変態淑女深雪さん (世桜)
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変態って、無駄に高性能だよね

ふと思い立ったので始めました。頭を空っぽにしてお読み下さい。

続きはお気に入りが5件超えたら書きます。UAが100超えても書きます。


「さぁテトさん、今日こそこの書類にサインを!」

 

「ざっけんな!目に見えてる地獄に突っ込む気はねぇ!!」

 

「突っ込むですって!?ナニをドコに突っ込むのですか!!」

 

「黙れこの変態!!」

 

いきなり逃走シーンで申し訳ない。いやでもアイツからは否応にもこうして逃げないといけないんだ。じゃなきゃナニされるか分かったもんじゃない。

あぁ、自己紹介をしておこう。オレの名前は『八神テト』。ココ最近人気の転生者ってやつだ。……ドリルみたいなツインテは無いからな?

両親は生きてるけど家にはいない。仕事の関係で帰れてないんだわ。神さんから頂いた能力は『ご都合操作』。ご都合主義を作り出す能力だ。親がいないのもこれの能力による結果って訳よ。

んでオレが飛ばされたこの世界は『魔法科高校の劣等生』。今オレを追っかけてきてんのは魔法科の最強ヒロイン司波深雪。

司波兄妹とは幼馴染……と言うよりは腐れ縁か。んで、『八神テト』という異物のせいか司波兄妹の性格が変わりました。清楚可憐な深雪さんは変態淑女に。そんなキモウトのせいで達也は胃痛持ちになった。あぁ、達也の性格改変はCADキチになったぞ。多分深雪さんによるストレスのせいだと思うが……。

 

「っと、振り切れたか……」

 

オレの平日はこうやって深雪さんを振り切ることから始まる。居候の身だから無下に出来ないし、オレのCAD調整は達也にしか出来ないからそもそも離れられん。

 

「たく、新入生代表挨拶者が何やってんだか……」

そもそも入学式前にあんなことする元気がよくあるな……。普通は答辞内容の確認とかするだろうが。……まぁ、変態になっても根元は完璧超人深雪さんだしな。問題なく出来るからこそあんな事してんだろ。

 

「朝から大変だなテト」

 

深雪さんから逃げた時に失った体力を回復するために椅子に座っていたら、背後から男性が声を掛けてきた。

 

「っ、達也か。驚かせんなよ」

 

「深雪なら最終確認のためここにはいないぞ」

 

「なんだよ、警戒して損したわ。胃は大丈夫か?」

 

「……朝1瓶開けてきたんだ」

 

「あ、うん。大丈夫じゃないですね」

 

深雪さんの兄にしてヘタしたらオレより被害を被っていらっしゃる存在、司波達也。コイツの1日は胃薬を飲むことから始まると言ってもいい。というか胃薬を飲まない日があるだろうか、いやない(反語)。

 

「今飲んでる胃薬も効きにくくなってきた。今より強いものを探さないといけないな」

 

「それもうヤク中の域行ってない?」

 

「わかっていると思うが、飲まないとやってられないんだ。……深雪のせいでな」

 

「いやその件に関してはホントーに申し訳ない。深雪さんがあんなに暴走するようになったきっかけはオレだからな」

 

司波兄妹との腐れ縁が出来た日、そこでオレは深雪さんに対してある事をやらかした。その結果起こったのが変態淑女化だよ。……ほらそこ、自業自得とか言わない。分かってんだよそんなこと。ただ、んな予想できるかって話よ。予想GUYってやつ。

 

「いや、深雪が自分の感情をしっかりと表すようになった点に関しては感謝している。……それに、深雪の事を特別な存在ではなく、『ただの人間』として扱ってくれるのははあの時までお前を除いていなかった。きっとこれからの先でも深雪に対して真正面から嫌いなんて言ってグーパンするのはお前くらいだろう。……当時の事を思い出したらイライラしてきたな。1発殴っていいか?」

 

「めちゃくちゃいい台詞だっただけに最後ので全部台無しだよ」

 

 

 

 

〇✕〇✕〇✕

 

 

 

雑談もそこら辺にして、オレらはそれぞれやりたいことを始めた。達也は読書、オレはネットサーフィンだ。いやまぁ、紙媒体じゃないものに読書っていうのもなんか違和感覚えるけどな。

 

「……達也」

 

「あぁ、見られてるな。……魔法か?」

 

達也が画面から目を外し、オレへと向けていた。その意味を理解し、オレは内心笑いながらその考えに乗ることにした。

 

「お前がそれを聞く?……いんや、魔法の感覚はない」

 

「……確かに。コレはまるで獲物を見つけた肉食獣の視線に近いな」

 

「あぁ。しかもコレは行き遅れな女性の視線だ」

 

「誰が行き遅れよ誰が!」

 

覗き魔がしっかり釣れた事に、オレと達也は無言でハイタッチをした。

戦場においては、先に自制心を失った方の負けだぜ?あ、戦場じゃない?ノリだよノリ。分かれ。

 

「んで、行き遅れ覗き魔さんは一体なんの御用で?」

 

「だから!行き遅れでは……っんん。お2人は新入生ですよね?会場の時間ですよ」

 

オレの言葉に反論しても無意味と悟ったのか、行き遅れ覗き魔さん……あー、七草生徒会長は煽りを無視して続けた。

 

「……あ、ホントだ。もう30分前か」

 

「ありがとうございます、すぐに向かいます」

 

「もしかして会場が分からないですか?それでしたら、案内しましょうか?」

 

「いえ、先程妹と共に確認してきましたので大丈夫です。行くぞ、テト」

 

「あいよ達也。相方が知ってるみたいなのでノー問題です。貴方はその出歯亀趣味を止めた方がいいと思いますよ、七草生徒会長殿?」

 

生徒会長殿の反応を待たずに先に行ってしまった達也を小走りで追いかける。

追いついた所で達也が後ろを気にしながら小声で問いかけてきた。

 

「……知っていたのか?相手が数字付き(ナンバーズ)、しかも『七草』だということに」

 

「情報は何物にも勝る武器だぜ?」

 

「知っていたなら煽ることは止めてくれ。……これ以上胃痛の種を増やすな、頼むから」

 

「……まじごめん」

 

前半は了承しないにしても、後半はシャレにならん。

コイツが倒れたら深雪さんのストッパーが消える。つまりは深雪さんが暴走する。最終的にオレは喰われる(意味深)。アカン。

 

「『八神』の名は十師族以上に重いんだ。お前の挙動で『八神』が解体されることになっても知らないからな」

 

「分かってるよ。ただ、達也も知ってるだろ?オレは、『八神の人間』として縛られて生きるんじゃなく『八神テト』として自由に生きたいんだ。深雪にもそう言ったからな。オレがアイツの案内人にならなくちゃいけないんだよ。自由に生きる方法の、な」

 

オレの言葉に達也はふと空を見上げ、何か覚悟を決めたような顔をして口を開いた。

 

「……ココ最近の深雪は自由に生きすぎてないか?というかそもそも自由というか暴走の方が正しいと思うんだが」

 

「せっかくシリアスしてんだからもう少しだけ持たせてくれない?いや否定できないんだけどもさ」

 

 

 

〇✕〇✕〇✕

 

 

 

「結構混んでいるな」

 

「あの後出歯亀生徒会長殿の襲来があったからしゃーねぇよ。……にしても、キレイに分かれてんなぁ」

 

アニメを見ていた時よりも、小説や漫画を読んでいた時よりも、学校に蔓延する差別意識が酷いことを文字通りこの身で感じた。

今日から当事者か……。前世でスーパーのアルバイトを始めて、万引きが身近になった時もこんな気分だったな。

 

「こればかりは仕方ないだろう」

 

「まぁ、そうか。……達也はどこに座んだ?」

 

「俺か?俺は別に事を荒らげるつもりもないからな。後ろの適当な場所に座るさ」

 

「んなら、一旦お別れだな。帰りに会うか、クラスで会うかは知らんけど」

 

「……わざわざ前に座るのか?」

 

「あぁ、昨日深雪さんと約束したんだよ。1番近い所で答辞を見るってな」

 

オレ的には嫌だったんだが、流石に『拒否ったら首輪。ただし着けるのは深雪さん。オレは鎖を持って学校にGO(意訳)』なんて脅されたら従わざるを得ない。

社会的に殺すの止めて(切実)。

 

「……そうか、分かった。なら俺も前に行こう」

 

「オイオイオイ無理すんなよ達也」

 

ここで千葉柴田フラグを折るな、頼むから。んで出来ればオレに柴田さんを紹介してくれ。

……巨乳って、イイよね。

 

「大丈夫だ、お前よりは無理していない。それに―――」

 

「それに?」

 

「―――知らない人間の印象より妹の晴れ姿を近くで見ることの方が大切だからな」

 

「……さすがはお兄様だな」

 

「お義兄様と呼んでもいいんだぞ?」

 

「死んでも呼んでたまるか」

 

それって深雪さんと入籍してるじゃないですかヤダー!

とまぁ、そんなことをしながら座れる席を探すオレたち。

 

「ん、アソコなんてどうだ?」

 

そこは最前列の真ん中、つまりはステージのちょうど目の前で二つ分席が空いていた。

 

「ちょうど二つか。しかし、なんで一科生はあそこに座ってないんだ?」

 

「どうでもいいだろ。座れるなら気にしなくてさ」

 

「それもそうだな。そんなことよりも深雪の晴れ舞台だ。残り5分しかない、急ぐぞ」

 

「マジか、出歯亀生徒会長殿に時間取られすぎたな」

 

個人的にはそのままタイムリミットで後方の適当な場所に座りたかったです、はい。

 

「……いい加減その呼び方止めたらどうだ?」

 

「第一印象がアレだからな。オレの中じゃあの人は何をしようと出歯亀生徒会長殿だよ」

 

人間、第一印象って大切ですしおすし。

そんなことを話していると、目的の場所に着いた。一科生は舐めたような、馬鹿にしたような目でコッチを見ていた。

 

「いやマジで何があったし。ヘイ、そこな一科生。ここは空いてるよな?」

 

「……あぁ」

 

「サンキュ」

 

ぶっちゃけ答えすら帰ってこないと思ってた。この一科生はいい一科生。やっぱ女の子に悪い子はいないんやなって。

 

「おい、そこは僕たちが目をつけていたんだ。どいて貰えないか?」

 

オレたちが空いていた2つの席に座ったと同時に、そんな声が聞こえてきた。

 

「悪いけど、早い者勝ちなんだよこの席」

 

「二科は一科の補欠だろ?全てにおいて一科を優先するのは当然じゃないか」

 

声の主へ顔を向ける。その人物はオレのよく知る人物だった。

てか、森崎君じゃないですか!

魔法科一のネタキャラとして有名な森崎君じゃないですか!!

二次創作じゃライバルキャラとしてよく使われる森崎君じゃないですか!!!

まぁ、だからと言ってどうしたって話しよな。

 

「お前が思うんならそうなんだろうな―――」

 

「なんだ、分かってるじゃないか。なら早くどいて「―――お前ん中ではな」……なに?」

 

「お前ん中のルール、オレ知らないから。ここじゃどこに座ろうと自由だぜ?」

 

森崎君には悪いがここは煽らせて時間切れを狙わせてもらうぞ。じゃなきゃオレが(社会的に)死ぬ。

 

「常識も分かんないなら、小学生からやり直せ」

 

ゴメン、まじゴメン。後でカレーパン奢るから。アン〇ンマンの顔パンも付けるから。

 

「こんのっ!「おい」……なんだよお前もこの二科生に何か言ってやれ」

 

隣の女子から森崎君へ声がかけられた。

なんだ、支援か?オレとしては時間が稼げるなら支援でもなんでもやってくれだけどさ。

 

「いや、今回限りはお前が悪いと思う」

 

……え、まさかの俺様系女子?

 

「そしてだ、森崎同学年。時計も見れないようではこの二科生の通り小学生からやり直した方がいいのではないか?」

 

あっ、これ黒神めだか系女子だわ。

 

「……チッ。覚えてろよ赤髪のウィード」

 

「禁止用語を使うな、底が知れるぞ森崎同学年」

 

黒神めだか系女子の支援により、あまり騒ぐことなく森崎君が退散していった。

……コイツ、もしかして同存在(転生者)か?

あ、赤髪のウィードはオレの事な。確かに某嘘の歌姫のようなドリルはないが同じ真っ赤な髪ではあるぞ。

 

 

 

〇✕〇✕〇✕

 

 

 

「先程はすまなかった。同じ一科生として謝罪しよう」

 

入学式が終わり、生徒たちが教室を確認するためIDカードを受け取りに行く中、黒神めだか系女子がそう言って頭を下げてきた。

 

「いや、そっちのおかげであまり騒がずに済んだ。感謝するのはこっちだ」

 

「達也の言う通りだよ黒神めだか系女子。だから下げてる頭を上げてくれや」

 

「……そう言って貰えるとありがたい。気を使わせて済まないな、司波同学年たち」

 

また会うことが有れば話をしよう。そう言って黒神めだか系女子はオレの横を通ってIDカードを受け取りに行こうとして―――

 

「私の連絡先だ。イレギュラー同士、後で話をしよう」

 

―――達也には聞こえないくらい小さな声でそうつぶやき、オレの手に1枚のメモを握らせた。

 

「俺たちもIDカードを受け取りに行くぞ」

 

「……あぁ、そうだな。同じクラスだと楽なんだがな」

 

「それだと休み時間毎に深雪が突撃してきそうだな」

 

「ははっ、死人が出るぞ」

 

「……あえて聞こう。誰が死ぬんだ?」

 

「わたしだ」

 

「……だろうな」




深雪ファンの皆さんゴメンなさい。

タイトルの割に変態要素少なくて申し訳ない。
あと森崎くんファンの方ごめんなさい。


―追記―
投稿約20分でUA100、お気に入り5を超えました。はえーよホセ。
続き書いてきます。


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変態は感染する

変態☆降臨
※ただし出番はほとんどない模様。

あ、Twitter始めました。
『世桜』と検索して頂ければ出ると思います。
まだ使い方も分からない人間ですので教えてくれると嬉しいです。


「達也」

 

「あぁ」

 

「「せーのっ!」」

 

2人で同時に所属クラスを見せ合う。

これは毎年の恒例行事であり、去年まではここに深雪さんも加えての3人で行っていた。

 

「同じE組か、また1年間よろしくな」

 

「あぁ。こちらこそよろしく頼む」

 

「にしても、10年も同じクラスか。何か運命感じるな」

 

「去年までの9年間は学校側の都合な気がしてならないが」

 

「あー、問題児(深雪さん)のストッパーとしてか?」

 

「あぁ、問題児(深雪)のストッパーとしてだ」

 

オレはストッパーと言うより被害担当みたいなとこあったけどな。

しかし、深雪さんとは離れちまったんだよな。変態行為が飛んでこないのはいいんだが、3人いつも一緒だったからなんか調子狂うな……。

 

「あ、ちょっとそこの人!」

 

「ん?」

 

「さっきE組って聞こえたけど、もしかしてE組の人?」

 

この、元気感溢れる声は……。

 

「あぁ、確かに俺たちはE組に分けられたが」

 

「お願い!E組教室まで案内して!あたしたちもなんだけど教室が分からなくてで」

 

やっぱり千葉さんか。ってことは……

 

「わ、私からもお願いします!」

 

キタ━━(゚∀゚≡゚∀゚)━━ッ!!生柴田さんダァァァァ!!!

( ゚∀゚)o彡°おっぱい!おっぱい!

( ゚∀゚)o彡°おっぱい!おっぱい!

 

「地図なら配信されていたはずだが?端末からダウンロードすれば見れると思うが」

 

「あー、いや仮想型って禁止じゃん?流石に入学してすぐに目をつけられたくなくってさ、持ってきてないの」

 

「私は持ってくるのを忘れて……」

 

「そうか……。分かった。なら一緒に行くとしよう。テトもそれでいいか?」

 

「おっぱい」

 

「は?」

 

「おう、それでいいぞ。クラスメイトなら助け合いっしょ」

 

危ねぇ危ねぇ。思わず心の声が……。

女子組にはオレの言葉が聞こえなかったのか、首をかしげ、達也だけは少し呆れたような表情をしていた。

 

「その思いを深雪に向けてくれればいいんだがな」

 

「遠回しに死ねと申すか」

 

「結婚は人生の墓場と言うからな。そういう意味では死ねと言っている」

 

「え、何?テトくん結婚するの?」

 

「いや、そういう訳じゃない。てか、名前呼び?」

 

「だって自己紹介もしてないんだもん。さっきこっちの彼がテトって呼んだから名前しか分かってないよ」

 

「あー、そういやそうか。ならまぁクラスメイトなんだし自己紹介でもしようや」

 

移動中であるため、しっかりとした自己紹介はできず、名前だけになるがまぁ仕方ないだろう。

……それに、自己紹介なら放課後にケーキでも食いながらできるしな。

 

「んじゃ改めまして、オレは八神テト。こっちのは―――」

 

「司波達也だ」

 

「あたしは千葉エリカ」

 

「私は柴田美月です」

 

「ふぅん、なんだかオレ以外の3人は名前の語呂がいいな。シバシバタチバってよ」

 

「あ、それあたしも思ってた」

 

「それを言うとテトに柴田さんは顔の装着具繋がりか?」

 

「私はメガネですけど、八神くんのそれは?」

 

「ん、あぁコレか」

 

達也を除く2人の視線が首元に存在するある物に集まるのを察し、少し説明することにした。

 

「そりゃ、ゴーグルだよゴーグル。……スイミング用じゃないぞ?」

 

「え、じゃあなんのために?」

 

「テトは生まれつき霊子が見えない体質なんだ」

 

「そ、だからコレは霊子を見えるようにするためのアイテムって訳よ。コレがないと魔法が発動した事実にすら気づかずサヨナラだ」

 

深雪さんと模擬戦をした時は酷かった。その時はオレがまだ霊子が見えないってのが判明してなかったせいで、深雪さんのニブルヘイム発動に気付かずそのままカチンコチンの氷像になった。

ただまぁ、オレにとっちゃ氷漬け程度(・・・・・)なんの問題もない訳で、氷像のまま意識は保ってたんだ。

だけども肉体がノー問題とは限らない訳でして……。動けないのをいいことに解凍後、深雪さんに襲われかけました。あん時ほど達也に感謝したことは無い。

こんなことがあって、(主に深雪さん主導の元)霊子の見えるようになるゴーグルが作られた。元々は(深雪さんの一存で)メガネの予定だったんだが、個人的にはゴーグルの方がしっくりくる。

 

「ふーん、霊子が見えないってなんか昔の人みたいね」

 

「まさしくその通りだよ。この前調べたらオレの肉体は2000年代初期の人間のソレらしくてな。その時代の人間は霊子なんか見れなかった」

 

というかそもそも魔法が存在してないからなぁ。

にしても、2000年代初期ってことは『私』の生まれ年にこっちの肉体も引っ張られたか?

