とある原石の神造人形(エルキドゥ) (海鮮茶漬け)
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オリ主の設定&頂いたファンアート

エルキドゥが天の鎖ということを、知っている必要なくね?と思ったので、ただの長髪サーヴァントということにしました。


名前 

 天野(あまの)倶佐利(くさり)  由来は天の鎖から

 

特典 

 エルキドゥの体

 変身・劣化コピー能力

 

原作知識 

 とある魔術の禁書目録 

  アニメ 1期、2期、3期視聴

  旧約 15~22巻

  新訳 1~22巻

 とある科学の超電磁砲

  アニメ 1期、2期

  漫画 7~10巻

 

 Fate/stay night [Unlimited Blade Works]

  全話視聴

 Fate/Grand Order

  未経験

 

オリ主の認識

「エルキドゥって友達がコスプレしてたけどよく知らんなぁ。……えっ?この見た目で女の子じゃないの?」

 

 見た目や口調、考え方などは前世で親友に聞いた。

 エルキドゥの来歴まで語る必要はないと、親友は自重したためオリ主の知識はほとんど皆無。

 

 オリ主はアルトリア大量発生やらクーフーリン兄弟のことを噂で知っており、Fate/stay nightが正しくキャラを使っていると考えています。

 その上、原作至上主義のためにFGOにはノータッチ。

 無性のことを親友から聞き出したが、アーサー王が女の子になっていたし、それぐらいのイロモノサーヴァントは居るだろうと納得した。

 

 

オリ主の体の設定

 神は本来のエルキドゥでは加工が難しいため、創作であるFGOのエルキドゥを基に体を創造した。 

 オリ主は原作崩壊し名場面がなくなったり木原が怖いので力を常に抑えて生活している。

 「馬鹿みたいに力が溢れて来るけど原石だし、サーヴァントの体だから当たり前だな」という認識があります。

 さらにさらに、とある木原犬によってとあるの世界で最強の魔神が、全力ではありませんでしたが、科学で産み出された機械に破壊されています。

 とあるの世界には原型制御(アーキタイプコントローラー)という、アレイスター=クロウリーが施したものがあります。

 簡単にいうと科学と魔術を完全に切り分けるものです。

 このため、学園都市の生徒はオカルトを一切信じません。彼らは宗教を勉強しても、空想の産物である神話などは一切目を通さないわけです(そういう洗脳に近い暗示をかけられているため)。

 そんな学園都市の中で、魔術側のワードを検索してしまうと、一発でアレイスターに目をつけられてしまいます。

 そのため、最悪のケース(今回はドンピシャ)を案じて、オリ主はエルキドゥを一切調べませんでした。

 

 UBWでは天の鎖とは言っていましたが、エルキドゥとは言っていません(おそらく)。

 そのため、エルキドゥ=天の鎖とはならないため、オリ主は気付くことができません。

 

 

 

 

エルキドゥの認識

 オリ主「無性とかニッチすぎる属性の、イロモノサーヴァントが生き残れる世界じゃないわこれ……」

 

 と、ビビり倒してます。

 

 

 オリ主はエルキドゥを天の鎖ではなく、イロモノサーヴァントとしか認識していませんが、この勘違いは後々ストーリーに影響します。おそらくきっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もしかして、これも1000文いかなければいけないのでは?と悟ってしまったので文字稼ぎのため裏話を書いていこうと思います。

 

~裏話~

 生前、主人公はエルキドゥ厨の友人と4回目のコミケに行く約束をし、主人公は上条当麻のコスプレを、友人はもちろんエルキドゥのコスプレをしました。二人は大好きなキャラでコスプレをしたので満足をして家に帰ります。

 その夜、主人公が眠ろうとしたとき心臓の不整脈が起き、すぐさま意識を失い亡くなってしまいます。主人公からすれば寝て起きてすぐプロローグに繋がるわけですね。主人公は詳しいやら詳しくないやらよく分からないキャラに憑依することになるわけです。

 

 ……いらない設定と思ってたけど結構重要な話では?

 




頂いたファンアート
名無しの過負荷さんより
http://syosetu.org/img/user/364151/96038.png
ジョー/ヤマナルさんより

【挿絵表示】


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0.プロローグ

なくてもいいかなって思ってたんですけど、一応書いときました。


 ガラガラと耳元で何かが鳴っている。

 

 こんなアラームにセットはしていないはずだが、鳴り続けているのならば止めなくてはならない。だってまだ起きたくないし。

 しかし、アラームを消そうとするも手が届かない。呻きながらもそこそこ大きい音を止めたくて、そのあともひっくり返した亀のように足掻き続けた。ハッキリ言って無様である。

 そして寝心地が最悪だった。ベッドがめちゃくちゃ硬く、いつも使う低反発枕もなくなっていたのだ。

 最悪の気分の中、仕方なく目が覚ますとそこには知らない天井があった。()()()()()()()()()()()

 

「んんッ!?」

 

 ガバッ!と勢いよく起き上がり辺りを見渡すが、上下も左右も白い景色しかない。障害物は一つも無くどこまでも白い空間があるだけだ。言葉にするのなら『無』という表現が一番相応しいだろう。

 

「え?どういうこと!?まさか精神と時の部屋!?何でいきなりドラゴンボール時空!?」

 

 完全にパニックである。情報量が越え思考が止まってしまったようだ。だが、そんな彼に声をかける存在がいた。

 

「おお、ようやく目を覚ましたか」

 

 後ろを見ると背中をこちらに見せている、西洋風のローブのようなものを纏う爺さんがいた。何でこんなところにいるんだ?とりあえずここがどこなのか聞いてみた。

 

「あの、すみません。ここっt「今いいところなんじゃちょっと黙っとれ」…………。」

 

 話を聞いてみようとしたところ、まさかのキャンセルだった。普通にへこむんだが。

 というか、後ろを見ていて何故わかったのだろうか。そんな疑問を抱いていると、ガシャポンッと軽快な音が辺りに響いた。

 よく見てみるとお爺さんの前にガチャガチャが置いてあり、カプセルから何かを取り出しているところのようた。そして、中身をみると爺さんが声を上げる。

 

「おおっ!これはスゴイ特典だぞい!!」

 

 何か知らんが爺さんのテンションが上がった。……もうそろそろ聞いてもいいだろう。

 

「あのこk「こうしちゃおれん!すぐに造らねば!!」ダッダッダッ…………。」

 

 まさかの二度目のキャンセルが入った。泣きそうだ。

 

 そのあと遠くでガガガガガ!!!やら、ギュィィイイン!!!などの音が、爺さんの背中から聴こえるようになった。何やら工作をしているらしい。

 俺としては先に疑問に答えてほしいのだけどなぁ……。

 そう思っているとちょうど神が話し出した。

 

「お主死んだのじゃ。コミケ?に行った後に不整脈での。あ、儂の落ち度とかはないぞい。普通に寿命じゃ。短命だったのう。

 まあ、寝ながら死んだお陰で苦しまなくて済んだんじゃし、ラッキーだったと思うことじゃな。

 それと、言ってなかったが儂は神じゃ。お前さん、特別に入信してもよいぞ?」

 

「」

 

 情報量がまたしても限界を越えてきた。しぬ……?それって死ぬか?…………なんだそりゃ?もしかして詐欺か何かか?

 

「アホ。詐欺をするためにこんな空間用意するなど、割りにあわぬだろうて。それに、さっきからお主の内心を読み取っているが、神以外にこんなことができるのかの?」

 

 …………確かに、さっきから声を出していないにも関わらず、思ったことを読み取られてる。こんなこと長い間一緒にいる家族でも不可能だ。

 それに、詐欺をするためだけにこんなところを用意するなど、確かに割りにあわないしバレやすいのもまた事実。

 ……そして、一応確認してみたけど心臓が一ミリも動いていなかった。

 どう考えてもこんなことはあり得ない。如何なる技術を使ってもこればかりは誤魔化せないはずだ。

 

 ……受け入れがたいし本当はまだ信じられない。いや、信じたくないんだ。

 ……でもそうしないといけないから───

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺、……死んだんd「よぉおしッ!!完成したぞい!!」

………………………………あの、今邪魔しないで貰えます?」

 

 自分の人生の終わりを受け止めようとしたところで、いきなり割り込んできやがったぞこの神。

 その神は俺の気持ちをガン無視して、意気揚々と話しかけてくる。

 

「これがお主の新しい身体じゃ!」

 

「……いや、そんなアンパンマンみたいに言われても……───ッこれって!?」

 

 そこにあったのは、

 

「そう!お主の記憶から再現したエルキドゥの身体よ!」

 

 緑色の髪をしている生気が抜けた人間が横たわっていた。そして神は達成感を抱いたかのような、晴れやかな表情で言った。

 

「いやー、良い仕事したわい!」

 

「いやいやいや!俺エルキドゥ知りませんよ!?親友がコスプレするときに少し教えてくれた程度で、それ以外は──!!」

 

「えーでも、もう造っちゃったしのぉ。まあ、大丈夫じゃろ。特典を付けるにはこの身体が一番だったし。お主の最期らへんに見た記憶に、エルキドゥがいたのが造った切っ掛けだしのぉー」

 

「だからそれは親友と一緒に、コミケでコスプレをしに行ったからで───って、ん?特典?」

 

「ふっふっふっ!この特典は少々特殊でな?───普通の身体では爆発四散してしまうのじゃ」

 

「こッッわッッ!!何ていうもん付けようとしてんだよ!?」

 

 何で笑ってんだこの神。正気か?

 

「だから耐えれる身体を儂直々に造っただろうに。その特典は特典改二と呼ばれるものじゃ」

 

「特典改二?」

 

「儂が特典同士を掛け合わせ、二つの特典を一つにしたものじゃ。そのせいで人間の身体では耐えれんのだ」

 

 おおっ!!何だよそれ最強の特典じゃん!

 そんな風にテンションが上がっていると、何故か神は首を振った。

 

「いや、組み合わせたそれぞれの特典が、見事に劣化してしまっての。

そして他の特典改二は、良いところを打ち消しあったりして、もっと状態が悪くなっての。それが一番マシなんじゃ」

 

「なるほど……。それで?その特典改二ってやつの能力は?」

 

 神は幾つか咳を幾つかして声の調子を整える。そして、背景にドンッ!と効果音が付きそうな気迫で、神は俺に告げる。

 

「視認した相手の姿をコピーする特典と、触れた相手の能力をコピーする特典を合わせてできた、

 触れた相手の姿と劣化した状態の能力を、コピーする特殊能力じゃ!」

 

「………………普通に強くね?」

 

 使いようによってはなかなか強いんじゃないか?とはいえ、問題はこれを使う世界次第なんだよな。

 

「ふむ、FGOに連れてってもお主、FGOもエルキドゥも知らんしのぉ。お!そういえば、お主はコミケで何のコスプレしてたかの?」

 

「え?えぇと……"とある魔術の禁書目録"の、主人公上条当麻のコスプレですね」

 

「そうか。ではその世界に決定じゃな」

 

「……はい?」

 

「ちなみに身体は成長するように調整してあるからの。児童からのスタートじゃ」

 

「……いや、あの説明「では行くぞ、ポチっとな!」

……………………………………………………………………は?」

 

 その声と共に足下の床が消えて、まっ逆さまに落下した。これが俺が最後に光景だ。

 本当に訳がわからん。

 

 ───これから、様々なキャラクターと出会いながら、とあるの世界で彼は生きていく。それが救済となるのか、それとも破滅の未来を呼び寄せるのか───

 

 

 科学と魔術と神代が交差するとき物語は始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不幸d……あ"あ"ああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

 




所々直しました。違和感があればどうぞ言って下さい。


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本編
1.原作の始まり


どうぞ


 (わたくし)こと上条当麻は、夏休み初日にファミレスで不良に絡まれていた女子中学生を見掛け、助けてやろうかなと思い声をかけたところ、いろいろあって今現在その絡んでいた不良達に追われているのである。

 

「待ちやがれ!この野郎!」

 

「があああ!!しつこすぎるぞあんたら!」

 

「絶対に逃がしゃしねえからな!!」

 

「その情熱を他のところに向けろよ!陸上とか向いてんじゃねえのか!?」

 

 夏休み直前にこんなことになるとは本当にツいてない。そんなことを思いながら、陽が落ちた学園都市の街をがむしゃらに走る。そして鉄橋まで走りきり、ようやくヤツらを振り切ることができた。

 

「はぁ……はぁ……、やっと撒いたか……?」

 

「───私からあいつらかばって善人気取り?」

 

 そんな不遜な態度で俺の前に現れたのは、先ほど不良に絡まれてた女子中学生だ。その女子中学生をみて察してしまった。

 

「お、おい。まさか、さっきの奴らがいなくなったのは……」

 

「邪魔だったからぱぱっと倒しておいたわ」

 

 バチィッ!!と手のひらから電流を流して言い放つ女子中学生。

 

 そうなのだ、俺が助けようとしたのはこのビリビリ中学生ではなく、不用意に絡んだあの不良達のほうだ。

 こいつは、学園都市に7人しか居ないlevel5にして、第3位の電撃使い(エレクトロマスター)。手を出せば丸焦げになるのは目に見えている。

 

「お前なあ、level5の超能力者だからってそんな態度とってたら、いつか痛い目に遭うぞ」

 

 そんなビリビリに対し、俺は今まで起きた自分自身の不幸な出来事を思い返しながら、親切心でそう言った。しかし、目の前の少女は何が気に入らなかったのか、全身から怒気が溢れだす。

 

「っ!!……へぇ、このわたしに向かって説教とはね。ホンっっトに舐めてくれるじゃない!」

 

 その言葉とともに、ビリビリの体から先ほどよりも多くの電流が溢れ出した。まるで、その怒りが形を得たかのように身体中から発電している。

 

「ちょっ、ま、待てって俺は別に「へぇ、いいわ。上等よ」……ん?」

 

 さっきまでの怒りが振り切れた状態から、不自然なまでに落ち着いた声音が発せられた。それは、冷静さを取り戻したというよりは、発散する方法を見つけ出したかのような声色だった。

 

「ねえ、超電磁砲(レールガン)って知ってるかしら」

 

 そう言いながら目の前の女子中学生は、スカートのポケットからゲームセンターのコインを一枚取り出す。

 

「フレミングの運動量を利用するんだけど、どうしても電力の問題から巨大な物になっちゃうのよね」

 

 キンッと指で弾かれたコインから響く金属音とともに、コインが彼女の手から宙に打ち上げられる。

 

「だけど、わたしがその電力を補って、磁力も上手いこと利用するっ、とぉっ!!」

 

 ドウッッッ!!!!と凄まじい音とともに、落ちてきたコインがオレンジ色の閃光となって瞬いた。

 その通り抜けた軌跡は、橋を縦に分断するかのように中央を突き抜けていた。

 

「こんな風に、金属を音速の3倍で撃ち出すことができるのよ」

 

 目の前を走り抜けたとんでもない威力の閃光が、その力を証明している。電熱が肌を撫でる感覚に冷や汗を流しつつ、飛び退いた体勢のまま俺は声を張り上げた。

 

「お前なんてモンを街中で使ってんだ!人が居たらどうするんだよ!」

 

「はあ?馬鹿にしないでくれる?生体電気の反応がないから、ここら一帯に私たち以外いないことは確認済みよ。

 とまあ、挨拶はこのぐらいにして。それじゃあ、勝負を──」

 

 

 

 

「それはどうかな?」

 

「……なっ!?」

 

 

 

 そんな声とともに、ポンッと肩に軽い衝撃が加えられた。絶対にいないはずのところから声をかけられ、慌てて振り向くと。

 そこには平均よりも少し高めな身長で、長い髪を緑色にしている女子高生がいた。

 彼女は学園都市最高の電撃使いである。微弱な生体電気であろうが存在の有無を間違えることはない。その上、今回は通りがかりに当たらぬよう、レーダーを全力で使っていたのだ。

 驚かないようにするのは土台無理な話であった。

 

「先輩!?」

 

「やあ、君は相変わらずのようだね」

 

 突然この場に現れた女子高生に、上条当麻が思わず声を上げる。彼の言葉から前衛的な髪色の彼女とは、付き合いが長いことがわかる。

 

「おい、ビリビリお前確認したんじゃないのかよ!先輩がいるじゃねえか!?」

 

「し、知らないわよ!わたしだってこんなこと初めてなんだから!」

 

 動揺しながらもそう言い返す美琴は、とっさに飛び退いたことで距離ができた女子高生を、近くにいるツンツン頭の少年と同じくらいに警戒する。

 

「……アンタ一体何者なの?これだけ近付いても生体電気が感知できないなんて、普通じゃないわ。あのバカみたいに能力を打ち消しているわけでもないみたいだしね」

 

 美琴は少年のときとは違い、電磁波が打ち消される感覚でも、ジャミングをされているわけでもないことに気付き、余計に少女を訝しむ。

 

(生体電気がない人間なんて存在しない。学園都市が作り出した動力に電気いらずの人型ロボットってこと?ハッキリ言ってその荒唐無稽な話のほうがまだ納得できる)

 

「彼の言った通り彼の学校の先輩さ。そして、君の先輩でもある」

 

「私の?」

 

 少年だけではなく自分にも関係があるような言い回しに、少し驚いてしまう。彼女は美琴が浮かべた疑問に対し、すぐさま答えを述べた。

 

()常磐台中学の大能力者(レベル4)の原石、天野(あまの)倶佐利(くさり)だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この場に立ち会えて本当によかったぁ(恍惚の表情)

 

 内心でそんなことを思い浮かべながら、とても人前で出来ないような顔をさらしている馬鹿な女(元男)がいた(外には1ミリも出ないが)

 

 この顔を見ることができるなら、御坂美琴も侮蔑の視線とともに、こんなのに警戒していたのかと死にたくなってしまうだろう。

 

 彼には能力を使ってコスプレをしながら、生前大好きだったとあるの世界を堪能するという野望があった。

 そのためとあるの世界の主人公であり、常に物語の中心にいる上条当麻と関係を自然に持つため、無い頭を振り絞り偶然を装いつつ接触したりなど、血の滲むような努力をしてきたのだ。

 しかし、アレイスターが街中に張り巡らした滞空回線(アンダーライン)があるため露骨なことは出来ず、上条当麻と御坂美琴の出会いのシーンを見逃すこととなった。

 彼はその事に発狂した。(体はもちろん一言もしゃべらないのだが)

 そのような紆余曲折あって、こうしてこの場に居合わせることができたのだ。

 

「(いやー、やっぱり男の中の男だね!よっ!男、上条当麻!自分と全く関係ない女の子を助けるために動けるいい男だね!

 それにしても、やっぱレールガンかっけぇなあ。うんうん、ビームは男のロマンだよなー。

 俺も変身すれば撃てるには撃てるんだけど、射程距離二メートル。そのくせ辺り一帯に衝撃波をぶちかます自爆技だもんなあ……まあ、それもロマンと言えばロマンだけどさ)」

 

「(あっそうそう、それと実はある伝を使って本人が知らない間に、もうミコっちゃんには触れてるんだよね(一種の通り魔)。原作キャラクターのコスプレとかしたいしオタクなら当然の行動だよ。

 それと、サーヴァントだから生体電気とか無いとかか?ぶっちゃけそこら辺は詳しくは知らないなぁ……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いきなり背後から現れた不気味な女子高生が、私達の間に割って入って来る。いきなり割り込んだことに文句を言ってやるつもりだったが、彼女を見て言葉が出なくなった。

 

「(何なのこの人。まるで私達を人間として認識すらしていなさそうな顔……。どうしたら、そんなに冷たい顔が出来るようになるのよ……っ!!)」

 

 彼は神からこの体を貰ったが、どうやら特典に合わせただけの身体であったらしい。

 彼の魂とは相性がすこぶる悪く、エルキドゥに成りきらなければ表情筋一つ動かせなかった。

 とはいえ、オリ主はエルキドゥをよく知らないため、親友のコスプレを参考にするしかなかったのだが。

 

「君はここを退いたほうがいい」

 

「っ!……何でよ、まだ勝負は着いちゃいないわ!」

 

「お前まだ言ってんのか……」

 

 そんな少女に気後れしながらも、闘争心を燃やす御坂美琴と呆れる上条当麻。だが、彼女は言葉を続けた。

 

「彼のチカラの特異性に君も気付いているはずだ。僕の予想では、彼の相手をするには君も全力で能力を使うしかない。

 そうなるとどうなるのか。君が生み出す高圧電流がこの橋を伝い、市街地にまで伝ってしまうだろう。

 そうなると、ここに住む人達は停電により生活出来なくなってしまうんだよ」

 

「……」

 

 確かに、電気が伝いやすい鉄橋は場所が悪いかもしれない。ならば、日を改めてその男と決着を着けるのもいいだろう。美琴は肩の力を抜いて、闘気を鎮火させた。

 

「はぁ、分かったわ。今ここではやめる」

 

「今だけかよ……」

 

「うん、それでいいと思うよ」

 

「じゃあ、次会ったら決着つけるわよ!!」

 

 そう言って彼女は走り去った。そんなやたらと活発な彼女の後ろ姿を見て、上条はいつものように呟いた。

 

 

 

「不幸だ」

 

 

 

 




サーヴァントをモデルにしているため、オリ主は身体に生体電気がないと考えてるけど、実は美琴が考えた人型ロボットのほうが近い。
エルキドゥは神様が作り出した粘土細工だからね。生体電気なんてあるわけがないよね。


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2.出会い

インデックスさんの登場がちょっと遅くなるかも、オリ主の行動の影響です


「先輩、さっきはありがとうございました」

 

「気にすることはないよ。彼女が暴れていれば、僕の住んでいる家にも被害が出ていただろうしね」

 

 そんな風に答えてくれたのは、某ビリビリ中学生に絡まれているところを助けてくれた、頼れる先輩だ。

 

「それに、今こうして付き合って貰っているからね。全然構わないよ」

 

 緑色の長い髪を揺らして先輩は儚げに微笑む。俺が気を使わないようフォローまでしてくれる先輩に、俺はただただ感心していた。

 

「(やっぱり、先輩は大人の女性って感じだなあ)」

 

 年上の女性に憧れを持つ男子高校生の上条当麻は、いつも冷静沈着で落ち着いており、ピンチになると突然颯爽と現れ、幾度となく助けてくれた女子高生は輝いて見えた。

 女の子なのに僕という一人称を使ったり、淡い緑色の髪を膝元まで伸ばしている、学園都市でも珍しい部類の人物だが、それも彼女の魅力の一つだと今では理解している。

 今も手の掛かる弟を見るような慈愛の目を向けられていて、少し気恥ずかしく思いながらも、思春期特有の見栄が出ないのは、先輩の懐の深さが原因だろう。

 その一つ年上の女子高生と、さっきまでのビリビリ中学生を比べてしまうと、その隔絶された差があまりにも哀れである。

 そんな風に目の前の彼から、憧れの目線を向けられる女子高生は、当然に彼が考えるように彼のことを思っ

 

 

 

「(やっぱり、みこっちゃんはツンツンでしたなあ~♪ぐふふふっ!)

 

 

 

 現実はいつだって非情である。あれだけ人様を馬鹿にしておきながら、哀れであったのは上条のほうであった。

 なんと、彼はこの10年という期間で、彼の呪いでもあった死に顔を克服したのである。(100%ではないが)

 彼は予想外のことや興奮状態に陥ると、顔が死ぬことを転生してしばらくしてから理解した。このままではこの先原作キャラに出会うと、不信感を与えてしまうことを察した。

 そして、彼はキャラクター達を確実に観察するために、精神修行と並列思考の訓練をやり続けた。そして、10年の年月は彼を内心ではっちゃけさせながらも、体はエルキドゥの言動を取らせるという摩訶不思議な技能を会得させるに至った。

 その気になれば複数の思考回路を生み出すことも不可能ではない。

 

 彼は知らないが分割思考が出来るのは学園都市でも少なく、その分野では彼は超能力者(レベル5)相当である。

 さらに精神と肉体で全く違う人格を生み出す多重人格、あるいは人格が分解する一歩手前を、常に続けるなど正気の沙汰ではない。それこそ、いつ自我が崩壊してもおかしくない状況なのだ。

 

 それもこれも、すべては作品とキャラクター達に対する愛である。

 

 そんなことになっているとは露知らず、上条は目の前の年上の少女に尊敬の念を送る。

 同級生と何故か年下の女子に知り合いが多い上条にとって、年上の先輩は案外珍しい組み合わせではあるのだが、既に気心が知れた人物のために気まずい空気は流れず、どちらかと言うと居心地が良い馴染んだものとなっていた。

 

 

 

 

 

「ちょっと、相席してもいいかしらぁ?」

 

 そんな彼らの作り出す空間に、横から甘ったるい声が差し込まれる。その声を聞いた上条は、その声の主にすぐに返事をした。

 

()()()()()()()()()

 

「こんばんはぁ。上条さん☆」

 

 お互いに名前を呼びあう二人の関係性から、これが初めての顔合わせではないことが分かるだろう。

 

「お前って常磐台だろ。こんな時間に外出してちゃ、まずいんじゃないか?」

 

「お嬢様にも息抜きは必要なのよぉ」

 

 上条の至極当たり前な質問に対し、あっけらかんとそう返す食蜂。

 そんな食蜂に呆れながらも、上条は自ら事件に首を突っ込んだり、その結果入院して学校を休むことが度々あるので、強く言えなかったりする。

 

 そんな風に打ち解けて話す彼らを見て、とある魔術の禁書目録の有識者達は気付いたであろうが、この光景は絶対にあり得ないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一年前、上条当麻と食蜂操祈は偶然とある交差点で出会い、それからたまに会うと話をする程度の関係となった。

 食蜂にとってそのツンツン頭の少年は失礼なことは言うわ、能力は効かないわで腹を立てることもしばしばあったが、常磐台中学の超能力者(レベル5)食蜂操祈としてではなく、ただの中学一年生として接してくれる、取り繕う必要のないただ一人の相手であったのだ。

 そんな彼がたまに、二人の先輩の話をすることがあった。一人は人心掌握において同じフィールドにいる雲川芹亜。そして、もう一人の先輩の名前が

 

 

「天野倶佐利ねぇ」

 

 

 その名前は常磐台の生徒ならば、多くの人間が知っている名前だった。

 

「(何でその名前が上条さんの口から出るのかしらぁ?)」

 

 三つ歳が違うためにその姿は見たことはないが、一年にも噂話が聞こえてくる程の人物だった。

 その噂は嘘か誠なのか分からず、ことさら変なものが多かったが、話によると生徒や教師を含めて異端な生徒だと認識されていたらしい。

 

「ねぇ、上条さん。本当にその先輩の名前って天野倶佐利って言うのぉ?」

 

「は?何で疑ってんだ?」

 

「それじゃあ、常磐台中学出身って知ってるぅ?」

 

「…………は?」

 

「しかも、能力は大能力者(レベル4)

 

「はあ!?」 

 

「そのうえ、学園都市にいる原石の一人よぉ」

 

「はあああ!?」

 

 やはり、この少年は天野倶佐利について何も知らないようだ。

 食蜂が聞いた話では、『能力を活かして諸外国にスパイとして潜入しに行った』、『闇の組織に入り学園都市を乗っ取ろうとしている』、『何故か学園都市にある最低レベルの高校に進学した』なんて突拍子もない話もあるくらいだ。

 そして、その事を誰も否定していないことから、相当の変人だったことは確実である。

 

 そのうえ、行方が分かっていない人間であったため、目の前の冴えない少年の知り合いと言うのは、あまりにも信じにくい話ではあった。

 そして案の定、知らない上条当麻を見て、偽名を使われたのだろうと確信する。

 

「その様子じゃあ、知らなかったみたいねぇ?多分だけどぉ、それ偽名よぉ?

 その人のことはよく知らないけど、騙る相手にはピッタリだと思うわぁ。だって天野倶佐利の能力はぁ」

 

 

 

 

劣化模倣(デッドコピー)」 

 

「なっ!?」

 

 二人で座っているベンチの後ろに、いつの間にか人が立っていた。しかも、話してた相手の能力もしっかりと当てられている。

 

「あっ、先輩!」

 

「たまたま通りがかってね。僕の名前が聞こえたからここに足を向けたのさ」

 

「そうなると、あなたがさっき言ってたこの人の先輩なのかしらぁ?」

 

「何を言っていたかは分からないけど、僕が彼の先輩の天野倶佐利だよ」

 

「偽名とかじゃなくぅ?」

 

「お、おいっ!食蜂!」

 

 自分の先輩を偽物呼ばわりする食蜂を諌める上条。

 だが、彼女はいつも通りの飄々としている、余裕ある態度を保ったままで何かを考える素振りをしていた。

 

「うーん。見せたほうが早いかな」

 

「?何を言って…………あたぁっ!?」

 

 疑問に思った食蜂操祈のおでこに向かって、ズビシッ!と強めに指が突き出される。傍にいた上条からは、某ジャンプマンガの径絡秘孔をつく動作と重なって見えた。

 外からはコメディの様に見えても、された本人はたまったものではない。

 突き出された衝撃でのけ反り、うっすらと涙目になっている食蜂は、小さなおでこを押さえながら、目の前の相手を睨み付ける。

 

「ちょっとぉお!!痛いんです……け……ど…………」

 

 憤っていた食蜂の憤怒の炎がすぐに消えていき、驚愕の二文字が頭の中を支配する。

 

「『全くぅ、耐久力が低すぎだゾ☆』」

 

 そこには、自分の蜂蜜色の髪が淡い緑髪になっているという違いはあっても、毎日鏡で見ている自分の顔がポーズを決めて目の前に立っていた。

 

「は?……えっ、えぇ!?」

 

 上条としても顔馴染みの先輩の顔が、横の顔馴染みの少女のものになるなど、全くの予想外であり目を白黒している。

 

「『私の変身(りょく)を使ってみたけどぉ、体の動きの性能が格段に落ちちゃったみたいねぇ。まるで、ブリキになった気分だわぁ。でも、これで私が天野倶佐利様ってことが分かってくれたかしらぁ?』」

 

 これが食蜂操祈にとって、上条当麻と同じくらい長い付き合いとなる、少女との出会いであった。

 



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3.改変の一つ目

それではどうぞ


「どうして天野さんが上条さんとお茶をしているのか、説明(りょく)を求めるわぁ」

 

「僕が後輩とお茶をするのがそんなにおかしな話かい?それじゃ、デートということにしようか」

 

「上条さんにそんな甲斐性力がないのは知っていますぅ。どうせここに誘ったのも、天野さんからなんでしょう?」

 

「さすがは、学園都市の精神系能力者の頂点だ。まさにその通りだよ。彼を誘ったのも僕からだ」

 

 二人の女の子が会話をしながらも、火花をぶつけ合っていた。傍目から見ればすぐに気付くが、真ん中にいる男子高校生はボロクソに言われ、自分の不甲斐なさに泣きそうになっていた。というか泣いていた。

 

「後輩の話はいつも新鮮で意外な話ばかりだよ。毎日でもしていたいくらいさ」

 

「へ、へえ~(どうしてそこまでストレートに言えるのよぉ!!)」

 

 心理掌握(メンタルアウト)という能力を持っているために、他者と一定のラインを引いてしまう食蜂操祈は、本心を話すというのことがことさら難しいことであった。

 さらに、食蜂操祈にとって上条当麻という少年は、能力を使わなくても自分を助けてくれる王子様だ。そんな彼の隣では派閥のみんなに女王と呼ばれている食蜂も、あわあわ言っているただの恋愛初心者であった。

 

 そして、彼女は目の前のこの女が如何に危険な存在か、正確に理解をしている。そのため、派閥の娘が教えてくれたファミレスに、こうして急いでやってきたのだ。

 上条当麻の中で、『自分が困ったら助けてくれる女の子』の地位は、唯一目の前の女子高生だけであるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっべぇ超楽しい(愉悦)

 

 女の子同士のやり取り(修羅場)を、嬉々としてしている元男がいた。彼は最初コスプレをしながら、キャラクター達の行動を見れれば満足していたが、彼らと過ごす内に何か物足りなくなっていたのだ。

 それを埋めるために、彼は別の趣味を見つけた。

 

 キャラクター達の別の顔を見ようと。

 

 彼は『どうせ女になったのだから、それでヒロイン達を弄り倒してやろう』という考えにシフトチェンジしたのだ。彼は鬼畜になりつつある。

 彼は原作を知っているために、キャラクター達の精神性を把握している。そのため、嫉妬するツボが何となく分かっているのだ。

 そして、原作至上主義のためヒロインと上条が、くっつくのは当たり前だと認識しており、自分自身も上条を恋愛相手として見ることはあり得ないので、本人を前にしてこうも思わせ振りなセリフを堂々と言えるのである。

 

 

 そして、そんなことを言われた男子高校生は普通に照れていた。

 意外な話だが上条は女の子に面と向かって、誉められた経験がかなり少ない。しかし、ソイツは上条を一ミリも男として見てない。それどころか、男心を無自覚にもてあそぶクズだ。哀れである。

 これを食蜂が知ればあらゆる手を使い制裁を下すだろう。

 

 こんなにも不幸な上条少年だが、彼に好意を向ける相手は少なからずいる。隣の食蜂操祈もその一人だ。

 そもそも、食蜂も上条が自分の気持ちに気づくように誘導したり、間接的に言ったりもしているが、それで上条相手に伝わるはずもない。

 そして、いざ素直になろうとすると直前でハンドルを真横に切るのだ。

 そのため、見事に事故り上条に何かしらの悲劇が襲い、結果として『不幸だーッ!』の決まり文句が飛び出るのがお約束だ。

 

 そして、そんな彼の反応を見た常磐台一大派閥の女王は、盛大に焦る。そんな初々しい顔など見たことがないのだ。

 そして、彼の表情を引き出したのが目の前のスカした女だと分かると、嫉妬の炎が燃え上がった。

 しかし、そこは7人しかいない超能力者(レベル5)。その隔絶した優秀な頭脳が導き出した自分が打てる最善手を打つ!

 

「はあー、なんだか暑くなってきたわねぇ」

 

 プチっプチっとシャツのボタンを二つ空け、胸元に風を送る食蜂。彼女が打った手はその恵まれた体を使ったお色気だった。

 食蜂操祈は自分に打てる最善手を見事に導き出したのだ!

 だが、皆さんお気付きだろうか?

 

 常磐台とは御坂美琴の荒っぽさで忘れがちだが、お嬢様学校であることに変わりはない。

 当然、食蜂操祈も能力の心理掌握(メンタルアウト)や、超能力者(レベル5)関係で多くの人間の闇を見てきたが、お嬢様学校に通う歴としたお嬢様である。

 つまり、何が言いたいのかというと、

 

 

 自分でした癖に恥ずかしいのである。

 

 

 年頃の女の子として、そしてお嬢様として生きてきた半生から、男を誘っているかのようなこの状況に、内心テンパっているのだ。

 彼女の優秀な頭脳が嫉妬によりショートしたために起きた事態だった。だが、ツンツン頭の少年が隣でどぎまぎしているのに気付き、一瞬にして優越感で口角が上がる。

 

「あらぁ?上条さんどうしたのかしらぁ?まさか、一年前までお姉さまサポートの対象外だ、とか言ってたくせに私の魅力にメロメロだったりぃ?」

 

「ちちち、違いますことよっ!?上条さんはキンキラ小娘相手なんかに、ときめいたりしませんからね!勘違いしないでよねっ!!」

 

「古典的なツンデレねぇ。流行は十年に一度戻って来ると言うけど、それと一緒で一周回って斬新なのかしらぁ?

