむMの側部に白騎士の回し蹴りが直撃した。吹っ飛んだMは壁に激しく打ち付けられた。

 

「がはっ!がふっ!」

 

~~~~~~~~~~~~!!

 

白騎士

「ゴアァァァァァァァァ!」

 

Mの黒騎士に危険領域を告げるアラームが響く。だがそれでも関係なく一夏が纏う白騎士はMに向かってくる。

 

ガキィィィンッ!…バキィィィン!

 

するとその時千冬が白騎士とMの間に入り、止めに入った。

 

白騎士

「グルゥゥゥゥゥアァァァァ…」

千冬

「やめろ一夏!これ以上の戦いは必要ない!」

「き、貴様。余計な…事をする、な!」

千冬

「そんな事を言ってる場合か!お前は下がっていろ!」

「貴様の指図は受けん!どけぇぇ!」ドンッ!

千冬

「!よせぇ!」

 

Mは庇った千冬を押しのけて再び攻撃を仕掛けようとするが、

 

「うおぉぉぉぉぉ!!」

白騎士

「ガァァァァァァ!!」

 

ドゴォォォォォォッ!!

 

「ああああああああ!!」

 

…ズドォォォォォォォンッ!……キュイィィィィン……。

 

届く前に逆に簡単に払いのけられ、そのまま地面に激突してしまう。それと同時にダメージが限界を迎えたのだろう黒騎士は強制解除されてしまった。Mは力無く地面に倒れこむ。

 

「ごふっ!…あ、あ、ぐぐ…」

千冬

「マドカ!」

 

すると白騎士はもうMには目をくれなくなったのか、今度は千冬に向かっていく。その姿は最早騎士という誠実な者ではなく、目に映るもの全てを破壊する破壊者だった。

 

白騎士

「オォォォォォォォォ!!」

千冬

「くっ!一夏目を覚ませ!」

 

ヴゥゥゥゥゥンッ!

 

すると突然Mの隣に転移が発生し、中からスコールが現れた。

 

千冬

「! あいつは!」

「ス、スコー…ル…!」

スコール

「M!大丈夫!?逃げるわよ!」

「は、離、せ!や、奴、は…私の獲物…だ!」

スコール

「そんな身体で何ができるっていうの!貴女には死んでもらうわけにはいかない!」

千冬

「ぐっ!…おいお前!早くマドカを連れて逃げろ!」

スコール

「!…貴女」

千冬

「マドカを死なせるな!」

スコール

「…………ごめんなさい」

「離せ…離せぇぇぇぇ!!」

 

ヴゥゥゥゥゥンッ!

 

千冬が戦っている間にスコールはまだ戦おうとするMを連れ、転移した。それを見届けて千冬は白騎士と距離をとる。

 

白騎士

「グゥゥゥゥゥゥ…」

千冬

(とりあえずマドカは大丈夫だな…。武装はお互い剣のみ。戦ってみて思ったが今のあいつの戦い方は正に獣。技とスピードは私の方がまだ利。だが基本パワーと残存SE量では奴の方が上か…。しかもあれの中には一夏がいる。なんとか一夏を引きずり出さねば…)

 

とその時、

 

「「千冬さん!」」

「「「織斑先生!!」」」

千冬

「!!」

 

突然自分を呼ぶ声に千冬は目を向ける。すると先ほどまで戦っていた箒達が戻ってきた。

 

ラウラ

「教官!」

シャル

「先生!」

「千冬さん!一夏は!?」

千冬

「お前達!来るんじゃない!!」

 

千冬は箒達に来ない様大声で伝えるが、

 

白騎士

「ゴアァァァァァァァ!!」ドゥンッ!!

 

素早く白騎士は彼女達に向かっていく。

 

千冬

「! あいつまさか…お前達逃げろ!!」

 

千冬は一夏が、白騎士が箒達に襲い掛かると思った。そしてその予想は当たった。

 

白騎士

「グアァァァァァァァァ!!」

ラウラ

「! くっ!」

 

ガキキキキキキキッ!!

 

白騎士は彼女達に斬りかかった。ラウラが前に出て対物シールドで受け止めるがそのパワーに押される。

 

セシリア

「ラウラさん!」

ラウラ

「ぐぅぅっ!」

「ラウラ!くっ!」

 

箒はその横から雨月で斬りかかる。しかし、

 

ブンッ!

 

箒の剣は空を切った。

 

「!」

ラウラ

「な!どこだ!?」

「ラウラ!箒!上!」

箒・ラウラ

「「え!?」」ザンッ!ザンッ!「「うわああああ!!」」

 

白騎士は箒とラウラの真上から襲い掛かって斬った。

 

シャル

「箒!ラウラ!」

「アンタよくもぉ!!」

 

今度は鈴が双天牙月で全力で斬りかかる。

 

ガキィィィィィンッ!!

 

「!…こんのぉぉぉぉ!!」

 

それは白騎士のブレードで受け止められた。負けじと鈴は再び斬りかかるがそれも全て受け止められる。

 

ガキィィィィンッ!

 

「くっ!なんて簡単に受け止めんのよ!そんなのは火影と海之で十分よ!」

セシリア

「鈴さんどいてくださいまし!」

「同時にいくよ!」

シャル

「うん!」

 

ズドドドドドドドッ!!

 

三方からセシリア・簪・シャルの射撃が一斉に白騎士に向かった。

 

ズドォォォォォォォンッ!!

 

攻撃がぶつかり、爆炎を起こした。

 

「ど、どうなったの…?」

セシリア

「わかりませんわ…。当たった様に思えますけど…」

シャル

「……」

 

三人が煙を見ていたその時、

 

ザンッ!

 

「きゃああああ!」

セシリア

「簪さん!?」ザンッ!「きゃああああ!」

シャル

「セシリア!」ズガンッ!「うわああああ!」

ラウラ・箒・鈴

「「「簪(セシリア又はシャル)!!」」」

 

シャルの後ろに白騎士がいた。ブリンク・イグニッションで先ほどの攻撃をよけ、そのまま襲い掛かった様であった。

 

ラウラ

「鈴!三人を頼む!」

「私達が引き付ける!」

 

ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!

ブンッ!ズドドドドドッ!

シュンッ!シュンッ!

 

ラウラはレール砲で、箒は刀による衝撃波で白騎士に繰り出すがそれを全て避ける。

 

「くっ!なんてスピードだ!先のアンジェロ達を超えるぞ!」

ラウラ

「ならばアルテミスで!」

千冬

「待て!」

 

その時千冬が合流してきた。

 

千冬

「お前達は手を出すな!」

「千冬さん!」

ラウラ

「教官!一体あれは!?」

 

とそこに鈴達も合流してきた。

 

「つ、疲れたわ…」

千冬

「オルコット、デュノア、更識。無事か?」

「は、はい。なんとか…」

セシリア

「私も大丈夫ですわ。…先生、一体あれはなんなのですか!?」

シャル

「僕達さっき一夏がMを倒したっていうのは聞いたんですけど…」

 

すると千冬は皆に話した。

 

千冬

「簡単に言うぞ。…アレは10年前の白騎士事件で使われたIS、白騎士だ」

シャル

「! あれが…白騎士!?」

千冬

「ああ。そしてアレを動かしているのは一夏だ」

「!!」

セシリア

「い、一夏さんが白騎士を!?」

「で、でも千冬さん!一夏ならなんで私達に向かってくるんですか!?」

千冬

「それについては後で説明してやる!お前達は離れていろ!あいつは私がやる!」

「で、でもあれには一夏がいるんじゃ!」

千冬

「だとしてもだ!今の一夏にははっきり言って敵味方の区別がついていない!油断すればお前達がやられるぞ!」

セシリア

「そ、そんな…!」

「一夏!」ドンッ!

 

すると箒が白騎士に近づく。

 

「箒!」

「一夏!私だ!わかるよな!?」

 

箒は目の前にいる白騎士を纏う一夏に訴えるが、

 

白騎士

「…グオォォォォォォォ!」

「!!」

 

しかしそんな箒の声も空しく白騎士は箒に襲い掛かる。

 

ガキィィィィンッ!…ギリギリギリ…

 

するとその瞬間、千冬が箒を庇うように間に割って入った。

 

「! 千冬さん!」

千冬

「馬鹿者!何をやっている!斬られたいのか!?」

「で、でも一夏が…」

千冬

「いいから下がっていろ!今のこいつには話は通じない!」

白騎士

「グオォォォォォッ!」

千冬

「来い一夏!」

 

千冬は白騎士の注意を自分に向けるとそのまま剣劇に突入した。千冬の想像通り白騎士の戦い方はパワーがDNSの影響もあってかかなりのものであったが戦法は殴りかかったり斬るだけと単純。対して技は千冬の方が上であり、形勢は彼女の方が勝っていた。

 

ガキィィィィィンッ!

 

白騎士

「ガアアアアアアッ!」

千冬

「そんな単純な攻撃では私は倒せんぞ!」

「…凄い…」

シャル

「あれが…織斑先生の戦い…」

ラウラ

「流石教官だ…。昔と比べて全く衰えておられん…」

箒・セシリア

「「一夏(さん)…」」

白騎士

「…グオォォォォォッ!!」

 

白騎士は再度向かってくる。

 

千冬

「しぶとい奴だ…。だが!」

 

千冬は再び剣を構え、迎え撃とうとした……その時、

 

…ジジジジ

 

千冬

「!?」

 

千冬の動きに、いや正確には暮桜の動きに違和感があった。

 

千冬

「なんだ、急に動きが!?」

白騎士

「グオォォォォォォッ!」

千冬

「! しまった!」ドゴォォォッ!「ぐああああ!」

 

バガァァァァァンッ!!

 

千冬の一瞬の隙を付き、白騎士は蹴りを入れた。その勢いに千冬は壁に激突した。

 

「! 千冬さん!」

シャル

「織斑先生!」

千冬

「ぐっ…しまった…!目覚めたばかりで無理させ過ぎたか…!」

 

どうやら封印から溶けたばかりの暮桜の調整が完全に完了していなかったため、起こった不調であった様だ。

 

白騎士

「グオォォォォォォッ!!ドンッ!

千冬

「ちぃっ!」

 

ガキィィィィンッ!

 

その時、鈴とラウラが止め入った。

 

千冬

「! お前達!」

ラウラ

「大丈夫ですか教官!」

「いい加減止まりなさい一夏!冗談にもほどがあるわよ!」

千冬

「よせ!お前達の力では!」

白騎士

「グオォォォォォォォォッ!!」

 

バギィィィィィンッ!

 

「きゃあああああ!」

ラウラ

「うわあああああ!」

 

千冬の言う通り鈴とラウラは白騎士のパワーに吹き飛ばされた。

 

千冬

「鳳!ボーデヴィッヒ!」

白騎士

「グアアアアッ!」

千冬

「くっ!」

 

ガキンッ!

 

再び千冬は白騎士の剣を受け止める。しかし、

 

…ジジジジッ!

 

千冬

「!?またか!」ガキィィィンッ!「ぐあ!」

 

再び暮桜に異変が起こり、力が入らなくなった。それによって再び白騎士に飛ばされてしまう。

 

白騎士

「…ガアァァァァァァ!!」

 

すると今度は再び箒達に向かっていく白騎士。

 

「こっちに来る!今は戦わないと!」

セシリア

「で、でもあれは…」

シャル

「わかるけど今はそういう訳にはいかないでしょ!?」

「…く!」

 

ガキンッ!

 

すると再び千冬が瞬時加速で接近し、白騎士の行方を防いだ。後ろから掴んで羽交い絞めにしたのだ。

 

千冬

「くっ!」

シャル

「先生!」

千冬

「今だ!お前達こいつを撃て!」

セシリア

「! で、できませんわ!今撃ったら先生も!」

千冬

「構わん!今はこいつを止めねばならん!」

 

千冬の指示でシャルや簪、セシリアは武器を展開するが白騎士が激しく暴れ、千冬を避けての狙いが定められない。

 

白騎士

「オアァァァァァァァ!!」

「…駄目!どうしても先生に当たっちゃう!」

シャル

「箒!君の剣なら当てられるかもしれない!」

「…し、しかし…」

 

箒はどうしても白騎士、正確には今の一夏に剣を向けれなかった。

 

白騎士

「グォォォォォォォッ!」

 

ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!

 

千冬

「がふっ!」ドゴォォォッ!「ぐああ!」

「千冬さん!」

 

千冬は白騎士の殴り込みによって手を放してしまった。それと同時に再び箒達に襲い掛かる白騎士。

 

千冬

「篠ノ之!」

「!」

 

ガキィィィィィンッ!

 

すると今度はセシリアのローハイドがその攻撃を受け止めた。

 

セシリア

「一夏さん!目を覚ましてください!どうか!」

 

セシリアは訴えるが、

 

白騎士

「グオォォォォォォォォッ!」

 

バガアァァァァンッ!

 

セシリア

「きゃあああああ!!」

シャル

「セシリア!」

 

白騎士は吹き飛ばしたセシリアに向かう。

 

ブンッ!

 

白騎士

「!」

 

だがその直後に箒の一閃が白騎士をかすめた。間一髪避ける。

 

「一夏、もうやめてくれ!こんな事!」

白騎士

「グオォォォォォォ!!」

 

しかしそれでも止まらない白騎士。箒は止む無く応戦する。

 

ガキンッ!キィィンッ!ガン!

 

白騎士

「ガァァァァァァ!!」

「お願いだ!お前とこんな形で戦いたくない!」

 

ガキンッ!

 

すると反対側から体勢を立て直した鈴が双天牙月で向かってきた。アービターを使いたいところだが先の戦いでSEに余裕が無かった。白騎士はそれをもう片方のブレードで受け止める。

 

「いい加減にしなさいって言ってんでしょ馬鹿一夏!!」

「皆!今だ!もう一度撃て!」

シャル

「で、でも今撃ったらふたりに!」

「大丈夫だ!私達を信じろ!いいから撃て!」

ラウラ

「…わかった!シャル!簪!セシリア!もう一度行けるか?」

シャル

「うん!」

「大丈夫!」

セシリア

「私もいけますわ!」

ラウラ

「よし…撃てぇ!」

 

ズドドドドドドドドドドドドッ!

 

4人は再びそれぞれの射撃兵装を向ける。ラウラはレール砲、シャルはエピデミック、簪は春雷、セシリアはビット。そして全ての砲撃が白騎士と箒、鈴にぶつかる瞬間。

 

箒・鈴

「「ブリンク・イグニッション!!」」シュンッ!シュンッ!

 

箒と鈴はブリンク・イグニッションで急速離脱した。

 

白騎士

「!!」

 

 

ドガガガガガァァァァァァァンッ!!

 

 

すると今度は間違いなく全ての攻撃が白騎士に直撃した。逃げた様子もない。

 

「一夏…!」

ラウラ

「どうだ!」

シャル

「今度は間違いなく当たった筈だけど…」

「うん…」

千冬

「お前達!無事か?」

セシリア

「織斑先生。はい、皆無事ですわ」

「すいません千冬さん。私が躊躇したせいで千冬さんや皆を…」

千冬

「もういい篠ノ之。それより…」

「……!見て!」

 

徐々に煙が晴れていき、中の様子が見える様になった。するとそこにいたのは…、

 

 

白騎士

「………」

 

 

ラウラ達の攻撃を受けた白騎士であった。解除こそされていなかったが一斉攻撃によるダメージは受けたらしく、シールドや背部スラスターも損傷している。その白騎士は力なく腕もだらんとしている。

 

白騎士

「………」

「止まった…の?」

「一夏…?」

千冬

「油断するな。お前達…」

 

皆はじっと白騎士の様子を伺う。……すると数秒後、

 

 

………ギュンッ!!

 

 

全員

「「「!!」」」

 

白騎士の目が突然今まで以上に赤く光った。そして、

 

 

白騎士

「…オオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

白騎士は腕を振り上げ、再び咆哮を上げた。それは正に怒りを含んだ獣の声であった。

 

「い、一夏!?」

「あいつまだ止まらないの!?」

白騎士

「グアアアアアアアアアアア!!」ドゥンッ!

 

今まで以上のスピードで襲い掛かってきた。

 

千冬

「くっ!」

 

ガキィィィィンッ!

 

千冬は咄嗟に前に出てレッド・クイーンで受け止める。しかし怒りのためか相手のパワーが上がっている様に思える。

 

千冬

「くっ!先ほどよりパワーが増している!?」

「千冬さん!」

千冬

「お前達は下がって」ドゴォォォッ!「ぐあああ!」…ドオォォォォン!

 

一瞬注意をそらした千冬の隙を付き、横から蹴りを食らわす白騎士。その勢いで千冬は吹き飛ばされ、壁に衝突する。

 

「千冬さん!」

白騎士

「オアァァァァァァァァァ!!」

「!!」ドゴォォォッ!「うわあああああ!」

「箒!」バゴォォォッ!「きゃあああああ!」

 

白騎士は立て続けに箒、そして鈴をその恐るべきパワーで殴りつけ、吹き飛ばす。

 

シャル

「箒!鈴!」

ラウラ

「くっそぉぉぉ!」ジャキッ!ズドォォンッ!

 

ラウラは白騎士に向かってパンチラインを撃つ。…しかし、

 

ガキィィンッ!

 

それを白騎士はブレードで払いのける。

 

ラウラ

「何!?」

セシリア

「ラウラさん危ない!」ジャキッ!

 

咄嗟にセシリアがスターライトを白騎士に向けるが、

 

シュンッ!

 

その目前で姿を消す白騎士。

 

セシリア

「な!」

ラウラ

「ブリンク・イグニッションか!どこに!?」

「ラウラ!セシリア!危ない!」

ラウラ・セシリア

「「!?」」

 

ザンッ!ザンッ!

 

ラウラ

「ぐああああああ!」

セシリア

「きゃあああああ!」

 

ラウラとセシリアは背後から斬られてしまった。

 

シャル

「ラウラ!セシリア!」

「シャル!来るよ!」

 

ガキィィィィィィンッ!!

 

シャルはグラトニーで、簪はケルベロスで白騎士のブレードを受け止める。

 

シャル

「くっ!止まってよ一夏!」

「私達がわからないの!?」

白騎士

「ガアアアアアアアアアアア!!」

 

だがシャルと簪の言葉も空しく、白騎士は止まらない。

 

バキィィィィィィンッ!!

 

シャル

「うわあああああ!」

「きゃあああああ!」

 

ドォォォォォォォォン!!

 

シャルと簪もまた、吹き飛ばされて地面に激突した。

 

シャル

「い、いたたた…。簪、大丈夫!?」

「う、うん…何とか…」

「シャル!簪!」

シャル・簪

「「!!」」

白騎士

「………」

 

するとふたりのすぐ傍にふたりを見下ろす白騎士がいた。両手にブレードを持って。それは正にこれから獲物に止めを刺さんとする様子の獣。

 

千冬

「デュノア!更識!…くっ、動け暮桜!」

ラウラ

「腕に力が入らない…!AICが使えれば…!」

「一夏…やめろ…!」

白騎士

「………」

 

白騎士は黙ったまま…ブレードをゆっくりと振り上げた。

 

シャル

「い、一夏…」

「……やめて…」

 

……ギュンッ!

 

白騎士の目が更に赤くなった。

 

「逃げて!ふたり共ぉ!」

ラウラ

「一夏よせえぇぇ!」

セシリア

「一夏さん!」

千冬

「やめろ一夏ぁぁぁ!!」

「一夏ぁぁ!やめてくれぇぇ!!」

 

皆は必死に白騎士を纏う一夏に訴えた。……しかし、

 

白騎士

「……グオォォォォォォォォォォォォッ!!」

 

 

……ブゥンッ!!

 

 

全員

「「「!!」」」

シャル

(…火影!!)

(海之くん!!)




シリーズ最長になりました(汗)
果たして白騎士(一夏)を止める方法は…?

※次回は27日(土)の予定です。
UAが140000に到達しました。ありがとうございます!


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Mission149 兄弟 友への叫び

DNSによって変化した一夏の白式。それは10年前の白騎士事件で使われた始まりのIS、白騎士であった。そのパワーを得た一夏はMが操る黒騎士のDISを圧倒し、変身解除にまで追い込む。Mを許さないと断言した一夏は勢いのままとどめを繰り出そうとした。
……しかしその時、一夏の耳に先ほどのとは違う別の声が聞こえ、更に謎の闇に一夏の意識が囚われてしまう。その直後、白騎士はまるで破壊者の様に暴走。Mを戦闘不能にまで追い込み、止めに入った千冬、更に学園に戻ってきた箒や鈴達にまで見境なく襲い掛かる。そして動けないシャルロットと簪を前にした白騎士は…。


千冬

「やめろ一夏ぁぁ!!」

「一夏ぁ!やめてくれぇぇぇ!!」

白騎士

「グオォォォォォォォォォォッ!!」ブゥンッ!

全員

「「「!!!」」」

シャル

(火影!!)

(海之くん!!)

 

千冬や箒達の必死の訴えも虚しく、シャルと簪に向かって白騎士のブレードは振り下ろされた………その時、

 

 

ガキィィィィィィィィィィン!!

 

 

シャル・簪

((!!))

全員

「「「!!」」」

白騎士

「!?」

 

突然横から真空波の様な一閃が白騎士のブレードに襲いかかった。その衝撃に直撃した右手のブレードが横に吹き飛ばされた。

 

「な、なんだ!?」

ラウラ

「衝撃波だと?しかし白騎士の剣を弾くほどの力……まさか!」

 

白騎士含め全員飛んできた方向を見た。そこにいたのは、

 

 

海之

「ハァ…」

 

 

閻魔刀を抜刀したウェルギエル、海之であった。先ほどの真空波は閻魔刀によるものであった。

 

千冬

「…海之!」

海之

「…そいつらは返してもらうぞ」

「…海之…くん…」

白騎士

「グオォォォォォォォォッ!」

 

攻撃を受けた事に怒ったのか咆哮を上げる白騎士。そこに、

 

 

「おおおおおおおおおおお!!」

 

 

白騎士

「!!」

 

 

ドォォォォォォォォォォォンッ!!

 

 

シャル・簪

((!!))

全員

「「「!!」」」

 

すると今度は上空から何かが急降下で白騎士に襲い掛かってきた。緊急回避する白騎士。現れたのは、

 

火影

「こりゃまた変わった形の雪ダルマだな」

 

白騎士に襲い掛かったのはリベリオンを持つアリギエル、火影だった。

 

「火影!」

火影

「雪まつりにゃまだ早ぇぜ。…大丈夫か?」

シャル

「火…影ぇ…!」

セシリア

「おふたり共!帰ってきてくださったんですね!」

「あ…あっはははは!もう!遅いのよアンタも海之も!」

ラウラ

「全く…、私の嫁と弟という奴は…」

千冬

「気を付けろ火影!そいつは!」

白騎士

「グオオオオオオ!!」ドンッ!

 

後向きの火影目掛けて襲い掛かる白騎士。

 

「! 火影くん危ない!」

 

しかし、

 

ガキィィィィィィンッ!!

 

白騎士

「!」

 

そのブレードは火影のリベリオンで受け止められた。後ろ向きで。

 

シャル

「う、後ろ向きであいつの剣を止めた!?」

火影

「……へぇ、大したもんじゃねぇか。…力だけはなぁ!」

 

ズバアァァァァァァァァンッ!!

 

白騎士

「!!」

 

…ドオォォォォォォォォォンッ!

 

火影は全力で白騎士のブレードを押し返した。その勢いで白騎士は大きく弾き飛ばされ、観客席に凄まじい勢いで激突した。

 

「も、もの凄い勢いで吹き飛ばしたわね…」

火影

「ちょいやりすぎたか?」

 

そこに海之も合流してきた。

 

海之

「遅いぞ」

火影

「うっせー、お前より消耗してんだから仕方ねぇだろ。ま~た主役気取りか?」

海之

「では、あれがメインイベントにふさわしいと?」

 

海之は閻魔刀を白騎士に向けながら訪ねる。

 

火影

「……いや、あれも違うな。まぁそれは後でいいとしてシャル、簪。無事か?」

海之

「怪我は無いか?」

 

ふたりはシャルと簪に近づくと、

 

……バッ!

 

シャルは火影に、簪は海之に泣きながら飛び着いた。

 

火影

「っと」

シャル

「うわぁぁ火影ぇぇぇ!怖かったよぉぉ!!」

「海之くん…ありがとう。…怖かった、死んじゃうって思った…!」

海之

「もう大丈夫だ」

 

やがて皆のところに全員が集まる。

 

「シャル!簪!ふたり共大丈夫!?」

シャル

「う、うん。大丈夫だよ。凄く怖かったけど」

「私も大丈夫」

「本当にもうダメかと思ったぞ。ありがとう火影、海之」

「楯無さん達はどうしたの?」

火影

「ここに来る迄にちょっと邪魔が入っちまって。そっちは何とかなったんだが楯無さんとクロエの疲れが激しくてな。俺達だけ先に帰ってきたんだ」

ラウラ

「やはりクロエさんも行っていたのだな…」

セシリア

「でも何があったんですの?私達ニュースで京都が大変だと知りまして…」

海之

「それについては後で話す。それより……アレは何者だ?」

 

海之は観客席に激突した白騎士を見ながら訪ねる。

 

白騎士

「グゥゥゥオォォォ……」

千冬

「…あれは全てのISの始まりとなったIS、…白騎士だ」

火影

「! あれが…白騎士」

「それだけじゃないんだふたり共。あれは、あれは一夏なんだ!」

海之

「……一夏だと?」

火影

「…なんで一夏がその白騎士に乗ってんだ?」

シャル

「わからない…。僕達が戻ってきた時にはもうあんな感じだったから…」

ラウラ

「ああ。教官のお話だと恐るべきパワーでMを圧倒しただけでなく、更に私達にまで見境なく襲いかかる様になった。教官、一体何があったのです?」

 

すると千冬はふたりに言った。

 

千冬

「海之、火影。…DNSだ。一夏の白式は…DNSによって白騎士に変化したのだ」

火影

「! DNSですって?何故白式にDNSが…?」

海之

(…………まさか…)

「…火影、DNSって何?」

火影

「…それについては後回しだ。今は一夏を止めねぇと」

海之

「そうだな。だが先程あいつは簪達を斬ろうとしていた」

「…うん。まるで暴走しているみたいになっちゃってるの…」

「私達も何度も呼び掛けたんだが…全く反応がないんだ」

千冬

「おそらくDNSに精神を飲み込まれてしまっているのだろう…。あの時のオータムみたいにな」

火影

「……………馬鹿野郎が…」

白騎士

「グオォォォォォォォッ!!」

セシリア

「ですが一夏さんをあのままにはしておけませんわ!」

火影

「ああそうだな。…お前らは下がっていろ。後は俺達がやる」

「で、でもアンタも海之も消耗してるんじゃ…」

海之

「心配するな。それにあいつと戦いたくはないだろう。特に箒とセシリアは」

箒・セシリア

「「……」」

千冬

「…いや待てふたり共。私に任せろ。教師として、何より家族としてあいつは私が止めねばならん。それに白騎士は」

火影

「いえ、先生も消耗が激しいでしょう。見た所先生は一夏を守るためにMと戦い、そして先ほどまで皆を守るために戦っていたのではないですか?」

海之

「それにDNSの名前が出てきた以上、俺達にも関係ある事です」

千冬

「しかし!」

火影

「それに……俺達あいつに言いたい事があるんで」

海之

「お願いします…」

 

火影と海之は引く気は無い様だ。

 

地冬

「…………わかった。……すまん」

「火影、海之。…一夏を頼む。今の私達じゃ止められない…」

セシリア

「お願いします。どうか一夏さんを…」

火影

「心配するな。任せとけって」

鈴・シャル

「「火影…」」

「海之くん…気を付けて」

ラウラ

「…信じてるぞ」

海之

「ああ」

 

火影と海之は皆にそう言うと再びISを纏い、前に出て一夏が変化した白騎士と対峙した。

 

白騎士

「グアアアアアアアアア!!」

火影

「……海之、俺にやらせろ。あの馬鹿は一発ぶん殴ってやらねぇと気が済まねぇ」

海之

「それは俺も同じだ。しかし………?」

火影

「……」

 

火影は白騎士をじっと見つめている。それに何かを感じ取ったのか海之は、

 

海之

「……最初の一発は譲ってやる」

火影

「……わりぃ」

 

海之はやや下がり、火影が前に出る。

 

白騎士

「グオォォォォォォォォォォ!!」

火影

「さぁさぁお立合い!噂に名高い白騎士にお目に掛かれた上に戦えるとは…こんな幸運そうそう無ぇぜ!」ジャキッ!

 

そう言って火影はリベリオンを白騎士に向ける。目の前の火影が戦闘態勢になったのを見た途端、白騎士も自らのブレードを構える。

 

白騎士

「グオォォォォォッ!」ドンッ!

 

そして白騎士は火影目掛けて突っ込んできた。火影も剣を構える………と思いきや、

 

火影

「……」…スッ

 

ドシュッ!

 

火影

「……」

白騎士

「オォォォォ……」

 

白騎士の剣が火影の脇腹を貫いていた。火影は剣を構えなかった。

 

「ひ、火影!!」

シャル

「剣を…下した…!どうして!?」

海之

「……」

火影

「これが噂名高い白騎士の剣か…」ドゴォォッ!

白騎士

「!!」

 

すると火影は剣ではなくパンチを入れて距離を離した。刺された火影の脇腹からは血が噴き出す。

 

「火影!」

火影

「……どうした?もう来ねぇのかい?そんなんなら剣使う必要もねぇな」

白騎士

「……グアアアアッ!」ドンッ!

 

再び向かってくる白騎士。今度は二刀流だ。しかし火影は剣を構え直す様子は無い。銃もイフリートも。見た目無防備の状態である。

 

セシリア

「! また無防備!?」

ラウラ

「何故だ!何故戦おうとしない!」

 

ガシッ!ガシッ!

 

振り下ろされる白騎士の二刀流を手で直接受け止める火影。剣の刃が手に食い込み、そこから出血する。

 

火影

「二刀流か……。だがこれも全~然…効かねぇな!」バゴォォッ!!

白騎士

「ガァッ!」

 

手が使えないので今度は蹴りを入れて距離を離す火影。

 

火影

「いつつ…紙で指切った時みてぇに地味に痛ぇな…」

 

戦おうとしない火影に皆が思わず声を上げる。

 

「なに…何やってんの?なんで戦わないのよ!?」

火影

「いいから黙って見てろって。…どうした一夏、いや今は白騎士か?まぁどっちでもいいや。俺はまだピンピンしてるぜ?」

 

両手を上げていかにも平気そうに笑う火影。

 

白騎士

「…グオォォォォォッ!」ドンッ!

 

その言葉に激高したのか白騎士は再び向かってくる。火影の方は相変わらず無防備のまま。剣が再び火影に迫る。

 

ドンッ!

ドシュウッ!

 

白騎士

「!」

火影

「! お前…」

海之

「……」

 

しかし刺されたのは火影では無かった。火影に剣が届く直前、海之が火影を庇って刺される形となった。

 

千冬

「海之!」

「み、海之くん!?」

海之

「…弱い一閃だ。…虫すら殺せない」ブンッ!

白騎士

「!」

 

海之も同じくパンチを入れようとするが白騎士はその前に離れて避ける。海之もまた剣が抜けた傷口から血が噴き出す。

 

海之

「くっ、…ほぉ、かわしたか。少しは学習したようだな」

火影

「てめぇ…無茶しやがって」

海之

「お互い様だろう」

シャル

「なんで!?なんでふたり共戦わないの!?幾らふたりでもそんな事してたら死んじゃうよ!」

ラウラ

「そうだぞ!お前達なら例え白騎士といえど対処できる筈だ!!」

千冬

「…まさか、わざと戦わないつもりなのか!?」

火影

「……」

 

どうやら火影達に最初から戦うつもりは無かった様だ。すると海之が答える。

 

海之

「ラウラ…お前、以前俺と戦った時の事を覚えているか?」

ラウラ

「…え?」

海之

「あの時のお前は力に囚われていた…。そしてそれは今の一夏も同じだ。白騎士という力に囚われたな」

ラウラ

「……」

 

以前ラウラは憎しみと力への衆望のあまり、VTSを起動させた。しかし意識を保てず今の一夏の様な獣と化した。

 

海之

「今のあいつに必要なのは剣を向けることではない」

火影

「伝えなきゃならねぇのは強さじゃねぇ…、心だ。……それによ、今のあいつと戦ったってそれは何の意味もねぇ」

海之

「お前達も見たくないだろう?あいつが傷つくのを」

「でも、でも今みたいな事続けたらアンタ達が…!」

火影

「大丈夫だよ鈴。前に約束したろ?お前やシャルや本音を置いてどっか行ったりしねぇってよ」

シャル

「…火影…」

 

そう言って火影が再び前に出る。

 

火影

「ほらほらどうした!噂名高い白騎士のパワーってのはこんなものか?もう少し楽しめるもんだと思ったが期待外れだったかねぇ」

白騎士

「…グオォォォォォォォォォ!!」

 

白騎士は再度火影に向かって襲い掛かってくる。そして、

 

…ドシュウゥゥ!!

 

火影

「ぐっ!!」

白騎士

「……」

 

今までよりも深く白騎士の剣が火影の腹部に刺さる。

 

「火影!」

セシリア

「一夏さん!やめてください!お願いします!」

「…嫌だ、…嫌だよ。…こんなの」

 

誰もが悲しみの目でそれを見つめていたその時、

 

ガシッ!

 

白騎士

「!」

 

火影が腹部に刺さった剣を掴む。

 

火影

「くっ、…強くなったな一夏…。初めてお前と本気で戦った時の、タッグ・トーナメントに比べてよ、…本当に強くなりやがったぜ…」…グッ!!

 

火影はもう片方の手に力を籠める。

 

火影

「……だがよ、不思議なもんだ…。なんでかわからねぇが…あん時よりおめぇ強くなってんのに…こんな傷よりも、あん時のトーナメントの時にお前が俺につけた最後のかすり傷の方が遥かに、遥かに痛ぇんだよ!!」

 

ドゴォォォォッ!

 

火影の渾身のパンチが白騎士の顔に決まる。

 

白騎士

「グアァァァァァァァァァッ!」

 

攻撃を受け、怒りの咆哮を上げる白騎士。しかしまだ止まる気配は無い。

 

火影

「殴られてムカついてんのか?それとも倒せねぇからか?……じゃあ良い事を教えてやるよ」

 

そう言って火影は……自分の頭を指さす。そして驚く事を口にした。

 

火影

「次はここを狙え。ここを破壊できれば俺達を殺せるぜ?」

海之

「貴様にできればの話だがな」

 

海之も火影に並んで挑発の様な言葉を出す。その言葉を聞いた皆は、

 

「!ふたり共!バカな真似はよせ!」

「なに…何言ってんの…?本気で死にたいの!?」

シャル

「お願いだよ、…もう止めてよ。…ねぇふたり共!」

ラウラ

「頼む!戦うんだふたり共!」

「…お願い、…もうやめて…」

セシリア

「逃げてくださいおふたり共!」

 

なんとかふたりを止めさせようと訴えるが、

 

火影

「心配すんなっつってんだろ!……死なねぇよ。俺達も、そして一夏もお前らも。誰ひとりな」

海之

「俺達を信じろ…!」

千冬

「…海之…!」

白騎士

「グオォォォォォォォッ!」ドンッ!

 

白騎士は剣を向けてふたり目掛けて突っ込んできた。向けているのはふたりの頭部。対して火影と海之は無防備のままだ。

 

千冬

「海之!火影!」

箒・セシリア・鈴・シャル・ラウラ・簪

「「「やめてぇ(やめろぉ)――――!!」」」

 

 

(…!!!)

 

 

キィィィィィィィィィィィィィンッ!!

 

 

白騎士の剣がふたりの頭部に襲い掛かったその瞬間、その場に凄まじい閃光が走った。

 

「くっ!」

シャル

「うわ!」

「火影!海之!」

 

…………光がどんどん収まっていくとそこには、

 

全員

「「「!!」」」

 

白騎士の剣は確かに火影と海之それぞれのバイザーに突き立てられていた。右手の剣は火影に。左手の剣は海之に。

 

白騎士

「………」

火影・海之

「「………」」

 

 

…………………ピシッ

 

 

だがバイザー表面にヒビは入ったものの貫通することはなく止まっていた。火影と海之、そして白騎士にも動きは無い。

 

火影・海之

「「………」」

「……ひ…火影…?」

「…海之…くん…?」

 

止まっている様にも見えるふたりのその状況に不安がる皆。すると、

 

 

ガシッ!ガシッ!

 

 

白騎士の腕を火影と海之の腕が掴んだ。

 

白騎士

「!!」

火影

「……残念、惜しかったな」

シャル

「火影!」

海之

「…だから言ったろう。殺せればとな」

ラウラ

「海之!」

火影

「やっと止まりやがったか。一夏が起きかけてんのかあいつらの声が届いたからなのか…、まぁいい。それよりも今は……」

 

ふたりはそのまま目の前の白騎士。いや中の一夏に訴える。

 

火影

「おい一夏。こんなもんがお前の望んだ力か?そんなもんに頼ってまで手に入れた力ってのは!」グッ!!

海之

「こんな下らん力を…お前は欲しかったのか一夏!」グッ!!

 

するとふたりは掴んでない方の拳に力を籠め、

 

 

火影・海之

「「違うだろうが――――——!!」」

 

 

ドゴォォォォ!!ドゴォォォォ!!

 

白騎士

「!!」

 

白騎士、いやその中の一夏にかもしれない。ふたりは思いを込めた正拳突きを顔面に思い切り食らわせた。その衝撃に大きく吹っ飛ぶ白騎士。そんな白騎士に火影達は再度訴える。

 

火影

「さっさと起きろ坊主!!遊ぶんなら本気で遊びたいだろ!そんなもんに操られるんじゃない、本物のケンカをよ!!」

海之

「お前には守りたいものがあるんじゃないのか?そのために真に強くなりたいと思ったんじゃないのか?あの言葉は全部嘘だったのか!!」

(一夏)

「……!!」

白騎士

「グオォォォォォォォッ!」

 

それでも向かってくる白騎士。火影は一夏の名を叫んだ。

 

 

火影

「…一夏ぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

(一夏)

(……!!)

 

 

するとその時、火影達に向かっていた白騎士に異変があった。急に動きが止まったのだ。

 

白騎士

「………」

千冬

「……どうした?」

「白騎士が…、一夏の動きが止まった?」

 

止まった白騎士(一夏)を不思議に思う箒達。

 

(一夏)

(………俺が……欲しかった……のは)

白騎士

「グ、ググググ……」

 

すると白騎士は頭を抱えて唸り声をあげる。

 

「な、なに?どうしたの?」

セシリア

「…苦しんでいる?」

ラウラ

「! まさか…あの時の私と同じ…?」

(一夏)

(それは………、火影や海之や、千冬姉の様な、……どんな困難にも負けない、諦めない、屈しない、そんな強さ。……心の強さ。……守るための強さ)

白騎士

「グ、グガガ…ガガガ…」

シャル

「やっぱり苦しんでる…!」

「…もしかして火影くん達の言葉が届いたのかな…!」

(一夏)

(こんな、こんな……傷つけるための強さじゃ…無い!)

白騎士

「グ、グガガガ…ガガガガガガ!!」

 

すると白騎士は苦しみのあまりかジタバタと再び暴れ始めた。だが先ほどまでと違い、むやみやたらにブレードを振り回しているだけだ。

 

「一夏!」

千冬

「…ふたり共!頼む!」

火影

「海之!お前ならわかってんな!」

海之

「…無論だ!」

(閻魔刀は人と魔を分かつ刀…。もしDNSに魔力が使われているならば、そしてあの時ラウラが使ったのがDNSで、あいつを助けられたのはその魔力を利用しての閻魔刀の力によるものだとすれば、一夏を救う事もできる筈だ!)

白騎士

「グガガガガァァァァァァ!!」

(一夏)

(火影!海之!俺はどうなってもいい!だから俺を、白騎士を止めろ!)

 

一夏は声を出せない事を悔しく思いつつ、ふたりに願った。

 

火影

「俺が一夏を抑える!ミスんなよ!」

海之

「余計な心配せずに集中しろ!」

 

すると火影はエアトリックで白騎士の背後につき、全力で抑える。

 

ガシッ!!

 

白騎士

「グオォォォォォォ!!」

火影

「海之!やれぇぇ!」

海之

「閻魔刀よ、今一度お前の力を俺に示せ!」

 

……ドクンッ!

 

すると海之の声に応える様に閻魔刀の脈動を感じた海之は一気に斬りかかった。

 

白騎士

「!!」

 

カッ!!

 

その一撃が白騎士にぶつかった瞬間、再び激しい閃光が起こった……。

 

 

…………

 

???

 

一夏

「………」

 

そこは先ほどまでとは違う何もない真っ白な空間。そこに一夏は力なく座り込んでいた。

 

一夏

「………」

 

俯いたままの一夏。するとそこに、

 

「おい」

一夏

「!……」

 

呼ばれて一夏はゆっくり顔を上げる。そこには、

 

火影

「どうした?燃料切れか?」

海之

「お前らしくないな」

一夏

「……火影、……海之。………ここはどこだ?」

火影

「…さぁな。だが少なくともあの世とかじゃなさそうだから安心しろ」

一夏

「俺達…どうなったんだ?」

海之

「俺が閻魔刀でお前を操っていた白騎士を斬った。だが先ほどこいつが言った様に死んではいない。ちゃんと生きている」

一夏

「…そう、か…、やっぱり俺…皆を」

火影

「感覚はあったのか?」

一夏

「…うっすらと…。…皆の「やめて」って叫び声が…聞こえた様な気がして…。信じたくなかったけど……」

 

それだけ聞くと一夏は再び俯いてしまって動かない。

 

火影

「帰るぞ」

一夏

「………」

海之

「どうした?」

一夏

「…皆に、どんな顔して会えっていうんだよ…」

火影

「そのあいつらが帰ってきてほしいって言ってんだがな?」

一夏

「でも俺は!…俺は皆に襲い掛かって…!シャルと簪なんか殺しかけて…!お前らにも!」

海之

「あいつらはちゃんとわかっている。お前を責めたりはせんよ」

火影

「ならここで何時までも止まってるか?余計あいつら悲しませるぞ。本気で悪いと思ってんなら今すぐ帰って必死で謝り倒せ」

一夏

「………」

 

一夏は少し黙って火影と海之に尋ねる。

 

一夏

「……なぁ火影、海之。…教えてくれ。…なんでお前らはそんなに強いんだ?」

海之

「あの時のラウラと同じだな。……俺達は強く等無い」

火影

「ああ。ただ無くしたくないだけさ」

一夏

「……無くしたくない?」

火影

「…ちょい他の奴より無くしたもんが多かったんでな…」

一夏

「……?」

海之

「気にするな」

 

すると火影が手を差し出す。

 

火影

「ほら、わかったらさっさと帰るぞ。京都から戦いっぱなしで腹減ってんだ」

一夏

「………でも」

海之

「一夏、強くなれ。今度こそ本当に」

一夏

「……!」

火影

「俺達からの宿題だ」

一夏

「………」

 

一夏は差し伸べられた手を取った……。

 

 

…………

 

一夏

「………………う、…うん」

「い、一夏!気が付いたのか!?」

セシリア

「大丈夫ですか!?」

 

一夏が目が覚めると箒に膝枕されていた。その隣にセシリア。周りには他の皆もいる。体力の消耗が激しい以外に目立った傷などは無さそうだった。

 

一夏

「……ほう、き。…セシ、リア」

千冬

「気が付いたか、一夏」

一夏

「…千冬…姉…。…俺、は…」

「全くもう!余計な心配かけさせて」

ラウラ

「まぁ無事に目が覚めて良かった」

一夏

「…鈴、ラウ、ラ…」

シャル

「大丈夫一夏?」

「わかる?私達の事」

 

シャルと簪が話しかけると一夏の表情が変わる。

 

一夏

「!…シャ、ル。か、んざ、し。…俺、お前ら、を…」

シャル

「気にしなくていいよ。あれは一夏の意志じゃないって事はわかってるし」

「うん。結構怖かったけどね。でも海之くんと火影くんが助けてくれたから大丈夫」

一夏

「……ごめん。…本、当に…ごめん…。千冬…姉、みん、な…」

 

一夏はまだ力が入らないのか言葉に力が無い。

 

「わかっている!大丈夫だ。大丈夫だから」

セシリア

「私も皆さんも一夏さんを責めたり致しませんわ!」

「気にしなくていいわよ」

ラウラ

「ああ」

一夏

「………」

千冬

「そいつらに深く深く感謝しておけ一夏」

一夏

「……ああ。……そ、そう、だ。…火、影と…海之、は…!?」

 

すると、

 

火影

「起きたか?」

 

ほんの少し離れた所にISを纏ったままの火影と海之はいた。

 

海之

「気が付いたようだな」

一夏

「…ひか、げ。みゆ…き。……俺…」

 

すると一夏の言葉が続く前にふたりが口を出す。

 

火影

「気にすんな。あと、時間かかってもさっきの宿題はやれよ?」

海之

「もう間違えるな」

一夏

「!………」コクッ

 

力が入らない身体であったが一夏は確かに頷いた。

 

火影

「それで良い……!!」

海之

「!!」

 

その時またしてもふたりに先刻の様な痛みが襲った。

 

火影

「ぐ、ぐうぅ!」ドサッ

海之

「ぐっくっ!」ドスッ

全員

「「「!!?」」」

 

ダメージを受けているためか先ほどよりも激しく、そして長く感じる。火影も海之も膝をつく。ふたりの声を聴いて鈴、シャル、簪、ラウラが近づく。

 

火影

「ちっくしょ、またか…!」

「火影!?」

海之

「くっ!限界か…」

「海之くん!?」

「! そういえば…何故だ!?傷が完治していないぞ!」

セシリア

「もしかして…故障しているんじゃありませんの!?」

一夏

「…!ま、さか、俺のせいで…!」

火影

「ハァ、ハァ…くっ、いやお前のせいじゃねぇ、前からだ。だがちと無茶しすぎちまったかな…、まぁでも心配すんな」

海之

「ああ…、大したことは無い」

 

それでも強がるふたりに、

 

「何言ってんのよ!あんなに血出て大丈夫な訳ないでしょう!…なんでよ、なんでアンタも海之も…もっと自分を大事にしないのよ!!」

シャル

「ねぇ火影、本当にお願いだからあんな無茶しないでよ…。あんな事繰り返してたら、本当に死んじゃうよ…。火影が死んじゃったら…僕は…僕は」

火影

「だ、大丈夫だって…」

千冬

「…おい、火影も海之も良く聞いておけ。お前達は確かに強い。はっきり言って誰よりも。しかし今のお前達は人間だ。悪魔でも不死身でもない普通の人間なんだ。こんな事ばかりしていれば本当に死ぬぞ。命令だ。もうあんな事は二度とするな。こいつらのためにもな」

火影・海之

「「……」」

ラウラ

「海之!お前も火影も生きようとする気持ちを大事にしているんだろう!ならば教官や鈴達の言う通り少しは自分の身を大事にしろ!家族からの警告だ!」

「…ねぇ、海之くん…、前に火影くんが私達を守るために腕を斬った時、約束したじゃない?決してそんな事しないって。なら…約束守ってよ…。私はふたりに、海之くんに傷ついてほしくないよ。お願いだから…」

 

ラウラと簪は海之に縋りついて訴える。

 

海之

「……心配するな。俺達は死なない」

火影

「ああ。だからそんなぼろぼろ泣くなって。嫁入り前の大事な顔を汚すなよ、ったく」

 

火影はそう言いながら血に塗れてない手で鈴とシャルふたりの涙をぬぐってやる。その仕草にふたりは頬を赤らめながら怒鳴る。

 

「だ、誰のせいだと思ってんのよ!責任取ってもらうわよ!!」

シャル

「ほんとだよ!火影にしか、火影にしかできないんだからね!!」

火影

「はは…、責任重大だなこりゃ」

 

一夏だけじゃなく、火影と海之もまた皆に深く謝るのであった……。

 

 

…………

 

その頃、

 

オーガス

「…ふん、正気を取り戻したか。…まぁいい、所詮織斑一夏など大した研究対象ではない。奴等に傷をつけるだけの役割よ…」

 

そう言いながらオーガスは口の端を上げた。

 

オーガス

「…何時でも会ってやる、か。ならば会ってもらうとしよう。……ふっふっふっふ、とうとう来たのだ。奴等に合間見える時が…!」

 

そう言いながらオーガスは横で静かに佇んでいる何かに話しかけた。

 

オーガス

「お前達もさぞ嬉しいだろう?漸く会えるぞ…」

「「…………」」




次回、遂に火影(ダンテ)・海之(バージル)とオーガスが対峙します。そしてオーガスの正体が…。

※次回は来月4日(土)の予定です。


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Mission150 オーガス

シャルロット簪に襲い掛かる白騎士(一夏)の剣。
……するとその時彼女達を救うふたつの剣閃が。それは京都から戻ってきた火影と海之だった。千冬や箒達から事情を聴いたふたりは皆を下がらせ、前に立つ。……しかし火影と海之はあえて戦おうとせず、白騎士の中にいる一夏に心をぶつける。

「そんなもんがお前の望んだ力か!?」
「守るために強くなりたいんじゃなかったのか!」

…その時火影と海之、そして皆の叫びに遂に一夏が目覚め、白騎士の動きを止める。海之はラウラの時の様に閻魔刀で白騎士を斬り、遂に一夏を救い出す。火影と海之から「真に強くなれ」という宿題を渡された一夏は必ずすると約束するのだった。これでようやく一安心の様に思えたのだが……。


再びアリーナ。火影と海之の傷はまだ完全に塞がりきらないのでISを纏ったまま座り込み、一夏もまだ寝たまま動けそうにない。

 

千冬

「とにかく医療班を呼ぶ。お前達じっとしていろ。特に男子三人はな」

海之

「申し訳ありません…」

火影

「ハハ、こいつはダセぇぜ…」

「いいから黙ってじっとしてなさい」

「一夏、お前もだぞ」

一夏

「…悪い…」

セシリア

「…箒さん、ずっと膝枕されてお疲れではありませんか?代わって差し上げましょう」

「い、いや大丈夫だ。問題ない」

シャル

「ねぇ火影、僕も膝枕やってあげようか?」

「あーずるいわよシャル!」

ラウラ

「海之、私も構わんぞ。夫のやるべき事だ」

「ら、ラウラずるいよ。私も…」

千冬

「静かにしろ!全くあんな目にあったのにそういう元気はあるのか…」

 

そんな会話が続いていた……その時、

 

 

ヴウゥゥゥゥゥゥゥン!

 

 

少し離れた所に転移の空間が現れた。

 

火影・海之

「「…!」」

シャル

「な、何!?」

「まさか、新たな敵か!?」

千冬

「お前達下がっていろ!」

 

千冬が再び暮桜を纏い、レッド・クイーンを持って前に立つ。……そして転移が終わったと同時に中からある者が現れた。

 

火影・海之

「「…!」

「………クククク、驚かせてしまいましたかね?」

 

アンジェロ達やファントムの様な者達ではない。スコールやM達でもない。銀髪で顎鬚を伸ばした初老の男がひとりそこにいた。

 

「男の人…?」

「だ、誰よアンタ!吃驚させるんじゃないわよ!」

セシリア

「てっきりあのMという方かアンジェロ達かと思いましたわ…」

ラウラ

「しかし奴らと同じ方法で出てきたという事は…」

「まさか…お前もファントム・タスクか!」

 

少女達が其々の意見を述べる中、

 

火影・海之

「「………」」

 

火影と海之は何も言わず、目の前にいる男をじっと睨みつけていた。鈴達もふたりの異変に気付く。

 

「…火影?」

「海之くん?」

シャル

「どうしたのふたり共?」

 

そんな彼女達の声を聞いた千冬も、

 

千冬

(……海之と火影の様子が何かおかしい。……まさか!)

「……クククク、そんなに胡散臭いものを見る様な顔をしなくてもいいではありませんか。お互い「この世界では」初めてお会いするのですからね」

火影・海之

「「…!」」

 

目の前の男はまるでふたりがバイザーの下でどんな目で自分を見ているかわかっているかの様に言い放つ。実際ふたりは目の前のこの男を敵意を含んだ目で見ていた。しかしそれ以上に火影と海之は「この世界では」という言葉が気になった。

 

火影

「……誰だ?」

「まずはご自分から名乗られるのが礼儀ではありませんか?人なのですから」

 

火影は男の喋り方に多少イラついたが名乗る事にする。

 

火影

「……火影だ」

「結構…。そちらの青い方は?」

 

男は続けて海之に尋ねる。

 

海之

「……海之という」

「…火影と海之…。成程…やはりそれが今の貴方がたの名。…ふっふっふっふ」

 

ふたりの名前を聞いたその男は面白そうに笑う。

 

千冬

(今の名前だと…?)

「…何を笑っている?」

「これは失敬…。確か貴女は織斑千冬ですね。伝説のブリュンヒルデにこうしてお会いできるとは光栄の極み」

千冬

「そんな事はどうでもいい。答えろ、貴様は何者だ!」

 

すると男は紳士の様な挨拶をしながら答えた。

 

 

オーガス

「……私はオーガス。オーガス・アクスと申します。以後お見知りおきを」

 

 

男は自らをそう名乗った。

 

火影

「…!」

海之

「…オーガス…!」

千冬

(やはりこの男がオーガス…!)

 

すると火影と海之はゆっくりと立ち上がる。

 

「火影!」

「海之くん無茶しないで!」

火影

「大丈夫だ。……てめぇがオーガスか。会いたかったぜ、漸くパーティの主催者の御登場って訳だ…!」

 

痛みがありながらもバイザーの下の火影の顔は笑っていた。

 

シャル

「…?火影、あの人の事知ってるの?」

オーガス

「クククク…世界でも数える程しかいない男子のIS操縦者にそう言っていただけるとは恐縮ですね」

 

調子変わらず話すオーガス。……しかし続けて驚く言葉が飛び出した。

 

 

オーガス

「火影さんでしたか?…それともこちらの方がやはりよろしいですかね?……「ダンテ」」

 

 

火影

「!!」

 

 

オーガス

「それからその兄たる貴方は確か……「バージル」でしたかね?」

 

 

海之

「!!」

 

オーガスは確かに嘗てのふたりの名を呼んだ。

 

千冬

(! この男、ふたりの前世の名を知っている!?…という事はやはりこの男は!)

一夏

(だ、ダンテにバージル、だって?…それって、前に火影達が言ってた…)

「な、何よダンテとバージルって!ふたりの名前は火影と海之よ!」

シャル

「そうだよ!間違えないで!」

ラウラ

「私の嫁と弟はそんな名前ではない!」

「……」

 

そんな鈴達の言葉を無視する様にオーガスは言葉を続ける。

 

オーガス

「ああ正確には違いましたね。今の貴方達は「その記憶を継ぐ者」「嘗てそうだった者」と言った方が正しいでしょうね…」

「……記憶を継ぐ者、だと…?」

セシリア

「ど、どういう意味でしょうか…?それに「だった」というのは…」

火影・海之

「「……」」

 

火影と海之は黙っている中、皆がオーガスに話しかける。

 

「アンタ誰よ!いきなり出てきて変な事ばかり言って!アンタもファントム・タスクなの!?」

オーガス

「やれやれ、元気なお嬢さんだ。先ほど申し上げた筈ですよ?私はオーガス・アクスだと」

ラウラ

「それは先ほど聞いた。ではお前もファントム・タスクなのか?」

オーガス

「ええ、貴女の言う通りファントム・タスクの者です。研究開発の一切を受け持っています」

「! 研究開発…。じゃあ…アンジェロ達やファントムやグリフォンを造ったのも…?」

オーガス

「ええ。あれは私が造ったものです。お気に召していただけましたでしょうか?」

セシリア

「お、お気に召すわけないですわ!どうしてあんな物騒なものを造ったのです!?」

「…では今までの襲撃は!」

 

するとオーガスは笑いながら答えた。

 

オーガス

「ククク…その通り、IS学園襲撃や以前のハワイ沖の襲撃は私が指示によるものです。これでも組織の中で指揮権も得ていますのでね」

「指揮権…て事は幹部クラス!?」

千冬

「あれは貴様の指示か!答えろ!何故あの様な事をした!?」

オーガス

「…何故?勿論傀儡の出来を見るためですよ。暇つぶしも兼ねてね」

 

オーガスは飄々とそう答えた。その内容に皆は驚く。

 

「ひ、暇つぶしですって!?」

シャル

「そんな理由であんな事したの!?」

オーガス

「何を驚いているのです?実験は最適な場所で行わなければ意味がないでしょう。兵器の真価はいかに多くの敵を殺せるか。だから最適な場所に放してデータをとった。それだけの事ですよ」

「…そんな!皆が、多くの人が危なかったんだよ!?」

ラウラ

「キャノンボール・ファーストやトーナメントでも実際多くの無関係の人間もいたのだぞ!」

 

するとオーガスは笑ってこう答えた。

 

オーガス

「クククク…、甘いですねぇ。もう一度言いますが兵器は所詮殺しの道具。それ以外になんの価値があるのです?貴方がたのISだってそうでしょう?」

 

これに対して箒が答える。

 

「違う!ISは兵器ではない!姉さんは…そんな事のためにISを造ったんじゃない!!」

オーガス

「……そうか、貴女が篠ノ之束博士の妹。貴女にもお会いできて嬉しく思いますよ」

「ふざけるな!」

オーガス

「ふっふっふ…いやいや申し訳ありません。ですがご安心ください。もうこれまでの様な事は悪戯に致しませんよ。「アレ」が完成しましたからね」

千冬

「…「アレ」だと…?」

 

するとオーガスは声高に言った。

 

オーガス

「ええ…。DreadnoughtSystem(ドレッドノートシステム)。そしてそれから生まれるDevils・Infinite・Stratos(デビルズ・インフィニットストラトス)。世界を正しい方向に導く神器ですよ…!」

 

オーガスから出たその名前に皆が驚く。

 

火影・海之・千冬

「「「…!!」」」

「ドレッドノート…システム…?」

「それもだけど…もうひとつは何よ!デビルズ・インフィニット・ストラトスって!?」

シャル

「世界を…正しい方向に導く」

ラウラ

「…神器だと…?」

 

するとその名を聞いた一夏が力がまだ入らない身体で動こうとする。

 

セシリア

「い、一夏さん!」

一夏

「ど、ドレッドノートシステム…だって!?それ…って!」

オーガス

「ええその通りですよ、世界初の男子IS操縦者、織斑一夏。先ほど貴方が使ったものです。良かったですねぇ。一時的とはいえ、強くなれた感想はどうです?」

一夏

「くっ…!」

「! それじゃ…お前のせいで一夏があんな事に!」

オーガス

「これはこれは…力を望まれたのは貴方ではありませんか織斑一夏?私はほんの少し助力してあげただけですよ」

セシリア

「黙りなさい!貴方が一夏さんをたぶらかしたのでしょう!」

オーガス

「やれやれ…手厳しいですねぇ」

 

箒やセシリアは凄むがオーガスは全く調子を崩さない。まるで相手にもしていない様な表情だ。

 

千冬

「どうやって白式にDNSを仕組んだ?貴様は今まで一度も現れなかった筈だ!」

オーガス

「簡単ですよ。ある方にご協力頂いたのです」

海之

「………束さん、か?」

一夏

「…!!」

「ね、姉さんだと!?」

火影

「…確かに束さんなら…」

千冬

「どういうことだ海之!火影!」

 

皆、特に一夏、箒、千冬は動揺が激しい様子。

 

オーガス

「…そうか、スコールか。…余計な真似を」

火影

「あのスコールって奴が教えてくれたんですよ。束さんがオーガスに呼ばれて今あいつらと一緒にいるってね」

海之

「あの人なら白式のコア情報も知っている筈…あの人にしかできない事です」

「そ、そん、な…」

「篠ノ之博士が…」

火影

「…だけどな箒。俺は束さんが自分の意志でやったとはどうしても思えねぇ。スコールが言ってたぜ?まるで別人みたいになってしまってるってな?」

海之

「…束さんに何をした?」

 

するとオーガスはこう答えた。

 

オーガス

「少しばかり真実をお教えしただけですよ。あの方さえも知らない真実をね…」

千冬

(…束が知らない真実、だと?)

オーガス

「その上でご協力いただいたのです。最も同意があったかは別ですがね…クククク」

「! アンタ、あの人を脅迫でもしてんの!?」

ラウラ

「博士は無事なのだろうな!?」

オーガス

「ご心配なく。あの方には大事な仕事を任せていますのでね…。丁重にお預かりしておりますよ…」

「…貴様ぁぁ!」

 

箒は怒りを露わにする。

 

セシリア

(箒さん!落ち着いてください!あの男も言いましたが博士に手を出すことは無さそうですわ!お助けする機会は必ずある筈です!)

(…くっ、…姉さん…!)

千冬

(…確かにオルコットの言う通り奴にとっても束は貴重な存在。迂闊に手を出すとは思えん。となるとまだ助け出すチャンスはある…。……くっ、それにしてもあの馬鹿者が!私に相談もせずに勝手をしおって!!)

 

千冬と箒は悔しくもありつつ、必ず束を救い出すと固く誓う。勿論他の皆も。

 

「あ、あの…そのDNS?だけど…それが世界を導くってどういう意味なの?」

オーガス

「ふふっ、言葉の通りですよ。この間違いに満ちた世界を正しく修正するのです」

シャル

「!…間違いって…どういうこと!?」

 

するとオーガスはそれに答えず、逆に火影達に問いた。

 

オーガス

「貴方達は今のこの世界をどう考えていますか?」

「…この世界だと?」

オーガス

「そう。今我々が生きているこの世界を、貴方達はどう思っていますか?」

火影・海之・千冬

「「「………」」」

「私は…結構悪くないと思ってるわよ」

「…うん。私は…皆がいるこの世界が好きだよ」

 

火影や海之、千冬や一夏は答えなかったが他の皆も似たような回答だった。

 

オーガス

「結構。……では、貴方達は今のこの世界を…正しいと思っていますか?」

シャル

「…え、…正しいかどうか…?」

オーガス

「いかにも。この世界の今の在り方を正しいと思うか。それとも間違っていると思うか」

セシリア

「…そんなのわかりませんわ。正しい事もあるでしょうし…でも間違っている事もあると思いますし…」

ラウラ

「…ああ。紛争問題もあるし、環境破壊やほかにも多くの問題がある。だから…正しいか間違っているなんて…私達にはわからん」

オーガス

「成程……」

 

オーガスは皆の答えを聞くと何も言わず、何か考えている。

 

千冬

「…貴様、何が言いたい?」

 

するとオーガスはこう答えた。

 

 

オーガス

「…では答えを聞かせていただいた礼として私の意見を申し上げましょう。…私はこの世界が大嫌いです。虫唾が走り、吐き気がする程に。正直滅んでしまうべきだと考えていますよ、ふっふっふっふ…」

 

 

一夏

「…!!」

ラウラ

「…な、何だと!」

セシリア

「そ、そんな!どうしてそんな酷い事を!?」

「滅ぶべき世界って正気!?」

 

驚愕した他の皆も同じような意見をぶつける。すると千冬が、

 

千冬

「…今の女尊男卑の様な世の中だからか…?」

「…え」

 

するとオーガスが答える。

 

オーガス

「ククク…、まぁ確かにそれもひとつではありますがね。10年前、篠ノ之束博士が開発したインフィニット・ストラトス、略称IS。それによって引き起こされた白騎士事件。あれの影響で世界は一気にIS一色となりました。優れたISと優れたIS操縦者たる女を持つ事。それが自分達の価値を高めると、他国よりも優位に立てると、世界中がそう信じる様になりました」

千冬

「……」

オーガス

「しかしISにはひとつ致命的な欠陥があった。それは先に述べた通り女しか動かせない事。これによって世界の男の価値は一気に地に堕ちました。政治、軍事、宗教、哲学、芸術、科学、スポーツ、どれも女が第一に評価される様になり、男は二の次となった。男だからという理由だけで職を失う者が出たり、更には生まれた赤子が男だからという理由だけで親に捨てられたり、最悪殺されたりする者もいる。これだけでも男からすれば聞くだけで吐き気がするほど嫌いになると思いますがね?」

「あ…」

セシリア

「そ…それは…」

シャル

「……」

 

オーガスの言う事は当たっていた。ISの価値が高まるとそれに唯一乗れる女性が世界中で台頭する様になった。今では首相や大統領、セシリアの母の様に企業の社長に女性が付く事も当たり前の様になっている。それだけなら特に問題ないのだがその裏で男に対する世界の風当たりは大きかった。特にダメージを受けたのが軍事である。ISが台頭するまで兵器を動かしていたのはほぼ男の軍人。しかし白騎士事件で従来の兵器がまるで歯が立たなかったことが公になると国はそれらを片隅に追いやり、同時にそれを動かしていた軍人達や古い兵器開発者の多くが職を失う事になったのだ。更に多くの企業でも同じ様な事が起こっていた。セシリアやシャルの会社でもそんな事は全く無くはなかった。更に稀なケースではあるが生まれてくる赤ん坊が男の子だという理由で捨てられたりしてしまう事案も発生している。勿論全ての国や会社がそういう訳ではないが世界の大部分がそういう方向に動いてしまっているのは間違いなかったのである。

 

「じゃ、じゃあアンタの目的は自分達が評価されない事に対するその復讐ってこと!?」

オーガス

「…復讐?……ふっふっふ、はっはっはっは!…そうか、お前達にはそう思えるか。だがそれは違う。私にとってはその様な事はどうでもいいことだ。男の価値が下がろうが女の価値が上がろうが、私には芥子粒程の意味も無い。私はただ本当にこの世界を救いたいと思っているだけだよ」

 

オーガスは鈴の質問に笑ってそう答えた。

 

「だ、だからそれがどういう意味なのかと聞いている!」

千冬

「…ならば表現を変えよう。貴様はどうやって世界を救おうというのだ?」

 

千冬の問いかけにオーガスは答える。

 

オーガス

「……貴様達は先ほどこう言ったな?「この世界には間違っている部分もある」と。正にその通りだ。考えてみるがいい、ISが世界に台頭し、この様な世界になるまでにも世界は既に矛盾に満ちていた。環境破壊、戦争や紛争、同じ人間でありながら肌の色による人権差別や人種差別。小さい所なら経済的な問題や身体の強弱、そして性別の差。正にこれら全て先ほど貴様等が言っていた間違いそのもの。これらは全て人間がいるからこそ生まれた問題。人間がいなければこの様な問題は起こらなかった。そうは思わないかね?」

 

そういうオーガスの表情には狂気が見えていた。口調も先ほどよりも乱暴になっている。本性が現れ始めているのだろうか。

 

「そ、それは…」

ラウラ

「た、確かにそうかもしれないが…しかし人間は成長するのだ!例え直ぐには解決できなても何時かは!」

オーガス

「何時?…ならば聞こう。それは一体何時だというのだ?何年後か?何十年後か?それとも何百年後か?はたまた千年後か?何時まで先延ばしにするつもりなのだ?……決して消え去りはせんよ。人間が生きている限り、この世に様々な思惑と疑念が満ちている限りな」

千冬

「……」

シャル

「そ、そんな事…!」

「まるで貴様は人間では無いみたいに言うのだな?」

オーガス

「……ふふ」

 

箒の指摘にオーガスは静かに笑った。

 

オーガス

「さて、話が少々拗れてしまった。私がいかにこの世界を救おうとしているかだが…簡単だ。もっと単純にすればいいのだ。強き者が生き残り、弱者は強き者に従う、力ある者が覇者として君臨する。そんな弱肉強食の世界にな!」

一夏

「…!!」

千冬

「なんだと!?」

「そ、それでは戦国時代や中世の暗黒時代と何も変わらないではないか!」

セシリア

「そうですわ!なんという恐ろしいことを考えるんですの!」

「無茶苦茶よ!それじゃアンタがさっき言ったような差別や憎しみがまた生まれるだけじゃないの!?もっと大混乱してしまうわ!」

 

当然皆はそれに反論する。

 

火影

(…まるで魔界じゃねぇか…!)

海之

(…こいつ、一体…!?)

オーガス

「ふっふっふ、案ずるな。その為にDNSを造ったのだ。…DNSの真の価値、それは願いや欲望によって力を得られるという事…」

「…願いや…欲望?」

オーガス

「そうとも。他者よりも強くなりたい、上に行きたい、偉くなりたい。強い力への衆望、手に入れたいという欲望。それがDNSの力の根幹だ」

ラウラ

「…まさか!」

 

その言葉を聞いてラウラが反応する。そして頭にあの時の事がよぎった。海之との戦いで、自分が黒い異質なものに変化したときの事。

 

オーガス

「思い出したようだな。ドイツのVTS研究所に密かにハッキングし、それとは知らずにのこのこメンテナンスに来ていたドイツのIS部隊の隊長機にDNSの試作プログラムをウイルスにして流し込んだ。あの時の貴様の変身はVTSを隠れ蓑にしてプログラムされたそれによるものだ。最も操縦者の未熟故に見事に操られる結果となったがな」

ラウラ

「…貴様ぁぁ!」

オーガス

「ククク…そういきり立つな。これでも貴様には感謝しているのだ。おかげで良いデータが取れたし、DNSの実践にも目途がついたからな。今はISにしか搭載できないが、いずれはもっと多くの人間が使える様にするつもりだ。大型コンピュータ、パソコン、携帯電話やタブレット等の小型端末。そうすればあっという間に世界中に広がるだろう。しかも女だけではない、男や幼児まで使える様にな。ISの様な欠陥品とは違って性別の問題も年齢に左右される事も無い。身体的問題や経済的な問題も無い。誰もが己の望みのままDNSの恩恵を受けられる!誰もがDISの力を得られる様になる!」

火影・海之

「「…!」」

 

オーガスの顔はますます狂気立っていた。

 

「ふ、ふざけるな!誰がこのようなふざけた物を使うか!」

オーガス

「クククク、本当にそうか?現に貴様達はその恩恵を受けた者をふたり程見たでは無いか?先にそこのドイツの小娘」

ラウラ

「…くっ!」

 

あの時自分は確かに力を欲した。何よりも強い力が欲しい、と。

 

オーガス

「そしてたった今も貴様達は見た」

一夏

「……!」

 

一夏の脳裏にあの時の感覚が思い出される。

 

オーガス

「貴様達の中にですらDNSを起動させる程に力への強い欲望を持った者がいる。そしてスコールやオータム、そしてMもまたこの力を欲している。どうだ?これだけでもう数人もいるではないか?」

シャル

「で、でもこれがどんなものかわかったら使う人なんて!」

オーガス

「確かに多くの者がそれに恐怖するだろう。だがこの世には一体どれ程の人間がいると思う?その人間全てが恐怖すると思うか?……否!必ずいる。DNSを欲し、DISの力を得ようとする者がな。最初はたったひとりでもいいのだ。だがそれを見た人間の中にひとり、そしてもうひとりと増えていく。己の欲望のままにな!」

「…そんな、…そんな事…」

オーガス

「そして力を持った先にあるのは競争、争いだ。ただただ最強を目指して戦い、争い会う。それが人間だ。人間とは欲望と争いが無ければ生きられない、そういう愚かな存在なのだ!」

「…違う…、人はそんなものじゃ…」

火影・海之

「「……」」

 

するとオーガスは更に続ける。

 

オーガス

「他人事みたいに言うのだな?貴様達、若しくはそれに近い者も関わり、若しくは助力したりしているのだぞ?」

「な、なんだと!?」

シャル

「僕達は…僕達はそんな事に!」

 

するとオーガスは千冬を指差して言い放った。

 

オーガス

「では例を言って説明してやろう。…織斑千冬。四年前貴様のモンドグロッソ決勝当日、そこに倒れている貴様の弟、織斑一夏を誘拐し、更にその監禁場所をドイツの馬鹿共に教えたのは私なのだよ」

千冬

「何!?」

一夏

「…!!」

ラウラ

「我が軍に情報をリークしたという男の声は貴様だったのか!」

※Mission94をご覧下さい。

「…貴様…、貴様が一夏を!貴様のせいで一夏と千冬さんが!」

 

ラウラや箒は激しく怒る。

 

オーガス

「おいおい、私ひとりを責めないでもらいたいな。あれには私だけではない。多くの者達、更に言えば日本やドイツも関わっているのだぞ?」

千冬

「!…なん…だと!?」

ラウラ

「我が祖国もだと!?戯れ言を言うな!」

オーガス

「ククク…全く平和な奴らだ。貴様らは不思議に思わんのか?何故よりにもよってモンドグロッソの決勝当日に誘拐されたのか。何故ドイツ軍はそんな正体不明の匿名の情報をあっさり信じたのか?何故いちテロリストに過ぎない者共が戦闘機や戦車等持っていたのか?全ては計画だったのだよ。目的は最強のブリュンヒルデである織斑千冬の戦闘力を測る事。生き死にも関係ない試合のデータ等なんの役にもたたん。家族の命が懸かっている様な時こそ真の力が出るものだからな。決勝当日に実行したのも貴様のコンディションがベストと思っての事だ。しかし政府達が手を出して万が一公にでもなれば面目は丸潰れになるだろう。だから奴らはテロリストを利用する事にしたのだ。そして選ばれたのがファントム・タスクだ。向こうとしても被害は最小限で済み、報酬も得る事ができる。双方にとって願ったりかなったりという訳だ」

千冬

「……!」

「そん…な…」

ラウラ

「馬鹿な…」

 

千冬や箒やラウラは言葉を失っている。そんな彼女達を無視して、

 

オーガス

「次に…そこの小娘、いや正確には貴様の父の会社だな」

 

オーガスは次にシャルを指した。

 

シャル

「…え?…お父さんの会社…?」

オーガス

「ああ。デュノア社の中にもこちら側に近い人間がいる。その者達に「資金提供の代わりに今までに無い技術をお前達だけに提供してやる」と助言してやったのだ。その言葉だけで疑いもせんままあっさり横流ししてくれたよ。そんな気など元から無い事に気付かないままな。貴様の父の会社は無能な者共の集まりの様だな…」

シャル

「! じゃあ…会社のお金が密かにどこかにいってたのって!?」

※Mission43をご覧ください。

オーガス

「DNSの設計資金として十分役立たせてもらったよ。どうもありがとう」

シャル

「! よくも、よくもお父さんの会社を…許せない!」

オーガス

「恨むのならそんな者達を雇っていた自分達の無能さこそするのだな。…次にそこの小娘」

「…え」

 

次にオーガスが声をかけたのは簪。

 

オーガス

「貴様は確か更識の人間だったな?そして貴様の姉は現在の更識家当主…。更識と言えば国の暗部を代々司る一族と聞いているぞ。長い歴史の中で国を守るために表にはできない事を行ってきたとな?」

「…!」ビクッ

 

簪はそれを聞いて言葉を失った。簪や刀奈が生まれた更識家は古くから続く由緒ある家柄。しかしその実態は日本の守護という名目で裏で暗躍、日本を裏から守る一族であった。何百年にも渡って表沙汰にはできないこの国の裏の事情を密かに処理してきたのである。その中には当然、人としては非情ともいえるものもあった。刀奈がそのような事をするとは考えられないが嘗てはそういった事もあったのだ。

 

オーガス

「貴様は意識していたかどうかしらんが、貴様も貴様の姉も十分関わっているのだよ。この世の闇というものにな」

「……」…グッ

 

俯きながら簪の海之を掴む手の力が強まった。まるで悲鳴を上げている様に。

 

オーガス

「極めつけはドイツだ。データ欲しさの誘拐への加担、禁止されているVTSの研究、非人道的な人造兵士の量産。貴様の国は本当に酷いな?黒兎隊の隊長殿」

ラウラ

「だ…黙れ!」

千冬

「…あの一件の後のVTS研究所が爆破されたのも貴様の仕業か?」

オーガス

「いやいや、それには私は関わってないさ。どこぞの馬鹿が勝手に起こした事だ。もしくは良心の呵責からの自爆か、まぁ何れにせよドイツの馬鹿共はさぞ慌てた事だろうな。ギャラリーがいないのが惜しかったぞ。クククク……」

千冬

(…コイツ…一体なんなのだ…!?)

 

オーガスは楽しそうに笑った。そんなオーガスに千冬でさえある種の恐怖を感じていた。まるで命などなんとも思っていない、そして人間とは思えない様な笑みを浮かべるオーガスに。

 

オーガス

「少しはわかったか小娘ども。暗雲や思惑が渦巻き、それによって生まれる争いや混沌、果てしない欲望、それによって生まれる非人道的行為。貴様等が生きているのはこんな愚かな世界。そしてそんな世界にしているのは紛れもない貴様等人間自身だ。自分達だけが蚊帳の外みたいに考えるのは大いなる間違いだぞ。貴様達もこの世界で生き、生かされ、そして立派に支えているのだ。この間違った世界をな」

「………」

セシリア

「わ、私達がそんな…」

ラウラ

「私…は…」

オーガス

「だがDNSが生み出す弱肉強食の世界にはそんな人間の複雑性や思惑や下らん欲望等関係ない。ひたすらに力だけを望み、強き者だけが生き残り、弱き者がそれに蹂躙される。それは自然の摂理。決しておかしなことではない。恐竜時代から続いてきた動物達の歴史と同じ。これ程バランスが整った世界は無い。そうは思わないかね…?」

「…そんな事…」

シャル

「僕たちは……」

「………」

 

箒達は皆黙ってしまった。何を言い返しても自分達の言葉に力が無い様に思えたのだ。無気力が彼女達を覆っていた。……すると、

 

 

火影

「言いてぇ事はそれだけか…?」

 

 

オーガス

「…何?」

 

そう言いながら火影が更に前へ出る。

 

「火影無茶しないで!」

シャル

「まだ治りきってないんだよ!」

火影

「ありがとよ…。……おいオッサン、欲を持って何が悪いんだ?んな事言っちゃ俺なんて欲の塊だぜ?好きなもん食いてぇし、好きな歌聞きてぇし、バイクも乗りてぇ。好きな奴等を守りてぇし、成長を見てみたい奴もいるし、そしていいかげんアイツとの決着もつけてぇ。そんなてめぇが言う余計な望の塊みたいな人間、オッサンが毛嫌いしてる人間の代表みてぇな奴だぜ俺は?……確かにてめぇの言う事は当たってるかもしれねぇよ。俺も前にそんな奴らをうんざりするほど見てきたし、親と子の問題なんて引っ切り無しだし、話し合いなんて通用しない奴も吐いて捨てる程いるしな。……だがな、暗雲とか、思惑とか、この世の闇とか、はっきり言って俺にはそんな事どうでもいいんだよ。俺はただ自分の大切なものを壊されたくねぇだけだ。傷ついてほしくねぇだけだ。こんな俺の事を好きだって言ってくれるこいつらを守りてぇだけだ。だから…もしてめぇがあの下らねぇもん使って俺のもんを傷つけようってんなら、……許さねぇぜ」

 

火影はふざけた言葉を含めながらも強い口調でそう言い返す。

 

海之

「…やれやれ…。全くこの馬鹿は…」

 

すると今度は海之が前に出る。

 

「海之くん!」

ラウラ

「無茶するな海之!」

海之

「心配するな…。だが…今回ばかりは俺もこいつと同じだ。要するに貴様はこの世界を、こいつらが生きている平和を、俺の大切な者達がいるこの世界を壊そうとしている。俺が戦う理由はそれだけで十分だ」

火影

「それによオッサン。てめぇは人間をえらく酷く言うが俺が前に知り合った奴等はそんな言うほど愚か者じゃなかったぜ?しつこい取り立て女にいい歳して銃ばっかいじってる婆さん、人使いが荒い仕事仲間に勝手にストロベリーサンデー食ったり散らかすなって口うるさい娘。他にも変わった連中ばかりだったが…あいつらのおかげでそれなりに人生を楽しめたしな…。あと母さんは親父を深く愛してた。そして最後は命がけで俺を救った。こいつの事も救おうと死ぬまで探してたんだ。人間の強さ、「愛する」っつう力、てめぇが蔑む人間にしかねぇ強い力だ」

海之

「………」

(…火影…?)

(…何を言ってるんだ火影…?お前の両親は9年前のテロで…)

 

海之と千冬以外の皆は火影が何を言っているのか正直理解できなかったが何も言わず、火影の言葉を黙って聞いていた。

 

オーガス

「……」

火影

「人間ってのは弱く、時には愚かになるもんさ。…けどそれが全てじゃねぇ!」

海之

「DNSはまだISにしか搭載できないと言ったな?ならばその前に食いとめるだけだ」

オーガス

「…止めるだと?この世を救おうというのか?ただの人間になり下がった貴様等が?」

火影

「そこまで自惚れちゃいねぇよ。さっきも言っただろ?ただ守りたいもんがある。そのためにゃそのふざけたもんが邪魔なだけだ。それが結果的に世界を守る事に繋がんなら勝手になりゃいい。…何より」ジャキッ!「俺はてめぇみてぇな奴が嫌いなのさ!」

海之

「俺達は正義の味方でもなければ救世主でもない。そして俺はもう戻らない。自分の信じるもの、守るもののために戦うだけだ!」チンッ!

 

火影と海之がエボニー&アイボリーと閻魔刀を向けて其々宣言した。

 

一夏

「…へへっ」

「い、一夏?」

セシリア

「一夏さんご無理なさらずに!」

一夏

「くっ…、おい、オーガス!随分、言いたい放題言ってくれるじゃ、ねぇか…!俺はあんまり頭良くねぇから…お前の言ってる事は良くわからねぇけど…これだけはわかるぜ!あんなおかしな物はあっちゃいけねぇって!そして…俺や皆が生きてる、この世界を…否定する権利は、お前なんかにはねぇ!!」

 

力が入らない身体で一夏もまたそう宣言した。それに続いて、

 

「その通りよ!アンタに私達の世界を否定する権利なんてないわ!確かにこの世界には嫌な事も沢山あるわよ。でもね、そんな世界を皆必死に生きてるの!大事な人達と一緒にお互いを支えながらね!それは決して馬鹿にする事じゃないわ!」

シャル

「僕達はお前が言う争いの世界なんて望んでない!普通に生きていたいだけ!お父さんやお母さん、皆、好きな人、その人達と一緒にいたいだけ!」

「貴方の言っている事は間違ってないかもしれない。でも貴方の主張が世の中の人の声全部じゃない!私の大切な人達は皆いい人達だよ!だから皆がいるこの世界を壊すなんて事は許さない!」

ラウラ

「私には大事なものがあるのだ!仲間や部下、嫁や弟、そしてあの人という家族がな!それを守るためなら命も惜しくはない!」

セシリア

「一夏さんや火影さん達、そしてお父様の真実を知ってから私は自分の男の方への偏見を恥じましたわ。…でも、貴方だけは別ですわね!」

「貴様の思い通りにはさせない!皆と一緒に一夏や皆がいるこの世界を守る!そして姉さんも助け出してみせる!」

千冬

「……オーガスとやら。貴様の言う通りこの世は矛盾や間違った事に満ちているかもしれない。私も幾らか覚えがある。白騎士の事、そして…あいつの事も。私もまたこの世に乱を呼んだ当事者のひとりだ。…しかしそんな私にも命を懸けてやるべき事ができた。それは…貴様を止める事だ!」

 

一夏に続き、皆も心に思った事をオーガスにぶつけた。

 

火影

「どうやらここにいる全員はてめぇの考えに賛同しねぇみてぇだな?」

オーガス

「…クククク、威勢がいい事だな。その闘争心が素晴らしい…」

火影

「互いの主義主張が終わったところでとっとメインイベントを始めようじゃねぇか。いいかげんてめぇの正体を明かしな!てめぇが前の俺等の名前(ダンテとバージル)を知ってんなら前のてめぇも俺達が知ってるかもしれねぇ奴なんだろ!」

海之

「何者だ貴様…!」

 

火影と海之はオーガスに、正確にはオーガスの過去の存在にそう言った。

 

一夏

(…前の…火影達の名前、だって…!?)

オーガス

「……そうだな。こうして貴様達と相対するのであれば今の名でいる必要もない。教えてやろう…」

 

するとオーガスは火影と海之に向き直り、静かに話し始めた。

 

オーガス

「…我は遥か昔、ある者達と覇権を争い、自らの強大な力によって世界の大半を手にしようとしていたが…ある者の妨害によって叶わず、長い時の中を封印された…」

海之

「……!」

オーガス

「そして愚かにも我が力を利用しようとした人間の手によって復活を遂げたが…、無念にも滅ぼされた…。封印では無く滅ぼされたのだ…。我を封印した者の血を受け継ぐ者にな……。だが姿形、時代や次元が変わってもその者達とこうして再び相まみえる事になろうとは……クククク、因縁とは何とも恐ろしく、そして面白いものだ。そう思わぬか?嘗て我を滅ぼした者……ダンテ?」

 

火影の目が大きく開く。

 

火影

「……てめぇ…まさか…!」

オーガス

「…我の名はORGAS・AX(オーガス・アクス)…。そして、嘗てはこう呼ばれていた時もあった…」

 

 

 

「………A・R・G・O・S・A・X(アルゴサクス)




遂にオーガスの正体が明らかにとなりました。
ゲームでアルゴサクスが明確に話しているシーンが無いのですが人間を蔑むのは他の悪魔共通かと。ダンテとバージルらしいもっとカッコいい台詞も使いたいんですが今のふたりには明確に愛する、守る者達がいるのでそれを意識した感じになりますね。

※次回は11日(土)の予定です。
あとお気に入りが450に到達しました!ありがとうございます。


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Mission151 二重の歩く者

一夏の救出に成功して漸くひと段落する火影や海之達。
しかしそんな彼等の元に再び転移が発生し、ひとりの男が現れた。男は自らをオーガスと名乗り、更に火影と海之を嘗てのふたりの名で呼ぶのであった。
驚くふたりを他所にオーガスは自らがアンジェロやファントム達を造った事。そしてDNSを造った事を明かす。オーガスは欲望や欺瞞が渦巻く今の世界を否定し、強者が生きて弱者が蹂躙される弱肉強食の世界こそ最もバランスが取れた世界であり、自然の摂理、平和な世界だと言い放つ。動揺し、否定したい箒や鈴達だったが自分達が予想だにしていなかった過去の真実を聞かされ、彼女達はおろか千冬も言い返すことができない…。
そんな中、火影と海之は世界がどうだろうと自分達には守るものがあり、それを壊す事は絶対に許さないと宣言。ふたりの言葉に勇気付けられた形で皆も自分達の意見をぶつける。正体を明かせと迫る火影と海之に対し、オーガスは自らの真の名を明かすのであった。その名は…。


オーガス

「我の名はオーガス・アクス。そして嘗てはこう呼ばれていた。………アルゴサクス…」

火影

「!! なん、だと!?」

海之

「!!」

 

その名を聞いた途端、火影と海之の顔に驚愕の表情が浮かんだ。

 

千冬

(アルゴサクス…だと!?確か前に火影が言っていた…!)

 

 

…………

 

それは以前、火影と海之が自分達の事について千冬達に打ち明けた時の事。ふたりが以前どのような人生を送ってきたのかを千冬や束達が揃って聞いていた間にこんな会話があった。

 

千冬

「デュマ―リの戦い?」

火影

「俺がある人から依頼されて解決した事件のひとつです。「自分達が住む土地を悪魔の巣窟に変えた人間がいる。その者を倒してくれないか?」ってね」

真耶

「あ、悪魔の巣窟って…人がですか!なんでそんな事を!?」

 

そう驚く真耶に対し、

 

「決まってるじゃん。悪魔の力を自分のもんにするためだよ。そういうバカの目的ってったらたいてい同じだよ」

 

束は軽い感じで返答した。自分も似たような人間を見たことがあるのだろう。

 

火影

「ええ。その人間は自身の財力で得た高度な科学力。そして悪魔の力を利用して世界の覇者になろうとしました。そのためにある強大な悪魔を呼び起こし、その力を自らに取り込もうとしたんです」

刀奈

「どこの世界にもそういう奴っていんのね」

火影

「更にその延長で人造の悪魔なんかの作成にも取り組んでましたからね」

クロエ

「!……人造の悪魔…」

 

その言葉を聞いてクロエは一瞬表情が強張る。人造と聞いておそらく自分やラウラがされた事を思い出したのだろう。すると海之が、

 

海之

「…クロエ、お前は人間だ。悪魔ではない」

クロエ

「…!…ありがとうございます。大丈夫です」

火影

「まぁ結果的にそいつの思惑は失敗。悪魔の力は人間にどうこうできるものじゃないですからね。最終的は俺と仲間でその悪魔もろとも処理しましたよ」

「流石ひーくん♪そういう奴の末路もたいてい同じだもんね~」

千冬

「で、そのある強大な悪魔とは…?」

 

すると火影はその名を呼んだ。

 

火影

「……「アルゴサクス」。魔界の覇王と恐れられ、俺とこいつの親父が封印した悪魔です…」

 

 

…………

 

千冬

(…確かにあの時に聞いた名前…。しかしアルゴサクスは火影がその手で殺したと言っていた。そして…ふたりの様にこの世界に転生してきたというのか!?)

オーガス

「……久しぶりだな。…ダンテ」

火影

「知ってる奴とは思ったが…まさかてめぇだったとはな…」

オーガス

「…そしてダンテの兄、バージル」

海之

「俺は貴様とは会ってはいないがな…」

オーガス

「そう言えば貴様はダンテとの戦いで敗れたのだったな…。しかもその後は…クククク」

海之

「………」…グッ

火影

「人の黒歴史に口出すのは悪趣味だぜ?もっとましな趣味持つのを勧めるね」

オーガス

「クククク…、ご忠告感謝しよう」

 

ダンテとバージル、そしてアルゴサクスの次元を超えた会話が展開される。

 

オーガス

「しかし…敵ながら貴様等と再会できたことは素直に嬉しいぞダンテ、そしてバージルよ」

「だからふたりは火影と海之って言ってるでしょ!」

シャル

「なんであの人、ふたりをダンテとバージルって呼ぶの…?」

ラウラ

「それも気になるが…奴は先ほど再会と言った。やはり海之達は過去に奴に会った事があるのか?」

「…でもそれにしてはなんだか変な気がする…」

セシリア

「ええ。あの男がオーガスと名乗った時はそれほどでは……。ただ、アルゴサクス?そう名乗ってからおふたりの様子が…」

(火影、海之…お前達は一体…?)

一夏

(ま、間違いねぇ。やっぱあん時火影と海之が言ってたのと同じだ…。ってことはふたりも知ってんのか…?)

千冬

「………」

 

皆が其々予想する中、火影達の会話が続く。

 

火影

「…てめぇにも「嬉しい」なんて感情あったんだな。あん時は全然喋らなかったからわからなかったぜ。一応聞くが…なんでてめぇがいやがる?」

オーガス

「…何故?それは貴様達が一番よくわかっている筈ではないのか?」

火影

「……」

海之

「……ではやはり貴様も」

 

その答えでふたりはオーガスが自分達と同じように死後、この世界に転生してきたのだと確信した様だ。

 

オーガス

「その通りだ…。嘗て我らがいた世界より千年以上も昔、奴と奴に味方した忌々しき人間共によって封じ込められ力を失った我は、長い時を経て愚かな人間の手によって復活を遂げたが……奴の息子であるダンテ、貴様に滅ぼされた…」

「…千年前?復活?…あいつ何言ってんの…?」

「…わからない。まるでゲームやアニメみたいな台詞だけど…」

火影

「……ふっ、ああそうだったな。あん時のてめぇの醜い面は今でも覚えてるぜ?」

オーガス

「そして封印どころか肉体も力も何もかも消滅し、全てを失った我は人の子として別の世界であるこの世に生まれ落ちてきた。あれ程忌嫌っていた薄汚い人間等に。……ふっふっふっふ」

 

オーガスは笑っているがその口元は明らかに屈辱に歪んでいた。

 

「…別の世界…だと?」

火影

「こっちにゃ何時生まれたんだ?」

オーガス

「この世界ではもう50年になる。最も我が我としての記憶を取り戻したのはまだほんの18年前だがね」

火影

「!…18年だと…?」

海之

(俺達がこの世に来た一年前に記憶を取り戻したという事か…?…何故…)

火影

「んじゃそれまでは自分の事も全部忘れてたってことか?」

オーガス

「そうだ…。この世に生を受けてから幼年期少年期青年期とひとりの人間としての生を送ってきた。その後、我が父であった人間の影響を受けて科学者となった。父は嘗てとある国お抱えの兵器開発者でね」

ラウラ

「それが貴様があのようなものが造れる理由か…!」

オーガス

「貴様達は知る由もないかもしれんが…篠ノ之束の学会にも出席していた…。暇つぶし程度と思っていたがなかなか面白かったのを覚えているぞ。…まさかこれ程までに世界を席巻する程まで成長するとは思わなかったがな。人間とは本当にわからないものよ。クククク…」

海之

「!」

火影

「あの場にいただと…!?」

 

ふたりは驚いた。幼かった自分達と両親がいたあの場所にオーガスがいた事に。

 

オーガス

「そして白騎士事件が起こり、世界がISを追い求めると父は歳と古い考えが災いして国から見捨てられた。順応が早い我と違ってな。父は我に救いを求めたが…目障りだった故始末してやったよ」

シャル

「な!?」

「アンタ、自分の父親を殺したっていうの!?」

セシリア

「…そんな…、実のお父様を…。どうしてそんな事…」

オーガス

「邪魔者はいかなる者であろうと消すだけだ。例え家族でもな。おかしくは無かろう?…なぁ、バージルよ」

海之

「!……」

 

オーガスは海之に問いかける。一瞬過去の自分を思い出す海之。

 

「海之くんを貴方と一緒にしないで!!」

ラウラ

「その通りだ!海之は貴様とは違う!」

 

すると簪とラウラが海之に並んで庇う。

 

海之

「ふたり共…」

千冬

「海之、ふたりの言う通りだ。安心しろ」

海之

「先生…」

火影

「…俺達の事は何時知ったんだ?」

オーガス

「今年の夏の初め頃、傀儡共の強化につかえるかもしれんとハワイ沖で実験中だった新型のISを奪った時だ」

シャル

「…!それってシルバリオ・ゴスペルの事…?」

千冬

「では…ナターシャが聞いたという男の声というのも貴様の事か…!」

オーガス

「調査が完了すればどうでもよいと手放したのだが、ゴスペルの飛行経路のすぐ近くにあの篠ノ之束がいるという事を知った。捕獲のためアンジェロ達を向かわせたのだが…瞬く間に貴様等に全滅させられた。最初に気になりだしたのはその時だ」

「あ、あん時のもアンタの仕業だったのね!皆どんだけ焦ったかわかってんの!?」

オーガス

「だが当然俄かには信じられなかったがな。そこでより確実性を増すためにMやオータムにIS学園を襲撃させた。織斑一夏の打倒と白式に使われている白騎士のコアの入手という名目でな」

一夏

「!!」

「い、一夏の白式に使われているコアが!」

セシリア

「白騎士のコアですって!?」

千冬

(白式がDNSで白騎士に変わったのはそのためだったのか…)

オーガス

「白騎士事件から数年後、解体された白騎士のコアを日本政府が篠ノ之束から買い上げたのだ。そしてそれを織斑一夏の白式に搭載した」

セシリア

「!? で、でも一夏さんがISを動かせる事がわかったのは今年の初めですわ!それまでずっと白騎士のコアを使わずにいたというんですの!?」

 

セシリアの言う通りISのコアは数が少ないこともあって世界中が追い求め、喉から手が出るほど欲しがる代物。そして国々はそれを手に入れると早速それをもとにISを設計・開発するのが常例である。いかに白騎士のコアとはいえ数年間も手を出さずに、まるで一夏の白式に合わせたかの様にしたのは不自然に見えるところである。

 

オーガス

「……話を戻そう。そして結果は知っての通り、貴様等はMやオータム、ファントムまでも簡単に退けた。疑念はますます高まった。そしてその後の同じく学園襲撃やキャノンボール・ファースト会場での一件。貴様達のまるで戦い方がわかっていたかの様な戦いを見て確信したのだ。貴様等が…嘗てのダンテとバージルであるとな。実に見事な戦いぶりだったぞ。IS学園への襲撃も、キャノンボール・ファーストの時も、そして先程の京都でも。オータムの行動は予想外だったがそんな事は大した問題ではない」

海之

「……!」

火影

「アレが…大した問題じゃねぇだと…!」

オーガス

「何を怒っている。貴様こそ目の前に蠅が飛んでいたらはたき落とすだろう?それと同じ事だ」

 

声こそ低いが火影と海之はオーガスに対して激しい怒りをぶつける。対してオーガスは本当になんとも思っていないという顔をしている。

 

海之

「……貴様…!」

火影

「…人間を経験した事でほんの少しは変わってるかと思ったが…とんだ期待外れだぜ。何も変わっちゃいねぇな…!」

オーガス

「ふっふっふ…、そうだな。時代を超え、世代を超え、更に次元を超えても我ら、そして我らの因縁は変わりはしない様だ。貴様等の父であり、憎き反逆者スパーダの因縁はな…!」

ラウラ

「…スパーダ…?」

「火影達の父親って…アンタ火影達の生まれの事知ってるの!?」

シャル

「それに…反逆者って、…どういう事なの火影…?」

「………」

千冬

「その話は後だお前達。今はこいつを捕まえる事こそ先決だ!」

 

千冬がそういうと一夏以外の他の皆もISを展開する。

 

オーガス

「クククク…以前とは違って随分お仲間も増えたようだな?あの時の貴様ら、特にバージルからすれば考えられない事だ」

海之

「………」

火影

「こいつも成長したって事さ。てめぇも見習ったらどうだ?「魔界の覇王アルゴサクス」じゃなく「単なる人間のオーガスさん」よ?」

箒・セシリア・鈴・シャル・ラウラ・簪

「「「…!?」」」

一夏

(…マカイ…!?)

オーガス

「単なる人間、か…。それは我の父だった様な人間か?それとも…先ほど言った貴様等の母親の様な者か?」

火影・海之

「「…!」」

 

ふたりは目を大きく開いた。

 

オーガス

「…エヴァ、という名だったな…貴様等の母は。知っているぞ?貴様達を守るために殺されたんだとな?…馬鹿な女だ。悪魔等愛し、貴様達を産みさえしなければ、その様な無残な死に方等せずに済んだろうにな。ハッハッハッハ…!」

火影・海之

「「…!!」」

 

 

(バージル、ダンテ。誕生日おめでとう!)

 

(私が戻らなかったら…逃げて。新しい人生を…始めるの…)

 

 

ドゥンッ!!

 

その時、海之がオーガスに向かって瞬時加速で斬りかかった。激しい怒りを含んだ目をして。

 

千冬

「海之!」

火影

「バージル!」

 

そして一気に閻魔刀がオーガスに振り降ろされた。……しかし、

 

 

ガキィィィィィィィンッ!

 

 

海之

「!…何!?」

 

海之の攻撃は通らなかった。オーガスの前に結界の様な、バリアの様なものが張られ、攻撃を遮っていたからだ。

 

「! シールドだと!?」

シャル

「で、でもISも何も使ってないのに!」

 

ドクンッ!

 

更にその結界らしきものに反応する閻魔刀。

 

オーガス

「…ふん」…ドンッ!!

海之

「!ぐっ!」

 

オーガスが手をかざした瞬間、手のひらから目に見えない衝撃が飛び出し、それが海之に直撃した。身体が吹き飛ばされ、地面に激しく打ち付けられた。

 

ドゴォォォォォッ!

 

海之

「ぐあっ!」

「海之くん!」

海之

「くっ…バカな…!今のは魔力の障壁…!」

「大丈夫!?しっかりして!」

オーガス

「バージル…反逆者スパーダの長兄。人間とはいえ無様なものだな?完全な悪魔として生まれ直していればそれなりの骨を持つ者になれただろうに」

海之

「黙れ…!」

「悪、魔…?」

千冬

「うおおおおおおおおっ!」ドンッ!

 

すると今度は千冬がレッド・クイーンで斬りかかるが、

 

ガキィィィィィィンッ!

 

オーガス

「邪魔だ…」ドンッ!

千冬

「ぐっ!」

 

やはりこれも結果は同じく食い止められ、、海之と同じ様に千冬の身体も衝撃波で飛ばされてしまう。

 

ドゴォォォォォォンッ!

 

千冬

「がはっ!!」

ラウラ

「教官!」

オーガス

「世界最強のブリュンヒルデか…。だが所詮はただの人間、脆弱な存在よ…」

千冬

「くっ…おの、れ…!」

一夏

「千冬…姉!…くっ!」

「一夏無茶するな!」

ラウラ

「貴様ぁ!よくもぉ!」ジャキッ!ズドンッ!

 

ラウラは激高してレール砲を撃つ。

 

オーガス

「喚くな、虫が」

 

ヴゥゥゥゥンッ!……ボガァァァンッ!

 

オーガスの撃った目に見えない一撃がラウラのレール砲の砲弾を簡単に破壊した。

 

ラウラ

「な!?」

「砲弾が破壊された!?銃も持ってないのに!」

 

そしてそのままそれはラウラに迫る。

 

セシリア

「ラウラさん危ない!」

 

 

ヴゥン!!ドガァァァァァァンッ!!

 

 

オーガス

「…?」

海之

「くっ…」

 

オーガスの攻撃は海之の次元斬によってかき消された。だが今の傷だらけの海之にはその一撃も簡単では無かったらしく、息も乱れている。

 

ラウラ

「海之!」

海之

「ゼィ、ゼィ…」

「海之くんお願い!無茶しないで!」

オーガス

「ほぉ…、そんな身体でも我が一撃をかき消すか」

火影

「ちっ!」ジャキッ!ドンッ!

 

今度は火影がすかさずエボニー&アイボリーを構え、至近距離で撃とうと接近する。

 

鈴・シャル

「「火影!」」

オーガス

「……」ドンッ!

火影

「!」

 

オーガスの手から再び衝撃波が放たれる。それをかわす火影。

 

ズドドドドドドドドドッ!

 

そして近くまで来て一気に連射する。しかし、

 

キキキキキキキキキンッ!

 

これも一発も当たらず、全て弾かれてしまう。

 

火影

「くっ!」ドォォォォォォンッ!「ぐあああ!」

 

その時火影の背中に襲いかかる衝撃があった。先程火影がかわした衝撃波が軌道を変え、再び襲いかかってきたのだ。

 

ドォォォォォンッ!

 

火影

「ぐぅあ!!」

 

不意打ちを受ける形となったため、ダメージも大きい。苦しむ火影に鈴とシャルロットが駆け寄る。

 

「火影!」

シャル

「しっかりして火影!」

火影

「ぐっ!くく…」

セシリア

「銃弾まで!ISを使ったわけでもないのに…どういう事ですの!?」

 

消耗しているとはいえ火影、海之、千冬の3強を簡単に払ってしまうオーガスに皆驚きを隠せない。

 

オーガス

「前世では苦汁を舐めさせられたが…魔力を失なった貴様等もはや大した意味は無いダンテ。この力の前にはな」

火影

「…く!」

「…前世…?」

シャル

「魔力…?」

オーガス

「ふむ…、貴様にも試してみようか」

 

ギュオォォォォォ……!

 

そう言うとオーガスはこれまでより大きいエネルギーを自らの真上に集め出す。

 

「な、なんだあれは…!?」

火影

「くっ!!」ジャキッ!……ズドォォンッ!

 

すると火影はふらつきながらもカリーナに持ち替え、チャージしたビームをオーガスが生み出したエネルギーに向けて撃った。火影とオーガスのエネルギーがぶつかり、

 

 

ギュオォォォ………ドォォォォンッ!

 

 

少し拮抗した後に相殺された。だがその攻撃にもオーガスは無傷のままだった。

 

火影

「ハァ、ハァ…第2ラウンドだ…!」

オーガス

「ほぉ…、貴様もそんな状態でこれ程のエネルギーをかき消すか。ダンテ、そしてバージル。嘗ての様な力を失ったとはいえDISを圧倒する程の、更にこの力か。流石はスパーダの息子。…やはり貴様達だけは何としても排除する。憎きスパーダとの因縁を断ち切り、我らの大願を果たすためにな…」

海之

(…「我ら」だと…?)

オーガス

「…とはいえ、我も今は人の身。いろいろやらなければならない事もある故。感動の再会の挨拶も済ませた事だし、貴様達の排除は…新しい傀儡に任すとしよう」

火影

「…新しい傀儡だと…?また何か造りやがったのか?…今までもてめぇが造ったっつぅ奴らは、どいつもこいつも肩透かしだったぜ?てめぇが直接来いよ。かかってこい!」

 

火影は再び立ち上がり、戦おうとする。

 

「何を言ってんの火影!そんな身体で戦える訳ないでしょう!?」

シャル

「お願いだからやめてよ火影!」

 

するとオーガスの口元が大きく上向きに歪んだ。

 

オーガス

「今回は…………どうかな?」

 

 

ブゥゥゥゥゥゥゥンッ!!

 

 

オーガスはそう言って手をかざすと彼の前方足元に影の様な真っ暗闇の穴がふたつ出現した。

 

「な、何!?」

「…影の…穴…?」

「…なに…凄く寒気がする…」

 

 

…ドクンッ!!…ドクンッ!!

 

 

火影・海之

「「!」」

 

リベリオンと閻魔刀がその影に反応した。しかもこれまでのよりも大きな反応であった。

 

火影

(!…あの影に反応している!)

海之

(これは…今までよりも遥かに強い…!)

 

其々の剣の反応を黙って感じ取るふたり………とその時、

 

 

…ピッ!キュイィィィン…

 

 

火影

「え?……!!」

海之

「何!?」

 

ふたりは何かに気付いたらしく、酷く驚いていた。

 

ラウラ

「何か出てくるぞ!」

 

 

…グバァッ!

 

 

シャル

「!!な、何アレ…腕!?」

 

 

……グバァッ!

 

 

セシリア

「も、もうひとつの方からも出てきましたわ!」

 

ふたりの言う通り、それは腕であった。最初に片腕、次にもう片腕。そして両腕を支えにして影の穴から這い上がる様に何か出てくる。

 

「…IS?……!!なに!?」

セシリア

「な!?」

「嘘でしょ!?」

シャル

「そ、そんな!?」

ラウラ

「ば、バカな!」

「そんな…アレは…!」

一夏

「……!!」

千冬

「……なんだと!?」

火影・海之

「「!!」」

 

彼らの前に現れたもの、それは……、

 

 

 

黒いアリギエル・ウェルギエル

「「………」」

 

 

 

オーガス

「ククク、驚いてくれたかな…?」

 

火影と海之のIS、アリギエルとウェルギエルだった。しかしふたりのISと全く同じではない。ふたつの点が違っていた。ひとつは真っ黒。頭の先から脚の先まで一点の光も色も無い、漆黒のアリギエルとウェルギエルであった。そしてもうひとつは、

 

…ニヤァ…

 

それにはバイザーは無く顔があった。血の様に真っ赤に光る大きな目と、上向きの口角で笑うように裂けた大きな口があった。それはまさに狂気の表情であり、見る者をゾッとさせるものだった。やがてそれは怨念のごとき咆哮を上げた。

 

 

黒いアリギエル・ウェルギエル

「「オォォォォォォォォォォォォォォォ!!」」

 

 

シャル

「な…なんなの、…あのISは…!?」

「…凄く…怖い…」

千冬

「なんて存在だ…いるだけで凄まじい黒い気を感じる…!」

セシリア

「で、でも…何故火影さん達のISとここまで…」

「…火影…?」

火影・海之

「「……」」

 

火影と海之は黙ってそれを見る。そして向こうもふたりを見ている様に思える。

 

オーガス

「さぁDIS・ドッペルゲンガーよ…。その身に宿した我らが積年の怨みを晴らしてくれ。奴らを倒し、そして貴様らが晴れて新たなダンテとバージルになるのだ…」

 

するとオーガスは転移を起動させる。

 

火影

「待て!」

オーガス

「昔の自分同士存分に戦うが良い。クククク…、ハッハッハッハッハッハ!!」

 

高笑いと共にオーガスは転移し、消えた。残ったのは黒いアリギエルとウェルギエル…、

 

黒いアリギエル・ウェルギエル

「「オォォォォォォォォォォォォォッ!!」」ドゥンッ!!

 

そしていきなりそれは襲いかかってきた!




※全国的に大雨による被害の、そしてコロナが多発しております。皆様くれぐれもお気をつけください。私も気を付けながら頑張ります。

※次回は18日(土)の予定です。
更にひとつお知らせがあります。次回の翌日19日(日)、以前アンケートさせていただいた今後のストーリー予告を1話分使って投稿します。あくまでもこのような台詞を使ってストーリー展開していくというものですが多少のネタバレを含んでいますので、アンケートでご希望された方のみ、よろしければご覧くださいませ。


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Mission152 消失…

火影(ダンテ)、海之(バージル)、そしてオーガス(アルゴサクス)。宿敵同士の次元を超えた対峙、そして会話に一夏達は理解できずにいた。
そんな中で海之が怒りに任せて攻撃を仕掛けるがオーガスが張った魔力の障壁、そして衝撃波によって吹き飛ばされてしまう。オーガスは人間でありながら何故か魔力を持っていたのだった。それによって続いて攻撃を仕掛ける千冬、そして火影をも倒すオーガス。
驚く皆をよそに、オーガスは新たな傀儡といってあるものを召喚する。それは見た目アリギエルとウェルギエルに瓜二つなもの、黒いアリギエルとウェルギエルであった。そしてそれらは召喚されるやいなや怨念の如き咆哮を上げると突然襲い掛かってくるのだった。


黒いアリギエル・ウェルギエル

「「オォォォォォォォォォォォォォォッ!!」」ドゥンッ!!

 

口を更に広げて咆哮を上げるやいなや、目の前の黒いアリギエルとウェルギエルがこちら目掛けて突進してきた。

※以降それぞれDと付けます。

 

Dウェルギエルが向かっているのは、

 

海之

「!!」

 

ガキイィィィィィィンッ!

 

Dウェルギエル

「ミィツゥケェタァゾォォォ!!」

海之

「ぐっ!」

千冬

「海之!」

「な、なんだあの動きは!?」

ラウラ

「全く見えなかった…!」

 

間一髪海之は閻魔刀でDウェルギエルの刀をギリギリで受け止めた。しかしダメージがあるためか圧されている。

 

海之

「ぐうぅぅぅ!」

 

そしてよく見ると敵の刀は、

 

ラウラ

「!…黒い…閻魔刀だと!?」

「そんな!あれは海之くんの刀じゃ!?」

Dウェルギエル

「シネェェェ!!ヴァァァジルゥゥゥゥゥ!!」

 

ガキィィンッ!キィィン!!

 

一方の火影も黒いアリギエルと交戦していた。そしてこちらも手に持っているのは、

 

火影

「ぐっ!」

「あいつのあの剣、…リベリオン!?」

シャル

「なんであいつまで!」

Dアリギエル

「キエロォォォ!ダァンテェェェェェェッ!!」

 

こちらも負傷している分、火影が圧されていた。

 

「火影!」

シャル

「助けなきゃ!」

火影

「止めろ!!」

鈴・シャル

「「!!」」

 

火影は相手しながら助けようとしたふたりを止める。今までに聞いた事が無い位の大きさと怒気を含んだ火影の声に鈴もシャルロットも怯んでしまう。

 

火影

「手ぇ出すんじゃねぇ!」

海之

「お前達が敵う相手ではない!」ドスゥ!「ぐっ!!」

 

隙を付いた敵の黒い閻魔刀が海之の脇腹を貫いた。

 

ラウラ

「なっ!」

「海之くん!」

海之

「…ちぃ!!」

 

海之は相手の刀を受け止めながら皆に手出ししない様忠告する。その声に何時もの彼の落ち着いて余裕ある雰囲気は一切ない。必死、誰もがそう思う声だった。

 

ドゴォッ!ドゴォッ!

 

火影はリベリオンからイフリートに変え、迎え撃っていたがその時相手も武器を変えていた。手に付けていたのは、

 

「イフリートまでだと!?」

セシリア

「あれも火影さんの武器の筈なのに!」

 

ドンッ!ドンッ!

 

アリギエルと黒いアリギエル。互いのイフリートが激しくぶつかり合う。

 

火影

「ぐっ、ぐうぅぅぅぅ!」ドゴオォォォッ!「ぐあああっ!!」

 

 

バキィィィィィィンッ!

 

 

相手の左手が火影の頭部に直撃した。その威力でひび割れていたアリギエルのバイザーが壊れ、火影の顔が晒される。頭部から出血もしているらしく痛々しい。

 

火影

「ぐあ!…がはっ!」

 

火影は飛ばされて大きく地面を転がりながら止まった。立ち上がるのも苦しそうだ。

 

火影

「ぐっ…、あっぐ…くっ!」

「火影!」

 

すると剣に持ち替えたDアリギエルは火影に近寄ろうとした鈴に瞬時加速で襲いかかろうとした。

 

Dアリギエル

「ジャァマァダァァァァァァッ!」ドゥンッ!

「!!」

火影

「! ぐっ!!」

 

ガキィィィンッ!

 

火影は必死に身体を起こしてふたりの間に入り、リべリオンに持ちかえてそれを受け止める。

 

「火影!」

火影

「早く逃げろ!」

海之

「でやぁぁぁぁぁぁ!!」

Dアリギエル・ウェルギエル

「「オォォォォォォォォ!!」」

 

火影と黒いアリギエル、海之と黒いウェルギエルは凄まじい高速戦闘を繰り広げる。剣と刀がぶつかり合い、斬っては受け止め、斬っては受け止め、避けて避けてよけまくる。

 

ガキィンッ!キンッ!ガキンッ!キィィンッ!

シュン!キィィンッ!シュン!キィィンッ!!

 

「……凄い…」

「近づける隙が…ない」

千冬

「……」

 

皆は手出ししなかった。いやしようにもできなかった。彼らの本気と本気のぶつかり合い。目に見えない程の剣閃と動き。自分達には手が出る領域では無かった…。千冬でさえも…。ダメージで言えば間違いなく火影と海之が不利。しかし気迫と絶対に守るという信念が彼らを動かしていた。……そして時間的にはほんの数十秒位かもしれないそんな戦いが続いた後、

 

ガキンッ!

 

火影・海之

「「ぐっ!」」

「火影!」

「海之くん!」

海之

「何をしている!早く逃げるんだ!」

ラウラ

「し、しかし!」

シャル

「僕達だけ逃げるなんてできないよ!」

火影

「いいから行くんだ!俺達に構うな!…箒!一夏を連れていけ!」

「!」

一夏

「ぐっ…!お、俺はまだやれる!」

 

DNSの影響でふらつきながらもその言葉を聞いて一夏は立ち上がろうとする。そんな一夏にふたりは、

 

海之

「まともに動けもせんくせに余計な真似するな!」

火影

「一夏行け!今のお前じゃ足手まといだ!」

一夏

「!!」

海之

「ダンテ!こいつらを外へ出すぞ!できるだけ離れる!」

火影

「分かった!お前ら良いな!絶対付いて来んなよ!!」ドンッ!

海之

「先生!皆に後を追わせるな!」ドンッ!

千冬

「!」

Dアリギエル・ウェルギエル

「「……」」ドンッ!ドンッ!

 

そう言って火影と海之は全速でアリーナの上空シールドの隙間から外へ出る。すると敵も最早ふたりしか目に入っていないのかそもそもなのか、他には目もくれずふたりを追って外に出て行った…。

 

シャル

「火影!海之!」

「追いかけようよ皆!今のふたりを放っておけない!」

ラウラ

「分かっている!」

 

皆は火影達を追いかけようとした。しかし、

 

千冬

「行くな!!」

全員

「「「!!」」」

 

皆の前に立ちふさがる様に手を広げて千冬が止める。

 

「千冬さん!?」

千冬

「今のお前達に何が出来る!あいつらの邪魔だ!」

セシリア

「し、しかし織斑先生!今のおふたりの状態では!」

シャル

「そうです!あんなボロボロじゃふたりが」

千冬

「それでも駄目だ!!」

「そ、そんな……!」

 

その横で一夏が箒を振り払って立ち上がろうとしていた。

 

一夏

「くっ、ち、ちっくしょお!…あいつら好き放題言いやがって…!」

「よせ一夏!」

一夏

「は、離せ箒!くっ!俺が…俺が足手まといだと!なめてんじゃねぇぞ火影ぇ!!」

 

足手まといと言われた事に一夏は激高するが、

 

「その通りだろうが!!」

千冬以外全員

「「「!!」」」

 

箒の言葉に一夏、そして千冬以外の皆も動きを止める。

 

「お前だけじゃない!今の私達皆ふたりの足手まといだ!あれを見てわかった筈だぞ!あの黒いIS達が放つ尋常では無い、圧倒的ともいえる邪悪さと殺気をな!今だって火影と海之が庇ってくれなければ今の私達等はっきり言って一瞬で全滅させられていただろう!だからふたりはあんなに満身創痍ながらも奴らを引き付けてくれた!私達を守るためにな!何故それが分からん!」

一夏

「……だ、だけど今のあいつらは」

「千冬さんの言う通りだ!今の疲弊しきったお前や私達ではどんなにあがいても勝ち目は無い!そしてあのふたりの先程の表情からして、恐らくふたりにとっても類を見ない位の強敵なのだろう!…悔しい気持ちは良く分かるが、そんな状況で私達がいても敵の的になるだけ!却ってふたりの邪魔になるだけだ!」

一夏

「………箒…」

 

一夏はそれ以上の言葉が出なかった。そして箒は続けて言った。

 

「そして…こんな事考えたくも無いし考えられもしないが、…もし、もしあのふたりが敗れる様な事があれば、その時は一夏!お前や私達があれを相手にしなければならないんだぞ!!」

一夏

「…!!」

 

箒のその言葉に一夏は激しく動揺する。それは一夏だけでなく、

 

ラウラ

「な、何を言う箒!海之と火影が負ける等、ある訳無いだろう!」

シャル

「そ、そうだよ!そんな事ある筈無い!そ、それにさ、もし例え負けちゃったとしても今度は僕達皆で力を合わせて戦えばきっと勝てるよ!」

 

ラウラやシャルロットはそう言うのだが、

 

「忘れたのか!?あのふたりのISは一瞬で受けた怪我が治る筈だ!なのに今受けた傷は愚か、これまでに受けたらしい傷も殆ど再生していなかった!これが何を意味するかわからんか!?」

シャル・ラウラ

「「!!」」

セシリア

「……まさか、おふたりのISは、…既に壊れている…!?」

「ああ…多分な…。そんな状態で先程の様な奴らと戦い、それで万一負けるという事は………」

一夏

「…!!」

千冬

「……」

 

バッ!

 

その時鈴と簪が出て行こうとするが千冬がそれを力づくで止めていた。

 

千冬

「待て!」

「離して!離して下さい千冬さん!お願いします!ふたりを!火影を助けないと!!」

「ふたりが、海之くんが死んじゃう!行かせてください先生!!」

千冬

「行かせる訳にはいかない!…約束したんだ!お前達を死なせないと!」

 

ふたりは泣きながら必死に頼むが千冬は決して行かせようとしない。

 

バッ!ガシッ!

 

するとシャルが行こうとするがラウラがそれを止める。シャルも既に涙目だ。

 

シャル

「ラウラ!?なんで止めるの!?」

ラウラ

「すまんシャル!だが…行かせる訳にはいかん!」

シャル

「どうして!?ラウラも海之を助けたいでしょ!ラウラはふたりが死んでも良いの!?」

ラウラ

「そんな訳無いだろう!!」

シャル

「!!」

 

シャルは止まった。ただ声で止まったのではない。あの強いラウラが、泣いていたからだ。

 

ラウラ

「私だって同じだ!お前達と一緒に行きたいんだ!今すぐにでもな!…しかしそれを一番望んでいないのは海之と火影だ!教官や箒の言った通り私達が行くことで却ってあいつらの負担となるなら…私達ができる事はふたりの勝利を信じる事だけだ!」

シャル

「…ラウラ…」

 

ラウラはそう言いながら膝から崩れ落ちる。

 

ラウラ

「私は……私は悔しい…。私は……なんで何時も無力なんだ…。なんで……何時も助けになれないんだ。くっ、うぅぅ……」

 

つかむその腕には既に力は無いが、シャルには今のラウラの手を振りほどいて行く事はできなかった。

 

シャル

「ラウラ……。火影…お願い、死なないで…」

 

そんな彼女達の様子を見て鈴と簪も追いかける事を諦めるしか無かった。

 

「…火、影ぇぇ…、何でよ…、何で、アンタはいつも…」

「……海之くん。…う、うぅぅ…」

千冬

「…すまない…」

一夏

「……くっそおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」ダンッ!

 

一夏は今だ力が戻らないその拳を悔しさのあまり思い切り地面にたたきつけた。

 

箒・セシリア

「「一夏(さん)……」」

 

 

…………

 

遠く離れた海の上、

 

火影

「ゼイ、ゼイ…」

海之

「くっ…」

Dアリギエル・ウェルギエル

「「………」」

 

火影と海之は黒い自分達と向き合っていた。

 

火影

「ふぅ~…どうやら皆は追っては来ていねぇようだな…。先生が上手く止めてくれたか。…しかし奴ら、なんで動かねぇんだ?」

海之

「俺達が戦闘態勢になるのを待っているのだろう。……ここに来るまでどれ位回復している?」

火影

「残念だが殆ど変ってねぇよ。小さいもんはともかく大きい傷はな…。どうやら完全にやられてるみてぇだな。京都から戦いっぱなしだからSEもとっくに半分切っちまってるし。…さてどうすっかねぇ」

海之

「なんならお前は隙を見て戻って構わんぞ。丁度良いハンデだ」

火影

「強がるなよ。お前も満身創痍みたいなもんじゃねぇか。知らんとは言わせねぇぜ?」

海之

「……」

火影

「それに今は俺達のストーカーみてぇだが…、こんな奴ら放って置いたらどうなるかわからねぇ。だからなんとしてもここで倒す。…例え、俺らが死ぬ事になってもな」

 

火影はそう言いながらリべリオンを右手に持つ。

 

海之

「………ひとつ訂正しろ」

火影

「…あ?」

海之

「まだ俺達の決着が付いていない。こいつらを、そしてアルゴサクスも倒す。決着は…その後だ」

 

海之も閻魔刀を抜く。そして同時に相手も其々黒いリベリオンと閻魔刀を持つ。

 

火影

「……へへ、何時も偉そうな事言ってる割りにゃお前も十分ガキじゃねぇか。だが悪い気はしねぇな。…死ぬんじゃねぇぞ!」

海之

「お互いにな」

 

そして、

 

……ドゥンッ!!!

 

火影・海之

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

Dアリギエル・ウェルギエル

「「オォォォォォォォォォォォォ!!」」

 

 

両者は互いに突撃していった……。

 

 

…………

 

IS学園 生徒会室

 

ふたりを追いかける事ができなかった皆は揃って生徒会室で待機していた。何か起これば千冬が知らせに来る事になっている。箒とセシリアは一夏を医務室に連れて行っている。

 

シャル

「…火影、…海之。ふたり共きっと無事だよね…」

「……大丈夫。…きっと、きっと大丈夫」

ラウラ

「信じている。嫁と弟の勝利を…」

「……」

 

シャルロットと簪はそう言うがその表情は不安で一杯なのが明らかだった。そんなふたりにラウラは信じようと言うが当のラウラもやはり不安からか言葉に力が無い。鈴は戻って来てから一言も喋っていない。

 

ガラッ

 

鈴・シャル・簪・ラウラ

「「「!!」」」

「……」

セシリア

「織斑先生はまだですのね…」

ラウラ

「ふたりか。…ああ。まだ連絡はない…」

シャル

「箒、セシリア。一夏は?」

「ああ、先程眠った所だ。命に別条は無いが、余程疲れが激しかった様でな…」

セシリア

「御側にいようとしたのですが…、先生方から今は自分達も休めと強く言われまして…」

「そう…。無理も無いよね…」

「……」

 

暫しの沈黙が流れる…。

 

セシリア

「…あの、あの男が言っていた事、…どういう意味なんでしょう…?」

「…わからんよ。わからん事だらけだ…。前世とか悪魔とか。……あの男は、火影と海之を知っている様だった。だがふたりの事をダンテとかバージルと呼んだ。……一体」

「そんな事今はいいじゃない!ふたりが帰ってきたら幾らでもふたりに聞いたら良い!今は関係無いでしょ!!」

「!ご、ごめん…」

シャル

「……火影……お願い」

「海之くん、…早く帰ってきて…」

ラウラ

「………」

 

皆はただひたすら火影と海之の無事を願った。

 

 

…………

 

ガラッ

 

それから数分後、生徒会室の扉が開いた。入ってきたのは千冬だった。

 

千冬

「……」

全員

「「「千冬さん(教官)!!」

 

皆が千冬に一斉に迫る。

 

「千冬さん!ふたりは!?火影と海之は!?」

「ふたり共無事なんですよね!?」

ラウラ

「教えてください教官!」

シャル

「どこに、どこにいるんですか!?これから帰ってくるんですよね?火影も海之も!」

千冬

「……」

 

千冬は何も答えない。

 

「…千冬さん?」

セシリア

「ど、どうされましたの…?」

千冬

「……」

シャル

「ま……まさか……」

ラウラ

「…嘘だ…」

 

最悪の結末を予想する皆を前にゆっくり千冬は口を開いた。

 

千冬

「……火影と海之は…あの黒いISの撃退に成功した様だ。反応が……全て消えた」

「! 本当…ですか!?」

「…良かった…、本当に、本当に良かった…!」

ラウラ

「…は…はは…ははは!ほらだから言ったろう!私の嫁と弟があんな奴らに負ける筈無いと!!」

シャル

「……ハァ、まっったくもう!…火影も海之も…帰ったら今までなんかと比べ物にならない位お説教だからね!!」

 

皆が千冬の言葉に喜ぶ。……しかし、

 

「……」

「…どうした鈴…?」

「……千冬さん、ひとつだけ気になった事聞いて良いですか?」

セシリア

「…私も…今のお言葉でひとつ気になっている事がありますわ…」

ラウラ

「どうしたセシリアまで、一体何が気になると」

セシリア

「……先生。先ほど火影さんと海之さんがあの黒いISを倒されたというお話の後、先生はこう仰いましたよね?「反応が……全て消えた」と」

「……「全て」って、どういう事ですか…?消えたのがあのIS達だけなら、「全て」なんて付けなくても良いと思うんですけど…?」

シャル

「……あ」

「…そう言えば…」

ラウラ

「…教官…?」

 

先程の喜びは鎮まり、場は再び静寂に戻った。

 

千冬

「…確かにあの黒いISの反応は消えた。間違いない。………だが、それとほぼ同じ瞬間で」

 

そして千冬は続けて言った。皆が最も聞きたくなかった言葉を…。

 

 

千冬

「アリギエルとウェルギエルの反応が、……火影と海之の生体反応が……消えた」

 

 

「!!」

セシリア

「そ……そん、な…」

 

ガラッ!ドタドタドタ……

 

すると鈴達が千冬の横を通りこし、扉を開けて外に出て行った。

 

「皆!」

千冬

「……篠ノ之、オルコット。…あいつらを頼む。京都も学園も、そして黒いIS達も退けた。多分もう次はないだろう…。今日の内はな…」

箒・セシリア

「「は、はい!」」

 

千冬に言われて箒とセシリアも出て行った。部屋に残ったのは千冬だけ……。

 

千冬

「……海之、……火影」

 

千冬の瞳から一筋だけ光るものが流れた……。

 

 

…………

 

ここはとある海の上。空はうっすら夕闇が近づきつつある。

 

「火影―――!海之―――!」

ラウラ

「ふたり共――!どこだ――!」

 

鈴達は火影達の反応が消えたというポイントに到着してからずっとふたりの姿を探していた…。

 

シャル

「……信じない、…そんなの絶対信じない!」

「プライベート通信も反応しない…。例え気絶しててもISがあるなら通信自体は繋がる筈なのに…」

セシリア

「…おふたり共…どこにいるのですか…」

「…お願い、ふたり共お願いだから…返事をして。………海之くん」

 

…しかし虚しくも聞こえてくるのはふたりを探す彼女達の必死の声と波音ばかり…。

 

 

…………

 

数刻後、生徒会室

 

ガラッ

 

楯無・クロエ・本音・虚

「「「皆(皆さん)!」」」

 

数刻後、箒達は戻ってきた。そこには先に戻ってきていた楯無とクロエ、そして話を聞いた本音と虚もいた

 

「楯無さん…クロエ…、戻ってきていたんですね」

クロエ

「皆さん!兄さん達は!?」

セシリア

「……」

 

セシリアは首を横に振った。空が暗くなりかける頃まで探したがそれでも火影と海之を見つける事は出来なかった。

 

楯無

「…そう…」

本音

「そんな…ひかりんとみうみうが、火影……が…」ガクッ

「本音ちゃん!」

 

それを聞いた瞬間本音は呆然として力なくその場に座り込んでしまった。その目にも力が無い。クロエも今にも泣きそうだが必死にこらえている様だ。

 

クロエ

「兄さん達が……そんな…」

シャル

「暫く探したんだけど…、本当ならずっと探したいけど…、夜の真っ暗な海じゃもっと見つからないから…」

ラウラ

「そうだな。明日もう一度探しに出よう」

鈴・簪

「「………」」

 

ガラッ

 

千冬

「戻ってきたか…」

 

すると千冬が再び入ってきた。

 

ラウラ

「…教官。…はい。残念ながら…ふたりは…見つけられませんでした…」

楯無

「明日朝一で出ましょう。今度は学園の」

 

~~~~~~~

その時千冬の携帯に電話が入った。

 

千冬

「はい。………!!なんだと、それは本当か?………わかった。直ぐに行くからそのままで待っていてほしいと伝えてくれ…」ピッ

シャル

「せ、先生?」

「どうしたんですか?」

千冬

「……お前達、来い」

「私は妹を部屋に連れていきます…」

 

 

…………

 

来たのは島内のある浜辺だった。そこには警察官らしい待っていた。

 

警官

「織斑先生!こちらです!」

千冬

「ご協力ありがとうございます。後は私が引き受けますので…」

 

そういうと警官は去っていった。

 

ラウラ

「教官、ここに何が?」

シャル

「…?あそこ、何かシートがかけられてる」

 

シャルの言う通り、直ぐ近くのあるポイントに小さなシートがかけられていた。

 

千冬

「……」

 

千冬は黙ってそのシートをめくる。

 

全員

「「「!!!」」」

 

それを見た千冬以外の皆の顔に驚きの表情が浮かぶ。

 

千冬

「私も聞いた時驚いたよ……。海の底に沈まなかったのが奇跡的なくらいだ…。まさかこんな遠い場所まで流されてくるなんて。……あいつらの意志なのかもしれんな…」

ラウラ

「そん…な…」

シャル

「……嘘、……嘘だよ…」

「………」

セシリア

「火影さん…、海之さん…」

クロエ

「…兄…さん…」

「………」フラッ

楯無

「簪ちゃん!」

「~~~~~~~~~~~~!!」

 

 

皆が見たものは……見覚えのある白と黒に輝く拳銃、そして折れた刀の柄だった……。

 

 

…………

 

同時刻 オーガスの部屋

 

オーガス

「………」

スコール

「……どうする?探してみる?」

オーガス

「…何故?」

スコール

「貴方あの子達が気になっていたみたいだから」

オーガス

「いらぬ世話だ。この件は私に全て任せておけば良い。Mの奴はどうだ?」

スコール

「幸い命に別状はないけど重症よ。暫く戦闘は無理ね。他の子達も休ませてあげなきゃ」

オーガス

「そうか」

スコール

「……ねぇオーガス、貴方」

オーガス

「話が終わったのなら下がれ。私は忙しい」

スコール

「………」

 

スコールは何も言わず出て行った。

 

オーガス

「………ふ、ふふふふ、フハハハハハハハ!!」

 

高々と笑うオーガス。そして…

 

オーガス

「遂に、遂にやったぞ!多少の狂いは生じたが大した問題ではない。最大の障壁が無くなったのだからな!ハッハッハッハ…!!」

 

勝利宣言をするのであった…。

 

 

 

(…………)




次回より新章です。
※次回は再来週、来月の2日(土)になる予定です。申し訳ありません。
また、前回の告知の通り明日今後のストーリー予告を投稿致します。


DIS・ドッペルゲンガー

オーガスが召喚した漆黒のDIS。無人機。
その姿はアリギエルとウェルギエルに酷似しているが顔部分がバイザーでなく、血の様に赤い目と狂気の笑みを浮かべる口がある。ドッペルゲンガー=「二重の歩く者」という意味があり、その力はアリギエルやウェルギエルと完全に互角でその剣や刀もふたりが持つものと瓜二つである。火影と海之に凄まじい憎しみと殺意を抱いており、見境なく襲いかかってきた。ふたりの必死の抵抗で倒されたらしいが…。


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Futuremission(アンケート希望された方のみ推奨!)

これはMission141~143の間で開催したアンケートで「知りたい」と回答された方のために作りました今後の予告を兼ねた回です。「知りたくない」を選ばれた方は戻られることをおススメします。まだ現時点なのでこれらの台詞は変更するかもしれませんが展開はほぼ決定しています。大した内容でないかもしれませんがもしよければご覧くださいませ。


皆はある光景を見ていた…。ある家の庭で遊ぶふたりの子供。そしてそれを見守っている母親らしい金髪の女性。そしてその子供達に受け継がれたらしい銀髪を持った碧眼の男性。

 

(…昔、お主達の生きる場所とは別の世界のとある場所に、一組の夫婦が暮らしておった)

 

「…別の…世界…?」

 

「……あれ?…あの子達って…!」

 

「…ああ、似ている。目の色は違うが…」

 

(夫婦には子供がおった…。双子の男の子。名は兄をバージル、弟をダンテといった。…彼らは普通の子供では無かった)

 

「!…じゃあ、あの子達は…!」

 

「…普通の子供じゃない、というのは…?」

 

(…彼らは人と…悪魔の申し子。…そして)

 

 

 

(…世界で最も……殺し合った兄弟…)

 

 

 

…………

 

消えてしまった赤と青の光……

 

 

「俺のせいなんだ!!」

 

「あの人を取り上げないでよぉぉぉ…」

 

「こんな現実なら…夢見続けてた方が…」

 

「…海之くんは…私の目標だった…」

 

「私は…またひとりになってしまった…」

 

「私にできる事は…ふたりを信じる事だけですよ…」

 

 

彼等の悲しみが癒える時は……

 

 

…………

 

深く傷ついた一夏の前に現れた者とは……?

 

 

「あ、貴方は…?」

 

「私は嘗て騎士だった…」

 

「自信を持って。迷う必要なんてないわ…」

 

「…白、騎士…?…いや違う…」

 

「見たことない…IS達…?」

 

 

果たして白騎士とは?そして未知のISとは?

 

 

…………

 

更に出会う者達……

 

 

「貴方達の覚悟を見せてもらいたいの」

 

「それ位できなければ…彼らを知る資格なんて無いわ」

 

「掘り返さない方がいい真実もあるわよ?」

 

「そんな程度じゃあいつらの足手まといになるだけだぜ?あん時の俺みたいにな」

 

「心の方は強くてもよ、肝心の力が弱けりゃ意味ねぇって!」

 

 

そして立ちはだかる試練……

 

 

…………

 

遂に知る事になる兄弟の真実……

 

 

「当然もてなしてくれるんだろ?…なぁバージル!」

 

「貴様を殺して…その血を捧げるとしようか…ダンテ!」

 

「なんで、なんでここまで殺し合うの!?」

 

「…己の正義を証明するためさ。その為なら戦う相手が家族でも関係無い」

 

「兄にとって弟が、弟にとって兄の存在そのものが…戦う理由だったんだ…」

 

 

その時彼等が思う事は……

 

 

…………

 

そして次々と明るみになる真実……

 

 

「それを開いた時、知る事になる。悪魔より恐ろしい…人間の残酷さをね…」

 

「お前は手を出すな。元々私の問題なんでな」

「何でだよ!?」

「マドカは、あいつはお前の…!」

 

「…「織斑計画」…だと?それに…」

 

「4年前のあの日、もうひとつの計画が実行されていたのだ」

 

「9年前に狙われたのって…!」

 

 

過去から続く因縁とは……

 

 

…………

 

想いを力に変え……

 

 

「…ありがとう。やっと昔の私とさよならできた…」

 

「全部終わったら…聞いてほしい事があるんだ…」

 

「私の夢はね~…」

 

「あの…あのね、…私…」

 

「私はこれからもお前と共にある…」

 

「子供の頃助けられた時から、…いやもっと前から私は…」

 

「これからも貴方の可能性を見せてくださいませんか?」

 

「今は結構本気なんだからね?」

 

「今だけでいい……。千冬と、呼んでくれないか?」

 

「一緒なら、何も怖くはありません」

 

 

少女達は決意する……

 

 

…………

 

そして……

 

 

「もう生きてたくなんかないよ!」

 

「そんな弱い人だった覚えはありませんよ!」

 

「お前だけは私が倒す!私の存在を証明するために!」

 

「俺が勝ったら、言う事聞けよ?M、いや…マドカ!」

 

「…こりゃまた、奇妙な対面だな」

 

「下品な言葉だが…下水でも覗いている気分だ」

 

 

運命は再び彼等を巡り合わせる…

 

 

…………

 

 

「あの時、一瞬だけ解除された…。どういう意味なんだ、……「悪魔還り」って……」

 

 

 

「貴様らにいいものを見せてやろう。………喜べ。感動の再会だ」

 

 

 

「どうせ見てんだろ?………出てこい!!」

 

 

 

「………久方ぶりだな」

 

 

 

それは「運命の悪戯」か…、「定められた宿命」か…




ゲームの予告みたいにしてみたいと思ったのですが難しいですね(苦笑)
今後もよろしくお願い致します。




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Specialmission 登場人物紹介・改

現時点までのメインキャラクターの紹介編です。
Mission数150を突破しましたので再確認の意味も兼ねて作りました。もしよろしければご覧ください。


まずライトsideです。

 

 

火影・藤原・エヴァンス

 

使用IS:第0世代「アリギエル」

 

この物語の主人公のひとり。「デビルメイクライ」の双子の弟であるダンテが死後転生した姿。銀髪の赤眼。

兄と共に赤子の時にスメリアの今は亡きエヴァンス夫妻に拾われ、育つ内に少しずつ前世の記憶を取り戻した。ダンテの頃に培った抜群の戦闘センスや射撃の腕を記憶そのままに受け継ぎ、それをISの力で再現、若干17歳の子供ながら大人顔負けの圧倒的な戦闘能力を持つ。

束からの頼みで兄の海之と共にIS学園に転校してくる。一夏や多くの仲間と出会い、過ごしていたがやがて自分達と同じ世界から転生してきた別の転生者がいる事を知る。そして戦いの末に遂に嘗て自分が倒した悪魔アルゴサクスの転生者、オーガスと対峙するが彼が呼び出したDIS「ドッペルゲンガー」から仲間達を守るために離脱。同日「エボニー&アイボリー」を残して消息不明になる。苺好きオリーブ嫌いなのも前世から変わっていない。

 

…………

 

海之・藤原・エヴァンス

 

使用IS:第0世代「ウェルギエル」

 

この物語のもうひとりの主人公。ダンテの双子の兄であるバージルが転生した姿。銀髪青眼。

嘗て子供の頃に悪魔に母を殺され、自分も殺されかけた事から人間の無力さに絶望し、力だけを追い求める冷酷な人物になってしまったが本当は読書が好きな物静かで優しい性格。バージルの頃のずば抜けた戦闘力はそのままで剣術だけなら火影以上。銃の腕も決して悪くないが無粋な武器として持たなかった。ある者から贈られたブルーローズだけ例外的に使う。

火影と同じく束の依頼で共にIS学園にやってきた。ある時嘗て自分がなってしまった存在と酷似した存在がいる事を知り、それに嫌な予感がした彼は束に魔具の開発を依頼した。その予感は的中し、戦いの中で遂に覇王アルゴサクスが転生したオーガスと対峙するが折れた「閻魔刀」を残して彼もまた火影と同じく消息を絶つ。あんみつが好物。

 

…………

 

織斑一夏

 

使用IS:第4世代「白式・雪羅」

 

この物語の副主人公的存在で世界初の男子IS操縦者(実際には火影、海之の方が先に動かしている)。

4年前にファントム・タスクとオーガスに誘拐された過去があり、その事で千冬の連覇を消してしまった事に長い間責任を感じていた。とあるハプニングがきっかけでISを動かせることを知り、そのままIS学園に入学して火影達や箒達等多くの仲間と出会う。魔剣「アラストル」やデビルブレイカー「トムボーイ」を受け継ぎ、白式の二次移行を果たすなど著しい成長を見せるがそれでも火影や海之との実力の差を埋めることがなかなかできず、不安を感じていた。そしてMとの戦いの最中、その心に付け込まれて仕組まれていたDNSを起動させてしまい、「白騎士」となって暴走するが火影達の手によって救出される。しかし…

家事全般が得意。恋愛事には超人的に鈍く、箒達の気持ちにも全く気付いていない。

 

…………

 

篠ノ之箒

 

使用IS:第4世代「紅椿」

 

篠ノ之束の妹で一夏の幼馴染。長いポニーテールをしている。

幼い頃から一夏や千冬とよく過ごしていたが束が起こした白騎士事件のせいで離ればなれになってしまった。それから数年後、IS学園に入学すると一夏と再会、火影や海之達と知り合う。周りの皆が戦っている中で自分も一緒に戦いたいと束に専用機「紅椿」を用意してもらうが最初の出撃でミスを犯して一夏が負傷してしまう。ショックの彼女はISを捨てようと思うが海之の言葉や皆の支えで再び気力を取り戻す。無事ミスを挽回した後は戦闘経験を積む中で「絢爛舞踏」や「衝撃鋼化」を覚醒させ、専用機持ちに相応しい実力を見せる様になる。束がオーガスに拉致された事を知り、必ず救い出す事を誓う。料理が得意。幼少から一夏一途だが一夏の壊滅的鈍感さのせいで中々発展していない。

 

…………

 

セシリア・オルコット

 

使用IS:第3世代「ブルー・ティアーズ」

 

イギリスの代表候補生で一組のクラスメート。長い金髪をしている。

母親とそれについて回る父親の関係を見て育ったため、男に対する評価が極めて低かったが火影達の調査で真実を知り、考えを改めると同時に素人同然だった一夏が自分と引き分けた事で一夏の可能性に興味を抱くと同時に好意を持つようになる。成長著しい一夏や箒と自分の差に悩む事もあったがラウラからの励ましを受けて立ち直った。その後は仲間達と共に戦闘を経験していく内にビットの偏光射撃。「ローハイド」による剣術。「ケブーリー」を起動させたりと確実に成長していく。歴史や伝説などに詳しく、アラストルやパンドラの由来等も知っていた。料理が比較的得意な面々の中で壊滅的に下手。

 

…………

 

鳳鈴音

 

使用IS:第3世代「甲龍」

 

中国の代表候補生で2組代表。ツインテールの髪型。

一夏の幼馴染であるが両親の離婚が原因で中国に帰った。その際一夏にプロポーズの意味も含めたお別れをし、後にIS学園で再会した時に約束について一夏に聞くと全く勘違いしていたため、喧嘩別れに。翌日火影の応援で再度確認をするもののまた物別れに終わってしまい、酷く落ち込むが再度火影の静かな優しさに触れて元気を取り戻す。そうしている内に鈴自身気付かないまま次第に火影に惹かれていき、後の戦いで浮かんだのが一夏でなく火影の名前だった事で明確に彼への好意を自覚する。そしてある日、同じく火影に惹かれているシャルロットや本音と共に屋上で火影に想いを打ち明けた。「ガーベラ」と「アービター」を受け継ぐ。火影と料理屋をやるというのがほのかな夢。お化けが苦手。

 

…………

 

シャルロット・デュノア

 

使用IS:第3世代「パンドラ・リヴァイヴ」

 

フランスの代表候補生。実家はデュノア社という世界的企業。

当初はシャルル・デュノアという男子操縦者として転校してくる。その目的は一夏と白式のデータをとるいわばスパイ活動であった。間もなくそれが火影にバレてしまった事で人生を諦めかけるが彼女の心の叫びを聞いた火影の作戦によって数多くの真実が明るみになると同時に男でいる必要や両親との蟠りも無くなり、真の姿と名前で改めて転校してくる。この一件でシャルロットは自分を救ってくれた火影に好意を抱く様になった。タッグマッチの時に火影からシャルという愛称を貰って嬉しがり、以降はそれで呼ばれるようになる。彼女だけ第2世代のISだったが後に魔具「パンドラ」を組み合わせた新たな専用機、「パンドラ・リヴァイヴ」を得た。

恋に比較的積極的で火影の好みのタイプや結婚相手として自分はどうかと聞いたりしている。

 

…………

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

使用IS:第3世代「シュヴァルツェア・レーゲン」

 

ドイツ代表候補生にしてドイツのIS部隊「シュヴァルツェア・ハーゼ」隊長。左目に眼帯をしている。

純粋に生まれた人間では無く、人為的に造られた半人造人間。優れたIS操縦者になる事だけを目的に育てられたがうまくいかず、落ちこぼれや欠陥品とまで言われたが千冬の指導や努力の末にIS部隊の隊長にまで上り詰めた。千冬の輝かしい功績に泥を塗ったと思った一夏や信頼を得ていた海之や火影に対して激しい憎悪を抱き、戦いを仕掛ける。戦いの中でVTS(ヴァルキリー・トレース・システム)を起動させてしまい、システムに飲み込まれるが海之の決死の行動で救い出される。その後、医務室のベッドで海之との会話を思い出すと同時に自分を救ってくれた海之に好意を抱き、皆の前で自分の嫁にすると宣言した。「パンチライン」と「アルテミス」を受け継ぐ。同じく海之を想う簪とは恋のライバルであるが仲は良い。海之から貰った指輪は婚約指輪として常につけている。

 

…………

 

更識簪

 

使用IS:第3世代「打鉄弐式」

 

日本の代表候補生で4組所属。姉が更識刀奈(楯無)。

とある企業に自身の専用機である弐式の開発を依頼していたが一夏の登場で白式が優先されたためストップ。そのまま再開される事が無かったため、自身で組み立てようとする。その事や姉へのコンプレックスもあって人から距離を取っていたが海之の助言や力添えによって考えを改め、整備課の皆と共にとうとう弐式を完成させ、更に一夏や姉とも後に和解した。初めて顔を合わせた頃から海之の事がなんとなく気になっていたが彼の優しさに次第に惹かれていき、想いを強くしていった。最初はサポートに回りがちだったのが魔具「キングケルベロス」や支援機「ケルベロス」の力を得て最前線で戦う等心身共に大きく成長する。学園近くの公園でラウラと共に海之に告白し、受け入れてもらえたことに涙していた。ヒーローやロボットアニメが大好き。

 

…………

 

更識刀奈(楯無)

 

使用IS:第3世代「ミステリアス・レイディ」

 

IS学園三年生。生徒会長で現ロシア代表。更識家17代目当主。

火影と海之の事はふたりが転校してきた時点で既に知っていた。一夏とセシリアの試合の後で行われたふたりの試合内容に驚愕し、密かに調査を始める。それから暫く表に現れなかったが2学期に生徒会長として顔を出し、ふたりを生徒会に引き入れる。その後、千冬や束達と共にふたりに隠された真実を聞くとやはり驚いたもののふたりをこれまで通り信じ、サポートする事を約束した。2回目のタッグマッチで簪の意志に答えるため、受けて立とうとするがファントムたちの襲撃で彼女を庇って負傷してしまう。しかしそれがきっかけとなり、結果的に簪との和解が成った。それ以降はよく一緒に行動している。火影達の依頼で一夏のコーチをする様になり、最初は興味程度だったが一夏に可能性を見てからは好意を抱く様になった。アプローチも積極的で箒やセシリアや蘭もハラハラさせている。「バスターアーム」を所有。

 

…………

 

クロエ・クロニクル(シエラ・シュヴァイツァー)

 

使用IS:第準0世代「ベアトリス」

 

束の助手であり、娘の様な存在。

その正体はラウラと同じくドイツの計画によって生まれた存在で、ラウラからすれば姉に当たる。ラウラと同じ訓練を受けていたが彼女もまた欠陥品扱いされて捨てられ、弱っていた所を束に助けられた。それ以降束のよき右腕として共に暮らす様になった。火影、海之とは物語初期に出会う。交流を深めていくと共に何時の間にかクロエは優しく接してくれたふたりの事を兄の様に感じ始めていた。そしてある時束の悪戯によってその事がバレてしまうが義妹として受け入れられ、大変に喜んだ。以降火影と海之を兄と慕う様になる。やがて自分も守るために戦いたいと決意したクロエは長い髪をボブカットにしたり灰色のカラコンで変装したりして専用機「ベアトリス」と共にスメリア留学生のシエラとして学園に転校してくる。ふたりの事は兄さんと呼ぶが感情高まるとお兄ちゃんと呼ぶ癖がある。

 

…………

 

織斑千冬

 

使用IS:第1世代「暮桜」

 

一夏の姉でIS学園教師。一夏や火影達の担任。

第一、二回モンドグロッソで圧倒的強さを見せた伝説のブリュンヒルデともいわれる人物。そして白騎士事件で使われたIS「白騎士」の操縦者でもある。その事をずっと責任に感じつつも償い方がわからないままであったが、当事者である束が自分を信じてくれた人達のためにできる事をしようとしている姿を見て自分も今度こそ何かしなければと思い始める。そして千冬は「自分の大切なもの達を守るために戦う。それが自分のできる事」であると決意し、自らの専用機「暮桜」と海之から託された剣「レッド・クイーン」と共に戦場に立つのであった。前述のとおり4年前の第二回大会でも決勝まで難なく進んだが一夏が誘拐されたのを知り、決勝を蹴って救出したが実はそれは自分の戦闘データを取るために仕組まれた作戦だった。

指導者としては完璧だが家事等は一夏に任せっきりなので苦手。海之に惹かれているが簪やラウラ、教師という立場もあって素直になれないでいる。

 

…………

 

布仏本音

 

火影達のクラスメートで火影のルームメートでもある少女。布仏虚の妹。

袖口が長い制服を愛用している。いつもほんわか、のほほんとしている様子から「のほほんさん」という愛称で呼ばれている。火影の事をひかりん、海之の事をみうみうと呼ぶ。そんな彼女だが実は更識家、簪に仕える侍女であり、生徒会では書記係を務めたりと意外な立場でもある(仕事のできはさておき)。また、時には普段の雰囲気からは思えない様な勘の良さを見せ、火影もそれに驚くことがある。転校当初から火影の事が気になっており、一緒に過ごしていく内にそれはやがて明確な好意へと変わっていった。臨海学校で自分も戦えないのが悔しいと火影に打ち明けると火影から「お前はそのままでいろ。そして笑顔で迎えてくれ。それが一番嬉しい」と言われ、これからも火影や皆を支える事を決めた。少し口が軽い。

 

…………

 

山田真耶

 

火影達が所属する1組の副担任。眼鏡をしている。

自己紹介の時に自信が無くて半泣きになったり、予測していなかった事態になると不安がったりと頼りない部分もあるが、教師らしく授業ではしっかりしたり、千冬のサポートとして作業や分析を行ったりと優秀な人物。更に昔は日本の元代表候補でもあったらしく、ISの技術も決して低くはない。火影と海之の秘密については千冬と共に最初からある程度知っており、更に後日ふたりの真の秘密が明らかになるとかなり驚いていたがそれでもふたりを信じる事に変わりなかった。火影達が京都へ誘いを受けた事を知ると自分もできる事がしたいと千冬の代わりに京都へ同行。その最中に起きた旅客機墜落の阻止にも大きく貢献した。

 

…………

 

篠ノ之束

 

箒の姉、ISの生みの親、白騎士事件を起こした張本人。長い紫色の髪の頭にウサギの耳型収音マイクを付けている。

火影と海之がIS学園の皆と関わる事になるキッカケを作ったキーパーソン的存在。一夏や千冬とも長い付き合いがある。10年前に自らが設計・開発した宇宙開拓用パワード・スーツ「インフィニット・ストラトス(IS)」を学会で発表するがエヴァンス夫妻以外の誰にも理解されず、その悔しさのあまりに自らのISの有用性を見せつけるために白騎士事件を起こし、結果的に思惑通りになった。それから10年後、火影と海之から夫妻が例え故郷が危険な目にあっても束を責める事はしなかったと聞くとふたりを抱きしめながら涙し、心からの謝罪をする。この時束は自分を信じてくれた夫妻や火影、海之のためにも誤った方向に向かったISを正しく戻そうと決意し、後にDISの存在を知った時は今までにない位激怒していた。魔具や新たな装備で火影や海之達をサポートしていたがある時オーガスから呼び寄せられ、協力を申し出られる。当然断るがその時謎の声から彼女自身も知らなかった事実を聞かされ、激しく動揺してしまったところを何者かに付け込まれる。それからの束はスコール曰く全くの別人みたいになっているらしく、オーガスと共に何か行っているらしいが…。

 

 

…………

 

続いてダークsideです。

 

オータム

 

使用IS:第2世代「アラクネ」

 

オレンジ色の髪が特徴の女性IS操縦者。

IS装備開発企業の「巻紙礼子」という偽名を使って一夏に接近、その後学園祭で一夏の白式を奪うために姿を現す。一夏を終始圧倒したが一夏救出のために現れた火影に打ちのめされ、捕獲寸前になるもののアラクネのコアを犠牲にして逃走。その後第二回タッグトーナメントでも火影達の調査のために襲撃するがやはり倒され、DNSを起動させるもその力に飲み込まれる。更に後日、京都で海之と交戦。ダメージを少なからず与えるがそれでも叶わず敗北するも、再度コアを爆弾として旅客機を攻撃した事で逃走に成功した。敗北が続いている事や自分を見下した火影と海之に激しい敵意を抱いている。

 

…………

 

ダリル・ケイシー

 

使用IS:第2世代「ヘル・ハウンドver2.8」

 

IS学園3年生のアメリカ代表候補生。男の様な口調で喋る。

しかしその裏の正体はファントム・タスクの工作員「レイン・ミューゼル」。叔母は同じくファントム・タスクのスコール・ミューゼル。火影と海之の動きを見張るために仲間のフォルテ・サファイアと共に京都まで追跡してきた。その後刀奈と交戦し、最初はパワーアップした自機や数の差で有利に立つが最後はクロエの乱入や実力の差で倒される。捕縛寸前となるがフォルテとの合体技「凍てつく炎(アイス・イン・ザ・ファイア)」によってフォルテ共々逃走に成功した。因みにフォルテとは恋人同士でもある。

 

…………

 

フォルテ・サファイア

 

使用IS:第3世代「コールド・ブラッド」

 

IS学園2年生のギリシャ代表候補生で語尾に「っス」とつける特徴的な喋り方をする。

ダリル・ケイシーと共に京都まで火影達を追跡してきたがその追跡がバレる形でダリルと共に刀奈との戦闘に入る。ダリルとのコンビネーションで奮戦するも最後は倒されてしまうが彼女との合体技で戦闘空域から離脱した。ダリルと違いファントム・タスクの人間では無いのだが「ダリルがそうしたから」という理由でずっと付き添っている等、ダリルを非常に大切に思っている。

 

…………

 

スコール・ミューゼル

 

使用IS:第3世代「ゴールデン・ドーン」

 

ファントム・タスクに所属している女IS操縦者。

オータムの上司に当たり、彼女から絶対の信頼を寄せられている。戦闘力はかなり高く、京都での火影との戦いでも終始優勢にはならなかったものの勝敗が付かなかった。自身が死ぬかもしれないのに旅客機を救おうとする火影達を見て何か思う事があったらしく、事後に自分達が陽動である事、そして束が自分達と共にいる事を教える。自身の身体の大部分が補修を受けたものであるらしく、束に見抜かれた際に何があったのか聞かれたが口に出すことは無かった。過去に何かあったらしく、それに関係しているらしいが…。

 

…………

 

M(マドカ)

 

使用IS:第3世代「黒騎士」

 

謎の女IS操縦者。バイザーで顔の上半分を隠しているため素顔が見えない。オーガスに忠誠を誓っているらしく、彼にふざけた態度をとった束に怒った。

当初はイギリスから強奪したIS「サイレント・ゼフィルス」を使っていた。一夏に対して激しい敵意を抱いており、倒すために襲撃を重ねるも火影の妨害や一夏達の必死の反撃で叶わなかった。その後Mはゼフィルスを改造し、新たな専用機「黒騎士」と一夏の雪片にそっくりな黒い雪片「黒焔」を作り上げた。そして再度一夏を襲撃し、その力で圧倒するも途中白式が変化した「白騎士」によって返り討ちにあい、深い傷を負ってしまう。一夏だけでなくその姉である千冬にも敵意を抱いており、ふたりに度々「貴様等のせいで」「存在を傷つけられた」とかいう言葉をぶつけている。千冬は彼女を知っているらしく、Mでは無くマドカと呼ぶ。

 

…………

 

オーガス・アクス

 

銀髪の茶色い眼の男性。ファントム・タスクに籍を置く兵器開発者であり、「アンジェロ」や「ファントム」「グリフォン」といった無人兵器を開発した張本人。更に願望によってISを強化するVTSを参考にDNS(DreadnoughtSystem(ドレッドノートシステム))を開発した。そのいずれも悪魔に酷似した姿をしていた事で火影と海之にもしかすると自分達と同じ世界からの転生者ではないかと疑いをかけられていた。それはオーガスの方も同じで自分の発明を簡単に駆除する火影と海之に疑いを持っていた。

その正体は嘗て火影がダンテだった頃に彼によって倒された大悪魔「アルゴサクス」。目的はDNSやDISを用いて今のこの世界を魔界の様な弱肉強食の世界に変える事。そして嘗ての自分を殺した火影達への復讐であった。死後転生したにも関わらず何故か魔力を持っており、火影達を驚愕させた。部屋にいる時に時々何かと話している様子が見られるが何故かスコールやMはその相手を見た事がない。



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第十二章 Awakening
Mission153 悲しみに暮れる者達①


火影と海之に襲い掛かるオーガスが残したDIS・ドッペルゲンガー。
傷つきながらもその攻撃から仲間達を守るために戦う火影と海之。
そしてふたりの無事を願う少女達。
……しかしそんな少女達に届いたのは非情の知らせだった。

「…反応は全て消えた…。黒いISも、火影と海之の反応も…全て」

更に追い打ちをかける様に島内の浜辺に打ち上げられたのは見覚えのある銃と朽ちた刀…。そこには言葉を失う者、気を失う者、叫ぶ者がいるのみであった。

火影(ダンテ)と海之(バージル)はどうなったのか?そしてオーガス(アルゴサクス)の次の手とは?


一夏

「……」

 

その時一夏は不思議な場所にいた。目を閉じているのでどこかはわからない。開けようにもまるで目に力が入らない。声を出そうにもそれさえも力が入らない。わかっているのは自分が立っているのでも横になっているのでもない。例えるなら浮いている、そんな感じがした。

 

一夏

「……」

 

ただ沈黙してその場の空気に晒される一夏。すると…、

 

 

「……まだだ」

一夏

「……?」

 

その時近くからか声がした。声色からして男性である。厳格そうだがどこか優しさを含む声。そして、

 

「今はまだ、貴方の心が癒えていない…」

 

すぐ傍からもうひとつの声。こちらは慈愛に満ちた女性らしい落ち着いた声である。

 

一夏

(何を…言ってるんだ?アンタ達…誰だ?)

 

声が出せない一夏は心でそう思うのだが、

 

「今はただ休め…」

「貴方と話せる日を願ってる…」

 

その言葉と同時に気配は急速に離れていく。

 

一夏

(ま…待ってくれ…!待って…)

 

 

…………

 

一夏

「…………う、……?」

 

そこは一夏の部屋だった。どうやら今までのは夢だったらしい。外は夜明けに差し掛かっていた。

 

一夏

「……夢か。………でもあの感覚は…不思議と初めてじゃない様な気がするけど…。あの声の人は…、それに時って、……どういう意味なんだよ…」

 

一夏の疑問は晴れることは無く……。

 

 

…………

 

火影と海之がいなくなってから二週間あまりが経過した。

この二週間の間は……何も無かった。もちろん国同士の小競り合いなど以前から日常茶飯事の様な事は絶え間なく変わらず続いてはいる。しかしつい先日まであったようなファントム・タスクによる学園の襲撃の様な事は全く起こっていなかった。そういう意味では学園は平和なのかもしれない。……一部の者を除いては。

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

IS学園 1-1

 

千冬

「それでは今日の授業はこれまで!」

生徒

「「「ありがとうございました」」」

 

この日の授業も特に何事もなく終わった。あの日以来何も起こらない事に安堵の気持ちでいる生徒達。年末という事もあってか来年に向けての予定を組み始めている者や、行けなくなった修学旅行の代わりを探す者。というのもあの数日後に決まったのだが今月の初めに予定されていた修学旅行は京都のIS事件や旅客機墜落未遂事件の事もあって保留となっていた。がっかりした者も多かったが事態が事態なので仕方がない。とにかくそんな感じで世論から見れば学園は平和といえるものだったのだが…、

 

一夏

(………)

 

火影と海之の席を見る一夏。席は当然空席。火影と海之がいなくなった本当の理由は一部の者達を除いて知らされていない。千冬が真実を知らせるのはまずいと、ふたりとも大事な用事で急遽スメリアに戻っているという事にしたのだ。…しかしそれを信じる者は一組にはあまりいなかった。皆何かあったんだと思いつつも千冬や楯無の気持ちを汲んでわかっているふりをしているだけかもしれない。

 

一夏

(……火影、……海之)

 

 

…………

 

 

(目を覚ませ坊主!そろそろ遊びたいだろ!そんなもんに操られるんじゃない本当のケンカをよ!!)

(自分の大切なものを、命を懸けて守れる様になりたいんじゃないのか?そのために強くなりたいと思ったんじゃないのか!?)

(余計な真似するな!)

(一夏行け!お前じゃ足手まといだ!!)

 

 

…………

 

一夏

(…俺の…せいだよな…)

 

あの時以来一夏は自分を責め続けていた。自分がした事が火影と海之があんな事になった原因だと…。DNSを起動した一夏の白式もあれ以来ずっと封印され、一夏の手元には無かった。これまで白式のサポートを行ってきた企業は白式の変化と開発の経緯を恐れ、これ以上関わり合いになりたくないと大金を積んでまで所有権を放棄した。そのため白式は一夏個人のものとなっている。

 

「一夏」

一夏

「…箒か。…なんか用か?」

「今日は放課後に訓練の予定だったろう?」

一夏

「ああ…、行くか…」

 

力なく立ち上がる一夏は箒と共にアリーナに向かった。

 

 

…………

 

IS学園 アリーナ

 

セシリア

「はぁぁぁぁ!」

 

ガキィィィンッ!

 

一夏

「くっ!」

 

セシリアのローハイドの剣が一夏の打鉄の刀を弾き飛ばした。それが勝負の終わりの合図となった

 

「それまで!」

一夏

「…はぁ…、強くなったなセシリア。ISの違いもあるんだろうけど…俺なんかよりよっぽど強ぇや。流石イギリスの代表候補生だな」

セシリア

「…一夏さん…」

 

セシリアは悲しそうに一夏を見る。するとそこに箒が割って入る。

 

「……違うぞ一夏。セシリアが強くなったのももちろんあるが…何よりも、お前が弱くなったのだ」

一夏

「……」

 

白式が封印されて以来一夏はずっと訓練機を使っているのだが、以前ほど訓練に気が入らないでいた。故に訓練を兼ねた試合でも連敗が続いていたのだ。

 

セシリア

「一夏さん、私も箒さんと同じ意見です。一夏さんはこの数ヶ月でずっと強くなられましたわ。だから…こんな結果になるなんてあり得ませんわ。私はそう信じます」

一夏

「……」

「一夏…自分を許せとは言わん。だが…何時までそうしているつもりだ?」

一夏

「……」

「まだファントム・タスクは滅んでいない!あの黒いISは火影と海之が倒したがまだ全部解決したわけじゃない!Mやスコールにオータムという奴!ダリル・ケイシーにフォルテ・サファイア!それに…あのオーガスという奴もいるんだ!」

一夏

「……」

「それに姉さんが人質に取られている!私は…あの人を取り戻したい!そのためには私達全員の力を合わせる必要があるんだ!もちろんお前もな!」

一夏

「……」

 

一夏は相変わらず黙ったまま。

 

「先日までのお前はどこへ行ったんだ!あのがむしゃらに、火影達に追い付きたいと必死になっていたお前は!?あの時のお前は何があっても諦めたりしなかった!あのキャノンボール・ファーストの時の」

一夏

「うっせぇよ!!」

「…!」

 

一夏の叫びに箒が怯む。

 

一夏

「お前に…お前に何がわかる!!あいつらは…火影と海之は俺のせいで死んだんだ!俺を、白騎士に操られた俺を助けるためにな!」

「い、一夏…」

一夏

「あんなボロボロになってまで…散々俺に傷つけられても…それでも見捨てないでくれた!…だけど…だけどそのせいであいつらは…。そのダメージさえなきゃあいつらがあんな奴らに負けるなんて事なんて無かったかもしれねぇんだ!…じゃなきゃ…きっとあいつらはまだ…」

 

一夏は悔しかった。操られた事もそうだが何よりも自分の不甲斐なさが悔しかった。DNSの誘惑に負けたのは自分が、自分の心が弱かったためと。

 

セシリア

「一夏さん…」

一夏

「それにそれだけじゃねぇ!俺はシャルと簪を殺そうとまでした!あいつらが阻止してくれなけりゃ…ふたりを殺すところだったんだ!その苦しみが、悔しさがお前にわかるか!」

「!し、しかしあれはお前の意思ではない!シャルも簪もそれをわかってくれている!あれはDNSのせいだと!」

一夏

「…ああそうだよ。あれは俺の意思じゃねぇかもしれねぇ。…でも俺の責任だ!白騎士に振り回された俺の未熟さと力の無さのな!……俺が、…俺が弱かったから……」

 

一夏の腕は悔しさで震えていた。

 

セシリア

「……」

「一夏…」

一夏

「俺のせいだ…俺のせいなんだ!…もうほっといてくれ!!」

 

一夏はISを解除し、走り去って行ってしまった。

 

「……一夏…」

セシリア

「…箒さん、大丈夫ですか?」

「…ありがとうセシリア、私は大丈夫だ。ただ…一夏は…」

セシリア

「無理もありませんわ。一夏さんは責任感の強い方。そのショックは私達よりもずっと大きい筈ですもの……。そう簡単に癒える訳ありませんわ。私もまだ完全に立ち直れていませんもの…。箒さんもでしょう?」

「……ああ。……でも先にも言った様に私にはやる事がある。それに私達よりもあいつらの方が…」

セシリア

「わかっています…」

「………なぁ、セシリア。火影と海之は……本当に、本当に死んだのだろうか…?」

セシリア

「……わかりません。あれから全く手がかりも掴めていませんし連絡もないですから…。すみません…」

「…いや、いい。………そうだよな。私もすまん」

 

ふたりは互いに黙ってしまうが、

 

セシリア

「………ただ、…私達はおふたりが死んだその時を見ておりませんもの。生きておられると信じるのは……決して悪い事ではありませんわ。私はそう思います」

「!……そうだな」

(火影、海之。私にはお前達に多くの恩がある。どうか…それを返させてくれ。皆がお前達を待っている!勿論私も!)

セシリア

(…私は願っております。おふたりのご帰還を…。ですからどうか…早く帰ってきてください!皆さんには…おふたりが必要なのです!)

 

箒とセシリアは一夏が出て行った出口を見ながらそう願った……。

 

 

…………

 

寮の廊下

 

上級生達

「ねぇ聞いた?1-4の簪さんだけど…」

「うん。最近妙に元気なんだよね~」

「やっぱりあのことが関係してるんじゃないの?1-1の海之くん」

「私もそう思うな~。なんか彼と弟くんが帰ってから妙に元気になっちゃんたんだよね~。まるで清々したみたいに。てっきり落ち込んじゃうんじゃないかなと思ったけど」

「結構お似合いだったような気がしたんだけどな~。だから私彼にアプローチしなかったのに。私達の勘違いだったかな~」

「まぁ去る者は追わぬってことじゃないの?」

 

そんな事を話しながら彼女達は廊下を歩いていた。

 

刀奈

「………」

 

そしてそんな声を偶然刀奈は聞いていたのだった。話の内容に刀奈の心は激しい怒りに支配されたが問い詰める事はしなかった。自分は更識家17代目、あんな戯言に構う必要など無い。

 

刀奈

「………」

 

やがて刀奈の脚は簪と海之の部屋に向いていた。

 

刀奈

(…簪ちゃん…)

 

二週間前のあの日。火影と海之の消息不明を知った簪はその場で気絶し、2日後に目が覚めたのだが目が覚めた時の簪の混乱ぶりは激しいものだった。ふたりはどこにいるのか?無事でいるのか?何故この場にいないのか?そんな質問を繰り返した。返事をしなければなんで返事しないのか?としつこく聞くし、正直に言っても嘘言わないで!という始末。刀奈や本音が必死に事を収めた。……だがそれだけでは終わらなかった。最初の数日はやはり落ち込んでいた簪だったが、やがて彼女はあの乱れっぷりがまるで嘘かの様に落ち着いていた。それどころか以前よりもハイに、元気になった様にも見えた。ふたりの、海之の事も明るく対応し、決して悲しむ様子を見せなかった。そんな彼女を見て戸惑う者もいたが一安心する者もいた……。だが彼女の心を知る者は悲しかった。簪のそんな姿を見るのを。

 

刀奈

(……)

 

そして刀奈は簪と海之の部屋の前に来ていた。刀奈は部屋の扉をノックする。

 

コンコン

 

刀奈

「簪ちゃん…私よ。いる?」

 

……

 

だが返事は無い。刀奈はもう一度ノックして尋ねてみる。すると、

 

刀奈

「簪ちゃん?」

「あ、お姉ちゃん?ちょっと待ってね~。今良いとこなんだ~♪」

 

中から簪の明るい声が聞こえてきた。それを聞いた刀奈は簪からの許可を得る前に刀奈は入った。

 

「あれ~、お姉ちゃん。ちょっと待ってって言ったのに~、もうせっかちだなぁ~♪」

 

そこにいたのは笑顔の簪。単なる笑顔ではない、何も知らない者からすれば寧ろ満面の笑みともいえるかもしれない。

 

刀奈

「……」

「…あ~、もうお姉ちゃん!せっかくの良い所が飛んでしまったじゃないのー!これから主人公が決め技を使って敵キャラをやっつけるところだったのに~!あれ私好きなシーンなんだよ~。まぁ録画してるから何時でも見ようと思えば見れるんだけどね、ふふ♪」

刀奈

「…簪ちゃん」

「ところでお姉ちゃん、修学旅行はやっぱり中止なのかな?せっかくこんなに良い天気で毎日平和なんだからどこかに行きたいな~」

 

今の簪は彼女の事を全く知らない者が見ればなんとも友好的で良い子のように見えるだろう。……知らない者には。

 

刀奈

「簪ちゃん。……海之くんの事」

「海之くん?…ああもう私気にしてないよ。かわいそうだなとは思うけど…あれが海之くんの運命だったのかもしれないし。そう思ったらなんか随分気が楽になっちゃって。ごめんね、あの時気を失ったりして。お姉ちゃんや皆に迷惑かけて。でも私は大丈夫だよ!もう全然気にしてないから♪」

刀奈

「……」

「それにね。最近はこう思ってるんだ♪もしかしたら海之くんにとって私はなんでもなかったんじゃないかって。だって何も言わずに行っちゃうんだもん。大切に思ってくれてたんだったらちゃんと話してくれてただろうから。何も言ってくれなかったのは私に話しても仕方ないと思っての事だろうし、もしかしたら信用されていなかったのかもしれない。そう思ったら失礼しちゃうよね~♪」

 

そこらにいる女子高生。単なる失恋話。知らない者が見ればそんな印象を抱くだろう…。

 

「だから海之くんはもう私にとって昔の話だよお姉ちゃん♪この世界にはもっと素敵な人なんて山ほどいるだろうし、それに海之くんってああ見えて気難しそうだし、むしろ離れ離れになって良かったのかも♪…ああごめんねお姉ちゃん、私ばかり話して。そういえばもうすぐ夕食の時間だよね。今日は何が良いかな~♪昨日は魚だったし今日は……!」

刀奈

「……」

 

気が付くと簪は刀奈によって抱きしめられていた。

 

刀奈

「……」

「…ど、どうしたのお姉ちゃん。吃驚したじゃない。何?もしかして慰めてくれてるの?嫌だな~♪私は本当に何も」

刀奈

「……だったら、……なんでそんなに泣いてるの?」

 

気が付いていないのか、簪は笑って話している間涙を流していたらしい。

 

「……あれ…?あれ?おかしいな…。なんで泣いてるんだろ…?早めの花粉症かな…?嫌だな~私もなっちゃったかな~♪はははは…」

刀奈

「…まだそんな季節じゃないでしょ。それに…花粉症でそんなに震えたりしないでしょ?」

 

簪は刀奈の腕の中でわずかに震えている。

 

「…あれ~、おかしいな~。…新しい冬服買おう…かな~。もう12月だもんね~…あはは」

刀奈

「…簪ちゃんお願い。そんな死んだような目で笑わないで…。そんな簪ちゃん見たくない…」

「……なに言ってるのお姉ちゃん…。私…本当に…もう海之くんの事なんて」

刀奈

「笑わないでっ言ったのよ?海之くんの事なんて言ってないわ」

「…あ…そうか。御免…ね。でも…もう私は」

刀奈

「だったらなんで海之くんの刀をそんなに大切にしているの?」

 

海之の刀「閻魔刀」は布で大切そうに包まれた上に箱に入れられ、代わりに同室の簪が管理している。更にできるだけ埃をかぶらない様掃除までされている。そんな心配が必要かはわからないが。

 

刀奈

「それに簪ちゃん。鞘に納められていないしその上折れてるから危ないって織斑先生が海之くんの刀を回収しに来た時に渡さなかったそうじゃない。先生から聞いたわよ?」

「…私が大好きなヒーローが…刀を使うんだ…。だから、本物を持っていたくて。折れてる…けど、カッコいいじゃない?」

刀奈

「だったら更識の家に置いておけば良いじゃない?少なくともここよりは安全だし。そう思って虚ちゃんに取りに行かせたんだけど……」

 

 

…………

 

ある日の放課後、海之と簪の部屋。

 

コンコン

 

「簪様…?失礼します」

 

虚が入ると部屋には誰もいなかった。

 

「……」

 

すると虚は海之のデスクの前に立ち、閻魔刀を手に取ろうとする。すると、

 

「止めて虚!」

「!」

 

ちょうど帰ってきた簪が声をかけ、虚の手を止める。簪は虚と閻魔刀の間に割って入る。

 

「…簪様…」

「海之くんの刀をどうするつもり!?」

「…申し訳ありません。お嬢様のご指示です。ここに置いておくよりは更識のお屋敷に置いておいた方が安全と…」

「これは海之くんのだよ!私達のじゃない!私達が勝手にどうかして良いものじゃない!」

「……」

「帰って!!」

 

頑として渡さない簪の様子に虚も帰らざるを得なかった…。

 

 

…………

 

刀奈

「…って」

「……覚えてないや。……何時頃だったっけ?二週間前の私なら…多分、まだ悲しかったから…渡せなかっただろうけど…、その頃…かなぁ。虚に謝らなきゃ」

刀奈

「…まだ三日前よ」

「………」

刀奈

「忘れられないんでしょ?どうしても…海之くんの事。だから彼の刀を手元に置いておきたいと手放さない。例え折れてても。それにその指輪、彼がいなくなってからずっと嵌めてるじゃない。海之くんから貰った指輪を。忘れたのなら必要なくない?違う?」

「………」

 

簪の左手薬指には海之から貰ったあの水色の宝石の指輪があった。

 

刀奈

「心にも無い反対の事ばかり言って、無理やりにでも彼の事を忘れようとしている」

「…そんな…事…ないって…ば…。はは…は…」

 

そう言いながらも簪の目からは涙が止まらなかった。

 

刀奈

「ここには私しかいないから…。心にため込んだものを吐き出しなさい。全部聞いてあげるから。前に私の看病をしてくれた時、簪ちゃんそうしてくれた様に」

「………」

 

暫くの沈黙の後、刀奈の腕の中で簪は静かに話し始めた。

 

「……前に」

刀奈

「…うん」

「前に…海之くんとデートした事があったの…。ラウラも一緒だったけど…。その時に私…海之くんに…自分の気持ちを伝えた。…好きって」

刀奈

「そうなんだ」

「…そしたら海之くんがね、言ってくれたの…。私の事守りたいって…、好きだって…。嬉しかった…、本当に嬉しかったんだ…。私は…海之くんに大切に思われてるんだって…」

刀奈

「良かったわね…」

「…それでね、…あのタッグマッチの時に…言ってくれたの…。今の私は以前とは違う。強くなった。もう大丈夫って…」

刀奈

「…うん。私もそう思う。簪ちゃんは強くなったよ」

「…ありがとう…お姉ちゃん。…その時思ったんだ。少しは…海之くんに追いつけたのかなって。支えられる様に…なれたのかな…って。海之くんに必要とされるような、助けになれるような、そうなりたいって…」

刀奈

「…海之くんに妬けちゃうわね」

「………でも、でもやっぱりダメ…。私、全然強くなってなんか…無い。朝起きて…海之くんがいないベッドを見る度に…もうあの人がいないって思い知らされる。寂しさで…胸が押しつぶされそうになる…」

刀奈

「…部屋を変えたら良いじゃない?もしくは誰かに入ってもらうとか」

「…でもそれをしてしまったら…二度と取り返しがつかない様な気がする…。前にあるアニメで言ってたの。「無くしてしまったものは不思議とまた見つかるけど、自分で捨ててしまったものは不思議と二度と見つからない」って…。だから…この部屋を変えたら…」

刀奈

「……」

 

刀奈はその言葉を聞いて思った。無意識で簪は信じているのだ。閻魔刀は離れたが彼の死体を見たわけではない。どんな小さい可能性でも、限りなく0に近くても、僅かながらも海之が生きていると。そしてそれが簪の今の支えになっているのだと。

 

「海之くんは…私の目標だった…。お姉ちゃんと同じ位」

刀奈

「そうね。海之くんは簪ちゃんのヒーローだもんね」

「…うん。そして初恋だった。こんなに誰かを好きになったのは初めて。……大好きだった」

刀奈

「うん」

「大切な人だった」

刀奈

「うん」

「…ずっと…一緒にいたかった」

刀奈

「うんうん」

「……うわあああああああああああああ……」

 

気持ちを吐き出したのがきっかけになったのか、簪は泣き叫んだ。そんな彼女の背を優しく撫でる刀奈であった。

 

 

…………

 

「……御免、お姉ちゃん。…迷惑だったよね」

刀奈

「そんな事気にしなくて良いのよ。寧ろ嬉しいわ」

 

簪は数分の間泣き続けたが少し落ち着いた様だ。そんな彼女に刀奈は話す。

 

刀奈

「……ねぇ簪ちゃん。今更だけど私ね、海之くんは……生きてる気がするの。もちろん火影くんも」

「……………え?」

 

簪は信じられないという顔をしている。

 

刀奈

「だってあのふたりよ?どんな時でも余裕あって、ぶっちぎりに強くて、いつも皆の事ばかり考えているふたりよ?そんなふたりが皆や簪ちゃんを残して死ぬと思う?あのふたりならどんなに絶望的状況でも、最後の最後まで必死に生きようって考えるんじゃないかな?皆のために。ましてや私達はふたりが死ぬとこ見て無いもん!単にレーダーから消えただけ。それなのにこの世にいないと決めつけるのはまだ早くないかな?」

「……でも…」

刀奈

「簪ちゃん何時も言ってるじゃない?「ヒーローは不滅だ」って。海之くんが簪ちゃんにとってヒーローなら、彼も不滅ってことじゃない。それにさっきの無くしてしまったものはみつかるかもしれないって台詞。だったら消えてしまった海之くんもまた会えるかもしれないって意味にならない?」

「………」

 

簪はまだ黙っている。

 

刀奈

「…も~!そんなに疑うなら私が先に海之くんの恋人に立候補するよ~?」

「そ、それは駄目!!……あ」

 

久しぶりに何時もの簪の声を聞いた様な刀奈であった。

 

刀奈

「ふふっ♪……だからさ、お願いだから簪ちゃん、ふたりを信じてあげて?ふたりが帰ってくる事を。簪ちゃん達が信じてあげなくてどうするの?」

「…お姉ちゃん…」

 

刀奈の言葉を受けて暫く考えた後、簪は、

 

「……………うん」

刀奈

「……」

「わかった…。私信じるよ。…ふたりの事、海之くんの事私諦めない」

刀奈

「そうよ!帰ったら滅茶苦茶甘えなさい。そして早く甥っ子か姪っ子の顔を見せてね♪」

「!!ななな、何を言ってるのお姉ちゃん!?」

 

簪は何とか立ち直った様だった。

 

刀奈

(…何とか繋いだわよふたり共。次は貴方達の番。だから海之くんも火影くんも早く帰ってきなさい。海之くんに至っては私の簪ちゃんをここまで泣かせた罪、本当なら万死に値するけどそんな事したら私が簪ちゃんに一生どころか来世まで口聞いてもらえなくなるからね。償いは「生きて帰ってくる事」にしてあげるわ。だから…ふたり共早く帰って来なさい!!)

 

笑顔の刀奈だがその心には怒りの念と無事を願う気持ちが入り乱れていた…。

 

 

…………

 

シャルロットとラウラの部屋

 

一方こちらはシャルとラウラの部屋。授業が終わった後、ラウラは部屋に戻ってくるとどこかに電話をしていた。

 

ラウラ

「…そうか…。今日も手がかりは無しか…」

 

相手は自分が隊長を務めるシュヴァルツェア・ハーゼの副官。ラウラは海之と火影の生存を信じ、あれからずっと捜索を続けていた。時には衛星を使ってまで。隊長とはいえ一兵士に過ぎない彼女がこれ程の事を出来るのは理由があった。ある日彼女は軍上層部にこう持ち掛けたのである。

 

「先日破壊された研究所がVTSの秘密研究所である証拠を握っている者達がいる。更にその者達は何時でもパンチラインと同等のウイルスを国に流せるらしい。その者達を何とかするためにも必要な事です」

(半分は彼女のでまかせ)

 

その言葉を聞いた上層部は慌ててラウラの依頼を了承。代わりにその者達の討伐又は逮捕、そして証拠の隠滅をラウラに命令した。4年前の一夏の件にドイツ政府が絡んでいる件についてはまだ証拠が無いため、言い出さなかった。

 

ラウラ

「わかった。すまんが引き続き頼む…」ピッ

 

そう言って彼女は電話を切り、机の上のパソコンに向かう。すると部屋のドアがノックされた。

 

コンコン

 

千冬

「ボーデヴィッヒ、いるか?」

 

来たのは千冬だった。

 

ラウラ

「…え、教官!?は、はい!」

千冬

「入るぞ」ガチャッ

 

そう言いながら入ってくる千冬。

 

千冬

「…デュノアはまだの様だな」

ラウラ

「は、はい。シャルはまだ戻ってきていません。あいつに御用でしたか?」

千冬

「…いやデュノアではない。…少しな。お前とさしで話がしたくなったんだ」

 

そう言いながら千冬はラウラのベッドに腰かける。

 

ラウラ

「わ、私とですか!?」

千冬

「…?何を驚いている?私が話をしたいと思うのがおかしいか?」

ラウラ

「い、いえとんでもありません!そ、それでどういったご用件でしょうか!」

 

ラウラは酷く緊張している。…しかし、

 

千冬

「……大丈夫か?」

ラウラ

「…え?」

 

千冬が静かに言ったその言葉で緊張が一気に冷めた。

 

千冬

「デュノアから聞いたぞ?お前達、休みも放課後もあれからずっとあいつらを捜索しているとな?しかもお前に至っては自分の立場を利用して軍を半分脅迫して衛星まで使っているらしいな?デュノアの奴も実家の父親に頼み込んで捜索隊を出してもらっているらしいし。…全く子供のくせに大人をこき使いおって」

ラウラ

「! も、申し訳ありません…」

 

申し訳なさそうに謝罪するラウラ。

 

千冬

「…まぁ気持ちはわかるがな。…しかしそれのせいで学業や体調にまで影響が出てしまう事があっては元も子も無い。…大丈夫か?」

ラウラ

「は、はい!当然です!何も問題ありません!それに教官から指導を受けておりました頃に比べましたらこれ位どうともありません!」

千冬

「…それは暗に私の指導に対する批判か?」

ラウラ

「い、いえ!そういう意味では決して……!」

 

ラウラは酷く慌てた表情をしながら言い訳する。すると、

 

千冬

「……ふ、ふふふ、あははははは!」

 

突然笑い出した千冬。

 

ラウラ

「きょ、教官…?」

千冬

「ふふ…。いやすまん。少しからかっただけだ。…しかしお前のそんな顔など久しぶりだな」

ラウラ

「…まさか教官、私を気遣ってこんな事を…?」

千冬

「ここのところのお前の様子が気になっていたからな。何時も険しい顔をしてばかりいただろう。だから少しな」

ラウラ

「…申し訳ありません…」

千冬

「謝ってばかりだな。……もう一度聞くが、大丈夫か?無理をし過ぎていないか?」

ラウラ

「…お気遣い感謝致します。ですが私は大丈夫です。一刻も早くふたりを見つけ出さなければなりませんから。そして説教してやらなければ気が済みません。夫を、姉をこんなに待たせているあいつらを」

千冬

「……」

 

そう言いながらラウラは再度机の上のパソコンに向かい直す。

 

ラウラ

「全く、あいつらときたら何処をほっつき歩いているのか…。あれから範囲を広げて徹底的に捜索しているのに影のひとつも見つからないのです。実家にも帰ってない様ですし…本当に心配ばかりかける奴等です…。軍人なら懲罰どころではすまない所です」

千冬

「……」

 

千冬はそう言い続けるラウラの背を見続ける。

 

ラウラ

「一夏の奴もずっと責任を感じていますし、簪や鈴や本音も見た目明るく振舞っていますがあいつらの悲しみは火を見るよりもわかります。だからこそあいつらの分まで私が頑張って探さなければ…。もし見つけた時は真っ先に殴ってやるつもりです。でなければこの腹立たしい気持ちが収ま……!!」

千冬

「………」

 

気が付くとラウラは千冬に背中から抱きしめられていた。

 

千冬

「………」

ラウラ

「きょ、教官…!?」

 

ラウラはかなり驚いていた。ドイツにいた時もこんな事一度もされた事無かった。

 

千冬

「お前を指導したのは私だぞ?お前の気持ちがわからないとでも思うか?」

ラウラ

「…わ、私は…本当に」

千冬

「強がるな…。泣きたいなら泣けばいい。気持ちを吐き出したいならそうすればいい」

ラウラ

「………」

 

少ししてからラウラは千冬の腕の中で静かに話し始めた。

 

ラウラ

「……私は…」

千冬

「……」

ラウラ

「私は海之と火影が、ふたりが死んだなんて…本当に思ってません。ふたりは…私の嫁と弟はきっと生きてる…。私には…そう信じる事しかできませんから…」

千冬

「……そうか」

 

……しかしそう言うラウラであったが、

 

ラウラ

「…………でも、時々…凄く…不安に…なるんです…。毎日毎日、探しても…全く…見つからなくて。手がかりさえも…。毎日シャル達と…必死になって探しても…何、何も…見つから…なくて」

千冬

「……」

ラウラ

「…わかって、るんです。反応が…全部消えた…という事が…どういう…事か。……でも、でも…どうしても…諦めたく、なくて。絶対…諦めたく、なく、て…」

千冬

「……」

 

気付けばラウラも涙を流していた。そして自らの指に嵌めている紫の輝きの指輪を見ながら更に呟く。

 

ラウラ

「好きになんかならなければ良かった…。家族なんて持たなければ良かった…。以前の私のままで良かった…。ならこんな悲しみも」

千冬

「それは違うぞラウラ。それは人である証だ。人として当たり前の感情なんだ。お前はマシンではない。16歳のひとりの女の子だ。海之と火影はその事をお前に教えた。お前を人間にしてくれたんだ。私は感謝している」

ラウラ

「…しかし私は」

千冬

「関係ない。例えお前が母親から生まれなかった人間であっても。私達がお前をそんな風に見てると思うか?あのふたりは、お前の家族は…お前をそんな風に見ていたか?」

ラウラ

「……」

 

 

海之

(俺は…お前達を守りたい)

火影

(これからもあいつを頼むぜ♪)

 

 

ラウラ

「……海之、……火影」

千冬

「大丈夫だ。…大丈夫」

ラウラ

「……うぅ、……わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

堪えられなかったのか、ラウラは千冬の方に向き直り、彼女の腕の中でふたりの名を呼んで泣き叫んだ。千冬はそんな彼女を黙って抱きしめていた。それはまるで母親と娘の様であった…。




※次回は8日(土)、後編です。
半歩しか進んでいませんが全員分の感情を書きたいので前編後編と分けてしまいます、すみません。


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Mission154 悲しみに暮れる者達②

謎の黒いISとの戦いで行方不明となってしまった火影と海之。それにより多くの者が深い悲しみを抱えていた。

自分のせいと責め続け、訓練にも身が入らない一夏。
その背中を悲しい思いで見守る箒とセシリア。
愛する人を失い深く悲しむ簪とラウラ。
それを支える刀奈と千冬。

そして彼女達も…。


整備室

 

火影と海之がいなくなってから三週間ばかり過ぎたある日の放課後、そこには本音と少数の部員が活動を行っていた。

 

生徒1

「ねぇ本音、私今日部屋に泊まりに行こうか?」

本音

「ううん、大丈夫だよ~♪」

生徒2

「でも火影くんがいなくなっちゃってからずっとひとりじゃない。寂しくない?」

本音

「ぜ~んぜん~♪」

生徒3

「部屋の割り当てを変えてもらったら?」

本音

「ひかりんが帰ってくるまでの我慢だよ~♪」

 

火影が行方不明になってから本音はずっと同じ部屋でひとりでいた。それを心配していた他の生徒や真耶が部屋を変えたりしないかと提案しているが本音はずっと断り続けた。火影との部屋を解消するのはどうしてもできなかった。

 

生徒1

「…そう?ならいいけど…でも寂しくなったら言いなさいよ?」

本音

「ありがと~♪…あ、もう今日は終わりだね~。じゃあ私帰るね~、お疲れ様~♪」

 

そう言って本音は部屋から出て行った。その後ろ姿を他の者達は心配そうに見つめていた。

 

 

…………

 

火影と本音の部屋

 

ガチャッ

 

本音

「ただいま~♪」

 

扉を開けて本音は部屋に入る。……だが火影はいない。三週間前のあの日から。

 

本音

「やっぱり今日も帰ってないんだね~。もう~早く帰ってこないと怒るよひかりん~」

 

自分のベッドに寝っ転がり、足をジタバタしながら言う本音。

 

本音

「早く帰ってきてよ~。ひかりんのデザート食べさせてよ~」

 

次第に声が小さくなっていく。

 

本音

「帰ってこないと……こないと……」

 

ふと本音は火影のデスクを見た。その上には彼のエボニー&アイボリーが大事そうに箱に入れられて置かれている。簪と同じく、本音が自分で管理すると言い出したのだ。因みに彼のデスクもベッドも本音は自分のと合わせていつも掃除していた。それ位しか自分にできる事が無いと思うと悔しかった。

 

本音

「………」

 

本音はゆっくり火影のベッドに近づき腰かけるとそのまま力なく横たわった。周りに心配かけない様に普段通り振舞っている本音。火影が絶対帰ってくるという気持ちに嘘は無いがそれも限界に近づきつつあるのか、

 

本音

「…………ぐす、…ひっく」

 

誰もいない時はこうやってひとり涙することも多くなっていた。そんな彼女の左手薬指には火影から貰った赤い輝きの指輪がある。簪達の様に彼女もまたずっと付けている。

 

本音

(……ひかりん。私、いつもひかりんに守ってもらってばっかりで…負担かけちゃったよね…。ごめんね……。……でもやだよ、こんなお別れって無いよ…。私…まだ何にもお返しできてないんだよ?ひかりんと一緒にいて…とっても楽しかったのに…。もうデートねだったりしないから…。二度とストロベリーサンデー勝手に食べたりもしないから…。火影…………)

 

 

…………

 

「……ね、おい…ね」

 

直ぐ近くから声が聞こえる。

 

「…おい本音、起きろ」

本音

「う~ん…………!!」

 

眠っていたらしい本音は声の主を見て凄く驚いた。何故なら目の前にいたのは、

 

火影

「やっと起きたか。どうしたんだ?そんなにひどく驚いた顔して?」

本音

「ひ、ひひひひかりん!?どど、どうして!?いいいいつ帰ってきたの!?」

火影

「??なんの事だよ一体。それにひかりんって…その呼び方されたの学生以来だぜ」

本音

「? が、学生って、本音達まだ高校生だよ?う、ううん!そうじゃなくてひかりん本当に何時帰ってきたの!?皆心配してたんだよ!!」

火影

「?? お前本当にどうしたんだ?寝ぼけて現実と夢がごっちゃになってるのか?」

 

目の前の火影は本当にわかっていない様だ。

 

本音

「………夢?…あれが…夢?……本当に?」

 

一方の本音もひどく混乱している。

 

火影

「そんなんで大丈夫か?これから本番だってのに。皆もう待ってるぜ」

本音

「……待ってる?……そういえばひかりんなんでそんな恰好してるの?その恰好、まるで結婚式で使う衣装みたいだよ?あと…なんで私達こんな部屋にいるの?」

 

今目の前にいる火影は髪型もいつもの形じゃなく整えられ、しかも正装している。それに不思議がっている本音に火影は驚く事を言った。

 

火影

「おいおい本当に寝ぼけてんのか?まぁお前らしいけど。まるでも何も結婚式だろう、俺と本音の。因みに補足で言っとくと今教会だぜ?」

本音

「……………………!!!」

 

その言葉に暫し沈黙する本音。そして、

 

本音

「けけけけココココ、ケッコン式!?そそそそそれ本当!?わわわ私とひかりんの!?」

火影

「ニワトリかお前は。ああそうだ。ああそういや忘れてた。似合ってるぜドレス」

本音

「へ?…!!!」

 

驚きのあまり自分の事をすっかり忘れていた本音は目が覚めて初めて自分の姿を見た。そこには美しいウェディングドレスを纏った自分がいた。鏡に写って見てみる。

 

本音

「……これが……私……?」

火影

「ああそうだ。まぁ信じられないのも無理ないか。馬子にも衣裳って感じだしな♪」

本音

「あ~ひかりんひど~い!どうせ私には似合わないよー!」

火影

「ははは。…そうだよそれでこそお前だ。緊張してるなんてお前らしくねぇ」

本音

「う~しょ、しょうがないじゃない~。結婚式なんだから~!」

(……一番の夢が叶ったんだし)

火影

「ん?」

本音

「う、ううん、なんでもない。それより…ねぇひかりん~、私本当に似合ってないの~?」

 

すると火影は本音をそっと抱きしめ、

 

火影

「……んなわけねぇだろ。綺麗だ。とびきりな」

本音

「…!!」

火影

「ありがとよ本音。俺の家族になってくれて」

本音

「……うん!」

 

本音は嬉し涙を浮かべながら笑顔で答えた。

 

火影

「…幸せにする」

本音

「私は……もう十分幸せだよ…!」

 

 

…………

 

本音

「……………ん」

 

本音ははっと目が覚めた。どうやら火影のベッドに横になったまま眠ってしまっていた様だ。窓から見える空はうっすら夕闇に差し掛かっている。

 

本音

「私……寝ちゃって、……火影!!」

 

本音は火影を探すが……当然いる筈もなく、

 

本音

「………夢、か。………そうだよね。……そんな筈ないよね……」

 

今までの事は全て夢だった事に気落ちし、また火影のベッドに横たわった。思いだすのは…さっきの夢に出ていた火影の姿。

 

本音

(……でも、ほんとにこんな現実なら、夢見続けてた方が…良かったな……)

 

本音はただただ涙していた……。

 

 

…………

 

屋上

 

時間は変わってとある日の放課後。屋上に彼女の姿があった。

 

「……」

 

鈴だ。鈴は最近放課後によくここに来ていた。いろんな思い出があるここに。

 

「もう三週間なのね…。来週はクリスマス、か……。火影、アンタ本当にどこ行っちゃったのよ…」

 

鈴もまた誰もいないその場でひとり呟く。ふたりが、火影がいなくなってからの鈴はあからさまに元気が無かった。勿論周りに心配をかけないようにはしていたがその元気の無さは誰の目にも明らかだった。真実を知らない他の皆は気を使ってくれるがそれも彼女の心には真に届かなかった。

 

「でも、こんな事言うのもなんだけど……ちょっとわかってたかも、ってゆうかさ……」

 

 

…………

 

火影達が京都に向かう前日夜の事。この日鈴は課題を終わらせるのが遅れてしまい、風呂に入るのも随分後になってしまった。ゆっくり風呂を堪能し、部屋に戻る最中。

 

「あ~いいお風呂だった♪課題が難しかったから結構遅れちゃったけどまぁそのおかげであの広いお風呂を独り占めに…あ」

火影

「………」

 

鈴が共有スペースに差し掛かるとそこにはソファーに座る火影がいた。火影の方は彼女には気付いていない。

 

「ねぇひか……」

 

鈴は声をかけようとしたが途中で止めた。何故なら火影は自分のアミュレットを手に取り、何かを思うような表情をしていたからだ。

 

火影

「………」

(火影…?)

 

声をかけられず、でも離れる事も何故かできず。そんな感じで数十秒位過ぎ、火影が鈴に気付く。

 

火影

「ん?ああ鈴、どうした?」

「! あ、え、えっと…お風呂から帰る途中だっただけよ!ちょっとジュースでも飲もうって思って」

火影

「そうか」

 

そう言いながら火影はアミュレットを首に掛けなおす。そんなつもりは無かったのだが言った手前、鈴は自販機でジュースを買い、

 

「…隣いい?」

火影

「ああ」

 

鈴は火影の隣に腰掛ける。

 

火影

「こんな時間に風呂って遅いな。湯冷めすんなよ」

「うん、ちょっと課題が時間かかっちゃってね。……アミュレット見てたみたいだけどどうかしたの?」

火影

「ああちょっと考え事だ。心配すんな」

「そう」

(…きっと私にはまだ言えない事なのね…)

 

火影の返事に鈴は少し寂しく思った。すると、

 

火影

「…そういや鈴が髪下ろしてんの初めて見るな」

「え?あ、そうだっけ?」

火影

「ああ。…綺麗な髪だな」

「!…もう」

(ほんと恥ずかしげなく急にそういう事言うんだから…)

 

そう言いながらも鈴は嬉しかった。我ながら単純と思うが好きな人に綺麗と言われて悪い気はしなかった。

 

火影

「…どうした?」

「…ううん。あそうだ火影、明日気を付けてね」

火影

「そちらもな」

「私達は学園にいるんだから大丈夫よ。…ねぇ火影、修学旅行だけどさ?一緒に回ってくれない?」

火影

「ああ構わねぇよ」

「ほんと?約束よ!ふたりでだからね♪」

火影

「シャルや本音はどうすんだ?」

「ダーメ、初日はふたりで回るの♪それに三日もあるんだから機会あるわよ。だからしっかり予習してきなさいよ!」

火影

「…ああ頑張ってくるよ」

 

 

…………

 

(……あの時の火影の表情、そして言葉。考えたら幾ら視察って言ってもそんな急に行く必要なんて無いし、休日に行っても全然問題無い筈なのにいきなり翌日って…。なんか妙な予感がしたのよ……)

 

そう言いながら鈴は自分の薬指に嵌めている緑色の石が光る指輪を見る。

 

(一緒に京都回るって……約束したじゃない……)

 

ガチャッ

 

とその時屋上に繋がる扉が開いた。

 

シャル

「…あれ?」

 

入ってきたのはシャルロットだった。

 

「あ…シャル」

シャル

「鈴、ここにいたんだ」

「…うん。ごめん、私に用事があったの?」

シャル

「あ、ううん。そうじゃないんだけど驚いちゃって」

「…まぁ座りなさいよ」

シャル

「…うん」

 

そして鈴とシャルが並んで座る。

 

鈴・シャル

「「………」」

 

互いに暫し黙る鈴とシャル。きっとシャルも鈴と同じく思う事があるのだろう。すると鈴の方から話しかけた。

 

「また今日も行くの?」

シャル

「…ううん、本当なら行きたいんだけど山田先生が休めって言って今日は中止」

「たまにはそうするべきよ。アンタもラウラも無茶しすぎなんだから。シャル達まで倒れたら元も子もないでしょ?箒やセシリアは一夏が気になって仕方ないし」

シャル

「…うん」

 

シャルやラウラは時間ができればずっと火影と海之の捜索を続けていた。最近は簪やクロエも参加している。箒とセシリアも参加を希望したが鈴達はふたりに一夏についててあげてほしいと言って断っていた。

 

シャル

「……綺麗な夕日だね。あの時と同じ」

「……」

シャル

「……ねぇ鈴。僕、思い出すんだ。ここに来るといつも。あの時火影が…僕達の事。僕を…好きって言ってくれたこと…今でも…」

「………」

 

鈴は何も言わない。

 

シャル

「火影ってずるいよね…。僕達をこんなに好きにさせておいて、僕達の気持ちを…全部聞かないままいなくなっちゃうなんて…本当に…ずるいよね」

「………」

 

鈴はずっと俯いている。

 

シャル

「それにさ、火影っていつも余裕ある顔していつも僕達の先を行ってたよね。この前の感謝会でも脅かすつもりが結局僕達の方が驚かされちゃったし。スメリアで僕達にこの指輪買ってくれたし。この前なんかほっぺたにキスまでされちゃって…。いきなりすぎて心臓飛び出すかと思ったよ…」

 

そう言いながらシャルは薬指の白い輝きの指輪を見る。

 

「………」

シャル

「でもやっぱり一番驚いたのは僕達を好きって言ってくれた時、かな。驚いた以上に嬉しかったけどね。初恋だったし。ほら、初恋って上手くいきにくいって言うじゃない?火影って恋愛とか興味無さそうだったし、海やプールでも僕達と普通に遊んでたし、もうちょっと意識してくれてもいいんじゃないの~?僕達皆気合入れて水着探したのにぁって。あはは…」

「………」

 

シャルは火影との思い出を話す。しかしその声はだんだんと悲しみの色が見え始める。対して鈴は黙って聞いている。

 

シャル

「全部終わったら…聞いてほしい事があったのに。もっと…ずっと…」

 

シャルは今にも泣きそうだ。

 

シャル

「……でも、火影はもう」

 

バタッ!

 

シャル

「!」

 

すると突然それまで黙っていた鈴が突然立ち上がり、シャルの前に立った。

 

「……なんでよ」

シャル

「…え?」

「なんで…あいつの事過去形みたいに言うのよ!」

シャル

「!!」

 

鈴はそう叫んだ。凄く怒っている表情で。

 

「なんであいつの事もうこの世にいないみたいな言い方するのよ!シャルは火影が死んだとこみたの!?シャルはあいつの「身体」じゃなく「死体」を探してるの!?」

シャル

「!ぼ、僕はそんなつもりじゃ!」

「じゃあなんであいつの事、もう死んだと決まったみたいな話し方するわけ?実際その目で見たわけじゃないのにさ!あんた火影の事誰よりも想ってるんじゃないの?なのに生きてるって信じてないの?あんたの火影への気持ちはそんな程度なわけ?もしそうだとしたら随分いいかげんね!そんな気持ちならその指輪外しなさい!」

シャル

「!…僕の、僕の火影への気持ちがいいかげんだっていうの!?酷いよ!いくら鈴でも許さないよ!」

 

鈴の言葉にシャルもたまらず立ち上がって怒る。しかし鈴は負けずに言い返す。

 

「本当に好きならあいつの亡骸でも目にするまで絶対に生きてるって信じるもんじゃないの!?私は火影が生きてるって信じてる!本音なんて見てみなさいよ!あいつが生きてるってずっと信じ続けて部屋を絶対変えようとしないし、あいつの荷物を絶対渡そうともしない!少なくとも今のあんたよりよっぽどあいつの事想ってるわね!」

シャル

「…僕が、僕がこの三週間どんな気持ちで探したと思ってるの!?学校が終わったり休日もいつも探しに出て、それでも何ひとつ手がかりが無い。ラウラに協力してもらって衛星で探したり、お父さんに頼み込んで捜索隊まで出してもらったりしてるのに………でも、何も…」

「……」

 

火影と海之が行方不明になった後、シャルは実家のデュノア社社長の父親にふたりの捜索をお願いしていた。シャルの父親からしても火影は会社にも自分にも恩人であるため、彼女の願いを了承した。しかしそれでも未だ有力な情報はない状況だった。

 

シャル

「僕だってふたりが、火影が生きてるって信じたいよ!心の底から信じたいんだよ!……でも、もうあれから三週間も…何の音沙汰も」

「三週間でも三ヶ月でも三年でも関係ない!ふたりは、火影はきっと生きてる!私達のところにきっと帰ってきてくれる!」

 

鈴は泣きながらそう叫ぶとその場に座り込んだ。

 

「だって…、だって、こんな終わり方、あまりにもふたりが、かわいそう過ぎるじゃないのよ…。生まれてすぐに生みの親に捨てられて、凄く良い人達に助けられたのにその人達もあんな形で失って、それでも間違う事なく、誰よりも優しくて誰かのためにっていう気持ちで全身埋め尽くされている様な人に育ったのに…。もし、もしこの世に神様がいるのなら、なんでふたりばかりこんな目に合わせるの…?なんで、なんでなのよ…。ううっ…」

シャル

「…鈴…」

 

シャルもその場にしゃがみ込む。すると鈴は彼女にしがみつき、

 

「ねぇ…シャル。火影の事が好きなら…あいつが死んだなんて言わないでよ…。お願いだから…。信じる者は救われるって言うじゃないの…。だから、シャルも信じてよ…」

シャル

「…鈴…」

「神様でも悪魔でもなんでも良いから…、私達にふたりを、あの人を返してよ…。お願いだから…私からあの人を…火影を取り上げないでよぉぉぉ…」

シャル

「……」

 

鈴はシャルの腕の中、小さい声で訴えた。

 

シャル

(………ねぇ、火影。三週間前のあの日、火影達また多くの人を助けたんだってね…。あの後帰ってきた山田先生から聞いたよ。翌日の新聞やニュースでもそれで持ちきりだった。「飛行機を救った赤と青の奇跡の光再び」って。…それから数日後に学園にたくさんの感謝の手紙が届いたんだよ。火影達がここの生徒って知った乗客の人達やその家族の人達が送ってくれたんだって。よく簪が言ってるけど…火影も海之も本当にヒーローだよね。………でもね、火影。こんな事言ったらきっと多くの人に怒られるだろうけど、多分火影も怒るだろうけど、僕は誰よりも君に、火影にいてほしかったよ…)

 

そんな事を考えているとシャルの瞳からも涙がこぼれる。鈴はずっと彼女の腕の中で泣いている。

 

シャル

(ねぇ火影。僕も信じるから…お願いだから…帰ってきてよ。僕、まだ気持ち全部伝えきれてないよ?……鈴や本音を笑顔にできるのは…僕を笑顔にできるのは…火影だけなんだから、君だけなんだから…。うぅぅ…)

 

空の色はあの時と同じく美しいオレンジ色と夕日。しかしあの時とは全く違う意味の涙がふたりを悲しみに染めていた…。

 

 

…………

 

職員室

 

また別の日にはこちらでも…。

 

真耶

「……はい。わかりました。ありがとうございます。また何かありましたらご連絡致します」

 

職員室では真耶が誰かに電話していた様だ。

 

ガラッ

 

するとそこに千冬が戻ってきた。

 

真耶

「先輩、お疲れ様です」

千冬

「ああ…、すまんな留守番させて。訓練に手間取ってしまってな」

 

Mによる学園襲撃のあったあの日から学園は更なる襲撃に備え、警備体制の強化や教師陣の訓練、学校行事の変更等、千冬達教師陣の業務はいつも以上に多忙となっていた。だが中にはファントムやグリフォンという存在に相変わらず怯えている者がおり、それを叱咤激励するのも千冬の役目だった。

 

千冬

「あいつらの家への連絡は終わったのか?」

真耶

「はい丁度。先程ギャリソンさんに…」

 

火影と海之がいなくなった事は当然スメリアのふたりの家にも既に知らされていた。当然ふたりの叔母にあたるレオナにも…。しかし、

 

千冬

「…どんなご様子だった?」

真耶

「何も変わっておられません。今まで通り、何時も通りにされておられるとの事です…」

千冬

「そうか…」

 

ふたりの事はずっと前に知らせていた。しかしふたりの家では捜索なども最低限しか行っていない。葬式なんてものも行わず普段通りに過ごしていた。それにはこんな訳がある。

 

 

…………

 

ふたりがいなくなった日の翌日。千冬と真耶は当然ふたりの家に連絡した。

 

ギャリソン

「…そうですか……、火影様と海之様が…」

千冬

「…はい…」

真耶

「私がついていながら…私が、私があの時、無理にでも止めていれば…!謝って済む訳ありませんけど…本当に、本当に申し訳ありません!!」

 

ひとり京都に残っていた真耶も戻ってきてから自分を責めていた。自分があの時無理にでも止めていればふたりが生きていたかもしれないと。

 

千冬

「よせ真耶、お前だけのせいではない。私も同じだ…。私はふたりを守る立場でありながら…ふたりを守れなかった。…私のせいだ…」

真耶

「いえ先輩!私が悪いんです!傷ついているのがわかっていながらふたりを行かせてしまった…。私が、私が殺してしまったのと同じです!私は教師失格です!!」

千冬

「真耶、あまり自分を責めるな…」

 

千冬と真耶がそんなやりとりをしているとギャリソンが切り出す。

 

ギャリソン

「…先生方、どうかその様な事は仰らないでください。先生方がその様な事を仰られるのは火影様も海之様も望まれていない筈です」

千冬

「……」

真耶

「す、すいません…」

ギャリソン

「それに…私共はおふたりを信じておりますから…」

千冬

「…え?」

真耶

「ど、どういう事ですか…?」

ギャリソン

「はい。実は一昨日…」

 

ギャリソンは静かに話し始めた。

 

 

…………

 

それは京都出発前日の夜の事。

火影と海之はテレビ電話でスメリアの自宅に電話していた。

 

火影

「よぉギャリソン、遅くに悪いな」

ギャリソン

(滅相もございません。おふたり共お元気そうで何よりでございます)

海之

「お前もな。皆やレオナ叔母さんもお元気か?」

ギャリソン

(はい。皆変わらずにおります。しかしこの様な遅くにどうなされたのですか?)

海之

「ああすまんな。………もしかすると…明日から暫く連絡できなくなるかもしれん。俺も火影も。大事な用事ができたのだ。とても大事な、な…」

火影

「具体的な内容は言えないんだけどな」

ギャリソン

(…かしこまりました。それでは何かありましたら学校の方に)

海之

「いや、すまんが…学園の方にも連絡しないでもらえると助かる。先生方も皆も忙しいだろうしな……」

ギャリソン

(………)

 

ギャリソンは何も言わなかった。学校の用事に連絡するなと言う程の重大すぎる事などあるはずない。しかしふたりの言葉の調子から何かただ事ではないと悟ったのだろう。夫妻が亡くなってから親の様に接してきた彼だからこそだろうか。すると火影が続けた。

 

火影

「…まぁひとつだけ言っておくとだ。心配すんなってギャリソン。もしかしたら簡単に済むかもしれないし、案外なんでもないかもしれない。まぁ何れにしても次大型の休みがあったら帰るからその時はまたお前の料理食わしてくれな」

海之

「ああその通りだ。ギャリソン、例え何があっても何も心配する事は無い。信じてくれ、俺達を。そして守ってくれ。俺達の、お前や皆の家を」

 

火影と海之は何も心配する必要はないというメッセージを伝えた。それに対してギャリソンは言った。

 

ギャリソン

(……これから冷えてきますから、どうかお風邪を引かれぬ様お気をつけて。……行ってらっしゃいませ)

海之

「…ありがとう」

火影

「おう、ギャリソンも風邪引くなよ。レオナ叔母さん達にもよろしくな」

 

 

…………

 

ギャリソン

「火影様と海之様の御身に何がおありになったのか…、私共にはわかりません。…しかし、おふたりがこれまで通り何も変わらずに待っていてほしいと仰るのであれば、私共は火影様と海之様を信じるのみでございます…」

千冬・真耶

「「………」」

 

ふたりはギャリソンという人物に感服していた。親代わりでもある彼も火影と海之を心底心配している筈だ。きっと自分達以上に。しかしギャリソンはふたりを信じると言った。例えどんな絶望的な状況でも。ふたりの言葉に従って……。そして火影と海之はこうなる事をある程度予測していたのかもしれない。だから余計な心配をかけないように連絡していたのだ。

 

千冬

「…ギャリソン殿。海之くんと火影くんは…本当にいいご家族に恵まれたのですね…。みっとも無い事を申し上げる様ですが…正直羨ましいです」

真耶

「はい…。そして大人としても教師としても恥ずかしいです」

ギャリソン

「何を仰います先生方。私など皆様に比べたら大した事は御座いません。それにおふたりは先生方の事をとても信頼されておられます。お優しくお強く、いつも自分達の事を考えてくれる素敵な先生と。以前私にそう話しておられました」

真耶

「火影くんと海之くんが…」

千冬

「……」

 

 

…………

 

千冬

「本当に強い人達だ…」

真耶

「ええ本当に。…でも…あの子達は…」

千冬

「ああわかっている…。一夏の奴などあれからずっと自分を責め続けて訓練にも気が入っていないからな。全く…落第しても知らんぞ…」

 

ふたりも一夏や鈴達の心の悲鳴を痛い程理解していた。一夏に厳しく言うが千冬も真に怒りはしていない。姉として弟の気持ちはよくわかっているから。

 

千冬

「…お前は大丈夫か?」

真耶

「……正直全く大丈夫って言ったら嘘になります。でもギャリソンさんのお話を聞いて決めたんです。私もふたりを信じようって。私にできるのは…それしかできませんから」

千冬

「そうか…」

真耶

「先輩もでしょう?ふたりが死んだなんて思っていないでしょう?」

 

真耶は千冬に聞いた。きっと信じていると返してくると思った。

 

千冬

「……」

真耶

「…先輩?」

 

だが以外にも千冬からの返事は無かった。すると、

 

千冬

「……わからない」

真耶

「えっ?」

千冬

「お前の言う通り…勿論信じたい気持ちが大部分だ。あいつらが負けたなんて今でも正直信じられんよ…。しかし以前ボーデヴィッヒと話した時に…あいつが言っていたのだ。「どんなに探しても見つからない。反応が消えたという意味がどういうことか」とな。当然…私もどういう意味かわかっている」

真耶

「……」

千冬

「鳳達の気持ちも重々承知しているし、お前の言っている事もわかる。だが…私は実際レーダーであいつらの反応が消えたのをこの目で見たのだ…。いつまでも引きずる訳にはいかない。私にはやらなければならない事があるからな。そのためには…ちゃんと現実を受け止めなければ…ならないと思っている。例え…あいつらが…死」

 

 

パァァァァァンッ!!

 

 

千冬

「!!」

 

すると突然真耶が千冬の頬を叩いた。思わぬ行動に千冬は酷く驚く。

 

千冬

「ま、真耶!?」

真耶

「何頼りない事言ってるんですか!先輩はふたりを信じていないんですか!?今までどんなことがあっても諦めずに私達やあの子達を守ってくれたふたりを!戦ってくれたふたりを!それがあのふたりに対する先輩の気持ちですか!?」

 

真耶は今までにない位凄く怒った顔をしている。

 

真耶

「皆苦しいんです!皆悲しいんです!ギャリソンさん達だってきっと本当はそうに違いありません!でも信じてるんです!ふたりが生きているって!可能性がどんなに低くてもそれでも信じてるんです!なのに…あの子達の教師である私達が信じてあげなくてどうするんですか!私はそんな先輩見たくありません!」

千冬

「…真耶」

真耶

「それに先輩は海之くんの事が好きなんでしょう!?今までにない位ビビってきたんでしょう!?そんな人を簡単に諦めちゃっていいんですか!?想い人なら信じぬいてあげなきゃ駄目じゃないですか!!」

千冬

「い、いや…ちょっとそれは意味が違う」

真耶

「意味とかそんな事関係ありません!とにかくもう一度言わせてもらいます!自分の生徒を教師が信じてあげなくてどうするんですか!それはあの子達の教師として当然なんじゃないんですか!?」

千冬

「……」

 

真耶の目元には涙が浮かんでいた。

 

真耶

「わかってますよ……私だって。でも、諦めちゃったら…そこで終わりじゃないですか…。お願いですから…先輩もそうしてくださいよ…。でなきゃ…ふたりが可哀そうです……」

千冬

「真耶…」

(…私は…)

 

千冬は何も言わず真耶の言葉を聞いていた。可能性は限りなく低い。ふたりの生存を示す証拠もない。ほとんど絶望的なのもわかっている。でも真耶は最後まで信じると決めた。それが自分にできる唯一の事だと思ったから。そんな彼女を見ていると千冬は自分が酷く弱い人間と思うのであった…。

 

 

…………

 

会議室

 

またとある日の秘密の会議室。そこにはひとりの少女がいた。

 

クロエ

「………」

 

クロエである。秘密という事以外何の変哲もなく、窓もひとつも無い部屋だがクロエにとってこの部屋は火影や海之、そして束と一緒にいた場所。沢山話したり秘密を共有したり、ふたりから義妹と認められた、それなりに思い出もある場所であった。

 

クロエ

「……束様…」

 

嘗てラウラと同じ様に生み出され、ひたすらに凄まじい訓練を受けてきたクロエ。しかしドイツ政府はそんな彼女を失敗作と見捨てて放棄した。着の身着のままの状態で。そしてとある場所でとうとう力尽き倒れた。人は死ぬ前に今までの思い出や後悔が走馬灯の様に浮かんでくる事があるという。だが彼女のそれまでの思い出と言えば地獄の様な訓練の日々のみ。死の恐怖は不思議と無かった。自分の死に場所はここ。そんな感情だけ。

 

クロエ

「…ですが私は…束様に出会った」

 

そんなクロエを束が本当に偶然拾い、治療し、食べ物を与えた。ほんの出来心だったのかもしれない。当時の束は今と違ってフランクではなかったから。だが助けられて数日後のある日、束はクロエに言った。

 

 

(今日から君はクーちゃんって呼ぶね~♪)

 

 

何故か束はクロエを気に入った。理由を聞いても「なんでって気に入ったからだよ~ん♪」と言われるのみ。不思議で変な人だとクロエは思った。何故こんな扱いをされるのかも全くわからなかった。……しかし不思議と嫌な感じはしなかった。

 

「この人となら…一緒にいてもいいのかな?」

 

今まで人のぬくもりを知らず、戦いしか知らなかった少女が初めて持った感情だった。新しい人生を見つけた瞬間だった。

 

クロエ

「…そして私は…兄さん達に出会った」

 

それから数年後の今年初め。再びクロエは自分に深く影響を与える人物と出会った。火影と海之という双子の兄弟。束以外の人間と殆ど接触したことが無いクロエだったが初対面から何故か怖くなかった。歳が同じ位という事もあるだろうが。向こうも自分に全然分け隔てなく接してくれるのが妙に安心できた。そして何時でも頼れって言ってくれた。そんな事を言ってくれたのは束以外で初めてだった。……不思議と胸が熱くなった。そしてクロエは、

 

 

火影

(じゃあ今日からクロエは俺達の妹ってわけだな)

海之

(妹なのだろう?遠慮する必要はない)

 

 

ふたりの義妹になった。束のおかげで人間本来の豊かな感受性を取り戻したクロエは凄く嬉しかった。束以外にも自分に家族ができた。大切な人ができた。束と火影と海之が自分の生きる範囲を、視野を広げてくれた。……それなのに、

 

「…束様、火影兄さん、海之兄さん。……皆、皆いなくなってしまいました。……私は、私はまた…ひとりになってしまった……」

 

束は敵に捕らわれて安否不明。そして火影と海之も今は消息不明。クロエは一度に家族を無くしたという現実を未だ受け止めきれず、深い悲しみに心が支配されていた。若干17歳という少女には無理ないかもしれない。

 

クロエ

「…兄さん…、約束したじゃないですか…。また私に…料理を教えてくれるって………」

 

 

…………

 

それはまだふたりが京都に行く数日前のある日の休日、クロエは火影と海之に料理を見てほしいとお願いしてきた。その日たまたまやる事が無かったふたりはクロエのお願いを聞いてあげる事にした。同じく退屈していた一夏、更に箒も参加している。とりあえずクロエが束のお願いで一番作る事が多いというものを作ってみたのだが…、クロエ含め全員出来上がったものに言葉を失っていた。

 

火影

「…こりゃあ…」

海之

「………」

「…料理が苦手…という話は聞いてたが…、これはなかなか…」

クロエ

「………」

一夏

「クロエ…何を作ろうとしたんだ?」

 

するとクロエは小さい声で言った。

 

クロエ

「………ケ…です…」

火影

「……俺の耳がおかしかったら悪い。今なんつった?」

クロエ

「……コロッケ……です…」

 

それを聞いてまず一夏が質問する。

 

一夏

「えっと…先ず真っ先の疑問なんだけど…、コロッケって個体だろ?なんでこんなスライムみたいな形になる?」

 

今皆の目の前にあるのは…真っ黒なスライムだった。漆黒、闇といってもいい位黒一色である。

 

クロエ

「わからないんです…。何度やってもこうなってしまうんです」

「…すまん。私からも質問したいんだが…材料は?」

クロエ

「全て通常のものです…。教本に従って用意してます…」

火影

「本に従ってっつー事は材料のせいじゃねぇな。………ちょい待て、って事は作り方も当然見たんだよな?」

クロエ

「………はい」

 

クロエ曰く教本通りに材料も揃えて作ったという。

 

一夏

「……あの、因みに束さんはこれを?」

クロエ

「…はい。いつもこんなものや同じく炭みたいな固体を召し上がっておられます。私に気を使って下さっているのか…いつも完食されて」

「そ、そうなのか…」

 

実際束はクロエの料理を何時もさぞ美味しそうに完食している。それが彼女を思ってなのか、それとも見た目がこんなでも普通に食べられるからなのか。

 

火影

「……とりあえず…、一回もらって良いか?」

一夏

「お前すげぇな。…っあ、ご、ごめんクロエ」

クロエ

「ご、ご無理なさらなくても…」

火影

「気にすんな」

 

スライムを箸で切り(因みに中身も真っ黒)、口に運ぶ火影。

 

「ど、どうだ…?」

火影

「……………?」

 

疑問符を浮かべる火影。それを見て海之も食べてみる。

 

海之

「……………??」

一夏

「ど、どうしたんだよふたり共?」

 

何故か火影だけでなく海之まで大量の疑問符を浮かべ、言葉を発しないまま二、三度確認する様に食べる。

 

火影・海之

「「…………???」」

 

何口も食べている事から危険ではないと思った一夏と箒も食べてみる。

 

「こ、これは!?」

一夏

「…コロッケだ。しっかりコロッケの味だ!」

クロエ

「………」

 

ふたりは大変驚いた。それと同時に火影と海之の疑問符の意味も理解した。目の前のそれはコロッケとは似ても似つかない真っ黒いスライム。箸で切った感触も食感も。しかしその味は正にコロッケそのものでじゃがいもや肉の風味もしっかりとある。一体どうなっているのだろうか…?

 

クロエ

「あとパンも焼くんですけど…、そちらも幸い味はパンなんですけど…、ナイフも通さない位硬くなっちゃうんです…」

一夏

「どうやって切ってんだ!?」

クロエ

「そのまま切らずに召し上がってらっしゃいます…」

「…姉さんの噛む力って一体…」

火影

「揚げてるつってもここまで黒くはならない筈なんだが…」

海之

「何故粘性を持っているのだ…?」

 

様々な疑問が浮かんでいる中、当のクロエは更に落ち込む。

 

クロエ

「やっぱり私には料理なんて無理なんでしょうか…?」

火影

「いやクロエ、諦めんのは早いって。今度は俺達も見ててやるよ。材料が間違ってなくて本通りにやってるという事は基本は間違ってない筈だし」

海之

「そうだな。先ずはもっと簡単な物から始めよう」

クロエ

「…しかし兄さん達はお忙しいのでは…?」

 

クロエはふたりの身を心配するが、

 

火影

「俺達の事は気にするな。今度束さんを喜ばせてやれ」

海之

「そういう事だ」

クロエ

「…ありがとうございます!」

 

クロエは嬉しそうだ。

 

一夏

「面白そうだ♪俺も暇があったら教えてやるさ」

「私も手伝うぞクロエ」

クロエ

「一夏さんも箒さんもありがとうございます」

火影

「そうと決まったらとりあえず目標は…年末の年越しそばが綺麗に調理できるまでだ」

海之

「頼むぞクロエ」

一夏

「教える側の責任…重大だなこりゃ」

クロエ

「ええ!?…わ、わかりました!頑張ります!」

 

 

…………

 

クロエ

「また…教えてくれるって、言ったじゃないですか…。…約束は、守らなきゃ…駄目じゃないですか……」

 

深い悲しみに襲われながら消えそうな声で呟くクロエ。……しかし、

 

クロエ

「…………まだだ」

 

彼女は泣かなかった。

 

クロエ

「そう、まだです。自分にはまだやる事があります。束様を助けるという…大事な使命があります。泣くのはそれが終わってからです。それまで…泣く訳にはいきません!」

 

クロエは今の悲しみを力に変え、何としても束を救い出すと固く誓った。そして、

 

クロエ

「……でも…兄さん。もし…どこかで生きておられるなら……どうか、……どうか」

 

誰もいない静かなその部屋でクロエはひとり奇跡を願っていた…。

 

 

…………

 

???

 

その頃…、

 

ウィィィン

 

スコール

「入るわよオーガス」

 

ここはオーガスの部屋。そこにスコールが入ってきた。

 

オーガス

「…スコールか…、何か用か?」

スコール

「聞きたい事があって…。あの子達のISにもDNSを搭載したそうね?…それはあの子達の意志?」

オーガス

「そうだ。…それが?」

 

オーガスはまるで興味無い様に聞き返す。

 

スコール

「……いえ、それならいいわ。あの子達の意志を尊重する。それより…ねぇ、ほんとにまたあれを使うつもり?危険すぎない?」

オーガス

「構わん。もはや存在意義は果たされている。精々実験材料として役立ってもらう」

スコール

「……」

オーガス

「Mはどうしている?」

スコール

「訓練もしながらリハビリ頑張ってるわよ。止めたんだけど聞かないのよ。今度こそ今度こそって言って」

オーガス

「そうか…いい傾向だ。M、そしてオータムの奴も己の憎悪をどんどん膨らませている。それがDNSの力を更に引き出すだろうからな。クククク…」

 

オーガスは実に楽しそうに笑った。

 

スコール

「……」

オーガス

「話はそれだけか?では戻れ、これから実験だ」

スコール

「……ええ」

 

そしてスコールは部屋を出て行った。オーガスは引き続き目の前の端末に集中する。

 

オーガス

「……あと一週間というところか。ククク…精々これを使わせる位頑張ってくれよ人間共…」




※次回は15日(土)の予定です。
最近急に暑くなってきましたね。熱中症に皆さんお気をつけください。


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Mission155 再臨 黒の魔人

火影と海之が行方をくらましてから三週間。
しかし彼女達の悲しみは未だ癒えずにいた。

気丈に見せつつも人知れず火影を想って涙を流す鈴、シャル、本音。
弱気になる千冬とそれをいつも以上に叱咤激励する真耶。
悲しみを力に変え、束を救う事を改めて誓うクロエ。

……だが時はそんな彼女達に更に過酷な運命を与えるつもりか、オーガスが再び動き出そうとしていたのであった…。


IS学園 1-1

 

千冬

「それでは本日の授業はこれまで!」

生徒達

「「「ありがとうございました!」」」

真耶

「今年一年、皆さんお疲れ様でした。本日をもって今学期の授業は最後になります。また来年、皆さんの元気な顔を見せてくださいね」

千冬

「冬期休暇だからといって浮かれんようにな!来年はもっと厳しくいく予定だから覚悟しておけ!」

 

火影と海之がいなくなってからひと月が経とうとしていた。今日は学園の二学期最終日。そして12月24日、クリスマスイヴ。学園も街もすっかりその雰囲気に包まれ、クリスマス一色に染まっている。

 

生徒

「ねぇねぇ!折角だからどっか行こうよ!」

「そうね!クリスマスなんだから楽しまなきゃね!」

「あ~あ、こういう時女子高なのが残念よねぇ~。男女共学なら良かったなぁ」

「修学旅行は行けなかったけどその分他の事で楽しまなきゃ!」

「あ!じゃあさ!この休みの間にどっか行かない?」

 

生徒達も皆これからの予定を組む者。来年に向けて計画を立てる者。別れを惜しむ者と色々だった。ひと月何事もなければファントム・タスクの件ももう昔の事と考えている者もいる。悲しみも時間がたてば薄れていく。そういうものである。

 

生徒1

「ねぇねぇ!箒ちゃん達はどうするの~?」

「あ、ああ…。私は…地元の神社に帰る、かな。年始の準備をせねばならん…」

生徒2

「デュノアちゃん達は実家に帰るの~?」

シャル

「う、うん…。実はまだ決めてないんだ…」

セシリア

「私もです…」

ラウラ

「…とりあえず保留だな」

生徒2

「そうなんだ~。よかったら一緒に遊ばない?クリスマスなんだから楽しまなきゃ♪」

生徒1

「そうだよ。火影くん達がいなくなって寂しい気持ちはわかるけどいつまでも落ち込んでちゃ駄目だよ~」

本音

「ごめんね~…」

シエラ

「ご心配おかけして申し訳ありません…」

 

多分彼女達が言う事も正しいのだろう。だが今の彼女達にそれはまだできそうになかった。鈴や簪も同じく。

 

生徒3

「…あれ?そういえば織斑くんは?」

生徒1

「織斑くんならもう出てったよ?」

 

 

…………

 

一夏の部屋

 

一夏

「………」

 

授業が終わると同時に一夏はすぐ部屋に戻り、自身のベッドに寝っ転がっていた。一夏もまた悲しみと自責の念は相変わらず続いていた。…しかしそれとは別に一夏には最近気になる事があった。

 

一夏

(……なんなんだ。……あの夢は……)

 

 

…………

 

二日前のある日、一夏は夢を見ていた。

 

「……」

一夏

(また…この夢か…)

 

それは二週間前みた夢と同じ夢。目も開かず足も動かせない状態でただ気配はすぐ近くに感じる。一夏はこの夢をよく見る様になっていた。そのいずれも話の内容は最初に見た時と殆ど同じもの。男の声が一夏に出会える日を望み、女が今はその時までゆっくり休めという内容。…しかしその日の夢は今までとはやや違っていた。

 

「……間もなくだ」

一夏

(……?)

「時が近づいている…。できればもう少し休ませてあげたいが…残念ながらそれは難しい様だ…」

一夏

(…何を言ってるんだ…?)

「ごめんなさい…。でもきっとあの子達は…。彼女達だけじゃ敵わない…、貴方の力が必要なの…)

一夏

(…俺の…力?)

「……待っている。君を…」

 

 

…………

 

一夏

(…なんなんだよあの夢は…。時、って…。それに…俺の力、だって…?…俺の力なんて…)

 

そう思いながら一夏はあの約束も思い出した。

 

 

(一夏、強くなれ。今度こそ本当に)

(俺達からの宿題だ。時間かかってもちゃんとやれよ)

 

 

一夏

(……でも…その答え合わせをしてくれるお前らが…いねぇじゃねぇか……)

 

 

…………

 

時刻は更に過ぎ、夜。

二学期が終わったという事もあって生徒の中には既に実家や自国に帰郷している者や街に繰り出している者もおり、普段と比べて随分静かだった。一夏や箒、鈴達は実家にも自国にも帰らず、引き続き寮に残っていた。そして時刻が間もなく日を超えようとしていた頃…。

 

 

一夏の部屋

 

一夏

(……そろそろ寝る準備すっか…。またあの夢見るかもしれねぇけど……)

 

~~~~~~~~~~

するとその時、一夏の電話が鳴った。

 

一夏

「……千冬姉から?」ピッ

 

一夏は電話に出る。

 

千冬

(…一夏か?夜分にすまんな。もう眠っていたか?)

一夏

「いや…大丈夫だ。…それよりなんだよ千冬姉?こんな時間に」

 

一夏は千冬に問いてみる。すると、

 

千冬

(……緊急事態だ。すまんが今すぐ指令室に来てほしい)

一夏

「…緊急事態?」

千冬

(ああ。詳しくは来てから説明する。来れるか?)

一夏

「…わかった」ピッ「……緊急事態?」

 

一夏は電話を切り、着替えて指令室に向かう事にした。とりあえず制服に着替えて部屋を出ようとすると、

 

「一夏!」

 

箒だけでなく他の皆もいた。どうやら彼女達も千冬から同じ様に連絡を受け、一緒に指令室に向かっている様だった。

 

一夏

「箒、皆も…」

「……」

セシリア

「一夏さんにも連絡がきたんですの?」

一夏

「ああ…。それより緊急事態って?」

ラウラ

「わからん。だが教官がそう仰る以上ただ事ではなさそうだ」

シャル

「急ごう!」

 

とりあえず皆揃って指令室に向かうことにした。

 

 

…………

 

指令室

 

ガラッ

 

一夏達が指令室にやってくるとそこには千冬と真耶、そして楯無、クロエがいた。

 

ラウラ

「教官!」

「千冬さん!」

千冬

「…来たか」

クロエ

「皆さん…」

セシリア

「山田先生。…それに楯無さんとクロエさんも…?」

真耶

「申し訳ありません皆さん…」

楯無

「こんな遅くに御免ね皆」

「大丈夫ですよ。…しかし緊急事態って一体なんですか?」

シャル

「僕達を呼んだってことは……まさか、またファントム・タスクですか!?」

真耶

「……」

 

真耶は何も答えない。代わりに千冬が真剣な表情で答える。

 

千冬

「……よく聞け。ここから遠く離れたとあるポイントに…再びアレの反応が出た」

セシリア

「…アレ…?」

「先生、アレって…一体なんですか?」

 

他の皆も同じ事を聞きたそうな顔をしている。

 

千冬

「……ひと月前の奴ら、といえばわかるか…?」

一夏

「…ひと月前………!」

「ま…まさか!?」

「まさか…千冬さん!」

 

一夏達は皆同じ答えに達したらしい。そして次に千冬が言った言葉に全員が衝撃を受けた。

 

千冬

「…そうだ。再び奴らが現れた…。あの、黒いアリギエルとウェルギエルがな」

一夏

「…!!」

「あの時の奴らが!?」

シャル

「そ、そんな…!あいつらは火影と海之が倒した筈じゃなかったんですか!?」

セシリア

「そ、そうですわ!先生も仰ったじゃないですか!反応は全て消え……あ、も、申し訳ありません皆さん…」

一夏

「……」

「気にしないでいいわよセシリア…」

ラウラ

「しかし教官!セシリアの言う通り、奴らの反応は確かに消滅したと!」

千冬

「…確かにあの時、奴らの反応はレーダーから消えた…。それについては確かだ。私もずっと見ていたからな。……だが…」

 

すると千冬は目の前のモニターを付ける。

 

一夏達

「「「!!」」」

 

一夏達は皆目を見開いた。そこに映っていたのは

 

 

Dアリギエル・ウェルギエル

「「……」」

 

 

あるポイント上空で静かに佇んでいる…あの時の黒いアリギエルとウェルギエル。夜なので真っ暗闇だが月の光で姿が確認できる。血の様な光を放つ目と口も。そしてすぐ傍にはどうやっているのか空中で停止しているオーガスもいた。

 

「そ…、そんな…」

楯無

「これは今から約10分前、偵察機が録画した映像よ」

真耶

「先輩の指示で急遽そのポイントに飛ばしたのです。そしたらこれが映っていました…。この直後に撃墜されましたが」

「……」

ラウラ

「それで今奴らは!?」

クロエ

「それが…出現した地点から全く動いていないんです」

セシリア

「動いていない?」

千冬

「そうだ。奴らは動いていない。まるでその場で何かを待っている様に」

シャル

「…待っているって…何を…?」

 

とその時ラウラが気付く。

 

ラウラ

「…!この場所は…ふたりの反応が消えた場所では!?」

一夏

「…え」

セシリア

「本当ですわね…」

「しかし…何故また同じ場所に…」

千冬

「わからん…。だがもしかしたら…確認しに現れたのかもしれん」

「…確認?」

 

するとその質問に楯無が答える。

 

楯無

「…ふたりの生死の確認よ」

「…!」

「…奴らもふたりが生きているかもしれない、と考えていると?」

楯無

「可能性の話だけどね…」

(あのオーガスの正体はアルゴサクスという火影くんが過去に倒した悪魔。そして奴も二人の正体を知っている。ならふたりの危険性を十分知っている筈だし…)

クロエ

「そして最初の疑問の答えですが…彼らは兄さん達を、そして私達を待っているのではないでしょうか…」

楯無

「ええ、私も同じよ。自分達が出れば間違いなく私達も来る。そう思っているのでしょうね…」

一夏

「……」

 

ガラッ

 

すると鈴が扉を開けて出ていこうとする。

 

「鈴!」

真耶

「鳳さんどこ…って、まさか!」

「……」

楯無

「……行くつもりなのね?鈴ちゃん」

千冬

「危険すぎる。お前が行った所で何ができる」

「……わかってます。火影や海之が仕留め損なう程の相手ですもん。私なんかじゃとても適わない事位…」

千冬

「そうだ。お前では勝てん。ここにお前達を呼んだのは奴等が生きていたという事を知らせるためであって戦いに行かせるためではない。行くことは許さん、命令だ」

 

はっきり力強い言葉で静止する千冬。だがそんな千冬に対して鈴は負けずに言い返した。

 

「………でも、それでも…私には理由があるんです。あいつらと戦う理由が」

シャル

「鈴…」

「あいつらは、私から大切なものを奪った…。私は…あいつらだけは絶対に許す事はできません!」

 

鈴の言葉にはこれまでに無い程の怒りと強い意志、そして覚悟が含まれている様に感じられた。

 

千冬

「鳳…」

真耶

「でも鳳さん!」

「命令違反としてどんな罰を与えられても構いません。でも…私はあいつらをこのまま…!」

 

鈴は全く引く気が無い様だ。すると、

 

ラウラ

「悔しいのはお前だけじゃないぞ鈴」ポンッ

「…ラウラ」

 

そう言ってラウラが微笑を浮かべながら鈴の肩を叩く。

 

ラウラ

「…私も行く」

真耶

「ボーデヴィッヒさん!?」

千冬

「…ボーデヴィッヒ。それは軍の正当な任務か?よもや私情ではあるまいな?」

 

千冬はラウラに発言の真意を問いた。

 

ラウラ

「……私の任務は脅威となる敵の殲滅若しくは捕縛」

千冬

「それは知っている。任務からすればお前の行動は正しいだろう。だが今のお前の行動はそれとは別のものを含んでいる様な気がする。…もう一度聞く。それは軍人としての行動か?それとも…お前個人としてか?」

ラウラ

「………」

 

暫しの沈黙の後、ラウラは答えた。

 

ラウラ

「……申し訳ありません教官。…でも私は知ったんです。使命よりも大切なものがあると…。今の私は軍のため、国のために戦う事ができません…」

 

軍人としてでなく人として戦いたい。それがラウラの答えだった。

 

千冬

「お前…」

シャル

「ふたりだけなんてズルいよ。僕も行く」

「…私も」

 

更にラウラに続きシャルと簪も行くと言い出す。

 

クロエ

「シャルロットさん!」

楯無

「駄目よ簪ちゃん!それに皆も冷静になりなさい!これは明らかに罠よ!わかってるでしょう!」

 

堪らずクロエも楯無も止める。しかし、

 

シャル

「…はい、わかってます。罠だって事も…そしてあいつらの強さも…。でも…僕も鈴やラウラと同じなんです。あいつらは…あいつらだけは許せない!僕達から…僕から大切な人を奪ったあいつらだけは!」

「お姉ちゃん御免なさい…。でも、私も戦いたい…。海之くんと火影くんのためにも…!」

楯無

「簪ちゃん…」

真耶

「皆さん…」

 

シャルと簪の強い意志に楯無も真耶も何も言えなくなってしまう

 

「大丈夫です先生。死ぬつもりはありません。もっと言えば負ける気も更々ありませんから」

「どんなに強くても無敵なんて無い筈だよお姉ちゃん。奇跡起こしてみせるよ」

「…そうだな。私も行こう。一本の矢より三本の矢だ。それに…奴等には私も用がある」

セシリア

「皆さんだけ行かせたりなんてしませんわ」

「箒、セシリア…」

千冬

「……」

 

千冬は何も言わなかった。もしかしたらこうなる事は少なからず予想していたのだろう。どんなに止めても彼女達の決意が変わらない事も…。

 

一夏

「…俺も」

 

すると彼女達も見て一夏も一緒に行こうと言い出そうとするのだが、

 

「…アンタは来なくていいわ一夏」

 

背を向けながら鈴が一夏の言葉を止める。

 

一夏

「!」

「聞いたわよ。アンタ最近碌に訓練もせずずっとふさぎ込んでるらしいわね…。そんなアンタが一緒でも大した意味は無いわ。それに今のアンタには白式も無い。そんなアンタに一体何ができるっていうの?」

一夏

「だ、だけど…」

「足手まといなのよ!!」

一夏

「…!!」

 

一夏にそう厳しく言い放つと鈴は走っていった。

 

シャル

「鈴!」

「行こう皆!」

箒・セシリア

「「一夏(さん)…」」

ラウラ

「行くぞふたり共!」

 

シャル達も鈴を追いかけて出て行ってしまった。

 

真耶

「皆さん!」

千冬

「くっ…更識、クロニクル!お前達も行ってくれ!」

楯無・クロエ

「「はい!」」

千冬

「…真耶、暮桜の用意を」

真耶

「し、しかし先輩。また以前の様な事になったら…」

千冬

「構わん。あいつらだけを行かせるわけにはいかない。急げ!」

一夏

「………」

 

 

…………

 

とある海の上空。空は月の光だけが浮かぶ闇夜。皆は全員でオーガス達が待ち受けるポイントに向かっていた。

 

「……」

「…なぁ鈴、お前さっきのアレは少し言い過ぎではないのか…?一夏とて」

楯無

「いいえ箒ちゃん。酷かもしれないけど確かに今の一夏くんはまともに戦えないわ。白式も無いし…。それに…鈴ちゃんはきっと一夏くんを想ってああ言ったのよ。多分箒ちゃんやセシリアちゃんの事もね」

「…え?」

セシリア

「私達も、ですか?」

ラウラ

「私もそう思います。酷い事を言うようだが…今の一夏が来てもこの中で一番やられる確率が高い…。もしそうなったら箒やセシリアもまともにいられないだろう?」

シャル

「…じゃあ鈴のさっきの言葉はわざと?」

「そっか…。鈴は一夏だけじゃなく箒やセシリアも守るためにあんな事を…」

「……これでも一応あいつの幼馴染ですから。あいつの事は多少は知っているつもりです。追い打ちをかける様な言葉になりましたけど…でもこのままあいつが戦いに出ても多分…。もう…大切な誰かが消えるのは見たくないんです…」

クロエ

「鈴さん……」

「…鈴、ありがとう」

セシリア

「ありがとうございます…鈴さん」

楯無

「ふたり共、お礼を言うのは後よ。今更だけど力は敵の方が遥かに上。はっきり言って勝ち目は殆ど無い。でも約束しなさい。絶対生きる事!どんなにかっこ悪くても生き残れば勝ちって言うし!無理に倒さなくても追い返せれば十分!いいわね?でなきゃ何時か帰ってくるかもしれない未来の旦那様にも会えないわよ!」

シャル

「だ、旦那様って…」

「勿論です!あいつには言いたい事が山ほどありますから!」

「うん!わかってる!」

ラウラ

「ふふっ、初にして最大の夫婦喧嘩を味合わせてやる」

クロエ

「私も死ねません。束様をお救いするまでは!」

「その通りだな!」

セシリア

「はい!」

 

望的な状況下の中、皆気持ちを入れ替える様に楽しそうに気合を入れるのだった。

 

「……ところで鈴、こんな時で何だが…お前は先ほど一夏を大切、と…」

セシリア

「ま、まさか鈴さん…!」

「ふふん♪いらない心配よふたり共。私のタイプは銀髪で赤い目の苺が好きな、そんな子供っぽい変わり者な奴よ♪」

シャル

「え~残念だなぁ。ライバルが減ったと思ったのに~。あははは♪」

 

 

…………

 

一夏の部屋

 

一夏

「……」

 

あの後、一夏は千冬から自室待機を命じられ、ひとりベッドで横たわっていた。

 

一夏

「……」

 

 

(余計な真似するな!)

(一夏行け!今のお前じゃ足手まといだ!)

(足手まといなのよ!)

 

 

一夏

「…俺は…俺はどうしたらいいんだ……」

 

自問自答し続け、そして答えが出ないまま一夏の意識は薄れていった……。

 

 

…………

 

楯無

「……!見えたわ!」

 

先頭を飛ぶ楯無が指差した先には…、

 

オーガス

「……」

Dアリギエル・ウェルギエル

「「………」」

 

オーガス、そして黒いアリギエルとウェルギエルが待っていた。

 

楯無

「皆行くわよ!くれぐれも警戒を怠らないで!」

全員

「「「はい!」」」

 

楯無から支持された皆は距離を測りながら相手の動きを見る。……しかし向こうは佇んでいるだけで一切動きが無い。

 

「…どうしたんだ?向こうからも私達は見ている筈だ」

シャル

「…わざわざ自分達が行く必要はない。来るなら来い。という意味かも」

「面白いじゃないの。なら望み通り行ってやるわよ!」

クロエ

「皆さん油断しないで下さい!」

 

そう言いながら箒達は最大限の警戒を張りつつもゆっくりと近づく。……そしてすぐ近くにまで来ることができるとオーガスは何やら書物に目を通している。だが彼も黒い二体もその傍で何もせず動かない。

 

オーガス

「……」

Dアリギエル・ウェルギエル

「「………」」

シャル

「やっぱり…、後ろの二体のISは…あの時の…」

「本当に生きていたのか…!」

「あの人、本を読んでる…?」

ラウラ

「おい貴様!敵を前にして何をしている!」

 

目の前に箒達がいても何ひとつ変わらずに本に目を通すオーガス。すると、

 

オーガス

「…お前がいつの日か出会う災いはお前がおろそかにしたある時間の報いである…」

セシリア

「…えっ?」

オーガス

「…勝利とは、最も忍耐強い者にもたらされる…」

 

何やら呟くオーガス。どうやら本に書かれている一文の様だ。

 

シャル

「…ナポレオンの言葉…?」

オーガス

「書物とは中々面白いものだ…。私が持った数少ない戯れのひとつだ。…これが人間の言葉で言う趣味、というもの」

 

そう言ってオーガスは手に持った本を綴じる。

 

オーガス

「ようこそ…、冥府の世界への特等席へ」

クロエ

「やはり私達が来ると予測していたんですね」

オーガス

「姿を見せれば必ず来ると思っていましたよ。そして見事に来られた。正に光によって来る羽虫の如しですねぇ、クククク…」

ラウラ

「…貴様ぁぁ!」ジャキッ!ズドンッ!!

 

怒りのあまりラウラはレール砲を撃った。しかし、

 

ガキィィンッ!

 

それは横から入ったDウェルギエルの刀によって弾かれてしまった。

 

ラウラ

「ちぃっ!やはり駄目か!」

 

ズドンッ!……ドガァァンッ!

 

ラウラ

「ぐっ!」

 

すると後ろにいるDアリギエルがエボニーのビームを撃ってきた。ギリギリだったが何とかシールドで防ぐラウラ。

 

「ラウラ!」

セシリア

「大丈夫ですか!」

ラウラ

「あ、ああ…」

オーガス

「一回には一回、悪く思われませぬ様…」

シャル

「な、なんて早撃ち…。それにあれ…火影のハンドガン!?あんなものまでコピーしてるの!?」

「あの弾き方…前に海之がやったのと同じやり方だ…!」

 

武装だけでなく戦術までうりふたつである事に驚きを隠せない箒達。すると楯無がオーガスに話しかける。

 

楯無

「貴方が火影くん達が言っていたオーガスね。会うのは初めてだわ。…更識家17代目当主、更識楯無よ」

オーガス

「これはこれは…、オーガスと申します。とはいえ短い出会いですがね」

楯無

「貴方達が私達を待っていたのはわかったわ。…でもなんでよりにもよってこの場所に?」

オーガス

「……ふむ、かの高名な更識当主の頼みとあっては多少の相手をせねば失礼。何故この場所か……宝探しとでも言っておきましょうかね」

クロエ

「…宝探し?宝って…」

 

するとオーガスは答えた。

 

オーガス

「お知りになりたいですか?奴等の死体ですよ」

「!死体、だと!?」

「まさか…海之くんと火影くんの事!?」

 

するとオーガスの表情がより一層狂気を含んだ。

 

オーガス

「クククク…、そう。奴等が単なる物質となった証。命が止まった証。私にとってこれほどの宝はない。最もこれ程探しても指一本見つからないという事は鮫か鯨にでも丸飲みされたのかもしれんがな。ハッハッハッハ!」

Dアリギエル

「ケケケケケケケケ!」

Dウェルギエル

「カカカカカカカカ!」

 

オーガスだけでなく傍にいる黒い存在も笑う。

 

鈴・シャル

「「…!!」」

セシリア

(御ふたり共どうか落ち着いてください!相手にしたら駄目ですわ!)

クロエ

「貴方の後ろにいるのは…」

オーガス

「そうだ。こいつらが奴らを殺してくれた。嘗ての自分自身に殺されるとは何とも滑稽だな」

「! 嘘よ!火影と海之がアンタ達なんかに!」

ラウラ

「そいつらが嘗てのあいつらだと!?ふざけた事を言うんじゃない!」

「それに何故そいつらがここにいる!そいつらは火影と海之が倒した筈だ!」

オーガス

「…確かに奴等はこいつらを戦闘不能になるまで破壊した。あれほどの傷を負っておきながら大したものだ。だが倒しきるには至らなかった。故に直してやったのだが…どういう訳か思考回路と言語機能が多少狂ってしまってな。最早こいつらはただの獣と同じよ。私がこの場からいなくなれば目の前にあるもの全てを破壊するだけの存在となるだろう」

楯無

「…なんですって!」

クロエ

「そんな…そんなものを放っておいたら…!」

 

オーガスの言葉は皆を戦慄させた。火影と海之を倒した程の存在。見る者を一瞬で震え上がらせる程の殺気と狂気を含んだ存在。そんな者が野に放たれでもしたら……。

 

オーガス

「そしてもうひとつ。私から客人、貴様達への贈り物のためだ」

「贈り物…だと!?」

「私達に…?」

 

するとオーガスは再び実に楽しそうに言い放った。

 

オーガス

「わからんか?……ククク、貴様等にも今まで面白い遊戯を見せてもらった礼として、奴等と同じ場所で眠らせてやろうと思ったのだ。深く慕う者達と同じ場所で永久の眠りにつけるのだ。これ以上の贈り物はなかろう?先に逝った奴等もさぞ喜ぶことだろう」

「!……どこまで人を、ふたりを侮辱すれば気が済むのよ!」

シャル

「なんでそこまでふたりを憎むの!?火影と海之がお前達に何をしたっていうのさ!」

オーガス

「答える必要はない。貴様ら如きに理解等できん。……だがそうか、奴等は伝えていないのか。クククク…知られるのが怖かったのか。とんだ臆病者だな。ダンテはともかくバージルの奴は本当に弱くなったものだ」

「火影と海之が…臆病者ですって!」

「そんな事は断じてない!ふたりは誰よりも勇気ある者達だ!」

セシリア

「貴方何様のおつもりですの!?まるでご自身が神であるかの様に話されますわね!」

 

するとオーガスはその質問に言葉を返す。

 

オーガス

「神ではない。私は偉大なる我が神の代弁者。我が神の代行者だ」

シャル

「…何を言ってるのこの人…?」

「もうひとつ答えろ!姉さんは無事なのか!」

オーガス

「篠ノ之束の妹か。心配するな。あの女にはまだ役立ってもらわなければならんからな。奴らの抹殺というひとつの目的が達成された今、我らの大願成就も近い」

 

するとある言葉に楯無が反応する。

 

楯無

「…我ら…ですって?貴方の後ろに誰かいるって事…?」

オーガス

「……遊びはこれまでだ」

 

シュンッ!

 

すると後ろにいる二体が動き出し、拡張領域を開いて何かを取り出す。それは…、

 

「…!」

シャル

「あれは…火影のイフリート!?」

「それにもうひとつは…刀の破片…?…!」

ラウラ

「まさか…海之の刀の破片か!?」

 

それはまさしく火影のイフリートの片腕。そして海之の閻魔刀の破片だった。

 

「あれがあるという事は……」

セシリア

「…そんな…」

刀奈

「……」

クロエ

「兄さん…!」

 

それを見た彼女達の心が絶望に染まる。どんなに絶望的状況でも心のどこかで可能性を信じていた。ふたりは生きているという可能性を。だが目の前に現れたそれを見てその僅かな可能性すらもほぼ消えてしまったという現実が彼女達を打ちのめした。

 

オーガス

「ククク…わかったか?奴等の死が真実であると。これで安心して死ねるだろう。本当ならもう少し宝探しを続けたいところだったが蠅がうるさい故、処分してからでも遅くはなかろう」ヴゥゥゥゥンッ

 

するとオーガスは転移を発動させた。

 

「待て!逃げる気か!」

オーガス

「…逃げる?」…サッ

 

 

ピカッ!…ズドオォォォォンッ!!

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

オーガスが手を上げた瞬間、箒の上空から黒い雷が襲いかかった。

 

楯無

「箒ちゃん!」

ラウラ

「箒!大丈夫か!?」

「ぐっ…、あ、ああ…。心配するな…」

シャル

「な、なに今の?雷?あいつが起こしたの!?」

オーガス

「二度とその様な事をほざくな。蠅にも及ばぬ虫けらが。…お前達、遊んでやれ。精々悔いを残さず死ねる様にな。ハッハッハッハッハ!!」

 

それだけ言うとオーガスは転移し、消えた。

 

Dアリギエル

「アイツラシンダ……シンダ。バラバラナッタ」

Dウェルギエル

「…コンナフウニナ!」

 

 

バキィィィィィィィィィンッ!!

 

 

全員

「「「!!」」」

 

黒いアリギエルとウェルギエルは皆の目の前で、それを粉々に握りつぶしてしまった。

 

Dアリギエル

「バラバラ…コワレタコワレタ!ケケケケケケ!」

Dウェルギエル

「ツギオマエラ…ケシテヤル!カカカカカカ!」

「…アンタ達ぃぃぃぃぃ!」

シャル

「よくも…よくも火影と海之を!」

「絶対…絶対に許さないから!」

ラウラ

「倒す!」

クロエ

「兄さん達の仇!」

楯無

「女の恨みの怖さを教えてあげるわ!」

「あの人を救い出す迄は死ねんのだ!」

セシリア

「お覚悟を!」

 

悲しみを怒りに変え、少女達は挑むのであった。




※次回は22日(土)の予定です。
最近本当に暑いですね。暑さに負けない様、少しずつですが応援してくださっている皆様のために頑張ります。
UAが150000に到達しました!ありがとうございます。


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Mission156 死闘 VSドッペルゲンガー!①

火影と海之がいなくなってからひと月、学園も二学期が終了し、世間や学園はクリスマスの雰囲気を楽しんでいた。
そんな中、悲しみがいまだ癒えない一夏や鈴達に驚愕の連絡が入る。それはあの黒いアリギエルとウェルギエルが復活した、というものだった。それを知った鈴や簪達は静止する千冬や真耶を振り切り、一夏を置いて出撃してしまうのだった。現場に到着するやいなや、鈴達は黒いそれを引き連れたオーガスを問い詰めるがオーガスは虫けらと話すことはないと相手せず、火影と海之が死んだという現実を突きつけると笑いながら立ち去ってしまう。
残されたのは黒いアリギエルとウェルギエルのみ。鈴達は火影と海之の装備を笑いながら粉々に打ち砕いた二体に怒りを放つのであった…。


バキィィィィィィィィン!!

 

 

黒いアリギエルとウェルギエルは笑いながら「イフリート」の片腕と折れた「閻魔刀」を握りつぶし、打ち砕いた。

 

Dアリギエル

「アイツラシンダ!ケケケケケ!」

Dウェルギエル

「バラバラナッタ!カカカカカ!」

「…アンタ達ぃぃぃぃぃ!」

「絶対に許さない!」

クロエ

「兄さん達の仇!」

 

心に怒りの火を灯し、皆は其々武器を構える。

 

楯無

「皆!攻撃を集中させて!」

セシリア

「はい!」

ラウラ

「おぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

ズギュ――――ンッ!

ズドドドドドドドッ!

ビュビュビュビュン!

 

それぞれが一斉に自分の射撃兵装を最大出力で二体のISに向けて撃った。

 

 

ドガガガァァァァァァァァァン!!

 

 

それらは互いにぶつかり、凄まじい爆発と衝撃波を引き起こす。

 

「やったか!?」

楯無

「……!皆、上よ!」

 

楯無の指示で一斉に上に目をやる。

 

Dアリギエル

「ケケケケケケ!」

Dウェルギエル

「カカカカカカ!」

 

すると笑いながらこちらを見下している様に宙で佇む二体がいた。

 

セシリア

「あ、あんな一瞬であんなところまで…!」

楯無

「なんてスピードなの…。火影くんや海之くんと互角ね」

Dアリギエル

「ケケケ!アタリマエダ!ダンテハオレナンダカラナ!」

Dウェルギエル

「アイツラシンダ!イマハオレガバージルダ!」

クロエ

「お黙りなさい!おふたりには火影と海之という立派な名前があります!」

ラウラ

「貴様らが海之と火影など、私達は断じて認めん!」

Dアリギエル

「カカカカ!ビビッテタクセ二!」

Dウェルギエル

「オビエテナニモデキナカッタクセニ!」

「……確かにひと月前、私達はアンタ達の事が怖かった。アンタ達の殺気におびえて向かっていく事もできなかった。でも今は違う!」

シャル

「お前達への怒りが、そして僕達のふたりへの想いがお前達への恐怖を吹き飛ばした!」

「もう私達はお前達を怖くはない!あの時と同じと思うなよ!」

 

皆もそれに続いて同意する。しかしそんな彼女達に敵は更に挑発をかける。

 

Dアリギエル

「オコッテル!オコッテルヨコイツラ!」

Dウェルギエル

「キナ!ツギハヨケナイデヤルカラヨ!」

ラウラ

「その言葉!後悔するなよ!」ドンッ!

「そのうすら笑いを出来ないようにしてやるわ!」ドンッ!

楯無

「ふたり共待ちなさい!」

 

だが楯無の静止を振り切って鈴とラウラが怒りのままに双天牙月とビーム手刀で斬りかかる。相手は言った通り動こうとしない。

 

鈴・ラウラ

「「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」スカッ「「!?」」

 

そして斬った瞬間、ふたりは目を大きく見張った。目の前の敵は間違いなく斬った筈だ。しかし手ごたえが全く無かった。まるで空を斬ったかの様に。だがその無の手ごたえにふたりは覚えがあった。

 

ラウラ

「これは…海之の残影!?」ジャキッ!!「「!!」」

 

ふたりのすぐ後ろに銃を構える敵がいた。やはりこれもコヨーテ、そしてブルーローズを模したものである。その動きの速さに咄嗟に応戦できないふたり。

 

「嘘でしょ!火影のエアトリック!?」

Dアリギエル・ウェルギエル

「「マズニヒキ」」ズドドドドドドド!!「「!」」

 

しかしその時他の皆からの援護射撃が入った。それによって鈴とラウラから二体を遠ざける。

 

シャル

「鈴!ラウラ!」

「ふたり共大丈夫?」

「え、ええ。ありがとう皆」

クロエ

「ご無事でよかったです」

楯無

「ふたり共!怒りに任せて無暗やたらに突っ込むのはやめなさい!相手の思うつぼよ!」

ラウラ

「す、すいません…」

「しかしまさか火影と海之の技まで使えるとはな!」

セシリア

「それにしても惜しかったですわ!もう少しでしたのに!」

 

皆は今の攻撃が当たらなかったのを悔しがるが、

 

Dアリギエル

「オ~シ~イ~?カカカ!ワラワセルゼコイツラ!」

Dウェルギエル

「アンナマメデッポウデテゴタエヲカンジルトハナ!」

「なんだと!」

Dアリギエル

「ナラモウイチドウッテミナ!コンドモヨケネェカラヨ!」

Dウェルギエル

「ホラホラホラホラホ~ラ~!」

 

敵はふざけた調子を崩さずに挑発する。

 

ラウラ

「…調子に乗るなよ貴様ら!」

シャル

「皆!もう一度行くよ!」

「言われなくても!」

 

そして皆はもう一度攻撃を仕掛けた。荷電粒子砲や機関砲、レール砲にデビルブレイカーも使い、先程以上の攻撃で。

 

 

ドガガガガガァァァァァァァン!!

 

 

攻撃を集中させ、それによって起こる先程よりも大きい爆発と衝撃、そして煙。今度は先程以上にあたるかどうか凝視していたから間違いなく当たった筈ように見受けられる。

 

「今度はどう?当たった?」

クロエ

「レーダーに異常はありません。当たったと思いますが…」

セシリア

「……!み、皆さん!」

 

何かに気付くセシリア。すると、

 

 

…バシュゥゥゥゥゥゥゥゥ!

 

 

目の前の煙がまるで突風の様な風で払われた。

 

全員

「「「!!」」」

Dアリギエル・ウェルギエル

「「………」」

 

そして払われた煙の中にいたのはシールドを展開し、無傷のままのDアリギエルとウェルギエルだった。

 

「! む、無傷だと!」

Dアリギエル

「イッタトオリ、ヨケナイデヤッタゾ!カカカカ!」

「そんな…、あれだけの攻撃を真面に受けたのに…」

「シールドがあるなんて聞いてないわよ!てかどんだけ強力なシールドなのよ!」

Dウェルギエル

「キカレナカッタカラナァ~、ケケケ!」

楯無

「あの頑丈さ…クリア・パッションでも無理かもしれないわ。余計に厄介ね…」

 

皆呆然として言葉が無い。

 

Dアリギエル

「カカカ!イバッテルワリニャクチホドモネェ!」

Dウェルギエル

「オレタチガヤルマデモナイナ!」

 

 

……ヴゥヴゥヴゥヴゥン!!

 

 

すると突如、敵の身体から浮かび上がるように何かが飛び出してきた。

 

「な、何!?影が飛び出してきた!」

楯無

「…いいえ影じゃないわ。あれは…!」

 

よく見るとそれは…敵の姿にそっくりな姿のものであった。漆黒の姿に顔も同じ。Dアリギエルとウェルギエルから其々二体ずつ出現し、合計6機に増える。

 

分身体

「「「ケケケケケ!」」」

ラウラ

「か、数が増えた!?…いや分身体か!」

セシリア

「以前海之さんの分身体と戦った事がありますが…まさか同じ事ができるんですの!」

シャル

「で、でも火影は分身は使えない筈じゃ…!」

楯無

「多分強化されているんでしょうね。あれはオーガスが造ったものだから十分考えられるわ」

Dアリギエル

「カカカ!サァイキナ!」

Dウェルギエル

「セイゼイアソデンヤレ!ケケケ!」

 

ドドドドン!!

 

その命令と共に笑い声を上げながら分身体と思われるものが4体一気に向かってくる。

 

分身体

「「「カカカカカ!」」」

楯無

「考えてる暇はないわ!来るわよ!皆連携を組んで必ず二人以上で対応して!絶対にバラバラになっちゃ駄目よ!」

クロエ

「了解です!」

「アリギエルとウェルギエルの分身、だが分身ごときに負ける訳にはいかん!」

「アンタ達には用はないのよ!」

 

 

…………

 

???

 

その頃、戻ってきたオーガスはDアリギエル達から送信される映像で状況を把握していた。

 

オーガス

「クククク…、奴等め遊んでいるな」

スコール

「熱量も質量もある分身機能だなんてね…。あれが貴方が付けた能力?」

オーガス

「馬鹿な。あんなものはバージルの能力の粗悪品に過ぎん。ダンテに付けてやったのはついでだ」

 

どうやらオーガスはDアリギエルとウェルギエルに何かを追加した様である。

 

スコール

「……ねぇ、前にも言ってたけどそのダンテとバージルって一体何者?あの子達は火影と海之じゃないの?」

オーガス

「お前の知る事ではない。……まぁひとつだけ教えてやるか。……次元を超えた因縁、とでも言っておこうか…」

スコール

「……因縁?」

オーガス

「気にするな。もう過去の事だ」

スコール

「…そ。……そういえばあの織斑一夏はいないわね。絶対来ると思ったけど」

オーガス

「戦いに恐怖したか、あるいはDNSが組み込まれたIS等もう使いたくない、のか。…まぁ私にとっては奴等どうでもいい。所詮奴は実験台に過ぎん。馬鹿共のな」

スコール

「……?」

 

そう言いながらオーガスは目の前のモニターに目を再び向ける。

 

オーガス

「しかし分身ごときにここまで翻弄されるとは……買い被り過ぎたか。もう少し楽しませてもらえると思っていたのだが…、これでは試す必要すらないかもしれんな…」

 

 

…………

 

場所は再び戻り、箒達は敵との戦闘を続けていた。相手は4体、自分達は8人。ふたり一組となって互いの背中を守りながら戦っていた。しかし、

 

分身体

「「「ケケケケ(カカカカ)!」」」

ラウラ

「くそっ、強い!数では倍なのに全く余裕が持てん!」

シャル

「分身体だからなのか武器は剣と銃だけと簡単だけど…それでもなんてパワーやスピードなんだ!」

 

分身体とはいえアリギエルとウェルギエルのそれの力は伊達でなく、箒達は決定的なダメージを与えられず苦戦を強いられていた。そして今8人は4体の敵に包囲される形で陣を敷いている。そこから少し離れた所で本体である敵はその様子を余裕ある笑みを浮かべながら眺めていた。

 

Dアリギエル

「ケケケケ!セイゼイアソンデヤッテクレヤ!」

「随分高みの見物してくれんじゃないの!」

Dウェルギエル

「ソイツラハオレラノ3ワリテイドダ。カンタンニコロサレテヤルナヨ?」

「これで3割だと!?」

セシリア

「以前海之さんの分身と一対一で戦いましたが…その時ですらやっと勝てた程ですのに…」

クロエ

「やはり…これは兄さん達のコピー、という事でしょうか…」

「どうしよう…、このままじゃ例えこいつらを倒してもあいつらと戦うだけの力が…」

 

簪の言う通りまだ敵の本体が残っている。それと戦うためのSEと体力を温存させなければならないが目の前の分身体でさえ油断すればこちらがやられる可能性が高かった。かと言ってこいつらを無視して本体に向かう事は難しいし両方を相手にすればますます勝ち目は無くなるだろう。

 

Dアリギエル

「ホラホラ~、ハヤクソイツラヤッツケテカカッテコイヨ~」

Dウェルギエル

「タイクツデシニソウナンダヨ~」

 

どうしようか迷っているとここで楯無が小声で声をかける。

 

楯無

(……皆いい?よく聞きなさい。このままじゃ消耗するばかりだわ。…こいつらは私が引き受ける。その間に皆は奴らを撃ちなさい!)

(な、なんですって!?)

(そんな…!無茶だよお姉ちゃん!)

楯無

(奴らの目的は私達の力を消耗させる事よ。そしてクタクタになったところをいたぶる様にして倒す。そういう奴らだわ)

シャル

(! そんなの…そんな卑怯な戦い、火影や海之はしない!やっぱりアレはふたりじゃない!)

楯無

(だからそうなる前に、余力がある内に奴等を倒さなきゃならない。でもこいつらを無視してあいつらに挑むのは無理だわ。だからこいつらは私に任せて!)

セシリア

(で、でも幾ら楯無さんとはいえ無茶ですわ!)

楯無

(あら、現役ロシア代表を舐めんじゃないわよ♪何より奴らを一番倒したいのは皆の方じゃない、違う?)

 

楯無は皆の気持ちを読み取っていた。それを汲んでの行動だった。

 

楯無

(それにもうすぐ織斑先生も来てくださるわ。だから…皆は迷い無く挑みなさい!)

(…はい!)

クロエ

(楯無さん、私もお手伝いします)

楯無

(大丈夫よクロエちゃん、貴女も)

クロエ

(いえ、誰かが楯無さんの背中を守らなければなりませんし、それに私の蝸牛があれば助けになる筈です)

ラウラ

(クロエさん!)

クロエ

(ラウラ…任せますよ?)

ラウラ

(!…はい!承知しました!)

楯無

(…ありがとうクロエちゃん)

(クロエさん…お姉ちゃんをお願いします)

クロエ

(もちろんです。皆さん…兄さん達の仇を撃ってください!)

箒・セシリア・鈴・シャル・ラウラ・簪

(((ええ(ああ)!))

楯無

「じゃあ行くわよ!」

クロエ

「はい!」

 

ドンッ!!

 

楯無とクロエは瞬時加速で分身体の一体に向かっていく。そして

 

楯無

「クロエちゃん!」

クロエ

「蝸牛…起動!」…ヴゥン!!

 

目掛けたその一体に向けてクロエは自らの単一特殊能力「蝸牛」を起動させた。

 

分身体1

「…!?!?」

 

対象となった分身体は何が起こったのかわからない感じがしている。

 

ガシンッ!

 

蝸牛の影響で動きが鈍くなったそれを楯無のバスターアームが捕獲する。

 

分身体1

「ガッ!?」

楯無

「バスターアームのパワーを受けて見なさい!」

 

楯無は敵の一体をバスターアームで掴みながら振り回し、

 

楯無

「吹っ飛べぇぇぇぇ!」ブゥンッ!!

 

それを楯無は近くの別の分身体目掛けて投擲した。

 

ドガァンッ!

 

分身体1・2

「「グゥゥゥゥ!」」

楯無

「今よ皆!!」

箒・セシリア・鈴・シャル・ラウラ・簪

「「「はい!!」」」

 

 

ドンッ!!!

 

 

楯無のその合図で彼女とクロエ以外の全員が包囲網の隙間からDアリギエルとウェルギエルに最大加速の瞬時加速で向かっていく。それに気付いた敵も追いかけようとするがその前にふたりが立ちはだかる。

 

クロエ

「ここから先は絶対に行かせません!」

楯無

「女の覚悟を邪魔すんじゃないわよ!通りたきゃ私達を倒してからにしなさい!」

 

楯無とクロエはそう言い放ち、分身体達に向かっていくのだった…。




※次回は29日(土)の予定です。

今回は短めですいません。前哨戦という感じですね。次回より本戦です。
最近本当に暑いですね…。先月まで雨続きでしたから余計に感じます。重ねて皆様、熱中症には十分お気をつけください。


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Mission157 死闘 VSドッペルゲンガー!②

火影と海之の装備を粉々に砕いたDISドッペルゲンガーこと、黒いアリギエルとウェルギエル。そんな彼らに皆は怒りを爆発させ、向かっていく。
しかし敵の力は予想以上であった。自分達の集中砲火を防ぐ程のシールド。更にそれらの分身体にさえまともな攻略法を見いだせない。
このままでは本体と戦う前にやられると判断した楯無はクロエと共に分身体を全て引き受けるから箒達に直接本体を叩けと指示。ふたりの意志を汲み取った箒達は分身体をふたりに任せ、本体であるDアリギエルとウェルギエルに挑む。


分身体の相手を楯無とクロエが引き受け、箒・セシリア・鈴・シャルロット・ラウラ・簪の6人は本体であるDアリギエル・ウェルギエルに向かう。

 

Dアリギエル

「ケケケケケ!カカッテキタカカッテキタ!」

Dウェルギエル

「ヌケガケナンテズリィゾォ~」

「黙れ!」

「あんまり余裕こいてんじゃないわよ!跡形も無くぶっ壊してやるわ!」

Dアリギエル

「カカカカ!イイネイイネェ!」

Dウェルギエル

「ヒマツブシダ、アイテヲシテヤル!」

ラウラ

「なら暇つぶしで終わりにしてやる!」

「皆気を付けて!あれの力は計り知れない!きっとまだ何かある筈だよ!」

シャル

「SEの残量にもだよ!こんなところで切れたらひとたまりもない!」

Dアリギエル

「イットクガ、テメェラ二カチメハネェゼェ?」

セシリア

「そんな事やってみなければわかりませんわ!」

「お前達とて完全無敵では無い筈!私達の全ての力を貴様らにぶつけてやる!」

Dアリギエル・ウェルギエル

「「ククク…クヒャヒャヒャヒャヒャ!!」」

 

ふたつの黒の笑いが戦いの狼煙となり、少女達は武器を構える。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ガキィィィンッ!

 

鈴はガーベラの加速を最大限に加えた双天牙月で斬りかかるがDアリギエルは漆黒のリベリオンで軽く受け止める。火影のリベリオンの黒を更に闇に染めたような漆黒の剣。

 

Dアリギエル

「ケーケケケケ!」

「よくも…よくも火影を!!」

Dアリギエル

「ヒ~カ~ゲ~?ナ~ニイッテンダァ?オレノナマエハダンテダゼェ?」

「うっさい!」

 

鈴はガーベラの加速を持続したまま続け様に斬りかかる。しかしそれらは全て受け止められる。

 

「くっ!」

Dアリギエル

「キアイダケダナァ~」

シャル

「鈴どいて!」

 

見ると反対側からシャルがリヴェンジを構えている

 

シャル

「当たれー!」ズドォォォォンッ!

 

グリフォンのコアを一撃で粉砕する程の威力の反面、重量がデメリットであるリヴェンジ。しかしこの一ヶ月の間にシャルはクロエや簪の知恵を借り、砲口をやや小型化して威力をカリーナやガーベラと同程度、速射機能を上げる事に成功したリヴェンジ・改ともいえるものを作り上げていた。威力重視なら従来のもの、軽量と連射性なら新型のものと装備の入れ替え可能である。

 

Dアリギエル

「ハッ!」ジャキッ!ズドォォォォンッ!

 

ガガガガガガガン!

 

すると敵も左手に持ったカリーナアン・ランチャーからビーム砲を撃ち、それを盾にしてシャルの攻撃を防ぐ。

 

シャル

「! もしかしたらと思ったけどやっぱりカリーナまで持ってたのか!」

セシリア

「鈴さん!シャルロットさん!」

 

シュババババババッ!ガキンッ!

 

セシリアのローハイドの鞭が敵の黒いリベリオンに巻き付き絡めとる。

 

「ナイスセシリア!」

セシリア

「くっ、おふたり共!今で」

Dアリギエル

「ダカラドシタァ!」ブンッ!

セシリア

「なっ!?」

 

すると敵はローハイドが巻き付いたままの黒いリベリオンを振るい、逆にセシリアが引っ張られる。

 

Dアリギエル

「オラァァァ!」ブゥンッ!!

セシリア

「きゃああ!」

シャル

「セシリア!」

「!」ドンッ!

 

放り投げられたセシリアを鈴がガーベラの加速で向かい、受け止める。

 

「セシリア大丈夫!?」

セシリア

「え、ええ、すみま」

 

ズドドドドドドドンッ!!

 

するとそこに敵がカリーナの多弾頭ミサイルで追撃してきた。

 

「!」

セシリア

「なっ!?」

 

咄嗟の事に動けないふたり。そこに、

 

シャル

「カーテン最大!」

 

ドガガガガガガガガンッ!!

 

鈴・セシリア

「「!」」

 

間に入ったシャルが最大パワーのアンバーカーテンで敵のミサイルを防ぐ。

 

シュバァァァァァァァ…

 

シャル

「はぁ、はぁ…、ふ、二人とも大丈夫?」

セシリア

「シャルロットさん!」シュンッ!「!!」

 

だがそこに敵が一瞬の隙も逃さずに更にエアトリックで追撃をかける。

 

Dアリギエル

「ケケケ!ナカヨクアノヨニイキヤガレェ!!」ブンッ!

 

そして敵の剣が振るわれた。………しかし、

 

 

キィィィィィィィンッ!

 

 

Dアリギエル

「…!」

「……」

 

Dアリギエルの攻撃は届かなかった。見ると鈴の手には双天牙月ではなく光の斧、ガーベラのナイトメアモードであるアービターがあった。

 

「さっき箒が言った筈よ…。あの時とは違うってね!はぁぁぁぁ!!」

 

ガキィィィィィンッ!!

 

アービターのパワーがDアリギエルの剣を弾いた。身体が軽く吹っ飛ばされる。

 

セシリア

「まだ終わりませんわ!…行きなさいケブーリー!」

 

 

カッ!!…ドドドドドドドンッ!

 

 

セシリアはローハイドをケブーリーへと変形させた。それを一斉に体勢を立て直す前の敵に向かわせる。

 

Dアリギエル

「!」

 

ドドドドドドドスッ!

 

Dアリギエルは自らに向かってきたケブーリーに自分のカリーナを盾代わりにして防いだ。しかし突撃型ビットのケブーリーがカリーナの砲身を貫く。

 

ドガアァァァァン!

 

その様子を見たDアリギエルは止む無くカリーナを手放す。やがてダメージに耐えられなくなったカリーナは爆発霧散した。

 

シャル

「カリーナが壊れた!」

Dアリギエル

「オースゴイスゴイ!チョクセツアタッタラアブナイヨ~!ア・タッ・タ・ラ、ダケドネェ~?」

「なら当ててやろうじゃないの!」

シャル

「勝負はまだまだこれからだ!」

セシリア

「甘く見過ぎない事ですわよ!」

 

 

…………

 

「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

箒は雨月と空裂で斬りかかるがDウェルギエルはそれを閻魔刀を黒く塗りつぶした様な漆黒の刀で防ぐ。

 

Dウェルギエル

「コピースラタオセネェノニカテルトオモッテンノカァ?」

「なら本気でいくまでだ!…衝撃鋼化(ギルガメス)!起動!」

 

 

カッ!!ヴゥ――――ンッ!!

 

 

箒は紅椿の新たな能力、「衝撃鋼化(ギルガメス)」を起動させた。瞬時に赤椿の赤い装甲が銀色の光沢に変わる。手に持った二本の刀にもそれが伝わり、パワーも大きく上がる。

 

ズンッ!

 

Dウェルギエル

「! オー、パワーガアガッタ!ヤレバデキルジャナイノ!」

「姉さんが与えてくれた力、そして一夏がくれた力!とくと味合わせてやる!」

 

ドゴォォォォォッ!

 

そして反対側からはラウラがパンチライン・ブレイクエイジで攻撃を仕掛ける。それをDウェルギエルは漆黒のベオウルフで相手をする。

 

ラウラ

「貴様が海之のコピーならば私達の従来の戦い方は効かない。なら海之にも見せたことが無い戦術を見せるまでだ!」

Dウェルギエル

「ソウカイ!」

 

ヴゥヴゥヴゥヴゥンッ!!

 

すると突然Dウェルギエルの周辺に黒い剣が現れた。

 

「!これは…海之の幻影剣!」

ラウラ

「円陣か!避けろ箒!」

 

そう言って箒とラウラはすぐさま離れるが、

 

Dウェルギエル

「カカッタナ!アホガ!」

箒・ラウラ

「「!!」」

 

箒とラウラは驚愕した。見ると自分達の上空に幻影剣が出現していた。

 

「今度は五月雨幻影剣だと!?」

ラウラ

「奴は二種類の幻影剣を同時に使えるのか!」

Dウェルギエル

「シネ!」

 

 

ドガガガガガガガガガガンッ!

ピキィ―――――—―ンッ!

 

 

Dウェルギエル

「…?」

 

突如飛んできた複数のミサイルがふたりに降りかかろうとしていた幻影剣に襲い掛かった。そして同時にそれらがまるで氷漬けになった様に動きが止まる。

 

ラウラ

「これは…簪の氷のミサイルか!」

「はぁぁぁぁぁぁ!」

 

ガキィィィンッ!ボガァァァァンッ!

 

反対側から簪がスティック状態のケルベロスでDウェルギエルに襲い掛かる。そしてぶつかった瞬間、チャージしたケルベロスの炎が爆発した。

 

箒・ラウラ

「「簪!」」

 

……だがDウェルギエルはシールドを張り、爆発のエネルギーを防いでいた。

 

「くっ!ケルベロスの炎も効かないなんて!」

Dウェルギエル

「ケケケ!テメェモナカナカイキガイイナ!」

「海之くんのISの姿でそんな言葉使わないで!」

Dウェルギエル

「ナニイッテンダァ~?バージルハオレダゼェ~?」

「違う!貴方は海之くんじゃ決してない!そんなの絶対に認めない!」

Dウェルギエル

「テメェニミトメテモラウキハネェ!」

 

キィィィィィィンッ!

 

「きゃあああ!!」

「簪!」

ラウラ

「おのれぇぇ!!」ドンッ!

 

ラウラはパンチラインのブレイクエイジによるブースター機能で加速、そのまま敵の真後ろからブレイクエイジを食らわせようとする。

 

ラウラ

「砕けろぉぉぉぉ!!」

 

ドゴォォォォォォォォンッ!

 

ラウラの渾身の力がこもったブレイクエイジが直撃した。………しかし、

 

ラウラ

「!!」

 

ラウラは目を見張った。全力を込めたパンチラインのブレイクエイジが敵の左掌で見事に受け止められていた。キャッチャーミットでボールを受け止めたかの様に。

 

「ラウラのブレイクエイジを手で受け止めた!?」

Dウェルギエル

「カカカ!ヤルヤル~、オテテガダボクシチマッタゼ~」

ラウラ

「くそ!」

Dウェルギエル

「キアイハイイガヨ。ダガソンナラ」グンッ!

ラウラ

「うわ!」

Dウェルギエル

「コノドウシヨウモネェチカラノサヲ、チッタァウメテカラカカッテキヤガレ!」

 

ドゴォォォォォォォッ!!

 

ラウラ

「ぐあああああああ!!」

 

Dウェルギエルはラウラの腕を強く引っ張ると勢いそのままに右手のベオウルフを彼女に喰らわせた。

 

「ラウラァ!!」

Dウェルギエル

「トドメイクゼェェ!」

「させん!」

 

ガキィィィィンッ!

 

ラウラに止めをさそうとしたところで箒が攻撃を仕掛ける。Dウェルギエルはラウラの腕を掴んでいるため、右手で食い止める。しかしその時、

 

「ラウラ!今だ!」

Dウェルギエル

「!」

 

見ると掴んでいたラウラのパンチラインが…アルテミスへと変わっていた。

 

ラウラ

「流石の貴様でもこの距離なら!喰らえぇぇぇ!!」

Dウェルギエル

「!」

 

 

ボガァァァァァァァァァンッ!

 

 

ラウラはアルテミスのキャノンをほぼ自爆同然で発射した。それによっておこる爆風で吹き飛ばされるラウラ。透かさず簪が回収に向かう。

 

「ラウラ!なんて無茶を!」

ラウラ

「だ、大丈夫だ…。爆発のダメージを多少受けただけだ…。シールドも張っていたしな…」

 

するとそこに間一髪ブリンク・イグニッションで急速回避していた箒が合流する。

 

「ラウラ!大丈夫か!」

ラウラ

「あ、ああ。それより気を付けろ!これ位で倒れたとは思えん!」

「……!ふたり共!」

 

簪が煙の中の何かに気付く。それは、

 

Dウェルギエル

「………」

 

先程の爆発を食らいながらも敵は健在していた。だがその影響かシールドと左手のベオウルフが損傷していた。

 

Dウェルギエル

「ケケケ…。シールドトコイツガカタッポブッコワレチマッタゼェ。ケドイイネイイネェ、コウデナクッチャ!」

ラウラ

「くっ!腕の一本位吹き飛ばせると思ったが!だがシールドが壊れたのならば一発でも食らわせれば勝機が見える!」

「ダメージが大きいラウラは援護して!箒と私で仕掛けるから!」

「やるぞ!」

 

 

…………

 

セシリア

「ティアーズ!」

 

ドドドドドンッ!

 

ティアーズの偏光射撃がDアリギエルに向かう。しかし皆の一斉攻撃をも防ぐ強力なシールド。ティアーズのビットによる砲撃は命中するが貫通することは出来ず、命中による煙が上がるだけ。

 

Dアリギエル

「ケケケ!ソンナコウゲキムダダッテコトワカンネェカナ~?」

セシリア

「そんな事わかっていますわ!でも!」

 

シュンッ!シュンッ!

 

Dアリギエル

「!」

 

その時、煙に紛れてDアリギエルの真後ろにブリンク・イグニッションで鈴とシャルが高速で接近。鈴はアービターを、シャルはグラトニーを構えている。

 

「そのシールドかち割ってやるわ!」

シャル

「喰らえぇぇぇ!」

 

ふたりで同時に攻撃を仕掛ける。…しかし、

 

スカッ!

 

攻撃は通らなかった。攻撃が当たる瞬間、何もいなかった様にDアリギエルは消えてしまった。

 

「またエアトリック!?」

シャル

「そんな、こんな一瞬でなんて!」

Dアリギエル

「オレノウシロニタツンジャネェェ!!」

 

ズガガガガガガガガン!!

 

「きゃあああああ!」

シャル

「うわぁぁぁぁぁ!」

 

Dアリギエルはふたりの後ろに瞬間移動し、そして怒号を上げながら両手に持つ何かで鈴とシャルを斬りつけた。それは黒いキャバリエーレだった。

 

セシリア

「鈴さん!シャルロットさん!」ズガガガッ!「きゃあああ!」

 

Dアリギエルは鈴とシャルを斬りつけた後、セシリアの後ろにいた。ほんの一瞬でセシリアの背後に再びエアトリックを行い、背後から斬りつけたのである。

 

Dアリギエル

「ノンキニハナシテルバアイジャネェゾォ~?オラァァァ!」

セシリア

「!」

 

ガキィィィンッ!

 

Dアリギエルのキャバリエーレに対し、セシリアはローハイドと自らの短剣インターセプターで応戦するが力と剣の扱いは完全に敵の方が上手。明らかに防戦一方であった。

 

ガキィィィンッ!

 

セシリア

「くっ!抑えきれない!」

Dアリギエル

「サヨナラダ!オンナァァァ!」

セシリア

「!」

鈴・シャル

「「はぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

するとそこに先ほど撃ち落された鈴とシャルが割って入ってきた。

 

ガキンッ!ガキンッ!

 

セシリア

「鈴さん!シャルロットさん!」

Dアリギエル

「オーオー!ヨクイキテタナァ!」

「言った筈よ…跡形もなくぶっこわしてやるって!」

シャル

「僕達はまだ戦える!」

Dアリギエル

「カカカ!ジーックリオアイテシテアゲルカラネ~」

 

 

…………

 

ガキンッ!ガンッ!キンッ!キィィンッ!

 

ダメージを負ったラウラの代わりに前に出る箒と簪。簪は三節混の雷のケルベロスで、箒は剣と衝撃波で、円陣幻影剣の範囲外から攻撃を繰り出す。

 

Dウェルギエル

「ケケケ!オマエラヨワッチィクセニネバルジャネェカヨ!」

「…確かに私達は海之くんや火影くんより弱いよ。でも…この戦いだけは負ける訳にはいかないの!」

「あのふたりのため…そして一夏を、姉さんを守るためにもな!」

ラウラ

「ふたり共どけぇ!」

箒・簪

「「!」」

 

ラウラの合図でその場から離れるふたり。見るとラウラがアルテミスをチャージしていた。

 

ラウラ

「一発でも当たればいい!喰らえぇぇぇ!!」

 

 

ドドドドドドドドドドンッ!

 

 

アルテミスから無数の光弾による広範囲射撃「レイン」が発射される。

 

Dウェルギエル

「ナメンナァ!!」

 

シュシュシュシュシュン!!

 

するとDウェルギエルは降り注ぐ光弾の雨の隙間を縫うように移動してくる。

 

箒・簪

「「!!」」

ラウラ

「この攻撃の中を潜り抜けるだと!?」

Dウェルギエル

「ツギハコチラノバンダ!」キキキンッ!

 

ズガガガガガガガンッ!!

 

箒・ラウラ

「「うわぁぁぁぁぁ!!」」

「きゃああああ!!」

 

Dウェルギエルによる高速の黒き次元斬が三人に直撃した。

 

Dウェルギエル

「テメェガイチバンヨワソウダナ!」ドンッ!

「!!」

 

Dウェルギエルが狙ったのは簪。真っすぐに彼女に向かっていく。

 

箒・ラウラ

「「簪!」」

Dウェルギエル

「シィィネェェェ!!」ブンッ!

 

 

カッ!!

 

 

Dウェルギエル

「「!」」

 

簪にDウェルギエルの剣が振り下ろされようとしたその時、突然簪の周辺が光だした。

 

「な、なんだ!」

ラウラ

「…! あれは!」

ケルベロス

「グルアァァァァァァァ!!」

 

光の中から現れたのは先の戦いでキングケルベロスから譲り受けた簪の支援機、ケルベロスであった。その巨大な牙でDウェルギエルの剣を受け止め、更にその前脚で踏みつぶさんと攻撃を仕掛けるが敵は瞬時に避ける。

 

「ケルベロス!」

Dウェルギエル

「ケケケ!カクシダマッテヤツカ!イキノイイワンコウダナ!」

「私は…まだ戦える!!」

 

 

…………

 

「てぇぇりゃぁぁぁぁ!!」

シャル・セシリア

「「はぁぁぁぁぁぁ!」」

 

ガキィンッ!ガキンッ!キンッ!

 

鈴はアービターと更にもう片手に双天牙月を持ち、二刀流を振るう。シャルもグラトニーからグリーフに切り替え、手に直接持って斬りかかる。セシリアもローハイドで加わる。だがDアリギエルは彼女達の攻撃を黒いキャバリエーレの二刀流、更に体術も加えて対応していた。そして全力で振るう鈴達と違い、相手にはまだ余裕がある感じだった。

 

ガキィィィィィンッ!

 

鈴・シャル・セシリア

「「「くっ!!」」」

 

Dアリギエルのパワーに払われる三人。こんな状態が先程からずっと続いていた。

 

Dアリギエル

「サンビキガカリデ、キズヒトツツケラレネェノカ~?」

シャル

「はぁ、はぁ…。僕達皆で、必死に攻撃、してるのに…」

セシリア

「全く隙が見えませんわ…」

Dアリギエル

「カカカ!ムダムダ!ソレガニンゲンノゲンカイヨ!」

 

ガキィィィンッ!

 

アービターの一撃を右手のキャバリエーレで受け止める。

 

「うっさいって…言ってんのよ!…アンタ達だけには、絶対負けられない!」

Dアリギエル

「ソンナニオレガニクイノカァ~?」

「アンタは火影の仇!…でも何より私が許せないのは自分自身!一度もあの人の助けになれなかった自分の無力さ!」

Dアリギエル

「イイニクシミダ!モットモットハキダセ!」

シャル

「黙って!」

 

シュンッ!キィィィンッ!

 

反対側からシャルがグリーフで斬りかかる。それを左手のキャバリエーレで受け止める。

 

シャル

「僕達を動かしているのは憎しみじゃない!怒りと、そして守りたいという想いだ!」

「火影達は今まで何度も私達と皆を守ってくれた!今度は私達が皆を守る!」

セシリア

「その通りですわ!おふたりの分まで私達は戦います!」

 

右手は鈴、左はシャルが抑えて塞がっている。その一瞬を狙ってセシリアが真上からローハイドで斬りかかる。今度こそ!三人がそう思った。

 

 

ガキンッ!

 

 

鈴・シャル・セシリア

「「「!!」」」

 

だが…攻撃は通らなかった。何故ならセシリアのローハイドは…Dアリギエルが自らの「口」で受け止めたのだ。

 

セシリア

「なっ!?」

シャル

「剣を…口で受け止めた!?」

「嘘でしょ!?」

 

ドゴォォッ!

 

セシリア

「きゃっ!」

 

セシリアの一瞬止まった隙を付き、蹴りを喰らわすDアリギエル。

 

Dアリギエル

「イイセリフダ。カンドウテキダナ。…ダガムイミダァァ!」

 

 

ドガガガガガガガガガガガガンッ!!

 

 

鈴・セシリア

「「きゃあああああ!!」」

シャル

「うわあああああ!!」

 

Dアリギエルは両手に持ったキャバリエーレを風車の如く回転させ、鈴達を切り払うのだった…。

 

 

…………

 

「まだ私は戦える!お願い!力を貸してケルベロス!」

ケルベロス

「グゥアァァァァァァァ!!」

 

高々と咆哮を上げたケルベロスはDウェルギエルに向かっていく。

 

Dウェルギエル

「カカカ!サンポノジカンダゼェ!」

ケルベロス

「グルオォォォォォ!!」

 

目の前のDウェルギエルにケルベロスは飛び掛かる。しかしDウェルギエルはそれを素早く躱す。

 

Dウェルギエル

「マルデトウギュウダナァ~?イヤトウケンカァ~」

ラウラ・簪・箒

「「「はぁぁぁぁぁぁ!!」」」

 

ズドドドドドッ!!

ズギュ――――ン!!

ヴゥンッ!ヴゥンッ!

 

Dウェルギエル

「!」

 

三方からラウラのカノン砲、簪の春雷、箒の衝撃波がDウェルギエルに向かう。それに一瞬早く気付いた敵はそれを全て避け切るが、

 

「ケルベロス!今よ!」

ケルベロス

「グアァァァァァァッ!」

Dウェルギエル

「!」

 

Dウェルギエルが簪達の攻撃に一瞬気を取られた隙にケルベロスの真ん中の頭が口を大きく開け、かみ砕こうとしていた。既に寸前まで迫っているため、残影を行う時間は無い。

 

「やったか!?」

 

 

………ザンッ!!

 

 

だがその口は届かなかった。牙がDウェルギエルに届くほんの数センチの所で…Dウェルギエルの黒き閻魔刀の一閃がケルベロスの真ん中の首を落とした。

 

 

ケルベロス

「グオォォォォォォォォ!!」

「ケルベロス!!」

ラウラ

「ば、馬鹿な!」

ケルベロス

「グゥゥオォォォォォォ!!」ズドズドズドズドンッ!

 

怒りのケルベロスは自らの周辺に氷柱のミサイルを展開し、それをDウェルギエルに向ける。

 

バリン!バリン!バリン!

 

しかしそれらは全て一閃の元に切り払われる。そして、

 

Dウェルギエル

「アソビハオワリダ!」ドンッ!

ケルベロス

「!」

 

 

シュンッ!!………チンッ!

 

 

Dウェルギエルは高速でケルベロスと交差した。そして暫くして刀を収めた。

 

ケルベロス

「グオォォォォォォ……」シュゥゥゥゥゥゥ……

 

そしてケルベロスは力無き咆哮を上げて消滅していく。どうやら今の一閃の元に切り裂かれ、自らのSEを失ってしまった様だった。

 

「ケルベロス!」

「そんな…、あんな一瞬で…」

ラウラ

「なんて…奴だ」

 

その光景に一瞬呆然とする三人。すると

 

Dウェルギエル

「テキガメノマエニインノニボーットシテルトハ…テメェラナメテンノカァ!!」

 

ズドズドズドズドズドズドズドンッ!

 

「きゃああああ!!」

ラウラ・箒

「「うわぁぁぁぁぁ!!」」

 

その一瞬の隙を付かれ、ブルーローズの連射を受けてしまう簪達だった…。

 

 

 

…………

 

???

 

その頃、オーガスの部屋でその戦いの様子を見ていたオーガスとスコールは、

 

スコール

「………なんてパワーなの…。あの二体」

オーガス

「フン、こんなもので驚く必要はない。あんなものは奴等にとって遊びに過ぎん」

スコール

「……ねぇ、あれって確か…前にオータムが持ってきたあの子達のデータを参考にしたのよね?…という事は」

オーガス

「そうだ。奴等も同じ程の実力があった。倒せたのははっきり言って奴等が負傷していたのが大きいだろう。これでも感謝しているのだぞお前達にはな…クククク」

スコール

「……」

オーガス

「想い人の傍で眠れるなら奴らも本望だろう…安心して死ぬがいい…フハハハハハ!!」

 

 

…………

 

Dアリギエル・ウェルギエル

「「オレノソバニチカヨルナァァァァ!!」」

 

ドガァァァァァァァァンッ!!

 

箒・ラウラ

「「ぐあああああ!!」」

鈴・シャル・簪・セシリア

「「「きゃあああああ!!」」」

 

Dアリギエルとウェルギエルの怒涛の攻撃に吹き飛ばされる箒達。ダメージもかなり深く、SEも残量も少なくなり、最早勝てるどころかまともに戦える状態では無かった。

 

「ぐっ、くく…、おの、れ…!」

Dアリギエル

「ア~レ~?サッキマデノツヨガリハドコニイッテシマッタノデショウカ~?」

セシリア

「強いとは、わかっていましたが…これほど迄なんて…」

ラウラ

「やはり…海之達を、倒した程の存在、という事なのか…!」

 

Dアリギエルとウェルギエルの圧倒的な強さに驚きを隠せない箒達。

 

Dアリギエル

「ケケケ!マエノオレラカ!ヤツラモズイブンフヌケニナッタモンダゼ!

「! 火影と海之が…腑抜けですって!?」

Dウェルギエル

「ニンゲンナドマモラナケレバ、モウスコシイキラレタモンヲヨ!」

ラウラ

「だ、黙れ!貴様ら等にあいつらの事がわかってたまるか!」

 

だがそんな彼女達に対し、二体は言い放つ。

 

Dアリギエル

「イヤイヤシッテルゼェ~、アイツラノコト。テメェラナンカヨリモヨッポドナ!」

「な、何だと!?」

Dウェルギエル

「ワズカニノコッタ「アクマ」ノホコリヲワスレ、ニンゲントシテイキルコトヲエランダ、オロカナモノドモダッテナ!」

「! え……悪、魔?……!!」

 

 

…………

 

(完全な悪魔として生まれ直していればそれなりの骨を持つ者になれただろうに)

 

 

…………

 

「あ、悪魔って…火影と海之が!?ふ、ふざけた事言わないで!!」

シャル

「それに人間として生きる事を選んだって…!ふたりは元から立派な人間だよ!」

Dアリギエル

「カカカ!ワラワセルゼ!テメェラ、ヤツラノナニヲシッテンダァ~?」

「し、知ってるよ!ふたり共とても強くて優しくて仲間思いで」

Dウェルギエル

「ヤサシイ?ナカマオモイ?ケーッケッケッケッケ!!」

Dアリギエル

「カーッカッカッカ!!

 

困惑する箒達の前で大笑いする二体。

 

セシリア

「何がおかしいんですの!?」

Dアリギエル

「ナニモシラナイッテノハ、シアワセナモンダ!ソシテアワレダ!」

Dウェルギエル

「テメェラ、ヤツラノカコノコト、ナ~ンモシラネェ!ヤツラガドンナフウニイキテ、ドンナニザンコクナコトシテキタカヲナ!」

「!…火影と、海之の…」

セシリア

「…過去、ですって…?」

鈴・シャル・簪・ラウラ

「「「…!!!」」」

 

 

…………

 

火影

(俺はお前らに、皆に隠していることがある。そしてそれを話したら…もう一緒にいられねぇかもしれねぇ…)

海之

(俺は…大罪を犯した。とてつもなく…重い大罪を…)

 

 

…………

 

鈴達の頭にあの時の記憶が思い出される。

 

(…あの時、火影言ってた。言えない事があるって…。それを話したら一緒にいられないかも…って)

シャル

(なんなの火影…?火影が抱えていたものって…)

(海之くんが言ってた大罪って…、なんなの…。教えてよ…海之くん…)

ラウラ

(海之…、お前が言っていた…とてつもなく重い罪とは…なんなんだ)

 

だが今の彼女達には幾ら考えても何もわからなかった。火影と海之の過去はある程度自分達も知っている。赤ん坊の時にスメリアで拾われ、それからは両親を失う事はあっても周りの人々の優しさと温もりを十分に受けて育ってきた。以前スメリアに旅行した時もふたりの悪い噂なんて聞いたことも無かった。優しさと慈愛に満ちたふたりは間違いなく善人の筈である。唯一わからないのはふたりのISであった。従来のどのISにも該当せず、機能も完全に別物。そしてあの束にさえ造れない。そんなISを一体何故ふたりが持っているのか…。その答えがどうしてもわからなかった。でもその答えは何れわかる時が来る、そう信じて追及することもしなかった。

 

ズドドドドドドドドドドッ!

ズドズドズドズドンッ!

 

箒・ラウラ

「「うわあああ!!」」

鈴・シャル・簪・セシリア

「「「きゃああああ!!」」

 

そんな沈黙していた彼女達に無慈悲なエボニー&アイボリーとブルーローズの連射が与えられる。

 

Dアリギエル

「マァテメェラノシッタコッチャネェ。ドウセリカイデキッコネェ」

Dウェルギエル

「ナラ、ナニモシランママニ…シヌガイイ」

箒・セシリア・鈴・シャル・簪・ラウラ

「「「!!!」」」

 

「死ぬ」という言葉を聞いて箒達の身体が一瞬強張る。死というものへの絶対的恐怖、命が終わる瞬間。それが寿命でも病気でもなく、今、強制的に与えられようとしている。

 

Dアリギエル

「マサカテメェラ、マダ、ジブンガコロサレネェナンテ、オモッテンジャネェダロウナ?」

Dウェルギエル

「イイコトヲオシエテヤル。ウッテイイノハ、ウタレルカクゴガアルヤツダケナンダヨ!」

 

シュンッ!シュンッ!

 

鈴・ラウラ

「「!!」」

 

Dアリギエルは鈴の前に、Dウェルギエルはラウラの前に瞬時加速し、剣を向ける。

 

Dアリギエル

「ヨワッテルヤツカラケス。コロシアイノキホンダ」

シャル・セシリア

「「鈴(さん)!!」」

箒・簪

「「ラウラ!!」」

Dアリギエル

「ミジメダナ。マケタヤツハ、シニカタスラ、エラブケンリハネェンダ!」

Dウェルギエル

「チカラナクテハナニモマモレハシネェ…ジブンノミサエナ!」

 

Dアリギエルとウェルギエルは其々に剣を振り上げた。そんな二体を前に鈴とラウラは目を閉じて悔し涙を浮かべる。

 

(…火影、…ごめん。…ごめんね…)

ラウラ

(…すまん海之。…お前達の仇、撃ってやれなかった……)

 

 

 

キィィィィィィィィィンッ!!

 

 

 

箒・セシリア・シャル・簪

「「「!!!」」」

Dアリギエル・ウェルギエル

「「…!」」

 

Dアリギエルとウェルギエルの刃がふたりに届こうとしたその時、一瞬の閃光と金属同士がぶつかるような音がした。その事態に箒達はもちろん敵も一瞬驚く。

 

鈴・ラウラ

「「…!!」」

 

目を閉じていた鈴とラウラは何事かと目を開ける。そこにいたのは、

 

 

楯無

「ふぅ…、ギリギリセーフね」

クロエ

「危なかったですね…」

 

 

Dウェルギエルの閻魔刀をラスティ―ネイルとオシリスで受け止めた楯無とクロエ。そして、

 

 

千冬

「……これ以上、こいつらに手出しはさせん!!」

 

 

Dアリギエルのリベリオンをレッド・クイーンで受け止めた暮桜を纏いし千冬だった。




※次回は来月5日(土)になります。

ドッペルゲンガーの台詞はDMC以外にもところどころアニメやゲームの悪役の台詞を参考にさせていただいています。カタカナで読みにくいかもしれませんが悪としての立場を強調したいと思いました。


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Mission158 死闘 VSドッペルゲンガー!③

ドッペルゲンガーこと、黒きアリギエルとウェルギエルに挑む箒・セシリア・鈴・シャルロット・ラウラ・簪の6人。
ギルガメス、ナイトメア、パンドラ、ケルベロスと持てる力の全てを使って果敢に攻撃をしかけるが火影と海之を倒したそれの強さは圧倒的であった。シールドや武装の一部をなんとか破壊するものの大したダメージを与えられず、遂に追い詰められてしまう。そして敵が止めを刺そうとした時、分身体を相手していた楯無とクロエ、そして千冬が駆け付けた。


千冬

「おぉぉぉぉぉ!!」ドンッ!!

楯無・クロエ

「「はぁぁぁぁぁぁ!!」」ドドンッ!!

 

鈴とラウラを庇って敵の攻撃を受け止めた楯無達は全力でDアリギエルとウェルギエルを押し、鈴達から引き離す。そして、

 

楯無

「クロエちゃん!」

クロエ

「蝸牛、起動!」…ヴゥンッ!

 

楯無の合図でクロエは自身の単一特殊能力である「蝸牛」を起動させる。

 

Dアリギエル・ウェルギエル

「「…!」」

 

するとそれの影響を受けたのか一瞬二体の動きに異変が起こり、向こうも自らの動きに違和感を感じた様子。

 

クロエ

「今の内です!離脱を!」

ラウラ

「クロエさん!!」

クロエ

「楯無さんは私が!」

楯無

「ごめんね!皆、一旦離れるわよ!」

「お姉ちゃん!!」

「千冬さん!!」

千冬

「急げ!」

「は、はい!」

 

言われて皆は全速でその場からある程度距離を取る。

 

Dアリギエル・ウェルギエル

「「…?」」

 

蝸牛の効力が切れたDアリギエル達は一瞬自分達に何が起こったのか不思議がっている様子だ。そんな二体から約数百メートルの所、

 

千冬

「お前達、無事か!」

「は、はい…。なんとか大丈夫です」

楯無

「間に合って良かったわ」

「お姉ちゃん…!」

クロエ

「本当に良かったです」

ラウラ

「クロエさん…、ありがとうございます」

シャル

「で、でも楯無さん達どうして?分身体は!?」

楯無

「倒したわ。結構苦労したけどね。織斑先生の御助力とクロエちゃんがいなかったら危なかったわ」

クロエ

「ええ、本当に強敵でした」

セシリア

「織斑先生、ISは大丈夫なんですの!?」

千冬

「心配するな。前と違い十分に整備してある。それよりもお前達は下がれ」

「わ、私達はまだ大丈夫です!」

シャル

「僕達も戦います!」

セシリア

「先生方だけ戦わせるなんてできませんわ!」

 

他の皆も箒に同意するが楯無がそれを止める。

 

楯無

「今の貴女達は無理だわ。ダメージもかなりあるし、SEも危ないでしょ?」

クロエ

「私達はまだ余裕があります。皆さんは巻き込まれない様下がっていてください」

ラウラ

「し、しかし!」

 

尚食い下がる皆に対し、

 

千冬

「お前達を守る。それが私の…あいつらとの約束なのだ。……頼む」

楯無

「それにさっきも言ったけど無理に勝たなくても追い返せばいいんだから。皆との戦いで奴らも消耗してるし、任せなさい♪」

 

千冬や楯無からの言葉に皆も止む無く従わざるを得なかった。

 

「千冬さん…」

「……わかりました。皆、ここは素直に従おう」

シャル

「……うん」

「お姉ちゃん、…どうか気を付けて」

楯無

「ありがと簪ちゃん♪」

ラウラ

「クロエさん…お願いします」

クロエ

「ええ」

 

そして千冬・楯無・クロエはDアリギエル・ウェルギエルの元に向かう。その二体は千冬達が話している間、ずっと眺めているだけだった。

 

Dアリギエル

「ワカレノアイサツハオワッタカ~?」

クロエ

「何もしてこないと思えば…待っていたのですか?」

Dウェルギエル

「ヤサシイダロォ~」

楯無

「随分舐めてくれるじゃないの。あんまり油断しきってると痛い目みるわよ?」

Dウェルギエル

「ユダン~?コレハ「ヨユウ」ッテモンダ」

Dアリギエル

「マァ、ヤツラモスグアトヲオウダロウガナ」

千冬

「……」

Dアリギエル

「アレ~、オコッタ~?カルシウムタリテネェンジャネ~?」

千冬

「無駄話をするつもりは無い。さっさと剣を抜け」

Dウェルギエル

「カカカ!ハナシガハヤイヤロウハスキダゼェ。コウカイスンナヨ!」

 

相対する者同士、互いにそれぞれの近接兵装を構える。

 

楯無

「私の可愛い簪ちゃんを、そして皆を傷つけた報い…、ただで済むと思わない事ね!」

クロエ

「これ以上…誰も傷つけさせはしません!」

Dアリギエル

「ケケケケ!サッキノヤツラジャ、モノタリナカッタトコロダ!」

楯無

(織斑先生、片方は私とクロエちゃんでやります)

千冬

(…大丈夫か?)

クロエ

(問題ありません。それにこの敵には蝸牛も有効だとわかりましたから何とかしてみせます)

楯無

(ですから先生はもう片方をお願いします)

千冬

(…死ぬなよ)

Dアリギエル

「ドウシタ?オジケヅイタカ!」

Dウェルギエル

「コネェナラ、コッチカライクゼ!!」ドンッ!

 

そう言うとDウェルギエルが先行して向かってくる。

 

ガキィィィィンッ!!

 

その時、千冬がレッド・クイーンで敵の刀を受け止めた。

 

千冬

「貴様の相手は私だ!!」ドンッ!

 

千冬は敵の攻撃を受け止めたまま瞬時加速を行い、自らとDウェルギエルを楯無とクロエから引き離す。

 

Dアリギエル

「カカカカ!ッテコトハオレノエモノハテメェラカ!ダイジョーブカ?オシッコチビラネェカ~?」

楯無

「見た目と同じく口も下品ね」

Dアリギエル

「ダンテダカラナァ、オレハヨ」

クロエ

「黙りなさい。貴方は火影兄さんではありません。ある筈がありません」

楯無

「嘗て学園一と言われた、現役ロシア代表の底力を見せてあげる!」

 

そういう楯無とクロエだったがしかし実は、

 

楯無

(…と言って強がっちゃいるけど本当は私達もさっきまでの戦いもあって全く余裕はないけどね)

クロエ

(はい…、まともに戦えば間違いなく勝ち目はありません。何か策を考えなければ…)

Dアリギエル

「イクゼェェェェェ!!」

 

楯無は自らのランスを、クロエはオシリスを、そしてDアリギエルは再度リベリオンを構え、戦いに突入する。……そして少し離れた所でDウェルギエルと対峙する千冬。

 

Dウェルギエル

「タイマン、ッテカァ。オモシレェ!」

千冬

「…あいつの姿で醜い言葉を晒すな」

Dウェルギエル

「サッキノチビモイッテヤガタナ。カカカ!マエノオレモ、スミニオケネェ!」

千冬

「黙れ。貴様は海之ではない。そして…前のあいつでもない」

Dウェルギエル

「ケケケ!テメェシッテンノカ。ナラワカンダロ?オレハバージルナンダヨ」

千冬

「寝言は私を倒してからにしてもらおうか」

 

そして千冬は海之から託されたレッド・クイーンを静かに構える。その姿からは歴戦の戦士にしか出せない、侍、剣豪たる者が放つ闘気が感じられた。

 

Dウェルギエル

「ケケケ…」

千冬

「…今までの私は、自らの称号等どうでもよかった。寧ろ邪魔とさえ思った。私の様な罪人に与えられるようなものではないからな。……だが今、生涯で一度だけ名乗らせてもらう。生きる伝説と言われたブリュンヒルデの実力、とくとその身に味合わせてやる!」

 

…そして、

 

カッ!!

 

Dウェルギエルの片方の赤い目が一際大きくなり、口角も歪んだ。対して千冬の目も見開かれ、

 

Dウェルギエル

「シャアァァァァァァ!!」

千冬

「でやあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

キィィィィィィィィンッ!!

 

 

漆黒の刀と赤き剣が激突した。

 

 

…………

 

Dアリギエルのリベリオンが楯無に斬りかかる。しかし、

 

スカッ!

 

Dアリギエル

「…?」

 

だが敵はそれに手ごたえを感じなかった。斬ったと思ったそれは楯無が自らのナノマシンを使って生み出した分身だった。

 

ビュビュビュンッ!

 

すると止まっているDアリギエルの周辺からクロエの遠隔武装、アキュラが襲い掛かる。Dアリギエルはそれをコヨーテを使って撃ち落とそうとするが、自在に方向転換するアキュラはそれを避ける。

 

Dアリギエル

「ケケケ!オモシレェモンツカウジャネェカ!」

 

シュンッ!

 

その時、アキュラに注意を向けている後ろからブリンク・イグニッションで楯無が攻撃を仕掛ける。

 

楯無

「はぁぁぁぁぁぁ!」

Dアリギエル

「ナメンナァァァ!」

 

ドゴォォォォォォッ!!

 

楯無のバスターアームとDアリギエルのイフリートが激しくぶつかった。

 

Dアリギエル

「テメェノソレモナカナカノパワージャネェノ!」

楯無

「アンタ達にダメージ与えられるとしたらこれが一番だろうからね!」

 

ジャキンッ!ガシッ!!

 

バスターアームの爪が開き、ぶつかったイフリートを腕ごと掴む。

 

楯無

「喰らいなさ…!」

 

キィィィィィンッ!

 

するともう反対の腕のイフリートが楯無に襲い掛かるが間一髪ランスで防ぐ。

 

楯無

「くっ!」

Dアリギエル

「ウデハモウイッポンアルノガキホンダゼ?」

クロエ

「楯無さん!」

 

楯無を助けようとクロエはオシリスを構えて向かう。すると、

 

Dアリギエル

「ケッ!」ガシ!「オラァァァ!!」ブンッ!

楯無

「きゃああ!」

クロエ

「!」

 

Dアリギエルは楯無のランスを掴んで逆に楯無を振り回し、クロエに向かって放り投げた。

 

ガシッ!

 

クロエ

「だ、大丈夫ですか!楯無さん!」

楯無

「え、ええ。ありが」シュンッ!「!!」

 

その後ろから襲い掛かるDアリギエル。既にイフリート両腕による攻撃態勢に入っていた。

 

クロエ

「! かたつむ」

Dアリギエル

「オセェ!クタバレェェェ!!」

楯無

「クロエちゃん!」

 

ドゴォォォォォッ!…バキィィィィィンッ!

 

クロエに攻撃が届く前に楯無はランスを盾にして防ぐが…その攻撃にランスが砕けてしまった。

 

楯無・クロエ

「「きゃあああ!!」」

 

勢いに吹き飛ぶふたりだが間一髪の防御によってなんとか体勢を立て直す。

 

Dアリギエル

「ククク…イイゼ、ヨクタエタ」

クロエ

「あ、ありがとうございます楯無さん…」

楯無

「いいのよ。でもまさか私の槍がこんな簡単に折れるなんてね…。ほんと化け物じみた力だわ」

クロエ

「やはり…まともに戦っても私達では…」

楯無

「ええ、わかってるわ。何か………!」

 

すると楯無の頭にある考えが浮かぶ。そして何やらプライベート通信で話かける。

 

楯無

(クロエちゃん、よく聞いて。………)

クロエ

(……!)

 

楯無から何やら話を聞いたクロエは驚きの表情を浮かべる。

 

楯無

(…という訳でクロエちゃん、お願いね)

クロエ

(…しかしまだテストもしていないのに)

楯無

(大丈夫よ。私が考え、クロエちゃんが改造してくれたんだもの。きっと上手くいくわ。信じなさいって♪)

「それじゃ…行くわよ!!」ドンッ!!

 

何やらクロエに頼み込んだ楯無は話を終えると通信を切り、単身向かっていく。

 

Dアリギエル

「ハッ!サイゴノワルアガキカ!」

楯無

「悪あがきかどうか!もう一度たっぷり見せてあげるわ!」

 

 

…………

 

ガキィィィィンッ!!キィンッ!ガキンッ!ガンッ!キィィンッ!!

 

その一方、千冬とDウェルギエルは剣の応酬を繰り返していた。Dウェルギエルのあらゆる方向から縦横無尽に繰り出される斬撃は圧倒的であるが、千冬も元ブリュンヒルデだけある歴戦の戦士。劣勢ではあるものの何とか対応し、大きなダメージは受けていない様子だった。

 

ガキィィィィンッ!!

 

少しの切り結びが終わり、互いに距離を取る。

 

Dウェルギエル

「ケケケ!ヤルナテメェ!サッキノガキドモヨリハルカニヨ!」

千冬

「本気でもない癖して何を言う。何故刀しか出さん?」

Dウェルギエル

「オンナニタイスルハンデ、ッテヤツヨ。オレハヤサシイカラナ~。…ダガ、モウアキタ」

 

バババババババババババッ!

 

Dウェルギエルは自分の周りに無数の幻影剣を出現させた。

 

Dウェルギエル

「テメェコソ、ケンイガイノテガネェンダロ?ダカライッカイモウッテコネェ」

千冬

「!」

Dウェルギエル

「クシザシ、ニナリヤガレェェ!!」

 

ドドドドドドドドドッ!

 

そしてDウェルギエルは無数の幻影剣を千冬に向けて発射した。……しかし、

 

 

ズドドドドドドドドドッ!!

ババババババババババッ!!

 

 

突如鳴り響くけたたましい銃声。それと同時に放たれた幻影剣がどんどん破壊されていく。

 

Dウェルギエル

「…!」

千冬

「……」ズドドドドドドドドドッ!

 

銃を撃っていたのは千冬だった。両手に二丁の銃を持ち、無言で幻影剣を撃ち落としていく。……やがて全ての幻影剣を破壊した千冬はゆっくり言葉を出した。

 

千冬

「ブリュンヒルデとは単純な称号ではない。格闘・射撃・近接・飛行などの各部門を制し、全てを制覇した者にのみ与えられるものだ。私が剣しか使えんだと?随分なめられたものだ。私が銃を使わんのは剣の方が得意だからに過ぎん」ジャキッ!

 

そう言う千冬の両手には黒い二丁の銃があった。

 

 

烈火(れっか)熾火(おきび)

 

千冬専用のサブマシンガン。レッド・クイーンを渡された千冬に「銃も役立つから」と火影が設計し、組み立てた。連射性に優れているが彼女からの要望で威力重視にカスタムした反面反動が普通よりも大きく、多くの者はまともに扱えない。

 

 

千冬

「しかし貴様らを倒すためならなんでも使ってやるさ!」

 

力強く宣言する千冬。それを見たDウェルギエルは楽しそうに笑う。

 

Dウェルギエル

「……カーッカッカッカ!オモシレェオンナダ!ニンゲンジャナカッタラホレタカモナ!」

千冬

「屑にそう言われても迷惑なだけだ。それに相手には困っていない」

Dウェルギエル

「ソウカイ。…ナラ」ドンッ!!

千冬

「!」

 

キィィィンッ!!

 

瞬時加速で斬りかかるDウェルギエル。間一髪千冬は受け止める。

 

千冬

「ぐっ!」

Dウェルギエル

「オレラガクズッテンナラ…」

「シャアァァァァ!!」

千冬

「!!」

 

ガキィィィンッ!

 

すると反対側から何者かが攻撃を仕掛けてきた。それは、

 

Dウェルギエル

「クズノオレラニ、タオサレルテメェハ」

千冬

「…!?違う、こいつらは本体では!」

Dウェルギエル

「ナンノクズナンダァァ!?」

 

ズガァァァァンッ!!

 

千冬

「ぐあぁぁぁ!!」

 

すると上からもう一体のDウェルギエルが襲い掛かってきた。最初に斬りかかってきた二体は分身体であり、本体は今斬りかかってきたものだった。やがて最初の二体が消滅する。

 

千冬

「ぐっ、くっ…いつの間に…!」

Dウェルギエル

「イッタロウ?ハンデハモウオワリダ、トヨ。…モウコロス!」

 

 

…………

 

ガキィィィンッ!ガァァンッ!

 

一方、Dアリギエルと一対一で戦う楯無。敵のキャバリエーレ二刀流に対し、楯無はラスティ―ネイルとバスターアームで戦っていたがパワーと攻撃範囲の両面から彼女の劣勢は明らかであった。何回も攻撃を受け、その度にシールドもアクア・ナノマシンも削られる。

 

ガキンッ!!

 

楯無

「ぐぅっ!」

Dアリギエル

「ケケケケ!ソノミョウナヨロイガイツマデモツカナ!テメェヒトリデカテルトオモッテンノカ!?」

 

そう言い放つ敵に対し、楯無も言い返す。

 

楯無

「そういうアンタこそ、周りが見えてないんじゃな~い?」

Dアリギエル

「ナニィ~?……!」

 

Dアリギエルが周りを見渡すと…いつの間にか自分の周りに白い羽が無数に浮かんでいるのが見えた。それはクロエのセラフィック・ソアーだった。

 

楯無

「アンタに忠告しておくわ!アンタ滅茶苦茶隙だらけなのよ!」ガキンッ!

 

カッ!ドガガガガガガガンッ!

 

楯無がその場から離れた瞬間、周囲の光の羽が一斉に爆発する。……しかし、

 

Dアリギエル

「……ケッ!」

 

Dアリギエルはシールドを張って爆発のダメージを防いでいた。

 

Dアリギエル

「ムダダッテコトワカンネェノカナァ~?」

 

シュンッ!シュンッ!……ガキンッ!ガキンッ!

 

すると煙に紛れて楯無とクロエが再び斬りかかるが、これもやはり受け止められてしまう。

 

Dアリギエル

「ムダムダムダムダー!ムダナンダヨイクラヤッテモ!」

楯無

「本当にそうかしらね!?」

 

ジャキンッ!!ガシッ!!

 

Dアリギエル

「!」

 

するとバスターアームのクローが開き、それがDアリギエルの左のキャバリエーレを持っている掌を補足する。右はクロエがオシリスで抑え込んでいる。

 

楯無

「さっきバスターアームがアンタの手を掴んだのを思い出したわ!どうやら武器を持っている掌にはシールドは展開してない様ね!」

Dアリギエル

「!」

楯無

「クロエちゃん!」

 

ヴゥンッ!

 

そしてクロエはあらかじめこのタイミングを待っていたのか、再び蝸牛を起動した。

 

楯無

「見せてあげるわ!私の切り札を!」

 

 

…………

 

ラウラ

「…?楯無さん、何かするつもりだぞ!」

シャル

「えっ?」

「なんか切り札って言った様な気がしたけど…!」

「切り札……!まさか…!」

セシリア

「な、なんですの!?」

 

切り札と聞いて箒が慌て始める。そしてそれを聞いた簪も、

 

「そんな…まさか!お姉ちゃんアレを!」

 

 

…………

 

楯無

「見せてあげるわ!私の切り札をね!!」

 

ギュオォォォォォォォ……!

 

そういうと楯無は何かを起動させた。すると彼女のISに目に見える変化が起きた。ミステリマス・レイディの全身を覆っているアクア・ナノマシンが徐々に装甲から剥がれだし、Dアリギエルと接している彼女のバスターアームの一点に集中していく…。

 

シャル

「…ねぇ見て!楯無さんのISが!」

「やっぱり、やっぱりそうだ!やめてお姉ちゃん!!」

 

やがてバスターアームがやんわり光を放ち、更にナノマシンのエネルギーに耐え切れなくなり始めているのか震え始める。

 

楯無

「これはミステリアス・レイディのSEを最大限犠牲にして放つ大技!蝸牛が効いてる今ならエアトリックでもよけれないでしょう!」

Dアリギエル

「!」

 

ギュオォォォォォォォォォォ……!!

 

楯無

「ミステリアス・レイディの最大火力!受けなさい!!」

 

限界が近づいたのかバスターアームの振動が更に大きくなると同時に楯無は高々と宣言した。

 

楯無

「エネルギー解放!…ミストルテインの槍!!」

 

カッ!!

 

Dアリギエル

「!!」

 

 

ボガァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!

 

 

バスターアームに収縮されたエネルギーが一気に爆発、放出された。その爆発は海之との戦いで使ったクリア・パッションの比ではなかった。

 

「! 楯無さん!!」

ラウラ

「そんな…!爆発した!?」

「お姉ちゃん!!」

 

 

…………

 

楯無の起こした爆発の衝撃は千冬達にも伝わっていた。

 

千冬

「!」

Dウェルギエル

「オー!ナンカスンゲェ!ジバクカァ~?」

千冬

「あの爆発力と爆煙……。まさか更識の奴、アレを使ったのか…!」

 

千冬は楯無が行ったことを悟った様だ。

 

Dウェルギエル

「ケケケ!ミズカラ、シヲエランダカ。イチバンバカデ、ミットネェシニカタダナァ」

千冬

「……」

Dウェルギエル

「アレ~、カナシイノカ~?マァシンパイスンナ、スグニアトヲ」

 

ドゴォォォッ!!

 

千冬が瞬時加速でDウェルギエルの顔面に鉄拳を当てる。当然傷を付けるほどではないが急な攻撃に敵は怯む。

 

Dウェルギエル

「イテテ…、ナニシヤガル。イテェジャネェカヨ~」

千冬

「貴様の痛みなど…あいつらのそれに比べれば蚊に刺された程度にもならん。……それに…」

 

千冬は再度剣を構えなおす。そして続けて言った。

 

千冬

「確かにあいつは馬鹿だが…、愚かではない」

 

 

…………

 

楯無が使った「ミストルテインの槍」の爆発によってその周辺はいまだ煙が上がっていた。

 

ラウラ

「な、なんだ今のは!」

シャル

「…ミストルテインの槍…?」

「楯無さん一体、何をしたの!?」

「あ…、ああ…」

セシリア

「箒さん、貴女はご存じなのですか!?」

 

すると箒は語り始めた。

 

「…以前、楯無さんとタッグを組んだ時に聞いたのだ…。「ミストルテインの槍」…。本来レイディの防御機構であるアクア・ナノマシンのエネルギーを攻撃力に変換し、それを一点に集中・増幅させて爆発的な威力の一撃を放つ、というものだが…。その反面、アクア・ナノマシンを全て攻撃に回すので防御はほぼ0になり、更に使用すると自らのSEをも大きく消費してしまう…、言わば一撃必殺の諸刃の剣…」

シャル

「ぼ、防御が0って…!それじゃ!」

「…ああ…。運が良くて大怪我。最悪命に関わる事もある…」

「な、なんですって!」

セシリア

「そんな…!」

「いやぁぁぁぁぁ!!お姉ちゃぁぁぁん!!」

ラウラ

「そ、それにクロエさんは!?まさか…あの人も巻き込まれて!」

 

皆が絶望的な予想をしている。……すると、

 

~~~~~~~~~

 

突然箒達に通信が入る。

 

「! なんだ、プライベート通信だと…?」

「しかも私達全員って……!」

シャル

「こ、これって!」

「!!」

 

皆は一斉に通信を開く。送り主は、

 

 

楯無

(予想して第一声。勝手に殺さないでよね~!)

