魔剣英雄伝 (アッシュ)
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1話 託された?魔剣
英雄。
数多の悲劇と困難を踏破し、歴史に名を遺す偉業を成し遂げた者。
人々を襲う強大な力を持つ魔物から街を救い、魔物を生み出すダンジョンの破壊。
人の世を魔の者から救済する人類の救世主。
子供たちはそんな英雄達に憧れて、命知らずの冒険者を目指す。
富と名声を求め、夢に胸を膨らませた彼等は15歳の成人となった翌日に武器を片手に村を出る。
このように、冒険に飛び出す若者達の姿は珍しくない。
冒険に出る彼等は、自身が歴史に名を遺した英雄たちの様になれると信じて疑わない。
現代の若者らしい実に浅はかで、無鉄砲な姿だ。
え?俺はどうなのかって?
行くわけないじゃん。
俺は無謀にも冒険者になろうと旅立つ若者を村人達と見送り、今日も畑を耕す。
★
「このおバカぁぁあああああッ!!」
「なにッ!?なんなのッ!?」
鍬を取に自宅へ戻った瞬間に響き渡る、母の咆哮。
村の若者が旅立つ日は、『お前も冒険者になりなさい』と小言を言って来る母だったが、今日は一段と激しい。
便秘かな?
「カムイ」
「な、なんだよ?」
ずいっと顔を寄せて、俺の瞳を睨み付ける。
自分の母親が目の前に現れて、思わず身を反らせた。
「去年、村を旅立ったダン君を覚えているかな?」
「あ、ああ。お隣さんで年も近かったし、よく遊んでいたから覚えているよ」
「あの子、一週間くらい前に冒険者ランクがCランクになったらしいの。
お隣さんはダン君が送ってくれる仕送りが増えて、明後日には畑を耕す為に牛を商人から購入するみたいなのよ。
カムイもダン君みたいになりたいと思わないの?こんなド辺境の村で畑を耕すのではなくて、冒険の旅に出たいと思わないの?
思うわよね?普通は思うわよね?思わないわけがないわよねっ?」
母の口調に再び熱が籠る。
誰かが旅立つ度に繰り返されたやり取りに、俺はため息をつく。
「俺には、才能がないから思わねえよ」
「何言ってんのよ。冒険の旅に出ない為の言い訳に作った無駄に広い畑を世話しているじゃない。
その、無駄に凄い体力を冒険に使って、冒険の旅に出なさいな。
アンタと同年代の子はみんな冒険に出たのよ?悔しくないの?」
ここぞとばかりに母は、冒険者になる為に旅立った同年代の村人たちの話をする。
俺はげんなりと渋い顔をした。
母が話した事は、事実だ。
畑しかない、このド辺境の村は気候に恵まれ、大地も健康。
凶作もなければ魔物の出現や事件も起きない平和な村で、特産物もなければ観光名所もない。
故に、成人したら何の憂いもなく早々に冒険に旅立つのは、この村の常識となっており、今年で17になった俺の同年代となる少年少女はもうこの村には居ない。
全員が冒険の旅に出たのだ。
「あのな。もう、嫌ってほど言ったと思うが、俺は死にたくないの。
この村で野菜を作って平穏無事に、天寿を全うしたいんだよ」
そう。当たり前の話だが、冒険には危険が付き物だ。
ちょっとしたミスで手足を失ったり、簡単に命を失う。
大金を掛ければ、魔法使いに手足の欠損を直してもらえるらしいが、そんな事が可能なのは才能溢れる上位冒険者のみ。
たった一年で駆け出し卒業クラスと呼ばれるCランクとなった俺の幼馴染であるダンがいい例だ。
それ以外は夢に破れて村に帰って来たり、クエストの最中に命を落とす。
最悪なのは無知な村人が悪い人間に嵌められ、都市で生き地獄を味わい悲惨な末路をたどる事だ。
俺よりも年上で、英雄になれるかも知れないと期待されていた村一番の力持ちであった男でさえも、今や片腕となり果て死人の様な表情をしながら村での生活を送っている。
この村には、そんな死人の様な村人が少数であるが存在している。
以上の理由から、自分が弱くて才能がない事を知っている俺は冒険者にある事を早々に諦めた。
日々数えきれない死者を出す冒険やダンジョンに夢を求めた時点で、才能ある《選ばれし者》以外は終わっているのだ。
ああ、素晴らしきかな安定した生活が送れるド辺境ライフ。
「……アンタみたいな、根性なしに期待した私がバカだったよ」
酷い言い草であるが仕方がない。
若者が夢を追い求めて危険な冒険に出るのは、この世界の常識なのだから……。
暖かな春の昼下がり。
俺は今日も剣を取らずに、鍬を手に取って畑仕事に青春を捧げるのだった。
しかし、それも明後日には終わる。
明日の昼。俺は村に定期的にやって来る商人の馬車に乗せてもらい都市に行くのだ。
そして、都市で敵的に開催される合コンに親に内緒でコツコツと溜めたヘソクリで参加する!!