 流行が戻って来るのは、広告代理店がそうなるように発信力使って、情報操作してるからだけどねぇ」

 

 隣の男の子をからかいながら、心から楽しそうに笑っている恋する乙女がそこにはいた。彼女にとって彼との会話はどれも心が弾むものであり、この一時が他の何よりも大切で、幸せであった。

 

 

 

 

「『ねぇ、上条さん。体を使って詰め寄る女って、身持ちの軽い女だと思わなぁい?』」

 

 と、その幻想をぶち壊しにくる鬼畜(オリ主)がいた。

 

「『ああいう女って、体を見せつければ男が寄ってくるから、自意識過剰になりやすいのよねぇ。大人になってもそういう女って、客観的に見ててスゴく痛いわよぉ?』」

 

 ブチィッ!!っと幸せ空間にいたはずの食蜂のこめかみから、血管が切れる音がした。自分の眉が片方ピクピク震え頬は上に引きつりながらも、食蜂は目の前にいる女狐に問いかける。

 

「あ、あらぁ、天野さん。人の体を使ってそんなことを言うのは、人としてどうかと思うわぁ?」

 

「『大丈夫だと思うわよぉ?あなたの一年前のこの姿を見て、同一人物だと思うのは、どんな直感力があっても不可能でしょう?』」

 

 変身しているツンツルてんとも言えるような、凹凸の少ないスタイルを見下ろしてそう言った。

 その態度を見てとうとう堪忍袋の緒まで切れたのか、ピッと鞄から取り出したリモコンを躊躇なく使う。

 精神系能力者の頂点でもある、超能力者(レベル5)の第五位。心理掌握(メンタルアウト)の能力は人間相手ならば無類の強さを見せる。

 当然目の前の少女も対象外の筈はない。

 

 

 

 

「『これは驚いたわぁ。超能力者(レベル5)ともあろうものが、なんの意味もないことをするなんてねぇ♪』」

 

 

 

 

 しかし、超能力者(レベル5)の精神支配を真正面から受けておいて、目の前の女は一笑に付したのだ。

 

「なんで!私の!心理掌握(メンタルアウト)がっ!効かないのよぉっ!!!!」

 

「落ち着けって食蜂!先輩に"原石"だからって言われたろ!?」

 

「それで、納得力を得られると思ってるのぉ!?」

 

 リモコンのボタンをピッピ、ピッピと押す食蜂を宥める上条当麻。凶悪な力の心理掌握(メンタルアウト)は、人間以外の動物には能力が効かないという弱点がある。なぜなら、脳の仕組みが人間とは違うからだ。

 エルキドゥがどんなサーヴァントかは知らないが、この様子からギルガメッシュやヘラクレスのように半神半人か、人間の姿をしている摩訶不思議なサーヴァントのどちらかだと思う。

 全部推測なのは滞空回線(アンダーライン)があるため、そう易々と検索ができないからだ。

 …………滞空回線マジうぜぇ……。アレイスター死なねぇかなぁ。

 

「『まあ、この胸囲力に突貫工事をしたあなたには、この姿はコンプレックスよねぇ?』」

 

「私の胸が偽物みたいに言わないでくださるぅ?これは正真正銘自前…………って上条さぁん!?なんで、驚愕の表情をしてるんですか!?

 違いますからね!?この女の勝手な妄想だからぁッッ!!」

 

 この時、オリ主の中にあるのは愉悦だけである。自分の狙った展開に持ってくことができて、達成感に満ち溢れていた。鬼畜だ。

 

「それにしても、先輩って変身すると性格がガラッと変わりますよね」

 

「『それは、"健全なる精神は健全なる身体に宿る"とも言われているように、精神と身体は密接な関係があるから、能力を使うと肉体に精神が持っていかれてしまうんだゾ☆』」

 

「それは誤訳でしょう?上条さんの残念な頭にいらない知識を埋め込まないでくださいますぅ?ただでさえ少ない容量を、間違った知識で圧迫したら可哀想だとは思わないのぉ?」

 

「いや、酷いことを言ってるのはお前だからな?小娘」

 

「『誤訳なのは後から訂正すれば構わないでしょう?今、大事なのは上条さんにも理解できる言葉にすることよぉ?』」

 

「あの先輩?結構深めに会話のフックが入りましたよ?このままじゃ上条さんボロ雑巾にされてしまうのですけど」

 

 少女達の応酬で何故か傷付く上条。話の中心が上条であるため仕方ないといえば仕方ないが、残念な少年である。

 

「『あっそれとぉ、食蜂操祈は腹黒だから気を付けた方がいいわよ?上条さん☆頭の中は如何に他を出し抜けるのか、ってことしか考えていないようだからねぇ?』」

 

「ず、随分勝手なことを言っていますけどぉ、実際は私の口を借りてただ自分の言いたいことを言ってるだけじゃないのぉ?」

 

「『もし自分自身が目の前に現れたら、どういう反応をするのかすらわからないなんて、本当に超能力者(レベル5)心理掌握(メンタルアウト)なのかしらぁ?

 私に第5位を譲ったほうがいいんじゃなぁい?そんなことだから、"おめめ椎茸"なんて言われるのよ。プー!クスクス』」

 

「なんですってぇぇええっっっ!!!!」

 

 食蜂操祈大噴火である。

 近くに置いてある鞄を掴んで、その抹茶頭に叩き付けてやろうと振りかぶると同時、上条が急いで止めに掛かる。

 

「落ち着け落ち着け!ここ店の中だぞ!?」

 

「ちょっと放してソイツ殴れないわ!!」

 

「『あなたの性能力じゃあ、途中で手からすっぽ抜けて真横に飛んで行くわよぉ?』」

 

「この至近距離でそんなことあるわけないでしょうぉ!?」

 

「やめて!先輩煽らないで!!」

 

 そんなことをしていると、三人は仲良く店から叩き出されてそのまま解散となった。上条にとって明日は大きな転換期となることを、まだ彼は知るよしもない。

 

 

 

 

 迎えを呼んだ車に揺られ、食蜂操祈はさっきまでのやり取りを思いだしながら、天野倶佐利という少女を思い出す。

 もちろん、超能力者(レベル5)心理掌握(メンタルアウト)が自らの自分だけの現実(パーソナルリアリティー)を理解していないはずもなく、自分に会えばああいった態度を取ることは理解はしているが、天野倶佐利からの言葉は少し過剰であった。

 それで、予測できる理由は低い可能性から能力の暴走、自身への嫉妬、単純におちょくっている、そして━━━

 

「私への気遣い」

 

 

 

 

 

 

 

 食蜂操祈はかつて彼女に助けられた過去がある。

 ある時、『超能力者(レベル5)に死を』という共通の意識を持った集団が、食蜂に襲い掛かってきたのだ。

 その場にいた上条共々周囲を囲まれ、自分でさえ諦めかけたその時。

 上条当麻は一歩も引かずに。それどころか自分を殺す凶器に囲まれた中で、私を守ると奴等に真っ向から啖呵を切ってくれた。

 とはいえ、360度囲まれた状況で、高速で接近してくる敵から無傷でいられるはずもない。

 上条と敵のリーダーとで、戦いの火蓋が切って落とされるまさにそのとき!

 

「てぇいっ!」

 

「ぐぼぉっ!?」

 

 という声と共に、敵の一人が横にふっ飛び壁に激突する。さらに、ぶつけた衝撃なのか炸薬作動式の兵器が故障し、まるで花火のように爆発した。

 まさかの事態に、全員が口を開け( ゚д゚)ポカーンとしていると。

 

「やぁ、後輩。財布忘れていたから持ってきたよ」

 

 そんな、どこか抜けたような会話を戦場でしてくる先輩に、さすがの上条もついていけてない。だが、敵のリーダーはすぐに敵意を滲ませ、新たに現れた外敵に問いかける。

 

「貴様、我々の邪魔をするのか」

 

「うん、そうだね。さすがに後輩を見捨てることはしないさ。それに、彼女とも知らない間柄ではないしね」

 

 緊張が全く感じられない声で話す彼女に、襲撃者達は苛立ちを募らせる。

 

「能力者か。だが、能力者対策は万全だ」

 

「へぇ、なら━━━」

 

 彼女が言葉を区切った瞬間変化が起きた。

 

「があっ!?」

 

「いぎっ!?」

 

 急に二人の襲撃者から苦悶の声が上がる。襲撃者達は動揺し、何が起きたのか理解しようとするが、その時間すら許さないかのように声が発せられた。

 

「『対策は万全と言いましたか。では、1()0()0()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』」

 

 何の罪もない少年少女達を守るために、凛とした言葉が襲撃者達に掛けられる。

 

「『所詮は借り物で、わたくし自身は違いますが』」

 

 

 

 

「『風紀委員(ジャッジメント)ですの!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 そして、三人であの場を切り抜けた。

 もし、彼女が来なければ、少年にとんでもない大怪我を負わせていたかもしれない。もし、そうなっていたら自分は一生後悔していただろう。

 その事から、私は彼女に心から感謝をしているのだけど、彼女はそれを決して受け取らない。

 

「敵と馴れ合うことはしないってことかしらぁ?」

 

 彼女と私は一人の男を取り合う敵同士だ。彼女もそれが分かっていて、恩や感謝などの不純物は少しでも取り除きたいのだろう。

 そう考えると、あんな飄々としているくせになかなか熱いところがあるようだ。意外と御坂さんと気が合うかもしれない。

 

「そんなところがあるから、キライになれないのよねぇ」

 

 嫌いになれないなどと口では言いつつも、彼女の目からは天野に対する親愛の情が深く感じられる。胸の中が温かくなった彼女を乗せて、夜の街並みの中を車は進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに後日、門限破りで寮監に絞られた生徒がいたらしい。

 

 

 

 

 

 



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禁書目録編
4.乙女の嗜み


ではどうぞ


「今日はカレーでいいかな?」

 

「はい、もちろん構わないですよー」

 

 常磐台に居たときとは、天と地ほど違うボロボロの木造建築のアパート。ここが今の俺の住みかだ。

 

「天野ちゃんは家事に掃除に洗濯。何でもできるパーフェクトガールちゃんですねー」

 

「常磐台ではこれも授業の一貫さ。ペルシャ絨毯の修復に比べれば、大したことはないよ」

 

 常磐台に進学したのは御坂美琴と共に行動すれば、原作に何らかの形で立ち会えるという打算からだ。死ぬほど勉強してなんとかいけた。

 成績は中の下から下の上程度だったが、原石の大能力者(レベル4)ということで、いつのまにか担ぎ上げられていたっけ。

 だが実際は歳が三つ違い、ミコっちゃんとは先輩後輩の関係にすらなれなかったのだが。

 街中で上条と会うことができたので、同年代ということは分かっていた。そして上条が着ていた制服を思い出しながら、進学する高校を決めたのだ。

 高校に行くための下宿先を探していると、このとあるの世界で唯一の合法ロリこと、月詠小萌が手を差し伸ばしてくれたのである。

 

 ……というか、ペルシャ絨毯の修復ってお嬢様学校に行った学生が、そんなことをするような環境にいくのか?ホントに必要ある?

 

「度々ご飯を作ってくれて先生はとても嬉しいですけど、本当に迷惑になっていませんか?」

 

「僕としても一人で食べるご飯は味気ないからね。一緒に食べることができて感謝をしているよ」

 

 このちんまい先生と食べるご飯は実際に楽しい。料理を作ると、口一杯に頬張り本当に美味しそうに食べるのだ。まるでハムスターのようである。

 

「パテ・ド・カンパーニュや鯛のアクアパッツァを、この部屋で食べるときが来るとは思いませんでしたねー」

 

「どうせなら、美味しいものを食べて貰いたいからね」

 

「いきなり、電話で甘めのワインがあるかと言われたときは、本当に焦りましたよー」

 

 そうなんだよな。この部屋ポルト酒置いてなかったんだよ。

 いや、普通はそうなんだけどさ。常磐台に居たからそこら辺鈍ってたんだよね。

 当然あると思ってたから材料買っちゃってさ。急いで電話して代わりとなるワインの場所を聞いたら、『……天野ちゃんは不良に目覚めてしまったのですかぁ?』という弱々しい返事と共に、泣き声が聞こえたときは盛大に焦ったものだ。(態度には全く出ないが)

 

「本当は色々なスパイスから作りたかったんだけどね。材料を集めるのも大変だから、そこまで大したものは作れないんだ」

 

「いやいや、カレー粉から作っている時点で十分凄いですからねー?」

 

 さすがに、スーパーに悪魔の糞は売っていなかった。

 この名前から分かる通り、匂いヤバいけど炒めるとかなり良い風味になるんだよなぁ。

 そんなことを思っていると玄関から音が聞こえてきた。

 

 ピンポーン!ピンポーン!

 

「あれ?一体誰でしょうねー」

 

 学園都市には当然のことだが宗教勧誘もないし、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)からの情報がすぐに手に入るため、新聞購読自体ない。

 果たして、この時間に玄関のチャイムを鳴らすのは一体誰なのだろうか?

 

「はいはーい。今出ますよー」

 

 …………いやいや、ちょっと無用心過ぎない?元男の俺でもレンズを見るぞ。あなたそんなナリしてるけど、大人の女性だよね?

 ガチャリと小萌先生が扉を開けると、そこにはツンツン頭の少年が白い何かを背負って立っていた。

 

「あれ?上条ちゃんどうしたんですか?」

 

「小萌先生ちょっと頼みがあるんだ……!」

 

 あっ!そうだった!昨日ので満足してたけど、今日インデックスが登場する日だ!

 

「やあ、こんばんは。後輩」

 (おっ、その背負ってるのがインデックスかな?どれどれちょっと見して……もら……い……)

 

 俺はその衝撃的な事実に一瞬体が固まった。

 そんな俺の様子に微塵も気付かずに、上条は話しかけてくる。

 

「えっ!?先輩どうして小萌先生の家にいるんですか!?」

 

「ああ、このマンションに僕も住んでいるんだよ」

 (めっちゃくちゃ可愛い!え?普通に美少女じゃん!インデックスって名ばかりのメインヒロインじゃなかったんだ!)

 

「それで、上条ちゃんはどうしてここに来たのですか?」

 

「そうだった!小萌先生ちょっと手伝って下さい!」

 

 精神と肉体を軽く分離させながら(異常)上条と話していると、小萌先生の声で上条が再び話し出す。

 一つ戦場を越えて来たと思えないなぁ。平常運転で人助けしてるよ。

 

「それじゃあ、お願いします!」

 

「わ、分かりました!よくわからないですけどできる限りはやってみるのですっ!」

 

 知らない間に話が終わっていたようだ。上条が部屋から出ていく。

 

警告、第二章第六節

 

 おおっ!これはインデックスの魔導図書館っぽいシーンじゃないか!

 

「──自動書記(ヨハネのペン)を起動します──」

 

 いやぁ、ヨハネってるねぇインデックスさん。輝いてるよー!

 ……ん?何かこっち見てるような……。

 

貴女がこの場に居ることで対象が分散してしまい、術式が発動しない恐れがあります。ご協力いただければ幸いです

 

 えっ?立ち合えないってことか?ウソだろ……。

 はあーー。…………ふて寝しよ。

 

「なら僕は帰るよ。小萌、カレーは食べなかったら冷蔵庫に入れといておくれ」

 

 そう言って扉を閉めてとぼとぼ自分の家に帰ると、ポストに何か挟まっていた。

 それを取り出し見てみると

 

 

 ───明日この場所に来訪することを願う。統括理事会より───

 

 

 

 

 なしてー?(困惑)

 

 

 



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5.先輩対決

ではどうぞ


「こんなところに呼ばれた理由を聞いてもいいかい?」

 

 そこは、四方をガラス貼りにされた、余りにも見晴らしのいい場所だった。

 

「決まっているだろう。お前と話をするためだけど」

 

「なら、学校でもいい気がするけどね」

 

「馬鹿か。それじゃあお前の能力を受けることになるだろう。

 いや、正確には()()()()()()()()()()()()()

 

 彼女は統括理事会のある男のブレインである、雲川芹亜。学校で学年、クラス、年齢を教師や生徒も知らないという謎多き少女だ。

 その容姿は、セミロングの黒髪を前髪だけ、カチューシャでオールバックにする髪型であり、年齢不相応に豊満な胸を持ったヘソだし女子高生?である。(断定は不可)

 

 実は、エルキドゥの体に憑依してから会いたくなかった一人だ。

 エルキドゥの言動ではなく自分の本心を出すと、顔全体の筋肉が死に、さらには、口も動かせなくなる。その解決策として精神の中で本心を話し、肉体ではエルキドゥの言動をオートでするという技術を身に付けたが、この女は危険だ。

 食蜂操祈はとあるの新約で一巻まるごと話があったが、この雲川芹亜という女子高生は、土御門元春との異色の戦いをした描写以外は、特に詳しく書かれていなかった。

 この女の精神性が上条当麻や食蜂操祈と違って、全く分からない。

 それにも関わらず、人心掌握が武器など鬼門でしかないのだ。エルキドゥの言動を越えて本心を見破られる可能性がある。

 

「君なら知ってるだろう?僕の能力、劣化模倣(デッドコピー)のことを」

 

「ああ、もちろん知ってるけど。だけど、どこまで心理掌握(メンタルアウト)を模倣できるか分からないからな。

 奴の能力は奴自身でも、多くのリモコンのボタンで区分しなければならない程に、出来ることの幅が広い能力だ。だから、劣化したとしてもどこまで出来るのか、確実な予測が出来ないんだよ」

 

 さすが、学園都市統括理事会のブレイン。リスクマネジメントが適切だ。だーから、こいつとは関わりたくないんだよなぁ。

 と言っているが実は出番が少ないとはいえ、目の前の相手は割りと好きなキャラである。

 この巨乳オールバック先輩は初春飾利と同じで、能力なしで有能なんだよ。

 能力バトルの世界でそういったキャラが、戦場で活躍するのは胸が踊るものである。うむ、実にロマンが分かっている(木原犬風)

 だが、敵となれば面倒なことこの上ない。

 

「そこまで警戒していて、どうして僕の前に現れたんだい?」

 

「お前には聞きたいことがある。だが、お前相手では私もそれ相応に対抗手段を選らばなければならない。

 例えば、四方をガラス貼りの部屋にお前を呼び、360度どこからでも射撃出来るようにしておくとかな」

 

 

 

 こっわ……。(ドン引き)

 

 

 

 何こいつ?考えることエグすぎじゃね?(恐怖)

 能力使ったら頭撃たれるってこと?あっ、もしかしてあそこにある赤い染みって、レーザーポインターか?

 なんか目をつけられたから、心証悪くないように来たのに、知らん間に命の危機じゃねぇか……だ、大丈夫。誠意を伝えればきっと分かってくれるさ!

 

「ここに来た時点で、僕が何かするつもりがないのはわかっているだろう?」

 

「確かに。だが、お前の能力は万能過ぎる。これくらいの保険は普通だけど」

 

 どこの普通だ。

 ここまでする奴が普通を語るな。

 

「買いかぶり過ぎだと思うけどね。今の僕はリモコンも持ってないだろう?」

 

「そんなものは、二つ、三つ能力を使うだけならリモコンで区分ける必要もないことだ。

 それにそう卑下するものじゃないだろう。劣化模倣(デッドコピー)など勝手にお前の能力を、多重能力者(デュアルスキル)と勘違いした馬鹿共の嫌がらせに過ぎないんだ」

 

 そう、俺の能力は体を変化した相手の能力しか真似をできず、二つの能力を同時に使うことが出来ない。

 それは、学園都市の望む多重能力者ではなかった。模倣した能力が数段落ちたことと合わせて、この名前が付けられた。

 まぁ、自分としてはこれでよかったと思うんだけどね。

 多重能力者とか、確か学園都市の目指してるものの一つでしょ?確実に危険な目に遭うよねー。学園都市だし。

 超能力者にならないために、髪の色だけ変えないようにしているのも、危険から遠ざかるためだしな。あと、個性が薄くなるからって側面もあるんだゾ☆

 実はメタモルフォーゼだけで言えば、相手を完璧にコピーできるから超能力者並みなんだよなぁ。(余裕の笑み)

 超能力者になったら一年前のお目々しいたけみたいに、命を狙われることになるかもしれないしね。

 

「それで、僕をここに呼んだ理由は?」

 

「お前はどうして上条当麻と関わっている?」

 

 ん?上条?何で?

 

「奴の右手をお前は知ってるだろうけど、それを何かに利用するつもりか?」

 

 あぁーなるほど。幻想殺し(イマジンブレイカー)を悪用しないかの確認か。

 あれ、ぶっ壊れ能力だもんなぁ。……いやまあ、後からそんなの目じゃないくらいの、能力持った奴等がたくさん現れるんだけどさ。

 

「いや、そんな予定はないね」

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。今は信用して置こう」

 

 ダウトだ(確信)

 

 こんなに分かりやすい嘘が今まであっただろうか。

 何だそのアホみたいに長い沈黙は。いくら何でも長すぎだろ。信用の意味知ってる?あと、こんな問答をするために、ここに連れてこられたか俺?

 

「それで、話は終わりかな?じゃあ、僕は「いや、待て。これはついでに聞くんだが」」

 

 ついで?こいつに何か聞かれるようなことは、もうないと思うんだがなぁ。すでに調べてるだろうし。一体何を──

 

「奴のことをどう思っている?」

 

 それが本命だろ

 

 

 

 

 

 

 

 今日は奴を呼び出し、何を考えているか聞き出すことにした。

 

「お前には聞きたいことがある。だが、お前相手では私もそれ相応に対抗手段を選らなければならない。

 例えば、四方をガラス貼りの部屋にお前を呼び、360度どこからでも射撃出来るようにしておくとかな」

 

 まず、場を精神的に支配するために脅してみたが、浮かべていた微笑が消えたな。

 だが、感情が読めん。表情全てから色が消えた。恐怖を隠すためか?いや、それならあの箇所の表情筋が必ず動く。

 ……やはり、こいつは相手にしにくい。

 こいつはこの私がプロファイリングしても、人間像がうまく掴めなかった特異な存在。

 掴めそうになると(もや)となって消え失せる。その理由は、こいつ普段の振る舞いから逸脱した行動を突然起こすのだ。まるで、何かに乗り移られているようにな。

 そのうえ、普段の行動でも飄々としていて誘導しづらい相手でもある。

 

「買いかぶり過ぎだと思うけどね。今の僕はリモコンも持ってないだろう?」

 

「そんなものは、二つ、三つ能力を使うだけならリモコンで区分ける必要もないことだ。

 それにそう卑下するものじゃないだろう。劣化模倣(デッドコピー)など勝手にお前の能力を、多重能力者(デュアルスキル)と勘違いした馬鹿共の嫌がらせに過ぎないんだ」

 

 これは、本心だ。確かに能力も、変身もコピーする際にどこかしら欠落するとはいえ、使いこなせれば強力な武器となる。

 本当はこちら側に引き込みたいが、如何せんこいつは信用できん。まあ、それだけが全てではないがな。

 

 そして、奴のことを聞いてみたがいつもの微笑で返された。やはり何一つ読めん女だ。まるで、決められた通りに動くアンドロイドのようだな。

 だが、まあ、これは聞いておこう。何となく、そう何となくでしかないのだけど。

 

「奴のことをどう思っている?」

 

「後輩のことかい?何をするか読めなくて面白いと思うよ」

 

「それじゃあ、後輩以上には見ていないということか?」

 

「さあ?それはどうだろうね」

 

 ええい、ちょこざいな!言葉を濁しやがって!はっきりと明言しろ!あそこまで関わっておきながら、彼に何も想わないわけがないだろうが!

 

「だけど、君は彼に選ばれる可能性は低いと思うな」

 

「あ"あん!?」

 

 その言葉に私の感情が振りきれた。

 こいつ、周囲から銃口を向けられていることを忘れてるんじゃないだろうな。

 まあ、私がこんなことじゃ手を下さないと踏んでのことだろうが。統括理事会のブレインとして、底が知られる行為はできんからな。

 

「お前は知らないだろうが、彼の好みは寮の管理人のお姉さんだ。つまり、年上であり()()()()()()()、一部分が母性に溢れたこの私が、彼にとっての理想にほぼ近いわけだ」

 

 そして、私は奴に向かって胸を張って見せた。前から思っていたが、彼に頼れる先輩と思われるのは、私だけでいいと思っていたんだ。それを、この場で証明してくれる。

 

「それを本気で言っているのだとしたら、彼を分かっていないと言わざるをえないね」

 

「……ほほう?この私が彼の考えを読み間違えると?まさか、思春期特有の背伸びか何かだと思っているのか?

 だとしたら残念だったな。彼は友人との会話で嘘を吐くことはないぞ」

 

「いや、そうではないよ。彼の好みはおそらく本物だろう。君が言ったように彼が嘘をつくとは思えない。

 だけど、僕が言っているのは彼の好みではなく、彼の本質の話だ」

 

 ……本質だと?それが今の話にどういう関係がある?

 

「彼はどんな相手でも救おうとする人間だ。その対象が誰であっても、変わることはないだろうね。では、彼の恋仲となる女性はどんな人間なのか?

 そんな彼の隣に収まるのは、頼れる女性ではないんだよ。その逆に、可憐で守る印象が強い線の細い女の子だ」

 

「……」

 

「それに対し君は、()()()()()女性として成熟していて、大人の色香まで出てしまっている。可憐さとは程遠いところにいるんだよ」

 

「…………」

 

「さらに、彼はその精神の強さからか、心の繋がりを大事にしている人間だ。それなのに、僕を警戒して君は最近彼と会っていないだろう?」

 

「………………」

 

「君も彼の本質がどういう影響を与えるのか、薄々気付いてるんじゃないかな?」

 

「……………………」

 

「はっきり言ってしまうと無理だと思うよ」

 

「…………………………………………………………………………………

……………………………………………………………………………………

…………………………………………」

 

 長い沈黙の後、雲川芹亜が親指と中指を合わせて音を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 危ねぇ……。蜂の巣になるところだった(冷や汗)

 

 いやー、ついつい、からかうのが楽しくてスナイパーのこと忘れてたな!!

 ミコっちゃんになって建物を垂直に降りて逃げたけど、磁力の操作を途中でミスって死ぬかと思ったぜ!

 その後はただひたすらに、自分が絶対に行かないところへ磁力使って逃げたけど、それがうまいこと追っ手を撒くことに繋がったんだなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

「ここに来るということは貴女も関係者ですか」

 

 何故か無人の道路で、刀を持つ変な服を着た痴女が立っていた。

  

 

 

 

 

 

 



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6.聖人

どうぞ


 陽が落ちて人が寝静まった時間帯だとしても、人が三人しかいないという異様な空間がそこにはあった。

 天野が視線を前に向けると目の前には刀を持った女と、意識を失った血まみれの少年が倒れていた。

 

「この件についてどこまでご存知でしょうか?」

 

 身の丈もある刀を持った長身の女が問いかけてくる。

 

「さあね。ほとんど知らないよ」

 

 目の前の相手はTシャツを裾で括ってヘソを出し、ジーンズの左足を根元から切り取った、奇抜で露出の激しい服装をしていた。

 俺は敢えて彼女のことを無視をして、血塗れになっている上条を見る。

 

「だけど、君の足元にいる彼は僕の後輩なんだ」

 

 いつの間にか手を強く握りしめていた。

 

「ここで何が起きたのかは知らない。もしかしたら、彼が何かを勘違いしてこうなったのかもしれない」

 

 

 

 

「だから、これは僕の勝手な八つ当たりだ。責めてくれて構わないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人通りが異常に少ない道路で、二人の人物が何度も衝突していた。

 

「『超すごいパァァァンチ!!』」

 

 ドゴオオオオッッ!!!!と轟音とともに、()()の少年の拳からとてつもない衝撃波が繰り出された。念動力による一撃…………───ではない。それはとある少年によって数ヶ月程前に間違いが指摘された。

 本人でさえ理解できていない不可思議な現象。だが、その衝撃は最高速度の電車と正面衝突することに比肩する程の、エネルギーを秘めた一撃であった。

 普通の人間が受ければ間違いなく即死するだろう一撃。しかし、この場に普通の人間はいない。

 

「──七閃──」

 

 女剣士が刀を構えた数瞬後、まるで衝撃波が周囲に散らばるかのように攻撃が相殺された。それが刀を構えた女剣士が起こしたものであるなど、誰が想像できるだろうか。

 女剣士の顔に焦りはなく傷付いた様子もない。完璧に封殺したことの証であった。

 

 だが、その光景を目の当たりにしても、その人物の顔には一片の陰りはない。今の一撃は手加減でも様子見でもなく、本気の一撃であったにも関わらずだ。

 しかし、それこそが学園都市のナンバーセブン。不安など些末なことは抱かない。常に前を向いて根性のみで走り続けるのが彼だからだ。

 そんな本物の彼と同様に快活とした笑顔で()は言い放つ。

 

「『へっ!俺の根性を超えてくるとはな!』」

 

「姿と共に口調も変わるとは不思議な力ですね」

 

 女剣士、神裂火織は相手の不可解な能力に疑問を抱くが、構わず真正面から粉砕していく。

 力は凄まじいが、一撃一撃に溜めが必要であり、聖人の力を使えば問題なく相殺できる。

 そして聖人のスペックを使えば、

 

「『超すごいパ───』」

 

 

 

「見えてますよ」

 

 

 

 ドバッッッッ!!!!と、空気が爆発するかのような凄まじい音と衝撃波が周囲に広がる。その広がった衝撃波は周囲にあるビルの窓ガラスを、一つ残らず破壊していった。

 少年の早さはマッハの速度である。普通ならば避けることはおろか反応することもできはしない。しかし、女剣士は音速の速さにすぐさま適応し迎え撃つ。

 

 神裂火織は聖人である。

 

 聖人とは魔術の世界に20人といない希少な存在であり、聖痕(スティグマ)によって神の子の力を、極僅かであるがその身に宿すことができる。その力は絶大であり、音速の速さで動くことはもちろん、生身で大気圏からの落下にも生存できるほどの力を持つ。

 

 そんな神裂火織と削板軍覇が生み出したクレーターの中心では、少年と女剣士の拳と刀がギシギシッとぶつかり合っていた。しかし、両者の均衡は女剣士が柄に力を込めることで容易く傾く。

 

「『……チィッ!!』」

 

 刀が振り抜かれると、数メートル後方に緑髪の少年が吹き飛ばされる。空中ですぐさま体を捻り体勢を整えると、アスファルトに靴を擦りつけながらも無事に着地をした。

 両者共に傷一つ未だ負ってないがたったこの数合の打ち合いで、互いの力関係の上下が確定した。

 

「私が衝撃波を相殺している僅かな間に死角に入り、至近距離からの攻撃。最大の攻撃を与えることは必要ですが、いささか工夫が少なすぎですね。貴方の攻撃がその正拳突き以外には無いことを物語っていますよ」

 

 あまりにも戦闘慣れをしていなかったので、つい説教のようなアドバイスをしてしまった。

 これでは逆上させてしまう結果になるのではと、自らの未熟さに歯噛みしていると、相手は意外にも落ち着いていて一人言のように話し出す。

 

「『確かに、まともな攻撃がこれしかできねえ俺じゃあ、本物のナンバーセブンには届かねえ。アイツならもう少しまともにアンタの相手ができていたはずだからな』」

 

 息を吐きながら言葉を続ける。

 

「『俺じゃアンタまで、攻撃を届かせることができねえが』」

 

 

 

 

 

 

「『ならば、私の攻撃は如何でしょう?』」

 

「ッ!!」

 

 その声を聞いた途端に女剣士の姿がブレる。

 そして次の瞬間、彼女が居たところに金属矢が数本現れた。

 神裂は修羅場を幾度も乗り越えてきた強者である。生死が隣に潜む戦場で培われたその直感はとてつもない精度を誇る。

 攻撃の種類が空間移動(テレポート)であることを看破した神裂は、すぐさま適応し力業による強引な方法で切り抜ける。追尾するかのように現れる金属矢を、彼女は目で追えない高速な動きそれを躱していく。

 そして、神裂も攻撃を受けるだけではない。

 

「──七閃──」

 

 その声と共に幾つかの斬撃が金属矢を放った少女に迫るが、少女の姿が一瞬で掻き消えた。それを見た女剣士と周囲に光ものを見つけた少女はそれぞれ確信する。

 

「『なるほど、その斬撃の正体は伸ばしたワイヤーですのね』」

 

「貴女の超能力は変身した相手の能力を、使用可能になるというものですか」

 

 お互いの能力を数度の攻防で見抜く両者。このことから、どちらも常人とは隔絶した実力があることが分かるだろう。

 

「まさか、肉眼で七閃を見破られるとは思いませんでした」

 

「『こちらのセリフですわよ。空間移動する速さより速く動くなど、とても同じ人間だと思えませんけれど』」

 

 お互いの実力を認めながらも、緑髪のツインテールの少女が動き出す。

 

「『その埒外の速さは厄介ですので───』」

 

 緑髪の少女の姿が一瞬で変わる。

 

 

 

 

 

 

「『卑怯なんて言わせないわよッ!!』」

 

 姿の変わった短い髪の少女から雷撃が飛ぶ。

 

「なるほど、雷速なら躱すことは不可能だと考えましたか。ですが、───七閃!」

 

 その声と共にワイヤーが高速で動いた。だが、それは余りにも電撃とは見当違いの方向に飛んでいく。悪手でしかない動作。しかし現実はそんな彼女の予想を超えていった。

 

「『ッ嘘でしょ!?』」

 

 少女が繰り出した雷撃の槍が突如方向を変え、明後日の方向に向かって飛んでいったのだ。

 

「『まさか、一ヵ所に何度も攻撃をして真空を作ったってこと!?』」

 

「ええ、貴方のその攻撃は私に通じません」

 

 その後に磁力を使ったコインの高速射出も叩き落とされた。その上砂鉄がなく、自爆技の超電磁砲(レールガン)も上条がいるため使うことができない。

 御坂美琴の能力は汎用性は高いが、機械類が近場になくアスファルトとコンクリートに囲まれた中では、十全に能力を行使することなどできはしない。

 とはいえ、高速で撃ち出されたコインを視認した後に打ち落とすことなど、普通はできないことである。

 

「『本当に第7位並み───いや、それ以上にめちゃくちゃね……ッ!』」

 

 離れたところにある金属性の物を、磁力で強引に引き寄せてぶつけるが難なく打ち落とされる。速さで言えばプロの野球投手並みの速さなのだが、聖人にとってみれば止まっているも当然であった。

 

「貴女にはそろそろ降参してほしいのですが」

 

「『そんなことすると本気で思ってんの?』」

 

 その言葉と共にまた少女の姿が変わる。相手をする神裂はその一瞬の隙を敢えて見逃した。

 神裂は彼女の怒りが正当なものだと思い、その攻撃の数々を正面から受け止めている。本当なら彼女の攻撃を受けることなく、最初の一撃で無力化することができた。しかし神裂はそうはしなかった。

 何故なら、大切な人が知らない人間に血塗れにされたら、誰だって憎悪を抱くに決まっているからだ。彼女にとってもし彼のことをただの後輩以上に想っているならば、この事から逃げる訳にはいかない。

 この非情になれない誠実さが神裂火織という人間の本質である。

 

 だが、任務があるためそろそろ終わりにするべきだろう。

 

「貴女には申し訳なく思いますが、私にもやるべきことが「えいっ☆」………………………………………………」

 

 今まで圧倒していた女剣士の動きが急に止まる。

 そして、お嬢様然とした緑髪の少女から、緊張を解すように大きく息を吐くのが聞こえる。

 

「『ふぅ~~~~。……なかなか危なかったわぁ。貴女が手加減してくれたお陰よぉ?

 敢えて、効かない物理攻撃を散々していたのは、私にそれだけしかできないと思わせるため。いくら戦い慣れていても、片手間にできる攻撃の対処を続けていたら、さすがに集中力が持つわけないものねぇ』」

 

「『でも、衝撃与えたりしたら、能力解除される可能性があるから恐ろしいんだけど。……そもそも効いてるのかしら?どちらかというと自分から殻に籠ったような気がするわねぇ。

 そこら辺のことはかなり気になるけど、能力の効果を確認する暇があるならすぐに離れたほうが建設的かしらぁ?