 

「ま、生きるのに問題は無いからな。特に気にすることもねぇよ」

 

「テトは楽観的すぎる。ゴーグルを付ける間も無くいきなり襲われたらどうするんだ」

 

「そうなったら助けてくれるんだろ?」

 

達也の事だ、深雪さんに伝えず一人で来るに違いない。……主に周辺被害削減のため。

 

「よろしく頼むぜ、相棒」

 

「……それはこっちのセリフだ相棒」

 

「男同士の友情とは良いものだな!」

 

「ウォッビックリしたぁ!?」

 

達也と拳をぶつけているのに合わせて、いきなり背後から声をかけられた。

背後はやめろ。オレが某凄腕スナイパーだったらどうするんだ。

 

「な、何用だよ黒神めだか系女子」

 

「E組に友人が居てな。そやつの紹介をと思ってきた」

 

「友人?」

 

「うむ。紹介しよう!コイツは「おいおい待ってくれよめだか!そっからは自分でやっから!」ふむ?そうか。なら私は黙っていよう」

 

そんな声と共に黒神めだか系女子……恐らくは本名もめだかさんなのだろう。めだかさんは引っ込み、彼女の背後から遠い過去に聞いた覚えのある声を持つ男性が現れた。

てかめだかさんはソワソワしすぎ。どんだけ紹介したかったんだよ。

 

「悪い、コイツは昔からお節介焼きなんだ。っと、自己紹介だったな。西城レオンハルトだ。気軽にレオって呼んでくれ」

 

あぁ、レオか。

……え、なに?じゃあめだかさんはレオの幼馴染なん?ふむ、美少女の幼馴染か。

 

「このリア充が!」

 

「なんか言ったか?」

 

「いや、何でも。オレは八神テトだ。こっちも気軽にテトって呼んでくれ」

 

「……それを言えばお前も美少女と幼い頃から一緒だろうが」

 

おう達也、ボソッたつもりだろうがオレにはしっかり聞こえてるぞ。

深雪さんは確かに美少女だけども、行動がアレだから……。

 

「今、俺たちは教室の確認に行くつもりなんだが、レオも一緒に行くか?」

 

「あー、そうだな。そうさせてもらうわ。めだかはどうする?」

 

「ふむ、仮にも花弁持ちの私が行ってもいいのだろうか?」

 

「いいんじゃないか?一科生にもオレら二科生を見下さない人間がいるって教えるついでによ」

 

「では八神同学年の言葉に甘えさせてもらおう。……それとレオ、他人がいるからって恥ずかしがらずにいつも通り『めだかちゃん』と呼ぶが良い!」

 

凛ッ!という効果音が見えた気がした。

さすがは黒神めだか再現存在。端々は違うけど抑えるべき場所は抑えてるな。

 

「おいっ!せっかく人がカッコつけてたってのに!」

 

「へぇぇぇ、カッコつけてたんだァ……」

 

わーお、千葉さん悪い顔。あと柴田さんも隠そうとしてるけどその満面の笑みは隠せんよ……。

 

「レオ」

 

千葉さんにからかわれているレオの肩にポンと手を置く。

 

「テト!なだめてくれんのか……?」

 

「ざまぁwwww」

 

「このやろっ!」

 

リア充許すまじ、慈悲は無い。

 

 

 

〇✕〇✕〇✕

 

 

 

「E組のクラスメイトは優しいな。花弁持ちである私も受け入れてくれた」

 

「確かにこの学校には差別意識が蔓延している。だがそれは俺たちがしっかり歩み寄れば解決出来るものだ」

 

E組教室の場所を確認し終えた後、オレたちは深雪さんが来るのを待っていた。

そんな中、めだかちゃんさんと達也の言葉を皮切りに俺を除いた5人は一科と二科の差別意識撤廃についてどうするべきかを話し合っていた。

 

「そもそも差別意識は一科生より二科生が強く持っている。小学生のいじめ心理のようなものだ。相手が反撃しないから―――」

 

「しかしそれでは根本的な解決には―――」

 

あー、いや違うなありゃ。達也とめだかちゃんさんの間で議論が白熱してるだけだわ。ほかの人らは軽くポカンしてるし。

 

「お待たせ致しましたテトさん。……まだですか」

 

「ん、お疲れ深雪さん。……なんでいつも背後から現れると尻触るのや?」

 

「そこにお尻があるからです」

 

「キメ顔で言うセリフじゃねーよ」

 

めだかちゃんさんとは違い、深雪さんがいきなり現れるのには慣れてる。……いつもやられてるからな。ついでに言うと、尻をまさぐられるくらいの変態行動はまだマシな方です。酷いと股間に手が伸びたり、いきなり指をケツ穴にアッー!されることもあった……。

てかまだ?なんの事だ。

 

「達也ー、めだかちゃんさんー、深雪さんが来ましたよー」

 

「やはり一科二科対抗魔法運動大会のような―――っと、お疲れ様深雪。いい答辞だったよ」

 

「しかしそれでは魔法格差が―――ん、ようやく来たか司波同級生」

 

おいちょっと待て、お前らなんの話してんだよ。深雪さんの横にいらっしゃる出歯亀生徒会長殿がめちゃくちゃいい笑顔で見てるぞ。

 

「ありがとうございます、お兄様。……ところでなぜ黒神さんがココに?」

 

「いや何だ、少し君の兄上と議論が白熱してな。帰るタイミングを失っただけだ。司波同級生も来たことだしちょうど良い。私は帰らせてもらおう」

 

めだかちゃんさんはそう言ってコチラに向かってきた。

そして―――

 

「少し用がある。この後付き合って貰うぞテト同学年」

 

―――オレの腕を掴んだ。

 

「……それは、デートですか?」

 

あっ、達也へのデート問答こっちに来るの?

 

「男女の用事をすぐデートに繋げるのは宜しくないぞ司波同級生。それに私は既に心に決めた人物が居る。浮気などする気は無いッ!」

 

やはり凛ッ!という効果音を幻視する。

にしても、心に決めた人物ねぇ。

チラリとレオの方へ視線を向ける。その本人は顔を真っ赤にしており、その事を千葉さんにからかわれていた。

 

「リア充め……」

 

祝福しよう。

 

「テトさん、心と言葉が逆です……」

 

「やっべ。あとサラリと心読むのやめろ」

 

何もんだよ、コイツ。……変態だったな。なら普通か。なんの疑問もない。

 

「深雪、引き止めるのはやめてやれ」

 

「ですがお兄様!せっかく入学祝いに買っていただいたアレらのお披露目が……」

 

「……すまん深雪。アレらのことは思い出させないでくれ。店員からの目を思い出すと胃が……」

 

「達也テメェ、この変態に何買え与えやがった。場合によってはO☆HA☆NA☆SIするぞゴラ」

 

「……すまん」

 

「頼むから目線を合わせてくれませんかねぇ!」

 

怖ぇよ!いやマジで怖ぇよ!!もしかしてまだってケツ開発のことですか!?

 

「……と、とにかくだ。今日の所はテト同学年を借りていくぞ。司波同学年、司波同級生への説明は任せたぞ」

 

「……あ、あぁ。任せてくれ」

 

お願い!もうそのままそっちの家に泊まらせて!帰るのが怖い!ペ二〇ンでアッー!される可能性あるんだけどコレ!

そんな思いを抱いたまま、オレはめだかちゃんさんに引かれる形で学校を後にした。

 

 

 

〇✕〇✕〇✕

 

 

 

「いきなりで済まないなテト同学年。だが貴様とは早めのうちに話をしておきたかったんだ」

 

学校近くの駅から乗ったキャビネットに10分ほど揺られた後、降りた住宅街の中にてめだかちゃんさんはそう話を切り出した

 

「あ、いや気にして……はいるけどよ。主に明後日以降の俺のケツ具合を」

 

「その件は……うむ、頑張れとしか言えん」

 

始まろうとした会話は暗い雰囲気に飲まれ、一度動きを止めた。

悪い雰囲気を出し、話を止めてしまったのはオレであるため申し訳なさから今度はコチラがめだかちゃんさんへ疑問をなげかけた。

 

「あー、そういやどこに向かってんだ?」

 

「ん、あぁそう言えば説明してなかったな。私の家だ」

 

「は、家?オイオイそれ大丈夫か?」

 

「安心しろ、防音対策はしっかりしている」

 

「いやそっちじゃなくて男を連れて大丈夫かって話だよ」

 

「む、それになんの問題があるのだ?」

 

「いや、レオに悪いと思ってよ」

 

「な、なななななななぜここでレオが出てくる!!」

 

「えぇ……。恋愛クソザコナメクジかよ」

 

え、あんなにE組向かう中好き好きオーラ出してて隠せてると思ってたの?むしろこっちが驚くわ。

 

「と、とにかくだ!もう家に着いたからさっさと話を始めるぞ!」

 

ワタワタする彼女は顔を真っ赤にしながら無駄にでかい武家屋敷に飛び込んでいった。めだかちゃんさんを追い、オレも中へと入る。

数分間玄関でめだかちゃんさんを待ち、落ち着いた彼女に連れられて客間へと案内された。

 

「さて、色々と言いたいこともあるがそれよりも先に話を始めるぞ」

 

「あー、確か防音対策はバッチリなんだよな?」

 

「あぁ。盗聴の心配もない。それこそアブノーマルな性癖を暴露しても私にしか聞くことは無い。ちなみに私は見せ合いっこオナ[バキュ-ン!!]が一番興奮する!!」

 

「テメェもそっち側か畜生!!」

 

ダメだ!深雪さんの変態が伝染ってやがる!!

だが、これにより彼女の中身が黒神めだかじゃないことが証明された。つまりはオレと同存在で確定だろう。

 

「とまぁ雑談はここまでにしよう」

 

「冗談であって欲しかった」

 

同存在じゃなくていいからマジで冗談であって欲しかったよ。

 

「はは、さてテト同学年……いや、八神テト。同じ『八神』の人間として私は一校での過ごし方について相談をしようと思う」

 

「……お前も『八神』か?」

 

「あぁ。確かに黒神姓を名乗っているが『八神』に名を連ねる者だ。証拠を見せよう」

 

そう言って彼女は懐から1つの機械を取りだした。

ソレは縦長の機械で、中心に円がありそこから3つのボタンが取り付けられたモノだ。オレもソレには見覚えがあった。

 

「……なるほど、確かに『八神』の者だ」

 

しかし、ソレはこの世界に存在しないものであった。

 

「リロード、デクスドルガモン」

 

その機械の名前は『デジヴァイス』。前世にて存在したアニメ『デジモンセイバーズ』に登場するアイテムだ。

 

「パートナーも呼び出したことだ、会話を始めよう八神テト。……否、こう呼ぶべきか。八神唯一のイレギュラー、ギルモン」




来そうな質問に回答しておきます。
Qデジモンを入れる予定はあったのですか?

A初めからありました。そもそもデジモンと何かのクロスオーバーを描きたくて始めた作品です。……変態淑女深雪さんがメインになるとは思ってませんでしたが。


Q変態成分すくないんじゃが?

A申し訳ございません。次回に期待してください。


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変態にとって罵倒は褒め言葉

3話時点でやっと入学式当日が終わった……。これ下手すればとんでもない長さになりそうですね。


教えてくれ読者、私はあと何回変態な深雪さんを書けばいい……。


「……どうして気付いた?オレは家の奴と会う時は使い魔しか送ってないはずだが」

 

「デクスドルガモンはデジコアを捕食するデジモンハンターだ。私の相棒はデジコアを捕食する必要は無いが、デジコアの存在を感じ取ることはできる。相棒が貴様からデジコアを感じ取った。今この時代においてリアルワールドに存在するデジモンは変身の術を持つ魔法使い系デジモンか、人の遺伝子を持つ存在が確認されているギルモンシリーズのどちらかだ」

 

デクスドルガモン。デジモンの原型とも言える『ドルシリーズ』の成長期デジモンことドルモンが死のX-進化(デクスリューション)をした姿であり、死してもなお、生き続けるという生物の生存本能により生まれた姿……らしい。

死のX-進化はまだ改名されていない部分が多い。真実を知るとされているグランドラクモンもその口を閉ざしている。

 

「そしてさらに苗字が『八神』ときた。コレがただの一般人なら何も問題は無かった。しかし、我らデジタルモンスターに関わりし者にとって『八神』の名は重すぎる」

 

「……赤神を名乗ってたらまだマシだったか?」

 

「いや、人間の遺伝子を持つギルモンに現代魔法適正の低さを鑑みれば遅かれ早かれバレていたことだろう」

 

「ま、隠す気は無かったんだけどな」

 

「で、あろうな。……わざわざ済まないなドりん。もう戻っていいぞ」

 

デクスドルガモンは黒神の言葉を聞くと、デジヴァイスの中へと戻って行った。

肉体的には死んでいるデクスドルガモンに感情というモノは無いはずだが、彼女が彼のニックネームを呼んだ瞬間、ほんのりと笑みを浮かべている気がした。

……パートナー、か。

 

「それで、学校生活に置ける身の振り方だったか?」

 

頭に浮かんだことを振り払うよう(ついでにさっさと帰ってケツ穴の安全を確保したいがために)、オレは黒神の言ったことを早く進めることにした。

 

「あぁ。魔法科高校の生徒を害せば、それはデジタルワールドを危険に落とすこと他ならぬ。だからこそどうするかを話し合いたい」

 

この場を借りて、デジタルワールドの現状を少し話すとしよう。

今、デジタルワールドは隷属の危機に陥っている。有り得ない速さでネット技術を発展させていった人間たちによって、だ。

第三次世界大戦が起こる中、敵国を打つ為の兵器開発にて偶然デジタルワールドを全ての先進国がほぼ同時に発見した。各国はデジタルワールドとの関係性という暗黙の了解が存在するにもかかわらず、デジモンという新たな兵器を求め侵略を開始したのだ。

それに対抗して立ち上がったのが選ばれし子供たちだった大人たちやその親族だ。

世界各国に存在する選ばれし子供たちは寿命により、空前の灯火とも言える自身のパートナーと共に自身の祖国を相手とする最後の戦いへと向かった。

『八神太一』『宮本大輔』『松田敬人』『神原拓也』『大門大』『工藤タイキ』はデジタルワールドにおいて英雄視される存在だ。その中でも特に神に近しい扱いをされるのが『八神太一』であり、デジタルモンスターに関わる人間が『八神』という苗字を畏れ多く感じるのはここが理由である。

現在は英雄の活躍により、デジタルワールドとリアルワールドは対等な関係となっているがデジタルワールド関係者の八神家が下手をこいてしまえばまた、隷属の危機がやってくるのだろう。

黒神はソレを恐れてこんな対談の場を設けたのだ。

 

「理由は分かった。だが、一つだけ言っておく。オレが大人しくするのは無理だ」

 

「なぜだ?『八神』を名乗るのならそれこそ場を荒らげる必要も無いと思うのだが」

 

「『八神』だからこそ、だよ」

 

確かに、『八神』はオレたちデジタルモンスターにとって特別な名前だ。だからこそ泥を塗るような事をしちゃいけないのは『八神』を名乗るオレだってソレは分かっている。

だけどな―――

 

「世界を救った英雄の名を借りているんだ。誰かにヘコヘコ頭を垂れるようなマネはしたくない」

 

馬鹿だと笑われようと、愚か者と後ろ指を刺されようと関係ない。コレはオレ()にとっての誓いだ。ファンとして、デジモンとして、男としての。

 

「……『八神』の必要悪である黒神からすると、その考えは処罰モノなのだがな。しかし!この黒神めだか個人としてはその青臭い思想は大好物だッ!正直濡れる!!」[ピ-]

 

「おい最後ちょっと待て」

 

シリアス吹き飛ばしてやんな。しかも規制音間に合ってないし。

 

「『八神』に属する黒神家は私だけだからな。私が見逃すと言えば、見逃せる」

 

「職権乱用って、知ってる?」

 

オレが言えたことでは無いかもしれないが、さすがに突っ込みざるを得ない。

 

「私が、ルールだ!」

 

「あ、この人話聞いてなーい」

 

白神に裁かれても知らねぇぞオレ。

 

「ソレに、友人の愛する人物をこの手で帰らぬ者にするのはな……」

 

「悪いがその話はNG」

 

深雪さんがいないのに悩まさせるな、頼むから。

 

「む、そうか。……でだ。貴様は自分の誓いを守るように学校では生活する。という事でいいな」

 

「あぁ、ソレは絶対に変わること無い」

 

「分かった。なら私もそのようにしよう」

 

「別に、お前まで巻き込まれる必要は無いぞ?」

 

「いや何、ファンとしてなんて言う言葉を言われては私も従わざるを得なくてな。高圧的一般人少女めだかちゃんで行くつもりだったのだが、明日からは完全変態めだかちゃんで行くとしよう」

 

その変態が虫の変態であることを祈る。

 

「さて、ここからは私の個人的な疑問なのだが答えてもらえるか?」

 

「内容による」

 

さすがに変態的な質問とかだったら容赦しねぇ。

 

「貴様は進化できるのか?」

 

「あぁ、問題なく出来るぞ。……ただまぁ一般的な進化ルートとは違うけどよ」

 

「なんだ、パートナーが居なくとも出来るのだな。それに、進化ルートは仕方あるまい。人の遺伝子を持たないギルモンと人の遺伝子を持つギルモンは究極体が異なるのだから」

 

黒神の言う通り、人の遺伝子を持つギルモンと持たないギルモンでは辿り着く究極体が異なる。人の遺伝子を持たないギルモンは赤き魔竜メギドラモンへ。逆に、遺伝子を持つギルモンはロイヤルナイツである聖騎士デュークモンへ。無論、デジモンの進化は未だ完全に解明されてはいないため、コレらとは異なる進化を辿る場合もある。ただ、『ギルモン』という種族はこのどちらかへ進化することが多いのだ。

 

「それに、貴様は過去の記憶を持つという他にない存在だ。いきなりエグザモンとかへ進化しても驚かぬ」

 

「それはロストエボリューション限定ルートな」

 

そもそもエグザモンはドラコモンの最終進化体だ。ブレイクドラモンとスレイヤードラモンのジョグレス体だったと思う。

 

「聞きたいことは終わりか?」

 

「うむ。急に誘ってすまない」

 

「次からはアポを頼む。……深雪さんに」

 

「司波同級生でいいのか……」

 

察せ、頼むから。

 

「最後にひとつだけいいか?」

 

帰り支度終え、玄関で靴を履いていると、黒神がそんなことを言ってきた。

 

「ん、いいぞ」

 

「司波同級生とはどこまで済ませた?」

 

「さようならッ!!」

 

答えることもせず急いで玄関から脱出する。

……ちなみにだが、中学卒業式の夜にCの前段階まで食われかけたことがある。その時はまだ覚悟完了していなかったのか、オレの[ピ-]を見た深雪さんは顔を真っ赤にして気絶した。オレは動けないまま一夜を過ごして風邪をひいた。

 

 

 

〇✕〇✕〇✕

 

 

 

「おかえりなさい、テトさん。今日のうちに帰ってこれましたね」

 

「ただいま深雪さん。まぁ、急いだんで」

 

司波家に居候しているため、オレの帰る家は司波家だ。……キチンと自宅もあるぞ。ただそっちは(深雪さん)に疲れた男たち(オレと達也)の避難場所扱いだ。

置いてあるのだって達也のCAD弄り用セットだったり、オレ(ギルモンモード)用の爪とぎとかパン焼き釜くらいだ。

 

「お兄様も私もまだお夕食はまだです。テトさんは食べてきてしまいましたか?」

 

「いんや、オレもまだだ。一緒に頂く」

 

「分かりました。では手を洗ってきて下さい。準備しておきますね」

 

深雪さんはそう言ってリビングへ消えた。

洗面所に行き、手を洗う。石鹸でしっかり洗わないといけない。オレであっても深雪さんは手を洗わない人間には食事をさせない。……よくよく考えると、おかん属性が追加されたのか。

手の湿りをしっかりと拭き取って、リビングへと向かう。

そこでは本日の夕食であるホワイトシチューがテーブルに存在し、司波兄妹が椅子に座っていた。達也と深雪さんのホワイトシチューの冷め具合を見るに、待っていてくれたのだと察する。

 

「待たせて悪い、2人とも」

 

「いや、家の話なら仕方ないだろう」

 

「えぇ。私たちも何度か家の用事でテトさんを待たせてしまったことがありますし」

 

おあいこです。そう言って深雪さんは笑う。それにつられて達也も小さいが笑みを浮かべた。

 

「では、冷める前に食べてしまいましょう」

 

「お、そうだな」

 

「ああ。じゃあ、手を合わせていただきます」

 

「「いただきます」」

 

達也の号令を合図に、オレと深雪さんが続く。本来ならば家主である深雪さんがすべきなのだが、本人が拒否したため、達也が代わりを務めている。

ホワイトシチューを口へと運ぶ。語彙力がなくて申し訳ないが、ただ美味いとしか言えない。

深雪さん、変態行動が無いとホント超絶素晴らしい女性なんだよなぁ……。

 

「褒めていただけるなら是非ともベッドの上で……」

 

「今ご飯中だからさぁ!?」

 

「ゴフゥ!?」

 

「アカン!」

 

「き、気管にスープが……。ゴホッゴホッエホッ!」

 

もう正直な話、達也は深雪さんのガーディアンを辞めた方がいいのではないだろうか。このまま行くとストレス性の胃潰瘍にでもなるんじゃ……。え、もうなってる?