おっぱいの大きな嫁さんをゲットして、この村に凱旋した俺はおっぱいの大きなお嫁さんにパフパフしてもらいながら、究極のスローライフを送るのだ!!
★
日が暮れる頃、持て余した熱いパトスを吐き出すように畑仕事を終えた俺は、自宅前にある村の広場で村人が酒や食事を持って集まっているのを見かけた。
広場に灯りを付け、年末の夜に行われる祭り以外で騒いでいる村人達の姿を見るのは珍しい光景だ。
「何やってんだ……アレ?」
当然。今日は年末に行われる祭りの日ではない。
一体全体、何が原因で村人達はこんな宴会を始めているのだろうか?
楽しそうに騒いでいる彼らの視線を辿ると、そこには二人の男が居た。
片方は初老を迎えた我が村の村長で、もう片方は顔にある大きな切り傷の様な古傷が目立つ、筋骨隆々で冒険者風の恰好をした黒い髪をした男。
村長が都市にある冒険者ギルドに何かを依頼したのだろうか?
「ねえ見て、あの人でしょ、Sランク冒険者の《ドラゴンスレイヤー》って」
「なんでも村長の知り合いだって言う話じゃない?Sランクの冒険者なんて初めて見たよ」
「都市で買い物をしている時に吟遊詩人の歌で聞いたことがある。
十年前にたった一人で隣国を襲った龍の首を一撃で斬り飛ばしたらしんだ。
すごいよなぁ……貫禄あるし、俺も彼みたいな冒険者になりたかったよ」
「ハードボイルドで、凄まじく強い。憧れるよなぁ」
村長と話す冒険者の男を村人たちは尊敬と憧れの瞳を向けていた。
なるほど、この宴会はSランクの冒険者がやって来たからか……。
確かに世界でたった数人しか認定されていないSランク冒険者がやって来たら、これぐらいの騒ぎにはなるだろう。
村長の知り合いという事には驚きはしたが、冒険にまるで興味のない俺はSランク冒険者を一瞥すると、自宅に帰ろうと振り返る。
「あっ!ちょっとカムイ、アンタせっかくだから冒険者さんと話をして来なさい。
もしかしたら冒険の荷物持ちにしてもらえるかもしれないわよ」
が、母に腕を掴まれた俺は家に帰る事は出来なかった。
酒が入っている上機嫌な母は、俺を引き釣りながら冒険者の方へと強引に進む。
くそっ、まだ諦めていなかったのか!!
その熱と諦めの悪さをどこか別の所へと向ければ、どんな事でも大成するに違いない。
周りに助けを求めても、既に出来上がった村人は大爆笑。
俺を助ける者は誰も居ない。
マジで勘弁してほしい。
相手はSランク冒険者で初対面の人である事を考慮して顔には出さないが、本当に嫌だ。
「《ドラゴンスレイヤー》さん!ソロで活躍されているんですよね?
荷物持ちとしてウチのバカ息子を弟子入りさせてもらえませんか?
日頃から農作業しているので体力はそれなりに」
「やめろよっ!いくら温厚な俺でも、これ以上は親だろうとグーで殴るぞ!!」
母にこれ以上は喋らせねぇ!!と、母の腕を振りほどいた俺は自宅に向かって駆け出した。
★
「な、ないぃぃいいいいいい!?」
翌日、俺が都市で合コンに参加する為に溜めたヘソクリがなくなっていた。
ヘソクリのある自室を隅から隅まで捜索するが見当たる気配はない。
一体どうなっているんだ!?
「ちょっと、朝からうるさいよっ!!何を騒いでいるの!?」
「そうだぞ。父さんは自警団の仕事でヘロヘロなんだ。
休日くらいはゆっくりさせてくれ」
そこに、騒ぎを聞きつけた両親が登場。
自警団で毎日働いている父さんには申し訳ないが、これは非常事態なので許してもらいたい。
って、それよりもだ。
目の前には元冒険者の平団員とはいえ、自警団の一員である父がいる。
ここは、ヘソクリを盗んだ犯人を捜す協力をしてもらおう。
「父さんっ!!俺のヘソクリが無くなっているんだ!!
もしかしたら泥棒が入ったのかもしれないぞ!!」
「なにっ!?よし、全力で探すぞ!!
報酬は三割なっ!!」
「高すぎるぞっ!!一割っ!!」
やる気にみなぎる父親と値段交渉を始めた俺達。
そんな父子に呆れた母は俺達の頭を叩いてこう言った。
「あの十万ゼニーの入ったヘソクリなら、アンタの弟子入りを約束に《ドラゴンスレイヤー》さんに昨日あげたよ」
「ふざっけんなぁぁぁぁあああああ!!」
母親から聞かされた衝撃の一言に、俺は泣きながら家を飛び出した。
確か、冒険者は村長の知り合いと言っていた。
ならば、村長の家に行けばまだ間に合うはず!!
俺は幸せなスローライフへの切符を取り戻す為に農業で鍛えた足腰の筋肉を発揮させ、村長の家へと押し掛けた。
「《ドラゴンスレイヤー》は何処だぁぁぁぁぁああああ!!!!」
「な、なんだ!?強盗か!!?」
「何処だぁぁぁあああ!!!」
玄関から出て来た村長の胸倉を掴み、冒険者の居場所を問いただす。
後で謝るから冒険者を出せぇぇぇええええっ!!!