 というわけで、あなたを置いて上条さんを病院まで連れて行くわぁ。

 よいしょ、……ってええ!?体のバランスが全然取れないんだけどぉ!?さ、さすがのブリキ力、学園都市第1位だゾ☆……』」

 

 フラフラとした足取りをしながら少女は歩き出す。守り抜いた少年を肩に担ぎながら。

 

 

 

 

「ッ!!………………逃げられましたか。意識を断絶しても完璧に防ぐことは難しいようですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜の街をはぁはぁと荒く息をしながら歩く、少女の姿がそこにはあった。彼女の隣には右腕を切り刻まれた少年が意識を失っている。その状態の少年を肩で支えている少女は歩きながら思った。

 

 

 また巨乳かっ!!

 

 

 彼の精神構造はなかなかおかしな事になっていた。

 

 男から女に変わった弊害が、ここにきて現れ始めたのだ。

 

「(エルキドゥの顔は美形だけどさ。胸はそこまで大きくないわけよ。女になってから最初は特に感じなかったんだけど、生活していくうちに、巨乳を見てると嬉しさと切なさと苛立ちが出てきたんだわ。メタモルフォーゼが出来るから、逆に強く感じるようになったよ!コンチクショウッ!!)」

 

 そう。彼は巨乳を見て男として興奮する感情と、女社会で生きた経験からか、自分の胸と比べてしまい苛立ちが生まれる感情の、相容れぬ両方の感情を抱くことになったのだ。

 

「(ここ数日、貧乳や巨乳の両極端ばかり俺の前に出てきやがって!俺を無理矢理そのカテゴリーに、入れようとしてるんじゃあるまいな!(憤怒))」

 

 まあ、いい。それは百歩譲ってそれはいい。俺が今一番言いたいのはさぁ……。

 

 

 

 

 

 

 ヘソだし巨乳はさっき見たよ!キャラ被ってるんだよお前ら!

 あんな痴女みたいな服装してるから、お色気枠にされるんだぞ自称18歳め。

 

 こちとら、サーヴァントの身体能力してんだぞ?それに張り合ってくるんじゃねぇよ化け物か!?平気な顔して音速の世界ぶち破るなよマジで。

 空力使い(エアロハンド)やら発火能力(パイロキネシス)の能力を、刀の一振り(鞘あり)であっさり吹き飛ばしたのを見て、勝つのは無理だと思ったね。

 

 精神支配系最強のお目々しいたけこと、みさきちの能力を使うしか方法がなかった。効くかどうかは割りと賭けだったけど上手くいって助かったわー。……聖人って一応人間なんだな。

 でも、真似る体を失敗した。この体キッツい!燃費悪すぎ!サーヴァントの体力でここまで疲れるものか?

 

 でもまあ、神裂にも八つ当たりで悪いことしたな、とは思うんだけどさ。いろいろ我慢の限界だったんだよね。また今度会ったら謝るか。

 

「ぐっ……!」

 

 おっと、隣の上条が苦しそうだ。早く病院行かねえと。そのあとインデックスの回収だな。

 上条が血塗れに倒れていて「まあ、そうだろうな」とは思ったけど、実は軽く苛立ったのも本当だし。

 なんだかんだで先輩後輩の関係になったわけで、それに生前憧れた主人公だ。分かっていてもつい拳を握ってしまった。その結果、こうして逃げているわけだが。……情けねえなぁ。

 だが、これくらいなら構わないだろう。これからのことを思えば、こんなこと些事にしかならない。

 

 

 上条当麻の運命を決める戦いは、これから終盤なんだから。

 

 

 

 

 

 



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7.首輪

どうぞ


「くさりの料理はすごくおいしいんだよ!」

 

「そうかい?それはよかったよ」

 

 現在俺は神裂戦以上の死戦をくぐっていた。この食欲モンスターは満漢全席を作って満足するかと思いきや、さらにリクエストをしてきたのだ。

 

 腹の中にダイソンでも内蔵してるんじゃないのか?

 

「インデックスッ!!無事か!?」

 

 バンッ!と扉を開きながら大声を上げて上条当麻が部屋に入ってくる。俺にとっては救世主の到来だった。

 

「わあっ!?どうしたのとうま!?」

 

「やあ、後輩。怪我の具合は大丈夫みたいだね」

 

 上条を例のカエル顔の医者がいる病院に連れていき、パパっと体を治してもらった。原作なら三日間意識が戻らず寝たきりだったはずが、たった一日の入院となったのは上条にとって、有利な状況となったはずだ。

 

「えっ?インデックス?なんで普通にいんの?ていうか先輩まで?」

 

「君が怪我をして倒れていたから、僕が君を病院まで連れていったんだよ。その間君の代わりに彼女の面倒を見ていたのさ」

 

「怪我!?一体何があったのとうま!」

 

 昨日、何があったのか上条の口から伝えられた。話した内容は所々伏せながら、襲ってきた魔術師のことを説明していく。

 

「そんな……!とうまにまで接触してくるなんて!」

 

「まじゅつし?身体強化系の能力者かと思ったんだけど、そんな簡単な話でもないのかな?」

 

 と、小首を少し傾げて白々しくもとぼけながら、上条の話を聞いていると、何かを思い出したかのように扉に向かって行く。

 

「ッ!!わ、悪いインデックス俺ちょっと調べものにいってくる!」

 

「えっ!とうま魔術師に襲われたばかりなんだよ!?」

 

「少し出てくるだけだから大丈夫だ。先輩、インデックス頼みます!」

 

「後輩少しだけ待ってほしい」

 

 そうして、部屋から出て行こうとする上条を部屋に呼び止める

 

「先輩?」

 

「まずは食事を摂らないと力は出ないよ」

 

「いや、でも俺今急いでて」

 

「それに、僕は大能力者(レベル4)の能力者だ。ある程度知識は詰め込んでいるよ。何かを調べる前に僕に聞いてみてはどうだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、つまり彼女の脳は記憶の蓄積により、生命の危機であるということかい?」

 

「だから、そのための打開策を何か見つけないと……!」

 

 上条は沈痛な表情で、インデックスの抱える問題について語る。

 インデックスは10万3000冊の魔導書を記憶したことで、脳の容量を85%も占めてしまい、15%しか容量がないため、同じ組織の魔術師達が毎年消しているのだと。

 

「そんな……私のせいで皆が…………」

 

 自分のことに皆を巻き込んでいたことを知り、インデックスは心を痛める。だが、インデックスもいつかは知らなければならないことなのだ。苦しいかもしれないが耐えてもらう。

 

心理掌握(メンタルアウト)で試してみるという方法もあるけど、」

 

「ッ!!そうだ!アイツの力なら記憶の操作ぐらい簡単なはず!」

 

 原作を知りながらこんなことを、いけしゃあしゃあという自分に吐き気がするが、俺が改変したため上条当麻には食蜂操祈との記憶が残っている。そのせいで上条が食蜂の力を借りようとすると、大変なことになってしまうのだ。

 

「それはダメかも。魔術師でも危険なのに耐性がない一般人が、私の頭の中を見るなんて自殺行為なんだよ」

 

 そう。インデックスの頭の中には、魔術の原典が記憶されており、記憶を消そうとするだけで何かの防衛機能が働く恐れがあるのだ。原作でインデックスの原典を見ようとした闇咲逢魔が、少し覗いただけで全身血まみれになっている。神裂達のような正規の消去法でなければ、リスクがあまりにも大きすぎるのだ。

 

「くそっ!」

 

 上条は焦りをぶつけるように床を殴る。

 

「とうま、そこまでしてくれてありがとうなんだよ」

 

「ッまだだ!超能力が駄目でも科学なら……!」

 

 インデックスの感謝と共に、諦めても構わないと言外に言われても、上条は打開する方法を探し続ける。これが、主人公たる所以なのかもしれない。このままではまた外に飛び出してしまうので、ズルかもしれないが原作の知識をここでお披露目する。

 

「後輩。焦る気持ちは分かるけどまだ途中だよ。僕も超能力や科学での解決は不可能だと思うよ。何故なら彼女の死ぬ要因は、()()()()()()()()()()()()

 

 

「は?」

 

「え?」

 

 上条とインデックスが同時に声をあげた。

 

「ど、どういうことですか先輩」

 

「いいかい。もし完全記憶能力が一年で記憶の15%を占めてしまうのなら、完全記憶能力を持った普通の子は、五、六歳で死んでしまうことになる。だけど、僕はそんな症例は聞いたことがないんだ」

 

「「あっ」」

 

 二人とも驚いているが、これは原作の上条が導き出した答えだ。その事をまるで、自分で思い付いたかのようにいうのは、心苦しいがより良い結末のために耐えよう。

 自分で原作を変えたくないと言いながら、かつて食蜂操祈を助けに行ったりしたのは、やはりキャラクターに幸せになって欲しいからだろう。

 

「そもそも、人間の脳は百四十年分を、記憶出来るようになっているんだよ。さらに言えば意味記憶、手続き記憶、エピソード記憶の三つに記憶を蓄えるようになっていて、一年間過ごしたって物事を暗記する意味記憶ではなく、思い出を記憶するエピソード記憶に記憶されていくはずさ」

 

「……それじゃあ」

 

「インデックスが苦しめられているのは記憶の蓄積じゃない……?」

 

「操祈が心理系の能力者でなければ、僕も勉強していなかったよ」

 

 実際にみさきちから教えてもらい心理の勉強をしているのである。難しくて大半は分かってないけど。

 

「じゃあ、まさか……インデックスが苦しめられているのは……」

 

「彼女の動きを制限するための首輪だろうね」

 

 これが真実。インデックスの頭の中にある、魔導書を全て使うと魔神に届くとさえ言われていることからも、インデックスがどれだけ危険な存在か分かるだろう。だから、インデックスが離れられないように首輪を着けているのだ。

 この時点で胸糞な話だが、相手があの最大主教(アークビショップ)でお分かりだ。

 

「なんだよそれは!ふざけやがって!!」

 

 上条がインデックスにこんなことをさせる、組織のやり方に怒りを爆発させる。

 

「こんないたいけな女の子に、そんなものを暗記させるような組織だ。薄暗い部分があってもおかしくはないよ」

 

 そして、俺は窓の向こうからこっちを監視しているだろう、二人を思い浮かべる。

 

「ここからは彼らの領分だ。後輩の話を聞く限りでは、彼等は敵ではないのだろう?助力を頼むべきだと思うよ」

 

 

 

 

 

「そんな……それでは……今まで私達は騙されていたのですか……?」

 

 神裂達に分かるであろう合図を、同じ組織に所属しているインデックスから聞き神裂達を呼び出した。そして組織がインデックスにしていることを説明する。

 それを聞きこれまで身を削るようにしてきたことが、組織からの思惑通りに動かされてのものであることを知り、神裂は愕然としている。

 この前戦った時とは違い、その姿はとても弱々しいものだった。

 

「……」

 

 ステイル──赤髪で頬にバーコードの模様がある、二メートル近くある少年──は、無言ながらも険しい表情や握り締める拳から、どんな感情を抱いているのかを察することができる。

 おそらく、記憶を消す苦しみを抱かぬように、作業としてこなしていたのだろう。そのためその原因について詳しく調べることから、無意識に遠ざかっていたのだ。

 

「ああ、だからインデックスを助けるためにお前達の力がいるんだ」

 

 上条のインデックスのために、真摯に訴える態度を見て、ステイルは言葉を返した。

 

「関係ないね。彼女は今まで通りに記憶を消す」

 

「なっ!?」

 

「お前達のやり方で、確実に彼女を救うことができるのか?首輪が本当だとしてぶっつけ本番で試す気かい?その結果彼女にどのような影響が出るか分からないのもまた事実だろう。少しでも不確定要素があるのなら、僕はそれを一欠片も残さず殺し尽くす」

 

 その言葉はこれまでの彼の在り方そのものだった。インデックスを守るために手を汚し、守るために敵となって彼女を追い回す。全ては確実にインデックスを守る。ただそれだけのために。

 

「なるほど。良い覚悟だね」

 

 だから、この信念に敬意を抱きながら俺は言う。

 

「でも、彼女自身の意思を聞くべきじゃないかな?」

 

 そう言って俺は小柄な彼女の背中を押した。そして、思いの丈を彼女が言葉にする。

 

「ステイルもかおりも私のために、頑張ってくれてたんだよね。二人に辛いことをさせていたのは私のせいかも」

 

 被害者でありながらも彼女は責任を感じて、強い罪悪感を二人に抱く。そんな自分が何よりも罪深いと思いながらも、大きな瞳から雫をこぼして思いの丈を発露させた。

 

「でもね……私は、今の私を…………忘れたくないんだよ……っ!!」

 

「「ッ!!」」

 

 インデックスが悲痛な表情で紡いだ、心からの願いを聞いて、二人が奥歯を噛み締める。

 その言葉をどれ程聞いてきただろう。そして、何度そうしてやりたいと願っていただろうか。

 それから、数秒迷った末に赤髪の少年は髪を掻きむしりながら、胸にわだかまるものを吐き出すように言い放った。

 

「ああ…っ!ああ、分かった!分かったよ、ちくしょう!!他ならぬ君の願いだ!君を救うためなら矜持も、今までの自分の在り方でさえも否定してやるッ!!」

 

 インデックスを守るために全てを殺してきた男が、インデックスの願いを守るために、今までの思考回路を否定する。その矛盾は彼をどれ程苦悩させたのだろうか。

 だが、彼のインデックスのために戦う覚悟は、初めて決意したときから何一つ変わらないものだった。

 

「それじゃあ、インデックスに着いている首輪をぶっ壊そうぜ!」

 

「あっ、それは待った」

 

 やる気満々の上条に待ったをかける。

 

「え?何で!?」

 

「僕も分からないな。どうして今すぐにしないんだい?今も首輪は彼女を苦しめているんだぞ」

 

 男二人から疑問が上がる。ステイルの方は威圧気味なのだが。

 何でだよ。お前、直前まで反対派だったじゃん。

 

「僕達は彼女に着けられた首輪を外す手術をしようとしているんだ。なら、患者は執刀する医師のことを知っておいたほうがいいだろう?」

 

「執刀する医師って……」

 

 上条が数秒遅れて理解する。そして、彼が気が付いたということはこの場に居る他の人間に理解できない筈はない。

 ステイルは眉間の皺を深くして上から鋭い視線を向けてきた。

 

「情けのつもりか能力者。そんなものは不要だよ」

 

「ええ、私も一刻も早く彼女を苦しみから解放したいですから」

 

 ステイルは苛立ちと共に、神裂は冷静さを持ってインデックスのためになる決断をした。

 

「君はどうしたい?」

 

 だから、俺はインデックス自身がどうしたいかを聞くことにした。

 

「私も二人と話すべきだと思う」

 

「しかし……ッ!!」

 

「ううんっ、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そのインデックスの言葉で二人の行動が止まった。その言葉を受けることは、もうないことだと思っていたのだろう。今までのことを全ては精算は出来ないかもしれないが、これできっと何が変わっていくんじゃないかと思うんだ。

 

「部屋は僕の部屋に移ろう。これ以上小萌に迷惑はかけられないからね」

 



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8.つかの間の休息

遅くなりました。


「貴方は私達と過ごした時も好奇心旺盛で困りました」

 

「そうだね。自分が魔導図書館だと自覚しながらも、魔術を見ると解析しに行ったり、君は不用意に知らない人に近づいたりするから、側にいてヒヤヒヤしたものさ」

 

「むぅ~~。かおりもステイルもちょっと言いすぎかも!私だって見るからに怪しい人には付いていかないよ!」

 

 明るく楽しげな声が、とある木造建築のアパートの一室で交わされていた。それは、原作ではあり得ない光景だった。原作では最終日に上条が首輪を見破ったため、インデックスと彼等が話をする機会がなかったのだ。

 インデックスのために心を殺していた神裂火織と、ステイル・マグヌスがこれ程穏やかな表情をしたのは、もしかしたらインデックスの記憶を初めて消した時から、一度もなかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 そんなあったかい空間が出来上がっている中、俺は今何をしているかと言えば

 

「あの、先輩?一体何をしているんでせうか?」

 

「後輩と腕を組みながら街を歩いているんだよ」

 

 そう。上条と共に学園都市を二人で歩いていた。

 

「俺たちはインデックスの首輪を壊さないといけないから、外にいるのはまずいんじゃ?」

 

「おや?君ともあろうものがあの三人の空間を壊しに行くのかい?それに彼女の首輪を壊す決行の日は、翌日だと決まっただろう。なら、その時のために英気を養うのも君の役目だよ」

 

 などと言っておきながら、実は俺が上条と遊びに行きたかっただけである。上条は誰かを助けるときは間違いなくヒーローなのだが、男友達として付き合っていくとノリが良いし、交友関係が広く様々な場所を知っているため、一緒に居て結構面白いのだ。

 その上、必ず何かしらのハプニングが起こるところが堪らない。(愉悦)

 

「それとも、僕が相手では不満かな?」

 

「いやいや!そんなことはないですよ!ただ俺が相手で良かったのかなーって」

 

「君だからいいんだよ」

 

 からかった反応も面白い。一緒に居てここまで楽しく感じた相手は、今までいなかったんじゃないかと思うくらいだ。それぐらい上条の行動は新鮮で、一挙手一投足が楽しみでならない。

 上条と色々な所を赴きながら街を適当にぶらぶらする。そうすると、街中であるため当然知り合いに会う可能性が高い。例えば上条のヒロインの一人とかにね。

 

「アンタその女とそういう関係だったの?」

 

 壊れた自動販売機の側を歩いている俺達に、声をかけてきたのは、超能力者(レベル5)超電磁砲(レールガン)こと御坂美琴だ。

 彼女の周りには彼女と仲が良い三人の友人がいた。推測するに遊びに出掛けている最中なのだろう。

 

「あれ?御坂さんのお知り合いですか?」

 

「そうなんですの?」

 

「うん、そうだよ。実は彼女とは昔からの友人でね」

 

「へぇ~そうなんですね!」

 

「いやいや、違うから!佐天さん騙されてるからね!?ていうか、アンタも何平然と嘘ついてんのよ!!」

 

 そんな風にみこっちゃんを弄って遊んでみる。やっぱりツッコミの才能あるよなぁ。話していて面白いよねこのツンデレっ娘は。

 

「僕と君との仲だろう?」

 

「会ったのこれでまだ二回目でしょ。…………アンタって思った以上に相手をしていると大変ね……」

 

 みこっちゃんが疲れたように言った。ごめんね弄るのが楽しいんだ。そういえば、まだ彼女達に名乗ってなかったな。

 

「僕の名前は天野倶佐利だよ。よろしくね」

 

「佐天涙子です」

 

「初春飾理です」

 

「ッ!まさかあなたがあの噂の!?」

 

「……ええ。多分ね」

 

 二人と握手しながら挨拶をしていると、オセロが俺の名前を聞いて驚いていた。常磐台に通っているみこっちゃんと、オセロこと白井黒子は俺のことを知っているのだろう。

 すると、手をピンと挙げて明るい声を発しながら佐天さんが質問してきた。

 

「はいはい!お二人はお付き合いをされているのでしょうか!」

 

「ち、ちょっと佐天さん!初対面の方に失礼ですよ!」

 

「いや、後輩は僕の恋人ではないよ」

 

 上条との仲を、興味津々な目で見ていた佐天さんが尋ねてくる。そんな彼女の質問を一切動揺せずに、平然とした態度で答えながら内心思った。

 

 

 佐天さんめっちゃカワイイ

 

 

 明るくて、気さくで、空気読めて、友達思いの女の子って最高じゃない?黒髪ロングで裁縫から菓子作りまで家事が出来るとか男の理想だわぁ。実は能力が無能力者(レベル0)であることを気にしてるとこもポイント高いよね。

 

「距離感が近いので私てっきりお二人は、お付き合いをなさっているかと思いました」

 

 この激甘ボイスは「う~い~は~る~!」で、佐天さんにスカートめくりされる初春じゃないか!頭に多くの花飾りを載せている彼女は、小柄なこともあってかインデックスに似た雰囲気を感じさせる。

 まあ、さっきも佐天さんにツッコミを入れてたけど。

 

「ふふっ。これぐらいの距離感は普通だよ」

 

「いや、その距離感は普通じゃないでしょ」

 

「私も見ていて顔が熱くなっちゃいました……」

 

「もしかしたら、中学生には少し早かったかもしれないね」

 

「ほほう!高校生では当たり前なんですね!」

 

「佐天さん誤解しないでください。違いますわよ」

 

 冷静に返事をしながら、うっすらと頬に赤みが差しているみこっちゃんや、俺達を見て顔全体を赤くしている初春を見ていると、そういえばまだ中学生だったなぁと感じる。佐天さんの高校生に求めるよく分からん大人っぽさも、中学生らしいのかもしれないな。

 

「まあ、後輩に特別な感情を抱いている君からすれば、いい気分ではなかったかもしれないね」

 

「「そうなんですか!御坂さん!」」

 

「そうなんですのぉお!?お姉様ぁ!?」

 

「んなわけないでしょうが!!」

 

「ちょ、馬鹿!うおッ!?」

 

 みこっちゃんが遂にキレた。

 倒すべき敵と認識している相手をそんな風に言われたら、確かに気に入らないのかもしれない。だけど、さっき言った特別な感情を抱く相手に、すぐになるから許してほしい。

 それにしても流石は上条。よく今の不意打ち気味の電撃の槍を防げるものだ。しかも、しっかりと俺を守るような位置取りをしているし、俺が女だったら惚れてたな。

 

「えぇっ!?」

 

「お姉様の電撃を打ち消しましたの!?」

 

「相変わらず意味が解らない右手ね」

 

 驚愕する彼女達を見て、その反応を楽しみながら胸を張った。フフフフ。どうだ、すごいだろう!これが主人公だ!

 

「まさか、こんなところで『どんな能力でも効かない能力を持つ男』に会えるなんて!」

 

「……お姉様、街中での能力の使用は、止めていただきたいのですが」

 

「うぐっ!?わ、悪かったわよ」

 

「あなたがたも公共の場で、あまり過激なことはしないようにお願いします。風紀委員(ジャッジメント)として風紀を乱す人は、取り締まらなければなりませんので」

 

「ありがとう。覚えておくよ」

 

 そう言って彼女達と別れる。初めて佐天さんと初春に出会えて、内心ホクホクしながら家に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、すごくラブラブなお二人でしたね!」

 

 腕を組んで去っていく───正確には緑髪の少女に腕を掴まれ少年が引きずられている───彼女達を見ながら隣の佐天さんは呟いた。

 

「え?でも、付き合っていないとおっしゃっていましたよ?」

 

「もう馬鹿だなぁ、初春は。あんなの照れ隠しに決まってるじゃん」

 

「そうでしょうね。流石にただの先輩後輩の距離感ではありませんでしたし、少なくともあの方はそれ以上の感情をあの殿方に抱いていますわね」

 

 うーん。確かに、私も嘘なんだと思うけど照れ隠しをするようなキャラかぁ?どっちかっていうと、恋人という関係性を全面に押し出してきて、こっちをからかってきそうな気がする。アイツもなんか戸惑ってたし。

 

「あんなにキレイな人に会えるなんて、今日は運がいいのかなぁ」

 

「あら、美しさではお姉様のほうが優っていますわよ」

 

「黒子」

 

「あははは……。御坂さんもお綺麗ですけど、天野さんはいろいろ濃かったですよね」

 

「うんうん、あの膝元にまである艶やかな淡い緑の髪に、儚げな笑顔。さらに僕っ娘で高校生のお姉さんだもんね!」

 

「そう言われるとあの人本当にキャラが濃いわね。しかも、元常磐台出身の大能力者(レベル4)らしいわ」

 

 そう言うと、二人が呆然とした顔になった。

 

「本当に凄い人なんですねぇ……」

 

「やはり、あの方が……」

 

「そうみたいね」

 

 私が言った情報でさらに驚く佐天さんと初春さん。まあそうよね、それにいろいろ加味すれば私よりも希少な存在だし、それこそ超能力者(レベル5)の候補にもなってるらしいのよねあの人。私でも知ってたくらいだし、黒子は黒子であの人のことを噂で知ってるみたいね。

 

「うん?あの人がどうかしたんですか?」

 

「そういえば、さっきも噂とか言ってましたよね?」

 

「ほら、以前話したでしょ?【どんな能力でもコピーする能力をもつ女】の都市伝説」

 

「ええっ!!もしかしてあの人が!?」

 

「私も人に聞いたぐらいで詳しくは知らないわよ?でも、噂によると本当にいろいろやってるみたいね」

 

「ええ、聞いた話によると常磐台で嘗て一大派閥を作ったのがあの方らしく、次の女王に一年生だった食蜂操祈を指名したのも彼女だとか。

 さらには、常磐台を離れて歩き回ることもほぼ毎日なさっていて、一時期は風紀委員(ジャッジメント)の活動もしていた、なんて噂もありましたわね」

 

「食蜂操祈ってあの超能力者(レベル5)の人ですか!?」

 

「げっ!あの女とも知り合いなのあの人……」

 

「御坂さんは知らなかったみたいですね」

 

 あの女と関わりがあるなんて聞いてないんだけど。確かに、あの女とは違ったやりにくさがあの人にはあったわね。

 

「でも、派閥なんてものを作っていたことや風紀委員に居たことは知ってるわ」

 

「実際には、ちょっと手伝いをしていたぐらいらしいですわよ。固法先輩がそう言っていました。」

 

「へえ~、行動力のある方なんですね。見た目は深窓の御令嬢って感じでしたけど」

 

「そうだよね。話を聞くと御坂さんと、さっき言ってた食蜂さんを合わせた人みたいだよね」

 

「なぬっ!?」

 

 その聞き捨てならないセリフに食い付く。その言葉に初春さんが納得するように言った。

 

「あー、確かに。常磐台の中で初めて派閥を作るとこは食蜂さん。学舎の園から出ていろいろとするのは、御坂さんの先駆けと言えるかもしれませんね」

 

「ね?でしょ!でしょ!」

 

「ぐぬぬぬぬ……」

 

「お姉様、淑女としてその反応はどうかと思いますわよ」

 

 あの女といっしょくたに扱われるのは気に入らないが、そう言われればそうかもしれない。というか、派閥を作りながらどうやって学舎の園から出る時間を作ったのだろうか。

 

「ああー、もう!ゲーセン行きましょゲーセン!パーと遊ぶわよ!」

 

「はあ……。お姉様にはそんなものより、お琴やお裁縫のほうが似合っておりますのに」

 

「ないない。あり得ないわよ。私そんなことしても全然楽しくないし。どうせなら、みんなで楽しめたほうがいいじゃない」

 

 そんなことをしゃべりながら、四人でゲームセンターに向かい私達は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌日。木造のアパートの一室で床に伏せる女の子を助けるために、数人の戦士が自分の得物を構えていた。

 

「準備はいいか上条当麻」

 

「ああ!インデックスを助け出す!」

 

 二人の言葉の応酬によって、インデックスを助け出すための作戦が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 



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9.竜の殺息

9話です。


「彼女の知識もあり、すでに首輪の位置は特定しています」

 

 そう言って神裂は、寝ているインデックスの小さな口を開けた。覗いて見ると、奥に数字の4に近い形をしている、禍々しく光るものがあることが分かった。

 

「これに君が触れることで首輪は解かれるが、何かしらの防衛機能が働くだろう。覚悟はいいかい?」

 

「ああ、ここにいる時点で、とっくにできてる」

 

 そう意気込み拳を強く握る上条当麻。その背中には、これから自身に降りかかるであろう可能性への恐怖はなく、ただ目の前の少女を救うためだけに、全ての意識を向けていた。

 

「とうま……」

 

「安心しろって。俺達が絶対に助けてやる」

 

「……うん。分かった」

 

 不安そうなインデックスを見て元気付ける上条当麻。身を任せるインデックスに、上条の右手の指が彼女の口の中に入る。数センチメートル進んだところで奥にある数字に触れた。その次の瞬間、

 

 バキンッ!!と何かが壊れる音とともに、上条が大きく後ろに吹き飛ばされる。そして、目の色が変わった魔導図書館(インデックス)が動き出した。

 

───警告───

 

 魔術を使えないはずのインデックスが言葉を紡ぎ、魔術の陣を空中に描いた。その陣の隙間から何かしらの魔術が発動するのか、光が一点に集まっていく。

 インデックスの変わり果てた姿を見ながら、上条はこの光景に至る前の出来事を一つ一つ思い出し、そして誓いを立てる。

 

「(神様。この世界がアンタの作った奇跡(システム)の通りに動いてるってんなら───)」

 

 

 

「───まずは、その幻想をぶち殺す!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 築何十年の木造アパートの一室に、上条当麻とステイル・マグヌス、神裂火織の()()が首輪を破壊するために集まっている。あの三人ならば原作通りに、インデックスを首輪から解き放つことができるだろう。

 ───上条の死とともに。

 

「(これも、世界の修正力ってやつなのかね)」

 

 そんな中、俺は一人アパートの外に立っていた。何故ここに立っているのかというと、一昨日インデックス達三人と別れる際に、ステイルにこう言われたのだ。

 

「君は彼女の首輪を破壊するときに、その場に立ち入らないでくれ」

 

「……どうしてだい?」

 

「君達は知らないかもしれないが、魔術と科学は不可侵の関係なんだよ。やつはこの街で何も能力を持たない人間と認識されていて、何より彼女の首輪を破壊するために必要だが、君はそうじゃない。回り回って戦争の引き金になる可能性がある以上は、不用意に関わらせるべきじゃないのさ」

 

 ステイルはそう言って俺を今回のことから遠ざけた。ステイルの判断は間違えていない。実際に、シェリー・クロムウェルは学園都市と魔術サイドが近づいたことで、彼女は大事な親友を一人失っているのだから。

 そして、上条当麻が魔術と関わり過ぎたせいで、第三次世界大戦が起きてしまったのも又事実。俺が介入すれば悪化してしまい、原作からどんどん遠ざかってしまうだろう。

 俺としては原作崩壊せずに名場面が見ることができる、最高の条件が整ったはずだ。

 

 

 

 はずなのだが。

 

「(モヤモヤするんだよなあ)」

 

 これはキャラクター達に関わりすぎた弊害だろう。俺は上条やみさきち、みこっちゃんと言った、あの面々が少しでも幸せになってほしいと思う。

 会話をして触れあったため、キャラクター達のことを以前よりも好きになったのだ。そのことが間違っているとは思わない。

 だって、とあるの物語が好きだったのだ。その登場人物達と会えて話が出来たら、もっと好きになるのは当たり前だろう?

 

「(分かってる。今原作が崩壊すればきっと上条は生きれないし、コロンゾンの糞野郎が世界を滅ぼしちまうんだ)」

 

 上条は常に死ぬか生きるかの戦場を越えてきた。少しでも何かが狂えば、命を落としていた場面が何度もある。そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()上条はとっくの昔に死んでいたかもしれない。

 これは、ifの話だが全くないとは言い切れない。上条がインデックスを絶対に守るべき存在として認識していなければ、上条の命はどこかで終わっていた可能性があるのだ。これは行き過ぎた妄想として普通は切り捨てるだろうが、右手の特異性よりも精神の強さで生き抜いてきた上条にとって、その違いは致命的なのだ。

 

「(上条を助けるために今の上条を殺す、か……。打算で命を天秤にかけるとか最低の考え方だな。やってることがアレイスターとまるで同じだ)」

 

 内心でそう毒を吐く。だが、今の俺には実はそこまでの拒否感はない。

 それは、俺はこの世界に産まれて、生きてると実感したことが一度もないのだ。エルキドゥの体になってから自分自身の人格を表に出せたことはなく、常にエルキドゥや体を変えたキャラクターの、言動を介してしか会話をすることができないからだ。

 

 (これじゃあ、まるでロールプレイだよな)

 

 その上、体は能力で好きなように変えることができてしまう。俺はこの体をゲームのアバターのように感じていた。だから、キャラクター達を弄ったりして遊ぶのは、愉悦の心もあったが何よりも、生活に変化がほしかったのだ。

 上条達を友人とは呼ばないのは、彼らのことをどこか生きた人間だと思えないからだ。原作知識と時間割り(カリキュラム)のせいで、キャラクター達は原作通りの反応をする。そのため、決まったアルゴリズムで動くAIに見えてしまっているのだ。そのせいか、生死の価値観も生前と比べるとどこかズレてきている。それこそ、最初に恐れていた木原一族も、今では大した興味がなくなっていた。

 

「(そうだ、この状態を言い表す言葉があったな。確か───シミュレーテッド・リアリティ)」

 

 実際のシミュレーテッドリアリティとは、おそらく違うと思うが。神の特典で何不自由することなく生活ができて、見事に知ってる場面に出くわし、出会った人達をもしかしたら本人以上に知っている。

 何か変化を求めても原作を大幅に外れては、世界が滅亡するかもしれないからそれもできない。だが、キャラクターをキャラクターとして愛することはできた。そう思われることは彼らにとっては業腹ものだろうが、俺の唯一の楽しみだった。

 そんなことを思っていると、俺の部屋から一条の光線が、夜空に向かって天高く貫いていく。そこで俺は悟った。

 

「(今の上条とこれでさよならか……)」

 

 この世界で人の生死の認識が、緩くなっているのにも関わらず、感傷に浸れるだけまだましなのかもしれない。どこかで上条のここで記憶が失っても、今の上条と記憶を失った上条は何も変わらないと思っているのだろう。

 なぜなら俺は知っているんだ。今の上条と原作の上条は、大してその在り方が変わっていないことを。

 知らぬ間に沈んでいく気持ちを払うかのように、青白い光が俺を照らす。その光は俺を断罪する清浄な光のようにも───

 

「おや?この光は……」(うん?この青白い光ってどっかで……)

 

 そして、俺のすぐ真上に、青白い光を出す羽が舞い落ちる。

 

 

 ───竜の殺息(ドラゴンブレス)の副産物である()()()が。

 

 

 (は?)

 

 今さら気付いても、もはや何もすることは出来ない。一歩も動くことすら俺には出来ず、ひらひらと光の羽は導かれるように、俺の頭に目掛けて落ちてきた。

 

「ぐっ……!」(ちょっ!ちょと待っ──あばぁ!?)

 

 そうして、俺の意識は散り散りに吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 真エーテルというものを知ってるだろうか?

 FGOユーザーでも詳しいことはよく知らない、あの真エーテルである。真エーテルとは神代の魔力の名称であり、それ以降の時代の人間では毒にしかならないエネルギーである(らしい)。

 あのアーサー王ですら身に宿せば、死んでしまうほどのものだ。

 『すまない』で有名なジークフリートのバルムンクには、その真エーテルが内蔵されている。

 つまり、ジークフリートの活躍した5世紀から6世紀では、真エーテルはまだ存在していたのだ。そして、聖ゲオルギウスの活躍した時代は、さらに神代に近い約3世紀の時代だ。

 さて、その竜だが当然神話を生きた生物である。ならば、その体には神代のエネルギーが、蓄積していても不思議ではないだろう。

 そして、そのブレスに微量だとしても真エーテルが含まれてあったとしても、あり得ないとは言えないのだ。

 もし、神代の兵器に真エーテルが宿ればどうなるか。彼女はおもむろに立ち上がり、言葉を発する。

 

 

 

 

()()()()()。今ここに起動した」

 

 

 

 

 誰一人いない科学の街の一画で、神の兵器が動き出す。

 

 

 




上条当麻とオリ主にとって分岐点の話でした。


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10.神造兵装

物語がこれからどうなるのか。
では、どうぞ!