……デジタルワールド印の魔術調合薬品でも渡してやろう。我が師ことウィザーモン先生、1番役に立ってるのが薬の調合という事実は案外悲しいものですね。

 

「……おい深雪さん」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「媚薬ぶっこむのやめてくれません?」

 

「やはり効きませんか……」

 

本体はデジコアだから。肉体的影響はあっても精神的影響は無いぞ?

あ、そうそう。司波兄妹はオレが電脳存在デジタルモンスターだということは知っている。

……知っていてこんな行動に出る深雪さんがちょっとよく分からない。

 

「あ、もちろんお兄様のには入れていません。そこは安心してください」

 

「他人の食事に遠慮なく薬品を入れるお前に安心が出来ないよ深雪……」

 

達也よ、深雪さんはもう手遅れだから諦めた方がいいぞ。……いやごめん。手遅れにさせた原因が言う事じゃないわ。

 

「とにかくだ、深雪さん。飯くらい安心してゆっくり食わせてくれ。じゃないとオレはお前を怒る必要がある」

 

「……怒られる、私が、テトさんに?」

 

食事の手を止めて、深雪さんが何かを考え始める。

……とても嫌な予感がするのは気のせいだろうか。

チラリと、達也へ視線を向ける。しかし、そこにヤツの姿とシチューは無く、代わりに『CADの調整に行ってくる。後で一緒に来るように』と言う紙が置いてあった。

……あの野郎逃げやがった。

 

「いい、いいですね……。テトさん!」

 

「ぬぉ!?」

 

思いっきり手をテーブルへ叩きつけ、バンッ!!という大きな音を立てながら深雪さんはコチラへ顔を近づけてきた。

 

「叱ってください!」

 

「……はぁ?」

 

「先程叱られる姿を想像したのですが、何故か下腹部がキュンキュンしてきたのです」

 

「お、おう……」

 

「それだけでなくば、罵倒されるのを想像しましたら、アソコから[ショバァ]が溢れてきました……」

 

深雪さんは興奮しているのか、ハァハァと呼吸が乱れている。

不味いな、これは逃げた方が……ッ!!

オレが逃げようとしたのを察したのか深雪さんはオレへと素早く肉薄し、そのままの勢いでオレを押し倒した。

 

「さぁさぁさぁ!!」

 

目がぐるぐる、渦巻くなんて本当に起こるんだな。

なんて、場違いな事を考えて現実から逃げようとするも、オレが深雪さんに押し倒されている事実は変わらない。

ここで深雪さんの願望を叶えて脱出するのは簡単だ。しかし、それでは味をしめてまた何度もこのような事が起こるだろう(実際、変態行為では無い『頭を撫でる』を達也と共に1度叶えたらほぼ毎日せがまれるようになった)。そうならないよう、何か解決策はないかと考えをめぐらせていたところ、腰からカチャカチャと音が聞こえその考えを中断せざるを得なくなった。

 

「何してくれてるんですかねぇ!?」

 

「ペナルティです。罵倒してくれないまま1分が経つにつれ服をぬがしていきます」

 

そう言って、深雪さんはパンツに手をかける。

 

「次はコレを脱がさせていただきます」

 

「はァ?何ふざけてんだ!離せこのバカが!!」

 

言ってから、気づいた。今の深雪さんに『バカ』なんて言葉は劇物に近いということに。

 

「あ、ああぁあぁ嗚呼あぁぁアァ……イイ」

 

ビクビクと身体を震わせ、三日月のような笑みを浮かべる。

 

「もっと……もっと……もっともっともっトもットモット!!」

 

目を虚ろにして、深雪さんは狂ったようにオレへと迫る。

……覚悟決めるか。

これからも暴走深雪さんを相手にする事と今食われることを天秤にかけ、オレは前者を選択する。

 

「おう、なにこっちの許可なしに発情してんだ雌[ブヒィィィィ!!]が!!」

 

「あァん!」

 

この後はみんなの想像に任せようと思う。……ただ、軽く白目を向いて下腹部を濡らした深雪さんがそこにいた事を報告しておこう。

 

 

 

〇✕〇✕〇✕

 

 

 

「終わったか」

 

深雪さんを片付けた後、言われた通り達也の待つCAD調整室へと入る。達也は何事も無かったかのようにそう言い放った。

 

「あぁ、終わったよ……。色々とな……」

 

首筋、腹、その他etcにキスマーク付けられたオレの明日はどこだ……。こんなんじゃ、学校に行きたくなくなっちまうよ。

 

「……詳しくは聞かないでおく。俺も胃を守りたいからな。それで、頼まれていたCADの調整終わったぞ」

 

「お、サンキュー。さすがはシルバー」

 

「アイディアはお前だろう。指輪1つに起動式1つを込めて超特化型にする、なんて言うのはな」

 

「現代魔法が苦手なオレからすれば、コレでもキツいものがあるけどな」

 

デジタルワールド式の魔術を使う側としては、現代魔法というのはどうしてもコレジャナイ感がして使いにくい。だからといって魔術を使うのは論外だ。使うにしても『八神』として活動する時か、どうしても使わなくてはいけない時くらいだ。

郷に入っては郷に従えと言うからな。リアルワールドにいるならリアルワールドの魔法に合わせるさ。

 

「少し試し打ちしていいか?」

 

「いいぞ、なら的を用意するから待て」

 

「いや的はお前だ達也ァァ!!!」

 

オレを置いて逃げた事、許さねぇかんな!!

先程、深雪さんにやられたことに対する恨みを達也へと向ける。

 

「兄なら妹の尻拭いでもしやがれェェェ!!」

 

逆恨みによる小さな魔法戦が起こる。

だが結果はお察しの通り達也の得意技であるキャストジャミングによって魔法が発動出来ずにいたオレへ八雲直伝体術を放ち、オレの負けが一瞬で確定した。

 

「さ、流石だ達也……」

 

「精神的に疲れているお前くらいなら簡単に倒せる」

 

「さ、最後に1つ……。ナ、ナイスカスタム……」

 

達也の言った通り深雪さんへの対応で疲れていたオレはそのまま朝まで眠りについた。




話に上がった『八神』の解説をします。本文中で解説する機会が無さそうなので……。
結構長いので読む場合はほんの少し覚悟をお願いします。


『八神』
分家計八家の総称であり、その中から選ばれた8人のみが名乗ることの出来る特別な名。しかし、強制力は特に無く選ばれた8人は分家の名を名乗ることも許されている。
分家は皆、『色の名前として使われている漢字+神』を苗字としている。読み方が色の名そのままという訳では無い。
今現在の『八神』は
ビクトリーグレイモンを相棒とする八神双幻(そうげん)
ズィードガルルモンを相棒とする八神双奈(ふな)
アルフォースブイドラモンを相棒とする空神(うつほ)
ギルモンであり、パートナーが存在しない八神テト
ドラコモンを相棒とする赤神(きざむ)
デクスドルガモンを相棒とする黒神めだか
カオスモンを相棒とする白神(はかり)
エルドラディモンを相棒とする緑神サクラ

〈分家一覧〉
『赤神』(あかがみ)
ドラゴンズロア所属のデジモンを相棒とする家。
デジタルワールドへの侵略者に対する防衛手段を担う家であり、最も数が多い。陸と空を往く竜族はデジタルワールドにおいて最も一般的な防衛手段へとなった。

『青神』(あおがみ)
ネイチャースピリッツ所属のデジモンを相棒とする家。
赤神と同様に防衛手段を担う家であり、2番目に数が多い。素早く陸を駆ける獣族はいち早く戦闘区域へ向かい、戦うことの出来ない幼年期や成長期を救出するレスキュー隊へとなった。

『空神』(からかみ)
ウィンドガーディアンズ所属のデジモンを相棒とする家。
空という人の影響を受けない高所から偵察を行い、異常を見つければ赤神や青神へ報告する司令塔。
また、彼らは郵便物などを管理、配達する配達員でもあり、メタルエンパイア所属のトレイルモン(デジモンネクストVer.)と協力関係にある。

『緑神』(りょくがみ)
ジャングルトルーパーズ所属のデジモンを相棒とする家。
故郷を失い、行くあてのないデジモンたちの家を作り、家族として共に過ごす優しさの守護者。この家の人間はデジタルワールドに家を持ち、ムシクサキデジモンたちが出来ないことを行う。

『水神』(みずがみ)
ディープセイバーズ所属のデジモンを相棒とする家。
デジタルモンスターにとっては母なる海であるネット内の監視者。ネット内にて起きた問題の解決を一任されている。

『銀神』(ぎんがみ)
メタルエンパイア所属のデジモンを相棒とする家。
デジタルゲートの管理者であり、デジタルワールドとリアルワールドを行き来するには彼らの協力が必要不可欠。

『黒神』(くろかみ)
ナイトメアソルジャーズ所属のデジモンを相棒とする家。
『八神』における必要悪であり、必要な時には本家とも言える八神家の人間すら手にかけることも。

『白神』(しらかみ)
ウィルスバスターズ所属のデジモンを相棒とする家。
『八神』における絶対的中立者。抗争からプリン盗難などのささいな喧嘩まで、分家間で起きた争いごとを公平に裁く裁判官。


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変態は仲間を呼んだ!……しかし誰も来なかった

Q.今日はどこまで進んだのですか?

A.朝起きて、学校行って、お昼食べただけです。
……マジで進まねぇなコレ。終わるのかしら?


今の時代では珍しい、型落ちのスマートフォンが朝を告げるアラームを鳴らす。寝ぼけ眼を擦りながらソレを止めようと頭上に手を伸ばす。しかし、オレの手は空を切るだけでスマホを掴むことは無い。

いい加減アラームがうっとおしく感じてきた頃、誰かの足音が聞こえアラームが止まった。

 

「随分と眠そうだなテト」

 

「ん、おぉ、達也……。おはよー……」

 

「あぁおはよう。もう朝食の準備は出来てるから早めに来てくれ。……それにしてもこの半世紀以上前の情報端末、確か『すまーとふぉん』だったか?コレは使い慣れないな……」

 

そう言って達也手に持っていたオレのスマホを床に置き、上へと登って言った。

達也はああ言ったが、2000年代からやってきたオレとしてはどうしてもこの時代生まれである情報端末の方がが肌に合わない。というか操作が慣れないと言った方が正しいか。向こうにとっちゃ骨董品だがオレにとってはこれが最新機器だ。

それに、スマホだとデジタルゲートを繋げられるためにデジモンとしては使い勝手が良い。情報端末の方は人間の侵略対策にゲートが開かないようになっているからな。逆に言ってしまえば、スマホを持っている人間がいればそれはデジタルワールド関係者か侵略者という事だ。

 

「……あー、そうだ。達也にボコボコにされてそのまま寝たんだった」

 

身体を起こすと、掛けられていたブランケットが落ちる。ふわりと香る嗅いだことのある甘さと、見覚えのあるピンクの可愛らしい物であることから深雪さんの寝具だと判断する。

……自分の寝具を他人に貸しているとしたら、深雪さんは昨日どこで寝たのだろうか。……深く考えないようにしよう。

気付いてはいけない事に気付かないよう思考を切り変え、硬い床でそのまま寝たせいで凝り固まった身体を軽くほぐす。バキバキと音がなり、言葉に出来ないような声が漏れる。一息ついて、ブランケットを手に持って階段を上る。善意で貸してくれたのだ。返却するのは当たり前だろう。

 

「おはよーごぜーまーす」

 

「おはようございます、テトさん」

 

リビングの扉を開けると、制服に着替えた深雪さんがいた。手にバスケットを持っているのを見て、今日は八雲さんとこでの稽古日という事を思い出した。

 

「ん、ブランケットどうもな」

 

「あぁ、いえお疲れのようでしたから。本当ならベッドまで運びたかったのですが……」

 

「それは仕方ねーよ。ブランケットかけてもらっただけでも助かったわ」

 

そもそも眠った竜族に触る事自体が危ないからな。事前に声さえかければ無意識の反撃はしないが、運ぶとなると難しいだろう。

 

「テト、俺と深雪は今から稽古に行くがお前はどうする?」

 

記憶通りで良かったよ。……にしても、達也。なぜコッチに視線を合わせない?

 

「行ってもする事ねーし、先に学校行ってるわ」

 

「そうか、ならまた学校でな」

 

「お昼はご一緒しましょうね」

 

「あいあい。んじゃ、行ってらっさい」

 

達也と深雪さんを見送り、オレは準備されてあった朝食を食べながらテレビをつける。

今日の天気は晴れか、なら洗濯物でも干していくとするかねぇ。

今の時代なら洗濯機に取り付けられた乾燥機すら2000年代初期のソレを凌駕し、柔らかフワフワの仕上がりにはなるのだがオレも達也も深雪さんも太陽の匂いというものが好きなため、なるべくは外干しを心がけている。

 

「ジャバジャババシャーン、ザブンザフーン!ってな」

 

洗濯機を回すと聞こえる水音に合わせて前世で好きだった某魔法使い系ライダーの変身音を口ずさむ。

そもそもオレ用の指輪型CADはここから着想を得た訳だからな。コスプレと言われようともオレはこの指輪スタイルを続けるぞ。

そんなことを考えていると、ピー。という洗濯終了の音がなる。蓋を開け、中身を取り出す。

 

「……ん、やっべ」

 

その途中で、深雪さんの下着1セットが中から発見され思わず言葉を漏らした。

 

「普通に洗っちまったよ……」

 

女性物下着はおしゃれ着洗い+洗濯ネットが基本だ。でないとほかの洗濯物に引っかかってワイヤーが曲がったり、水流のせいで型崩れする可能性が高いからだ。

 

「コレは事情を説明して新しいの買わせた方がいいな……」

 

手持ちの金を思い出し、下着ワンセットならどうにか買えるだろうと当たりをつける。それよりも恐ろしいのは罰として何かしらをされないかだ。

 

「あ、後のことを考えても仕方ない……。今は早く干して学校に行こう……」

 

もうこのまま深雪さんの下着を泥棒か誰かが盗んでくれればいいのだが……。

そんなアホなことを考えながら学校へと向かう。気分は憂鬱だよコンチクショウ。

 

 

 

〇✕〇✕〇✕

 

 

 

「おはよーごぜーまーす」

 

洗濯物を干してからのためか、案外いい時間に学校へ着いたオレは席には付かず千葉さんと柴田さんのいる席の近くへと向かった。

昨日オレはあの後黒神に連れられたからな。まぁその分仲良くなっとこうって算段だ。

 

「おはよー八……神く……ん?」

 

「おう千葉さん。どうしたよそんな困惑した声出して」

 

「え、いや、え?気付いてないの?」

 

コチラへ視線を向けようとしない千葉さん。そう言えば、今朝の達也も視線を合わせようとしなかったな。

……嫌な予感がする。

 

「すまん、千葉さん鏡ある?」

 

「あ、はい」

 

「どうも」

 

昨日深雪さんに付けられた大量のキスマーク、アレらは全部服で隠れる場所だったはずだ。そうだ、顔になんてあるはずが……。

しかし、現実は非情であった。

付いてますねしっかりと。両方のほっぺたに1つずつ。

 

「鏡、ありがとう千葉さん。あとマスク持ってない?」

 

「あたしは持ってないなぁ」

 

「私もありません、ごめんなさい」

 

「いや、この時代じゃ花粉症対策でマスクを持ってる人を探すのが厳しいし、仕方ない」

 

さて、どうしようか。入学式翌日にキスマークを頬に貼っつけた人間なんてとんでもない噂になるぞこれ。

 

「おはよう!いきなりで悪いがマスク持ってないか!?」

 

キスマークのことを考えていると、レオが教室にダッシュで入ってきてオレら3人へそう言い放った。

 

「いや、全員持ってねぇ。てかオレが欲しいくらいだ……よ」

 

ふと視線をレオへ向けると、彼も頬に2つのキスマークが付けられていた。

 

「レオ、もしやお前もか」

 

「……もしかして、そういうテトもか?」

 

数十秒ほど無言で見つめ合い、オレたちは肩を組んだ。

この日、オレとレオは友人という枠を超えた真の親友になった。

……それとは別にウチのもの(黒神)がやった事には謝っておきました。なんで告白は出来ないのに変態行為は出来んだよあの人……。これじゃあ『めだかちゃん』じゃなくて『ダメかちゃん』だよ!!