「お、落ち着けっ!!《ドラゴンスレイヤー》は旅に出たっ!!」
「た、た、旅ぃぃぃぃいいいい!!」
村長の家の前で人目を気にする事なく発狂する俺。
あのクソ野郎、俺の金を持ち逃げしやがったぁぁぁぁぁああああっ!!!
なんて野郎だ、直ぐに探し出してぶっ殺してやる!!
「ま、まてっ!!《ドラゴンスレイヤー》からお前に渡すように頼まれたものがあるっ!!
だから、そんな血走った目で行こうとするなっ!!」
自宅の
村長を無視して、殺害方法と死体の処理を考えた所で気になる言葉が耳に飛び込んで来た。
「……ん?渡すもの?」
「そうだっ!!だから落ち着けっ!!今から取って来るからっ!!」
俺が大人しくなると、村長はすぐに家の中へと引っ込んでいった。
なるほど。どうやら《ドラゴンスレイヤー》さんは初めから俺を弟子にするつもりはないようだ。
そうだよな。常識的に考えてみたら、宴会であった見知らぬ母親から十万を渡され 息子を弟子にして欲しいと言われたら断るよな。
おそらく、押しに強い母にお金を無理矢理に渡された《ドラゴンスレイヤー》さんは,村長に返金の伝言とお金を託して旅立ったに違いない。
よかった、よかった。
これで無事に合コンに参加する事が出来そうだ。
ホッと一息ついた所で東方の島国で有名な刀と呼ばれる剣を持った村長が姿を現した。
あれ?俺のヘソクリが入った封筒は?
俺の十万ゼニーは??
「ほら。アイツがお前に託した剣と、手記だ」
「は?」
一瞬、村長が言っている事が理解できなかった俺は数秒程呆気にとられ、彼が言ったことを理解した瞬間に怒りが再び燃え上がった。
やっぱり、今から追いかけてぶっ殺してやるっ!!!
「だから、落ち着け!!何が気に入らないんだ!?この剣は魔剣なんだぞ!?」
村長宅から体を反転させて、ダッシュしようとした所で足が急停止した。
魔剣……だって?
魔剣。
それは、魔法の力が込められた究極の武器。
ダンジョンの最奥で安置されていたり、最高クラスの鍛冶師がドラゴンなどの高位の魔物を素材とした剣。
最低ランクの物でも数千万ゼニーと言われ、魔剣が持ち主と認めなければ上位クラスの冒険者であっても扱う事の出来ない選ばれし者の武器。
そんな武器を、俺に託すだって?
《ドラゴンスレイヤー》は一体何を考えて居るんだ?
そんな俺の疑問に答えるかのように。村長は語り出した。
「アイツはもう、冒険者を辞めるつもりらしんだ。
この村に立ち寄ったのも、隠居生活を送る為の家探しの為なんだよ。
都市にある自宅も引き払ったらしいし、この魔剣も処分に困っていたらしんだ」
なるほど、確かに冒険者という仕事は長く続けることは難しい。
年齢的にも無理は出来なくなるし、不規則で定期的な収入もない。
《ドラゴンスレイヤー》の年齢では、将来が不安になっても不思議ではないな。
しかし……数千万の魔剣を売れば楽な余生が送れるのでは?
もしくは貴族のボンボンに渡っても、ガラスケースの中に保管されるだけだろうし、悪人にわたったら危険だと判断して売れなかったのか?
「そんな時にだ。冒険者志望で中々踏ん切りの付かない青年が居ると聞いたアイツは『自分は教えるのが苦手だから』と、この魔剣を置いて行ったのさ。
十万ゼニーで魔剣が手に入ったんだ。
せっかくだし、冒険者になったらどうだ?お前の母さんも安心するぞ」
正直、疑問は尽きず。村長が何かを言っているが、まあいい。
よし、この魔剣は《ドラゴンスレイヤー》さんの代わりに都市で売って金に換えよう。
Sランク冒険者が使っていたと言えば、欲しがる奴は沢山出てくるはずだ。
「騒がせて悪かったな村長。
この魔剣は確かに受け取ったよ」
「おう!立派な冒険者になれよ!!」
《ドラゴンスレイヤー》のネームバリューで、値段を釣り上げてやろうと決意した俺の姿を見て、激励してくれる村長。
何やら勘違いをしている様子であるが、俺は村長の勘違いをそのままにして自宅へと戻った。
バレたら妨害される可能性がデカいからな、お詫びに高級ワインでも土産にして渡せば許してくれるだろう。
こうして、とんでもない臨時収入を得た俺はウキウキ気分で都市へと旅立った。
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2話 ガロウ
商人の馬車にガタゴトと馬車に揺られ、どれほどの時間が経っただろうか。
村はすっかり見えなくなり、周囲には草原が広がっていた。
何もない外の景色に飽きた俺はおもむろに魔剣を鞘から少しだけ抜いてみた。
せっかく手に入れたんだ、売り払う前に鑑賞しなければ勿体ない。
スルリとわずかに刀身をのぞかせた魔剣は漆黒で、怪しい光を放っている。
「おぉ……」
思わず声を出してしまう程に美しいそれは、武器というよりも一つの芸術作品。
《ドラゴンスレイヤー》の名前がなくても高く売れるに違いない。
どれほど高く売れるのだろうかと、ウキウキとしていたら急に眠気が襲ってきた。
あー、朝にあれだけ怒ったり、騒いだりしたからな……。
疲れがたまってたんだろうな……。
この眠気に心当たりがあった俺はこの突然の睡魔を疑問に抱くことなく、馬車の壁側に体を預け、商品である魔剣を大事にしまって眠りに着いた。
★
「なんだ、ここ?」
目を開けると、俺は草原で横になっていた。
どうなっているんだ?俺はさっきまで馬車の中に居たんだぞ?