 

 

「! お姉ちゃん!!」

クロエ

(とはいえ、正直ぶっつけ本番でしたけどね)

ラウラ

「クロエさん!良かった!」

セシリア

「…!見てください皆さん!」

 

セシリアの声で皆がある方向に目をやると…そこにはナノマシンの光沢を失ったレイディと、ベアトリスがいた。こちらに無事をアピールして手を振っている。

 

楯無

(なんで助かったのか、って聞きたそうね~。という訳で解説~♪)

 

 

…………

 

それは以前、束とクロエが学園に来た時の事。アップルパイを食べ終えた後、束はデビルブレイカーを催促した楯無に「バスターアーム」を渡し、使い方の説明を受けていた。

 

クロエ

「……という訳でバスターアームの使用方法は以上です」

楯無

「オッケ~♪」

一夏

「パワー特化型のデビルブレイカーか。大きい爪がいかにもって感じだな。それにしてもデビルブレイカーってほんとにいろんなものがあるな」

「ああ、パンチラインの様な攻撃型やガーベラの様な攻守に使えるもの、トムガールの様に出力上昇させるものや先程クロエさんが使った時間に作用するものと幅広いな」

ラウラ

「それにそれを発明したのが若い女性というのが驚きだ」

「そうだよね~!同じ発明家として、そしてレディとして束さんジェラシーボーボーだよ~!」

「そこはあんまり関係ないと思いますけど。他にもあったりするんですか?」

「あるよ~♪まぁ中には不便なものもあるけどね~、「オーバーチュア」とかさ」

本音

「…オバアチャン?肩揉みでもするの~?」

シャル

「本音、オーバーチュアだよ」

セシリア

「序曲、という意味ですわね。どんなものか火影さん方はご存知ですか?」

火影

「ああ。簡単に言えば高圧電流を発するデビルブレイカーだ。ただ束さんも言った通りちと不便な点もあるけどな」

「どんな点が不便なの?」

海之

「オーバーチュアのブレイクエイジだ。これのブレイクエイジはSEをチャージしたオーバーチュアを対象物に密着させ、そのまま爆発させる。言わば超強力な爆弾だ。威力は申し分ないが最大限の効果を発揮するには零距離に近い程できる限り密着させなければならない」

一夏

「た、確かにそれはおっかねぇな…」

「それにそれって殆ど自爆じゃないの!」

火影

「爆発前にデビルブレイカーを切り離せば問題ねぇ。ただそれ自体を爆弾にするから使用すると二度と使えなくなるんだよ」

シャル

「一回限りの技って事か…。確かに不便だね」

「だからもし使うんだったら何個もおんなじ物造らないといけないんだよ~。まぁ一度造れば前ほど手間はかからないけどね~」

 

そんな感じで皆が説明を受けている中、

 

楯無

「……自分のSEを…デビルブレイカーに、か…」

 

楯無は何やら思う事がある様であった。

 

「…どうしたのお姉ちゃん?」

楯無

「…ちょっとね♪」

 

 

…………

 

楯無

「あれで思いついたのよ。バスターアームのバスターで敵を掴み、そこにレイディのSEを送り込めばミストルテインの槍と同じ事ができるかもってね。最近クロエちゃんに改造してもらったの。レイディ本体でやるより威力はちょっと落ちるし、バスターアームも無くなっちゃうけど危険性は大幅に減らせるわ」

クロエ

「爆発の寸前に私がブリンク・イグニッションで楯無さんを回収したのです」

「そうだったんですか…。ありがとうございますクロエさん!」

「ハァ…、でも本当に驚きましたよ」

 

ふたりの無事に安堵する箒達はふたりに近寄ろうとした……だがその時、

 

ラウラ

「…!皆待て!まだ反応が消えていないぞ!」

 

ラウラの指摘でセンサーに目をやると……確かに同じポイントに反応があった。

 

楯無・クロエ

「「!!」」

シャル

「そ、そんな…!あの爆発を受けてまだ生きてるの!?」

セシリア

「…!皆さん!」

 

ミストルテインの槍による爆発の煙が少しずつ晴れてくると中が徐々に見え始めてきた。すると、

 

全員

「「「!!」」」

Dアリギエル

「オォォォォォォォォ……」

 

そこには確かにDアリギエルがいた。しかしミストルテインの槍による爆発をまともに受けた左手。そこから連鎖的に伝わったのか左腕全体とその付け根と腰の辺りまでが抉れて無くなっていた。更に右手部分も消失しており、ダメージに苦しむ様な声を上げている。恐らく持っていたキャバリエーレも爆発で蒸発しただろう。因みに機械の筈なのに断面部も真っ黒で何も見えない。

 

Dアリギエル

「アァァァァァァァァ……」

「なんて奴だ…!あの攻撃でまだ姿を保っているなんて!」

「でも今の攻撃で間違いなく大きくダメージを受けた筈よ!」

ラウラ

「ああ!今なら皆でかかれば倒せるかもしれない!」

シャル

「やろう皆!」

 

そう言って皆は加わって攻撃を加えようとする。…するとその時、

 

楯無

(皆!!)

 

突然楯無が皆を止めるかのように大きな声を出す。

 

楯無

(来ては駄目!)

「お姉ちゃん!?」

クロエ

(皆さん!そのまま動かないでください!)

セシリア

「ど、どうしてですの!?今なら私達皆でかかれば!」

 

来ては駄目だという楯無とクロエに困惑する箒達。

 

楯無

「…威力がちょっと落ちたのが仇になったかも。……奴は多分まだ…!」

 

楯無は何かを警戒している様子だ。

 

Dアリギエル

「……………ケケケ。ヒッカカンネェカ」

 

するとそれまでうめき声の様な声を上げていたDアリギエルの雰囲気が変わった。

 

Dアリギエル

「ヨッテキタトキニ、マトメテブッツブシテヤロウトオモッタノニヨ…」

 

……ギュオォォォォォッ!

 

そう言うやいなや突然Dウェルギエルの吹き飛ばされた部分がまるで脈打つように動き始めた。左側は腕の付け根から。右手は手首から。

 

Dアリギエル

「カァァァァァァァァァァァァ!!」

楯無

「…!」

クロエ

「…まさか!」

 

その言葉に表情が強張るふたり。そして、

 

Dアリギエル

「……ハァッ!!」

 

……ズシャアァァァァァァ!!

 

まるで根本から生えるかのように、吹き飛ばされた部分が綺麗に再生されたのである。

 

楯無・クロエ

「「!!」」

Dアリギエル

「クッ…イタミハアルシ、エネルギーモツカッチマウガナ。ケケケ、ガッカリシタカ?」

 

言う通り痛みがあるのか敵の赤い目と口に苦悶の色が浮かんだが少しするとまた元に戻った。

 

楯無

「くっ…!化け物じみた強さの上に再生までするなんて…、ほんと反則よ…!」

クロエ

「楯無さん下がってください!」シュンッ!「!!」

楯無

「!!」

 

だがクロエが言い切る前にDアリギエルはエアトリックでふたりに迫る。

 

Dアリギエル

「ダケドイマノハ…イタカッタ。イタカッタゾォォォ!!」

 

 

ドゴゴゴォォォォォッ!!

 

 

楯無・クロエ

「「きゃああああ!!」」

 

両手に纏ったイフリートで叩きつけられる楯無とクロエ。

 

「お姉ちゃん!!クロエさん!!」

「馬鹿な!腕が再生しただと!?」

セシリア

「そんな…、これじゃどんなにダメージを与えても…」

ラウラ

「傷の再生…。そこまで同じだというのか…!」

シャル

「今はふたりを助けないと!」

ラウラ

「ああわかっている!」

 

助けに行こうとする簪達。

 

ドガァァァァンッ!ドガァァァァンッ!

 

するとDアリギエルが彼女達に向かってイフリートから黒きメテオを放ってきた。

 

「ぐっ!何!」

Dアリギエル

「ジャマスンナラ!マッサキニテメェラカラコロシテヤルゾ!!」

 

大声で箒達に雄叫びをあげるDアリギエル。ダメージを受けたからか、その声は激しい怒りを含んでいた。

 

「くっ!あいつ怒り狂ってる!なんて気迫なのよ!」

 

敵の気迫に圧され、動けない箒達…。

 

 

…………

 

千冬

「…更識!クロニクル!」

 

Dウェルギエルと戦っていた千冬もそれは見ていた。すぐに助けに行こうと思い立つが、

 

バッ!!

 

Dウェルギエル

「オ~ット!ドコニイクノカナァ?テメェノアイテハオレダゼェ?」

 

しかしそれを遮る様に敵が邪魔に入る。

 

千冬

「くっ!」

Dウェルギエル

「ナ~二、ドウセスグアエルサ!アノヨデナァ!」

 

 

…………

 

楯無

「くっ…、クロエちゃん、大丈夫?」

クロエ

「は、はい、なんとか…。楯無さんは?」

楯無

「当たり前でしょ…。といいたいけど正直キツイわね…」

 

Dアリギエルの猛攻を受けた楯無とクロエ。何とか無事なようだがそのダメージは大きそうだ。SEもふたり共残り少ない。

 

Dアリギエル

「ケケケ!ドウシタ、テメェラモソンナモンカ?モットテイコウシテミロヨォ?」

楯無

「…よっぽど甚振るのが好きみたいねアンタ」

Dアリギエル

「カカカ!アタリメェダ、オレハアクマダカラナ!ソシテダンテデモアルノサ!」

クロエ

「兄さんは違うと言った筈です!」

Dアリギエル

「オーソウダナ!モウアンナデキソコナイジャネェ!カンゼンナアクマニモナレズ、ニンゲンニモナリキレネェソンザイダッタオレトハヨ!オレハチガウ!ショウシンショウメイノアクマ!オレコソ、ホントウノダンテヨ!」

楯無

「……」

 

楯無は黙って聞いている。

 

Dアリギエル

「シッカシ、テメェラモバカナヤツラダ。アンナヤツノタメニ、イノチヲステルタァナ。セイゼイアノヨデ、モンクタレルコッタ」

楯無

「……」

 

…ピッ

 

すると楯無は再び全員へのプライベート通信のスイッチを入れた。

 

「…え?」

「楯無さん?なんでこんな時に?」

千冬

「……」

 

千冬含め、皆は何事かと思っている様だ。

 

楯無

「…全く、見てくれも口も、そして頭も悪いのね」

Dアリギエル

「…ンダト?」

楯無

「だってそうじゃない。火影くんと海之くんが悪魔ですって?確かにふたり共悪魔じみた強さで、敵には容赦なく冷酷で、時には自分の腕を切ったりなんか常軌を逸する事したりするわ。でもそれは全て「大切なものを守りたい」という彼らの根幹からくるものよ。アンタ達みたいに悪戯に、無意味に力を振り回したりなんか決してしない。それこそ何の確たるものも無い、アンタの言う中途半端というものだわ」

Dアリギエル

「………」

「大切なものを…守りたい」

セシリア

「確かに…それがおふたりの根幹でしたわね…」

楯無

「それに、アンタ達にあのふたりを酷く言う資格なんてないわ。だってあのふたりは、アンタ達みたいな奴らに両親を二度も殺されたんだものね!」

「…!!」

「…えっ?」

「火影と海之の両親が…二度殺された…?」

シャル

「た、確かにふたりのお父さんとお母さんはテロで殺された様なものだけど…、二度、って…?」

ラウラ

「…どういう事だ…?」

 

楯無が発した言葉に皆驚きを隠せない。

 

楯無

「聞きなさい!あのふたりの正体がなんであって、そしてとんでもない過去があったとしても、ふたりは決して悪魔でもない!ふたりは立派な人間よ!」

クロエ

「その通りです!おふたりが何者だろうと、私の大切な兄さんです!」

箒・セシリア・鈴・シャル・ラウラ・簪

「「「…!」」」

 

それは目の前の敵ではなく、箒達に向けたふたりの言葉だった。そして同じく聞いていた千冬も、

 

千冬

「……ふっ」

 

小さく笑った。それは喜びの笑みだった。

 

Dウェルギエル

「ナニワラッテル?キデモフレタノカ?」

千冬

「貴様に話す必要など無い。どうせ理解できん」

Dウェルギエル

「……デハ、シネ!!」ドンッ!!

 

Dウェルギエルは千冬に再び斬りかかる。だが、

 

キィィィィィィンッ!

 

Dウェルギエル

「…!ナニ?」

 

Dウェルギエルの剣は千冬に見事に受け止められ、更に、

 

千冬

「おおぉぉぉぉぉ!!」

 

ガキィィィィンッ!!

 

そのまま押し返され、吹き飛ばされた。

 

Dウェルギエル

「!…オレガ…オシカエサレタ、ダト…?」

千冬

「言ったろう?貴様には理解できんとな!」ドゥルルン!ドゥルルルン!!

 

そう言うと千冬はレッド・クイーンのグリップを回し、突撃する。

 

千冬

「つおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

ドガァァァァンッ!

 

レッド・クイーンの炎の剣閃がDウェルギエルの剣を押す。

 

Dウェルギエル

「!」

千冬

「覚えておけ!本当に強いのは」

 

ドガァァァァンッ!

 

千冬

「強いのは!」

 

ドガァァァァンッ!

 

千冬

「…人の想いだ!!」

 

ドガァァァァァンッ!!ズバァァ!!

 

Dウェルギエル

「グオォォォォッ!!」

 

四撃目の一閃がDウェルギエルに当たり、爆発と斬撃によるダメージを与える。

 

Dウェルギエル

「グッ……テメェ…。ナゼソンナチカラガ!?」

千冬

「想いは人を強くする。それが人間というものだ!あいつから託されたこのレッド・クイーンがある限り、私は負けん!そして守ってみせる!あいつらの分まで!」ドンッ!!

 

そう言って千冬は瞬時加速で楯無とクロエの救助に向かう。

 

Dウェルギエル

「タスケニイクツモリカァ~?ダガ…マニアワネエヨ!」

 

Dウェルギエルの言葉通り、千冬が向かう少し前。

 

Dアリギエル

「テメェラガドウオモッタトコロデ、ヤツラハシンダ!テメェラモトットト、アノヨヘイキヤガレェェ!」ドンッ!!

 

そう言ってDアリギエルはリベリオンに持ち替え、ふたりに襲い掛かった。

 

クロエ

「!」

ラウラ

「クロエさん!」

楯無

「くっ!」

「お姉ちゃん!逃げてぇぇ!」

千冬

「…駄目だ!間に合わない!」

Dアリギエル

「シネェェェェェ!!」

 

 

 

…………キィィィィィィィンッ!!

 

 

 

楯無・クロエ

「「!!」」

Dアリギエル

「!」

 

その時、楯無とクロエ、そしてDアリギエルの間に何が割って入り、それが敵の攻撃を受け止めた。

 

千冬

「!!」

シャル

「な、何!?……!」

「あ、アンタ…!」

 

皆が言葉を失った。

 

セシリア

「そ、そんな…!どうして!」

「何故…、お前がここに!?」

 

そこに現れたのは、

 

 

一夏

「ゼィ、ゼィ、ゼィ…」

 

 

封印されていた筈の白式を纏い、雪片を持った一夏だった…。




※次回は12日(土)の予定です。

人数が多いと戦いの様子を書くのが難しいと思っております今日この頃。もっと上達したい…。
それはともかく台風が近づいております。お近くの皆様、どうかお気をつけて。

※千冬のサブマシンガンはオリジナルです。


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Mission159 一夏、自らの闇と向き合う

ドッペルゲンガーに殺されそうになった箒達を救った楯無、クロエ、そして千冬。箒達と入れ替わりで楯無とクロエはDアリギエルに、千冬はDウェルギエルに挑むが彼女達の力をもってしても敵は更に上を行っていた。楯無の起死回生の切り札である「ミストルテインの槍」も倒しきるに至らず、Dアリギエルは怒りのままふたりに牙を向ける。もはやこれまでかと誰もが思ったその時、飛び込んできたのは…!


楯無とクロエをDアリギエルの攻撃から守ったのは、DNSを起動した事による危険から封印されていた白式を纏った一夏であった。

 

一夏

「ゼィ、ゼィ、ゼィ……ま、間に合った!」

楯無・クロエ

「「一夏くん(さん)!」」

「い、一夏!何故お前がここに!?」

ラウラ

「それにあれは白式!封印されていたのではないのか!?」

一夏

「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

ガキィィィィンッ!!

 

一夏は全力でDアリギエルの剣を押し返した。

 

Dアリギエル

「ナンダ~テメェ!マタシニタガリノ、ツイカカァ~?」

一夏

「人を飯の追加みたいに言ってんじゃねぇ!」

 

するとそこに千冬が飛んできた。

 

千冬

「一夏!何故お前がここにいる!それに何故白式を!」

一夏

「今はそんな事言ってる場合じゃない!先ずはコイツラを何とかするのが先だ!千冬姉は片方を頼む!こいつは俺が何とか抑える!」

千冬

「! お前…」

楯無

「よしなさい一夏くん!今の貴方が勝てる相手じゃないわ!私達が!」

 

楯無はそう言って一夏を止めようとするが、

 

一夏

「そんなボロボロじゃ説得力ないですよ楯無さん。……それに」

クロエ

「…それに?」

 

すると一夏は答えた。

 

一夏

「帰ってくる」

千冬

「…何?」

 

一夏

「あいつらは…、火影と海之は…、必ず帰ってくる!!」

 

 

…………

 

それは今から少し前の事…。皆と共に行けず、部屋に戻っていた筈の一夏だったが…。

 

一夏

「……」

 

その時、一夏は不思議な場所にいた。周囲は靄の様な霧に包まれて何も見えない。真っ白い空間。その中をぽつぽつと一夏は歩いていた。

 

一夏

「ここは…どこだ?。俺は確か、自分の部屋にいた筈…。…眠っちまったのか?じゃあ…これは夢か?……でも、なんか見覚えがある様な…」

 

どこまで行ったらいいのかわからないまま、そんな事を想いながら一夏は歩いていた。………するとその時、

 

「…やっと会えたね」

一夏

「!!」

 

突然後ろから聞こえてきた何者かの声に一夏は驚き、振り返る。するとそこにいたのは、

 

「驚かせてしまったのならすまない」

「…大丈夫?」

 

ふたつの白い影であった。声からして男性と女性のふたり。輪郭こそ辛うじて見えているがどんな顔かはわからない。ただ声色からして男性からは真面目な感じが、女性からは優しさを持つ感じが聞いて取れた。そして何よりも…、

 

一夏

「…その声…!」

 

一夏は再び驚いた。一夏はこのふたりの声に聞き覚えがあった。

 

一夏

「…俺の…夢に出てた、…いや聞こえた…」

 

数週間前、一夏の夢に突然出てきた謎の声とまさに同じものであった。あの時は身体も目も動かせなかったため、何もわからないままだったが。

 

「覚えていてくれたのね」

一夏

「ま、まぁ…何度も聞いたから…。姿は見えなかったけど…」

 

姿こそ見えなかったが一夏は不思議と警戒していなかった。もし目の前にいるふたりが敵なら自分が動けない時に既に何かされていてもおかしくないと思ったからだ。

 

「すまない。まだ会うのは早いと思ってね。…あの時の君は深く傷ついてた。心も身体も」

「貴方には時間が必要だった。だからその時までは会わないでおこうと思ったの」

一夏

「……」

「…だが事態はそうも言っていられない状況になっている様だ」

一夏

「…?」

「立ち話もなんだわ。まずはそこに…」

 

そこには何故か丸い小さなテーブルと三脚の椅子があった。

 

 

…………

 

男性と女性と一夏は席に着く。

 

「御免なさいね。お茶を用意できないのが残念だけど」

一夏

「い、いえ…」

 

影とはいえ普段あまり会う事が無い様な雰囲気の女性に一夏はやや緊張している様子だが目の前の男の影に問いかける。

 

一夏

「…あの、幾つか聞いてもいいですか?…貴方達は…一体?」

 

すると男はこう答える。

 

「…私達が誰、か…そうだな。……遠い遠い、とてつもなく遠い世界から来た者、と言っておこうか」

一夏

「……?」

「何を言っているのかわからないかもしれないけど…でもそうとしか言えないの。そういう約束だから。でも安心して?私達は貴方の敵じゃないから」

一夏

「は、はぁ…」

 

疑問は残るが取りあえず改めて敵ではないと安心した一夏は次の質問をすることに。

 

一夏

「…ここは、どこなんですか?」

「ここは君の中さ。…まぁ正確には君に深く関するものの中、だがね」

一夏

「…俺の、中?じゃあ…やっぱ夢ですか?」

「当たらずとも遠からずだな。だがそういう解釈で構わんよ」

 

そう言われてとりあえずこの質問の答えを得た一夏は最も聞きたかった質問をする。

 

一夏

「…貴方達は…どうして俺の夢に?」

 

すると男はこう答えた。

 

「…君と話がしたかったからだ」

一夏

「…俺と、話?」

「そう、会って話したかった。だから来たんだ。あの子と、そして君の守護者に了承を得てね」

一夏

「…俺の守護者…?」

一夏

「まぁそれについては今はいいさ。とにかく君と話がしたいと思ったのだ。だが先ほども言った様に今より少し前の君は深く傷ついていた。だからそれが少しでも癒え、時が来るまで待っていたのだ」

 

すると男はいきなり一夏に尋ねた。

 

「…単刀直入に聞く。…君は、何故あんな事をした?」

一夏

「…あんな事…?」

 

男は続けた。

 

「君は…何故あの時力を欲した?」

一夏

「!!」

 

それだけで一夏は理解した。

 

「ひと月前のあの時、君はあの黒い者と戦い、敗れ、殺されそうになった。しかし直ぐに君を助けようとした者が現れた。確か君の…姉上だったか。とにかく彼女が殺されそうになった君を救った。そして彼女は君に手を出すなと言った。今出て行ったところで君が逆に倒されるのがわかっての事だろう」

一夏

「……」

「だが君は戦おうとした。あの様な妙な力を使ってまで。そして最後は力に振り回されるただの獣となって暴走し、挙句には自分の仲間達を襲った…」

一夏

「! あ、あれは!」

「全部が自分のせいじゃない」

一夏

「…!」

 

自分が言おうとした言葉をまるで分っていた様に先に言われ、一夏は黙ってしまう。

 

「確かにきっかけはあの妙な力だったかもしれん。だが君自身よくわかっている筈だ。原因は自分にあると。だから君はこのひと月の間、悔恨の念に苦しんできた。あの時、あれを使わなければあんな事は起こらなかったかもしれない」

一夏

「……」

「聞かせてほしい。君はあの時何故あんな事をした?」

一夏

「…それ、は…」

 

するとそれを横で聞いていた女も口を開く。

 

「ごめんなさいね。この人真面目な上に頑固なところがあって…。でも誤解しないで。貴方は決して悪い子じゃない。あんな事を望んでやる様な子じゃない。それは私達もわかっているわ。聞かせて?…あの時、貴方は何を思ったの?」

一夏

「……」

 

そう言われた一夏の頭にあの時の記憶が浮かぶ。

 

 

(俺は、俺は見てるだけしかできないのかよ。何もできないのかよ…!)

 

(あの時も、そして今も守ってくれてる……俺は何時も千冬姉に迷惑かけてばかりだ…)

 

(千冬姉の様に、火影や海之の様に…俺ももっと強い力が欲しい!)

 

 

一夏

「………強くなりたいって、思った…」

「……」

 

一夏は静かに話し始めた。

 

一夏

「俺も強くなりたかった…。そして守りたかった…。火影や海之や千冬姉の様に、俺も、自分の大切なものを守れる様な…そんな人間になりたかった。そのために力が欲しかった…。役立たずに、足手まといになりたくなかった…。目の前で戦っている千冬姉の助けになりたかった…。だからあの時…」

 

 

(私の声に答えていただければ…貴方は力を手に入れられます。どんな者にも負けない、救世主の力が…)

 

 

一夏

「無力感に支配されてた俺は…あの声に答えてしまった。…DNSってやつが言う…どんな者にも負けない力っていうのが…欲しかった…。その力で千冬姉や皆の力になりたかった…」

「……」

一夏

「あんなひどい事をしようと思ってたんじゃない。ただ…強くなりたかっただけなんだ…」

 

力無き声で答える一夏…。すると今度は女の方が一夏にこう問いかける。

 

「……じゃあどうして、あんな事になったと思う?」

一夏

「…えっ」

「貴方の気持ちは間違っている訳じゃないわ。そして強くなりたいと思うのも決して悪いことじゃない。貴方が力を望んだのも、自分のためではなく誰かのため。そうよね?……じゃあ、実際力を持ってみてその後、貴方はどう思った?どう感じたか、思い出せる?」

一夏

「……」

 

 

(見える、見えるぞ、こいつの動きが全て!これが救世主の力!)

 

(どうした?さっきまで偉そうにしてたお前の力はそんなもんか?)

 

(俺も戦いたいんだ!もう守られてばかりじゃ嫌なんだ!)

 

 

一夏の脳裏に白騎士となった直後の自分の様子が浮かんでくる。そして第一に思ったことはというと…、

 

一夏

「………驚いた。そして…嬉しかった」

「……」

一夏

「俺の、いや正確には白騎士か…。その力であの時、Mをひとりで圧倒できた時、驚きと同時に俺だってやればできるんだっていう…嬉しさがあった。この力があれば負けない、もう役立たずじゃない。俺だって大事なものを守れる!火影や海之、千冬姉の様に戦える!だから…嬉しかった…です」

「…そうなのね…」

一夏

「…………だけど…」

 

 

(お前の方が強いなら俺なんて簡単に倒せるんじゃないのか!?)

 

(そんなんで世界最強のIS操縦者になりたいなんて聞いて呆れるぜ!)

 

(俺だけじゃなく千冬姉や束さんを散々馬鹿にしやがったお前を許すつもりはねぇ!)

 

(立てないなら、これで終わらせてやらぁ!!)

 

 

一夏

「……嬉しかったのは…最初の内だけだったかもしれない。…段々と、変わっていったかもしれない…」

「……」

「…どんな風に変わっていったと思うの?」

一夏

「……」

 

女の静かな問いかけに一夏は更に思い出し、感じた事を話し出す。

 

一夏

「最初は…力を手に入れた喜びが勝ってた…。でも…散々自分を痛めつけていた目の前のあいつを圧倒できているって思うと……妙に高揚した。いい気分だった…」

「……」

一夏

「それから暫くすると…さっきまで散々千冬姉や束さんや俺の事を馬鹿にしてたこいつを許せないっていう気持ちがどんどん大きくなっていった…。怒りがこみ上げてきて、憎しみが膨らんでいった。自分の感情が抑えきれなくなったとかそんなんじゃない、抑える気も起らなかった…。そして最後は……目の前のこいつをぶちのめしたいって、それだけしか…考えられなくなってた…。その後の事はあんまりよく覚えてない…。あの変な黒い影みたいなのに捕まって…、火影と海之に助けられるまで…。ただ…自分がどんな事をやっていたのかは…なんとなくだけど感じてた。自分の身体だから…。皆は操られていたからって言ってくれてるけど……、でもそれでも俺がやった事に変わりはない…」

「…辛かったわね…」

 

一夏が話し終えるとそれまで黙っていた男が話し出す。

 

「…確かに操られていたとはいえ、君のやった事に違いは無い。全ては……自らの「傲り」に負けた君自身にある」

一夏

「……俺の…傲り?」

 

傲りという言葉が気になった一夏は聞き返す。

 

「さっきこの子も言ったが…、君の「強くなりたい」「弱いのは嫌だ」「敵を倒したい」「馬鹿にした者にやり返したい」等の気持ち。人なら誰しもが一度は思う事だ。ましてや君みたいな若者なら尚更な。それは確かに間違ってはいないかもしれない…。だが、そういった感情にはある強力な「罠」が絶えず付きまとう」

一夏

「……罠?」

「君が持った力への強い「欲望」や、それを持つ者に対する「嫉妬」。負けたくないという「不安」や「恐怖」。馬鹿にされた者に対する「憤怒」や「憎悪」。そういった感情は時には確かに力を与えるが、時にはその者自身を大きく変えてしまう。それまで保っていた自分を簡単に闇の世界へと誘ってしまう。いわば魔力の様な危険性を孕んでいる」

一夏

「……魔力………!」

 

 

(恐れることは無い。ただ受け入れるのだ。そして委ねるが良い。力という魔力に!)

 

 

「君の言う通り最初は強くなりたい、守りたいという純粋な気持ちだっただろう。だが君は自分が手に入れた強大な力を振り回している内に、いつの間にかその力に酔っていた。最初の気持ちを忘れ、ただ目の前の敵を自分の圧倒的な力の前にひれ伏せさせたい。そう変わっていった。違うかい?」

一夏

「……」

 

図星だったのか一夏は何も言わなかった。男は続ける。

 

「そして戦い続けている内に君の中にある種の傲りが生まれた。偶然的に手に入れた力をあたかも自分の力と思い込み、この力があれば何にも負けはしないと。その瞬間、君の中の均衡が崩れた。君が本来の君でなくなった。君自身が生み出した傲りに敗れた。そうでなければ自分を見失う事も無かったかもしれない…」

 

一夏

「……」

 

 

(勝負に卑怯もくそもない、だから俺もそうさせてもらった!)

 

(自分よりも弱いと思っていた奴に見下される気分は!?)

 

(これが俺の力だ!お前が蔑んだ俺の力だ!)

 

 

一夏はただただ男の言葉を黙って聞いていた。思い出せば確かに自分は戦う者としてあるまじき事を言っていたりもしていた。卑怯な真似等自分が一番嫌っている筈だったのに…。

 

「君は…あの妙な力でも白騎士でもない、君自身に敗れたのだ。私はそう思う」

一夏

「……そう、ですね…」

 

一夏は認めるしかなかった。すると男は一夏に再び尋ねる。

 

「……では、君にもうひとつ聞きたい。君は何故力を欲した?」

一夏

「……?それは…さっきも言ったようにあいつらや千冬姉の様になりたいって…」

 

一夏は答えた。だが男はそれを遮ってこう言った。

 

「確かにそれも理由のひとつではあるかもしれない…。だが私はもっと別の理由もあると思っている。君があのDNSとやらを起動させるほど力を欲した理由…、それは…君が憎しみを持ったからだ…。彼らにな」

一夏

「!!」

 

その言葉に一夏は大きく目を見張った。そしてすぐ様強く反論する。

 

一夏

「彼らって…火影と海之の事か!?俺があいつらに憎しみを持っただって!?そ、そんな馬鹿な事あるはずねぇ!!」

「……」

 

だが男はそんな一夏の反論を否定し、言葉を続ける。

 

「君は自分が知らない内に彼らを恨んでいた。もっと言えば嫉妬していた。違うかい?」

 

そう言われて一夏は思わず立ち上がって更に反論する。

 

一夏

「ち、違う!あいつらは俺の親友だ!何度も俺や皆を守ってくれたんだ!寧ろ千冬姉と同じ位目指してる奴らだ!それなのにあいつらを恨んでなんかいる訳ねぇじゃねぇか!!」

 

だが男は言葉を続ける。

 

「本当にそうか?確かに君の彼らに対する友情はあるだろう。だが君自身知らない無意識の領域で、君は嫉妬してもいた。自分と同じ力を動かせる資格を持ち、学ぶ場所も時間も同じ。なのにあらゆる点で既に自分の遥か先をいき、僅かな期間で多くの者に頼られ、慕われる様になった彼らに」

一夏

「! そ、それはあいつらがそんだけ良い奴だし、それに頭も俺よりずっと良いし強いから!」

「そうだな。しかし彼らもただの人間には違いない。化け物でも、ましてや悪魔でもない。歳も君とひとつしか変わらない。なのに君よりもずっと強く、常に君や友達を導いてきた。大勢の人を救った。自分には出来ない様々な事を次々にやってのけた。それを見て君はただただ関心を持っただけだったか?君は先ほど言った筈だ。「彼らのようになりたい」と」

 

その言葉に一夏は言葉が詰まる。

 

一夏

「…そ…それは…」

「人は自らに無いものを持つ者に嫉妬するものだ。ましてやそれが自分に近しい者ならば猶更ね。そしてそこから憎しみが生まれる。…もう一度聞く、君は彼らを真っ白い気持ちだけで見ていたかい?」

一夏

「……」

 

一夏は信じられない、信じたくないという気持ちだったが男の言葉に少しずつ自信が揺らぎ、力なく椅子に座りなおす。

 

一夏

「……俺が……火影と海之に……嫉妬?……俺が?」

 

すると今度は女がゆっくりと立ち上がり、不安を和らげる様にその手を一夏の肩に優しく置き、言った。

 

「焦らないで。わからない時は落ち着いて過去に問いかけてみて?そうすれば見つからない答えも見えてくる事があるわ…」

一夏

「……」

 

その言葉に一夏は落ち着いて考えてみた。自分が火影と海之と過ごしてきた時の事…。

 

 

セシリアとの代表決定戦の後に行われたふたりの試合。初めてふたりの戦いを見た時、既に戦い方も動きも訳がわからなかった。自分とは比べ物にならなかった。ただただ凄いと思った。

 

鈴とのクラス対抗戦で来襲してきたアンジェロ。自分は全く歯が立たなかったのにふたりはあっけなく倒した。

 

タッグマッチで自分を圧倒したひとり。ラウラを命がけで助けたひとり。その後のファントムをも簡単に倒してしまったふたり。自分は見ているしかできなかった。

 

臨海学校で100もの敵から皆を守ったふたり。多くの者がふたりに救われた。

 

ファントムを数分で片付けたひとり。自分が敵わなかったオータムを圧倒したひとり。しかもそのひとりは仲間を守るために自分の腕を犠牲にした。自分にはとても無理だった。

 

キャノンボール・ファーストや第二回タッグマッチでもふたりは多くの人を守り、感謝の言葉を受けていた。そして京都でも再び大勢の人を救った。最後は破壊者になった自分を救ってくれた。大怪我を負ってまで。なのにそれでもふたりは戦った。自分や仲間を守るために…。

 

 

一夏

「……」

 

同時にそれを見た時の自分の言葉や気持ちも思い出してくる。

 

 

(お疲れー!すげーな二人共!俺驚きの連続だったぜ!!)

 

(あいつらには度々驚かされるなぁ~)

 

(下手すりゃ自分達の命が危なかったかもしれねぇのにさ。俺ならとても無理だ)

 

(凄ぇなぁふたり共。たったふたりであれだけの敵を倒して皆を守り切った…)

 

(俺はまだまだ、って事か……)

 

(あいつらは常に俺の遥か先を行ってるんだよな…。俺にもあんな力があれば…)

 

 

一夏

「…………………そう、か…」

「…何?」

「……」

 

やがて一夏は再び静かに話し出した。

 

一夏

「最初、学園に入学した時からもう…俺の理解が及ばない位、とんでもなく強かったあいつら…。俺や箒達が手こずったり倒せなかった相手を…簡単になんとかしちゃったりしたあいつら…。たったふたりで多くの人を守ったあいつら…。俺…そんなあいつらが……羨ましかったんだ…。だから…俺もそうなりたいって思った…。頑張って、あいつらみたいな人間になりたいって…」

「……」

一夏

「でもどんなに頑張っても訓練しても…敵わなかった。やっと傷ひとつ付けられたと思ったら…あいつらはすぐにもっと先に行ってしまって…全然追いつける気がしなかった…。今思えば当然だったかもしれない。あの千冬姉でさえ「ふたりに勝ったら自分にも楽に勝てる」って言ってた位だったから…。でもだからといって決して偉ぶったりしないで…、寧ろ気ぃ配ってばかりいて…いつも俺や皆を守ってくれた…。まだ会って一年も経ってないけど、そんなあいつらを千冬姉や皆が強く信頼してた。あの人嫌いの束さんでさえ…。そんなあいつらが…羨ましかった…」

「…そうなのね…」

一夏

「そしてある時、あいつらの覚悟を聞いた。どんなに傷ついても守るために戦い続けるって…。悔しかった…。改めて自分との差を思い知らされた。俺も負けない位頑張っているのに…なんであいつらの背中は…こんなに遠いんだろうって…。次第に自信が無くなり始めてきてた…」

「……」

 

自らの心に隠れていた感情を吐露した一夏。ふたりの事を親友と思っている気持ちに嘘はない。しかし自分にはこんな隠れていた感情があった事に衝撃を隠しきれない様子。

 

一夏

「アンタの言う通りだ…。俺は…火影と海之に、あいつらの強さに…嫉妬してた…。俺よりもずっと慕われてるあいつらを…密かに恨んでたんだ…。そんな…俺の下らねぇ恨みが…火影と海之を…殺してしまったんだ!」

 

一夏は涙を流しながら言った。認めるには勇気がいったが…受け入れなければならないと思った。それが死んだふたりに対するせめてもの謝罪だった…。

 

スッ…

 

一夏

「…!」

 

すると女が一夏の身体を包み込むように優しく抱きしめながら声をかけた。

 

「よく頑張ったわね…。自分の罪を認める事はとても勇気がいる事。本当に…よく頑張ったわ」

「ここは時間の流れがゆっくりだ。…泣きたいだけ泣くといい」

一夏

「……~~~~~~~~」

 

女の腕の中で一夏は静かに泣いていた…。

 

 

…………

 

そしてそのまま暫く時が過ぎた。最初泣き続けていた一夏は段々落ち着いてきた様だった。

 

一夏

「……すいません」

「良いのよ、涙は悲しみを流し去ってくれるものだから」

一夏

「…なんか、母親に包み込まれてたみたいに、安心できた感じがします」

一夏

「あら、これでも20代の頃の姿と声で来たんだけど?貴方みたいな大きい子のお母さんってちょっと複雑ね~」

一夏

「そ、それはすいません。……ん?姿で来たって?」

「ふふっ、気にしないで」

「…君は過去の自分と向き合った。そして自らの罪を意識した。今の純粋な涙を、そして打ち明けた時の想いを忘れない様にな」

一夏

「……はい」

 

一夏は男に忘れないと約束した。すると男は尋ねる。

 

「…わかった。……さて、最後に聞こう。これから君はどうする?」

一夏

「…え?」

「君は自分を見つめ、過去の自分と対話した。そして意識し、友を想って涙を流した。もう今までの君ではない。では…これからの君はどうしたい?」

一夏

「……これからの、俺は…どうしたいか…?」

 

いきなりの質問に一夏は戸惑っていると、

 

「…ねぇ聞いて。私達がこうして貴方に会えたのは…貴方が意志を見せてくれたからなの」

一夏

「…俺の…意志?」

「気付いているかはわからないが…君はつい最近、どこかで前に進もうとふっとでも思ったことがある筈だ。例えば…もう一度守りたい、戦いたい、とかな」

 

そう言われて一夏は思い出した。先ほどドッペルゲンガーが出現した時、自分も戦いたいと思ったことを。

 

一夏

「あ、あれは…皆だけに戦わせる訳にはいかないと思ったから…。それに足手まといって止められちまったし…」

「しかし君はその時、確かに足を前に出した。例え止められようとも。私達がこうして君と出会い、対話できるのは今までの止まっていた君が少しでも前に進みだそうとしたからだ。そうでなければ今こうして私達が会う事もできなかったろう」

「貴方の一歩でも進もうという気持ちがこの機会をつくってくれたのよ」

一夏

「……」

 

そう言われて一夏は思った。確かにあの時自分は一瞬でも戦いたいと思った。皆と共に、火影と海之の命を直接的に奪ったあの黒い存在と。すると男は一夏の気持ちを察してか、

 

「君が望む事、それは君自身が一番よくわかっている筈だ。そして君にはそのための力がある。君だけの力が」

一夏

「…俺だけの、力…」

 

一夏だけの力。それは決まっている。だが…、

 

一夏

「……でも、怖いんだ。もしまた白式で戦って…前の俺みたいになったら…そう思うと…」

 

白騎士となって暴走した時の事はあまり覚えてはいないがあの時の様な感覚を再び味わうかもしれない事に一夏は恐怖していた。もしまた力に暴走してしまったら…。そんな一夏に男は言った。

 

「…君は「信念」という言葉を知っているか?」

一夏

「…え?」

「自分が何があっても絶対に正しいと信じている事だ。信念は持った者は強い。そして人を成長させる。それは過去の偉人達も言っている。「信念は人を強くする。疑いは活力を麻痺させる。信念は力である」と」

一夏

「…信念…」

「君とて同じだ。君も自らの心にあんな事はもう二度と起こさないという、それこそ例えどんな暴風や竜巻が来てもびくともしない、大地に力強く根を張った大樹の様な強い信念を持てば、これから先どんな戦いでもあの時の様な間違いはもう決して起こしはしない筈だ」

一夏

「…強い信念…」

「そしてそれは…彼らも持っていた筈」

 

 

(誰に命令された訳でも無い。俺達の本能に従って、守るために戦い続ける)

 

 

一夏

「…!」

「…本当なら戦いなんて無い方がいい。争いなんて誰も望んでいない。…しかし残念ながら…この世にはそうでない者もいる。あの者達の様に…」

一夏

「……ファントム・タスク。……いや、オーガス…」

「間違いを犯す者が人間ならば、それを止めるのも人間でなければならない。本来なら君や彼女達の様な未来溢れる若者にそんな辛い役目をさせたくはない。ましてや奴は「私達と同じ世界の者」なのだからな…。だが私にはどうすることもできない…。肉体を失っただけでなく、この世の存在でない私には…」

一夏

「…?」

「それができるのは君達だけならば、君達に託すしかないのだ…。数多くの困難が襲いかかるだろう。しかし神は乗り越えられない者に試練をお与えになりはしない。必ず乗り越えられる。信念を持って進み、そして…本当の強者(つわもの)となれ」

一夏

「……本当の、強者(つわもの)…?」

「苦しみや恐怖さえも己の成長の糧とするのだ。そうすれば闇も光となる筈だ」

一夏

「…苦しみや恐怖を…糧に…」

「何かのために戦う者は、背負うもののために一度たりとも負けることは許されない。それはとても険しく難しい事だ。だがこれまでの経験や苦難、そしてこれからの未来で時には打ちのめされる事もあるかもしれない出来事。それらを受け入れ、自らの信念のもとに諦めずに前に進もうとする者こそ、本当の強者(つわもの)たりえる。…君の友の様にな」

一夏

「……!」

 

男の言葉を聞いて一夏は驚いた。まるで火影と海之の過去の事を知っているかの様な言い方だったからだ。

 

一夏

「…貴方は知ってるんですか?…あいつらの事…」

「……」

「私達もその人達に助けられたの…。ううん、私達だけじゃない、たくさんの人が…」

 

それが誰なのか名前は言わなかった。だが一夏には彼等とは間違いなくあのふたりの事だという妙な確信があった。だから一夏は聞いてみようと思った。何故ふたりを知っているのか、そしてふたりの過去に何があったのか。…だがそれは止められた。

 

一夏

「…あの」

「貴方の聞きたい事はわかるわ。でもそれを伝えるのは私達じゃない…。あの人達よ」

一夏

「…え?」

「彼らの過去は私達が勝手に語って良いものではない。まもなく彼らは自ら全てを語ってくれる筈だ」

一夏

「!!」

 

二人の言葉を聞いて一夏は目を見張った。

 

 

一夏

(あいつらは…火影と海之は…生きている!?)




※次回は19日(土)の予定です。

一夏に話しかけているのが誰なのか、次回明らかになる予定です。



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Mission160 騎士の魂を継ぎ、白は覚醒する

一夏の前に突然現れたふたつの影。それはひと月ほど前に一夏の夢で語りかけてきた者達であった。ふたりは一夏に何故あのような事をしたのか、そして何故それ程まで力を欲したかと問いかける。過去の記憶を少しずつ引き出しながら一夏は語り続け、そしてその中で自分の知らない部分で火影と海之への嫉妬や恨みがあった事に気付き、謝罪の涙を流す。
そんな一夏を見たふたつの影は、一夏が少しずつ前に進みだそうとしているからこうして話ができる様になった事。そして自らの中に強い信念を持てばもう過ちは起こさないだろうと説き、続いて驚く事を言った。それは…、


「あの人達の事を伝えるのは私達じゃない。あの人達自身よ」

「そしてまもなく、彼らは全てを語ってくれる筈だ」

一夏

「…!!」

(火影と海之が…生きている!?)

 

ふたりの言葉に一夏は目を見張り、衝撃を受ける。はっきり言ってとても信じられなかったからだ。このひと月の間、必死で探したにも関わらず何ひとつ手がかりも見つけられなかったのだ。自分達だけじゃなく捜索隊にも、衛星にも、何の反応も出なかった。まさに絶望的同然だったのだ。普通からすればとても生きている様な状況ではない。しかし…この人達が嘘をついているとは思えない。

 

「…ただこれだけは伝えておこう。彼らもまた多くの絶望を経験してきた。…誰よりも。そして多くのものを失った。そのせいで時には道を誤った事もあったが、度重なる苦難を乗り越え、共に本当の強者となった者達だ」

一夏

(……?)

 

多くの絶望?失った?道を誤った?…一夏の心に疑問が浮かぶ。そういえば以前火影はこんな事を言っていた。

 

 

(もう無くしたくないのさ…。ちょい人より無くしたもんが多かったんでな…)

 

 

「そして彼らは…今も戦っている。生きるという戦いを。今までの自分とこれからの自分のために」

「そして何より、貴方やあの子達のためにね」

一夏

「…!!」

 

 

…………

 

一夏はある事を思い出していた。それは以前、夏季休暇中に家で千冬と過ごしていた時の事。

 

一夏

「………」

千冬

「…どうした一夏?難しい顔する等お前らしくない」

一夏

「俺だってたまにはそんな時あるっての。……なぁ千冬姉、火影と海之ってなんで旅客機を救ったのかな?」

千冬

「…なんだ急に?」

一夏

「いや…以前一緒に風呂入った時にその話になった時に火影が言ったんだ。飛行訓練中に見かけて、気付いたらそうしていたってな…。でも下手すりゃ自分達の方が死んでいたかもしれねぇ。救助隊を呼ぶっていう選択肢はあっても自分達で受け止めるなんてとてもできるもんじゃねぇ。ましてや旅客機に乗ってたのは皆見ず知らずの他人だ。幾ら両親を飛行機で亡くしたと言っても…」

 

あの時火影と海之は両親を失った様な出来事はもう起こしたくないという気持ちでふとそうしたと言っていたが…何故そこまでできるのかと一夏は思っていた。

 

千冬

「なんだそんな事か。…簡単だ、あいつらがそういう奴らだからだ」

一夏

「…へ?」

千冬

「誰かのためにという気持ちが人一倍強く、誰かを守るために自分を犠牲にできる。しかし家族や仲間のために自分も死なないという強い意志を持っている」

一夏

「……」

千冬

「他人とか関係なく誰も悲しませない。そのために最後まで諦めない。そういう奴らだ」

一夏

「…誰も悲しませない。最後まで諦めない…」

 

ピンポーン…ガチャッ

 

千冬

「ふたりが買い出しから戻って来たか。一夏、手伝ってやれ」

一夏

「お、おお悪い」

 

 

…………

 

一夏

(……あん時はあんまり良くわからなかったけど…今は少しわかった気がする。…諦めない、そして誰も悲しませない。それがお前らの信念…。そしてお前らは…今も生きるために戦ってる…。何度あんな目に会おうとも…。待っててくれている人達のために…)

 

 

(一夏、強くなれ。今度こそ本当に。俺達からの宿題だ)

 

(俺達にしかできない事がある。そしてお前にしかできない事もある)

 

 

一夏

(………)

 

暫くの沈黙が続いた後、一夏の口が開く。

 

一夏

「………俺」

「……」

一夏

「…俺、あいつらが死んだって聞いた時…、どうしたらいいのか…分からなくて。あいつらみたいに強くないし頭も良くないし…。責任の取り方も…分からなくて…。4年前に俺を誘拐したのがあのオーガスとか、千冬姉が白騎士だったとか、雷に打たれた様な衝撃がいっぺんに来た気がして、もう訳分かんなくて…。何もかも…正直どうでも良くなっちまってた…」

「……」

一夏

「……でも、…貴方達の言葉を聞いて…、そしてさっき自分と向き合ってみて思った。……やっぱり、俺も強くなりたい。今度こそ本当に。火影や海之や、千冬姉の様に、本当に強い人間になりたい。……きっとすげぇ辛い思いしたり、また何度もやられたりするだろうけど…、それでも、俺も戦いたい。それが正しいとかどうかじゃなくて…俺も、あいつらの仲間として…俺の心が望んでいるのが…それなんだ…!」

「……」

一夏

「だから…俺も戦う!ファントム・タスク…いや、あのオーガスって奴と!皆を守るために!そして…俺にしかできない事を見つけるために!!」

 

一夏ははっきりと言った。

 

「…貴方…」

「……その気持ちを決して忘れるな。それを忘れず、それだけの信念があれば、君は私などよりもずっと立派な騎士だ…」

一夏

「…?」

 

一夏は男の「騎士」という言葉が一瞬気になった。

 

「……さて、随分と長く話してしまった様だ。外の世界では、今頃君の仲間があの黒い存在達と戦っている頃だろう」

「貴方も行ってあげて。そして…守ってあげて?」

一夏

「…はい!…あっ、でも…今は俺、白式が…」

 

一夏の白式はひと月前からずっと封印されており、その場所は一夏にもわからない。今封印を解除してくれと自分が言っても許可を貰えるとは思えなかった。

 

「それなら大丈夫だ。君の守護者がなんとかしてくれる」

「だから貴方は何も心配しないで?」

一夏

「は、はぁ…」

 

一夏は心配するなと言われたので多分大丈夫なのだろうと思った。不思議なものだ。ほんのひと月位、しかも夢でしか出会わず、ふたりの正体も顔もわからない。だが一夏は何故か目の前のふたりを信用していた。火影と海之を知っているからというのも理由のひとつではあるが。多分女性からの慈愛に満ちた心と、男性からの厳格ながらも深い思いやりの心を感じての事だろう。そして先ほどの「騎士」という言葉。だから一夏は聞いてみる事にした。

 

一夏

「…あの…最後に俺からひとついいですか?もし良かったら…俺も貴方について聞いてもいいですか?貴方が何者なのか、そして…過去に何があったのか」

 

一夏は男が何者なのかを少しでも知りたいと思った。

 

「…貴方…」

「…何故そんな事を聞きたいんだい?」

一夏

「……わかりません。でも、ただ知りたくなった、では理由になりませんか?」

「……」

一夏

「貴方はさっきここでの時間はゆっくりと言ってました。だから教えられる範囲でいいのでもし良ければ…教えてください」

「……」

 

暫し考えた後、やがて男はゆっくりと話し始めた。

 

「………私は昔、ある団体に属していた。嘗て世界を救った伝説の英雄を祭る宗教団体だった」

一夏

「え?……世界を、救った?」

「ふふ、それについては気にしなくて良いさ。ともかく当時私はその教団に仕える騎士団の長、騎士長の職を務めていたんだ」

一夏

「…貴方が…騎士…」

「そして教団の目的もまた世界の救済。教団に属する者として、そして守護の剣である騎士長として、私は様々な任務にあたってきた。救済には混沌が必要であると。それが正義だと。そうすれば皆が救われると信じて。そのためにどんな苦痛にも耐えてきたし、命に関する問題も少なくなかった。結果多くの罵詈雑言を浴びせられたり中には自分の中で納得しきれない任務もあったが、いつか人々はわかってくれる。多くの人達を守るため救うためには仕方がない。そう思っていたのだ…」

一夏

「……あの、すいません。失礼とは思いますけど……そんなの」

「ああそうだな。今思えば決して褒められる事ではなかったかもしれん。…だが当時の私にはそれがわからなかった。騎士にとって主の命令は絶対。全ては教団のため、理想のため、そして守る者のために。その信念のもとに私は働き続けた。………あの時が来るまでは」

一夏

「……あの時?」

「ある日の事だ…。その日は教団にとっての最も大きな計画が実行される日だったのだが…邪魔をする者達がいたのだ。ひとりは教団を潰そうとする者。もうひとりは…教団の隠された真相を知り、裏切った者」

一夏

「裏切り者…ですか?」

「……」

「私も当然その者達の討伐任務に就いていた。しかしその途中で思いもよらない事が起こった。教団が…自分達の目的のために、私の大切なものに手を出そうとしたのだ。何も知らない…、私の最も大切な存在に…」

一夏

「……え?」

「……」

「その時私の中の何かが弾けた。私は自分が忠誠を誓った教団に……初めて反抗した。今までどんな事にも堪えてきた私が初めて自らの主に剣を向けたのだ。その時に問われたよ、「何故だ?」と。向こうはまさか私が裏切るとは思っていなかったらしい。私自身もそれまで教団を裏切る等露ほども思っていなかったからね……。主の問いかけに私は答えた、

 

「貴方が語る理想の世界のために私はなんでもやってきた。だが貴方は利用した、私の大切なものを、何も知らない最も大切な者を。それだけは許せない」

 

と…」

一夏

「……」

 

それは何よりも強い意志が込められたひとりの男の言葉だった。

 

「教団のために私は命も魂も、自らの意志さえも捧げてきたが…彼女を利用した事だけは許せなかった。私の心が…それだけはどうしても認めなかったんだ…」

一夏

(……それって)

「……」

「私は戦ったが…敢え無く意志半ばで倒れてしまった。私は真に大切なものを…私自身の手で守ることができなかった…。そして気付いた、今まで私が教団のため、世界のためと斬り捨ててきた者達。そんな弱い人々こそ私が守りたかった者達だったのだと…。気付いた時にはもう手遅れだったが…」

一夏

「……」

 

一夏はただただ黙って聞いていた。正しいと信じて自らの全てを捧げてきたものの真の姿。そして皮肉にもそれによって思い出した自身の本当の願い。しかしそれはとうとう叶えられないまま命を終えてしまった。男の無念は相当のものだったろう…。

 

「つまらない話を聞かせてしまったね…。守りたいものに気付く事も守る事もできず、全てを捧げたものへの忠義も信念も折れてしまった。誰一人救う事もできなかった。そんな下らん情けない男の話さ…」

「……」

 

女はそう言う男をじっと見つめている。すると一夏が話し出す。

 

一夏

「……貴方の信念は……折れていないと思いますよ?」

「……え?」

一夏

「貴方のした事は確かに間違っていたかもしれません…。でも貴方は最後まで戦ったんでしょう?自分の大切なもののために、死ぬまで…。結果的に貴方自身の手では助けられなかったのかもしれませんし、その事件があったから気付く事になったのかもしれませんけど…でも貴方の最後にとった行動は…間違ってないと俺は思います。大切なもののために戦い抜いた。…貴方は…立派な騎士だと思います」

「……」

「…貴方…」

一夏

「それにさっき貴方は誰一人救えなかったと言いましたけど…少なくとも俺は貴方に救われた気持ちがしますよ?貴方の言葉で…俺はもう逃げるのをやめよう、戦おうって思えました」

「……」

 

男は一夏の言葉に暫く黙っていたがやがて自らも話し出す。

 

「………私は…、自分の手で何も救えなかった。ずっと心残りだった…」

一夏

「……」

「この世のどこでもない遥か遠くの場所から絶望に打ちひしがれる君の姿を見た時…まるであの時の私を見ている様だった……。そして思った。あんな若い、これからの希望溢れる少年に私の様な思いをさせたくない、と…。だから…私は君を助けるために来た……つもりだったが、……助けられたのは私の方だったのかもしれんな……。改めて君と話せて良かった」

一夏

「…俺も同じ気持ちです。…あの、その貴方の大切な人は…結局どうなって?」

「ああ、大丈夫だ。ある人が救い出してくれたよ。私が死ぬ間際にお願いしたのだ。「救ってやってくれ」と。その人は願いを叶えてくれた」

一夏

「そうですか…良かったですね」

「ああ。……さて、すっかり長くなってしまったな。もう戻ると良い。君の世界へ」

一夏

「あっ、そうだった!……?でもどうやって?」

「君が来た道を真っすぐ戻れば良い。それと…最後にもう一度聞かせてくれ。君は再び戦うのだな?」

一夏

「はい!」

 

一夏の迷い無き答え。それに男は言った。

 

「……わかった。では、私も力を貸してあげよう」

一夏

「力を貸すって……どうやって?」

「直ぐにわかるさ。君はもうその方法を知っている筈だからね。…ただ、これももう一度言っておく。強い力には魔力が付きまとう。そして常にその者を闇に誘い込もうとしてくる。決して忘れるな。でないとまた、先日の君の様な事になるぞ」

一夏

「……」

「今の貴方ならきっと大丈夫よ。…貴方のしようとしている事は正しい。自信を持って。迷う必要なんて無いわ」

「自分を見失うな。何があっても」

一夏

「……はい!…あの、また会えますか?」

「……ああ必ずな。…さぁ、行きなさい」

「おふたりに宜しくね」

一夏

「ありがとうございました!」

 

ふたりにお礼を伝えると一夏は真っすぐ走って行った……。そんな一夏を後ろで見えなくなるまで見送るふたつの白い影

 

「……行ったか」

「良かったわね、兄さん」

「……ああ」

「なんだかあの子、子供の頃の兄さんに似てるわ。それにあの人にも」

「昔の私はあんな感じだったのか…」

「…あら?でもあの子が兄さんにもあの人にも似てるという事は…兄さんとあの人も似てるっていう事に」

「それはありえんな!…まぁ良い」

「ふふ…」

 

そんなやりとりをしているふたりのすぐ傍に近づく者がいた。帽子をかぶった白い少女。それは一夏が以前、夢の中で出会った少女だった。

 

少女

「彼は行ったみたいね。…よいしょっと」

 

そう言いながら少女は先ほどまで一夏が座っていた椅子に座る。

 

「無理を言ってすまなかったね…。こんな場まで設けてもらって」

少女

「別にいいわよ。ちょっと驚いちゃったけどね。ある日突然ここに入ってきて「彼と話をさせてほしい」って言われた時には」

「申し訳ありませんでした」

少女

「…でも私だけじゃ多分、彼を立ち直らせることは出来そうになかったわ。それ程まで傷ついていたんだもの…。だから貴方達には感謝してるわ。私のマスターを助けてくれて…ありがとう」

「お役にたてたのなら嬉しいです」

少女

「貴方達の正体が気になるところだけど詮索するのはやめておくわ。悪い人じゃないのはわかったし、それにどうせこれきりなんでしょ?」

「ああ。もう会う事もないだろう。……彼を頼む」

少女

「言われるまでもないわ。彼は私のマスターなんだから♪」

 

そう言うとふたりは再度一夏の走って行った方角を見つめていた。

 

(彼を、あの子達を守ってやってくれ…。…スパーダの息子である貴方達ならば…」

(信じています…。叔父様、そして…義御父様…)

 

 

…………

 

一夏の部屋

 

一夏

「……ん…」

 

一夏は目を覚ました。やはりどうやら眠っていたらしい。

 

一夏

「…俺…眠ってたのか?……なんか、長い夢を見てた気が……はっ、そうだ!寝てる場合じゃねぇ!早くしないと皆が!…くっ、でも白式が…………!!」

 

 

…………

 

IS学園 指令室

 

真耶

「先輩…。皆…」

 

その頃真耶は指令室から皆の無事を願っていた……。するとそこに、

 

職員

「や、山田先生!大変です!」

真耶

「どうしました!?」

職員

「し、信じられないんですが…封印していた筈の白式のクリスタルが…消失しました!」

真耶

「!!そ、そんな!だってあれは」

 

~~~~~~~~~

とその時、指令室のアラームが鳴る。

 

真耶

「! な、何ですか!?」

職員

「……学園内にIS反応!…こ、これは!?」

 

 

…………

 

その時、一夏は走っていた。その手には白式のクリスタルが握られていた。

 

一夏

「誰が持ってきてくれたのかはわからねぇけど…今はそんな事気にしちゃいられねぇ!!反省文なら後で幾らでも書いてやる!百でも千でも万でも!!…千や万はきついなやっぱ」

 

そんな事を言いつつも一夏は走りを止めなかった。向かう場所は決まっている。

 

一夏

「…あの時、俺の心が弱かったから…。俺は…あいつらを助ける事が出来なかった…」…グッ!

 

一夏はクリスタルを持った拳を握りしめる。…その中でクリスタルが淡く輝き始める。

 

一夏

「…だけど、だけど何でか今は信じられる!火影も海之も…絶対生きてるって!!」

 

そして一夏の身体が光り出す。

 

一夏

「俺は戦う!あいつらのためにも!今度こそ守ってみせる!絶対に…誰ひとり死なせねえぇぇぇぇぇぇ!!」…カッ!!

 

 

…………

 

こうして一夏は復活した。白式・雪羅を纏い、戦い、守るために。

 

一夏

「…帰ってくる」

千冬

「…何?」

一夏

「火影と海之は…必ず帰ってくる!!」

鈴・シャル・簪・ラウラ

「「「!!」」」

一夏

「だからそれまでは…俺が戦う!」ジャキッ!ドンッ!

 

一夏はDアリギエルに向かっていく。

 

ガキィンッ!

 

Dアリギエル

「ドードー!マルデウシダナ、ソレトモウマカ?」

一夏

「牛でも馬でもねぇ!俺は織斑一夏だ!」

Dアリギエル

「ソウカヨ!オレハ」ドゴッ「ブッ!」

 

Dアリギエルが名乗りきる前に、一夏は思い切りのヘッドバッドを顔面にくらわした。

 

一夏

「いっててて…!これは何度も使えねぇな…」

Dアリギエル

「テメェ!ナノリノサイチュウデコウゲキスンノハ、ルールイハンダロガ!」

一夏

「お前らのルールなんて知るか!」

 

そう言うと一夏はトムボーイ+電撃をチャージしたアラストルとビームクローで斬りかかる。しかしDアリギエルはそれをリベリオンとイフリートで冷静に全て対処する。

 

ガキィィィンッ!ドゴッ!ドゴオォォォッ!キィィンッ!

 

一夏

「はぁぁぁぁぁ!」

Dアリギエル

「ケケケ!ミエミエナダナ!」

 

ガシッ!ガシッ!

 

一夏の繰り出されたアラストルとビームクローをDアリギエルはイフリートで掴み、止めた。

 

一夏

「剣を手で受け止めた!」

Dアリギエル

「ミエミエダッツッタロウガ!ソンクライノコウゲキ」ドゴォ!「グホッ!」

 

一夏はその瞬間、掴まれたアラストルから手を離してトムボーイを付けた拳で思い切りパンチを喰らわせた。

 

Dアリギエル

「イテテ…、テメェマタコシャクナテヲ…」

一夏

「武器が使えねぇなら出来る攻撃をすりゃいいんだ!そん位覚えとけ!」

Dアリギエル

「ナラコッチモブットバシテヤル!」

 

そんな一夏の戦いの様子を見ていた箒達は、

 

「い、一夏…?」

シャル

「なんか一夏ちょっと変じゃない?」

「あいつは元々変だけど…もっと変になったみたいね」

ラウラ

「あ、ああ。なんというか吹っ切れた様な感じがする…。一体何があったんだ?」

楯無

「…でもあんな攻撃は何度もできない筈よ」

セシリア

「…?そ、それはどういう事ですか?」

クロエ

「…白式のSEですよ。一夏さんの白式はSE消費量が普通のISよりも大きい機体です。そしてここに来られた時に既に息が上がっておられました…。これは想像ですが白式の最大スピードで来られたんだと思います。アラストルとトムボーイの機能も使って」

「…そうか。一夏のSEは多分殆ど残っていない。恐らく荷電粒子砲も零落白夜も使えない位…」

楯無

「ええ。だからこそどんなに少しでもダメージを与えようとしているんじゃないかしら」

「そんな…」

楯無

(…それにあの敵は火影くんのコピーだとしたら…決して単なる馬鹿じゃない。もしかしたら向こうもその考えに気付いているかも…)

 

……そして楯無の不安は的中した。暫く撃ちあった後、一夏の様子に変化が見られた。

 

ガキィィンッ!

 

一夏

「ゼィ、ゼィ、ゼィ…」

Dアリギエル

「ケケケケ!ドウシタ?サッキマデヨリイキオイガオチテルゾ?エネルギーヤベェノカ?」

一夏

「!…くっ」

Dアリギエル

「アノイキヅカイ、ソシテタンジュンバッカナコウゲキ。テメェ、ハナカラアトガネェヨウダナ!」

 

ドゴォォォォッ!

 

一夏

「ぐああ!」

 

片手のイフリートによる攻撃を正面から受ける一夏。

 

Dアリギエル

「エネルギーヲネコソギツカワセテカラ、ユックリイタブッテヤロウトオモッタガ…モウアキタ」

一夏

「くっそ…!」

Dアリギエル

「キタイハズレモイイトコダゼ。マエノオレラハアンナズタボロデモ、オレラヲハンゴロシ二シタッテノニヨ。マ、シンダヨワッチィヤツラノコトナンザドウデモイイガナ」

一夏

「…!」

Dアリギエル

「サテ…モウイイカゲンアキタ。…ソンジャ!」ジャキッ!ドンッ!

 

そういうとDアリギエルはリベリオンを構え、全速で一夏に向かう。

 

セシリア

「一夏さん!!」

「一夏!逃げろぉ!!」

Dアリギエル

「ソロソロ、シニヤガレェェェ!!」

 

Dアリギエルはリベリオンを動かない一夏に向けて振り下ろした。……しかし、

 

ガキィィィィィンッ!!

 

Dアリギエル

「!」

 

攻撃は一夏の雪片によって見事に受け止められた。

 

「一夏!」

楯無

「あ、あいつの攻撃をあんな綺麗に受け止めた!」

一夏

「……確かに、滅茶苦茶強えぇな。……だが、それだけだ!」

Dアリギエル

「ナニィ~?」

一夏

「…お前ら…自分達が火影と海之っつったな?あいつらが弱いっつったな…?」

 

ドンッ!!

 

Dアリギエル

「!」

 

一夏は全力で押し返す。

 

一夏

「ざけんな!あいつらがお前らに負けたのは…お前らが強かったからじゃねぇ!俺の…下らねぇ馬鹿野郎のせいで大きな傷を負ってたからだ!さっきお前らが本気で戦って死にかけたって言ったのがいい証拠だ!そうでなきゃあいつらがお前らに負ける訳ねぇ!!」

Dアリギエル

「…!」

一夏

「あいつらはお前らなんかとは全く違う!お前らなんかよりずっと強えぇ!あいつらはいつも大切なもの、守るもののために命がけで戦ってんだ!」

 

ガキィィィン!

 

一夏

「お前らがやってんのは只の暴力だ!それ以外の何でもねぇ!!」

 

ガキィィィン!

 

Dアリギエル

「……!」

千冬

「一夏!」

シャル

「凄い…一夏が押している!」

一夏

「お前らなんか火影や海之と比べる価値もない!あいつらみたいな信念も無い!自分の力を徒に振り回してるだけのクソヤロウだ!!」

 

一夏はそういい放った。それは同時にあの時の自分にも向けた様に見えた。

 

千冬

「……あいつ」

Dウェルギエル

「ナニワラッテンダテメェ!オラァァァ!」ズドンッ!!

千冬

「はぁぁぁぁ!」ズドンッ!!

 

 

ガキキキキキキキキキキキ!!

 

 

Dウェルギエルと千冬はお互い突進し、黒い閻魔刀とレッド・クイーンの剣先が激しくぶつかって力の押し合いになる。

 

Dウェルギエル

「オオオオオオオ!!」

千冬

「ぬぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 

キィィィィィィィィンッ!!

 

 

暫く押し合ったが決着がつかず、両者離れる。

 

Dウェルギエル

「ククククク…イイネイイネ!マエノオレホドジャネェガ、ホントテメェモヤルナァ?」

千冬

「私如きの力を跳ね返せない様じゃ貴様も海之には程遠いな。一夏の言う通りだ」

Dウェルギエル

「ア~?テメェ、カンチガイシテネェカ?」

千冬

「…!」

Dウェルギエル

「モシカシテオレモアイツモ、ホンキデヤッテルトオモッテンノカ?」

 

Dウェルギエルの不気味な言葉に千冬は顔が険しくなる。そして一夏に押し返されたDアリギエルは、

 

Dアリギエル

「……ナカナカイッテクレルジャネェカ、ガキガ!」

 

そういうとDアリギエルは剣を向き直し、

 

Dアリギエル

「タシカニ、ヤツラ二オレラハ100%デタタカッテシニカケタ。…ダガナ」ドンッ!!

一夏

「!!」

 

ガキィィィンッ!!

 

Dアリギエルの凄まじく素早い剣が襲い掛かる。

 

一夏

「ぐっ!」

Dアリギエル

「テメェナンカニャ…50%デモジュウブンスギルゼェェ!」

 

ズドドドドドドドドドッ!!

 

一夏

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

Dアリギエルの凄まじい突進と連続突きが襲い掛かる。そのパワーは先ほど迄よりも更に強かった。その威力に一夏が吹っ飛ぶ。

 

千冬

「一夏!」

 

ガキンッ!

 

Dウェルギエル

「タニンノシンパイヲスルヨユウガアンノカァ?…テメェニヨ!」

千冬

「くっ!さっきまでよりも速い!」

Dウェルギエル

「チョイパワーヲアゲテミタノサ!サァテメェハアトドレクライモツカナァ~?」

千冬

「…言った筈だ!私は…負けられんのだ!!」

 

敵の攻撃に千冬は一夏の救援に行くことができない。

 

一夏

「ぐっ…、くっそ…」

「一夏!それ以上は無茶だ!」

一夏

「大丈夫だ!それより皆は下がってろ!まだ戦えるレベルまで回復していないだろ!」

セシリア

「ですが!」

楯無

「それは貴方のほうこそでしょう!零落白夜も使えないのに無茶だわ!」

一夏

「俺は大丈夫!!」

全員

「「「!!」」」

 

皆全員、一夏の力強い言葉で黙ってしまう。

 

一夏

「こんな事で諦めたら…もうすぐ帰ってくるかもしれねぇ火影と海之に怒られるからな!」

 

一夏は笑みを浮かべてそう言った。

 

「…もうすぐ…帰って、くる…!?」

「…海之くんと火影くんが…!?」

Dアリギエル

「ナ~二フザケタコトイッテンダァ~?マエノオレラハシンダゼェ?」

一夏

「あいつらは死んでねぇ!」

 

そう言って一夏は再び前に出て雪片を構える。

 

Dアリギエル

「マダアキラメネェノカ?」

一夏

「当たり前だ!言った筈だぜ。あいつらが帰ってくるまで戦うってよ!」

Dアリギエル

「ケケケ!キアイダケハイイガヨ?オレハマダゼンリョクノハンブンモダシテネェンダゼ?」

ラウラ

「なん、だと…!」

シャル

「そんな…まだまだ力を残してるの…?」

 

皆はその言葉に驚きを隠せない。しかし一夏だけは違った。

 

一夏

「へへ…そうかい。なら安心したぜ。そんな程度なら俺でも余裕で倒せるからな!」

 

嬉しそうにそう言う一夏だが一夏の方も決して余裕がある訳なく、SEも危険領域寸前、寧ろ満身創痍に近い状態だった。

 

一夏

(流石火影達や千冬姉を追い詰める程の奴等だ…。零落白夜も使えねぇしSEも余裕がねぇ、今のままの俺じゃとても敵わねぇ…どうする?………)

 

 

(苦しみや恐怖も己の糧とするのだ。そうすれば闇も光となる)

 

(君はもうその方法を知っている筈だ)

 

 

一夏

「!」

 

 

(これが俺の力だ!お前が蔑んだ俺の力だ!)

 

 

一夏

「…く」

 

一瞬、言葉がよぎるが同時にあの時の映像もフラッシュバックする一夏。しかし、

 

 

(自信を持って。迷う必要なんてないわ)

 

 

一夏

「!……」スッ

 

すると一夏は雪片を下ろして無防備の体制になる。

 

シャル

「!剣を下ろした?なんで!?」

 

そしてそれを見て唯一それを使った事があるラウラが気付いた。

 

ラウラ

「!…まさかお前、またアレを使うつもりか!?」

一夏

「……」

 

一夏の沈黙は肯定の表れだった。

 

「あれって…DNSというやつか!?正気か一夏!」

セシリア

「無茶ですわ一夏さん!」

楯無

「止めなさい一夏くん!危険すぎるわ!」

「また暴走でもしたら洒落にならないわよ!」

 

当然皆は止める。そんな皆に対して一夏は言う。

 

一夏

「だがそれしか今の俺があいつらと戦う方法は無ぇ。それに…あの声はそうは言ってなかった!信念を持って進めって、自信を持って迷うなって!」

ラウラ

「…あの声?何を言っている!」

一夏

「大丈夫だ…。俺を信じてくれ!」

クロエ

「一夏さん!」

 

そして一夏は両手を広げて力強く訴えた。

 

一夏

「ドレッドノートシステム!もう一度俺と白式に力を貸せ!!皆を守るための!今を切り開くための力を!!」

楯無

「一夏くん!」

「一夏よせぇぇぇ!」

 

そして白式のインターフェースにあの文字が浮かんだ。

 

 

ーDreadnoughtsystem 起動ー

 

 

ゴオォォォォォォォォォォォォォ!!

 

一夏の力への強い願望がDNSを起動させた。そして同時に一夏の身体が白式ごと黒い炎に包まれる。

 

一夏

「ぐあああああああああああああああ!」

 

そしてやはりその炎に苦しむ一夏。

 

セシリア

「ああ!!」

シャル

「い、一夏が真っ黒な炎に包まれた!?」

Dアリギエル

「ケケケケケケケケ!」

 

Dアリギエルは苦しむ一夏を見て笑っている。そしてその姿はこちらも確認していた。

 

千冬

「…!一夏の奴!またDNSを!」

Dウェルギエル

「カカカカカカ!ナ~ニヤッテンダァ、アレ?」

千冬

「くっ!」ドンッ!

Dウェルギエル

「オット!ニゲラレネェトイッタハズダゼェ~?」

千冬

「どけぇぇぇぇ!!」

 

千冬は全力でDウェルギエルを排除しようとするが敵は繰り出される剣を全て跳ね返す。

 

Dウェルギエル

「オ~、テメェモマダチカラ、ノコシテタカァ!」

千冬

「どけと言っている!貴様に構ってる暇はない!」

Dウェルギエル

「テメェニハナクトモ、オレニハアルンダヨネェ~!」

 

Dウェルギエルに邪魔されて助けに向かえない千冬。一方皆は一夏を止めようと近づくのだが、

 

「くっ!なんて炎!とても近づけない!」

一夏

「ああああああああああああああ!!」

ラウラ

「一夏!白式を解除しろ!」

楯無

「死んでしまうわよ一夏くん!」

「一夏止めろ!止めてくれ!」

 

皆必死に一夏に解除するよう呼びかける。

 

一夏

「負けて、堪るか…!負けて堪るかぁぁぁ!!」

 

しかし一夏は焼かれながらも止めようとしない。

 

「何言ってんのよ!本気で死にたいの!?」

一夏

「……こんな」

クロエ

「…えっ?」

一夏

「こんな痛みがなんだってんだ!!あん時、あん時火影と海之から食らった拳はもっと…もっと痛かったんだぁぁぁぁぁ!!」

 

絶叫を上げながらも自分が白騎士の時に受けた火影と海之の拳の痛みを思い出し、負けまいとする一夏。

 

 

…………カッ!!

 

 

するとその時、不思議な事が起こった。

 

シャル

「…え!?」

セシリア

「な、なんですの!?黒い炎が…白い光に!」

 

一夏を覆っていた漆黒の炎が突然、光を放ち始めた。通常ならば炎は光によって爆発霧散する筈なのだが。その光はどんどん強くなり、

 

「一夏!」

一夏

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

……シュバァァァァァァァァァァッ!!

 

 

「うわっ!」

「な、何!?」

千冬

「…一夏!!」

Dアリギエル・ウェルギエル

「「!?」」

 

あまりの光の強さに皆も敵も怯んだのだった…。

 

 

…………

 

そしてその様子はこちらも見ていた。

 

オーガス

「…!」

スコール

「…何?…あの光は…?」

オーガス

(……違う、DNSに…あのようなものは…)

 

 

…………

 

「嘗ての私が望んだ力……。今思えば…忌々しき力だったかもしれん。しかしあの時の力が…こうして未来溢れる少年の力となるなら…、それだけでも価値があるというものだ。……戦い抜け。君の信念のままに…」

 

 

…………

 

 

……シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……

 

 

「くっ…い、一夏!」

セシリア

「どうなって……!」

千冬

「あれは…!?」

 

一夏と白式を覆っていた光は徐々に弱まっていき、皆は光の中にいる筈の一夏を見て…一瞬言葉を失った。

 

 

白銀のIS

「……」

 

 

光が晴れて現れたIS。それは従来の物とは大きく違った。

全体的に白く輝く全身装甲で、胸部と鋭い爪が付いている脚部には青い装甲が見られる。

猛禽類を思わす様な頭部。その頭部には左右に開く様な形をしている翼の様な装飾があり、その真ん中には天使の輪に似せたリングの様な角飾り。

右手には雪片でもアラストルでもない金色に輝く剣。色こそ違うがその刀身にはどこかしら雪片の面影がある。

最も特徴的なのは右側しか生えていない鳥に似せた様な巨大な翼。そして左側には左腕全体を覆いつくす程の青き盾があった。

 

セシリア

「あ、あれは…?」

Dアリギエル・ウェルギエル

「「……?」」

千冬

「…白騎士…、いや違う…!」

セシリア

「…一夏…さん?」

 

その空間にいる誰もがその未知のISに驚いている様子だ。そして、

 

白銀のIS

「……クレド」

クロエ

「…!その声は一夏さん!」

「一夏!お前なんだな!…良かった!」

一夏

「白式…駆黎弩(クレド)…。それがこいつの名前…。そしてこれは…雪片・参型」

「白式・駆黎弩(クレド)…?」

シャル

「それが雪片?それに参型って!」

一夏

「その説明も後だ…」

 

そう言いながら一夏は先ほど名乗った雪片・参型を構えた。

 

一夏

「勝負はまだ終わっちゃいねぇぞ!!」




※次回は再来週の3日(土)になる予定です。

本業が最近忙しくて遅れます事、本当にすみません。

一夏の白式の新形態詳細は次回で明らかにしていく予定です。もしよろしければお楽しみに。戦いはまだ続きます。


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Mission161 隻翼の白魔騎士 白式・駆黎弩

「君の友は今も生きるために戦っている。そして必ず真実を教えてくれる」

ふたりからそう聞かされた一夏は自らもまた再び戦う事を決意。信念を持って諦めずに進む事をふたりに約束し、去って行った。…やがて現実に帰ってきた一夏を待っていたのは封印されていた筈の白式のクリスタル。一夏はそれを手に取り、仲間達とドッペルゲンガーが戦う場所に向かって飛び立つ。現場に到着した一夏はDウェルギエルを千冬に任せ、自分はDアリギエルと一対一となるが強さは相手の方がやはり上。更にここまでの移動でSEにも余裕がない。
「どうすれば…」そう思った一夏がとった手段はあの忌々しきDNSであった。皆が止める中、一夏は夢で出会った声に導かれ、DNSを起動させる。すると地獄の苦しみに必死に耐える一夏と白式にその時、不思議な事が起こるのだった…。

「こいつの名前は…白式・駆黎弩!」


DNSを起動させた一夏が纏っていたのは白式・雪羅でも白騎士でもなかった新たなIS。驚く皆やDアリギエル・ウェルギエルに一夏は言った。

 

一夏

「こいつの名前は…百式・駆黎弩!そしてこれは…新たな雪片、雪片・参型だ!」

 

そう言いながら一夏は新たな雪片、雪片・参型を構える。対してDアリギエルは再びリベリオンを構え直す。

 

一夏

「まだ勝負は終わっちゃいねぇぞ!」

Dアリギエル

「オモシレェ!」

 

ドンッ!!ドンッ!!

 

一夏

「おおおおおおおお!!」

Dアリギエル

「オラァァァァァァ!!」

 

ガキィィィィンッ!!

 

互いの剣が激しくぶつかった。そしてその手ごたえに互いが反応する。

 

キィィィィィンッ!!

 

一夏

「感じる…!身体に力が巡ってくるのを!」

Dアリギエル

「ケケケ!サッキヨリスウダンパワーヲマシタヨウダナ!ソイツモニクシミノチカラカ?」

一夏

「そんなんじゃねぇ!」

 

ドゴォッ!ドゴォッ!

 

Dアリギエルの右手イフリートと一夏の左腕の盾がぶつかる。

 

一夏

「これは憎しみなんかじゃない!お前なんかには絶対わかんねぇ力だ!」

Dアリギエル

「ソウカヨ!ソンジャナニモキカネェ!」

 

ドゴォォォォッ!

 

Dアリギエルが一夏を殴り飛ばす。

 

一夏

「ぐっ!」

Dアリギエル

「ダカラソノママコロシテヤルゼ!」

 

そういうとDアリギエルは左手にもイフリートを展開し、素早くそれにSEをチャージする。

 

Dアリギエル

「クダケチリヤガレェェェ!!」…ズドォォォォンッ!!

一夏

「!」

 

左右のイフリートから黒きメテオが発射された。それは真っすぐ一夏に向かい、

 

ドガァァァァァァァァァンッ!

 

命中し、凄まじい爆煙を上げた。

 

「一夏!」

ラウラ

「な、なんて威力だ!」

クロエ

「幾ら白式でもあんな攻撃まともに受ければ!」

Dアリギエル

「カカカカカ!イセイガヨカッタノハイッシュンダケ………!」

楯無

「み、皆見て!」

 

何かに気付くDアリギエルと楯無。すると、晴れた煙の中にいたのは…、

 

一夏

「ふぅ~…」

 

左腕の盾でメテオを防いだらしい無傷の一夏であった。

 

 

「イージスの盾」

白式・駆黎弩の左腕にある腕全体を覆いつくすほどの大きな盾。Dアリギエルのメテオを完全に防ぎ切る程の凄まじい強度を誇る。またこの盾で攻撃を受けるとダメージをSEへと自動変換して吸収し、自分のSEとする事ができる。

 

 

セシリア

「一夏さん!良かった!」

Dアリギエル

「ホォ~…イマノヲヨクフセダナ…」

一夏

「こんどはこっちのお返しだ!」

 

キュイィィィ……ズドドドドン!!

 

一夏のイージスの盾の中心部から荷電粒子砲が拡散して放たれた。

 

 

吹雪(ふぶき)

白式・雪羅の荷電粒子砲の発展型。

イージスの盾内部に搭載されており、射撃が苦手な一夏に合わせて拡散タイプへと進化した。

 

 

Dアリギエル

「ケケケ!コノテイドノホウゲ…!」

 

キィィィィィンッ!

 

すると一夏は真っ向から白い電光を纏った雪片・参型での突進突きを繰り出した。敵にとっても急だったらしく、真剣白刃取りで辛うじて受け止める。

 

 

「雪片・参型」

一夏の雪片・弐型がDNSの影響によって変化した新たな雪片。それまでの雪片には見られない金色に輝く装飾や柄をしているが刀身部分はどこかしら雪片の面影がある。雪片と魔剣アラストルの両方の能力を受け継いでおり、それぞれ別々だった機能をこれのみで発動できる様になった。

 

 

一夏

「やっぱやるな!今のを白刃取りするなんて!」

Dアリギエル

「イマノハ、チトビビッタゼ!サッキノハオトリカ!」

 

ドゴォォォッ!

 

腕が使えないDアリギエルは横から蹴りを入れるがそれもまた一夏の盾で防がれる。

 

一夏

「そのやり方はもう何発も喰らって知ってる!」

Dアリギエル

「イイウゴキダ!ダガ、テガツカエナキャドウシヨウモネェダロ?」

一夏

「そいつはどうかな!」

 

 

ヴィィィィィィィンッ!

 

 

すると突然、白式の背部右側にある大きな翼が白く光り出した。

 

一夏

「おらぁぁぁぁ!」

 

ズバァァァァァァン!!

 

そして一夏はその光の翼でDアリギエルを薙ぎ払う様に斬りつけた。

 

Dアリギエル

「!」

 

だが当たる直前、咄嗟の瞬間に敵は後方への瞬時加速でかわす。

 

Dアリギエル

「ヒュー!マサカハネデキッテクルトハナ」

 

しかし一瞬遅かったのか腕を少し斬った様であった。……それも少しして回復する。

 

 

締雪(しまりゆき)

白式・駆黎弩の背部右側にある翼による攻撃。原作のエンゲル。

翼全体にエネルギーを集め、前方広範囲の敵をカッターの様に斬りつけ、薙ぎ払う。

 

 

一夏

「ちぃ!もう少しだったのに!」

Dアリギエル

「モウスコシ~?イッタハズダゼ?マダマダホンキジャネェトヨ!」

一夏

「あんまり見くびるんじゃねぇぞ!その余裕が命取りにならなきゃいいけどな!」

 

そして互いに再び戦闘に突入した。

 

「一夏…!」

シャル

「一夏の動き…今までと違う」

セシリア

「ええ…。あの時の暴走状態の白騎士ほどではありませんが…今までの白式より遥かに速いですわ!」

「でもなんで白騎士じゃなくあんな形になったのかしら…?」

クロエ

「……理由はわからないですけど…多分、DNSによって三次移行を果たしたのだと思います」

「…三次移行…!」

ラウラ

「それに先ほどの突進の速さ。まるでアラストルとトムボーイの全開みたいな動きだった」

シャル

「でもアラストルは出してないのに…」

セシリア

「…そういえば先ほどの剣の刀身に稲妻が見られました。もしかしてあの剣…アラストルの能力も兼ねているのでは…?」

「それが新しい雪片、一夏の力…」

クロエ

「…ですが先ほど敵が言っていた通り…まだまだ本気ではない様子。例え一夏さんと白式が強くなられたとしても…」

楯無

「ええ…力量でいえば正直まだ敵わないでしょうね…。……でも」

「……どうしたのお姉ちゃん?」

楯無

「……これは…単に想像なんだけど……もしかすると……」

 

 

…………

 

一夏がDアリギエルと戦いを繰り広げていた時、千冬とDウェルギエルとの戦いも続いていた。

 

ガキィィンッ!キィィィンッ!ガンッ!キンッ!キィィィンッ!

 

黒き閻魔刀とレッド・クイーンが激しくぶつかり、

 

ズドドドドドドドッ!

ババババババババッ!

 

幻影剣とブルーローズ、そして烈火&熾火の弾が飛び交う。

 

Dウェルギエル

「シャラクセェ!」キキキキキンッ!

 

幻影剣が飛べば、

 

千冬

「はぁぁぁぁぁ!」ヴゥンッ!ヴゥンッ!

 

ドガガガガガガァンッ!!

 

レッド・クイーンからのドライヴが発動前のそれをかき消す。

 

Dウェルギエル

「ケケケケケ!テメェソンナワザ、サッキハツカエナカッタンジャネェノカ?」

千冬

「使えないのであれば覚えれば良いだけの事だ!」

Dウェルギエル

「カカカカ!バージルヤダンテイガイニ、コンナヤツガイタトハナ!ダガソレデモショセンニンゲンダ!」

千冬

「黙れ!]

 

ガキィィィィンッ!!

 

千冬

「諦めさえしなければ必ず希望はある!そして人間は成長するのだ!してみせる!」

Dウェルギエル

「ナラヤッテミヤガレオンナァァ!!」

 

両者の戦いも未だ終わりが見えなかった。……だが千冬の頭の中には疑問が浮かんでいた。

 

千冬

(妙だ…。先ほどから極端にアレを使う事が減った。何故使わない…?)

 

 

…………

 

ズドドドドドドドドドッ!!

 

Dアリギエルのエボニー&アイボリーによる銃弾の嵐。一夏はイージスで受け止めながら距離を取りつつ、

 

一夏

「防いでるばかりじゃ駄目だ!」

 

ヴゥヴゥヴゥヴゥンッ!

 

すると一夏の近くに白銀色に輝く小型の槍の様なものが出現した。

 

一夏

「喰らえぇぇ!!」

 

ズドン!ズドン!ズドン!…

 

それらは僅かな時間差でDアリギエルに向かっていく。

 

Dアリギエル

「ソンナミエミエノノロノロダマ!!」

 

Dアリギエルは前から真っすぐ飛んでくるそれを撃ち落とそうとするが、

 

ザシュッ!

 

Dアリギエル

「!」

 

突然前からでなく後ろから槍が飛んできた。見ると前からだけでなく周辺にも無数の同じ白き槍が自分を狙う様に展開していた。

 

 

粉雪(こなゆき)

白式の新たな遠隔兵装。原作のジャヴェリン。

白銀に輝く小型の槍の様な形状をしているビーム弾がロックオンした相手に向かって突撃する。時間差で発射できるスロー弾、もしく超高速弾と弾速を使い分ける事が可能。また相手の周囲に展開して動きを封じたり、一斉に狙い撃つ等の使い方もできる。

 

 

一夏

「受けてみろぉ!!」

 

ズドドドドドドドドドッ!

 

前と周辺から一斉に槍が向かう。

 

Dアリギエル

「ナメンジャネェ!!」ズドドドドドドドドドッ!!

 

ババババババババババババッ!

 

Dアリギエルの凄まじいエボニー&アイボリーの乱射で槍は次々に撃ち落されていく。

 

Dアリギエル

「カカカカ!ソンナテイド」ザシュ!「!ナニィ~!?」

 

突然の貫かれた様な攻撃に驚くDアリギエル。見ると一夏の手には先ほどとは違い、巨大な槍が握られていた。

 

 

凍雪(こおりゆき)

背丈ほどもある白く輝く大型の槍を召喚する。原作のシュペアー。

ビーム兵装が多くなった白式・駆黎弩の中での実体剣でもある。直接手に持って攻撃したり、ロックオンした相手に向かって投擲する事もできる。その場合はトムボーイと掛け合わせれば更に高速で投げる事も可能。槍そのものが大きいので例え直撃しなくても衝撃が大きい。

 

 

一夏

「おぉぉぉぉぉぉ!!」ビュンッ!

 

手に持った槍を高速で飛ばす一夏、

 

Dアリギエル

「チッ!」ガキィィィンッ!「グッ!」

 

それに対して飛ばしてきた槍を切り払うDアリギエル。

 

ガキィィィィィンッ!

 

その一瞬で一夏は槍を持って突っ込み、今度は槍と剣の戦いに突入する。

 

Dアリギエル

「ホントアキラメガワルイヤロウダ!ダンダンムカツイテキタゼ!オレハオマエヨリツエェッツッタロウガ!」

一夏

「覚えが悪いんだ!あと諦めも!」

 

ガキィィィンッ!ガキッ!ガキキキンッ!

 

一夏は手に持つ槍で果敢に攻める。それに対して射程が短いリベリオンで跳ね返すDアリギエル。衝撃は強いものの一夏が槍を使い切れていないのが原因らしかった。

 

一夏

「ハァ、ハァ、ゼィ、ゼィ…」

Dアリギエル

「マダマダツカイコナセテネェヨウダナ~?ソンナンモタネェホウガマシジャネェ?」

 

挑発する敵に対し、一夏は笑って言い返した。

 

一夏

「へっ!てめぇこそ使い慣れてるわりにゃ随分俺を倒すのが遅えじゃねぇか!」

Dアリギエル

「! テメェェェェェェ!」

 

ドガァァァァァンッ!

 

一夏

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

一夏の言葉に怒ったらしいDアリギエルは一夏を凄まじい勢いで叩き飛ばす。その瞬間、敵は素早い瞬時加速で一夏に最接近する

 

一夏

「くっ!」

Dアリギエル

「イイカゲンニィィブッツブレロォォォォォ!!」

 

止めのリベリオンが一夏に振るわれかけた…その時、

 

 

ズドドドドドッ!

ズギュ――ンッ!

ビュビュビュンッ!

 

 

一夏・Dアリギエル

「「!!」」

 

その瞬間、衝撃波やレーザー等の攻撃がDアリギエル目掛けて飛んできた。急遽避けるDアリギエル。

 

Dアリギエル

「コンドハナンダァ~!?」

一夏

「い、今の攻撃は…!」

「無事か一夏!」

 

やはりそれは箒達による攻撃であった。

 

一夏

「箒!」

セシリア

「一夏さんと先生だけに戦わせはしません!」

一夏

「セシリア!」

「いつまでも好き勝手にはさせないわ!」

楯無

「後輩くんがこんなに頑張っているのに何もできないなんて私のプライドが許さないのよね~♪」

一夏

「鈴に楯無先輩まで!」

 

そしてこちらも、

 

Dウェルギエル

「…テメェラ…!」

ラウラ

「ご無事ですか教官!」

千冬

「ボーデヴィッヒ!」

「私達も手伝います!」

シャル

「まだ僕達は終わってない!」

クロエ

「ええ!」

千冬

「更識!デュノア!クロニクル!」

一夏

「皆、動けるのか!?」

「忘れたか一夏?私の紅椿の能力を!」

一夏

「箒の……あ!」

セシリア

「そうです!紅椿の絢爛舞踏の能力で私達のISは再び動けるようになりました!」

千冬

「しかしSEは回復できてもダメージが!」

シャル

「問題ありません!ダメージはあってもSEさえあれば戦えます!」

「それに私達…一夏の言葉で勇気付けられたんです。海之くんと火影くんが絶対帰ってくるって!」

クロエ

「私も信じます。兄さん達が必ず帰ってくると!」

「あいつに一言言うまでは例え死んでも甦ってやるわよ!」

「絶対に勝つぞ!皆でな!」

千冬

「…お前達…」

楯無

「織斑先生!奴らを倒す方法は先生と一夏くんの零落白夜しかありません!私達が全力で奴らを止めます!その隙を狙ってください!」

一夏

「俺もそうするしか方法が無いと思ってますけど…でも奴らのスピードじゃ当てられるかどうか!」

「大丈夫だ!手はある!」

Dアリギエル

「ナニヲゴチャゴチャイッテヤガンダテメェラ!!」

Dウェルギエル

「イイカゲン…メザワリダ!!」

 

二体の怒りを含む声が大きく響き、一夏達に向かってくる。

 

楯無

「来るわよ皆!手筈通り動いて!それから一夏くんと先生は下がってください!」

一夏

「な、なんだって!?」

千冬

「どういうつもりだ更識!」

楯無

「戦いながら通信で説明します!」

 

 

…………

 

その頃、一夏達の戦いの様子をオーガスとスコールは、

 

オーガス

「……」

スコール

「どうやらあの子達やブリュンヒルデはまだまだ諦める気は無いみたいね」

オーガス

「…何か嬉しそうだな?」

スコール

「そう?嬉しいっていうより…なんか段々見ていて楽しくなってきたわ。…「想い」の力っていうのかしら?それがあの子達を動かしているのね」

オーガス

「…下らん。そんな貧弱なものに頼っている人間は所詮そこまでだ」

スコール

「……」

 

スコールの言葉をオーガスはあっさり斬り捨てた。

 

オーガス

「第一、そんな生ぬるい感情等、戦いではなんの役にも立たないというのはお前やオータムが最もよく知っている筈だが?」

スコール

「…………そうね」

 

 

(貴様らぁぁぁ!よくもぉぉぉ!)

 

(お前らのせいで!お前らのせいでぇぇ!)

 

(絶対…絶対許さない!地獄から呪ってやる!)

 

(力が…強い力があれば…生き残れるんだぁぁぁ!)

 

(死にたくない…死にたくないよぉぉぉぉ!)

 

 

スコール

「……」

 

スコールは頭に過ったものを振り払うかのように頭を横にふり、話題を変える。

 

スコール

「それにしてもあの織斑一夏のIS…何故あのような変化を遂げたのかしら?」

オーガス

「…さぁな」

(あれは明らかにDNSによるもの…。しかしあれは…私も知らない悪魔の姿…。何故…、奴の中の何かが特性を変異させたというのか…?)

 

オーガスにもその答えはわからなかった様である。

 

スコール

「…そういえば聞きたかったんだけど…何故貴方は織斑一夏のISにDNSを?」

オーガス

「そんな事か、単なる余興だ。あとMのためでもある。怨敵が強い程自らも強くなろうと思うだろうからな。現に今Mはリハビリと訓練に明け暮れているだろう?クククク…」

スコール

「………そ。…ところでもし本当にアレがあの子達に倒されたらどうするの?」

オーガス

「どうもこうも、どうもせん。先も言った様にアレの本来の役割はもう終わっている。最早どうなろうと構わん。……それに」

スコール

「…それに?」

オーガス

「…いや、もしそうなった時に説明してやる。ククククク…」

 

 

…………

 

箒・楯無

「「はぁぁぁぁぁ!」」

簪・クロエ

「「たぁぁぁぁぁ!」」

 

ガキィィィィンッ!ガキキキキキンッ!

 

その頃、箒達は正に怒涛の攻撃を仕掛けていた。戦術で言えば単純かもしれない。しかしそれでも其々の近接武装による箒達の必死の攻撃。だが敵はそれさえも受け止める。

 

Dアリギエル

「コレデコウゲキカヨ!」

Dウェルギエル

「シネェ!シネェェェ!」

 

ドガガガガガガガンッ!!

 

箒・楯無

「「うわぁぁぁ!」

簪・クロエ

「「きゃあぁぁ!」

 

そして同時に切り払うDアリギエルとウェルギエル。

 

ラウラ

「喰らえ!」キィィィィィンッ!

 

ラウラのAICが起動し、それがDアリギエル達に向かう。

 

Dアリギエル

「ンダコリャ?」

Dウェルギエル

「ンナコトシタッテムダダゼ!」バババババババッ!

 

Dウェルギエルの五月雨幻影剣がラウラの上空に展開され、一気に向かう。

 

ラウラ

「その攻撃は海之との戦いでわかっている!」

シャル

「アンバーカーテン!」

 

ガキキキキキキキッ!

 

シャルのカーテンがそれを防ぐ。

 

ラウラ

「今だふたり共!」

セシリア

「ティアーズ!」

「山嵐!」

 

ズドドドドドドドドドッ!!

 

ふたりのビットとミサイルの攻撃が向かう。しかし、

 

Dウェルギエル

「ナメテンジャネェゾ!」

 

…バシュゥゥゥゥゥゥッ!!

 

Dアリギエル

「ナニヤロウトムダナンダヨ!」

 

ズドドドドドドドドッ!!

ボガガガガガガガガンッ!!

 

DアリギエルとウェルギエルはAICの拘束を自分で振り切った。そしてエボニー&アイボリーによる素早い射撃でビットと山嵐のミサイルを撃ち落とす。

 

セシリア

「!」

ラウラ

「AICを自力で振り払っただと!」

 

ズガガガガガガッ!!

 

セシリア・簪

「「きゃああああ!」」

ラウラ・シャル

「「うわああああ!」」

 

Dウェルギエルの次元斬がセシリア達に襲い掛かり、吹き飛ばされる。

 

箒・楯無

「「でやぁぁぁぁ!」」

鈴・クロエ

「「はぁぁぁぁぁ!」」

 

ガキキキキキキンッ!

 

そこにその隙を狙って再び攻撃を仕掛ける箒達。既に息は上がっているが彼女達の攻撃は止まない。

 

Dウェルギエル

「ナゼダ?コレホドマデイタメツケラレテ、ナゼキサマラハアキラメネェンダ?」

Dアリギエル

「アキラメッツウノヲシラネェバカナンジャネ?」

「貴様らと私達の力の差等とっくに知っている!敵わないという事も!だが!」

 

ガキィンッ!

 

楯無

「例え敵わないのがわかっていてもそれであっさり引くほど私達はまだ成長出来てないのよ!」

 

ガキィィンッ!

 

「それにさっき言った筈よ!あいつに会うまでは死んでも諦めないってね!」

 

キィィィィンッ!

 

クロエ

「私には命に代えてもしなければならない使命があるのです!そのためにも諦めません!」

Dウェルギエル

「ナラアキラメルマエニコロシテヤラァ!」

 

ズガガガガガガガガガガッ!

 

「ぐあっ!!」

鈴・クロエ・楯無

「「「きゃあ!!」」

Dアリギエル

「ダラシネェナァ!」

Dウェルギエル

「ヨッテタカッテソンナモンカァ!」

ラウラ

「まだまだぁぁぁ!」

シャル

「はぁぁぁぁ!」

セシリア

「たぁぁぁぁ!」

 

キィィィィィンッ!

 

吹き飛ばされた箒達の後ろからラウラ、シャル、セシリアが交代する形で斬りかかる。

 

Dアリギエル

「ホンットキサマラシツケェナ!」

セシリア

「言った筈ですわよ!私達は絶対諦めないと!」

 

キィィィンッ!

 

シャル

「あの人達にもう一度会うまでは死ねないんだ!」

 

ドゴオォォォォン!

 

ラウラ

「私達のこの気持ちだけは例え貴様達にも絶対破壊できん!」

Dアリギエル

「ソウイウノガジャマナンダヨ!!」

Dウェルギエル

「ザコドモガァァァ!!」

 

ドガガガガガンッ!

 

シャル

「うわぁっ!」

セシリア

「きゃあ!」

ラウラ

「ぐあっ!」

 

シャル、セシリア、ラウラ達の攻撃も防がれてしまった。

 

「行くよケルベロス!」

ケルベロス

「グルアァァァァァァァ!!」ズギュ―――ンッ!

「山嵐!」ズドドドドドドドンッ!

 

その時ケルベロスの氷のブレスと再度簪の山嵐のミサイルが敵に向かって飛んできた。

 

Dアリギエル

「シニゾコナイアガァァ!」ゴォォォォォォォッ!

Dウェルギエル

「ムダムダムダムダァ!」キキキキキンッ!

 

Dアリギエルのイフリートの炎がケルベロスの氷とぶつかり、炎と氷が相殺される。山嵐のミサイルも次元斬によって一刀両断される。すると、

 

 

…バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……

 

 

それによって発生した凄まじい水蒸気が周辺に充満し、視界を遮った。山嵐は氷のミサイルだった。

 

Dアリギエル

「チィッ、ウットオシイ!ドコダ!」

Dウェルギエル

「……」

 

数センチ先も見えない中で索敵するDアリギエルとウェルギエル。……すると、

 

楯無

「今よ皆!!」

 

 

ガシガシガシガシンッ!!!

 

 

楯無の言葉で突然箒、セシリア、鈴、楯無がDアリギエルの。シャル、簪、ラウラ、クロエがDウェルギエルの手足を一本ずつ全力で抑え込んだ。

 

Dアリギエル

「! テメェラナンノツモリダ!」

「私達ひとりひとりでアンタ達を抑えるのは無理!でも4人がかりで必死でやれば手足を抑える位なんとかなるわ!」

クロエ

「そしてこの範囲ならば私の蝸牛を貴方達に同時に仕掛けられます!」

楯無

「アンタ達の動きを見て気付いたのよ!アンタ達が一夏くんや先生と戦っている時に瞬間移動や分身を使う事が段々少なくなっていた事にね!」

Dアリギエル・ウェルギエル

「「!」」

 

確かに楯無の言う通り両者、しかもDアリギエルに至っては一夏が来てから一度もエアトリックを使っていなかった。更に箒達が前に出てからは両者とも一度も使っていない。

 

ラウラ

「理由はふたつだ!ひとつは単純に使っていない事!そしてもうひとつはSEが少なくなっていたために使い時を選んでいた事だ!あれは両方ともSEを食うからな!」

楯無

「だから見極めるためにしつこく戦いを仕掛けていたのよ!半分想像だったけど大当たりだったわ!アンタ達は私達と戦っている時でも一回も使っていなかった!流石のアンタ達でもSEの回復はできない様ね!」

シャル

「一夏!先生!今だよ!」

Dアリギエル・ウェルギエル

「「!」」

 

見ると少し離れた所に一夏と千冬が剣を構えていた。そして、

 

キィィィィィィィィィンッ!

 

雪片・参型とレッド・クイーンが輝きを放ち始める。零落白夜の輝き。ふたりは攻撃に参加せずにこのタイミングをずっと見計らっていたのだ。

 

一夏

「待ってたぜ!」

千冬

「一夏!行けるか!?」

一夏

「当然だ!皆の頑張りを無駄にはしねぇ!トムボーイ!」

 

一夏は再びトムボーイの出力を最大にした。……とその時、

 

 

DEVILBREAKER SKILLCOMPLETE(使用条件に到達しました) NIGHTMAREMODE READY(ナイトメアモード 起動します)

 

 

キュイィィィィィィィッ!!

 

一夏と箒のインターフェースにその文字が浮かんだ瞬間、一夏のトムボーイと箒のトムガールが今までよりも激しく光始めた。

 

一夏・箒

「「!!」」

「! トムボーイとトムガールが!」

セシリア

「あれはまさか…ナイトメアモードですの!?」

一夏

「こいつはいいタイミングで起こってくれたぜ!」

「このパワーならいける!一夏!千冬さん!やれぇぇぇ!!」

セシリア

「おふたり共!決めてくださいませ!」

Dアリギエル

「キサマラァァ!!」

「私達の力も払えないんじゃ駄目駄目ね!」

Dウェルギエル

「トットトハナシヤガレェェェ!!」

 

敵は恐るべきパワーで必死で暴れるが皆も必死の力を込めて離さない。

 

シャル

「くぅっ!絶対に離すもんか!」

ラウラ

「今度こそ終わらせる!」

「ふたりのため!そして本音達、皆のために!」

クロエ

「そして束様をお救いするために!」

楯無

「だからアンタ達はここで倒す!」

 

必死でDアリギエルとウェルギエルの身体を抑える箒達。

 

千冬

「一夏!」

一夏

「おおおおおおおおお!」ドゥンッ!!

 

そこにこれまで以上の出力とスピードで一気に突撃する一夏と千冬。

 

一夏

「とどめだぁぁ!!」

千冬

「喰らえ!!」

Dアリギエル・ウェルギエル

「「!!」」

箒・セシリア・鈴・シャル・ラウラ・簪・楯無・クロエ

「「「いっけぇぇぇぇぇ!!」」」

千冬

「零落!!」

一夏

「白夜ぁぁぁぁぁ!!」

 

 

カッ!!

 

 

ふたつの黒い影にぶつかった瞬間、ふたつの剣の輝きが一際強くなった……。

 

 

…………

 

オーガス

「……」

スコール

「本当にやってのけたわね。敵ながら正直見事だわ…。あんなものを倒すなんて」

オーガス

「倒した?違うな。アレはあまりにも奴らを舐め過ぎていた。だから本気を出す前にエネルギー不足等起こした。いわば自業自得だ。愚かな奴らだ全く…」

 

流石のオーガスも多少の驚きを持った様だが直ぐにこう付け加えた。

 

オーガス

「……まぁ、ここまでは万が一に備え、想定している範囲だがな」

スコール

「…どういう事?」

オーガス

「直ぐにわかるさ…。さて…条件は揃った。面白くなるのはこれからだ…」

 

するとオーガスは口角を上げて言った。

 

オーガス

「さぁ……どちらがどうなるかな?…ふっふっふっふっふ…」

 

不気味な笑いが部屋に静かに満ちていた。




※次回は10日(土)の予定です。

お久しぶりでございます。
召喚する攻撃は原作では金色ですが一夏に合わせて白銀色の設定です。剣と盾が金色なのは原作の名残です。


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Mission162 火の如く力を求めし獣の誕生

DNSによって変化した一夏の新たな白式、白式・駆黎弩。それによって果敢に攻めたてる一夏とDウェルギエルと一対一で戦う千冬。しかしそれでもDIS・ドッペルゲンガー達の恐るべきパワーを倒しきるには至らない。紅椿の絢爛舞踏によって復活した箒や鈴達が一夏と千冬に代わり、怒涛の攻撃を仕掛けるがそれでも歯が立たない。
……しかしそれは敵のエアトリックや残影が使えなくなるまでSEを少なくなる事を狙ったものであり、最後に一夏と千冬による零落白夜を当てる作戦だった。丁度のタイミングでトムボーイ・トムガールのナイトメアモードも起動し、箒達が抑えている敵に一夏と千冬は零落白夜を仕掛ける。

……しかしそんな状況でもオーガスの笑みは止まらず、逆にこう言った。

「お楽しみはこれからだ。……どちらがどうなるかな?」


箒・セシリア・鈴・シャル・ラウラ・簪・楯無・クロエ

「「「いっけぇぇぇぇ!!」」」

千冬

「零落!」

一夏

「白夜ぁぁぁ!!」

Dアリギエル・ウェルギエル

「「!!」」

 

ズバァァ!!…カッ!!!

 

Dアリギエルに一夏の雪片が、Dウェルギエルに千冬のレッド・クイーンが突き刺さった。そしてその瞬間零落白夜の光が一際強くなった。

 

Dアリギエル・ウェルギエル

「「グオォォォォォォォォ!!」」

 

零落白夜のエネルギーは確実にDアリギエル達のSEを奪う。

 

楯無

「皆離れるわよ!」

一夏・千冬

「「おおおおおおおおお!!」」

 

…ズドォォンッ!!

 

そしてふたりの剣が敵の身体を貫いた。

 

Dアリギエル

「ガ、ガガガガガ…」

Dウェルギエル

「ギ、ギギギギギ…」

 

まだ生きてはいるものの零落白夜によるSEへのダメージは大きいものであった。

 

一夏

「くっ!まだ生きてる!SEが足りなかったのか!?」

千冬

「だがかなり弱っている!今だ!全員一斉に攻撃しろ!」

「はい!」

ラウラ

「うおおおおおお!」

 

ズドドドドドドド!!

ズギュ―ン!ズギューン!

ビュビュビュビュンッ!!

ズドン!ズドン!

 

ビームやレール砲、ビットや衝撃砲等、多くの攻撃が一斉に動けなくなっているDアリギエル・ウェルギエルに向かう。

 

 

ドガァァァァァァァァァァァァァァァン!!

 

 

それらの攻撃が重なり合い、凄まじい爆発と爆煙を起こした。その全ての攻撃がかわされることなく間違いなく当たった筈。相手はシールドも戦闘で故障していた。あの状態では今の攻撃でとても助からないだろう…。

 

「…やった…やったぞ!」

セシリア

「遂に、遂にやったんですのね!」

シャル

「僕達の勝ちだ!」

ラウラ

「ああ皆の勝利だ!」

クロエ

「あのアリギエルとウェルギエルを…倒したんですね!」

「海之くん、火影くん。私達で勝ったよ…!」

 

皆が喜びの声を上げる。

 

楯無

「一夏くん、先生、大丈夫ですか?」

千冬

「余計な心配は不要だ。まだ残しているさ」

一夏

「俺も大丈夫です…。ただちょっと動きが悪いですけど」

セシリア

「お怪我でもしたんですの!?」

「いやセシリア、そうじゃない。多分これは…トムボーイの影響だと思う。私も同じだからな」

「箒もという事は…トムガール?」

「ああ実はさっきトムガールの光が出た時に姉さんの録音が聞こえたんだが…」

 

 

…………

 

(トムボーイとトムガールのナイトメアモードは鈴ちゃんやラウちゃんやセっちゃんの様な新たな形態になる事は無いんだ~、ごめりんこ♪でも能力は凄いよ!これを使うと通常時の最大出力よりな~んとなんと6倍にまで跳ね上がるんだ!持続時間も66秒と、一分以上もサービスしといたよ!もってけドロボー!…最もこれだけ急激なパワーアップをするからちょっと反動もあるんだけどね~。制限時間を過ぎるとパワーが一気に急落!半分にまでダダ下がりしちゃうんだよね~。しかも30分も。美味しい話には必ず裏があるって訳じゃないんだけどいっくんと箒ちゃんを守るために無茶したらこうなってしまったのだ~。ごめんたいこ~♪)

 

 

…………

 

「…という訳です」

一夏

「洒落はともかくそんな副作用があんのか~?俺の方には聞こえなかったからわからなかったよ」

「6倍が66秒、その後半分が30分か…。使い時を間違えれば逆に危険だね」

楯無

「それにしてもよく同じタイミングで起動したものね?」

「私達と同じくふたりも同じタイミングで渡されましたから。偶然重なったんじゃないですか?」

セシリア

「そうかもしれませんわね」

「う、うん…」

 

 

…………

 

(因みになんだけどトムボーイとトムガールの(ナイトメア)モードはどっちかが起動するともうひとつの方も自動的に起動する様に設定しといたよ♪健やかなるときも病める時も力を合わせて一緒に、って感じだね~、あははは♪ああそれからこの通信は愛しき箒ちゃんの方しか聞こえない様にも設定しといたから安心してね♪)

 

 

…………

 

クロエ

「箒さん?どうしました?」

シャル

「何か顔が赤いよ?」

「へ?な、なんでもない!」

 

一大戦争が終わった事で皆がそんなやりとりをしながらほっとしていたその時、

 

~~~~~~!

 

千冬

「…!お前達!センサーに注目しろ!!」

全員

「「「!!」」」

 

千冬のその言葉で皆の全員の緊張が復活する。

 

ラウラ

「こ、これは!」

「煙の中に…反応!?」

クロエ

「しかもふたつだけじゃありません!」

一夏

「マジかよ!一体何が!」

 

全員が少しずつ晴れ行く煙…正確にはDアリギエルとウェルギエルに注目する。すると…、

 

全員

「「「!!」」」

Sアンジェロ

「「「………」」」

 

そこには傷つき、瀕死の状態のDアリギエルとウェルギエルを守るように5体のスクードアンジェロがいた。先ほどの攻撃は奴らによって受け止められていた。

 

一夏

「あ、あいつは!」

「あの時の盾のアンジェロだと!?」

セシリア

「そんな!いつの間に!」

ラウラ

「まさか…今の一瞬で転移してきたのか!」

楯無

「考えられるわね…私達も京都から戻ってくる時に敵の転移が突然現れたわ。多分オーガスは場所に関わらず転移させる事ができるのよ!」

「そんな…」

「でもあいつらは前に倒したことがあるわ!今の私達なら!」

 

ズガガガッ!!…ドガアァァァァァンッ!!!

 

全員

「「「!!」」」

 

その時、Sアンジェロ達が全て爆発した。

 

クロエ

「えっ!?」

セシリア

「い、いきなり爆発しましたわ!」

Dアリギエル

「オォォォォォ…」

Dウェルギエル

「……」

 

その後ろにはリベリオンと閻魔刀を持ったDアリギエル・ウェルギエルがいた。状況から察するにSアンジェロ達を破壊したのは彼らの様だ。

 

シャル

「なっ!」

「あいつら…自分を守った仲間を!」

Dアリギエル

「オォォメェェラァァァァァ…」

「なんて奴らだ…!あれだけの攻撃を喰らってまだ!」

Dアリギエル

「コオォロォシィィテェェヤルゥゥゥ…」

Dウェルギエル

「ハァァァ…ハァァァ…」

 

だが敵の言葉には先ほどの様な覇気はまるでない。零落白夜と砲撃によるダメージは間違いなく効いている様である。

 

楯無

「確かに驚いたけど…でも今のあいつらは戦う力は殆ど無いわ!今なら倒せるかもしれない!」

クロエ

「なら逃げられる前に倒さないと!」

一夏

「しぶとい奴らだ!今度こそ!」

千冬

「一夏!篠ノ之!お前達は無理だ!下がっていろ!」

「あとは私達でやるから!」

Dアリギエル

「ナメルナヨォォ…、テメェェラナンゾォォォォ…イマノママデジュウブンダァァァ…」

「アンタ達のその声は聞き飽きたわ!」

シャル

「今度こそ!今度こそ終わらせる!」

 

鈴達は再び前に出る。…するとその時、

 

 

Dウェルギエル

「……ソウ、サイゴダ。……キサマガ、ナ」

 

 

ドシュゥゥゥゥッ!!

 

 

Dアリギエル

「グギャアアアアアアアアアアア!!」

 

 

全員

「「「!!!」」」

 

Dその場にいる全員が言葉を目を見開き、言葉を失う。Dウェルギエルが突然、Dアリギエルの身体をその手で貫いた。絶叫を上げるDアリギエル。

 

「なっ!!」

ラウラ

「仲間を貫いただと!?」

クロエ

「何故!?どうしてそんな事!」

Dアリギエル

「ギャアアアアアアアアアア!!」

シャル

「ひっ!」

「嫌だ…聞きたくない!見たくない!」

 

その凄まじい絶叫に耳や目を塞ぐシャルや簪。そんな彼女達を横にDウェルギエルはDアリギエルを貫いた腕を更に深める。

 

ドシュゥッ!!

 

Dアリギエル

「グアアアアアアアアアアア!!」

Dウェルギエル

「シンパイ…スルナ…。モウスグ…オワル…」

セシリア

「何を…何をやっているんですの!仲間じゃありませんの!?」

 

だがそんな言葉も聞こえていないのか、Dウェルギエルは意味不明な言葉を続ける。

 

Dウェルギエル

「…イソガ、ネバ、……キエル、マエ、二…」

一夏

「テメェ!何ふざけた事言ってやが…くっ!」

 

一夏は動こうとするがNモードの影響か動きが鈍く、更に自身の消耗も激しいのか息も乱れがちだ。

 

「一夏!」

千冬

「一夏下がれ!私が」ズドォンッ!「ぐあっ!」

 

前に出ようとした千冬に次元斬が襲い掛かった。

 

楯無

「先生!」

Dウェルギエル

「ダマッ、テイロ…ザコガァァ…」

「あいつ零落白夜をまともに受けてまだあんな余力があるの!?」

ラウラ

「なんて、奴だ…!」

 

するとほんの少しして相手に動きがあった。

 

Dウェルギエル

「オマ、エハ……オレ、ノナカ、デ……イ、キル、ガイイ!」

 

ドシュゥゥゥゥゥッ!

 

Dアリギエル

「グギャアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

ひと際大きいDアリギエルの絶叫。その腹部を貫いていた腕が引き抜かれた。…するとダメージが限界に来たのかSEが尽きたのか、その身体がボロボロと崩れ去っていく。

 

楯無

「アリギエルの身体が…!」

ラウラ

「崩れ去っていく…!」

Dアリギエル

「イヤダ…イヤダ…イヤダイヤダイヤダ!!シニタクナイシニタクナイシニタクナイ!シニタクナイィィィィィィ!!」

「!」

シャル

「ひっ!」

セシリア

「くっ…!」

 

耳を塞いでも聞こえてくる凄まじい断末魔の叫びを最後に…Dアリギエルはやがて跡形もなく消え去った。後に残ったのは…引き抜いた手に何かを掴んでいる様子のDウェルギエルだけ。

 

Dウェルギエル

「ハァァァ…ハァァァ…」

「あいつ…何か手に持ってる…?」

クロエ

「……!あ、あれは…まさか!」

 

すると手に持っているものが何なのかわかったのか、気付いた者達の顔に驚きの表情が浮かぶ。

 

楯無

「千冬さん…あれは…!」

千冬

「…ああ。色も形も違うが多分あれは…コア、ISコアだ!」

 

それは間違いなくISの心臓であり核でもある、ISコアだった。ただし従来のそれとは違って不気味に黒く輝いている。

 

一夏

「あれが…ISコア?にしては随分違うぜ!?」

ラウラ

「し、しかし何故!コアは確か限られた数しかない筈では!?」

クロエ

「…ええ。確かにISコアは現時点で限られた数しかありません。そしてその所在は全て把握しています。そしてISコアはこの世でただひとり…束様しか作る事ができない筈です」

千冬

「そしてアンジェロやファントム等の無人機はコアは無い。単なるバッテリーだ」

シャル

「じゃ、じゃあなんであれがあの黒いアリギエルに!?」

「…!もしや…姉さんが!?」

クロエ

「…残念ですが…そうとしか考えられません。…ですが束様が自らの意志であれを作るとはどうしても思えません。無理やり作らされたとしか…」

千冬

「…くっ」

セシリア

「で、でも何故コアを黒いアリギエルから抜き出したのでしょうか…?」

「倒される前の回収、とか…?」

一夏

「おいお前!それをどうするつもりだ!?」

 

するとDウェルギエルはそれを頭上に掲げて見上げる。

 

Dウェルギエル

「…コレ…デ、…オレ、ハ…!」

全員

「「「!!!」」」

 

全員が目の前で起こった出来事に再び言葉を失った。

 

 

…ガブリッ!!

 

 

なんとDウェルギエルは手に持つコアを、まるで果実を喰らうように噛み砕き始めた。

 

一夏

「あいつコアを…仲間を食いやがった!」

「なんで…なんでそんな事!?」

 

全員がその目の前で繰り広げられている光景に何も言えなくなると同時に動けなくなる。……そして暫くして黒きコアはDウェルギエルの中に完全に吸収されてしまった。全員がそれを見て何が起こるのかと警戒する。

 

Dウェルギエル

「……」

 

……だが何も起こらなかった。特に動きもない。

 

「…なんだ?どうした?」

シャル

「…動かない?」

千冬

「何のつもりか知らんが動かんなら好都合だ!今の内にとどめを刺す!」

ラウラ

「了解です!」

 

千冬の指示で沈黙しているそれに攻撃をしかけようとする皆。……しかし、

 

 

…ビキッ!

 

 

Dウェルギエル

「グッ!!」

全員

「「「!!」」」

 

全員が再び動きを止めた。突然けたたましい音を立ててDウェルギエルの顔面にヒビが入った。痛むのか顔面を抑える。

 

ビキッ!ビキキキキキッ!

 

だが次第にヒビはどんどん大きくなっていく。

 

Dウェルギエル

「グッ!グアアアアアアア…!!」

一夏

「な、何だ!?」

「何が…起こっている…!?」

 

ビキキキキキキキキキキキキッ!

 

ヒビはどんどん大きくなり、やがて全身にまで広がった。

 

楯無

「ヒビが全身に広がって…その中から光が…!」

 

千冬を含めた全員がその謎の光景に息をのむ。そんな中、目の前のDウェルギエルが口角を歪ませながら呟いた。

 

Dウェルギエル

「…コレ、デ……イイ…」

クロエ

「…え?」

Dウェルギエル

「…サ、ア…サイ、タ、ン……ダ。…オレ…ヲ、…シバ……ルクサ、…リ……ガ…!」

 

 

ドスススススススッ!!

 

 

突然Dウェルギエルの背中から複数の何かが背中を突き破り、飛び出してきた。

 

Dウェルギエル

「グアァァァァァァァァァァ!!」

シャル

「な、何!?背中から何か出てきた!」

「……触手?いや、根っこ…!?」

 

 

Dウェルギエル

「ア…ア…アアア…アアアアアァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

…カッ!!バリィィィィィィィィィン!!!

 

 

Dウェルギエルが咆哮を上げると凄まじい光が漏れだし、その途端全身に発生していたヒビが砕け散った。

 

千冬

「!!」

一夏

「うわ!」

 

光はどんどん強くなり一瞬何も見えなくなった。……暫くして徐々に収まっていく……。

 

一夏

「くっ……一体、何が起こ……!!」

箒・セシリア・鈴・シャル・ラウラ・簪・楯無・クロエ

「「「!!」」」

千冬

「…なんだ…。…これは…?」

 

全員が光の中から現れたそれに、ただただ言葉を失っていた……。

 

 

…………

 

そしてそれはこちらも同じく。

 

オーガス

「おお…」

スコール

「……なんなの……あれは……?」

 

画面越しで見ていたスコールも言葉が無い。…だがオーガスは違った。

 

オーガス

「クククク…、やはり奴の方だったか…。まぁ、ある程度予測はできていたがな」

 

それを見て実に楽しそうに笑うオーガス。

 

スコール

「…オーガス、貴方はあれの事知っているの?まぁ造ったのは貴方だから当然だろうけど」

オーガス

「私が造った?…違うな。確かにあの基礎を造ったのは私だが…今のあれは私ではない。あれは奴自らが造ったのだ」

スコール

「…奴って…あの黒いウェルギエルの事?」

オーガス

「そうだ。アリギエルの、奴のコアを飲み込み、更にウェルギエルの力への欲望があのような形を生み出した。…しかしこれ程の姿になるとはな…。クククク、やはり奴は、バージルはそういう奴という訳だ…」

スコール

「…欲望が生み出した。…じゃああれもDNSの力…?」

 

だがスコールの質問に対し、オーガスの答えは違った。

 

オーガス

「…いや、あれも確かに欲望によるものだが…正確には違う」

スコール

「…え?」

オーガス

「だがお前は知らなくても良い事だ。これは所詮人間には手に余るもの。それにDNSと違い、幾つも生み出せないもの故な」

(そう…あれはひとつだけでいい。奴に組み込んだのは所詮試作品。だが無事うまく機能した事でようやく開発に着手できるぞ。問題は完成までにかなりの時間を要する事だが…まぁそんなものは幾らかけてもどうとでもなるだろう。篠ノ之束の手が加わった事で本体の方は既に完成に近づいている。最大の壁も最早この世にいないのだからな…ふっふっふっふっふ…)

 

オーガスは心の中で歓喜の声を上げていた。

 

スコール

「…じゃあこれだけは教えて。あれはIS?それともDIS?」

オーガス

「クククク、質問が多い奴だ。心配は不要だ。無人機ではあるがあれもまたDISには違いない。……まぁ、名だけは変えておこうか…」

スコール

「…名前?」

 

 

…………

 

一夏達の目の前に現れた存在。それはDウェルギエルでは無かった。サイズはややひとまわり大きくなったが形はファントムやグリフォンの様なモンスターみたいなものでも無い。人間型である。

ただその容姿があまりにも異常だった。頭部から腕、足先まで全身が黒い植物の蔦や樹木の枝、根っこの様なものに覆われている。その一本一本はまるで意志を持っているかのようにウネウネと動いている。手足には鋭い爪があり、枝らしきものに覆われている頭部にはその隙間から赤い目と牙が覗き、頭頂部にまで登る枝は角の様にも見える。不気味という言葉を具現化した様なその姿は前述のそれらよりも遥かに、見る者を恐怖に陥れるもの。例えるなら正に悪魔か鬼か。一夏達の目の前にそれが静かに佇んでいる。

 

謎の存在

「……」

一夏

「ば、化けやがった!」

「な…なんだ…。あれは…?」

「なんなの…なんなのよ一体あいつ!」

シャル

「わからない…、わからないよ…。あんなの…」

「……怖い、…怖いよ…」

ラウラ

「…馬鹿な…この私が…怯えているだと…。あの黒いウェルギエル達の恐怖ですら克服したのに…」

セシリア

「ええ、ひと月前の時を思い出します…。ただ、あれが放つのが「殺意」なら…あれは…まさに純粋な「恐怖」という感じでしょうか…」

楯無

「なんておぞましい姿…。あれもIS、いえ、DISなの…?」

 

殆どの者が目の前にいる存在に恐怖し、萎縮していた。

 

謎の存在

「……」

 

目の前のそれは確認する様にゆっくりと顔を横に振り、目の前にいる一夏達に顔の方向を向ける。

 

一夏

「…お前、…何者だ…!!」

謎の存在

「……俺に、名前など無い」

クロエ

「…喋った…。どうやら意志の疎通はできる様ですね…」

千冬

「答えろ!貴様は…あのウェルギエルなのか!」

 

千冬の問いかけにその存在はこう答えた。

 

謎の存在

「俺は…絶対的な力、そのものだ…」

 

 

…………

 

オーガス

「…新たな名か…そうよな。果てしなき力への欲望。それに向かう火の如き情熱を持つ獣…」

 

オーガスは名付けた。

 

オーガス

「ある人の曰く、…その名を、……ルーヴァ…」




※タイトルだけ変えて二作投稿します。

Dウェルギエルが変化した姿、わかる方はわかると思います。
名前が違うのは名付けた者が違うのとアルゴサクスがその存在を知らないからと思っていただけたらと。


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Mission163 鬼神ルーヴァ

一夏と千冬の零落白夜がDアリギエルとウェルギエルに炸裂した。SEに多大なダメージを受け、急激に弱まった二体に追撃のとどめを放つ箒達。
……しかしそれはその直前に突如転移したSアンジェロ達に防がれた。だがその途端庇われたDアリギエル達が助けたSアンジェロ達を破壊、更に戦闘を仕掛けようとするがそんなDアリギエルをなんとDウェルギエルが破壊し、黒きISコアを抜き出してしまう。驚きで言葉を失う一夏達を横目にDウェルギエルは抜き出したコアを飲み込み、その影響か異形な変化を遂げるのであった。
誰しもが驚く中、オーガスだけは笑いながら満足し、出現したそれに新たに名を付けた。その名は……、


オーガス

「火の如き情熱で力を求めし獣…。その名をルーヴァ…」

 

モニターに映ったそれにオーガスはそう名付けた。

 

スコール

「…ルーヴァ…?」

オーガス

「宇宙を構成しているといわれる四神の一柱だ。感情と情熱を司り、火に属している」

スコール

「…それで火の如き情熱…ね。…でも力への欲望というのは?それに…なんで植物なのかしら?」

 

スコールの疑問に対し、オーガスは言った。

 

オーガス

「クククク…それはおそらく基となったアレの影響だろう」

スコール

「…あのウェルギエルというIS?」

オーガス

「考えてみるがいい。植物というのはその存在自体が欲望でできている様な物だ。その根は地下から、その茎や葉は地上から糧である水をただ只管に取り込む。動物の様に口だけから取り込むのではなく、全身から生きるための糧を取り込むのだ。自らが腐り落ちるまでな。更に食虫植物等他の命を奪うものや、私が知る中では血を吸う吸血植物等もいる。正に生きるという欲望の塊よ。そして奴も、バージルも同じだ。力に捕らわれ、力を手に入れるために全てを捨て去った。そのために時には…家族も殺そうとした、な。奴のそんな力への欲望があんな姿へと変えたのだろう。実によくお似合いではないか、ふっふっふっふ…」

スコール

「……」

 

スコールはオーガスが言っていることがまるで理解できなかった。昔から謎が多く隠し事が多いのはよく知っているが最近は特にわからない事が多い。特にあの火影と海之に関する事だとそれが顕著に表れる。

 

スコール

「……ねぇオーガス、……貴方は何なの?」

オーガス

「…何でもない。私はオーガス・アクスというひとりの人間だ。最早な。…クククク…、フハハハハハ…!」

 

 

…………

 

場所は戻り、ルーヴァと対峙する一夏達。そのルーヴァは沈黙していた。

 

ルーヴァ

「……」

ラウラ

「何を黙っている!何とか言ったらどうだ!」

ルーヴァ

「…塵と話す事など…無い」

「! 私達が塵だと!」

「10対1で随分調子づいてくれるじゃないの!形が変わったからと言って調子乗るんじゃないわよ!」

楯無

「待ちなさい!こいつはさっきまでの奴とはちが」

 

 

ゴォォォォォォォォォォォォッ!!

 

 

するとルーヴァの真上に突然巨大な火球が出現した。その大きさと形成スピードはメテオよりも遥かに大きく、早い。

 

セシリア

「なっ!?」

クロエ

「あんな大きい火球を一瞬で!」

 

…ズドォォォォンッ!!

 

そしてルーヴァは何も言わずいきなりそれを放ってきた。

 

一夏

「危ねぇ!!」

「氷の壁!!」

シャル

「カーテン最大!!」

 

回避が間に合わないと思った皆の前に防御技をもつ一夏、簪、シャルが防ごうと前に出る。

 

ゴォォォォォォォ…ドガァァァァァァァァンッ!

 

一夏

「うわあああああ!」

シャル・簪

「「きゃあああああ!」」

 

盾やカーテンを合わせてなんとか防ぐ事はできたもの、その攻撃の衝撃を防ぎ切れずに後ろに吹き飛ばされた。

 

一夏

「ぐっ、くくく…」

「なんて爆発力…!」

「一夏!大丈夫か!」

楯無

「簪ちゃんシャルロットちゃんも大丈夫!?」

シャル

「は、はい…なん、とか…」

「私も大丈夫だよ…」

一夏

「俺も問題ねぇ…。でもイージスじゃなければ危なかった…!」

ラウラ

「三人の防御をもってしても完全に防ぎ切れないとは…!」

 

ヴゥヴゥヴゥヴゥヴゥンッ!

 

すると今度はルーヴァの上にいくつもの空間の捻じれの様なものが出現した。

 

「! な、何!?」

 

ビュビュビュビュビュビュンッ!!

 

そしてそこから無数のレーザーが飛び出してきた。

 

千冬

「! 全員散開しろ!」

 

千冬の一言でそれぞれに分散する。……しかしレーザーは全員を追いかけてくる。

 

セシリア

「偏光射撃!?」

 

なんとか振り払おうとするがレーザーはどこまでも追いかけてくる。

 

「なんて正確な追尾なの!」

楯無

「逃げきれないと判断すればなんとか撃ち落とすか防御するしかないわ!」

シャル

「了解です!」

「…くっ!トムガールの影響で出力が落ちている。なんとか撃ち落とすしか」

 

ヴゥンッ!ズドンッ!

 

その時箒の正面にも転移が出現し、そこからレーザーが飛び出してきた。

 

「なっ!?」

千冬

「篠ノ之!」

 

挟まれる形になる箒。

 

一夏

「箒――!」

 

ババババババババババッ!

 

その時一夏が箒の後ろに入り、自分と箒の後ろから迫っていたレーザーをイージスで受け止める。

 

「一夏!」

一夏

「箒!正面!」

「! ああ!」

 

バババババババババ!

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

箒は天月と空烈をクロスさせてレーザーにぶつけ、何とかそれをかき消した。

 

「はぁ…一夏!なんて無茶を!」

一夏

「大丈夫だ!それより俺達は出力が大幅に落ちてる!連携して一緒に攻撃を食い止めるぞ!」

「ああ!」

 

やがて逃げきれないと判断した他の皆もそれぞれの防御手段を講じたりして撃ち落とす。

 

千冬

「全員無事か!」

「は、はい!危なかった…ガーベラの急加速にも瞬時に対応してくるなんて…」

セシリア

「あの敵…なんて無数のレーザーを撃ちだすんですの!」

ラウラ

「やられっぱなしって訳にはいかん!応戦するぞ!」

 

ラウラの一言で其々がルーヴァを囲むように遠隔武装を持つ者が攻撃態勢に入る。一方のルーヴァは何も動きが無い。

 

ルーヴァ

「……」

「こんな時でもだんまりなんてほんっと舐めてくれるわね!…開けガーベラ!」

シャル

「リヴェンジ!」

「山嵐!」

クロエ

「カリギュラ!」

セシリア

「行きなさいケブーリー!」

 

ズドドドドドドドドドド!

ズギュ―ン!ズギューン!

ズドンッ!

 

鈴達の攻撃が一斉にルーヴァに向かう。……しかし、

 

 

カッ!…ドドドドドドンッ!!

 

 

攻撃は届かなかった…。正確には届かなかったのではなく、シールドらしきものに当たった瞬間、鈴達が撃った攻撃は全て跳ね返されてきた。

 

「なっ!跳ね返された!?」

シャル

「皆!避けて!」

 

鈴達は慌てて急速回避する。だが簪の撃った山嵐のミサイルとセシリアのケブーリーがバラバラに分散されてしまい皆に襲い掛かる。

 

ズドドドドドドドドドドドッ!

 

「まずい!食い止めるぞ!」

一夏

「うおぉぉぉぉぉ!」

楯無

「皆はやらせない!」

「お姉ちゃん!」

ラウラ

「クロエさん!大丈夫ですか!」

クロエ

「ラウラ!」

千冬

「オルコット!ケブーリーを戻せ!」

セシリア

「は、はい!」

 

……そしてなんとか皆で力を合わせて防御したり撃ち落としたりして食い止めた。

 

一夏

「ふぅ~なんとかな」

 

 

シュヴァァァァァァァァァ!!

 

 

すると間髪無く今度はルーヴァから複数の何かが飛び出してきた。よく見ると

 

クロエ

「また何か仕掛けてきました!」

楯無

「な、何?…あれ、あいつの根っこ!?」

千冬

「全員避けろ!」

 

再びの攻撃に態勢を立て直す暇もなく避ける。だが、

 

ガシッ!

 

鈴・簪

「「!!」」

 

鈴と簪が避け切れず、それに捕まってしまった。そして、

 

キュイィィィィンッ!

 

突然何かの違和感を感じるふたり。

 

「…!?」

「な、何!?」

シャル

「鈴!」

ラウラ

「簪!」

 

ズバッ!ズバッ!

 

シャルとラウラが捕まっているそれを断ち切る。

 

シャル

「大丈夫ふたり共!?」

「え、ええ!ありが」

「…見て!」

 

…しかし断ち切られた枝から再び新しいものが再生される。

 

ラウラ

「再生しただと!?」

「皆気を付けて!あれに捕まったらなにかおかしい!」

一夏

「おかしいって何がだよ!?」

「わかんないわよ!でも何かおかしかったの!」

「だがいつまでも避けられないぞ!」

千冬

「私が行く!お前達は捕まらない様防ぎ続けろ!」

セシリア

「は、はい!」

 

千冬はそう言うと自らルーヴァに突進する。その間ルーヴァから延びる枝が襲い掛かるが千冬はそれを断ち切りながら進む。

 

千冬

「こんな攻撃で私を止められると思うな!」ドゥルルルルルン!

 

レッド・クイーンのグリップを回しながら千冬は斬りかかった。

 

千冬

「はぁぁぁぁぁぁ!」

 

しかし、

 

 

ドォォォォォォォォォン!!

 

 

千冬

「うあああああ!!」

 

突然千冬の身体が吹きとばされた。様子からして正面から何かが突然襲い掛かってきて避け切る事ができず、まともに喰らった様だった。

 

クロエ

「織斑先生!」

「千冬さんがいきなり吹き飛ばされた!?」

 

そんな千冬にルーヴァの枝が伸びるが、

 

一夏

「千冬姉!」…ズバッ!

 

それを間一髪で一夏が断ち切る。

 

一夏

「千冬姉!大丈夫か!?」

千冬

「あ、ああ…心配するな。衝撃は凄かったがダメージはそれほどではない…」

シャル

「今何があったんですか!?僕達から何も見えなかったんですけど!?」

セシリア

「え、ええ。まるで目に見えない攻撃が当たったかの様に…!」

「目に見えない攻撃……!まさか!」

 

とその時、

 

ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!

 

クロエ

「きゃああ!」

ラウラ

「ぐあ!」

「うわあっ!」

 

何かが当たったのかクロエ達が吹きとばされる。だがレーザーや火球の類ではない。

 

楯無

「皆!」

「…間違いない!あれは龍咆!つまり衝撃砲だわ!」

一夏

「な、何だって!なんでそれが奴に!?」

 

ズドドドドドドドドドッ!

 

すると今度は威力は低いが連射してそれが発射されてきた。それは間違いなく龍咆の連射だった。

 

セシリア

「くっ!これもなんて連射!」

「衝撃砲なら射程が短い筈!皆奴から離れて!」

一夏

「皆俺の後ろにいろ!イージスなら防げる!」

 

そして皆はルーヴァから急いで距離を取る。鈴の言う通り離れると衝撃砲による攻撃は止んだが、

 

 

ズギュ―ン!ズギューン!

 

 

今度はルーヴァから荷電粒子砲が発射されてきた。

 

「今度は荷電粒子砲だと!」

一夏

「くっ!」ババババババババババッ!

 

一夏はそれを衝撃砲と同じくイージスで防ぐが度重なる攻撃に一夏自身息が上がっていた。

 

一夏

「ハァ…ハァ…くっ」

箒・セシリア

「「一夏(さん)!」」

千冬

「一夏よせ!全て受け止めようとするな!」

一夏

「だ、大丈夫だ…俺にはイージスがある!」

楯無

「それでも体力が無理でしょ!」

ラウラ

「それにしてもなんて猛烈な攻撃だ!……どうした簪?」

「…似ている。今の荷電粒子砲、似てるの…春雷に!」

 

簪は先程ルーヴァが放った荷電粒子砲の色や勢いを見てそう思っていた。

 

シャル

「それって…あいつが簪の荷電粒子砲をコピーしたって事?」

「私の龍咆といい…でもどうや……!」

 

その時ひとつの可能性が浮かんだ。

 

クロエ

「まさか…先ほどおふたりが捕まったあの根でしょうか!?」

 

 

「血吸の根(データ・ドレイン)」

 

ルーヴァの身体に纏わりついている根による攻撃。伸ばして襲い掛かってくる。これに纏わりつかれると急速にISの基本データや武装データが盗まれてしまう。盗まれたデータはすぐさまルーヴァ内で解析され、自らの力と変えてしまう。ただし魔具やデビルブレイカー等の「元来この世のものでない物」はコピーできない。しかし逆に言えば通常のISの装備では絶対倒せない事も意味している。根自体に耐久性は無いため斬撃などで切断可能だが、切断部からすぐに新しい根が再生されてしまうので根本的な解決にはならない。

 

 

ズドドドドドドドドドドドドッ!

 

すると今度は無数の光輝くミサイルの様なものが襲い掛かってきた。一夏達はそれを避けたり撃ち落としたりしながら防ぐがその数にやや圧倒される。

 

一夏

「くっ!これじゃジリ貧になっちまう!」

「しかしこれは…まさか山嵐か!」

楯無

「クロエちゃんの言う通りさっきの根っこが原因みたいね!多分ほんの少しでも捕まったらデータが抜き取られるんだわ!」

「どんだけ貪欲なのよ!」

シャル

「じゃあ戦いが長引くほど僕達にとって不利だよ!僕達皆SEにもう余裕ないし、早く倒さないと!」

「でもこんな攻撃が続いてたらとても仕掛けるどころじゃないわ!」

千冬

「もう一度私が零落白夜を狙う!お前達は」

 

千冬は下がっていろと言うつもりだったが皆はそれを拒否する。

 

一夏

「おっと千冬姉!そうはさせないぜ!」

ラウラ

「私達も行きます教官!」

楯無

「千冬さんだけにかっこいい事させませんよ!」

「私達言ったでしょう!皆で勝ちましょうって!」

セシリア

「そうですわ!ひとりでは無理でも皆なら可能かもしれませんし!」

千冬

「…お前達」

「皆!龍咆は真っすぐにしか飛ばせない!とにかく動きを止めないで!」

クロエ

「わかりました!」

シャル

「防御は僕と簪に任せて!」

「必ず守ってみせるから!」

千冬

「…わかった。行くぞ!」

全員

「「「おう(はい!)」」」

 

ドドドドドンッ!!

 

そして皆はルーヴァに向かって突進する。対してルーヴァは複数の火球や転移レーザーで攻撃、近くにいる者には衝撃砲や根を飛ばして攻撃してくる。

 

ルーヴァ

「…人間如きが…まだ歯向かうか」

一夏

「甘く見るなよ!俺達の底力を見せてやる!」

 

避けているその間、皆は射撃を試みるがやはりシールドに全て跳ね返されてしまう。

 

ラウラ

「くっ!なんて強力なシールドだ!」

楯無

「多分あの黒い奴らよりも強化されてる筈よ!おそらく銃器では殆どノーダメージ。やっぱり近接をしかけるしかない!」

セシリア

「となるとやはり零落白夜しかありませんわ!」

「皆!千冬さんを守れ!」

「わかった!」

 

そして皆は千冬を守るように連携して配置につき、全力で攻撃を防ぐ。

 

ガシッ!

 

楯無

「くっ!しくじった!」

「お姉ちゃん!」ズバッ!

 

ドォォォォンッ!

 

「ぐっ!くっそぉ!」

「止まっちゃ駄目!動き続けて!」

 

途中根に接触したり被弾するが気にしてはいられない。自分達が勝つには零落白夜を当て、その隙を攻撃するしかない。そう思ったからだ。

………そして多少の被弾を受けつつもルーヴァへのルートが開きつつあった。

 

ラウラ

「もう少しだ皆!」

ルーヴァ

「…塵が。俺に近づくな」

 

ギュオォォォォォ……ズギュ―——ンッ!!

 

するとルーヴァが手をかざし、それまでよりも大出力の荷電粒子砲を撃ってきた。

 

クロエ

「! でかい!」

一夏・箒

「おおおおおおお!」

鈴・シャル・簪

「「「はああああああ!」」」

 

ババババババババババババッ!!

 

一夏達は自分達の防御能力を合わせ、全力で防ぐ。

 

一夏

「ぐっ!今だ千冬姉!」

千冬

「ああ!」ドンッ!

 

一夏達を跳び越す様に瞬時加速でルーヴァに向かう千冬。

 

千冬

「人間相手なら躊躇うところだが貴様は別だ!SEが尽きてもいい!この零落白夜に全てを籠める!」

 

キュイィィィィィィィィィンッ!!

 

千冬のレッド・クイーンが光り輝く。

 

「千冬さん!」

一夏

「行け!千冬姉!」

千冬

「喰らえ!零落白夜ぁぁぁ!!」

 

千冬の渾身の零落白夜がルーヴァに直撃する…

 

 

ルーヴァ

「……愚かな」

 

 

…ズンッ!!!

 

 

千冬

「!?」

 

筈だったが…それは届かなかった。もう少しというところで、千冬の身体が止まった。……いや正確には少し違った。

 

千冬

(な、何だ…身体が…!?)

 

突然全身に強い圧力の様なものを感じ、全くと言ってもいい位身動きが取れなくなった。そんな千冬の様子に一夏達は困惑する。

 

ラウラ

「教官!」

「千冬さん!?」

「な、何!?先生の身体が…まるで硬直した様に!」

シャル

「SE切れ…ううん、そんなのじゃない…一体何が!?」

ルーヴァ

「…これが、真の力だ…」

 

ギュオォォォ……ドォォォォォンッ!

 

ルーヴァは動けない千冬に向かって火球を生み出し、喰らわせた。無防備の千冬はそのとてつもない一撃に吹き飛ぶ。

 

千冬

「ぐあああああああ!!」

一夏

「千冬姉!」

 

後方に飛んできた千冬を受け止める一夏達。

 

「千冬さん!大丈夫ですか!」

千冬

「ぐっ…あ、ああ…」

楯無

「…!皆気を付けて!あいつ何かしてくるわ!」

 

すると楯無の言う通り、ルーヴァが手を翳す。

 

…カッ!!

 

…だが光っただけで何も起こらない。

 

セシリア

「…? なんですの?」

クロエ

「何も…起こらな…!!」

 

 

ズンッ!!!

 

 

その時、一夏達の身体に違和感があった。

 

一夏

「な、なんだ!?」

シャル

「身体が…重い!!」

ラウラ

「い、いや、重いだけじゃない!…動けない!」

「く…苦しい!」

 

一夏達が皆、先ほどの千冬と同じ様に全く動けない状態になっていた。

 

「どうなってんのよ…一体!」

千冬

「これは先ほどと同じ!」

 

ヴゥンッ!

 

その時ルーヴァが一夏の目前に素早く転移した。

 

一夏

「!」

ルーヴァ

「…砕けろ」

 

ドゴオォォォォォォッ!

 

ISの手のサイズよりも大きいルーヴァの拳による正拳突きが一夏に喰らわされた。その強烈な一撃に吹き飛ぶ。

 

一夏

「ぐああああ!」

千冬

「一夏!」

 

…シュゥゥゥゥゥゥゥゥ…

 

すると同時に周囲に何かが発生していた。水蒸気…、霧の様である。

 

「な、何?…霧?」

楯無

「霧…!まさか!!」

ルーヴァ

「消えされ」

 

ドガァァァァァァァァァァン!!

 

千冬・箒・ラウラ

「「「うわあああああ!!」」」

セシリア・鈴・シャル・簪・楯無・クロエ

「「「きゃああああああ!!」」」

 

続けて凄まじい爆発が身動き取れない千冬達に直撃した。それは…ミステリアス・レイディのクリア・パッションであった。

 

 

…………

 

オーガス

「クククク…、素晴らしい、実に素晴らしい…」

スコール

「……なんて力なの…。消耗しているとは言っても…あの織斑千冬でさえ手が出ないなんて…」

 

スコールはルーヴァのその恐るべき力に少々恐怖すら感じていた。

 

オーガス

「フン。ブリュンヒルデとはいえ所詮は人間。限界はある。それが来てしまえば普通の人間と変わらん。それが魔との決定的な差よ」

スコール

「…え?魔って…?」

オーガス

「……気にするな。…ふっふっふっふっふ」

 

 

…………

 

一方、ルーヴァの攻撃が直撃した一夏達は成すすべなく吹き飛んでしまっていた。

 

千冬

「ぐ、くっ…!」

楯無

「クリア・パッションまで…。なんて…力、なの…!」

 

ダメージは甚大、SEも殆どない。既に警告も出ている者もいる。これ以上下手に消費すればISを支えるだけの力が無くなり、やがては海へ落ちてしまうだろう。完全に満身創痍。そんな一夏達に向かってルーヴァはすぐ近くに転移し、

 

ルーヴァ

「貴様ら如きの力等、俺には何の意味もない…」

「おの…れ…!」

クロエ

「…諦める、訳には…束様を…お助けするまでは…!」

 

 

バババババババババッ!

ヴゥーーーン!

ドドドドドドドンッ!

 

 

ルーヴァの周囲に無数の火球、転位レーザーの砲口、山嵐の粒子ミサイル、手から荷電粒子砲等多くの武器が一度に展開され、発射態勢に入る。

 

千冬

「!!」

ラウラ

「あ、あんな大量の攻撃を一度に展開だと!?」

セシリア

「まさか…全てを撃ってくるつもりですの!?」

「そんな…あんなのまともに受けたら!」

ルーヴァ

「恐れる事はない…痛みは一瞬だ。地獄で奴らと再会するがいい。ダンテとバージルにな…」

「ふ、ふたりは火影と海之だって何度言ったらわかんのよ!」

ルーヴァ

「奴らはこの海の底で静かに眠っている。貴様らも逝くがいい…」

ラウラ

「くっそぉぉぉ…」

「もう…ケルベロスを出す力も…残ってない…」

シャル

「頑張ったのに…、もう少しだったのに…」

楯無

「本当に…ここで終わりなの…?」

 

全員が絶望的状況になる。だが、

 

一夏

「ごちゃごちゃ煩せぇ…!」…グッ!

 

ただひとり、一夏だけは違った。雪片を握りしめ、ルーヴァに向ける。

 

「一夏!」

一夏

「あいつらは…火影と海之は死んじゃいねぇ!必ず…必ず火影と海之は戻ってくる!だか、ら…それまで…俺が、頑張るんだ!」

千冬

「一夏よせ!そんな状態ではもう無理だ!」

一夏

「大丈夫だ!皆!千冬姉!俺の周りに集まってくれ!」

セシリア

「え?」

一夏

「いいから早く!」

 

言われて皆は一夏の後方に固まる。

 

一夏

「皆、その場から動くなよ!」

楯無

「何をするつもりなの一夏くん!?」

ルーヴァ

「…貴様如きが何をしようが…俺に傷ひとつ付ける事はできん」

一夏

「…確かに…千冬姉でも無理なのに今の俺なんかが敵う筈もねぇ…。そんな事はわかってるさ。だけど…お前さっき自分が絶対の力っつったな?ならせめて…それが間違いだって事を教えてやるぜ!」

 

そして一夏は再びイージスの盾を構える。

 

「一夏!お前まさかあの攻撃を全て受け止めるつもりか!?」

「無茶よ!いくらその盾でもあんな大量の攻撃!ひとつひとつでも極めて強力なのに!」

シャル

「僕達のカーテンやシールドを掛け合わせてもあんなの絶対無理だよ!」

 

誰もがそう言うのは当然だろう。しかし一夏は言う。

 

一夏

「大丈夫だ!俺を信じろ!」

クロエ

「一夏さん…?」

一夏

「俺の今の役割は…火影と海之が戻ってくるまで…あいつらの分まで皆を守る事だ!」

千冬

「一夏…お前…」

ルーヴァ

「…いいだろう。ならば仲良く…死ぬがいい」

 

ギュオォォォォォォォ……

 

そして全ての攻撃が発射直前になり、

 

「! く、来る!」

ルーヴァ

「…消えろ」

 

 

ズドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!

 

 

ルーヴァが展開した攻撃が一斉に発射された。

 

全員

「「「!!」」」

一夏

「うおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

……ドガアアアアアアアアアアアアアンッ!!!

 

 

火球、レーザー、粒子ミサイル、荷電粒子砲と、それらが一斉にぶつかり、これまでにない様な凄まじい爆発と爆煙を起こした…。

 

ルーヴァ

「……」

 

灰塵とかしたであろう一夏達を黙ってただ見ているルーヴァ。

………するとその時、

 

ルーヴァ

「……?」

 

ルーヴァは目をやや細める。…見ると煙の中で何かが光っている。黄色い…黄金色の光が。

……そして、

 

 

…シュバァァァァァァァァァァ…

 

 

その光がルーヴァの攻撃によって起こした煙を払う。

 

ルーヴァ

「…!」

 

そして今度は目を見張った。そこにあったのは、

 

 

一夏

「………」

 

 

一夏と、そして周りにいる千冬や箒達を守る様に展開している金色に光輝く壁だった。

 

千冬

「こ、これは…」

「…光の…壁…?」

 

 

「極光の盾「Aegis」」

 

零落白夜に変わる白式・駆黎弩の単一特殊能力(ワンオフアビリティー)。イージスの盾に自らのSEを回し、全ての力を開放する事で発動。30秒間自分を含めて一定範囲内にいる者の周囲に単一特殊能力含め、あらゆる攻撃を完璧に防ぐ金色に光輝く壁を張る。白式・雪羅の零落白夜結界の超発展型であり、一夏の守るという強い信念が生み出した唯一無二の防御機構。しかしその反面消費SEも非常に大きく、一度使用すると半分以上のSEを消費し、更に30分間使用不能になる。

 

 

「…綺麗」

ラウラ

「今の攻撃を…完全に防いだというのか…」

シャル

「…凄い」

セシリア

「…ええ。…まさに奇跡ですわ…」

「これが新しい白式の力…」

楯無

「…いえ、これは単に白式だけじゃない。一夏くんの意志の力が生み出したんだわ」

クロエ

「…一夏さんの意志の力…」

 

…やがてゆっくりとその光の壁は消えた。

 

ルーヴァ

「……」

一夏

「…へへ…どうだ!お前の攻撃を全部防いでやったぜ!塵って馬鹿にしてた俺達にだ!お前の力も絶対じゃねぇと言うことだ!」

 

自慢気にそう言い放つ一夏。そんな一夏の声を聞いてルーヴァの声の様子が変わる。

 

ルーヴァ

「………人間如きが…。虫けらにも劣る塵芥の如き分際でこの俺の力を妨げるとは…、やってくれたな…」

 

ドンッ!…ガシッ!

 

一夏

「!」

 

その時一本の根が一夏の首を掴み、そのまま引き寄せられてルーヴァの手に一夏が捕らえられた。シールドがあるので実際掴まれているわけでもないのに、その力は確かに首を絞められているそれと同じ苦しみを一夏に与えていた。

 

千冬

「一夏!」

一夏

「ぐっ、ぐっあ!くっ!」

ルーヴァ

「貴様だけは許さん…。後悔させてやる…。もがきながら…殺してやる!」

 

そう言うルーヴァの声は凄まじい怒りを含んでいた。

 

セシリア

「一夏さん!」

「止めろ…、止めてくれ!お願いだ!」

千冬

「くっ!」

 

ズンッ!!

 

千冬

「ぐあっ!」

 

その時先ほどと同じ強い重力の様なものが千冬たちに襲い掛かった。

 

「こ、これはさっきと同じ!」

シャル

「動け…ない…!」

 

皆動きを封じられる。

 

ルーヴァ

「黙って見ていろ…。所詮一時の別れ…直ぐに会える。…地獄でな…!」

楯無

「動いて!動いてよレイディ!」

クロエ

「もう力が…入らない…!」

ルーヴァ

「愚かな人間よ…。生半可な力を持ってしまった事を恨むが良い…。そして…死ね!!」

 

一夏の首を掴むルーヴァの手の力が段々と強まっていく。

 

千冬

「一夏!!」

一夏

「ぐっ、くっ!…ぐあああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

………………ドンッ!!!




※二作投稿の後編でした。
次回は17日(土)投稿予定です。


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Mission164 彼らが目覚める日

Dウェルギエルが変化した存在。それにオーガスはルーヴァと名付けた。
先程迄の戦いのダメージが残る一夏や箒達、更に楯無や千冬でさえその圧倒的な力に歯がたたない。ルーヴァの能力である「血吸いの根・データドレイン」の力で彼女達のISの機体データまで奪われてしまい、正に絶体絶命。一夏の新たな単一特殊能力「黄金の盾「Aegis」」で一度は攻撃を防ぐものの最早それまで。ルーヴァの魔手が遂に一夏にとどめを刺そうとしていた。

………しかし。


ルーヴァ

「…愚かな人間よ、己の力の無さを嘆きながら……死ね!!」

千冬

「!!」

「一夏ぁぁぁぁ!!」

一夏

「ぐっ…くっ!…ぐあああああああああ!!」

 

 

 

 

……………ズドンッ!!!

 

 

 

 

ルーヴァ

「!!」

全員

「「「!!!」」」

 

一瞬の出来事だった。ルーヴァの魔手が一夏の息の根を止めようとしたその時、何かが一夏と敵の間に高速で割って入り、それが一夏を掴んでいる敵の腕を断ち切った。それによって一夏はその腕から解放される。一方のルーヴァの腕は再生されるがほんの少し後ずさる。同時に皆は身体の異変から解放される。

 

一夏

「がは!」

クロエ

「! う、動ける様になりました!」

楯無

「な、何が起こったの今!?」

セシリア

「一夏さん!大丈夫ですか!?」

一夏

「ハァ、ハァ、ハァ…な…何が……!!」

 

突然の事態に状況を理解できない一夏達だったが唯一はっきり見えるものがあった。一夏達はそれを見て目を見張る。

 

 

赤い光

「……」

 

 

それはとてつもなく激しい…赤い光。それが一夏を助けたものであろう。そんな赤い光が宙に浮いていた。

 

「な、なに…アレ…?」

シャル

「……赤い光…?」

ルーヴァ

「……」シュバァァァァァッ!

 

誰もが驚いている中、ルーヴァの血吸いの根がその赤き光に迫る

 

 

 

ドォォォォォォンッ!!

 

 

 

ルーヴァ

「!?」

全員

「「「!!」」」

 

その時今度はルーヴァの後方から高出力のビームが敵に襲い掛かった。シールドで弾かれてしまうが予想外の攻撃にルーヴァは思わず根を引っ込める。

 

「! い、今の攻撃は!?」

クロエ

「…あれは…!」

 

 

青い光

「……」

 

 

皆は再度目を見張った。いたのは赤い光に負けない位激しい青い光…。

 

ラウラ

「今度は…青い光だと…!」

「………?」

 

そしてゆっくりと光が弱まり、やがて中に見えるものが視認できる様になる。

 

全員

「「「!!」」」

ルーヴァ

「…!」

一夏

「…あ、あれ…は……?」

 

誰しもが現れたソレに言葉を失うのだった…。

 

 

…………

 

その少し前、とある場所にて…。

 

 

 

ア…ア…アアア…アアアアアァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 

「!!」

 

突然一瞬感じたゾワッとする気配。それによってある者が目覚めた。

 

「…………」

 

その者は身体をゆっくり起こし、周囲を見渡す。……周りは数メートル先も見えない白い空間。そこに自分が今まで寝転がっていた事を理解した。余程長く眠っていたのか頭がぼんやりする。男である事はわかるが自分が何者なのかもはっきり思い出せない。なんらかの服を着ているがなんの服なのかもわからない。

 

「…くっ、頭がふらふらしやがる…。ここは…どこだ?それに…俺は……」

 

するとその時、

 

「漸く気が付いたみたいね」

「!!」

 

後ろから声がしたので振り向くと…そこにはふたつの影がいた。その内のひとりが先ほどの声の主だろう。声色からして女性である。そしてもうひとりが口を開く。こちらも女性の様だ。

 

女①

「ったく何時まで寝てんだか。遅いのよ」

女②

「まぁあんな酷い怪我を負っていたんだから無理もないわよ。とは言ったものの本当によく助かったわ。本当に人間になったの?…ダンテ」

「…!!」

 

その名前を聞いた瞬間、急速に男の頭に記憶が思い出される。自分が何者なのか、そして彼女達が何者なのか。

 

女①

「おはようダンテ。…それとも火影、の方がいいかしら?」

 

 

…………

 

「………」

 

一方、こちらも時を同じくして同じ様な場所で目覚めた者がいた。こちらの者もまた頭がぼんやりとしていてはっきり思い出せない。わかることと言えばこちらもまた自分が男であること位…。

 

「…俺は…一体…?」

「…遅いお目覚めだ」

「!!」

 

後ろから声をかけられ、男は身構える。見るとこちらもふたつの影、ひとりは男の様。そしてもうひとりは、

 

男②

「…子どもたちの声が野原に響き、笑い声が丘にこだまするとき、私の心はくつろぎを覚え、何もかも安心に包まれる…」

男①

「おい、それは子守の詩じゃねぇか。また寝させてどうすんだよ」

男②

「…ほぉ、よく覚えていたな。こういうのは疎いと思っていたぞ」

男①

「誰かさんの影響で一時期読書にはまってたんでね」

男②

「お前、いや、俺達の子は中々秀才だな。…バージル?」

「…!!」

 

男もまた、その名前を聞いたことで頭の中がどんどん晴れてくる。

 

男①

「誰がお前の子だ!……久しぶりだな、親…それとも海之か?」

海之(バージル)

「……呼びやすい方でいい」

 

 

…………

 

女①

「おはようダンテ。それとも火影の方がいいかしら?」

火影(ダンテ)

「……どっちでもいい」

 

双子の似ている返事。そう言いながら火影はゆっくり立ち上がる。因みに着ている服はIS学園の制服だった。

 

火影

「…今何日だ?」

女①

「外の世界では12月25日ってところかしら?ちょうどキリスト降誕祭ね」

火影

「……ひと月も昼寝?どおりで頭がふらつく訳だ。……あ~、身体中がバキバキ……?って思ったけどそんなじゃねぇな?」

 

不思議に思った。ひと月も眠っていた割には筋肉などが全く固くなっていない。

 

女②

「そりゃそうでしょうよ。アンタの身体と私達、正確にはISだけど。このひと月の間ずっと治療と改修をし続けていたんだから」

火影

「……あ?」

 

女性の声に火影は疑問の声を上げる。

 

女①

「覚えていないダンテ?ひと月前の出来事、貴方とバージルがどうなったのか」

 

その問いかけに火影は少し思い出し、喋り出す。

 

火影

「………ああ。あのストーカー野郎の事か。忘れる訳ねぇだろ。俺もバージルの奴も戦って…何とか致命傷を負わすことはできたもんの、ぎりっぎりで倒すことができねぇかもしれねぇと思った。道連れにしようと思ったがそれもかなわず、そして最後は……海へドボン、だ」

女②

「そうよ。全くあん時のアンタもバージルも酷いもんだったわ。私達までボロボロになっちゃったんだから。人間ならたっぷり慰謝料請求してるとこだわ」

女①

「まぁ幸い心臓とコアが無事だったからなんとかなったわ」

火影

「らしいな。こうして俺もお前らも生きてんだから。俺もバージルもつくづく死というもんに嫌われてる様だ」

 

そう言いながら自傷笑いをする火影。するとここで火影にひとつの疑問が浮かぶ。

 

火影

「……おい、思い出したんだが、ここは確か時間が外とは違うんだろ?なのになんでひと月も経ってんだ?」

女②

「へ~、よく覚えてたじゃない。ほんと記憶力良くなったわね。以前みたいにピザのトッピング位しか覚えてない時とは大違い、とまぁ冗談は置いといて、…確かにここは本来なら時間がゆっくりよ。でもそれどころじゃなくなってしまったのよ。アンタのおかげでね」

火影

「…?」

女①

「ダンテ。貴方とバージルはひと月前、大きな傷を負ったわ。それこそ死んでもおかしくない位の。そして私達もね。おまけにそのまま海に落ちてしまった。普通ならとても助からない。でも…貴方達を死なせる訳にはいかなかった」

 

その理由は火影にもわかっていた。

 

火影

「…オーガス、…いやアルゴなんたらか」

女①

「…そう。よりにもよってまさかアルゴサクスだったなんてね、私も驚いたわ。でも奴がいるとわかった以上なんとしても止めなければならない。そして奴を倒せるのは貴方とバージルだけ。貴方達には絶対に死んでもらう訳にはいかない。だから私達は貴方達を助けるために方法を取った…。ある種賭けをね」

 

 

…………

 

海之

「……賭け?」

男②

「お前達と俺達の傷は既に限界を超えていた…。再生の力も殆ど役に立たずじまいだ…。だがそれが働かなければお前達の傷はおろか、俺達も直すことは出来ない…」

男①

「だから俺達の力の全てを再生能力の回復に回したんだ。それこそマジ全てな。他の修復は全部一切無視だ。時間の関係とか他のところに弊害がでるかもしれなかったがそんなもん気にしちゃいられなかった。アンタやダンテの命が尽きる前に修復が完了しなかったらどっちにしろおしまいだからな。正に賭けさ。だがやるしかなかったんだよ」

男②

「…まぁ結果は賭けに勝ち、お前達の身体は無事に再生され、俺達自身も直った…。だが問題が無かったわけではない」

海之

「…それがひと月も経過している理由か。俄かには信じられんが…俺の身体の傷が無くなっているのがいい証拠か」

 

ひと月前に散々つけられたその傷は全てがまるで何も無かったかのように綺麗になっていた。

 

海之

「…奴らは、あの下らん傀儡共はどうなった?」

男①

「……ああ生きてるよ。まぁあんだけの傷を受けておいて半殺しまで行ったんだ。上出来だろ。向こうもえらく修理に時間かかった様だし」

海之

「…そうか。………待て、今「時間がかかった」と言ったな?という事は…!」

男②

「…ああ。もう終わっている。そして今まさに…お前の仲間が戦っている」

海之

「!」

 

それを聞いた海之はすぐに行こうとするが、

 

男①

「待ちなって!俺らの修理も終わったし時間に関する問題も元通りだ。急ごうが急がまいが殆ど関係ねぇ」

男②

「その通りだ…。だから今は情報を整理しようじゃないか…。新しい情報も増えてきたしな。…違うか?」

海之

「……」

 

 

…………

 

その話は火影達も終わっていた。火影の顔に倒せなかった悔しさと不安が滲む。

 

女①

「貴方の大事なお友達たちは今まさに戦ってるわ。そう感じるの」

火影

「…くそ、あいつら無茶しやがって。…教えろ、俺とバージルって今どうなってんだ?ここが現実じゃねぇなら向こうで俺らの身体はどこにある?」

 

火影が質問すると彼女達は驚きの回答をした。

 

女①

「信じられないかもしれないけど…貴方もバージルも動いていないわ」

女②

「アンタもあいつも沈んだ場所から動いていない。ひと月前と同じ場所にいるのよ。つまり海の底」

火影

「……は?冗談だろ?そんな状態で修復なんてできるのか?息切れでどっちにしろ死んじまうだろうが」

女①

「ええ…普通ならね」

火影

「…なんだ?」

女①

「ダンテ。貴方が昔、バージルと戦って敗れた時、ひと月ほど行方不明になっていた時があったでしょう?そしてその間、貴方は存在を隠されていた。「魔剣スパーダ」の力でね」

火影

「……ああ」

 

火影の頭に昔の記憶が蘇る。まだダンテだった頃に自分はバージルが変異したとある存在に挑んだが逆に返り討ちにあってしまった。そして次に発見されたのは一か月後だった。ダンテはその間、彼の父親の形見である「魔剣スパーダ」によって気配を隠されていたのである。

 

女①

「貴方達が海に沈んだあの後、あれと似たような事があったのよ。貴方の「リベリオン」が突然起動してISを纏ったままの貴方とバージルの気配と姿を隠していたの。貴方達の言葉で言う…シールドみたいなものを張って。多分他からしたらいなくなった様に見えてると思うわ」

女②

「しかもあらゆる環境下でも生きられるっていうもんよ。水中どころか宇宙でも生きられるんじゃないかしら?」

 

それを聞いた火影の目に驚きの様子が浮かぶ。

 

火影

「…そんな事が…。そんな便利なもんあんならもっと早く言えよ」

女①

「……教えたらもっと無茶するでしょう?いいダンテ?貴方もバージルも今はただの人間なの。幾ら強くても。今回助かったのはあくまでも奇跡が重なっただけ。覚えておきなさい」

火影

「…へいへい」

 

火影も重々それは承知しているのでそれ以上は言わない様にした。

 

火影

「ところで話は戻るが…リベリオンが俺達を助けたって事は…リベリオンは…」

女①

「ええ。貴方の想像通り、貴方のリベリオンとバージルの閻魔刀は嘗ての貴方達が使っていたものよ。それと貴方の銃も。最初から装備されている物だけだけど」

火影

「やっぱそうか…。魔力を感じ取れるからもしかしたらとは思ったが…。しかしそれにしてもよく見つからなかったもんだな?アルゴサクスは魔力も使えんのに」

女①

「…そうね。運が良かったと言うしかない」

火影

「……」

(…にしては妙だな。本当に運だけか…?)

 

だが今は答えが出そうになかった気がした火影は考えるのをやめる。

 

女②

「そういえばアルゴサクスってどういう悪魔なの?私はその時別の仕事で国を離れてたんだけど…名前だけは知っているわ」

女①

「……覇王アルゴサクス。嘗て魔帝ムンドゥスや悪魔アビゲイルと共に魔界の三分の一を支配していたといわれる大悪魔。だけどある時ダンテとバージルの父である魔剣士スパーダによってそれらが封印された後、敵無しになった魔界のほとんどを掌握した。その後は人間界をも侵略しようとしたけど…スパーダと彼に味方する人間達によって自らも封印された。それから永い時が経って馬鹿な人間によって目覚めたけど…」

火影

「最後は俺がぶっ殺した」

女②

「ふ~ん。で、それが人間に生まれ変わってアンタ達の世界にいると。全く腐れ縁ね」

火影

「腐りきった因縁だ…。勘弁してほしいぜ、なんで魔界と関係ない世界でまた会わなきゃならねぇんだ。俺達をこの世界に送ったあの娘はこの事知ってたのか聞きたいぜ全く…」

 

火影は頭を掻きながら文句たれる。

 

女①

「…ねぇダンテ、ちょっといいかしら?アルゴサクス、いえ正確にはその人間、オーガスについてなんだけど…」

火影

「…奴が魔力を持っていた事か…」

女①

「その通りよ。貴方も、そしてバージルも嘗てはアルゴサクスを超えるほどの魔力を持っていたわ。でも転生した今の貴方達には魔力は無い。なのに同じ様に死んで転生したらしい奴は魔力を持っている。…何故かしら?」

火影

「…確かにな…。それにもうひとつ気になる事がある。あの時奴はこう言った。「我らの大願を果たす」ってな」

女②

「「我ら」って…なんか気持ち悪い言葉ね。まるで他にも何かいるみたい。あるいはそのアルゴサクスが生まれ変わったオーガスがいる組織の事なのか…」

女①

「でもオーガスとしてでなくアルゴサクスとして話した言葉。…気になるわね…」

火影

「……」

 

暫しの沈黙が流れる。

 

火影

「…ま、それに関しちゃ奴を抑えてはかせりゃいい。それに……俺にはそれ以上に気になる事がある」

 

すると火影の顔がやや険しくなり、ある事を尋ねる。

 

火影

「あん時のアレ……アレは何だ…?」

 

 

…………

 

それはひと月前、オーガスと対峙していた時にDアリギエル達を召喚した時にまで遡る…。オーガスがそれらを召喚する際、突然黒き穴、暗黒洞が開いた。そしてその時リベリオンと閻魔刀がその影に反応した。これまでのよりも遥かに大きな反応を。

 

火影

(あの影に反応している!)

海之

(これは…今までよりも遥かに強い反応だと…!)

 

其々の剣の反応を黙って感じ取るふたり………とその時、

 

 

…ピッ!キュイィィィン…

 

 

突然、アリギエルとウェルギエルの何かが起動した。そしてそれは彼らのインターフェースに文字として浮かび上がる。

 

火影

「え?……!!」

海之

「何!?」

 

 

 

「―「アクマガエリ」 ガ シヨウデキマス ドウシマスカ?―」

 

 

 

火影

(「アクマガエリ」……「悪魔還り」!?)

海之

(…使用できる、だと?まさかこれが!)

ラウラ

「何か出てくるぞ!」

 

ふたりは一瞬目の前に出てきた黒い存在につい注意が行ってしまった。そして、

 

……キュゥゥゥゥン

 

火影・海之

「「…!!」」

 

何故かその機能は再び封印状態になってしまった…。

 

 

…………

 

火影

「あの暗黒洞が開いた時…一瞬だけ解除された…。どういう意味なんだ「悪魔還り」って?」

女①

「……」

火影

「あれが何なのかだけはわかる。多分、いやきっとアレがアリギエルの単一特殊能力(ワンオフアビリティー)だ。そしてウェルギエルの方も同じ筈だ。…だが何故今急に起動した?9年間一度も起動しなかったのに。…教えろ、「悪魔還り」とは何だ?」

女②

「……それなんだけど…」

 

 

…………

 

一方こちらも同じ話題が上がっていた。海之は目の前にいる人物に問いただす。

………だが、

 

海之

「……わからないだと?」

 

答えは彼のそれを裏切るものであった。

 

男②

「…ああ。あれについては俺達もわからない…。わかっているのは「悪魔還り」という名、それだけだ…」

海之

「どういう意味だ?お前達はコア、そしてあれはウェルギエルやアリギエルの機能なのだろう?なのに何故お前達が知らないのだ?」

 

海之の疑問について答えが出る。

 

男①

「……壊れてんだよ」

海之

「…何?」

男①

「アンタの言う通りアレは確かにウェルギエルの機能には変わりねぇし本来なら俺達が知らねぇ筈はねぇ。……だがデータってのか?その一部が壊れてんだ。あれがどういったもんなのか、使ったらどうなんのか、そう言った部分の詳細データがな。しかもご丁寧に封印までされてやがる。だから俺達にもわからねぇんだよ」

海之

「……何故壊れている?戦いによってか?」

男②

「それは無いだろう。あれはお前達が初めて使った時には既にあの状態だった筈だ…」

海之

「……」

 

確かにあれは9年前、初めて自分達がISを使った時から今の今まで封印された状態だった。最近の戦闘での故障によるものとは考えにくい。

 

男②

「だがあれが動く前、お前達の剣が、閻魔刀とリベリオンが強く反応した…、今までよりもな…。そしてそれに応える様に突然動きだした。これが何を意味するか、わかるだろう?」

 

答えはひとつだった。あの機能には…魔力が関わっている。

 

海之

「…だが今まで数える程度とはいえ、魔力に接触する事はあった。それでも今まで起動する事はなかったがな…」

男①

「それだけ強力な魔力だったって事じゃねぇのか?」

海之

「……」

(…確かにあの時の閻魔刀の反応はこれまで以上だった。…あれほどの強大な力…、一体……)

 

度重なる新たな謎の出現に海之は珍しく頭を押さえた…。

 

 

…………

 

火影

「直す事は出来なかったのかよ?」

女①

「当然やってみようと思ったわ。…でも最初からまるで意図的みたいに壊れているのよ?その上封印まで。なんの意味もないとは思えない…」

火影

「……ちっ、どんなもんか漸くわかったと思ったら全然わかってねぇのかよ」

女②

「でもあれに魔力が関わってるのは間違いなさそうね。そして再び封印されてしまった。残念だけどもう一度見れる様にならないと調べようがないわね」

火影

「……」

(一回解除されたのがまた引っ込んじまった…。…なんか条件が必要なのか?もしそうなら何時もは封印されてる意味もわかるが…。…にしても「悪魔還り」ねぇ…。なんか嫌な予感しかしねぇな…)

女②

「まぁ仮に使えたとしても安全性は保証できないけどね~。なんかやばそうだし♪」

火影

「…なんか楽しそうだな?悪魔よりもおっかねぇな相変わらず」

女①

「ふふふ…でも貴方の再生とアリギエルの修復は凄く頑張ってくれたのよ彼女」

女②

「余計な事言わない!こいつのためじゃないわ、あの子達のためよ!」

 

その一言を聞いた時、火影の考えが変わった。

 

火影

「……さっきのは取り消す。悪かったな」

女②

「…だーかーら!別にアンタのためじゃないってば!礼なんていいわよアンタらしくない」

女①

「ふふふ…」

 

一瞬懐かしい雰囲気が流れた…。

 

火影

「…で、アリギエルはどうなんだ?もう使えんのか?」

女①

「ええちゃんと直ったわよ。パワーアップも施してね。何しろアルゴサクスと戦うんだもの」

女②

「ほんっとアンタ達が手荒な使い方したせいで大変だったわ。冗談抜きで請求してやりたいわよ。何度も警告したのにアンタもあいつも全然気にしないんだから」

火影

「警告?」

女②

「アンタ達に何度か起こった激痛みたいのあったでしょ?あれは私達が起こしたのよ。これ以上無理をするな!ってね」

火影

「……アレはお前らの仕業だったのかよ…。死なせる訳にいかねぇって言っときながら死ぬかと思ったぜ…」

女①

「…でもそんなになっても戦うほど、今の貴方には守るものができたって事でしょう?」

 

そう言われた火影の脳裏に仲間達やスメリアの人々、そして愛する者達が浮かぶ。

 

火影

「……約束しちまったからな…守るって。そして…真実を伝えるって」

女②

「あ~あ、ホントあんないい子達が気の毒だわ~。アンタ女運悪かったんじゃなかったの~?」

火影

「…それおめぇが言うのか?」

女①

「ふふ、じゃあそんな姫を守る騎士様にお知らせよ。あの子達は今まさにこの上で戦っているわ。早く行ってあげなさい。ただもう一度しつこく言っておくけど貴方達本来の、悪魔の力は使えない。武器と機能だけで勝負する事になるわよ」

火影

「わーってるよ。それは仕方ねぇ。本当なら俺の剣が欲しいとこだがな」

女①

「無理ね。あれは「ダンテだった頃」の貴方から生まれたものだから」

火影

「…って事は親父の剣も…」

女①

「その通り。あれもあの時の貴方が取り込んじゃったでしょう?」

火影

「……」

(…じゃあ何でリベリオンが使えたんだよ…ったく…)

女①

「ああそれからダンテ、もうひとつ大切な事を教えとかないと。貴方のリベリオンなんだけど……暫く使えないわ」

火影

「……は?どういう事だ?」

 

その内容に火影も流石に驚く。

 

女②

「アンタ達を守って力が弱まっているのかなんなのかわからないんだけどリベリオンが使えなくなってんのよ…。暫く武器としては使えないみたい。持つ位や魔力を感じ取る事位はできそうだけどね」

火影

「……ちっ、こんな時に…」

女②

「だから戦力補強も兼ねて一応また追加しといたわ。ちょ~っとやかましいけどね~♪」

火影

「………マジか」

 

その言葉を聞いて意味を察したのか火影が更に苦い顔をする。かなり嫌そうだ。

 

女②

「まぁ我慢しなさい。役に立つのは間違いないし。それにふとした時にまたアンタの剣もまた使えるかもしれないわよ」

火影

「…心の底からそう願うぜ…」

女①

「…さ、これで本当に終わりよ。気をつけてねダンテ。…いいえ火影」

女②

「精々頑張りなさい。……あと前の約束守りなさいよ。守り抜くっていう」

火影

「へいへい、任せな」

 

そう言って火影は背を向けて去り際、最後に、

 

 

火影

「……ありがとよ相棒達。これでまた戦える……」

 

 

そう言うと火影は走って行った……。

 

女②

「……」

女①

「あんな素直にお礼言うなんて…ほんと変わったわね彼。…良かったの?名前で呼ばれなくて?」

女②

「…メアリという名前はとっくに捨てたわ。あっちの方は…まぁコードネームみたいなものだし。仕事上相棒組んでた時もあったし、あれで結構よ。…貴女も同じじゃないの?」

女①

「……確かに名前だけど…あれは奴に付けられた名前だしね。相棒の方が嬉しいわね…」

 

そんな事を話ながらふたりは火影の去って行くのを眺めていた…。

 

 

…………

 

その少し前、こちらも、

 

男①

「…あとクソ親父。アンタの閻魔刀だが」

海之

「知っている。直せないのだろう?」

男②

「気付いていたか…」

海之

「あれは嘗ての俺が使っていたもの。ただの人間となった俺に直せるものではない…」

男①

「だから俺の剣持っときゃ良かったんだよ。ま、あんな美人に持たれる方がアイツも喜ぶだろうけどな」

男②

「…だが閻魔刀を失ったのは大きな痛手だ。次元斬も本来の力を発揮できなくなるだろう」

男①

「まぁでも心配すんな。おまけ付けてあっから」

海之

「…?」

男②

「今にわかるさ。利用できるものは利用する、勝つために…。それより…お前は彼らに真実を知らせるのか?」

海之

「………ああ。例えその結果どうなろうと伝えなければならん。今の俺には守るものがある。信じてくれているものもいる…」

男①

「……しっかしハッキリ言って信じてもらえんのか?御伽話にもほどがあるぜ?」

男②

「…大丈夫だ。俺達を見ればいやがおうでも信じるさ」

海之

「……どういう意味だ?」

男②

「後は自分で考えろ。…さぁ、もう行け。俺は読書で忙しい」

男①

「もう無茶すんなよ?あんな忙しいのは御免だぜ」

 

少々乱暴だがその言葉の意味を海之は理解したらしく、

 

 

海之

「…わかっている。…世話になった。嘗ての俺、そして……」

 

 

それだけ言ってひとりの方を暫し見た後、海之は去って行った…。

 

男①

「……久々にまともに見やがったな」

男②

「素直じゃない奴だ…。名前を呼んでほしかったか?」

男①

「いいよ別に。今更だ。それにアイツはもうバージルであってバージルじゃない」

男②

「そうか?俺は嘗てのあいつだ。あいつの考えはわかるぞ。目は口ほどに、というやつだ…。ククク、「愛してさえいればそれは無限を意味する」」

男①

「気色悪い事言うなっての!」

(………生きろよ…………親父)

 

 

…………

 

火影

「………ん?」

 

ふたりと別れて少し走っている時、火影は止まった。自分の先にもうひとり別に影が立っている。別れたからあのふたりとは違うだろうが……。だがここはアリギエルのコアの中、危険なものはないだろうと火影は気にせず近づく。そして近くに行くとその影は話しかけてきた。

 

「久しぶりだねぇ…」

火影

「!!……ハァ、誰かと思えば…アンタか…」

 

声からして女性だ。その言葉その声を聞いた火影は驚き、ため息をついた。誰かわかった様だった。

 

火影

「なんでアンタがここにいんだ?口うるさくて天国から追い出されたか?」

「冷たい言い方だねぇ。久しぶりに出てきてやったのにさ。それにアタシが天国なんて馬鹿いっちゃいけないよ。ゴロツキどもがうろつく地獄がお似合いさね」

火影

「はは、ちげぇねぇや」

 

やれやれという表情だが…どこか嬉しそうだ。

 

「それにしても随分可愛くなったじゃないか」

火影

「うっせー。俺は可愛いんじゃなくてイカシてんだよ。あのお嬢ちゃん、いやあいつももう婆さんか。あんま似てねぇアンタの孫もそっちにいんのか?」

「ああいるよ。ただアタシから見りゃあれも息子もまだまだひよっこだね。まぁあの奇妙な籠手はちょっと面白いけどさ。……ってこんな話してる場合じゃないね。坊やに渡すもんがあって来たんだ」

 

するとその人物はあるものを差し出す。それは白と黒、そして金色に輝く3つのハンドガンだった。

 

火影

「!…なんでアンタがこれを?」

「金髪の姉ちゃんに渡されたのさ。自分はもう使えないから返してやってってね。ああ坊やが使ってるアレなんだっけ?アイエス…だっけか?それでも使えるようにしてあるよ」

火影

「俺にはもう銃は」

「知ってるよ。坊やのためじゃない。あの子達に渡してやりな」

火影

「あの子達って……鈴達の事か?なんであんたが知ってんだ?」

「黒い髪の姉ちゃんから聞いたのさ。坊やに心底惚れてしまった気の毒な子達がいるってね。ちょっと興味あってペンダント越しに見せてもらったのさ。青春を謳歌してるねぇ~」

火影

「…あいつ余計な事を…」

「そう言うんじゃないよ。……いい子達じゃないかい。坊やの事あそこまで想ってくれるなんてさ。もったいなすぎる位だねぇ」

火影

「………ああそうだな。話は戻るがなんでもうひとつある?」

「三人だから3つ無いと不公平だろう?だから私が用意したのさ。名前はアルバ。夜明けって意味だよ」

火影

「…だが本音は」

「お守りとして持たせてやりな。それだけでも勇気が湧くもんさ。あと坊やの銃は寝てる間に全部メンテしてやったよ。子供のメンテじゃ不安でしょうがなかったからね。特にあのショットガンなんて中が滅茶苦茶だったよほんと」

火影

「……流石は」

「おっと!よしとくれ。そのあだ名はもう封印したんだからさ」

火影

「……」

「さ、アタシの用はこれで終わりだ。早く行きな。……もうあの子達を悲しませんじゃないよ」

火影

「…わかってる。…ありがとう」

「ハッ!気持ち悪い事言うんじゃないよ。…ま、久々に話せて少しは嬉しかったよ」

火影

「俺もだ。……また会えるか?」

「どうかねぇ……。昔ならともかく今のアンタは間違いなく死んだら天国行きだろうね。全く想像できないけど。ハハハハハ!」

火影

「ちげぇねぇ、ハハハハハ!」

 

ふたりは笑った。まるで別れを惜しむかのように。

 

火影

「ハァ……んじゃ行くか。世話になったな……婆さん」

 

そう言って火影は走って行った。それを見送る白い女性。

 

「…全く、最後まで婆さん呼ばわりかい。まぁ坊やらしくて良いか。…頑張りなよトニー、いや…今は火影、だったね……」

 

 

…………

 

そしてこちらの方にもこんな事があった。

 

海之

「………?」

 

自分の目指す先にひとり白い影が立っている事に海之はふと気づいた。……そしてやがて影の近くまでたどり着く。

 

「……」

 

その影は何も言わずにずっと佇んでいる。ただ輪郭からして女性であることは予想できた。

 

海之

「…………」

 

海之は何も言わなかったが暫くして、

 

スッ…

 

海之はその影の肩に手を置いた。実態が無いため触れた感覚は無い。置いたように見せているだけだ。海之には影が誰なのか想像できた様だった。

 

海之

「…………もう遠い昔だ。…何時だったか」

「……」

海之

「あの時の俺には何もわからなかった…。知る価値も興味も無かった…。あいつ曰く、確かに若気の至りというやつだった。……だが、お前があいつを生み、殺さずにいてくれたおかげで俺は気づくことができた。大切なものに。そして……もう一度得る事ができた」

「……」

海之

「……ありがとう」

「……!」

 

そして海之は再び歩き出す。すると今まで黙っていた女性が口を開いた。

 

「……最後に教えて。……貴方の名前は?」

 

すると海之は立ち止まり、振り返らずに答えた。

 

海之

「昔はバージル…。今は海之だ。……お前は?」

「……~~」

海之

「……覚えておく」

 

それだけ言い、海之は歩いて行った……。

その後ろ姿を見ながら女性は胸の前で手を組み、呟いた。

 

「…バージル……海之…」

 

 

…………

 

火影が去った後…まだこんなやりとりがあった。

 

女②

「…ねぇ、そういえばよかったの?本当の事、別に伝えてやっても良かったんじゃない?却って喜ぶんじゃ…」

女①

「…野暮、という奴よ。それに何れどうせ知る事になるわ。…その時が来るまでは…彼らの意志を汲んであげましょう…」

女②

「…まぁね。にしても貴女も随分人間臭くなったわね~」

女①

「あらそう?…悪い気はしないわね。ふふ」




※次回は24日(土)の予定です。
UAが160000に到達しました!ありがとうございます。
海之の最後に会った女性はDMC4バージル編からの出演です。彼女が……の母親だったらと想像してます。


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Mission165 赤と青の双子のSIN・魔人

火影と海之は生きていた…。
再び嘗ての仲間達と再会した彼等はこれまでの事を整理しつつ、新たに浮き出た謎を確認する。

何故オーガス(アルゴサクス)は魔力を持っているのか?
「リベリオン」そして「閻魔刀」は果たしてもとに戻るのか?
そして一瞬だけ見えたふたりの単一特殊能力「悪魔還り」とは何か?

謎は残るがふたりは救ってくれた仲間達や懐かしい者達に改めて感謝し、再び戻って行った。守るため、戦うために…。


火影と本音の部屋

 

 

一夏達やルーヴァの元に赤い光と青い光が現れたのとほぼ同時刻、

 

本音

「…皆…きっと、きっと大丈夫だよね…」

 

本音は皆の無事を強く願っていた……その時、

 

 

カッ!!

 

 

本音

「きゃっ!な、なになに!?」

 

突然火影の机の上に置いている箱が強く光った。

 

本音

「!? ひ、ひかりんの銃が入ってる箱が!」

 

………暫くすると光は収まった。本音は気になって箱を開けてみた。

 

本音

「…!!」

 

ガチャッ!

 

「本音ちゃん!」

 

その時扉を開けて虚が入ってきた。彼女の姿を見て本音が慌てて話し出す。

 

本音

「お姉ちゃんどうしよう!ひかりんの、ひかりんの銃が無くなっちゃったの!急にピカッって光った途端に!」

 

箱に入れられていた「エボニー&アイボリー」は忽然と消えてしまった。

 

「!…こっちもなの…」

本音

「こっちもって…どういう事!?」

「消えたのよ…こっちも。出発前に簪様から渡されていた海之さんの刀が…。凄い光と一緒に」

 

折れた「閻魔刀」もまた、同じ様に光と共に消えてしまったのだった。

 

本音

「みうみうのも!?どうして……」

「……本音ちゃん!」

本音

「………も、もしかして!!」

 

 

…………

 

そしてその謎のISの出現は彼らも見ていた。

 

スコール

「…また未知のIS…ね…。赤色と…青色の…」

オーガス

「……!!」

 

オーガスの顔が強張る。

 

オーガス

(……まさ、か……そんな馬鹿な……)

スコール

(……赤色と青色の…あの子達を助けたIS、か。………ふふっ)

 

表には出さなかったがスコールは心で一瞬笑った。そんな彼女とは対称に、

 

オーガス

(何故…奴らの反応は……、ひと月前に……!)

 

オーガスの心は怒りで支配されていた…。

 

 

…………

 

 

突如現れたルーヴァに対峙する赤と青の光。それは…見た事も無い二体のISだった。

二体とも黒い機体だが身体中の至る所から光が溢れ出、走っている。まるで身体を駆け巡る血液の様に。

最初に現れた機体は上に伸びる二本の角の間から紅蓮の赤い光が。次の機体は腕の後ろ側から深い青い光がそれぞれ一際強く出ていた。

鋭い爪が付いている手足。

かぎ爪がある4枚の翼。その内側にも光が走っている。

異形な形をした長い尻尾。

顔面部は漆黒のバイザー。

細かい部分は違いがあるものの大まかにみれば似通っている、そんな感じの二体だった。

 

 

ルーヴァ

「…貴様ら…何者だ…?」

「「……」」

一夏

「あ、あの…IS、は…?」

楯無

「また見たことが無いISね…」

「…敵なのか?…それとも味方?」

セシリア

「一夏さんを助けてくれましたから…敵ではないと思いますが…」

鈴・シャル・簪・ラウラ

「「「………」」」

クロエ

「………え」

千冬

「赤と青の光を放つIS………!!」

 

 

…カッ!!

 

 

全員

「「「!!」」」

 

するとその時、突然の光と共に前の二体の手にあるものが現れた。

 

ジャキッ!

 

赤いISの両手には白と黒に輝く拳銃が。

 

チンッ!

 

青いISの右手には折れた刀が。それを左手にある鞘に納めた。そしてそれを見た一夏達の心にあのふたりの名前が浮かぶ。

 

一夏

「…ま……まさか!!」

「……火…影。……火影なの…?」

シャル

「あ……あああ…!」

「………海之くん、……海之くんでしょ?…そうでしょ?」

ラウラ

「生きてたのか…生きていて、くれたのか…!」

クロエ

「…兄さん!!」

千冬

「…火影、…海之」

「ふたり共…!」

セシリア

「本当に、本当におふたりですの!?」

楯無

「……ハァ、本当にうちの学園の男子は驚かせる子ばっかりね…♪」

扇子

(吃驚仰天)

一夏

「…火影、…海之。……お前らなんだな…!たく遅せぇんだよ…へへ…。お前らが来てくれたんなら…仕方ねぇ。後は…任せる…ぜ……」…キュイィィン…

 

嬉しそうに悪態をつきながそう言った一夏はその言葉を最後に力を使い切ったらしく、気絶してISが解除されてしまう。それを慌てて箒達が受け止める。

 

「一夏!」

楯無

「…大丈夫よ。気を失っているだけだわ。それより…」

赤いIS

「……」コク

 

赤い光を放つISがこちらを横目に見て頷いた。「任せろ」と言っている様に。

 

千冬

「!…下がるぞお前達!ここにいては彼らの戦いの邪魔だ!」

「は、はい!」

ルーヴァ

「…逃げられると思っているのか」…ドォォォォォンッ!!

 

そんな箒達に対してルーヴァは火球を撃つ。

 

シュン!シュン!

 

すると彼女達を守るように赤いISと青いISが立ちはだかり、

 

 

カッ!!ゴォォォォォォォォォッ!!

 

 

赤いISの足元が光った途端、続いて凄まじい炎に包まれる。

 

 

ドゴォォォォォォッ!ボガァァァァァンッ!

 

 

赤いISは炎を纏ったその脚で火球に回転蹴りを当てた。その衝撃で火球はあさっての方向に弾き飛ばされ、爆発霧散した。

 

楯無

「あ、あの火の玉を一蹴りで弾き返した!?」

ルーヴァ

「!……」ズドドドドドドドドド!!

 

すると今度は粒子ミサイルの山嵐が襲い掛かる。

 

 

ヴゥヴゥヴゥヴゥン!ズババババババババッ!!

 

 

しかし青いISの周囲に無数の光輝く剣が現れ、それらを縦横無尽に斬りさき破壊した。それは幻影剣だった。

 

セシリア

「い、今のは海之さんの幻影剣!」

クロエ

「という事はやはり!」

 

するとそんな二体から声が聞こえた。

 

赤いIS(火影)

「お前らの分までちゃんとお仕置きしといてやるぜ」

青いIS(海之)

「…行け」

 

それはまさしくあのふたりの声だった。

 

全員

「「「!!」」」

千冬

……コク「お前達、行くぞ!」

「はい!…火影海之!言いたい事も文句も山ほどあるけど全部後回しにしてあげるわ!だから勝ちなさい!!」

「私達ふたりに言いたい事一杯あるの!負けないで!!」

ラウラ

「勝て!ふたり共!!」

シャル

「絶対だよ!負けたら絶対許さないからね!!」

「火影!海之!頼む!」

セシリア

「ご武運をお祈りしますわ!」

楯無

「貴方達の力!見せてやりなさい!」

クロエ

「兄さん!勝って下さい!!」

 

そして気絶した一夏を連れて再びその場を離れる千冬達。その場にいるのは火影と海之、そしてルーヴァのみ。

 

火影

「暫く見ねぇ内に随分変わっちまったじゃねぇか。…まさかてめぇとまで会うとはな…」

海之

「……」グッ!

 

海之の拳が強く握りしめられる。

 

ルーヴァ

「…貴様ら…まさか!」

火影

「てめぇはどっちだ?…まぁどっちでもいいか。…借りは返すぜ、あいつらの分までな!」

海之

「…貴様の存在は許されない!」

ルーヴァ

「…ダンテ!…バージル!」

 

…ズドドドドドドドドドドドドドンッ!!

 

怒りの唸り声をあげるや否や、ルーヴァは再び山嵐を撃ってきた。

 

火影

「景気良く行ってみるか!」ジャキッ!…シュン「!」

 

火影はリベリオンを展開し、振るおうとした。…しかしその瞬間、リベリオンは消えてしまった。

 

火影

(…ちっ、マジで使えなくなってんのか…)

「…仕方ねぇ。ちょいハンデをくれてやるぜ!」ジャキッ!

海之

(…リベリオンが消えただと…?)

「調子に乗ってへまをするなよ」ババッ!

 

火影はエボニー&アイボリーを、海之は両手に幻影剣を持ち、構える。

 

ズドドドドドドドドド!!

ババババババババババ!!

 

最初と同じく火影はミサイルを撃ち落とし海之は斬る。

 

ルーヴァ

「一度は負けた者が…絶対の力、破壊の化身たるこの俺に…歯向かうとは!」

 

ヴゥヴゥヴゥヴゥンッ!ドドドドドドドドドンッ!!

 

怒りの声でルーヴァはそう言うと今度は複数の転移レーザーを撃ってきた。火影と海之は離れてそれを縦横無尽に避ける。しかしレーザーは細かくふたりの後を追う。

 

海之

「偏光射撃によるレーザーか。…あんなものは無かったな」

 

ヴゥンッ!ズドンッ!

 

すると前方に同じく転移レーザーが現れ、射出された。

 

火影

「ハメ業か。ならこっちも」シュンッ!!

 

すると火影はあたるギリギリでエアトリックで逃げ、レーザーの同士討ちを誘った。

 

ギュンッ!

 

が、当たる直前でレーザーは再び軌道を変えて火影に向かう。

 

火影

「ほぉ~当たると思ったのに残念だ。流石に今までのザコ共とは違うな」

海之

「遊んどらんとさっさと撃ち落とせ!」

 

バババババババァン!!

ズガガガガガガガガンッ!!

 

火影と海之はコヨーテとブルーローズで飛んできたレーザーを撃ち落とす。

 

火影

(反動が大分小さくなってやがる。流石婆さん、しっかり整備してくれやがった様だな…)

「今度はこっちからいくぜ!」ドンッ!

海之

「はっ!」ドンッ!

 

火影はキャバリエーレ、海之はベオウルフを展開、高速でルーヴァに突撃する。

 

ルーヴァ

「無駄だ…」

 

ガキキキキキキンッ!!

ドゴオォォォッ!!

 

…しかしその攻撃はルーヴァの言う通り弾かれてしまった。そのシールドの強度は今までの敵よりも遥かに強力だった。

 

火影

「ちっ!」

海之

「…!」

 

ズドドドンッ!!

 

近づいていた火影と海之にルーヴァの衝撃砲が襲い掛かった。

 

火影

「ぐっ!衝撃波か!」

海之

「だが!」

火影・海之

「「おおおおおおお!」」

 

…バシュゥゥゥゥゥゥゥッ!!

 

火影と海之は衝撃砲の直撃を受けたものの気合で消し飛ばす。ダメージはそれほど大きくはなさそうで直ぐに態勢を立てなおす。

 

海之

「あんなものまで備えているか。まともに喰らったが…こちらも以前より装甲の強度が上がっている様だ」

火影

「けどあいつのシールドも今までにねぇ位強力みてぇだな。まぁ閻魔刀の力を使ってたそれには及ばねぇけど。だが俺らも魔力が無ぇためにあん時程の力が出せてねぇためか簡単にゃ貫けねぇ様だぜ」

海之

「…ああ」

火影

「お前か俺の剣がありゃ難無く開けられそうだがどっちも使い物にならねぇし…。どうするか、無理しても開けられねぇ事はねぇがよ」

海之

「無いものを言っても仕方がない。……俺にひとつ手がある。その間、お前ひとりで奴と戦って注意を引き付けろ」

火影

「…へっ、簡単に言ってくれるねぇ」

海之

「なんだできんのか?」

 

すると火影は悪態をつきながらも笑って言った。

 

火影

「…いいや簡単さ!」

海之

「タイミングが重要だ。一瞬でも動きを止めろ」

火影

「あいよ!」ドンッ!

 

そう言うと火影はひとりルーヴァに向かっていく。

 

ルーヴァ

「…わざわざ死にに来たか…」

火影

「違うな!ぶったおしに来たのさ!」

 

ルーヴァと戦いを始める火影のその後ろで海之は何考えていた。

 

海之

(閻魔刀が使えなくてもシールド位は…)

 

ヴゥヴゥヴゥヴゥヴゥン!!

 

スクードアンジェロ・デュエルアンジェロ

「「「……」」」

 

その時、海之の周辺にいくつもの転移が出現した。そこから多くの(スクード)アンジェロと(デュエル)アンジェロが現れた。しかし海之は冷静に状況を分析する。

 

海之

「…さしずめ俺達の力を測るために寄越したか。…貴様らの相手をするほど暇ではない。死にたくなければ去れ」

 

…だがそんな言葉が通じる相手でもなく向かってくる。海之は動かないまま。

 

海之

「……」

 

カッ!…ドォォォォォォン!!

 

Sアンジェロ・Dアンジェロ

「「「!!」」」

 

すると突然、ウェルギエル後方にアリギエルやウェルギエルの展開時と同じ様な黒い光が現れ、それが爆発を起こした。突然の事態にアンジェロ達は一瞬たじろぐ。……そして暫しして驚いた。

 

 

ひとつ目の巨人

「……」

 

 

そこにはまたもや異形の存在がいた。ウェルギエルの倍ほどはあるだろう紫色に鈍く輝く巨大な人型の物体。顔と呼べる部分が無く、身体に当たる部分から手足が伸び、頂点らしき部分にひとつ目と思われるものが不気味に光っている。両手は無数の棘が付いた球体、星球の様になっている。

 

海之

「…我は嘆き悲しみ、自らの星を呪う」

 

ギロリッ!…ピッ!!

 

巨人の目から細い光が高速で放たれ、周囲のアンジェロ達に襲い掛かった。

 

Sアンジェロ・Dアンジェロ

「「「!!」」」

 

ドガガガガガガガガガガガンッ!!

 

その光を受けたアンジェロ達は揃って爆発を上げ、立て続けに破壊された。

 

ドンッ!

 

するとそれから間一髪逃れたらしい一体のSアンジェロがその巨人に襲い掛かってきた。剣を振り下ろす。

 

海之

「我が愛しき人を高め、卑しめたあの星を…」

 

ガキンッ!!

 

Sアンジェロ

「!」

 

しかし、その剣は巨人の装甲に食い込まず、受け止められた。

 

海之

「迷い子よ、家へと帰れ…」

 

……ヴゥン!!

 

今度はその巨人が星球の拳を振り上げてSアンジェロを狙う。空かさず盾で防御しようとする。しかし、

 

ドゴォォォォ!バキィィィィィン!!

 

Sアンジェロ

「!!」

 

ドガァァァンッ!!

 

しかし盾ごとその拳でへし折られ、Sアンジェロは大破した。

 

 

「ナイトメア(ブイ)

ウェルギエルに新たに追加された機能兼支援機。

元々は海之(バージル)のコアに宿る人物が使役していたものだが、閻魔刀が折れて戦力ダウンした海之に託された。破壊光線と雷弾、手足による格闘という比較的単純な戦法しかできないがその破壊力は非常に強力でSアンジェロを盾もろとも粉々に打ち砕くほど。更に鈍重な見た目とは裏腹にスピードもあり、頑強さもある。但し嘗ての名残か時間制限があり、約一度の戦闘で3分間しか使えない。

 

 

ナイトメア(ブイ)

「……」

 

ヴゥヴゥヴゥヴゥン!

 

するとまた新たなアンジェロ達が更に出現してきた。

 

海之

「…遊んでやれ。俺は忙しい」

 

 

…………

 

一方、火影はルーヴァと一対一での戦いを繰り広げていた。

 

ズドドドドドドドド!!

 

ルーヴァが転移レーザーや山嵐を撃てば、

 

バババババババババッ!!

 

火影がエボニー&アイボリーやコヨーテで撃ち落とす。

 

ドガガガガガガガガンッ!!

 

衝撃砲や荷電粒子砲を撃ってくれば、

 

ドゥルルルンッ!!ヴゥンヴゥンッ!!

 

キャバリエーレで高速回避したり叩き切る。

 

火影

「手品の数は前より多くなりやがったじゃねぇか!」

ルーヴァ

「…何を言っている。貴様との戦いは…ここが最初で最後だ」

火影

「そうかい!なら願ったり叶ったりだ!」ドンッ!!

 

そう言って今度は火影が攻撃をよけながらルーヴァに接近する。

 

…ズギュ――ンッ!!

 

ルーヴァは目の前に迫ってきた火影に向かって荷電粒子砲を撃つ。

 

シュンッ!

 

火影はぎりぎりまで引き付けてエアトリックで避ける。そして、

 

ジャキッ!

 

ルーヴァ

「!」

 

ルーヴァの真上にコヨーテをほぼゼロ距離で展開する火影。

 

火影

「でかくなった分鈍くなったな。ダイエットをおススメするぜ?」

 

ズドズドズドズドズド!!

…ボガァァァァァァァァンッ!!

 

連射能力が上がったコヨーテの怒涛のゼロ距離連射がルーヴァに襲い掛かった。凄まじい爆発が起こる。

 

火影

「……!」

 

だが…それでも傷は付けられなかった。

 

ルーヴァ

「無駄だと言った筈だ」…ブンッ!

 

ドゴォッ!

 

ルーヴァの拳が正面から火影に当たる。

 

火影

「ぐっ!…なめんなぁ!!」

 

ドゴォ!!メキメキッ!!

 

ルーヴァ

「!」

 

ルーヴァの腕に火影の両の拳が左右から挟み込む様に喰らわされる。メキメキと音を立てる。

 

ルーヴァ

「ぬぅっ!」ヴゥン!

 

ルーヴァは一瞬転位し、そこから逃げる。

 

ルーヴァ

「…貴様…!」

火影

「いつつ…やっと顔を顰めやがったな?そんじゃ次の手行くぜぇぇ!」

 

ドゥルルルルルルルン!!

 

火影はバイクモードでキャバリエ―レを展開し、そのまま突っ込む。体当りを仕掛ける様だ。

 

ルーヴァ

「…自爆でもするつもりか」

火影

「何を言ってやがんだ?完勝する気満々だぜ!」ピピピ!

 

ギュゥゥゥン…ドンッ!!!

 

キャバリエーレのRモードを起動、前面に雷のエネルギーをチャージする。更にスピードが上がったまま…、

 

 

ドォォォォォォォォォォォォン!!

 

 

火影はルーヴァに突っ込んだ。キャバリエーレとシールドのエネルギーが激しくぶつかる。だがそのまま押し込もうとする火影。

 

火影

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

ガガガガガガガガガガガガ…!!……ビキッ!!

 

 

ルーヴァ

「…!!」

 

その時、ルーヴァのシールドにヒビができた。衝突によるエネルギーがダメージを与えている様だ。

 

火影

「おぉぉぉぉぉぉ!!」

ルーヴァ

「…ちぃ!」カッ!!

 

ズン!!

 

その時、火影の身体に異変があった。キャバリエーレ含め、自由にうまく動かせない。それは先ほど千冬や箒達が受けたものと同じ力だった。

 

火影

「くっ…なんだこりゃ?金縛りの類か?」

ルーヴァ

「…砕けちれ!」ヴゥンッ!!

 

ルーヴァは再度拳を振り上げる。

 

シュンッ!!

 

しかし間一髪、火影はエアトリックで避ける。

 

ルーヴァ

「……」

火影

「…ふぅ~危ねぇ危……!」

 

しかし火影の身体の異変は直っていなかった。離れはしたが未だに身体が重い。

 

火影

「ぐっ!一旦かかったらどんなに逃げても最後まで効果が続くって訳かよ!」

 

シュバァァァ!ガシ!

 

動けなくなっている火影に血吸の根が襲い掛かり、動きを封じられる。

 

火影

「く…!」

ルーヴァ

「……言った筈だ。俺には勝てん。例えダンテ、貴様にも、な…」

火影

「力も今までの雑魚より桁違いか…。けっ、正直俺ひとりで十分と思ったぜ。幾ら悪魔の力が無くなった俺っつったってな」

ルーヴァ

「ほざけ。人間如きが…俺にかなうものか!」

 

ゴォォォォォォォォォォォッ!!

 

火影が動けずにいるとルーヴァの周辺に無数の炎が展開される。

 

火影

「あのスコールって奴の攻撃に似てんな。成程…、さっきのミサイルや衝撃砲といい…あいつらからぶんどったのか」

ルーヴァ

「俺は力そのもの…、造作もない事だ…」

火影

「にしては他人の攻撃方法ばっかじゃねぇか。パクりの力で固まったパクりの王様ってとこか」

ルーヴァ

「…貴様ぁぁぁ!!」

 

ドォォォォォォォォォォンッ!!

 

無数の火球が一斉に火影に向かう。動けない火影。

 

火影

「……たく、仕方ねぇ。本当なら使いたくねぇが出す以上少しは役に立ちやがれ!」

 

カッ!!

 

ルーヴァ

「!」

 

そう言った火影の周りにあるふたつの物体が出現した。見た所剣の様である。ひとつは赤い剣、もうひとつは青い剣だ。

 

 

ゴォォォォォォォォォォォッ!

ビュオォォォォォォォォォッ!

 

 

そして出た瞬間、赤い剣からは業火が、青い剣からは暴風が巻き起こり、

 

 

……ゴォォォォォォォォォォッ!!

 

 

それらは融合して巨大な炎の竜巻を生み出した。

 

ババババババババシュゥゥゥゥ…

 

その炎の竜巻は火影の全身を覆って守護壁の様になり、襲ってきた炎の嵐を燃やし尽くす。縛っていた血吸いの枝も焼き尽くされた。

 

ルーヴァ

「!」

火影

「やれやれ…まぁ少しは役に立ちやがったか」

 

すると火影の身が解放され、動きが楽になる。

 

火影

「お?動けるようになったぜ。どうやらてめぇの金縛りの術も永遠に続く訳じゃねぇようだな?」

ルーヴァ

「…ダンテェェ!!」シュバァァァァァァッ!!

 

激高したルーヴァの根が更に火影に迫る。だが火影は逃げずに言い放った。

 

火影

「……忠告しといてやるぜ」

 

ガシィィィィッ!

 

火影は飛んできた根を受け止めて掴む。

 

火影

「てめぇはテメェの強さに自信があり過ぎんだ。そのせいで逆にてぇした事ねぇんだよ」

ルーヴァ

「…貴様!」

火影

「ほんでもってやり返されると一々ビビってやがる。さっきから動揺し過ぎだぜ。…海之!」

ルーヴァ

「…!」

海之

「「「………」」」

 

ルーヴァは目を見張った。海之と、残影によって生み出された複数の分身がルーヴァを狙っていた。

 

海之

「……汝の手の内に無限を抱き…その一瞬の内に永遠を見よ……」

 

ジャキッ!

 

「「「次元斬………滅!!」」」

 

 

ズガガガガガガガガガガガガガガッ!!

 

 

海之と残影によって繰り出された次元斬の嵐がルーヴァのシールドのある一点に集中的にぶつかった。

 

 

ガガガガガガガ………ビキビキビキビキ!!……バリイィィィィィィィィン!!

 

 

そしてやがてダメージに耐え切れなくなったのか、遂にシールドが破壊された。

 

 

「次元斬・滅」

次元斬の新たな奥義。

一定の範囲の中で集中的に次元斬を放つ「次元斬・絶」に対し、コンマ二桁まで狂いが無い全く同じポイントに刹那の瞬間の如く次元斬を連続で放つ。これによって抵抗をほぼゼロにし、ダメージを完全に伝えるだけでなくいかなる装甲やシールドも貫く。いわばブルーローズの次元斬版ともいえるもの。ただし最大効果を狙うには相手が動いていない状態でなければならない。また閻魔刀でなければ真の威力は発揮できない。

 

 

海之

「ちっ、やはり幻影剣ではシールドを破る程度か…」

ルーヴァ

「俺の盾を…砕いただと!?」

 

酷く動揺しているルーヴァ。

 

ジャキッ!!

 

火影

「余所見すんなってママから教わらなかったか?」

ルーヴァ

「!!」

 

その一瞬の隙をつき、手に新たなカリーナを持った火影が後ろから狙いを付けていた。

 

 

「カリーナ・アン・ランチャーⅢ」

カリーナ・アン・ランチャーをベースにアリギエルのコアに宿る人物が新たに改修・改造したもの。見た目は原作のカリーナとカリーナⅡが連結したもの。「繋げて威力上がんなら最初から繋げときゃいいだろ」と合体させたため、分離不可になっている。

砲身がほぼ倍の長さになって取り回しは更に悪くなったものの威力は更に上昇している。ミサイルモードや強度・牽引力が強化されたワイヤーユニットも従来のまま残している。

 

 

火影

「ビンゴ」

 

 

ズドォォォォォォォォォォォッ!!

 

 

ルーヴァ

「グオォォォォォォォ!!」

 

カリーナの砲口から凄まじいビームが撃たれる。その威力と出力は以前のカリーナよりも遥かに高かった。後ろからの直撃を受けたルーヴァはその攻撃に身体が吹き飛ぶ。

 

ルーヴァ

「グッ!グゥゥゥアァァァァ…!」

 

…だが倒しきるには至らず、暫くするとその傷も再生された。だがダメージは大きいのか唸り声をあげている。

 

火影

「しぶといヤロウだぜ」

海之

「だが効いているのは間違いない。次で仕留める!」

 

ドンッ!!ドンッ!!

 

そしてふたりは突撃した。

 

ルーヴァ

「…貴様らぁぁ!!」

 

ズドドドドドドドドッ!!

ビュビュビュビュンッ!!

ズギューン!!ズギューン!!

 

火球、レーザー、粒子ミサイルと一気に撃ってくるルーヴァ。

 

火影

「銃ってのは撃った数じゃねぇんだよ!」

海之

「品の無い戦い方だ」

 

それらの攻撃は火影と海之の武器と連携によって食い止められ、その隙間を縫うようにふたりは接近する。

 

海之

「俺が行く!援護しろ!」

火影

「へっ!しくじんなよ!」ジャキッ!ズドドドドドドドドド!!

 

火影はカリーナⅢから多弾頭ミサイルを発射した。

 

ルーヴァ

「…無駄だ!」ズドドドドドドド!!

 

ドガガガガガガガガガガンッ!!

 

互いのミサイルがぶつかり、激突し、相殺される。そこに、

 

 

ガシィィィィィン!!

 

 

ルーヴァ

「!」

 

見るとルーヴァの身体が海之の腕に捕まっていた。腕から出ていた青き光に包まれたベオウルフに。

 

海之

「もう一度言う。貴様の存在は決して許されない!!」

 

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

 

海之の凄まじい青きベオウルフのラッシュがシールドを失ったルーヴァに直撃する。

 

海之

「おおおおおおおおおお!!」

ルーヴァ

「グゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

ヴゥンッ!!

 

そして暫く打った後にルーヴァの身体が海之の腕によって猛烈な勢いで放り投げられる。

 

ルーヴァ

「!!」

海之

「合わせろ火影!」

 

ルーヴァが飛ばされた先には…片足が炎に包まれた火影がいた。

 

ゴォォォォォォ!!

 

火影

「へっ!そらよ!!」ドゴォォォォッ!!

 

火影が炎纏いし足で遥か斜め上に蹴り上げる。

 

シュンッ!

 

その先に瞬間移動してきた海之がいた。パワーアップしたことでウェルギエルにもアリギエルと同じエアトリックが追加されたらしかった。

 

海之

「おおおおおおお!!」ドゴォォォォォッ!!

 

更にそこまで移動していた海之の月輪脚が火影の攻撃で上がってきたルーヴァに直撃した。それによって更に上昇する。その先には、

 

火影

ガシッ!「うぉらあぁぁぁぁ!!」ドゴォォォォォォォッ!!

 

更に更にエアトリックで移動していた火影が炎に包まれた拳を合わせ、ルーヴァの身体を下方に思い切り殴りつけた。そのコンビネーションの速さとダメージにリーヴァは転移する暇もない。

 

ルーヴァ

「グアアアアアアアアアア!!」

 

暫く下降してルーヴァは態勢を立て直す。そして直ぐ上を見上げるが…そこにふたりの姿は無かった。

 

ルーヴァ

「…どこだ!!」ジャキジャキッ!!「!!」

 

ルーヴァは気付いた。火影と海之は既に自分の真後ろにいた事に。火影はしゃがみ、海之はその後ろに立っている。そしてふたりはあの言葉を言って、

 

 

 

火影・海之

「「…Jackpot」」

 

 

 

ズギュ―――ンッ!!ズギュ―――ンッ!!

 

 

ルーヴァ

「!!」

 

 

ガガガガガァァァァァァァァァン!!

 

 

手に持つエボニー&アイボリーとブルーローズのチャージビームを発射したのだった。

 

 

…………

 

……一方、戦闘の邪魔にならない所まで下がっていた箒達はその様子がギリギリ見えるところにあるとある島に降りていたのだが、

 

「……凄い」

セシリア

「私達全員でかかっても傷ひとつ付けられなかったあの敵を…」

「…二次移行?したのもあるんだろうけど…ほんっとこんだけレベルが違うとぐぅの音も出ないわ…」

シャル

「あはは…。…それにしても流石ふたりだよね、双子らしいコンビネーションだよ」

「うん。…それにさっき海之くんを守る様に現れたあの巨人…?あれも凄いパワーだったね」

ラウラ

「ああ…。あの強化されたアンジェロ達を一瞬で全滅してしまったのだからな…」

 

多くの者は素直な感想を述べる中、こちらの三人は箒達に聞かれない様に別の事を話していた。

 

千冬

「……実に見事な連携だ」

楯無

「はい…本当に凄い。だけど…まるであの敵の戦い方をある程度知っている様な感じで動いている。…という事は…あれもふたりが知っている存在なのかしら?」

クロエ

「…そうかもしれませんね。それに何より兄さん達のIS…一体どうされたんでしょう?簡単に考えれば二次移行とは思いますが…それにしても違いすぎます。例え二次移行したとしてもある程度は以前の姿形の面影はある筈なんですが…」

楯無

「…確かにね。…でもまぁ今はいいじゃない。多分、いいえ絶対ふたりは私達だけじゃなく…今度は皆に全てを話してくれると思うわ」

クロエ

「…そうですね」

千冬

(……海之、火影。更識の言う通り、どうやらその時が来たのかもしれんな……)

 

千冬・楯無・クロエはそんなことを考えていたのだった。……その時、

 

「…!見ろ!」

 

 

…………

 

火影と海之の激烈な攻撃を受け、沈黙したかの様に思えたルーヴァだったが、

 

 

ルーヴァ

「…ハァァ…ハァァ…」

 

 

しかしそれでもまだ倒しきるのは至っていなかった。だがシールドを破壊されてダメージが大きいのか苦しんでいる様子が見て取れる。

 

ルーヴァ

「まだ…、まだ…、足りん…という、のか…!」

火影

「…ほんっとしつけぇヤロウだな。そこまで似せる必要ねぇのによ」

 

右手のエボニーで肩をトントン叩きながら言う火影。

 

海之

「ある程度予測できた事だ。何故ならあいつは」

火影

「おっとそれ以上言うなよ。あいつはおめぇとは違うんだからよ」

海之

「……」

ルーヴァ

「…負けん!!俺は…絶対に…!!」

火影

「んじゃさっさと終わらせ」

 

とその時、

 

ヴゥンッ!!

 

火影・海之

「「!」」

 

ルーヴァの直前に何者かが転移していた。現れたのは、

 

オーガス

「……」

 

オーガスだった。そのオーガスはルーヴァと向かい合う様に浮かんで佇んでいる。

 

海之

「オーガス、いや…アルゴサクス…!」

火影

「野郎…!」

ルーヴァ

「……人間が、…何者だ…?」

オーガス

「…親の顔も忘れたのか。…まぁいい。それより…貴様に話がある。……「力」が欲しくないか?」

ルーヴァ

「力、…だと?」

オーガス

「そうだ。貴様をより上へと向かわせる力だ。どうだ?」

 

だがルーヴァはそんなオーガスの言葉を一蹴し、言い返した。

 

ルーヴァ

「ふざけるな…!人間如きが気安く俺に話しかけただけでなく…力を与えよう等…!破壊の化身たる俺が…人間に救いを求めると思うか!!」

 

そう言いながらルーヴァはオーガスに殴りかかろうと拳を振り上げる。

 

火影・海之

「「!」」

ルーヴァ

「死ね!」

 

 

カッ!!

 

 

ルーヴァ

「!」

オーガス

「……」

 

その時ルーヴァの拳が止まった。…ルーヴァはオーガスに何かを感じた様だ。

 

火影

(…なんだ?)

海之

(…?)

 

…ドクンッ!!ドクンッ!!

 

火影・海之

「「!!」」

 

リベリオンと閻魔刀の破片に一瞬感じる強烈な反応。そして…あの文字が一瞬浮かぶ。

 

 

「「アクマガエリ」ガシヨ……」」

 

 

だがそれは以前よりも早く閉じてしまう。

 

火影

(ちっ、駄目だ短すぎる!)

海之

(……!)

オーガス

「私に、我らに従えば…貴様は更なる力を手に入れられる」

ルーヴァ

「…………本当に…力が手に入るのか…?」

オーガス

「……ああ、破壊の化身に相応しい力をな」

ルーヴァ

「…………良いだろう。俺は…負けられんのだ。ダンテに!バージルに!……力が欲しい!もっと力を!!」

 

ルーヴァはオーガスにそう言った。

 

オーガス

「…ふっ、良い子だ。先に戻っていろ」

 

ヴゥゥゥゥンッ!!

 

そしてオーガスはルーヴァを転移させた。

 

火影

「ちっ…」

海之

「……」

オーガス

「さて……」

 

するとオーガスは振り向く。ひと月ぶりに相対する転生者同士。

 

オーガス

「……始めてみる者だが…貴様らの正体はわかっているぞ。……生きていたとはな、…ダンテ、…バージル」

火影

「死に損なったのさ。おせっかいのおかげでな」

海之

「……」

オーガス

「このひと月の間、世界中を探した…。しかし欠片の一片も見つからなかった…。どうやって隠れていた?その姿はどういう事だ?」

 

冷静に話すがその声には多少の怒りが含まれている様に思える。

 

火影

「へ~、てめぇでもわからねぇ事があるんだな?」

海之

「貴様も所詮その程度か」

オーガス

「質問に答えろ!!」

 

ドンッ!!

 

火影・海之

「「!」」

 

オーガスから魔力による一種の覇気の様なものが発された。火影と海之はそれをビリビリ感じつつも調子は崩さない。

 

火影

「お~お~怒ったな?ガキの言葉で切れるなんて随分人間臭くなったんじゃねぇか?」

海之

「…知りたいなら力づくで吐かせてみたらどうだ?老いぼれ」

オーガス

「!…いいだろう。ならば何も聞かん」

 

…ギュオォォォォォォォォォォォ!!

 

そういうとオーガスの頭上に以前火影がカリーナでかき消した様な球体が出現した。但し今回のはその時より遥かに大きい。そして、

 

オーガス

「ただ…死ね!」

 

…ドォォォォォォンッ!!

 

それを火影と海之に向かって放つオーガス。

 

火影・海之

「「……」」

 

カッ!!…ゴォォォォォォォォォッ!!

 

すると火影の右手が激しい炎に包まれた。

 

…ギュンッ!!

 

一方の海之の左手にはベオウルフが現れ、それが先ほど腕の後ろから出ていた青き輝きに包まれる。

 

火影

「…おらぁぁぁぁぁ!!」

海之

「…おぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

ドゴォォォォォォッ!…ギュンッ!!

 

 

オーガス

「! 何!」

 

火影は炎燃え盛る右手で、海之は光輝く左手で同時にその球体を殴りつけた。その力に球体は押し返される。

 

オーガス

「ちっ!」サッ!

 

ドガァァァァァァァァンッ!……パラパラ…

 

寸でのところで自らに結界を張り、阻止するオーガス。

 

火影

「そういやこいつはてめぇの右腕だったな。最もこいつは敵わねぇとわかった瞬間自ら魔具になっちまった。てめぇより利口なんじゃねぇか?」ゴオォォォォ…

 

良く見ると…火影の腕にはイフリートではない新たな籠手と具足が展開していた。それが今までの炎を生み出していたのであろう。

 

 

「バルログ」

イフリートに変わる火影(ダンテ)の新たな籠手。更に具足も加わっている。ドラゴンの鱗の、皮膚を思わせる様なごつごつした見た目をしている。

その正体は嘗てアルゴサクスの片腕だった悪魔が魔具として変化したもの。イフリート以上の炎を操る武人の如き性格の持ち主で強者との闘いを好む。何れはアルゴサクスも倒し、自分が最強になると企んでいたがダンテの力に感服して自ら魔具となった。

 

 

海之

「…やはり品の無い戦い方だ。…が、今は良しとするか」ゴキッ!ゴキッ!

 

 

「ネロ」

海之(バージル)がナイトメアVと同じくコアの人物から譲り受けた新たな力。

腕から出ている青い光が腕全体を覆う事で自身の攻撃力・パワー共に大幅に上げる事が出来る。ベオウルフと相性が良い。しかし本来の力はこの光そのものが魔力で形成される魔手・腕であり、魔力が無い今の海之では本来の力を発揮しきれていない。

 

 

オーガス

「………ク…ククククク、ハッハッハッハッハ!…いいぞそうでなくては面白くない!それでこそダンテとバージル!それでこそ我が怨敵スパーダの血族よ!…やはり貴様等は我が直接この手で仕留めなければならんようだな!」

 

オーガスは悔しさと嬉しさが交じり合ったような笑いをした。

 

オーガス

「…だが忘れるな。どんなに強くなろうが今の貴様達は所詮ただの人間。奴の力も魔力も失った抜け殻よ。ましてやバージル、貴様に至っては閻魔刀も使えん。それでも我に敵うと本気で思っているのか?」

 

そんなオーガスにふたりは言い返す。

 

海之

「俺達が屈しない限り、貴様が勝ったわけではない」

火影

「この程度の事なんざもうとうに慣れっこなんでね。てめぇも無駄口ばっか叩いてねぇでぶん殴られる準備でもしてたらどうだ?」

オーガス

「…クククク、そのふざけた口を永久に閉ざす時が楽しみだ。…今回は貴様らの帰還を祝って引いてやるとしよう。収穫もゼロでは無かったことだしな」

火影

「逃がすと思ってんのか!」

 

火影はそう言って飛び掛かるが、

 

 

カッ!!!

 

 

火影・海之

「「!!」」

 

再び同じく、……いやそれ以上の魔力の覇気に襲われる。それはまるで先ほどのルーヴァの沈黙の時の如きもの。その魔力に思わず怯んでしまう火影と海之。先ほどと同じく「悪魔還り」も一瞬動く。

 

火影

「くっ…!」

海之

「なっ…?」

オーガス

「……言った筈だ。勝てると思っているのか?とな。慌てるな。どうせ貴様らを倒さねば我らの大願は果たされん。時が来ればこちらから招待してやる。それまで束の間の…いや、最後の安らぎを味わうがいい。フハハハハハハハハ!!」ヴゥゥンッ!

 

そう言い残し、オーガスは転移し去った…。その場に残った火影と海之。

 

火影

(…ちっ、言いたい放題言いやがって!…だがさっきの力は…)

海之

(……)

 

何か思う事があるのか、バイザーの下で苦虫を潰す様な表情を見せるふたりであった…。

 

 

…………

 

オーガスの部屋

 

火影と海之のふたりと対峙していたオーガスは既に戻っていた。

 

オーガス

(…しかし奴らが生きていたとは…。魔力こそ使えぬ身とはいえ、はっきり言って想定外だ…。本来なら時間をかけても真のアレを完成させたかったが…時間をかけ過ぎれば完成前に奴らにこちらの居場所を知られてしまう可能性もある…。例え本体だけが完成していても我らの勝利を確実なものにするにはアレは不可欠だろう…。やむを得んが多少計画を変えねばならんか………)

 

苦い顔をしながら何かの思案をしている様子をしているオーガス。すると、

 

(…生きていた様だな…)

オーガス

「…ええ。今の今まで調べつくしたにも関わらず…何故…。貴方にも感じ取れなかったのでしょう?」

(………その通りだ。…だが構わん。完全に人間となり下がった奴ら等…我らの敵ではない…)

オーガス

「……ク、ククク。まぁその通りですがね」

(……頼むぞ…。オーガス、…いや、アルゴサクス)

オーガス

「仰せのままに。…ふっふっふっふ…」

(………)

 

 

…………

 

一晩の戦いが終わり、ふたりは一夏達が降りているらしい島に降り立つ。空はうっすら闇が薄くなり、東の空はやや明るさが見え始めていた。

 

アリギエル・ウェルギエル

「「……」」

 

キュウゥゥゥゥン…

 

火影・海之

「「……」」

 

ISが解除されたそこにいたのは首に其々銀と金のアミュレット、そしてひと月前と同じ格好のふたり。

 

火影

「あ~~腹減った~~」

海之

「…最初の言葉がそれか」

火影

「しゃあねぇだろ?あいつらの話だとひと月眠ってたんだしよ。ところで…」

海之

「…?」

火影

「…お前と一緒に戦うのは何度目だ?」

海之

「……覚えていない。今更だからな」

火影

「…ほんと今更だな。はははは!」

海之

「……ふ」

 

ふたりは笑っていた…。事態は好転とはいかないがとりあえず守れただけで今は良いと安堵するふたり。そんなふたりの目にはうっすら自分達に駆け寄ってくる多くの影が見えていた。




次回は31日(土)の予定です。

次回から数回は平和な話が続きそうです。
またアンケートを書いておりますのでそちらもご意見頂けたら幸いです。


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Mission166 最低で最高のクリスマス

火影と海之の新たな姿。それは一夏や千冬達を圧倒したルーヴァを更に超えるものだった。新たな武装や力を手にしたふたりは遂にルーヴァを追い詰める。
……しかしその矢先、再び現れたオーガスによってルーヴァは回収されてしまうのだった。憎しみと共にオーガスは今度こそ自分の手で終わらせるとふたりに布告、時が来るまで精々楽しめと言って去っていく。全てが解決したわけでは無いものの、戦いが終わったその場所には笑いあうふたりがいた…。


火影

「………………う、う~ん」

海之

「…………む」

 

火影と海之はほぼ同時に目を覚ました。目を開けると見覚えがある様な白い天井が見える。

 

火影

「……ここは…学園の、寮の部屋か?」

海之

「……」

 

そこは学園の寮だった、最後に覚えているのは夜明けの光がうっすら見え始めた時、あの忌々しい存在を倒し、オーガスとの再びの対峙。それが終わってから一緒に笑ったあの時。その先の記憶が全くない。ベッドに寝かされている事から考えるとあの直後に眠ってしまったのだろうか…?

 

火影

「俺達…どうして、こんなとこにいんだ?……今何時、だ?」

海之

「………さぁな」

 

頭だけを横に回してみるが時計は無い。

 

火影

「とりあえず…起きるか。………ん?」

海之

「……?」

 

ふたりはふと違和感を感じた。自分達の身体に何か別の重さを感じる。何か乗っている気がする。変に思ったふたりが確認しようと上体を少しだけそっと起こしてみると…重さの正体はすぐにわかった。

 

 

鈴・シャル・本音・簪・ラウラ・クロエ

「「「……すぅ……すぅ……」」」

 

 

火影のベッドには鈴、シャル、本音が。海之のベッドには簪とラウラが傍らで眠っていた。クロエはデスクで眠っている。何かしらの手当てを受けたのか本音以外の皆はテープが貼られ、包帯なども巻かれていて治療の後が見受けられる。だが様子からして治療が終わった後からずっと自分達についていてくれた事は想像できた。

 

火影・海之

「「………」」

 

ふたりは無理に動かしたら目を覚ますかもしれないと動かずにいた。

 

クロエ

「………ん」

 

すると暫くして椅子で長時間眠っていて身体が凝ったのかクロエが目を覚ました。

 

クロエ

「うん…こんな時間ですか…。私、すっかり寝ちゃって………!!」

 

後ろを振り向き、ふとふたりと目があったクロエ。その瞬間目覚めたばかりの脳が一気に覚醒する。

 

火影

「…よぉクロエ、おはようさん。寝坊だな」

海之

「俺達もだろうが」

クロエ

「………兄、さん、……兄さん!!」

 

眠っている鈴達の事を忘れ、クロエは半泣きのままつい大声を出してしまう。すると、

 

「…ん~」

シャル

「う~ん…なに~?」

本音

「…ほえ~」

「…ん」

ラウラ

「む、眠ってしまったか…」

 

クロエのその声がきっかけでふたりの傍で眠っていた他の皆も目覚めの予兆が起こる。

 

火影

「よ~おはようさん」

海之

「大丈夫か?」

鈴・シャル・本音・簪・ラウラ

「「「!!!」」」

 

特別な台詞でも何でもない簡単な毎日聞きそうな内容。しかし彼女達にとっては何よりも聞きたかった声。ずっと探し求めていた声。気が付くと、

 

「こぉんのぉバガァァァァァ!!」

本音

「わあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

シャル

「今までどこ行ってたのさぁぁ!!」

ラウラ

「探したんだぞ!必死に探したんだぞ!でも全然、全然見つからなくて…死んだと思ってたんだぞぉ!!」

「……」

 

皆火影と海之に強くしがみ付き、泣きながら声を上げていた。

 

火影

「…随分待たせちまったみてぇだな」

「随分じゃないわよ!一ヶ月よ!?私達がどんだけ泣いたと思ってんのよぉ!!」

シャル

「夢じゃないよね!?ほんとに火影と海之なんだね!?」

火影

「こんなに良い男が他にいるか?」

 

何時もの余裕ある笑みを浮かべてそう言う火影。

 

本音

「よがっだぁぁぁ!ほんどによがっだよぉぉぉ!!」

ラウラ

「散々心配させおってぇ!この馬鹿者どもがぁぁ!!」

海之

「…すまなかったなラウラ」

「……」

海之

「どうした簪。疲れたか?」

「…ううん。御免…御免ね。言いたい事…一杯あるのに…。本当に凄く嬉しいのに…上手に…言葉が出ない」

海之

「俺達も同じだ」

火影

「お前らが生きていてくれたんならそれでいいさ」

クロエ

「……」

 

その様子を遠慮がちで見つめるクロエ。

海之

「クロエ、お前にも心配かけたな」

火影

「…悪かったなクロエ」

クロエ

「!!……お……お兄ちゃあぁぁぁぁん!!」

 

親とも言える束が拉致され、義兄でもある火影や海之が生死不明の行方知れず。クロエは激しい悲しみに襲われていた。家族をいっぺんに失った気がした。でも束を助け出すまで泣くわけにはいかないとずっと抑え込んでいた。だが心ではわかっていてもクロエも17歳の少女。どうしようも無く感情が爆発する事もある。ましてやそれが嬉しさなら猶更である。クロエも駆け寄ってラウラ達と同じく寄り添った。

 

海之

「クロエお前その呼称は……まぁ今はいい」

火影

「そういや今日はクリスマスらしいな。…とんだクリスマスだな」

「ほんとよ!皆傷だらけだしクタクタだし、また泣かされるし!他に無い位最低よ!!ほんとアンタも海之も何回女の子泣かせれば気が済むのよ!!」

火影

「…わりぃ」

「なんで謝るのよ!」

火影

「…?」

「最低だけど…何より最高よ!」

シャル

「うん!最低で最高のクリスマスだよ!」

ラウラ

「全くだ!」

簪・本音

「「うん!」」

クロエ

「はい!」

火影・海之

「「……」」

 

皆は笑っていた。最高の笑顔で。

 

鈴・シャル・本音・簪・ラウラ・クロエ

「「「お帰り(なさい)!!」」」

火影・海之

「「………ただいま」」

 

……そんな彼らの部屋の前の廊下では聞こえてきたその声に密かに喜ぶ者達がいた。

 

千冬

「……ふっ」

真耶

「グスッ…良かった、です。ほんどに、よがったでずうぅぅぅ…」

「本音ちゃん…、簪様…、皆…。やっと笑顔になったわね…」

楯無

「いいんですか千冬さん?千冬さんもほんとは入りたいんじゃ?」

千冬

「…構わんさ。今でなくともどうせまた後で幾らでも話せる。生きているんだからな…」

 

 

…………

 

それから約数時間後、時刻は夕方に差し掛かりつつあった。

火影と海之はあの後、鈴達から自分達が戦った後に起こった事を聞いてみた。ふたりの思った通り、あの戦いの直後にふたりは笑った後でいきなりその場に倒れて眠ってしまったらしい。駆け寄ってきた皆は当然慌てたが運ぼうにしても自分達もクタクタで余力なく、唯一の男子である一夏も同じく消耗し過ぎて眠ったままで運ぶことができなかったため、やむなく千冬は真耶に救助を依頼。話を聞いた真耶は急いで救助隊と共に駆けつけ、学園まで連れて帰ってきたらしい。帰ってきてから一夏や彼女達は全員治療を受けたが、ひと月前に大怪我を負っていた火影と海之の傷はまるで何も無かった様に綺麗に消えており、眠っているのは緊張の糸が切れて気が抜けたのではないかという結論だった。そして今、すっかり回復した火影達はベッドから降り、千冬や真耶達と対面していた。

 

海之

「…千冬先生、山田先生。多大なるご心配をおかけし、本当に申し訳ありませんでした…」

火影

「俺達が奴等を倒せなかったせいで皆を危険に晒してしまいました…。本当にすみません」

 

深く頭を下げるふたり。

 

真耶

「そんな!ふたりは何も悪くありません!それより…本当によく生きて戻ってきてくれました!」

火影

「…ありがとうございます、山田先生」

楯無

「全く死ぬほど心配させて。この子達への償いはしっかりしなさいよ?」

「おふたりがいない間この子達本当に元気が無かったんですから」

「お、お姉ちゃんも虚もそんなのいいよ。ふたりが生きて帰ってきてくれたんだからそれで…」

「簪、こういう時は素直に受け取っていいのよ」

シャル

「そうだよ。こっちは散々心配させられたんだから」

火影

「…お手柔らかにな」

真耶

「ほら、先輩もなにか言ってあげてください」

千冬

「……」

 

すると千冬は無言のままゆっくりふたりに近づき、

 

 

パアァァァンッ!!パアァァァンッ!!

 

 

火影・海之以外

「「「!!!」」」

 

火影と海之に突然思い切り平手打ちをした。その威力に吹き飛んでしまうふたり。

 

ラウラ

「きょ、教官!?」

真耶

「先輩!何するんですか!?」

本音

「だ、大丈夫ふたり共~?」

火影

「あ、ああ…。いてて…」

海之

「……」

 

すると今まで黙っていた千冬が口を開く。

 

千冬

「……今のは」

真耶

「え?」

千冬

「今のは罰だ。沢山の人を悲しませたな。本当ならもう何十でも何百でも殴ってやりたいところだが…生きて帰ってきた事に免じて、この一発で多めに見てやる」

火影・海之

「「……」」

「千冬さん…」

千冬

「今の痛みを決して忘れるな。良いな?」

火影

「…はい」

海之

「…わかりました」

 

……ポンッ

 

すると千冬はふたりの肩に手を置き、

 

千冬

「……良く生きていてくれたな、…ふたり共」

火影・海之

「「……ありがとうございます」」

 

笑いながらそう言った。なんだかんだ言いながらも千冬もやはりふたりが帰ってきた事が凄く嬉しそうだ。

 

真耶

「本当に…素直じゃないんだから」

クロエ

「…ふふ」

 

そんな感じで緊張しながらの帰還の挨拶を終えたふたりに鈴達から当然の疑問が向けられる。

 

「…でもさ火影、それに海之も。本当に今までどこにいたのよ?私達この一ヶ月間はっきり言ってかなり探したのよ?」

ラウラ

「ああその通りだ。プライベート通信を使っても何の反応も無いし、衛星まで使ったが影も欠片も見当たらなかったんだぞ?」

「ふたりの傷もまるで無かったみたいに綺麗に塞がってるしね。それに…ふたりのISも変わってたよね?」

シャル

「凄かったよね。あの変なISも追い返したり、新しい装備やあの巨人?みたいなものでアンジェロ達なんか一蹴してたし。本当に一体何があったの?」

火影

「それは」

 

 

カッ!!

 

 

全員

「「「!」」」

 

火影が説明しようとしたその時、一瞬強い光が走った。そしてそこに現れたのは、

 

 

赤い剣

「地上の空気も久々じゃな、弟よ」

青い剣

「全くじゃな兄者よ」

 

 

先程火影が使っていた赤と青の双剣だった。その剣の柄頭の部分にある顔の様な飾りが流暢に喋っている。

 

赤い剣

「先程は時が無かったため省いたが…久しぶりじゃなダンテ」

青い

「随分幼くなってしまったなダンテ」

全員

「「「…………」」」

 

全員が言葉を失い、火影は頭を抱え、海之は無視している。

 

青い剣

「…兄者。こやつら何やら呆然としておるぞ?」

赤い剣

「ボウゼン?ボウゼンとはなんじゃ?」

青い剣

「ボウゼン、とは」

火影

「…そのやりとりはもう沢山だ」

赤い剣

「おおやっと喋りおったな。お主に売り払われて目にもの見せてやろうと思っておったが今は休戦じゃ」

青い剣

「聞いたぞ?どうやらご自慢の剣が使えぬらしいな?」

火影

「…全くあのお喋りども」

赤い剣

「それからそやつらが新たな同士か。随分幼き者達じゃ」

青い剣

「しかしダンテやあの者共が一目置いておる奴ら。見た目で判断は出来ぬぞ兄者よ」

赤い剣

「…イチモクオク、とはなんじゃ弟よ?」

青い剣

「一目置くとは」

火影

「それ以上やると本当に口縫い合わすぞ?」

赤い剣・青い剣

「「善処しよう」」

 

皆の前で火影とふたつの剣のやりとりが展開される。

 

「……ねぇ火影。確かこれってさっきアンタが使ってた剣よね?」

シャル

「…剣が…喋ってる…」

楯無

「勝手に出てくるって…まるで生きてるみたいね…」

本音

「カッコいい~~!」

 

本音以外の皆は喋る剣に言葉を失っている様だ。

 

アグニ

「おおそうじゃ、まだ名乗っておらんかったの。我の名はアグニ」

ルドラ

「我の名はルドラ」

アグニ&ルドラ

「「契約により、我ら兄弟が力となろう。ありがたく思うがいい」」

 

 

「アグニ&ルドラ」

嘗て火影(ダンテ)が使っていた双剣型の魔具。赤い剣が炎を司るアグニ、青い剣が風を司るルドラと言い、しかも兄弟でもある。

前世のとある場所で守護の任についていた所でダンテと対峙し、彼の力に感服し、新たな所有者として認め、協力するようになる。その力は確かなものであるが兄弟揃ってとにかく饒舌であり、ダンテはそれに辟易していた事も少なくなかった。リベリオンが使用不能になった代わりとして火影の新たな装備として追加された。因みに喋れるのは小型のSEバッテリーを搭載しているからである。

 

 

「は、はぁ…。よ、宜しくお願いします…」

本音

「宜しく~!じゃあふたりの事はアグリンとルドランって呼ぶね~♪」

「…本音ちゃん、お願いだから少しは驚きというものを覚えて?」

アグニ・ルドラ

「「……アグリン(ルドラン)とは何じゃ娘よ?」」

本音

「アグニだからアグリン、ルドラだからルドランだよ~♪これからはそう呼ぶね~」

アグニ

「むぅ…。どうもよくわからんが…問題ないか?」

火影

「おお全然問題ねぇよ。これも偉大な経験だ」

ルドラ

「…ふむ。ではそういう事にしておくか兄者よ」

 

そんなやり取りをしている内に火影はアグニ&ルドラを回収した。

 

ラウラ

「な、なんか随分変わった奴等だな…。もしかしてあれも魔具というやつか?」

火影

「…まぁな。あの口さえ無けりゃまだ爪の先程はマシなんだがな…」

本音

「え~なんで~?可愛いし面白いのに~」

「そんな風に思えるのはアンタだけよ多分…。そういえばさっきのふたり…ふたり?ってそんな事どうでもいいか、アンタの事…「ダンテ」って…」

「それってあのオーガスって人が言ってたのと同じ名前、だよね…?」

火影

「…ああ。それについても今度話す。ただ今この場で、ってのはちと待ってくれねぇか?あんま簡単な話じゃなくてな…。内容を整理する時間をくれ」

海之

「約束は必ず果たす。…頼む」

 

再び深く頭を下げる火影と海之。

 

シャル

「う、うん。わかったから謝らないでよふたり共」

千冬・クロエ

「「……」」

楯無

(…来るべき時が来た…って感じね…)

 

そんな感じで火影達が話ていると、

 

千冬

「それは何れの事として…今はそろそろ話を戻したいのだが?」

海之

「ああ申し訳ありません。俺達がどこにいたのかですね。…信じていただけるかわかりませんが…俺達はひと月前からずっと同じ場所にいたらしいです…。奴等に敗れ、海の底に沈んだその場所に」

全員

「「「…えっ!?」」」

 

これには流石に今まで以上に驚く皆。

 

千冬

「…らしいというのは?」

火影

「ひと月前奴らに敗れたあの時、俺達は海の底に沈みました。全身切り刻まれ、瀕死の重傷を負ってね。でもその時俺達のIS。正確にはそのコアですが。それが俺達の身体を隠してくれたんです。衛星とかセンサーにも、何にも見つからないように。それこそ生体反応もISの反応も隠してね」

千冬

「…お前達が死んだ様に見えていたのはそのためか…」

クロエ

「で、では兄さん達のISは…」

海之

「コアが俺達の身体の保護と同時に修理・改修したのだ。二次移行と同じ意味でいい。名前も特に変わらん」

火影

「まぁそれだと不便って言うならそうだな……シン、とでも付けといてくれ」

楯無

「シンって新しいっていう字?それとも真実の真?」

火影

「英語です。Sinと書いてシン、です」

真耶

「Sin…「罪」ですか?なんでそんな言葉を?」

火影

「それは」

鈴・シャル・簪・ラウラ・本音・虚

「「「勝手に話進めないで(ください)~!」」」

 

話についていけてない面々の特大の声が飛んだ。ふたりはその後、このひと月の間にあったことを詳しく説明するのであった。勿論その内容に唖然とされたことは言うまでもない…。

 

 

…………

 

一夏の部屋の前

 

 

…コンコン

 

火影

「一夏、起きてるか?」

一夏

「おお火影か!入ってくれ!」

 

火影と海之のふたりが入ってくると一夏がベッドに寝かされていた。傍には箒とセシリアが付いて看病していた。その彼女達にも少なからず治療の後が見られる。

 

「おお火影!海之!」

セシリア

「急に倒れられて心配しましたのよ!」

海之

「悪かったな」

「でも…本当に良かった!」

セシリア

「ええ、本当によく生きていてくださいましたわ!」

一夏

「だから言ったろ。必ずふたりは生きてるって」

「お前も一昨日まで死んだと言っていた癖に。全く」

火影

「ま、俺もこいつも何とか生きてるさ。お前は大丈夫か一夏?」

一夏

「もちろんさ!もう殆ど、イテテ!」

「無理をするな!まだ完治したわけじゃないんだぞ!」

一夏

「だ、大丈夫だって…。身体中の節々が痛い程度だし」

セシリア

「だとしてもです!」

火影

「ははは…、でもまぁこんだけ食欲あんなら大丈夫だな」

 

火影は脇にあった大量の果物の皮や食堂のトレーの量を見て半笑いになりながらつぶやいた。一夏の目に見える傷は思ったほど深くは無く、適度な治療で済んでいたのだがDNSの影響からか疲労が大きく、一時間前まで眠り続けていたらしい。もちろんその間箒とセシリアは一夏の傍を離れなかった。目が覚めた後の一夏はとにかく空腹だったらしく、大量の食べ物を要求してそれら全てを綺麗に平らげた事を目の前のそれが証明していた。

 

海之

「まぁ思ったよりも元気そうで何よりだ」

一夏

「おう!てかお前らこそ大丈夫なのかよ?」

火影

「問題ねぇよ。詳しくはまた後で話してやる。…てか一夏、先生から聞いたぜ?お前封印されてた白式のクリスタルを勝手に持ち出したそうだな?」

一夏

「だから違うんだって!寝てた俺の枕元に誰かがクリスタルを置いてったんだよ!そもそも俺白式のクリスタルがどこに保管されてたかも知らなかったんだしさ!もっと言えば俺に封印の解除方法なんてわかる訳ねぇだろ!なのに反省文100枚って千冬姉ひどくね!?」

火影

「まぁしゃあねぇんじゃねぇか?カメラには何も映って無かったらしいし。それに山田先生から聞いたが本来なら反省文どころか警察沙汰もおかしくない程らしいぜ。何しろ学園の最重要機密エリアなんだ。それに比べれば十分優しいかもしれねぇよ?」

「反省文なら時間をかければ何とかなるさ一夏♪」

セシリア

「ちょうど冬期休暇ですから頑張りましょう一夏さん♪」

一夏

「う~んでもなんか納得できねぇ~…」

海之

「そういうがふたりも鈴達も、命令に背いて出撃したとの事で反省文30枚と聞いたが?」

「う、うむ…」

セシリア

「まぁ仕方ありませんわね…」

 

ふたりも鈴達も今回は自分達にも責があるのは知っているので罰は受ける事にしていた。

 

火影

「……まぁそれはさておき箒、セシリア。悪いけどちょっとの間、俺らと一夏だけにしてくれるか?」

海之

「…頼む」

一夏

「…箒、セシリア。俺もふたりにちょっと話があるんだ。俺なら大丈夫だからさ」

「……ああわかったよ。では私達は食器を片付けてこよう。一夏を見張っていてくれよふたり共!」

セシリア

「ではちょっと行ってきますわ。一夏さん、くれぐれも動かないでくださいませ!」

 

そう言ってふたりは食器のトレーやゴミを片付けに行ってしまった。火影はソファーに、海之はデスクの椅子に座る。

 

一夏

「全く心配し過ぎなんだよふたり共」

火影

「まぁいいじゃねぇか。あいつらの気持ちもわかってやれ」

一夏

「それは十分ありがたいんだけどさ。なんであんなに必死なのかな?」

海之

「…今度あいつらに聞いてみろ」

 

ふたりはこれがきっかけで彼らの仲が少しでも進展する事を望んでいた。

 

火影

「そういや一夏、俺らもあの時一瞬だけ見たけど…、あの白いISはお前だったんだな。一体どうなったんだ?」

一夏

「ああ…実は俺もよくわからねぇんだよ。必死だったから。ただもう一度DNSを使ったんだ」

海之

「やはりDNSか…」

一夏

「ああ、あの時の俺にはあれを使うしか奴らと戦う方法がなかったから…。ただ…」

火影

「…ただ?」

一夏

「…ある人達に言われたんだ。憎しみや恐怖をも成長の糧としろ、って。そうすれば闇も光になるって。それを思い出して使ったんだ」

海之

「…ある人達?」

 

 

…………

 

一夏はあの時の経験をふたりに話した。

 

火影・海之

「「……」」

一夏

「あの人達は言った。どんな困難にぶつかっても自分の中にしっかりとした信念を持っていれば大丈夫だって。迷うなって。…だからもう一度DNSを使った」

海之

「…その結果、あの様な形になったのか…」

(…しかしあの様な悪魔は見たことないが…。しかも本来白式は白騎士になる筈だった。…一夏の何かが変えたのか?)