 

「……何をしてるんだお前らは」

 

「あ、達也」

 

こうなる事を想定してマスクを持ってきてくれていました。まじセンキュー。

 

 

〇✕〇✕〇✕

 

 

 

「やっぱレベル高いな、第一高校は」

 

少し早めに見学を切り上げたオレたちは食堂で昼食を取っていた。そんな時、食べ終わって暇なのかレオがそう切り出した。

ちなみに、オレは購買部で売っていたパンを何個か、ほかの全員はオススメ定食を頼んでいた。

 

「高校にあんな工房作るとかバ……すげぇよな」

 

「寸前に言い直したことは褒めてやる。だが口に物を入れて喋るな」

 

あと口を拭け。達也はそう言ってオレの口をテーブル備え付けの紙ナプキンで拭う。

ケチャップつきっぱなしだったか、何時もすまんな達也。

その光景を見てか、女子組の方から笑い声が聞こえた。

 

「……何だよ無駄にいい笑顔して」

 

「いやー、2人が兄弟みたいに見えてさ」

 

「する方もされる方も慣れているように見えますし、それも要因かと思います」

 

「あー、確かにな。達也とテトの身長差ってどれくらいだ?」

 

「オレが130ピッタで」

 

「俺が170代だからだいたい40センチだな」

 

「いや、何サバ読んでんだよ。達也はもう180近いし切り上げ50だろ」

 

「ひゃ、130!?お前本当に高校生か?」

 

「じゃなきゃココにいねぇだろうが」

 

手に持っていた菓子パンを1つレオの口に黙れという意味を込めて突っ込む。

突っ込まれた菓子パンはシュレッダーに入れた書類のようにレオの口へ吸い込まれていく。

……食べんの早すぎだろ。

 

「体質でな。小学2年の頃から身長が伸びねぇんだわ」

 

恐らくだが、オリジナルのギルモン(啓人のギルモン)の精神年齢に引っ張られているんだと思われる。あのギルモンはだいたい小学生低学年くらいの精神年齢だったからな。まぁ、始まりの方の赤さんレベルでなくて良かった。そうなっていたら深雪さんがオレに迫る時の絵面がマジで酷い。……いやだからと言って今が酷くないという訳ではないけどな。

 

「はー、難儀な体質だな」

 

「テトが出かける時は俺か深雪が付いていないと小学生に間違われるからな」

 

いらん情報を与えるんじゃない。お前にはこの『激辛麻婆豆腐パン』をくれてやる。

達也の口へ麻婆豆腐パンを突っ込む。

 

「ゴホッゴホッエホッ!!?テト、なんだこれは……」

 

「激辛麻婆豆腐パン。つい買ってみたが食べなくて正解だったぽいな」

 

「他人で実験するんじゃない……。レオ、食べてみないか?」

 

「少し気になるし、いらないならくれ」

 

今さっき達也がむせたの見てた?考える時間なしで貰うなんてすげぇよ。

達也から麻婆豆腐パンを受け取ったレオはパンを躊躇せず口へ運びかぶりついた。

 

「辛ッ……。でも美味いなコレ。この辛さがクセになるって言うか?」

 

「なん……だと……」

 

レオは問題なく食べられるようだし、タダで貰った(押し付けられた)麻婆豆腐パン全部あげるか。

そして達也さんや、今日1番の驚愕をそんなモノで晒さないで?

 

「お兄様!テトさん!私もお昼をご一緒してよろしいでしょうか?」

 

そんなことをしていたら、入口で固まっていた集団から深雪さんが飛び出てきた。

 

「ちょっ、司波さん!!二科生と相席するの!?」

 

「一科生と二科生のケジメはつけなきゃ……。ね?」

 

深雪さんの後ろをゾロゾロと付いてきた一科生たちがそう声をかける。しかし麻婆豆腐パンの香りのせいか、顔はしかめっ面であったり、鼻をつまんでいたりする。

うーん、この姿は―――

 

「他人に母親を取られたくないワガママな子とそれの母親みたいだな、深雪さん」

 

ほんのり泣いてるやつもいるしマジでそう見える。

……いや涙は麻婆豆腐パンのせいだろうけども。

 

「でしたら夫はテトさんですか?まぁ、テトさん以外認めませんが」

 

「OK、オレが悪かった。だから今すぐ睨んでくる一科生の皆様をどうにかしてくれ」

 

この人数が相手となると口撃で普通に負ける。てか肉体はデジモンだが精神は人間だからな。多人数からボコられれば泣くぞ。

 

「む、レオか。何を食べているのだ?」

 

「お、めだか。いやさっき貰った『激辛麻婆豆腐パン』だよ。これが中々美味くてな。1口食うか?」

 

「い、いや、やめておく。そしていつも通りめだかちゃんと呼ぶが良い!」

 

あ、黒神もいたのか。てかそこオレの席だから。無理矢理食わせた達也に悪いと思って牛乳取りに立ち上がった間に弁当展開してるの早すぎるわ。

 

「く、黒神さん!なに二科生の隣でご飯食べてるんだ!」

 

「誰と食事をしようと私の自由だ。それに、だ。この時間は司波同級生が学内で兄と共にいられる数少ない時間なのだ。昼食の時間は諦めよ」

 

「なっ!ウィードは所詮僕たちブルームの補欠だ!他のみんなの言う通りケジメはつけなきゃいけないだろう!!」

 

一科生の群れから男子生徒……というか森崎くんか。森崎くんが出てきて黒神の行動に対して反論を行い、それに加担してほかの一科生も黒神へ口撃を続ける。

一般的な一科生ならそれで説得出来ただろうな。でもな、森崎くんよ。お前の相手にしているやつは―――

 

「哀れだな、森崎同級生。いや一科生諸君よ」

 

―――再現とはいえ、『黒神めだか』だぞ?

 

「人とは優劣で測れるものでは無い。月並みな言葉だが、人は生きているだけで価値がある。優劣など関係なくだ。ブルーム?ウィード?そんなモノ、魔法士から見ればあってないような分類だろう。知っているか、第一高校の卒業者は元一科生より元二科生のほうが歓迎されるらしいぞ?……私は少しだけ怒っている。自分の好きな人を、愛している人を貶されて怒らない人間なぞいるはずもない」

 

いつの間にか席を立ち、森崎くんの前へと立っていた黒神は髪先をほんの少しだけ緋色に染めながら言う。

 

「去れ。ココは他人を自分の評価上げの為にしか見れない人間がいていい場所ではない。……どうした?私は貴様らに言っているのだ、先程から司波同級生の後を金魚のフンのように尾けている貴様らにな!」

 

黒神の声を聞くと同時に、一科生は蜘蛛の子を散らすようこの場から離れていった。いや、逃げていったと言う方が正しいか。まるで、本能から黒神を恐れるように彼らは消えた。

 

「めだか、お前またアレを使ったのか」

 

「使ったが、気にするなレオ。私は友人たちが貶されているのを黙って見ているくらいなら、名前も知らない有象無象に恐怖される方がマシだ」

 

「あのー」

 

おずおずと千葉さんが手を挙げた。話を切るようで悪いとはおもっているのだろう。柴田さんは顔を青くしていた。乱心モードの気に当てられたか?

 

「アレって何?」

 

よくぞ聞いてくれた。千葉さんも柴田さんほどではないけど顔青いのによくやるわ。後でオイちゃんがスイーツ奢っちゃるよ。

 

「あー、言っていいか?」

 

「構わぬ。深い付き合いをしていく友だ。それに当てられているのに説明せずバイバイは出来ん」

 

「OK。説明するからよ、とりあえず座ろうぜ?」

 

レオの言葉に全員が同意して、席につく。

……えーと、元々6人がけのテーブル席だったんだよな。オレ(1)達也(2)深雪さん(3)レオ(4)千葉さん(5)柴田さん(6)黒神(7)だから椅子足りなくない?

 

「椅子足んないけどどーすんの?」

 

「テトが俺か深雪の膝の上に乗ればいいだろう」

 

「さぁテトさん!コチラにどうぞ!welcome!!」

 

「……達也、膝上失礼するぞ」

 

「あぁ」

 

「Nooooooo!!」

 

誰が鼻血ドバドバ垂らした人間の膝上に乗るかよ。身の危険感じるわ。あとその無駄に気持ち悪い動きした手を止めろ。座ったらオレは何をされていたんだ……。

 

「「み、深雪(さん)が壊れた……」」

 

「スマンそれ通常運転なんだ」

 

2人には申し訳ないが慣れてくれとしか言いようがない。オレと達也は慣れてるし、レオも別の変態で慣れてるからな。……悲しいけど。

 

「説明するぞ。めだかは「めだかちゃん」……めだかちゃんは生まれた環境のせいか、特殊な業を持ってる」

 

「特殊な業?」

 

「それが、さっき感じた寒気ってこと?」

 

「そうだ。本人はそれを『人間避け』なんて呼んでるな」

 

あぁ、なるほど。 『動物避け』の人間ver.か。しかしなんで避ける対象が人間なんだ?

 

「……私の実家『黒神』は少々特殊な家でな。家長はある技術が最も長けている人間がなる決まりなんだ。歳や性別は関係なくな」

 

「ある技術……ですか?」

 

「あぁ。私は子供の頃からその技術が高かった。だからこうなった」

 

黒神はそう言って制服の袖をまくった。

 

「なっ!」

 

「痛そう……」

 

「それは、もしや……」

 

そこには痛々しい火傷のあとが存在した。いや、火傷だけじゃない。袖をまくるという小さな範囲でも切り傷やすり傷の後がいくつも見えた。

 

「司波同級生の思っているとおりだ。コレは家族に付けられた。寝てる時、食事の時、風呂の時など、我が家で気の休まることは無かったな」

 

だが学校の宿題をやる時だけは誰も殺しには来なかったか。黒神は小さく笑ってみせた。

 

「そんな生活を続けた結果、生まれたのだろうな。『人間避け』が」

 

幼少期から襲われ続ける事。だが、その肉体は超人とも言える『黒神めだか』のもの。彼女からすれば家族が自分の元へ来るのは死にに来たようなものか。誰も自分のせいで死なないように。そんな思いから『動物避け』が『人間避け』に変わったのかもしれない。

 

「さぁ暗い話はここまでだ。そろそろ昼食の時間も終わる。午後も頑張ろうではないか。行くぞ、司波同級生」

 

「えぇ。では皆様ごきげんよう」

 

黒神の言葉に深雪さんを除いた全員は時計を確認する。見ると、昼休み終了5分前だった。急がないと次の見学に間に合わなくなってしまう。

 

「うっそ!こんなに時間たってたの!?」

 

「まずいな、テト急ぐぞ!」

 

急いでトレーを片付けた後、達也はオレをお米様抱っこで抱えあげた。

 

「……おい」

 

「急いでいるからな。お前の足じゃどうしても置いてくだろう」

 

「いやそうだけども。……安全運転で頼む」

 

「任せろ。アクセル全開でぶっ飛ばしていく!」

 

「安全運転って言いましたよねぇぇ!?」

 

いちおう、授業には間にあった事を報告しておこう。とてつもなくグロッキーではあるが。




一週間くらい前の話ですが、この作品が日間ランキング37位にランクインしました。
この場を借りて読者の皆様に感謝の言葉を。
ありがとうございました。

今現在(2019年6月21日7:55。全3話)UAが約7800、お気に入りが146件と、私の投稿した作品の中で1番の記録を叩き出しました。こちらも合わせて感謝の言葉を。
本当にありがとうございます。

さて、読者の皆様に感謝を示すため、番外編なる物を描きたいと思うのですがどちらが良いかアンケートをさせていただきます。期限は来週の2019年6月28日23:59までとさせていただきます。票が1つも入らなかった場合は友人に凸って読みたい方を問いただしますので読めないということはありません。ご安心を。

評価も7人の方から頂きました。そのうち2人が1評価ということですが、私の文章力がクソなせいで気分を悪くされたのかと思います。申し訳ごさいません。
これからも努力して文章力と語彙力を上げてまいりますので応援して下さるととても嬉しく存じます。


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変態はチカラをためている……

遅れてシンプルに申し訳ないです。
ちょっと、ユウキ(SAO)のヤンデレ物を探してて……。誰か書いてくれねぇかな。

あ、アンケート結果はほぼ5倍の差を付けて深雪さんの1日となりました。今現在『平日編』と『休日編』の執筆中です。気長に首を長くしてお待ちください。


「いい加減にして下さい!!」

 

放課後、門の前にてソプラノの怒鳴り声が響く。

怒鳴り声を向けられた一科生は誰もがその迫力にたじろぎ、周囲の生徒はなんだなんだと足を止めて様子を見る。

 

「私はテトさんと帰りたいのです!授業中はあなた達と一緒にいたでしょう!それなのにまだ私を拘束するつもりですか!!」

 

いやまぁ、怒鳴ってんの深雪さんなんだけどね。

俺と達也、深雪さんは小学生からずっと一緒だった。平日の学校でも、休日の家でも、寝る前までずっと。そんな日々を過ごしている内に俺たち3人は一緒にいることが普通になった。誰かが欠けたら気が落ち着かない程度には。

学校でクラスが変わるというのは初めてのことであり(中学までは達也の言っていた通り学校側の都合があったと思う)、味わったことの無い環境が思っていた以上にストレスを与えてしまったのだと思われる。俺と達也は同じくクラスだから深雪さんより被害はあまり少ない。

 

「こ、拘束って……?」

 

「お、オレたちはただ相談したい事があって……」

 

「相談でしたら明日に受け付けます!なぜ今になってそんなことを聞くのですか、時間はあったでしょう!」

 

「み、深雪さんは自分の価値を分かってないんだ!」

 

お、森崎くん。切れ気味深雪さんに噛み付くとはやるな。ちょっと評価上げとくべ。

 

「……自分の価値、ですか?」

 

「そ、そうです!深雪さんは一科生の星!それがそこら辺に生えている雑草を気にするなんて価値が下がるだけですからウィードとは縁を切るべきなんです!」

 

おっ、ケンカ売ってんのか^^?

なんていう冗談はさておき、入学式や食堂でも彼の発言は止められていた。その分の帳尻合わせがここで起きているからあんなに問題だらけのセリフへランクアップしてるのだろうか。俺は元のセリフをある程度知っているからまだいいが、それを知らない達也たちからしたら原作以上に溝を作る事になる。

 

「……それ、あたしたちにケンカ売ってるの?」

 

ほーら、(言ってないけど)言わんこっちゃない。

 

「いや、そういう訳ではない。君たちがウィードなことは事実だし、それによって深雪さんが汚されるというのも事実だ」

 

「なっ!なんで俺たちに関わったからって汚れるんだよ!!」

 

ゴメンな、レオ。深雪さんが変態化したのオレのせいだからあながち否定できないわ。

ちなみに黒神は帰った。今日までに終わらせなきゃいけない仕事があるらしい。義親父から何の連絡もないから、『八神』ではなく『黒神』としての仕事だろう。

 

「ボクは聴いたぞ。深雪さんがへ、変態的な事を言っているのを……」

 

あらあら恥ずかしがっちゃって。そこら辺はしっかりと思春期男子やってんのな。

 

「その相手がお前だったこともな!」

 

森崎くんはそう言ってオレを指さす。

少しだけ固まったオレは森崎くんの言葉をしっかり理解し、全力で土下座を敢行した。

 

「その件に関しては真に申し訳ないです。もしA組内でまた猥談をした場合は叱ってくれて構いません」

 

「あ、いや、いいんだ……」

 

変態深雪さんを作り出した原因として頭を下げる。

その姿に流石の森崎くんもたじろぐ。

 

「……話を戻すぞ。今彼が謝った通り、Eクラスの行動が深雪さんに対して悪影響を与えている。だから、深雪さんは君たちと関わるべきではないんだ!」

 

うーん、オレの発言で森崎くんの言葉に説得力がガガ……。

 

「誰かと関わって思考が変わっても、それが会っては行けない理由にはなりません!」

 

「美月の言う通り。深雪が誰と仲良くしようが、アンタらには関係ないよね」

 

ナイス女子組!

 

「関係ある!さっきも言ったが深雪さんはボクたち一科生の星であり、代表と言っても過言ではない。そんな彼女が低レベルの二科生と共に過ごすなぞあってはならない!」

 

「低レベルって……。入学したての私たちと何が違うって言うんですか!!」

 

「知りたいか?なら教えてやる!」

 

ん、ここでレオが発言したせいで狙われるんだよな。何かの間違いが起こって怪我させんのも悪いしここは庇っとくか。

 

「だったら教えてくれよ、一科生。オレらとの違いをよ?」

 

……別にこの騒ぎの理由がオレのせいだからじゃ無いからな?

 

「いいだろう……。よく見るがいい。これが―――」

 

森崎くんはそう言って腰に付けたホルスターから素早くCADを抜き、オレへと向けた。

 

「―――才能の差だ!!」

 

「「テト!」」

 

レオと千葉さんがオレへ向かって駆け出したのを見るに、恐らく魔法が放たれたのだろう。

ゴーグルは……間に合わないか。

もし奇跡的に間に合ったとしても、そこから守りに入るのは無理がある。これは二科生云々と言うより、銃弾を目視で避けられますか?という部類になるからな。

 

「…………テト!」

 

「オーライ達也、『ディフェンド』!」

 

ま、そういう時は達也が合図をくれるのよ。

中指の指輪がオレから霊子を吸い取り、起動式を展開する。吸い取られた霊子は正面へ壁を作り出す。と、いいなぁ。

見えてないからちゃんと作り出されてるのか心配だったりするが、みんなには内緒だ。

 

「な、なんだ今の展開速度……」

 

「はっやい……」

 

お、レオと千葉さんの反応を見るにしっかり魔法は展開されてるみたいだな。よがったよがった。

 

「才能の差は努力と知恵でカバー出来んだよ。分かったか、一科生諸君?」

 

今のうちにゴーグルを付けておく。……一応だぞ?戦う気なんてこれっぽっちもないかんな?

 

「舐めた真似を……。そこまで言うなら見せてもらおうか、その努力と知恵を!」

 

「あたしも参加させてもらうよ」

 

「俺もだ。友人を攻撃されて怒らないやつがいるかってんだ」

 

「深雪、手を出すな。コレは彼らと俺たちの問題だ」

 

「はい、お兄様。でしたら私は美月を守っていますね」

 

「あ、ありがとう……」

 

…………おっとー(-ω-;)?

なんか違くない? 千葉さんとレオはまだ分かるが達也さん、貴方そこまで好戦的でしたっけ?

千葉さん、レオ、達也の順で俺の数歩前に横一列で並び、一科生を睨みつける。対する一科生も森崎くんを中心として、達也たちの正面に立つ。

……よくよく考えると、入学一日目であんなにクラスをまとめている森崎くんのカリスマってやばいのでは?

 

「行くぞ!一科生の力を見せてやれ!!」

 

「二科生の意地を見せてやる!」

 

「そこの生徒たち止まりなさい!」

 

魔法による戦闘が始まろうとした所で、展開していた起動式が全て破壊された。

やっっっと来たか出歯亀生徒会長殿。

……あれ、風紀委員長殿は?なんで部活連会頭殿がいるの?

 

「一体何をしているのですか!魔法を人に向けて放つ事は校則以前に犯罪行為ですよ!!」

 

「せ、生徒会長……」

 

「それに、十文字部活連会頭……」

 

一科生の方からやってきた2人を示す小さな声が上がり、それを受けて周囲がザワザワと騒がしくなった。

 

「1-AとEの生徒だな。先程の明らかな戦闘行為は何だ?」

 

「何か事情があるのでしたら聞きますから、正直に話してください」

 

鞭の十文字と飴の七草……って所か?