周りを見渡せば、魔剣がない。それに気が付くと、顔から血の気が引いて行った。
まさか……商人の仕業か!?
馬車で二人っきりの状況でこんなことが出来るのは商人しかいない。
あのクソ野郎っ!!
こうなったら、どんな手を使っても探し出し、泣いて叫ぶほどの拷問をかました後に全財産を巻き上げ、魔剣を取り戻してやるっ!!
「―――おい」
吟遊詩人が歌う英雄譚の主人公が魔王を倒しに行く感覚で復讐計画を練っていると、思考を断ち切る様に誰かに声を掛けられる。
振り返ると一人の男が立っていた。
《ドラゴンスレイヤー》を彷彿とさせる筋骨隆々の鍛え抜かれた肉体に黒い髪。
鋭い瞳でこちらを睨み付ける見知らぬ男。
見たところ武器は持っておらず、盗賊の類には見えない。
冒険者の格闘家だろうか?
男がじっと俺を睨み付ける事、数秒。男はゆっくりと口を開いた。
「なるほど、農家の小僧と言うだけあって、肉体はそこそこ鍛えられているな。
年齢も十七と若い。これならば、我が《雷鳴流》を天下に轟かせる事も可能かもしれん」
何言ってんの?頭は大丈夫ですか?とは聞かない。
俺は空気が読める男だ。そんな事を言おうものならとんでもない事になると言うことぐらいは容易に想像できる。
「あのー、どちら様でしょうか?」
「―――《雷鳴流》の開祖。ガロウである!!!!」
うん、ヤベェ奴だ。
関わったら危険と判断した俺は、直ぐに逃亡を試みる。
……が。
「おいおい、逃げるんじゃねぇよ。
それにここは夢の中。逃げ場なんてないから、黙って俺の話を聞きな」
「!!!!」
肩をがっちりと熊の様な大きな手でつかまれると、体が動かなくなる。
悲鳴や命乞いの声を上げる事も出来ず、俺はこの男の話を聞く以外の選択肢はなかった。
「俺が生きていた五百年前の事だ。俺は世界最強を目指して剣を振るっていた。
数多の剣豪を切り伏せ、天災と呼ばれる竜を屠った俺は、竜の素材でこの刀を作らせ、東方最強に上り詰めた。
そして、ついに外の世界へと足を延ばしたのだが、俺が乗った海外に行く船が岩にぶつかり、船は俺を含む乗客と供に海へと沈んだ。
だが、ここで死ね訳にはいかぬと未練を残した俺は幽霊となって刀に憑りつき、刀を拾った漁師から持ち主となった者を鍛えながら今日まで転々と渡り歩いた。
そう。この刀を捨てようが、必ず持ち主の元へと舞い戻り。止めてくれと泣き叫ぼうとも、鍛え続けてやる!!
全ては我が《雷鳴流》を世界に轟かせる為に!!」
背中越しに熱く語るガロウと名乗った男。
未だに分からない事があるが、一つだけハッキリと分かった事がある。
それは……。
あのクソ外道な冒険者が俺に、面倒事を押し付けたって事だぁぁぁぁああ!!
俺の様な心優しい青年に、なんという悪魔の如き所業!!
草の根分けても探し出し、慰謝料を請求した後で、あの剣を返品してやるっ!!!