「しかし今回の白式は変化した姿のままだな。…次の移行を果たした、と考えるべきなのかもしれん」

一夏

「ああそこが何でかわかんねぇんだよな。まぁ名前は駆黎弩って言うらしいけど」

火影

「! 駆黎弩…?」

 

その名前を聞いて反応する火影。

 

一夏

「ああ。白式・駆黎弩(クレド)。それが今の白式の名前だ」

火影

「…………そうか。…あのオッサンが」

一夏

「えっ?」

火影

「ああこっちの話だ、気にすんな」

(…あいつが聞いたら喜ぶだろうけどな…。にしてもあのふたりが一夏を助けるとは…)

一夏

「ってかお前らのISこそだぜ!俺はあん時気絶しちまったから一瞬だったけど随分変わっちまってたじゃねぇか。おまけに箒達の話だとあの妙な奴も追い返しちまったみたいだし、俺達はおろか千冬姉だって歯が立たなかったのにさ」

火影

「…ああまぁな」

 

すると海之が口を開く。

 

海之

「…一夏、あいつは、奴は何だ?どうやって現れた?」

一夏

「え?ああそうか、ふたりは見てないのか。あれは…あの黒いウェルギエルが変化したんだ」

火影

「…!偽物のウェルギエルがだって?」

一夏

「ああ。俺達皆で必死で戦ってなんとかあの黒いアリギエルとウェルギエルを倒す寸前までいったんだけどさ。そん時、あのウェルギエルの方が何故かアリギエルを攻撃して…奴のコアを…食ったんだ」

海之

「!!」

火影

「…コアを食っただと?」

 

これには流石に驚くふたり。

 

一夏

「ああ…。そしてどういう訳かあんな姿になっちまった…。あれって何なんだろうな?」

火影・海之

「「……」」

 

ふたりはどう言ったら良いのかわからない様だ。

 

一夏

「でも流石火影と海之だよな。そんな奴でも倒してしまうんだから」

火影

「俺達は大した事はしてねぇよ。それに今回讃えられるのは間違いなくお前らだ」

海之

「その通りだ。お前達が精一杯戦ったからこそ、誰も死なずにすんだのだからな」

火影

「特に一夏、さっき楯無さんから聞いたがお前が一番皆を守って最後まで戦い抜いてくれようとしたらしいじゃねぇか。…ありがとうよ」

一夏

「ははは、そう言ってもらえるとなんか照れるな。それに後半は守るだけで手一杯だったけどな」

 

すると一夏は笑いながらもやや暗い表情になり、

 

一夏

「…それに、俺はお前らに礼を言われる様な資格は無ぇかもしれねぇ…」

火影

「…どういう事だ?まだひと月前の事気にしているのか?」

一夏

「…それだけじゃない。実は…」

 

 

…………

 

一夏は更にあの夢の中での出来事を話した。自分が火影と海之を尊敬する一方で抱いていた嫉妬やある種の憎しみを。そういう感情も確かにあったという事を。

 

火影・海之

「「……」」

一夏

「…俺さ、あの人達からそう言われた時、最初は信じられなかった。……でもこれまでのふたりの姿を見てきた自分の気持ちや言動を思い出して自覚したんだ。……俺はお前らが羨ましかった。あらゆる点でずっと前に行ってて、皆から信頼されてて、俺に無いものを持ってるお前らに…。俺は…そんなお前らに嫉妬してた。…恨んでもいたんだ…。だから…お前らに礼を言われる資格はねぇ…」

 

一夏は本当に申し訳なさそうにそう言って謝罪した。するとそんな一夏に対し、ふたりは、

 

火影

「…んだよそんな事かよ?」

海之

「ああそんな事か」

 

物凄く素っ気ない、全く気にしてなさそうな返事をした。

 

一夏

「……へ?」

火影

「なぁ一夏。人間誰しも自分が持ってねぇもんに嫉妬するもんだ。お前だけじゃねぇさ。たまたまお前が持ってないもんを持っていたのが俺らだった。それだけのこった。そして手に入れられないと分かるほど焦りや怒りを持つのも当然だ。大事なのはそれを自覚しつつ、決して間違えない事、努力する事だ。そうだろ?」

海之

「お前は自分が犯した事にずっと責任を感じていた。そしてもう二度としないと誓ったのだろう?ならばそれで良い」

一夏

「……」

火影

「あと礼を言われる資格はねぇとか何だよ資格って?お前はあいつらを守ってくれたんだ。それに礼を言う事にいちいち資格や許可がいんのか?違うだろ?」

海之

「もしお前がそれでも礼を言われるのを拒むのならば勝手に聞き流せば良いだけの事だ」

一夏

「……」

火影

「それによ?お前は俺達が羨ましいっつってたが俺らもあんだぜお前に」

一夏

「…へ!お前らが俺に?何だよそれ!?」

火影

「それはだな…」

海之

「ああそれは…」

 

火影と海之は何か言おうとする。しかし、

 

火影・海之

「「…………」」

 

ふたりは無言になり、何も言わない……。

 

一夏

「……?どうした?」

火影

「…………どこだっけか?」

海之

「…………ああどこだろうな?」

一夏

「そこなんか言うとこじゃね!?」

 

~~~~~~~~~~

そう言われて三人は笑う。

 

火影

「ははは。まぁそんな冗談はさておきだ。ひとつだけあるとすれば…お前はまだ失わずにいるってことかな?」

一夏

「…失わずにいる?」

海之

「……そうだな。お前はまだ何も失っていない。まぁ親がいない事をのぞけばだが…お前はまだ間に合った。支えてくれる者達がいた。……どこかの誰かと違ってな」

一夏

「……?」

 

一夏はふたりが言っている事がわからなかったが…ふたりの言葉にはなんとも言えない感情があるのが見て取れた。そして今度は火影が口を開く。

 

火影

「……一夏、聞け。お前や皆の傷が治ったら…前に医務室でした約束を果たそうと思う」

一夏

「…医務室での約束?」

火影

「…前にお前がオータムに襲われた時の約束だ」

一夏

「!それって…」

海之

「……」

 

すると火影は静かに、しかしはっきりと言った。

 

火影

「ああ…俺達の事を話してやる。俺とこいつの話せなかった秘密、過去。俺達のIS。そして…ダンテとバージルという名の正体。…全てだ」

 

 

…………

 

??? Mの部屋

 

 

「……」

 

その頃、Mはひとり自分の部屋にいた。部屋の電気も消して。ひと月前、一夏と千冬との戦いで深い傷を負ったMはその後集中治療室で2週間ほど治療を受けた後、リハビリと訓練に励んでいたのだが…。

 

「…織斑一夏…。…織斑千冬…。奴らだけは……奴らだけは許さん…絶対…絶対に!!」

 

どうやら一夏と千冬に完敗したショックは相当に大きかったようである…。

 

コンコン

 

オーガス

「…Mよ、いるか?」

「! は、はい!」

 

ウィィィィン

 

するとオーガスがMの部屋に入ってきた。慌てて部屋の電気をつけるM。

 

「も、申し訳ありません」

オーガス

「構わん。身体は大丈夫か?」

「は、はい。問題ありません。それにあれ位大した事はありません!」

オーガス

「…そうか。…最近随分訓練に励んでいる様だな?」

「当然です。織斑一夏に、織斑千冬に勝つために」

オーガス

「ククク…そうか。いい憎しみだ。お前ならきっともっとDNSを使いこなせるだろう」

「あ、ありがとうございます。必ずご期待に応えてみせます。織斑姉弟を倒し、そしてあの赤と青の兄弟もいずれは」

 

そう言った途端オーガスの声色が変わる。

 

オーガス

「…いや、奴らには手を出すな」

「…え?」

オーガス

「奴らは私の獲物だ。私が倒す。それにお前では絶対に奴らには勝てん」

「! し、しかし」

オーガス

「黙れ!」

「!!」

 

オーガスの激しい口調にMは一瞬言葉を失う。

 

オーガス

「わかっていない様だからもう一度はっきり言っておこう。お前では奴らには勝てん、絶対に。奴らの事はお前には関係ない。口出しするな。お前は織斑一夏と織斑千冬の事だけ考えていればいいのだ」

「……」

オーガス

「わかったな?」

「………はい」

 

力無く返事するM。

 

オーガス

「Mよ、あの時の恩を忘れてはいないだろうな?」

「と、当然です!決して忘れは致しません!生涯永遠に!」

オーガス

「…いい子だ。ではな。先ほどからオータムがDNSをより引き出す方法を教えろとしつこいのだ」

 

そういうとオーガスは出て行った。

 

「……」

 

部屋には再び力無く項垂れるMがひとり残され、

 

スコール

「……」

 

その様子を人知れずスコールは静かに聞いていたのだった…。

 

 

…………

 

IS学園 廊下

 

 

場所は再び学園。火影と海之が一夏と約束を交わしてそこから夕食、更に大浴場でひと月ぶりの風呂に浸かったふたりは自分達の部屋へ向かっていた。

 

火影

「考えてみりゃひと月ぶりに飯食ったのか…。よく生きてたな俺ら」

海之

「仮死状態だったのだから当然だろう」

火影

「つっても髪も伸びてねぇし…まさかあいつらが切ってたって事ねぇよな?」

海之

「……よせ」

 

火影と海之は目覚めた時、あれから既に一ヶ月も過ぎていたという事にやや驚いた。髪も伸びていないし筋肉も衰えていない。しかし世間の雰囲気を見ると確かに時が過ぎていたのだなと感じた。

 

火影

「ギャリソンやレオナ叔母さん達にも年が明けたら一回謝りに行かねぇといけねぇかもな…。幾ら信じてくれてても心配はかけ過ぎただろうし。……ハァ、レオナ叔母さんの剣幕が目に浮かぶぜ…」

海之

「…仕方がない。実際多大な心配をかけたのだ。今回は甘んじて受けよう」

火影

「……あと海之」

海之

「…ああ、…わかっている」

 

先程一夏とも約束したがふたりは皆にも真実を話す事を決めていた。自分達がどういう存在なのか、過去に何があったのか、そしてオーガスとは何者か。文字通り全てを…。

 

火影

「驚くだろうな皆。まぁ当たり前か。驚かない方が無理ってもんだ」

海之

「…大丈夫か?」

火影

「何がだ?」

海之

「真実を知ったらあいつらに拒まれる可能性もある、という事だ」

火影

「心配すんな。最初っから覚悟はしてるさ。お前は?」

海之

「愚問だ」

火影

「そう言うだろうと思った」

海之

「………ただ」

火影

「?」

海之

「失いたくない…と思うものができたというのは…弱くなったという事だろうか?」

 

海之の質問に火影は、

 

火影

「……心配すんな。前に俺言ったろ?「無くしたから強いんじゃねぇ。失いたくねぇから強いのさ」ってな」

海之

「!……そうだったな」

火影

「ああ。…じゃあまた明日な」

 

そんな事を口にしながら火影は自分の部屋の前に辿り着き、扉を開ける。

 

ガチャッ

 

火影

「なんか帰ってきてから寝てばっかいる気が」

シャル

「あ、火影。お帰りなさい。お風呂気持ちよかった?」

本音

「ね~、ほんとに私ひかりんの隣じゃダメなの~?」

「アンタは火影が帰ってきてからずっとくっついてたでしょ。それに普段から相部屋なんだからこれ位譲りなさい」

火影

「………」

 

火影は一瞬固まり、言葉を失った。自分と本音の部屋に何故か寝間着姿の、リボンも外した鈴とシャルがいたのだ。いやそれだけならただ遅くに遊びに来ただけと考える事も出来なくもない。彼女達は普段から一緒にいる事も多かったし、ましてや火影が帰ってきたという事もある。色々話したいと思う事もあるだろう。だから自分の部屋にいる事も珍しい事ではない。火影が黙った最大の理由は別にあった。

 

火影

「……おい」

本音

「な~に~?」

火影

「なんで俺のベッドと本音のベッドが……くっ付けられてんだ?」

 

そう。火影が驚いたのは彼女達がいた事ではなく、自分と本音のベッドがくっ付けられていた事だった。自分が風呂に行く前とそこが完全に模様替えされていたのである。

 

シャル

「あ、あははは…、やっぱりそこが気になる…?…うんとね…」

本音

「かっちゃんの命令なんだよ~」

火影

「…は?楯無さん?」

「あ、あのね。アンタと海之がお風呂に行った直ぐ後にね。私達のところに楯無さんから伝言が来たのよ…。コレなんだけどさ」

火影

「…手紙?」

 

そう言って火影は渡された手紙を見ると、

 

 

「大事な人が帰ってきて良かったね!…という訳で!生徒全体の事を考える生徒会長の私から提案します!新学期始まるまで想い人の部屋で一緒に過ごしてみたら良いんじゃない?準備はしておくから♪行くか行かないかは君達に任せます。じゃあ後は君達でごゆっくり~♪」

 

 

火影

「………」

 

火影は手紙を握りつぶしたい感情に囚われたがそれ以上に呆れて物も言えない様だ。

 

本音

「私もびっくりしたよ~。ひかりんがお風呂行ってから数分位したらたくさん人が来てさ~。あっという間にベッドを移動させちゃうんだもん~」

シャル

「でもまさかこんな状態とは思わなかったね。ああ因みにだけどラウラにも来たんだ。多分海之と簪の部屋も同じ事になってると思うよ」

「そういえば箒のところにもなんか手紙が来てたわね。…何かしら?」

 

火影は天を仰ぎながら頭を抱える。

 

火影

「っっったくあの人は……。てかこれは単に提案であって命令じゃねぇだろ?別に無理に付き合わなくても良かったんじゃねぇのか?」

「そ、それは…」

シャル

「ま、まぁそう、なんだけど…」

 

鈴とシャルは顔を赤くしながら返答に困った。その様子からどうやら行かないという選択肢は彼女達の中に無かった様である。こんな寝方をするのは計算外だったかもしれないが。

 

火影

「海之の野郎もさぞ驚いてる事だろな。いや飛び越えて呆れてるか。……ハァ、折角風呂入ってきたのにまたドッと疲れた気がする。狭いだろうしお前らで使ったらどうだ?俺はソファーでも構わねぇぜ?」

「だ、大丈夫よ!ほら!お布団じゃないとちゃんと疲れとれないでしょ?」

シャル

「う、うん!だから僕達の事は気にしないで火影もベッドで休んで?」

本音

「そうだよ~。皆で一緒に寝た方が楽しいよ~!」

 

火影のその言葉に三人は直ぐに反応して止める。それを聞いてやむ無く火影もベッドで寝る事にするが、

 

「…あ!い、言っとくけど一緒に寝るからって変な考え起こさないでよ!」

火影

「…?なんだよ変な考えって。ほら寝るぞ」

 

 

…………

 

そうこうしている内に四人は寝る体制に入った。ふたつのシングルベッドをぴったりくっ付けたその寝床はやはり多少狭くはあるものの何とか四人入る事はできた。上から見てみて鈴とシャルで火影を挟む形。鈴の反対隣に本音がいる。火影は端で良いと言ったのだがこういう形になったのだ。だが涼しい顔をして仰向けで寝ている火影に対し、鈴達は緊張がピークだった。

 

火影

「………」

(……やばい、緊張して全然寝れない…!お姫様抱っこや人工呼吸はされた事あるけどそれと全く違う…!一緒に寝るってこんなに違うもんなの…?)

シャル

(や、やっぱり四人で寝るとお互い近いなぁ。こんなに顔が近かったら…寝返りうった時とか誤ってキスとかしちゃったりするかもしれないなぁ…。って何考えてるの僕!)

本音

(む~~~次は絶対私がひかりんの隣だからね~!)

 

鈴達三人がそんな風に其々思っていると火影が上を向きながら口を開く。

 

火影

「…なぁ鈴、シャル、本音、ちょっといいか?」

「え?」

シャル

「何?火影」

本音

「ほえ?」

 

火影の真面目な声に疑問符が浮かぶ鈴達。

 

火影

「……聞いてくれ。一夏やお前らの怪我が治ったら……お前らに洗いざらい全てを明かそうと思う。俺と海之の事。あのオーガスって野郎についても何もかも…全て」

「……」

シャル

「…火影…」

本音

「ひかりん…」

 

三人はそれ程驚かなかった。火影と海之が戻ってきてからもしかしたら予感はしていたのかもしれない。

 

火影

「もう隠し事はしねぇ。…そして、それを聞いたうえで俺達の事を判断してくれ。もう一緒にいたくねぇって言うなら遠慮なくそうしてくれ。そうされても仕方ねぇ。でも…話さなきゃならない」

 

そんな火影の言葉に対して鈴達は答えた。

 

「…わかった」

シャル

「…うん」

本音

「わかったよひかりん…」

火影

「……」

 

火影も覚悟しているのか黙っている。しかし続いて鈴達は言った。

 

「…でもね火影、もう一度言っとくわ。アンタと海之が例え何者であっても、私達はアンタ達を信じてる。これだけは絶対変わる事はないわ」

シャル

「そうだよ火影。それに一ヶ月前言ったでしょ?僕達を泣かせた責任取って貰わなきゃ」

本音

「私達の気持ちは変わらないよひかりん~♪心配しないで~」

 

三人は火影を見ながら笑顔でそう宣言した。

 

火影

「………」

 

鈴達のその言葉に暫らくきょとんとする火影。

 

シャル

「…火影?」

本音

「ひかりん?」

「ど、どうしたのよ?」

火影

「……問題の前に答えるのは反則だぜ。…ははは」

鈴・シャル・本音

「「「あはははは♪」」」

 

 

…………

 

ほぼ同時刻。こちらは海之と簪の部屋。そして予想通りこちらもこうなっていた。

 

海之

「………」

(し、心臓の音聞こえてないかな?うるさくないかな?…さっきからまるで耳元に聞こえる位音立ててるのがわかる…)

ラウラ

「よ、嫁の隣で…しかも同じベッドとは激しく緊張するものなのだな…。半年前私はこんな事、普通にしようとしていたのか…」

クロエ

「ラウラ、貴女なんという事を考えているのですか…」

 

火影達が前述の様な事になっている一方、海之達もこのような状況になっていた。簪とラウラが海之を挟むようにし、クロエがラウラのもう隣にいる。クロエがここにいるのは鈴達と同じく「お兄ちゃんと一緒にいたら?」という楯無の提案。最初は躊躇したが結局来てしまった。まぁ理由はそれだけではないのだがそれについては後程。

 

海之

「全く楯無さんは…」

「御免ね海之くん…。本当にお姉ちゃん何考えてるのよもう…」

海之

「気にするな簪。お前のせいではない。それより大丈夫か?」

「う、うん。ちょっと近いけど大丈夫だよ」

(……それに、やっぱり私も嬉しいし…)

海之

「窮屈では無いかラウラ」

ラウラ

「あ、ああ大丈夫だ。問題ない」

海之

「クロエ、お前は?」

クロエ

「は、はい…大丈夫です。束様ともこうしてよく一緒に寝ていましたから…」

海之

「そうか…。もし寝にくいなら俺はソファーで眠るから遠慮無く言え」

「だ、大丈夫だよ。私達は全然」

ラウラ

「ああそうだ。気にするな。一緒に眠れ」

 

そんな風に話していると海之がクロエに話しかける。

 

海之

「…クロエ」

クロエ

「はい。なんですか?」

海之

「今言う事ではないかもしれないが…束さんの事、本当にすまなかった。俺達がもう少し気を付けていれば…」

クロエ

「あ、謝らないでください海之兄さん!兄さんは悪くありません。それにそれを言うなら…私が一番悪いんです。一番…あの方のお傍にいたのに…」

ラウラ

「クロエさん、それは違います。貴方だけのせいじゃありません」

「そうだよクロエさん。…助けよう。必ず、私達皆で」

海之

「その通りだ。不幸中の幸いかもしれないが奴はまだ束さんを必要と言っていたのだろう?うかつに手を出すとは思えん」

「うん、そうだね」

クロエ

「…はい!」

 

クロエは少し元気を取り戻したようだ。

 

海之

「…ところでクロエ、それにラウラ。以前より随分打ち解けたようだな?」

ラウラ

「そ、そうか…?もしそうだとすると…嬉しいが」

クロエ

「私も…ですか?…よくわかりません…」

海之

「…まぁ慌てる事はない。前にも言ったがお前達はこれからだ」

「…?」

 

ラウラとクロエの完全な雪解けも何時か必ずやってくる。海之はそう信じていた。そして、

 

海之

「三人…いやクロエは知っているな。簪、ラウラ」

「何?海之くん」

ラウラ

「なんだ海之?」

海之

「多分火影の奴も鈴達に話しているだろうが…、約束通りお前達に全てを明かそうと思う。俺達の今まで隠してきた事。そして、前に俺が言った俺の大罪というものについても…全てな」

簪・ラウラ

「「……」」

クロエ

「海之兄さん…」

 

簪とラウラもまた、鈴達と同じく予感していたのかさほど驚いてはいなかった。

 

海之

「その結果、俺達を拒絶しても何も言わん。いや寧ろされて当然なのだ」

「それ以上言わないで海之くん。知るのが全く怖くないと言えば嘘になるけど…私は海之くんを信じてるから」

ラウラ

「お前も火影も私の家族だ。家族は信じあうものだ。お前達が何者だろうと。余計な心配するな」

海之

「……」

 

ふたりの真っすぐな想いに黙る海之。

 

クロエ

「想いって…いいものですね、兄さん」

海之

「……そうだな」

 

そんな感じでこちらも床に着いた。

 

 

…………

 

そしてもうひとりの男子、一夏の部屋では。

 

一夏

「…あの…皆さん?というか楯無さん?ひとつお聞きしたい事があるんですが…」

楯無

「なに~?一夏くん?」

「わ、私もお聞きしたいことがあります!」

セシリア

「私もですわ!それになんでずっと看病していた私達じゃなく楯無さんが一夏さんのお隣なんですの!」

 

やはりというか、こちらでは一夏・箒・セシリア・楯無が一緒のベッドで寝ていた。一夏の隣はジャンケンの結果、箒と楯無が入った。セシリアは箒の隣になり、残念そうだった。同室の楯無がこうしたのでクロエもひとりで寝るよりは…、そう思って海之の部屋に行ったらしい。

 

楯無

「だって~ジャンケンで勝ったんだからしょうがないじゃない♪明日もちゃんとやるから♪」

「明日もするつもりですか!?…というより鈴や簪達のためならわかるんですけど…なんで私達まで」

楯無

「あの子達だけ過ごすなんてずるいでしょ~?ついでよついで♪なんなら無理に参加しなくても良いわよ~?」

「そ、それだけはできません!」

セシリア

「わ、私もできませんわ!皆さんを放っておいたらどうなるかわかりませんもの!」

「ななな、何を言うセシリア!私がそんな事するわけないだろう!」

一夏

「…あの、俺一応ちょっとした怪我人なんすけど?」

楯無

「そうよふたり共~、騒いだら一夏くんの怪我に響くわよ?」

箒・セシリア

「「うう…」」

 

それを言われると黙るしかないふたり。

 

楯無

「でも一夏くん本当にかっこよかったわね~。私感動しちゃった♪」

「…ああ。私も同じ気持ちだ一夏。よく…助けに来てくれた」

セシリア

「キャノンボール・ファーストの時もそうでしたが本当にご立派でしたわ」

一夏

「ははは、最後はいつも通りあいつらに見せ場を譲りましたけどね。……でもそう言ってもらえたら嬉しいです。それに…」

「それになんだ?」

一夏

「…火影と海之が言ってくれたんです。「あいつらを守ってくれてありがとう」って。…素直に嬉しかったっす」

セシリア

「…一夏さん…」

一夏

「…俺思い出したんです。前にあいつらに言われた事」

楯無

「…何?」

一夏

「前にあいつらと風呂入った時、言われたんです。「俺達にしかできなことがあるように、お前にしかできないことがある。そしてそれはお前にしか見つけられない」って… 。…それで…なんとなくだけど…わかった気がするんです。火影や海之みたいに…皆を守れる様な男になる事。守るために戦える男になる事。それが俺のやるべき事だって。そして決めました。…もうふたりを、火影と海之の背中を無理やり追い続ける事はしない。俺は俺として、織斑一夏として強くなる。誰にも思いつく事かもしれないけど…俺頭そんな良くねぇし」

 

するとそんな一夏に箒達は、

 

「…十分立派な答えだよ一夏」

セシリア

「ええ、本当に」

楯無

「恥じる事なんて決して無いわ」

一夏

「……ありがとうございます」

 

そう言われた事に安堵する一夏であった。そしてその安心感を持ったまま寝ようとすると、

 

楯無

「じゃあますます元気になってもらわなきゃね♪明日はもっと手厚~い看病してあげるわ~♪」

「ず、狡いですよ楯無さん!交代交代の筈でしょう!」

セシリア

「そうですわ!それに明日は私の番です!」

一夏

「…俺寝たいんですけど…」

 

すると楯無が、

 

楯無

「ああそれから皆にも教えるけど一夏くん、箒ちゃん、セシリアちゃん。私の事はこれからは刀奈って呼んで。私の名前なの」

「…刀奈?では楯無、とは?」

刀奈

「立場上の名前よ。でももうあのふたりの事に比べれば隠しておくのも馬鹿馬鹿しくなっちゃった。だからこれからはそう呼んでね?」

セシリア

「わ、わかりました。…刀奈さん」

一夏

「……ああだからのほほんさん、楯無さんをかっちゃんと呼んでたんですね。…あ、ところで」

刀奈

「何~?」

一夏

「なんで一緒に寝るのがのほほんさん達のためなんすか?」

箒・セシリア

「「……ハァ~」」

刀奈

「…オーガスより強敵かもしれないわね」

 

 

…………

 

少し時が過ぎ、IS学園 中庭

 

また、ここではこんな事があった。皆がすっかり眠りについてから数刻後、学園寮から出てきた影があった…。

 

千冬

「……ふぅ、今日はこの時期にすれば比較的暖かい方だったが夜中になるとやや冷えるな…」

 

そこには寝間着姿の上に簡単な上着を羽織った千冬がいた。どうやら夜中に目が覚めてしまい、風にでも当たろうと思って出てきた様だった。因みに眠っていたので髪も束ねていない。

 

千冬

「まぁでも軽く散歩する程度なら何とかなるか。………ん?」

 

千冬は気付いた。少し離れたベンチに誰かが座っている。外灯のおかげでうっすらではあるが確認できた。銀髪の、下ろした髪が。

 

千冬

(銀髪…火影か…?)

 

千冬は特徴からして火影と思い、近づいてみる。…だがそれは違った。

 

千冬

「…! み、海之…!」

 

それは火影ではなく、同じく寝間着姿で上着と首にマフラーをした髪を下ろした海之だった。

 

海之

「…千冬先生?どうしました?」

千冬

「あ、ああ。ちょっと目が覚めてしまって風に当たりに…」

海之

「そうでしたか、俺も同じです」

 

それだけ言うと流れで千冬は海之の隣に座る。すると、

 

海之

「先生これを」

 

そう言って海之は自身の上着を脱いで渡そうとする。しかし千冬は大丈夫と断る。

 

千冬

「い、いやいい。お前が寒くなるだろう」

海之

「…ではせめて」

 

そういうと海之は立ち上がり、自身の白いマフラーを千冬の首に回す。

 

千冬

「!!」

海之

「ここにおられる間だけでも。お風邪を引かれたら大変です」

千冬

「あ……ありがとう」

 

つい今まで海之の首に巻かれていたためか、僅かに残る温もりに千冬は自分の顔が熱くなっていくのを自覚する。

 

千冬

(…海之の…マフラー…)

海之

「…どうかしましたか?」

千冬

「なな、なんでもない!…と、ところで、お前が髪を下ろしているのを見るのは初めてだな」

海之

「あまり好きではないんです。それにああしなければ火影との区別がつきにくいですからね」

千冬

「ふふっ、確かにな」

海之

「…そういえば先生の束ねておられない髪型も初めてですね」

千冬

「あ、ああ。先ほどまで眠っていたからな…」

 

どうも調子が狂う事を危惧した千冬は話題を変える事にした。

 

千冬

「そ、そういえば海之、あと火影と一夏もだがお前達の部屋に更識の奴が何やらしでかしたそうだな?」

海之

「はは…、ええ実は…」(事情説明)

千冬

「………全くあの馬鹿者は」

海之

「正直最初は言葉が出ませんでしたが…でもそのおかげで話せた事もありますし、今は気にしていません。簪もラウラもクロエも疲れたのかぐっすり眠っています」

千冬

「……何かあったのか?」

海之

「…ええ。あいつらに約束したんです。一夏や皆の傷が癒えたら…その時に全てを話す、と」

千冬

「……成程な」

 

遂にその時が来たか、と千冬は思った。そしてもしかしたら多分火影も鈴達に話しているかもしれないとも。

 

千冬

「あいつらはなんと?」

海之

「…何があっても…受け入れると…言ってくれました。俺達の過去に何があったとしても」

千冬

「…そうか」

 

その答えに千冬は安心した。しかし海之は言う。

 

海之

「……ですが正直、とても信じてもらえるかどうか…。ましてや俺は…」

 

海之の頭に自分の過去の姿が蘇る。

 

千冬

「…海之、過去と今は違う。あいつらはお前達を信じている。だからお前もあいつらを信じろ」

 

海之に千冬は安心させる様にそう言った。

 

海之

「……はい」

千冬

「それに私は…お前を信じている…」

海之

「え?」

千冬

「い、いやなんでもない…。……あ」

 

すると空から…ちらほらと雪が降ってきた。

 

海之

「…雪ですね」

千冬

「…ああ。…雪だな。クリスマスはもう終わってしまったが」

海之

「そういえば昼に鈴が最低だけど最高のクリスマスと言っていました」

千冬

「…最低だけど最高のクリスマス、か。……ふっ、確かにその通りかもしれんな…。私にとっても」

海之

「…先生にも?」

千冬

「あ、ああまぁな。……まぁひとり足りないんだが」

海之

「……助けますよ。必ず」

千冬

「…ああ。必ずな」

 

千冬と海之の脳裏にはひとりの知人がいた。

こうして彼ら、そして彼女達は最低だけど最高のクリスマスを過ごしたのだった。

 

そして物語は……翌年へと進む。




これからは約数話ほど平和な話が続く予定です。

個人的感想ですがアグニ&ルドラは本音と相性よさそうな感じしてます(笑)


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Extramission10 楽しい?大王様ゲーム大会!

これは去年の12月31日投稿の「ExtramissionXX ゆく年くる年」直後のお話です。


慌ただしい大晦日を終え、賑やかな元旦を過ごして今日は一月二日。一同は一夏の家で引き続き正月をのんびり過ごしていた。年始の挨拶にやってきた弾と蘭、更に虚と真耶まで加わり、更に大人数となった。何かゲームでもと一夏が言いだそうとしたそんな中、刀奈がこんな事を言い出した。

 

刀奈

「ねぇねぇ!人数が多いから全員で王様ゲームでもしな~い?」

「…王様ゲームですか?」

「お嬢様またおかしなことを…」

一夏

「なんか久々だなぁその名前聞くのも」

本音

「おもしろそ~。人数多いからやろうよ~」

「確かにこん位人数多い方が面白そうだな♪」

「弾兄…、変な事考えてないわよね?」

真耶

「ぜ、全員ってもしかして私も参加するんですか~?」

 

多くがこんな反応をする中、火影と海之は、

 

火影

「……なぁ、王様ゲームってなんだ?」

「え?あんた知らないの王様ゲーム?」

海之

「俺も知らん」

シャル

「海之も?」

「もしかしたらスメリアには無いのかな」

ラウラ

「私は知っているぞ。前に部下から教わったんだ」

セシリア

「私はお友達の方から教わりましたわ。シエラさんは?」

シエラ(クロエ)

「あ、はい。実は知ってます。たば…、ある方に教わりました。絶対に盛り上がるから覚えておかなければ損だと…」

※弾、蘭がいるので偽名のシエラで名乗っています。

「もう…また変な風に…」

火影

「…で、結局どういうもんなんだ?」

一夏

「簡単さ。全員で一斉にくじを引いてあたりを引いた者が王様になる。他のくじには番号が書いてある。王様になった者はランダムに番号を言って命令する、ってゲームだ」

「ちなみに王様の命令は絶対だぜ?」

刀奈

「そうそう!絶~対断れないからね~♪」

 

刀奈は随分楽しそうだ。

 

海之

「…刀奈さん随分楽しそうですね?何か邪なこと考えておられませんか?」

刀奈

「ソンナワケナイジャナイデスカヤダ~」

「…お姉ちゃん。やるのは別にいいけど変なお願いするつもりなら私やらないよ?」

刀奈

「え~それじゃつまんないわよ~。一般常識の範囲なら大丈夫でしょ~?」

「お嬢様の場合一般常識がどこまでなのか判断しかねますので心配です」

刀奈

「…虚ちゃんヒドイ。大丈夫よ~、裸になれなんてそんな命令は流石にしないから~」

「当たり前です!!」

シャル

「…なんか僕も心配になってきたな…」

「は、はい。私は遠慮しとこうかな…」

 

多くが遠慮しがちな空気の中、ある者が普段なら決して言わない様な事を言った。

 

千冬

「いいではないか。やってみろ。命令だ」

真耶

「せ、先輩!?」

一夏

「千冬姉…?」

千冬

「くじなら私が作ってやろう。今準備してやる」

 

そういうと千冬は手際よくくじを作り始める。

 

ラウラ

「教官がそのような事を仰るなんて…」

本音

「どうしちゃったのかな~?」

火影

「……ん?これって…」

 

火影が見つけたのは床に転がった瓶。よく見ると空の酒瓶だ。

 

火影

「アブサン……ハァ、間違いなくこれのせいだな。大方間違えて飲んでしまったんだろ」

「…アブサン、って?」

海之

「チェコの酒だ。別名「誘惑の酒」。度数70%以上の強烈な酒だがキツさをあまり感じないために飲み過ぎる事も少なくないという」

「な、70!?」

セシリア

「じゃ、じゃあ先生は…」

 

そんな事を言っている間に千冬はくじを作り上げてしまった。

 

千冬

「ほら、できたぞ。早くやれ」

全員

「「「…………」」」

 

千冬の無の圧力にあまり乗り気でなかった者も含め全員従うしかなかった…。

 

 

…………

 

刀奈

「じゃあ一気にくじ引くよ~♪」

一夏

「掛け声は「王様だーれだ?」って言うんだぜ」

本音

「は~い♪じゃあ行くよ~。せ~の」

 

 

「「「王様だーれだ(誰だ)?」」」

 

 

最初に当たったのは、

 

一夏

「おっ!しょっぱな俺か!」

真耶

「い、一夏くん。最初ですから軽めにしてくださいね?」

一夏

「わかってますって。……そうだな、じゃあ2番と3番と4番は近くのコンビニに飲み物とお菓子の買い足しに行ってきてくれ」

「それ位なら簡単だな。…それで誰だ?」

真耶

「わ、私2番です」

シャル

「僕が3番です。良かった…軽い命令で」

シエラ

「私が4番ですね」

千冬

「ああ真耶。お前が当たったんなら酒も頼む」

シエラ

「ま、まだ飲まれるんですか?」

千冬

「固い事言うな正月位。心配しなくても大切な事は忘れちゃいないさ」

真耶

「わ、わかりました」

シャル

「じゃあ行ってきま~す」

 

 

…………

 

刀奈

「とりあえず山田先生とシャルちゃんとシエラちゃんは休みね。んじゃ次行きましょ~♪せーの」

 

 

「「「王様だーれだ?」」」

 

 

「あ!私じゃん♪」

 

次に引いたのは鈴だった。

 

「じゃあね~、またお出かけだけど7番の人は駅前の宝くじ売り場で自腹で宝くじ買ってきなさい。今年初の運試しよ♪」

「それ賭け事になるんじゃありませんか?」

「大丈夫ですよ。たかが宝くじですもん。どうせ買うならすぐに答えわかるスクラッチがいいわね。で、ラッキーセブンは誰~?」

 

すると、

 

海之

「…7番、俺か。…ハァ、では行ってきます。宝くじなんて買ったことないですが」

千冬

「店員に聞けばすぐ分かる」

「海之くん!私が一緒に行って教え」

刀奈

「簪ちゃん~。逃げようと思っても駄目よ~♪」

「…うぅ…」

(なんか嫌な予感がするなぁ…)

 

 

…………

 

本音

「山田先生とシャルルンとシーちゃん、みうみうがいなくなっちゃった所で3回戦行ってみよ~」

 

 

「「「王様だーれだ?」」」

 

 

「お!俺か♪」

 

次は弾だった。

 

「お兄、言っとくけど変な命令したら承知しないからね?」

「わかってるって♪…ん~そうだな、じゃあ5番から8番はこのゲームが終わるまで自分の事を「ボク」って言え」

刀奈

「地味に恥ずかしいわねそれ。で誰……ってあら?私8番じゃないの」

ラウラ

「! 私が5番だ!…ボ、ボクか…。どうも慣れんな…」

セシリア

「わ、私6番ですわ。…ぼ、ボク。…なんか恥ずかしいですわね。あと3番は?」

「私ではないぞ?」

「私も違います」

本音

「私も~……どしたのかんちゃん?」

「……」

 

簪は黙っている。横の刀奈がくじを見てみると、

 

刀奈

「簪ちゃん7番じゃないの~。言わないと駄目じゃな~い♪」

「う~…どうしても言わなきゃダメ?」

刀奈

「王様の命令は絶対よ♪という訳でラウラちゃんとセシリアちゃん、簪ちゃんと僕は「ボク」ね♪」

セシリア

「は、はい…」

「……」

(だから嫌だったのに……。海之くんに変に思われたらどうしよう……)

 

 

…………

 

買い出しに行っていた真耶とシャルとシエラが戻ってきて第4回戦。

 

 

「「「王様だ~れだ?」」」

 

 

「…あっ、私です」

 

次に王様を引いたのは蘭だった。

 

「えっとそうですね…。じゃあ12番と13番と14番は…将来の夢を教えて下さい」

ラウラ

「ほぉ、内容によっては恥ずかしいものになるな。で、誰だ?」

 

すると、

 

「私が12番ですね…。私の夢は……えっと…あの……」

 

そう言いながら虚は一瞬だけ弾の方を見た。だが千冬がそれを見逃さなかった。

 

千冬

「ほぉ、虚の夢は五反田の嫁になる事か。成程成程」

「! そ、そんなはっきり仰らないでください!それにもう決まったみたいに!」

本音

「え~じゃあお姉ちゃん、だんだんとの結婚が嫌なの~?」

「そ、そうじゃありません寧ろ望んで……!い、いえ…あの…その…も、もう!弾さんも何か言ってください!………あれ?」

「……」

 

弾は真っ赤になって倒れていた。

 

「だ、弾さん!?」

一夏

「なんか急にぶっ倒れちゃいましたけど?」

シャル

「多分だけどいきなりだったんで恥ずかしかったんじゃないかな?」

「もう弾兄ったら情けない…」

千冬

「誰か二階の客室まで運んでやれ」

 

気絶した弾は一夏と虚に客室に運ばれていった…。

 

刀奈

「とりあえずひとりリタイアね~。やっぱり王様ゲームはこうでなくちゃ~♪で残り13番と14番は誰?」

「お、王様ゲームってこんな感じでしたっけ?私が13番ですね…。私の夢は…えっと」

 

すると再び言う前に千冬が答えた。

 

千冬

「答えるまでもない。お前も一夏の嫁だろう?」

「だ、だからはっきり言わないでください千冬さん!一夏に聞かれたらどうするんですか!」

本音

「え~、しののんおりむ~と結婚したくないの~?」

「そ、そうではない!間違ってはいないが物事には順序というものがあってだな!」

シエラ

「…なんでしょう?同じ光景を見た気がします…」

「う、うん。ほんとたった今見た様な…」

セシリア

「…負けませんわよ箒さん」

「私も…負けない…」

刀奈

「やっぱり箒ちゃんは最大のライバルねぇ~♪それで最後の14番は~?」

 

すると残ったのは、

 

火影

「やれやれ俺か。……そうですね、何時になるかはわかりませんけど店をやりたいですかね」

 

鈴・シャル・本音

「「「お店?」」」

真耶

「お店ですか?いいですね」

ラウラ

「どんな店をやるつもりだ?」

火影

「それについてはまだまだ計画中さ。ただ名前だけはもう決めてあるんだぜ?」

「どんな名前なの?」

火影

「その時までのお楽しみさ」

「まぁお前が店を出すとすれば大抵の事はできそうだな。応援するぞ」

シエラ

「はい。きっと上手くいきますよ」

火影

「ありがとよ」

 

火影の「店をやりたい」という言葉を聞いた彼女達は、

 

鈴・シャル・本音

(((火影(ひかりん)とお店やるなら…どんなお店がいいかな~♪)))

 

 

…………

 

小休憩中、海之が戻ってきた。

 

海之

「ただいま戻りました」

シエラ

「お帰りなさい海之兄さん。遅かったですね」

海之

「人が多くてな。ついでに……?弾と虚さんは?」

一夏

「ああ、弾がなんかぶっ倒れちゃって。虚さんが今看病してくれてんだ」

ラウラ

「それでどうだった海之?」

 

すると海之は涼しい顔で封筒を見せる。中には……200万円入っていた。

 

「な!?」

真耶

「ど、どうしたんですかこのお金!?」

海之

「わざわざ行って一枚だけというのもと思いまして、適当に二枚選んだら二枚とも1等100万が当選しました」

一夏

「マジかよ!?」

「どんなえげつない幸運よ!?」

海之

「かなり驚かれたがな。…それでどうしましょうこの金?」

千冬

「どうもこうもお前の金で買ったんだ。お前の好きにするがいい」

火影

「…じゃあよ海之。アレに使ったらどうだ?」

海之

「……そうだな。そうするか」

シエラ

「アレって…何か買うんですか?火影兄さん」

火影

「ちょっとな」

一夏

「年始からついてるな~海之。今度から宝くじ俺の代わりに買ってくれよ~」

 

 

だがしかし、この直後そのツキが見事に逆転することになるとはこの時皆思いもしていなかった…。

 

 

…………

 

休憩が終わり、第5回戦。

 

 

「「「王様だーれだ?」」」

 

 

セシリア

「あ、私……あ、ち、違いましたわね。…ぼ、ボク、ですわ」

 

次はセシリアだった。

 

シャル

「せ、セシリア?今、ボクって…」

シエラ

「どうされたんですか?」

一夏

「さっき弾がした命令なんですよ。セシリアとラウラ、簪と刀奈先輩は自分をボクと呼べって」

真耶

「そ、そうなんですね」

「それじゃセシリア、命令を頼む」

セシリア

「そうですわね。…どうしましょうか…」

 

するとセシリアはこんな命令を言った。

 

セシリア

「じゃあ…そうですわ。実は新作の料理に挑戦してみましたのですが…1番と2番の方はそれの味見をお願い致します」

 

その命令を聞いて一部の者が慌てだす。

 

一夏

「ま、マジかセシリア!?」

「まだお昼を食べてから間が無いぞ!?」

セシリア

「大丈夫ですわ。ほんの一口サイズのお菓子ですもの」

真耶

「それなら大丈夫そうですね。…で、1番と2番は誰ですか?」

 

名前を挙げたのは、

 

海之

「1番は俺です…」

火影

「俺が2番だ…」

(…まぁセシリアも一夏と箒に教えてもらってから結構経つし…前程酷くはねぇだろ…)

セシリア

「良かった!火影さんと海之さんでしたら食通ですから安心ですわ♪」

「…それでセシリア、アンタの作ったお菓子って?」

 

するとセシリアは台所からあるものを持ってくる。それは一見なんの変哲もない…ショコラだった。見た目だけなら完璧とも言っていい程である。

 

本音

「わ~チョコレートだ~♪」

刀奈

「違うわ、ショコラよ」

セシリア

「自信作ですの!ぜひ感想を聞かせてください」

火影

「へ~、見た目はいいじゃねぇか。結構大丈夫そうだ。んじゃひとつ」パク

海之

「匂いは…悪くないな。…いただく」パク

一夏

「……関係ないけどセシリア、俺ももらっていいか?」

セシリア

「勿論ですわ!以前一夏さん達に開いていただいた労い会で野菜のゼリーを頂いたんですがその美味しさに深く感動したんですの。それで私も野菜とスイーツを組み合わせたものを作ってみたいと思いまして」

一夏

「へ~、野菜のショコラって事か。何入れたんだ?」

 

そう言いながら一夏がショコラを口に入れようとしていると、

 

セシリア

「はい。キャロライナリーパーという綺麗なお野菜ですわ。その粉末をひと瓶お入れしてるんですの」

 

……その場のセシリア以外の全員が凍り付く。一夏もショコラを持つ手が寸前で止まり、ゆっくり皿に戻す。

 

「きゃ、キャロライナリーパーって…」

真耶

「そ、それって確か…」

刀奈

「世界で最も辛い唐辛子よ…。ハバネロとかよりもずっとね…」

セシリア

「まぁ唐辛子ですの?綺麗な赤色でしたからてっきりトマトみたいなものかと」

シャル

「トマトじゃないよ~!」

一夏

「お、おいふたり共大丈夫か!?」

 

皆の視線が一斉に食べたふたりに向けられる。

 

火影・海之

「「………」」

 

だがふたりは何も言わない。それどころか目も指もピクリとも動かない。まるで氷漬けになっている様に。

 

「火影…?」

ラウラ

「ど、どうした海之…?」

火影・海之

「「………」」

 

 

……………………バタッ

 

 

「ちょ、ちょっとふたり共!?」

千冬

「大げさな奴等だ。食べ物で気絶するとはな」

本音

「…!わーひかりんもみうみうも息してなーい!」

「ちょっとそんなの洒落にならないでしょーが!」

一夏

「火影…海之。お前らの事は忘れねぇよ…」

シエラ

「兄さんしっかりしてくださーい!」

 

 

…………

 

5分後、火影と海之はなんとか目を覚ましたのだが…。

 

本音

「ひかりん~みうみう~大丈夫~?」

火影・海之

「「………」」

 

舌がまだしびれているらしく、口を開けなかった。すると海之がスマホを手に取り、画面を見せる。

 

「一夏、砂糖をくれ。辛さを取りたい」

一夏

「あ、ああわかった!」

 

すると火影もまたスマホを取り、

 

「セシリア、ショコラに合わねぇ。バナナやオレンジにしろ」

セシリア

「成程わかりましたわ。ありがとうございます」

「あんなになってもアドバイスするとは…」

刀奈

「あはは…。とりあえずふたりは次は休んでなさいな」

シャル

「じゃいくよ。せーの」

 

 

「「「王様だ~れだ?」」」

 

 

真耶

「…!わ、私です!ど、どうしましょう!?」

 

王様を引いたのは真耶だった。

 

千冬

「どうするも何も命令すればよかろう」

 

すると何を思ったのか真耶は驚くべきことを言った。

 

真耶

「え、えっと、えっと…じゃ、じゃあ9番は6番に告白しちゃってください!!」

 

男性陣と千冬以外

「「「!!!」」」

千冬

「上出来だ真耶」

一夏

「あっちゃ~6番、俺だ~」

 

その言葉を聞いた一夏組はすぐさま反応する。

 

「私は4番…」

セシリア

「…ボクは1番です」

刀奈

「あ~惜しい!8番だった~!チャンスだったのに~!」

シャル

「…?どうしたの蘭?なんかソワソワしてない?」

「い、いえ…あの…その…」

「…って、蘭9番じゃないの!」

箒・セシリア・刀奈

「「「!!!」」」

 

やはりというか、一夏組は動揺が大きい。

 

一夏

「じゃあ蘭が俺に何か告白するんだな?なんでもいいぜ蘭」

「え、えええ!?…え、えっと…あの…」

 

蘭は真っ赤になってしまう。一夏はどうも意味が分かっていない様だ。

 

(どどど、どうしよう…?)

ラウラ

(私達には見守る事しかできんさ)

千冬

「蘭!男ならはっきり言えはっきり!」

一夏

「千冬姉、蘭は女なんだけど…。まだ酔ってるな…。蘭、いいから言えって」

「………はい。わかりました!!…一夏さん聞いてください!私は…!」

箒・セシリア・刀奈

「「「!!」」」

 

 

…………

 

それからほんの少し後、眠っていた弾と看病していた虚が降りてきた。

 

「弾さん、大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です!でもなんで俺気絶なんかしちゃったんすかね?」

「さ、さあ、…なんででしょう?」

一夏

「弾、もう起きたのか」

「ああだいじょ……って、蘭?」

「………」

 

蘭も同じく真っ赤になって気絶していたのだった。

 

一夏

「ああ、なんかよくわかんねぇんだけど俺に何か言おうとして急に真っ赤になって湯気立てて倒れちまったんだよ…」

真耶

「……すいません。私の命令のせいです」

 

どうやら蘭は一夏に告白しようとした矢先、恥ずかしさのあまり倒れてしまった様であった。

 

「このバカ、折角のチャンスを…」

刀奈

「ちょっとヒヤッてしたけど…蘭ちゃんって純情ねぇ~♪」

箒・セシリア

(((蘭(さん)…可哀そうだけど(ですが)…ホッとした(しました)))

千冬

「とりあえず上で寝かしてやれ。あと一夏、ついでだからお前が運んでやれ」

一夏

「え?ああわかった」

真耶

「では私がついています。半分私の責任ですから…」

 

という訳で弾・虚と入れ替わりで蘭・真耶が抜けた。

 

火影・海之

「「…ハァ~」」

シエラ

「兄さん大丈夫ですか?」

海之

「…大丈夫だ。問題ない」

火影

(俺も今までいろんな傷を受けてきたがこんなんは初めてだぜ…)

「あの…まだやるんですか?」

セシリア

「ちょ、ちょっと疲れましたわ…」

刀奈

「結構ドキドキしたもんね~」

千冬

「それはお前達だけだろうが。…まぁここで折り返しにしておくか」

 

 

「「「王様だーれだ?」」」

 

 

「…!わ、私!…あ、ち、違った。……ボ、…ボク、です」

刀奈

「簪ちゃん、か~わ~い~い♪」

「も、もうお姉ちゃん!へ、変じゃない、かな海之くん?」

海之

「ああ」

(…良かった)

 

海之に言われた事で簪は安心した様子だ。

 

本音

「かんちゃん~早く命令~」

「あ、そ、そうだね。…えっとじゃあ…かぶっちゃうかもしれないけど…2番、4番、6番は…将来の夢を教えて下さい」

シャル

「あれ?さっきと同じ質問?」

「まぁいいではないか。同じ質問してはいけないルールはなかろう」

「あ、で、でもひとつ条件!結婚とかそういうのは無しで!」

(織斑先生に先に言われたら恥ずかしいし!)

シエラ

「2番、私ですね…」

シャル

「あ、6番僕だ」

海之

「…4番は俺だ」

「こりゃまた綺麗にかぶってないわね」

「じゃあ順番にお願いします」

シエラ

「え、えっと…、夢というのになるかはわからないんですけど…私はまた、大切な人と一緒に暮らしたいと思っています。そしてお料理をふるまいたいです」

「シエラ…。ありがとう」

 

箒はきっと束の事を言っているのだと思った。

 

火影

「……ならその夢はすぐ叶うな」

ラウラ

「ええ。皆で叶えます。シエラさんの夢を」

千冬

「その通りだ」

シエラ

「……はい!」

シャル

「じゃあ次は僕だね。…えっと、夢というか…、将来はお父さんとお母さんを支えられる様になりたいかな?」

セシリア

「デュノア社に入られますの?」

シャル

「ゆくゆくはそうなれたらなって思ってるんだ。色々あったけどあそこはやっぱり僕の家だから」

火影

「大丈夫さシャル。お前なら」

シャル

「ありがとう火影」

(……でもそれは二番目で一番は火影のお嫁さんになる事なんだけどね♪)

千冬

「では最後は海之か。因みに火影は「店をやりたい」という夢だったが…」

 

千冬も少なからず気になる様だ。

 

海之

「俺の夢ですか。………そうですね。なんの面白みも無い答えですが、もしこんな俺でも叶うなら……家庭でも築いて普通に歳を重ねていきたいですね」

 

簪・ラウラ

「「!!」」

刀奈

「お~来た~♪「家庭」というパワーワード♪」

火影

「…お前がそんな事を言うとはな」

一夏

「ESCは継がねぇのか?お前なら文句なしだと思うけど?」

海之

「俺は人の上に立つ様なガラじゃない。俺などよりももっと相応しい人がいる」

「アンタ以上なんてハードル高いわよ~?」

海之

「だがそれは未来の話だ。今は何よりもやる事がある」

 

そんな話の中、彼女達は、

 

簪・ラウラ

((海之(くん)と…家庭を築く…)

千冬

(…海之の夢は家庭か…)

 

 

…………

 

続いて第8回戦。ここでとうとうこの人に当たる。

 

 

「「「王様だーれだ?」」」

 

 

刀奈

「よっしゃー来たー♪」

「お、お姉ちゃんが王様なの!?」

「よりによって一番当たってほしくない人に当たってしまったわ…」

シャル

「な、なんか嫌な予感がするなぁ」

 

そして刀奈は驚きの命令をした。

 

刀奈

「じゃあ命令!奇数の番号の人は好きな人をぶっちゃけなさい♪」

 

…………一瞬その場に沈黙が流れ、

 

少女達

「「「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」

「かかかか刀奈さん!?」

「おおおお嬢様なんて事!」

刀奈

「え~いいじゃないこれ位~。それにここにいる大半のメンバーはもう私達全員に知られてるでしょ~?再確認ってやつよ♪」

セシリア

「ででで、でもだからと言ってこんな皆さんの前でそんな事!」

千冬

「イイデハナイカ。ヤッテミセロ」

全員

「「「……ハァ」」」

 

酔いがピークになりつつあるのかこんな命令にも反対せず、口調がおかしいままやれと命令する千冬であった。

 

本音

「わ~1番だ~」

「…嘘!11番!?」

ラウラ

「私…あ、ボクが7番か」

「!…わ、私が9番!?」

「お、俺が5番か」

 

当たった面々に其々が驚く中、最後に当たったのは、

 

千冬

「私が3番だ」

「千冬さん!?」

一夏

「千冬姉の好きな人かぁ~。言っちゃ悪いけど全く想像つかねぇな」

千冬

「それはどういう意味だ一夏?」

一夏

「なんでもありません…」

簪・ラウラ

「「……」」

刀奈

「さてさてそれでは誰からぶっちゃける~♪」

「お嬢様随分楽しそうですね」

本音

「じゃあ私から~。えっとね~、私の好きな人はひかりんだよ~」

 

ここでも特に何も考えず本音はぶっちゃけるのであった。

 

「お~なんとなく想像できたけどやっぱそ~なのか~♪」

火影

「…本音、頼むからもっと恥じらいを持て…」

本音

「ほへ?」

刀奈

「はい一発目は順調に告白終わりました~♪さて次は~?」

「じゃ、じゃあ俺が。…………虚さん、っす…」

「……」

 

真っ赤になるふたり。

 

刀奈

「熱いわね~♪」

一夏

「確かに虚さんは良い人だもんな~」

「こいつはまだ気づいてないのか……」

千冬

「篠ノ之、次お前だ」

「ええっ!?……わ、私は…」

 

するとここで火影が割って入る。

 

火影

「束さんだろ?」

全員(一夏と千冬以外)

「「「…え!?」」」

 

その言葉に皆キョトンとする。

 

一夏

「…何驚いてんだ皆?」

火影

「好きな人ってのは家族や友人達全部含まれるだろ?「特別な感情を抱いている者」とかって命令じゃない。なら簡単だ」

千冬

「それ位わからんでどうする?因みに私は真耶だ。同僚のよしみというとこだな」

「そ、その通りだ!わ、私は姉さんだ!」

「そそそ、そうね!私の好きな人は…叔母さんよ!うん!」

刀奈

「え~、なんかずる~い」

 

刀奈は残念そうだ。…しかしそんな中この者だけは違った。

 

ラウラ

「わた…ボクの好きは嫁である海之だ。なんの問題も無い」

「…本音もだけどラウラももう少し恥じらい持った方がいいよ…」

刀奈

「ラウラちゃんは正直ねぇ♪」

「ハハハ。お前も大変だな海之♪」

海之

「…ハァ」

 

 

…………

 

第9回戦。残りとうとう3回。

 

 

「「「王様だーれだ?」」」

 

 

本音

「わ~い私だ~!王様王様~!」

「本音ほんと疲れ知らずだな~」

シャル

「あはは、確かに全然調子変わらないね」

「もう本音ちゃんたら…」

本音

「えっとねじゃあね~…」

 

するとここで酔いがピークに達したのかゲームが終盤にさしかかったからなのか千冬がそれまでとは何やら違う雰囲気を醸し出す。

 

千冬

「オマエタチ。サイゴ3カイハ、イママデイジョウノキツイメイレイヲシロ。メイレイダ」

シエラ

「ええ!?」

「ち、千冬さん何を!?」

千冬

「モシイハンシタラハンセイブンダ」

セシリア

「そ、そんな無茶苦茶な!」

一夏

「皆無駄だぜ。こうなったら千冬姉は譲らないから…」

火影・海之

「「…ハァ」」

 

本音

「え、えっとね~じゃあね~、……1番から7番まではゲーム終わるまで語尾に「にゃん」とつけて会話して~?」

 

……………一瞬その場に沈黙が流れ、

 

(火影・海之・千冬・刀奈以外)

「「「え―――――――――!!!」」」

「ちょ!アンタなんて命令してんのよ!?」

本音

「これ位しないと怒られそうなんだもん~!」

千冬

「……マァダキョウテンニシテオイテヤルカ。ワタシハ10バンダカラカンケイナイ」

火影

「12番だ。助かった~」

海之

「危なかった…9番だ」

千冬

「ハズカシイカラトイッテダマルコトハユルサン」

一夏(1)

「…もう千冬姉が王様でいいんじゃねぇ?……にゃん」

 

 

…………

 

それから数分後、先ほどの驚きの声で起きた蘭と真耶が降りてきて事情を説明された。

 

シエラ

「…という訳です」

「だ、だから一夏さんも皆さんもそんな話し方されてるんですね…」

箒(2)

「は、恥ずかしすぎて死にたい……にゃ、にゃん」

ラウラ(3)

「こ、これが顔から火が出るほどというものか……にゃん」

真耶

「み、皆さんには悪いですけど私達助かりましたね蘭さん!」

鈴(4)

「あん時の告白よりも遥かに恥ずかしいわ……にゃん」

(……本音、覚えときなさいよ!)

本音

(わわわ私が悪いの~!?)

「あっはははは!いやでも皆決してそんな悪くねぇぜ♪ねぇ虚さん」

「ふふふ♪ええ可愛らしいですわ」

セシリア(5)

「ま、まさか…呼び方に続けてこんな事になるなんて……に、にゃん…」

「よ、よかった…。もし…ボクに当たってたら恥ずかしすぎて耐えられないかも…」

刀奈(6)

「いやいやでも弾くんや虚ちゃんの言う通り皆可愛いにゃんよ~♪」

一夏

「なんでそんな乗り気なんですか刀奈さん…にゃん」

シャル(7)

「でもほんとに可愛いー!ねぇ火影!すっごく可愛いにゃんよね皆?」

「シャルまで乗り気なのね…に、にゃん!……よし、本音殺そう♪」

本音

「ひ、ひえ~!」

火影

「はは。ちょい違和感あるけど心配すんな。なぁ?」

海之

「ああ」

シエラ

「刀奈さんの言われる通り可愛いと思いますよ」

 

刀奈とシャルは嬉しがり、箒・鈴・ラウラ・セシリアは恥ずかしくて黙り、一夏はため息をついた。

 

 

…………

 

残り2回戦。

 

 

「「「王様だーれだ?(にゃん)」」」

 

 

すると全員驚きの結果が、

 

千冬

「クックック…ワタシガオオサマノヨウダナ」

一夏

「ち、千冬姉か!?」

千冬

「イチカ、ニャンハドウシタ?」

一夏

「……にゃん」

(なな、なんか千冬さん凄く悪い顔してる気がするんですけど!?)

(で、でも千冬さんだしそんな無茶苦茶すぎる命令は…)

(と、取り合えず聞いてみようよ。もしかしたら案外普通かも…)

 

千冬

「…デハコレニスルカ。6カラ9バンハ10バン二ダキツケ」(6番から9番は10番に抱きつけ)

 

………再び暫しの沈黙が流れ、

 

火影・海之

「「…ハァ…」」

それ以外

「「「え――――――――!!!」」」

千冬

「テキパキヤレ。オクレルナ」

ラウラ

「ま、まるで教官時代に戻られた様だ。……にゃん」

セシリア

「そ、それでどなたですか!?」

 

すると再び驚くことに、

 

火影

「…7番俺だ」

海之

「……6番」

一夏

「げぇ、またかよ8番だ。……あ、にゃん」

「9番だぜ。……あれ?ってことは」

女子達(千冬と10番以外)

「「「男子全員!?」」」

刀奈

「誰にゃんよ10番~!幸せ者にゃんね~!」

 

全員が注目する中、10番を引いたのは……。

 

 

…………

 

火影

「悪いなシエラ。直ぐに終わらせるから我慢してくれ」

海之

「すまん」

一夏

「な、なんか緊張するな」

「すんませんシエラさん…」

 

10番を引いたのはシエラだった。その彼女は4人の男子に順に抱きつかれ、トマトみたいに真っ赤になっている。

 

シエラ

(は……恥ずかしい……です)

刀奈

「いや~当たらなかったのは残念だけどこういう時のシエラちゃんの反応本当に可愛いにゃん♪」

「お嬢様…下品ですよ」

真耶

「あはは…、でもこのシチュエーションは確かに恥ずかしいですね」

 

そう思う者達もいる一方、

 

鈴・シャル・本音・簪・ラウラ

(ふたりはお兄さんふたりはお兄さんふたりはお兄さんふたりはお兄さんふたりはお兄さんふたりはお兄さん……)

箒・セシリア・蘭

(一夏(さん)じゃない一夏(さん)じゃない一夏(さん)じゃない一夏(さん)じゃない……)

千冬

「……ナゼダ。ドウモイライラスル。オチツカネバ」

 

心穏やかでない者達もいた。

 

シエラ

(み、皆さんの目が怖いです!!)

 

 

…………

 

そんな落ち着かない10回が終わり、いよいよラストの11回戦。

 

火影

「…シエラ大丈夫か?」

一夏

「なんかふらついてるけどにゃん?」

シエラ

「だ、大丈夫です。…恥ずかしすぎただけです…」

真耶

「じゃ、じゃあこれでいよいよラストですね!」

本音

「う~んまだ遊びたいな~」

「ほんと変わらないのねアンタ…。私もうメンタルクタクタにゃんよ…」

シャル

「あはは。もうにゃんにも抵抗なくなってきたにゃんしね」

「もう早くやって終わらせ……って!」

 

箒はくじを見て驚いた。何事かと他の皆も見ると、

 

千冬

「ア~ラストハアタリヲ二ホンニスル。ツマリオウサマフタリダ」

「せ、先生!ルール完全に無視してますよ!」

「王様がふたりいてどうするんですか~!?」

千冬

「カタイコトイウナ。ショウガツダ」

「正月全然関係ねぇ…」

ラウラ

「諦めよう皆。…今の教官は誰にも止められないにゃん…」

刀奈

「う~ん、次やる時は先生にお酒は危ないにゃん」

千冬

「デハサイゴダ。イッセイニヒケ」

 

全員諦めてくじに手を伸ばす。また千冬に当たらない様願って。

 

 

「「「最後の王様だーれだ!」」」

 

 

一夏

「だ、誰だにゃん!?」

千冬

「ザンネン、チガウナ」

「よ、良かった…千冬さんじゃなくてにゃん…」

シエラ

「私も違います。えっと…」

 

皆誰が当たりを引いたのか気になっている。当たりを引いたふたりは、

 

火影・海之

「「………」」

 

火影と海之だった。

 

本音

「ひかりんとみうみうだ~」

セシリア

「よ、よかった。まともな命令で済みそうですわにゃん…」

「そ、そうね。アンタ達ふたりなら大丈夫にゃんね!」

千冬

「オマエタチ。ナマハンカナメイレイハユルサンゾ?メイレイガカブッタラヤリナオセ」

火影

「かぶっても駄目なんですか?……う~ん」

海之

「……そうですね」

 

暫しの時が流れて、

 

火影

「……んじゃこれにするか」

海之

「俺も決まった」

刀奈

「なになに~?早く言ってにゃん♪」

火影

「あ、はい。俺の命令は…」

 

 

…………

 

盛り上がった王様ゲームが終わり、皆で夕食をとった後、全てが終わった織斑宅は漸く静かになった。

 

千冬

「…………」

一夏

「あ~だめだこりゃ。もう朝まで起きねぇな」

 

千冬はあのゲームが終わると同時に直ぐに眠ってしまった。夕食の時も全く起きずに。

 

海之

「後で部屋までお運びしよう」

火影

「ゲームしてる時の事、明日まで覚えてんのかな?」

一夏

「ああそれは心配すんな。千冬姉は酔っぱらって眠たら起きた時にはほとんど覚えてねぇから」

火影

「それはそれで問題だな…」

一夏

「……にしてもふたりの最後の命令、シンプルだけどあんな重い命令はお前らにしか言えねぇよ。正直ちょっと感動したぜ。弾なんて号泣してたし」

海之

「大したことは言っていない」

火影

「命令は絶対なんだろ?ちゃんと守れよ?」

一夏

「おう!」

 

そして千冬を部屋まで運んだ後、3人は後片づけをして床に就いた。

 

 

…………

 

一方、織斑宅を離れ、更に弾・蘭兄妹と別れた皆は帰路についていた。

 

本音

「あ~楽しかった~♪ゲームは楽しかったしご飯も美味しかったし~♪」

「本音ちゃんたら本当に元気ね」

セシリア

「でも確かにクタクタですけど楽しかったですわね」

「ああ。こんなに楽しい元旦は久々だった気がする。今の状況を喜んで良いのかわからんが…」

刀奈

「箒ちゃん。気持ちはわかるけど楽しい時は素直に楽しまなきゃ身体に毒だにゃん。皆もそれはちゃんとわかってるにゃん」

 

わざとなのか口調が抜けてない刀奈。

 

ラウラ

「そうだぞ箒。心配しなくても篠ノ之博士は必ず救いだす」

シエラ

「はい。勿論です」

本音

「でも最後のひかりんとみうみうの命令、かっこよかったね~♪」

「…うん。…そうだね」

ラウラ

「火影が「最後まで生きぬけ」、海之が「最後まで諦めるな」か…」

シャル

「しかもふたりで番号半分こずつなんてやっぱり凄いよね」

「真面目よねぇ~。遊びなんだからもっとふざけてもいいのに」

刀奈

「なに~?もっと何か違う命令期待したにゃんか~♪」

 

そんな風にふざけ合いながら皆は風にうたれつつ笑いながら帰っていった。

 

 

…………

 

その日の夜中、千冬の部屋。

 

 

千冬

「…………ん、……ん~」

 

夜中に目が覚めた千冬。

 

千冬

「…なんだ…真っ暗じゃないか。今…夜中か?……うう、頭がくらくらする。一体私何をして…、確か…あいつら全員で何かゲームの様なものをしていた様な……」

 

状況を確認するため、とりあえずスタンドライトの電気をつける千冬。すると、

 

千冬

「……?」

 

その机に水と薬、そして手紙がある。封を開けると、

 

「お風邪を引かれると悪いと思い、失礼ながらお部屋までお運びしました。水と薬を置いておきます。よくお休みになられてください。 海之」

 

千冬

「……ハァ、本当にあいつにはかっこ悪いところばかり見られてるな。オマケに「死ぬな」とか「諦めるな」とか言われるし。………ん?何時言われた?……まぁいい。明日海之に礼を言わねば」

 

そして薬を飲んで再び床に就くのだが…、

 

千冬

「それにしても何をしていただろうか…。「夢」とか「家庭」とか聞いた気がするんだが………」

 

答えが出ないまま千冬は再び眠りについた。




※次回は来月7日(土)投稿予定です。

アンケートにご協力ありがとうございました!
ゲストでも出してほしい、という皆さまのご意見が大多数になりましたので、オリジナル設定で出そうと思います。またストーリーを進めてほしいという方のご意見もありがとうございます。ゲストかつ数話程度で考えておりますので、良ければご覧いただければ幸いです。


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第十三章 New edge
Mission167 懐かしい家 新しい家


帰ってきた火影と海之を待っていたのは大切な者達の笑顔だった。再会を喜び合った皆や一夏に対し、火影と海之は近い内に今度こそ自分達の事を話すことを約束する。
最低でありながらも最高のクリスマスを過ごした彼らは一夏の家で大晦日を過ごし、新年を迎えたのだが…元旦の初詣で火影のひいたおみくじには気になる言葉が書かれていたのであった…。

「強く望めば必ず叶うでしょう…。しかし貴方の大切な時を失うでしょう…」


スメリアの空港

 

 

騒がしかった正月も終わった頃の事。ここに彼らの姿があった…。

 

火影

「……ハァ、とうとう帰ってきちまったな…」

海之

「そこまで落ち込む事はあるまい。…とはいえわからなくは無いがな」

クロエ

「大丈夫ですよ火影兄さん。皆さん心配されていた筈です。きっと凄く喜んでくれますよ」

火影

「ギャリソン達はともかくレオナさんだよなぁ~。一体どんな目に合わされる事やら…」

一夏

「千冬姉…少し持ってくれよ」

千冬

「リハビリと思えば楽だろう」

 

何故彼らがここにいるのかというと話は2日前に遡る…。

 

 

…………

 

織斑宅

 

 

正月三ケ日の真ん中である一月二日の朝。この日もまた何時ものメンバーで織斑宅に集まっていると、

 

「…え?スメリアに帰るの?」

海之

「ああ」

火影

「年明け早々に電話があってな。帰ってこいと言われたんだよ」

「また本当に急な話だな」

「何時帰るのよ?」

火影

「明後日の飛行機だ。もう今朝予約も取った。帰るっつっても4日間位だけどな」

シャル

「今回はふたりの家からのお迎えは無いの?」

海之

「自家用機等飛ばしたら目立つだろう。だから民間に紛れて帰る」

クロエ

「あと私も同行する予定です」

セシリア

「クロエさんもですか?」

一夏

「あと俺と千冬姉もな」

「一夏と千冬さんも?」

千冬

「火影と海之の事の説明をせねばならんからな。一夏は荷物持ちだ」

一夏

「せめて付き添いって言ってくれよ」

 

するとやはりかこんな意見が出る。

 

刀奈

「…ねぇ、私も一緒に行っていいかしら?私スメリア行った事無いのよね~♪」

本音

「はいは~い!私もまた行きたい~!」

ラウラ

「明後日なら私もまだ行けるな」

 

火影達が帰ると聞いた彼女達も同行しようか話し合う。すると火影がやや真剣な表情をして言う。

 

火影

「…いや、今回皆はやめとけ」

シャル

「…え?」

「な、なんでよ火影?」

海之

「……ああそうだな」

「海之くん?」

 

他の皆からも何故かという言葉が出る。そんな皆に火影が答える。

 

火影

「皆は自分達の故郷でゆっくりしろ。家族との時間を大事に過ごせ。何時また戦いがあるかもわからねぇんだ。あん時みてぇな命を懸ける様な戦いを、な」

シャル

「……あ」

 

火影が言っているのは数日前の黒いアリギエル達との戦い。あの時皆は嘗てした事が無いほどの命懸けの戦いを経験した。普段の様な試合でも格闘でもない、ちょっとした油断が死につながる、そんな戦いを。中には本気で死の恐怖を味わった者もいた。

 

火影

「あん時は先生達や一夏、俺らがたまたま間に合ったから助かった。でも下手すりゃお前ら本当に死んでたかもしれねぇ。命ってのは本当にちょっとした事であっさり決まってしまうもんだって事を…少しは実感しただろ?」

海之

「ああ。…だからお前達も大切な者達との時間を大事にしろ。故郷に戻らないと会えない者もいるだろう」

箒達

「「「………」」」

 

それを聞いて皆は静かになる。

 

火影

「まぁそういうこった。だから今回は素直に皆帰れ。土産持って帰ってきてやるから」

 

ピンポーン

 

一夏

「お、弾と蘭か。はーい」

 

 

…………

 

そんな訳でそれから二日後、火影と海之、クロエ、一夏、千冬で行く事になった

 

火影

「……只」

 

 

………筈だったが、

 

 

本音

「わ~い着いた~♪」

「久しぶりねぇここも♪」

シャル

「スメリアってあんまり寒くないんだね♪」

ラウラ

「簪、疲れたか?」

「ううん、大丈夫だよラウラ」

「夏とはまた変わった風景だな」

一夏

「しっかしこんな急でよく全員分チケット取れたな~」

セシリア

「以前はおふたりの自家用機でしたものね」

刀奈

「ここがスメリアなのね~。確かに綺麗な国だわ~♪」

千冬

「私も仕事やISの関係で何度か海外に行っているがスメリアは初めてだな…」

 

 

……ご覧の通り見事に全員集合していたのだった。

 

 

火影

「なんでお前らまでついてくるんだよ…」

「まぁまぁそう言わないでってば。ちゃんと今回の旅行が終わったら皆それぞれ帰るわよ♪」

火影

「けどまさか全員とは…」

シャル

「ねぇ火影。この前言ってたでしょ?後悔しない様大事な人と一緒にいろって。確かにそうだよ。僕にとってはお父さん達もとても大事な人達だよ。本当は僕は帰る気はなかったんだけど火影と海之の話を聞いて帰ろうって思ったし」

火影

「だったら…」

本音

「でもねひかりん~。ひかりんやみうみうも大事なんだよ~?だから間違ってないよ~」

「…うん。海之くんや火影くんも私達が一緒にいたい人達なの」

ラウラ

「そういう事だ。異議は認めん」

海之

「…ハァ」

刀奈

「今回ばかりは完敗ねふたり共♪」

「私も叔母さんの家は近いからな。帰ろうと思えばすぐに帰れるさ」

セシリア

「私も鈴さん達と同じでこの旅行が終わり次第すぐに帰りますわ」

 

そういう箒とセシリアは一夏と一緒にいたいというのが本音である。

 

海之

「しかし以前の様にあまりゆっくりはできんぞ?4日目は午前に帰るし、明日は一日予定も入れているからな」

一夏

「そういえばそんな事言ってたな。構わねぇよ。どんな事やるんだ?」

火影

「それについてはお楽しみさ。……んじゃ行くか」

 

そして一行は家からの迎えの車に乗り、自宅へと向かった…。

 

 

…………

 

エヴァンス邸

 

 

そして15分ほど走り、火影と海之の家の前。

 

千冬

「ここがお前達、いやエヴァンス夫妻の御自宅か…」

刀奈

「面白い形ね~!でも和と洋が上手く組み合わされてるわ~」

本音

「お庭に雪まだ残ってたね~。後で遊ぼうよ~」

「いくつよアンタ一体…。なんかまだ半年も経ってないのに妙に懐かしいわね…」

 

そんな感じで皆話している中、火影と海之はどことなく元気が無かった。

 

火影・海之

「「……」」

「どうしたふたり共、折角帰って来たんだぞ?」

セシリア

「そうですわ。早くお顔を見せて差し上げてください」

火影

「…そうだな。……皆扉から、いや俺達から離れてろ」

一夏

「へ?なんで?」

海之

「いいから離れてろ。…念のためだ」

全員

「「「??」」」

 

言われた通り全員が門を開けようとしている火影と海之から離れる。そしてふたりが扉に手をかけ、ほんの少し開けた瞬間、驚く事が起きた。

 

 

…ガチャッ、バキィィィィィィィィィィィ!!……ドサッ!ドサッ!

 

 

全員

「「「!!」」」

 

千冬も含め全員が目を見張り、言葉を失った。ふたりが扉を開けた瞬間、中から何かが飛び出してきてそのままふたりを殴り飛ばしたのであった。その勢いは凄まじく、ふたりが5メートル位吹き飛ばされる。余程効いたのかふたりはそのまま動かない。

 

「ひ、火影!?」

「海之くん!?」

刀奈

「い、一体何が……!!」

一夏

「…げっ!!」

 

玄関の方を見た刀奈や一夏が何やら青ざめた顔で震えている。そこにいたのは、

 

レオナ

「…………」

 

憤怒、というものはこういうものなのだろう。阿修羅の様な凄まじい怒りの形相、目は白目で若干不気味に光っている様にも見えるレオナがいた。そのレオナは吹き飛ばしたふたりしか目が入っていないのか一夏達の事は気付かない。

 

シャル

「れれれれれレオナさん!?」

レオナ

「…こぉんの馬鹿ガキ共がぁぁ…、よくも顔を見せる事が出来たものだなぁぁ…」

ラウラ

「おおおおお落ち着いてくださいレオナさん!気持ちはよくわか」

 

ギュン!!

 

シャル・ラウラ

「「!!」」

 

レオナの威圧感と目力にシャルとラウラは金縛りの様に動けず、何も言えなくなってしまう。

 

レオナ

「…人をあれほど心配させておいてぇぇ…年の終わり寸前まで連絡を寄越さないとはぁぁ…」

「おおおおお願いしますレオナさん!どうか落ち着いてください!」

「ふ、ふたりが連絡できなかったのは事情が」

 

ギュン!!

 

箒・簪

「「!!」」

 

箒と簪も同じく。

 

レオナ

「…どうやらお前達は人を心配させるのも余程頭がいい様だなぁぁ…」

 

全員が怒りの業火らしきオーラを発している様にも見えるレオナに近づけない。ゆっくり歩くその姿は正に鬼であった。

 

本音

「あ、あわわわわわわわわ!!」

「やばい!このままじゃふたりが殺される!何とかしないと!」

千冬

「……構わん、好きにさせて差し上げろ」

セシリア

「先生!?し、しかし!」

一夏

「いやいやこのままにしておけるかよ!何とか止めないと!」

 

そして一夏は倒れているふたりの前に入り、レオナを止めようとするが、

 

レオナ

「…退け」ガシッ!ブゥンッ!!

一夏

「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

一夏はレオナに掴まれるとそのまま放り投げられてしまった。怒りで一夏の顔も忘れているのか。

 

箒・セシリア・刀奈

「「「一夏(さん又はくん)―――!!」」」

クロエ

「か、片手であんな簡単に!」

「どどどどどうしよう!」

千冬

「いいから放っておけ」

シャル

「で、でも…」

 

そしてレオナはとうとうふたりの足元まで来た。火影と海之は気絶しているのか倒れたまま動かない。

 

ガシッガシッ

 

そしてレオナは気絶したままの火影を右手で、海之を左手で宙に持ち上げる。

 

ラウラ

「あ、あんな細身でふたりをあんな簡単に持ち上げるなんて…!」

刀奈

「しっかりしなさいふたり共!気絶が永眠になっちゃうわよ!」

クロエ

「起きて下さい兄さん!!」

火影・海之

「「……」」

 

全員がふたりに起きる様告げるがふたりは目覚めない。そんなふたりをレオナは黙って見上げる。……すると、

 

 

ガシッガシッ

 

 

全員(千冬と吹き飛ばされた一夏以外)

「「「!!」」」

 

レオナは気絶したままの火影と海之の身体を力強くその腕で抱きしめた。、

 

レオナ

「……この…馬鹿…!!……本当に……散々心配させおって……!!」

 

悪態をつきながらもレオナは涙していた。

 

レオナ

「お前らに、お前らに何かあったら……、私は…兄さんと義姉さんに…二度と顔向け…できんではないか!…馬鹿野郎!…う、うぅぅ」

 

まるでその姿は息子ともいえるふたりの無事を喜ぶ母親の様だ。

 

「……あれ?」

「…大丈夫…だね?」

千冬

「だから言ったろう?放っておけと」

ラウラ

「教官…わかっていたんですか?」

千冬

「いやどちらでも良かったと思っただけだ。今の様な事になるならそれで良いし、殴られてもそれで良し。それだけの心配をおかけしたのだから当然だ」

シャル

「あ、あははは…」

クロエ

「ま、まぁレオナ様は豪快ですがお優しい方ですからね…」

本音

「ね~、おりむ~は~?」

「はっ!そ、そうだった!」

刀奈

「すっかり忘れてたわ!」

セシリア

「一夏さん今参ります!」

 

その当の一夏は20メートル程先にある木に引っかかってのびていたのだった…。

 

 

…………

 

それから数分後。漸く火影と海之、そして一夏が目を覚ました。

 

クロエ

「兄さん、一夏さん。だ、大丈夫ですか?」

一夏

「ひ、酷い目にあった…」

火影

「……なんだろな?……玄関開けたとこまでは覚えてんだが…」

海之

「……何があったのだあの後?」

「え、えっと…それは…」

「聞かない方がいいと思うわよ…」

火影・海之

「「…?」」

 

一方騒ぎを起こしたレオナはすっかりもとに戻っていた。

 

レオナ

「ハッハッハ!いやいやすまんな織斑くん!私としたことが怒りに我を忘れて見失ってしまっていた!」

一夏

「ま、まさかまた放り投げられる様なことになるなんて思わなかった…」

ギャリソン

「本当に申し訳ありません皆様方…。私共も強くお停めしたのですがレオナ様がどうしてもと仰せられましてので…」

火影

「気にすんなギャリソン、お前のせいじゃない。今回は俺らが悪いんだし。……あとただいま」

海之

「…心配をかけて申し訳なかった」

ギャリソン

「とんでもございません。おふたりの御無事を知れただけで…私も皆も…」

レオナ

「はいはいギャリソン!湿っぽいのはもう無しだ!お客人の方もいるのだからシャキッとしろシャキッと!あと今晩はお前に腕を振るってもらうぞ♪」

 

そして以前来た者達はレオナやギャリソンや館の者達との再会を喜び、次に、

 

レオナ

「…貴方がたは初対面だな。初めまして、先ほどは失礼を。恥ずかしながらESC代表を勤めさせてもらっているレオナ・エヴァンスです。宜しく」

ギャリソン

「ギャリソンと申します。この館の執事長を務めております。以後お見知りおきを」

千冬

「こちらこそ初めまして。IS学園の教諭で担任の織斑千冬です」

刀奈

「IS学園二年生、更識刀奈です。宜しくお願い致します」

レオナ

「これはこれは…伝説のブリュンヒルデとそして更識と言えば日本の名家。お会いできて光栄です」

千冬

「そんな大したものではありませんよ」

刀奈

「私の事も全然気になさらないでください」

 

そんな風に初対面の挨拶をしたのだが…

 

レオナ

「………不思議だ。なんでかよくわからんが…始めて会った気がしない」

千冬

「レオナ殿もですか?…私もなんです」

刀奈

「実を言うと私も…」

「…なんででしょう?私達も…何かこの光景見覚えがあるような…」

一夏

「そうか?俺はそんな気無いけど?気のせいじゃないか?」

セシリア

「そうですわよね…きっと」

 

そんな感じで女性陣は不思議な感覚を持ったのだった。

 

火影

「まぁとりあえず皆は客室に荷物を置いてきな」

シャル

「あ、そうだね」

本音

「じゃあ部屋の割り当てどうする~?」

 

…話し合った結果、箒とセシリア、シャルとラウラ、鈴と本音、簪と刀奈、一夏と千冬、と順当に決まった。残ったのはクロエひとり。すると、

 

ギャリソン

「クロエ様にはお部屋をご用意しております」

クロエ

「…えっ、わ、私に部屋ですか?どうしてそんな…」

火影

「お前は俺らの義妹だろ?だからさ。まぁお前は普段は束さんと暮らしてるがここに来た時のためにな」

海之

「予定外だったために俺達の部屋よりも少し小さくなってしまうが良ければ使ってくれ」

レオナ

「クロエちゃんの事はふたりから聞いてるよ。遠慮しなくていいさ」

クロエ

「……皆さん…」

 

クロエは彼らの心使いに胸が熱くなる想いがした。

 

 

…………

 

ガレージ

 

 

荷物を置いた後、火影はガレージに来ていた。そこでは何時もの様にニコが仕事をしていた。

 

火影

「よぉニコ。帰ったぜ」

ニコ

「…火影!ほんとにお前なんだな!」

火影

「当たり前だろ?死んだと思ったのか?」

ニコ

「……へっ!オマエや海之が簡単に死ぬわけねぇだろ!?俺ははなから生きてるって思ってたぜ!」

 

そう言うニコだが火影は一瞬彼が鼻をすすったのに気づいていた。

 

火影

「…心配かけて悪かったな」

ニコ

「…何言ってんだよ?俺は死んだなんて思ってねぇって言ったろ?」

火影

「…ふっ、そうだな。悪いがこっちにいる間キャバリエーレの整備を頼む。今冬休み中だろ?俺じゃおめぇ程上手くできねぇからな」

ニコ

「たく手荒く使いやがって。…任せな!一日でサラッピンみたいに仕上げてやるぜ!」

火影

「頼むぜ」

 

そんな感じでふたりが再会を喜んでいると、

 

「火影~」

 

やって来たのは鈴、シャル、本音の三人。

 

火影

「おうお前ら、どうした?」

シャル

「火影を探してたんだ。部屋にいなかったからここかなって」

本音

「皆でお出かけしようよ~♪」

火影

「そうか。う~んどこがいいか…」

「あ、それなんだけどさ?さっき刀奈さんが自分だけ来たことないから観光したいって言い出したんだ。どっかいいお店とか知らないかな?」

シャル

「織斑先生はレオナさんと話してるから勝手に行ってこいだってさ」

火影

「んじゃ~行くか」

 

 

…………

 

それからは皆で町に繰り出し、取り合えず刀奈のリクエストでショッピングモールをぶらぶらする事になった。そんな中、トイレに行くためにっひとり離れた一夏、

 

一夏

「前来た時トイレはこっちに」ゴンッ!!「うわっ!」

「きゃあ!」

 

その時、角を曲がった先にあるトイレに向かおうとした一夏と誰かがぶつかってしまった。男の一夏は立ったまま耐えられたがぶつかった方は倒れてしまった。

 

少女

「いたた…」

一夏

「お、おい大丈夫か?なんか凄い音がしたぞ?」

少女

「あ…う、うん。大丈夫」

 

一夏は倒れたその子に手を差し伸べ、少女は手を取る。青色の長い髪をポニーテールの形で縛っている少女。見た目からして小学生か中学生くらいだろうか。

 

青い髪の少女

「ゴメンね~。急いでて前をよく見てなかったよ~」

一夏

「ああ俺の方こそごめんな。怪我とかしてねぇか?」

青い髪の少女

「うん大丈夫だよ。ありがとうねお兄ちゃん」

一夏

「随分急いでたな?」

青い髪の少女

「うん。あのね、明後日お兄ちゃんに会う予定なんだ!だから私もお姉ちゃんも準備で忙しくて」

一夏

「へ~そうなのか」

少女

「あ~こんなとこにいた~!」

 

するとそこにもうひとり別の少女が来た。オレンジ色の長い髪を目の前の少女と同じくポニーテールの形で束ねている。

 

青い髪の少女

「あ!お姉ちゃん!」

オレンジの髪の少女

「全くただのトイレなのに遅いのよ。…えっとこの人は?」

青い髪の少女

「私がトイレから走ってきたところでぶつかっちゃったんだよ~。それで助けてもらったの~」

オレンジ色の少女

「全くそんな事だと思ったわ。…ああどうもごめんなさい、妹が迷惑かけて」

一夏

「いや俺の方こそ悪かった。気を付けなよ」

青い髪の少女

「うん!ありがとねお兄ちゃん」

オレンジの髪の少女

「ほら行くわよオニール」

 

そう言ってふたりは去って行った…。

 

一夏

「…おっと、トイレまだだった!」

 

 

…………

 

ショッピングモールでの買い物も終えた一行はその後、シンディアやザック、ブラック夫妻等と再会し、今は皆でアルとデウスの店で一休み中。

 

火影

「やっぱアルさんのストロベリーサンデーは旨いな」

本音

「ほんとにすごくおいし~♪」

セシリア

「私は二度目ですがこちらのシフォンケーキは何度でも食べたいですわ♪」

刀奈

「この抹茶のモンブランも絶品ね♪ほんといいお店が多いわねスメリアって。配達思い付いた人天才だわ~♪」

一夏

「初日なのに既にお土産買いまくってましたね。しかも全部配達で」

「全くパワフルな人だ。来てまだ数時間しか経ってないのに」

刀奈

「だって折角来たんだから楽しまないと!本番に備えてね。楽しめる時は楽しまないと心に栄養が送れないわ」

ラウラ

「成程、そういう意味もありますね」

シャル

「でもまだクロエさんの買い物ができてないね」

クロエ

「い、いえ私は」

「いいからいいから。さっき刀奈さんも言ってたでしょ?心に栄養って」

「…でも今まで結構いろんなお店回ったし、どうしようか…」

海之

「……ではあそこに行ってみるか」

 

 

…………

 

そして一行が来たのは…一見怪しげなとあるお店。

 

一夏

「な、なんか見た目結構いわく付きありそうな店だな…」

「あ、ああ。まるでお化け屋敷みたいだ。美しいスメリアには似合わんな。火影、この店はなんなんだ?」

火影

「簡単に言えば骨董品屋だ。心配すんな、見てくれほど怪しくない店だから」

海之

「誰も入りたがらないような店だからこそ貴重品を置きやすい、という主人の意向だそうだ」

シャル

「そ、そういうものなのかなぁ~」

 

ガチャッ!

 

そう言って一行は重い扉を開けて店内に入る。すると店内には…外からは想像もできない程の骨董品や珍しい物が置かれてた。

 

本音

「うわ~すご~い!」

刀奈

「これは…壮観ね。こんな品ぞろえ、外からじゃとても想像できないわ…!」

シャル

「ほんと……!こ、この仏人形!フランスの人間国宝の人が作ったものだ!」

セシリア

「そ、それだけじゃありません!この絵画!イギリス出身の著名な作家のものですわよ!」

「この壺って…青磁!?しかも国宝級じゃないの!嘘じゃないでしょうね!?」

「…これは日本刀か?…もとの所持者は……な、何だと!」

 

皆それぞれ興奮冷めやらない様子であった。

 

青年

「へっへっへ。こりゃまた美人さんのお揃いで。ご希望があれば安くしやすよ」

 

奥から出てきたのは少々小太りな自分達と同じ位の青年。

 

火影

「よぉツォン。また太ったな」

海之

「久しぶりだな」

ツォンと呼ばれた青年

「げっ!火影と海之じゃねぇかよ!確か今日本に行ってたんじゃねぇのか?」

火影

「帰ってきたのさ。お前そのへらへら笑いは相変わらずだな」

ツォン

「うっせー。ってかこのべっぴんさん達、皆お前らの連れかよ?全く美形ってのは羨ましぃね~」

クロエ

「…兄さん、このお方は?」

ツォン

「おおこれまたべっぴ……って兄さん!?」

海之

「気にするな、こちらの話だ。…こいつはツォン。デウスと同じく幼馴染だ」

火影

「あとここの店の息子でもある。因みに俺のジュークボックスもここのもんだぜ」

ラウラ

「おい家主の息子!これらは本物なのか?珍しい物ばかりだぞ!」

「珍しいどころか国宝やそれと同じ位の物ばかりだよ!なのに結構安いし!」

 

不安がる皆に対し、ツォンは余裕で返す。

 

ツォン

「へっへっへ♪不安かいお嬢様方?ならば申し訳ない、勿論す~べ~て本物さ。必死で働きゃ何時か買えるかもしれない、そんな優しい金額にしてんのさ。その方が夢持てるだろう?んで、買ってくれた客はもっと高い値でよその大金持ちに売っ払っても結構。うちは信用と金が得られるし、客はもっと金が手に入る。正にウィンウィンさ。うちは信用第一なんでね。へっへっへ♪」

一夏

「な、なんか親切なのか悪どいのかわかんねぇな…」

火影

「ま、こんな店があるのもそれだけスメリアが平和だってことかね」

 

それを聞いた皆は更に興奮しだし、其々店内を物色しだす。火影と海之はカウンターでツォンと話す。

 

ツォン

「ああそういや火影。お前にひとつ悪いニュースがあるぜ」

火影

「なんだよ?」

ツォン

「グリフィンの姉御がお怒りだぜ?毎年クリスマスに顔見せる約束なのに、今回は見せなかった、とさ」

火影

「ははは…、そうか。まぁ明日会うからよ」

 

苦笑いしながらそう言う火影。そんな会話をしていると、クロエが何かを持ってやって来た。

 

クロエ

「あの…」

火影

「おうクロエ。何か持って……それはオルゴールか?」

 

クロエが手に持っているのは…小さいオルゴールだった。

 

クロエ

「先ほど少しだけ見たのですが…ちょっとした仕掛けがあるんです…。それを見た時…何か凄く気になって…」

海之

「ふむ」

ツォン

「おっとアンタ、そいつが気に入ったのかい?あんま大したもんじゃねぇけど一点ものだぜ。アンタ初めてだし、べっぴんさん揃いで目の保養にもなった礼だ。サービスしておくぜ?」

火影

「んじゃ金は」

 

火影がそう言って払おうとした時、

 

クロエ

「い、いえ火影兄さん!私が買います。私に…買わせてください」

火影

「……わかったよ」

 

クロエがそう言ったので火影は引いた。彼女の様子から何かを感じ取ったのだろうか。

 

ツォン

「毎度あり~♪っと火影、海之。また新しいレコードや本が入ったんだが見るかい?」

火影

「そいつは結構。そろそろ新しいもんが欲しかったとこだ」

海之

「拝見しよう」

 

そんな感じで時間を潰し、一行はツォンの店を後にした…。

 

 

…………

 

刀奈

「……一夏くん達から話は聞いていたけど…本当に、本当に美味しいわ…」

千冬

「……うむ。私も……これ程の物は食べた事が無い…」

 

夕食になり、皆ギャリソンの料理に舌鼓をうつ。刀奈と千冬は静かに驚くがふたり共その味に衝撃を受けている様だ。

 

一夏

「…すげぇ、あの刀奈さんと千冬姉が驚きのあまり呆然としてる。まぁ無理ねぇけど」

「…思ったんだがギャリソンさんの料理を世界中の人達が食べたら平和になるのではないか?」

シャル

「ギャリソンさん、どこで学んでいたんですか?」

ギャリソン

「独学でございます。全ては皆様に美味しいものをという一心でございました」

本音

「自分で覚えたなんてすご~い!」

「レオナさんがスーパー女社長ならギャリソンさんは正にスーパー執事ね」

レオナ

「ハッハッハ!スーパー女社長ね~。そう言ってもらえて嬉しいよ。…ああそうだひー防みー坊。荷物はもう届いている。明日は頼むぞ。孤児院にも連絡してあるからな」

火影

「了解です」

「…?ねぇ海之くん。孤児院って?」

ラウラ

「そういえば何か予定があると言っていたな。その事か?」

海之

「…まぁな」

レオナ

「グリフィンちゃん達にもちゃんと謝っておけよ?お前達が去年のクリスマスにさぼって来なくて気落ちしていたらしくてな」

火影

「別にさぼってた訳じゃないんすけどね…」

一夏

「火影。グリフィンって?」

セシリア

「レオナさんのお言葉からして親しげな感じですわね」

火影

「ああ、彼女も幼馴染だ。ちと訳ありでな。まぁ明日になればわかるぜ。皆にも手伝ってもらうからよ」

全員

「「「…手伝う?」」」

 

そんな感じで食事は楽しく進むのであった…。

 

 

…………

 

食後、のんびり過ごしている皆の横で千冬とレオナが酒を酌み交わしていた。その中でレオナからクロエがいるのに何故束がいないのか?という疑問が出た。束とレオナが知り合いになった経緯を聞いた千冬は真実は知らせずにクロエを預けて行方不明になった、と伝えた。

 

レオナ

「…そうですか。束が…。クロエちゃんだけだからおかしいとは思いましたが…」

千冬

「ええ、私達に黙っていなくなってしまって…。全く…」

レオナ

「…まあ束の事だからきっと大丈夫ですよ。…………先生、どうか見つけてやってくださいね」

千冬

「…!……はい」

 

何かを感じ取ったのかレオナはそう言った。千冬も一瞬驚いたが黙って返事を返した。

 

レオナ

「…それにしても束もだがあの小僧共、まだ子供の癖に沢山の人を滅茶苦茶心配させおって。いや子供だから、か…。首輪でも付けときましょうか?」

千冬

「ははは、確かに。……しかしあいつらは」

レオナ

「わかってますよ先生。誰かのためにそうなったんでしょう?あいつらはそういう奴らだ。でもそのせいで万一あの子達が残されたらどうすんだ全く…」

千冬

「……死にませんよあいつらは。……死なせません」

 

千冬はふたりを見てそう呟いた。

 

 

…………

 

クロエ

「…ハァ、疲れました。……でも…不思議と嬉しい疲れです…」

 

夜は老けて其々が部屋に戻っていたその頃、クロエも部屋で床に着こうとしていた。クロエにあてがわれた部屋は火影・海之ほどの大きさは無いもののもともと使われていなかった部屋を改装したもので家具も一通り揃っており、ひとり部屋には十分な広さだった。

 

クロエ

(………束様。今日私に新しいお家ができました。兄さん達やギャリソン様、レオナ様達がお部屋を用意して下さったんです…。私が義妹だから何時でも帰って来た時のためって言って下さって。…本当に嬉しく思います)

 

クロエは心でそんな事を考えていた。しかしそう思いながらも彼女の心にはある強い決意があった。

 

クロエ

(……ですが束様。私の第一に帰るべき場所は束様のところです。これだけは変わりません。……必ずお助けしてみせます。皆さんと一緒に…!)

 

~~~

彼女のすぐ近くには夕刻、彼女が買ったオルゴールから素敵なメロディーが流れていた。そして同時に…母親と子供らしい形をした小さな人形が再会するという仕掛けが動いていた。

 

クロエ

(…必ず…!)

 

クロエはもう一度そう思い、床についた。




※次回は14日(土)投稿予定です。

アンケートにお応えし、次回よりとあるキャラたちをオリジナル設定全開で出演させる予定です。本編とはあまり関係はありませんがお付き合い頂ければ幸いです。次回は2話投稿します。


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Mission168 思い出と…新たなライバル?

新年を迎えた火影達。
そんな中、スメリアに変える事になった火影と海之だったが予定にあった一夏や千冬、クロエ以外にも全員を連れて帰国する事に。過激な迎えを受ける事になったもののギャリソンやレオナ、ニコ達からの暖かい迎えを受け、心が温まるのであった。そんな初日を終えた一行は二日目、とある場所に向かっていた…。

※DMC5SE発売おめでとうございます!


スメリアでの賑やかな一日目が終わり、滞在二日目。

移動の疲れもあって床に着くのは日を跨ぐ直前とやや早かったものの昨日の夜は想像以上の賑やかなものとなった。火影と海之の無事を喜ぶ者や滞在を嬉しがる者、そして千冬と刀奈とレオナが束と同じくまた妙に仲良しになり、周囲の者も巻き込んで随分と楽しそうであった。勿論刀奈はソフトドリンクであったが。…そんな感じで過ごした夜は明け、皆で朝食を終えてからは車である場所に向かっていた。

 

一夏

「そういえば海之。今日は確か孤児院に行くって言ってたな?」

「ああ確かそう言っていたな。でもなんでそんなところに?」

海之

「皆には言っていなかったな。その孤児院は父が出資して造られた孤児院なのだ」

「アルティスさんが?」

ギャリソン

「さようでございます。火影様と海之様をお助けになられた後、未来の作り手である子供達をおひとりでも多く救いたいとお感じになられたアルティス様は戦災孤児やご両親を早く亡くされた子達のために御自身の財産の一部を使って建てられたのです」

海之

「その後はずっとESCが支援しているのだ」

ラウラ

「そうなのか…。所で今日は何か私達は手伝いをするとの事だが?」

海之

「ああ悪いが協力してくれ。特に一夏や簪、箒や刀奈さんや本音だな。後は千冬先生だが…先生に手伝って頂く訳にはいかんしな」

千冬

「構わんよ。学園でもないからな、気にするな」

「今のメンバーから言えば…もしかして日本の事か?」

海之

「ああそうだ。行けばわかる」

 

一方こちらの車でも会話が続く。

 

刀奈

「そう言えば火影くん。昨日も聞いたけどグリフィンさんって?」

火影

「俺と海之の幼馴染ですよ。デウスやツォンと同じです」

刀奈

「でも毎年クリスマスに行くとか言ってなかった?随分親しげね~♪何~?もしかしてガールフレンド~?」

鈴・シャル・本音

「「「…!」」」

 

その言葉に一部の者がやや緊張するものの、

 

火影

「違いますよ。毎年行くっつうのはESCが毎年クリスマスに子供らにプレゼントを送ってるんです。俺らはその手伝いしてるんです」

ニコ

「俺も火影ん家に行くまではそこにいたんだ」

セシリア

「まぁそうだったんですの。良かったですね皆さん♪」

「なな、何言ってんのよ」

シャル

「そ、そうだよ。僕達は何も」

本音

「でも鈴昨日部屋でずっと言ってたよ~?グリフィンさんってどんな人かなぁって」

「よけいな事言わないの!」

火影

「何か変な心配してるみたいだがそんな訳だ。気にすんな」

シャル

「う、うん」

クロエ

「でもクリスマスはもう終わっていますが…他に何かあるのですか?」

火影

「ああまぁな。今日は頼むぜ皆」

全員

「「「…?」」」

 

 

…………

 

…そしてやがて一行は目的地の孤児院に到着した。木造作りのその建物は規模としては一般のそれとさほど変わらないかもしれないが庭が大きいのが印象的だった。一面草原でそこに動物達の小屋もあって一見、牧場的な雰囲気が伺える。

 

本音

「わ~綺麗なとこだね~」

一夏

「確かスメリアって小さい国だけど人口も少なかったんだっけ。なら場所が有り余ってるんだろうな~」

「言い方をもう少し考えた方がいいぞ一夏…。でも本当に綺麗なところだな」

「昨日のゴーストハウスとは真逆ね~」

「鈴も気をつけた方がいいと思うよ…」

ギャリソン

「では私は院長にお伝えしてきます」

海之

「頼む」

千冬

「ギャリソン殿、私も同行しましょう」

 

すると暫くしてから孤児院の子供達も気付いた様で、

 

「火影兄ちゃん!海之兄ちゃん!ニコ!」

「久しぶりだね!」

「なんでクリスマス来てくれなかったんだよ~!毎回来るって言ったのに~!」

「ねぇねぇ!今日は何やるの~?なんでこんなに人多いの~?」

 

少年少女、白人黒人、東洋系西洋系と多種多様な子供達が迎えてくれた。

 

ニコ

「相変わらず元気だなお前ら」

火影

「へいへい約束守れなくて悪かったよ。高校生は忙しいんだよ」

海之

「今日は償いも兼ねて来たのだ。それから彼らは俺達の日本の友人だ。挨拶しろ」

 

それを聞いた子供達は揃って挨拶をする。それに対して皆も挨拶で返す。後から後から子供達が来てその繰り返し。

 

クロエ

「皆さん元気ですね」

ラウラ

「以前の私は子供を見ても特になんとも思わなかったが…いいものだな子供とは」

刀奈

「欲しくなった~?♪」

シャル

「え!?…え、え~と…」

セシリア

「も、勿論将来的には……欲しいとは、思いますけれども…」

女の子

「ねぇねぇ火影お兄ちゃん!グリフィンお姉ちゃんがカンカンだよ~?火影お兄ちゃんと海之お兄ちゃんが約束すっぽしかした!って」

火影

「ははは…別にすっぽかした訳じゃねえんだけ…!」

 

バシッ!!

 

するとその時、突然火影の顔に向けて何かが勢いよく飛んできた。それを手で受け止める火影。

 

「な、なに!?」

シャル

「…サッカーボール?」

「こらー火影ー!」

 

すると火影の名前を言いながらこちらにひとりの少女が走って来た。見た目は火影や海之と同じかほんの少し上位。ニットセーターにロングパンツ。やや褐色の肌に水色の髪の少女。その少女は走り寄ってくるやいなや火影に詰め寄り、

 

少女

「ちょっと火影!何回電話かけたと思ってるの!ぜーんぜん出ないしさ!しかもやっと繋がったのが年末ギリギリってどういう事よ!?」

火影

「あー悪かったよグリ姉。でもこっちも色々あったんだよ。俺達が今スメリアにいねぇの知ってるだろ?」

少女

「あんたや海之が日本に行った事は知ってるけどそれでも返事する位できなかったの!?皆心配してたんだからね!海之!あんたが付いていながら何やってんの!あんたとも連絡取れなかったからクーリェがずっと元気無かったんだよ!」

海之

「…すまない」

火影

「だから悪かったっての。償いも兼ねて帰ってきたんだし許してくれよもう」

少女

「当然よ!今日はしっかり働いて貰うんだから!」

全員

「「「………」」」

 

目の前で繰り広げられる姉弟のようなやりとりに皆言葉が出ない。

 

男の子

「また始まったよ夫婦喧嘩」

女の子

「姉弟喧嘩~」

ニコ

「まあまあグリフィンの姉貴。気持ちはわかるけど抑えなってば。沢山人いるんだしさ」

グリフィン

「…え、あ、ああそうね、私としたことが。…オホン!はじめまして!話はレオナさんから伺っています。火影と海之の友達の皆さんですね?」

一夏

「あ、ああ。君は?」

グリフィン

「お見苦しい所をお見せしました。グリフィン・レッドラムと言います。この孤児院で暮らしながら子供達の世話をしています。宜しくお願いします!」

 

明るくそう言うと深く頭を下げるグリフィンという少女。

 

シャル

「この人がグリフィンさん」

「は、はい。宜しくお願いします」

グリフィン

「あ、あと皆より多分年上だから遠慮なくお姉ちゃんって呼んでね♪」

一夏

「お、お姉ちゃんすか?」

クロエ

「もしかしてさっき火影兄さんが言った…グ、グリ姉?というのは…」

火影

「…ま、そういう事だ」

グリフィン

「兄さん?……ち、ちょっと火影!日本でなにやってんの!?もしかして誰か女の子引っかけてそのまま……なんてそんな訳無いか。ふたり共朴念仁の代表みたいなものだもんね~。まぁそのへんの話は後で聞くとして火影と海之がお世話になってます!さぞ迷惑かけてると思いますので代わりに謝らせて頂きます!」

「い、いえ!寧ろこっちが色々お世話になってますから!」

火影

「俺らの母親かっての。ひとつしか違わねぇんだから」

グリフィン

「ひとつしか違わなくても年下は年下でしょ。あんたも海之も私にとっては世話が焼ける弟みたいなもんよ」

海之

「…ハァ」

 

どうやらグリフィンという少女には火影も海之も何故か敵わないようである。

 

「な、なんかレオナさんを小さくしたような感じの人ね」

ニコ

「まぁグリフィンの姉貴は孤児院の皆、あと学校でも姉御肌みたいな人だから」

セシリア

「確かにそういう雰囲気は感じますわね。子供達皆さんなついていますし」

グリフィン

「私にとってこの子達は家族。そして何よりも最優先。誰に何と言われようとね」

刀奈

「なんか良い友達になれそうな気がするわ~」

 

そんな感じでやりとりが進む中、

 

タタタタタ……ガシッ

 

全員

「「「!」」」

少女

「……」

 

その時突然ひとりの少女が走り込んできた。見た目は自分達より幼い感じで白いワンピースを着たクリーム色の長い髪。そして片手にくまのぬいぐるみを持っている。その少女は海之の身体にしがみついて止まった。

 

ラウラ

「び、吃驚した。…なんだこの子は?」

海之

「…クーリェ」

 

少女を海之はクーリェと呼んだ。

 

クーリェ

「……」

「この子がクーリェさん?」

セシリア

「随分海之さんに懐いておられますわね」

火影

「ああ。ちょっと訳アリでな…」

クーリェ

「……クリスマス、……来なかった。……ヒドイ」

海之

「…すまない、忙しかったのだ。許してくれ」

クーリェ

「……今日、……遊んでくれる?……でなきゃ許さない」

海之

「ああ俺だけじゃない。火影も、俺達の友人も一緒だ」

火影

「よっ、クーリェ。クリスマスは来れなくて悪かった。今日は一日いるからよ」

クーリェ

「……」

 

海之にしがみついたまま黙って顔だけ火影に向けるクーリェ。

 

火影

「…うん。今日は機嫌が良いな」

グリフィン

「良かった。久々よあんな顔のあの子」

ニコ

「わかりやすい奴だよなぁ」

一夏

「……なぁ、なんか変わったかあの子?」

「う~ん、どうも変化が良くわからんが…しかし私達は今日会ったばかりだ。彼らにしかわからない事もあるんだろう」

火影

「あっ、そうだグリ姉。レオナさんから荷物運んどいたって聞いたんだが?」

グリフィン

「ええ届いてるわ。なんか見たこと無いものばかりだけど?」

火影

「大丈夫だ。俺らはわかる。それに助っ人もたくさん連れてきたしな」

一夏

「…助っ人って…」

「ああ…多分私達の事だろな」

男の子

「なんか色々届いてたよ~?板みたいなものだったり綺麗な絵が描かれてる札とか」

「あと木でできたでっかいお皿とかハンマーもあったぜ?」

「…でっかい木のお皿に…ハンマー?」

火影

「んじゃ、お前らに日本ってもんを体験させてやるぜ」

 

 

…………

 

カーンッ!コーンッ!

 

女の子

「はい!またお姉ちゃんの負け~!また墨ね~♪」

セシリア

「もう!なんでうまく返せないんですの!」

本音

「セッシ~、羽子板はちゃんと玉の部分をつかなきゃ~。でも君も上手だね~」

女の子

「コツがわかれば簡単だよ~」

 

 

ビュンッ!…クルクルクルクル!キンッ!カンッ!

 

男の子

「やったー!回ったー!」

女の子

「う~んまた止まっちゃったよ~。なんで上手に回せないのかな?」

「コマは持つ時はしっかり握っておかなければいけないぞ。しっかり持って勢いよく離すんだ。そして直ぐ引く」

 

 

…一方、こちらでは空にあれが浮かんでいた。

 

男の子

「俺の方が高く上がったぜ!」

女の子

「私だって上がってるよ~!」

「凧あげも久々に見るわねぇ~。小学生以来かも」

シャル

「僕は初めて見るよ。周りに高い建物も無いし空も青いしキレイだね」

 

 

ぺったん…ぺったん…ぺったん…ぺったん…

 

こちらではなにかを着いている音がする。

 

千冬

「ふっ!…はっ!…ふっ!ボーデヴィッヒ!手水が遅いぞ!」

ラウラ

「は!申し訳ありません!」

男の子

「なんか白いスライムみたいだな~」

女の子

「お姉ちゃん達凄い迫力だね!」

クロエ

「な、なんか凄く気合入ってますね。織斑先生もラウラも」

「あはは…まぁ楽しそうにしてるからいいんじゃない?…あ、できたお餅持って行かなきゃ」

 

 

ギーコギーコギーコギーコ

 

ニコ

「火影~、切った竹はこういう立て方でいいのか?」

火影

「ああいいぜ、三本ずつな。回りをそこの松の葉で飾ってくれ」

ニコ

「あいよ~」

男の子

「火影兄ちゃん、これはなんていうの?」

火影

「これは門松っていう年始に玄関に飾るもんだ。年神を家に迎え入れる目印、依り代って意味があるらしいぜ」

女の子

「としがみって何~?」

火影

「一年間家族や家を守ってくれる神様みたいなもんさ」

 

 

……そしてこんな場面も、

 

男の子

「ほんとに剣が喋ってるぜ!スピーカーどこについてんだろ!」

女の子

「きっとここだよ~、ほら変な顔がある部分だよ」

「でもなんで話通じるのかな?言葉わかるのかな?」

アグニ

「…この様な子供の相手をさせるとは軽んじられておるな弟よ」

ルドラ

「ああ、軽んじられておる」

男の子

「また喋った!スゲー!」

「カッコいい!サインほしいな~!」

「手が無いから無理だよ~…あ、口があるか~」

アグニ

「…こういうのももしかしたら悪くないのかのぉ弟よ?」

ルドラ

「…ああ、もしかしたら悪くないかもしれんのぉ」

 

 

絶対暴れない条件付きで子守をさせられていたアグニとルドラだった。子供の適応能力は凄いものである。…一方、家の中では、

 

刀奈

「…よし!また6ね!」

女の子

「お姉ちゃんサイコロ強すぎだよ~」

男の子

「僕達追いつける気がしないな~」

刀奈

「ふふん♪サイコロ運も国家代表クラスよ!」

 

刀奈が子供達相手にボードゲームを楽しんでいた。そして厨房でも、

 

一夏

「さっすがギャリソンさんだな。御雑煮も半端なくいい匂いがするぜ~♪」

ギャリソン

「ありがとうございます。…ああ織斑様、お餅の焼き目が付いておりますよ」

一夏

「おっといけねぇ」

海之

「上手だぞクーリェ」

クーリェ

「あ、あり、がとう…」

 

ギャリソンと一夏がお雑煮を、海之とクーリェとグリフィンがお餅にあんこやらきな粉やら色々な味付けをしていた。

 

グリフィン

「まさかこんな事を考えてたなんてね~♪」

海之

「火影の考案だ。あいつも来れなかった事をそれなりに気にしていたのだ。もう許してやれ」

グリフィン

「…そっか…」

 

そんな感じで子供達も含め皆で楽しく遊び、お雑煮やお餅は当然ながら子供達にも皆にも大好評だった。それと同時に火影と海之からお年玉を贈られた。因みにその元は海之が先日当てた宝くじであった…。

 

 

…………

 

…パシッ!

 

男の子

「ああちっくしょ~!もうちょっとだったのに~!」

火影

「駄目駄目。もっと裏を付かねぇとゴールは決まらねぇぜ」

グリフィン

「皆~!目線を読まれないようにねー!…そこ!スペース空いてるよ!」

 

食後はお腹が膨れて眠ってしまった幼い子供を除き、火影とグリフィン、そして一夏達は子供達とサッカーをしていた。火影はキーパーとして子供達のシュートを受け止め、グリフィンが子供達の監督となっていた。そして子供達の相手は一夏達がやっていたのだが、

 

一夏

「嘘だろ!?また取られた!」

男の子

「へっへ~ん遅い遅い♪」

「子供ながらなんてテクニックだ!」

「ただすばしっこいだけじゃない!計算された動きだわ!」

ラウラ

「まるでこちらの考えが読まれている様だ!」

刀奈

「も~!私がちびっこにふりまわされるなんて~!」

女の子

「サイコロじゃ負けたけどサッカーでは負けないもんね~♪」

 

子供のレベルとは思えない技術に一夏達は脱帽していたのだった。

 

本音

「皆すごーい!」

クロエ

「一夏さん達翻弄されていますね…」

セシリア

「相手の意表を突くボールのコントロールやフットワーク。攻守も凄くレベルが高いですわ」

千冬

「それもあるが…あのグリフィン、彼女の指揮が非常に的確だ。コーチとしてほしいところだ」

ニコ

「姉貴は本気でスメリア代表サッカーチーム作んのと選手兼コーチを狙ってるんだ」

「グリフィンさんならできそうだね。…あれ、海之くんは?」

シャル

「海之だったらあのクーリェっていう子に本を読んであげてるよ」

 

 

…………

 

それから数刻後、試合は以外にも引き分けで終了した。試合運びは子供たちが圧倒していたがキーパーの火影の読みを崩す事がなかなかできなかったので点が入らなかったり、一夏達はシュートしても相手キーパーの子供も同じくうまかったため、お互い点を入れる事が殆どできなかったのであった。今は張り切り過ぎてダウンした一夏と刀奈を箒とセシリアとクロエが看病を。簪とラウラは海之とクーリェの所に。そして火影は、

 

男の子

「火影兄ちゃんと海之兄ちゃんIS動かせたんだな!見せてくれよ!」

火影

「駄目だよ。こいつは無暗に動かすことはできねぇんだ」

女の子

「えーケチ~!」

ニコ

「ばらしてみてぇな~…そうだ!さっきの赤色と青色の剣なら良いか火影?」

火影

「…土下座でもなんでもすっからやめてくれ。下手にいじってこれ以上煩くなりでもしたらたまんねぇ…」

 

ニコや他の子どもとドッジボールをしていた。その様子を見守るグリフィン。そして鈴、シャル、本音。

 

「ほんと子供って元気ねぇ。疲れ知らずだわ」

シャル

「あはは、でもいいじゃない。子供は元気が何よりだよ。それに火影も楽しそうだね。最近大変な事ばかりだったから」

グリフィン

「…君達、火影が連絡できなかった理由知ってるの?」

本音

「え、え~と~…い、忙しかったからです!」

 

真実なんて勿論話す訳にもいかず。

 

グリフィン

「よっぽどの事があったのね…。私もあいつに聞いてみたいけど…難しいかな。火影も海之も人の事ばっかりで自分の事はほんと二の次だもんね。きっと心配させない様にはぐらかされるに決まってるもん。昔からそういう奴だから」

「グリフィンさんは…火影とは何時から?」

グリフィン

「火影とはもう10年位の付き合いかな。私もここに孤児として来たんだ。ちっちゃい時に私の生まれた国で内戦があってね…その時に逃げる様にこの国に来たの。でも間もなくして両親が死んじゃって…そのままこの孤児院に入る事になったんだよ」

シャル

「そうだったんですか…。やっぱり不安でしたか?」

グリフィン

「まぁ最初はね。でもこの国の人達が支えてくれたおかげで立ち直れたんだ。学校には私の様な孤児やもっと辛い思いをしてる子達も多かったから。クーリェとかね。火影と海之とはそんな時に出会ったの。…今思えばあいつらと出会ったのは大きかったなぁ。私より年下なのに考えとかすごくしっかりしてるんだもん。ふたりもご両親をあんな形で亡くしたのにね。悲しい顔なんて微塵も見せなかった。そんなふたりを見てたら私ももっと頑張らなきゃって思ったんだ」

本音

「…ひかりん…みうみう…」

「あいつも海之もきっと悲しい筈なのに…」

グリフィン

「…そうだね。…で、ここからが本題なんだけど、ある時あいつが同年代の子とサッカーしてるのを見てね、私も一緒にやるようになったんだ。内戦が始まる前、よくストリートサッカーしてた事を覚えてたから得意だったんだ」

シャル

「ああ!だからあんなに指示がうまかったんですね!」

グリフィン

「ありがと♪…それでね?ある時また一緒にサッカーしてたら私なんでかこんな事言っちゃったんだよね~」

 

 

…………

 

グリフィン(幼少)

「やるじゃない君!私をこんなに追い詰めるなんて初めてだわ!」

火影(幼少)

「そういうアンタもなかなかやるじゃねぇの」

グリフィン

「…ねぇ、一対一で勝負してみない?一発のPK勝負よ!もし私がゴールを決めたら君、私をお姉ちゃんって呼びなさい♪」

火影

「…へ?なんで僕が?」

グリフィン

「気にしない気にしない♪」

火影

「いやすっげぇ気になるんだけど…。……ま、いいや。それならひとつ賭けしてみねぇ?」

グリフィン

「賭け?」

火影

「もしアンタがシュートを決めたら、僕はアンタの言う事をひとつ聞く。…だけどもし僕がシュートを止めたら」

グリフィン

「…君の言う通りにする?」

 

すると火影は首を横に振りながら笑って言った。

 

火影

「今度ストロベリーサンデー奢ってくれ♪」

 

 

…………

 

グリフィン

「…って訳」

シャル

「な、成程…。それでその結果火影が負けて、でもお姉ちゃんっていうのは恥ずかしいから…ぐ、グリ姉?で落ち着いたと」

グリフィン

「うん、そういう事♪」

「まぁ自分から賭けといて負けたんだったら仕方ないわね」

本音

「あはは。そうだね~」

グリフィン

「……う~ん、その事なんだけどね。私はちょっと違うかな、って思ってるんだ」

「? どういう事ですか?」

グリフィン

「……さっき火影に飛んできたサッカーボール見てたでしょ?あれって私結構マジで当てるつもりだったんだよね~。でも火影は見事に受け止めちゃった。不意打ち位のボールをだよ?あんな見事なキャッチが出来るのに…あの時のシュートを本当に受け止められなかったのかな…って」

本音

「…ほえ?」

 

するとシャルが気付く。

 

シャル

「…もしかして…火影はわざとシュートを?」

グリフィン

「……うん。あん時本当は止める事が出来てたんじゃないかなって。でも火影はあえてしなかった。多分だけど…私を気遣っての事じゃないかなって思ってるんだ。戦争孤児で家族を無くしちゃった私の事を…形だけでもお姉ちゃんって呼んでくれるために…。まぁ、自惚れかもしれないけどね♪」

 

するとそれを聞いていた鈴達が話す。

 

「……いえ、私もそうだと思います。あいつは、火影はそういう奴ですから。いつも自分の事より、大事な人達の事を第一に考えてる」

シャル

「うん。僕もそう思います。きっとグリフィンさんの事を想っての事ですよ」

本音

「ひかりんは優しいからね~♪」

グリフィン

「……君達…」

「それにさっき来た時のグリフィンさんと火影達、本当の姉弟みたいでしたよ」

シャル

「お姉ちゃんって感じだったよね。そうでなくても火影って年上の女の人にタジタジだよねぇ」

レオナ

「アハハ!レオナさんとかに太刀打ちできないもんね~♪」

グリフィン

「……ふふ」

 

グリフィンは笑って火影の方に目線を向ける。そしてそのまま鈴達に言った。

 

グリフィン

「……君達、あいつの…火影の事が好きなんだね?」

「……え!」

シャル

「…あぅぅ」

本音

「はわわわ!」

 

なんともわかりやすい反応をする鈴達。

 

グリフィン

「あはは♪分かりやす過ぎるよ。………火影をお願いね」

鈴・シャル・本音

「「「…えっ?」」」

グリフィン

「君達みたいな子が傍にいてくれたら…。私は…火影と同じ世界には…多分、一緒にいられないから……。なんでかはわからないけど…そんな気がするんだ…」

鈴・シャル・本音

「「「……」」」

 

その瞬間三人は気づいた。彼女はそう言いながらも、彼女もまた自分達と同じ様に…。

 

火影

「お~いグリ姉。グリ姉が止めてくれねぇとこいつら終わらないんだぜ~?」

グリフィン

「あはは♪ゴメンゴメン。皆~そろそろ終わるよ~」

子供達

「「「はーい!」」」

「……グリフィンさん。グリフィンさんも火影の大事な人達のひとりですよ?」

グリフィン

「…え?」

シャル

「そうですよ。だからそんな悲しい事言わないでください。火影もきっとそう思っている筈です」

本音

「グリフィンさんもひかりんを支えてるよ~♪」

グリフィン

「……」

 

笑ってそう話す鈴達とキョトンとしているグリフィン。

 

火影

「あ~疲れたぜ~。…どうした?」

本音

「なんでもないよ~♪」

 

はぐらかそうとする本音達。すると、

 

グリフィン

「………ねぇ君達。じゃあ今からやる事許してね?」

鈴・シャル・本音

「…え?」

グリフィン

「ねぇ火影」

火影

「…あ?なんだグリ…!」

鈴・シャル・本音

「「「!!」」」

 

その瞬間、グリフィンは火影の頬にキスしたのだった。そして再び彼女は三人にそっと呟く。

 

グリフィン

(折角諦めようと思ったのになぁ。君達が悪いんだよ~?覚悟しといてね、普段一緒にいないからって油断してるとサッカーと同じ、横から掻っ攫っていっちゃうかもね?ふふ♪)

鈴・シャル・本音

(((…!)))

火影

「…なんなんだ一体…?」

 

頭上に?マークを浮かべる火影だった。

 

 

…………

 

そしてこちらの方でもこんな会話があった。相変わらず海之にべったりなクーリェ。そんなふたりに簪とラウラは尋ねてみる。

 

「そういえばクーリェさん?クーリェさんは何時から海之くんと?」

クーリェ

「……」

 

だがクーリェは簪の問いかけに何も答えなかった。

 

ラウラ

「…?どうしたんだ?」

海之

「…すまん。クーリェはここの子達の中でも訳ありでな。初対面の者には殆ど口を開くことも無い。普通に話せるのはここにいる者達でも限られている」

「そ、そうなんだ。ごめんねクーリェさん」

クーリェ

「……クー、……ちょっとお花、……摘んでくる」

 

そう言うとクーリェは海之達から見える範囲の場所に咲いている花を摘みに行った。気を使っているのだろうか…。

 

ラウラ

「…海之。彼女は一体…?」

 

すると海之はゆっくり話し始めた。

 

海之

「…クーリェもまたとある国の戦災孤児だったそうだ。彼女の母国では数年前まで政府軍と反政府軍の激しい内紛があったらしくてな。特に彼女の住んでいた場所は反政府軍の本拠があった場所だったらしい。…連日続く激しい攻撃の末、彼女は全てを失った。家も家族も。唯一残ったのは彼女の最後の誕生日に両親からプレゼントとしてもらったあの…今も肌身離さず持っているくまのぬいぐるみだけだった」

「……そう、なんだ…」

ラウラ

「……」

海之

「生き残った彼女は軍に保護され生き延びたが…まともに口をきけない状態だったらしい。無理もない、目の前で全てを失ったんだからな。だが不幸中の幸いか、そんな彼女を不憫に思った人が自分のツテを利用し、このスメリアに難民希望を出した。そして彼女はこの国にやって来た」

「…それでこの孤児院に?」

海之

「そうだ。そして俺があの子に会ったのは…二年前のクリスマスの時だった…」

 

 

…………

 

二年前のクリスマス。その日海之達はESCの手伝いで子供たちにプレゼントを配りに来ていた。多くのクリスマスイベントを行っている時、海之は小休止で外に出ていると、

 

~~~~

 

海之(二年前)

「……?」

 

ベンチに座っていた海之は気付いた。……近くからすすり泣く声が聞こえる。

 

海之

(……植木の裏?……誰かいるのか?)

 

海之はゆっくりと見てみる。するとそこにいたのは、

 

クーリェ(二年前)

「……」

 

くまのぬいぐるみを抱いたまま座り込んでいたクーリェだった。

 

海之

(……この子は……確かグリフィンが言っていた…クーリェ、という)

「…どうした?」

クーリェ

「!!」

 

声を聞いた彼女は瞬間身体をすくめた。見ると顔の涙あとが痛々しい。そして身体の一部が汚れ、ぬいぐるみの一部が破けている。予測する限り躓いた時に破けてしまったのだろう、そして見たところ身体に傷が無い事から察するにぬいぐるみが破けたのが涙の理由だろうか?

 

海之

「……少し待っていろ」

 

そういうと海之は家の中に戻り…そして数秒後、裁縫セットを持って戻ってきた。

 

海之

「…貸してみろ」

クーリェ

「……」

 

海之はクーリェにゆっくり手を差し伸べたが彼女は動かない。

 

海之

「大丈夫だ。その子の傷を治したいだけだ」

クーリェ

「……」

海之

「…俺を信じろ」

クーリェ

「……」

 

すると海之の純粋な瞳と声に安心したのか、クーリェはゆっくりぬいぐるみを差し出す。

 

クーリェ

「……ぷ~ちゃん。……治して、あげて。……お願い」

海之

「ああ」

 

……すると海之は見事な裁縫でそのぬいぐるみの破けた部分を直してしまった。そしてぬいぐるみを返す。

 

海之

「おま……君の名前は?」

クーリェ

「……」

海之

「…言いたくないなら別にいい。だがグリフィンが見てないかと心配していた。身体も汚れている」

クーリェ

「……」

 

クーリェは何も喋らない。すると海之は黙ったままのクーリェにゆっくり近づく。彼女は再び委縮するが、

 

…フワ

 

クーリェ

「…!」

 

海之は自分の上着をクーリェにかけた。汚れが見えない様にするためだろう。そして海之は彼女の横について話しかける。

 

海之

「…君の過去に何があったかは知らない。多分、余程の事があったのだろうと思う」

クーリェ

「……」

海之

「この世は決して公平ではない。辛い事もたくさんある。死にたいと思う位悲しい事も…」

クーリェ

「……」

海之

「俺も弟も両親を失った…。過ぎた事は忘れろとは言わない…。だが、人は生きなければならない。死んでいった人達の分まで…。だから…どんなに時間がかかっても…辛い気持ちを生きる力に変えるんだ。ここには君を傷つける様な者はいない」

クーリェ

「……」

海之

「上着は後でいい。では俺は戻っているからな」

 

そして海之は立ち上がり、離れようとすると、

 

クーリェ

「……リェ」

海之

「…む?」

クーリェ

「……クーリェ、…クーリェ・ルクク、シェフカ。……わたしの…名前。……この子は、…ぷーちゃん。……お兄ちゃんは?」

海之

「……海之だ」

 

 

…………

 

「そんなことがあったんだ…」

海之

「ああ。まだ初対面の者を見ると緊張しがちだが、それから彼女は少しずつ自分を取り戻そうとしているらしい。あれがきっかけかはわからんが」

ラウラ

「きっとそうさ。お前に感謝している事だろう」

「うん。絶対そうだよ」

海之

「大した事をしたつもりは無いがな」

 

するとクーリェは摘んだらしい花を持って戻ってきた。

 

クーリェ

「……はい」

 

その中から数本を海之に差し出す。

 

海之

「…ありがとう」

クーリェ

「……お姉ちゃん達、……海之お兄ちゃんの、……お友達?」

「え?う、うん」

ラウラ

「あ、ああ」

クーリェ

「……」

 

するとクーリェは右手の花を簪に、左手の花をラウラに差し出し、微笑んで言った。

 

クーリェ

「……クーとも、……お友達に……なって、くれる?」

「!…うん!」

ラウラ

「あ、ああ!勿論だ!」

 

ふたりはクーリェの手を取り、固く約束した。

 

海之

(珍しいな…今日会ったばかりのふたりに。……これも成長、という事か。……ふ)

 

それを見て微笑する海之。……とそこへ、

 

千冬

「おい、お前達。そろそろ帰還の準備をするぞ」

海之

「わかりました」

「あ、はい!もうそんな時間なんだ」

ラウラ

「楽しい時間とは本当に早いな。…では行こうか、クーリェさん、じゃない…クーリェ」

クーリェ

「うん」

 

そう言って4人は歩き出す。しかしクーリェだけ何故か千冬の前に止まった。

 

クーリェ

「……」

千冬

「……あの、……どうした?ああいや、どうし、たの?」

(…いかんいかん、どうも慣れんなこういうのは…)

 

するとやや困った千冬にクーリェは微笑みながら驚くことを言った。

 

クーリェ

「……お姉ちゃんも、……海之お兄ちゃんの事、……好き、なのね」

千冬

「……え!!」

 

瞬間に真っ赤になる千冬。

 

海之

「…?先生、クーリェ。どうした?」

クーリェ

「…ううん」

千冬

「……」

 

こうして孤児院での賑やか且つハラハラなお正月イベントは無事終了した。火影達や一夏達はグリフィンやクーリェ、孤児院の皆との再会を約束し、帰路に就く事になった。そしてその別れ際、火影と海之は、

 

火影

「ああそうだグリ姉。時間が無かったからあんまりのもんじゃねぇけど、去年のクリスマスプレゼント、渡しそびれてたぜ」

海之

「…クーリェ。これは俺からだ」

 

火影がグリフィンに渡したのはオレンジの生地にダイヤモンドのワンポイントがあるリストバンド。海之はクーリェに白い花の髪飾りをあげた。

 

グリフィン

「ありがと!何か照れるね。頑張ってね火影!」

クーリェ

「……クー、大切にする。……また、会いに来てね。……海之お兄ちゃん」

 

 

…………

 

その帰りの車中にて。

 

一夏

「あ~~~疲れた~~~」

「だが気持ちのいい疲れだ。戦いとは違う」

ギャリソン

「今日は皆さま本当にありがとうございました」

海之

「礼を言うぞ皆」

「ううん。私達も楽しかったし…お友達もできたから」

ラウラ

「ああそうだな。また必ず来よう」

千冬

「……」

一夏

「…?どうしたんだ千冬姉?餅つきで疲れたか?」

千冬

「! あ、ああ。…そうかもしれんな」

 

一方こちらの車でも。

 

「…ねぇ火影。今度からスメリアに帰る時は…必ず私達にも声をかけなさい」

火影

「ん?なんでだ?」

シャル・本音

「「どうしても!」」

火影

「…???」

クロエ

「…どうしたのでしょうか?」

セシリア

「何というか…おかしいですわね?」

刀奈

「なんかわかんないけど…なんかある種のメラメラを感じるわ~♪」

ニコ

「いやー、あん時は驚いたなぁ~♪」

鈴・シャル・本音

「「「ニコ(くん)!!」」」

 

事情を唯一知っているニコはニヤニヤが止まらなかった。




アーキタイプよりまずグリフィンとクーリェ、ゲスト出演の回でした。出すならまずこのふたりが直ぐに思い浮かびました。ISとは全く別の生き方ですがこういうのもどうでしょうか。グリフィンかパティか悩みましたが彼女はゲストには勿体ないので。




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Mission169 王女の魂

スメリア滞在二日目。
この日火影達に案内された一夏達は孤児院にて子供達の相手をすることになった。日本の正月の遊びを子供達に教えながら戦いとは別の楽しい疲れを味わう一夏達。楽しい思い出やグリフィン、クーリェ等の新しい友達を得た火影達は満足して孤児院を後にするのであった。


スメリア滞在三日目。

明日の朝には帰る事になっている。昨日の疲れが残っているが何かしたいと思った皆がどうするか考えていると海之がこんな事を言いだした。

 

海之

「皆、今日はレオナ叔母さんからご自宅へ招待がかかっている。皆への労い会をやりたいとの事だ」

一夏

「マジで!」

本音

「わ~い!」

シャル

「レオナさんの御自宅か~。そっちも凄そうだね」

ニコ

「俺はパスしとくわ。キャバリエーレの点検とかしねぇといけねぇし」

火影

「悪いなニコ」

ニコ

「気にすんなって。ああそうだ火影、海之。お前らにはぶったまげるニュースがあると思うぜ~?」

火影

「…ぶったまげるニュース?」

海之

「なんだそれは?」

ニコ

「行けばわかるって。へへへ♪」

火影・海之

「「…?」」

 

ぶったまげるニュースというのが気になるものの一行は取り合えず向かう事にした…。

 

 

…………

 

レオナの家は町から少し離れた海が見える小高い丘の上にあった。大きな窓が特徴的な洋風の現代的な邸宅。周囲には他の家はちらほらという感じで多くは無い。

 

セシリア

「これがレオナさんの御家ですのね。流石に御立派ですわ」

火影

「ひとり暮らしだからもうちょっと小さい家でいいっつったらしいんだけど場所はここが良いってな」

「凄く良い場所に建ってるね。海が一望できるよ」

海之

「海がお好きでな。特に二階の裏にはもっと大きな窓があって一望できるようになっている」

刀奈

「朝とか夕方とか素晴らしそうね」

「…?でも囲いみたいなものが少ないわね?防犯とか大丈夫なの?」

火影

「問題ねえよ。父さんが作ったセキュリティがあるからな。不審者は絶対見逃さねぇ。まぁ不審者自体もいねぇけど」

千冬

「…本当に良い国だな」

クロエ

「そうですね。私の生まれた国等とは大違いです…」

ラウラ

「クロエさん…」

一夏

「取り合えず入ろうぜ」

 

 

…………

 

レオナ

「さぁさぁ遠慮なく入ってくれ!」

全員

「「「お邪魔します(しまーす)!」」」

 

満面の笑顔で迎えてくれたレオナに導かれ、邸内に入った。清潔な室内で使用人は最低限しかいないとの事であった。

 

レオナ

「皆昨日はどうもありがとうね!院長から連絡が来て子供達みんな大喜びでとても楽しかったってさ♪」

「お役に立てたならよかったです」

「私達も楽しかったです」

千冬

「今日はわざわざご招待いただき、ありがとうございますレオナ殿」

レオナ

「なんのなんの。これ位してあげなきゃ申し訳ないし、それに酒飲む名目できるしね♪」

火影

「それが本命じゃないですかレオナさん?」

レオナ

「ハッハッハ!気にすんな!ゆっくり寛いでくれ」

 

そういうレオナに導かれた先のリビングにはクッキーやスコーン、サンドイッチやケーキ等がビュッフェスタイルで並んでいた。そこから出られる様になっているテラスにもテーブルが出され、同じように食べ物が並んでいる。

 

「わぁ!美味しそうです!」

レオナ

「私の手作りだから口に合うといいんだけど」

「えっ!レオナさんが作って下さったんですか!?」

レオナ

「一応独身だからね。掃除とかは家政婦がやってくれるけど食事は基本全部自分でやってるよ」

本音

「すご~い!」

刀奈

「料理までできるなんて…ほんとスーパー女社長ですね」

千冬

「私も覚えるべきだろうか…」

一夏

「あ、あの、あの千冬姉がそんな事を言うなんてイデデデデ!!」

千冬

「なにか言ったか一夏?」

本音

「ねぇ早く食べよー!」タタタタ

ラウラ

「全くどこに行っても変わらんな本音は」

 

影で一夏に制裁を加える千冬。それを横目に大喜びで向かう皆。そして火影と海之も行こうかなと思ったその時、レオナに呼び止められた。

 

レオナ

「ああちょっと待てひー坊みー坊!その前に…ふたりに重大発表があるんだよ」

火影

「…俺達に」

海之

「重大発表、ですか?」

レオナ

「そうさ。ちょっと待っててくれ♪」

 

そう言ってレオナは隣の部屋に行ってしまった。重大発表という言葉にふたりは警戒するがそれにしてはレオナの態度がまるで悪だくみを企む子供の様だった。嫌な予感がしながらとりあえず待っていると一夏が千冬の制裁から漸く解放された。

 

一夏

「イテテテ……あれ?どうしたんだふたり共?早く行こうぜ?」

火影

「いやちょっと…」

 

するとその時、

 

 

少女

「お兄ちゃ――ん!」タタタタタ…ガシッ

 

 

隣の部屋からひとりの少女が突然飛び出してきて一夏の方に飛びついた。

 

火影

「へ?」

海之

「なっ!」

一夏

「ななななんだ!?……ってあれ、君は…」

少女

「えへへ~♪……あれ~?」

 

飛びついた青い髪の少女は何故か一夏の顔を見てキョトンとした表情をしている。とそこへもうひとり別の少女が出てきた。

 

 

少女

「こ、こら何やってんの!そっちは違……って、アレ?貴方…」

 

 

もうひとりの少女も一夏を見て驚いている。そしてそれは一夏も同じだった。

 

一夏

「……あれ?君も確か…」

「一夏ー、何してるんだお前も……!」

セシリア

「一夏さん、早く一夏さんも……!」

 

それを見たふたりは当然の如く……。するとそこにレオナが戻ってきて、

 

レオナ

「あらら?なんかよくわかんないけどドッキリ失敗なのか成功なのか微妙な結果になっちゃったみたいだね」

火影

「レオナさん一体…?」

海之

「…この子達は?」

箒・千冬

「「一夏(さん)!どういう事か説明しろ(してくださいまし)――!!」」

一夏

「俺だってチンプンカンプンだっつの―!」

刀奈

「何~?どしたの?…あら?」

ラウラ

「なんの騒ぎだ一体?…おや?」

クロエ

「…アレ?初めての方がいらっしゃいますね?」

本音

「そっくり~!もしかして双子~!」

 

一夏と箒、セシリアの騒ぎを聞いて他の皆も集まってきた。それと同時に、

 

パーンッ!パーンッ!パーンッ!

 

千冬

「人様の家でも無様な騒ぎするな馬鹿者」

「いたた…」

セシリア

「す、すみません…」

一夏

「な、なんでまた俺まで」

 

久々の一撃を喰らうふたりと再度喰らう一夏。そんな一夏を彼にくっついている青い髪のポニーテールの少女が心配し、オレンジの髪のポニーテールの少女が訂正する。

 

青い髪の少女

「お、お兄ちゃん大丈夫?」

オレンジの髪の少女

「とりあえず離れなさいよオニール。多分だけどあんたにも原因あると思うわよ?」

青い髪の少女

「そうなの~?」

レオナ

「まぁまぁファニール。オニールも初めて会うんだから無理もないさ。とりあえず一夏くんから離れなオニール」

 

レオナにそう言われてオニール、ファニールと呼ばれた少女がレオナの横に付く。先ほど本音が言った通りふたりは髪の色こそ違うが顔は非常によく似ており、まさに双子である。

 

火影

「あの…レオナさん。この子達は?」

海之

「それに…お兄ちゃんとは?」

レオナ

「ふふん♪予定はちょっと狂ったけどこれが重大発表さ。ふたり共、挨拶だ」

オニール

「はいレオナさん!初めまして!オニール・コメットといいます!」

ファニール

「ファ、ファニール・コメット。オニールの双子の姉です」

 

それぞれ名乗る少女に続き、レオナは更に驚くことを言った。

 

 

レオナ

「ひー坊みー坊!先月からお前達の従妹となった子達、つまり私の義娘だ♪仲良くしてやってくれ♪ハッハッハ!」

オニール

「宜しくねお兄ちゃん!」

ファニール

「よ、宜しく…お願い…します」

 

 

全員

「「「…………」」」

 

暫しの沈黙が流れた後、

 

火影・海之

「「……ハァ~~」」

それ以外の全員

「「「え―――――――――!!??」」」

千冬

「これは本当に…重大発表だな」

 

ふたりの長い溜息と千冬の一言、他の皆のこれまで以上の長い声が響いた。

 

 

…………

 

それから数分後、なんとか落ち着いた皆はとりあえず状況を確認する事にした。今はテラスのテーブルにレオナとその隣にオニール、ファニールと名乗った姉妹。向かいに火影と海之が座っている。皆はその周りに集まっている。

 

レオナ

「いやー実は結構前から養子を迎えようって事はなんとなく思ってたんだよね。兄さん義姉さんがひー坊みー坊を迎えた様にさ。結婚はしてないけど私ももう四十前だし?でも考えていただけで中々キッカケが無かったんだけど去年の夏頃にふたりが一夏くんや箒ちゃん達を連れてきたろ?あれがキッカケになったんだよね♪」

海之

「成程…ふたりはESCが支援していた別の孤児院にいたのか」

オニール

「うん。去年の12月までね」

「昨日行ったところ以外にもあるんですね?」

レオナ

「スメリアの人口は三割が元難民だからね。でもその人達の中には正常でない人達もいる。グリフィンちゃんやこの子達の様に来て直ぐに親が死んじゃった子や、クーリェちゃんの様に自分だけで来ることになった子もいるし。だからそういう子達のためにいくつかあるんだよ」

ファニール

「私達のお母さんはスメリアに来た直後に私達を生んですぐ死んじゃったの。父は戦地で亡くなったって人に聞いたから両親共に顔も知らないわ」

シャル

「そうなんだね…」

オニール

「でも私もお姉ちゃんも悲しくなんかないよ。皆いい人達ばかりだったし」

ファニール

「寧ろ顔がわかっていた方が悲しかったと思うし…」

「……そうかもしれないわね」

火影

「ほんで去年の夏頃からレオナ叔母さんと連絡を取り始め、去年のクリスマス、正式に養子縁組した」

ファニール

「え、ええ…」

本音

「レオナさんてほんと凄いね~!太っ腹~!」

刀奈

「ふ、太っ腹って言うのかしらこういう場合…?」

海之

「…ハァ、全くレオナ叔母さんにはよくよく驚かされますが…まさかそんな事になっていたとは…」

レオナ

「ハッハッハ!しかしそれを言うならお前らも同罪だぞみー坊?だから今日まで隠しておいたのだ♪」

火影

「ニコの言ってたびっくりニュースってのはこの事だったのか…」

レオナ

「まぁそういう事だ。仲良くしてやってくれ♪」

オニール

「宜しくね!私もお姉ちゃんもね?お兄ちゃん達に会うのずっと楽しみだったんだよ!」

ファニール

「こ、こらいきなりそんな!……た、確かに会いたかったのは、会いたかったけど…で、でも」

火影

「まぁまぁ、驚いてんのは俺達も一緒さ。レオナさんの甥っ子の火影だ。まぁ俺らも養子だけどな。いきなりで慣れねぇだろうが宜しくな」

海之

「兄の海之だ。よろしく頼む」

オニール

「うん!火影お兄ちゃん!海之お兄ちゃん!」

ファニール

「う、うん…。よ、宜しく」

 

そして順番に挨拶していき、

 

オニール

「久しぶりだねお兄ちゃん♪」

火影

「一夏、ふたりに会った事あんのか?」

一夏

「ああこの前の買い物の時にな。織斑一夏だ。あん時はごめんな」

オニール

「ううん、大丈夫だよ。えへへ、今日もお兄ちゃんに会えて嬉しいな」

ファニール

「この子ったらあれからよく貴方の事話すのよ?よっぽど懐いちゃったみたいね」

箒・セシリア

「「……」」

刀奈

「はいはいふたり共。気持ちはよ~くわかるけど初対面の子達にそんな顔しないの。ほら挨拶」

「し、篠ノ之箒、だ」

セシリア

「セシリア・オルコットですわ…よ、宜しくお願い致します」

オニール

「宜しくね箒お姉ちゃん!セシリアお姉ちゃん!」

「あ、ああ…」

(な、なんか調子狂うな…。お姉ちゃん…か)

セシリア

「わ、私が…お姉さん…」

(なんでしょう…、なんとも言えない感じがしますわ…)

 

ふたりは恥ずかしながらも嫌そうではない。そして最後は、

 

海之

「最後はクロエか」

クロエ

「え、海之兄さん私は」

海之

「大丈夫だ。遠慮なく本名で名乗れ」

火影

「レオナ叔母さんは人を見る目は持ってっから」

レオナ

「おいこらひー坊それはどういう意味だい?大丈夫だよクロエちゃん」

クロエ

「は、はい…。クロエ・クロニクルです。よ、宜しくお願いします」

火影

「クロエとは義兄妹でもあるのさ」

オニール

「そうなんだ!よろしくねクロエお姉ちゃん♪」

クロエ

「こ、こちらこそ…」

ファニール

「よ、宜しくお願いします」

レオナ

「さぁさぁ挨拶はこれで終わりだ!労い会の仕切り直しと行こうか」

本音

「あ~忘れてた~!もうお腹ぺこぺこ~!」

「…ほんとアンタってマイペースね…」

 

 

…………

 

本音

「デザート全部美味しい~♪」

一夏

「あの…オニール、なんでずっとくっ付いてんだ?」

オニール

「気にしない気にしない♪」

レオナ

「随分懐いちゃったねぇ~」

箒・セシリア・刀奈

「「「…むぅ~」」」

ファニール

「全くあの子ったら、お兄さんはそっちじゃないのに………ってな、なんでもないわよ?」

「大丈夫よ、あのふたりには聞こえてないから」

「早くちゃんと言える様になるといいね」

ファニール

「…う……うん…」

 

仰天サプライズはあったもののレオナ主催の労い会はにぎやかに進んでいた。会話が弾む者、レオナの料理に舌鼓をうつ者、酒を楽しむ者(千冬とレオナと何故かサイダー持って刀奈も)。そして中心人物ともいえるオニールとファニール姉妹。オニールは明るく無邪気な性格からか皆にもすっかり打ち解け、火影や海之の事も普通にお兄ちゃんと呼んでいる。最も懐いているのは一夏でそれを見た千冬が「一目惚れか?」等と冗談交じりで言ったために箒とセシリアと刀奈が緊張するが彼女達の事もオニールはお姉ちゃんと呼ぶため、妹さながらの雰囲気にやられて強く出られない。

姉のファニールは比較的しっかりしており、最初から流石になつきすぎる事は無いものの家族ができた事は純粋に嬉しいらしく、嫌そうでない。こればかりは日にち薬だろう。そんな中……、

 

火影

「そういえばレオナ叔母さん。養子を迎えるのはわかりましたけど何故あの子らを?何かきっかけでも?」

レオナ

「んー?知りたいかい?」

 

すると一夏にくっついていたオニールが喋りだした。

 

オニール

「あのね火影お兄ちゃん!レオナさんは私とお姉ちゃんの歌が好きだって言ってくれたんだよ!」

ファニール

「こ、こらオニール」

セシリア

「歌、ですか?」

レオナ

「うん。この子達がいた孤児院に行った時にたまたまなんだけどこの子達の歌を聞いたんだ。それに感動してね。聞いたことが無い歌だったんで聞いてみたら自分達のオリジナルだったんだよ。それにも吃驚してね。こんな小学生位の子供達がこんな声でこんな歌でこんなに人を感動できるんだ、って」

「歌が好きなんだね」

オニール

「うん!」

ファニール

「歌を歌っていると心が安らぐんだ。学芸会とかで皆で歌うでしょ?そしたら皆凄く笑ってるの。そして思ったんだ。皆がこんな気持ちになるなら戦争とか、私達の様な子供が減るのかなって。意味のない銃の向き合いより、良い歌を聞いて感動した方が絶対分かりあえるんじゃないかなって」

ラウラ

「銃より…歌で…」

オニール

「だから私とお姉ちゃんで将来一緒にアイドルになりたいなぁって思ってるんだ!」

ファニール

「…ま、子供っぽい考えだけどね」

クロエ

「そんな事ないですよ」

千冬

「ああ…素晴らしい事じゃないか。君達位の年齢でそんな考えが持てる子なんてそうはいないと思うぞ」

ファニール

「そ、そうかな…?」

レオナ

「そうだ!折角だから歌声聞かせてやりなよふたり共。パーティーには音楽が必要だろ?」

シャル

「あ、良いですね!僕も聞きたいです!」

オニール

「いいよ!」

ファニール

「こ、こらオニール。そんな勝手に。そ、それに孤児院と違うし私達より年上の人ばかりだし…」

海之

「歌に場所は関係ない。お前達さえ良ければ聞かせてほしい」

レオナ

「大丈夫だよファニール。先生方や先輩も皆感動してたじゃないか。場所は違っても堂々と歌えばいいよ」

火影

「んじゃレオナさんが聞いたって言うオリジナル曲をリクエストしてもいいかな?」

オニール

「うん良いよ!」

ファニール

「も、もうしょうがないわねぇ~」

 

そう言うとふたりはテラスを舞台代わりにして並び立つ。皆はリビングに座る。

 

一夏

「タイトルはなんて言うんだ?」

ファニール

「タイトルじゃなくて曲名よ。Mermaid Healingっていうの」

「マーメイドヒーリング…、人魚の癒し、か」

火影

「……マーメイド」

オニール

「じゃあ歌うね!」

ファニール

「…すぅ」

 

~~~~~~~~~~~~

 

そしてふたりはゆっくりと歌い始めた。

 

全員

「「「………」」」

 

ヒーリングというだけあって優しいゆっくりな歌い出し。いわゆるヒーリング・ミュージックというもの。とても繊細な歌声であるが少女らしい高低の歌声を交え、時には力強い。

 

火影

「…!」

海之

「……ほぉ」

「…これは」

本音

「ほわぁ~」

「なんだろう…なんというか…」

セシリア

「ええ…お上手なんですけど…」

シャル

「なんというか…そんな事だけじゃない」

「うん…。とても繊細…」

刀奈

「女の子なのに…男の子よりも力強い感じがする」

クロエ

「それでいて…悲しい様に聞こえますけど…」

千冬

「…確かに。まだ粗削りだが…良い声だな」

一夏

「……」

 

誰もが彼女達の声に感動している様だ。その中で、

 

火影

(これは……ジャンルも声色も違うが……この湧き出る何かは……彼女の歌と同じ……!!)

 

何故か彼女達の歌声を聞いた火影は酷く驚いていたのだった…。

 

 

…………

 

一夏

「すげーよ!頭の芯までガツンと来る!」

「ロックじゃないんだぞ一夏。でも本当に良かったぞ」

セシリア

「感動ですわ!」

本音

「すんごく上手だった~!」

刀奈

「ただ上手なだけじゃない。なんというか…乾いた大地に水が満たされる、そんな感じの歌声だったわ」

レオナ

「だろう?そして男よりも力強く、女よりも繊細だ」

シャル

「レオナさんが太鼓判押すのも納得だね」

千冬

「将来本当に大物になるかもしれんな」

オニール

「ありがとう!」

ファニール

「お、大袈裟過ぎよ…。レッスンも何も受けてないのに…」

「それでこんなにレベルなら将来が怖いわね~」

「でも本当にいい歌だったよ」

ラウラ

「ああ。私の隊の者にも聞かせてやりたい位だ」

ファニール

「…そ、そうかな…」

海之

「先ほど言ったがレオナ叔母さんがそれほどまで絶賛するのだ。自信を持っていいと思う」

ファニール

「……」

 

ポンポン

 

すると火影がオニールとファニールに近づき、ふたりの肩に手を置く。

 

火影

「……」

ファニール

「な、何?」

オニール

「火影お兄ちゃん?」

 

火影はふたりの肩に手を置いて更に真っすぐ目を見ながら、

 

火影

「お前らの歌には魅力がある。聞く者を惹きつける力がある。そして空っぽになった心に何かを満たす、そんな不思議な力がある」

オニール

「私達の?」

ファニール

「…歌に?」

火影

「今日初めて会った俺が何言ってんのか、って思うかもしれねぇ。でもお前らは必ずスターに、クイーンにすらなれる。人々の心を癒すクイーンにな。だからこれからも歌いたい時に歌いたいだけ歌え。お前らの歌は…きっと多くの人の心に届く筈だからよ」

 

自信に満ちた表情でふたりにそう言った。

 

ファニール

「…あ…ありがとう…」

オニール

「ありがとうお兄ちゃん!」

レオナ

「なんだいなんだいひー坊?この子達のプロデューサーにでもなる気かい?それはこの子らの親代わりのアタシの役目だよ」

火影

「…ええ、頼みますよ」

 

そんな感じで彼女達のミニコンサートは終了した。特に一夏が彼女らの歌を深く気に入り、ファンクラブができれば即加入すると言い出した。その次が本音、その次はと、結局全員が加入を約束したのだった。ファニールは気が早すぎると言っていたが嫌そうでなく、オニールは嬉しさのあまりかまた一夏に抱きついていた。勿論それを見た箒達がまた渋い顔をしたのは言うまでもない…。

 

 

…………

 

昨日のイベントと同じく、楽しい時間は終わりが早い。時間はあっという間に過ぎ、帰る事になった。

 

全員

「「「ありがとうございました!」」」

レオナ

「また必ず来るんだよ」

海之

「はい。…ふたり共、レオナさんを頼む」

火影

「酒は控える様に言っといてくれ。あと歌頑張れよ」

オニール

「うん!お兄ちゃん!」

ファニール

「ほんと順応早いんだから。気を付けてね。……お兄さん」

火影

「…ああ」

海之

「またな」

ファニール

「あああと、…クロエ…お姉さん」

クロエ

「! は、はい!ありがとうございます!」

 

必ずの再会を約束し、そして一行はレオナ邸を後にするその寸前、

 

レオナ

「…また来いよ。火影、海之」

海之

「…?ええ必ず」

火影

「帰ってきますよ」

 

改めて彼女の家を後にした…その車中で火影はこんなことを思っていた。

 

 

火影

(……女王の、いやまだそんな歳じゃねぇか。……王女達の魂…てとこかね……)

 

 

これより半年後、エヴァンスの性に改めたオニール・ファニール姉妹は6年後の高校卒業と共にデビューし、その歌声は多くの人々を感動させた。更に戦いで傷ついた人々の心に癒しを与えるため、世界中を飛び回る事になる。

 

 

…………

 

火影の部屋

 

 

帰宅後、火影が自分の部屋でくつろいでいると、

 

コンコン

 

ギャリソン

「火影様、いらっしゃいますか?」

火影

「ギャリソンか?今開ける」

 

火影が扉を開けるとギャリソン、そして海之がいた。

 

ギャリソン

「ご帰宅されたばかりでお疲れの所、申し訳ございません」

火影

「気にすんなって。海之までどうした?」

海之

「俺もギャリソンに呼ばれたのだ」

ギャリソン

「申し訳ございません海之様、火影様。……少しばかり、お時間よろしいでしょうか…?」

火影

「? ああいいぜ」

 

 

…………

 

それから約二時間後。夕食の時間になり、皆は食堂に集まったのだが、

 

本音

「…?ねぇひかりんは~?」

「海之くんもまだなんて珍しいね?」

一夏

「そういえばギャリソンさんがふたりを連れていくところを見たぞ?二時間くらい前だけど」

ラウラ

「きっと何か話があるのだろう」

 

ガチャッ

 

すると火影と海之が揃って入ってきた。

 

一夏

「あ、噂をすれば」

海之

「すまない、遅れた」

シャル

「…?どうしたの火影?」

「なんか難しい顔してるけど?」

火影

「…いやなんでもねぇ。心配してくれてすまねぇな」

鈴・シャル

「「?」」

クロエ

「ギャリソンさんと話されてたんですか?」

海之

「…ああそんなところだ。…それより皆、改めてだが今回は感謝する。そしてゆっくり落ち着く事も暇も無くすまなかった」

一夏

「いいっていいって。疲れたがこういうのも必要だぜ?」

千冬

「そうだな。私も職務から離れて久々に楽しめた。私からも礼を言うぞ」

刀奈

「言ったでしょ?心にも栄養、よ♪」

 

他の皆も同じ様な返事をした。

 

海之

「そう言ってもらえれば幸いだ」

火影

「明日の朝には皆其々の国に出発か。気を付けてな。てか鈴もシャルも本音もいいのか?一泊だけで到着は夕方前だぞ?」

「ぜ~んぜん♪」

シャル

「気にしないで火影♪」

本音

「そ~そ~♪」

一夏

「俺は帰ったら反省文だな~…はぁ~…」

「一緒に頑張ろうではないか一夏♪」

セシリア

「むむむ…」

 

~~~~~~~

遠い目をしている一夏とそれを見て笑う皆だった…。

 

 

…………

 

翌日の朝、朝食を終えた一行はギャリソン達に別れの挨拶を終え、送りの車に乗り込んでいると、

 

ギャリソン

「行ってらっしゃいませ。火影様、海之様」

ニコ

「精々頑張りなよふたり共」

火影

「ああ任せな。……行ってくるぜ」

海之

「……頼むぞ」

 

笑顔で別れたふたり。束の間の平和を味わった第二回スメリア旅行はこうして幕を閉じるのであった。

 

ギャリソン

(……火影様、海之様。……お気をつけて)




※次回は21日(土)投稿予定です。1作になるか2作になるかはまだ未定です。

グリフィン、クーリェに続き、コメット姉妹でした。
歌によるIS操縦という事でISとはかかわり無しですがDMCOVAのネタと合わせてみました。


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Extramission11 鈴の意外な出生

これはスメリアから帰国した火影のお話です。


スメリアで新しい思い出を作った一行は滞在を終え、そこから各々の故郷に戻って行った。

セシリアはイギリス、ラウラはドイツ、他の皆は日本の故郷…。そして火影らは、

 

本音

「うわ~!雪が凄い~!」

シャル

「流石雪国だね~!」

「たく子供ねぇアンタ達。雪なんて毎年見てるじゃない。初詣の時も見たし」

シャル

「でもこんな沢山の雪は見たことがないからなんか嬉しいんだ♪」

本音

「ひかりんのお母さんってこんなところ出身なんだね~!」

火影

「はは、まぁな」

 

日本のとある雪積る県内の列車の中にいた…。

 

 

…………

 

なぜこんなところにいるのかというと話はスメリア滞在二日目の夜まで遡る。食後、皆でのんびり過ごしていると、

 

ギャリソン

「そういえば申し訳ありません。申し遅れておりました火影様、海之様。先日沙雪様からお電話が御座いました。久しぶりにおふたりにお会いなさりたいと仰っておられましたよ」

火影

「あ~そうか~。沙雪お婆ちゃんにも暫く会ってねぇか~。てかしまった!ゴタゴタで日本に来てる事も言ってなかったぜ!」

ギャリソン

「それでしたらご心配には及びません。勝手ながら私がお伝えしておきました」

火影

「オーケーだギャリソン!」

海之

「すまんな」

シャル

「沙雪さんって?」

「お婆さんという事はもしかしてふたりの?」

海之

「ああ日本にお住いの母方の祖母だ。……火影、この件が終わればお前だけでもお会いしてこい。俺は学園に残る」

火影

「……わかった。次の日には戻るからよ」

 

鈴やシャル達海外組は母国にISを修理に出している。箒や簪等日本組はクロエや更識の家の者で修理している。戦力を無闇に減らせないため、海之は学園に残り、火影だけで向かおうと決めると、

 

鈴・シャル・本音

「「「……」」」

 

ここでも鈴達は行きたそうな表情をしていたがスメリアにも無理言って来たので声に出せない。……するとそんな彼女達を見た火影が、

 

火影

「……お前らも来るか?」

「えっ?…い、いいの?」

火影

「ダメっつって渋い顔して帰るより笑って帰った方が家族も喜ぶだろ?向こうの家もここほどじゃねぇけど大きいし、一泊二日だけど良いか?」

シャル

「もちろん!」

本音

「わーい!」

「確か武家の末裔だったなお前達のお母上は。興味あるが…私は今回はやめておくか」

一夏

「俺は行きてぇけどなぁ~」

刀奈

「一夏くんは反省文を書く仕事があるでしょ?」

一夏

「…ですよね~」

 

 

…………

 

…という訳で火影、そして鈴・シャル・本音の4人は火影と海之の育ての母である藤原雫の故郷に向かっているのだ。

 

火影

「…もう5年か」

本音

「なんでそんなに間が空いちゃったの~?」

火影

「あんま深い意味はねぇよ。ただ…俺と海之は母さんの子供とはいえやっぱ養子だからな。迷惑かもしれねぇと思っただけだ」

シャル

「そんな考えすぎだよ。会いたいって言ってたってギャリソンさん言ってたじゃない」

「……」

本音

「どしたの鈴~?」

「…ううん何でも。ねえ、皆ってお婆ちゃんは?」

本音

「うん。家にいるよ~」

シャル

「僕は実のおかあさんのお婆ちゃんは死んじゃったけどお母さんお父さんのお婆ちゃんはいるよ。鈴は?」

「…うん。私が幼稚園上がる時にはいなかったんだ。お父さんの方だけどね。多分だけど私が幼い時に死んじゃったか離婚したんだと思う。お爺ちゃんは生きてるらしいんだけど…会った事はないんだ。名前だけは知ってる」

シャル

「そうなんだ…。どこに住んでるとか聞いてみたりしてみた?」

「ううん。そうする前に両親も離婚しちゃったし」

火影

「この前夏休み帰った時、両親には会ったのか?」

「うん、叔母さんに聞いたらお母さんの場所は知ってたから会ったの。元気そうで安心したけど…でもお父さんは会ってない。お母さんに悪いと思って場所も聞いてないし」

火影

「そうか。ま、焦らねぇ事だ」

「…うん」

 

と、そんな話をしていると、

 

 

「……鈴姉ちゃん?」

 

 

「…へ?……!!」

 

突然自分をお姉ちゃんと呼ぶ声に鈴は顔をそちらに向け、酷く驚いた。その先にはひとりの少女がいた。年恰好は自分達よりも少し年下か同じ位。水色の上着にロングパンツ。髪型はポニーテールをしている。そしてその雰囲気と顔は…どこかしら鈴に似ていた。

 

「ら、乱!?」

乱と呼ばれた少女

「やっぱり鈴姉ちゃんだ!なんでこんなとこにいんの!?」

「それはこっちの台詞よ!なんでアンタがこんなとこにいんのよ!?台湾にいる筈でしょ!?」

「私は両親と一緒に日本に旅行に来てるんだよ。てかなんで鈴姉ちゃんのほうがこんなとこにいんの!?」

「わ、私は…えっと…あの…」

 

火影についてきたと言うのが素直に言えないのか鈴は困っている様だ.

 

火影

「鈴がどうしても雪国を見てみたいと言ったんで来たんだ」

「そ、そーそー!そーなのよ!でもひとりじゃ危ないからって言うんで友達と来たの!この人達は私の同級生で友達!」

「ふ~んそうなんだ。でもまさかこんなとこで会うなんて思わなかったよ。凄い偶然だね」

シャル

「鈴の知り合い?」

本音

「なんかお姉ちゃんって言ってたね~?」

 

するとその少女は挨拶した。

 

「ああ自己紹介が遅れたわね。どうも初めまして、アタシは鳳乱音。鈴姉ちゃんの従妹だよ。乱音じゃなんだから乱って呼んでね」

本音

「鈴の従妹~!そっか~通りで似てると思ったよ~」

「え~そんなに似てるかなぁ~?アタシとしては全く似てる気ないんだけど~?」

火影

「…いやいやよく似てるぜホントに。…ああこっちも自己紹介しねぇとな。火影・藤原・エヴァンスだ。宜しくな」

シャル

「シャルロット・デュノアです。初めまして」

本音

「布仏本音だよ~。よろしくね」

「うん宜しく」

 

その後、鈴達は乱の両親にも挨拶し、目的地に着くまで火影達の席に乱も混ざる事になった。

 

「えーじゃあ乱もその駅で降りるの!?ほんとどんだけ偶然なのよ」

「偶然も何もそこは……あっ、そんなことより鈴姉ちゃんIS学園に転校したんだよね?いいなぁ…あっ!そういえばさ!鈴姉ちゃんがゾッコンの…えっと誰だっけ?あそうだ!織斑一夏だ!そいつもIS動かせるんだったよね。向こうで会った?」

「う、うん、まぁ…。あっ、でも乱今は」

「ああそういえば貴方も!火影さんだったっけ?貴方もIS動かせる男子のIS操縦者ってニュースでやってたわ!あと雑誌でも突如現れた新星だって!でどうなの?貴方も強いの?」

火影

「ん~」

本音

「うん強いよ~!」

「そうなんだ。まぁ貴方がどれだけ強くても鈴姉ちゃんにはかなわないだろうけどね♪鈴姉ちゃんは必死の努力で中国の代表候補にまで上り詰めた凄い人なんだから♪」

「ちょ、ちょっと乱!」

「そんな鈴姉ちゃんの好意を一身に受けてる織斑一夏にはほんとムカつく!もし恋愛事なんかで鈴姉ちゃんが迷惑受けちゃったりでもしたらどうなるかわかってんのかな!鈴姉ちゃんの気持ちに気付いているならまだしも話だととんでもない朴念仁らしいじゃない!?」

 

鈴の言葉も遮って乱は喋り続けている。

 

シャル

「な、なんか凄い子だね」

本音

「やっぱり鈴の従妹だね~」

「あの…乱、実はね」

 

~~~~

とその時、目的地到着の知らせが車内に響き渡った。

 

火影

「もう到着か。降りる準備しようぜ」

「あ、私も戻らなきゃ。じゃーねー乱姉ちゃん!」タタタ

 

乱は挨拶し、自分の席に戻って行った…。

 

 

…………

 

火影達一行が降りたのは雪が随分積もった町のとある駅。

 

本音

「さささ寒い~!」

シャル

「まぁこんな場所だからね。…?ねぇ火影、あの湯気は何?」

火影

「あああれは温泉の湯気だ。近くに温泉街もあるからな」

シャル

「温泉!入りたいなぁ~!」

火影

「それならお婆ちゃん家も温泉を引いてるぜ。入っていきなよ」

本音

「ほんと~?やった~!」

「……」

 

皆が其々感想を言い合う中、鈴は町を見ながら何故か不思議そうに黙っていた。

 

シャル

「どうしたの鈴?」

「……うん、ちょっと」

「鈴姉ちゃーん!」

 

するとその時乱が鈴の名前を呼びながら走ってきた。

 

「乱!ちょ、ちょっとなんでまた来るのよ?叔父さん達はどうしたの?」

「お父さんにお願いしたの。夜まで鈴姉ちゃんと一緒にいてもいいかなって?せっかく会えたんだし。それになんだったら鈴姉ちゃんも一緒に行こうよ」

「そ、そうなんだ。……ってわ、私も?一緒に行こうってどういう事よ!ホテルか旅館でしょ?」

「…?何言ってんのよ鈴姉ちゃん。私達が行ってんのは」

シャル

「あ!バス来たよ」

 

 

…………

 

火影達。そして乱が加わった一行は暫くバスに揺られ、目的地の最寄りバス停に到着した。

 

火影

「こっからもうすぐだぜ。壁伝いに行きゃいい」

シャル・本音

「「は~い」」

「……」

「どうしたのよ鈴姉ちゃん?」

シャル

「どうしたの鈴、来た時からなんかおかしくない?」

「…うん。なんでかわからないんだけど…なんかこの町、初めて来たような感じがしなくて」

「そりゃそうでしょ?……といってもまだずっと小さかった時だったから覚えてないか。私もだけど」

「え?それってどういう」

本音

「ね~早く行こうよ~寒い~!」

 

……それからほんの2、3分位歩いて火影達は目的の屋敷に到着した。門がある古き良き日本という感じの邸宅である、

 

火影

「ここが母さんの実家だ」

「正に日本という感じの家ね」

本音

「カッコいい~」

シャル

「時代劇に出てきそうだね」

「貴方って結構な生まれの子なのね。でも鈴姉ちゃん、なんでこの人の家に来たのよ?」

「へ?」

火影

「たまたま俺の…いや正確には違うが近くにあったんでな。泊まり掛けならホテルとかに金使うなら、と思っただけだ」

「ふーん、でも鈴姉ちゃんは今日は私達と泊まるから良いわよ」

「ちょ、ちょっと何言ってんの乱!勝手に」

 

とその時玄関らしい引戸が開き、中からひとりの女性が出てきた。着物を来た黒髪の女性。

 

「まあまあ火影さん!いらっしゃい!」

火影

「久しぶり…沙雪お婆ちゃん」

鈴音

「この人が沙雪さん?」

シャル

「優しそうな人だね」

沙雪

「本当にお久しぶりね。よく来てくれたわ。もう何年になるかしら?」

火影

「俺と海之が小学校上がった頃かな」

沙雪

「もうそんなになるのね…。でも髪と瞳の色で直ぐに分かったわ。あの頃と変わらないわね。…ああ、そちらの方々が火影さんと海之さんのお友達ね?」

「は、はい」

本音

「こんにちは~!」

シャル

「初めまして」

「私は鈴姉ちゃんの付き添いですけど宜しくお願いします!」

沙雪

「こちらこそ宜しくお願いしますね。ああっ、こんなところで立ち話もなんだわ、さぁどうぞお上がりになってくださいな」

 

 

…………

 

案内された一行が邸内に入ると外と同じく中も和一色だった。木の引戸に襖、囲炉裏に畳。水回りの部分はリフォームされていたがそれでも十分和の家だった。皆は囲炉裏のある部屋に座り、沙雪からのお茶を出されて一服した。

 

本音

「は~~実家の様な安心感~~」

沙雪

「古臭い家でご免なさいね」

「いえいえ!全然そんな事ありません」

シャル

「寧ろ日本が感じられて良いです」

「こんな感じの家がまだ残ってたのね~」

「乱!それは微妙に失礼でしよ!」

沙雪

「いいのよいいのよ。私自身も時々そう思いますから♪ああ火影さん、先ほど海之さんからちょうど電話があったわ。長い間お会いできずに申し訳ありませんって」

火影

「それは俺も同じ気持ちだよ。俺も海之も会いたかったんだけど…迷惑じゃねぇかなって。俺達はその…一応養子だし」

沙雪

「まぁ、そんな事を気にしていたの?火影さん、貴方や海之さんが例え雫のお腹から生まれた子でなくても貴方達は雫とアルティスさんが愛し育てた子供。だから間違いなく貴方達は私の孫よ?そんな事これっぽっちも気にすることは無いわ。家の者達も同じ思い。だからいつでも気軽に帰ってきてね?折角日本にいるんですから」

シャル

「ほら火影。言った通りじゃない」

火影

「……ふ」

 

火影は微笑んだ。彼女の言葉で安心した様だ。

 

沙雪

「でも火影さんと海之さんが…アイエス?それを動かせるなんて…。あれって確か女性しか動かせないんでしょう?」

火影

「ああまぁ。…驚いたかい?」

沙雪

「ええもちろん最初はね。でもそのおかげでこうして日本に来てくれたんだから嬉しいわ。…ああ、自己紹介が遅れてしまって御免なさいね。この家の当主、藤原沙雪です。孫がいつもお世話になっております」

シャル

「いえいえ、僕達の方が良くお世話になってますから」

「沙雪さんが当主なんですか?」

沙雪

「ええうちは代々女が主なの。珍しいでしょ?」

本音

「ううんカッコいいです~。あ、私布仏本音です。宜しくお願いしま~す」

シャル

「フランスから来ましたシャルロット・デュノアです。初めまして」

沙雪

「布仏さんにデュノアさんね。ええ初めまして」

「中国人の鳳鈴音です」

「鈴姉ちゃんの従妹の乱音です!」

 

するとそれを聞いた沙雪の表情が何故か驚いた様な顔をする。

 

沙雪

「…鳳、鈴音さんに…乱音さん…?」

鈴・乱

「「え?」」

火影

「…お婆ちゃん?」

シャル・本音

「「?」」

 

沙雪は少し慌てながら鈴と乱に尋ねた。

 

沙雪

「ま…まさか…。あ、あの、もし間違っていたら御免なさいね?ひとつお聞きしたいのだけれど…貴女達のお知り合いに、劉炎龍(リュウ ヤンロン)さん、という方っていらっしゃるかしら?」

 

すると今度はそれを聞いた鈴と乱が沙雪以上に驚く。

 

「…え!」

「な、なんで!?」

火影

「ど、どうしたふたり共?」

 

すると鈴と乱は言った。

 

「どうしたもこうしたも!」

「私と鈴姉ちゃんのお爺ちゃんだよ!」

シャル

「ええ!?」

本音

「え――!」

「あ、あのお爺ちゃ…祖父を知ってるんですか!?」

沙雪

「! 貴女達のお爺様……ああ……やっぱり、やっぱりそうだったのね」

 

沙雪は口元を両手で覆って何か感情が高ぶっている様だ。

 

火影

「沙雪お婆ちゃんが…鈴の祖父を知っている…?」

「もしかして…お爺ちゃんの家と関係あるのかな…?」

「…!ど、どういう事よ乱!?」

 

鈴に問い詰められて乱は答える。

 

「あ、うん。実はね?私達はお爺ちゃんの家に行こうとしてたんだよ」

「! お、お爺ちゃんの家って…どういう事!?」

 

すると落ち着いたのか沙雪が話し始める。

 

沙雪

「それについては…私からお話するわ。御免なさいね急に取り乱したりして。……実はね、そちらの乱音さんが言われた通り、私は貴女達のお爺様、そしてお婆様の知り合いなの」

「ええ!!」

シャル

「幼馴染とかですか?」

沙雪

「…いいえ、大人になってからです。音葉(おとは)さんと炎龍さんに知り合ったのは」

「…音葉?」

「聞いた感じ…お婆ちゃんの名前…なのかな?」

 

初めて聞く祖母の名前に鈴は言葉が無い。

 

火影

「でもなんで沙雪婆ちゃんが知ってるんだ?」

沙雪

「……もう40年以上前の話よ。私も音葉さんから聞いた話なんだけど…おふたりのお婆様である音葉さんはここから遠い別の県で暮らしていたらしいの。そしてそこで中国から留学に来ていた劉炎龍さん。おふたりのお爺様と出会い、恋に落ちたって聞いたわ」

本音

「そうなんだ~」

 

するとここで火影が気づく。

 

火影

「ん?今のお婆ちゃんの言い方からすっと…ふたりのお婆さんは…日本人か?」

沙雪

「ええその通り。炎龍さんとご結婚される前は(くれない)っていう姓だったの」

シャル

紅音葉(くれない おとは)さん、か…。じゃあ鈴と乱ちゃんは…クォーター?」

「お婆ちゃんが…日本人…」

「私も初めて聞いた…」

沙雪

「…やがてそう時間も掛からずにおふたりは将来を約束するほどの仲になったらしいわ。…でも残念な事におふたりのお家はおふたりの交際を決して認めなかったらしいの。当時は今ほど国際結婚も多くなかったから…。でもおふたりの気持ちは決して揺らぐ事は無かった…」

シャル

「そうなんですか…。なんか悲しいね。お互い愛し合っているのに…」

沙雪

「そうね。…そしておふたりは思い切った行動をとったわ。両家の反対を押し切り、ふたりで誰も知らない場所に逃げた。つまり…駆け落ちしたの」

「か、駆け落ち!?」

「それもお父さん言ってなかったな…」

火影

「もしかして…その誰も知らない場所っていうのが」

沙雪

「……ええ。音葉さんと炎龍さんの駆け落ちた場所、それがこの隣町なの。おふたりと私が知り合ったのはその時よ。全く知らない場所できっと不安だったんでしょうね。ここのすぐ近くのバス停でふたりで座っていた所に私の母が声をかけたの。家におふたりを招き入れてから先ほどまでのお話を聞いたのよ。最初は駆け落ちなんて止めて戻った方が良い、と母は言おうと思ったらしいんだけど…若いふたりが駆け落ちなんてよっぽどの覚悟がなければできない事。戻れなんて言ってしまったらおふたりの覚悟を否定する事になってしまうって…」

鈴・乱

「「……」」

 

予想だにしなかった話に鈴も乱も言葉が無い。

 

シャル

「それでどうしたんですか?」

沙雪

「ふふ、驚かずに聞いてね?私の母がおふたりが自立し、新しい住居が見つかるまでこの家で暮らせって言ったの。使っていない部屋もあったし、音葉さんは家政婦、炎龍さんは中華料理屋さんでアルバイトしながらね」

鈴・乱

「「え――――!!」」

火影

「マジか…。ひいお婆ちゃんも凄ぇな」

本音

「凄い偶然~!」

シャル

「ほんとだね…。でも良かったね、沙雪さん達に出会って」

沙雪

「私も最初は驚いたけど同世代の話友達ができて嬉しかったわ。おふたり共一生懸命働かれて、それから一年間位して隣町に小さいアパートを借りる事になったの。あの時の充実した顔は今も覚えてる。私達は再会を約束し、おふたりは引っ越して行ったわ。そして…数年後には赤ちゃんが生まれた」

「あの…それってもしかして楽音って名前じゃ?私の父なんです」

 

沙雪は頷いた。

 

沙雪

「…ええ、劉楽音さん。それから1年後に信音さんも生まれた」

「…私のお父さんです…」

沙雪

「それから再び引っ越した先が今のお家よ。私も何回かお邪魔した事があるの」

本音

「さっきらんらんが言ってたお爺ちゃんの家だね~」

沙雪

「家族4人とても幸せそうだったわ。それから時は流れて…ふたりの息子さんはご結婚もされて自立されていったわ。炎龍さん、楽音さんが自分の真似をして中華料理のお店を開くとか言って上手くいくかなぁ?なんて仰ってたわよ。ふふ」

「私の実家だ…」

 

すると今度はシャルがふたりに質問する。

 

シャル

「ちょっと気になったんだけどさ?鈴と乱ちゃんが同じ姓なのはどうして?」

「あ、うん。それはね、私のお母さんと乱のお母さんが姉妹なのよ。3姉妹で長女が今も中国にいる叔母さん。次女が私の、三女が乱のお母さんなの」

「私のお母さんは叔母さんの紹介でお父さんと知り合ったんだ。そして結婚後に台湾に移り住んだの」

本音

「そうなんだ~!」

火影

「それもかなりレアなケースだな」

 

確かに兄弟それぞれの結婚相手が姉妹それぞれというのも珍しいものかもしれない。

 

沙雪

「…それでね。どうして私が貴女達のお名前を聞いて吃驚したかなんだけど…実は私は貴女達にも会った事があるのよ。まだ赤ちゃんの頃だけど」

鈴・乱

「「……え――――――!!」」

 

今日一番の声が出るふたり。

 

沙雪

「ちょうど15年前のお正月の頃よ。炎龍さんご一家が新年のご挨拶に来て下さったの。その時楽音さんと信音さんが抱いておられたのがまだ赤ん坊だった貴女達なのよ。名前を伺ったらお母様である音葉さんの「音」という字をもらって鈴音と乱音にしたんだって」

「私と乱の名前は…お婆ちゃんから貰ったんだ…」

「……」

 

思わぬ形で聞くことになった自分達の名前の由来に言葉が無いふたり。更に、

 

沙雪

「ああそうそう、火影さんと海之さんもその時一緒にお会いしたのよ?」

火影

「…えっ?」

沙雪

「ふふ、火影さんは覚えていないでしょう?その時当時2歳だった火影さんと海之さんも雫と一緒に来てたのよ。その時にね。アルティスさんはご多忙でしたので来られなかったんだけど」

火影

「そうだったのか…」

本音

「ほわ~…」

シャル

「こんな事ってあるんだね…」

「……私、赤ちゃんの頃に……火影に会ってた……」

「……」

 

火影とシャル、本音も流石に驚いた様子。

 

沙雪

「……でも、決して嬉しい事ばかりじゃなかったの…。実は…音葉さんがそれから3ヶ月後に重い病に倒れられてしまったの。発覚した時にはかなり進行していて…。それから…ほんの半年後に…」

「……え」

「…やっぱり…お婆ちゃん死んじゃってたんだ…」

シャル

「そんな…。一年もたなかったなんて…」

沙雪

「音葉さんはご自身の死を御実家には伝えないでと仰っていたらしいわ。自分の子供とお友達が覚えていてくれたらそれで十分だ、って…」

火影

「そんな裏話があったとはな。……でも、これでわかったぜ」

本音

「どういうことひかりん?」

火影

「鈴と乱が祖父母の事をあまり知らなかった理由だよ。これは想像だが…孫であるふたりに会う事に負い目を感じてたんじゃねぇかな?赤ん坊ならまだしも成長したふたりに。仮にも自分達は家を裏切った様な身だし。ふたりの両親もその意思を汲んで必要以上にふたりに話そうとしなかったんだろ。でなきゃお婆さんが亡くなったなんて普通教えるだろうし、鈴の親父さんもとっくに伝えていただろうしな」

「…そんな…」

「その予想は当たってると思う…。今回の旅行は以前お父さんから聞いて、私がどうしても行ってみたいって言ったから…」

沙雪

「そして音葉さんが亡くなって以来炎龍さんはずっと再婚もせず、今のお家をほんの数年前までひとりで守ってきたの」

「……?今は誰か他にいるんですか?」

 

鈴の問いに横に座る乱が答えた。

 

「乱姉ちゃん。今お爺ちゃん、楽音さんとふたりで暮らしてるらしいのよ。聞いてない?」

「……え、お父さん!?」

 

思わぬ事実に驚愕する鈴。

 

火影

「お婆ちゃん。実は鈴の両親は…」(事情説明)

沙雪

「……そうなの。ええ確かにそれは私も楽音さんから伺ったわ。でも鈴音さんがご存じないという事は…理由を話されていないのね…」

「ど、どういう事ですか!?」

沙雪

「…実はね、炎龍さんも数年前に大病を患って手術されたの。幸い完治はされたんだけど今後を心配した楽音さんがお店を畳んで里帰りしようと思ったらしいわ。炎龍さんの面倒を見るために。でも奥様の御実家は中国、しかも奥様の御両親も高齢。日本に永住し続ければそちらの方が見られないかもしれない…」

シャル

「……まさか、離婚の理由は」

沙雪

「…ええ。それが互いの幸せのためだって…帰ってこられた時に楽音さん仰ってたわ。そして自身はご実家である今の家へ、奥様は中国に帰った。鈴音さん、貴女を連れてね」

「…!」

 

衝撃の事実に鈴は驚きを隠せない。

 

沙雪

「鈴音さん、でもどうか信じてあげてね。お母様もお父様も決して仲たがいしてお別れしたわけじゃないの。お互いの事を思い合ってのため。楽音さん仰ってたわ。身内が少ない自分と一緒より中国で暮らした方が貴女にとってもいいって」

「私もそう思うよ鈴姉ちゃん。それよりゴメンね…私てっきり叔父さん話してるって思って…」

「……」

シャル・本音

「「鈴…」」

 

鈴は黙って俯いている。そこに、

 

ポン

 

火影は近寄り、鈴の肩に手を置く。

 

火影

「親ってのは無条件に子供を愛してるもんだ…て俺は信じてる。母さんと父さんが捨て子だった俺と海之を純粋に愛してくれたからかもしれねぇけど。親父さんがお前の傍から離れていったのも、ちゃんとやむにやまれぬ事情があったって事だ。そして決して悪い理由じゃなかった。それだけでも良かったじゃねぇか」

「……火影」

本音

「鈴、本音もそう思うよ。仲が悪くてお別れしたんじゃないなら…また会ったりもきっとできるよ~」

シャル

「鈴。僕も少し前まではお父さんとお母さんをあんまりよく思っていなかった。僕は愛されていないんだって。…でもよくよく話したら違った。お父さんは…僕を大切に思ってくれていた。そしてお母さんも、お父さんを思って協力してくれた…。その時、思ったんだ。親子って…難しいんだなぁって。多分鈴のお父さんもおんなじ気持ちだと思う…」

「本音…シャル…」

火影

「偶然にも親父さんの居場所はわかったんだ。今すぐって訳にはいかねぇかもしれねぇけど…また気が向いたら会いに行けばいいさ。どうせなら本音の言う通り、お袋さんも一緒にな」

「……」

 

…ガシッ

 

鈴は火影の胸にしがみついた。

 

「……私…ふたりが離婚して…中国に…帰る事になった時…なんでなんだろうって思った。なんで…日本を離れなきゃいけないんだろうって…。お母さんとお父さん…嫌いになっちゃったのかなって。もう…一緒には…いられないのかなって」

火影

「……」

「……でも、違ったんだ。お母さんと…お父さん…、嫌いになってなんか…なかった…。私は…大切に思われてた…」

火影

「……良かったな」

「……うん、……うん」

 

鈴は火影にしがみつきながら泣いている。

 

「鈴姉ちゃん…」

シャル

「今回はちょっと仕方ないよねぇ」

本音

「そうだね~。あ、ところでさ~?鈴とらんらんのお婆ちゃんが日本の人って事はふたりは日本人でもあるのかな~?」

沙雪

「ええそうね。鈴音さんと乱音さんには音葉さんの血が流れているから」

「!……そっか。…あと火影、私達昔会ってたんだね」

シャル

「それにも驚いたよね。箒風に言えば…ファースト幼馴染ってとこかな?」

火影

「はは、幼馴染はまだ早すぎるかもしれねぇけどな。全く妙な偶然だな鈴?」

「……えへへ」

 

次に顔を上げた時、鈴の顔は笑っていた。元気を取り戻した様だ。

 

「……ふふ」

沙雪

「お元気になって良かった。さぁさぁすっかり話が長くなっちゃったわ。そろそろお夕飯の支度をしないと。今晩は私も腕によりをかけなきゃ!」

本音

「わ~い!」

シャルロット

「ありがとうございます!」

「…そうね。私も楽しまなくちゃ。折角…懐かしい場所に来たんだから♪」

 

すると乱が、

 

「……あの、沙雪さん。もし良ければなんですけど…今日私もここに泊めていただいてもいいですか?両親には後で電話しますから」

沙雪

「ええ、ええ。勿論良いですとも」

「いいの乱?」

「どうせ私達はもう数日お爺ちゃんの所にいるしね。一晩位大丈夫よ。久々に鈴姉ちゃんとも話したいし。それに火影さんの言う通り鈴姉ちゃんも今すぐ叔父さんに会うのはちょっと気持ちの整理がつかないでしょ?」

「……ありがと乱」

 

その後、乱は自分の両親に連絡した。沙雪の話の通り、そこは鈴の父の実家であり、祖父母の家であった。乱の話を聞いた両親、鈴の父親、祖父全員がその奇跡的な偶然に非常に驚いていた。どうやら翌日揃って沙雪の家に挨拶に行くつもりだったらしい。今日は沙雪の家に泊まると聞いた乱の両親は快く了承した。また、乱の電話を借りて鈴は父親や祖父とも少し会話した。鈴は何とか落ち着きながら今すぐに会う事は出来ないけど年内には母と一緒に会いたい、話したいと言うと父親は「鈴の好きにすればいい」「会いたいと言ってくれるだけで十分だ」と電話越しに泣きながら話した。まだ見ぬ祖父とも近い内に必ず会いに行くからと約束し、笑いながら色々な事を話していた…。

 

 

…………

 

数時間後、囲炉裏を囲んでの夕食時はかなり盛り上がっていた。何よりも盛り上がったのは沙雪が知っている火影や海之の昔の話であり、これには鈴やシャルや本音だけでなく乱も笑っていた。当の火影は渋い顔をしていたがどこか今の様子に満足そうであった。……やがて夕食が終わり、女子陣がお風呂に行っている間、火影と沙雪はふたりで話していた。

 

沙雪

「こんなに笑ったのは久しぶりね」

火影

「たくあいつら人をネタに散々笑いやがって…女ってやつは。お婆ちゃんもぶっちゃけ過ぎだっての」

沙雪

「ふふ、良いじゃない子供なんてそんなものよ。皆さん本当に良い子達ね。可愛いガールフレンドさんじゃない。安心したわ」

火影

「……そうだな。俺には勿体ない位だ」

沙雪

「そんな事無いわよ。…大切にしてあげてね?」

火影

「……わかってる」

 

 

…………

 

鈴達は4人で一緒の部屋に眠る事になった。布団でゴロゴロする4人。

 

本音

「なんか臨海学校を思い出すね~」

シャル

「ホントだね。あの時もこうやってお布団並べて一緒に寝たっけ」

「元気ねふたり共。私は新年早々驚きの連続で疲れたわ」

「でも私は良かったよ。もしかしたらお婆ちゃんが導いてくれたんじゃないかな?」

「……そうかもしれないわね。……ふわぁ~、そろそろ寝ましょうか。明日も早いし」

シャル

「そうだね。僕なんてフランスだし。寝ようか本音?」

本音

「ZZZ」

「って寝付き良すぎでしょ!」

シャル

「あはは………僕も眠くなってきた。おやすみ~」

「ええおやすみ」

 

電気を消して全員が床に着いた。移動で疲れていたのか既に寝ていた本音に続き、シャルも間もなく寝息をたててしまっていた。…………すると、

 

「………鈴姉ちゃん、起きてる?」

「………うん」

 

乱が小声で直ぐ隣で眠る鈴に話しかけた。まだふたりは起きている様だ。

 

「今日は色々大変だったね。私驚きの連続だったよ。予想もしてなく鈴姉ちゃんに再会して…お爺ちゃんお婆ちゃんの事も…」

「……本当ね。でも良かったな。お婆ちゃんお爺ちゃんの事も分かったし…お父さんの事も」

「そうだね。…何時か会ってあげてね?」

「…うん。約束する」

 

そんな会話をしていると今度は、

 

「…ねぇ乱姉ちゃん」

「ん?」

「火影さんてカッコいいね~」

「………えっ」

「晩ご飯のデザートに苺が出たのを喜んだり子供っぽいところもあるけどなんか大人っぽいね。鈴姉ちゃんが織斑一夏に惚れてるの聞いてバカじゃないって思った時もあったけど何となくわかるな~。私、火影さん好きになっちゃったかな~?」

「!!…あ、あのね乱、列車じゃ言えなかったけど…私が今好きなのは一夏じゃなくて、その…」

「……ふふ、分かってるよ鈴姉ちゃん。…火影さんなんでしょ?さっきの火影さんに向けた笑顔見たらわかるよ。ちょっとからかっただけ。ムキになっちゃいました?こりゃご免なさいね~」

「……アンタそういうとこちっとも変わらないわね」

「えへへ~♪」

 

乱は懲りてない様だ。

 

「ハァ…、ねぇ乱、少しだけ聞いてもらって良い?」

「なんなりと」

「ありがと。…アンタの言うとおりよ。私は火影が好き。私だけじゃない、シャルも本音もよ。三人揃って告白もしたわ」

「……なんか修羅場的な話じゃないよね?」

「ふふ、そんなんじゃないわ。火影に向けての好意は…一夏のものとは少し違うの。最初は一夏と同じ様に単純に好きとか、お嫁さんになりたいとかそんな子供らしい感じ。…でも今は…なんというかそんな簡単じゃない…あいつの力になりたいの」

「…力に?」

 

乱の質問に鈴は心配させすぎない様濁しながら話す。

 

「私ね、火影に沢山助けられたり支えてもらったの。あいつ凄く強いのよ?心も体もISの技術も私なんか比べ物にならない位。私だけじゃない、シャルも本音も沢山の友達も、あいつに助けられたの」

「……そうなんだ」

「だけどその代わり火影は沢山辛い目にあったの。時には怪我したりした事もあったわ。でも辛さなんて全く見せない。いつも私達や人の事ばかり考えて」

「……良い人だね」

「だけど私は逆に苦しかった。私達が頼りないから火影が傷ついてしまうことに。足手まといだから一緒に行けないことに」

「そんな事!…あ、ご、ご免」

 

乱はつい起き上がって否定するがふたりが寝ているのを見て静かになる。

 

「ありがと乱。…だから私は火影に約束した。必ず私やシャル達も連れていってって。置いてきぼりにならないくらい強くなるから絶対連れていってってね。もうあいつにも、誰にも傷ついてほしくないから…」

「鈴姉ちゃん…」

 

暗闇の中、鈴の言葉には強い思いがあった事に乱は気づいた。そしてその力強さに乱は安心した様だった。

 

「…安心したわ。鈴姉ちゃんはやっぱり私が知ってる鈴姉ちゃんのままだよ」

「当たり前でしょ?…もう寝ましょ、話疲れたわ。私は明日中国だし」

「そうだね。……ああそうだ鈴姉ちゃん、最後にひとつ。私鈴姉ちゃんが火影さんが好きっていうのは分かったけど…大事な事忘れてるよ?」

「大事な事?」

 

すると乱は茶目っ気全開でこう言い放った。

 

「私諦めるなんて言ってないもんね~♪あと私も色々あって大事な事言い忘れてた。私今年からIS学園に台湾代表候補で入るから~♪お休み~」

「………………!!」

 

予想だにしない乱の告白に鈴は声なき声で反論するのであった。

 

 

…………

 

そして翌朝、火影や鈴達は乱の家族が来る前に出発する事にした。

 

鈴・シャル・本音

「「「お世話になりました~!」」」

沙雪

「また何時でもいらしてね」

「頑張ってね鈴姉ちゃん。皆、鈴姉ちゃんをお願いね」

シャル

「うんもちろん!」

本音

「またね~らんらん!」

火影

「心配すんな」

「今度会う時は私も仲間入りしてるかもね火影さん♪」

火影

「え?」

「ほ、ほら火影!列車に乗り遅れるわ行きましょ!」

 

鈴に腕を取られて歩き出す火影。それをブーブー言いながら自分達も火影の手を取るシャルと本音。そんな様子を笑いながら見送る沙雪と乱であった。




おまけ

夕食後、女子達は藤原邸のお風呂に入っていた。火影が言う通り温泉を引いている檜風呂である。

本音
「ふにゃ~♪」
シャル
「本音ったら猫じゃないんだから。まぁわかるけどね~♪」

「檜風呂は初めてだわ~♪」

「台湾にもいい温泉あるけど日本の温泉もいいわね~♪……それにしても」

乱は何故かシャルと本音を見て尋ねた。


「ねぇシャルロットさん、本音さん。聞きたいんだけど……どうすればふたりみたいに大きくなるの?」
シャル
「…ふぇ!?どどど、どうしてって言われても…」
本音
「大きいって何が~?」

「だっておかしいじゃないの~同年代でこんなに差があるなんて~。鈴姉ちゃんなんていつも悩んで………あ」

そう言いかけてなんか嫌な予感がした乱はゆっくり鈴の方を見てみると……、


「………どうせ私は小さいわよ」

酷く落ち込んでいた…。


「り、鈴姉ちゃん御免なさい!大丈夫だって!大切なのは内面だって!」

「ソウネーナイメンダモンネーベツニイイモンアイツハキニシテナイモン…」

「だからごめんて!許して!ねぇってば~」
本音
「なんか眠くなってきたな~…ZZZ」
シャル
「本音、お風呂で寝たら危ないよってもう寝てる~!」

騒がしくも平和なお風呂タイムであった。


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Extramission12 侵入者迎撃

これは火影達が沙雪の家に行っている時の海之のお話です。


千冬

「すまんな海之。帰国早々私達の用事に付き合わせて」

真耶

「お疲れの所本当にごめんなさい」

 

火影達が沙雪の家でくつろいでいる時、学園に戻ってきた海之は千冬、真耶の作業の手伝いをしていた。一夏は帰ってきて早々反省文で忙しく、箒はその付き添い。簪や刀奈は虚と一緒に実家に帰り、クロエも手伝うと言ったのだが海之が自室で休ませている。

 

海之

「気にされる事はありません。山田先生は俺達がいない間ずっと学園に残っていてくださったのですから。千冬先生にはスメリアでの恩もあります」

真耶

「…本当に海之くんは大人ですね。もうちょっと甘えてもいいんですよ?」

千冬

「恩など感じる事はない。私も子供たちの笑顔を見て癒されたからな。こんな性格故付き合い方は難しいが…あの子達の笑顔を見ると…未来を作ってやらねばと思う」

真耶

「私も子供は好きです。海之くんはどうですか?」

海之

「…そうですね。今は千冬先生と同じ思いです」

千冬

「そ、そうか…」

真耶

「…ふふ」

 

同じと言われて恥ずかしがる千冬。それを見て微笑む真耶。するとそこへ、

 

ガラッ

 

「失礼します。……織斑先生。山田先生。お久しぶりです」

真耶

「…あ!」

千冬

「…おおお前か、ギャラクシー」

 

千冬がギャラクシーと呼んだのはひとりの少女。濃い緑のショートの髪型でマントの様な特徴的な衣装をIS学園の制服の上に纏っている。何か体操的なものをしているのか非常に脚線美である。

 

真耶

「お久しぶりですギャラクシーさん!何時こっちに!?」

少女

「昨日です。ご挨拶が遅れた事、申し訳ありませんでした」

千冬

「構わん。私達もいなかったからな。向こうでの訓練はどうだった?」

少女

「はい。問題ありません」

真耶

「それは良かったです」

 

彼女達の会話に海之は邪魔にならない様あえて入らず作業に集中する。

 

少女

「…先生。もしかしてこの方は…」

真耶

「ああそうでした!彼は私達のクラスの生徒さんです」

 

そう言われて立ち上がる海之。

 

海之

「一年一組の海之・藤原・エヴァンスです」

少女

「! やはりそうですか…貴方が双子の男子IS操縦者の。私はヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー、タイ代表候補の二年生です。宜しくお願いしますね」

海之

「ええ宜しく」

 

海之は握手をしようと手を差し伸べたが、

 

ヴィシュヌ

「あ、え、えっと…」

 

何故か手を取らなかった。

 

千冬

「すまん海之。ギャラクシーの家は母子家庭でな。更に学校も女ばかりで男と触れ合った事がほとんどないのだ。悪く思わないでやってくれ」

ヴィシュヌ

「すみません…慣れなきゃいけないとは思っているんですけど…」

海之

「いえいえお気になさらず。ところでギャラクシー…確か副生徒会長がその様な名前だった様な…」

千冬

「ああ彼女がそうだ。ただ一学期の終わりから留守にしていてな。母国のIS特別訓練校にコーチに行っていたのだ。彼女は小学生の頃にISを動かしてな。他の者より経験も長いのだ」

真耶

「それにギャラクシーさんはヨガとムエタイの達人でもあるんですよ」

海之

「それは凄いですね」

ヴィシュヌ

「大した事はありません。それを言うなら貴方こそ数々の噂は伺っています」

海之

「大した事はしていません」

ヴィシュヌ

「新学期からはこちらに戻るのでお会いする事もあるでしょう」

 

ふたりがそんな会話をしていると真耶がある事に気付く。

 

真耶

「……なんか海之くんとギャラクシーさんって似てますよね~」

海之・ヴィシュヌ

「「え?」」

真耶

「だってふたり共頭脳明晰だし操縦技術も凄いし体術も習得されていますし同じ生徒会ですし、おまけに今の受け答えまで」

千冬

「そういえばそうだな。海之も剣術と格闘主体だからな」

ヴィシュヌ

「そうなんですか。では是非今度お手合わせしたいです」

海之

「こちらこそ。改めて宜しくお願いします、ギャラクシー先輩」

ヴィシュヌ

「ええ、エヴァンスくん」

 

 

…………

 

~~~~~~~~

その夜、海之がひとり自室で休んでいると突然海之の電話が鳴った。…千冬からだ。

 

海之

「はい」

千冬

「海之か。こんな時間にすまんな。悪いが…急いで指令室まで来てくれないか?」

海之

「何かあったのですか?」

千冬

「少しな。…大丈夫か?」

海之

「問題ありません。直ぐに行きます」

 

 

…………

 

指令室

 

 

海之が来るとそこには千冬と真耶、そしてシエラ(クロエ)とヴィシュヌもいた。

 

海之

「遅くなりました」

シエラ

「海之兄さん」

ヴィシュヌ

「お疲れ様です。エヴァンスくん」

真耶

「御免なさい海之くん。本当に休んでいただく暇もなく…」

海之

「気にしないでください山田先生。それより何があったのです?」

 

すると千冬が口を開く。

 

千冬

「…少々、いやかなり困った事になってな。お前達にも手伝ってもらいたく呼んだ。早速だが本題に入る。現在IS学園のセキュリティ及びシステムが一斉にダウン。状況からして…ハッキングを受けているものと推測される」

 

それを聞いて一気に動揺が走る一同。

 

ヴィシュヌ

「…しかし先生、学園のシステムはその重要度故、外部からは独立したシステムである筈では?」

真耶

「はい、確かに学園のデータベースは外部からは手が出せない様になっていますが…」

シエラ

「しかしできない事はありません。但しそれにはかなりの知識といくつかの条件が必要ですが」

 

手段は少ないが方法はあるとシエラは断言した。束の娘で弟子たる彼女だからこそわかる事だろう。

 

海之

「…とすると悪戯目的は勿論、単なるテロリストとは思えませんね…」

(そして多分奴の仕業でもない。奴ならこんな手段は今更使わないだろう)

ヴィシュヌ

「偶発的なものでも無いですね。何らかの明確な目的があって行っている筈です」

真耶

「し、しかし一体誰が…?この学園は国際法で一切の干渉は認められていない筈なのに…」

海之

「このような事をする奴らにそのような文句は通じませんよ山田先生」

千冬

「しかしこれは由々しき事態だ。ここには個人情報のみでなく代表候補やそのISのデータも含まれている。だがそれらがある場所はデータベースの奥の奥。しかもそこに辿り着くまでには何重もの独立したセキュリティを突破しなくてはならない。そう簡単には出来ない筈。その前に原因を排除し、システムを復旧させなければならない。不幸中の幸いかどうかはわからんが今は学園に残っている生徒は少ないため他の生徒への実質的被害はほぼ無いだろう。しかし逆に言えばそれだけ対処できる人間がいない事も意味している」

ヴィシュヌ

「私達だけで対処するしかないという事ですね」

シエラ

「私はISがまだ修理中のため後方支援をします。申し訳ありません…」

海之

「気にするなシエラ。それで俺達はどうすれば?」

 

海之の問いに真耶が答える。

 

真耶

「海之くん、ギャラクシーさん。おふたりには電脳ダイブを行い、原因の排除に向かって頂きたいんです」

 

聞きなれない言葉だが海之達はそれに反応する。

 

海之

「電脳ダイブ…。確か…IS操縦者の意識をISの同調機能とナノマシンの信号伝達によって…」

ヴィシュヌ

「仮想化及び視化して仮想世界、いわば電脳世界へと侵入する技術よ。私も実際試した事は無いけれど」

真耶

「そうです。これならば例えばコンピュータウィルス等の様な目に見えぬ相手にも直接且つ迅速に対応する事が出来ます」

千冬

「お前達はこれを用いて電脳世界に侵入し、システムダウンの原因を排除してもらいたい」

シエラ

「その後、私がシステムの復旧作業に入ります」

ヴィシュヌ

「シュヴァイツァーさんはそんな事ができるんですか?」

シエラ

「え、ええまぁ」

海之

「……」

真耶

「どうしました海之くん?」

海之

「…先生、外部の方にも警戒を敷いた方がいいと思います」

ヴィシュヌ

「…そうね。それがいいかもしれない」

真耶

「どういう事ですか?」

 

真耶の問いかけに海之は答える。

 

海之

「考えたくはありませんが…敵方も電脳ダイブを行い、サーバに直接侵入しようとしている可能性もあるのではないかと」

ヴィシュヌ

「…低いけどありえない事は無いですね。それにもしダイブを行っている間、その者の意識は電脳世界に行っているため身体は無防備になる。全員がダイブを行い、任務完了まで野ざらしなんて危険を冒すとは思えない」

海之

「ええその場合一隊がダイブを、もう一隊がそれを援護している可能性があります。そうなると敵は外部、恐らくすぐ近くにいる可能性も…」

シエラ

「警備システムをダウンさせたのも脱出を容易にするためとも説明できますね」

千冬

「ひとりが内の、もうひとりが外の排除という事か…、良いだろう」

ヴィシュヌ

「では私がダイブを行います。海之くん、外の方は頼みますね」

海之

「了解です。先輩もお気をつけて」

ヴィシュヌ

「ええ貴方も」

 

 

…………

 

「電脳世界」

仮想空間、サイバースペースと呼ばれることもあるその世界はコンピュータやネットワークの中に広がるデータ領域であり、多数の利用者が自由に情報を流したり情報を得たりすることが出来る非現実の空間。そんな空間に複数の影が怪しい動きを見せていた。

 

「…どうだ?」

「最後のウォールを突破するまでにはもう暫く時間がかかります」

「そうか…ちっ、やはりIS学園のセキュリティ。何重にも防壁を敷いている様だな。警備システムをダウンしているとはいえ今の現状は向こうも気付いている筈だ。急がねばならん、もし織斑千冬が出てきたりなどすれば」

「大丈夫ですよ。現在学園の警備体制は最低限しか機能していないという情報を掴んでいます。それにいざという時は外部の隊を」

 

とその時、

 

ヴィシュヌ

「何をしているんですか?」

「「「!!」」」

 

声をかけられた事でその者達は振り向くと…そこには電脳世界にダイブしてきたISを纏ったヴィシュヌがいた。赤や黄色やオレンジの配色が目立ち、脚部の装甲が他の部分より大きく、巨大な弓があるISである。

 

ヴィシュヌ

「ダイブは初めてですが現実とそれ程の違いは感じませんね。…それにしてもまさか本当に直接サーバへの侵入を試みるなんて…。エヴァンスくんの推測が当たったわね」

「ちっ!予定よりも早かったな…」

「だが見たところ相手はひとり。しかも織斑千冬でもない」

「見た所専用機の様だな。ならば逆にそのISのデータもいただくとしよう」

ヴィシュヌ

「ひとりだと思ってあまり甘くみられない方が良いですよ。貴女達全員拘束させていただきます」

「馬鹿め!我々に敵うと思うなよ!」

「我々に失敗は許されんのだ!」

ヴィシュヌ

「…ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー。ドゥルガー・シン。いきます!」

 

電脳世界でのヴィシュヌと謎のIS部隊との戦いが始まった…。

 

 

…………

 

一方その頃、現実世界の学園の一画でも複数の影が動いていた…。

 

「…隊長、βチームはどうやら同じくダイブしてきた者と交戦状態に入った様です」

「交戦だと?織斑千冬か!?」

「…いえ。ですが専用機を纏っている事からどこかの代表候補ではないかと」

「…そうか。ならば丁度いい。それもある程度は予想済みだ。直ぐに片づけて目当ての情報とまとめてその専用機も」

 

 

ボンッ!!!

 

 

「「「!!」」」

 

するとその時、その者達の周囲に凄まじい爆煙が上がった。

 

「な、なんだ!?」ドゴッ!「ぐあっ!」

「どうした!」バキィッ!「ぎゃあ!」

 

次々と悲鳴を上げる謎の者達。煙に紛れての突然の奇襲に直ぐに対応できないでいる。するとそのうちのひとりがセンサーで確認する。

 

「! た、隊長!何者かが煙に紛れて我々を」ドゴッ!「ぐほ!」

「ちぃ!どこだ!?」

 

そしてやがて煙が晴れていき、周囲が見える様になると、

 

海之

「護身用のグレネードがまたこんな形で役立つとは」

 

そこには手に刀を持ち、謎の者達を数人ダウンさせた海之がいた。

 

「こ、子供!?」

海之

「俺の読みが正しかったな。やはり外部にも敵がいたか」

「何故ここがわかった!警備システムは完全にダウンした筈なのに!」

海之

「ダウンさせたなら戻せばいいだけの事だ」

「馬鹿な!こんな短時間でだと!?」

海之

「生憎こちらには世界最高の科学者の弟子がいるのでな。カメラのシステムだけなら造作もない。さて…貴様らには聞きたいことがある。そこに寝ている者達共々連行させてもらうぞ」

「何をふざけたことを。たかが子供ひとりに我々が捉えられるものか。……そうか、貴様が噂の男子IS操縦者のひとりか。ならば丁度いい、逆に貴様のISを頂くとしよう」

海之

「その子供ひとりに既にお仲間は何人か沈められた様だが?」

「たわけ!予想だにしない奇襲で少々油断しただけよ!」

「貰い受けるぞ!貴様のISを!」

 

そう言い放って海之に向かって行く者達。

 

海之

「……」

 

 

…………

 

その光景を海之が忍ばせたカメラから見ている千冬、真耶。クロエ。

 

真耶

「まさか…本当に学園に侵入しているなんて…」

千冬

「統率された動き、そして学園のセキュリティを破るほどの知識…間違いなくどこかの部隊だな。しかも持ち運びできる程の電脳ダイブを行える装置まで用意しているとは…軍の新兵器か…?」

 

するとシエラがその隊の特徴から割り出した。

 

シエラ

「……装備等や相手の言葉の特徴からデータ称号完了。99、9%の確立で米軍特殊部隊「アンネイムド」の実働部隊と断定しました」

真耶

「べ、米軍!?」

千冬

「…アンネイムド。…聞いた事が無いが」

シエラ

「当然です。記録は愚か存在の証明がなにひとつない。隊員達も国籍も人種もバラバラで共通点もありません。正に名無し、幽霊の様な部隊です」

千冬

「…よくそんな部隊と判明できたな?」

シエラ

「人のやる事に完璧はありません。目には目をというやつです。勿論証拠は一切残していませんのでご安心を」

真耶

「で、でもアメリカが関係しているなんて…、こんなことが公にでもなれば間違いなく国際問題ですよ!それがわかっていない筈は…」

千冬

「……」

 

沈黙して何かを考えている千冬。すると、

 

真耶

「! せ、先輩大変です!ギャラクシーさんとの連絡がとれません!ジャミングの様なもので阻害されています!」

千冬

「何だと!それでギャラクシーは!?」

真耶

「…わかりません。戦闘が継続中である位しか…」

千冬

「……」

 

 

…………

 

一方その頃、アンネイムドの部隊はウェルギエルを奪うため、海之に襲い掛かるが、

 

隊員

「ぐ、ぐぐぐ…」

「ば、馬鹿な…」

「こんな子供に…」

 

重厚な装備を纏っている隊員達は軽装な海之に既に何名かダウンさせられていた。

 

海之

「……」

隊長

「くそ!一度にかかれ!」

 

隊長らしい男の指示で周囲から三人の隊員が海之に一斉に向かう。しかし、

 

海之

「はっ!」

 

ドゴッ!バキィィッ!ガガガガガ!

 

隊員

「「「ぐあああああ!!」」」

 

ひとりは蹴りを顔側部に、ひとりは腹部に刀の峰打ちを、もうひとりは持っていたスタンロッドを腕を掴まれて逆に自分が受ける事になり、結局三人ともダウンしたのであった。

 

隊員

「ば…かな…」

「くそ!こうなったら銃を使え!」

「し、しかしもし殺しでもしたら!」

「麻酔弾ならなんとでもなる!撃て――!!」

 

ズダダダダダダダダダ!!

 

そして隊員たちは海之に向かって銃を撃つのだが、

 

キキキキキキキキキン!!

 

海之は刀を回転させてそれを受け止め、打ち返した。

 

隊員

「じゅ、銃弾を受け止めて跳ね返しただと!?」

「な、なんて奴だ」ドゴッ!「ぐあ!」

 

倒れているひとりの腕に刀を押し当てる海之。

 

海之

「喚くな、薄汚い血を流していないだけでもありがたく思え」

隊員

「なんだ…なんなんだお前は!?」

海之

「只の人間だ。今はな」

千冬

「…海之!」

 

とそこへ戦闘服らしい身軽な服装に着替え、手に刀を持った千冬が後ろからやって来た。

 

海之

「千冬先生。どうしてここへ?」

千冬

「お前達だけに戦わせるのも悪いからな。…海之、ここは私に任せろ。この程度ならISが無くとも何とかなる。お前はギャラクシーの応援に行ってやれ。先ほどから連絡が取れん」

海之

「! わかりました。…頼みます」ジャキッ

 

海之はそう言うと自分の刀を千冬に渡し、ヴィシュヌの救援に向かった。

 

千冬

(迷うことなく「頼みます」か…。私を信用してくれているのだな…)

 

心の中でそう呟くと千冬は二刀流を目の前の者達に向き直し、

 

千冬

(ならば…その信用に応えるのが私の役目だ!)

「さぁ、選手交替の第2ラウンドといこうじゃないか」

隊員

「お、織斑千冬…伝説のブリュンヒルデ…!」

千冬

「かかってこい。但し…勝敗は決定しているがな!」

 

 

…………

 

その頃、電脳世界ではヴィシュヌとアンネイムドIS部隊との戦いが続いていた。

 

ヴィシュヌ

「はぁ!!」ドゴォォォ!

隊員

「ぐあぁぁ!」

 

ヴィシュヌの蹴りが相手のひとりに決まる。彼女のIS「ドゥルガー・シン」はムエタイが得意な彼女に合わせて蹴り主体な攻撃を得意とするISであった。真耶の言う通りその実力は高く、対複数ではあるが互角に渡り合っている。

 

隊員

「くそ!代表候補にしては中々やる!」

 

しかしやはり数の差も無視できず、彼女の方には疲労が見えていた。

 

ヴィシュヌ

(くっ…やはりひとりでこの数を相手にするのは少々欲張りでしたね…。ジャミングされているのか通信もできないし…、先生方が気付いてくれている事を祈るしかないですね…)

隊員

「落ち着け!どんなに強かろうが相手はひとりだ!圧し進んでかかれ!」

 

ドドドドドンッ!

 

ヴィシュヌ

「くっ、考えている暇はありませんね!はぁぁぁぁ!」ドドドドドンッ!

 

ヴィシュヌはそう言うと向かってくる敵に対し、弓型の武器で複数の粒子弾を発射した。その攻撃に複数が巻き込まれるがギリギリで躱した者が接近戦を仕掛ける。

 

隊員

「喰らえ!」…スカッ!「!!」

 

しかしヴィシュヌは華麗な動きでそれを回避する。ヨガとムエタイにより得られた身体の柔軟性を利用した見事な回避である。

 

ヴィシュヌ

「遅いですよ!」ズガンッ!!

隊員

「うわぁぁ!!」

 

そして敵の上部から再び蹴りを喰らわせる。

 

隊員

「そこだぁ!」

ヴィシュヌ

「! しまった!」ドゴォォ!「きゃあぁぁ!!」

 

後方から迫っていた別の敵が攻撃を繰り出した。少なからず消耗していたヴィシュヌはその攻撃を喰らってしまう。すると、

 

隊員

「今だ!リムーバーウェーブを照射しろ!」

「はっ!」

 

ババババババババババッ!!

 

ヴィシュヌ

「!!」

 

敵はヴィシュヌの周囲に謎の赤い光を照射した。……しかし痛みは無い。

 

ヴィシュヌ

「な、何なのこれは……!!」

 

キュゥゥゥゥゥンッ

 

すると何故かヴィシュヌのISが強制解除されてしまった。彼女は直ぐに再展開しようとするが、

 

ヴィシュヌ

「! どうして!?ISが展開できない!」

隊員

「どうだ!我らの新兵器、リムーバーウェーブは!この光を受けると強制的に一定時間ISの展開が無効になるのだ。同じ相手には通じないがな」

ヴィシュヌ

「くっ、卑怯な…!」

隊員

「恨むのならばダリル・ケイシーを恨むのだな!」

「収穫は多ければ多い程いい!お前のISもいただくぞ!」

 

そして敵の魔手が戦闘不能になったヴィシュヌに向かう。

 

ヴィシュヌ

(!!……お母さん!!)

 

目を閉じて悔し涙を浮かべるヴィシュヌ。最早これまでかと思った……その時、

 

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

 

隊員

「きゃあああ!」

「ぐああああ!」

「うわあああ!」

ヴィシュヌ

「!!」

 

突然響く敵の悲鳴。何事かと驚いたヴィシュヌは顔を上げる。

 

 

海之

「………」

 

 

そこには両手両足にベオウルフを展開し、全身から青い光を発して輝くSin・ウェルギエルを纏った海之がいた。

 

隊員

「な、何だ!?」

「全身装甲のISだと!?」

「何時の間に!全く動きが見えなかったぞ!」

海之

「ご無事ですか先輩」

ヴィシュヌ

「その声…エヴァンスくん!どうしてここへ!」

海之

「向こうが目処がつきましたので山田先生に送っていただきました。先輩は下がっていてください。後は自分が」

ヴィシュヌ

「あ、貴方ひとりなんて無茶です!私も」

海之

「貴女に何かあれば貴女の母親が悲しむ。貴女の教え子達も」

ヴィシュヌ

「!!」

海之

「安心してください。先輩は俺が守ります」

ヴィシュヌ

「海之くん…」

隊員

「…貴様まさか、双子の男子IS操縦者か!」

海之

「貴様らの下らん小細工も此れまでだ。既に外の奴らは千冬先生に片付けられている。逃げ場はない。大人しく投降しろ」

隊員

「なんだと!?」

「ほ、報告します!外の隊と連絡が取れません!」

「……くっ、こうなればお前達を人質にして活路を開くまでだ!」

海之

「まだ諦めんか」

隊員

「舐めるなよ!お前にも味合わせてやるわ!我々の底力を!」

「リムーバーウェーブ照射!」

ヴィシュヌ

「! 海之くん逃げて!」

 

バババババババババ!!

 

そして敵はリムーバーウェーブを海之に向け、再度射出した。その光に当てられる海之。

 

ヴィシュヌ

「ああ!」

隊員

「ははは!どうだ!このリムーバーウェーブの前ではどんなISでも……!?」

 

敵は目を疑った。確かに海之の纏うウェルギエルに光は当たっている。しかし…ウェルギエルには何の変化も起こらなかった。

 

海之

「……それで、どんなISでもなんだ?」

ヴィシュヌ

「! 海之くん!大丈夫なの!?」

隊員

「リムーバーウェーブが通用しないだと!?」

「ば、馬鹿な!現状いかなるISにも対処できる筈なのに!」

海之

「リムーバー…成程、一夏が食らったというIS強制解除装置か。しかし生憎だがこいつの中にいる奴らはこんなもので何とかできる程大人しい奴らではない。…そして」

 

カッ!!

 

海之がそう言うと彼の背後に黒い光が現れて弾け、

 

ナイトメアV

「……」

 

海之とヴィシュヌを守る様に出現したナイトメアVが敵を見下ろしていた。

 

ナイトメアV

「……」ギロッ

 

隊員

「なんだこいつは!」

「うわぁぁ!」

「ば、化け物だ!」

ヴィシュヌ

「ひとつ目の巨人!?」

海之

「どうやら勝手に触れられてお怒りの様だ。…遊んでやれ」

 

 

…………

 

朝までにはきれいさっぱり終わっていた。システムはクロエによって急速に修復され、学園に侵入してきた者達は海之や千冬、ヴィシュヌによって全て倒され、逮捕された。……しかし、

 

真耶

「どういう事ですか!?襲撃してきた人達は全て本国に送り返すって!」

 

逮捕されたアンネイムド隊員達は日本で刑を受けることなく、本国に移送される事になったのであった。しかも世間には知られない様密かに。捕まえて早々警察からその連絡があり、千冬からそれを聞かされた真耶が憤慨している。

 

真耶

「此方はシステムをハッキングされてほぼ無防備の危険に晒された上、ギャラクシーさんは負傷、しかも拉致の危険まであって本当に危なかったんですよ!?それなのに向こうが罪に問われないってどういう事ですか!?」

千冬

「……」

 

ガラッ

 

その時扉が開き、ふたりの女性が入ってきた。

 

「それについては私達が説明するぜ」

ナターシャ

「久し振りですね…千冬」

千冬

「ナターシャか…。それにイーリス」

イーリス

「久々じゃねぇか千冬。前のモンドグロッソ以来だな」

 

ひとりは嘗てのシルバリオ・ゴスペルのパイロットである米空軍パイロット、ナターシャ・ファイルス。そして男の様な喋り方のイーリスという女性。名をイーリス・コーリング。彼女もナターシャと同じく千冬の学友であり、現時点でのISアメリカ代表であり、ナターシャの上官でもある。

 

千冬

「お前達がここにいるという事は…」

ナターシャ

「ええそう。隊の者達は私達が連れて帰ります」

イーリス

「今回の騒動はうちの馬鹿なお偉いさんが奴らに命じて勝手にやった事。アメリカ政府は認可していなかった事なのさ」

 

イーリスはそう言うが千冬は言い返す。

 

千冬

「…と、いうカバーストーリーなのだろう?こんな大それた計画、幾ら隠密行動が得意な部隊とはいえ何のバックアップもないまま実行できる筈はない。ましてや簡易式の電脳ダイブ装置等な。恐らく背後にはアメリカ政府が付いている。しかし大方責任は全て捨て駒に押し付けて黒幕はのうのうと休暇、という訳か」

イーリス・ナターシャ

「「……」」

真耶

「そんな…そんな事許されるんですか!?生徒ひとり傷つけてISのデータまで奪おうとしておいて!」

 

真耶は激しく追及する。普段温厚な彼女がここまで怒るのはハッキングされた事よりも生徒が危険にさらされた事が大きい様だ。

 

千冬

「…今回の任務の目的は何だ?」

 

するとイーリスがそれに答えた。

 

イーリス

「ダリル・ケイシーを覚えているかい?彼女はつい先日までアメリカ代表候補だった。しかし彼女はあのファントム・タスクの工作員だった。その事実だけでもアメリカは既にかなりのダメージを受けてる。テロリストを国家代表候補にしていた国ってな。アメリカ政府は即彼女に関わる情報を全て削除する事を決定した」

千冬

「だから秘密裏に削除しようとしたのか?そんな事しなくても既に彼女は除籍されているのは知っている筈だが?」

ナターシャ

「ええそれだけの理由ならばこんな馬鹿な事はしませんわ。でも…上層部はそれだけでは納得しなかった。ただ単に消しただけでは国の傷は、恥は消せない。もっと決定的なものが必要だと」

真耶

「…決定的なもの…?」

 

すると千冬が気付いた。

 

千冬

「…海之達か」

イーリス

「流石だな千冬。……そうさ、目的は男子IS操縦者達のISの情報。それを手に入れる事だ。現在世界のどこも手に入れていない情報。まぁ織斑一夏の情報は既に手に入れてるがあのエヴァンス兄弟。それについては全くの未知だ。それをどの国よりも先に手に入れれば一気に堕ちた分を取りもどせると上は思ったんだ。その後は裏工作や金でどうとでもなると」

真耶

「なっ!!」

ナターシャ

「ですが見ての通り作戦は失敗…。もし万一失敗した場合、政府は一切自分達は関わっていないという事。全ては一部の暴走によるものだとすることを決定していたのです…」

千冬

「それで学園への説得役がお前達という訳か…」

真耶

「…そんな…」

 

衝撃の事実に真耶は言葉が無い。

 

ナターシャ

「…お怒りは重々承知しております。しかし今回任務を遂行したアンネイムドは本来存在しない部隊。彼らの活動もまた公にできない事ばかり。表に出す事はできないの。もし知られたら最悪あらぬ噂まで流されてしまいます。あれもこれも全てアメリカの仕業かもしれないと…」

イーリス

「それに仮にも米軍きっての特殊部隊が千冬もいたとはいえ、たった数人の少年少女にものの見事に全滅されたなんて事が世に知られれば米軍の面子は丸つぶれ。アメリカの権威は地に堕ちる。それだけは絶対に防がなければならねぇんだよ…」

真耶

「じゃあ…じゃあ今回の事は全て水に流せっていう事ですか!?最初から無かった事にしろと!」

千冬

「落ち着け真耶…気持ちはよくわかる。私もお前と同じ気持ちだ。…だがこれは国と国との問題。我々には…手の出しようがない」

真耶

「……」

ナターシャ

「お約束します。公にはできませんがこの作戦で損傷させてしまった当方への賠償も全て誠心誠意行います。日本政府にもタイ政府にも既に裏で謝罪も行っています。ですから…どうか」

イーリス

「当然作戦中に得たデータも全て抹消する。決して悪用はしねぇ…させねぇ。…頼む。こんな事言える資格なんてねぇが…アメリカを助けてくれ…」

 

ふたりは千冬と真耶に深く頭を下げた。その態度は本物であった。

 

千冬

「真耶、ふたりは信じれる。私に免じてここは…」

真耶

「…………わかりました。ただし…絶対に誠心誠意謝罪してください。特に海之くんやギャラクシーさんには」

イーリス

「…すまねぇな」

ナターシャ

「誓います。…ありがとう千冬、それに真耶さん」

イーリス

「…では俺達はこれで失礼するぜ。あいつらの護送任務を受け持ってるからな」

 

そしてふたりはよく職員室から出て行こうとすると、千冬が再び声をかける。

 

千冬

「ああそうだ。…ある者からふたりに伝言がある」

イーリス

「…ある者?」

千冬

「ああ。実はどうやらそいつも今回の事もある程度予測していたらしくてな。もし関係者が来たら伝えておいてくれ。との事だ」

 

そして千冬はこう言った。

 

千冬

「そのまま伝えるぞ?…頭の固い連中に伝えておけ。俺は襲撃者がどうなろうと興味はない。だがもし今度、学園や俺達の故郷に爪の先程も手を出そうとしたら…俺達の剣先や銃口は貴様らに向ける事になる…とな」

イーリス・ナターシャ

「「……」」

千冬

「私にはわかる。これは決して脅しではない警告だ。あいつらは本気でやるぞ?もしあいつらが怒り狂えば…誰も止められん。私にもな。それもよーく伝えておけ」

 

千冬は挑戦的な笑みを浮かべてハッキリと伝えた。

 

イーリス

「……ふ、わかった。しっかり伝えておくぜ」

ナターシャ

「…それでは」

ふたりもやや笑いながら部屋を出て行った…。こうして一晩だけの小さな、且つ大事件はひっそりと幕を閉じた…。

 

 

…………

 

暫くした後、海之はとある場所で何やら端末を打っていた。クロエはシステムの復旧作業を夜通し行って先ほど完了し、部屋で休んでいる。

 

海之

(…仮想空間へ入り込める電脳ダイブ…。これを使えばもっとわかりやすくあいつらに伝える事ができるかもしれんな…。あの時あいつが俺達を見れば自ずと信じる、と言ったのはこれの事だったのか…)

 

何かを考えている海之。するとそこへ、

 

ガラッ

 

海之

「…! ギャラクシー先輩、大丈夫ですか?」

ヴィシュヌ

「ええ大した事ないわ。先生が大袈裟に包帯巻いただけ」

海之

「それは良かったです」

 

ヴィシュヌは海之の隣の席に座る。海之は作業を続けながら話す。

 

ヴィシュヌ

「…助けてくれてありがとう」

海之

「礼を言われる事はしていません。当然の事をしたまでです」

ヴィシュヌ

「それでもよ。…貴方、本当に強いのね。ただ強いだけじゃない。なんというか…信念を感じたわ」

海之

「そんな大層なものではありません」

ヴィシュヌ

「…聞いた?私達が戦った部隊の人達、本国に送還されたそうよ。先ほど護送任務を受け持った方が来られたわ。今回の事…本当に申し訳なかったって」

海之

「らしいですね」

ヴィシュヌ

「貴方にも会いたかったらしいんだけど…会おうとしてくれなかったって」

海之

「興味ありませんから」

 

まるで何でもないように返事する海之。そんな彼にヴィシュヌは尋ねた。

 

ヴィシュヌ

「…悔しくないの?」

 

すると海之は作業を続けながら答える。

 

海之

「シエラや先生方、先輩を守れましたから…これ以上は望みません」

ヴィシュヌ

「!……」

 

ヴィシュヌの心に海之のその言葉が響いた。

 

ヴィシュヌ

「……失礼な事言ったら御免なさいね。……私、最初に貴方と会った時、お人形さんみたいな人だなって思ったの。なんというか…必要な事以外全く興味無い様な感じがしたから…。表情も殆ど変わらなかったし」

海之

「気になさらないでください。俺も時々自分をそう思いますから」

ヴィシュヌ

「……でも違ってた。貴方が私に何かあったら母や私が教えている子達が悲しむ、だから守るって言ってくれた時、よくわかったわ。貴方にも…ちゃんと大切に思う人達がいるんだなって」

海之

「…俺も人間ですから」

ヴィシュヌ

「…ええそうね。……ねぇエヴァンスくん。ひとつお願いがあるんだけど良いかしら?」

海之

「何ですか?」

 

ヴィシュヌは言った。

 

ヴィシュヌ

「……これからは私の事、名前で呼んでくれる?」

海之

「…?先輩が良いのでしたら。では俺の方も海之と呼んで下さい。生徒会等で集まった時に弟と一緒だと困るでしょうから」

ヴィシュヌ

「ありがとう…。これから宜しくね、海之くん」

 

ヴィシュヌはそう言いながら立ち上がると微笑みながら手を差し出した。

 

海之

「……ええ、ヴィシュヌ先輩」

 

海之も立ち上がり、微笑を浮かべて彼女の手を取って握手した。




※次回は28日(土)の予定です。次回は一作品の予定です。

レギュラー化の様に書いていますがあくまでもゲストなのでヴィシュヌはヒロインとしては書かない予定です。ただこのふたりってよく似ていると思うんですよね。

乱登場回はどうだったでしょうか。原作を読んでいないため鈴の出生についてはオリジナル全開ですが自分としては結構気に入っています。

※もうひとつお知らせがあります。
私事ですが編集に使っていたノートPCが経年劣化か故障してしまった様です…。修理に出さなければいけないかもしれませんのでその間スマホで編集しますが時間がかかるかもしれません。一応来週分は上げれる予定です。


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Extramission13 ラウラとベルベット

これはスメリアからドイツに帰国したラウラのお話です。

※12月18日よりDMC5SEとカプコンカフェがコラボ決定!


ドイツ 某空港

 

 

ラウラ

「ふぅ…日本からよりもまだ近いとはいえ、やはり長時間の飛行機は何度経験しても中々疲れるものだ」

 

ここは国際便があるドイツの空港。スメリアからひとり、漸くラウラが帰国した。飛行機を降り、ゲートから出てくると、

 

「隊長!」

 

そこにはラウラの帰国を待っていた人物がいた。軍服を着て短い黒い髪、ラウラと同じく眼帯をしている女性。

 

ラウラ

「おおクラリッサ!」

クラリッサと呼ばれた女性

「隊長!お迎えに上がりました!」

ラウラ

「うむ!ご苦労!」

 

敬礼をして挨拶するふたり。その後クラリッサという女性が運転する車に乗り込み、ラウラは自らの部隊の者がいる基地に向かう。

 

ラウラ

「留守の間ご苦労だったなクラリッサ。家族のためとはいえお前には多くの無理難題や負担をかけてしまった」

クラリッサ

「とんでもありません。それより急なお話で驚きました。今回は戻ってこられないと思っておりましたから」

ラウラ

「ああ。本来なら戻ってくるつもりは無くレーゲンも修理が完了次第送ってもらうつもりだったが、家族から母国の者達との時間も大切にしろと言われればな」

クラリッサ

「そうでしたか。部下も喜びます」

 

クラリッサ・ハルフォーフ。彼女こそラウラが隊長を務める黒兎隊「シュヴァルツェア・ハーゼ」の副長である。

 

クラリッサ

「それにしても隊長、殿方や弟君がご無事で良かったですね!」

ラウラ

「…ああ。本当に良かった。心からそう思う…」

 

ふたりの無事をもう一度深く喜ぶラウラ。するとクラリッサが、

 

クラリッサ

「それで………つきましては隊長。殿方とは………その夜は?」

ラウラ

「? ああ一緒に寝た。生徒会長の指示でな」

クラリッサ

「!! な、なんと!そうですか!良かったです!いやー良かった!」

ラウラ

「お、おい!運転に集中せんか!」

クラリッサ

「はっ!も、申し訳ありません!…ああしかしまだ式も挙げられていないというのにもし先にそのような事にでもなれば私はどうしたら…!いやいやそんな事を言っている暇はないぞクラリッサ!一刻も早く必要なベビー用品や高名な産婦人科の情報を」

ラウラ

「おい何を言っている!産婦人科って一体なんの話だクラリッサ!」

 

何やら酷く興奮したクラリッサにもっと酷く困惑するラウラ。そしてそれは基地で迎えてくれた部下達も例外でなく…、

 

黒兎隊

「隊長!」

「ご無事の帰還なによりでした!」

「お久しぶりです!」

ラウラ

「お前達も元気そうでなによりだ!」

 

全員が笑って挨拶を交える。嘗て力こそが全て、という考えだった頃のラウラは部下達との交流を殆ど行わず、部下達も互いに必要以上干渉しておらず、それ故隊はチームらしい機能を殆ど発揮していなかった。しかし今のラウラは部下達とのやりとりを積極的に行っており、その雰囲気は以前とは全く違うものになっていた。

 

隊員

「隊長!殿方との仲はいかがですか!?」

「喧嘩等されておられませんか!?」

「もしなりそうでしたら失礼ながら殿方から謝られた方が夫婦長続きの秘訣!と先日御姉様かがテレビで見たと申しておりました!」

「夫婦喧嘩はシェパードも食わぬ、だそうです!」

ラウラ

「あ、ああ心配するな。私達の夫婦仲は至って良好だ。この婚約指輪がその証」

 

するとラウラは海之から贈られた左手薬指の指輪(婚約指輪は彼女の意見)を見せた。そしてその瞬間部屋の外にまで「おーーー!!」という声が響いた…。

 

 

…………

 

隊の者達と挨拶を済ませたラウラはそれから軍への報告を済ませ、基地内の自室で休んでいたのだが…、

 

ラウラ

「……はぁ」

 

何故か妙に元気が無かった。そんな様子をクラリッサが心配する。

 

クラリッサ

「どうされました隊長?もしや旅のお疲れが」

ラウラ

「ああ心配かけてすまんな、そんなんじゃない。…先ほど上層部への報告を済ませてきたのだが…逆にこちらへの質問の嵐だ。「男子操縦者と接触は順調か?」「それらのISをなんとかして知れないか?」とかな。しかも「レーゲンをここまでした相手はどんな能力だ?」とか「その科学者とコンタクトは取れないか?」とかそんな質問まで飛んできた。聞いた瞬間少し呆れたよ…。上は敵やテロリストまでスカウトでもする気なのか?とな」

クラリッサ

「……」

 

ラウラが少しどころか心底呆れている事をクラリッサは感じていた。

 

ラウラ

「……クラリッサ。お前には前に話しただろう?4年前の事。そしてVTSの事」

クラリッサ

「……ええ。4年前の織斑一夏の誘拐事件。そして我が祖国がVTSの研究・量産を計画していたという事実。……正直なところVTSについてはそれ程驚きではありませんでした。私は他の者よりも何年も前に生み出されたモデル…。隊の中では一番上の本質を知っているつもりでしたから…」

 

クラリッサがこういうのは訳がある。彼女や他の黒兎隊員達もまた、ラウラと同じ手法で作られた人造人間であり、純粋な人間では無い。中でもクラリッサはラウラやクロエよりも数年先に生み出された経緯があり、軍の事は彼女達よりも詳しい。それ故VTSの事を聞いてもあまり驚かなかった。因みにではあるがこのやり取りはラウラとクラリッサだけの秘密。更にクロエの事だけはラウラは軍には勿論、彼女にも黒兎隊にも話していない。それに悪気は感じてはいたがクロエを守るため、ラウラはこれからも話すつもりは無いと決めている。

 

クラリッサ

「しかしまさか我が祖国が誘拐にまで手を貸していたなんて…。しかも目的は織斑教官のデータ収集…。そんな事のためだけに教官の弟君を…。ですが何も証拠がありません…。疑う訳ではありませんが敵の偽情報という可能性は?」

ラウラ

「……いや、それは不思議と無い様に感じる…。確かに証拠もない事だが……あの時のあのオーガスと言う奴が言っていた事は…真実の様に思う」

クラリッサ

「……」

 

クラリッサの疑問は当然かもしれない。しかしラウラにはオーガスが嘘を言っている様には思えなかった。

 

ラウラ

「クラリッサ。以前までの私はこの国のために全てを捧げてきた。どんなに無能と蔑まれようとも侮辱を受けようとも。誰よりも強くなってこの国と民のために尽くすのが私の役目だと。だからオーガスやファントム・タスクの討伐という任務自体には今も全く疑問は無いし、絶対果たすべきだと思っている」

クラリッサ

「はい…」

ラウラ

「……だが、どうもスッキリせんのだ…。何なのだろうな…この気持ちは…」

クラリッサ

「隊長…」

 

ラウラの悩みにクラリッサは答えが出なかった。とそこへ別の隊員が入ってきた。

 

隊員

「失礼します!隊長、お客人が来られました」

ラウラ

「客人だと?…ああお通ししろ」

 

ラウラは客人を通すように伝えた。

 

「…久しぶりね。ラウラ」

 

すると少ししてそれらしい人物がラウラの名を呼びながら入ってきた。長身で赤い長い髪をなびかせ、眼鏡をかけている、ラウラと同じ位の年頃の少女。

 

ラウラ

「おおベルベット!久しぶりだ」

ベルベット

「…元気だった?」

ラウラ

「ああ、お前も元気そうで何よりだ」

 

少女の名はベルベット・ヘル。彼女はギリシャのIS操縦者のひとりであり、ギリシャにある特別IS訓練学校で学んでいた。国同士がヨーロッパ圏で近いという事もあり、ラウラとは合同訓練や国同士の交流で何度か面識があった。そしてある日の交流試合で戦って以来、互いの考えや人物像が似ている事から友人の様なライバルの様な交流が始まったのである。

 

クラリッサ

「ヘル代表候補。今日はどうしてこちらに?」

ベルベット

「たまたまドイツに用事が出来て折角だからと思って…。会えて嬉しいわ」

ラウラ

「私も同じ思いだ」

ベルベット

「今IS学園に行っているそうね…。頑張ってる?私と戦った時より実力は落ちてないかしら?」

ラウラ

「それを言わないでくれ。だが心配するな。私も強くなっているつもりだ。そういうお前こそギリシャのIS学校でトップクラスの成績らしいじゃないか」

ベルベット

「…ええまぁ」

クラリッサ

「ああそういえば忘れておりました隊長。彼女は先月、ギリシャの代表候補になられたんです」

ラウラ

「! そうなのか!お前ほどの実力なら必ず成しえると思っていた!」

ベルベット

「……ありがとう」

 

ラウラはその報告を聞いて喜ぶ。だが当のベルベットはあまり嬉しそうではなかった。

 

ラウラ

「…?どうした?あまり嬉しくなさそうだが」

ベルベット

「……」

ラウラ

「……何かあったのか?」

 

するとベルベットは答えた。

 

ベルベット

「…ラウラ、私の前のギリシャ代表候補が誰か知ってる?」

ラウラ

「ベルベットの前……!!」

クラリッサ

「…そうです隊長。彼女の前のギリシャ代表候補、フォルテ・サファイアは先々月、テロ組織のファントム・タスクに下った事で彼女は代表候補を除籍されました」

ベルベット

「その後釜に来たのが私という訳」

ラウラ

「…それは…すまなかった」

 

ラウラは謝罪した。ベルベットが代表候補になったのは彼女の実力ではなく空席を埋めるためのものだったのかと思ったからだ。しかし、

 

ベルベット

「…あらラウラ、もしかして気にしてるの?私は大丈夫よ、何も悲しくない。寧ろ逆よ」

ラウラ

「…逆?」

ベルベット

「ええ。…そう言えばラウラ、貴女には言っていなかったわね。…私ね、実は前代表候補のフォルテ・サファイアとは知り合いだったの。彼女とは互いに競い合い、共に祖国を守ろうって約束したわ。だからフォルテが代表候補になった時は私も嬉しかった…」

ラウラ

「……」

 

するとベルベットの口調が怒りを含み始める。

 

ベルベット

「でも…フォルテは、そんな祖国を、私達を裏切った!よりにもよってテロリスト等に手を貸した。あの一件で祖国がどれほどのダメージを受けたかわかる?」

クラリッサ

「…今は少し落ち着いていますが…確かに当時のギリシャへの誹謗中傷は結構なものでした…。テロリストを代表候補にしていた国とか…」

ベルベット

「…ええ。フォルテの件があってから祖国は汚名を晴らすためにIS関連の研究や操縦者への訓練にこれまで以上に力を入れ始めたわ。当然私がいた訓練校にもね…。中にはその凄まじさに脱落した者もいた…」

ラウラ

「……」

ベルベット

「…でもねラウラ、私は逆だった。私や祖国、仲間を裏切り、誇りを傷つけたフォルテに対しての怒りが私にこれまで以上に力を与えた。必死に頑張って…そしてたった一ヶ月で代表候補にまで上り詰めた。そう、私の代表候補入りは決して空席を埋めるためじゃない。努力の末なのよ」

ラウラ

「ベルベット…」

ベルベット

「……でも駄目、こんなものじゃ足りない。もっと…もっと強く、国家代表、いえそれ以上に強くなる。フォルテもファントム・タスクもこの手で倒すために!」

ラウラ

「…!」

 

ラウラは感じていた。ベルベットの本気を。そして彼女の中の凄まじい憎しみと怒りを。そんな彼女にラウラは言った。

 

ラウラ

「……違う」

ベルベット

「…え?」

クラリッサ

「隊長…?」

ラウラ

「お前の怒りはよくわかるつもりだ…。ギリシャや仲間を裏切ったフォルテ・サファイアへの怒りは…よく」

ベルベット

「ありがとうラウラ…。でも安心してちょうだい、貴女に協力を願うつもりはない。これはギリシャの」

ラウラ

「違う!」

ベルベット・クラリッサ

「「!!」」

 

ラウラの声にふたりは驚いた。

 

ラウラ

「これは、これはそんな単純な問題では無いのだベルベット!ギリシャだけの問題ではない!皆で力を合わせなければファントム・タスクは決して倒せん!奴らは強い!私も何度か戦った事があるからわかる!」

ベルベット

「……」

ラウラ

「それに…お前はフォルテ・サファイアを怒りと憎しみで倒そうとしている。だが…それは違うと思う。うまくは言えんが…彼女はお前の友で同士だったのだろう。そんな簡単に切り捨てていいのか?怒りのままただ倒して良いのか?もっと…大事なことがあるのではないのか?」

クラリッサ

「隊長…」

 

ベルベットは黙ってラウラの言葉を聞いていたがやがて口を開く。

 

ベルベット

「…変わったわね…貴女。そして……弱くなった」

ラウラ

「…何だと?」

 

ラウラは自分が弱くなったというベルベットの言葉に反応する。

 

ベルベット

「以前の、日本に行く前の貴女は誰よりも力を望み、強くなる事を目指していた。ただひたすらに。そのあまり近寄りがたい一匹狼という感じで誰も近寄らせない、人格的には色々問題があったかもしれないけど…でも私はそんな貴女を少し尊敬していた…」

ラウラ

「…お前が…私を?」

 

予想だにしない言葉にラウラは驚く。

 

ベルベット

「…でも今の貴女は違う。あの時感じた様な魅力がない。力を合わせる?裏切り者を憎むな?…以前の貴女からしたら考えられない言葉だわ。大した心変わりね。そんな心で国を守れるとは思えないわ。IS学園というのは人を腑抜けにする場所なのかしら?」

ラウラ

「!」

クラリッサ

「ヘル代表候補!我らが隊長に些か無礼ですぞ!それに隊長は現ドイツ代表候補でもあるのだ!」

 

クラリッサは憤慨するがベルベットは止めない。

 

ベルベット

「代表候補ならば尚更国の事を第一に考えたらどうなの?…私はギリシャの誇りを傷つけ裏切ったフォルテを決して許さない!どんな手を使っても必ず見つけ出して倒す!助けなどいらない!また裏切られるかもしれない目にあうのはゴメンだわ!」

 

ベルベットの決意は変わらない。するとラウラが再び訪ねる。

 

ラウラ

「……ベルベット。もしフォルテ・サファイアを見つけて倒したとしてその後はどうする?」

ベルベット

「……決まっているわ。国家への反逆として…抹殺もあり得る。国も認めている」

ラウラ

「お前はそれで良いのか!?」

ベルベット

「フォルテもそれを覚悟している筈よ!……貴女は口を出さないで。これに関しては私達ギリシャの問題よ」

 

ベルベットは無理やり話を止めさせようとする。するとラウラは、

 

ラウラ

「……クラリッサ、訓練場使用許可の申請を頼む」

クラリッサ

「…え?」

ラウラ

「今のお前を放っておけば…いつか必ず取り返しがつかない過ちを犯す。そう感じるのだ」

ベルベット

「…じゃあどうするの?」

ラウラ

「…ベルベット。お前先程私が日本に行ったせいで弱くなったと言ったな?…ならばそれが正しいかどうか、試してみようではないか。もしお前が勝てば…私はお前の邪魔はせん。どうしようがお前の好きにするがいい。但し私が勝てば…先程の言葉の訂正と共に、私の話を聞いてもらう。どうだ?」

クラリッサ

「…隊長…」

 

ラウラは真剣な眼差しでベルベットに試合を申し出た。

 

ベルベット

「……良いわ」

 

ベルベットはラウラの挑戦を受けた。

 

ベルベット

「でも言ったらなんだけど貴女に勝てるかしら?日本に行く前から貴女は私に負け越していた。しかも私はこの数ヶ月自らに凄まじい特訓を与えた。自分で言うのもなんだけど以前の比ではないわよ?」

ラウラ

「それは私も同じつもりだ。それにもし私ごときに敗れる様ではファントム・タスクを倒すなどできんからな」

ベルベット

「…結構」

 

 

…………

 

それから約一時間後、基地内の訓練場にてラウラとベルベットの非公開試合が行われていた。

 

ラウラ

「おおおお!」ドゴオォォン!

ベルベット

「はあああ!」ガキィィィン!

 

ラウラのパンチラインとベルベットが持つ槍が激しくぶつかる。

 

ベルベット

「接近戦は上手くなったわね!噂に聞いたその武器!凄いパワーだわ!」

ラウラ

「そういうお前も!以前より随分槍の腕が上がっているぞ!」

ベルベット

「言った筈よ。腕を上げたって。そして…まだ私の方が上ね!」

 

ガキィィィン!

 

ラウラ

「くっ!」

ベルベット

「この攻撃…避けきれるかしら!」

 

ズドドドドドドドドドドドン!!

 

ベルベットのISの脚部から無数のミサイルが発射された。

 

ラウラ

「! まずい!」

 

ラウラは圧されていた。ラウラの戦闘技術はアンジェロ達やDIS達との戦いの経験で間違いなく上昇していた。しかし先のやりとりにあった通り、ベルベットもまた怒りや執念を成長の糧とし、成長しているのであった。

そして何よりも大きいのはISの相性の悪さであった。ラウラのISはレール砲やカノン、パンチラインと威力はあるが直線的、一対一の戦いを得意とする機体。対してベルベットのIS「ヘル・アンド・ヘブン」は炎と氷を操り、巨大な槍と無数のミサイルを装備した機体。高い火力と相手を包囲しながら攻撃でき、対複数が得意な機体。勿論一対一もできる。ラウラには不利な相手であった。

 

ラウラ

「…そこだ!」ズドン!!

 

ミサイルの隙間からカノンを撃つラウラ。

 

ベルベット

「遅い!」

 

ビキキキキ……ガガガガン!!

 

ベルベットは自分の前方にグレネードを発射し、爆発させた。すると瞬時に氷の盾が形成され、ラウラの攻撃は防がれた。

 

ラウラ

「! グレネードの爆発と同時に氷の壁!?冷凍兵器か!」

ベルベット

「これはフォルテのISの機能と同じ氷を操る力の一部。同じ力で倒されるなら彼女も満足でしょう?」

ラウラ

「くっ!流石はベルベット!」

ベルベット

「そう言えば貴女、ヴォーダン・オージェはどうしたの?一時的といえあれを使えばもっと強くなれるんじゃないの?」

ラウラ

「!…あれはもう使わない。あれは昔の私の象徴。私はもう、あの時の私には戻らない!!」

ベルベット

「そう…ならばこのまま倒れなさい!」ゴォォォォ!…ズドン!!

 

ベルベットは自らの槍に炎を纏わせ、投擲してきた。透かさずラウラは避けるが、

 

ギュンッ!

 

ラウラ

「! 炎の槍が追尾を!」ズガァァァン!「うわあああ!!」

ベルベット

「そこ!」ズドドドドドッ!

 

炎の槍を喰らい態勢を崩すラウラにベルベットの氷のミサイルが迫った。

 

ビキキキキキキキキキッ!

 

ラウラ

「!!」

 

ラウラは驚いた。自らのカノンが氷付けされていたのだ。

 

ラウラ

「ちっ!ミサイルまで凍らせるとは!」

ベルベット

「これでお得意の射撃は使えないわね。……どうやら本当に弱くなってしまった様ね。私が覚えている限り…、前の貴女の方が強かったわよ。日本で随分ぬるま湯に浸かっていた様ね」

 

ラウラに凄まじく責めるベルベット。しかし、

 

ラウラ

「……ふ」

ベルベット

「…?」

ラウラ

「私がぬるま湯に浸かった?…それは大きな間違いだぞベルベット。私はIS学園で人として一番大事な事を学んだ。そして何よりも強い力を得ることができた。想いや信頼、仲間、そして家族という力を!」

ベルベット

「! そう…なら教えてあげるわ。そんなものだけでは何も成し遂げられない。何も守れはしない。何を為すにも、例え裏切られても、それを打ち破る強大な、何にも負けない力が必要という事を!」

 

ズドドドドドドドドドンッ!!

 

ベルベットは再び無数のミサイルをラウラに向けて発射した。

 

ベルベット

「貴女の武器ではこれら全ては防げない!例えAICを使おうともその瞬間私の槍で……!?」

 

ベルベットは驚いた。ラウラの左手が…光を放ち始めた。

 

ラウラ

「私も多くの戦いを経験した!力で応えろと言うなら私も力で応えよう。仲間から託された新しい力で!!」

 

 

ズドドドドドドドドド!!

ボガガガガガガガガガン!!

 

 

ラウラの左腕から放たれた光の雨が全てのミサイルを撃ち落とした。それはアルテミスのレインであった。

 

ベルベット

「あ、あれだけのミサイルを一度に!?」

ラウラ

「はああああ!」ドン!

 

ラウラはアルテミスにエネルギーをチャージしながらベルベットに向かう。

 

ベルベット

「! 正面から!?撃ち落とされたいの!」ドドドドン!

 

ベルベットは再びミサイルを撃つ。その全てがラウラに向かう。

 

ラウラ

「今だ!」

 

ジャキッ!…ズドオォォォォン!!

 

ベルベット

「! 腕の武器を後ろに撃って推進力に!」

 

アルテミスのスフィア発射の勢いのままアルテミスからパンチラインに切り替え、ブレイクエイジのブースト機能で一気に接近するラウラはそのままミサイルを掻い潜り、

 

ラウラ

「おおおおお!!」

ベルベット

「! くっ!」

 

ブレイクエイジを撃ち込む。避けきれないと感じたベルベットは槍で受け止めようとする。

 

 

ドゴオォォォォ!!……バキィィィン!!

 

 

だがよりパワーが加わった事で更に威力が増したパンチラインが槍の持ち手を折った。

 

ベルベット

「なっ!?」

 

狼狽えるベルベット。そんな彼女にラウラは言った。

 

ラウラ

「同じだ。お前は…お前はあの時の私なんだ!」

ベルベット

「何ですって!?」

ラウラ

「お前の言うとおりだ。あの時の…IS学園に入ったばかりの頃の私は力への欲望、そして憎しみで埋め尽くされていた。掌を返して私を蔑んだ者達。教官を奪い、名誉を汚したと思いこんだ一夏。そして私を簡単に倒した海之や火影に!」

 

ラウラは続けざまビーム手刀で斬りかかる。ベルベットは短くなった槍を剣の様に持ってそれに対抗する。

 

ガキキキキキキン!

 

ベルベット

「くっ!さっきより速い!?」

ラウラ

「だが…私はあいつらに、ふたりに教えられた!出会わなければ恐らく今も気付かなかった!ただただ恨み、何時までも力を追い求める醜い姿になっていた事に!今のお前がそれだベルベット!」

ベルベット

「! 黙りなさい!貴女に、貴女に何がわかるっていうの!信じていた友に裏切られた私の気持ちを!」

 

ズドドドドド!!…ボカァァァァン!!

 

超至近距離でミサイルを撃つベルベット。その勢いで離れるふたり。

 

ラウラ

「ぐっ!なんとなくわかるさ。私も裏切られたからな、一番信じていた「力」そのものに。だがその先で私は光を見つけた!仲間という光を!お前にも見える筈なんだベルベット!そして嘗ての友を信じられないというなら…私を信じろ!」

ベルベット

「!!」

 

ベルベットに必死に伝えようとするラウラ。

 

ベルベット

「……………ならば」

ラウラ

「……」

ベルベット

「ならば私にそれを見せて。貴女が正しいのなら、私も撃ち破れる筈よ。互いの次の一撃で……決めましょう」

ラウラ

「!……ああ!」

ベルベット

「もう一度言っておくけど負けてあげる気なんて塵ほどもないわ。私の信念にかけて!」

 

ベルベットは手に持つ槍に炎を纏わせた。本当に次で最後にするらしく、強力なエネルギーを感じるラウラ。しかし、

 

ラウラ

「……ならば私は私の信念を持ってそれを折る!」

 

ラウラはパンチラインにエネルギーをチャージする。……そして、

 

 

ドン!!ドン!!

 

 

ベルベット

「ラウラーー!!」

ラウラ

「ベルベットーー!!」

 

互いの想いを込めた攻撃がぶつかった…。

 

 

…………

 

試合後、ベルベットは休憩室でひとり休んでいた。

 

ベルベット

「……」

 

と、そこにラウラが入って来た。

 

ラウラ

「ベルベット」

ベルベット

「…ラウラ。……お疲れ様」

ラウラ

「ああお疲れ様」

 

ラウラはベルベットの隣に座る。

 

ベルベット

「…良い試合だったわ。……強くなったわねラウラ」

ラウラ

「…いやまだまだだ。家族がくれた武器が無ければ危なかった。寧ろお前だ。お前が言った通り以前とは比較にならんかった」

ベルベット

「言ったでしょう、己に厳しくしたって。……でもそんな私を貴女は倒した。……家族や仲間。それが今の貴女の強さの理由という訳ね」

ラウラ

「…ベルベット。前の私はひとりで何でもやろうと思った。人を信じきれず、誰にも頼らず、ひたすらに力を追い求めた。そうすれば誰よりも強くなれると信じていた。…でも違ったんだ。本当に大切なものは何か、何が自分にとっての強さなのか。それがわかれば正しく、もっと強くなれる、と」

ベルベット

「……」

 

ベルベットは黙って聞いている。

 

ラウラ

「ベルベット。周りが信じられないなら…私達を頼れ。ひとりで無理でも、皆で力を合わせればできる事もある筈だ」

ベルベット

「ラウラ…」

 

ラウラは真っ直ぐ強い眼差しでベルベットを見つめる。

 

ベルベット

「……やっぱり貴女強くなったわね。謝罪するわ、酷い事を言ってご免なさい」

ラウラ

「家族や仲間のおかげだ」

ベルベット

「貴女の言葉覚えておくわ。………でも、私はやっぱりフォルテを許すことは簡単にはできない。………ただ、もし今度彼女に会う機会があれば…その時は戦うだけじゃなく…話したいと思う」

ラウラ

「…ああそれが良い」

 

ふたりは約束した。…するとベルベットが、

 

ベルベット

「そう言えば言い忘れていたわラウラ。…私ね、代表候補になった事で今月からIS学園に転入するの。多分貴女と同じ学年の筈よ」

ラウラ

「本当か!?それは嬉しいぞ、一緒に学べるんだな!これは益々私も頑張らねば。来たら今度家族や仲間も紹介しよう」

ベルベット

「ありがとう。……ところでラウラ、貴方が自分を変えてくれたという家族ってどんな人?」

ラウラ

「ああ海之と火影か。良い奴らだぞ。そして私等よりも遥かに強い。私の自慢の嫁と弟だ。ああ因みに海之が嫁だ」

ベルベット

「…?なぜ嫁…まぁいいわ。……海之、貴女がそこまで言う人。どんな人か……非常に興味あるわね…。是非会ってみたいわ…ふふ」

 

ベルベットは少々悪戯気に笑みを浮かべて言った。その笑顔にラウラは酷く慌てた。

 

ラウラ

「! だ、駄目だぞベルベット!幾らお前でも海之に手を出す事だけは許さん!」

ベルベット

「あら?さっき頼りたい時は頼れって言ったじゃない」

ラウラ

「それとこれとは別問題だー!!」

 

今日一番大きいラウラの声が響いた…。

因みに今月、ベルベットの言った通り彼女はIS学園に転入してきた。ラウラは喜んだがその一方、彼女が海之と親密にならないか、暫しずっとハラハラしているのだった…。




※次回は来月5日(土)の予定です。

すみません。前回書かせていただいた通りパソコンの問題で編集作業が遅れて今回は一話のみです…。年末という事で修理に時間がかかるらしく、コツコツと進めております。
お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが次回はロランの回。それが終わればいよいよ火影と海之の正体編です。


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Extramission14 箒の大変な五日間

これはスメリアから日本に帰国した後日の箒のお話です。


※お気に入りが500に到達しました!ありがとうございます。


IS学園 アリーナ

 

 

「…ハァ~、どうしてこうなったのか…」

 

学園内にあるアリーナのひとつ。ここであるふたりの訓練が始まろうとしていた。ひとりは箒、ため息を吐いて何やら元気無さげである。そして箒に相対するのは、

 

 

銀髪の少女

「さぁ!始めようじゃないか箒!私達の激しい情熱の舞を!」

 

 

……まるで好きな人とダンスをする様に喜ぶ銀髪の少女だった。一体何がどうなってこうなったのか…?

 

 

…………

 

五反田食堂

 

 

詳しくは数時間前まで遡る。

冬期休暇も残り一週間となった月曜の昼頃、箒と一夏はここに食事に来ていた…。

 

「…うん、やはり美味しい。お前達のお父上は相変わらずいい仕事をしておられるな蘭、弾」

「ありがとう箒さん」

「そう言って貰えたら親父も嬉しいだろうぜ」

 

名物である業火野菜炒めを堪能する箒。その横で、

 

一夏

「……」

 

一夏は真っ白になって伸びていたのであった。

 

「あ、あの…一夏さんどうされたんですか?」

「千冬さんからの反省文100枚を徹夜込みの2日で書き終えてな。まぁ簡単に言えば燃料切れだ。ほら一夏、早く食べないと冷めるぞ。炒め物は冷めたら旨さが半減する」

一夏

「我が生涯に一片の悔い…………いや滅茶苦茶あるな」

「あんのかよ。そういや今日火影らは一緒じゃねぇのか?」

「ああ、誘ってみたんだが今日は無理とのことだ。他の皆は土曜日に帰ってくるとな」

 

そんな感じで和やかに過ごしていると、

 

ガララッ

 

薫子

「やっぱりここにいたー!見つけたわよ箒ちゃん♪」

 

店の扉が開いた途端箒を見つけて喜ぶ人物が。それは以前彼女らに写真モデルを頼んだ黛薫子であった。

 

「…黛先輩。お疲れ様です。どうしてここに?」

薫子

「ふふん♪私の情報網を甘くみてもらっては困るわね。貴女達が学園以外によく出没しているのがここと馴染みの喫茶店だってことは知ってたのよね~♪」

「出没って…珍動物じゃないんですから…」

一夏

「…てか繰り返しっすけど黛先輩、どうしてここに?」

「失礼ながら……なにか嫌な予感がするんですが?」

 

以前の写真撮影が思い出される箒。するとそんな箒に薫子はこう言った。

 

薫子

「そんなに心配しなくて大丈夫よ~。ただ単に箒ちゃんに舞台のヒロインをお願いしたくて来ただけだから~」

 

「…えぇ!」

一夏

「箒が…?」

「舞台のヒロインに?」

「……どこが大丈夫なんですかー!!」

 

お昼時の店内が箒の声にぎょっとした雰囲気になった……。

 

 

…………

 

その後、他の客がいなくなったので事情を聞く事にした一夏や箒。

 

一夏

「……つまり簡単に訳すると、黛先輩のお姉さんの友達が主宰する劇団がいて、その劇団の重要な役の人が公演数日前に誤って怪我しちゃって出れなくなった…」

「んで困っていた所たまたま前に一夏達が載った週刊誌を見て……」

「主役の人が箒さんを見て一目惚れした…?」

薫子

「ビンゴ!私も聞いただけなんだけどお姉ちゃんの友達が女性だけの劇団をやってるんらしいんだけどね?今回肝心の大役の人が急に怪我して出れなくなっちゃったのよ~。それで代役をどうしようかって困り果ててた時に主役の子が箒ちゃんの写真を見てね、ビビっと来たらしいのよ~。箒ちゃんどうかな~?」

「そそそ、そんな事言われても私にそんな事できる訳ないでしょう!この前の様な写真撮るだけとは訳が違いすぎますよ!」

薫子

「うーん私も最初はそう思ったんだけど…主役の子が全然引いてくれないのよ~」

 

すると次の質問で更に驚く事に。

 

「あの…因みになんすけど公演って何時すか?」

薫子

「あはは…それがね、……今週の土曜日」

「! こ、今週の土曜って事は今日は月曜日だから…」

「もう一週間無いじゃないですか!尚更無理ですよ!」

薫子

「うーんそれを言われるときついんだよね~。学校は幸い来週の月曜開始だけど…流石に今回は難しいかな~…」

 

言われて薫子も段々自信が無くなってきたのか弱気になり始める。するとそこに、

 

ガラッ!

 

「君ならできる箒!!」

「!?」

 

店内に箒の名を呼びながら入って来た者がいた。銀髪でオレンジ色の瞳をした自分達と同い年位の少女。その少女は入ってくるやいなや箒の手をガシッとつかみ、

 

少女

「私の目に狂いは無い!私は確信している!君なら必ず輝ける花になることを!」

 

ものすごい眼力で箒の目を真っ直ぐ見ながら力を込めて話す少女。

 

「……え、え?」

一夏

「な、なんか凄ぇ人来たな」

「俺も初めて見るタイプだぜ」

「…あの、ステージって事はもしかしてこの人」

 

すると薫子は言った。

 

薫子

「ええ彼女がさっき話した舞台の主役を勤める人なの。もうロランさん外で待っててくださいって言ったじゃないですか~」

ロランと呼ばれた少女

「すまない、速く箒に会いたいという私の衝動が抑えられなかった。許してくれたまえ」

「貴女が主役…って、とりあえず手を離してもらえると助かるんですが?」

ロラン

「ああ私とした事が。…非常に名残惜しいが仕方ない」

 

そう言って箒から手を離す少女。

 

「あ、あの…、貴女が黛先輩が言ってた劇団の?」

ロラン

「ああそうさ美しい蕾よ。自己紹介が遅れてすまなかった。ロランツィーネ・ローランディフィルネイ。皆からはロランと呼ばれている。覚えておいてくれたまえ」

「…ローラン…ディフィルネイ……!」

一夏

「なんか凄い名字だな?」

ロラン

「おお、君があの織斑一夏か。噂は聞いているし週刊誌でも拝見したぞ。フム、悪くはないが優雅さでは箒にまだまだ敵わんな」

「そ、そんな事ないです!一夏さんも優雅でした!私も混ざりたいくらいに!」

「いやお前が返してどうすんだよ蘭…」

ロラン

「ハッハッハ!…さて、話は戻そう。今回私達がやろうとしている舞台はかなり大胆な挑戦を兼ねたものでね。ISを取り入れた劇なのだよ」

一夏

「…ISを使って劇、すか?」

ロラン

「そうさ!オープニングとエンディングでISを使って空中ダンスをするのさ。私が所属している劇団にはISを操縦できる者がいてね。今回世界で初めてやってみるのさ!」

「ISでダンスを…」

「あぁそういや駅前の電光掲示板にそんなん書いてたような気がするな」

一夏

「俺らスメリア行ってたのと反省文で知らなかったぜ」

ロラン

「しかし、ああしかし!不幸な事にその肝心の花役、ISを使う者のひとりが公演直前で怪我をしてしまったのだ…。ああなんという悲劇…!代役にたてられそうな者も他にいない。正に八方塞がりだったのだ。……だが!そんな私の前に美しい蕾が舞い降りた!」

「舞い降りたというか雑誌見ただけじゃ…?」

ロラン

「ちっちゃい事は気にするな♪直ぐに記事の編集会社に問い合わせた!この美しい蕾はどこにいるのか、なんとか連絡取れないかと!」

一夏

「そんで紹介されたのが黛先輩だったと?」

薫子

「そう言う事なんだよね~」

「で、ですが私にそんな事出来るわけないですよ!しかも本番までたった5日しか無いのに…」

ロラン

「それについては大丈夫さ。箒がやるのはあくまでもダンスパートだ。台詞はない。つまりダンスの形さえ覚えてくれれば良い。当然私や私達のティーチャーが付きっきりで教える。今IS学園は冬期休暇中だからな。時間もたっぷりある」

「な、なんでそれを?い、いやそれは関係ないか。た、確かにそうですが…で、でも私ダンスなんてやった事無いですし…」

一夏

「でも神楽舞とかしてるじゃんか?」

 

…この時箒の心に一瞬だけだが一夏への殺意が生まれた。

 

ロラン

「なんと!それは誠か!これは益々運命を感じるではないか!」

 

全くロランは引く気が無いようだ。

 

(一夏ぁぁ余計な事をぉぉ…。う~、こんな時に海之や火影がいれば上手くフォローしてくれるのに~…)

 

そんな事を考えている箒。すると、

 

「……私は」

「どうした蘭?」

「私は…見たいです、箒さんの芝居」

「ら、蘭!何を言って」

「だって篠ノ野博士はISを宇宙開発、世界に役立てる為に作ったんでしょう?私もISを幾らか勉強しましたから知ってます。そして今回ロランツィーネさん達はISを使う劇で沢山の人を感動させようとしてる。それを博士の妹の箒さんがやる。とても良いことじゃないですか。だから見てみたいです」

「蘭…」

 

この言葉には箒も一瞬、はっとした。

 

一夏

「うーん……そう言われてみや確かにそんな気もすっけどな。台詞とかも要らねぇんだったら…できねぇ事はねぇんじゃねぇかな箒?」

「俺も見てみたいぞ箒。それに蘭の言うとおり博士の妹の箒だからこそ価値がある気がするしな」

「一夏、弾…」

薫子

「やってみない箒ちゃん?皆こう言ってるし。私は言い出しっぺだけど」

ロラン

「君なら必ず立派な一輪の花を咲かせる!私が保証する!」

 

全員から激励を受けた箒。そして、

 

「う~~……、わ…わかりました…」

 

箒は遂に了承するのだった。

 

ロラン

「そうか!引き受けてくれるか!ありがとう箒!私は必ず受けてくれると信じていた!」

 

再び箒の手を握って喜ぶロラン。

 

「で、でも本当にしっかり教えて下さいよ!やるからには私だって失敗したくないですから!」

ロラン

「もちろんだ!さてそれでは早速行こうか!」

「い、行くってどこに?」

 

ロランは箒の手を取りながら、

 

ロラン

「決まっている!IS学園のアリーナだ!本来の会場はキャノンボール・ファーストが行われた会場だがあそこは既に準備が始まっているからな!」

一夏

「が、学園すか?」

「そんな無理ですよ!あそこは部外者は入れないんですから!」

 

するとそんな箒の言葉に、

 

ロラン

「ん?私は部外者ではないぞ?立派な関係者だ」

全員(薫子以外)

「「「…え?」」」

薫子

「あ、そう言えば言い忘れてた」

 

するとロランは女優の様に立ち振舞いながら答えた。

 

ロラン

「改めて名乗ろう蕾達よ!ISオランダ代表候補、ロランツィーネ・ローランディフィルネイ。三学期からIS学園に転入するのだ。宜しくお願いする!」

 

 

…………

 

…と、いう出来事があり、今こうして箒とロランは相対しているのであった。客席には一夏と蘭、弾。そして話を聞いた千冬と真耶もいた。

 

「それにしてもロランさんがまさかIS操縦者、しかも代表候補だったなんて…。最初に教えて下さいよ…」

ロラン

「いやいやすまなかった。箒の下に馳せ参じたいという気持ちが高まりすぎて忘れていた」

「公演の延長ができないというのは新学期が始まるからだったんですね…。それにしても小手調べと言いましたがいきなり実践ですか?」

 

ロラン

「箒の今の動きや優雅さ、それを知るにはこうするのが一番手っ取り早いだろう?それによって今の君に必要なものを知る。何しろ本番まで時が無いからな!」

「は、はぁ…」

 

ロランの言葉に空返事する箒。

 

ロラン

「さぁそれでは始めよう箒!私達の舞を!」ドンッ!

 

そう言いながら上空に昇るロラン。彼女のIS「オーランディ・ブルーム」は所々に緑色の宝石があるオレンジ色主体のカラーリングで、花を思わせる様なスラスターが優雅だった。

 

「速い…!…でもこれなら!」ドンッ!

 

箒も追いかける。しかし、

 

ギュンッ!

 

止まっていた場所から更に引き離すロラン。

 

「! くっ!スピードが上がった!?だがまだ!」

 

箒も必死に付いていく。やがて数秒ほど遅れて追い付く。するとまたロランが離れ、箒が再び付いていく。そんなジグザグ飛行をある程度続けた後、

 

ロラン

「ふむ、直線移動は問題ないな。次はアクロバットをしよう。私の動き方と同じ動きをしながら付いてきたまえ!」

「は、はい!」

 

そう言いながらロランはループ、スクリュー、スライド等、まるでジェットコースターの様な様々な動きをタイミングをバラバラにしてみせる。箒は苦労しながらもこれまでの経験や訓練を生かし、必死に付いていく。そんなふたりの動きを見ていた一夏達は、

 

「やっぱスゲーなISって。こんな間近で見たのは初めてだぜ」

「ロランさん流石代表候補なだけありますね。それに箒さんも負けてないです」

千冬

「……ロランツィーネ、か」

真耶

「流石ですね…」

一夏

「…?」

 

一夏が疑問符を浮かべている時、上空ではロランに箒が追い付いていた。

 

ロラン

「ふむ、流石だな箒!普通はこれ程の動きを連続ですると加速酔いをするものだ」

「は、はは…。ありがとうございます。訓練の賜物です」

ロラン

「では今度は実際に撃ち合っての動きを見てみようではないか。但しひとつ条件として攻撃は回避のみだ。剣で切り払ったりは良いが盾等で防御はしない。良いな?」

「は、はい!」

ロラン

「ああそれから…私には今後丁寧に話す必要は無いぞ?同学年だしな。どうか友人として、いつもの箒で付き合ってくれ!」

「あ、ああわかった。ロラン」

 

~~~

すると箒にプライベート通信で千冬から連絡があった。

 

千冬

(篠ノ之、聞こえるか?)

「千冬さん?」

千冬

(いいか良く聞け。…決して気を抜くな。全力でいけ。下手をすると怪我ではすまんぞ)

「…!は、はい!」

(…千冬さんの言葉…、真剣だった…)

 

箒は緊張を取り戻した。

 

ロラン

「では行くぞ!ロランツィーネ・ローランディフィルネイ!…参る!」ドンッ!

 

ロランは真っ直ぐ箒に向かう。

 

「正面からむか…!!」

 

キィィィン!!

 

気が付くと…ロランの持つ細身の剣による突きが箒に既に繰り出されていた。動体視力でなんとか雨月で防ぐ箒。

 

ロラン

「やるな箒!私の一の突きを止めるとは!」

(み、見えなかった…。気付いた時には剣が突き付けられていた…)

ロラン

「では…これならどうだ!」

「!!」

 

ズババババババババッ!!

 

ロランの凄まじい突きの連打が繰り出される。箒は雨月と空烈でなんとか応戦するが、

 

ガキキキキキンッ!

 

「ど、どこから剣が繰り出されるかわからない!」

ロラン

「コレが我が師直伝の剣!」

 

その様子は一夏達も見ていた。

 

一夏

「な、なんて速さだあの人の剣…!」

「凄い!」

「代表候補だからじゃねぇのか…?」

 

一夏達もロランの剣さばきに驚いている。すると千冬が、

 

千冬

「…あの剣さばき、そして剣速…。流石はレミリアの妹だな…」

一夏

「…千冬姉、あのロランて人の事知ってんのか?それにレミリアって?」

 

一夏は千冬に尋ねた。

 

千冬

「…ハァ。真耶、教えてやれ」

真耶

「…レミリア・ローランディフィルネイ。オランダの名家、ローランディフィルネイ家当主にして、前オランダ代表。第一、二回モンドグロッソで先輩と剣の部の決勝を戦った方。そして…ロランツィーネさんのお姉さんです」

一夏

「な、何だって!」

「前オランダ代表!?」

千冬

「レミリアは第二回大会の後、家を継ぐ為に代表を退いただけで実質実力は今もそれほど衰えていないだろう。妹のロランツィーネは剣でなく舞台の方を選んだが…あの剣筋は彼女を彷彿とさせる。きっと教えを受けているのだろうな」

「どおりで強い訳だ…」

千冬

「五反田兄妹はともかく一夏、お前はそれ位知らんのか全く…。明日から補習してやろうか?」

一夏

「すいませんマジ勘弁してください。……それにしても箒の奴圧されてるな…」

 

一夏の言うとおり、箒はロランの早撃ちになんとか対処しながらも防戦一方であった。

 

ズババババババババッ!

ガキキキキキンッ!

 

「くっ!火影や海之程では無いがなんて素早く滑らかな動きの剣だ!」

ロラン

「ありがとう箒!しかしどうした、君の力はそんなものかい?君とて剣を学ぶ者の筈だ!本気の君を私に見せてくれたまえ!」

 

そう言いながら続けざまに激しい剣の嵐を繰り出すロラン。離れても、

 

ズドドドドドドドッ!

 

彼女の剣は銃剣の役割も果たしているらしく、素早い早撃ちによるレーザーが繰り出される。

 

「射撃も速い…!このままじゃ…」

 

するとそこに、

 

一夏

(箒!)

「…一夏!?」

 

今度は一夏が箒にプライベート通信をしてきた。

 

一夏

(頑張れ箒!入学したばかりん時の俺を鍛えてくれた様な根性を見せてやれ!)

「一夏…」

一夏

(お前は束さんを助けたいんだろ!こんな事位で負け腰になってどうする!お前の力を見せてやれ!)

「!」

 

(恐怖を受け入れた時、呼吸と心は乱れない)

 

(自分にできる最善を尽くす事だ)

 

「!!」

 

……パァァァァァ…

 

ロラン

「…む!」

「…そうだったな…」

 

 

…………

 

……先日のスメリアでの朝練の時の事。朝練が終わった後、箒はふたりに話しかけた。

 

「……なぁ火影、海之。お前達は怖いと思った事はあるか?」

火影

「ん?」

海之

「なんだ急に?」

「…正直に言おう。…私はあの白いアンジェロやあの巨大な存在を前にして敵わないかもと思った時…恐れを抱いた。殺されるかもしれない、誰も守れないのか、と…。…悔しかった、私はなんて勇気がないのだと…お前達の様に…どんな相手にも臆する事なく向かっていけ、諦めない勇気が無いと…。だがら…お前達が羨ましいと思ってな…」

 

箒は自分より強い存在を前にするとつい弱気になる事が多いと告白した。そんな彼女にふたりは、

 

火影

「……箒、それは違うぜ。」

「…え?」

火影

「勇気ってのはどんな奴にも恐れず向かっていく様なそんな単純なものじゃねぇ。そんなもんは虫と同じだ」

海之

「本当の勇気とは怖さを知ること、恐怖を我が物とする事だと思う」

「怖さを…恐怖を我が物に…?」

火影

「自分より強い奴を怖がんのは当たり前さ。しかしその恐怖を受け入れた時、まず呼吸が乱れない。そして心が乱れない。そして自分を見失わない」

海之

「だからと言ってただ逃げるのではなく、自分の置かれた状況の中で自分にできる最善を尽くせる者。それが本当の勇気ある者だと俺は思う」

火影

「前に一夏がお前らを救った様にな。敵わないとわかっていても最善の行動をした。それこそ本当の勇気ってもんさ」

 

それは火影と海之の持論だった。

 

「……本当にお前達は大人だな」

海之

「…経験者は語る、というやつだ」

「…え?」

火影

「気にすんな」

 

 

…………

 

一夏

「あれは…!」

 

箒の紅椿が銀色の輝きに包まれ、大きく姿を変えた。それは正しく衝撃鋼化の光だった。

 

「箒のISが銀ぴかに!」

「…綺麗」

千冬

「衝撃鋼化…」

真耶

「箒さん…!」

ロラン

「なんと美しい…!私の心は今、感動の渦に飲み込まれている!」

 

皆が其々の感想を述べる中、箒は、

 

「我が友が教えてくれ、姉さんが与えてくれ、あの人への想いによって目覚めた私の力…見せてやる!」

ロラン

「それが君の真の、本気の力という訳か箒!ならば是非…その力を私に見せてくれ!」

「良いだろう!今の私は…負ける気がしない!」

 

今の箒には力強い気が溢れていた。

 

 

…………

 

試合後、箒とロランは互いの健闘を称えた。

 

ロラン

「箒、あの銀の光に包まれてからの君の動きや剣閃、実に見事だった!」

「いやまだまだだ私等…。あの時の気持ちが無かったらただただ翻弄されていただけだったさ。流石は代表候補にしてレミリア殿の妹のロランだ」

一夏

「箒もロランツィーネさんのお姉さんの事知ってんのか?」

「な、何をいう一夏!レミリア殿と言えば剣を学ぶ者の間では千冬さんと同じ位高名な方だぞ!とは言え私も気付いたのは後々だったが」

ロラン

「ははは、まぁ姉上はそんな事気にする人じゃないさ。…さて箒!最初にも言ったが今日はほんの小手調べだ。明日からは早速訓練に入るぞ!時間が惜しいからな!まぁ後半の試合は単に箒と戦いたいという私のワガママだったんだがな!ハッハッハ!」

「…少なからず予感はしてたよ。…ハァ…ま、やるしかないか…」

 

こうして箒の猛特訓の日々が始まった…。

 

 

…………

 

火曜日

 

翌日の火曜日はとにかくダンスに必要な基礎と劇の進行を徹底的に叩き込まれた。

 

「……なぁロラン?」

ロラン

「なんだい箒?」

「一応聞くが劇団の人達はどれ位で此だけの知識を覚えた?」

ロラン

「うーんそうだな…。個人差もあるが実践で問題なく使えるようになったのは3ヶ月位か」

「それをたった四日で…」

ロラン

「大丈夫さ箒♪そのために私やティーチャーがいるのだ。なんの問題もないさ。宝船に乗ったつもりでいたまえ♪」

「…それを言うなら大船なんだが?」

 

 

…………

 

水曜日

 

水曜はダンスの徹底練習+全体の構成把握。時間が無いので超突貫訓練である。

 

「はぁ~~」

火影

「よぉ箒、話は聞いたぜ。頑張ってるか?」

「おお火影。…はっきり言って物凄く大変だ。ロランはともかく先生がかなりスパルタだ…」

火影

「まぁ時間もないし大事な役だからな。ほらよ、お婆ちゃんのお土産の苺で作ったパイだ」

「ああ頂くよ。一夏にもそんな気遣いができれば…」

火影

「明日は海之とクロエが来るからな」

 

 

…………

 

木曜日

 

この日は実践訓練と科学的分析。モニターを見ながら海之とクロエが自主練に付き合っていた。

 

海之

「…箒、場所が少しずれている。もう20センチ左、10センチ後ろだ」

クロエ

「ここのターンはスラスターの出力を6割近くにした方がより自由になりますよ」

「やはりふたりはこういう事が得意だな。…そう言えば一夏はどうした?」

海之

「一夏なら千冬先生から補習を受けている。ローランディフィルネイの件で勉強不足と思われたらしい」

「な、成る程な…」

 

 

…………

 

金曜日

 

公演日前日のこの日はリハーサルづくめ。朝からぶっ通しでやり続け、夕方はいよいよ最終リハーサル。

 

「箒さん、お疲れ様」

「よお箒~、遊びに来たぜ♪」

「蘭はともかく弾、冷やかしは止めてくれ。この後大事な最終リハーサルなのだから…」

「はは、まぁ頑張りな」

「明日は私達も見に行きます!ロランさんが特別席を用意してくれたんです」

「そ、そうなのか…緊張するな…」

「まぁ頑張りな♪一夏も行くぜ明日は♪」

「だから余計に緊張する事言うな!」

 

 

…………

 

そんな練習の日々を終え、遂に本番当日を迎えた。ロランが所属している劇団は中々有名らしく、しかもISを劇に取り入れるという新たな試みという事で話題も大きくチケットは完売、ドーム状の観客席は満員御礼だった。因みに今回使うのはラファールを舞台用にカスタマイズしたものである。そんな客席の様子を影から見ていた箒はというと、

 

「……」

ロラン

「どうした箒、緊張しているのか?」

「…これで緊張しない方がおかしいだろう…。キャノンボール・ファーストやトーナメントとは違う…。正直吐きそうだ…」

ロラン

「その気持ちはよくわかるさ。私も最初はそうだった。そう思って助っ人を呼んでおいたぞ」

「…助っ人?」

一夏

「よ、箒。練習中来れなくて悪かったな」

火影

「いよいよだな」

海之

「無理とは思うがあまり緊張するなよ」

クロエ

「お疲れ様です。箒さん」

 

すると一夏や火影達が出演者の待機場に来ていた。

 

「!! い、一夏!それに火影に海之にクロエまでどうして!?」

ロラン

「私が呼んだのだ♪力になると思ってな。観客席は完売していたが裏方からなら良く見えるだろう?」

「ロラン!」

 

笑うロランに真っ赤になって詰めよる箒。すると、

 

火影

「箒。一夏からお前に渡したいもんがあるってさ」

「へ?な、何だ?」

一夏

「はいこれ」

 

そう言って一夏が渡したのは…リボンだった。しかもそれは、

 

「…!これは」

一夏

「前の戦いで無くしたんだろ?だから新しいの買ったんだ」

ロラン

「着けても良いぞ箒。私が許す」

「あ、ありがとう!……あ、あの一夏、良ければ着けてもらっていいか?」

一夏

「ああ良いぜ」

 

そう言われて一夏は箒の髪にリボンを結んだ。箒はそれで勇気が出た様だった。

 

火影

「ISの新たな可能性を見せてやれ」

海之

「まぁ頑張る事だ」

クロエ

「成功をお祈りします」

「ああ。…一夏、見ていてくれよ?」

一夏

「おう」

ロラン

「では行こうか箒!」

「…ああ!」

(どんな状況でも…最善を尽くす!)