達也も明確な敵対行動をしているため、原作のような回避方法は使えない。……仕方ないか。

 

「すいません、コレは全部私のせいなんですよ」

 

2人の前に出て、頭を下げる。深雪さんじゃあ達也のような事は出来ない。アレは二科生の達也だからこそ出来たおさめ方と言ってもいい。なら、同じ二科生であるオレがやるべきだろう。

 

「あら、貴方は?」

 

「1-E所属、八神テトと申します。自分は体質でこのゴーグルを通さない限り霊子を見ることが出来ません。この事は入学時の資料にも書いてあるかと思います」

 

「なるほど、君が件の生徒か」

 

「十文字部活連会頭殿の中で私がどのようなことになっているのかは後でそちらの生徒会長殿から聞き出すとしまして、詳しい説明をさせてよろしいでしょうか?」

 

「うっわ……。敬語のテトって似合わねぇ」

 

レオ、聞こえてるぞ。

 

「お願いするわ」

 

「分かりました。今回の始まりは私たち二科生が彼、森崎くんの『早撃ち(クイックドロウ)』を後学のため見学したいと申し出たことから始まります」

 

「なっ、お前!」

 

「黙っていろ、テトが泥を被ってここを収めようとしているんだ。」

 

ナイス達也。森崎くんに反論されちゃかなわんからな。

 

「ですが、私自体はあまり興味が無くてですね……。彼らの話を聞かないでウロウロしていたんですよ。そしたら、森崎くんの射線に『偶然』入ってしまいましてですね。その場はどうにか友人の声掛けで怪我もなかったのですが、仲間からは狙ってやったように見えた様でして……。森崎くん側からすれば頼まれてやったのに急に敵意を向けられた訳です」

 

「そう、『偶然』……ね」

 

「えぇ、『偶然』です」

 

出歯亀生徒会長殿と含みのある笑みを向け合う。

2人が見たのが最後のシーンだけならばコレで言い訳も通ると思いたい。もし、声が聞かれているならばお手上げだが……。

 

「……分かりました。今回はそれで納得しましょう。しかし、1度あった事がもう一度発生する可能性もあります。これ以降貴方は学内で過ごす時はゴーグルを付けたままにして下さい」

 

「おい」

 

「他の人から何も意見がないから彼の言葉を信じるしかないわ。……以後、気をつけるように」

 

そう言って出歯亀生徒会長殿は校舎へと歩いていく。何か言いたそうな顔をしながらも、十文字部活連会頭殿もオレたちへ背を向けて校舎へと向かう。

 

「あ、そうそう」

 

その途中で生徒会長殿が足を止めて、振り返った。

 

「テトくんの展開速度は中々の物だったわよ?」

 

そう言って、彼女は校舎へと再度向かった。

……見逃してもらった訳か。オレの起動式展開を見てんなら、森崎くんがオレを狙って魔法を放ったことくらい分かってるはずだ。コレは、今度菓子折りでも持っていくか?

 

「礼は言わないからな」

 

「いいよ、別に。こっちも事を大きくしたくなかっただけだ」

 

「……深雪さんが起動式展開速度の秘訣を学ぶためお前の元へ顔を出していると無理矢理納得してやる」

 

だから僕はもう絡む気は無い。森崎くんはそう言って校門から出ていった。覇気がなかったように見えたのは気のせいだろうか。

 

「『早撃ち』が有名の森崎家嫡子よりも素早い展開をして見せたんだ、覇気が無くなるのも当たり前だろう」

 

なるほど。あと心を読むな達也。

 

「分かりやすいからな、テトは」

 

「お兄様の言う通り、テトさんは考えが顔に出るタイプです」

 

「えぇ……」

 

その後、レオや千葉さん、柴田さんにも聞いたが全員が揃って頷いていたため、司波兄妹特有の能力という訳では無いんだろう。……出歯亀生徒会長殿だけじゃなくて十文字部活連会頭殿にも菓子折りを持っていこう、そうしよう。

先輩方の好意に甘えて見逃して貰ったのだと自覚した。達也のようなポーカーフェイスは出来ないみたいだ。

 

 

 

〇●〇●〇●

 

 

 

「ねぇ、八神くんってどうしてあんな速い展開が出来るのに二科生なの?」

 

あの後、原作のようにカフェでケーキを食べていた所で千葉さんがそう問いかけてきた。こう、思ったことをズバズバ聞いてくるのは中々出来ないことでもあるから美点だと思う。時には口を噤むことも大切だとは分かっているがな。

 

「まぁ、教えてもいいか。どうせ一朝一夕で出来ることでもないし」

 

ちなみに、光井さんと北山さんはこの場にはいない。あの時は光井さん以外の様々な一科生も魔法を発動しようとしてたから、原作のように光井さんを庇った。というより一科生を庇ったと言った方が正しいからな。

……まぁ、深雪さんの話に仲良くなった『一科生の女の子2人』が出てきたし、後々知り合うことはできるだろう。ここに来るまでは推しキャラが深雪さんと北山さんだし、早く知り合いになりたい気持ちはある。

 

「そんなに難しいんですか?」

 

「いんや、『展開速度の上昇』はそこまで難しい訳でもないぞ柴田さん。……『展開速度の上昇』にだけ目を向ければ、の話だが」

 

「どういう事だ?」

 

「詳しくはオレのCADを見てもらうのが早いと思う。絶対に触るなよ」

 

そう言って10の指に嵌められた指輪型CADのうち、中指のものを取り外しテーブルへ置く。

司波兄妹を除いた3人の視線が指輪へと集中する。

 

「何か……刻んでありますね」

 

「これって何語?こんな文字、あたしは見たことないわ」

 

「……この文字、めだかの家で見たことあるぞ」

 

「お、レオは知ってたか。それはオレたち八神家にのみ伝わる特殊な文字でな。『デジ文字』なんて呼ばれるんだ」

 

ま、人間たちにおいてはって話だけども。

 

「でじ……」

 

「もじ?」

 

「おぉ。ほら、他の指輪も見てみろ。全部に同じ文が彫ってあるだろ?」

 

「……ほんとだ」

 

「この文はな、触れた人間から想子を吸い出す力があるんだ」

 

「想子を吸い出すって、それ大丈夫なのか!?」

 

「大声を出すなレオ、他の客に迷惑だ。それに、その心配はいらない。テトの想子量は深雪すらも超えるからな」

 

「そーそー。ま、量が超えてるだけでオレ自体は何も出来ないんだけどな」

 

実質、オレはこの指輪がなければ魔法の使えない一般人に成り下がる。

 

「この指輪に刻まれたデジ文字がオレから想子を吸い出し、指輪の中に溜め込むんだ。んで、オレが決めた音声を認識する事で起動式が展開されて、指輪に溜められた想子を消費して魔法を発動してるわけだ。魔法士に起動式を返す必要がない分発動は速い訳だ」

 

「……それって、そのデジ文字が刻まれた指輪さえあればみんな出来る?」

 

「出来ると思うぞ。ただ、指輪に溜め込むことのできる想子は5分で新しいのに代わるから5分毎にリチャージされる想子をしっかり補充できたらの話だけどな」

 

「俺には無理だな。そんなに沢山の想子がある訳でもねぇし」

 

「あたしも無理」

 

「あぁ、まだやめた方がいい理由はあるぞ」

 

「ま、まだあるんですか……?」

 

「おうよ。この指輪型CADに入る起動式は1つのみだ。小さすぎて他のデータが入る余地もないからな」

 

そのため、オレは手の指10本全部に指輪をはめるというとんでもないことをしているわけだ。

あと、これは秘密だがデジ文字を刻むだけじゃ想子吸収の効果なんて出るわけが無い。魔術による加工のおかげで吸収効果が発揮されているだけだ。デジ文字はこう言った場合のための逃げ道用に刻んでるだけだ。

 

「こんなもの使うくらいならまだ普通のCADを使ってた方がマシだマシ。オレが特殊すぎるだけなんだよ」

 

霊子が見えないし、想子を操ることも出来ないからこんな方法に頼らざるを得ない。

正直な話、今すぐ魔法士なんて辞めたいが、義父曰く第一高校に悪のテイマーが何人も潜んでいるらしい。それらを討伐するまでは辞められないだろう。

 

「疑問は晴れたか?いい加減店員からの目が厳しくなってきたからそろそろ帰ろうぜ」

 

「それもそうね。ケーキとコーヒーだけで居座りすぎたかも」

 

まとめて支払うと言った達也へ全員がお金を集め、レジへ向かった達也以外は外へと出た。

 

「それじゃ、あたしこっちだから。また明日!」

 

「私も失礼します。また明日」

 

「じゃあなテト!また明日な!」

 

それぞれが自分の家へ帰っていく。オレと深雪さんは支払い中の達也が来てから家に帰った。




作品には関係ない話ですが、『クソ雑魚オリ主NARUTO』と『TRPGの世界観を使ったfgo』の短編でしたら、どっちが読みたいですか?
意味の無いネタが降って来るばかりで困ってます。
活動報告にアンケ的なナニカを置いとくので「回答してやるよ」って人は答えてくれると嬉しいです。


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番外編:深雪さんの日常(平日ver)

アンケで約5倍のスコアを取った深雪さんの日常です。
時間軸的にはブランシュ崩壊後と思ってくれればOKです。

活動報告にて前回言ったアンケート的なナニカをまだやっています。答えてやるかぁー。という人は答えてくれると助かります。


A.M.4:00

変態淑女(司波深雪)の朝は早い。自分にしか聞こえないように細工した目覚まし時計によって目覚めた彼女は着替えもしないまま手袋をはめ、泥棒のようにソロリソロリと自室を出ていく。

彼女は朝食を作るためだけの為に早起きをした訳では無い。朝食を作るだけならば5時半や6時に起きれば十分間に合うだろう。ならば、なぜ彼女がこんな早くに目覚めたのか。

それは勿論、八神テトの部屋へ侵入するためだ。コレは彼女にとって一日の始まりを告げる鐘であると同時に行動の燃料である『テトニウム』なる(深雪さんにしか影響を及ぼさない)特殊物質を補給するための行動でもあるのだ。

 

「おはようございまーす。今日も補給に来ましたー」

 

音もなく静かに、されど手馴れたように部屋の鍵を開けた深雪さんはゆっくりとテトのプライベートルームへ侵入した。絶世の美女が夜這い(この時間であれば朝這いだろうか?)に来たと考えればとても羨ましいことなのだが、しかし相手は変態淑女深雪さんだ。羨ましいというよりも哀れに感じるのは仕方の無いことだろう。

さて、テトの私室に入った彼女は真っ先に彼の服が入ったタンスへと向かった。

 

「フへへへへヘヘヘヘ。新しいパンツ、ゲットォ……」

 

年頃の女性がしてはいけない顔をしながら、タンスの中にある彼のパンツを宝石を扱うかのように優しく手に取り、懐から取り出した真空パックに詰めていく。無論、カモフラージュ用に全く同じデザイン、同じクセの付いた新しいパンツも用意済みである。

 

「私の履いたパンツを、テトさんが……」

 

この女、自分が履き倒したパンツを入れやがった。

 

「ハッ!私の[ピー!]液が染みに染みたこのパンツをテトさんが履くということは……これはもう実質S[ズキュゥゥン!!]Xなのでは!?つまり、私たちの結婚は秒読み段階!!」

 

油断も隙もあったもんじゃねぇぞこの変態。

 

「っと、いけません。うるさくしてはテトさんが起きてしまいます。口を閉じましょう」

 

そのまま永久に閉じていてくれ、頼むから。

しかしそんな願いも彼女に通じることは無く、ハァハァと息を荒らげる深雪さんが次に向かうのは壁に掛けてある彼の制服だ。

彼の制服は入学したてというのを抜きに考えてもシワのない、素晴らしい状態で掛けられている。

恐らく毎晩深雪さんが自分のや達也のと一緒にアイロンがけをしているためだろう。

……本来の目的が彼の制服に付いた毛の収集だとあうのは、知らぬが仏だろうか。

 

「クンクンクン。……女の匂いがしますね。ですが、エリカに美月、めだかちゃんですし許しましょう」

 

恋する女性に常識なぞ通用しない。匂いで人を判断するなど朝飯前のことだ。

……え?そんなの普通じゃない?イヤでもめだかちゃんもやってるよ?

 

「とりあえず、ほかの雌豚避けに私の香水でもかけておきましょう」

 

学友の呼び方が酷すぎる件。

そして先程名前が上がらなかったほのかさんや雫さんは雌豚扱いなんですか?それともただ単に今回は匂いが付いてなかっただけですか?

 

「テトさんもこの香水は好きと言ってくれましたし、今度プレゼントでもしましょう。喜んでいただけるといいのですが……」

 

ここだけ見れば可愛らしい少女なのだが……。

ちなみに、今回は問題無かったがもし制服に知らない女子生徒の匂いがしていた場合、彼女はその匂いを消去するため彼の制服を魔法で完全消毒する。その後の香水をかけるのはいつもの行動である。

 

「では……お楽しみターイム」

 

制服を確認し終えた深雪さんはパジャマに付けられたポケットから写真用の記録媒体(改造済)を取り出し、テトのベッドへ向かう。

この記録媒体、暗闇でも昼間のような明るさで取れるフラッシュ要らずあり、その上撮る時は勿論無音というパパラッチや盗撮魔が喉から手が出るほど欲しがるようなモノに仕上がっている。

 

「寝顔失礼しまーす」

 

パシャパシャとテトの寝顔を記録媒体へ収めていく。この写真は全て深雪さんの[自主規制]素材へと変化する。シンプルに見ながらしたり、あるものと組み合わせて[自主規制]している気分を味わったり、[自主規制]をぶっかけたり、まさかのムシャムシャ食べたり。

ひとまず言えることは、『絶対に真似しないでください。』だろう。

 

「フフフ……」

 

満足したのか、記録媒体をしまい部屋から出るため深雪さんは移動を開始する。が、直前にベッド横のゴミ箱をチラリと見る。

 

「今日も無いのですね。あれさえ手に入れば妊娠できるのですが……。それより、テトさんはどうやって性欲を解消しているのでしょう?」

 

自家受粉(意味深)を真面目に考えているあたり、本当に救いようがない。

というかそもそも、人間とは増え方の違うデジモンに性欲は存在するのだろうか。

デジモンは今のところ『マッチング』と呼ばれる方法にて増える事が確認されている。

『マッチング』とはデジモン同士が自分たちのデータの1部を出し合いタマゴ(デジモンのタマゴであるため『デジタマ』と呼ばれる)を作る事だ。しかしこの方法は人に管理されたデジモン同士で行われるものであり、テイマーのいないデジモンがどうデジタマを作るのかは未だ謎である。

データのクズが集まって産まれるデジタマも存在するため案外そういった、自然発生が一般的なのかもしれない。ソースはディアボロモン系統。

 

「もう5時半ですか。そろそろ朝食を作りにいきましょう」

 

楽しい時はすぐに過ぎると言うが、彼女がやった事はパンツ漁り、制服チェック、寝顔撮影の3つである。それに1時間半も時間をかけること自体がおかしい事に気付いて、どうぞ。

 

「確か今日は八雲先生の所へ行く日のはずでしたし、朝食はおにぎりにしましょう」

 

入った時のように音を消しながら部屋を出て、鍵をしっかり閉めた深雪さんは何事も無かったかのように朝食のメニューを考えながらキッチンへ向かった。

 

 

A.M.8:30

八雲の元へ達也が訪れる日は基本テトとは別れて登校する為、彼女が彼と会うことになるのは直近で昼休みという事になる。その間まではテトにとって(あとレオにとっても)平和な時間となる。しかし、それで気が気でない時を味わう事になるのがこの2人、変態淑女(深雪さん)変態乙女(めだかちゃん)だ。

昼休みまでの時間を乗り切るため、深雪さんとめだかちゃんは2人ほのかや雫を巻き込んである事をするようになった。

 

「そちらはどうでしたか?」

 

「今日は寝起きに横で全裸待機していた。手がそそり立った[ピー!]へ伸びるのを抑えるのには苦労したな」

 

それは彼氏自慢という名の猥談である。ほのかと雫の2人には強く生きて欲しい。

この猥談だが、A組生徒は内容が分からなかったりする。何故ならば始業式翌日にA組生徒へ『人間避け』を放っためだかちゃんがいる為、その時の恐怖が先行し近付けないからだ。

10億円の入ったトランクの目の前に某怪獣王が睨みを効かせて陣取っていると思ってくれればいい。

しかしまぁ、めだかちゃんの『人間避け』を受けてなお彼女と会話ができるどころか、会話を心から楽しめているほのかや雫は案外、逸般人なのかもしれない。

 

 

P.M12:20

午前中を乗りきった深雪さんにとっては学校で数少ないテトニウムを補充出来る、お昼の時間だ。この時はE組メンツの達也、テト、レオ、エリカ、美月(九校戦後はここに幹比古が加わる)とA組メンツの深雪さん、めだかちゃん、ほのか、雫でご飯の時間となる。

 

「「「「「「「いただきまーす」」」」」」」

 

全員が集まると、声を揃えて食事の挨拶をする。

『いただきます』と『ごちそうさま』は人間のために殺された生き物たちに対する感謝の言葉であるが、この中にその思いを持って口にしている人間はいるのだろうか。

 

「……甘ったるい匂いがするんだが、一体何を買ってきたテト」

基本的にテトは達也の膝の中で食事をする。それでもなお達也の視界にテトが映らないことを考えれば、やはりとんでもない身長差である。

 

「ん、『クッキー挟みコッペパンメイプルシロップ増し増し』だけど?」

 

視線を上に向け、意図せず上目遣いの形で達也を見上げるテト。

深雪さんはソレを血涙を流すレベルでガン見しながら食事を摂ることになる(流石の彼女もお兄様へ襲いかかる気は無いらしい)。普通は逆だとか言ってはいけない。

めだかちゃんはしっかりレオの隣を陣取っているし、レオも満更でもないため、他メンバーからは二人の世界に行けるよう気を使われていたりする。

流石の深雪さんも学校では大事になるような変態行為はしない。というか目の前に最強の風紀委員がいるため出来るはずもなかった。

この時間は途中で猥談が混ざるものの、ブレ幅的にはまだ淑女な深雪さんである。

 

 

P.M5:00

この時間は生徒会の仕事である。さっさと仕事を終わらせるため、サボり魔(生徒会長)の尻を(物理的に)叩き上げ、仕事を開始する。

この行動により深雪さんは『対生徒会長用仕事開始プロトコル最終兵器』の扱いを受けることになるが、本人は早く帰れるならどうでもいい様子。

深雪さん的にはテトを生徒会役員権限でここに呼び付けて自分の膝の上に乗って貰いたい気持ちがあるものの、深雪さんが生徒会の仕事をする平日の夕食担当はテトか達也になる。

テトを膝の上に乗せてアホ面晒しながら仕事をするか、愛する2人の手料理を食べるかで彼女は葛藤し、食事を選んだ。

料理と言うのは、どうしても味見の過程で作る人間の好みへと近付いてしまう。深雪さんはそれに目をつけてテトの好む味を分析し、作れるようになろうと考えたのだ。

つまりは心を掴む前に胃を掴む事にしたという訳だ。しかし彼の好物が焼きたてのパンであるため深雪さんのテト専用料理第1歩はパン作りになったが、それは些細な事だろう。

 

「ねぇ深雪「仕事してください会長」……はい、ごめんなさい」

 

これではどっちが上級生なのか分からない。

 

 

P.M7:30

「ただいま帰りましたテトさん、お兄様」

 

「お帰り深雪。夕食は出来ているから早く手を洗っておいで」

 

「達也も洗ってこい。CADいじってただろうが」

 