救われぬ者に救いの手を(Salvere000)!!」

 

 襲い来る竜の殺息(ドラゴンブレス)を、インデックスの床をずらすことで神裂が上空に反らす。その隙に猛攻を潜り抜けインデックスの頭に向けて上条が右手を伸ばす。魔導図書館が迎撃しようと試みるが、その前に上条の右手が触れた。

 

───警、こく。……『首輪』の致命的な破壊……が…………修復、不可……───

 

 異能が砕け散る音がしたあとに、魔導図書館の動きが止まり、首輪が破壊されたことを理解する。しかし、インデックスに竜の殺息(ドラゴンブレス)の残骸である竜の吐息(ドラゴンブレス)が降り注ぐ。

 

「気を付けてください!その羽の一枚一枚が聖ジョージのドラゴンの一撃と同等です!!」

 

 上条はインデックスを守るために右手を伸ばすが、羽が右手を避けるように舞い降り、上条の頭に直撃する。

 

魔女狩りの王(イノケンティウス)!!」

 

 即座にステイル=マグヌスが部屋に降り注ぐ光の羽を、一枚残らず外に吹き飛ばす。

 

「少年!」

 

「おい!能力者!」

 

 すぐさま近寄り呼び掛けるが、反応がない。

 

「神裂、すぐにそいつを病院に連れて行け!回復魔術は効きはしないぞ!」

 

「ッはい、分かりました!インデックスのことは任せま──ッ!?」

 

 意識の無い上条を担ぎ、飛び抜けた身体能力で病院まで送ろうとしたその瞬間、神裂の背筋に凄まじい悪寒が走り抜ける。

 

「(このプレッシャーはッ!?聖人と同等…………いや、()()()()()()()()()()()!!)」

 

 冷や汗を流しながら愛刀の『七天七刀』を握りしめ、上条を下ろし玄関に向かって走り抜ける。

 

「神裂どうし──何ッ!?」

 

 遅れてステイルが気付いたようだが、気にしてはいられない。神裂はマンションの通路から、たった一人きりで地面に立っている緑髪の少女を、注意深く見下ろす。今までの少女とは、決定的に何かが変わったことを肌で感じながら、探るように神裂は問いかける。

 

「貴方は何者ですか」

 

 神裂が全神経を研ぎ澄ますのに対し、彼女は自然体で返した。

 

「───僕は天の鎖。神と人とを繋ぐものだよ」

 

 その態度は余裕の現れのようでもあり、そう答えるようにあらかじめ設定されているようでもあった。その感情の読みにくさは彼女と同じように感じるが、まるで無知な子供に言い聞かせるような声音だ。

 彼女と観ている視点が全く違う。その事に気付いた神裂は刀を振るうため構えをとった。

 

 

 

 

 

 

 

 神裂火織は世界に二十人程しかいない、聖人の一人である。聖人とは魔術師が何百人と束になったとしても、まとめて相手にして無傷で勝ってしまうような埒外の存在だ。

 

 

 だからこそステイルは、()()()()()()()()()()()()()少女を見て自らの眼を疑った。

 

 

「ば、馬鹿なッ!?どんな能力者だったとしても聖人相手に身体能力で渡り合える筈がない!!」

 

 鞘付きの刀と拳を数合交わした後、神裂が大きく距離をとる。

 

「この気配から察するに、神降ろしの一種でしょう。ならば、爆発的な身体能力の上昇も納得できます」

 

 冷静に分析しながらも、打ち合った衝撃の重さに警戒心をさらに上げる。

 

「(彼女の体のことを考え、すぐさま意識を飛ばそうと考えましたが余りに浅慮でしたか……ですが、時間はかけられない……!)」

 

 彼女が能力者であることから、時間をかければかける程、魔術の拒否反応が出てしまう。もし、魔力が彼女の中で生成されているのだとしたら、幾ばくの猶予も無い。

 

「(おそらく、魔術の起点は彼女の()()()()()()()()()()())」

 

 以前にはなかった刺青を戦闘中に見つけ、すぐに魔術的な要素を兼ね備えたものだと看破する。

 

「(刺青は元々、炎の灰や煤を使い体に描いていました。ならば、魔術の発動条件は炎をその身に浴びること。

 ……まさか、先ほどステイルが光の羽を吹き飛ばすときに使った、魔女狩りの王(イノケンティウス)の火の粉ですか!?)」

 

 神裂は自分達を攻撃するために、彼女が魔術師に利用されたと知り、奥歯を強く噛み締める。上条とインデックスの無事を祈っていた彼女を、こちら側の都合に巻き込んでしまったことを心底悔やんだ。

 こちらの都合で彼女を遠ざけることになったため、屋外から彼らのことを見守ることに許可をして人払いから彼女を除外したのだ。

 だが、その甘さを付け狙われた。

 そんな未熟な自身に怒りを抱きながらそれでも思考を回す。

 

「(彼女が使われた魔術は、刺青を通してその身に何かを降ろし、指向性を与え私たちを襲わせると言うもの)」

 

 しかし、それならば彼女の現状は余りにも不可解であった。

 

「(刺青は魔除けや魅力の一種として、効果は薄いながらも魔術で使われたりもしますが、世界的にポピュラーなのは回復魔術としてです。刑罰として使うことも出来ますが、条件が多く指向性は与えづらい……。

 何より刺青は憑依させることよりも、加護をその身に宿す方法として魔術では使われる)」

 

 目の前にいる少女の右手を観察する。

 

「(ルーン文字とも違う紋様で、どこの魔術系統なのか私でも理解することが出来ない。ですが、何よりも異質なのが右手の甲にしか刺青が見えないこと。火の粉が発動条件ならば服の中には無いはず。

 あの小さな刺青だけでこれほどの力を出せるなど、どう考えても有り得ないのですが……)」

 

 

 

「もういいかな」

 

「ッ!!」

 

 悠然と立ちながら、まるでこちらの分析が終わるのを待っていたかのように言った後、彼女に憑依した何者かは神裂に攻撃を仕掛けてくる。神裂は繰り出される拳を咄嗟に刀で受けとめ、そして衝撃を後方に受け流す。

 神裂火織は聖人の力を有しているが、力に溺れずに技を磨いてきた。そのため、聖人の膂力抜きでの剣術は達人の域にある。

 その彼女からすれば、真正面から向かってくる力を受け流すなど朝飯前だ。

 

「(いくらその身に超常の力を宿していたとしても、単調な動きならば御しやすい!)」

 

 このまま行動パターンを把握し、聖人の力で押さえつけたところを少年のあの右手で触れる。

 あの魔術の原理は未だに分からないが、異能を問答無用で打ち消すあの右手ならば彼女を救う唯一の突破口となるはずだ。

 

「(意識の無いあの少年には悪いですが、ステイルに体を運んで来て貰わなくては──)」

 

 この時神裂は今まで膂力頼りの攻撃しかしなかったために、少女の体に入り込んだ存在は戦いの知識は無いものだと思っていた。彼女がそう考えたのは自然である。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「──ガハッッッ!?!?」

 

 ミシ、ミシ、ミシィッッ!!!!と、意識の外側から横腹に向けて強い衝撃が加えれる。

 神裂の体が横から掬い上げられるように吹き飛ばされ、そのままノーバウンドで五十メートル程、空間を裂くように突き進む。

 その最中、空中で体勢を整えた神裂は地面に着地と同時に、人払いの魔術を広範囲に渡って使用した。

 ジクジクと横腹に感じる痛みに耐えながら、先ほどの地面から出現した鎖を思い浮かべる。

 神裂には少女がしていたのは地面に手を着いていることだけだったはすだ。

 

「(ぐっ……!まさか、戦闘の駆け引きまでしてくるとは……。あの緑の波紋は地中に埋めた武器を、置換魔術で取り出すときに起こる空間の揺らぎですか……!)」

 

 超常の存在といっても様々なタイプがいる。天使のような人類には許容することすら出来ない、莫大なエネルギーで押し潰してくる存在や、言葉で人間を拐かし堕落させるような存在まで多岐にわたる。

 だが、力を持った高次元の存在は総じてその身に宿る魔術を使い、物量で殲滅するやり方に類似していくものだ。わざわざ、遥か格下に合わせる必要はないのだから。

 

「(あの動きはこちらの油断を誘うためのもの。いくら隙を突けるからと言って私などに一瞬でも侮られることは、超常の存在にとって許容できない屈辱となるはずなのですが……)」

 

 思考を回すが核心的な理由が見付けられない。しかし、三秒もしないうちに彼女の中にいる人智を超えた存在は、神裂の居るところまでやって来る。

 その態度は極自然でありながらも一切の隙がなく、その立ち振舞いからは圧倒的強者特有の傲慢さは微塵も見受けられない。

 

「戦闘のための準備は終えたようだね」

 

「(ッ!人払いの結界が張り終えるまでの時間を、私に与えたのですか!)」

 

 神裂がそのことを理解したとともに、とてつもない速さで緑髪の少女が飛んでくる。その速さは神裂が居る聖人の世界である音速の速さだ。

 いつの間に武器を手にしたのか、大きくその左腕を既に振りかぶっていた。

 

「──チィッッ!!!!」

 

 その速さに意表を突かれながらも、思考するよりも先に体が動き防御をする。

 

 ガキィッッ!!!!と、鈍い音を鳴らしながらその攻撃を七天七刀で防げば、彼女達を中心に大きな衝撃波が周囲に振り撒かれた。その影響で周囲にあるビルのガラスは砕け散り、街灯はへし折られる。

 神裂は愛刀である七天七刀を強く握り、相対する敵の左腕を見て眼を見開いた。

 

「う、腕が剣にッ!?」

 

「君の戦い方に合わせてみたんだ」

 

 姿を変えて変身した他人の能力を扱うことが、彼女の超能力のはずだ。つまり、彼女自身のまま腕のみを剣に変えることは彼女の扱う能力のそれではない。

 ならば、憑依した者の魔術であるのか?……いいや、それは違う。

 なぜなら、もし目の前の存在がそんなことをすれば、彼女の体は既に見る影もなく壊れているはずだからだ。

 現代の魔術ですら耐えられない彼女が、遥か昔の魔術や位相が異なる存在の魔術で体の構造を変えれば崩壊するのは必定。

 

「(どちらにせよ、彼女の安全を得るには目の前の存在を打倒するしか道はない。魔法名にかけて彼女をこちらの世界に引き戻す!)」

 

 七天八刀の柄を掴み直した神裂は、相手を聖人クラスだと認識して自らの秘められた力の一端を解放する。世界に二十人と居ない『聖人』の力は強大であり、その気になれば音速の世界で活動することができる事実からもそれは明らかだ。

 その聖人の本気が解放された。

 

「ハァァアアアアアッッッッ!!!!!!」

 

 そこからは、目にも止まらぬ剣撃の嵐だった。

 両腕が剣に変化したり触れた地面から、槍や斧が現れたりする変幻自在な攻撃を、七天七刀でもって防ぎ、住なし、躱し、そして叩き伏せる。

 その一つ一つの衝撃で大気が震え、鋼鉄の壁に鉄球をぶつけたような凄まじい轟音が、何度も閑散とした道路に鳴り響いた。

 その応酬が100を超えた辺りで神裂は後ろに下がる。

 だが、それは神裂の意思で判断した後退ではない。純粋な力負けで単純に神裂は吹き飛ばされたのだ。

 

「(くっ……!今の応酬はまるでこちらの動きに敢えて合わしたかのような動きでした。最後の一撃からして膂力は明らかに相手のほうが上のことからもそれは明らか。

 ……まさか、自身の性能を測るための実験台にされた!?)」

 

 聖人をただの腕試しにするなどどうかしている。目の前の存在は神裂同様、力だけではなく高度な戦闘技術を有している。

 それも神裂を遥かに凌ぐレベルで。

 

「聖杯からのバックアップはないみたいだね。そもそも、聖杯の気配を全く感じられない。それなのに、僕の中にある()()()()()()()は一体何なのかな?」

 

 眉を少し下げ、儚げな雰囲気を出しながらナニかは疑問を口にする。だが、すぐに表情が変わった。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 そんな淡白な言葉の後に、地面に手を着くと二十メートルに渡る緑の波紋が現れ、神々しい光が空間に溢れだす。その中央にいた存在は無表情で見下すようにこちらを眺めていた。

 

「…………そん……な…………馬鹿な…………」

 

 聖人の神裂にはこれが神の力(テレズマ)だということが分かった。だが、テレズマの量が明らかにおかしい。魔術サイドが計算した天使の推量を遥かに上回る程のテレズマだったのだ。

 だからこそ、神裂はこの力が解き放たれば学園都市が跡形もなく消滅することを正確に弾き出した。

 

 そして、自分が持つ手札では余りにも不足していることも。

 

 もう攻撃までの猶予はなく聖人の速さでも間に合わない。例え、この命を捨てても被害を無くすことはできない。

 

 迎撃不可能───

 

 防御不可能───

 

 回避不可能───

 

 神裂が聖人として、魔術師として導き出した答えはそんな無慈悲なものだった。何かしようとするも何一つできない。

 彼女にできたのは、七天七刀の柄を握りしめることだけだった。驚愕、義憤、畏怖といった様々な感情が胸を締め付けながら、そのどうしようもない終わりがやって来る、まさにその瞬間───

 

 

 

 

 世界に襲い掛かろうとした猛威の一切が消え失せた。

 

 

 

「……………………は?」

 

 神裂は今まで抱いていた感情が吹き飛び、思考が空白となった。どうして今の攻撃を止めた?何か問題が?神裂の思考が疑問で埋め尽くされていると、彼女の中にいる存在は口を開く。

 

「受肉した状態と言う珍しい戦闘につい夢中になってしまった。僕と打ち合える存在は珍しいからね。少しばかり羽目を外し過ぎたよ」

 

 先ほど猛威を振るおうとした存在とは思えないほどに穏やかな声音が、逆に神裂の不安を煽る。

 

「それと安心してほしい。戦闘は終了するよ」

 

「…………その言葉を信じろと?」

 

 神裂としては当然の警戒だ。だが、その警戒がまるで意味が無いかのようにその存在は穏やかな声音で口を開いた。

 

「最後の攻撃を除けば周りに被害を出さず、君一人だけを狙っていただろう?破壊することが目的ならそんな真似をわざわざすると思うかい?」

 

 神裂は臨戦態勢をとったまま思い出す。先ほどの攻撃以外では、どの攻撃も殺意や敵意が全く感じられなかった。それどころか、どこか手を抜いていたようにも感じる。

 それこそ、思い返してみれば目の前にいる存在は、人払いの結界が張り終わるのを待っていたではないか。

 

「……貴方ほどの存在が何故、周囲のことを気にかけるのですか?」

 

 これほどの人間を超越した存在ならば、人間の命も人類が育んできた文化も、等しく無価値に見えるはずなのだ。

 そのため破壊することに呵責はなく、私を倒すためだけに周囲を更地にすることも平然とするはずだ。それを聞いた少女の中に入り込んだ存在は、どこか飄々とした態度で答える。

 

「僕はあくまでこの体の性能を確かめているだけだからね。木々や人の営みを破壊したいわけではないんだよ」

 

「……彼女の体から出ていくつもりはないのですね」

 

「出ようがない。と、答えるのが正解かな」

 

「何ですって?それはどういうことですか?」

 

「彼……いや、彼女は僕と身体的特徴が似すぎたんだ。そして、彼女と僕の間に魔術のパスが出来てしまったことで、この体から離れることが出来ないのさ」

 

 右手の刺青をこちらに見せながら彼女は言う。

 

「そして、これは契約の印でもある。僕が彼女の使い魔というね」

 

「まさか、貴方程の存在が使い魔としての契約を認めたのですか!?」

 

 悪魔は損得で動くためそうするのも分かるが、目の前の存在はあのテレズマからして天使と似通った存在だろう。天使が人の下に付くことがないことから分かるように、余りにもこれは異常すぎる。

 

「うん、そうだね。彼女のことをマスターだと認めているよ。しかし、同じ体に宿った影響からか意思疎通は出来ないみたいだね」

 

「彼女の精神は無事であると?」

 

「今は眠っているけどすぐに目を覚ますはずさ。その間、僕が彼女の体でどの程度動けるのか試していたんだ」

 

 彼女の体が未だ原形を保っていることから、手加減をして体を労っていたのは本当らしい。それが彼女のためかどうかは判断出来ないが、今すぐ命の危機ということではないことが分かり、神裂は安堵の息を吐く。

 

 

「あと、マスターと僕のことは伏せてくれると嬉しい。迎撃のために、自然を壊すような攻撃はしたくないんだ」

 

 

 そう言って背を向けて、さっきまでいたアパートに帰っていく少女。その背を見送りながらそもそも先ほどの魔術を隠蔽することは、不可能だと思う神裂であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、天井に大穴がある部屋で目が覚めた天野倶佐利は、ゆっくりとベッドから起き上がり自分の体を見た。

 

 

 

 俺、なんで生きてるのん?

 

 

 




皆にオリ主が死んだと思われていてビックリ。
意識が吹っ飛んだだけで、精神や魂は吹っ飛んでないんだけどなぁ。

──追記──

ちょっと直しました。


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11.結末

やっとここまできました。


 目が覚めて見れば見覚えのある自室だった。天井の大穴から朝日が差していることを除けばだが。そもそも、こうして自室で目を覚ますこと事態がすでにおかしい。

 

「(あんな馬鹿みたいなシチュエーションだったけど、光の羽をくらえば記憶が消滅するはずじゃ……?)」

 

 竜の吐息(ドラゴンブレス)は頭に触れれば、抹消ソフトのように記憶を消去するはずだ。実際に、原作の上条当麻はそのせいで以前の記憶を失ったのだがら。

 

「(そうだ!上条はどうなった!?)」

 

 ベッドから飛び起き、そのまま玄関から飛び出そうとする。昨日の服を着たままであったが、上条の状態を確認するため気にもせずに駆け抜け扉に手をかけると、

 

 メキィッッ!!と、ドアノブが飴細工のように潰れた。

 

 (うん?)

 

 昨日まではこの程度の力加減で、普通に開くはずなのだが、なぜか、やたらめったら握力がついている。

 

「(え?何で?光の羽にはそんな効力はなかったよな?)」

 

 上条の安否が気になって焦っていたが、意外な現象が起きて一周回って冷静になった。後回しにしたが、そもそも光の羽を受けて人格がまだあるのか分からない。冥土返し(ヘヴンキャンセラー)や上条の右手で治せないならば、それはもうどうすることも出来ないはずなのだ。

 物思いに耽り体に起こったことを考察する。そして、そのドアノブを握りしめた右手を見ると

 

 

 真っ赤に主張する、三画の令呪があった。

 

 

「(…………………………………………………………………)」

 

 今度こそ全ての機能が止まった。上条の安否が気になり焦っていると、ドアノブを簡単に握り締める怪力になっていたり、何故か世界が違うfateの令呪が右手に現れていたりと、もはや理解不能であった。訳も分からずに呆然としていると、ふと疑問が浮かんだ。

 

 もしかしてこの世界に聖杯ってあるの?

 

 これは、「セイバァーーーー!!!!」っと全力シャウトする展開となるのでは?

 ゴホンッ。ん、んー!ちょっと喉の調子を……………………エルキドゥでもシャウトできるのかな?

 

 そんなことを考えながら思考を回し冷静になっていく。落ち着いたことで、これからこの身に降りかかる可能性を探る。

 

 でもマジか。とあるの世界にも聖杯戦争あるのか。それで俺がマスター?世界が俺に対して厳しすぎるでしょ。

 触媒とか縁を辿ってやってくるんだっけ?それってエルキドゥ(真)くるんじゃね?

 

 いやいや、鎖の擬人化が顕れても聖杯戦争勝てねぇよ!そんなに甘くないわ!あ、でも、「問おう、貴方が私のマスターか?」ってやつはやってみたいかも。俺のことを尊重してくれるサーヴァントがいいなぁ。

 とあるの出来事と、fateの聖杯戦争が襲ってくるとか生きるの無理じゃね?しかも、エルキドゥの体してるから逃げられんし。

 令呪はいつ始まるか分からん聖杯戦争のために、残さないと詰む。だから、残すのは決定なんだけど……上条に(さわ)れんくなるなー。

 いや、別に大したことではないけどさ。元々は男だったからそんな感情なんてないし。まあ、今は女だけども。でもだからって、上条をからかえなくなるのはつまんないじゃん?

 うーん、どうするものか……。

 

 三十分経過

 

 ………………あっそうだ。つまり、上条の右手に俺の右手を触らせなければいいから、手袋してればいいんじゃね?一枚実在する布があるだけで幻想殺し(イマジンブレイカー)の効力は届かないわけだし。夏場は……ポケットに突っ込んどくか。それで、どうにかなるな多分。まあ、もし不安なら左手で幻想殺しを掴んでいればいいしな。

 よし、それじゃあ準備して上条のところに───

 ……………………まず風呂入るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!くさり、おはようなんだよ!」

 

 様々な準備をしたあと、あの名医がいる病院に向かい、上条の病室まで歩いているとインデックスに声を掛けられた。

 

「やあ、君か。おはよう」

 

 慣れた所作でエルキドゥの返事をする。笑顔いっぱいで挨拶をされてほんわかしていると、インデックスの顔が何かを思い出したように、膨れっ面となる。

 

「ねえ聞いてよ!とうまったらね意地の悪いこと言ったんだよ!」

 

 そこから始まるインデックスの怒濤の愚痴。病室のベンチに座りながら不満を爆発させ、病室で何が起きたのか(つまび)らかに言っていく。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「とうまは、本当にデリカシーってものがっ!───あれ?どうしたの、くさり?」

 

「いや、何でもないよ。そろそろ僕も後輩の病室に行こうかな。一人きりは寂しいからね」

 

「うん、わかったんだよ!またね、くさり!」

 

 そう言って最初から最後まで口角が上がっていた彼女は、手を振りながら元気に俺を見送った。

 

 インデックスは彼女を見送りながら、彼女と話してみてふと感じたことを口にする。

 

「なんか、くさりが元気ないように感じたんだよ。それに、何か変な波長が……?」

 

 そのあと目的の病室まで無機質な通路を歩いていると、見知ったカエル顔の名医とすれ違ったが、構わずそのまま歩き続けると、ある名字が書かれた名札の前まで来て俺は足を止めた。

 数瞬迷ったがノックをすると「どうぞ」と、声が返ってきたので扉を開けて病室に入る。そのまま何も言わない俺に対して疑問に思ったのだろう。彼がこちらに声をかけた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ─────ああ、知ってた。こうなることは全部知ってたんだけどなぁ。

 ステイルに言われたときから、いやそれよりもっと昔から、全部承知で付き合ってたんだけどな。

 自覚はなかったけど上条当麻は自分の中で大切な後輩だったみたいだ。

 

 深く息を吐くと声の調子を整える。原作の蜂蜜色の髪をした彼女は、いつもこんな気持ちだったのだろうか。

 

「やれやれ、あれほど力を合わせて戦ったことがあるのに、忘れてしまったのかい?」

 

 別れを告げるように俺は言った。

 

 

天野(あまの)倶佐利(くさり)。君の頼りになる先輩だよ、後輩」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある『人間』のために建てられた、核兵器を以ってしても傷ひとつつかない建造物。───窓のないビル

 その建物の中で、巨大なガラスの容器に逆さまの状態の男は、不敵に笑う。

 

「やはり、ただの原石ではなかったか。このまま幻想殺し(イマジンブレイカー)への影響がプランの短縮になればいいが、上条当麻の方向性が変わるようならば……」

 

 統括理事長・アレイスター。彼は自らの宿願のためならば不穏分子だろうが、230万の子供達全員だろうが利用し使い潰す。

 全ては魔術をこの世から消し去るために。

 

 

 

 




もうすでにサーヴァントが召喚されている事実。


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12.新しい関係

今回は難物でした


 あの病室で以前の上条と別れをした後は、上条の意思を尊重して記憶のことには触れないようにしている。

 インデックスは原作通りに上条の家で居候をしていた。インデックスは追っ手に追われない日々を、上条は記憶を失いながらも平穏を手に入れた。そんな穏やかな二人の空間に入ることなど、誰にも出来はしない。

 

「待たせたね、ちゃんこ鍋だよ」

 

「わーい!待ちに待ったご飯なんだよ!」

 

 だが、そんなことに頓着しないのがこのオリ主である。

 ほぼ強引に上条と仲良くなり、こうして上条の家に上がり込むほどの関係性を築くまでに至った。インデックスとは元々仲が良かったことと、こうして上条の家に上がるときは、餌付け──もとい、ご飯をこうして振る舞って買収をしている。

 

「すいません、先輩。毎回毎回食材を用意してもらった上に、ご馳走になっちゃって」

 

「気にしなくてもいいと言ったはずだよ?僕もこうして一緒に食べているんだからね。それに光熱費は後輩が払っているからお互い様だよ」

 

「くぅ~~っ!現在上条さんは先輩の優しさに、胸を打たれています!やっぱり年上の女性のほうが、年下よりも魅力的だよなー!」

 

「むむっ!とうま!年下の私がここに居ながら、それはどういうことなのかな!くさりはキレイな女の子だけど、私だって負けてないかも!」

 

「はあー……。おいおい、インデックス。いくらなんでもそれは背伸びしすぎだぜ?なんたって先輩は高レベルの能力者のうえ、学校の二大謎のマドンナって有名なんだからな」

 

「それは初めて聞いたよ。マドンナが二人とも謎とはね」

 

「ほら、先輩の雰囲気って浮世離れしてるっていうか、ミステリアスだから」

 

「そんなこと言ったら、私は世界で唯一の魔導図書館なんだよ!ミステリアスならむしろ勝ってるんだよ!」

 

「どこで張り合ってんだよお前は。先輩の落ち着いた姿見てみろ。がっついて食い漁っているお前と違って、綺麗な姿勢に上品な食べ方。清楚のお手本みたいじゃねぇか。それに比べてお前は……本当にシスターなのか?」

 

「言ったね!ついに言ったね!私の場合は魔導図書館だから、その分栄養が必要なんだよ!」

 

「……えっ、まじで?そうだったのか?」

 

「多分ね」

 

「適当じゃねぇか!!」

 

 わーわー、ぎゃーぎゃーと賑やかな食卓が、とある学生寮の一室であった。その心温まる光景に自然と溶け込んでいる緑髪の少女は、慈愛のこもった微笑みを浮かべ思った。

 

 

 この光景、アニメで何度か見てたなー♪やっぱ好きな世界に転生とか最高だわ。

 

 

 随分と俗物的なことを考えていた。

 慈愛なんて気のせいでしか無かったのだ。多くの人が抱く謎なんて実際はこんなものである。

 そのまま食事は進み、数十人分の食材が見事に、インデックスの胃袋の中へと消えてしまった。その小さい体のどこに入っているんだと、毎度の如く驚愕していると、上条が目に涙を浮かべながら感謝してくる。

 

「先輩が居なかったら、今頃俺の食卓は野菜炒めの毎日でした……!先輩はうちの食卓の救世主、いや女神だ!」

 

「後輩。食卓の女神って、褒め言葉か微妙なところじゃないかな?」

 

 見事な未来の予測に、内心で大きく赤ペンで花丸を書きながら返事をする。そうなると思って食材を買っている面も、確かにあるのだ。というか、そもそも食費はインデックスの所属組織の、必要悪の教会(ネセサリウス)にたかればいいのにな。

 

「うん!本当にくさりの料理は美味しいんだよ!」

 

「ふふっ、そう言って貰えてよかったよ」

 

 うんうん、餌付けは無事成功しているみたいだ。これからも上条の傍に居るには、インデックスに気に入られたほうがいいからな。

 と、そんな打算を頭の中でパチパチと、弾き出しているとは上条は微塵も思いはせずに、優しくて頼りになる先輩の好感度がますます上がったとさ。

 

「あー、このあと俺は補習を受けに学校にいかねぇとな。インデックスは留守番してるとして、先輩はこのあとどうします?」

 

「僕もこのあと用事があるから、ここで帰らせて貰うよ」

 

 そう言って俺たちは、それぞれの用事を済ましに上条の家から出ていく。インデックスがいつもと同じように、元気に見送ってくれたのが印象的だった。

 噛みつきと暴食という小さな問題さえなければ、庇護欲掻き立てるその姿は上条と相性のいい、素敵なヒロインだな。

 

 

 

 

 

 

 そうして、彼らの家から歩き途中で上条と別れ、一人目的の場所まで歩いていく。道のりはとても長かったが一度も迷うことなくはなかった。なぜなら、その目的地は俺にとって馴染み深い場所だったからだ。

 

「――さん、ごきげんよう──」

 

「今日はお日柄もよくて──」

 

「今日出されました、課題についてお話させて頂いても──」

 

「明後日の身体検査(システムスキャン)なのですが──」

 

「そういえば、あそこのカフェで御坂様が──」

 

 少女達のお上品な会話が、あちこちから飛んできているここは。俺が三年間通っていた学校。

 

 ━━━常磐台中学だ。

 

 なぜ、俺がこんなところに来ているかというと、理由はただ一つ、彼女に会うためだ。

 

「お連れしました。女王」

 

 縱ロールの髪型をしている少女の前に居たのは、蜂蜜色の長い髪を優雅に揺らして現れた彼女達の女王。

 

「あら、ありがとう。感謝するわぁ。それで、どうしてあなたが私に会いたいなんて、連絡をしたのか聞いてもいいかしらぁ?天野さん」

 

 食蜂操祈。上条と同じくらい俺と長い付き合いがある少女だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……嘘で……しょ…………?」

 

 俺はまず二人きりで会話をできるところまで、食蜂に頼み案内してもらった。食蜂は怪訝そうな表情をしていたが、俺の話を聞いていく内に顔色が変わり、今では青白くなってしまっている。それでは俺は何を説明したのか。

 

 そう。上条当麻の記憶喪失のことだ。

 

 食蜂は原作で既に知っているかのような反応をしていたから発覚するのも時間の問題だろう。それに、その場面に立ち会っておきながら、何もしなかったのは俺の意思だ。俺が説明するのが筋だと思う。例え、これが自己満足なんだとしても。

 

「何も……?本当に何も……覚えていないの…………?」

 

 信じられない。いや、信じたくないという気持ちが食蜂から伝わってくる。それも当然だろう。自分が好きになった人が、いつの間にか死んでしまっていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 食蜂操祈という少女は計算高い女の子である。それは多くの人間に認知されていて、食蜂自身も間違っていない認識だと思っている。そんな彼女は恋敵のことは当然分析していたし、その人物がどういう行動を取るのか、ある程度理解をしていた。

 だからこそ、自分の感謝をいつまでも受け取らない目の前の少女が、こうして現れたことが不可解でならない。その上、いつも飄々とした態度を崩さない彼女が、どこかいつもより覇気がないことがさらに拍車をかけた。

 そして、その悪い予感は間違っていなかったことをすぐに知る。

 

「……うん、間違いなくね。彼と数日関わりを持って確信したよ。おそらく自分自身の記憶すらないだろう」

 

「か……勘違いの可能性……は……?」

 

「僕が後輩のことを間違えると思っているのかい?」

 

「…………………………………………………。」

 

 これ以上ない程の説得力がその言葉にはあった。今まで誰よりも彼の傍に居たのは、間違いなく彼女だ。そして、彼女はこんなことで嘘を吐くような人間ではないし、彼女が言ったように絶対的な根拠がなければ、自分に伝えることはしないだろう。……でも、だからって……!

 

「他の記憶を刺激すれば……」

 

「もちろん、何度も試したさ」

 

「ッ!一時的な記憶の喪失の可能性は?」

 

「記憶そのものが消失しているんだ。あり得ないよ」

 

「でも、私の心理掌握(メンタルアウト)ならっ!!」

 

「君とも関わりがあるあの医者が、『上条当麻は死んだ』と診断したんだ。つまりは、そういうことなんだろう」

 

「あなたは!!」

 

 ガッ!!と、食蜂が掴みかかり、天野倶佐利を強く睨み付ける。

 

「あなたは!何をしていたのっっ!!」

 

 食蜂は感情を爆発させながら、自分のしていることが、ただの八つ当たりであることに気づいていた。その場に居ることすら出来なかった人間が、結果だけをみて批判する、おぞましい行為であると自覚していた。

 それでも……それでも止めることが出来なかった。彼女の淡々とした声音が、自分の悪足掻きを否定しているようだったから。

 

「あなたには原石の能力があって、誰よりも彼のことも知っていたじゃない!!私の心理掌握(メンタルアウト)ですら効かないくらい、あなたは特別な存在じゃない!それなのに、どうして……どうして彼を守ってくれなかったの!!」

 

 ───ああ、最低だ……。

 

 彼女は悪くない。そんなこと分かっているはずなのに、自分を抑えきれず言ってしまった。こんなことしか言えない私に彼女も失望しただろう。当然だ。私もそんな自分に失望しているのだから。

 おそらく、彼を失った悲しみと自己嫌悪で自分だけの現実(パーソナルリアリティー)に悪影響がでるだろう。それどころか、もう能力を使うことが出来なくなるかもしれない。しかし、私は彼がいない世界での人生なんて、意味がないとさえ思っていた。自棄になり、私の何かが決定的に壊れるその数瞬前に

 

 

 フワッと、何かに体を包まれる感覚がした。この部屋には私ともう一人しかいないことから、私を抱きしめているのは必然的に彼女だろう。

 

「え」

 

「ごめんね。うん、これは僕の責任だ」

 

「えっ、あ、いや違っ」

 

「だからこそ自分のことを棚上げしてでも、君の傍にいるよ。君が僕と後輩以外の前で、弱音を吐けるとは思えないからね」

 

 いつも小馬鹿にしてくる彼女とは違った姿だった。いや、この姿こそが本来の彼女の姿なのかもしれない。自分に対して頑なに見せてこなかった、側面を見て気付いた。

 自分が彼女について分析していたように、彼女も自分を分析していたのだと。そして、この事実を一人で受け止めることが、出来ないことを見抜かれていたのだ。だからこそ、こうしてわざわざ私に会いに来たのだろう。

 優しく私を抱きしめ、労るように背中を擦る彼女に、みっともなくもすがり付く。

 

「………………好きだったの」

 

「うん」

 

「初めて男の子を好きになったの……」

 

「うん」

 

「絶体絶命でどうしようもないときに、駆け付けてくれる王子様だったのよ……」

 

 彼との積み重ねてきた宝石のような思い出を、一つ一つ思い出す。彼との痴話喧嘩だったり、命懸けで私を助けようと敵に立ち塞がってくれたあの背中も、そして何気ない日常の一コマでさえも、全てが宝物だった。

 ───だけど、もうこの世界に彼はいない。

 

「うあ"あ"ああああああああああ!!!!」

 

 彼女の服に皺が出来るほどに強く握りしめ、声を上げて泣いた。彼女は濡れるのにも関わらず、私の頭を撫でながら優しく抱きしめてくれる。その優しい心地好さが、彼との永遠の別れだと悟ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前の声を上げて泣いている少女を見て、食蜂操祈だと思う人間はまずいないだろう。いつもの女王として派閥を率いる、超能力者(レベル5)食蜂操祈とはそれほど隔絶している姿だった。弱々しい彼女を見てようやく俺は認識した。

 

 

 ああ、この子は人間なんだな

 

 

 上条が記憶喪失となったときでさえ、喪失感はあったものの原作通りであったためか、小説のキャラクターであるという認識から、外れることが出来なかった。

 しかし、食蜂操祈は悲しむ描写はあっても、これ程までに感情を爆発させていることはなかった。原作から離れた行動をしている彼女を見て、この世界で初めてキャラクターではなく、同じ人間として誰かを認識できた。

 その感謝を彼女に返すために俺は言葉を発した。

 

「僕は彼と数日過ごしたけど以前と変わらなかったよ。記憶は無いんだろうけど、それでも後輩は後輩だった。きっと記憶のあるなしで、上条当麻という少年は変わるものではないんだよ。

 彼の弔いは僕達でしよう。そうしたら、彼に会いに行くんだ。君が前を向いて生きることを、きっと後輩は望んでいるからね」

 

 俺の胸の中で嗚咽を上げて、何度も小さく頷く彼女を愛おしく思いながら、二人きりの部屋で彼女が落ち着くまで傍に居続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある学生寮の最近馴染んできた、知り合いが住んでいる一室の呼び鈴を鳴らし待っていると、ガチャッと扉が家の主に開けられる。

 

「あれ?先輩どうしたんですか?」

 

「以前話しただろう?ここに彼女を連れてきたいと言ったのを、実現しようと思ってね」

 

 俺の言葉を聞いて「あー、それは、えーとっ……」と、戸惑っている上条を完全に無視して、後ろにいる蜂蜜色の髪の毛をした彼女を前に立たせる。

 緊張を悟られないように気を付けて、彼女は彼に挨拶をした。

 

「食蜂操祈です。()()()()()上条さぁん。私とまた仲良くしてくださいね?」

 

 

 

 

 

 




もしかしたら、今回の話のテイストは、気に入らない人もいるかもしれませんね


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絶対能力進化編
13.邂逅


一応、試金石として投稿することにしました。


 キーンコーンカーンコーンという、お馴染みの音色が響いた後に、目的の人物達がいる教室のドアを開く。

 

「小萌、居るかい?」

 

「あっ、天野ちゃん!来たのですねー!」

 

 夏休みの補習を受ける生徒に、講義をしている小萌先生に会うため、とあるクラスの前までやって来た。 

 すると、ガタタッと椅子を鳴らし立ち上がった青髪の少年が、興奮した様子で声を上げた。

 

「おおっ!?あのお方は謎の二大学校のマドンナこと、天野(あまの)倶佐利(くさり)お姉様やないですか!」

 

「それ、本当に言われていたんだね」

 

 青髪ピアスのハイテンションに、さらっと言葉を返して、俺は手に持っていた特製弁当を小萌先生に渡す。頑張っている小萌先生のために昼食の出前だ。

 

「はい、小萌」

 

「わあ!わざわざ作ってくれたんですか?ありがとうございます天野ちゃん!」

 

「えー!天野先輩のお手製弁当なんて羨ましいわぁ。いいなぁ、小萌先生。俺もめっちゃ欲しいー!!」

 

「ふふっ、ごめんよ。さすがに用意はしていないんだ」

 

「……天野ちゃん、このあと先生は用事があって、すぐに食べることができないのですよ。天野ちゃん自身のお弁当を持って来ていただいて、申し訳ないのですけど……」

 

 小萌先生が俺の持っているもう一つの弁当を見て落ち込んでしまった。いきなり押し掛けてきたのはこっちなのだから、気にしなくていいのに。本当にいい人だなぁ。

 でも、それは勘違いなので直ぐに正すことにする。

 

「いや、これは僕の弁当ではないよ」

 

「あれ?違うのですか?」

 

 俺はその弁当を持って、窓側の後ろの席までスタスタと歩いていく。その様子を見ていたその席の人物は、目を真ん丸にしながら呆けている。

 そのことに気付きながらもその一切に無視をして、その少年の机に手に持っていた弁当を置く。そして、あえてクラスにいる全員に聞こえるように、笑顔で俺は言いきった。

 

 

「はい、後輩。僕の手作り弁当だよ」

 

 

 ピシリッとクラスの空気が固まった。ついでに、目の前の少年も固まった。それから直ぐに、溢れんばかりの怒声が上条に向けて飛んでくる。

 

「どういうことやねん!上やん!?まさか、ついに天野お姉様にまで手を出したんか自分!?」

 

「さすがに許されないぜい、上やん。女の子の手作りお弁当なんて羨ましいことを、俺達に見せ付けるなんてあり得ないぜよ」

 

「待て待て待て!俺にも何でこんな青春の一ページに飾られる最高のシチュエーションが、不幸な男子高校生の上条当麻にいきなり訪れたのか分からないんだよ!!