 

そしてロランや箒達の舞台は幕を開け、ふたりは舞台に飛び出していった……。

 

 

…………

 

その夜、五反田食堂。

 

ロラン

「それでは!舞台の大成功と我が100人目の花!箒の健闘を祝って…乾杯!」

一夏・蘭・鈴・シャル・セシリア・ラウラ・簪

「「「カンパーイ!」」」

 

公演が終わった後、五反田食堂で箒の労い会が行われていた。帰国していた面々は箒の舞台を見れなかったが話を聞いて祝うために出席していた。

 

一夏

「いや~お疲れだったな箒!」

「とっても素敵でしたね!」

シャル

「も~、わかってたら絶対チケット取っといて見に行ったのにー♪」

「そうねー。こんなからかいがい……もとい、珍しい事ないもんねー♪」

「やめてくれ…皆に見られたら顔を上げられん」

ロラン

「何を言うんだ箒!我々の夢はまだまだこれから!君の席は開けておくから卒業したら何時でも戻ってくるがいい!」

「い、いやもう十分だロラン!」

ラウラ

「でもいい経験になったのでないか?」

セシリア

「そうですわ。ISの可能性が広がったという意味では決して悪くはありませんわ」

「うん、私もそう思うよ箒」

「ま、まぁそれはな。特訓は疲れたが……楽しくもあったし」

セシリア

「それにしてもロランツィーネさんがかの高名なローランディフィルネイ家の方だったなんて」

ロラン

「ありがとう美しい蕾よ。まぁ凄いのは姉上で私などまだまださ」

「そんな事ないさロラン。是非ともまた手合わせ願いたい」

ロラン

「勿論だ箒」

一夏

「……ところでロラン。さっき箒を100人目の花って言ってたのはなんでだ?」

シャル

「…そう言えば言ってたね」

ロラン

「ふふん、それはな。何を隠そう私には世界に99の愛しき花がいるのさ。そして今回、私は箒を100人目の愛しき花とすると決めたのだ!光栄に思ってくれたまえ!」

「なっ!?」

本音

「ね~、だんだんがしののんのお芝居、全員分ダビングしてくれたよ~♪」

「ななっ!?」

「せっかくの箒の晴れ舞台だ!黒歴史にしちまうのは勿体無いぜ♪」

 

そう言った弾に群がる他少女達。箒はそんな皆を無駄だとはわかりながらも必死で食い止めていた…。

 

 

…………

 

その頃、とある場所にて、

 

 

海之

「…よし、これでいい」

火影

「これで皆にわかりやすく見せられるな」

海之

「…唯一不安なのは…あいつらだがな」

火影

「…まぁだいじょぶだろ…」

 

そんな色々あった冬期休暇は終わり、物語は遂にふたりへの核心へと向かう。




※次回は19日(土)の予定です。

本当にすいません。パソコンの修理がまだな事や年末という事もあり、次回は2週間後になります。次回からは遂に火影と海之の章、そしてある人物達が登場します。


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Mission170 真実への電脳ダイブ① 出会う者達

スメリア、日本、ドイツ。
其々の国で更なる縁を手に入れた火影や海之、一夏達。

そして…物語は遂にふたりの物語へと続く…。


千冬

「放課後、エレベーター前にお前達だけで来い。誰にも気づかれない様にな…」

 

 

新学期の始業式放課後、一夏達は千冬に上記の様な指示を受けた。そして皆揃った所で今指定された場所に向かっている。

 

一夏

「なんだろな千冬姉?俺達だけ、しかも絶対他の誰にも言うななんて…」

「わからん…。指令室に行くわけでもない以上危険なことではなさそうだが…」

「でも誰にも見つからない様になんて…簡単な話じゃないわね…」

セシリア

「…そういえば火影さんと海之さんは?」

本音

「ひかりんなら先に行くって言って行っちゃったよ~」

「火影くんも?海之くんもなんだ。先にやる事があるって」

ラウラ

「そういえばクロエさんと刀奈さんもいなかったな。声をかけてみたのだが留守だった」

シャル

「火影と海之だけでなくクロエさんと刀奈さんもいないって…それ…」

 

何となくであるが皆不安を感じている様だ。……やがて学園のエレベーター前に到着するとそこには真耶がいた。

 

一夏

「あっ、山田先生」

真耶

「皆さん、来られましたね」

「先生が何故こちらに?」

真耶

「皆さんを案内するために来たんです。…さぁ行きましょうか」

 

そう言われてエレベーターに乗り込む一夏達。そして真耶はカードキーの様なものをエレベーターのスロットに差した。

 

真耶

「このカードキーを差せば学園の秘密の地下階層に行く事ができます」

「秘密の地下階層!そんな秘密基地みたいなものがあるんですか?」

真耶

「はい。因みに一夏くんの白式を封印していたのもそのエリアです」

一夏

「だったら尚更俺が行ける訳ねぇじゃねぇか~。恨むぞ千冬姉~」

ラウラ

「済んだことを何時までもピーピー言うな一夏」

 

……やがてエレベーターは表示番より下の階に移動していき、更に地下の階で止まった。エレベーターから降りると通路があり、真耶達に案内された一夏達はある部屋の前で止まった。真耶は電子扉を開ける。

 

千冬

「…来たか」

「千冬さん」

クロエ

「皆さん」

刀奈

「待ってたわよ皆」

「お疲れ様です」

ラウラ

「クロエさん」

「お姉ちゃん。虚もいたんだ」

 

そこには千冬やクロエ、刀奈や虚。そして、

 

火影

「よ、お前ら」

海之

「…来たか」

 

火影や海之もいた。

 

シャル

「火影、海之」

セシリア

「やはり一緒でしたのね」

「…千冬さん、何なんですかここは?」

 

その部屋は普通よりも大きく、様々な機器類が並んだ部屋。一番の特徴は人がスッポリ入る位のポッドの様な物が奥に沢山置かれている事だった。

 

千冬

「ここは本来生徒達には知られない。非常時以外には使われない特別な部屋だ。故にこの部屋を出てからは誰にも言ってはならん。良いな?」

一夏達

「「「は、はい!」」」

 

千冬の凄みに一夏達は直ぐに反応する。

 

千冬

「よし、それでは教えてやる。……ここは非常時の為の作戦指令室だ」

「そんなものが…!」

真耶

「そして電脳ダイブを行うための部屋です」

一夏

「…でんのう…ダイブ…?」パコーンッ「あだ!」

千冬

「この馬鹿者、まだ授業では教えていないが教科書に書いてあるだろうが」

セシリア

「電脳ダイブ。確か…「人の意識をISの機能とナノマシンの信号伝達によって保護神経バイパスを通して電脳世界へと仮想可視化して侵入させる技術」でしたわね」

ラウラ

「ネットワーク上に仮想人物として入り込み、ネット上に存在する問題やシステム、ウイルスにも直接干渉できるともある。最もあまり行われた例はないと聞くが」

「うん。ダイブしている間入り込んだ人は意識が無いままだし…万一リンクが切れてしまったら出てこれなくなる可能性もあるって。本当に万が一だけど」

刀奈

「そうよ。でも今はそっちの方も進化してるからリンク中断の可能性は殆ど無くなったわ」

「でも千冬さん。そんな場所にどうして私達を?」

 

箒は千冬に訪ねる。すると、

 

火影

「…いや、お前らを呼んだのは俺達だ。先生には協力してもらったんだ」

「火影と海之が?」

本音

「じゃあふたりはこの部屋の事知ってたの~?」

海之

「ああ俺は少し事情があってな。火影には俺から伝えた」

「でもふたりはどうして私達をここに?」

 

他の皆も同じ思いだろう。すると火影が言った。

 

火影

「……前に言った約束を果たすためさ」

 

それを聞いた皆の顔色が変わる。

 

一夏

「前に言った約束って……!」

「もしかして!」

海之

「……ああそうだ。そのためにお前達を呼んだ。そしてお前達にはこの装置を使って俺達の秘密を見せる」

シャル

「電脳ダイブを使ってって…どうやって?」

火影

「アリギエルとウェルギエルのコアをこいつに接続し、学園のネットワークの一部にエリアとして表示させる。そこには俺達の事がデータの形で残ってる。まぁ言わば俺らの情報専用の図書室って言った感じか。それを見てもらうんだ。口伝えより映像があるほうが分かりやすいだろ?本当なら俺達自身で解説でもしたいところだが…俺達はここで待たせてもらうぜ」

「私達だけ?大丈夫かな」

海之

「心配はいらない。こちらとは連絡が取れる」

火影

「あと多分…中には案内人もいる筈だ」

セシリア

「案内人、ですか?」

火影

「ああ。ちょいクセある奴らだが……頑張れ」

一夏達

「「「……?」」」

海之

「では先生、お願いします」

 

そういうと火影と海之は自分達のアミュレットを真耶に預け、それを専用の機器に接続した。

 

真耶

「………接続完了しました。これでおふたりのコアにある情報が展開される筈です」

千冬

「では全員ポッドに横たわれ。その後電脳ダイブを行う」

「横たわるだけでいいんですか?」

楯無

「そうよ。カウントダウンが始まってゼロになったら未知の世界にようこそ~って訳♪」

「な、なんかそれだけ聞くと怖いわね」

 

そして一夏・箒・セシリア・鈴・シャル・ラウラ・簪・本音。そして志願した刀奈・クロエ・千冬がポッドに入った。

 

本音

「なんかワクワクするね~♪」

一夏

「のほほんさんはこんな時でも平常運転なんだな」

真耶

「皆さん用意できましたね」

千冬

「では真耶、頼む。虚はバックアップを」

「わかりました」

火影

「ああそうだ。もし向こうでそいつらに会ったら伝えといて欲しい事がある」

シャル

「伝えといて欲しい事?」

火影

「……知ってた癖に変な気使いやがって、と」

「…?変なメッセージね」

海之

「そう言えばわかる筈だ」

クロエ

「わかりました」

真耶

「それでは……転送を開始します」

一夏

「じゃあちょっと行ってくるぜ」

(…見せてもらうぜ火影、海之。お前らの秘密を…)

 

……そして真耶と虚が何やら作業を行うとカウントダウンが始まった。

 

…5…4…3…2…1…0!

 

真耶

「ダイブ開始!」

 

……そしてポッドに入った皆の意識が離れた。

 

火影・海之

「「………」」

「ふたり共、緊張してるんですか?」

火影

「…まぁ多少は」

真耶

「いよいよ知る事になるんですものね…あの子達もふたりの事…。でも大丈夫ですよ。皆さんもきっと…おふたりの事をわかってくれますよ」

「あの子達はおふたりを信じると言いました。おふたりもあの子達を信じてあげて下さい」

火影

「…ええ。ただ…」

真耶

「…ただ?」

火影

「その前に気になることがな…」

「そう言えば案内人と仰ってましたよね?」

海之

「…妙な事にならなければいいが…」

火影

「全くだ…」

真耶・虚

「「…??」」

 

 

…………

 

電脳世界(学園)

 

 

一方、電脳世界にダイブした一夏達は無事に潜入に成功していた。

 

本音

「目がチカチカする~」

「ここが…電脳世界…?」

千冬

「そうだ。私達がよく知っているネットワークの世界であり、現実であって現実で無い。そんな世界だ」

シャル

「確かになんか変な感じだね~。まるでゲームの世界にいるみたい~」

「うん。VRゲームの主人公になった気分だね…」

刀奈

「今の私達は意識だけの実体がない、データだけの存在なの。但しこの世界での出来事は紛れもない実の経験よ。つまりこの世界で死んでしまったら現実でも死んでしまうって訳♪」

セシリア

「ぶ、物騒な事言わないでください!」

刀奈

「あはは、ごめんごめん。大丈夫よ、ダメージが一定を超えると強制的にログアウトされるから」

ラウラ

「…しかしこの世界にはISスーツを着ないと入れないというのもちょっと不便なものだな」

「その点いいわよね火影と海之は。ISスーツを着なくてもISを纏えるんだもん」

一夏

「そうだよなぁ~これ結構恥ずかしいんだよなぁ」

 

一夏達は最近何時なんどき何があってもISを使える様に制服の下にISスーツを着る様にしているのだが火影と海之には不要なものであった。

 

刀奈

「もともとISは女子しか使えないものだからね。そういうものも全部女子向けのものしか造られなかったから」

セシリア

「ですが一夏さんや火影さん達の様な男子の方がこれから先も出てくれば変わるかもしれませんわね」

「可能性あるよね。一夏の件があってから男子の適正検査も検討されてるらしいし」

千冬

「お前達、余計な話はそこまでにしておけ。…真耶、聞こえるか?何処に行けば良い?」

真耶

「はい聞こえます。皆さん無事にダイブできた様ですね。ではそのまま真っ直ぐ進んでください」

 

言われた通り一行がそのまま真っ直ぐ進むと……、やがて巨大な扉が現れた。

 

一夏

「山田先生、この扉は?」

 

すると、

 

海之

「その扉がアリギエルとウェルギエルのコアに繋がっている」

「海之くん…。という事はこの扉をくぐれば…」

火影

「ああ…俺達の秘密を見る事ができる。嘗ての俺達のな…」

「火影」

シャル

「…嘗て、って?」

火影

「入ればわかるさ。…但しひとつだけはっきり言っとく。ここから先に見て気分がいいものは一切無い。それだけは保証しとくぜ…。我慢できなくなったら即ログアウトを願い出ろ」

海之

「そこにあるのは俺達の誰にも見せた事がないものだ。千冬先生や刀奈さんやクロエ、山田先生、そして束さんには話だけはしていたが…見せた事はない」

「私もお嬢様からお話だけは伺っていました。皆さんご免なさい…」

本音

「気にしないでお姉ちゃん」

「最も最初はとても信じられませんでした…。おふたりにそんな秘密があったなんて…」

「そしてやはり千冬さんや刀奈さんも知ってたんですね。それに姉さんも…」

千冬

「ああ。但しこれについては私達からじゃなくあいつらが直接お前達に伝えるべきだと思ってな。話す事はできなかったのだ…」

刀奈

「虚ちゃんと同じで正直最初は信じられなかったわよ。でもふたりは嘘付く様な子じゃないからね。束さんやクロエちゃんは最初から信じてたけど」

クロエ

「私や束様は魔具の設計図等もありましたから。ですがこれは兄さん達が話すまで口が割けても言っては駄目だと束様が…」

一夏

(…千冬姉や束さんがそこまで言う程の火影らの秘密って…)

火影

「お前ら、それでも知りたいか?」

海之

「引き返すなら今の内だ」

 

ふたりの質問に一夏達は、

 

一夏

「くどいぜ火影、海之。とっくに心の準備できてるよ」

「一夏の言う通りだ。問題無い」

セシリア

「私も大丈夫ですわ」

 

一夏、箒、セシリアの力強い返事。更に、

 

「余計な心配してないでさっさと吐き出しちゃいなさい火影。受け止めてあげるから」

シャル

「僕も同じだよ火影。無理なんてしてない、心から知りたいんだ」

本音

「なんの問題もないよひかりん~」

「海之くん…怖がらないで。私達を信じて」

ラウラ

「夫として姉として共に背負うのは当たり前だぞ」

千冬

「いらぬ心配だ。海之、火影」

刀奈

「そういう事よふたり共」

扇子

(問題無)

クロエ

「大丈夫ですよ兄さん」

 

わかっていたことだが全員が同じ回答だった。

 

海之

「……」

火影

「……そうか。だったらもう何も言わねぇよ。……山田先生、後をお願いします」

真耶

「では扉を開いて…先に進んでください」

千冬

「了解した。…お前達、準備はいいな?」

一夏達

「「「はい!」」」

 

 

ガチャ…ギィィィ…

 

 

先頭の千冬が扉に手をかけ、ゆっくりと開くと…扉の向こうは霧の様なものが立ち込めているのか、真っ白な空間が見えた。

 

「ここからじゃよく見えないね…」

「…行きましょ」

 

鈴の言葉に全員が頷き、扉をくぐる。そして全員が扉をくぐったその時、

 

 

ガチャンッ!

 

 

扉はひとりでに閉まった。すると、

 

ラウラ

「…!み、皆!扉が開かないぞ!」

 

まるで固まってしまったかのように扉はびくとも開かなかった。…更に、

 

セシリア

「! つ、通信もできませんわ!」

 

真耶や虚達との連絡もできなかった。それはログアウトもできない事も意味していた。

 

シャル

「ま、まさか…僕達閉じ込められたんじゃ!?」

本音

「えー!」

千冬

「落ち着けお前達!電脳世界には違いは無い」

クロエ

「…でも妙ですね…通信まで不可能なんて…。こんな事象は聞いた事がありません」

刀奈

「それに火影くん達がこんな事をするとは思えないわ…」

一夏

「のんきに分析してる場合じゃねぇぞ!なんとか脱出しねぇと!」

 

すると、

 

女性の声

「心配しなくても大丈夫よ」

 

一夏達

「「「!!」」」

 

突然聞こえてきたのは女性の声。更に、

 

男性の声

「おいおい扉が開かない位で怖がりすぎじゃねぇのか?」

 

今度は若い男性の声。

 

女性の声

「世の中貴方みたいな怖いもの知らずばかりじゃないのよ?相手は子供なんだから不安がるのも仕方ないわ」

男性の声

「…お前に言われるのもおかしいがな」

 

更に更に聞こえた若い女と男の声。それらはモヤの向こうから聞こえてきた。

 

一夏

「誰だ!?」

刀奈

「私達の他に…誰かいるの!?」

「隠れてないで姿を見せろ!」

 

見えない人物にそう言い放つ一夏や箒達。すると白いモヤの向こうからその者達はゆっくり姿を表した。

 

金髪の女性

「ご免なさい。驚かせて悪かったわ」

 

スタイル良く、身体にぴったりと合うタイトな黒い服を着ている美しい金髪の女性。

 

黒髪の女性

「貴方達がダンテとバージルの同級生ね。実際見るのは初めてだわ。随分可愛らしい子達じゃない」

 

肩位までの髪の毛。軽装だがレッグアーマーやグローブを付けた、両目がオッドアイの女性。

 

銀髪の青年

「不思議な感覚だぜ。あいつらの今の仲間が俺らより小さいこんな子供なんてよ」

 

海之と同じく青い上着で目は碧眼。髪の毛は火影や海之と同じく銀髪の青年。

 

黒髪の青年

「だが所詮子供…。魔界では一分も生きられまい…」

 

杖を着き、片手に本を持っている黒髪の青年。首から腕まで広がる異質な刺青が目をひく。そんな四人が困惑している一夏達の前に現れた。

 

金髪の女性

「どうもはじめまして」

セシリア

「な、なんですの貴方達!」

ラウラ

「私達を閉じ込めたのはお前達か!?」

銀髪の青年

「慌てんなって。あいつらから聞いてねぇか?中でもしかしたら会う奴がいるかもしれねぇって」

「…そう言えば海之くん達が案内人がいるって言ってた様な…」

シャル

「もしかして…この人達の事かな?」

黒髪の青年

「案内人か…。随分人任せな呼び方をする」

刀奈

「でも貴方達がそうならどうして私達を閉じ込めたの?」

黒髪の女性

「ああそれについては謝るわ。…邪魔されないためよ。ふたりに聞かれたら満足に話しにくいから。でも安心して?帰りたければ私達に言ってもらえたら何時でも帰れるわ」

本音

「ふたりってひかりんとみうみうの事~?」

銀髪の青年

「…ぶっ!はっはっは!やっぱ何度聞いても傑作だぜ!あいつらがそんな呼び方を許すなんてよ!」

黒髪の女性

「アハハハハ!」

金髪の女性

「ふふふ。今度来たら私達もそう呼んであげましょうか?」

黒髪の青年

「…止めてやれ。俺も笑われている気分だ…」

 

大笑いする目の前の人物達。

 

「どうもそうらしいな。しかしふたりと随分感じが違う人達だな…」

ラウラ

「あ、ああ。…なんというかイメージが湧かない」

黒髪の女性

「ふふふ、確かに今のあいつらからしたら想像できないでしょうね。でもこれでもあいつらとは結構長い腐れ縁だったのよ」

一夏

「…だった?」

金髪の女性

「生ハム&ガーリックポテトミックススペシャルのオリーブ抜き。彼まだ食べてるのかしら?」

「! 火影が自分でよく作ってるオリジナルのピザのメニュー…」

金髪の女性

「全く相変わらずなんだから…。まさかそればかり食べてるなんて事無いわよね?キツメに言っといて、ピザは控えときなさいって」

クロエ

「は、はぁ…」

 

そんな中、千冬が切り出す。

 

千冬

「そろそろ本題に入りたい。…貴方達が火影と海之が言っていた案内人か?」

黒髪の女性

「…そうね。案内人というのはダンテとバージルの意見だけど…そう思ってもらえたらいいわ」

「……ねぇ、ダンテとバージルって…やっぱり」

セシリア

「火影さんと海之さんの事なのでしょうか…?」

金髪の女性

「それについてはまた後で言うわ。まずは自己紹介から始めましょう…」

 

そしてその者達は順に名乗った。

 

金髪の女性

「私はトリッシュ。ダンテの元相棒、とでも言っておこうかしら」

シャル

「元相棒って……それってもしかして!?」

トリッシュ

「あら?余計な心配させちゃったかしら?でも心配しなくていいわよ。彼とは貴女が想像している様な事はなかったから」

シャル

「は、はぁ…」

黒髪の女性

「次は私ね。一応名前はあるけど…私の事は…レディって呼んで」

セシリア

「れ、レディって固有名詞ですわよ?」

レディ

「まぁコードネームって考えてくれたらいいわよ」

「コードネーム…かっこいい」

銀髪の青年

「次は俺か。…ネロだ。よろしくな」

一夏

「…?」

「どうした一夏?」

一夏

「いやなんか…気のせいかな?雰囲気がなんとなく…海之に似てる気がする…」

「…そういえば…」

「そ~?どっちかと言えば火影に近い気がするけど?」

ネロ

「…まぁ強ち違っちゃいねぇけどな。ところで…あんたのその…ISだっけか?名前聞いてもいいか?」

 

ネロは一夏に尋ねた。

 

一夏

「え?あ、ああ。白式・駆黎弩(クレド)っていうけど?」

ネロ

「………ありがとよ」

 

その名を聞いたネロはどこか嬉しい様な表情をした。

 

黒髪の青年

「…最後は俺か。………ミスターガリガリ」

クロエ

「が、ガリガリさん?」

「冗談だ。……Vと呼んでくれ」

刀奈

「ブイ…?変わった名前ね」

本音

「わかった~じゃあブイブイって呼ぶね~!すごい刺青だね~!」

「ああ胸から腕まで…。何か文様の様だが…」

「…久々に出してやるか…」

 

ギュゥゥゥゥゥゥン……

 

するとVの刺青の一部が何やら波を打ったように動き変化した。

 

刀奈

「な、何!?」

クロエ

「刺青が…!」

 

するとVの身体を覆っていた刺青の一部がはがれる様に外れ、宙に舞い上がった。それは大きな鳥の様な形になり、

 

グリフォン

「ぷっはー!シャバの空気も久々だぜー!…ってあら~?もしかしてシャバじゃねぇ?まいっか!細けぇ事は気にしたら負け負け~!」

「……相変わらずうるさい奴だな」

グリフォン

「ひさしぶりだなぁ~Vちゃんよぉ。ってかなんで生きてんだ~、バージルの中に帰ったんじゃねぇのか~?あとそういやダンテちゃんはどうなったんだ~?最後に俺もなんでまた出せてんだ~?もしかしてこれがキ・セ・キってやつ~?」

「……まぁ色々だ」

一夏達

「「「……」」」

 

一夏達は皆口を開けて見ている。

 

グリフォン

「なんだなんだ人間か~?えらく千客万来だなぁ~。いつの間にVちゃんこんなに人気もんになったんだぁ~?こりゃ明日の朝刊はVちゃんのメジャーデビューってので一面トップかねぇ~。ってなんだなんだこいつら揃いも揃ってポカーンとしやがって。カカシやトーテムポールにモテても嬉しくねぇっつーの」

ネロ

「相変わらずよく喋るなお前のペットは」

グリフォン

「おー坊やじゃねぇの~。あれからバージルとは仲直りしたのか~?で、どうよ、初めてパパに会ったご感想ってやつは?」

ネロ

「…おめぇに話す事はねぇよ」

グリフォン

「相変わらず湿気た返事だねぇ~。ま~でもわかるぜ感動の対面だもんなぁ~。もしかして坊やも俺と久々の再会で感無量ってやつ~?何年位?千年位?」

一夏

「………なんか言いたい事はあるがとりあえず今は無しでいいな?」

 

全員がそれに強く頷く。

 

トリッシュ

「ご免なさいね騒がしくて。さて、貴方達の御名前もせっかくだから教えて貰えるかしら?」

一夏

「あ、ああ。俺は…」

 

 

…………

 

そうして全員が自己紹介を済ませた。因みにだがこの間、Vはテレパシーでグリフォンに事情を伝えていた。

 

グリフォン

「カッカッカ!まさか俺がお寝んねしてる間にんな面白れぇことになってるなんてなぁ♪ダンテちゃんとバージルの姿が見えねぇのはそういう訳だったのかい。んで今のダンテちゃん達のお仲間がこのおチビちゃん達って訳か!」

ラウラ

「ち、チビだと!」

グリフォン

「おっとっと。怒んなって、な?」

「いいからお前はしばらく黙ってろ…」

トリッシュ

「…話を戻しましょう。改めてこの世界へようこそ」

 

そして漸く話を進める。

 

シャル

「…あの、ここって一体どういう場所なんですか?アリギエルとウェルギエルのコアの中じゃないんですか?」

「私達、海之くんと火影くんから自分達の秘密が隠されている場所って聞いたんですけど…?」

レディ

「…ええそうよ。あいつらが言った通り、ここにはあいつらの秘密が知れる場所があるわ」

刀奈

「…?場所があるってここじゃないの?」

「ここは俺達の力で作った通過点に過ぎんさ…」

トリッシュ

「私達が貴方達と話したいと思って作った場所なの。今のダンテとバージルと…深い繋がりを築いた貴方達とね。だからこの空間はあのふたりも知らないわ」

「…今の…ダンテとバージル?」

本音

「ねぇ「ダンテ」と「バージル」ってなんなの~?ふたりの名前は火影と海之じゃないの~?」

「それもあるが貴方達は何者だ?何故火影達の事を知っている?」

セシリア

「おふたりは赤ん坊の時にスメリアで保護され、育てられたと伺いましたわ…。どちらで知り合ったんですの?」

一夏

「あんたらが案内役っていうなら知ってるんだろ?教えてくれ!」

 

一夏達から立て続けに質問が飛ぶ。するとこれまでどこかふざけた調子だったネロが真面目な表情になり、言った?

 

ネロ

「……聞いてどうすんだ?」

一夏

「…え?」

ネロ

「あんたら、ダンテとバージルの秘密を知ってどうする?てか信じれんのか?言っちゃ悪いがとても信じられないかもしれねぇぞ?作り話にも程がある。つっても勿論マジな話だがな」

レディ

「さっきも言った通り、私達がこの場を作ったのはあのふたりに邪魔されない様に話したかったからの。…それでどうかしら?」

 

すると今度は千冬が答えた。

 

千冬

「問題ない。ここにいる一部の者は既に話は聞いている。そして信じている。こいつらも同じ筈だ」

刀奈

「この子達のふたりへの想いは本物よ。どうか信じてほしい」

クロエ

「お願いします」

 

皆も続いて返事をする。すると、

 

「……あいつらが、……この世の人間じゃないとしても、か?」

 

一夏

「…!」

「…え」

本音

「…へ?」

グリフォン

「あら~?揃いも揃ってカカシの次は鳩が豆鉄砲食らった様な顔してやがるぜ~。まぁそういうこったおチビちゃん達。ダンテとバージルは本来おチビちゃん達の世界の人間じゃねぇのさ~」

 

思いもよらなかったその言葉に皆は当然激しく反応する。

 

「火影と海之が…この世界の人間じゃ……ない?」

ラウラ

「そ、そんなバカな!ふたりは…紛れもない私達と同じ世界の人間の筈だ!」

セシリア

「そうですわ!出任せを仰有らないで下さい!」

ネロ

「……と、あんたのお仲間は言ってる様だが?」

千冬

「……」

「千冬さん!?」

「お、お姉ちゃん…嘘だよね?海之くんと火影くんが…」

刀奈

「…簪ちゃん…」

シャル

「クロエさん!」

クロエ

「……」

 

皆は事情を知っているらしい千冬や刀奈に問いかけるが答えようとしない。するとトリッシュが、

 

トリッシュ

「こーら!もっとちゃんと、正確に教えてあげないと駄目よ。…安心して?貴方達が知る火影と海之は間違いなく貴方達の世界で生きる人間よ。ただ…少し複雑なのよ。あのふたりはね」

 

その言葉に皆は一安心するが続けざまの言葉が気になった。

 

「…複雑、とは?」

トリッシュ

「貴方達、命って終えたらどうなると思う?」

「…え、命が終わったら?」

レディ

「そ、自分が死んでしまったらその後どうなるか、考えてみたことあるかしら?」

 

皆は思い思いに答えてみる。

 

「……そんなのわからないわよ。死んでしまった後の事なんて。まぁ大概は天国なり地獄なりに行くって聞くけど」

セシリア

「そうですわね…。あと死んだ命はまた生まれ変わってくるとも言われていますわ…。「転生」と言われていますが」

ラウラ

「私は…死んだらそこで終わり、土に還るだけ。…そう言い聞かされたな」

トリッシュ

「……そうね。死んだ後の事なんて誰にもわかるものじゃない。……でもね、ひとつだけ確かに言える事があるわ」

シャル

「…確かに言える事、ですか?」

 

するとトリッシュは切り出した。

 

トリッシュ

「……いるのよ。貴方達の世界、いいえ、貴方達のすぐ近くに…その「転生」を果たした者が」

 

千冬・刀奈・クロエ

「「「…!!」」」

 

それを聞いて皆は再び、

 

一夏

「な、何だって!?」

ラウラ

「私達のすぐ近くに…転生者だと!?」

「それってつまり……一度死んで生まれ変わって来た者、という事か!?」

シャル

「そ、そんな人…どこに…」

「…!!」

 

すると簪が何かに気付く。そして動揺する。

 

本音

「ど、どうしたのかんちゃん!」

「………も、もしかして」

レディ

「…そちらのお嬢さんは気付いた様ね」

一夏

「簪、誰かわかったのか!誰なんだ!?」

「ま、さか……そんな…」

「…ではヒントをやろう。…お前達の近くにいる転生者とは…ひとりではない、ふたりだ…。そしてどちらも男。…ここまで言えばわかるだろう?」

 

するとそのほぼ答え同然のヒントに皆がこれまで以上に反応する。

 

一夏

「!!」

「あ…」

「わ、私達のすぐ近くにいる…転生者が…」

シャル

「…ふたりの…男の人…」

ラウラ

「そ、それって…」

本音

「もしかして…」

「…そんな…」

セシリア

「で、でも…あのおふたりしか…」

千冬・刀奈・クロエ

「「……」」

 

一夏達の頭に浮かんだのは…同じ人物だった。

 

ネロ

「……」

トリッシュ

「わかった様ね。…そう。貴方達のお友達、火影と海之という双子の兄弟。彼らこそ…貴方達の世界に生まれ変わってきた転生者よ…」




※次回は26日(土)投稿予定です。

なんとか一話間に合いましたので上げる事にしました。次回に続きます。パソコンは来週戻ってきますので編集スピードを上げたいです。少し変わって今月は来週はお休みで26(二話予定)、そして30か31に年内最後の投稿予定です。


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Mission171 真実への電脳ダイブ② 英雄達の試練

「お前達だけで来い」という千冬の指示で指定された場所に向かった一夏達。真耶の案内で着いた先では千冬達、そして火影と海之がいた。ふたりは電脳ダイブ装置を用いて自分達の秘密を見せるという。驚く一夏達だったが迷いは無いと答え、揃って電脳世界へとダイブした。
そんな一夏達を待っていたのは彼ら、そして想像もしていない話であった…。


トリッシュ

「死んだ者が新たな命として生まれ変わるのを転生と呼ぶわ。そして貴方達のお友達の火影と海之という兄弟。彼らこそ転生者、貴方達の世界に生まれ変わってきた者達なのよ」

一夏

「…!!」

「なっ!」

「ひ、火影と海之が…!」

シャル

「死んで生まれ変わった…転生者だって!?」

セシリア

「…ちょっと待って下さい!…それじゃあ、ダンテとバージルという名前は…!」

ネロ

「…ああそうさ。「ダンテ」と「バージル」っつうのは…前世のあいつらの名前なのさ。ダンテが火影、バージルが海之のな」

レディ

「ふたりは前世でダンテとバージルという人生を終え、火影と海之という人間として生まれ直した。前世の頃の記憶を持ってね」

「ふたりの…前世の名前が…」

ラウラ

「ダンテとバージル…」

一夏

(あん時の火影の「前の俺達の名前」ってのはそういう訳だったのか…)

千冬・刀奈・クロエ

「「「……」」」

 

衝撃の話に事情を知っている千冬達を除き、慌てる一夏達。

 

グリフォン

「おいおい、さっきはただのカカシみてぇにボーッと突っ立ってたのに今度はバルムンクの雄叫びみてぇなすっとんきょうな声上げやがって。そんなに驚く事かよ?自分らで言ってたろうが、生まれ変わりのお話を聞いた事あるってよ~」

「…そんな事言われたって…そんな事いきなり言われて…信じきれる訳ないでしょう!」

シャル

「火影と海之が…一度死んだ人間なんて…信じられないよ…そんな事…」

「そ、それに火影と海之がそんな存在なんて…どうして貴方達にわかる!」

 

箒の問いにグリフォンが答える。

 

グリフォン

「あーもーわかんねぇかなぁ?んな事決まってるじゃねぇか。俺らはあいつらとおんなじ世界の人間なんだよ。いや正確には一部人間じゃねぇ奴も混じってっけど」

刀奈

「ふたりがダンテとバージルだった頃の仲間って訳ね?」

トリッシュ

「…そう。私達はダンテとバージルと同じ世界で生きていたの。そして今度はISのコアとして、貴方達の世界にやってきた」

セシリア

「…あ、ISの…コアとは?」

千冬

「…聞いた事がある。ISのコアには何かしらの、人格に近いものがあると…。貴方達を見た時、もしやと思ったが…」

クロエ

「その人格というのが貴方達なのですね…」

「そういう事だ…」

本音

「だからこの人達…ひかりんとみうみうの前の事知ってたんだ…」

一夏

「……」

 

すると今度は簪からこの疑問が出る。

 

「じゃ、じゃあ…アリギエルとウェルギエルは…?」

ラウラ

「そ、そうだ、ふたりのISは誰が造ったのだ!お前達の話が本当だとするならそれも知っているのではないのか?」

シャル

「確か火影と海之は自分達が覚えて無い時から持ってて…誰かから貰ったって言ってたけど…」

 

するとこれに刀奈は答えた。

 

刀奈

「…いいえ、あれは手に入れたんじゃない。ふたりが始めから持っていたものよ」

一夏

「…え?」

「は、始めから?」

「言葉の通りさ…。あれはお前達の世界で生み出されたものではない。ダンテとバージルと一緒にやってきたのさ…」

一夏

「…!!」

「な、何だと!?それはどういう意味だ!」

 

ネロが答える。

 

ネロ

「あんたらには信じられねぇかもしれねぇが…あいつらは前の世界じゃもっと強かったんだ。あんなの使わなくてもな。…だが今のあいつらはちと訳ありで前みたいな力が出せねぇのさ。だからISってやつで補ってるんだよ」

「あいつらをお前達の世界に送った奴が…一緒に持たせたのさ…」

シャル

「そんな…」

セシリア

「おふたりのISにそんな秘密があったなんて…」

ラウラ

「じゃ、じゃあ…まさか魔具も…」

レディ

「そ。あれもダンテとバージルが嘗て使っていた物。それがIS用の装備として作り替えられたのね」

一夏達

「「「……」」」

 

一夏達は完全に言葉を失っている。すると千冬が、

 

千冬

「私からもひとつ質問したい。……オーガスもなのか?」

一夏

「…え?」

「そ、そう言えばあいつ、ふたりを火影と海之じゃなくダンテとバージルって言ってた…」

シャル

「なんであの人が火影と海之の前世の名前を…」

 

トリッシュが答える。

 

トリッシュ

「…その答えは簡単よ。あの男もふたりと同じく転生してきた者だから。しかも私達と同じ世界からね」

「お、オーガスもだと!それも火影達と同じ世界から!?」

レディ

「ダンテとバージルもその事は知っているわ。そして前世で誰だったのかも…」

「そう言えば…確か海之くん達、あの人を「アルゴサクス」って呼んでた…。多分それが…あの人の前世の」

グリフォン

「まさかまさかの懐かしのごたーいめーんだよな~!よりにもよってあの魔かアガガガガ!」

「……」

 

グリフォンの口にVが本を突っ込んで止める。

 

本音

「じゃあそのアルなんとかって人も仲間なの?」

ラウラ

「…いや違う。奴は火影と海之にあからさまに敵意を抱いていた…。殺したい位のな」

セシリア

「ええ。あの態度はとても仲間とは言えませんわ…。一体あの方と火影さん達に何が…?」

 

するとVが答えた。

 

「…理由等無い。ダンテとバージル、その存在こそが…アルゴサクスの殺したい理由なのさ…」

「…! そ、それどういう意味よ!」

トリッシュ

「……」

 

何故かトリッシュ達は答えない。すると、

 

ネロ

「…どうしても知りたいというなら教えてやってもいい。…しかしあんた達、本当にその覚悟あるのか?」

シャル

「…え?」

ネロ

「今話した事はあいつらの秘密の一部に過ぎない。生まれ変わった事なんて大した話じゃあない。本当に重要なのは…あいつらの前世の事なんだよ」

「ふたりの前世…つまりダンテさんとバージルさんの人生?」

グリフォン

「そ!それを聞かねぇんじゃレースに例えりゃまだまだスタートもしちゃいねぇ!飯食うのに例えりゃまだ席に着いたばかり、いただきま~すも言っちゃいねぇのさ!」

レディ

「ダンテ、バージル、アルゴサクス。……いいえ、アルゴサクスよりダンテとバージルよ。その秘密を知らなければ…」

一夏

「ダンテとバージルの秘密…」

クロエ

「…貴方達はそれを知っているんですか?」

トリッシュ

「……ええ。あのふたりの暗く悲しく、辛さと戦いに満ちた人生をね…」

セシリア

「…く、暗く悲しくて」

ラウラ

「辛さと…戦いに満ちた人生?」

「そうだ…。特にバージルのそれはダンテより深い…」

千冬

「海之の事か…」

ネロ

「……」

 

 

(嘗て俺は大罪を犯した。とてつもなく重い大罪を…)

 

 

(前に海之くんが言ってた大罪って言葉…。海之くんの前世と関係してるのかな…?)

レディ

「貴方達、あいつらの真実に耐えられる?それを知った時、これまでと同じ様に一緒にいられる自信ある?今の話だけでも驚いて声も出せてないのに」

「あ、あるわ!私達は決めてるの!どんな真実だったとしても火影達から離れないって!」

シャル

「鈴の言うとおりです!そのために僕達はここにきたんです!」

本音

「そうだよ!」

 

他の皆もそれに同意した。

 

トリッシュ

「……」

 

ギュンッ!

 

するとトリッシュは無言で掌を上に翳す。すると光の球体が出現した。

 

セシリア

「な、なんですのあれは…?」

トリッシュ

「…貴方達、前にふたりが急激に苦しみだした時の事、覚えているかしら?……あれは私達が起こしたものなのよ。これ以上下手な事すると本当に危ないから止めとけっていう意味を兼ねた、いわば警告みたいなものだったの。まぁそんな事見向きもせずに相変わらず無茶したけどね」

箒達

「「「!」」」

レディ

「誰か経験してみたい人はいるかしら?あの時のあのふたりが受けた痛みを。これを経験すれば…あいつらの強さを少しは理解できるとおもうわ」

 

箒達の頭にあの時の、白騎士となった一夏を救った後の、火影と海之の姿が思い出される。それまで膝を着いた事も全く無かったふたりがダメージもあったとはいえ、あそこまで苦しむなど相当のものだと思った。どうしようか悩んでいると、

 

一夏

「…なら俺がやるぜ」

「一夏!?」

千冬

「…一夏、無理するな。これは私の役目だ」

「千冬さん!」

一夏

「大丈夫だよ、無理なんてしてねぇ。知りたいんだ。あいつらの事を」

セシリア

「一夏さん…」

千冬

「…やれやれ好きにしろ。まぁお前がやるもやらなくも私はやるつもりだがな」

「千冬さん…」

 

そして一夏と千冬が前に出る。

 

「言っておくが…死ぬほど痛いぞ?」

一夏

「…上等だぜ」

トリッシュ

「…じゃあ」

 

そう言ってトリッシュは掌の光を一夏と千冬に向ける。すると、

 

…ギュン!!

 

千冬

「…!!ぐっ!!」

一夏

「ぐっ…ああああああ!!」

箒達

「「「!!」」」

 

突然襲いかかる激しい痛み。どの様な痛みか、刺された様なとか撃たれた様なとかそんな単純なものではない。全身の痛覚が一気に反応していた。心臓を押さえる一夏、自らの身体を抱く千冬。しかし一向に痛みはましにならない。

 

一夏・千冬

「「ああああああああああああ!!」」

「一夏!千冬さん!」

刀奈

「ふたり共!」

 

箒達は目の前でもがき苦しむふたりを見てただただどうすれば良いか分からず必死で身体をさすり、声をかけるしかなかった。

 

トリッシュ

「……」パチン

 

トリッシュは指を鳴らした。すると、

 

一夏・千冬

「「!」」

 

ふたりは驚いた。全身の痛みがまるで何事も無かったかの様に消えたのだ。息の乱れを抑えるふたり。

 

一夏

「はぁ、はぁ……」

セシリア

「大丈夫ですかおふたり共!?」

ラウラ

「教官!」

千冬

「あ、ああ。心配するな…。もうなんともない…。しかし…今の苦しみは…」

「何すんのよあんた達!」

 

鈴は怒りの声を上げる。それに対してV達は冷静に答える。

 

「…今のがあいつらがあの時受けた苦しみだ。少しは実感できたか?」

シャル

「できただろう、じゃないよ!なんでこんな事!」

ネロ

「言ったろ?それ位しねぇとあいつらは止まらねぇんだよ。…まぁ、それでも止まらなかったがな。あんたらのために」

クロエ

「…え、私達のため?」

レディ

「あいつらがこんな痛みを無視してまで無茶し続けるのはなんでだと思う?答えは簡単、それだけ貴方達があいつらにとって大切だからよ」

「文字通りあいつらはお前達のために命をはっているのさ…」

本音

「ひかりん…」

「海之くん…」

 

だがそれを聞いた今の本音達には感謝や嬉しさよりも別の感情があった。火影と海之はこんな目にあっても自分達のために戦ってくれたのか…。自分達が弱いから…。そんな申し訳ないという感情で一杯だった。

 

グリフォン

「まぁでも驚くなって。今みたいな苦しみなんざダンテとバージルにとっちゃ日常茶飯事だったんだからよ。刺されたり撃たれたりなんか山ほどあったさ」

「そ、そんな…」

セシリア

「火影さんと海之さん…。おふたりの前世に一体何が…」

 

ふたりの前世の断片を聞いた彼女達は言葉が無い。

 

トリッシュ

「今なら引き返す事もできるわ。多少困惑するだろうけどこれまでと変わらずにいられるでしょう。……けど、あのふたりのこれからの戦いにはもう関わらない方が良い」

「…え?」

レディ

「生半可な覚悟ではあいつらを支える事なんてできないわ。はっきり言って邪魔になるだけよ。覚えあるでしょう?あの黒い存在に貴方達は手も足も出なかったのをあいつらはたったふたりで倒したのよ?」

ラウラ

「そ、それは…」

ネロ

「本気であいつらの力になりたいっていうなら…全部知る必要があるってこった。だがそれを知った時、果たしてあいつらとあんたらは今まで通りいられるかどうか…」

「知らない方が良かったと後悔するかもしれんぞ…」

 

 

(本当の事を話したら…もう一緒にいられねぇかもな…)

 

 

本音

(火影…。貴方の過去に…何があったの…?)

グリフォン

「まさに進むも引くもハイリスクロウリターンってやつさ!悪いこと言わねぇ、止めとけ止めとけ!」

箒達

「「「……」」」

 

箒達は直ぐに言い返せなかった。ここに来るまでは何もかも知りたいと思った。覚悟もできていた。しかし火影と海之が転生者、そしてオーガスも。その事実だけでも驚愕なのにそんな事はまだまだ序章に過ぎないという。更に隠されているらしいふたりの秘密。今の様な苦しみを受けてまで戦うふたりの覚悟。知りたい気持ちは嘘じゃない。でもそれを知ればふたりとは本当に一緒にいられなくなるかもしれない。しかし見てみぬふりをすればふたりと共に戦う事はできない。前に進むか後ろに下がるか…。

 

トリッシュ

「ごめんなさい…貴方達にはきつい言葉よね。でも私達は貴方達に感謝しているのよ?今のあのふたりの力になっているのは間違いなく貴方達だから…。多分ふたりも凄く感謝している筈。だからこそ大事に決めてほしいの」

ネロ

「俺もある時、自分の出生と親の秘密を急に知ってどうすりゃいいのかわからなかった。まぁ幸いある人の言葉で救われたがな。……どうする?どっち選んでも多分あいつらは気にはしねぇよ。あんたら次第だ」

千冬

「…私は最初から変わらない」

クロエ

「私も束様をお救いするためなら…迷いはありません」

刀奈

「私も問題ないわ」

箒達

「「「……」」」

 

すると、

 

一夏

「……はぁ」

 

痛みの影響からやっと解放された一夏が立ち上がる。

 

「一夏!」

セシリア

「無茶しないでください!」

一夏

「大丈夫だよ。…なぁあんたら、火影と海之の昔の仲間っつったな?あんたらあいつらに…最後まで付き合ったのか?」

トリッシュ

「…ええ。死ぬまでね」

ネロ

「ま、色々あったしな。全くの他人って訳でもなかったし」

 

トリッシュやネロ。そして答えていないがレディ。Vやグリフォンは形は違うが自身の最後までダンテやバージルに付き添っていた。それを聞いた一夏は、

 

一夏

「……へへ。だったら尚更、俺も引くわけにいかねぇな」

千冬

「…一夏?」

一夏

「俺は頭が悪いから難しい事はわかんねぇけど…、これだけは確かだぜ。火影と海之は…俺の友達で、今の仲間だ。仲間が戦おうとしてんなら…助けるのは当たり前だぜ。そこには前世とか関係ねぇ」

箒達

「「「…!」」」

一夏

「俺が弱くてあいつらに迷惑かけてんなら…俺はもっと強くなってみせる。あいつらの背中を、それが無理でもあいつらの道を切り開ける位にはな」

刀奈

「一夏くん…」

一夏

「だから…教えてくれ。火影と海之の、ダンテとバージルの事を!」

ネロ

「……知らない方が良かった真実だとしてもか?」

一夏

「ああ!」

 

一夏の力強い懇願。……すると、

 

「…………はは、一夏にしてはカッコいいじゃん。…ほんと情けないわ。あんだけ決心して来たのに簡単に揺らいじゃってる自分がね」

「…悩む必要なんて無かったね」

 

一夏の言葉で皆の目に力が戻った。

 

「私も知りたい…火影の全てを。どんな真実でも受け止めて見せるわ。そして私も強くなる。あいつを、ふたりを助けられる様にね」

シャル

「…僕も知りたい…。僕は火影に救われたんだ。生まれ変わりとか関係ない、助けてあげたいんだ」

本音

「私は皆みたいに戦えないけどふたりを支えてあげられる事はできる筈だよ!私は火影を支えるって決めたの!」

「ふたりは、海之くんは私にとってかけがえの無い人、失いたくない人なんです。あの人の前世の苦しみを…少しでも一緒に持ってあげたいんです」

ラウラ

「夫と、弟のためなら…命を懸ける覚悟はある。知る覚悟もできている!」

「あいつらは私を、姉さんを変えてくれた、支えてくれた。今度は私達の番だ!」

セシリア

「そのためならもう迷いはしません!どうか教えて下さい!」

 

鈴や簪達も一夏に続く。一瞬の迷いはあった。でもふたりに何があっても付いていく。そう決めたのだ。

 

トリッシュ

「…貴方達…」

クロエ

「皆さん…」

千冬

「先ほど更識が言っただろう?こいつらの想いは本物だと」

刀奈

「女ってのは好きな人のためなら強くなれるのよ♪」

扇子

(女は強し!)

グリフォン

「イーヒッヒッヒ!モテモテだなぁ~ダンテちゃんもバージルも!こりゃ祝言を作っとくかぁ~?ダンテちゃんは向こうじゃ経験無かったし~。まぁバージルはムグググ!」

ネロ

「余計な事は言わなくていい…」

 

グリフォンの口を閉ざすネロ。

 

トリッシュ

「……貴方達の覚悟と意志はわかったわ」

「じゃあ…!」

 

すると、

 

トリッシュ

「……それだけの気持ちがあるなら…試練に打ち勝ってみせて」パチン

 

そう言ってトリッシュは再び指を鳴らした。

 

一夏

「…!な、なんだ!?」

 

 

…………

 

「な、なんなのこれ…?」

 

気づいた時、鈴は皆と別れてある場所にいた。しかしひとりでではない。鈴の前にある存在がいた。

 

 

黒い鈴

「……」

 

 

それは真っ赤な目をしている真っ黒な甲龍を纏った鈴であった。そしてそれは鈴だけでなく、

 

黒い箒達

「「「……」」」

「な、なんだこいつは!?」

セシリア

「黒いティアーズを纏った…私!?」

シャル

「真っ黒な僕!?」

「…私、なの…?」

ラウラ

「あれは…ヴォーダン・オージェの輝き!」

刀奈

「全く冗談じゃないわよ…」

クロエ

「皆さんと通信もできない…。どうやらこの場には私と目の前の存在とだけの様ですね…」

千冬

「……」

 

箒達もまた、鈴と同じくそれぞれの空間でひとりずつ、真っ黒な自分達と対峙しているのだった。そんな彼女達に言葉が聞こえる。

 

トリッシュ

「驚かせたかしら?」

千冬

「! その声、トリッシュだったな?」

「トリッシュか!私達に何をしたんだ!それになんだこいつは!?」

トリッシュ

「落ち着かないかもしれないけど落ち着いて。貴方達、前に真っ黒なダンテとバージルと戦った事があるでしょう?それと同じ事よ」

「…!」

「それって…まさか…!」

 

その言葉で皆は理解した。

 

トリッシュ

「そう。貴方達の前にいるのは…貴方達の影、力も技も全く同じな闇の部分。云わばもうひとりの貴方達よ」

シャル

「僕達の、影…!」

ラウラ

「だからヴォーダン・オージェもそのままなのか…」

クロエ

「あの黒いアリギエル達は兄さん達と同じ力も装備も持っていた…。間違いなさそうですね…」

刀奈

「それでどうすれば良いのかしら?……まぁなんとなくわかるけど」

 

するとトリッシュは言った。

 

トリッシュ

「これは試練よ。今の自分に打ち勝ってみせて。遠慮なんて無用よ。油断すれば…」

セシリア

「……倒されるのは私達、という事ですのね?」

トリッシュ

「そういう事よ。そしてこの試練をクリアできれば、ダンテとバージルの事を教えてあげるわ。…よくて?」

 

トリッシュの言葉に鈴達は、

 

「……上等よ。自分の影なんかに負けるもんですか!」

シャル

「僕は止まる訳にはいかないんだ!」

「乗り越えてみせる…自分の壁を!」

ラウラ

「私の事は私が一番わかっている!」

「自分との勝負、か…。面白い!」

セシリア

「必ず勝ってみせますわ!」

刀奈

「最高のトレーニングね!」

クロエ

「いきます!」

千冬

「…私の影、か。まさかこんな形で対面するとはな」

 

鈴達の其々の試練が始まった…。

 

 

…………

 

その頃、ひとり別れた一夏は、

 

一夏

「……駄目だ、通信もログアウトもできねぇ。くそっ、一体どうなってんだ!?」

「落ち着け」

一夏

「…!」

 

突然後ろから声が聞こえた一夏は振り替える。

 

ネロ

「あいつらなら大丈夫だよ」

「騒々しい奴だ…」

 

そこにいたのはネロとV(グリフォンも)だった。

 

一夏

「お、お前らは…ネロとVって奴か、びっくりさせんなよ。……ってそうじゃなかった!一体どうなってんだ!千冬姉や箒達はどこに行ったんだ!」

ネロ

「だから落ち着けって。あいつらは…」

 

ネロは一夏に彼女達の状況を説明した。

 

ネロ

「…って訳だ」

一夏

「そんな事が…。自分との戦い、か…」

「心配か?」

一夏

「……いや、大丈夫さ。あいつらは強ぇからな。…てか俺にはねぇのか?試練ての」

 

一夏は何故自分には影がいないのか疑問をぶつけた。するとネロが意外な言葉で返した。

 

ネロ

「ああ、あんたにはねぇ。てかもう必要ねぇだろうしな…。代わりに…俺と戦え」

一夏

「…は?」

「こいつ是非ともお前と戦ってみたいのだとさ…」

一夏

「た、戦ってみたいって…あんたIS持ってんのか?」

 

見たところ丸腰のネロを見て一夏はそう言うがグリフォンが笑う。

 

グリフォン

「イーヒッヒッヒ!必要ねぇ必要ねぇ!坊やはダンテちゃんやバージルとおんなじ位強えからよ~!そんなん使わなくても問題ナッシング~!寧ろ坊やが全力で来ねぇと怪我するぜ~?いや怪我どころじゃすまねぇかもな~?」

一夏

「…!」

ネロ

「そういうこった。ああでも空飛ぶのだけは無しな。それ以外は持ってる力全部出して来な」

一夏

「……」

「どうだ?怖くなったか?」

 

ネロ達の言葉に一夏は、

 

一夏

「……いんや、おもしれぇ!」カッ!

 

一夏は白式・駆黎弩を纏った。

 

ネロ

「……」

グリフォン

「これはこれは面白い変身じゃねぇの~」

一夏

「そういう事ならこっちからもお願いするぜ!前の火影や海之が認めたあんたの強さ、是非見せてくれ!」

 

一夏は何故か嬉しそうだ。

 

「単純な奴だ。…どうも俺はこういう奴に縁があるらしい」

ネロ

「うっせーての」

 

ネロは前に出て一夏と対峙した。

 

ネロ

「今のあいつらが、そしてアイツ(クレド)が認めたらしいあんたの力、見せてもらおう。だが生憎俺の獲物はどっちもくれてやったんでな。久々にアレでいかせてもらうぜ!」

 

カッ!!

 

するとネロの両腕が光り、あるものが出現した。

 

一夏

「あれは…デビルブレイカー?しかも両手に!?」

 

ガシッ!

 

ネロは右手と左手を胸の前で組んで笑って言った。

 

ネロ

「…ご機嫌だ!」




※次回は30日(水)の予定です。

こんばんは。storybladeです。
皆さんにお知らせがあります。今週戻ってくる予定だったパソコンが業者の仕事の遅れで来週に持ち越しになってしまいました。そのため編集が思う様に進んでいないため、間に合いました一話だけ本日に投稿して26(土)はお休みに変更させていただきます。
予定変更が多くて本当にすいません…。30日には投稿できる予定です。


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Mission172 真実への電脳ダイブ③ 影との対峙…そして

「火影と海之が一度死んで生まれ変わってきた転生者」

衝撃の真実を知った一夏達であったがトリッシュやネロ達からそんなことはまだ一部に過ぎず、本当にふたりの力になりたいのであれば悲しみと戦いに満ちたふたりの前世を知る必要があるという。自信がなくなりつつある皆であったが一夏の言葉に自分達の本心を思い出し、改めてふたりの真相を知りたいと打ち明ける。そんな彼女達にトリッシュは言った。

「自分達の影と向き合い、乗り越えて」

そう言われた箒や鈴達は自分達の影(ドッペルゲンガー)と。そして一夏は意外な人物と戦う事になった。


ガシッ!!

 

デビルブレイカーを両腕に嵌め、胸の前で組ませながらネロは笑った。

 

一夏

「両腕にデビルブレイカー!?」

ネロ

「ご機嫌だ♪…さぁ、アイツら(ダンテ・バージル・クレド)が期待してるっつうあんたの力、俺に見せてみな!」ジャキッ!

 

そう言うとネロは両腕のデビルブレイカーを前に出し、

 

ネロ

「オーバーチュア!」

 

バリバリバリバリバリバリバリ!!

 

「オーバーチュア」というデビルブレイカーから無数の電流の嵐が向かってきた。

 

一夏

「! くっ!」

 

高速で横に避ける一夏。しかし、

 

ギュン!!

 

一夏

「! 追いかけてきた!」

ネロ

「こいつの雷撃は場所によって軌道が変わるのさ!そらそら追いつかれるぞ!」

一夏

「だけどこの程度ならイージスで!」

 

バババハバババババ!

 

イージスで全ての雷撃に対処する一夏。

 

一夏

「こいつの前ならそんなの効かねぇぜ!」

ネロ

「へー、ならこいつはどうだ!」ジャキジャキ!

 

すると両腕に付けていたそれから今度は別のものに変わった。青く砲口らしい物に。

 

一夏

「別の物に変わった!?」

ネロ

「…ダブルロックバスター!」

 

ズドンッ!ズドンッ!

 

今度はそれから細長い光の様なレーザーが高速で撃たれてきた。

 

一夏

「そんな直線レーザー」ドカァァァン!「うわぁぁぁ!」

 

まるでイージスを貫通したかの様にレーザーは一夏に当たった。

 

一夏

「な、なんだ!?壊れたわけじゃないのにイージスが貫かれた!」

ネロ

「こいつの溜めのレーザーはどんなシールドでも関係なく通り抜けるのさ。それよりどうした?避けてるだけか?今度はそっちからかかって来い!」

一夏

「なら遠慮なくいかせてもらうぜ!」ババババババッ!

 

一夏の周辺に小型のレーザー剣「粉雪」が展開される。

 

ネロ

「…確かにこういう技あったな」

一夏

「いっけぇぇぇ!」ズドドドドドドドッ!!

 

その合図で粉雪が一気にネロに向かう。それに対してネロは動かない。

 

ネロ

「…だけどまだ、アイツほどじゃねぇな!ローハイド!」

 

ガキキキキキキキンッ!!

 

ネロの両腕に付けたローハイドの鞭がそれらを弾き返す。

 

一夏

「! 粉雪を全て弾き返した!?…なら!」ジャキィィィンッ!!

 

一夏は手に戦槍「凍雪」を展開した。

 

一夏

「これだけでかけりゃローハイドでも弾き返せねぇ!喰らえぇぇぇ!」ズドンッ!!

 

一夏は凍雪の槍をネロに向けて発射した。すると、

 

ネロ

「それにはこいつだ。バスターアーム!」ガシィィィィ!

一夏

「! あのスピードの凍雪を掴んだだって!」

ネロ

「パンチライン!」ドンッ!!

 

ネロは片腕に展開したバスターアームで凍雪の槍を掴み、そのままもう片腕に付けたパンチラインのブレイクエイジのブースト機能で一気に接近してきた。

 

ネロ

「おおおおおおお!」

一夏

「くっ!負けるかぁぁぁ!」

 

ガキキキキキキキキキンッ!

 

そのまま双方の凍雪による乱打戦に突入した。槍を使っての戦いは一夏の方に多少の経験があったがそこはダンテやバージルに並ぶ歴戦の戦士であったネロ。僅かな期間でその戦い方を会得していたのであった。

 

ネロ

「まだまだこんなもんじゃねぇぜ!」

 

ギュイィィィィンッ!!

 

その時パンチラインが新たなデビルブレイカーに変化していた。

 

一夏

「なに!」

ネロ

「ヘルタースケルター!」

 

ギュイィィィィ…ドンッ!!

 

一夏

「うわぁぁぁぁ!!」

 

ネロがまるでドリルの様な高速回転で斬り込みながら一夏に体当りを繰り出した。その衝撃に一夏が吹き飛ぶ。

 

ネロ

「久々に使ってっから忘れてるかと思ったけどなんとかなるもんだな」

一夏

「ぐっ、く…ま、また見たことないデビルブレイカーを!」

 

オーバーチュアやロックバスター、ヘルタースケルターといった未知のデビルブレイカーに驚きを隠せない一夏。

 

「当然だ。もともとそれはこいつが使うために造られたものだからな…」

一夏

「! それってアンタの専用武器ってことか!」

グリフォン

「いわばそいつの元祖使い手ってとこだ♪おめぇのお友達のお嬢ちゃんとはレベルが違うぜ~」

ネロ

「まぁそういう事だ。それよりどうした?あんたの力はそんなもんか?そんなんじゃやっぱあいつらの足手まといになるだけだぜ?…あの頃の俺みたいにな」

 

ネロは一夏に会えてきつく言葉をかける。自分にも覚えがあるように。…すると一夏は、

 

一夏

「…凄ぇ」

ネロ

「…?」

 

再び立ちあがる一夏。

 

一夏

「アンタ凄ぇよ…流石火影と海之と並んで戦っていたっていうだけはあるな…」

ネロ

「そりゃどうも」

一夏

「でも…こっちだって負けれらねぇんだ!あいつらと一緒に戦える位までなるために!この雪片に懸けて!」ジャキッ!

 

そう言って一夏は雪片・参型を構える。

 

ネロ

(…あの剣はあいつが持っていたものじゃない。あの一夏ってやつの剣か…。あいつの…意志の強さが変化させたのか…?)

「…へ~、結構ガッツあるな。気に入ったぜ」

「脳筋馬鹿なだけじゃないのか?」

グリフォン

「似たもん同士だな~ネロちゃん」

ネロ

「うっせーてーの!いいぜ、ほんの少しだけだが稽古をつけてやる」

一夏

「勝つのは難しくてもせめて一太刀位浴びせてみせるぜ!…って直接斬ったらアンタどうなるんだ?」

ネロ

「それは心配すんな。俺らは実体があってねぇ様なもんだ。斬られても意味ねぇ、てか…やってみな?」

一夏

「!…面白れぇ!」

 

白式・駆黎弩纏う一夏とネロの戦いが再開された…。

 

 

…………

 

一方、鈴達はそれぞれの空間で自らの分身である黒い自分達と戦いを繰り広げていた。

…しかし、

 

「ハァ、ハァ…くっ、なんなのよコイツ!何もかも私と全く同じやり方で返してくるなんて!まるであの黒いアリギエル達と同じだわ!本当に私の影って事!?」

 

先に戦ったドッペルゲンガーと同じく、これもその全てが彼女達と全くの互角であり、何かを仕掛ければ相手も全く同じ対処を行ってくるため、攻略法が掴めないでいたのであった。鈴の場合双天牙月、龍咆、ガーベラ、そしてアービターまで全てが瓜二つである。既に息が上がり始めている鈴に対し、影は全く変化が無い。

 

鈴の影

(……)

「くっ、まるで人形を相手にしているみたいだわ…どうすれば」

 

とその時、

 

鈴の影

(私は人形じゃないわよ)

※以降、影の台詞は(×××)で表記します。

 

「! 喋った!てか…私の声!?」

 

突然目の前の影が自分と同じ声で喋り出したことに鈴は驚いた。

 

(当然でしょ?貴女だって喋れるじゃない。私が喋れない訳ないでしょ。単に喋ってなかっただけよ)

 

「そ、それならもっと早く喋りなさいよ!…てか、それなら聞きたいんだけど…アンタがもうひとりの私って本当なの?」

 

鈴は目の前の黒い自分に問いかける。

 

(わからないの?貴女と戦い方やISの動かし方の癖とか全部そのままじゃない。ついでにお転婆なところもね)

 

「だ、誰がお転婆よ!…て、そ、そうなのかな。前に火影にも言われたし…」

 

(ええそうよ。口だけじゃない。尻軽なところまでそのままね)

 

「! 私が尻軽ですって!?」

 

尻軽と言われた事に鈴は腹をたてる。

 

(だってそうじゃない?ずーっと一夏の事が好きだったのにそれが叶わないと思ったら急に別の奴に心変わりしてんだから。そういうのを尻軽っていうのよ)

 

「し、仕方ないでしょ覚えてなかったんだから!それに今私が好きなのは一夏じゃなく火影よ!アンタが私なら知ってるでしょう!てか尻軽ってのは訂正しなさいよ自分の事なのに!」

 

言葉をたてまくりながらもいつもの調子で話す鈴。だが次の言葉に一瞬時が止まる。

 

(そうね~あんな奴で運が良かったわ~)

 

「!……どういう意味よ?」

 

(わからない~?一夏への想いが玉砕して落ち込んでいた私を励ましてくれたのがあんな都合のいい奴でほんと運が良かったって事よ~)

 

「…何ですって!?」

 

その言葉に鈴は怒るが影は続けて言い放つ。

 

(だって貴女、あいつを利用したじゃない?一夏への告白が失敗してなんであいつの部屋の前で待ってたの?)

 

「…!」

 

(悲しくて泣きたいならどっかひとりになれるところでいいじゃない?もっと言えばトイレでもいいじゃない?なのにわざわざあいつの部屋の前で座り込んで待っているなんて、予想してたんでしょ?あいつなら私の事情知ってるから失恋の痛みを理解してくれるだろうって)

 

「!…そ、それは…」

 

(誰でもよかったんでしょ~?あいつでも他でも)

 

「ち、違うわ!!」

 

(違わないわ。私は貴女、貴女は私なんだから、貴女の事は誰よりも理解しているわ~。優しくしてくれる男なら誰でも良かったのよねあん時は。それがたまたま火影だっただけって事よ)

 

「……違う…。私は…」

 

思わぬ言葉に鈴は落ち込む。

 

(…まぁでも今はあいつが好きっていうのは本当の気持ちっていうのは知ってるわ。あいつの力になりたいともね。…だから、貴女に代わって私がやってもいいわよね?)

 

「…?な、何よそれ?」

 

(簡単よ。貴女が負けたら私が表の人格になる。貴女が勝てばこれまで通りって訳。あいつの力になりたいんでしょ?だったら強い方が出て行った方がいいでしょ?弱い方なんていなくてもいいんだから)

 

「…!!」

 

赤い目を狂気に歪ませ楽しそうな笑顔を見せる影の鈴。

 

(貴女に変わって私があいつを支えてあげるわ♪そんじゃさっさと終わらせましょうか、はやくあいつに会いたいし~♪)

 

「……良いわ。絶対…負けない。絶対勝ってみせる!アンタなんかに負けるもんですか!」

 

 

…………

 

そして箒達もまた、鈴と同じ様に自分達の影と対峙していたのだった。

 

(何故お前はあの人を守ろうとするのだ?)

 

「…あの人?…姉さんの事か!」

 

((あの人がしでかしたことのせいで父や母が、私がどんなに肩身の狭い思いをしてきたか忘れたのか?)

 

「……忘れてなどいない」

 

(例えあの人がどんなに変わろうがあの人の罪は消せはしない。あの人があの様な事をしなければ、こんなことにはならなかったのだ。今の場所から離れる事も一夏から離れる事もな)

 

「……そうかもしれない」

 

(あの人がどうなろうと云わば自業自得だろう?なのに危険をおかしてまで何故助けようとする?)

 

「……それでも私は…姉さんを!」

 

…………

 

セシリア

(貴女は変わってしまいましたわ。以前の貴女は誰にも頼らず、誰にも媚びない誇りを持っていました。なのに今は女としての誇りを忘れ、あろうことか男性等ににのぼせてしまうなんて。お父様の情けないお姿を忘れたのですか?」

 

「の、のぼせているなんて事ありません!それに以前の私の方が間違っていたのです!お父様は…!」

 

(貴女にはお母様が守ってくれたお家を守るというもっと大事な使命があるのではなくて?)

 

「それはわかっています!でも…それは全てが終わってからですわ!今、私にはやる事があるのです!」

 

…………

 

シャル

(…ねぇ?キミはお父さんとお母さんを信じている?)

 

「え?あ、当たり前じゃないかそんな事!」

 

(…そう。でもボクはお父さんとお母さんの事なんて信じてないよ。ついでに言うと火影の事もね)

 

「!! そ、そんな!どうして!?」

 

(だってキミ…火影に出会ったからよかったけどそうでなきゃきっと今もお父さんやお母さんの命令でスパイ続けてるよ?仲良くなれたのは運が良かったからに過ぎないじゃない)

 

「!!」

 

(そうなったらキミ、今もお父さんやお母さんを憎んでた筈だよ?おかあさんやボクを捨てたお父さんやボクを苛めてたお母さんをね)

 

「…そ、それは…」

 

(そして火影もボクを信じてくれているのかな?もし信じてくれているのならもっと早く打ち明けてくれてもよかったんじゃないかな?もしかしたら火影もお父さん達の様に)

 

「やめろ!お父さんやお母さんを…あの人を悪く言うな――!!」

 

…………

 

ラウラ

「…くっ!ヴォーダン・オージェの影響か向こうの方が速い!」

 

(無駄だ。操縦の腕もISもスペックも全て同じ。ならば後は自身の実力の勝負だ。勝つには貴様もそれを使うしかない。…まぁ臆病者には無理だろうがな)

 

「私が臆病者だと!?」

 

(そうだろう?以前のお前は何よりも力を信じ、そのためならなんでもやってきた。それが今や自らの力に恐れを感じているではないか)

 

「恐れてなどいない!戻らないと決めただけだ!」

 

(それが恐れているというのだ。私のヴォーダン・オージェの輝きの前に眠れ。そしてお前に変わり、私が海之の力になる)

 

「…そうはさせない!」

 

…………

 

(ねぇ、もう止めようよ…)

 

「…えっ?」

 

(私はもうひとりの貴女…だからこそわかるよ。…・・貴女は怖がっている。あの人の真相を知る事を)

 

「!…それは…」

 

(あの人が死んだと思った時の事忘れたの?あの時の貴女、壊れる寸前だったじゃない…。今度もし、同じ様な事があったらどうなるかわからないよ。なのになんでそこまでして行こうとするの?貴女の支えが無くても…海之くん達は戦えるよ…)

 

「……」

 

(ねぇ、もう帰ろうよ。貴女はもう十分頑張ったよ…。私は嫌だよ…自分が壊れるなんて…)

 

「……」

 

…………

 

刀奈

(全く余計な事してくれたわね~あのふたり。そう思わない?)

 

「…?何を言ってるのよアンタ?」

 

(だって~あのふたりが現れるまでは私達って学園最強だったのよ?なのにあのふたりが出てきたせいで私の影がすっかり薄くなっちゃったじゃない?迷惑なものだわ~。しかも正体不明の敵っていう面倒事まで引き込んできてさ~。生徒会長で友達でなかったら無視してるところなのになぁ~。ねぇ、いっそ逃げちゃわない?敵と戦うのはあのふたり、私達は学園を守っていればいいじゃない?それも立派な戦いよ?」

 

「………こんな奴が私の中にいるなんて事が一番迷惑ね。そして…こんなんじゃ火影くん達に敵う訳ないわね!」

 

…………

 

クロエ

(…失敗作…)

 

「えっ、…失敗作?」

 

(失敗作…。私は…何もできない、期待に応えられない失敗作…)

 

「…!!」

 

(失敗作は…処分されなければならない…)

 

「……そう、なんですね。…貴女は…あの時の…」

 

…………

 

ガキィィンッ!!キィィィィンッ!!

 

千冬の影は何も言わず、ただひたすら自らと剣を結んでいた。

 

(……)

 

「これだけ切り結んで何も言わぬか…戦いに言葉はいらない。勝った方が前に進むという訳か。ふっ、流石私の影、それなりの美徳は得ている様だ」

 

(……)

 

「ならば…最後まで付き合ってやるさ。但し…勝つのは私だがな!」

 

 

…………

 

ネロ

「開け!二輪のガーベラ!」ズドォォォォォンッ!

一夏

「ぐっ!両腕のためか鈴の時より威力が上がっている!」

 

ほぼ同時刻、一夏とネロの戦いは続いていた。一夏は善戦していたが両腕のデビルブレイカーを巧みに使いこなし、戦歴も一夏よりも遥かに多いネロの方がやはり圧倒的であった。

 

一夏

「くっ!」ドンッ!

 

堪らず空に逃げる一夏。

 

グリフォン

「おいおい空は飛ぶなって言ったろうが~?」

一夏

「わ、悪ぃつい…。ちょっと息を整える暇だけくれ!攻撃が激し過ぎんだよアンタの!」

「老いぼれから若返ってご機嫌な様だなネロ?」

ネロ

「うっせー。…てか、実は…俺も空飛ぶ方法、全く無い事ねぇんだぜ?…パンチライン!」ズドン!!

 

するとネロは左腕にパンチラインを展開し、それを発射したが、

 

ネロ

「カモン!」ビュンッ!

 

そういうとパンチラインは彼の所に急旋回して戻った。そして、

 

ネロ

「ほほー!」

 

ネロは戻ってきたパンチラインの上に乗り、急加速で一夏に向かって行くのだった。飛べないと油断していた一夏は驚く。

 

ネロ

「サイッコー!」

一夏

「な、なんだそれ!?スッゲー!」

 

予想だにしないネロの技に興奮しながらも一夏は雪片で迎え撃つ。対してネロは右腕にオーバーチュアを展開して雷撃を溜める。

 

一夏・ネロ

「「はぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

ガキキキキキキキキキキッ!!!

 

剣と拳が激しく音を立ててぶつかる。

 

一夏

「締雪!」ビュンッ!

ネロ

「!」

 

瞬間、一夏の締雪がネロに襲い掛かった。だが間一髪ネロはそれを避け、パンチラインから飛び降りる。

 

ネロ

「っと!ふぃ~、あっぶね、そういやそんなのもあったぜ」

 

高さはあったが難無く着地するネロ。

 

一夏

「あ、あんな高さから落ちても大丈夫ってどんなだよ!」

ネロ

「細かい事気にすんな。ところでさっきからなんか音してねぇか?」

 

ピッピッピッピ

 

確かに一夏のすぐ傍から電子音の様な音がする。よく見ると、

 

一夏

「…!ゆ、雪片にデビルブレイカーが残ってる!?」

ネロ

「やるよ」

一夏

「へ?」ピッピ…「!!」

 

カッ!ドガァァァァァンッ!!

 

電子音が止んだとたん、一夏の雪片に残されていたオーバーチュアが爆発炎上したのであった。凄まじい煙に包まれる一夏。

 

ネロ

「これがオーバーチュアのブレイクエイジだ」

「やり過ぎではないのか?」

 

もろにダメージを受けてしまったかもしれないと心配になるネロ達。しかし、

 

シュバァァァァァ!!

 

ネロ・V

「「…!」」

 

煙の中から放たれるすさまじい黄金の光。その中にいたのは白式・駆黎弩の能力「Aegis」を起動して爆発のダメージを防いだ一夏だった。だが爆弾付きの雪片を離さずに持っていたために腕だけは範囲外になってしまったらしく、腕だけは完全に守り切れなかった様であった。因みに強度が上がっているらしい雪片・参型も折れていなかった。

 

一夏

「ぐ、ぐぐぐ…そうか、今のが前に束さんが話してたやつか…」

グリフォン

「おいおい生きてる!生きてるぜ坊や!」

ネロ

(あの金色の盾も…あいつの力によるものか…)

「てか何で剣を離さなかった?それを遠ざけりゃ完全に防げたんじゃねぇのか?」

 

一夏の行動にネロ達は疑問を投げる。

 

一夏

「…この雪片は俺の誇り、そして託してくれた千冬姉の誇りでもあるからな。俺はこいつと、白式と一緒に自分の大切なものを守るために戦う、そう決めたんだ。だからこいつだけは…死んでも離す訳にはいかねぇのさ!」

ネロ

「……そうかい」

 

…ツー…

 

ネロの頬の部分に一筋の傷があった。

 

ネロ

「……さっきの奇襲はなかなかよかったぜ?俺じゃなきゃ避けられねぇかもな。だがこんなもんじゃねぇんだろ?お前の本気ってのは」

グリフォン

「心の方は強くてもよ、肝心の力がこんな程度じゃ意味ねぇぜ?」

「そういう事だ…」

一夏

「面白れぇ!…うおぉぉぉぉぉ!!」

 

一夏は再びネロに向かって行くのであった…。

 

 

…………

 

その頃、自らの影達と戦っていた鈴達だったが……暫く戦っていた中、動きがあった。

 

「……」

 

(…?どうしたのよ武器下ろして。もう終わり?なら早く倒されてよ、火影に会いたいんだから♪)

 

突然武器を下ろす鈴。そして静かに話し始める。

 

「…………アンタの言う通りよ」

 

(……え?)

 

「だからアンタの言う通りって言ってんの!認めたくないけど…私…あいつを、火影を利用していたの。一夏に失恋した悲しさを…あいつに慰めてもらおうって思ってた。だから2回目に一夏と喧嘩した時、あいつの部屋の前に行ってたの…。アンタの言う通りトイレとかで泣けばよかったと思うけど…ひとりじゃ耐えられなかった…誰でもいいから支えてほしかったのよ…。それがたまたま優しくしてくれた火影だったって事。アンタに言われるまで気付かなかったんだけどね」

 

(気づかなかったんじゃないわ。…考えたくなかったのよ)

 

「…うん。そしてすっかり火影に心変わりしちゃった。軽い女よねほんと…。尻軽って言われても仕方ないわ」

 

(…なんだ。わかってんじゃないの)

 

「……でもそれでもいいの。今私が好きなのは本当に火影だもん。アンタが私の影ならわかるでしょ?私の想いが本気だって。さっきアンタも言ってたじゃん」

 

(……まぁね)

 

鈴の真っ直ぐな言葉に何も言えない鈴の影。そしてそんなやりとりは彼女達も…。

 

…………

 

「……確かに私は姉さんが嫌いだったさ。いや半分憎んでもいた。姉さんのせいで私達は逃げる様に故郷を去り、姉さんは国際指名手配され、私達は最重要保護人物の設定を受けた。多くの不自由を受けてもきた。きっと昔の私なら…お前の言う通り、姉さんがどうなろうとどうでもいい、と思い、あんまり関心が無かっただろう…」

 

(…そうだ。全てはあの人のせいだ…)

 

「でも姉さんは変わった。自分がした事を罪と認め、自分を信じてくれた人達のために今度こそ正しく夢を叶えようとしているんだ!そしてやり方こそ違ったが…姉さんは私達をずっと愛してくれていたんだ!」

 

(……)

 

「私は…姉さんとちゃんと向き合いたい。そして話したいんだ。だからそのためにも止まる訳にはいかない!必ず助けてみせる!一夏や皆と共に!」

 

…………

 

セシリア

「…嘗ての私は…父の後ろ姿を情けないという気持ちで見ていましたわ。何故こんな人が自分の父親なんだろう、こんなにへこへこしてばかりの人のどこにお母様は惹かれたのだろうと。だから男なんて皆大したことない低俗なものと決めつけていました。貴女の言葉…まるであの時の私の心の声みたいですわ」

 

(そうですわ…男性とはそんなものです)

 

「でもそれは私の間違いでした。お父様は私のために自らをかけてくれた素晴らしい紳士でしたわ。今ならお母様がお父様を愛したのもわかります。おふたりの愛の力が私と、そしてお家を守って下さったんですわ。…私もそんな強い女性になりたいんですの!愛する人と一緒に大切なものを守れるような淑女に!」

 

(…愛する人と一緒に…)

 

「ふふ♪私は必ず勝ちますわ。自分にも、恋にも。私が諦めが悪いの、貴女もご存知でしょう?…でも先ほども言った通りそれはまだ後のお話。今はすべきことがあります。皆さんと一緒に戦うという事を!」

 

…………

 

シャル

「……キミの言う通りかも知れない…。昔の僕は…お父さんを憎んでいたんだ。おかあさんと僕を見捨てたんだと思ってたから…。おかあさんは最後までお父さんを愛してたのに…」

 

(…そうだね)

 

「…おかあさんが死んだ後、行き場のない僕をお父さんは引き取ってくれたけど…それでも僕の処遇は居づらいものだった…。お母さんは僕にきつく当たるし…お父さんはまるで何も感じていない様に他人みたいに接するし…、僕の居場所なんてどこにもないんだって思ってたんだ…。でも居場所が欲しかった僕は…言われるまま一夏のスパイを受け入れた」

 

(…そう。そうしなければまた捨てられるかもしれないと思った…。ひどい場所でも…居場所を…無くしたくなかったから)

 

「……だけど僕は知ったんだ。お父さんはちゃんと僕を想ってくれていた事。そしてお母さんも辛かったって事…。キミの言う通りきっかけは偶然だったかもしれない、火影に出会わなければまだ何も変わってなかったかもしれないよ。……でももういいんだ。大事なのは昔じゃなく今だよ。お父さん達とも仲良くなれて、火影や皆と一緒にいれる今じゃないか」

 

(……)

 

「僕にはもう、お父さんやお母さんへの憎しみは無いよ。そして火影は僕を捨てたりなんか絶対にしない。火影の傍にいるためにも…僕はあの人の事が知りたいんだ!だから止まれない!」

 

…………

 

ラウラ

「はあああああ!」ドォォォォォォンッ!!

 

(くっ、急に強くなった…!?ヴォーダン・オージェも使っていない貴様が私と互角!?)

 

「……戦っている中でわかったぞ。やはりお前は私だ。お前はもまた、皆や海之を大切に思っている。さっきお前は海之の力になると言っていた。それが何よりの証拠だ)

 

(!…そうだ!なのに貴様は自らの力を恐れている!私はそれが許せん!そんな事では守れも支えられもしない!だから私が)

 

「違う!!」

 

(…!)

 

「それは違う…。真に大切なのは力ではなく心だ。私は海之にそう教えられた。本音を見てわかるだろう?あいつは私達と違って戦えないのに火影を立派に支えているではないか。そして火影もまた本音を守り、彼女の想いを力としている。守る支えるというのはそういう事だろう?海之を守りたいと思っている私達ならわかる筈だ」

 

(……)

 

「だから私はもうあの時の様な私には戻らない。力に溺れもしない。…そんなもの用いずとも海之を支えたいという想いがあれば…私はこれまで以上の私の力が出せるからな!」

 

…………

 

「………違うよ」

 

(…え?)

 

「貴方を見ていて気付いたの。貴女は…海之くんと出会う前の私だって…。打鉄弐式の事で周りを信じられなかった私…。お姉ちゃんの影でただ隠れていたばかりの私…。傷つきたくなくて…誰にも頼らず…自分の世界で生きていた私に…」

 

(…そうだよ。だからもうこれ以上傷つきたくないんだ…。だから…)

 

「それじゃ駄目!引きこもっていれば傷つかないなんてそれは違うよ。そんなの自分に嘘ついてるだけ。嘘をついているのって苦しいんだよ!自分をごまかして、本音も出さないで、ひたすら我慢しているだけじゃあ何にも解決なんてしない!どんどん自分の問題が積み重なって苦しみが酷くなっていくだけだよ!」

 

(……でも)

 

「私は海之くんと出会って…変わろうと思った。そしてそのおかげで私は避けていた問題とも向き合えた。お姉ちゃんとも仲良くできた。周りが悪かったんじゃない。私の思い込みが自分を勝手に遠ざけていただけだったんだよ」

 

(……)

 

「ほんのちょっと怖い気持ちもあるけど…私はもう逃げないと決めた!ふたりの、海之くんの真実を知りたいの。そして必ず受け入れてみせるよ。私や貴女が、ずっと一緒に生きていきたい人なんだもの!」

 

(…!)

 

…………

 

刀奈

「…ねぇ、貴女はふたりの事が嫌い?」

 

(好きとか嫌いとかじゃないわ~。強いて言うならヤキモチってとこかしらね~。私達よりずっと強いし人気者だしカッコいいし~。簪ちゃんの信頼度もMAXだし妬けちゃうのよね)

 

「……ふふ、それ聞いて安心したわ。だって私も同じだもの。学園最強にして現役の国家代表たる私を簡単に倒しちゃったり、あんないい子達が揃ってベタ惚れだし、簪ちゃんなんか海之くんにゾッコンだし、ホント妬けるわよね。気持ちよくわかるわ~♪」

 

(あらら?私みたいなやつがいて迷惑だったんじゃないの?)

 

「最初はね。でも仕方ないじゃない。貴女は私、私は貴女なんだから。そう考えると貴女の事も嫌いじゃなくなってきたのよね~。自分を好きになれなきゃ元も子もないじゃない?」

 

(あはは、そりゃそうね♪)

 

…………

 

クロエ

(…私は…失敗作。…いても意味が無い…)

 

「…貴女は…私、なんですね…。ドイツの馬鹿共に勝手に生み出され、勝手に訓練させられ、勝手に身体を弄られ、そして最後には…役立たずと無様に捨てられた…誰も信じられなかった…あの時の私そのものです…」

 

(…私は…なにもできない…。役立たずはいちゃいけない…)

 

「…でも、私は束様に出会った。あの方は…私に初めてやすらぎを与えてくれた。私を人にしてくれた…。そして皆さんや…兄さん達に出会って…多くのものを得る事ができた。私にいていいと言ってくれた。私という存在にも意味があると…!」

 

(…私…意味…)

 

「私という存在に意味があるのなら…貴女にも意味があるんです!私は貴女なんですから!」

 

(……!)

 

…………

 

「……ねぇ、思ったんだけどさ?私とアンタのふたりで火影を支えたりできない?」

 

(…へ?)

 

「だってアンタは私、私はアンタなんでしょ?ならどっちが欠けても駄目じゃん?あの人は乗り越えろって言ってたけど、おんなじ奴同士なら決着つかないのも無理ないしさ。ならどっちが上とかじゃなくこれからも一緒に戦わない?鳳鈴音としてさ」

 

鈴は自らの影にふざけた様にそう言ったがその目は真剣であった。そんな鈴に影は一瞬ポカーンな表情を浮かべたが、

 

(………ぷ、アハハハハハ!何を言い出すかと思えば!アハハハハ…」

 

「…結構本気なんだけどね」

 

鈴の影は大笑いし、そんな彼女を見て呆れる鈴。しかし、

 

(フ~…、そう来たか。予想とは違った形になったけど…これもいいか)

 

「え?…!!」

 

鈴は驚いた。目の前にいる自分の影がぼんやりと淡く光始めたのであった。

 

(何を驚いているのよ。自分で言ったでしょ?アンタは私って。…だから帰るのよ)

 

「ちょ、ちょっと何言って!」

 

(忘れないでよ?私も貴女って事。……あいつをお願いね)

 

そう言うと鈴の影はやや寂しそうに、しかしどこか満足した様な表情でゆっくり消えていった。それと同時に鈴の意識も途切れた。

 

 

…………

 

場所はまた戻り、一夏達。先ほどから幾度も無く撃ちあい、ネロはまだまだ余裕がある感じであったが一夏の方は限界が近い様であった。

 

一夏

「ハァ、ハァ、ゼィ、ゼィ…」

グリフォン

「おいおい腕がプルップルに振るえてんじゃねぇの。プリンみてぇだぜ~。もう止めとけよ?」

一夏

「…ま、まだだ…」

「分かっているのだろう?自分にはこれが限界と。なのに何故挑む?」

一夏

「…さぁ、俺にもよくわかんねぇ。…でもあいつらの、影響かな。火影と海之は…どんな状況でも諦めて、なかった。だから…俺も諦めが悪くなったのかもしれねぇ。どんなに悪い状況でも…諦めなけりゃ…必ず…ってよ」

 

息も絶え絶えに一夏は言う。

 

ネロ

「…そのせいで死ぬことになってもか?」

一夏

「……諦めて後悔しながら生きるより、足掻いて守って死んだ方が…カッコいい、だろ?」

(…くそ…もう雪片を持つ力もねぇ…。トムボーイのパンチ位か…)

ネロ

(…諦めるより足掻いて死ぬ、か…)

「……わかった。なら次で終わらせてやるぜ」カッ!

 

ネロはバスターアームとトムボーイに変え、ブレイクエイジのためにチャージする。

 

グリフォン

「お、おいおい!今の坊主にそんなんぶつけたら」

「お前は黙って見ていろ」

ネロ

「今の俺にできる最大のパワーを喰らわせてやるよ」

一夏

「……ありがてぇ!」キュイィィィィ…!!

 

そう言って一夏はトムボーイのナイトメアモードを起動させパワーを溜めた。

 

一夏・ネロ

「「おおおおおおおおおお!!」」ドンッ!ドンッ!

 

 

ガガガガガガガガガガッ!!

 

 

ふたりは互いに突進した。一夏のトムボーイとネロのバスターアームがぶつかり、先ほど以上の激しい力の押し合いになる。

 

一夏

「はあああああ!」

ネロ

「おおおおおお!」

 

…そして、

 

ガガガガガガ……ドガァァァァァン!

 

やがてエネルギーに耐え切れなくなったのか、ふたりのデビルブレイカーは小さい爆発を上げて壊れてしまった。

 

グリフォン

「ネロ!坊主!」

「……」

一夏・ネロ

「「……」」

 

ふたりは拳を突き当てたまま止まっている。

 

…キュゥゥゥゥン…

 

その瞬間一夏は白式が解除されてしまい、今の一撃で精魂尽きたのか気絶して前に倒れてしまった。それをネロが受け止める。

 

一夏

「……」

ネロ

「……いいパンチだったぜ」

 

 

…………

 

千冬

「…ハァ…ハァ…」

 

(……)

 

場所は再び変わり、こちらは千冬とその影の空間。先ほどからずっと撃ち合っている千冬と彼女の影。

 

「…ちっ、本当にだんまりを決め込んでいるな…」

 

ずっと無言を貫いている千冬の影だったが…ここに来て口を開く。

 

(……お前は…)

 

「!…漸く口を開いたか。息切れや降参ならありがたいんだがな」

 

すると影は千冬にこう問いかけた。

 

(お前は…伝える気はあるのか?)

 

「…何?」

 

(一夏に……伝える気があるのか?……全てを)

 

「!!………」

 

その言葉に千冬は一瞬目を開き、少し黙る。

 

(わかっている筈だ…。マドカが現れた今、もう…隠しきれんぞ)

 

「……」

 

(……どうした。答えが出ないのなら私が)

 

すると千冬が割って入った。

 

「答えは最初から決まっているさ。マドカが……いや、両親が去ったあの時から…全てな」

 

静かに、ハッキリそう答える千冬。それを聞いた彼女の影は剣を下ろし、

 

(……そうか。……では、もう何も言わん)

 

それだけ言うと彼女の影もやんわりと光始め、

 

「…お前」

 

(…一夏を…頼む)

 

それだけ言い残し、ゆっくりと消えていった…。

 

「それを聞き出すために今まで戦っていたのか…。全く、我ながら遠回しなやり方だ。……言われなくても守るさ。一夏も…そしてできれば…あいつもな…」

 

 

…………

 

「…か……一夏!」

一夏

「………う」

 

誰かに呼ばれた一夏は目が覚める。

 

「一夏!」

セシリア

「気がつかれましたか!?」

 

そこには箒やセシリア、他の皆もいた。そしてネロ達も。

 

一夏

「…箒…セシリア」

千冬

「大丈夫か?」

一夏

「千冬…姉?……良かった、皆無事だったんだな」

 

一夏は皆が無事に試練をクリアしたのだと安心した。

 

刀奈

「まぁね。最もあれでよかったのかはわからないんだけど」

一夏

「…?」

「正確には倒していないんだ。戦っている中で、お互いの思う事や言葉を交えて…そしたら最後に…「貴女なら大丈夫だね」って言われて…消えちゃったの」

ラウラ

「ああ私もだ。「お前なら大丈夫だろう」と言われて…最後は「私はいつもお前を見ている」と言って消えた。一体何だったのだろうなあれは…」

クロエ

「私もです。ただ私は最期に「ありがとう」と言われましたけど…」

 

どうやら皆が皆、自らの影に認められたり感謝されたりしつつ別れた様である。

 

本音

「でもびっくりしたよ~!皆が突然消えちゃったんだもん!レディさんが一緒だったんだけどふたりっきりだったから心細かったよ~!」

レディ

「あらそう?その割には結構楽しそうにお喋りしてたじゃない。ダンテの事とか将来あいつとどうなりたいか。聞いててこっちが恥ずかしかったわ」

本音

「だってほんとの事だもん~♪」

「…本音の場合影も本音のままな気がするわ」

シャル

「あはは、確かに」

 

そんな会話をしているとトリッシュが、

 

トリッシュ

「話を戻しましょうか。分かっていると思うけど今貴方達が戦ったのは…貴女達の心の一部よ」

「…心の一部?」

トリッシュ

「人にはいくつもの一面があるものよ。慈愛に満ちた自分や残酷な自分とかね。今の貴女達もそのひとつ。貴女達はそれと戦っていた訳」

「…あの私が…私の心の一部…」

ネロ

「まぁこいつだけは実際俺と戦って気絶しただけだけどな」

一夏

「あ、やっぱり?どおりで生々しかった訳だ…。にしてはあんなボロボロだったのに随分身体が楽なんだけど?」

レディ

「それはスイートサレンダーっていうデビルブレイカーの力よ。あれをキリエ以外に使うなんてね~ネロ~?」

ネロ

「…作った奴の趣味だ。俺はいらねぇと言ったんだ…」

グリフォン

「イーヒッヒ!お優しいね~ネロちゃん!今度は俺にもや」ビュンッ!「でぇぇぇ……」

 

猛烈なスピードで投げ飛ばされたグリフォンであった。

 

一夏達

「「「……」」」

「気にするな…」

トリッシュ

「ところで貴女達、自分達の影と対面してどう感じたかしら?そして…どうして倒さなかったの?」

 

トリッシュの質問に一夏と本音以外の皆が答える。

 

「…正直言って最初はムカついたわよ。言いたい放題言われたし、挙句の果てにはもし負けたら自分が私に代わって生きるとか言われたし」

ラウラ

「…ああそうだな、私も言われた。力を怖がっている様な私に代わって自分が表になってやるとな。それを聞いて絶対負けられんと思った」

シャル

「そうだね。……でも…気づいたんだ。もうひとりの僕が言っている事はそのとおりだったって。認めるのが怖くて…ずっと自分の中で抑え込んでいた部分。それを指摘された…」

セシリア

「それだけじゃありません…。あの私は昔の私の様でしたわ…。お父様を信じれず、男の方を見下し、誰にも頼ろうとせず、意固地になっていた時の私みたいな…」

「…私もそうだった」

クロエ

「…はい。あの私も…間違いなくあの時の私でした。無力で生きる価値も無いと思っていた頃の…私…」

「すると思ったんだ。倒すのではなく認めよう、受け入れようと。あの影もまた…私なのだからと」

千冬

「……」

 

其々感想を述べる皆。

 

トリッシュ

「…合格よ」

「…え、合格?」

レディ

「そ。この試練は単なる勝敗を見るんじゃないわ。自分の見て見ぬふりしていたり忘れていたりしていた影。それと向き合った時どんな行動するかが肝だったのよ」

「…でもさっきは勝てって…」

トリッシュ

「ええ。もうひとりの自分からの指摘や誘惑に負け、憎しみや恨みのまま勝っていたなら不合格だったわね。でも貴女達はそうしなかった。ただ勝つのではなく目の前の存在を認め、受け入れた。そこに意味があるのよ」

千冬

「最初から含んだメッセージがあった訳か…」

レディ

「単純な力の強弱なんてあまり大した問題じゃないわ。大事なのはどんな侵食や逆境にも負けない強い心よ」

「貧弱な心は魔の格好の餌だ。油断すれば忽ちつけこまれる…。覚えておくんだな…」

ネロ

「…一夏っつったな。お前の諦めない意志の力、見せてもらったぜ。正直実力はまだまだだが…クレドが認めただけのってこと事はあるな」

一夏

「サンキュー、えっと…ネロ。……あとクレドって?」

ネロ

「…ふっ、気にすんな」

「…ところで、合格ってことは…貴方達の目に叶ったって思っていいのかしら?」

レディ

「…ええそうなるわね。貴方達なら大丈夫でしょう…」

「…という事は…」

トリッシュ

「約束通り教えてあげるわ…。ダンテとバージル…いいえ、貴方達のお友達、火影と海之の正体をね…」




※次回は来年一月の9(土)の予定です。

今年は本話が最後となります。正直今年で一番書くのが難しかったです。文才が無いものですいません。
また、今年一年自分の都合で投稿スピードがちょくちょく変わってしまい、ご迷惑をかけました。来年から自分も新しい仕事に入るため、今後も似た事があるかもしれませんが前にも書きましたとおり必ずエンディングまで書きますので、お付き合い頂ければ幸いです。

今年一年ありがとうございました。良い年をお迎えくださいませ。


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Mission173 真実への電脳ダイブ④ 兄弟の始まり

お読み下さっている皆様こんにちは。storybladeです。
明けましておめでとうございます。本年も本作を宜しくお願い致します。
コロナにお気を付けください。



火影と海之の衝撃の事実を知り、試練をクリアした一夏や箒達。

そんな彼らに、遂にあのふたりの、ダンテとバージルの真実が明かされようとしていた。

 

トリッシュ

「では約束通り貴方達にダンテとバージルの秘密を見せるわ。…知ったらもう後戻りはできないわよ」

レディ

「あいつらとの付き合い方も間違いなく変わっちゃうわよ」

 

最終勧告といえる言葉。しかし一夏達の答えは決まっていた。

 

一夏

「大丈夫だよ。俺達の絆を信じてくれ」

千冬

「…頼む」

 

他の皆も同じく頷いた。

 

ネロ

「大したタマだよあんたら全員」

「知るからには目を背けん事だ…」

トリッシュ

「始めましょう。…じゃあ皆、目を閉じてくれる?」

 

そう言われて一夏達は目を閉じた。

 

トリッシュ

「嫌なものも沢山見るだろうけど…どうか受け入れてあげてね。今の彼等は…れっきとした人間、そして…」

 

 

…パチン!!

 

 

トリッシュは再び指を鳴らした。

……だが特に何も変化が無い様な気がした一夏達はゆっくり目を開ける事にした。

 

一夏達

「「「!!!」」」

 

目を大きく見開いた。そこは…今まで自分達がいたような場所とは全く別の場所であった。

 

草一本生えていない不毛の地。異質な岩石や見たことが無い様な朽ちた木。血の様な赤い湖。空はまるで夜の様に暗い。だが普通の夜とは違って星の瞬きも無くどんよりとした…、見る者の心を蝕みそうな嫌な闇。そしてよく見ると空からも何か生えている様にも見える

 

一夏

「な、なんだここは!?」

「トリッシュさん、ここは一体…!?」

 

近くにトリッシュ達はいなかった、いるのは自分達だけである。

 

刀奈

「あの人達皆いない…。どうやら私達だけみたいね」

「なんなのよ一体…。教えてくれるんじゃなかったの?てか…ほんとどこよここ?」

「わからない…こんな色の木とか岩とか、水とか見た事ないよ」

一夏

「暗闇なのは夜だから説明できるとし…なんで空からも岩生えてんだ…洞窟かなんかか?それに水なのかコレ?…なんかどろってしてる様に見える」

千冬

「落ち着けお前達。私達をここに運んだのはトリッシュだ。何か考えがあっての事だろう」

クロエ

「それにあの方は「見せる」と言っていました。もしかしたら…これは実際の場所では無く映像みたいなものではないでしょうか?」

本音

「…!ほんとだ~。この木とか触れないよほら~」

 

本音が木の一本に手を触れようとした。するとまるで何も無いようにすり抜けた。

 

セシリア

「!…すり抜けた。クロエさんの仰る通りかもしれませんわね」

ラウラ

「立体映像の類という事か」

シャル

「で、でもだとしてもここはどこなんだろう?テレビとか写真とかでもこんな場所見たことないよ」

千冬

「……もしやここは…」

 

異質な場所に困惑している一夏達。……すると、

 

「大丈夫よ」

一夏達

「「「!!」」」

 

突然今まで何もいなかった後ろ側から聞こえてきた女性らしい声に驚く一夏達は揃って振り向く。

 

赤い髪の女性

「驚かせてしまったならごめんなさい」

老婆

「これはまた随分大人数で来たもんだねぇ」

 

そこにはふたりの女性がいた。腹部が見えている黒いタイトな服装でポンチョを羽織り、赤い長い髪を束ねているどこか謎めいた雰囲気を醸し出した若い女性。もうひとりは黒いローブを羽織り、被り物をした杖を持った老婆。

 

一夏

「な、なんだアンタは!?」

ラウラ

「全く気配を感じなかった…!ただ者じゃないぞ…」

赤い髪の女性

「安心して。信じてくれるかわからないけど私達は敵じゃないわ」

 

安心する様にと話す赤い髪の女性。

 

刀奈

「トリッシュさんが運んだこの場所に現れて、私達に話しかけてきたって事は…」

千冬

「貴女達もトリッシュ殿達の知り合いか?」

老婆

「飲み込みが早い子がいて助かるわい。いちいち最初から説明するのは面倒だからねぇ。ダンテの奴から聞いたのかい?」

刀奈

「正確にはその生まれ変わりの人ですけどね」

老婆

「生まれ変わりでもダンテはダンテさ。あいつは元気かい?それとその兄の方も」

クロエ

「え、ええ」

一夏

「あ、あの…アンタ達は?」

老婆

「名前を聞きたけりゃ先ず自分から名乗りな坊や」

一夏

「あ、ああ俺は…」

 

老婆の独特な雰囲気に皆がややタジタジになる。そう言って順番に自己紹介をしていき、全員が終わるとふたりも名乗った。

 

老婆

「やれやれやっと終わったかい。歳のせいか覚えが悪くなってねぇ。忘れてたら許しとくれ」

女性

「何を言っているのよ。150を超えても私以上に記憶力良かったくせに」

本音

「ひゃひゃ、ひゅくごじゅう~!?」

「し、失礼ながらお歳は?」

老婆

「さぁね…100を越えた位から数えてないよ。おっと名前だったね。…マティエ、そう呼びな」

本音

「わかった~マティエお婆ちゃん」

マティエ

「始めてあったもんにお婆ちゃんと呼ばれるとはねぇ。まぁ好きにしな」

ルシア

「…私の名前はルシア。私もマティエも貴方達が言う様に彼女達の知り合いで…デュマ―リの護り手よ」

セシリア

「…デュマ―リ?…失礼ですが聞いたことが…」

ルシア

「それについては気にしなくていいわ。そして今は…ダンテとバージルの記憶の護り手でもある」

「ダンテさんとバージルさんの記憶…!つまり火影くんと海之くんの…前世の記憶ですか?」

「貴女もあの方々と同じくダンテやバージルの世界の?」

マティエ

「ああ、私らもあいつらと同じ世界のもんだったさ。アンタらの事はお嬢ちゃん達から聞いているよ」

ルシア

「そしてここに来たという事は…彼らが認めたという事ね。貴方達に…ダンテとバージルの真実を教えてもいいと」

一夏

「あ、ああそうだ。俺達はそのために来たんだ。火影と海之も言ってる。俺達に真実を教えると。だから教えてくれ!」

「ふたりの正体がなんでも私達は受け入れるわ。だからお願い!」

ルシア

「…火影っていうのは…ダンテの名前?」

クロエ

「え?は、はいそうです」

ルシア

「……火影。……火、赤色…か。ダンテらしい名前ね…」

 

ルシアはどこか思うような表情をしている。そんな彼女を見てマティエがため息をつく。

 

マティエ

「……やれやれ」

本音

「…どうしたの?」

ルシア

「…なんでもないわ。…いいわ、貴方達に全てを教えましょう。それが役目だから」

クロエ

「…ありがとうございます」

「だがその前にひとつ教えてほしい。一体ここはどこなのだ?大地といい水といい空といい、ハッキリ言って異質極まりないぞ」

ラウラ

「ああ。ふたりの記憶を見せるのになんでこんな場所である必要がある?」

 

彼女達の問いにルシアは答えた。

 

ルシア

「それは……この場所があのふたりにとってのルーツ、全ての始まりともいえる場所だからよ」

セシリア

「こ、この様な場所が…おふたりの始まり!?」

シャル

「それって一体…!」

 

すると千冬、刀奈、クロエはルシアの言葉で検討が付いた様だった。

 

千冬

「やはりここは…」

一夏

「千冬姉。何か知ってんのか?」

刀奈

「……成程ね。そういう事か」

クロエ

「このような禍々しい場所なら…納得できますね」

「…お姉ちゃん?クロエさん?」

 

一夏達が千冬の様子の変化に疑問を抱いている中、マティエは一夏達に問うた。

 

マティエ

「…アンタ達「今自分達が住んでいる世界とは全く別の世界」があるとしたら…信じられるかい?」

「私達の世界と…全く別の世界?」

ルシア

「そう。国が違うとか星が違うとかそんなものじゃない。云わば「異世界」の事」

シャル

「い、異世界ってそんなもの……あ」

 

皆は先ほどのトリッシュ達がしていた話を思い出した。火影と海之は自分達が住んでいる世界とは別の世界で生きていたダンテとバージルという存在が生まれ変わった転生者であるという話を。ならば異世界というのは確かに存在しているということになる。

 

「…そっか。火影と海之の世界は…」

セシリア

「…じゃあ…この場所は…おふたりの世界の…?」

ルシア

「……そう。この場所は貴方達が住んでいる世界の何処でもない。ここはダンテやバージル、そして私達がいた世界。…いいえ正確にはそれとも少し違う世界ね」

ラウラ

「…?ダンテやバージルのいた世界だが少し違う世界?」

一夏

「な、なんだかややこしいな。…で、結局なんなんだここは?」

 

するとマティエは答えた。

 

 

マティエ

「…ここは「魔界」…。悪魔や魔獣が住みし場所であり、魔力に満たされた世界。力だけが全てを制し、力を持たぬものは死ぬ。弱肉強食の世界さ…」

 

 

一夏達

「「「………」」」

 

一夏や箒達はポカーンとしている。それに対し、

 

千冬

「…やはりそうか。このあまりにも異質な世界…そうかもしれないとは思ったが」

刀奈

「いかにもって感じの場所ね~。私ならこんな場所一秒たりともいたくないわ」

クロエ

「…ここが…魔界…」

 

千冬達は冷静だった。そして暫くしてから一夏達も再起動する。

 

本音

「ままままま魔界―――!?」

一夏

「ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ!!マカイってどういうこったよ!?」

ルシア

「そのままの意味よ」

「きゅ、急にそんな事言われても…ここが魔界とか急に言われて信じられる訳ないだろう!」

セシリア

「そうですわ!いくら何でも冗談にしか聞こえませんわ!」

「おまけに悪魔とか魔力とか何!?正気!?」

シャル

「あまりにも非現実的すぎるよ!」

ルシア

「異世界というものも十分非現実的だと思うけどちゃんと存在しているじゃない?」

マティエ

「儂らからしたらアンタ達の世界こそ立派な異世界だけどねぇ」

ラウラ

「た、確かにそうですが…それとは少し意味が違うのでは…」

「アニメや漫画とかじゃよく聞くけど…本当にあるなんて信じられない…」

 

激しく反論する一夏達。彼らの反応は当然かもしれない。

 

ルシア

「…確かに俄かには信じられないでしょうね。でもじゃあこの場所をどう説明できる?草一本生えていない不毛な大地、異質な木々や水の色、そしてこのどす黒い闇。こんな場所が通常の世界に存在すると思う?」

一夏

「た、確かにそうかもしれねぇけど…。てか千冬姉や刀奈さんとかはなんでそんなにあっさりしてるんだよ!?」

千冬

「私達は以前ふたりから話だけは聞いていたからな…。実際目にするのは初めてだが」

刀奈

「信用できないのはわかるけどあのふたりは嘘つく様な人じゃないでしょう?」

シャル

「それはそうだけど…」

クロエ

「それにここはアリギエルとウェルギエルのコアの中。兄さん達の記憶にある場所としてなら説明できます」

セシリア

「…ですが…」

 

やはりまだ信じきれない様子の一夏達。、

 

本音

「……?見て皆。あれ…何だろ?」

 

するとその時本音が遠くの方にあるものを見つけ、一夏達を誘導した。よく見ると…遠くの方に何かが蠢いている様に見える。

 

「…何あれ?動いているから…生き物かしら?」

シャル

「こんな場所に?……!!」

 

それを見て皆は言葉を失った。それは無数の…今まで見たことが無い様な生き物達の群れであった。

異形な鋭い牙や爪、角が生えているものや巨大な翼と尾を持っているもの。

身体が燃えていたり電気を発しているもの。

黒いマントの様なものを羽織り巨大な鋏や鎌をもつもの。

大きい虫のようなもの。

 

一夏

「ななななななななな!!」

「何だアレは!?」

セシリア

「怪物!?」

 

やがてそれらは鈴達がいる方向に向かってくる。

 

ドドドドドドドドドドドドッ!!!

 

「や、やばいわこっち来る!逃げないと!!」

 

慌てる一夏達。だがルシアは冷静に言う。

 

ルシア

「落ち着いて。これは単なる映像よ。実際存在している訳じゃないわ」

マティエ

「若いんじゃから堂々としとれ堂々と」

「そ、そんな事言ったって!」

ラウラ

「駄目だ間に合わない!」

 

既に目の前に迫っていた異形の存在達。一夏達はぶつかる事を覚悟した。

………しかし、

 

「「「……?」」」

 

何の変化も起らなかった。見ると自分達をその存在達がすり抜けている。どうやらルシアの言う通りの様であった。

 

本音

「あ、危なかった~~」

クロエ

「え、映像とはいえ流石に吃驚しました…」

シャル

「なんなの…なんなのアレ!?えっと…ルシアさん、マティエさん!」

 

するとマティエは答える。

 

マティエ

「…魔界に住まう者にして生まれし存在。あれこそ悪魔さ…。死神、魔神、暴魔、色んな呼び方があるけどねぇ」

「あ、悪魔だって!?」

「あれが…悪魔。本当に存在するなんて…。特撮とかじゃ…ないよね…?」

「嘘でしょ…。私は夢でも見てるのかしら…」

 

魔界、そして悪魔を目の前にしてほとんどの者は完全に言葉を失っている。

 

千冬

「…ルシア殿。マティエ殿。私や一部の者は知っているが多くの者はいきなり色々な事言われて混乱している。よかったら教えてもらえないか?」

刀奈

「私達も火影くん達から聞いてはいるけどこの世界を含め目にするのは初めてなの。是非お願いするわ」

一夏

「そ、そうだよ教えてくれ!この世界といいさっきの怪物といい…俺もう何がなんだか…」

ルシア

「……わかったわ。信じられないかもしれないけど…私達がこれから言う事は全て本当の話よ、いいわね?」

 

皆は頷き、それを見て大丈夫と思ったルシアは話し始めた。

 

ルシア

「……ダンテとバージル、そして私達がいた世界はね、ふたつに分かれていたの。ひとつは人間や動植物達が暮らす人界。そしてもうひとつがこの魔界よ」

「ひとつの世界がふたつに…」

ルシア

「そしてふたつの世界の間には一種の境界の様なものがあってね、これによって互いの世界からの干渉や大きな侵入を防いでいたの」

「人界と魔界…。確かにお互い干渉しない方がいいかもね…」

セシリア

「ふたつの世界が境界によって……!ちょ、ちょっと待ってください!それって…大規模な侵入は無理でも小さい侵入は可能だった、という事ですか!?」

ルシア

「……その通りよ。この結界には網の様な性質があってね。力が大きい悪魔は自らの力が逆に網にかかり、結界を通る事ができなかったのだけれど…さっき貴方達が見た様な小物の悪魔達なら結界を通り抜け、人界へと来ることもできた」

一夏

「マジかよ…!」

シャル

「あれで小物って…あれ以上の奴がいるの!?」

マティエ

「あんなもんで驚いてもらっては困るねぇ。あんなもんは所詮雑魚、虫みたいなもんさ。その気になりゃあ命を生み出す奴とか世界を滅ぼしかねない位危険な奴だっていたんだよ」

「…まるで神様ね…」

ラウラ

「いや寧ろ魔王と言えるかもしれんな…」

千冬

「……」

ルシア

「……そして」

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

 

突然地面が激しく揺れ出す。

 

本音

「じ、地震だー!」

刀奈

「落ち着いて本音!そう見えるだけよ。私達は揺れてないわ」

一夏

「こ、今度は一体……!!」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

地震の影響で所々が割れる。すると地面から無数の悪魔が出現した。

 

「あ、悪魔!」

「なんて数!さっきよりも遥かに多いわ!」

 

そしてその中には見覚えのあるものがいた。

 

シャル

「…!嘘…ファントム!?」

ラウラ

「それだけじゃない!小さいがグリフォンもいるぞ!なんで奴がここに!?」

「…?だけどちょっとだけ違う。機械じゃない。…まるで生き物みたい…」

 

ファントムやグリフォンの姿を見て驚くシャル達。

 

刀奈

「…当然なのよ。私達が知っているファントムやグリフォンはあれがモデルになっているのだから」

「! ファントムやグリフォンのオリジナルが…悪魔!?」

ラウラ

「それは一体!」

千冬

「それについてはまた後で話してやる。…ルシア殿、続けてくれ」

ルシア

「私が生きていた時代から約二千年前…ある事があった。強大な力をもったある悪魔が…無数の悪魔や自らが生み出した悪魔を引き連れ、人界への侵攻を企てたの」

一夏

「なっ、なんだって!!」

セシリア

「じ、人界への侵攻!?」

「つまり悪魔が攻め込んできたって事!?」

「…!み、皆見て!!」

 

簪は遠くの空を指差す。その先には真っ黒な闇の中に浮かぶ……みっつの赤い光があった。その周辺には無数の稲光が発し、大気も揺らいでいる。

 

シャル

「…な、何…アレ…?」

千冬

「映像だとわかっているのに…なんだこの嫌な悪寒は…」

一夏

「……ああ、俺にも何となくわかるぜ」

「…ルシアさんマティエさん。あれは…なんなんです…?」

 

やや怯えながら箒は尋ねた。

 

マティエ

「……嘗てその圧倒的な力と魔力で魔界を支配していた存在にして…二千年前、人界への侵攻を企てた張本人。…魔帝さ」

 

クロエ

「…魔帝…?」

「それって…魔界の王、つまり…悪魔達の王?」

ラウラ

「もし本当にあれがそうなら…何と強大な存在なのだ…」

 

するとここで鈴が、

 

「で、でもさ!そんな奴なら結界だっけ?それを通り抜けるなんて無理じゃないの!?さっき言ってたじゃない、力が大きい者は無理だって!」

刀奈

「……いいえ、方法はあるわ。「扉」よ」

シャル

「…扉?」

千冬

「…以前火影達から聞いた事がある。ふたつの世界の境界には数える程度だが薄い場所が存在しているらしい。そこに扉、抜け穴とでもいえるものを開けば…力の強弱に関係なく行き来できるとな」

クロエ

「…はい。そして悪魔の中には自らの力で扉を開くことができる存在がいるそうです。ですからもし…あれが悪魔の王だとするなら…十分に可能かと思います…」

本音

「そんな…」

シャル

「…因みに…その、魔帝?って奴の名前は?」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

 

一夏

「お、おいそんな事言ってる場合じゃねぇぞ!どんどん増えてやがる!」

 

一夏の言う通り、悪魔は更に増えていく。

 

ルシア

「魔帝、そして悪魔達の侵攻はあっという間だった。人界の平和は悪魔達の侵攻によって瞬く間に砕かれ、人類の滅亡は時間の問題だった。………でも」

 

 

ドガァァァァァァァァァンッ!!

 

 

その時だった。突然悪魔達が進んでいた先で凄まじい爆発が起こった。

 

一夏

「な、何だ!?」

「悪魔達が…爆発に吹き飛ばされた!」

シャル

「……!!見て!!」

 

その時、一夏達は確かに見た。獄炎ともいえる炎の中、悪魔達が次々薙ぎ倒され、蹴散らされているのを。中央にいたのは……巨大な剣を縦横無尽に振るうひとりの悪魔だった…。

 

刀奈

「…凄い…」

本音

「強―い!!」

クロエ

「たったひとりであの無数の悪魔達を…!」

「し、しかし何故悪魔同士が…。仲間割れか…?」

 

驚く皆にマティエは言った。

 

マティエ

「…でもある時、他の悪魔とは違う動きを見せたひとりの物好きな悪魔がいたのさ…」

 

その間もその悪魔は敵を倒し続ける。

 

ルシア

「彼の名は…スパーダ。同じ悪魔でありながら正義の心に目覚め、たったひとりで闇の軍勢に立ち向かい、人間と人界を守るために戦った…伝説の剣士」

 

一夏

「悪魔が…人間を守るために戦っただって!?」

千冬

「…アレがふたりが以前言っていた…魔剣士スパーダか…」

「…魔剣士?」

刀奈

「悪魔にして魔剣を扱う剣士。故に魔剣士よ」

シャル

「人から忌嫌われる悪魔が…正義の心を持った…」

セシリア

「嘘みたいですわ…」

マティエ

「そうかい?人間の中にもいるじゃないかい。悪魔以上に残酷な事をするバカな人間もさ?だったら逆に人の様な心を持つ悪魔もいる。そう思わないかい?」

クロエ

「…はい。悪魔よりも恐ろしい人間。…そんな人間も確かにいますからね」

ラウラ

「クロエさん…」

「…それにそういうアニメとか私見た事あるよ。モンスターとかが主人公と一緒に戦ったりとか」

「それはアニメの話でしょうが…」

マティエ

「…話を戻そうかね。…魔剣士スパーダと魔帝との戦いは熾烈を極めたが…最後にはスパーダが奴を倒した。悪魔共の人界への侵攻は阻止されたさ…」

「良かった…」

ラウラ

「あれほどの存在を倒すとは…スパーダとやらも恐るべき力だな」

ルシア

「…でも全てが終わったわけでは無かった。魔帝が倒されたのを機に悪魔達の力関係に狂いが生じ始めた。以前よりも多く、悪魔達によって更なる侵攻が企てられたわ…」

刀奈

「…ひとりが倒されても別の奴が、って訳ね…」

ルシア

「…でもそれらも全て食い止められたわ、スパーダによって。…魔帝を倒した後人界に残ったスパーダは世界を転戦した。そして彼のそんな姿を見て彼に共感した他の悪魔や人間達もいた…」

「…スパーダ以外にも人間に味方した悪魔がいたのね」

「悪魔と人間が力を合わせて戦ったんだ…」

 

すると千冬がルシアに尋ねた。

 

千冬

「…思うに…貴方方もそうではないのか?或いは関係する者では?ボーデヴィッヒの言った通り貴方達を見た時ただ者ではない、戦士が持つ何かを感じた」

シャル

「ほ、本当ですか!?」

マティエ

「…ああ。私らの一族は嘗てスパーダと共に戦い、自らの住処を守った者達さ」

セシリア

「そうですのね。通りでデュマ―リという名前に聞き覚えが無かった訳ですわ。ではおふたりはその方々の末裔、という訳ですのね」

ルシア

「……」

ラウラ

「…?どうしたんですか?」

ルシア

「……何でもないわ。……とにかく幾度も悪魔の脅威から人界を守ったスパーダは人間達にとって英雄的存在となったわ。長い歴史の中では彼を世界を救った神として祭る教団まで作られた事もあった…」

本音

「そうなんだ~。悪魔といっても皆感謝してたんだねスパーダさんに」

一夏

「……世界を救った神を祭る教団………!!」

「…?どうした一夏?」

一夏

「……いや、何でもない」

 

 

パチンッ!!

 

 

ルシアは指を鳴らした。すると先ほどと同じ様に画面が変わったがそこは魔界の様な毒々しさは無く、緑の大地と青い空があった。

 

シャル

「わっ」

刀奈

「場所が変わったわね。今まで見たような場所と違って今度はちゃんとした場所だわ」

本音

「映像とわかっていても緑や空があるとやっぱり安心するね~」

「ホントね。ルシアさんここ……あっ、なんか家があるわ」

 

鈴の言った通り、確かに少し先に家があった。そして、

 

「あ、見て。庭に誰かいるよ」

 

庭らしき場所には誰かがいた。見ると男がひとり、子供がふたり、そして少し離れた所に佇む女性がひとり。よく見ると銀髪の男に同じく銀髪の少年ふたりが手に木の枝だろうか、それを持ってかかっている。見た感じどうやら稽古をしているらしい。そんな彼らを金髪の長い髪をした女性がやや困り顔をしながらも暖かく見守っているのが見て取れる。光景からして銀髪の男が父親、金髪の女性が母親、ふたりの少年は彼らの子供だろう。

 

クロエ

「男の人と女の人、…それに子供でしょうか」

「どうやら稽古をしている様だな。おそらく両親と子供なのだろう」

シャル

「キレイな金色の髪だなぁ、お母さんみた……!み、皆あの女の人…!」

セシリア

「えっ?……あっ!」

 

皆は驚いた。男と子供を見守る金髪の女性、その顔は正に…トリッシュにそっくりだったからだ。

 

「嘘…トリッシュさん!?」

「じゃあトリッシュさんが、この子達のお母さんなのかな?」

「……でも感じは随分さっきと違うわ。服装も全く違うし」

 

するとルシアが答えた。

 

ルシア

「あの人はトリッシュじゃないわ。よく似ているけど別人よ。双子でもない。名前は…エヴァ。貴方達が思った通りあのふたりの子供の母親よ」

一夏

「なんだ別人なのか。にしてはよく似てんなぁ」

ルシア

「彼女よりも…今は子供達を見て」

 

ルシアはふたりの銀髪の少年を見る様促す。

 

本音

「あの男の子達~?………あれ?あの子達って…」

一夏

「……え!?」

 

それを見た皆は目を見開く。目の前で父親らしい男性に何度も向かって行っているふたりの少年。その顔は幼くはあるもののあのふたりの面影がはっきりわかる程にあった。

 

シャル

「…火影…なの…?」

「それにあっちの子は…海之くん…?」

刀奈

「……そうね」

クロエ

「…兄さん…」

 

その少年達もまた双子、そして火影と海之に実によく似ていた。髪型も。但し目の色が赤色と青色ではなかった。

 

セシリア

「……いいえ、確かによく似ておられますが…瞳の色が違いますわ」

ラウラ

「ああ、…しかしよく似ている。本当に他人なのか…ルシアさん?」

ルシア

「……あのふたりは火影と海之ではないわ。だけど彼らでもある…」

一夏

「…?火影と海之じゃないけどふたり…って?」

 

すると千冬がそれに答えた。

 

千冬

「言葉の通りだ。火影と海之では無いがふたりでもある。つまり…あの少年達がダンテとバージルなのだろう?」

一夏達

「「「!!」」」

ルシア

「…その通りよ。あの双子の男の子…。兄の名前はバージル、弟はダンテ。つまりあれが貴方達のお友達、火影と海之の前世の姿よ」

一夏

「あのふたりが…」

「あの子達が…ダンテとバージル」

「ふたりにそっくりだね…」

本音

「ホントだねー」

「前世とはいえここまで似ているとはな…」

 

皆がその事実に驚いている。しかし次の刀奈の言葉で更に驚く。

 

刀奈

「じゃああの男の人が…スパーダって訳ね」

一夏

「…えっ!!」

クロエ

「…はい。きっとそうですね」

シャル

「す、スパーダって…それまさか…さっき話していた悪魔スパーダの事ですか!?」

「いやそんな訳ないでしょ!スパーダは悪魔よ!きっと別人よ!てか全然違うじゃない!」

 

鈴の言う通り目の前の銀髪の男性は先ほどのスパーダとは似ても似つかない。誰もが別人と思うのも仕方ない。そもそもスパーダは人間では無い筈。

 

マティエ

「…いいや。あの男は紛れもなく嘗て悪魔の侵攻から人間を救った魔剣士スパーダさ。あの姿は人界で生きていく事を決めたスパーダの人としての姿なのさ…」

ラウラ

「スパーダの…人としての姿!?」

セシリア

「で、でもスパーダって大昔の人、いえ悪魔の筈では…」

クロエ

「悪魔の寿命は人よりも遥かに長いらしいです。千年なんて大した意味は無いみたいらしいですよ」

「そ、そうなんですか…」

一夏

「…ちょ、ちょっと待ってくれ!じゃ、じゃあまさかダンテとバージルは!」

 

一夏は察した様だった。そして皆も。

 

マティエ

「…そうさ。ダンテとバージルは悪魔スパーダと人間エヴァの息子。文字通り、悪魔と人の申し子」

千冬

「…そういう事だそうだ」

一夏

「!!」

本音

「え――――!」

「火影と海之の前世のダンテとバージルが…!」

セシリア

「スパーダと…あの、エヴァさんの子供!?」

「つまり悪魔と人のハーフって事!?」

シャル

「じゃ、じゃあスパーダとエヴァさんは…夫婦!?」

 

今日一番の驚きを見せる一夏達。

 

「エヴァさんはスパーダが悪魔だということは…?」

ルシア

「勿論知っていたわ。だけどエヴァはスパーダを愛していた。そしてスパーダもまたエヴァを愛した」

刀奈

「火影くん達曰くスパーダはそれまでは色んな女の人とのウワサがあったらしいけど彼女への愛情は本物だったらしいわよ」

「…悪魔と人が夫婦になって…子供ができた…」

ラウラ

「…にわかには信じられん…」

 

目の前にいる男の子がダンテとバージルであり、更にその子が人間と悪魔のハーフという想像もしていなかった事実に完全に言葉を失う箒達。

 

刀奈

「ふたりが生まれ変わりっていうのが真実其の①ってとこなら今のが其の②ってとこ。ふたりの前世が悪魔の子供って事がね」

千冬

「…ショックか?あいつらの前世の正体を知って」

「……ショックというかあまりにも驚きの連続で…。千冬さん達はどうでしたか?」

クロエ

「勿論最初は驚きましたが……でも受け入れました。私達も、束様も」

千冬

「前世がどうだろうとそれは前世の話。今のあいつらは海之と火影だ」

 

千冬達はそう答えた。すると鈴達も、

 

「……はぁ~。全く…あのふたりってほんと脅かしてくれるわ。…ルシアさんひとつ教えて?火影と海之もなの?」

ルシア

「……いいえ、今の彼らは以前の様な半人半魔じゃないわ。完全な人間よ」

セシリア

「先ほどトリッシュさんも言われていましたわね。今のおふたりはれっきとした人間だと」

本音

「今も昔もそんなの関係ないよ!ふたりは私達が大好きなひかりんとみうみうだもん!」

刀奈

「本音ちゃん…」

 

本音の言葉に彼女達も続く。

 

シャル

「……うん、そうだね。凄く驚いたけど火影は火影だもの。僕の気持ちは変わらないよ」

「私も同じだよ。とても驚いたけど私の海之くんへの気持ちは変わらない。受け入れるよ。エヴァさんがスパーダさんを受け入れた様に」

ラウラ

「ああ。この程度の事で私達の夫婦仲は破綻したりしないさ」

「前に火影が話したのってこれの事だったのね。……馬鹿ね、本音が言った様に例え前世がそうでもアンタはアンタでしょうに。別に犯罪犯したわけじゃないんだからもっと早く言ってくれても良かったわよ…」

 

驚きこそしたが鈴達も受け入れる事にした様だ。そして箒達も、

 

「……ああそうだな。今は今、前世は前世だ。今が人間なら何の問題もない。それにパッと見てダンテとバージルも十分、人だしな」

セシリア

「そうですわ。あのおふたりは誰よりも優しい心を持たれていますもの。きっと前世でもそうだった筈ですわ」

 

箒とセシリアも受け入れた様だ。

 

ルシア

「……強い心ね、貴方達」

マティエ

「全く気の毒だねぇ。あんな鈍感に芯から惚れちまうなんてさ」

本音

「えへへ~それほどでも~♪」

「たく本音はほんと恥ずかし…一夏?」

 

鈴が一夏を見て気づいた。……何か考え事をしている。

 

千冬

「どうした一夏?まだ信じられんか?」

一夏

「ん?ああ違うって。俺も信じるよ。火影と海之の事、ダンテとバージルの事も。…ただまだわからない事があって」

「わからない事?」

一夏

「火影と海之の前世がそういう凄ぇ生まれだったのはわかったけどさ?まだあいつらの強さの秘密がわからないんだ…。伝説の剣士の息子ってもその息子のダンテとバージルまで強いとはこの頃じゃまだわからねぇだろ?」

セシリア

「…確かにそうですわね」

一夏

「さっきネロも言ってたじゃねぇか。ダンテとバージルはもっと強かったって。てことはまだ何かあのふたりには秘密があると思うんだよな。そんだけ強くなった秘密が」

クロエ

「……」

刀奈

「一夏くんそれは…」

「アンタにしてはまともな疑問じゃない。でも確かにそうね」

ラウラ

「ああ。あの人達はアリギエルとウェルギエル、そして魔具はふたりが使ってたと言っていた。そんな事態がいつか訪れるという事か…?」

シャル

「ふたりも同じ様に悪魔と戦っていたりとか?スパーダさんと一緒に」

「…確かにその可能性もあるが…今の平和な一時を見る限りにわかには信じられんな」

「…うん」

(…それに海之くんの言ってた「大罪」の意味もまだわからないよね…)

本音

「ルシアさんは何か知ってる~?」

 

本音はルシアに問いかける。そして彼女は目の前の平和な一家の一時を見つめながら呟いた。

 

ルシア

「……そう。これで終わりじゃない、いえ始まりに過ぎないわ。…ふたりの、血塗られた戦いの歴史のね」

マティエ

「今から見せてあげるよ…。ダンテとバージル。嘗て世界で最も憎しみ殺しあった兄弟の秘密を…」




※次回は16(土)投稿予定です。

次回はダンテとバージルを書く予定です。火影と海之でなくダンテとバージルです。


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Mission174 真実への電脳ダイブ⑤ 隔たる兄弟

トリッシュ達の試練をクリアした一夏達は遂に火影・海之兄弟の秘密に触れる機会を与えられる。そんな一夏達に見えたのは今まで見たことが無い異質の世界だった。更に一夏達の前に現れるルシア、マティエと名乗る女性達。彼女達の言葉と目の前の映像で一夏達は再び多くを知る。

目の前に広がる世界は「魔界」であり、そこには多くの「悪魔」がいる事。嘗て悪魔は人界に侵攻しようとしていたが伝説の魔剣士「スパーダ」によって阻止された事。そのスパーダは人間の女性「エヴァ」と結ばれ、ふたりの間に双子の男の子が生まれた事。そしてその双子こそ「ダンテ」と「バージル」であり、火影と海之の前世は悪魔と人間のハーフであった事…。

驚きの連続であった一夏達だったがそれでもふたりへの気持ちは変わらないと約束する。しかしそんな彼らにルシアとマティエは更に予想だにしない言葉を言うのであった…。


ルシア

「驚くのはここからよ。今のはふたりの…血塗られた戦いの歴史の始まりにすぎない…」

一夏

「…血塗られた…戦い!?」

マティエ

「ああ…。世界で最も殺し合った兄弟、ダンテとバージルの歴史のね」

「……え?」

「い、今なんて…?バージルさんとダンテさんが…」

「…殺し合った…だって?」

本音

「ダンテとバージルがって…それ、ひかりんとみうみうが…って事だよね?」

千冬・刀奈・クロエ

「「「………」」」

 

想像にもしていなかった言葉に千冬・刀奈・クロエ以外の皆はこれまで以上に激しく動揺し、愕然とする。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!貴女達さっき言いましたよね?火影と海之は過去の記憶を受け継いでいるって!という事は…!」

ルシア

「…ええ覚えているわ。嘗ての、自分達の殺しあいの事も…」

ラウラ

「そ、そんな…そんな事信じられるか!」

セシリア

「そうですわ!いくら何でもそれだけは信じられませんわ!」

シャル

「そうだよ!喧嘩する事もあるししょっちゅう決着をつけるって言ってるけどふたりが殺し合いなんてする筈ないよ!」

マティエ

「信じるも信じないもないさ…それが真実なんだよ…。ダンテとバージルは幾度も戦いを続けてきたのさ…」

「う、嘘よ!なんでそんな事する必要があるのよ!あんなに平和に暮らしているじゃないの!」

(…!もしかしてそれが…海之くんが前に言ってた…「大罪」なの…!?)

 

当然彼女達は激しく反論する。そんな中一夏は、

 

一夏

「皆落ち着け!!」

箒達

「「「!!」」」

一夏

「…見せてもらおうぜ。さっきこの人達は全てを見せるって言ったじゃねぇか。反論するならそれを見てからでも遅くはねぇ…。この人達がそういうなら…何かしらの根拠があっての事なんだろうしな…」

「一夏…?」

千冬

「一夏…お前」

 

この時の一夏は今までの彼とは違っていた。今までの自分ならきっと箒達と同じく全力で否定するだろう。だが一夏には心当たりがあった。

 

 

(彼らは多くのものを失った。そのせいで時には道を誤った事もあった)

※mission160参照。

 

 

一夏

「俺はあいつらの事を知るって決めたんだ。例えそれがどんな内容でも…」

刀奈

「一夏くん…」

「………いいわ、見せてもらおうじゃないの。…でも納得いくまでは絶対信じないわよ!」

シャル

「あのふたりが…こんな可愛い子達が…殺し合うなんて…何かの間違いだよ…」

 

鈴達もやや冷静さを取り戻した様子だがやはりふたりが殺し合う事については信じられないという感じである。すると、

 

…パチンッ!!

 

ルシアは再び指を鳴らす。すると目の前の平和な家族の姿と家が消え、ある光景が映った。

 

一夏達

「「「!!!」」」

 

その光景に全員愕然とした。次に自分達がいたのは…業火に包まれているらしい家の中だったのだ。

 

一夏

「な、なんだ火事か!?」

本音

「た、大変!速く逃げないと!」

「だからこれは映像よ本音!い、いえそれよりルシアさん!何が起こってるの!?」

クロエ

「…!見てください!」

 

クロエは何かを指差す。そこにいたのは…幼いダンテ、そして彼を何とか助けようと隠れる場所を探しているらしい母エヴァの姿だった。

 

セシリア

「エヴァさんに…あれはダンテさん!?」

「で、ではここは彼らの家なのか!なんでこんな事に!」

ルシア

「……悪魔よ。嘗て魔剣士スパーダに敗れた魔帝が彼らの家に悪魔達を差し向けてきたの。スパーダの血を継ぐ者を皆殺しにするために」

ラウラ

「魔帝が!?」

シャル

「そんな!そいつはスパーダさんが倒した筈じゃないんですか!?」

マティエ

「…ああ、確かに倒した。だが倒しきるには至っていなかった。精々封印するのがやっと、封印が解け、力を取り戻した魔帝が再び動き始めたのさ…」

「そんな…」

一夏

「そのスパーダはどうしたんだ!どっかで戦ってんのか!?」

 

その場にスパーダがいないことを一夏達は不思議がる。

 

刀奈

「……スパーダはいないわ」

セシリア

「…いない…?」

クロエ

「ダンテさんとバージルさんに自らの剣と技を教えると…ある日突然姿を消してしまったらしいんです。それからどうなったのかは…兄さん達も知らないと…」

「なんだって…!どうして…!」

 

すると簪が気付く。

 

「…!ねぇ、バージルさんは!?」

ラウラ

「そうだ!バージルはどうしたんだ!ま、まさか殺されて!」

マティエ

「落ち着きなお嬢ちゃん。今は目の前に集中するんだね」

 

やがてエヴァはダンテをクローゼットに隠した。

 

エヴァ

(良いダンテ?何があっても出てきては駄目。バージルと一緒に必ず戻るから。……そんな顔しないで。貴方なら大丈夫よ。頑張れるわよね?)

 

エヴァはダンテに安心するように話しかけるが状況が絶望的なのは誰の目にも明らかだった。

 

エヴァ

(…………もし、私達が戻らなかったら…ひとりで逃げて。名前も身分も変えて…私達の事も忘れて、別人として生きていきなさい…)

本音

「そんな悲しい事言っちゃ駄目だよ!」

一夏

「くっそ!俺らは見てるしかできねぇのかよ!?」

千冬

「これは過ぎ去った過去の話だ、私達にはどうする事も出来ない…」

エヴァ

(そして新しい人生を…始めてね…)

 

微笑みながらエヴァはそういうとバージルを探しに走った。しかし次に一夏達が聞いたのは……彼女の悲鳴だった。

 

一夏

「!!」

「ああ!」

シャル

「エ、エヴァさん!」

ルシア

「エヴァは死ぬまでバージルを探していたけど…最後は悪魔に…」

セシリア

「そんな…」

ラウラ

「くっ…」

クロエ

「こんな…、こんな事…」

マティエ

「……そしてエヴァと家を失ったダンテは命かながらそこから逃げた。……バージルもな」

「!!」

ラウラ

「バージルは無事なんだな!?」

 

その事実に特に簪とラウラが反応する。

 

ルシア

「…ええ。エヴァは見つけられなかったけど彼は何とか自力で逃げ出せたの。瀕死の傷を負いながらも。そして彼は姿を消した…」

「…え?ダンテと会っていないのか?」

「そ、そうよ、何で会ってないのよ?お互い無事だったのに…」

 

兄弟互いに無事だったのに会わなかったという事に皆は疑問を持つ。

 

ルシア

「……その理由は後で話してあげるわ」

 

そしてルシアが再び指を鳴らすと次はどこか別の建物の中にいた。そこには少しばかり成長したダンテらしい人物。その横に刀とショットガンを持つ顔に包帯を巻いた男。更に作業台らしいカウンターに座る年配の女性がいた。

 

シャル

「ダンテ…!」

千冬

「…今の火影と同じ位だな。そっくりだ」

一夏

「…?なんだ横にいる包帯グルグル巻きのあいつ、気味悪いな」

ルシア

「悪魔の襲撃から生き延びたダンテは母の言葉通り、トニー・レッドグレイヴと名前を変え、便利屋として生きていたわ」

ラウラ

「…レッドグレイヴ?」

刀奈

「彼らが住んでいた村の名前よ。例え名前を変えても何か繋がりを持っていたかったんでしょうね…」

本音

「火影…」

ルシア

「…でもやがて魔帝はダンテが生きている事に気付いた。その都度彼の元には刺客が送り込まれ、彼は必然的に悪魔との戦いに身を投じていったわ、スパーダの様に。その様子を見た人々は彼に対して冷たかった。トニーの近くにいると死ぬ、不幸になる、とね」

セシリア

「そんな…、ダンテさんは何も悪くないのに…」

マティエ

「何も知らないのだから仕方ないさ。ダンテも周りに何も話さなかったからね…。でもなんだかんだ悪態付きながらも付き合ってくれる奴はいたんだよ。ホレ、例えばあの女なんかはダンテの二丁銃を設計した奴だよ。早くに親を失ったダンテにとって親代わりともいえる奴さね」

シャル

「あの人がダンテの、火影の銃を作った人なんだ…」

本音

「あの横にいる人は~?」

マティエ

「…ダンテの仕事仲間みたいなもんさ。名前は…ギルバ…」

千冬

「!奴が…ギルバ…」

「……」

 

千冬はつぶやき、簪は無言で見つめる。

 

ルシア

「そして…あの彼女を殺した張本人でもあるわ」

「…え!?」

「あ、あいつがあの女の人を!?」

マティエ

「ああ、これから間もなくだ。奴もまたダンテを殺すために魔帝が差し向けた悪魔だったのさ。ダンテは再び目の前で大事な人の死を見た訳だ…」

セシリア

「そんな…、なんて悲しい事なんですの…」

一夏

「…どこまで、あいつらの大事な人を殺せば気がすむんだ!」

ルシア

「親代わりでもある人を失った事でダンテはますます人から離れる様になったわ…。そして彼は母と仲間達の仇を討つためにトニーの偽名を捨て、名前もダンテに戻した。まるで魔帝に自分は生きているって教える様に、そして自分だけを狙わせる様にね」

「ダンテ…火影…」

シャル

「火影に…こんな悲しい記憶があったなんて…」

ラウラ

「バージル…どこにいるのだ。こんな時こそ兄弟力を合わせるべきではないか…!」

千冬・刀奈・クロエ

「「「……」」」

ルシア

「…そしてそれから更に時は過ぎて…遂に運命の日ともいえる、あの時が訪れる」

 

パチンッ!!

 

 

…………

 

その直後、一夏達は外にいた。かなり荒廃している街の中。

 

一夏

「…なんだ?えらく荒れた街…!!」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

その時突如地面が激しく揺れ始めた。

 

刀奈

「な、何!?」

「…!! 何かが地面から出てくる!?」

 

 

…ズドォォォォォォォォォォン!!!

 

 

箒の言う通り、砂埃を巻き上げながら地面を破って出てきた。それは周りの建物を遥かに超える高さを持つ…巨大な建造物だった。

 

本音

「ほわ~……」

一夏

「……でけぇ」

「地下にこんなものが埋まっていたというのか…?」

セシリア

「……あの風貌、まるで伝説にあるバベルの塔みたいですわ」

 

多くの者が目の前に突如出現したその塔にただただ驚く。

 

「マティエさん…あれは…一体?」

マティエ

「…古の魔塔、テメンニグルさ。嘗て悪魔の力を求めた異端の者達が造り上げたものであり、人界と魔界を繋ぐ架け橋」

シャル

「! あの塔が人界と魔界を!?」

セシリア

「で、ではあれは人が造ったものですの!?」

ルシア

「…ええ。スパーダと悪魔達の戦いの時代にね。そして戦いが終わった後、スパーダはあの塔を封印した。そして永き時を経て復活した」

ラウラ

「復活って…どうし」

 

ドドドドドンッ!!

 

その時、一夏達のいる場所に複数の悪魔達が出現した。

 

クロエ

「悪魔!」

「この街の荒れ様はこいつらの仕業か!」

 

 

ドーンッ!!

 

 

すると更にある建物の扉が勢いよく開かれた。

 

刀奈

「こ、今度は何!?」

「…!」

シャル

「あれは!」

 

ダンテ

(………ヒデェな、街だけでなく店が目茶目茶だ)

 

中から出てきたのは赤のコートを纏い、見覚えのある剣、リベリオンを手にした…更に成長したダンテだった。

 

ダンテ

(まだ名前も決めてなかったのに……弁償してもらおうか!)

一夏

「火影!…ああ違うダンテか!」

「今の火影より少し年上みたいね」

ラウラ

「中々ワイルドになったな」

 

それからものの見事にその場にいる悪魔達を倒していくダンテ。

 

「…凄い」

セシリア

「ええ…ISも無くあの様な者達をいともたやすく…」

ルシア

「スパーダから受け継いだ技、そして彼の天性の素質ともいえる銃さばきは既に開花していたわ。並みの悪魔では彼の相手にもならない」

刀奈

「この時から彼の力は圧倒的だったわけね」

 

やがてその場の悪魔を全滅させたダンテは塔を見つめ、叫んだ。

 

ダンテ

(…わざわざ招待状なんか寄越しやがって。…いいぜ、当然もてなしてくれんだろ?……なぁ、バージル!!)

 

「!!」

ラウラ

「え…今、バージルと言ったか?」

 

するとルシアは再び指を鳴らす。次に一夏達がいたのは…空の上だった

 

一夏

「また場所が変わった…って飛んでるーー!」

千冬

「落ち着け一夏。これが映像ならばそう見えているのも当然だろう」

シャル

「そ、それにしても吃驚した…。ここは…もしかしてさっきの塔の頂上?」

クロエ

「…!皆さん!」

 

クロエは何かに気付く。するとその先にいたのは、

 

バージル

(………)

 

青いコートを纏い、閻魔刀を持ち、地上にいるらしいダンテを見下ろす彼の双子の兄、バージルだった。

 

ラウラ

「…バージル、なのか!?」

「…バージルさん。…海之くんにそっくり…」

刀奈

「大きくなったわね。まぁ当然か」

セシリア

「で、でもどうして彼がこの塔の上に…?」

 

その問いかけにルシアが答えた。

 

ルシア

「それは、彼が…このテメンニグルを復活させた者のひとりだからよ…」

「! バージルさんがこの塔を!?」

ラウラ

「で、では街がこうなったのもバージルのせいだというのか!?そ、そんな馬鹿な!」

千冬

「……」

 

簪とラウラはその言葉に強い衝撃を受けている。

 

バージル

(……やはりお前も持っていたか…。だが、お前は真の使い道を知らない)

 

するとその時一体の悪魔がバージルに襲い掛かってきた。…しかしバージルは背中を見せて無視している。

 

「!」

本音

「危ないよみうみう!」

 

シュンッ!……チンッ!

 

するとバージルは閻魔刀を抜き、背中越しに一振りするとそれを鞘に納めた。すると同時に悪魔は粉々に砕け散った。

 

一夏

「…す、すげぇ」

「一振りで悪魔がばらばらに!」

千冬

「あれがバージルの…嘗ての海之の力、か…」

ルシア

「彼もダンテと同じく…いいえ、それ以上の剣の才能を開花させるのにそう時間はかからなかったわ。…そしてふたりは…再会するの」

 

パチンッ!!

 

ルシアが指を鳴らすと空は急に暗くなり、雨が降りしきる夜になっていた。…すると同時にダンテがバージルが待つテメンニグルの頂上に登ってきた。

 

「ダンテ!」

バージル

(……来たか)

ダンテ

(全く大したパーティだな。飲みもんも食いもんもねぇ。女も出て行っちまって、いるのは悪魔だけ…)

バージル

(…それはすまなかったな。気がせいていたもので準備もままならなかった)

「兄弟の再会、だな」

シャル

「ちょっと怖い再会だけどね…はは」

 

皆は兄弟が再会している事に少なからず喜ぶ。だが次のダンテの言葉でそれは沈黙に変わる。

 

ダンテ

「まぁいいさ、折角の再会だ。まずは挨拶のキスでもしてやろうか?……それとも、こっちのキスの方がいいか?」

 

ジャキッ!!

 

ダンテが突然銃口をバージルに向ける。バージルはそれを見ても表情ひとつ変えない。その背後でけたたましく鳴る雷鳴。しかしそれに負けない程の迫力がふたりから発する凄まじい殺気であった。

 

一夏

「…!!」

「……え、ダンテ?」

「…バージル、さん?」

 

ダンテ

(感動の再会っていうらしいぜ?…こういうの)

バージル

(………らしいな)チンッ!

 

その言葉を合図にふたりの戦いが始まった。ダンテがリベリオンを振るい、エボニー&アイボリーの乱射を仕掛ける。バージルは銃を持っていないが近接も遠距離も全て閻魔刀で対応している。それは訓練や試合という生易しいレベルではなく、本当の戦い、正に殺し合いであった。

 

一夏

「!!」

「お、おい!ふたり共何やっているんだ!」

セシリア

「どうしておふたりが戦うんですの!?」

シャル

「そうだよ!なんでふたりが!折角会えたのに!」

 

当然のことながら一夏達はダンテとバージルの戦いに激しく動揺する。

 

刀奈

「…さっきルシアさん達が言ったでしょう。これがダンテとバージルの戦いの歴史の一部なのよ」

本音

「そんな!」

「なんで、どうして…!」

 

すると簪がルシアとマティエに問いかける。

 

「…ルシアさん、マティエさん、教えてください。彼に…バージルさんに、一体何があったんですか?」

ラウラ

「そ、そうだ!何故バージルがこんな事を!こんなの何かの間違いに決まってる!」

千冬

「ルシア殿、マティエ殿。見ての通りこいつらはバージル、いや正確には海之というが。特にこのふたりはあいつを支えたいと心から思っている。だから…話してやってくれないか?」

 

そう言った千冬に一夏達も反応する。

 

マティエ

「…元々バージルはどちらかといえばもの静かな子でね。本を読むのが好きで無駄に騒ぐのが嫌いな子だった。だからその逆で騒ぐのが好きなダンテとはしょっちゅうケンカしていたよ。でもふたり共両親の誇りと優しさを継承したいい子だったさ…」

刀奈

「ふたりのケンカ癖は子供の頃からだったのね」

「なのにどうして…?」

ルシア

「……すべての始まりはさっき見せたあの時の、悪魔達の襲撃によって母親を失った時よ。あの襲撃で母を失ったダンテはその後、エヴァの遺言に従い人として生きてきた。その人生の中で数多くの孤独や苦しい目にもたくさんあってきたけど、それでも彼は人間の可能性を信じて変わらずにいたわ。……でも、バージルは違った。あの襲撃の日、たったひとり命からがら逃げだした彼は母親を守れなかった自身の無力さに、そして人間というものの貧弱さに絶望した」

「…バージルさん…」

シャル

「気持ちはわかるけど…でも、仕方ないよ…。幾らバージルでもまだ子供だもの。あんな悪魔に、敵う訳ないよ…。逆に殺されてしまう…」

ルシア

「そうね…。でも彼はそれでも自分を許せなかった。そして思ったの。「優しさ等持っていても、正義等持っていても何も守れない。何にも負けない絶対たる力が無ければ」と…」

一夏

「…絶対たる力…!」

マティエ

「そしてバージルは人として生きる事を止め、悪魔として生きる事を選んだのさ…」

シャル

「人を捨てて…悪魔として生きるだって!?」

ラウラ

「そんな…それじゃまるであの時の私ではないか…。DNSに飲まれた時の私と…」

刀奈

「…いいえ。きっと彼のそれはもっともっと強い気持ちよ。そのために今までの人生を捨て去る位だもの…」

クロエ

「兄さんは余程自分を許せなかったのでしょう。そしてそれはエヴァさんを大切に想っていたことの表れ…」

「……」

ルシア

「それからバージルは世界中を孤独に放浪した…。誰とも関わらずただ只管に力だけを求めて…。その旅の途中で彼にもまた魔帝からの刺客が送り込まれているけど…全て容赦なく返り討ちにしたわ。その姿には以前の彼の面影はない。向かってくるものは全て斬る。修羅そのものだった」

セシリア

「そんな…」

ラウラ

「…違う。あいつは、海之はそんな奴では…」

「……」

一夏

「…でもだからっつってなんであのふたりが戦う必要があるんだ?」

「そ、そうよ!それならエヴァさんの仇である悪魔を倒せばいいじゃない!なんで…」

 

するとこれに千冬が答える。

 

千冬

「……先ほどのギルバというのが…バージルだと思ったからか?」

ラウラ

「…えっ!」

「ぎ、ギルバって確かダンテの親代わりの人を殺したっていう悪魔…!あれが…バージル!?」

セシリア

「そ、そんな…!どうしてバージルさんがそんな事!」

千冬

「落ち着けお前達。…言っただろう?…思ったからか、と」

本音

「…え?」

刀奈

「さっきのギルバっていうのはね、バージルに限りなく似せた偽物よ。姿格好や刀までそっくりにしたね。そしてギルバっていうのは字を並び替えたらバージルのアナグラムになるわ。魔帝がダンテにバージルが犯人と思い込ませるために仕組んだ小細工よ」

「バージルさんが殺したんじゃないんだ…!良かった…」

ラウラ

「魔帝…なんて卑怯な真似を…!」

シャル

「じゃ、じゃあダンテはその犯人がバージルと思ってこんな事を!?」

ルシア

「他にも色々あるけどそれもひとつではあるわ…」

一夏

「じゃあ…バージルがダンテを狙うのはなんでだ?」

 

そんな話をしている間にもダンテとバージルの雨降りしきる中での戦いは進んでいた。

 

バージル

(…何故更なる力を求めない?…親父の、スパーダの力を)

ダンテ

(親父?…関係無いね。アンタが気に入らねぇ、それだけだ!)

 

更に斬りかかるダンテ。…とその時、

 

カッ!!

 

一夏達

「「「!!」」」

 

一夏達は目を疑った。バージルの姿が…見覚えのある姿に変わったのだ。

 

一夏

「お、おいアレは!」

ラウラ

「ウェルギエル!?」

 

ガキィィィンッ!ドシュゥ!!

 

変化したバージルはその凄まじい力でダンテの剣を払い、すぐさまダンテの腹に閻魔刀を突きさした。

 

「!!」

シャル

「ダ、ダンテ!!」

「どういう事だ!何故バージルがISを!?」

セシリア

「い、いえ、顔の部分が違いますわ。海之さんのウェルギエルはバイザーの筈…!」

バージル

(愚かだな…ダンテ。…実に愚かだ。力無くては何も守れはしない…。自分の身さえな)

 

ドスッ!!

 

バージルはダンテから剣を引き抜くとダンテの首から何かを引きちぎった。それはダンテの持つ銀のアミュレットだった。

 

シャル

「あれは…火影のアミュレット!?」

 

ドシュゥゥゥッ!!

 

痛みで殆ど身動き取れないダンテに更に追撃するバージル。その刃は心臓を貫通した。

 

本音

「いやぁぁぁぁぁ!!」

「いやだ…いやだよ…」

ラウラ

「止めろ!止めてくれバージル!」

「なんで、なんでこんな事すんのよ!アンタの弟でしょう!?」

千冬

「…バージル…」

バージル

(これで…スパーダの封印が解ける…)

 

倒れているダンテを捨て置き、立ち去ろうとするバージル。すると、

 

ブンッ!ガキィィィィンッ!!

 

まるで何かに目覚めたかのように力強く起き上がり、バージルに攻撃を繰り出すダンテ。

 

ダンテ

「グゥゥゥゥゥ……!」

一夏

「ダンテ!」

「馬鹿な…心臓を貫かれたのに…!」

ルシア

「悪魔の血を継いだ彼らの生命力は人を越えたわ。身体をバラバラにでもされない限り死ぬことはない」

バージル

(…お前の中の悪魔も目覚めた様だな)

 

そう言いつつダンテの攻撃を振り払い、バージルはその場から去る。そして、

 

ダンテ

(ハァァァ…ハァァァ…グゥゥゥゥアァァァァァァァ…!!)

 

次の瞬間、雄叫びと共にダンテもまたバージルと同じ様に見覚えのある姿に変化するのだった。

 

「火影もアリギエルを!」

シャル

「で、でもさっきのウェルギエルと同じでバイザーじゃないよ!ちゃんと顔がある!」

千冬

「…そうだ。あれはアリギエル、そしてウェルギエルじゃない。ダンテとバージルの…真の姿だ」

「…真の姿!?」

マティエ

「ああそうさ…。あれはダンテとバージルの、悪魔としての姿なのさ」

一夏

「! ダンテとバージルの…悪魔の姿!?」

ラウラ

「ではアリギエルとウェルギエルは!」

クロエ

「……はい。兄さん達は言ってました。アリギエルとウェルギエルは嘗ての自分達の姿を模したものだと。それを兄さん達を転生させた方がISの姿にしたのです」

「…ふたりのISが…、悪魔だった頃の姿…」

ルシア

「これがダンテが初めて悪魔としての力を覚醒させた時よ。バージルはもっと早くになっていたみたいだけど」

刀奈

「話だけは聞いていたけどこうやって実際見ると凄いものね…」

 

目の前で起こった怒涛の出来事に皆、特に鈴達は言葉を失っている。

 

鈴・シャル・本音・簪・ラウラ

「「「……」」」

「…そう言えばさっきバージルのやつ、確かダンテのアミュレットを奪って行ったが…何故だろう?」

セシリア

「あの時バージルさんは確か…これでスパーダの封印が解けるとか言っていましたが…」

 

これにマティエが答える。

 

マティエ

「ダンテとバージルのあのアミュレットはね、元々はスパーダのものだったんだよ。スパーダはあのアミュレットを用いてテメンニグルの人界と魔界を繋ぐ扉、そして自らの力を封印したんだ…」

一夏

「あいつらのあれにはそんな意味があったのか…」

ルシア

「そしてスパーダはアミュレットをふたつに分け、エヴァに託した。その後エヴァはそれをダンテとバージルに託したのよ。ふたりに誕生日のプレゼントとしてね」

シャル

「そんな…。じゃあ、あれはふたりにとって両親の形見じゃないか…。そんな大切なものを奪ってまで…バージルは力が欲しいの?」

「……」

 

パチンッ!

 

するとルシアは再び指を鳴らし、場面が変わる。

 

ダンテ

(ゼィ…ゼィ…)

黒き物体

(……)

 

そこには謎の巨大な黒く蠢く存在と戦い、劣勢に苦しむダンテがいた。

 

シャル

「ダンテ!」

「な、なに!?あの気持ち悪い奴!」

「なんて奇妙な姿…!あれも悪魔なのか…!?」

ルシア

「…いいえ、あれは悪魔じゃない。愚かにも悪魔の力に魅入られた…哀れな人間」

セシリア

「に、人間!?あれがですの!?」

ルシア

「その人間の目的もまた、この塔に眠るスパーダの力だったわ。でもスパーダの血縁でも強い悪魔でもない自分には封印は解けない。だからバージルにこの塔の秘密を教え、共にテメンニグルを復活させた。スパーダの息子である彼らを利用し、その力を手に入れるためにね…」

ラウラ

「! じゃああいつが、バージルをたぶらかしたのか!!」

クロエ

「……いいえ、海之兄さんは言っていました。あの時の自分もまた、誰よりも強い力を望んでいた。自分も同罪だと」

刀奈

「それで手に入れた結果があれって事?伝説の英雄の力とは思えない位グロいわね」

マティエ

「当然さ。スパーダの力をあんな人間が扱える訳ないからね。所詮あいつも不安定で不完全な奴さ…」

黒き物体

(無駄だ!貴様の力など所詮半人半魔の不完全なものよ!貴様如きがスパーダの力に敵う筈もない!)

千冬

「そして本人は気付いていないという訳か。…愚かだな」

一夏

「まるであん時の白騎士に操られた俺みたいだな…」

「一夏…」

 

そう言っている間にもその黒き物体から触手らしいものが弱ったダンテに伸びる。

 

ビュンッ!!

 

ダンテ

(ちっ!)

「ダンテ!」

本音

「危ない!」

 

 

…ザシュゥゥッ!

 

 

その時、ダンテに迫っていた敵の魔手が何かの一閃によって断ち切られた。

 

ダンテ

(!)

「な、なんだ!?」

クロエ

「今の一閃は……まさか!」

黒き物体

(何!?……貴様は!)

 

ダンテと悪魔、そして皆も一閃が飛んできた方角を見る。そこにいたのは、

 

バージル

(返してもらうぞ…。貴様には過ぎた力だ)

 

ダンテのすぐ近くに飛来するバージル。

 

「…バージルさん!」

ダンテ

(…おいおい、今更ノコノコ出てきて主役気取りかよ?)

バージル

(では…、あれがメインイベントに相応しいと?)

ダンテ

(…まぁ言われてみれば確かにそうだ)

 

するとダンテとバージルは並んで立ち、同じ倒すべき相手に向かう。

 

一夏

「ダンテとバージルが並んでる!」

「ふっ…やはり、ふたりはこうでなくては」

本音

「いっけーふたり共!」

黒き物体

(敵うと思っているのか?スパーダの力に!)

バージル

(わかっている筈だ。貴様ではその力は制御しきれない)

ダンテ

(口で言ったって駄目だぜ?…身体で分からせなきゃな!)

 

そしてダンテとバージルは初めて共に戦った。その戦い方はやはり兄弟、双子ともいえるべき見事な連携だった。目的は違ったかもしれない。ただの成り行きかもしれない。しかしふたりの心には父の力を悪用された事に対する怒りが共通してあった。

 

シャル

「凄い…なんて綺麗で見事な連携…」

セシリア

「やはり双子、という感じですわね」

クロエ

「兄さん…!」

千冬

「…ふ」

 

…そして追い詰めた相手に、ダンテとバージルはあの言葉で止めを刺したのだった。

 

バージル

(今回だけお前に付き合ってやる)

ダンテ

(決め台詞覚えてるか?)

バージル

(…ふ)

 

ダンテ・バージル

(((JACKPOT!!))

 

 

ズギュ――ン!!!…ガガガガァァァァァンッ!!!

 

 

黒き物体

「私は…私、は…スパーダの力をぉぉぉぉぉ…!!」

刀奈

「憐れな奴ね…」

 

ふたりの放った力は確実に目の前の存在を破壊した。そしてそれと同時に現れたものがあった。

 

ラウラ

「…あれは…剣?」

「それにふたりのアミュレットも!」

ルシア

「あの剣こそ…テメンニグルに封印されていたスパーダの力よ」

 

だがそれらは奇しくも魔界へと続く穴に落ち込んでしまう。

 

本音

「全部落ちちゃったよ!」

一夏

「ダンテ!バージル!」

 

それを追いかけて兄弟もまた穴に飛び込むのだった…。

 

 

…………

 

人界と魔界の境目に落ちていったそれらを追って共に降りたふたり。しかし…そこでもふたりは相交える事になった。

 

バージル

(お前のそれを渡せ。ふたつ揃わなければ意味がない)

ダンテ

(嫌だね。……なんでそんなに力が欲しい?例え力を手に入れても父さんにはなれないぞ)

バージル

(……お前は黙っていろ!!)

 

…ガシッ!!

 

再び剣を向けるふたり。お互いの剣を素手で受け止める。

 

シャル

「ふたり共まだ戦うつもりなの!?もう止めてよ!」

セシリア

「そうですわ!おふたりが戦う必要なんてありませんわよ!」

 

ダンテ

(俺達がスパーダの息子なら…受け継ぐべきなのは力じゃない…!もっと大切な…誇り高き魂だ!!)

 

ラウラ

「…!」

一夏

「!…あの言葉…前に海之がラウラに言ってた…」

「あの言葉は火影くんが…海之くんに伝えた言葉だったんだ…」

 

ダンテ

(そして…その魂が叫んでる、アンタを止めろってな!(My soul it saying wants to stop you!)

バージル

(フハハハハハ!…悪いが俺の魂はこう言っている。…もっと力を!(I need more Power!)

 

「…なんでよ。さっきあんなに見事に一緒に戦ったのに…!アンタ達たったふたりの家族じゃないの!」

本音

「そうだよ!なんでケンカばかりするの!?」

「…よせ鈴、本音。…もう誰にも止められん。これはもう、単なるケンカではない。ふたりの信念の戦いだ。決して、誰にも変えられない位の…」

刀奈

「ええ…。何よりも強い力を得る事が正しいと信じるバージルと…それは間違っていると信じるダンテのね…」

「海之くん…火影くん…」

ダンテ

(…双子だってのにな…)

バージル

(…ああ…。そうだな…)

 

そしてふたりは再び剣を交えた。ただその戦いは先ほどの戦いとは少し違うものであった。父の魂にかけてバージルの過ちを正そうとしているダンテ。対して自らの無力さを嘆き、父よりも強い力を得ようとしているバージル。そんなふたりの信念の戦いを一夏達は黙って見ているしかなかった。

……そしてその戦いも幾分か過ぎ、遂にバージルが膝を着く。

 

バージル

(ぐっ…ハァ、ハァ…)

「バージルさん!」

バージル

(俺が…負ける…?)

ダンテ

(どうした?それで終わりか?立てよ、アンタの力はそんなものじゃない!)

バージル

(…ぐぅぅぅ。…ダンテェェェェ!)

ダンテ

(…終わりにしようバージル。…俺はアンタを止める。例え…アンタを殺す事になっても!)

セシリア

「そんな…ダンテさん!」

 

その言葉を最後にふたりは突撃した。

 

ダンテ

「はあぁぁぁぁぁぁぁ!」

バージル

「でやぁぁぁぁぁぁぁ!」

一夏

「!!」

「ダンテ!バージル!」

クロエ

「兄さん!!」

鈴・シャル・本音・簪・ラウラ

「「「やめてぇぇぇぇ!!」」」

 

 

……シュンッ!!!

 

 

ダンテの一閃が静かにバージルを斬った。それと同時にスパーダの剣とバージルのアミュレットが地に落ちたがバージルが取ったのはアミュレットだった。

 

バージル

(これは誰にも渡さない…。これは俺の物だ…。スパーダの…真なる後継者が…持つべき…もの…)

ダンテ

(……!バージ)スッ(!!)

 

ダンテの首に閻魔刀が向けられる。

 

バージル

(…お前は行け。…魔界に飲まれたくはあるまい。…俺はここでいい。…親父の故郷の…この場所が………俺の様な者にはお似合いだ…)フラッ

ダンテ

(!!)

 

バージルはダンテの差し伸べる手を拒否し、ただひとり魔界に飲まれていった…。

 

「…そんな…」

ラウラ

「海之…。いや…バージル」

刀奈

「もしかしたら…あれがバージルのせめてもの情だったのかもしれないわね…。本当に殺すつもりならばダンテを魔界に引き込んでいただろうし。…でもそうしなかった」

クロエ

「…はい。私もそう思います…。バージルさんはきっとまだ…優しい心が…」

「海之くん…」

 

そしてダンテは残されたスパーダの剣を持ち、ただひとり地上へと帰還した所で場面は切り替わる。そこにはダンテを待っていた先客がいた。

 

セシリア

「あの方は…若い頃のレディさん?」

ルシア

「彼女と出会ったのもこの時よ。彼女もまたこの塔に潜入していたの。理由は…聞かないであげて」

 

空を見上げるダンテに若い頃のレディが尋ねる。

 

レディ

(…?泣いているの?)

ダンテ

(……雨だよ。悪魔は泣かないもんさ)

レディ

(…そうね。でも…家族のために涙を流せる悪魔もいるのかも。…そう思わない?)

ダンテ

(………そうかもな)

千冬

「ダンテ…」

鈴・シャル・本音

(((…火影…)))

 

その場にいた全員が同じ事を思っていた。ダンテはこの時きっと泣いていたのだと。ダンテは悪魔は泣かないものと言った。でも家族のために涙を流せる悪魔も確かにここにいるのだ。

 

マティエ

「そして地上に帰還したダンテは…自身の終生の居場所となる便利屋兼、悪魔専門の退治屋を立ち上げた」

一夏

「…悪魔専門の…退治屋…!」

 

ルシア

「名前を聞きたい?…Devilmaycry(デビルメイクライ)…」




※次回は23日(土)の予定です。

当初は一話で終わらせるつもりでしたがDMC3は念入りに書くものにしたかったので予定より文が多くなりました。それでもかなり場面を絞りましたが。もし他に見たかったという場面がありましたらすいませんでした。そしてダンテのあのセリフは今後ある場面で使う予定ですのでここでは無しです。

次回より1・2・4・5編が続きます。今話程長くはならない予定ですが。


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Mission175 真実への電脳ダイブ⑥ ダンテの戦いの歴史

「ダンテ(火影)とバージル(海之)は憎しみ合い、幾度も殺し合った兄弟」

ルシアとマティエのその言葉を当然信じられない一夏達だったが彼女達が映したふたりの過去は壮絶なものだった。
悪魔に母親を殺された、弟のダンテは親代わりの者も殺されてより孤独に。兄のバージルは人間を捨てて悪魔として生きる事を決めた。そんなふたりは父スパーダの力が眠る魔塔テメンニグルで再会し、互いの譲れない主義主張をぶつけながら幾度も対峙する。戦いの結果バージルはひとり魔界に飲まれ、ダンテはバージルと引き換えに父の力を手に入れる。
想像をはるかに超えたふたりの過去。スパーダ、そしてバージルの形見にもなってしまった剣を手に、ダンテは更に悪魔達との戦いに身を投じていく…。


衝撃の事実から始まったダンテとバージルの過去の記憶。そして今、一夏達はテメンニグルでの戦いから数年後の世界を見ていた。デビルハンターとして仕事をしていたダンテはその後も日々、悪魔達との戦いを続けていたのだが…、

 

 

…ドガァァァァァァァンッ!!

 

 

一夏

「な、なんだぁ!?」

「…!バイクが突っ込んできた!?」

 

箒の言う通り、ダンテの事務所に突然バイクが窓を破って突っ込んできた。

 

ダンテ

(これはこれはせっかちなお客様だ。ガラス代弁償するからトイレ借りたいってんなら勝手にしな)

 

バイクから降りてきたのは…サングラスをした金髪の女性。

 

女性

(…貴方がデビルハンター、ダンテね。伝説の魔剣士スパーダの息子…)

ダンテ

(……へぇ、どうやら単なる客じゃねぇようだ。詳しく聞かせてもらう必要がありそうだな)

 

ダンテは自身の秘密を知るこの女性を警戒した。そんなダンテに女性は言った。

 

女性

(……力を借りたいの。……魔帝を滅ぼすために)

ダンテ

(…何?)

 

そう言いながら女性はサングラスを外す。その顔はダンテ、そして一夏達も見覚えがあった。

 

ダンテ

(…!)

セシリア

「あ、あの方は!」

本音

「…嘘!エヴァさん!?生きてたの!?」

「い、いえ違うわ本音。この人は…」

 

その顔はダンテの母エヴァに酷似していたが服装からして…トリッシュであった。

 

シャル

「…うん、トリッシュさんだね。……でも本当にそっくりだね。写真見てもおんなじだよ」

 

床に落ちた写真と見比べてみると確かに同じだった。

 

「…トリッシュさん、…今」

ラウラ

「…ああ。魔帝と言ったな…」

 

簪とラウラはまだバージルが魔界に落ちたショックが僅かに残っているようだ。

 

ルシア

「…ええそうよ。スパーダが戦い、ダンテの母エヴァを殺した魔帝が再び動き出したの。トリッシュはその討伐を…ダンテに依頼してきたの」

一夏

「野郎…どうしてもダンテを許さねぇつもりかよ…。あいつはもう…親兄弟全部失っちまったんだぞ…!」

千冬・刀奈・クロエ

「「「……」」」

マティエ

「そしてダンテは彼女の導きでとある島に赴くのさ…」

 

パチンッ!

 

ルシアが再び指を鳴らすと……場所は巨大な城がある島に変わった。ふたりの話だとマレット島と呼ばれるその島は元々多くの人間が住んでいてそれなりに栄えていた。しかし不運な事に島と魔界との距離が近すぎた。そのためかどうかは知らないが不運な事故や争いが絶えず、何時の間にか人はいなくなり、やがて忘れ去られていったそうだ。

 

ルシア

「魔帝はここを拠点にし、人間界への新たな侵攻を企てた」

シャル

「だからトリッシュさんはそれをダンテに…。…?でもなんでトリッシュさんが知っていたんだろう?」

ルシア

「それは後でわかるわ。今は…ダンテの戦いを見ましょう」

 

そしてダンテは島の内部を進んでいく。ルシア達の言う通り島の殆どは悪魔達によって支配されており、島全体が悪魔達の巣窟と化していた。それでもダンテは自らにかかってくる悪魔達を全て薙ぎ払う。その中には皆が見覚えのある者達もいた。

 

シャル

「ファントム…、それにグリフォンまで…」

ルシア

「魔帝にとって彼らは単なる道具に過ぎないわ。その気になればいくらでも創造できる」

セシリア

「まさしく王の力…ですわね」

一夏

「…ふざけんな。ダンテを襲わせといて役立たずと思ったら簡単に殺すような真似しやがって!」

「ああ。力こそ強いかもしれんがとても王の器ではないな」

マティエ

「言ったろう?魔界、そして悪魔は弱肉強食、弱き者は死、あるのみ…」

 

…そしてやがてダンテの前に、謎の黒い騎士らしい悪魔が現れた。

 

黒騎士

(……)

一夏

「おい、あの黒い奴は!」

「…ああ。アンジェロによく似ているな」

セシリア

「…おそらくあれが私達が知るアンジェロのモデルになったものではないでしょうか?」

シャル

「そうかもしれないね」

刀奈

「…でも他の悪魔と違って…武人という感じね。一対一を選ぶなんて」

 

黒騎士は卑怯撃ちもしようとせずダンテと互角に剣を交える。

 

シャル

「ダンテと互角!?」

「あいつ強い!」

ダンテ

(掃き溜めのゴミにしちゃガッツあるじゃねぇか!)

 

そして剣劇、そして格闘戦の末、ダンテが黒騎士に追い詰められる。

 

ドゴォォォォッ!

 

ダンテ

(ぐあっ!)

「ダンテ!」

 

…カチャン

 

その時ダンテの首からかけていた彼のアミュレットがはずみで零れ落ちる。

 

黒騎士

(…!?……グ、グ!!)

 

するとそれを見た黒騎士に変化があった。

 

一夏

「…え?」

「なんだあいつ…苦しみ出したぞ?」

黒騎士

(グ…グゥゥゥゥアァァァァァ!!)…ドンッ!!

 

頭を抱える程に苦しむ様子を見せた黒騎士はダンテに止めも刺さず、どこかに消え去ってしまった…。

 

ダンテ

(…?)

「…何あいつ?急に苦しみ出したと思ったら逃げる様に飛んでっちゃった」

セシリア

「ええ。ダンテさんのアミュレットを見た途端のようにも見えましたけど…」

刀奈

「……成程ね」

本音

「かっちゃん?」

千冬

「……」

クロエ

「あれが…海之兄さんの…」

「…え?」

ラウラ

「クロエさん?」

 

その後も悪魔の妨害がありながらも前に進み続けるダンテ。……そしてある部屋まで来たとき、あの黒い騎士がダンテを待ち受けていた。どうやら決着をつけるつもりの様だ。

 

黒騎士

(……)

ダンテ

(マジでガッツあるな。気に入ったぜ。ゴミには惜しいとこだ)

黒騎士

(…グゥゥゥゥアァァァァァァァ!!)

 

ドンッ!!

 

すると黒騎士は気合を溜めた。黒いオーラの様なものがそれを包み、同時に騎士がかぶっている兜が取れ、素顔が見える。そこには…青白い顔をし、真っ赤な目をした男の顔があった。

 

一夏

「あいつ…人間の顔してやがる!?」

「奴もさっきの奴の様な人間か…それとも」

セシリア

「……何でしょう?……どこかで見たような…」

 

一夏達は黒い騎士の正体に驚く。そんな中簪とラウラの反応は違っていた。

 

「……………え?」

ラウラ

「……ま…まさ、か」

シャル

「ど、どうしたの簪?ラウラ?」

千冬

「…気付いた様だな」

「千冬さん…?」

 

そんな彼らを他所にダンテとその黒騎士は再び刃を交える。ふたつの剣はほぼ互角であり、不思議と同じ剣技の様な気さえした。そして幾分の決闘が過ぎ、やがてダンテの剣が騎士を斬った。

 

ザシュゥゥゥゥッ!!

 

黒騎士

(グゥゥッ!!)

「やった!」

ダンテ

(……)

 

だがダンテの表情は曇っていた。

 

シャル

「…なんだろう?ダンテ…あんまり嬉しくなさそうだけど)

黒騎士

(グッ…グゥゥゥアァァァァァァァァァ!!)

 

バシュゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!

 

やがて黒騎士は激しい光と共に消滅した…。すると同時にそれがいた場所から何かが落ちてきた。ダンテがそれを拾う。

 

本音

「…何か落としたよ?」

一夏

「………えっ!?」

「…嘘…!それって!」

 

黒騎士が落としたものは…ダンテが持っているアミュレットと同じ形の金色のアミュレット。それは正に…。

 

「どういう、事だ?なんで奴が…バージルのアミュレットを!」

「…あ、…あああ」

ラウラ

「や、やはり…アイツは…」

 

簪が崩れ落ち、ラウラは言葉を失う。

 

刀奈

「簪ちゃん!ラウラちゃん!」

セシリア

「…まさか…先ほどの騎士は…!」

一夏

「何だよ一体!?」

 

すると千冬が答える。

 

千冬

「わからんのか?先ほどの黒い騎士は他でもない……バージルだ」

一夏

「な、なんだって!?」

シャル

「バージルってそ、そんな!バージルは魔界に飲まれて…死んだはずじゃ…」

刀奈

「……確かにバージルはあの時魔界に飲まれたわ。でも死んではいない。…生きていたのよ」

 

……パチンッ!

 

その時ルシアの指で再び場所が変わる。周囲は何も見えない真っ暗な闇。しかしはっきり目に映るものがあった。それは…

 

一夏達

「「「!!」」」

 

閻魔刀折れ、身体中傷だらけの満身創痍のバージル、そしてそれを見下ろす巨大すぎる存在。

 

バージル

(ハァ…ハァ…)

千冬

「…!」

ラウラ

「バージル!!」

「…いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

本音

「かんちゃん!」

 

バージルの姿に千冬やラウラは言葉を失い、簪は絶叫を上げる。

 

謎の存在

(……無様だな。……スパーダの息子)

「な、なんだコイツは!?」

「……まさか、こいつが!」

 

するとマティエはその名を呼んだ。

 

マティエ

「…ああそうさ。奴が二千年前、スパーダが封印した悪魔共の王にして魔界を統べる魔帝。その名を…「ムンドゥス」」

 

一夏

「…ムン…ドゥス?」

クロエ

「なんて…なんて禍々しい…!」

刀奈

「…ええ、映像だけど私にもわかるわ。……こいつのヤバさが!」

ルシア

「奴は魔界に落ちたバージルの前に現れた。バージルは父スパーダの軌跡をたどるために奴に戦いを挑んだ。…でもダンテとの戦いで傷つき、スパーダの力も継承していない彼に勝ち目は無かった…」

魔帝ムンドゥス

(…あの裏切者。偉大な悪魔の血を下等な人間の腹なぞで汚さなければ…多少は骨のある息子が生まれたろうにな…)

 

するとムンドゥスはその大きな手で傷ついて動けないバージルを掬いあげ、

 

魔帝ムンドゥス

(…だが筋だけは中々の様だ。ならば…)

 

ギュオォォォォォッ!

 

ムンドゥスはバージルを黒き闇で包む。

 

魔帝ムンドゥス

(弱さの腫瘍たる心を取り除いてやろう。自我も記憶も無くし、この魔帝の下僕になるがいい…!)

バージル

(…ああああああああ!!)

一夏

「…バージル!!」

千冬

「…くっ…!」

「いやぁぁぁ!止めて!海之くんをこれ以上苦しめないでぇぇ!!」

ラウラ

「貴様ァァァ!!」

 

簪は泣き叫び、ラウラは今にもISを出して殴りかからんとする勢いである。

 

刀奈

「簪ちゃんしっかりして!これは過去の話よ!」

シャル

「ラウラも落ち着いてよ!」

ルシア

「…そしてバージルはあの黒い騎士となった。文字通り魔帝の操り人形となってね…。そしてダンテを襲わせた」

一夏

「…じゃあ、じゃああいつらは…また戦っちまったってのか…。望んでない戦いを…」

 

するとルシアは再び指を鳴らし、先程のダンテと黒騎士の後に戻す。簪とラウラはショックが大きい様子。

 

簪・ラウラ

「「……」」

千冬

「誰かふたりを支えてやれ」

「でもあの時、バージルはダンテのアミュレットに反応した…。もしかしたら記憶が残っていたのだろうか…」

「…ええきっとそう。幾ら魔帝でも兄弟の、絆みたいなものは断ち切れなかったのね…」

 

……カッ!

 

すると…ダンテのアミュレットとバージルのアミュレットがひとつに組み合わさり、ダンテが持っていたスパーダの剣と反応して姿を変えた。ダンテはそれを鬼気迫る表情のまま無言で振るい、背に持つ。

 

シャル

「剣が変わった!?」

「…あの剣は…あの時スパーダが振るっていた剣と同じだ」

マティエ

「あれこそスパーダの剣、その真の姿にして伝説の力。「魔剣スパーダ」さ…」

刀奈

「魔剣スパーダ…。自分の名前を剣に付けるなんて…正にスパーダの力そのものという訳ね」

 

そして魔剣スパーダを手に、ダンテは島の最深部目指して進むと…やがて周りに文字の様なものがびっしりある空間に辿り着いた。その壁は岩の様に見えるが何か生物の器官の様にも見受けられた。

 

トリッシュ

(ダンテ!)

本音

「トリッシュさん!」

ダンテ

(トリッシュ!)ズドォォォォォンッ!(!!)

 

トリッシュに近づくダンテに再び悪魔が襲い掛かる。ダンテはトリッシュを守るために戦うのだが、

 

バリバリバリバリバリバリッ!!

 

ダンテ

(ぐあぁぁぁぁぁぁ!!)

 

突然の雷撃がダンテを襲う。その雷撃を放ったのは…トリッシュだった。

 

トリッシュ

(ハハハハハ!無様な姿だな、甘えた人間!)

セシリア

「! トリッシュさん!?」

ダンテ

(…まさかお前…!)

トリッシュ

(その愚かさを悔いるがいい!貴様は我らにとって邪魔な存在なのだ!)

 

そして悪魔と並び、トリッシュはダンテに仕掛ける。

 

「どうして!?それに我らって……も、もしかしてトリッシュさん!」

ルシア

「…そう。彼女もまた魔帝によって生み出されし悪魔だった…。目的は魔帝の名を使ってダンテをこの島に導く事。しかも手の込んだ事にわざわざ彼の母親と顔をそっくりにしてね」

「そんな…」

一夏

「卑怯な真似ばっかしやがって!」

 

一夏は激しい怒りを見せる。

 

シャル

「で、でも僕達が会ったトリッシュさんはそんな感じじゃ…」

刀奈

「その件については直ぐに分かるわ」

 

…そしてそんな卑怯な手を跳ね返し、ダンテは戦いに勝利する。するとそのはずみで部屋の一部が崩れ、トリッシュが巻き込まれそうになった、

 

ガラガラガラガラ!!

 

トリッシュ

(!!)

ダンテ

(…!)ダッ!!

「ダンテ!」

 

するとその時、ダンテがトリッシュを庇う様に駆け付けた。そのため彼女は無傷ですんだ。困惑している彼女を置いて先に進もうとするダンテ。

 

トリッシュ

(ダンテ…どうして、私を助けた?)

ダンテ

(………母さんに似てた。………消えな。次はこうはいかない)

トリッシュ

(……ダンテ!)ジャキッ!!(!!)

ダンテ

(寄るな悪魔!…二度とその顔見せるな!魂も何もない、作り物の顔を!!)

 

激しい怒りと共にダンテはその場を去った。トリッシュは何も言えずただ立ち尽していた…。

 

本音

「…ダンテ、凄く怒ってたね…」

「…当り前よ。母親を利用された様なものだもの。ダンテやバージルにとってエヴァさんは何よりも大切な人だった筈だし…」

「魔帝の奴…どれ程卑劣なんだ!あいつらの心の傷を…どこまで広げれば気が済むんだ!」

シャル

「…うん。もし僕もおかあさんを同じ様に利用されたら、絶対に許せない!」

一夏

「それだけじゃねぇ…バージルの事もだ。ダンテにとって…二回殺したのと同じじゃねぇか!」

簪・ラウラ

「「……」」

 

怒りを心に秘めたダンテはやがて島の最深部にである大聖堂に辿り着いた。そこは今までの様な奇妙な場所達とは違い、とても綺麗で神々しさまで感じられそうな場所であった。その聖堂の奥には巨大な神像らしきものがいた。

 

神像?

(…再びスパーダの血と対面か…。昔を思い出すな)

ダンテ

(なら結末も同じだろうぜ)

神像?

(…ふ、果たしてそうかな?)

 

カッ!ドスッ!!

 

神像の目が赤く光った途端、ダンテに深紅の矢が刺さる。矢はダンテの身体を傷つけ続ける。

 

ダンテ

(ぐあああああ!!)

「ダンテ!?」

セシリア

「な、何も見えなかった…!」

刀奈

「…ええ。像の目が光った途端矢が刺さってた」

神像?

(愚かな。所詮貴様もバージルと同じ、それが限界。…死ね!)

 

カッッ!!

 

ダンテ

(!)

シャル

「ダンテ!」

 

バッ!!…ズドンッ!!

 

するとその時ダンテを庇うかの様に入ってきた者がいた。それは…、

 

トリッシュ

「あああああああ!!」

ダンテ

(!)

「! トリッシュさん!?」

ルシア

「…見ての通りよ。トリッシュは最初は魔帝の手下だった。でも…ダンテの優しさが、彼女に心を与えたのよ」

 

ダンテの目の前で光に貫かれるトリッシュ。その光景に…ダンテの頭に母を失ったあの時の光景が過った。

 

神像?

(…愚かな役立たずが。邪魔をするとはとんだ失敗作だ)

ダンテ

(……出て来い。……魔帝ムンドゥス!!)

 

ババババババババババババババッ!!

 

そう言うと周囲の壁が突然崩壊し始め、像も砕け散る。そしてその中には先ほどバージルの過去の時に出てきた存在がいた。

 

千冬

「…魔帝…ムンドゥス…!」

ラウラ

「…周囲が、宇宙になった!?」

ルシア

「奴にとって小さい宇宙を創ることなんて造作もないわ」

 

魔帝の姿を強い眼差しで睨みつけるダンテ。

 

魔帝ムンドゥス

(その目だ…。スパーダと同じ…危険な兆候)

ダンテ

(…母さんの仇…)

魔帝ムンドゥス

(ふっ…母が欲しいのなら幾らでも創造してやるぞ?…トリッシュの様にな)

 

ダンテ

(…黙れ!!!)

 

その一言がダンテの逆鱗に触れた。巨大な翼を広げ、高く飛翔するムンドゥス。ダンテは魔剣スパーダの力によって新たな姿に変身し、ムンドゥスと凄まじい空中戦を繰り広げる。互いの魔力の矢が飛び、隕石を降らせ、時にはエネルギー体の龍を召喚して攻撃する。

 

「…なんて戦いだ…。これが…悪魔の戦いなのか…」

刀奈

「強大な力を持った魔帝と…嘗てそれを破ったスパーダの力を継承した悪魔の血を継ぐもの…」

本音

「でも違うよ!ダンテは人間だよ!」

クロエ

「…はい。そうですね」

シャル

「ダンテ…負けないで」

「…ダンテさん。…バージルさんの仇をとって…」

 

そんな空中戦もやがてマグマ溢れる場所に移る。魔帝の怒涛の攻撃に対し、ダンテは必死によけながら先ほど迄とは比べ物にならない位パワーが上がっている魔剣スパーダで斬りつける。

 

セシリア

「あのダンテさんの剣…。凄まじい力ですわね。まるで何かの力が目覚めたかの様ですわ」

一夏

「…きっとスパーダが力を貸してくれてんのさ。魔帝の奴をぶっ倒せってな」

千冬

「…ふ。今回は私もお前と同じ考えだ」

「剣に宿る父親の意志…か」

ラウラ

「…バージル、お前も力を貸してやってくれ!」

 

ダンテの剣の一閃一閃は間違いなくムンドゥスの身体にダメージを与える。しかしムンドゥスもまた強烈な攻撃をダンテに浴びせ続ける。そしてムンドゥスよりも先に、ダンテのスタミナが尽きつつあった。

 

ダンテ

(ハァ…ハァ…ゼィ…ゼィ)

ムンドゥス

(…どうした?その程度か人間め!)

 

…するとその時、ふたりの戦場に突如飛び込んでくる者がいた。

 

トリッシュ

(ダンテ!諦めないで!私の力も使って!)ババババババババッ!!

 

それはムンドゥスの矢に貫かれたトリッシュであった。

 

「トリッシュさん!良かった!」

一夏

「生きてたのか!」

ダンテ

(トリッシュ!…わかった!)

 

ダンテは自らの力とトリッシュの力を自身のエボニー&アイボリーに込める。そして…、

 

トリッシュ

(…決め台詞は?)

ダンテ

(…JACKPOT!!)

 

ズドンッ!!…ドゴォォォォォォォォッ!!

 

それまで以上の強大な魔力の弾丸がムンドゥスに命中。その力に既にこれまでの戦いで傷ついていたムンドゥスの身体が大きく崩れ落ちていく…。

 

ムンドゥス

(グオォォォォォォォ…!!…ダンテ…忘れるな!必ず…必ず再び現世に蘇るぞぉぉぉぉぉ!!)

千冬

「…最後の断末魔か」

ダンテ

(あばよ。もし蘇ったらそん時は俺の子孫に宜しくな)

 

そしてやがてムンドゥスの身体は巨大な暗黒洞に飲み込まれ…消滅した。

 

一夏達

「「「……」」」

「終わった…のか?」

刀奈

「…みたいね」

一夏

「よっしゃぁやったぜ!!」

シャル

「流石火影!あ、ダンテか。まぁどっちでもいいね♪」

「…バージルさん。…エヴァさん」

マティエ

「こうしてダンテと魔帝との戦いは終わった…。でも今回の件でダンテはますます悪魔との戦いに突き進んでいく事になったのさ。悪魔を絶滅させるためにね…」

「…悪魔の…絶滅…」

ルシア

「ダンテにとって魔帝との戦いもそのための通過点に過ぎないのよ…。そしてこの戦いから数年後、ダンテにとって再び父スパーダに関わる大仕事があった…」パチンッ!!

 

 

…………

 

そう言ったルシアが指を鳴らすと…今までいた島とは別の島に変わった様であった。

 

一夏

「ここは…今までの島とは違うな?」

ルシア

「…ここは私達の島…デュマ―リ島。古来の神々や妖精、精霊等を信仰していた異端の者達が流れ、移り住んだ島よ」

シャル

「異端って…そんな言い方しなくても」

セシリア

「…いえ、そう言った例は歴史上多いですわ。特に古来の神とすれば悪魔や邪神等も含まれますもの」

刀奈

「日本でも今は宗教の自由があるけど昔は廃仏毀釈みたいな事もしていたしね」

 

そう言っている間にダンテはルシア、マティエと知り合った場面になる。

 

マティエ

「ここでもまたダンテはある依頼を受けた。依頼したのは…私さ」

本音

「マティエお婆ちゃんが?」

マティエ

「ああ。私達の安住の土地を魔物達の巣窟に変え、魔界への扉を開こうとしている男を倒してほしい、とね」

「! に、人間が…マティエさんやルシアさん達の島に悪魔を!?」

ラウラ

「魔界への扉を開くなど…一体何故そんな!?」

千冬

「…簡単だ。さっきのテメンニグルの時の男と同じだ。ある強大な悪魔を目覚めさせ、それを我が物とするためだ」

「…そんな…」

「まだそんな愚かな考えを持っている者がいるとはな…。こう見ると人間というのは何て愚かしい生き物かとも思えてしまうよ…」

刀奈

「心配しなくてもいいわ箒ちゃん。…確かにそういう人間もいる。でもそうじゃない人間もいる。皆みたいにね」

 

そしてマティエの依頼を引き受けたダンテは島内中を駆け巡った。時には巨大な剣の様なものを振るう炎に包まれた悪魔や、空を漂う巨大な魚の様な悪魔、ビルの様に巨大な悪魔達が襲い掛かってきたが、ここに至るまでに無数の悪魔を倒し、戦闘を積んだ彼には問題ではなかった。

 

セシリア

「…あんな巨大な悪魔達を…たったひとりで…」

クロエ

「火影兄さんは前世でこの様な戦いをお若い時から生を終える直前まで続けていたと言っていました」

「それって何十年もの間ってことじゃないの…。火影はずっと…こんな戦いを続けてきたっていうの…?」

千冬

「そういう事だ。これで少しはわかったろう?あいつらの技術の秘密が」

シャル

「通りで敵わない筈だね…」

一夏

「…ああ。経験が違いすぎる。あいつらはずっと死と隣り合わせの戦いをしてきたんだな…」

 

そんな会話を続けていると…やがてひとりの男がルシアと話している場面に移った。

 

マティエ

「奴は…アリウス。表向きは巨大企業の経営者だけど正体は骨の髄まで魔の誘惑に染まった哀れな男…。奴が私達の島を変え、そして強大な力を求めてある悪魔を呼び覚まそうとした張本人さ…」

「…酷い…」

アリウス

(……どうした失敗作。まさか、私を倒しに来た、とでも言うのではないだろうな?)

若きルシア

(そのまさかよ!)

アリウス

(愚かな…。失敗作が生みの親に勝てると思っているのか?)

「…え!?い、今アイツ何て!」

シャル

「ルシアさんの生みの親って…。じゃ、じゃあまさか」

ルシア

「……」

 

すると千冬が答える。

 

千冬

「……以前火影から聞いた事がある。自らの目的のために…人造の悪魔を造っていた男がいるとな。思うにその男とは…あのアリウス。そして言葉からしてルシア殿、おそらく貴女が…」

一夏

「じ、人造の悪魔だって!?」

「つまり人に造られた悪魔、という事ですか!?」

ルシア

「………ええ。私はアリウスに造られたセクレタリーシリーズという人造悪魔のひとりよ…。でも失敗作として廃棄された。そこをマティエに保護された」

クロエ

「……」

ラウラ

「貴女が…造られた悪魔…」

 

この話にクロエとラウラが反応する。おそらく自らと重ねているのだろう。

 

ルシア

「最初私はその真実を知って絶望したわ…。でもマティエやダンテに救われた」

マティエ

「…確かにこの子は純粋な生まれじゃないさ。でも私はこの子に教えられる全てを教えてきた。それは血の繋がりよりも遥かに強いものだ。例え悪魔だろうと私の大事な娘。私はそう思っているよ」

本音

「マティエお婆ちゃん…」

クロエ

「大丈夫ですよ。貴女は失敗作なんかじゃありません」

ルシア

「…ありがとう」

 

そんな話をしている間にもルシアはアリウスと戦っていたがやがて力尽きる。

 

アリウス

(貴様にはまだ役立ってもらう。……もう少しだ、もう少しで手に入る。万物の力…、アルゴサクスの力が!)

 

その名前を聞いた一夏達が反応する。

 

一夏

「お、おい今アイツ!」

「あ、ああ確かに言った。…アルゴサクス。あのオーガスが言っていた名前と同じだ!」

シャル

「うん!火影達もオーガスをそう呼んでた!でもなんでオーガスが悪魔の名前を!?」

セシリア

「…そう言えば確か、あの男も火影さん達と同じ世界から来たとトリッシュさん達が仰っていましたわ…。……まさか!」

 

皆の結論は達した様だ。

 

刀奈

「気づいたみたいね皆。…そう。あの男オーガスの前世こそ…アルゴサクスなのよ」

ラウラ

「! あ、あの男の前世が…アルゴサクスという悪魔!?」

クロエ

「兄さん達の話によるとアルゴサクスは嘗て魔帝と並ぶ程の力を持っていたらしいです。ですが兄さん達の父であるスパーダと…マティエさん達の祖先によって封印されました」

「それをあの男が復活させようとしてるのね…」

ルシア

「…でも計画は失敗に終わったわ、ダンテが復活に必要なものを偽物とすり替えたおかげで。後は…奴に造られた悪魔達を滅ぼせば全てが終わると思った。だから私は…ダンテに私を殺す様にお願いした」

一夏

「な、何だって!?」

「そ、それで…どうなったんですか?」

 

するとルシアはやや溜めて答えた。

 

ルシア

「そしたら彼はこう言ったの。……涙を流せるのは人間の証。悪魔なら泣かないって…」

シャル

「ダンテ…」

ルシア

「…でも予想外の事が起こった。失敗と思っていたアリウスの儀式は…アルゴサクスそのものの手によって完成目前となってしまったの。このままでは人界と魔界が完全に繋がってしまう。だからダンテは魔界に降りてアルゴサクスを、私は自分の運命を弄んだアリウスとの決着をつける事にした…」パチンッ!

 

すると場面はルシアの戦いの場面に変わる。ダンテによって葬られたと思っていたアリウスは生きていたがその身体は最早人間ではなかった。背中から触手の様なものが生え、最後は昆虫の様な不気味な存在に変わっていた。

 

アリウスだったもの

(ツクラレタマモノ!シッパイサク!ソウゾウシュニハムカウカ!)

本音

「ひえ~!」

ラウラ

「…なんという醜い姿だ…。あれが元人間とはな…」

刀奈

「悪魔の力を欲し、そのために多くの命を弄んでまで得た力が…あんな様とはね」

 

その間にも嘗てアリウスだったものはルシアを魔物と呼び続ける。だが今のルシアにはそんな言葉は無力だった。そしてやがてそれはルシアとの戦いで敗れ、消滅した…。

 

ルシア

「そしてその頃ダンテも…父スパーダを超えるために戦っていたわ」

一夏

「…スパーダを超える?」

マティエ

「スパーダはアルゴサクスを封印するまでしかできなかった。だけどダンテは奴を完全に倒す事でスパーダを超えるつもりだったのさ」

 

そして場面が切り替わるとそこにはダンテと…これまた不気味な存在がいた。いくつもの悪魔が合体した様な不気味な存在であった。

 

「! な、なにあいつ!?気持ち悪!」

ルシア

「ダンテがこのデュマ―リ島で殺した悪魔達の集合体みたいなものよ。そして…アルゴサクスの卵、幼虫の様なものでもある…」

シャル

「! あ、あれが卵って…どういう事ですか!?」

 

…そしてやがてそんな目の前の存在を一刀両断するダンテ。……だがそんな時、消滅したアルゴサクスから何かが飛び出してきた。そこには角を生やし、全身が炎に包まれた様な存在がいた。

 

マティエ

「…アルゴサクス。私も実際この目で見るのは初めてじゃわい」

「…奴が…アルゴサクス。オーガスの前世の姿か!」

一夏

「…でもムンドゥスの野郎に比べてなんか迫力に欠けるな?他の悪魔の方がまだ強そうな」

千冬

「外見だけで判断するな、といういい見本だ」

 

千冬の言う通り、完全体となったアルゴサクスはデュマーリ島で出会ったどんな悪魔よりも強力だった。様々な形の武器に変化する両腕。超高速な瞬間移動。雨の様に降ってくるレーザー。その力はまさに嘗てムンドゥスと並ぶ力を持っていたというだけのものはあった。……最も。

 

「でも…ダンテも負けてないわ」

シャル

「うん。ダンテもムンドゥスを倒したし、今まで沢山の試練に打ち勝ってきたんだもん。絶対負けないよ!」

ルシア

「……ダンテ」

 

鈴やシャルの言う通り、ダンテもまた歴戦の戦士としての力を存分に発揮し、互角の戦いを繰り広げる。……そして、

 

アルゴサクス

(グゥゥゥゥゥ…!!)

 

やがてアルゴサクスの方がとうとう追い詰められる形となった。攻撃を受けて退いている間にダンテの姿を一瞬見失う。そして、

 

ジャキッ!!

 

気がつくと…ダンテの銃がアルゴサクスを捉えていた。

 

アルゴサクス

(!!)

ダンテ

(ふっ、……JACKPOT)

 

ズドンッ!!

 

決め台詞と共にアルゴサクスは砕け散った。それは封印ではなく、完全な破壊であった。

 

本音

「やったー!」

セシリア

「流石ダンテさん!」

 

アルゴサクスの撃破に喜ぶ本音達。しかし、

 

刀奈

「そして奴が…オーガスとして転生してくるって訳ね」

ラウラ

「!……では奴が火影や海之をあそこまで憎むのは」

クロエ

「はい。嘗ての自らを倒した…兄さん達への復讐に燃えているのだと思います」

千冬

(…しかし奴は、オーガスは何故魔力を持っているのだ?同じく魔力を持っていた火影や海之は持っていないというのに…)

一夏

「でも悪いけど同情はできねぇよ」

「…うん、…そうだね。スパーダさんやマティエさん達のご先祖様を苦しめたんだもん」

マティエ

「こうしてダンテは私の依頼を見事に叶えてくれ、魔界から帰還した…」

 

するとルシアがやや寂しそうな顔をして言葉を続ける。

 

ルシア

「……でもダンテは、彼は直ぐ悪魔との戦いに戻って行ったわ」

「そんな…。少し位休んでも良いのに…」

ルシア

「…無駄よ。ダンテを、彼を止める事は誰にもできない。悪魔を狩るのが彼の使命。止められるとすれば…それは悪魔を世界から消し去った時だけよ…」

「……ルシアさん?」

マティエ

「……やれやれ」

 

ルシアの言葉にマティエは再びため息をついた。

 

 

…………

 

その他にもダンテは数多くの悪魔と戦い続けた。

 

魔帝ムンドゥス、覇王アルゴサクスに匹敵する程の力を持っていたとされる大悪魔アビゲイル。

 

刀奈

「大悪魔でもあんなねずみ男みたいな奴に負けたら私でも癪に触るわね」

 

嘗てアルゴサクスに支え、反逆の機会をうかがっていたが叶わず、ダンテの力となる事を決めた炎魔バルログ。

 

一夏

「勝手な奴だな。勝手に魔具になっちまった」

本音

「バルルンもアグリンやルドランみたいだね~」

 

だが見ての通りそれらもまた悉くダンテに破れ去った。強大な力を持った悪魔達と次々と戦い、そして勝っていった事で彼はどんどん成長し、まさに最強のデビルハンターとなっていったのである。

 

「…ダンテ…。火影の前世か。記憶も受け継いでいると言っていたから基本的に同じ人物でもあるのか。……あいつ、本当に戦い続けてきたんだな…」

セシリア

「…ええ。お母様の敵である悪魔を絶滅させるために…」

シャル

「…火影…」

ルシア

「そしてこの後…、ダンテにとって再び因縁ともいえる戦いがあったわ…」

一夏

「まだあるのかよ…?」

マティエ

「ああ。ダンテにとって…戦う理由そのものでもある、大きな因縁さ…」




※次回は30(土)の予定です。

今回1,2編でした。次回4,5編です。仕事で編集が中々進まず本当にすいません!
アニメが1と2の間である事やバルログは時期的に4の後ですが4と5を直接繋げたいので今回前の段階で出させていただきました。次回で電脳ダイブ編は終了予定です。


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Mission176 真実への電脳ダイブ⑦ 悪魔も泣く兄弟(※DMC5の重要ネタバレあり!未プレイの方はご注意!)

バージルとの戦いから数年後の世界。デビルメイクライを開業していたダンテの元には多くの依頼が舞い込んできていた。

父スパーダが戦い、母エヴァを殺し、兄バージルを利用した魔帝ムンドゥス。
同じくスパーダが封印し、魔に囚われた哀れな人間によって目覚めた覇王アルゴサクス。現在のオーガスである。

しかしそんな大悪魔達もダンテは嘗ての仲間達と共に全て打ち砕いていった。そしてそれから更に数年後、戦いはあの時に移ろうとしていた。ダンテにとって戦う理由そのものであるあの者との…。


数多くの悪魔達との戦いを乗り越えてきたダンテ。そんなダンテの戦いの人生を神妙な想いで見続ける一夏達。そんな彼らにマティエが言った。

 

マティエ

「…だがそんなダンテにとってやがて宿命ともいえる戦いが起こるのさ」

一夏

「まだあんのかよ…」

「宿命って…ムンドゥスって奴以外にもいるの?」

ルシア

「ええ…。彼にとって戦う理由そのものともいえる存在との戦いがね。でも今は…その前哨戦ともいえる戦いから見ましょう」パチンッ!

 

そしてルシアは再び指を鳴らす。……すると一夏達の目の前には巨大な街が広がっていた。周囲が壁に囲まれ、街のちょうど中心にあたる場所には巨大な石の柱がある。

 

クロエ

「今度は街ですね。最初に見た街とは違うようです」

千冬

「かなり大きい街な様だな。城壁の様なものもある。…ルシア殿、ここは?」

 

するとルシアは答えた。

 

ルシア

「ここは城塞都市フォルトゥナ。嘗てスパーダが悪魔達との戦いで拠点とし、自らが治めていた街よ」

「そんな旧い場所が残されているとは…」

マティエ

「そしてこの街には昔から根付く宗教があった。…魔剣教。嘗て世界を救った英雄であり、領主であるスパーダを神として祀る宗教さ」

一夏

「…!!」

シャル

「そんな宗教があるんだね。…でも悪い事じゃないよね別に」

「そうね。実際そういう宗教や地神は私達の世界にもあるし」

ルシア

「魔剣教の理想はスパーダ若しくはその血を継ぐもの以外の全ての悪魔が消えた世界…」

セシリア

「! スパーダさんやその血を継ぐ者以外の悪魔がいない世界…!?」

ラウラ

「それって…ダンテがやろうとしている事と同じ…?では…味方なのか?」

 

するとここで本音が言った。

 

本音

「ね~、それじゃトリッシュさんやルシアさんはどうなるの~?トリッシュさん達はいたら駄目なの~?」

千冬

「布仏の言う通りだ。スパーダやダンテ以外の悪魔は全て滅ぼすべき存在というのは少々偏りすぎている気がする。それにダンテは悪魔を滅ぼすとは言っているが、あいつは正しき心を持つ悪魔は殺していない」

「…あ」

クロエ

「トリッシュさんやルシアさんだけではありません。私達が先ほど見た様なブラッドさんやモデウスさんという方の様な悪魔もいます。魔剣教のやり方は彼ら達も否定する事になります」

シャル

「そ、そうか」

ラウラ

「ルシアさん…すみません」

ルシア

「いいのよ。街の人々は殆どが魔剣教を信じていたけど逆にそう思う人達も少なからずいた。でもそう言った人達は全て秘密裏に処理された。悪魔を滅ぼすためならどれだけの犠牲を払っても許される、と」

刀奈

「まさに暗部ってわけね」

一夏

「…そんなの犯罪とかわらねぇじゃねぇか。相手が悪魔なら何やってもいいって訳かよ」

刀奈

「それ位の事をしないといけない時もあるって事よ一夏くん。綺麗事だけでは…守れない事も多いから」

「お姉ちゃん…」

 

刀奈は更識の事を考えているのだろうと簪は思った。以前にも話したが彼女らの実家である更識は表向きは何代も続く旧家だが、その裏では国防のために世間には表ざたにできない活動を行っていた事もある。

 

ルシア

「そしてダンテはここで自分にとってちょっとした縁がある人に出会うの」

「…縁ある人?」

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!

 

 

するとその時、凄まじい地響きの様な音がした。

 

シャル

「な、なに?また地震!?」

「…!皆、見て!!」

 

そう言われて皆は街の中心にある石柱に注目する。すると、

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!

 

 

見るとその石柱から凄まじい光が漏れ、更にそこから……無数の悪魔が出現した。悪魔達は見境なく人々を襲い始める。

 

「悪魔!?しかもあんなに!」

セシリア

「どうして悪魔が!一体何が!?」

 

無数の悪魔に驚きを隠せない一夏達。するとそこに、

 

 

ズバァァァン!

ドゴォォォォォン!

 

 

突然数匹の悪魔が何かに斬られた。そこに現れたのは…白い鎧を被り、天使の様な翼を持った者達。そして高層ビル程もある巨大な人形の存在だった。それらは更に悪魔達を襲っている。

 

「白いアンジェロだと!?何故奴らがここに!」

シャル

「それだけじゃない!何あの巨人!」

「…神様…?でもなんか…怖い」

刀奈

「これはまた規格外な大きさね…。あの悪魔達が出てきた物といい…ルシアさんマティエさん、あれは何なんですか?」

 

問われてルシア達は答えた。

 

ルシア

「……これが魔剣教団の最大にして最終計画。……「救済」」

クロエ

「…救済?」

マティエ

「この街に残された人界と魔界を繋ぐ門、地獄門を開いて悪魔達を呼び出し、そこに自分達が介入して悪魔達を殲滅した様に人々に思わせる事で、自分達の権威と力を世界に知らしめようという馬鹿げた計画さ。あの天使に見える騎士は教団に悪魔の力をうつされてああなった元人間なんだよ」

一夏

「!!」

「なっ!」

ルシア

「あのふざけた人形もそのために教団が作ったものよ。教団は神と呼んでいるわ。最もその中身は悪魔の血肉だけど」

「自分達で悪魔を呼び出しておいて正義のヒーローを演じるって訳!?しかも人を悪魔にするなんて!」

千冬

「神、そして天使を管理している様に見せれば自分達の権威は揺るがないと思ったのか。……愚かだな」

 

皆はその計画の異常さに憤る。

 

セシリア

「で、ですがどうやって人界と魔界を繋ぐ扉をどうやって開けたのですか!?」

シャル

「もしかしてまたムンドゥスみたいな奴が!?」

 

するとルシアが答えた。

 

ルシア

「いえ、今回はそれほどの悪魔はいないわ。でも方法はある。……閻魔刀よ」

 

その名を聞いて簪やラウラが驚く。

 

「!」

ラウラ

「や、閻魔刀だって!?」

クロエ

「海之兄さんが言ってました。…海之兄さんの閻魔刀は人と魔を別つ刀であり、鍵であったと。嘗て魔剣士スパーダはあの刀を用いて魔界と人界を繋ぐ扉を閉じたと…」

マティエ

「バージルの元から離れた閻魔刀は長い時の中で流れ流れてこの場所にたどり着き、それを奴らが手に入れた。そういう訳さ」

「バージルさんの閻魔刀が…こんな計画に…」

ラウラ

「…許せん!」

千冬

「……」

 

 

ズダダダダダダダダダッ!!

ドガガガガガガン!!

 

 

一夏達

「「「!!」」」

 

その時、何体かの悪魔と白い騎士達が攻撃によって破壊された。攻撃したのは、

 

ダンテ

(……たく大した役者だぜ、おめぇらよ)

 

アルゴサクスとの戦いから更に数年の時を過ぎたダンテであった。

 

シャル

「ダンテ!」

本音

「ひかりん!」

「随分とおじさんになったじゃない♪」

ルシア

「ダンテの目的は教団の計画を潰す事と閻魔刀の回収。そしてある人の願いを叶える事」

「ある人?」

マティエ

「教団の活動にのめり込んでしまった哀れな男さ。男は誰よりも教団に忠誠を誓っていた。しかし教団はそんな男の気持ちを裏切り、彼の最も大切なもの、何も知らない家族を自分達の目的の為に生け贄にしようとしたのさ」

「そんな…酷い!」

千冬

「…最低だな」

マティエ

「流石に男は怒ったさ。でも逆に殺されてしまった。だから死ぬ間際にダンテに依頼したのさ。家族を助けてくれってね」

一夏

「!……その話、…もしかして」

「…一夏?」

 

それを聞いた一夏の心にはひとりの人物が浮かんでいた…。

 

 

…………

 

そしてダンテは教団の兵士、そして教団が呼び出した悪魔達との戦いを繰り広げた。教団が作り出した地獄門の模造品を破壊、それの動力源になる魔具の回収、そして戦いの果てに遂に閻魔刀を取り戻し、真の地獄門をも破壊したダンテは教団の最終兵器である偽りの神と対峙する場面となった。

 

(地獄門を破壊するとは…、しかし貴様では我らが神に触れる事すらできぬわ!)

ルシア

「今話している男こそ今回の事件の黒幕にしてこの人形を作り出した魔剣教団の教皇よ」

千冬

「このふざけた出来レースのいわば首謀者か…」

一夏

「そしてバージルの刀を利用した張本人!」

ダンテ

(へっ、勘違いすんなよ。俺はてめぇなんぞに見下ろされたくねぇだけだ!)

 

そしてダンテは巨大な偽りの神との戦いに突入する。その巨体から繰り出される拳や身体の動きによる衝撃、更にそれによって起こる風圧は当たらなくてもかすめるだけでも凄まじい威力を発する。そんなギリギリ隙間を縫うようにダンテは動き回り、

 

ダンテ

(でやぁぁぁぁぁぁ!!)ドスッ!!

教皇

(馬鹿め!如何に閻魔刀でもこの神に傷を付ける事は出来ぬ!)

ダンテ

(そうかい!)ジャキッ!

 

ズドドドドドドドドド!!

キンキンキンキン…ズドンッ!!!

 

ダンテは神の身体に刺した閻魔刀をエボニー&アイボリーの銃弾による衝撃で押し進め、神の装甲を貫いた。それによってダメージを受けたのか神は姿勢を崩す。

 

ダンテ

(中から壊せばいいだけだ!)

クロエ

「じゅ、銃弾で刀を押し進めて貫いた!」

シャル

「なんて技…。あんなの見たことないよ…」

セシリア

「スナイパーライフルでも不可能ですわあんな事…」

 

皆がダンテの技に驚いている時、彼は叫んだ。

 

ダンテ

(さてと、もう起きろ坊主!そろそろお前も遊びたいだろう!…ネロ!!!)

一夏

「! ネロだって!?」

「ど、どういう事だ!」

ルシア

「言葉の通りよ。今ネロはあの、神の中に囚われているの。動力源としてね…」

刀奈

「…動力源…!?」

マティエ

「あいつを動かすにはちょっとしたもんが必要なのさ。それを持っていたのがたまたまネロの坊やだった。だから利用されたのさ」

「そんな…人間をなんだと思ってるのよ!部品なんかじゃないのよ!」

「そのあるものって何ですか?」

 

その質問にルシアは曖昧に答えた。

 

ルシア

「……ある者の血、そして力とでも言っておこうかしら」

「…?」

千冬

「それにしてもスパーダを祀る魔剣教団…。彼を祀っているくせしてその心はスパーダとは似てもにつかんな」

ルシア

「そうね。ネロもこう言っていたわ。「悪魔スパーダは人を愛した。愛する心を、優しさを持たない者にスパーダが力を与える訳はない」とね」

クロエ

「…その通りですね」

 

………そして暫くすると神の内部で何かがあったのだろう。神は姿勢を崩して動かなくなり、

 

…バリィィィィィィン!!!

 

中からひとりの青年と、その青年に助けられた様な感じで女性が飛び出してきた。

 

セシリア

「ネロさん先ほどと随分印象が違いますわね」

本音

「あの女の人は~?」

刀奈

「あら~本音ちゃん、あれを見ればわかるでしょう♪」

一夏

「……」

「…どうした一夏?」

一夏

「…なんでもねぇ」

(ダンテに依頼したのがあの人だとしたら…、あの女の人はきっと…)

ダンテ

(遅刻だぜ)

ネロ

(へいへい、悪ぅございましたよ)

 

すると簪が気付く。

 

「…!ネロさんの右腕…!」

 

ネロの右腕には…人の腕でもデビルブレイカーでもない、異形な腕があった。

 

マティエ

「気付いたかい。…あれは悪魔の力を持った腕さ。坊やにもまた生まれつき悪魔の力が宿っているのさ」

ラウラ

「という事はネロもまた人と悪魔の間の子という事なのか…?」

千冬

(……)

 

そんな話をしていると先ほど倒れた神が再び動き出す。

 

「あいつまだ!」

ネロ

(…ダンテ、アンタは手を出すな。ここは俺の街だからな)

ダンテ

(…任せるぜ)

 

そしてネロは最早最後のあがきの如く動く神との戦いを繰り広げる。

 

一夏

「……」

シャル

「ダンテも強いけど…ネロも強いねやっぱり」

「ほんとアイツの昔の仲間って出鱈目な強さの人ばっかりねぇ」

「ネロが使っている武器って…レッドクイーンとブルーローズか?元はあいつの武器だったのか…。そしてそれが海之に受け継がれたという訳だな」

セシリア

「でもどうして海之さんなのでしょう?」

千冬

「……」

刀奈

「ふふ♪」

クロエ

「刀奈さん」

 

そして遂にネロの右腕が神を捕らえた。

 

ネロ

(昔はこの腕を呪った事もあった。なんでこんな腕なのかって。…でも今分かった!この腕は…てめぇをぶっ倒すためにあった!!)

 

 

バガァァァァァァァァンッ!!!

 

 

ネロは悪魔の右腕で神の顔面を粉々に打ち砕いた。それによって神は今度こそ活動を停止した。

 

本音

「やったー!」

クロエ

「禍つ神が正しき悪魔に打ち砕かれた瞬間ですね…」

 

そして戦いを終えたネロは地上に戻り、

 

ネロ

(アンタには世話になったな)

ダンテ

(よせよ、お前のキャラじゃねぇぜ。…じゃあな)

ネロ

(あ、おい。…忘れもんだ)

 

ネロは閻魔刀を返そうとする。しかしダンテは、

 

ダンテ

(…………やるよ)

ネロ

(あ?…大事なもんなんだろ?)

ダンテ

(大事なもんを他人にやっちゃ悪いのか?俺がお前に預けたいから…そうすんだ)

 

受け取らず、それだけ言ってダンテは去って行った。

 

ネロ

(……)

本音

「ひかりんみうみうの刀持っていかなかったね。なんでだろ?」

「さぁ…なんかあるんじゃないの?でもいいんじゃない?ネロなら悪用はしないだろうし」

千冬

「……」

「千冬さんどうしました?」

千冬

「い、いや何でもない…」

ルシア

「こうしてフォルトゥナでの戦いは終わり、魔剣教団は滅びた。……でもそれからほんの数年後、再び戦いが起きるわ」

マティエ

「そしてそれこそがダンテ、そしてネロの坊やにとっても重要な意味がある戦いになるのさ」

シャル

「ネロにとっても?…!もしかしてさっき言ってたダンテに縁ある人って」

「…ネロさんの事かな?」

 

そしてルシアは言う。

 

ルシア

「見せてあげるわ。彼らにとっての…ある意味最後の戦いを」

 

パチンッ!!

 

 

…………

 

ルシアが指を鳴らすと場面が切り替わる。そこには…それから数年経ったと思われるネロが何やら作業をしていた。

 

本音

「ネロっち髪短くなったね」

「改めて見ると随分ワイルドになったな」

刀奈

「どことなく火影くんに近いわね。もう少し成長したら彼みたいになるのかしら」

ルシア

「彼もまた、ダンテの影響でなんでも屋を開業していたわ。愛する人と共に孤児院を経営しながら。悪魔からみの仕事もあったけどそれなりに平和な時間を過ごしていた」

一夏

「…そういえばルシアさん。さっき言った最後の戦いって」

 

 

……ザッ

 

 

すると働いているネロの背後にあるシャッターの外側に誰かの姿が見えた。

 

ラウラ

「? 誰か来たぞ?」

ネロ

(…?何か用か?腹でも減ってんならラッキーだな、飯ならあるぞ)

 

ネロは黙ったままのその人物に話しかける。すると、

 

ジジジジジジッ!!

 

ネロの右腕がぼんやり光始めた。

 

セシリア

「ネロさんの右腕が…!」

ネロ

(!…お前、悪魔か!?)

 

その時奥からネロを呼びかける声がした。ネロは一瞬目を離してその声に来るなと叫ぶ。

 

ブンッ!!ドゴォォォォォ!!

 

その一瞬をついて突然、ネロがその男に囚われて放り投げられた。

 

ネロ

(この!……!?)

一夏達

「「「!!!」」」

 

一夏達は言葉を失った。ネロの悪魔の右腕は…男に捻じり切られていた。

 

ネロ

(うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)

一夏

「ネロ!!」

「ひっ!」

「あいつネロの右腕を!!」

「…カエシテモラウゾ!…ゴホッ!ゴホッ!」

 

中に封印していたのだろう。ネロの右腕は閻魔刀に変わり、男はそれによって次元の裂け目を開いた。

 

「あの男…閻魔刀を使える!?」

(ハァ…ハァ…ハァ…。イ、イソガネバ…!)

 

意識が混濁するネロを捨て去り、男は裂け目から消えた…。やがてネロは気絶し、彼の異変を知った者達が治療にあたる。

 

一夏

「ネロは大丈夫なのか!?」

ルシア

「ええ。命に別状はないわ」

シャル

「なんなのあの男!?何故バージルの閻魔刀を…!」

セシリア

「まるでネロさんが閻魔刀を持っている事を知っていたようでしたわ…!」

ラウラ

「また…またバージルの刀を利用しようとする奴がいるのか!」

「……」

 

 

…………

 

次に切り替わったのは先ほど右腕を奪われたネロがベッドに寝かされていた部屋だった。無くした右腕が痛々しい。

 

ネロ

(………くっ…)

 

やがて目覚めるネロ。そこに、

 

(………遅いお目覚めだな…)

 

窓の近くの椅子に座っていた本を持つ男が声をかけた。その男はVであった。

 

クロエ

「彼は…Vさん?」

ネロ

(!…何者だ…?)

(表の入り口は閉まっていたのでな…。失礼ながら窓から入らせてもらった…。Vと呼んでくれ…)

ネロ

(質問に答えてねぇぞ…。何者だお前…?)

 

するとVは答えた。

 

(…お前の右腕を奪った悪魔を知っている者だ。そして今…ダンテがそいつの所に向かっている…)

ネロ

(! 何だと!)

「ダンテが!?」

(俺はダンテにその悪魔を倒すために手を貸してくれと依頼した…。だが奴は強い。お前も来い、ネロ。ダンテだけでは…奴には勝てないかもしれん…)

ネロ

(!?)

シャル

「か、勝てないって…あのダンテが!?そんな!」

ラウラ

「ああ…。俄かには信じられん…!」

ルシア

「…そして傷つきながらもネロはVに導かれ、その悪魔の元に向かった」パチンッ!!

 

ルシアが指を鳴らすと再び暗転し、場所が変わる。

 

一夏達

「「「!!!」」」

 

彼らの目に映ったのは…あまりにも不気味としか言い様がない今まで見た事が無い様な場所。

 

「な、なにここ!?もしかして魔界!?」

ルシア

「…いいえ、ここはまだ人界よ。ここは…クリフォトの樹の中」

一夏

「これが樹の中!?どんだけでかい樹なんだよ!」

「…クリフォトの樹ってなんですか?」

 

これにマティエが答える。

 

マティエ

「魔界の大樹クリフォト…。魔界から生えているその樹は人間の血を吸って深く深く成長し…やがて頂上に力の結晶たる実をつける。魔界の王となるものに与えられる禁断の果実をね」

セシリア

「禁断の果実…!」

一夏

「人間の血を吸うだって!?」

ラウラ

「何故そんなものが…一体誰が!?」

ルシア

「これもまた…あの男が、いいえ悪魔が仕組んだこと。それよりあれを見て」

一夏達

「「「!!!」」」

 

ルシアに提示されたものを見て一夏達は再び驚愕した。見たのは…巨大な悪魔の前で…痛みに苦しんで倒れ込むダンテやネロ、トリッシュやレディ達の姿であった。そしてVもその光景を見て呆然としている。

 

ダンテ

(ぐっ…ぐく…あっぐ!)

ネロ

(ぐ、ごほっ…!)

一夏

「ダンテ!ネロ!」

セシリア

「トリッシュさんにレディさんまで!」

ルシア

「見ての通り…今回の悪魔は今までの相手とは桁違いの強さ。彼らが力を合わせても勝てない程のね」

シャル

「そんな…一体どんな奴…………!!」

 

皆は目の前の悪魔に目を向ける。

 

悪魔

(これが…俺の真の力だ…)

 

ダンテ達を倒した巨大な悪魔。それは先日、DウェルギエルがDアリギエルのコアを食って変化したものと同じであった。

 

一夏

「あいつは!!」

「ええあの時の奴だわ!」

刀奈

「偽物のウェルギエルが変化した奴ね!」

マティエ

「あいつが今回の事件の首謀者さ…。ある人の曰く…魔界の反逆者にして…その名をユリゼン…」

千冬

「…奴が…ユリゼン…!」

(…そして、あいつの…)

ユリゼン

(…死ね!!)ギュオォォォォォッ!

 

ユリゼンは手に火球を作り出し、全員を狙う。するとそこに、

 

キキキキキキキキンッ!

 

ダンテがエボニー&アイボリーを撃って注意を引き付ける。

 

ダンテ

(…第2ラウンドだ!!)カッ!

 

ダンテは魔人体となりユリゼンに斬りかかる。しかしそれは簡単に受け止められる。

 

ガキキキキキキキキキッ!

 

ダンテ

(V!ネロを連れていけ!余計な真似するな!)

ネロ

(!ふざけんな!お、俺はまだやれる!)

(よせ!奴の力は予想以上だ!今は下がって強くなる方法を考えろ!)

 

無理やり戦おうとするネロを連れてVは下がる。残ったダンテは魔剣スパーダに持ち替え、ユリゼンに挑むのだが、

 

ダンテ

(でやぁぁぁぁ!!)ドンッ!!

ユリゼン

(愚かな…。魔剣スパーダ等、もはやなんの意味も無い)

 

ドゴォォォォォォォォ!!

 

ダンテ

(ぐわぁぁぁぁぁ!!)

 

バガァァァァァァァァン!!

 

傷ひとつ付けられず吹き飛ばされてしまった…。

 

「ダンテ!!」

本音

「ひかりん!!」

シャル

「嘘…ダンテがあんな簡単に…!」

クロエ

「魔王ユリゼン…。兄さん達から話は聞いていましたがここまで圧倒的だなんて…」

千冬

「嘗ての魔帝以上かもしれんな…」

ルシア

「ダンテ達の第一次ユリゼン討伐は失敗した…。ダンテはこの後行方不明になり、トリッシュとレディは奴に人形として利用された」

本音

「そんな!」

ルシア

「安心して、後でふたり共助けられたから。そしてネロは失った右腕の代わりにデビルブレイカーという力を手に入れる」

「デビルブレイカーはネロが使っていたものだったのか」

ルシア

「……そして今の戦いから一月後、ネロはユリゼンに再度挑むことになった」パチンッ!!

 

ルシアがそう言うと場面はネロとユリゼンが一対一で対峙する場面に変わった。

 

ネロ

(ダンテはどうした?死体もねぇのか?)

ユリゼン

(わざわざ死にに来たか…。ならば叶えてやろう…)

ネロ

(…もう足手まといじゃねぇ。貴様のひでぇ名前を墓に刻んでやるよ!)

ユリゼン

(愚かな人間め…。もがき、死ぬがいい!)

 

その言葉を合図に、ネロはユリゼンに攻撃を仕掛けた。デビルブレイカーを巧みに使い分け、果敢に挑むネロ。

 

ネロ

(おらぁぁぁぁぁぁ!)ザシュッ!

ユリゼン

(!…人間如きが……よくもやってくれたな!!)ドゴォォォォォッ!!

ネロ

(ぐあぁぁぁ!!がはっ!)

 

…しかしそれでも、かすめる程度の一撃をいれるのがやっとであった。やがて遂に体力尽き、倒れる。

 

ネロ

(ごほっ!ぐ、ぐぐ…)

一夏

「ネロ!」

ユリゼン

(所詮は人間、悪魔の力も持たない脆弱な存在よ。己の無力さに絶望を抱きながら…死ね!!)

 

そしてユリゼンの魔手がネロに迫る。最早ここまでかと思った…………その時、

 

 

……ドンッ!!!

 

一夏達

「「「!!」」」

ユリゼン

「!!」

 

突然上空よりそこに割って入って来るものがいた。ネロやユリゼンはそれが何か直ぐにわからない。……だが一夏達は違った。

 

一夏

「あ、あの後ろ姿は!!」

 

その姿は火影のIS、Sin・アリギエルに酷似していた。それはつまり、

 

クロエ

「火影兄さんのSin・アリギエル!じゃあ!」

「…ダンテ!」

本音

「ひかりん!」

シャル

「良かった!生きてたんだ!」

ルシア

「ええ。魔剣スパーダとリベリオンの力を吸収し、より強くなったダンテの…新しい悪魔としての姿よ」

 

その魔力を感じたのかユリゼンとネロも反応する。

 

ユリゼン

(…ダンテ!!)

ネロ

(ダンテ…アンタなんだ、な…。……へへ、なら仕方ねぇ、見せ場はくれてやる…)

 

そしてダンテは気を失ったネロに代わり、新たな剣を持ってユリゼンに挑む。生き物の爪の様なものが付き、柄頭に彼の持っていたアミュレットの宝石が埋め込まれた奇妙な大剣である。

 

「リベリオンでも魔剣スパーダでも無い…?」

ルシア

「あれこそスパーダ以上の力を持った…ダンテそのものから生まれた彼だけの剣であり、新たな伝説の魔剣。…「魔剣ダンテ」」

 

新たな力を得たダンテは以前よりも激しい攻撃でユリゼンに攻めかかる。対するユリゼンもやはり強く中々倒れない。……しかし遂にダンテの魔剣ダンテの一閃がユリゼンを大きく傷つけた。

 

ダンテ

(でやぁぁぁぁぁ!)ザシュゥゥ!!

ユリゼン

(グゥゥゥゥゥゥ!!)

シャル

「やった!ユリゼンが膝を着いた!」

ラウラ

「なんて強さだ…。以前のダンテとは比べ物にならんぞ!」

 

そのダンテはユリゼンにこう言った。

 

ダンテ

(ったく…相変わらず何にもわかってねぇな!)

 

するとユリゼンは姿勢を正して返す。

 

ユリゼン

(…フ、フフフフ…何もわかっていないのは貴様の方ではないのか?ダンテ…)

セシリア

「まだ余力があるというのですか!?」

ユリゼン

(多少計画は狂ったが…問題ない…)ヴゥンッ!

 

それだけ言うとユリゼンは消えた。

 

ダンテ

(ちっ…!)

一夏

「消えた…!一体どこへ!?」

ルシア

「クリフォトの頂上よ。禁断の果実を目指してね」

「!奴が禁断の果実とやらを手にしたらもっと強くなってしまう!」

ラウラ

「それも気になるが……なぁさっき、ダンテがユリゼンに向けた言葉聞いたか?」

「うん。…「相変わらず、何もわかってない」って…」

「「相変わらず」…って妙な言葉ね。まるで昔会った事あるみたい…」

千冬・刀奈・クロエ

「「「……」」」

 

 

…………

 

その後、態勢を立て直したダンテと回復したネロ、そしてVは其々に分かれてユリゼンを追いかけた。襲い掛かる悪魔を倒しながら順調に進むダンテとネロ。だが一方、

 

(ハァ…ハァ…ハァ…ぐぅっ!)バタッ!

本音

「ブイブイ!」

「ど、どうしたんだVの奴。なんか変だぞ?」

 

Vの身体に異変が起こっていた。身体中にヒビの様なあざが走り、皮膚も変色し、顔色は真っ白。息も荒い。するとそこにネロがやって来た。

 

ネロ

(引き返せよ、そんなんじゃキツイだろ?)

(ハァ……ハァ……駄目だ…。行かなく、ては…!)バタッ!

 

最早まともに歩く事さえできないV。

 

セシリア

「Vさん!?」

ネロ

(V、休んでろって!)

(ゼィ…ゼィ…、すまない…肩を貸してくれ。俺の最後の、願いだ…)

 

ネロはVに肩を貸して歩き出す。

 

ラウラ

「どうしたのだVの奴…」

シャル

「何か病気なのかな…。酷く苦しそうだけど…」

 

そして少しばかり歩いているとVがネロに話しかける。

 

(ハァ…ハァ…。ネロ……お前には、真実を、教えてやらなければ…ならないな)

ネロ

(…真実?)

 

真実という言葉にネロは反応する。そしてVは呼吸を整えて話し出した。

 

(…ユ、ユリゼンという悪魔は…本当はいない…)

ネロ

(…?)

「え…、いない?」

「どういう事だ?じゃあ…あいつは?」

(奴は……力を求めたがゆえに……人としての心を完全に捨て去った…)

 

そして次に出た言葉に一夏達に衝撃が走る。

 

(……ダンテの兄なのさ…)

 

簪・ラウラ

「「…!!」」

一夏

「な…なん、だって!?」

「ダンテの、兄、だと…?」

「兄って……あいつの事、よね?」

シャル

「た、多分…」

千冬・刀奈・クロエ・ルシア・マティエ

「「「……」」」

 

ルシアとマティエも何も言わなかった。彼から話させようとしているのだろう。

 

ネロ

(…ダンテの…兄!?)

(そうだ……。奴の本当の名は………バージル…)

「!!」

セシリア

「ば、バージルさんって……あの、ユリゼンという悪魔が!?」

ラウラ

「な、何を言うセシリア!そんな…そんな馬鹿な事ある筈ないだろう!!」

本音

「そうだよ!バージルは…あの時、ダンテとの戦いで…光になって消えちゃった筈だよ!」

 

皆はそれを否定する。無理はない。死んだと思っていたバージルが生きていて、しかもあのような醜い悪魔がバージルなどと普通なら誰も信じられないだろう。だがそんな彼女達にルシアは言った。

 

ルシア

「確かに信じられないのも無理はない。でもあんな身体になっても彼は生きていたのよ」

「そ…そんな…」

「……」

 

更に次にVが言った言葉に一夏達は再び衝撃を受ける。

 

(ハァ…ハァ…、そして俺は……全てを失った…バージルの…抜け殻さ…)

一夏

「!ど、どういうこったよそれは!?」

シャル

「Vが…バージルの…抜け殻って…!?」

(教えて…やろう…。俺が…生まれた理由、を…)

 

そしてVは更に詳しく話し出した。ネロ、そしてその場にいる一夏達もその声に耳を傾ける。

 

(…度重なる戦い…そして、敗北の果てに…、男の身体は…とうに限界へと…達していた…。だが…まだ死ねない。男には死ぬ前に…どうしても、成すべき事が…あったのだ。それは……双子の弟に…勝つ事)

ネロ

「!!」

「双子の弟、って…」

セシリア

「ええ…ダンテさんの事でしょうね…」

(そして…男は決意した。……弟に勝つため、だけに…滅びゆく身体と……自らを縛る鎖、心を捨て去る事を…。閻魔刀を使って…自らの…悪魔の部分と、人の部分を…切り離してな…)

「な、何だって!」

シャル

「悪魔の部分と人の部分を…切り離した!?」

 

 

(やがて男は、力のために最後に僅かに残っていた純粋な心さえも捨て去った……)

 

 

(!……前に私が聞いた、海之くんが言っていた古い知り合いの人っていうのは……海之くん自身の事…!?)

(そして男は……純粋な悪魔となった…)

ラウラ

「それが…あの…ユリゼンという奴なのか…?」

本音

「ちょ、ちょっと待って!じゃあ…ブイブイは!」

マティエ

「…そう。Vは…バージルが閻魔刀で切り離した人の部分。ユリゼンがコインの表ならVは裏。元はひとつ、一心同体だったのさ」

一夏

「Vとユリゼンが一心同体…」

「……」

ネロ

(…じゃあ、お前の身体のそれは…)

(…そうだ。…ハァ…ハァ…、俺に残された……残り火にも満たない微かな魔力で、維持してはきたが……もう限界目前だ…)

 

そう言っている間にもVの身体からは破片の様なものが零れ落ちている。

 

(ゼィ…ゼィ…だが、こうやって人としての、魂だけが、残されて…漸く、俺は…自らの犯した過ちに気付いた……。自分が、力を得るために…捨て去った全てが……どれだけ、大切なものだったかを…!)

一夏

「……」

「そんな事…少し考えたらわかる事じゃないの…」

(そして…思い、出したんだ…。本当は…俺も、守ってほしかったんだ…。だが…俺は…ひとりで生きていくしか、なかった…!)

簪・ラウラ

「「……」」

クロエ

「Vさん…」

刀奈

「皮肉ね…。こんな形になってやっと気づく事ができたなんて…」

(俺が…ダンテに依頼したのも……あいつなら…俺の過ちを正してくれる。……そう思って…ぐっ、うぅぅぅ!)ドサッ!

 

立ち上がろうとするがやはり動けないV。

 

ネロ

(V!)

(ハァ…ハァ…。…奴の気配は…近い…。もうすぐ、だ…!)

 

そしてネロとVは再び歩き出した。一夏達はその後姿を見送る。

 

一夏

「じゃあ、今回の事は…全てバージルがやった事って訳かよ…」

シャル

「どうしてこんな事…。多くの人々を傷つけてまで。あの時、魔界に飲み込まれないようダンテを助けてくれたじゃないか…」

「そこまでして…あいつはダンテに勝ちたいというのか…」

簪・ラウラ

「「……」」

千冬

「これは想像だが…魔帝に存在を作り替えられた事も影響しているのかもしれん。そのせいで…最後に残っていた僅かな優しさまでも消えてしまった」

クロエ

「そしてバージルさんに残ったのは…ダンテさんへの復讐心だけ…」

刀奈

「……簪ちゃんラウラちゃん。ふたりはどうする…?もう見るのは嫌?」

ルシア

「今なら少なくとも戦いを見ない事はできるわ」

 

皆はふたりを心配している。しかし、

 

「………ううん、行く。私は決めたの。ふたりの…あの人の全てを受け止めるって」

ラウラ

「…私も同じです。それに…さっきのVの話を聞いて少しわかったんです。…バージルの心が」

クロエ

「守ってほしかったって、ひとりで生きてくしかなかった、って言っていましたね…。きっとあれがバージルさんの本音だったのでしょうね…」

「ああ。本当は母親の事がずっと大切だったんだ…」

「私達は大丈夫。…だからルシアさんマティエさん、お願いします」

ルシア

「……わかったわ」

 

パチンッ!

 

 

…………

 

そこは一軒の家がある光景だった。そこに、

 

ユリゼン

(……)

 

ユリゼンが背を向けて立っている。その視線の先には……毒々しい色をして脈を打っている木の実の様な物があった。

 

「バージルさん…!」

「な、何アレ?…木の実?」

ルシア

「あれがクリフォトが生み出す禁断の果実よ。嘗ての魔帝もあれを食したために強大な力を手にしたと言われているわ」

本音

「もんのすっっっごく美味しくなさそ~!」

一夏

「全く食いたくねぇな…」

 

するとそこにダンテが遂にやって来た。

 

ダンテ

(……バージル…)

ユリゼン

(……)

ダンテ

(ここが始まりだ…。俺は母さんに救われたが…お前は違ったんだよな。…………だが聞け!母さんはお前も救おうとした!お前を探していたんだ!…自分が死ぬまでな!!)

 

ダンテは必死に叫ぶ。

 

ユリゼン

(最早そんな話に興味などない。この場所にもな。所詮全ては幻に過ぎぬのだ…)

 

しかしユリゼンは聞こうとしない。

 

ラウラ

「…バージル!」

「…違う、バージルさん違うよ…」

ユリゼン

(俺が望むは…力のみ…!これで俺は…望んでいた全てを手にいれる!!)

 

そう言ってユリゼンは果実を噛み砕く。…すると彼を覆っていた根や蔦が崩れ落ち、下に隠された禍々しい姿が現れた。その姿を怒りの表情で見つめるダンテ。

 

ダンテ

(…違うな。お前は自分で捨てたんだ…、てめぇの、最後のひとかけらの人間らしさもなバージル!!)

ユリゼン

(そんなものは力無きものがほざく戯言…。どちらが正しいかを思い知らせてやろう。…ダンテ!!)

 

そしてダンテとユリゼンは再び激突した。

無くなったためか触手や蔦による攻撃は無くなったものの以前よりも遥かに速いスピードで襲い掛かるユリゼン。一方のダンテも魔剣ダンテや魔人化の力を最大限使い、怒涛の攻撃を仕掛ける。その戦いは以前の様なダンテとバージルの、兄弟の決闘とはまた違う、本物の殺し合いだった。そんな光景に一夏達は、

 

一夏

「すげぇ…」

「あれはもう…戦いというレベルではない。正真正銘の、本物の殺し合いだ…」

「……なんでよ、なんで兄弟でそんな事できるのよ!?アンタ達家族でしょうが!!」

ルシア

「…己の正義を証明するためよ…。そのためなら…例え相手が家族だろうと関係ない」

セシリア

「そんな…」

シャル

「悲しすぎるよ…そんなの…」

クロエ

「兄さん…」

千冬

「最初の時と同じだな…。今回バージルは甘さと心を捨てて完全な悪魔となった分何の迷いもない。ダンテもそれをわかっているから本気で殺すつもりで戦っている。力のために何もかもを捨てた事が許せないのだろう…」

「……」

マティエ

「兄にとって弟が、弟にとって兄の存在自体が…戦う理由なのさ…」

 

 

…………

 

ガキィィィィィンッ!!

 

ユリゼン

(グァァァァァァァァ!!)ドォォォォン!

 

そして何時終わるかもしれない戦いは……ユリゼンが倒れて遂に終わった。背中から崩れ落ちる。

 

「…バージルさん!」

ユリゼン

(…何故、だ……。何故……全てを無くした俺より、強い……!?)

ダンテ

(ハァ…ハァ…。……違うなそいつは。無くしたから強いんじゃねぇ。失いたくねぇから強いのさ!)

一夏

「…失いたくないから…強い…」

 

…するとそこにネロ、そして彼に支えられてVもやって来た。

 

ネロ

(あれがダンテの兄貴か。……今回の元凶の)

(ハァ……ハァ……。やは、り……勝てない、か…)

ダンテ

(どいてろV。今度こそとどめを)

 

そんなダンテをVが制止する。

 

(いや…待て!俺がやる…!最後位は……自分自身の、手で!)

 

そう言われてダンテは下がる。身体が崩壊寸前の瀕死ながら、Vはユリゼンによじ登る。一方のユリゼンも最早動くこともできないでいる。

 

(ハァ…ハァ…無様だな。最早、俺に抗う力も、残されていないか…。そんな様では…ダンテに勝てる訳もない…)

ユリゼン

(俺は…負けん!ダンテに…奴にだけは…!)

 

瀕死ながらも更に力を求めるユリゼン。

 

「…バージルさん…お願い。…もう、止めて…」

ラウラ

「お前はそんな奴じゃないだろ…。…誰よりも優しい心の持ち主の筈だろ…」

千冬

「……」

ユリゼン

(力が欲しい!…もっと、力をぉぉ!!)

 

ユリゼンの断末魔に近い力への欲望。それに対しVはやや笑いながら答える。

 

(…ああ、分かるさ…。俺は…お前だからな…ハハハハ)

「……V?」

(俺達は互いを失ったが…、奥底では……いつも繋がっていたんだ…!)

「な、なんかV変じゃない…?」

シャル

「う、うん。…なんというか嬉しそうだね…」

 

 

(男は最後に僅かに残っていた純粋な心さえも捨て去った。だが…捨てた筈の心が男を探し求め、戻ってきた)

 

 

「…!!」

(汝が枝は…我が枝とに交わり……)

「ま、まさか…」

ダンテ

(!!)ダッ!

(我らの根は……ひとつとなれりぃぃぃ!!)

 

ドシュゥゥゥゥッ!!

 

ユリゼン

(グオォォォォォォォォォォォォォ!!!)

 

 

カッ!!ドォォォォォォォォォォンッ!!!

 

 

やがてVは自らの杖でユリゼンの身体を貫いた。それと同時に凄まじい光の柱が発せられ、それが周りの風景を粉々に破壊していく。

 

ダンテ

(ぐあ!)

ネロ

(くっ!)

クロエ

「きゃあぁぁ!」

一夏

「な、何だ!?」

「周りの風景に…ヒビが入って崩壊していく!」

セシリア

「…!皆さん!」

 

セシリアが光の中にある何かに気付き、皆はそれに目を向ける。……するとそこには何かの姿があった。ユリゼンやVではない。コートの様なものを羽織り、左手には鞘に納められた刀を持っている…ひとりの男。それがダンテやネロ、一夏達に背を向ける形で立っている。だがその男が誰なのか、直ぐにわかった。

 

「……」

千冬

「あの後ろ姿は…!」

「…馬鹿な…!」

「嘘…でしょう!?」

シャル

「でもあのコートに刀は…!」

 

男の名をダンテが呼んだ。

 

ダンテ

(…バージル…!!)

 

名を呼ばれて男がゆっくり振り向くとそれは…ダンテとほぼ同じ位の歳をとった姿の、青いコートを纏って閻魔刀を持つ、バージルであった…。そのバージルは傍に落ちていたVの本を手に取り、見る。

 

バージル

(……)

「……バージル、さん…なの?」

ラウラ

「バージル…本当にお前なのか!?」

ダンテ

(……まさか舞い戻ってくるとはな。……ったく)

 

ドンッ!!

 

そう言いながらダンテはすぐさま斬りつける。

 

「ダンテ!?」

ダンテ

(往生際が悪いんだよ!!)ブンッ!

バージル

(…!)

 

ガキィィィィィィンッ!

 

ダンテの剣をバージルの閻魔刀が受け止める。ダメージの差なのか両手持ちのダンテに対してバージルは片手だ。

 

バージル

(今のお前に勝っても意味は無い。今は出直して…傷を癒せ。決着はその後だ…)ガキィィィンッ!

ダンテ

(ぐっ!)

 

バージルは片手でダンテを切り払った。

 

「バージルの奴も前より強くなっている!」

ルシア

「彼はユリゼンの頃に得た力をその身とした。その力は今のダンテと互角よ」

 

バージルは背を向け、閻魔刀で空間の裂け目を作る。そしてそこに入ろうとした瞬間、

 

バージル

(…世話になったな。…ネロ)

ネロ

(…!)

 

そう言ってバージルは消えた。

 

シャル

「どうしてバージルが…。Vはどうなっちゃったの?」

マティエ

「簡単さ。戻ったんだよ…。光と影は再びひとつとなりて蘇った…」

「分かれていたふたつの心が、ひとつに戻ったんだよ…」

刀奈

「簪ちゃん…?」

 

簪は以前海之から聞いた言葉を思い出していた。

 

クロエ

「でも、おふたりはまた戦うおつもりの様ですね…」

本音

「…本当に止められないの?どっちかが死ぬまで…戦うしかないの?」

 

皆はまた兄弟が戦うのかと不安がる。そんな彼女達を尻目にダンテはネロに言い放つ。

 

ダンテ

(お前は帰れネロ。奴は俺がやる。元々俺の獲物なんでな)

ネロ

(ふざけんな!右腕をやられてんだぞ!それともまた足手まといなんて言うつもりか!)

ダンテ

(違う!)

ネロ

(じゃあなんだよ!?)

 

ダンテ

(お前の親父なんだよネロ!!)

 

その言葉に一瞬一夏達に沈黙が走る。

 

簪・ラウラ

「「!!!」」

一夏

「………へ?」

「今…ダンテ何と言った?…親父と言ったか?」

本音

「い、言った言った~!」

「それって…じゃあ!」

千冬

「……」

マティエ

「そうさ…。ネロはバージルの息子。昔世界を放浪していた時にバージルがどっかで創った子さ…」

シャル

「! ネロがバージルの子供!?」

セシリア

「通りでよく似ていると思いましたわ…。ではダンテさんは…叔父、という訳ですのね」

一夏

「じゃあ海之は前世で子持ちだったって事かよ!」

刀奈

「何も別に驚くことじゃないわ。前世があるならその時に子供ができてても何もおかしくないじゃない?」

クロエ

「海之兄さんの閻魔刀がネロさんに呼応したのも血縁だと考えれば納得できます」

刀奈

「まぁ一部の子は微妙な気持ちだろうけどね♪」

ラウラ

「い、いや…まぁ、その…」

「お、驚きの方が凄くて…」

「まぁそりゃそうでしょうね…。ってそんな事よりこの後でしょ!」

一夏

「やっぱり戦うのかふたりは?ルシアさん」

ルシア

「……ええ。ダンテは一度引き返してから再びバージルのところに向かう。バージルがいる場所もわかっているわ…。……でも」

セシリア

「…でも?」

ルシア

「…貴方達には見せておくべきかもね」パチン!

 

バージル

(……)

 

場面が切り替わるとそこには、崩壊が始まりつつあるクリフォトの上から見下ろすバージルがいた。

 

ラウラ

「バージル…!」

 

するとバージルはひとり話し出した。

 

バージル

(……あの時)

 

シャル

「…え?」

「いや私達に話し掛けてる訳では無いようだ。…独り言か?」

 

バージル

(あの時……もし立場が逆だったら、俺達の運命は……違っていたのか…?)

 

セシリア

「バージルさん…」

 

バージル

(俺もお前も……もっと別の生き方が…)

 

マティエ

「バージルは気付いたのさ。ダンテやネロ、そして自分の半身との会話でね。自分がやってきた事の過ちを…。そして彼らや自分の母親の心を」

千冬

「…だが自分は既に多くの罪を犯した身。最早止まる訳にはいかなかった」

クロエ

「海之兄さんはそう言ってました…」

「…バージルさん。…海之くん」

ラウラ

「………馬鹿者が…」

 

バージル

(…今度こそ終わらせよう。………ダンテ…)

 

刀奈

「…バージルは次の戦いで全て終わりにするつもりね…。勝っても負けても…」

 

そう言いながらバージルはダンテの到着をただ静かに待っていた…。

 

 

…………

 

……そしてそれから暫くして遂にダンテがバージルのところまでやって来た。

 

ダンテ

(よぉバージル。扉を開けっぱなしだぜ。……閻魔刀を寄越せ)

バージル

(……欲しければ力づくでこい。……今までと同じだ)

ダンテ

(…そう言うと思ったよ)

 

ダンテもバージルも、共に戦闘態勢に入る。やはりふたりは戦うつもりの様だ。

 

本音

「もうお願いだから止めてよ!ひかりんもみうみうも!!」

セシリア

「そうですわ!もうふたりが戦う必要なんてありませんのよ!」

 

だがそんな彼女達を一夏が止めた。

 

一夏

「……やらしてやれ」

「一夏…?」

一夏

「俺の考えだけどさ…、あいつらにはもう…互いに対する憎しみは前より無い気がする。マティエさんも言ってたろ?バージルも気付いたんだって。今のふたりは…多分どっちが上か、それを決めるために戦ってるんだ。ならもう…俺らがどうこう言う事はできねぇさ。気の済むまでやらせようぜ」

千冬

「それにしつこく言う様だがこれはあいつらの過去の映像だ。私達が何を言っても意味ないさ」

箒達

「「「……」」」

 

一夏と千冬に言われて箒達は口を閉ざす。そんな彼女らを前に、

 

ダンテ

(始めようぜバージル!最後のケンカを!)

バージル

(兄は俺だ。貴様には負けん!)

 

ダンテとバージルのもう何度目かわからない戦いを始めた。魔剣ダンテやこれまでの戦いの中で得た魔具や銃器を縦横無尽に振るうダンテに対し、バージルもまた閻魔刀から発する幻影剣や次元斬、更にベオウルフで応戦する。

 

バージル

(闇雲に向かってくるだけか!)

ダンテ

(お前こそどうした!息子の腕奪っといてそのザマか!)

バージル

(知った事か!そもそもネロは俺の子か!?)

ダンテ

(おいおい!身に覚えがねぇとか抜かすなよ?)

バージル

(もう遠い昔の話だ、覚えがないな!)

ダンテ

(実に興味深い話だが今はそんなことより!)

バージル

(そうだな!かたを付けようか!)

 

そしてダンテとバージルは共に魔人体となり、凄まじい剣の応酬が繰り出される。その戦いを見て一夏達は、

 

一夏

「バージルの奴も!」

「ああ…Sin・ウェルギエル。いや正確にはそれのオリジナルか。凄まじい戦いだが…」

セシリア

「ええ…。でもなんというか…」

「…気のせいかさっきより緊迫感が感じられないわね…。兄弟喧嘩してるみたい」

シャル

「あ、僕も同じこと思ってた」

本音

「私も~」

ラウラ

「まるで何時もの火影と海之の試合みたいだ」

「……」

刀奈

「一夏くんの言う通りかもしれないわね…。或いは殺し合いに見えない殺し合いなのか」

クロエ

「あ、アハハ…」

ダンテ

(おらぁぁぁぁ!!)

バージル

(でやぁぁぁぁ!!)

 

そしてダンテとバージルは再び互いに突進する。…すると、

 

 

ドンッ!!!

 

 

ダンテ・バージル

「「!!」」

一夏達

「「「!?」」」

 

その場にいた全員が一瞬止まった。ダンテとバージルさえも。見ると…戦っているふたりを止めるかの様に謎の悪魔が飛び込んできたのだった。青い肌をし、白い長髪の黄色い目をした悪魔が。

 

謎の悪魔

「……」

「な、なんだあいつ!?」

刀奈

「新しい悪魔ね…」

 

するとダンテがその悪魔を見て、

 

ダンテ

(…………ネロか?)

クロエ

「! ネロさん!?」

「ネロも悪魔になれたの!?」

ルシア

「…なれる様になったのよ。ふたりを、誰も死なせないという彼の想いが、彼の中に眠る悪魔の力を目覚めさせた」

一夏

「あいつ…」

ダンテ

「ネロ!お前の出る幕じゃ」ドゴォォォォォォッ!!「!!」

 

すると突然ネロは光の腕でダンテを殴りつけた。その剛腕にダンテは吹っ飛ぶ。

 

ダンテ

(ぐあっ!!……がは!ごほ!)

ネロ

(引っ込んでろダンテ。…ここは俺がやる。こいつは一発ぶん殴らねぇと気が済まねぇ)

バージル

(…そんな事を言うためにわざわざ来たか…)

 

そしてネロはバージルに対峙する。

 

ネロ

(バージル、それともV?どっちでも良いけどよ。…ダンテは俺が死なせねぇ。…アンタもな!)

バージル

(……)

 

そしてネロはダンテと入れ替わる形でバージルに挑む。ネロの悪魔の力は以前の悪魔の腕と同じく、その剛腕さが桁違いであり、基本パワーだけではダンテやバージルのそれよりも上の様であった。

 

ネロ

(俺が勝ったら言う事聞けよ親父!!)

バージル

(貴様は関係ない筈だ。下がっていろ!)

ネロ

(関係無いだと!腕奪っといてふざけんじゃねぇ!!)ドゴォォ!!

バージル

(ぐっ!貴様…)

ネロ

(どうだ!少しは認める気になったか!!)

バージル

(認めるとはお前の存在か?それとも力をか?)

ネロ

(両方だクソ親父!!)

 

そんなふたりの戦いを見ていた一夏達は、

 

ラウラ

「ネロの奴、言いたい事を全部ぶつけているという感じだな」

本音

「す、凄い親子喧嘩だね~」

「う、うん…凄いね…」

 

その迫力に皆開いた口が塞がらない。

 

「しかしネロの奴…ちゃんとバージルを父と呼んだな。もう少し戸惑うと思ったが」

千冬

「誰かの支えがあったのかもしれんな…」

 

……そして、

 

ガキィィィィィンッ!!

 

ネロ・バージル

「「ぐっ!!」」ズザザァァァッ!!

 

何度目か撃ち合っている時、クリフォトの樹が激しく揺れる。

 

「な、何!?」

ルシア

「果実を失った事でクリフォトの樹が本格的に崩壊を始めているのよ。それと同時に樹が空けた穴によって魔界との扉が広がろうとしている」

「な、なんだって!」

シャル

「そんな…一体どうすれば!」

 

それに慌てているのは今まで勝負を続けていたダンテ達も同じだった。

 

ネロ

(くっ!おい!魔界化が進んでいる!広がりきる前に急いで止めないと!)

 

するとダンテとバージルが言った。

 

バージル

(確かにこれ以上対処が遅れれば…勝負の妨げになるな。……魔界に行って樹の根を断つしか無かろう。その上で閻魔刀で扉を閉じればいい)

簪・ラウラ

「「!!」」

ダンテ

(そういう事なら俺も行くぜ。片付いた後でケンカの再開だ)

鈴・シャル・本音

「「「!!」」」

ネロ

(お、おい!だったら俺も一緒に!)

 

するとそれをダンテが止めた。

 

ダンテ

(俺達が行ってる間、こっちはお前に任せるぜ)

ネロ

(!!)

ダンテ

(お前がいるから行けるんだよ。……じゃあな!)ドンッ!

バージル

(…次は負けんぞ)ドンッ!

 

ネロにそう言うとダンテとバージルは扉に飛び込んでいった…。

 

一夏

「!!」

「ダンテ!」

セシリア

「バージルさん!」

マティエ

「そしてふたりはネロの坊やに地上を任せ、魔界に降りて行った…。帰れる見込みが無いままね…」

クロエ

「帰れる見込みがないって…そんな!!」

刀奈

「あのふたりらしいわね…」

鈴・シャル・本音・簪・ラウラ

「「「……」」」

 

鈴達はそれなりにショックを受けている様子だ。そんな彼女らにルシアは、

 

ルシア

「…見てみたい?魔界に降りたふたりの様子を」

「…え?」

「み、見れるんですか?」

ルシア

「ええ。寧ろ見た方がいいかもしれないし」パチンッ!

 

ルシアはそう言って指を鳴らすと…風景が以前見た様な魔界に変わった。

 

「やはり何度見ても奇妙な場所だな…」

シャル

「ダンテとバージルはどこだろう?」

クロエ

「……!皆さん!」

 

クロエが地上に何やら動いている影を見つける。……よく見るとダンテとバージルに無数の悪魔達が襲い掛かっている。

 

ラウラ

「バージル!ダンテ!」

「あんなに沢山の悪魔ふたりだけじゃ!」

セシリア

「…?い、いえ…ちょっと変ですわ」

 

すると当のふたりは…、

 

ダンテ

「ノリ悪いな!昔は一緒に言ってたろ?」

バージル

「そんな記憶はないがな」

ダンテ

「なら思い出させてやるよ!ガキの頃、母さんに怒られて泣きべそかいてた事を!」ザンッ!!

バージル

「そんな記憶もない!俺の記憶ではお前が親父に泣かされてたがな!」ズバッ!!

ダンテ

「今の俺ら見たら母さんと親父はどう思うかね?」ドドンッ!!

バージル

「知るか。そんな事は死んだ後で本人に会って聞いてみろ!」ザシュッ!!

ダンテ

「はは!確かにな!」

 

そんな会話をしながら周りの悪魔を蹴散らしているのだった…。

 

一夏達

「「「……」」」

マティエ

「まぁそういう訳さ。クリフォトの根を潰した後、ふたりは地上に戻るまでひたすら決着つかないケンカと、悪魔狩りを続けた」

ルシア

「…ご感想は?」

 

微笑みながら問いかけるルシアとマティエ。

 

一夏

「…いやまぁ…なんというか…やっぱあいつらだな」

「…うむ。なんというか安心したぞ」

セシリア

「ええ。おふたりらしいですわね」

 

そして不安がってた鈴達も、

 

「…ハァ~。……あっきれた。ほんっとふたり共いいおじさんなくせして子供なんだから」

シャル

「あはは、まぁいいじゃない。仲良くなれたみたいで」

本音

「やっぱり前世もひかりんとみうみうだね~」

「…ふたり共…良かった。…本当に」

ラウラ

「全く、最後の最後までハラハラさせおって…」

刀奈

「こう見ると周りの悪魔達がなんか気の毒ね~」

クロエ

「おふたりが揃えば…本当に邪悪な悪魔を全滅させちゃうかもしれませんね…」

千冬

「正に悪魔も泣く兄弟、だな。…やれやれ」

 

皆はダンテとバージルの様子に少なからず呆れ返るが…その心はふたりがやっと和解できたという嬉しさで一杯なのであった。




※次回は来月6日(土)の予定です。
場面を絞りに絞りましたがそれでもシリーズ最長になりました(汗)。
過去編はこれで終了、次回はやや短めの今章最終話の予定です。


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Mission177 真実への電脳ダイブ⑧ 仲間

一夏達が見るダンテ(火影)の戦いの記憶。

城塞都市フォルトゥナでの戦いやネロとの出会いを経由し、舞台は遂に魔界の反逆者にして魔王ユリゼンとの戦いに移る。……しかしそのユリゼンの正体は死んだと思っていたダンテの兄であり、完全な魔となる事を選んだバージルであったという事実に一夏や簪達は驚愕する。
いつ終わるかもしれない兄弟の戦い。……しかしVとの再びの融合や息子であるネロの言葉を聞いたバージルの心からは嘗ての様な悪意や殺意は薄れていた。そんなバージルとダンテの魔界でも続く兄弟喧嘩。ふたりの姿に一夏達は呆れながらも火影と海之の姿に被った様に思えた…。


※次回は13日(土)の予定。次回から新章です。
後書きにおまけがあります。


ダンテとバージルの長い戦いの記録。それは何度も道を別ち、誤りの道を選んだ事もあったが最後は一夏達が知る様なふたりに戻っていた。そこで一旦の幕は閉じる事になる。

 

本音

「…ね~、ふたりはこの後どうなるの?」

「そ、そうだな…。無事戻れるのか?」

ルシア

「…安心して、少し時間はかかったけど無事に戻ってきたわ」

シャル

「ほ、本当に?…良かった」

セシリア

「その後はどうされたんでしょう?」

クロエ

「火影兄さんは何も変わらず、自らの家業を続けたそうです」

千冬

「バージルは帰還後、修行の旅に出たそうだ。己の弱さと向かい合い、戦士としてダンテに勝つために」

「…バージルさん…」

刀奈

「まぁ結局生涯決着つかなかったらしいけどね~」

一夏

「…やっぱそうなるんだな」

「ほんでもって火影と海之になっても決着つかないままなのね」

ラウラ

「しょうがない奴らだ…」

 

皆はふたりのそんな所にやや呆れながらも安心した。

 

マティエ

「…さぁ、そろそろ戻ろうかね。少々話疲れたよ」

 

 

…………

 

一夏達は再びトリッシュやネロ達と再会していた。

 

トリッシュ

「…どうだったかしら?ふたりの前世は」

レディ

「それなりに刺激的だったんじゃないかしら?」

「刺激的とかそんなレベルじゃないですよ…」

「ああ…。まさかあのふたりにあの様な過去があったなんてな…。普段のあいつらからしたら信じられない事だらけだ」

ネロ

「まぁ悪魔の子供なんて普通は信じねぇよな」

「は、はい…。あの‥ネロさんは…」

ラウラ

「お前は…バージルの、海之の息子だったんだな…」

ネロ

「……まぁな。あんま話したこともねぇろくでもねぇ親父だったけど」

グリフォン

「ケケケケ!正直じゃねぇな~!孫が生まれた時のアイツのかオゴゴゴゴ!」

 

再び口に本を挟まれるグリフォン。

 

「余計な事を言うな」

本音

「ブイブイ照れてるもしかして~?」

「…下らん」

ルシア

「そろそろ話を戻しましょう。……貴方達、ふたりの過去を知った上でこれからもふたりの良き支えであってくれる?」

マティエ

「あいつらはオーガス、嘗てのアルゴサクスと戦うつもりじゃ。彼等の戦いに付き合うと…死ぬかもしれんぞ?」

 

マティエの警告に対し、

 

一夏

「…言っただろ?火影と海之は俺達の仲間で友達だ。仲間は助け合うものさ。きっと俺にこの力をくれた人達もそれを望んでる筈だ」

「ああそうだな。それに私には守りたい奴が、そして取り戻したいものがあるんだ」

セシリア

「おふたりや一夏さん、皆さんと一緒ならきっと大丈夫ですわ」

「頼まれなくても無理やりにでも付き合ってやるわよ」

シャル

「火影や海之は僕達を沢山守ってくれた。僕達もふたりを守りたいし支えたいんです」

ラウラ

「生きるも死ぬも一緒、というやつだ」

「ふたりが、海之くんがいてくれたから私はここまで来れたんです。絶対に無くしたくないんです」

本音

「私は皆と違って戦えないけど…その分沢山ふたりを、火影を支えるよ!」

刀奈

「この世界では一応可愛い後輩くんだからね。先輩として任せきりにはできないわ」

クロエ

「…何も迷いはありません」

千冬

「……ああ」

 

迷いが一切ない返事。そんな彼等に、

 

レディ

「……ダンテが言ってたわ。貴方達は強いって。…本当ね」

「ふたりからしたらまだまだだけどね」

トリッシュ

「ふたりの友達が貴方達で本当に良かったわ…。じゃあ、貴方達にちょっとしたプレゼントあげる。手を出してくれるかしら?」

シャル

「プレゼント?」

 

カッ!

 

そう言うと皆の手に…不思議な輝きの小さい何かが現れた。

 

本音

「キレイ~」

セシリア

「ええ。それに不思議な色ですわね」

トリッシュ

「ちょっとしたアイテムよ。貴方達の…ISだったわね。それに合わせているわ。一度だけしか使えないから本当に困った時に使ってね」

「あ、ありがとうございます」

レディ

「さて、じゃあそろそろ貴方達を現実に帰還させないとね」

 

ガチャン!