生徒会の仕事が終わると、深雪さんは真っ直ぐ家へと帰宅する。

愛しの彼が食事を作ってくれているからだ。彼女はこの食事を味わうがための努力を怠らない。

テトは案外料理上手であり、彼の作る食事はとても美味しいのだ。これは達也も認めることで、深雪さんによる謎フィルターを通した結果という訳では無い。

しかしまぁ、何処ぞのCMの言葉を借りる訳では無いが生物にとっての美味しい食事とは、殆どが「脂」と「糖」でできている。

ぶっちゃけると、司波兄妹はテトの料理を食べる度太るのだ。本人は味見をして料理をガッツリ食べているにも関わらず体型が変わらないのに。

 

「……お兄様、訓練を厳しくしましょう」

 

「あぁ。わかった」

 

「なんか言ったか?」

 

「何も」

 

テトに対する軽い死亡宣告だが、深雪さんは庇うようなことをしない。

例え変態であっても、深雪さんも女の子だ。体重の増加は絶対的敵なのだ。それを増長する相手には容赦する必要などない。それが自分の恋する相手であっても。

 

 

P.M8:30

食事と食休みが終われば戦闘訓練の時間だ。

この時間は魔法訓練と体術訓練に分かれており、深雪さんがテトへ合法的にお触りできる時間でもある。

 

「今回は深雪が放つ魔法を全て回避する事が勝利条件だ」

 

「魔法の種類は?」

 

「捕獲と氷結系だ。捕まった場合は体術訓練の時間まで深雪の好きにさせるからな」

 

「…………おっしゃこいやァァァア!!」

 

絶対に捕まってはならない。彼はそう確信した。

恐怖に震える自身を奮い立たせるため、声を荒らげる。

 

「フヘ、フヘヘヘヘヘヘ……」

 

対する深雪さんはこれからを妄想し、淑女がしてはならない様な表情を浮かべていた。しかしまぁ、変態な彼女からしたら日常であろう。

 

「制限時間は30分だ。では、……始めッ!」

 

達也の号令を聞き、先に動いたのはテトだ。

特殊生命体であるデジタルモンスターの全力を持って訓練場を縦横無尽に駆け回る。

 

「……次回の訓練は少し厳しくしてもいいな」

 

全力で動き回ったせいで手を抜いていたことが達也にバレ、次回の訓練がより厳しくなることが確定した。しかし、今の彼にそんなことを気にする余裕はない。

 

「さぁ、私の愛を受け取ってください!」

 

愛は愛でも、愛(物理)だろう。

テトの動きを観察した深雪さんは、点による拘束は難しいと考え、面による制圧を先に行うことにした。

飛び回る虫を捕まえるのは難しいが、どこかに止まってしまえば捕まえるのは簡単だ。彼女がやろうとしているのはそういことである。

無理矢理に動きを止めて一気に拘束する。面の制圧には多量の想子を必要とし、点の拘束には素早い展開が必要になる。この方法はまさに、深雪さんだから出来る芸当である。

 

「ファイアーミット!!」

 

しかし、深雪さんの思惑は外れる事になった。

面の制圧が氷で行われたが為、炎の扱いを得意とするテト(ギルモン)にはあまり効果の無いものであった。これが拘束魔法であれば結果は違っただろう。氷結系は深雪さんの得意魔法であるため仕方ないと言えばそうではあるが。

 

「流石はテトさんです。すぐに捕まってしまってはお楽しみがありませんからね!」

 

そんなテトを見て、深雪さんもやる気とヤる気、そして鼻から愛を溢れ出させる。

 

「言ってろ!今回ばかりは捕まるわけにいかねぇ!!」

 

ティッシュを投げつけながら言葉を返す。なんでティッシュ持ってんだとは言っていけない。

訓練結果は今回のお話に合わないため省略させてもらうが、残り15分あたりで達也が部屋の外に出、体術訓練が流れたと言えば理解できるだろう。

 

 

P.M10:00

訓練が終わり、汗等の体液(意味深含む)をお風呂で流した深雪さんは自室のベッドにて横になっていた。

遅寝は肌荒れの原因、女の天敵である。それは変態淑女な深雪さんであっても変わらない。

ヘッドホンを装着し、テトの部屋に付けた盗聴器から流れる音を子守唄代わりにしながら眠るのだ。

 

「明日も、良い1日でありますように……」

 

大好きな人、大好きな兄と共に過ごせる日々を噛み締めて彼女は意識を手放す。

彼女の立場からしてみれば、自分の好きに過ごせるこの日々はいつ崩れるか分からないものでもあるからだ。




おまけ:めだかちゃんの食事風景(会話のみ)

「レオ」

「ほら醤油」

「すまんな」

「……めだかちゃん」

「うむ、塩だな」

「サンキュ」


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番外編:深雪さんの日常(休日ver)

遅れて申し訳ないです。今になってダクソ3にハマりました。

中身としては、タイトル通りの内容です。

今回少し書き方を変えました。「」内で言葉を返す相手や内容が変わる場合改行を入れています。前回までと今回の、どちらが読みやすいか気になるのでアンケートに答えてくれると助かります。


A.M.8:00

「おはようございますテトさん、お兄様……」

 

休日における深雪さんは学生らしく平日よりも少し遅い時間に起きてくる。流石の完璧超人であっても、ゆっくり眠りたい時はあるのだ。

 

「おう」

 

「おはよう、深雪。朝食はテーブルの上だ。

……甘いなテト!」

 

「回避した……だと?」

 

テトと達也は既に起きており、2人は某大乱闘ゲームで1on1をしていた。デジモンであり故郷がリアル大乱闘なテトであっても、深雪の兄でありCADの開発者で大人っぽい達也であっても、2人は男の子(バカ)である。ゲームはいくつになっても楽しいのだ。

さて、女の子(大人)の深雪さんはそんな2人をよそに欠伸をしながらテーブルへと向かう。その動く速さはいつもの深雪さんとは異なりとても遅い。まるで陸に上がった亀だ。

彼女は席に付くとかけられていたラップを外し、モシャモシャと朝食のサンドウィッチをゆっくり頬張る。

 

「喰らえテト!コレが、ロマン砲だ!」

 

「当たるかよバ……げ!落とし穴!?」

 

「Shoot!!」

 

テレビでは達也の操るパワードスーツを着たキャラの放った巨大ビームがテトの操る黒いペラペラしたキャラへと襲いかかり、そのまま場外へ吹き飛ばした。

 

「だぁー!また負けた!!」

 

「約束通り新しい魔法を使ってもらうぞ」

 

「へーへー。分かりましたよ」

 

「これで73連敗……と」

 

コントローラーを片付けつつ返事をするテトを見ながら深雪さんは小さく呟く。

負けすぎだよといってはいけない。本人はいたって真剣だから。……ちなみにだがテトが73連敗もする理由は、達也がテトのキャラに対するメタキャラをいつも選んでいるだけだったりする。今回のを具体例で見ると、テトが近距離型の黒ペラに対して、達也が遠距離型のパワードスーツだ。

 

「俺は先に行って準備をしてくる。深雪の支度が終わったら来てくれ」

 

深雪さんの役割は記録と第三者からの評価である。普通の人からすればいい迷惑だろうが、深雪さん的には好きな相手との共同作業になるためそこまで苦にはならない。

 

「あいよー。

深雪さん、ゆっくりでいいからしっかり噛めよ」

 

テトの言葉に従うよう、深雪さんはゆっくりと朝食をとる。早食いしたっていいことなど(あんまり)無いのだ。

 

 

A.M.9:00

「じゃあ、始めるか」

 

この時間は1週間で達也(CADバカ)が考え、作り出した魔法のお披露目会である。もちろん、テトが使えるように加工された指輪に魔法を仕込んである。このお披露目会が開催されるようになってから、テトは達也に加工した指輪を渡したことを後悔していたりする。毎週の出来事になったらそうなるわな。

達也の作った魔法は、なんでそんなもの作ったというモノや深雪さん、テト両名から封印指定が入るようなものまでと、様々だ。そんなものを協力者無しに作り上げる彼はまさに『バカと天才は紙一重』を1人で体現した人物だろう。

 

「最初はこれだ」

 

渡されたのは茶色の指輪。なにか美味しそうな匂いがするのは気の所為だと信じたいテトだったが、それを見た深雪さんが顔を少し引き攣らせたのを見て気の所為ではないと悟った。

 

「範囲指定タイプの魔法だからこのビニールプールに収まるよう使ってくれ。呪文は設定してないからデフォルトのままだ」

 

「OK、『スキャニングチャージ』!」

 

達也に指定された通りの範囲を指定し、テトは魔法を発動する。すると、ビニールプールの丈夫から茶色の液体が落下してきた。

いい匂いである。刺身と白米が欲しくなってしまうくらいには美味しそうな匂いだ。

 

「……おい、なんで醤油が降ってくるんだ?」

 

ぶっちゃけ醤油である。

 

「やはり、この前お兄様とブランシュリーダーを打ち倒す際に使用した魔法でしたか」

 

「醤油で倒されるブランシュリーダーさんのことも考えてあげて!?」

 

この魔法は指定した範囲に存在する空気中の水分を醤油へと変換する魔法であり、この前のブランシュ殲滅作戦時、達也は深雪さんへブランシュリーダーのいる部屋へ入る前にその部屋を醤油で埋めつくすよう、お願いしていた。

高校へ侵入してきたテロリストたちが銃火器を持っていたため、アジトにもあると考えたが故だ。だからといってなんで醤油を選んだのかは彼にしか分からない。

ちなみにこの魔法、現在は『空気中の水分』を醤油へと変換しているが、コレが『全ての水分』になった場合、普通に人を殺しえる魔法になってしまうくらいには危険だったりする。

 

「次はこれを頼む。深雪も協力してくれ」

 

次に渡されたのは半分に割れたハートが刻印された指輪。深雪さんに渡された指輪と対になっているようだ。

 

「この魔法は何故か呪文が変更されていてな」

 

「変更したのか。達也がそんなことをするなんて珍しいな。内容は?」

 

「『I Love You』だ」

 

「……は?」

 

「『I Love You』だ」

 

「いや、呪文を聴き逃したとかいう訳じゃなくてな?なんでそんな風にしたんだよ……」

 

「……そういう魔法だからだが?」

 

「アッハイ」

 

達也は何言ってだお前というような顔でテトの問いかけに言葉を返す。

詳しい説明をすると、2人(なるべくは異性同士が良いらしい)がそれぞれ付けた指輪の割れたハートをくっつけながら上記の呪文を詠唱することで魔法が発動するらしい。

ちなみに、呪文の変更は出来ない。この魔法作成時、既に深夜テンションへ陥っていた達也が訳の分からないロックをかけたせいだ。本人ですら解読、魔法の再作成が不可能であるためハックの苦手なテトが書き換えなんて行ったら魔法が壊れるだろう。どうせ採用できるはずもないから後でテトにぶっ壊して貰おうと達也は思っていたりするが。

 

「さっさとやるか。準備はいいか、深雪さん」

 

「えぇ、問題ありません」

 

諦めの境地に達したテトといつも通りの深雪さん2人は横に並び、指輪を合わせ、息を合わせる。

 

「「I Love You」」

 

覚悟を決めた2人はすんなりと呪文を唱える。

CADは呪文を認識し、目の前に巨大な爆発を発生させた。それは天井を焦がし(試験場のため、耐久性は抜群)、先程の魔法で生み出していた醤油は蒸発し、それの入ったビニールプールは融解した。

 

「……なぁにこれぇ」

 

「指輪を着けた2人の互いへ対する愛情に比例してより強力な爆発を起こす魔法だ。愛情というより劣情と言った方が正しいか。

ちなみに深雪の付けた右ハート側の指輪が爆発の威力を、テトの付けた左ハート側の指輪が爆風の威力を決める」

 

つまり、深雪さんからテトに対する劣情が強すぎたせいで先程のとんでもない爆発が起こった、ということだろう。間近で爆発が起こったというのに誰も吹っ飛ばない所を見るに、テトから深雪さんに対する劣情はほぼないのだろう。日頃の行いを考えれば至極真っ当なことである。深雪さんは日頃の行いを改めて、どうぞ。

 

「詠唱さえなければめちゃくちゃ優秀な破壊魔法だなおい。いつもの指輪と違って想子もそこまで吸われてねぇし」

 

「劣情を抱く相手が隣にいるとなれば、誰しも普段隠している思いが表に出る。その心の乱れにより溢れた想子を利用しているからな。

その分、劣情が強ければ強いほど『ああ』なる」

 

そう言って達也は深雪さんを指さす。テトはそれにつられて先程から一言も話していない深雪さんの方へ視線を向けた。

そこには乙女の教示を投げ捨て、大の字で倒れ込んで眠る深雪さんの姿があった。

 

「眠らなければいけないほど想子を消費したのかよ……」

 

「溢れ出た想子を呼び水に、無理矢理引っ張り出すから溢れ出るのが多ければ多いほど、想子は失われる。

それを考えると深雪はどのくらい多くの想子を溢れださせたんだ……?」

 

この日は深雪さんが起きそうもないため、魔法お披露目会は終わりとなった。

運ばれる深雪さんはとても幸せそうな表情を浮かべて眠っていた事を記載しておこう。

 

 

P.M.13:45

「お、お兄様……」

 

「起きたか、深雪」

 

普段ならば魔法お披露目会の後昼食を食べて3人で日用品等の買い出しに出かけるのだが、この日は倒れた深雪さんを看病する達也と買い出しに出かけるテトに別れて行動することになった。

 

「申し訳ありません、お披露目会を潰してしまって……」

 

「いや、あの魔法を使用させた俺も悪いからな。ここはお互い様でどうだ?」

 

深雪さんが謝ってるけど、悪いのは100%達也である。何かおかしい気もするが、深雪さん相手にはこのくらい言わないと納得しない。(悪い意味で)引くことを知らないのだ彼女は。

 

「お兄様がそう仰るのでしたら……。アラ?」

 

ベッドから身体を起こそうとした深雪さんの頭から濡れたタオルがポロリと布団の上に転げ落ちた。

ギルモンのデフォルメが刺繍されたタオル(おそらく手作り)には突っ込むべきなのだろうか……。

 

「濡れタオル……。お手間をかけて申し訳ありませんお兄様」

 

「俺に言う必要はないよ深雪」

 

達也は小さく笑い、言葉を続ける。

 

「そのタオルをかけたのはテトなんだ。深雪をベッドに運んだのもね」

 

愛されているじゃないか。そう達也は言って深雪さんに体温計を差し出す。

……それはつまり、テトは自分のデフォルメ体が描かれたタオルを濡らして絞ったと?中々にひどい絵面だなおい。

深雪さんはソレを受け取りながら言葉をこぼす。

 

「……テトさんの愛情は異性間のソレではなく、家族へ向ける親愛です。妹が倒れれば、兄は心配するものでしょう?」

 

いや、家族愛というよりは推しキャラに対する愛情だと思うんですよ。彼、深雪さんと雫さん好きでしたし。

達也さんも何か言ってやってください。

 

「……その通りだな。深雪、随分と面倒な相手を好きになってしまったな」

 

ダメだこの兄妹、早くなんとかしないと……。

 

「えぇ。ですが共に過ごして振り向かせる日々も、私にとっては大切な宝物です」

 

「ただいまー。

お、深雪さん起きたか。ほら、スポドリ。水分補給は忘れんなよ」

 

がチャリと部屋の扉が開き、テトが現れる。

手に持っていたエコバッグからスポーツドリンクを1本取りだして達也へと投げ渡す。

 

「く、口移しで飲ませてくれません……?」

 

「バカ言ってんな」

 

達也が投げられたスポーツドリンクをキャッチする横でテトは深雪さんの通常運転が戻ってきたことに安心しながら、優しく頭を叩く。

さすがの彼も準病人を思いっきり叩くことは出来ないようだ。

 

「おかえりテト。頼んでたものは買ってきてくれたか?」

 

スポーツドリンクの蓋を開け、コップに注ぎながら達也はそう問いかけた。

 

「おう。カレーの材料と身長のせいではじめてのおつかい感やばかったけどな」

 

メモを書いた達也は『好きな菓子パン一つ』と、お駄賃も一緒に付けたため、テトの買い物は疑いようもなく子供のお使いそのものである。

しかし案外バカなのでその事実に気づかない。そんなんだから毎週某大乱闘ゲームで負けるんだよ。

 

「深雪さんは夜食べられんの?刺激物ダメなら別口でおじやとかお粥でも作るべきか?」

 

「一度に大量の想子を消費したせいで倒れただけだからな。風邪と言うよりは徹夜のし過ぎで倒れた方がイメージとしては近い。

あと夜はカレーじゃなくてシチューだ。食事の心配をする必要は無い」

 

「(´・ω・`)」

 

「深雪はもう少し休むといい。夕食が出来たら呼びに来るから」

 

「はい、おやすみなさいませ。お兄様」

 

達也はテトを連れて部屋から出ていく。

残された深雪さんは少しの間2人が出ていった部屋のドアを見つめ続け、ベッドへ横になりまた眠りに落ちていく。その途中で、密かな楽しみである買い物に行けなかった事を後悔しているあたり、彼女も変態である前に女性なのだろう。

 

 

P.M.7:00

「よく休めたか深雪さん?飯はまだ先だぞ」

 

少し寝すぎたかと思いながらリビングに顔を出すと、テトがニュースを見ながら深雪さんへそう声をかけた。

 

『―――つまり、廃棄されたはずの工場から醤油の匂いが漂ってくると?』

 

プツン。という音が鳴り、テレビの電源が落とされた。深雪さんがリモコンを操作したようだ。

 

「深雪さん、コレって……」

 

「気の所為です」

 

「え、いやでも「気の所為です、いいですね?」……はい、分かりました」

 

有無を言わせぬ覇気を持って、深雪さんはテトへ微笑みかけた。

デジモンの本能から、逆らってはいけないと悟ったテトは彼女の言葉に頷くしか無かった。

 

「深雪、よく休めたか?」

 

キッチンから、フリルがあしらわれた可愛らしいエプロンを着た達也が顔を出す。テトが達也の誕生日にプレゼントとして渡したものだ。

 

「はい、それはとてもぐっすりと。

お兄様、私もお食事の準備お手伝いします」

 

「お前まだそのエプロン使ってんのかよ……」

 

「ありがとう、深雪。助かる。

お前から貰った物だからな。大切に使うさ」

 

ちなみに、テト本人はギャグとして渡したつもりだった。しかしこの達也さん、原作より天然度がアガッチャ!しており、素直に誕生日プレゼントとして受け取ってしまった。

それ見たテトが慌てて本来のプレゼントである、クロンデジゾイド製のペンダントを渡している。

 

「それ使われんのこっちが恥ずかしいんだが?」

 

「そう思うならもうネタプレゼントをするのは辞めることだな」

 

「だからあの時以来ネタプレゼントは渡してねぇだろうが」

 

「そうだったな。……俺としては嬉しくもあったから、少し寂しくもあるが」

 

「そうなのですか?」

 

「1回の誕生日に2個もプレゼントを貰えるんだ、嬉しくない訳がないだろう?」

 

達也と同じく、フリルがあしらってあるエプロンを着た深雪さんの疑問に達也が微笑みながら答える。

もちろん、深雪さんのエプロンもテトプレゼンツだ。このエプロンは作成者であるテトがちょくちょく採寸直しをしており、深雪さんとは中学生からの付き合いであったりする。

 

「それは……そうですね。私もプレゼントが2つも貰えれば嬉しいです」

 

「だ、そうだテト」

 

「分かったよ、次回は2個用意してやる。楽しみにしとけよ?」

 

「あ、ありがとうございますテトさん!」

 

テトの思わぬ言葉に、深雪さんは思わず破顔する。

その顔をみて、燕尾服を贈ろうと思っていたテトは少し考えを改めようとして、やめた。

その分、もう1つの方を豪華にしよう、そうしよう。

そんな結論を出した結果、近い将来に自分が女装する事になるとは思ってもなかったテトだった。

 

「さ、そろそろ出来るぞ」

 

「テトさん、お皿の準備をお願いします」

 

「あいよ、任せとき」

 

 

P.M.10:30

夕食後、食休みと称してダラダラしながらゲームをしてお風呂に1人ずつ入っていったため、もう夜も更けてきた。

 

「もうこんな時間か。……明日って月曜日だっけ?」

 

「その通りだが、高校侵入の後処理で休みだ。深雪は休みか?」

 

「はい、明日は先生方で処理に当たるらしく生徒は皆お休みです」

 

「そっか……。なら、『やる』か?」

 

「あぁ、やろう」

 

「お供させていただきます」

 

テトの言葉を聞き、2人は1度自室へと戻って行った。

少しした後、戻ってきた2人は手にゲーム機を持っていた。

 

「よし、機体のはいいみたいだな。後は―――」

 

「飲み物だな。ジュースでいいか?」

 

「おう、リンゴジュースがあれば嬉しいな」

 

「それと、つまめるものですね」

 

「それもだな。手が汚れないものがあるといいから箸も必要か。ちょっと洗ってくる」

 

それぞれがこれからの事を最大限楽しむために行動を開始する。

コレは翌日が休みでなければ出来ない事であり仕事持ちの達也や、『八神』からの依頼が入ったりするテトのせいで中々やる事の出来なかったことでもある。

 

「さ、準備はいいな2人とも」

 

「あぁ」

 

「はい」

 

テーブルには1Lの紙パックに入ったリンゴジュースとポテトチップス、各々の箸が置かれていた。

 

「さぁ、行くぞ」

 

全員が同時にゲーム機を起動し、声をそろえる。

 

「「「ナワ〇リバトル(です)!!」」」

 

翌日、全員がお昼頃に起きたことを記載しておく。

夜更かしは若い者の特権ではあるが、やりすぎはよくないぞ?