 つーか、土御門は毎日舞夏から弁当作って貰ってるだろ!!」

 

「確かに、義妹の弁当は最高ですたい。しかぁーし、それとこれとは話が別なんだにゃー。これ以上、上やんの毒牙に女の子達がかからぬよう、制裁を下すのが世のため人のためだぜいっ!」

 

「…………ああ、いいぜ。お前達が俺のささやかな幸運を否定するっていうなら、まずはその幻想(げんそう)をぶち殺すっ!!!!」

 

「お前らこの不届きモン共をシめるでぇーー!!」

 

「「おおォォーー!!」」

 

「あれぇ!?俺まで組み込まれてるぜよ!?」

 

 補習に来ていた男子達が二人を取り囲み、次々と制裁を下していく。打撃や間接技、寝技といった攻撃手段が上条達を襲う。

 ……このクラスの男子は、攻撃のレパートリーが多すぎないだろうか……。しばらく、観戦して楽しんだ後に小萌先生に近寄って、このあとのことを話しておく。

 

「小萌、僕は職員室の昼食スペースに居させて貰うから、用事が終わったら来ておくれ」

 

「……えーと、これは止めなくていいのですかねー?」

 

「大丈夫さ。彼らのコミュニケーションの一種だからね。邪魔するほうが無粋だよ」

 

 内心噂のデルタフォースが見れてご満悦だ。

 テンションが上がるが澄ました態度で顔に出ないようにする。この頃、無意識の内に働くエルキドゥの言動が、何故か消えてしまったので油断が出来なくなってしまった。

 うーん、本当に何でだろう?心当たりがないんだけど。

 とはいえ、エルキドゥの真似は常にしていたので、生活自体は何とかなっているのが幸いか。後ろから聞こえる怒号や悲鳴は無視して、二人で並んで職員室まで歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小萌先生との昼食後は、たまにはコンビニ製品も食べてみようかと近くのコンビニに立ち寄った。

 すると、アホみたいに缶コーヒーを買ってコンビニから出て来た、白髪頭に赤い眼をしている知人と、数年ぶりに鉢合わせた。

 

「おや?もしかして、君は一方通行(アクセラレータ)かい?」

 

「あァ?…………オマエ、パクり女かァ?」

 

「君は相変わらずだね。いや、その口振りだからこそ、君とも言えるかもしれないけどね」

 

 そう、以前に俺は一方通行(アクセラレータ)と会っているのだ。別に俺から会いに行ったわけではなく、俺の能力が他人の能力をコピーする能力のため、最強の能力者である一方通行の能力を取得しに連れていかれたのだ。

 三日間と短い間だったのであまり話せていないが、この髪色の人間はなかなか忘れないだろう。

 

「……テメェもクソ雑魚共と同じように、最強の称号が欲しいってクチかァ?」

 

「そんなものに興味はないよ。僕は今の生活に満足しているからね。それに、コンビニに来る理由なんて普通は一つしかないだろう?」

 

「チッ……まあいい。オマエなンかと話してる暇はねェからなァ」

 

 そのまま一方通行は俺を全く眼中に入れずに、前を歩いていく。そういえば、もう()()()()が進められていたんだっけな。一方通行が道を踏み外すことを知っていながら、俺は何もしなかった。

 滞空回線(アンダーライン)があるため未来のことを教えることは、アレイスターにバレるから出来ない。そもそも、シスターズが産まれなければ、オティヌスの作り出した幸福の世界で、総体に会わず上条が死ぬことになる。世界の終わりだ。

 それを万が一防ぐことが出来たとしても、大悪魔コロンゾンを倒す決定的な手札が消えてしまう。人類史の終幕だ。

 

一方通行(アクセラレータ)

 

「あァ?」

 

 だから伝えようと思った。これが懺悔なのかはわからないが、この言葉が彼の決意の一助になると願って。

 

「君は破壊することが得意だけど、君の力はその程度のものではないんだ」

 

「オイオイ、この俺に説教かァ?いつから、そんなに偉くなったンだオマエ」

 

「違うよ。ただ、僕にはベクトル操作の劣化しか出来なかったけど、君の真骨頂はベクトル操作ですらないだろう?」

 

「……何が言いてェ」

 

「誰かを守ることも救うことも、君なら可能ということだよ」

 

 近い将来、一方通行はその道を選ぶことになる。自分の犯した罪を償うために、誰かを助けることに力を使うのだ。その道は苦悩の連続で、あらゆる困難が一方通行に襲いかかる。

 それでも大事な者を守るために。そして罪を償うために足掻き続ける人生を選ぶのだ。だからこそ、一方通行がその道を選ぶ時にこの言葉が後押しになればと思った。

 俺の言葉を聞き一瞬固まった一方通行は顔を伏して、体を震わす。

 そしてまるで堪えきれないとばかりに嗤いだした。

 

「ギャハッ!ギャハハハハハ!!!!オマエ、スかした面しながら、そンなメルヘンな妄想してたのかァ!?外面と違って随分と愉快な脳ミソらしいなァ。

 ……くッッだらねェ。何でこの俺がンなことしねェといけねェ?」

 

「別に強制しているわけではないさ。君の能力を自分なりに分析してね。そして導きだした推論を君に言っただけだよ」

 

「ハッ、イイこと教えてやる。この力はなァ世界をぶっ壊せる程の力がある。そこら辺にいるカス共に使ってやる程、安くねェンだよマヌケ」

 

 そう言い捨て一方通行は暗い路地裏に一人歩いていく。きっと今夜も彼女を殺すのだろう。狂気に呑まれた怪物を止めることなど出来はしない。

 それこそ、歴史に名を刻む英雄(ヒーロー)でもない限り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕暮れのとある木の下で、猫と戯れている少女を見かけて声をかけた。

 

「やあ、久しぶりだね」

 

「どこかでお会いしましたか?と、ミサカはネットワークに記憶していない方を前に、訝しみながらも尋ねてみます」

 

 だから、端役にもできることをしよう。より良い結末を迎えるために。

 

 

 

 




オリ主の立ち位置がこのままでいいのか不安ですね


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14.妹達

試金石その2


 夕暮れの小さい広場にある木の下で、俺は彼女と出会った。ここだけ切り取るとまるで、御坂妹と俺とでラブストーリーでも始まりそうだが、もちろんそんなことはなく、ただの女同士の会話だ。

 

「この前鉄橋で顔を合わしたのに、もう忘れてしまったのかい?」

 

「すみませんがそのような記憶はありませんと、ミサカは改めてネットワークを検索し、再び問いに答えます」

 

 彼女はまるで心が込もっていないかのように、俺の質問を事務的に返答する。学習装置(テスタメント)によって必要最小限の知識しか与えられてないからだ。

 それを知っていながらとぼける俺も大概だと思うけど。

 

「……もしかして、彼女の妹かな?」

 

「彼女というのが分かりませんが、もしお姉様のことを仰っているのなら、ミサカは肯定します」

 

 彼女やらお姉様やらと絶対に名前を言わないという、流れが出来てしまった。二人とも人名は言わないキャラクターだから、仕方ないといえばそうなのだが。エルキドゥは基本的に相手のことは君で、御坂妹もあなたと呼ぶのだ。

 

「なるほど血縁者か。道理で似ているわけだね」

 

「てっきり学習装置(テスタメント)で学んだ、ナンパというものかと思いました、とミサカは内心で呟きます」

 

 もしかして、遠回しに男に見えると言っているのだろうかこの小娘は。エルキドゥは確か男でも女でもないキャラクターらしいから、間違っているとは言えないけどな。

 しかし、今の俺の姿を見たら女としか思えないだろ。だってスカート履いてるし。

 ていうか、学習装置(テスタメント)に何を入力してんの?科学者は馬鹿ばかりなのか?

 

「それでは、もうよろしいでしょうか?とミサカはこのあとの予定を考えながら尋ねます」

 

「うん、大丈夫だよ。急に話しかけてしまって悪かったね。それじゃあまた」

 

 そう言って俺達は違う方向に歩いていく。これで、量産型能力者計画に関わる切っ掛けが出来た。残された期間は短いが布束に接触出来れば、実験へ自然に介入することができるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがしかし、いくら街を歩いてもマネーカードの噂は出回ってなく、当然布束には会えなかった。

 なんでだ?実験を止めるために動いていたはずなのだが、あのギョロ目。もしかして時期が早すぎたのか?

 そんなことを考えながらも、数日ぶりに上条の住んでいる学生寮まで来てみると、意外なことに留守であった。てっきり、インデックスくらいはいると思ったんだけどな。

 

「ああ、なるほど」

 

 ふと、首輪を解決した後の事件を思い出し、早速彼らがいるであろう場所に赴いてみる。学生寮から少し離れたとこにある、世間一般では来ないほうがいいとされている場所。今の上条にとって第二の家となる白い建物。

 

「うん、来たみたいだね。彼の怪我について知りたいんだろう?」

 

 そう、このカエル顔の医者が勤務している病院だ。

 上条は記憶をなくした数日後に、魔術関連の事件に巻き込まれている。アウレオルス=イザードが黄金錬成をするため、三沢塾の生徒と姫神秋沙を拉致し、その事を知ったステイルが上条を連れて彼を倒すに行く事件だ。

 この頃いろいろあってすっかり忘れていた。スパンが短けぇんだよ。いくらなんでも早すぎるわ。お前記憶なくしたの数日前なんだぞ。腕をチョンパされんのいくらなんでも早すぎない?

 

「僕も驚いたよ。まさか、腕を繋げただけで翌日にはくっついているとはね。彼の体はファンタジーだね?」

 

 そんな彼の言葉を最後に聞き、診察室から出ていく。上条が以前から無茶をして入院したときは、毎回来ていたからすんなり話を聞くことが出来た。俺は上条の保護者かな?

 そして、いつも通りに病院の個室まで歩いていくと、彼らの声が聞こえたので扉を開けて入っていく。

 

「やあ、相変わらず無茶をしたらしいね」

 

「あっ!くさり!」

 

「あれ?先輩何でここに?」

 

 俺を見つけ名前を呼ぶインデックスと、戸惑っている上条。何にも知らないはずの俺が、ここに来たのが不思議なんだろうな。

 原作でアレイスターがステイルに、上条だけは魔術サイドの事件に、巻き込んでも構わないとか言ってたから、おそらくステイルが上条以外に、察知されないよう動いていたのだろう。確かに、俺はその事に気付くことすら出来なかったけど、原作知識があったからなぁ。まあ、言い訳は考えている。

 

「君が補習で学校に用があるわけでもなく、学生寮にいないのならここだろう?」

 

「えっ?もしかして先輩の認識だと俺ってそんなやつなの?」

 

「……やっぱりそうなんだね。もう!とうまは本当に無茶をしすぎなんだよっ!」

 

「あれ!?まさか、また新たにインデックスへ燃料が投下された!?ま、待てインデックス!相手はお前を狙ってた魔術師なんだぞ?そんで、お前に事件のことを言ったらどうせ、ひょいひょい事件に突っ込んで行くじゃねぇか。ここは俺の類い稀な判断能力をだn「……とうまぁ~~!!」……あ、あれ?インデックスさん?何で何度も歯を鳴らしているのでせうか?いや、待っ、ぎゃああああああああ!!!!」

 

 毎度お馴染みの噛みつきが上条の頭皮を襲う。何回も見てるけど、やっぱ風情っていうか趣があるよなぁ。(しみじみ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上条が退院した後は何事も起こらず特に進展はなかった。上条の家に訪れたり、みさきちに会って上条のことを弄ったりしただけだ。

 マネーカードの噂は出てきたが、必死になって探すのはアレイスターに不審がられるからなし。適度に探すしかなく、手掛かりは掴むことが出来なかった。滞空回線があるため不審な行動が出来ないのが痛い。ミコっちゃんみたくハッキングはあり得ないし、そもそもハッキング出来ないし。

 何か情報はないかと適当に歩き周っていると、御坂妹と出会ったところに来てしまった。繋がりを手に入れた場所につい来てしまったらしい。意識を変えて違うところを探そうとすると、女の子の声が聞こえて足を止めた。

 

「でも、人のDNAマップを下らない実験に使うヤツらを、見過ごす気もないわ」

 

 その声を聞いてすぐ側の茂みに隠れ、息を潜めた。見た感じ出歯亀のようだが、そんなことよりも大事なことがあるため、決してバレないように気配を消すことに専念する。

 

 ようやく介入の糸口を見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素直じゃないわね。計画の関連施設は二十を超えてるわよ。一人でやるつもり?」

 

 御坂美琴は足を止め目線だけ布束に戻す。その目からは疲労が感じられたが、それでも朝日を浴びる電子の申し子は言いきった。

 

「私を誰だと思ってるの?」

 

 そう言って彼女は振り返らずに去っていく。きっと彼女は終わるまで立ち止まらないだろう。

 ならば、自分も出来るだけのことはしてみよう。例え学園都市の闇に落とされることになったとしても。

 

 

 

 

 

「その話詳しく聞かせてもらってもいいかな?」

 

「ッ!!」

 

 バッと勢いよく振り返ればセーラー服の少女が後ろに立っていた。人の気配には気を使っていたし、彼女の電子レーダーで人が近づけばすぐに察知できる。

 その条件下でここまで接近されるなんて予想外にもほどがあった。

 

「(メンタル面の影響で、能力の性能が不安定になるのは周知の事実。超能力者(レベル5)だからとその可能性を排除した私のミスね)……何のことかしら?申し訳ないけど何を言っているのか分からないわね」

 

「一度も聞いたことがない彼女によく似た妹。そして、今聞いた御坂美琴のDNAマップを使った実験。なら答えは一つだ。彼女のクローンが作られているんだろう?」

 

 ……さすがに、ここまでバレていてはお手上げね。だけど、彼女達のためにも、計画は伏せられたほうが望ましい。好奇心からなのかは知らないけど、学園都市の闇や第一位を相手にする可能性があると知ればもう探られることはないだろう。

 そう考えこの計画のあらましと、後ろに何がいるのかを説明する。説明を聞き、うんうんと首を縦に振る彼女は、自分のこれからの行動方針を決めた。

 

「ふむ、なるほど。なおさら引けなくなったね」

 

「なッ!?……あなたこの計画の大きさが分からないの?」

 

「いや、十分に理解出来ているよ。だけど、きっと後輩は彼女と関わりがあるから、この事を知ってしまうだろうしね」

 

「……彼女が自分の問題を誰かに話すとは思えないけど、あなたの後輩は彼女とそんなに近しい仲なのかしら」

 

「さあ、どうだろうね。友達とも言えない関係じゃないかな?」

 

 あっけらかんと答えた彼女につい呆然としてしまう。ならば、どうやってその後輩はこの計画を知るのかと、聞こうとすると彼女は、「だけど」と付け足し最後にこう締め括った。

 

()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗闇の世界を歩き続ける人間が学園都市にも存在する。彼らは暗部と呼ばれ、学園都市にとって不必要なものを掃除したりなど、血と闘争に彩れた悲劇を日夜作り出している。

 暗部に入る者は自分から進んで堕ちる者から、人質、あるいは、生活を送ることができるような立場を得るためと、様々なケースがある。その中には超能力者(レベル5)が所属している暗部組織も幾つか存在している。

 

「ぐ……あ"……ッ!」

 

「このまま依頼主に引き渡します。抵抗しても超無駄です」

 

 例えば布束砥信を取り押さえている少女、絹旗最愛が所属している『アイテム』も、超能力者(レベル5)の第四位、麦野沈利がリーダーを務めている組織だ。彼女たちは上層部からの依頼で動き、今回も襲撃者から建物を防衛するために雇われている。他の三人はもう一つの防衛拠点で、御坂美琴を相手に拠点を守るため、今現在戦闘を繰り広げている。

 そして、一人この場を任された絹旗最愛は、もう一人の襲撃者である布束砥信を、取り押さえることに無事成功したのだ。

 しかし、ピッピッとまるでタイピングをするかのような音が聞こえ、布束を退かしてみると何かを入力していた。それに気付き、すぐさまメモリを破壊するが、すでに何かがインストールされていた。

 

「(これで、感情プログラムは妹達(シスターズ)に共有される。妹達の中に自分の運命を嘆く者が現れ、その姿を見た誰かが実験の中止のために動く可能性が生まれた。極僅かな変化かもしれないが、間違いなく計画の軌道が変わるはず!)」

 

 これが布束が用意できる現状を打開する一手だった。妹達はこれで殺され続ける未来から、遠くなったのだと確信し笑みを浮かべる。

 しかし、学園都市の闇はそんな甘さを許さなかった。

 

 鳴り響く警告音と共に、『WARNING!』の文字がパネルに表示されたのだ。

 

「(こんなセキュリティをいつの間に……ッ!!)」

 

 そのあとも、取り巻きの下部組織だろう男から拳銃を奪うが、絹旗の窒素装甲(オフェンスアーマー)に無力化されてしまう。無能力者の布束では窒素装甲を持つ絹旗と戦っても、勝つことは万が一にも有りはしない。絹旗と下部組織の男達の手により、学園都市の闇によって布束が逃げることは出来ない、どん底の人生が始まろうとしたその間際、

 

 

 ドガッッッッ!!!!!!!!

 

 と、盛大な音と共に金属で出来た扉が、スポーツカーの最高速度と同じ速さで、絹旗に飛んで来る。

 当然、窒素装甲で防ぎ無傷であったが、明らかに敵対行動だ。煙や粉塵で姿が見えないことからも、敵対者は相当暴れ回ったらしい。

 

「襲撃者は一名かと思いましたが、超違ったらしいですね。とはいえ、やることは変わりませんが」

 

 コツコツと靴を地面に鳴らし、自分を攻撃した人物が近づいてくる。はっきり言ってしまうと拳銃だろうが、ダンプカーの一撃でさえも防げてしまう窒素装甲は、近接戦闘に持ち込めば超能力者(レベル5)相手でも、条件さえ合えば何人かは通じる能力だと考えている。

 この狭い空間では大技も出来ないだろうし、下部組織の男共も期待はしていないが、隙を作るぐらいの役には立つだろう。

 何が目的かは知らないが襲撃者である以上、ここでこの女と共に潰しておくべきだ、と暗部に浸かってきた少女は思考する。

 

 

 

 

 だが、それが間違いだったと彼女はすぐに気付くことになる。

 

 

 

 

 




このオリ主背後から現れてばっかり。BLEACHかな?


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15.劣化模倣

キリがよくなかったので載しときます。
戦闘描写が思った以上に難かしい……!何か違和感ありましたら感想お願いします。





 とあるでも屈指の面白いストーリーである妹達(シスターズ)編。一方通行(アクセラレータ)の残忍さが全面的に押し出され、学園都市の恐ろしさが垣間見える話だ。

 特にとある科学の超電磁砲では、最強の敵を相手に悪戦苦闘する、御坂美琴の葛藤が丁寧に描かれており、物語の緊張感が増して作品全体に、より深みが出ている。

 とある魔術の禁書目録は上条視点、とある科学の超電磁砲は美琴視点でそれぞれ描かれ、とあるシリーズのベストバウトと考える人もいるだろう。俺もその一人である。

 とあるのファンとしてもちろん小説、漫画、アニメは見てきた。これだけでどれだけとあるの世界が、広がっているのかがわかるだろう。だが一つ問題がある。

 

 この世界がどのコンテンツを基に、創られているのか分からないのだ。

 

 もし、この世界が全てを複合していないとしたら?とある科学の超電磁砲のアニメオリジナルが、この世界に適応していなかったとしたら、果たしてどうなるのか。

 答えは布束砥信が暗部に連れて行かれて、どうなるのか全く分からないのである。

 アニメではフェブリと学園都市の外に出て、共に生きていくことが分かっている。しかし、原作のとある科学の超電磁砲では、絹旗に連れて行かれた後は何一つ描かれていない。

 おそらく、何の救いもなく、どん底の人生に落とされていたのだろう。そこまで考えて俺は思ったのだ。

 

 布束砥信はそんな目に合わなくてはいけないのか。

 

 彼女は暗部に消される可能性がある上で、妹達を助けるために行動した。その覚悟を否定するつもりなどはないが、人知れず絶望に叩き落とされる結末は、さすがにあんまりではないだろうか。

 そもそも、布束はクール系スレンダー美人のキャラクターで、結構好きなキャラなのだ。

 

 とはいえ、いつも通りに戦えば、今度は俺が暗部に目を付けられる。『アイテム』、『スクール』なんかの暗部組織、そして木原一族に狙われれば生存は限りなく難しいだろう。

 さらにはアレイスターの目もある。

 これら全てのリスクを防ぎながら、布束を助けるためにはどうするか。答えは一つだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コツコツと靴を鳴らす音が、煙で隠された向こうから聞こえてくる。

 今まさに目標を確実に確保するため、動けなくなる程度になるまで、痛めつけようとしたところに、靴を鳴らし近づいてくる存在から邪魔が入った。

 協力者なのか雇われたのかは知らないが、敵対した以上はそれ相応の制裁をするのが暗部の常識。

 新たな乱入者を捻り潰すことを決定した絹旗に向かって、その乱入者は変わらずに悠々と歩いてくる。まるで、自分が絹旗よりも強いかのように。

 

「(超気に食わないですね。私のことを敵としてみてねェどころか、眼中に入れてない故の無用心さですね、これは。速攻でブッ潰してその傲慢、地獄で後悔して貰いましょうか)」

 

 隠しもせずに一定の間隔で靴音を鳴らし、近付いてくることから、自分を舐めていることを悟った絹旗は、何もさせず無様に地に這いずらせることにした。

 煙のベールに突っ込み、窒素装甲(オフェンスアーマー)を纏った拳を乱入者の影に叩き込もうとした、その寸前。

 上から声が投げ掛けられた。

 

 

「よォ」

 

「ッ!!!!」

 

 たった一言。それも軽く呼び掛けられただけの言葉で、全身が粟立つ。呼吸が止まり心臓が一瞬で凍った。

 ほぼ反射的に体を強引に捻ることで、全力で進行方向を変え、その存在と絶対に接触しないように、体を無理にでも動かす。その甲斐あって髪一本も触れることなく、乱入者の後ろの壁に穴を開けながら突っ込む結果となった。瓦礫となった向こう側から、絹旗が痛みを堪えるように起き上がる。

 

「ぐ……ッ!!」

 

 窒素装甲(オフェンスアーマー)はあくまで体の周りに窒素を固めて、防御力を上げているだけであり、身体能力が上がっているわけではない。そのため、動かない方向に体を動かせばダメージが残る。

 当然、能力者である絹旗は分かっていたが、それでも全身全霊の回避を選んだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 側にいた下部組織の男達は理解できなかったが、結果から乱入者が大能力者(レベル4)をブッ飛ばしたのだろうとあたりをつけた。このままでは確実に殺される。男は懐から拳銃を抜き、銃口を相手に向けた。

 

「ッ!!超やめてください!ソイツはッ!!!!」

 

 恐怖に支配された男は絹旗の制止を聞かずに、()()()()()()の死角から頭を狙い発砲した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 布束砥信は困惑していた。妹達(シスターズ)を助けようとしたがそれも叶わず、無念の念を抱きながら、このまま昏倒されるのを待つしかないと考えていた矢先に、誰かが乱入をしてきた。

 御坂美琴かと一瞬思ったが、彼女はもう一基の施設を潰しに行った。彼女も間違いなく刺客が送られているだろう。それなのに、ここに来るには余りにも早すぎる。

 では、全く違う組織からの介入か。ありそうではあるが、これは学園都市上層部が主導している計画だ。そのようなブッキングはまず起こさないだろう。では、誰なのか。()()()()()()()()()()()()()()()()し、一体誰が……。

 煙が晴れた先で、思いがけない人物が傲岸不遜にも、この空間を支配していた。その顔はこの計画に関わる上で、科学者達に与えられた書類に目を通した中に、載せられていた人物だった。

 

 

「まさか、あなた一方通行(アクセラレータ)ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パンッッッ!!!!と強く破裂する音が響き、一瞬世界が止まった。

 しかし、崩れ落ちる音と共に絶叫が世界を動かす。

 

「ぐあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッ!!!!!!」

 

 下っ端の男が拳銃を持っていた手を押さえ、絶叫を上げている。一方通行の反射で銃弾が反射したのだろう。御愁傷様だ。暗部にいるのだからこの程度は許容範囲内だろ。

 俺は別に聖人君子じゃない。とあるの主要人物でないキャラクターがどうなろうと、基本的に無頓着だ。御坂妹が目の前で殺されても、上条当麻や御坂美琴のように激昂はしないだろう。

 彼女達が死ぬのは当たり前だと知っているのだから。そして、他のキャラクターも大して反応は変わらない。

 それは、ある少女を除いてこの世界に生きる人間が、自分と同じ人間だと思えないからだ。NPCのために激昂する人間が、どれだけいるのだろうか。

 それに対し、上条当麻や御坂美琴に抱いているのは、どちらかと言えば愛着だ。好きなキャラクターには幸せになってほしいのは、ファンとして当然だからな。

 

 そんなことを思っていると、絹旗が瓦礫の中から出て来ながら俺に問いかけてきた。

 

「あなたが暗部の案件に出張ってくることは、なかったはずなんですがね。私達の邪魔をすることがどういうことか、超分かっているんですか?」

 

「『あン?何でこの俺がそンなくだらねェことを気にしなくちゃなんねェんだ?オマエみてェな雑魚はおろか学園都市が相手だろォが、俺には傷一つ付けられねェことが分かンねェかァ?』」

 

 そう、今俺は一方通行の姿をしてここにいる。こんな堂々とここに来ていいのかと思うかもしれないが、一方通行の姿ならば大丈夫な可能性が高い。

 

 一つ、確証はないが原作は実験の開始時刻が20:30。そして、美琴の計画施設を襲う時間が、それよりも遅い時刻のことから、もう実験は終わっているとみていいだろう。つまり、ここに一方通行が居ても不自然ではない。

 そして、一方通行なら暗部に目を付けられても構わない。いずれ落ちることは確定しているし、体を張って実験を止めようとした布束は、後の一方通行の守るべき存在に入っているはずだ。

 知らないから関係ないなどとは、変わった一方通行は絶対に言わないのだから。

 

 二つ、一方通行の能力は未現物質(ダークマター)のような、この世界の物理現象に沿っていないもの以外では、無類の強さを誇る能力だ。いくら劣化していても使いようによっては、大能力者(レベル4)を圧倒することも可能である。

 さらに、絹旗最愛は暗闇の五月計画の被験者のため、一方通行の演算パターンを一部植え付けられている。

 そのため、初めて顔を付き合わせた相手だとしても、等身大の理不尽さをその身をもって理解しているのだ。

 一方通行の能力の劣化部分を、絹旗の一方通行に抱く恐怖像で埋めることができれば、有利な戦闘になる。

 

 三つ、アレイスターは滞空回線(アンダーライン)を使って俺にどうこうはしないだろう。俺が原石という貴重なサンプルであることもそうだし、髪は白髪に染めたから滞空回線で見ていても、俺の変身能力が超能力者(レベル5)級だとバレることはない。

 そもそも、アレイスターから見れば布束なんて、取るに足りない存在だろう。今回だって事前に察知して、セキュリティを強化したわけだしな。

 俺を暗部に落とすデメリットと布束を捕まえることを比べれば、俺に天秤が傾くはずだ。

 まあ、それでもしダメなら上条の家に上がり込もうかな。第二の居候として。

 

 絹旗に恐怖を与えるにしても、違うとバレれば逆に窮地に立たされるだろう。つまり、半端な物真似は許されない。

 

「『この一方通行(アクセラレータ)に楯突いて、タダで済むとは思ってねェだろォなァ?』」

 

 まあ、一方通行らしく蹂躙しましょうか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白い悪魔が一歩、一歩殺戮するために近づいてくる。相手が学園都市最強だと知り、スキンヘッドの男は大能力者(レベル4)が傍にいるという余裕は消えて、無様にも命乞いをすることを選んだ。

 

「ひ……っ!ま、待ってくr」

 

「『ほらよ』」

 

 一方通行(オリ主)がしたのは肩に軽く触れるだけだった。しかし、その結果は明らかに触れただけでは、引き起こせるものではなかった。

 ドゴォッ!!!と、トラックにぶつかるような音が聞こえ、男が浮きながらその場で時計回りに四回転したのだ。ドシャと音を出して地面に落ちた男は、体を押さえることすらできずに呻き声を上げることしかできなかった。

 

「あがががががッ!!」

 

「『ギャハハッ!良かったなァクソカス!四回転アクセルなンてそうそう体験できるもんじゃねェぞ!?まあ、着地が不細工過ぎて零点だろォがなァ!?』」

 

 まるで、心から楽しんでいるようだが、このオリ主割りとガチで楽しんでいる。感覚としては無双ゲームで、NPCをなぎ払っているものと近いだろうか。

 一方通行の完璧なコスプレが出来て、テンションが上がっているのも要因だろう。つまり、人として認識していないがゆえの、容赦のなさなのだ。

 とはいえ、いくら一方通行の能力が使えても、劣化したものには変わりはない。いくつかの制限がある。

 

 攻撃のベクトル操作は両手からしかできず、一度に操作できるベクトルは、三つまでしか操ることができない。そのうえ、一つは運動量に確定している。

 さっきの男には運動量と重力、それと垂直抗力を合わせた一撃をお見舞いした。たった三つでもこの破壊力。まさしく、最強の能力だな。

 防御の反射だが、発動するには止まっていなくてはならず、熱量や電気量などのスカラーは操ることができない。超電磁砲(レールガン)原子崩し(メルトダウナー)などをくらえば、当然反射せずに体を貫通してしまう。相性によっては即死もあり得るのだ。

 しかし、絹旗のような打撃系の能力者では、俺の一方通行(偽)は倒すことはほぼ不可能だ。

 

「『次はオマエだぞ、三下(さんした)ァ?』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絹旗は焦りながらも思考を巡らす。目の前にいるのは()()()()()()()()()()()()一方通行(アクセラレータ)だ。万に一つも勝ち目はない。

 攻撃ですらない牽制の一手が、必死の攻撃となってこちらに返ってくるのだ。腰にクラッカー式の爆弾もあるが、それこそレーザーになって返ってくる可能性も十分あるだろう。

 

「(打撃もダメ、爆薬もダメ。何なんですかねこのチート野郎は。物理法則の全てを掌握してる時点で、敵なんか超いないでしょうね。あの傲慢っぷりも納得です)」

 

 思考を巡らした結果、勝つ可能性が零パーセントであることが、分かっただけだ。それどころか、生き残る可能性も限りなく低い。

 

「(ですが、このまま逃げても、ペナルティが付けられる可能性があるんですよね。もし、そうなった時のために何かしらの情報がなければ、麦野に上半身と下半身がおさらばされる可能性があります)」

 

 まるで、上司のパワハラを受ける、中間管理職のような気分になりながらも、絹旗は怪物相手に言葉を投げ掛ける。

 

「何かお目当ての物があったですか?あなたほどの人物が、こんな陰気な場所に自ら進んで来るとは思いませんが」

 

「『オマエに言う義理がどこにあるンですかァ?』」

 

「私達はその人に超用があります。あなたの用事が済みましたらこちらに渡してもらえませんか?そこの人を処理をするだけなので、あなたのことを探ることはしないと、私の命を懸けて約束します。必要なら私から上に超掛け合いましょう。どうでしょうか?」

 

 アイテムはあくまで依頼を受けて、それに応じる組織だ。上との交渉などほぼ不可能だろう。

 しかし、見方によっては一方通行とのパイプができると考えれば、悪くない取り引きとも考えられる。

 どちらにしろ、戦えば死ぬ未来しかないのだから、今はその可能性に掛けるしかない。

 

「『知るかマヌケ』」

 

「ッ!!」

 

 たった一言であっさり切り捨てられた。即席での交渉内容の構築だったとはいえ、お互いに悪くなかったはずだ。それなのに、目の前の怪物は一考の余地すら持たなかった。

 

「『この俺が何でカス共に気を使わなきゃなンねェ?テメェらが俺に合わすのが道理だろォが』」

 

「(それができたら超苦労しないンですよッ!世界が自分を中心に回ってると、思ってンですかこのクソ野郎はッ!!)」

 

 内心でブチ切れながらも表に出さないようにし、次の一手のために再び思考を回す。しかし、その意識が逸れた瞬間、絹旗の運命が決まった。

 

「『そんなに言い訳が欲しいンならくれてやる』」

 

「なっ!?」

 

 意識を戻せば拳を振りかぶる一方通行が目の前にいた。ほぼ反射的に腕を交差させる。

 

「(窒素装甲(オフェンスアーマー)があるから生半可の攻撃じゃ効かないんだよなぁ。銃弾の速度じゃ効かないらしいから、1,300km/hぐらいは出さないと、大したダメージにならないなーこりゃ。

 運動量だけじゃ無理だし、室内だから風力も大して使えない。垂直抗力じゃ下手すれば絹旗死ぬしなぁ。

 アイテムにはこれからのために、いてもらわないといけないから、これもなし。重力程度じゃ全然足りないだろうから…………原作でも使われてた()()を使うか)」

 

 そんなクソ適当な思考な基に、恐るべき一撃が絹旗に向けて放たれることとなった。

 

 

 

「『オマエがどォ思おうがンなことは関係ねェ。こっから先は一方通行だ。雑魚は雑魚らしく媚びへつらって、無様に来た道へ引き返しやがれェ!!』」

 

 

 ドッッッゴバッッッ!!!!という轟音と共に、絹旗のガードなど全くものともせず、彼女の体が後ろにある幾つもの施設の壁をブチ抜きながら、遥か彼方まで吹き飛ばされて行く。

 その猛威を振るった相手は、自分が開けた真新しい幾つもの穴から、外の景色を見てしみじみと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(運動量+空気抵抗+自転であそこまで飛んでいくのかぁ。でも、まあ窒素装甲なら余裕だろ)」

 

 

 

 絹旗は割りとマジで死にかけていた。

 

 

 

 

 




オリ主の異常性が少し見え隠れする話です。いろいろ可笑しな存在なので、これくらいはズレているかなと。

時間帯は描写がなかったので、勝手に想像して書いてしまいました。
高速で突っ込む運動量と、それに伴う空気抵抗のベクトルを絹旗に向けて、そのうえさらに自転なので…………どれくらいの力なのだろう?