 

すると後ろにあった一夏達が通ってきた扉が開いた。扉からは光が漏れている。

 

トリッシュ

「その扉をくぐれば戻れるわ。……ふたりを頼むわね。無理だろうけど無茶し過ぎない様言っといて」

レディ

「あとお金にも気を付けなさいとね」

ネロ

「じゃあな」

「精々頑張る事だ」

グリフォン

「あばよおチビちゃん達~」

ルシア

「ふたりを…彼をお願いね」

マティエ

「長生きするんだよ」

箒達

「「「ありがとうございました!」」」

千冬

「世話になりました」

 

トリッシュ達の別れの挨拶に一夏達も全員挨拶を返す。そして皆が扉をくぐり、戻ろうとしていると、ネロが最後にいる一夏を呼び止めた。

 

ネロ

「……おい」

一夏

「ん?」

ネロ

「一夏といったな。…これも持っていけ」

 

するとネロは一夏に何かを渡す。

 

一夏

「…!これ…!」

ネロ

「一度きりのとっておきだ。ま、使わない事にこした事はねぇけどな」

「一夏、どうした?」

一夏

「ああ悪い、…サンキュー。…じゃ、皆元気で!」

 

笑いながらそう言って一夏は最後に扉をくぐって行った…

 

トリッシュ

「ふふ、いい子達ねほんと」

レディ

「元気でな、って私達一応もう死んでるんだけど…まぁいいか」

「…ネロ、あれは何だ?」

ネロ

「…ずっと埃被ってた忘れモン、ってとこさ」

グリフォン

「優しいな~ネロちゃん♪」

ルシア

「…あの子達まで悲しませたりしたら許さないわよ…ダンテ」

マティエ

「…やれやれ」

 

 

…………

 

地下指令室

 

一夏

「…………ん、…う~ん…」

 

一夏は目を覚ました。そして立て続けに他の皆も。

 

「ここは……指令室?」

「皆!大丈夫!?」

本音

「…ほえ?あ、お姉ちゃん…おはよ~」

真耶

「みみみ皆さん!目が覚めたんですね!?」

セシリア

「…山田先生?」

 

 

…………

 

電脳世界から戻ってきた一夏達はその間の自分達の事を聞いた。ふたりの話によるとあの扉を開けて中に入った途端、全員の反応か突如消えてしまったらしい。通信はおろか強制ログアウトも出来ず、流石に慌てたが火影や海之は余り驚かなかった。中にトリッシュやネロ達がいるなら何かしら起こした可能性が高いと思っていた。そして彼らも事情は知っている筈だから一夏達に危険は無いと判断した。まぁそう言われても反応が消えたから心配は当然かもしれない。そんな真耶は千冬に抱きついて大泣きしている。

 

真耶

「ふぇぇぇぇん本当に良かったですぅぅぅ!びぇぇぇぇぇぇ!!」パコーン!!「いた!」

千冬

「いい加減落ち着け。そんなのは束だけで十分だ暑苦しい」

真耶

「す、すいません先輩…」

「でもご無理ないですよ。本当に皆さん無事で良かった…」

刀奈

「…心配かけてゴメンね。虚」

「……」

一夏達

「「「……」」」

 

その場にいる皆が凍り付いた。千冬や真耶さえも。

 

刀奈

「……ど、どうしたのよ皆?」

「い、いえ…、お嬢様が素直に謝られたのが驚きで」

刀奈

「そこまで驚く!?」

「明日は雹が降りますね」

一夏

「ほんでもって竜巻もな」

刀奈

「箒ちゃん!一夏くん!」

「何か悪いもの食べたお姉ちゃん?」

刀奈

「簪ちゃんまで!?」

 

~~~~~~

皆で笑った。千冬も。

 

刀奈

「……もうやめてよ皆~。私もう火影くん海之くんの件でメンタルくたくたなのよ~」

クロエ

「私も疲れました…。本当に驚きの連続でしたものね」

 

するとその場に当のふたりがいない。

 

一夏

「……あれ?そういえばふたりは?」

「おふたりなら少し前に出て行かれましたよ」

真耶

「色々考える事があるのでしょう。今回の事でおふたりも過去の事を思い出したのでしょうし…」

 

 

…………

 

IS学園屋上

 

 

火影・海之

「「……」」

 

ふたりは屋上に来ていた。時間は夕方にさしかかり、空はオレンジになりつつある。火影は腕を組んで壁にもたれ、海之はベンチに座っている。そんなふたりは来てからずっと無言を貫いている。

 

ガチャッ

 

と、その時屋上の扉が開いた。

 

「あ、いたいた」

シャル

「やっぱりここだった」

本音

「ただいま。ひかりん、みうみう」

火影

「……おおお前ら。戻ってきたのか」

 

来たのは鈴、シャル、本音、簪、ラウラであった。

 

火影

「…他の皆はどうした?」

シャル

「あ、うん。なんか箒やセシリアや先生が気を利かせてくれてさ。私達は後で良いから僕達だけで行けって」

火影

「そうか。……大丈夫だったか?反応が消えたが」

「うん…まぁ」

 

そして鈴達は簡単にあった事を話した……。

 

 

…………

 

火影

「……そんな事があったのか。…ハァ、全くあいつらやりたい放題しやがって…」

本音

「ひかりんやみうみうにあんな友達がいたなんて思わなかったよ~」

火影

「驚いたか?」

「驚いたなんてもんじゃないわよ。どんだけ大声上げたことか…。刀奈さんの言葉借りるけど大げさじゃなくメンタルクタクタよほんと…」

シャル

「ふたりに秘密があるのは予想できたけど…予想のずーーっと上行ってたよ」

本音

「まさかまさかだったよ~。悪魔とか魔界とか、ひかりんとみうみうが生まれ変わりで、しかも…前世は人と悪魔の間に生まれた子供だったなんて」

簪・ラウラ

「「……」」

火影

「…それを聞いてどう思った?」

「最初はとても信じられなかったわよ。正直今でもあれは夢だったんじゃないかっていう気持ちも若干あるわ…。でも…」

シャル

「うん…。でも真実なんだよね…」

本音

「ひかりんとみうみうのね…」

火影

「………もう一緒にいたくなくなったか?」

 

火影はやや覚悟しながら訪ねる。だがそんな彼に…鈴達は言った。

 

「もしそうなら…わざわざここに来たりしないでしょ?…火影、貴方が例え一度死んだ人でも、前世が悪魔の血を引いてた様な存在だとしても、例え兄弟で殺し合いなんてしていたとしても、それは全部前世の話よ。今の貴方は火影でしょ?ならなんの問題もないわよ。私は、私達はこれまで通り貴方の傍にいるわ」

シャル

「そうだよ火影。僕が好きなのは今目の前にいて、いつも僕達を助けてくれる君だよ。一緒にいたくなくなるなんて思う筈無い」

本音

「ダンテの頃もカッコ良かったけど今の方がカッコいいよ火影♪」

火影

「…お前ら…」

 

鈴達の迷いなき答え。そして立て続けに、

 

「それに火影。もし、貴方の正体が今も実は悪魔だったとしてもよ。それでも私は…貴方が好きでいる自信があるわ」

シャル

「僕もだよ火影。エヴァさんは悪魔と知りながらスパーダさんを愛したんでしょ?なら僕達も同じ事ができる筈だよ」

本音

「そうだよ。エヴァさんだけじゃない、キリエさんやアンジェリナさんっていう人だっているじゃない」

火影

「……」

 

顔にこそ出さないが火影はかなり驚いていた。鈴達は例えもし自分が悪魔だったとしても傍にいると言ってくれた。そして思った。

 

火影

(親父もこんな気持ちだったのかねぇ…)

 

嘗ての父スパーダと母エヴァの馴れ初めについては火影は詳しくは知らない。しかし母は父が悪魔であることを知りつつも愛していたのだから似たような感情を持ったかもしれない。

 

火影

「……全く、あいつらに負けない位大した女だよお前らは」

「当然よ。それ位じゃないとアンタの保護者兼、彼女候補は務まらないわ♪」

シャル

「女は強いんだよ火影♪」

本音

「そ~そ~♪」

火影

「………ま、いいか」

 

少し気になるフレーズがあったが気にしない事にした火影。……一方、

 

海之

「……」

 

ベンチに座って何も言わない海之と、

 

簪・ラウラ

「「……」」

 

そんな彼を黙って見つめる簪とラウラ。するとやっと海之が話し出す。

 

海之

「……簪、ラウラ。大丈夫か?」

「……うん」

ラウラ

「ああ…」

海之

「そうか。………見たか?」

簪・ラウラ

「「……」」

 

ふたりは無言で頷く。

 

海之

「あれが以前、お前達に話した…俺が犯した罪だ」

簪・ラウラ

「「……」」

海之

「俺は母を守る事ができなかった…。俺も殺されかけた。そして嫌というほど思い知った。人間の無力さや貧弱さを…。同時に…弟と違って自分は助けてもらえなかったという無念さも…。真実を知らないまま、な…」

「アンタだけを見捨てる様な事なんてエヴァさんがする訳ないじゃないの…」

シャル

「…海之。なんであの後、ひとりで行っちゃったの?火影に直ぐ会っていれば…」

火影

「いやシャル。それは多分無理だったと思うぜ。あん時の俺とこいつはケンカばっかしてたからな。周りから見たらそんなに仲いい兄弟とは言えなかったし」

 

苦笑いしながらそう言う火影。

 

海之

「そして俺は吹っ切った。人として生きる事を捨て、悪魔として生きると。力を得て、自分をこんな目に合わせた悪魔達を皆殺しにすると。……それから俺はこれまでの自分を捨てて強さのみを追求し続けた。そのためならどれだけの人を巻き込んでも、命を犠牲にしても気にしなかった。逃げる者に追い打ちをかける様な事はしなかったが、向かってくる者は人悪魔問わず全て敵と思ってな」

本音

「みうみう…」

海之

「……だが実際は見たとおりだ。何もかも捨てれば強くなれると思っていた俺は…弟に敗れ、母の仇にも…。操り人形にされ、滅びゆく身体を無様にさらし、挙句の果てにはあんな醜いものにまでなり下がった。更に己の目的のために…自分の血を引いた者まで…!」

簪・ラウラ

「「……」」

 

ふたりは何も言わない。

 

海之

「俺のこの罪は…例え生まれ変わったとしても償いきれるものではない。そもそも生まれ変わる資格も今の様な人生を送る資格もないのだ。俺には…」

 

とその時、

 

海之

「…!」

簪・ラウラ

「「……」」

 

海之は驚いた。自分の身体が簪とラウラに包み込まれるように抱きしめられていた。海之の背中で簪の右手とラウラの左手が結ばれている。

 

「…もういい海之くん。もういいから…」

ラウラ

「それ以上言うな…海之」

海之

「………ふたり共…」

「ありがとう海之くん。本当にありがとう…話してくれて…。そしてごめんね。こんな辛い記憶を思い出させてしまって…」

ラウラ

「海之…すまなかった。お前にこの様な過去があったなんて…想像もしていなかった。正直今でも信じがたい事ばかりだ。お前と火影が嘗て悪魔と人間の子だった事、そしてお前が…嘗てあの様な悪魔であった事も」

海之

「…当然だ。…だから」

 

海之はそう言って暗にふたりを遠ざけようとする。…しかし、

 

「でもね海之くん。それでも私は海之くんから離れたりしない」

海之

「……!」

ラウラ

「私も同じだ。先ほど鈴も言っていたがあれは全て前世のお前の、バージルの話だ。私が好きなのは今目の前にいる海之・藤原・エヴァンスという人間だ。今のお前はあの頃の様な悪魔でも罪人でもない。そうだろう火影?」

火影

「…ああ。こいつは変わったよ。それに今のこいつは罪を償う必要もない。お前の言う通り今のこいつは海之であってバージルじゃ無ぇからな」

海之

「……だが…」

「…海之くん。こんな事を話すのはちょっと不謹慎かもしれないけど…私、ふたりの話を聞いて…ちょっと感動しているところもあるんだ」

海之

「…感動、だと?」

 

思いもよらない言葉に海之は不思議がる。

 

「うん。だって…悪魔と人が愛し合えたんだよ?忌み嫌われる悪魔が正義の心に目覚めて、全てを捨ててまで守りたいという人に出会えて…そして生まれたのがバージルさんとダンテさん。いわばふたりは奇跡の象徴なんだよ」

火影

「よしてくれ。奇跡なんて大層なもんじゃねぇ。寧ろ世界一の変わりもんだ」

「ううんそんな事ない。…だから私はスパーダさんとエヴァさんに感謝してるんだ。バージルさんやダンテさんを生んでくれた事に。そのおかげで…私達はふたりに会えたんだから…」

ラウラ

「それにお前は先ほど自分が生まれ変わる資格も第二の人生を送る資格も無いと言ったが…それもお前が決める事ではない。以前私と簪が告白した時言った様に私達が決める事だ。そして私達は…これからもお前にいてほしい。言った筈だぞ?離れる事は許さんとな」

海之

「……」

 

海之もまた何もかなり驚いていた。彼女達の気持ちに。そして言葉に。

 

「…あれ~もしかして海之泣いてる~?」

海之

「泣くか。ただ…ありがとう簪、ラウラ」

「…うん」

ラウラ

「構わん。私は嫁だからな」

本音

「そう言えばラウラン~。何時からお嫁さんって訂正したの?」

ラウラ

「あ、ああ。友人に教えて貰ったのだ」

火影

「しかしまさかお前がそんな風に言われる時がくるとはな。ふたりに感謝しなよ」

海之

「お前に言われたくはない」

火影

「何言ってんだ?俺は親父よりよっぽどいい男だぜ」

「子供っぽい所もあるけどね~♪」

火影

「うっせー。…あとそういえば海之。聞きたかったんだけどよ?お前俺との戦いの後に魔界に落ちて行った時、なんで親父の剣じゃなく母さんのアミュレットを選んだ?ふたつ揃わなけりゃ意味がないとはいえ一応力には違いない。あの時のお前が言った親父の真の後継者っつう意味では剣の方が意味が通っていると思うんだが?」

海之

「……さぁな。……たまたま目の前にそれがあった。それだけかもしれん」

ラウラ

「………いや海之。私は違うと思う。お前はあの時、剣よりもアミュレットを離したくなかった。…私はそう思う」

「…うん。私もそう思うな。あれはスパーダさんがエヴァさんに託したもので、そしてふたりへのプレゼントとしてあげたものでしょう?だから…海之くんはきっとあの時それを選んだんだと思う…。ふたりの事を忘れたくなかったから…」

海之

「……どうかな。もう遠い…遠い昔の話だ…」

 

海之は空を見ながらそう呟いた。

…その後、一夏や箒、セシリアもふたりと話したが彼らもまた、火影と海之との変わらない絆を固く誓い合った。兄弟を支える者の絆は、嘗ての者達から今の者達へと受け継がれた。

 

 

…………

 

??? 

 

 

一方その頃…、オーガスの方もある動きを見せていた。

 

オーガス

「………クククク、漸くここまで来たな。オータムの奴がDNSの強化をしつこく言ってきたせいでそれに時間を割いていたために多少予定よりも時間がかかったが、まぁいい。…残るアレも篠ノ之束がもう間もなく完成させるだろう…」

 

そしてオーガスは何かを前にして呟く。

 

オーガス

「もうすぐだぞダンテ、そしてバージル…。ふっふっふっふ……」

 

不気味な笑みがその場に響いた…。

 

 

…………

 

オーガスの部屋

 

 

スコール

「……」

 

そしてそれとほぼ同時刻。スコールはオーガスの部屋にいた。見ると……彼のコンピュータから何かをUSBにダウンロードしている。

 

スコール

「……」

 

やがてそれが終わると、スコールはそれを手に取り、何も言わず出て行った…。




おまけ

火影や海之と鈴達が話している時、最後にこんな会話があった。

ラウラ
「……そう言えば海之。お前にひとつ聞きたいのだが?」
海之
「なんだ?」

するとラウラはこんな事を聞いた。

ラウラ
「…その、…こ、子供を持つとは…どんな感じなのだ?さ、参考までに聞きたいんだが…」

「ちょ、ちょっとラウラ何聞いてるの!?」
ラウラ
「い、いやすまん。だが…お前達も気にならないか?私達の周りには…そういう人がいないのでな…」

「そ、それはそうだけどわ、私は別に…」
本音
「むむむ難しいな~」
シャル
「う、うーん…それは…」

「……」

何も言わないがはっきり否定はしない鈴達。

海之
「……覚えていない」
火影
「おいおい相変わらずノリ悪いなぁ。生涯独り身だった俺と違って死ぬ時仍孫までいたんだぞ?お前」

「じ、仍孫ですって~!?玄孫のひ孫じゃないの!」
シャル
「子供、孫、ひ孫、玄孫で…その玄孫のひ孫!?」
本音
「じゃあみうみうはお爺ちゃんのお爺ちゃんのそのまた」
海之
「そこまで老いぼれではない。…あと火影、余計な事を言うな」


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第十四章 Unleashed truth
Specialmission② 双子+一夏IS紹介


遅きながら火影・海之・一夏の新IS情報です。


・Sin・アリギエル

 

武装

 

炎風双刃「アグニ&ルドラ」

雷電大鋸「キャバリエーレ」

炎獄武装「バルログ」

双銃「エボニー&アイボリー」

散弾銃「コヨーテ」

多目的ランチャー「カリーナ・アン・ランチャーⅢ」

魔剣「リベリオン」(使用不可)

 

単一特殊能力

 

「悪魔還り」(詳細・使用条件共に不明)

 

火影(ダンテ)の新たなIS。容姿はほぼDMC5のダンテ真魔人体。

Dアリギエルとの戦闘で戦闘不能に陥ったアリギエルを彼らのコア(正確にはコアに宿る人物達)が海の底で修復と同時に改修を行った。前と同じくシールドはないものの装甲自体が並みの攻撃ならば受け付けない程大幅に強化されており、受けるダメージが大きく減った。再生速度が2倍。SE消費量が以前より50%抑制。全ての能力が以前のアリギエルより飛躍的に上昇している。

既に従来のISを圧倒していた前の形態から更にパワーアップを施されたこの機体は世界最強クラスであり、オーガス(アルゴサクス)との決戦のために生み出された完全戦闘用IS。但しまだ真の力を発揮しきれておらず、彼本来の力である魔人の技の殆どが使えない。また何故か魔剣「リベリオン」も使用不能になってしまっている。

 

 

 

・Sin・ウェルギエル

 

武装

 

光牙武装「ベオウルフ」

光剣「幻影剣」

二連回転銃「ブルーローズ」

秘奥義「次元斬」

魔獣「ナイトメアV」

魔腕「ネロ」

魔剣「閻魔刀」(使用不能)

 

単一特殊能力

 

「悪魔還り」(詳細・使用条件不明)

 

海之(バージル)の新たなIS。容姿はバージルのDMC5の真魔人体とそっくり。

火影のアリギエルと同じく、こちらもDウェルギエルとの戦いで海に沈んだウェルギエルが修復・改修されたものである。パワーアップと同時に装甲やSE消費もSin・アリギエルと同じく改修され、以前よりも戦闘持続時間・戦闘力が大幅に上昇した。Sin・アリギエルと完全互角である。

ただしこれもまた真の力は未だ確認できない。何より主武装の閻魔刀が折れて使用不能になったため、「次元斬」等の威力が落ちてしまっている。彼の戦力ダウンを補うためにISコアに宿る人物から「ナイトメア」や「ネロ」を譲り受けた。

 

 

 

・白式・駆黎弩

 

武装

 

天剣「雪片・参型」

拡散荷電粒子砲「吹雪」

光刃翼「締雪」

光飛槍「粉雪」

白銀戦槍「凍雪」

魔盾「イージス」

デビルブレイカー「トムボーイ」

奥義「零落白夜」

???

 

単一特殊能力

 

「極光の盾「Aegis」」

 

一夏の新たな専用機であると共に、白式・雪羅がDNSと一夏の想いによって変化した姿。剣と盾、そして翼を持つ白銀の機体は天使の騎士を彷彿とさせる。

本来DNSによる変身はSE切れやISを解除すると消えてしまうがこの機体はそういったことは無く、事実上白式、白式・雪羅に続く三次移行と言っていい。戦闘力が大幅に上昇しているが何よりもの特徴はSE吸収効果があるイージスの盾により、従来の白式にあったSE枯渇問題が大幅に解消された事である。これによって新たな単一特殊能力である「極光の盾「Aegis」」や零落白夜等をより使いやすくなった。また同機能の誕生により、零落白夜が基本技になった。



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Specialmission③ 敵側機体紹介②

こちらは敵サイドです。


・DISキャバリエーレアンジェロ

 

初登場

 

Mission146 紫電の黒騎士

 

MのISである黒騎士がDISによって変化した姿。

一夏を倒す寸前で千冬によって防がれたMが千冬もろとも倒すためにDNSを使用して力を得た。黒い騎士という雰囲気こそ変わっていないが紫電を操り、それによる遠隔攻撃や広範囲攻撃。肩部に可変型の対物シールド、瞬間移動等、攻撃・防御・スピードとバランスよく進化を遂げており、その力で千冬の雪片をへし折ったが一夏のDISである白騎士の前に敗北してしまった。

 

 

 

・Dアリギエル(DIS・ドッペルゲンガー)

 

初登場

 

Mission151 二重の歩く者

 

オーガスが召喚した漆黒のDIS。本名ドッペルゲンガー・アリギエル。

その姿はアリギエルに酷似しているが光を飲み込むほどの漆黒の機体に血の様な赤い目と口が目立つ。

酷似しているのは姿だけでなく、戦闘能力や武装、瞬間移動までがアリギエルと全く同じ。その恐るべき力で怪我をしていたとはいえ火影達にも競り勝った。後日鈴達とも戦い、散々に苦しめたが調子に乗り過ぎて油断が重なった結果、一夏の零落白夜で力尽きる寸前までなったが倒しきる前にDウェルギエルにコアを食われて消滅した。

 

 

 

・Dウェルギエル(DIS・ドッペルゲンガー)

 

初登場

 

Mission151 二重の歩く者

 

Dアリギエルと共にオーガスに召喚されたDIS。本名ドッペルゲンガー・ウェルギエル。

コチラも同じくウェルギエルと姿や能力等全く同じで、一度は海之をも倒した。再出現時は主に千冬と激闘を繰り広げたがDアリギエルと同じく、千冬の零落白夜の一撃を受けてほぼ戦闘不能になる。

…しかしその矢先にDアリギエルを自身の腕で貫いてコアを奪い、自らに吸収した途端、そこから更に異形な変身を遂げ、「ルーヴァ」へと進化してしまう。

 

 

 

・ルーヴァ

 

初登場

 

Mission162 火の如く力を求めし獣の誕生

 

Dアリギエルの黒きコアを食ったDウェルギエルが謎の変化を遂げた姿。

サイズが一回り大きくなっているだけでなく全身が蔦や根の様な者に包まれ、その隙間から血の様な赤い目が覗く異形な姿をしている。その姿は嘗てダンテが戦った悪魔ユリゼンと酷似している。何故このような姿になったのかはオーガス曰く、「生きる欲望の塊である植物と力への欲望が強いバージルが似ていたから」との事。その力はDウェルギエルの頃とは比べ物にならない程向上しており、一夏達や千冬でさえ歯が立たなかった。

血吸の根(データ・ドレイン)によって相手の技や武装を瞬時にコピーし、自分のものとする力や重力操作や金縛りを起こせる力を持つ。圧倒的な力で一夏達を全滅寸前にまで追い込んだが介入してきた火影と海之によって阻止され、もう少しで倒される所でオーガスに「力を与えてやる」と言われ、回収された。



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Mission178 其々の託したもの

ダンテとバージルの秘密を知った一夏達。
そんな一夏達はこれからも火影や海之の仲間として共にいるとトリッシュやネロ達に固く約束。トリッシュ達も安心して贈り物を送って別れていった…。
現実に戻った鈴や簪達は火影と海之にそんな気持ちを告白。ふたりもその返事に驚きながらも感謝の気持ちを述べた。彼らの絆が一層強まったその頃、オーガスはひとり不気味な笑みを浮かべ、スコールは何やら動いていた…。


??? オーガスの部屋

 

 

火影と海之の秘密を一夏達が知った日から数日後のある日の朝、オーガスはひとり自室でコンピュータに向き合っていた。

 

オーガス

「…完成率97%…。流石は篠ノ之束、と言っておこうか。私でさえ手の出しようも無かったコアをこうも見事に完成させてくれるとはな…。予定外の手間も増えたが問題ない。面白いものもできたからな。既に完成の目途は立っている。あとは…………?」

 

その時オーガスは何やら異変に気付いた。

 

オーガス

(………妙だ。あのデータが最近開けられた形跡がある。このデータに触れる者がいるとすれば……)

 

訝しげな目で何かを考えていた…。

 

 

…………

 

IS学園 コンピュータールーム

 

 

火影

「……」

 

その頃、火影もまたディスプレイと対峙していた。火影はここ数日の間、オーガス・アクスという人間についてずっと調査を進めていた。以前オーガスは火影達の前に現れた際、嘗て自分は某国の科学者として働いていたと言っていた。そして束の学会にも出席しているとも。何か知れる範囲で情報が無いかと思ったのだ。クロエにも極秘で調べてもらった。

……その結果いくつかわかった事があった。本当にふと見つけたとある国の科学者達が映っている写真の中に若い時のものと思われるオーガスの姿があったのだ。火影は海之と共にそこからその人物について調べた。オーガスは51年前(年越ししたので全て+1)、同国で働いていた科学者に生まれた子供であったらしい。しかし最初はオーガス・アクスという名前ではなかった。アルゴサクスという名前のアナグラムであった事から後に彼が自分で付けたものだろう。大学卒業後、男は父の影響を受けて優秀な科学者となり、国のために尽力していた事も判明した。担当は兵器開発であったがその研究内容は今の様な狂人じみたものではなく、純粋に国のためになる研究をしていたらしかった。つまり最初はごく普通の人間だったという事である。

 

火影

(…だがそんな男に異変が起こった…)

 

19年前、男は突然自分がそれまでやっていたものとは全く違う様な過激な研究に自ら進んでやるようになったらしい。化学兵器の開発や人体実験等も含まれる。この19年前というのが火影は気になった。19年前と言えばオーガスがアルゴサクスの記憶を取り戻した年と一致する。

 

火影

(…そして奴は11年前、束さんの学会に出席した。まさかあの時にいたなんて想像もしていなかったぜ…。まぁわかるわけねぇけど)

 

そして白騎士事件の後、男はオーガス・アクスと名前を変え、主にISに関する研究を数年行っていた。この頃男の父は在籍していなかった。多分この前に消されたのであろう。因みに母親は彼が大学の頃に病気で世を去っている事が確認されている。その後出世し、それなりの地位に就いていたらしいのだが、

 

火影

「…妙なのはここだ」

 

奇妙な点があった。オーガスは今から16年前、そこから束の学会があった11年前までの実に5年間、痕跡が完全に消えているのである。写真は愚か他の学会などにも名前が全く出てこない。

 

火影

「…更に8年前から今まで奴の痕跡はキレイに消えちまっている…」

 

そしてオーガスは8年前から再び姿を消した。つまり最初の5年間、そこから3年が経ってそれ以降、オーガスは煙の様に表舞台から消えてしまったのだ。先日火影達の前に現れるまで…。

 

火影

「しかもこんだけ行方不明になってんのに国はなんの捜索活動も行っていない。お抱えの科学者が原因不明の失踪を遂げてたってのに。……まぁそれについては今はいいとして問題は行方不明の間、奴が何をしていたかだが…。5年前奴は一夏の誘拐に関わっていた…ファントム・タスクとして。資金調達と言っていたが…本当にそれだけか…?」

 

調査の延長でわかったことだがもうひとつ奇妙な点があった。オーガスが最初に失踪していた5年間、世界中の色々な国で小さな失踪事件が相次いでいた。人種性別年齢問わず。オーガスが関係しているかはわからないが。

 

火影

「…俺らの調査ではこれ位が限界か…」

 

悔しさ残りつつもディスプレイを消す火影。

 

…ガラッ

 

すると部屋の扉が開いた。入ってきたのはシャルだった。

 

シャル

「あ、いた。火影」

火影

「…シャルか。どうした?」

シャル

「火影を探してたんだ。…今忙しい?」

火影

「いんや大丈夫だぜ。もう終わった」

 

それを聞いて嬉しそうなシャル。

 

シャル

「じゃあさ。今から僕らと買い物に行かない?ほら、来週にスキー合宿があるでしょ?僕ウェアを持ってきてなくて買いに行こうって思って。その…火影に選んでほしいし」

火影

「ああそういやシャルは男装して来てたんだったな。別に構わねぇよ」

シャル

「良かった♪じゃあ行こ!鈴や本音も待ってるから!」

 

 

…………

 

数刻後、火影達は買い物を終えて何時もの喫茶店でお茶をしていた。

 

本音

「かわいいものが買えてよかったね~♪」

「それはいいけど本音。アンタのスキーウェアって」

本音

「ほえ?ペンギンだよ?」

シャル

「臨海学校ではキツネみたいだったよね」

「にしても火影のウェアはやっぱり赤なのね~。ダンテの頃から変わんないのね」

火影

「トレードカラーみたいなもんだしな。…さて、まだ時間あるけどどうする?」

 

するとシャルがこんな事を言った。

 

シャル

「あ、じゃあさ!これ行かない?さっきモールで配ってたんだけど」

 

するとシャルはある広告を取り出す。それは…以前火影と鈴が行った遊園地で行われる新年ナイトパレードの予告だった。

 

「今日が最終日なのね」

本音

「面白そうだね~。行こうよ!ついでにちょっと遊ぼ!」

シャル

「僕も行きたいな。鈴だけ隠れて前に火影と行ったんでしょ?」

「うぐ…言い返せないのが辛い…」

火影

「…予約はいらないのか。明日は日曜だから別にいいぜ」

本音

「やった~!」

シャル

「じゃあ行こ♪」

 

 

…………

 

遊園地に到着した火影達。新年初日からの年越し祝いのパレードは今日が最終日でもう見てる人が多いのか幸い埋まっている席は少なく、そっちの方は大丈夫そうだった。なのでそれからは少しばかり遊ぶことにした。……そしていくらかアトラクションを味わった後、

 

本音

「ね~次アレ行こうよ」

「どれどれ……あ!!」

 

それは…前回火影と鈴達が入ったゴーストハウスであった。しかも、

 

シャル

「去年から更にパワーアップ!って書いてあるね」

火影

「定員は三人以上か」

「私はもう行かないわよ!すっごく怖かったんだから!」

 

お化けが苦手なのがはっきり分かった鈴は行くのを拒否するのだが、

 

本音

「本音は行きたいな~。ね~行こうよ~」

シャル

「本音大丈夫なのこんなの?…でもここって確か怖くて有名なお化け屋敷なんでしょ?怖いけど……ちょっと僕もちょっと興味あるかも」

 

本音とシャルは行きたそうだ。

 

火影

「仕方ねぇな。んじゃ俺と本音とシャルで行くか?」

本音・シャル

「「は~い♪」」

 

すると鈴は心でこんな事を思った。

 

(シャルも本音も火影にくっつきながら行く気かしら…?)

「しょ、しょうがないわね!ひとり残るのもなんだし行くわ私も!」

 

そう思うと焦って自分も行くと宣言する鈴だった。

 

 

…………

 

「グアアアアアアアアアアア!!」

「ギャアアアアアアアアアア!!」

「ゴアアアアアアアアアアア!!」

 

鈴・シャル

「「きゃあああああああ!!」

 

そして案の定こうなっていた。三人共火影にくっつきながら進む始末。パワーアップというのは伊達ではないらしく途中で出てくる仕掛けやゾンビの数も多くなっている。だが怖がっている鈴・シャルと違い、

 

本音

「あははははははは♪」

 

本音は楽しそうだ。

 

シャル

「ほ、本音…ずっと笑ってて怖くないの?」

本音

「え~なんで~?楽しいのに~」

「どど、どんな神経してんのよアンタ…」

火影

「つっても鈴は前も来たじゃねぇか。おまけにこの前魔界や悪魔も見たろ?」

「悪魔といってもああいう生き物でしょ!ゾンビとか幽霊とかよくわからない物の方が怖いのよ!」

シャル

「た、確かにそれはあるかもね…。あはは…」

(火影がいてくれなかったらとても入れないや…)

 

とその時、

 

 

ポンッ!

 

 

アグニ

「なんじゃ悪魔でも出たのかダンテ?儂の炎で焼き尽くしてくれ様!」

ルドラ

「いやいや燃え尽きるまで時間がかかるぞ兄者!儂の風で微塵にしてやろう!」

 

火影・鈴・シャル・本音

「「「………」」」

 

 

…ポンッ!

 

 

火影

「……しかしゾンビの数や仕掛けの数は増えてるもののそれだけだな」

 

直ぐに回収し、何事も無かった様に続ける火影。

 

「そ、そうね~、パワーアップって言っても大したことないじゃないの、アハハ…」

 

そう言いながら火影を掴む力が一番強い鈴。因みに右手に本音、左手にシャル。そして火影の背中に隠れながら進む鈴がいる。そして幾分進んでいくと、

 

本音

「…あ、ねぇねぇ、何かあるよ~?」

 

そこはどうやら出口らしい場所。しかし前回と同じく扉が開かない。

 

「やっぱり開かないのね…」

 

とすると何か仕掛けがあると考えるべきだろう。そう思って周囲を見渡すと、壁に何やら指示板が張ってある。そしてその横にはスイッチと…何故かイヤホンマイクがあり、更にその横にふたつの扉がある。

 

「…ねぇ火影、前の時ってここ扉ひとつじゃなかった?」

火影

「そうだな。前の時とは違うのかね?」

 

シャルが指示板を読む。

 

シャル

「えっと…「出口を開けるにはスイッチを一緒に押す必要があります。誰かがここに残ってふたつの扉を開け、扉を進んだ奥にあるスイッチを見つけて全員で扉を開けましょう」…だって」

「そしてやっぱり別れてしまうのね…」

火影

「だから連絡用のマイクがある訳か。…片方は俺が行くとしてもう片方は誰が行く?」

 

すると前回残って怖い目にあった鈴は嫌な予感がして、

 

「わ、私が行くわ。でもひとりは嫌よ!…本音、アンタ怖がってないから一緒に来て!」

本音

「いいよ~♪」

シャル

「ええ!じゃ、じゃあ僕がここに残るの~!?…しょ、しょうがないなぁ、でも早く戻ってきてよ!」

 

そしてシャルがスイッチを押して扉を開ける。前と同じく扉の動きと連動している様で離すと扉が塞がれる様だった…。

 

 

…………

 

そしてそれから約一分後、スイッチに手をかけながらひとり待つシャルはマイクで火影、本音に話しかける。

※シャル目線。

 

シャル

「…ねぇ火影~、本音~。どう~?」

火影

(もう少し先みてぇだな。…本音、そっちは?)

本音

(ま~だだよ~)

(れ、連絡が取れるのが幸いね…)

 

開かれた通路は大した仕掛けは無く、薄暗い通路が伸びている。足元に何かもやみたいなものが出ているのはドライアイスだろうか。……すると、

 

(ひゃあ!!あ、足元に何か触った!!)

 

何かの感触があったらしい鈴。

 

本音

(鈴~大丈夫だよ~足元が柔らかくなってるだけだから)

(…もう嫌…帰りたい)

火影

(頑張れ鈴)

シャル

「行かなくてよかった~」

 

だがそんなシャルの方も、

 

ガタタタッ!

 

シャル

「うわぁ!!」

 

突然の物音に驚くシャル。

 

火影

(シャル、大丈夫か?)

シャル

「う、うん…だ、大丈夫…。ちょっと物音しただけ」ガタ!「ひゃあ!」

(あ~、やっぱりその仕掛けあったのね~)

シャル

「鈴知ってたの!?酷いよ~!」

(ゴメンゴメン。でも私だって二回は嫌だもん~)

本音

(…あ、見て。何かあるよ?)

 

すると本音と鈴が行った先に何やらスイッチがあった。指示板にあったのは多分これであろう。そして火影の方も見つけた。

 

シャル

「よ、よかった…これで出口が開くね」

火影

(じゃあ一緒に押すぞ本音?)

本音

(はーい)

 

そして、

 

カチッ!!

 

火影と本音は一緒にスイッチを押した。

 

シャル

「……………あれ?」

 

……しかし何も起こらなかった。その旨が火影達にシャルから伝わる。

 

(う、嘘でしょ!?ちゃんと一緒に押したじゃないの!)

本音

(もう一回やってみようよ)

 

そして火影と本音は再び一緒にスイッチを押した。

……しかし何も起こらなかった。

 

シャル

「やっぱり開かない…」

(どうしてよ!故障してるんじゃないの!?)

本音

(おかしいな~?私もひかりんも一緒に押してるのに~?)

 

すると火影が、

 

火影

(………おいシャル、一旦スイッチから手を離してくれるか?)

シャル

「え?う、うん」

 

マイクからそう言われて鈴が手を離すとふたつの扉が閉まり、更に通路の中の灯りも消えた。

 

本音

(真っ暗~!)

(しゃ、シャル!早く電気付けてよ!)

火影

(落ち着け鈴。いいかシャル、本音。今度は三人で一緒に押すぞ?)

シャル

「え、僕も?う、うんわかった。行くよ?せ~の!」

 

ガチッ!!!

 

火影と本音、そしてシャルはそれまで手をかけていたスイッチを一緒に押した。すると、

 

 

ガタンッ!…ゴゴゴゴゴ!

 

 

出口の扉、そしてふたつの通路の扉も開いた。どうやら今ので全ての扉が解除された様だ。

 

シャル

「! や、やった!開いたよ!」

本音

(やった~♪)

(は、早く出ましょこんなとこ!)

シャル

「そうだね、早く」

 

とその時、

 

 

「イィィィグゥゥナァァァァ!!」

「ガァァエェェルゥゥナァァ!!」

「エェェェサァァァダァァァ!!」

 

 

お約束というかやはり今回も大量のゾンビの群れがシャルに迫ってきた。

 

シャル

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

迫力に悲鳴を上げるシャル。すると、

 

バッ!!

 

突然彼女の前に何かが守る様に立ちはだかった。

 

火影

「……」

シャル

「ひ、火影…?」

 

それは走って戻ってきた火影だった。…それと同時に下がるゾンビ達。

 

火影

「やれやれやっぱこうなったか…。おいシャル、大丈夫か?動けるか?」

シャル

「……」

 

そんな火影の姿に安心したのか、

 

シャル

「わぁぁぁん!怖かったあぁぁぁぁぁ!」

 

シャルは火影にしがみつきながら大泣きしたのだった。

 

 

…………

 

それから数分後、火影達は遊園地内のカフェで休んでいた。

 

本音

「シャルルン~大丈夫~?」

シャル

「うん、もう大丈夫。ありがとう本音」

「私もだけどシャルもめちゃ怖がりじゃないの。なんで行きたいなんて言ったのよ~?」

シャル

「ウワサには聞いてたけどまさかあそこまで怖いなんて思わなかったよ…。てか鈴酷いよも~!」

「ゴメンゴメン、今度何か奢るから許してね。…あ、そう言えば火影、なんでシャルのスイッチの事もわかったの?」

火影

「指示板に書いてあったろ?一緒に押す必要があるって」

本音

「でも一緒に押したよ~?」

火影

「「ふたつのスイッチで扉を開ける」とは書いてなかったろ?「全員で扉を開ける」って書いてあったのを思い出してな。それでシャルのスイッチも連動してるんじゃないかって」

「…ああ成程!」

シャル

「あの状況でそんな判断ができるなんて流石火影だね。普通ならパニックになるところだよ」

火影

「まぁ年の功ってやつだ。…てか本音見直したぜ。お前ああいうの全然平気だったんだな。デビルハンターに向いてるかもしれねぇぞ?」

本音

「えっへん♪」

「いやいや悪魔なんてこの世界にいないから」

火影

「はは、確かにな。…さて、そろそろ夕方か。もうパレードの席着いとくか?」

シャル

「そうだね」

 

すると、

 

「……火影。ちょっとここで待っててくれない?シャルと本音とちょっと話がしたいんだ」

本音

「私とシャルルンに?」

火影

「別に構わねぇよ」

シャル

「ここじゃ駄目なの?」

「…うん、ちょっとね。直ぐに終わるから。折角だから観覧車行きましょ」

 

 

…………

 

そして鈴とシャル、本音の三人は観覧車に乗った。空はややオレンジに近づいている。

 

本音

「高台にあるからここからだと街が良く見えるね~」

シャル

「ほんとだね。…それで鈴、僕達に話って?」

「…うん」

 

するとやや待ってから鈴は話始めた。

 

「…正直に聞くわ。…ふたり共、火影をこれからも支える気持ちに嘘は無い?」

シャル・本音

「「!」」

「マティエさんが言ってたでしょ?火影と海之はあのオーガスっていう奴と戦うって。そしてその戦いが命がけのとても危険なものだって。まぁ本音は戦う事は無いけど。それがわかっていても…本当にふたりの気持ちに変わりない?」

シャル・本音

「「……」」

 

するとふたりはやや真剣な表情をしながら、

 

シャル

「…言った筈だよ鈴。僕は誰よりも火影を想ってるって。ふたりにも負けないって。それにさっき火影が動けない僕を庇ってくれた時改めて思ったんだ。僕にはあの人しかいないって。どんなに危険な戦いでも…僕は火影を支える」

「……」

本音

「…私ね、自分が皆の様に戦えない事、前は凄く悔しかったの。でも今はそんなに悔しく思ってないんだ。今のままの私が一番好きだって火影言ってくれたから…。戦えない分私はこれからも…誰よりも好きな火影の傍にいたい」

シャル

「鈴だって同じでしょ?それがわかってて僕達に聞いてるんでしょ?」

「…ええ。あいつは優しいから私達に来るなって言うかもしれないけどね。…でもそうはいかない。もしあいつが私達を置いてくって言うなら…しがみついてでも一緒についていくわ。二度とあいつを失いたくないから」

シャル

「僕だって」

本音

「私だって~」

 

そう言うと互いにやや睨むような感じになる鈴達。………すると、

 

「………ふ」

シャル・本音

「「……ふふ」」

鈴・シャル・本音

「「「あはははははは♪」」」

 

三人揃って笑いだした。

 

「ははは……。ふぅ…やっぱりそうなのね。まぁわかってたけど」

シャル

「鈴の聞きたかった事ってそんな事だったの?決まりきった答えなのに」

本音

「もっと難しい事聞かれるのかと思ったよ~。何時結婚したい?とか~」

「流石にそこまではまだ聞かないわよ!」

 

するとシャルが、

 

シャル

「……でもさ?僕達皆がそういう答えなら…、全部終わった後はどうすればいいかな?」

本音

「そうだよね~。私達皆ひかりんを諦める気無いんだもんね~」

「……ま、なんとでもなるわよ♪」

シャル

「そうだね♪」

本音

「なる~♪」

 

そんな少女らしい会話全開の観覧車だった。

 

 

…………

 

その頃下では、

 

火影

「~~!……なんだ風邪か?それとも誰か俺のうわさでもしてんのか?人気者は辛いぜ」

 

そんな事をひとり話していた火影。………すると、

 

火影

「……まぁしてたとしても俺のすぐ近くの奴じゃねぇっていうのは確かだな。………聞き耳たてんのはあんまり良いマナーじゃねぇぜ?」

 

火影は机に目を向けたまま誰かに話しかけた。…すると直ぐ真後ろのテーブルにいる幅広の帽子を被り、紅茶を飲んでいる女性が返事をした。

 

スコール

「……あら、気付いていたの?御免なさいね」

 

女性はスコールであった。背中合わせの会話が続く。

 

火影

「…何時からいた?てかよくわかったな」

スコール

「カフェに入ってからよ。ここがわかったのは…まぁいいじゃない。でも安心して?デートの邪魔なんて無粋な事しないから」

火影

「そいつは結構」

スコール

「……生きていたのね。貴方も貴方の兄も」

火影

「天国にも地獄にも嫌われてるみたいでな。がっかりしたか?」

スコール

「………さぁ」

 

スコールは曖昧に答えた。

 

火影

「んで、何しに来た?束さんを返しに来たとかオーガスの居場所を教えるってんなら歓迎だが」

スコール

「ふふっ、ご期待に応えてあげたい所だけど流石にそこまで人は良くないわ。これでもテロリストだもの。……でも」

 

スコールはそう言うと背中越しに何やら火影に渡す。

 

スコール

「……あげるわ」

火影

「USB?」

スコール

「できれば最初は貴方達だけで見て。…その中にはあるファイルが入ってる。本来なら誰にも知られてはならない…伏魔殿に封印されたものがね…」

火影

「……」

 

火影は黙ってそのメモリを受け取る。

 

スコール

「その中にあるものを見た時…貴方達は知る事になる。悪魔よりも恐ろしい、人間の残酷さをね…」

 

そういうとスコールは去ろうとする。すると火影は背中越しに紙幣を差し出す。

 

火影

「紅茶代だ。釣りはとってきな」

スコール

「あら、優しいのね。でもいいの?あの子達が見たら怒るんじゃなくて?」

火影

「そんなやわな女じゃねぇさ。……アンタ、やっぱただ我欲に負けてテロになったんじゃねぇな。自分でテロっつってるし。………何があった?」

スコール

「………御馳走様」

 

スコールは答えず、礼だけ言ってその場を去った。

 

火影

「……」

 

 

…………

 

それから少しして鈴達が戻ってきた。

 

本音

「ひかりん~お待たせ~♪」

シャル

「…どうしたの火影?」

火影

「…ああなんでもねぇ。楽しめたか?」

「ええ。色々女同士の会話もできたしね♪」

火影

「そいつは良かったな。…んじゃそろそろお目当てのパレードに行くか」

シャル

「そうだね♪」

本音

「早く行こー♪」

「良い席とらなきゃね♪」

 

 

…………

 

??? スコールの部屋

 

 

スコール

「…ふぅ」

 

するとそこに、

 

コンコン

 

オーガス

「…スコール」

 

部屋をノックしたのはオーガスだった。

 

スコール

「オーガス?…入っていいわよ」

オーガス

「…失礼しよう。……どこに行っていた?お前の姪に聞いたがどこかに行ったと言っていたが」

スコール

「私だってたまには外をぶらつきたい事位あるわ」

 

火影の事は言わないスコール。…すると、

 

オーガス

「……あのデータを誰かに渡したのか?さしずめ……奴らか?」

スコール

「!」

 

スコールは一瞬動きを止めた。オーガスにとってそれは回答には十分だった。

 

オーガス

「…やはりな」

スコール

「…どうしてわかったのかしら?これでもしっかりバレない様にしてたんだけど?」

オーガス

「私を甘く見るな。お前程度がどんなに細工しようが無意味。何時、どうやって開いた等直ぐにわかる。更にそのデータの内容からお前と、オータム位しかいないからな。まぁ奴にそんな能力は無い。Mもそんな真似はできん。……よくも私の所有物に手を付けたな?」

スコール

「……じゃあどうする?裏切り者として処分する?」

オーガス

「……」

 

 

………

 

火影と本音の部屋

 

 

「結構大きなパレードだったわね」

本音

「迫力あったね~♪」

 

夜、火影達が遊園地から帰ってきてひと休みしていると、

 

火影

「…ああそういえば忘れてた。鈴、シャル、本音。お前らに渡したいもんがあった」

シャル

「僕達に渡したいもの?」

 

そう言いながら火影は拡張領域を開き、何かを取り出す。

 

鈴・シャル・本音

「「「…!」」」

 

火影が取り出したのはみっつの銃。火影のエボニー&アイボリーにいずれもよく似ている。鈴に白、シャルに黒、そして本音に金色に輝く拳銃を渡す。

 

「トリッシュさんが使っていたものと同じやつね…」

シャル

「…これを僕達に?」

本音

「私にも…?」

火影

「鈴に渡したのがルーチェ。シャルのがオンブラ。本音のはアルバという。俺の親父スパーダが組み立て、俺の師がメンテした最高のもんだ」

「そんな大事なもんならアンタが持っていた方が…」

火影

「お前らに持っててほしいんだ。だができれば撃つな。あくまでもお守りとして持っててくれ。特に本音、お前は絶対だぞ。お前にはそんな真似してほしくねぇ」

本音

「……わかった。約束する。ありがとうひかりん」

「女の子へのプレゼントにしては物騒ね~。…でも、ありがとね火影」

シャル

「火影の分身と思って大切に持ってるよ」

火影

「ああそれでいい。…なぁ、三人とも最後に少しだけ聞いてもらっていいか?」

シャル

「う、うん」

火影

「覚えてるかしらねぇけど…前に俺、お前らに話した事あったろ?今まで俺は恋とかそんな事したことねぇって。……けどな、俺がダンテだった頃にナンパ位は少なからずした事あったんだ。前世の話で若気のいたりだ許せ」

「別にいいわよそんな事今さら。…それで?」

火影

「……だがな、その度に俺はいつもある夢を見たんだ。…母さんが目の前で死んだあの時の、な」

本音

「あ…」

 

三人はエヴァの事を言っているのだと直ぐに分かった。

 

火影

「だから俺は特に女とは一定以上の関係になるのを止めてた。それがこっち来てもいつの間にか習慣になっちまってた。……でも最近気付いたんだ。お前らと過ごしている時、あの夢を見ていない事に。先日一緒に眠ってた時もな」

「…え?一度も?」

火影

「最初は何でかって思ったよ。でも直ぐに分かった」

 

すると火影は何時になく真剣な眼差しをして言った。

 

火影

「鈴、シャル、本音。お前らが俺にとって…母さんと同じ、若しくはそれ以上の大切で、救いになってたからだ」

 

鈴・シャル・本音

「「「!!」」」

 

火影

「…だから頼む。傍にいてほしい。俺にお前らを守らせてくれ。俺には…お前らが必要だ」

 

鈴・シャル・本音

「「「……」」」

 

火影の真っ直ぐな言葉にキョトンとしながら急速に真っ赤になる鈴達。

 

火影

「…何ボーっとつっ立ってんだよ?」

本音

「だ、だだだっていきなりそんな事言うなんて思わないもん!」

「ハンドガン渡した後で言う台詞じゃないでしょ!ムードって言葉知らないの!?」

シャル

「誰かに聞かれたらどうするのさ!も~火影ったら!」

火影

「ははは」

 

嬉しいながらも恥ずかしさが勝り、真っ赤になりながら怒る三人。そんな彼女らを見て笑う火影だったが、

 

火影

(……お前らは俺が守る。……この身を懸けても)

 

心の中でそう固く誓うのであった。

 

 

…………

 

オーガス・スコール

「「………」」

 

睨み合うふたり。……すると、

 

オーガス

「……ふ、冗談だ。あんな古いかび臭いデータ等、欲しければくれてやる。なんなら今から世界中をジャックして公表してやっても良いぞ?」

スコール

(……あのデータがかび臭い…)

「何故そんな事を?」

オーガス

「私があのデータを待っていたのは単に責任者だったからに過ぎん。今さらどうでも良い。流しても大半の人間は信じられないか責任の擦り付けだろう。…まぁそれでも多少世界はパニックになるだろうがそれもやや面白いかもな。…ククク」

スコール

「……」

 

スコールは目の前のオーガスという人間が益々わからなくなっていた。以前よりわからない事が多かったが最近は顕著である。

 

オーガス

「しかしお前がその様な真似をするとはな。ここの場所も教えたのか?」

スコール

「まさか。流石にそこまで善人じゃないわ。……いいえ、私にはもうそんな資格もない。16年前のあの時からね…」

オーガス

「よくわかっているではないか。……まぁいい。どうせ近い内にわかるからな」

スコール

「…?」

オーガス

「だがとはいえだ。お前がやったことは明らかに裏切りに近い行為。何も罰せずというのは流石にいかぬ。…そこでだ、お前にはあるものを今後然る時が来た時に使ってもらう」

スコール

「あるもの?」

(…然る時…?)

 

するとオーガスは…小さい何かを取り出した。一見…銃のグリップと引鉄の部分だけの様な妙な装置である。

 

オーガス

「オータムに急かされて試験的に作ったものだ」

スコール

「…それは?」

 

するとオーガスはそれの名前を言った。

 

オーガス

「ドレッドノートシステムの力を飛躍的に高める装置。………デビルトリガーだ」




※次回は20(土)の予定です。
漸くルーチェ&オンブラ&アルバを出せました。
次回は海之編+USBの中身が明らかになります。


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Mission179 記されていた名前

オーガスの事について調べる火影達。彼は最初は普通の善人だったのがある日突然変わり、凶悪な実験や失踪を繰り返していたらしい。オーガスの行動を不信に思う火影。そんな火影の前に突然スコールが現れ、謎のUSBを渡す。

「伏魔殿に封印されたもの。それを見た時、貴方達は悪魔よりも恐ろしい人間の恐ろしさを知る…」

言葉が引っかかりながらも受け取る火影。彼は鈴やシャルや本音に自らが持っていた銃をお守りとして与え、改めて彼女らを守る事を約束した。
一方、オーガスもまたスコールに何かを渡していた。「デビルトリガー」という物を…。


火影が鈴達と遊園地に行った日の朝。海之もまたひとりである場所に向かっていた。その手にはなにやら色々な食材がある。

 

海之

(……しかし何故俺だけに頼まれたのだろう…)

 

 

…………

 

詳しい理由は前日の放課後である。

遅い時間帯で千冬以外他に誰もいない職員室。海之が千冬に資料を届けている時だった。

 

海之

「先生、提出用のレポートをお持ちしました」

千冬

「ご苦労。………海之。ちょっと良いか?」

 

突然呼び止められた海之。

 

海之

「なんでしょうか?」

千冬

「あの……お前、明日の予定は空いているか?」

海之

「はい。夕方から簪達と約束がありますからそれまでならば」

千冬

「そ、そうか…。なら……お、お前さえ良ければ、明日の昼に私の家に来てくれないか?久々に…お前の料理が食いたいのだ」

海之

「ええ構いませんよ」

千冬

「あ、あと……できればお前だけでな」

海之

「? わかりました」

 

 

…………

 

そんな訳で海之は材料を手にひとり向かっているのだった。……やがて織斑宅に到着し、インターホンを鳴らしてから以前一夏にもらった鍵で家に入る海之。すると、

 

千冬

「よく来たな海之」

 

海之は一瞬キョトンとした。千冬が出迎えたのだが彼女の服がいつもの様なラフなものでなく、しっかり整っていたからだ。ちゃんと化粧もしていて耳にはイヤリングまでしている。彼女の普段を知る者が見たら驚くかもしれない。

 

海之

「先生、今日は何時もと感じが違いますね」

千冬

「あ、ああ。その……似合わないか?」

海之

「そんな事ありませんよ。良くお似合いですしお綺麗です」

千冬

「!!…あ、ありがとう…」

 

そんな会話をしながら上がると一夏の姿が無い。

 

海之

「一夏は留守ですか?」

千冬

「ああ。篠ノ之やオルコットと出掛けてな」

 

そしてキッチンで海之が調理の支度に差し掛かっていると、

 

千冬

「あ、あの…海之。できる事があれば私も手伝いたいのだが…構わないか?レオナ殿を見て…私も勉強したいと思ったのだ」

海之

「ええ、助かります」

 

 

…………

 

それから暫く海之と千冬による調理は続いた。今回は酒のあてでなく昼食なのでいつもより時間をかける。手伝いを買って出た千冬は全く何もできない訳ではなく、セシリアの様な無茶苦茶な失敗は無かった。ただ勿論包丁や細かい作業等は出来ず、海之や火影や一夏はおろか、比較的あまり料理しないシャルやラウラにも遠く及ばないのだが。

 

海之

「先生、勉強したいと仰ってましたが結構お出来になるじゃないですか」

千冬

「これでも一夏の親代わりをしていたからな。まぁあいつが成長してからは完全に任せきり、熱!!」

 

とその時うっかり鍋に指を当ててしまった千冬。

 

千冬

「!!」

 

すると海之が冷凍庫から氷を取り出し、千冬の手を取ってそれを鍋が当たった指に当てた。自然に彼女の手が海之の両手に挟み込まれる感じになる。

 

海之

「大丈夫ですか?」

千冬

「だ、大丈夫だ海之、それ位自分でできるから!」

 

赤くなって慌てる千冬。

 

海之

「多少沁みますがそのまま押さえていてください」

千冬

「あ、ああ。…すまないな、逆に迷惑かけてしまって」

海之

「気になさらなくても良いですよ」

千冬

「……本当に敵わんよお前には」

 

 

…………

 

テーブルの上には卵焼き、野菜の煮物、生姜焼き等々海之と同じく和食が好きな千冬に合わせていかにも日本という料理が並んでいる。

 

千冬

(…海之の料理も久しぶりだな…)

海之

「鍋に残っている分は後で冷蔵庫に入れておきますね」

千冬

「あ、ああありがとう」

(…思えば海之とふたりで食事というのは初めてだな。これではまるで………!!い、今私一体何を考えていた!?)

 

顔の赤みがますます広がる千冬。

 

海之

「どうかしましたか先生?」

千冬

「ななな、何でもない!は、早く頂こうか!冷めない内に!」

 

自分で海之だけ来てくれと言ったはいいが今の状況に急激に慌て出す千冬だった。

 

 

…………

 

千冬

「一夏の料理も美味いがお前のもやはり美味いな」

海之

「ありがとうございます」

千冬

「以前頂いたギャリソン殿の料理はただただ絶品だったが私にはこれ位が丁度良い。どうやって学んだのだ?」

海之

「…やはりギャリソンの影響が大きいですね。両親を失った俺達を支えてくれる姿を見て学びたいと」

千冬

「そうか…。良い方だな」

海之

「はい。俺達だけでなく家の者達もとても頼りにしています」

 

そんな会話が続いていると、

 

千冬

「…そういえば海之。この前、あいつらと話したのだろう?どんな様子だった?」

 

すると海之は箸を置き、

 

海之

「…はい。簪もラウラも受け入れてくれました。前世は前世、今は今だと」

千冬

「そうか。ふっ、だから言ったろう?あいつらを信じろと」

 

千冬は嬉しそうだ。

 

海之

「正直な所とても信じてもらえるとは思いませんでしたが…。俺とあいつの嘗ての父が悪魔などと」

千冬

「まぁ確かに信じにくい話ではあるがな。……しかし海之、私が言う事でも無いが悪魔にも色々あるという事だ。魔帝やアルゴサクスとやらの様な奴もいれば、スパーダの様な清く正しい心を持つ悪魔もな。その魂を継いだお前達が悪でないのは当然だ」

海之

「…随分遠回りはしましたけどね」

 

海之は千冬の言葉をありがたく思った。

 

千冬

「それにしてもお前が以前言っていた実の両親には会えないというのはそういう訳だったのだな」

海之

「ええ。俺達は赤ん坊の姿でこの世界に来ましたから」

千冬

「それで拾われたのがエヴァンス夫妻という訳か。…いい人達に救われたな。以前火影が言っていたぞ、最大の幸運だったと」

海之

「…幸運、か…。確かにその通りかもしれません」

 

素っ気ないが海之は今は亡き父アルティスと母雫には深く感謝している。すると千冬の箸が止まり、

 

千冬

「……私の両親とは大違いだ」

海之

「…え?」

千冬

「…いや何でもない」

 

はぶらかす千冬。

 

海之

「…先生。先生と一夏の両親は…どんな方だったのですか?」

千冬

「……」

 

だがやはり千冬は口を閉ざす。

 

海之

「申し訳ありません。差し出がましい事をお聞きしまして…」

千冬

「謝るな。お前は悪くない。……そうだな、ひとつだけ言えるとすれば……ただただ大馬鹿者かな…」

海之

「……?」

 

思い出すかのように話す千冬。やや悲しげである。

 

千冬

「すまん。下らん話をしてしまった」

海之

「…いえ」

 

海之はそれ以上は聞かなかった。

 

 

…………

 

その後時間をかけて食事は終わり、海之は片付け中。千冬も手伝うと言ったが火傷を理由に譲らなかったので千冬は一段落していると電話がかかって来た。一夏からだ。

 

千冬

「……そうか、分かった。あまり遅くなりすぎておばさんにご迷惑かけるなよ。ではな」ピッ

海之

「一夏からですか?」

千冬

「ああ。篠ノ之のおばさんの所で夕食を馳走になってくるそうだ。全く明日が日曜とはいえお手間をかけおって」

 

すると海之が何かを思い出した。

 

海之

「…先生はこの後のご予定は何かおありですか?」

千冬

「いや、今日は久々に何もない一日でな」

海之

「では…これに行きませんか?」

 

そう言って海之が取り出したのは……ある遊園地のナイトパレード最終日予告の広告。それは正に火影や鈴達が行っている遊園地である。

 

海之

「ラウラが行ってみたいと言いましたのであいつと簪とクロエとで一緒に行く予定なんです」

 

ここで他の男からの招待ならば千冬は断るだろう。だが、

 

千冬

「………私も一緒に?」

 

海之からの誘いに一瞬迷う。

 

海之

「ええ」

千冬

「……」

 

 

…………

 

遊園地前

 

 

それからやや時は流れて夕方。

 

「あ、来た」

ラウラ

「海之、ここだ」

 

既に簪とラウラ、クロエが現地で待っていた。

 

海之

「すまない」

 

そこに海之と、

 

千冬

「……」

 

外出用に着飾った千冬がいた。

 

簪・クロエ

「「こんばんは織斑先生」」

ラウラ

「お疲れ様です教官」

千冬

「あ、ああ」

 

千冬を連れて来る経緯は既に海之が連絡していた。

 

海之

「待たせたか?」

「ううんそんな事無いよ。ラウラとクロエさんのスキー用品を選んであげてたの」

ラウラ

「スキーなんてやった事無いから心配だな…」

クロエ

「私も未経験です…」

千冬

「心配ないボーデヴィッヒ、クロニクル。当日ビシバシ教えてやる。まぁとは言え今回は昨年の修学旅行が無しになったための代謝行事みたいなものだからそんなに難しく考えなくて良いぞ」

ラウラ

「は!ありがとうございます!」

クロエ

「ラウラ…ここで敬礼は目立ちますよ」

海之

「では行くか」

「うん」

 

 

…………

 

遊園地内 パレード会場

 

 

パレード会場はちらほら客が集まり始めた程度。

 

「いい席空いていて良かったね」

クロエ

「本日が最終日だからかもしれません。大半の人達は本日までに見終えているのでしょうね」

千冬

「騒がしくなくていい」

ラウラ

「それにしても私がこんな場所にいるなんて……以前からすれば改めて考えられない」

クロエ

「私も同じ気持ちです…」

 

確かにラウラとクロエからすればまだ色々なものが新鮮ぎみに見えるかもしれない。

 

千冬

「ならこれからもっと色々やってみれば良い」

「そうだよふたり共」

ラウラ・クロエ

「「…はい」」

 

ふたりは安心した様だ。…すると、

 

~~~

海之の携帯が鳴る。火影からだ。

 

海之

「俺だ。…………すいません、少し席を外します」

 

そう言うと席を離れ、静かな場所に移る海之。……実はこの時火影はカフェにいるのだが気付いていない様だ。

 

クロエ

「…火影兄さんからでしょうか?」

千冬

「……」

 

クロエと千冬は気になる様子。するとそんな千冬に簪とラウラが声をかける。

 

「………織斑先生。少しいいですか?」

ラウラ

「恐れながら私達、教官にどうしてもお伺いしたい事があるのです。できれば今の内に」

千冬

「私に?なんだ?」

 

この時千冬は少し油断していた。まさかあんな質問が来るとは。

 

簪・ラウラ

「「あの…先生(教官)は…海之(くん)の事が好きなんですか?」」

 

千冬

「…………」

 

一瞬時が止まる千冬。

 

クロエ

「…ええ!」

千冬

「な、ななななな何を言い出すいきなり!!」

 

当然慌て出す千冬。しかしふたりは引かずに続ける。

 

「すいません先生…。でも私達、前からそう思っていたんです。織斑先生も海之くんが好きなんじゃないかって。間違っていたらそれでもいいんです。でもこれまでの先生の態度や仕草を見たらそうとしか思えないんです」

ラウラ

「私もです教官。それに海之から聞きましたが教官は本日おひとりで過ごしていた所に海之を誘ったと。それを聞いて思いました。これは私の副官が言っていたこっそりと好きな者を呼ぶ所謂「逢い引き」というものだと!」

 

何時にも無い簪とラウラの力強い言葉。それに対して千冬は、

 

千冬

「ば、ばば馬鹿な事言うなお前達!海之を呼んだのは単にあいつの飯を食べたいと思っただけだ!一夏がいなかったからな!それにボーデヴィッヒ!そもそも逢い引きとは相思相愛の者同士の話だ!私はともかく海之はどう思って………!!」

 

その時千冬は気づいた。自分の言った言葉の意味を。海之がどう思っているにしろ自分はともかく、という事はつまり……。

 

「やっぱり…」

ラウラ

「やはり教官も海之が…」

千冬

「い、いや、だからそれは…」

 

何時もの態度が嘘みたいな位今の千冬には余裕が無い。だがそんな彼女にふたりは更に詰め寄る。

 

「織斑先生、もう正直に聞かせてください。先生の本心を。もし私達が思っている通りでも驚きません」

ラウラ

「その通りです教官。私達も皆も、まぁ一夏以外ですが分かっています。正々堂々仰ってください」

 

ふたりは答えを聞くまで絶対に引かないという顔だ。

 

クロエ

「お、おふたり共…一体どうされたんですか?」

千冬

「……」

 

クロエもそんな簪とラウラにやや引き気味になり、千冬は黙る。何故かわからないが今のふたりには敵わない気がした。そして、

 

千冬

「……………き、だ」

「聞こえません」

ラウラ

「そんな小さい声、教官らしくありません」

千冬

「うぅ…」

 

そして遂に千冬は白状した。

 

千冬

「わ、私は…………み、海之の…事が……好き、だ…」

 

湯気が出てそうな位真っ赤になる千冬とそれを何も言わずに聞くふたり。

 

簪・ラウラ

「「……」」

クロエ

「先生…」

千冬

「……」

 

恥ずかしさのあまりなのか落ち込む千冬。…すると、

 

「すいませんでした先生」

ラウラ

「申し訳ありませんでした教官」

千冬

「……え?」

 

素直に謝ったふたりに千冬に疑問の表情が浮かぶ。

 

クロエ

「…簪さん、ラウラ。…どうして今の様な事を?」

 

するとふたりは答える。

 

「クロエさんもご免なさい。驚かせちゃったね。……私達ね、前に海之くんの過去の話を見て思ったの。あの人は誰よりも暗くて悲しい人生を歩んできた。子供の頃にお母さんを無くして、悪魔に殺されかけて、ずっとひとりぼっちで生きてきた…。でもそんな海之くんに…私達はずっと支えてもらっていた。守ってもらっていた。私達なんかよりずっと辛い目にあって来たのに…」

千冬

「……」

クロエ

「でも…それと今のとどういう関係が…?」

ラウラ

「海之はあのオーガスと、嘗てのあいつらの敵である存在と戦うつもりです。その時あいつはきっと付いて来るなと言うに決まってます。……でも嫌なんです。もうあいつに、海之に守られてばかりなのは。私達も守りたいんです。私の大切なものを。そして誰よりも大切なあいつを…」

千冬

「…お前達…」

 

簪とラウラの言葉は先ほど以上に力強いものであった。

 

「私達決めたんです。海之くんを、あの人を絶対ひとりにはしない。例えどんなに危険な戦いが待っててもあの人の傍にいて支えるって。それ位強くなってみせるって。もうビクビクするのは止めようって」

ラウラ

「私達はあいつへの想いがあれば戦えます。あいつを守りたいという気持ちがあれば…オーガスと言えど怖くありません」

クロエ

「…おふたり共…そこまで海之兄さんを…」

千冬

「……」

 

千冬は驚いていた。あの大人しい簪が、そして少し前まで恋のこの字も知らなかったラウラがこんな事を言うなんて…。

 

「そして織斑先生。私達、先生を試すような事をしてしまいました」

千冬

「私を…試す?」

「さっきも言いましたけど私達先生が海之くんを好きという事に気付いていました。一度どうしても先生の口からお伺いしたかったんです。そしてもし私達の気迫に圧された位で答えを有耶無耶にされる様なら…ちょっと怒ってました。そんな気持ちであの人を支えるつもりなのかって」

ラウラ

「私にとって教官は雲の上の様なお方であり、我が人生で唯一無二の恩師です。でも海之に関しては絶対譲れないライバルでもあります。この事に関しては教官にも負ける気はありません。少なくとも今の時点では勝てていると思っています」

千冬

「……」

 

千冬は何も言わずに聞いている。

 

「だから私達嬉しかったです。先生も海之くんが好きだと聞けて。…でも先生、海之くんについては私も先生より勝ってると思ってます。そして今後もラウラの言う通り私達負けるつもりはありません」

ラウラ

「ですが教官が海之と仲を深めるのを邪魔する様な愚行は一切致しません。それはフェアプレーではありませんから」

千冬

「……」

 

簪とラウラは真っ直ぐ千冬に言った。すると千冬は、

 

千冬

「……ふ」

クロエ

「…先生?」

千冬

「ふははははははは!」

 

途端に笑い出す千冬。その声に周りの目もやや引いてしまうが千冬は構わず笑っている。

 

千冬

「ははは……。何を言い出すかと思えば…、まさかこの私が自分の生徒に、弟子に宣戦布告まがいな事を言われるとはな。とんだ問題児になったものだ。……いや、あいつがそうしたのか」

簪・ラウラ

「「……」」

 

すると今までの弱気になっていたのが嘘の様に千冬は何時もの鬼気迫る表情に戻り、

 

千冬

「……いいだろう。受けて立ってやるぞ小娘共。但し私も譲らんぞ?確かに今はお前達に負けているかもしれんが見ていろ、直ぐに追い付いてやる。そして勝ってやる。覚悟しておけ」

「はい!」

ラウラ

「それでこそ教官です!」

 

そう言いながらも三人は笑っていた。

 

クロエ

(な、なにか見てはいけないものを見た気がします。…しかし何でしょうか…。この様なやりとりどちらかで見た事ある様な…)

 

クロエはそんな三人を見てやや萎縮してしまう。

……とそこに海之が戻ってきた。

 

海之

「申し訳ありません」

「大丈夫だよ海之くん」

ラウラ

「ああ全く問題ない」

千冬

「面白い話もできた」

海之

「…面白い話?」

簪・ラウラ

「「秘密だ(だよ)♪」」

千冬

「ふふ、気にするな」

海之

「…?」

クロエ

(海之兄さんこれから大変ですね…)

 

そんな会話をしながら海之を覗いて先ほどの電話の件も忘れてパレードを見物したのだった。因みに同じく来ていた火影達と会う事は無かった。

 

 

…………

 

??? ダリルの部屋

 

 

コンコン

 

スコール

「ダリル。いるかしら?」

ダリル

「叔母さんか?入って良いぜ」

 

そう言われて入るスコール。そこにはフォルテもいた。

 

ダリル

「お帰り叔母さん」

フォルテ

「お疲れ様ッス」

スコール

「ええ。……ふたり共、今日も訓練していたの?」

ダリル

「ああ。あの妙なシステムを使いこなすためにな」

フォルテ

「オータムさんはまだやっているッス。物凄く張り切ってるッス」

スコール

「そう…」

 

スコールは何とも言えない表情をしている。

 

ダリル

「…?どうしたんすか叔母さん」

スコール

「…いえ。……ねぇダリル、それにフォルテ。今さらこんな事言うのは遅すぎるけど……ご免なさいね。貴女達を巻き込んで。特にフォルテ、貴女は」

ダリル

「おっと!それ以上言う必要はねぇよ叔母さん。私は叔母さんの力になりてぇだけさ。私にとって叔母さんは両親以上に大切な家族なんだからよ。だから叔母さんと同じコードネームにしたんだぜ?」

フォルテ

「私はダリルの力になりたいだけッス。私を救ってくれたダリルのために」

スコール

「……」

ダリル

「それに私は叔母さんやオータムさんがどれだけ辛い目にあってきたのか、話だけだけど知ってるからよ。だから余計に力になりてぇのさ」

スコール

「……ありがとう」

 

スコールはふたりの言葉に感謝した。しかし、

 

スコール

「…でもダリル、それにフォルテ。ひとつ言っておくわ。……もし、もし今後の戦いで貴女達の身に何か危険が及んだら、素直に降伏しなさい」

ダリル・フォルテ

「「!?」」

 

その言葉にふたりは驚くがスコールは続ける。

 

スコール

「そしてファントム・タスクも辞めなさい。私やオータムと違って貴女達は幸いまだ誰も殺していないし傷つけてもいない。今なら実行犯というだけで済むわ。罪を償って、新しい人生を始めなさい」

ダリル

「ちょ、ちょっと叔母さん!」

スコール

「これは命令よ。…いいわね?」

ダリル・フォルテ

「「……」」

 

スコールの真剣な表情の言葉にふたりは反論できない。

 

スコール

「返事は?」

ダリル

「…はい」

フォルテ

「…分かったッス」

スコール

「いい子ね。…それだけ。じゃあね」

 

それだけ言うとスコールは出ていった。

 

ダリル

「…叔母さん…。なんでそんな事言うんだよ…」

フォルテ

「ダリル…」

 

 

…………

 

IS学園 コンピュータールーム

 

 

夜遅い時間帯。そこに鈴達と別れ、寝ている本音を起こさない様に出てきた火影がいた。そして少しして海之も入ってきた。

 

火影

「おせーぞ」

海之

「すまんな」

火影

「そういや今日どっか行ってたのか?電話した時なんか騒がしかったが」

海之

「簪達や千冬先生と出掛けていた」

火影

「織斑先生も?……へ~」

 

にやつく火影。

 

海之

「…なんだその気味悪い笑いは?」

火影

「いやいやなんでもねーよー」

海之

「下らん事言ってないで早く始めるぞ。……まさかスコール・ミューゼルが接触してきたとはな」

火影

「へ、そっちが遅れてきたくせに。とまぁ確かに始めるか。…先生にこの事は?」

海之

「話していない。気が引けるがそう言って渡されたのだろう?」

火影

「…ああ。どういう訳か知らんが最初は俺達だけで見て欲しいんだとよ」

海之

「そしてその約束を守った訳か?」

火影

「……そうしねぇといけねぇ気がしたのさ」

 

火影はスコールの言葉を守っていた。

 

火影

「んじゃ、早速見てみるとすっかね。鬼が出るか悪魔が出るか」

 

そして火影はコンピューターを起動し、スコールから渡されたUSBを開く。……するとそこにはふたつのファイルとひとつのメッセージがあった。

 

 

火影

「これは…何かの計画書か?………「織斑計画」!?」

海之

「それにこっちは……「アインヘリアル計画」だと…?」

 

 

ふたりはその名前を見て不思議がる。何故計画に一夏や千冬の名字である「織斑」が付いているのか?そして何故そんなものをスコールが持っているのか?ふたりはとりあえずファイルを開き、見る。

 

火影・海之

「「…!!」」

 

そして驚愕した。最初のページに計画に関わっていたらしい者達の名簿があったのだが…その中に見覚えのある苗字を持つ者達の名前があったからだ。

 

火影

「おいおい…何の冗談だこれは…」

海之

「……」

 

 

 

 

 

計画責任者 「オーガス・アクス」

兵器設計・開発 「織斑秋斗」

生体体調管理担当 「織斑春枝」

…………

 

??? Mの部屋

 

 

「……」

 

その頃、Mは部屋を暗くしひとり、

 

「赤い奴と青い奴……。貴様らは……貴様らは……!」




※次回は27(土)の予定です。

「アインヘリアル計画」はオリジナル。そして「織斑計画」は原作から内容は違いますがお楽しみいただければ幸いです。


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Mission180 焦燥のM

オーガス(アルゴサクス)との戦いに気持ちを向ける火影(ダンテ)と海之(バージル)。
そんなふたりを強い想いで支える者達。
スコールの謎の行動や言動。
そしてオーガスの企み。

それぞれが動き始める中、火影と海之はスコールから渡された情報から驚愕の真実を知る。

「アインヘリアル計画」と「織斑計画」。そして「織斑」という姓を持つ者達…。

そして…事態は再び動くのである。


この日はIS学園全校上げてのスキー合宿の日。毎年恒例ではなく、昨年京都への修学旅行が無くなった代わりとして計画された云わば代謝行事である。今はそこに向かう一組のバスの中。

 

本音

「雪だ~♪」

シャル

「…本音、その感想前に火影の実家に行った時と同じだよ?」

セシリア

「そう言えば日本は積雪量では世界的に有名だと聞きましたわ」

一夏

「そうなのか?カナダやヨーロッパとかの方が多い気がするけど?」

「確かにそうだが日本も負けていないそうだぞ?雪の質も良いらしいからな」

本音

「でも一泊二日なのが残念だね~」

ラウラ

「わがまま言うんじゃない。急な予定だったし、生徒全員が泊まれる場所があっただけ良しとしようじゃないか」

 

皆それぞれが旅行を楽しみに会話する中、

 

火影・海之

「「……」」

本音

「…ひかりん?」

ラウラ

「どうした海之?」

火影

「…ん?ああ悪いなんだって?」

シャル

「珍しいね。ふたりが話を聞いていないなんて」

海之

「…すまない」

一夏

「もしかしてスキーが楽しみで眠れなかったとか?」

ラウラ

「本音はともかくふたりがそんな事する訳なかろう」

 

するとセシリアが周りに聞こえない様小声で、

 

セシリア

(もしかして……今回もファントム・タスクが?)

海之

(…いやそれは低いと思う。もうそんな事をする意味は無いと奴も言っていたからな)

シャル

(なにか気になる事があるなら言ってね)

火影

(ちょっと考え事してただけさ。悪かったな)

 

 

 

…………

 

そして一向は宿泊先に到着した。

学年毎に違う階に部屋が別れており、火影・海之・一夏の部屋は臨海学校の時と同じく千冬と真耶の隣の部屋とされた。そして其々が荷物を置くと後はもう自由時間である。修学旅行が駄目になり、宿泊も一泊という事から訓練等もない。夜の外出は禁止だが。そんな訳で学年毎に集まってスキーを楽しむ者は外へ出ていたのだが、

 

一夏

「…でもなんで刀奈さんまでこっちにいるんすか?」

刀奈

「気にしない気にしない♪虚には知らせてあるから問題ナッシング!それより一緒に滑りましょ♪」

「刀奈さんばかりずるいですよ!」

セシリア

「そうですわ!私達も一緒に滑りたいですのに!」

刀奈

「え~だって私スキーは初めてなんだもん~」

一夏

「…その割には初心者よりうまい気がするんすけど」

 

とそこに、

 

ロラン

「箒!私と一緒に滑ろう!」

「ろ、ロラン!い、いや私は…ちょ、ちょっと待って!」

 

そう言ってロランは箒を引っ張って行ってしまった。

……一方、

 

火影

「だから八の字に広げりゃいいんだよ八の字に」

シャル

「そそそ、そんな事言ったって!」

本音

「あわわわ!」

 

火影と鈴はシャルと本音に教えていた。

 

「シャルは機会が無かったって言ってたからわかるけど本音もなのね。……にしても本音、そのペンギン着てスキー板履いてプルプル震えてるのってなんかシュールね~」

シャル

「あははって笑わせないでよ鈴~!」

本音

「ひひ、ひかりんはどうやって覚えたの~?」

火影

「自然に覚えられるだろ?その気になりゃ氷山を滑り降りる事も難しくねぇぜ?」

シャル・本音

「「できないって!ってわぁ!」」ドサドサッ!

 

叫んだ勢いで正面の火影に向かって倒れ込むふたり。

 

火影

「おいおい大丈夫か?」

シャル

「う、うん。ゴメンね」

本音

「え、えへへ~」

「…わざとじゃないわよねアンタ達?…まぁそれはともかく火影、そんな事出来るのはアンタ位よ」

火影

「…そうでもねぇらしいぞ?」

「へ?」

ラウラ

「きょ、教官!もう少しゆっくり滑ってください!」

クロエ

「そうです!私達初めてなんですから!」

千冬

「なんだだらしのない。これ位滑れんようでは氷山を滑り降りる等できんぞ。それにボーデヴィッヒ、体幹の重要性を以前教えた筈だが?」

「ひょ、氷山なんて滑り降りれるものなのかな…?」

ラウラ

「も、申し訳ありません。それにしてもベルベット、お前は随分上手いな?」

ベルベット

「私は以前知り合いに教えてもらったことがあるから」

「そう言えば海之くんは?」

真耶

「海之くんならホテルにある暖炉の前で読書に勤しんでますよ」

「はは、海之くんらしいですね。ああそう言えばギャラクシーさんも読書してたっけ」

火影

「…な?」

「…千冬さんも案外前世があったりして…」

 

そんな一幕がありながらスキーは楽しく進んだ。

 

 

…………

 

だが楽しい時間というのはあっという間に終わるもの。生徒全員が久々とも言えるゆったりとした時間を過ごし、夕食も風呂も終えた頃。一夏達はホテルのロビーで休んでいた。

 

一夏

「つ、疲れた…」

 

一夏はあの後、セシリアや刀奈と一緒に滑っていたのだがそこにロランの手から逃げてきた箒も加わった。すると箒を追いかけてきたロランも更に加わり、一夏が「それなら全員で滑ろう」と言ってしまった事で更に更に多くの他の女子生徒が押し寄せてきたためにちょっとした騒ぎになったのだった。

 

本音

「おりむー大変だったね~」

セシリア

「結局一夏さんとふたりきりで滑る事はできませんでしたわ…」

「私もだ…。一夏、お前が皆一緒になんて言うからだぞ?」

一夏

「え~俺のせい~?てかなんで俺のとこばかり…、火影や海之はどしたんだよ~?」

「火影と私達ならあんたのあの一声聞いて嫌な予感したから直ぐに離れたのよ」

「海之くんはそもそもスキーしてなかったから関係無かったしね」

一夏

「う、裏切り者~」

セシリア

「…そう言えば火影さん達はどちらでしょう?先ほどから姿が…」

 

するとそこに刀奈が来て、

 

刀奈

「火影くんと海之くんなら先ほど出掛けたわよ。周囲の見回りに行きたいって。織斑先生も一緒にね」

「見回りって…こんな夜に!?」

「可能性は低いけど用心に越した事はないからって」

「私達も行こうと思ったんだけど…これは実行委員の役割だって」

シャル

「おまけに織斑先生に止められたら行けないよね」

ラウラ

「残念だ…」

真耶

「ま、まぁまぁ先輩もいますから大丈夫ですよ」

クロエ

「……」

 

 

…………

 

その頃、火影はひとりスキー場のはずれにある林の中にいた。海之と千冬に通信を繋ぐ。

 

火影

「…海之、そっちは?」

海之

(問題無い)

火影

「織斑先生」

千冬

(…特に変わったところは見当たらんな。レーダーにも反応無い)

火影

「そうですか。クロエにもしもの時を考えて作ってもらったが…必要無かったかな」

海之

(ホテルの中もさり気なく警戒していたが何も無かった)

千冬

(やはりお前が残っていたのはそのためだったか。話しておけば私も残っていたのに全く)

海之

(申し訳ありません…)

千冬

(い、いや謝らなくても良い。ただ次からは予め話せ、良いな?)

火影

「…そろそろ戻るか。もう流石に……………」

千冬

(どうした火影?)

火影

「……あと一ヶ所だけ見ておく。ふたりは先に帰っててくれ」

千冬

(ひとりで大丈夫か?)

火影

「直ぐに戻りますから」

海之

(……)

 

それだけ言うと火影は通信を切る。すると、

 

火影

「……………いつまでそんな所に隠れてんだ?」

 

火影は誰もいない筈の林の中で声を出す。

 

(…………)

火影

「どこの誰か知らねぇがそんなに殺気むき出しじゃ幾ら上手く隠れてても意味ねぇぜ?さっさと出てこい」

 

すると、

 

火影

「!」

 

ズドンッ!

カッ!…キィィンッ!!

 

突然飛んできた銃弾。それを火影は透かさずバルログを左手に展開し、弾を熱で蒸発させる。

 

火影

「次はそっちが一発撃つ前に俺はテメェの頭に二発風穴空けるぜ?」

 

火影は凄みを含む声で相手に呼びかける。既に右手のエボニーが飛んできた方向に向けられていた。…………すると、

 

 

………ザッザッザッザ

 

 

それは雪を踏みしめ、暗闇から姿を現した。

 

火影

「……てめぇか」

「……」

 

バイザーを被り、黒い服を身に着けた女。それはMだった。

 

火影

「随分なご挨拶だな。だが生憎一夏はここには来てねぇぞ」

 

するとMは意外な言葉を出す。

 

「……織斑一夏に用はない。奴などいつでも倒せる。用があるのは…貴様ら兄弟の方だ」

火影

「…妙だな?お前は今まで一夏一筋だったのに今度は俺か?せっかくだが相手には困ってないぜ」

 

火影は相手にしない様にする。

 

「貴様らは、貴様らは私が倒せねば…私は、私は…!」

火影

「……」

 

そう言うとMは自らのISである黒騎士の媒体と思われる黒いクリスタルを出す。

 

「確か火影と言ったな!今ここで私と戦え!!」

 

だがそんなMに対し火影はふざけた調子を崩さずに返す。

 

火影

「…嫌だね。俺の敵はあのオーガスっていうジジイだ。てめぇじゃねぇ」

「ならば嫌でも戦う様にするまでだ!………!?」

 

Mは困惑した。黒騎士が展開されない。

 

「何故ISが展開されない!?」

 

焦るM。すると、

 

火影

「前にてめぇのお友達が使った手を使わせてもらったぜ」

 

火影は手に小型のデバイスの様なものを持っている。

 

火影

「こいつはてめぇのお友達が使った……リムーバーだっけか?それと同じ波を発生させる事ができんのさ。範囲も狭いし使った俺も使えねぇんだけど。ちょいと縁があって作ってみたぜ」

「くっ!」

火影

「…しかし妙だな。オーガスのずる賢さならこんな対策とっくにしてると思ったんだが。何も持たされないまま来たのか?てかこんな馬鹿な手が奴の指示か?」

 

するとMは意外な答えを言った。

 

「…主は知らない」

火影

「…あ?」

「主からは貴様らに手を出すなと言われている…。私では…貴様らには決して勝てぬと」

火影

「要するにてめぇの独断って事か…。なら猶更戦う道理はねぇな。奴にバレない内にさっさと帰んな」

 

するとMは手にナイフを持ち、

 

「黙れ!貴様もISを使えないのなら条件は同じだ!ISが使えなくても私がこの手で殺してやる!」

 

それでも戦おうとするMに対し、火影は手に持っている機械をポンポン投げながらこう答えた。

 

火影

「ぶっそうな事言うねぇ。…言っとくが、俺がこいつを使ったのはISを使えない様にするためじゃねぇ」

「…どういう意味だ!」

 

すると火影は両手を広げ、余裕に満ちた表情でこう答えた。

 

火影

「決まってんだろ?スキーで疲れてホテルで寝てるあいつらを馬鹿騒ぎで起こしたくねぇだけだ」

 

この言葉が完全にMを怒らせた。

 

「…ならば貴様はここで永遠に眠らせてやるわ!!」

 

するとMは手に持ったナイフで斬りかかる。

 

シュン!

 

しかし火影はそれを難なく避ける。

 

シュン!シュン!シュン!

 

次も、次も、その次も。

 

「くそっ!」ガシッ!「!」

 

ブンッ!!

 

火影はMの腕を掴み、彼女の身体を放り投げる。雪の上なので其ほどの痛みは無い筈。

 

ドサッ!「がはっ!」

火影

「筋は中々だが、怒りのあまり意味を成してねぇ。動物みてぇに本能で突っ込んでくるだけか?」

「黙れ!」ドドドン!

 

Mは小銃で火影を狙う。

 

キキキンッ!

 

その弾は火影のナイフで防がれる。

 

火影

「ラウラからもらったのが役に立つとはな」

「長剣どころかナイフで防ぐとは…!」

火影

「さっきといい今といい銃の扱いも中々だ。避ける暇が無かったぜ。……流石」

 

とその時、

 

「「「火影!」」」

 

火影とMの所に海之や千冬、更に一夏、箒、鈴、ラウラも来た。

 

海之

「随分遅い見回りだな?」

「火影!大丈夫!?」

火影

「海之や先生はともかくおめぇら…よくわかったな?」

ラウラ

「私の聴覚を甘く見るなよ火影。銃声が聞こえたから駆けつけたのだ。他の皆は刀奈さんの指示で万一を考えてホテルに残っている。それより…」

「……」

一夏

「M!」

「お前性懲りもなく!」

千冬

「……」

「織斑一夏、それに織斑千冬。今は貴様らに用はない!」

一夏

「どういう事だ!?」

火影

「今のこいつの狙いは俺と海之なんだとよ」

「! 火影と海之を!?」

「そうだ…。貴様らは…私の手で倒さねば!」

「どういう事だ…?」

一夏

「ふざけんな!お前の相手は俺だ!」

 

一夏が前に出ようとすると火影が止める。

 

火影

「よせ一夏。今コイツの相手は俺だ」

一夏

「だけど!」

火影

「冷静になれ一夏。もうお前は以前のお前じゃねぇんだろ。憎しみに囚われんな」

一夏

「!あ、ああ。でもこいつは!」

火影

「いいから俺に任せろ。海之、それに皆も手を出すな」

海之

「…その必要もないだろう」

千冬

「…お前達下がれ」

 

千冬にそう言われて皆は下がる。そして火影とMは再び向かい合う。

 

「こざかしい真似を…。纏めて相手してやろうと思ったのに」

火影

「強がるなよ。んじゃ再開といこうぜ?とっとと終わらせて寝ちまいてぇしな」

「…貴様ァァァ!!」

 

どこまでも余裕な火影にMは怒りのまま再び斬りかかった…。

 

 

…………

 

???

 

 

だがそんなMの様子をこちらが気付いていない筈は無かった。

 

スコール

「…M。…あの子どうして…」

オータム

「…けっ!てめぇが奴らの相手になるかよ」

スコール

「止めなさいオータム。あの子だって馬鹿じゃない。これまでの戦いからあんな事が無謀だって事はわかっている筈なのに…」

オータム

「…どうでもいい。奴らを殺すのは私だ」

 

ウィ――ン

 

すると部屋の扉が開き、入ってきたのは

 

スコール

「…オーガス、Mが…!」

オーガス

「……」

 

オーガスはその様子を黙って睨みつけていた…。

 

 

…………

 

場所は戻り、再び火影とMの戦い。

 

ガキンッ!キンッ!

ズドンズドンズドンッ!

キキキン!!

 

「でやあぁぁぁぁ!」

 

Mは先ほどから火影に止む無い攻撃を繰り返す。ナイフ、小銃、そして時には体術も使い、本気で殺しにかかる気合で。しかし、

 

ドゴォッ!

 

「ぐほっ!」

火影

「読みの速さに頼りすぎなんだよ」

 

それらは全て火影に弾かれる。ナイフも銃も体術も身長の差も利がある火影に。この程度の殺意を向けられるのは慣れたもの。前世で幾度となく命を狙われた彼にとっては。

 

「お、おのれぇぇ!」

 

しかしMもまた休まず攻撃を仕掛ける。何度押し返されても。

 

「やっぱりISを使わなくても火影強いわね」

「…しかし敵ながらMの奴も凄い体力だ。あれほどやられているというのに」

ラウラ

「ああ…。いくら雪があるとはいえダメージが無い訳では無い筈だ。少し異常に近いぞ」

千冬

「……」

一夏

「千冬姉…?」

海之

「……」

 

ガキィィィィィン!!

 

「うわぁぁぁ!」ドサッ!

 

そして何度目かの撃ち合いの後、とうとうMの持っているナイフが折れた。

 

「ここまでだな…」

「まだ…まだだあぁ!」ダッ!

「あいつまだ諦めないの!?」

 

殴りかかろうとするM。すると、

 

ガシッ

 

「!」

火影

「こんなん付けてたら前が良く見えねぇだろ?視界不良は事故のもとだぜ!」ブンッ!!

 

火影はMの付けるバイザーを掴み、そのまま放り投げる。その衝撃でバイザーが取れる。放り投げられたMはうつ伏せで地面に倒れこむ。顔を隠すように。

 

「ぐは!…き、貴様バイザーを!」

火影

「話をする時は人の目を見ろって教わらなかったか?……マドカよ」

「!!」

千冬

「火影…お前!?」

海之

「……」

 

その名前を聞いて顔を隠してうつ伏せのMが一瞬反応し、千冬は驚く。海之は目を細めて沈黙する。

 

「マドカ…?それがあいつの名前?」

一夏

「そ、そう言えば確か千冬姉も前にそんな名前を…!」

「だからMか…。しかし何故火影が?」

「貴様…何故その名前を!?」

火影

「話をするときは人の目を見てやりな。いい加減顔上げねぇとふやけちまうぜ、マドカ」

「…貴様ぁぁぁ!!」

 

マドカという名前に反応して怒りが頂点に達したのかMは起き上がり、顔を伏せたまま再び折れたナイフで斬りかかる。しかしやはりこれも腕を掴まれ、今度は、

 

火影

「いい加減にしねぇか!!」ブンッ!

「ぐあぁぁぁ!」

 

怒りの声と共に火影に思い切り放り投げられたM。

 

ドサッ!「がはっ!」

 

すると仰向けになった顔が月の光で見えた。

 

一夏達

「「「!?」」」

海之・千冬

「「……」」

 

そしてそのMの素顔を見て一夏達は激しく困惑した。海之と千冬は沈黙する。何故なら、

 

 

千冬にそっくりな顔のM

「ぐっ、うぅ…」

 

 

その顔は千冬とそっくり、一見やや幼い千冬とも言える顔だったからだ。

 

一夏

「なっ、……千冬姉!?」

ラウラ

「ば、馬鹿な!何故奴が…教官と同じ顔をしている!?」

「ど、どういう事だこれは!」

「良く似てる、とかそんなレベルじゃないわね…」

千冬

「……」

 

千冬と同じ顔をしたMに一夏達は言葉が無い。その千冬は沈黙したまま。

 

マドカ

「おの、れ…貴様…!」

火影

「マドカよ、無様だぜ今のアンタ。そんなんじゃ俺らはおろか、一夏や鈴達にも勝てやしねぇ」

マドカ

「その名で私を呼ぶな!その名前で呼んでいいのは!……」

 

何故かそこで黙る。

 

「どうした!何故黙る!」

マドカ

「ぐっ……何故だ!何故貴様はそこまで強い!平和な世界でぬくぬくと育った貴様らが!何も失っていない貴様らが!ISを使えるだけでなく、どうしてそれほどまでの力を身に着けたというのだ!?」

 

手で雪をかきむしるマドカ。悔しさがにじみ出ている。

 

火影

「……」

千冬

「マドカ…」

「何も失っていないですって!ふたりの事何も知らない癖に!」

ラウラ

「そうだ!貴様海之と火影がどれだけのものを!」

海之

「よせふたり共。…もう昔の話だ」

 

そう言って海之も前に出る。

 

海之

「…M、いやマドカ。俺の知っている奴も嘗てお前と同じ考えだった。何も背負うものもなく、何も守るものも無い。力のために何もかも捨てた者こそ強いと。だが、そんな男にある奴が言った。無くしたから強いんじゃない、無くしたくないから強いとな」

マドカ

「…無くしたくないから強い…だと?」

火影

「俺達には失いたくないもんがある。だから絶対負けられねぇのさ。……お前にもあったんじゃねぇのか?失いたくないもんが。例えば…兄弟とか姉妹とかよ」

マドカ

「…!!」

 

その言葉を聞いたマドカの目が大きく開かれる。

 

火影

「…マドカ。お前が俺らの過去に何があったか知らない様に、俺らもお前の過去にどんな事があったのかはそんなに詳しくは知らねぇしそれを変える事も出来ねぇ。でもよ、未来は変えられるんだぜ?これからのお前次第でな」

 

すると火影に続いて千冬が話しかける。

 

千冬

「……マドカ。もうやめろ。お前は」

 

するとそんな千冬の言葉を遮って、

 

マドカ

「黙れ!貴様が私に言うのか!?9年前貴様が!いやもっと言えば11年前貴様と篠ノ之束があんな事をしなければ私は、私達は!」

千冬

「……」

「11年前って…まさか白騎士事件か!?」

ラウラ

「そして9年前とは…第一回モンドグロッソのあった年だな…」

マドカ

「そして織斑一夏!貴様は私の、存在の意味を傷つけた!」

一夏

「だからそれがわからねぇって言ってるだろう!俺とお前と一体なんの関係があるんだよ!」

マドカ

「…更に貴様らだ赤と青の兄弟!貴様ら兄弟を倒さなければ…私は!」

火影・海之

「「……」」

マドカ

「戦えぬ私等意味は無い!私が生まれた時からな!」ジャキッ!

 

そしてマドカは再び立ち上がり、戦おうとする。

 

ヴゥ――ンッ!

 

すると火影とマドカの間に転移が現れた。

 

スコール

「……」

 

現れたのはスコールだった。

 

スコール

「M、戻りなさい」

「スコール!邪魔をするな!こいつは私が!」

スコール

「オーガスの指示よ!」

「!」

スコール

「…戻りなさい」

「……」

 

Mは悔しい表情を崩さず転移して去った。

 

千冬

「スコール・ミューゼル…!」

 

背を向けながらスコールは言う。

 

スコール

「…できればこのまま見逃してくれるとありがたいんだけど」

ラウラ

「何をふざけた事!そんな事できる訳」

 

するとそんなラウラを海之が抑える。

 

ラウラ

「海之!?」

海之

「……」

火影

「お前らの気持ちはわかる。俺達も同じだ。でも…今はいい」

一夏

「火影…お前」

スコール

「……」

火影

「教えろ。これがあいつの独断ってのは本当か?」

スコール

「…ええ。私も、オーガスも関わっていない」

火影

「…そうかい」

「スコール・ミューゼル!姉さんは無事なのだろうな!?」

スコール

「ええ…。…じゃあね」

 

それだけ言うとスコールは頷いて転移し、帰って行った。

 

 

…………

 

火影・海之・一夏の部屋

 

 

事後、火影達はホテルの火影達の部屋に集まっていた。

 

シャル

「火影大丈夫?怪我とかしてない?」

火影

「ああ大丈夫だって」

本音

「良かった~」

刀奈

「幸い他の皆には知られていないわ。先生方にも山田先生から何も言わない様にしてほしいって伝えられてる」

セシリア

「それにしてもMという方が再びやってきたなんて…。しかも今度は火影さんを狙ってきたのですね?」

「ええそうみたい。あいつも火影と海之は自分の手で倒さなきゃって言ってたわ」

「どうして…なんでふたりを…。しかもオーガスでもスコールって人の指示でもなく」

ラウラ

「わからんが…Mの奴、妙にいつもと違っていた。かなり追い込まれていて余裕が無い様子だったな」

 

そしてここで最大の疑問が浮かぶ。

 

「それもあるが…もっと気になるのは、何故Mが千冬さんと同じ顔をしていたのかという事だ」

一夏

「そ、そうだ!どうしてなんだ千冬姉!一体あいつはなんなんだ!?」

千冬

「……」

 

一夏は千冬に詰め寄るが千冬は答えない。

 

一夏

「千冬姉はあいつをマドカって呼んだ!てことはあいつを知ってるんだろ!?あいつとどういう関係なんだ!?」

クロエ

「い、一夏さん落ち着いて下さい」

一夏

「それにあいつは俺に存在を傷つけられたと言ってた。どういう意味なんだ!?千冬姉は何か知ってるんじゃないのか!」

 

だがそんな一夏に対し、千冬は、

 

千冬

「……何も話す事はない。一夏、お前はもう奴に関わるな」

一夏

「な、なんでだよ!?」

千冬

「私が終わらせる。あいつの事は…元々私の問題なのだ」

一夏

「こっちは何度も命狙われてんだ!せめて理由位話してくれよ!」

千冬

「答える事は無いと言った筈だ…」

 

そう言うと千冬は部屋を出ていこうとする。

 

千冬

(…あいつは、…あいつはお前の…)

 

千冬はそれ以上続けずに出て行った。

 

一夏

「千冬姉!」

火影・海之

「「……」」

ラウラ

「教官…一体どうされたのだ?」

「わからない…。しかし何かご存知なのは間違いないな。あの、マドカという奴について」

刀奈

「でも一夏くんにも話せない程の理由って……」

 

話し合いが続く中、一夏は、

 

一夏

「…千冬姉。悪いけど今回ばかりは千冬姉の言う事には従えねぇ」

「一夏」

一夏

「大丈夫だよ箒。俺はあいつを憎いんじゃねぇ、ただ許せないだけだ。…あいつが俺をなんであそこまで恨んでんのかわからねぇ。そしてなんで…千冬姉と顔がそっくりなのかも」

火影・海之

「「……」」

一夏

「でもよ。そんなに俺を倒してぇなら俺のところに正面からタイマンで向かって来りゃいいんだ!学園巻き込んだり火影達を巻き込んだりする、その卑怯なやり方が許せねぇんだ!」

セシリア

「一夏さん…」

一夏

「あいつはまた必ず来る。そん時は今度こそ勝ってみせる!俺と白式、そして雪片・参型で!そしてとっ捕まえて全て話してもらう!Mにも、千冬姉にも!」

 

一夏の心は闘志に満ちている様子だ。

 

ラウラ

「……そうだな。今は何事も無かった事を幸いに思おう」

シャル

「そうだね。火影も皆も無事だったし、とりあえず今日は休もうよ」

本音

「私も眠~い」

火影・海之

「「……」」

 

 

…………

 

???

 

 

その少し前、戻ってきたMはオーガスと対峙していた。傍にはスコールとオータムもいる。

 

スコール・オータム

「「……」」

オーガス

「Mよ…。何故あの様な事をした…?」

「……」

 

オーガスは問いかけるがMは答えない。

 

オーガス

「Mよ、私は以前言った筈だ。奴らに手を出すなと。お前では奴らには勝てぬと。私が直接手を下すと。なのに…何故だ?しかも勝手に」

「そ…それは……わ、わた、しは…主のお役に立ちたく」

オーガス

「手を出すなと、言った筈だが?」

「…も、申し訳ありません…」

スコール・オータム

「「……」」

 

オーガスは無表情で、スコールは心配するようにMを見つめる。オータムは気にも留めていないのか別の方向を見ている。

 

オーガス

「……」

「……」

スコール・オータム

「「……」」

 

暫しの沈黙が流れ、

 

オーガス

「…もう良い。…M、お前のISを寄越せ」

「!? あ、主!」

オーガス

「寄越せ」

「……」

 

Mは黒騎士のクリスタルをオーガスに渡す。

 

オーガス

「暫しすれば返してやる。もう下がれ」

 

それだけ言うとオーガスは出て行った。

 

「……」

 

Mもまた黙って部屋を出て行った。その後ろ姿を見て、

 

スコール

「M…」

オータム

「けっ…、「出来損ない」が…」

 

 

…………

 

IS学園 千冬の部屋

 

 

スキー旅行の二日目は幸い何事もなく終了し、真実を知っている者以外の者は無事イベントの終了を喜んだ。そんな日の翌日放課後、

 

…コンコン

 

火影

「失礼します。織斑先生、いらっしゃいますか?」

千冬

「火影か?待っていろ」……ガチャッ「……海之もいたのか。どうしたふたりして?」

 

訪ねてきたのは火影だけでなく海之もいた。すると、

 

海之

「…とても大事な話があります。お手数ですが、例の会議室まで来ていただけませんか?」

千冬

「大事な話?」

火影

「…はい」

 

火影と海之は真面目な表情をしている。

 

千冬

「……少し待て」

 

千冬も何かを感じたらしく、ふたりと共に秘密の会議室に向かった。

 

 

…………

 

IS学園 秘密の会議室

 

 

千冬

「…よし、周りから遮断したぞ。…それで話とは?」

 

そして火影は……あのUSBを千冬の前に出す。

 

火影

「……先週の土曜、スコール・ミューゼルから渡されたものです」

千冬

「! なんだと!接触してきたのか!?」

海之

「黙っていて申し訳ありません。ですがその経緯をお話する前に…どうしても千冬先生にお聞きしたいことがあるのです」

千冬

「……何だ?」

 

千冬はUSBが気になったがとりあえず質問を聞いてみる。

 

海之

「……Mが、マドカというあの女が一夏や千冬先生を狙う理由。そして、先生が一夏に話せない理由」

 

そして火影は言った。

 

火影

「全ては……「アインヘリアル計画」そして、「織斑計画」のせいではありませんか?」

千冬

「…!!」ガタッ!!

 

それを聞いた千冬が慌てて立ち上がる。その反応を見て海之達も確信する。

 

海之

「やはりそうでしたか…」

千冬

「お前達…何故!?…どこでそれを!!」

火影

「…あの女が渡してきたこれに入っていたのです。そのふたつの計画についてのファイルが。そして……」

 

 

…………

 

火影と海之は自分達が見たそれについて話した。その内容に千冬は驚きを隠せない。

 

千冬

「…あの計画の担当責任者が…オーガス…。あの男、だと…!?」

火影

「…ええ。初めてこのファイルを見た時は俺達も信じられませんでした。でも先日の先生の一夏への反応と言葉。そして先生がMをマドカと呼んだのを聞いて…確信しました。先生も、この計画をご存じである事を…」

千冬

「……」

 

千冬は力なく再び座る。

 

千冬

「……何故これを渡された事を直ぐに言わなかった?」

火影

「…頼まれたからです。必ず俺達だけで見ろと。そして…その意味が分かったんです」

千冬

「…意味?」

火影

「実はUSBにはもうひとつ……」

 

火影はその「意味」というのを千冬に話した。

 

千冬

「!!」

 

するとそれを聞いた千冬に再び驚愕の表情が浮かぶ。

 

千冬

「そんな……では、あいつは…!」

火影・海之

「「……」」

 

火影と海之は頷く。

 

千冬

「……なんという事だ…」

 

千冬は力なく項垂れる。

 

千冬

「名簿があったなら……あの名前も見たのか?」

火影

「……はい」

千冬

「……」

海之

「…どうしますか?…あいつに、伝えますか?」

千冬

「………お前達はどうすればいいと思う?」

火影

「俺達が決めて良い事じゃありません。……でも俺達は信じてます。今のあいつは大丈夫だと」

海之

「一夏は千冬先生を誰よりも大切に想っています。例え全てを知っても…それは変わらないと思いますよ」

千冬

「………」

 

長い沈黙が続いた後、やがて千冬は顔を上げ、電話を取った…。




※次回は来月11日(土)の予定です。二週間飛んでしまいましてすいません…。仕事が忙しくなかなか進みませんのが申し訳ないですが少しずつ進めておりますので気楽にお待ち頂ければ幸いです。


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Mission181 悪魔よりも残酷な人による計画

学園あげてのスキー旅行。短い自由時間を堪能する一行だったが偵察に出ていた火影の前にMが奇襲をかけてきた。……しかし実力ではやはり火影の方が上。一方的な戦いの中でMはバイザーの下に隠された素顔をさらけ出してしまうが、それを見た一夏達は言葉を失う。

「Mが…千冬姉と同じ顔をしている!?」

戦いの後で一夏は千冬に真相を問うが千冬は答えない。
そんな彼女に火影と海之はスコールから渡されたファイルを見せ、核心に触れるのであった…。

「全ては…アインヘリアル計画そして、織斑計画のせいですね…」


火影と海之が千冬に事のあらましを話した日から更に三日ほどが経ったある日の放課後…。一夏や箒達は揃ってある場所にいた。

 

シャル

「…何だろうね?織斑先生から呼び出しなんて」

「さぁ…。でも電話の内容から重要な話である事は想像できるわね」

 

三日前の放課後、一夏達の携帯に千冬から一斉にメールが届いた。その内容は一文だけだった。

 

 

(大事な話がある。全員が集まれる日にある部屋に来い。真耶には伝えておく)

 

 

ここは火影達や千冬達が以前から使っていた秘密の会議室。千冬から連絡を受けた一夏達は全員が集まれる日を伝え、真耶の案内でここに訪れ待っているのだった。

 

「先日の部屋のみでなくこんな部屋まであったんですね」

真耶

「ここは機密もしくは極めて重要な話し合い等を行うための部屋です。隔離モードという機能で部屋全体を周囲から完全に隔離する事ができます」

クロエ

「私や束様も交えて以前より使っていました」

一夏

「そうなのか。通りでイベントの前とか火影達の姿が見えなくなる時があったと思ったらここで話し合いをしてたって事か」

ラウラ

「それにしても教官の大事な話とはなんだろうか…。山田先生は何かご存じありませんか?」

真耶

「…いえ、今回は私も知らないんです。先輩に聞いても話してくれなかったので…。ただ皆さんを連れてきてほしいとしか…」

セシリア

「山田先生もご存じないなんて…」

「海之くんや火影くん達もいないって事は…もしかしてまたふたりについての話かな?」

クロエ

「…いえ、トリッシュさん達の様子からしてそれはないと思いますが…」

本音

「ひかりんも何も言ってなかったよ~?」

刀奈

「まぁいずれにしても大事な話なのは間違いなさそうね…」

 

一夏達は互いに予想しながら千冬達の到着を待っていた。

 

 

…………

 

……すると暫くして扉が開き、入ってきたのは火影と海之、そして千冬だった。

 

シャル

「あ、来た来た」

火影

「すまねぇな遅れて」

千冬

「……」

 

火影と海之に比べ千冬はやや暗い表情をしている。

 

真耶

「…先輩?」

ラウラ

「教官…?」

一夏

「千冬姉。俺達に話ってなんだよ?」

 

すると千冬の代わりに火影が話し出す。

 

海之

「俺達から話す。先生は今回つきそいだ」

「つきそい?」

海之

「そうだ。先生には足りない部分を補足してもらう」

火影

「今回皆を呼んだのは他でもねぇ。先生から聞いてるだろうが…大事な話がある。極めて重要な話がな」

「…極めて重要な話?」

海之

「ああ…。だが決していい話ではない。…聞けば後悔するかもしれん。しかしこれからもファントム・タスクと戦うというのであれば…知っておかなければならないだろう…」

「き、聞けば後悔って…そんな不気味な話なの?」

ラウラ

「それにファントム・タスクと戦う上で、というのはどういうことだ?」

 

他の皆も同じ様な反応を見せる。…すると火影はあのUSBを見せる。

 

クロエ

「USBメモリとは古風ですね」

火影

「これは少し前に…あのスコール・ミューゼルが俺に渡したもんだ」

セシリア

「! それは確かファントム・タスクの…!何故あの方がそんな事を!?」

火影

「さぁな。まぁとにかく渡されたのさ。俺達に見てほしいってな。そんで最初俺と海之だけで開けてみた。奴らの居場所については書かれてなかったが…中々興味深いもんがあったぜ」

刀奈

「興味深いもの?」

海之

「…ええ。興味深くそして、本来ならば世に出してはいけない位のものがな」

真耶

「よ、世に出してはいけない、って…?」

シャル

「ふたりがそこまで言う程のものって一体…?」

火影

「今から話そうと思ってんのはこの中身についてだ。…ただし言っておく。海之も言ったが…はっきり言って知らない方がいいかもしれねぇ。それ位キツい話だ。但し奴らと戦うってんなら…知っとかなきゃならねぇ。だからお前らを呼んだんだ。周りに知られない様にすんのと…最終通告のためにな」

「さ、最終通告…?」

海之

「言葉の通りだ。今ならまだ間に合う。知らない方が良かったと後悔したくないなら出て行く事を薦める…」

 

その場にいる全員に緊張が走る。火影と海之からできれば知ってほしくないという気が伝わってくるからだ。以前自分達の真実を話した時も少なからず感じた事はあった。しかし今回はその時以上に伝わってくる。今までに見たことが無いふたりの様子に全員が沈黙する中、ここでも沈黙を破ったのは一夏だった。

 

一夏

「……俺は知りてぇ」

「一夏…」

一夏

「上手くは言えねえけど…俺は逃げる訳にはいかねぇ。知らなきゃならない。そんな気がするんだ。あのMって奴の事も気になるしな…」

千冬

「……」

 

すると他の皆も、

 

「……そうね。ここまで来て逃げるなんて選択肢はないわ」

「…ああそうだな。姉さんを救うためにも逃げる訳にはいかん」

「きっと前の私なら多分怖くて逃げてたかもしれないけど…もう逃げないよ」

クロエ

「何があっても私の気持ちも変わりません。お願いします兄さん」

 

一夏に続き、肯定の言葉を出した。するとふたりも皆がそう答えるのを予測していたのか、正直に話す事にした

 

海之

「……」

火影

「……わかった。織斑先生、良いですね?」

千冬

「……」

 

千冬は黙って頷いた。

 

一夏

(…千冬姉…?)

海之

「では話してやろう。この中に入っているのは…あるふたつの計画に関するファイルだ」

ラウラ

「…ふたつの計画だと?」

火影

「…発端は結構昔にまで遡る。…今から約16年前、世界中から優秀な科学者、そして大勢の人間が集められた。そしてそこで人知れず、狂気に満ちた悪魔の計画がスタートした」

「…狂気に満ちた」

「魔の計画…ですって?」

 

言葉に皆息を飲む。そして火影はその名を言った。

 

 

火影

「……「アインへリアル計画」。またの名を…「プロジェクト・ヒュドラ」」

 

 

一夏

「…アインヘリアル計画…?」

クロエ

「プロジェクト…ヒュドラ?」

火影

「そしてこの計画の指揮を取っていたのが…あのオーガスだ」

「! な、なんですって!あの男!?」

海之

「そうだ。奴は元々とある国の優秀な科学者だった。それが19年前に何故か突然前世の記憶を取り戻し、今の様な狂人になってしまった。その奴が立案して通ったのが…」

刀奈

「そのアインヘリアル計画。プロジェクト・ヒュドラ、って訳なのね…。ならば何故余計にあの女が私達に渡したのか気になるところだけど…」

本音

「ねぇヒュドラって何?」

セシリア

「ギリシャ神話に伝わる怪物ですわね…。広く知られているのは蛇の様な姿で、再生し続ける複数の首を持っていると言われています。それ故決して倒すことができない不死の力を持った怪物とされていましたが最後は神によって倒されました」

真耶

「そ、そんな怪物をどうやって倒したんですか?」

セシリア

「首の傷口を焼いて生き返らない様にし、最後の一本を断ち切ったところで絶命したと伝えられています」

シャル

「そうなんだ。やっぱり詳しいねセシリアこういうの」

ラウラ

「まぁその怪物については今はいいだろう。重要なのはその計画の内容だ。オーガスが関わっているとなるとマトモな計画ではない気がするな」

クロエ

「そもそも何故そのような名前を…?」

 

するとそれに対して火影が答える。そしてその内容に一夏達は驚愕した。

 

 

火影

「それはこの計画の内容からだ。…プロジェクト・ヒュドラ。名前の通り怪物、「不死身の兵士」を創り上げようという計画だったそうだ」

 

 

一夏

「…は?なんだって!?」

「不死身の兵士だと!?」

セシリア

「そ、そんな…そんな事出来るわけありませんわ!」

「不死身なんて悪魔以上に絵空事だわ!子供でも分かる事じゃないの!」

海之

「…ああそうだ。不死など出来る訳がない。だが…それに近いものならば創る事はできると奴らは考えた」

「近いもの…って?」

火影

「痛みを感じず、飢餓もものともしない。どんな絶望的状況でもひとりで戦況をひっくり返せるほどの力を持った、そんな兵士さ。極めて死ぬ可能性が低いから不死身に近いって訳だ」

「無茶苦茶よ!そんなのまるで機械じゃないの!」

シャル

「ちょ、ちょっと待って!さっき確か世界中の科学者が集まったって言ってたけど…じゃあ多くの国がそんな計画に協力してたって事!?」

火影

「そうだ。勿論全ての国じゃねぇけどな。大国や軍国、もしくはこの計画に賛同する企業や権力者がこの計画に金や資材、そして人間を派遣した。オーガスの言う不死の兵士、若しくはその実験データ欲しさにな」

本音

「そんな…」

ラウラ

「クロエさん…軍国という事は…」

クロエ

「ええ…間違いなくドイツも関わっているでしょうね」

「それだけじゃないわよ。大国って言ったら…」

セシリア

「ええ…私達が知る国は殆どでしょうね…」

 

全員が衝撃の事実に言葉を失っている。

 

火影

「USBの中には名簿もあった…。俺としてはスメリアのもんが入っていなかったのは正直少しほっとしたぜ」

海之

「計画に関わっていた科学者及び人間は計画が外に漏れだすことを防ぐために全て情報統制を敷かれていた。奴らとしてもこの様な事が公になれば一大事だからな」

「…確かにその様な事が世に出ればどうなるかわからんな…」

クロエ

「しかしどうやってそのような兵士を創ると…?」

 

すると海之はセシリアにある質問をした。

 

海之

「…セシリア、お前は「アインヘリアル」という言葉を知っているか?」

セシリア

「え、ええ聞いたことは。確か…北欧に伝わる「死んだ勇者達」の総称ですわ」

「…死んだ勇者?」

セシリア

「ええ。戦いの中で命を落とした勇者や英雄の魂が死後、神の使いであるヴァルキリーによって神々が住まいし宮殿に集められるのです。集められた戦士達はそこで連日互いの腕を磨くために戦い、殺し合います。来るべき神々の最終戦争に向けて」

本音

「こ、殺し合うって…死んじゃったら元も子もないんじゃないの…?」

一夏

「いやもう死んでるけどな」

セシリア

「いえ。例え命を落としても戦士達はその日の内に再び生き返ります。そして翌日になると再び戦います。来る日も来る日も。全ては強くなるために」

「戦う事しかしない死後か。…全く選ばれたくないな」

セシリア

「ですが大航海時代の海賊や水軍の兵士達にとってアインヘリアルに選ばれる事は一番の名誉とされていましたわ。神々の国で最上級のもてなしを受けていると言われていましたから。その為に死を恐れない勇猛果敢な者も多かったそうです」

「でもそんなもん所詮伝説でしょうが。実際死んだ後なんてどうなるかわかんないんだし。そんなもんに命懸けるなんて全く理解できないわね」

 

他の皆もそれに頷く。

 

真耶

「で、でもそれとその…アインヘリアル計画?それとどういう関係が…?」

 

するとふたりはそれに答えた。驚くべき答えを。

 

海之

「…「不死身に限りなく近い兵士」、それを創り出すために奴らがとった方法。それは…ただ只管戦わせる事。複数の人間をな」

 

一夏達

「「「!!!」」」

 

火影

「実戦は最大の糧っつうだろ?アインヘリアルの勇者の如く、只管に戦わせるのさ。試合とか訓練なんてもんじゃねぇ、本気の戦い殺し合いをな。何時終わるかしれない戦いの中で最後に生き残った者こそ勝ち上がった勇者、本当に強い兵士って訳さ」

 

「な、何だと!?」

セシリア

「そ、そんな…なんて事を!」

「そんな計画が…ほんの16年前にあったの!?」

「ふ、複数の人間て、そんな事進んでやりたがる人間なんてそんな要る訳ないでしょう!どうやって用意するのよ!?」

海之

「…人を集めるのは簡単だ。生まれた時から戦場で生きた少年兵や戦災孤児、死ぬ運命しかない死刑囚、戦いを求める傭兵や一戦を退いた老兵、理由なく戦う事が好きな奴。色々ある…」

火影

「興味を持ちそうな奴にはでまかせを言って参加を促した事もあったらしいぜ。金と引き換えにな」

シャル

「そんな…!」

海之

「貧しい者を抱えた様な者からすればやむを得ないと思う者もいただろう。戦争でも凄惨な毎日よりは良い、とある者も言っている」

ラウラ

「た、確かにそうかもしれないが…し、しかし!」

火影

「わかってるよ言いたい事は。でもそれしか選択の余地が無かった奴もいたって事だろ…」

一夏達

「「「………」」」

 

一夏達は言葉を失っている。

 

火影

「更にこの計画と同時進行で様々な事が行われていた」

「…様々な事?」

火影

「ああ。さてここでひとつ質問だが、「大した威力は無いがまるでオーダーメードの様に使いやすい武器」か、「一発大逆転できる威力だが滅茶苦茶使いづらい武器」か、お前らならどっちを選ぶ?」

一夏

「弱いけど使いやすい武器と…強いけど使いづらい武器?」

刀奈

「決まっているわ。使いやすい武器よ。例え強くても使いこなせなければ宝の持ち腐れにしかならない」

ラウラ

「…そうだな。私もそちらだ。以前の私ならば強い方を選んでいたと思うが」

海之

「…その通りだ。例え強くても使いこなせなければ意味はない。例え弱くても己の手になじむ武器ならば場合によっては一騎当千の如き力を発揮するときもある。強大な力というものは急に手に入るものではない。修練を積み重ねて初めて得られるものだ」

火影

「だが計画に携わったお偉いさん達はそれに納得せず、即席でどんな奴にでも使える最強の兵器。それを研究し続けた。そして出来た試作品を持たせて試し撃ちもさせた。実際の、動く人間を的にしてな」

「なっ!!」

「まるでゲーム扱いね…。ゾッとするわ…」

火影

「他には人体実験もな」

本音

「じ、人体実験!?」

火影

「薬物投与や強化手術による人体強化実験さ。どういう薬ならより能力を高めたり傷を早く治せるか、どういう強化手術ならより強くなれるか。そういうのも毎日の様に行われていたんだとよ」

海之

「更にマインドコントロールやサイコセラピーによる心理操作も行われた」

シャル

「マインドコントロール…!」

一夏

「サイコセラピーってなんだ?」

真耶

「心理療法のことですね。決して特別なものでなく、例えば鬱やPTSD(心的外傷後ストレス障害)を克服するための治療として用いられていますが…」

海之

「その通りです。…だが奴らのそれは少し違う」

ラウラ

「…違う?」

火影

「邪魔なもんを除去する事ができんのなら…反対に植え付ける事もできる。例えば…「目の前の敵を全て滅ぼせば自分の大切な家族を守れる」とかな。戦いや人殺しからくる痛みや恐怖。それを除去するために虚構の真実を心に植え付けた」

一夏

「!!」

「なっ!」

海之

「マインドコントロールとの相乗効果によって別の人格を植え付けられた人間もいたそうだ。殺し合いをしても何も感じない人格にな」

シャル

「…ひどい、…酷すぎるよそんなの…」

セシリア

「人の、人の心を…何だと思っていますの!」

「どうして…どうしてそんな卑劣な事ができるの!?同じ人間じゃない!」

クロエ

「本当に…愚かしい行為です」

一夏

「…真面な人間のやる事じゃねぇ…。腐ってるぜ全く…!」

 

皆、特に一夏は怒りを露わにする。

 

千冬

「……」

海之

「オーガス、いやアルゴサクスにとって人間がどうなろうと関係ない。そうやって憎しみに駆り立てられた人間を見て、さぞほくそ笑んでいた事だろうな…」

刀奈

「それにこんな事今は言いたくないけど…そうでなくても私達人間は今の今まで凄惨な事を繰り返してきたわ。世に出せない位の。更識家はそういうの詳しいから…なんとなくわかるの…」

本音

「かっちゃん…」

「…ねぇ、思ったんだけどなんでロボットとか使わなかったの?そんな手間をかけるよりずっと良いんじゃ…?」

海之

「確かに生産性や有効性を考えれば機械の方が良いかもしれん。しかし機械は所詮機械。入力された以外の事はできん。だが人間には自分で考え、行動する力がある。そして可能性がある。そこが機械との差だ。奴らはそこに目を付けたのだろう」

一夏

「綺麗事言ったっててめえらの悪事は変わらねぇじゃねぇか…!」

「一夏…」

千冬

「……」

火影

「この計画にかけられた時間は約五年。犠牲者の数は…約一万人以上にも及んだそうだ」

セシリア

「い、一万人!?」

海之

「兵士が不足すればまた新しいそれが補充された。それと重なる時期に小さい失踪や誘拐事件が世界中で起こっていた」

シャル

「…そ、それって、まさか!?」

火影

「……そういう事だ。しかし自分達でそんなことをするわけにはいかねぇ。大方悪党に金払ってやらせてたんだろ。4年前の一夏の事件の様にな」

一夏達

「「「……」」」

 

自分達の国が非道な計画を行い、更に誘拐に加担していたと聞かされ、再び言葉を失う一夏達。しかしそんな彼らに火影は更に驚く事を言った。

 

火影

「そして更に、奴らもまたこの計画に参加していた」

ラウラ

「奴ら?」

 

火影は名前を言った。

 

火影

「……アレクシア・ミューゼル、後のスコール・ミューゼル。そしてオータムだ」

一夏

「!!」

シャル

「あ、あのふたりもその計画に!?」

海之

「スコールは元々アメリカ空軍パイロット、オータムは出身不明の傭兵だった。そしてふたり共、この計画に参入された。あのふたりは…アインヘリアル計画の生き残りだ」

クロエ

「あの方々が…アインヘリアル計画の生き残り…!」

千冬

「……」

火影

「スコール・ミューゼルは兵士達の中でも特に高い成績だったらしい。作られた戦場の中で奴は剣をとり、銃を構え、生きるために戦った。多くの同じ境遇の兵士達の命を奪いながらな」

セシリア

「…そんな…」

本音

「オータムって人は?」

火影

「あいつについては書かれていなかった。報告する様な成果を上げてなかったのか…。まぁ今も生きてるって事は大方あのスコールって女に味方してたんだろうな」

一夏

「…Mもか?」

火影

「いや、奴はこの計画には関わっていない」

一夏

「そ、そうか…」

千冬

「……」

海之

「そして時は過ぎ、何時しか生き残った兵士はスコールとオータム。そして数えられる位の僅かな人間のみ。幾つもの人間の血と屍を踏み越えてな…」

一夏達

「「「……」」」

 

火影と海之のそれとは全く違う衝撃の真実。何万もの人間がこの人とは思えない様な計画のために誘拐、拉致、勧誘され、そして無残に死んでいった。しかも悪魔の仕業等では無い。れっきとした人間によるもの。オーガスがいたとはいえ、彼ひとりでできるものではない。世界がしかも自分達の母国がそんな計画を承知していた事にショックを隠しきれない様子だった。

 

刀奈

「…本当に恐ろしいのは悪魔でも大量破壊兵器でもない。…やっぱり人間ね…」

「…ラウラとクロエは落ち着いているな」

ラウラ

「…私とクロエさんは心当たりがあるからな。それでもやはりショックはあるさ…」

クロエ

「……」

「それになんか…あいつらがちょっと可哀想に思えてくるわ」

シャル

「…うん、そうだね…。あの人達も被害者なんだ…」

「もしかして…あの人達が戦うのって…世界への復讐?」

セシリア

「或いは仇討ちなのかもしれませんね…。この計画で死んでいった方々の。きっと死にたくないと思う方が殆どでしたでしょうし…」

一夏

「…俺達、自分達が100%正しいって思ってたけど…本当にそうなのかな…」

 

悩んだ表情をしている一夏達。

 

刀奈

「だからと言って彼女達がやっている事は許される事じゃないわ」

海之

「その通りだ。無関係の人間を巻き込んだ時点でただのテロと変わらん」

 

他の皆もそれに同意する。

 

一夏

「だけど…計画の最後で生き残ってたのがほんの数人ならあんま意味無いんじゃ?」

海之

「いや、生き残る兵士は最悪ひとりでも良かったのだ。…クローン技術があるからな」

セシリア

「クローン…!」

火影

「生き残った優秀な兵士のクローンの大量生産。クローンだから例え死んでもまた生み出せば良い。上の奴らからしたら格好の材料と考えたんだろうな」

真耶

「そんな…例えクローンでも生きているのに!」

海之

「…因みにこの技術を提供したのはドイツだ」

クロエ

「…そうだと思いました」

ラウラ

「……」

 

答えがわかっていたのかラウラとクロエは暗い表情をしている。

 

本音

「…ラウラン、クーちゃん。大丈夫…?」

ラウラ

「…ああ。心配ない」

火影

「無理すんなふたり共」

クロエ

「ご心配して申し訳ありません。でも…私達は大丈夫です。兄さん続けてください」

 

ふたりは再び顔を上げる。それを話しを再開する。

 

海之

「…兵士が完成し、あとはそれのクローン兵士を育成すればアインヘリアル計画の当面の目的は全て完了する筈だった」

火影

「…だがここで思いもよらない事が起きちまったのさ」

一夏

「…思いもよらない事って?」

 

すると火影の口から驚きの言葉が出る。

 

火影

「…逃げられちまったんだよ。スコールもオータムも、他の生き残った奴らも全員な」

シャル

「に、逃げた?しかも全員!?」

海之

「ああ。経過報告書には兵士達が全員なんの痕跡も残さないまま失踪したと書かれている」

「全員なんて随分マヌケな管理ね。終了直前で油断したのかしら?」

 

確かに一概には油断していた様に聞こえる。しかし、

 

火影

「…いやそうとばかりは言えねぇみてぇだ」

本音

「どういう事~?」

火影

「こうも書かれていたのさ…。眠っている兵士達の身体を突然黒い光が覆った瞬間、まるで煙の様に消えてしまった、てな。監視カメラを覗いている人間の目の前で」

「黒い光に覆われて消えた………!」

 

その現象に思い当たるものがあった。

 

一夏

「火影それって!」

火影

「…ああ。俺も海之も同じ意見だ。間違いなく「転移」だろうな」

シャル

「転移って事は…オーガスの仕業?じゃああの男が逃がしたって事!?」

「ど、どうして…?あの人はこの計画の責任者じゃないの?」

海之

「…さぁな。別の目的があったのか…。とにかくこの後にどこかでアレクシア・ミューゼルとオータムはファントム・タスクに入ったとみて間違いないな。今のスコールという名前は組織上のコードネームだろう」

刀奈

「他の人達は転移なんて知る訳無いからオーガスの仕業なんで気付きもしないでしょうね…。しかし計画に携わった者達は困るでしょうねそんな事になると」

海之

「ええ。即刻行方を暗ました奴らの捜索を開始した。もしこの計画が逃げた者達によって万一表沙汰になれば一大事だからな。自分達の立場も危うくなることを恐れた権力者や研究者達は必死だっただろう。……しかし間もなくそんな事を悠長にしていられない事件が再び起きた」

セシリア

「ま、まだ何かあるんですの!?」

 

すると火影は話した。

 

火影

「計画発足から5年が経った11年前、其までの兵器の常識を覆すだけでなく既存のそれらを凌駕し、世界のパワーバランスを揺るがしかねない世界的に有名な事件が起こったのさ」

真耶

「11年前………!!」

刀奈

「…あれしかないわね」

 

他の皆も直ぐに理解した。その事件が何なのかを。

 

火影

「…そうだ、白騎士事件。束さんが開発した世界で初めてのIS、白騎士のお披露目ショーにして世界にISの有効性を見せ付けた事件。そしてそれを生み出した束さんの登場…」

海之

「世界は一気に方向を転換した。数百の兵器より一機の高性能なISの開発。数千の兵士よりひとりの優秀なIS操縦士の育成。アインヘリアル計画の失敗を覆したいとも思ったのだろう。それは国の意思決定にも影響を及ぼすまでになっていた」

火影

「オーガスの奴もそれから約3年間はISの研究に没頭していたそうだ。そしてその後、国から姿を消した」

「いなくなったって事?」

火影

「もう研究は十分だと思ったのかは知らねぇけどな。まぁ兎に角奴は8年前から完全に消息を絶った。スコールやオータムと知り合ったのはこの時だろう」

 

するとここでセシリアから質問が出る。

 

セシリア

「…ですが何故あの方々はオーガスに、あの男に協力しているのでしょう?」

シャル

「そうだよね。あの人達からしたらオーガスは仇なのに…」

ラウラ

「奴らはオーガスが計画の責任者である事を知っていたのだろうか?」

海之

「計画時に顔を合わせているかどうかはわからんがこの様なファイルを持っている事から今は知っている筈だ。…もしかすると互いに利用しているのかもしれんな」

「…利用?」

海之

「…いや止めておこう。想像の域を出んからな」

火影

「更に世界に衝撃を与えたのが織斑先生だ」

「! それは…まさか第一回モンドグロッソの事か?」

千冬

「……」

海之

「…そう。まだ十代半ばで圧倒的な勝利を掴んだ千冬先生の登場もまた、世界に大きな衝撃を与えた。女性男性限らずな」

真耶

「そうですね…。当時の事は凄く覚えています。沢山の人が先輩に称賛の声を送っていました。人によっては英雄とかとも」

千冬

「…よせ真耶。私にそんな資格はない…」

一夏

「千冬姉…」

 

千冬が白騎士を動かしていたという事は今この場にいる者達だけは既に知っていた。そしてそれをまだ公にしない事も決めていた。

 

海之

「そしてそれを世界の権力者が無視する筈は無かった。奴らは思った。圧倒的な力とカリスマ性、そして人々から高い人気を持っていた千冬先生こそ、人を束ねる英雄、シンボルにして…「最強の兵士」に相応しいと」

 

その言葉を聞いて全員がぎょっとする。

 

一夏

「!!」

セシリア

「ま…まさか、またアインヘリアル計画を!?」

火影

「…いいや、時間も金もねぇし、前計画の立案者であるオーガスもいねぇ。おまけに兵士全員に逃げられるという事実上の大失態を演じちまった事もあったんだろう。多くの奴らはこの計画に疑心暗鬼を持ち始めていた。結果第二次アインヘリアル計画は起こらなかった」

本音

「よ、良かった~」

「当然よそんなの…」

 

火影の言葉に安心する皆。しかし、

 

海之

「だが奴らは決して諦めようとはしなかった。先のアインヘリアル計画の失敗で焦っていたのだろう奴らはどうすれば千冬先生というシンボルにして力を手に入れられるか、その考えを必死に巡らせたろう」

ラウラ

「…全く愚かな」

「なんでそんな事にばかり目を向けるんだろ人って…。もっと大事な事沢山あるんじゃないの?もっと決めないといけない事沢山あるんじゃないの?」

 

ラウラは心底呆れかえり、簪は暗い顔が晴れない。

 

刀奈

「それが上手くいかないのが人の支配する世の中なのよ…。何時の時代にも人々の心を掴んでおくための象徴が必要なの。国旗なり英雄なりね…」

火影

「そしてその結果奴らが思いついたのがこのUSBに入っているもうひとつの計画だ。織斑先生、或いはそれと同等の力を手に入れるため、第一回モンドグロッソの後に奴らは先生自身にも知らせずにある計画を密かに進めだした」

真耶

「そ、その計画とは…?」

 

火影は千冬の方を見た。

 

千冬

「……」コク

 

千冬は黙って頷いた。それを見て火影は答えた。

 

 

火影

「…それが「織斑計画」。プロジェクト・モザイカという当時最強のIS操縦者である、織斑千冬先生のクローンの創造だ」




※次回は20(土)の予定です。

アインヘリアル計画の話でした。ややこしくなりましたことをお許しください。スコールの本名、オータムの設定はオリジナルです。次回は織斑計画の話です。


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Mission182 織斑計画・マドカの悲劇

火影・海之・千冬に例の秘密の会議室に呼び出された一夏達。
そこで一夏達は火影がスコールから預かったUSBを見せられ、驚くべきことを伝えられる。

「アインヘリアル計画」
あらゆる倫理や犠牲を無視し、如何なる状況でも死なない不死身とも呼べる兵士の量産計画。

人の仕業とは思えない悪魔の如き計画が国々の主導で行われていたという事実に一夏達は言葉を失う。そしてそんな一夏達に火影達は更に驚くべき事を伝えるのだった。


海之

「誰よりも優れたIS操縦者が欲しい。そう思った世界の権力者達はアインヘリアル計画に続き、再び秘密裏にある計画を実行した」

火影

「それが「織斑計画」。当時最強のIS操縦者、織斑千冬先生のコピー、クローンを生み出す計画だ」

 

一夏

「!!」

「ち、千冬さんのクローンだと!!」

千冬

「……」

 

一夏達の顔にアインヘリアル計画以上の驚きの表情が浮かぶ。そして気付く。

 

シャル

「ちょ、ちょっと待って!じゃあ…!」

「まさか…あのMって奴は!」

 

この時全員の頭にある考えが浮かんだ。それに対して海之はこう答えるのだった。

 

海之

「……そうだ。Mは、マドカは千冬先生のコピー、この世にただひとり生き残ったクローンだ…」

 

一夏

「!!」

セシリア

「あ、あのMという方が…織斑先生のクローン!?」

ラウラ

「やはり…やはりそうだったのか…。あいつの顔を見た時、もしやとは思っていたが…」

本音

「で、でもクローンってそんな簡単にできるものなの!?」

刀奈

「ええ。クローンっていうのは決して難しいものじゃない…。設備と技術さえあれば簡単に、髪の毛一本からでも造れるわ」

クロエ

「その通りです…」

 

すると箒が気付いた。

 

「ま、待ってくれ!クローンというのは確か基本的には元となった人物と同じだろう!?」

刀奈

「…ええ。全く同じ遺伝子と形を持つ別固体という意味だから…同じね」

真耶

「で、では…あのMという方は!」

 

火影は答えた。

 

火影

「…ああ。マドカは織斑先生と同じ遺伝子を持ってる。つまりあいつは遺伝子上は…織斑先生や一夏の兄妹って事になる…」

 

一夏

「!!」

シャル

「Mが…一夏や織斑先生の…兄妹…!?」

海之

「ファイルにはマドカが生まれたのは今から7年前とある。クローンではあるが一夏にとっては奴は…姉であり、妹ともいうべき存在だ」

一夏

「……あいつが……Mが、……俺の…妹だって…?」

 

一夏はショックが大きいのか聞かされて呆然としている。今まで敵、しかも自分の命を狙い続けてきた相手が自分の兄妹などといきなり聞かされたら無理ないかもしれない。

 

「ほ、本当なんですか千冬さん!?」

 

箒から聞かれた千冬は…、

 

千冬

「………ああ」

一夏

「!!」

 

やがて静かに認めた。

 

千冬

「ふたりの言う通りだ…。あいつは、マドカは私のクローン…。私があいつの事を初めて知ったのは…五年前の…一夏、お前が誘拐された時の事だった…」

 

 

…………

 

五年前……

 

 

ズドドドドッ!

ザシュゥゥッ!キキキキンッ!!

 

千冬

(一夏…一夏…!)

 

ここはドイツ軍からの情報にあった一夏が監禁されている場所の目の前。千冬は誘拐された一夏を救うべく、ひとり無数の兵器の中を突っ切り、ISを解除して侵入してからはスタン兵器でテロリストらしき兵士達をなぎ倒していた。

 

千冬

(一夏!もうすぐだぞ!直ぐに助けてやるからな!)

 

鬼神の如き強さで立ちはだかる者を蹴散らす千冬。すると、

 

 

ズドンッ!!

 

 

千冬

「!」

 

暗闇から突然飛んできた銃弾。その正確性に千冬は一瞬慌てるが何とか避ける。

 

千冬

(…今の今まで気配を感じなかっただと?やり手か!)

「姿を見せろ!」

 

ズドドドッ!

 

更に放たれてくる銃弾。しかし千冬はそれを見事な動きで避けながら銃弾が飛んでくる方向から場所を予測し、

 

千冬

「…そこだ!」ドンッ!

 

手に持つ非殺傷の銃を撃つ。

 

…バリンッ!

 

すると何かに当たる音がした。手ごたえはあった様だ。

 

千冬

「さっさと出て来い!でなければ邪魔をするな!私には雑魚の相手をしている暇などないのだ!」

 

先を急ぎたい千冬ではあったが今潜んでいるであろう敵は間違いなくここ数分で一番の手慣れの感触があった。故に倒しておかなければ後々厄介かもしれないと思い、声を上げた。すると、

 

千冬

「…!」

 

キィィィン!

 

暗闇からの突然の剣閃。しかし千冬は冷静に対応する。

 

バイザーの女

「……ちっ!」

 

襲いかかってきたのはバイザーで顔を隠した人物。体つきや一瞬の声からして女の様だった。

 

千冬

「女か?今の奇襲…中々の腕だな。…だがまだまだだ」

「…私は雑魚ではない…!」

 

キンッ!ガキン!ガン!

 

更に続けざまに繰り出す女。それを千冬は受け止めるがその攻撃に千冬は思う事があった。

 

千冬

(やるな……だが、どういう事だ?こいつの技、私に似ている気がする…?)

 

そんな妙な考えを持ちながら千冬は繰り出される攻撃に対処し続け、

 

千冬

「そこだ!」ブンッ!

「!!」

 

経験の差から千冬は一瞬の隙を見逃さず、攻撃の隙間からスタンブレードを繰り出す。

 

 

バリィィィィン!

 

 

千冬のブレードは女のバイザーを直撃した。その衝撃でバイザーが砕ける。女はたまらず後方に飛んで距離をとる。

 

千冬

「その身のこなし…見たところ私より随分幼そうなのに大したものだ。テロリストにはおし……!?」

 

千冬は目を大きく開き、言葉を失った。バイザーの下から表れたのは……自分と全く、正確には自分をやや幼くした様な顔と瓜二つだったからだ。そしてこの女こそM、マドカであった。

 

マドカ

「くっ…、まだ勝てんのか…」

千冬

「ど、どういう…事だ…?…お前は何者だ!」

 

千冬の当然の疑問が飛ぶ。マドカはこう答えた。

 

マドカ

「……私は貴様だ。…貴様の影だ!」

千冬

「…何だと!?」

 

~~~

その時マドカに通信が入る。

 

マドカ

「……了解」ピッ「く、命令とあらば仕方ない、退却か」

 

何者かから退却の命令があったらしい。

 

千冬

「ま、待て!」

マドカ

「覚えておくがいい織斑千冬!貴様は私が倒す!その時悔やむがいい!己の罪をな!」

 

そう言って暗闇にマドカは消えた。

 

千冬

(……私の罪、だと?)

 

千冬は気になったが今は一夏を救出するのが第一だった

 

 

…………

 

一夏

「…あの時に…あいつが…?」

千冬

「最初はどういう事か私もわからなかった…。あの後奴について独自に徹底的に調べたが…自分の手の届く範囲ではどうしてもわからなかった。…そこで私は束に協力を頼んだ」

「え!?」

真耶

「篠ノ之博士にですか?」

千冬

「詳しくは言えないが世に出ていない裏の情報を知りたいから手を貸してほしいとな。面白そうだと言って協力してくれたよ。何故こんな事をするのかとは聞いてこなかったな。多分敢えて聞かなかったのだろう。私の方からの頼みなど今まで無かったからな。……そして…ある者が残した極秘資料から私は真実を知った。アインヘリアル計画と織斑計画。そして……マドカについて、な」

「アインヘリアル計画の事も知っていたんですか!?」

一夏

「なんで…今まで黙っていたんだよ?」

千冬

「国のトップレベルの、闇の歴史だったからだ。海之達も言っていただろう?誰かに話せば公になってしまう可能性も捨てきれなかった。……黙っていてすまなかった…」

 

一夏に頭を下げる千冬。

 

火影

「一夏、先生を責めるな。そん時もし話しても何も目に見える証拠もないんじゃとても信じられる様な話じゃねぇだろ?」

本音

「そうだよおりむ~…。おりむ~を守るためだったんだから」

一夏

「……」

海之

「因みに五年前のあの場にマドカがいたのは先生と戦わせて奴の出来具合を見るために研究者達が派遣したと、そう記録にあった。ファントム・タスクを試験官代わりとしてな」

刀奈

「政府と奴らが繋がっていたっていう、オーガスの言っていた事はほんとだったのね…」

 

するとここでこの疑問が出る。

 

セシリア

「で、でもだとしたら…どうしてあの方はそこまで一夏さんや織斑先生を狙うのでしょうか?」

「…それは私も思った。多分、ううんきっとあのMっていう人も一夏や織斑先生が自分の…兄妹?なことは知ってる筈だよね。なのになんであそこまでふたりを嫌うんだろう?」

 

簪の言うとおり、彼女の一夏や千冬に向ける敵意は紛れもなく本物だった。何故か?と皆が考えていると、

 

火影

「その理由は…こっからの話を聞けばわかるさ…。しかし一夏、お前にはちょい、…いや、かなり酷な話になるかもしれねぇな…」

一夏

「…俺にとって酷な話?」

「ど、どういう事火影?」

火影

「言葉の通りさ。しかしここまで知ってしまったらもう逃げる訳にはいかねぇ。…いいか一夏?」

一夏

「……」

「一夏…あまり無茶するなよ?嫌なら無理に」

一夏

「…いやいい。…最後まで聞くよ。ふたり共続けてくれ」

 

一夏は少しの沈黙の後、確かに頷いた。それを見届け、火影達は話を進める。

 

海之

「…では話を戻そう。先ほども言ったがマドカは千冬先生のクローン。奴は千冬先生の細胞を使って造られた。だがこの計画に先生は関わっていない。大方極秘に手に入れたのだろう」

ラウラ

「クローンというと…私達と同じか?」

火影

「いやラウラやクロエの様なクローンのやり方ではなく、マドカの場合ちと特殊な方法を加えている」

「…特殊な方法?」

海之

「細胞核から作り上げた受精卵をいくつかに分割し、同じ遺伝子を持つ複数の個体を作る。その後代理母となる女性の子宮の中である程度まで成長させ、一定の段階で何人かの胎児を意図的に排除し、残された胎児の成長能力を増大させるという方法だ」

「排除…だと!?」

火影

「農業で間引きってのがあるだろ?より旨い木の実を作るためにあえて何個かの木の実を落としてそっちの栄養を残った木の実に回すっていう。それと同じって訳さ」

 

これを聞いた何人かが反応する。

 

「い、意図的に間引くって…子供を!?じゃあその間引かれた子供は…!」

シャル

「…犠牲になるって事…?」

海之

「…ああ。確かに間引かれた胎児は助からん」

「そ…そんな!」

火影

「奴らはこの方法で千冬先生のクローンを量産した。…間引きされた者も含め、マドカには元々30人の姉妹がいたんだよ」

本音

「さ、30人!?」

火影

「ああ。だが…そのうち三分の二にあたる20人が…この方法によって生まれ出る前に殺された…」

一夏

「!!」

「な、なんだと!」

真耶

「なんで…なんでそんな残酷な事が出来るんですか!?」

刀奈

「…ちょっとだけ人間やめたくなったわ」

火影

「…そしてマドカを含んだ10人が生き残り、最終試験に進む事になった」

クロエ

「…最終試験、ですか?」

 

すると火影の口から再び驚くべき言葉が出る。

 

火影

「最終試験にしてここで奴らはあの方法を取った。…悪魔の計画、アインヘリアル計画の再現だ」

一夏

「アインヘリアル計画の再現……って!」

「まさか!?」

 

海之は頷きながら言った。

 

海之

「…想像の通りだ。アインヘリアル計画の再現。つまり…マドカ達は姉妹で殺し合った。生まれたクローンの中で最も優れたクローンを選び出すために、姉妹で殺し合いを強要されたのだ…」

 

「なっ!!」

シャル

「し、姉妹で殺し合いだって!?」

 

その場にいる皆が目を大きく開く。信じられない事を聞いたように。

 

千冬

「……」

火影

「前計画の中で行われた兵器開発、人体実験、心理療法、それらも勿論含めてな。成長を早く見るために成長促進なんかもされた。通常の成長スピードでは時間がかかり過ぎるからな。あいつは見た目じゃ俺らより若干小せぇ位だが、実際年齢は俺らより随分下だ…」

「…そんな…」

「酷い…酷すぎるよ…!」

海之

「そしてその姉妹同士の殺し合いの中で最後まで生き残ったのが…」

一夏

「…M、…マドカ、って訳なのか……?」

ラウラ

「…あいつは、殺したのが自分の姉妹だと…知っていたのか?」

火影

「あん時俺が「姉妹」っつったら一瞬動きを止めたからな。多分知ってるだろう。自分が…姉妹を犠牲にして生きているという事実を…」

海之

「そして残されたマドカは千冬先生のクローンとして先生と同等、もしくは先生を超える程の力を持つIS操縦者になるための訓練を続けた、という訳だ」

一夏

「……」

セシリア

「なんて…なんて悲しい人生…」

本音

「悲しいなんてものじゃないよ…。悲しすぎるよ…」

「知らなかったとはいえ…私達、あいつに酷い事言ってしまったな…」

 

想像もしていなかったマドカの凄惨な過去を知り、一夏達は今までの自分のマドカに対する行為や言動を申し訳なく思っていた。知らなかったとはいえ。そしてファントム・タスクである彼女の最近の一連の行為が決して正しいものではないとわかっていても、それでも同情の気持ちがあった。

 

海之

「……だが再び予想外の事が起きた」

真耶

「ま、またですか?もしかして…逃げてしまったとか?」

火影

「いえそうじゃありません。……使えなかったんだよ」

一夏

「…え?」

火影

「使えなかったんだよ、マドカにはISが。どんなに訓練してもあいつ自身がどんなに強くなってもそれ以外の武器は使えても…ISだけは使えなかったらしいんだ」

ラウラ

「あ、ISが使えなかっただと!?」

クロエ

「まるで私達と同じ…!」

シャル

「で、でも今は使えてるじゃない!」

海之

「そうだな。…だが当時はどれ程行っても使えなかったと残されている。最終の記録が残っている五年前までは」

「五年前…。千冬さんが出会った時はまだ使えていなかったのか…」

火影

「どうして使えなかったのかは織斑計画に携わった奴らの誰にも結局わからなかったそうだ。そして……マドカは捨てられた」

「え?す、捨てられた…って?」

海之

「言葉の通りだ。多額の資金や膨大な時間を使っても進展が無いことや実験とはいえ千冬先生に勝てなかったマドカに失望したのだろう。奴らは結果が出せない事を理由に…マドカを廃棄した」

一夏

「な、なんだって!?」

シャル

「そんな…!酷いよそんなの!」

「散々あいつの人生を狂わせて置いて…自分達の望んだ結果じゃなかったからって物みたいに捨てるなんて…!」

火影

「…そしてこの事があいつの心の亀裂を広げる事になった」

ラウラ

「…心の亀裂、だと?」

 

これに海之が答えた。

 

海之

「姉妹との望まぬ殺し合い…。自分がISを使えない現実…。着の身着のままの追放…。マドカの心は大きく傷ついた筈だ。これは俺達の予想だが…奴はこう思ったのかもしれん。

 

「白騎士事件が無ければ…、モンドグロッソで千冬先生が現れなければ…、自分や姉妹がこの世に生み出される事は無かった…」

 

とな…」

 

一夏達

「「「!!」」」

火影

「ISや千冬さんが世に出たせいで、自分という誰にも望まれない存在が生まれちまった。姉妹が死んでしまった。そう考えたのかもしれねぇな。本心はあいつ自身に聞いてみねぇとわからねぇけど…」

千冬

「……」

「だ、だが…それは…千冬さんのせいって訳じゃ…」

「そ、そうよ。千冬さんにそんな事わかる訳ないじゃないの…。束さんだって…」

海之

「そうだな。ふたりのせいではないかもしれん。……だがお前達が奴の立場ならどう思う?ある日突然生み出され、自らの姉妹と血生臭い殺し合いを強いられ、人として学ぶものも得るものもなく、挙げ句の果てにゴミの様に捨てられれば。ましてや、その根本的原因がいると教育されれば…どうする?」

「……」

ラウラ

「そ、それは……」

 

海之の問いかけに皆は答えられなかった。

 

火影

「マドカが戦うのは多分自分や姉妹達をこんな目に合わした世界への復讐ってとこだろうな…。そして先生、恐らく束さんも…」

千冬

「……」

真耶

「先輩…」

「姉さん…」

セシリア

「で、ですが…一夏さんを狙う理由は何ですの?」

シャル

「う、うん。今の話からだとまだ一夏を狙う理由がわからないよね…?」

一夏

「……そうだな…」

 

確かに今の話だけだと一夏の名前が出ていないため、彼が狙われる理由がわからない様に思える。

 

火影

「…それについての答えはこれからの話で概ね検討はつくさ」

本音

「…まだ何かあるのひかりん?」

 

すると火影は再度千冬を見る。

 

千冬

「……」コク

 

暫くの沈黙の後、千冬は頷いた。それを確かに確認した火影は話すがその言葉に箒達は驚愕する。

 

火影

「…ああ。実は織斑計画は……それで終わってねぇ」

一夏

「…!?」

「…!お、終わっていないだと?織斑計画が!?」

海之

「いや、正確に言えば道半ばで放棄したと言った方が正しいだろうな。しかし計画は極最近まで続いていたのだ」

「さ、最近まで!?」

「どういう事よ!マドカは手放したんでしょ?何で終わってないのよ!」

クロエ

「…まさか、またクローンを!?」

 

これを火影は否定した。

 

火影

「…いや。奴らも流石にこれ以上の失敗を恐れたんだろうな。再びクローンを作ろうっていう話にはならなかったみたいだ」

ラウラ

「で、では一体!?」

海之

「莫大な予算と時間を費やしたアインヘリアル計画、そして千冬先生のクローンであるマドカの事実上の失敗。……だが奴らは諦めなかった。奴らにはまだ…最後の手段、ある種究極の賭けとも言える計画があった。それが織斑計画の…プランBともいえるものだ」

一夏

「プランBだって…?」

火影

「マドカの件はプランA。そしてそれが上手くいかなかった時のための非常用として計画されたものさ。内容だけならなりふり構わずって感じだがな。だがそれこそ…マドカが一夏を狙う理由を紐解く鍵だ」

真耶

「そ、それでそのプランBとは!?」

 

すると次の火影と海之の言葉で一夏達は再び言葉を失う。

 

海之

「織斑計画のプランB。それは……織斑先生と同等の力を持ちうる、男のIS操縦者を作り出すこと…」

一夏達

「「「!!」」」

火影

「そしてその雛型に選ばれたのは…」

一夏

「…!!」

「……ま」

セシリア

「……まさか!」

千冬

「……」

 

皆の頭にある考えが浮かぶ。否定したかったが次の火影の言葉で覆された。

 

火影

「…そうだ。織斑先生の家族であり弟である…一夏、お前さ。お前を世界初の男子IS操縦者にするっつう…無茶苦茶な計画だった……」




※次回は27日(土)の予定です。
次回は一夏の秘密、そして更なる真実が明らかになる回です。


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Mission183 織斑計画・一夏の秘密

国々の闇の歴史であるアインヘリアル計画。
更に火影と海之は一夏達にもうひとつの計画である「織斑計画」について話す。それは当時最強のIS操縦者である千冬のクローンを生み出すというものであり、その結果生まれたのがM、マドカであり、彼女はそのために凄惨すぎる人生を送ってきたのであった。彼女の悲劇に満ちた過去を聞いた一夏達は言葉を失う。

……しかし、織斑計画はまだ終わっていなかった……。


海之

「織斑計画はまだ終わっていない…。マドカの事は計画のプランAであり、それが失敗に終わった時のために、隠されたもうひとつの、プランBといわれるものがあった」

火影

「それが千冬先生の家族であり、弟である一夏。お前を世界初の男のIS操縦者にするっつう計画だ」

 

一夏

「…!!」

 

その言葉を聞いて一夏の目が一際大きく開く。そして箒達はこれに動揺を隠せない。

 

「あ、IS操縦者に…する、だと!?」

「そんなことまで意図的にできるもんなの!?」

ラウラ

「そんな、そんな技術聞いたことが無いぞ!?」

シャル

「そうだよ!それにISは女の人しか動かせない筈だよ!束さんもそう言ってるじゃない!理由はわからないらしいけど…」

クロエ

「はい、束様もそれは確かに認めておられます」

 

束が生み出したインフィニット・ストラトス。通称ISは女性にしか動かせない。それは世界共通の事実であり、現在の女尊男卑の引鉄にもなった。開発者の束も断言している。最もその理由は束曰く、偶然の欠陥。修正してほしいと多くの国が声を上げているが未だに成しえていない。

 

刀奈

「…ひとついいかしら?一夏くんをIS操縦者にするというのが目的として…奴らは何時一夏くんと接触したのかしら?」

セシリア

「…確かに。それに一夏さんはIS学園に入る迄ISとは無関係だった筈…」

本音

「おりむ~何か覚えない?」

一夏

「……いや特に妙な覚えはねぇけど…」

 

困惑しながらも一夏は幼少期からの記憶をたどるが覚えが無い。そもそもセシリアの言った通り自分は千冬とは違ってIS学園に入るまでISとは全く無関係の生き方をしてきたのだ。しかもその学園に入ったのも本当に偶然からなのだ。

 

「そういえば一夏がISを動かせるってわかったのって偶然からだよね?」

一夏

「ああ。ニュースにも出たけど元々俺は藍越(あいえつ)学園の試験に行く予定だったんだ。だけど車が事故渋滞で受付ギリギリになっちゃって。滅茶苦茶焦ってたらすぐ近くであったIS学園の方に行っちゃって…」

「そして指示板に従った先にあった適正者を測るために置かれていた打鉄に触れてしまったと」

一夏

「その通りでございます…」

真耶

「しかもそのすぐ後に査定の教官が入ってきてしまいましたから余計に慌てて大変でしたよね。あの時の仕事量と言えばもうほんとに…」

一夏

「その節はご迷惑をおかけしました」

真耶

「いえいえ構いませんよ!渋滞は仕方ありませんし偶然だったんですから…」

本音

「ホントに凄い偶然だよね~」

 

誰もがその言葉に頷く。……火影と海之、そして千冬以外は。

 

火影

「……そう思うか?」

一夏

「…え?」

 

火影の言葉に疑問符を浮かべる一夏達。すると火影は驚く言葉を出す。

 

火影

「もし…それが偶然でなかったとしたら?あらかじめ予定されていた事だとしたら…どうする?」

 

一夏

「…!?」

「ど、どういう事よそれ?…予定されていた?」

海之

「正しく言えば…仕組まれていた、と言った方が正しいだろう」

ラウラ

「な、何だと!」

「し、仕組まれていた…!?」

 

ふたりのその言葉に先ほどまで一夏のアクシデント話で緩んでいた空気が一気に緊張する。

 

海之

「織斑計画プランBの目的は…千冬先生と同等の男のIS操縦者を創り出す事。…しかし、そのためにはどうしても解決せねばならん難問があった」

火影

「それがお前らも知っての通りISは女にしか動かせないって事。これは世界の共通認識だがそれを覆そうとしてる動きがある事も知ってるだろう?」

セシリア

「え、ええ。ISを男性でも扱える様にする研究は世界中でされていますわ。主に男性の研究者が今の女尊男卑を覆そうとしているためだと。ただ今だにその糸口すら見えませんが…。だからこそ一夏さん、そして火影さんと海之さんの登場は世界に衝撃を与えましたわ」

真耶

「…しかしそれと先ほど火影くん達が言った事、そして織斑計画とどう関係が…?」

 

火影は答えた。

 

火影

「プランBが本格的に動き始めたのは今から五年前の事だ。織斑先生のクローンであるマドカがもしかしたらこのまま結果が残せないかもしれないと不安がった計画の責任者達は保険が必要になった。どんな形でも少しでも結果を出さなければならないっていう焦りがあったんだろうな。だからと言ってこれまでと同じ様な事をする余裕もねぇ。そこで奴らが考えたのが…これまでも多くの国が行っている、男のIS操縦者を創り出す、という事だった。過去の研究例も多かったし、手っ取り早いと思ったんだろな。そこで目を付けられたのが…」

シャル

「…一夏、って事なの?」

火影

「そういう事だ。世界最強のIS操縦者である千冬先生が世の女性の憧憬なら、その弟である一夏がISを動かせたらそれは多くの男にとって希望になる、女尊男卑の世をひっくり返せるかもしれねぇという馬鹿な考えもあったんだろうな…」

刀奈

「…なんかもう目的が変わってきているわね。よっぽど焦ってたのかしら」

一夏

「で、でも俺は本当に今までそんなのこれっぽっちも知らないぜ!?何かされたって覚えも……!!」

 

その時一夏の頭にある考えが浮かぶ。そしてその事を知っている者達にも同じ考えが浮かぶ。

 

「まさか……五年前の!?」

クロエ

「一夏さんが誘拐されたという事件の事ですね…。…でも特に何もなかった筈では?」

一夏

「あ、ああ…。とはいっても千冬姉に助けられるまでずっと眠ったままだったけど…。怪我もなかったし…あの後病院でも検査を受けたけどなんとも…」

ラウラ

「しかしもし考えられるとすれば確かにその時しか無いな…」

一夏

「でも俺は本当に…。な、なぁ千冬姉、あの時俺に何かあったのか!?」

千冬

「……」

 

一夏に問いかけられるが…千冬は答えない。

 

「で、でもあの時何かあったとしてそれがどうすれば一夏がISを動かせる理由になるの?」

 

海之は答えた。

 

海之

「奴らは自分達、そして世界中のこれまでの研究結果を重ね合わせて検証した結果、ある仮説を立てた。…IS操縦者と同じ人間ならば…例え男でも動かせるかもしれないのではないか、という仮説だ」

「…IS操縦者と…同じ人間…?」

セシリア

「それってクローンの事ですか?しかしクローンは…失敗した筈では…」

火影

「確かにクローンは事実上同じ人間だが…知っての通りマドカは失敗した。しかし、クローンの他にもうひとつ例があるのさ。遺伝子上じゃ同じという条件を満たす例がな」

本音

「おんなじ例…?」

 

すると鈴がある考えを出す。

 

「……それって双子って事?」

火影

「正解だ鈴。双子ってのも同じ受精卵が分割して生まれたもんだ。元々ひとつだったからほぼ同一の性質を持っている。性別も血液型もな」

海之

「同じ遺伝子を持っているある種同一の存在。つまり…クローン等ではない純粋な人間であり、更に千冬先生と同じならば、例え男でも可能性は……ある」

「! 千冬さんと…同じだと!?」

一夏

「な、何言ってんだ!俺は千冬姉の双子なんかじゃねぇぜ!?」

 

他の皆も一夏の言葉に同意する。それは誰もが知っている周知の事実である。

 

火影

「わかってるって。…だが…100%全く同じとはいかねぇけど、生まれた後で人工的に双子にする方法ってのがある」

真耶

「…え!?」

ラウラ

「う、生まれた後で…双子にするだと!?」

千冬

「……」

 

海之が答えた。

 

海之

「それがジーンセラピー。「遺伝子療法」という技術だ」

 

「…遺伝子療法…?」

海之

「織斑計画立案者の中に遺伝子工学に詳しい人物がいてな。その人物が以前よりずっと研究していた技術だ。簡単に言えば…遺伝子の後付けだ」

「遺伝子の後付け!?」

火影

「例えば病気に弱いという遺伝子を持っていた奴がいたとするだろ?そいつの中に病気になりにくい遺伝子を後付け、つまり組み込む事で、病気になりにくい体質に改善するっていう、いわば遺伝子による医療技術だ」

シャル

「! そ、そんな事できるの?」

海之

「理論上は可能だ。しかし危険が伴う。何しろそれとは全く別人の遺伝子を埋め込まれるのだ。下手をすれば埋め込まれた者の遺伝情報が狂わされ、更に悪化する可能性も非常に高い。実際そのような事もあったそうだ。だからこれをしようものなら条件が限られる」

「遺伝子療法の条件…?」

 

これに今度は刀奈が答えを出した。

 

刀奈

「………成程ね。肉親や兄弟、か」

火影

「その通りです。同種の血や遺伝子を持っている親兄弟ならばその危険性は激減する」

海之

「アインヘリアル計画にも試験的に導入された。身体向上や戦いに向いているとされる遺伝子を兵士に後付けしたのだ。最もその殆どが失敗し、結果奇病や体質が変異したそうだがな」

クロエ

「人体実験…」

「くっ、本当に人間を…、命を何だと思ってるんだ!」

 

皆は改めてこの計画に怒りを露にする。

 

火影

「そして……この遺伝子療法を用いて、一夏が誘拐されたあの日から本格的にプランBを実行した」

千冬

「……」

一夏

「俺に、俺に何があったんだ?…教えてくれ!」

 

すると火影が次に言った言葉に一夏達は驚いた。

 

火影

「……アインヘリアル計画での反省点や経験を活かし、織斑先生の細胞からとった遺伝子を……一夏、眠っているお前の身体に遺伝子療法によって密かに組み込んだ…」

 

一夏

「!!」

「な、何だと!?」

セシリア

「一夏さんの中に…織斑先生の遺伝子を!?」

海之

「ああ。…一夏。お前は遺伝子療法によって千冬先生の遺伝子を持った、造られた双子というべき存在なのだ…」

真耶

「…一夏くんが、…先輩の疑似双子…」

シャル

「そんな…」

一夏

「……」ドサ

 

衝撃の事実に一夏は言葉を失い、そのまま力なく椅子に座り込む。

 

本音

「おりむ~…」

刀奈

「…先生は、ご存じだったのですか…?」

千冬

「……プランB、そしてコード「I」という名前だけはな…」

「「I」…多分一夏の事だよね」

火影

「プランBの具体的内容に関しては先生もスコールのファイルを見て始めて知ったそうだ」

一夏

「……」

 

一夏はショックが大きいらしく無反応だ。

 

「一夏…」

ラウラ

「…一夏。何か副作用等は無かったか?この数年の間、身体がおかしかったとか…」

一夏

「……」

 

緊張しながらラウラは尋ねる。返事は無いが一夏は首を横に降る。否定の意味の様だ。

 

クロエ

「副作用等が現れなかったとすると適合そのものは成功したのでしょうね…」

海之

「だがプランBはまだ終わりではない。一夏がISを動かせるかどうか、それを見極めなければならない。例え千冬先生の遺伝子を加えてもISを動かせる保証など全く無いからな。しかし今までISに触れたことが無い一夏に急にそんな事をさせては不自然に映る。故に奴らは時を待った…」

「時………!!」

 

皆に共通の考えが浮かぶ。

 

火影

「…そうだ。一年前の、IS学園の入学試験。あの日が織斑計画プランBの、奴らにとっての結果公表日だ。そのために四年間かけて準備していた。一般的には偶然となっているが…あれは決して偶然なんかじゃねぇ。全ては織斑計画に携わった奴らが仕組んだ…演出」

 

一夏

「…!!」

「え、演出ですって!?」

海之

「考えてみるがいい。藍越(あいえつ)学園とIS学園、何故これ程迄似通った名前の学校同士の会場が一夏が間違えるほど直ぐ近くだったのか。何故一夏が打鉄に辿り着くまでそれを止める関係者が誰もいなかったのか。何故試験に使われる打鉄が回収されずに放置されていたのか。下手をすれば何者かに奪われていたかもしれないのにだ。妙だと思わんか?」

「……そういえば」

セシリア

「…確かに変ですわね。量産機とはいえそのままにしておくなんて不用心ですわ」

真耶

「試験官も気づいて慌てて行った時には……もう一夏くんが…」

シャル

「そ、それで火影。演出って一体どういうことなの!?」

火影

「……言葉の通りさ。それらは全て仕組まれていた事だったんだよ。一夏を偶発的にISに触れさせる様にするためのな」

一夏

「!!」

本音

「えー!!」

 

火影はその演出の内容について話した。

 

火影

「一夏、お前のあの日の行動は朝から密かに奴らに監視されてたんだ。会場までの道のり迄全て」

セシリア

「な、何ですって!?」

火影

「余裕を持って着いてしまえばまだ他の受験生も多い。何とかお前が会場に着く時間をギリギリまで止める必要があった。だから道中で意図的に事故を起こし、車を渋滞させた」

ラウラ

「…意図的に事故をだと…」

火影

「そもそも藍越(あいえつ)学園とIS学園の試験会場を直ぐ近くに設定したのも奴らだ。今回の計画に合わせてな」

「! そうだったのか…。たまたまにしては変だと思ったが…」

火影

「万一に備え他の受験生には会わない様問題なく行ける打鉄へのルートを確保したのも先回りしていた奴らの仕業だ。不自然が無いように指示板を置き換えたり、周囲には誰も近づかない様にした。念入りに施設の関係者には金を払って事の一切を口止めさせた」

クロエ

「手回しがいいものですね…」

火影

「更に問題の打鉄の放置。奴らは当時の試験官をも買収して頼んだ。その時だけISから離れていてほしいとな」

真耶

「あ、あれも作戦の内だったのですか!?」

火影

「ええ。この作戦に失敗は許されませんからね。あまり関わり合いになりたくなかったのか相手側も何も言わなかった。こうして…奴らは一夏とISを出会わせた」

一夏達

「「「………」」」

 

誰もが言葉を失っていた。あの時の、世界初のIS操縦者である一夏の発見。それが実はずっと前から計画されていた事であり仕組まれていた事であるなど、誰が予想できようか。

 

千冬

「……」

火影

「結果は皆が知っている通りだ。もし一夏が動かせなかったらその時は潔く計画は終了。だが結果的には上手くいった。奴らはさぞ喜んだろうな。そして奴らは自分らに協力している企業に、一夏に相応しいISとして白式を造らせた」

「! 一夏や私のISを造っていた企業が…協力者!」

海之

「束さんから購入していた白騎士のコアを使ってな。世の男達の希望になりうる世界初の男子IS操縦者。それには同じく英雄的存在である白騎士のコアが相応しいと」

セシリア

「だから白騎士のコアがずっと使われていなかったんですのね…。一夏さんの白式に使う事は…初めから予定されていた…」

一夏

「…………俺は、良いように動かされていた。織斑計画に、……奴らに…」

「一夏…」

 

箒は一夏を慰める様に一夏の肩に手を置く。

 

火影

「世界初の男の操縦者である一夏の登場。そして専用機である白式の完成。未熟とはいえ、一夏を世に出す奴らの計画はこうして成功した。後は企業から一夏のデータを取るという企みも引き続き行うだけ。……が、ここでも邪魔が入った。俺達というな」

クロエ

「火影兄さんと海之兄さんですか?」

海之

「双子の男子IS操縦者と、前例がない双子のIS。その上現役の代表候補を超える力を持つ俺達は奴らからすれば驚天動地、想定外の存在だった。一夏一辺倒になる筈だった世論の注目は想定していたものに遠く及ばなかった。男でもISを動かせるという期待値は上がったろうが、奴らからすれば俺達は自分達のこれまでの努力を水泡に帰す存在、巨大な精神的ダメージを与えた」

「…まぁ自分達の苦労を簡単に覆した様な人が出てきたらショックは大きいよね」

火影

「更に想定外だったのがDNSだ」

「DNSが?」

海之

「DNSによって極秘裏に白式に使われているコアが白騎士だとバレてしまった事で計画の露呈を恐れた権力者や白式を造った企業は一夏と白式から手を引いた」

刀奈

「…こんだけ無茶苦茶色々力入れてやってきても自分の可愛さのためならあっさり捨てられるのね…」

火影

「こうして一夏をIS操縦者にするっていう目論見は一応成功したが、想定外の連続だった織斑計画は中途半端な状態で放棄、今度こそ終わりって事になってしまったんだよ…」

ラウラ

「織斑計画は昨年末まで続いていたのか…」

シャル

「偶然にも火影と海之、そしてあのオーガスが結果的に一夏を政府や研究者達から開放する形になったんだね…」

一夏

「……」

 

一夏は暗い顔をしてうなだれたまま。

 

刀奈

「…もうひとついいかしら?一夏くんはISを動かす事ができた訳だけど…あのマドカという子との繋がりは?」

「そ、そうだ。M、いやマドカはどうして一夏を狙う!?」

 

これに海之が答えた。

 

海之

「……マドカが一夏を狙う理由。それは…一夏がISを動かせるという事実に他ならん…。それ事態が…マドカが一夏を狙う理由だ」

一夏

「……え?」

セシリア

「そ、そんな!それこそ一夏さんは何も悪くありませんわ!」

「そうよ!悪いのは一夏をはめた奴らでしょう!」

海之

「ああそうだな、俺も同じだ。……だがマドカの立場なら」

本音

「…え?」

火影

「一夏とマドカは同じ遺伝子をもつ兄妹。だが純粋な人間じゃないクローンであり、親も友と呼べる仲間もなく、生まれた時からずっとIS操縦者になる事だけを運命付けられ、戦わされ続けてきたにも関わらず、それも叶わないまま粗悪品のレッテルを貼られたマドカ。……一方幼い頃から千冬先生に守られ、箒や鈴、弾や蘭の様な友がいて、勝手ながらIS操縦者へのルートを用意され、何の努力も障害もないまま男でありながら操縦者になった一夏」

刀奈

「……全く正反対ね。いわば光と影という感じかしら」

火影

「あいつからしたら……一夏は自分にとって存在意義を否定されただけでなく自分に無いものを全て持っている存在。そんな感じに写っているのかもしれねぇ」

一夏

「……」

真耶

「それが…一夏くんを恨む理由?」

海之

「恐らく…」

火影

「一夏。あいつは、マドカはお前を恨んでもいるが……同時に羨ましいのさ。自分に無いもんを全てを持ってるお前が…死ぬほど羨ましいのさ」

一夏

「……Mが…俺を……?」

 

火影のその言葉に少し反応する一夏。……するとこれまで黙っていた千冬が口を開く。

 

千冬

「………一年前…」

真耶

「…先輩?」

千冬

「一年前のあの日……一夏、お前がISを動かしたという話を聞いた時、……私は嫌な予感がした。……もしかするとあの時、……何かされていたのではないか。……だが私には、どうする事もできなかった。………すまない」

 

千冬は覇気ない声で一夏に謝罪する。

 

一夏

「……千冬姉のせいじゃねぇよ」

「そ、そうですよ千冬さん!誰も千冬さんを責めたりしません!」

ラウラ

「その通りです教官!」

 

他の皆もそれに続いて同意する。

 

火影

「……大丈夫か一夏?…まぁ全然とは言えねぇよな」

一夏

「………正直、色々思う事は……あるけどさ。……俺が千冬姉の双子にされたって話だったり、あん時の事が……全て政府や奴らの思い通りに動かされた結果だったりとか。正直かなり……いやめちゃ応えるぜ…」

セシリア

「しっかりしてください一夏さん!一夏さんのせいでは全くありませんわ!」

本音

「そうだよおりむ~!」

一夏

「…ありがとうふたり共。……でもまぁ、まぁ……助けてくれた千冬姉に何かされていなかったってのは良かったぜ…」

千冬

「一夏…」

 

千冬は一夏の言葉が有難く思った。

 

海之

「一夏、お前はつい最近まで確かに奴らの手の内にあったのかもしれん。…だが全てではない」

火影

「例え遺伝子を弄られてようがお前はお前だ。そしてお前が白式やDNSを進化させたのは奴らやオーガスにも計算外だった。お前は奴らの呪縛に打ち勝った。それは何よりお前自身の成長の証だ」

一夏

「…火影…海之…」

 

その言葉で一夏は少し元気になった様だった。

 

火影

「…まぁこれがスコール・ミューゼルから渡されたアインヘリアル計画そして、織斑計画の全容だ。どう思った?」

本音

「疲れた~~」

「なんか……知ってはいけない事を知ってしまったからかしら。確かにどっと疲れたわ…。火影と海之の時と同じ位…」

「…そうだね。…信じたくないけど…本当の事なんだね…」

シャル

「でもなんであのスコールって人はこれを火影達に渡したんだろう?一応僕達は敵なのに…」

セシリア

「さぁそれはわかりませんが…もしかしたら理解してほしい、と思われたのでしょうか…?」

ラウラ

「理解してほしい?私達にか?」

クロエ

「ある意味あの方々も…世界の被害者ですからね。彼女らも、そしてマドカという方も」

真耶

「ですが先ほど海之くんや更識さんが言っていた通り、だからといってテロリスト行為を許す理由にはなりません」

刀奈

「その通りよ皆。そこを履き違えちゃ駄目」

 

そんな風に其々が感想を述べる中、

 

「……火影、海之。ちょっと良いか?」

火影

「どうした箒?」

 

箒は切り出した。

 

 

「聞かせてほしい。誰がこんな計画を考えた?」




※次回は来月3日(土)の予定です。
かなり強引になりましたがこれで織斑計画終了です。
千冬のクローンであるマドカと千冬の遺伝子を埋め込まれた疑似双子である一夏は今後どうなるか、その辺もお楽しみ頂ければ幸いです。
次回はもうひとつの謎が解明されます。


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Mission184 記された名前の真相 そして…

アインヘリアル計画。織斑計画のプランAに続くプランB。その内容もまた、一夏達を驚愕させるものだった。

それは千冬と対等に渡り合えるような男のIS操縦者を生み出すというものであり、更にその雛形に選ばれたのが千冬の弟である一夏である事。そして偶然発見されたと思われていた一夏のIS操縦の資格は実は遺伝子療法によって仕組まれていた事であり、全てはそうするように権力者達が仕掛けた演出であったという事だった。

自らの秘密を知った一夏は言葉を失うが火影や海之や皆の声を聞いてなんとか立ち直ろうとする。……しかし。


アインヘリアル計画と織斑計画。ふたつの隠された計画について明らかになり、これで話は終わろうかとしたその時、

 

「…火影、海之。ちょっといいか?」

火影

「どうした箒?」

 

箒は切り出した。

 

「聞かせてもらっていいか?誰がこんな馬鹿な事をした?誰が一夏をそんな目に合わせた?」

ラウラ

「……そう言えば先程ふたりは言っていたな。ファイルの中には計画に関わっていた者達の名簿もあったと」

火影

「……ああ」

海之

「確かにあった。両計画に携わった者達の名や出身地。更にこの計画に使われた人間の名までもが克明に書かれたリストがな」

シャル

「! ほ、本当!?」

「それでふたりは見たの?」

火影

「ああ最初に開いた時にな。最も身元不明の者に関してはわからないが。……お前らは見たいか?」

「え!?……」

海之

「俺達がこのことを話したのはファントム・タスクとの戦いであいつらの事を知っておく必要があると思ったからだ。そしてここからは…お前達の知らなくてもいい範疇だ」

セシリア

「…それは…」

 

そう聞かれた皆は黙ってしまう。知りたい気持ちも無くはない。しかし知ってしまったらもう逃げられない気がする。万一…知っている名前でもあれば…。そんな最悪の考えが頭を過ってしまう。

………すると、

 

一夏

「……見せてくれ」

 

それまで座り込んでいた一夏が声を出す。

 

本音

「おりむー?」

「一夏無茶するな。これ以上は」

 

箒は止めるが一夏は更にそれを止める。

 

一夏

「俺なら大丈夫だ箒。だから…教えてくれ」

刀奈

「一夏くん…」

火影・海之

「「……」」

一夏

「…俺は、俺は知らなきゃならねぇ。知らなかったとはいえ俺は奴らに利用された。俺というIS操縦者を造るために」

セシリア

「一夏さん、ご自身をそんな風に思われてはいけませんわ。一夏さんは何も悪くないのですから…」

一夏

「…サンキューセシリア。…でも本当の事なんだ。そしてその過程でアインヘリアル計画も関わっているとしたら…俺は知っとかないといけないんだ。この計画で死んだ人達のためにも、そして…こんな馬鹿なことをした奴らが誰なのかを!」

真耶

「一夏くん…」

 

するとやや火影は暗い顔をし、

 

火影

「……知る事で後悔する様な真実があったとしてもか?」

クロエ

「…え?」

一夏

「?……ああ」

 

火影の言葉に一瞬戸惑った一夏だが決心は固い様だ。……そして一夏のこの言葉を聞いた他の皆も続けて、

 

「…火影、海之。…私も見る」

一夏

「箒…」

「一夏やお前達だけに背負わせたくない。それに…私は許せんのだ。一夏や千冬さん、そして姉さんを利用した者達を!」

千冬

「篠ノ之…」

ラウラ

「私も同じだ。それにこの計画には我が母国も関わっている。国の代表候補としても知っておかなければならん」

「そんな風に言われたら私も見ない訳にはいかないじゃないの。…まぁ火影達だけに背負わせたくないというのは確かだし」

シャル

「…うんそうだね」

セシリア

「覚悟はできてますわ」

「私も…大丈夫…!」

真耶

「皆さんが見るなら私も見ない訳にはいきませんね…」

「本音、アンタはこれ以上は」

本音

「私だけ仲間外れなんて嫌だよ!」

 

本音含め皆がリストを見る事を決心した。それを聞いて火影が、

 

火影

「………わかった。織斑先生、いいですね?」

千冬

「……」コク

 

千冬はゆっくり頷いた。しかしその表情はどこか悲し気である。

 

一夏

(…千冬姉…?)

海之

「見てしまえばもう逃げられんぞ。本当にいいんだな?」

一夏

「…ああ」

 

海之の確認に肯定の返事を返す一夏達。それを見た海之は備え付けの端末にUSBを差し込み、起動させ、部屋のスクリーンに移す。

 

セシリア

「……アインヘリアル計画!」

「こっちは織斑計画…。ふたりが言っていた事は全て本当だったんだね…」

 

その名を自分の目で見て改めてこの悪魔の如き計画が実際にあった事であると再認識する一夏達。……そして続けて一夏達はアインヘリアル計画の関係者とこの計画に参加させられた兵士達を見ていく。

 

「「アインヘリアル計画」最高責任者…オーガス・アクス…!」

「本当にあの男だったのね…。……酷い。孤児とかは番号で呼ばれてる。まるで囚人じゃない!」

刀奈

「本当に単なる道具でしかなかったという訳ね…」

 

リストには当時の国の重要ポストについている者達や、主に軍事関連の大企業や中小企業の名前。財界、政界、軍等の大物の名前が次々と明記されている。

 

真耶

「なななななんですかこの名簿は!?」

ラウラ

「スキャンダルとか汚点とかそんなレベルでは収まらない者達ばかりだな…」

クロエ

「もしこれが本当だとすれば…こんなものが世に出れば世界中がパニックですね」

セシリア

「…!!この会社…お母様が懇意にしてらした…!」

シャル

「この人…前に捕まったデュノア社の!オーガスにお金を送ってたっていう…!」

 

見覚えのある人物名や社名。その内容に慌てる皆。真耶に至っては見ざる言わざる聞かざるすれば良かったといった感じでオロオロしている。

 

一夏

「…………え!!??」

 

とその時、突然何か信じられないような物を見た時の如く驚き声を上げる一夏。

 

本音

「ど、どうしたのおりむー!?………ええ!!」

 

一夏の目線の先にあった名前を見て本音も驚き、大声を出す。

 

「ど、どうした本音まで……!!」

シャル

「……ええ!」

刀奈

「こ…これは…!」

 

刀奈でさえその書かれていた名前を見て言葉を失う。そして皆は……ある名前を見つけてしまった。

 

 

 

兵器開発設計…「織斑秋斗」

 

生体体調管理担当…「織斑春恵」

 

 

 

それは一夏や千冬と同じ「織斑」の苗字を持つふたりの名前。字からして男と女。その名前を見て一夏達は呆然としている。前に見た火影と海之は冷静に。千冬は暗い顔をしている。

 

「ど、どういう事だこれは…!」

本音

「わ、わからないよ~」

ラウラ

「何故…何故一夏や教官と同じ苗字の者がいる!?」

「どういう事よ一夏!誰よコレ!?」

一夏

「お、俺にもわからねぇよ!こんな名前の人知らないし!」

 

一夏は堪らず千冬に尋ねる。

 

一夏

「な、なぁ千冬姉!誰なんだこの人達は!?なんで俺達と同じ織斑なんだ!?」

真耶

「い、一夏くん落ち着いて下さい!そんなに必死じゃ先輩も話しにくいですから!」

千冬

「……」

 

必死で問い詰める一夏。それをなだめる真耶。言いたくないのか言えないのか千冬は何も言おうとしない。

 

クロエ

「一夏さんや千冬さんと同じ苗字で男女。しかも計画の担当となるとそれなりの年齢………まさか!」

 

すると火影と海之が語った。

 

海之

「……昔、ふたりの男女がいた。若いながらも男は軍事、女は人体に関する博士号を持つ程の秀才で将来が期待されていた人物だ」

火影

「経緯は知らないが男と女はやがて結ばれた。。そしてふたりの間には…ひとりの娘が生まれた。娘には自分達の名前に絡むものとして…「冬」という字を付けた」

セシリア

「!!」

シャル

「それって…!」

火影

「そして幾年が過ぎたある日、夫婦はある計画の事を政府から伝えられ、自らの意志で参加した。幼い娘と…生まれて間もない「夏」という字を付けた赤ん坊を、政府の保護観察プログラムに預けて」

一夏

「…!!」

 

ここまで聞いた全員にひとつの結論が出た。そして次の火影達の言葉で明かされた。

 

 

火影

「…気付いた様だな。…そうだ。織斑秋斗、そして織斑春恵。一夏、お前と織斑先生の…父親と母親だ」

 

 

一夏

「…!!!」

千冬

「……」

 

一夏の表情にこれまで以上の激しい動揺が生まれる。自分や千冬の秘密を知った時以上の。生まれた時から顔も名前も、どんな人かさえ知らなかった父と母。それをこんな形で名前を知った事による動揺である。

 

「な、何だと!?」

本音

「え―――!!」

セシリア

「一夏さんと織斑先生の…お父様とお母様!?」

真耶

「そんな…!」

 

そしてそれは他の皆も同じだった。

 

「ちょ、ちょっと待って!そのふたりがこのリストに名前があるって事は…さっき言ってたふたりが聞かされた計画ってまさか!」

 

火影は頷き、答えた。

 

火影

「…ああ。アインヘリアル計画だ」

刀奈

「!! 一夏くんと織斑先生のご両親が…アインヘリアル計画の関係者だったって事!?」

ラウラ

「馬鹿な!」

海之

「名前が書かれているだろう…?」

「そ、それは…それはそうだけど…!」

 

誰もが信じられないという表情をしていた。無理もないだろう。一夏と千冬の両親がこの様な悪魔の計画に手を染めていた等想像できない。考えたくない。そんな気持ちで一杯だった。火影と海之も最初はそうだった。

 

「う、嘘という事は無いのか!?これがスコールという女のでまかせでは!?」

セシリア

「そ、そうですわ!或いは同姓同名の別人では!?きっと何かの間違いですわこんなの!」

火影

「俺達も最初はそう思ったさ…。だがだとしたらどうしてあの女がふたりの親の名前を知っている?お前らふたりの親の名前知ってたか?」

「…!」

「そ、それは…」

 

答えられない箒達。千冬を除く全員が一夏と千冬の両親の名前を今この場で初めて知ったのである。幼馴染である箒や鈴、息子である一夏でさえ知らなかったのだ。

 

火影

「計画に携わっていたのならここにふたりの名前があんのも説明がつく」

シャル

「だ、だけど…」

海之

「俺達も当然この名前についても調べてみた。…しかし全くわからなかった。顔さえも。まるで意図的に消されているかの様にな」

「い、意図的に…?」

火影

「さっき俺達が話した事は織斑先生から聞いた事だ。このファイルを見せて話してくれた」

海之

「詳しい事は俺達でなく…千冬先生に伺うといい…」

 

火影はこれ以上は自分達からでなく、千冬の口から語ってもらおうと思った。

 

千冬

「……」

一夏

「…こんなの…こんなの嘘だよな千冬姉?…俺達の父さんと母さんが…こんな計画に加担してたなんて嘘だよな!?答えてくれ!!」

「い、一夏…」

 

一夏の必死の懇願に対し、千冬は少しの沈黙を置いて答えた。

 

千冬

「………全て真実だ」

一夏

「!!」

千冬

「織斑秋斗と織斑春恵。ふたりは…私とお前の両親である事も。そして…ふたりがアインヘリアル計画に参加していた事も…全て真実だ」

「そ…そんな…」

ラウラ

「…なんて事だ…」

一夏

「……」

 

ショックのあまりか一夏は再び力無く椅子に座り込む。そんな一夏に説明するように千冬は語り始めた。

 

千冬

「私達の父と母は…共に科学者だった。父は軍事工学、母は生理学と遺伝子工学のな…。まだ若さゆえに高名では無かったが…自身の知識を深める事を何よりも貪欲に重視していた。それは私が生まれた後も続いた。研究第一で殆ど家にいない両親と過ごした思い出等…全くと言っていい程無い…」

「千冬さん…」

シャル

「子供より自分の研究を優先するなんて…そんなの間違ってるよ…」

千冬

「…そして…16年前のある日の事だった。ふたりは突然私に言った。「暫く、いやもしかするともう一緒に暮らせなくなるから」と…」

「それが…アインヘリアル計画」

真耶

「一緒に暮らせないって…そんな…!」

千冬

「何故?と聞いても父も母も答えてはくれなかった。事態は一気に進み、ふたりは消息を絶ち、私と生まれて間もない頃のお前は政府の保護観察下に入った。お前は幼かったから覚えていないだろうがな。今思えばあれは…アインヘリアル計画に参加するために両親が政府に持ち掛けた取引だったのだ…」

本音

「そんな…酷いよそんなの…。おりむーや先生の気持ちはどうなるの…?」

千冬

「それから両親が何をしていたのかは全く知らなかった。五年前、アインヘリアル計画と織斑計画について知る迄は。…そしてあの計画で父は兵器開発、母は兵士達の体調管理及び人体実験の一部を担当していたという真実を知った…」

一夏

「な…なんだって…!」

セシリア

「お、おふたりのお母様が人体実験を!?」

「…信じられない…」

千冬

「……だが、それを知ったところで私にはお前に、伝える事が出来なかった…。これを話してしまえば…何も知らない一夏を壊してしまうんじゃないか…。そう思うと…話せなかった…。勇気が無かったのだ…。だから…私の胸の内に留めておく事にした…」

一夏

「……」

真耶

「先輩…」

 

何時になく弱々しい千冬。

 

ラウラ

「…織斑計画には…関わっておられるのですか?」

千冬

「……海之」

 

そう言われて海之は織斑計画のファイルを映す。するとそこに映っていたのは、

 

 

「織斑計画」責任者…織斑春恵

 

 

一夏

「!!」

海之

「見ての通りだ…。母、織斑春恵は…織斑計画の責任者のひとり」

「一夏と先生のお母さんがこの計画の!?」

千冬

「母は遺伝子工学の博士号を持っていたのだ。私もこの計画を知って愕然とした…。そして幼い頃の記憶を思い出したのだ…。朧気ながら母が…遺伝子療法について話していたのを」

「! それって一夏がされたっていう遺伝子の後付けの事…!」

クロエ

「ま、まさか…一夏さんにそれを施したのも!」

 

再び脳裏に浮かぶ最悪の答え。しかし火影がこれを否定した。

 

火影

「…いや。それをやったのは織斑春恵じゃない。彼女はこの計画を立案したが…途中までしか参加していない。それに織斑秋斗も」

「そ、そうか………?途中までだと?」

刀奈

「責任者なのに途中までって妙ね…」

 

すると一夏がその意味を理解したのか千冬に尋ねた。

 

一夏

「…………死んだのか?」

箒達

「「「!!」」」

火影・海之

「「……」」

 

一夏は理解した。アインヘリアル計画での兵器開発という重要ポストにいた父、そして織斑計画の責任者である母。そのいずれも参加していない理由は限られる。一夏はそう思ったのだった。

 

千冬

「………」コクッ

 

千冬は頷いた。それは一夏の質問に対する肯定の意味だった。

 

千冬

「父は10年前、母は7年前にな…」

シャル

「そ、そんな…」

「……」

 

箒達は言葉が無い。更に一夏は千冬に尋ねる。

 

一夏

「……どんな最後だった?……知ってるか?」

セシリア

「一夏さん…もうこれ以上は」

一夏

「いいんだよ」

本音

「おりむー…」

一夏

「俺は両親の事を…何も知らなかった。顔も名前も。他人同然みたいなもんさ…」

真耶

「そんな…一夏くん…」

一夏

「今更何聞かされても何も思わねぇ…。でもせめて…最後位は聞かせてくれよ」

 

力無い言葉で千冬に尋ねる一夏。……すると少しの沈黙を置いて千冬は……こう言ったのだった。

 

千冬

「………父、秋斗は10年前のある事件に巻き込まれて死んだ。…いや、正確に言えば殺されたのだ」

一夏

「…!!」

ラウラ

「こ、殺された!?」

「誰にですか!?」

 

すると千冬は語り出す。

 

千冬

「……白騎士事件の直後、父は…アインヘリアル計画において兵器開発で一定の成果を上げていた事から…直ぐに日本のIS研究者として関わる様になっていた。影の科学者として」

「一夏のお父さん、ISにも関わっていたんだ…」

千冬

「…そして10年前のある日、父は極秘裏に、某国に研究のために出発した。飛行機でな。……だがその飛行機には…テロリストも乗っていたのだ…」

 

その言葉で全員の動きが止まる。

 

一夏

「………え?」

「ひ、飛行機で……テロリスト…?……10年前…?」

千冬

「そしてそのテロリストは…自爆した。…父と、多くの乗客を巻き添えにして…」

刀奈

「!!」

真耶

「10年前、…飛行機、…自爆…!?」

セシリア

「そ…それって、……まさか…!!」

 

全員の視線が千冬から……火影と海之に移る。

 

 

海之

「……」

火影

「……そうだ。10年前、俺とこいつの両親が巻き込まれた、旅客機自爆テロ事件。その時に標的となったISの科学者というのは…アインヘリアル計画で兵器開発を担当していた一夏と千冬先生の父親、織斑秋斗だ…」

 

 

一夏

「!!」

「な……なん、だと!?」

セシリア

「そ…そんな…!」

シャル

「あの時の事件で狙われたのが…」

本音

「おりむーと織斑先生の……お父さん!?」

 

誰もが衝撃の事実に言葉を完全に無くしていた。一夏は生気無い声で千冬に尋ねる。

 

一夏

「……本当、なのか?……千冬姉」

千冬

「……」

 

だが千冬は答えない。そんな彼女に対し、一夏は今度は怒りを含んだ声で詰め寄る。

 

一夏

「10年前、火影と海之の親が巻き込まれた自爆テロで狙われた科学者ってのが俺達の父さんって!本当なのか千冬姉!?」

「い、一夏!」

千冬

「……」

一夏

「答えろよ!!」

 

一夏の剣幕はこれ迄以上に凄まじい。

 

セシリア

「一夏さん落ち着いてください!」

「そうよ!千冬さんも困って」

一夏

「皆は黙ってろ!!」

箒達

「「「!」」」

 

一夏の激しい剣幕に箒達は何も言えなくなってしまう。

 

一夏

「これは俺と千冬姉の問題だ!これだけは譲れねぇ!絶対今ここで答えてもらう!千冬姉!!」

 

一夏は千冬に懇願し、やがて、

 

千冬

「……………そうだ」

 

千冬は静かに認めた。

 

一夏

「!!!」

刀奈

「……」

「そ…そん…な…」

火影・海之

「「……」」

千冬

「お前達も知っている通り…当時ISを巡る闇の動きは今以上だった…。他国より強く、他国より先へ、他国より上へ。故にそれに関わる科学者は狙われやすかった。実際…命を落とした者もいる…」

クロエ

「千冬さん…」

千冬

「そして10年前のあの事件の直後、政府から私に極秘で連絡が来た。そして聞かされた…あの事件で亡くなったのが……父だと。だが正直言って私はあまり悲しくなかった。父の真相を知ってからも。多くの人を不幸にした事に対する天罰が下った、そんな感じだった…」

一夏

「……」

 

一夏は千冬の両肩に手を置いたまま固まっている。

 

真耶

「先輩…」

千冬

「……それに、私達の母も」

「……え?」

千冬

「織斑計画のプランAの中で…代理母、という話があっただろう?その代理母の中に…私達の母もいたのだ…」

一夏

「!!」

セシリア

「おふたりのお母様が代理母に!?」

千冬

「しかも母の中に戻された中には…マドカもいた」

「!! 千冬さんのお母さんが千冬さんのクローンであるマドカを身籠ったって事!?」

シャル

「それじゃ本当に兄妹と変わらないじゃないか…!」

千冬

「もしかしたら母は自分で産んだ私のクローンを最強にしたかったのかもしれん……。しかし……その過程で母は見たのだろう。私と同じ顔をしたマドカ達が殺しあうのを…。そのせいで母は精神を病み、……自ら…」

一夏

「!!」

本音

「そ、そんな…」

千冬

「…お前には知ってほしくなかった…。この事は私だけが背負えばいいと…。だから政府に頼んだ。弟には知らせないでいてやってほしいと。そして両親のこれまでの生きた記録は……抹消した……」

 

 

………ガァンッ!!

 

 

一夏

「……なんだよ、……なんなんだよそれ!!」ガンッ!ガンッ!…

 

一夏は立て続けに壁を激しく打ち付ける。その表情は痛々しい。

 

火影・海之

「「……」」

「い、一夏…」

刀奈

「一夏くん…」

一夏

「……チッキショウ!!!」ダッ!!

 

一夏は部屋を勢いよく出て行ってしまった…。




※次回は10(土)の予定です。
今回かなり重い内容になってしまいました…。一夏と千冬の両親の知られざる過去。その内容の驚愕性を上手く書けたか心配です(汗)

※UAが190000に到達しました!ありがとうございます。


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Mission185 姉弟の覚悟

織斑秋斗 そして 織斑春恵

アインヘリアル計画の名簿に記されていたふたりの織斑。それは一夏と千冬の父親と母親だった。今まで知らなかった両親の名前、更にその両親が悪魔の如き計画に参加していたという真実に一夏はじめ、箒達も動揺が止まらず言葉を失っていた。そんな彼らに千冬、そして火影達から驚きの話が出る。

「10年前、火影と海之の両親が巻き込まれた飛行機自爆テロで狙われたのは…父、織斑秋斗」
「更に母である織斑春恵も織斑計画の末に狂い、自ら命を絶った…」

誰もが予想していなかった真実に一夏は完全に冷静さを失い、部屋を飛び出していった…。


父と母の死の真相を聞いた一夏はショックのあまり部屋から飛び出して行ってしまった。

 

箒・セシリア

「「一夏(さん)!」」

火影

「よせふたり共!」

「し、しかし!」

火影

「放っておくんだ!今は誰が行ってもあいつにとって逆効果だ。織斑先生でもな」

セシリア

「で、でも一夏さんをひとりには…!」

火影

「一夏は自身の身体の真実を受け入れようとしていた。それは被害を受けたのは他の誰でもなく自分だったからだ。だから痛みを抑える事も出来た。…しかし今の今まで知らなかった親の姿をこんな形で知ることになっちまったんだ。自ら教えてくれと頼んだとはいえな」

海之

「顔も知らない親とはいえ、実の親がこの様な計画に自ら進んで参加し、多くの人を傷つけたばかりでなく、その報いを受けるような死を遂げた等といきなり聞かされればショックは大きいだろう…」

火影

「今のあいつにはひとりの時間が、落ち着く時間が必要だ」

刀奈

「……その通りね。今はそっとしといてあげましょう」

箒・セシリア

「「……」」

千冬

「……」

 

すると暫くして千冬もまた立ち上がり、ひとり出て行った。

 

「千冬さん…?」

火影

「一夏の後を追った、って感じじゃねぇな。…先生も暫くひとりにしといてやれ」

クロエ

「千冬さんは今の今まで真実を全て自分ひとりで背負ってこられました。それが今回の事で全て公になってしまった。千冬さんの心の痛みも大きい筈です…」

真耶

「先輩…」

海之

「……」

 

 

…………

 

その後、少しだけ間をおいて話を整理する事にした。

 

クロエ

「それにしてもあのMという方がまさか千冬さんのクローンだったなんて…」

「今まではムカつく奴っていう感じだけだったけど…あんな過去があいつにもあったって知ったら…ちょっと複雑だわ」

「勝手に生み出されただけでなく姉妹で殺し合いを強要されたなんて…酷すぎるよ…」

シャル

「あの子、まだこれからも狙ってくるんだよね?…一夏、戦えるのかな…?」

ラウラ

「…どうだろうな。少なくともこれまでと同じ気持ちという訳にはいかないだろうな…」

本音

「おりむーとも兄妹みたいなものだもんね…」

刀奈

「そしてその一夏くんも…計画に利用されていたのね…。ふたりの両親はそれを知っていたのかしら?」

真耶

「おふたりの御両親が亡くなられたのは織斑計画プランBの前ですから…一夏くんの件については存じないと信じたいですけどね…」

シャル

「その織斑計画も…結果的に失敗しちゃったんだよね?」

「ああ…。火影達の話だとアインヘリアル計画にも織斑計画にも…勝者はいない。全員が被害者だ。一夏もマドカも織斑先生も、そしてあのスコールやオータムっていう奴らも。…世界のな」

「私達の母国が…こんな馬鹿な事やってたなんてね…」

「私、もう何が正しいのか間違っているのか…わからないよ…」

本音

「かんちゃん…」

セシリア

「私も…。まさか私の母がご存じの方が…この様な事に協力していたなんて…想像もしていませんでしたわ…」

ラウラ

「…私も同じだ。今まで私は苦々しく思う事があっても母国のために戦ってきた…。でもここまで来るとな…何を信じたら良いのか…」

クロエ

「セシリアさん…。ラウラ…」

 

その場の雰囲気が息苦しくなる。……すると、

 

火影

「…誰にも共通する絶対的に正しいものなんてこの世に無いさ」

「…え?」

海之

「そして、完全たる正義等もこの世に存在しない。俺達が信じるのは…俺達が見て聞いて感じたもの、大切だと思える事だ」

「…大切だと思える事…」

火影

「それも他の奴らからしたら間違ってるかもしれねぇ。…でも正しいか間違ってるかどうかじゃねぇ。正しいと信じる、それこそが未来を創る」

シャル

「未来…」

海之

「人の戦いの歴史も云わば「正しいと思う事」のぶつかり合いだったものだ。そしてそれが今という時代を作ってきた。生き残ってきた者達が、人の愚かで切ない歴史を伝え続けるのを正しいと信じて作ってきたのだ」

火影

「そして何を信じるなんて自分で決めたらいい。誰かに決めてもらうもんでもない」

「…自分で決める…」

真耶

「……」

 

その場にいる全員が火影と海之の言葉に耳を傾けていた。

 

火影

「そして俺の信じるものは決まっている。俺がこっちに来て大切だと思ったものの全てだ。…スメリア、日本、そしてそこで出会った人達。それが俺の信じるものだ」

本音

「ひかりん…」

海之

「そしてこのような悲劇をもう二度と生み出してはならないという事だ。…二度とな」

「海之くん…」

火影

「そのためにもアルゴの野郎を、オーガスの野郎をぶっ潰す」

クロエ

「…!」

海之

「アインヘリアル計画も織斑計画も全ては奴に繋がっている。奴をこのままにはしておけん」

火影

「例え奴を倒しても世界に蔓延る悪意の氷山の一角を潰すだけかもしれねぇ。…だがそれが今、俺が正しいと思っている事だ。誰にどう言われようともこれは変わらねぇ。変えるつもりもねぇ」

ラウラ

「…ふたり共…」

 

~~~~

とその時火影の携帯が鳴った。……一夏からだった。

 

火影

「俺だ。…………わかった」ピッ

セシリア

「一夏さんからですの?」

火影

「ああ。俺と海之に話があるから屋上に来てくれってさ。行こうぜ海之」

海之

「…わかった。すまんなお前達」

 

そして火影と海之もまた出て行った。

 

本音

「…おりむーなんだろう?」

真耶

「わかりませんが…今は三人だけにさせてあげましょう」

シャル

「でも…一夏大丈夫かな…?一夏からしたら…」

ラウラ

「…ああ。少なからず火影と海之の両親の死に責任を感じているかもしれんな…」

「一夏…」

クロエ

「…でも兄さん達は一夏さんを責めたりする様な事はしないと思います」

「…うん」

刀奈

「山田先生の言った通り一夏くんはふたりに任せましょう」

セシリア

「はい。……でも改めておふたりって凄いですわね」

「ああ…。流石は人生の大先輩なだけあるな」

「今更だけど私達ってとんでもない奴に惚れちゃったのかもしれないわね~」

「正しいか間違っているなんて関係なく信じるものは自分で決める、か…。当たり前の様に思えて中々できないよね」

刀奈

「そうね。ふたりは前世でずっとその様に生きてきたわ。その結果互いの正義がぶつかって戦う事になったけど…でも今は重なっているわ」

「…自分の信じるもの…大切だと思えるもの…か…」

 

 

…………

 

IS学園 屋上入口

 

 

一夏に呼ばれて屋上の入り口まで来た火影と海之。とその時、

 

火影

「……海之、お前は織斑先生の所へ行ってやれ」

海之

「…何故だ?」

火影

「わざわざふたりで行く必要もねぇだろ。一夏の話は俺が聞いておく。お前は先生の話し相手になってやれ」

海之

「ならば俺よりも一夏や箒達の方が」

火影

「お前が一番いいんだよ。いいから行ってやれ」

海之

「……妙な事を言う奴だ」

 

意味はわからないが海之はそう言われて行く事にした。

 

ガチャッ

 

残った火影が扉を開けると、

 

一夏

「……」

 

そこには手すりに背中からもたれている一夏がいた。表情は伏せていてよくわからないが暗い顔をしているのは違いない。空も今は一夏の心の表れの様に雲掛かっている。

 

火影

「……」

 

火影もまた黙ってその隣に行く。

 

一夏

「……海之はどうした?」

火影

「…織斑先生の話し相手をしてる」

一夏

「……そうか」

火影

「……」

 

火影は何も言わなかった。一夏から切り出すのを待っているという感じだ。

 

火影・一夏

「「……」」

 

互いに沈黙したまま、空気が流れる。………すると漸く一夏が声を出した。

 

一夏

「…千冬姉の事は……恨んでねぇ」

火影

「……」

一夏

「千冬姉も…ずっと苦しかったんだ。たったひとりで…苦しみを抱え込んでいた…。俺をより苦しめない様に」

火影

「…そうだな」

一夏

「正直ショックはあるけど…千冬姉への信頼は揺らいだりなんかしねぇ…。どんな理由があっても…俺にとって家族と言えるのは……後にも先にも千冬姉だけだ」

火影

「後で先生に伝えてやれ」

 

火影はその言葉を聞いて少し安心する。

 

一夏

「………正直、一切気にならなかったって訳じゃねぇんだ…自分の親の事。子供の頃どんな人なんだろうって何度も考えた事もあった。千冬姉に聞いてみた事もあった…」

火影

「自分の親だからな。当然さ」

 

一夏の気持ちも無理もない。以前スメリアで出会ったコメット姉妹も親の事を何も知らないし気にしていないと言っていたが少なからず知りたかったに違いない。もしかするとレオナもその気持ちを感じてふたりを養子に迎えたのかもしれない。歌に感動というのは建前で。

 

一夏

「……でもその話をしたら…千冬姉はいつも…辛そうな顔をしていた。話したくなさそうだった。……だから心の中に閉まっておくと決めた。千冬姉を苦しめたくなかった。幼い頃からずっと俺を守ってくれていた千冬姉を」

火影

「……」

 

千冬が苦しみを抱えていた様に一夏もそれなりの痛みをひとり抱えていたのだ。似た者姉弟だなと火影は思った。そんな事を考えていると一夏は動き、壁を前にして話を続けた。

 

一夏

「………今まで俺は両親を…、俺と千冬姉を捨てて逃げたんだと…勝手に思ってた」

火影

「……」

一夏

「でも……ハハハ、実際は、実際は予想よりもっと酷かった。逃げたどころか、俺達の両親は多くの人を苦しめて、命を、人生を壊す様な計画に参加していた。そんな…とんでもねぇ大馬鹿だった!!」ガンッ!!

火影

「……」

一夏

「父さんはあんな馬鹿な計画で出世して、最後は無残に死んだ!多くの関係無い人や…火影と海之の両親を巻き込んで!!」ガンッ!!!

 

壁を思い切り殴る一夏。

 

一夏

「それだけじゃねぇ…。俺達の母さんは…自分の研究のために千冬姉を利用した!実の娘の千冬姉をだ!ISで有名になったのは千冬姉の努力だったかもしれねぇけど…だからって自分の娘のクローンを造ろうなんて馬鹿な考え普通の親が思いつくか!そのせいでMは生まれた!只管戦わせるっていう悲しすぎる人生をおくらせるキッカケを作った!」ガンッ!!!

火影

「……」

 

一夏は只管に壁を殴り続ける。自分を責める様に。

 

一夏

「馬鹿野郎だ…俺の父さんと母さんは…正真正銘の大馬鹿野郎だ!!」

 

一夏のその声は激しい怒りを含んでいた。それを聞いた火影が言った。

 

火影

「…昔」

一夏

「…え?」

火影

「昔の俺の知り合いに…お前の様な奴がふたりいた。そいつの親父は自らの目的のために多くの罪を犯し、そのために自分の妻と娘を捨てた、…いや利用したんだ。その結果自らの目的を叶えるギリギリまで行ったが…結局最後は殺されちまった。…実の娘によって」

一夏

「!」

火影

「母と自分を捨てた事への復讐ってやつだ。仇も討ち、名前を捨てて清々するとそいつは思っていた。……が、それは間違いだった。一生の枷を背負う事になっちまった。どんなに恨むよりもそれは重い枷だった。そいつはそう言っていた…」

一夏

「……」

火影

「またある奴はさっきの奴と同じ様に実の父親に捨てられた。そいつの父親は研究第一で非人道的な研究も数多く行ってきた。死ぬ間際まで研究の事だった。思い出も殆ど無いに等しかったから死んだと聞いてもなんにも悲しくなかったそうだ。……だがある日そいつは言ったらしい。「自分も親の死に涙ゼロだった。だがどんな奴でも親は親。いなければ自分はここにいない」ってな」

一夏

「……」

火影

「一夏。お前の親父さんやお袋さんがした事は間違っていた。それについては俺も同意するさ。…だがだとしてもだ。お前にとってはこの世で唯一の親なんだ。あんま悪く言いすぎるもんじゃねぇ。……それに」

一夏

「…それに?」

火影

「本当にお前や織斑先生の事何にも考えてねぇんなら…お前らの事を政府に任せたりしねぇだろ?そしてお前らに「夏」と「冬」という字を与えたりもしねぇだろ?自分達の名前と結びつく様な名前をよ」

一夏

「…!!」

 

「春」恵 一「夏」 「秋」斗 千「冬」

 

火影

「お前が親をどう思うのもお前の自由だ。…しかしお前の親のおかげで、俺達はお前や織斑先生と会えたんだしよ」

一夏

「…!!」

 

……ガシッ

 

一夏は俯いたまま火影の服に縋りついた。

 

一夏

「……なんでだよ。……なんでお前らは……、そんな事言えるんだよ……」

火影

「……」

一夏

「俺の父さんのせいで…お前らの両親が死んだってのに…なんでお前らは…そんなに優しい顔

できるんだよ……」

火影

「…言ったろ?お前のせいじゃねぇさ…。…父さんも母さんもお前を恨んでなんかいねぇよ」

一夏

「……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

縋りついたまま一夏は泣いた。ただただ泣いていた…。

 

 

…………

 

…それから少しして一夏は落ち着いた様だ。

 

一夏

「…悪い火影」

火影

「気にすんな」

(箒やセシリアが見たら羨みそうだな…)

 

そんな事を考えていると一夏は火影に問いかけた。

 

一夏

「……火影。……俺は…これからどうすればいいと思う…?」

火影

「……」

一夏

「どうすれば父さんや母さんの罪を償える?人々やお前らに。そして俺はもうあいつを、M、いやマドカを敵として見る事は出来ない…。どうすればいい?」

 

一夏は火影に尋ねる。しかし火影はあえてこう言った。

 

火影

「若けぇんだからたっぷり考えろ。そんなもん全てが終わった後で考えたら良い。てか…お前が償う必要はねぇと俺は思うがな。大事なのは…忘れねぇことだ。あの計画で死んだ人達の事をよ」

一夏

「……」

火影

「時間も暮れてきたしそろそろ食堂で飯にしようぜ。あと明日も授業なんだから周りに気を使わせるような弱音はもう吐くなよ?織斑先生にもな」

一夏

「あ、ああわかってる…。さっきも言ったけど千冬姉を責めようなんて思ってねぇ」

 

完全ではないが一夏は少し元気を取り戻した様だ。すると火影は続けて、

 

火影

「だが一夏、マドカについてだけひとつ言っとくぜ」

一夏

「…マドカ?」

火影

「ああ。…一夏、もしマドカを救ってやれる奴がいるとしたら…それはお前しかいねぇ」

 

火影は断言した。

 

一夏

「…俺が…マドカを…救える?…どういう意味だ…?」

火影

「言っただろ?自分で考えろ」

一夏

「……俺が…マドカを…」

 

 

…………

 

千冬の部屋

 

 

千冬

「……」

 

事後、千冬は自身の部屋でひとり落ち込んでいた。他の生徒に見られたくなかった。……すると、

 

コンコン

 

海之

「…千冬先生」

千冬

「…!」

 

海之が来た事に千冬は言葉なく慌てながらも冷静を装いながら出る事にした。

 

千冬

「……なんだ?」

海之

「……大丈夫ですか?」

千冬

「……お前が心配する事はない」

海之

「お認めにならないという事は大丈夫ではない、と思って良いですね?」

千冬

「……」

海之

「失礼ながら…俺でよければ話を伺います」

 

そう言われて千冬は一瞬迷う。本来なら誰にも聞かれたくなかった。そっとしておいてほしかったというのが本音だったが、

 

千冬

「……入れ」

 

 

…………

 

海之・千冬

「「……」」

 

部屋への入室を許された海之はテーブルをはさんで向き合う形になっていた。千冬はやや俯き、海之はそんな彼女をじっと見つめている。そんなふたりもまた火影と一夏の様にずっと黙っている。

 

千冬

「……一夏はどうした?」

海之

「呼び出されて今は火影が話を聞いています」

千冬

「……そうか。……お前は行かなかったのか?」

海之

「自分が聞いておくから俺は先生の元へ行けと火影が」

千冬

「……」

(火影の奴…余計な気を使いおって…)

海之

「……」

 

海之も火影と同じく何も話さず、ただ千冬が話すのを待っている感じだ。

 

千冬

「……すまない」

海之

「…?」

千冬

「お前と火影には…本当にすまないと思っている」

海之

「……」

 

海之はその言葉の意味を理解した。

 

千冬

「海之…。私は以前…お前達の両親の死を知った時……頭を過るものがあった。…もしかしたら…父の巻き添えで亡くなったのではないか、と…。……でも、言えなかった…」

海之

「……」

千冬

「私の父があの飛行機に乗っていたせいで…お前の両親が…何の罪もない多くの人々が…」

海之

「……」

千冬

「なぁ海之…11年前…、私と束が…白騎士事件等起こさなければ…平和だったのかな…?」

海之

「……」

千冬

「あの事件の後…直ぐに自首するべきだった…。そうすれば…モンドグロッソに出る事もなかった。そうすれば…マドカが生まれる事も…一夏をあんな目に合わせる事もなかった…。いやもしかしたら…お前達の両親が死ぬような事も…無かったかもしれない…。もっと言えば……奴もあんな事する事は…」

海之

「……」

千冬

「全ては…私のせいだ…。私が…一夏を、マドカを、お前達を不幸にしてしまった…」

 

泣いているのか千冬の言葉には力が無い。

 

海之

「……」

千冬

「マドカは…私を憎んでいる…。自分や姉妹がこうなった原因は…私だから…。そして一夏も…。私は…一夏を守っているつもり、だったが…何ひとつ、守れていなかった…。それどころか…あいつのためと…言っておきながら…本当は自分の保身のためだったのだ。あいつまで…失いたくなかった…から。でも…それもまた…あいつを傷つけてしまった。……きっと一夏も…私を恨んでいるに…違いない」

海之

「……」

千冬

「私の…せい、だ…。何もかも…私の」

 

とその時、

 

…ギュッ

 

千冬

「…!!」

海之

「……」

 

海之は千冬の頭を抱え、自らの胸に当てていた。それを理解して瞬時に顔が熱くなる千冬。

 

千冬

「み、海之!?お、お前!」

 

慌てる千冬だが海之の方が力が強いので離れられない。

 

海之

「…昔」

千冬

「…え?」

海之

「昔…泣きベソをかいていた俺に母がこうしてくれたのです。悲しい時は…誰かにこうされると落ち着くと」

千冬

「……」

 

千冬は海之の心臓の鼓動を感じていた。

 

海之

「先生。反省するのも後悔するのも、ご自身を許せないという気持ちを持つのも、先生の自由です。ですが自身の過去の過ちをただ否定的に捉えて自分を責めるのは止めてください。それは何も生み出しはしません」

千冬

「……し…しかし」

海之

「確かに先生や束さんが起こした白騎士事件は間違っていたかもしれません。ですがそれが全ての根本というのは絶対に違います。ましてやアインヘリアル計画は白騎士事件よりも前の出来事。織斑秋斗と織斑春恵が関わっていたとはいえ、それは先生の知らない世界で起きていた事。先生が責任を感じる必要はありません。彼等は彼等、先生は先生です」

千冬

「……」

海之

「俺達には千冬先生の心の痛みを完全に理解する事はできません。ですが理解しようとする事、苦しみを分かち合う事、支え合う事はできる筈です。先生が以前俺や火影の秘密を分かち合い、支えて下さっていた様に、今度は俺達が先生を支えます」

千冬

「…海之…」

海之

「それにあいつが、一夏が先生を恨む訳無いではありませんか」

千冬

「…だが、…私はあいつを」

海之

「あいつは千冬先生を誰よりも理解している筈です。先生の抱えていたものも。そして先生が自分を守ってくれていた事も。あいつは誰かを守りたいという気持ちが強い。それは何よりも先生の様な人間になりたかったから。俺はそう信じています」

千冬

「……」

 

千冬は涙しながら黙って海之の言葉を聞いている。

 

海之

「もう先生ひとりで抱え込む必要はありません。一夏の事もマドカの事も」

千冬

「…海之…」

 

千冬は海之の言葉がありがたかった。

 

千冬

「………千冬」

海之

「…え?」

千冬

「今だけで、いい。……千冬、と、ただ名前で…呼んで…くれないか?お願いだから…」

 

消える位小さくか細い声。しかし海之の耳には自分の腕の中で千冬が確かにそう言ったのが聞こえた。彼女の言葉を聞いて海之は、

 

海之

「…何も心配はいらない。…千冬」

千冬

「…~~~」

 

 

…………

 

それから暫しの間、海之の腕の中で泣き続けた千冬は、

 

千冬

「…すまん海之。その、もう、大丈夫だ」

 

そう言いつつ海之から離れる。涙の方はなんとか落ち着いた様だったが、次は今まで海之に頭を抱きしめられていた様な形になっていた事を思い出してそっちの方に今度は恥ずかしくなる。

 

千冬

「その…迷惑をかけてしまったな」

海之

「気にしないでください」

 

海之は普段通りの表情。今の彼の行動は自分だからという特別なものでもない。誰が同じ様にしていてもやる当たり前の彼の行動。その事に千冬は本当にほんの少し残念とも思ったが彼らしいと千冬も理解している。

 

千冬

「……海之、ありがとう。お前のおかげで気分が楽になった」

海之

「礼を言われる事はしていません」

千冬

「……ふっ、それでもだ」

 

海之らしい返事に千冬は笑った。そして、

 

千冬

「………お前のおかげでわかったよ海之」

海之

「……」

千冬

「私が過去に犯した罪は決して消えはしない。……しかしもう、私は過去をただ悔いる事はやめた」

海之

「……」

千冬

「失ってばかりじゃない、私にはまだやる事がある。それを終わらせるまではもう決して泣かない。悔いの涙はもう、今ので出し切った」

 

千冬の言葉を黙って聞く海之。

 

千冬

「改めて誓おう。…私は戦う。あんな悲劇はもう起こさせないために。そして守るために。一夏やお前、火影や箒達、束、そして…マドカも救ってやりたいと思う」

海之

「できますよ、きっと」

千冬

「だが情けないながら私だけでは無理だ。…こんな事私から頼める資格はないのかもしれないが…、それでも海之、お前達の力を…貸してほしい」

海之

「喜んで」

千冬

「!……ありがとう」

 

迷い無い海之の返事に千冬は安心した。………そしてふとこんな考えが浮かぶ。

 

(……私も、更識やボーデヴィッヒの様に…何か欲しいな…)

 

周囲が若い者ばかりだから忘れがちだが彼女もひとりの女だし若いし、ましてや想い人から何か貰いたいと思うのは不思議ではない。それだけでも勇気が出るものだ。しかしねだるのもこれまた中々勇気がいるもの。ましてや簪やラウラの様に指輪等到底できない。見た目の問題もある。思春期溢れる彼女らがしていても周りはあまり気にとめないかもしれないが自分はそうはいかない。そんなものをしてもし変に勘違いされたらそれこそ大問題だ。できるだけ不自然でないものが良い。……とその時千冬の頭に、あるひとつのものが浮かんだ。

 

千冬

「……なぁ海之。……最後にひとつ良いか?」

海之

「なんですか?」

 

そして彼女は思いきって聞いた。

 

千冬

「その……頼みがある」

 

 

…………

 

1-1

 

 

その翌日、一組にて授業前のHR。千冬が教壇に立ったのだが、

 

生徒達

「「「………」」」

 

生徒達の目は千冬に釘付けになっていた。何故かというと、

 

千冬

「おはよう」

 

いつもの様に挨拶をした彼女の首には…雪の様に白いマフラーが巻かれていた。

 

生徒

「先生、マフラー巻かれたんですか?」

千冬

「不思議か?私がマフラーしているのが」

生徒

「そんな事ないです!とってもお似合いです!」

「黒いスーツに白いマフラーが生えてます!」

「先生の名前とピッタリです!」

一夏

「…変だな?千冬姉あんなマフラー持ってたっけ?」

 

カーンッ!

 

一夏

「イッテー!」

千冬

「織斑先生だ!…授業を始める!織斑、号令!」

 

目の前の千冬はいつも通りの彼女だった。

 

「…なんか千冬さん吹っ切った感じだな」

本音

「うん、凄く元気!」

ラウラ

「やはり教官はこうでなくては」

火影

(…あのマフラーってどっかで見たような…)

海之

(……)

 

千冬の首に巻かれていたのは…海之のマフラー。その顔に悲しみはもう見られなかった。

 

 

…………

 

???

 

 

その頃……、

 

オーガス

「……クククク。……漸く完成した」

 

何かを見上げながらそう呟くオーガス。

 

オーガス

「これで全てが整った。……間もなくだぞ、憎きスパーダの血を継ぐ者共よ。…フハハハハ!」

 

オーガスは狂気の笑みを浮かべていた。

 

 

(……そうだ……間もなくだ)




※次回は二週間後の24日(土)になります。
編集が中々進まず申し訳ありません…。

今回で一夏と千冬の過去編は終了です。憂鬱な展開を書くのは苦手ですが何とか終えられました。次回は一夏にいい意味でちょっとした出来事がある予定ですのでお楽しみに。


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Mission186 一夏にとっての特別な支え

自身の両親の秘密を知り、ショックを受ける一夏。
そんな一夏を見て自分の責任を重く感じる千冬。

火影は一夏に自身の経験を語り、親に関係なく自分の道は自分で決めろと諭す。海之も千冬を支えると言い、全てを終わらせる事を改めて誓った。

そんな中、オーガスは何かを完成させて……。


島内某地点

 

 

ある日の休日。ここは街から少し外れた場所にあるとある場所。

 

一夏

「……」

 

そこに一夏と、

 

箒・セシリア・刀奈・蘭

「「「………」」」

 

彼に向かい合う様に彼女達がいた。そんな中での一夏の心中はというと、

 

一夏

(…う~ん、なんて言えばいいんだよこんな時。……恨むぞ火影~)

 

 

…………

 

詳しくは一夏達を集めての話があった日の翌日にまで遡る。この日の夜、男子組が食堂で夕食を取っていた時だった。

 

火影

「……」

 

何やら考え込んでいる様である火影。

 

一夏

「どうした火影?なんか悩み事か?」

海之

「…?」

 

すると考えがまとまったのか火影が一夏に話しかける。

 

火影

「……一夏、お前昨日言ったな?何か俺達にできる償いは無いかって」

一夏

「…!」

 

火影のその言葉で一夏に緊張が走る。…しかし一夏にそう言った火影の様子はというと、

 

火影

「早速だがお前にやってほしい事がある」

 

彼の口元は小さく笑っていた。まるで悪戯を考えている子供の様だ。

 

一夏

「な、なんだよそれ?てか…なんで笑ってんだ?」

海之

「…また何か下らんことを考えているのではないだろうな?」

火影

「心配すんな。そんな難しい事、…いや一夏にはちょい難しいのか?いやそうでもねぇのか」

一夏

「…?」

 

訳が分からないという表情をしている一夏。

 

火影

「まぁどっちにしてもお前には悪い話じゃねぇ。どうだ?」

一夏

「俺にとってって…どういう意味だよ一体?……まぁでも俺に拒否権はねぇか。……で、何をやればいい?」

 

すると火影は一夏にある依頼をした。

 

火影

「お前にやってほしい事ってのは……」

 

 

…………

 

…その翌日、

 

「火影、私に話とはなんだ?」

 

屋上に箒を呼び出した火影。すると火影がこんな事を言い出す。

 

火影

「箒お前、前の……の時の……、あれってまだ持ってるか?」

「……の時の……!」

 

何やら思い出す箒。

 

「あ、ああ持っているぞ。今手元には無いが…」

 

箒はそれをいつかのために大事に取っていたのだが最近色々あり過ぎて忘れていた。するとそれを聞いた火影は、

 

火影

「そうか…。ならちょっと頼みがあるんだが…それ、俺に貸してくれねぇか?」

 

この一言に箒は驚く。

 

「ななな何だと!?な、何故だ!?それにあれはお前も持っている筈ではないのか!?」

火影

「ああそうなんだけどな。でも心配すんな、近い内に戻ってくるから」

「…?どういう意味だ?」

火影

「いいからいいから。俺を信じて貸してくれ。さっきも言ったが悪い様にはしねぇから」

 

箒はしぶるが火影が嘘をつくとは思えないので、

 

「う~~…そ、そこまで言うなら後で渡そう。…でも良いな!?絶対に返してくれよ!」

火影

「わかってるって。……ああそうだ。それと別にもうひとつあった」

「な、なんだ?お前が私にこれ程頼みとは珍しいな」

 

すると火影は言った。

 

火影

「次の休みって空いてるか?」

 

 

…………

 

同日放課後、1-1

 

 

千冬

「今日の授業はこれまで!」

生徒達

「「「ありがとうございました!」」」

 

今日の授業も無事に終わり、其々が部活なり自習なり帰るなりしようとしていた時、

 

ラウラ

「セシリア」

シャル

「ちょっといいかなセシリア?」

 

シャルとラウラが部活に行こうとしていたセシリアに声をかけた。

 

セシリア

「シャルロットさんラウラさん。どうしました?」

 

するとふたりはセシリアに尋ねる。

 

ラウラ

「突然なんだが次の休日は空いているか?」

セシリア

「次の休日ですか?……ええ空いていますが?」

 

その返事に安心するふたり。

 

シャル

「ホント?良かった。あのね?実はその日ちょっと付き合ってほしいんだけど良いかな?時間帯は夕方近くなっちゃうんだけど…」

ラウラ

「頼めるのはセシリア位しかいなくてな」

 

この時セシリアは久々に一夏でも誘って過ごしたいと思っていたのだがふたりからそう言われれば断るわけにもいかず。

 

セシリア

「…ええ構いませんわ」

ラウラ

「そうか、感謝する。待ち合わせ場所は追って知らせよう」

シャル

「じゃあねセシリア」

 

そう言うとふたりは出て行ってしまった。

 

セシリア

(…なんでしょう?私におふたりからって…)

 

 

…………

 

更にその翌日、生徒会室にて

 

 

刀奈

「ふ~あとはこれをまとめるだけね」

「お嬢様がもう少しおさぼりにならなければもう終わっている案件でしたよ?」

刀奈

「だってしょうがないじゃないの~最近色んな意味で忙しかったんだから~。先日の修学旅行でも一夏くんと滑れなかったし~。その点本音はいいわよね~、火影くんから教えて貰ってたし~」

本音

「えへへ~♪」

刀奈

「一夏くんももう少し気付いてくれないかな~?」

 

ふてくされる刀奈。すると、

 

ガラッ!

 

「失礼します」

 

生徒会室の扉が開き、入ってきたのは簪だった。

 

「簪様、お疲れ様です」

刀奈

「簪ちゃんが来るなんて珍しいわね?どうしたの?」

「うん。…お姉ちゃん、今度のお休みって何か用事ある?」

刀奈

「今度のお休み?」

「うん。ちょっと付き合ってほしい事があって。その日皆駄目なんだ。だからお姉ちゃんに来てほしいんだけど…」

本音

「ごめんね~かっちゃん~。私もどうしても外せない用事があるんだよ~」

刀奈

「簪ちゃんのお願いなら何だってOKよ~♪……って言いたい所だけど仕事がまだあるのよね…」

 

残念がる刀奈。すると意外な人物が助け舟を出す。

 

「…お嬢様。お休みまでにこの御仕事を終わらせましょう。私もお手伝いします」

刀奈

「ホント!?ありがとう神様仏様虚様!お礼に私がお茶入れたげるわ♪」

 

大喜びの刀奈はお茶を入れに行ってしまった。…すると、

 

「…ふたり共、何か企んでいるわね?」

簪・本音

「「…え!?」」

 

 

…………

 

五反田食堂

 

 

ガラッ

 

「こんばんわ~」

 

その日の夕方、五反田食堂に鈴がやって来た。

 

「あ、鈴さんいらっしゃい!」

「おっす鈴。今日はひとりか?火影がいないなんて珍しいな」

「私だってたま~にはひとりでご飯食べたい時があるわよ。それに今日はちょっと蘭に用事があって来たのよ」

「私にですか?」

「そ。今時間良いかしら?」

「じゃあ蘭も一緒に食いなよ。今日はお客さんそんなに多くねぇしさ」

 

言われて蘭は鈴と一緒に同じテーブルで食事を取る事に。

 

「ごめんね忙しい時に」

「いえいえ。……鈴さんちょうど良かった。そういえば私も鈴さんに聞きたい事があるんです」

「私に?何よ?」

 

すると蘭が小声で水を飲みながらの鈴にこんな質問する。

 

「鈴さん、火影さんにどうやって告白したんですか?」

「!」

 

出鼻を挫かれるような質問に鈴は一瞬むせ、水を吹きかけるがなんとか抑える。

 

「こほこほっ!」

「だ、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫よ。…てかどうしたのよいきなりそんな質問するなんて?」

「ご、御免なさい。ちょっと思う事があって聞いてみたくなって、もしよければ参考までにと…」

「参考?…まぁいいわ。…え、えっとね…」

 

鈴は火影の秘密についてだけは隠しながらあの時の事を蘭に話した。

 

「……それはまた凄い展開ですね。鈴さんだけじゃなくシャルロットさんや本音さんもなんて」

「あはは、確かにそうよね。三人同時に告白なんて中々ないシチュエーションだわ」

「でもどうするんですか?鈴さんもシャルロットさんも本音さんも、火影さんを諦める気ないんでしょう?」

「え、ええそれについてはまたいずれね。あそうだ蘭、今度のお休みって予定空いてるかしら?その日火影やシャルや本音も無理でさ、もし良ければ馴染みある蘭に付き合ってほしいんだけど」

「今度のお休みですか?……え、えっと……」

 

何やら考えている様子の蘭。

 

「…もしかして都合悪い?」

「い、いいえ全然!わ、わかりました!私でよければ付き合います」

「ホント?無茶してない?」

「はい大丈夫です!それでどこに行くんですか?」

「それについては当日説明するわ。待ち合わせは…」

 

 

そんな会話をしながらふたりは一緒に食事をとった…。

 

 

…………

 

そして日は進み、次の休日となった。そして、

 

「……」

 

火影から言われた場所で火影と待ち合わせをしている箒がいた。

 

(何なのだろうか…?火影から誘い…しかもこの様な場所で…)

 

箒がいるその場所は美しい海を一望できるちょっと有名なポイント。夕焼けがとても美しく、箒の周りには何組かのカップルがいる。

 

(こんな場所で待ち合わせなど…ま、まるでデートみたいではないか…!!い、いやそんな馬鹿な!私が一夏一筋なのはあいつも理解している筈だ!ましてやあいつには鈴達がいるんだぞ!…ま、まさかあれは……私を誘うための!?い、いやバカなそんな訳……)

 

自らの状況とシチュエーションに妙な考えを巡らせる箒。…するとそこに、

 

セシリア

「…あれ?箒さん?」

 

シャルとラウラと待ち合わせしているセシリアがやって来た。

 

「お、おおセシリアではないか…!どうしたこんな所で?」

セシリア

「私はシャルロットさんとラウラさんとの約束でこちらに…。箒さんは?」

「そうなのか…これは偶然だな。…私は」

 

すると更に、

 

刀奈

「あれ?箒ちゃんとセシリアちゃんじゃないの」

 

簪と本音と約束した刀奈もやって来た。

 

「か、刀奈さん!お疲れ様です」

刀奈

「うん。ところでどうしたのふたりして」

セシリア

「私はシャルロットさんとラウラさんと待ち合わせているんですの」

「わ、私も待ち合わせを…」

刀奈

「そうなの?簪ちゃんが他の皆は用事があるから無理って言われたらしいんだけど」

「…?私は簪とは会ってませんが?」

セシリア

「私もですわ」

刀奈

「ほんとに?…変ね」

 

すると更に更に彼女も来た。

 

「…あれ?皆さん」

刀奈

「えっと貴女は…蘭ちゃん?」

セシリア

「もしかして…蘭さんも何方かと待ち合わせを?」

「は、はい。鈴さんと」

「鈴と?」

 

そして鈴も「皆が都合が悪いから」と言っていたらしいことを箒達は蘭から聞いたのだが。

 

「じゃあ皆さんも覚えが無いと?」

セシリア

「ええ。鈴さんから頼まれごとなんて言われていません」

「私もだ。どういう事だろう…?」

刀奈

「……」

 

箒、セシリア、蘭がキョトンとし、刀奈は何か考えている。

 

「……それにしても遅いな火影の奴」

セシリア

「火影さん?箒さんの待ち合わせとは火影さんですか?」

「あ、ああ何か頼み事があるとかでな」

セシリア

「そうなんですの。…でも火影さんだけでなくシャルロットさんもラウラさんも遅いですわね」

「鈴さんも…」

 

すると刀奈が何かに気づいたのかこんな事を言い出す。

 

刀奈

「……ねぇ三人共。私ちょっと気づいちゃったんだけど。今ここにいるメンバー見て」

「ここにいるメンバー?」

「今ここにいるのは…………!」

 

箒は何かに気づいた様だ。そしてセシリアも、

 

セシリア

「も、もしかして…でも、この面々は…」

「ぐ、偶然なのかな?」

「え?え?」

 

普段一緒にいない蘭はまだわかっていない様子。

 

刀奈

「偶然にしては出来すぎてるわね…。おんなじ待ち合わせ場所、中々来ない誘い相手、しかもこの面子でしょ」

セシリア

「じゃ、じゃあこれは偶然ではないと?」

「でもだとしたらどうして!?」

 

するとそこに、

 

「来たか…」

箒・セシリア・刀奈・蘭

「「「!」」」

 

聞き覚えのする声にハッとする箒達は声のする方向を見た。するとそこにいたのは、

 

一夏

「……」

 

ここにいない筈の人物、……一夏だった。

 

箒・セシリア・刀奈・蘭

「「「い、一夏(さん又くん)!!」」」

 

当然驚く箒達。

 

一夏

「お、おう…」

「お、お久しぶりです!」

「一夏!何故お前がここにいる!?」

セシリア

「そ、それに一夏さん、今確か「来たか」と仰られていませんでしたか!?」

刀奈

「…どうやら予感が当たっていた様ね。詳しく聞かせてもらえるかしら?」

 

蘭は嬉しさと恥ずかしさが混じり、箒は酷く慌てる。セシリアは分析し、刀奈は冷静にふるまう。そんな彼女達が迫る中、一夏は答えた。

 

一夏

「そ、そんなに迫るなってば。いや…その、だな…。実は今日皆に用事があるのは…俺なんだ…」

「な、何だと!?」

セシリア

「で、ではシャルロットさん達は!?」

一夏

「あ、ああ。その…協力してくれたんだ…皆」

「皆って事は…鈴さんや簪さん達もですか!?」

刀奈

(…虚~、知ってて手伝ったわね~…。でもまぁ今は良しとしましょう)

「…それで私達を呼んだ理由ってなんなの一夏くん?」

 

すると一夏はあるものを取り出し、

 

箒・セシリア・刀奈・蘭

「「「……!!」」」

 

それを箒達にひとつずつ手渡す。そしてそれを見た彼女達の目に驚きが浮かぶ。何故ならそれは、

 

セシリア

「こ、これって!」

「黛先輩から貰ったチケットじゃないか!」

 

それは以前一夏達が黛の依頼で引き受けた写真撮影のお礼で貰った五つ星ホテルのディナーペアチケットだった。

 

「! そ、それって確か以前一夏さん達が取材を引き受けた依頼というやつですよね!?」

セシリア

「でもどうしてこんなに沢山ありますの!?」

 

すると、

 

刀奈

「……火影くん達ね」

箒・セシリア・蘭

「「「!!」」」

一夏

「そうです。俺と箒、そして火影と海之のチケットを足したものです。火影と海之からもらいました…」

 

そして一夏はその訳を話し始めた。

 

 

…………

 

一夏

「ほ、箒達と食事に行く?」

火影

「ああ。箒とセシリア、刀奈さん、そして蘭だ。しかし家でとか五反田食堂とかそんなんじゃねぇ。もっと特別な場所で、そして一対一でだ」

一夏

「い、一対一って事はひとりずつか?な、なんでそんな事、それに特別な場所って何だよ?」

 

すると火影が、

 

火影

「一夏、お前前に黛先輩に貰ったチケット、まだ持ってるよな?」

一夏

「黛先輩のって……あの写真撮影の時に貰ったペアチケットか?あ、ああ持ってるけど……って!?」

海之

「そういう事か…」

火影

「一夏。お前に俺と海之、それから箒のチケットを一旦借りるのを渡す。お前はそれ使って箒、セシリア、刀奈、蘭の四人にチケット渡してそれぞれと食事に行け。それがお前のやる事だ」

 

その言葉を聞いた一夏は当然慌てる。

 

一夏

「な、なんだよそれ!?」

 

すると火影ははっきり言った。

 

火影

「この際はっきり言っとこう。…あいつらは好きなんだよずっと前から。お前は気付いてねぇみてぇだけどな」

一夏

「…!」

火影

「でも誰か特定の奴に協力したら不公平だからな。だから何時でもいい。お前と四人で行ける日其々決めて、あいつらの話を、想いをじーっくり聞いてやれ。正直言ってこのままじゃあいつらが報われるのが何時になんのかわからねぇからな」

海之

「それについては否定せんな。……良いだろう、俺の分も渡してやる」

火影

「箒からは俺が借りといてやるから」

 

すると一夏は、

 

一夏

「……本当にそんな事がお前らのためになんのか?」

火影

「ああ」

 

火影は即答した。すると一夏は、

 

一夏

「………わかった。本当にそれがお前らにとってもいいならやるよ」

火影

(っし♪)

 

その言葉を聞いた火影は心の中でガッツポーズをし、海之は珍しく笑おうとしていた。

……………が、一夏は

 

一夏

「あ、でもその前に火影、ひとついいか?」

火影

「? 何だ?」

 

疑問符が浮かぶ火影にこんな事を言った。

 

 

一夏

「でもなんでその四人なんだ?てかそんなにここの料理うまいのか?あいつらが昔から好きっていう位」

 

 

ドガシャーンッ!!

 

 

……と普通の者ならここで豪快にこけるところだろうが火影は上体がガクンッとずれ落ち、海之はおでこに手を当てて長めの「ハァ~~」というため息で終わる。

 

火影

「お前……マジか」

海之

「……」

一夏

「な、何だよ?俺なんか悪い事言ったか?」

 

一夏はまだわかっていないようである。だから火影はもう思い切って全部話すことにした。

 

火影

「いいかよく聞け!あいつらは……」

 

 

…………

 

そしてその後、一夏は火影から箒達が好きなのは何者でもない自分である事を知らされたのだった。

 

箒・セシリア・刀奈・蘭

「「「………」」」

 

一夏の話を聞いた箒達は沈黙していた。

 

一夏

(…う~ん、あとなんて言えばいいんだこんな時……恨むぞ火影~。とはいえ何か話さねぇと始まらねぇか…)

 

そして一夏は順番に思った事を話していく事にした。

 

一夏

「…ほ、箒、火影から聞いたよ。お前小学生の頃からずっと俺の事好きでいてくれたんだってな…。IS学園に入学した時にお前との勝負で負けた時あんだけ怒ったのも、俺が昔よりも弱かったのが許せなかったんじゃない、ショックだったんだって。小学生の頃お前をいじめから助けた時の様な強いままの俺だって思ってたからって。…ごめんな気付いてやれなくて。そしてありがとよ、こんな俺をずっと想っててくれてよ」

「……」

一夏

「…セシリア、お前も俺の事が好きだったなんて想像もしていなかった。今は仲直りしてるけどお前との出会いは最初最悪だったもんな。…でも今はこう思ってる。あん時セシリアと戦ってみて良かったなって。あれが無かったら今もまだ俺なんかチンプンカンプンだったろうし。俺がこれまでこれた最初のきっかけをつくってくれたのも云わば…セシリアのおかげだ。…ありがとよ」

セシリア

「……」

一夏

「…刀奈さん。二学期に会ったばかりですけど…いつも訓練してもらってありがとうございます。あとキャノンボール・ファーストの時に助けてもらったお礼言えてませんでした、すいません…。刀奈さんとはこの中で一番最後に会ったから火影達から聞いても正直信じられなかったです。俺なんかとはあまりにもレベルも違うし。…でも火影や海之がそうだと聞かされて…驚きました。嬉しいです」

刀奈

「……」

一夏

「そして蘭。お前の事も火影から聞いたよ。お前も箒と同じでずっと俺を好きでいてくれたんだってな。しかも弾の奴もいつ進展があるのかってずっとどぎまぎしてるって。…でもぶっちゃけて言うと蘭は俺にとって妹みたいな感じで思ってた…。だから蘭の気持ちにも全く気付かなかった。IS学園に入ってからは更に付き合う事も少なくなったから余計にな…。わ、悪い…」

「……」

 

一夏の言葉を箒達は黙って聞いていた。

因みに周囲にいたカップル達はいなくなっていたため、今は彼らしかいない。

 

一夏

「ただ…ちょっと聞いてほしいんだ。蘭以外の三人は知ってるけど…俺最近、色々考えねぇといけなかったり、やらなきゃいけねぇ事が一気に増えちまってさ、自分に余裕がねぇんだ。だから…その…うまくは言えねぇけど、…全部片付くまでは…待ってほしい。それが終わったらそん時は、改めて誘うからよ。ひとりずつ。嘘じゃねぇ。そん時に…箒達のお、俺への気持ちを改めて聞かせてくれないか?全部しっかり聞くから…、逃げたりしねぇから…、この通り!」

 

一夏は今だ黙ったままの箒達に頭を下げた。それは今直ぐは無理だけど時が来れば全員の気持ちを受け止める、そして答えを出すと約束した。

 

箒・セシリア・刀奈・蘭

「「「………」」」

 

四人は黙って一夏を見つめている。

 

一夏

(こ、こうやって何も言われないのも見つめられんのも辛ぇ…!)

 

今まで恋愛の「れ」の字も知らなかった一夏にとってこのような告白は全くの未知の世界。彼は自分に家族とは違う特別な感情を抱くような女子がいるなんて想像もしていなかった。だから箒達がどれだけの好意をぶつけても気付かなかったし、今みたいに見つめられても平気だった。

……しかし今回は流石に一夏も今まで通りのままではいられない。確かに意識していた。対する箒達は沈黙のまま。どちらかと言えば断られてもいいから何か言って貰いたいのが本音であった。あまりに何も言われないので一夏はゆっくり顔を上げてみた。……すると、

 

一夏

「…!」

 

一夏は目を開いた。何も言わなかったのではない。箒達は全員…うっすら涙を流していた。

 

「…うっうっ」

セシリア

「……」

刀奈

「ふふ…」

「う…う…」

一夏

「ど、どうした!なんで泣いてんだ!俺なんか悪い事言ったか!?」

 

予想だにしていない事態に一夏は慌てるが、

 

「…グス…。いや…違うんだ。寧ろ…これは…嬉し涙だ」

セシリア

「やっと…やっと、気付いて下さったんですのね…」

刀奈

「…ふふ、まぁ…火影くん達から教わったんだけどね」

「でも、でも嬉しいです。本当に…嬉しいです」

 

箒達は涙を流しながら嬉しがっていた。

 

一夏

「皆…」

「一夏…私は、私は子供の頃、お前にいじめから助けてもらった時から…、いやもっと前から…お前の事が好きだった…。だから…お前と離れる事になった時…本当に、後悔した。…あの時言っておけば良かったって。だから学園にお前が入ると分かった時…本当に嬉しかったんだ…。これからもお前と一緒にいられるって」

セシリア

「一夏さん…あの時、ISの事を何もご存じなかった貴方が、私を追い詰めた時、私は悔しさよりも…貴女をもっと知りたい、その気持ちの方がずっと強かったんですの。そして…願ったんです、貴方の傍で、貴方の可能性をもっと見てみたいと。だからこれからも一夏さん、貴方の可能性を、見せてくださいませんか?」

刀奈

「一夏くん、私ね?最初は貴方への気持ちは興味程度だったの。でも貴方と一緒に過ごしていく内に…その気持ちが一気に大きくなっていたわ。私はこの中じゃ一番付き合い短いけど…今は結構本気なんだからね?貴方を誰にも渡したくないという気持ちが♪」

「い、一夏さん。実は…私今日、一夏さんに、私の気持ちをお伝えしようと思っていたんです。私は、皆さんと違って…普段一緒にいられないから。私、焦ってたんです…。でも、でも一夏さんの方から…そう言って頂けて…本当に嬉しいです…」

 

箒達の告白に一夏は酷く恥ずかしい気持ちになった。

 

一夏

「い、いや…あの…その…お、俺も火影達から聞いて初めて知ったから…。あ、ありがとよ…。で、でも今は」

「言うな。…分かっている。待つ…、幾らでも待つともさ!」

セシリア

「今は私の気持ちを知って頂けただけで十分ですわ!そしてこれからは正々堂々と勝負ですわよ!」

刀奈

「ふふ、じゃあこれからは堂々と一夏くんに甘えられるわけね♪」

「私も負けません!」

 

箒達は満面の笑みを浮かべて一夏争奪戦の第二回戦を宣言した。

 

刀奈

「じゃあ今日は前哨戦という事で皆揃ってご飯行きましょ♪」

「じゃあ私の家に来ませんか?一夏さんの昔の話でもしながら♪」

セシリア

「ええそうしましょう♪」

「ホラホラ行くぞ一夏♪」

一夏

「お、おう…!」

 

一夏は箒達に引っ張られる様に歩いて行った。

……そしてそんな彼らの様子を離れた場所から見守る影達があった。

 

「お姉ちゃん…。皆も良かったね」

シャル

「うん。あんな箒達久しぶりだよ」

火影

「やれやれ…これで少しは進展するかねぇ」

ラウラ

「これほどの事をしてまで何も変化がなければもう正直手が無い所だ」

「それは言えてるわね。しかしよくこんな事思いついたわね火影」

火影

「……あいつには支えてくれる奴が必要だと思ったんだよ。先生でも俺らでもない、もっと別の強い支えがな」

海之

「愛は自らに喜びも何も与えはしない。しかし他者には安らぎを与え、失望に打ち勝つものを与える」

「でもこれから一夏大変ね。これある種罰ゲームなんじゃないの?」

クロエ

「大変な位の方が良いと思います。私も束様と一緒に暮らしてそう思いました」

「クロエさん…それ誉め言葉になってないよ?」

火影

「はは。…あとお前ら悪いな。チケット勝手に渡しちまって」

「別にいいわよ。どうせペアじゃないと行けないんだし」

本音

「そ~そ~。それに私はひかりんの料理の方が好きだよ~♪」

ラウラ

「折角協力したんだ。今日はお前達に腕を振るって貰おうか♪」

シャル

「賛成~♪」

海之

「…仕方ない」

 

そして火影達もまた学園に向かって歩き出した。こうして火影達による一夏の償い?は無事成功したのであった。

 

「……」




※次回は来週の24日(土)になる予定です。

何とか間に合いましたので今週上げる事が出来ました。
次回はいつもよりやや短め、そして事態が動く予定です。


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Mission187 さよなら初恋

一夏と千冬の事がとりあえず落ち着いた日の翌日。箒、セシリア、刀奈、蘭の四人は火影や鈴達に次の休日の予定を約束された。
……しかし当日彼女達の前に現れたのは他でもない一夏だった。彼は彼女達が自身に好意を寄せている事、彼女達の想いをじっくり聞いてやれと火影から教えられていたのだった。一夏はこれまで気付いてやれなかった事を謝罪し、箒達もまた今は気付いてくれただけでも十分だと涙した。一夏に家族でも親友でもない、特別な支えができた瞬間だった。


IS学園 1-1

 

 

一夏の箒達への告白イベントより数日。当の本人らはというと、

 

「一夏!今日の昼は一緒にどうだ?」

セシリア

「ズルいですわ箒さん!昨日はご一緒だったではありませんか!」

一夏

「い、いや今日は更識先輩から予約が入ってるんだ。悪い」

「何だって!くっ…やはり楯無(刀奈)先輩、思った以上に速い!」

セシリア

「で、では明日のお昼は私が予約しますわ!」

 

とこんな調子が続いていたのだった。因みに蘭は休日の昼は五反田食堂で食べる約束を取り付けていた。

 

生徒

「なんか篠ノ之さんとオルコットさんの目が活き活きしてない?」

「そう~?私は逆にちょっと怖い位だけど~?」

「まぁどっちにしても私達が入る隙が無いわね~…」

 

他の生徒の間にも一夏争奪戦辞退ムードが漂っていたのだった。

 

「……」

海之

「騒がしい奴らだ…」

火影

「あいつら全部終わった後でって約束じゃなかったか?」

シャル

「まぁ今まで気付いてもらえなかった分って思ったらいいじゃない?」

本音

「しののんなんて何年分だもんね~」

「それにしてもお姉ちゃん予約だなんて…物じゃないんだから」

ラウラ

「あの人ならやりかねん」

 

そんな感じで少々呆れながらも見守る火影達。そんな中、

 

火影

「まぁそれはさておき…シエラ(クロエ)、やっぱりわからねぇか?」

シエラ

「はい…。やはりどこにもそれらしい場所は記載されていません…」

 

あの後、火影達はスコール・ミューゼルから渡された資料を引き続き分析した。オーガスの居場所を探すためである。資料にはふたつの計画に関する証拠が書かれていたがひとつだけわからない事があった。計画が行われた場所の事である。これだけの計画を行う以上それなりの施設若しくは場所が必要な筈。しかし資料の何処にもその情報だけが記されていない。オーガスはアインヘリアル計画に関わっている筈だから残っていてもおかしくないのだが…。

 

ラウラ

「くそ…奴らは一体どこにいるのだ…。早く見つけ出さねば篠ノ之博士が…」

シエラ

「……」

本音

「シーちゃん…」

海之

「落ち着けふたり共。……それにもしかすると、近々何か動きがあるやもしれん」

「どういう事海之くん?」

海之

「俺の想像だが…オーガスは俺達があの資料を持っている事に既に気付いている。だとしたら俺達が居場所を探している事にも気付いている筈だ。奴が姿を現さないのは何らかの計画が完成するまでの時間稼ぎだとすると…」

火影

「あれから結構時間たってるからな。……もうそろそろだって事か?」

シャル

「確か束さんにも無理やり手伝わせてるやつだよね?…何だろう一体…?」

 

 

~~~~~~~

そんな事を話している内に朝礼前のチャイムが鳴る。

 

 

「あ、もうこんな時間!私戻るね!行こう鈴…あれ?」

 

気が付くと鈴がいない。その鈴はいつの間にか一夏の近くにいて、

 

「一夏、悪いけど今日の放課後いいかしら?話があるの」

一夏

「放課後?……ああ」

「じゃあ屋上に来てね」

 

そう言って一夏の前から去る鈴。箒とセシリアもキョトンとしている。すると次は、

 

「シャル、本音。今日の昼ちょっといいかしら?」

シャル

「え?う、うん。いいよ」

本音

「ひかりんは?」

「ふたりだけに話したいの。じゃあ昼ね」

 

そう言って鈴と簪は出て行った。

 

シャル

「どうしたんだろ鈴?」

ラウラ

「何か思いつめた様な顔をしていたな」

火影

「……」

千冬

「おはよう!HRを始める!」

 

一部が騒がしく、一部が重苦しい空気が流れる中、今日も一日が始まった。

 

 

…………

 

IS学園 食堂

 

 

時間は過ぎて昼時の食堂。少し離れた席に鈴、とシャル、本音が座っていた。

 

「ごめんね本音、シャル」

シャル

「ううん。鈴、僕達に話って何?」

本音

「ひかりんにも知られたくないって言ってたけど?」

 

すると鈴は真顔でこんな事を言った。

 

 

「……あのねふたり共。……私、今日放課後……一夏に告白しようと思う」

 

 

これにふたりは仰天の声を上げる。

 

本音

「え―――――!!」

シャル

「どどどど、どういう事!?」

「ふたり共声が大きいってば!…落ち着いて聞いて。告白って言っても昔の告白よ。「好きだった」っていう告白」

本音

「す、好きだったって告白?」

シャル

「で、でもどうしてそんな事今更…」

 

声は小さくなるがふたりの驚きは止まらない。すると鈴はこんな事を話した。

 

「…あのね。この前私が蘭を誘った時にね、その中でこんな会話があったのよ。「もう一夏への気持ちは無いのか、なんで火影に心変わりしたのか」って」

シャル

「ら、蘭ちゃんも結構思い切った事聞くんだね」

「蘭は私が一夏を好きだったことも知っているからね。当然無いって言ったわ。火影が好きになった理由も話した。…でもね、蘭からそれ聞いた時私、思い出した事あるの」

本音

「思い出したこと~?」

「本音には前に話したけど…」

 

すると鈴は以前火影と本音に話した、嘗て一夏と別れる際にプロポーズじみた約束を交えて別れた事、そしてそれを去年確認した時、一夏が全く違った解釈をしていた事を話した。

(Mission25 鈴の涙参照)

 

シャル

「…一夏の馬鹿…」

「それ以来あいつには本当の意味を話していないわ。まぁアレは私の伝え方も問題あったんだろうけど。……本当は黙っておいたままにしておこうと思ったんだけど…それを伝えようと思う」

本音

「どうして?」

 

すると鈴はもうひとつの理由について話す。

 

「これは火影にも話してないんだけど…私ね?本当はISになんて全く興味無かったの。ISの操縦適正がわかっても「あ、そ」って感じだったし、軍から代表候補にって推薦されても全くその気なんて無かったわ。……一夏の入学を知る迄は」

シャル

「一夏の?」

「あいつがIS学園入学のニュースが流れた時、思ったの。「私もIS学園に行けばあの時の約束を果たせる!」って。それから必死で勉強して代表候補になってここに来たのよ。いわば私がIS学園に入学したのは…一夏に会いたかったから。ただそれだけの気持ちなの。それを思い出した時、なんか自分がそんな気持ちで入ったのが凄く嫌になっちゃって…」

本音

「それも仕方ない話だと思うよ。あの時は好きだったんでしょ?」

シャル

「そうだよ。好きな人を追いかけたいっていうのもわかるな」

「…うん。でもね、それだけじゃないの。この前電脳世界で自分自身と戦った時あったでしょ?あの時私、もうひとりの私に言われたのよ。「一夏にわかってもらえなかった悲しみを慰めてもらったから火影に惹かれたんでしょ」って。あの時は自分はそれでもいいって、例えあの時はそうでも今の自分が好きなのは火影だって私言い返した。……でも」

シャル

「……でも?」

「最近ふと思ったの。蘭にそう言われてこんな事考える様なら…もしかしたら、一夏への気持ちがほんの少しでも残ってるんじゃないかって…。私って去年まで一夏一筋だったし、ふたりと違って最初から火影が好きだったわけじゃない…。そう考えると…ふたりに申し訳ない気持ちになって…。シャルにもあんな事言っておいてさ」

本音

「そんな…、考えすぎだよ鈴…」

シャル

「そうだよ…。そんなに考え込まなくても」

「…ありがとう。……でもだからこそ決めたの。一夏に昔の私の気持ちを打ち明けて、それをもってきれいさっぱり終わらせるって。そうしないと…あいつに、火影に悪いから…」

 

鈴はこれからも火影と共にいるために決心したようだ。

 

本音

「鈴…」

シャル

「…火影には伝えないの?」

「あいつが知ったら気にするなって言うでしょ?……あっともうこんな時間、ゴメンね付き合わせて」

シャル・本音

「「……」」

 

 

…………

 

IS学園 屋上

 

 

「……」

 

そして放課後、鈴はひとり一夏が来るのを待っていた…。シャルと本音に話した通り、一夏に告白し、昔の自分と蹴りをつけるためである。黙って待つ鈴、…すると、

 

ガチャッ

 

暫くしてドアが開く音がした。入ってきたのは当然、

 

一夏

「…来たぜ鈴」

 

一夏だった。

 

「遅いわよ」

一夏

「悪い悪い、箒とセシリアから忠告があったんだよ。「何て言われても驚くな」ってさ」

「余計な心配しなくていいのに…」

一夏

「…それで、…何の話だ鈴?」

 

一夏は鈴に尋ねた。そして鈴もまた打ち明ける覚悟を決めた。

 

「…うん。あのね………」

 

そして鈴は……一夏に全てを話し始めた。

 

 

 

…………

 

 

………

 

 

……

 

 

 

 

…………

 

「……」

 

それから約数分後、全てを話し終えた鈴は屋上に引き続き残っていた。一夏は少し前に帰ったらしくその場にいなかった。

 

「はぁ~…」

 

何やらため息をついている鈴。……すると、

 

 

ガチャッ

 

 

「!」

 

再びドアが開く音がして驚く鈴。空はもうすっかり濃いオレンジに染まってもう30分もすると闇に染まる時間帯に誰が来るのかと思っていると、

 

火影

「やっぱり残ってたか…」

 

火影だった。まるでここにいるのを知っていたかの様な言葉である。

 

「ひ、火影!……どうしてここに?」

火影

「シャルと本音が教えてくれたのさ」

(…もう、あのふたり…)

 

鈴が心の中でそんな事を思っていると、

 

火影

「……来ない方が良かったか?」

「え?う、ううん大丈夫よ!……てか」

 

鈴はとりあえず落ち着いて話し始めた。

 

「……一夏に知らせてたのね、火影。私が昔、あいつが好きだったって事…」

火影

「……まぁな」

 

 

…………

 

先日、火影が一夏に箒達が好いている事を話した後、火影は更に教えていた。

 

火影

「……もっと言えば一夏、鈴もお前の事が好きだったんだぜ昔から」

一夏

「えぇぇ!!り、鈴もだって!?な、何で!?」

 

酷く慌てる一夏に対し、火影は鈴が昔中国に帰る際、プロポーズじみた言葉を言った事、そしてその約束を覚えていなかったからあの時怒った事も教えた。

 

一夏

「そうだったのか…。だからあいつあんなに…」

火影

「まぁ鈴も伝え方が悪かったとは言ってたけどな。こんな事言うのは余計なお世話かもしれねぇが全く知らなかったんだろ?」

一夏

「……」コク

 

一夏は頷いた。やはり全く知らなかった様だ。

 

一夏

「…悪い事しちまったな…」

火影

「まぁ心配すんな、もう立ち直ってっから。……でももし今後あいつがその事を言ってきたら今度は素直に謝れよ。また殴られるのはやめとけ」

一夏

「あ、ああ…」

 

 

…………

 

こうして火影はあらかじめ一夏に伝えていたのだった。

 

「ビックリしたわよ、あいつの口から「知ってた」って聞いた時。……でもよくわかったわね、私がこうするって」

火影

「…なんとなくだがな。…一夏が箒達に打ち明ける姿を見たら、お前もこうすると思った」

「……どうして教えたの?」

火影

「一夏のためだ。あいつは周りばっか気にして、いつも自分の事を殆んど顧みねぇし無茶ばかりしやがる。もっと自分は想われてるって事を知っとかねぇとって思ってな」

 

火影はそう答えた。すると鈴はその言葉を聞いて一瞬キョトンとし、

 

「……ねぇ火影」

火影

「ん?」

「自分を顧みず無茶ばかりするって……アンタが言える事?」

火影

「……」

「あははは♪」

 

火影はやや不機嫌そうになり、そんな彼を見て鈴は派手に笑った。そんな彼女を見て火影は聞いた。

 

火影

「……辛くないか?」

「私?私は大丈夫よ?ちょっと予定は狂っちゃったけどはっきり言ってやったわ。「昔はアンタの事が好きだった。小学生の時別れるのが滅茶苦茶悲しかった。折角あんな爆弾発言までしたのに全く覚えてなかったから凄くムカついた!」って」

 

鈴は声高に話す。

 

「そしたらあんな奴でも気づいたのかしら?「だったって事は今は違うんだな」って聞いてきたから言い返したわ。「当然よ!今はアンタよりよっぽどカッコよくて強くて、凄く大事にしてくれる奴がいるの」って。そしたらあいつ笑って「そっか、良かったな」だってさ」

火影

「……」

 

火影は黙って聞いていたのだが、

 

「最後に「だからアンタも箒やセシリア達の事、しっかり考えてあげなさいよ」って言ったら「約束する」って言ってたからまぁこれで大丈夫でしょ。……はぁ~やっと私も言いたかった事全部言えたわ~。もうこれでスッキリ…」

 

……スッ

 

すると火影は自身の指で鈴の目元をぬぐう仕草をした。

 

火影

「…あんま無茶すんな」

「へ?………アレ?」

 

鈴は泣いていた。

 

「…アレ…アレ?……おかしい、な?もう…悲しくなんかない筈なのに…、とっくに吹っ切ってた筈なのに…、なんでだろ?…なんで…」

 

鈴は何でだろうと自問するが涙は止まらない。

 

…スッ

 

「…!」

 

すると火影は何も言わずに鈴の頭を自分の胸に寄せた。

 

火影

「こうすりゃ泣き顔見えねぇだろ?」

「ひ、火影?…だ、大丈夫だよ……私はもう」

火影

「わかってるさ。だが初恋で、つい最近までずっと好きだったんだろ?それをちゃんと自分で断ち切ったんだ。悲しいのもわかるさ…」

「……」

火影

「涙を恥じる必要は無ぇ。泣きたい時は泣けば良いのさ。人間なんだからよ」

「……………~~~」

 

たまらなくなったのか…やがて鈴は暫く火影の腕の中で小さく泣き続けた。

 

(……やっぱり私泣き虫ね……)

 

 

…………

 

その後、少しして鈴は落ち着きを取り戻した様子だった。鈴は火影から離れて背を向けている。火影は何も言わず見守っていると、

 

「…ありがとう火影。…あと来てくれて」

火影

「礼ならシャルと本音に言え」

「それでもよ。……私、これでやっと昔の私とちゃんとさよならできた。本当にさっぱり吹っ切ったわ」

火影

「…そうか」

「……ねぇ火影、聞いていい?私じゃなくてもさっきみたいな事、他の女の子にもする?」

 

鈴は火影の性格だからきっと他の子にもするんんだろうなと予想しながら聞いてみた。すると火影は答えた。

 

火影

「似たような事はするかもしれねぇ。……だがお前と、シャルと本音は特別だ」

「!……も~、今だけはそこは「私だけ」って言うとこじゃない~?」

 

鈴はやや不満そうに言うが、

 

「ま、アンタらしいか。覚悟しときなさいよ!アンタにとって誰よりも重い女になってやるんだから♪」

 

その心中は喜びに満ちていた。鈴は火影の腕に自らの腕を組ませて笑顔で言った。その顔に後悔は微塵もない感じだった。

 

 

ガチャ!

 

 

シャル

「はいはいそこまでだよ~!」

本音

「そこまでは許してないよ鈴~!」

 

シャルと本音がドアを開けて飛び出してきた。どうやらドアの外から見守ってたらしい。

 

「ふ、ふたりも見てたの!?」

シャル

「ふたりきりにしたらこうなるかもしれないと思ったからね」

本音

「ひかりんは私達皆で支えるって約束でしょ鈴~?」

「ちぇ~」

火影

「…どういう意味だ?」

鈴・シャル・本音

「「「秘密よ(だよ)♪」」」

火影

(……やっぱ俺の女運は前世譲りらしいな。ハァ…)

 

火影は心でため息を吐くが嫌そうでは無かった。

 

 

…………

 

「おはよ~皆!」

 

翌日の朝、何時もの様に一組にやってきた鈴。

 

火影

「おはよーさん」

海之

「ああ。騒がしい奴だ」

一夏

「お、おう!」

セシリア

「鈴さんおはようございます。そ、そう言えば鈴さん、昨日一夏さんとは何を?」

「何でも無いわ。ちょっと念押ししといただけ♪」

「ね、念押し?」

 

悪戯っ気含む笑顔でそう言うのだった。そんな感じで今日も和やかな一日が始まろうとしていた…………その時、

 

生徒

「……あれ?何かしらこれ?」

 

ひとりの生徒が手のスマホを見て声を出した。更に、

 

生徒

「あれ?なんか画面が切り替わったわ」

「そっちも?私もよ?」

「な、何なのこれ?」

 

他の女子生徒達も声を出した。内容からして全員が共通のものを見ているらしい。次第にちょっとした騒ぎになる。

 

ラウラ

「な、なんだ一体?」

 

~~~~

 

火影・海之

「「!」」

 

すると突然火影と海之の通信機が鳴った。

 

海之

「はい」

千冬

(海之か!私だ!急いでテレビをつけろ!)

 

千冬の声に異常を感じた海之は直ぐに自分のデスクのテレビ機能をつける。火影や一夏や箒達もそれに目をやると、

 

全員

「「「!!」」」

 

そこに写っていたのは、

 

一夏

「ひ、火影海之!これって!!」

 

つい先日自分達が見た、アインへリアル計画の計画書だった……。




※次回は来月1日(土)の予定です。

ついで話みたいになってしまいましたが鈴はストーリー上恋愛対象が変わった唯一のヒロインなのでやってみたいと思いました。
次回より事態が動きます。


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Mission188 滅んでいた組織

一夏の告白以来、彼と箒達の交流は強くなっていた。そんな中、嘗て一夏に恋していた鈴は自分の中に残っているかもしれない心残りを終わらせるために、敢えて一夏に好きだったことを打ち明けようと決心する。

事後、全て終わらせられたと喜ぶ鈴の目からは涙がこぼれた。火影は鈴を慰め、鈴はその涙をもって今度こそ吹っ切ったらしく、笑顔で火影に寄り添っていた。こうして思わぬ一騒動も終わり、今日も賑やかな一日が始まろうとしていた。違う意味での賑やかな一日が……。


千冬

(急いでテレビをつけろ!!)

 

千冬からの突然の連絡で自分のデスクのテレビをつける海之。火影や一夏達もその画面を覗き込む。

 

火影・海之

「「!!」」

一夏

「お、おい!これって!!」

 

一夏達は驚愕した。そこに映ったのは先日見たアインヘリアル計画の計画書だったのだ。いわば世界の闇の歴史を証明するもの。全ての内容では無いがそれがテレビやスマホを通して公に流れている。

 

生徒

「な、何よコレ?」

「…アインヘリアル計画…って何?なんかのイベント?」

「どの画面も流れるよ!もうなんなのよ一体?」

 

……すると最初の生徒の声から約三分後位だろうか。その画面は終わり、何事も無かった様に元に戻った。

 

生徒

「あ、元に戻ったわ」

「なんかの宣伝だったのかしら?それともドッキリ?全くいい所だったのに~」

 

突然の事態に何も知らない生徒達は文句を言う程度。しかし彼等はそうはいかない。

 

「ど、どういう事だ今のは!?何故あのファイルがテレビに!?」

海之

「先生、先程のは一体…?」

千冬

(私にもわからん…。しかしつい先ほどこのファイルが全ての電子媒体を通じて流れていた。テレビも携帯もな。まるで乗っ取られたかの様に画面も切り替わらなかった)

クロエ

「…まさか電波ジャック!?」

「で、でも一体誰がこんな事…!?」

 

その疑問に火影と海之は直ぐに結論が出る。

 

火影

「アインヘリアル計画を知ってて…且つこんな陰険な事する様な奴と言えば…、ひとりしかいねぇ…」

シャル

「……ま、まさか!」

 

火影の言葉に全員がある人物を思い浮かべる。

 

千冬

(海之、火影。ふたり共急いで来い。早急に検討を行う)

 

 

…………

 

IS学園 指令室

 

 

ウィィィン

 

 

ふたりが扉を開くと既に千冬と刀奈が待っていた。動揺を防ぐために学園は問題なく行う形となり、火影達のクラスは真耶が残っている。

 

火影

「先生」

海之

「刀奈さん」

千冬

「来たか…」

 

ふたりの他に一夏や皆も一緒に来ていた。

 

千冬

「お前達は呼んでいないぞ!?」

一夏

「もうふたりだけの問題じゃねぇ!俺も参加させてもらう!」

「私達もです!」

シャル

「罰なら幾らでも受けます!」

刀奈

「貴方達…」

火影

「本音には残ってもらいました。あいつにはこれ以上関わってほしくねぇ。それにあいつがいた方が皆が和むからな」

刀奈

「…ありがとう火影くん」

海之

「先生それよりも」

 

海之の提言で千冬は話し始める。

 

千冬

「そうだな。もう一度言うが先程、約数分間にわたって例の資料が公に流れていた。正確にはその一部だけだがな。テレビや携帯などの端末、パソコンなどあらゆる画面を通してだ」

刀奈

「しかもここだけじゃない。さっき確認してみたけど世界中で同じ事が起こったそうよ」

セシリア

「世界中で!?」

千冬

「そうだ。世界中の端末という端末に先ほどの画像が流れた。各地のテレビ局や情報局等にも原因は全く不明。だがこんな事は偶然で起こる筈もない。間違いなく何者かの意図によるものだ」

刀奈

「そしてふたりの事だから…既に結論は出ているでしょう?」

 

その通りだった。火影と海之、そして千冬も答えは決まっていた。

 

火影

「…ええ。間違いなく奴の、オーガスの仕業でしょうね。世界的な電波ジャックを行い、流したに違いねぇ」

海之

「……」

ラウラ

「もしそうだとしたらあの男は一体何を考えている!こんな事が突然公になれば…」

クロエ

「…関わった者達は動揺するでしょうね」

「無関係な者からすれば単なる悪戯と思われるかもしれんが…それでも疑問は残るだろう。「あれは何か」と」

「それにさっきのは一部だったけどもし名簿なんか出てしまったら…」

セシリア

「とんでもない事になりますわね…」

「悪戯に広がる前に何とか止めないと!」

ジャル

「でもどうすれば…。発信源がわからないと…」

 

火影がそれに答えを出す。

 

火影

「答えはひとつだ。計画の全資料が明るみになる前に奴の居場所を見つけ出し、倒す」

一夏達

「「「!!」」」

海之

「それしかあるまい。だが…」

刀奈

「シャルちゃんの言う通り問題はどうやって見つけるかね…」

千冬

「軍や警察等は既に探っているだろうが…奴の仕業だとすると期待は薄いな」

 

 

~~~~~~~~

するとその時指令室の端末が何かを受信した。

 

 

千冬

「…映像通信だと?」

 

そして突然指令室の画面に何かが浮かび上がる。

 

一夏達

「「「!!」」」

火影・海之

「「!!」」

 

それを見て一夏達は勿論、火影や海之の顔にも驚きの表情が浮かんだ。映ったのは、

 

 

オーガス

(……ごきげんよう)

 

 

オーガスであった。何時もの様に不気味な笑みを浮かべながら火影と海之に挨拶をした。

 

オーガス

(久し振り、というべきかな?ダンテ、バージル)

火影

「てめぇ…」

海之

「オーガス、いや、アルゴサクスか」

オーガス

(懐かしい名前だ…。オーガスよりは聞こえがいい)

千冬

「オーガス!貴様、何故ここに通信を!?」

オーガス

(これは失礼。人間でいうご挨拶に伺ったまでだ。ちょっとした手土産も添えてね。折角の久々の対面、手ぶらなのは失礼だろう?)

刀奈

「手土産ですって…?」

オーガス

(古臭いカビたものだが中々インパクトはあっただろう?クククク)

 

それは先ほどの騒ぎの事だと誰もがわかった。

 

「やっぱりさっきのアレはアンタの仕業だったのね!どうしてあんな事したの!?」

オーガス

(大した意味等無い。面白そうだからだ、そして暇潰し)

 

オーガスはそう言い放った。何の罪の意識も無いように。

 

クロエ

「お、面白い!?」

セシリア

「暇潰しって、そんな事のためにあんな事したんですの!?」

オーガス

(平和という幻想に隠された世界の闇。それを知った時世界はどうなるか?面白そうとは思わんか?)

シャル

「面白いわけないよ!」

「アインへリアル計画なんてものが突然広がれば世界中がパニックになりかねないんだぞ!」

 

箒の口からアインへリアル計画の名前が出た事にオーガスは、

 

オーガス

(…そうか、やはり貴様らもアレを手に入れていたか。……スコールの奴め)

 

それを聞いて火影が返す。

 

火影

「やっぱてめぇの指示じゃなかったんだな」

オーガス

(ふん、まぁいい。直にアレは世界中に発散される。遅いか早いか、それだけだ)

刀奈

「! どういう事それは!?」

オーガス

(少し面白い悪戯を考えてね。あの資料は少しずつ世に出る様になっている。ゆっくりゆっくりと明らかになっていき、四日もすれば全てが映し出されるだろう)

ラウラ

「!」

「そ、そんな!」

 

ラウラ達は驚愕の表情を浮かべる。オーガスの言葉を信じるのならば…残り三日であの計画の名簿も含めて全てが世に知られる事になる。知らない者にとっては驚天動地の真実。誰もが疑心暗鬼になり、世界中であらゆるタガが外れる可能性もある。そうなると大混乱は避けられない。

 

オーガス

(ああ因みに名簿は最後にしておいてやったぞ)

千冬

「貴様、こんな事をして一体何を考えている!?」

オーガス

(言った筈だ。暇潰しだとな。人間の世界が如何に混乱しようが我にとってはどうでも良い事。死んだ筈の存在が姿を変えて蘇り、ひとつの計画で大勢の人間が死ぬ。重い重いとほざく割になんとも命が軽い世よ)

「! 何て事言うのよ!命より重いものなんて無いわ!」

オーガス

(ならば再び問おう。何故戦争は無くならん?何故兵器は無くならん?平和平和と閑古鳥の様にほざいておきながら、何故貴様ら人間の争いは終わらんのだ?)

「そ、それは…」

 

一瞬答えに詰まる。それに対してオーガスは口を歪ませて、

 

オーガス

(ククク、何も難しくはない。戦いを楽しんでいるのだよ人間は、誰もがな)

シャル

「! ち、違う!そんな事ない!」

オーガス

(違わんな。それは歴史が証明している。例え一時戦いは終わっても、再び直ぐに次の敵を探す。そして直ぐに火種を起こそうとする。戦いという火種をな。戦いはあらゆる技術を飛躍的に成長させる。故に争いも敵も無くならないのだ。故にアインヘリアル計画も受け入れられた)

セシリア

「! やはりあれは貴方が考えたんですのね!貴方の計画のせいでどれだけ多くの人々が!」

オーガス

(我が?フハハハハハハハ!我は単に提言したに過ぎん。計画実行を決定したのは愚かな人間共だ)

ラウラ

「ふざけるな!!」

 

オーガスは最早嘗ての様な人間では無い。肉体は人間だがその心は紛れもなく悪魔そのものだとこの時改めて誰もが理解した。

 

オーガス

(…しかしあの様な事をほざいておきながら貴様らもやはり自分が可愛いか。…クククク)

刀奈

「…?何を言っているの!?」

 

するとオーガスは驚く事を言った。

 

オーガス

(いやいや…、実は我は貴様達を多少なりとも賞賛しているのだよ)

「しょ、賞賛だと!?」

オーガス

(以前貴様らは言ったな?人間の可能性を、そして決して醜いものではないと。それに少々我も感銘を受けてね。望まぬとはいえ、我も以前普通の人間として生きていた時もある故な。だからきっと貴様らはあの計画を知った時、さぞ許せず怒ると思った。そこで少々協力してやろうと思ったのだ。あの出来事を世界に知らしめる手伝いをな、クククク。…しかし貴様らは今言った、アレを世に広めてはならないと、世界を混乱に巻き込むだけ、と。それを聞いて思ったよ。やはり貴様らも自らの保身の事しか考えぬ、この世に蔓延るクズ共と同じだとな)

ラウラ

「な、何だと!?」

オーガス

(違うとでも言うのか?その気でないのならさっさと公表してやればいい。間違っているか?)

シャル

「か、隠すだなんて…!」

セシリア

「そ、そんな事は思っていません!ですがすべき時というものが!」

オーガス

(関係ない。やるのかやらないのか、それだけだ)

「貴様!こちらの事情も知らずに!」

 

箒達は反論する。そんな中一夏が、

 

一夏

「……確かにあれは公表するべきかもしれねぇ」

「い、一夏?」

千冬

「…ああ。確かにな」

「千冬さん…」

 

箒達は心配した。あの資料にはふたりの両親の名も記されている。全員がふたりの両親かどうか気付くかはわからないが中には勘付く者もいるかもしれない。あの資料を公にできないのはそういう意味もひとつにあった。

 

オーガス

(織斑秋斗と織斑春恵の子か)

一夏

「…!!」

千冬

「貴様…父と母の事を!」

オーガス

(無論知っている。ふたり共実に研究熱心だったよ。自身の研究のためにどんなに卑劣な研究にも参加してくれたな。クククク)

「…貴様!ふたりの前でよくそんな!!」

 

だが箒の怒りを一夏が止める。

 

一夏

「いいんだ箒!」

「しかし!」

一夏

「俺らの両親のやった事は決して許されねぇ事だ。そしてそれは……何れ皆に伝えなきゃいけねぇ。こんな事があったって事を…」

セシリア

「一夏さん…」

一夏

「だがそれは全てが終わった後、こいつをぶっ倒してからだ!今じゃねぇ!」

千冬

「…ああそうだな。何れ明らかにはするさ。だが今はやる事がある。その時は私自身の罪も含め、全てを償う覚悟だ」

一夏

「答えろオーガス!てめぇは、束さんはどこにいるんだ!?」

 

一夏と千冬はオーガスに迫るがオーガスは面倒そうな態度を崩さない。すると刀奈から質問が出る。

 

刀奈

「ひとつ聞いていいかしら?貴方はファントム・タスクの幹部なのでしょう?他のメンバーは今回の貴方の行動をどう思っているのかしら?」

クロエ

「……確かに。貴方の他にも幹部、ましてや他の上層部もいる筈。了解を得ているのですか?」

 

するとオーガスはこう返す。

 

オーガス

(ファントム・タスクは関係ない。そもそもあの様なもの等、最早何の意味も無い)

一夏

「…!?」

「そ、それどういう事!?」

オーガス

(文字通りの意味だ。ファントム・タスク等、文字通りファントム(亡霊)、愚かな先人共の過去のものに過ぎんのだ)

千冬

「どういう意味だ!?」

 

するとオーガスはそれに答えず、逆に質問を返す。

 

オーガス

(ファントム・タスク…。そもそも貴様らはその由来を知っているか?)

シャル

「…ファントム・タスクの由来?」

 

聞かれて皆は口をつぐむ。「ファントム・タスク」、一部の者ではその名前だけは知られているが実体の多くは謎に包まれている。刀奈の更識家でも多くは把握できていない。

 

セシリア

「貴方は知っているのですか?」

 

するとオーガスは答えた。

 

オーガス

(当然だ。我のこの世界の祖父だった人間がその創設に関わっていたのだからな)

火影・海之

「「…!」」

「な、なんだと!?」

ラウラ

「貴様の祖父が…ファントム・タスクの創設者のひとりだと!?」

オーガス

(教えてやろう…。最早隠しておく必要もあるまいて…)

 

するとオーガスはその由来について話し始めた。

 

 

…………

 

繰り返された世界全体を巻き込む戦争終結後、世界は戦勝国と国際連合の元、まだまだ多くの問題を抱えてはいるものの一応の平和への道を歩み始めた。……しかしその裏である者達が暗躍する事態を引き起こしてきた。戦争という場所で評価された者達。戦場でしか生きられない兵士や傭兵達である。争いが消えていく事で世界から見放され、自分達の生きる場所が少しずつ削られていく。自分達の才能を生かす場所が無くなり、世界から必要とされなくなる事に彼らは恐怖した。それに耐えかねた者達は遂に行動を起こした。この世界を以前の様な混沌の世界へと再び巻き戻す事を。そしてそんな彼らに密かに手を差し伸べる者達がいた。戦争をビジネスと考える武器商人や闇の権力者である。オーガスの祖父もここにいた。中には他の国の過激な科学者も。大きな戦争が無くなり、以前程武器が売れなくなった者達にとって彼らの行動や思想は自分達の意志にも適っていた。こうして「国を捨てた者、捨てられた者」と武器商人達が手を結び、生まれたのが「ファントム・タスク(亡国機業)」であった。彼らはその腕や金を使い、冷戦を始めとする後の戦争やテロに加担していった。

 

………しかしある時、そんな彼らに異変が起こった。組織の中で「戦争を生きがいとしてただ戦いを楽しむ者」と「戦争をビジネスと考え、裏で世界を支配しようとする者」とに二分し始めたのである。組織内で相容れない争いが続く中遂に両者は激突し、やがて互いに消滅した。自分達が生み出す兵器を使う者達を思わぬ形で失い、どうするか悩んでいた支援者達。すると彼らの前にある者達が突如現れた。スコールやオータムはじめ、アインヘリアル計画を生き残った者達にしてオーガスが逃がした者達であった。

世界最強の兵士を生み出す計画の中で勝ち上がってきた者達。そんな彼らは戦争をビジネスととらえる者達が放っておく訳はなかった。一方のオータム達も自分達をこの様な目に合わせた世界への復讐心に満ちていた事もあり、彼らの誘いを飲んだのである。こうして新生ファントム・タスク(亡国機業)が誕生した。

 

………が、事態は更に変化した。ファントム・タスクを裏で支援していた者達が次々と変死や謎の死を遂げた。実行したのはオータム達。彼らにとっては支援者達もまた自分達の憎むべき敵であった。故に活動資金をむしり取った後、暗殺したのである。一方のスコール達にも異変があった。生き残った兵士達もジーン・セラピーや人体実験の影響で後遺症が出て次々と息絶えた。残ったのはスコールとオータムのみという事態に陥り、事実上ファントム・タスクは壊滅した。そこに協力者として入ってきたのがオーガスであった。最初は当然信じられなかったが彼の類まれない技術と資金力、そして転移を利用して奪ったIS達を手土産にした彼をスコールとオータムは仲間として迎え入れたのであった。奇しくもそれが自分達を苦しめた計画の発案者だったと知るには時間がかかったが…。

 

 

…………

 

火影・海之

「「……」」

オーガス

(そういう事だ…)

ラウラ

「ファントム・タスクが、何年も前に壊滅していた…!自分達で滅ぼし合って…!」

刀奈

「最早殆ど実態を成してない組織に皆が踊らされていたわけね…」

千冬

「マドカはどうしたのだ!?」

オーガス

(織斑計画の失敗で廃棄され、捨てられた奴を我が拾ってやったのだ。あとファントム・タスクの名は引き続き利用させてもらったよ。資金集めに色々利用できるからな。五年前の織斑計画プランBの時の様に)

「貴様、プランBの事も!?」

オーガス

(当然だろう?織斑一夏、貴様に織斑千冬の遺伝子を埋め込む遺伝子療法を行ったのも他でもない、この我だからな)

一夏・千冬

「「!!」」

「な、なんですって!」

シャル

「お前が一夏にジーン・セラピーを!?」

オーガス

(恨むのならそれを仕組んだ世界を恨むのだな?我はその頼みに応えただけだ。ククク、しかし全く馬鹿な者共だ。よりにもよって我に頼むとはな)

「貴様…絶対に許さん!!」

 

……そんな中これまで黙っていた火影と海之が口を開く。

 

海之

「……アルゴサクス。貴様の目的は何だ?」

クロエ

「…兄さん?」

火影

「俺も同意見だね」

「火影…?」

 

火影と海之のその言葉を聞いてから皆がふたりに注目する。

 

海之

「俺は貴様と前世で会った事は無いがどの様な事をしてきたかは知っている。貴様は嘗てムンドゥスや他の多くの悪魔達と魔界の覇権を争っていた。しかし、その争いは膠着が進み、何時終わるやもしれん戦いが続いていた。それに痺れを切らしたムンドゥスは魔界の前に人界を手中に収める事に決めた…」

火影

「だがそれを親父に食い止められた。それを知ったテメェは表舞台から暫く姿を消した。親父によって他の悪魔共も倒されるまで。そして好機と悟った貴様は事を起こし、魔界の大半を支配した。親父に倒される迄だがな。いわばテメェは戦わずして勝つ、漁夫の利を得たって訳だ」

オーガス

(……)

火影

「テメェは策士だ。ましてや悪魔の策士なんて自分にとって利になる事しかしねぇ。あのネズミ野郎が俺を利用してアビゲイルの力を手に入れようとした様にな」

海之

「だが…これまでの貴様の行動を見てると納得がいかない点が多い。アインヘリアル計画に織斑計画、それらは確かにこの世界に影響を与えた。だが…貴様個人に対する利が無い。あるとすれば金とDNSだがそれだけの事でこれ程の長ったらしい事をするとは思えない」

火影

「答えろ。…テメェの本当の狙いは何だ?」

 

火影と海之はオーガスに回答を迫る。…すると、

 

オーガス

(…フフフフ、流石は裏切者であり、嘗てあの方の右腕とも呼ばれていたスパーダの息子。中々の洞察力を持っている様だな)

火影・海之

「「…!!」」

オーガス

(だが…それを話すのは今ここではない。心配せずとも全て教えてやる。我の元まで来れば、な)

一夏

「だからどこにいるんだ!?」

 

するとオーガスは答えた。

 

オーガス

(クククク…そういきり立つな、直ぐに教えてやる。……今から出てやるからな)

 

火影

「…?どういう意味だ?」

 

オーガスがそう言うと場面は突如切り替わり、どこかの水の上、恐らく海であろうの様な場所が映し出される。

 

セシリア

「…どこかの、海でしょうか…?」

 

……するとその時、

 

 

 

……ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ

 

 

 

火影達

「「「!!!」」」

 

火影達は驚いた。何も無い水の上に突如何かがゆっくりと…今までそこに無かったある筈の無いものが表れた。

 

クロエ

「光学迷彩!?」

「…………島?」

 

それは島であった。とはいえ植物等は少なく、岩や地面がむき出しになっている箇所が多い岩島である。

 

 

ドクンッ!!!

 

 

火影・海之

「「!!」」

 

するとその時、火影と海之は突然自分達の剣が何かに反応するように強い脈を打ったことを感じた。その強さはISを出していなくとも強く感じる程であった。

 

一夏

「ど、どうしたふたり共!?」

海之

「…火影」

火影

「ああ。またリベリオンが脈を打ちやがった…!一瞬だが」

「! それってアンタ達の魔力って奴を感じる力の事!?」

 

シュンッ!

 

その力に彼らも慌てて出てくる。

 

アグニ

「気付いたか弟よ?」

ルドラ

「無論だ兄者よ」

シャル

「…アグニとルドラだっけ?ふたりも感じたの?」

アグニ

「当然だ」

ルドラ

「今は違えど我らは元々悪魔故な」

火影

「勝手に…って言いてぇとこだが今回ばかりは大目に見てやる。どうやら大袈裟じゃねぇ様だな」

アグニ

「用心せよダンテ」

ルドラ

「これ程の魔力はまるで」

 

 

 

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

 

 

すると画面に再び動きがあった。画面に映る島が突然激しく揺れ出す。

 

「な、何!?地震!?」

刀奈

「……近くじゃないわね」

 

そうしている間にもそれはどんどん大きくなっていく。……そして、

 

 

ドクンッ!!

 

 

更に一際強い魔力を感じた火影と海之。そして、

 

火影

「……何か来やがる!!」

海之

「……!!」

 

 

 

……ズドォォォォォォォォォォォォォォッ!!!

 

 

 

火影達

「「「!!!」」」

 

その時、地面を抉り、激しい砂埃を上げながら島を突き抜ける様に何かが飛び出してきた!!




※次回は二週間後の14日(土)の予定です。

GW中は私用で中々編集作業ができそうにありませんので再来週にさせていただきます。申し訳ありません。


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Mission189 ラ・ディヴィナ・コメディア

テレビやスマホなどに突如映ったアインヘリアル計画書。それを流したのは火影や海之の思惑通りオーガスであった。しかも残り三日で全てが世に晒されると言われ、千冬達は動揺する。
そんな中オーガスはファントム・タスク<亡国機業>の正体について明かした。その生まれは戦争終結で職を失った兵士達や兵器開発者達がこの世を再び混沌の世界へと誘う事を目的に作った秘密組織である事。しかし長い年月の間で意見を違えた者達が互いに滅ぼし合い、最早消滅に等しいものであったのだった。
動揺が隠せない一夏達を横に、火影と海之はオーガスに真の目的と居場所はどこか問う。するとオーガスは言った…。


火影

「…オーガス、てめぇの本当の狙いはなんだ?」

オーガス

(我の真の目的…。それは我が元迄来たら教えてやる。そのために……今から出てやろう)

 

火影の言葉に乗った形となったオーガスはそう言うと画面を切り替えた。すると同時に何もない水上に突如として島が現れ……そして、

 

 

 

ズドォォォォォォォォォォォォ!!!

 

 

 

地震と同時に何かが島の大地を抉り、凄まじい砂埃を上げながら地上に飛び出してきた。

 

火影・海之・千冬

「「「!!!」」」

一夏

「な、なんだ!?」

「何かが地面から…、いや島から生えてきただと!?」

「ななな何が起こってんの一体!?」

 

そんな事を言っている間にも出てきたそれは大地が避ける爆音を立てながら上昇を止めずに上り続ける。そして、

 

 

オオオオォォォォォォォォォ…………

 

 

……やがて上り続けていたそれはゆっくりと動きを止めた。周囲には今だに大量の砂埃が巻き起こり、詳細は見えない。出てきたそれの外側や最高点?から地面を抉る時に付いたと思われる大地や岩の欠片が落ちる音が聞こえてくるのみ。暫しの間それを見ていた皆は呆然としていたがゆっくりと言葉を発する。

 

ラウラ

「と、止まったのか…?」

セシリア

「みたい…ですわね…」

クロエ

「一体何が…何が出てきたというのでしょう?」

シャル

「樹…な訳ないよね…。あんなにでかい樹がある訳ないし…」

刀奈

「ひとつ言えるのはどうせ碌なもんじゃないわ…」

「……」

 

出現したものの正体を皆が想像する中、やがて少しずつ砂埃が消えていき、うっすらとその姿が視認できる様になってきた。

 

一夏達

「「「!!!」」」

 

それは樹等ではない、巨大な建造物であった。

階層が螺旋状に何層にも積み重なっている様に見える建物。地下にあったためなのか窓らしきものはどこにもない。金属なのかコンクリートなのか、はたまた煉瓦なのか、何でできているかも画面越しにはわからない。唯一わかるのは周囲の島の大きさから途轍もなく高いものであろう事。一見するとそれはまるで塔の様だが異質な存在性を感じさせる。その圧倒的存在感が見る者を圧倒していた。

 

「な…なんだ…。なんだあれは!?」

セシリア

「塔?でしょうか…。でもあれほどの高い塔は…」

「100とか200mどころじゃない…、倍以上はあるわよ…」

「あんなものが地面の下にあったなんて…信じられない…」

 

誰もが目の前に突如出現したそれに再び言葉を失う事になった。

……だが火影と海之の反応は違った。

 

火影・海之

「「……」」

 

ふたりはその出現したものを黙って睨み続ける。一夏達以上に信じられないもの見る様な目で。こんなふたりを見たのはあのドッペルゲンガーと初めて会った時以来である。

 

シャル

「…火影?」

「海之くん…?」

 

…ヴゥンッ!

 

すると画面は切り替わり、再びオーガスが映された。

 

オーガス

(クククク、驚いてくれたかね?)

 

場所からしてどうやら今出現したものの頂上?にいる様であった。

 

千冬

「答えろオーガス!アレは、アレは一体何だ!?」

オーガス

(貴様ら等には聞いていない。どうかね?ダンテ、バージル)

 

オーガスはふたりの回答を待っている様だ。するとふたりはオーガスを睨みつけたまま返事を返す。

 

火影

「………どういうこった」

 

そして続いてふたりは驚きの名前を出す。

 

火影

「あの時の一瞬の気配…。なんで…こんなもんがこの世界にあるんだ…?まるでアレと同じじゃねぇか…!」

海之

「…ああ。そしてジワジワと感じる魔力の断片、あれと同じだ。……「テメンニグル」とな…!」

 

その名前を聞いた一夏達は、

 

一夏

「お、おい!確かそれって!」

千冬

「…嘗てのお前達の世界にあったという…邪教徒達が生み出した魔界に繋がる塔の名だな?」

 

そう。ふたりの前世の世界にあり、魔界を崇拝していた者達が魔界の力を手に入れるために生み出した塔。そしてふたりの運命がはっきりと分かれるキッカケとなった塔。「テメンニグル」である。目の前のそれが出現したその時、いっしゅんふたりはそれと同じ何かを感じたのだった。

 

「そ、そんな馬鹿な!」

「じょ、冗談でしょ!?そんな馬鹿な事ある筈ないわ!」

セシリア

「そうですわ!そんな事あり得ませんわ!」

クロエ

「この世界に魔界は関係ない筈…。なのにそれと同じものが存在する等…!」

 

当然誰もが信じられないという表情をしている。そしてそれは火影と海之も同じ気持ちだった。だから先程あれを見た時に疑念に満ちた表情をしていたのだ。

 

オーガス

(クククク、驚いてくれた様で嬉しいよ。……だが折角の期待を裏切る様で申し訳ないが…これは「テメンニグル」ではない。そして太古の遺産の様なふざけたものでもない)

一夏

「じゃ、じゃあ一体何だってんだ!?」

 

オーガスは答えた。

 

オーガス

(これは我が造ったものだ)

 

火影・海之

「「…!」」

「な、なんだと!貴様が造った!?」

オーガス

(その通り。…そして、これこそ全ての始まりの場所。今より16年前、「アインヘリアル計画」と「織斑計画」が行われた場所だ…)

千冬

「!!」

一夏

「な、なんだって!?その巨大な塔が…!」

シャル

「アインヘリアル計画と織斑計画が行われた場所だって!?」

「…あの恐ろしい計画が、…多くの人が死んだ場所…!」

 

突如現れた巨大なそれがあの悪魔の計画が繰り広げられた場所。その事実に一夏達が驚いていると、

 

オーガス

(そうだ…。アインヘリアル計画、これはその戦いの舞台として造ったもの。まぁ姿は多少改造しているがな。世界最強という至高にして幻想の存在になりたいという、愚か者共の華々しい戦いの舞台であり聖域…。その名を)

 

オーガスはその名を呼んだ。

 

 

オーガス

(……「ラ・ディヴィナ・コメディア」…)

 

 

 

天国への階段「ラ・ディヴィナ・コメディア」

 

名もなき島に突如現れた巨大建造物。外見は何層にも積み重なっている塔の様に見える。オーガス達の拠点にして、アインヘリアル計画や織斑計画が行われた場所でもある。船や飛行機の航路から大きく外れていた事や特殊な光学迷彩によって巧に隠されていた。最深部は海中にまで到達していた巨大地下都市ともいえるものだったがオーガスの手によって改造され、地上にその姿を現す。元々は地面の下にあった事から入口部分は頂上にあり、一見一階の様に見える部分が実は最下層であり、同時に頂上である。云わば「逆に生えている塔」。

 

 

 

一夏

「ラ…何だって?」

千冬

「「ラ・ディヴィナ・コメディア」だ」

「噛みそうな名前ね。どういう意味よ?」

 

すると海之が答える。

 

海之

La Divina Commedia(ラ・ディヴィナ・コメディア)…。「神曲」…か」

ラウラ

「「神曲」?」

セシリア

「イタリアの詩人、ダンテですわね…」

オーガス

(その通り…。愛する者を喪い、世界から見捨てられ、絶望した嘗ての詩人ダンテ・アリギエーリが人の世を去り、地獄を通り、天界へと昇る物語…)

火影

「…ダンテ…」

オーガス

(世界から見捨てられた者達が地獄を生き抜き、戦い抜いた者達が最強という至高を手に入れるための天国への階段…。なんとも似合った名前ではないかね。…クククク)

「見捨てられたって…!貴方達がそうしたんでしょう!」

刀奈

「天国どころか寧ろ地獄ね…」

 

すると火影がオーガスに尋ねる。

 

火影

「……さっきてめぇは俺達が居場所を聞いたら「今から出てやる」って言った。つまり…そこがてめぇのアジトって訳か…」

一夏達

「「「!!」」」

オーガス

(クククク、その通りだ。始まりの地にして、そして…全ての終わりの場所でもある)

海之

「…終わりだと?」

 

そしてオーガスは両手を広げて言い放つ。

 

オーガス

(そう、終わりの場所だ。こここそが我らの決戦の地!ダンテ!バージル!多くの人間共の血と骨でできたこの場所こそ!貴様らの凶つ血を滅ぼすにふさわしい!)

火影・海之

「「…!!」」

千冬

「それは…文字通り最後の対決の場所という意味か!?」

オーガス

(その通りだ。我らの最終戦争!スパーダの頃から続く我々の禍々しい因果もこれで最後だ!)

 

それを聞いて一夏や箒達も反応する。

 

一夏

「て事はマドカもそこにいるんだな!?」

オーガス

(ああ。憎悪の念を更に高めてな)

「姉さんもか!?」

オーガス

(あの女もよく働いてくれたよ。返してほしければ来るがいい。但し、二度と帰れぬ覚悟でな)

セシリア

「に、二度と帰らない…覚悟…?」

オーガス

(ん~?よもや貴様ら、まだ自分達が死なない殺されないという下らん考えを持っているのではなかろうな?これよりは我らの最終戦争。生きるか死か、それだけだ)

「し、死ぬ…」

 

「死ぬ」という言葉を聞いて一瞬怯む箒達。思い出されるドッペルゲンガーとの戦いで経験した死の瞬間の恐怖…。しかし火影と海之が返す。

 

火影

「て事は今回はてめぇも出てくるって事か?」

オーガス

(ああ。他の奴らには手を出させん。貴様らは我らの手で殺してやる。今度は生まれ変わりもしない様にな)

 

オーガスは狂気に満ちた笑みでそう言い放つが火影と海之もまた言い返す。

 

火影

「なら俺らが勝てばてめぇもそこで終わりって訳だ。んじゃ願ったりかなったりって奴だ。俺らもさっさと決着つけて、普通の人生を満喫してぇ」

海之

「だが残念ながら貴様も今は人間。俺達も今更人殺しにはなりたくない。安心しろ、精々再起不能の半殺し程度に収めておいてやる」

 

ここでも余裕を崩さないふたり。それはふたりの作戦でもあった。動揺や恐怖は相手の思う壺。ましてや悪魔にとって人間のそれは蜜の味に等しい事もふたりは知っている。故にふたりはオーガスの手には乗らない様にしていた。勿論ふたり共元々そういう性格もあるのだが。

……そしてそれはオーガスも、正確にはアルゴサクスも同じだった。彼も余裕の表情を崩さない。

 

オーガス

(クククク…、その父親に負けぬ闘争心、これ程のものを見せられても変わらぬその精神力。それでこそだ。やはり生まれ変わっても貴様らも悪魔。嘗ての自分は拭えぬか)

 

これに反論したのは一夏達だった。

 

一夏

「違う!!」

「前にも言った筈よ!ふたりは火影と海之だって!」

シャル

「そうだよ!もうダンテとバージルじゃない!」

オーガス

(……ほう。貴様ら真実を知ったのか。だがそれを知って尚奴らといると?)

ラウラ

「愚問だな!」

「前世とか関係ない!ふたりはふたりだよ!」

「その通りだ!そして貴様の様な奴とは違う!」

セシリア

「おふたりは必要な方ですわ!」

クロエ

「おふたりは人間です!悪魔ではありません!」

オーガス

(愚かな。勝ち目のない者に己の命を懸けるか…)

刀奈

「時々いい意味でも理解できない愚かな事するのが人間なのよ。貴方も少しでも人間だったなら覚えがないかしら?」

千冬

「例え死すとしても、貴様に一泡吹かせてからだ」

 

それぞれの想いを改めてぶつける一夏達。それを聞いてオーガスは満足そうに言う。

 

オーガス

(…貴様達もまたいい闘争心だ。それもまたDNSの力の源よ。貴様らがそれを持てばさぞそれなりの悪魔となれるだろう…。以前の貴様の様にな?織斑一夏)

一夏

「……ああ。けど今は感謝してるぜ。お前らを倒すために使えるんだからな!」

 

するとオーガスの顔が真面目になる。

 

オーガス

(……確かに、貴様のあの変化は正直に驚愕した)

海之

「貴様や嘗ての俺が蔑んだ人間の可能性というものだ」

 

だが次の瞬間また不気味な笑みを浮かべて言った。

 

オーガス

(だがそのおかげで新たなものを生み出すこともできた)

千冬

「…新たなものだと!?」

オーガス

(それも来れば見せてやろう…クククク)

 

すると勿体ぶりな態度ばかり繰り返すオーガスに火影は少しイラつきながら、

 

火影

「けっ!勿体ぶりやがって。てめぇも随分人間に染まっちまったじゃねぇか。隠し事が多いのは人間の本質だぜ。どうせいつか見せんなら今さっさと見せたらどうだ?」

 

火影はオーガスにそう言い放つ。するとオーガスは顎に手を当てながら少々考えると、

 

オーガス

(………良いだろう。折角だ、もうひとつだけ見せてやる)

「随分大盤振る舞いね」

 

そう言った後オーガスは皆に、いや正確には火影と海之に言った。まるでドッペルゲンガーを召喚した時の様に口元を歪ませて。

 

オーガス

(だが貴様ら、コレを見てもそのふざけた態度がまだ続けられるかな?)

火影

「……何?」

海之

「……?」

 

火影と海之はその言葉に目をひそめた。ラ・ディヴィナ・コメディアを見て多少驚きと動揺はしたもののオーガスの手に乗りはしなかった。しかしそれを知ってこれ以上のものがあるというのか……。

 

 

ヴン…ジャキッ!

 

 

するとオーガスは拡張領域を展開し、何かを取り出した。

 

クロエ

「……ペンダント?」

 

オーガスが手に持っているのは大きいペンダントらしきもの。

 

火影・海之

「「!!」」

 

それを見て火影と海之の目が一層大きく開かれた。ラ・ディヴィナ・コメディアを見た時以上に。

 

一夏

「ど、どうしたふたり共!?」

オーガス

(気付いた様だな。そうだ、それだ。それが我の見たかった顔だ。ククク…)

 

そしてオーガスは手に持ったペンダントを掲げると、

 

 

カッ!!

 

 

それから黒き光が溢れ出た。

 

刀奈

「くっ!」

シャル

「黒い光…まるでアリギエルとウェルギエルの光みたいだ!」

 

そして一瞬の光が晴れると、

 

一夏達

「「「!!」」」

アンジェロ?(オーガス)

(クククク…)

 

 

そこにはアンジェロらしきものを纏った…オーガスがいた。

 

 

一夏

「アンジェロ!?」

セシリア

「で、ですがアンジェロは無人機の筈…!まさか…IS!?」

「嘘でしょ!?アンタもIS使えんの!?」

アンジェロ?を纏いしオーガス

(無人機のアンジェロを有人機に造り上げたものだ。当然DNSも搭載してある。だが…これ位で驚いてもらっては困るな)

 

するとオーガスはペンダントを持つ右手と反対の左手にも何かを持っている。その手には…謎の装置が握られていた。

 

クロエ

「あれは…何かのスイッチ?」

ラウラ

「今度は何をするつもりだ!?」

オーガス

(今から貴様らにいいものを見せてやる。この世を新たな世界に導く、新たな英雄の生誕の瞬間を…)

 

 

ギュンッ!!

 

 

するとオーガスが纏うアンジェロの目が一瞬赤く光った。

 

オーガス

(この世界最高の科学者、篠ノ之束が生み出した「インフィニット・ストラトス」の力と)

 

 

ガチッ!!……カッ!!!

 

 

オーガスは手に持ったスイッチらしきそれを押し込んだ。すると再び彼の姿が激しい黒き光に包まれる。先程以上に強く黒い光にモニターの画面越しでも直視できない。

 

一夏

「うわっ!」

「い、一体何が!?」

オーガス

(DNSの可能性を極限まで高める宝具、「デビルトリガー」を使ってなぁ!!)

 

 

ドクンッ!!

 

 

火影・海之

「「!!」」

オーガス

(そして喜ぶがいいダンテ!バージル!感動の再会の時だ!!)

 

 

シュバァァァァァァァァァァ!!!

 

 

黒き光が爆散し、飛び散った。……そして光が晴れてくると……そこには、

 

火影達

「「「!!!」」」

 

 

 

鎧と大剣のIS?

(………)

 

 

 

オーガスが纏うアンジェロが今までのそれではない、別の姿に変わっていた。赤い鎧、そして奇妙な形の大剣を持った存在に。

 

一夏

「な、何だアレは!?」

「赤いアンジェロ…!?」

刀奈

「DNS…?それにしては今までと違うわね…」

シャル

「は、はい。前に一夏がなったのは黒い炎に包まれていたみたいでした…。でも」

「…うん。あんな変化じゃなかった…」

千冬

「あれもDISなのか…?」

 

今まで見たことが無い未知のそれに驚く様子の一夏達はそれぞれの反応を見せる。

……だが火影と海之の感想は違った。色を始め僅かに違う箇所もあるが…ふたりはその姿に見覚えがあった。何故ならそれは、

 

 

 

 

 

 

 

火影・海之

「「…………………親父!!??」」




※次回は15日(土)の予定です。

こんばんわ。storybladeです。
何とか今週も間に合いましたので投稿しました。前編と後編で題が違うので短めです。

追伸
最近予定が変わってばかりで本当にすみません。少しでも皆さんに先を読んでいただきたいと思いまして…。ただ次回は大丈夫ですがひょっとすると次々回は飛ばしになるかもしれません。


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Mission190 汚された名 兄弟の逆鱗

火影と海之、一夏達の前に映し出されたもの。それは島を貫く様に出現した巨大な塔であった。

「ラ・ディヴィナ・コメディア」

嘗てアインヘリアル計画と織斑計画が繰り広げられ、多くの血が流された場所。オーガス(アルゴサクス)はここを拠点とし、更に次の戦いが自分達の最終決戦だと告げる。皆が動揺する中、火影と海之はそれも相手の手だとして自分を変えず、更に手を見せろと挑発する。……そしてそんな彼らにオーガスは言い放った。

「いいものを見せてやろう。…そして喜べ、感動の再会だ!」


オーガス

(貴様らにいいものを見せてやろう。「インフィニット・ストラトス」と「デビル・トリガー」を使って!そして感動の再会の時だ!ダンテとバージル!)

火影・海之

「「!!」」

 

 

カッ!!

 

 

ISとして改造したアンジェロを纏ったオーガスは、

 

 

シュバァァァァァァァァァァ!!

 

 

手に持つデビル・トリガーというものを押し込むとそれまで以上の黒い光に包まれ、やがて光は飛び散り爆散した。……そしてそこに佇むものが露になった。

 

 

赤い鎧と奇妙な大剣のIS?

(……)

 

 

そこにいたのは今まで見たアンジェロでもISでもない、未知のISだった。

特徴としては……全身が真っ赤、血の様な赤。目も同じく赤だがそこは一際赤く輝いている。頭部には巨大な二本の角があり、背には大きな六枚の翼がある。膝の部分にも奇妙な装飾。更に脚先は馬や牛の様な蹄の様な形をしている。そして一見、生物的な外装がある片刃の巨大且つ奇妙な大剣を地に突き刺す形で正面に構えている。

 

一夏

「す、姿が変わった!?」

「赤いアンジェロ…いや違う!」

刀奈

「DNS…にしては聞いてた変化と違うわね…」

千冬

「あれも…DISなのか?」

 

一夏達はその未知の存在に驚く。……だが火影と海之は全く別の意味で驚いていた。何故ならその姿はふたりにとって決して忘れられない、例え生まれ変わったとしても…、そんな姿をしていたからだ

 

火影

「……親父!?」

海之

「……!!」

 

それは色こそ違えど、自分達の前世の父であり、世界を魔界の脅威から救った救世主にして魔界の反逆者。嘗てバージルが幾度もその力を求めた存在、魔剣士スパーダだった。

 

ラウラ

「な、何だと!?父親!?」

一夏

「お、お前らの親父さんってどういう事だよ!?」

セシリア

「……!まさか、おふたりの前世のお父様である、魔剣士スパーダの事ですか!?」

「た、確かに言われてみれば…似てる、かも。あの時は炎と戦いの中で良く見えなかったけど…」

シャル

「う、うん。でもあの剣は見覚えがある。ふたりの昔のビジョンで…スパーダが振るってたやつだ…」

「あれが…ふたりの前世のお父さんの、悪魔としての姿…」

クロエ

「正確にはISでしょうが…まさかそれをISの姿とするなんて…!」

 

現れたISの正体を知った一夏達は驚きを隠せない。火影と海之は思う事があるのか最初の一言から何も話さない。そして一方のオーガスだが、

 

赤きスパーダ纏いしオーガス

(……)

 

彼もまた一言も話さない。ゆっくりと顔を横に動かしたり、手を握りしめたりしている。動作確認だろうか…。

 

一夏

「な、なんだ?どうした?」

「具合を見ているのではないか?DNSとは違うシステムみたいだし…」

千冬

「…?」

 

そして数十秒後、

 

オーガス

(………これがインフィニット・ストラトス。………これが奴が言っていた、…世界の人間が造り上げた、…この世界最高の兵器、か…)

 

身体の具合をある程度把握したのか赤いスパーダを纏うオーガスがゆっくりと口を開く。

 

 

…ドクンッ!!!

 

 

火影・海之

「「!!」」

オーガス

(……スパーダ…。……紛い物とはいえ、……あの裏切り者を模した姿形を纏うとは、……本来ならば……恥辱の極みである……)

「!…よく、よくもそんな勝手な事言えるわね!」

セシリア

「そうですわ!では何故そんな姿を!まるで火影さんと海之さんへの当てつけみたいに!」

オーガス

(……まぁいい。……把握した。今は…………)

 

するとオーガスは再び黙ってしまった。

 

火影・海之

「「…?」」

千冬

「何だ?」

一夏

「どうして黙っている!質問に答えろ!」

 

すると数秒後、再びビジョンに映る赤きISが動き出す。

 

オーガス

(………クククク、流石のダンテとバージルも驚き過ぎて言葉も出ないか?ISとはいえ、父親の姿をこんな突然に見せられてはな)

ラウラ

「オーガス!貴様、そのISは一体なんだ!」

 

するとオーガスは答えた。

 

オーガス

(…これは我の専用機よ)

「…!!」

「アンタの…専用機ですって!?」

オーガス

(…そうだ。本来ならば我にもISを動かす事は出来ない。だが、織斑千冬の遺伝子を我の体内に組み込む事によって可能となった)

千冬

「…!」

セシリア

「な、何ですって!織斑先生の遺伝子を!?」

オーガス

(織斑一夏への遺伝子療法を行った時に何かに使えるかもしれぬと思い拝借したのだ。いわば保険だよ。ククク、感謝しているぞ?…兄妹?)

千冬

「…!!」

一夏

「兄弟だと!?ふざけんな!!てめぇどこまで千冬姉を利用すれば気が済むんだ!!」

 

だがそんな言葉を無視してオーガスは続ける

 

オーガス

(そしてこのISは…篠ノ之束と、我によって生み出されたもの…)

「ね、姉さんが!?…じゃあ、貴様そのために!」

オーガス

(ISの外郭は私にも生み出す事は出来るがコアだけは不可能だったのでね。御協力頂いたのだ)

クロエ

「嘘です!束様が貴方に協力するなど!」

オーガス

(いや、協力してくれたさ。ある真実を知ったら見事にな)

シャル

「あ、ある真実…?」

オーガス

「11年前、そう言えばわかるかね?」

 

すると千冬が声を上げた。

 

千冬

「…まさか貴様!?」

オーガス

(ふっふっふっふ…そうだ。10年前のあの旅客機自爆テロで狙われたのが織斑千冬、そして織斑一夏、貴様等姉弟の父親であるという真実よ)

千冬・一夏

「「!!」」

オーガス

(知っているぞ?貴様は篠ノ之束には教えていなかった様だな。大方知れば傷つくと思っての事だろうが…その通り、例え狂人であろうと友の親の死が自らに責があると知ったのは堪えた様だったな。更に11年前の、あの白騎士事件の被害者共の悲鳴を聞かせてやった。あの時の慌てぶりははっきり覚えているぞ。見ていて飽きぬわ、我が例え悪魔でも泣いて笑ってやったところだ。ハッハッハッハ!)

千冬

「……!」

一夏

「てめぇ!」

「貴様ぁぁぁ!」

クロエ

「貴方は…貴方だけは絶対に許さない!」

 

皆、特に一夏と箒とクロエは激しい怒りを見せる。千冬も言葉に出さないが怒りはふつふつと感じる。

 

刀奈

「…ところで…何故貴方の専用機をふたりの父親の姿にしたの?」

「そうよ!アンタにとってスパーダは敵の筈でしょう!?なんでわざわざそんな姿を!」

 

するとオーガスは答える。

 

オーガス

(理由はふたつ。ダンテとバージルを滅ぼすのにこれ程の相応しい姿は無いだろう?父親の姿をしたものに殺されるのであれば、死ぬ時に本望というものだ)

「そんな…そんな理由で…!」

シャル

「酷いよ…。偽物だとわかってても、親子で戦い合う様な真似をさせるなんて!」

オーガス

(…そしてもうひとつは…奴らに対する我の愛情、とでも言おうか)

クロエ

「あ、愛情…!?」

 

オーガスの愛情という言葉に困惑する皆。

 

オーガス

(わからんか?死んだ父親に会わせてやったのだ。もう二度と会えぬと思っていた者に会える。これに勝る愛情はあろうか?いや無かろうて、ふっふっふ)

 

そしてオーガスは地に突き刺した大剣を掲げて高々と言い放った。

 

 

 

オーガス

(死を前にした最大の敵に送る最大の敬意にして愛!故に我が専用機の名を…「アルダ・スパーダ」!そしてこの剣を…魔剣「エヴァ」と名付けた!!)

 

 

 

火影・海之

「「!!」」

セシリア

「アルダ…。全知全能の、両性具有の神の名ですわね」

シャル

「そ、それに「エヴァ」って確かそれ…!」

「ふたりの前世のお母さんの名前…!」

オーガス

(大切なものや獲物には自ら、若しくは愛する者の名をつける。これも人間共から知った事だ。良かったろう?大事なものにふたつも再会できて)

ラウラ

「…貴様!本当に人を…心をなんだと思っているのだ!!」

オーガス

(貴様の様な存在が言っても価値が薄いぞ、人で無きものよ。それに対し我は純粋な人間。記憶や考え方は違えどもな)

一夏

「ふざけんな!!」

「例え生まれ方は少し違ってもラウラやクロエは立派な人間だ!貴様の様な奴より余程な!」

クロエ

「皆さん…」

 

するとこれまで黙っていた火影と海之が口を開く。

 

火影

「………「スパーダ」、そして「エヴァ」…か…。もう随分長い間その名前をはっきり聞いた事が無かった。……長い間な。……懐かしい」

海之

「……」

オーガス

(ククク、そう言って頂けて何よりだ)

火影

「…ひとつ聞かせろ。親父の偽もんをそんな血の色に染めたのは何故だ?前のてめぇを少しでも自己主張したかったからか?」

 

以前ダンテだった頃に戦ったアルゴサクスは全身が炎に包まれた様な赤色をしていたのを思い出して問いかけた。

 

オーガス

(フン、決まりきった事を聞くではないか。貴様らの父スパーダは悪魔でありながら人間共に荷担した。多くの同胞を斬り、その血を浴びてな)

海之

「…悪魔の返り血に染まった救世主、という訳か…」

オーガス

(そして悪魔共の血に染まったスパーダは再び魔へと還ってきた。世界を導く新たな救世主としてな。この「ラ・ディヴィナ・コメディア」こそがその中心よ。「テメンニグル」とは違うがなかなか良いものだろう?クククク…)

 

オーガスは楽しそうに笑う。…が、突然笑いを止めて妙な事を言い出した。

 

オーガス

(………ふむ、どうやら無粋な客人の様だ)

千冬

「…客人だと?」

オーガス

(言葉の通りだ。今この島に近づいているものがある。貴様らの方でも見てみるがいい。今座標を送ってやる)

 

すると言葉の通り指令室の端末にすぐ情報を送られてきた。それを見てすかさずクロエが分析する。するとその言葉の通り、IS学園がある日本からは程遠い、飛行機や船の航路からも完全に離れている座標が映し出された。そして、

 

クロエ

「! 指定ポイントに接近してくる熱源があります。これは………ミサイルです!!」

火影・海之・千冬

「「「!」」」

一夏

「み、ミサイルだって!?」

「マジで!?」

クロエ

「それもひとつではありません!複数のミサイルがあらゆる方向から向かってきています!」

 

クロエの言う通り、画面を見るとある一点にあらゆる方向から数発の熱源が向かってきているのが見えた。

 

刀奈

「一体どこから…世界中からミサイル、しかもあの塔に向かって……!」

千冬

「…まさか!」

 

千冬と刀奈は謎のミサイルについて正体が読めた様だった。そして海之も、

 

海之

「…間違いない。アインヘリアル計画の闇の遺産。あの計画に協力していた奴らが極秘裏に潰そうとして撃ったミサイルだろう」

一夏

「な、何だって!?」

「そ、そんな!そんな簡単にミサイルを撃つなんて!しかも人が中にいるかもしれないのに!」

セシリア

「それにそんな事したら余計に世界中に知られることになるのでは…!?」

海之

「…いや、政府の連中も馬鹿ばかりではない。無論それも承知している筈。あの場所の存在やミサイルの発射も全て情報統制を敷くに違いない」

火影

「それにだ。例え中に誰かがいたとしてもその事も隠蔽するだろう。自分達の首根っこを押さえられるよりは殺しの方がまだマシって訳だ」

ラウラ

「…そうだな。大方テロの殲滅とでもお題目をつけるに違いない」

シャル

「そんな…そんな事したって完全に隠しきれるもんじゃないよ!」

クロエ

「最接近しているミサイル到達まで時間がありません!」

 

クロエの言う通り、一番近くまで迫ってきているらしいミサイルが現地に到達するまでのこり数分という状態まで来ていた。……が、そうはならなかった。

 

クロエ

「…!こ、これは…ミサイルが消失しました!」

「え…消失!?」

 

クロエの見ていたレーダーから島にあと数分で到達というミサイルの影が…忽然と消えてしまった。

 

千冬

「どういう事だ?」

クロエ

「詳しくはわかりませんが…おそらく到達前に空中で爆発したものと…」

一夏

「故障でもしたのか?」

 

だが立て続けに迫ってきた他のミサイルも島に到達する前に全て消失した。このことから故障ではない事がはっきりした。

 

クロエ

「ミサイル全て消失…。残っている機影0です…」

「な、何が起こってるの…?」

刀奈

「迎撃でもされたのかしら?」

 

するとオーガスがその答えを出した。

 

オーガス

(違う。我が生み出した、この島を覆っている結界よ。如何に強大な兵器であろうとこれを貫く事はできん。核や粒子兵器でさえもな)

一夏

「マジかよ…!」

千冬

「つまり島に直接乗り込むしか方法が無いという事か…」

 

 

パチンッ!!

 

 

するとオーガスは突然、指を鳴らす。

 

オーガス

(そして愚かな者達には、罰を与えねばならんな)

 

すると先程からミサイルの発射地点を探っていたクロエが声を上げる。

 

クロエ

「…!! こ、これは!」

千冬

「今度はどうした!」

クロエ

「ファントムです!ミサイルの発射された地点に!」

シャル

「な、なんだって!?」

クロエ

「! 別の基地にもグリフォンが出現!他の場所にも反応が!」

セシリア

「ど、どうしてそんな!?」

 

すると刀奈は理解したらしく答えを出す。

 

刀奈

「……まさかオーガス…貴方、ミサイルの発射地点にファントムやグリフォンを放したわね!」

一夏達

「「「!!」」」

オーガス

(何を怒っている?やられたらやりかえす、それが人間の道理なのだろう?だが慌てるな、奴らには人間を殺さない様に設定してある)

「…?どういう事よ!?」

 

するとオーガスは笑いながら言った。

 

オーガス

(ククク、これまた決まりきった事を聞く。これから絶望と混沌の世界が始まろうとしているにそれを味わえないまま死ぬのは酷だろう?云わばこれも我の愛情というものだ)

「絶望と…混沌の世界…!?」

刀奈

「どういう事!?」

オーガス

(知りたければ来るがいい、この「ラ・ディヴィナ・コメディア」まで!但し死を受け入れる覚悟ができたのならな!アインヘリアル計画と織斑計画の拡散を防ぐには我を倒してこの施設を破壊するしかない。早くしなければ間に合わなくなるぞ?)

千冬

「くっ…!」

一夏

「上等だ!お前は俺達が倒す!そして束さんも返してもらう!!」

オーガス

(我は初めから貴様等相手にしていない。貴様らの相手は奴らに任せてある。我々は我々の決着をつけようではないか!なぁダンテ!バージル!)

火影・海之

「「……」」

 

オーガスは火影と海之にそう宣言した。すると火影が頭をガリガリと搔きながら口を開く。

 

火影

「………たく、「テメンニグル」ん時のあのオッサンといい…、あん時の何とかっつう宗教の親玉の爺さんといい…、どいつもこいつも人の家族事情に何度も首突っ込みやがって…。しかも挙句の果てには親父の偽もんを纏い、偽もんの親父の剣に母さんの名前を使うとはな…」

オーガス

(ククク、固いことを言うものではないぞ?同じこの世界に転生してきた者同士ではないか。云わば同類よ)

海之

「……ああ。だからこそ、俺達のやる事は決まっている。……貴様は、俺達が潰す!」

 

火影と海之の目に一際激しい怒りが浮かぶ。普段めったに怒った姿を見せたことが無いふたり。オーガスは間違いなく、火影と海之の逆鱗に触れた。嘗ての父、そして母の名を汚したオーガスに。

 

オーガス

(さぁ、我が元まで来るがいいダンテ!バージル!そしてその目から光が消える瞬間を見せてくれ!)

火影

「俺達は死なねぇと言った筈だ。どうしてもって言うなら、道連れがいるぜ?」

オーガス

(幾らでも連れていくがいい。貴様らを殺せるならどれ程だろうと安いものだ!)

海之

「…ああ。貴様と、貴様が生み出したもの全てな」

オーガス

(フハハハハハハハハ……!!)

 

オーガスの笑みを最後にその通信は途切れた。

…その後、ファントムやグリフォンに襲われた基地や拠点は徹底的に破壊されたが、オーガスの言った通り人的被害0という状態だった。当然現地の軍や部隊は対処しようとしたが、どこから現れたのか全く分からない突然の奇襲と、アンジェロ以上の戦闘力やまるで生き物の様な動きを持っているファントムやグリフォン達の行動と攻撃に苦戦を強いられ、ほぼ一方的にやられた後、それらは同じく転移して消えたらしく、解析しようにもなんの証拠も残っていなかったのだった。

 

 

攻撃を受けた者達は言った。…「悪魔」…、と。

 

 

計画の全貌が世に出るまで…あと二日と二十時間…。




※当初の予定通り、来週はお休みで次回は再来週29(土)となります。
今話で今章は終了。次回から二、三話位の短い新章で、それが終われば更に新章の予定です。

今まで口数が少なかったボスが最後が近づくと急に喋りが多くなるのはあるあるだと思います。


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第十五章 What they believe
Mission190 光明とタイムリミット


火影(ダンテ)と海之(バージル)の嘗ての父、スパーダを纏うオーガス(アルゴサクス)。オーガスはそれをふたりと戦うために自らと束によって生み出したISであり、名を「アルダ・スパーダ」、そして携えるその剣を魔剣「エヴァ」と名付けた。

とその時、嘗てアインヘリアル計画と織斑計画に携わった者達が撃ったと思われるミサイルがオーガスに迫るがオーガスはそれを一蹴し、逆に報復としてファントムやグリフォンを繰り出して基地を壊滅させてしまう。

嘗て人界を救ったスパーダが今度は混沌渦巻く世界へと誘う存在に。父スパーダ、そして母エヴァの名を汚された事に対する火影と海之の怒りは頂点に達し、打倒オーガスを誓う。


IS学園 指令室

 

 

オーガスからの挑戦ともいえる通信が終わった後、火影達は学園をできるだけ動揺させないために授業に出ながらその日の夜、再び指令室に集まっていた。

 

千冬

「真耶、更識。現時点でわかっている事の報告を頼む」

真耶

「は、はい!」

 

千冬はあの後、真耶とIS学園長等、一部関係者にだけは先ほどの通信の件を話していたのだった。

 

真耶

「皆さんも既にご存じかもしれませんが…、現在あの、アインヘリアル計画の情報が全世界に一斉に流れた事により、世界中のいたる所で規模は様々ながら混乱が起こっています。そしてあの件については一応表沙汰には原因不明の事故として処理されている様です。国によってはそれを信じてまだそれほどの混乱は起こっていない様ですが…」

シャル

「流れたのってほんの一、二分位でしたもんね…。見てない人も大勢いるだろうし」

「学園でも何かしらのイベントの告知かなって言ってた位だからね…」

刀奈

「織斑先生、学園長には?」

千冬

「話せる最大限までは御話しした。勿論内密にな。学園内の動揺を少しでも広めない様できる事は全てするとお約束頂いた。清潔な方だ。信用して良い。…だが」

セシリア

「効果はあまり期待できませんね…。テレビや端末は使わなければ良いとして、携帯までジャックされてる以上、必ず明日も見る生徒がいる筈です。携帯を取り上げる訳にはいかないし…」

 

セシリアの言うとおりあの情報は携帯にも流された。ひとりひとつはほぼ確実に持っているであろうから必ず見る者がいる。それまでコントロールするのは難しい。今は変な情報に惑わされない様に言うしかないかもしれない。……だが問題はそれだけではない。

 

千冬

「各地の被害はどうなっている?」

真耶

「先ほどクロエさんにも調べていただいたんですが…現時点ではまだ至って限定的ですね。ミサイルが発射された拠点だけが一方的に壊滅させられた状況です。死者0で…」

「死人が出ていないのは良いですが…でも」

ラウラ

「ああそれが逆にマズイ事態となっているかもしれん…」

 

箒がこう言うのは理由がある。今朝がたの通信が終わった後、オーガスが差し向けたファントムやグリフォンに基地を壊滅させられた何国かが報復として再度ラ・ディヴィナ・コメディアに向けてミサイルを発射したのである。しかしそれらはやはり全て破壊され、逆にファントムやグリフォンによって再度反撃を受け、壊滅させられた。当然これも情報統制が敷かれ、世間にはあまり伝わっていない。基地の爆発は「不慮の事故」「撤去のために爆破した」とか、ファントム達をその目で見た者達には「気のせい」とした。最も基地の爆発はともかくとしてファントムやグリフォンの姿を見てそれら全員に気のせいと言うのは無理があるが先に仕掛けたのは自分達だからあまり強くは言えないのだろう。

 

真耶

「そしてこれは駄目な方法なんですが…クロエさんが今回ミサイルを撃った国にハッキングした所、例の島へ軍を派遣して直接攻撃しようという動きもあるとか…」

 

国によってはオーガス達の拠点である魔塔へ直接攻撃をしかけようとしているらしい。それを聞いて心当たりがある者達が声を上げる。

 

「こんだけやってもまだそんな事すんのね…。まぁどうせ中国も考えてるでしょうけど…」

シャル

「…フランスも…そう考えているのかな…」

千冬

「…ボーデヴィッヒ、更識。お前達の国ではどうなっている?」

ラウラ

「…はい。先ほど私の副官が申して来たのですが私にも帰還命令が出ております。理由は…軍による某テロ組織への殲滅作戦だと…」

クロエ

「自分達の失敗や罪はそっちのけで対テロ作戦という名分ですか…。相変わらずな体質ですね」

刀奈

「実は私にも話が来ているのよね…」

「え…お、お姉ちゃんにも!?」

刀奈

「私って一応ロシア代表だから。一応返事はまだにしてあるんだけど」

セシリア

「イギリスの私の家の会社にも資金提供依頼の話があったらしいですわ。…でも」

一夏

「ああどう考えても無謀だぜ…。以前のハワイ沖でのアメリカとイスラエルの失敗を見てわからねぇのか。当時最新のゴスペルを持ってきても初期型のアンジェロに一方的に蹂躙されてたじゃねぇか…」

「ましてや今度はそれだけじゃない。ファントムやグリフォンに白いアンジェロシリーズ、しかも敵の拠点ともなれば比じゃない可能性が…」

 

一夏達の言う通り、以前ハワイ沖での戦闘でアメリカ・イスラエル軍は初期型の黒いアンジェロ達相手に半壊滅状態にされ、更に新型のシルバリオ・ゴスペルを奪われるという失態を犯していた。今度は敵の拠点、きっとその時とは比べ物にならない筈。現状いかなる兵器がISに敵わない以上、どれだけ兵器を集めても突破は難しいかもしれない。

 

千冬

「先程私の知人が教えてくれたのだがアメリカでも準備が極秘裏に進められているらしい。この分だと日本やそれ以外の国も進めている可能性が高いな…」

真耶

「で、でもいくら何でも動きが速すぎませんか?あの情報が流れて…、ほんの数十分後にミサイルが撃たれて…、どの国も揃って軍まで動き出しているなんて…」

クロエ

「それだけ連中にとってあの塔が邪魔な存在という事でしょう。一刻も早く消したい位に。あの名簿には世界の権力者の名前もありましたから、その鶴の一声で動かすのも早いかと」

刀奈

「…そうね。その証拠に基地などの破壊も目による直視だけでなく衛星等で簡単に見れる筈。しかし今だにその発表もない、きっと互いに口を閉ざしているのよ。追及したら今度は自分かもしれないと思ってね。皮肉にもあの塔やファイルの流出が世界をひとつにしてるって訳。かりそめの…ね」

「ほんと馬鹿みたい…。そんな簡単に動けたり協力できるならもっと有意義な事に動きなさいっての」

シャル

「ほんとだよね…」

ラウラ

「同感だが今はそれを言ってもしかたがないだろう」

一夏

「どっちにしろオーガスのせいで世界中がおかしくなってる…。全てがあの野郎の思い通りになっているわけだ…。くそ!」

 

世界がオーガスの望み通り混沌している事態に一夏達は顔を顰める。

 

…ウィ――ンッ

 

その時外に出ていた火影と海之が入ってきた。スメリアのレオナに連絡を取っていたのである。

 

「海之くん、火影くん」

千冬

「海之、火影。スメリアではどうなっている?」

海之

「レオナさんに確認しましたがやはりスメリアでも流れたそうです。テレビ、パソコン、携帯…」

「やはりそうか…」

火影

「ただ、ESCのコンピュータと端末にだけは映る事は無かったらしい」

 

その言葉に皆が驚く。

 

真耶

「えぇ!!」

千冬

「本当か?」

火影

「ESCの本社だからかもしれねぇ。あそこは父さんが生み、レオナさんや社の皆が発展させたセキュリティが縦横無尽に張り巡らされてるからな」

刀奈

「流石ESC創始者ね。確か篠ノ之博士にも簡単には出来ないんでしょ?この件が終わったら更識の家のセキュリティにも取り入れようかしら」

「じゃ、じゃあESCのプログラムを他の所にも取り入れたら!」

一夏

「オーガスの手を防げるかもしれないって事か!?」

 

これに箒は首を横に振る。

 

「……いや時間が足りなさすぎる。あれはあと三日で全て公になってしまうんだ」

一夏

「そ、そうか。そうだよな…」

「……しかしそう考えると他の国でもそういった事が起こっているのかもしれんな。政府や軍の最重要拠点とかはもしかしたら…」

セシリア

「ですが例えそうだとしてもそれも公にはしませんでしょうね…」

刀奈

「そうね。それを隠しても攻撃は行いたいというのが本音の筈よ。レオナさんが良い人なだけ。……でもいいのふたり共?そんな事話して」

 

それに対して火影と海之は言う。

 

火影

「当然話しませんよ。皆以外には」

海之

「信用している」

 

それを聞いて皆は嬉しく思った。

 

千冬

「…そうか、ならいい」

火影

「あとレオナさんには「変なもんがテレビに流れても心配無用だから余計な混乱は起こさない様にだけしてくれ」とスメリア政府に直接提言してくれとも言っといた。幸いあの計画はスメリアは知らなかったからな」

「せ、政府にって…レオナさんそんなパイプもあるんだ」

火影

「有名人だからな。因みに現大統領はギャリソンの同級生で茶飲み友達でもあるぜ」

一夏

「…ほんと言葉を失うよ」

 

他の皆も同意見だった。それはさておき、ここで先程火影が言った言葉にクロエが気付く。

 

クロエ

「それより…火影兄さん。今兄さんが言った「心配はいらない」というのは…?」

 

すると火影はさも当然の様に話した。

 

 

火影

「ああさっきこいつと話したんだがな。俺と海之は明日早朝、夜明け前にでも発つ。あのラディなんとかってとこにな」

海之

「……」(コク)

 

 

海之も頷いた。

 

一夏

「えっ!!」

「な、何だと!明日の早朝!?」

「本当海之くん!?」

海之

「奴に一刻の猶予も与えてやるつもりはない」

火影

「そういう事だ。さっさと行って、さっさと片を付けてやる」

真耶

「無茶です!あまりにも危険すぎます!」

火影

「…織斑先生、良いですね?」

 

真耶や皆の心配する声を無視して火影は千冬に問いかける。

 

千冬

「……言っても聞かんだろう?」

真耶

「先輩!?」

 

そして千冬も止めなかった。

 

千冬

「お前にもわかっているだろう真耶。今のこいつらは止められない。誰にもな…」

真耶

「……」

 

そう言われて真耶は黙ってしまう。彼女も心ではそう思ってたのだろう。そして、

 

一夏

「なら俺も行くぜふたり共!皆もだよな?」

「ああ当然だ!」

セシリア

「おふたりが行くなら私達も!」

 

ふたりが行くと聞いて一夏達も当然一緒に行こうとする。しかし、

 

火影

「…駄目だ」

海之

「お前達はここに残れ」

 

そう言う一夏達をふたりは至って冷静な声で止めた。

 

一夏

「な、何馬鹿な事言ってんだよ!?」

火影

「今度の戦いは今までの比じゃねぇ。オーガスは俺らに向けて全力をぶつけてきやがる筈だ。よそに回す手はねぇ。つまり手出ししねぇ限りここが襲われる心配はない。ここに残っていれば安全だ」

海之

「俺達に任せておけ」

 

当然彼女らはそれに反発する。

 

「…今さら、今さらそんな事言うの!?ふざけないでよ!アンタ達だけ行かせるなんてもう嫌よ!」

シャル

「そうだよふたり共!僕達も絶対一緒に行くから!」

ラウラ

「ああ私達も一緒だ!拒否はさせない!」

 

少し怒り気味の鈴達。しかし海之が冷静にこう返事を返す。

 

海之

「自分達の未来を捨てる事になっても、か?」

「……え?」

セシリア

「わ、私達の未来?」

「ど、どういう事よ!?」

 

わからない表情を浮かべる皆。すると理解したらしい刀奈とクロエが口を開く。

 

クロエ

「……皆さん、火影兄さんも海之兄さんも本心では連れていきたいと思っている筈です。……ですが今回は少し事情が違う気がします。一夏さんと箒さん、そして私以外は」

シャル

「じ、事情が違うって?」

「私と一夏とクロエ以外…?」

 

意味がわかっていない皆に刀奈が教える。

 

刀奈

「…忘れたの?一夏くんと箒ちゃんとクロエちゃんは違うけど、私や貴女達は国の代表や代表候補であり、専用機持ちなのよ?」

セシリア

「………あ」

 

それを聞いてハッとするセシリア。

 

刀奈

「代表候補と専用機は国に所属していると同時に、国に貢献する事を義務付けられてるわ。本来火影くん達の様に個人でISをどうこうできはしないの。ましてやこんな情勢なら尚更。今まではイベントや大会時の襲撃だったからハプニングとして扱われたから大丈夫だったのよ」

 

確かに今までの戦いは試合やキャノンボール・ファーストというイベントで起こった事故。そして学園や街の防衛という緊急事態だったから出撃できた。先のドッペルゲンガーでの戦いは独断だったが「学園に向かっていたらしかったから襲われる可能性があったので迎撃した」「戦闘データを取りたかった」という名目と根回しで何とか不問にできていたのだった。だが今はそれも通用しそうにないし時間もない。

 

一夏

「そ、そういやそうだった…」

刀奈

「貴女達今帰還命令受けてるんでしょ?今受けてなくても近い内にある可能性は非常に高いわ。そして代表候補はそれに従わなければならない。私も答えは出してないけど…拒否はできない。返事のタイミングを探しているだけ…」

鈴・シャル・簪・ラウラ・セシリア

「「「……」」」

 

代表候補の五人は的を射ぬいた刀奈の言葉に黙ってしまう。

 

一夏

「も、もし命令に従わなければどうなるんですか…!?」

 

そう聞いてきた一夏に対し、刀奈は冷酷な言葉を返す。

 

刀奈

「契約違反と国への反抗として…最悪投獄。良くても代表候補の地位は取り消し。専用機は取り上げられるでしょうね…」

「そんな…」

千冬

「……」

真耶

「そうか…火影くんや海之くんは…」

クロエ

「兄さん達が皆さんに残れと言われたのは、皆さんの未来を守るため。そして何かあった時に直ぐに対処できる様にするためだと思います。仮に国から命令があった時とか」

 

すると火影が鈴とシャルの肩に手を置いて言う。

 

火影

「そういう事だ。…お前らが来てくれようと思うのは俺らも嬉しいさ。だが私情や感情で動いて今までの努力やこれからの未来を犠牲にすんな。今までお前らを支えた友人は、故郷の家族はどうする?俺らもそんな事してほしくねぇ。安心しろ、お前らの国が馬鹿する前に終わらせてやるからよ」

「火影…」

シャル

「で、でも…」

海之

「俺達を信じろ」

「海之…くん…」

ラウラ

「……」

 

火影と海之はさっきまでの様な淡々とではなく安心するんだという表情を見せる。…しかし鈴達は不安だった。代表候補の座を失う事よりも…何より一番重要な時にふたりと一緒にいられない不安が心を支配していた。

 

一夏

「そういう事なら皆はここに残ってろ。俺達が行く」

セシリア

「い、一夏さん…」

「ああ。私達が皆の分まで戦ってくる」

クロエ

「そして絶対帰ってきます。私達も束様も」

真耶

「一夏くん…箒さん…クロエさん…」

火影

「……お前ら正気か?敵はオーガスだけじゃねぇ。間違いなくマドカやスコール達もいるぞ?」

海之

「多勢に無勢どころではないぞ」

 

だがそんなふたりの言葉に一夏達は力強い言葉で返す。

 

一夏

「わかってるさ。それでも俺もふたりと戦う。ネロやあの人達との約束なんだ」

「ああ。それに姉さんは私の手で救い出す」

クロエ

「生きるも死ぬも兄さんや皆さん、そして何より束様と一緒です」

刀奈

「貴方達…」

鈴・シャル・簪・ラウラ・セシリア

「「「……」」」

 

一夏や箒やクロエは行くという意志を曲げない。そんな彼らを見て自分達の無力さを悔やむ鈴達。……すると、

 

千冬

「………海之、火影。すまないが一日だけ待ってもらえないか?」

火影

「…え?」

海之

「…?」

一夏

「千冬姉?」

 

千冬がふたりにそんな事を言った。

 

千冬

「時間は確かに少ないがまだあるだろう?一日、いや明日の昼まででいい。もしかするとこいつらも同行させる事ができるかもしれん…」

 

これに反応するのは鈴達。

 

「…え!?」

ラウラ

「ほ、本当ですか教官!?」

シャル

「僕達も火影達と行けるんですか!?」

千冬

「あくまでも可能性だがな…。だが上手くいけば…」

セシリア

「代表候補の座を守りながら…」

「軍に捕まらずに…私達も皆と戦える…!?」

千冬

「まだ決定したわけではない。どうだ?ふたり共」

 

頼むという表情で千冬にそう言われて火影と海之は、

 

火影

「………わかりました」

海之

「……」コク

 

止む無く了承した。

 

千冬

「すまない。では今日の所はこれで解散としよう。明日また召集をかける。言っておくが……くれぐれも勝手な真似をするなよお前達。特にふたりはな?」

 

千冬にくぎを刺された海之と火影。そう言われてとりあえず今日は解散となった。

 

 

…………

 

IS学園 1-1

 

 

……そして時刻は過ぎ、翌日。一夏達が授業の合間で休憩していると、

 

生徒

「ねぇねぇ!見た!?」

「見た見た!あの変なのまた流れたよね~!」

「なんか変な事ばっかり書かれていたよね~。「人体実験」とか「新兵器」とか。妙に生々しいけど映画の宣伝かなんかかな~」

「でも力入れてるわね。全チャンネル流れているなんて…」

「テレビが付かなかったから見れてないのよね~私~」

 

会話が所々から聞こえていた。オーガスの言う通り、再びあの情報は前日と同じ時間に流されたのであった。

 

火影・海之

「「……」」

セシリア

「…やっぱり見ている人おられますわね、アレ」

ラウラ

「携帯にまで映っているから仕方がない」

シャル

「…でも昨日よりずいぶん具体的な言葉が出てるね…。一応お父さんとかに伝えといてよかった」

「このままでは明後日にはあれが全て公になってしまう。その前になんとかしないと…」

一夏

「ああ時間を考えると早くても今日の夜、遅くても明日の朝には出ねぇと…!」

本音

「…明日の朝って?」

一夏

「! い、いやなんでもねぇよのほほんさん!」

刀奈

「なんでもないわ本音。心配しないで?」

クロエ

「織斑先生が今日の昼までに何とかすると仰ってましたが…」

セシリア

「今は待つしかないでしょう。それより……刀奈さんの仰った通り、私の所にも帰還命令が来ましたわ」

「本当か!?」

シャル

「セシリアもなんだ。僕の所にも…お父さんから連絡が来たよ…」

「私も今日の朝来たわ。…なんか初めて今の自分の立場がちょっと恨めしく思っちゃうわね…。でも今は信じて待ちましょう。わかったら教えてくれるって言ってたし…」

「うん……」

本音

「……」

 

一夏達は不安を抱えていた…。

 

 

…………

 

IS学園 秘密会議室

 

 

そして更に時刻は過ぎ、場所は例の秘密の会議室。そこに千冬から火影達は呼ばれ、集まる事になった。

 

真耶

「すみません皆さん。お昼休憩なのに呼び出して」

「気にしないでください。それよりお話というのはやはり昨日の?」

千冬

「……ああ」

 

千冬の呼んだ理由はやはり、昨日の国家代表候補組が火影達と同行できるか否かを話すためだった。

 

ラウラ

「教官!それでどうなったのですか!?」

シャル

「そうです!僕達も一緒に行けるかもって言ってましたけど…どうなったんですか!?」

 

皆は目の前の千冬に話しかける。

 

千冬

「慌てるな、落ち着け。……実は、昨日あの話があってから…私は国際IS委員会の主要メンバーの方々に召集をかけた」

 

 

国際IS委員会

 

国のISの保有数や動き、取引などを監視するための委員会。ISに関する事は基本的に全てこの委員会の承諾が必要であり、その権力はかなり大きい。個人所有のISとその操縦者においては一部例外を認められているが、基本的に国によってISの所有数は決められているため、そういった者はどの国にも無断に属してはならず、委員会の決定が必要である。因みに今は箒の件で話が進められているらしい。一夏はDNSによる変化。火影と海之は以前のアンネイムドによるIS学園襲撃事件(※Extramission12参照)の時の海之のドスが効いたのか「触れることなかれ」と話が出ていないらしい。

 

 

セシリア

「ええ!」

「国際IS委員会に…!?」

真耶

「実は先輩は委員会の特別枠なんです。過去の功績が認められての」

一夏

「そうだったのか」

千冬

「…まぁ殆ど幽霊部員だがな。向こうも昨日のファイルの件は知っていた。当然全員が怒っていたがな。互いの責任の責め合いだ」

刀奈

「でしょうね。……それで、一体どのような事を話されたんですか?」

 

刀奈の問いに千冬は答えた。驚くべき答えを。

 

千冬

「結論を言う。……彼らから明後日の朝まで、つまり今日を含めて三日間の猶予を貰った。この三日の間で敵を殲滅し、例のファイルの流出を防げるのなら…我々の、正確には代表候補組の行動は黙認する、とな」

 

火影・海之

「「…!」」

 

驚く火影と海之。もちろん彼女達も。

 

「ほ、本当ですか千冬さん!?」

千冬

「国や軍にも既に連絡は行っている。明後日の朝までは例え我々がISをどう動かそうと自由だ」

「じゃあ…私達もふたりや皆と一緒に行けるんですね!?」

 

自分達も一緒に戦えるという事に少なからず喜ぶ簪達。更に千冬から話は続く。

 

千冬

「そして同時に過剰な被害を出さない様全ての軍の派遣をストップしてもらった。つまりこの三日間の間、戦うのは我々だけだ」

シャル

「僕達だけ…」

セシリア

「軍の派遣もストップという事は…応援は期待できないという事ですわね」

「…いやよく考えればその方がいいかもしれん。下手に手を出されても却って反撃を喰らうだけだからな…」

一夏

「まぁ何れにしても良かったじゃないか。どちらにしても時間は少ないんだ。三日間と言えばあれが広まる最終日だろ?それまでに終わらせればいいんだ」

 

一夏達、特に鈴達は千冬のその言葉に喜ぶ。

 

火影・海之・クロエ

「「「……」」」

 

だが火影と海之、そしてクロエは腑に落ちない表情を浮かべていた。

 

「…火影?」

セシリア

「海之さんもクロエさんもどうしました?難しい顔されまして」

シャル

「僕達が行く事反対なの?気持ちは嬉しいけど僕達も一緒に行きたいんだ!本気だよ!」

火影

「……いやそうじゃねぇ。反対しても絶対に付いてくんのはわかってる。それに関しては何も言わねぇ。……ただ」

ラウラ

「ただ?」

 

すると海之とクロエが千冬に言う。

 

海之

「……千冬先生。何を取引にしたのです?」

一夏

「…え?」

「と、取引…?」

千冬

「……」

クロエ

「私も、多分火影兄さんも同じ意見です。失礼ながら幾ら千冬さんとはいえ、委員会の人間全てを納得させる様な事がそう簡単に出来るとは思えません。これは想像なのですが…何かあるのではありませんか?鈴さん達を自由にする条件が」

千冬

「……」

真耶

「先輩…」

「ほ、本当ですか先生!?」

「もしあるなら答えてください!」

 

先程まで喜んでいた皆はクロエのその言葉で一気に慌てる。すると千冬も観念したのか話し出す。

 

千冬

「………はぁ。……確かに、今回のこれにはある条件がある。お前達、いや正確にはオルコット、鳳、デュノア、ボーデヴィッヒ、そして更識姉妹の六人だがな。もし独自に動く場合、今日より三日間の内に事態を解決できず、例のファイルの流出を許せば……任務失敗としてお前達は代表候補、そして代表の地位を失い、専用機も国に没収される」

鈴・シャル・簪・ラウラ・セシリア

「「「!!!」」」

刀奈

「……」

 

それを聞いた鈴達の表情に驚愕の色が浮かび、刀奈は沈黙する。

 

一夏

「な、なんだって!?」

「ど、どうして!どうしてそんな事に!」

火影

「…ちっ…」

海之・クロエ

「「……」」

刀奈

「……それは絶対ですか?」

千冬

「……いや、今日の日付が変わる迄にそれぞれの国へ帰還する返答を出し、勝手な行動をしなければ例え期限が切れても変わる事は無い。お前達全員帰還命令が来ている筈だ。だがもし返答が無ければ…独自で動いたと判断され…」

火影

「成功すればそのまま。失敗すれば鈴達の未来の代表の座は閉ざされる、って事か…」

千冬

「更に…もうひとつ悪い知らせがある。正確には三日では無く、あの情報が流れるであろう時間より6時間前、それまでに終わらせなければならない…」

「そ…そんな…!」

 

さっきまでの喜びの顔が一転する。

 

一夏

「今日の日が変わる迄に返事出せって事は…もう半日も無ぇじゃねぇか!なんでそんな無茶な要求を飲んだんだよ千冬姉!!」

千冬

「……」

真耶

「一夏くん、先輩も当然最初は反対したんです。でも…昨日言った通り本来専用機と代表は皆さんが思っている以上に重い責務があるんです。そして本来ならもっと早く攻撃が始まる筈でした。それを何とか二日後まで伸ばす事が出来たんです…」

一夏

「で、でもそれにしたって…!」

刀奈

「それだけの事態って事よ。失敗しても投獄されないだけ不幸中の幸いと思わなきゃいけない位ね…」

真耶

「その通りです。先輩がなんとかそれは無しにしてくれました…」

クロエ

「例え失敗しても戦った皆さんに対するせめてもの配慮、というわけですね…」

鈴・シャル・刀奈・ラウラ・セシリア

「「「……」」」

一夏

「……そんなの、…そんなのおかしいだろう!!」

 

一夏は言葉を荒げる。

 

海之

「……千冬先生。そもそも何故委員会に提案を?そのままにしておけば…」

 

確かに海之の言う通り、そのまま何も話さなければ鈴達の地位は何事もなく守れたかもしれない。しかし。

 

千冬

「最初は私もそう思った。だが……あのままにしておけば、こいつらが私情のあまり、何もかもふっ切って勝手に暴走するかもしれないと思った。そうなれば本当にこいつらの立場は無くなるだろう…。だからせめて…ひとつでも可能性を作ってやりたかったのだ…」

「千冬さん…」

一夏

「にしたってこれはあまりにも…」

 

まだ何か言いたそうな一夏。しかしそんな一夏を止めたのは鈴達だった。

 

「止めなさい一夏」

一夏

「鈴…?」

シャル

「そうだよ一夏、千冬さんを責めないで」

セシリア

「そうですわ一夏さん…。私達は大丈夫ですから」

「セシリア…、シャル…」

一夏

「大丈夫って…そんな訳無いだろう!あと数時間で決まるんだぞ!?もし一緒に行ったとしても失敗したら皆が!」

 

だがラウラや簪達が止める。

 

ラウラ

「失敗すると思っているのか一夏?」

一夏

「…え?」

「一夏は…次の戦いが失敗すると思っているの?篠ノ之博士も助けられず、あのオーガスって人も倒せず、あの人の思い通りになるって思っているの?」

一夏

「そ、そんな事させねぇよ!俺達も火影や海之も千冬姉もいんだ!でももし」

刀奈

「もし…は無いわよ一夏くん」

「刀奈さん…?」

 

刀奈は冷静に説いた。

 

刀奈

「今度の戦いに失敗は許されない。もし私達が負けたら…はっきり言ってもう奴を、オーガスを倒す手はないわ。私達が、中でも火影くんや海之くんや千冬さんが負けたら…正直もう誰も敵わないと思う。勿論私もね。自分で言ってて悔しいけど…」

一夏

「それは……」

 

一夏もそれはわかっていた。現状ISが如何なる兵器をも凌駕する以上、恐らく軍がどれだけのそれ以外の戦力を持ってきてもあのオーガスやオーガスが生み出した兵器達の全滅は難しい。加えてスコールやオータム、ダリル・ケイシーやフォルテ・サファイア、そしてマドカと凄腕のIS操縦者達もいる。

 

刀奈

「正直なんの支援も無いのは辛いところだけど…でもはっきり言って今ここにいるメンバーは現時点で一番なんとかできる可能性があるわ。千冬さんは私達を自由にする時間を作ってくれたことでその可能性を高めてくれた。そう思った方が良くない?」

「そうよ一夏。それにアンタさっき言ったじゃない。時間切れまでに全部終わらせたらいいって」

一夏

「そりゃ…そりゃそうかもしれねぇけど…」

 

鈴のその言葉に一夏は何も言えなくなってしまう。

 

火影

「……ま、何れにしても俺らは明日の夜明け頃には発つがな」

「だがどうやって行くのだ?流石にISのままあそこまで行くのはきついぞ?」

クロエ

「それなら大丈夫です。私は束様のロケットを持っています。操縦も可能です」

一夏

「…?でもあれは束さんが使ってたんじゃねぇの?」

クロエ

「いえ、実は束様と私はスペアのロケットを粒子状態にしていつも用意されているのです。あの様な無茶な着陸をすれば消耗も激しいですから」

真耶

「あ~…」

千冬

「確かにな…」

一夏

「もんのすごく納得~」

 

~~~~~~

皆で笑った。こんな状況でも久々に笑った気がした。

 

火影

「ハハ……ま、焦って今すぐ決めなくてもまだ考える時間位はある。日が変わるまでに結論を出せ。お前らがどんな決断しても誰も責めやしねぇよ」

海之

「後悔しない様最善の結論を下せ」

鈴・シャル・簪・ラウラ・セシリア

「「「……」」」

「皆…」

千冬

「そういう事だ。時間は少ないがよく考えてくれ。では解散だ。…繰り返すが特に海之と火影は」

火影

「「決して早まるな」でしょう?わかってますよ」

 

こうして取りあえず今は解散する事になった。

……すると最後に千冬と真耶、そして腕を組んで何か考えている様な海之が残る。

 

海之

「……」

千冬

「…海之?」

真耶

「どうしました海之くん?」

海之

「…千冬先生は何も………、いえ、何でもありません」

 

海之は何も言わないまま部屋を出て行った

 

千冬

「……勘のいい奴だな」

真耶

「先輩…」

 

そう呟く千冬と、心配そうに彼女を見つめる真耶が残った。

 

 

計画の全貌が世に出るまで……残り一日と17時間……。




※次回は来月5日(土)の予定です。

お読みくださっている皆様、お待たせしてすいませんでした。今章はあと二、三程度の予定です。


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Mission191 其々の決意と選択①

オーガスとのやり取りがあった日の夜。程度は違いながらも世界は混乱の渦の兆しが見え始めていた。そんな中、火影と海之は翌日早朝にオーガスの元に向かうと宣言。当然一夏達も行こうとするが、代表候補組の鈴達や現代表である刀奈は勝手な判断でこれ以上動けず、更に国や軍から帰還命令が出始めていた。

無力さを悔しがる者達。…そんな中、翌日に千冬がある光明を作った。情報が開示される6時間前までに全てを終わらせれば彼女らの行動は不問になる。しかし失敗すれば代表候補や代表の座、そして専用機は取り上げられてしまうとの事だった。火影と海之は明日の早朝には改めて出発する。限られた時間の中、果たして鈴達の出す結論は…?