おまけ:めだかちゃんの遊び風景(会話のみ)

「なぁ、めだか」

「なんだレオ」

「このチーム強くないか?」

「確かに。この『重音』さんと『シルバ』さんの協力は素晴らしいものがある」

「それに、最後の一人である『特型駆逐艦4番艦』さんもサポートが上手いし……」

「気を引き締めなくてはな。行くぞレオ!」

「あぁ!」


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変態ではあるけど一科生であることを忘れるな

執筆のため[ピ-!]なサイトや[ピ-!]な単語調べてて思ったんやが、ショタチ〇ポやロリマ〇コは聞くけどショタマ〇コやロリチ〇コは聞かんなぁって感じた。

その後何考えてんだろうって頭抱えました。
深雪さんの続き考えてると頭の中が変態に染ってやばい。


『1-E八神テトさん、生徒会長がお呼びです。生徒会室に起こし下さい。繰り返し連絡致します。1-E八神―――』

 

レオたちと放課後ティータイムをした翌日。司波兄妹が生徒会長殿に呼ばれて戻ってくるまで暇していた所、オレを呼び出す放送がかかった。

 

「……八神くん、貴方何かやったの?」

 

「流石に早過ぎない?」

 

「OK、お前らの俺に対する印象はよーくわかった。後で覚えとけよ」

 

放課後ではあるもののまだクラス内にはある程度の生徒が残っており、クラスメイトの女子2人からそんなことを言われた。

まぁ、軽口であることは理解してる。だから仕返しは俺のカロリー爆弾ドーナツで勘弁してやるよ。……やっぱデジノワを粉末にした調味料が高カロリーなのか?

 

「さて、帰るか」

 

右手に自分のカバンを、左手には購買で買った菓子パンの入ったビニールを持って教室の出口へと向かう。別に向かってもいいんだが、シンプルに生徒会長殿と会いたくない。まだツマラナイ=モノも買ってないし。

 

「え、生徒会室行かないの?」

 

「行きたくないでござる。絶対に行きたくないでござる」

 

女子生徒からの言葉に返事をし、教室から出ようかとしたギリギリのところで、『ピンポンパンポーン』とまた放送が入った。

なんだよ。オレは何を言われようと向かう気は無いぞ、残念だったな!

 

『1-E八神テト、生徒会室に来ないならこっちにも考えがある』

 

「あれ、この声って司波くん?」

 

……すっげぇ嫌な予感がする。い、急いで昇降口に行かねば。そそそ、そもそも校内に居なかったなら理由も通るだろ。

 

『俺は今日から1週間工房に篭もる』

 

「今すぐ行かせて頂きまぁァァァァす!!」

 

オレは走った。それはもう音のように。なんか女子2人が言ってたようにも思ったがそれどころじゃねぇ。達也が工房に篭ったら深雪さんのストッパーが消える。そしたらオレが死ぬ。達也が2日いなくなっただけで深雪さん精力剤と媚薬入りの料理馬鹿みたいに作り始めたからな……。ほんとデジモンで良かったわ。深雪さんには絶対デジタルワールド式の調剤術は教えねぇって決めたよ。

……あ、走ってるのは廊下じゃなくてグラウンドだぞ?昨日の時点で深雪さんに生徒会室の位置は聞いてたからな。一旦外出た方が近いのよね。

さて、生徒会室は……アソコだったな。

 

 

 

〇●〇●〇●

 

 

 

「さて、深雪はそっちの窓を頼む。俺はこっちの窓を開ける」

 

「分かりました、お兄様」

 

「……えーと、達也くん?何をしてるのかしら」

 

七草は先程の放送後、達也と深雪さんの行動に疑問を投げかける。

「何って、窓を開けているだけですが」

 

「もしかして換気?深雪さんの健康を守ってるのかしら」

 

「いえ、健康を守っていると言うよりは財布を守っていると言った方が正しいです」

 

不可思議な言葉に、七草含む生徒会たちは首を傾げる。

そんな中、風紀委員長渡辺摩利ただ1人がこの後起こることを直感で理解したのか、こっそりと窓付近から移動していた。

 

「……そろそろか」

 

窓を解放し、元の席に戻った達也が時計をみて小さく呟く。

 

「え、達也くん何がそろそろな「ダイナミックお邪魔します!!」のォ!?!?」

 

達也が答えを言うよりも先に『答え』が2人の開けた窓から飛び込んできた。七草の頭上スレスレを飛び越え、そのまま壁へとぶつかる寸前に空中で回転。クルクルと回って向きを調整し、達也が両手でキャッチして彼の膝上へ綺麗に収まった。

 

「お待たせしました生徒会長殿。1-E八神テトただいま参上です」

 

「あー、うー、……はい、ご苦労さまです」

 

「いやそれで流してはいけないでしょう!?」

 

理解を放棄した七草に、生徒会副会長である服部刑部少丞範蔵こと服部刑部が突っ込む。

いいぞ、もっとやれ。

 

「そもそもココは1階じゃないんだぞ!どうやって窓から入ってきた!というかどうして窓から入ろうと思った!!」

 

「そこに窓があったから」

 

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」

 

この男、変に真面目すぎる性格が祟ってテトの考え無しな行動と発言に対しこの短い時間で発狂を起こした。

強く生きて。

 

「副会長、テトの行動に理由を求めてはいけません」

 

「お兄様、フォローになっていません」

 

「フォローする気がないからな」

 

「コ☆レ☆ハ☆ヒ☆ド☆イ」

 

「元はと言えばお前のせいだ」

 

「フヒヒwwwサーセンwwww」

 

お前は少し悪びれろ。

 

「で、オレはなんの為に呼ばれたんですか。生徒会長殿に風紀委員長殿」

 

司波兄妹との漫才が終わった瞬間に意識を切り替えてテトが2人へと問いかける。

生徒会+αの面々はこの切り替えの速さに対応出来ず、ぽかんと口を開けている。……約1名頭髪を気にしてそれどころではない人物もいるが。

 

「風紀委員の推薦だ」

 

部屋全体へ視線を動かし、テトの奇行に慣れていない生徒会メンバー+αの再起動に時間がかかることを察した達也が代表してテトの疑問への答えを出した。

……部屋を見回してる途中で育毛剤の値段を調べている深雪さんの姿が見えたが、達也はその事実を頭の外へと追いやった。

 

「推薦?それは達也の話だろ」

 

「一体いつから俺だけが推薦されていると錯覚していた?」

 

「なん……だと」

 

「俺が推薦した」

 

「屋上行こうぜ?久々にキレちまったよ……」

 

「正確には―――「3行で頼む」

戦力疑問視

ツーマンセル

テト推薦、だ」

 

「おけ把握」

 

ネタとネタによる会話のドッチボールを行いながらも達也はテトをここに呼んだ理由を伝えた。

内容を把握したテトはそのまま黙り込んでしまい、手持ち無沙汰になった達也はそのままテトの頭に顎を乗せて他メンバーの再起動を待った。

 

「……ねえ摩利」

 

「なんだ」

 

「2人の言ってること理解出来た?」

 

「……いや、全く」

 

やっと再起動した七草の放った言葉は先程2人が行った会話についてだった。

幼い頃から付き合ってきた2人だからこそ伝わる会話方法であり、同じように昔から付き合ってきた深雪さんを除く他のメンバーは何を言っているのかどころか何をしているのかすら理解出来なかった。てか出来たら怖すぎる。

 

「てか達也ならソロでも行けんだろ。なんでオレを呼んだし」

 

達也の戦闘能力を知っているがため、テトはなんで自分が呼ばれたのかが理解出来なかった。そのため、もう思いきって自分を推薦した張本人へと聞いてみた。

 

「お前だけ苦労しないで悠々と過ごしているのが気に食わないからだ」

 

「お前の晩飯スターゲイジーパイとうなぎゼリーな。ついでにマーマイトもくれてやる」

 

「謝るからそれはやめてくれ」

 

晩御飯という人質(?)を使われた達也は悪あがきすることなく直ぐに頭を下げた。テトであれば問題なく食べられるレベルに仕上げてくることは理解しているものの、視覚的な破壊力を恐れてのことだ。

過去に1回やられた『酸素魚雷天ぷら』なる物が達也の頭をよぎった。中身は肉詰めであったものの、酸素魚雷を食べるという視覚的暴力が達也の心に少なくないダメージを与えていた。

 

「ま、たとえ推薦者が誰であったとしても断ってますがね」

 

「あら、そうなの?」

 

「学生でありますが、その前に『八神』の人間ですから。どうしても面倒な規約があるんですよ」

 

「……そう言えば、小学生の頃から電子機器を扱う委員会には入らなかったな」

 

「八神はどうしても大切な電子機器には触れないんですよ」

 

デジモンの関係者である八神からすれば電子機器のハッキングなんて、おちゃのこさいさいだ。一般的にも八神は電子機器に強い家系として知られている。だからこそ電子機器に不具合が起きた時などに疑われないようあまり触らないようにするのが八神家の決まり(?)であるのだ。

 

「あー、そう言えばそんなウワサもあったわね……。忘れてたわ」

 

「てな訳で、断らせて頂きます。無論、全生徒の個人情報が漏れてもいいなら受けさせて頂きますが?」

 

「いや、大丈夫だ。むしろやめてくれ……」

 

「言質、頂きました。残念だったな達也」

 

「……まぁ、仕方ないか」

 

テトを推薦した達也も八神家の決まりを忘れており、断られたことに関しては仕方ないとした。

だからといって、自分たちが働いている中ダラダラと過ごしているのを許せる訳でもなかった。

 

「その分テトには家事を任せるとしようか」

 

「まぁ、そんくらいなら」

 

「結局こうなるのか……。仕方ない、最初に出ていた模擬戦をやってみるか。2人とも準備はいいか?」

 

「あー、オレは帰らせてもらいますねー……」

 

「まぁまぁテトさん。せっかくお兄様の勇姿が見れるのですがぜひ見学でもどうですか?」

 

ガッチリとテトの腕に自分の腕をからまる深雪さん。

 

「深雪さーん?部外者入れちゃダメでしょ?生徒会長殿ー、この人止めてー」

 

「あら、いいわよ別に。あなたも一応推薦されたという事実はあるんだから」

 

「……ハァ。分かったよ、同行するよ。だからこの腕を離してくれ」

 

「はい、分かりました」

 

「確かに腕は離したな、腕は。もーすきにして……」

 

現在のテトは深雪さんに抱き抱えられ、持ち上げられている状況だ。

おのれうやらま……ゲフンゲフン。男という尊厳をメタメタにされたテトの目は少し死んでいた。

 

 

 

〇●〇●〇●

 

 

 

「しょ、勝者……司波達也!」

 

「ま、そうなるわな」

 

深雪さんに強制連行されて見ることになった達也とはんぞー副会長殿の模擬戦。結果は変わらず達也の勝利だった。

まぁ、ここで負けちゃ主人公が廃るってやつか。

 

「お疲れ達也」

 

「そこまで疲れてもないがな。……それより疲れているのはお前だろう」

 

「ん、なんの事だ?」

 

「だから……いや、なんでもない」

 

全く、何を言っているんだ達也は。確かに深雪さんの手が怪しい方に動いてたり息が荒かったりするけどそんなの、イツモドオリダロ?

頭上で息を荒らげたまま深雪さんが何か話してるが何も知らない。生徒会の皆さんも気にしてないしきっと私の気の所為です。

 

「じゃあ、私たちは風紀委員会本部へ行こうか」

 

「私たちも生徒会室へ戻りましょうか」

 

ん、意識を飛ばしていたら会話が終わっていたようだ。

 

「ならオレは帰りますね。深雪さん、いい加減離して」

 

「名残惜しいですが、仕事の間待たせるわけにもいきませんから仕方なありませんね……」

 

さすがにそこら辺の常識は残ってたか。安心だわ。……現状に慣れすぎるな、オレ。この状況がおかしい事を思い出せ。

まぁ、今気にしても意味ないか。

 

「達也、今日の夕飯何がいい?」

 

「……生魚を食べたいな」

 

「おっけ、期待しとけよ」

 

原作通りではあるが達也の勝利を祝って食べたいものを作るのもいいだろう。

にしても生魚ね。……デジカムルの活け造りでもしようか。

 

「私はテトさんを食べたいです」

 

「寝言は寝て言え」

 

家の外でやるなよ。ほら見ろあーちゃん先輩がえっぐい顔してるぞ。

 

「変態はほっといて、達也。帰る少し前に連絡してくれよ。じゃねぇと刺身の用意が出来んからな」

 

「分かった」

 

模擬戦に使った部屋の片付けをしている生徒会の面々を置いて風紀委員組と一緒に生徒会室へ向かう。

 

「……なぁ、彼女はいつもあんな感じなのか?」

 

「深雪さんですか?えぇ、いつもあんな感じですよ。いい加減落ち着いて欲しいとは思いますけどね……」

 

その道中で風紀委員長殿が申し訳なさそうにそう問いかけてきた。

確かにあんなの見れば問いかけたくもなるわな。本人が申し訳なさそうなのは、被害者であるオレに聞いてるからか。

 

「そ、そうか」

 

「えぇ、なので慣れといてください」

 

アドバイスにならないアドバイスをしているとちょうど生徒会室にたどり着いた。カバンを回収し、達也と別れて学校の外へと出る。

夕飯の為、何か必要なものは無いかと思い浮かべるものの大体のものは家にある。解体用の包丁はデジモン式の魔術でどうとでもなるから、用意するものは米くらいだろう。

 

「もしもし雛乃(ひなの)さん?デジカムル買いに行きたいから帳簿に名前書いておいて貰えると助かるんだけど。滞在予定日数は一日未満で。……うん、うん。OK、サンキューな」

 

スマホを取りだし、デジタルゲート管理者である銀神家の家主こと雛乃さんに電話をかける。

本来、デジタルゲートを通るには管理者である銀神の家へ向かい、使用者の帳簿に名前と渡航目的、滞在予定日数を書く必要がある。こうして初めてデジタルワールドとリアルワールドを行き来することが出来るようになるのだ。

しかし、デジモンでもあるオレはゲートを自由に開くことが出来てしまうためいつもこうやって雛乃さんに連絡してゲート使用の記録をしてもらっている。……今度何かしらの菓子折りでも持っていくか。何度も渡航してるしな。

 

 

 

〇●〇●〇●

 

 

 

テトが去った後、深雪さんは黙々と生徒会の仕事をしていた。

 

「ねぇ深雪さん。あなたテトくんと仲良いの?」

 

そんな時、七草が作業の手を止めてそんなことを聞いてきた。

 

「はい、お兄様と私、テトさんは幼馴染です。本人は腐れ縁と言っていますが……」

 

昔は彼も幼馴染と言ってくれていたのに。なんて事を思い出しながらそれに答える。

ちなみに深雪さんが今書いているのは自身のプロフィールのようなものだ。 七草曰く、「今度生徒会にこんな人が入りますよー」というのを一般生徒たちへ知らせるためのものらしい。

 

「そう。そんなに近いなら『八神』の評判も知ってるわよね?」

 

「いえ、機械類に強い家系としか知りません。昔から3人で集まる時は家の事を忘れてただの子供として過ごしていましたから……」

 

3人は『八神家のテト』と『四葉家の深雪と達也』では無く、『ただのテト』と『ただの深雪と達也』という関係で今まで共に生きてきた。3人の中では『家』という垣根はほぼ無かったと言ってもいい。だからこそ深雪さんは高校生となった今でも『八神』という家は電子機器に強く、不思議生命体と共に生きる家としか思ってない。……実際あってはいるけども。

 

「そう。……そんな深雪さんが生徒会に入ったのは幸運だったのかも知れないわね」

 

そんな関係である深雪さんが生徒会に入ったことは七草からしたらありがたいことであった。

 

「幸運……ですか?」

 

「えぇ、魔法師の嫌われ者である八神を贔屓目なしに見れる人は少ないから」

 

『八神』の中には生身の人間でありながら電脳世界へと入り込める存在がいる。その能力を持つ彼らのことを十師族を含めた魔法師は『サイバースルゥース』と呼んでいた。

サイバースルゥースはCAD内部にすら侵入することが可能であり、それによって魔法の情報を抜き出されると同時に式を弄られ使い物にならなくなるという二重苦を味わうことになる。

 

「彼がサイバースルゥースでは無い可能性もあるわ。でも、『八神』と言うだけで魔法師から恐怖される存在というのは理解しておいて欲しいの」

 

四葉が魔法師の触れてはならない者たち(アンタッチャブル)だとすれば、八神は七草も言っていたように魔法師にとっての嫌われ者たちと言えるだろう。

 

「それは……」

 

「納得出来ないかしら。でも、納得せざるを得ない。それだけ世間は八神を危険な存在と認識しているの」

 