ちなみに、東京での自転の速度は約1,400km/hらしいです。


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16.安全地帯

なんか、やめるやめる詐欺みたいになってるなあーと思いつつ、投稿します。


 今目の前で起きたことが信じられない。自分は先程まで学園都市の闇の中へ、高能力者の手により落とされるはずであった。そこに乱入してきたのは敵組織でも何でもない、たった一人の少年。色白の細身でひ弱にも見えるが、彼女は知っていた。彼の名は

 

 ──一方通行(アクセラレータ)

 

 学園都市の能力者全ての頂点にして、最強の能力者。

 しかし、彼が私を助けに来るなどあり得ない。なぜなら彼自身が参加している実験を、私は止めようとしたのだから。目障りな私を消すことはあっても、助けに来るなどどう考えても道理に合わない。彼が突然善性に目覚めたわけでもないだろう。それなら、なぜこんな

 

 

 

「『オイ』」

 

 意識の隙間から突然声を掛けてきたのは、私を押さえつけていた大能力者を、遥か彼方の上空にまで吹き飛ばした怪物だった。彼は先ほどの吹き飛ばした衝撃で、新たに生まれた粉塵から、私がその姿を認識できる距離まで近づいてきた。

 

「ッ!!な、何かしら?申し訳ないけれど、私にはあなたに渡す有益な情報なん「『では、行きますわよ』」…………は?」

 

 今までこの場を支配していた怪物が、中学生の女子のような姿に変わり、間抜けにも口を開けて呆然としてしまう。しかし、更なる変化が私に襲いかかった。

 

 

 

 

 瞬きした次の瞬間に写ったのは光景は、街の灯りがちらほら見える夜の街並みと、自分を上から覆う夜空だった。

 

 

「ッッッ?!?!?!」

 

 訳がわからずに目を剥く。何一つ理解ができない。何故三、四十メートル上空にいきなり居るのだろうか。こうも理解の範疇を超えられ続けると、流石に思考を止めてしまう。

 

「『よっ』」シュン「『ふっ』」シュン「『はっ』」シュン

 

 と、軽快に声を出しつつ彼女?は空間移動をしていく。この時点で訳がわからない。

 「自分より年下の少女に、横抱きにされるのは若干腹が立つわね」と現実逃避をしている布束であったが、どうやら目的地に着いたらしい。

 長い瞬間移動での移動が終わり、しばらくぶりに地面に足を着く。安全圏の確保と理解不能の出来事から、一時的に遠ざかったことで、今すぐにでもしゃがみこみたい気持ちなのだが、隣に立つ人物にいろいろ尋ねなくてはならないだろう。

 

「…………あなたは一体何者なのかしら?」

 

「『髪が伸びたことで元の髪色が、見えていると思うんですが……。まあ、あんなことの後なのですから、そこまで気に回らないのも仕方ないと言えば、仕方ないですわね』」

 

 そこまで言われてようやく気づく。彼女をよく見てみると、束ねた白髪のツインテールの先から()()()()()()()()()()()

 

「ッ!?まさか、あなた……」

 

「やあ、今朝ぶりだね。無事なようで何よりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう一つの施設を防衛していたアイテムの少女達は、リーダーの麦野を残して下部組織の用意した車に乗り、戦線を離脱していた。

 

「はあーー。まさか、相手があの超電磁砲(レールガン)だとは思わない訳よ」

 

「大丈夫?フレンダ」

 

「大丈夫よ大丈夫!別に体が動かなくなる程じゃないしね!」

 

 超電磁砲(レールガン)に捕まりその身に電流を浴びたフレンダだが、そこは暗部の人間。柔な鍛え方はしていない。その様子に安堵する滝壺の隣で、フレンダはこのあとの予定について考えていた。

 

「まずは、絹旗と合流して今回の成果の確認をおう……ッ!?」

 

 フレンダが得意気にしゃべっていると、いきなりハンドルが切られた。体に凄まじいGがかかる。その乱暴な運転にフレンダが運転手に怒鳴り散らそうとする、その直前。

 

 

 ドゴォオッッッッンンンン!!!!!!

 

 

「のわっ!?」

 

「ッ!?」

 

 と、天高くから何かがとてつもない速度で墜落してきた。地面が揺れるその衝撃から、とてつもない高度からの落下であることがわかる。まるで隕石のようだが、そこまで都合のいいことはまずない。

 目の前に落ちたのが道を防ぐことが目的ならば、今すぐにも迅速に退避をするべき……!

 フレンダは滝壺を車から外に出し、別の隠れ家のルートに向かおうとするが、ふと先ほど墜落したとこを見ると、あることに気づく。粉塵の中のあれは()()()()()()()()()()……。

 残り少ない爆弾を手に構え、フレンダが粉塵に近寄ると、何故か荒い息づかいが聞こえる。

 その事を不審に思いながらもよく見てみるとその顔に見覚えがあった。それこそ数時間前に会った顔に。

 

「「絹旗!?」」

 

「ぐッ……ごほッ、がはッ……ッ!!」

 

 今まさに合流しようとしていた相手が、何故か空から降ってきた。体はあちこちから出血していて、さらに口から血を吐いている瀕死の状態である。理解できない状況にフレンダは混乱に陥る。

 

「なになになに!?何なのこれ!?どうして絹旗が空からおちてくるの!?ラピ●タじゃあるまいし、流石にその勢いで落ちて来られたら腕がひき肉になる訳よ!!」

 

「……フレンダ、冗談を言っている場合じゃない。すぐに病院に連れていかないと、絹旗が死んじゃう」

 

「ゴフッ…………超……聞いてください。……私を学園都市外の地形が、見えるまで、飛ばしたのは…………学園都市、第一位です」

 

「…………………………は?」

 

 だいいちい?だいいちいって第一位?この街の頂点?

 隣にいる滝壺が絶句しているところをみると、フレンダの聞き間違いではないらしい。

 

「ヤバイヤバイヤバイヤバイ……ッ!!いくらなんでも勝率が低すぎる訳よ!第一位と第三位を相手にするのは、流石に麦野でも無理だってッ!?」

 

「うん、こんな話は聞いてない。また上と話し合うべき」

 

「だ、だよね!麦野と合流したらすぐにこの事を話そう!麦野でもこの状況を知れば引いてくれるはずッ!」

 

「ガハッ……コフッ……」

 

「ああ……!絹旗のことを一瞬忘れてた訳よ!早く病院に連れていかないとっ!」

 

 わたわたしながら彼女達は、埋まった少女を地面から発掘し、完全な隠れ家へと移動するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わりとある高校。その校舎の教室で机を対になるように並べ、椅子に座り二人の少女達が向き合っていた。二人の間には、余人を許さないかのような空気がある。その張りつめた空気を破壊する一言を、黒髪のボブカットの少女が喉を震わし、覚悟を決めて発した。

 

 

「ダウト」

 

「残念。本当だよ」

 

 

 苦々しい表情をしながら布束砥信は場にあるカードを手札に加える。なんとこの二人、真っ黒な組織から命を狙われる中で、トランプを使い悠々自適に遊んでいるのだ。

 暗部の連中もビックリである。コイツら逃避行をしているということを、忘れているのだろうか?

 

「(人の心理について、ある程度は精通していたつもりだったけど、演出によるブラフにも全く動揺しないなんてね。……しかも、この子のポーカーフェイスからは何も読み取れないわ)」

 

 違う。シリアスな雰囲気を出しながら考えることではない。もっと他に思考を回すことがあるだろう?追われているのはお前なんだぞ?

 そのことには両者は触れずに自分のターンでそれぞれ手札を切る。布束は自分の武器が通じないことに、内心で歯噛みをしながらも少しずつ手札を減らしていく。

 そして、ゲームは続いていき、ついにその時がきた。脱力して布束は持っていた手札を机に放る。

 

「はあ、完敗ね。ここまで手も足も出ないとは思わなかったわ」

 

「ふふっ、心理や脳の専門家が僕の周りには多く居てね。駆け引きならそうそう負けないよ」

 

 次はどのトランプのゲームをしようかと、わくわくしながら話す少女を見て、ついため息をついてしまう。

 研究者として生きてきて、こうして同年代と遊ぶのは初めてだったが、楽しくないわけではなかった。しかし、今置かれている状況を鑑みると、とても落ち着かないのも事実だ。

 そんな彼女を見ながらふと思う。感情がほとんど変わらないところや、一歩引いたような距離から話すところは、まるで()()()のようだと。

 

「それで?どうしてトランプなのか、そろそろ聞いてもいいかしら?」

 

「ん?したかったからに決まってるだろう?それにしても随分と遅かったね。てっきり提案した時点で聞かれると思ったよ」

 

「私もトランプを通して知りたいこともあったし、何より助けて貰ったのだからこの程度のことはするわ」

 

 私の演出を使った駆け引きでは、全く相手にならないことがね。

 

 能力でも上、思考力でも上、身体能力もおそらく上。彼女が殺しに来たら私は何も出来ないわね。とはいえ、危険を冒してまで助けに来るくらいなのだから、そんなことはしないだろうけど。

 さて、一体何が目的なのかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故私を助けに来れたのかしら?あなたには全く違う施設を教えたのだけど」

 

 そうなのだ。このギョロ目、学区が違うところを教えてきやがって。言われた通りにしていたら間違いなくたどり着けなかったぞ。

 最初は言われた場所に行こうとしたのだが、よくよく考えれば御坂のところに行ってもしかたないし、「布束に付いていったほうが確実じゃね?」と考え直したのだ。

 無理矢理自分から聞いたくせに、言われたことをガン無視をしたので後ろめたかったが、布束を助けることができなければこの事件に首を突っ込む意味がない。

 だから、ストーカーのようにビルや家屋の屋根を飛び越えて、こそこそ後ろからついていったのだ。

 そうしていると、コイツは俺に言った二つの施設の場所と、全く違うところに行ったのだ。その時点でウソを言われたことに気付いた。

 内心でちょっと、ちょおっっっっと、イラッ!としたけど、俺を危険地帯に行かせないためだと思えば、……まあいいか。

 

 布束は施設に関係者として潜入したから、同じやり方は不可能だ。そのため、あとから力業で突っ込むことにした。(脳筋)

 アクセラさんになって超テンション上がった!あの個性的な容姿にファッション、なんてコスプレのしがいがあるキャラクターなのだろうか。

 まさかあの服がブランド物だとは思わなかったが、コスプレするための必要経費だ。しょうがない。

 あの成りきりの完成度は我ながら相当高かったと思う。心残りがあるとしたら、愉快なオブジェを言いそびれたことかな。とはいえ、全体的に見たら結構クオリティが高かったと思うんだよね!(大満足)

 あれ?特典によって声としゃべり方も一緒だから、これはもはやリアル一方通行(アクセラレータ)と言っても過言ではないのでは……ッ!?(※学園都市なので実際にいます)

 

 絹旗の窒素装甲(オフェンスアーマー)は衝撃を無効化するチート能力だったが、頑張ってなんとか退かせることに無事成功した。

 それで一緒に逃げたわけだが、匿うにしてもウチは天井に穴が空いてるために、一発で衛星にバレるからなし。一ヶ所心当たりがあるが、この時間ではいない可能性があるため、明日の朝に赴くのが最善だろう。

 その間の隠れ家としてこの学校に移動したんだよ。瞬間移動で足はつかないし、普通の学校の校舎の中にいるとは考えないだろう。それ以前に一方通行(アクセラレータ)(偽)の登場で現場は大混乱だろう。あっはっはっは!(愉悦)

 とはいえ、学校の校舎は何もやることがなくて、暇で暇で退屈すぎた。適当に机の中を漁っていけば、流石無能力者(レベル0)ばっかりの高校。なんとトランプが入っていた机があった。

 そんなこんなで二人っきりでポーカーやら、ダウトやらでこうして楽しんでいるわけだ。思考の誘導や番外戦術を駆使したゲームで、頭の体操にもなり意外に楽しい。

 作中キャラ(とある科学の超電磁砲の)とこうして普通の遊びをする事は、上条やみさきちで分かっていたことだがテンションが超上がるな!

 いやー、悔しげな表情だったりを見てると、ついつい顔が死んじゃうわ。前と違って無意識下でエルキドゥの動きができなくなったから、常に意識しないといけないんだよなぁ。今回はそのおかげで顔がポーカーフェイスになってうまくいったけど。

 

「君が僕に嘘をついていると思ったからね(大嘘)」

 

「……はあ。ここまで見破られているとはね。とはいえ、あなたも私に嘘をついているでしょう」

 

 肩がビクッと震える。布束が半目で睨み付けてくる。

 

「何でそう思うんだい?(ウソぉ!?何故バレた!?)」

 

「becauseあなたは後輩のためと言っていたけれど、私を助けてもその後輩のためになるとは思えない。それどころか、逆に厄介事を持ち込んでしまっているもの。何か私に用があるのでしょう?」

 

 なんだそっちかぁー。全く焦らせんなよな!

 でも、あまり上条とは関係ないことではあるのも事実だ。布束は超電磁砲のキャラだし、そもそも二人は一切関わりがない。これは、布束を助けたい俺の我が儘なんだから。

 ……まあしょうがないとはいえ、ギョロ目ボブカットは上条のことを知らなさすぎだな。

 

「いや、実際に後輩のためになってるさ。彼とそれなりの付き合いがあればすぐに分かることだよ。彼はヒーローだからね」

 

「……?」

 

「つまり、君がどこの誰なのか全く知らなくても、彼は絶望に苦しむ人を出したくないんだよ。それが自分に一切関係ないことでもね」

 

「」

 

 絶句。布束砥信、絶句である。まあ、確かに訳がわからんよな。上条はそのうち、学園都市で起きた悲劇をどうにか出来なかったのかと責められることになる。

 特別な連絡手段や、そういった伝を持たない高校生に言うことじゃないだろ、と思うが上条はこれを重く受け止めるのだ。

 これはぶっちゃけ、「そんなの知らん」で済む話だと思う。周りがヒーローと呼ぶだけで、上条が誰かに向かってヒーローだと名乗ったことはないし、そもそも絶対に助ける義務とか上条にないしな。

 まあ、そう言わないから主人公なのかもしれんけど。この思考や行動は原作でもバードウェイに狂人扱いされてたっけ。

 

 

 

 そして、翌朝。

 

 夜遅くに高校の校舎に潜伏する不良少女×2は、こそこそと抜け出しあるところに移動する。

 

「病院は怪我や病気の治療をする場所であって、匿う場所ではないんだけどね」

 

 そう、このカエル顔の医者の勤める病院である。

 

「何故よりにもよって人が多い病院なのかしら。私は追われているのよ?これは悪手でしかないわ」

 

「いや、そうでもないよ。彼ならば大丈夫だ」

 

「ふむ、存外に僕のことを買ってくれているようだね?その根拠を教えて貰ってもいいかな」

 

「近いうちに彼女の調整していたクローン達が、ここに運ばれてくる」

 

「ッ!?あなたそんな軽々しく彼女達のことを、無関係の人間に……!!」

 

 俺の言葉で布束の俺に対する態度が刺々しいものに変わった。学園都市上層部が関与しているこの問題に、ただの医者である彼を巻き込むことを忌避しているのだろう。

 だが、布束は気づいているだろうか?布束の表情が変わったように、後ろにいる世界一の名医の目の色が変わったことに。

 

「なるほどね。それなら助手として彼女を雇おうかな」

 

「っ!待って、彼女達が関わる計画はあなたの考えるものよりも、遥かにおぞましいもので……!!」

 

「関係ないね」

 

 後ろの名医はその警告を即座に切り捨てる。

 

「僕は患者のために必要なものは揃える。クローンの少女達を助けるためには君の知識が必要なんだろう?なら、君を匿うために情報の隠匿も戦力の確保もするのが僕の仕事だ」

 

 その言葉は反論を許さないかのような力強さが宿っていた。この世界でも変わらない彼の姿につい笑みが浮かぶ。

 

「お礼にナースの姿で触診してあげるよ」

 

「せめて、あと五年経ってから来てほしいね?」

 

 そして、彼は白衣を翻して彼の戦場に戻っていく。その歩みは一切の物怖じを感じさせず、それが当たり前の日常であるのだと、まるでその背中で語るように。

 

「……彼は、一体……」

 

 布束がその姿につい言葉が溢れたかのように呟いた。医者としての腕だけでは出せない、その姿に圧倒されたのだろう。ならば、彼女は知るべきだ。彼の戦場に立つことになるのだから。

 

冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)。世界最高のお医者様だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ペタペタとサンダルを鳴らして戦場へと戻る最中に、他の誰にも聞こえない小さな声量で、その医者は呟いた。

 

「アレイスター。君がどういうつもりかは知らないが、僕は変わらずに患者を助けるだけだ。例えそれが、君の意に反することであったとしてもね」

 

 

 

 

 

 

 




髪の毛の上は緑で先端は白…………ネギかな?

アンケートを2つ同時にやるのは無理なようなので、上やん病についてはまた次回に。(それが目的だったような?)
アンケートを1回削除してしまったので、最初に押してくれた人はまた押してくれると嬉しいです。


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17.まさかの展開

書き始めたときは、新約のオティヌスぐらいまでやろうと思ってましたね。(狂気)

どこまで行けるのか作者も分かりませんが、書ける限りは書こうと思います。


 布束をカエル顔の医者がいる病院に置いていったあとは、上条と一方通行(アクセラレータ)が戦う日を調べることにした。さすがに上条が戦う日にちまでは覚えていない。

 上条の傍に居れば間違いなく、事件があっちからやって来るのだが、今回は"上条がこの事件に関わるだろうから、あらかじめ事件を詳しく知っておく"という名目で動いている。

 そのため、上条に自ら伝えることや察せられるようなことは、なるべくしないほうがいいだろう。アレイスターに違和感を持たれたら詰みだからな。

 

 まあ、上条に言えば原作うんぬん関係なく、力になってくれるのは分かっているんだけど。

 

 ミコっちゃんに会えればトントン拍子に進むのだが、さすがにそこまで都合良くは進まないらしい。ここ数日は外を歩き回ったのだが、セブンスミストにも居ないし佐天さん達と遊んでいるわけではないみたいだ。

 常磐台でこの時期に何かイベントがあるわけでもないのに、どうして会わないのだろうか?その理由をしばらくしてから思い出した。

 

 (そういや、実験の継続を知って樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)で止めようとするんだっけ)

 

 もし、そこまで進んでいるのなら、ミコっちゃんを見付けることは難しい。今彼女は隠密で動いているため、いつも通りのルートでは出会うことはないだろう。

 うーん。もしかしたら戦いが終わったあとに、病院で上条に会うパターンではないだろうか?

 

「あなたは……」

 

「ん?」

 

 半ば諦めていると突然前から声がかけられた。その人物は今考えていた計画の主要人物である。それも、その計画の()()()()()()

 

「やあ、君か。久しぶりだね」

 

「それは私ではなくミサカ9981号のミサカです、とミサカはあなたの言葉を訂正します」

 

 まあ、ミサカネットワークに記憶されているだけで、話した本人ではないからな。そう言いたいのも分かるが。

 妹達(シスターズ)は学園都市でも秘匿中の秘匿だ。だから、関係者である妹達に実験を知っていることがバレれば、計画を進めている学園都市の上層部に伝わる───

 

 訳ではない。

 

 もしそうなら計画を知った上条はもちろん、ミコっちゃんにも何かしらの処置をしたはずだ。しなかったために、計画の関連施設をミコっちゃんにいくつも破壊されるのだから。

 

 この事から、妹達は実験の秘密を知ってしまった者を、上に伝える義務はないのだろう。

 そして、アレイスターは上条を手助けするために、俺が動いていること。そして、その結果すでにある程度の詳細を把握していることを、滞空回線(アンダーライン)を通してすでに奴は知っている。そのため、彼女に対してはもう取り繕う必要はない。そうだ、一応聞いてみるか。

 

「───上条当麻。彼を知っているね」

 

「はい。彼は昨日からミサカネットワークに記憶されていますと、ミサカは未だに名前すら知らない人の問いに、親切にも答えます」

 

 ……、

 

 ……、

 

 …………え?

 

 マジで?ホントに?適当に言っただけなのんですけど……。もうそこまで進んでんの?……これはマジで事件解決後パターンだわ。

 

 ミコっちゃんに会ってないことで、もう介入するタイミングがないんだよなぁ。

 まあ、上条が拳を握ることになればどうとでもなるし、あとはお若い人達に任せましょうかねぇー……。と、縁側に座り緑茶でも飲みながら、ぼけーっと寛ぎたい気分になっていると、彼女から声がかけられる。

 

「あなたは実験について尋ねないのですね」

 

「うん?」

 

「いえ、今までこの実験を知った人物はその理由を聞いてきましたと、ミサカは今までにないパターンに疑問を抱きます」

 

「僕はもう実験のことを知っているし、それに僕がどうこう言うことじゃないからね。君がそうしたいのなら今から殺されに行くのだとしても、僕は止めない。例え造られた体なのだとしても、心は君のものだ」

 

学習装置(テスタメント)から知識を得たこの思考は、機械に作り出された物であるため、心というものを理解する機能は付いていませんと、ミサカはあなたに説明します」

 

「なら、覚悟しておくといい。それを理解するのがもうすぐ君の役目となるだろうからね」

 

 上条に助けられてなお、「心が未だに分かりません」なんて言ってみろ。どうせすぐにズブズブに沼に嵌まって、抜け出せなくなるに決まってる。原作でもほの字だぞお前。

 

「ですが、心というものを理解したとしても、ミサカの存在意義は一方通行(アクセラレータ)に殺されることですと、ミサカは生まれた理由を持ち出します」

 

『───だとしても、君は使命感で殺されに行くだけだろう?造り出された理由が、その後の生きる存在意義に直結するなんてあり得ない。

 君には自我がある。なら、自分の存在意義は自分自身で手に入れるべきだ』

 

「……ミサカには理解できません」

 

()()()()()()()()()()()()()()。君も見つけられるといいね。自分を変えてくれる存在に』

 

 そう言って微笑んだあと、彼女は緑髪の長髪を風に靡かせながら去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……んあ?あれ?ここどこ?)」

 

 なんと目が覚めたら、さっきまでとはぜんぜん違う場所に立っていた。

 

「(さっきまで御坂妹と話してなかったか?いつの間にこんなところに移動したんだ?)」

 

 夢遊病というやつか?立ったまんま?

 理由はさっぱりわからんが、河川敷に一人で立っており、御坂妹が近くにいないことから、原作に関わる可能性はゼロになったと考えていいだろう。

 まあ、それについては半分諦めていたし別に構わない。で、あれば気持ちを切り替えて、病室での名台詞を聞き逃さないようにしなければ!と、すでにわくわくしながら意気込んでいると

 

 

 

 後ろからザンッ!と地面を踏みしめる音が聞こえた。

 慌てて振り返ると、決しているはずのない人物がそこに立っていた。目の前に何故いるのか理解できない。

 

「……そう……なのね…………アンタも、関わっていたってわけか……ッ!」

 

 宿敵に会ったかのような、あるいは絶望の中で一筋の光を見つけたかのような、余裕のない表情をした常磐台のエースは、代名詞にもなっている超電磁砲(レールガン)を放つコインを指で挟み、こちらに向けていつでも放てるように構えた。

 その少女は鬼気迫るような声音で宣言する。

 

 

 

「アンタの知ってることを全部話してもらう!!あの子達を助けるためにッッッ!!!!」

 

 

 

 シリアス全開の御坂美琴を見て俺は思った。

 

 

 

 

 ……このストーリー俺知らないんですけど?

 

 

 

 




心がどうこう言っておきながら、意志を一瞬で奪われるオリ主ェ。
※アンケート結果を優先したいとは思いますが、これからの物語の進行しだいでは、作者がより物語に合った展開になるだろうと思うルートを、その時に独断で選ぶことにご留意ください。


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18.不気味な少女

遅れました。許してくださいプライベートが忙しいのです。_(..)_
では、伏線回収していく20話です。


 天野(あまの)倶佐利(くさり)

 

 ツンツン頭の少年との、決闘の場に現れた不気味な少女。基本的に噂などは気にしない美琴のため、常磐台の卒業した生徒の噂など、当然知るよしもなかった。

 その彼女が天野倶佐利を知ることとなったのは、仲の良い少女からとの会話からだった。

 

 

 話は遡り、彼女と出会う数日前のことである。

 

 

 夏の陽射しが照り付ける、七月終盤近くのとある日。セブンスミストにて、いつものように集まり談笑している、四人の少女達。場が温まってきたときを見計らい、満を持して少女が話し出す。

 

「ふっふっふっ!今回も新しい都市伝説を仕入れてきましたよぉー!」

 

 小物くさいセリフを吐きつつ、明るく声を上げたのは、この間まで小学生とは思えないプロポーションをしている、黒髪ロングに一輪の花飾りが特徴の、中学一年生佐天涙子だ。

 それは、行き付けの場所となったファミレス店で、いつものメンバーと談笑中の一コマであった。

 

「……はぁ、またですの?この学園都市でそんなオカルト染みたことなど、あるわけないでしょうに」

 

「まあまあ、いいじゃないですか白井さん。佐天さんのお話は面白いですし」

 

「ですが初春、この前の【能力が効かない能力をもつ男】などと、余りにも荒唐無稽な話ではありませ──」

 

「コフッ!?」

 

「どうしましたのお姉様!?」

 

「な、何でもないわ。大丈夫よ黒子(ものすっごい身に覚えがあるわねその噂の男……)」

 

 都市伝説を求めてやまない、ミーハーな佐天涙子を見て、呆れている白井黒子。

 科学の総本山である、学園都市に住んでいる彼女から見れば、そんなものは"常識的に考えてあり得ない"という結論になる。

 それは、学園都市第三位の地位にいる彼女にも、もちろん当てはまるはずなのだが、なぜか焦って気管にジュースを詰まらせていた。それもそのはず、件の噂の男と戦闘(軽くあしらわれてばかりだが)を何度もしているのだから。

 そんな彼女を尻目に、佐天は少しばかり声を大きくして言った。

 

 

「今回の都市伝説の女は、実際に戸籍が確認されていて、目撃証言も多くある、実在する人物なんです!」

 

 

 

 

「「「……………………うん?」」」

 

 彼女達のテーブルに、しーんと静寂が流れた。

 

「……あ、あれ?皆さんどうしました?」

 

「……どうしたというかなんといいますか……」

 

「えぇとね?佐天さん。私たち都市伝説には詳しくないんだけど」

 

「それって、そもそも都市伝説って言えますの?」

 

 都市伝説とは情報が不確かで、曖昧な噂話のことだ。ここまで確認されているなら、それってもう都市伝説じゃなくね?と少女達は思った。

 それを聞いた佐天は、テーブルに身を乗り出して話し出した。

 

「そう!そう!そうですよね!私もそう思ったんですけど、どうにも違うらしいんですよ。なんでもその人物と、扱う能力が特殊らしいんです」

 

「特殊ですか?学園都市だと【どんな能力も効かない能力をもつ男】ぐらいではないと、特殊にならないんじゃありませんの?」

 

「話によると、その【どんな能力も効かない能力をもつ男】と、同等の力を持った、とんでもない存在なんですよ!」

 

「能力の無効化と同じくらいって、どんな能力なんですか?」

 

 

「なんとっ!【どんな能力でもコピーする能力をもつ女】なんですって!」

 

 

 

「「「…………」」」

 

 またしても、場に静寂が流れた。

 先程の疑問による無言ではなく、どちらかといえばしらーっとした目で、彼女達は見つめていた。

 

「……佐天さん。それって【どんな能力も効かない能力をもつ男】から派生した噂にすぎないのでは?」

 

「私もそう思います。夢がある能力だとおもいますけど、多重能力者(デュアルスキル)は実現不可能らしいですから」

 

「もし、実在していたら超能力者(レベル5)にいるはずだけど、一度も聞いたことがないわね」

 

「え?あれ?初春はともかく、お二人は知っているんじゃないですか?」

 

「えっ?どうして私たちが?」

 

 投げ掛けられた言葉が分からず、不思議に思い佐天さんに聞いてみる。黒子も首を傾げていることから、私と同じ気持ちなのだろう。

 

「その【どんな能力でもコピーする能力をもつ女】って、元常磐台生らしいんですよ」

 

「でも、お二人がご存知ないのなら、やはりただの都市伝説ではないでしょうか」

 

「だよねぇー、やっぱりウソかぁー……」

 

 ガックリと落ち込む佐天。その様子を見ていた常磐台の少女達は、彼女にそれぞれ言葉をかけた。

 

「ええっと……、私はそういう話は興味無いし、黒子は風紀委員(ジャッジメント)で忙しいから、話を聞かないだけかもしれないわよ?」

 

「それに戸籍が確認されているのなら、先輩方や教員の方に聞けば分かるでしょうから、その噂を話してみてくださいな」

 

 二人からそう言われて、彼女は俯いていた顔を上げた。不器用な励ましを受けて感動したのか、喜色満面となっている。

 そして、白井黒子の言った通りに、【どんな能力でもコピーする能力をもつ女】の説明をする。

 

「美人で髪が特徴的な色をしている他は、見た目の情報は出回っていないんですけど、『能力を活かして諸外国にスパイとして潜入しに行った』、『闇の組織に入り学園都市を乗っ取ろうとしている』、『何故か学園都市にある最低レベルの高校に進学した』などの噂が出回っているらしいですよ」

 

「……ここまで荒唐無稽な話もなかなかありませんわね……。というか、最後だけ種類が違くありませんか?」

 

 まさに、噂が噂を呼ぶ。【どんな能力でもコピーする能力をもつ女】だけで、そのうち七不思議ができそうである。

 その話を期待はせずに寮監に話してみると、なんと本当に実在していた。髪色は常に変えていたらしいがどれも派手で、なぜか緑色という、人間には合わないだろう髪色が、一番似合っていたらしい。……黒髪や茶髪よりも似合うってどういうことよ?

 

 こんな話で盛り上がった平凡な日常こそが、とても幸せだったと今は思う。

 

 

 

 

 

 

 現在、御坂美琴は絶望の中を一人で歩いていた。

 樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)はすでに破損していて、計画を中止に追い込むことができない。最後の手段も使えないことが分かり、手詰まりとなってしまったのだ。

 

「(私が死ぬしかこの計画を止めることができない。……ただ困っている人を助けたかっただけなのに、なんでこうなっちゃったんだろう……?)」

 

 始まりは筋ジストロフィーの治療のためだと、DNAマップを提供した。それが、あの子達のためになると私は喜んでいた。

 

 それがあのイカレた実験を生み出した。

 

 知らなかったでは済まされない。すでに二万人もの命が生み出され、そして殺された。この罪を背負い、そして残りの妹達(シスターズ)を救う義務と責任が私にはある。

 悲痛な覚悟を決めた美琴が、ふと視線を横に向けると、何かが視界に入った。

 

 風に靡く緑髪だった。

 

「(ああ、そういえば佐天さんが【どんな能力でもコピーする能力をもつ女】が、最近ネットで人気になっているって言ってたっけ……)」

 

 その程度の感想しか思い浮かばなかった。一度しかあったことがない関係の薄さと、受け入れがたい現実に押し潰されているために、わざわざ声をかけようなどと思わなかったのだ。

 そのまま通り過ぎようと足を動かすが、ピタリと足が止まる。何が彼女をそうさせたのか。理由は一つ。

 

 彼女の前に妹達(シスターズ)がいたからだ。

 

「……………………え」

 

 思いもしない光景に思考が空白となる。

 

 信じられないことだが彼女達は親しげに話していた。(妹達は無表情だが)

 あのツンツン頭の少年のときと同じく、彼女達が独自の人間関係を、構築することもあるだろう。しかし、妹達は学園都市の秘匿とすべき存在だ。そう何度も会える存在ではない。では何故親しげにしている?

 そう思考している間に、緑髪の少女はどこかに去ろうとしていた。慌ててその場に駆け込むが、

 

「!消えたッ!?」

 

 その場についたときには、跡形もなく消え去っていた。

 瞬間移動(テレポート)なのか影も形も残しておらず、やるせなさからつい歯噛みをする。そして、その一部始終を見ていた少女がいた。

 

「お姉様が少年漫画さながら、横から砂煙を上げて登場したことに、動揺を隠しきれません、とミサカは内心ワクワクしながらも驚嘆します」

 

「…………………アンタ……」

 

 妹達(シスターズ)。御坂美琴の過ちから生まれてしまった、被害者達である。そして、先日美琴は彼女に暴言を吐いてしまった少女だ。他でもない自分の弱さのせいでだ。

 資格はないかもしれないが、それでもすべきことがある。

 

「……この間はあんな酷いこと言ってごめん。アンタは悪くないのよ。あれは全部私が悪いわ」

 

「いえ、お姉様の反応は当然であると認識しています、と科学者の人から教えて貰ったことをお姉様に伝えます」

 

「そんなこと……ッ!」

 

 自分にこのあとのことを言う、資格はない。切羽詰まってたとしても彼女に暴言をぶつけたのは私なんだから。

 

 無言で拳を強く握りしめた。そんな後悔に押し潰されている彼女を尻目に、彼女は話し続ける。

 

「それにしても彼女は一体何者なんでしょう、と疑問を溢します」

 

「……もしかして、名前も知らないの?」

 

「ええ、それどころか実験の概要を知っている口振りでした、とミサカは謎の存在に危機感を抱きます」

 

「実験を知っていたですってッ!?」

 

 思わず彼女の両肩に掴みかかる。

 

「次の役目と言っていたので、実験の詳細を把握していると思います、とお姉様の突然の変わりように、目を白黒しながら驚愕します」

 

 なんだそれは?一体どうなっている?たかが一生徒にこの実験が知らされるはずがない。

 いや、それより

 

 

 ━━━次の役目ってなんだ……?