口を動かす事が出来ない代わりに、俺は正義の炎を心で燃やした。
「さて、喋る事も喋ったんだ。
さっさと、お前さんを鍛えさせてもらうぜ?」
肩から手を離し、見覚えのある黒い刀身の刀を手に持った男がジリジリと寄ってくる。
その姿を見た俺は恥も外聞もかなぐり捨て、思いっきり泣き叫んだ。
「く、来るなケダモノぉぉぉぉおおおおお!!!」
「なんて叫び声をあげるんだ、このガキャァァァァァアア!!!」
虚を付いて逃走を図った俺だったが、直ぐにガロウに捕獲された俺は生きているのが不思議なくらいにボコボコにされた。
どうやら、この世界が俺の夢である事も本当のようだ。
★
「えっと、そもそも《雷鳴流》ってなんですか?」
俺をボコボコにしてスッキリしたのか、ガロウは上機嫌で答えた。
「よくぞ聞いてくれた。《雷鳴流》は一撃必殺を基本とする剣術だ。
雷の様な速さで動き、相手をたたっ斬る。
防御は存在しない最強の攻撃剣だ!!」
ドドンっ!!と効果音が付きそうな単純明快な説明であるが、何やら凄そうだ。
しかし、前の所持者である《ドラゴンスレイヤー》がドラゴンを倒せたらしいので、謎の説得力がある。
「……で?どんな修行をするんですか?」
「お?意外とやる気じゃねぇか。
今までの経験だと、もう十発ぐらい殴ったり恐怖を叩き込まないと無理だと思っていたんだが……。
いいねぇ……決意に満ちた男の目だ。さっそく鍛えてやるよ」
やる気のある俺の姿に不敵な笑みを浮かべるガロウ。
当然だ。この男は『刀を捨てようが、持ち主に戻って来る』と言っていた。
つまりだ。他の所有者となる人間を見つけない限り、この魔剣は俺を地の果てまで追いかけてくるという事に違いない。
ここは下手に逆らわず、従順なフリをしておくのが正解なんだ。
「じゃあ……。目が覚めるまで、殺し合おうぜ。
実戦こそが最高の修行だからな。まずは殺しのいろはを叩き込んでやるよ」
「……へ?」
「なに、心配すんな。死にやしねぇよ。
ここはお前の夢の中だからなぁぁぁぁあああ!!!」
父よ、母よ。俺はこんな不幸な目に合わせてくれた《ドラゴンスレイヤー》はボコボコにするだけでは許せそうにありません。
思いつく限りの地獄を味合わせてやろうと思っています。
俺はヤルと言ったらヤル男だぁぁぁああああ!!!
この後、めちゃくちゃ殺されました。
ごめんなさいしても許してもらえませんでした。
★
眼が覚めるとそこは自分の血で染まった地獄を彷彿とさせる真っ赤な草原ではなく、馬車の中だった。
ハァハァと息を整えて、刀を睨み付ける。
夢の中で何度も殺された。何も出来ないまま、好き放題に四肢と頭が飛ばされ、胴体が真っ二つにされるなど、百を超える死を体験した。
まったく、とんでもない魔剣だ。
このままでは、本当に殺されるかもしれない。
何か対策をしなければ……。
「ん?」
そういえば、あの《ドラゴンスレイヤー》から本を貰っていたな……。
冒険のノウハウだけでなく、もしかしたら魔剣について書かれているかもしれない。
俺は慌てて、馬車の隅に置いておいた手記を手に取って中を開いた。
ここに何かヒントがあれば……。
【△月〇日】
木こりの仕事で溜めた貯金で、念願の双眼鏡を手に入れる。
これで、山にあると言う温泉街の女湯を覗いてやるぜ!!
【△月〇日】
斧を片手に、草木を刈り。以前から下見をしていた絶好の覗きスポットに到着。
けしからんフトモモとお尻の観察を開始。だが、いい場面でドラゴンが登場。
温泉街もパニックとなり、俺は近くの小屋へと非難した。
もう、俺はもうダメなのかも知らない
【△月〇日】
小屋で一晩を過ごしたら、外から凄い戦闘音が聞こえてくる。
もしかしたら温泉街に居た冒険者達が戦っているのかもしれない。
小屋の扉を少し開けて双眼鏡で外の様子を見ていると一人の男が武器を片手に、凄まじい速さでドラゴンと戦っていた。
ドラゴンを翻弄し、ボコボコにしていく男。
もしかしたら俺は助かるかもしれない。
俺に出来るのはこの戦いを見て日記に書き記す事だ。
【△月〇日】
ドラゴンと男の戦いは二日目の今日で、ようやく決着した。
恐る恐る近づくと、男とドラゴンは死んでいた。
なんてこったい!
俺はドラゴンを倒した勇敢な男の亡骸をそのままにしておくことが出来ず、彼を彼の手荷物と一緒に埋葬した。
墓標は落ちていた剣でいいかと、剣を手に持った瞬間に夢の中に閉じ込められて酷い目にあいそうになった時、ドラゴンを討伐する為に派遣された冒険者と国の討伐部隊が到着。
お陰で夢の中で地獄を見ずにすんだが、剣に意識を持っていかれた時に頬を切ってしまったようだ。目が覚めたら血が流れてすごく痛い。
怪我に狼狽えていたら、良く分からない内に軍の人に保護された。
王都の城に連れていかれ、綺麗なお姉さんに世話もしてもらえる事になった。ラッキー。
え?俺が龍殺しの英雄??
【△月〇日】
何故か俺が龍殺しの英雄になった翌日の今日。
俺は話を聞きたいと言ってきたお偉いさんに『俺は冒険者ではない』と正直に話したが、冒険者ギルドに登録させられた。
しかも、世界でも少ないSランクで登録されるらしい。
俺の話を聞いてた?その耳は飾りか?それとも耳クソでも詰まってんの?