キーンコーンカーンコーン

 

 

昼休憩の火影達の会議から幾分時間がたち、この日の最後の授業もいつも通り終わった。

 

千冬

「では本日の授業はこれまで!」

生徒達

「「「ありがとうございました!」」」

 

そしてこれも同じ様に終わりの挨拶があった後、千冬が更に声をかけた。

 

千冬

「最後に、全員が既に知っていると思うが最近妙な映像の話があちこちから聞こえているが、変に惑わされたりしない様にな!あと伝わっているだろうが出来る限りあの妙な画面が流れると思われる時間はテレビを映すな。これ以上もし変な噂がたったらたまらんからな」

生徒達

「「「は、はい!」」」

千冬

「ああそれからもうひとつ。明日だが私、そして実行委員である火影と海之はある用事のため、丸一日外に出ている。連絡にも出れんだろうから我々に用事があるなら今日中に済ませておくように。良いな?」

本音

「……ひかりんどこか行くの?」

火影

「ああちょっとな。何、心配すんな本音。さっさと終わらせてくるさ」

千冬

「では解散!」

 

 

…………

 

学園 食堂

 

 

その後、火影と海之、一夏、箒、クロエの五人は食堂の隅の席にいた。

 

一夏

「セシリアや鈴達は……やっぱいないか」

「色々やる事や考える事があるのだろう…。ましてや皆にはあと数時間しか考える猶予がないんだからな。行くか留まるか…」

海之

「……」

火影

「そういや箒、アレについてお前の家族には知らせたのか?」

「ああ、叔母さん家族や…離れて暮らす両親にも伝えておいた」

火影

「そうか。…クロエ、お前のロケットでオーガスの島までどれ位で行ける?」

クロエ

「はい。約半日程あれば」

一夏

「明日の夜明けに行くとして最後のあれが流れるまで…同じく半日位か。……時間だけなら何とかなるか」

「…いや、もしセシリアや鈴達が行くならその6時間前迄に終わらせる必要がある」

一夏

「て事は…あと5,6時間ってとこか。……ギリギリだな」

火影

「なに、そんなに時間をかける必要なんてねぇ。一時間で終わらせてやる」

 

深刻な表情の一夏に対し、火影はいつもと変わらない表情で言う。

 

一夏

「ハハ、こんな事態でもお前らは変わらないんだな。全く羨ましいよ」

火影

「んな事はねぇさ。俺だって焦ったりムカついたりする。特に今はギリギリだぜ。静かな怒りってやつだな」

クロエ

「…それはあのオーガスの事ですか?」

「まぁお前達の両親の名前を利用したんだからな」

火影

「……まぁそれもなんだが……」

海之

「……」

 

するとふたりは考え込むような表情をして黙る。

 

「…どうした?」

火影

「……いや何でもねぇ。……それよりお前ら、本当に」

 

すると何か言いたそうな火影に一夏が手を前に出して止める。

 

一夏

「もういい加減無しだぜそれは。どんなに反対されようが俺も行く。前にも言ったけどネロや俺を立ち直らせてくれたあの人達との約束なんだ。それに……マドカとの蹴りをつけるためにも」

海之

「一夏…」

「私も一夏と同じだ。姉さんの居場所がわかったんだ。ふたりがどれだけ反対しても一緒に行かせてもらう」

クロエ

「私もです兄さん。皆さんと一緒なら…何も怖いものなんてありません」

火影

「ふたり共…」

 

一夏と箒、クロエの真っすぐな目に、ふたりは諦めた。

 

火影

「……はぁ、全く恐れ知らずな奴らだぜ。…どうなっても知らねぇからな」

一夏

「お前達にだけは言われたくないぞ?」

クロエ

「同感です」

一夏

「違えねぇ~」

海之

「むぅ…」

 

~~~~

三人は小さく笑った。

 

「それよりふたり共、鈴や簪達の所に行ってやったらどうだ?今のあいつらにはふたりが必要だろう」

クロエ

「そうですよ。行ってあげてください」

火影

「……そうだな」

海之

「……」

 

言われてふたりは立ち上がり、彼女らの元に向かう事にした。そしてクロエも

 

クロエ

「……では私も行きましょうか。おふたりはごゆっくり」

「え…お、おいクロエ!?」

 

そう言って行ってしまった。急に言われて意識する箒。

 

「……」

一夏

「気ぃ使わせてしまったかな?…どうした箒?」

「へ!?な、何でもない!」

一夏

「……それにしても火影の奴。鈴を大事にしてやらなきゃ許さねぇぞ」

「!! 一夏…お前気付いていたのか?」

一夏

「この前の鈴との会話でわかったんだ。幾ら俺でもあんな事聞かされたらわかる。それにあいつとはお前と同じ位の付き合いだからな。誰の事か位わかるさ」

「……後悔してるのか?」

 

一夏の口からそんな言葉が出て少し心配になる箒。

 

一夏

「…いんや。火影なら、あいつなら安心だしな」

「……そうか」

一夏

「ああ。そして…俺にもお前やセシリア、蘭や刀奈さんみたいに…俺なんかを好きでいてくれる人達が沢山いる。ほんとありがたいよ」

「……なんか今のお前を見てると…数日前のお前とは別人の様に思えてくるよ。本当に今までどれだけアプローチしても気付かなかったのに…」

一夏

「……俺ってそんなに鈍かったのか?」

「今更か!?」

一夏

「おい!」

 

~~~~~

一夏と箒は再び笑いあう。不安を少しでも和らげようという表れなのかもしれないが、こういうのも悪くない。

 

一夏

「……必ず勝とうぜ箒」

「勿論だ。全部終わったらディナーデート、行かなきゃならんしな♪」

一夏

「そういや四人も行かなきゃいけねぇんだったな。…はぁ」

「良いではないか♪どうせチケットでタダだし、それに白式の企業からたっぷり謝礼金も受け取っているのだろう?安いものだ♪」

 

緊張を和らげる様な平和なやり取りが続いていた。

 

 

…………

 

IS学園某アリーナ

 

 

誰もいない学園内の某アリーナ。今日はこのアリーナを使う者はいないらしい。きっと別のアリーナでは部活や訓練が行われているだろう。

 

ラウラ

「……」

 

そんなアリーナの観客席にラウラがひとりでいた。つい先ほどまで誰かと電話していたのか手には携帯がある。

 

ラウラ

「ハァ…」

「……ここにいたか」

ラウラ

「!」

 

……すると突然ラウラの後ろから声がした。しかしその声にラウラは振り返らずに冷静に返事をする。まるで誰かわかっているかの様に。

 

ラウラ

「……海之か」

海之

「よくわかったな」

ラウラ

「当たり前だろう、嫁である私がわからずにどうする」

 

声をかけたのは海之だった。

 

ラウラ

「隣座れ。…それにしても先程の言葉、まるで私がここにいると分かっていた様だな?」

海之

「……ここはお前と戦った場所だからな。何故かいるかもしれんと脚が向いていた」

ラウラ

「夫婦間の以心伝心というやつか」

 

そう、去年このアリーナで力に囚われたラウラは海之と戦い、そして救われた。

(※Mission45参照)

 

ラウラ

「……あの時は本当にすまなかった」

海之

「気にするな。過ぎた事だ」

ラウラ

「そうもいかんさ。私はあの時、お前を殺しかけたんだ…。あの時の、お前を貫いた時の感覚は忘れられん…。だがお前はそんな中でも私を助けてくれた…。感謝している」

海之

「礼もいい」

ラウラ

「ふふ、強情な奴だな。私の夫は」

 

口数が少ない海之だがラウラはそんな彼の気持ちはわかっている。そして暫し沈黙の時間が流れた後、海之は問い出した。

 

海之

「……結論は出たのか?」

 

するとラウラは前を真っすぐ見て答えた。

 

ラウラ

「ああ。先程上層部と部下に話した。……私は海之、お前や皆と共に行く」

 

迷い無き答えだった。

 

海之

「……死ぬかもしれんぞ。その上時間も著しく限られている」

ラウラ

「危険な賭けである事もわかっている。国に戻った方が代表候補として、そして一部隊を率いる者としても正しいのかもしれん。……だが」

 

するとラウラは今度は横にいる海之の目を真っすぐ見て話す。

 

ラウラ

「私自身としては、今帰る事が正しいとはどうしても思えない」

海之

「……」

ラウラ

「海之、お前は先日私達に言ったな?自分の信じるものは自分で決めろ、と。……だから私も考えた。私が信じる事に従おうと。それは…お前や火影、クロエさんや教官、皆と共に戦う事だ。それだけは絶対に信じられる」

海之

「ラウラ…」

 

力強いラウラの目に、

 

海之

「……なら、もう何も言わん。これまで通りだ」

ラウラ

「…ふふ、ああこれまで通りだな」

 

海之も何も言わなかった。するとラウラが再び口を開く。

 

ラウラ

「……海之。こんな時になんだが少し先の話をしていいか?」

海之

「…ああ」

ラウラ

「……この戦いが無事に終わり、二年後学園を無事に卒業したら…私は一旦国に戻り、軍を立て直す手助けをするつもりだ。どれ程の事ができるかわからんが…、少なくとも軍の腐敗を少しでも取り除く」

海之

「……そうか」

ラウラ

「ああ。そしてそれをある程度成し遂げたら…………私は軍を辞める」

海之

「……」

 

ラウラの告白に表情は変わらずも海之は驚いていた。

 

ラウラ

「シュヴァルツェア・ハーゼの隊長も、そして代表候補の座も降りる」

 

そして感じていた。ラウラは本気である事を。決して冗談で言っている訳ではないと。

 

ラウラ

「そして………いや、これ以上は全てが終わった後にしよう。クラリッサが言っていたフラグとやらにはしたくない」

海之

「…フラグ?」

ラウラ

「ああ気にするな。あと皆には今話した事は知らせないでくれ。気を使わせたくない」

海之

「……わかった」

 

海之はラウラの頼みを聞いた。

 

海之

「……だがいいのか?」

ラウラ

「…え?」

海之

「お前が今まで必死に努力して築き上げてきたもの。全てを失うぞ…?」

ラウラ

「……」

 

するとラウラは海之にそっと身体を寄せた。以前クロエとの会話の後の様に。

 

ラウラ

「……構わんさ。一番失いたくないものの傍にいられるのだから。……私の運命は…お前と共にある」

海之

「………そうか」

 

相変わらず言葉が少ない海之。しかしラウラには動かずにいてくれる海之の優しさが伝わっていた。

 

ラウラ

「そう言えば海之。これもクラリッサから聞いたのだが……日本には「嫁」の他に「妻」というものもあるらしいな?」

海之

「…?それが?」

ラウラ

「………ふふ、いや、何でもない…」

 

 

…………

 

学園内

 

 

一夏達と別れた火影は鈴やシャル達を探して歩いていた。時刻はまだ夕方より少し前だが冬という事もあって日が暮れるのも早い。既に空はオレンジになっている。

 

火影

(あいつらどこにいんのか………あれ?)

 

すると火影は脚を止めた。見ると校舎から少し離れた所にあるベンチに…ひとりの女性が座っているのが見える。背を向けているが制服を着ているから生徒であるのはわかる。そしてその女性のあるものが火影の目を惹いた。

 

火影

(……金髪)

 

オレンジの空でもはっきりわかる美しい金髪。…するとその女性が振り向いた。

 

シャル

「…あ。火影」

火影

「……」

 

それはシャルだった。そんな彼女の姿を見た火影は何か思い出したのか一瞬黙ってしまう。

 

シャル

「……?どうしたの火影?」

火影

「ん…ああ、まぁ」

シャル

「…?変なの。こんな所でどうしたの?」

火影

「お前や鈴を探してたのさ」

シャル

「そうなんだ。…隣、座ってよ」

 

言われて火影は隣に座る事に。

 

火影

「……それで、どうするか決めたのか?」

シャル

「……うん。さっきね。…お父さんにまた電話したんだ。そしてこう言った。………「行ってきます」って」

 

それはラウラと同じく、シャルも国に戻らずに火影や皆と共に戦うという答えだった。

 

火影

「……危険だぞ?」

シャル

「うん、それは十分わかってる。でも…僕も一緒に行きたい。皆と、そして誰よりも火影と一緒に」

火影

「……そうかい」

 

シャルの気持ちが固いのを察した火影は何も言わなかった。

 

シャル

「お父さんも何となくわかってたみたいでさ。反対もしなかった。僕の自由にしなさいって。国には自分から伝えておくって。……ああそれからお父さんが言ってたんだけど、お母さんの拘留期間がほんの少し短くなったんだって」

火影

「そいつは良かったな」

シャル

「うん…ほんとに良かった。あとこうも言ってくれたんだ。……例え代表候補でなくなっても、シャルロットは自分とお母さんの大事な娘だって」

 

シャルはうっすら嬉し涙を浮かべている様だ。ここに来るまではギクシャクしている様に見えていたシャルと義母、そして父親。しかし互いに正直になった今は確かな親子の絆で結ばれている。

(※Mission43参照)

 

火影

「そうか。…でもまぁ心配すんな。お前の代表候補の座はしっかり守ってやるよ」

シャル

「……ありがとう火影」

 

そう言うとシャルは横にいる火影の方に向き直り、

 

シャル

「でも約束して、決して無茶しないでね。代表候補の座なんかより火影の命の方が…僕は…」

火影

「わかってるよ。前に言ったろ?お前や鈴や本音をもう悲しませねぇって」

シャル

「…うん」

 

すると火影はある事を思い出し、上を見上げながら言った。

 

火影

「………そういやここってなシャル。俺がお前のお袋さんと会った場所なんだぜ?」

シャル

「…え!?」

 

火影は約一年前、ここでシャルの実母と会った事を話した。

(※Mission37参照)

 

火影

「そしてお袋さんの指輪を受け取ってな。…お前の後ろ姿を見て思い出したんだ。そして今はお前がここに座ってる。これも奇縁ってやつかねぇ…」

シャル

「……そっか。…おかあさん、ここにいたんだ…」

火影

「……よく似てたぜお袋さんと」

シャル

「そ、そう?嬉しいな…」

火影

「ああ。……そして俺の前の母さんにも似ていた。ほんと一瞬だが間違ったよ」

シャル

「前のお母さんって…、エヴァさん?僕って顔似てるの?」

 

すると火影は顔を横に振り、

 

火影

「いんや、顔とかどうこうじゃなく雰囲気がな」

シャル

「雰囲気…?」

 

雰囲気と言われてシャルは尋ねる。

 

火影

「母さんみたいな…強くて優しくて清らかな女性。そんな感じがした」

シャル

「僕が…エヴァさんに…」

火影

「ああでもひとつだけ違うとこがある。シャルの様にヤキモチ焼きじゃなかったな♪」

シャル

「ぼ、僕は別にヤキモチ焼きじゃないもん!火影が他の女の子にまで優しすぎるのがいけないんだよ!」

火影

「そうか?」

シャル

「そう!」

 

そう言うシャルだが自らも火影のそういう優しさに救われた身、決して嫌いになれない彼の良い所である事も十分知っている。

 

シャル

(もう………アレ?強く清らかで優しい女性って…それ……!!い、いや何考えてるの僕!こんな時に!!)

 

シャルは自分しか知らないある事を思い出し、急激に赤くなりつつある顔を必死に治めようとする。そんなシャルを知ってか知らずか、火影は再び口を開く。

 

火影

「……だが」

シャル

「…え?」

火影

「だが…母さんは、最後は俺を守って死んだ…」

 

思い出しているのか一瞬辛そうな表情を見せた火影。

 

シャル

「火影…」

火影

「……ほんとの事言やぁ、お前や鈴を巻き込みたくなかったんだけどな」

シャル

「……」

 

するとシャルは自らの手を火影の手に重ね、

 

シャル

「僕らは、僕はいなくなったりしないから…安心して?」

 

母が子を安心させる様な笑顔で言った。

 

火影

「……ありがとよ」

シャル

「…必ず勝とうね火影」

火影

「はは、当然だろ?」

 

いつもの表情に戻った火影。するとシャルは自分の頭を火影の肩に寄せた。

 

火影

「シャル?」

シャル

「……ねぇ火影。全部終わったら…僕、火影に言いたい事があるんだ。…聞いてくれる?」

火影

「……んじゃ、そんためにもさっさと終わらせねぇとな」

シャル

「…うん。…そうだね」

 

 

…………

 

生徒会室

 

 

……その頃、刀奈は虚と何やら業務を行っていた。

 

刀奈

「じゃあ虚ちゃん、明日は私ちょっと留守にするからお願いね」

「…畏まりました」

刀奈

「……今日はこれまでにしましょうか。お茶を入れてくれる?」

 

刀奈にそう言われた虚は茶を入れ、それを刀奈はゆっくりと味わう。

 

刀奈

「…あ~美味し~。やっぱり虚ちゃんの入れてくれたお茶は最高ね~♪」

「ありがとうございます。ところでお嬢様、ロシアへの返事は如何されるのです?」

刀奈

「あ~……明日の朝でもいいわ。今日はもう疲れたし」

 

そう言ってめんどくさそうに返す刀奈。すると、

 

「………お嬢様、火影さんや海之さんと行かれるおつもりなのですね?恐らく明日にでも」

刀奈

「……」

 

虚の突然の言葉に一瞬黙る刀奈。しかし虚の正確性や勘の鋭さは誰よりも良く知っているつもりである。ごまかしはできない。なので素直に認める事にした。

 

「やはりそうですか」

刀奈

「…よくわかったわね?虚ちゃんには言っていなかったのに」

「ふふふ、どれだけお嬢様のお傍についていると思うのですか?お嬢様のお考え等手に取るようにわかりますよ。ロシアへの返事を渋っていたのは火影さん達が行かれるのを待っておられたからでしょう?同行するために」

刀奈

「…な~んか虚ちゃんが怖くなってきたんだけど」

 

そんな事を言う刀奈。そして実際のところ虚は怒らせたらかなり怖い。今回の件を虚に教えてなかったのも心配させないのと知られたら怒られるかもしれないという考えがあっての事だった。しかし簡単に見抜かれていたと知り、刀奈は正直に話した。そしてその上で聞いてみた。

 

刀奈

「……虚は反対?」

 

「ちゃん」付けせずに真面目なトーンで聞く刀奈。

 

「正直に言わせて頂きますと…懸命なご判断とは言えませんね。確かに火影さんや海之さんや織斑先生は間違いなく世界でも指折りの実力の方々。……ですがあまりにもリスクが高い選択です。もし失敗してしまったり、時間が間に合わなければ?仮にもお嬢様は一国の代表、そして17代目更識当主。失礼に聞こえたら申し訳ありませんが…皆さんとは御家もお立場もまた少し違います。もし失敗すれば…ロシアだけでなく日本での立場も厳しいものになるのはわかっておられる筈では?」

刀奈

「やっぱりそうよね~…」

 

誤魔化さずに聞く刀奈。成功すればまだしも、もし失敗すればロシアの代表でなくなり、更に専用機であるレイディも取り上げられる。そうなったらロシアだけでなく、日本での立場も影響無くはない。彼女だけでなく更識という存在も。国の代表として行動した方が良いかもしれないという虚の意見は決して間違いではないかもしれない。

 

刀奈

「……でもね虚、それでも私は行くわ皆と。更識刀奈としてだけじゃなく、更識楯無としても。確かに虚の言う通り、代表として行動した方が結果はどうあれ、私自身の立場も守れるだろうし家もそうかもしれないわ。……でもね虚、さっき話したけどあのオーガスって奴は想像以上に危険よ。あいつを放っておいたらとんでもない事になる。そんな気がビンビンに感じたわ」

「……」

刀奈

「それにね虚。私にはぶっちゃけ世界がどんだけ手を打ってもあいつを何とかできるとは思えないの。例え世界中の国家代表クラスを集めたとしてもね。もし火影くんや海之くん、千冬さんが敵わないとしたら?そんなの誰が止められる?もしそうなったら…全て終わりよ。更識がどうとか日本やロシアがどうとかそんな位じゃない。世界の、ね…」

「お嬢様…」

刀奈

「世間から見ればそんな数時間に、少数で挑むなんて間違っていると言われるかもしれない。でも私はこれは逆に最大にして唯一のチャンスだと思ってるわ。更識の家も国も、どっちも守る事ができるね。まぁ終わった後も色々あるかもしれないけど…それについてはまたその時に考えたらいいのよ。少なくとも更識の家や簪ちゃん、虚や本音は絶対に守ってやるわ。私の命を懸けてもね」

「……」

 

刀奈の真剣な表情と言葉に虚は何も言わなかった。

 

「……お嬢様がそうお決めになったのならば何も申しません。私もお嬢様の侍女として、お嬢様の不在の間、私もできる事をやるだけです」

刀奈

「…ありがとう虚…」

「……何か、少し変わられましたねお嬢様」

刀奈

「まぁこんだけ色々あればね。…でも、一番の原因は…」

「…原因は?」

 

すると刀奈はいつもの表情に戻り、

 

刀奈

「未来の旦那様に会えたからかしら~♪」

「……前言撤回します。やはりお嬢様は変わっていませんね…」

 

そう言いつつも虚は安心した様だ。すると、

 

ガラッ

 

一夏

「失礼します」

 

扉が開き、入ってきたのは一夏だった。

 

刀奈

「! あ、あら一夏くん!?どうしたのかしら!?」

一夏

「え、ええ。箒から刀奈さんやセシリアとも話をしたらどうかと言われまして」

刀奈

「そ、そうなのね~嬉しいわ~♪」

「ではお茶をまた入れなおしますね」

 

そう言う刀奈はさっきの言葉を聞かれていなかった事に安心していた。如何に彼女でも夫婦宣言は恥ずかしいのである。その後、刀奈から自らも一緒に行くと聞かされた一夏はやはりそう来ると予測していた様で絶対に勝つと誓い合った。そして最後に、

 

刀奈

「ところで一夏く~ん?全部終わったらあのデート行きましょうね♪」

一夏

「あはは…」

 

 

…………

 

クロエと刀奈の部屋

 

 

その頃、箒や一夏と別れたクロエは自分の部屋で休んでいた。

 

クロエ

「……」

 

全ては束を助けるため、それに向けて精神を集中している様に見える。するとそこに、

 

…コンコン

 

海之

「…クロエ、いるか?」

クロエ

「! 海之兄さん?は、はい、今出ます」

 

訪ねてきたのはクロエだった。そしてクロエが扉を開けると、

 

クロエ

「…え」

ラウラ

「……」

 

そこにはラウラもいた。アリーナでの件の後、海之が連れてきたのだった。

 

海之

「……刀奈さんは戻ってきていない様だな」

クロエ

「は、はい。仕事を終わらせてから戻ってこられると」

海之

「ならば丁度いい。戻ってこられるまで…ふたりで色々話せ」

クロエ

「え?ふ、ふたりで?」

ラウラ

「……」

海之

「ではな。俺には他に行く所がある」

 

そう言って海之はまた歩いていってしまった。とりあえずクロエはラウラを招き入れる事にした。

 

 

…………

 

クロエ・ラウラ

「「………」」

 

ふたりは隣に座ったまま何も話さない。戦闘や皆で集まったりした時は話しているがふたりでこうやって話すのは以前のあの時以来だ。特にラウラの方が緊張している様子。するとクロエが話し出す。

(※Mission130参照)

 

クロエ

「……そう言えば」

ラウラ

「…え?」

クロエ

「そう言えばあの時の…ユリゼンでしたか?あれとよく似たものと戦った時、貴女に助けていただいた時のお礼を言いそびれていましたね。ありがとうございました」

 

突然の言葉と礼に慌てるラウラ。

 

ラウラ

「い、いえそんな…!お礼を言われる様な事はしていません」

クロエ

「それでもですよ。ありがとうございます」

ラウラ

「い、いえこちらこそ…ありがとうございます」

クロエ

「? 私はお礼を言われる様な事はしていませんよ?」

ラウラ

「それでもです。ありがとうございます」

クロエ

「いやですから………」

 

すると、

 

クロエ

「……ふふ」

ラウラ

「く、クロエさん?」

 

小さく笑ったクロエに少し戸惑うラウラ。

 

クロエ

「……やはり似た者同士ですね。私達は」

ラウラ

「…え?」

クロエ

「貴女と私は良く似ているという事ですよ。容姿だけでなく、考えている事も」

ラウラ

「それは…私達は…」

 

ラウラは「同じだから」と言うつもりだった。しかしクロエに先に言われた。

 

クロエ

「確かに私達は同じ試験管から生まれた存在です。ですが…私達は完全に同じではありません。生き方もこれまでの過ごし方も微妙に違います。でも似ている者同士だと私は感じました」

ラウラ

「…私とクロエさんが…」

 

ラウラはその言葉に驚きながらも嬉しくも思っていた。

 

クロエ

「そして私達には……それ以外で共通しているものがあります」

ラウラ

「…それ以外で?」

クロエ

「はい。私は束様と、そしてあのおふたりのおかげで変われました。そしてそれは…貴女も同じなのではないのですか?」

ラウラ

「…あ…」

 

ラウラにはその言葉の意味が良くわかっていた。

 

クロエ

「そして……最近はこう思う様になったんです。貴女とのこれまでの様な関係も、もう終わりにしてもいいのではないか、と」

ラウラ

「……え!?」

 

その言葉にラウラは酷く驚く。もう自分とは一緒にいたくないのか、そんな考えが頭に浮かぶと、

 

クロエ

「落ち着いてください。話をよく聞いてください。私が言いたいのは……これまでの様な奇妙な関係では無く、もっと違うものにしてもいいのでは、という意味です」

ラウラ

「ち、違うもの…?」

クロエ

「はい。例えば……以前レオナさんが仰っていた様に…家族が増えてもいいのではないか、という意味です」

ラウラ

「!! そ、それって…!?」

 

驚くラウラにクロエは言った。

 

 

クロエ

「……どうでしょうか。兄さん達の様に、私達も兄弟、いえ……姉妹になりましょうか?…ラウラ」

 

 

ラウラ

「…!!」

 

そう言われたラウラの返事は最初から決まっていた。




※次回は12日(土)、後編の予定です。

UAが200000に到達しました。ありがとうございます!


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Mission192 其々の決意と選択②

鈴達や刀奈の未来が決まるまで残り数時間。そんな中火影と海之、そして一緒に戦うと即断した一夏や箒、クロエ達は必ず勝ち、全てを終わらせる事を誓う。

そしてそれは彼女達も同じだった。

ラウラ、シャル、刀奈…

彼女らもまた火影や海之や一夏達と行く選択をし、決意を固めた。そして他の者達も…。


シャルと別れた火影はあの後、鈴を探していたのだが近くにはいなかった。彼女と箒の部屋にも行ったのだが帰っていないらしい。そして火影は、

 

火影

(………となるとあそこか…?)

 

思いついた場所があったのか、とある場所に向かって歩いていた。

……そして、

 

 

…ガチャッ

 

 

その場所の扉を開けると、

 

「……あ、火影」

 

思った通り鈴はいた。その場所は…学園の屋上だった。

 

 

…………

 

学園 屋上

 

 

「アンタがここにいるって事は…もしかして探してくれてたの?」

火影

「ああまぁな」

「そうなんだ…。隣座ったら?」

 

言われて火影は鈴の隣に座る。時間も過ぎて空はすっかり濃いオレンジ一色に染まっている。

 

「良く分かったわね?私がここにいるって」

火影

「最初はお前の部屋にも行ったがいなかった。ならここかなって思ったのさ。ここはまぁ思い出っつぅか…色々あったからな」

 

告白したのも火影がいなくなった時に泣いたのも火影の過去を知った時もいたのはここだったのを鈴は思い出していた。

 

「そうね~。思えばまだ一年にもなってないのにホントに色々あったわ。去年の今頃はまさかこんな事になるなんて思いもしなかった。一夏から告白の返事を聞いて、高校生らしい青春を謳歌しようって思ってた位なのに。それがアンタや海之に出会って、凄く戦ったり泣いたり、悪魔ってのを知ったり、最終的に世界の命運をかける様な戦いに行く事になるなんて誰が想像できるってのよ。ゲームやアニメじゃないのよ全く」

火影

「はは、俺が言うのもなんだが…同感だ」

 

ふてくされた様に言う鈴。だが火影は彼女を責めることはしない。気持ちはよくわかっているし、同時に申し訳なくも思っていた。自分達が鈴達を巻き込んでしまったのかもしれない。自分達が学園に来なければ平和だったのかもしれない…。

 

パンッ!

 

「そんな顔しない!アンタ今、自分のせいでこうなったとか思ったんじゃない?自分達がここに来なければ平和だったのかもしれないとかさ?」

火影

「……」

 

鈴はほんの少し怒った表情で火影の頬を両手で挟む様に軽く平手打ちする。どうやら表情に出ていたらしい。

 

「やっぱり。ならはっきり言っとくわ。もう止めなさいそんな風に思うのは!誰もこんな事になるなんて思いやしないんだから自分達の責任とか感じたりすんじゃないわよ!誰のせいでもない!てかアンタ達がいなきゃ今頃どうなってたかわからないのよ?アンタ達がいてくれたから皆無事なの!いいわね!」

 

怒りの鈴に火影はただ謝るしかなかった。

 

火影

「……ああ悪い。てかお前は俺の母親かよ」

「前に言ったでしょ?保護者兼彼女候補って。それに海之からアンタが無茶した時のストッパーも頼まれてるからね」

(※ExtraMission6参照)

火影

「はは…。それはさておき鈴、お前さっきの「行く事になるなんて」ってのは…」

 

火影はその意味が分かっていながらも聞いてみた。

 

「決まってるでしょ。私も一緒に行くわ。きっとシャルも同じ選択したんじゃない?」

 

やはり鈴も一緒に行くと言った。

 

火影

「……覚悟はできての事なんだろうな?」

「無論よ」

 

即答する鈴はもう心に決めている様だ。こうなったら火影がどんなに言っても聞かないだろう。

 

「それにね火影。私、前の時の、あの黒い奴らと戦う時みたいな不安は無いのよ?」

火影

「…?」

「だって今度はアンタが傍にいてくれるじゃない。あの時は半分アンタが死んだと諦めてた、イフリートを砕かれた時に。でも今度は……ちゃんといてくれる。それだけでちっとも怖くないわ」

火影

「鈴…」

 

鈴は笑っていた。とはいえきっと怖さは完全には消えていない筈だ。何度も危険な戦いをしてきたのだから。でもあの時と違い、火影が傍にいるという事実が彼女に勇気を与えていた。

 

「寧ろ怖いとしたら私達の知らないとこで大切な人を失う事よ。もうあんな事は…絶対に嫌」

火影

「……」

 

以前浜辺に打ち上げられた持ち主がいないエボニー&アイボリーを見た時、鈴はショックのあまり泣き叫んでいたのだった。

(※Mission152参照)

「あとね火影。こんな事言ったら火影怒るだろうけど、……代表候補の座なんて、私もうどうでも良いのよ…」

火影

「…なんでだ?」

「シャルと本音には話したんだけどね。……」

 

鈴は代表候補になったのもIS学園にやって来たのも全ては一夏に会いたいという一心だったから、という事実を伝えた。

 

「……という訳」

火影

「…まぁ、お前らの年頃ならそういうのもありなんじゃねぇのか?それにお前の故郷の家族はどうする?」

「お母さんや叔母さんは私が代表候補になるのはどっちかと言ったら反対してたの。色々心配かけるでしょ?おまけに軍とも関係ができてしまうからいざという時、今回みたいな時に戦うかもしれないし…。だからもし辞める事になっても…きっと悲し過ぎたりはしないと思う」

火影

「そうか…」

「それにね火影。私、ちょっと考えてる事あるの」

火影

「…考えてる事?」

「それについては全部終わった後で話すわ。今は……」

 

すると鈴は火影の腕に自分の腕を組ませた。

 

「後悔はしてない。ここに来たから……私は火影、貴方に会えた。その事は一夏に感謝しなきゃね」

 

そんな彼女を見て火影も同行を認めざるを得なかった。

 

火影

「……守ってやるさ。前に言った様にな」

「……うん。私もアンタや皆を守るわ」

 

鈴のやる気は満ちていた。

 

「よ~しそうと決まったらさっさと終わらせましょ!そして早く普通の学生に戻って、今度こそ青春を謳歌するのよ♪…あ~!そう言えば前にふたりで京都回るって約束、果たしてないじゃないの!今度絶対果たしてもらうわよ!」

火影

「へいへい」

 

 

…………

 

セシリアの部屋

 

 

その頃、セシリアは自分の部屋で誰かと電話していた。

 

セシリア

「……ええ。ではその様に…。はい。お願いしますね」

 

そう言うと電話を切るセシリア。するとそこに、

 

…コンコン

 

一夏

「セシ…、えっと、オルコットさんいますか?」

 

ドアをノックしたのは一夏だった。

 

セシリア

「え…い、一夏さん!?は、はい!今開けますわ!」

 

驚いたセシリアは急いでドアを開ける。

 

セシリア

「ど、どうされたんですか…?」

一夏

「あ~…、セシリアとちょっと話がしたいなって思ってさ。今大丈夫か?」

セシリア

「も、勿論ですわ!…よ、良ければ中に入りませんか?同室の方は暫く戻ってきませんから大丈夫ですわ」

 

そう言われて一夏は部屋に入った。

 

一夏

「悪いな、もう夜も近いのに。なんでルームメイトの子がいないんだ?」

 

あれから時間も進み、空はやや暗くなりかけていた。

 

セシリア

「…ええ。実は…故郷の家に電話していたのです。これからの事を連絡したくて。そのために出ていてもらってるんですの」

一夏

「……これからの事って…それ」

 

一夏がそう言うとセシリアは頷き、答えた。

 

セシリア

「ええそうです。先程家の者に伝えました。私は…国に戻らず、こちらの皆さんと一緒に戦ってきます、と。政府にはそう伝えてほしいと」

 

セシリアもまた、皆と一緒に戦いに行く事を決断したのだった。

 

一夏

「…はは、やっぱりセシリアもそう来たか。でもいいのか?失敗すればセシリアの代表の座は…」

セシリア

「ええわかっていますわ。でも…それでも私は一夏さん達と一緒に行きたいのです。私だけじゃない。きっと鈴さんやラウラさん達も同じ選択をされる筈ですわ」

一夏

「…まぁ…そうかもしれないけどさ…」

 

一夏もそれは何となく予想していた。

 

セシリア

「それに…今度の戦いは、きっとこれまで以上に危険なものになる筈。命を懸ける位に。…もし、もしそうだとしたら…最後位は」

 

するとその先を一夏が止めた。

 

一夏

「そんな事言うな!誰ひとり死なねぇ!俺が守ってやる!」

セシリア

「!」

一夏

「あ…いや、その、悪い。急にでかい声出して」

セシリア

「い、いえ全然。その、嬉しかったですし…」

 

するとその場の空気を変えようと一夏は話を変えた。

 

一夏

「そ、そういやさ?俺達こんな関係になるって、最初は想像もしてなかったよな~」

セシリア

「ふふ、そうですわね。あの時の私ははっきり言って愚かでしたわ。両親の真実を知らず、男性を蔑み、一夏さんや火影さん達に酷い事を言ってしまいました」

一夏

「ははは、確かにあの時のセシリアは凄かったな」

セシリア

「……でも、それを皆さんが変えてくれた。一夏さんが男性の可能性を、火影さんと海之さんが両親の真実を教えて下さなければ…きっと私は今も変わらないまま、流されるだけでした。今でもとても感謝しておりますわ」

(※MIssion18参照)

一夏

「そんな大した事したつもりはないんだけどな」

 

そう言うとセシリアは一夏に向き直り、

 

セシリア

「ですから今度は…私が皆さんの力となる番。一夏さんや火影さん達と一緒に、共に戦います。私等どれ程の事ができるかはわかりませんが…私の全ての力を一夏さん達のために、私の大切なものを守るために使いますわ」

一夏

「セシリア…」

 

セシリアの真っすぐな強い目に一夏はやや押された様な気がした。

 

一夏

「……わかった。セシリアがそう決めたんならもう何も言わねぇ。もう一度言うけどセシリアは俺が守る。箒も刀奈さんも、勿論他の皆もだ」

セシリア

「…はい!」

 

ふたりは必ず勝つ事を誓った。

 

セシリア

「……でも一夏さん、ひとつだけ不服を言わせて頂きますと今だけは私だけを呼んで頂きたかったですわ」

一夏

「い、いや流石にそれは…」

セシリア

「ふふ、冗談ですわ。そういう点もこれから射撃と一緒に鍛えてあげないといけませんわね♪」

一夏

(……やっぱいろんな意味で罰ゲームだな。…ハァ)

 

 

…………

 

学園 整備室

 

 

「……」

 

簪は整備室で端末を打ち、何やら作業をしていた。……すると、

 

…ガラッ

 

扉を開けて誰かが入ってきた。

 

海之

「簪…ここにいたか」

「え?…あ、海之くん…」

 

入ってきたのは海之だった。海之だと知って驚く様子の簪。

 

海之

「何やらしていたのなら申し訳なかったな」

「ううん大丈夫だよ。……もしかして私を探してたの?」

海之

「…ああ。刀奈さんに聞いたらここではないかと伺ってな。……弐式の整備か?」

「うん。何時もより念入りに整備しておかないとって思って。…次は凄い戦いになるだろうから…」

海之

「お前…」

 

海之はその言葉の意味を理解した。

 

「……うん、私も海之くん達と行く。反対されても。日本にももう伝えてある。勿論家にも」

海之

「……そうか」

 

簪は力強い口調でそう言った。言葉の通り、彼女は既に国にも更識の家にも伝えていた事を海之は刀奈から聞かされていた。

 

「あ、そうだ。あ、あのね。私、海之くんに渡したいものがあるの」

 

すると簪は自らの拡張領域を開き……その中からあるものを取り出した。それを見た海之にやや驚きの表情が浮かぶ。

 

海之

「…それは刀か?」

 

簪の手には一振りの刀が握られていた。

 

「…海之くん、私達をあの黒い奴から守ってくれた時、刀を無くしちゃったでしょ?だから…その、整備部の皆と一緒に…作ったの」

 

 

瑠璃月(るりづき)

 

閻魔刀が折れた海之のために簪が整備部の皆と一緒に作った刀。海の様な深い青塗りの鞘に金色の細かい細工が施された青い鍔を持つ。閻魔刀には流石に及ばないが従来のIS用の刀に比べてかなり強い切れ味と耐久性を持つ。

 

 

そう言って簪は刀を海之に差し出す。

 

海之

「…俺にか?」

「うん。…受け取ってくれる?」

海之

「……」ジャキッ

 

海之はそれを黙って手に取る。そして鞘から刀を抜き、刀身と波紋をじっくりと眺め、鞘に戻した後、空いている作業スペースに移り、

 

海之

「……は!」ブンッ!…

 

鞘から滑らかに抜いた後、その場である程度振り回す。ちゃんと周りに被害を出さない様計算しながら。…そしてある程度振り回した後、目を閉じながらゆっくり刀を鞘に戻す海之。

 

……チンッ!

 

海之の流れるような素振りを見た簪はその姿に一瞬呆然としてしまったがやがて、

 

「………あ、ご、御免なさい!やっぱり海之くんには刀が一番似合ってるね!…それで、どうかな?海之くんの刀みたいな業物にはとても敵わないけど…」

海之

「気にするな。閻魔刀が異常なだけだ。………中々いい。礼を言うぞ簪」

「ほ、本当?…良かった」

海之

「いずれ何か礼をせねばならんな」

「そ、そんなの気にしないで!私の方が今まで沢山海之くんに貰ったんだからこれ位!」

海之

「気にするな。俺がそうしたいからするだけだ」

 

そう言いつつ席のひとつに腰掛ける海之。

 

海之

「……」

「…どうしたの?海之くん」

 

すると暫しして口を開く海之。

 

海之

「お前は強いな簪。……あの時の俺等よりも、ずっと」

「…え?」

 

その言葉に一瞬戸惑う簪。

 

海之

「完成目前で開発が打ち切られた弐式をやり方はどうであれ、必ず自らの手で完成させると決意した結果、お前はそれを成し遂げた。そして原因とまではいかないが、あれほど思う事があった一夏と組み、自らの殻を乗り越えようとした。更に今も、自分より強い存在に今も勇敢に立ち向かおうとしている…。お前の勇気と諦めない心は…確かな強さを持っている。バージルだった頃の俺よりも」

「そ、そんな事…」

 

海之は首を横に振り、話を続ける。

 

海之

「お前には以前話したな。……俺は諦めてしまった。自らの無力さに我慢できなくて、力に溺れ逃げてしまった。それからは醜く誇りも無い、力に取り付かれるだけの存在となってしまった。火影や、魔帝に敗れてもそれは変わらなかった。やがてそれが間違いだったと気づいた時は…もう手遅れだった」

(※Mission27参照)

「……」

 

簪は黙って聞いている。

 

海之

「簪、お前は決して俺の様になるな。まぁなりたくも無いだろうが」

 

海之は自虐的に小さく笑った。……すると、

 

……スッ

 

海之

「!…簪?」

「……」

 

簪は以前、海之の真実を知る前のあの時と同じ様に、後ろから肩に手を回して抱きついた。疑問符が浮かぶ海之。

 

「ごめん、海之くん。その言葉は…聞けない。だって…海之くんは私の目標だから」

海之

「…俺が目標だと?」

「誰よりも強くて、誰よりも優しくて、誰よりも大切な人を失う辛さを知っている人…。そしてもう二度と、あんな悲しみを生み出さないって、強い信念を持ってる人。そんな海之くんは……私にとってヒーローで目標…」

海之

「……」

 

そう言って簪は正面に移る。泣き顔の様な、怒っている様な顔をしている。

 

「お願い海之くん…もう過去に縛られるのは止めて。今を、これからを生きて…?私と、私達と一緒に…」

海之

「……」

 

海之は黙っていた。簪の真っ直ぐな目からは反らしてはいけないと思った。

 

海之

「…………やはりお前は強い」

「海之くんのおかげだよ。それにまだまだ海之くん程じゃない」

 

すると海之は小さく笑い、簪の目を真っ直ぐ見つめながら言った。

 

海之

「……簪。俺にはお前やラウラや皆…、お前達が必要だ。だから…あと少し…助けてくれるか?」

「……うん!」

 

簪の力強い返事だった。

 

(……私は…貴方の力になりたい…。これからもずっと…)

 

 

…………

 

火影と本音の部屋

 

 

シャルと鈴の決意を聞いた火影はその後、自らの部屋に戻ってきた。

 

ガチャッ

 

本音

「あ、ひかりん~お帰り~♪」

 

先に本音が戻ってきていた。

 

火影

「ん?ああ」

本音

「な~に真剣な顔してるの~?何か困り事~?ならそういう時こそ笑わなきゃ!笑う門には何とかっていうでしょ~?」

 

本音は妙に明るく、屈託のない笑顔をしている。

 

火影

「俺そんな顔してたのか?…まぁいいか、今日は俺が作ってやっから。なんでも好きなもん言え」

本音

「わ~い♪」

 

そんな感じでとりあえず食事にすることにした…。

 

 

…………

 

本音

「う~んやっぱりひかりんのストロベリーサンデーは美味しいや~♪」

火影

「はは、そいつは結構」

 

あの後、本音は自分の好きなものを火影に注文し、デザートとしてストロベリーサンデーも元気に笑顔で平らげようとしていた。

……しかしその食事の最中、火影は本音にある違和感を感じていた。

 

火影

「……本音、……何かあったのか?」

本音

「なにが~?私は大丈夫だよ~。あ、そうだ、ひかりん明日どこか行くんでしょ?気を付けてね。帰ってきたらまたデザート作ってね♪」

 

そう言う本音の表情は明るかった。彼女を知るものからすれば何時もよりもやや元気がいい様にしか見えないだろう。しかし火影は、

 

火影

「どんだけお前とルームメイト…ってまだ一年も経ってねぇのか。まぁそれは置いとき、お前の様子がおかしいってのは何となくだがわかるさ。多分そこらの知り合いとかはわからねぇだろうがな…」

本音

「……そんなにおかしいかな?」

 

本音は初めて笑顔を緩めた。

 

火影

「お前は普段のほほんとしてるが芯は意外としっかりしてるし、鋭さもあるからな。大方あのファイルの事や、明日の俺らの外出を心配してんだろ?」

本音

「……」

 

本音は黙っている。どうやら図星の様だ。

 

火影

「やっぱりな…。そんな心配すんな。明日は」

 

とその時、

 

 

……バッ!

 

 

火影

「…!…本音?」

 

本音は俯きながら駆け寄り、火影の胸に飛び込んだ。

 

本音

「……ごめん火影。暫く…こうさせて」

火影

「本音…?」

 

つい先程とは全く違う様子の本音にやや戸惑う火影はじっとする事にした。……するとそのまま本音が話し出す。

 

本音

「何も言わないで聞いてね火影…。明日…火影凄く危険な事しようとしてるでしょ?昨日あのファイルが流れてから皆、特に火影と海之がおかしいもの。海之は普段あまり表に表情を出さないから余計にわかるよ、何かあったんだって…。火影が私の事気付いた様に…私も火影の事なんとなくわかるんだよ?この一年ずっと一緒に過ごしてきたんだから…」

火影

「……」

本音

「やっぱり…。火影、わかりやすいんだもん…」

 

本当なら嘘を貫き通す事もできたかもしれない。…しかし今の火影にはできなかった。

 

本音

「今日の朝もまたあのファイルが流れて…そして放課後の織斑先生の言葉…。火影は「気にするな」って言ったけど…、かんちゃんやかっちゃんにも聞いてみたけど…「大丈夫」「心配ない」って言うだけだった…」

火影

「…ああそうだ。お前は何も」

 

すると本音は顔を上げた。凄く怒った顔をしている。

 

本音

「心配しない訳ないじゃない!」

火影

「!」

本音

「火影、きっとまた戦いに行くんでしょ!?きっと海之や織斑先生や皆も!あのファイルを何とかするために!私達のために!でもその事を隠して行こうとしてる!そんなの心配しない訳ないじゃないの!」

火影

「本音…」

 

本音の初めて見る怒りの表情に火影はやや押されていた。

 

本音

「嫌な予感がするの…。火影達が負けるなんて思ってない。…でも、もう二度と会えなくなる様な…凄く嫌な予感が!……でも火影は絶対に止まったりしない…。本当なら、私も一緒に行きたい…。でも私なんか一緒に行ける訳無いし、火影は絶対に許してくれないし…。そんな私ができる事は…、皆を信じる事しか…、火影に笑ってあげる事しか…」

火影

「本音…」

 

すると本音は再び笑顔になる。しかしその目にはうっすらと光るものがあった。

 

本音

「ほんとは、ほんとは行ってほしくないけど…、私なんかじゃ火影を止められないから…。一緒に行けないから…。私には…笑って送ってあげる事しかできないから…。火影が好きって言ってくれた笑顔で…」

 

笑顔を崩さない本音だが心配の心が痛い程伝わってくる。

 

 

……スッ

 

 

すると火影は黙ってそっと本音を抱きしめた。

 

火影

「……ありがとよ本音。…そしてわりぃな、お前にそんな顔と心配をさせちまって」

本音

「火影…」

火影

「だが安心しろ。お前を置いて俺は死んだりしねぇし、もう勝手にいなくなったりもしねぇ。俺を信じろ。そして帰ってきたら…何時ものお前の笑顔で迎えてくれ。前に言った様に」

(※Mission63参照)

 

火影は本音を安心させる様な、普段あまり見せた事がない優しい表情をしていた。

 

本音

「………絶対だよ?」

火影

「ああ」

本音

「絶対に…帰ってきてよ?」

火影

「ああ」

本音

「………待ってるから」

 

本音も火影の言葉と表情に落ち着いた様だ。

 

本音

「……ねぇ火影」

火影

「お前はひかりんで良いって」

本音

「じゃあひかりん。ひとつだけ…お願い聞いてもらっていい?私の、私の夢の話……聞いてもらえる?」

火影

「どーぞ」

本音

「うん、私の夢はね……………ううん、やっぱり今はいい。帰ってきた後で言わせて。全部終わったら伝えたい」

火影

「そうか。…終わったら大変だな、シャルも鈴も何か話してぇ事があるみてぇだし」

本音

「ふふ、じゃあ一緒に言おうかな。きっとふたりと同じ事だろうし♪」

火影

「……何なんだ一体?」

 

 

…………

 

千冬の部屋

 

 

時刻は更に進み、既に時間は遅くなって外に出ている者もあまりいない時間帯。

 

千冬

「……」

 

千冬はひとり自室にいた。精神統一なのかただ黙って座っている。……すると、

 

コンコン

 

千冬

「…誰だ?」

 

誰かがドアをノックした。

 

海之

「…海之です」

 

それは海之だった。

 

千冬

「! み、海之?…どうしたこんな時間に?」

海之

「…お休みの所申し訳ありません。千冬先生にひとつお話がありまして」

千冬

「………入れ」

 

本来なら遅い時間帯だから帰れと言うべきだが、千冬は海之を招き入れた。

 

千冬

「全く…お前でなければ直ぐに帰らせている所だがな」

海之

「申し訳ありません…」

千冬

「更識は寝たのか?」

海之

「ええ先程」

 

その一言で千冬は思った。

 

千冬

「……やはり行くか。更識も、ボーデヴィッヒも」

海之

「…ええ。恐らく鈴達もでしょう」

 

すると海之が話し出す前に千冬の方から話し出した。

 

千冬

「それで話とは?…………私の罰の件か?」

 

すると海之はやや目を細めた。

 

海之

「……よくわかりましたね」

千冬

「お前らに驚かされっぱなしなのも癪だからな。ふふ」

 

海之を驚かせられた事にほんの少し喜ぶ千冬。そして海之は話し出す。

 

海之

「……今朝の話を聞いて考えが過ったのです。それが一番の方法とはいえ、千冬さんはIS委員会に無理難題を押し通した。簪やラウラ達の未来と気持ちをお考えになって…可能性を開いてくれました。……しかし俺の中でひとつ疑問が残りました。もし万一俺達が失敗した場合、あいつらだけに処罰が下されるという事に。……千冬さん程のお方が、それを許すだろうか、と。俺や火影、一夏達は無いかもしれませんが」

千冬

「……」

海之

「……何かあるのではないですか?千冬さんにも、…いえもしかすると千冬さんがご自身でお決めになった自らに課せた罰が」

 

海之は今朝、それを聞こうとしたが他の皆や真耶がいる場では聞きにくいと判断した。

 

千冬

「……わざわざそんな事を聞きに来たのか?もしあったとしてどうする?お前には関係ない話だ」

 

千冬ははぐらかそうとするが、

 

海之

「…ええ。俺は関係ないかもしれません。ただ簪やラウラ達に加え、失敗できない理由が増えるだけです。千冬さんをお守りするのも俺達の使命ですから」

千冬

「……」

海之

「ただ…話されたくないのであれば、無理にこれ以上は聞きません。……失礼します」

 

そう言って海之は退出しようとする。すると、

 

千冬

「……おい」

海之

「…?」

 

千冬

「他の連中には、何より一夏には言うな。言えば………殺す」

 

凄みを含んだ声で言う千冬。すると海之は振り返り、

 

海之

「……貴女にできるかな?」

 

海之も言い返す。

 

海之・千冬

「「………」」

 

互いににらみ合うふたり。……すると暫くして、

 

千冬

「……フ、フハハハハ!」

海之

「……ふ」

 

千冬は笑い出した。海之はそんな彼女を見て肩の力を抜く。

 

千冬

「ふぅ、冗談だ。私にお前が殺せる訳無いだろう。…だが、他の連中や一夏には言わない様にしてくれというのは本当だが」

 

海之は頷いた。すると千冬は話し出した。

 

千冬

「お前の言う通りだ海之。今回の件で私、正確には私自身で決めたペナルティだがな。……海之。この一件が無事に終わってもそうでなくても……私は警察に出頭するつもりだ」

海之

「…!」

 

先程より驚いた海之は目を開く。

 

千冬

「白騎士事件を起こした罪人としてな。止めてくれるなよ?これは私自身の戒めであり、決めた事なんだ」

海之

「…ですが」

千冬

「いいんだ。……私は今まで過去からずっと逃げ続けてきた。お前達と共に守るもののために戦う。それもひとつの責任の取り方だろう。だがそれ位であの時、死ぬ様な恐怖を味わった人々の苦痛が和らぐことは無い…。きっと私が自首した位でもそれは変わらんだろう…。しかしそれでも、無いよりはあった方がいい。そう思ったのだ」

海之

「……」

千冬

「束の事は言うつもりはないぞ。それはあいつが何時か自分自身で言うべき事だからな」

海之

「…一夏はどうするのです?千冬さんは唯一の」

千冬

「…あいつは大丈夫だ。箒やセシリア達もいるし、お前達という多くの友もいる。それにあいつもお前達程ではないがそれなりに成長した。もう…大丈夫だ。あいつのIS学園生徒の座もしっかり守ってやる」

海之

「……」

 

千冬の意志は変わらないと海之は感じていた。だからせめて、

 

海之

「……ならば先ほど言った様に、俺はこれまでと同じく、千冬さんをお守りするだけですね」

千冬

「もう一度言うが一夏や他の連中には絶対に知らせるなよ?火影にもだ。知っているのは真耶とお前だけだ」

海之

「…分かっています」

千冬

「ありがとう海之。……さぁ、もう戻って休め。私も休む。明日は早いからな」

海之

「…ええ。おやすみなさい」

千冬

「あああと……反対してくれて、……少し嬉しかったぞ」

海之

「当然の事です。しかし…俺は千冬さんの御意志を尊重します」

千冬

「ああそうだ、それでいい」

 

そう言って海之は部屋を出て行こうとする。

 

千冬

「ああ最後に海之。……その、お前、先ほどから私を…「千冬さん」と言ったな。何故だ?」

 

海之は答えた。

 

海之

「前に学園祭でお願いされましたから。ふたりしかいない時位は良いでしょう?……では明日」

(※Mission86参照)

 

そう言って海之は部屋を出て行った。一方の千冬は、

 

千冬

(……全く。一応この世界では子供のくせしてとことん私の心を乱す奴だよお前は。……全て終わったら、頼むぞ…海之)

 

千冬はそう願った。そして海之もまた、千冬の未来が明るいものになる事を願っていた…。

 

 

……そしてそれから数時間後の日も昇りきらない時間帯。島内のとある場所からひとつのものがゆっくりと音を立てながら上昇して行った……。

 

 

タイムリミットまで残り二十時間…。

物語は最終局面に向かい動き出す…。




※次回は19日(土)の予定です。
当初予定していた通り次回より新章、そしてこれが多分最終章になる予定です。じっくりやっていきますので最後まで宜しくお願いします。


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第十六章 Devil May Cry
Mission193 遥かなる飛翔


ラウラ、シャル、刀奈に続き、鈴にセシリア、簪もやはり国の言葉よりも大切な者、信じる者と共に行くという決断を下した。

信じて待っていると約束した本音。
全て終わった後、自らの罪を償う覚悟をした千冬。
其々の決意と覚悟を受け止めた火影と海之。

残された時間は僅か…。
世界を覆いつくそうとする闇に、伝説の兄弟と新たな仲間達の戦いが始まる…。


学園がある島のとある場所

 

 

まだ陽も完全に昇りきらない時間帯。そこに数人の男女がいた。勿論彼らである。

 

一夏

「わかってはいたけどやっぱり皆も来んだな」

「当たり前よ。アンタ達だけじゃ心配だからね」

セシリア

「皆さんだけ戦わせはしませんわ」

真耶

「ですがもし…」

 

真耶の心配も無理ない。情報が明るみになるまでもはや丸一日。更に彼女らの未来が決まるまでは既に20時間を切っているのだから。

 

シャル

「それ以上は言わないで下さい先生。これは自分で決めた事です」

「シャルの言う通りですよ」

ラウラ

「これが一番正しい選択だと、私達は信じています」

刀奈

「一番の可能性に全力を傾けるのは当然ですから」

扇子

(勝利の鉄則)

「必ず戻ってきます。皆で」

クロエ

「束様も」

千冬

「明日の夜にはいつも通りだ真耶」

真耶

「先輩…」

 

真耶は千冬を見つめる。彼女の真意を知っているから。

 

千冬

「……後を頼むぞ」

真耶

「……はい」

 

そしてそこに遅れてやって来た者がいた。

 

火影

「……お?俺らが最後か」

海之

「すまない、支度に手間どってしまった」

 

火影と海之、そして、

 

本音

「…やっぱり皆も行くんだね」

「! 本音…」

火影

「見送りしたいって聞かなくてな」

刀奈

「…ありがと本音」

本音

「……必ず、必ず皆で帰ってきてね?」

一夏

「当たり前だ。全部綺麗さっぱり終わらせてくるぜ」

 

他の皆も頷いた。

 

「ところで火影、あと海之もその服って…私服?」

 

火影は黒い服の上に赤いコート。海之は黒い服の上に青いコート。其々手袋とハーフフィンガーグローブ、ブーツを付けている。

 

火影

「俺にとってこいつは私服でもあり、仕事着だからな。これだけは譲れねぇ」

シャル

「仕事着?」

海之

「亡霊の相手には丁度いいだろう」

 

それは全く同じでは無いが、嘗てふたりが悪魔を狩っていた頃に着ていたものに似ていた。

 

火影

「そういう事だ。それよりお前ら、……いやもう言わねぇよ」

「残念~。「しつこいわね!」って怒鳴ろうと思ったのに~」

 

~~~~

皆で笑った。本音も真耶も。

 

千冬

「……さぁ行くぞ。時間もあまりない」

一夏達

「「「はい!」」」

真耶

「本当に気を付けて下さいね皆」

海之

「ありがとうございます」

本音

「早く帰ってきてね?」

火影

「じゃ、ちょっくら行ってくるぜ」

 

……そして皆を乗せた束のロケットはゆっくりと地上から上がり、高速で飛びさって行くのだった。

 

 

真耶

(……皆、先輩。……どうかご無事で)

本音

(……)

 

 

…………

 

ラ・ディヴィナ・コメディア 最下層

 

 

その頃、オーガスはラ・ディヴィナ・コメディアの最下層と思われる場所にひとり佇んでいた。

 

オーガス

「……」

 

 

コツ、コツ、コツ、コツ……

 

 

するとそこにスコールとオータムが歩いてきた。誰かわかっているのかオーガスは振り向かないまま答える。

 

オーガス

「………何故貴様らがここにいる?ここには入ってくるなと言った筈だが?」

オータム

「うっせぇ。俺は来たくて来たんじゃねぇ。スコールの付き添いだ」

スコール

「あの子達ももう準備に入ってるわ。Mはまだ部屋にいるけど…」

オータム

「…そういやあいつはISてめぇに取られたままじゃねぇのか?」

オーガス

「問題ない。既に準備は出来ている。それより何の用だ?」

 

するとスコールが前に出て、圧をかける様な表情で問いかけた。

 

スコール

「……オーガス、何故あんな事したの?報復とはいえよりにもよってファントムやグリフォンを基地に放すなんて…」

オーガス

「…その様な事を話しにわざわざ来たのか。…死人は出ていない事は知っている筈だが?」

スコール

「知っているわ。でもアンジェロならまだともかくあんなものが大量に出たら」

オーガス

「関係ない。何れこの世はあんな物以上に危険と混沌、そして戦いに満ちた世界になるのだ。それに恐れおののいたのか静かになっただろう?」

スコール

「……」

オータム

「は!流石はあのふざけた計画を考えそうな奴だ。頭ぶっとんでやがるぜ。まぁ戦いになったらなったらで俺は歓迎だけどな」

オーガス

「…ククク、誉め言葉として受け取っておくぞ?隠れて生き残った臆病者」

 

これにオータムが怒りを露わにする。

 

オータム

「何だと!」

スコール

「止めなさいオータム!今はそれどころではないわ。…オーガス、オータムは臆病者なんかじゃないわ。あの計画を生き残ったのだから」

オーガス

「フン、貴様の陰に隠れて運よく生き残っただけだろう。強者とはとても呼べんな」

オータム

「……てめぇ、てめぇだってあの妙なISを作る迄戦おうとしなかった臆病者だろうが!!」ダッ!

 

オータムはすかさず殴りかかろうとする。…しかし、

 

 

ギュンッ!!!

 

 

スコール

「!!」

オータム

「…な!?」

 

オーガスが殴り掛かろうとしたオータムを睨んだ途端、凄まじい恐怖に襲われた。怯んでしまうオータムと、彼女ほどでは無いがスコールもである。

 

オーガス

「しなかった?……違う。その必要もなかっただけだ」

オータム

「……くっ…」

スコール

「……」

 

ふたりは一瞬感じたオーガスのそれに恐怖を覚えた。

 

オーガス

「まぁ安心しろ。あの兄弟の相手は私とあれがしてやる。貴様らは他の取り巻き共の相手をしてやれ。奴ら等我は眼中にない」

スコール

「……わかっているわ。……でも以外ね、そんなにあのふたりが厄介ならIS学園や彼らの故郷に襲撃をかけたりしないの?あのふたりもきっと動揺するんじゃない?」

オーガス

「フン、敵の虚をつく等、敵よりも自らが弱いと認める愚か者の愚策。勝つとわかりきっている戦で何故その様な事をする必要がある?」

スコール

「……そ。ところで篠ノ之博士はどうするの?」

オーガス

「あの女にもう用はない。だが折角だ。最後まで役立ってもらうとしよう」

スコール

「……」

オーガス

「さぁ、もう出て行け。…もう一度言うがここには二度と入ってくるな。ここは聖域だからな」

オータム

「…言われなくても出て行ってやるよ!こんな偏屈な場所。行こうぜスコール!」

 

そう言われてオータムは出て行った。スコールも後を追おうとすると、

 

スコール

「…ねぇオーガス。聖域って………いえ、答えてくれないわね…」

 

最後にそう言ってからスコールも出て行った。

 

オーガス

「……クククク……」

 

誰もいなくなったその空間に、オーガスの不気味な笑いが響いた。

 

 

…………

 

火影達のロケット

 

 

その頃、火影達が乗ったクロエのロケット(自動操縦)の内部では作戦会議を行っていた。

 

火影・海之

「「……」」

クロエ

「あと3,4時間で作戦空域に到着します」

千冬

「そうか。…お前達、問題は無いか?」

一夏

「当たり前だぜ千冬姉。眠気も無いしバッチリだ」

「こんな状況でも眠れるお前が羨ましいよ。…まぁそれ位リラックスした方が良いかもしれんが」

一夏

「無理に緊張して戦いに支障が出たら元も子もねぇだろ?だったら少しでもコンディションを良くしたといた方がいいしな」

刀奈

「まぁそれは確かに一理あるわね。いい心がけよ一夏くん」

「…しかし鈴達は」

 

箒は鈴達に残されたタイムリミットを心配していた。この時既に出発から10時間が経過していた。既に残り10時間を切っている。現地に到着したらもう数時間程である。

 

「いいのよ箒。それこそ気にしないで」

「そうだよ。今はそんな事よりも戦いでしょ?」

セシリア

「私達に失敗は許されないのですから」

シャル

「まだ時間はあるよ。決して焦っちゃいけない」

ラウラ

「ああその通りだ」

 

しかし鈴達は箒に強気の言葉で返した。

 

一夏

「そう言えばやっぱり今日も流れたなアレ…。しかも随分核心に迫った内容だったけど…」

「そうだな…。そしてオーガスの話だと次が最後…、しかも名簿が一斉に公開されてしまう…。そうなったら…」

 

最悪の事態に危機感を抱く箒。

 

刀奈

「箒ちゃん。貴女やクロエちゃんは篠ノ之博士を救出する事に集中しなさい」

「!…はい!」

クロエ

「勿論です」

刀奈

「うん宜しい♪」

 

そんな会話をしながら作戦会議に入る。

 

海之

「…クロエ。島の様子と現時点でわかっている事を報告してくれ」

 

海之の指示でクロエは撮影した島とラ・ディヴィナ・コメディアを部屋のスクリーンに映し出す。

 

クロエ

「これは一昨日、束様のスパイ衛星から撮った島の全画像です」

千冬

「改めて見ると意外と小さい島だな。…いや、あの塔が大きすぎるのか」

クロエ

「塔の大きさは約500メートル以上。そしてこの島ですが現在あるどの地図にも確認できませんでした。恐らく密かに抹消されていたものかと」

火影

「だろうな。大方あの計画を進める時に消しちまったんだろ」

「飛行機や船とかは気付かなかったのかしら?」

クロエ

「ここはあらゆる交通機関の航路からかなり離れています。加えて何かしらのジャミングの様なものもあったのかもしれません。これまで世界中を移動していた私も気付きませんでしたから」

刀奈

「まぁ寧ろそういう場所でないとあんな計画無理でしょうね。…島自体はほとんど岩、崖とかはあまり無しね」

火影

「今の映像は出せるか?」

クロエ

「はい。小型の偵察機に先行させていますからもうすぐ送られてくるかと…」…ピピ「! 来ました。…映像出します」

 

クロエは偵察機から送られてきた現在の現地の映像を画面に写す。

 

一夏達

「「…!!」」

 

そしてそれを見て一夏達は驚愕した。確かに写しだされたそれにはラ・ディヴィナ・コメディアがあったが…」

 

セシリア

「な、なんですのアレは…!?」

「……嘘、でしょう…」

 

 

そこには無数の……黒い存在がいた。アンジェロやグリフォンが周辺を飛び回り、ファントムは塔にへばりつく様に歩いている。まるで魔塔を守護するかの様に。以前臨海学校の時に100以上のアンジェロを火影と海之が相手にした事があったが…今回はそれを遥かに上回る規模。

 

 

火影・海之・千冬

「「「……」」」

「あ、あんなに沢山…」

刀奈

「パッと見ても数百はいるわね…。あんなにいるなんてぶっちゃけ反則だわ全く…」

一夏

「あんなに大勢いちゃ塔に入り込む前にかなり消耗しちまう…」

ラウラ

「あの島には弾道ミサイルですら破れないシールドがあった筈…。あの距離からすると奴らがいるのはシールドの内部。もし奴らが立てこもっているとすれば倒すには内部に入り込まなければならんという訳か…」

「だが…そのシールドを打ち破る手段が現時点で判明していない。私達の武器を当てても大型ミサイルには及ばないだろう。多分火影や海之でも」

海之

「…確かにナイトメアをぶつけても不可能だろう」

一夏

「いきなり足止めかよ…」

 

部屋内に重い空気が流れる。

 

クロエ

「……その事なのですが、可能性は無くは無いかもしれません」

「本当?クロエ」

シャル

「……?ねぇ、この島の端にあるものなんだろ?」

 

するとその時シャルが島の北端にあるものを見つけた。他の皆もそれを何なのか確認してみる。

 

ラウラ

「………塔…いや灯台か?」

セシリア

「! 南の端にもありますわ」

 

大きさはかなり小さいが…よく見るとそれは塔か灯台らしきもの。それが島の北端と南端に一本ずつ立っている。

 

一夏

「なんでこんな場所に灯台なんてあんだろ?」

クロエ

「大きさはあの塔の十分の一もありません。そして…この塔がこの島を覆っているシールドに関係している可能性があるのです」

千冬

「…どういう事だ?」

 

するとクロエはミサイルがシールドによって阻止された瞬間の画像に切り替える。すると、

 

「……!見て皆!」

 

鈴の言葉で皆がふたつの塔の頂上に注目すると……ミサイルがシールドに防がれた瞬間、うっすらと頂上に赤い光が見えた。

 

「頂上が光っている…?」

 

それを見た海之と火影が結論に至った。

 

海之

「…成程な。あの灯台は島を覆う結界の力の源。つまりあれを破壊すれば、結界を消すことが可能という訳だな」

一夏達

「「!!」」

火影

「だがあれは結界の内側。しかしあれは兵器は通さない…。つまり何とかして結界の内側からぶっ壊すしかねぇって事か」

「……だがあんな中に入れば灯台を破壊する前に奴らの集中砲火を浴びるな」

「兵器を通さないって事は多分ISも無理って事でしょう?…一体どうすれば」

セシリア

「そもそもあのシールドを突破する方法もわかりませんのに…」

 

場に再び重い空気が流れる。……すると、

 

千冬

「………クロニクル、先ほどの映像に戻して巻き戻し、ある場所をズームしてくれ」

 

クロエは千冬の指示に従う。

 

千冬

「ここだ」

「…………鳥?……皆!」

 

皆は写し出された映像を見て再び驚愕した。そこには一羽の鳥が写っていたのだが……その鳥はシールドがあると思われる場所を何事もなく通過し、飛び去って行ったのである……。

 

ラウラ

「鳥が普通に…シールドを通った?」

千冬

「思ったとおりだ。どうやら生き物は問題なく通過できる様だな。通り抜けられんのは無機物、機械のみという事だろう」

 

千冬からその言葉が出た途端、火影が嬉しそうに口を開く。

 

火影

「なら話は簡単だな。……俺にいい手がある」

 

 

…………

 

マドカの部屋

 

 

マドカ

「……」

 

その頃、マドカはひとり自室で待機していた。

 

マドカ

(ラ・ディヴィナ・コメディアが起動した。という事は……時が来た、という事なのか。……だが今の私には力が無い…。あの兄弟も、織斑一夏も織斑千冬も倒せない…。私は……無力だ……)

 

己の無力さを残念に思うマドカ。

 

 

(失ったから強いのではない。失いたくないから強いのだ)

 

 

マドカ

(…失いたくないから強い…だと?馬鹿な…守るもの等枷にしかならん筈だ…。…………だが、もしそうだとするならば…全て失ってしまった者は……どうすればいいのだ……)

 

 

(運命は変えられるんだぜ?これから次第でな)

 

 

マドカ

(……私の運命だと?……私の運命は…もう決まっている。……姉妹をこの手で討ったあの時から……)

 

思い悩むマドカ。……するとそこに、

 

オーガス

「M、いるか?」

マドカ

「! は、はい!」

 

オーガスの言葉に直ぐ返事を返すマドカ。

 

オーガス

「Mよ…。ラ・ディヴィナ・コメディアが起動した。わかっているな?」

「は、はい!」

 

するとオーガスは黒騎士のクリスタルを渡す。

 

オーガス

「お前にも働いてもらう。存分に戦うがいい」

マドカ

「! 私を…許して下さるというのですか?」

オーガス

「当然だろう?お前は私の部下だ。お前の力を理解する唯一の存在だぞ?」

マドカ

「! あ、ありがとうございます!必ずお気持ちに応えてみせます!」

 

マドカは嬉しそうに答えた。……しかし次の言葉で一変した。

 

オーガス

「そうか。では自らのオリジナル相手に存分に戦うがいい。思い残す事のない様にな」

マドカ

「……え?」

 

そう言ってオーガスは出て行った。後にひとり残されたマドカは、

 

マドカ

(…………思い残す事無い様……か…)

 

 

…………

 

そしてそれから数時間後、火影達を乗せたロケットはとあるポイントに近づいていた…。

 

 

クロエ

(……おふたり共、あと三分で指定ポイントです)

火影

「わかった」

海之

「……」

 

後部ハッチには火影と海之だけがいた。通信で皆と話す。

 

(…ねぇふたり共。やっぱり危険すぎるよこんなの…)

シャル

(そうだよ、他にもっと方法が…)

 

何やらひどく心配する様な声を上げる簪やシャル。

 

火影

「これが一番手っ取り早くて確実だ。いいから任せとけ」

(しかし…!)

海之

「下手な方法を取れば時間も被害も増える。最も手短で且つ成功率が高い方法でいくべきだ」

火影

「お前らは出るべき時に備えてしっかり準備しとけよ?」

 

何やら火影と海之には考えがあるらしく、そのためにふたりだけで何か動く様だ。

 

千冬

(お前達、その辺にしておけ)

刀奈

(ふたりの集中を乱してはいけないわ)

セシリア

(……わかりました)

一夏

(ふたり共……絶対に死ぬなよ!)

(アンタ達が死んだら何もかもおしまいなんだからね!)

ラウラ

(信じてるぞ!)

 

そして通信を切り、火影と海之は立ち上がる。……すると海之が口を開いた。

 

海之

「………この世界に来て、暫し考えてきた事がある」

火影

「…あ?」

海之

「何故俺達が生まれ変わったのか…。何故新たな命を得たのか…。そして何故、俺はお前と共に同じ世界に来たのか…」

火影

「……んで?答えは出たのか?」

海之

「……暫くはわからなかった。奴の存在を知って止めるためとも思ったが…」

火影

「あの娘が奴の事を知ってたんならそれも理由のひとつだろけどな。……だが「が」って事は違うんだろ?」

 

すると海之は答えた。

 

海之

「………少し違う答えが浮かんだ。…この世界を…より確実に守るため、とな」

火影

「…より確実に?」

海之

「俺とお前。どちらかが例え死んでも……もうひとりいる。どちらかが倒れても……もうひとりが成し遂げる」

火影

「……」

海之

「俺も、そしてお前も、互いの保険だったのかもしれん。馬鹿やってもしくたばった時のためのな」

火影

「……成程。……でもよ、今はそんなのどうでもいいじゃねぇか」

海之

「…?」

 

火影の言葉に目をひそめる海之。

 

火影

「前に魔界に落ちた時、お前言ってたろ?俺が「今の俺ら見たら母さんたちはどう思うか?」って聞いたら「死んだ後で考えろ」「死んだ後で本人に会って聞いてみろ」ってよ。それと同じさ。んな事今難しく考える必要なんてねぇんじゃねぇか?」

海之

「……」

火影

「理由なんて死んだ後でゆっくり考えたらいいんだよ。もしくはまたあの娘に会って聞いてみたらいいじゃねぇか?会えるかはわからねぇけどな」

 

海之は火影の言葉を黙って聞き、少し笑ってそれに答えた。

 

海之

「…………ふ、確かにそうだな。生きている理由など、命尽きる時に己の生涯を振り返って初めてわかるものだというのに。俺ともあろう者が、お前に諭されるとは」

火影

「最後だけ余計だっつの」

 

……そして、

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ

 

 

ロケットの後部ハッチが開いた。指定ポイントに到着した様だった。

 

クロエ

(目的地上空です。行けます!)

火影

「オーケーだクロエ。…さてと、んじゃあ行くか」

海之

「そうだな」

 

ふたりは揃って開いたハッチに近づき、

 

海之

「いいか?足を引っ張るなよ」

火影

「は!その台詞、そっくりそのまま返すぜ」

 

…グッ!!

 

顔は真っ直ぐ向きながら横に伸ばした火影の右手と海之の左手の拳が互いに合わさった。そして、

 

 

火影

「折角ご招待にあやかってわざわざ来たんだ。精々もてなしてくれんだろな!」

海之

「今度こそ終わりにさせてもらう。親父の代から続く、貴様らとの腐った因果を」

 

 

その言葉と共に、ふたりはロケットから飛び降りた!

 

 

…………

 

 

オーガス

「クククク……ようこそダンテ、バージル。歓迎するぞ……」

 

 

 

 

 

 

(…………来るがいい。…………ダンテ……)




※次回は26日(土)の予定です。
戦いばかりになりまして、書くのが大変ですががんばります。


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Mission194 狂宴の始まりと絶望への反抗

出発の朝…。そこには火影や海之や一夏達。そして覚悟を決めた鈴や刀奈達代表候補や代表もいた。真耶や本音に挨拶を終え、彼らを乗せたロケットは出発していった。

……そして現地まであと数時間と迫り、作戦会議を始めた彼らの目に飛び込んできたのはこれまで以上の無数のアンジェロやファントム、グリフォンに守護されるラ・ディヴィナ・コメディアだった。更にあらゆる兵器を妨害するシールドもある中、潜入するにはこれらの敵を搔い潜って源となっているらしい塔を破壊するしかない。そんな状況の中、火影が考えた作戦とは…。


島の遥か上空にて。ロケットの後部ハッチにいたふたりは、

 

火影

「折角ご招待にあやかって来てやったんだ!精々もてなしてくれんだろ!!」

海之

「終わりにさせてもらう。…貴様らとの因果を」

 

 

バッ!!

 

 

ふたりはロケットから飛び降りた。どんどん落下していく暫しの垂直落下の後、やがてふたりの視線の先にあの魔塔が見えた。

 

海之

「焦るなよ!結界を抜けるまでだ!」

火影

「わーってるって!」

 

やがてミサイルが破壊された辺りの距離まで落下が進む。そして、

 

 

……シュンシュン

 

 

ふたりは確かにシールドがある辺りに接触したが何も起こらなかった。何も遮るものが無いように違和感もなかった。しかし、

 

アンジェロ・グリフォン

「「「…!」」」

 

シールドを通過した事に反応したのかふたりだからなのか、空を飛んでいる人形の視線が一気にふたりに向けられた。

 

海之

「どうやら気づかれたらしい。予定通りだがな。……始めるか」

火影

「へっ。機械は泣くか分からねぇが、もし泣くならいい声で泣いてみな!」

 

 

…………

 

それは今から三時間位前の事。火影が自らの考えを述べた時まで遡る。

 

一夏

「な、何だってぇ!!」

「お前達だけであの中に侵入するだと!?」

火影

「そうだ。まずこのロケットであの島の上空まで飛び、そっから俺と海之のふたりで島に飛び降り、…いやスカイダイビングする。ISを使わずにな。織斑先生の考え通りなら…ISを纏ってない生身のまんまならあの結界を通過できる筈だ」

海之

「そして内部に入り込み、敵を掻い潜りながらあの塔を破壊。結界を消滅させ、皆が入り込む道を作ると言う訳だな」

火影

「そういう事だ。良いなお前ら?」

 

これを聞いた皆は当然反対する。

 

「「良いな?」じゃないわよ!いくら何でも無茶よ!」

シャル

「あまりにも危険すぎるよ!ISも無しに生身であんな中に飛び込むなんて!」

火影

「心配すんな。あのシールドを通過すれば直ぐに使うさ」

海之

「それにあそこにいる奴ら全部は相手にはせん。本当なら潰したいところだがな」

「で、でも!」

火影

「結界が解けたら全速力で頂上から侵入してくれ。お前らが入り込むまでの間、奴らを引き付けておくからよ」

ラウラ

「勝手に話を進めるな!」

海之

「だがそれが最も確実な方法だ。忘れたか?俺達、特にお前達には時間が無い事を」

セシリア

「忘れてなどいませんわ!ですがもっと他に方法が」

 

皆はとても聞けないという表情である。すると、

 

千冬

「お前達!」

箒達

「「「!!」」」

 

千冬の一喝で収まる反対の声。

 

千冬

「海之、火影。……任せていいのだな?」

 

千冬のふたりへの問いかけ。それはふたりの作戦の了承を意味していた。

 

一夏

「千冬姉…」

刀奈

「皆わかっているでしょう?ふたりがこう言い出したらもう止められないのは」

「で、でもお姉ちゃん…!」

千冬

「お前達の心配はよくわかる…。だがここまで来たらふたりに従うのが一番だ。ふたりは前世でこの様な戦いを散々経験してきたのだからな…」

 

それは一夏達もわかっていた。ふたりの戦闘経験は自分達とは比べ物にならない事。そして…ふたりの無茶は決して止められない事も。

 

千冬

「こいつらがこう言うからには勝算があるという事だろう。ならば…信じるのみだ」

 

 

…………

 

こうしてまず火影と海之が結界内に飛び込み、結界を排除した後一夏達も侵入する作戦を立てたのであった。そして今に至る。

 

火影

「まずは最初の挨拶といくか」

海之

「はしゃぎすぎるなよ」

 

 

カッ!!

 

 

ふたりは其々、Sin・アリギエルとSin・ウェルギエルを纏い、

 

 

ゴォォォォォォォォォォォッ!!

 

 

火影は燃え盛るバルログのフリクション、海之は光り輝くベオウルフの流星脚を繰り出し、勢いのまま落下していく。

 

火影・海之

「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」

 

 

ドガガガガガガガガガガ!!

 

 

何体かのアンジェロやグリフォンを巻き込みながら、急速降下していくふたり。

 

 

……ドガァァァァァァァァァァァン!!

 

 

……そしてやがて凄まじい衝撃と共にそのままラ・ディヴィナ・コメディアの頂上に到達した。見た所そこは真ん中部分が巨大なエレベーターになっており、どうやらそこが入り口になっているようだった。下の方で止まっているのか頂上には止まっていない。

 

火影

「わざわざ入口を開けてくれてるとはご丁寧だな」

海之

「……見ろ」

 

海之が何かに気付く。それは……何やら石碑の様なものが端に立っていた。そこには英語でこう書かれていた。

 

 

「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」

 

 

火影

「俺らへの御挨拶のつもりか?」

海之

「……いやそれは無かろう。石碑自体古いものだ。これは…先の計画に参加した者達に当てたもののようだな」

火影

「やっぱあいつら連れてくる前に俺らで終わらせっか?」

海之

「出来るならばそうしたいが今回はそうはいくまい」

火影

「だな。そんな事したら後の方が恐ろしいぜ。にしてもあいつらもアイツらに似てきたな」

 

そんな会話をしていると、

 

ファントム

「「「グルアァァァァァ……」」」

グリフォン

「「「オォォォォォォォ……」」」

 

塔を這い蹲ってファントム達が上がってきた。上空には先ほど巻き込まれなかったアンジェロやグリフォンもいる。

 

火影

「お~いいねぇ。とことんやる気だぜコイツら。こんな時だが少し遊ばねぇか海之?ガキの頃みてぇにな」

海之

「無駄なはしゃぎに付き合う趣味はない。早くせんと恐ろしいのではないのか?」

火影

「相変わらずノリ悪いねぇ」

 

ドンッ!

 

一体のファントムがふたりにのしかかりを仕掛けてきた。

 

ドゴォォォォ!!ドゴォォォォ!!

 

ファントム

「!!」

 

ドガァァァァァァンッ!!

 

ファントムの腹部をミニマムドラゴンとビーストアッパーが貫いた。

 

火影

「…ま、今は確かにそうだな。しょうがねぇ、さっさとスタイリッシュに決めるぜ!手間取んなよ海之!」

海之

「そのまま返そう」

 

ドンッ!ドンッ!

 

そしてふたりは別々に分かれ、そのまま塔を垂直に飛び下りた。

 

アンジェロ

「「「!!」」」

火影

「イィヤッホー!」ジャキッ!

 

ズドドドドドドドドドッ!!

 

塔の壁面をジャンプしたり回転しながらエボニー&アイボリーの乱射をアンジェロの群れに繰り出す火影。

 

火影

「ハハハー!」ガシッ!ガシッ!

 

ズババババババババッ!

 

そこからアグニ&ルドラに持ち替え、ジェットストリームで羽虫の様に迫りくるアンジェロ達を縦横無尽に切り刻む。

 

アグニ

(相変わらずやるなダンテよ)

ルドラ

(腕は鈍っていない様だなダンテよ)

火影

「最早ツッコむ気も起きねぇ」

ファントム

「「「グルァァァァ!」」」

火影

「!…ふ~ん…」

 

頂上から追ってきたらしい複数のファントム達が火影に迫る。すると火影はアグニとルドラを解除し、突然壁のでっぱり部分で立ち止まり、

 

ガシッ!!

 

ファントム

「「ガッ!」」

火影

「無駄に消耗したくねぇんでね。てめぇら使わせてもらうぜ」

 

ブゥンッ!!

 

ファントム

「「!!」」

火影

「でぇぇやぁぁ!」

 

ドガガガガガガガガッ!!

 

火影は捕まえたファントムの尾を持ち、ファントムそのものをこん棒の様に風車の如く振り回して周囲の敵を叩きつけたり粉砕し始めた。

 

アンジェロ・ファントム

「「!!!」」」

火影

「でぇぇぇぇぇぇい!」

 

そして一方の海之は、

 

ドスッ!…シュンッ!!

 

グリフォン

「!!」

海之

「遅い」

 

ザシュッ!!…ドガァァァァァンッ!!

 

簪から貰った瑠璃月で一閃の如くグリフォンの頭部を破壊する海之。幻影剣を刺した場所に瞬間移動するという短距離高速移動を駆使しながらグリフォンを集中的に潰していた。既にこれで七体目だ。更に、

 

海之

「でやっ!!」ブンッ!!

 

ズガガガガガガガ!!

 

自身が回転しながら簪から貰った瑠璃月をブーメランのように投擲し、周囲のアンジェロも蹴散らしていく。

 

海之

パシッ!「全くきりがないとはこの事だな。しかし遊びに付き合っている暇はない」

 

ドスッ!シュンッ!

 

グリフォン

「!?」

 

海之

「この様な手段は性に合わんが一も消耗が惜しい。貴様を使わせてもらう」

 

ドスッ!

 

グリフォン

「!!!???」

 

海之はグリフォンの首の一か所に刀を刺すが破壊はしなかった。

 

海之

「思考中枢を破壊した。最早貴様は敵味方の判別はできん。このまま灯台まで運んでもらうぞ」

 

すると海之はグリフォンの脚に掴まり、グライダーの様に塔へと飛翔した。そして、

 

 

………ドォォォォォンッ!!

 

 

火影も周囲の敵を蹴散らしながらやがて地上に到達した。振り回し続けた手にはファントムの尾だけが残され、

 

火影

「……」ポイポイッ

 

火影はそれをポイッと捨て、己も目標の灯台へと急いだ。

 

 

…………

 

そんなふたりの光景をロケットから見ていた一夏達は、

 

一夏

「……なんか楽しんでねぇかふたり共?特に火影」

刀奈

「ま~たとんでもないやり方見せてくれるわねぇふたり共。火影くんなんてファントムを風車みたいにブンブン振り回して攻撃するなんて。相変わらず馬鹿力ねぇ~」

「…やはり海之の剣のキレは凄まじいな」

千冬

「うむ。相手の隙や盲点、急所を瞬時に把握し、神速の如く一閃を入れている。私でもあんな瞬間的な見極めはできんだろう」

「……私もいつかあいつみたいな剣士になれるだろうか」

一夏

「大丈夫さ箒、お前ならきっと」

「あ、ありがとう」

セシリア

「むぅ……?どうしました?鈴さん達」

 

鈴・シャル・簪・ラウラはどこか心配そうに画面を見ていた。

 

一夏

「あいつらなら大丈夫だって。あれ見ただろ?」

「わかってるわよ。ただ…それでも不安なのよ」

「うん…。それに…上手く言えないんだけど…、なんかふたりが…遠くに行ってしまいそうな気がして」

「……どういう事だ?」

ラウラ

「私達、以前魔界に降りたあいつらを見ただろう?なんか…今のあいつらがあの時のあいつらに凄く近い様な気がしてな…。考えすぎかもしれないが…」

シャル

「前、ふたりのお父さんとお母さんをオーガスが利用した時あったでしょ?あの時のふたり、凄く怒っていた…。今までよりもずっと…。顔には出さなかったけど…」

クロエ

「…確かにそれは私達も感じました」

 

実際あの時の火影と海之の内に秘めた怒りは相当なものだった。周囲の一夏達が感じるほどに。

 

「今のふたりは…もしかしたら火影と海之じゃなく、ダンテとバージルとして戦っているのかもしれない。加えてあのISってふたりの悪魔の姿だったじゃん?それが悪いっていう訳じゃないし、ダンテとバージルはふたりの前世だけど…」

「ふたりには…今を生きてほしいの。あの頃に…縛られてほしくないの。ましてやもし…、あの時火影くんが言った様に命を捨てても倒すなんて事になったら…」

クロエ

「皆さん…」

 

鈴達は火影と海之がダンテとバージルに再び戻ってしまうのを怖がっていた。例え前世のふたりと今のふたりが外内共によく似ていたとしても。きっとまだダンテとバージルは自分達が知らない部分がある筈。もしそうなると今の関係性が壊れる、そこまではいかないにしてもヒビのひとつやふたつ位入るのではないか、それが不安だった。そんな鈴達にかける言葉が無い一夏達。…すると、

 

千冬

「……大丈夫さ」

「…え?」

刀奈

「余計な心配よ簪ちゃん。それに鈴ちゃんもシャルロットちゃんもラウラちゃんも。確かにあのふたりはちょっとややこしい立場だけど、今とあの頃じゃ全然、全く違うものがあるわ。貴女達っていうね」

「…私達?」

千冬

「あの時のあいつらにも守るもの、失いたくないものはあったかもしれん。あいつらの母親の様に。しかしお前達の様な存在はこの世界で得た新たなもの、前世も今も通して初めて得たものだ。共に生きていきたいというな」

シャル

「この世界で得た…」

ラウラ

「初めてのもの…」

 

その言葉が鈴達の胸を打つ。

 

刀奈

「貴女達がいる限り、あのふたりは大丈夫よ。ずっとね」

クロエ

「そうですよ皆さん。レオナさんも言ってたじゃないですか。おふたりは皆さんを悲しませたりしないと」

「仮に先に行ってしまいそうならお前達で引き戻せば良いさ♪」

セシリア

「うふふ、確かにそうですわね♪」

千冬

「下らん心配している時間があったらいつでも飛び出せる様にしておけ。あいつらの努力を無駄にする気か?」

鈴・シャル・簪・ラウラ

「「「……はい!」」」

 

鈴達の目に力が戻った。

 

一夏

(やっぱり女ってつえぇなぁ~……)

 

 

…………

 

その頃、襲い掛かる敵を掻い潜りながら火影は目標の塔に到着していた。それは確かに灯台の様なものであり、その頂上には怪しげな光を放つ血の様に赤い結晶がはめ込まれていた。見るにこれがシールドを発生させている力の源だろう。そして、

 

火影

(予感はしてたがやっぱこれからも魔力を感じやがるな…。まるで魔具みてぇだぜ…)

 

その赤い結晶からも微量の魔力を感じた火影。

 

火影

「ま、何れにしろさっさと壊しちまった方が良さそうだ」

 

火影は手に持っていたアグニとルドラを交差させて一閃を叩き込んだ。

 

…ガキンッ!!

 

…しかし、それは逆に弾かれる結果となった。

 

火影

「流石にそう簡単にはいかねぇか」

アグニ

(口惜しいがこれは只のエネルギー体ではないぞダンテ)

ルドラ

(どうするのだダンテ?)

 

すると火影はやや考えた後、

 

火影

「…あーめんどくせぇ。オメェラちょっくら我慢しろ」

 

ドスドスッ!!

 

火影は先ほどよりも力を込めてアグニとルドラを結晶に当てた。破壊までは遠いが何とか刺す事は出来た。そして火影は、

 

ゴォォォォォ!!

 

火影

「オラオラオラオラオラ……!!」

 

 

ズドドドドドドドドドドド!!

 

 

アグニとルドラの柄頭(頭部)に炎を纏った連続蹴り、パイロマニアを浴びせた。

 

火影

「砕けちりやがれぇぇぇぇ!!」

 

 

ドゴォォォォォ!!……バガァァァァァンッ!!!

 

 

そしてその威力に耐えられなかった結晶はとうとう木っ端みじんに破壊された。

 

火影

「やっぱこういう時はゴリ押しが一番だな。オメェラの石頭が役に立ったぜ」

 

すると表面が煤だらけとなった彼らは、

 

アグニ

(……やはり我ら、軽んじられていないか弟よ?)

ルドラ

(……ああ。非常に、且つ無茶苦茶軽んじられておる)

火影

「気のせいだ」

 

~~~~

火影に通信が入る。海之からだ。

 

海之

(こちらは終了だ。そっちは?)

火影

「当たり前だろ。これで上手くいったかね?」

 

ズドンッ!

 

火影はカリーナの一発を空に向けて撃つ。………しかしどこまで行ってもミサイルの様に弾かれる様な事は無かった。

 

火影

「どうやら問題なく消えた様だな。クロエに伝えといてくれ。……さて、一夏達が突っ込むまでしばし暴れねぇとな!」

 

 

…………

 

少し前、海之の方も瑠璃月の一閃やベオウルフの一撃で破壊しようとしたが貫けなかった。

 

海之

「…いた仕方がない。多少エネルギーを喰うがアレを使うか」

 

すると海之はベオウルフ纏う右手を頭上に掲げる。

 

海之

「はぁぁぁぁぁぁ……」

 

ギュオォォォォ……

 

海之はSEを右手のベオウルフに集中させた。するとそれが強い光に包まれ、そして海之は、

 

海之

「おおおおおおお!!」

 

 

ドゴォォォォォ!!……ドガァァァァァン!!!

 

 

光のベオウルフ纏う右手を結晶に全力を込めて叩きつけた。その瞬間発生した凄まじい衝撃波、ヘルオンアースによって結晶は粉々に破壊されたのであった。

 

海之

「……まだこの程度か。……まぁいい。今はまだな」~~~「こちらは終了だ。そっちは?………わかった。クロエに伝えておく。俺達は一夏達の突入を援護するぞ」

 

 

…………

 

ロケットで今か今かと待つ一夏達に連絡が入った。

 

クロエ

「…シールドの消滅を確認!」

一夏

「よっしゃあ!」

シャル

「やったねふたり共!」

千冬

「行くぞ!侵入するなら今しかない!」

「はい!」

「今行くぞ…姉さん!」

 

 

ドドドドドドドドドンッ!

 

 

シールドの解除を確認した一夏や千冬達はロケットを飛び出し、全速力で塔に向かった。

 

 

…………

 

シールドの消滅はこちらも気づいていた。

 

オーガス

「……結界が破壊されたか。流石だと言っておこうか。……だが甘い」

 

 

…………

 

 

ヴゥヴゥヴゥヴゥンッ!!

 

 

グリフォン

「「「グオォォォォォ!!」」」

 

その途中、更に転移して召喚されたアンジェロやグリフォン達が立ちふさがった。

 

ラウラ

「新しい敵だと!?」

刀奈

「どれだけいんのよ全く!」

千冬

「構うな!一気に突破するぞ!」

 

一夏達は被害と消耗を最小限にしようと一気に突破を試みるのだった。その様子は地上で敵を陽動していた火影達も気付いていた。

 

海之

「…!」

火影

「ちっ!まだ隠しがいたか!おちおち遊んでる暇もねぇな!」

 

火影と海之は直ぐに向かおうとする。……するとその時、

 

火影

「……あれは…!」

 

 

…………

 

一夏達は敵の包囲網を掻い潜ろうとするのだが、

 

一夏

「畜生!なんて数だ!」

「どけ!私達の邪魔をするな!」

刀奈

「いちいち相手にしちゃ駄目!一刻も一センチでも前に進むの!」

セシリア

「わかってますわ!火影さんと海之さんの頑張りを無駄にできませんわ!」

シャル

「それはわかってるけど数が多すぎ…!簪、危ない!」

「!!」

グリフォン

「グオォォォォォ!!」

 

その時、アンジェロ達との戦いにつられていた簪の後方から一体のグリフォンが狙っていた。……するとその時、

 

 

ドギューーンッ!……ドオォォォォォン!!

 

 

グリフォン

「ガァァァ!!」

 

突然そのグリフォンにどこからかレーザーが飛んできて直撃した。突然の攻撃に怯むグリフォン。

 

千冬

「!」

「な、何!?」

「レーザーだと!?私達でも…地上の火影達でもないぞ!」

クロエ

「一体誰が…!?」

 

ズドドドドドドドッ!!

 

しかも更に繰り出されるレーザーの攻撃。

 

一夏

「こ、この攻撃は!?」

「…!あれは!」

 

~~~~~

すると突然ラウラのレーゲンに通信が入る。

 

「隊長!」

ラウラ

「…!?」

 

そしてレーザーが飛んできた方向から何かが急速に向かってきた。

 

クラリッサ

「ご無事ですか隊長!」

ラウラ

「…クラリッサ!?」

 

それはラウラが率いるシュヴァルツェア・ハーゼの副隊長、クラリッサ・ハルフォーフだった。更に、

 

クラリッサ

「各員死力を尽くせ!我々が盾となっても、隊長達を死守するのだ!!」

隊員達

「「「おお!!」」」

 

彼女だけでなく他の隊員達もいた。どうやら先ほどの攻撃は彼女達によるものであった様だ。皆ISを纏い、銃を乱射しながら一夏やラウラ達を守る様に転換する。

 

シャル

「た、隊長って…もしかしてラウラの部隊の人達!?」

ラウラ

「お前達まで!何故ここにいる!?」

クラリッサ

「隊長のご連絡を聞き、少しでもお力になりたいと急ぎ駆けつけたのです!ここは我々が食い止めます!」

「無茶よ!アイツらは並のIS以上よ!?」

隊員1

「大丈夫です!隊長からお送り頂いたデータで奴らの戦術は把握しています!」

隊員2

「私達でも戦えます!」

隊員3

「隊長や教官は早くあの塔へ!」

千冬

「馬鹿を言うな!お前達だけで歯が立つ相手ではない!」

 

~~~~~

すると今度は千冬の暮桜にも通信が入った。

 

「そう決めつけるのは早計ではないかしら千冬?」

「その通りサッ!」

 

千冬

「…!!」

 

ズガガガガガガッ!

 

アンジェロ

「「「!!」」」

 

ドガァァァァァンッ!

 

すると今度は何機かのアンジェロが同時に破壊された。

 

クロエ

「い、今の攻撃は!?」

 

破壊したのは、

 

アリーシャ

「久しぶりサね千冬!ここは私達に任せるのサ!」

レミリア

「だから千冬、貴女は自らの役目を果たしなさい!」

 

専用機らしいISを纏う長く赤髪の眼帯をかけた女性と長い銀髪の女性。それは現イタリア代表であり、第二回モンドグロッソ優勝者であるアリーシャ・ジョセフターフ。そして前オランダ代表であり、剣の部で千冬と互角に戦ったレミリア・ローランディフィルネイだった。

 

千冬

「…アリーシャ!…レミリア!」

「! 剣聖…レミリア・ローランディフィルネイ…!」

「前モンドグロッソ優勝者のアリーシャさんまで!」

刀奈

「……そうか、ラウラちゃんの部下の子達の行動はおふたりの後押しね。おふたりの影響力も大きいから」

レミリア

「そうよ現ロシア代表殿。千冬、貴女なら絶対こんな無茶すると思ったわ」

アリーシャ

「お前とのちゃんとした決着をつけるまで死んでもらっちゃ困るのサ千冬!」

千冬

「ふたり共…」

 

ズドドドドドドッ!

ズガガガガガガガ!

 

すると今度は別の方向から敵に向かって飛んでくる攻撃があった。

 

クロエ

「ま、また新たな砲撃!?」

 

そちらの方から一夏達の所に向かってきたのは、

 

ベルベット

「ラウラ!私達が道を開けよう!!」

ラウラ

「ベルベット!?」

 

ヴィシュヌ

「刀奈!貴女達に全てを託します!!」

刀奈

「ヴィシュヌ!貴女…」

 

ロランツィーネ

「箒!君達で未来を掴め!!」

「ロラン!?」

 

それはベルベット・ヘル、ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー、そしてレミリアの妹のロランツィーネだった。

 

刀奈

「貴女達までどうしてここに!学園に残ってた筈じゃ!」

ヴィシュヌ

「ある方々に運んでいただいたんです!」

「ある方々…?」

 

ズドドドドドドドドドドッ!!

ドガガガガガガガガガガンッ!!

 

すると更に一夏達を守る様に敵への波状攻撃があった。そしてその攻撃に一夏達は見覚えがあったのだった。

 

シャル

「い、今の攻撃って…まさか!」

 

 

…ドゥンッ!!

 

 

すると彼らの横を高速で飛翔する何か、いやISがあった。それは、

 

「……シルバリオ・ゴスペル!?」

一夏

「ナターシャさんか!?」

 

シルバリオ・ゴスペルとその操縦者であるナターシャ・ファイルス。先ほどの攻撃は彼女のゴスペルが撃った銀の鐘だった。そして別の所から現アメリカ代表であるイーリス・コーリングも飛んできた。

 

ナターシャ

「間に合いました!」

イーリス

「千冬!大丈夫かい!」

千冬

「イーリスにナターシャ!お前達まで!」

イーリス

「上層部に問い詰めたのさ!そしたらお前達だけで戦いに行ったっていうじゃねぇか!ズルいぜそんなのよ!」

ナターシャ

「学園の山田先生から私達の所に直接ご連絡があったのです!助けになってあげてほしいと!」

イーリス

「とりあえず学園に行ったらば協力したいと言ったお嬢ちゃん方を連れて全速力でこっちに来た訳さ!」

千冬

「…真耶の奴…」

イーリス

「そう怖い顔すんなって!坊ややお嬢ちゃんだけ戦わせるのは大人の面目がたたないんでな!」

千冬

「しかしお前達は命令が…!」

ベルベット

「軍に許可は取ってあります!」

ロラン

「それに…例え失敗したとしても、自分達の保身と世界と子供達の未来というステージは天秤にかけられません!」

ヴィシュヌ

「大切なものを守りたいのは私達も同じなのです!」

ナターシャ

「私は何よりも飛ぶ事が好きだったこの子の翼を一度奪われた苦しみは、相手が何だろうと許しはしません!この子も改良してあります。ひけはとりません!」

イーリス

「行ってくれ千冬!君達!」

 

彼女達の想いを存分に受け取った千冬は、

 

千冬

「………わかった」

一夏

「千冬姉…」

千冬

「彼女らの意志を無駄にするな!こうしている間にも火影と海之が下で戦っているのだ!行くぞ一夏!お前達!」

箒達

「「「はい!」」

一夏

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

ドドドドドドンッ!!

 

 

一夏や千冬達はその場を仲間達に任せ、塔へとトップスピードで突っ込むのだった。

 

火影

「……はは、良いねぇ盛り上がって来たぜ!」

海之

「楽しんでいる場合か。……だが悪くない気分だ」

 

ふたりもまたこの状況に妙な高揚感を持った。

 

 

…………

 

その頃、それを魔塔の最下層で見ていたオーガスは、

 

オーガス

「フン、こざかしい人間どもめ。……まぁいい。奴らの役割はダンテとバージルのエネルギーを僅かでも削りとる事だけだからな。……お友達とやらはどうやら入り込んだ様だ。まぁそちらも既に手は打ってある。我らは我らで始めようではないか。なぁダンテ、バージル。…クククク」

 

 

…………

 

火影

「……っし。こんだけ潰せば十分だろ。あとは上の連中に任せて俺達も」

 

そして火影と海之も塔へと向かおうとした。……その時、

 

 

ヴゥーーン!

 

 

火影・海之

「「!!」」

 

突然、火影と海之の回りを黒い光が覆った。

 

火影

「ちぃっ!」

海之

「しま」

 

……シュンッシュンッ

 

そしてふたりは黒い光と共に……その場から消えた。




※次回は来月3日(土)の予定です。

久々に火影と海之の戦いでした。bgmは「ultraviolet」です。第一作の曲ですが自分は一番好きです。

次回より暫し一夏組編です。


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Mission195 待ち受ける復讐者達

一夏達をラ・ディヴィナ・コメディアへと侵入させるため、火影と海之はシールドを破壊するべく先陣を切る。多くの無人機の妨害を受けるがパワーアップしたふたりの前では無力だった。何とかシールドを停止させ、一夏達は塔へと急ぐがそこでもまた妨害を受ける。

……しかしそんな彼らを救ったのはこの世界で出会った者達や志を同じくする者達だった。彼女らの意志を汲んだ一夏や千冬達は無事に侵入を果たし、火影と海之も彼らの後を追おうとするが突然の転移にふたりは巻き込まれ、消えてしまうのであった…。


一夏

「…………う」

千冬

「一夏!しっかりしろ!」

 

自分を呼ぶ千冬の声。それを聞いて一夏は意識がはっきりしてきたのを自覚した。どうやら気絶していた様である。

 

一夏

「……あ……千冬姉?」

千冬

「気が付いたか?」

一夏

「俺…どうなったんだ?…!皆は!?」

 

千冬は首を振った。

 

千冬

「私にもわからん…。気が付いた時は私とお前だけだった…。あの塔に潜入して直ぐ、私達皆、転移に巻き込まれてから…」

 

 

…………

 

少し前の事…。

 

イーリス

「行け千冬!君達!」

千冬

「わかった!行くぞお前達!!」

一夏

「うおおおおおおおおお!!」

 

ドンッ!!

 

危機に駆け付けた同士に周囲の敵を任せ、魔塔へと急ぐ一夏や千冬、箒達。そして、

 

クロエ

「頂上部が開いています!」

ラウラ

「来い、という意味か。舐めた真似をしてくれる!」

「突っ込むぞ!」

 

一夏達はラ・ディヴィナ・コメディア頂上から内部へと侵入した。そして巨大エレベーターの暗い穴をほんの100メートル程進んだところで、彼らに変化が起きた。

 

 

ヴゥゥゥゥゥン!

 

 

一夏達

「「「!!」」」

 

周囲の暗闇よりも遥かに黒い闇、それが彼らを覆った。

 

「な、何!?」

刀奈

「これは…まさか転移!?」

シャル

「な、なんだって!」

「お姉ちゃん!皆!」

千冬

「くっ!しまった!」

一夏

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

 

 

…………

 

こうして一夏達は全員転移に巻き込まれた。千冬の目が覚めた時には周囲に一夏しかおらず、箒達の姿は消えていたのであった。

 

一夏

「じゃあ俺達は…」

千冬

「どうやら分断された様だな。迂闊だった…。ジャミングされているのか通信もできん。無事でいる事を願うしかない…」

一夏

「そんな…くそ!………それにしても、ここは一体?」

 

一夏が周囲を見渡すと……そこは広い、ただただ広い空間。薄暗いが全く見えないことは無く遠くまで見渡せる事ができた。よく見るとその部屋は円形の巨大な空間の様であった。

 

一夏

「…すっげぇ広いな。天井も凄く高いし」

千冬

「円形の部屋で高い天井……。まるで闘技場だな」

一夏

「てかここってあの塔の中なのかな?」

 

とその時、

 

「そうよ」

一夏・千冬

「「!?」」

 

 

ヴゥゥゥゥゥン!

 

 

突然の声に驚いたふたりの前に現れたのは、

 

スコール

「ようこそ…」

マドカ

「……」

 

スコールとマドカだった。マドカはもうバイザーはしていなかった。

 

 

一夏

「マドカ…」

マドカ

「……」

スコール

「久しぶりね…」

千冬

「スコール・ミューゼル…。それともアレクシアか?」

スコール

「そのままでいいわよ。その名前はもう私にとって無意味だから」

一夏

「? 無意味ってどういう事だ?アンタの名前なんだろ?」

 

疑問符が浮かぶ一夏。

 

千冬

「…アインへリアル計画に参加したからか?」

スコール

「……そう。あの計画に参加した私達はもう死亡者リストに載せられているの。つまり生きていない人間って訳。私だけじゃない、この計画に参加した人間の大半はね。オータムも同じよ」

一夏

「そんな…」

 

改めてこの計画の残酷性を知る一夏達。

 

千冬

「……篠ノ之達はどうした?」

一夏

「そ、そうだ!お前ら皆をどこへやった!!」

 

千冬は冷静に、一夏は怒りを含んだ声で尋ねた。

 

スコール

「彼女達はこのフロアの上の方にいるわ。今頃オータムやあの子達が相手しているのではないかしら?貴方達の相手は私達よ」

一夏

「!」

千冬

「…上とはどういう事だ?やはりここはあの塔の中なのか?」

 

千冬の問いにスコールは答えた。

 

スコール

「そう、ここはラ・ディヴィナ・コメディアの内部。そして今私達がいるこの部屋は……「ジュデッカ」」

一夏

「……ジュデッカ?」

スコール

「神曲の中で最も重い罪、裏切を行った者が集う地獄の四番目。…そして、私達が殺し合った場所でもある…」

 

 

…………

 

「一体どこなのよここは…。急に転移に巻き込まれて、気がついたら私達以外皆いないし…」

ラウラ

「……通信も駄目だ。妨害電波が出ているのかもしれんな」

シャル

「皆無事だといいけど…。でも本当にどこなんだろここ…」

セシリア

「わかりませんわ…。恐らくあの塔の内部かとは思いますが…」

 

その頃、一夏や千冬と別れてしまった鈴、シャル、ラウラ、セシリアは塔内の別の空間にいた。ここも一夏達がいる場所とほぼ同じ造りの部屋になっている様で、彼女らも目が覚めた時四人だけでここに放り出されており、他の皆の姿はなかった。自分達の状況を把握しようとする鈴達。すると、

 

 

ヴゥゥゥゥゥン!

 

 

鈴・シャル・ラウラ・セシリア

「「「!!」」」

 

突然自分達の前方に転移の光が現れた。中から現れたのはオータムだった。

 

オータム

「……けっ!私の相手はオマケかよ…」

セシリア

「貴女…一夏さんを狙ったあの時の蜘蛛女!」

オータム

「蜘蛛じゃねぇオータム様だ!…オーガスのジジイ、あの兄弟でも織斑千冬でもないこんなハズレ枠を相手にさせるなんて、とことんムカつく野郎だぜ」

ラウラ

「何だと!?」

「私達がハズレですって!」

シャル

「そんな事よりここはどこ!?皆をどこへやったの!」

 

それに対しオータムはめんどくさそうに答えた。

 

オータム

「うっせーな聞きたい事は一回ずつにしな。ここはあの長ったらしい妙な塔の内部だ。んでもってこの部屋は「トロメア」なんて呼ばれてっがな」

セシリア

「「トロメア」…。神曲の中で書かれている裏切者の地獄のひとつですわね…」

オータム

「んでもって多くの人間の血を吸った場所でもある」

 

その言葉に鈴達に衝撃が走る。

 

「! 多くの血を吸った、って……それ、まさか」

セシリア

「まさかここでアインヘリアル計画が…!?」

オータム

「! へ~テメェら知ってやがったのか。……ああそうさ。16年前、ここはあのキチガイな計画による戦いが繰り広げられた場所のひとつだ…」

 

 

…………

 

また別の場所では刀奈、簪のふたりがやはり同じ様な場所に飛ばされていた。そしてここで待ち受けていたのは、

 

ダリル

「……待っていたぜ、生徒会長さん。そしてアンタは……日本代表候補の妹も一緒か」

フォルテ

「あのオーガスって人、ちゃんと私達のリクエストを聞いてくれたみたいっスね」

 

ダリル・ケイシーとフォルテ・サファイアのふたりだった。

 

刀奈

「ダリル・ケイシー…。レイン・ミューゼル」

「貴女は…元ギリシャ代表候補フォルテ・サファイアさん。前にベルベットさんが言っていた人…」

刀奈

「……他の皆はどこ?てかリクエストって何?」

ダリル

「他の連中なら今頃叔母さんやオータムさんが相手してるよ。リクエストってのは言葉の通りさ。オーガスの旦那が私達の戦いたい相手にぶつけてくれたのさ。アンタらの相手はアタシらって訳だ。この…なんてたっけ?」

フォルテ

「ダリル、「アンティノラ」っス」

 

彼女達がいる部屋の名は「アンティノラ」と言うらしかった。どうやら塔内には似たような部屋がいくつも存在しているらしかった。「ジュデッカ」「トロメア」もそのひとつだろう。

 

刀奈

「…本気で言ってるのかしら?言っちゃ悪いけど貴女達の戦術は前に把握してるのよ?」

フォルテ

「甘く見ないでほしいっスね。こっちだって何にもしていなかったわけじゃないっスよ」

ダリル

「そういう事だ。…じゃあ早速やろうか!」

 

ダリルとフォルテは戦闘態勢に入る。刀奈も反応する。

 

「ま、まって!」

刀奈

「簪ちゃん」

「ねぇケイシーさんにサファイアさん!なんでこんな事するの!?あの人が、オーガスが間違っている事、ふたり共わからないの!?学園や故郷や友達を裏切ってまで信じる人なの!?」

 

簪はふたりに問い詰める。すると、

 

ダリル

「……アタシにとってはオーガスの旦那なんて正直どうでもいいさ。アタシがここにいるのは…叔母さん達のためだ」

刀奈

「スコール・ミューゼル…。貴女の叔母ね…」

 

 

…………

 

一夏

「ここでアインヘリアル計画の殺し合いが…!?」

スコール

「ええ…。この場所はアインへリアル計画、そして織斑計画に参加した人達の血で真っ赤に染まっているわ。…あの時の出来事は、光景は今でも忘れない、いいえ忘れてはならない。生き残った私達は、ね。貴方達に想像できるかしら?生き残るために老若男女関係なく斬り捨てなければならない。目を潰したい位の死体の山、耳を削ぎたい位の断末魔を毎日毎日見て聞く苦しみを」

一夏

「……」

 

一夏は言葉を失った。

 

千冬

「何故その様な事に参加したのだ?」

スコール

「……命令だったからよ。当時私は米軍兵士だった。わかるでしょ?軍人は命令に従わなければならないから。……ま、計画の内容は詳しく聞かされなかったんだけど。なんでも条件をのむというからOKしたのよ。他に家族もいなかったから。そして来た場所は地獄だった。…それだけよ」

一夏

「そんな…」

マドカ

「……」

 

 

…………

 

そんな会話はこちらでも行われていた。

 

オータム

「私の両親は生まれて直ぐの私を僅かな金目当てで裏の組織に売っ払いやがった。そしては3歳の頃には武器の使い方を、5歳の頃には銃を握って戦争に参加してた」

ラウラ

「少年兵…」

セシリア

「話だけなら幾度か聞いた事ありますが…」

ラウラ

「……」

オータム

「そして忘れもしねぇあの日の事だ…。傭兵だった私らはある国の紛争での作戦行動中だった。…しかしある時奇襲を受け、全滅した……筈だった。だが違った。次に目が覚めた時は私ら皆纏めてここにいた」

「! そ、それってまさか…」

オータム

「作戦自体が全部嘘だったのさ。本当の目的はあの馬鹿な計画での戦える奴らを集める事だった。私らの当時の雇い主が金と引き換えに私らを売ったんだよ。来たくて来た訳じゃねぇ。拉致られたのさ」

セシリア

「そんな…」

ラウラ

「なんという奴らだ…」

「あの資料に書かれてた、傭兵や兵士を誘拐紛いみたいな事をしてたっていうのは本当だったのね…」

オータム

「ここに運ばれてからは毎日毎日が戦いの戦いだった。中には望んで無かった様なてめぇらよりも幼いガキもいた。戦う駒がいなくなったらどっかから補充してきたんだろ。そして身体中も足の先から頭の中までとにかく思いつく実験に次ぐ実験を繰り返された。多分実験で死んだ奴も戦いで死んだ数とおんなじ位いんじゃねぇか?」

シャル

「うっ…」

 

想像するだけでも恐ろしいビジョンが頭に浮かぶ。

 

オータム

「テメェらには一生わかりえねぇ事だ。よ~く覚えときな。この世界はテメェらが非常識と思ってる事こそ真の常識で真実さ。この世にいる人間全員造られたかりそめの平和な中で生きてんのさ。テメェらも思う事があんじゃねぇのか?信じていたもんの中にも偽りのもんだったものがよ?」

鈴・シャル・ラウラ・セシリア

「「「……」」」

 

鈴達は言い返せなかった。先のアインへリアルや織斑計画のファイルを見たこともそうだがそれが原因で世界や国、自分達の身内を疑う事も全く無かった訳ではなかったのだから。

 

 

…………

 

千冬

「…何故オーガスに従っている?」

一夏

「そ、そうだ!何でアイツに従ってるんだ!アンタ達の人生を狂わせた元凶じゃねぇか!」

スコール

「……」

一夏

「いやそれだけじゃねぇ!アンタもマドカもアイツがやろうとしてる事知ってんのか!?オーガスの野郎を止めなきゃ、世界がどうなるかわかんねぇんだぞ!」

 

一夏はそう打ち明けるとスコールから思いもよらない答えが出た。

 

スコール

「……私やオータムは彼に協力しているつもりはないわ。利用しているだけ」

一夏

「…え?」

スコール

「ここまで来たんだしもう隠しておくのも無意味だから教えてあげるわ。私達の目的もまた……この世界への復讐。私やオータムや多くの人達を騙し欺き、この様な僻地へと追いやり、あの様な事を許した腐りきったこの世界へのね」

一夏

「…!!」

スコール

「そしてそのためには何よりも強い力がいる。オーガスは私達に力をくれたの。私達のISもそう。だから利用させてもらったのよ」

千冬

「…それを奴は?」

スコール

「無論とっくにわかっているでしょうね。でも彼は私達のやる事にあまり関心ないみたい。自分の目的とあのふたりの事以外はね。現に今も戦ってるみたいだし」

 

その言葉に一夏達はハッとする。

 

一夏

「え!ど、どういう事だそれ!?」

スコール

「ふたりは今この真下にいるわ。オーガスが自分がやると言って自分の所に転移させたみたいよ。他の人は私達の好きにして構わないって。だから…」…カッ!

 

そう言ってスコールは自らのISを展開する。

 

スコール

「私達の目的を達成するため、一番の邪魔になりそうな貴方達は…今ここで始末させてもらうわ。悪く思わないでね。貴方達に負けられない事情がある様に、私達にも譲れないものがあるの。ここで死んだ彼らの無念を晴らすというね」

一夏

「…!」

千冬

「……それがお前の答えか」

 

 

…………

 

「トロメア」

 

 

セシリア

「でも、でもそれなら貴女は何故オーガスの様な男に協力してるんですの!?」

「そうよ!あいつを放っておいたらもっと大変な事に!」

オータム

「オーガスが何企んでるかとか、世界がどうなるとか、そんな事は私らにはどうでもいい。こんな腐りきった世界、どうせ滅んじまっても関係ねぇ。くだらねぇ事言ってねぇでさっさとかかってきな!こちとらさっさと下にいるあの兄弟の命をもらいに行ってやらねぇといけねぇんだからよ!」

ラウラ

「……え?下にいる兄弟って…!」

シャル

「ま、まさか火影と海之!?」

 

オータムはめんどくさそうに答える。

 

オータム

「あのムカつく兄弟はここの一番下にいんだよ。オーガスが自分の手で殺すっつってな。あの野郎一番の獲物をとりやがって…」

ラウラ

「!」

セシリア

「火影さん達がオーガスの所に…!」

オータム

「わかったか?だからさっさと終わらせてぇんだよこっちは。とっとと始めようじゃねぇかガキ共!」

 

そう言ってオータムは戦闘態勢に入る。そして鈴達は、

 

「……そうね。難しい話は後回しだわ。さっさと始めましょ。早くふたりのところに行かないといけないからね!」

シャル

「…うん!僕達はふたりと一緒にいると、一緒に戦うと決めたんだ!」

ラウラ

「ああ!お前達の過去ににどんな事情があろうと、私達はここで止まる訳にはいかんのだ!」

セシリア

「なんとしても押し通らせていただきますわ!」

 

今の話を聞いてやる気を取り戻した様だった。

 

オータム

「泣いて謝るなら今だぜ!つっても許してやらねぇけどなぁ!」

 

 

…………

 

「アンティノラ」

 

 

ダリル

「叔母さんの話を聞いた時…アタシは言葉を失ったよ。そしてどんな事をしても叔母さんの力になりたいと思った。だからファントム・タスクに入った」

刀奈

「……」

「気持ちは、気持ちはわかるけど……でもどうしてそこまで…」

ダリル

「……アンタには関係無いね。それに敵とそんなに悠長に話してもいいのかい?」

刀奈

「全く関係無くはないわね。この計画には日本の裏の力も関わっていた。私も同じ立場として無関係じゃないわ」

「それに敵って…。ふたりは同じ学校の」

 

ジャキッ!

 

ダリル

「知らないね!…アタシは叔母さんの力になる。そのために全てを捨ててここにいるんだ!今更戻るつもりなんて更々無い!」

刀奈

「…フォルテ・サファイア。貴女も同じ気持ち?」

フォルテ

「……無論っス。ダリルがスコールさんの力になるのなら、私はダリルの力になるっス。そのためなら他の事はどうでもいいっス!」

「そんな…」

 

ダリルとフォルテは戦う姿勢を崩さなかった。そんな彼女らを見て刀奈は簪に言った。

 

刀奈

「…やるわよ簪ちゃん」

「お姉ちゃん…」

刀奈

「私達はここで止まる訳にはいかない。もし簪ちゃんが伝えたいことがあるのならそれは彼女達に力を示してからにしなさい。その為に私達はここに来たんじゃないの。それにこうしている間にも海之くん達は戦ってるわ。この世界のために」

「…!」

 

そして簪も心を決めた。

 

「……わかったよお姉ちゃん。私達は…ここで止まる訳にはいかないんだね」

刀奈

「そうよ簪ちゃん」

ダリル

「覚悟はできたかい?なら…おっぱじめようか!」

フォルテ

「前と同じだと思ったら大間違いっスよ!」

刀奈

「そっちこそ!世界最強の姉妹の力、舐めんじゃないわよ!」

「私達は……貴女達を止めてみせる!」

 

 

…………

 

「ジュデッカ」

 

 

マドカ

「……スコール。私は勝手にやらせてもらう」

スコール

「……わかったわ。貴女の好きにしなさい」

 

スコールはそれを受諾した。そしてマドカは黙って黒騎士を展開した。

 

マドカ

「決着をつけるぞ……、織斑一夏。そして織斑千冬…!」

 

そう言いながらマドカは黒焔を向ける。その言葉には今まで以上の彼女の覚悟が感じ取れた。本当にここで最後にするつもりだと。

 

千冬

「マドカ…」

 

すると千冬に一夏が、

 

一夏

「…千冬姉。マドカは俺にやらせてくれ」

千冬

「一夏…。しかし…」

 

千冬は出来ればふたりには戦ってほしくないと思った。

 

一夏

「あいつに伝えたいことがあるんだ。この前みたいにはならねぇ。……俺を信じてくれ」

 

不安がる千冬に一夏はそう言い切った。それを聞いた千冬は、

 

千冬

「……わかった。死ぬなよ」

一夏

「当たり前だぜ。千冬姉も油断すんなよ」

 

一夏にマドカを任せ、自らはスコールの前に立った。

 

スコール

「伝説のブリュンヒルデと一対一で戦えるなんて光栄ね。でも悪いけど、あの地獄を生き残った私を簡単に行くなんて思わない方がいいわよ」

千冬

「安心しろ。そんな風に思っていないさ。ただ負けてやる気もせんだけだ。それに…私も地獄ならとうに見ているさ…」

 

マドカ

「わざわざ死にに来たか…織斑一夏…」

一夏

「…マドカ…」

 

それぞれの場所で、それぞれの想いを込めた剣と剣がぶつかろうとしていた…。

 

 

…………

 

「カイーナ」

 

 

その時、箒とクロエもまた、何かと対峙していた。

 

「……なんだコイツは…?」

クロエ

「見たことないアンジェロタイプ?でも一機で…?」

 

 

アンジェロ?

「………」




※次回は再来週17(土)になる予定です。同時進行を書くのは難しい…。

最近僕の仕事が忙しく、中々編集が進まないのが申し訳ないです。戦いが続くのでじっくり書きたいというのもあります。次回から各階ずつ書いていきます。


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Mission196 カイーナ① 阿修羅の下に隠されたもの

多くの仲間達の意志を受け取り、ラ・ディヴィナ・コメディアに侵入する事に成功した一夏達。……しかし潜入して間もなく、一夏達はオーガスの手によりばらばらに転移させられてしまった。そんな彼らの前に現れるスコールやオータム達。彼女らの話によると今自分達がいるこの場所こそ先の計画で殺し合いが繰り広げられた場所であり、そこには死んでいった多くの血と無念が眠っており、スコール達は死んでいった者達のためにこのような事をした世界への復讐を果たすと告げる。そんな彼女達に対し、一夏や千冬達は必ず止めると誓うのだった。

一方その頃、箒とクロエは……。


皆がオーガスが起こした転移に巻き込まれた時の事…。

 

刀奈

「これはまさか…転移!」

千冬

「く!しまった!」

「一夏!皆!」

一夏

「うわあぁぁぁ……!」

 

オーガスは「アンティノラ」「トロメア」「ジュデッカ」と、各フロアに一夏達を送り込んだ。

 

オーガス

「………そうだ、思いだした。あれには確か家族ともいえる奴らがいたな。………世話になったせめてもの手向けだ。最後位対面させてやろうではないか……ククククク」

 

 

…………

 

「カイーナ」

 

 

「………………う」

 

箒は目を覚ました。彼女もまた、転移に巻き込まれて暫し気絶していた様だ。

 

「……ここは…?私は確か……!クロエ!」

クロエ

「……」

 

すぐ傍にはクロエが同じく気絶していた。駆け寄る箒。

 

「クロエ!しっかりしろ!」

クロエ

「………箒、さん?」

「気が付いたか?」

クロエ

「…はい、申し訳ありません…。…! 皆さんは!?」

 

クロエの質問に箒は首を横に振った。

 

「…わからない。近くには私達しかいなかった。どうやらさっきの転移ではぐれてしまった様だな」

クロエ

「そうですか…。皆さん無事でいるといいのですが…」

「そうだな…。火影と海之は無事だろうが…」

クロエ

「……それにしてもここは一体なんでしょう?」

 

箒とクロエは周りを見渡すと……そこには円形の暗く巨大な空間が広がっていた。

 

「………広いな。多分あの塔の内部とは思うが…」

 

近くを探ろうにも手がかりになる様なものもなく、誰もいない。

 

クロエ

「しかし先程の転移。間違いなくオーガスの仕業でしょうが…何故この様な事を…」

「ここはアインヘリアル計画があった場所であると同時に奴の本拠地だからな。いわば私達は虎穴に入り込んだという訳だ。なにがあっても」

 

 

ヴゥゥゥゥゥンッ!!

 

 

とその時、突然箒とクロエの目の前に転移が現れた。

 

「転移の光!? まさか敵か!」

クロエ

「この状況はまずいですね…!」

 

箒とクロエは紅椿とベアトリスを展開し、構える。そして転移の黒い光からゆっくりと姿を現すものがあった。

 

 

…ガシャン、…ガシャン…

 

 

箒・クロエ

「「!!」」

 

箒とクロエは目を見張った。それは両手に長剣を持っている人型の、アンジェロによく似ている鎧を纏った二足歩行の機体。特徴的なのは正面の顔の左右にも同じ様な顔がある異質な姿。そんなものが言葉も咆哮も発さず、目を光らせて転移の光の中から現れた。

 

「………」

「なんだ、こいつは…?」

クロエ

「新たなアンジェロタイプ?でもたった一機で」

「奇妙な姿だな、顔が3つもあるとは…」

 

その時、

 

 

…バンッ!!!

 

 

突然大きな音が聞こえたと思いきや周囲の灯りが消え、何も見えなくなってしまった。それはまさに漆黒の暗闇で直ぐ近くにいた箒とクロエも互いの姿が見えない程である。

 

「なっ!明かりが!」

クロエ

「大丈夫ですか箒さん!」

 

カッ!!ズドォォンッ!ズドォォンッ!

 

「うわぁぁ!」

クロエ

「きゃああ!」

 

すると突然、暗闇から火炎弾が襲いかかってきた。

 

「ぐっ!しまった油断した!」

クロエ

「何時の間に!レーダーには何も」

 

ズドン!ズドン!ズドン!…

 

更に立て続けに火炎弾が襲い掛かってくる。

 

クロエ

「箒さん二手に!」

「そうだな!」

 

互いに声をかけて避けるふたり。

 

 

バリバリバリバリ!!

 

 

すると今度は彼女らの真上から落雷が襲い掛かってきた。

 

「今度は真上から雷撃だと!向こうはこっちが見えているのか!?」

 

箒とクロエはなんとか避けるが落雷を起こしているらしい雷弾はゆっくり追跡してくる。

 

クロエ

「追跡機能まで!でもこれ位なら避け切れない程では!」ビキキキキキキ!!「!!」

 

クロエは動揺した。何か異音がしたと思いきや何かにぶつかった感覚があった。触ると冷気を感じた。

 

クロエ

「こ、こんなところに氷の壁!?」バリバリバリ!!「きゃあああ!」

 

動揺している間に追跡してきた雷弾の雷撃がクロエに襲い掛かる。

 

クロエ

「くっ…気を取られてしまった!」

 

ヴゥンッ!!

 

クロエ

「!!」

 

すると暗闇の中で偶然なのか今の悲鳴で位置を掴んだのか、目前に先ほどの物体が迫ってきていた。クロエ目掛け両腕のブレードを振り上げる。奇襲にとっさに対応できないクロエ。すると、

 

「……して…」

クロエ

「…え?」

「クロエーー!!」

 

キィィィィィンッ!

 

同じく悲鳴と光で位置を察したらしい箒がクロエを守るために立ちふさがった。相手のブレードを雨月と空烈の二刀流で防ぐ箒。

 

クロエ

「箒さん!」

「大丈夫か!おおおおおおお!!」

 

ガキィィィィィィン!!

 

箒は全力で払いのける。邪魔された形となったそれは再び闇に溶け込む。ふたりは背中合わせになり、追撃を警戒する。

 

クロエ

「申し訳ありません箒さん!」

「気にするな。油断するなよ!」

クロエ

「はい!…この部屋、特殊な妨害電波でもあるのかレーダーやセンサーが効きませんね」

「そっちもか?こちらもだ。となると直接視認するしかないのか…。と言ってもこの暗闇では…。くっ、幾ら無人機でもやっかいだな…!」

 

するとクロエが箒に先ほどの事を話す。

 

クロエ

「………箒さん、ひょっとしてなのですが…先程の機体、もしかすると無人機ではないかもしれません…」

「…無人機じゃない?」

クロエ

「先程あのISが私に斬りかかった時、機械音とは違う声を発したのです。あまりに小さかったので意味はわからないのですが…」

「…では中に誰かいるという事か?」

 

 

ビキキキキキキキキキ!!

 

 

その時再び異音がした。火炎でも雷でもない。

 

「! どこだ!」

クロエ

「…上です!!」

「何!?」

 

ズドドドドドドドド!!

 

クロエの言う通り上空からつららの様なものが一斉に襲い掛かってくる。

 

「これは氷柱か!」

クロエ

「火炎や雷だけでなく氷の攻撃まで!」

 

ふたりはそれを天月・空烈とオシリスで防ぐのだが、

 

 

ゴォォォォォォォォ!!

 

 

箒・クロエ

「「!!」」ビュン!

 

攻撃を弾くのに集中しているふたりに凄まじい火炎放射が襲い掛かった。たまらずふたりはまた別れる。

 

「そこか!」バシュゥゥ!!

クロエ

「当たって!」ズドドドド!!

 

対して箒とクロエは刀の衝撃波と機関砲カリギュラを攻撃してきた方向に放つ。しかし手ごたえはなく、どうやら避けられた様だった。

 

「駄目か!くそ!このままでは思う壺だ!奴がどこにいるかさえわかればこっちから撃っていけるのに」

 

レーダーやセンサーが使えない以上敵を把握するにはこの暗闇をどうにかしなければならない。するとクロエが、

 

クロエ

「…箒さん、私に考えがあります」

「本当か?」

クロエ

「はい。ですが少し時間が必要です。その間申し訳ありませんが箒さん、あの敵を引き付けて頂く事はできますか?」

 

この提案に箒は即答した。

 

「構わん。私はお前を信じよう」

クロエ

「倒さなくても構いません。引き付けて頂くだけですよ?」

「わかっているさ。相手の位置さえわかれば一気に決めてやる!」

 

ズドォォォン!

 

再び火炎弾の攻撃が別の場所から迫る。

 

クロエ

「く!ではお願いします!」

 

クロエは箒から離れた。箒はわざと声を出して敵を引き付ける。

 

「さぁかかってこい!お前の相手はここにいるぞ!」

 

ガキィィィィン!

 

すると闇に紛れて背後から敵が剣で斬りかかる。しかし箒はそれを冷静に受け止める。

 

「……」

「この暗闇で背後から奇襲か!考えているな!」

 

キィィンッ!キンッ!ガンッ!

 

「貴様もやる様だがしかし前に戦ったあの黒い奴らほどではない!」

 

そこから暫しの剣劇が始まる。敵の剣も中々のものだがしかし今の箒もこれまでのアンジェロやファントムやグリフォン、そしてドッペルゲンガーとの戦いを経て確実に成長していた。そして何よりも束を救い出すという気持ちが彼女を後押ししていた。

 

「……て」

(! 今確かに声が…!やはり無人機でない?いやそれは後だ!)

「射撃はそちらでも剣ではまだ私の方が上だ!衝撃鋼化(ギルガメス)!!」カッ!

 

ギルガメスの起動と共に紅椿の装甲が銀色に変化し、箒のパワーが上がる。

 

ガキンッ!!

 

「貰ったぞ!」ヴゥン!!

 

敵の二本のブレードを天月一本で受け、空烈で横薙ぎに斬りかかろうとする箒。しかし、

 

ガキキキン!!

 

「!!」

 

箒は再び目を見開いた。さっきは暗闇の中で見えなかったが敵の肩の部分から細い腕が現れ、それが持つブレードによって箒の空烈が受け止められた。

 

「か、肩から腕が!?」ズガンッ!「ぐあ!」

 

別の角度から箒に斬撃が当たった。その隙に距離を取り、暗闇に溶け込む敵。

 

「く!まさか隠していた腕があったとは!」

 

バリバリバリバリ!!

 

すると今度はリング状に広がった雷撃が襲い掛かってきた。

 

「先程とは違うパターンか!」

 

バシュゥゥ!バシュゥゥ!バシュゥゥ!

 

箒は飛んでくるそれを両手の刀で弾く。

 

ガキキキキキン!!

 

するとその隙に今度は先の肩のブレードも含めた4本のブレードで奇襲をかけてきた。

 

「トムガール!」ヴゥン!!

 

箒はトムガールも起動させて更にパワーを上げ、片手で二本の腕に対応する形で応戦する。しかし、

 

…ヴゥヴゥン!!ガキキキキキ!!

 

「! ま、また新たな隠し腕だと!?」

 

肩のブレードの後部から更に隠された細い腕が現れ、そこからもブレードが伸びてきた。計6本のブレードが箒の二本の腕に怒涛に襲い掛かる。箒は必死でそれに対応するが堪らず距離を取る。

 

キィィン!!

 

「ハァ、ハァ…、ちっ、まさか6本も腕を持つとは…!しかもさっきより強くなっている気がする。こちらの戦術を把握しているのか?」

「……」

「3つの顔に6本の腕…まさに阿修羅そのものだな。姉さんを助け出す前に無駄なSEを消耗したくないというのに!」

 

力を温存して勝てる様な相手ではないと悟る箒。すると、

 

「……ゃん」

「…!」

 

突然暗闇の中から声がした様な気がした箒はそちらに目を向ける。

 

「……て、……しを」

「…?」

 

何と言っているのか小声で聞き取れない。……とその時、

 

 

…パァァァァァァァァァァァァァァ!!

 

 

突然、周囲に強い白き光が現れた。まるで闇夜を飛ぶ蛍の様なポツポツという感じで現れたそれはその空間全体に展開している。そしてその光は暗闇に潜んだ敵の姿も晒していた。

 

「! こ、これは!」

「……」

「見えたぞ!」

 

すぐ様斬りかかる箒。しかし一瞬早く敵は距離を取る。

 

「ちっ!惜しい!」

クロエ

「逃がしません!」

 

するとその時、遠くからクロエがオシリスで敵に向かい襲い掛かった。相手はそれを自分のブレードで受け止めるが、

 

クロエ

「蝸牛!」カッ!!

 

クロエはその瞬間、動きを鈍重化させる自らのベアトリスの能力「蝸牛」を起動させようとした……しかし、

 

ドンッ!!

 

蝸牛の影響が出る寸前、敵はすぐに急速離脱した。その動きに一瞬違和感を持つクロエ。

 

クロエ

「!!」

(蝸牛の発動よりも早く動いた!?)

「クロエ!」

クロエ

「あ、お、お待たせしました箒さん!そしてありがとうございました!」

「大丈夫だ。それよりこの光はお前が?」

クロエ

「はい。これは私のセラフィックソアーの羽です。発光力を最大にしてこの部屋全体に散りばめてあります。迎撃には使えませんがこれ程ばら撒けば暫くの間あの敵を把握する事も可能な筈です」

「そういう事か。確かにこれなら奴の位置もわかる。助かったぞクロエ!…しかしあの機体、お前の言う通り私も声を聞いた。小さくて聞き取れなかったが…」

クロエ

「やはり誰かいるという事?しかし誰が」

 

ここで箒からあの疑問が浮かぶ。

 

「そう言えばクロエ。お前先ほど蝸牛を起動しようとしたらしいが効かなかったのか?」

クロエ

「…いえ、発動前に範囲外に出てしまったのです。まるでタイミングがわかっていたかの様に」

「わかっていた…?」

(私の剣技といい蝸牛といい…一体)

「だがそれはあいつを倒せばすぐにわかる。今は」

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 

すると先にいた謎の機体の前方に赤・青・黄の色をした魔法陣が出現した。同時に凄まじいエネルギーがチャージされていき、

 

「な、何だ!?」

 

 

…ズギューーーーーン!!!

 

 

3つの魔法陣の中心から高出力のビームが放たれた。

 

クロエ

「箒さん避けて!」

「くっ!!」

 

 

ドガァァァァァァァァァン!!

 

 

ふたりはそれを間一髪避ける。着弾したそれは地面を大きく抉り、小さいクレーターができる。

 

クロエ

「な、なんて威力!」

「鈴のガーベラ、いやシャルのリヴェンジをも超えるかもしれんぞ!」

 

バババババババババババ!!

 

そして敵はそのまま光を生み出しているセラフィックソアーの羽をそのビームで手当たり次第破壊し始めた。

 

「まずい!あいつ羽を!全て破壊される前に倒さないと!」

クロエ

「ですがあれ程のビームに対抗できる武装は私達のISにはありません!接近戦で行くしか!」

「なら私が行く!クロエは援護してくれ!」

クロエ

「はい!」

 

そう言うと箒とクロエは敵に向かって突撃した。

 

ズドンズドンズドン!!

ビキキキキキキキキ!!

バリバリバリバリ!!

 

一方の敵もそれを見て火炎弾、氷弾、雷弾を同時に撃ってくる。

 

「あいつ一度にこれ程の攻撃を!だが先ほどと違い見えさえすれば!」

クロエ

「油断しないで!できるだけ避けてください!」

「わかっている!つらら等見えてしまえばどうという事はない!」

 

ふたりは手に持つ武器やブリンク・イグニッションを駆使しながら飛んでくるそれらを必死に避けながら敵に迫る。……そして、

 

「展開装甲最大!ギルガメス!トムガール!」ドゥン!!

 

攻撃を掻い潜った箒は自身の強化術全てを使って一気に迫る。

 

「……」ヴゥヴゥヴゥン!!

 

正面から迫りくる箒に敵は6本の腕で攻撃を仕掛ける。

 

クロエ

「させません!!」

 

ガキキキキキキン!!

 

その時クロエのアキュラが敵の隠し腕の動きを封じた。腕一本に付き一機、三機のアキュラが半分の腕を封じる事に成功する。

 

「!」

クロエ

「箒さん!今です!」

「おお!!」

 

箒は渾身の斬撃を繰り出す。敵は残った剣で食い止めるが、

 

ガキキキキキキキキキ!!

 

箒の力が逆にそれを押す。

 

「…!」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

…バキィィィィィィン!!キィン!

 

 

遂に耐えられなくなった敵の剣を折り、ごく僅かだがそのまま押し進めた刀が敵の頭部の装甲の一部を破壊した。これには堪らず敵も怯む。

 

クロエ

「やった!」

「ハァ、ハァ!少しだが手応えはあった!次の一撃で!」

 

続け様に攻撃を繰り出すため、態勢を整えようとする箒。すると、

 

 

「……ちゃん」

 

 

「…!!」

 

再び後ろにあるそれから微かに聞こえた声。それを聞いた箒は激しく動揺して目を見開き、振り向いて声の出たそれを凝視する。そしてやがてそれはゆっくりと顔を上げた。

 

 

「……箒ちゃん…」

 

 

「……姉、さん…?」

クロエ

「!!!」

 

砕けた装甲から見えたのは束の顔…。箒は言葉を失い、クロエは激しく驚く。そんなふたりを前に力無い目をした束は言った。

 

 

「……箒ちゃん。……私を、……殺して」




サブタイトルを変えたかったため前編後編という感じで分けました。こちらは前編です。




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Mission197 カイーナ② 激怒の箒と穿千

オーガスが起こした転移により、箒とクロエは一夏達とは別の階層に飛ばされてしまった。
皆の安全を祈るふたり。…するとそこにこれまで見たこともない形の、三面相の謎のISが現れる。相手の多種多様な攻撃や隠し腕による奇襲、更に視覚や索敵機能が封じられ、苦戦する箒。そんな中、クロエの作戦によって視覚を取り戻した箒達は敵の射程内に飛び込み、ようやく手応えありの一閃を入れる事に成功した。これでいける!と更に追撃を行おうとする箒だったが…その時彼女達が見たものは…。


クロエの策と箒の必死の一撃で謎の機体装甲の一部が砕けた。するとその中から現れたのは、

 

「……箒ちゃん…」

「……姉さん…?」

 

それは…オーガスに拉致されていた箒の姉であり、クロエの母親代わりともいえる人物、束だった。だが普段の彼女からは想像できない位その言葉にはまるで力が無く、普段の純粋な子供みたいな目からは光が失われていた。そんな目を箒に向けて彼女は言った。

 

「……箒ちゃん、……私を殺して…」

「!!」

クロエ

「束様ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「! クロエ待て!!」

 

その時、クロエが我を忘れて慌てて束に近づく。しかし、

 

 

…ガキィィィィィィン!!

 

 

クロエ

「きゃあああ!」

「クロエ!!」

 

クロエのベアトリスを束がブレードで弾き返した。全く油断していたクロエは叩き飛ばされる。

 

「…ああ…クーちゃん…」

「姉さん何をする!」

クロエ

「た、束様!一体どうなされたんですか!?…まさか、その機体に!」

 

箒もクロエも束がした事に驚きを隠せない。すると束が力無き声で話し始めた。

 

「……箒ちゃん、クーちゃん。……ゴメンね」

「…え?」

「今まで自分を…抑えきれなかった…。箒ちゃんが傷をつけてくれたから…少しだけ時間ができたんだけど…向かってこられたら、反応しちゃうんだ…」

クロエ

「ど、どういう事ですか!?抑えきれなかったとは…やはり操られて!」

 

すると束はそれに首をゆっくりと横に振り、

 

「……ううん、ちょっと違う。……私の意識はあったの。でも…このIS「トリスマギ・アンジェロ」は…操縦者の意識に関係なく動く…。操縦者の意識に…コネクトして。例え望んでなくても…敵味方関係なく…。さっきのもそのせいだよ…」

「!! そんな…!それじゃ…私達とわかっていながらもそのISによって強制的に戦わせられていたという事ですか!?」

「…うん。あの男が…オーガスが私をこのISに…」

クロエ

「……あの男、絶対に許せない!!」

「どうすれば貴女を助けられるんですか!?」

 

箒は束にそう尋ねる。しかし彼女から返ってきたのは予想外の言葉だった。

 

「…ふたり共…、私の事は良いよ…」

クロエ

「…え?…もう、良い…って」

「もう、良いんだ…。私の事は…もう、助けてくれなくていい…。私なんて…死んじゃえば良いんだよ…」

 

束は確かにそう言った。「自分の事はいい」「死んでしまえばいい」と。

 

「!!」

クロエ

「し、死んでしまえばいいって…ど、どうしてですか!なんでそんな事仰るんですか!!」

 

当然ふたり、特にクロエは激しく動揺する。すると束は話を続ける。

 

「……私ね。……ここに来て、思い知ったの」

クロエ

「思い知った…?」

「うん……。あんな事は…してはいけなかったんだ…、私、ここに来てやっと知ったんだよ。……私が今までしてきた事、その愚かさを…」

 

束はこの地に来て知った事を話し始めた。

自分が起こした白騎士事件のせいで、どれだけ多くの人々が恐怖し、悲鳴を上げ、泣き叫んでいた事。その声を聞いた事。自分がISを生み出したせいで多くの人の人生を狂わせてしまった事。あの旅客機爆破事件で死んだのが一夏と千冬の父親である事。自分が大切な人達の、大切な人達を奪ったきっかけを生んだ事。

 

「……」

「私がした事のせいで……、私が…ISなんか、造ったせいで……世界はおかしくなってしまった…。全部…私が悪いんだよ…」

クロエ

「で、でも束様のせいだけではありません!束様を馬鹿にした者達が、束様をもっとちゃんと評価していれば…あんな事には!第一あの、一夏さんや海之兄さん達の御両親が亡くなったあの事件は束様にとって思いもよらなかった筈です!!」

「……ありがとクーちゃん。……うん、確かにそうかもしれないね。でも……だからといって私の罪は揺るがない。私があの時、何もしなければ…こんな事にはならなかった…。箒ちゃんやいーくん、ちーちゃんだって…こんな残酷な人生を生きる事は…無かった。いーくんちーちゃんのお父さんも、アルティスさんや雫さんも…死ぬ事は、無かった…」

クロエ

「た、束様…」

 

クロエは堪らなくなっていた。あの底なしに前向きで明るい、どんな時でも子供の様な表情を浮かべていた束が、こんな悲しみに満ちた表情でそんな事を言うなんて。

 

「今も聞こえるんだ。白騎士事件や…あの飛行機で死んだ人達の無念の声が…。このISが…ずっと歌みたいに、私に聞かせているの…」

 

どうやらトリスマギ・アンジェロというそれが束の耳元でずっと悲鳴を流しているらしい。それも彼女の心にダメージを与えていた。

 

「ごめんね…箒ちゃん…。私なんかがお姉ちゃんで…。私なんて…生まれてこない方が良かったね…」

「……」

クロエ

「お願いですから…そんな事仰らないでください!!」

「……でもそれもここで終わり。……ふたりにお願いがある。……私がこいつを抑え込んでいる内に…私ごと、こいつを破壊して。私を…殺して」

クロエ

「!!!」

「お願い…。私を止めて…。そしてあの男を…オーガスを倒して」

クロエ

「そ、そんな事出来る訳ありません!!」

「駄目なんだよ…クーちゃん。こいつは動いている限り…ふたりを襲い続ける。私には…どうにもならない。止めるには破壊するしかない…」

クロエ

「嫌です!!」

 

グググ…!!

 

その時束が纏うISが俄かに動き始める。

 

「くっ!……もう時間が無い。早く…私を倒して!!」

クロエ

「そん、な…そんな…事…!!」

 

バイザーの下でクロエは泣いていた。束に剣を向ける等…彼女に出来る訳がなかった。彼女にとって束はこの世で初めて光を見せてくれた人であり、母親同然だった。束に出会って彼女は人として生きようと思う事が出来た。そんな誰よりも大事な人を殺す事なんて……。でもどうすればいいのか、クロエがそう考えていると、

 

「………更」

クロエ

「…え?」

 

今まで黙っていた箒からふと声が聞こえた気がしたクロエは箒に集中する。

 

「……今更、今更何を、何を言っているんですか!!」

 

クロエ

「!!」

 

クロエは驚いた。箒の表情が…今までに見せた事が無い位凄まじい怒りを含んでいたからだ。

 

「ISなんて造らなければよかった!?自分のせいで多くの人が悲しんだ!?…ええ、ええその通りですよ!姉さんがISを造ったせいで、白騎士事件なんて起こしてせいで、私や両親の人生は大きく変わってしまった!政府の保護プログラムにおかれるし!逃げる様に隠れる様に度々引っ越ししなければいけなくなったし!遂には両親とも疎遠になるし!私達は全く関係ないのに時にはテロリストの家族とか、犯罪者の妹なんて言われた事もある!なのに時には「天才の姉を持っていいね」とか「お姉さんは世界を変えた」とか言われたり!いつもいつも姉さんと比べられてた様な気がして!本当に息苦しかったですよ!何度も何度も思いましたよ!なんであんな事したんだって!なんであんな人が私の姉さんなんだって!」

クロエ

「ほ、箒さん…」

「あれから何年も経って、散々自分の好き勝手してきて、世界をこんなにややこしくした癖に!今になって自分のやった事は間違っていた!?もう生きていたくない!?どれだけ勝手なんですか貴女は!!」

 

箒の顔は今までに見たことが無い位怒りの表情を浮かべている。クロエは圧倒され、束はそれを甘んじて受ける。

 

「…うん、そうだね。私は…勝手だよね」

「ええ自分勝手で好き勝手です!この世の誰よりもね!」

「…私のせいだよね」

「ええ貴女がした事は大きいです!」

「……箒ちゃん。凄く怒ってるね」

「ええ怒ってます!嘗てない程怒ってますとも!!そんな…情けない事を言う姉さんに!!」

「……?」

 

束は一瞬疑問に思った。自分の罪に関してではなく、情けない事を言った事に怒ったとはどういう事か。

 

「私はそんな自分勝手で好き勝手な姉さんが許せないと同時に…羨ましかったんですよ!!」

「……え?」

「いつもいつも自分の生きたい様に生きて!自分の言いたい事を包み隠さずぶっちゃけて!やりたい事だけやって!気に入らない事は絶対に受け入れないし!他人にどう思われているかなんて全く関係ない、自分を遠慮なく表に出していける姉さんが私は羨ましかった!これも何度も思いましたよ!私も姉さんみたいに自由になれたらいいのになって!!」

「……」

「でも今の貴女は違う!オーガスにあの時の人々の心を、悲鳴を聞かされた!?じゃあ聞きますけどなんであの男があの時の人達の悲鳴を持っているんですか!?映像を持っているんですか!?あの時録画や録音でもしていたんですか!?私が知っている貴女ならまず第一にそれが本物か偽物かを考えた筈です!!貴女はそんな不確かなものを鵜呑みにしてしまう様な、そんな情けない人だったんですか!?」

「それは…」

「私が知っている貴女は決してあんな男にいい様に利用される様な人じゃない!篠ノ之束は、私の姉は、そんな弱い人だった覚えはありませんよ!!」

「…箒ちゃん…」

クロエ

「箒さん…」

 

束もクロエも箒の言葉に圧倒されている様子だった。

 

……カッ!!

 

すると箒の紅椿に黄金色の光が灯る。絢爛舞踏の光が。

 

「そしてはっきり言っておきます!貴女が何と言おうと、私は、私達は貴女を助ける!貴女の気持ちとかどうでもいい!絶対に死なせはしない!私が貴女に勝てば私に従ってもらいます!そして生きて罪を償ってください!嫌とは言わせませんからね!!」

 

箒はそう言うと再び剣を構える。

 

「箒、ちゃん……」

 

 

ギュンッ!!

 

 

「!!グ…グウゥゥゥゥゥゥ!!」

 

その時、束が頭を抱えだした。

 

「!!」

クロエ

「た、束様!?」

「駄目だ…もう限界…!こいつが…私を支配しようとしてる!」

クロエ

「そんな!!」

「ふたり共、お願い、私を!…グ、アアアア……!!」

 

 

バシュウウウウウ!

 

 

「くっ!!」

クロエ

「きゃあ!!」

 

目の前の束は絶叫を上げ、衝撃波が拡散した。

 

 

T・アンジェロ

「……グオォォォォォォォォ!!」

 

 

そして今度ら獣の如き雄叫びを上げた。それは最早束の物では無かった。

 

クロエ

「束様!!」

「あの様子…まるであの時の一夏だ!」

 

ドゥン!!ガキキン!!

 

残った腕で襲いかかるT・アンジェロ。箒とクロエは協力して受け止めるが、

 

T・アンジェロ

「ガアアア!」

クロエ

「束様!目を覚まして下さい!!」

「く…姉さん!!」

 

ギュオォォォォ……

 

「!! まずい!クロエ離れろ!!」

 

ズギュ――――ン!!

 

再び先ほどのビームスが放たれた。ふたりは直前で離脱していたので直撃は免れた。

 

T・アンジェロ

「グオォォォォォォ!!」

 

ズドドドドドドドドド!!

 

敵は容赦なくビームを打ち続ける。その姿は破壊者そのものだった。

 

「この勢いじゃ近づけない!」

クロエ

「でもこのまま束様を放っておく訳には!」

「わかっている!…しかしどうすれば…!」

 

するとクロエに案が浮かぶ。

 

クロエ

「…あれもISには違いない。SEをゼロにできれば…」

「! 確か以前ゴスペルに零落白夜を仕掛けた時、それでナターシャさんを助けた。つまりあの時のゴスペルの時の様に強制解除できるという事か!?」

クロエ

「はい。思うにあの兵器はSE消費量が大きい筈。このまま出し続ければ…!」

 

その時、T・アンジェロが再び撃っているそれをふたりに向けてきた。

 

クロエ

「!」

「クロエ!!」

 

ババババババババババババ!!

 

箒は展開装甲をシールドにし、ギルガメスの装甲強化によってクロエの盾となって攻撃を防ぐが、

 

ドォォォォン!!

 

「ぐああ!!」

クロエ

「箒さん!」

 

完全には防ぎ切れずに吹っ飛ぶ箒。

 

「だ、大丈夫だ…。多少なりとも威力は防げた…。だがこのままではSE切れを待つ前にやられる!」

 

ギュオォォォォ……

 

すると再びビームをふたりに向け、エネルギーをチャージするT・アンジェロ。確実に仕留めようとしている様だ。

 

T・アンジェロ

「オォォォォォォ……!!」

クロエ

「束様!」

(…くっ!私には海之の様な剣も、一夏や千冬さんの様に零落白夜も使えない!どうする!?)

 

すると、

 

 

……カッ!!

 

 

箒・クロエ

「「!!」」

T・アンジェロ

「…!?」

 

突然、箒の紅椿が名前の如く深紅の光を放ち始めた。そのひかりにふたりだけでなくT・アンジェロもひるむ。

 

クロエ

「箒さん!」

「こ、これは!?」

 

驚く箒。そして紅椿のインターフェースに文字が浮かぶ。

 

 

~~展開装甲 経験値蓄積により、次の段階へと移行~~

 

 

ガシンッ!ガシンッ!ガシンッ!

 

 

その文字と共に紅椿の両肩にある展開装甲がみるみる内に変形・合体し、巨大な弓の様な、クロスボウの様な武器へと変化した。

 

「こ、この武器は…!?」

 

続いてインターフェースにその武器の名らしき文字が浮かぶ。武器の名前は…「穿千(うがち)」と言った。

 

穿千(うがち)…?」

 

 

ギュオォォォォォォォ……!!

 

 

すると穿千(うがち)の発射口に強力なSEがチャージされる。そしてそのエネルギーの出力の高さに箒は驚き、思った。

 

(! このパワーなら……行ける!!)

T・アンジェロ

「…オォォォォォォ!!」

 

ズギュ―――――ン!!

 

再び撃ってきたがふたりはそれを避ける。

 

「くっ!クロエ!すまないが手を貸してくれ!」

 

すると箒はクロエにある事を伝える。

 

クロエ

「……わ、わかりました。ですがもし失敗したら箒さんが!」

「大丈夫だ!私を信じろ!」

 

すると箒はあえて前に出る。

 

T・アンジェロ

「オォォォォォォ…」

「次で決めようじゃないか!」

 

ギュオォォォォォォォォォォ!!

 

T・アンジェロのビームと箒の穿千、互いのエネルギーが集まり、収縮されていく。そして、

 

T・アンジェロ

「グオォォォォォ!!」

 

ズギュ―――――ン!!

 

「いっけぇぇぇぇ!!」

 

ズゴォォォォォォォ!!

 

 

ババババババババババババババ!!

 

 

互いの放たれたエネルギーがぶつかり合い、圧され合う。威力は完全に互角だった。

 

クロエ

「互角!!」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

ババババババババババババババ!!

 

互いに全く引けを取らない撃ち合いが暫し続き…、

 

 

……カッ!!!

 

 

やがてその場が激しい光に包まれた…。

 

 

…………

 

???

 

 

「……ここは」

 

白い霧が立ち込める世界。そんな世界に束はいた。力なく膝を抱えて座っている。それは以前、火影や海之や一夏、簪が経験した世界と同じだった。

 

「もしかして……コアの中の…?でも…私じゃない。もしかして…紅椿の。さっきのぶつかりで…繋がったの?」

 

とその時、

 

「姉さん!!」

 

霧の向こうから箒が走ってきた。

 

「箒ちゃん…」

「……」

 

箒は若干怒っている顔をしている。束は顔を合わせられないのかうつ向く。すると、

 

ガシッ

 

自分の肩を掴んだ感触があった。ビクつく束。

 

「……姉さん、顔を上げてください」

 

静かに名前を呼ばれてゆっくり顔を上げる束。箒の顔は…優しく微笑んでいた。

 

「箒…ちゃん…」

「…さぁ、帰りましょう。皆待ってますよ。クロエも一夏も千冬さんも、火影も海之も、皆」

 

箒の優しい声に細い涙を流す束。

 

「……私は、……生きていいのかな…?」

「当たり前です。ちゃんと生きて償って、そしてISを正しく完成させて下さい。姉さんを信じた人達のためにも。それが姉さんのやる事です」

「……箒ちゃん…」

 

 

…………

 

「姉さん!姉さんしっかりしてください!」

「……箒……ちゃん?」

 

場所は戻って「カイーナ」の空間。箒の腕の中で束はゆっくり目を開けた。アンジェロを解除した束は何も纏っていなかったので箒の上着を被せられている。

 

「……どうなったの?私…」

「あのISが発射したビームに私の穿千(うがち)のビームをぶつけたんです。互いに相殺しながら撃ち続け、そしてあのISがSE切れを起こした」

 

箒は更に確実にぶつけるためにクロエに最適な位置や発射タイミングを教えて貰っていた。

 

「そうだったんだ…」

「大丈夫ですか?」

「…うん。まだ…少し力入らないけど」

「無理しないでください。今まで酷い目にあってきたのですから…」

「……箒ちゃん…強くなったね」

「…いえ、私だけでは何もできませんでした。クロエや、姉さんがくれた紅椿のおかげです」

「ううん、そんな事ない。…凄いよ。魔具も使わずに…勝てたなんて」

「当然です。姉さんが生み出したISですから」

 

箒は自慢げに笑っていた。

 

「……大きくなったね…。特に…母性の象徴が♪」

「! こ、こんな時までふざけないで下さい!」

「あはは…。それが私なんでしょ?」

「…もう!!」

 

文句を言う箒だが心は嬉しさで溢れていた。

 

クロエ

「束様ぁぁぁぁぁぁぁ!!」ガシッ!!

 

クロエは今だ力が戻らない束に思い切りしがみ付いた。

 

「いた…ちょ、痛いよクーちゃん」

クロエ

「束様ぁぁぁぁ!よかった!本当によかったぁぁぁ!!」

 

大泣きしながら泣き叫ぶクロエ。この様な彼女は箒も今まで見た事が無い位。

 

「クーちゃん…。心配かけて…本当に、ごめんね…。あと怖い思いさせちゃって」

クロエ

「グス…いいんです…いいんです!束様がご無事ならそれで…それだけで!」

「……ありがとうクーちゃん。…クーちゃんの様な娘がいて、私は幸せ者だね」

 

まるで本当に母と子の様にも見えた。

 

「……姉さん」

「……わかってるよ箒ちゃん。……もう私は、二度と死ぬなんて思わない。私は…私が出来る事をして償う。そうだよね?」

「…ならいいです」

「………皆は?」

 

箒は首を横に振る。

 

「わかりません…。この塔に侵入した時に皆で転移に巻き込まれて…多分オーガスの仕業でしょう」

クロエ

「……あの男、絶対に許せません!束様を拉致して無理やり協力させただけじゃなく、こんな卑劣な事をするなんて…!!」

 

すると束が話し出す。

 

「……箒ちゃん、クーちゃん。その事なんだけど…ひとつ気になる事があるんだ」

「気になる事?」

「うん…。私をこんな目に合わせた奴なんだけど……オーガスの仕業だけじゃない気がする…」

箒・クロエ

「「!?」」

 

その言葉に箒とクロエが驚く。

 

「あんまりはっきり覚えてないんだけど…私の記憶が途切れる直前、…オーガスの声じゃない、別の声が聞こえたんだよね…」

「別の声って…スコール達ではないんですか?」

「…ううん、男の声だった…。そいつが私にあの映像や、声を聞かせたんだ」

クロエ

「オーガス以外の別の男…?」

 

その場の三人に一瞬沈黙が包む。……その時、

 

 

箒・クロエ・束

「「「!!??」」」




※次回は31日(土)の予定です。
すいません、こちらの仕事が忙しくてまた二週間飛びます…。毎日コツコツと編集していますが今の状態が落ち着くまで暫しこの状態が続きそうです。お待たせして本当にすいません。次回はアンティノラ戦です。


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Mission198 アンティノラ① 火水氷雷 四属性の戦い

黒いISの中にいたのは束だった。
自らの意志に関係なく動くというそのISを必死に抑えつつ、束は箒とクロエに自らを殺してくれと頼む。そうする事が自分の償いだと。しかしクロエは勿論、箒もそんな事を言う彼女に激怒して反対し、必ず助けると誓うが束を支配したトリスマギ・アンジェロの怒涛の攻撃に手が出ない。
するとその時、戦闘経験を積んだ箒の紅椿が持つ展開装甲が更なる武器「穿千」へと進化する。激しい銃撃戦の果てに、先にトリスマギ・アンジェロのSEがゼロになり、束はその拘束から解放され、とうとう箒とクロエという家族達の所へ戻ってきたのだった。


「アンティノラ」

 

 

「カイーナ」で箒とクロエが束操られしトリスマギ・アンジェロと戦いを始めていたばかりの頃、この「アンティノラ」でも彼女らの戦いが始まろうとしていた。

 

ダリル

「じゃあ始めようじゃねぇかおふたりさん!!」ドンッ!

フォルテ

「前と同じと思ったら大間違いっスよ!!」ドンッ!

 

ダリルとフォルテはISを展開すると同時に飛び上がる。

 

刀奈

「私達も行くわよ簪ちゃん!」

「うん!」

 

そして刀奈と簪もISを展開し、ふたりを追って飛び上がろうとした…その時、

 

 

ドォン!ドォン!

 

 

刀奈・簪

「「きゃあ!」」

 

何かがふたりに襲い掛かった。しかし上空のふたりからの攻撃ではない。今もゆっくりではあるが飛び回っているだけだ。

 

「な、何!?今何があったの!」

刀奈

「彼女達の攻撃じゃ…ない?」

 

ドォンッ!

 

するとまたしても同じ様な攻撃が飛んできた。シールドのおかげで威力は大した事無いが確実に狙ってきている。

 

刀奈

「まずいわね!早く上がるわよ簪ちゃん!」

「う、うん!」

 

ふたりは慌てて急速上昇した。そんなふたりにダリルが飛び回りながら話しかけてくる。

 

フォルテ

「どうやらさっそく洗礼を受けたようっスね」

「せ、洗礼?」

ダリル

「そうさ。この部屋にはちょっとした仕掛けがあってな。ほんの数秒も同じ場所に留まっていると銃弾が飛んでくるのさ!絶えず動き続けないとあっという間にハチの巣にされるぜ!」

フォルテ

「私達が飛んだと同時に起動したっス!どっちかが倒れるまで永久に続くッスよ!」

 

ドォンッ!

 

「きゃあ!」

刀奈

「くっ!…そうか、ここはアインヘリアル計画があった場所。如何なる環境でも戦える兵士の育成が目的…。これもその一環というわけね」

ダリル

「そういうこった!いくぜぇ!」

 

 

ゴォォォォォォォォォォ!!

 

 

ダリルのIS、ヘルハウンドが激しい炎に包まれ、彼女の両手に炎の剣が展開される。

 

ダリル

「燃えろ!ヘルハウンドVer3.0!!」ドゥンッ!!

 

ガキキンッ!!

 

ダリルは刀奈に迫る。刀奈はランスで受け止める。

 

刀奈

「くっ!二刀流か!」

「お姉ちゃん!」

 

簪は刀奈を援護しようとするが、

 

フォルテ

「アンタの相手は私っス!」

「…サファイアさん…!」

 

簪はそのままフォルテ・サファイアとの戦闘に入る。ダリルと刀奈、フォルテと簪という一対一の展開になった。

 

ガキンッ!キィィンッ!

 

刀奈

「この前よりパワーが上がっている!」

ダリル

「2.8から3.0になった事でヘルハウンドは第3世代と同じになっただけでなく、あれから私は叔母さん達から必死に訓練を受けた!アンタ相手でも引けはとらねぇぜ!」

 

ゴォォォォォ!ガキンッ!!

 

刀奈はそれを全力で弾き、アクア・ナノマシンを展開する。

 

刀奈

「でも火ならこれで弱体化すれば!」

ダリル

「それがどうしたぁぁ!!」

 

 

カッ!バシュゥゥゥゥゥ!!

 

 

刀奈

「!!」

 

するとダリルは手の炎の剣を交差し、そこから炎を纏いし衝撃波が飛び出す。それはアクア・ナノマシンの影響を殆ど受けずに刀奈に突っ込んでくる。刀奈はラスティーネイルも使い、ランスと二刀流で防ぐ。

 

ババババババババババ!!

刀奈

「! さっきより火の勢いが増している!ナノマシンが効いてないの!?」

ダリル

「忘れたか?私のヘルハウンドはチャージする程威力が上がるって事。前と違ってオートチャージできる様になったのさ!時間はゆっくりだがな!」

刀奈

「パワーアップは伊達じゃないって事ね!全くやっかいな」ドォン!「きゃあ!」

ダリル

ドォンッ!「ぐっ!」

 

またもや見えない銃撃が刀奈だけでなく、背後からダリルにも襲い掛かる。敵味方区別なく襲ってくる様だった。

 

ダリル

「…へへ、いいねぇ!戦いはこうでねぇとな!」

刀奈

「自分がやられてんのに喜ぶんじゃないわよ!」ズドドドドド!!

ダリル

「甘ぇよ!!」

 

ゴォォォォォ!!バババババババ!!

 

刀奈はランスのガトリングをダリルに向ける。しかし炎がダリルの前面に展開し、ガトリング弾を蒸発させた。

 

ダリル

「そんな攻撃じゃ私には届かねぇぜぇ!」

刀奈

「防御にも使えるなんて…。これは全力でいかないとまずいわね!」

 

 

…………

 

「はぁぁぁぁ!」

フォルテ

「やぁぁぁぁ!」

 

一方こちらでは簪の炎のケルベロスとフォルテの氷の槍が激しくぶつかり合う。

 

ガキィィィン!!

 

「くっ!ケルベロスの炎に耐えられる氷なんて!」

フォルテ

「それが世界でアンタのみが持っているっていう武器っスか!流石っスね!本当なら私の槍とぶつかった瞬間凍るのにそうならないっス!」

 

キィィィィン!

 

すると簪はやや距離を取り、

 

「接近で駄目なら……山嵐!!」ズドドドドドドドド!!

 

山嵐からミサイルをフォルテに発射する。

 

 

ドガァァァァァァンッ!!

 

 

そしてそれはフォルテに命中した様に見えた。その場所から煙が上がる。

 

「やった…?」

 

 

ズドドドドドドドドドド!!

 

 

「!! くっ!」

 

すると突然煙の中から何十発の鋭い氷の刃が飛んできた。慌てて避ける簪。すると煙が晴れ、

 

「! こ、氷の矢!?」

フォルテ

「仮にも日本代表候補が油断大敵っスよ」

 

それは無傷のフォルテ纏うISだった。よく見ると彼女の周囲に氷の粒子が浮かんでいる。

 

「む、無傷!?…それにその氷ってまさか!」

フォルテ

「そうっス。これは水のナノマシンと同じもの、私のISに合わせたいわば氷のナノマシンっス。そしてそれが生み出す氷の壁は従来のそれを上回る強度!今みたいな攻撃じゃ届かないっスよ!」

 

ババババババババッ!!

 

更に無数の氷の矢を形成するフォルテ。それを全弾簪に向ける。

 

フォルテ

「受けてみるっス!私のコールドブラッド・ゼロの力を!」

 

ドドドドドドンッ!!

 

氷の矢が簪に迫る。

 

「くっ!だけど!」

 

ガガガガガガガガンッ!!

 

それを簪もまた氷のケルベロスが生み出す氷の壁で防ぎつつ、

 

「そこ!!」ズドォォォォォ!!

 

空かさず春雷を撃つ。しかし、

 

バババババババババババ!!

 

それもまた、フォルテの氷のナノマシンが生み出す壁に塞がれた、いや弾かれた。

 

「春雷も駄目!?」

フォルテ

「私の氷の前には荷電粒子砲が纏う電流さえも無力っス!更に!」

 

 

ビキキキキキキキキ!!

 

 

攻撃の際に簪のISに纏わりついていた水蒸気の水滴が凍り始めた。

 

「こ、これは!」

 

ズドドドドドンッ!!

 

「きゃああ!」

 

注意を反らしてしまった簪にフォルテの氷の矢が襲い掛かる。

 

フォルテ

「水滴や水蒸気を一気に凍らせる事もできるっス!それよりどうしたっスか!アンタの力はそんなものっスか!」

「くっ…どうすれば…!」

 

 

…………

 

ゴォォォォォォォッ!!

ガキィィィンッ!!キィィンッ!!

 

刀奈は自らのランスとラスティ―ネイルに水のナノマシンを纏わせ、ダリルの炎の剣に対抗していたのだが、

 

ググググググググ…!!

 

刀奈

「…!またパワーが上がっている!?」

ダリル

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ズガンッ!…ヴゥン!!

 

ダリルの炎の剣が刀奈を斬った。……様に見えたがしかしそれは間一髪に発動させた水のヴェールによって辛うじて防がれた。

 

ダリル

「ちっ…流石だな!やったと思ったのに!」

刀奈

「危ない危ない…。てかそっちこそ流石は元代表候補ね。それ程の力と才能があるならあのまま頑張ってたら時期代表も夢じゃなかったのに」

 

刀奈は正直に感想を言うが、

 

ダリル

「今はもうそんなもの関係無いね。私にはもっと大事なもんがあんのさ」

刀奈

「…スコール・ミューゼル、…いいえ、貴女の叔母のアレクシア・ミューゼルの事?」

ダリル

「……よけいな話は終わりだ!」ドゥンッ!!

 

ダリルは更に突っ込んでくる。

 

刀奈

「貴女の事は同情するわ。…でも私にも負けられない理由がある!」

 

 

シュバァァァァ!!

 

 

すると刀奈は水のナノマシンの出力を上げ、それによってすさまじい霧が生まれる。

 

ダリル

「! それはアンタの得意技か!だがそんなもので私の炎は止められない!」

 

するとダリルの剣が刀奈を捕らえる。

 

ヴゥンッ!!

 

しかしそれもまた刀奈の幻であった。周囲をふと見るにも霧のせいで視界が悪い。

 

ダリル

「ちっ!全くやっかいな!どこだ!」

刀奈

「後ろよ」

ダリル

「!!」

 

ヴゥンッ!!…ドゴォォォォン!!

 

ダリル

「ぐああああああ!」

 

後ろから強烈な衝撃がダリルに襲い掛かった。吹き飛ばされるダリル。

 

ダリル

「ぐぅ…!な、何!?」

 

見ると…刀奈は水纏うバスターアームを装着していた。

 

刀奈

「戦っている内にわかったのよ。貴女の炎の壁が正面にしか展開できていない事に。霧の中で貴女の炎をできるだけ弱らせ、同時にバスターアームに水のナノマシンを纏わせる。いわば水のハンマーってとこかしら。今のは結構効いたんじゃない?」

ダリル

「くっ…確かにな…!だが…その代償はあったぜ」

刀奈

「代償……!!」

 

刀奈は驚いた。突然自分の纏っているバスターアームが自動解除された。

 

刀奈

「こ、これは…バスターアーム使用不能!?」

ダリル

「ヘルハウンドは口から炎を吐き、触れたり姿を見た者を死に至らしめるっていう伝説の獣。3.0にした際にそれを真似て加えた能力さ!連発はできねぇがな。私に触れたことでアンタのそれは暫く使えなくなったぜ!前の戦いで一番やっかいなのはそれだってわかってたからな!」

刀奈

「…成程ね。まんまとやられたわ」

 

ドォン!ドォン!

 

刀奈

「くっ!でもまだよ!たかが武器ひとつ使えなくなっただけ!」

ダリル

「こっちもまだまだ………!!」

 

 

…………

 

その少し前、

 

「くっ!近づけない!」

フォルテ

「そうやって逃げ続けてても私は倒せないっスよ!」

 

簪はフォルテ操るコールドブラッド・ゼロの氷のナノマシンの攻撃に苦しんでいたが、

 

(……よし、イチかバチか!)ドォンッ!!

 

やがて何か思いついたのか簪は氷の壁を展開し、ダメージを抑えつつフォルテに向かい突撃した。そして、

 

ゴォォォォォォォォォォ!!

 

氷のヌンチャクから炎のスタッフに変形、SEをチャージし、渾身のホットスタッフを繰り出す。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!」

フォルテ

「無駄っス!」

 

 

ドゴォォォォォォォンッ!!

 

 

簪は力強く打ち付けるがフォルテの言う通り攻撃は通らず、氷の壁と周囲のナノマシンをいくらか溶かす程度。

 

「今だ!」ガキンッ!

フォルテ

「!!」

 

すると簪はすかさず炎のスタッフから雷の三節棍へと変形させた。そして、

 

「てやあぁぁぁぁ!」

 

 

バリバリバリバリバリバリ!!

 

 

フォルテ

「うわぁぁぁぁぁ!」

 

すると先ほどの春雷と違い、雷のケルベロスが生み出す電流がフォルテのISにダメージを与える。

 

フォルテ

「くっ…な、なんで!?」

「氷そのものに雷は通らなくても!氷に熱を与えたら表面に水は付くし水蒸気も出る!それなら電流はずっと通りやすい!凍る前に素早く攻撃すればいい!」

 

ガキンッ!キンッ!キィィンッ!

ババババッ!

 

フォルテは氷の槍で対抗するが今の雷のダメージ、更に簪の三節棍の自在攻撃に苦戦し始める。

 

フォルテ

「くっ…!その武器の事は知ってたっスけどそこまで使いこなしてるなんて!」」

「この雷のケルベロスは確かに満足に使いこなせなかった武器!だから他のふたつより必死で訓練したの!」

 

 

バリバリバリバリバリ!!

 

 

簪の周囲に小さい落雷が巻き起こる。

 

フォルテ

「! あ、ISが動かない!?」

 

それをかすめたフォルテの動きが鈍くなる。それはほんの一瞬だけ相手を麻痺させるパーカッションの効果だった。

 

「そしてただ打つだけでなくこういう戦い方もある!」

 

簪はSEをチャージし、キングスレイヤーを放つ。

 

「これで決める!!」

フォルテ

「くっ!!」

 

すると、

 

 

…シュンッ!!バババババババババ!!

 

 

突然ふたりの間に何かが割って入ってきた。そしてそれがフォルテに当たる筈だった攻撃が直撃する。

 

ダリル

「がああああああ!!」

簪・フォルテ

「「!!」」

 

それはフォルテの危機を遠目で見て気付いたダリルだった。彼女を救うために剣も出さず割って入ってきたのだった。

 

フォルテ

「ダリル!!」

「け、ケイシーさん!」

 

フォルテはダリルを支える。簪はふたりから離れる。

 

ダリル

「くっ…大丈夫か?…フォルテ」

 

簪の攻撃はフォルテを戦闘不能に治める程度の一撃だったらしく、そのために大ダメージを喰らったものの命の危険はなかった様子である。

 

フォルテ

「ダリル!自分も戦闘中だっていうのになんて無茶な真似を!」

ダリル

「馬鹿野郎…。お前も私の大事な奴だからよ。助けんのは当たり前だぜ?」

フォルテ

「ダリル…」

 

勝敗が決まったからなのかダリルのダメージが大きくなったためか、気が付くと見えない銃撃は収まっていた。そこに刀奈が合流してきた。

 

「お姉ちゃん!」

刀奈

「よくやったわね簪ちゃん。……ダリル・ケイシー、フォルテ・サファイア。もうこれまでよ。両名とも降伏しなさい」

ダリル

「死刑になると分かっているのにか?それに戻ったところで私達は売国奴だぜ?」

 

そんなダリルに刀奈は言う。

 

刀奈

「……貴女達だけが悪い訳じゃないわ。…特にダリル・ケイシー、貴女にはそれなりの理由があるのだし…」

「…それなりの理由?」

刀奈

「…その話は後にしましょう。さぁふたり共、もう戦うのは止めなさい。勝負はついたわ」

 

刀奈は降伏するよう迫る。…しかし、

 

ダリル

「……まだだ。まだ終わってねぇ!」

 

フォルテに支えられながらダリルは立ち上がる。

 

ダリル

「私は戦う。降伏なんかしねぇ…!」

フォルテ

「ダリル…」

「もうやめてよ!ケイシーさん!」

 

この状況ではダリルとフォルテの負けはだれが見ても揺るがない事実であろう。しかしダリルはこう宣言した。

 

ダリル

「まだ終わりじゃねぇ!私達にはまだ…アレがある!」

刀奈

「アレって……! まさか!?」

ダリル

(叔母さんごめん…約束破るわ…)

「…気付いたか。…そうさ。アンタの想像通り、ドレッドノート・システムってやつさ」

フォルテ

「オーガスって人に頼んで組み込んでもらったっス」

 

ドレッドノート・システム、DNS。そしてふたりはそれを使おうとしている様だ。

 

刀奈

「止めなさい!それがどれだけ危険なものか分かってるの!?」

「下手をすると死ぬかもしれないんだよ!!」

 

刀奈や簪は止めるがそれに対しダリルとフォルテは、

 

ダリル

「…ああ、こいつの危険さはわかってるつもりさ。…でも、それでも私は最後まで戦い抜く!私を救ってくれた叔母さんのために!やるぜフォルテ!!」

フォルテ

「了解っス!」

ダリル

「ドレッドノート・システム!私達に力をよこせぇぇぇ!!」

 

止める声を聞かないダリルとフォルテの力への強い願望に、

 

 

ーDreadnoughtsystem 起動ー

 

 

ゴォォォォォォォォォォォォォォ!!

 

 

ダリル

「ぐあああああああ!!」

フォルテ

「ああああああああ!!」

 

DNSが応えた。それによってふたり共黒き炎に包まれ、絶叫を上げる。

 

刀奈

「馬鹿なことを!!」

「ふたり共お願い!早く解除して!死んでしまう!!」

ダリル

「馬鹿…言ってんじゃねぇぇぇ!」

フォルテ

「私達は…こんな位で死なないっスよぉぉ!」

 

ふたりは簪の言葉を拒否し、炎に包まれたまま痛みに必死に耐える。

 

ダリル・フォルテ

「「あああああああああああ!!」」

 

 

……シュバァァァァァァァ!!!

 

 

刀奈

「くっ!」

「きゃあ!」

 

やがてダリルとフォルテを覆っていた黒き炎が爆発、飛び散った。そして、

 

 

二頭の獣の様な姿のDIS

「……ハァ……ハァ……」

 

 

その場にいたのは二頭の頭を持つ狼の様な姿をしたDISだった。

 

ダリル(DIS)

「ハァ…ハァ…これが…DISってやつか…」

フォルテ(DIS)

「ホント…奇妙な感覚…っスね…」

 

二頭の内右側の頭はダリルの、左側の頭からフォルテの声が聞こえた。

 

刀奈

「! まさか…融合したというの!?」

「ISの融合って…そんな事ができるなんて!」

ダリル

「さぁ、勝負の再開だ!!」

フォルテ

「私達の力を見せてやるっス!!」

 

ふたりは簪と刀奈に牙をむける。

 

「違うよふたり共!そんなものは力じゃない!」

刀奈

「貴女達が間違ってる事を教えてあげるわ!」

 

対して簪と刀奈も自らの武器を向けた。




後編に続きます。


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Mission199 アンティノラ② 大切なもののため そこには敵も味方もない

刀奈と簪に襲い掛かるダリル・ケイシーとフォルテ・サファイア。
以前刀奈が戦った時よりも強化された彼女らのIS操る炎と氷の攻撃、更に見えざる銃撃に苦戦する。
しかしそれでも水を操る刀奈と火・氷・雷を操る簪は手こずりながらも何とか優勢に立つことに成功し、大ダメージを与えた。
……しかしそんな状況でもダリルとフォルテは諦めず、自分達のISに搭載したDNSを起動させてしまう。地獄の業火の如き黒き炎に死ぬほどの苦しみを味わいながら彼女らが変化したのは双頭の獣の姿だった。


右の頭部がダリルの、左の頭部がフォルテの意識を持つ狼の様なふたつの頭部、四足歩行、身体の右半分が炎に、左半分が氷に包まれた獣の様な機体。それがDNSによって変化した彼女らの姿だった。サイズもひとまわり大きくなっている。その姿は正に双頭の獣。ヘルハウンドやオルトロスともいえるものだった。

 

ダリル

「さぁいくぜぇぇぇ!!」

フォルテ

「私達の力を見せてやるっス!!」

 

ふたりが融合したらしいその機獣は口からは火の粉と冷気をこぼしながら牙を向ける。

 

「…違う。ふたり共違うよ!そんなものは力じゃない!」

刀奈

「その通りよ!貴女達の間違いを私達が教えてあげるわ!」

ダリル

「ぬかせ!!」

 

 

ドゥンッ!!!…ドガァァァン!!

 

 

簪・刀奈

「「きゃあああ!!」」

 

猛烈なスピードで突進したそれは簪と刀奈に体当りを繰り出した。その勢いに避けられなかったふたりはぶつかってしまう。

 

刀奈

「な、なんてスピードの突進!」

フォルテ

「まだっス!!」ドゥンッ!!

 

ドガァァァンッ!!

 

「きゃああ!」

刀奈

「簪ちゃん!」ドガァンッ!!「ぐあっ!」

 

再び反転して体当りを繰り出す。

突進はスピードもだが何よりも重量がものをいう。それが大きければ大きい程その時の衝撃は凄まじい。普通は重量を上げるとその反面それによってスピードが犠牲となり、停止する時の脚への負担も高くなってしまう。しかし重量とスピード、そのどちらも克服したそれは高い脅威となる。四足歩行の姿も脚への負担を軽くするメリットとなっていた。

 

「スピードだけじゃない!瞬発力と勢いまで!」

ダリル

「感心するのはまだ早ぇぜぇぇ!!」

 

 

ゴォォォォォォォォ!!

キィィィィィィィン!!

 

 

右側の口からは炎の、左側の口からは冷気を纏ったビームが放たれる。

 

刀奈

「!! まずい!水のヴェール!!」

「氷の壁!!」

 

ババババババババババババ!!

 

刀奈と簪はそれぞれの防御装備を最大限にして対抗し、

 

……シュゥゥゥゥゥゥ

 

なんとか辛うじてそれを防ぐが、

 

刀奈

「これがDNS…悪魔の力って事!」

ダリル

「流石っスね!だけど甘いっスよ!」

 

 

カッ!!ドドドドドドドド!!

 

 

すると間髪入れずに炎纏う小さい砲撃が上から飛んでくる。

 

刀奈

「くっ!簪ちゃん避けて!」

ダリル

「もう遅え!」

「え!?…!!」

 

キィィィィィンッ!!

 

ふたりは驚いた。自分達のスラスターやブースターが氷漬けにされていた。

 

刀奈

「何時の間に!?」

ダリル

「くらいやがれぇぇ!!」

 

炎がふたりに迫る。すると、

 

…カッ!!

ドドドドドドドドドド!!

 

ダリル・フォルテ

「「!!」」

ケルベロス

「オォォォォォォォォォォォ!!」

 

簪が召喚したケルベロスが氷纏うその身体で炎の盾となった。

 

「ありがとうケルベロス!……下がってて」

 

やがてそれらを全てかき消すと簪の指示に従い、ケルベロスの姿は再び消える。

 

ダリル

「ちっ!あれがあの日本代表候補が使うやつか!」

刀奈

「ありがとう簪ちゃん!…でもどうしてまたケルベロスを戻すの?」

 

状況からすればケルベロスの支援があった方が確実であると刀奈は思う。しかし簪はそうせずにこう言った。

 

「…あの子はファントムやグリフォンみたいな無人機と戦うために使うって決めてるから。あの中にはケイシーさんとサファイアさんがいる…。だから使えない…」

刀奈

「簪ちゃん…」

 

それは簪の優しさだった。

 

ダリル

「……けっ!敵に向かって甘い事言ってんじゃねぇ!そんなんだから政府に見限られんだよ!」

「…み、見限られる?」

フォルテ

「知ってるっスよ。アンタのそのIS、織斑一夏のISのために放っておかれ、最後は中止に追い込まれたって事。そして酷く落ち込んで、結局自分で組み立てたって事。そんなんでここに来たって事が私らからしたら信じられないっスね」

「…!」

ダリル

「けど私達は違う!例え相手がなんだろうと戦う!例え世界が相手でも!全ては私を救ってくれた叔母さんのために!」

 

 

「グォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 

すると二頭の獣が凄まじい咆哮を吐いた。それから繰り出される衝撃波に怯む簪と刀奈。

 

刀奈

「くっ!」

「うっ!」

 

ドガァァァァァンッ!!

 

刀奈・簪

「「きゃあああ!!」」

 

その怯んだ隙に再び突進を喰らわす。その攻撃を真面に受けるふたり。

 

ダリル

「まずはお前からだ!」

 

そしてすかさず簪に追撃を喰らわそうと向きを変えた獣は、

 

刀奈

「簪ちゃん!」

「……」

 

ドゥンッ!!!

 

動かない簪に再び突進した。……しかし、

 

 

カッ!ビキキキキキキキ!!

 

 

ダリル・フォルテ

「「ぐあああ!!」」

刀奈

「!!」

 

獣の足元から突然氷柱が立った。それがマキビシの様な形となって襲い掛かる。その氷柱を生み出したのは、

 

「……無理に避けなくてもそっちから向かってくるのなら、待ち構えていればいい!」

 

簪の氷のケルベロスの力だった。

 

「貴女達の言うとおり、この打鉄弐式はちゃんとした所で完成させたわけでもない!それに私は貴女達ほど専用機を持ってまだ間がない。お姉ちゃんみたいな技術もない!」

 

ズドドドドドドドドッ!!

ガキキキキキキキキッ!!

 

簪は再び山嵐を撃つ。それらは相手の表面を覆っている氷と炎によって防がれてしまうが、

 

 

シュゥゥゥゥゥゥゥゥ…

ビキキキキキキキキキ…

 

 

ダリル

「!」

フォルテ

「な、何!?」

 

身体の表面を覆っていた炎の勢いが弱まり、そして氷の鎧にはヒビが入り始めていた。簪の撃ったミサイルは半分が炎、そして半分は氷のミサイルだった。キングケルベロスの三属性効果とベルベットのISが持つ炎と氷を操る能力から生み出した簪や本音、整備課の自信作だった。

 

「だけど!この弐式は私や本音、整備部の皆で力を合わせて造り上げた機体!これに込められたものは貴女のそれよりもずっと大きい自身がある!甘く見ないでほしい!」

ダリル

「くっ…てめぇぇぇ!」ドゥンッ!!!

 

怒りのあまりやや冷静さを失っている様子のダリルの意志宿る獣はすかさず更に追撃する。しかし、

 

ガキンッ!!!

 

ダリル・フォルテ

「「!?」」

 

その体当りは食い止められた。今の一瞬の隙をついて近づいてきていた、手にバスターアームを纏わせた刀奈に正面から受け止められた。

 

刀奈

「くっ…残念、封印の時間切れよ♪……おおおおぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ!!」

 

ドオォォォォォォン!!

 

バスターによって放り投げられたダリル・フォルテのDISが壁に打ち付けられた。

 

ダリル

「ぐっ!」

フォルテ

「ま、まさかこの身体を放り投げるなんて…相変わらず馬鹿力っス!」

刀奈

「勝機到来!一気に決めるわよ簪ちゃん!」

「うんお姉ちゃん!」

ダリル

「…なめんなぁぁぁ!!」

 

 

ズキュ――ン!!ズキュ――ン!!

ドガァァンッ!!ドガァァンッ!!

 

 

刀奈

「うわぁぁぁ!!」

「きゃあああ!!」

 

獣のその目から凄まじいビームが飛んできた。直撃ではないが幾分被弾する簪と刀奈。

 

刀奈

「…くっ!まだそんな攻撃が!」

「!! しまった!」

 

今の砲撃によるものか、簪の手にあったケルベロスが遠くに弾き飛ばされる。そしてそれをフォルテが見逃さなかった。

 

フォルテ

「ダリル!」

ダリル

「ああ!」ドゥンッ!!

 

防御の手段を失った簪に獣が迫る。

 

 

ジャキ―――ンッ!!

 

 

しかしその時刀奈の蛇腹剣、ラスティーネイルが獣の脚を捕らえる。

 

刀奈

「簪ちゃん!そこから離れて!」

「お姉ちゃん!」

ダリル

「邪魔すんじゃねぇぇ!」

 

ヴゥンッ!!

 

刀奈

「きゃあああ!」

 

刀奈を自身のパワーで振り払う。そして今のでダメージを負ったらしい彼女に狙いを変える。

 

ダリル

「まずはアンタからだ!」

 

ゴォォォォォォ!!

キィィィィィン!!

 

獣のふたつの口からブレスが放たれる。咄嗟の攻撃に応戦できない刀奈。

 

「お姉ちゃん!」

 

 

カッ!キュイィィィィ!

 

 

ダリル・フォルテ

「「!!」」

ケルベロス

「オォォォォォォォォ!!」

 

ズドオォォォォン!!

バババババババババババ!!

 

簪の手から離れていたケルベロスが光った途端、刀奈を守る形で再びケルベロスが召喚された。それが撃ったビームでエネルギーを相殺する。

 

(手に持ってないのに召喚できた…!)

「ありがとうケルベロス!そのままお姉ちゃんを守って!」

刀奈

「簪ちゃん!?」

ダリル

「ちっ!ならやっぱアンタからだな!」

フォルテ

「アンタを倒せばあれも消える筈っス!」

 

そう言って再び簪に迫る。

 

刀奈

「簪ちゃん!」

ダリル

「くたばれぇぇぇ!」

 

大口を開けて簪に向かう。それはまるで獲物を丸のみしようとしている獣の様だった。しかし簪は動かない。

 

「ケルベロスだけじゃない…。私には…」

 

迫る獣の口…。そして、

 

 

…ガシィィィィィィンッ!!

 

 

それが簪の姿を捕らえ、咥え込んだ。

…………様に見られたが、

 

ダリル・フォルテ

「「!!」」

 

しかしそう見えただけだった。簪は自らの腕を襲いかからんとする口に突っ込ませ、動きを止めていた。

 

「外の装甲が厚くても内側からなら話は別…!この距離ならシールドもないよね!」

 

 

キュイィィィィィィ!!

 

 

すると簪の手の中にある何かが光を放ち、

 

「私には…あの人から託されたものがある!」

 

 

カッ!!!

 

 

その言葉と共に、簪の手から凄まじいエネルギーが放出された。

 

 

…………

 

先日の出発直前の事、

 

海之

(……簪、刀の礼という訳はないがお前にこれを渡しておく)

 

そう言って海之はブルーローズを渡す。

 

(! で、でもそれはネロさんの、海之くんの大事なものじゃ)

海之

(この戦いが終わる迄だ。それに俺がお前に預けたいからそうする)

 

簪はそう言われてブルーローズを受け取る。

 

海之

(簪、お前はもう守られてばかりのお前ではない。もしもの時はお前が刀奈さんや皆を守れ。あいつ(ネロ)の様に)

(わ、私がお姉ちゃんを助けるなんてそんな…寧ろ私の方が)

海之

(何度も言わせるな。お前はもうあの時のお前ではない。強い女で…立派な戦士だ)

(海之くん…)

 

海之の言葉を簪は手に持つ拳銃にしては重いブルーローズを手に受け止めた。

 

海之

(守るという事は決して簡単な事ではない。しかし、今のお前にはそれができるだけの力がある。俺はそう信じている)

(………ありがとう)

 

 

…………

 

ダメージが限界を超えた獣は消え去り、ダリルとフォルテは元に戻った。ダリルはその場に大の字で寝転がり、フォルテは力なく座り込んでいた。

 

ダリル

「ゼィ…ゼィ…やっぱ…勝てなかった…か…」

フォルテ

「ハァ…ハァ…悔しい…っ スね…」

 

そんなふたりに話しかける簪。

 

「ふたり共…大丈夫?」

ダリル

「…はは、ほんっとに甘い奴らだなアンタら…。私らは敵だぜ?」

「敵だなんて言わないで…」

フォルテ

「アンタらがそう思ってなくても他の連中はきっとそう思ってるっスよ…。私達は国を裏切ったテロリストだって…」

刀奈

「……」

ダリル

「ハァ…ハァ…。さ、もういいだろ?勝ったんだから私らの事は放ってさっさと行きな」

 

すると簪が尋ねる。

 

「ねぇふたり共…教えて。なんでこんな事に協力したの?」

 

するとダリルは座り直して、

 

ダリル

「ふっ…。何度も言ったろ?叔母さん達のためだ」

フォルテ

「私は…ダリルを支えるためっス」

「ケイシーさんの…確か叔母さんだよね?」

ダリル

「私にとってこの世で最も大切な人だ。そんな人に協力するのになんか理由があんのか?てかおめぇらも同じだろ?」

フォルテ

「…知ってるっスよ。アンタら国の帰還命令蹴ったんっスよね?理由はあの兄弟と一緒に戦うため、そんな感じじゃないっスか?」

「……」

刀奈

「その通りよ。でもそれが全てじゃない。彼らと共に戦う事が…世界のために確実だと思ったからよ」

 

それを聞いてダリルが、

 

ダリル

「……やっぱオーガスの旦那が言ってたのは単なるでまかせじゃなかったんだな。……あの人が言ってたぜ。世界を…新しく作り変える、てな」

「!! 世界を…作り変える…!?」

刀奈

「……」

(あの男が言ってた魔界の様な世界って事かしら…?)

フォルテ

「あの人の考えが何なのか、私達にはわからないッスけど、……なんとなくとんでもない事考えてるってのはわかったっス…」

ダリル

「ああ…。けど私にはそんなの関係ねぇ。オーガスに叔母さんが協力してんなら…私も協力するまでさ…」

「…どうしてそこまで…?」

 

すると簪の問いかけに横の刀奈が答えた。

 

刀奈

「……アレクシア・ミューゼル。彼女が貴女の人生の恩人だから、かしら?」

「! じ、人生の…恩人?」

ダリル

「……」

フォルテ

「ダリルの事調べたんスか?」

刀奈

「全部じゃないけどね。…良かったら話してくれない?勝ったんだからご褒美としてそれ位してくれてもいいと思うわよ?」

ダリル

「……」

 

僅かな沈黙の後、ダリルは観念したかのように話し始めた。

 

……………

 

ダリル・ケイシーは叔母であるアレクシア・ミューゼルの妹夫婦の間に生まれた。しかしそれから間もなく、彼女の母親はダリルを置いて失踪してしまう。原因は父親である男の暴力や浮気、ギャンブルと様々である。母親の失踪後、父親は隙間なく浮気相手である女性と再婚した。しかし父親も、そして再婚した女性もダリルを愛さず、殆ど放置状態であった。しかも父親はギャンブルや酒が絡むと暴力的になり、まだ生まれて間もない赤ん坊のダリルに折檻を下した。殺してしまうと面倒事になってしまうため、殺さないギリギリの傷を与えて。そんな彼女を心配したのが当時アメリカ空軍に所属していた叔母のアレクシア・ミューゼル、今のスコール・ミューゼルであった。妹が失踪する前に少なからず父親の事を聞かされていた彼女はある日父親と連絡をつけ、ある条件を出した。

 

「自分がダリルの養育費を出す。そちらの生活も支援する、その代わりもう決してダリルに危害を加えないでほしい」

 

父親はそれを了承し、アレクシアはそれから金を送り続けた。これでダリルは助かると安心していた。

……しかしアレクシアのそんな願いは裏切られた。軍の任務で多忙を極めていた彼女はそれ以降連絡を取っていなかった事がふと気になり、密かにダリルの周辺を探ってみたのだ。すると驚きの情報が入ってきた。一歳になりたてだったダリルの環境は全く変わっておらず、再婚した女も同じ様に間もなく失踪してしまい、父親である男は送られてきた養育費を全て酒と博打につぎ込んでいたのだった。

 

「このままでは本当にダリルの命が危ない」

 

アレクシアは決意した。姪であるダリルを義娘として引き取ろうと。しかし腐った男とは言え彼女の実の父親には違いない。向こうがNOと言えばややこしくなるかもしれないし、まだ一歳のダリルには自己主張する力もない。かといって強引に事を起こせば激高してダリルの命が本当に危ない可能性もある。そんな状況でアレクシアの耳にある情報が軍から飛び込んできた。

 

「とある任務へ参加せよ。この任務には別途報酬があり、それは本人が望むだけ与えられる」

 

という内容だった。やや不思議に思いながらもアレクシアはこれを承諾。彼女が望んだ報酬は、

 

「姪の命を救ってほしい。もう二度と父親と会わせないでやってほしい。自分の財産の全てを姪のために使ってやってほしい」

 

…………

 

刀奈

「……そんな経緯があったのね」

ダリル

「まだ私が覚えてないとクソ親父は思ってた様だがあの時の痛みは身体に残る傷達が覚えてるぜ…。だが叔母さんのおかげで私は解放され、政府の観察下に置かれた」

フォルテ

「ダリル…」

「じゃあ…あのスコールって人がアインへリアル計画に参加したのって…!」

ダリル

「……私を助けるためさ。叔母さんは…私のために自分の未来を捨てたんだ。後にそう聞かされた時は…本当に心底申し訳ないと思ったさ…」

「……」

 

簪は驚きのあまり言葉が無い。

 

ダリル

「でもアイツから解放されても親もいないしやりたい事も無かった私は中学時代まで脱け殻の様に生きてきたよ。……でもある時偶然、叔母さんが今も生きているという事を知ったんだ。……テロリストのファントム・タスクとして」

刀奈

「アインへリアル計画で死んだと思ってたのね」

ダリル

「…許せなかった。叔母さん達をあんな計画に巻き込んだ世界の奴らが。そして決めた。叔母さんに救われたこの命、今度は私が叔母さんのために捧げるって。ISを動かせると知って私はそれから死ぬ物狂いで頑張った。代表候補になったのも専用機を持ったのも…全てはあの人のため…」

「ケイシーさん…」

刀奈

「…フォルテ・サファイア。貴女はどうしてこんな事に協力しているの?」

フォルテ

「……」

 

…………

 

それからフォルテもまた話し始めた。

フォルテ・サファイアは幼い頃、彼女は今の気が強い性格とは全く真逆の虫も殺せない位の大人しい静かな子供だった。その上いつも親や他人の目を気にして自分を前に出せず、子供らしく友達を作ろうにも何かを欲しがってもその性格が災いしてどうあっても成し遂げられなかった。そんな彼女を両親は育児放棄する事こそしなかったがどうすればよいのかわからないまま時は流れていった。

……そしてある時、そんなフォルテに更なる事態が起こる。ギリシャ国民に向けてIS適性検査が行われ、彼女にも「IS適正あり」という診断が出されたのだ。この事態にギリシャは一時騒然となり、彼女と共に少数のごく僅かな適正者から未来の国家代表候補を育てるために必死となった。彼女とベルベット・ヘルが出会ったのもこの頃である。

だがこれはフォルテにとって決していいものではなかった。外の世界を避けていたのにこの件で今まで以上に自分にそれが注がれているという事態に彼女は恐怖を覚えたが、未だ自分の意見を通せなかった彼女は止む無く流され続ける結果となった。

 

「私なんかどうせ大したものにはならない」「何時か潰れる」

 

と当時の彼女は心の中で思っていた。

……しかし運命はフォルテに更に重荷を背負わせた。適当に流している彼女の思いとは裏腹に彼女のIS操縦技術はみるみる成長し、やがてギリシャの代表候補に選ばれてしまっただけでなく、遠く離れた日本のIS学園に転校する事になったのである。見知らぬ土地と人々、更に望んでもいない未来に彼女の心はますます暗くなっていった…。

 

…………

 

フォルテ

「…そしてある時、ひとりで隠れる様にいた私に、ダリルが話しかけてきたっス。最初は怖かったんすけど…その時言われたんス…」

 

 

(お前…昔の私によく似てるよ。風にふかれっぱなしの草みたいなね。…私も少し前まで色々あった。自分がこの世界にいる理由も、なんで生まれてきたのかもわからない様な、そんな人生を過ごしてきた。……でも今は違う。今の私にはやる事がある。何よりも大切なものがある。国も親も親友も、何もかも全てを捨ててもやりたい事がね。…お前もそんな事ねぇのか?もし今の人生そのものがお前の枷となってんなら、いっそ全部捨ててみたらどうだ?もっと自由になってみなよ。そうすりゃ案外見つかるかもしれねぇぜ?お前の…何よりも大切なもんがよ)

 

 

フォルテ

「…そんな事を言われたのは初めてだったっス。そして興味も持った。今までのもの全部捨ててもやりたい事なんて…。そしてそれがダリルの叔母さんの事だとわかって、私は…ダリルを助けたいと思うようになったっス…」

「……」

刀奈

「そのために国を捨てても?」

フォルテ

「国なんて私の事を宣伝品としか見てないっス。代表候補なんて皆そんなもんスよ…。アンタも覚えがあるんじゃないですか?モデル撮影やったり写真撮ったり」

刀奈

「……」

 

確かに国家代表や代表候補は単に操縦だけじゃなく、プロマイド撮影やモデル撮影を行う事も多い。それらは全て国の宣伝である事はある種間違っていない。

 

ダリル

「でも私にはそんな事どうでもよかった。国家代表候補になったのも専用機を持ったのも…全ては叔母さんの力になるため。それだけだったんだ…」

フォルテ

「私は…そんなダリルの力になりたかったんス。ダリルの言葉で…私は変われた様な気がしたっスから…」

ダリル

「でも…もう、そんな力もねぇ…。残念だけどな…」

 

ダリルとフォルテもやり方はどうあれ、大切な人のために、それが戦う理由だったのだ。

 

「……ふたり共、私達と同じなんだね。ふたりも…自分の大切な人のために」

ダリル・フォルテ

「「……」」

「でも…それでもこんな事は間違ってるよ。ダリルさんの叔母さんは…ダリルさんに生きてほしかったからそうしたんでしょ?だったら…ダリルさんが叔母さんのためにするべき事は…ダリルさんが幸せになる事じゃないの?それまでの人生とは違う…新しい人生を歩んでいくことじゃないの?」

ダリル

「私の幸せは叔母さんのために…!」

 

するとフォルテが、

 

フォルテ

「ダリル…。もしかしてスコールさんはそれであの時…」

ダリル

「……!」

 

その時ふたりは以前スコールに言われた言葉を思い出した。

 

 

(貴女達の身に何か危険が及んだら素直に降伏しなさい。そして新しい人生を始めなさい)

 

 

刀奈

「…どうしたの?」

フォルテ

「実は…」

 

フォルテはあの時の言葉を刀奈と簪に話した。

 

刀奈

「…どうやら簪ちゃんの言った通りの様ね。表向きには貴女達の協力を有難がっても、本音ではこんな事に協力してほしくない。それが多分、アレクシア・ミューゼルの願いの筈よ。だからそう伝えた。罪を償い、ちゃんと生きてほしいっていうね。…ダリル・ケイシー、貴女が誰よりも寵愛している人がそう言ったのよ?だったら…貴女のすべきことはわかるわよね?」

 

 

(…御免なさい。貴女達を巻き込んで…)

(罪を償って…新しい人生を始めなさい…)

 

 

ダリル

(……それが、叔母さんの本当の願いなのか?…私は、叔母さんを助けてるつもりだったのに…叔母さんを逆に苦しめていた…?…私の…自己満足だったのか…)

フォルテ

「ダリル…」

 

すると簪は未だ力が戻ってないふたりの肩に手をかけて、

 

「ふたり共…お願い。ちゃんと罪を償って?そして…良かったら友達になろうよ。私も、私の友達も皆いい人ばかりだよ。ふたりを悪く言ったりなんかしないよ」

ダリル・フォルテ

「「……」」

 

そう訴えた。

 

刀奈

「貴女達にもそれなりの理由がある。それにスコール・ミューゼルが言った事が本当なら貴女達の罪は幾分軽くなる筈。私達がちゃんとそれを伝えてあげるわ。…でも今はそれは後回し。今は何よりあのオーガスって男を止めないと」

「そうだね。ふたりは」

 

とその時だった。

 

 

簪・刀奈・ダリル・フォルテ

「「「!!??」」」




※次回は二週間後の14日(土)の予定です。

ダリルとフォルテの出生は完全にオリジナルです。
最近無茶苦茶暑くなって外に出るたびに軽い熱中症になっている様な気がします。そのせいで頭が回らなかったり動きも悪くなったり。
皆さんもくれぐれもお気を付けくださいね。


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Mission200 トロメア① 魔を呼ぶ引鉄

ダリルとフォルテが起動させたDNSによってふたりは双頭の獣の様な悪魔のDISへと融合してしまった。簪と刀奈はそれが持つスピードと勢いに、そして初めて戦うDISの力に苦戦する。それでも姉妹らしい連係、そして簪の奇策も加わって必死に抵抗し続け、辛くも勝利を勝ち取る。
戦いの後、簪と刀奈はダリルとフォルテに何故この様な事に協力したのか問い質すと、彼女らも自分達を救ってくれた大切な人の力になるためだったと知る。ふたりの心と事情を知った簪と刀奈は自首を薦め、新しい人生を生きてほしいと訴えたのだった。


「トロメア」

 

 

「カイーナ」「アンティノラ」にて箒や簪達の戦いが始まった時、この「トロメア」でも…、

 

 

オータム

「謝るなら今の内だぜ!つっても許してやるつもりはねぇがな!」ズドドドドドド!!

 

 

そう言いながらオータムは自らの機関砲を撃つ。鈴達は散開してそれを避ける。

 

(くっ…!こっちは四人、あっちはひとり!落ち着いていけば必ず勝てる筈!)ズドドドッ!

ラウラ

(喰らえ!)ズドズドンッ!

 

そう言って鈴は龍哮、ラウラは両肩のキャノンを撃つ。

 

オータム

(…ふん)…サッ!!

 

しかし、オータムはそれを無駄のない動きで避ける。…というより最初から殆ど動いていない。つまり外れたのだ。

 

(! 嘘!?)

ラウラ

(外れただと!?)

セシリア

(ラウラさん達の攻撃が当たらなかった!?でも!)ドドドンッ!!

シャル

(四人で囲って攻撃すれば!)ズドズドン!!

 

セシリアとシャルは続けざま、スターライトとエピデミックを撃つ。

 

オータム

(……)

 

シュンッ!シュンッ!シュンッ!

 

……しかしこれもどちらも避けられる。

 

セシリア

(! これも避けた!?)

シャル

(当てるつもりだったのに!)

オータム

(…さてそろそろか)ドンッ!ドンッ!

 

驚くふたりにオータムが自らのレーザーを撃ってくる。

 

シャル

(くる!でも!)

セシリア

(そんな直線の攻撃!)

 

飛んでくるレーザーを避けるために動こうとするセシリアとシャル。、

 

 

…グラッ

 

 

シャル・セシリア

((…え?))

 

ドガァァァンッ!!

 

シャル

(うわあぁぁ!)

セシリア

(きゃあああ!)

 

しかし避け切れず、攻撃を受けてしまう。

 

(シャル!セシリア!)

ラウラ

(おのれ!)ズドンッ!ズドンッ!

 

ラウラは続けて撃つ。……しかしまたしても当たらない。

 

(どうなってんの!?また当たらないなんて!)

ラウラ

(ならば直接行くまで!)

 

鈴は双天牙月を、ラウラは両腕にビーム手刀を繰り出して斬りかかる。対してオータムはアラクネの脚から二本ブレードを出す。

 

ラウラ

(二本だけだと?なめた真似を!)

(そんだけで私達の攻撃を受け止められると思ってんの!)

 

鈴はそう言って斬りかかるが……、

 

キィィィンッ!ガキンッ!

シュンッ!シュンッ!

 

オータム

(……)

 

鈴とラウラの攻撃は全て受け止められていた。時にはかわされたりもしている。

 

ラウラ

(ど、どういう事だ…!?何かおかしい!)

(どうなってんの一体!?)

 

その様子をおかしく思うふたり。そしてこの時、彼女らにある異変が生じていた。

 

(ハァ…ハァ…。なんか…いつもより息切れが早い…!)

ラウラ

(くっ…私がこの程度で疲れるなど!)

 

撃ち合いは続いているがその中で鈴とラウラに急激な疲労感が出始めた。

 

オータム

(…オセェんだよ!!)

 

ズガンッ!ズガンッ!

 

(きゃああ!)

ラウラ

(ぐあ!)

 

ふたりの隙を突いてオータムのブレードが当たった。更に追撃しようとするオータム。

 

シャル・セシリア

((させない!))

 

シャルとラウラがグラトニーとローハイドで斬りかかる。オータムはそれを避ける。その隙にシャルとセシリアが倒れたふたりに駆け寄り、言葉をかける。

 

シャル

(鈴!ラウラ!大丈夫!?)

 

シャルはふたりに話しかけた。…しかしその時ふたりがある異変に気付く。

 

(……?シャル、なんでちゃんと喋らないの?)

ラウラ

(何故声を出さない?)

 

ふたりは不思議に思った。目の前のシャルは必死にふたりを心配して声をかけているが……その声が全く聞こえなかったのだ。口の形から何か言っているのはわかるが…。すると横からセシリアが、

 

セシリア

(鈴さん!ラウラさん!)

 

ふたりの名を呼びながら自分の耳を指差す。そしてこれがきっかけで鈴とラウラは自分達の異変に気付いた。

 

(……!! 嘘!)

ラウラ

(……!耳が……聞こえない!?)

 

戦いを始めたばかりの時は興奮して気付いていなかったが自分達が発した言葉、そして戦いの中での爆音や剣がぶつかる音が一切聞こえていなかったという事に。しかも、

 

(くっ、それもだけどさっきから妙にふらふらするし…!)

ラウラ

(まるで目を回しているみたいだ…!)

 

目を回すような事など一切していない筈なのに…何故か身体が重く感じる。ここにいる全員がそれを感じていた。

 

ドドドドドドドドドッ!

 

鈴・シャル・ラウラ・セシリア

「「「!!」」」

 

すると固まっている鈴達四人にオータムの銃撃が迫る。避けようとするが、

 

…グラッ!

 

セシリア

(! 駄目、身体がふらついて!)

シャル

(くっ!アンバーカーテン!!)

 

ババババババババババ!!

 

鈴だけでは無くシャルやラウラ、セシリアも一緒だった。間に合わないと悟ったシャルはすかさず自身のカーテンを最大にしてなんとか防ぐ。

 

シャル

(ハァ…ハァ…)

(シャル!)

ラウラ

(くそ!一体どうなっている!?耳だけでなく身体のバランスまで狂わされている様だ!)

セシリア

(船にも乗ってないのに船酔いにでもあっている様ですわ……!ま、まさか!?)

 

なにか分かったらしいセシリアはモニターを通して字で伝える。時間はかかるが聴覚が効かない現状では視覚が唯一の連絡手段である。

 

鈴・シャル・ラウラ

「「「!!」」」

 

そしてそれを見た鈴達に驚きの顔が浮かぶ。

 

(嘘…でももしそうだとしたら…!)

シャル

(今の変な感じも説明ができる…!)

ラウラ

(まさかそんな事が…!)

 

そしてそんな彼女らを見ていたオータムも、

 

オータム

(どうやら奴らも気付いた様だな。この「トロメア」の秘密…「耳を破壊される」仕掛けの事に…)

 

 

人間が持つ数多くの感覚の基本となっているのが嘗ての哲学者アリストテレスが提唱した視覚・嗅覚・聴覚・味覚・触覚の五つ、つまり五感である。この中で唯一人間が音による感覚を得る方法が聴覚であり、その役割を担っているのが耳である事は周知の事実である。

 

耳にはふたつの重要な役割がある。ひとつは文字通り音を拾う事。

音を集めやすい外耳、空気の振動として伝える鼓膜を持つ中耳、どういう音かを分析し、脳に伝える蝸牛を持つ内耳の三つによって成り立っている。

 

そしてもうひとつは身体の平衡感覚の維持というものがある。

これを担っているのが中耳の中にある三つの半規管であり、身体の動きに合わせて中にあるリンパ液が適度に流動運動をおこし、身体の平衡感覚、バランスを担っている。これが狂わされると極度の眩暈や吐き気に襲われたりする事がある。

鈴達が受けているのはまさにそれであり、今まで攻撃が当たらなかったのは知らぬ内に平衡感覚が狂っていたせいで正しく狙いをつけられていなかったからだった。

 

 

オータム

(視覚を奪われる「カイーナ」、触覚を奪われる「アンティノラ」。ここでの戦いで生き残った奴らが運び込まれるのがこの聴覚を奪われる「トロメア」。人間には聞こえねぇ特殊な波を流しているらしいが…あのガキ達は初見だからさぞかし辛ぇだろうよ。もう既に腐るほど味わってる私らにはこんなの意味ねぇがな!)ズドドドドドドド!!

 

オータムは固まっている鈴達に向けて自身の銃を連射する。鈴達は避けるが直ぐに反撃に移れない。

 

オータム

(てめぇらには何にも聞こえねぇが私にははっきり聞こえているぜ。この部屋で、この腐った計画で死んじまった奴らの亡霊の雄叫び…。そして私を馬鹿にした奴らの声が!)

 

過去に何かあったのか、憎しみのままオータムは避け続ける彼女らに攻撃を浴びせ続ける。

 

オータム

(は!こりゃDNSはおろか、あの野郎から受け取った奴も使う必要なんてねぇな!)

 

そして鈴達は、

 

(くっ!このままじゃ撃たれるまま……うっ!)

 

目眩に襲われまま高速で動きまわるのはとてつもない負担が身体にかかる。吐き気を催し思わず口を押さえる。

 

オータム

(とった!)ドゥン!!

(!)

 

空かさず鈴の一瞬の隙をついて斬りかかるオータム。

 

ガキキキン!

 

セシリア

(させませんわ!)

シャル

(鈴はやらせない!)

 

セシリアのローハイドの鞭、そしてシャルのアーギュメントが持つアンカーユニット、グレイプニルがアラクネの脚を絡めとる。

 

(ふたり共!…はあああ!)

 

鈴は身動きとれない形となったオータム目掛け、斬りかかろうとした。…しかし、

 

オータム

(…甘ぇんだよ!!)

 

 

ドスッ!ドスッ!ドスッ!

 

 

突然アラクネの脚先から針の様なものが飛び出し、それが三人のISのシールドに突き刺さった。ダメージは無い。

 

(こんな針位で……!?)

セシリア

(あ、ISが…動かない!?)

シャル

(な、なんで!?)

 

しかし針が刺さった途端、自分達のIS達の動きが封じられていた。

 

オータム

(ククク…蜘蛛の毒って奴だ。今の針にはISの動きを封じる機能があんのさ。長くはもたねぇし全員は無理だがひとりぶっ倒すには十分だな!)

 

ブゥンッ!ブゥンッ!

 

シャル・セシリア

((きゃああ!!))

(ふたり共!)

 

自らを拘束していたシャルとセシリアを払い、オータムは動けない鈴に再度突進する。

 

オータム

(あばよ!!)

 

とその時、

 

 

…ドォォォォォン!!

 

 

オータムの後ろから何かが直撃した。不意打ちだったので怯むオータム。

 

オータム

(ぐっ!!…なにぃぃぃ!?…!!)

ラウラ

(…ハァ…ハァ…)

 

見るとラウラがオータムに向けて照準を合わせていた。

 

オータム

(てめぇぇぇ!)ジャキッ!ズドドドドッ!

 

オータムは鈴からラウラに狙いを変える。……しかしラウラが今度はそれを見事に避け、パンチラインを構えて向かってくる。

 

オータム

(当たらねぇ!?)

ラウラ

(はぁぁぁぁ!!)

オータム

(くっ!)

 

ドゴォォォォッ!

 

止む無くオータムはブレードで受け止める。

 

オータム

(くっ…なんでだ!この状況でどうして急にそんな……!)

 

オータムは気付いた。見るとラウラの眼帯が取れ、その下の目が金色に光っている。

 

ラウラ

(まさか再びこれを使う事になるとはな…)

 

それはラウラのヴォーダン・オージェの光だった。ヴォーダン・オージェは使用すると視覚による情報収集能力、そして脳への伝達速度を大幅に向上させる疑似センサーにして有機生体部品である。身体への負担も大きいがこれによって通常以上の動体視力を手に入れられる。過去の事もあり、ラウラやクロエはこれを嫌っていたのだが…、

 

ラウラ

(だが仲間を、皆を救うためなら…こんなもののひとつやふたつどうという事はない!!)

 

その強い決意のもと、ラウラはこれを使ったのだった。

 

ガキンッ!キィィンッ!

 

オータムは全ての脚からブレードを出し、ラウラを責める。一方のラウラは両腕にビーム手刀を展開し、ヴォーダン・オージェの力で攻撃を避けながらこちらも攻撃を繰り出す。

 

オータム

(ちぃ!雑魚のくせに!)ドォォォンッ!(ぐっ!)

(油断したわね!)

 

後方から毒針の拘束から解かれた鈴の龍哮が飛んできた。続けて、

 

ガキンッ!ガキンッ!

 

シャル

(僕達を忘れてたでしょ!)

セシリア

(私達はまだまだ倒れる訳にはいきませんわ!)

 

同じくシャルとセシリアが再びグラトニーとローハイドで斬りかかる。ラウラ、シャル、そしてセシリアに押される形となるオータム。

 

ガキンッ!キィィィンッ!ガンッ!ガキキキンッ!

 

オータム

(…ちっくしょぉぉ…うぜぇんだよお前らぁぁ!!)

 

 

カッ!!!

 

 

オータムの怒りがDNSを起動させた。彼女の身体が黒き炎に包まれた。その勢いに已む無く離れるラウラ達。

 

オータム

(ああああああ!!)

(!!)

シャル

(あの時の一夏と同じ!まさかDNSってやつ!?)

セシリア

(ラウラさん大丈夫ですか!?)

ラウラ

(……ハァ。き、気を付けろ!来るぞ!)

 

 

……シュバァァァァ!!

 

 

やがて黒き炎が飛び散り、中にいるオータムの姿が露わになった。それは以前火影と海之が戦ったDISベオウルフだった。

 

オータム

(テメェラ…ぶっ潰す!!)

ラウラ

(あの姿は!)

シャル

(確か…火影がテメンニグルで戦った悪魔だ!)

 

ドゥンッ!!

 

激昂したオータムは怒りのまま鈴達に向かう。

 

セシリア

(! 皆さん散開を!!)

 

鈴達は散開して攻撃をよける。

 

ラウラ

(くっ!…ゴホ!)

 

だがその時ヴォーダン・オージェの影響か、ふらついて止まったラウラ目掛けてオータムが剛腕を振りかざし向かってくる。

 

オータム

(おらぁぁぁ!!)

ラウラ

(!!)

 

ガキキキキキキンッ!!

 

そこに鈴・シャル・セシリアが割って入る。

 

鈴・シャル・セシリア

(((はぁぁぁぁぁ!!)))

 

ガンッ!!

 

オータム

(くっ!何!?馬鹿な!)

 

押し返された事に動揺するオータム。その間に四人は文字による連絡を続ける。

 

ラウラ

(すまん皆、助かった!私が直接相手をする!皆は離れて援護してくれ!)

 

皆を気遣ってラウラは自分が前に出て戦おうとする。しかし、

 

セシリア

(無茶です!ラウラさんも消耗しているではありませんか!)

(その頼みは聞けないわ!それにDISといってもアレならなんとかなる!)

シャル

(僕達も戦えるから!その目を使うのは止めてラウラ!)

ラウラ

(皆…)

オータム

(てめぇぇらぁぁぁ!!)

 

ズギューン!!ズギューン!!

 

オータムは続けて目からのレーザーを撃つ。……しかしそれを鈴達は先ほどよりも無駄のない動きで避ける。

 

オータム

(ちっ!奴らの動きがさっきよりキレがありやがる!この短い時間で順応してきたってのか!)

セシリア

(行きなさいティアーズ!!)ドドドドドンッ!

 

セシリアのビットによる編曲レーザーがオータムに向かう。それをオータムは避けながら、

 

オータム

(しゃらくせぇ!)ズギューンッ!

 

ガガガガガンッ!!

 

それをオータムは自らのレーザーで撃ち落とす。…しかし、

 

シャル

(残念!囮だよ!)ズドォォンッ!!

 

ドガァァァンッ!!

 

後方からシャルのリヴェンジ改のレーザーが直撃する。

 

オータム

(ぐああ!!)

ラウラ

(今だ!!)

 

 

カッ!バシュゥゥゥゥゥッ!!

 

 

オータム

(!か、身体が!まさかこれは!)

 

それはラウラのレーゲンにあるAICだった。

 

ラウラ

(今だ皆!!)

(いっけぇガーベラ!!)ズドドドド!!

セシリア

(もう一度行ってティアーズ!!)ズドドドド!!

シャル

(これで…決める!!)ズドォォォォ!!

 

ラウラの合図で三方からの砲撃がオータムに向かい、

 

 

…ドガァァァァァァァァン!!

 

 

オータム

(うわぁぁぁぁぁ!!)

 

身動きが取れないオータムに、正確にはそのDISに直撃した。

 

オータム

(ぐ、ぐぐぐ…!)

シャル

(やった!かなりのダメージみたいだよ!)

セシリア

(一気に決めましょう!)

オータム

(…おぉぉぉぉぉぉ!!)ガシッ!

 

するとオータムは両手を組み合わせ、

 

オータム

(ぶっ潰れろぉぉぉぉ!!)

 

 

ドゴォッ!!…カッ!!

 

 

鈴・シャル・ラウラ・セシリア

(((!!)))

 

 

ドガァァァァァァァンッ!!!

 

 

オータムは組んだ拳を思い切り地面にたたきつけた。衝撃波、ヴォルケイノが巻き起こり、凄まじい衝撃の波が走る。地面だけでなく四人がいる空中にも伝った。

 

……パラパラ……

 

オータム

(ハァ…ハァ…。やっと消えたか…なめやがって)

 

シュンッ!シュンッ!

 

(残念!)

セシリア

(そうはいきません事よ!)

オータム

(!!)

 

オータムの後ろにはアービターを構えた鈴とローハイドを構えたセシリアがいた。

 

鈴・セシリア

((これで終わりよ(ですわ)!!))

 

 

ズガァァァンッ!ズガァァァンッ!

 

 

オータム

(ガアアアアアア!!)

 

ふたりは後ろから思い切り斬りかかった。そのダメージにオータムは絶叫を上げ、そして、

 

…キュイィィィィン

 

今の攻撃でダメージが限界に差し掛かったのか、オータムが纏うDISベオウルフの姿は消え、人間体に戻った。

 

オータム

「ば…かな!あの時…テメェラ確かに!」

シャル

「あ、声が聞こえた」

「どうやら今ので勝負がついた様ね」

 

するとこちらも「アンティノラ」の時と同じく今の攻撃で勝負がついたのか、耳の違和感が消え、声が聞こえる様になった。

 

ラウラ

「私が衝撃波が到達するのに一番遠い場所を見つけたのだ。そしてそこに避難した」

シャル

「そして僕がカーテンで阻止したんだ」

オータム

「……ちっくしょぉぉ…、何故だ、何故こっちの動きが…ここまで!」

「アンタのDISについてはあらかじめ火影達から聞いてたのよ。戦い方とかね。だから決して絶望する感じはなかったわ。知らない奴が出てきたらまずかったけど」

オータム

「あの兄弟か…!だがあの計画を生き残った私が…なんでてめぇらみたいなガキに…!」

 

多勢に無勢とはいえオータムは自らの敗北に怒りを覚え、悔しそうに顔を歪める。そんな彼女に四人は言う。

 

セシリア

「…分からないのですか?」

オータム

「…何!?」

シャル

「僕達には…負けられない理由があるの。どうしても負けられない理由が」

ラウラ

「ああ。最初は戸惑いこそしたが、そのためならお前達が仕掛けた罠など…どうという事は無い」

「アンタは確かに強いかもしれないわよ。でも私達はもっと強いやつを知ってる。そして私達はそいつらに付いていくために必死にやっているつもり。多分一生及ばないだろうけど…あいつの力になりたいという想いがが私達を強くしてくれる」

シャル

「うん。それに…僕達はひとりじゃないもの。あの時ラウラがあの力を使ってくれなければ危なかったし」

セシリア

「そう。貴女の敗因はただそれだけですわ」

オータム

「…くっ!」

 

オータムは顔を背ける。

 

「さて…勝負は私達の勝ちってことでいいのよね?下に行く方法を教えて貰うわよ」

 

鈴、そしてシャル達も尋ねる。……しかしオータムは、

 

オータム

「まだ……まだ、負けちゃいねぇ!」

 

ふらつきながらも立ち上がる。

 

シャル

「まだ戦うつもり!?」

ラウラ

「よせ。そんな状態で」

オータム

「見下してんじゃねぇ!!…負けられねぇ理由ならこっちにもあんだよ!私はまだ戦えるぞ!」

 

そう言うオータムの片手には…あるものが握りしめられていた。

 

セシリア

「あれは……スイッチ?」

オータム

(…オーガスの野郎め…)

 

セシリア達がそれを不思議がる中、オータムの脳裏にはこれを渡された時のオーガスの言葉が浮かんでいた…。

 

 

オーガス

(これを使えば今まで得た事もない様な力を手に入れられるだろう。…しかしよく覚えておくことだな?力にはそれ相応の代償を伴う。果たして貴様ごときがそれに耐えられるかどうか…。楽しみにさせてもらうぞ?…クククク)

 

オータム

(……舐めやがってあのクソジジイ。…だが今は乗ってやろうじゃねぇか。…私は負けられねぇんだ。世界のクソ共に復讐するまでな!!)

 

そしてオータムはそれを持つ手を高く上げ、宣言した。

 

 

オータム

「力を寄越しやがれ!……デビルトリガー!!」

 

 

鈴・シャル・ラウラ・セシリア

「「「!!」」」

 

ガチッ!

 

オータムは強くスイッチを押し込んだ…。

 

 

 

カッ!!ゴォォォォォォォォォォッ!!

 

 

オータム

「あ、ああああああああああ!!」

鈴・シャル・ラウラ・セシリア

「「「!!」」」

 

そして次に気が付いた時、オータムは黒き炎に包まれた。頭を抱えながら再び絶叫を上げる。

 

「な、何なの!?またDNSって奴!?」

ラウラ

「くっ!なんて熱量だ近づけない!」

シャル

「でももうそれを使うだけの力なんて残ってない筈じゃ…!」

セシリア

「な、何が起こってるんですの!?」

オータム

「ぐああああああああああああ……!!」

 

 

…ドクンッ!…ドクンッ!…ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!…

 

 

すぐ耳元で聞こえている様に高い心臓の脈動、それをオータムは感じていた。こんな事は今までのDNSには無かった。更に、

 

(………力を求めんとする愚かな人間がまた現れたか…)

 

オータム

(!! な、何だ!?何だこの声は!?)

 

オータムの耳に突然声が響いた。それは耳元でささやかれたか、若しくは自分の中から聞こえている様にも感じた。謎の声は言葉を続ける。

 

(だが…その程度の力で我が力を享受しようというのか…。あのお方もお戯れをなされるものよ……)

 

オータム

(何を、何を言ってやがんだ一体!?)

 

(……まぁ良い、貴様の身体、使わせてもらうぞ。有難く思うがいい…フハハハハハハハ!!)

 

オータム

「がああああああああああああ!!」

 

そして、

 

 

……シュバァァァァァァァァァ!!

 

 

鈴・ラウラ

「「くっ!」」

シャル

「うわ!」

セシリア

「きゃああ!」

 

断末魔ともいえるその声と同時に漆黒の炎、…いや光が周辺に飛び散った。先ほどのDISベオウルフに変身した時以上のその勢いに鈴達は思わず目を閉じる。……そして約数秒後、漸くその光がマシになってくると、

 

「……い、一体何が……!!」

 

鈴達は目に映ったものを見て言葉を失った。

 

「……」

 

オータムがいたその場所にいたのは…異質な存在だった。これまでのDISと同じく機械ではある筈だが…その姿が奇妙としか言えない様なものであった。

 

シャル

「な、何…なの、こいつ…!?」

セシリア

「わ、わかりませんわ…!こんなの見たことも」

ラウラ

「なんと…異質な姿だ…!」

 

四人がその姿に恐怖していると…向こうも四人に気付いたのか目を向ける。そして、

 

「…………貴様らは何者じゃ?」

セシリア

「しゃ、喋った!?」

「それはこっちの台詞よ!アンタこそ何者よ!あのオータムって女じゃないの!?」

 

しかし目の前の存在はその言葉に返さず、自らの言葉を続ける。

 

「……そうか。貴様等があのお方が言っていた、スパーダの血族に加担する人間か…」

ラウラ

「! スパーダの血族…海之と火影の事か!」

シャル

「それに人間って……ま、まさか!」

 

するとその目の前の存在は翼を広げながら鈴達に向き合って名乗った。

 

 

マルファス

「…我が名はマルファス…。いずれ人間界を支配する…あの方に仕えし者である」

 

 

青い三人の女性の胴体が繋がった様な形をしている上半身。その真ん中にいるらしい女性は良く見るとオータムの顔に似ている気がする。

 

そして下半身はが巨大なドラゴンかモンスターの様な翼と鋭いかぎ爪を持つ脚、そして異様な頭部を持つ、最も近い生物だとまるで羽根が全て抜かれた、ゴツゴツした皮膚が向き出しになった、グリフォンとは違う怪鳥の様な姿をしている。

そんな上半身と下半身が接合している存在が…自らをそう名乗った。

 

「あ、悪魔…ですって!?」

シャル

「そ、そんな…!だってこの世界は魔界や悪魔とは関係ない筈じゃ…!」

セシリア

「もし例のDISというものだとしても…使った者の意志が残るか或いは暴走するだけの筈…!」

ラウラ

「答えろ!貴様はあの…オータムと言う女ではないのか!?」

 

悪魔という言葉に動揺した鈴達はマルファスと名乗ったそれに尋ねる。

 

マルファス

「…オータム?…ああ、妾の力を利用しようとしたあの人間の事か?…あの人間ならば妾が貰ってやったわ。今は妾の中よ…。口惜しいが、それが無くばこの世で身体を保っておられん故…」

シャル

「お、お前の中って…それに力を利用って…!」

セシリア

「多分…あの時の、白騎士となった時の一夏さんと同じではないでしょうか…?」

「…成程ね。あのバカ女も制御できず取り込まれてしまったって訳か…!」

マルファス

「…だがそれも暫しの辛抱。間もなくあのお方がこの世の全てを支配する。そうすれば妾もまた完全な肉体として生まれ変わる。裏切者スパーダの血族を滅ぼし、我らの大願を叶えて下さるのだ!」

 

勝ち誇った様に笑うマルファス。しかし目の前にいるとはいえ、既に悪魔の姿を見た事があるラウラ達もそれに負けず言い返す。

 

ラウラ

「それは無理な話だな!私の夫と弟があの様な男に負ける筈がない!」

シャル

「そうだよ!例えあのアルゴサクスっていう悪魔だとしてもね!火影と海之は絶対に勝つんだから!」

マルファス

「ほう、アルゴサクス様の事も知っておるのか。……だが貴様ら、まだわかっておらぬ様だな」

セシリア

「…?それはどういう意味ですの!?」

マルファス

「知らぬならそのまま死ねばよい。憎きスパーダの血族に加担し、あのお方の道を阻もうとする愚かな人間共よ」

 

 

バサァッ!

 

 

マルファスは自身の翼を広げ、狙いを定めた。

 

マルファス

「光栄に思うが良い。貴様らは妾がこの手で直接滅ぼしてくれよう。あのお方を倒そう等という腐りきった考えは、粉微塵程もあってはならんのだ!」

「できるもんならやってみなさい!アンタみたいな不細工に負けるもんですか!」

 

ここでも人と悪魔の戦いが始まった。




※次回は20日(土)の予定です。
申し訳ありません、前半部分しか完成していません。再来週でなく来週に後半を載せられそうです。本当にすいません…。
今回出てきたマルファスはDMC5のものとは別固体です。


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Mission201 トロメア② 魔を撃つ銃弾

「トロメア」にて鈴・シャル・ラウラ・セシリアとオータムの戦いが始まった。しかしオータムと違い自分達の攻撃が当たらない事や身体のふらつきに戸惑いを隠せない。それは部屋にいる人間の耳の機能を破壊する仕掛けの仕業だった。しかしヴォーダン・オージェを発動させたラウラ、そしてこれ迄の戦いや火影達との訓練が幸をそうした鈴達はその障害を克服、一気に攻勢に移る。怒りのオータムはDNSを使うが念のために事前に戦いかたを教えてもらっていた鈴達には及ばなかった。
ダメージが大きいオータム。勝利を確信する鈴達だったが、その時オータムの手にはあるものが握られていた。デビルトリガー…そしてそれを使ったオータムは悪魔マルファスへと変わったのだった。


マルファス

「あの方に歯向かおうとする愚かな人間共よ…。光栄に思うがいい。妾の手にかかって死ぬ事をな!」

 

マルファスがそう言うと下半身?である鳥が翼を広げ、咆哮を上げた。

 

「アンタみたいな不細工に負けてたまるもんですか!」

ラウラ

「例え貴様が本当に悪魔でも私達は恐怖しないぞ!」

 

鈴達はマルファスを囲むように展開する。

 

シャル

「皆!同時に行くよ!」

セシリア

「一点集中ですわ!」

 

シャル達は四人で一斉に真ん中にいるマルファスに向け、照準を定めた。

 

「いっけぇぇぇ!!」

 

ズドドドドドドドドドッ!!

ズキュ―ンッ!ズキューンッ!

 

一斉に攻撃が向かう。

 

マルファス

「貴様らに見せてやろう…悪魔随一の魔術を、な」

 

 

……ドガァァァァァァァァァンッ!!

 

 

鈴達の一斉の攻撃がぶつかり、それらの相乗効果によって激しい爆発を起こした。マルファスがいた場所に煙が上がる。

 

ラウラ

「どうだ!?」

 

ラウラ達は動きを見る。…とその時、

 

 

ドガァァァンッ!ドガァァァンッ!

 

 

鈴・セシリア

「「きゃああ!」」

シャル・ラウラ

「「うわああ!」」

 

突然後ろから不意打ちの様な攻撃を受けた鈴達。

 

「な、何!?攻撃!?」

セシリア

「! 皆さん!」

 

セシリアが自分達の後方を示した先には…無傷のマルファスがいた。

 

ラウラ

「も、もうあんなところに!?」

シャル

「で、でも何時の間に!全然気づかなかったよ!」

マルファス

「どうした?居眠りでもしておったのか?では目を覚まさせてやろう」

 

 

ズドドドドドドドドドッ!!

 

 

マルファスがそう言うと地面から巨大な針のような形状の槍が地を這うように高速で襲い掛かってきた。

 

「皆避けて!」

 

全員が避ける。幸いな事にある程度の高さにいれば針は届かないようだ。

 

シャル

「そんな攻撃にISが当たるなんて思わないでよ!」

マルファス

「ほう、自由に宙を舞えるのか。だが、それで助かった等と思わぬ方がいいぞ?」

 

 

ズドドドドドドドドドッ!!

 

 

すると空中に逃げたシャル達に今度は地を這う槍よりもずっと高速の黒き槍が飛んできた。

 

セシリア

「速い!」

 

四人はそれを上下左右に動きながら避ける。それでも止まない攻撃が続く。

 

マルファス

「どうした?避けてばかりでは倒せんぞ?」

「くっ!そう言うけどこれじゃ攻撃に」ズガガガ!!「きゃあ!!」

 

鈴は黒き飛槍の攻撃を避けている間に地を這う槍に当たってしまった。

 

シャル

「鈴!くっ!」ギュイィィィィンッ!!

 

シャルのグリーフが向かう。しかし、

 

 

…ヴゥンッ!!

 

 

当たる寸前、マルファスのその巨体が消えた。

 

シャル

「き、消えた!」ズガンッ!!「うわああ!」

 

シャルの後方から攻撃が命中した。気付いた時、マルファスはシャルの後方の壁にへばりついていた。

 

セシリア

「鈴さん!シャルロットさん!」

ラウラ

「まさか瞬間移動か!」

 

 

ズドンッ!!ドガァァァンッ!!

 

 

セシリア

「きゃああ!」

ラウラ

「ぐああ!」

 

思わず動きをとめてしまったふたりにマルファスの猛烈な突進が当たる。

 

マルファス

「敵を前に止まるなど…愚か者の所業よ」

ラウラ

「あ、あんな巨体でなんてスピードだ!」

シャル

「それもだけどもしさっき消えたのが火影と同じ瞬間移動だとしたら…」

セシリア

「くっ…ええ。ハイパーセンサーに何も映らないのも納得ですわ!」

マルファス

「少しはわかったか。貴様ら如き小娘の分際が私に勝てるなどと、思わぬ方がいいぞ」

 

だが鈴達も言い返し、

 

「…人間なめんじゃないわよ!たっぷり見せてやるわ!」ズドンッ!ズドンッ!

マルファス

「面白いではないか!」シュンッ!!

 

鈴は龍哮を撃つがそれもまた躱される。

 

シャル

「また消えた!」

ラウラ

「どこだ!」

 

ドガガガガガンッ!!

 

鈴・セシリア

「「きゃああ!」」

シャル・ラウラ

「「うわああ!」」

 

そして再び同時に攻撃を受ける。それと同時にマルファスが再び現れた。

 

マルファス

「クククク、捉えきれまい。愚かな人間の目ではな!」

 

ズドドドドドドドッ!!

ズガガガガガガガッ!!

 

続け様に黒き飛槍と地を這う槍が襲い掛かる。それを鈴達は必死で避ける。

 

「くっ!どうなってんの一体!?」

シャル

「おかしい!瞬間移動しながら離れてる僕達ひとりずつじゃなく同時に攻撃するなんて…!」

セシリア

「あの謎の攻撃をなんとか見極めなければやられるだけですわ!」

マルファス

「こざかしい…。次で仕留めてくれるわ!」シュンッ!!

 

マルファスが再び消えた。それを見た鈴達が身構えたその時、

 

ラウラ

「鈴!シャル!下!セシリアは真後ろだ!」

鈴・シャル・セシリア

「「「!!」」」

 

ラウラの急な指摘。鈴とシャル、セシリアはそれを聞いてブリンク・イグニッションで避ける。しかし指示するために一瞬止まったラウラは攻撃を受ける。

 

ドガァァンッ!!

 

ラウラ

「ぐあ!」

鈴・シャル・セシリア

「「「ラウラ(さん)!」」」

ラウラ

「止まるな!動き続けろ!続けて来るぞ!」

シャル

「う、うん!」

 

それを聞いた鈴達は止まらず動き続ける。するとラウラの指摘通り謎の攻撃を躱す事が出来ているのかダメージを受けずに済んでいる。

 

ヴゥンッ!ヴゥンッ!ヴゥンッ!

 

「う、腕!?」

セシリア

「こっちには脚が出てきましたわ!」

シャル

「危ない!…と、鳥の頭!?」

 

鈴達は驚いた。見ると今の今まで自分達がいた場所のすぐ近くに空間の歪みがおき、そこから頭や腕、脚が個別に出現して襲い掛かってきていた。

 

ラウラ

「…!あの場所に出るぞ!あそこに攻撃しろ!」

 

するとラウラは続けて何もない空間を示す。

……いやよく見ると小さい黒い炎の様な光の様なものが見えている。

 

ラウラ

「急げ!」

「わ、わかったわ!」

セシリア

「ラウラさんを信じましょう!」

シャル

「はぁぁぁぁ!」

 

ズドドドドド!!ズドンッ!ズドンッ!

ギュイィィィィンッ!!ババババババッ!

 

其々の遠隔武装の光や弾丸が何もない空間に飛ぶ。すると、

 

…ヴゥンッ!!

 

すると黒き光が大きくなった瞬間、そこにラウラの言う通りマルファスの姿が現れた。

 

マルファス

「! 何!?」

 

 

ドガァァァァァァァァァンッ!!

 

 

マルファス

「ぐおぉぉぉぉ!!」

 

鈴達の攻撃が命中、思わぬ攻撃を受けたマルファスは絶叫を上げる。

 

シャル

「やった…!攻撃が通じてる!」

ラウラ

「ヴォーダン・オージェの力で把握した!奴のさっきの攻撃は動き続ければ避けられる!そして現れる場所は見ての通りあの光が現れる場所だ!」

セシリア

「わかりましたわ!」

「そうとわかったら一気に!」

 

 

マルファス(鳥)

「ブルゥアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

その時、マルファスの下半身である怪鳥が凄まじい咆哮を上げた。

 

セシリア

「! つぅ!」

シャル

「うわ!!」

 

それは巨大な衝撃波となり、その勢いに堪らず四人は耳を抑えたり目を閉じて一瞬怯んでしまう。

 

 

ズドドドドドドドドド!!…ドガァァァァァァンッ!!

 

 

鈴・セシリア

「「きゃあ!!」」

シャル

「うわあ!!」

ラウラ

「ぐああ!!」

 

その隙を狙い、マルファスは突進を繰り出す。その勢いに吹き飛ばされる鈴達。

 

ラウラ

「がは!」

「くっ…しまった、油断した…!」

マルファス

「…腹立たしい…。穢れた人間が、貴様らの様なガキが、この美しき私に傷をつけるとはぁぁぁ…!!」

 

 

ギュォォォォォォォォ!!

 

 

するとマルファスの周辺の大気や土が音を立ててその身体に吸収され始めた。それと同時にマルファスの表面に付いた傷がみるみる再生していく。

 

セシリア

「! まさか…傷が再生していってますわ!」

シャル

「そんな!自己再生までできるっていうの!?」

「でも今は何もできないっぽいわ!」

ラウラ

「今の内に攻撃するぞ!」

 

そう言って四人は再度攻撃を仕掛けようとする。しかし、

 

マルファス

「近寄るな汚らわしい!!」

 

 

ズドンッ!!

 

 

鈴・セシリア

「「きゃあああ!!」」

シャル・ラウラ

「「うわぁぁぁ!!」」

 

マルファスの凄まじい怒声が再び衝撃波となった。それによって攻撃しようとしていた鈴達は再度吹き飛ばされ、地に伏せる。…すると傷の再生が完了したのか再びマルファスが動き出す。

 

「ぐ…く…」

ラウラ

「つ…強い…!」

シャル

「これが…悪魔の力、なの…?」

セシリア

「私達も…強くなっている筈なのに…!」

マルファス

「少しはわかったか人間よ。人は大いなる魔を前にして無力だという事が。貴様らの様な雑魚、魔界では一刻も生きられぬだろう」

 

マルファスは倒れた今も地に伏せたままの鈴達を見下す様に吐き捨てる。

 

マルファス

「スパーダ…全くあの裏切者めが。優れた力を持っておきながら、こやつらの様な人間のためにそれまでの自らの全てを捨てるとは…。しかしそれも最早ここでもない世界の過去の事…、間もなく我らの新たな故郷と繋がる…!」

セシリア

「…新たな、故郷…!?」

マルファス

「最もそのための障害はまだ残っておるようじゃが…まぁ良い。スパーダの血族の始末はあのお方達に任せておけば問題はない。私はあのお方に仕える者として、己の役目を果たすのみよ。…という訳故さっさと終わりにさせてもらうぞ。私もスパーダの血族の目から光が消える瞬間を見たいからな」

 

マルファスはその翼と手を広げ、倒れている鈴達に敵意を再度向ける。

…すると、

 

「……うっさいのよ馬鹿」

マルファス

「…何?」

 

鈴がゆっくり立ち上がる。

 

「…アンタ、火影達と戦った事あんの?」

マルファス

「火影……もしやダンテという奴か?…いや、奴とは直接戦った事はないが」

 

するとそれを聞いた鈴は笑い出した。

 

「ふ、ふふふ、あはははは!」

マルファス

「何がおかしい?とうとう気でも触れたのか?」

「ククク…戦った事がない?ええそうでしょうね、でなきゃあいつらの強さを理解できない筈ないもの。アンタ…あのふたりと同じ世界にいた割には全く理解してないのね?」

マルファス

「…何じゃと?」

 

そしてシャル、ラウラ、セシリアも立ち上がる。

 

シャル

「僕達も火影達の…前世の事を全部知ってるわけじゃない…。でもこれだけははっきりわかるよ…。火影と海之は…絶対に負けないって事!」

セシリア

「あのおふたりは…私達の希望ですわ…。私達だけじゃない…。もっと多くの方の。貴女みたいな醜い者とは違うのです!」

ラウラ

「その通りだ…!そして信じている…!あいつらはその希望に間違いなく答えてくれる事を…!」

「そして私達は約束してんの!どんな事があっても傍にいるって!そのためにも負けられない!絶対にアンタを倒して先に行かせてもらうわ!」

 

そう言って鈴達は再び武器を構える。

 

マルファス

「…クククク、愚かな人間のあがきほど無様なものは無い。ならばその骨の髄にまで刻み込んで教えてやろうではないか。己の無力さをなぁ!」ズドドドドドドド!!

 

マルファスは再び黒き矢を向ける。鈴達は散開してそれを避ける。

 

ラウラ

「いつまでも当たりはしない!パンチライン!」

「ISのスピードを舐めんじゃないわよ!ガーベラ!」

 

ズドォォンッ!!

ズドドドドッ!!

 

パンチラインの鉄拳とガーベラの光弾が向かう。

 

マルファス

「ふん、貴様らこそその様な攻撃が当たると思うか」

 

マルファスは瞬間移動で避けようとする。しかしそこに、

 

 

ビュンッ!ビュンッ!

ガキンッ!!ガキィィンッ!!

 

 

マルファス

「何!?…これは!」

 

マルファスの脚に…ローハイドの鞭とグレイプニルが絡みついている。

 

セシリア

「逃がしませんわ!」

シャル

「気付いたんだよ!お前の本体が瞬間移動する時は出る時と同じ黒い光が出るって!」

 

ドゴォォォォン!!ガガガンッ!!