 

 

 妹達(シスターズ)絶対能力進化(レベル6シフト)計画のために作られた。樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)が破壊された今、別の役目など与えられるはずがない。

 にもかかわらず、妹達は別の役目があるのだという。それから導き出される答えは───

 

「まさ……か……、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)が壊れる可能性まで……想定していた……? 」

 

 あり得ない。宇宙空間である上に、学園都市のセキュリティも万全であり、今回の破壊は限りなくゼロに近い可能性だった。今回のことは宝くじに当選するよりもさらに低い確率だ。

 だがしかし、限りなくゼロに近い事柄まで想定している、入念な計画だとしたら?

 

 

 今さら自分が死んだ程度で、まるく収まるのだろうか?

 

 

 樹形図の設計者の演算結果とは違い、128手かからずに一撃で死ねば、実験が中止になる可能性があると考えていた。

 しかし、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)が破壊されることも想定内ならば、実験が中止になった時のために、妹達(シスターズ)に別の運用方法があるのではないか?

 クローンである以上科学者や研究者達が、彼女達に容赦をするとは思えない。それこそ、使い捨ての道具ように扱うだろう。

 

 それこそ、絶対能力進化(レベル6シフト)計画のような地獄の再来があるかもしれない。

 

「………………そんなの……どうすればいいの……?」

 

 もしそうなら、妹達(シスターズ)を救うためには、学園都市の闇全部を潰さなければならない。

 ハッキリ言っていくら第三位の能力者でも、そんなことは絶対に不可能だ。

 学園都市が相手ならば電子機器は停止させられ、能力者を何人も送り続けるだろう。たった一人の少女を殺すなど、奴等にとって赤子の手首を捻るよりも簡単だ。

 代名詞の超電磁砲(レールガン)も、木原クリスティーナの戦いから、対策されていることを確認済みだ。

 

 やる前からすでに結果が見えている。大したこともできずに犬死にする。───勝率など0%だ。

 

「どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう……ッ!どうすれば!」

 

 まさか自殺することよりも、最悪な絶望があるとは思わなかった。決死の覚悟を持っても何も変えることができない。たったひとつの解決法でさえ、無意味であることを知ってしまったのだ。

 

「いや、待って……。あの女はなんで知っていた……?…………あの女が関係者であることは間違いない。それなら───

 

 ───妹達(シスターズ)のこれからを知っているんじゃ?」 

 

 あの女が実験の関係者なら、妹達の行く末を知っているはずだ。身内の裏切りまでは流石に、シミュレーションしてはいないだろう。そこに活路がある。

 

「ごめん。私これから用事があるから、もう行くわ」

 

「はい、了解しました、とお姉様にお別れの挨拶をします」

 

「ッ!」

 

 言葉を交わしたあと、美琴は彼女を追うために全力で走り出す。

 

「別れの挨拶なんてことに絶対しないわ……!」

 

 走りながらもターゲットを分析する。知っている情報は都市伝説程度で、邂逅したのは一度きり、しかもやすやすと背後を取られてしまった。もし彼女が殺すつもりなら、自分は死んでいたかもしれない。相対すれば一瞬の油断が命取りとなる。

 

「……もっと早く気付くべきだった……!」

 

 以前からおかしいとは思っていた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 電磁レーダーを頼りにしていた自分は分かるが、こちらを向いていたあの少年はそうではない。

 

「(あの女が私に近付けるように、注意を引いていたってことも考えられるけど……。あのお節介にそんな器用な真似は、きっとできない)」

 

 超能力(レベル5)の能力者に、全神経を注いで警戒していたから見逃した、という可能性もあるが、今まで散々自分を軽くあしらってきた、少年ならばそれはないだろう。

 さらに、あの日は風が吹いており、あの目立つ長髪が風に靡けば、確実に目につくはずだ。しかし、あの少年はそれに気付かずに、私に怒鳴り付けた。その事から考えられるのは、

 

「(私の電磁レーダーを、すり抜けられるかの検証……!)」

 

 そのために、あの少年に気付かれる訳にはいけなかったのだ。───そして、見事にしてやられた。

 あらゆる能力をコピーするのなら、生体電気を感知されないような、能力を有していたとしても不思議ではない。

 パルクールと磁力を合わせたような動きで、建物を高速で駆け抜けながらも考え続ける。

 

「(出力では勝っているはずたけど、闇討ちだとしてやられる。必勝条件は正面戦闘。それ以外ではこっちが不利になる)」

 

 コピー能力を使えば索敵など容易だろう。その上こっちの電磁レーダーは無効化されている。暗殺を食らえば、ほぼ間違いなく殺されるということだ。

 

 そろそろ日が落ちる。夕日が射してきたことに焦りが出てきた。

 

「(ヤバイ、実験が数時間後に始まっちゃう。それまでにあの女を見付けないといけないのに……ッ!)」

 

 水面に反射する夕日を憎々しげに睨んでいると、ふと視界に人影が映る。

 

「ッ!!」

 

 ダンッ!!!!と、建物の屋上からひとっ飛びで、ほぼ水平に飛んだ。

 何故こんな強引な動きをしたのか。見つけたからだ。ターゲットを。

 

 地面に降り立った美琴はポケットから取り出し、一方通行(アクセラレーター)のときと同様に、コインを構える。

 

 

「アンタの知ってることを全部話してもらう!!あの子達を助けるためにッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 現役JCに啖呵を切られている、現役JKがいるらしい。まあ、俺なんだけども。第三者から見たら、俺もミコっちゃんも美形だから、スゴイ絵になるんじゃね?なぜなら美形だから(強調)

 いろいろ言いたいけどまず一言。

 

 

 なんでお前ここに来たの?(困惑)

 

 

 君がすべきことは鉄橋行って上条ボコボコにして、ナデポされてイチャイチャすることだろ?(憤慨)

 そして、その光景を俺に観察させろ(迫真)

 

 ……はあ。まあまあまあ、今回はそれを置いておこう。そんで、なんでここに来たん?意味が分からんがな。

 俺悪いことしてないじゃん?良い未来になるように、結構危ない橋を渡ってるじゃん?そうじゃん?(必死)

 なんか敵意ビンビンなんだけど。何その諸悪の根元見つけた、みたいな雰囲気。

 行動起こしたの数日前よ?原作知識があるから、ある程度は知ってるけどさあ……。

 

「あの子達が今の実験の次に、やらされる計画だけでも、絶対に聞き出すから覚悟しなさい!」

 

 …………ん?はい?何それ、俺知らないんだけど。

 

 え?マジで何の話?妹達を世界に配置して、ミサカネットワークを広げる計画のこと?何でミコっちゃん知ってんの?

 それ言ったらアレイスターに消されるの確定だわ。詰んでますねぇ(白目)

 

 

 

 ダレカタスケテー!

 

 

 

 




「(物語の始まりだから、絶対邪魔しちゃいかんよなー。
……そだ!バレんように観察するために、鉄橋の上とかに居たらよくね?)」
そんなこんなで無駄にテレポートを駆使して、隠れていた原石がいたらしい。


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19.汎用性VS多様性

感想欄で裏話を書きすぎじゃね?と思う今日この頃。
そういった話を省きまくってるせいなんですけどね。
原型制御なんて書かなきゃ分かりませんわ。メインで出てきたことないですし。

では、19話です。


 夕陽が射し込む河川敷で、二人の少女が向き合っていた。

 

「悪いけど手加減とかできる状況じゃないのよ。風穴空けられたくなかったらさっさと話しなさい」

 

「……」

 

 ひりつくような緊張感の中、白いローブのような服を着ている緑髪の少女は、鉄橋のときと同じく、ぞっとするほどの感情の消えた無表情で、美琴を見つめていた。

 その態度で美琴は、自分の推測が当たっていたと確信する。あの無表情の裏で自分を排除するために、どんなイカれた計算をしているのか、美琴では想像することもできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(えぇ……。何でそんなにマジなの?(困惑))」

 

 中身一般人ではこの程度が限界である。テレパスがこの内心を美琴に伝えれば、舌打ちとメンチを切られるダブルコンボ確定だろう。

 

「(今までミコっちゃんの邪魔なんてしてないし、そもそも会ってすらないじゃん。

 ちょくちょく人助けはしてたけど、長い間ロールプレイしてたよ俺?原作の介入もみさきちのときだけだよ?)」

 

 この程度なら改変しても問題ないよね?というラインを見極めている気になっているが、バタフライエフェクトというものを知らないのだろうか?

 新約とある魔術の禁書目録の22巻リバースで、食蜂操祈関連の話をするのだが、コイツはどうするつもりなのか。

 

「(ど、どど、どうしよう……。マジギレてるJCの諌め方なんて、元男の俺が知るわけないじゃん。流行りのモン食わせればいいの?タピオカ食う?)」

 

 この元男、タピオカ単品を食べさせるつもりである。

 

「(だ、大丈夫大丈夫。一度目の人生では20まで生きて、今世では高校二年まで生きてるんだ。合わせてアラサーだよ?これぐらいできないはずがないじゃないか!)」

 

 果たして子供達に囲まれて得る経験値が、一体どれ程あるのだろうか。

 そしてこのオリ主。一つ忘れていることがある。

 

「一旦頭を冷やすといいよ」(一旦落ち着こ?ね?)

 

 エルキドゥの言葉でしかしゃべれないのだ。

 オート変換はできなくとも長年の生活から、自然とエルキドゥの口調に変えることに違和感がない。

 

「ッ!上等よッッッ!!!」

 

 セリフ選びが最悪。1アウト。

 焦りや恐怖などの過大なストレスで、精神が極限状態のときに、飄々とした態度。2アウト。

 この状況で微笑んでいるその性根。3アウトチェンジ。

 

 交代裏、第一投は本気の超電磁砲(レールガン)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(うおぉおい!?バカなの!?ねえ!バカなの!?ホントに撃つヤツがいるか!!)」

 

 躱しながら不満を爆発させるオリ主。しかし火蓋は既に切って落とされた(無自覚に)。

 この戦闘はもう避けては通れない。

 

「(ヤバいって!原作乖離にどんどんなっていくんだけど!?つーか、お前何でここにいるん!?上条との逢瀬を楽しんでこいよ!)」

 

 やたらめったら電撃を撃ってくるJCに、本気でビビり倒すアラサーJK(字面の暴力)。

 しかし、名シーンを見たさに錯乱するあたり、筋金入りかもしれない。

 そんな妄想をされている少女は何を思うのか。

 

「(超電磁砲(レールガン)で怯む素振りすら見せないなんて、やっぱりコイツは対私用の刺客ッ!手加減はいらないってわけねッ!)」

 

 美琴から見れば刺客に見えなくもないが、その実ただのとあるのファンである一般ピーポーだ。

 超電磁砲(レールガン)に引き続き、電撃の雨霰が殺到する。

 

 

 

 

 

 

「(やっぱりこっちの戦闘スタイルは全て把握されてる)コピーできるのは能力だけじゃないみたいね。理屈は全く分からないけどそれが原石らしいからいいとして、私の前で黒子の姿になるなんて、良い度胸してるじゃない!」

 

「『ええ。彼女の能力は使い勝手がよろしいので。重宝させて頂いておりますの』」

 

「ッアンタねぇ……!口調まで似せるなんてどこまで顔の皮が厚いのよ!」

 

 バチィッッ!!!と再び電撃が少女に飛ぶが、その一瞬前にまたしても掻き消える。

 まるでこちらの攻撃のタイミングが、分かっているかのような気がしてくる。

 

「(違う!実際に把握されてるッ!私の能力開発のデータを調べれば、癖なんかはあらかじめ全て知ることができるんだから!)」

 

 まさか、自分の演算パターンまで調べあげているとは思わず、愕然としてしまう。しかし、この実験は学園都市の上層部が関与しているため、手に入らないことはないと思い直す。

 自分が立ち向かっているのは、それほどまでに強大なものなのだ。

 

「(超電磁砲(レールガン)、雷撃の槍が完璧にタイミングを察知されてる。きっと砂鉄の剣も対処されるわね。

 ここは河川敷、辺りに鉄材は置いてないから磁力での攻撃もできない。ここで勝負するのはいくらなんでも早計だった!磁力で引っ張ってくるにも、その一瞬の隙で確実に殺られる……!)」

 

 先日の第四位が所属する組織、『アイテム』との戦闘のときもそうだったが、隙を見せれば死に直結する。

 意識の外れたその一瞬を察知し、気付いたときには既に手遅れ。目の前のコイツはおそらくそれができる。

 他の能力者相手ならそんなへまはしないが、演算パターンを把握されており瞬間移動(テレポート)で死角に入るとこも容易く、そのうえ生体電気も察知することもできない。

 コイツから目を離すことはあまりにも危険すぎる。

 

「(一番厄介なのは生体電気が察知できなくて、奇襲に気づけないこと。ならッ!)」

 

 美琴を中心にして大量の砂鉄が、地面から巻き上げられる。渦を巻きながら空へと昇るその姿は、まるで黒い竜のようだ。その凶悪な破壊の権化を天野倶佐利にぶつけるが、またしても瞬間移動で躱される。

 今までの焼き直しのような応酬だった。ここまでは。

 

「そこッ!!」

 

「『ッ!!』」

 

 雷撃の槍が美琴の後方に向けて飛ぶ。その方向にいた天野はすぐさま瞬間移動で退避をした。距離が離れていたため、紙一重で躱すことに成功したらしい。

 

「『……随分と動きが良くなりましたわね。まるで、人が変わったようですの』」

 

「さあ?何でかしらねッ!」

 

 その後も死角に入られても一瞬で察知し、攻撃を仕掛ける美琴。先ほどよりも天野の位置が、美琴よりも離れていることから、どちらが優勢か一目瞭然だ。

 躱していくうちに天野は目に写る小さな物体に気付く。

 

「『なるほど。先ほど空中に巻き上げられた砂鉄ですわね』」

 

「……もうバレたか。そうよ、黒子の空間移動(テレポート)は移動先の物体を押し出して移動する。つまり──」

 

「『──空中の砂鉄が押し出された空間を、演算により把握し、場所を割り出していたということですか』」

 

「アンタの生体電気が察知できないからくりは分からないけど、"必ず生体電気で察知しないといけない"なんてルールは無いわ。使いようによってはこんなこともできんのよ」

 

 この察知の仕方は後の、聖人ブリュンヒルド=エイクトベルとの戦闘でも披露することになる。

 しかし、空中に砂鉄を浮かべるためには、重力や風を磁力を以って捩じ伏せ、移動する立体的な座標を特定しなくてはならない。その難易度は遥かに跳ね上がる。

 しかし、それができるからこそ学園都市第三位なのだろう。

 

「(だけど、砂鉄の演算に結構持ってかれるわね。長期戦は不利か)」

 

 初めから分かりきっているが、この決闘は美琴の方が不利だ。こちらのことを全て把握されているため、決定打に成り得るものが今まで編み出した技にはない。

 そのうえ、あっちはまだ黒子の空間移動しか見せていない。噂通りの能力なら、歩を止めるために飛車を指してしまったようなものだ。

 能力の汎用性の高さこそが一番の長所だとは思うが、場所の優位性も砂鉄がある程度だ。コピーのストックによってはこちらのスペックを超えるかもしれない。

 

「(鉄材があれば超電磁砲(レールガン)で───ダメか。木原クリスティーナとの戦いで、おそらくそのデータも取られてる)」

 

 今振り返ると、何故不用心に外を出歩いていたのか。もしかすると、ここに誘い込まれたのではないか?人気の少ないこの場に。

 頭が冷えた今ではそう考えてしまう。一度立て直した方が最善だと理性が囁く。

 

「──だとしても、逃げるわけにはいかないのよッ!」

 

 その声を振り切って御坂美琴は目の前の敵に挑みかかる。時間がない上に、やっと見つけた唯一の突破口なのだ。例えあっちの掌だとしても退くわけにはいかない。

 だが、当然あちらも手を抜くことはしない。

 

「『えぇ~い!』」

 

 そんな気の抜ける声と共に、ドッ!!!と、風が吹き散らした。

 

「しまった砂鉄がッ!!くッ……!」

 

 空中に分布していた砂鉄が辺りに散らばっていく。そちらに気を取られていると、空気弾が顔のすぐ近くを通過した。

 態勢を整えながらもその実行犯を見ると、先ほどまで自分の後輩の姿であったにも関わらず、いつの間にかゆるふわパーマをかけている、グラマラスな女となっていた。

 

「『あらあらあらあら、ご学友の方の姿で、お相手を勤めさせて頂いておりましたのに。先輩の心遣いは素直に受け取るべきだと思いましてよ』」

 

 穏やかで落ち着きのある口調だが、攻撃の手を緩めることはない。両手の掌に空気を圧縮して、サッカーボール程の空気弾を、いくつもこっちに発射している。

 お陰で多くの砂鉄は風に流されてしまったが、

 

「あんまり私を舐めるんじゃないわよッ!!」

 

 流された砂鉄が磁力で操られ元の位置へと戻っていく。並の電気使い(エレクトロマスター)では、不可能な繊細で強引な磁力の使い方だ。

 そのまま砂鉄をぶつけようとするが、あの女が消えた──。一体どこにッ!

 

「しまっ───ガッッッ!!!」

 

 横に影が見えたと知覚したときには、既に横腹を蹴られていた。二メートル程吹き飛ばされ地面に転がる。咳き込みながら襲撃者を見ると、その姿は同室の後輩だった。

 

「ガハッ!ゴホッ!……さっきの空気弾は偶然私を外したんじゃない。わざと私の周りの砂鉄を飛ばして、直すまでの時間を稼いだってわけね。貫いた空間に空間移動(テレポート)するために……!」

 

「『ご明察ですの。顔の近くを攻撃が通過すれば、攻撃手段を変えたと思うのが自然ですから、気を落とす必要はありませんわよ』」

 

 自分の後輩の姿で私に攻撃するとは、神経を逆撫でするのが余程うまいらしい。とはいえ、一杯食わされたことは変わらない。砂鉄に意識を割かれすぎていた。

 

「(能力の切り替えと心理戦がコイツの戦闘スタイル。即興で攻撃を構築しないといけないし、それまでコイツの何通りもあるコピー能力の組み合わせた戦い方を、全て捌かないといけないってことか……)」

 

 やはり、こちらのやり方を知られているのが痛い。汎用性が高いとはいえ限度がある。そして、相手の能力の多様性は測りしれない。このままでは勝率はかなり低い。だがしかし、

 

「それぐらい乗り越えられないと、超能力者(レベル5)は名乗れないのよ」

 

 地面を踏みしめて再び立ち上がる。限界を幾度も乗り越えて超能力者(レベル5)まで至ったのが、御坂美琴なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(辛い辛い辛い辛い!二重の意味でつッッらいよぉ!!)」

 

 魔王の風格すら出している女の内心は、ビックリするほどみっともないことになっていた。

 

「(今の蹴りだって大分手加減したし!気絶のやり方なんて知らんもん!俺だって攻撃食らったらヤバいんだよ!そっちも手加減しろよ!!)」

 

 美琴が男前に覚悟を決めている裏で、その相手は泣き叫んでいた(表には一ミリもでないが)。

 ヒロインを蹴り飛ばすのはファンとして心が痛いが、さすがに高圧電流やら砂鉄の高周波ブレード、超電磁砲(レールガン)を受け止めることなど不可能だ。普通に死ぬよ?

 

「(ミコっちゃんの能力で磁力やら電磁波をぶつければ、攻撃を逸らすことはできるけど、劣化してるから力負け確定だし、なんか知らんけど完璧にコピーできると勘違いしてるみたいなんだよな。

 この見せ札は捨てられない。じゃないと死ぬ)」

 

 美琴も美琴だが、オリ主もオリ主で切羽詰まっていた。絹旗のときとは違い安全性などなく、下手をすれば黒焦げか微塵切りの未来が待っている。

 

「(ほら、いい感じに今の決まったじゃん?警戒してさっさと逃がして下さい。お願いします!)」

 

 不敵な表情の裏で必死に懇願してるわけだが、この世界はオリ主に甘くはない。

 

「(……ん?なんかやる気満々ってか、覚悟完了してね?)」

 

 強者感を醸し出すことに、成功したと思っていたオリ主はこの展開に唖然とする。

 体のいたるところからビリビリしてるJCが、これから何かするつもりらしい。

 

「(あ、まだ終わらねぇんだぁ……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 空気中に砂鉄が再び分布される。

 

「『その対処法は既にお見せしたと思いますが?』」

 

 目の前のコイツは後輩の姿を模しながらそう言い放つ。確かにここまでは同じだ。これでは先ほどのやり方で突破されるが、そのための一手を打つ。

 

「ハァァアアアッッッ!!!」

 

 吐き出された声と共に、360度全てに放電が振り撒かれる。御坂美琴の周囲が近付くこともできない死地となった。

 

「『……なるほど、超能力者(レベル5)だからこその力業ですのね。学園都市の電撃使い(エレクトロマスター)の中でも、このようなことができるのはお姉様だけでしょう』」

 

「──私の全力を教えてあげるわ──」

 

 電撃が幾つも瞬いた。空間移動と電撃の目にも止まらぬ攻防が始まる。

 常人には美琴が手当たり次第闇雲に、電撃を放っているようにしか見えないが、放たれた電撃が一瞬前に、天野がいた場所を通過しているのだ。二秒間に一度の応酬が続いていることが、それぞれが卓越した、能力の使い方で戦っていることが分かるだろう。

 

「(何なのよその空間移動の速さは……ッ!もしかしたら黒子よりもッ!?)」

 

 オリ主の能力は劣化模倣(デッドコピー)の名の通り、コピーした能力を劣化した状態でコピーする。それは白井黒子の空間移動(テレポート)も例外ではなく、

 1つ、自分以外を空間移動させる際には、自分自身は動くことはできない。

 2つ、一度に移動できる距離は黒子の80mよりも短い40m程。そして、目視をしなければならない。(絹旗のときは穴から偶然見えて移動した。見えなければ少しスタンバるつもりだった)

 3つ、運べる重量は130㎏ではなく100㎏程(布束ぐらいならまだゆとりがある)

 

 このような劣化が起きてしまうのが、オリ主の劣化模倣だ。ならばなぜラグが本家よりも速いのか。

 その理由は二つあり、一つが演算をしていないことである。空間移動(テレポート)の最大の難関は、3次元空間と11次元空間を変換演算をしなければいけないことだ。そのため、高度な演算能力が必要になる。

 それに対し、オリ主は神の授けた特典によって、対象に触れれば能力を使えるため演算をする必要がなく、移動するための座標を視認するだけで構わない。

 しかし、発動するにはその座標を明確に認識しなければならないのだ。というのも、縦、横、高さを何m先にあるのか目算で正確に測らなければならず、見誤ると検討違いの場所に転移してしまう。

 人間の動体視力では一秒未満で、全体を把握することなどできるわけがないが、その体はサーヴァント。しかも、オリ主は知らないが、エルキドゥはトップクラスのサーヴァントである。そのエルキドゥの動体視力ならば、場所の把握程度は簡単に認識できてしまうのだ。そして、移動距離を10m以内にすれば目算も楽にできる。

 

「(自分自身の現実(パーソナルリアリティー)の変化による能力の上昇?それとも、得意不得意?どっちにしてもこのままじゃジリ貧になるッ!)──なら、これでも食らいなさいッ!!」

 

 ズゴォッッッ!!!と、辺り一面から砂鉄の壁が地面から突き上がっていく。空を覆うように砂鉄が展開された。

 この光景に天野の動きが止まる。

 

「『いくらあなたでも近いうちにガス欠になると思いますが?』」

 

 確かに、このままでは30分程度で限界がきてしまう。平行で演算しつつ、そのうち一つは大気中の砂鉄の流れを把握し、必要に応じて拡散と収束、さらに攻撃する砂鉄の操作をしなくてはならないのだから。

 

「なら、その前にアンタを倒せばいいだけよッ!」

 

 巨大な天蓋から太い触手のような砂鉄の塊が襲ってくる。砂鉄の空間で捕捉され、美琴から出る雷撃の槍と天蓋からの触手で追撃される。

 最初の数分は避けることができていたが、段々と避けるが被弾していく。転移の演算パターンが暴かれたらしい。たまらず天野は退避した。

 追撃をしようとするが、何故か砂鉄の空間に存在を察知することができない。突然消えた敵を探そうとするができずにいると、急に空が暗くなる。

 

「ッ!?」

 

 脇目も振らず横に飛び退いた。その一瞬あとにバシャッ!!と水が弾けた。

 どうやら、砂鉄がない川の中へと移動し、川の水を真上に転移させたらしい。

 

「嫌がらせのつもり──いや、さすがにそんな余裕はないはず。……!そうか空間移動ッ!!例え固形物でなくとも、空間移動した先の物体は押し出される!それは水でも変わらないッ!

 ……外したのは黒子と違って正確な転移はできないってことね。

 そして、例え外しても私を自分の電撃で感電させて、少しでも演算を狂わせるのが算段だった」

 

 これでも学園都市最強の電気使い(エレクトロマスター)。感電程度なら多少痛みが入る程度で終わる。しかし、今している攻撃は、どれも集中力が必要なものばかりだ。

 感電などすればすぐに解けてしまうだろう。

 

「アンタ本当に陰険なヤツね……!とはいえ、一旦水中に逃げたのは失敗だったんじゃない!?」

 

 ズバチッッッ!!!と電撃が天野の下に走る。だが、電撃は彼女を避けるように曲がり、後ろの水面に着水した。

 

「は!?一体何が……ッ!?」

 

 高圧電流があり得ない動きをして困惑する美琴。だがそこは第三位、すぐさま仮説を立てる。

 

「……なるほどね。真空を作って曲げたってことね」

 

「『能力は使い方しだいなんだよ……。上手く使えば超能力者(レベル5)相手だってどうにかなるもんなんだよ。クソがッ……』」

 

 前を向くと、鬼太郎ヘアーで陰気そうな男子高校生がいた。どうやら、あの少年の能力らしい。

 そして、ズザァッッ……!!と美琴が設置した天蓋の砂鉄が空から落下してくる。

 

「『へぇ……。そろそろ限界みたいじゃないか。無理しないほうがいいんじゃないか?』」

 

「はぁ……はぁ…………う、ッさいわね……!すぐに黙らせてやるわよ!」

 

 その後も雷撃の槍が幾度も飛んでいくが、全て逸らされ後ろの水面に着水した。

 

「(電熱による死なない程度の高熱を食らわしたいけど、そうすると自分の電撃が目眩ましになって、死角に転移されるのよね。だから常に砂鉄の空間は保たないといけない)」

 

 この間も砂鉄の空間はもちろん、電撃を常に放出しており、不意討ちを警戒している。だからこそわからない。

 

「ぜえ……はぁ……ッ、……こんだけ電磁波ぶつけてんのに、何で平然としてるのよ……!」

 

 美琴はずっと電撃を放出していた。それは自衛のためであると同時に、電磁波をアイツにぶつけるためだ。電撃使いの自分ですら不調が出てきてるにも関わらず、相手は平然としている。

 これは絶対にあり得ない。あのツンツン頭の少年のように、能力を打ち消される訳でもないのだ。では、なぜこんなことが起きているのか。

 

 その理由はただ一つ、()()()()()()()()()()()()

 

 どういう仕組みかは分からないがあれは人工物。もしや、彼女達のような経緯があるかもしれない。だけど、それでも私は絶対に聞き出さないといけないッ!!

 

 ドバッッッ!!!と砂鉄が再び天野を襲う。不意討ちであったが再び避けられた。だが、温存していたことが当然筒抜けなのは知っている。離れた水面の上にまで飛んだ少女は、こっちに声をかけてきた。

 

「『もう余力を残すのはお止めになったのですか?』」

 

「……えぇ。もう終わらせるわ」

 

「『そうですか。あなたには決め手は「もうチェックメイトよ」……何ですって?』」

 

 そんな話をしていると天野の視界の隅に何かが落ちてきた。とはいえ、距離がある。飛び退くほどでも無い。

 しかし、それが明暗を分けた。

 

「砂鉄が溶けるのは1400℃。溶かすのは難しいけど、超電磁砲(レールガン)を撃てる私には、絶対に不可能ってわけじゃない。そして、三平方メートル程の溶かした砂鉄を、水面に落とすとどうなると思う?」

 

「『ッ!?』」

 

 初めて相手の顔色が変わった。

 

「(これはさすがに空間移動で避けないと危ないだろッ!)」

 

 天野が瞬間移動をしようとするその刹那。

 

「させないわ!」

 

 辺りが何故か暗くなった。

 

「(あ、ヤベッ視界が──)」

 

 砂鉄が半球体状に天野を包む。何度も転移するところをみた美琴は、視線の動きから転移するときの法則に、気付いていたのだ。

 電撃姫は挑発的に言葉を発する。

 

「私の能力は汎用性の高さが売りなのよ」

 

 水蒸気爆発が天野倶佐利に直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 既に河川敷の周辺は至るところがボロボロで、当初の見る影もない。人が一人も来なかったのは、派手に戦闘をしていたために、近づこうとは誰も思わなかったようだ。

 

「ぐ……っ……」

 

 対岸までくると身体中から煙を出しながら、時折呻き声を上げる緑髪の女がいた。美琴は仰向けに倒れている、少女の姿をしたナニかに向かって一歩一歩近づいていく。

 

「……空気弾が放たれれば砂鉄の空間の修復をしつつ、私の周囲の砂鉄が吹き飛ばされたときだけに、四方に放電するほうがより効率的。

 だけど、それじゃまた違うやり方で突破される可能性があるわ。アンタの能力の多様性は底が知れないから。

 なら、単純な力業で押しきると思わせれば、アンタはそのうち持久戦をするようになる。そうすれば奇抜な手は自然と少なくなるわ。

 アンタが悠々と電撃を避けている間に、私はずっとこれを仕掛けてた。いくらアンタでも電撃を避けながらじゃ、砂鉄を溶かしていることまでは注意が向かないでしょ。

 そして──づッ!」

 

 ぐらッと美琴の体が揺れる。頭を押さえながら苦しげに顔をしかめた。

 

「……さすがに、平行でいろいろやり過ぎたわね。相当体に疲労が溜まってるわ。

 でも、威力はかなり落ちるけど、あと超電磁砲(レールガン)一発程度なら今の私でも撃てるわよ」

 

 天野の側まできた美琴は、スカートのポケットからコインを取りだし、倒れ伏す天野に向かって構える。

 

「手足吹き飛ばされたくなければさっさと言いなさい。今回ばかりはハッタリでもなんでもないから、舐めてかかると一生後悔するわよ」

 

 目から光を無くし荒い息を吐いている彼女は、それだけで切羽詰まっていることが分かる。数時間後には実験が始まってしまうことが、さらに拍車をかけているのだろう。

 

 沈黙があった。

 

 目を険しくさせた美琴は宣言通りコインを宙に放る。

 いつもの彼女なら威嚇程度で済ましただろうが、今回は時間も手段もないのだ。容赦などする余裕はない。

 宙からくるくると回転して落ちてくるコインに、指を当てようとした瞬間。

 

 くいっとコインの軌道が変わる。

 

「は?」

 

 美琴が疑問を抱くと同時。

 ドンッ!!と強い衝撃が腹部を襲い、意識を彼方に飛ばすこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドサァッと音と共に倒れる学園都市第三位。まさか、『アイテム』すら退ける彼女が、敗北するとは誰も思わなかっただろう。

 

「『ふぅー……。今回はなかなか危なかったわね』」(あッッッぶねぇッッッ!!!死ぬかと思ったわ!!)

 

 そんな美琴を見下ろす人物がいた。

 

「『アンタに鉄橋で触れていたことを忘れたの?最後の最後まで瞬間移動ばっかで使ってなかったし、自分の策がうまく機能していたと思っていたなら、しょうがないかもね。

 疲労と焦燥、そのうえ慣れていない、今から人体を破壊するのだという緊張。さっきのアンタならスペックが劣る私でも、不意討ちでなら磁力でコインを当てれるわ』」

 

 そこには勝ち気な表情に短く切られた髪の少女、御坂美琴が立っていた。しかし髪色が緑のためパチモンではあるのだが。

 美琴は愛用のゲームセンターのコインを、逆に相手に利用されたのだ。動けない相手に伝家の宝刀である超電磁砲(レールガン)が外れるなど、全く考えていない結果であった。

 しかしそれも仕方がないだろう。さすがの美琴でも、自分自身に負けるなど考えもしなかったのだから。

 勝ちは決まった。そう考えたことが美琴の最大の敗因であった。

 

「僕の能力は多様性の高さこそが真価なんだ」

 

 天野倶佐利の負った火傷は既に治っている。能力を使い回復したのだ。

 実はこの能力、回復するために自然治癒を促進させる必要があるのだが、細胞を活性化させるために、体力や集中力がアホみたいに持ってかれる、デメリットがあったりする。

 エルキドゥの体でなければ逆に能力に殺されていただろう。

 

 天野は美琴を別の場所に転移させたあと、一人で学園都市の闇へと飛び込んで行く。

 一つの悲劇を止めるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『はあ、それにしてもこれからどうしましょう……』」(原作の進み具合やら名シーンやら、これからの俺の生活などのその他諸々)

 

 大丈夫なのだろうか。

 

 

 

 




◆裏話◆
ゆるふわパーマはオリキャラです。
 常盤台にいたときのオリ主の同級生のお嬢様。能力は空力使い(エアロハンド)でlevel4。片手でバスケットボールほどの、空気の塊を作ることができる。
オリ主がコピーすると、サッカーボールほどの大きさになり、両手を使わなければ作ることすらできない。そのうえ目標に当たらないクソエイム。
美琴は勘違いしているがあれはガチで狙らっていた。

鬼太郎ヘアーもオリキャラですが、もう出ることはないでしょう。上のゆるふわパーマも同じく。

◆追記◆
キツい。バトル思った以上にキツかった……。こんなに難しいとは思わなかった。しかも、10000字までいくなんて。分割すればよかったかも。
それにしてもなかなか妹達編終わりませんね。すぐにこの話は終わらすつもりだったんですけど。想定通りには進まないものです。
それよりも、美琴の株を落とせずに済んだのか不安です。駆け引きの勝負になったので、この結末でもいいと思ったんだけど大丈夫かな?