Sランク冒険者にさせられた俺は、ドラゴンスレイヤーの二つ名を貰った。
最近では夢の中でも変な男にひどい目にあわされて居るのに勘弁してほしい。
ギルドからドラゴンを討伐した報酬と軍が回収したドラゴンの素材で大金を得た。
男に言われた修行メニューをこなした後、ストレス発散の為にキャバクラに行く
【△月〇日】
一ヵ月ぐらいキャバクラで豪遊したが報奨金はまだまだ沢山ある。
本来であれば報奨金を返さなくてはならないのだが、既に俺の返せる金額ではなくなっていた。
ドンペリってやべぇ……。
悩んだり後悔しても答えはでないので、体を鍛えた後に冒険者の友達と今日もキャバクラへ行く。
アナちゃんのおっぱいは最高だ。
【△月〇日】
数十年ぶりに日記を書く。
死んだ冒険者の事は忘れる事にして、遊びまくって居たら報奨金はキャバクラに消えた。
しかし、筋肉は増えた。
生活がそろそろヤバいと思い、お金が欲しくて冒険に出ようと思ったが、魔物が怖いので辺境の村で畑を作ってスローライフを送ろうと思う。
俺、元々木こりだしね。農業も大丈夫でしょ。
【△月〇日】
久々に日記を書く。
キャバクラを奢った冒険者君と再会。歓迎会を開いてくれた。
ここでスローライフを送ろうと思ったら『息子を弟子にして欲しい』と十万ゼニーを貰った。
俺は、ガロウに魔剣を若者に渡す事を伝えて、村長となった冒険者君に魔剣と俺が主人公のライトノベルを渡す事にした。
ここが旅の終着点だと思ったが、どうやら違うらしい。
若者の母親から貰った十万ゼニーで軽く遊んだ後にスローライフを送ろう。
「《ドラゴンスレイヤー》どころか、冒険者ですらねぇぇぇっぇぇぇぇえええええ!?」
「お、おい!?一体、俺の馬車で何してんだ!?
もう、街の中なんだから大人しくしてくれよ!!」
手記を真っ二つに引き裂き、魂を雄叫びを上げる俺。
なんてこった!?奴はただのキャバクラ通いのおっさんだった!!
もう完全に遊び人じゃねぇか!!
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3話 冒険者
馬車の中で大騒ぎをした数分後。
街の中に入った馬車が目的地の停留所にたどり着いた。
馬車が完全に停車した事を確認した俺は魔剣を片手に御者台に座る商人のおっさんの元へと駆け出した。
「ありがとう、おっちゃん!!
俺、教会に行っているよ!!おつりはいらないかーーーー!!!」
「お、おい!!……って、丁度じゃねぇか」
送ってもらった料金を押し付けるように支払いを済ませた俺は、魔剣を持って街の教会へと向かって全速力で走った。
自分で何とか出来ないのならば、教会に何とかしてもらえばいいのだ。
村にある木造建築の家々とは違いレンガで作られた立派な家々を駆け抜け、勢いをそのままに教会の中へと突入した。
「助けてください!!」
「え!?どうなされました!?怪我……はないから、病気ですか?
それとも別の方が……」
「待っていてください!!すぐに司教様を呼んできます!!」
教会内には二人の神父とシスターが居た。
シスターは俺の登場に慌てふためき、俺の怪我の確認や病気の質問を行い、神父は奥にいる司教を呼びに走り出した。
教会は神の教えや懺悔を聞いてくれるだけではなく、呪いの解呪やポーションなどの薬剤で治らない病気や怪我の治療を行っている。
恐らく、俺の様子を見て緊急の患者がやって来たと思ったのだろう。
病気と怪我ではないが、本当に緊急事態なので司教が来るまでは黙っている事にした。
★
アルムス教。
邪神を屠った戦神を崇拝しており、国教とされている一番メジャーな宗教だ。
若者が冒険に出る事を推奨し、魔物を一匹でも多く倒して人類を救済する事を信仰としている。
ようするに。魔物を多く倒すと徳が溜まり、天国へ行けるよ、と言う教えだ。
俺からすればろくでもない教えなのだが、その組織力と神父達の実力は本物。
聖職者の全員が冒険者資格を持っており、実戦で培った武力と治癒魔法は折り紙付きだ。
―――故に。
「なにか御用かな?迷える子羊よ」
教会の奥の部屋から顔面に多くの傷を持ち、スキンヘッドの強面司教様が出てきても不思議ではない。
聖職者とは思えない程の凶悪な顔と普通なら余裕があるはずの修道服がノースリーブに改造されて、胸元がパツパツになるほどの異常な筋肉をしていても普通だと信じるんだ!!