 

マルファス

「あああああ!!」

 

避けられなかったマルファスにラウラと鈴の攻撃が直撃した。

 

「よし!もう一撃!!」

マルファス(鳥)

「グゥアアアアアアアアア!!」

 

するとダメージを受けたことに激昂したのか、下半身の鳥が再び咆哮をあげ、

 

ズドドドドドドドドド!!

 

セシリア

「きゃあ!」

シャル

「うわ!」

 

セシリアとシャルの拘束を振りほどきながら猛烈な勢いで鈴に向かって頭を振りながら突進してきた。

 

「!!」

シャル・セシリア

「「鈴(さん)!!」」

 

ドゴォォンッ!!ガキキキキキキキキキ!!

 

ラウラ

「くっ!!」

「ラウラ!」

 

しかし鈴に届く直前、ラウラが割って入って対物シールドで防ぐ。怒涛のクチバシの攻撃に耐えるラウラ。

 

マルファス(鳥)

「ブルゥアアアアア!!」

 

ドガァァァァァァン!!

 

ラウラ

「うわあああ!!」

 

しかしその猛烈な攻撃に弾き飛ばされてしまった。

 

「ラウラ!!」

マルファス

「まずはお前からだ!」ドゴォォ!「ぐああ!…何ぃぃぃ!?」

 

見るとマルファスの周囲に…ケブーリーのビットが舞っていた。

 

セシリア

「よくもラウラさんを!」

マルファス

「おかしな物をつかいお」ズガンッ!!「ぎゃあ!!」

 

その隙を付いて鈴が双天牙月で斬りかかる。

 

「注意散漫よ!馬鹿女!」

 

鈴とセシリアが注意を引いている間にシャルがラウラに向かった。

 

シャル

「ラウラ!大丈夫!?」

ラウラ

「ぐっ…あ、ああ心配するな」

マルファス

「うっとおしい蠅共がぁぁぁ!!」

 

ドガァァァァァァンッ!!

 

「うわ!!」

セシリア

「きゃああ!!」

 

再び起こる強烈な衝撃波に鈴とセシリア、そしてセシリアが出したケブーリーも吹き飛ばされる。

 

シャル

「鈴!セシリア!」

マルファス

「ぶち殺してやるぞ小娘!!」ズドドドドドドドド!!

シャル・ラウラ

「「!!」」

 

そして直後に激昂したマルファスがシャルとまだ動けないラウラに突進してくる。

 

 

ガキキキキキキキキキキッ!!

 

 

マルファスの突進がふたりにぶつかった。……様に見えたがそれをシャルの最大のアンバーカーテンによって食い止められる。しかしダメージが完全に防げていないのか使うシャルは苦しそうだ。

 

シャル

「ぐぅ!!」

ラウラ

「よせシャル!お前だけでも逃げろ!」

シャル

「嫌だ!何弱気になってんのさラウラ!それでも海之のお嫁さんなの!」

ラウラ

「!」

 

 

ドゴォォォッ!ドゴォォォッ!

 

 

するとクチバシによる攻撃から今度は踏みつけの攻撃に変わった。先ほどよりも重い一撃一撃がシャルに襲い掛かる。

 

シャル

「ぐっ!あああ!!」

ラウラ

「シャル!」

マルファス

「踏みつぶしてくれる!地獄に送ってやるわ!!」

 

そして高く上がったマルファスが最後とばかりにシャルに襲い掛からんとする。しかし、

 

 

キィィィィィンッ!!

 

 

突然マルファスの巨体が宙に止まった。動揺するマルファス。

 

マルファス

「!!…か、身体が動かぬ!?」

ラウラ

「拘束ができるのは…シャルやセシリアだけではない!」

 

それは全力を込めたラウラのAICだった。

 

シャル

「ラウラ!」

ラウラ

「シャル…お前の言葉効いたぞ。思った通りだ!奴は悪魔でもその元となったのはあのオータムという女とそのIS。AICも有効な様だな!」

マルファス

「こざかしい真似を!この様な縛りがいつまでも」ザンッ!!ザシュゥゥ!!「ぐあああああ!!」

 

横から鈴のアービター。そしてセシリアのローハイドの剣の一撃が決まった。

 

「私達の事忘れんじゃないわよ!」

セシリア

「言った筈ですわよ!私達はひとりじゃないと!」

シャル

「そうだよ!」

 

ドガァァンッ!!

 

マルファス

「があああ!!」

 

マルファスの翼をシャルのグラトニーが貫いた。

 

シャル

「僕は、ううん僕達はパンドラ!お前達の災いになるんだ!」

マルファス

「こ、この威力…!貴様らのソレ、魔力こそ感じぬが魔具か!なぜ貴様らが…!」

セシリア

「世界最高の科学者からのプレゼントですわ!」

「そしてあいつらが託してくれた物よ!」

マルファス

「ぐっ…だが我が力、止める事などできはせぬ!!」

 

バシュゥゥゥゥゥゥッ!!ヴゥン!!

 

怒りと共に凄まじい力でラウラのAICを払ったマルファスはそのまま瞬間移動する。そして再び転移攻撃の連撃を繰り出してくる。

 

ラウラ

「来るぞ!かわせ!」

 

ヴゥン!ヴゥン!ヴゥン!

 

それを鈴達は縦横無尽に動き回って避ける。

 

シャル

「なんとか避けられた!」

マルファス

「何故だ…貴様ら、それ程のダメージを受けて何故先ほどよりも動ける!?」

「人間は成長すんのよ!それに!」

 

 

ドガァァァァァァァンッ!!ズガガガン!!

 

 

マルファス

「ああああああ!!」

 

突然マルファスの後方から光弾が直撃した。それはラウラのアルテミスのスフィアとセシリアのケブーリーだった。

 

ラウラ

「こんな攻撃を受けるとはよほど弱っているようだな!」

セシリア

「今度こそ倒させて頂きますわ!」

マルファス

「…おぉぉぉのぉぉぉれぇぇぇ!!」

 

幾度も鈴達の攻撃を受け、息が荒くなっているマルファスもまたダメージが大きいのが伺える。

 

マルファス・マルファス(鳥)

「「ブルゥアアアアアアアアア!!」」

 

バシュウゥゥゥゥゥ!!

 

鈴・セシリア

「「きゃあああ!!」」

シャル・ラウラ

「「うわあああ!!」」

 

しかしそれでも底力か悪魔としての意地か、今まで以上の衝撃波と咆哮を同時に浴びせるマルファス。鈴達もやはりこの戦闘で疲労とダメージが大きいのか、それを受けて吹き飛ばされる。

 

「ぐっ……!しまった!武器が!」

 

鈴の手からアービターと双天牙月の両方が今の衝撃で弾き飛ばされてしまっていた。

 

マルファス

「倒すじゃと…?人間が妾を倒すじゃと!?ふざけるな!妾に食われるのは貴様らじゃぁぁ!!」ズドドドドド!!

 

怒り狂ったマルファスの突進が武器を失っている鈴に迫る。

 

ラウラ・セシリア

「「鈴(さん)!!」」

マルファス

「死ねぇ小娘ぇぇぇ!!」

 

マルファスの口が鈴を捕らえようとしていた…その時、

 

 

ドガァァァァンッ!

 

 

マルファス(鳥)

「グオオオ!!」

 

突然マルファスが悲鳴を上げた。思わぬ攻撃だったのか普通よりも苦しそうだ。

 

「…ふざけんじゃないわよ。アンタなんかに…食われてたまるもんですか!」

 

鈴の手には白い銃、ルーチェが握られていた。そして、

 

 

ドガァァァァンッ!

 

 

マルファス(鳥)

「ゴアアアア!」

 

横からも突然の銃撃。それは黒い銃、オンブラを持ったシャルだった。

 

シャル

「僕達は…こんなところで終われない!」

 

 

ズドドドドドドドドドドドドド!!

 

 

マルファス

「があああああ!!」

 

ルーチェとオンブラから怒涛の火が噴く。マルファスはそれをなす術もなく受け続け、

 

マルファス

「オオオオオオ……」ズシンッ!!

 

遂に膝を着いた。

 

シャル

「ねぇ鈴。こういう時火影がよくやってた決め台詞あったよね?」

「そう言えばあったわね。やってみたいの?」

シャル

「覚えてる?」

マルファス

「ば、馬鹿…な…!妾が人間如き、しかも…貴様らの様な小娘に…何故そこまでの力がぁぁぁ…!」

 

ジャキッ!ジャキッ!

 

屈辱の声を上げるマルファスに鈴とシャルは一緒に銃口を向け、あの言葉を言った。

 

 

鈴・シャル

「「ジャックポット!!」」

 

 

ズギュ――ン!!ズギュ――ン!!

ドガァァァァァァァァンッ!!

 

 

マルファス

「ぐあああああああああ…!!」

 

ふたつの銃口から飛び出したエネルギーの波が融合し、直撃した。

 

「まだわからない?人間だから勝てたのよ」

シャル

「あとこうも言った筈だよ。僕達は…絶対負けられない理由があるって」

 

 

…ドスゥゥゥゥゥゥゥゥン!!

 

 

それがダメージの極値に達したのだろう。マルファスのその巨体は遂に崩れ落ちた。

 

ラウラ

「やった…やったぞ!」

セシリア

「倒せたんですのね!私達だけでも!」

 

 

……シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……

 

 

マルファスの姿が光の粒子となって消えていく。そして消えたそこには…オータムが力無く倒れていた。駆け寄る鈴達。

 

シャル

「……大丈夫。気を失ってるだけ」

「良かった。死なれたりなんかしたら目覚め悪いしね」

オータム

「………う」

セシリア

「! 気が付かれましたか?」

オータム

「………わた、し……どう、なったん…だ?」

ラウラ

「やはり覚えていないか。お前は…」

 

ラウラは事の流れを説明した。

 

オータム

「……私に…そんな事、が……」

シャル

「今度こそ負けを認めてくれるよね?」

オータム

「…………勝手にしやがれ。私なんか放ってとっと行きな。…もう、立ち上がる力もねぇや」

セシリア

「貴女をこのまま放っていくのはできませんわ。どこかで休ませないと」

オータム

「……相も変わらず…甘ちゃんだな。私はさっきまで戦ってた敵だぜ?」

ラウラ

「ああ。以前の私なら放っておいただろうがな」

シャル

「戦ってないなら関係無いよ」

「それにアンタにも…色々事情があるんでしょ。ほら、さっさと立ち上がって」

オータム

「……ちっ」

 

鈴達はオータムを起こそうとした。……と、その時だった。

 

 

鈴・シャル・ラウラ・セシリア・オータム

「「「!!??」」」




※次回は二週間後、来月の4日(土)の予定です。
自分の私用で後編が遅れ、申し訳ありませんでした。また二週間ですが暫しお待ちください。次回はジュデッカ編となります。
あとあの台詞の英語は兄弟のものなのでカタカナです。


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Mission202 ジュデッカ① 対決の時

デビルトリガーによって現れた悪魔マルファス。
鈴やシャル達は必死に攻撃を仕掛けるが悪魔きっての魔術の使い手を名乗るマルファスの瞬間移動による素早い攻撃、そして上半身と下半身それぞれが繰り出す凄まじい攻撃に大苦戦。何度も倒れそうになるが諦めない気持ちを捨てずに何度も立ち上がり、魔具やルーチェ&オンブラを駆使してとうとうマルファスの討伐に成功したのであった。力が入らないオータムを支える鈴達だったが…。

…そしてそれより前、「ジュデッカ」での彼らの戦いも始まろうとしていた。[アインヘリアル」と「織斑」、ふたつの計画に関わる者達の戦いが…。


「ジュデッカ」

 

 

「カイーナ」「アンティノラ」「トロメア」…。其々の戦いが始まったのとほぼ同じ時…、ここ「ジュデッカ」でも戦いが始まろうとしていた。

 

スコール

「織斑千冬…かの有名な伝説のブリュンヒルデとこうして戦えるなんて光栄だわ」

千冬

「伝説もその名も…今のこの場にはなんの意味もないさ…」

 

千冬とスコール(アレクシア)、

 

マドカ

「…わざわざ殺されに来たか…」

一夏

「…マドカ…」

 

一夏とマドカが其々対峙する。すると、

 

 

…ヴゥンッ!!

 

 

なにか機械音がした途端、千冬とスコールの周囲に以前マドカが一夏と一対一で戦った時の様な光の幕が現れた。

 

千冬

「こ、これは…!一夏聞こえるか!」

 

千冬は一夏に通信を呼びかけるが応答がない。どうやらこの幕は連絡を遮断する効果もあるらしいかった。幕の向こうの景色や音は全く分からない。幕のすぐ向こうにいる筈の一夏に話しかけても届いていないだろう。

 

スコール

「…これがこの「ジュデッカ」の機能。「カイーナ」「アンティノラ」「トロメア」、みっつの部屋を生き残った者達が戦う最後の舞台。この部屋の目的は…ただ戦う事。何人かがそれぞれのエリアに分かれ、誰かひとりが生き残る迄決して出られない。私もオータムもここで…生き残ったのよ」

千冬

「!…つまりここから出るには…」

スコール

「そう…貴女か私、どちらかが倒れるまで破られない」

千冬

「くっ…」

 

千冬は思った。という事は一夏とマドカもどちらかが倒れるまでこの空間から出られないという事ではないのか…?

 

スコール

「そして…この部屋で生き残った私達はオーガスの手によって解放された」

千冬

「…やはりオーガスの転移によるものだという事は知っていたのだな」

スコール

「ええ。気付いたのは彼がやってみせた時だけどね…。しかし最早死んだ者である私達はどこに行く事も出来ず、ファントム・タスクとして生きる事になった…。思えば…あれも彼の狙いだったのかもしれないわね」

千冬

「…そこまで分かっていてお前は奴に協力しているのか?」

スコール

「言ったでしょう?私の目的はこの世界への復讐だと。彼とは利用し合っているに過ぎない。この塔で死んだ者達のために…私達はこの世界に、こんな愚か極まりない計画があった事を伝えなければならない…。オーガスがあのファイルをこんな形で流したのは予想外だったけど…今はこれで良いと思っているわ」

千冬

「世界を混乱させる様な真似をしてか?他にもっと方法が」

スコール

「仮にもテロリストの言葉を誰が信じるというの?黙殺されるのがオチよ」

 

確かにこの塔の出現と共に先の計画に携わったと思われる国から速攻でミサイル攻撃を受けた。世界の闇の歴史、それをファントム・タスクである自分達が話してもとても理解してはもらえないだろう。例え彼女達がその計画の生き残りだとしても…。

 

スコール

「というより…貴女も決して私達の事を責める事はできないわ。貴女もまた…世界をこんな形にしたひとりだもの。そしてそれが…あの計画の発端にもなった。そうではなくて?」

千冬

「……」

 

千冬もそれは自覚していた。自らと束が起こした白騎士事件による世界の変革と歪みを…。

 

スコール

「そしてあの様な計画を許したこの愚かな世界も…もうどうでもいい…。オーガスがこの世界をどんな世界に作り変えるとしても、私にとっては今の世界よりもマシだから」

 

スコールはそう言った。しかしそんな彼女に千冬が、

 

千冬

「…では何故お前は今まで度々助言してきた?京都での一件、先日のスキー旅行、火影達に渡したあのファイルとそして…」

スコール

「……」

千冬

「もし先ほどお前が言った言葉が本気でそう思ってのものならあのファイルを、そしてあんなメッセージは残さない筈だ」

スコール

「……貴女も見たの?」

 

すると千冬はやや黙って答えた。

 

千冬

「……ああ」

スコール

「そう…。なら…貴女も憎いでしょう?」

千冬

「……正直思う事は無いと言えば噓になる。しかし今はそんな事をしている場合ではない。私には未来を守ってやらなければならない奴らがいるのでな。私の全てをかけても」

 

カッ!!

 

そう言って千冬は暮桜を展開する。

 

千冬

「そしてお前を倒さねば前に進めぬというのであれば…そうするまでだ」ジャキッ!!

 

千冬は女王の剣レッドクイーンを構える。

 

スコール

「やっとその気になった様ね…。それでいいわ。輝かしい栄光で覇者に上り詰めた貴女と…血塗られた栄光で覇者となった私…。いわば私達は光と影、似た者同士ね」ゴォォォォォッ!!

 

スコールもまた、ゴールデン・ドゥーンを展開した。全身に炎を宿して。

 

千冬

「そんなものに興味はない。…来い!」

スコール

「私の炎に抱かれて死になさい!」

 

千冬とスコール、表と裏の世界の覇者同士の戦いが始まった。

 

…………

 

それはこちらも、

 

一夏

「千冬姉!……くそ、聞こえねぇか」

 

一夏も千冬と通信が繋がらなかった。

 

マドカ

「他人の心配をしている余裕がお前にあるのか?それとも頼みの御姉様がいなければ真面に戦う事もできんか?」

一夏

「心配すんのは当然さ。俺の家族なんだから。でも負けるとは思ってねぇ。信じてるからな」

マドカ

「……そうか。ならばあの世で再会するんだな!」カッ!!ジャキッ!!

 

一夏は再びマドカに向き直った。マドカは黒騎士を展開し、黒焔を向ける。しかし一夏は白式を展開しなかった。

 

マドカ

「…何故ISを展開しない?それとも本当にただ殺されにきたのか?」

一夏

「んな訳ねぇだろ。……ちょっとお前と話がしたいのさ。戦うならそれからでも遅くねぇだろ?」

マドカ

「…話、だと?」

 

その言葉にマドカは不審がる。

 

一夏

「なぁマドカ、…そんなに俺が憎いのか?」

 

一夏の問いかけにマドカは、

 

マドカ

「……ふ、ふふ。そんな事を聞きに来たのか」

一夏

「質問に答えろよ。どうなんだ?」

マドカ

「……ああ憎いとも!貴様だけではない。織斑千冬も同罪だ!貴様らがいなければ…私達の様な存在が生まれる事もなかったのだ!」

一夏

「それはお前を生んだ奴らが悪いんであって千冬姉のせいじゃないだろ?千冬姉は知らない内に利用されてたんだぜ?ついでに言うと俺もな」

マドカ

「黙れ!もとを言えば11年前!織斑千冬と篠ノ之束が白騎士事件を起こしたのが全ての発端だ!あれさえ…あれさえなければ…!」

 

マドカは千冬と束、そして白騎士事件も憎んでいた。あれさえなければISが世に広まる事も織斑計画などが起こる事もなかった。そう思い込んでいた。

そして一夏も箒達も白騎士事件で白騎士を動かしていたのが千冬である事は既に知っている。当初は勿論驚愕した。あの時白騎士を動かしていたのが千冬等とは夢にも思っていなかった。しかし思う事はあってもそれでも千冬を嫌いになる事は無かった。

 

マドカ

「その結果生まれたのがあのふたつの呪われた計画だ。知っているぞ?貴様達もあれを見て知っているのだろう?実の親が参加していた事も。ククク、皮肉なものだな。私達を散々否定してきた自分達の親こそがその発端の一部だったのだからな!」

一夏

「……それについては否定はしないさ。あの時利用された人々には…どんだけ謝っても謝り切れるもんじゃねぇ。顔を合わせたこともない両親だったけど…それでも親に違いはねぇ。特に母さんはお前の母親でもあった訳だしな…」

 

するとそれを聞いたマドカの黒焔を握る力がギリッと強まった。

 

マドカ

「……母親?母親だと!?私に親などいない!私にとってその様な存在は…私と同じく生まれた…姉妹達だけだ!」

一夏

「…お前と同じ…千冬姉のクローンか」

マドカ

「ああ…。だがそれはすぐに奪われた!織斑千冬に並ぶ最強の兵士…それを生み出そうとする腐った奴らに!貴様には絶対にわかるまい!!自分と同じ顔を持つ存在を生きるために自分の手で殺さなければならない苦しみが!…そして同じ血を持つ者達による血みどろの戦いの末、私が生き残った。だが奴らは私を捨てた!ISを動かせない奴に価値はない、その一声で莫大な資金と時間、犠牲の末に生み出した私をボロ雑巾の様に捨てたのだ!!」

一夏

「……」

 

マドカの悲痛の叫びを一夏は黙って聞いている。

 

マドカ

「そしてそんな私を主が救ってくださった。私には才能があると言ってくださった。だから私は…」

一夏

「それはオーガスの策略だ!あいつはマドカ!お前の力を自分の目的に利用しているだけだ!」

 

一夏はマドカにそう諭す。すると、

 

マドカ

「…ふ、…知っているさ」

一夏

「!?」

マドカ

「生み出された理由を奪われ…そして信じていた者に利用されてきただけだった。……私は本当に滑稽だな…ハハハ…」

一夏

「……マドカ、もう止めろ。それ以上自分を貶めんな!」

 

マドカの自虐に一夏は止めろと声をかけるが、

 

マドカ

「貴様に…貴様に何がわかる!!私にはもう何もない、いや、最初から何も無かったのだ!あるのは貴様達と私達を生み出した者達への憎しみや恨み、それだけだ!!」

 

そう言ってマドカは再び黒焔を向ける。

 

マドカ

「織斑一夏!私は貴様を倒す!そして織斑千冬共々あの世で詫びるがいい!私と私の姉妹達にな!!」

 

マドカは酷く興奮している。

 

一夏

「……たく、やっぱり千冬姉の分身だけあって気の強いとこまでそっくりだぜ…」

 

カッ!!

 

そして一夏も白式・駆黎弩を纏う。左手には嘗ての持ち主の信念の象徴であるイージス。右手には一夏の信念の象徴、雪片・参型を持って。

 

一夏

「…俺は死なねぇ。千冬姉も、そしてお前も死なせねぇ。俺が勝ったら…言う事聞けよ?…マドカ」

 

白と黒の再戦であった。




※次回は4日(土)の予定です。

導入部と言う形ですので短めです。
次回よりジュデッカ編の戦いに入ります。まずは千冬とスコール。その後一夏とマドカの予定です。


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Mission203 ジュデッカ② ふたりの戦神

ジュデッカで待ち受けていたスコールとマドカ。
そしてそれに向き合う千冬と一夏。
生き残るまで戦う事を求められたこの場所で千冬とスコール、一夏とマドカの其々の戦いが始まろうとしていた。互いに背負うもののために…。


千冬

「来い!アレク…いやスコール・ミューゼル!」

スコール

「私の炎に抱かれて死になさい!ブリュンヒルデ!」

 

 

ズドドドドドドドッ!!!

 

 

互いの言葉が開戦の合図となり、同時にスコールの猛烈な火炎弾による攻撃が千冬に襲い掛かる。

 

千冬

「この程度の攻撃!」ドゥルルルン!!ゴオォォォォ!!

 

バシュバシュバシュ!!

 

しかし千冬も炎纏うレッドクイーンの一閃一閃によって弾く。

 

スコール

「流石ね!ならこれはどう!」ゴォォォォォォォ!!

 

スコールの頭上に一際大きいソリッドフレアが浮かび、

 

ズドォォォォォン!!

 

そのまま千冬に向かって射出された。

 

千冬

「はぁぁぁぁぁぁ……」ギュイィィィィ……

 

千冬はレッドクイーンにSEを送る。それによってレッドクイーンが纏う炎が一層強くなり、

 

千冬

「はっ!!」バシュゥゥゥッ!!

 

そのまま勢いよく振り下ろす。するとレッドクイーンから炎纏うドライヴの刃が飛んだ。それがスコールのソリッドフレアとぶつかり、

 

 

バババババババ……ズドォォォォン!!

 

 

互いに拮抗し、そのまま互いに消滅した。

 

スコール

「! 今の技は…あの時彼が私との戦いで使った技」

千冬

この剣の持ち主(海之)から教わった。教師たる私が生徒に教わるのも情けないとは思うがな」

スコール

「貴女程の人に教えるなんてやっぱり規格外ねあのふたり。それはさておき…周りが見えているかしら?」

千冬

「何?…!」

 

千冬の周囲に…先程弾いた火炎弾が浮かんでいた。

 

千冬

「火が…消えていない!」

スコール

「さぁ燃え付きなさい!」

 

ズドドドドドドドド!

 

再びそれは周囲から千冬に向かう。

 

千冬

「!」

 

 

ドガァァァァァァァン!!

 

 

やがて接触したそれらは凄まじい爆発を起こした。

 

スコール

「終わった…」

 

そう呟くスコール。すると、

 

 

…バシュウゥゥゥゥゥ!!

 

 

千冬の周りに先程の爆発で起こっていた爆煙が振り払われた。

 

 

ババババババババババ!!

キキキキキキキキキン!!

 

 

更に続けてそこから飛んで来る銃弾の嵐。しかしスコールは予測していたのか炎の鞭でそれを払う。

 

千冬

「誰が終わった、だと?」

 

そこには烈火&熾火を構えた千冬がいた。先程の火炎の爆発はイクシードを最大にした千冬のレッドクイーンが繰り出した回転斬りで無効化されていた。

 

スコール

「冗談よ。貴女がこの程度で倒れるわけないわ。…とはいえ流石ね。傷ひとつ位は付けられると思ったのだけれど」

千冬

「そう簡単に行くほど甘くはない。今度はこちらから行くぞ!」ドゥンッ!!

 

千冬はレッドクイーンに持ち替え、突進する。

 

スコール

「やはり貴女の主武装は剣ね!でもどれだけスピードがあっても正面からなんて猪突猛進と変わらないわよ!」

千冬

「それはどうかな!」

 

…シュン!

 

スコールは驚いた。目の前にいた千冬の姿が突然消えた。

 

スコール

「これは……!」

 

キィィィンッ!!

 

突然後ろから気配を感じたスコールは炎の盾を張った。するとその直後に千冬の斬撃が襲い掛かってきた。受け流すスコール。

 

スコール

「くっ!」

 

シュンッ!

 

そして攻撃を受け流された千冬はそのまま再び姿を消し、

 

キィィィンッ!!

 

再び別の方向から襲い掛かった。しかしそれをまた辛うじて防ぐスコール。そして千冬は再び姿を消し、別の方向から襲いかかる。これを繰り返し続ける。

 

スコール

瞬時加速(イグニッションブースト)連続的短距離瞬時加速(リボルバーイグニッション)の組み合わせによる攻撃か!」

 

キィィィィン!!キィィィン!!キンッ!!

 

次もその次も、スコールは必死に耐えつつもそれを避ける。

 

スコール

「はぁぁぁ!!」

 

ドドドドドドドド!!ドガァァァァァン!!

 

らちが明かないと思ったスコールは近づけさせないためにソリッドフレアを展開し、爆発させた。

 

シュンッ!

 

千冬

「今の攻撃を完璧に凌ぐとはな」

スコール

「ギリギリだったわよ結構…。あれ程見事な瞬時加速はそうは無いわ」

千冬

「私はあいつらみたいに瞬間移動等使えんからな。ならばできる事を発展させるしかないのさ。…それにしても貴様もやるな。一閃位は当てられると思ったが」

スコール

「これでも伊達にあの地獄の中を生き残っていないから…」

千冬

「……」

 

すると突然千冬はレッドクイーンを下ろす。

 

スコール

「…どうしたの?」

 

不審に思うスコールに千冬は驚きの言葉を言った。

 

千冬

「……単刀直入に言う。我々に協力してくれないか?」

 

口には出さなかったもののスコールはその言葉に驚く。

 

スコール

「……貴女、自分が何を言っているのかわかっているの?敵である私に手を貸せと?」

千冬

「あの男とは単に協力関係であって仲間ではないのだろう?」

スコール

「……」

千冬

「オーガスがどういう存在でどれだけ危険か、貴様はまだ知らん事がある。あの男を放っておけば」

スコール

「…言った筈よ。私にはもうどうでもいいと。世界がどう変わろうとも、誰がどうなろうとも…」

 

だがスコールは千冬の続けての言葉を遮り、炎の鞭を向ける。しかしそんなスコールに千冬は続ける。

 

千冬

「では何故束が捕らえられている事を教えた!何故あのファイルをあいつらに渡した!もう一度言うが今の言葉が貴様の全てならそんな事はしない筈だ!」

スコール

「……」

千冬

「私は全てが終わったら自らの罪を償う。アレクシア・ミューゼル!貴様にも出来る筈だ!」

スコール

「…貴女と私は違うわ。例え白騎士事件の犯人だとしても貴女は伝説のブリュンヒルデ。私はファントム・タスクであり、大量殺人者。償う事などできはしない、例えそれがどんなきっかけであったとしても…。そんな私に残された道は…」

 

そう言うスコールは何かを取り出す。それは…あの時オーガスから渡されたもの。そしてそれを千冬も気付いた。

 

千冬

「あれは…!」

スコール

「本当ならもう少しこのままで戦いたかったけど…時間も無さそうだからさっさと終わらせてあげるわ」

 

それは言葉の通りの意味か、それともファイルの公開まで時間が無い故急ごうという意味か、答えはスコールしかわからない。

 

千冬

「アレクシア!」

スコール

「どうしてもというなら力で示しなさいブリュンヒルデ!ここはラ・ディヴィナ・コメディア!世界で最も弱肉強食の世界なのだから!」

 

そう言いながらスコールは手に持つそれを掲げ、引鉄を引いた。

 

 

ガチッ!

ゴォォォォォォォォォォォッ!!!

 

 

すると先のオータムと同じ様に、スコールの身体も瞬く間に激しい黒炎に包まれた。

 

スコール

「あああああああああああああ!!」

千冬

「くっ!馬鹿者が!!」

 

激しい苦痛に悲鳴を上げるスコール。

 

 

ドクンッ……ドクンッ…ドクンドクンドクン!!

 

 

激しい心の脈動。そしてスコールの耳に何者かの声が聞こえた。

 

「貴様が……余を呼び覚ましたか」

スコール

「!!」

「もうこれが何度目の復活か。……素体としては悪くはない様だ。暫し眠っているが良い…」

スコール

「ああああああああああああ!!」

 

そして、

 

 

…シュバァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

千冬

「くっ!!」

 

DNSを使った時よりも遥かに強く、そして眩い黒き光に千冬は一瞬怯む。

……そして徐々に光が消滅していく。

 

千冬

「なんて凄まじい光だ…!一体どうなって……!!」

 

 

「……」

 

 

光が晴れ、スコールがいた場所に現れた存在。それもまたこれまでと同じく異質な存在だった。骨格なのか皮膚なのか、はっきりわからないそれが全身を髑髏の鎧の様に形作り、手には巨大な槍を持っている。隙間からは黄金色のオーラの様なものがあふれ出、特に右目に当たる場所が一際輝いている。そしてそれに仕えるものなのか、両側には光輝く狼が寄り添っていた。それはまるで肉体を失っても戦いへの執念のみで動いている髑髏の戦士であった。

 

二頭の狼

「「オォォォォォォォォォォ!!」」

 

黄金色のオーラを放つ騎士に寄り添う二頭の狼が高々に咆哮する。

 

千冬

「こ、これは…!」

 

この時千冬はふたつの事を思った。

まずひとつはこれまでのどんな物とも違う異常さ。ISが変化したDISは少なからず機械の様な名残が残っていた。しかし目の前のそれには無いように思える。純粋な生き物の様な奇妙な感覚があった。

そしてもうひとつ。この存在が発する気の強さである。火影や海之を除けば世界最強ともいえる千冬でさえ、圧されてしまいかねない位の気合。目の前にいるだけでわかる凄まじい闘志。千冬は僅かながら恐怖を覚えていた。

 

髑髏の戦士

「……人間よ」

千冬

(喋っただと!?)

 

その奇妙な感覚を証明するかの様にその存在は千冬に話しかけてきた。そしてその声は明らかにスコールの物とは違っていた。

 

「……貴様が奴の、スパーダの血筋に協力している人間か」

千冬

(…?まるで自分は人間とは違う様な言葉……!まさか!?)

 

千冬はある結論に達するがそれを証明するには確証を得る必要があった。故にこちらからも冷静に問いかけてみる事にした。恐怖や動揺や弱気を悟られてはならない。

 

千冬

「……貴様は何者だ?」

 

千冬の質問に対し、その存在は名乗った。

 

ボルヴェルク

「………ボルヴェルク」

千冬

「…ボルヴェルク?」

 

それはボルヴェルクと言った。聞きなれない名に千冬は眉を顰める。するとそれを感じたのかボルヴェルクは重ねて言った。

 

 

ボルヴェルク

「嘗てはこう呼ばれていた事もある。……「オーディン」と」

 

 

千冬

「…!!」

 

二度目のその名を聞いた千冬の頭に過るものがあった。…「オーディン」。北欧神話に伝わる偉大な神々の王。神々の戦争に勝つために地上から戦士の魂、アインヘリアルを集めた張本人。決して避けられぬ魔法の槍を持ち、二頭の狼を携え、八つの脚を持つ馬に跨り、戦場では常に先陣に立ち続けたという死と戦の神…。千冬もその名前はよく知っていた。

 

ボルヴェルク

「…だがそれも果てしなく遠い過去の話。今はこの朽ち果てた身体のまま只…強者と死合うのみの存在。…知っているぞ、奴の息子がここにいる事をな。嘗て余を滅ぼした奴ともう一度戦いたいという執念が、余をこの世に導いたのか…」

千冬

「……」

 

どうやらボルヴェルクは火影や海之と戦いたい様だった。

 

ボルヴェルク

「だがそのためにまず、貴様を殺さねばならん様だな。前座として我の手にかかる事を光栄に思うが良い」

 

ボルヴェルクは何も言わない千冬にその手に持つ槍を向ける。

 

千冬

「………ふ」

 

暫くして千冬が声を出した。……と思いきや、

 

千冬

「ふ…ふふ」

ボルヴェルク

「……?」

千冬

「ふふ、ふはは…はははははは!!」

 

突然声を大きくして笑う千冬。それは本当に楽しそうな声で。

 

ボルヴェルク

「…何がおかしい。気でも触れたのか?」

千冬

「はは……ふぅ。…なんでもない。ただ、嬉しいと思ったのだ」

ボルヴェルク

「…嬉しい、だと?」

千冬

「仮にも悪魔とは言え神。いや正確には悪魔に堕ちた神、と言うべきか。それとこうして正面から向き合えているのだ。しかもそれが伝説に伝わる戦の神オーディンであるとは…。武をやる者として光栄だな」

 

今の千冬に最も強くあるのは…高揚感。今の彼女の心はなんとも言えない喜びがあった。戦士の魂が揺さぶられる。武人の血が燃える。そんな感じだった。しかしそんな状況でも重要な部分は忘れた訳では決してない。

 

千冬

(あれはアレクシア・ミューゼルが素体となっているものと奴は言った。つまり奴を倒せば元に戻る筈…!)

 

そう思いながら千冬はレッドクイーンを持ち、地に刺して構える。それを見てボルヴェルクも再度構え直す。

 

ボルヴェルク

「…面白い。ならば人間よ。貴様の力とやら…余に披露してみせろ」

千冬

「…いいだろう。武人冥利に尽きる!」ドゥルルルルン!!

 

千冬はレッドクイーンのグリップを捻り、

 

千冬

「はぁぁぁぁぁぁ!」ドゥンッ!!…シュンッ!!

 

突進したかと思いきや再び姿を消した。先のスコールとの戦いで見せた戦術をするつもりの様だ。

 

ボルヴェルク

「……」…ヴゥンッ!!

 

するとボルヴェルクは手に持つ槍を自らの後方、何も無い空間に向け投擲した。

 

ガキィィンッ!!

 

千冬

「ぐっ!!」

 

するとそこに突然千冬が出現し、レッドクイーンで受け止める。それはまるでそこに現れるのを予知していたかの様な一撃だった。

 

千冬

「動きを見切られた!?」

ボルヴェルク

「そのような小細工がわが目に通用するか」

千冬

「…だが!はぁぁぁぁぁ!!」ガキィィィンッ!!

 

千冬はそれを全力で払いのける。槍は宙に舞い、その隙に千冬は再び姿を消し、

 

シュンッ!!

 

別の方向から再び斬りかかろうとする。しかし、

 

ズガァァンッ!!

 

千冬

「ぐあ!!…なっ!?」

 

見ると…先程払った槍が再び襲い掛かり、千冬の真横から襲撃してきた。攻撃し終えた槍は再びボルヴェルクの手に戻る。

 

ボルヴェルク

「我が魔槍からは決して逃げられぬ。…そして…」

魔狼

「「グオォォォォォ!!」」

 

ズガン!!ズガンッ!!

 

ボルヴェルクの狼もまた襲い掛かってきた。

 

千冬

「この狼は奴の支援機か!」

ボルヴェルク

「そ奴等如き何とかできなくては余に一太刀浴びせる事など夢物語よ」

千冬

「くっ!」ジャキッ!バババババババババ!!

 

千冬は烈火&熾火を連射する。…しかし二体の魔狼はそれを凄まじいスピードで避ける。

 

千冬

「瞬時加速と同等だと!なんてスピードだ!…!!」

 

 

ガキィィィィィンッ!!

 

 

いつの間に接近していたのか、真後ろからボルヴェルクが槍で襲い掛かる。間一髪千冬は何とか防ぐ。

 

千冬

「重い!」

ボルヴェルク

「…ほぉ。良くぞ避けた。並みの者なら今の一撃で両断されているだろう。…だが所詮そこまでだ」

 

カッ!…ズンッ!!

 

すると槍が光を放ち、更にますます重くなった。

 

千冬

「ぐっ!何!?」

ボルヴェルク

「言った筈だ。我が魔槍からは逃げられぬと。多少はやるようだが、貴様如きの力を持つ人間など嘗ての戦で星の数ほども出会っておるわ」

 

それはまるで槍が意志を持ち、攻撃を防がれたのを槍が怒っているかの様だった。受け止めている千冬の腕にますますのしかかる。

 

千冬

「…おおおおおおお!」

 

カッ!!

 

ボルヴェルク

「…!」

 

千冬のレッドクイーンが光を放つ。それは零落白夜の光。するとそれを見たボルヴェルクは何かを感じ取ったのか下がる。

 

ボルヴェルク

(今の光…。人間が…我が魔槍を黙らせおっただと…?)

千冬

「ハァ…ハァ…。思った通り…零落白夜があの槍のエネルギーを弱らせた様だな」

 

零落白夜は相手のエネルギーに直接ダメージを与える技。それが槍の力を一時的に弱体化させた様だった。

 

ボルヴェルク

「……ふふふ。まさかあの時代から幾千晩年が過ぎたこの時代で、これ程の人間がまだ残っていたとは…」

千冬

「…お褒めに預かり光栄だ」

ボルヴェルク

「人間よ。名は何という?」

千冬

「……織斑千冬」

ボルヴェルク

「覚えておこう。…嘗て我を滅ぼしたスパーダ、そしてダンテに続く強き者よ。貴様の実力を賛美しよう」

 

 

…ゴォォォォォォォォ!!

 

 

突然、ボルヴェルクの周囲に黒きオーラが立ち込めた。

 

千冬

「…!!」

ボルヴェルク

「我が手にかかって死ぬ事、光栄に思うが良い!!」

 

ギュンッ!!

 

そう言うとボルヴェルクは槍を高く掲げた。そして槍先から凄まじい光が溢れ出、光の刃の様に伸びている。

 

ボルヴェルク

「ムン!!」ヴゥンッ!!

千冬

「!!」

 

 

バキィィィィン!!ドガァァァァァン!!

 

 

ボルヴェルクはそれを一気に振り下ろした。千冬はそれを何とか避ける。槍が当たった場所は…一直線上に削り取られていた。

 

千冬

「な、なんて威力だ!」

ボルヴェルク

「オォォォォォォォ!!」

千冬

「!!」

 

ズドドドドドドドド!!

 

続けて槍を前に構え、凄まじい突進を繰り出してきた。その勢いに避けられないと感じた千冬は受け止めるが、

 

ガガガガ…ガキィィィィンッ!!

 

千冬

「うわぁぁぁ!!」

 

それが叶わず、吹き飛ばされてしまう。

 

千冬

「ぐっ…」

ボルヴェルク

「休み暇など無いぞ」

魔狼

「「オォォォォォン!!」」

千冬

「!」

 

ズドンッ!ズドンッ!

 

狼達も襲い掛かってきた。レッドクイーンで受け止める千冬。

 

千冬

「くっ!ひとりではなかった!」

ボルヴェルク

「どうした?貴様の力はやはりその程度か?」

千冬

「…なめるなぁぁ!!」ドゥルルルン!…バシュゥゥゥゥ!!

 

千冬は再びグリップを回し、炎纏いしドライヴを放つ。

 

ボルヴェルク

「…はっ!」バシュゥゥゥゥ!!

 

 

ガガガガガガガガ!!

 

 

ボルヴェルクの槍から黒き光刃が飛び出し、千冬のドライヴとぶつかる。

 

ドガァァァァァァン!!

 

互いのエネルギーが耐え切れなくなったのか爆発が起こる。

 

千冬

「くっ…!?」

 

爆発が晴れた時、そこにいたボルヴェルクの巨体が消えていた。すると、

 

ボルヴェルク

「どこを見ておる」

千冬

「何!?」

 

 

ドガァァァァァァァン!!

 

 

上空からボルヴェルクがその槍を一気に振り下ろした。千冬は避けるが衝撃を受ける。

 

千冬

「うわぁぁぁ!!」

 

ガシッ!ガシッ!!

 

千冬

「! 何!?」

 

吹き飛ばされた千冬の両腕を魔狼が噛みつき、動きを止めた。凄まじい力で抑えられているのか動けないだけでなくレッドクイーンも烈火&熾火も展開できない。そんな千冬にボルヴェルクが迫る。

 

ボルヴェルク

「人間の分際でありながら余の一撃を何度も受け流し、よく耐えたと褒めておこう」

千冬

「くっ!」

ボルヴェルク

「…だがそれも聊か飽いた。スパーダの血族と戦う前座としては…もう十分だ」ジャキッ!

 

ボルヴェルクは槍先を動けぬ千冬に向ける。それは正に止めを刺す寸前だった。

……すると、

 

千冬

「……ふ」

 

千冬は小さく笑った。

 

ボルヴェルク

「よく笑う人間だ。死す時位笑っていた方が良いという訳か?」

 

ボルヴェルクはそう千冬に言い放つ。だが千冬の反応は思わぬものだった。

 

千冬

「…いや何。ひとつ思い出したことがあってな。…貴様がかの有名なオーディンというならば…ブリュンヒルデ、という女神を知っているか?」

 

千冬がそう尋ねるとボルヴェルクは思い出すように話した。

 

ボルヴェルク

「ブリュンヒルデ……。嘗て我に逆らった者にその様な名の者がおった。故に眠りの呪をかけ、炎の迷宮に閉じ込めた。…それが?」

千冬

「そうだ。そして……ここで再び相まみえた、という訳だ。正確にはその名を受け継いだ私だがな」

ボルヴェルク

「……何?」

 

 

カッ!!

 

 

 

ボルヴェルク

「!」

 

 

ズガガガガガガガ!!

 

 

魔狼

「「グオォォォォォ!」」

 

突然千冬、正確には彼女の暮桜が光を放った。ボルヴェルクは下がり、そして二頭の魔狼は何かに傷つけられたかの様な悲鳴を上げつつ腕を離す。見ると千冬の周囲に無数の小さい桜色の光が浮かんでいた。

 

 

千冬

「このブリュンヒルデを甘く見てもらっては困る!!」

 

 

遠隔突撃型兵装「八重桜」

 

千冬の暮桜に搭載された遠隔兵装にしてビット兵器。名前の如く無数の小さい桜の花びらの様な光弾が敵に向かい、斬ったり爆発させて攻撃する。また千冬の周囲に近づいた敵や攻撃に自動的に反応して盾とすることもできる。第二回モンドグロッソの決勝前に開発された新兵器だったが一夏誘拐事件で無くなり、以降使う事無く封印されていた。

 

 

魔狼

「「ウオォォォォォン!!」」ドゥン!ドゥンッ!!

 

攻撃を受けた事に激昂したのか、二頭の魔狼は再び千冬に迫る。しかし、

 

ズガガガガガガガッ!!

 

先程と同じく、再びダメージを受け、怯んでしまう。千冬はそれを見逃さなかった。

 

千冬

「勝機!でやぁぁぁぁぁ!!」

 

ザシュゥゥゥゥ!!

 

魔狼

「グオォォォォォ………」シュゥゥゥゥゥゥ……

 

千冬の零落白夜が魔狼の身体を切り裂いた。それによってダメージの限界を超えたらしい二頭の魔狼の身体は光となって消滅した。それをボルヴェルクは黙って見ている。

 

ボルヴェルク

「……」

千冬

「これで一対一だな!」

 

そう言うと千冬は周囲に纏う八重桜を消す。

 

ボルヴェルク

「…何故それを使わぬ?」

千冬

「貴様は見た所その槍以外の武器を持っていない。この武器はそんな勝負に似つかわしくない。故に…これを使わせてもらう」

 

シュンッ!!

 

そう言うと千冬の左手には、

 

千冬

(眠っていた所悪いが…事態が事態だ。今一度お前の力を貸してもらうぞ。……雪片)

 

嘗て彼女の使っていた雪片初期型が握られていた。しかし急ごしらえなのか完全に修復しておらず、折れた後が残っている。

 

ボルヴェルク

「……ふふふ。やはり人間とは愚かで、そして面白い生き物だ。余がいた時代でも、これ程の者はそうはおらんかった!」

 

ボルヴェルクはそう言うと手に持つ槍を正面に構える。対して千冬も右手にレッドクイーン、左手に雪片を握り、二刀流で構える。両者は笑っていた。

 

 

ボルヴェルク

「来るがいい!」

千冬

「…いざ、参る!」

 

 

……そこからは小細工無しの剣劇の応酬だった。繰り出される一撃一撃が凄まじい魔槍。それを受け止めながら攻める赤と白の刀。油断すればやられる。受け損なえば斬られる。

余力は無傷のままのボルヴェルクが遥かに上回っている。死す迄いくつもの戦争を生き残り、戦いの神とまで上り詰めた彼の力量は計り知れない。対して千冬は先程までの戦いでダメージを受けており、劣勢であることは間違いない。しかし彼女もまた伝説のブリュンヒルデとまで言われる様になった戦士。そして自分には守るものがある。やらなければならない事がある。その気持ちが彼女の底力を引き上げていた。

 

 

…ガキィィィィィン

 

 

ボルヴェルク

「ぬぅぅぅ…」

千冬

「ぐっ……くっ!」

 

……そして何度目かの打ち合いの後、両者は再び距離を離す。ボルヴェルクはため息をつき、千冬は苦しそうだ。…しかし、

 

千冬

「ハァ…ハァ…」

 

再び剣を構える。

 

ボルヴェルク

「人間よ…。まだ剣を上げるか」

千冬

「ぜぃ…ぜぃ…当然だ…」

ボルヴェルク

「…人間よ。何故そこまで必死になる?貴様達人間の寿命など我らからすれば虫ほどのもの。ましてや間もなくこの世は変わるというのに…」

千冬

「…確かに貴様達神々からすればそうかもしれんな……でもだからこそさ。短い命だから、どんな状況でも最後の最後まで足掻きぬこうとするのさ。それが人間というものだ。人間全部では無いがな」

ボルヴェルク

「……」

千冬

「それに私には守るものがある。自らの全てを懸けてもな」

 

はっきりと言い放った千冬。

 

ボルヴェルク

「……ならば最早何も言うまい。戦士たる礼儀を持って我が力の全てを以て終わらせてやろう」ジャキッ!ギュオォォォォ!!

 

ボルヴェルクの持つ魔槍が光始める。言葉からして次が最後にする様だ。

 

千冬

「そうか…。ありがたい事だ…」

 

千冬はそう言うと目を細め、暫し構える。

……そして、

 

 

…カッ!!

 

 

ボルヴェルク

「オォォォォォォォ!!」ドゥン!!

千冬

「でやぁぁぁぁぁぁ!!」ドゥン!!

 

互いに目を見開き、全速で突進した。

 

ボルヴェルク

「滅びよ!人間!」ヴゥンッ!!

 

仕掛けたのはボルヴェルク。

 

ガキキキキキキキン!!

 

それを千冬は二刀流で受け止める。しかし完全に受け止められない位の一撃が千冬の腕に重くのしかかる。

 

千冬

「ぐぅぅ!!」

ボルヴェルク

「肉だけでなくその骨ごと叩き斬ってくれる!!」

 

ボルヴェルクの槍の切っ先が千冬の顔面寸前まで迫っていた。…その時、

 

 

カッ!ギュオォォォォォ!!

 

 

ボルヴェルク

「ム!」

 

レッドクイーンと雪片が再び光に包まれた。零落白夜の光。それが若干ながら魔槍の威力を弱らせる。

 

千冬

「うおおおおおおおお!!」

 

 

…バキィィィィィィン!!ドガァン!!

 

 

その時、千冬の左手に持っていた雪片がパワーと威力に耐えられなかったのか、先の戦いよりも粉々に砕け、爆発した。この衝撃が一瞬魔槍の切っ先を千冬から遠ざけた。

 

千冬

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ボルヴェルク

「!!」

 

 

ザシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!

 

 

その隙を突き、光纏うレッドクイーンの一閃が……ボルヴェルクの腹部を横に一閃した。

 

ボルヴェルク

「……」

千冬

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

何も言わぬ立っているボルヴェルクに対し、千冬は先程の雪片の爆発もあってダメージが大きい様だ。……すると、

 

 

ボルヴェルク

「……………見事なり」

 

 

……シュゥゥゥゥゥゥ……

 

ボルヴェルクの身体が徐々に薄くなっていく。先ほどの零落白夜の一閃が決まったらしかった。

 

ボルヴェルク

「……満足だ。満足のいく戦いだった…。本来ならば…人間に敗れるなど…屈辱であるが…何故であろうな。貴様の様な者に敗れるのも…不思議と悪くは…ない」

千冬

「……私も誇りに思う」

 

千冬は消えゆくボルヴェルクを見つめる。するとボルヴェルクは何かに気付く。

 

ボルヴェルク

「!……そうか。貴様は奴と……スパーダと同じ目をしているのだ…」

千冬

「……何?」

ボルヴェルク

「迷い無き、強い意志を持ったその真っすぐな眼…。あの時の…スパーダも同じ眼をしていた。人間の世を守るために…全てを捨て、魔の反逆者となりながら…あの時の奴は…貴様の様な迷い無き…眼をしていた…」

千冬

「……そうか」

ボルヴェルク

「………人間よ。…さぞ足掻いてみせるがいい。間もなく訪れる……絶、望…に………」

 

シュゥゥゥゥゥゥゥ……

 

その言葉を最後にボルヴェルクは消え去った。傍には彼が使っていた魔槍が地に刺さり、後には力無くスコールが倒れている。

 

千冬

「…やってみせるさ。…どんな絶望だろうと…」

 

千冬はスコールに駆け寄る。すると軽く揺さぶっただけでスコールは目を覚ました。

 

スコール

「……く」

千冬

「もう気が付いたのか、流石だな」

スコール

「……ブリュン、ヒルデ。……私、何が…」

 

千冬はスコールに事のあらましを説明した。

 

スコール

「……そんな事が…私に。……でも、それも通用しなかったのね。……やっぱり、強いわね、貴女」

千冬

「なに、私の剣のおかげだ」

(…雪片よ。今度こそ安らかに眠ってくれ…)

 

千冬はもう修復は不可能だろう相棒に心でそう願った。

 

スコール

「……さぁ、私を殺しなさい。そうすれば、あのシールドも消える筈…」

 

スコールはそう言う。しかし千冬はその声に反論する。

 

千冬

「諦めるのか?お前は生きてここでの事を世界に伝えなければならないのではないのか?」

スコール

「……言ったでしょう?……私は、ファントム・タスク。そんな言葉、なんて…」

千冬

「私は信じている。私だけではない、多くの者達がもう知っている。後は伝え方の問題だ。必ず何か方法がある筈だ!」

スコール

「……」

 

千冬はスコールにそう伝えた。

 

スコール

「……貴女、家族のしたことを…伝えるというの?それがどういう意味かわかっているの?」

千冬

「ああわかっているさ。だがそれでもいい」

スコール

「……」

千冬

「私はお前を殺さない。生きてもらう。お前はどちらかが死なないと出られないと言ったが心配ない。あれがどんなエネルギーだろうが私の零落白夜ならば風穴くらいは」

 

とその時だった。

 

 

バリィィィィィィィィィン!!!

 

 

千冬・スコール

「「…!!!」」

 

突然目の前の光幕がくだけ散った。

 

千冬

「な、何だ!?」

スコール

「シ、シールドが…破られた!?そんな馬鹿な!」

千冬

「一体何が…あれは!!」




※次回は11日(土)の予定です。
ボルヴェルクは作中に喋らないので性格はオリジナルです。あと千冬のビット兵器もオリジナルです。ブリュンヒルデですから適正もあるかと思いまして。出番は少なかったですがまた出す予定です。
次回は一夏とマドカです。


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Mission204 ジュデッカ③ 現れし悪魔

ラ・ディヴィナ・コメディア第四層「ジュデッカ」。
そこで始まった千冬とスコールの戦い。表と裏の覇者同士の対決はお互い無傷であるが千冬が有利に進める。
…しかしそこでスコールはオータムと同じくデビルトリガーを使用し、悪魔「ボルヴェルク」へと変貌を遂げた。初めて対峙する悪魔の力に千冬は次第に劣勢に追い込まれるが彼女もまた暮桜の隠し玉である八重桜や雪片、そして何より武の神と戦えるという高揚感が後押しし、互いの力を込めた一撃で辛くも勝利する。殺せというスコールに千冬は断り、共に生きてここを出ると宣言。脱出を図ったその時、彼女達と一夏・マドカを分断していたシールドが破られてしまった。そこで彼女らが見たものは…?


バリィィィィィィィィン!!

 

スコール

「なっ!!シールドが…破られた!?」

千冬

「一体何が…あれは!!」

 

 

…………

 

一夏とマドカ。千冬とスコールを分断していたシールドが破られたのは何故か。そして千冬が見たものは何か。話は少し前まで遡るのである…。

 

マドカ

「織斑一夏!貴様は私が倒す!そしてその命を持って私達に詫びるがいい!!」

 

マドカは再び黒焔を構え、戦闘態勢に入った。それを見て一夏も、

 

一夏

「…いいぜ。俺が勝ったら、言う事聞けよ?マドカ!」カッ!!

 

百式・駆黎弩を纏い、雪片・参型を構える。

 

マドカ

「貴様のIS、実際目にするのは始めてだが…随分違う様だな。だが如何にISを変えようとも貴様などに負けはせんわ!」ドドンッ!!

 

マドカはステルスビット「フェンリル」を展開、すぐさま光学迷彩によって周囲に溶け込む。

 

一夏

「ちっ!あん時の見えないビットか!」ドドンッ!「くっ!」

マドカ

「貴様のそれは以前の零落白夜による結界が使えないのは知っているぞ!もう避ける術はない!」

 

見えない状態からフェンリルによる光弾、時には直接攻撃してくる。

 

ドドドドドッ!!

ガキキキキンッ!!

 

一夏

「ちっ!Aigesを使えば簡単だろうけど早すぎる!どうする!」

 

一夏はそれをイージスで防ぎつつ、対策を考える。

 

一夏

「!……よし、一か八か!」

 

すると何か思いついたのか、一夏はイージスを構え、

 

一夏

「吹雪!」

 

カッ!!ズドォォォォンッ!!

 

イージスから拡散荷電粒子砲「吹雪」が発射した。

 

 

ドガァァァァァン!

 

 

…しかしそれはマドカの横を素通りした。更に、

 

ズガガガガガガガ!

 

そのまま一夏は吹雪を地面に向けて撃ち続ける。その影響で地面が削られ、大量の砂埃や土埃が舞う。

 

マドカ

「ハッ!相変わらず射撃は下手くそだな!そんな攻撃に私が当たると思うか!ビットを狙っているのなら闇雲に撃っても無駄だぞ!」

 

そう言うマドカに対して一夏は、

 

一夏

「いいのさこれで!別にお前を狙っている訳じゃない!」

マドカ

「何?……!」

 

その時マドカは見た。大量の砂埃の中に何かが動いている。それは宙に舞っている砂埃を動かしていた。

 

一夏

「! そこだ!」ズドォォォン!

 

そしてそれに狙いを付けた一夏は吹雪を向け、

 

 

ドガァァァン!ドガガガン!

 

 

破壊した。それは一夏を狙うために動いていたフェンリルだった。

 

マドカ

「何!?」

一夏

「見えないって言っても幽霊みたいにきれいさっぱり無くなる訳じゃねぇ!物体があるならそれが動いた時に周りの空気も動く!そこを狙えば良いのさ!」

(火影に教わってた方法が役に立ったぜ!)

 

以前鈴の龍哮を見る方法を模索していた所、一夏は火影から「見えないのなら見える様にすればいい」というアドバイスを受けていた。

 

一夏

「今度はこっちの番だ!」ヴヴヴヴゥン!!

 

一夏の周囲に飛槍「粉雪」が展開された。

 

一夏

「いっけぇぇ!!」ズドドドドド!!

 

それが順番にマドカの黒騎士に向かう。

 

マドカ

「そんな直線の攻撃等簡単に避けられるわ!」シュンッ!

 

マドカは瞬時加速で避ける。

 

…ビュンッ!!

 

すると最初のマドカの位置に向かっていた粉雪が瞬時加速で避けたマドカの場所に槍先の向きを変え、軌道を変えた。

 

マドカ

「何!?」ガキンッ!ガキンッ!ガキンッ!!

 

予想外の出来事にマドカは動揺しつつもそれを黒焔で弾き返す。しかし、

 

ビュビュビュンッ!!

 

マドカ

「! 今度は真後ろからだと!?」

 

今度は先ほどの物とは別の方向から粉雪が飛んできた。その動きを見たマドカの脳裏にある考えが浮かぶ。

 

ガキンッ!ガキキンッ!

 

マドカ

(これはまさか…ビットだと!)

 

粉雪のそれはフェンリルに比べて単純ではあるがビットとも言って良い動きだった。それを何とか排除するマドカ。

 

一夏

「流石だなマドカ!いやお前の力ならこれ位当然か」

マドカ

「まさか貴様がビットとは!しかし何故貴様が使える!?」

 

マドカは一夏がビットを使えた事に驚いている様だ。

 

一夏

「ああ確かに使えなかったよ。だから使える仲間(セシリアや海之)に教えて貰ったんだ。出来る様になったのは本当につい最近だけどな。一度コツを覚えると、一、二回位なら動かす事はできたぜ。でもかなり集中力いるんだなこれ、こんなもん普通に使える奴らスゲぇよ。あいつ等もお前もなマドカ」

マドカ

「…貴様!馬鹿にしているのか!」ジャキッ!!

 

マドカはランスを構え、一夏に向かう。

 

一夏

「氷雪!」ジャキッ!!

 

一夏もそれに対し自らの戦槍、氷雪を出して迎え撃つ。

 

一夏・マドカ

「「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 

ジャキキキンッ!ガキンッ!ガキィィン!!キィィン!!

 

 

左手のイージスで防御しながら右手の氷雪で冷静に戦う一夏。対してマドカは右手に黒焔、左手にランスという二刀流で攻める。怒涛の勢いで攻めるマドカだが一夏の槍さばきとイージスの強固な盾に阻まれ、小さいダメージは与えられるが決定的には至らない。

 

マドカ

「ちっ!なんて頑丈な盾だ!」

 

焦りが見えるマドカ。

 

ズドドドド!!

 

一夏

「うおぉぉぉぉ!!」

マドカ

「! しかも奴の槍術が以前より上がっている!」

一夏

「そこだ!」

 

ズバァァ!!ドガガンッ!!

 

マドカ

「な!?」

 

その焦りの隙間を縫い、一夏の刃翼「締雪」が横から襲い掛かった。その攻撃でマドカはランスを破壊された。

 

一夏

「つおぉぉぉ!」ズガン!

マドカ

「ぐああ!」

 

更に一夏の氷雪の一突きがマドカを直撃した。吹きとばされるマドカ。

 

一夏

「油断大敵だぞマドカ。前のお前ならこんなの避けられた筈だ!」

マドカ

「ぐっ…ど、どういう事だ!貴様何故そこまで…!?」

一夏

「刀奈さんに槍の使い方をみっちり仕込んでもらった。まだ荒削りだけどな。それよりどうしたマドカ!お前の力はそんなもんじゃないだろう!」

 

 

火影

(無様だぜ今のアンタ。そんなんじゃ一夏に勝てやしねぇよ)

 

 

マドカ

(私が…こいつに劣っているだと…!そんな訳無い!そんな事ある訳がない!)

「私の、私の力はこんなものではない!!」

 

マドカはDNSを使おうとした。……しかし、

 

マドカ

「…!?」

 

何故かDNSは起動しなかった。あの時、いやそれ以上に力を求めているというのに。

 

マドカ

(まさか取り除かれている!?何故…何故ですか主!)

一夏

「…?どうした!それともこれで終わりか!」

マドカ

「くっ……だが!」

 

カッ!ギュオォォォォ!

 

マドカの黒焔が光に包まれる。黒騎士の特殊能力「零落闇夜」だ。

 

一夏

「零落白夜のコピーか!」

マドカ

「私にはまだこれがある!…私は、私は絶対に負けられんのだ!…姉さん達のためにも!!」

一夏

「!……マドカ…」

 

カッ!!

 

一夏の雪片も輝き始める。零落白夜だ。

 

一夏

「…いいぜ。かかってこい!真剣勝負だ!」

マドカ

「その言葉、後悔するなよ!」

 

互いに剣を向け、…そして、

 

 

ドンッ!!ドンッ!!

 

 

一夏・マドカ

「「はぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 

ガキィィィンッ!!ガガガガガガガ!!

 

 

互いに突撃し、互いの剣がぶつかった。零落白夜同士がぶつかると能力が相殺されてしまうため、SE排除機能は無くなり、力と力の勝負になる。

 

一夏

「うおぉぉぉぉぉ!!」

マドカ

「ぬぅぅぅぅぅぅ!!」

 

暫しの力勝負が続き、

 

…ズズズ

 

マドカ

「!」

一夏

「うおぉぉぉぉりゃぁぁぁぁ!!」

 

ガキィィィィン!!

 

マドカ

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

 

ドォォォォォンッ!!

 

一夏の雪片がマドカの黒焔を押し返した。大きく吹き飛ぶマドカはそのまま地面に倒れ込む。ダメージは大きい様だ。

 

一夏

「はぁ…はぁ…!流石だなマドカ。あと少し続けたらヤバかったぜ」

マドカ

「ぐっ…な、何故だ…!この短期間に…何故貴様そこまで…!?ISが変わったとはいえ、何が貴様を強くした!?」

 

その問いに一夏はこう答えた。

 

一夏

「…簡単さ。俺には支えてくれる人がいた。守りたい人がいた。だからその人達のために強くなりたいと思った。失いたくないと思った。…それだけだ」

マドカ

「…支えてくれる人、守りたい人だと?……そんなの、そんなの」

 

すると一夏は続けてマドカに、

 

一夏

「そしてお前が戦うのも…お前の姉妹達のためなんじゃねぇのか?」

マドカ

「…!!」

一夏

「さっきお前こう言ったな?「姉さん達のためにも負けられない」って。それってお前と一緒に生まれた姉妹の事だろ?それを聞いて思ったんだ。お前が俺達を否定するのも、自分達の存在を証明しようとするのも、自分のためじゃなく姉妹達のためなんじゃないかって。俺達を倒す事で姉妹の存在していた意味を証明したいんじゃないかって」

マドカ

「……」

一夏

「マドカ…教えてくれ。お前らに何があったのか。話す位ならいいだろ?」

 

マドカは黙っていたがやがて、

 

マドカ

「………良いだろう。聞いて後悔するなよ」

 

 

…………

 

「織斑計画」

 

当時最強のIS操縦者である織斑千冬のクローンを創り出す事を目的とするその計画はそう呼ばれた。発案者は千冬と一夏の母であり、同時に遺伝子工学の分野で優れた知識を持っていた織斑春恵。アインヘリアル計画の失敗やオーガスの失踪で慌てていた当時の権力者達はすぐにそれを了承し、千冬の細胞を手に入れ、それを元に受精した卵子を織斑春恵含む複数の女性に投与した。30人ばかり受精した卵子の内、その三分の二にあたる20人は母親の腹の中で生まれる前に排除された。成長段階で身体が大きい者や骨格がしっかりしている等、将来有効株になりうる子供だけを残して…。

そして残った10人がこの世に生を受け、マドカは織斑春恵の腹から最後に生まれた子供だった。成長を促進する効果も与えられていた彼女達は生まれて三年後には肉体的にもう小学生後学年位にまで成長していた。一般的には十分な設備や食事を与えられるが親や人との接触を一切受けずに育った子供よりも、貧しくても親や人からたっぷりの愛情を受けて育った子供の方が健康的な子に育つと言われる。しかしマドカ達は前述の様に他人とのやり取りを一切受けず、ただただ戦いに関する知識や技術だけを教えられてきた…。

そしてそんな生活が続いたある日、マドカ達に運命の日が訪れた。最強のクローンであるひとりを決めるため、殺し合いをしなければならなくなったのだ。マドカ達に拒否権は無かった。

 

「撃たなければ撃たれる。殺さなければ殺される」

 

マドカ達は戦った。生き残るために…。

……そしてマドカが最後に生き残った。しかしその中でマドカはある事を経験していた。

 

 

「…生きて…。私達の分まで…」

 

 

マドカは最後に手をかけた姉からこの様な言葉をかけられた。それはマドカと同じく織斑春恵から生まれた自分の姉だった…。

 

 

………

 

マドカ

「あの時姉さんは…妹である私を生かすために…命を捨てた…。私に、自分達の想いを託して…。だから私はせめて姉さん達のためにと頑張った。敷かれたレールの上を従う生き方だったが…それでも姉さん達の存在した意味を、少しでも証明したいと必死に頑張った」

一夏

「……」

マドカ

「…だが!奴らは私を捨てた!「ISを動かせない」「織斑千冬に勝てない」それだけの理由でいとも簡単に私をゴミの様に捨てたのだ!」

一夏

「…その後でオーガスに出会ったのか?」

マドカ

「…ああ。路頭に迷っていた私の前に突然主が現れた。主は言った。「私はお前の力を認めている。自分の右腕になれ」と」

一夏

「……」

マドカ

「私は復讐を誓った!私や姉妹達を散々に弄び、いとも簡単に捨てた奴らに!織斑春恵はとうに死んでいたが…まだ織斑千冬がいる。そう思って私は何としてもISを動かせる様になろうとしていた矢先…!」

一夏

「…俺が動かした事が世界に流れたって訳か。…でもあれは」

マドカ

「貴様が創られたIS操縦者である事は知っている。でもそんな事は私にはどうでもよかったのだ!なんの苦も無く、世界初の男のIS操縦者として持て囃された貴様を見て…自分の無力さを再認識された様な感覚だった…。そしてそれが私の復讐の炎をより強くした。努力の末、私はとうとうISを動かせる様になった…」

 

そう言うとマドカは力なくその場に座り込んだ。

 

マドカ

「……だが、結果はこの様だ…。あの兄弟にも…織斑千冬にも…そして貴様にさえ勝てない…。必死で頑張ってきて、挙句の果てに主にまで見損なわれて…本当に…滑稽だな私は…」

一夏

「マドカ…」

マドカ

「織斑一夏…貴様は先ほど言ったな?失いたくない者がいるから、守りたい者がいるから強くなれたと。…では既に無くした者はどうすればいい?姉妹が…姉さん達こそが…私にとってそれだった…。私には…もう何もない…。守りたい者も…貴様の様に…守ってくれたり、支えてくれる者も…」

 

力無くそう言うマドカ。するとそんなマドカに一夏は叫んだ。

 

 

一夏

「なら俺が守る!」

 

 

マドカ

「!!」

一夏

「約束してやる!マドカ!お前は俺が守ってやる!」

マドカ

「……」

 

一夏はそうはっきり断言した。それにマドカは暫し呆然としていたが、

 

マドカ

「……は、…はは、ははは!はははは!…守るだと?貴様が私を!?随分笑わせる冗談を言ってくれるじゃないか!!」

 

マドカはそう言い返す。…が、それに一夏は、

 

一夏

「冗談なんかじゃねぇ!お前は俺が守ってやる!もう二度とお前をひとりにはさせねぇ!」

マドカ

「それが冗談というのだ!いつもお友達や織斑千冬に助けられてばかりで、一度は私に敗北した挙げ句に力に振り回されて破壊者にまでなった貴様がこの私を守るだと!?ふざけるな!」

一夏

「……確かに俺は前にお前と戦った時、自分の中の闇に一度は負けた。滅茶苦茶悔しかったさ。……だけど今は良かったと思ってる。色々得たもんもあったし…何より分かった事もあったしな」

マドカ

「……分かった事だと?」

 

マドカはその言葉が気になった。すると一夏はISを解除し、座り込むマドカの正面に自分もドカッと座って話始める。

 

一夏

「…白騎士になって暴走して…火影と海之に止められた時、俺は聞いた。「なんでそんなに強いのか」って。そしたらあいつらが言ったのさ…「自分達は別に強くない。失いたくないだけだ」ってな」

マドカ

(…その言葉…。あの時あいつが似た様な言葉を…)

 

 

火影

(失ったから強いんじゃない。失いたくないから強いのさ)

 

 

スキー旅行の時に火影が言った言葉をマドカは思い出していた。

 

一夏

「あん時は色々あって急にわからなかったんだけどさ。あの後、別の人にこう言われたんだ。「誰も悲しませない。誰も失わせない。その為に絶対に諦めない。それがふたりの信念で、強さだ」ってな。あん時心底思ったよ…。俺はこんなスゲェ奴らに嫉妬してたのか~ってさ」

マドカ

「……」

 

マドカは黙って聞いている。何故か話を中断する気になれなかった。

 

一夏

「…スキー旅行の時止められたからお前は知らないけどさ。…火影と海之って二度も親を亡くしてんだぜ。一回目も二回目も…殺されて。特に一回目の時なんて目の前で母親を…」

マドカ

「……え」

一夏

「それがきっかけであいつらは一度は道を別っちまった。そのせいで…何度も殺し合いをした事もある」

マドカ

「!…あの兄弟が殺し合いだと…?」

 

マドカは信じられないと言った様子だ。

 

一夏

「ああ。…でもそんなあいつらでも今はああやって一緒にいる。共通の信念を持って戦ってる。「誰も悲しませない。誰も失わせない」っていうな。そして今は……俺の信念でもある」

マドカ

「……だが力無くては何もできない。信念だけでは…何も守れはしない」

一夏

「マドカ。俺は確かにあいつらみたいに強い訳でも頭がいい訳でもねぇ。だけど大切なものを守りたいっていう気持ちはあいつらにも負けねぇ自信がある。決して諦めねぇっていう気持ちも!そのために俺はもっと強くなってみせる!そして俺達だって…火影と海之みたいにきっと新しくやり直せる!俺達は…兄妹なんだからな!」

 

その言葉にマドカは再び驚き、動揺する。

 

マドカ

「!!…兄妹、だと…?」

一夏

「お前は千冬姉の血を持ってんだろ?いわば双子だろ。千冬姉の弟が俺なら…俺達は兄妹じゃねぇか。お前だけじゃねぇ。お前の姉妹も皆俺の妹だ!」

マドカ

「お前の……妹、だと?……私達…が?」

一夏

「ああそうだ。……マドカ。俺と一緒に来い!誰もお前を責めたりなんかしない!もしそんな奴がいたら俺がお前を守ってやる!そして俺達で、お前の姉妹を弔い直そうぜ?」

マドカ

「……だが私は帰る場所も」

一夏

「俺と千冬姉の家に来いよ。父さん母さんがいた家でもあるけど…ふたりの私物なんて全く無いし。俺と千冬姉だけじゃあの家は広すぎるし。ひとり増えたってどうって事ないさ♪」

 

悪戯気もある様な笑みを浮かべる一夏。

 

マドカ

「……本気か?……本気で、そう言って…いるのか?」

一夏

「ああ。普通の女の子の人生っての歩んでみなよマドカ。そしてもう…こんな事に関わるな」

 

そう言って一夏はマドカに手を差し伸べる。

 

マドカ

「……」

 

マドカはゆっくりではあるが一夏のその手を取ろうとした。そのために黒騎士を解除しようとした……その時、

 

 

カッ!

 

 

一夏・マドカ

「「!?」」

 

突然マドカの黒騎士が光始め、

 

 

…ゴォォォォォォォォォォォ!!

 

 

黒き炎に包まれた。

 

マドカ

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

一夏

「マドカ!」

 

一夏は白式を纏い、マドカに手を伸ばす。しかし、

 

バシュゥゥゥッ!!

 

一夏

「くっ!?」

 

見えない何らかの力に阻まれてしまう。

 

マドカ

「ぐあああああああああ!!」

 

 

…ドクン!…ドクン!ドクン!ドクン!……

 

 

次第に高まる心臓の鼓動…。そして、

 

「ガラダ!ガラダ、ヨゴゼ!イマズグヨゴゼェェェェェ!!」

 

何かがマドカに話しかけてきた。

 

マドカ

「ぐあああああああ!!」

一夏

「マドカ!!」

 

カッ!!シュバァァァァァァァァァ!!

 

一夏

「うわ!」

 

DNSをも超える凄まじい光の爆発。…やがてそれが収まってくると、

 

一夏

「くっ…マドカ!一体……!!」

 

一夏は見た。マドカがいたその場所に…マドカではないある者がいた。

 

 

「グルルルルルルルルルルル!」

 

 

それは普通のISよりも遥かに、ファントムやグリフォンよりもでかい。

 

 

「…ゴアァァァァァァァァァ!!」

 

 

獣の様な呻き声をあげていたソレは続けて凄まじい咆哮を上げた。そして一夏はその姿に見覚えがあった。

 

一夏

「こ、こいつは……!!」

「ガァァァァァァァァァァァ!!」

 

カッ!!…ヴゥン!!

 

するとソレの腕が突然光始め、一夏に向かって振り下ろしてきた。

 

一夏

「くっ!!」

 

ドゴォォォォォォォ!!

 

一夏は横に急速回避して避ける。すると横に逃げた一夏にソレは追撃してきた。

 

ドゴォォォォォォォ!!

 

一夏は再び避け、腕はそのまま一夏達と千冬達を分断していた光の壁に当たる。そして、

 

 

…バリィィィィィィィィンッ!!

 

 

その一撃はその壁を粉々に破壊してしまった。その向こうには、

 

スコール

「なっ!!シールドが…破られた!?」

千冬

「…あれは!」

一夏

「千冬姉!?」

「グオォォォォォォォ!!」

 

 

ズギュ―――ン!!

 

 

その獣は千冬と倒れるスコールを目視すると間もなく口からビームを撃ってきた。

 

一夏

「千冬姉避けろぉぉ!」

千冬

「くっ!」

 

 

ドゴォォォォォォンッ!!

 

 

間一髪千冬はスコールを抱えて回避する。その場所にクレーターができていた。

 

スコール

「な、なんて威力なの!それに何なのあいつ!?」

一夏

「ち、千冬姉!あれって確か!」

千冬

「……ああ間違いない。あれは…!」

 

 

巨大な手足を持つ黄色い身体。頭部には異質な角が生え、腰からは一対の翼がある。全身には血の様に赤い光を放つ異様な文様が走っている。

そして千冬はその名を言った。

 

 

 

千冬

「……アビゲイル!!」

 

 

 

それは一時嘗ての魔帝やアルゴサクスとも渡り合ったといわれ、火影がダンテの頃に戦った大悪魔、アビゲイルであった。

 

アビゲイル

「グオォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

しかし現れたそれは最早知性は持っておらず、獣の如く暴れまわる破壊獣である様だ。

 

千冬

「し、しかし何故あれがここに!…まさか!」

一夏

「ああそうだ!あれはマドカなんだ!急に苦しみ出して…あの黒い炎に包まれて!」

スコール

「…デビルトリガー…!オーガス…マドカにも」

アビゲイル

「グゥルルルルルルルルル…!!」

 

その時、アビゲイルの赤き目が一夏達を捕らえた。

 

千冬

「ちっ!こちらに気付いた様だな!一夏、お前は下がっていろ!」

 

だが一夏はそれに反論する。

 

一夏

「馬鹿言ってんじゃねぇ千冬姉!俺も戦う!それに…マドカは俺が救い出す!約束したんだ!」

千冬

「お前…」

一夏

「あいつは俺の妹だ!もう二度と…あいつに悲しい思いはさせねぇ!」

 

一夏は頑として引く気は無い様だ。そして、

 

千冬

「……わかった。絶対に油断するなよ!一緒にマドカを助けるぞ!」

一夏

「おう!!」

 

千冬もマドカを救う決心をした様だった。今にも襲い掛からんとするアビゲイルに対峙する一夏と千冬。

 

一夏

「マドカ。約束して早々だけどしっかり守るぜ!……俺が必ず、お前を助ける!!」




※次回は二週間後の25日の予定です。
次回でジュデッカ編は終了予定。次からはいよいよ火影達になります。
下にデビルトリガーについての情報を記載します。


「デビルトリガー」

一夏の白式の変貌を見たオーガスがDNSの新たな可能性を目指して造り上げたツール。スコールとオータムには引鉄の様なタイプを、マドカにはISを自己の判断で解除しようとすると勝手に起動するプログラムを組み込んだ。
使用するとDNSを強制発動させ、使用者の技術や実力では制御できない様な凄まじい力を持つDISへと変貌させる。……しかしそれは表向きで本当は使用すると使用者の意識を乗っ取り、使用者とISを取り込んだ悪魔となってしまう。故に変貌したそれは悪魔であるがISの素養も取り入れている。また、使用者の闘争心の強さが変貌した悪魔の力に影響する仕様があり、これが強い程変身後の力も強くなる。
リベリオンと閻魔刀が反応した事から魔力が使われているとされる。


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Mission205 ジュデッカ④ 家族を得た者なれた者

一夏とマドカの戦いが始まった。
以前の戦いで自信をつけていたマドカは一気に攻めかかるが、白式・駆黎弩とこれまでの経験や訓練の全てを懸けて戦う一夏は以前とはまるで別人。終始マドカに優勢し、遂に零落白夜での戦いにも勝利した。
オーガスにも見限られ、最後の戦いにも勝てなかったマドカは絶望する。しかしそんなマドカに一夏は手を差し伸べて言った。

「俺がお前を守る!妹であるお前を!」

この言葉に心動かされたマドカは一夏の手を取ろうとする。
……しかしその時、黒騎士に仕込まれていたデビルトリガーが強制発動し、マドカはアビゲイルへと変貌してしまった。マドカを守るという約束を果たすため、一夏と千冬は剣を再び握る。


アビゲイル

「グアァァァァァァァァァァ!!!」

 

一夏と千冬の姿を確認したマドカが変身したアビゲイルは咆哮を上げた。

 

一夏

「マドカ…俺と千冬姉でお前を助ける!」

千冬

「スコール・ミューゼル!お前は下がっていろ!」

スコール

「…御免なさい」

アビゲイル

「ゴアァァァァァァァァァ!!」ズギュ――ン!!

 

口から再び熱線を撃ってくる。一夏と千冬は二手に分かれて避け、

 

一夏

「粉雪!」ドドドンッ!

千冬

「はぁぁ!」バシュゥゥ!

 

両方から攻撃を繰り出す一夏と千冬。

 

カッ!!

 

するとアビゲイルの両腕が光始め、

 

 

バシュゥゥゥ!バシュゥゥゥ!

 

 

その腕で粉雪とドライヴを弾き飛ばした。

 

一夏

「何!」

アビゲイル

「オォォォォォォ!!」ヴゥヴゥン!!

 

更にそのまま剛腕を振り回してくる。しかし一夏と千冬はこれも冷静に見極めて避ける。

 

千冬

「まるで駄々っ子だな。パワーはある様だが知能は低い」

一夏

「もう一度だ!!」ズドォォンッ!!

 

一夏は受け止めた攻撃を利用し、吹雪を撃つ。…しかし、

 

…ドゥンッ!!

 

当たる直前でアビゲイルが軽々と飛んで避けた。ファントムやグリフォンよりも大きいのに動きはそれ以上である。

 

一夏

「! 嘘だろ!?あのでかい身体で!」

千冬

「一夏!避けろ!」

アビゲイル

「ガァァァァァァァ!!」

 

ドゴォォォォォォッ!!

 

アビゲイルの凄まじいパンチが地に刺さる。それを間一髪一夏は避ける。

 

一夏

「あ、危ねぇ…」

 

とその時、

 

 

ズドドドドドドドド!!

 

 

突如地面から棘の波が生えて襲い掛かってきた。それは真っすぐ避けたばかりの一夏に向かう。

 

一夏

「!!」

千冬

「たぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

バキィィィン!バキ!バキィィィン!

 

一夏に迫っていた棘を瞬時加速した千冬がすれ違いざまに斬り、一夏を救った。

 

一夏

「千冬姉!」

千冬姉

「油断するな一夏!単純とはいえ相手はあの大悪魔アビゲイルだ!一瞬の気の抜けが命取りになるぞ!」

 

そのアビゲイルは一夏と千冬を睨んでいる。その間に千冬は一夏に伝えた。

 

千冬

「ふたつ分かった事がある。奴は確かに素早いがここは室内だ。外とは違い奴の図体ではある程度は制限される筈。落ち着いて動きを見ろ」

アビゲイル

「グゥルルルルルル……」

千冬

「そしてもうひとつ、まだ全て見た訳でないが奴の攻撃方法は火影達の記録にあったのと大差無い。攻撃の手がわかっていれば勝機はある」

一夏

「お、おう!」

(やっぱ流石だな千冬姉…)

 

そんな千冬を一夏は誇りに思うと同時に、何時か自分も同じ位になりたいと思った。

 

千冬

「奴を速効で黙らせるにはやはり零落白夜しかない。だが私はスコールとの戦いでSEを消耗している。もしもの時は…一夏、やれるか?」

一夏

「! ああ任せてくれ!」

千冬

「よし、では行くぞ!」

 

一夏と千冬は突撃した。

 

アビゲイル

「シィィィネェェェ!!」ズギュ――ン!!

一夏

「後ろにいろ千冬姉!…イージス!」

 

バシュゥゥゥゥゥゥゥ!!

 

一夏はイージスで真正面から受け止める。避ける暇も惜しい。

 

千冬

「お前に助けられるとはな!…八重桜!」

 

カッ!ドドドドドン!!

 

アビゲイル

「!」ドゥンッ!

 

桜の花弁型のビット兵器「八重桜」がアビゲイルに向かう。アビゲイルは避けようとジャンプする。

 

千冬

「無駄だ!」ドドドドドン!!

アビゲイル

「!!」

 

気付いた時…アビゲイルの周囲を八重桜の花弁が覆い、動きを封じられた感じになっていた。

 

千冬

「今だ一夏!両方から一気に決めるぞ!」カッ!!

一夏

「おお!」カッ!!

 

千冬のレッド・クイーンと一夏の雪片・参型が光り始める。

 

一夏

「マドカは返してもらうぜ!」

千冬

「喰らえ!」

 

そしてそのまま挟み込む様に共に零落白夜を仕掛けた。一発でも直撃すればボルヴェルクの様に解除できる筈だった。

 

アビゲイル

「…グルゥアアアアアアアアア!!」カッ!!

 

しかしその時、アビゲイルの両腕が再び光り始め、

 

 

ガキィィンッ!ガキィィンッ!

 

 

一夏・千冬

「「!!」」

 

その腕で一夏と千冬の零落白夜を受け止めた。更に、

 

…キュゥゥゥゥゥン…

 

千冬

「! 何!」

一夏

「零落白夜が…消えた!?」

 

アビゲイルの腕とぶつかった途端、ふたりの剣から零落白夜の光が消え、解除されてしまった。

 

アビゲイル

「ガァァァァァァ!!」ドゴォォォ!!ドゴォォォ!!

一夏

「うわぁぁぁ!!」

千冬

「ぐあ!」

 

純粋な力ならばアビゲイルの方が圧倒的。ふたりはそのまま殴り飛ばされ、壁に激突した。

 

バガァァンッ!

 

千冬

「がは!ぐっ…!」

 

ズドドドドドッ!!

 

その千冬にアビゲイルの棘の波が襲い掛かる。

 

一夏

「千冬姉!!」

 

バババババババババ!!

 

すると千冬の前方に突如炎が巻き起こり、攻撃を止めた。

 

スコール

「くっ…!」

千冬

「! スコール・ミューゼル!」

 

それはスコールのIS、ゴールデン・ドゥーンが展開した炎の壁だった。

 

一夏

「うおぉぉぉぉぉ!ヴゥンッ!!

 

氷雪をアビゲイルに向けて放つ一夏。アビゲイルは避けたが千冬から離すのには成功した。

 

一夏

「千冬姉!大丈夫か!」

千冬

「ああこいつのおかげでな。礼を言うぞス…いやアレクシア」

スコール

「…勘違いしないでちょうだい。ほんの気の迷いよ。それにもう打ち止め」

一夏

「…しかしさっきの零落白夜、なんで急に消えたんだ…!」

 

すると千冬はもうわかったのか答えを出した。

 

千冬

「…先程お前の槍や私のビットを払ったのを見て気になっていたのだが…間違いない。奴の腕にもあるのだ。…零落白夜がな」

一夏

「な、何だって!?」

スコール

「…ありえなくもないわ。Mの黒騎士にも零落白夜と同じ機能が備わっていた。あれがMの黒騎士ならば、その力があの化け物に作用していてもおかしくない…。あのバリアを破壊できたのも頷ける」

千冬

「くそ…なんてこった。となるとそれ以外の部分、確実に狙うなら胴体に当てるしかないか…」

 

するとその時、

 

アビゲイル

「ゴアァァァァァァァァァ!!」

 

 

ドシュッ!ドシュッ!

 

 

アビゲイルが凄まじい方向を上げると共に、腰部から生えている翼がもがれ取れた。

 

スコール

「な、何!?」

一夏

「翼を…折りやがった!」

 

そして、

 

 

ドゥンッ!ドゥンッ!!

 

 

それは猛烈なスピードで三人の所に向かってきた。

 

千冬

「! 散開しろ!!」

 

千冬の合図で三方向に避ける一夏達。しかし、

 

…ギュンッ!ギュン!

 

それは方向を変え、一夏と千冬を追尾してくる。

 

一夏

「追いかけてきた!?」

千冬

「追尾機能まであるのか!ちっ!厄介な!」

 

ガキィィィン!

 

一夏と千冬は斬り払うが、巨大な刃となった翼は更に襲い掛かってくる。

 

千冬

「ぐっ!邪魔をするなぁぁ!!」ドゥルルン!ゴオォォォォォォ!!

一夏

「俺達はマドカを助けなけりゃいけねぇんだ!!」カッ!!

 

一夏は締雪、千冬はレッドクイーンのイクシードをそれぞれ全開にし、

 

ザンッ!!…ドガァァァァン!!

 

襲い掛かるそれに一気に斬り掛かり、破壊した。

 

千冬

「ハァ…ハァ」

アビゲイル

「グダゲロォォォ!!」

千冬

「!!」

 

ドゴォォォ!!

 

千冬

「ぐああ!!」

 

ボルヴェルクとの戦いで消耗が激しい千冬の一瞬の隙を突き、アビゲイルは攻撃を仕掛けた。そのまま地面に叩きつけられる。

 

ドガァァン!!

 

千冬

「がはっ!!」

一夏

「千冬姉!」

アビゲイル

「ヅギバオマエダァァァァ!」ドゥンッ!!

一夏

「テメェェェェ!!」ドゥンッ!!

 

一夏は怒りのままアビゲイルに向かって行く。

 

千冬

「い、一夏!くそ、どうすれば…………あれは!」

 

 

ガキィィィィンッ!ガキッ!ガキキンッ!

 

 

一夏は零落白夜を腹に当てるために果敢に攻撃を仕掛けるがアリギエルの剛腕に弾かれ、胴体に行きつかない。

 

一夏

「くっ!なんて馬鹿力だ!」

 

ドゴォォォォォォ!!

 

その時、一夏の一瞬の隙をついてアビゲイルが蹴りを喰らわせた。

 

一夏

「うわぁぁぁぁ!!」

 

その勢いで一夏は吹っ飛び、地に伏せる。

 

一夏

「ぐっ…く、くっそぉ…!」

 

一夏もダメージが大きいのか顔を顰める。そんな一夏にアビゲイルが言う。

 

アビゲイル

「ギザマラ…ヨワイ。ダンデヲ、バージルヲダゼェェェェ!!」

一夏

「!!………へっ、そいつは無理だな」

 

そう言いながら立ち上がり、

 

一夏

「火影と海之には…大事な仕事があるんだ。テメェなんかに構ってる暇はねぇんだ!」

 

腕を上げ、

 

一夏

「そして、俺にも大事な仕事が…やる事がある!テメェを倒して…マドカを救ってみせる!!」

 

再び雪片を向き直す。

 

アビゲイル

「…ゴォォォノォォガギィィィ!!」ドゥンッ!!

 

激昂したアビゲイルは一夏に向かって突進し、

 

アビゲイル

「ジィィネェェェ!!」ヴゥンッ!

一夏

「くっ!」

 

腕を振りかざす。

……するとその時、

 

 

ドシュゥゥッ!!!

 

 

アビゲイル

「グオォォォォォォ!!」

一夏

「!!」

千冬

「ハァ…ハァ…」

 

一夏に向かっていた腕に何かが飛んできて突き刺さり、そのまま地に串刺して動きを止めた。刺さっていたのは千冬の投げた…ボルヴェルクの残した槍だった。

 

千冬

(助かったぞボル…いや太古の神よ…)

「一夏!今だ!もう一度、今度こそ決めるぞ!」

一夏

「! おお!!」ドンッ!!

 

一夏と千冬は決死の全速でアビゲイルに迫る。

 

アビゲイル

「ガァァァァァァ!!」ヴゥンッ!!

 

しかしアビゲイルの方ももう片方の零落白夜纏う腕を振りかざして襲い掛かってきた。

 

 

ガキィィンッ!!

 

 

その腕を千冬の零落白夜が受け止める。

 

アビゲイル

「ガッ!!」

一夏

「千冬姉!」

千冬

「止まるな一夏!今の内だ!お前が決めるんだ!」

一夏

「! ああ!」ドゥンッ!!

 

更にスピードを上げた一夏はアビゲイルに迫る。両腕が防がれているアビゲイルに零落白夜を避ける術は無い…。

 

アビゲイル

「…グァァァァァァァ!!」カッ!!

 

しかしその時、アビゲイルの口が大きく開かれ、そこから凄まじい光が漏れる。

 

千冬

「! しまった!一夏避けろ!」

一夏

「駄目だ!今が最大のチャンスなんだ!撃たれる前に一気に決めてやる!」

 

千冬の言葉を無視し、一夏はそのまま剣を向けて突撃する。対してアビゲイルの口からの光が一層強くなる。

 

千冬

「一夏!!」

一夏

「うおぉぉぉぉぉ!!」

 

時間的には僅かにその光の放出が速そうだった……その時、

 

 

シュバァァァァァァァ!!ガシッ!!

 

 

アビゲイル

「グアアアアアアアアア!」ドギュ――ン!!ボガァァァァァン!!

一夏・千冬

「「!!」」

 

アビゲイルの首に炎が巻き付いた。それによってアビゲイルのレーザーが別方向に飛んでしまい、一夏には届かなかった。

 

スコール

「くっ!今よ織斑一夏!!」

 

止めていたのはスコールの炎の鞭だった。

 

千冬

「…一夏!マドカを!」

一夏

「うおぉぉぉぉぉ!!」

 

 

カッ!!ギュオォォォォォォ…!

 

 

一夏の想いに応える様に雪片・参型が纏う零落白夜の光が一層強くなる。そして、

 

アビゲイル

「!!!」

 

一夏

「マドカを…返しやがれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

その場が凄まじい光に包まれた……。

 

 

…………

 

???

 

マドカ

(……)

 

何処でもない何処か。そこにマドカはいた。意識はあった。しかし身体中に力が入らない。目も口も開けない。今の自分の状況は例えるなら水の中を漂っている。そんな感じだった。すると、

 

「……マドカ」

マドカ

(……誰?)

 

すぐ傍から声が聞こえる。しかも複数。怖い感じはしない。そして聞き覚えがある様な声…。

 

「貴女は…私達の希望…」

「悲しみと絶望の中で生まれてきた…私達の…」

「そう…。この世に生まれ出る事も叶わなかった…私達の…」

マドカ

(……!)

 

意識の中でマドカは誰か分かったらしかった。しかし声が出せない。目も開けない。

 

「成長が早い貴女が何時まで生きるかはわからない…。でも…そんなの関係無い」

「私達は貴女と共にいる…。貴女の中に…」

 

声はどんどん小さくなっていく。気配も遠ざかっていく…。

 

マドカ

(待って…!)

「生きて……私達の分まで…。貴女の……家族と一緒に…」

マドカ

(……かぞ……く……)

 

 

…………

 

マドカ

「………う」

一夏

「おい!おいマドカ!しっかりしろ!」

 

マドカがゆっくり目を開くと…そこには自分を心配そうに見つめる一夏と千冬。そして少しだけ離れた場所にスコールがいた。

 

マドカ

「……織斑……一夏」

千冬

「大丈夫か?」

マドカ

「織斑…千…冬…。……私、どうなって…」

千冬

「黒騎士に仕込まれていたデビルトリガーだ。その力でお前は…一時悪魔となっていた…」

マドカ

「…!…私が…悪魔、に…!?」

 

その言葉にマドカは目を見開く。

 

スコール

「知らなかったのね…。恐らくオーガスが密かに仕込んでいたんでしょう」

マドカ

「主、が…」

 

ショックを受けているらしいマドカ。そんなマドカに一夏は、

 

一夏

「マドカ…俺達と一緒に来い。そしてもうオーガスなんかに関わるな!」

千冬

「一夏の言う通りだ。あの男はお前をただの道具としか見ていない。もうお前が…辛い思いをする必要はない」

マドカ

「……しかし私は」

一夏

「お前は戦うための道具なんかじゃない!普通に生きていいんだ!人なんだからな!」

 

一夏はマドカに必死に思いの丈を伝えた。

 

マドカ

「………私は、……生きて、いいのか?」

一夏

「ああ!」

マドカ

「姉妹を殺して……多くの罪を犯してきた私が、……生きていいのか?」

スコール

「M…いいえマドカ。貴女は生きなければいけない。貴女の姉妹達のためにも…」

千冬

「あいつの言う通りだ。いきなりの事だらけで思う事はあるだろうがそれは時間が解決してくれる筈だ。これからは…「家族」として生きていこうじゃないか」

マドカ

「!!……家族?……私、が?」

一夏

「ああ。お前は俺の妹だろ?だから家族だよ」

千冬

「ああ…その通りだ。私にとっても…お前は妹だ。いや…もしかしたら娘ともいうべきか」

マドカ

「……私が、……家族…」

 

その言葉にマドカの目からは自然と涙がこぼれた。

 

スコール

(……家族、か……)

 

 

…………

 

それから暫くしてマドカは漸く落ち着いた。

 

千冬

「…落ち着いたか?」

マドカ

「…ああ。もう、問題ない。織斑千冬……ね…姉…さん…」

千冬

「!!……ふふ」

一夏

「ははは!」

 

千冬は微笑み、一夏は声を出して笑った。

 

マドカ

「わ、笑うな!今のは忘れろ!……あと織斑一夏、お前にはひとつ言いたい事がある」

一夏

「ん?なんだ?」

マドカ

「私は織斑千冬の血をもつ。だからお前の妹というより姉だ。姉として接しろ」

一夏

「え~だって生まれたの俺より後だろ~?なら妹じゃんか~」

マドカ

「あ、あり得ん!確かに生まれはお前より後だが、その、お、お前の妹というのはなんというか…何故か受け入れがたいというか…」

 

マドカは少し赤くなりながら反論する。そんなマドカを横目に一夏は今度はスコールに目を向ける。

 

一夏

「スコール、それともアレクシアか?アンタにも助けられた。ありがとうよ」

 

スコールは暫し黙っていたが…やがて口を開き、

 

スコール

「……礼を言われる資格なんてないわ。特に…貴方には」

一夏

「…?どういう意味だ?」

 

スコールは一夏に向き合う。その顔には何か決意の様なものが見て取れた。そしてこんな事を言い出した。

 

スコール

「……あの男の子供とは思えないわね」

一夏

「……え!?」

千冬

「スコール・ミューゼル!」

スコール

「いいのよブリュンヒルデ…」

 

何かを感じたのか千冬は止めるがスコールは構わず話し出そうとする。

 

一夏

「知ってんのか!?…父さんの事!」

 

そして一夏もスコールに迫る。アインヘリアル計画に参加していたスコールが同じくこの計画に参加していた父親の事を知っていても不思議はないかもしれない。しかし今の言葉にはただ知っているだけではない、何か特別なものがあるんじゃないかと一夏は感じていた。

 

スコール

「……ええ。知ってるわ。会った事もある。……最後に、ね」

一夏

「…!」

千冬・マドカ

「「……」」

 

千冬は何も言わなかった。マドカも事情を知っているのか口を挟まない。そしてスコールはある事を告げた。

 

スコール

「貴方達の父親である織斑秋斗。彼が狙われた……10年前のあの旅客機爆破事件。あれを起こしたのは………私」

一夏

「!!」

 

思いもよらぬ事実に一夏は驚愕し、

 

一夏

「そ…それって……それってまさか!!」

 

ある結論に達したらしい一夏はスコールに問いただす。

 

スコール

「…そう。貴方の父親、そして一緒に乗っていたあの兄弟の両親を殺したのは…………私なの」

 

一夏

「!!」

千冬・マドカ

「「……」」

スコール

「…10年前、ここを脱出してファントム・タスクとして動いていた私達にある情報が舞い込んできた。あの飛行機に…あの計画の重要関係者が乗ると。それを知った私達は…暗殺計画を実行した。拡張領域に隠していた爆発物を使って。あの時はISや拡張領域なんて知られて間が無い頃、空港もそんな方法があるなんて思いもしなかったでしょうね…」

 

すると、

 

…ジャキッ!!

 

一夏が雪片をスコールに向ける。

 

千冬

「一夏!」

一夏

「………アンタが、…あの事故を起こした…?……父さんや、火影達の両親を殺しただって!?」

スコール

「……ええ」

 

そう言う一夏の雪片は震えている。同時に息も落ち着かない。剣を無抵抗な人に向けるのが怖いのだろう。怖さと怒り、その両方を含んでいる様だ。

 

千冬

「一夏よせ!気持ちはわかるが今はそんな事している場合ではない!」

一夏

「……」

 

一夏もそれは理解しているつもりだ。しかし怒りがそれを忘れさせようとする。どんなに非道な人間でも父は父。それを殺したと言った人間が目の前にいる。仇である人間が。……そんな中、一夏は剣を向けながら訪ねた。

 

一夏

「………ひとつ、いやふたつ答えろ!」

スコール

「……何?」

一夏

「…アンタが父さんを恨んでんのはわかる。許せねぇって気持ちも理解できるさ。……でも!なんであんなテロを起こした!あの飛行機には、全く無関係な人達ばかり乗ってたんだぞ!!」

 

一夏の質問にスコールは、

 

スコール

「……私も最初はそう思った。でも…仲間達の声に反対できなかった。仲間の気持ちも理解できたから…。だから私があれの実行犯となる事にした。本当ならあれで私も死ぬ筈だったんだけど…生き残ってしまった。この身体は…大半が再生手術によるものよ」

一夏

「……」

 

スコールは一夏の目を真っすぐ見て答えた。それは彼女の本心だった。元々国を守っていた軍人であり、最後は身内のために身を犠牲にした彼女。本来ならばこの様な形で復讐を果たしたくなかった。しかしオータムや生き残った仲間達の気持ちを優先してしまった。

 

マドカ

「……」

一夏

「…もうひとつ!…火影と海之は…あいつらはこの事は!?」

千冬

「一夏…」

 

この問いにもスコールは真っすぐ答えた。

 

スコール

「…知っているわ。あのふたりに渡したメモリ、あれにメッセージを残したの。貴方達の両親が死んだあの事件を起こしたのは…この私だと」

一夏

「…!」

千冬

「それだけではない…。お前は海之と火影に、そして巻き込んでしまったあのふたりの両親、そして他の客に対して謝罪のメッセージを残していた。お前があのふたりに先に読んでほしいと言ったのは…誰よりも先に伝えたかったから、少しでも早く謝罪したかったからだろう?」

スコール

「……」

 

スコールは何も返さない。その通りの様だ。

 

スコール

「どんなに謝っても私がやった事は変わらないわ。殺したいなら殺してもいい。貴方にはその資格がある」

一夏

「!…そう言うからには覚悟はできてるって事だな!」グッ!!

 

一夏は両手で雪片を持つ。

 

千冬

「一夏よせ!!」

 

一夏の行動に本気で心配する千冬。するとスコールの前に思わぬ人物が庇うように立つ。

 

マドカ

「……」

 

それはマドカだった。

 

一夏

「マドカ…?」

マドカ

「…織斑千冬の言う通りだ。今は主、……オーガスを止める事が先だ。それにこいつは…死にそうだった私を助けてくれた…」

スコール

「……」

千冬

「マドカ…」

一夏

「……」

 

暫くそのまま膠着が続き、……そして、

 

……スッ

 

一夏が雪片を下ろした。

 

マドカ

「……」

一夏

「……わかってるよ。……千冬姉やお前の言う通り、今は…こんなことしてる場合じゃねぇからな…」

千冬

「一夏…」

一夏

「それにスキー旅行の時、火影と海之はアンタを逃がした…。もっと悲しかった筈なのにだ。……あいつらがそうしたのに、俺が今ここでやる訳にいかねぇだろ…」

スコール

「……」

 

思いとどまった一夏を千冬はほっとした表情で一夏を見ていた。

 

一夏

「…アンタの件は後だ。今は早く他の皆と合流しねぇと!」

千冬

「ああそうだな。マドカとスコールは」

 

と、その時だった。

 

一夏・千冬・マドカ・スコール

「「「!!!」」」

 

不思議な事が彼らに起こった。

 

 

…キュイィィィィィィィ…

 

 

一夏

「な、何だ!?」

マドカ

「ISが…!こ、これは…!」

 

キュイィィィィィィィ……

 

自分達に起こっている何らかの違和感にして異変。それは彼らのISに起こっていた。今まで経験したことも無いことが。

 

スコール

「馬鹿な…!」

千冬

「SEが…減少していく!?」

 

 

…………

 

アンティノラ

 

 

それは彼女達にも起こっていた。

 

キュイィィィィィィ……

 

刀奈

「こ、これは一体…!」

「弐式のSEが…消えていく!?」

フォルテ

「私のコールドブラッドもっス!」

ダリル

「馬鹿な…!何にも動かしねぇんだぞ!?」

 

ISは愚か武器も一切動かしていないのにも関わらず…勝手にSEが凄まじい勢いでどんどん減少していく…。簪や刀奈だけでなくダリルやフォルテのまでも。

 

 

…………

 

トロメア

 

 

そしてこちらでも、

 

キュィィィィィィ……

 

ラウラ

「どうだ!?」

シャル

「駄目!どうしても止まらない!解除もしてるのに!」

 

ラウラ達にも同じ事が起こっていた。何とかSEの流出を防ごうとしているがどんな操作をしても全く受け付けない様だった。

 

セシリア

「このままじゃあと数秒で完全に無くなってしまいますわ!」

「ねぇ馬鹿女!これもアンタの仕掛けなの!?」

オータム

「馬鹿言え!私も知らねぇよこんなの!アラクネも同じように消えてってるんだ!」

 

 

…………

 

カイーナ

 

 

「ど、どういう事だこれは…!何故急に紅椿のSEが…!?」

クロエ

「ベアトリスもです!SEが勝手に減少しています!」

 

箒達もその事態に驚きを隠せない。どうやらこの塔内部、彼らがいる部屋全てで同じ事が起こっていたらしかった。

 

「何もしていないのに勝手にSEが急激に減少していくなんて………!まさか!」

 

すると束の脳裏に何かが浮かんだ様子。

 

「姉さん!何かわかったのか!?」

クロエ

「束様!?」

(…もし…もし本当にあれを使ったとしたら……ここだけじゃ収まらない!でもなんのために!?)

 

 

…………

 

ラ・ディヴィナ・コメディア 外部

 

 

そして束の危惧した通りの事が起こっていたのである。外では一夏達を塔に侵入させたアリーシャ達が今も戦っていたのだが…。

 

……キュゥゥゥゥン……

 

ファントム

「……」

レミリア

「!…何!?」

グリフォン・アンジェロ

「「「……」」」

イーリス

「急に…止まった?一斉に…?」

 

戦っていた彼女達は目を疑った。それまで動いていた全てのファントムやグリフォン、アンジェロ達が急に魂が抜けたかの様に目から光が消え、一切の動きを止めたのだ。

 

ヴィシュヌ

「こ、こちらもです…!一体何が…」

ナターシャ

「皆さん避けて!」

 

 

ドガンッ!ドガガガン!!ドガアァァァァン!!!……

 

 

更に支える力も無くなったのか、それらは急速に地面に落下し爆発した。続けてどんどん落ちていく…。

 

ベルベット

「まるでエネルギーが無くなったかの様だ…。一体何が起こっている…!?」

 

その時ひとりのシュバルツェア・ハーゼ隊員が異常を感じた。

 

隊員

「…!く、クラリッサ副長!」

クラリッサ

「どうし……何!?」

 

キュイィィィィィィ……

 

ロラン

「!?オーランディ・ブルームのSEが…どんどん減っていく!」

ナターシャ

「ゴスペルのSEも!?」

アリーシャ

「まずい!皆早く地に降りるのサ!」

レミリア

「急がないとSE枯渇で墜落するわ!」

クラリッサ

「りょ、了解!全員急いで降下しろ!」

 

 

…………

 

IS学園

 

 

そしてここでも…、

 

教員

「…だ、駄目です!打鉄、ラファール、全ての訓練用ISからSEが無くなっていきます!」

「代表候補が持つ専用機にも同じ現象が起こっています!」

「非常用のものも同じ現象が起こっているため、補給できません!」

真耶

「一体…一体何が起こっているのですか…!?」

 

ラ・ディヴィナ・コメディアから遠く離れたIS学園のISやそれに関わるものからもSEが失われていった…。

 

本音

(……火影、……皆…)

 

 

…………

 

ナターシャ

「あ、危なかったですわ…」

クラリッサ

「しかしSEが完全に無くなってしまった。もうISは起動できそうにない…」

ヴィシュヌ

「…!み、皆さん!」

 

ヴィシュヌは塔を指差した。他の皆もそれに視線を移すと…、

 

 

…ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン…

 

 

ラ・ディヴィナ・コメディアが…ぼんやりと、どす黒く赤い不気味な光を放っている。

 

ロラン

「塔が…光っている…!」

ベルベット

「禍々しい…。まるで血の様だ…」

イーリス

「まさか…SEが失われてるのと関係があるのか…?」

アリーシャ

「千冬…。何が起こっているのサ…」

 

 

…………

 

キュゥゥゥゥゥン……

 

千冬

「くっ…とうとうSEが…!」

 

そして千冬達のISのSEも無くなってしまった様だ。こうなってはISを起動する事が出来ない。

 

一夏

「くそ!こんな時になんてこった!」

クロエ

「こんな事をするとしたらオーガスしかいない…。スコール、何か聞いていないか?」

スコール

「…いいえ。それにこんな事、幾ら彼でも起こせるのかわからない。篠ノ之博士なら何か知っているかもしれないけれど……!!」

 

…ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン…

 

一夏や千冬達がいるジュデッカもまた光り始めた。他の部屋も同じ事が起こっているに違いない。

 

一夏

(一体、一体何が起こってるんだ…!火影、海之…!)




※次回は二週間後の来月2日(土)の予定です。
予定より時間ができましたので何とか本日投稿する事ができました。ですが次回は少し時間がかかりそうです。申し訳ありません。
次回から火影達に移ります。


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Mission206 この世界に隠された秘密

マドカを助けるため、一夏と千冬は黒騎士が変貌したアビゲイルに立ち向かう。アビゲイルの繰り出す凄まじい怪力や黒騎士の能力である零落闇夜を持つ腕、強力なレーザーに決定打を中々出せないふたりだったがスコールの助けやボルヴェルクの槍でアビゲイルの攻撃を封印し、一夏が最後に止めを刺した。デビルトリガーから解放されたマドカを待っていたのは自分を家族として迎えるという一夏と千冬の優しさだった。マドカは涙し、スコールの過去の真実を聞いた後、一夏達は皆と合流して火影と海之の所へ向かおうとした。
……しかしその時、一夏達はおろか世界中のSEが急速に失われていくという異常事態が起こった。一夏達に何が起こったのか。そして火影と海之は…?


???

 

 

……………ヴゥゥゥン!

 

火影

「…っと!くっ…海之!」

 

一夏達を侵入させるために戦っていた火影と海之は自分達も侵入しようとしていた矢先、転移の闇に飲み込まれた。……そしてその出口だろう転移の闇から出てきた火影は何とか着地したが…その場に同じく飲み込まれた海之の姿はなかった。

 

火影

「…ちっ。………なんだここは。そう狭い場所じゃあねぇ様だが…」

 

海之とはぐれた事を悟った火影は自分の状況を把握しようと周りを見渡すが…暗くて何も見えない。とりあえず火影は灯り代わりにアリギエルを展開しようとすると、

 

 

バンッ!!!

 

 

火影

「!」

 

突然自分のいる場所が光り始め、周囲の様子がある程度明らかになった。しかし壁がいまだ見えない事からこの空間がとても広い場所というのはわかった。加えて、

 

火影

「…広ぇな。それに…なんだこの床の溝は…?」

 

自分が立っている場所の床部分に人工的な亀裂が入っている。それもまた大きいのか壁と同じく端部分が見えない。火影はとりあえず壁を探そうとして動こうとした…その時、

 

「ようこそ」

火影

「!……」

 

突然後方から声。火影はハッとするも誰かわかっているのか慌てずにゆっくりと振り返る。照らされている箇所の外、暗闇の中から現れたのは…

 

オーガス

「直に相対するのは久しぶりだな…」

 

やはりオーガスであった。

 

オーガス

「待っていたぞ…ダンテ」

火影

「待ってただと?へっ、強引に誘った癖に良く言うぜ。過度なアプローチは嫌われるってママから教わらなかったのか?」

オーガス

「ククク…それは申し訳ない。気が急いて迎えの準備もままならなかった…。それにこの世界の我が母だった者は早くに亡くした故な…」

火影

「…ここはどこだ?パーティー会場にしては随分きな臭せぇ場所だな」

 

するとオーガスはこう答えた。

 

オーガス

「いやいや、これ程の会場はないぞダンテ。…ここは「火焔天」」

火影

「…火焔…天…?」

オーガス

「ああ。そしてラ・ディヴィナ・コメディアの最下層だ。……今はな」

火影

「…?」

 

火影はその言葉が気になったが今はそれ以上に気になる事を聞いた。

 

火影

「海之はどうした?」

オーガス

「バージルの事か…。奴ならこの丁度真上の部屋にいる。奴を自身の手で殺したいと言う者がいてな。リクエストに応えてやった」

火影

(海之を?………あの野郎か…)

 

火影の頭にはある存在が浮かんでいた。

 

火影

「一夏や鈴達は?」

オーガス

「ククク…安心しろ。大切なお友達も歓迎を受けておるわ。最も少々過激な歓迎だがな」

 

その言葉で彼らも戦っている事を火影は悟った。

 

オーガス

「無事でいるかは奴らの頑張り次第だ。ククク…お友達が心配か?」

火影

「……いんや、あいつ等ならきっと大丈夫さ。それより…」ジャキッ!「俺達は俺達の戦いをさっさと始めようじゃねぇか…」

 

そう言って火影はエボニーを向けた。だがオーガスは不気味な笑みを崩さない。

 

オーガス

「ふっふっふ…そう急かす必要もあるまい。漸くここまで来たのだ。我らの因果の終焉にして…新たな世界の始まりとなる場所にな」

火影

(…新たな世界だと?)

 

オーガスの狙いはDNSやDISを利用してこの世を魔界の様な争いの絶えない世界に変える事。このラ・ディヴィナ・コメディアはその始まりの場所とも言っていたが…。

 

オーガス

「それに貴様らは我の真の目的を知りたいのではないのか?」

火影

「……」

 

火影はエボニーを下げる。

 

火影

「…けっ、んじゃ聞かせてもらいたいもんだね。元・覇王様のありがた~いお話ってやつを。だが手短にしてもらいてぇもんだな。こっちにゃ時間がねぇんだ」

オーガス

「ククク…その減らず口は相も変わらんな」

 

オーガスはそれでも余裕の笑みを崩さない。するとオーガスは火影に問いかけた。

 

オーガス

「その前にひとつ尋ねよう。…ダンテ、貴様はこの世界についてどう考える?」

ダンテ

「…あ?」

オーガス

「嘗て我らがいた世界は常に人界と魔界で成り立っていた世界…。魔界の人界への侵攻があった世界…。大きい小さいはあったが人と魔の戦いが絶え間なく続いた世界。……だが今、この世界にはその全てが無い。そんな世界を…嘗て悪魔を刈る者として生きていた貴様はどう考える?」

 

火影は顎に手を当て、暫し考えた後にこう答えた。

 

火影

「……そうだな、この世界に生まれて数年後に記憶が戻ってきたが…正直に言やぁ刺激は弱ぇな。あの頃みてぇに悪魔共を潰す機会もねぇし。それに魔界が無ぇってのもほんの少し寂しい気もすんな。入りたかった訳じゃねぇが入る機会はあったし、数年潜り続けてた時もあったし、あんな場所でも親父の故郷でもあったし」

オーガス

「……」

 

オーガスは黙って聞いている。

 

火影

「だがもうそれも昔の話だ。過ぎ去った事言ってもしょうがねぇ。この世界は悪魔も魔界も無縁だ。無いなら無いで別に構わねぇ。悪魔退治も生意気な後輩達(あいつの子孫)に譲ったし、それにあいつらのおかげでそれなりに毎日楽しいしな。刺激は弱ぇが退屈はしてねぇよ」

 

火影は思ったまま話した。

 

オーガス

「成程…それが貴様の答えか…。ククク、では貴様にとって面白い話が聞けるかもな」

火影

「…どういう意味だ?てかてめぇも少しはそう思った事はねぇのか?昔はえらく真面目な科学者だったそうじゃねぇか?」

オーガス

「……そう。我もこの世に生誕して約30年の間、人間として生きてきた。嘗ての我の事も…魔界の事も悪魔の事も全て忘れてな。このまま何もなくば普通の人間として生を全うしていただろう…」

火影

「そのまま忘れてたら良かったんだがな。…なんで30年も経って突然思い出したんだ?」

 

火影の問いにオーガスは笑って答えた。

 

オーガス

「ククク…、人間で言えば…奇跡、というものだ」

火影

「……」

オーガス

「さて、貴様達は自然に記憶を取り戻したと言っていたが…どう思った?」

火影

「…まぁ勿論最初は混乱したがな。だがそれだけだ。もう俺もあいつも昔みてぇな事する気無かったし。…テメェはどうだ?奇跡的にアルゴん時の事思い出して喜んだか?」

オーガス

「そう思うか?……違う、絶望だよ。全てを失い、汚らわしく愚かな人間として生まれ直してこれまで生きてきたのだという自身に対するな。あれほどの絶望は嘗ても、そして今も味わった事はない。スパーダに封印された時、そして貴様に殺された時以上だった」

火影

「そいつは結構」

オーガス

「…そして次に得たのが喜びだった。神のお導き、というものであろうな」

火影

(…お導き、ね…)

「それで昔の栄光を忘れられずに魔とは関係ねぇこの世界を魔界の様に、か…?俺や海之の倍以上生きてるくせに一番成長してねぇな」

 

火影はそう皮肉ったが、

 

オーガス

「ククク…本当にそう思うか?」

火影

「…?」

オーガス

「貴様は我が目的を知りたがっていたな。では教えてやろう。……記憶と魔力を取り戻してからの我は必死にあるものを探し始めた。………そして遂に見つけたのだ」

火影

「見つけた?」

 

火影は目を細めた。

 

オーガス

「クククククク…そうだ、見つけたのだ。我らの新たな……故郷に繋がる場所を」

火影

「…!!」

 

その言葉に火影は目を見開く。オーガス、アルゴサクスが故郷という場所など…ひとつしかないからだ。

 

オーガス

「フハハハハハハ!やっと顔を崩したな。そうだそれこそ我が見たかった顔だ!」

 

そしてオーガスが次に言った言葉は…火影も思いもしないものだった。

 

 

オーガス

「……そう、あるのだよこの世界にも!裏側に存在していたのだ。……魔界が!そしてこの小島、このラ・ディヴィナ・コメディアがある場所こそが魔界に繋がる数少ない聖域!マレット島やデュマ―リ島と同じよ!人界と魔界の隔ての最も薄い場所!最も近い場所なのだ!!」

 

 

火影

「…!!!」

 

この言葉に火影はかなり驚いた。今までこの世界は魔界や魔力とは無縁であると信じていた。DNSやリベリオンの脈動を感じ、17年間生きて来て初めて魔力と接触した。しかしそれでも魔界があるとは想像もしていなかった。その魔界が…この世界にも存在しているという真実に言葉が出ない。

 

オーガス

「最初にそれを知った時は我としても流石に半信半疑であった。しかし記憶と力を取り戻し、啓示を受けてから全ては本当だったのだと確信に変わった。……だがいくつか問題もあった」

火影

「…?」

オーガス

「嘗ての我の記憶を取り戻しはしたが…力は完全に取り戻すことは出来なかった。それ故魔界への扉を開く事ができなかった。この世界は魔力が限りなく薄い。それこそ貴様やバージルの剣が感じ取れぬ程にな。故に暫し力を蓄える必要があった…」

火影

(記憶は取り戻したが力は中途半端…)

オーガス

「そしてふたつ目は結界だ。嘗て我らの世界で人界と魔界を隔てていたそれは屑の悪魔は通せどそれ以上の悪魔は通せなかった。いわば「網」の様なもの。人界を満たしていた魔力もその網の目を潜り抜けて魔界から流れて来ていた。……が、この世界は違う。「網」等ではなく「壁」。屑の様な悪魔さえ、そして魔力も殆ど通すことはない」

火影

(この世界に魔力が無かったのはそういう事だったのか…)

オーガス

「嘗て我々がいた様な世界と違い古の賢者達が造り上げた邪教の塔も魔界から人界へ侵攻した過去も無い。…だがどんなものにも完全なものが無い様にこの「壁」も完全なものではない。極僅かな穴、ヒビがあったのだ。最もその大きさは我らがいた世界のどれよりも小さく頼りないものだがね。だが確かなものであった」

 

それを聞いて火影は確信した。

 

火影

「……成程。その隙間とやらがあるのがこの下って訳か。……にしては微塵も感じねぇな」

オーガス

「ククク…当然だ。今は「門」を閉じているからな」

火影

「門だと?…!」

 

火影は足元を見た。

 

オーガス

「気付いた様だな。…そう、今我々が立っているこれこそが門。聖域へと続くペテロの門だ。これを閉じている限り魔力を感じる事も流れてくる事も無い。この隙間を見つけてから我が密かに造り上げたものだ。我が力を蓄えるまでの間人間共の目に触れぬ様に」

火影

「その隠れ蓑として造ったのがこのふざけた塔って事か…」

(……だがそのために何故わざわざこんなバカでかいもんを造る必要があるんだ…?)

 

火影はこのラ・ディヴィナ・コメディアには何か別の秘密があるのではないかと思った。

 

火影

「…アインヘリアル計画を起こした理由は?」

オーガス

「ククク…言っただろう?暇潰しだと。愚かな人間共の血を流す姿が見たかった。それだけだ」

火影

「……」

 

この答えを火影は信じていなかったがこのまま聞いてもはぐらかされると思い、話を変えた。

 

火影

「……で、もう扉は開いてんのか?」

オーガス

「いや、まだ開いてはいない。扉を開く力はもう十分だが…この門を開くには膨大なエネルギーが必要なのだ。世界中のエネルギーをかき集める程にな。本来ならばもう開いてもよかったのだが…貴様らの存在を知って今日まで開かずにいておいてやったのだ。有難く思うがいい」

火影

「成程…開くのは邪魔な俺と海之を倒してからって訳か」

 

オーガスは火影と海之を確実に倒してから扉と門を開く様だと火影は悟った。

 

オーガス

「ククク…そう決めつけるな。その気になればさっさとやっている。」

火影

「…?」

 

するとオーガスは火影にこんな事を言った。

 

オーガス

「正直に言おう。…ダンテ、人界と魔界を繋げる気はないか?」

火影

「…あ?」

オーガス

「さすれば魔界から魔力が流れ、この世界は嘗て我らがいた様な世界になる。実際見た訳では無いがきっと悪魔もおるだろう。人間共の間にDNSが蔓延り、DISや悪魔達で溢れかえる。そうすれば永遠とまた戦いと血にまみれた人生を過ごせるぞ。悪い話ではあるまい?」

火影

「……」

オーガス

「悪魔を刈る事に全てを捧げた者よ。お互い魔の力を持つ者として、我が右腕として新たな世界を創らぬか?」

 

オーガスは火影にそう問いかけた。……すると火影は俯きながら、

 

火影

「………成程な。また昔の様に悪魔をぶっ殺すスタイリッシュな戦いの人生か。確かに興味ねぇ事ねぇ」

オーガス

「……」

火影

「あの悪魔もどきの…なんてったか、それを目の前にした時も妙に…懐かしいもんを感じた。あと高揚感か、血が沸き上がる様な…そんな感じも。その時ちょいわかったぜ。俺の中にまだあん時の記憶が残ってんのかってな…」

オーガス

「ククク…」

火影

「オマケにこの世界には無かったと思っていた魔界があって…しかも悪魔もいるとは…中々に面白れぇじゃねぇか…」

オーガス

「そう、それが貴様の本来の姿だ。如何に生まれ変わろうとも」

 

火影の言葉に笑うオーガス。…とその時、

 

 

ドォンッ!!

キィィィンッ!!

 

 

オーガスの前に突如張られた結界。弾いたのは…エボニーの弾丸だった。

 

オーガス

「……」

火影

「…なんて言うと思ったのか?人間のオーガスさんよ。さっきの俺の話聞いていなかったのか?言った筈だぜ?今の人生も楽しいってな。うっす汚ねぇ悪魔や魔界を忘れて俺もバージルも新しい人生を始めたって時に、なんでまた逆戻りみてぇな事しなくちゃならねぇんだ?」

 

ドォンッ!!

キィィィンッ!!

 

火影

「今の俺やバージルには守るものがある。なのに魔界や悪魔共を呼び寄せてそいつらを危険に晒すような事できると思ってんのか?昔の事をうじうじ引きずってるテメェとは違うんだよ」

 

ドォンッ!!

キィィィンッ!!

 

答えを言う度にオーガスに向け、発砲する火影。それは拒絶の言葉の意味。

 

火影

「悪魔…魔界…魔力。そろそろウンザリしてるところだ。何年も裏でちょこまかと小細工しやがって…。まだ数回だがいい加減見飽きたぜ、テメェの面はよ!」

 

火影はオーガスの言葉をはっきりと断った。するとオーガスもそれを分っていたのか、

 

オーガス

「……ククク、分かっているさ。貴様等スパーダの血族と我々が相容れぬ事など決してありえんという事位な。少々ふざけてみただけだ」

火影

「ふざけた、か…。生意気言う割にゃテメェも随分人間臭くなったじゃねぇか」

 

火影は皮肉の笑みを浮かべた。

 

オーガス

「だが分かっているだろうな。今の我が力は嘗ての比では無い。前に言った筈だ。貴様こそただの人間。精々攻撃を押し返すのがやっと。如何に強い力を得ようとも勝てると思っているのか?」

火影

「俺も言った筈だ。人間は諦めが悪い。そして人間には悪魔には無い力があるってな」

 

 

…ヴゥンッ!!

 

 

するとオーガスは宙に浮かび上がる。火影はエボニー、そしてアイボリーも向ける。

 

 

オーガス

「最早もう何も言わぬ。ダンテ、そしてバージルを倒してこの世界はひとつとなる!そこに貴様らの居場所は無い!そして今度こそ、あの時成し遂げられなった我らの望みを叶え、この世界は我々の手とするのだ!!」

火影

「……面も見飽きたがテメェのその戯言もいい加減聞き飽きたぜ!!」

 

 

ふたつの影が黒き光に包まれた…。

 

 

…………

 

ラ・ディヴィナ・コメディア「煉獄」

 

 

海之

「……」

 

…その頃、オーガスの言う通り海之はある者と対峙していた。最も周囲が闇のせいで姿は見えないし、その上向こうは何も喋らない。しかし闇の向こうに必ずいる。それが海之には分かった。

 

海之

「呼んでおいて無言を貫くとは…、客に対する礼儀では無いな」

 

事態を進めるために海之から言葉を発した。……その時、

 

ヴゥンッ!!

 

海之

「!」

 

 

キィィンッ!ガキキキキキキッ!バシュゥゥゥゥッ!!

 

 

突然真空波の様なものが海之に飛んできた。ISを出す暇もなかった海之は直接素手で瑠璃月を持ち、受け止め弾き飛ばす。

 

海之

「しかもいきなり斬りかかってくるとは…」ビリビリ…

 

冷静さを崩さず返事をする海之だったが…その腕は僅かに振るえている。今の一撃の威力は海之にさえ単なるものでは無かったのだった。

 

海之

(ウェルギエルを出す暇も無かった…。そして今の剣閃は…)

 

バシュゥゥッ!!

 

更に後方から剣閃が飛んできた。海之はそれも弾くが、

 

海之

ビリッ(ちっ…)

 

またも腕に負担となった。すると海之は刀を収め、

 

海之

「………貴様の正体は見当がついている。さっさと姿を見せたらどうだ」

 

海之はその剣に心当たりがあった。何故ならそれは誰よりも近く、誰よりも見慣れた剣技故に…。

 

海之

「今の剣は…俺や火影と同じ技。それを使え、そして俺を狙う者がいるとすれば……ひとりしかいない…」

 

見えない敵にそう言い放つ海之。……すると、

 

 

…ヴゥゥゥゥゥゥン…

 

 

周囲の暗闇がゆっくりと薄れていく。その部屋は一夏達が戦っていた部屋とよく似ていた。海之はその部屋の真ん中に立っていた事を知った。……ある存在と一緒に。

 

海之

「…!」

 

それを見た海之は目をひそめる。そこにいたのは、

 

 

黒いSin・ウェルギエル

「……」

 

 

全身真っ黒の…Sin・ウェルギエルだった。そこから感じる凄まじい迄の殺気を含む闘気。そしてその顔はバイザーではなく、禍々しい悪魔の顔…。その顔の赤き目が開かれた。

 

黒いSin・ウェルギエル

「……バージル」

 

それはバージルの名を呼んだ。それを聞いて海之は、

 

海之

「……やはり貴様か。…随分小さく、黒くなったものだ」

黒いSin・ウェルギエル

「あの男から与えられた力だ…」

海之

「無駄と思うが何と呼べば良い?ジョン・ドゥか?それとも権平衡か?」

 

海之の問いかけにそれはゆっくり答えた。

 

 

ルーヴァ

「……ルーヴァ。……あの男はそう呼んでいた」

 

 

それはあのドッペルゲンガー…D・ウェルギエルが変化したルーヴァであった。

 

海之

「ルーヴァ…」ジャキッ!

 

それだけを聞いた海之はアミュレットを持ち、瑠璃月を構える態勢に入った。

 

ルーヴァ

「言葉は要らぬか」

海之

「俺は敵とぺらぺら喋る趣味は無い。目の前に現れた敵は斬るのみだ」

ルーヴァ

「……ふっ、そうだ。それでいい」ジャキッ!

 

ルーヴァもまた黒き刀を構えた。そして、

 

 

ゴォォォォォォォォォォォッ!!!

 

 

部屋中、自分達の周囲が凄まじい炎に包まれた。

 

 

ルーヴァ

「俺の力を思い知らせてやる…。そして、人という無力な存在に生まれた事を恨むがいい。…バージル!!」

海之

「……来い!!」

 

 

銀と黒の刃がぶつかる瞬間であった。




※次回は9日(土)に投稿します。そしてその翌日10日(日)に後編を投稿予定です。一話分を二話に分けた感じですが頑張ります。



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Mission207 次元を超えた者達の対決①焦り

火影と海之は其々別々の場所に飛ばされてしまった。そんな火影の前にとうとうオーガスが現れ、その真の目的と衝撃の事実が明かされる。
実はこの世界の裏側にも魔界が存在しており、そしてそこには悪魔も存在しているという。しかしふたつの世界の間には強力な結界があり、唯一の穴が開いていたのがこのラ・ディヴィナ・コメディアの真下だったという事だった。オーガスは火影と海之を倒した後に人界と魔界を繋げ、悪魔と人間を自らが支配する弱肉強食の世界を創り上げようとしていたのだった。これを聞いた火影はオーガスの企みを一蹴・拒絶し、阻止すべく銃を構える。
一方その頃、海之もまた嘗ての自身ともいえる者が変化したルーヴァと対峙。何も言わず、互いに刀を向けるのみであった。


ラ・ディヴィナ・コメディア「火焔天」

 

 

オーガス

「ダンテ、そしてバージルを倒し、人界と魔界を今度こそひとつとする!!」

 

魔界への扉を開こうとしているオーガスに火影はエボニー&アイボリーを向けながら、

 

火影

「テメェの戯言はもう聞き飽きたぜ!!」カッ!!

 

火影のアミュレットが輝き、瞬時にSin・アリギエルを纏う。そしてオーガスもまたアミュレットを取り出し、

 

オーガス

「見るがいい!デビルトリガーが生み出した、世界の新たな救世主の姿をなぁ!!」

 

カッ!!バシュゥゥゥゥゥゥゥ!!

 

オーガスが持っていたアミュレットが光り、その身が黒き光に包まれた…。やがて光が飛び散り、そこにいたのは、

 

アルダ・スパーダ(オーガス)

「……」

 

嘗てのダンテとバージルの父、スパーダの姿を模した血の様に赤きスパーダ、アルダ・スパーダがいた。そしてその手にあの剣も握られている…。

 

火影

「……」

 

バイザーの奥から火影の赤き瞳がそれを睨む。

 

オーガス

「ククク…久々の父親の姿を間近で見ての感動か?それとも利用された怒りか?」

火影

「…そんなんじゃねぇさ。ガキの頃に行方不明になった親父なんて殆ど覚えがねぇしな。…あるとすりゃ」

 

すると火影は、

 

ジャキッ!

 

火影

「母さんの名前を…てめぇの親父の剣モドキのナマクラに付けやがった事に対するむかっ腹だ!!」ズドドドドドドドドド!!

 

怒り滲ませエボニー&アイボリーから銃弾の嵐が向かう。

 

ドドドドドドドンッ!

 

……しかし、それは全てアルダ・スパーダの結界によって届く前に弾き返されてしまった。因みにそのシールドも全く傷一つ付いていない。

 

火影

「! シールドか…。随分怯えてるじゃねぇか。そこまで強気ならんなもんいらねぇだろ?」

オーガス

「獅子は兎を狩るのにも全力を、というではないか」

火影

「そうかい。じゃ」シュンッ!!

 

オーガスの真上にエアトリックで瞬間移動した火影はコヨーテをゼロ距離で構えた。

 

火影

「テメェが兎だな」ズドズドズドズドズド!!

 

ドガァァァァァァァン!!

 

火影はコヨーテを連射する。その衝撃で爆煙が上がる。……しかし、

 

火影

「…!」

 

ビュビュビュビュビュンッ!!

 

煙の中から突然レーザーの雨が襲い掛かる。間一髪火影は緊急回避するがそれは高速で逃げる火影をどこまでも正確に追跡してくる。

 

火影

「ちっ!」ジャキ!ズドドドドドドドド!!

 

ドガドガ!ドガガガガガガガガガン!!

 

それをカリーナの多弾頭ミサイルで相殺する火影。そして火影の視線の先には無傷のオーガスがいた。

…と思いきや、

 

シュンッ!!

 

視線の先にいたオーガスが消えた。

 

火影

「…!!」

 

ガキィィィィンッ!!

 

途轍もない殺気を感じた火影はアグニとルドラを出してその方向に振るうと何かを受け止めた。そこにあったのは、

 

オーガス

「ククク…流石にそうあっけなくはいかんか」

 

手に持つ魔剣「エヴァ」で斬りかかろうとしていたオーガスだった。

 

火影

「今の攻撃…そういやてめぇの得意技だったな」

オーガス

「流石だ、よくぞ防いだ。…だが」グンッ!!

火影

「!」

 

オーガスの持つ剣に力が籠められ、押し返し、続いて斬りかかる。

 

ガキキキキキキキキキキッ!!

 

火影も負けずに赤と青の剣で受け流し、時に斬りかかる。三本の剣の撃ち合い。その中で火影は気付く。

 

火影

「やるじゃねぇか爺さん!老いぼれとは思えねぇぜ!」

オーガス

「この程度…たしなみにもならんわ」ヴゥンッ!!

 

エヴァの刀身が光り輝き、大きくなった。その光刃が火影に襲い掛かる。

 

ガキンッ!!

 

火影

「ぐあっ!!」

 

更に上がった威力に抑えきれなかった火影が吹きとばされる。

 

火影

「ちっ!その剣…マジか!?」

オーガス

「ククク…その通り。これは貴様らが持つような紛い物の魔具ではない。デビルトリガーによって生まれし正真正銘本物の魔剣、魔剣スパーダを上回るこの世で唯一の魔剣よ!」

アグニ

「ダンテよ。あ奴の言っている事は嘘ではない…!」

ルドラ

「あ奴、そしてあの剣からも凄まじい力を感じるぞ!」

 

それは火影も感じていた。アルダ・スパーダそのもの。そして魔剣「エヴァ」。以前モニターに映った時から感じていた決して単なるでまかせや見せかけではない、明らかに魔を纏う存在。

 

火影

「…デビルトリガーってのは何だ?」

オーガス

「やはり気になるか?…良かろう。死への土産代わりに見せてやるとしよう」

 

…ヴゥンッ!

 

するとオーガスは二体のアンジェロを召喚した。しかしそれらは戦う意志が無いのか構えもしない。

 

アンジェロ

「「……」」

オーガス

「こ奴等にはデビルトリガーと同じプログラムが組み込まれている。今一度見るがいい、デビルトリガーの力を!」

 

ゴォォォォォォォォォ!!

 

すると二体のアンジェロの身体が黒き炎に包まれ、

 

…カッ!!

 

やがて黒き光が爆散し、光が晴れたそこにいたのは、

 

 

火炎を纏う猿の様な悪魔

「「グルァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

巨大な角を持つ…牛の様な頭。全身が炎に包まれ、巨大な槌を持つ二体の悪魔がいた。それは自らの身体程もある槌を縦横無尽に振るってくる。火影は避けたり受け流しながら様子を伺う。悪魔の名はヒュリアタウルスといった。

 

ヒュリアタウルス

「「ガァァァァァァァ!!」」

火影

「あの鎧野郎が変化を…。ISじゃ…ねぇのか?」

オーガス

「ククク…その通り。元がIS故に性質こそ残るが奴らはDISではない。魔力を纏った存在、DISよりも悪魔に近づいた存在よ。そしてDNSの様に強い怒りや欲望も必要とせん。無機物でも人間でも使う事ができる。使った者は間違いなく我を忘れるだろうがな」

ヒュリアタウルス

「ゴアァァァァァァ!!」

 

ドォォォォォォォォォォォン!!

 

突然飛び上がり、槌を地面に打ち付けて大爆発を起こす一体のヒュリアタウルス。避ける火影。

 

ヒュリアタウルス

「グォォォォォ!!」ドドドドドドドッ!!

火影

「!!」

 

ガキィィンッ!!

 

もう一体の敵が凄まじい勢いで迫ってきた。受け止める火影もその力に多少驚く。

 

火影

「速さも力も上がってるって訳か…」

オーガス

「今は数える位しか生み出せないがな。貴様らを倒した後にゆっくり生み出すとしよう」

 

そう言いながらその後ろでじっくり火影の戦いを眺めているオーガス。

 

火影

「……つまらねぇ」

オーガス

「…何?」

ヒュリアタウルス

「グオォォォォォ!!ヴゥンッ!!

 

全力で槌を振りかざしてくる敵。すると、

 

 

…ガシィィィッ!!

 

 

ヒュリアタウルス

「!!」

 

ゴォォォォォォォッ!!

 

火影の腕にいつの間にかバルログが展開しており、それが炎に包まれる。そして片手で飛んできた攻撃を受け止める火影。

 

火影

「…つまらねぇ、つってんだよ」

 

ドゴォォォォォォォ!!

 

ヒュリアタウルス

「!!」

 

ボガァァァァァァァァァン!!

 

火影は怒りながらもう片手の拳で相手の腹部を貫いた。爆発霧散するヒュリアタウルス。それを見てもう一体の敵が突進してきた。

 

ヒュリアタウルス

「グオォォォォォォ!!」ドドドドド!!

火影

「つまらねぇなぁ…」

 

ズバァァァンッ!!ドォォォォンッ!!

 

ヒュリアタウルス

「!!」

 

ザシュゥゥゥッ!!ドガァァァァァァン!!

 

片手のキャバリエーレでまず槌を一刀両断し、もう片方で続けて本体を一刀のもとに斬りつけ、こちらも爆散した。オーガスはそれを静かに見ている。

 

オーガス

「……」

火影

「魔力…扉…門、そしてデビルトリガーっつうふざけたオカルトグッズ。何もかもつまらねぇ。だが最もつまらねぇしムカつくのはテメェのその高みの見物ぶった態度だ。せっかく来てやったのにそれはねぇだろ?あんなガラクタ出すんじゃなくてちゃんと一対一のさしでやろうぜ?なぁ」ジャキッ!

 

火影は持ち替えたカリーナを向ける。すると、

 

オーガス

「………ククク」

 

シュンッ!!ザシュッ!!

 

火影

「ぐっ!!」

 

突然目の前にいたオーガスが消え、瞬時に火影の後ろに現れ、魔剣エヴァで斬りつけた。しかし傷口はすぐに再生する。

 

オーガス

「恐るべき再生能力だ。殺すには心の臓を潰すしかないという事か…」

火影

「…おいおいそんなにはりきんなよ爺さん。寿命縮むぜ?人間は短命なんだからよ」

(奴も使えたんだったな…。だが俺の目にも見えなかった…。基本スペックは奴の方が上か…?)

 

表情に出さないが火影は素直に驚いていた。

 

オーガス

「だが先の力…やはりダンテ。今更ながら悪魔として生きる事を選べば骨のある存在になれたろうに」

火影

「全部無くしてたあん頃の俺で他に手が無かった場合なら一ミクロ位考えたろうがな。だが、親は早くに亡くしたが今は大分生き方が違ってるんでね。俺みたいな奴にも守るもんもあるし、帰りを待ってる奴もいる」

 

 

(私の事が好きってんなら黙って一緒にいなさい!)

 

(火影を思う気持ちは…誰にも負けないから)

 

(全部終わったら聞いてね。私の夢を)

 

 

火影

「それにあん時、母さんに「新しい人生を始めなさい」って言われてんだ。そろそろ叶えなきゃ悪いだろ?ダンテとしてじゃなく、この世界で火影として生きていくために、腐りきった因縁はここで永久にサヨナラだ」

 

火影はそう断言した。

 

オーガス

「……そうか」

 

シュババババババババババ!!

 

凄まじい光速のレーザーが飛んでくる。火影はアグニ&ルドラで弾く。

 

火影

「ちっ!速さが増してやがる!」

オーガス

「最早言葉は不要。貴様はただ死ね!!」

火影

「…気が合うじゃねぇか!俺も同じだぜ!」

 

 

…………

 

ラ・ディヴィナ・コメディア「煉獄」

 

 

ガキンッ!!ガキキキキッ!!キィンッ!!ガキキキキンッ!!

 

海之・ルーヴァ

「「……」」

 

その頃、Sin・ウェルギエル纏う海之と黒きSin・ウェルギエルとなったルーヴァは煉獄の炎の中、何も言わず互いの刀をぶつけていた。海之の言った通り、剣の勝負に言葉は不要という訳ではないが本当に互いに何も言わなかった。ただ互いの死角の探り合いをしつつ剣をぶつけ合い、

 

ガキィィィンッ!!

 

海之・ルーヴァ

「……」ヴゥヴゥヴゥン!!

 

ドォンッ!ドォドドドンッ!!

 

距離を取ってどちらかが次元斬を撃てば相手も撃ち返して同じく重なりかき消され、

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

ベオウルフの拳や蹴りも全く同じであり、互いに譲らない。

 

海之・ルーヴァ

「「はぁぁぁぁ……」」ギュオォォォォ……「はぁ!!」」

 

ドゴォォォォォォォォォォン!!

 

海之の右手とルーヴァの左手が起こすヘルオンアースが激しくぶつかったが…これも決着がつかず。そして離れて互いに距離を取る。

 

海之

「……」

 

戦い始めてから何も喋らない海之に対し、ルーヴァの方から話しかける。

 

ルーヴァ

「……バージル。もうひとりの俺か…」

海之

「…?」

ルーヴァ

「俺は貴様…。貴様は…俺…」

 

ルーヴァの言葉は当たらずも遠からずであった。ルーヴァはD・ウェルギエルが変異したもの。そしてD・ウェルギエルは海之、正確にはバージルの(ドッペルゲンガー)。いわばルーヴァもバージルであり、海之の様なものである。それは海之自身も自覚しており、だからこそこの世には許されない存在と思っている。

 

ルーヴァ

「技も、互いの手の内も知り尽くしている。…だが、俺と貴様とでは絶対的に違うものがある」

海之

「……ほう」

 

海之もそこまで聞いて口を開く。

 

ルーヴァ

「そしてそれが…貴様自信を殺す」

海之

「…何だと?」

 

ルーヴァから出てきたその言葉にバイザーの奥にある海之の青い目が細まる。だがその瞬間、

 

 

シュンッ!!

 

 

海之

「!!」

 

ガキィィィンッ!!

 

ルーヴァは今まで以上の超高速で海之に接近し、黒き刀で斬りかかった。海之は何とかそれを受け止めるが、

 

ギリギリギリッ!

 

海之

(!…ちっ)

 

海之の手が圧される。

 

ルーヴァ

「刃を交えてわかった…。閻魔刀を失った貴様の技など…なんら脅威ではない。貴様自身気付いている筈だ」

 

実際そうであった。次元斬はじめ、海之の技の多くは閻魔刀でこそ真の力を発揮するが、今手に持つ瑠璃月や幻影剣ではその威力を十分に発揮しきれない。先ほどの次元斬の撃ち合いでも実際は海之がやや圧されていたのであった。

 

ルーヴァ

「人間によって生み出された様ななまくらで俺に挑むなど…死にに来たのと同じ」

海之

「…例え閻魔刀でなくとも、虫けらを斬る僅かな時があれば十分…!」キィィィンッ!!

 

海之は全力でそれを弾き返し、

 

海之

「ふっ!」ドォンッ!!

 

ルーヴァに超高速で迫った。懐に飛び込み、超高速で斬りつけるつもりである。対するルーヴァはそれを待ち受ける様子で構え、

 

ルーヴァ

「…ムン!!」シュンッ!!

 

納刀していた黒き刀を横薙ぎに斬りかかった。一見すると空を切っている様だが、

 

シュンッ!

 

その後ろに海之が現れた。よく見ると腕に僅かな切り傷がある。先ほどのルーヴァの一閃で斬った様だ。それは瞬時に回復するがその内心は、

 

海之

(今の攻撃を防いだ…か)

 

先ほどよりも早く動いたのに食い止められ、しかも傷までつけられた事に海之は顔を滲ませる。そんな海之を他所にルーヴァは更に言葉を続ける。

 

ルーヴァ

「…貴様は俺には勝てん。人間を捨てきれなかった貴様には」

海之

「…!」

 

この言葉に海之は一瞬ハッとした。

 

ルーヴァ

「バージル。貴様は幼き頃に悪魔として生きる事を決めながら…最後まで人間を捨て去る事はできなかった。ダンテに敗れようとも、魔帝に敗れようとも、そして…生まれ変わった今もな」

海之

「……」

ルーヴァ

「だが…俺は貴様とは違う。俺にとって人間等、朽ち果てた虫けら程の意味もない。力を統べる絶対の支配者として…貴様を殺し、ダンテを殺し、そしていつかあの人間も殺す。あの人間が俺に与えた力によって!そして俺は…全てを支配する者となる!」

 

そう言いながらルーヴァは黒きベオウルフを構える。

 

ルーヴァ

「そのためにまずは貴様からだ。この世にバージルは俺ひとりでいい!…死ね!バージル!!」ドゥンッ!!

 

ルーヴァは全速で海之に突っ込んでいく。そしてルーヴァの拳が海之に襲い掛かるその瞬間、

 

 

ガシィィッ!ガシィィッ!

 

 

ルーヴァ

「…!」

 

ルーヴァのベオウルフの拳が止められた。止めたのは…ネロを纏う海之のベオウルフ。

 

海之

「……戯言はもういいか?」ググググググッ!!

 

海之の青き光を纏うベオウルフガ黒きベオウルフを押し返す。

 

ルーヴァ

「……何?」

海之

「俺の分身を名乗る割には煩い奴だ…」ググググググッ!!

ルーヴァ

「ぬぅ!!」シュンッ!!

 

海之のネロ纏うベオウルフの呪縛からルーヴァは瞬間転移で離れる。

 

ルーヴァ

「貴様…まだそんなものを」

海之

「俺もわかった。…いやわかっていた。貴様はあの時の、「受け入れなかった俺」なのだ」

ルーヴァ

「…何?」

海之

「…貴様の言う通り、嘗ての俺は力を認めるために己の中にある人間を捨て去った、いや捨てきれなかった。そしてある時、力を得るために俺の中にある人間の心を切り離した。それが枷だと思い込んでいたからだ。…だがそんな俺にある男が言った。「お前が捨て去ったものは恐怖。それを捨てても真の力を得る事はできはしない。本当に強くなりたいのであればそれから逃げてはならない」とな」

 

そう言いながら海之はゆっくり立ち上がる。

 

海之

「今の貴様は…それから逃げ続けてきた俺。あの時ダンテを殺し、捨て去った自分を受け入れず、逃げ続けた結果の終わりなき力に囚われた哀れな存在だ」

ルーヴァ

「……」

 

カッ!!

 

海之の後方に現れる黒き光。そこから現れたのはナイトメアV。

 

海之

「俺はもう逃げない。嘗ての母を救えなかった苦しみと悔恨は…もう既に受け入れている。そして今の俺には失いたくないものがある。そして俺の前で初めて弱音を吐いた者もいる」

 

 

(これからを生きて…。私と一緒に)

 

(強情だな。私の夫は)

 

(海之、お前の力を…貸してほしい)

 

 

海之

「今の俺にとって…それを失う事は死ぬよりも恐ろしい。守るために使えるものは全て使わせてもらう」ドンッ!!

 

話が終わると同時にベオウルフで殴りかかる海之。ルーヴァはそれを避けるが、

 

ヴゥンッ!!

 

逃げた先には先ほど召喚したナイトメアVが待ち受けていた。……しかし、

 

ナイトメアV

「……」

海之

「…?」

 

海之は不振がった。殴りかかろうとしていたナイトメアの様子がおかしい。もう少しで拳が到達する寸前で……動きを止めている。

 

ルーヴァ

「……利用できるものは使う、か。……では、俺もそうしよう」

 

ギュンッ!!

 

その時、ナイトメアVの目が突如赤く光った。そしてその瞬間、

 

ズギュンッ!!

 

海之

「!」

 

ドガァァァァァァァンッ!!

 

ナイトメアの目から放たれた光線が海之に襲い掛かった。

 

海之

「…何?」

ルーヴァ

「本当に腑抜けになったものだ…。貴様の様な者がもうひとりの俺とは…屈辱にも劣るわ」ドォンッ!!

 

キィィィンッ!!

 

ルーヴァは再び黒刀で斬りかかる。海之はそれをギリギリで受け止めるが、

 

ドゴォォォォォッ!

 

海之

「ぐあ!!」

 

その後ろからナイトメアの拳が襲いかかった。自身の装甲はあるが突発の奇襲にダメージをもろに受ける海之。更にナイトメアはルーヴァの傍にいる。

 

海之

「…奴が発する魔力に当てられたか…。役立たずが」

ルーヴァ

「恐怖…弱さ…守るもの…。下らん…。そんなものは所詮、力無き者の戯言でしかない。俺か貴様、どちらが正しいか、どちらが生きるに相応しいか、それを…魔王たるこの俺が思い知らせてやろう…。バージル!!」

 

先ほどよりも覇気、そして魔力が増した事を感じる海之であった。

 

海之

「……」




※明日の同時刻、後編を投稿予定です。


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Mission208 次元を超えた者達の対決①笑い

火影(ダンテ)とオーガス(アルゴサクス)、海之(バージル)とルーヴァ(ユリゼン)。次元を超えた者達の戦いが始まった。

火影と海之はこの世界で自分達が得たもののために戦うと改めて宣言するがオーガスとルーヴァは嘗ての自分達を大きく超える力を得、魔力が使えない火影と海之を圧し始める。果たして勝負の行方は…?


「火焔天」

 

 

「煉獄」にて海之とルーヴァの戦いの最中、ここ「火焔天」でも火影とオーガスの戦いが続いていた。自らの魔力を利用し、どんどん力を高めるオーガス。火影以上の瞬間移動を繰り返し、魔剣エヴァで斬りかかるという戦術を繰り返してくる。

 

シュンッ!キィィンッ!!シュンッ!キィィンッ!!

 

火影

「ちっ!」

 

決定的な攻撃は喰らっていないものの先の戦いもあって多少の疲れが見える火影に対し、倍以上の年齢なのにオーガスは全く疲れを見せない。

 

オーガス

「どうした?先よりも動きが鈍くなっているぞ」ギュオォォォォォォ!!

火影

「!」ドゥルルルルルルンッ!!

 

オーガスの周囲に虹色の光が見える。それを見て火影は危機を感じ、キャバリエーレで急速離脱する。

 

 

…シュバァァァァァ!!ズドドドドドドドドド!!

 

 

オーガスに集まっていた光が発散され、それが無数の雨としてフィールド全体に降りかかる。その縫い目縫い目を避ける火影。

 

火影

「これも前ん時以上か!」

オーガス

「逃げろ逃げろ!串刺しになりたくなければなぁ!」

火影

「…逃げる?冗談言ってんじゃねぇよ」ピピピッ!

 

瞬時のキャバリエーレがRモードになり、更にスピードが上がったそれで火影はオーガスに突っ込む。

 

オーガス

「正面から来るか…だが無駄だ」ズドォォォォンッ!!

 

オーガスの拳から魔力の光弾が飛ぶ。

 

火影

「どうかねそれは!」ジャキッ!ズドォォォォッ!!

 

火影は乗っているキャバリエーレから手を離し、その手に装備したカリーナを光弾に向け、撃った。

 

 

ズドォォォォォォォォォンッ!!

 

 

エネルギー同士がぶつかり、凄まじい爆発が起こる。すると、

 

ドゥルルルルルルン!!

 

爆煙の中からキャバリエーレが突っ込んできた。

 

オーガス

「無駄な事を」

 

オーガスはこれも魔力で高めた動体視力で避けるが…キャバリエーレを見て気付いた。操縦席に乗っている筈のダンテがいない。

 

オーガス

「…?ダンテがいない」

火影

「ここだ」

オーガス

「!」

 

ゴォォォォォ!

 

火影は先の爆煙の中でエアトリックで離脱し、オーガスの真上についていた。

 

火影

「流石のてめぇも油断した様だな!」

 

火影は自らのバルログを真上から打ち込むクルーザーダイブを叩き込む。

 

オーガス

「油断?…違う。これは余裕というものだ」

 

ドゴォォォォォン!!ババババババババ!!

 

火影

「!」

 

全力でやった火影の攻撃は結界で弾かれた。これも先ほどより更に上がっていた。

 

火影

「くっ!…!!」シュンッ!!

 

嫌な予感がした火影は再び急速にそこから離脱。その瞬間、

 

 

…ズバァァッ!!

 

 

アルダ・スパーダの翼が一層赤く輝いたと同時に、横薙ぎにそれが振るわれた。

 

火影

「…ひゅ~危ねぇ。そういやあったなそんなのも」

オーガス

「よしよし良いぞ、よくぞ避けた」

火影

「そっちが俺の戦い方知ってんのと同じで俺もてめぇの戦い方は知ってっからな。つっても威力は桁違いに上がっているじゃねぇか。魔界に行って修行でもしたのか?」

オーガス

「ククク…そうしたい所だったが、ただの人間として生まれ直した我には魔界で生きる事はできないのでな。…一言で言えば、これも奇跡の恩恵、とでも言っておこうか」

火影

「…奇跡ねぇ…」

 

火影は何か思う事がある様だ。

 

オーガス

「しかし魔力も持たずにこのアルダ・スパーダを前に良くここまでもつものだ。…どれ、そんな貴様にひとつ良い事を教えてやろう」

火影

「…あ?降参の相談か?」

オーガス

「ククク、その減らず口をこれから聞く事を聞いてもできるかな?…貴様達のお友達の中に何人か国家代表、もしくはその候補の者達がいる筈だ。そしてこの戦いの結果がそ奴らの未来に関わっている」

火影

「!」

オーガス

「猶予はあのファイルが流れる6時間前。もって数時間程しか時が無い事も」

火影

「…どっかの国にハッキングしたのか。…だったら何なんだ?」

 

するとオーガスは衝撃の真実を話した。

 

オーガス

「ふはははは!貴様らは最後のファイルがこれまでと同じ時刻に流れると思い込んでいる様だが…実際はもう何時もない。人間共が知ればどの様な顔を浮かべるか、見れないのが残念だ」

火影

「…!!」

オーガス

「しかし安心するがいい。大切なお客人のために1時間だけ作ってやった。つまりその間に我を倒せば、大切なお友達は救われるぞ?優しいだろう?感謝するがいい。クククク…」

火影

「……」

 

オーガスの言葉に火影は黙る。バイザーのために表情は伺えないがオーガスはきっと驚いているのだと思い、尋ねる。

 

オーガス

「どうした?驚きのあまり言葉が出んか?」

火影

「…そうだな。全く無えっちゃあ嘘だが…どっちかっつったら嬉しいかね」

オーガス

「…ほう?その心を聞こうか」

 

ジャキッ!!

 

火影は再びアグニとルドラを構えながら、

 

火影

「理由は3つ。ひとつは1時間もあるって事だ。そして…」

 

火影の表情は何時もの余裕に満ちた顔をしていた。

 

火影

「今なら学校の授業に間に合うからな。何しろ一ヶ月も休んでたんだ。せっかく転生の特典で賢くなったんだし、この碁に及んで留年なんてゴメンだぜ」

 

更に、

 

火影

「そして改めててめぇの面と口を長々と見て聞く必要も無くなったって事だ。要件が済んだならもう黙ってんだな!(No Talking!)

オーガス

「……」

 

今度はオーガスが黙る。

 

アグニ

「全くあの時と同じく口が減らん奴だ。…だが悪くはない」

ルドラ

「減らず口が好きな奴だ全く。…だが妙に嫌いではない」

火影

「おめぇらだけには言われたくねぇ」

 

オーガスの前で三人?が会話している。すると、

 

…ドォンッ!!

 

火影の所に光弾が飛んできた。火影はそれを避ける。

 

火影

「おうおう怒ってらっしゃるねぇ。血管キレねぇ様気をつけな爺さんよ」

 

何も言わず攻撃してきたオーガスにそう言い放つ火影。

 

オーガス

「……この世に生まれ直して50年。最も絶望したのも喜びを得たのも記憶を取り戻した時だった…」

 

ドンッ!!

 

そう言うオーガス纏うアルダ・スパーダから更に覇気が飛ぶ。

 

オーガス

「だが……今ほど怒りを持った事は無い。望み通り、直ぐに終わらせてやろう。貴様の死をもってな!……ダンテ!!」

火影

「…へっ!」

 

 

…………

 

「煉獄」

 

 

海之

「おおおおお!!」

ルーヴァ

「ムンッ!!」

 

 

ドゴォォォォッ!!ドゴォォォォッ!!ガガガガガガ!!

 

 

海之とルーヴァの真横に繰り出された流星脚がぶつかる。そして激しい衝撃が起こる。

 

……グググッ

 

しかしこれもまた、僅かに海之の方が圧されてたのであった。

 

海之

「…ちぃっ」ヴゥンッ!

 

もう片方の脚で月輪脚を繰り出し、その場を脱しようとする海之。しかし、

 

ルーヴァ

「遅すぎる」

海之

「何!」ドガァァンッ!「!」

 

ルーヴァはぶつかった脚を着地点とし、そこからジャンプの姿勢で繰り出されるフラッシュを繰り出した。その衝撃波が海之にダメージを与える。

 

海之

「くっ…」

ルーヴァ

「何故刀を出さん?貴様のそれはもうおしまいか?」

 

ルーヴァの言う通り、先ほどから海之は主戦力でないベオウルフによる戦いを続けていた。海之の瑠璃月はルーヴァとの激しい戦いの中で既に大きな傷を受けていたのである。通常のIS用の刀以上の業物とはいえ、所詮はIS用の刀。ISの破壊力を大きく超えるルーヴァの激しい攻撃を受け続け、負担が重なっていたのである。

 

ズドズドズドズドンッ!!

 

その時ルーヴァの放つ魔力に操られているらしいナイトメアVは海之に向かって雷弾を放つ。それを躱す海之。

 

海之

「ちぃ…!あの程度の魔力にあてられただけでなく主の顔も忘れるとは」

 

基本性能は海之のSin・ウェルギエルが勝っているが決して油断できない相手だった。そもそもナイトメアは魔帝が人界の侵攻の為に作った無限とも言える力を持つ生物兵器であり、その戦闘力は嘗てのダンテやバージルも苦戦したほどであった。その上このナイトメアVはバージルの影()が操っていた全ての力を集結したもの。その戦闘力は今まで以上である。

 

ヴゥンッ!!

 

ナイトメアの短距離瞬間移動、イリーガルムーヴで海之の後ろに立つナイトメアはその星球状の拳を振りかざす。

 

ガシィッ!ガシィッ!

 

ネロの光纏うベオウルフでそれを受け止める海之。

 

海之

「…邪魔をするな!!」ドゴォォォォッ!!

 

ナイトメアに蹴りを喰らわし、その場を脱する海之。しかしその後ろから、

 

ルーヴァ

「おおおおお!!」

 

刀を持って急接近するルーヴァ。ルーヴァに力も加わったその凄まじい威力はベオウルフで直接受け止めるのは危険だった。海之は瑠璃月を出して迎え撃つ。

 

ガキィィンッ!!キィィンッ!!……ビキキキキッ!!

 

海之

「くっ!」

 

その時、海之の持つ瑠璃月が切り結びとは別の音を上げた。

 

ルーヴァ

「はあああああああ!!」

 

 

ガキィィィィンッ!!……バキィィィィィィィンッ!!

 

 

そしてルーヴァの渾身の一閃を受けた瑠璃月がその力に耐えられず、とうとう折れてしまった。

 

海之

「くっ!」

ルーヴァ

「砕け散れぇぇ!!」

 

ドガァァァァァァン!!

 

海之

「ぐあああああ!!」

 

ルーヴァの繰り出した次元斬が海之に襲い掛かった。その衝撃で吹き飛ぶ海之。

 

ルーヴァ

「俺の力にひれ伏すがいい!バージル!!」

 

ズドドドドドドド!!

 

ルーヴァが展開した黒き幻影剣と、

 

ナイトメアV

「……」ギュン!!

 

ナイトメアの目からレーザーが飛び、

 

 

ドガアァァァァァァン!!

 

 

その全てが吹き飛ばされた海之に襲いかかった…。

 

 

…………

 

その少し前、オーガスと戦う火影は、

 

ガキィィィンッ!!キィィンッ!!

 

火影

「ほんと疲れねぇ爺さんだな!」

オーガス

「…そう言えば貴様の剣はどうした?始めから出していない様だが」

火影

「生憎期限なしの休暇中でね。もうすぐ帰ってくるんじゃねぇかな?」

 

笑いながらそう言う火影に対し、

 

オーガス

「……スパーダといい貴様といい、全く貴様ら一族はいちいち勘に触る者共だ!!」

火影

「そうかよ!」

 

ガキィィィィンッ!!

 

互いに離れる火影とオーガス。

 

 

ズドドドドドドドドド!!

 

 

すると今度はオーガスの、正確にはアルダ・スパーダの拳から赤い光を放つ無数の針の様な光弾が飛んできた。

 

火影

「…!!」ジャキッ!ズドドドドドドドド……

 

火影はエボニー&アイボリーに持ち替え、それらを撃ち落とし続ける。

……すると、

 

 

ビュンッ!ビュンッ!

 

 

その隙を狙うかの様に、今度は同じく赤いカッターのような光刃が高速で襲い掛かってきた。

 

ドガンッ!ドガガンッ!

 

そしてそれは火影の持つエボニーとアイボリーに直撃し、粉々に破壊されてしまった。

 

火影

「!!」

オーガス

「死ねぇぇ!!」

 

ドガァァァァンッ!!

 

火影

「ぐぅぅぅあっ!!」

 

ドォォォォン!!

 

思わぬ攻撃に一瞬気を途切れた火影の隙を突き、オーガスの魔剣エヴァによる高速突きが襲い掛かってきた。それの直撃を喰らう火影もまた吹き飛び、地面に倒れ込む。

 

オーガス

「粉々になるがいい!ダンテェェェ!!」

 

ズドドドドドドド!!

ズドズドズドズドン!!

 

オーガスが繰り出す光の雨、そして光弾が一斉に火影に向かう。そして、

 

 

ドガアァァァァァァン!!

 

 

凄まじい爆発が火影を中心に巻き起こった…。その攻撃は確実に火影に命中した筈だとオーガスは確信した。

 

オーガス

「……」

 

やがて爆発による煙が消えるとそこには、

 

火影

「……」

 

目に見える傷は塞がったのか無いものの倒れ込む火影がいた。

 

オーガス

「本当に恐るべき再生能力だな…。だが、ククク…貴様のそれが如何に強固な鎧とはいえ、今の一撃はさぞ堪えただろう」

火影

「……」

 

火影は何も言葉を発しない。

 

オーガス

「どうした。先ほど迄の口はもう終わりか?それとも気でも失ったか?……では、これで終わりにしてやろう」ジャキッ!!

 

そしてオーガスは魔剣エヴァを火影に向けた。

 

オーガス

「母の名を持つ父の剣であれば安心して死ねるだろう?……クククク、クハハハハハ!遂に、遂にこの時が訪れた!スパーダに封印され、貴様に倒され、成し遂げられなかった我らの大願が遂に果たされる時が来たのだ。バージルも既にあの世に行っているだろう。ダンテ!貴様の死を持って我らの復讐は成される!新たな時代の幕開けだ!!」

 

オーガスは手に持つ魔剣エヴァに力を籠め、倒れたままの火影にその刃を立てようとした。

………だがその時、

 

火影

「……………ふ」

 

倒れた火影から聞こえた様な小さな笑み。

 

オーガス

「…む?」

 

それにオーガスは目を細めた。

 

 

…………

 

ルーヴァ

「……む」

海之

「……」

 

ルーヴァの目の先にはベオウルフを地面に打ち付けた海之がいた。どうやらヘルオンアースでいくらかを相殺した様だった。

 

ルーヴァ

「今の一瞬で武器を変えて致命傷を防いだか…。抜け目の無い奴だ」

海之

「ハァ…ハァ…」

 

常に燃えている煉獄の炎の中で海之は立ち上がるがその様子は一見苦しそうに見える。

 

ルーヴァ

「傷は深い様だな。直ぐに塞がるといえ、そのザマであとどれ程の事が出来る」

 

ルーヴァの黒き刀が向けられ、その横にはナイトメアがいる。対して海之は炎の中で何も言わず動かない。

 

海之

「……」

ルーヴァ

「最早口も動かぬか…。せめてもの情けだ。苦しまず一瞬で終わりにしてやろう…バージル!」ギュオォォォォォッ!

 

ルーヴァの刀に魔力が集まっていく。……すると、

 

海之

「………ふふふ」

ルーヴァ

「……?」

 

海之の口からも小さい笑い声の様な声が聞こえ、ルーヴァは不審に思った。

……そして、

 

 

火影・海之

「「ふはははははは!ふはははははははは!」」

 

 

火影と海之は同時に笑った。本当に楽しそうに笑った。

 

 

…………

 

火影の異変に違和感を感じたオーガスは思わず距離を離した。

 

オーガス

「…何がおかしい?死ぬならばせめて笑いながら、という訳か?」

 

オーガスが倒れたまま笑う火影にそう言うと火影はゆっくり起き上がり、

 

火影

コキコキッ「ククク…いや悪いな。急に騒がしくしちまって。……ちょいとわかった事があってな」

オーガス

「…わかった事だと?」

 

すると火影ははっきりと断言した。そしてこの時、海之も同じ事を言っていたのであった。

 

 

火影・海之

「「ああ…。所詮、今のてめぇ(貴様)には……これ位が限界さ(だ)」」

 

 

…………

 

ルーヴァ

「…何だと?」

海之

「言葉の通りの意味だ。貴様には…所詮そこまでの力しか無いという事だ」

 

そう言うと海之は立ち上がり、答えた。そして火影もまた、

 

 

海之・火影

「「今から教えてやる。俺の…本当の力をな」」

 

 

…………

 

オーガス

「…本当の力、だと…!?」

火影・海之

「「ああ。…テメェ(貴様)が侮辱して馬鹿にした、永遠にわからねぇ力さ(だ)…」

 

別々の場所で戦っているにも関わらず、ふたりの言葉はきれいに揃っていた。まるで直ぐ側で戦っているように。

 

 

火影

「テメェっていう最高の御馳走に出会ってさっきからずっとアリギエルが喜んでいるぜ!」

海之

「先ほどの貴様の言葉…そのまま返そう。どちらが正しいか思い知らせてやる。貴様にな!」

 

 

この時ふたりのインターフェースには…あの文字が浮かんでいた。

 

 

 

 

「「アクマガエリ」ガシヨウデキマス。ドウシマスカ?」

 

 

 

 

そして火影と海之は…心の中である事を思っていた。

 

 

火影・海之

((悪いけど(すまないが)…俺は使う。…許してくれよ。………アルティス父さん))




※次回は17(日)の予定です。
目標は年内に作品を完成させられたらと思っていますが…現在の自分の仕事次第と言った感じです。


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Mission209 「悪魔還り」① アルティスとギャリソンの約束

火影とオーガス。海之とルーヴァの戦いは続いていた。
しかし魔力を使う事ができない火影や海之にオーガスとルーヴァはどんどん自らの攻撃を強めていく。
そして遂にオーガスとルーヴァの強烈間攻撃が火影と海之に直撃。倒すまでには至らないものの大きなダメージを与えた。
……しかし、そんな状況下で火影と海之は大きく笑い、オーガスとルーヴァに更に挑発的な言葉を浴びせ、ふたり揃ってこう言い放ったのだった。

「今から見せてやる。俺の…真の力をな」


オーガス・ルーヴァ

「「…真の力、だと…!?」」

 

オーガスは火影に、ルーヴァは海之にそれぞれ尋ねた。

 

火影

「ああ。今から見せてやるからよ。さっきからずっとアリギエルが使えって言っているからな」

海之

「思い知るがいい。お前も知らない…ウェルギエルの力をな」

 

そう言うふたりのインターフェースには…

 

 

 

「「アクマガエリ」ガシヨウデキマス。ドウシマスカ?」

 

 

 

アリギエルとウェルギエルの単一特殊能力「悪魔還り」の起動を示すメッセージが浮かんでいた。その最中、ふたりは心である事を思っていた。

 

海之

(すまないが…俺達は使う…)

火影

(でも許してくれるだろ?……父さん)

 

 

…………

 

エヴァンス邸

 

 

それは今年の正月、皆でスメリアの家に行った時の事だった。この日はレオナの家から戻ってきた日。火影が自室で休んでいる所にギャリソンが尋ねてきた。

 

ギャリソン

「火影様」

火影

「ギャリソンか。海之までどうした?」

海之

「俺も先にギャリソンに呼ばれたのだ」

ギャリソン

「お休みの所申し訳ございません。恐れながら…今お時間よろしいでしょうか?」

 

 

…………

 

そう言われて火影と海之はギャリソンに連れられ、ある部屋の前に来た。

 

火影

「この部屋は…」

ギャリソン

「……」

 

ガチャッ

 

ギャリソンが持っていた鍵で扉を開けると…そこは所謂書斎ともいえる家具が並んでいる部屋。その部屋を火影と海之は暫し懐かしむ様に眺める。

 

火影

「……この部屋も久々だな」

海之

「父さんが死んでからはもうずっと使っていないからな…」

 

そこは火影と海之の父、アルティス・エヴァンスの書斎だった部屋。彼が亡くなって10年が経ち、基本使われなくなっているこの部屋。火影や海之も入ったのは数年ぶり。しかし彼が愛用していた家具等は今でもそのままで保管されている。その部屋に三人は入り、そこでギャリソンはふたりに向き直った。

 

ギャリソン

「お辛い様でしたら申し訳ございません火影様、海之様」

火影

「気にしなくていいって。…でもなんで父さんの部屋に?」

 

海之も同じ疑問を持っていた。そんなふたりにギャリソンは神妙な表情で答える。

 

ギャリソン

「実は……私にはおふたりにずっとお話していなかった事があるのです…」

火影

「…話してなかった事?」

 

するとギャリソンは驚きの言葉を言った。

 

ギャリソン

「はい。実は……私はもう10年もの間、あるお方からおふたりへの「伝言」を言付かっているのです…」

海之

「…俺達に伝言だと…?」

火影

「しかも10年って…!一体誰……!!」

 

その時ふたりの頭に共通の人物が浮かんだ。10年、しかもそれを伝えたのはこの部屋という事は…思い当たる人間はひとりしかいないからだ。

 

ギャリソン

「……はい。今は亡き…アルティス様です」

火影・海之

「「!!」」

 

それはやはり彼らの育ての父親、アルティス・エヴァンスだった。それを聞いて流石のふたりにも動揺が走る。

 

火影

「と、父さんが…俺達に伝言を残してただって?しかも10年も前に!?」

ギャリソン

「…はい。正確には10年と10ヶ月になります」

海之

「何…!」

 

再びふたりは驚いた。それはあの「白騎士事件」が起こったほんの一ヶ月後である。

 

火影

「……父さん、一体何を…。てかギャリソン、それを何で今になって話す気になったんだよ?」

 

海之も同意するように首を縦に振った。

 

ギャリソン

「それは……お話しする時が来たと、私が判断したからでございます火影様」

火影

「…時?」

海之

「それについても…全て話してくれるという事でいいのだな?ギャリソン」

 

するとギャリソンは、

 

ギャリソン

「…はい海之様。今からお話します。10年前、私がアルティス様と交わした…ある約束を…」

 

そしてギャリソンはふたりに話し始めた…。

 

 

…………

 

話は10年前…エヴァンス邸、アルティスの自室にて。この日の夜、ギャリソンはアルティスに呼び出されていた。因みに妻の雫は幼いふたりを寝かしに行っているらしく不在だった。

 

ギャリソン

「アルティス様。私に重要なお話とは?」

 

そう尋ねるギャリソンに対し、アルティスは、

 

アルティス

「……うん。……ギャリソン、君に預けたいものがある」

 

そう答えながらギャリソンにあるものを渡した。それは一枚のDVD。

 

ギャリソン

「…これを私にでございますか?大変失礼ながらどういったものかお教えいただけるとありがたいのですが…」

アルティス

「……すまない。内容については…話せないんだ」

 

するとアルティスは続けて驚くべき事を言った。

 

アルティス

「ただしお願いがあるんだ。ギャリソン……もし、もし僕や雫が死んでしまったら、これを…火影と海之に見せてほしい」

ギャリソン

「!! な、何を仰るのですアルティス様!その様な事!!」

 

当然ギャリソンは酷く慌てる。

 

アルティス

「はは、ごめんごめん。変な事言っちゃって。…でも真剣だよギャリソン。もしこの先、僕や雫が、例えば事故や病気とかであの子達よりも先に死ぬ様な事があったら…必ずそれをあの子達に見せてやってほしいんだ」

 

前半は苦笑いを浮かべたが後半は至って真剣な顔をするアルティス。その表情を見てギャリソンは何も言えなくなる。

 

ギャリソン

「アルティス様…何故その様な事を…。それでしたら今直ぐにおふたりに」

アルティス

「いや…今のあの子達には伝えたくないんだ…。僕達の勝手な願望だけど…今すぐは…。勿論、僕達が幸い何事も無く生きていれば、何時かは僕達の口から直接伝えるよ。だから…そのディスクは万が一の保険として、ギャリソンに預かっていてほしい」

ギャリソン

「それでしたら私等よりレオナ様が…」

アルティス

「レオナにはESCを任せているからね。あの子は賢い子だ。いずれESCを背負う様になるだろう。これ以上の負担はさせられない。それに僕個人のお願いとしても…ギャリソンに持っていてほしいんだ」

ギャリソン

「……」

 

アルティスは全く引く気は無い様だった。

 

アルティス

「…なぁギャリソン。覚えているかい?君が初めて…ここに来た日の事。僕はその時まだ生まれていなかったから父と母に聞いただけだけど」

ギャリソン

「勿論でございます。決して忘れる事はございません…」

 

するとふたりは暫し思い出話をし始めた。

その頃から更に40年程昔、スメリアに一組の夫婦がいた。クロード・エヴァンスとその妻、リーア・エヴァンス。アルティスとレオナの両親である。夫婦は富豪とまでは言えなかったものの数人程度の召使も抱える等、周囲よりは比較的裕福な暮らしをしていた。そんな夫婦の所にある日、ニュースが飛び込んでくる。

 

 

「庭に子供が倒れている!!」

 

 

庭掃除をしようとした手伝いが発見したのであった。

 

少年で見た目は7、8歳位。

銀髪。

身に着けているのは黒い布切れみたいな粗末なもの。

 

それがパッと見た少年の特徴。どうやって来たのかはわからないが見た目からして戦災孤児や浮浪児の様なものだと思われた。…だが事態はもっと重くなる事になった。僅かの介抱で少年は目を覚ましたが、気が付いた時には記憶も名前も、言葉さえも失っていたのであった。表情も無表情で笑いもしない。どうすれば良いか家の者達は悩んだが夫婦は取り合えず順当に警察に預けようとし、動ける様になった少年を連れて家を出た。

……そして手伝いが運転する車で警察署の前まで来た時、ある出来事があった。その時同じタイミングで署に連行されてきた何らかの犯人らしい数人の男が警察官を殴り飛ばし、脱走しようとしたのである。セキュリティが行き届いている今のスメリアと違い、昔のスメリアではこの様な事件はごく稀にだがあった。そしてその男達は偶然か夫婦と手伝い、そして少年がいる場所に突っ込んできた。がたいも大きい男達と突然の事態に咄嗟に行動できず、夫婦は怪我のひとつも覚悟した。

……しかしそうはならなかった。夫婦の所に辿り着く前に、男達は全員地に伏せた。皆が何が起こった!?と思った所にいたのは…先の少年。少年は転がっていた木の棒を手に自分よりも何倍も大きい男達を今の一瞬の間に全て叩き伏せたのである。訪ねても少年自身も何故この様な事ができたのかわからない、という顔をして首を横に振るだけだった。この出来事がきっかけでこの少年に不思議な縁を感じた夫婦は少年を家の手伝い見習とし、最も信頼ある召使に預け、同時に少年のままでは何なので名前も与えた。更にコミュニケーションを取らせるために学校にも行かせる事にした。元々覚えが良かったのか、やがて少年は声を出せる様になり、読み書き計算も難無く覚え、ミドルスクールに上がる時にはすっかり普通の少年になっていた。残念ながら記憶と名前が戻る事はとうとうなかったが…。

 

ギャリソン

「……大旦那様と大奥様には本当に感謝のしようがございません。誰かもわからない私が今日まで生きてこれたのは…全ておふたりのおかげでございます」

アルティス

「父や母もギャリソンには凄く感謝していたよ。時が過ぎてやがて僕が産まれ、レオナも産まれた。父と母が亡くなってからも君は変わらず僕や雫を支えてくれているし、ESCを立ち上げ、その仕事やマネージメントで家を空ける事が多かった僕に変わり、家の者達をまとめてくれていた。君の功績はとても大きい」

ギャリソン

「勿体なきお言葉でございます…」

アルティス

「そんな君だからこそ預かって欲しいんだ。雫も賛成してくれている」

 

 

…………

 

ギャリソン

「そして私はアルティス様からディスクをお預かりしたのです」

火影

「そんな事があったのか…」

ギャリソン

「本来ならばアルティス様と奥様からおふたりにお伝えされる筈でございました…。ですが…」

火影

「……」

 

アルティスと雫はあの事件でその時から僅か一年後に帰らぬ人となった。誰も予想できなかったに違いない…。

 

海之

「…ギャリソン。先程お前が言っていた「時がきた」というのは?」

ギャリソン

「…はい。それもアルティス様からのお願いだったのです…」

 

 

…………

 

アルティス

「…ギャリソン、ディスクについてひとつ頼みがある」

ギャリソン

「何でございましょう?」

アルティス

「……上手くは言えないんだけど、ふたりにそれを見せるタイミングとして…おそらく必要な時が来る筈だ。その時が来たらふたりに見せる様にしてほしいんだ」

ギャリソン

「…時、でございますか?」

アルティス

「うん。ただそれが何時になるかはわからない。何年後かもしれないし…もしかしたら明日という可能性もある」

ギャリソン

「その様な事が…」

アルティス

「そしてそれが…どういうものなのかもわからない。でも何時か必ず来る。ふたりに伝えなければならない時が。そう確信してるんだ…。とても大事な事を、そして…僕の贖罪を…」

 

 

…………

 

火影

(…とても大事な事?)

海之

(贖罪…だと?)

 

ふたりは気になったが今は黙っていた。

 

ギャリソン

「アルティス様はその時が来るまでおふたりにはディスクの事は秘密にしてほしいと仰られました。そして私は…何故か今がその時だと不思議と思ったのです。おふたりが…行方不明になられていたあの時があってから」

火影・海之

「「!!」」

 

それはあのドッペルゲンガーとの戦いでふたりがひと月ほど行方不明になっていた時の事だった。

 

ギャリソン

「あの時私はおふたりが必ず帰ってこられる。そう信じていた一方で…とても悔やんでおりました。アルティス様との約束を果たせなくなってしまったのではないかと…。ですがおふたりは無事に帰ってこられた。だからこそ思ったのです。今がアルティス様が仰られたその時だと…」

火影・海之

「「……」」

 

色々考えているのかふたりは何も言わない。

 

ギャリソン

「これが私が隠していた事の全てです…。約束とはいえ、火影様と海之様に今まで黙っていた事、本当に申し訳ございませんでした。どうか、私を罰してください」

 

ギャリソンは深く頭を下げた。そんな彼に火影と海之は、

 

火影

「…罰?なんでそんな事する必要があるんだよ?」

ギャリソン

「…?」

海之

「こいつの言う通りだギャリソン。何故そんな事ができよう?お前は父との約束を守り通していただけではないか」

火影

「そうだぜ。そして今それを果たしてくれるってんだ。感謝こそすれど責められる事なんて全くねぇよ」

 

火影も海之も彼を責める気は全く無いようだ。

 

ギャリソン

「おふたり共…」

火影

「まぁそんな話があったってのは正直びっくりしたけどな。てかギャリソンもそんな秘密があったんだな。今まで黙っていたなんて人が悪いぜ」

ギャリソン

「申し訳ありませんでした火影様。ですが私の様な事等…」

海之

「ギャリソン、そう自分を下に見るな。お前は十分にやってくれている。恥じる必要は無い」

火影

「そうだぜ。お前をそんな扱いしたらそれこそ父さん達から怒られちまう。お前も立派な家族なんだからよ。お前だけじゃねぇ。ニコや皆もだ」

 

火影と海之は笑って伝えた。そんなふたりの言葉にギャリソンは涙した。

 

ギャリソン

「……ありがとうございます」

火影

「だから泣くなって〜の」

海之

「ハァ…」




※前半部分を投稿します。明日後半を同時刻投稿します。


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Mission210 「悪魔還り」② 父と母の告白 アリギエルとウェルギエルの真実

火影と海之のISの単一特殊能力「悪魔還り」。それを使おうとしていた中、ふたりは父アルティスの事を想っていた。その始まりは前回のスメリアへの帰国時、ギャリソンから話があると呼び出された時だった。アルティスの部屋に案内されたふたりはそこでギャリソンから衝撃の話を聞く。

「私は10年間、アルティス様からおふたりへの伝言を言付かっている」

ふたりはその始まりとなった過去でのアルティスとギャリソンの約束を聞き、ギャリソンは10年間もの間黙っていた事を謝罪する。そんな彼をふたりは責める事を全くせず、父との約束を守り抜いてくれた感謝を述べた。果たして10年前、アルティスが火影と海之に遺した伝言とは…?


アルティスの書斎

 

 

その後、火影と海之はアルティスがギャリソンに預けたというメッセージを見る事にした。備えていたプレイヤーにディスクを通すギャリソン。火影と海之はソファに座り、画面に向き合う。

 

ギャリソン

「…では私は外に出ております」

火影

「ギャリソンは見ねぇのか?」

ギャリソン

「アルティス様はおふたりに見てほしいと仰いました。私は知らぬ方が良いと思います」

海之

「…すまんな」

 

そう言ってギャリソンは外に出て行った…。残されたのは火影と海之だけ。

 

火影

「……ふぅ~」

海之

「…オーガスと向き合った以上に落ち着きが無いな?」

火影

「無理もねぇだろ…。てかお前も同じじゃねぇのか?」

海之

「…イエスでもノーでも俺の分が悪い」

 

実際は海之も火影と同じ位緊張していた。

 

海之

「…まぁ何れにしろ見ない選択肢は無いがな」

火影

「ま、そうだよな。…さて、んじゃ見てみるとすっかね…」

 

そう言うと火影はプレーヤーの再生ボタンを押した。そして暫し待つと…

 

 

アルティス・雫

「「……」」

 

 

画面にアルティスと母親である雫が映った。ふたり共今まさに自分達が座っているこのソファに座っている。

 

火影

「……父さん。母さん」

海之

「……」

 

10年前に亡くなり、今はこの世にいない父と母。実の親でこそ無かったがふたりにとっては父と母以外の何者でもない。

 

海之

「10年…姿からして確かにだな」

火影

「本当にその頃のものって訳か…」

 

画面に映ったふたりに感想を言う火影と海之。そしてやがて画面のふたりも話し出す。

 

アルティス

(……火影、海之)

火影・海之

「「…!」」

 

懐かしい声。

 

アルティス

(君達がこのメッセージを見ている時、君達は幾つ位になっているのだろうね)

(学生さん?それとももしかして誰か素敵な人と一緒になっているのかしら?もしかするとお子さんまでできちゃってたりして。ふふふ)

火影

「…そういや母さんこういう話好きだったな。思えばお前に女に可愛いって言えば喜ぶってのも教えてたしな♪」(Mission55参照)

海之

「…ハァ…」

 

ほんの少しの懐かしさを含んだ会話。しかしそれは長くは続かない筈。次にアルティスが発したのは…核心を突く内容だった。

 

アルティス

(君達がこれを見ていると言う事は……おそらく「その時」が来たのだろうという事だと思う。そして同時に…これを見ているという事は、残念だけど何らかの理由で…僕も雫も、既に君達の傍にはいないのだろうね…)

(……)

 

アルティスも直ぐ傍にいる雫も辛い表情をしている。それは火影と海之も同じだった。

 

火影・海之

「「……」」

(この様な事を聞かされてきっとふたり共驚いていると思うわ。でも…)

アルティス

(僕達には…絶対に伝えておかなければいけない事があるんだ。だから保険としてこれを遺しておく。例え僕達に何かあっても大丈夫な様に)

 

雫もそうだと首を縦に振る。火影と海之は一言も発さず、一言も逃がさない様聞いている。そしてアルティスは言った。

 

アルティス

(伝えておかなければいけないというのは他でもない。…火影、海之。君達が持っているアミュレットについてだ)

 

火影

「! アミュレット…だって!」

海之

「…!」

 

それを聞いた火影と海之は目を見開いた。

 

アルティス

(前にも話したけど…君達の持つアミュレットは僕と雫が赤ん坊だった君達を見つけた時、君達を守るかの様に一緒に添えられていたんだ。僕達は最初それを見つけた時、君達の本当の親が、お守りとして一緒に置いていったんだと思っていた)

(育てられない自分達の代わりに子供である貴方達を守ってほしいって。だから私達もアミュレットを貴方達に預けた…)

 

おさらいになるが火影と海之のアミュレット。それはふたりをこの世に送り込んだ少女が持たせたものだった。初めて起動したのは10年前。あの旅客機爆破事件から約ひと月後。待機状態だったアリギエルとウェルギエルが光を発しながら動き出した。実はそれがふたりが記憶を取り戻した一番のきっかけでもあった。

 

アルティス

(……でも違っていた。君達のそれには……もっと別の、重要な意味がある事がわかったんだ。発端は一ヶ月前に起こった…あの白騎士事件。正確にはあの日の翌日、夜中から始まるんだ)

火影

「…何だって!?」

海之

「白騎士事件の…翌日だと…!?」

 

火影と海之が驚く中、アルティスと雫の言葉は続く。

 

(火影、海之。貴方達は深く眠っていたからきっと覚えていないでしょう。……あの日の夜、丁度私と貴方達が一緒に床に着いてから日を跨いだ時だったわ。寝る時何時もベッドのサイドテーブルに置いていた貴方達のアミュレットが…その日、不思議な光を放ち始めたの)

火影・海之

「「!!」」

(その光で私はふと目を覚ました。凄く驚いたわ。そんな事は貴方達と暮し始めてから一度も無かったから。そして何故かは分からないけど…その時私はなんとも言えない不思議な予感がしたの。もしかするとあんな事があったから動揺してしまったのかもしれないけど。とにかく私は貴方達を起こさない様にそっとベッドから出て、アミュレットの事をこの人に相談したの)

アルティス

(雫からその事を聞いて僕も驚いたよ。そして申し訳ないと思ったけど…僕は君達のアミュレットをその日密かに調べる事にしたんだ…)

 

そして次にアルティスが発した言葉に…火影と海之をこれまで以上に驚く。

 

アルティス

(そしてわかった。君達のアミュレットが単なるアミュレットでは無く、「アリギエル」そして「ウェルギエル」という名前の兵器を搭載した…いや、それその物だと言う事を)

火影

(! アリギエルとウェルギエルが…!)

海之

(白騎士事件の翌日に既に起動していただと!?)

 

全く予想していなかった事実に火影と海之は激しく動揺する。

 

アルティス

(そしてそれはあの…先日の篠ノ之束博士が開発し発表したインフィニット・ストラトス、ISというものに非常に酷似している事もわかった。本当に驚いたよ。なんでここにそれがあるのか、そして何故君達が持っていたのか。…でも研究者の悪い癖かもしれないね。僕の眠気は完全に消え去ってしまって、その日の夜、寝る事も忘れて夢中でそれの研究に没頭してしまったんだ)

火影・海之

「「……」」

 

火影と海之は何も言わず、ただアルティスの言葉を黙って聞いていた。いや言葉が見つからなかったのだろう。アリギエルとウェルギエルが実は白騎士事件の翌日に起動し、しかもそれがアルティスや雫がそれの正体を知っていたのだという事に。

……だがふたりの心にはまだ疑問が残っていた。その時起動した筈のアリギエルとウェルギエルが何故一年後まで再び眠りについていたのだろうか、という事だった。だが…その答えはこの後、アルティスの口から聞く事になる。更なる衝撃の事実と共に…。

 

アルティス

(コア、SE、拡張領域、全てに僕は驚いたけど…調べていく中で最も僕が驚いた事があった。それは…アリギエルとウェルギエルのどちらにもあった共通の能力、「悪魔還り」というものについてだった…)

 

火影

「! あ、「悪魔還り」だと!?」

海之

「どういう事だ…!何故父さんがその事を…!」

 

ふたりのそれは最も意見だった。「悪魔還り」はふたりのISの単一特殊能力にして、ずっと封印されていて見る事さえできない筈の能力。トリッシュやネロ達に聞いても壊れているためにわからないと聞かされていた能力。それを何故父アルティスが知っているのか…?

 

(……)

アルティス

(…火影、海之。ふたりはこう思っているんじゃないかな?何故…封印されて見る事もできないそれを僕が知っているのか。と)

火影・海之

「「!!」」

アルティス

(それについては後で説明するね。ともかく見た目もだけど悪魔なんて変わった名前だったから不思議に思ったんだけど…僕はそれについても調べてみる事にした。……そしてわかった。「悪魔還り」…その名前の意味を。そして…その恐るべき能力を…)

火影

(「悪魔還り」の…名前と力…)

海之

(……)

アルティス

(今から話すよ。君達が持つ…「悪魔還り」の意味を)

 

 

…………

 

ラ・ディヴィナ・コメディア

 

 

「「アクマガエリ」ガシヨウデキマス。ドウシマスカ?」

 

 

時は一瞬戻り、再び戦いの場。

 

海之

(悪いが…俺達は使う)

火影

(でも、許してくれるだろ?…父さん)

 

心でそう思ったふたりは…再びシンクロしたかの様に…揃って宣言した。

 

 

火影・海之

「「……使うさ」」

 

 

………ピッ、キュィーン

 

その言葉に反応したのか、何かの起動音が鳴る。更にインターフェースに写っていた文字も以下の様に変わった。

 

 

「アクマニカエレ」

 

 

……ピキッ

 

突然、Sin・アリギエルとSin・ウェルギエルの漆黒のバイザーにヒビが入った。すると、

 

 

ドクンッ!!!

 

 

海之

「ぐっ!!」

火影

「ぐああああああああああああああ!!」

 

オーガス・ルーヴァ

「「!」」

 

突然、火影と海之を襲う強烈な苦しみ。これまでのどんな痛みよりも遥かに苦しく、辛い。皮膚という皮膚を傷つけられ、骨を破壊され、内臓を抉られ、全身の血液を絞り取られる様な強烈な痛みが襲い掛かっている。どんな傷を受けても悲鳴を上げる事がほとんどない火影と海之でさえ絶叫を上げる程のそれは普通の人間が受ければそれだけで絶命してまうかもしれなかった。

 

オーガス

「…何だ…!?」

ルーヴァ

「!」

火影

「あああああああああああああああ!!」

海之

「ぐううううああああああああああ!!」

 

苦しむふたりの前のインターフェースには文字が浮かんでいた…。

 

 

「オソレルコトハナイ。シュクメイハトリアゲラレルコトハナイ。ソレハオクリモノナノダ」

 

 

…………

 

アルティス

(……これが「悪魔還り」についての詳細だよ…)

火影

「……そういう事か…」

海之

「……」

 

時は戻り、、再びアルティスの書斎。火影と海之はアルティスの言葉から「悪魔還り」の詳細を把握した。

 

火影

「「悪魔還り」なんて名前だから…どんなもんか何となく予想だけはしていたんだがな…。だが……もう一度聞くとは思わなかったぜ」

海之

「……ああ」

 

どうやらそれも海之も同じだった様だ。だが今までの話を聞いてふたりにはまだ謎が残っていた。

 

火影

「……だけどそうすると」

海之

「…ああ。父さんの話では俺達のISも、そして「悪魔還り」も俺達が知っているよりも過去に確認できていた。だが…」

 

そう。初めてふたりがISを動かした時、「悪魔還り」は確かに封印状態だった筈という事だ。何故そのような事になったのか。そしてその答えもまた、アルティスからもたらされる事になった。

 

アルティス

(……火影、海之。僕は…ふたりに謝らなければいけない事がある)

火影

「…謝らないといけない事?…そう言えばさっきギャリソンが贖罪とか言っていた様な…」

海之

「……」

アルティス

(火影、海之。君達はきっと僕は見る事ができたのに、何故今「悪魔還り」が見れなくなっているのか、と思っているのではないだろうか?)

火影

「…何か昔の記録って感じがしねぇな。まるで生きてるみてぇだ。ハハ…」

海之

「……」

 

そしてアルティスは再び衝撃の真実を打ち明けた。

 

アルティス

(火影、海之…。君達の今のそれの原因を作ったのは…僕だ)

火影

「…え?」

海之

「何…?」

(……)

 

アルティス

(よく聞いてほしいふたり共。僕は…君達のそれを、「悪魔還り」のプログラムの一部を…意図的に壊してしまったんだ…)

 

火影・海之

「「!!」」

アルティス

(ああでも大丈夫。システムそのものは壊れていないよ。正確には…使用条件を満たさなければ…見る事が出来ない様にしてしまったんだ…)

火影

「な…何、だって…!?」

海之

(そんな事が…。……いや確かに父さん程の技術ならば。だが俺達のISにはセキュリティがある筈だ…!)

 

海之の言う通り、確かにアリギエルとウェルギエルには悪用されない様、超強力なセキュリティが掛かっている。実際これのせいで痛い目を見た者もいる。

(Extramission02参照)

因みに束が生み出したデビルブレイカーや魔具に掛かっているセキュリティプログラムは束がこのセキュリティを参考にして生み出し備え付けたものである。だがアルティスは続けて、

 

アルティス

(更に勝手だけど…アミュレットを君達以外の第三者に悪用されたりしない様に、僕が独自に開発したセキュリティプログラムを組み込ませてもらった…)

海之

「…!」

火影

「マジかよ…。俺達のISのセキュリティは…父さんが造ったものだったのか…」

アルティス

(更にアリギエルとウェルギエルに一種の封印プログラムの様な物も付け加えた。これは期限が来たら自動解除されるスリープ機能の様なものだ。未知の物ゆえ、どれ位もつか分からないけど…最低でも一年はもってくれる筈…)

火影

「だからアリギエルとウェルギエルの起動が一年後だったのか…。まぁ再起動だったって事だが…」

海之

「……」

アルティス

(……火影、海之。本当にすまないと思っている。もし僕がしでかしたことのために…君達に大きな迷惑が掛かってしまったのなら……心から謝罪する)

火影・海之

「「……」」

 

画面の中のアルティスが深く頭を下げた。「悪魔還り」の異変。他に類を見ないセキュリティプログラム。更にIS自体の封印。これらは全て父アルティスの手によるものだった。その真実に火影と海之は動揺していた。……すると今まで黙っていた雫が声を出す。

 

(火影、海之。私からも謝るわ。本当にごめんなさい。きっと深く驚いている事でしょう。……でも聞いて。許してもらえるかわからないけど…この人がこんな事をしたのは…貴方達を想っての事なの)

火影・海之

「「…?」」

 

火影と海之は顔を上げる。するとアルティスは頭を上げて再び話始めた。

 

アルティス

(火影、海之…。僕は…君達のそれを見た時、研究者としての興味本位から調べたくなったって言ったよね。…でももうひとつ思う事があったんだ。…何故、君達がこんなものを持っていたのかって。君達は…一体何者なのかって。そんな考えが頭を一瞬過ってしまったんだ…)

火影

「……まぁ当然だな…」

海之

「……」

 

それは火影も海之も当然だと思っていた。誰が生んだのかどこから来たのかわからない捨て子。更にその子供が持っていたアミュレットには秘密が、しかも最新の技術の塊の様なものだったなんて事を知ればまず全ての人間がこう思うに違いない。「こんな物を持っているあの子供は何者なのか」と…。

 

アルティス

(そしてアリギエルとウェルギエルを調べていく内に…思ったんだ。こんな物を持っていた君達は…もしかしたら僕達が想像もできない様なとんでもない秘密があるのではないかってね…)

火影・海之

「「……」」

 

前世が半人半魔。持っているISはその時の自分達を模した姿。その記憶を取り戻したのは後々だったが…その秘密をふたりは墓穴まで持って行くつもりだった。だが父も母も自分達の異変に何となく気付いていた。幸いと言えば…自分達の真相をふたりが知る事が最後まで無かったことだろうか…。

 

アルティス

(…でも聞いてほしい。火影、海之。僕と雫にとっては……君達の真相なんてどうでもいいんだ!)

火影・海之

「「…!」」

 

その言葉に火影と海之はハッとする。

 

アルティス

(君達にどんな秘密があったとしても、そして…君達の正体がなんであっても、君達は僕と雫の大事な子供だ)

(貴方達はもしかしたら自分達が捨て子である事も気にしたりするんじゃないかしら。そんな気持ちは…どうか捨てて?この人の言う通り、貴方達は私とこの人の可愛い子供。悪魔とか魔力とか、そんな事関係無いわ。貴方達が危険な目に合うと思うと胸がはち切れそうになる…)

アルティス

(ああ…。だから僕は…君達の持つそれにあんな事をしてしまった…。君達に…危険な目に合ってほしくないと思ったから…。まだ幼い君達の笑顔や寝顔、僕達をお父さんやお母さんと呼んでくれる君達を見ていると…我慢できなかった…)

火影

「……父さん。……母さん」

海之

「……」

 

アルティスと雫。火影と海之はふたりが自分達の親である事を改めて深く感謝した…。そんなふたりにアルティスと雫は最後に、

 

 

アルティス

(……でももし、君達がアリギエルとウェルギエルに秘められた力を使わなければいけない時が来たら……その時は君達自身の意志で使ってくれ。君達の…大切なもののために)

(貴方達は強い子。…守ってあげて…)

 

 

…………

 

今だ収まらぬ激痛に苦しむ中、火影はオーガスに、海之はルーヴァに言った。

 

火影

「ぐっ…おい、テメェらは…人間を愚かな存在、って言った、な…?…教えてやるぜ!本当に…そうかどうかを…!」

海之

「この世に…人間程凶悪な存在は無い。…だが、人間程…成長する者は無いという事を…教えてやる!」

 

 

ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!…

 

 

激しくなる心臓の脈動。そして火影と海之、いやSin・アリギエルとSin・ウェルギエルが放つ光が一層強くなっていく。

 

オーガス

「馬鹿な…!これは…!!」

ルーヴァ

「…!!」

 

そして…

 

 

火影・海之

「「グ…グ、ググッ…!グゥゥゥゥゥアァァァァァァァァァ!!」」

 

 

ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!

 

オーガス・ルーヴァ

「「!!!」」

 

火影、そして海之を中心にして起こる凄まじい力の奔流。その勢いにオーガスもルーヴァも吹き飛ばされる。

 

オーガス

「ぐぅ!…馬鹿な、このアルダ・スパーダが怯むだと…!?」

ルーヴァ

「ぬぅぅ…!」

 

そしてオーガス、ルーヴァが爆発が起こった地点に目をやると…そこには、

 

 

Sinアリギエル?・Sinウェルギエル?

「「……」」

 

 

顔部分にあったバイザーが砕け、鋭い牙と光を放つ目を持った…Sin・アリギエルとSin・ウェルギエルがいた。

 

ルーヴァ

「…!」

海之

「……嘗てウィリアム・ブレイクは言った…。世界は一粒の砂…。天国は一輪の花…。掌に無限を。一時の内に永遠を…」

 

………

 

オーガス

「悪魔になった…だと…!馬鹿な…!?」

火影

「ハァ……。時間かかって悪かったな…。……さぁ始めようじゃねぇか。…セミ・ファイナルラウンドをよ…」




※次回は二週間後の30(土)の予定です。
何とか仕上げられました。過去の話を読み通しながら矛盾を無くしたつもりですがもしあったら申し訳ありません。


「悪魔還り」

アリギエルとウェルギエルの単一特殊能力。
起動にはすぐ傍に極めて強力な魔力が存在する事が必要で、条件を満たすと起動するか否かの選択肢が出、起動すれば激しい苦痛に耐えた後、嘗てのダンテとバージルだった頃の力の全てを取り戻せる。能力の継続はその魔力が存在する間続き、無くなると自動的に解除される。
本来は封印状態でなく、アリギエルとウェルギエルが初めて起動した時にこれに関わる情報も公開される筈だったが、ふたりの義父アルティスがまだ幼かったふたりの運命を憂いてプログラムの一部を細工し、起動条件を満たす場合を除いて見る事が出来ない様にした。更に同時にこのプログラムとISを他の誰にも盗まれない様、自身の持つ技術の全てを使って造ったセキュリティプログラムとスリープ機能をアミュレットに組み込んだ。


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Mission211 「悪魔還り」③ 蘇る魔剣 生まれる魔剣

ギャリソンから父アルティスの伝言の事を聞いた火影と海之は早速聞いてみる事にした。画面に映し出される懐かしいこの時代の父と母。だが両親
から聞いたのは衝撃の真実の数々だった。

ふたりがアリギエルとウェルギエルの正体を知っていた事。アミュレットに仕掛けられたセキュリティプログラム、そして一年後の再起動はアルティスの仕業であった事。そして「悪魔還り」の事…。

思ってもみなかった事態に困惑の色を隠せない火影と海之。
だがそんなふたりに画面に映る父アルティスと母雫はふたりの正体がどの様なものであっても自分達の愛しい子供である事は揺るがない、そして必要になった時は自らの意志で力を使えと伝えた。
そして今、火影と海之は使うのであった。父と母が伝えてくれた力を。


火影

「教えてやるぜ…!俺達の…人間の力ってもんをな!!」

海之

「人間は成長するのだ…。その力を…見るがいい!!」

オーガス・ルーヴァ

「「!!!」」

 

 

火影・海之

「「グッ…グゥゥゥゥゥゥアァァァァァァァァァァァ!!!」」

 

 

ドォォォォォォォォォォォンッ!!

 

 

凄まじい絶叫と共に、凄まじい力が解き放たれた。

 

オーガス

「ぬぅ!!」

 

火焔天では火影を中心として起こった凄まじい力の奔流にたじろぐオーガス。

 

オーガス

「…馬鹿な、このアルダ・スパーダが怯むだと……!!??」

 

そんな彼の目の前には…彼にとって理解し難いものがあった。

 

火影

「ハァ…ハァ…。待たせて悪かったな…。さぁ、始めようぜ…セミ・ファイナルラウンドをよ」

 

そこには火影の声だが今までと違う姿のSin・アリギエルがいた…。

 

 

…………

 

そしてそれは「煉獄」でも、

 

 

海之

「嘗て…ウィリアム・ブレイクは言った…。世界は一粒の砂…。天国は一輪の花…。掌に無限を。一時の内に永遠を…」

 

海之も火影と同じく、それまでと違うSin・ウェルギエルを纏っていたのだった。その変化にルーヴァも困惑の色を隠せなかった。

 

ルーヴァ

「……!!」

 

 

…………

 

「悪魔還り」によってふたりは大きく変わった。全身のいたる場所からエネルギーの如き光、もしくは炎とも見れるものが漏れている。火影は赤。海之は青。更に全身の装甲、爪や翼、尾までが機械的なものから禍々しい有機的なものになっている。最も変わったのは頭部。それまでの顔面部にあったバイザーは砕け散り、鋭い牙を持つ口と光り輝く眼を持つ顔が現れた。体温が高いのかその口からは時々湯気が出ている。そして何より違うのは…、

 

オーガス

「姿が変わった…?そしてどういう事だ…?この凄まじい魔力は…!」

 

ここにはいないルーヴァも海之に対して同じ様な反応をしているだろう。火影が纏うのは見た目のそれだけでなくわかる者にしかわからない強力な魔力…。「悪魔還り」の名の通り、悪魔に還る能力にして秘術。火影と海之は嘗てのダンテとバージルだった時の魔力を取り戻していたのだ。それを確認する様に火影は己の姿を見て、

 

火影

「……この姿も久々だな」

オーガス

「悪魔に、ただの人間である貴様が、自ら嘗ての力を取り戻したとでもいうのか…!?」

火影

「自ら?……違うな。これは父さんと母さんが教えてくれた力だ。俺、そして海之を想ってくれたな。……そして」

 

カッ!ジャキッ!!

 

そう言う火影の手にあるものが姿を現した。、

 

オーガス

「…それは貴様の剣?…だが何故持ち手しか無い?」

 

それはつい先ほどまで使えなくなっていた火影の剣…リベリオンであった。だが火影の手にあるそれは柄の部分と僅かな刃の部分だけ。途中で折れていたのである。

 

火影

「ずっと気になってたんだよな…。何故俺のアリギエルの剣がリベリオンなのか…。そして親父の剣はどこに行っちまったのか…。そして…俺の剣はどこ行っちまったのか」

 

火影、前世のダンテはみっつの剣を持っていた。ひとつ目は父スパーダから託された「魔剣リベリオン」。ふたつ目は自分とバージルのアミュレット、そして父の剣を組み合わせた結果、本来の姿を取り戻した「魔剣スパーダ」。そしてみっつ目は…。

 

火影

「そんな時、夢の中でのあいつの言葉を思い出した…」

 

 

(だって魔剣スパーダはアンタが取り込んでしまったじゃないの)

 

 

その答えを聞いて火影はある結論に達したのだった。

 

火影

「もし俺の想像が正しいのなら…これが第一段階って訳か」

オーガス

「…貴様、先程から何を言っている?」

 

オーガスは火影の言葉が気になる様だ。その火影はというと手に持つリベリオン(半分)を見ながら、

 

火影

「俺は今までいろんな奴に散々刺されたり撃たれたりしてきたが、ふっ…まさかこれを二回もやるとはな…」

 

そう言いながら、

 

 

ドスッ!!

 

 

火影は自らの腹部にリベリオンを刺した。

 

オーガス

「何!」

火影

「ぐっ!!親父の剣が…俺に取り込まれたんなら、親父の剣は……既に、俺の中に、ぐっ!!」

 

グググ……シュゥゥゥゥ……

 

更に深く自らに深く刺し続けた火影。すると折れたリベリオンは火影の中に吸収される様に光と共に消え去った…。

 

オーガス

「き、吸収しただと…!?」

火影

「ハァ…ハァ…」ドクンッ!!「!……へっ、やっぱな」

 

バッ!…ギュォォォォォォォ…

 

一瞬感じた力の脈動に何かを確信したらしい火影は手を出し、自らの力を集中させた。…そして、

 

 

……カッ!!

 

 

オーガス

「!!」

 

火影の手に…剣が現れた。それはリベリオンでもスパーダでもない…。

 

オーガス

「なんだ…その剣は…!?」

火影

「ああそういやこいつは見た事ねぇのかテメェは」

 

 

蘇りし伝説の魔剣「魔剣ダンテ」

 

火影が嘗てダンテだった頃に最後に使っていた三本目の伝説の魔剣。

ユリゼンとの戦いで砕けてしまった魔剣リベリオン、父の形見である魔剣スパーダ、そしてダンテ自身の魔力が融合して彼自身から生まれた魔剣。有機的な両刃の刀身に悪魔の爪を思わせるような装飾。柄にはアミュレットにはめ込まれた赤い宝石が埋め込まれている。魔剣スパーダをわが身に取り込んで生まれた事やダンテの名を持つことから正にスパーダ、父を超えた証そのものである。

 

 

火影

「上手くいくかは半分賭けみてぇなもんだったがな…。だからリベリオンだけが外に出てたって訳だ。俺だけでなくあいつにも使わせるために」

 

 

ジャキッ!ヴゥヴゥヴゥヴゥンッ!!

 

 

火影は手の魔剣ダンテをゆっくり振り回すと刀身が半分に割れ、そこから赤き光を放つ同じ形状の光の剣が飛び出した。

 

オーガス

「それはバージルと同じ…!」

火影

「さ~て随分待たせて悪かったな。…始めようぜアルゴ、いやオーガス!テメェとの最後のケンカをな!」

オーガス

「…ダンテェェェェ!!」

 

 

…………

 

そしてこちらでも、

 

海之

「……さて」

 

ジャキッ!

 

そう言いながら海之も何かを取り出した。それは、

 

ルーヴァ

「…剣先だと?」

 

火影のリベリオンの剣先だった…。

 

 

…………

 

それは先日の出来事。ラ・ディヴィナ・コメディアに向かう直前、

 

火影

「海之、お前にこいつを渡しとくぜ」

 

そう言いながら火影は海之に何かを渡した。それはリベリオンの剣先。

 

海之

「……お前の剣の剣先だと?どういう…!……そうか」

 

すると海之もまた何かの結論に達した。

 

火影

「お前なら理解してるだろ?俺のリベリオンの特性を。だったらお前にも出来る筈だと思ってな。「悪魔還り」を使った後なら」

海之

「…だが俺には剣が」

火影

「お前にもあるじゃねぇかアレが」

海之

「!……成程な。…ふっ、良いだろう。お前にできて俺にできない筈はない」

火影

「一言余計だっつの」

海之

「所で…どうやって折ったのだ?」

火影

「んなもん折れるまでぶん殴り続けたに決まってるじゃねぇか」

海之

「…やれやれ全く…」

 

 

…………

 

海之

「思えば俺もこれをやるのは二度目だな。最も最初は人間を捨て去るためだったが。……まさか何かを守るためにこの様なことをする等…あの時の俺には思いもしていなかった…」

 

カッ!ジャキッ!

 

すると海之はもう片方の手にあるものを出した。それは…折られた閻魔刀。

 

ルーヴァ

「そんなガラクタばかり出してどうするつもりだ?」

海之

「黙って見ているがいい…」

 

ルーヴァの問いに海之はこう答えると、

 

 

ドスッ!ドスッ!!

 

 

火影と同じくリベリオン、そして閻魔刀を自らに刺し、貫いた。

 

ルーヴァ

「…!」

海之

「くっ!!……俺の閻魔刀は…人と魔の両者を別つ!そしてあいつのリベリオンは…人と魔を…ひとつに…!!」

 

グググッ……シュゥゥゥゥン…

 

そして火影と同じ様にリベリオン、そして閻魔刀も海之に取り込まれる様に光になって消え去った…。

 

ルーヴァ

「…奴に飲み込まれただと!?」

海之

「ハァ……」バッ!!

 

海之は片手を前に突き出した。すると、

 

……カッ!!

 

海之の手に光と共に現れたものがあった。それは…白塗りの鞘に収まれた一本の刀。

 

ルーヴァ

「…閻魔刀だと!?……いや、違う」

海之

「……もはやその名では呼ばん。これは…」

 

 

もうひとつの新たなる魔剣「魔剣伊邪薙(イザナギ)

 

魔剣リベリオンの「人と魔をひとつとする力」により、リベリオンと閻魔刀、そして海之自身の力が融合して生まれた新たな魔剣。刀は閻魔刀と違いないが鞘は黒塗りから白塗りに変わっている。また閻魔刀の「人と魔を別つ力」も継承されている。名前は生と未来の神伊邪那岐(イザナギ)と死と過去の神伊邪那美(イザナミ)から。生と死、輪廻転生から続く因縁を薙ぎ払い、断ち切るという意味で名付けた。

 

 

海之

「過去の俺の罪は決して消えはしない。だがそれでもいい。この世界で得たもの達が教えてくれた。俺は海之として、これからもこの世界で生きていく。そのために…過去の因縁はここで断ち切らせてもらう」

 

スッ…

 

海之は鞘から刀を抜いた。

 

海之

「…終わらせよう。…あの時の俺」

ルーヴァ

「…バージル!!」

 

それぞれの第二ラウンドが始まった。




※次回は30日(土)の予定です。
短いですが剣の箇所も強調したいと思い、本日前半を投稿する事にしました。
閻魔刀の名前を変えるのは抵抗ありましたが海之自身から生まれた刀なので火影と同じく変えるべきかと思いました。


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Mission212 ルーヴァ絶叫

「悪魔還り」を使い、火影と海之は嘗ての自分であったダンテとバージルの力を取り戻す。そして火影は使用不能になっていた自らの剣、リベリオンを取り出すがそれはふたつに真っ二つに折られていた。火影はリベリオンの「人と魔をひとつとする力」を利用し、自らの中に既にある魔剣スパーダとリベリオンを融合させ、自らの魔剣である魔剣「ダンテ」を取り戻す。
一方、海之の手にも折られたリベリオンの断片があった。海之はそれを自らの剣である閻魔刀と共に自らに融合させ、新たな魔剣「伊邪薙」を生み出すのだった。


閻魔刀に変わる自らより生み出した魔剣「伊邪薙」を生み出した海之は暗闇の中で白き鞘からゆっくりとその刀を抜いた。「煉獄」を埋め尽くす灼熱の炎は海之自身から放出された魔力の渦により、吹き飛ばされていた。現在は海之とルーヴァ自身の光によってうっすら見えているだけである。

 

海之

「終らせよう。嘗ての俺自身」

ルーヴァ

「…バージル!!」ドゥンッ!!

 

これで終わりという意味も兼ねたその言葉に激昂したのか、ルーヴァは自らの黒き刀を向け、全力で斬りかかる。

 

ガキンッ!!

 

だがルーヴァの一の太刀を海之は冷静に伊邪薙で受け止める。

 

海之・ルーヴァ

「「つおぉぉぉぉぉぉぉ!!」」

 

ガキィィィンッ!キィィンッ!!ガンッ!!キキキンッ!

 

そしてそこからふたりは暫しの剣劇を繰り広げる。横薙ぎ、縦斬り、振り上げ、袈裟斬り、逆袈裟、互いに譲らない。ふたりは距離を置き、

 

ヴゥヴゥヴゥヴゥン!!

ズガガガガガガガン!!

 

そして次元斬の応酬。これも完全に互角である。それを見たルーヴァは、

 

ルーヴァ

「…その刀、先の様なナマクラではない様だな」

海之

「瑠璃月の事か…。瑠璃月はナマクラ等ではない。貴様の剣よりも遥かに重く、多くの想いや意志を背負った刀だ。それを俺は砕けさせてしまった。…俺の力不足だ」

ルーヴァ

「想い…意志。……下らん。弱き者は死ぬ。それは剣も、そして貴様も同じだ!!」ドゥンッ!!

 

ガキンッ!!

 

再びルーヴァは斬りかかる。それを海之は受け止めながら、

 

海之

「だから故に…」ジャキッ!…ギュゥゥゥンッ!!

 

同時にもう片手に折れた瑠璃月を持った。すると折れた刀が青き光に包まれ、それが新たな刀身を形成した。それは正に光の刀。

 

ルーヴァ

「何!?」

海之

「ムン!!」

 

ザシュゥゥゥッ!!

 

ルーヴァ

「ぐあ!!」ズザザザァァァッ!!

 

斬られた反動でルーヴァの身体が後退する。

 

海之

「…もう死なせはしない」

 

 

幻影刀(ミラージュエッジ)

 

折れた瑠璃月に海之が自らの魔力を与えて変化した姿。全体が青く光っていて幻影剣と似ているがこちらは剣ではなく刀の形をしている。故に切れ味は幻影剣よりもあり、海之はこれを伊邪薙との二刀流で用いる。

 

 

ルーヴァ

「魔力の刃か…。味な真似を…」

 

ヴゥヴゥヴゥヴンッ!ズドドドドドドド!!

 

ルーヴァはそう言うと無数の黒き幻影剣を展開し、一斉に撃ち出す。

 

海之

「…はっ!」

 

ズバァァン!!ズバァァン!!

ドガガガガガガガガン!!

 

すると海之もまた二刀流による二連続のドライヴ、オーバードライヴを撃ち出した。その青き閃刃によって飛んできた全ての幻影剣が真っ二つに切り裂かれた。更にそのままその衝撃波はルーヴァ目掛けて進んでいく。

 

ルーヴァ

「ぬ!?」

 

ガキンッ!バババババババババ!!

 

ルーヴァはそれをギリギリで受け止める。

 

ルーヴァ

「ぐぅ…!」

海之

「どうした?先ほど迄の余裕はどこに行った?」

ル―ヴァ

「ちっ…行け!」

 

ヴゥンッ!!

 

とその時、ルーヴァに操られていたナイトメアVが海之に向かって星球の拳を繰り出してきた。海之はそれを難無く躱す。ナイトメアは続けて目から雷弾を繰り出す。

 

ナイトメアV

「……」ズドドドドド!!

海之

「まだ飼い主の顔が忘れているのか」

ルーヴァ

「そいつは最早俺の捨て駒だ。自らの命尽きるまで戦い続けるだろう」

 

ババババババババッ!!

 

繰り出される雷弾を剣で弾く。それに怒ったのかナイトメアは再び海之に接近し、拳を振り上げる。そしてナイトメアが拳を真下の海之に向かって振り下ろそうとした。……その時、

 

海之

「全く…世話の焼ける奴だ」

 

 

ギュンッ!!

 

 

ナイトメアV

「…!!」

 

その拳が止まった。ナイトメアと海之の目が合った瞬間に。

 

ルーヴァ

「……何?」

ナイトメアV

「……」

 

ナイトメアは微動だにしない。

 

海之

「誰が主か位さっさと思い出せ。俺から生まれた悪夢共…!」ギュンッ!!

 

海之の青き眼光が一際強くなった。すると、

 

ナイトメアV

「……」シュゥゥゥゥゥン…

 

ナイトメアのそれまで凶暴性を含んでいた目が従来の色と同じになった。

 

ドゥンッ!!

 

するとナイトメアは再びルーヴァに向かって行く。拳を振り上げ、ルーヴァはそれを受け止める。

 

ルーヴァ

「馬鹿な…。俺の支配を破っただと…!」

海之

「破った?違う、思い出しただけだ。どうやら支配された怒りはある様だな。暫し任せるぞ」

 

ズギュ――ンッ!!ドガァァァァァン!!

 

ナイトメアの目から繰り出される破壊光線とそれを避けるルーヴァ。目の色は収まったがその怒涛の攻撃はまるで支配された怒りをぶつけているかの様である。

 

ルーヴァ

「ちっ…ならばまずは貴様からだ!」ドゥンッ!!

 

黒い輝きを放つベオウルフに変えたルーヴァはナイトメアを超える超高速で接近し、

 

ルーヴァ

「砕け散れ人形!!」

 

ナイトメアの腹部に自らのヘルオンアースを叩き込もうとした。…しかし、

 

ヴゥンッ!!

 

ルーヴァ

「!?」

 

それは空を斬った。目の前にいた筈のナイトメアがいない。そして周囲を探そうとしたルーヴァの目に思いもしないものが映った。

 

 

ナイトメア・黒い鳥・黒い獣

「「「……」」」

 

 

ルーヴァ

「これは…!」

 

自分の周りにナイトメア、そして黒い影の様な鳥と獣がいた。それはルーヴァを囲む様に展開している。

 

 

ナイトメア・ワールドオブV

 

海之が悪魔還りを起動している間だけ使えるナイトメアに追加された新たな能力。嘗て彼に従っていた者達を操る事が出来る。ただし長時間は使えず、使用すると無条件で展開が解除される。

 

 

バリバリバリバリバリ!!

ズガガガガガガガガガ!!

ズド――ン!!ズド――ン!!

 

 

黒い鳥は激しい雷を、獣は自らの影の様な身体を変形させた鋭い刃を、そしてナイトメアからは目から破壊光線を繰り出した。

 

ル―ヴァ

「その様なものにこの俺が当たると」ズドドドドドドド!!「!…何!?」

 

ル―ヴァが見上げると上空には五月雨幻影剣があった。

 

海之

「そう言わず当たってやれ」

 

海之の幻影剣、そしてみっつの攻撃が一斉に向かう。

 

ル―ヴァ

「!!」

 

 

ドガァァァァァァァァァァァァン!!!

 

 

そしてそれらの攻撃は互いの威力を引き立てながらぶつかり、爆発した。そして黒い鳥と獣、更にナイトメアは姿を消した。

 

海之

「……」

 

爆発した方向を見続ける海之。……すると、

 

 

……シュンッ!!

 

 

その真後ろにエアトリックでルーヴァが現れた。

 

ル―ヴァ

「あの様な攻撃で俺が倒れると思うか!死ねバージル!!」

 

背中を向けたままの海之に背後から全力で斬りかかるルーヴァ。

 

 

ドゴォォォォォォォォォォ!!

 

 

ル―ヴァ

「ぐあああ!!」

 

しかしそれもまた届かなかった。突然何者かに殴り飛ばされたのだ。

 

ル―ヴァ

「ぐっ!い、今のは……!」

 

再びルーヴァは驚愕した。見ると海之の腕から…更に光の腕が生えている。正確には海之の腕から放出されている青い光が新たな腕を形成していたのだ。ル―ヴァを殴り飛ばしたのはそれであった。その腕はゴキゴキッ、と音を立てた。

 

 

真魔腕「ネロ」

 

ナイトメア・ワールドオブVと同じく、悪魔還りを起動している間だけ使える海之のもうひとつの新たな能力。それまで腕に宿すことしかできなかった魔腕「ネロ」を独立させて動かす事ができる。それから繰り出される一撃は凄まじく、ベオウルフ以上である。

 

 

海之

「…やはり下品な技だな」

ル―ヴァ

「また俺が知らぬ技だと…。どういう事だ…?」

海之

「貴様には理解できん」ギュンッ!!

 

するとその光の腕が真っすぐに伸び、

 

ガシガシッ!!

 

ル―ヴァ

「!!」

 

凄まじい握力でルーヴァの身体をスナッチし、引き戻す。

 

海之

「はぁぁぁぁ!!」ザシュゥゥッ!!ドゴォォォォ!!

 

海之の斬りつけとネロによる同時攻撃、ショウダウンがルーヴァの身体に食い込む。

 

ル―ヴァ

「グオォォォ!!」ドガァァァァァンッ!!

 

その攻撃に大きく吹き飛ぶルーヴァ。苦しむル―ヴァに海之は言う。

 

ル―ヴァ

「なんだ…この力は…!」

海之

「だがひとつ教えてやる。俺はひとりではないという事だ。俺を支える者達が、俺に力を与えてくれているのだ」

ル―ヴァ

「…支えだと?……下らん!!」

 

ズドドドドドドドドドドド!!

ドォォォンッ!ドォォォンッ!

スギュンッ!ズギュンッ!ズギュンッ!

 

ル―ヴァから怒涛の攻撃が海之に繰り出される。それは先の戦いでルーヴァがデータドレインによって吸収した鈴の龍哮や簪のミサイル、そして一夏の粉雪も混ざっていた。だが海之もまたそれらを全て避ける。

 

海之

「簪の山嵐に鈴の衝撃砲か」

ル―ヴァ

「そんなものは戯言でしかない!全ての他者を蹴落とし!全てを利用し!己を捨ててでも!何者よりも強大な力を得た者のみこそ、絶対の力そのものだ!」

海之

「そう言うからには一発でも当ててみるんだな。力を抑えている場合ではないぞ」

ル―ヴァ

「…良いだろう!」

 

そう言いながらルーヴァは再び黒き刀を向ける。更に自らの周りに幻影剣も展開する。一方の海之はネロをしまい、伊邪薙を構える。

 

ル―ヴァ

「…何故その腕を消す?」

海之

「必要ない」

ル―ヴァ

「何?」

海之

「必要ないと言ったのだ。貴様如きにこの力はいらん。俺のみで十分だ」

ル―ヴァ

「…貴様ァァァァァァ!!」ドゥンッ!!

 

海之の言葉にルーヴァは再び激昂し、突進した。その姿は先ほど迄の様な冷静さは伺えない。今は怒りに囚われた、目の前にいる敵を倒す破壊者になっていた。ルーヴァは黒き幻影剣を己に纏い、真っすぐ突っ込んでくる。

 

海之

「…無様だな」

 

すると海之もまた、己の周りに幻影剣を展開した。そして、

 

ガキキキキキキキキキキキ!!

 

一本一本の幻影剣が黒き幻影剣を受け止め、ルーヴァの全力の太刀が伊邪薙と幻影刀の二刀流で受け止められた。

 

ル―ヴァ

「!!」

海之

「つおぉぉぉぉ!!」ドォン!!

 

すると受け止めたまま海之は自身の身体を回転させて飛び上がり、ルーヴァの身体を上空に羅閃天翔にて打ち上げ、

 

海之

「はっ!」ドンッ!「おぉぉぉぉ!!」ザンッ!!

 

続け様高速でル―ヴァを追い越して上空から落下、刀を振り下ろす撃墜斬にてルーヴァの身体を地面に激しく叩きつける。

 

ドォォォォォンッ!!

 

ル―ヴァ

「ぐおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

そして海之は言い放った。

 

海之

「…終わりだ(DIE)

 

ギュンッ!!!

 

ディープ・スティンガー。二刀を構えながらドリルの様に回転しつつ、下にいるルーヴァに突っ込んでいく。

 

海之

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

ル―ヴァ

「!!!」

 

ふたつの影がぶつかった瞬間、激しい閃光が起こった…。

 

 

…………

 

海之

「……」

 

それから約30秒位だろうか、そこにはISも悪魔還りも解除した海之がいた。それはつまり近くに巨大な魔力が無い事を意味していた。…が、

 

ル―ヴァ

「……ハァァァ、……ハァァァ」

 

ル―ヴァはまだ生きていた。しかし仰向けに力無く、息もか細く倒れる姿はもう戦うどころか殆ど力が無い事を如実に物語っている。そんなルーヴァを黙って見降ろす海之。

 

海之

「仕留めたと思ったが…先の一瞬で僅かに防御したか」

ルーヴァ

「……何故、だ。……失う事を恐れる貴様が、……力以外何も望まぬ俺より、…何故、強い…」

 

力無く声を出したル―ヴァに海之は答えた。

 

海之

「……昔、俺も同じ事をあいつに聞いた。全てを捨てた俺を圧したあいつは言った。無くしたからではなく無くしたくないから強い、と。……今なら俺にも分かる。俺が倒れれば失うものがある。俺が倒れれば泣く者達がいる。そうはしたくない。故に負けられんのだ」

ルーヴァ

「自分のためでなく…他の者共のためだというのか?」

海之

「…違う。失いたくないのも泣かしたくないのも、全ては俺の望み。云わば俺のため…。そして…俺がこの世界で得た力だ」

ル―ヴァ

「……」

 

ル―ヴァは黙って聞いていた。

 

海之

「さて…話は終わりにさせてもらうぞ。俺には時間が無いのでな。死んでいないのならばさっさと起き上がって最後の意地位見せてみろ」

 

そして海之は伊邪薙を構える。だがルーヴァの口から予想外の言葉が出てきた。

 

ルーヴァ

「……殺せ」

海之

「…?」

 

ルーヴァのその言葉に海之は止まる。

 

ルーヴァ

「俺は…力そのもの。…何者よりも、力を望んでいた。ダンテを、貴様を超える力を…。そして…貴様達に敗れた…あの時、あのオーガスという人間……いや、正確にはあの男から感じた…力を知った時、俺は…考えた。その力の…源に従えば、今以上の、力を…手に入れられると…。その力で…ダンテを、貴様を倒し、何れは…俺に力を与えた奴をも倒せば…俺は…絶対的な、存在に…なると。……気に食わぬ手段だったがな…」

海之

「…利用されると知りながら力欲しさに下ったという事か。…愚かな」

ルーヴァ

「十分な理由だろう?…俺や、嘗ての貴様にとっては。だが…力無くした俺等…最早無意味。さっさと殺すがいい」

 

そう言うルーヴァに…海之はこう言い返した。怒りも含んで。

 

海之

「…ふざけるな。嘗て俺は確かに力を欲した。何者をも超える力を。嘗ての父スパーダが通った道を俺が通れぬ道理はないと思ってな。そのために俺は利用できるものは何でも利用してきた。人間も悪魔も自らの血を分けた者も。それは認めてやる。……だが俺は自分以外の誰かに頭を下げてまで力を得ようと思った事など一度たりとも覚えは無い。アルゴサクスにも、ましてや…奴にもな」

ルーヴァ

「……」

海之

「貴様は俺に失望したと言ったな。それは俺も同じ…いや貴様以上だ。嘗ての俺と思っていたが俺と貴様は違う。利用される事をわかっていながら力欲しさのあまり自らより強い者に尻尾を振った奴など…俺の影でも何でもない。ただの腰抜け同然だ」

ルーヴァ

「! 俺が腰抜けだと…!?」

海之

「その通りだろう?貴様自身先ほど言った筈だぞ。力のために「従った」と。その時点で貴様は敗北を認めた訳だ。俺はそんな覚えは無い。奴にこの身を貫かれようが、あいつとの決闘に敗れようが、それでも力を望み、最後の最後まで足掻いた。貴様の様な泣き言を言った覚えは無いな」

ルーヴァ

「貴様…!ぐ、く…!」

 

その言葉にルーヴァは憤慨するがダメージが大きいのか起き上がれない。

 

海之

「口惜しいか?ならば何かやりかえしてみせろ。俺ならば戦いの中で死ぬ時、介錯など受けずに自ら終わらせるか、せめて死ぬ間際に自らを罵倒・利用した者に一矢報いてからにするだろう」

 

そう言うと海之は刀を収める。

 

海之

「俺は介錯等せん。やるなら他の奴に頼め。或いは自刃するか斬られるか、考える程度の力はまだ残っているだろう」

ルーヴァ

「…情けのつもり、か!!」

海之

「情けか…或いは気まぐれか。……本当に俺も甘くなったものだ」

 

自笑する様に言う海之、……その時、

 

 

……ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!

 

 

海之・ルーヴァ

「「!!」」

 

突然、ふたりのいる煉獄の間が血の様に赤く輝き始めた。

 

ル―ヴァ

「…何だ。…コレは…?」

海之

「……」

 

…そして暫しすると輝きは収まり、再び部屋は暗闇に包まれた。

 

ドクンッ!!!

 

海之

「!!…ちっ、これは…まさか…!」

 

巨大な魔力と共に何かを感じ取ったらしい海之はルーヴァに背を向け、去ろうとする。

 

ルーヴァ

「ま、待て…!」

海之

「今の貴様に構っている意味はない。追いかけるならば追いかけてくるがいい。どうするかは貴様の好きにするんだな…」

 

そう言うと海之は闇の中に消えた。

 

ルーヴァ

「…グ、…ウォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」

 

ひとり残されたルーヴァは暗闇の中ひとり、絶叫を上げていた。




※次回は来月6日(土)の予定です。
海之とルーヴァの戦いはこれで終了。次は火影とオーガスの戦いです。


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Mission213 勝利…そして

「煉獄」にてバージルの力を取り戻した海之とルーヴァの第二ラウンドが始まった。支配されたナイトメアの解放。魔腕ネロの進化。そして閻魔刀に変わる新たな愛刀「伊邪薙」を手に海之はルーヴァを上回る攻撃を繰り出し、剣劇の果てに遂にル―ヴァを打ち倒した。
自らのプライドを捨ててまで力を望んだルーヴァは敗北したことに絶望し、海之に殺せというが海之はそれを拒否。自分ならば最後まで戦って死ぬか自らを利用した者に一矢報いてから死ぬだろうと言い放ち、ルーヴァを捨て置いて去ってしまった。残ったルーヴァは悔しさと無念のあまり、絶叫を上げるのだった。
……一方、同じく力を取り戻した彼の戦いも始まっていた。


火影

「さぁ、始めようじゃねぇかアルゴ…いやオーガス。てめぇとの最後のケンカをな!」

 

ジャキッ!ヴゥヴゥヴゥヴゥン!!

 

海之がルーヴァとの決着をつけるより少し前、こちらも戦いが始まった。自身の翼を広げ、魔剣ダンテとそこから生まれた赤い刃を周囲に纏い、目の前のアルダ・スパーダ纏うオーガスに対峙する火影。

 

オーガス

「まさか貴様も魔の力を取り戻すとはな…。だが!」ヴゥゥゥゥンッ!!「如何に力を取り戻そうとも、魔の王たる力を持ち覇王である我に二度も勝てると思うな!」

 

オーガスは片手を掲げた。そしてみるみる内に巨大な魔力の光弾が生まれる。

 

オーガス

「先に貴様とバージルに弾かれたものよりも強力だぞ!くたばれダンテェ!!」ズドォォォォォォンッ!!

 

それを前方にいる火影に撃つオーガス。

 

火影

「……」バッ!

 

すると火影はその弾に向けて剣を持っていない方の手を向けた。

 

オーガス

「受け止める気か?馬鹿め、幾ら貴様でも素手で……!!」

 

…ヴゥゥゥゥゥゥン!!

 

すると火影と光弾の間に不気味な球形の空間が表れた。それに触れた光弾は動きを止め、

 

火影

「…ドカン」グッ!!

 

 

ボガァァァァァァン!!

 

 

火影が手を握ると同時にそのまま内側から爆発した。

 

オーガス

「! 私の攻撃を破壊しただと!?」

 

 

デモリション

 

対象物を魔力で生み出した球形の小さい空間に閉じ込め、内部から炸裂・爆破する技。通常は敵本体に使う技だが攻撃をかき消すために使う事も火影が思いついた。

 

 

火影

「やっと慌てた顔しやがったな。面付けてたら分からねぇけど口調からどんな顔してんのかは分かるな」

オーガス

「ちっ…!ならば!」ドゥンッ!

 

ズドドドドドドドドド!!

 

オーガスは上空に上がると虹の光と共に生み出す光の雨を降らせてきた。

 

オーガス

「これを全て防ぐことは不可能だ!」

火影

「…ほう、どうかな?」カッ!!

 

突然火影の、正確にはSin・アリギエルの四枚の翼が激しく光始めた。そして、

 

 

ズドドドドドドドドド!!

 

 

そこから無数の光弾、ザ・ルーチェが放たれた。それは上から降り注ぐオーガスの光の雨に向かって行き、

 

ドガガガガガガガガガガン!!

 

そのひとつひとつの弾とぶつかり、相殺させた。

 

オーガス

「!!」

火影

「こんどはこっちだぜ!」

 

ズドズドズドズドズドズドン!!

 

火影は再び手を向けるとそこから先ほどのザ・ルーチェよりも大きい魔力の弾、ジ・オンブラを撃った。

 

オーガス

「舐めるなぁぁ!!」

 

カッ!!ドドドドドドドドン!!

 

オーガスは手に魔力を集中させるとほぼ同じ大きさの光弾を作り出し、それを自らに向かってくる光弾にぶつけ、これも相殺させた。激しい爆煙が起こる。

 

オーガス

「ふん、愚かな事よ」

火影

「てめぇがな」

オーガス

「!!」

 

オーガスが振り向くとそこには…既に自らに的を絞る火影がいた。

 

火影

「オラァァァァァァ!!」

 

 

ドゴォォォ!!ボガァァァァァァン!!

 

 

オーガス

「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

火影はオーガス目掛け、拳を振り下ろすとその衝撃と共に凄まじい爆発が起こった。

 

 

真インフェルノ

 

火影の技であるインフェルノが魔力を取り戻した事によって更に威力を増した技。地面に打ちつけてそこから灼熱の炎を発する技であるが、空を飛ぶ事が多いISの戦闘では地面を殴る機会がないと思った火影はこの方法を思いついた。

 

 

オーガス

「ぐっ…!!」

(何時の間に…!我が気配を感じ取れなかっただと…!)

火影

「ほらほらどうしたよ爺さん?」

オーガス

「貴様ぁぁぁぁ!!」ヴゥン!!シュン!!

 

しかしオーガスもダメージを受けながら自らの翼で意地の一閃を繰りだしてくる。だが火影は間一髪それをエアトリックで避ける。

 

シュンッ!

 

火影

「ひゅ~危ねぇ危ねぇ。やっぱ今の一発位じゃ簡単に倒れてくれねぇか」

オーガス

「調子に乗るな!今のは我が油断したからだ!」

火影

「へいへいだろうね。仮にも魔界の支配を企てた偉大なる覇王様がこんな程度で負ける訳ねぇもんな。そうなら期待外れもいいとこだぜ。……が」ジャキッ!

 

もう片手に持つ魔剣ダンテを握り直す。

 

火影

「俺も久々に魔力使うと疲れるからな。やっぱこういうのが俺には合ってる。そっちは遠慮なく使ってくれて結構だぜ?年寄なんだしよ」

オーガス

「…ふざけるな!貴様如きこの剣で十分だ!」ジャキッ!

 

そう言ってオーガスも魔剣エヴァを振りかざす。

 

火影

「やれやれ、やっぱてめぇも結構人間じゃねぇか。俺みたいなガキの挑発に乗るなんてよ」

オーガス

「黙れ!!」ドゥンッ!!

 

ガキィィンッ!!

 

オーガスの魔剣が火影の魔剣とぶつかった。

 

火影

「!…てっ、あんまり舐めちゃいけねぇな。それも一応親父の剣のコピーだからな」

オーガス

「貴様を斬るにはこれ以上のものはなかろう!」

火影

「ならばその前にてめぇをその剣ごとぶった切る!」

 

 

ガキィィンッ!!キィィンッ!ガキ!ガキキン!!

 

 

それから暫しの剣劇が続く。魔剣リベリオンとスパーダ、そしてSin・アリギエルの魔力が融合して生まれた魔剣ダンテの一閃一閃は火影の力と技術を加えて更に重くなっていた。一方のオーガスも自らの魔力を魔剣エヴァに込め、威力を上げて斬りかかってくる。その剣さばきも年齢には似合わない程正確無比である。スタミナも若い火影に負けておらず、まるで何かの支えがある様である。

 

オーガス

「無駄だ!」ガキィィンッ!!

火影

「…くっ!」

オーガス

「どんなに力を上げようとも貴様の剣術はこれまでの戦いで読めている!優位は覆らんぞ!」

 

オーガスはそう言い放つと更に勢いつけて剣を振り、火影を吹き飛ばす。…だがそれでも火影は落ち着いていた。ポンポンと身体の誇りを落とすような仕草をしながら、

 

火影

「ひゅ~、ホントにすげーな。それをなんでもっといい様に使えないのかね?」

オーガス

「そのふざけた口を二度と開けぬ様…次で真っ二つにしてくれるわ!!」ヴゥゥゥゥン!!

 

魔剣エヴァの刀身が再び不気味な光を帯び、倍以上もある光刃を生み出す。その強力な力を受ければ流石にただでは済まないだろう。それが一気に振り下ろされようとしたその時火影が、

 

火影

「けど目は悪くなってる様だな。気が付かねぇのか?さっきの俺と今の俺と」

オーガス

「何?………!」

 

オーガスはふと気が付いた。

 

オーガス

(何時の間にあの赤い魔力の剣が消えている…?)

 

戦い最初の頃に火影が展開した赤い幻影剣がいつの間にか消えてしまっていた。先ほどの剣劇でもそれによる攻撃は無かった。

 

オーガス

(奴の中に戻ったか?)

 

とその時、

 

 

ズガガガガガガ!!

 

 

オーガス

「ぐああ!…な、何!?」

 

突然後ろから何かに激しく斬りつけられた。オーガスはすぐさま後ろを確認するが、

 

火影

「遅ぇよ」

 

ズドドドドド!!

 

「ぐおおお!!」

 

今度は突然上空から何かが降りかかってきた様な衝撃。その瞬間オーガスは見た。

 

オーガス

「! これは奴の!」

 

それは火影が先ほど魔剣ダンテから生み出した赤い刃であった。それが背後から斬りつけ、次に上空から襲い掛かってきたのだった。攻撃を終えた刃が火影の周囲に戻ってくる。

 

 

幻影剣(ミラージュソード)フォーメーション

 

魔剣ダンテに込められた魔力から生まれる赤き幻影剣。海之のそれよりも展開できる数は少ないが火影もこれを動かしたり自らの攻撃に組み合わせたり様々な攻撃を行う。

 

 

オーガス

「バージルの技か!?あの時戦った時は奴にこんな技は…!」

火影

「どうした?もう後がねぇぞ?昔のてめぇならこんな対策とっくにしていただろうに」

 

シュババババババ!!

 

インターセプター。火影の周囲に漂っていたミラージュソードが一斉に突撃する。オーガスも対抗して反撃の弾を撃つ。

 

オーガス

「邪魔だ!!」ズドドドド!!

火影

「邪魔ならどいてやるぜ」

 

ブゥブゥブゥン!!ガキキキキキ!!

 

ラウンドトリップ。火影の操作で陣形を組んでいた幻影剣が軌道を変え、回転しながらあらゆる方向から襲い掛かる。それをオーガスは翼の一閃で弾き飛ばす。

 

オーガス

「何時までこの様な攻撃をしている!怖気づいたか!」

火影

「怖気づく?戦術的と言ってくれ」ジャキッ!!

 

そう言って火影は再び魔剣ダンテを構え、斬りかかる。すると分散していたミラージュソードが火影の下に戻り、

 

 

ズガガガガンッ!ガキキキキンッ!ズドドドドンッ!

 

 

追跡者(チェイサー)の如く火影の一閃一閃に追尾しながら更なる攻撃を加える。

 

オーガス

「これもあの時の我が知らぬ技か…!だがそれ程の技を用いてもこの魔剣を折る事は出来ぬわ!」

火影

「そうかい!だがてめぇは折れそうだな!」

オーガス

「笑止!!」ガキンッ!!

 

火影の剣を弾いたオーガスは、一瞬の隙から狙う。

 

オーガス

「今度こそ終わりだ!」

火影

「ああてめぇがな。やっぱ目も悪くなってやがるな」

オーガス

「何を言って……!!」

 

オーガスが気が付くと…火影と自分の周囲に…赤く輝く魔法陣が描かれていた。そして、

 

火影

消しとべ(Vanish)

 

 

ドガァァァァァァァァン!!!

 

 

ジャッジメント

 

魔力を取り戻した火影の新たな技。魔法陣を浮かび上がらせ、剣で周囲を攻撃した後に大爆発を起こし攻撃する。

 

 

オーガス

「がぁぁぁぁぁぁぁ!!」

火影

「まだだぜ!」ジャキッ!

 

 

ズガガガガガガガガガガ!!

 

 

怯んだオーガスに火影は魔剣ダンテと自らにミラージュソードを纏わせ、真スティンガーで突撃した。

 

火影

終わりだ!!(Game set!!)

 

 

ザシュゥゥ!!ドォォォォォォォォン!!!

 

 

オーガス

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

火影の強力な攻撃の連続にオーガスは吹き飛び、地面に激突した。

 

オーガス

「ぐ、ぐぐ…!」

 

…キュゥゥゥゥゥゥン…

 

ダメージが深いのか、それまで纏っていたアルダ・スパーダが解除されてしまった。それと同時に火影の「悪魔還り」も解除され、起動前の通常のSin・アリギエルに戻る。

 

火影

「…どうやら魔力が弱まったら自動で解除されるみてぇだな」

オーガス

「アルダ・スパーダが…我の力…が…。ダンテ貴様…それほど迄の力を…!」

火影

「もうご自慢の人形も動かねぇ位弱っちまったか」

(…しかしこの「門」ってやつ、今の戦いでも傷ひとつ付いてねぇ…。壊すのは少し骨が折れそうだな…)

「…ま、いい。てめぇの下らねぇ企みもこれまでだなオーガス」

 

火影は倒れているオーガスにそう言い放った。すると、

 

オーガス

「……ク、ククク。まだ…負けてなどおらぬわ!」バッ!!

 

 

ヴゥゥゥゥゥン!!ズドドドドドドド!!

 

 

上空から無数の光弾が火影に向かって降り注いできた。

 

火影

「!」

オーガス

「馬鹿め!油断しおったな!」

 

徐々に迫る光。

 

火影

「…やれやれ」

 

 

ジャキッ!ズドドドドドドドドドド!!

 

 

すると火影の手からも無数の光が飛んだ。

 

 

ドガガガガガガガガガガガガッ!!

 

 

オーガス

「!!」

 

光と光はぶつかり合い、火影に届く前に破壊された。火影の手には…金色の銃があった。

 

 

…………

 

前日、火影と本音の部屋にて。

 

 

火影の言葉で落ち着いた本音。すると、

 

本音

「……ねぇひかりん」

火影

「ん?」

本音

「…これ、貸してあげる。持って行って」

 

そう言って本音が取り出したのは火影が以前本音にお守りとして渡したハンドガン「アルバ」であった。

 

火影

「…何言ってんだよ。それはお前のもんだろ?俺にはもうあるぜ」

本音

「うん。だからどう使っても私の勝手。ひかりんに持って行ってほしいんだ」

火影

「…何故?」

 

本音は力強く答えた。

 

本音

「ひかりんに持っててもらえたら…私もひかりんと一緒に戦えるから」

火影

「本音…」

本音

「ひかりんや皆と同じ場所にいたいけど…私には無理。鈴やシャルルンや皆の様には戦えない…。でもこの子ならできる。私の代わりに…連れてって」

火影

「………わかった」

 

本音の力強い言葉に火影は黙って受け取った。

 

 

…………

 

火影

「…助かったぜ本音」

オーガス

「…ば、馬鹿な。魔界の覇王として悠久の時を生きてきた我が…あのスパーダの息子とはいえ半人半魔の…しかも、完全な人間になってしまった貴様如きに…何故二度も負ける!?」

 

オーガスは動揺していた。そんなオーガスに火影は言い返す。

 

火影

「わからねぇのか?」

オーガス

「何…!?」

火影

「てめぇは逃げたり隠れたりしていざって時しか動いてなかった。…だが俺やバージルは違う。自分より弱かろうが、命かける位の強者だろうが、どんな悪魔相手でも関係無く戦い、ぶっ倒してきた。その度に強くなっていったのさ。ガキの頃から爺さんになってまで。気が休まる時なんてねぇ位な」

 

ISを解除した火影はオーガスに近寄り、

 

火影

「つ~ま~り、あん時の俺に倒された時のまんま止まってるてめぇが、記憶を取り戻そうと、この世の全てを支配する力を持っていようと…」

 

…ザッ!

 

火影

「無駄なんだよ」

 

更にズイッと迫って言い放った。

 

オーガス

「馬…鹿な…」

 

その気迫にオーガスはやや圧されていた。力が弱まったせいもあるが火影の気迫はあの時戦った頃よりも強いものであった。歳だけならばあの時よりも若い筈なのにだ。

 

火影

「てめぇの下らねぇ問答はもう結構だ。といっても殺しやしねぇよ。この歳で人殺しなんてしたくねぇし。てめぇには自分が今までやって来た事を洗いざらい話してもらわなきゃならねぇからな。…だが、その前にこっちの質問に答えてもらうぜ。ひとつだけだが……絶対に今ここで答えてもらう」

 

すると火影はオーガスにある質問をした。自身の赤い目に凄まじい怒りを浮かべながら。

 

 

 

火影

「…答えろ。てめぇの言ってた…「あの方」って誰の事だ…?」




※明日続きを投稿します。短くなる予定ですが題を分けたいためです。
本文中の「Vanish」や「Game set」はオリジナルの決め台詞です。


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Mission214 発端にして宿命

海之・ルーヴァの戦いと同じく、魔力を取り戻した火影とオーガスの戦いも局面を迎えていた。魔剣ダンテ、そして自らの魔力による攻撃を存分に使い、火影はオーガスを怒涛の如く攻め立てる。オーガスも必死に対抗するが力叶わず、遂にアルダ・スパーダを起動できなくなる程に追い詰められてしまった。

「俺もあいつも戦う度に強くなっていった。あん頃のまんま止まってるてめぇが勝てる訳ねぇだろ」

火影の気迫迫る言葉に圧されつつあるオーガス。そして火影はある質問をぶつけた。


火影

「てめぇの言ってた「あの方」って誰の事だ?」

オーガス

「!!」

 

火影はそうオーガスに尋ねた。自身の赤い目に凄まじい怒りを浮かべて。その表情は以前、オータムにファントムやアンジェロの事を尋ねた時以上の気迫が感じられる。

 

火影

「おい!どうせどっかで見てんだろ!隠れてねぇでとっとと出てきたらどうだ!?」

 

オーガスではなく火焔天全体に響くような声を出す火影。

 

 

「…………」

 

 

……しかし彼の声が広い空間の壁に跳ね返ってくるだけで他の音は無い。

 

火影

「…出てこねぇか。…臆病風に吹かれたか?」

オーガス

「…何の事だ?」ドォンッ!!「!」

火影

「……」

 

その言葉を言った途端、コヨーテが火を噴いた。アルバは本音の銃。脅しには使いたくない。

 

火影

「まさかてめぇ…俺が人殺しなんてしねぇって言ったさっきの言葉、そのまんま信じてるわけじゃねぇよな?それはご愁傷様。人間てのは時々馬鹿をやりたくなるもんでな。殺しはしねぇとは言ったが傷つけねぇとは言ってねぇ。その気になりゃギリ死なねぇ程度で腕や足の一本位吹き飛ばしてもいいんだぞ?」

 

そして火影は言葉を続ける。

 

火影

「てめぇ前に学園に通信入れてきた時、確かこう言ったよな?」

 

 

(嘗てあの方の右腕とも呼ばれていたスパーダの息子)

(※Mission188参照)

 

 

火影

「それに加え、てめぇは前からちょくちょく「我」でなく「我ら」って言ってる。「ら」って事はてめぇの考えに賛同している奴が他にも、最低でもひとり以上いるって事だ。最初はあのスコールやオータムって奴らの事かとも思ったが…即消えた。あいつらがてめぇの正体なんて知ってる筈ねぇしな」

オーガス

「……」

火影

「てめぇの真の目的はこの世界とこの世界にもあるっていう魔界を繋げる事。そんなバカげた計画に協力する奴なんてのはよっぽど破滅を望んでたり悪魔共を崇拝しているイカレた野郎か…或いは……」

オーガス

「……そういう者共というかのうせ」ドォン!!「くっ!」

 

再びコヨーテが火を噴く。そのうちの一発がオーガスの腕をかすめる。

 

火影

「まだ人が話してる途中だぞ…。黙ってろ」

 

火影は更に言葉を続ける。

 

火影

「そして極めつけなのがさっきの「あの方」っていう言葉だ。ただのオーガスとしてのてめぇならばそういう奴もいねぇ事ねぇだろうが…アルゴの記憶を取り戻し、人間をゴミ同然に見てるてめぇがそんな言葉を使う人間なんてこの世にいるとは思えねぇんだよな…。「あの方の右腕」…「あの方の右腕のスパーダ」、ねぇ……。そういや気のせいかさっきてめぇが使った技の中でてめぇが使ってなかったやつがあった気がすんだがな…」

オーガス

「……」

 

それから数秒位の沈黙の後、

 

火影

「最強の悪魔…凶悪の魔神…最悪の暴魔…。ダンテだった頃俺は今まで色んな依頼を引き受けてきたが大半、いや殆どほら吹きかデマだった。それに毎回腹立てる程小さくはねぇ。嘘をつくのは良い。俺は悪魔をぶっ殺せればよかったんだからな」

 

火影の口調は静かである。

 

火影

「今回だって同じだ。どうしても隠してぇなら別にしらばっくれんのも構わねぇ。どうせてめぇをぶっ倒せば出てくるんだろうし、本当にいねぇのならいねぇでこれでハッピーエンドで構わねぇ。………だがひとつ忠告しといてやる」

 

すると、

 

 

火影

「もしホラ話するつもりなら……使う名前は選べよ?」

 

 

そう言う火影の目は…これまで以上の激しい怒りを含んでいた。これ程の怒りはダンテだった頃も含め、数える程しか覚えがない。母を殺された時…。バージルが実は生きていた時…。そして相棒だった者が一度は殺された時…。もし今ここに一夏や鈴達がいたらその目だけで言葉を失うかもしれなかった。

 

オーガス

「…!!」

 

そしてそれはオーガスも同じだった。自分が答えるまでは絶対にこの場から逃がすつもりはない。例え腕や足の一本無くそうが、それ位の気迫が目の前の存在から感じられた。純粋な悪魔アルゴサクスだった頃は決して無かったであろう感情。今オーガスの心は恐怖に支配されつつあった。

 

オーガス

「た…助けて…くれ…」

火影

「……?」

 

気付いているかいないのか、オーガスの口からは命乞いの言葉が聞こえた。……しかしそれは目の前の火影に言っている様には見えなかった。もっと別の場所にいる何か。

 

オーガス

「たす、助けて…くれ。…ム」

 

とその時、

 

 

ドクンッ!!

 

 

オーガス

「!!」

 

突然、オーガスは自分の脈が一瞬激しく打ったような気がした。

 

 

…………

 

???

 

 

そして気が付くと…オーガスは見知らぬ場所にいた。

 

オーガス

「な、なんだ…!どこだここは…!?」

 

周りは闇一色。目の前にいた火影もいない。

 

「……アルゴサクス」

 

オーガス

「!!」

 

すると突然何者かの声が聞こえた。どこからかはわからない。

 

「アルゴサクスよ…」

オーガス

「お、おお!わが主よ!」

 

それはオーガスが以前より話していた声と同じだった。

 

オーガス

「た、助けてくれ!奴は…ダンテの力は、私の想像を遥かに超えていた!」

「……」

オーガス

「私だけでは奴を倒すのは無理だ!だからもっと、もっと力をくれ!人界と魔界を繋げ、我らで支配するという我々の大願を成就するために!!」

「……」

 

相手は何も喋らない。

 

オーガス

「なんならアレを、アレを使ってくれても構わない!奴らさえ倒せれば「門」を開くエネルギー等どうにでもなる!だからた、頼む!!」

 

オーガスは必死で謎の声に頼み込む。そこには嘗て覇王アルゴサクスだった威厳は最早感じられなかった。

 

「……ふふふ、安心するがいい。貴様に言われなくても使ってやる。そして奴も倒してやる」

オーガス

「おお!で、では!」

 

安心するオーガス。そんな彼に声は言った。

 

「だから…安心して休むがいい」

 

 

ヴゥゥゥゥゥゥゥン!

 

 

オーガスの足元から闇が侵食していく。それは以前、一夏やラウラが経験したものと同じに思えた。

 

オーガス

「なっ!?」

「感謝しているぞ…アルゴサクス。貴様は本当に良く働いてくれた…。我が力を取り戻すために…」

オーガス

「!! ま、まさか最初から私を!」

 

オーガスは自分がその謎の存在に利用されていた事に気付いた。

 

「貴様もいずれはどうせ我を滅ぼそうと考えていたのだろう?お互い様というものだ」

オーガス

「!」

「この世界の人界と魔界を繋げた後、魔界の魔力と悪魔共を用いて貴様が我に戦いを仕掛けようとしていた事。そのために貴様は終始我に従っていたフリをしていた事。我が気付かぬとでも思っていたのか?愚か者めが…」

オーガス

「き、貴様!誰のおかげで今まで消えずにいたと!」

「だから言ったであろう?それは感謝していると…ふっふっふっふ」

 

そう言っている間にも闇はオーガスを侵食し、遂に頭部まで到達した。

 

オーガス

「や、やめ…」

「恐れる必要はない。奴らを倒した後に貴様も我が一部にしてやる。それまではゆっくり休んでいるがいい…。嘗て我と覇権を争った者よ…」

 

そしてとうとうオーガスもまた闇に飲み込まれた…。

 

 

「さぁ、始めようか……ダンテ。ふっふっふっふ…フハハハハハハハハハハ!!!」

 

 

…………

 

オーガス

「……」

火影

「おい、どうした…?」

 

火影はオーガスに声をかけるが何の反応も無い。それどころか目の焦点も合っていない。火影の声は届いていない様だ。

 

火影

「何か言ったらど」

 

 

カッ!!!

 

 

火影

「!!」

 

その時、オーガスの首にぶら下がっているアルダ・スパーダのアミュレットが激しく光始めた。

 

 

ドォォォォォォォォォォォォォン!!!

 

 

火影

「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

そして突然の凄まじい光の爆発。そして衝撃波。その勢いに直ぐ近くにいた火影も吹き飛ばされてしまう。

 

火影

「ぐっ!…なんだ!?」

 

火影は目を向けるが光の強さに全く確認できない。……そして暫しして光が弱まるとやんわりと見える様になってきた。

 

火影

「!!」

 

火影がオーガスがいた場所に目をやると…そこにふたつの物体があった。ひとつは、

 

オーガス

「……」

 

俯けに力無く倒れているオーガス。おそらく気絶しているのだろう。そしてもうひとつは、

 

 

アルダ・スパーダ?

「……」

 

 

倒れているオーガスの真上に…顔をやや伏せながら不気味に浮かんでいるアルダ・スパーダがいた。

 

火影

(奴はぶっ倒れてんのに動いている、だと…!?)

 

オーガスは間違いなく倒れている。なのにアルダ・スパーダはその場にいた。通常IS、DISもであるが操縦者がいなくても立つ事だけならばできなくはない。しかし今火影の前にいるそれは待機状態でもただ立っているわけでもない。浮かんでいるのだ。つまりオーガス以外の「何か」があの中にいるのだ。更に、

 

 

ドクン!!ドクン!!ドクン!!

 

 

アルダ・スパーダの周囲にどす黒いオーラの様な物が見て取れる。それに反応して魔剣ダンテのこれまで以上の激しい脈動と

 

 

「アクマガエリガシヨウデキマスドウシマスカ?」

 

 

「悪魔還り」が起動していた。つまり魔力である事が直ぐわかった。火影がこの世界で初めて対峙する強力な魔力とそれを放つオーガス以外の「何か」…。

 

火影

「……」

 

その存在を黙ったまま睨み続ける火影。火影はその魔力に覚えがあった。先日IS学園にオーガスが通信を入れてきた時、初めてモニター越しにアルダ・スパーダを見せた時の事。あの時感じた凄まじい魔力と今感じているそれはよく似ていた。

……しかし、火影はそれ以前にその力に覚えがあった。何故ならばそれは…自分がダンテだった頃に対峙していた事があったからだ。一度きりだけだったが…彼にとっては生まれ変わっても決して忘れる事が出来ないもの。……少しの沈黙の後、火影は口を開いた。

 

火影

「……まさか本当に、……いや、わかってた。考えたくもなかっただけだ…」

 

 

…ギュン!!!

 

 

その言葉に反応したのかアルダ・スパーダが顔を上げる。そこには…不気味に光り輝く赤き目があった。

 

「………久方ぶりだな。姿は変わっているが…わかるぞ」

 

それは先ほどオーガスに話しかけていた声と同じだった。

 

火影

「姿が違うのはお互い様じゃねぇか…。どこにいんのかと思ったら…まさかアルゴの中に隠れてやがったとはな…」

「……昔を思い出す。……会いたかったぞ。……ダンテ」

火影

「俺は全くだ…。まさか…この世界でアルゴの野郎どころかてめぇにも会う事になるとは思わなかったぜ。…往生際が悪いにも程があんだよ…」

 

そして火影は怒り含んだ目で、目の前の存在の名を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火影

「………………ムンドゥス!!」




※次回は13日(土)の予定です。
次回も少し会話中心の短め予定です。それが終わればファイナルへと移ります。


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Mission215 魂に刻まれた定め

「てめぇの言ってた「あの方」ってのは誰の事だ?」

火影は以前オーガスが言ってたその言葉。そして「我ら」という言葉の意味がずっと引っかかっていた。その言葉の真意を聞き出そうと火影は戦意を無くしつつあるオーガスに迫る。
……するとその時、目の前のオーガスに異変が起こった。力無き目。火影の言葉も入ってきていないのか表情にも変化が無い…。怪しむ火影だったがその時オーガスのアルダ・スパーダが突然覚醒。オーガス本人は倒れているのにも関わらず、それはまるで中に何かいる様に言葉を、更に凄まじい魔力を発していた。そして火影は…ある者の名を呼ぶのだった。


目の前に浮かぶアルダ・スパーダに、正確にはその中にいるであろう者に、火影は叫んだ。

 

火影

「この世界でアルゴどころかてめぇにも会うなんてな。…………ムンドゥス!!!」

 

 

「ムンドゥス」

 

ダンテとバージルの父スパーダが嘗て仕えていた大悪魔。全ての悪魔を支配する程の力を用い、人界に侵攻を企てたが正義の心に目覚めたスパーダによって封印されてしまった。…やがて長い時の果てに復活を果たし、ふたりの母エヴァを殺害。更に自身に敗北したバージルを操り人形とした。その後ダンテとも戦い、彼によって倒された筈だったが…。

 

 

ドゥンッ!!!

 

すると再び、目の前にいるアルダ・スパーダから衝撃波が発せられた。火影は何とか耐えるが足元に倒れていたオーガスは気絶したまま吹き飛ばされてしまった。

 

火影

(この力……マジのもんか!)

 

魔剣ダンテを通し、目の前にいるそれから感じる強大な魔力。それはこの世界で出会ったファントムやグリフォンの様な人形でも、DNSによる変身から感じる物でも、オーガスの様に人間を通して出た様な物でもない。嘗て自分がいた世界で数えきれない程出会い、そして自分にもあった純粋な魔力とそれを宿す純粋な悪魔。そう例えるべきものだった。…そして驚く火影を前にそれが口を開いた。

 

ムンドゥス

「……姿が変わっているが…わかるぞ。…久方ぶりだな、…ダンテ」

火影

「…お互い様だろうが」

ムンドゥス

「よもや別の世界で再び対面する時が来るとはな…。余に歯向かいし…裏切者の血筋に」

火影

「それもお互い様だ。…まさか舞い戻ってくるとはな。あと言っとくがもう俺もバージルも持ってねぇよ。スパーダの血はな」

ムンドゥス

「ふっふっふ…そうだな。貴様もバージルも半魔どころか穢れた人間にとうとう成り下がってしまったという訳だ。フハハハハハ!」

 

火影は怒りを抑えて冷静になろうとする。

 

火影

「……悪いがこっちにはのんびり話してられねぇ理由があるんでね。最低限の事だけ答えてもらうぜ。…何故てめぇがこの世界にいる?今度はどうやって生き返りやがった?」

 

すると火影の質問に対し、ムンドゥスは笑って答えた。

 

ムンドゥス

「…生き返った?余が?…フハハハハ、何を勘違いしている?」

火影

「…?」

ムンドゥス

「余は死んでなどおらぬ…。忘れたのかダンテ。あの時マレット島での最後の戦いの事を…」

火影

「何……!」

 

 

…………

 

それはダンテが自らとトリッシュの力を籠めたエボニー&アイボリーを魔帝に撃ち込んだ時の事。

 

トリッシュ

(決め台詞は?)

ダンテ

(…JACKPOT!!)ズドンッ!!ズドンッ!!

 

ドゴォォォォォォォォォォォォォ!!!

 

ふたつの光は魔帝に確かに直撃した。

 

ムンドゥス

(グォォォォォォォォォォォォォ…!!ダンテ…忘れるな!!必ず、必ず現世に蘇るぞぉぉぉぉぉぉぉ…!!!)

 

そして最後の断末魔を上げつつ、ムンドゥスは再び亜空間の穴に押し戻された…。

 

 

…………

 

火影

「そしててめぇは…」

ムンドゥス

「そうだ…。貴様とあの裏切者(トリッシュ)によって余は抗う術もないまま次元の狭間に放り込まれた…。だが、それでも生き続けた。貴様らによって力も身体もほぼ全てを失ったが…命失う事は無かったのだ…!」

火影

「…ちっ…」

 

それは火影も何となく予感はあった。嘗て父スパーダがムンドゥスを滅ぼせずに封印する事しかできなかった様に、自分も倒せなかったのではないかと。しかし自分が生きている間復活する事はなかった。故に僅かに安心もしていたのだが…。

 

ムンドゥス

「…だが死ななかったとはいえ、現世への復活には多くの時が必要だった。次元の狭間の亜空間は嘗て我らがいた世界とは時の流れが異なる。どれ程経っているかもわからぬ虚無の世界の中で、余は僅かに漂っている魔の力を餓鬼の様に取り込みながら復活の時を待つしか無かった…」

火影

「…八ッ!魔帝様には似つかわしくない姿だな」

ムンドゥス

「…だが、どれ程の時が経っても力を大きく取り戻す事は出来なかった。そこで余は考えた。この僅かにため込んだ力を使い、例え大きいもので無くとも次元に穴を開け、現実の世界に帰還する事をな」

火影

「…何!」

ムンドゥス

「人界と魔界を繋げるのと同じだ。穴を開けるためには多くの力を使う必要があったがやむを得なかった…。そして余の思惑通り、現実世界に帰還した。……と思っていた」

火影

「…あ?」

ムンドゥス

「思いもしなかった事が起こった。…違っていたのだ。次元の狭間の亜空間から脱出し、嘗ての世界に戻れたと思っていたが…余が開けた穴は別の世界に繋がってしまったのだ。今より19年前のこの世界にな」

火影

「! 何だと…!」

 

これには火影も一瞬言葉を失う。ムンドゥスが脱出するために開けた穴は嘗て自分達がいた世界では無く、19年前の、本来全く関係ない筈のこの世界に繋がってしまったと事実に…。

 

ムンドゥス

「更に悪い事に…その世界は嘗て我々がいた世界はおろか、次元の狭間よりも魔力が乏しい世界だった。魔界への繋がりもな。如何に余とはいえ、実体も力も失ったままでその様な世界ではいずれそう遠くない未来に消滅するしかない…。正直に言って…絶望した。嘗て無い程に絶望した。……奴に会うまでは」

火影

「……まさか!」

ムンドゥス

「そう、アルゴサクスだ。嘗て余と魔界の覇権を争い、同じ様にスパーダによって封印されたもうひとつの大悪魔…。その生まれ変わりともいえる人間がこの世に存在していたのだ。どうやら貴様に倒されたらしいな、ダンテ。…それで確信した。この世界は嘗て我々がいた世界とは別の次元の世界だと」

火影

「……だが奴は記憶を失っていた筈だ。どうやってオーガスの野郎がアルゴの生まれ変わりだとわかった?」

ムンドゥス

「確かに。…だが神とやらの悪戯か、はたまた奴の記憶でなく潜在意識に残っていた魔の部分が引き寄せたのか、余がこの世界に現れた地が奴のすぐ近くであったのだ。そして余と接触した事で奴は記憶を取り戻した。嘗ての自身の事、貴様に殺された事、そして忌み嫌っていた人間として生まれ直した事。あの時の奴の口惜しい顔は見てて飽きなかったぞ。ふっふっふ。……そして余と奴はある契約を交わした。余の力の断片を奴に貸し与える代わりに、余の魂の器になるという契約をな。余程人間として生まれ直したのが屈辱だったのであろう、奴はそれをすんなりと受け入れた。人間の身体に入る等口惜しい以外のなにものでもなかったが自らの存在を保つためには仕方が無かった」

火影

「それが19年前に奴が別人の様に変わったっていう理由か。言うなれば奴もてめぇに運命を狂わされたって訳だな。それがなきゃ普通な人生を送ってたってのによ」

 

火影は倒れているオーガスを見ながらそう言った。

 

ムンドゥス

「そして余はある事をアルゴサクスに命じた。この世界で魔界から流れてくる魔力を最も強く感じられる場所の捜索を。どんなに力を失っても感じ取るだけならば可能だったからな」

火影

「んで探し当てたのがこの名も無き島って訳か。島全体が不毛な地なのはその影響だろうな」

ムンドゥス

「余はこの地で力を取り戻そうと思ったが……この世界は魔が乏しい。この下にある針の先程の隙間を広げる力を取り戻すだけでも早くて百年。幾らアルゴサクスとはいえ今は普通の人間、余が力を取り戻すまでには命尽きるだろう。……だから余は更に奴に命じた。手早く力を取り戻すために、この地に人間を集めよ、とな」

火影

「…人間をだと?何のためにだ?」

ムンドゥス

「ふっふっふ…気付かぬか?」

 

するとムンドゥスは笑いながら言った。

 

 

ムンドゥス

「それは…昼も夜も成長を続け…やがて輝く林檎の実をつけた」

 

 

火影

「!!」

 

火影の目が一際開かれる。更にムンドゥスは続ける。

 

 

ムンドゥス

「人間の血は悪魔の力の源…。邪悪の樹(クリフォト)の吸った血は…やがて禁断の果実をつけ、それを喰らった者は…莫大な力を得る」

 

 

そこまで聞いて火影は理解した。

 

火影

「そうか…。アインへリアル計画の目的は…最強の兵士なんぞじゃなく…てめぇの!」

ムンドゥス

「その通りだ…。禁断の果実を生み出すための人間の血、それを集める事が真なる目的だった。そのためにアルゴサクスが打ちたてたのがアインヘリアル計画。憎しみや苦しみに染まった血は更に甘美な物だからな…。ふっふっふっふ…愚かな人間共はその様な事、全く思いもしなかったろう」

火影

「ちっ…。だが禁断の果実とは木の実。「樹」が無ければ実は……!!」

 

火影は更に理解した。この…塔の真の意味を。

 

ムンドゥス

「随分と利口になったではないか。……そうだ。貴様らがラ・ディヴィナ・コメディアと呼んでいるこの塔こそが、クリフォトの樹の代わり…。この中で死んでいった人間の血は全てこの火焔天に集まる様に創られている。幾らアルゴサクスでもこのような塔をほんの数年で生み出せる訳がなかろう。全ては余の助力によるものだったのだ」

火影

「……成程な。あの計画の犠牲者は言わば…てめぇの復活のための生贄に過ぎなかったって訳か…」

 

ムンドゥスの言葉を信じるならば火影の言う通りアインヘリアル計画で死んでいった者達は言わばムンドゥス復活のために集められた生贄に過ぎなかったという事になる。一万人以上もの犠牲全て…。世界の闇の権力者達が揃って協力した「最強の兵士を創り出す」というアインヘリアル計画。それは実は全て今ここにいる魔帝、ムンドゥスの力を取り戻すために仕組まれた事だった等、確かに誰が信じられるか、いや誰も信じられぬに違いない。

 

火影

「…だが5年間一万以上もの人間を使えば流石に木の実はできたんだろ?…何故魔界に帰還しなかったんだ?アルゴにくっついたままで、こんな門まで造っといて」

 

火影の言葉は最もだった。アインヘリアル計画は5年にも渡って続いていた。それ程の期間があれば魔界への扉を広げる事も造作もない筈だった。

 

ムンドゥス

「…確かに木の実は実った。喰らえば力を取り戻すことはできただろう。……だが、ひとつ気になる事があった」

火影

「…気になる事?」

ムンドゥス

「…今より11年前だ。僅か、それも一瞬だけではあったが確かに感じたのだ。この世界の…我以外の魔の力をふたつ、な」

火影

「…!!」

(まさか…アリギエルとウェルギエルが初めて起動した時か…?)

ムンドゥス

「だがその力は先も言った通り直ぐに消えてしまった…。それを感じた時思ったのだ。もしかすると余、以外の魔力を持った者がいるのかもしれぬ、と。そしてその存在を知る迄はこの世界に留まっておくべき、とな」

火影

「…ご丁寧だな」

ムンドゥス

「…そして一年前、アルゴサクスが生んだ人形共を蹴散らした貴様らを見て確信した。あの時感じたそれがよりにもよって貴様ら、ダンテとバージルであった事をな。正直に言って驚いた。そして同時に喜びを持った。宿命とは本当に恐ろしいものであり、面白いものだとな。フハハハハハ!」

火影

「…ああ。本当に腐った腐れ縁だな。俺らの魂にはそういうのが刻まれてんのかね…」

 

火影も自嘲した。

 

火影

「…仮に俺らだと分かって、どうして直ぐに殺しにこなかった?あの黒い奴らに任せる様な真似しやがって。命が惜しくなったのか?」

 

火影の質問に対し、ムンドゥスは笑った。

 

ムンドゥス

「ふっふっふ…何を勘違いしている?もしそうならば貴様らを海の底で生かして等いてやるものか」

火影

「…何?」

ムンドゥス

「人形共に倒された貴様らがあの海の底で生きていた事位、余が知らずにいたとでも思っていたのか?はっきりと感じていたぞ、貴様らの妙な結界が発する魔力を。しかし余はそれをアルゴサクスには知らせずにいてやったのだ。感謝するがいい」

火影

「知ってて見逃してたってのか。…何のためにだ?」

 

…バッ!!

 

するとムンドゥスは自身の、アルダ・スパーダの翼を広げてこう言った。

 

ムンドゥス

「…決まっておろう。スパーダの意志を継ぐ貴様らを…余がこの手で確実に抹殺するためだ。特に貴様だダンテ。アルゴサクス等にくれてやるものか。…そして貴様らはこの地に来た。こうして余の前にな。ダンテ、そしてバージルの命を確実に消し去った後に、余は魔界の扉を開く。そして新たな魔界を創り上げる!」

火影

「新たな魔界だと…!?」

ムンドゥス

「ふっふっふ。アルゴサクスはこの世界の人界と魔界を繋げ、争い耐えぬ世界に創り上げようとしていた様だが…余が成そうとしている事は根本的に違う。余にとって人間も、そして古い悪魔も必要無い」

 

それを聞いて火影は理解した。ムンドゥスの目的を。

 

火影

「!……人間と、そしてこっちの魔界の悪魔共を皆殺しにするって事か…!」

ムンドゥス

「そうだ。余が治める新たな魔界にそんなものはひとりたりとも必要ない。余と、そして余が生み出す新たな悪魔達さえ存在すれば良いのだ」

 

ドゥンッ!!

 

火影

「くっ!」

ムンドゥス

「そのために……先ずはダンテ!貴様を殺す!無論バージルもな!」

 

ムンドゥスから凄まじい殺気と魔力の波が発せられる。しかし火影も負けずに言い返す。

 

火影

「…けっ!つーかてめぇ忘れてんじゃねぇのか?てめぇは不味そうな木の実を喰ったところで元の力を取り戻すしかできねぇんだろ!俺に、そしてあいつにも勝てると思ってんのか!」

 

確かにアインヘリアル計画で生み出した禁断の果実は嘗ての力を取り戻すだけで精一杯と先程ムンドゥスは言っていた。魔帝とは言えその力では現在の火影に、そして同じく海之にも及ばない筈である。

 

ムンドゥス

「…確かに今のままの余では貴様に勝てるとは思えん。口惜しいがそれが分からぬ程愚かではない」

 

そしてそれはムンドゥスも分かっている様だった。しかし何故かその口は悔しそうではない…。

 

ムンドゥス

「だからそのために…余はある「ふたつのもの」を造らせた。アルゴサクスとあの人間、篠ノ之束にな」

火影

「…何!?」

 

束の名前が出た事に火影は驚くが操られた事によるものだとは分かっている。しかし何を造らせたというのか…?

 

ムンドゥス

「ひとつは…この「アルダ・スパーダのコア」。このコアは特別なものでね。余の魂と魔力を収める器の役割を果たしている。これによりオーガスが離れても余の思いのままに動かせる」

火影

(…てことはコアを潰せば…!)

「…成程な。あん時の黒い奴のコアはその試作品みたいなもんか…。んで、もうひとつは?」

ムンドゥス

「知りたいか…?では…見せてやろう」

 

 

ギュオォォォォォォォォォォォォォ……!!

 

 

その時アルダ・スパーダの、ムンドゥスの下に凄まじい光の奔流が流れ込んできた。それはあらゆる方向からムンドゥスの手に集まってくる。

 

火影

「! あの光は…!」

ムンドゥス

「これは貴様らがSE(シールドエネルギー)と呼んでいるものの光だ」

火影

「何!?」

ムンドゥス

「この世界に流れ着いてきて…余は自らの置かれた境遇に一度は絶望した…。しかし得たものもあった。この世界だけの特有のものにな…」

火影

「この世界特有……まさか!」

ムンドゥス

「そう…。あの人間、篠ノ之束が生み出し、貴様らが使っている…IS(インフィニット・ストラトス)だ。初めてこれを知った時、余には何の意味も無い物と思っていた…。だがそうでは無かった。気付いたのだ。これは使えるかもしれぬ、とな」

火影

「どういう意味だ…?」

 

ムンドゥスは答えた。

 

ムンドゥス

「ふっふっふ…こう言えばわかるか?ISにとってコアは命の源…言わば人間の心の臓…。ではISにとってSEは何か…?」

火影

「…!!」

ムンドゥス

「そうだ。SE(シールドエネルギー)IS(インフィニット・ストラトス)を動かし、身体を流れる「血」。もうひとつのものとは…この世界のSEを集める「SE集中装置」たるもの…。今余の手にあるのは…この世界中のSEを集めた光…。アルゴサクスはこの「門」を自在に開閉するために造った様だが…貴様らが生きていると知って慌てて方針を変えた。それが余の思惑道りだったとも知らずにな。フハハハハ!」

 

先の一夏達のIS、そしてIS学園含む世界中のSEの枯渇。それはこのために起こった事だった。やがて光の奔流が消えるとムンドゥスの手に眩い光を放つ白い球体が出来る。

 

火影

「てめぇ…SEを集めて何を!」

ムンドゥス

「…こうするのだよ」

 

 

ギュゥゥゥゥゥゥゥン…!!

 

 

するとSEの光に変化があった。眩い白い光から…どす黒い光に変わったのだ。それを見て火影は理解した。

 

火影

「…それはまさか!」

ムンドゥス

「…気付いたか?そうだ、これは余の力によって変貌したSE。SEによって生み出された…禁断の果実だ」

火影

「!!」

ムンドゥス

「余の力にかかればこれ位造作もない事…。血の量だけならば人間の方がISよりも遥かに勝る。だがそれに込められた力は人間のそれの比では無い。この世界最強の兵器であるそれの血より生み出されたそれは…過去に喰らったものとは比にならぬぞ」

火影

「くそ!」ドゥンッ!!「くっ!!」

 

それを喰らおうとするムンドゥスを火影は止めようとするが魔力の波動に阻まれる。

 

ムンドゥス

「黙って見ているがいい。これで余は…嘗ての力を超えた更なる力を…手に入れる!!」

火影

「!!」

 

そしてムンドゥスはその光を自らの胸に埋め込んだ。光は吸収される様に消えていった。…すると、

 

 

…ピキッ!ビキキキキキキキキキ……!!

 

 

ムンドゥスが宿るアルダ・スパーダにヒビが入った。それは音を立てながら全身に広がっていく…。

 

火影

「ちっ!!」

ムンドゥス

「祝え!新たな魔界を治める…真なる魔帝の誕生をなぁぁぁぁ!!」

 

 

カッ!!ドォォォォォォォォォォォォォォン!!

 

 

火影

「ぐあっ!!」

 

アルダ・スパーダの全身のヒビが砕け、そこから凄まじい光が溢れ爆発した。その光量に火影は思わず目を閉じる。

 

火影

「くっ…何が起こって……!」

 

火影は驚いた。周囲が今までいた「火焔天」の巨大な空間から…満点の星が漂う、宇宙に変わっていた。

 

火影

「こいつはあの時と同じ……!!」

 

火影はある方向に目をやるとそこには…、

 

 

白く光り輝くスパーダ

「……」

 

 

それまでの血の如く赤く染まっていたアルダ・スパーダが消え、一点の曇りも無い白く光り輝く存在がそこにいた。それはよく見るとスパーダの輪郭に見え、顔には鼻も口も無かったが唯一みっつの赤く光る目がある。……だが、

 

 

…ドクンッ!!!

 

 

そこから感じる魔力は紛れもなく本物だった。これまでのどれよりも遥かに強い。あのユリゼンよりも。

 

ムンドゥス

「……形はそのままか。……まぁいい」

 

そこから発せられた声はムンドゥスのものだった。

 

火影

「てめぇ…その姿は…!」

ムンドゥス

「どうやらこの姿で貴様と決着をつけねばならん様だ。……思い出したぞ。この世界には白騎士という救世主と呼ばれるものがいたな。…スパーダの姿、そして白騎士。いわばふたつの世界の救世主を模したもの、という事だな。なんとも皮肉なものだ。世界を救ったふたつの存在が、今度は世界を破滅に導く姿になろうとは。フハハハハ!」

 

ムンドゥスは高々と笑った。そんなムンドゥスを前に火影は

 

火影

「……いつまでも調子に乗るな」カッ!!

 

怒りを隠すことも無く、そう言いながらSin・アリギエルを展開する。

 

ムンドゥス

「…ふっふっふ、そうだ。それでこそダンテ。その危険な光を宿す目、紛れもなくあの時の貴様だ!」

火影

「…教えてやるぜ。てめぇがどんなに変わろうが、結末は同じだって事をな!」

 

 

ドンッ!!ドンッ!!

 

 

火影とムンドゥスは互いに翼を広げ、飛び、対峙し、宣言した。

 

 

ムンドゥス

「…我は魔帝、魔帝ムンドゥス…。嘗て愚かなる裏切者スパーダの息子であり、その魂を継ぐ者よ。罪に汚れたその肉体、その命、貴様の死をもって浄化するがいい!」

 

火影

「貴様の存在はこの世界だけじゃねぇ、どんな世界にも許されねぇ。嘗ての父スパーダ、そして嘗ての俺ダンテの名のもとに、その魂に刻まれた定めに懸け、今度こそ貴様に死を!」




※次回は再来週の27日(土)になります。

次回からラストバトルです。頑張って書きますので宜しくお願いします。
加えて申し訳ありません。仕事が忙しくまた再来週です…。


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Mission216 ラストバトル①魔帝ムンドゥス

火影の前に現れたのは嘗てダンテだった頃に彼によって敗れ去った魔帝ムンドゥスだった。ムンドゥスはダンテに次元の狭間に封印された後、自らの力で脱出する筈だったが嘗ての世界では無くこのISの世界に脱出してしまっていたのだった。だがアルゴサクスの生まれ変わりであるオーガスを巧みに操り、自らの復活のための禁断の果実を生み出す血を集めるためにアインヘリアル計画を企て、更に世界中のSEを集めて作った更なる禁断の果実をも取り込んでしまった。
嘗ての自身はおろか、ユリゼンをも超える力を手に入れたムンドゥスはまず火影と海之を亡き者にした後に人間を絶滅させると断言。それを聞いた火影は自らのスパーダの魂に刻まれし定めに従い、ムンドゥスに挑む。今度こそケリをつけるために…。


宇宙に姿を変えた「火焔天」。そこで白く光り輝く悪魔と赤く輝く黒き魔人が対峙する。

 

 

ムンドゥス

「余は偉大なる魔の絶対たる支配者…魔帝ムンドゥス…。裏切者スパーダの魂を継ぐ者よ。その罪を死をもって浄化するがいい!」

火影

「父スパーダそして嘗ての俺ダンテの名のもとに、今度こそ貴様に死を!」ジャキッ!ギュオォォォォォォォ!!

 

カリーナⅢにエネルギーをチャージする火影。

 

火影

「メインイベントを始めるか!正真正銘、てめぇとの最後のケンカをな!!」

 

ズドォォォォォ!!……ドガァァァァァン!!!

 

カリーナから放たれた一撃はそのままムンドゥスに直撃した。……しかし、

 

ムンドゥス

「……」

 

爆煙の中、光り輝くフィールドを張ったムンドゥスがそこにいた。どうやら無傷の様だ。

 

火影

「……」ドォンッ!

 

火影は黙ったままのムンドゥスに向かって行く。

 

ガキン!ガキキキン!キィン!

 

そのまま魔剣ダンテで続けざまに斬りかかるがそれも全てムンドゥスを覆う様に展開する結界で弾かれる。

 

火影

「硬さだけは上がってやがるな」

 

ヴゥゥゥゥンッ!ズドドドドドドドド!!

 

するとムンドゥスが周囲に光弾を集め、そこから無数の小さい光が火影に向かう。

 

ゴォォォォォォ!ズガガガガガガ!!

 

火影はやや距離を取り、アグニ&ルドラを回転させて生み出す炎の竜巻によってそれを蒸発させる。

 

ズドドドドドドドド!

 

防いだ後にアルバを連射すれば、

 

シュバババババ!ズガガガガガ!!

 

ムンドゥスが手から赤いカッター状の光を出して銃弾を粉々に斬り刻む。

 

ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!

 

反撃として巨大な岩石の嵐を降らせれば、

 

ゴォォォォォォッ!ドガガガガガ!!

 

火影はバルログを出し、ファイアストームによる火炎蹴りでそれを次々と破壊していく。

 

ギュオォォッ!!ズドォォォォン!!

 

そのまま火影は特大のメテオを撃つ。

 

バシュゥゥゥゥゥゥ!!

 

だがそれは先ほどのカリーナと同じくやはりかき消された。互いに決定打が無いそんな一進一退の攻防が暫し続いた所で、

 

火影

「…どうも盛り上がらねぇなぁ。御大層な変身しておいて確かにパワーは上がっちゃいるが前の技ばっかかよ。せめて少しは動いたらどうだ?まさかビビッてんのか?」

 

火影は戦い始めてから撃ってばかりで動こうとしないムンドゥスに挑発気味に話しかける。そんな火影に対しムンドゥスは、

 

ムンドゥス

「……何故今の貴様にその必要が?貴様こそ遊んでいるのだろう」

火影

「…まぁな。ウォーミングアップってやつだ」

(…つってもこれだけの攻撃浴びせて無傷ってのはな)

 

火影は内心、動かないまま自分の攻撃を全て対処してその上無傷である事に少し驚きもしていた。

 

ムンドゥス

「悪魔ならばいざ知らず、人間としての貴様等なんら脅威では無い。それ程の事を言うのであれば出し惜しみ等せず向かってくるのだな」

火影

「それはいいんだがあれって結構痛ぇんだよな~。あんま無暗に使いたくねぇのが本音なんでね」

ムンドゥス

「…そうか」ギュオォォォォォォォ!!

 

そう言うとムンドゥスは手に巨大な光が生み出す。するとそこから、

 

 

魔龍

「……ゴアァァァァァァァァ!!」

 

 

巨大な黒き龍が咆哮を上げながら出現した。これも以前使っていた技である。

 

ムンドゥス

「ではただ死ね」

魔龍

「グオォォォォォォォ!!」ドォン!!

 

そう言うと黒き龍は真っすぐ火影に向かってくる。

 

火影

「それも昔とうに見たぜ!」ゴォォォォォ!!

 

火影はバルログを構える。しかし、

 

魔龍

「ゴアアアアアア!!」ドォォォンッ!!

火影

「! ちっ!」シュンッ!

 

寸前に迫った龍の口から巨大な火炎弾が撃たれた。突然の攻撃にやむなくエアトリックで避ける。

 

火影

「ひゅ~」

ムンドゥス

「遅い」

火影

「!!」

 

エアトリックで逃げた火影の後ろに…攻撃態勢に入っていたムンドゥスがいた。

 

ムンドゥス

「望み通り動いてやったぞ」

 

ドゴォォォォォッ!!

 

拳の突きを背中からもろに受けてしまい、吹き飛ぶ火影。

 

火影

「ぐああ!!…ぐっ!」

ムンドゥス

「どうした?」ヴゥン!!

火影

「!!」

 

再び瞬間移動で火影の後ろにいたムンドゥスはそのまま拳を振り下ろしてくる。

 

火影

「なぁめんなぁぁぁ!!」ヴゥン!!

 

 

ドゴォォォォォォ!!…ガガガガガ!!

 

 

火影も振り向きざまにバルログ纏う拳をぶつける。互いの拳が激しくぶつかる。…しかし、

 

ドォォォォォォォンッ!!

 

火影

「ぐわああ!」

 

火影はムンドゥスのパワーに押し負けてしまった。

 

ヴゥンッ!

 

魔龍

「ガアアアアアア!!」ドォォォォォン!!

火影

「ぐあ!!」

 

吹き飛ばされた火影に先ほどの魔龍が転移の穴から出現し、体当りを仕掛けてきた。その一撃で更に吹き飛ぶ火影。魔龍はムンドゥスの下に戻る。

 

火影

「くっ…てめぇもできやがんのか」

ムンドゥス

「貴様にできる事が余に出来ぬ訳がないだろう。この世の全てのSEを手にした今の余は最早人界を既に手にしたと言っても過言ではないのだ」

火影

「へっ、その割には単なる人間の俺を潰すのに時間かかってる様じゃねぇか」

ムンドゥス

「そう簡単に終わらせてはつまらんからな」

 

するとムンドゥスは続けてある事を言い出す。

 

ムンドゥス

「……ふむ。再会の祝い代わりにもうひとつ良いことを聞かせてやろう」

ダンテ

「言っとくが祝いのキスなら勘弁してほしいんだが?」

ムンドゥス

「フハハハハ、果たしてどこまで強がっていられるかな?…ダンテ、貴様とバージルにはこの世界での、死んだ父と母がいただろう」

火影

「……何!?」

 

火影は驚く。父と母の事を何故ムンドゥスが、そして「いた」という言葉から察するに何故過去の人間だと知っているのか?