生徒会長である七草だって1人の生徒が嫌われ者になるのは避けたいことだ。しかし家の名にこびり付いたウワサがそれを許さない。

 

「だから深雪さんは彼の味方でいてあげてね」

 

「……はい」

 

自分の知らないテトの一面。それをほんの少しだけ知った深雪さんは今度の休みにテトを問い詰めることに決めた。




「……なんだ、この悪寒は」

「ほい、今朝ったばっかりのデジカムル」

「あ、どうも。おいくらで?」

「いつも買ってくれてるし30万bitでいいよ」

「あざっす」


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変態は好きな人の趣味をを自分も試してみることがあるらしい

待たせたな!
今回は部活回です。達也はエリカと部活を見て回りましたがテトくんはソロです。部活を決めてもらいます。

あとオリキャラ(?)注意報発生します。


「部活?」

 

「正確には新入部員勧誘期間だ。新入生の取り合いに発展して魔法が飛び交うこともあるからな。今日から1週間はゴーグルを外さずに帰れ」

 

「ふーん、了解。にしても部活か。二人とも家に居ないし見てみるのもいいかもしんねーな」

 

「やるにしても非魔法系クラブにする事だな。名前の通り魔法系クラブはCADを使うから、お前じゃ扱えないだろう」

 

「ありゃ、それは残念。なんかオススメある?」

 

「風紀委員会」

 

「それはクラブじゃないだろうが」

 

達也が風紀委員に所属してから数日後。一高は新入部員勧誘期間と言う名の無法期間に突入していた。

前世で映像として見てたから分かるけども、あれは酷いよ。いや、九校戦という大舞台のために抜けた先輩方の補充を頑張ってるのは分かるけどね?オレだって引退したデジモンの後釜探しに奔走したからその思いはよーく分かる。むしろそっちの立場と言ってもいいかもしれない。てか義親父殿はまーたオレに仕事を投げやがっ―――

 

閑話休題(愚痴は置いといて)

 

とにかく、彼らの考えは理解できるし共感もできるけど方法が酷すぎる。優等生だと軽く誘拐的な事してたしな。

 

「何を言ってる。この1週間でもCAD持ち出し許可があるし、放課後に魔法を使う事もできる。部活に違いないだろ?」

 

「お前は1度一高における『風紀委員』って言葉の意味を風紀委員長殿に頭下げて聞いてこい」

 

んでその完全記憶持ちの頭に叩き込め。そんなことを言いながら次の授業準備を進める。次の授業は歴史。内容は『第一次電脳戦争』についてだ。

まぁぶっちゃけ魔法師vsデジタルモンスターの戦争よな。

第一次は魔法師とデジタルワールドの英雄たちの戦いについて。

英雄たちってのはアプモンを除くテレビ番組デジモンシリーズの主人公たちと言った方がアンタらにはわかりやすいよな。ま、戦争の話は暇があれば説明してやるよ。

 

「次の授業、休んでもいいんじゃないか?」

 

「気遣いどうも。でもこっちで伝えられてるもんとの違いを知らない訳にはいかないから、受けるさ」

 

人間ってのは時に身勝手だ。自分たちにとって都合のいいように歴史を改変する。歴史を作るのは勝者とは言うが、あの戦争に勝者はいない。実質引き分けのようなもんだ。だから歴史を改変するのは頂けない。擬態できるオレは『人』としての色眼鏡無しに歴史の違いを見る事が出来る。歴史の差異を調べる事もイグドラシルこと美樹原ノルンから与えられた仕事だ。

……イグドラシルとノルンってどっちが本体なんだ?ノルンはイグドラシルの良心らしいが、イグドラシルにも良心はあるしな……。

まぁ、その事は今度会った時に聞くことにしようと思う。今は授業だ授業。

ちなみに、歴史改変はほぼなかったと言っておく。問題は米かな?

 

 

 

〇●〇●〇●

 

 

 

「なぁにこれぇ」

 

放課後、教室から窓の外をチラリと見て思わず口から飛び出た言葉である。映像で見るのと自分の肉眼で見るのは印象が違いますね。

 

「うわー、これは酷いわね」

 

「千葉さんもそう思う?」

 

「コレ見たら誰でもそう思うわよ……」

 

「……確かに」

 

昇降口から校門までの短い距離に集まった大量の人から圧を感じる。まるで肉食獣に睨まれた草食獣のようだ。おかしいな、オレは竜なんだが……。

 

「テトくんは部活決めてるの?」

 

「いんや、オレは目移りしやすくてな。レオのようにサクッと決められんのさ。そっちは?」

 

「あたしもまだ決めてない」

 

「さよか」

 

数分の間オレたちは言葉すら交わさないで新入生に襲いかかる先輩方をドライソーセージをつまみながらじっと見下ろしていた。なかなかにシュールな光景だとは自分でも思う。

 

「……2人揃って何をやっているんだ?」

 

「あ達也」

 

その姿を見た達也がツッコミを入れるのを仕方ないと思う。

 

_人人人人人人人人人人_

>ワイトもそう思います<

 ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

 

誰だ今の。

 

「お前風紀委員の仕事じゃ無かったのか?」

 

「あたしと見て回る予定なの」

「あぁエリカの言う通りだ。テトも来るか?」

 

「あー、いや遠慮しとく。1人でダラダラとみてるよ」

 

馬に蹴られたくないしな。あとサイズ差的にはぐれるだろうから、最初から離れてた方がいいだろ。

 

「そうか、なら後でな」

 

そう言って達也は千葉さんを連れて教室から出ていった。

2人を見送って、オレも部活を見に行こうと少し遅れて教室を出た。

運動部を見学するのは後でにするとして、今は文化部でも見学しようかね。

えーと、オカルト部。科学の時代にオカルト研究をしようとする努力はスゲーけどオレは興味ないや。

次、美術部。絵心無いです。

次、料理部。外でも家でも料理しかしないのはやだなぁ……。

その後も文化部を見てまわったのだが、こう『ピン』と来る物がなかった。

 

「うーん……」

 

端末を学内ネットに繋いで運動部の名前を見ながら唸る。楽しそうな部活もあるにはあるのだが、興味を引く物がない。

お、剣道部に剣術部。そう言えばさっき担架とそれに乗った桐原さんを見かけたし、達也は今ごろ部活連本部か?

深雪さんから今日は外食って連絡来てたからそろそろ合流しないとな。

 

「……ん?」

 

視線を動かしていると、部活動の括りに『同好会』というものがあった。

同好会か……。なにか面白そうなものがあるといいが。

流し読みで同好会の名前を見ていく。TRPG同好会、FX同好会などという色んな意味で興味を引かれるものや一般的な同好会があった。下に下に動かす中、1つの同好会を見つけてオレの指は止まった。

 

「歌唱同好会……?」

 

名前からして歌を歌う同好会だろうか。なんか面白そうだし、行ってみるとしよう。

活動教室は……音楽室か。んー、集合時間まで少ししか無いが見学くらいなら大丈夫だろ。

椅子から立ち上がり、音楽室を目指す。食堂からは近いようで安心した。

そう言えば、一高には吹奏楽部が無いな。達也か深雪さんに聞けば分かるだろうし、後で聞いてみるか。または歌唱同好会の人に聞くべ。

そんなことを考えていると音楽室へと着いた。

 

「すいません、1年生なんですが見学してもよろしいでしょうか」

 

ノックをして、そう言いながら部屋のドアを開ける。教室には一科生と二科生が入り交じった数人が思い思いの行動をしていた。

 

「お、1年生?見学?いいよいいよ好きにして!おーい期待すべき1年生の登場だ!」

 

ドアの近くにいた人の号令でほかの全員も自分の行動をやめて近付いてきた。

 

「いやー、同好会なんて気づかれにくいと思ってたけど気づいてくれる人はいるんだねぇ」

 

「リーダー、まずは自己紹介をしましょう?」

 

「ん、そうだったね。私はここ歌唱同好会の代表やってる3年の赤乃メイコだよ。リーダーなんて呼ばれてることもあるよ」

 

まず号令を掛けていた人が自己紹介をする。

 

「次は俺かな。俺は青乃カイト。メイコと同じ3年生だよ。歌唱同好会の副代表だね。みんなからは兄さんなんて呼ばれてるから、もし君が入ってくれるならそう呼んでくれると嬉しいかな」

 

「2年の白乃イアだよ。よろしくね」

 

「2年生の月星ゆかりです。こちらが妹の―――」

 

「―――1年の月星あかりです!」

 

この場にいる全員が自己紹介を終える。

……うん、ボーカ〇イドだね!確かにオレの名前はUT〇Uだけどさ!まさかこんな場所で繋がるとは思わねぇよ。

各人そっくりって訳では無いがその人と言うべき特徴が各々にある。

特に月星姉妹。2人……いや、ゆかりさんのある部分をみて、何かを察した。

 

「メンバーは他にも居るんだけどね、みんな部活との掛け持ちだからあまりこっちには顔出せないのよ」

 

脳内で衝撃を受けていると、メイコさんがそう言った。

え、まだ居んの?これでも脳の処理が追いついてないのに?やめてくれよ……。

 

「あなた、名前は?」

 

頭を抱えていると、イアさんがそう聞いてくる。

ホタテのせいで口周りがベトベトやんけ……。

 

「あ、し、失礼しました。1年の八神テトと言います。先程言ったように見学しに来ました」

 

「ん、大丈夫」

 

「ほらイアさん、口周りがベトベトですよ。先輩なんですから後輩の前くらいカッコつけましょうよ」

 

気付いたのか、ゆかりさんがウェットティッシュを取り出してイアさんの口周りを拭き始めた。イアさんもされるがままにされている。

 

「ごめんね、テトくん。この2人っていつもこんな感じだからさ」

 

「あ、いえ大丈夫ですよ」

 

このくらいのものならば目の前でされてもなんの問題もない。オレの目を背けさせたいなら深雪さんを連れてこい。

 

「さてみんな!せっかく見学者が来たんだ。1曲くらい歌って見せようじゃないか!ゆかり、COSMOS弾けるよね?」

 

「もちろんです、プロですから」

 

「よし。イアはソプラノ、私はアルト、カイトは男性パートで行くよ!」

 

「メイコさん、わたしは?」

 

「あかりちゃんはテトくんに説明よろしく!」

 

「了解です。さ、こっちに座ってください」

 

4人が素早く行動を開始する。オレはあかりちゃんに連れられて備え付けの椅子に座る。

 

「改めて、1-Bの月星あかりです」

 

「1-E八神テトです」

 

「では八神くんと呼ばせて頂きますね。ここは歌が好きな人たちが集まって歌に関することをする同好会です。歌を歌う、作る、奏でるな色々なやり方で自分の好きなことをしています。基本的な活動はそれだけです。今回は八神くんも知っていそうな合唱曲を歌わせて貰いますが、基本は作った曲を歌っていることがほとんどです」

 

「曲を作るのって大変では無いんですか?」

 

「歌詞とイメージさえ伝えてもらえればここには居ない先輩の人がそれに合わせたメロディーを作ってくれるので大変ではないです」

 

「あかりちゃんが敬語なんてなかなか珍しい光景ですね」

 

「もう、お姉ちゃんなんでそんな事言うの!せっかく大人のレディーとして立ち振る舞い集ったのに!」

 

あかりちゃんには申し訳ないが、だろうとは思った。だって似合ってないんだもの。

 

「バレちゃったから普通に話させてもらうね?さっき言った通り八神くんが何か作りたい曲を持ってるなら先輩に言えば大丈夫だから。もしかして何か案があるの?あ、敬語崩していいよ同じ学年だからね!」

 

「……まぁ、あるっちゃあるな」

 

デジモンが存在するこの世界では産まれることのなかった曲たち。盗作になると思うが、それでもあの曲たちが産まれることなくオレや黒神の記憶の中だけにあるのは嫌だった。

それに、あの曲たちのファンとしてはみんなに知ってもらいたい気持ちが強い。

 

「え、凄い!もう曲が思いついてるなんて……」

 

「またせたね、テトくん。準備できたよ」

 

メイコさんに声をかけられ、あかりちゃんと共にそちらを向く。それを確認したメイコさんはゆかりさんとアイコンタクトをしてタイミングを合わせる。

 

そして、ピアノがメロディーを奏で、歌が始まった。

 

感動、という言葉以外その歌を表現する言葉が見つからなかった。

優しく奏でられるメロディーに思いの込められた声たちが喧嘩すること無く合流し、支え合いながら1つの物語を作っている。

 

「すっげぇ……」

 

思わず言葉が漏れる。たまに合唱曲の歌ってみたを聞くことはあるが、これはそれとは比べ物にならない。脳を直接揺さぶりにきてるようだ。耳が幸せとはこういうことをいうのだろう。

この人たちにあの曲を、『Butter-Fly』を歌ってもらったらどうなるんだろうか。

歌が終わり、オレはただただ拍手をしていた。

 

「ありがとうね。……聞いてみてどうだった?」

 

「いや、月並みで申し訳ないですけど凄い以外思いつきませんよ。語彙が消えるくらい凄かったです」

 

「そう。久々に合唱したけどそう言って貰えて嬉しいかな」

 

「それで、八神さんはどうします。入りますか?……いえ、その顔を見れば答えを聞かなくても良さそうですね」

 

「そうね。テトくん、ようこそ歌唱同好会へ」

 

伸ばされたメイコさんの手を取る。

まずは、『ネバギバ!』の再現から始めるかな。

 

「じゃあ、コレに名前を書いてね?」

 

「お、サンキュあかりちゃん」

 

あかりちゃんから渡された書類を受け取り、名前を書こうとする。

 

「……婚姻届?」

 

「わッ!ご、ごめん!!こっちこっち!」

 

婚姻届をひったくられて代わりに入部届を渡される。名前とハンコまでしっかり記入されていたのを突っ込むのはやぶへびだろうな……。

 

「この際どうですテトくん。姉である私が言うのもあれですけどあかりちゃんは結構いい物件だと思いますよ?」

 

「そもそもなぜ婚姻届がカバンに入っているんですかねぇ……」

 

「相手を見つけたら逃げられる前に押し倒せ、が私たち月星家の家訓ですので」

 

なるほど、変態の家系であったか。

 

 

 

〇●〇●〇●

 

 

 

「テト、こっちだ」

 

「悪いな遅れて」

 

店の前に立っていた達也がオレに声をかけて来る。どうやら迎えに来てくれたらしい。

あの後、何曲かを一緒に合唱をしていたら約束の時間を過ぎていた。連絡をしようとスマホを開いたら深雪さんから先に行っているとの連絡が入っていたためにこうしてきたわけよ。

 

「……その引っ付いてるのは誰だ?」

 

「あー、気にすんな。ただの先輩だ」

 

「お願いしますよ!あの子今まで男の影どころかオスの影レベルで男運なかったんです!!」

 

オレにひっつき虫してるのはゆかりさん。帰る寸前になって土下座を敢行してあかりちゃんを推してきた。曰く、男っ気の無かったあかりちゃんに出来た数少ない男だから逃してたまるかとの事。

 

「別に彼氏彼女の関係になれって言ってるわけじゃないんですよ!ただあなたの[ピー!]をあかりちゃんの[ダメ、ムリ]にぶち込んで白いのをビュッビュッって出してくれれば良いだけですから!!」

 

「尚更ダメじゃねぇか!!」

 

思わず回し蹴りをゆかりさんへ放つ。ここまで直接的なのは深雪さんくらいしかいないから(こんなに直接的なのが深雪さん以外にいても困ることだが)、いつもの感覚で放ってしまった。

 

「あ、ヤバっ」

 

「ふふふふふふ、安心してください八神さん。この程度の回し蹴りなんて弟くんの一撃を毎日喰らっている私からすればノーダメージですよ、ノーダメージ」

 

とりあえずその弟さんには合掌しとく。強く生きて。

 

「別に私がシッポリして、もいいんですよ?」

 

「よし達也、さっさと中入るぞ」

 

「あぁ」

 

「えちょっと無視ですか!?」

 

触らぬ変態に祟りなし。それで何度深雪さんにヤられかけたことか。

……それに、ゆかりさんの相手はきっと彼女の後ろにいる彼だろう。

 

「姉さん」

 

がっしりと、ゆかりさんの頭を鷲掴みにして1人の青年が声をかける。

 

「……お、大葉くん?」

 

「人様に迷惑をかけるなって言わなかったかな?」

 

「いえこれはですね……。あかりちゃんの相手が見つかったので……」

 

「相手くらい自分で決めるって話、忘れた?とりあえず、お仕置ね」

 

「え、あ、謝りますからそれだけイタタタタタタ!」

 

大葉と呼ばれた彼はゆかりさんの頭を手で締め付けながら、こちらへと顔を向けた。

ミシミシという擬音が見えたが、多分気の所為。

 

「姉が申し訳ありません。如何せん暴走しやすくて」

 

あかりとお仕置をしておきますので。彼はそう言って、ゆかりさんを引き摺りながら立ち去った。

というか引き摺られるゆかりさんがピクリとも動かないのじゃが。

 

「……歌唱同好会には変な先輩がいるんだな」

 

「どちらかと言えば、変な先輩しかいないかもしれん」

 

「……例えば?」

 

「先生と日本酒の取引を始める先輩がいる」

 

「……は?」

 

「あと20L入るクーラーボックスにアイスをこれでもかと入れて毎日持ってくる先輩もいる」

 

「oh……」

 

これに関してはあかりちゃんに聞いた話だから、本当にそうなのかは分かんないがな。

 

「歌で鳥を操って帰宅した先輩もいるぞ」

 

「……想子もないただの歌でか?」

 

「ただの歌で、だ」

 

あ、達也がメモ取り出した。歌をヒントに新しい魔法でも思いついたか。こうなると達也は誰かが声をかけない限りは止まらない。

思いついてすぐで悪いが、さっさと店に入ろう。

達也へ声をかけようとしたら、スマホが震えた。この着信音ってことは深雪さんからの電話か。

 

「はいよ、どうした深雪さん」

 

『あ、良かった。連絡はつくのですね』

 

「ん、そりゃあ当たり前だろ?」

 

『何件かメッセージを送ったのに既読がされないので何かに巻き込まれているのではと思いまして……』

 

「あー、悪い。さっきまで同好会の先輩と話し込んでた。達也と合流したから紹介しとこうと思ってな」

 

一応嘘では無いから……(震え声)。

 

『そういう事でしたか。では、お待ちしていますね』

 

プツンと電話が切れる。メモを走らせる達也もそろそろ現実に戻さないとな。いい加減腹減った。

 

「達也、深雪さんたち待たせてるから行くぞ」

 

「……ん、あぁ悪い。少し思考が走ってな」

 

「分かってるよ。今度は何思いついたんだ?」

 

「出来たら教えてやる。それまでは秘密だ」

 

「なんだよ、つれねぇな」

 

「その分1品だけは奢ろう」

 

「お、やりぃ。なら高いの頼んでやる」

 

「その程度で俺の財力を削れるとでも?」

 

「……それもそうか。やっぱみんなで摘めるやつにしよう」

 

達也と雑談をしながら店へと入り、深雪さんたちの元へ向かう。

さて、何を食べようかな。




きっと翌日や翌々日には深雪さんも歌唱同好会に入部していることでしょう。


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