けっして、ご職業は世紀末覇者ですか?などと、口にしてはならない。
俺は床を見つめ、プルプルと震えながらゆっくりと魔剣を差し出した。
「こ、この魔剣に迷える魂が憑りついているんです。
どうか、祓って頂けないでしょうか?」
「ふむ……なるほど。相当な年月を経た事により、魔剣との結びつきが強くなったのでしょうな。
これほどの物を見るのは初めてすよ」
ハードボイルドな男前ボイスで魔剣を鑑定しているであろう司教。
は、はやく終わってくれぇ……。
蛇に睨まれたカエルの様な気持ちで硬直していると。
「内包する魔力から見て、魔剣も最上位の素材で出来ているのも原因の一つでしょうな。
頼むなら教皇様か枢機卿クラスの方になり、解呪するには少なくとも一億ゼニーのお布施が必要ですな」
「い、一億ゼニーっ!?」
途方もない金額を聞いて、驚き。
真剣な表情で凶悪さを増した司教の顔面に思わず飛び退いた。
「驚くのも無理はありませんな。
しかし、解呪にはそれほどの強い奇跡が必要となるのです」
いや、一億以上に、俺が一番驚いたのは貴方の凶器のような顔面です。
もちろん、口が裂けても言わないがな。
「で、どうなさいますか?必要であれば教会本部に連絡をしますが……」
「失礼しました――――――っ!!!」
俺はニコリと笑った恐ろしい顔面兵器から、脱兎の如く逃げ出した。
教会から飛び出し、辺りが暗くなった事を確認した俺は予約していた安宿へと向かった。
トボトボと宿の近くまで歩くと、若い男女が何人も楽しそうにイチャイチャと談笑している姿が目に入る。
もしかしたら俺が参加する予定だった合コンの会場が近いのかもしれない。
ああ……母が金をドラゴンスレイヤーに渡して居なければ、今頃は……。
見ていると雰囲気をぶち壊したくなる。だが、紳士な俺は路上に唾を吐くだけに留め、彼等から逃げる様にその場を離れようと足を進めた。
―――しかし。
「あれ?カムイじゃん」
背後から投げかけられた、懐かしい声に足は止まる。
振り向くと、そこには去年村を出て冒険者となった青年。ダンの姿があった。
「懐かしいなぁ。元気してたか?」
だが、昔とは違って腰には立派な剣と革鎧を装備しており、顔つきも勇ましいモノへと変貌していた。
まさに、前衛職をしているザ・冒険者な姿である。
「ああ、まぁな。お前はこの一年でランクアップしたそうじゃん。
おめでとう」
「ありがとう。でも、ギルドの人たちの期待が重くてね。
裏切らないように必死だよ」
「へ、へぇ……」
困った表情を浮かべながらも、どこか嬉しそうに話すダンに顔が引き攣りそうになる。
お、落ち着け、俺は年上なんだ。たとえ『カムイ兄さん』と呼んでいた少年から呼び捨てにされ、気安い態度で話しかけられても我慢できる男だ。
そうやって、自分に言い聞かせながら、表情筋を歪ませないように努力する。
「そうだ、仲間が近くに居るんだ。カムイにも紹介するよ。
おーいっ!!」
「そ、そうか?でも、そろそろ俺は宿に……」
このままではいけないと、宿屋に逃亡しようと試みるが、ダンは聞いて居ない。
それどころか、彼の手招きによって数名の冒険者達が近寄って来た。
状況がますます酷くなっていく。
「どうしたのダン?」
「この人だぁれ?ダンちゃんの知り合い?」
「村人?いや、服は貧弱ですが珍しい剣を持っているので駆け出しの冒険者でしょうか?」
現れたのはトンガリ帽子と杖を持った魔法使いの少女に盗賊の恰好をした少女と錫杖を持ったシスター。
全員が故郷の村に居たらならば、お嫁さんになって欲しいと引く手数多の可愛さだ。
なんだこれ……?
「どうだい?僕のパーティは」
なんだ、このハーレムとしか呼べないパーティーは?
おい、どうして彼女達の肩に手を乗せる?
疑問の表情を浮かべる俺に向かって、ニヤリと笑うダン。
……ああ、なるほどね。
自分のハーレムパーティーを自慢したいわけなんですね?
「あ、ああ、遠距離の魔法使いに斥候の盗賊と前衛の剣士。
そして、回復役のシスター。 中々にいい構成だと思うよ?」
あえて少女たちの容姿には触れず、笑顔を顔に貼り付けた俺は嫉妬の心を隠しながら、ダンのパーティーを褒めた。
大丈夫だ、よく見れば彼女達は全員が貧乳であり、俺の性癖からはアウトコースだ。
おっぱいが育っていなければ、まだ我慢できるさ……。
それに、ダンが彼女達の肩に手を乗せているのは仲間だからに違いない。
「ありがとう。あと、これは家族には内緒にして欲しいんだけど……」
「ん?」
大丈夫、俺は我慢できる大人。
目の前の若造が何を言おうとも……。
「彼女たちは僕の恋人なんだ」
★
激しい金属音が草原の上で鳴り響く。
歯を食いしばり、ガロウの言葉に従って剣をひたすら振るい続ける。
「まだまだぁ!!」
殺す気で放った俺の斬撃はいとも容易く、ガロウの剣に大きく弾かれて地面に転がされる。
「オラどうした、これで転がるのは何千回目だ?」
必死な俺に対し、楽しそうに剣を振るうガロウ。
夢で再開した彼は、何事もなかったかのように接してくれて、前回よりも丁寧に教えてくれる。
前回だったら、転んでも激しい追撃が来ていた。
意外といい奴なのかもしれない。
ちなみに、ダンと別れた後の事はあまり覚えていない。
ダン達に用事があるからと、その場から走り出し。予約していた宿屋にチェックインした俺は、夢の中でガロウとひたすら魔剣を振るった。
もはや、俺をこんな目に合わせる原因となった遊び人のおっさんは後回しだ。
今の俺は奴を見返す為に剣を振るってやる!!冒険者になって奴に負けないハーレムを作って見返してやる!!