 

ムンドゥス

「ふっふっふ、貴様らはその死があの人間の女(スコール)の自爆によるものと思っているかもしれんが…真実はそうではない。あれはアルゴサクスの手によるものだ」

火影

「!!」

ムンドゥス

「あの時、奴も同じ場所にいたのだ。あの人間も知らぬがな。そして余が貸し与えた力によって動力炉を破壊した。爆発寸前に自らは転移で脱出してな」

火影

「……何…だと」

 

衝撃の真実に言葉を失う火影。あの事件の被害者、自分達の両親、そして一夏の父、それらの命を奪ったのはスコールではなく、ムンドゥスとオーガスであったのだ。

 

火影

「……」

 

ショックを受けているのか俯き気味になる火影。

 

ムンドゥス

「…戦意喪失か?ならばこのまま食われるがいい」

魔龍

「ゴアアアアアア!!」ドォン!!

 

魔龍は何も言わぬ火影に向かって行く…。すると、

 

 

…ドクンッ!!

 

 

ムンドゥス

「……!」

 

突如感じる巨大な魔力。そして、

 

 

「アクマニカエレ」

 

 

シュバァァァァァァァァァァ!!

 

 

魔龍

「!!」

 

突然火影から発せられた光。魔龍は一瞬怯む。

 

…ザシュ!!

 

魔龍

「!! グオォォォォォ…」

 

そして気が付いた時、魔龍の身体は真っ二つにされていた。痛みの唸り声を上げながら消えていく…。

 

火影

「……」

 

そこには「悪魔還り」によって自身の力を取り戻した火影がいた。魔力を放出し、バイザーが壊れて禍々しい悪魔の顔が浮かぶ。

 

ムンドゥス

「……」ヴゥヴゥヴゥヴゥン!!

 

ムンドゥスの光の弾から生み出された針が火影に向かう。

 

 

カッ!!ギュンッ!!

 

 

しかしそれは火影の目が光るとまるで捻じ曲げられたかのように別の方向に飛んでいってしまった。続けての攻撃も同じく。そして攻撃が止むと火影はその目でムンドゥスを睨みつける。

 

火影

「……いつまでも調子に乗るなって言った筈だ」

ムンドゥス

「……ふっふっふ。何もかも昔のままだ。だが最早恐怖は感じんぞ。あの時のスパーダの様にな」

火影

「…何?」

ムンドゥス

「知らぬのか?奴は余の復活を察し、再度封印を試みようとした様だが…自らの力を貴様らに託していたためにそれは叶わなかった。だから逆に亜空間に放り込んでやったのだ」

火影

「!」

ムンドゥス

「次元の中で消滅したか、運が良くてもどこか別の空間に投げ出されているか、最も自分が何者かも忘れているだろうがな。フハハハハハ」

火影

「……」

 

嘗てダンテやバージルがまだ幼かった頃に父スパーダは姿を消した。自分とバージルに魔剣を、母にはアミュレットを託して。あの時は何故姿を消したのか分からなかったが…父は自分達のために再び戦おうとしていた。力を失ってでも。

 

火影

「つまりてめぇは二度も俺らから…両親共奪ったって訳だな」

ムンドゥス

「恨むのならばその様な運命をもたらしたスパーダに」

 

キィィィィィィン!!!

 

言い切る前に火影がムンドゥスに斬りかかった。しかし結界に弾かれる。

 

ムンドゥス

「…流石だ。一瞬見失ったわ」

火影

「……俺は今まで星の数ほどのムカつく野郎や悪党に会った。だがその名前は殆ど覚えちゃいねぇ。どうせ二度と会わねぇし、悪魔なら会った瞬間にぶっ殺すから猶更な。…だがてめぇの名だけは忘れたくても忘れられなかった…」

ムンドゥス

「それは光栄だ」

 

ガキキキキキキキキキ!!

 

ミラージュソードも出し、続けざまに斬りかかる火影。

 

火影

「てめぇだけは容赦しねぇ…!俺の命懸けてもぶっ倒す!」

ムンドゥス

「その激しい怒り、嫌いではないぞ」

火影

黙れ(Silent)!!」ガキィィィィンッ!!

ムンドゥス

「貴様の取り戻した力とやら、この目でしかと見せてもらおう」

火影

「上等だ!」

 

ドガァァァァァァァァンッ!!

 

ジャッジメントの爆発を巻き込ませるがそれでもシールドは破れない。

 

ズドドドドドドドドン!!

ガキキキキキキキキン!!

ズガガガガガガガガン!!

ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!

 

ムンドゥスの赤い光の矢に火影のザ・ルーチェが、光弾にはジ・オンブラがそれぞれ一弾も余らず対応する。

 

ムンドゥス

「この攻撃も全て消し去るとはな…」

火影

「まどろっこしい事ばっかやってねぇでてめぇも何か見せたらどうなんだ!」

ムンドゥス

「ふっふっふ…」

 

だがムンドゥスは笑っているだけ。

 

火影

「…そうか。なら」ジャキッ!ヴゥヴゥヴゥンッ!!

 

火影はミラージュソードを自らの周囲に展開し、纏う。

 

火影

「もう何も言わねぇ。さっさと終わらせてやる」ドォンッ!!!

 

そして魔剣ダンテを前に出し、飛んでくるムンドゥスの攻撃も蹴散らしながら、超スピードの真スティンガーでムンドゥス目掛けて突撃した。ムンドゥスは動かない。

 

火影

終わりだ(ビンゴ)!!」

 

決め台詞を言いながら真っすぐに突進する火影。……すると、

 

 

ズガンッ!!

 

 

火影

「ぐあ!!」

 

火影の身体に異変が起こった。突然自分の肩に貫かれた様な痛み。火影は思わず後退する。

 

火影

「…何だ」ドンッ!「ぐっ!!」

 

今度は足元が同じく貫かれた様な痛みがあった。向こうの攻撃かと不審がる火影だったが…ムンドゥスは動いていなかった。

 

火影

「奴は動いてない…?一体」ドンッ!「!!」

 

再び身体に走る痛み。やはりムンドゥスは動いていない。しかし何かが火影に襲い掛かっているのは間違いなかった。

 

火影

(ラグタイムみてえなもんか?いやそんな気配は…)

 

ズドドドドドドドドドド!!

 

その時ムンドゥスから更なる光弾が迫る。火影もザ・ルーチェを撃つが、

 

 

ギュギュギュギュン!!

 

 

火影

「!!」ドゥン!

 

不思議な事が起こった。光弾の一発一発がまるで意志あるかの様にぶつかろうとしていたザ・ルーチェの弾をギリギリで躱し、別の軌道を描いて火影に向かって行った。火影はブリンク・イグニッションで躱すがそれにも対応して全弾が向かってくる。

 

火影

「ちっ!」ズガンッ!「くっ!」ギュギュギュギュン!「!!」

 

謎の攻撃で一瞬怯む火影に、

 

ドガァァァァァァァァァァン!!

 

飛んできた光弾は全て命中し、巨大な爆発を起こした……。

 

ムンドゥス

「…ふ、やった…」

 

……バシュゥゥゥゥゥ!!

 

すると火影を覆っていた煙が一気に吹き飛ばされた。

 

火影

「ハァ…ハァ…」

 

ギリギリ真インフェルノによる爆発で相殺し、火影へのダメージは大したものにはならなかった。

 

ムンドゥス

「訳が無いか…。そうだ、そうでなくては面白くない」

 

相変わらず笑うムンドゥス。…だが今の一連の中で火影はある事に気付いていた。

 

火影

「……成程な。あの妙な攻撃のからくりが読めた」

 

火影は肩や足に起こった貫かれた様な傷と痛みに気付いた。

 

火影

「あの攻撃がある時…うっすらだが見えたぜ。あの瞬間、てめぇの手が俺の方に向けて少し動いていやがったのを。そしてその指から…糸みてぇに細い光が出ていたのをな」

ムンドゥス

「……」

火影

「俺を貫いてたのはその光なんだろ?気付かねぇ様にこそこそ小細工じみた攻撃しやがって…」

 

 

……ヴゥーーン…

 

 

すると火影の言う通り、ムンドゥスの人差し指の先から細い光が現れた。宇宙空間の様な周囲の中でその光はうっすら輝き、真っすぐに伸びている。

 

ムンドゥス

「ふっふっふ、あの一瞬でよくぞ見抜いた」

火影

「漸くお披露目か。だが見えてしまったんならもう小細工はきかねぇぞ」

ムンドゥス

「…これを見てもそう言えるかな?」

火影

「何……!」

 

 

ヴゥヴゥヴゥヴゥヴゥヴゥン!!

 

 

すると人差し指だけでなくムンドゥスの手の指先一本一本から光が出現した。計10本の光の線。

 

ムンドゥス

「さて…では貴様の望み通りそろそろ終わらせるとしようか」

火影

「そいつはありがてぇ事だな」ジャキッ!「でやぁぁ!」ドォンッ!!

 

ガキキキキン!!キィィン!!ガン!!ガキキ!!

 

火影に襲い掛かる光の糸。それはムンドゥスの指に合わせて自在に動き、剣の如く振り下ろされてきたり、槍の如く突いて襲い掛かってくる。だが火影も魔剣ダンテとミラージュソードフォーメーションによる攻守一体の攻撃で対抗する。どうやら光の糸は剣で弾いたりすることは出来る様だ。

 

ムンドゥス

「フハハハハハ!こうして別の世界で余と貴様が剣を交える等想像もしていなかったぞ。楽しくないかダンテ!」

火影

「俺は全然だ!それに」ズバァァンッ!

 

光を弾きながら火影は、

 

火影

「そんならせめてバージル位剣上手くなってくるんだな!隙だらけだぜ!」ヴゥンッ!

 

真後ろから一気に斬りかかる。しかし、

 

ムンドゥス

「勝つつもり?…違うな、殺すつもりだ」

 

 

シュンッ!!

 

 

火影

「!!」

 

火影の剣が届く直前、ムンドゥスが目の前で消えてしまった。瞬間移動かと思い周囲を見る火影。しかし、

 

火影

「…消えやがった…!?」

 

ムンドゥスの姿は無かった。瞬間移動やエアトリックならば別の場所に現れる筈。しかし見る限りどこにもいない。そればかりか魔力も感じない。

 

火影

「野郎どこに隠れてやが」ドォォォォン!!「ぐっ!…くっ!何!?」

 

突然襲い掛かる攻撃。しかし…どこにも相変わらず姿はない。

 

火影

「これは…まさか…!」

 

ズドドドドドドドドド!!

 

降ってくる光弾。火影はその気配を察し、急速回避する。

 

火影

「そこか!」ズドォォォォン!!

 

火影は攻撃が飛んできた方向に向けてザ・ルーチェを撃つ。すると

 

 

ヴゥゥゥン…ゴォォォォォォォ…

 

 

何も無い空間に突如ムンドゥスの姿が出現し、火影の撃ったザ・ルーチェが次元の穴らしきものに飲み込まれた。

 

ムンドゥス

「ほう…よくぞ避けた」

火影

「姿も魔力も何もかも消すって訳か…。本当に隠れんのが好きな野郎だぜ。かくれんぼなら王様になれんじゃねぇか?」

ムンドゥス

「フハハハハ、それは面白そうだ。……だがまた油断したな」

火影

「何…?」ドガァァァン!!「ぐああ!!」

 

火影のすぐ真後ろから突然の攻撃。それによって火影は態勢を崩してしまう。

 

火影

「ぐっ…な、何だ……!!」

 

気が付くと…すぐ目の前にムンドゥスが光の剣で既に攻撃態勢に入っていた。

 

ムンドゥス

「終わりだ…」ヴゥン!!

 

咄嗟に応戦できない火影にムンドゥスは指を下ろす。……とその時、

 

 

ガキィィィィィィン!!

 

 

火影・ムンドゥス

「「!!」」

 

ふたつの間に割って入るものがあった。それは…

 

 

海之

「何をやっている火影!」

 

 

青く輝く黒き魔人。ムンドゥスの光の剣を伊邪薙で受け止め、悪魔還りを起動した海之だった。

 

火影

「海之!」

ムンドゥス

「貴様…バージルか」

海之

「…やはり貴様だったか。…久しぶりだな、旧き時代の亡者よ」

ムンドゥス

「悪魔として生きる事を選びながら弟にも余にも敗れ、今更正義の味方を気取るか?つくづく失望したぞ」

海之

「貴様の方こそ随分と無駄口が多くなったものだ。それに…」

 

ガキィィィィン!!

 

海之

「貴様の希望に叶おうとした覚えはない」

 

海之に弾かれたムンドゥスは距離を取り、その間に火影は態勢を立て直す。

 

火影

「ったく遅いぜ」

海之

「助けてもらっておいて第一声がそれか。礼のひとつ位は言ってもいい所だ」

火影

「へいへい、助かりましたよと。どうやらお前も力と刀を取り戻した様だな。それで、久々に悪魔に戻ったご感想は?」

海之

「なんの感慨も無い」

火影

「相変わらずだねぇ」

海之

「そんな事よりも簡単に説明しろ。奴が現れた経緯を…」

 

 

…………

 

火影は海之にこの数分で起こった事態を簡単に説明した。ムンドゥスがオーガスの身体の中に潜んでいた事。アインヘリアル計画の真実の事。奴の目的の事。そして父と母の事…。

 

海之

「禁断の果実…。そして奴が父と母を…」

火影

「…らしいぜ」

ムンドゥス

「ふっふっふ…親がほしいならば幾らでも創造してやるぞ。あの時の様に」

 

ガキィィィィン!!

 

海之の次元斬が飛ぶ。しかしこれも弾かれる。

 

海之

「黙れ。……新たな魔界か。自らの野望を叶えられなかった恨みを嘗ての世界よりも弱い世界で成し遂げよう等、覇者を名乗る者のやる事ではないな」

ムンドゥス

「弱き者を踏みつぶして何が悪い?弱肉強食、それが悪魔の全てだろう?貴様も良く分かっているのではないのかバージル」

火影

「昔のコイツならな。でもコイツも学んだって事だ。てめぇも少しは学んだらどうだ?」

海之

「その必要はないだろう。ここで死ぬのだからな。この塔を…貴様の墓標にしてやる」

ムンドゥス

「無駄だ。例え貴様らが揃おうとも余には勝てぬ」

火影

「大抵の奴はそう言いながら死んでったぜ?てめぇもそうだったじゃねぇか」

 

そして火影と海之は並んで立つ。あの時の様に。

 

海之

「時間が惜しい。さっさと片付けるぞ」

火影

「へいへい。…てか今のこの光景見たら親父はどう思うかね?」

海之

「知るか…。前にも言った通りそんな事は死んだ後で本人に聞いてみろ」

火影

「……はっ!」

 

ガキンッ!!

 

火影

「確かにそうだな!」ドゥンッ!

海之

「でやぁぁぁぁぁ!」ドゥンッ!

 

そして火影と海之はムンドゥスに攻撃を仕掛ける。ムンドゥスは10本の光輝く糸を開放し、それを縦横無尽に操ってふたりに斬りかかる。

 

ガキンッ!キィィィン!ガキキキキキ!

 

……しかし火影と海之はムンドゥスを挟み込む様に攻め立てる。それにより先ほどの火影に対し10本と違いひとり5本の光で対応するため、徐々に迫られる。剣術ならば火影の言う通りふたりの方が上なのだ。更に、

 

ムンドゥス

「…ほぉ、先ほどよりも動きが良くなっている。何が貴様らを強くした?」

火影

「俺の中の魂が叫んでんのさ…。てめぇを止めろってな!」

海之

「そして俺の魂がこう言っている、貴様を滅ぼすための力を!」

ムンドゥス

「こざかしい!」ヴゥン!

 

するとムンドゥスが再度姿を消す。影も形も。ISのセンサーにも魔力も感じない。

 

海之

「魔力も感じない様だな……!」

 

ズドドドドドドド!!

 

何も無い空間から再びの攻撃。火影と海之はそこに自分達の攻撃を撃つが…先程と違い手ごたえが無かった。

 

火影

「ちっ、ホントかくれんぼが上手い野郎だぜ」

海之

「落ち着け。……」

 

バッ!ズドドドドドドドドドドッ!!

ヴゥン!バリバリバリバリバリバリ!!

 

そう言いながら海之は自分達の周囲に全方位五月雨幻影剣、そしてナイトメアVを召喚し、雷撃の雨を降らせる。すると、

 

………キンッ

 

海之

「そこだ!」ズドドドドド!!

 

ガキキキキキキン!!

 

続いて透かさず音がした方向に烈風幻影剣を撃つ。すると何かに反射する音と共にそこからムンドゥスの姿がぼんやり現れた。

 

海之

「やはり、如何に姿魔力隠そうとも実体が消える訳ではないという事だな」

ムンドゥス

「流石はバージルだ。ダンテよりも理解力はいい様だな」

海之

「この世界では知恵者で通っているのでな。…そして」

 

ヴゥンッ!ガキキン!!

 

ナイトメアV

「……」

ムンドゥス

「ナイトメア…。やはり失敗作だったか」

海之

「貴様に操る資格が無かっただけだ」

 

シュンッ!!

 

その時ムンドゥスのすぐ後ろに火影がエアトリックで現れた。海之に気を取られたムンドゥスは一瞬反応が遅れる。

 

ムンドゥス

「!」

火影

「言ったろ!隙だらけだってよ!」

 

 

ドゴォォォォォォォォォ!!

 

 

渾身の真インフェルノの一撃をムンドゥスのシールドに撃ち込む火影。そして、

 

 

ガガガガガガガ…バリィィィィィィン!!

 

 

ムンドゥスを覆っていたシールドが壊れた。

 

ムンドゥス

「何!」

海之

「おぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

ザシュゥゥゥゥゥ!!

 

 

シールドが砕けた一瞬、海之の伊邪薙と幻影刀による疾走居合の一閃がムンドゥスの腕を断ち切った。

 

火影

「でやぁぁぁぁぁ!」ヴゥンッ!

ムンドゥス

「ちぃっ!」シュンッ!

 

透かさず火影が追撃。しかし間一髪ムンドゥスは瞬間移動で避け、その後ムンドゥスの斬られた腕が再生する。

 

火影

「やっぱコアを潰さねぇと駄目か…。だがてめぇのシールドも無限でない事はわかったな。それがわかっただけでも十分だ」

海之

「貴様の掃溜めにも劣る野望もこれまでだ」

ムンドゥス

「……」

 

黙ったままのムンドゥスに剣を向ける火影と海之。

 

ムンドゥス

「………フ」

 

すると、

 

ムンドゥス

「フフフ…フハハハハハハ!ハハハハハハハハ!!」

火影・海之

「「……」」

 

ムンドゥスが無い口で大笑いした。本当に面白そうに。これ程の笑いは前世でも聞いた事が無い。

 

ムンドゥス

「全く大したものだ…。流石はダンテとバージル、あのスパーダの息子…。貴様らの力、見誤っておったと認めざるをえんな」

火影

「白旗でも上げるか?」

ムンドゥス

「…だが、貴様らは余の力を理解しておらん様だ」

海之

「…何?」

 

 

パァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

火影

「! くっ!」

海之

「!」

 

突然ムンドゥスの赤い目が一際激しく輝いた。それは今までのどんな光よりも強烈でふたりも一瞬目を閉じてしまう程だった。……だが何も痛みらしきものはない。やがて光が収まりふたりは目を開けた。

 

火影

「なんだ今のは………!!」

海之

「!?」

 

そして驚いた。自らの身体が…悪魔の身体では無く、通常のIS状態に戻っている。ふたりは直ぐに「悪魔還り」を再び起動しようとするが目の前にムンドゥスがいるというのに「悪魔還り」はまるで封印されているかの様になんの反応も示さなかった…。

 

火影

「…起動しねぇだと!」

海之

「…今の光か!」

ムンドゥス

「ふっふっふ…その通り。余の邪眼の光を受けた者は永久ではないが暫しの間あらゆる技を使えなくなる。貴様らスパーダより生み出た力には通用せんが」

火影

「ちっ!」

海之

「だが俺達の力は……!」

ムンドゥス

「貴様らが戦いの中で余の動きを見ていたのと同じく、余も貴様らの戦いを見ていた。そして気付いた。如何に力を取り戻そうとも、それは全て貴様らが使う「悪魔還り」とやらがあってこそのもの。それが使えなければ最早貴様らは只の人間。最早余に傷ひとつ付ける事もできぬわ!」

火影

「クソ!どこまでも姑息な手を使いやがる!」

海之

「…見くびられたものだ。貴様を倒すのに過剰な武器等不要。伊邪薙があればいい」

ムンドゥス

「ふっふっふ、それは楽しみだな!」ズドドドドドドドド!!

 

ムンドゥスから飛んでくる光の矢。ふたりは二手に分かれて避けようとする。しかし、

 

火影

「!瞬時加速(イグニッション・ブースト)も駄目か!」

海之

明滅瞬時加速(ブリンク・イグニッション)もだ!自分でなんとかするしかない!」

ムンドゥス

「どうした?さっさとかかってくるがいい」

火影

「ちっ!マジムカつくぜ!」

海之

「近づけさえすれば…!」

 

ドドドドドドドッ!!

 

ムンドゥスの攻撃に多少被弾しながらも再生能力が死んでいないのが幸いしつつ、ふたりは反撃の機会を伺うが飛ぶ事はできるもののエアトリックや瞬時加速も封じられ、近づけない。

 

ムンドゥス

「……では、願いを叶えてやろう」

 

……するとムンドゥスは突然一切の攻撃を止めた。

 

火影

「…?なんのつもりだてめぇ」

ムンドゥス

「近づきたいのだろう?余は丸腰だ。さぁ斬りかかってみろ」

 

言葉の通り一見丸腰の様に見える。あからさまに罠にも思えるがふたりは、

 

火影

「…へっ、どんなつもりか知らねぇが、あえててめぇの口車に乗ってやろうじゃねぇか」

海之

「貴様のその過信。その紛い物の身体ごと断ち切る!」

 

自らの剣を向け、

 

火影・海之

「「はああああああああ!!」」ドゥンッ!!

 

ムンドゥス目掛け突進した。幻影剣やミラージュソードは使えない。ふたりは全速且つ渾身の力をもってスティンガーを仕掛ける。

 

火影

パーティは御開きだぜ(GAMEOVER!)!」

海之

「…終わりだ(DIE!)!」

 

ふたりの剣がムンドゥスに迫る。

 

ムンドゥス

「……ふ」

 

 

ヴゥンッ!ガキキキキキキキキキキンッ!!

 

 

火影・海之

「「!!」」

 

…しかし無情にも剣は届かなかった。突然ムンドゥスを覆い隠す様に黒い球体が現れ、それによってふたりの全力の剣が弾かれていた。

 

 

……ドガアァァァァァァァァン!!

 

 

火影・海之

「「ぐあああああああ!」」

 

更にその球体が爆発を起こし、ふたりはその爆風をまともに受けてしまった。

 

 

ガシッ!!ガシッ!!

 

 

火影

「ぐっ!」

海之

「!」

 

更に更に自分達の身体が全く動かせなくなった。何らかの念力の様なものだろうか。

 

ムンドゥス

「フハハハハ!どうやら貴様らの思惑は外れた様だな」

火影

「ちぃ!」

海之

「くっ…馬鹿な…!」

 

ふたりはもがくがまるで動けない。

 

ムンドゥス

「無駄だ…。如何に貴様らとはいえ悪魔の力を封じられた今は全くの無力…。ましてや貴様らは是迄の戦いで力を消耗している」

 

 

ヴゥヴゥヴゥヴゥヴゥヴゥヴゥンッ!!!

 

 

ムンドゥスの周囲に無数の針状の光弾や白き光弾が展開する。その全てが動けない火影と海之に向けられる。

 

ムンドゥス

「つまり…今が貴様らを同時に葬る、またとない機会!」

火影

「けっ!俺達がそう簡単にくたばると思ってんのか!」

海之

「言った筈だ。貴様は…俺が殺すとな!」

ムンドゥス

「ふっふっふ…貴様らのその戯言ももう終わりだ。…とうとうこの時が来た。スパーダの頃から続く因果が終わる。如何に貴様らとはいえ、王に戦いを挑むべきでは無かったのだ!」

 

そして、

 

ムンドゥス

「死ね!ダンテ!バージル!その身に宿す憎きスパーダの魂と共にな!!」

 

 

ズドドドドドドドドドドドドドド……!!!

 

 

火影・海之

「「!!」」

 

 

ドガガガガガガガガガガガガガガ……!!!

 

 

ムンドゥスが展開した光が一斉にふたりに向かい、激しい連鎖爆発を起こした。ひとつひとつが全て終わる迄続いているその攻撃は如何に強力なシールドがあっても再生能力があってもここまでの連続的な攻撃を受ければ回復が追い付かない事は誰の目にも予想できた。

 

 

ドドドドドドドドド………

 

 

やがてムンドゥスの撃った攻撃が全て止み、火影と海之のいた辺りが爆煙に包まれる…。

 

ムンドゥス

「………………………!」

 

 

シュバァァァァァァァァァァ!!

 

 

すると突然、その煙の中から…金色の光の筋が貫いた。それが徐々に煙を晴らしていく…。

 

「ふ~~あぶねぇあぶねぇ」

火影

「…お、お前!」

海之

「!」

 

火影と海之は生きていた。ふたりの前に金色の壁が張られ、攻撃を防いでいたのだ。壁を張ったのは…、

 

 

一夏

「もう、足手まといとは言わせねぇぜ…!」




コンビネーションで魔帝ムンドゥスを追い詰めたと思われた火影と海之。しかし魔帝はふたりの悪魔の力を封じ込めてしまった。戦闘力を大きく下げられ、逆に追い詰められる火影と海之。最早これまでと思ったその時、魔帝の攻撃からふたりを守るために彼、そして彼女らも駆け付ける。


Nextmission……「ムンドゥスVSインフィニット・ストラトス」


彼らもまた戦う。この世界に生きる者として。


※次回は来月4日の予定です。
残りラストバトルの数話は後書きに次回予告を書いていきます。本当は作品最初からやりたかったのですがストーリーがまだ不確定でできませんでした。もし良ければ最後までご覧ください。


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Mission217 ラストバトル②ムンドゥスVSインフィニット・ストラトス

火影とムンドゥスの戦いが始まった。互いに様子見の戦いが続く中、ムンドゥスは火影にある真実を伝える。火影と海之の両親が亡くなった旅客機爆破はスコールではなくムンドゥスとオーガスによるものだった。それを聞いた火影は怒りを爆発させ、駆け付けた海之と共に更に攻め立てる。
…しかしムンドゥスが放った奇妙な技でふたりは悪魔の力の源である「悪魔還り」を封じられ、新たな技で逆に追い詰められてしまう。
動きまでも封じられた彼らにとどめの一撃を繰り出すムンドゥス。だがその時、火影と海之を守るかのように立ちはだかった者がいた…。


魔帝ムンドゥスの攻撃から火影と海之を守った金色の壁。それは、

 

一夏

「…もう足手まといじゃねぇぜ」

 

「極光の盾Aiges」でムンドゥスの攻撃を無力化した一夏だった。

 

火影

「一夏!」

海之

「何故お前がここにいる!?」

 

驚くふたりに対し一夏は、

 

一夏

「へへっ、俺だけじゃねぇぜ」

 

 

ズドドドドドドド!!

ズギュン!!ズギュン!!

ズガガガガガガガガ!!

 

 

ムンドゥス

「…!」

 

 

ドガァァァァァァァァァン!!

 

 

すると別の方向からムンドゥスに向かってレーザーや銃弾剣閃が飛んできて命中、爆発した。

 

海之

「…!」

火影

「まさか今の攻撃は…」

 

驚く火影と海之の下に更に駆け付けたのは…、

 

「火影!」

「海之くん!」

クロエ

「兄さん!」

 

…勿論彼女達だった。

 

火影

「お、お前ら!」

刀奈

「ふたり共大丈夫!?」

海之

「刀奈さん!お前達もどうしてここへ!?」

「少々問題があって来るのが遅れてしまった!それよりもふたり共!」

 

キュイィィィィッ!

 

箒が火影と海之に触れるとふたりのISのSEが忽ち回復した。「絢爛舞踏」である。

 

海之

「! お前達のISは使えない筈では…?」

 

海之の言う通り一夏達のSEはムンドゥスに吸収され、失った筈だった。

 

セシリア

「私達も驚きましたわ。急にSEが無くなってしまったのですから」

シャル

「でもこれがあったのを思い出したんだ」

 

そう言ってシャルが出したのは…星形の透明な水晶体。

 

火影

「…それは…!」

 

 

ISバイタルスター

 

一夏達が電脳世界でトリッシュから渡されていたアイテム。

使用すると失ったSEを一度だけ完全に回復する。本来は失った体力を回復するものだがIS仕様にされた。

 

 

一夏

「電脳世界でトリッシュさん達に貰ってたんだよ。困った時に使えって」

火影

「あいつ勝手な事を…」

「そう言うんじゃないわよ。私達はおかげで助かったんだから」

「ああ。私の絢爛舞踏もベアトリスの回復機能もSEが無くなっては使えんからな」

海之

「……千冬先生はどうした?それから束さんは無事か?」

クロエ

「大丈夫です。束様は今別の場所に。千冬さんが守ってくださっています」

ラウラ

「ああだから大丈夫だ。それより…この景色はどういう訳だ?何故塔の内部が宇宙空間なんだ?」

シャル

「それもなんだけど…」

 

一夏達の視線は…

 

ムンドゥス

「……」

 

上空で浮かぶ白く輝くムンドゥスに行く。先程の攻撃のダメージは無い様だ。

 

刀奈

「…倒せたとは思っていなかったけど無傷とはね」

一夏

「なんだ…アイツは」

「光っていて綺麗だけど…何か不気味…」

「白騎士?…いや違う」

刀奈

「ええ…あれはそんなもんじゃない。なんというか…とても禍々しい物を感じるわ」

セシリア

「私にもわかります。これはあのマルファスという悪魔…いえそれ以上の恐ろしいもの」

火影

「…! 悪魔って…どういう事だ!?」

「あの蜘蛛女が使ったデビルトリガーってのでそうなったのよ。かなり強かったわ。なんとか倒せたけど」

一夏

「俺と千冬姉のとこでもボルヴェルクやアビゲイルってのも出たぜ」

海之

「何だと…!」

 

火影と海之は驚きを隠せない。

 

クロエ

「それよりも兄さん…アレは一体何なのです?オーガス…とは思えませんが」

火影

「……あいつは俺達の世界、…いやそれだけじゃねぇ。この世界でもある意味元凶といえる存在、…ムンドゥスだ」

一夏

「な、何だって!!」

「ムンドゥスって…確かアンタ達のお父さんが戦ったっていうあの悪魔でしょう!」

「どういう事だ!何故その悪魔がここにいる!奴は火影、お前が倒したんじゃないのか!?」

火影

「ああ…確かに倒した。だが殺せた訳じゃなかった。奴を次元の牢獄に封印するのがやっとだった」

シャル

「でもそれが…なんで僕達の世界に!?」

火影

「……時間がねぇから簡単に言うぞ。奴は今から19年前にこの世界にやって来た。次元の壁をこじ開けてな。そしてオーガスと接触し、アインヘリアル計画を起こした。…自分を復活させるためにな」

一夏

「…!!」

「な、何だって!?」

セシリア

「アインヘリアル計画があれを、ムンドゥスを蘇らせるために計画されたものだったというのですか!?」

火影

「…ああ。そのために奴は禁断の果実を生み出す事を考えた」

「禁断の果実って…それ!」

刀奈

「嘗ての海之くんが生み出したというアレの事ね…」

海之

「…そうです。そしてそれを生み出すために必要なのは…人間の血」

クロエ

「! そ、それではまさか!」

 

一夏達の頭に最悪の考えが浮かぶ。

 

火影

「…ご想像の通りだ。奴とオーガスはそれを生み出すためここに人間を集めた。最強の兵士なんかじゃ無く、くそめいた実を作り出すの血を絞り出す材料としてな…」

ラウラ

「何…だと…!」

シャル

「それじゃまるで生贄じゃないか!」

火影

「まるでも何もその通りさ…。ここで死んだ人間は…あの野郎への餌同然だったんだよ。お偉いさん達は知る筈もねぇがな」

一夏

「……」

「でもどうしてオーガスを裏切ったの?仲間じゃないの?」

海之

「奴にそんなものはいない。そもそも奴はオーガスとは目的は違うからな」

「…え、どういう事?」

ムンドゥス

「……ダンテとバージルに与する、この世界の穢れし人間共…」

 

すると当の本人であるムンドゥスが口を開く。

 

シャル

「しゃ、喋った…!」

「ムンドゥス…。魔界の王か…!」

ムンドゥス

「…如何にも…。我が名はムンドゥス。聖地たる魔界を治めし唯一絶対なる者であり…新たなる魔界を創り上げる神である…」

「神様…?」

刀奈

「神ですって?邪神の間違いじゃないの?」

ムンドゥス

「感謝しているぞ。貴様ら人間のおかげで、余はこの世に復活を果たす事ができたのだからな。そして光栄に思い誇るがいい。死ぬ前に王と対面できた事をな」

ラウラ

「黙れ!誰が貴様を王などと認めるものか!」

一夏

「ああ!それに誰がてめぇなんかに殺されてたまるかよ!」

 

一夏達は憤慨する。するとムンドゥスも白式・駆黎弩を纏う一夏を見て、

 

ムンドゥス

「……ふっふっふ、アルゴサクスが作った力の恩恵を受けた人間か。その怒りにその姿…まるで悪魔だな」

「貴様!ふざけるな!」

セシリア

「一夏さんは悪魔ではありません!立派な人間ですわ!」

ムンドゥス

「フハハハハハ!…そうだな、所詮穢れた人間が我ら悪魔に匹敵する筈がない。失礼だった」

「随分言ってくれるじゃないの!私達の何処が穢れてるってのよ!」

ムンドゥス

「何度もアルゴサクスが言っていた筈だ。そしてこのラ・ディヴィナ・コメディアでもな。貴様達人間が過去に世界で、そしてここで行った事を忘れたか?」

「それは…間違っていないかもしれない。でもここでの事は貴方やオーガスが皆を騙したからでしょう!」

ムンドゥス

「アルゴサクスは伝えたのみだ。理由はどうであろうとそれを叶えたのは他でもない貴様ら人間共。己の罪を差し置くのも人間の業だな」

シャル

「でもお前がいなければあんな事は!」

ムンドゥス

「そういう事は余を倒しきれなかったダンテやバージルにこそ言うのだな。奴らが余を殺していればあの様な事は起こらなかったかもしれんぞ?ふっふっふ…」

火影・海之

「「……」」

刀奈

「それはお門違いというものよ?ふたりは何も間違っていないわ!」

クロエ

「自らの過去の過ちを認めずに他者に責任を押し付けるなど、神を名乗る者のやり方ではありませんね!」

一夏

「火影と海之は悪魔の手から人々を守るために何度も戦ってきた!そして今度はこの世界を守ろうとしてんだ!ふたりを馬鹿にする奴がいたら俺達が許さねぇ!」

 

他の皆もそれに同意する。だがそんな彼らの言葉に当然耳を貸す気もないムンドゥスは続けて言い放つ。

 

ムンドゥス

「貴様らの意見などどうでもいい。ダンテとバージルに与する穢れし人間共よ。余の目的は貴様ら等ではない。奴らの命を余に差し出せ。そうすれば貴様らの命は他の人間共より少し先に延ばしてやろう。ほんの少しだがな。フハハハハ!」

「他の人間って…!?」

火影

「…言葉の通りさ。奴はこの人界の人間、そして魔界にいる悪魔共を皆殺しにするつもりだ。そして自分が生み出した悪魔共で支配する」

全員

「「「!!」」」

ムンドゥス

「喜べ。余が創り上げる新たな魔界の礎となれる事をな」

 

そう言うムンドゥスに対し、一夏は雪片を向ける。

 

一夏

「…ふっざけんな!てめぇの思い通りにはさせねぇ!」

「その通りだ!誰ひとり殺させはしない!」

刀奈

「皆いいわね!こいつだけは絶対に外に出してはダメよ!」

セシリア

「ええわかっていますわ!」

「誰がアンタなんかにふたりを渡すもんですか!」

「海之くんと火影くんは…本音達は私達が死なせない!」

 

他の皆も当然そうはっきりと拒絶した。

 

火影

「お前ら…」

ムンドゥス

「余に向かってくるのか?ダンテでもバージルでもなく貴様らの様な幼体が?アルゴサクスが生み出した人形相手にさえ叶わなかった貴様らが?」

シャル

「それでも火影と海之だけには背負わせない!」

ラウラ

「ああ!それに倒せない等、やってみなければわからん!」

クロエ

「例え悪魔の王でも力が無尽蔵ではない筈です!」

一夏

「てめぇに運命を弄ばれた人達のためにも倒す!この雪片に懸けて!」

 

そう言って皆は前に出る。

 

火影

「よせ!奴の狙いは俺達だ!」

海之

「お前達が敵う相手ではない!」

 

そんな皆をふたりは当然止めようとするが一夏達は拒否する。

 

一夏

「もうそれは無しだぜふたり共!これはふたりだけの問題じゃねぇんだ!」

「一夏の言う通りだ。千冬さんも言っただろう!私達も奴と戦う理由がある。この世界に生きる者として!」

火影

「だが…!」

「いいから任しときなさい!それにアンタ達今パワー落ちてるんでしょ!」

クロエ

「兄さん達は力を取り戻し、生き残る事に専念してください!」

ラウラ

「その間、私達が守ろう!」

海之

「お前達…」

 

全員が戦うつもりだった。この世界に生きるものとして…。

 

火影

「………へっ、そうかい。ならもう何も言わねぇよ。俺達全員でクライマックスにしようぜ!」

海之

「……ふ」

 

火影と海之もそれぞれ魔剣を握り直す。

 

ムンドゥス

「……それ程までに死を望むのならば、まず貴様らから葬り去ってやろう。そして冥府で悔いるがいい」バサッ!

 

輝く翼を広げ、戦闘態勢をとるムンドゥス。

 

ムンドゥス

「人間など相手になるか!串刺しになるがいい!」ズドドドドドドドド!!

 

無数の赤い針状の雨を降らしてくるムンドゥス。

 

刀奈

「皆散開して!」ドゥンッ!!

 

刀奈のその一言で何手かに分かれて分散する。

 

ムンドゥス

「逃げられると思うか」ズドドドドドドドッ!!

 

追いかけるムンドゥス。先にいるのはラウラとセシリア。

 

ラウラ

「セシリア!」

セシリア

「はい!」

 

ビュビュビュビュンッ!!

ドガガガガガガガンッ!!

 

セシリアはビットのレーザーを偏光させ、レーザーで網目状の幕を作った。その網に引っかかった赤い針が破壊されていく。

 

ラウラ

「喰らえ!!」ズドォォォォンッ!!

 

その後ろからラウラのアルテミスからレインが飛ぶ。

 

ムンドゥス

「この様なものが余に」ガシィィィィッ!「!」

セシリア

「逃がしませんわ!」

シャル

「そのままじっとしててよ!」

 

気が付くとセシリアのケブーリーの鞭、そして別方向からシャルのドラウプニルがムンドゥスをシールドごと捉える。

 

ムンドゥス

「フン」シュンッ!

 

だが目の前で瞬間移動して逃げるムンドゥス。レインも躱されてしまう。

 

セシリア

「!!」

ラウラ

「ちっ!どこだ!」

シャル

「ふたり共!後ろ!」

セシリア・ラウラ

「「!!」」

 

気が付くとムンドゥスが既に光弾を作って攻撃態勢に入っていた。

 

シャル

「ラウラ!セシリア!」

ムンドゥス

「消えるがいい…!」

 

ガキィィィンッ!!

 

後ろから一夏と箒が斬りかかる。

 

一夏

「させねぇ!」

「敵は前だけなんて思うな!」

セシリア

「おふたり共ありがとうございます!」

ラウラ

「そのまま止めていろ!はああああ!」

 

追撃にラウラのパンチラインとセシリアのローハイドが迫る。

 

ガキキキキキキキキキキキッ!!

 

しかし、これも結界で弾かれてしまう。

 

「四人がかりでも弾かれるだと!」

シャル

「なんて強力なシールドなんだ!」

ムンドゥス

「煩いハエ共だ…」ギュオォォォォォッ!!

 

ムンドゥスは再び力を溜める。…とその時、

 

火影

「させねぇって言ったろが!」ヴゥンッ!!

 

ガキィィンッ!!…ビキッ!!

 

真上から急降下で斬りかかる火影。その衝撃でムンドゥスの結界が一瞬揺れる。

 

ムンドゥス

(!…力が上がっているだと?悪魔でもないのに)

一夏

「つおおおおおお!」

 

続け様に横薙ぎに斬りかかる一夏。…しかし瞬時により上空に瞬間移動で逃げられる。

 

ムンドゥス

「…こざかしい。これで砕け散るがいい」

 

ズドドドドドドドドドドンッ!!

 

大量の隕石を降らせてくるムンドゥス。

 

海之

「お前達!」

シャル

「うん!」

「全て叩き割ってやるわ!」

刀奈

「バスターアーム暴れまくりね!」

「ケルベロス!力を貸して!」

 

 

ドガガガガガガガガガガガガッ!!

 

 

海之の指示で全員が飛んでくる隕石をそれぞれの武器で落ち着いて対処する。剣や刀、大砲を持っている者はそれで、シャルはグラトニーで貫き、鈴は双天牙月とアービターでかち割り、刀奈はバスターアームをこん棒の様に振るって次々と破壊する。

 

「当たってガーベラ!」

シャル

「リヴェンジ!」

クロエ

「アキュラ!」

 

ズドォォォォォォォ!!ドガァァァァァァン!!

 

そして隕石を破壊した皆がそれぞれ攻撃した。…しかしムンドゥスには届かない。

 

ムンドゥス

「…この世界の偽りの魔具か」

刀奈

「バスターアームでも傷つかないなんて全く反則紛いのシールドね!」

「やはり火影と海之でなければ決定的なダメージは無理か!」

ムンドゥス

「……」ヴゥンッ!

魔龍

「「グオォォォォォォォォッ!!」」

 

何も言わずムンドゥスは再度最初に召喚したのと同じ魔龍を二体召喚した。

 

火影

「気を付けろ!体当りだけじゃねぇぞ!」

魔龍

「ゴアアアアアアアア!!」ズドンッ!ズドンッ!

セシリア

「火球だけではありません!スピードも速い!」

クロエ

「任せてください!セラフィックソアー!」ズバババババババ!!

 

クロエのセラフィックソアーの羽が飛び交う魔龍の周囲に展開する。それに触れた魔龍に爆発のダメージが通る。

 

ドガガガガガガガガンッ!!

 

魔龍

「グオォォォォォォ!!」

「いくよケルベロス!」

ケルベロス

「グオォォォォォォ!!」ドギュ――ンッ!!

 

簪から氷の山嵐と召喚したケルベロスの口からブレスが飛ぶ。

 

 

ドォォォォォンッ!…ビキキキキキキキキッ!!

 

 

魔龍

「ガアアアアアア……」

 

その攻撃を受けた魔龍の身体が…徐々に凍り付いていく。

 

ムンドゥス

「…ケルベロス。…偽りのものとはいえ人間に飼いならされるとは」

「氷であいつの炎を相殺したのね!」

ラウラ

「しかしまだ生き残っているぞ!」

「任せろ!…砕け散れぇぇぇ!!」ギュオォォォォォ!!

 

ズガガガガガガガッ!ドガガガガガガガンッ!!

 

箒の撃った穿千が動きが鈍った魔龍に直撃し、粉々に破壊した。

 

シャル

「あと一体!」

一夏

「断ち切ってやる!零落白夜ぁぁぁ!!」

 

ズバァァ!!ドガァァァァァン!!

 

一夏の零落白夜によってエネルギーを奪われた魔龍もまた破壊された。

 

ムンドゥス

「…何?」

海之

「箒が言った筈だ。隙だらけとな」

 

ガキィィィンッ!ビキッ!バリィィィィンッ!!

 

一瞬気がそれたムンドゥスに海之の魔剣伊邪薙による渾身の一閃が先ほど火影が与えたシールドの傷ある場所に当たり、破壊した。

 

ムンドゥス

「!」シュンッ!

 

瞬間移動で逃げるムンドゥス。

 

火影

「見え見えなんだよ!」ヴゥンッ!

 

ザンッ!!

 

その先に待ち構えていた火影がムンドゥスに魔剣ダンテの一閃。傷を付けるも倒しきるには至らない。そしてその傷も瞬く間に回復してしまう。

 

ムンドゥス

「ちぃ!」

 

ドォォンッ!!

 

火影

「ぐあっ!!」

鈴・シャル

「「火影!!」」ガシッ!!

 

零距離で光弾を受けた火影は吹き飛ぶが、先に飛んできた鈴とシャルが受け止める。

 

火影

「お前ら無茶しやがって…!」

「言ったでしょ。アンタ達だけに背負わせないって♪」

シャル

「あと火影は僕達が支えるともね♪」

火影

「…へっ」

ムンドゥス

「…どういう事だ。力を封じられておきながら何故余に傷を付けられる?そして貴様らの動き、まるで余の手段を知っているかの様だ」

 

ムンドゥスは先ほどから自身の攻撃が一夏達にまで防がれる事に疑念を抱いていた。

 

火影

「そりゃおめぇ、絶対に死なせたくねぇ奴らが近くにいるんだぜ。普通以上に力が出んのは当然だぜ」

海之

「そして言った筈だ。貴様の存在は既に予見していたと。だからこちらも対策していた…」

 

 

…………

 

それはラ・ディヴィナ・コメディアに向かうロケットの中での事。到着まで残り数時間と言うところで一夏が火影と海之に言い出す。

 

一夏

「…なぁ火影、海之。お前らってあの…アルゴサクスだっけ?そいつと戦った事もあるんだよな?って事は奴との戦い方も知っているんじゃないのか?ファントムやグリフォンとの戦い方も知ってたんだから」

火影

「戦ったのは俺だけだけどな。…まぁ一応は。でもなんでだ?」

一夏

「だったらさ。今の内に俺達にも教えてくれよ。もし奴と会った時の戦い方を」

 

一夏のその言葉に火影と海之は少し驚くが箒達も続く。

 

「…そうだな。確かに教えて貰っておけば万一の対策になる」

シャル

「そうだね。倒す事は難しくても時間を稼いだりとかは出来る筈だよ」

海之

「そんな必要はない。奴は俺達の相手だ。奴もそれを分っている筈だ」

刀奈

「わかってるわよふたり共。でもそれでもよ。オーガスは卑劣な手段を使うんでしょ?教えておいてくれても罰は当たらないわ」

火影

「しかし…」

千冬

「火影、そして海之も聞け。確かにお前達と奴には深い因縁があるかもしれん。しかし前にも言った様に奴がこの世界にいる時点でもうお前達だけの問題ではないのだ。私達にもオーガスと戦う責務がある」

クロエ

「そうです。ましてあの男が束様を盾にする様なことあらば、私は…命を懸けても彼と戦います」

「お願いふたり共」

海之

「……」

火影

「…仕方ねぇ」

 

彼らの言葉に対して火影と海之は考えつつも了承し、オーガス正確にはアルゴサクスとの戦い方を教える事にした。そして同時に、

 

火影

「………あとこれは追加なんだが」

 

 

…………

 

火影

「そん時に念入りに教えといたのさ。てめぇとの戦い方もな。確信は無かったし恐がらせたくなかったからてめぇの名は出さなかったんだが」

海之

「だが功を奏した様だな」

一夏

「ムンドゥスだっけか。よく聞け!神様気取って散々に人間を見下してる様だけどな!てめぇだって人間が無ければ復活できなかったんじゃねぇか!てめぇの犠牲になった人々に敬意と謝罪はあっても見下す権限はない筈だぜ!」

刀奈

「全くね」

「一太刀なれど貴様は火影に斬られた。今はただの人間である火影にな。それに対して貴様はどう説明する?」

ムンドゥス

「……」

火影

「力が取り戻せねぇなら取り戻せねぇで戦い方もあらぁ。て訳でさっさと終わらせてもらうぜ。こっちにはもう時間がねぇんだ。こいつらの未来を守らないといけないんでな」

「…どういう事火影?」

火影

「オーガスがファイルをいじりやがったのさ。最後の情報が明るみになるまでもう30分もねぇ」

シャル

「そんな…!」

海之

「落ち着け。その前に全てを終わらせればいい。だからさっさと片付けるぞ」

「うん!」

 

そう言って全員が再び武器を構え直す。

 

ムンドゥス

「………フ、フハハハハハ!ハハハハハハハハ!!」

 

するとムンドゥスは再び笑った。先程と同じく大笑いした。

 

ラウラ

「何がおかしい!」

ムンドゥス

「……懐かしい、昔を思い出す。嘗ての世界で人間に出会った事も数える程ではあったが…まさか余に対してこれ程の事を言い、刃をたてる人間がダンテやバージル以外にもいようとはな…。虫けらに劣る存在と思っていたが…少し考えを改めるとしよう」

セシリア

「できれば諦めていただけるとありがたいのですが…それは難しそうですわね」

ムンドゥス

「故に…余も最大の力で葬り去ってくれる…」

「何!?」

 

 

ヴゥヴゥヴゥヴゥヴゥヴゥンッ!!

 

 

するとムンドゥスは先ほど火影・海之との戦いで見せた指先からの光の糸を出した。

 

火影

「…ちっ!」

一夏

「なんだあの光の糸は!」

ムンドゥス

「貴様らは何もわかっていない。…見せてやろう。IS(インフィニット・ストラトス)SE(シールドエネルギー)によって得た…新たなる魔帝に相応しい力をな…」




魔帝ムンドゥスの圧倒的な攻撃に苦戦しながらもなんとか対応する一夏や箒達。力戻らないながらも火影と海之も戦闘に参加する。しかしムンドゥスは余裕を崩さず、その新たな力は彼らを徐々に追い詰めていく…。


Nextmission……「魔帝の力」


それは支配者がもつに相応しい力…。

※次回は11日(土)になります。
次回はムンドゥスが得た力を解説を入れながら書きます。


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Mission218 ラストバトル③魔帝の力

火影と海之の元に駆け付けた一夏達。
一夏達はふたりからアインヘリアル計画の、そしてムンドゥスの真の目的を聞かされると自分達もこの世界に生きる者としてふたりと共に戦うと誓い、ムンドゥスに挑む。そんな彼らにムンドゥスは容赦ない攻撃を繰り出すがあらかじめ戦い方を教えて貰っていた一夏達は手こずりつつも冷静に対処し、全力で迎え撃つ。その甲斐あって全員が大きなダメージを受ける事無く、逆に火影と海之の一閃がムンドゥスを傷つける事も出来るなど、戦況は一見数で圧した形となっていた。……しかし。


指先から自らの輝く身体と同じ10本の光る糸を出し、ムンドゥスは宣言した。

 

火影

「ちっ…!」

一夏

「なんだあの光の糸は!?」

ムンドゥス

「今から見せてやろう。この世界によって得た余の…新たな魔帝に相応しい力をな」

刀奈

「!…どういう意味!?」

ムンドゥス

「言葉の通りだ。魔の力が弱いこの世界で余が復活できたのはこの世界の人間、つまり貴様らのおかげよ…。ひとつはアインヘリアル計画によって生まれた禁断の果実。そしてもうひとつは…貴様らが生み出したるIS(インフィニット・ストラトス)SE(シールドエネルギー)…」

ラウラ

「何だと!?」

セシリア

「…まさか、篠ノ之博士が話されていた「SE集中装置」!」

ムンドゥス

「そうだ。そしてこのアルダスパーダのコアであり、余の魂の器となった「コア」。それによって余は復活のみでなく新たな力を得られた。感謝するぞ貴様ら、そしてあの女(篠ノ之束)にな。あとはダンテとバージルを完全に滅ぼし、魔界への帰還を果たすだけだ。フハハハハハ!」

「貴様!沢山の人のみでなく姉さんのISまで!」

クロエ

「ISは束様の夢!それを貴方の邪な目的のために利用するなど…私達が許しません!」

火影

「そして言った筈だ。テメェにくれてやるもんなんて何ひとつねぇってな!」

ムンドゥス

「良かろう…来るがいい。この世界の人間共よ!」

 

ギュギュギュギュギュンッ!!

 

ムンドゥスは手を一斉に向け、光を繰り出してきた。

 

刀奈

「! 避けて皆!」

 

全員が自分達に繰り出されてきた光から横に避けたり距離を取ったりして離れるが、

 

ビュビュビュビュンッ!!

 

その光は更に伸び、遠ざかっていた者達に向かって襲い掛かる。皆は更に距離を取るがどこまでも光は伸びて追いかける。そしてその光が触れる者達のシールドを削る。

 

ズガンッ!!

 

セシリア

「きゃあ!!」

シャル

「セシリア!」ズガンッ!「うわああ!」

「シャル!この距離まで届くなんて!」

「離れても意味ないわ!ジグザグに動いて躱した方がまだいい!」

一夏

「くっそぉ!どこまでもしつこ…ラウラクロエ危ねぇ!」

ラウラ・クロエ

「「!!」」

 

クロエとラウラの背後から剣が伸びてぶつかりそうになる。

 

ガキンッ!ガキンッ!

 

クロエ

「! 兄さん!」

ラウラ

「すまない!」

海之

「気を付けろ!奴のあの光の力は強大だ!」

火影

「距離なんて関係ねぇ!その気になりゃ世界の果てまで届きやがるぞ!」

「太陽光線じゃあるまいし冗談じゃないわよ全く!」

 

するとセシリアが気付く。

 

セシリア

「…ですが見た所相手のあの光は10本。こちらは11人。ひとり一本ずつ対抗すれば…!」

シャル

「そうか!ひとりだけ攻撃の手が空く筈!」

「ならば私達で剣を防ぐ!火影、海之!お前達がその間に攻撃をしかけろ!」

火影

「だが…!」

一夏

「火影海之!お前らしかいねぇんだあいつを倒せるのは!俺達の役割をお前らの道を開ける事だ!」

 

一夏に言葉に全員が頷く。

 

海之

「……わかった。頼む」

刀奈

「任せなさい!行くわよ皆!」

 

一夏達は火影と海之の道を開くため、あえて前に出る。その彼らにムンドゥスが指先を向ける。飛んできた光は9本。その光を箒達が必死に払う。

 

キィンッ!キン!!

 

「くっ!こんなに細いのになんて衝撃!」

ラウラ

「まるで鋼の糸の様だ!」

「でも…負ける訳にはいかない!」

 

ガキィィンッ!!

 

一夏

「くっ!ふたり共!今だ!」

 

そして9本目を一夏のイージスが受け止め、火影と海之は突撃する。

 

ムンドゥス

「ふっふっふ…それで道を開けたつもりか」ギュンッ!!

 

すると残った一本の光が火影に向けられるが、

 

キィィィィンッ!!

 

それを海之が止める。

 

海之

「火影!」

火影

「おお!!」

 

最後の一本を海之が受け止めた。これでムンドゥスは無防備になっている筈……だった。

 

 

 

ドドドドドドドドドドスッ!!!

 

 

火影

「ぐあああ!」

海之

「何!」ドドドドドスッ!!「ぐあっ!!」

一夏達

「「「!!」」」

 

突然、ムンドゥスの全身から光の筋が出現した。今までの様な指先だけでなく、顔面や胴体、足等いたる所から指先から出ている光と同じものが飛び出し、それが斬りかかろうとした火影と海之の全身をめった刺しにした。そしてそのまま貼り付けの様にしている。

 

海之

「ぐっ…何…だと!」

ムンドゥス

「…馬鹿め。余の光が貴様らに見せたものだけだと思っているのか」

 

 

強欲なる剣(アモン)

ムンドゥスの身体から延びる光の剣。

凄まじい斬撃と貫通力を持ち、その威力は防御力が上がったSin・アリギエルの装甲を貫通する程である。最も脅威なのはその無限大ともいえる射程と光り輝く全身のどこからでも強欲に、かつ無限に出す事ができる。

 

 

火影

「ぐっ…どっからでも出せるとは…このスライム野郎が…ぐう!!」

「ふたり共!!」

シャル

「今助けるから!」

 

腕や足を貫かれて動けない火影と海之に更に痛みが襲い掛かる。一夏達はふたりを助けようとするが、

 

 

ズドドドドドドドドドドドドドド!!

 

 

するとムンドゥスは無数の小さい光の槍を展開し、それを一夏達に向けて撃った。

 

ムンドゥス

「喚くなハエめが」

セシリア

「な、なんて数の光の槍ですの!」

一夏

「なら全部撃ち落とすまでだ!吹雪!」

「山嵐!」

クロエ

「カリギュラ!」

 

ドドドドドドドドドドドド!!

 

飛んでくる光槍を撃ち落とそうと一夏達は一斉に撃つ。

 

火影

「!お前ら気を付けろ!そいつは!」

 

 

……ギュギュギュギュギュン!!

 

 

すると驚く事があった。光の槍の一本一本が一夏達が撃った攻撃を全て避け、軌道を変えて再び襲い掛かってきたのだ。それはまるで目と意志を持っているかの様な動きだった。

 

セシリア

「なっ!全て当たらなかった!?」

クロエ

「…いえ違います!槍が避けたのです!まるで目がある様に!」

ラウラ

「もう一回だ!」

 

再び撃墜しようとするが…それも全てギリギリで当たらず、次々と一夏達に迫ってくる。

 

 

嫉妬の槍(レヴィアタン)

ムンドゥスが放つ光輝く槍。

嫉妬の名の如くどこまでも追跡し続け、射撃などで撃ち落とそうとしてもそれ自体がまるで意志を持っているかの様に迎撃を全て避けて相手に確実に命中する。手に持つ武器で直接切り払ったり盾で受け止める等身体のどこかに触れれば躱す事は可能。

 

 

海之

「無駄だ!当たる迄追跡し続けて来るぞ!」

「冗談じゃなく本当に目があるって訳!?」

刀奈

「全員構えて!来るわよ!」

 

刀奈の指示で皆が一斉に向かってくるとてつもない数の槍に対抗する。

 

キキキキキキキキキ……!!

 

火影

「あいつら…!」ズガガガ!!「ぐっ!」

ムンドゥス

「大人しく見ているがいい。大事なお友達とやらが串刺しになる様をな…」

 

ムンドゥスの言葉の通り、あまりにも数が多い槍に一夏達は苦戦する。

 

一夏

「くそ!これじゃジリ貧になっちまう!」

刀奈

「攻撃に優れた人は攻撃に回って!簪ちゃん!シャルロットちゃん!防御に優れた私達で皆を守るわよ!」

シャル

「了解です!カーテン最大!」

「絶対に守ってみせるよ!」

 

アクアナノマシン、アンバーカーテン、ケルベロス其々の防御方法で飛んでくる槍を躱しつつ、

 

一夏

「喰らえムンドゥス!氷雪!!」

「当たれ!穿千!」

「さっさと火影と海之を離しなさいよ馬鹿!」

 

箒達は火影と海之を縛り付けているムンドゥスに反撃の狼煙を上げる。

 

ムンドゥス

「…無駄なあがきを」

 

 

ギュオォォォォォォォォ!!

 

 

…が、それは全て届かなかった。ムンドゥスが生み出した亜空間の口の様な穴に吸い込まれる様に攻撃の全てが飲み込まれていく…。

 

一夏

「なっ!!」

セシリア

「私達の攻撃が…あの妙な穴に飲みこまれた!?」

火影

「! お前達ら逃げろ!」

「え!?」ドガァァァンッ!「うわあああ!」

クロエ

「箒さん!?」ドォォォンッ!「きゃあああ!」

 

その時箒達に別の方向から攻撃が飛んできた。その攻撃は…先程飲み込まれた箒達の攻撃だった。

 

刀奈

「皆!」

 

ズドドドドド!ドガァァァァァンッ!

 

刀奈・シャル・簪

「「「きゃああああああ!」」」

 

更に刀奈達に上空から鈴やセシリアが撃ったガーベラやビットの雨が降り注いだ。

 

 

暴食の口(ベルゼブブ)

ムンドゥスが開く次元の穴。

あらゆる攻撃を飲み込み、更に飲み込んだ攻撃を別の場所に出現させた穴から射出でき、ビットの様に全包囲攻撃及び複数の目標も攻撃できる。先の戦いで火影が放ったメテオがムンドゥスでなく火影の背後に当たったのもこの効果によるもの。生き物を飲み込むことは出来ない。

 

 

一夏

「刀奈さん!シャル!簪!」

「あの光といい槍といい今のブラックホールみたいな穴といい、何なのアイツ!?デタラメにも程があるわよ!」

ムンドゥス

「ふっふっふ…。これがISを知った事で得られた余の単一特殊能力(ワンオフアビリティー)、その名を…「大罪」」

クロエ

「! 貴方の単一特殊能力!?」

ムンドゥス

「答えが分かって満足しただろう。安心して死ぬがいい」ズドドドドドドドドッ!!

一夏

「皆!刀奈さん達を守れ!」

 

一夏達は負傷した刀奈達を守るだけで手一杯といった様子で火影と海之を助ける事ができずにいた。

 

火影

「皆!」

海之

「ちっ…!」

ムンドゥス

「安心しろ、どうせすぐに後を追わせてやる」ヴゥンッ!

 

ムンドゥスの身体から出現した新たな光が、

 

ムンドゥス

「その前にまずは貴様らからだ。……死ね、ダンテ、バージル!」ギュンッ!!

一夏

「!!」

シャル

「火影!!」

ラウラ

「海之!!」

 

ふたりの心臓を貫こうと狙いを定め、伸びた……とその時、

 

 

ズバババババババッ!!

 

 

火影・海之・一夏達

「「「!!!」」」

 

突然、火影や海之に向かっていた光と縛っている光が何かに断ち切られ、火影と海之が解放される。更にそれをした何かはそのままムンドゥスに向かうがその前にムンドゥスは周りの宇宙に溶け込み、別の場所に瞬間移動した。

 

 

千冬

「ちっ…逃げたか」

 

 

それは暮桜纏う千冬だった。先程の光を斬った一閃は彼女の零落白夜である。

 

千冬

「ふたり共無事か!」

火影・海之

「「先生!」」

一夏

「千冬姉!」ガキキキキキキキンッ!「!!」

 

とその時、一夏達に攻撃していたレヴィアタンの槍も突然切り払われた。

 

 

マドカ

「…良く修理されている。あの女に頼んだのは正解だったな」

 

 

黒騎士纏うマドカだった。

 

一夏

「マドカ!すまねぇ助かったぜ!」

マドカ

「この程度で根を上げるとは情けない」

「悪かったわね!てか遅いのよ!」

「ありがとうマドカちゃん!」

マドカ

「そ、その呼び方は止めろ!それに仕方ないだろう、私はあの妙な物は持っていないのだ。SEも完全ではないがあの女にによって何とか戦えるまでに回復できた」

クロエ

「マドカさん!束様は?」

マドカ

「大丈夫だ。今はスコール達が付いている。それより…」

 

そう言いながらムンドゥスにマドカは視線を向ける。

 

ムンドゥス

「…アルゴサクスの操り人形か」

一夏

「マドカは人形なんかじゃねぇ!俺と千冬姉の妹だ!」

マドカ

「…オーガスに拾われた事は正直少し感謝しているさ。そのおかげで…私は千冬や一夏とやり直せたのだからな」

 

そして千冬もムンドゥスに相対する。

 

千冬

「事情は把握している。貴様が魔帝ムンドゥスか…」

ムンドゥス

「この世界で最も強いという女か…。貴様も死に急ぐか」

千冬

「…死ぬつもりは無い。私にはまだやらねばならぬ事が残っているのでな」ジャキッ!!

 

千冬はレッドクイーンを構えながら続けて驚く事を言った。

 

千冬

「それに…我々には火影と海之だけでなく、貴様に勝つ方法がある!」

火影・海之

「「…!!」」

「えっ…?」

 

その言葉にマドカ以外の全員が驚く。

 

一夏

「千冬姉!それは一体…!」

マドカ

「……」

ムンドゥス

「…ふっふっふ。いいぞ、そうやって死の恐怖を隠そうとすればするほどその血肉は美味たるものだ。精々強がってみせるがいい」…シュンッ!!

 

ムンドゥスの姿が再び宇宙の背景に溶け込む。

 

ラウラ

「! どこだ!?」

クロエ

「レーダーにもハイパーセンサーにも観測できません!」

「そ、それって完全に消えたって事!?」

火影

「…!散れお前ら!」

 

 

ズドドドドドドドドドドッ!!

 

 

何も無い空間から飛んでくる突然の攻撃。間一髪火影の合図で避けた一夏達だったが、

 

ズガンッ!ズガンッ!ズガガガンッ!!

 

「きゃああ!」

クロエ

「ああ!」

ラウラ

「ぐああ!」

 

再び別の方向から突然の攻撃。それは先ほどムンドゥスが放ってきた強欲なる剣(アモン)の光である。その光が何もない空間から突然現れたかのように出現し攻撃してきた。

 

シャル

「と、突然攻撃された!?姿もさっきみたいな空間も無いのに!」

千冬

「ちっ!ステルス機能か!」

火影

「ただのそれじゃない!奴のそれは姿を隠していても攻撃できる!」

「! どうやって攻撃すればいいのよそんなの!」

海之

「姿を消していても攻撃は当たる筈だ!闇雲でも撃ち、当たった場所を狙え!」

 

そして一夏達は周囲に闇雲に砲撃を仕掛ける。

 

………キンッ!

 

マドカ

「! そこだ!フェンリル!」

一夏

「粉雪!」

セシリア

「ケブーリー!」

 

ドドドドドドドンッ!!

 

マドカ達が突撃型のビットを向ける。当てて目印とするつもりである。

 

………シュンッ!

 

しかし攻撃は当たらなかった。今の今までそこから攻撃が飛んできたのにも関わらず。

 

「あ、当たらなかった!?」

 

ドドドドドドドンッ!!

 

その時直ぐに別の方向から攻撃が飛んできた。

 

刀奈

「今度は後ろから!?」

火影

「くそ!」

 

…バシュゥゥゥゥゥゥゥ!!

 

火影と衝撃鋼化を纏う箒が全力でそれを弾く。

 

「あ、危なかった!でもあんであんな方向から!」

ラウラ

「…!まさか、奴は姿を消したまま音も無く瞬間移動したのか!」

 

 

色欲の衣(アスモデウス)

 

全身を完全に隠すステルス能力。

レーダーやハイパーセンサーは勿論、魔力さえも完全に遮断して隠れる事ができる。海之の幻影剣が当たった様に実体が消える訳ではないので消えていても攻撃は当たるが、短い時間ならば隠れながら攻撃、また瞬間移動も可能。

 

 

火影

「くそむかつくぜ!こっちが能力使えねぇからって好き放題しやがって!」

マドカ

「いいかお前達!無理に倒そうとせずにアレが効き始めるまで時間を稼げ!」

海之

「…アレだと?」

一夏

「アレってなんだよマドカ!」

千冬

「話は後だ!各自背を補い合いながら奴の攻撃を防げ!撃ち落とされるな!」

 

千冬の指示で全員が互いの背を守りつつ防御に回る。ムンドゥスは姿を消しながら強欲なる剣(アモン)嫉妬の槍(レヴィアタン)を繰り出し続ける。

 

 

……ヴゥゥゥンッ!!

 

 

鈴・セシリア

「「…!?」」

 

その時互いに補い合っていた鈴とセシリアに異変があった。自分達の身体が…動かない。いや動かないどころか、

 

ドドドドドドンッ!!

 

鈴・セシリア

「「きゃああ!!」」

 

鈴が龍哮で、セシリアがスターライトで互いを攻撃し合っていた。

 

刀奈

「鈴ちゃん!?セシリアちゃん!?」

「どうした!ふたり共何をやっている!?」

「わ、私達の意志じゃない!きゃあ!!」

セシリア

「身体が勝手に動いているんです!」

一夏

「何だって!?」

 

ドガンッ!ドガガンッ!!

 

シャル・簪

「「きゃあああ!」」

 

こちらもジェラシーとケルベロスの雷弾で互いに撃ち合っていた。

 

一夏

「シャル!簪!」

千冬

「まさか…これも奴の仕業か!」

 

 

怠惰の枷(ベルフェゴール)

 

動きを封じるサイコキネシス能力。一定の範囲にいる者や物体のコントロールを奪い、支配下に置く。

 

 

マドカ

「ちっ!このままでは自滅するだけだ!なんとか奴を捕まえるしかない!」

ラウラ

「だがどうやって!早すぎて私のヴォーダン・オージェでも捉えきれない!」

「…クロエ!セラフィックソアーだ!あの時のやり方を!」

クロエ

「! はい!セラフィックソアー最大展開!!」バババババババババババババ!!

 

クロエはセラフィックソアーの羽を最大出力で展開し、辺り一面に舞わせた。

 

 

………バチッ!

 

 

火影・海之・千冬

「「「そこだ!!」」」

 

ガキィィィィィンッ!!

 

何かに触れた様な音を聞き逃さなかった火影と海之、そして千冬が全速で斬りかかり、何かにぶつかった。その衝撃で消えていたそれが姿を現す。

 

ムンドゥス

「……残念だ、もう少し見ていたかったがな」

火影

「あんま調子に乗り過ぎんじゃねぇぞ!」

海之

「貴様の遊びに付き合っている暇はないと言った筈だ」

千冬

「いつまでも貴様の思い通りになると思うな!」

 

ガキンッ!!

 

その後ろから一夏も加わる。

 

一夏

「お前だけは絶対にぶっ倒す!!」

ムンドゥス

「こざかしい者共だ」

 

 

ガキキキキキキキキキキンッ!!

 

 

そのまま暫し火影・海之・千冬・一夏とムンドゥスの剣劇に発展する。だが先ほど火影と海之に使ったような無限の光はそれほど使わない様子。その様子をムンドゥスの魔の手から解放された皆が見守る。下手に手を出すと邪魔になるかもしれないと思ったからだ。

 

「火影…海之……!」

「一夏…千冬さん…!」

セシリア

「あの四人を相手に互角なんて…。しかし何故ムンドゥスは先程みたいに剣を出さないのでしょう?」

マドカ

「簡単だ。奴の剣は全身から出せるがその代わり出せば出すほど自らの首を絞める諸刃の剣でもある」

刀奈

「…そうか。下手に出し過ぎると自分自身を傷つけるって訳ね」

 

刀奈の言う通り強欲なる剣(アモン)の特性は無限に湧き出る剣。しかし出し過ぎると互いの剣同士がぶつかり合い、かえって自分自身を傷つけるかもしれない可能性があった。

 

ラウラ

「くっ…私達は見ているしかできないのか…」

「…ところでマドカちゃん。さっき言っていた時間を稼ぐってどういう事?」

シャル

「そういえば言ってたね」

マドカ

「だからその呼び方……もういい。言葉の通りだ。あの女、束の考えが正しければそろそろ…」

クロエ

「束様…?」

 

ガキキキンッ!!

 

ムンドゥス

「…全く煩いハエ共だ。悪魔の力が封じられた今、貴様らの様な存在がどれだけ集まろうと余に触れる事も決してまかり通らぬ」

火影

「にしては随分手こずってるじゃねぇか!」

海之

「ありえない等という事はありえない。嘗て貴様が親父やこいつに敗れたようにな!」

千冬

「どけふたり共!」

一夏

「うおおおおお!」

 

両脇から挟み込む様にふたりが速攻で向かってくるが…ギリギリで躱される。

 

一夏

「くそ!惜しい!」

火影

「ほんっとすばしっこい野郎だ。鬼ごっこでも優勝できそうだぜ」

海之

「俺達の力が元に戻りさえすれば…」

千冬

「……」

ムンドゥス

「無駄だ。どれだけしようと貴様らには……?」

 

 

ジジジッ!!

 

 

その時、ある異変が起こった。ムンドゥスは再び色欲の衣(アスモデウス)を行おうとしたが……妙な異音と共に使用できなかった。

 

ムンドゥス

「…なんだ?…!」

 

キィィィンッ!!

 

火影

「よそ見は駄目よってママから教わらなかったか?」

 

キィィィンッ!!

 

海之

「こいつに母がいるのか疑問だがな」

ムンドゥス

「おのれ貴様ら…」シュンッ!ズドドドドド!!

 

瞬間移動で逃げたムンドゥスは今度は嫉妬の槍(レヴィアタン)を繰り出す。

 

…ジジジッ!

 

が、再び異変が起こった。先の異音が起こった途端槍が急に出せなくなった。その事態にムンドゥスも不審がる。

 

ムンドゥス

「…何?」

 

キィィィンッ!キィィンッ!

 

背後から一夏と火影が続けて斬りかかる。

 

一夏

「どうした!スタミナ切れか!」

火影

「或いはネタ切れか?」

ムンドゥス

「…腹ただしい者共だ…!」

 

その動きは箒達も気付いていた。

 

「……魔帝の動き、何か妙ではないか?」

シャル

「う、うん。なんというか…攻撃が鈍くなっている様な…」

クロエ

「疲労…?或いはSE切れでしょうか?」

ラウラ

「しかし奴は世界中のSEを吸収している。そんな簡単に無くなる筈は…」

マドカ

「…漸くか」

「えっ?」

 

ガキィィィンッ!キィィィンッ!!キンッ!……

 

すると今度は強欲なる剣(アモン)もどんどんと細くなり、消滅した。

 

ムンドゥス

「!…ちっ!」バッ!ドォォォォォンッ!!

 

剣劇の最中から火影達に赤い光弾を向け、その場から離脱するムンドゥス。

 

火影

「ちっ…だが何だ?急に攻め手を変えやがった」

海之

「あの妙な光も消えた…。どういう事だ?」

ムンドゥス

「…何故だ。…何故余の力が…」

 

自身に起こる妙な現象にますます不審がるムンドゥス。…すると、

 

 

「ニャハハハハハハハハハ!!」

 

 

そこに、妙な声で大笑いしながら箒達の下に近づいてくる者がいた。

 

「えっ!」

一夏

「そ、その声って!?」

 

箒や一夏は勿論、その場にいる誰もが驚いた。それは、

 

「これ以上、お前の好きにはさせないよ!!」




遂に本性を見せたムンドゥスの真の力。「大罪」というその力の前に一夏達はおろか、火影や海之さえも歯が立たない。そんな中突然起こり始めるムンドゥス自身の異常、そしてそれを見て笑う束。果たしてその笑みの真意は…?


Nextmission……「傲慢なる邪眼」


その光からは誰も逃れられない…。

※次回は18(土)の予定です。
活動報告にもあげましたが前日に投稿できずすみませんでした。次回はほんの少し短めになるかもしれません。


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Mission219 ラストバトル④傲慢なる邪眼

火影や海之、一夏達とムンドゥスの戦いは続く。戦いの中でムンドゥスは七つの大罪に似せて名付けた己の単一特殊能力「大罪」の真の力を引き出す。その強大な力はまともに傷を付けられない程火影達、更に加わった千冬をも追い詰めていく。
……しかし突然ムンドゥスに異変が起こる。自身の攻撃に狂いが生じ始めるのだった。誰もが奇妙に思う中、突然甲高い声を上げながら…あの人物が現れた…。


ムンドゥス

「どういう事だ…?何故余の攻撃が…」

 

突然の自身の異常を不思議がるムンドゥス。するとそこに、

 

「ニャハハハハハハハハ!」

 

いつもの独特の笑い声を上げながら……束が自分専用のものと思われるラファールに乗って下で待機している箒達の所に現れた。その姿に千冬とマドカ以外の誰もが驚く。

 

「姉さん!?」

火影

「た、束さん!」

海之

「…!」

「おっす!やっぱりそのISはひーくんみーくんだね!お久~♪…よしよし、しっかり効いてくれている様だね!」

クロエ

「束様!どうしてここに!?」

 

箒達はおろかクロエも驚きを隠せない中、

 

「こっちの用事が全部終わったからね。遊びに来たよ〜♪…っていうのは冗談で皆が戦っているのに私だけ安全な場所で見てるだけなんてできないよ」

セシリア

「で、ですがどうやってここまで来たのですか!?」

「それについては後々。それに…あのふざけた野郎に言いたい事があって」

 

そしてムンドゥスも束の姿を確認する。

 

ムンドゥス

「篠ノ之束…。生きていたか」

「その声…やっぱりあの時聞こえた声と同じだね。おい!アンデスだかヴァニタスだか知らないけどこのふざけた悪魔ジジイ!よくもこの束さんを好き放題利用してくれたな!これ以上お前の思い通りにはさせないよ!」

 

対して束はムンドゥスをビシッ!と指差し宣言する。

 

ムンドゥス

「貴様如きに何が出来る?貴様は余が力を取り戻すための道具にすぎん。それが成った今、余にとって貴様など最早どれ程の意味も無い」

 

冷酷にそう言うムンドゥスに対し、束は強気の表情を崩さないまま逆に言い返す。

 

「ほ~さいですかさいですか。それは御立派な事ですね~。…でもさ~、この束さんがなんの考えも無しにこんなヤバイ場所に来ると思ってんのかな~?」

ラウラ

「……そういえばさっき「効いている」とか言っていた様な…」

「き、効いてるってどういう事ですか?なんか薬みたいな言い方ですけど…?」

ムンドゥス

「…貴様の戯言に付き合う程、余は暇ではない。消えろ」ヴゥゥゥン!!

 

そう言ってムンドゥスは束に対し、嫉妬の矢レヴィアタンを放とうとする。

 

刀奈

「まずい!皆博士を守って!!」

「…待って皆!」

 

…ジジジジッ!

 

その時ムンドゥスの身体にあの現象が再び起こった。レヴィアタンは放たれず、何も起こらない。

 

ムンドゥス

「…何?」

 

ザシュゥゥッ!!

 

その隙をついて魔剣ダンテの一閃がムンドゥスの腕を斬った。再生はするも先ほどの様なシールドも発生せず、直接受けたのである。

 

シャル

「こ、攻撃が直接当たった!」

火影

「どうした?マジでスタミナ切れかよ」

「シールドも不安定になり始めたね~!」

 

勝ち誇った様に頷く束を見てムンドゥスも流石に不審がる。

 

ムンドゥス

「……篠ノ之束。貴様…何をした?」

 

ムンドゥスは今自分の身に起こっている現象には束が関与していると疑い始めた。その束は勝ち誇った様にこう答えた。

 

「ふっふっふ♪漸く気が付き始めたみたいだね。ならば教えてやろうではないか。お前のそれはね、束さん特製のコンピューターウィルスの仕業なのだよ♪」

海之

「…!」

「こ、コンピューターウィルス、ですって!?」

ムンドゥス

「……先程から何を言っている?」

 

すると千冬と千冬の所に近づいてきたマドカが代わりに答え始める。

 

千冬

「…一夏達を先に行かせた後、私達はスコール達の案内でオーガスの私室兼研究室に辿り着いた。奴の部屋ならば設備も整っているだろうし、スコール達のSEを回復する手段も見つかるだろうと思ってな。案の定必要なものは揃っていたおかげで完全では無いにしても修復する目途は立った」

マドカ

「そしてそこには…あの男が行っていた研究のデータも残っていた。アインへリアル計画の事他にファントムやグリフォン等のデータ。DNSやデビルトリガーのデータまでな」

刀奈

「!!」

クロエ

「本当ですか束様!?」

「うん。思わぬ儲けものだったよ。まさかこんな大事なものまで残してくれてたなんてね。どうやらオーガスのジジイはDNSやデビルトリガーの量産を本科的に始める直前だったらしい。ちーちゃんは見つけた瞬間消してしまおうと言ったんだけど…私はちょっと考えたんだ。これは利用できるかもしれないってね。兎に角私はスーちゃん達のSEを回復する作業をしつつ、この束さんご自慢の超高速演算機付き頭脳で調べ上げたのだ~♪」

 

束は自らの頭を指差しながらそう言うと今度は再びムンドゥスを指差して、

 

「ドリトス!お前はひとつ大事な事を忘れてやしないかい?その…アルダ・スパーダのコアを作れたのは他でもない、この束さんの力添えがあったからって事をさ!」

ムンドゥス

「…!」

「ドリトスって…それお菓子の名前」

「姉さん…どんどん名前ずれて行ってますよ」

「こまかい事は気にしない!そして作り方を知っているって事はつまり!壊し方も知ってるって事だ!今のお前の、正確にはそのアルダ・スパーダのコアにあるウイルスが現在進行中で活動を始めているのさ!DNSやデビルトリガーのデータを徐々に消去し、プログラムを根こそぎ消滅させるってウィルスをな!」

ムンドゥス

「!」

「で、DNSやデビルトリガーのプログラムを根こそぎ消去!?」

刀奈

「……そうか。アイツの今の力も姿も、元はアルダ・スパーダっていうDISと専用のコア、そしてそれを変化させたデビルトリガーがあってこそのもの…!」

クロエ

「ならばその効果とプログラムが消え去れば…ムンドゥスの力も!」

「そういうこった!ひーくんみーくん提供のウィルス、そしてスーちゃん達提供のデビルトリガーを参考にして作り上げた新型DMCウィルス!ファントム達なら完全に機能停止するし、デビルトリガーとかも即刻無効化できる!あのアビゲ野郎さえも無視できないよ!」

 

ジジジッ!…ガキィィィン!

 

続けざまに海之が斬りかかる。受け止められはするものの先の様な跳ね返しはなく、純粋に受け止めるのみ。

 

海之

「…束さんの話は本当の様だな」

ムンドゥス

「小賢しい真似を…!」

「どうだ!お前が散々利用し、見下した人間にやられる気分は!千年以上生きてるお偉い様らしいけど頭の良さでこの私に張り合おうなんざ、一万年早いんだよ!」

 

束はそう勝ち誇った様に宣言した。

 

「今だよちーちゃん!いっくん!あとマーちゃん!三人の零落白夜を!」

一夏

「零落白夜!?」

「…そうか。ひとつだけなら威力不足でも千冬さんとマドカの分も合わせれば!」

セシリア

「でもムンドゥスの動きを止めないと!」

「それならクーちゃんの蝸牛があるよ。完全にはいかないだろうけど一瞬くらいなら止められる筈だよ」

クロエ

「わかりました!」

ラウラ

「しかしまずは蝸牛の範囲に入らなければ…」

火影

「ならば俺と海之が止める。一夏達は備えとけ!」

ムンドゥス

「調子に乗るな。貴様ら如きに余の動きが止められると思うか」

 

とその時、

 

「それはどうかしらね?」

 

 

シュバァァァァァァァ!!

ヴゥゥゥゥンッ!!

ガシッ!!

 

 

突然別の方向から飛んできた攻撃。それはムンドゥスの身体を縛る様に捉えた…炎に包まれた鞭のような物。そして結界の様なもの。

 

ムンドゥス

「これは…!」

刀奈

「な、何!?」

一夏

「あの攻撃は!」

スコール

「こんな攻撃にもあたるなんて本当に効いているみたいね」

オータム

「借りを返しにきてやったぜ化け物!」

 

それはオータムのアラクネが放った蜘蛛の糸、そしてスコールのゴールデン・ドゥーンが持つ炎の鞭だった。

 

「あれは!」

シャル

「スコールとオータム!」

刀奈

「…そうか。博士がここまでこれたのはふたりのおかげね」

「そういう事♪ダリルちゃんとフォルテちゃんは先に避難してもらったよ」

ムンドゥス

「…堕ちた者共が…!」

スコール

「確かに私達は堕ちてるかもね。…でも貴方ほどじゃないわ!」

 

スコールとオータムが一瞬を抑え、

 

「クーちゃん!」

クロエ

「はい!蝸牛!!」ヴゥーーンッ!

 

一気に近づいていたクロエがムンドゥスの周辺で蝸牛を起動させた。

 

「今だよ!!」

千冬

「一夏!マドカ!」ドゥルルルン!

一夏

「おお!準備はできてるぜ!」ギュオオオオ…!

マドカ

「私を…そして私の姉妹達の仇!」カッ!!

 

千冬のレッドクィーンが炎を上げ、一夏のナイトメアモードが起動し、マドカの黒焔が光り輝く。

 

火影

(三人共…!)

海之

(倒せるか奴を!?)

「決めろ一夏!千冬さん!」

スコール

「行きなさいマドカ!」

 

ドゥンッ!!!

 

三方向から一夏、千冬、マドカが全力の瞬時加速で突っ込む。ムンドゥスはスコール、オータム、クロエによって動きを封じられたまま。

 

一夏

「食らえムンドゥス!!」

千冬

「私達の、そして殺された人達の悲しみを思い知れ!!」

マドカ

「はあああああああ!!」

 

カッ!!!

 

 

一夏・千冬・マドカ

「「「零落!…白夜(闇夜)ぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

 

雄たけびと共に一気に斬りかかった三人だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムンドゥス

「……………ふ」

 

 

ガキィィィィィィィィィィン!!

 

 

一夏・千冬・マドカ

「「「!!」」」

 

…が、一夏達の零落白夜は全て防がれていた。ムンドゥスが自分を守るかの様に周囲に展開した…黒い金属の壁によって。

 

「なっ…何!?」

 

予想外の出来事に束も驚愕する。

 

「一夏達の零落白夜が…弾かれた!?」

「そ、そんな!束さんのウィルスが効いた筈じゃ!」

火影

「あの壁…!先生お前ら逃げろ!!」

ムンドゥス

「無駄だ」

 

 

ドガァァァァァァァァァァァァァンッ!!

 

 

一夏・千冬・マドカ・クロエ・スコール・オータム

「「「うわあああああああ!!」」」

 

突然その壁が内側から大爆発し、ゼロ距離だった一夏達と至近距離だったクロエやスコール、オータムがその爆発に巻き込まれてしまい、吹き飛ぶ。

 

火影・海之

「「!!」」

セシリア

「い、一夏さん!千冬さん!」

ラウラ

「クロエさん!」

「マドカちゃん!スコールさん!オータムさん!」

 

それぞれが吹き飛んだ一夏達のもとに向かう。

 

シャル

「大丈夫!しっかりして!」

一夏

「く、くっ…そ…!」

千冬

「こ、こんな…馬、鹿な…」

スコール

「な、なんて…威力…なの…」

 

逆に真面に食らった一夏達はその痛みに苦しむ。そして爆発が起こった場所の中心には…、

 

ムンドゥス

「…下らん茶番に付き合うのも終わりだ」

 

変わらないままのムンドゥスが浮いていた…。

 

 

憤怒の盾(サタナエル)

 

自身の周囲に無機物の金属の壁を張る。その強度は恐ろしく頑丈で打鉄の刀程度なら斬りかかっただけで木の枝の様に折れてしまう。純粋に途轍もなく硬いだけでエネルギーも何も流れていないため零落白夜のエネルギー効果も受け付けない。更に壁に触れると憤怒mの怒りの如き凄まじい爆発を起こす。

 

 

一夏

「む、ムン…ドゥス…!」

ムンドゥス

「人間如きの技がこのムンドゥスに通用すると本気で思っているのか?」

「な、何でだ!?私のプログラムは完璧な筈だ!」

 

自らのウィルスが効いていない事に流石の束も驚きを隠せない。そんな束にムンドゥスは言い放つ。

 

ムンドゥス

「先ほど貴様は余に見下している、と言ったな?それは貴様の方ではないのか篠ノ之束?まだ気が付かぬのか、貴様らにはふたつの敗因がある事を」

「は、敗因だと!?」

ムンドゥス

「まずはひとつ…。貴様らが今余に放ったその技。それは斬ったものにある力、その者に流れるエネルギーを断つ技という事は知っている。ならば魔力もSEも、血も涙もなにひとつ流れていない無機物ならば全くの無力。余がその様な事に気付かぬとでも思ったか」

マドカ

「…!!」

 

ムンドゥスの言う通り零落白夜はSEやエネルギーに傷を入れ、直接ダメージを与えられる技。しかし逆にいえばそれが全くない石や壁に繰り出してもその効果は無く、単純に切れ味の勝負になる。零落白夜の切れ味はエネルギーの調整でシールドを切り裂き、そのまま生身を傷つける程高くはあるが、その威力でも刃が立たない盾ならば…零落白夜は無力となる。

 

ムンドゥス

「そしてふたつ…。篠ノ之束、貴様は自ら生み出した妙なもので余のこの身体とコアを縛れると言ったが…それは「アルダ・スパーダのコア」としての話であろう?」

「…!!」

ムンドゥス

「ドレッドノート・システムとやらも…デビル・トリガーとやらも…アルダ・スパーダとやらも、全てアルゴサクスが己の下らん企みの中で生み出した下らん玩具にすぎん。奴の手から離れ、余の身体の一部となった時からこの身体もコアもその性質を変えている。貴様の下らんそれでこのムンドゥスを縛ったままにできると思っていたのか?」

「馬…鹿な…!」

ムンドゥス

「更にアビゲイルの奴を引き合いに出したな?奴がなんだというのだ?あんな番犬の如き存在、今の余とは比べるのもおこがましい」

 

 

ギュオォォォォォォォッ!!

 

 

その時、ムンドゥスの三つ目がゆっくり輝き始めた。

 

オータム

「な、なんだ!?」

クロエ

「今度は、何を…」

火影

「!! やべぇ!!」

海之

「逃げろお前達!!」

 

火影と海之はその輝きを見て全員に逃げろと言うが、

 

ムンドゥス

「余の光からは決して逃れられん」

 

 

カッ!!シュバァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

火影・海之

「「!!」」

一夏

「うわ!」

千冬

「くっ!!」

刀奈

「な、何この光!?」

 

その場にいる全員がその赤き目の輝きを受け、あまりの光量に目を閉じてしまった。

……やがて光が収まり、その場が再び宇宙を模した様な空間に戻る。

 

「……あれ?」

シャル

「何も…なってない?」

セシリア

「どういう…事でしょう?」

 

誰もが不思議に思う中、火影と海之は違った。

 

火影

「てめぇ…!」

海之

「くっ!」

 

そして千冬やスコールも、

 

千冬

「…!こ、これは!?」

スコール

「私達の武器が…使えなくなっている!」

 

スコールの言葉を聞いて一夏達も確認する。

 

「武器が全て…使用不能だと!?」

セシリア

「スターライトやティアーズ…ローハイドまで!」

シャル

「パンドラの武器が…全部使えなくなってる!」

「…嘘、ケルベロスも呼び出せない!」

 

そんな声が全員から出てくる。皆其々が自らの戦う術を失っていたのだ。

 

ムンドゥス

「フッフッフ…」ズドドドドドドドッ!!

海之

「! 避けろお前達!!」

 

ドガァァァァァァン!!

 

一夏達

「「「うわああああ(きゃああああ)!!」」」

 

攻撃をよけきれなかった何人かが吹き飛ぶ。威力的には大した事ない筈なのだがそれには理由があった。

 

マドカ

「な、なんだ?シールドが起動しなかっただと!?」

 

そう、ISを守るシールドが今の攻撃を受けても機能せず、絶対防御で受け止める形となったため、通常よりも遥かに強い衝撃を受けたのだ。

 

クロエ

「まさか…これも先ほどの光が!?」

火影

「シールドだけじゃねぇ。瞬時加速(イグニッション・ブースト)明滅瞬時加速(ブリンク・イグニッション)も使えねぇぞ!」

「そんな!」

ラウラ

「武器だけでなく防御や高速移動もできなくなったという事なのか!?」

刀奈

「これは…最悪の事態になったわね…」

 

 

傲慢なる邪眼(ルシファー)

 

ムンドゥスの赤き三つ目から放たれる光。受けると暫くあらゆる能力を封じられる。機械ならば全機能が、ISならば飛行能力と絶対防御以外の全ての機能を封じられる。魔剣ダンテ、魔剣伊邪薙、スパーダの力には無効だがミラージュソードや次元斬、幻影剣等は使えなくなる。重ね掛けや他の技と違い連射は出来ない。

 

 

「こんな…こんな馬鹿な…」

ムンドゥス

「少しは理解したか?愚かな人間共よ。貴様らがどれだけ群れようが、どんな手を使おうが、余の前には全くの無力。貴様らの運命は既に余の手の中にある。大人しく、自らの運命を受け入れるがいい…」

一夏

「ち…ちっくしょう…!」

千冬

「ここまで来ながら…負ける訳には…!」

 

するとそんな一夏と千冬を見て、

 

ムンドゥス

「……そうだ、冥途への土産にひとつ教えてやろう。女、そして小僧。貴様らには確か、アルゴサクスの計画に参加した父親がいただろう?そしてそれが…そこの女に殺された事を」

一夏・千冬

「「!!」」

「…え!?」

セシリア

「ど、どういう事ですの!?スコールさん、が…!」

スコール

「…織斑秋斗…!なぜお前がその事を…!」

 

一夏と千冬、そしてスコールもまた反応する。

 

火影

「てめぇ!」

ムンドゥス

「ふっふっふ…だがそれは真実とは違う。奴の命を奪ったのはアルゴサクスだ。余が貸し与えた力によってな」

一夏・千冬・スコール

「「!!!」」

「な…なんですって!」

オータム

「スコールじゃなくオーガスのジジイがやっただと!?」

ムンドゥス

「喜べ女。貴様の力は使えそうだったとの事でな、奴が貴様に死なない程度に結界を張っていたのだ。故にあの爆発でも生き延びた。そういう事だ…」

スコール

「そん…な…」

一夏

「……てめぇ、てめぇが!!」

千冬

「おのれぇぇ!!」

 

ドガァァァァンッ!!

 

一夏・千冬

「「ぐあああああ!!」」

 

再び攻撃を受けてしまう一夏と千冬。

 

「いっくん!ちーちゃん!」

ムンドゥス

「余の復活のために貴様らの父親には役立ってもらった。その礼として殺すのは後に伸ばしてやろう。…その前に」

 

 

ヴゥヴゥヴゥヴゥヴゥヴゥンッ!!!

 

 

ムンドゥスが展開した赤き光弾が束に向けられる。

 

「!!」

ムンドゥス

「まずは貴様からだ篠ノ之束。貴様には世話になったが…貴様は余の身体を蝕みおった…。その罪は何よりも重い。塵ひとつ残らず消滅させてくれるわ」

クロエ

「束様!」

「姉さん!」

 

ドゥンッ!

 

その時束と、彼女を助けようとしていた皆の動きが固まる。怠惰の枷(ベルフェゴール)である。

 

シャル

「か、身体が!」

マドカ

「指先一本…動かせない!」

「姉さん逃げてぇぇぇ!!」

 

 

ドクンッ!!

 

 

火影・海之

「「!!」」

ムンドゥス

「消え去れ」

 

 

ズドドドドドドドドドドドドド!!!

 

 

全ての攻撃が束に放たれた…。




束のウィルスによって今度こそ追い詰めたと思った一夏達。しかしムンドゥスの力はそれさえも凌駕してしまっていた。「傲慢なる輝き」によって全ての戦闘能力を奪われた一夏達。そして束に繰り出されるムンドゥスの容赦ない攻撃。果たして…?


Nextmission……「全てをこの一撃に!!」


それは文字通り、全てを籠めた最後の一撃…。

※次回は25日(土)の予定です。
遅れると思いましたが投稿に何とか間に合いました。お騒がせ致しました。戦いもクライマックスに向かいます。


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Mission220 ラストバトル⑤全てをこの一撃に!

ムンドゥスの身体に現れた突然の異変。それは束がデビルトリガー、そしてDMCウィルスを解析して生み出した新型のDMCウィルスを仕業だった。その影響で動きが鈍くなったムンドゥスに一夏、千冬、マドカは全力の零落白夜を放つ。
……しかしムンドゥスはウィルスを茶番と切り捨て、零落白夜を「憤怒の盾」で跳ね返しただけでなく、更に「傲慢なる邪眼」で全員の戦闘能力を奪ってしまった。戦う術を失った彼ら、そして束にムンドゥスはとうとうとどめの一撃を繰り出そうとしていた…。


怠惰の枷(ベルフェゴール)の力で皆が動けない中、ムンドゥスの展開した光が一夏達、中でも束に集中して向けられる。

 

一夏

「束さん!」

千冬

「束!」

「姉さん逃げてぇぇぇ!」

ムンドゥス

「刹那の瞬間とはいえ、余を蝕んだ罪は重い事を知るがよい。消え去れ…篠ノ之束」

「!!」

 

ドクンッ!!

 

火影・海之

「「!!」」

 

 

ズドドドドドドドドドドド!!!

 

 

ムンドゥスの赤き光弾が一斉に発射された。

 

クロエ

「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」

刀奈

「もうダメ!!」

 

最悪の事態を誰もが予測し、直視できないと全員が目を閉じる。

 

一夏

「……………………?」

 

一夏を始め、その場の皆が不思議に思った。ムンドゥスの放った攻撃は間違いなく何かに命中した筈。なのに身体がなんともない。痛みもない。そして全員がゆっくり目を開けると、

 

全員

「「「!!!」」」

ムンドゥス

「……時が切れたか」

火影・海之

「「……」」

 

一夏達は目の前の光景に言葉を失った。束が傷を負っていなかったのは火影と海之がその身体を、全てのミラージュソードや幻影剣、更にナイトメア、グリフォン、シャドウも何もかもを出し、束や一夏達に繰り出された攻撃の盾となっていたからだった。剣は受け止め、ナイトメア達はその身を盾にして串刺しになり、火影と海之も全身にムンドゥスが放った赤い矢が刺さっている。当たる直前、ふたりが受けた「傲慢なる邪眼」の時間切れが起こり、すぐさま「悪魔還り」を起動したのだった。ダメージが限界を超えたのかナイトメア達は消え、幻影剣は折れて朽ち果てる。

 

火影

「はぁ…はぁ…ぐ、ぐく…」ドサッ

海之

「ぐっ…」ドッ

 

ダメージが大きいのかふたりは腕を地につける。

 

オータム

「…な、何だあいつら!?」

スコール

「あの兄弟とISは似ているけど…様子が違う…。一体何が起こったの…!?」

マドカ

「……」

 

突然現れた謎の存在にオータムやスコールは驚き、マドカも言葉を失っている。……だが彼女達は違った。

 

一夏

「…!!」

「……あ」

「火…影、…火影、だよね?」

火影

「い、いいタイミングで…切れてくれたぜ…」

「…海之くん…でしょ?…私…わかるよ」

海之

「…無事か…お前達」

 

その言葉で全員が一斉にふたりの下に集まる。

 

シャル

「火影!海之!」

ラウラ

「博士だけでなく私達全員の盾になったのか!?」

「あれだけの攻撃を全て…なんて馬鹿なことを!」

火影

「ハハ…技出す暇もなかったから…こうするしか…な」

セシリア

「で、でもおふたり共…。その姿は一体…?」

刀奈

「…もしかしてそれが君達の?」

海之

「……そうだ。これが俺達の単一特殊能力…「悪魔還り」、悪魔に還る…力だ」

クロエ

「悪魔還り…。悪魔に還る力…!」

千冬

「…確かに電脳世界で見たのと同じ…。それがお前達の悪魔としての姿、という訳だな…」

火影

「…怖ぇか?…まぁ無理も、ねぇな…ハハ」

 

火影はきっと皆が自分達を見て怖がっているだろうと思ったが、

 

「馬鹿!!」

セシリア

「…怖いなんて…そんな訳ありませんわ…」

「…ああ。驚きはしたが…この安心感は紛れもなくお前達だ」

シャル

「ごめん…ごめんなさいふたり共…。僕達が頼りないから…」

 

そんな者はひとりもいなかった。

 

マドカ・スコール・オータム

「「「……」」」

「ほんと馬鹿だよふたり共!私なんかのためにこんな傷だらけになって!私みたいな役立たずなんか…放っておけばよかったんだよ!」

海之

「……貴女は、約束した。ISを…正しき方向に、導くと」

火影

「ああ。その前に死なせたら…父さん達に怒られっからな」

「…ひーくん…みーくん…」

 

そんな彼らをムンドゥスは、

 

ムンドゥス

「…愚か、実に愚か…。いてもいなくても意味のない存在のために己の命や勝機を犠牲にするとはな…」

一夏

「…てめぇ…!!」

千冬

「……ああ。貴様には理解できぬだろうな。…永遠に」

 

そう言い放つムンドゥスを全員が怒りの目で見る。

 

ムンドゥス

「ふっふっふ…。貴様らの怒りが伝わってくるぞ…。だがその怒りを束にしてかかってきても、最早貴様らには余にかすり傷はおろか、触れる事さえもかなわぬ。奴らの愚かな振る舞いも、死期を僅かに伸ばしただけにすぎぬわ」

「くっ…」

クロエ

「でも…確かにもう私達には…」

ラウラ

「ここまで、ここまで来ながら…」

 

誰もが自分達の絶対的な敗北を悟っていた。…そんな中、

 

火影

「…ふっ、本当にそうかねぇ?」

「……え?」

海之

「ああその通りだ」

「…どういう、事?」

 

火影と海之の目にはまだ…諦めていない光があった。身体の傷が癒え、ふたりはゆっくりと立ち上がる。

 

火影

「…はぁ…。束さん。あんたのやった事あながち意味あっかもしれねぇぜ?」

「…ひーくん?」

「そ、それはどういう事だ!?」

 

すると海之が続けた。

 

海之

「こいつが言った通りだ。束さん、そして千冬先生が奴に与えた傷は、意味があったという事だ」

セシリア

「!…それってどういう…!」

ムンドゥス

「フン、何を言っている?。とうとう気がおかしくなったのか?」

 

そうムンドゥスは吐き捨てるように言うが、

 

火影

「…ハッ、てめぇこそ苦し紛れの脅しはやめるんだな?」

ムンドゥス

「…なんだと?」

 

火影は笑い声をあげて言い返した。

 

「く、苦し紛れって?」

海之

「そのままの意味だ。…貴様の中には今もウィルスが活動を続けている。違うか?」

束・千冬

「「!」」

一夏

「な、なんだって!?」

マドカ

「どういう事だ…!?」

 

誰もが信じられないという顔をしている。

 

海之

「…ムンドゥス。貴様から伸びていた俺達を縛っていた光、あれを千冬先生がその剣で断ち切った時、束さんのウィルスが貴様の中に入った。そしてその毒は…貴様の力を確かに狂わせた。効力は人形共に比べて弱いか、若しくは力づくで抑え込んでいるのかもしれんがな」

千冬

「…!」

クロエ

「ほ、本当ですか兄さん!?」

火影

「てめぇは下らん茶番といったな?ならさっきまでてめぇの身体に起こってたあの妙な反応はなんだってんだ?技が消えたり動かなかったり、他の皆はともかく俺達がそれに気づかねぇとでも思ったか?おまけにスコールやオータムの捕縛にひっかかってたりしたしよ?」

スコール

「…確かに」

オータム

「あ、ああ。芝居ってんなら防ぐこともできただろうし…」

火影

「もっといやぁ今もだ。束さんや俺らにとどめを刺そうと思ってたんならなんであの光るスライムもどきの剣やしつこい槍を出さねぇ?まとめて瞬殺できただろうぜ?おまけに悪魔還りを使ったとはいえてめぇの拘束が簡単に解けるなんて、あん時は慌ててて気づかなかったがアレッ?って思ったぜ。これは予想だが…使えなかった、或いはまたさっきみてぇに消える可能性があったから使わなかったんじゃねぇのか?」

ムンドゥス

「……」

 

ムンドゥスは何も答えない。

 

シャル

「…もしかして本当なの…?」

ラウラ

「…という事は海之!」

海之

「ああ…。ウィルスが貴様の力を弱体化させている今こそ、貴様を滅ぼせる絶好の機会だ」

火影

「更に嬉しい事にてめぇのさっきの妙な光はどうやらある程度時間が過ぎねぇと使えないのはなんとなく予想できた。もし連発できんなら一夏達が表れてからもとっくに使ってた筈だ」

刀奈

「…確かにね。そして火影くんと海之くんは二回受けたみたいだけど…今その効果はない。多分前の効果が続いている間は効かないんだわ」

海之

「そういう事だ。この機に乗じ、貴様を今度こそ滅ぼしてやろう」

火影

「ああ。そして全てを終わらせてやるぜ。貴様との腐った因縁をな」

 

そして火影と海之は再び前に出ようとした……その時、

 

ムンドゥス

「戯け」

 

 

ズガガガガガガガガガガガガガ!!

 

 

火影・海之

「「ぐあああああああああ!!!」」

 

突然、火影と海之に凄まじい激痛が走った。よく見ると…先ほどの赤い光弾が刺さっていた場所が光り、そこから痛みが発しているようであった。

 

火影・海之

「「ああああああああああ!!!」」

一夏

「火影!海之!」

ムンドゥス

「…懐かしいだろうダンテ?あの時、トリッシュを助けようとして余の光を受けた…あの時と同じだ。…いやあの時よりも痛みはさぞ激しいであろう。まるで身体の内側から幼虫に食い破られるような、な…」

火影

「はぁ…はぁ…ぐっ!」

海之

「おの…れ…!」

 

よほどの苦しみだったのか痛みが消えても直ぐに立てずにその場に蹲るふたり。

 

シャル

「火影!」

「しっかりして海之くん!」

ムンドゥス

「…だがその洞察力と執念、流石はダンテとバージル…奴の息子よな…。大したものだと素直に認めてやろう。…貴様らの言う通り…余の中には今もその女が仕込んだ忌々しい毒がゆっくりゆっくりと蝕んで居る。このまま何も手を打たなくば消滅こそしないにしろ…いずれは余の力は大きく失われてしまうだろう…」

「!…ならばそれまでもたせれば!」

ムンドゥス

「不可能だ」

 

箒の言葉を即座に否定するムンドゥスは続ける。

 

ムンドゥス

「虚言をはいているのは貴様らとて同じだろうダンテ、バージル。例え力が戻ろうとも、今までの戦い、そして余との戦いでかなりの体力を消耗している筈。今の貴様らに余の身体に毒が回るまで互角に戦うだけの力が残っているのか?…否、もっても数分。後ろの人間共に至っては一分もかかるまい」

セシリア

「くっ…」

マドカ

「舐めた事を言ってくれる…!」

 

だがそれはあながち間違いではなかった。戦う術を全て失っている今の彼女達では逃げ場も抗う術もない。

 

ムンドゥス

「もうひとつ教えてやる。余の中にある毒は半時ほど力を集中させれば完全に消し去る事はできるのだ。貴様らを滅ぼした後、ゆっくりと行えばよいだけの事…」

クロエ

「そんな…」

ムンドゥス

「わかったか、穢れし人間共。貴様らが何をしようと、どれだけ抗おうと無駄である事を。貴様ら人間の運命は余がこの世界に現れた時点で決定していた。新たな魔界の誕生と、余の完全なる復活という運命がな」

「くっ…」

「本当に…本当にもうダメなの…?」

刀奈

「虚…本音、…ゴメンね…」

 

誰の目にも絶望の色が浮かんでいた。

 

一夏

(もう…本当にダメなのかよ…!折角千冬姉や束さんがチャンスを作ってくれたのに…火影や海之が助けてくれたってのに!俺にはもう何もできないって………これは!)

千冬

(…海之、火影)

火影

(…!)

海之

(先生?)

 

すると千冬が誰にも聞かれない様通信でふたりに通信してきた。

 

千冬

(時間が無いから簡単に聞く。奴を倒すためにあの光の次に厄介なもの、あの零落白夜をも跳ね返す盾だ。お前達、あれを何とかする事はできるか?)

 

千冬の問いかけにふたりは、

 

海之

(…方法はあります。俺の次元斬・滅の刃を一点に集中させ…砕く)

火影

(そして再生される前に俺が全部の剣をまとって突っ込む…)

海之

(…だがそのためには奴の動きを数秒、少なくとも三秒は完全に止める必要があります。そうでなければ最大限の威力を発揮できない…)

 

その言葉を聞いて千冬は、

 

千冬

(…ふっ、それだけ聞ければ十分だ。…よく聞けふたり共、私が奴を捨て身で止める。その間に準備を整えておけ)

火影

(…!!)

海之

(…何を言っているのだ貴女は…!!)

 

火影は驚き、海之は怒りを含んでいる。千冬が命を捨てる覚悟である事を感じとったのだ。

 

千冬

(それしか方法はない。他の奴らではその役目は無理だ。ならば私がやるしかない。何、教え子のために命を懸けるのは教師としての役目だ)

海之

(しかし!!)

スコール

(そういう役目は私よブリュンヒルデ)

 

するとスコールが割って入ってきた。どうやら聞いていた様だ。

 

千冬

(スコール・ミューゼル…。どういうつもりだ?)

スコール

(その言葉そっくり返したいんだけど…?貴女にはまだ生きてやるべき事があるわ。束と一緒よ。こんな場所で死んではいけない)

火影

(…勝手に話を進めんじゃねぇ…。お前も生きる資格はあるんだ。馬鹿な真似は許さねぇ)

スコール

(…ありがと。でももういいの。オータムやダリル達を…頼むわね)

千冬

(アレクシア!)

 

そしてスコールが動こうとした…その時、

 

 

一夏

「…アハハハハハハハハハハハ!!」

 

 

突然一夏が笑い始めた。とても楽しそうに。当然その場にいた全員が一夏に困惑する。

 

火影・海之・千冬

「「「…!」」」

「い、一夏!?」

セシリア

「一夏さん!?」

「な、なにを笑ってんのよこんな時に!」

 

すると一夏が突然ゆっくりと前に出る。

 

一夏

「そうか、…そうだったな」

刀奈

「なにやってるの一夏くん!」

 

だが一夏は歩みを止めず、とうとう火影達よりも前に出る。その際一夏はふたりに小声で話しかけた。

 

一夏

「…火影、海之。締めを頼むぜ」

火影

「…何!?」

海之

「お前…!」

ムンドゥス

「…先に冥府を見たいというわけか」

 

すると一夏は独り言のように話し始めた。

 

一夏

「…火影と海之から俺の身体の事、そして父さんや母さん達がやったことを聞かされた時、正直自分の人生をちょっとだけ恨んだよ…。なんでこんな目にあわなきゃいけねぇんだって。なんで俺と千冬姉だったんだって…。四年前俺が誘拐された時も、そしてISを動かしたのも、全部政府の企みだったって聞いて…正直なんて言ったらいいのかわからなかったよ…」

千冬

「一夏…」

「いっくん…」

ムンドゥス

「人間の遺言に貸す耳はない…。消えろ」ギュオォォォォ!!

 

そしてムンドゥスは手に力をためる。だが一夏は逃げない。

 

「一夏!!」

一夏

「でも過去は変えられねぇし、父さん達がやった事を覆す事もできねぇ。…だからせめて」ドゥンッ!

 

そして一夏は飛び上がった。

 

セシリア

「一夏さん!?」

オータム

「何やってんだあのクソガキ!」

マドカ

「一夏!!」

ムンドゥス

「…死ね」

 

そしてムンドゥスの光が一夏に向かって放たれようとした時、

 

一夏

「ポジティブに考える事にしたぜ。俺が…四年前誘拐されたのも…ISを動かせるようになったのも…そしてDNSに操られたのも、全てはこの時のためだったんだって!!」

 

 

ドクンッ!!!

 

 

火影・海之

「「!!」」

ムンドゥス

「…何?」

 

火影と海之は一瞬驚愕した。一夏から凄まじい魔力を感じ取ったのだ。それはムンドゥスも同じだった。

 

 

(持っていきな。一度きりのとっときだ)

 

 

一夏

(悪かったなネロ!すっかり忘れてたぜ!お前が残してくれたやつを!)

 

白式の全ての武器が使用不能になっている中、ひとつだけ例外があった。

 

一夏

「…くらえぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

ズドォォォォォォン!!!

 

 

一夏の右腕から何かが飛び出してきた。それは一見……巨大な悪魔の腕。

 

千冬

「!!」

「い、一夏!」

セシリア

「な、なんですのあの腕は!?」

ムンドゥス

「…!」ズドン!

 

ムンドゥスはそれを迎撃しようと光を放つ。

 

 

ドガァァァァァン!!……ズドンッ!!

 

 

しかしその腕は無傷のまま破壊されず、引き続きムンドゥスに迫ってくる。

 

ムンドゥス

「何!…ちっ!」ドンッ!!

一夏

「逃がさねぇ!」

 

今度は高速で避ける。しかし悪魔の腕は逃げるムンドゥスを追跡する。

 

「!…まさかデビルブレイカー!?」

シャル

「で、でもどうして!?武器は使えない筈じゃ!」

火影

「あの腕は…まさかあいつの!」

海之

「…!!」

 

火影と海之はそれがどういうものなのか気付いた様だ。やがてどこまでも追いかけてくるのにしびれをきらせたムンドゥスは、

 

ムンドゥス

「小癪な真似を…。今度こそ消滅させてくれるわ!」ギュオォォォォォ…!!

 

再びエネルギーを溜め、狙いをその腕を操る一夏自身に向ける。

 

クロエ

「!」

刀奈

「まずい!一夏くん逃げなさい!」

一夏

「おぉぉぉぉぉぉ!!」

ムンドゥス

「消え去るがいい………!」

 

 

ガキィィィィィィィィィン!!!

 

 

するとその時、ムンドゥスの背後から何かが斬りかかる様な衝撃があった。しかし寸前でムンドゥスは気付き「憤怒の盾(サタナエル)」で受け止める。斬りかかってきたのは…

 

ムンドゥス

「…貴様は…!」

ル―ヴァ

「……」

 

海之に倒され、瀕死のまま放置されたルーヴァだった。

 

クロエ

「あれは!」

ラウラ

「黒い…Sin・ウェルギエルだと!?」

「…も、もしかして…!」

スコール

「…まさか…ルーヴァなの!?」

シャル

「る、ルーヴァって…あの前に戦った!?それが何でムンドゥスに!」

ムンドゥス

「バージルも倒せなかったがらくたが…何の真似だ!」

 

ムンドゥスはルーヴァに問いかけると、

 

ルーヴァ

「…俺は、誰にも支配されない!」

海之

「貴様…!」

ルーヴァ

「勘違いするなバージル、貴様に感化されたのではない。俺は…力そのものだ!」

 

 

ガシィィィィィィィィ!!

 

 

その時、一瞬気がそがれた隙に一夏の悪魔の腕がムンドゥスとルーヴァをまとめて掴んだ。

 

ムンドゥス

「!!」

 

ガキキキキキキキキキ!!!

 

そしてそのまま凄まじい握力で握りかかる。ムンドゥスの黒い盾は耐えているが後ろにいたルーヴァはもう全壊寸前だった。

 

ルーヴァ

「…バージル、…いや、海之…。さらばだ…!」

 

 

ドガァァァァァァァァァン!!

 

 

そしてとうとう身体が耐えられなくなったルーヴァはそのまま爆発した。

 

海之

「!」

「ああ!」

千冬

「ルーヴァ…」

 

一夏が放った悪魔の腕の様なデビルブレイカーはそのまま引き続きムンドゥスを握りしめる。

 

一夏

「うおおおおおおおおお!!!」

ムンドゥス

「…どういう事だ。この妙な腕からも魔力…しかも奴の力を感じるだと!?」

 

ムンドゥスの頭にはある者の存在が浮かんでいた。彼にとって決して忘れる事が出来ない存在。自らの全てを否定した始まりの存在。傲慢なる邪眼(ルシファー)の影響を受け付けないのは…これの中にあるその者の力が働いたからであった。

 

 

デビルブレイカー「デス・ブリンガー」

 

電脳世界で一夏が去り際にネロから渡されたデビルブレイカー。ブレイクエイジのみで使用可能で一度きりしか使えない。機械造りの巨大な悪魔の腕が対象を捕獲し、凄まじい握力で握り潰して破壊する。見た目はDMC4のネロの右腕だった悪魔の腕に近く、材質の一部にネロの血と細胞が使われている。デビルブレイカーの生みの親にとって最高傑作らしいがこれを使うだけの悪魔に出会う事がなかったためネロは生涯使う事は無かった。……というのは表向きで本当は勝手に血と細胞を取られたため酷く不機嫌になり、意地でも使わないようにしていたかららしい。

 

 

ムンドゥス

「………そうか。…時を超え…世代を変え…世界を違え、そして腕だけとなっても…どうあっても余の邪魔をしてくれるというのか。……この裏切り者(スパーダ)がぁぁぁぁぁ!!!」

火影・海之

「「…!!」」

 

ムンドゥスがそう叫ぶ中、火影と海之は一夏の背後にあるふたりの人物の幻が見えた様な気がした。アンジェロ・クレドを模した百式・駆零弩にあの時のネロの腕を見て。

 

 

ガガガガガガガガガガガガガガガガガ…ビキッ!!

 

 

その時、ムンドゥスの黒き盾にほんの少しだけだが異音が走った。まるでヒビが入った様な音。だがそれは一夏のデス・ブリンガーも同じく、既にあちこちに負荷からくるヒビが入っていていつ砕けてもおかしくなかった。

 

一夏

「砕けろおおおおおおおおおおお!!!」

ムンドゥス

「人間ふぜいがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

ドガァァァァァァァァァァァァァンッ!!!

 

 

そして先に砕けたのは……一夏のデス・ブリンガーだった。

 

一夏

「ぐああっ!!」

「一夏!!」

セシリア

「そんな…一夏さんのデビルブレイカーが…壊れてしまった」

マドカ

「まずい!一夏逃げろ!」

ムンドゥス

「小僧が…こざかしい真似しおって…。だがそれまでだ!」

 

ムンドゥスは盾を解除して一夏を再び狙おうとした、が、

 

一夏

「…へへっ!俺がお前を倒せるなんて思っちゃいねぇさ!お前を倒すのはあいつらだぜ!!」

ムンドゥス

「…!!」

 

ムンドゥスは一夏のその言葉にハッとし、見た。先ほどまでいた火影と海之が……いない。

 

海之

「…この切っ先に、真に一擲を成なして乾坤を賭せん…」

簪・ラウラ

「「海之(くん)!!」」

千冬

「海之…頼む!」

 

そして気が付くと…伊邪薙と幻影刀を構える海之とその残影が取り囲んでいた。

 

 

ムンドゥス

「バージル!!」

海之

「刮目するがいい。次元斬…滅!!」

 

 

ズガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!

 

 

一斉に襲い掛かる海之の力を全て込めた次元斬の嵐。それが先ほど一夏が与えた傷の一点に集中する。そして、

 

 

ガガガガガガ……バリィィィィィィィィィンッ!!!

 

 

凄まじい爆音と共に、ムンドゥスの「憤怒の盾(サタナエル)」が木っ端微塵に砕け散った。

 

ムンドゥス

「何ぃぃ!?」

クロエ

「やった!シールドが…壊れた!」

海之

「火影!!」

火影

「おお!!」

 

海之の言葉にこたえる火影。いつでも攻撃できるようミラージュソードを全開にし、手には魔剣ダンテを握りしめていた。加えて海之の幻影剣も浮かんでいる。

 

「行きなさい火影!!」

シャル

「火影!お願い!」

一夏

「火影!行けぇぇぇ!!」

火影

「てめぇのジョーカーは見せてもらった!今度はこっちの番だぜ!!」ドゥンッ!!

 

火影はダンテを前に出したまま全ての幻影剣をまとい、真・ディープスティンガーで突撃した。目指すは一点、ムンドゥスのコアのみ。

 

 

ムンドゥス

「ダンテェェェェェ!!」

火影

「うおおおおおおお!!」

 

 

ズドォォォォォォォォォンッ!!!

 

全ての力を籠め、火影はムンドゥスにぶつかった。黒き盾もシールドも張っていない。この一撃には耐えられそうもなかった……筈だった。

 

火影

「………何!?」

 

だがその剣は止められた。ムンドゥスのコアに届く寸前に、見えない壁の様なものに。

 

ムンドゥス

「…残念だったな」

海之

「何!」

セシリア

「火影さんの剣が…弾かれている!?」

スコール

「あ、あの一撃を止めるなんてどうやって!?」

「!…絶対防御か!」

ムンドゥス

「ふっふっふ、その通り。これも貴様らから得たものだ。ダンテ、貴様の言った通り、切り札は最後まで残しておくものなのだろう?」

千冬

「くっ…まさか絶対防御まで!」

火影

「ならそれごとぶっつぶすだけだ!」

 

 

ガガガガガガガガガガガガ!!

 

 

火影は突破しようと全力で突き進むが……まるで通らない。

 

ムンドゥス

「無駄だ。これは憤怒の盾(サタナエル)」以上よ。貴様如きに突破できん」

 

ガシッ!!

 

するとムンドゥスは火影を掴んだ。

 

ムンドゥス

「そしてダンテ、貴様を滅ぼせるのも今が絶好の機会というものだ」

 

ドゴォォォォッ!!ドゴォォォォッ!!……

 

ムンドゥスの拳が火影の頭部に直撃し、殴り続ける。

 

火影

「ぐあ!!ぐっ!!」

一夏

「火影!!」

「火影離れて!お願い!」

火影

「くっ…ダメ、だ!今を逃す手は、ねぇ!」

「火影!!」

火影

「いいから…どっしり構えて、ぐほっ!!ろ!…うおおおお!!」

海之

「くっ、次元斬の反動が…!」

 

攻撃をずっと受けながらも火影は剣を止めない。海之もまた全力の次元斬・滅の影響か動きが鈍くなっていた。

 

ムンドゥス

「…頭部では無理か。ならば」ヴゥンッ!

 

ムンドゥスの人差し指から「強欲なる剣(アモン)」の光が伸びた。

 

ムンドゥス

「力衰えようとも一本程度ならばどうとでもなる」

 

ドスッ!!ザクザクザク…

 

その光は火影の腹を貫いた。そしてそのままゆっくり心臓の方に向かう。

 

火影

「ぐぅぅぅっ!!」

ムンドゥス

「じっくりじっくりと走らせ、貴様の心の臓を貫いてくれるわ!」

シャル

「火影お願い!逃げてぇ!!」

 

皆は火影に逃げろと叫ぶ。鈴とシャルにいたってはとっくに涙を流している。だが火影は、

 

火影

「ぐっ!…親父は、スパーダは、命がけで母さんを守った。そして母さんは…俺を。俺がここで逃げたら…あの世でふたりに怒られちまうからよ…!」

千冬

「火影!!」

「ひーくん!!」

ムンドゥス

「安心するがいい。貴様の大事な者達もすぐに後を追わせてやる」

 

そしてムンドゥスの光が心臓に達するまで残り数センチに迫った。

 

火影

「ぐっくっ!」

(くそ…もう意識が…!)

 

この時火影は痛みからの軽度の錯乱状態に陥っていた。目の前のムンドゥス、光り輝くアルダ・スパーダの輪郭を見て、心の中である事を思っていた。

 

火影

(…親父…!アンタ…悔しく、ねぇのか…!アンタは…母さんを、人間を…守るために…故郷を…捨てて、まで、戦ったんじゃ、ねぇのか…!こんな野郎に…姿を、真似されて…しかも、守ろうとした、人間を滅ぼされようと…してる、ってのに…!悔しく、ねぇのか…!……答えろ!……親父ぃぃ!!!)

 

それは火影の心の叫びだった。そしてムンドゥスの光が心臓まであと一cmにまで迫っていた。

 

ムンドゥス

「…終わりだ。…ダンテ」

一夏

「火影!!」

海之

「!!」

火影

「ちっ…くっ…しょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!!」




一夏が作った傷と海之が開けた風穴。そして皆の想いの全てを乗せた火影の一撃。しかし無情にもムンドゥスの絶対防御はそんな決死の一撃をも弾く。痛みに苦しみ、意識が朦朧としながらも剣を放さない火影。するとその時、彼の心の叫びに応えるかのように火影、そして海之のコアが輝き始め、ふたりの耳に、懐かしい声が響く…。


Nextmission……「届いた声」


命散ったあの時、彼女は何を思っていたのか…。

※次回は来月8(土)になります。
本回で年内の投稿は最後になります。年内にはこの戦いを終わらせたいと思っていましたがハプニングが続いて思い通りいかず、長く続いてしまって申し訳ありません。また二週間後になりますがよろしくお願い致します。予定では来年の2月位にはこの作品を完結させる予定です。残り数話、どうか本作完結までお読みいただければ幸いです。
今年一年ありがとうございました。皆様よいお年をお迎えくださいませ。


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Mission221 ラストバトル⑥届いた声

束の最後の手段であるウィルスをも克服し、勝利宣言をするムンドゥス。しかし力を取り戻した火影と海之は改めてそれを拒否し、残された力でムンドゥスを倒す方法を模索する。するとその時、一夏が電脳世界で託されたデビルブレイカー「デス・ブリンガー」を使い、ルーヴァの捨て身の助けもあって盾にひびを生み出す事に成功した。更に続け様に海之の「次元斬・滅」が直撃し、風穴を開ける事に成功、そこに火影が全ての者達の想いを込めて「真・ディープスティンガー」で突入する。
……しかしムンドゥスの絶対防御は無情にもそれを弾き、逆に追い詰められてしまう火影だった……のだが。


火影

「………………………!?」

 

火影が目を開けるとそこには今までとは違う空間が広がっていた。宇宙空間だったのがうっすらと白い靄がかかっている辺鄙な場所と周りの環境もまるで違う。更に目の前にいたはずのムンドゥス、さらに仲間たちも消えている。

 

火影

「…何があった?…俺は…死んだのか?」

海之

「違うと思うぞ」

火影

「! 脅かすなよ…」

 

そこには何故か海之もいた。更に気づいたが自分達のIS、そして悪魔還りが解除されている。

 

火影

「何があったんだ?」

海之

「…覚えていないのか?お前が奴の光に心臓を貫かれようとした時…」

 

 

…………

 

ムンドゥスの光の糸は火影の心臓まで残り一cmに迫っていた。

 

ムンドゥス

「今度こそ終わりだ。…ダンテ!」

一夏

「火影!」

海之

「…!」

火影

「ちっ…くっ…しょおおおおおおおおお!!」

 

 

………パァァァァァァ!

 

 

その時突然火影、そして海之のコアがやんわりと輝くのだった…。

 

 

…………

 

海之

「お前だけでなく俺のコアも輝き始めた」

火影

「そしたらこうなった訳か。……ここはどこだ?またいつもの場所か?」

海之

「……見た所コアの内部に近いがあいつらの気配はないな」

 

海之のいう通り、そこは一見コアの内部に近いが何故かそうは思えなかった。周りに彼らの仲間の気配もない。

 

火影

「……しかしなんだろな。なんかそれとは別に見覚えがある気がすんだが?」

海之

「……そうだな、何故か俺もそう思う。まるで昔」

「当然でしょ?前に通ってるんだから」

火影・海之

「「!」」

 

その時ふたりの真後ろから声があった。ふたりが振り向くとそこには……ひとりの少女がいた。

 

 

少女

「ふふ、お久しぶりね♪元気だったかしら?」

 

 

そしてその少女に…火影と海之は見覚えがあった。

 

海之

「お前は……そうか」

火影

「あん時のアンタか。何時ぶりだ?俺らがあの世界に行く時だから…もう18年か?」

 

そう。その少女は火影と海之がダンテとバージルだった頃、死後自分達をこのISの世界に送った少女だった。

 

少女

「そうね、それ位になるわね。どうあの世界は?結構楽しんでいるみたいに見えるけど」

火影

「……そうだな。まぁ思ったよりは楽しんでるかもな、いろんな意味で」

少女

「それは何よりね。ガールフレンドも沢山できていい感じじゃない。前世からしたら想像もできないわね。貴方もバージルも」

 

すると海之がその話を区切る様に強めに言った。

 

海之

「そんな事を話すために奴との戦いに割って入ったのか?要件があるのならばさっさと言え。でなければ俺達を戻せ」

少女

「あら~相変わらずつれないわね~。せめてもう少し再会を喜んでくれてもいいのに~」

火影

「…そうしたいとこだが今回は俺も同意見だ。何の用だ?救ってもらっといて悪く言うのはなんだが世間話をするために俺達の前に現れたんじゃねぇんだろ」

少女

「貴方もつれないわね~ダンテ。いやもうダンテじゃないのか。火影だったわね。…ま、確かに今はそんな場合じゃないわね。時間は止めてあるけど貴方達の気持ちもわかるし、本題に移りましょっか」

 

そして少女が姿勢を整えると先ほどまでの様なふざけた気配が消えた。

 

火影

「!…ほう、さっきまでとは気配が違うな。それが神の御力、ってやつか?」

少女

「前にも言ったでしょ?私は神様ではないけどそれに近い存在って。…今回来たのは他でもない。貴方達に謝罪したい事があってね」

海之

「…謝罪だと?」

少女

「そ。私が貴方達をこの世界に転生させたのは…ただ単に貴方達に第二の人生を送ってほしいからじゃない。本当の目的は別にある」

 

すると少女が続ける前に、

 

火影

「アルゴサクス、そしてムンドゥスを何とかしてほしかったからか?」

少女

「……やっぱり気づいていたのね」

海之

「気付かん訳がない。奴があの世界にいると分かった時から予想はできた。だがその答えを聞く前にこちらも聞きたい。…何故アルゴサクスを転生させた?よりによってあの世界に」

少女

「生まれ変わるのに善人も悪人も関係無い。命は死ぬと魂は洗われ、新しい肉体になって再び生まれ変わってくる。でも誰が生まれ変わってどの世界に生れ落ちるかは…私達にもわからない。貴方達は反則すれすれの特別」

火影

「…アンタじゃないのか?てか神様にもわかんねぇのか?」

少女

「神とて万能ではないのよ?それは人間の勝手な想像。世界の摂理には逆らうことはできない」

海之

「摂理…。均衡を正す力、とやらか…」

少女

「ともかくアルゴサクスという悪魔、彼が生まれ変わり、あの世界に転生した事は私達にも全く予想できなかった事。でも安心はしていたの。さっきも言った様に彼は記憶も力も何もかも無くしていたし、このまま何もなければ健全な人間として一生を終える筈だった…」

火影

「だが聞いた事があるぜ?世の中には前世の記憶を残したまま生まれ変わってきた人間もいるってな。本当かどうかは怪しいもんだが」

海之

「それを言うならば俺達もだろう?」

少女

「確かに。でもそんな事は本当に極々稀だし、美化されたものが殆どだわ。例え思い出してもその世界に大した影響はない。例えアルゴサクスでもあの世界ではね」

 

そしてここで海之が核心とも言える事に触れる。

 

海之

「だが…奴が現れた事で事態は急変してしまった…」

少女

「……ええ。あの…「ムンドゥス」という悪魔が次元の壁をこじ開け、本来存在しない筈のISの世界に出現してしまった。そのせいでアルゴサクスは人としてのまま前世の記憶を取り戻しただけでなく、魔力を持ち、更にムンドゥスがいなければ本来起こる必要もなかったかもしれない事件まで起こってしまった…」

火影

「アインヘリアル計画…」

 

そして火影は思った。もしかしたら…父と母が亡くなったあの飛行機事件も起こらなかったかもしれないと。

 

少女

「ある筈のない存在同士の会合、そして幾多の事件。更にこのまま放っておくと将来必ず起こる世界の結末。このままでは本来あるべき世界の均衡が本当に崩れ落ちてしまう…。でも私達にはどうすることもできない。神自身が直接世界へ干渉する事は絶対にやってはならない事なの」

火影

「…だから俺達、って訳か」

少女

「ええ。貴方達ならばこの歪みを正し、元凶たる存在をなんとかしてくれるかもしれない。そう思って私は貴方達をあの世界に送ったの。私が行使できる全ての事を使い、嘗ての貴方達の力や記憶もそのままに…」

火影・海之

「「……」」

 

自分達の転生の意味を知り、ふたりは黙る。

 

少女

「ごめんなさい。貴方達を騙す様な事をして…。でも彼にはもう力は残っていなかったし…」

火影

「…彼?」

海之

「もうひとつ聞こう。仮に俺達がお前の目的をかなえたとして俺達はどうなる?役目御免であの世界から消えるのか?」

 

すると少女は首を横に振りつつ、

 

少女

「貴方達があのアルゴサクスやムンドゥスと同じ様な考えを持ち、世界を破滅に導こうというのならば送った私の責任として消す事は出来なくないけど…」

火影

「物騒だな」

少女

「もしもの話よ。…でも貴方達はもうあの世界、特に周りの人にとってかけがえないものになっている。中には貴方達の傍が自分達の居場所としてる位。そんな人を消せるわけないじゃない」

火影

「それを聞いてちょい安心したぜ」

 

話を終えると少女は再び姿勢を正し、

 

少女

「…お願い。英雄スパーダの息子であり、今はあの世界に生きる者達。あの世界を救って。あるべきでない存在である邪悪なるものを…邪悪なる神を打ち倒して…」

 

ふたりに正面から向き合って頼んだ。

 

海之

「頼むのは簡単だが状況は極めて不利だぞ?もう俺達は満身創痍だからな」

少女

「…ええ。だから今回は貴方達にとって最高の薬ともいえるものをお連れしたわ」

火影

「俺達にとって最高の薬?」

海之

「連れてきた…とは?」

 

 

「…ダンテ…バージル…」

 

 

火影・海之

「「!!!」」

 

するとその時、火影と海之の背後から自分達の昔の名を呼ぶ声がした。そして火影と海之はその声に激しく動揺していた。しかし不安やそんなものではない。何ともいえない温かみみたいなものがこみ上げて来るような、そんな気持ちだった。ふたりがゆっくり振り向くと、

 

女性

「……」

 

そこにはひとりの女性が立っていた。髪は長い金髪で赤い服を着ている。

 

火影・海之

「「……」」

 

ふたりは信じられないものを見ている様な表情をしながらもその女性にゆっくりと近づいていく。その後ろで少女は気づかれない様にゆっくりと姿を消した。

 

火影・海之

「「……」」

 

その女性をすぐ前にしてもふたりは何も言わない。なんと声をかけるべきかわからない様子であった。そんなふたりに女性が声をかける。

 

女性

「久しぶりね…ふたり共。あと…大きくなったわね」

海之

「…わかるのですか?」

女性

「当り前じゃない。例え大きくなったとしても…自分の子供を見間違える訳ないわ」

火影

「……母さん」

 

ふたりの前にいるのは…嘗ての自分達の母であり、火影を救い、海之を探して息絶えた…エヴァであった。もう100年以上は経つ親子の再会である…。

 

エヴァ

「貴方達の事…ずっと見ていたわよ。子供の頃から相変わらず喧嘩ばかりしてたわね」

火影

「マジか…。みっともねぇとこみせちまったな」

エヴァ

「本当よ。特にダンテ、貴方のあの生活ぶりには呆れたわ全く。一時期とはいえ、電話も電気も水道も全て止まるってどういう事なの?」

火影

「はは…まぁ今思えば確かにあれは酷かった…。でも安心してくれ。もう絶対しねぇから」

海之

「……教えてくれ。何故貴女がここに?」

 

するとエヴァは、

 

エヴァ

「貴方達に伝えたい事があって…。そして…謝りたい事もあったから」

火影

「…謝りたい事?」

エヴァ

「ええ…。ふたりとも覚えてる?昔、私達の家が悪魔に襲われた時の事を…」

 

生まれ変わってもあの時の事は忘れる訳はなかった。全てが変わってしまったあの日の事は…。

 

エヴァ

「ダンテ、バージル。貴方達には伝えていなかったのだけれど…私はあの人が、スパーダが姿を消した理由を知っていたわ」

火影・海之

「「!」」

エヴァ

「でも…あの時私達の家が襲われた時、私は察した。あの人の目的は、願いは果たされなかったのだと。そしてあの日、…ダンテ、私が貴方をクローゼットに隠してバージルを探しに行った直後に…私は悪魔に殺されてしまった…」

火影

「…ああ」

エヴァ

「あの時私は思った。自分の命なんてどうでもいい、貴方達さえ無事ならば…って。そして…貴方達がどうか全てを忘れて…悪魔なんて関係ない、新しい人生を始めてくれる様に…。でも貴方達は…あの人と同じ様に…悪魔との戦いに身を投じていってしまった…」

 

エヴァはそれが苦痛だった。息子達には戦いとは無縁な世界で生きてほしかった。スパーダの息子である彼らにとってそれがどれだけ難しいとわかっていても…死の時までそう願わずにはいられなかった。母親として…。

 

火影

「…俺は母さんとの約束を一度は守ろうとしたんだけどな。…でも無理だったよ。名前を変えても住処を変えても人から離れても…俺が、俺達がスパーダの息子である以上は、奴らは必ず追ってきた…」

エヴァ

「…だからダンテに戻ったのね」

火影

「奴らの目を俺に向けさせるためにな…。そうすりゃ少なくとも周りへの被害は減らせる」

海之

「……」

 

火影とは対照的に海之は黙ったまま。するとエヴァは海之の頬に手を当てた。

 

エヴァ

「バージル…。私は…貴方を見つける事ができなかった。そのせいで…貴方は沢山苦しんでしまった…。貴方とダンテが戦う事になってしまったのも…元はと言えば貴方達を守り切れなかった私のせい…」

海之

「……」

エヴァ

「本当にごめんなさい…。痛くて、辛かったでしょう。貴方は…貴方は何も悪くないのに…」

 

エヴァは海之を守れなかった事をずっと悔やんでいた。きっと恨まれているに違いないと思いつつもずっと謝りたかった。そんなエヴァに対し海之は、

 

海之

「…貴女の気持ちはわかっている。心配はいらない」

 

安心してくれという様に穏やかの声でそう言った。

 

エヴァ

「!……ありがとう」

火影

「母さん、俺とバージルのケンカは母さんは何も悪くないさ。俺達自身の責任だ」

海之

「ダンテの言う通りだ。俺の…弱さが招いた事。貴女に罪はない」

火影

「それにもうケンカばかりしてる訳にはいかねぇ…。俺にもこいつにも、守らなきゃいけねぇもんが前より大分増えちまったからな」

海之

「ああ。負ける訳にはいかない。俺は…あいつらを死なせたくない」

エヴァ

「…ダンテ…バージル…」

 

するとエヴァは自分よりも大きい身体のふたりをそっとその手で抱きしめた。

 

エヴァ

「その優しさと誇り高い魂。生まれ変わったといっても、やっぱりあの人の子供ね」

火影・海之

「「……」」

エヴァ

「もう私は何も言わない。ダンテ…いえ火影、そして海之。……戦いなさい。そして守ってあげて」

海之

「……」コク

火影

「そう言われたら頑張らねぇ訳にはいかねぇな。…てか親父はいねぇのか?絶対母さんの傍にいるって思ってたのに。まぁ親父なら下手すると地獄にいるかもしれねぇけどな、ハハ」

エヴァ

「……」

 

パァァァァァァ……

 

そしてふたりの姿がゆっくりと光始める…。

 

エヴァ

「これで本当にお別れね…。貴方達にもう一度会えてよかった…」

火影

「必ず…全てを終わらせる。約束するよ…」

海之

「…ありがとうございました。……母さん」

 

パァァァァァァ……

 

そしてふたりの姿は…エヴァの腕の中からゆっくりと消えていった…。

 

エヴァ

「……」

 

すると彼女の傍に再び少女が現れた。

 

少女

「教えてあげなくてよかったの?」

エヴァ

「…ええ。あの人はきっと望まないだろうから…」

少女

「…そう」

エヴァ

「それよりもごめんなさいパティさん。あの子が生前沢山迷惑をかけた様で」

パティ

「ふふ、別にいいわよ。アイツのおかげでお母さんにも会えたんだし、それに楽しかったし」

 

そこには穏やかに笑うふたりがいるだけだった。

 

エヴァ

(これでいいのよね。……貴方)

 

 

…………

 

ムンドゥス

「今度こそ終わりだ。…ダンテ!」

一夏

「火影!」

 

ムンドゥスの光が火影の心臓を貫こうとしていた…その時、

 

ガシッ!…ズガンッ!!

 

剣を持っている手とは反対の手で光の剣を掴み、握りつぶしてへし折った。

 

火影

「…ああ。但してめぇがな」

「火影!」

「ひーくん!」

「あの光を掴んで折っただと!」

ムンドゥス

「! 馬鹿な…。今の貴様のどこにそれ程の力が…!」

火影

「…俺らには天使がついているのさ。悪魔を守る天使がな」

 

ガシッ!!

 

その時、火影の魔剣ダンテを掴むもうひとつの手があった。

 

海之

「そして今の貴様には…これが限界だ」

「海之くん!」

千冬

「あ、あいつ何時の間に!?」

 

 

ズガガガガガガガガガガガガガガガガ!!

 

 

火影と海之の力が魔剣ダンテに集まり、ムンドゥスの結界を圧す力が更に強くなる。まるで何か特別な力が働いているかの様に。

 

セシリア

「す…凄い力ですわ!」

シャル

「これなら…これならいけるかもしれない!」

ラウラ

「ふっ…やはり私の家族は大した奴らだ…!」

刀奈

「行きなさいふたり共!」

クロエ

「お兄ちゃん!!」

マドカ・スコール・オータム

「「「…!!」」」

海之

「さっさと終わらせるぞ。本当のメインイベントがまだだ。俺達の決着がな」

火影

「やれやれ、弟を助けたいなら素直に言えばいいのによ。もうちょい正直な兄貴ならな」

海之

「お前こそ口数が減らない生意気な弟でなければな」

ムンドゥス

「…貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ムンドゥスの結界を圧す力が更にどんどん強くなっていく…。

 

 

一夏・千冬・箒・セシリア・鈴・シャルロット・ラウラ・簪・刀奈・クロエ・マドカ・スコール・オータム・束

「「「いっけえええええええええええええええええええええ!!!」

火影・海之

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ……ピシッ!!

 

 

ムンドゥス

「!!!」

海之

「今回を最後という条件でお前に付き合ってやる」

火影

「へっ、そりゃどうも。ミスんなよ!」

 

そしてふたりは揃ってあの台詞を言った。子供の頃からの決め台詞を。

 

 

火影・海之

「「Jackpot(大当たり)!!」」

 

 

ズドォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!

 

 

そして火影と海之が持つ魔剣ダンテが…ムンドゥスの身体とコアを真っ二つにした…。




二度と出会う事叶わないと思っていた母エヴァとの再会。彼女の想いを、言葉を聞いた火影と海之はその身に力を取り戻した。そして仲間の想いを受けたふたりは遂に、魔帝ムンドゥスの身体とコアを貫く。果たしてその結末は…?


Nextmission……「ラストバトルの果てに」


そして彼らは、もうひとつの役割を知る…。

※次回は来月8日(土)の予定です。
皆さんこんにちは。次回は来年予定でしたが何とかもうひとつ上げることができました。次回は少し短めになると思います。
今度こそ今年一年ありがとうございました。来年も宜しくお願い致します。


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Mission222 ラストバトルの果てに

ムンドゥスによって心臓を貫かれそうになる火影。
……だったがその時火影、更に海之の前に嘗てふたりをISの世界に送った少女が現れ、彼女はふたりをこの世界に送った真の目的を明かす。彼女はこの世界を救ってほしいとふたりに頼み、更にふたりの下にある人物を送る。それは嘗てのダンテとバージルの母、エヴァであった。彼女が秘めていた想いを知ったふたりは改めてこの戦いを終わらせ、自分達の大切なものを救ってみせると固く約束し、消えていく…。そして力を取り戻したふたりはついに…。


ムンドゥスの絶対防御に凄まじい攻撃を続ける火影と海之…。そして、

 

火影・海之

「「Jackpot!!」」

 

ズドォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!

 

凄まじい衝撃と共に、ふたりが持つ魔剣ダンテがムンドゥスの身体を貫いた。

 

 

ムンドゥス

「グオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 

その瞬間、大気を裂く様な凄まじい絶叫を上げるムンドゥス。

 

一夏

「!!」

「やった…!ムンドゥスの、奴の身体を貫いたぞ!」

千冬

「あいつら…やってくれたな…」

「あ…あっははははは!どうだ!ざまぁみろ!このゲス野郎!」

ムンドゥス

「馬…鹿…な…!この世の…力の全てを手にした余が…新たな魔界の神があぁぁぁぁぁ!!」

「アンタが神様ですって?ふざけるんじゃないわよ!」

「私達は…貴方を認めない!」

ムンドゥス

「…お、のれぇぇぇぇ!!またも…奴の…忌々し、き…人間、如きぃぃぃにぃぃぃぃ!!」

スコール

「…最後の断末魔ね」

マドカ

「まるで大気も大地も揺らぐ様な凄まじさだ…!」

 

そして絶叫を上げている間に力が失われていっているのかムンドゥスの身体が徐々に消えていく…。

 

ラウラ

「奴の身体が…!」

セシリア

「消えていきますわ…」

 

火影と海之の姿も悪魔からIS状態に戻る。どうやらムンドゥスにはもう殆ど力が残っていない様だった。

 

ムンドゥス

「だが…覚えて…おくがいい、人間共!例え…余が滅んでも……貴様らの傍には…常に…魔界がある事をぉぉぉぉぉぉ!!」

海之

「…その様な事などノミほども覚えておくのは惜しい。…消えろ、永遠に…」

火影

「ああでもひとつ言っとくぜ。もしこの先、針の先よりもちいせぇ奇跡ってやつでまた蘇りやがったら…そん時は俺らと、あいつらの子に宜しくな♪」

 

海之は冷酷に、火影は紳士の様なおじぎをしながら返した。

 

 

ムンドゥス

「ダンテ…!バージル…!…グッ、グオォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 

シュバァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

刀奈

「うっ!」

シャル

「きゃあ!」

 

凄まじい光の爆発が起こった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムンドゥス

(お……のれ……。だ…が……この……まま…で………は………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数秒位経っただろうか…。次第に光が収まり、目が慣れてくる。

 

オータム

「す、凄まじい光だったぜ…」

クロエ

「漸く目が慣れてきました…」

 

見ると…周りの光景がこれまでの様な宇宙ではなく、暗く冷たい巨大な室内空間に戻っていた。これまで戦っていた場所は空間が捻じ曲げられていたらしい。更によく見ると天井には穴があり、そこから一夏達はこの空間にやってきていた様だ。そして足元には開けられないままの「門」が残っている。

 

火影・海之

「「……」」

 

そのすぐ傍にISも解除した火影と海之が一夏達に背中を向けて立っている。ふたりは何も話さない。

 

一夏

「…火影?海之?」

 

一夏が名を呼ぶと…ふたりは振り返った。

 

「……終わった、のか?」

「あいつは…ムンドゥスは倒したの?」

ラウラ

「これで…大丈夫、でいいのか?」

 

何も言わないふたりに恐る恐る聞く一夏達。そんな彼らにふたりは、

 

 

火影・海之

「「……」」コク

 

 

笑って静かに頷いた。それを見て全員の緊張の糸が解けた。

 

一夏

「…よっしゃあぁ!!」

千冬

「ふっ…」

シャル

「やったね!やったんだねついに!」

セシリア

「私達勝ったんですのね!」

クロエ

「世界は…救われたんですね…!」

「本音、虚、皆…やったよ…!」

刀奈

「まさか本当に…私達が世界を救うことになっちゃうなんてね」

「本当に、本当にもう大丈夫なのね火影!?」

火影

「奴は倒した。俺達のISが反応しないのがその証拠だ」

シャル

「もう戦わなくていいんだね!?どこにも行かないよね!?」

火影

「ああ心配すんな」

海之

「本当によく頑張ったな…お前達」

「海之くん…!」

ラウラ

「その言葉…嫁として嬉しいぞ!」

「初めてお前達に認められた気がするな」

 

これで終わったのだという事実に皆凄く喜んでいた。…すると火影と海之が束のもとに向かう。

 

「改めて…よっ!ひーくんみーくんお久~♪」

 

先ほどに続き、何時もの様にふざけ調子で挨拶する束。

 

火影

「……はぁ、相変わらずですね束さん。心配してたのは当たり前ですが俺達に勝手にオーガスと接触したって事に正直少し、いえかなり怒ってましたよ」

海之

「本当なら貴女に説教のひとつでもと思ってましたが…その表情を見て気が失せました…。とにかく、無事で何よりです」

「……ゴメンねひーくんみーくん。心配かけて」

 

そんなふたりの反応を見て直ぐに真面目に謝る束。彼女としてもそれについては責任を少なからず感じていた様だ。

 

海之

「ですが貴女のウィルスが無ければ、俺達は奴を倒せなかったでしょう」

火影

「だからもういいです。大人しい束さんなんて似合いません。また何時もみたいにふざけてください」

「だから最初に会った時も言ったけどそれは9割9分9厘だってば~!……でも、ありがとね」

千冬

「なんだ束。私とは違ってこいつらには随分真面目に謝るではないか?なんなら私がこいつらの分まで説教してやろうか?言っておくが私はお前の勝手な行動をまだ許していないぞ」

「いやいやちーちゃん!ちーちゃんだけでも厄介なのにひーくんみーくんの分まで加わったらマジ笑えないから!冗談抜きで寿命縮むから!!」

 

千冬と束のやりとりが続く中、今度は彼女らのもとに行く。

 

火影

「スコールだっけか?あと…」

海之

「オータム、だ」

火影

「ああそうか。オータム、そして…マドカ。お前らにも助けられた。ありがとうよ」

 

火影は礼を言う。海之は言葉に出さないが頭を下げる。

 

オータム

「…けっ、勘違いすんなよ。私はスコールに従っただけ。そしてお前らより奴の方がムカついただけだ」

スコール

「…私も礼を言われる事はしていないわ。それに…私は」

火影

「もうそれは無しだ。お前がやった事じゃなかったんだし…」

スコール

「でも…私達があの時飛行機に乗らなければ…!」

海之

「よせスコール…いやアレクシア・ミューゼル。…もういい」

火影

「悪かったと思ってんならもう前みたいな生き方はやめるこった。お前らはもう世界からしたら死んでいる扱いだろうが…生き方は無限にあるさ。諦めんにはまだ早ぇって」

スコール

「貴方…」

マドカ

「……」

火影

「マドカ、って呼んでいいのか?」

マドカ

「……好きにしろ」

火影

「んじゃ遠慮なく。…思ったより大丈夫そうだなマドカ」

マドカ

「千冬と姉妹達。そして愚弟のおかげだ。それから…あの時は…すまなかった。その、知らぬとはいえ…酷いことを言ってしまった」

海之

「先日の事か。気にしなくていい」

火影

「そぉそ。もう昔の話だ。お互い前を向いて生きようや」

 

するとマドカに箒とセシリアが詰め寄る。

 

「マドカ!お前さっき愚弟と言ったが一夏の事か?一体何があってそうなった!」

セシリア

「一夏さんはどちらかと言えばお兄様ではないのですか!?」

マドカ

「ふざけるな。私は千冬のクローン、つまり千冬の双子の様なもの。ならば一夏の姉である事は自然だろう?ああそれからひとつ、お前達はあいつを好いているらしいが…やめておけ。お前達の様な女では千冬はともかく姉としての私の許可は生涯得られんと思え」

箒・セシリア

「「なっ!」」

千冬

「安心しろマドカ。私もそう簡単に手放しはせん」

箒・セシリア

「「ななっ!!」」

刀奈

「…これはとんでもない絶対防御が現れたわね~」

一夏

「あ、あはは…」

 

そんなやり取りが行われる中、火影と海之が一夏に、

 

火影

「一夏、特にお前には今回本当に助けられたぜ。俺達が奴にとどめをさせたのはお前のおかげだ」

海之

「あの時のお前の勇気とデビルブレイカーが俺達に勝利をもたらしたのだ」

一夏

「まぁデビルブレイカーはネロのおかげだけどな。でもあの時は本当に自分でもわからない位力が湧いてきたんだ…」

 

それぞれが戦いの終わりを噛みしめ、互いの健闘をたたえていた。

……すると火影のところに鈴とシャルが近づいてきて、

 

「……ねぇ火影、ちょっといい?ひとつだけ答えてほしいことがあるんだけど」

火影

「あ?なんだよ鈴?」

シャル

「僕も教えてほしいな火影。できれば今すぐに」

火影

「シャルもか?一体なんだよ、お前らの話は帰ったらじゃねぇのか?」

 

すると鈴の方からある質問が飛んだ。

 

「あ…あのね?さっき火影言ったわよね?俺達と…あ、あいつらの子供って…。あれって…どういう意味?」

シャル

「あの言葉って…その通りに、受け取っていいの…かな?僕達と……その…」

 

その質問に火影は一瞬固まる。するとその質問を聞いて皆も火影に集中する。

 

火影

「……海之」

海之

「俺は知らん」

セシリア

「ふふ。火影さん、ここは素直に答えてあげるべきですわよ♪」

「ふっふっふ♪」

 

セシリアや箒を含め、多くの者はにやついている。火影はたまらず視線を逸らすが鈴とシャルは追いかけ、真剣な表情で聞いてくる。

 

「お願い!言葉にするのが恥ずかしいなら一回頷いてくれるだけでいいから!」

シャル

「どうせ後で本音も交えて聞いちゃうんだからいいじゃないか火影!」

火影

「お、お前らな…。あ、そういやデータの方はどうなってんだ?」

一夏

「あ、そうだ!ファイルの流出を止めねぇと!」

「あのファイルならもう大丈夫だよ~ん。束さんが流出三分前にシステムを止めといたから♪という訳でなんの躊躇もなく答えてあげてくれたまえひーくん!」

「ほ、本当ですか!?良かった…」

ラウラ

「戦いの中ですっかり忘れていたがこれでとりあえず世界的なパニックは防げそうだな。…では答えてやれ弟よ♪」

刀奈

「男らしくないわよ火影くん♪」

扇子

(男は度胸!)

クロエ

「…皆さん、先ほどまでの疲れはどちらに行かれたんですか?」

スコール

「あら、固いこというものじゃないわよお嬢さん」

オータム

「クックック。あのガキにもこんな弱点があったか」

マドカ

「…下らん…」

一夏

「やっぱ女ってのは怖えな…」

千冬

「他人事ではないぞ一夏?お前も何れ同じ目に合うかもしれんからな」

鈴・シャル

「「火影!早く!」」

 

笑いもこぼれながらその場の空気が和らいでいた……その時、

 

 

 

ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!

 

 

 

突然、何かが起動したかの様な音がその部屋全体に響いた。

 

火影・海之

「「!!」」

一夏

「な、なんだこの音は!?」

「…!!み、見ろ皆!」

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

 

 

続けて起こる機械音。その正体はすぐにわかった。

 

セシリア

「地面が…割れる!?」

ラウラ

「…いや、違う!これは…!!」

 

それは……それまで閉じていた「門」が巨大な音と共にゆっくりと開いていく音だった…。

 

一夏

「門が…門が開いていってるぞ!」

マドカ

「そ、そんな馬鹿な!」

「なんでよ!どうしてこれが!?」

 

すると束が手持ちの簡易端末を拡張領域から取り出し、凄まじいスピードで調べる。

 

千冬

「束!一体何が起こっている!?」

「……嘘!「門」が暴走してる!!」

「暴走!?」

「「門」の開閉をコントロールする機能が無くなっちゃったんだよ!今…この「ラ・ディヴィナ・コメディア」の全てのエネルギーが強制的に「門」に流れて行ってる!」

スコール

「この塔のエネルギーが全てですって!?」

クロエ

「どうして…どうしてそんな事に!」

 

すると更に、

 

 

ドクンッ!!

 

 

火影と海之の剣が…何かに反応した。何に反応したのかも直ぐにわかった。

 

ラウラ

「どうしたふたり共!?」

海之

「…伊邪薙が…俺達の剣が…魔力に反応している!」

オータム

「魔力ってそれ…あのくそ野郎が言ってたやつか!?」

火影

「…まさか!」

 

火影が開いた門から少しだけ下を覗いてみた。

 

 

ドクンッ!ドクンッ!……

 

 

すると近づいただけで魔剣ダンテの脈動が一層強くなる。

 

火影

「「扉」が開いてやがる…!」

一夏

「な、なんだってぇぇ!?まさか悪魔が!」

 

火影のいう通り、そこからは強力な魔力が溢れ出ていた。しかし悪魔の気配や「悪魔還り」が起動するほどの魔力はまだ感じなかった。

 

海之

「……いや、まだその気配はない。どうやら完全に開ききってはいない様だな。悪魔還りも動いていない。だが…確実に開いている!」

シャル

「で、でもどうして!?ムンドゥスは倒したはずじゃ…!」

火影

「……あの野郎、くたばる寸前に最後の力で扉を開きやがったな…!」

シャル

「そんな…!」

「し、しかし何故門まで…!」

「フハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

すると火影達がいる場所と門を隔ててちょうど向こう側から笑い声が聞こえた。

 

千冬

「! 貴様は!」

スコール

「…オーガス!」

 

声の主はオーガスだった。ムンドゥスから排除され、吹き飛ばされていたがどこかに隠れていたのだろうか。

 

オータム

「あの野郎生きてやがったのか!」

千冬

「オーガス!門が開いたのはお前の仕業か!」

オーガス

「ククククク、そうだ…。ラ・ディヴィナ・コメディアのエネルギーを使って強制的に開かせた。エネルギーが足りない故完全に開ききるのは不可能だが…もう誰にも閉じる事はできん!まもなくこの世界の裏側にある魔界から悪魔と魔力が扉と門をくぐり、この人界に流れてくるだろう!」

ラウラ

「何だと!」

セシリア

「私達の世界に悪魔が!?」

 

誰もがその言葉の意味する事を把握した。

 

オーガス

「ダンテにバージルよ…。スパーダの子よ…。一度ならず二度三度までも敗れる事になったが…貴様らの思い通りのままにだけはさせん…!貴様らに安息の日々等…訪れさせはせん!」

火影・海之

「「…!」」

一夏

「どういう意味だ!」

オーガス

「つかの間の平和を味わうがいい…!フフフフ…フハハハハハハハハハ!!」

 

そしてオーガスは笑いながらわずかに開いた門から扉に飛び込んだ。

 

「っ!」

「と、飛び込んだぞ!」

刀奈

「…哀れね…。ムンドゥスと関わらなければ普通の人生を送れただろうに…」

マドカ

「…さらばだ。嘗ての我が主…」

一夏

「そ、それよりどうする!オーガスの言った通り本当にもう止められないのか!?」

千冬

「束!」

「……ダメ、何の命令も受け付けない!私もコードを知らないの!オーガスしか…!」

「アンタ達は何か聞いてないの!?」

スコール

「…いえ、門については私達も知らなかったわ。オーガスからも何も聞いていないし、手の打ちようがない!」

 

~~~~~~~~

その時千冬に通信が入った。それは応援に駆け付けたイーリス・コーリングからだった。

 

千冬

「イーリス?どうした!………なんだと!?」

一夏

「どうした千冬姉!」

 

すると千冬の口から更なる驚きの事実が告げられる。

 

千冬

「……外にいるイーリスからの知らせだ。この塔…ラ・ディヴィナ・コメディアの外壁が…徐々に崩れていっているらしい」

ラウラ

「な、何ですって!?」

刀奈

「まさか…塔を支えるエネルギーが無くなっていっているの!?」

オータム

「これもオーガスの野郎の仕業か!」

マドカ

「だとしたらここにいつ影響が出てもおかしくない。すぐに避難しなければ崩落に巻き込まれるかもしれん!」

シャル

「でもこのままじゃ悪魔達が僕達の世界に!」

クロエ

「一体…どうすれば…!」

火影・海之

「「……」」

 

 

…………

 

その頃…。

 

……カサッ

 

本音

「…あれ?」

 

部屋で火影の帰りを待つ本音が床に何かを見つけた。何か文字が書かれた紙きれの様だが…。

 

本音

「これは……おみくじ?ひかりんの落とし物?」

 

本音が読み進めると…ある部分にこう書かれていた箇所があった。

 

 

「強く願えば必ず叶うでしょう。しかし貴方の大切な時を失うでしょう」




遂に火影と海之がムンドゥスの身体とコアを貫いた。誰もが全てが終わったと思った矢先、ムンドゥスは死の間際に「扉」を、更にオーガスがラ・ディヴィナ・コメディアのエネルギーを使って「門」をこじ開けてしまった。このままではこの世界の裏側にある魔界から人界に魔力と悪魔が流れてきてしまう。束にも、そして誰にもどうすればいいのかわからない中、火影と海之は…。


Nextmission……「世界を救う者」


そして彼は…ある決断をする…。

※次回は明後日10(月)の予定です。
以降は通常より短めになる予定ですが、仕事の都合で次々回は二週間後になりそうです。申し訳ありません。


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Mission223 世界を救う者

ムンドゥスの絶対防御を貫いた火影と海之。身体とコア、そして力を失ったムンドゥスは凄まじい断末魔を上げ、消滅していった…。遂に戦いが終わり、オーガスが仕掛けたファイルも束が食い止め、全てが終わった。
……と思った矢先、彼らがいた部屋に凄まじい轟音が響く。その正体はオーガスが「門」を開けた事、更にムンドゥスが死の間際に「扉」を開いてしまった事によるものだった。このままではそう長くないうちにこの世界の魔界と完全に繋がり、大量の悪魔と魔力が流れてきてしまう。誰もがどうすればわからない中、火影と海之は…ある行動を取ろうとしていた。


開かれてしまった「門」と「扉」。そしてラ・ディヴィナ・コメディアの崩壊が迫っているという事実に一夏達は動揺していた。……そんな中、

 

火影

「……やれやれ全く、とんだ後始末を残していきやがったな」

海之

「…ああ」

一夏

「火影?」

「海之くん?」

 

ふたりは互いに魔剣ダンテと魔剣伊邪薙を手にして僅かに開いたままの門に向かい、ゆっくりと歩みだす。

 

セシリア

「おふたり共…?」

シャル

「ど、どうしたのふたり共?」

 

その姿に驚く皆。だが

火影

「でもどうすんだ?今回はあん時の様に樹もねぇから要件あっさりと終わっちまうぜ。退屈しちまうんじゃねぇか?」

海之

「暇つぶしならばやることは決まっているだろう」

火影

「…へへ、だな。やっぱお前も十分ガキじゃねぇか」

海之

「頭は老体でも身体は未成年だからな」

火影

「お前もそういうジョーク染みた事を言える様になったか」

 

火影と海之は互いに話しながら歩みを止めない。そんなふたりを皆が慌てて止める。

 

「ちょ、ちょっと!どこ行くのよふたり共!」

ラウラ

「なぜ剣を出す!何をするつもりだ!」

 

半無理やりに止められ、ふたりは流石に返事をする。

 

火影

「…ああ。ちと一仕事してくるのさ」

「し、仕事だと?」

一夏

「仕事って…もうムンドゥスもオーガスもいない筈だぞ?」

刀奈

「この状況で仕事って……!」

クロエ

「まさか兄さん!」

 

すると火影が頷きながら言った。

 

火影

「…そうさ。ひとつだけある。扉を閉じ、魔界と人界の繋がりをおそらく永久に閉じる方法がな…」

海之

「…ああ」

一夏

「! ほ、本当かふたり共!?」

「それは一体!?」

 

その言葉に希望を見出した一夏達。対して、

 

千冬

「……まさか…お前達…!」

「…ふたり共…」

 

千冬と束は何か思い当たる事が浮かんだのか、悲痛な目でふたりを見る。

 

一夏

「それでどうすればいいんだ!」

海之

「…伊邪薙を使う。俺の伊邪薙は閻魔刀の力を受け継いでいる。閻魔刀の「人と魔を別ける」力をな」

セシリア

「人と魔を別ける…?」

海之

「そしてそれは単に別けるのではなく、人界と魔界を別ける事もできる。お前達もあの映像で見ただろう?」

ラウラ

「そ、そういえば確かに…!」

海之

「力を取り戻した伊邪薙ならばこのまだ開ききっていない扉を塞ぐ事、つまり鍵をかける事は容易の筈だ。扉を塞ぐ事さえできれば門は問題ないだろう」

クロエ

「…確かに扉を何とか出来れば門の役割は事実上無くなりますね」

「で、でもどうすんの?アンタ達は力を失っているんでしょう?」

 

すると次の火影の答えに皆が驚愕する。

 

火影

「…確かに今のままなら無理だ。だから魔界に行って力を取り戻す」

シャル

「! ま、魔界に行くだって!?」

刀奈

「そんな事をして…貴方達は大丈夫なの!?」

火影

「人間のままなら無理だな。でも俺達には悪魔還りがある。向こうにどんな悪魔がいるかは分からねぇが例えムンドゥスの様な野郎がいなくても魔界は魔力の溜り場だ。入れば否が応でも悪魔還りが使える様になるだろう」

一夏

「そ、それじゃあ…!」

千冬・束

「「……」」

 

そしてふたりはこう言った。

 

 

火影

「魔界に行って再び力を取り戻すしかねぇ。その上で…」

海之

「伊邪薙で人界と魔界を別ち、その後…魔界側から扉を閉じる」

 

 

……一瞬場が沈黙し、無音になった気がした。

 

一夏

「…………え?」

「ま、魔界側…から?」

セシリア

「そ、それってどういう事ですの?扉を閉じるという事は…鍵をかけるという事ですわよね?」

「……まさか」

「そ、それじゃあ…ふたりは…」

刀奈

「向こうに…残ったままになるんじゃ…?」

シャル

「どうなるの?…帰って、これるんだよね…?」

ラウラ

「どうなんだ!答えろふたり共!」

 

皆が必死にふたりに問い詰める。すると代わりに答えたのは千冬と束だった。

 

千冬

「……出る事だけならば出来るだろう。しかしこの世界ではその刀の力は発揮できない…」

「向こうから閉じるしかない。つまり…帰ってくる事はできない。…そうだね?」

一夏達

「「「!!!」」」

スコール

「貴方達…」

オータム

「…ちっ」

マドカ

「……」

海之

「その通りです」

火影

「ま、そういう事だ」

 

ガシッ!!

 

すると突然鈴とシャルが火影にしがみ付いた。物凄い力で。

 

「……自分達だけで…もう勝手に行かないって、言ったでしょう!自分を犠牲にするなんて事は…もうしないって言ったでしょう!!」

シャル

「さっき約束したじゃないか!もう勝手に何処にも行かないって!ずっと僕達と一緒にいてくれるって!!」

火影

「…ああしたさ。その約束を果たす前の一仕事だ。これが終わったらもうどこにも行かねぇよ」

「こんな時にまでふざけるな!!」

セシリア

「今しがた言ったではありませんか!扉を閉じたら戻ってこられないと!」

火影

「大丈夫だよ。忘れたか?前の世界で俺達はおんなじ様な状況で帰ってきてたじゃねぇか」

クロエ

「そ、それはそうですが…本当に戻ってこられるのですか!?この世界はあの時とは状況が違う筈!」

海之

「…それは…約束できん。だがこれが唯一の方法だ」

「本当にそれしか方法がないの海之くん!?本当にふたりが行かなきゃいけないの!?」

ラウラ

「そうだ!考えろ海之!私達全員で考えればもっと何か方法が!」

 

いつの間にか既に泣いている簪が海之にしがみつき、ラウラも海之に近寄り問いかけるが、

 

海之

「…そんな時間はない。こうしている間にも奴の開けた扉は少しずつ大きくなっている。もう間もなくで完全に繋がってしまう。そうなればもう簡単には閉じる事は出来ない」

火影

「今が絶好のチャンスって訳さ」

一夏

「千冬姉!束さん!本当に他に手はねぇのか!?ここまで来て…!!」

千冬

「……」

「扉の事は…私にもどうにもできないよ…」

「そんな…」

スコール・オータム・マドカ

「「「……」」」

 

誰もが今置かれている状況に言葉を失っていた。彼女ら以外は。

 

「…ダメ、行かせない。絶対に行かせない!」

シャル

「自分達だけで行くなんて絶対に許さない!火影が行くなら僕達も行く!」

火影

「ふたり共…」

海之

「不可能だ。人間は魔界に存在できない。一度入ってしまえば魔界に取り込まれる。そうなれば助かる術はない。最悪向こうの気にあてられ、悪魔になる可能性もある」

刀奈

「それは…流石に笑えないわね…」

「でも…でも…」

「じゃあいっその事繋がっちゃってもいいじゃない!向こうに悪魔がいるかもまだわからないんでしょ!?魔力が流れてくるだけかもしれないでしょ!?もし悪魔が出てきても倒せばいいじゃないの!」

シャル

「そ、そうだ!僕達で戦えばいいんだ!僕達も強くなってるし、一緒に戦えば!」

火影

「ふたり共!!!」

鈴・シャル

「「!!」」

 

火影のこれまで以上の大きい声に思わず黙る鈴とシャル。火影は真面目な表情でゆっくりと話し出す。

 

火影

「……昔俺らがいた世界は何度も魔界の、悪魔の侵略の危機にあった…。そしてその度…多くの人が死んだ。血が流れた。クリフォトなんてくらべものにならねぇ程のな。俺らも散々戦ったが……全てを救えなんてしなかった。悪魔が出てくるなら戦えばいいとか…言うんじゃねぇよ。そんな事俺もこいつも何より望んじゃいねぇ…。俺達の新たな故郷であるこの世界を、何よりお前らがいるこの世界を…地獄と同じにさせてくれるな…」

鈴・シャル

「「……」」

セシリア

「で、でも…おふたりが私達の世界のために犠牲になるのは…」

海之

「俺達が行かなければこの世界が滅びる。それに犠牲になる気はさらさらない」

クロエ

「海之兄さん…」

 

するとスコールとオータムが口を開く。

 

スコール

「…私には悪魔とか魔界とかわからないけど…そんなもの関係なくこの世はいつか滅ぶわ」

オータム

「ああ。それに地獄なんてものも…結構近くにあるものだぜ?」

千冬

「アレクシア…オータム…」

火影

「…確かに悪魔がいてもいなくても、魔界があってもなくても、世界も人間もいつかは滅びるもんさ。大昔の恐竜から始まり、多くの人種や文明が滅んできた様にな。でもそれに抗う事はできる。その時まで未来を作りたいと足掻くことはできる。延命みたいなもんだとしても。そして大切なもんや失いたくないもんのために、命を懸ける事もできる。昔、自らの命を犠牲にして子供の未来を守ったそんなひとりの女性を知ってる。マドカ、お前にも覚えがあるだろ?」

マドカ

「……」

 

自分の姉妹達の事が浮かぶマドカ。

 

海之

「簪、ラウラ。そしてお前達は知っているだろう?昔の俺は過去と悪魔と、そして自分自身さえもに憎み、力だけを見ていた、なんの繋がりも持たない世捨て人以下のガラクタの様なものだった。未来も世界も、今さえもどうでもよかった。だが…俺の血を引いた者達は、そしてお前達は、俺がどのような存在であると知っても共に生きると言ってくれた…信じてくれた…」

「海之…くん…」

ラウラ

「……」

火影

「鈴、シャル。前に言った事あるだろ?信じることが未来を創るって。お前らが俺達を信じてくれた様に…俺達もお前らを信じてる。だからお前らは俺達にとって…未来そのものだ。俺も海之も、そんな大切なものを壊したくない…」

鈴・シャル

「「……」」

一夏

「火影…海之…」

 

皆はもうふたりを止められないと気付いた…。

 

「………もう、会えないかも…知れないのよ…?」

シャル

「いつ帰ってこれるかも……わからないんだよ?……それでも、いいの…?」

火影

「…それよりもお前らを失うかもしれない事の方が怖ぇんだ」

 

火影はふたりをそっと抱き寄せる。

 

「……何でよ…。何で…アンタ達ばかり…そんな目に、合わなきゃ…いけないのよ…」

シャル

「やっと…やっと終わったって思ったのに……酷いよ…そんなの…」

火影

「必ず帰るさ…お前らのとこに。ああ本音にはちと遅れるって言っといてくれ。あと…待ちくたびれちまったら捨ててくれても構わねぇ。でもどうせなら…待っててくれ…」

「………本当に…どこまで、可愛い…奥さん候補を泣かせたら…気が済むのよ…!私達が…どんな気持ちか……知ってる、くせに…!」

シャル

「早く…帰ってこなきゃ…許さないんだから。……おばあちゃんになる前に…帰ってこなきゃ……絶対…絶対、許さないんだから…!」

火影

「……わりぃ」

 

涙が止まらない鈴とシャルを宥める様に謝る火影。

 

海之

「…簪、お前が授けてくれた刀…壊してしまった。俺の力不足だ…許してくれ…」

 

瑠璃月を壊してしまった事を謝罪する海之。だが簪は鈴達と同じ様に泣きながらしがみつき、

 

「……そんなの…どうでもいいから…。海之くんお願い…無事に、絶対…帰ってきて…。私、海之くんがいなきゃ…貴方がいなきゃ…駄目なの…。だから…だから…」

海之

「……ありがとう。……ラウラ、お前は」

 

するとラウラは指を海之の口元に持ってきて言葉を遮る。

 

ラウラ

「お前は戦士…。そして私が選んだ男だ。お前と私の間に…一時の別れの言葉などいらん…。戦士の伴侶とはそういう…ものだ」

海之

「……」

 

ラウラの言葉はいかにも無理をしていた。すると海之は何も言わず、ラウラも簪と同じように引き寄せた。

 

海之

「言葉はなくとも伝え方はある」

ラウラ

「……~~~」

 

こらえ切れずラウラもまた静かに泣いていた。

 

火影

「…一夏、マドカ。お互い仲良くするんだぜ?」

一夏

「火影…」

ラウラ

「……」

火影

「箒、セシリア、刀奈さん。…頑張れよ。壁は中々手ごわそうだぜ?」

「…つまらん事言いってないで…早く終わらせてさっさと帰ってこい!」

セシリア

「おふたり共…、どうか無事の帰還を…」

刀奈

「…任せなさい。私に…不可能はないわ」

火影

「…クロエ、料理頑張れよ。俺達の妹なんだからもっとうまくなれるさ」

クロエ

「…火影…お兄ちゃん…」

火影

「…先生。迷惑をかけますが…あとを頼みます」

千冬

「……」

火影

「…束さん。頑張れよ」

「……うん。モチだよ」

火影

「…スコ、いやアレクシア…オータム。…生きろよ。お前らの人生もこれからなんだしな」

アレクシア

「……」

オータム

「…うるせ」

 

全員と挨拶を交えた火影。そして、

 

海之

「…千冬さん」スッ…

 

海之は千冬の名を呼び、手を伸ばす。

 

千冬

「……」

 

千冬は何も言わず手を伸ばし、海之の手を取り、握手をした。

 

海之

「幸運を」

千冬

「……お前達もな」

 

千冬は静かに、何度も頷き、礼を言った。

 

 

~~~~~

その時、その場所がわずかに揺れた。

 

クロエ

「今の振動は…!」

刀奈

「とうとうこの部屋まで崩壊の影響が出てきたっぽいわね…!」

火影

「もう時間がない。ああそうだ、こいつを本音に返してやってくれ。助かったってな」

 

火影は本音の銃「アルバ」を鈴とシャルに託した。

 

鈴・シャル

「「火影…」」

海之

「さぁ…行け」

簪・ラウラ

「「海之(くん)…」」

一夏・千冬・箒・セシリア・刀奈・クロエ・束・アレクシア・オータム・マドカ

「「「……」」」

 

そしてふたりは再び門に向かって歩き出し、その手前まで来たところで振り返り、皆に向かって、

 

海之

「…また会おう」

火影

「じゃまたな…皆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして馬鹿兄貴」

 

 

ドゴォォォォォォォォォォッ!!!

 

 

海之

「!!」

一夏達

「「「!!!」」」

 

火影の全力の肘撃ちが海之に直撃した。そして倒れ込む直前で火影は海之の手に持つ伊邪薙を抜いた。完全に不意討ちを食らう形になった海之は倒れ込み、そのまま気絶してしまった。海之に駆け寄る簪とラウラ。

 

簪・ラウラ

「「海之(くん)!!」」

火影

「…やっぱこいつは俺のリベリオンを吸収してるから俺にも抜けるな。登録していなくて良かったぜ…」

千冬

「火影!お前どういうつもり……!」

「火影…アンタまさか!」

 

すると火影は何時もの余裕ある顔ではっきりと言った。

 

火影

「騙すにはまず味方からって言うだろ?…そうだ、こいつは留守番だ。魔界に行くのは…俺ひとりでいい」

一夏

「!!」

「な、何言ってんの!?アンタひとりで魔界に行くって本気!?」

シャル

「そんな…どうして!!」

 

すると火影は倒れたままの海之を見ながら、

 

火影

「…こいつは…バージルだった時、俺よりもずっと長くひとりで、寂しくて、孤独な戦いを続けてきた。何度も地獄を、悪夢を見てきた…。だからせめてこっちの世界で生きている間は……俺よりも一分一秒でも長く、平和な時を過ごすのも…少しでも幸せってやつを実感すんのも…戦いから解放されんのも……悪くねぇだろ」

刀奈

「火影くん…貴方…」

セシリア

「で、でもそれじゃ火影さんだけが魔界に取り残される事になりますわ!」

火影

「大丈夫だよ。俺は元デビルハンターだぜ?向こうに悪魔がいるなら退屈はしなさそうだぜ♪」

「ひーくん…」

一夏

「じゃ、じゃあ俺が代わりに行く!」

「一夏!?」

一夏

「DNSで変化した白式なら行けるかもしれねぇ!俺も一緒に」

 

すると一夏の言葉を遮って火影が、

 

火影

「お前がいなくなったら誰が俺の代わりを務めんだ?」

一夏

「!!」

火影

「俺が戻るまであいつらを任せるぜ。いいな?」

一夏

「……」

 

そして火影は右手に魔剣ダンテ、左手に魔剣伊邪薙を持って、

 

 

火影

「んじゃ改めて、皆風邪引くなよ?…じゃな!」シュンッ!

 

 

ひとり、魔界に飛び込んでいった…。

 

一夏達

「「「!!」」」

シャル

「火影ぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

一夏

「……」

海之

「………う、…ぐっ、く」

 

すると気絶していた海之が目を覚ました。

 

「海之くん!」

ラウラ

「大丈夫か海之!」

海之

「お、俺は……!!あいつは!?火影はどうした!!」

簪・ラウラ

「「……」」

クロエ

「火影兄さんは……ひとりで魔界に…」

海之

「!…あの野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

怒りに震える海之は直ぐに後を追おうとする。しかし、

 

簪・ラウラ

「「駄目(だ)!!」」

海之

「!!」

 

海之はふたりにしがみつかれて止められた。全力で。ふたりは大粒の涙を流しながら、

 

「火影くん言ってたの!海之くんには自分よりも長く平和な時を過ごしてほしいって!戦いから離れてほしいって!自分が帰ってくるまで!だから火影くんはひとりで行ったの!海之くんの刀も持って!」

ラウラ

「海之!お前の気持ちはわかる!でも今は…あいつの気持ちをわかってやれ!あいつはお前の弟だろう!あいつの強さは誰よりも知っているだろう!ならばあいつを信じろ!必ず帰ってくるって!」

「お願い海之くん!火影くんの気持ちを…無駄にしないで…」

海之

「……」

 

ふたりの必死さに海之は何も言えなくなり、先ほどまでの怒りが消えていく。

 

~~~~~~

すると自分達がいる部屋が振動し始める。

 

スコール

「! まずいわね」

千冬

「全員塔から脱出する!急げ!」

刀奈

「鈴ちゃん!シャルロットちゃん!行くわよ!」

鈴・シャル

「「……」」

 

鈴とシャルは火影の飛び込んだ穴を見ながら呆然としている。

 

「ふたり共!!」

 

ガシッ!

 

マドカ

「待っていると約束したのだろう?ならば…こんな所で死ぬな」

 

マドカはふたりの肩に手をかけて言った。

 

千冬

「マドカ、お前…」

「……」コク

シャル

「……うん」

 

鈴とシャルも立ち上がる。全員が脱出に動く中、海之は黙って門の方を見つめる。

 

「海之くん早く!」

ラウラ

「海之!」

海之

「………っ!!」ドンッ!!

 

迷いを無理やり振り切り、海之も門から離れていった…。

……その後、海之や一夏達は全員崩れ行くラ・ディヴィナ・コメディアから脱出した。塔が完全に崩壊したのは彼らの脱出から約5分後の事であった。そしてイーリス達が派遣した救助隊に合流し、帰還したのだが…何故かそこにスコール、オータム、そして束の姿は無かった…。

 

 

…………

 

???

 

 

海之達が脱出に成功した頃…、

 

火影

「……………よし、これで向こうは…あいつらは無事だな」

 

皆と別れ、ひとり扉に飛び込んだ火影はとある場所にいた。

 

火影

「こういう役目はあいつがやってたから俺は初めてだったんだが結構簡単だったな。ふっ、自分の才能が怖いぜ」

 

何やら自画自賛する火影。……すると、

 

火影

「…そして」

 

 

ザシュゥゥゥゥゥッ!!!

 

 

突然何かが火影に向かって背後から襲い掛かってきた。しかしそれを冷静に手に持つ魔剣ダンテで一閃。斬り捨てる。火影がゆっくり振り返ると、

 

 

「グアアアアア!!」

「ギャアアアア!!」

「ゴアアアアア!!」

 

 

そこには無数の異形な姿をした者達がいた。

 

火影

「見たとこ大した奴はいなさそうだがこっちの魔界にもこんなに悪魔がいやがったか…♪」

 

そう、それは悪魔だった。火影がいる場所はISの世界の裏側にある魔界。火影は海之から得た(奪い取った?)魔剣伊邪薙によって人界と魔界をつなぐ扉を封印し、魔力の流出を完全に遮断した。そんな彼は今悪魔還りを起動した姿、つまり悪魔の姿となり、自分と海之の剣を持って無数の悪魔と対峙しているのだ。一見すると絶望的な絵にしか見えない。しかし火影の声はとても楽しそうだった。

 

火影

「フッフッフ…どうやらこっちも退屈しなさそうだぜ海之よ」

悪魔

「グアアアアア!!」

 

ズバァァァッ!!

 

向かってくる悪魔を再び一閃する火影。しかし悪魔は立て続けに襲いかかってくる。

 

火影

「良いねぇ…、頭の先までガツンとくるこの感覚…。久々すぎて…」

 

ザンッ!!

 

火影

「でもって楽しみ過ぎて…」

 

ザシュゥゥゥゥッ!!

 

悪魔

「「「グオォォォォォォ!!」」」

火影

「…狂っちまいそうだぜぇぇぇぇぇ!!」ドゥンッ!!

 

笑いながらそう叫び、火影は無数の悪魔に向かって駆け出していった…。




全ての想いを受け取り、ひとり魔界に行った火影。
火影の守った世界を生きていく一夏達。
火影の想いを知り、地上に残った海之。
それぞれの生き方を選択した彼ら。そして…時はやや流れ。


Nextmission……「待つ者 そして 帰る者」


※次回は22日(土)の予定です。
いつもより少し早い時間帯の投稿になりました。次回はまた二週間後です、申し訳ありません。あと二、三話位の予定してます。


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specialmission④ 敵側機体紹介③

第十六章での敵ユニット詳細です。


・トリスマギ・アンジェロ

 

オーガスが開発した新たなアンジェロ。アンジェロに嘗てのアルゴサクスの配下である悪魔「トリスマギア」のアイデアを取り入れており、火・雷・氷の三属性を操る攻撃や、肩と腕の後ろ側から出る計6本のブレードによる近距離戦を行う。パワーやスピードもこれまでのアンジェロよりも強化されているだけでなく、有人故に思考機能も高く、柔軟な行動もできる。

操縦者の意識に関係なく目の前の存在を排除するという恐ろしいプログラムがあり、人によっては知る者を自らの手で排除する苦しみを味合わせられる事になる。また一定の状態になるとIS自体が操縦者の意識を乗っ取り、暴走状態になる。

 

 

・DIS・オルトロス

 

ダリル・ケイシーとフォルテ・サファイアのISがドレッドノートシステムの力で融合し、パワーアップした二頭の頭を持つ地獄の番犬を模した姿のDIS。頭それぞれが彼女らの意思を持ち、其々の口からは炎と冷気のビームを撃つ。また同時に放つ咆哮は相手の聴覚を著しく刺激し、ひるませる効果がある。最大の攻撃はその凄まじいスピードから繰り出される突進であり、刀奈や簪を何度も苦しめた。

 

 

・マルファス(DIS態)

 

オータムがデビルトリガーの力によって彼女のISもろとも変貌した姿。それまでのDNSを用いた変貌以上の強い魔力を含んでいるだけでなく、オータムの人格も乗っ取り、その性格は嘗てのマルファスそのものである。上半身の魔女の様な身体が繰り出すワープを用いた部分攻撃や魔術的な攻撃、下半身の怪鳥が繰り出す凄まじい勢いの突進や咆哮等、嘗ての時代でネロやVが戦った時の力を存分に使い、鈴達をぎりぎりまで追い詰めた。

 

 

・ボルヴェルク(DIS態)

 

千冬との一騎打ちの際にスコールがデビルトリガーの力で変貌した姿。だがオータムの時と同じくその意識は彼女のものでは無くなっている。悪魔ではあるが元々は太古の時代に生きていた戦の神であり、堂々とした戦いを好む。パワーだけでなくスピードも兼ね備え、自らの巨大な槍を用いた豪快にして繊細、且つ補助ユニットでもある二頭の狼を用いて千冬に襲い掛かる。最後は千冬との最後の一閃の勝負でわずかに敗北し、彼女に嘗て自分を破ったスパーダの姿を見て満足して消えていった。

 

 

・アビゲイル(DIS態)

 

マドカが変貌した姿。しかしオータムやスコールと違い、黒騎士に埋め込まれたデビルトリガーのプログラムが強制的に発動し、この姿になってしまった。元々は嘗て魔帝やアルゴサクスに並ぶ程の魔界で力を振るう大悪魔だったがその知能は破壊と復讐に駆られた破壊獣と化している。シールドを破るほどの強力なレーザーや剛腕による攻撃、更に本来のそれにはなかった巨大な翼をビットの様に動かす攻撃も加わっている。最大の特徴はマドカの黒騎士が持つ「零落闇夜」の性質を持った腕であり、このために一夏や千冬の零落白夜を無効にしてしまった。

 

 

・アルダ・スパーダ

 

オーガスが有人機であるアンジェロにデビル・トリガーを使い、自らの専用機として生み出したIS。見た目はダンテとバージルの父、スパーダが血に染まった様な禍々しい姿をしている。また用いているコアはアルダ・スパーダ専用の特殊なものであり、この世にふたつと無いもの。剣スパーダを模した魔剣エヴァによる剣術、そして光の鞭や光弾、追跡するレーザー等オーガスの前世であるアルゴサクスの術を存分に使う。また魔帝の技も一部使うことができる。以前戦った火影はこの戦術に気づいてはいたが魔力を持っていない事もあり、苦戦を強いられたが「悪魔還り」を使用した火影の前ではかなわず倒された。

 

 

・ルーヴァ進化態

 

火影と海之に敗れたルーヴァがオーガス、そして魔帝の力を得て変化した形態。見た目は全身漆黒のSin・ウェルギエルそのもの。力・武装・技も全てSin・ウェルギエルのコピーであるが魔力を含んでいるためにその破壊力は通常状態のSin・ウェルギエルを凌駕する。自らの同じ姿であり、オリジナルである海之との一対一の戦いを望み、挑む。その力で徐々に海之を追い詰めていくが真の力を解放した海之の前に遂に刃折れ敗れるが自らを利用したともいえるムンドゥスに一矢報い、散った。

 

 

・ムンドゥス

 

嘗てスパーダとダンテによって倒され、封印された魔界の王。封印された亜空間の牢獄で力を蓄えた後にダンテに復讐するために自力で脱出したがその世界は嘗ての世界ではなくISの世界であった。しかしアルゴサクスの生まれ変わりであるオーガスと接触し、彼に自らの魔力を貸し与える代わりに依り代の役目をさせ、自らの復活のための禁断の果実を生み出すためにオーガスを利用してアインヘリアル計画を起こさせた。やがて火影と海之の正体がダンテとバージルだという事に気づくと自らの手でふたりを滅ぼすためにラ・ディヴィナ・コメディアへと導き、オーガスを切り捨てるとアルダ・スパーダのコアと一体化してその存在をふたりの前に表す。アインヘリアル計画で生み出した果実と束に作らせた「SE集中装置」を用いて生み出した果実のふたつを取り込み、その力は嘗てダンテが戦った時以上のものとなった。隕石や魔龍召喚、火炎弾等基本的戦術は嘗てのムンドゥスの技と変わらないが、七つの大罪の名を模した単一特殊能力「大罪」で火影や海之だけでなく、一夏達をも限界まで追い詰めたが最後は一夏のデス・ブリンガーと海之の次元斬・滅によってシールドを破壊され、火影の真・ディープスティンガーで身体とコアを貫かれ、倒された。



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終章 Brother
Mission224 待つ者 そして 帰る者①


ムンドゥスとオーガスが開けた「扉」と「門」に打つ手がない一夏達。……しかしその時、火影と海之が自分達が魔界から扉を閉じることでこの人界と魔界を完全に遮断すると言い出した。
当然猛反発する鈴や簪達。しかしふたりの決心は変わらなかった。これは自分達にしかできない役割であり、かけがえのないものを守るためにすべき事だと…。ふたりは必ず帰る事を約束し、別れを告げる。
……とその時、火影が海之に不意打ちをかけた。自分よりも長く平和な時を生きろと気絶している海之に言い残し、自分ひとりだけで魔界へと飛び込んでいったのであった…。


全ての想いを受け取り、ひとり魔界に行った火影。

火影の想いを知り、地上に残った海之。

火影の守った世界を生きていく一夏達。

それぞれの生き方を選択した彼らであった…。

 

 

 

…………

 

 

………

 

 

……

 

 

 

 

 

そして時はやや流れ…、

 

 

青い髪の少女

「え~…皆グラスOKね?」

 

青い髪の少女の言葉でグラスを上げる数人の女性。それは勿論…。

 

 

刀奈

「それでは…一日遅れだけども、まだ来てない人もいますがIS学園の皆の無事卒業を祝して…乾杯!!」

箒・セシリア・鈴・シャルロット・ラウラ・簪・本音・クロエ

「「「乾杯~!!」」」

 

 

以前より馴染みの喫茶店。ここにメンバーが集まっていた。相変わらずのメンバーが。…この日、正確には前日だが箒達は無事にIS学園を揃って卒業し、お祝い会を開いていた。つまりあのラ・ディヴィナ・コメディアでの戦いから二年の時が経過していたのであった。皆もそれなりに成長し、刀奈もすっかり現役の大学生である。

 

刀奈

「それにしても月日が経つのは本当に早いものだわ~。あの時一年だった皆がもう卒業だなんて~」

セシリア

「本当ですわね。今でも入学したのが昨日のことの様ですわ」

ラウラ

「ああ本当にな。もう数日経てば皆で集まる事も無くなるんだな…」

本音

「心配ないよラウラン~。会おうと思えばいつでも会えるよ~」

「そうよ…とはいってもやっぱり難しいかもしれないわね。皆それぞれの国に帰ったりするんだし、今まで通りってわけにはいかないわ」

クロエ

「そう考えるとやはり寂しいですね」

シャル

「うん。…それに」

刀奈

「シャルロットちゃん、その話は後よ。今はまず純粋に喜ばなきゃ」

「簪、ラウラ。あいつは来れなかったのか?」

「誘ったんだけど…なんでも急な用事ができたらしいの」

ラウラ

「ああ、どうしても外せない用事と言っていたな」

セシリア

「一夏さんは挨拶を済ませてから来るとの事ですわ。もう間もなく来られるかと思いますが…」

 

 

カランッカランッ!

 

 

その時扉を開ける音がした。入ってきたのは、

 

一夏

「悪い悪い、遅くなった」

 

これまた少し成長していた一夏。そして、

 

(マドカ)

「すまない…」

 

マドカもいた。あの一件の後、彼女は名をマドカから「円」と改めていた。一夏達が寮にいる間は織斑宅には誰もいなくなるため、その間は更識の家で保護されている。

 

「おお一夏、円。気にするな。今始めたばかりだ」

刀奈

「遅いわよ一夏くん。さぁここに♪」

セシリア

「刀奈さん!自然に隣の席にお誘いしないでください!」

刀奈

「ぶー」

 

……どうやら彼女らのバトルはまだ続いているようだ。

 

「一夏、千冬さんは?」

一夏

「ああ全然元気そうだったぜ。この後は山田先生が会いに行くって」

シャル

「良かったね。ねぇ明日にでも僕達も行こうよ」

本音

「賛成~♪」

 

とりあえず一夏も適当に座り、改めてお祝い会が始まった。

 

一夏

「にしてももうすぐ皆とはお別れか~。まぁ俺と箒は同じ大学に行くけどな」

「そうだな!目指すものが一緒だから大学でも一緒だ!」

刀奈

「箒ちゃ~ん?私やセシリアちゃんや蘭ちゃんがいないからってくれぐれも人の旦那様に手を出しちゃだめよ~?」

「だ、誰が旦那ですか!」

「篠ノ之箒、千冬からの忠告だ。本気で望みを叶えたいのなら勉学をこれまで以上に疎かにするなよ?だそうだ」

「うっ…この場におられないのにまるでいるように思える…」

「にしても一夏があっちの方に進むとはね~。そして合格するとはね~」

シャル

「試験の時に真っ白になってた頃とは思えないよね~」

一夏

「…ほんっと皆様のご指導ご鞭撻のお陰です…」

刀奈

「私は簪ちゃんが私とおんなじ大学に来てくれて嬉しいわよ。姉妹揃ってまたおんなじ大学なんて夢の様だわ~♪」

「…お姉ちゃん。くれぐれも勉強の邪魔だけはしないでね?」

クロエ

「確か日本でも指折りの大学なんでしょう?流石は簪さんです」

「本音、アンタは確か専門行くんでしょ?」

本音

「うん、保母さんのね~。孤児院やハロウィンのイベント手伝ってから興味が出たの~」

シャル

「そういえばそんな事もあったっけ」

一夏

「とまぁ日本組はまだいいとして…セシリア達は大変だな」

セシリア

「はい…。私は母国の大学に通いながらお家を継がなければなりませんから」

シャル

「それに僕達は代表候補としてIS学園に来ていたからね。卒業したら一旦は国に帰らなきゃ。本当は日本にいたいけど」

「それは私も同じよシャル。あ~あ、ここでの生活も気にいってたのにな」

ラウラ

「私もだ。期間切れとはいえ帰国は残念な事だ…」

「でもラウラ。アンタのとこの軍も少しずつ改革されていってるんでしょ?」

ラウラ

「まぁな。ただ全てが変わったわけではない。シュバルツェア・ハーゼ隊長としてできる限りの事はするつもりだ」

刀奈

「クロエちゃんは?」

クロエ

「私は束様達の所に戻ります」

「…クロエ、すまないがまた姉さんを頼む」

 

どうやら皆それぞれが方向を決めているようだ。そんなやりとりをしつつ、残りの時間をゆっくりと過ごしていった…。

 

 

…………

 

そして思い出話などもしながらある程度経ち、話はあの方に向き始める。

 

「…それにしてもこの二年間の間も結構色々なことがあったな」

ラウラ

「ああそうだな…。本当に色々あった…。中でも教官だ」

「ええ。まさかあの戦いの後に千冬さんが…突然自首するなんて…想像もしなかった…」

一夏・円

「「……」」

 

皆、特に一夏と円が黙る。

実は千冬はあのラ・ディヴィナ・コメディアでの一件が過ぎ、皆が二年に上がる直前の春期休暇の中で警察に自首していたのだった。自分こそが束と並ぶ白騎士事件の首謀者のひとりであり、白騎士を扱っていた張本人だと言って。誰にも告げずに、真耶と海之にのみ伝えていた通りに。ふたりも千冬の決死の意思を組み、彼女の伝言通りその事をあえて誰にも伝えなかった。伝説のブリュンヒルデである千冬の逮捕は世界的に一大的なニュースとして取りあげられた。当然彼女を知る者全員、中でも一夏の動揺は想像以上に凄まじかった。千冬とはいえ事情が事情、重い罰は避けられそうになかった。…だが間もなくしてそんな千冬を救おうと世界中の人達が情状酌量を求める声を上げた。IS学園の者達はもちろん千冬と付き合いがあるイーリスやナターシャ、アリーシャやレミリア等ISの世界でも強い影響力がある人物やドイツでの教え子達、世界中の彼女のファンや更にあの事件で危ない目にあった筈の日本の者達からも声が上がった。その声があまりにも大きくなった事や千冬のこれまでのIS発展の功績、オーガスの打倒なども考慮した結果、刑は大幅に短縮・軽減されたものの無罪には流石にできず、現在はとある場所にて特別扱いの囚人となっている。

 

「あの時の一夏の乱れっぷりは凄かったよね。「なんで勝手にこんな事しやがったんだ千冬姉!!」って」

シャル

「うん。教室の皆も怖がってたもんね」

一夏

「わ、わりぃ…。でも仕方ないだろ?あん時は流石にさ…」

「だが先程も言ったように千冬は元気そうだった。そしてもう二年も経った。時が過ぎればまた会えるさ…普通に、自由の身でな」

セシリア

「ええそうですわね…」

刀奈

「そうよ、だから私達は待ちましょう。千冬さんの帰りを」

「はい…。そういえばクロエ、束さんは元気?」

クロエ

「はい、とてもお元気でいらっしゃいます。それに今は…あのおふたりも一緒ですから…」

 

 

…………

 

それは二年前、あの戦いの直後までに遡る。一夏達は全員ラ・ディヴィナ・コメディアから無事脱出したもののそのまま帰国する事は流石に出来ず、来た時のクロエのロケットも放棄していたために先に回収・脱出していたイーリス達が乗る救助艇を島の先端で待つ事になっていた。塔は完全に崩れ去り、真下にあったらしい「門」、その下にあった「扉」の反応も無い。どうやら火影が封印に成功した様だと皆が理解した。

 

一夏

「全部…崩れちまったな…」

海之・鈴・シャル

「「「……」」」

 

海之、そして鈴とシャルは先ほどから一言も喋っていない。簪達も察しているのかかける言葉がない。

 

簪・ラウラ

((海之(くん)…))

セシリア

「おふたり共…」

千冬

「……」

「ところで…お前達はどうするのだ?」

スコール

「…そうね…」

オータム

「もう決まってる様なもんだろ?テロリストとして処分されるだけさ」

「で、でもふたりは…」

一夏

「ああ…ふたりもどちらかと言えば被害者だ。アインヘリアル計画の…」

刀奈

「確かにそうかもしれない。でも…ふたりが今までやってきた事は決して許されないわ。あの飛行機爆破事故の真犯人じゃなくても…それまでやってきた事は覆せない」

ラウラ

「だがこんな事言うのはなんだが…ふたりが生きていることが公になれば…」

クロエ

「はい…。それはそれで問題でしょうね…」

 

確かにあの悪魔の計画の生き残りがいるとわかれば裏の権力者達には不都合に違いない。つまり無条件で、ふたりの未来は永遠に閉ざされる可能性が高い。

 

一夏

「ちょ、ちょっと待て!じゃあマドカも…!?」

マドカ

「……」

 

確かにマドカにも同じことが言えるかもしれない。しかし、

 

スコール

「マドカ、貴女は私達と違って計画の中で生まれてきたわ。つまりこの世界には本来存在しない人物」

刀奈

「貴女は当分更識の家で保護します。そして貴女の出生もこちらで何とか用意するわ」

マドカ

「…しかし…」

千冬

「マドカ…お前はもう地獄を見る必要はない。お前は光の中を生きろ」

一夏

「そうだぜ!お前の姉妹のためにもだ!お前は俺達が守る!」

マドカ

「千冬…一夏…」

「…なんだろう。なにか凄い事聞いてる気がする」

セシリア

「…でも、悪い気はしませんわ」

「ああ…。ここにいる者だけの…秘密だ」

 

全員が頷いた。そして更に…束がスコールとオータムに向かってこんなことを言い出した。

 

「なら君達、私のとこに来ないかい?」

スコール

「…え?」

オータム

「…あ?」

「ね、姉さん!?」

クロエ

「束様!?」

「だってさ~、このままふたりが捕まったら死刑か終身刑が目に見えてるし、そんなの勿体ないよ~。ふたりの事はあんまり嫌いじゃないし、ひーくんも言ってたじゃない?ふたりの人生はこれから始まるんだって。だったら死ぬなんてもったいないよ。それなら私の所に来ない?」

スコール・オータム

「「……」」

 

スコールとオータムはぽかんとした表情だ。

 

千冬

「束…お前、自分が何を言っているのかわかっているのか?」

「わかってるよちーちゃん。でもこの場には私達以外誰もいない。ふたりがここにいるのも知ってるのは私達だけ。そして世界の奴らも狙いはオーガスのジジイとあのへんちくりんな塔だけ。ならいいじゃん~」

ラウラ

「そ、そんな簡単な問題では…」

「日の下を堂々と歩く事はできないし日陰者同然だけどさ~、生きていれば必ずいいことあるって~。だから私の助手やってみない?あ、勿論クーちゃんの後輩だけどね~」

クロエ

「お、おふたりが私の後輩…」

 

当然だが他の皆も困惑しているが、そんな彼女らをよそに笑いながら楽しそうにそう言う束。

 

千冬

「お前…変わった様で実は全く変わっていないな?」

スコール

「………ハァ、全くとんだ変人博士だわ。……でも、悪くないかもね」

オータム

「…どうせ何度もとっくに死んでる身だ。日陰もんだろうが気にしねぇよ」

「そうこなくちゃ♪」

 

どうやらふたりは決意を固めた様だ。

 

刀奈

「私は何も見ていないわよ、皆は?」

一夏

「お、俺もっす!」

ラウラ

「う、うむ!」

 

他の皆も同意見だった。皆はここの一件を何も聞いていないし見てもいない。

 

「それじゃ私達は先においとまするね♪他の人がきたら厄介だし」

「お、おいとまってどうするんですか?もう救助は来ちゃいますよ?」

「それなら心配ナッシング~♪」

 

そして束は拡張領域からドスンッ!!と何かを出した。それは小型の潜水艦だった。

 

「せ、潜水艦!?」

一夏

「こんなものまで造ってたんすか!?」

「ムフフフ♪」

クロエ

「束様、私も!」

「大丈夫だよクーちゃん。残りの学生生活楽しんでね♪でも卒業したら帰ってきてくれると嬉しいな♪」

クロエ

「……はい。必ず」

スコール

「ブリュン…いや千冬。ダリルとフォルテを頼むわね。あの子達は誰も殺していない」

千冬

「…わかった、できる限りの事はしよう。…ああそれから束、ひとつ言っておく。この先何があっても気にするなよ?」

「…?……うん」

 

 

…………

 

一夏

「そして束さんとふたりは救助隊が来る前に密かに脱出したんだったな」

セシリア

「今思えば私達、とんでもない秘密を抱えている様な気が」

「それは言わない約束でしょ?」

クロエ

「とにかく束様もアレクシアさんもオータムさんもお元気にされているそうです」

シャル

「それは良かったね。…でも」

ラウラ

「ああでも…その先もあの人はとんでもない事をされたな」

本音

「あれは本当に驚いたよね~…」

 

その言葉に全員が大きく、とても大きく頷いた。

 

 

…………

 

それは千冬が逮捕されて間もなくの頃…。某大国の首脳部に一本の映像通信が入った。通信してきたのはなんと…、

 

(ハロ~お偉いさん方~♪お元気にしているかな~?世界のアイドルにしてISのゴッドマザーこと、篠ノ之束さんだよ~ん♪突然の連絡にさぞ驚いているかもしれない、いや驚いているに違いない!よくわかったねって?いや~それほどでも~♪)

 

それは束からの通信だった。ハッキングとか問題にせず要人達はくぎ付けになる。

 

(今日突然のご連絡は他でもない、君達にマッターホルンよりも高くマリアナ海溝よりも深い大事なお話があるんだよ~ん♪早速なんだけど~君達、ISの「コア」の造り方知りたくないかい~?なんなら教えてあげてもいいよ~ん。コアを自分達で造ることができればわざわざ束さんに頼む必要なんてないでしょ~?私もメールの嵐に苦労しなくてすむし~。た~だ~し~!当然タダって訳にはいかない~!条件があるよ~ん)

 

要人達はその言葉に大変驚く。ISコアの製造方法。それは束しか持たない絶対の技術であり、世界中が喉から手が出るほど欲しがっている情報。完成品のコアを入手するだけでも大変なのにそれ以上のものを教えてくれる等信じられなかったが興奮の方が勝っていた。果たして条件とは何か?

 

(この間ね~、面白い情報が流れたでしょ~?アインへリアル計画っていうさ~?でも途中で終わってしまった感じだから元ネタはどこか探ってみたんだよね~。そしたらオドロキモモノキサンショウノキ!世界のお偉いさんたるお偉いさんの名簿を見つけてしまったんだよね~。…それでね~、条件というのはこの計画に参加した人達、表舞台に出てきて謝罪してほしいんだよね~。だってこんなとんでもない計画があったなんて聖人というのを絵に描いた様な束さんからしたら許せないわけよ、わかる?全員なんて言わないからさ~、そんな事したら大混乱だし、生ける屍的な老人やポンコツみたいな奴らなら簡単に切り捨てられるでしょ~?)

 

……聞く者達全員が沈黙した。そして束のこれまでおふざけみたいな口調が変わる。

 

(…きっと間抜けな表情を浮かべてるだろうから言っとくよ、このくそ野郎共。自分達が昔やった事を全部棚に上げたまま死ぬまでいい目ばかり見れるなんて思うなよ?IS、そしてISコアは私の命。そんな大切なものをくれてやるんだからお前らもそれ相応の覚悟をしてもらおうか。お前らは高みの見物してるだけかもしれないけど私は知ってるよ。自分の命を、人生を懸けて世界を守った人達を。お前らにそんな事してほしいなんて思ってないさ。どうせそんな勇気も度胸もないしね。せめてトカゲのしっぽを切り捨てる位の度胸を見せろってこった。兆歩、いや景歩ゆずって軍用ISを作るなとは言わないであげるよ。言っとくけど偽物や変わり身を使おうなんて思うない方が身のためだぞ。そんな事したら悪魔の加護を受けたこの束さんがお前らのとこで大暴れするから。それと…これはよ~く耳かっぽじって聞いとけ。もし私の家族に脅迫みたいな真似したら……言わなくてもわかるよな?)

 

 

…………

 

「……という事があったのを後で束さんから聞いた時は流石に私達も驚きを超えて開いた口が塞がらなかったわね…」

「我が姉ながら…本当に恐ろしい人だ」

クロエ

「この件があってから暫くして世界中の主要国から多くの人間が謝罪会見、表舞台から斬り捨ての様に姿を消しました。そして…」

「同じ様にアインヘリアル計画に参加していた多くの人がテレビや雑誌で打ち明けたりしたんだよね。あのファイルを見て、昔の事を思い出して自責の念に堪えられなくなったんだって」

セシリア

「そんな気持ちの方もやはりいらっしゃったのですね。それを知って少しほっとしましたわ」

一夏

「全部ではないけどあの計画、そして死んだ人達の事がようやく知られたって事か…。…俺も父さん母さんの事を」

刀奈

「一夏くん。貴方が責任を感じる必要はないわ」

シャル

「そうだよ一夏」

ラウラ

「そして束さんも約束を守り、コアの製造方法を教えた。……しかし」

「ああしかし…」

 

そして全てが終わった後、束は自らの命とも例えたISコアの製造方法を教えた。……のだが、一夏達が本当にいいのか?と束に問い詰めたらこんな返事が返ってきた。

 

 

(ダイジョブダイジョブ♪だってコアの造り方を教えるとは言ったけど…コアを造るための材料の造り方や資材の揃え方まで教えるとは言ってないもんね〜!お陰で今度はその依頼でため息の連続だよ。まぁ精々依頼料ぶん取ってやるさ、ニャハハハハ♪)

 

 

刀奈

「……結果的にISは博士がいなきゃまだまだ進まないって事ね」

一夏

「やっぱ一番ぶっ飛んでんなあの人」

「寧ろ狂人かもしれんぞ」

 

皆が再び頷いた。クロエさえも。

 

「それはそうとシャル、今度デュノア社がアレを発表するのだろう?」

シャル

「あ、うん。第一号がようやく完成したんだ」

ラウラ

「おおやっとか!」

刀奈

「あのデュノア社がISから手を引いてアレに方向転換するなんて聞いた時は正直驚いたわね」

「アレといってももうほぼ別ものだけどね〜」

 

何やらデュノア社でも大きな出来事があった様だかそれについてはまた後程。とにかく千冬の自首、IS、アインヘリアル計画、何れも其れなりにではあるがこの二年間ゆっくりと時代は歩んでいた。……一部を除いては。

 

「そして…」

セシリア

「ええ…」

 

箒達は鈴・シャル・本音の三人を見る。そして話題は…彼の話になる。

 

刀奈

「全く…あの子ったらいつ帰ってくるのかしらね…。こんな可愛いガールフレンドを置いたまま…もう卒業まで経ってしまったわ」

ラウラ

「…お前達、大丈夫か?」

「…もう気にしてないわよ。知らせの一通も寄越さないし…」

シャル

「大事な女子高生時代の青春を返せって怒鳴ってやりたいよね…」

本音

「ほんとだよね〜…」

 

文句を言う鈴達だが…その場にいる全員が鈴、そしてシャルや本音の真意を知っている。鈴は友人達から男女で集まるみたいな誘いを受けても全く相手にしなかったし、本音はいつ火影が帰ってきてもいい様に部屋の掃除は欠かさなかったし、デュノア社令嬢でもあるシャルに至っては数える程度だが会社から見合いの申し出があると持ち掛けられても「僕には心に決めた人がいる」と聞かなかった。とにかく三人とも火影の帰還を今も心から待ち望んでいるのだ。

 

クロエ

「火影兄さん…、どうされているのでしょう…」

一夏

「心配ねぇよ!あいつは必ず帰るって約束したんだ!必ず帰ってくるって!」

セシリア

「おふたりが前世でどの様に魔界から…。それだけでも分かれば少しは安心できるのですが…」

「海之くんも火影くんの事はあれからずっと話さなかったしね…」

 

ひとり残った海之はあの後、まるで何事もなかったかの様に日々を過ごし、刀奈達の卒業後は彼女やヴィシュヌの推薦もあって生徒会長を務め、主席で卒業した。そしてその間、一度も火影の事を話そうとはしなかった。そんな彼を見て他の生徒は火影はただ単に帰国しただけで何でもないんだと思う者もいた。誰も真意に気づかないまま…。

 

刀奈

「…よしましょう。もう魔界に干渉する方法はない。そんな中で私達ができるのは彼が帰ってくるのを待つだけよ。特に鈴ちゃんシャルちゃん本音、貴女達が信じてあげなくてどうするの?」

鈴・シャル・本音

「「「……」」」

「…三人共…」

「……」

 

 

~~~~~~~~~~~

とその時、一夏のスマホが鳴った。

 

 

一夏

「…海之から?」ピッ「おう、どうした?……ああ皆いるぜここに。……マイクに変えろって?」

 

それは海之からだった。一夏は携帯の通話をマイクに変えろという海之の指示に従い、携帯を机の真ん中に置いた。全員が集中する。

 

一夏

「で、どうした海之?」

 

一夏はマイク越しに尋ね、その質問に答える海之。

 

 

一夏達

「「「………!!!」」」ガタンッ!!!

 

 

するとそれを聞いた一夏達全員が立ち上がった。それこそ机の上のものを全てひっくり返さねない位の勢いで。

 

セシリア

「ど、どうしまょう!いきなり過ぎますわ!」

「お姉ちゃん!自家用機借りられない!?」

刀奈

「いくらなんでも急すぎるわよ!」

クロエ

「私のロケットを使えばどうでしょうか!?」

ラウラ

「そ、そうか!姉上はお持ちでしたものね!」

シャル

「なら早く行こうよ!ねぇ早く!」

「急いで!置いてくわよ!!」

本音

「わー置いてかないでー!!」

「待て!ISでは無理だって!」

「…騒がしい奴らだ。慌てんでもアレは逃げはせんだろうに…」

一夏

「まあ気持ちはわかるさ。行こうぜ円!」

 

海之からの言葉を聞くや否や、全員が大急ぎで支払いを済ませ、全速で飛び出していくのであった…。




※次回は29日(土)に投稿予定です。

遂に終章に入りました。今回は前編です。本来は一緒にするつもりでしたが仕事で無理でした。本当にすいません。後編は少し短めになります。予定では来月で書き上げる予定ですので、もしよろしければ最後までご覧くださいませ。


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Mission225 待つ者 そして 帰る者②

ラ・ディヴィナ・コメディアでの戦いから二年…。一夏や箒達は無事にIS学園を卒業し、其々のこれから、そしてこの二年の間にあった事を振り返っていた。

千冬の自首…束のISコアの情報解放…アインヘリアル計画の発表…

激動的な出来事がありながらも世界は確実に、そしてゆっくりと進んでいたがそこにはひとりの人間の姿が足りていなかった。一夏達はその人物へ思いを馳せる。そんな中、彼らのもとにある連絡が入ってくる。それを聞くや否や、一夏達は凄まじい勢いで飛び出していくのだった。


一夏達が海之の電話にて店を飛び出していったちょうどその頃…。場所は変わってここは日本ではないとある場所。優しい光が降り注ぎ、そよ風が吹いているよく整備された原っぱ。そんな場所には墓石らしきひとつの石碑が置かれている。沢山の花に囲まれた中にポツンとある墓。

 

 

赤い服を着た銀髪の男

「……」

 

 

そしてその墓を前に赤い服を着ている銀髪をしたひとりの男が座っている。男は何も喋らず、じっと墓を見つめている。

 

 

(………まさかここに出てくるとはな。あん時と言い今回といい縁があるな全く…)

 

 

どうやら男はどこからか帰ってきたばかりらしい。そしてその帰還の報告を目の前の墓に眠っている人物にしている様だ。

 

 

(帰ったぜ…父さん、母さん。ふたりが俺達の秘密を守ってくれたおかげで俺は大事なもんを守れた…戦える事ができた…感謝してるよ、本当に。帰ってきたら第一に伝えたかったと思っていたがマジにできたとは…これもふたりの導き、ってやつかね…)

 

 

目の前の墓に眠るのはどうやら男の両親らしかった。感慨深い表情でそんな事を考えていると…。

 

 

……ザッ、ザッ、ザッ、ザッ

 

 

その時、男の後方から足音が歩み寄ってくる。だが男はそれに気づいていないのか、或いはわざと無視しているのか顔を向けない。

 

 

(あいつらは元気にしてっかな…。出てきたばっかでわかんねぇけどもうあれからどん位経ったのか…。悪い事しちまったから謝んなきゃいけねぇのはわかってるんだが…やっぱ気が重いぜ。あいつらも結構手こずる女だからなぁ…。いやあいつら以上にあの人か。きっとぶん殴られんだろうな…)

 

 

ザッ、ザッ、ザッ……

 

 

相変わらず足音は男のもとに真っすぐ近づいてくる。

 

 

(………ま、その前にやんなきゃいけねぇ事がある、な。帰ってきたばっかなのにおちおち休んでもいられねぇぜ…)

 

 

ザッ…ザッ………

 

 

やがて足音は男から少しだけ離れた背後で止まった。

 

 

青い服をした銀髪の男

「……」

 

 

近づいてきたのは青い服をきた銀髪の男だった。ふたりとも何も喋らない。聞こえてくるのはそよ風が揺らす草の音のみ。そんな間が数秒続いた後に青い服の男が背をむけたままの赤い服の男に話かける。

 

 

青い服の男

「……扉が開いたままだったぞ。戸締りはしっかりしておくんだな」

赤い服の男

「……そいつはすまなかったな。帰ってきたばっかで鍵かけんのを忘れてたぜ」

 

 

口ぶりからしてふたりはどうやら知り合いの様であるらしかった。

 

 

…ジャキッ!

 

 

すると青い服の男の手に一本の刀が出現した。それをもう片手に出現させた鞘に納めた。

 

 

「……よくも勝手に持って行ってくれたな」

 

「おいおい、人の剣を突然盗むなんざコソ泥かよ?」

 

「黙れ、これは俺のものだ。そう言うならば登録しておくのだったな」

 

「はは、忙しくてそれも忘れてた」

 

 

そんな会話に続いて青い服の男が赤い服の男に尋ねる。

 

 

「…どうやって戻ってきた?」

 

「…あ?忘れたのか?お前の刀が人と魔を別つのなら俺の剣は人と魔をひとつにする剣。その力でこっちとあっちを繋いだだけだ。前もそれで帰ってきただろうが。あん時は俺がその技を得るまで数年かかったが、一度コツを掴むとこん位は朝飯前だな」

 

「そうではない。どうやってこちらとあちらを再び別ったと聞いている。こちらに魔力は無い筈だが?」

 

「……あいつらが持ってたもんを思い出してな。あれは魔力をため込んだ電池みたいなもんだ。だから同じみたいなもんが、無くても器みてぇなもんがあればそれに魔力をため込んでおけるって思ったのさ。んでまず繋いだ後にそれを使ってお前の刀で再び閉じた。そういう訳だ。たった一振りで必死で集めた力がすっからかんになったがな」

 

「俺の鞘が感じたのはそれだったか…」

 

「……アレからどん位経った?」

 

「俺達は昨日卒業したばかりだ。そしてお前は今だ在籍中、つまり留年だ」

 

「て事は二年か…。留年…マジかよ…」

 

「そんなお前に一筋の光だ。千冬さんと一夏の関係から同じIS操縦者と同じ遺伝子、もしくは血縁者ならば男でも極まれに動かせる事が判明した。今年も数人程度だが学園に入学予定だ」

 

「…それは冗談抜きで良いニュースだぜ」

 

 

青い服の男の皮肉に赤い服の男は笑う。

 

 

「アイツら元気か?」

 

「聞くまでもなかろう。つい先ほどお前の帰還を連絡しておいてやった。数時間後には来るだろう。精々、特にあの三人には目一杯頭を下げるんだな」

 

「……余計な事しやがって…」

 

 

そういう男の口元はどこか嬉しそうだが次の言葉で強張る。

 

 

「ああそれとギャリソンやレオナさんにも知らせておいてやった。喜べ、レオナさんが笑っていた」

 

「……そうかい」

(俺…生きてられっかな…)

 

 

男の心が一瞬恐怖に支配された。

 

 

「……ま、とりあえずその件は後回しだ。二年もすりゃ結構いろんな事があったんじゃねぇか?」

 

「…ああ色々とな。だがそれも後回しでいいだろう。何故なら…」ジャキッ!

 

 

すると青い服の男は鞘に入ったままの刀を持ち直し、こう言った。

 

 

「これから暫くお前は意識を失うのだからな。安心しろ、あいつらに免じて殺さずにはいておいてやる」

 

 

ドンッ!!

 

 

そう言うやいなや男から凄まじい闘気の様なものが放たれた気がした。周囲にはそよ風が吹いている程度なのにその周りだけ強い風が吹き、草が動き、空気が違う気がする。その気が全て墓前の背を向けたままの男に向けられる。その男もそれを感じている筈だが…何故か男は落ち着いていた。

 

 

「あの時よくも俺を騙してくれたな…。加えて不意打ちまでしてくれるとは」

 

「おいおい、俺はお前の事を想ってやったんだぜ?おかげであいつらと楽しく過ごせただろ?」

 

「それとこれとは全く別の話だ。今まで幾度もお前に腹を立たされる事はあったが…あの時ほどのものは初めてだ。ふっふっふ…」

 

 

笑いながらも男の刀を持つ手がにわかに震えている。よほどの怒りという事か。だがそれも慣れているのか赤い服の男は慌てる様子を見せずにゆっくりと立ち上がる。背中は向けたまま。

 

 

「……やれやれ仕方ねぇ野郎だ。もうちょいクソッタレな兄貴じゃなければな」

 

「お前こそ、もう少し愚かな弟でなければな」

 

「…まぁいいさ。二年ぶりの再会だ。キスのひとつでもしてやろうか?…それとも」

 

 

ドンッ!

 

 

「やっぱこっちのキスの方がいいか?」

 

 

振り返った赤い服の男の手に異形な剣が出現し、それを青い服の男に向けた。それと同時にこの男からも凄まじい闘気が放たれ、それが青い服の男の闘気とぶつかり合う。草が揺れ、そよ風が吹き、太陽の光が降り注ぐ。そんな場所には全く不似合いともいえる雰囲気がその場を支配していた。このふたりは勿論…。

 

 

火影

「やっぱりこういうのが俺らの感動の再会らしいぜ」ジャキッ!

海之

「………らしいな」チンッ!

 

 

ここはスメリア。そしてふたりの両親の墓の前で…嘗ての魔人の兄弟は再会した…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから約数時間後…。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…!」

シャル

「早く!置いてくよ!」

本音

「皆お~そ~い~!」

 

火影と海之が相まみえたその場に走ってくる人物達がいた。勿論彼ら。海之から火影がここスメリアに帰還したとの知らせを受けた後、クロエのロケットで超特急でやって来たのであった。やはり鈴、シャル、本音の勢いは凄く、他の皆は遅れていた。いやあえて遅れていたのだろうか。

 

一夏

「い、いやお前らが速すぎんだよ…げふ」

「しっかりしろ一夏」

「全く情けない弟だ。そして奴らもせわしない」

刀奈

「そう言うんじゃないの円ちゃん。やっと会えるんだから」

セシリア

「それにしてもこのスメリアに戻ってこられるなんて何か縁深いものを感じますわね」

ラウラ

「あいつらの両親の導きというやつかもしれんな」

「海之くんの用事っていうのはこの事だったんだね」

クロエ

「それにしても海之兄さん、ひとりで行くなんてちょっとずるいです」

刀奈

「まぁいいんじゃない?私達がいたら話しにくい事もあるだろうし」

「ただ…あいつらの場合普通の再会とはいかない気がするな」

一夏

「ああ不思議と俺もそんな気がする…」

 

そんな会話をしていると彼らもやがてエヴァンス夫妻の墓の前に来たのだが……そこに火影と海之の姿は無かった。

 

「火影!どこにいんの!出てきなさい!!」

「海之くんもいないね…。どこに行ったんだろう?」

クロエ

「……!皆さん、上を!」

 

クロエの言葉で皆が空を見上げると、

 

 

ガキンッ!!キィィィンッ!!ガンッ!!ガキキキン!!ガキンッ!!ドゴドゴォォォ!!ズガガガガガ!!ズドドドドド!!……

 

 

青い空の中で激しい金属同士のぶつかる音と共に、赤い光と青い光が高速でぶつかり合っていた。紛れもなく火影と海之。Sin・アリギエルとSin・ウェルギエルだった。

 

一夏

「アリギエルとウェルギエル!」

本音

「ひかりん~!」

シャル

「火影…本当に帰ってきたんだね!」

「……」

ラウラ

「全く…散々姉を心配させおって!」

「それにしてもやはりふたりの挨拶はこうなるんだな」

セシリア

「まぁなんとなく想像はできましたが…。で、どうしましょう?」

 

皆はふたりの場に行こうとも考えたが、

 

火影

「こんだけ戦って完全に互角とはな…!どんな訓練したんだ?俺は向こうで山ほどの悪魔と戦ってたってのによ!」

海之

「束さんに頼んで模擬戦闘シミュレータを造ってもらった。向こうに悪魔がいるとしてどれほどの戦闘になるか、お前がどれほど腕を上げているか、そしてどうすればお前に勝てるのかを全て計算してな!簡単に勝てる等と思っていたのか!」

火影

「んな事は思っちゃいねぇさ!ただ往生際が悪いって思っただけだ!」

海之

「そっくりそのまま返してやる!そして俺を騙し打ちした罪を悔やめ!」

火影

「ケッ!冗談きついぜ!」

 

こんな会話をしながらふたりは互いの剣以外にも自分達の持つ武器や技を全て駆使して戦っている。それは一見すると試合どころか戦闘、殺し合いである。但し地上には絶対に被害を出さない様にしているのは熟練の者にしかわからない。

 

「これは中々だな…」

刀奈

「……誰か今のあのふたりを止める勇気ある人いる?」

 

全員が一斉に首を振った。誰もがその久々の兄弟ケンカを見守りつつも、

 

火影

「にしてもお前も相変わらずガキだな!これじゃいつまでも前世と変わらねぇぜ!」

海之

「ガキっぽさならお前の方が上だ!ベリーとオリーブを間違えて食った時の渋みがトラウマで未だにオリーブが食えないお前の方がよほどな!」

火影

「随分と懐かしい黒歴史を引っ張り出しやがる!そう言うお前こそ未だにカエルが苦手だろうが!」

海之

「誰のせいだと思っている!ガキの頃お前がイタズラで俺のシャツにカエルを仕込んでいたからだ!…思い出したら腹が立ってきた。お前を倒した後オリーブで埋め尽くしたピザを食わせてやる!」

火影

「なら俺が勝てば今度はお前の弁当箱にカエル仕込んでやるぜ!」

 

そんな口喧嘩をするふたりに少し呆れていた。

 

一夏

「あ、あははは…」

「どちらもまだ子供だな。むしろ私達よりも」

ラウラ

「…やれやれ全く。姉として嫁として恥ずかしい」

セシリア

「…でもやはりホッとしましたわ。火影さんも全然お変わりない様で」

シャル

「うん。火影…本当に良かった…」

「海之くん凄く活き活きしてる…。やっぱり心配だったんだね」

クロエ

「はい。それに火影兄さんの帰還を千冬さんや束様がご存じになられたらきっと喜ばれると思います」

「私達はともかくお前達は行かないのか?」

「……な~んかあまりにも変わってないから拍子抜けしちゃったわ。後で散々なじってやればいいわよ」

本音

「素直じゃないな~鈴~」

刀奈

「まぁもう暫くやらせてあげましょ。二年分の兄弟ケンカなんだから…」

 

そんな事を言いながら皆は赤と青の兄弟ケンカを見守り、ふたりのSE切れでまたまた引き分けという結果に終わるまで続いた。そして当然であるがこの後、降りてきた火影は鈴、シャル、本音を中心に皆に抱きしめられ、目を回らせていた…。

 

そしてこの日の夜、火影と海之、そしてせっかくなので一夏達も揃ってエヴァンス邸に宿泊する事になった。ギャリソンやニコや家の者達、火影の帰りの報を聞いて駆け付けたレオナとも喜びに満ちた再会の挨拶を済ませ(ちなみにレオナとの挨拶の後、火影は何故か約一時間気絶していた)、その日の夜はかなり賑やかな夕食となった。……そしてその後、皆で休んでいた時にある出来事があった。

 

 

一夏

「アリギエルとウェルギエルが…起動しないだって!?」

 

 

そう、昼頃いや夕刻の目前まで問題なく動いていたSin・アリギエルとSin・ウェルギエルが突然起動しなくなったのだ。

 

「どういう事だ…?SE切れではないのか?」

火影

「わかんねぇ。見事にだんまり決め込んでやがる」

海之

「SEは問題ない。だがセキュリティと武器の一部以外は全く動かん」

クロエ

「私も調べたのですが原因は不明です。こんな現象は過去に聞いたことがありません…」

セシリア

「クロエさんもご存じないなんて…。でもそんな事があるんですの…?」

「…それにしては随分落ち着いてるわねアンタも海之も」

火影

「深く考えても動かねぇもんはしょうがねぇさ。俺には銃が使えれば十分だし。もしかすると役目を終えて疲れて眠っちまったのかもな…」

海之

「俺も伊邪薙があればいい。それにこの力は本来この世には存在しないものだ。悪魔もいないのであればこのままにしておいて良いかもしれん」

刀奈

「…そうかもしれないわね…」

 

そんな感じで心配をよそに軽く受け止めたのだった。そしてこれを聞いた一夏達も自分達の持つ「魔具」も同じ様に封印できないかと考える様になった。あれも本来この世界にないもの。魔具の持ち主は自分達だがISは国のもの。やがて国に返す時くれば魔具も渡さなければならないのは危険に思ったのだ。この相談を受けたクロエは束に相談し、一夏の白式・駆黎弩以外の魔具を全て封印・放棄する事に決めたのはそれから間もなくの事であった。因みにではあるが火影と海之はこの後、束から専用機を半ば強引に押し付けられる事になる…。

 

そして時は……再び流れていく……。




Lastmission……「エピローグ 彼らの未来」


※次回は来月5(土)になります。
次回よりエピローグです。再会した火影と海之は19歳、DMC3のダンテ、バージルの年齢と同じになりました。姿格好も目の色以外同じと思っていただければと思います。




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エピローグ 彼らの未来①

火影が魔界から帰還してから更に数年の歳月が流れた。IS学園生だった皆もそれぞれの道を進み、二年の留年を経験する事になった火影も無事にIS学園を卒業することができた。因みにだが弾の妹である蘭もIS適正がある事が判明し、一夏達のひとつ後輩としてIS学園に入学し、彼女も無事に卒業した。

そんな事もあった中、世界もこの数年間の間にいくつか変わっていった。まずは男性のIS操縦者の更なる発見が点々と増えてきた事。優れたIS操縦者の肉親、若しくは双子の様なより密接な血を持つものならば例え男であろうとISを動かる者が稀にだがいるという事がより確信になったのだ。そのためにIS学園に入学する男子のIS操縦者も数人程度だが毎年出てきている。これは女尊男卑の世界の中に生きていた男にとっては嬉しい反面、女には苦いものであったであろう。しかし元々ISが女しか動かせないのは全くの偶然の産物であり、開発者の束にもわからない以上誰にもこの流れを防ぐ手は抑える手はなかった。更にこれを機に国際IS委員会は「IS操者特例法」なるものを世界に打ち出した。

 

「優れた操縦者の血と遺伝子を残すのを目的に、男性のIS操縦者と女性のIS操縦者が婚姻する場合、重婚を可とする」

 

というものだった。これには当然世界中の、主に女性から猛反発を受ける事になったが「この特例を採用する場合生まれてくる子には必ずIS操縦の適正検査を受けさせる」という一文を加えて何とか反対の声を黙らせた。もしその夫婦に娘が生まれてきたならばそれもまた優れたIS操縦者であるかもしれないという考えもあったのかもしれない。ともかく徐々にISは女性だけのものでは無くなりつつあった。

更にISの本来の目的である宇宙開発計画も再開始め(これには裏で束の脅しがあったともいわれている)、軍事やスポーツが今だに主流ではあるが少しずつそちらの目的も叶えられつつある。加えてもうひとつ、ISではないあるモノが世界的に一気に広まった事だがこれについてはまた後述する。ともかく様々な思惑がある中で世界は歩く様な速さで確実に進んでいったのであった。それは彼らもまた…

 

 

…………

 

日本 某ビルオフィス

 

 

秘書らしき女性

「お嬢様、この書類はこちらで宜しいでしょうか?」

 

どこかのビルの社長室だろうか。そこに秘書らしき女性と社長らしきデスクで作業している金髪の女性がいた。

 

金髪の女性

「ええありがとう。……ごめんなさいチェルシー。貴女は国に残っていても良かったですのに無理に付き合わせた形になってしまって…」

 

「気にされる事はございませんわお嬢様。こうしてお嬢様のお傍でお仕事できるのは私にとって一番嬉しい事なのですから。今までもこれからも」

 

「…ありがとう、とても心強いですわ」

 

チェルシーという女性に感謝する金髪の女性。どうやらふたりは随分昔からの付き合いの様だ。

 

「…ところでそれはさておきチェルシー、そろそろそのお嬢様というのはやめてくれないかしら?私はもう27ですのよ?」

 

「ふふふ、良いではありませんか。ふたりきりの時くらい♪私からすればお嬢様はいつまでもお嬢様ですわ。それにそう言われるのであれば早くご婚姻のひとつでもなさってくださいませ」

 

「もう~わかっていますわよ!最近お見合いのお話ばかりですもの…。でもそれに全て断りを入れているのは貴女も知っているでしょう?私には既にあの方が」

 

「ええわかっていますわ。その方のお傍にいるために新たにできたこの日本支社の支社長にご自身の希望で赴任されたのでしょう?」

 

「その通りですわ。そのためにお父様とお母様の会社を頑張って立て直したのですから♪…それにしてもあの方も早くご決断してくれませんかしら?シャルロットさんや簪さんはとっくに…」

 

 

~~~~~~~~~~

とその時、部屋に流れていたテレビがある速報を流した。それはとある国で武装組織によるクーデターが起こり、国の代表が拉致されたという内容だった。

 

 

「これは…大変な事件ですね」

 

「ええ…またこの様な事が起こるなんて…。世界はまだまだ変わりませんのね…」

 

それを見て和やかだったふたりの間に流石に緊張が走るが…金髪の女性の脳裏にある考えが浮かぶ。

 

「…でもあの国は確か……」

 

「どうされましたお嬢様?何か気になる事でも?」

 

「……ふふ、何でもありませんわ。さぁ仕事を再開しましょうチェルシー。きっと大丈夫。あの事件もすぐに解決しますわ」

 

疑問符が浮かぶチェルシーをよそに先ほどまでの緊張が嘘の様に金髪の女性は全く心配していない様な表情を浮かべていた。

 

 

成長したセシリア

(あの国は確かスメリアの友好国…。という事は間違いなくあの方々に連絡が言っている筈ですわ。なら何も心配いりません。それよりもやっと日本に戻ってこれました!待っててくださいね一夏さん♪)

 

 

…………

 

日本某屋敷

 

 

桃色の長い髪をした女性

「お嬢様、先ほど政府から通達があった件は?」

水色の髪をした女性

「ええ大丈夫。既に連絡したわ」

 

その同じ頃、日本某所にあるこちらの屋敷では同じくふたりの女性が何かしらの作業を完了したらしかった。

 

「それにしてもまさか本当に武装蜂起とは…。お嬢様の勘が当たりましたね」

 

「博士のご助言のたまものよ。「あの国で不穏な動きがあるから一応注視しといてねん♪」って。そんな重要な連絡を笑って送ってくる博士も相変わらずだけど。それに比べて政府の情報収集力は遅いわね~。まぁでも既に彼らには連絡してあるから大丈夫。きっと直ぐに解決するわ」

 

「そんな楽観的なのもどうかと思いますが…まぁ今回は確かに大丈夫でしょうね」

 

何やらふたりは例のクーデターを誰かに伝えたらしい。そしてよほどの自信があるのか解決を確信している様だ。

 

「そうそう♪あの件は彼らに任せましょ。…それよりも今年もIS学園に入ってくる男子がいるわね~♪」

 

「とはいえまだ20人位ですけどね。今考えればあの頃の騒ぎが嘘の様ですわ」

 

「あの時は一夏くんとあのふたりしかいなかったからね。あれに比べればより取り見取りになったわ~♪」

 

「…お嬢様、一応学園の理事のひとりなのですから上品にお願いしますよ?」

 

「だって~最近そっちの仕事も増えてますます忙しいんだもの。代表としての訓練もしないとだし、おかげで一夏くんとのデートも行きにくいわ~。今度セシリアちゃんも日本に来たし余計よ~」

 

「そんな事を言っていると来月の国際大会でギャラクシーさんやベルベットさんに負けてしまいますよ。彼女らも代表としてメキメキと腕を上げているのですから」

 

「はいは~いわかってますよ。結婚したい者としては先輩人妻の意見はしっかり聞くべきよね。……で、最近そっちはどうなのよ?」

 

「ど、どうって…弾さんもご実家の仕事で忙しいですし…」

 

「もう何言ってんのよ。そういう時に押して押しまくらないと子供なんてできないわよ?」

 

「そ、そういうものですか?」

 

そんな事を言われた虚は顔を赤くして何やら小声でぶつぶつ言っている様だった。そんな彼女を見て青い髪の女性は更に笑った。

 

 

成長した刀奈

「やっぱりいいわねぇ結婚って。一夏くん早くプロポーズしてくれないかしら?私ももう三十路前だし、いっその事箒ちゃん達と一緒になんて手もあるわね。でもその前に円ちゃんを説得しないといけないけど。いえ怯えちゃいけない、押して押しまくる、よね♪」

 

 

…………

 

IS学園 教職員室

 

 

それより少し前、ここはIS学園。ここも嘗て彼らがいた頃から全く変わっていない。男子は数えるほどであるが点々とおり、そこに女子が集中している光景もいまや毎年の定番になっている。そんな学園ではたった今午前の授業が終わり、生徒教職員が昼休憩に入っていた。多くの人物が学食や外で食べる中、ここ教職員室にふたりの男女がいた。

 

長いポニーテールの女性

「…ど、どうだ?自信作なんだが?」

黒髪の男性

「……」

 

どうやら一緒にお弁当を食べている様だ。

 

「……うん、うめぇ!」

 

「そ、そうか!よかった…安心した」

 

「そんなに心配しなくてもお前の料理がうまいのは学生の頃から知ってるだろ?」

 

「そ、それはそうだがやはりお前にそう言ってもらえるまで不安なのだ」

 

「大丈夫だよ、ちゃんとうまいから。悪いな、お前も忙しいのにまたこうして俺の分まで作ってくれて」

 

「気にするな。確かに教師の仕事や日本代表としての訓練もあるが…私にとってこれは幸せだからな」

 

「今度の大会も出るんだろ?負けんなよ?」

 

「当然だ。今度こそロランとの決着をつけてやるさ」

 

「ああそういや聞いたか?最近学園内にお前のファンクラブができたみたいだぜ?」

 

「……ああ知っている。全く困った事だ。私はあのひとのやり方を踏襲しているだけのつもりなんだがなんでそんな事に…。生徒の中にはお姉様!なんて言う者もいるし」

 

「はは、まぁ頑張れ」

 

そんなほのぼのとした会話をしていると女性の方がある事を切り出す。

 

「……なぁ、そういえばお前はいつ私と一緒になってくれるんだ?」

 

「いっ!?そ、そんな事今ここで言わなくても…」

 

「ふたりきりのこういう時でしか聞けんから言うのだ!刀奈さんもセシリアも蘭もずっと待っている!私はそれ以上に待っているんだぞ!教師を目指して共に同じ大学に行ってもお前はその間なんのモーションもかけてこなかったではないか!」

 

「だ、だって刀奈さん達も間髪入れてずっと連絡してきてたしよ〜」

 

「今はIS操者特例法もある!それならば重婚も可能ではないか!なんなら鈴や本音やラウラの様な手もあるぞ!あとはお前の気持ち次第だ!」

 

「うっ…そ、それはそうだがお前ら全員一気には…」

 

 

ガラッ

 

 

そんな会話が繰り広げられていた時、突然教職員室の扉が開いた。そこにはふたりの女性がいた。ひとりは黒髪のふたりよりも若く見える女性。もうひとりは緑色の髪をした眼鏡をかけた少し年配の女性である。

 

黒髪の女性

「全く何学校で下らん会話しているのだお前らは…」

眼鏡の女性

「あ、あのおふたり共…そういう会話はもう少し小さい声で話された方が…」

 

(た、助かった…)

 

「ふ、ふたり共! ま、まさか聞こえていたのですか!?」

 

「扉の前にいた私達だけだ。他には聞こえていない。幸運だったな」

 

「そ、そうか…ほっ」

 

「ふたりも休憩か?なら一緒に食うか?」

 

「いえ、その前にテレビを見てみてください。ちょっと騒がしい事が起こっている様です」

 

ふたりが言われてテレビをつけるとそこにはやはり例のクーデター事件の速報が流れていた。

 

「大統領一家が人質だと…」

 

「くそ、オーガスの言った通り相変わらずこんな事件は中々無くならねぇな…」

 

「…ですがそんな世界を少しでも良くしたい、そう思っておふたりは教師になったのでしょう?」

 

「……ええそうですね」

 

「ああ、もう二度とあんな悲しい計画を起こすような世界にしないために頑張ろうぜ」

 

眼鏡の女性の言葉を聞いてふたりは改めて気持ちを固めた様だ。

 

「そんなお前達にせめてもの朗報だ。先程17代目がこの件の解決をあいつに依頼したそうだ。既にもう連絡が行っているだろう。因みに今回は事件が事件だからな。向こうとの共同任務だそうだ」

 

「!…そうか」

 

「なら、きっと大丈夫だな」

 

ふたりは安心した様な表情を浮かべる。彼らもまたよほど信用している様だった。

 

「なぁ、今度久々に皆で会わねぇか?セシリアも日本に来たし、あいつらはスメリアだけど呼んだら来るだろきっと」

 

「お前な…もう私達は子供じゃないんだぞ」

 

「そうか?私からすればあの様な下品な恋愛トークとやらをあんな大声で話すお前が一番子供っぽいが」

 

成長した箒

「し、しかたないだろう!最近一夏と過ごす時間が少なくなって正直言って余裕がないのだ焦りもするさ!一夏!さっきの質問の答えを聞くまでこれから毎日同じ事を聞くからな!」

 

成長した円

「聞くのは構わんが私や千冬の許可を得る事が大前提だぞ?まぁ不可能だろうがな」

 

成長した真耶

「まぁでも確かに女の私からしても一夏くん、早く結論出してあげてくださいね?でなきゃ箒さん達がかわいそうです。女の子をあんまり待たせすぎたら怖いですよ♪」

 

成長した一夏

「あ、あははは…」

 

そんな感じでIS学園は今日も騒がしく、そして平和な日々があった…。

 

 

山田真耶

 

戦いの最中IS学園の混乱を抑える事に尽力し、その後千冬が自首してからも彼女の意志を継いで引き続き学園を支えた。また彼女の恩赦を望む活動にもイーリス達と並んで筆頭に立つなど思い切った行動もして見せた。前校長の推薦で今年よりIS学園の校長に選出される。

 

 

織斑円

 

あの戦いの後、暫しの間更識邸で匿われていたが無事に身分証明を済ませ、外出が許されるようになった。また束から提供された医療技術の甲斐もあり、人体実験によって成長促進を促されていた身体も完全ではないものの老化のスピードをある程度抑え込みに成功した。現在はIS学園の事務員として働いている。

 

 

セシリア・オルコット

 

母国に帰国後、大学に通いながらアインヘリアル計画に加担していた一部企業と懇意であったという理由で評判が下がりつつあった両親の会社を潰させまいと奮起し、立て直す。その途中で正式なイギリス代表も上り詰め、大学卒業後は引き続き会社を支えていたが日本に支社を創る事になると本社を信用できる者に任し、本人の強い希望でメイドと共に日本支社長として赴任してきた。今でも一日一回は一夏とテレビ通信をし、一夏からのプロポーズを今か今かと待ち続けている。

 

 

更識刀奈

 

現ロシア代表、そして第17代目更識家当主「更識楯無」という両方の立場を続ける。後に功績が認められ、歴代最年少でIS学園の理事のひとりに選出された。更識家として政府が対応しきれない裏の問題を引き続き受け持っているが更識の影の歴史は自らの代で終わらせようとも密かに思っている。一方で一夏とのいつかの結婚に向け、花嫁修業に没頭中。

 

 

篠ノ之箒

 

ISを世に正しく広める事、そして正しい志を持つ操縦者を生み出したいと思う様になり、IS学園の教師になろうと決意し、無事合格。更に日本代表候補であった簪が自らの意志で辞任し、彼女本人の推薦もあって日本代表候補、そして現日本代表となった。千冬を理想の教師として精進した結果、今では彼女の二代目とも言われる程になり、ファンもかなり増えている。しかし教師と代表の両方をこなす生活の中で一夏との時間を中々作れないのが少し不満に思っている。

 

 

織斑一夏

 

アインヘリアル計画や自分の両親が犯した罪を忘れないため、そして少しでも償いがしたいという思いから自身が百式の企業から受け取っていた報酬金を使い、計画があった島に密かに慰霊碑を建立、残った金を全て被害者家族の支援に使った。その後、二度とあの様な悲劇を生み出さないために必要な事はこれからの者達の教育であると考える様になり、自らも教師、しかもIS学園の教師を目指し、猛勉強の結果無事に合格、箒と共に赴任する。相変わらず箒・セシリア・刀奈・蘭から猛烈なアピールを受け続けており、彼女らのためにIS操縦者の男子のみ重婚が認められる法律に従おうとも考えているがどうなる事は今後次第というところか。しかしその前に円や千冬の許可を得る事が難しいかもしれない…。




※次回13日(日)の予定です。

前編後編に分けています。そして次回で最終回の予定です。あとがきも長くなります。良ければ最後までご覧くださいませ。


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エピローグ 彼らの未来②

一夏達がIS学園でそんなひと騒ぎをしていたちょうどその頃…。


某住宅

 

 

場所は変わってここは一件の大きい住宅…。

 

 

幼い声

「「お母さん!」」

 

 

その家の中で何やら母親を呼ぶふたつの幼い声がした。

 

母親らしき女性

「どうしたの蒼馬(そうま)咲那(さな)

 

それに対応するのは同じ水色の長い髪を持ついかにも母親らしい雰囲気を放つ女性。

 

蒼馬と呼ばれた少年

「お母さん!お父さんは?」

咲那と呼ばれた少女

「蒼馬ったらお父さんと遊びたいって聞かないの」

 

ひとりは少年、もうひとりは少女。ふたり共水色の髪をし、非常によく似ており、どうやら双子らしかった。蒼馬、咲那という名前らしい双子の兄妹はどうやら父親を捜しているらしい。そんなふたりに母親の女性は宥める様にこう言った。

 

「そうなの…。でもごめんね、お父さんはこれから大事なお仕事だからその準備をしているの」

 

「ほ~ら言ったでしょ?お父さんは忙しいのよ」

 

「え~!昨日帰ってきたばかりじゃない~!」

 

どうやら双子でも少年の方はまだ幼げがある様だ。

 

「ごめんね蒼馬。でも本当に大事なお仕事なの。お父さんだけじゃなくお義母さんも行くから」

 

「お義母さんも?なら本当に大事なのね」

 

「む~…」

 

少年はしぶしぶ諦めた様子。

 

ガチャッ

 

 

銀髪の少女

「お母上!」

 

 

…とその時室内の扉を開けて入ってくる者がいた。入ってきたのは兄妹と同年代位の長い銀髪をした少女だった。その少女は双子の母親を見るやいなやお母上と呼んだが兄妹と似てはいなかった。

 

「あ、アイラ」

 

「こんにちはアイラ」

 

少女の名はアイラと言った。

 

アイラと呼ばれた少女

「おお蒼馬、咲那。元気そうだな」

 

「まぁアイラったら。昨日も一緒に皆でご飯食べたばかりじゃない」

 

「アイラ、お義母さんは?」

 

「うむ。母上ならもう間もなく来られる。それよりお母上、今日からまたよろしくお願いします!」

 

「ええ。よろしくねアイラ」

 

どうやらアイラは自らの実の母親を「母上」、そして双子の母親を「お母上」としているらしい。

 

「ほんとにアイラはお義母さんに似てしっかりしてるよね。蒼馬とは大違いだわ♪」

 

「アイラが変わってるんだよ~。お母さん、僕って変?」

 

すると母親は双子の髪をなでながら安心する様に言った。

 

「ううん、全然変じゃないわ。蒼馬は可愛い。もちろん咲那もね」

 

「…えへへ♪」

 

「ほんとに甘えたさんなんだから…」

 

そういう咲那も決して嫌そうではない。するとアイラが来てから間もなくしてもうひとり同じ扉を開けて入ってきた人物がいた。

 

銀髪の女性

「すまない、支度に手間取ってしまった」

 

スーツを着た長い銀髪の髪を後ろでまとめている女性。彼女がアイラの母親なのは一目でわかった。

 

「母上!」

 

「お義母さん!」

 

「こんにちはお義母さん」

 

「おお蒼馬、咲那。昨日ぶりだな。元気だったか?」

 

「ふふ、アイラと同じ事言ってるわ」

 

アイラと同じ反応を見せた事にクスっと笑う双子の母親。

 

「すまないな、急な仕事とはいえ折角の段落の時間を…。今日はお前達の方なのに…」

 

「ううん全然気にしないで。アイラもいた方が楽しいし。…あの人をお願いね?」

 

「ああ任せておけ。直ぐに終わらせて戻ってくる。すまないが娘を宜しく頼む。アイラ、迷惑かけるんじゃないぞ。ケンカなどしたら承知しないからな」

 

「大丈夫です母上!」

 

コツ、コツ、コツ…

 

銀髪の男性

「…待たせたな」

 

とその時、ゆっくり階段を下りてきたのは背の高いオールバックの銀髪の髪をした青い目の男。彼の姿を見るや否や幼い子供達が当然の様にこう反応した。

 

蒼馬・咲那

「「お父さん!」」

アイラ

「父上!」

 

やはりこの男が子供達の父親らしかった。しかし何故双子だけでなくアイラの父親でもあるのか…。

 

「貴方…」

 

「いや大丈夫だ。私も準備を済ませたばかりだからな」

 

「状況はどうなっている?」

 

「社長も既にオフィスに向かっている。詳しい話は向こうでとの事だが…」

 

これからの仕事について話すふたり。…とその時、蒼馬が男の上着を引っ張りながら寂しそうに言った。

 

「…お父さん、早く帰ってきてね?」

 

「蒼馬、お父さんと遊びたかったんだって」

 

そう言う咲那もどこか寂し気である。やはり彼女も父親と過ごせないのが寂しそうだった。そんなふたりを目にした男はふたりの目線にまで姿勢を下し、柔らかな表情を浮かべながら

 

「…すまない。だが安心しろ。帰ってきたら沢山遊んでやる。アイラ、お前も一緒にな。母さんを頼むぞ」

 

「うん」

 

「はい♪」

 

「はい父上!」

 

蒼馬も咲那もアイラもその言葉に安心した様だ。そして今度は妻である双子の母親に話しかける。

 

「すまないな…」

 

「ううん気にしないで。貴方にしかできない大事なお仕事なんだもの」

 

…スッ

 

「直ぐに戻る」

 

「…うん。行ってらっしゃい…」

 

妻をそっと抱き寄せてから挨拶を済ませると男はアイラの母親と共に出発していった。

 

「…お父さん本当に忙しそうだね」

 

「ああ…。だが蒼馬、父上そして母上は多くの人、何より私達のために力を尽くしておられるのだ。もっと誇りに思うべきだぞ」

 

「そうよ。お母さんはそんな頑張ってるお父さんが一番好きなんだから♪」

 

「ほんとお母さん?寂しくない?」

 

すると女性は再び少年の頭をゆっくり撫でながら優しい笑みを浮かべて答えた。

 

 

成長した簪

「ありがとう蒼馬。でも大丈夫、全然寂しくなんかないわ。咲那の言う通り、お母さんはそんなお父さんが大好き。お父さんはお母さんにとって…世界で一番のヒーローなの♪」

 

 

…………

 

???

 

 

元気な女性の声

「はいはいじゃあね~。次は一号機はそのまま真っすぐ、二号機はジグザグに動いてみて~」

 

場所は再び変わる。銀髪の男女が家を出発したその頃、とある場所にて何やら実験が行われていた。その場には…ふたつの全身装甲のISが浮かんでいた。

 

ドンッ!ドンッ!

グイングイン!

 

そして二体は通信機から伝わってきた声に従い、暫し言われた通りに動く。

 

「…ふむふむ、加速は12パー、旋回能力8パー上昇か。うんうんいい感じだね~。じゃあ次は~…」

 

通信機からの新たに指示する声に従い、ふたつのISがそれに従う。……そんな事を複数回繰り返した後に声の主は結果に満足したのか実験終了の合図をふたつの機体に送る。

 

「よ~しよしよしオッケー♪ありがとね~貴重なデータが取れたよ~。ふたり共帰還して~。お疲れ様~♪」

 

そう言って通信を送っていた者は満足そうにふたつの機体に帰還を促した。そして今度はその機体を動かしている者同士のやりとりが始まる。

 

女性の声(二号機)

「あ~~疲れたぜぇ…。毎度のことながら無茶な指示ばっか出しやがって~…。おいそっち大丈夫か?」

女性の声(一号機)

「はぁ、はぁ…。ええ何とかね…」

 

両機とも女性が乗っている様だ。どうやらかなり疲れているらしく声にも疲労の色が伺える。

 

「今度の新型のブースターも凄いわね…。それにしても昔はこんな程度の動きは簡単だったつもりなのに…。私もそろそろ歳かしら?」

 

「いやいやアイツの造ったもんが毎回ぶっとんでるんだよ。毎日新しいアイデア思いつきやがるし。おまけにこんな宇宙空間と空とじゃ意味も違うしよ…」

 

…そう、ここは地球ではなく宇宙空間。眼下には青く輝く地球が見える。彼女達はそこで新型の試作IS、そして装備のテストをしていたのである。宇宙開発のために造られたISとはいえ重力下と無重力ではそれなりに条件が違う。

 

「にしても…まさかこの私がこんな場所でこんな事する時が来るとはねぇ…。お前も同じ気持ちなんじゃねぇのか?」

 

「…そうね。…でも嬉しくもあるわ。昔空軍にいた身としては宇宙に行けるなんて夢だもの」

 

「ああそういやお前はそうだったな。ま、私もアイツの最新のISに乗れたり、新型の装備を第一に試せんだからその点文句はねぇけどよ」

 

色々大変そうだがどうやらふたり共、今の生活にはそれなりには満足している様だった。

 

スコール

「さぁ戻りましょ。早く帰ってシャワーを浴びたいわ」

 

オータム

「りょ~かい」

 

そう言うとふたりはある場所に向かっていく。よく見るとその先には小さな宇宙ステーションらしきものが浮かんでいた。どうやらここが彼女達の居住地の様である。そしてそこでは、

 

「………よし、改善完了!これでさっきのテストよりも更に10パー位性能上がったよ~ん♪」

 

先程通信を送っていた人物がテストの結果から見えた改善点を発見し、満足そうにしていた。

 

「今度のブースターも上々の結果だね~♪流石この私の発明!毎度の事ながら自分の才能が怖いね~。ISの本来の目的を叶えてほしいっていうお願い(脅し)のおかげもあって世界中で宇宙用の装備も少しずつだけど開発が進んでいってるし、まぁこの私の半分のレベルにも及ばないけど~。全くもう少し世界全体のレベルも上げてほしいもんだよね~」

 

ウィーンッ

 

とその時、ひとりの女性が扉を開けて入ってきた。

 

ボブカットの銀髪の女性

「失礼します」

 

「おろ、もうご飯かな?」

 

「いえ、今しがたあの方から至急のご連絡が…」

 

入ってきた女性が手短にその内容を伝えると…。

 

「……成程ね。やっぱ私の睨んでいた通りだったか。全く馬鹿な奴等だね~」

 

「はい。それで事件の早期解決のため協力してほしいとの事です」

 

「了解~。超特急で仕上げるってあの人に伝えといて~♪」

 

そう言うと女性は早速その作業を始めた。このふたりは勿論あのふたり。

 

全く変わってない束

「ああクーちゃん。今日の晩御飯は月見そばでお願いね♪クーちゃんのお蕎麦美味しいし、お月様見てたら久々に食べたくなっちゃった♪」

 

成長したクロエ

「宇宙に上がってからずっと見ているじゃないですか束様…。はい、承知しました」

 

…………

 

某オフィス

 

 

どこかのビルにあるオフィス。そこに先ほどの銀髪の男女がいた。

 

「社長はもう数分で来られるそうだ」

 

どうやらふたりは自分達の上司を待っているらしかった。見た所デスクらしきものはみっつしかなく、今この場にいるふたりとその上司しかいない人数の規模は小さい様だがオフィス自体は立派な応接間や装飾、豊富な書物が収められている本棚、山ほどの書類が棚に納められている事等からかなり繁盛はしている様だ。

 

「それにしても折角の家族団欒の時間を潰しおって…。余計な事をする奴等だ」

 

「お前が気にする事ではない。心配するな。終われば必ず埋め合わせはする。簪達ともお前達ともな」

 

どうやら子供達の時間を潰された事に女性は不機嫌な様だ。

 

「……」

 

「どうした?」

 

「…ふふ、何度考えても不思議なものだ。嘗て力と立場しか見えていなかった私にこんな未来が待っていたとは」

 

「後悔しているのか?」

 

女性は首をブンブンと横に振った。

 

「そうではない。寧ろ教えてやりたい位だ。愛する者に出会い、子を成し、共に生きる事の幸せをな」

 

「そうか…。だが」

 

「言うな。私達で決めたのだ。特例を利用すればアイラ、そして蒼馬も咲那も間違いなくIS適正を測られ、政府に利用される。それだけは絶対に嫌だ。そんな事ならば今の関係の方がいい。私達だけではない。あいつらも同じ気持ちだ。大事なのは想いだ。共に暮らせる様に家を二世帯にしたし、簪だけでなく私にも性を名乗らせてくれているではないか」

 

そして続けざまに彼女はこう言った。

 

成長したラウラ

「はっきり言ってやればいいのだ。簪は「妻」、私は「嫁」だとな。一緒に結婚式もあげたし、私や簪やあいつらは周りに言っているぞ?「私達の夫」とな♪」

 

「…はぁ」

 

笑いながら迷い無く言ったその言葉に男は小さくため息を放つが嫌そうではなかった。

 

ウィーンッ

 

とその時事務所の自動ドアが開いて入ってきた者がいた。

 

黒髪の女性

「すまない。渋滞に引っかかって遅れてしまった」

 

首に白いマフラーを巻き、黒いレディスーツを着た黒髪の女性。

 

「社長」

 

「おはようございます」

 

「おはよう。…ふたり共すまんな、特にお前は昨日要人警護の任務から戻ったばかりというのに。蒼馬や咲那がさぞ残念がっていただろう?」

 

「気にしないでください。簪に任せておけば安心です」

 

「ぜひ今度また顔を見に来てやってください。アイラも会いたがっていました」

 

どうやらこの社長らしき人物も家族絡みの付き合いの様だ。

 

「…ああそうだな。それにしてもまだ5歳だというのにお前をそのまま縮めた様な奴だといつも思うぞ」

 

「恐縮です」

 

「それより社長、状況は?」

 

「…うむ。先程更識家を通して伝えられてきた情報によると24時間の内に要求を呑まなければ大統領はじめ人質を殺すと言ってきているらしい。状況が状況なだけに他国も無暗に干渉できない様だ」

 

「全く愚かな…」

 

「それで俺達に…という訳ですね?」

 

「そうだ。更識を通して送られてきた政府からの裏の依頼だ。お前達の任務は例の国に極秘潜入、囚われている大統領一家の保護と奪還及びクーデター一派の逮捕だ。いいな?」

 

自らの任務を理解したふたりは頷く。

 

「先程あいつにも現場の最新映像を送ってもらう様に依頼しておいた。任務に役立ててくれ。ああそれと…お前達だけでも十分だろうが今回は事態が事態だ。失敗は許されん。故に念のため、本社との共同作戦になった」

 

「本当ですか?なら猶更心配はいりませんね」

 

「……ハァ」

 

男は軽いため息をはいた。

 

「どうした。不満か?」

 

すると男は目を閉じながらこう言った。

 

「…いえ、あいつが仕事の邪魔にならないか心配なだけです」

 

~~~~~~

それを聞いた女性ふたりはクスクス笑い、そして改めて姿勢を整えて言った。

 

「宜しく頼むぞ。ふたり共」

 

「はい」

 

「はっ!お任せください!」

 

そう言うとラウラは先に出ていき、

 

「ああ待て」

 

続けて出ていこうとする男性に女性が声をかける。

 

「気をつけてな。……海之」

 

 

成長した海之

「……」コク

 

 

成人として、そして父親として成長した海之。彼は何の心配もいらないという様に笑みを浮かべ、女性に礼をして出ていった。

 

~~~~~~~

するとデスクの電話が鳴った。

 

(やれやれまた依頼の電話か…。忙しいに越した事はないがこれでは学園に勤めていた時と大して変わらんな全く。そろそろ新しいスタッフでも雇おうか…。いやそうなると今以上にあいつらと過ごす時間が減るしな。まぁ鞭打って頑張ろうではないか)

 

苦笑いしつつそんな事を思いながら千冬は新たな依頼であろう電話を取り、真摯に対応した。

 

あまり変わっていない千冬

「はい、お電話ありがとうございます。こちら……」

 

 

…………

 

篠ノ之束

 

11年前の戦いの後、世界のISの方向を変えるため、そしてアインへリアル計画という裏の歴史の公開を見届けた後に自身もISコアの情報を公開。国々にコアの作成方法を教えた後に再び姿を消す。実は宇宙に小型ステーションを密かに建造し、そこを拠点に本格的に宇宙開発というISの本来の目的のために動き出していた。コアの情報は教えたもののそこまでに至る道順を教えていないので相変わらずISに関しては世界に必要不可欠な人物だが全てはISを本来の方向に戻すという自身の罪滅ぼしと自分を信じてくれた人々との約束を守るため、今の彼女に迷いはない。

 

 

クロエ・クロニクル

 

IS学園を卒業後、約束通り束の所に戻り、これまでと同じく引き続き束を支える。地球の皆や義兄である火影や海之とは今でも引き続き連絡を取っており、たまにスメリアにも行ったり(帰ったり?)している。料理の腕もかなり上達したらしく、昔の様な真っ黒スライムを生み出したりする事も無くなった。また学生時代のボブカットが気に入ったのか髪型も変えていない。

 

 

スコール(アレクシア)・ミューゼル&オータム

 

束に誘われる形で同行した後、彼女と共に宇宙に上がる。そこで束の新開発のISや装備のテストパイロットとして働く。しょっちゅう束に振り回されているために辟易しているが悪くは感じていないのかなんだかんだ言ってうまくやっているらしい。スコールはもう死んだ者として本名のアレクシアという名を捨て、引き続きスコールを名乗っている。

 

 

簪・藤原・エヴァンス(更識 簪)

 

IS学園を卒業した後に姉刀奈と同じ大学に進学し、同時に自らのIS日本代表候補の座を辞退し、代わりに箒を推薦する。大学卒業後にドイツから戻ってきたラウラと一緒に海之にプロポーズするつもりだったが後述の通りラウラの後押しを受ける形で海之と結婚。更識の家を出て彼との間に蒼馬・咲那という双子を儲ける。家や子供を守り、仕事で忙しい夫を献身的に支えるその姿はまさに良妻賢母という言葉がふさわしく、家族と共に生きる今の生活を何にも代えられない幸せなものであると感じている。

 

 

ラウラ・エヴァンス(ラウラ・ボーデヴィッヒ)

 

ドイツに帰国後、シュバルツェアハーゼ隊長としてアインヘリアル計画やVTS計画が明るみになった事で軍内部に起こった混乱を鎮め、立て直しに尽力した後に隊長とドイツ代表の座を辞職、その後日本に渡る。簪と彼女のために海之は特例法を利用する事も考えるが将来生まれるかもしれない子供を自分の様に世界に利用されたくないと彼女はそれを固辞、簪を妻に押して自分は内縁上の嫁という立場に収まる。エヴァンスの性を海之から贈られ、仲間や嘗ての部下に祝されながら式を挙げる事もでき、海之との間に娘アイラを儲けた。内は簪が、外は自分が海之を支える今の生き方に不満は全く感じていない模様。

 

 

織斑千冬

 

11年前の戦いの後、白騎士事件の責任を取って学園を秘密裏に辞職。警察に出頭する。その後彼女を救おうという声が世界中に広がった事やこれまでの彼女の功績が認められた事もあり、懲役8年と大幅に罪が軽減された。出所後、学園に戻ってきてほしいという声や各国から教官としての誘いを受けるが彼女はそれを全て断り、海之から「この度自分が日本に立ち上げた会社の代表になってほしい」と誘われ、承諾する。今も海之を想っているがその気持ちは自分の胸の中で封印しておく事を決めている。が、簪とラウラの図らいで月に一度織斑宅で海之とふたりきりで食事する(因みに泊まり込み)という約束を取り付け、その時は前の様にはりきっておしゃれしている。

 

 

海之・藤原・エヴァンス

 

火影との再会の後に世界的に名門の大学に進学し、通常よりも一年早く全過程を修了。その後「書物や映像では見えない世界のありのままの姿を見たい」と一年間世界をひとり旅する。日本に帰国した後に彼をずっと待ち続けていた簪と結婚。前述の通り婚姻は結んでいないがラウラとも夫婦同然の関係となり、刀奈の計らいで彼女らと式を挙げた。簪達と暮らす場所とラウラ達と暮らす場所の二世帯を繋げた特別なつくりの住宅で暮らしている。警備・調査・探偵業を主とする企業の日本支部を立ち上げ、支長に千冬を推薦して自身はラウラと共に実動員として働く。彼女ら、そして自身の血を受け継いだ者達を何よりも大切に思い、全てを懸けても守ると誓った今の彼にはもう以前の様な冷酷な悪魔の姿は微塵もない。その姿は間違いなくひとりの人間であり、よき夫であり、父親であった。




※次回は20日(日)の予定です。

今回は中編です。仕事が立て込んだ事や予定よりも文章が長くなってしまった事も重なり、三部に別ける事にしました。すいません…。
次回こそ本当に本編最終回です。挨拶も書く予定ですのでまた一週間後の日曜日にUPします。よろしくお願いします。


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エピローグ 彼らの未来③

日本で海之達が事態解決に向けて動き出した時、こちらの国では…。


スメリアの空港

 

 

金髪の髪を後ろで束ねた女性

「あ~疲れた~」

 

ここはスメリア唯一の空港。そこにひとりの女性が降り立った。長い金髪の髪を後ろで束ねた白いスーツ姿の女性。

 

「今回の出張は長かったなぁ…。もう何回も飛行機に乗ってクタクタだよ」

 

なにやら仕事で長期出張から帰ってきたらしいその女性はひどく疲れている様子だった。そんな彼女が到着ロビーに出てきた時、

 

 

金髪の少年

「お母さん!」

 

 

金髪の少年が母と呼びながらその女性に走り寄ってきた。どうやら彼女の子供らしく、母親を迎えに来た様子だった。

 

「ただいまシャルル!元気だった?」

 

「うん!お仕事お疲れ様!」

 

シャルルという名前の少年が母親を笑顔でねぎらう。子供に会えた喜びか女性の表情から疲れが飛んだように見える。

 

 

サイドテールの少女

「ママ~!」

桃色の髪の少女

「おかあさん!」

 

 

そこに続けてやってきたのは少年と見た感じ同い年位のサイドテールの茶色い髪をした少女と桃色の髪をした少女のふたり。彼女らもまた女性を母親と呼んだ。

 

「華音や琴まで!皆で来てくれたの?」

 

「うん~!」

 

「私はシャルルだけで行った方がいいって言ったんだけど華音が聞かなくて」

 

「何言ってるのさ。華音より喜んでたくせに」

 

「余計な事言わないのシャルル!」

 

三人が兄妹の様に仲が良いのは誰の目にも明白だった。そのやりとりに女性も微笑む。

 

桃色の髪の女性

「おかえり~!」

 

すると再び現れたのはその子供達を引率してきたと思われる桃色の髪をした女性。よく見ると琴という少女によく似ている。彼女が琴の母親であろう。

 

「うん、ただいま。今度もありがとうね。仕事の間シャルルを看てくれて…」

 

「大丈夫だよ~。皆一緒の方が楽しいしご飯も美味しいし~♪」

 

「もうお母さんたら…」

 

どこかのほほんとした母親。どうやら親子でも娘の方が母親よりほんの少ししっかりしている様子。

 

「ねぇお母さん、お仕事はどうだった?あとお爺ちゃんとお祖母ちゃんにも会ったんでしょ?」

 

「うん、お仕事の最後にね。元気そうだった。それと明日から暫くは出張も無いし、一緒に過ごせるよ」

 

「ほんと~!」

 

「やった~♪」

 

「それはシャルルの言葉よ華音」

 

シャルルに負けない位喜ぶ華音。そしてそう言いつつ琴も他のふたりと同じく嬉しそうである。そんな会話をした後にとりあえず車で移動する事にしたのだがその途中の車内で、

 

「あっそうだ、帰りの飛行機のニュースで見たんだけど…」

 

「うん、私達も知ったよ。何か大変そうな事件だね…」

 

事件とはやはり例のクーデター。その内容にさすがに琴の母親も少し表情が曇るが、それは次の子供達の言葉で解消される。

 

「でも大丈夫だよママ!ついさっきママがパパに教えに行ったから!」

 

「お父さんにお仕事の電話が来たの」

 

「一緒にお母さんを迎えに行けないのを残念だって言ってたよ」

 

「そうなの?そういえばあの国はスメリアの友好国…。ならきっと大丈夫だね。…それにしてもお母さんも残念だなぁ。久しぶりにお父さんと過ごせると思ったのに」

 

「じゃあお父さんが帰ってきたら一杯甘えてねお母さん♪」

 

「ちょ、ちょっと何言ってるのシャルル!」

 

「アハハ、ママが赤くなった~!」

 

「じゃあ明日は皆で一緒にお店でご飯食べようか~?」

 

そんなのどかな会話が繰り広げられた…。

 

 

…………

 

そして彼女らがやってきたのは一軒のオフィスビル。階層は数階しかなく決して大きくはないが新しく、建って数年程度であるらしい。

 

ウィーンッ

 

金髪の女性

「お、帰ったか」

黒髪の女性

「社長、お疲れ様ッス」

 

玄関らしい自動ドアを開けるとそこにはふたりの女性がいた。片方は金髪の、もうひとりは黒髪の三つ編みをした話し方が少し変わっている女性。社員の様に思えるが社長に対してかなりフレンドリーな口調である。

 

「あ、うんふたり共。お疲れ様」

 

「ただいま~レインおばちゃん」

 

「おいこら誰がおばちゃんだ!お姉さんって呼べと言ってるだろう!」

 

「エヘヘ、ごめんなさ~い♪」

 

怒られてものほほんとしているサイドテールの少女。レインという女性が本気で怒っていないのがわかっているのか調子を崩さない。

 

「やれやれ全く…。同い年のシャルルや琴はしっかりしてんのになんで華音はこうなのかねぇ」

 

「あのふたりの子供とはちょっと思えないッスよね。寧ろこの人に近いッス」

 

「私も時々そう思いますスノウさん」

 

「あ~ひど~い」

 

スノウという黒髪の女性に同意する琴に母親の女性がぷんすか怒る。

 

「ところでどうしたのふたり共?今日は会社はお休みの筈でしょ?」

 

「ニコの野郎に実験に付き合ってくれって頼まれたんだよ。その帰りって訳だ。もうクッタクタだぜ」

 

「まぁ収穫はあったッスけどね。やっと浮遊用のユニットの開発の目途が付いたッス」

 

「えっ、本当に?」

 

そう聞いて驚く社長らしき女性。

 

「ああ。空中作業用ARM「ホーク」のプロトタイプが完成したんだ。つっても本完成まではまだ少しかかるけどな」

 

「本当!?凄いな~ニコくん。つい去年水中用ARMの「フロッグ」をロールアウトしたばかりなのに」

 

「にしてもあの不良品同然だったEOSがこんな事になるなんて思わなかったな…」

 

 

何やら聞きなれないものについて話が進む。それは今から11年前、束がコアの情報開示を世界に発信した事がきっかけだった。当時世界ではISが広く知れ渡っていたがその影でもうひとつの発明が世界で以前から進められていた。

 

「EOS」正式名称「エクステンデッド・オペレーション・シーカー」

 

束が開発したISに対抗して国連が独自に開発していたパワードスーツでいわば模擬IS。…なのだがその性能は重量が重い、燃費が悪い、シールドバリアが無い、パワーアシストが雑とISとは比べようがない位極めて不良であり、実践に出せるめども立たず、いつしか誰も目を向けなくなってしまった。……だが他でもない束はこれに目を付けた。彼女はコアの深い情報と引き換えにアインヘリアル計画の公開とEOSの全ての権利の買収を申し出たのだ。計画の事はともかくとしてコアの情報が手に入るならあんな不良品等安いものだと国連はあっさりと承諾し、EOSは束の手に入った…。

そして束はそれをある人物に与えた。ニコである。束は以前火影が使っていたキャバリエーレを見て、彼なら自分のIS程ではないにしても何か面白いものが造れないかと考えたのだった。その予想はそれからわずか一年後に的中する事になる。

 

「このポンコツを芸術品に仕上げてやるぜ!」

 

ニコはこの問題だらけのEOSを見るや否や徹底的に手を加え(時にはクロエや海之も巻き込んだりした)、全く新しいあるものを設計した。それが、

 

「ARM」正式名称「エンシェント・ライディング・メイル」

 

ISやEOSの様なパワードスーツでなく、人間同様に手足がついており、胴体上部にあたる部分にオープン型の操縦席があるパワーローダー。通称「アーム」。操縦席がむき出しの様に見えるがそこにはISと同じシールドバリアが張られている。操縦席以外にバリアは無いが装甲自体が非常に頑強なうえ、必要以上のエネルギー消費も抑えられる。更にパワーも非常に高い。デメリットといえ空が飛べない事、そして車や戦車に比べて遅いという点だがISの様に操縦者に男女の区別もないし操縦も比較的簡単である。ニコが自分の祖国の様な貧しい国のための土木作業や復興のためになるようなものを造りたいと思ったのがきっかけだった。

…そしてこれに更に目を付けたのがESC、その現社長であるレオナだった。

 

「こいつは間違いなくPKOや人命救助で大きなシェアを獲得するよ!」

 

そこからの彼女の動きは早かった。まず自分達の強みであるプログラムやシステム開発を生かしてソフトを開発。更に機体を造るのにある場所を指定した。今はESCの傘下に入っているデュノア社である。デュノア社の長くIS開発に関わってきた技術を用いてハードの開発を依頼したのだ。流石にこれにはデュノア社から反対の意見もあったがレオナの手腕、そして会社の立て直しを図っていた現社長はその依頼を承諾。ニコの指示のもと機体を開発し、一年後になんとか形にする事に成功した。最初はEOS同様あまり期待されていなかったが男女問わず使える事やISよりも操縦のしやすさ、高いパワー、コア等も必要としない利便性が徐々に広まり、レオナの言う通り世界中でISと二分するまでに広まった。もしかすると束はこれを予測して買収したのかもしれないと彼女を知っている者達は思っている。現在は初期モデルから更に発展した換装式の「キメラ」、岩盤掘削・土地開発用「カンガルー」、水中開発用「フロッグ」がロールアウトされている。

 

 

「そしてそれがものの見事にここまで普及するとは思わなかったぜ。ESCの社長命令とはいえ、デュノア社も良く引き受けたもんだ」

 

「IS事業から完全撤退しての大勝負だったけどね。でもおかげで父の会社もすっかり元通りどころか以前よりも大きくなったし、本当に束さんやニコくん、レオナ社長には今でも感謝しきれないよ…」

 

「でもこの前レオナおばちゃん言ってたよ~。皆が頑張ったからだって」

 

「そうだよお母さん」

 

子供達はじめその場の全員が金髪の女性に優しい目を向ける。

 

「…ありがとう、皆」

 

「肝心の開発者は機械いじっていたいだけって言って興味なさそうッスけどね。「ホーク」以外にも火災救助用(「キャメル」)寒冷地探査用(「ポーラー」)なんてもんも考えてるらしいッスよ」

 

「ニコお兄ちゃんも張り切ってるんじゃない?もうすぐクーリェお姉ちゃんとの結婚式もあるし」

 

「楽しみだね~♪」

 

どうやらニコとクーリェはこの数年でかなりの仲になっていたらしい。勿論その陰にはふたりの事をよく知っている者達の支えもあったに違いないが。

 

レインと名を変えたダリル

「ま、そんな話は飯でも食いながらにしようぜ。あいつの店でな」

 

スノウと名を変えたフォルテ

「レイン、あいつは今日留守ッスよ。あの事件解決に動いてるッスから」

 

成長した本音

「じゃあアルさんのお店行こうよ!デウスさんも今帰ってるはずだから♪」

 

成長したシャルロット

「グリフィンさん遠征から帰ってきたの?いいね、久々に会いたいし行こ皆♪」

 

シャルル・華音・琴

「「「は~い!!」」

 

 

…………

 

エヴァンス夫妻の墓

 

 

ここはスメリアで最も一番美しく海が見える場所にあるエヴァンス夫妻の墓。相変わらずそこには多くの花が手向けられている。夫妻が無くなって20年以上が経過した今も彼らの事は多くのスメリア国民の心に残っている様だ…。

 

「……ふたりが亡くなってもう20年か…。時が経つってのはほんと早ぇな…」

 

そんな中、今もひとりの人物が花を手向けたばかりだった。

 

「ごめんな。最近店の仕事が忙しくて来るのがいつもより遅れちまった。「一緒に料理の店やりたい」っていうあいつのお願いを聞いて開いた店だったけどまさかここまで繁盛するなんて当初は思わなかったぜ…。ほんとはもうひとつの仕事したくてレオナさんに経営の仕方教わったんだがそっちは完全に隠れちまったな、はは」

 

そんな事を言いながら男は墓石に向かって話を続ける。

 

「俺もあいつも28と随分でかくなったし老けたな…。まぁ10になる前にふたりは死んじまったから当然だが。でもそんなんで老けたなんつったらレオナさんに怒られっかな?考えただけでも恐ろしいね…」

 

~~

何やら遠くから車のクラクションが聞こえるような気がする。

 

「前ん時は今位の歳なんて何やってたっけかな?…あいつ(トリッシュ)と出会ってあの野郎(ムンドゥス)をぶっ倒した時位か…。あん時馬鹿ばっかしてて結婚はおろか恋人さえいなかった俺がまさかこうして人の旦那で親父にまでなっちまうとはな…。誰よりも長く生きるっていう経験してる癖にどちらも全くの素人だが…ま、精々頑張るさ。向こうに行った時に父さん母さんに笑われないためにもな…」

 

~~~

 

「ふたりが、そしてあの人が繋いでくれたこの命。決して無駄にはしねぇ。最後まで使い切ってみせるぜ」

 

苦笑いする男。するとそこに、

 

ツインテールの茶髪の女性

「もう!早く行かないと怒られるわよ!わざわざ専用機待ってくれてるんだから!」

 

「ああわかってるよ。…じゃあな、父さん母さん」

 

ツインテールを振りながらひとりの女性が走ってくる。彼女が相棒だろうか。言われて男は墓に一礼して車に向かって歩き出す。

 

(行ってきます…お義母さんお義父さん)

 

女性も心でそう挨拶すると男と共に再び車に乗り込み、男を助手席に乗せて運転する。

 

「今度は久々の裏の大仕事ね♪何しろ政府からの依頼だもん、報酬もば~っちり♪」

 

「…お前だんだんがめつくなってきてねぇか?」

 

「気にしない気にしない♪ていうか本当に良かったわ。今日は幸いお店の予約も入ってないし、昨日だったらVIP予約をキャンセルしないといけなかったから大変だったわよ~」

 

「VIPっつってもあいつら(オニール・ファニール)だけどな。デビュー5周年か…全く有名になったもんだぜ。てか俺としてはなんでも屋の方がもっと忙しくなってほしいんだがな…。一応こっちが本社なのに日本の方がずっと繁盛してるし、これじゃどっちが本社かわかりゃしねぇ」

 

「スメリアが平和なんだからしょうがないわよ。その分お店の方が流行ってるし良いじゃない。先週〇〇〇ランのひとつ星も獲得したし、これからもっと忙しくなるわ~♪」

 

「張り切るのはいいがあんまりはしゃぎすぎんなよ?今お前は普通の身体じゃねぇんだから」

 

「大丈夫よ、もう安定期だから。またこの前乱から新しい服送ってきたわ。気が早いのよ全く」

 

そう言いつつ女性は大事そうに自分のお腹に手を当てた。

 

成長した鈴

(………幸せだよ私)

 

「? なんか言ったか?」

 

「ううんなんでも♪ああそれから忘れてた。今回の仕事だけど久しぶりに向こうとの共同作業よ。さっき千冬さんから連絡が来たわ。もう出発してるんじゃないかしら?」

 

「…ほう」

 

その言葉を聞いて男が笑みを浮かべた。

 

「先に行って「遅い」って言うのはどっちかしらね~♪」

 

「上等だ…飛ばせ、鈴」

 

~~~~~~~~

とその時携帯が鳴った。依頼者からである。男は電話を取りその赤い目を輝かせてこう対応した。

 

 

成長した火影

「…「Devil・May・Cry」代表…火影・藤原・エヴァンス…」

 

 

…………

 

レイン・ミューラー(ダリル・ケイシー)&スノウ・アズライト(フォルテ・サファイア)

 

11年前の戦いの後にふたりで自首する。更識や千冬、真耶の口添えもあって刑は軽減されるが代わりにIS代表候補及び操縦資格は永久はく奪される。罪を償った後は祖国に戻る気は起らなかった彼女らをスメリアに支部を置いたシャルが誘い、移住。叔母のスコールの言いつけを守って名前も変え、ARMのテストパイロットをしながらふたりで一緒に暮らしている。

 

 

シャルロット・藤原・エヴァンス(シャルロット・デュノア)

 

学園を卒業後にフランスに戻り、大学で経営学を学び、卒業。フランス代表まで選ばれるが辞退し、学園を卒業してスメリアに戻った火影を追いかけて自身もスメリアに渡る。同じく火影を追いかけてきた鈴と本音から「将来のデュノア社を背負うかもしれない人が独身じゃまずいでしょ?」と後押しを受け、仲間や両親にお祝いされながら火影と結婚する。後に火影との間に息子シャルルを儲ける。レオナの意向でスメリアにデュノア支社を創り、その支社長に就任。ARMの発展で忙しく世界を飛び回っているので中々火影や息子と過ごせないのをやや残念と思いつつも火影の妻になれた事に幸せを感じている。

 

 

藤原本音(布仏本音)

 

IS学園を卒業後に保育系の専門学校で学び、二年間の実習を終えた後に火影の後を追う形でスメリアに渡る。そこで鈴、シャルと揃ってこれからもずっと一緒にいたいと想いを打ち明け、同時に前述の通り形式上の妻という立場はシャルに譲りつつ、鈴と一緒に内縁上の関係となる。本音自身は「ひかりんと一緒に暮らせるなら関係ないもん♪」と全く気にしていない模様。ラウラと同じく関係者のみで挙げた結婚式の写真を今でも宝物にしている。後に火影との間に娘である(こと)を生む。仕事で多忙な鈴やシャルの子供達の面倒を看つつ、時には火影と鈴の店を手伝ったりシャルの仕事を手伝っている。

 

 

藤原鈴音(鳳鈴音)

 

祖国の大学を卒業した後にIS代表の座を辞退、ISも返還して本音やシャルと一緒にスメリアに渡る。三人揃って火影に改めて想いを打ち明けると本音と一緒にシャルを妻に押し、自らは事実上籍を入れない立場を選ぶ。彼女や本音を気遣い特例法を利用するという火影に対して彼女はラウラと同じ様に「自分の子供を利用されたくないし、私達のために世界の狙い通りに動くアンタなんてらしくない」と聞かなかった。後に火影との愛娘華音(ファイン)を出産し、現在ふたり目を宿している。火影と一緒に「Devils・Laugh(悪魔も笑う位おいしい)」という名前の念願だった料理店を開いた。店を切盛りしながら火影の裏の仕事も手伝っており、充実した日々を送る。

 

 

火影・藤原・エヴァンス

 

ムンドゥスとの戦いの後に単身魔界に乗り込んで扉を封じ、二年後に人界に帰還。海之の手荒な歓迎や一夏達の祝福を受けながら再会する。二年の留年を無事終えた後、他の皆と違って大学や専門には行かずにスメリアに戻り、以前の様な無様な経営をしないためにレオナに頼み込んで彼女の下で徹底的に経営を学ぶ。そして三年後スメリアに嘗て自分がやっていた店と同名のなんでも屋(なんでも屋というのは火影の意見で本来は警備・探偵業)「Devil・May・Cry」本部、海之がいる日本に支部を開いた。同年に鈴・シャル・本音の想いを受け入れ、シャルと結婚。鈴、本音とも夫婦同然の関係を結び、彼女らとの間に子供も設ける。現在は鈴と一緒に開いた料理店も経営し、たまにもうひとつの仕事もこなしながらエヴァンス邸で彼女達と一緒に暮らしている。夫としても父親としても初心者で日々奮闘しているが嘗ての自分や両親が経験できなかった今の幸せを守るため、自分と海之を育て見守ってくれた父を理想として目指している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃…エヴァンス邸にて。

 

 

ギャリソン

「……」

 

 

70を超えてやや老けた様に思えるギャリソンが何やら思うことがある様に空を見上げていた。

 

メイド

「…?ギャリソン様、どうされました?」

ギャリソン

「…ああすいません。少し考え事でボーっとしていまして。…私も歳ですかね」

メイド

「何をおっしゃるのですか。ギャリソン様にはもっと私共の指導役として頑張っていただかないと!」

「そうですわ!」

ギャリソン

「ええありがとうございます、大丈夫ですよ」

 

メイドは挨拶してその場を離れる。ギャリソンは再び空を見上げた。そしてこんな事を思っていた。

 

 

(……ほんの数十年程度で老いを感じる様になるとは。以前は千年以上生きていても何も感じなかったというのに…おかしいものだ)

 

 

見上げる空は青い空…。

 

 

(記憶も本当の名前も、言葉さえも失っていたからっぽの私を今は亡き先代が暖かく迎え入れてくれ、ギャリソンという名前を与えてくれてから数十年。最早記憶は永久に戻らぬものと思っていたが…あの時、私は全てを思い出した。生まれたばかりの様な彼らが持っていた…アレを目にした時に…)

 

 

ゆっくりと流れている雲…。

 

 

(嘗て次元の渦に放り込まれ、長い漂流の影響で記憶も力も全て失い、最早消滅するしかった私はこの世界に流れ着いた。何故か人の子として。それが神とやらの思し召しなのかはわからない…。そんな私がまさか…全く別の世界で彼らに再び出会う事になるとは…。12年前、そして11年前彼らが行方不明になった時何があったのかはわからない…。しかし不思議と落ち着いていた自分がいた。彼らならば大丈夫だと。何故なら…あのふたりは…)

 

 

すると空に一筋の飛行機雲があった。

 

 

(彼らは私の事に気づく筈もないが…それでいい。最早彼らに私は必要ない。私はこれからもこの世界の人間ギャリソンとして…彼らを支えていくとしよう…)

 

 

ギャリソン

 

70を超えたもののスメリアのエヴァンス邸執事長として仕え、才能を振るう。

……実は昔、ある「もの」を目にした事がきっかけで記憶を既に取り戻しており、自身が「どういう生まれ」なのかも「本当の名前」も思い出していたが最早自分の役割は終わったと悟り、過去は記憶の中に封印して今まで通りギャリソンとして生きる事を決めた。これからもその気持ちは変わりなく、彼はこれからも火影や海之、多くの者達のために力を尽くしていく…。

 

 

(……あの子達も大きくなったものだ。なぁ…………エヴァ…)

 

 

~~~FIN~~~




読者の皆様へ

こんにちは。storybladeです。

「IS×DMC 赤と青の双子の物語」

今話をもって完結となります。第一話からお読みいただいている方々、途中からお読みいただいている方々、本当にありがとうございました。思えば自分がこの話を始めたのが今から2年前。まさか完結まで2年以上、250話以上、そして500を超えるお気に入りしてくださる等最初は思ってもみませんでした。文才無い僕がここまで長く続けてこられたのは皆様の応援のおかげです。
ただひとつ謝りたい事がございまして僕はこの小説を書くまでにDMCは全てプレイしているのですが主題となったISは二次小説がきっかけ、原作をほんのだけ少しかじった程度、アニメは見た事もありませんでした。ですが僕が二次小説を書きたいと思った作品の原作がISだったので、この作品で書きたいと思い、小説を書くことにしました。本作をお読みいただいた方の中にはDMC、そしてISのファンもいらっしゃるかもしれません。そういった方の中でこの作品のせいでもし原作のイメージが崩された方がいたら申し訳ありませんでした。前半に比べて後半はやや急ぎ足だった感もしていますが自分としてはこの作品で書きたいと思っていた事はなんとかできたなと思っています。最後に出てきたARMというのは僕がDMCと同じく大好きなゲームシリーズに出てくるあるものがモデルです。同じカプコンなのでゲスト出演させてみました。
最後にですが今作の反省を生かしながら個人的にまたやってみたいと思っているものがあります。あるふたつの作品のコラボです。いつか投稿するかもしれないのでその時は是非ご覧ください。
改めて応援ありがとうございました!心より感謝申し上げます。


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