「やれやれ。動機は不純だが、ようやく剣に迷いがなくなったか……。
じゃあ、そろそろ教えてやるよ《雷鳴流》の技を……」
俺は誇り高い決意を胸にフラフラと立ち上がり、ガロウに向かって上段で斬りかかった。
振り下ろされた俺の魔剣がガロウに届こうとした瞬間。
鞘に魔剣を収めたガロウの斬撃は今までとは比べ物にならない……。
そう、光のような速さで俺の首を一瞬で空に飛ばしたのだった。
「っ!?」
夢から覚めた俺は、思わず自身の首を手で押さえた。
「つ、繋がってる……」
勿論夢の中の出来事であるが、確認せずには居られなかった俺は自分の首が繋がっている事に安堵する。
「……アレは一体なんだったんだ?」
凄まじく早い斬撃を受けた事は理解出来た。
だが、あの速度はさすがに人間を辞めているぞ。
アレか?筋肉か?筋肉を鍛えれば人間は皆、あんな怪物じみた事が出来るのか?
俺は宿の店主がチェックアウトの時間を知らせるまで、人体の神秘について考察するのだった。
★
冒険者ギルド。
街の中心部にそびえ立つ、レンガ造りの大きな建物に掲げられた看板を見つめる俺。
ここが、冒険者に仕事の紹介と、その活動を情報提供などで支援してくれる。
かつて、人類史に名を遺した英雄達が情報交換をしていた酒場が始まりだという組織だ。
魔物が出現しやすい土地や、強大な力を持つ魔物によって作られたダンジョンの近くにある街や王都に存在する。
冒険者登録には特別な資格や履歴書の類はいらず、僅かな登録料を支払えばいい。
俺はあれだけ嫌がっていた冒険者となる為に、ギルドの中へと入る。
どことなく薄暗いギルド内は役所のようなエリアと大衆酒場のエリアで二分され、それぞれのエリアでは武装した冒険者が談笑してたり、受付で仕事を探したりと好き勝手に過ごして居た。
まだ午前中という事もあって、酒場のエリアに居る冒険者は少ないが、受付の方は冒険者達が長蛇の列を作っている。
俺は列の最後尾に並び、周りに居る冒険者達を観察する。
弓を携え、動きやすそうな革鎧を身に着けたエルフ。
ワンドと呼ばれる魔法の杖を持つ魔法使い。
斧を肩に乗せて豪快に笑うドワーフ。
人種しかいないド辺境の村では見る事が出来ない種族の人達に興奮する。
「はい、本日はどのなされましたか?」
「え?あ、はい」
キョロキョロと辺りを見渡していたら、いつの間にか俺の番がやってきたらしい。
ついさっきまで田舎者丸出しな行動をしていた俺に、柔らかな笑顔を向けてくれる受付のお姉さん。
清潔感あふれる制服に包まれた大きなおっぱいが実に素晴らしい。
もし、彼女が合コンに参加していたら、俺は真っ先に話しかけているだろう。
「えっと、冒険者になりたいんですが……」
「わかりました。では、こちらの申込書に名前と生年月日の記入をお願いします。
代筆は必要ですか?」
「大丈夫です。自分で書けます」
「では、分からない箇所ががあったら、聞いてください」
受付のお姉さんから渡される冒険者になる為の登録用紙。
記入事項が実にシンプルである。
俺は、ペンを片手にスラスラと文字を綴り、書き上げた登録用紙をお姉さんに差し出した。
まさか、こんな形で母の願望を叶えてしまうとは……。
「はい、結構です。では、登録料である千五百ゼニーを頂きます」
俺は生唾を飲み、薄い財布からなけなしの金を出す。
これで俺の財布は空に近い。
売り払う予定だった魔剣の金を当てにしていたので、帰る為の馬車代もなければ、今日の宿代もない。
ダンの事がなくても、俺は金を稼ぐ為に冒険者にならなくてはならないのだ。
「そして、これが冒険者の証である
お姉さんに渡されたのは裏面には記入した個人情報。
表には駆け出しのランクである《D》が小板に刻まれていた。
「もしもの時には身元を照合する為に使用しますので、なくさないようにしてください」
にこやかな表情をガラリと変えて、真剣な表情で言い含めるお姉さん。
冒険者という危険な職業に就くのだ。当然、自分の外見がひどい状態で見つかった際に必要となって来るのは理解している。
だが、そうなる確率を下げる方法はいくらでも存在する。
俺は受付のお姉さんから小板を受け取った。
見てろよ、ダン!!俺は安全に冒険者ランクを上げて貴様を見返してやる!!
さぁ、俺の冒険者生活の始まりだ!!
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