あと感想を下さい。やる気が上がるので。


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20.それでも───

20話です。数時間で書いたので少し雑かも。


 無人の鉄橋に転移させられ、3分後には美琴は目を覚ましていた。

 

「(コインが当たる直前に、磁力で威力を下げなかったら危なかったわね……)」

 

 オリ主は磁力を、完璧に制御できたと思っていたが、実際は美琴が勢いを減速させたに過ぎない。あのままでは肋骨の2、3本を折る重傷だっただろう。

 これは言い訳になるが、オリ主にとってもあの展開は予想外の連続だったのだ。真空があるにも関わらず電撃を止めないことから、

 

 

 あのミコっちゃんが破れかぶれとかあり得ないんだよなぁ……(しみじみ)

 

 

 と考え、何かしらの策があることはわかっていた。とはいえ熱した砂鉄を使った、水蒸気爆発など予想の範囲外である。

 

 あの少ない時間でオリ主とは違い、相手の情報が全く無いのにも関わらず、オリ主を水面に誘い込んだ美琴がスゴいのだ。

 

 辺りを見回すがあの女の影も形も無い。どれぐらい気を失っていたのか自分では分からないが、とっくの昔に遠くまで逃げているだろう。

 絶対に勝たなくてはならない勝負で負けた。その事が美琴に絶望を与える。

 

「(……もう、実験を止める手立てがない。あの女が最後の糸口だったのにッ!……今さら私が殺されたところで、あの子達に違う地獄が待っているだけ……ッ)どうすればいいのよッッッ!!!」

 

 鉄橋の欄干を拳で殴る。ガンッ!と強く音が静かな夜に響く。ジィーーンと鉄を殴った痛みが拳がくる。

 意味がなくてもどうしても止められなかった。

 美琴はそのまま再び崩れ落てしまい、その姿はあの"常盤台のエース御坂美琴"の姿とはとても思えない、まるで別人のようであった。

 数十分の間そのまま動かなかったが、美琴は再び立ち上がる。だが、その表情は天野との戦闘のときとは違い、暗く沈んでいた。

 

「(そうよ、あの子達はこのままじゃ一方通行に必ず殺される。一方通行を倒すことができる人間なんて、この世に誰もいないんだから。

 だけど、別の役目が与えられても絶対に死ぬわけじゃない。おそらく、ロクでもない未来が待っていて、…………きっと多くの妹達が死ぬことになる。

 でも、いつか誰かが止めてくれるかもしれない。可能性は限りなく低い。だけど、ゼロじゃない)」

 

 美琴は思考を巡らす。問題の解決にはならないことはわかっている。だが、これ以外に方法はない。

 

「(妹達は学園都市の上層部が関わっている。助け出すのは容易じゃない。だけど、私達子供じゃなくて力を持った大人なら?

 権力を持った人間が、一人や二人なら妹達を保護しようと動くかもしれない。

 …………これが、無力な私にできる精一杯の方法)」

 

 それは博打のようなものだ。宝くじは買わなければ当たらない。そんなごく僅かな希望を灯すために、この少女は命を捨てるつもりだ。

 

「(何でも解決してくれるママはいない。この世界にヒーローもいない。泣き叫ぶことに意味なんかない。だから自分でどうにかするのよ)」

 

 悲壮な覚悟を決めた彼女はこれからその道を突き進み、最期には死ぬことになる。

 

「…………て」

 

 だから、これくらいは許されるだろう。これから自らを襲う逃れられない死の運命。さらにここは誰もいない無人の鉄橋だ。絶望に押し潰された少女から、そんな言葉が口から出てしまうのは当然のことだった。

 だってまだ14歳の少女には、余りにも重すぎる現実なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「………………誰か助けて……」

 

 

 

 声は聞こえていないだろう。

 とても小さく、尚且つ距離が離れている。少女が被害者なのか加害者なのか、絶対的な確証があるわけでもない。裏でどんな脅威が蔓延っているのかを、微塵も理解していないはずだ。それでも───

 

 

 それでも、吹けば飛んでしまいそうな少女を、ツンツン頭の少年は絶対に見捨てはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あ"あーー。超辛い。少しは手加減してくれって、死んじゃうからね?マジで)」

 

 高い建物の屋上で街を見下ろす天野倶佐利。見た感じはとんでもなく強者感が溢れているが、やっぱり泣き言を言っていた。本当に残念である。

 回復の能力は劣化により体力を著しく低下させる。そのため表面上を治しただけで完治はできず、熱のような痛みとなってオリ主を苦しめている。結構痛い。

 それと、別に逃げ続けてここに来たわけではない。コピーした千里眼を使い、一方通行と御坂妹がいる場所を探しているのである。

 

「(もう、あたりをつけた四つの学区を動き回ったんだけど、全然見つからんなー)」

 

 忘れている人もいると思うがこのオリ主、常盤台にいたときに至るところをぶらついていたのである。

 その際に聖地巡礼と題して、未来に起きる様々な有名な舞台をあらかじめ記憶していたのだ。コンテナだらけの場所などそう多くはない。

 

 あのあと、実は気を失った美琴から実験の場所を聞き出そうと、リモコンを向けて何度もボタンを押したのだが、ことごとく弾かれてしまった。

 みさきちの劣化能力だが、弱っており気絶してるなら余裕で介入できると思っていたが、電磁バリアは自分という存在が心底気に入らないようだ。

 美琴が「うぅん……」と呻き出し始めたので、急いで止めて空間移動で姿を眩まし、科学が産んだ雷神との第二ラウンドは無事回避した。

 余裕など微塵も無い。勝者には見えない逃げっぷりである。

 もしかしたらこのせいで、美琴は少ない時間で目を覚ましたのかも知れない。

 

「(『どうせラノベやなろうお得意の、砂鉄を上手い具合に使った粉塵爆発だろ?はいはい知ってる、知ってるゥ!』……とか調子こいて意気揚々と、川の上空に飛んだらドカンだよ。

 砂鉄がたくさんある陸地から遠ざかれば大丈夫だと思うじゃん!普通はさぁ!)」

 

 まんまと出し抜かれたアラサーJKがそこにはいた。最後の磁力は偶然の産物である。あそこまでオリ主に読めるはずもない。

 

「(急いで逃げたから確認できてないけど、……起きたよね?ミコっちゃんが寝たまんまだと、上条が一方通行を殴りにいけないんだけど。

 俺も場所知らんし?伝えることもできないからどうしようもないんだよなぁ。もう、この時点でいろいろヤバい。こんなの原作に無いし!そもそも俺と戦わないし!……もっというと俺原作にいないし。

 そういうわけで、もしものときのために俺が足止めをしようというわけだ。

 …………無理じゃね?相手は物理法則の全てを掌握してんだよ?既に無敵じゃん。何なんですかねこのチート野郎は(クソデカため息)

 ……ん?未元物質(ダークマター)?木原数多?……ハハッ!知らない子ですね)」

 

 このオリ主理不尽だなんだと言っているが、それお前がぶっ飛ばした絹旗も同じこと思ってたぞ。

 人の姿を勝手に真似た報いである。

 

「(ああ、でも全然見つからないなー。これはどうしようもないなー。既に四つ学区を空間移動で回ってるし?あくまで保険だし?十分頑張ったよねー俺。これはしょうがな───あ)」

 

 何となくコンテナの方を向くと白髪が見えた。

 

「」

 

 眉間の辺りを揉み解し、再び前を向く。

 ──白髪がいた。

 

「」

 

 目をつむり、精神を落ち着かせ瞑想をする。カッ!!と目を開くとそこには、

 ───白髪頭が立っていた。

 

 

 

「……………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鉄橋は電撃を浴びてボロボロになっている。辺りにところどころ焼けたような跡が残っていることが、私の出した電撃の威力を物語っていた。

 ……こんな真似をした私に怒りもせず、コイツはヘラヘラして許して、その上学園都市第一位と戦おうとしている。

 

「その次の役目ってやつも結局は一方通行(アクセラレータ)が最強ってのを前提にした、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)予測演算(シミュレート)が基になってるんだろ?なら、学園都市最弱の無能力者(レベル0)が、学園都市最強を倒しちまえば、その前提は全て覆されるんじゃないか?」

 

 そう言って戦場に行こうとしてるコイツを私は必死になって止める。一方通行の危険性を。私の罪を。少しでも伝わるように声を荒げて説明する。一方通行には勝てっこないと。

 

 だって、何でも解決してくれるママはいないから。

 神頼みしても都合よく奇跡なんて起きるわけがない。

 だって、……。

 

「何一つ失う事なく、みんなで笑って帰るってのは俺の夢だ」

 

 泣き叫んでいたら助けてくれるヒーローなんて……

 

「待っててくれ」

 

 そう言って振り返った顔には、怯えも不安も微塵もなくて、いつもと同じような笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

「必ず御坂(みさか)(いもうと)は連れて帰ってくる。

 

 ──────────約束するよ」

 

 

 

 

 

 

 

 第20話『それでもヒーローはやってくる』

 




◆裏話◆
その1
実は砂鉄の空間は場所の把握だけではなく、瞬間移動のジャミングの意味もありました。テレポーターは高度な演算をするため、空気中に砂鉄がバカみたいな量があれば、阻害できると思っていました。しかし、オリ主は視認をすれば能力を発動することができ、テレポーターの抱いている瞬間移動の恐ろしさがない(理解することができない)ため、平然と瞬間移動していたわけですね。
その2
オリ主は砂鉄が増えたときに川に向かって飛んだので、砂鉄による攻撃を再びすれば、再び川の近くに瞬間移動するだろうと予測を立て、あらかじめ美琴が川の上空に熱した砂鉄を配置していました。
オリ主が水を転移させたのは感電させるためだけです。瞬間移動で殺す?あり得ませんね
その3
初めは電気分解を使った水素爆発にしようとしてました。ですが、そのためには塩素銅を用意する必要があるのを忘れてましたね。
たまたま川のなかに塩素銅があるわけもないですから、急遽変更して水蒸気爆発にしました。
その4
そもそも当初は違う戦い方を想定していました。その名も"垣根帝督リスペクト戦法"です。
新約では垣根提督が一方通行に、妹達の残存思念を使って精神攻撃をします。
それと同じやり方です。
あくまでオリ主の場合は、感覚的でしかわからないのですが、相手のパーソナルリアリティーを相手の肌に触れたと同時に、ほんの僅かに取得します。
でなければ原作キャラ以上の、1000人のコピーなどできるわけありません。(言葉遣いやら性格やらの理由で)
つまり、妹達に触れたときの精神状態やら思考を、美琴にぶつけて、責め立て、精神的に潰す作戦です。
美琴は夢でも妹達に責められている描写があるので、それを参考にウソも混ぜれば楽勝でしょう。
潰したらダメなので却下となりました。
その5
もっというと、この対決はするつもりはありませんでした。基本的にノリで書いてるので17、8話ぐらいで「これ書かないといかん流れじゃん……!!」と慄きましたね。計画的には進まないものです。
その6
原作との相違点。オリ主との対決のせいで美琴は疲れきっているため、上条は軽く気絶する程度。ダメージも割りと少なめ。だけど、変わらず携帯は死ぬ。

◆一言◆
美琴に会いに来てくれたのはヒーローで、オリ主が会いに行っちゃったのが死神ですね。ちょっとした対比です。

もうストックはありません。次回はいつも通り未定です。


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21.会話は大切

では21話です。
短いかもしれませんが、なんかキリがよかったのでここまでで。


 コンテナがひしめく学園都市の片隅で、二人の人間がその場にいた。時間は午後8時32分。始まりの刻限から2分だけ過ぎている。しかし、どうやら白い悪魔にはその2分で十分だったらしい。

 少女は地面に転がり、身に付けていた額のゴーグルは割れてしまって、既に使い物にならなくなっていた。

 

「はぁ……ッはぁ……ッ」

 

「オイオイ、前回ネタばらししてやっただろォがよォ?ちったァ俺を楽しませろよ」

 

 初撃で勝負は着いた。しかし、この結末は必然である。いくら能力の理屈がわかったのだとしても、一方通行(アクセラレータ)のベクトル操作はそう簡単に突破できるものではない。

 コツコツと靴をならし、一方通行は御坂妹に近づいていく。これから始まるのは勝者が敗者をいたぶり、蹂躙する惨劇の時間だ。

 

「残り一万回も同じ作業をしねェといけない俺の身にも───あ"?」

 

 彼女まであと残り数歩というところで、ザンッ!と砂利を大きく踏み締める音が響く。

 音源のほうを見ると、この実験と関係ないはずの人間がそこにいた。その女は白のローブを羽織り、薄緑色の艶やかな髪を靡かせて、この場に優雅に降り立ったのだ。

 

「…………何でオマエがここに居やがる?パクり女」

 

 あの一方通行が煽りでも殺意でもなく、素朴な疑問として言葉を投げ掛けた。その人物は古い知人ではあるものの、到底親密な関係とは言えない人物である。

 自分一人しかいない、ただ知識を詰め込められるあの教室で、この女が自身の能力を向上させるために訪れた数日で、既に関係は切れている。

 そして、コイツがこの実験に関わる理由も必要性も心当たりがない。

 

「とある人物からこの実験のことを聞いてね。こうして君を止めにきたんだよ」

 

 機密性の極めて高い計画をどうやって知り得たのか、疑問が浮かぶが、そんなことよりも気になるセリフが聞こえた。

 

「止める?オマエがか?……ギャハハハッ!!まさか、本気で言ってンのかァ!?圧倒的な彼我の差も理解できない程に、脳ミソが溶けちまったらしいなァ?

 万に一つでも勝てると思っちまってる時点で、オマエの敗北は確定してンぞ!!」

 

 この間のセリフもそうだが、コイツはどうやら英雄願望に目覚めたらしい。

 スカシた態度を取りながら、次々とそんな言葉を吐いていくコイツが実に滑稽だ。どうやら俺はコイツのことを今まで誤解していたらしい。

 どのような能力を手に入れればここまでのぼせられるのか、ここまでくると興味が湧く。

 だから、次のセリフは予想外であった。

 

「──確かに、無理だろうね」

 

「…………あ"?」

 

 返事は即答だった。だからこそ理解ができない。

 学園都市第一位に君臨しておりスパコン並みの頭脳を持つ、一方通行でも全く理解ができないのだ。

 コイツは何を言っているのだろうか?何かしらの秘策があるからこの場に現れたのではないのか?

 

「……オイ、ふざけてンのか?それとも、とうとうイカレちまったんですかァ?なら、この俺直々にその沸いちまった脳ミソをかッ捌いてやるよ」

 

 狂気によって歪み形成された怪物が、笑みを浮かべながら右手を開いた。

 もはや凶器とも言える悪魔のような人相を浮かべ、さらに余人に追随を許さない絶対的な力。その風貌は誰が見てもまさに死神としか認識できず、常人はおろかその道の凄腕さえも、裸足で逃げ出すことだろう。

 しかし、その風貌を向けられてなお、天野の顔色は微塵も変わらない。いつもの微笑みではなく、見たこともない真剣な顔で天野は取って置きの手札を言いきる。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 一方通行はまたしても意味がわからなかった。

 

「何を言ってンだ、オマエ。学園都市ってのは絶対能力者(レベル6)を生み出すのが目的だろォが。学園都市最強のこの俺がそれ目指すことに、何の不自然があるッてンだ?」

 

 神様の頭脳とやらに至ることが、学園都市は到達点としている。それはこの実験を見れば一目瞭然なのだから。

 

「僕が疑問に思ってるところはそこじゃないよ。以前コンビニで偶然会ったとき、君は僕にこう言ったね。

【雑魚共と同じように、最強の称号が欲しいのか】。

 それはつまり、君が常日頃襲撃にあっているということだろう?僕が理解できないのはそこなんだ。何故君に彼らは襲いかかってくるんだい?」

 

「ハア?そこまで知っておきながら理解できねェのか?ヤツらにとって学園都市最強っつう称号は、喉から手が出る程に欲しいンだろォよ」

 

 一方通行は目の前に何度も現れ、視界をちらつくハエ共を思い出し苛立ちを抱きながら言い捨てた。一方通行にとってそれはウンザリとした日常であったのだ。

 

 だからこそ次のセリフは予想外だった。

 

 

 

 

 

「僕が言っているのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「…………は?」

 

「うん?だってそうだろう?確かに最初は君に挑もうとする人間は多いかも知れないが、君の残虐性と能力の理不尽さが知れ渡れば、おのずとその数は減っていくと思うんだけど」

 

 それは一方通行にとって闘争が当たり前であったがために、気付くことができなかった理屈であった。

 いくらスパコン並みの頭脳を持とうが、能力者が溢れるこの街ではこういうこともあり得る、と納得していては正解に辿り着ける訳もない。

 さらに、学園都市は一方通行を怪物にするために、悪意や闘争を組み込んで設計したのだ。彼はウンザリとしているが平穏で温かな日常よりも、闘争の毎日に身を置く方が気が楽なのである。

 

「僕は学園都市の都市伝説や、学園都市最強の噂を調べても、君の容赦の無さは何一つ書かれていなかった」

 

 確かにおかしい。SNSなどでは足が残るため、自ら発信する馬鹿はそうそういないだろうが、人伝で他人が噂話をSNSに上げることもあるだろう。

 ヤツらが人気の無いところで襲ってくるため、派手にはならないが、人の口に戸は立てられないものだ。

 

「だから僕は一つの結論に至った。君に悪意を向けるように誰かが情報操作しているとね」

 

 馬鹿馬鹿しい荒唐無稽の話───とは言えなかった。実際に一方通行による被害は実際に止まっておらず、情報を遮断していることで興味本意の馬鹿を排除するどころか、増やしてしまっている始末。

 情報を改竄をする程の人物が、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)を使用できないとも思えない。つまり、その人物は真剣に一方通行の被害を解決しようとは、微塵も思っていないのだ。

 ならば、そいつは善意ではなく悪意を持って情報を操作していることになる。

 

「何故そんなことをしたのか。簡単だよ、君にストレスを与えるためさ。自らに降りかかる火の粉は誰だって振り払いたいからね」

 

「君は学園都市に悪意と闘争で形作られた存在であり、自らの抱える問題も解決できる。この実験を断る理由がない。

 だけど、きっと君の最後の背中を押してしまったのは、そんなことじゃない。あるたった一つの出来事なんだろう?」

 

 そこまで言った後改めてこちらに視線を合わせ、天野倶佐利はその決定的な言葉を紡いだ。

 

 

 

 

妹達(シスターズ)の殺害だ」

 

 

 

 

  

 

 




◆裏話◆
特になし

◆作者の戯れ言◆
上条にとって天野は困った時に現れるお助けお姉さんキャラ。
一方通行にとっては、間違えたときに寄り添うんじゃなくて、相対して向き合い、正すためにやってくる頑固な幼馴染みキャラ(※作者の近しいと思ったイメージですのであしからず)。
…………原作キャラに見事に被らなくて、おいしいポジションに収まったなコイツ……。

全体的に勘違いできてますか?他の小説見ると、この小説は勘違い成分薄めじゃないかと不安になりました。
感想をなるべく書いて欲しいです!一つの指標となりますので、お願いします!


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22.昔話

22話です。

数年前。
運命的に引かれ合い(上のヤツ等の差し金によって)緑髪のロリと白髪のショタは出会った。


 あの日は曇り空だった。

 連日続いた雨のせいで湿度が高く、不快だと研究者が愚痴っていたことを覚えている。

 湿気というのは空気中に含まれる、水蒸気の圧力が高いと起こる現象だ。つまり、その水蒸気圧のベクトルを少しイジれば、そんなものは消えてなくなる。

 そんな当たり前のことに興奮していた研究者が、ひたすらに鬱陶しかった。あの目は生徒を見る目ではなく、まさしく実験動物を見る好奇の目であり、自分が周りとは違うのだと、改めて再確認させられているようであったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 昔、ある事件が起きた。

 その事件の主犯は強盗や殺人などの凶悪犯ではない。しかし、その事件の鎮圧のために兵隊、戦車、戦闘機、ありとあらゆる武力が総動員された。

 なぜ、それほどの兵力を用意したのか。それは至ってシンプルだ。

 

 一人の少年に対抗するために、軍隊が必要最低限だったからに他ならない。

 

 国民を守るための武力が一人の子供に向けられる。その光景は果たしてどれだけ異様であっただろうか。

 そして、事件を引き起こした少年に、悪意がないというのだから救われない。

 

 俺は覚えている。

 あの怒声も悲鳴も覚えている。

 あの動くキャタピラの駆動音も、鳴り響く銃声も何もかも。

 だからこそ、人との接触から遠ざかった。なぜならあのとき証明してしまったからだ。あのとき理解してしまったからだ。

 

 この力は世界を壊してしまう力なのだと。

 

 

 

 

 

 

 午後一時。教室から別の部屋に移されその部屋に入ると、既にその人物は来ていた。

 こっちに笑みを浮かべながら親しげに話しかけてきた。

 

「やあ、君が一方通行(アクセラレータ)だね」(目付き悪ッ!!コイツこのときから人相悪いな!?やさぐれアルビノショタとかどこに需要が…………。

 ……いや割りと、刺さる人には刺さりそうだな……)

 

 その女は今と変わらず、飄々としていて掴み所のないヤツだった。

 何でも学園都市初めての、多重能力者(デュアルスキル)になる可能性があり、破壊力、持続力、汎用性といったほぼ全ての項目で、絶対的な数値を叩き出している俺の能力をコピーし、本家の俺と比較することで正確な能力のレベルを測るつもりらしい。

 しかし、それは相手の都合でしかなく、能力を模倣されるなど当然容認できるわけもない。

 拒否を続けていたが、学会の重鎮がこれを主導していることや、協力すればこれからの能力開発にサポートをする確約。

 そして、使用者が変わることにより新しい戦闘理論が確立される可能性。

 さらに、そのコピーも完全ではないらしく、問題となっているところが今回の比較でわかったのだとしても、改善する可能性は限りなく低いようだ。

 疑問に思いその開発データを確認すると、確かに劣化し本来の能力よりも明らかに出力が出ていない。その上、確認も取ったがAIM拡散力場の形跡が全く確認できず、演算パターンも不可解極まりなかった。

 

 この結果は原石の特徴ではない。

 噂によると世界最高と言われている原石の能力者は、繊細かつ複雑な能力で、研究者が手出しすることができなかったらしい。

 それが、演算パターンなのかAIM拡散力場なのかは知らないが、能力の計測はできたということだ。しかし、この女のAIM拡散力場は実際に確認できず、演算パターンも計測できない。

 重要なのは後者の演算パターンが、途中で切れていることだ。能力を行使するうえで演算パターンは必要不可欠な処理である。

 未来の予測をするとき、今ある様々な材料や知識、これまでの経験則などを使い予測し導きだすのが普通のやり方だ。

 だが、この女は材料を自分の周りに並べ、瞑想して導きだす未来予知のようなふざけたものだった。

 

 つまり、コイツの演算は途中でぶつ切りになっているにも関わらず、能力を発動することができる、原石の中でも異質な存在だったのだ。

 

 その仕組みは理解ができねェが今回ばかりは好都合だ。演算パターンが計測できず、AIM拡散力場も観測できないのであれば、これから効果的な能力の対策が生まれるとは考えられない。

 さらに劣化することがデフォならば、制圧するのも容易であり、コイツに寝首を掻かれることもない。だから許可してやったのだが……。

 

「ねえ、君の本名は何ていうんだい?一方通行(アクセラレータ)は能力名なのだろう?」

 

「ベクトル操作を常に行使しているというのは本当かい?」

 

「君が着ているその服なんだけど、もしかして有名ブランドのーーー」

 

 やたらと話しかけて来やがる。

 静かそォなのは見た目だけらしい。……いや、緑なンつう矢鱈と目立つ、イカレた髪色をしてやがるが。

 どこかのお嬢様学校にでも、通ってるような雰囲気を出しておきながら、蓋を開けてみれば好奇心に動かされるただのガキだ。

 最初は何を聞かれても無視を決めていたが、あることから会話ぐらいはするようになった。

 

 

「君の能力がベクトル操作でよかったね。もしそうでなかったら、先天性色素欠乏症の君は、外を出歩くのも大変だったろう」

 

「……これは俺の能力で紫外線を反射しちまうから、メラニンの生合成ができねェだけだ。後天性である以上能力を切ろうが問題ねェ」

 

 別に仲良しこよしをしていた訳じゃねェ。答えてもいい範囲を話し返す程度だ。

 それから計測にある一定の区切りがついたため、一週間も経たずに俺達はおさらばすることになった。

 

 

 そうだ、あの別れた最終日で縁は切れたはずだ。なのに何でそこに居やがる?

 

 

 

 

 

 

 

 この場に降り立った緑髪の少女は、白い悪魔の前で淡々としゃべり始める。

 

「君は妹達(シスターズ)を初めて殺めたそのときに、この実験へ参加することにしたんじゃないのかな?───殺してしまった罪悪感から逃れるためにね」

 

 ……コイツはどこまで把握してンだ?何でこうも突っかかって来やがる?

 

「……人形を壊すことにこの俺が頓着すると、本気で思ってンのか?

 …………くだらねェ。ガキくせェ期待なんざしてんじゃねェぞ妄想女」

 

 ああ、くだらねェ。人形を壊すことを躊躇う訳がねェだろうが。俺に人形を愛でるイカレた趣味があるとでも、思ってンのか?

 

「そうかな?君が初めて誰かを殺めたのは、妹達が最初なのだろう?いくら情報操作をしていても、10人、20人と殺していれば隠すことは難しくなるからね。

 殺しをすれば生活することが難しくなるから?いいや、君の能力と頭脳ならばどうにかすることはできるはずだ。警備員(アンチスキル)に睨まれることになるが、君には些細なことだろう。

 では、どうして君は周りが確実に静かになる、簡単な方法を取らなかったのか。それは───ッ!?」

 

 ドバッッッンッッッ!!!!と空気を叩く音が響いたと同時に、一方通行の背中から強烈な風の渦が巻き起こる。まるでその先を言わせないかのように。

 

 その拍子に近くのコンテナの幾つかは、無残にもひしゃげてしまっていた。その猛威を振るう白い悪魔は、不自然な程静かに言葉を発する。

 

「黙って聞いてりゃあ何だそれはよォ。そもそも殺しだとか人形相手に何言ってンだオマエ?博愛主義だかなんだか知らねェが、オマエの主義主張なんざ、こっちはこれっぽっちも興味ねェンだよ!!」

 

 逆巻く嵐の塊が一方通行の手によって、さらに指向性を獲得する。

 

「この俺に説教なんざ百年早ェ!雑魚の分際で調子に乗ってンじゃねェぞッ三下ァ!!」

 

「ッ一方通行(アクセラレータ)!」

 

 普段一方通行を君としか呼ばない天野が、声を荒げながら名前を呼ぶ。そのことから、どれだけ一方通行のことを想い、必死に動いているのか、もはや説明するまでもないだろう。

 しかし、怒りに支配された一方通行は、そんなことに頓着はしない。

 ベクトル操作で天野倶佐利に高速で接近し、そのまま圧倒的な力で叩き伏せようとした、その寸前

 

 

 

 パァンッ!と破裂音が響いた。

 

 

「あ?」

 

 一方通行の意識に空白が生まれる。

 車並の速度だったにも関わらず、一瞬で動きをゼロにして止まる一方通行。

 だが、一方通行が止まろうとも時は動き出す。それも一方通行が馴染み深い鮮血とともに。

 

「がッ!?」

 

 目の前にいる天野倶佐利の口から、痛みを堪えるような声が漏れた。天野の纏っている白いローブに、赤い染みが広がっている。

 射撃だ。

 右肩を撃ち抜かれている。

 先ほどの発砲音から一方通行は妹達(シスターズ)にすぐさま視線を向けた。撃ったのが一方通行でないのならこの場には妹達しかおらず、実験のため銃を所持していたのだから、当然そうなのだろうと考えた。

 しかし、その妹達が目を開いて驚愕している。

 銃は手元にはなく、立つこともできないほどのダメージを負っている。痛みで這う這うの状態でしか居られないヤツに、まともな射撃などできるはずもない。

 では一体誰が?

 

 下手人はすぐに判明した。

 

「……はっはは、やってやったぜ……!」

 

 コンテナの陰から拳銃を持った冴えない男が、笑いながら表に出てくる。

 

「依頼通り半殺しだ。文句何か一つもねえだろ……!はははははっ!これで俺も暗部組織に入ることができるぞぉ!!」

 

 ソイツは達成感に溢れていた。その顔はまるで長年の夢が叶ったかのように、興奮に彩られている。

 

「悪いな、第一位。この女は俺のターゲットだったんだ。安心してくれ、依頼通りアンタのヤバそうな案件の邪魔もしないし、口外もしない。調べようとも思っちゃいない。

 外からじゃ無法地帯に見えるかもしれないが、俺達の世界はそういったルールを破るヤツから死んでいくんだ。制裁があるぶん暗部のほうが表よりも、規律が遥かに厳しいんだよ」

 

 興奮により饒舌にしゃべり出す、暗部側にいるであろう男。

 どうやら学園都市第一位に、知識を与えることに優越感を抱いているらしい。天上の存在であり逆立ちしても決して敵わない超能力者(レベル5)と、対等に話しているこの状況が男の気を大きくしているのだろう。

 万能感に酔いしれている男は尚も話し続ける。

 

 まあ、あの一方通行が男を、対等と見ているはずもないのだが。

 

「さっさとこの女をバンが停めているところにゴバウッッ!?!?!?」

 

 一方通行が地面を踏みしめると、意気揚々としゃべっていた男が空中に打ち上げられた。

 当然、男が能力を使い跳んだわけではない。

 一方通行がその身にかかるベクトルを、男が立つ地面から真上に向かってぶつけたのだ。

 その小さな動作とは違い、男を3メートル以上吹き飛ばす程の、威力を持った一撃であった。

 男は落下時にカエルのようなうめき声をあげた後、電気を流したカエルのように手足をビクビク痙攣させている。

 この状態からヘヴンをキャンセラーできるのは、あのカエル顔の医者しかいないだろう。暗部の末端の中の末端である彼が、そこに運ばれるかは分からないが。

 即死をしていないのは一方通行が手加減をしたのか。あるいは、反射的に能力を使ったためなのか。それを知るのは一方通行ただ一人だ。

 

「……チッ、カスがハシャいでンじゃねェぞ、うざってェ……」

 

「はぁ、はぁ、……づッ……!」

 

 振り返ると天野は撃たれており、地面に倒れたまま動くことができないようだ。これではもう邪魔されることもないだろう。

 このような目に遭えば、もう口出しをしてくることはないはずだ。

 

「ハッ!くだらねぇ幕引きだな。身の程を弁えねェからそォなる。さっさと失せろパクリ野郎。次、出しゃばりやがったら殺す」

 

 そう言い残して一方通行は天野から離れて行き、御坂妹の方へ歩いていく。さっさと殺して実験を終わらしたいのか、会話をする様子はない。

 

「……ぐッ……!」

 

 必死に手を伸ばすが激痛に苛まれ、立ち上がることすらできない。天野はこのまま御坂妹が殺されるのを、ただ眺めていることしか許されていないのだ。

 

 しかしその絶望の中、天野の眼は死んではいなかった。

 

 彼女は知っているのだ。

 例え、原作とかけ離れた展開だとしても。

 助け出す条件が変わってしまったのだとしても。

 それでも絶対に彼は現れるのだと。

 

 

 

 

 

 

「今すぐ先輩と御坂妹から離れやがれ三下ぁッ!!」

 

 

 

 

 

 




◆裏話◆
オリキャラというか噛ませキャラというか。もう出てきません。彼の暗部奮起物語とかありませんよ?

AIM拡散力場?そんなのありません。だって特典だもの

◆作者の戯れ言◆
低評価が増えて何でだろう?と考えていたのですが、コメントで何かを言うわけでもないので、ああ、そういうことなんだな、と納得しました。
これからは楽しんでくれている読者さん達優先で、書いていきたいと思います。



※ここからは活動報告にてお願いします
お願いなのですが、疑問に思ったことはもちろん、ストーリーやキャラ的にここは違くね?と思ったところは、どんどん書いて貰いたいです。
もっと話にメリハリがほしいなーとか、日常回ほしいなーとかも書いて頂けると助かります。

投稿が毎回未定なのでいつになるのか分かりませんが、とあるの世界観が壊れず、作者のある程度の筋書きから外れない範囲で、頂いた要望を小説に書いていこう思います。
できない場合は、ifとして別の世界線という感じで書いていきます。
しかし、作者は適当な理由でキャラ同士を絡ませるのがあまり好きではありません(恋愛、友情、戦闘に関わらず)。
ですので、本編でオリ主との関係性が明記され、物語がある程度一段落した辺りで、書くことになるのをご留意ください。(トール、オティヌス、上里などの話を書いてしまうと、ネタバレになりかねないので)



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23.天野倶佐利の思考

たくさん評価付けて貰ったり、感想貰ったりでやる気出ました!ありがとうございます!
それでは23話です。


「(ヤッベェ……、死ぬとこだったッ……!あ、イタッ!?)」

 

 肩から血を流しながら踞る少女がいた。幸いにも銃弾は貫通している。カエル顔の医者の腕ならば、翌日には退院できるだろう。(化け物かな?)

 とはいえ、そんな痛々しい少女は苦しみながらも、心から安堵していた。

 

「(とあるの考察結構してたからなぁ……。本人、目の前にしたからついつい口が滑っちまった……!!)」

 

 コイツ、アホ丸出しである。

 心の内を暴いたのは効果的だからとかではない。ただの知的好奇心の暴走だったのだ。端的に言ってクズである。

 芸能人に会うと質問しまくる、タチの悪いファンそのものだった。

 時間稼ぎにしてもまだ他にあっただろう?お前だけにある一方通行との馴れ初めを話せば、数分は持っただろうに。今まで稼いだ経験値の無駄であった。

 何だかんだ名シーンに立ち会えることに浮かれていたのだろう。バカだ。

 

「(このままフェードアウトかぁ。そのうちフレームインすることすらないんだろうなぁ……。端役にしては超頑張ったし、もういいよねパトラッシュ)」

 

 ()()()()()()粉塵爆発をBGMに、寝ようと(気絶)しているヤツがいるらしい。

 コイツ結構大丈夫じゃないのか?と思うかもしれないが、脂汗とか出まくりである。やせ我慢や現実逃避で何とかやっているだけなのだ。

 そもそも、泣き言なら先ほど内心で喚き散らした。

 

「(ダメだ、痛くて眠れん……。あー、めっちゃつらたん。

 気絶もできないとかサーヴァントの体強すぎじゃね?今は拷問でしかないけどなッ!

 水蒸気爆発で怪我したときに使った、回復領域(ヒーリングドメイン)を使えば、傷なんてすぐ治るけど、もう体力とか残ってないから普通に死ぬ……!)」

 

 回復領域(ヒーリングドメイン)。手を(かざ)すと傷口が修復する超能力。学園都市でも珍しい回復する能力者なのだが、能力の本質は自然治癒の促進のため、傷口が大きくなればなるほど体力を消耗する。

 

「(この能力をコピーしたときは、レアな能力で喜んだものだが、いざ使ってみるとめちゃくちゃ体力を持ってかれて、驚いたなぁ。

 

《ヤベッ!包丁で指切っちまった!救急キットは……っと。あ、そういや回復系の能力持ってんじゃん!え~と、回復領域、回復領域。よし、それじゃあ、このロブスタグフゥッ!?》

 

 ……あのときは、肩に重石が乗ったと思ったな。あれが噂に聞く肩メロンってやつか……)」

 

 万能の能力と言えばそうなのだが劣化が結構激しく、サーヴァントの体でなければ大半の能力は使い物にならないのが現実である。

 

「(やることないし暇潰しに実況でもやってみるか?)」

 

 何故その思考に辿り着いたのか訳がわからない。

 

「(おおっと、青コーナー上条選手!まぁだ立ち上がるぅッ!(熱血アナウンサー))」

「((不屈の闘志を感じます(有識者))」

「(しかぁし!赤コーナーの一方通行選手はまだまだ余裕のようです!(熱血アナウンサー))」

「(えぇ、どうやらこれで決めるようですね(ダンディvoice))」

「(まあ、順当な結果と言えばそうじゃないですか?彼もよく頑張りましたよ(老害))」

 

 やたらとノリノリなうえにバリエーションが豊富である。

 

 粉塵爆発で発生した爆炎を背にして、一方通行が上条を老害と同じように誉め称えた。そして、ダンディvoiceが言った通りに、両手の凶器を上条に向けながら、この戦いを終わらすために襲い掛かった。

 

 

 ドゴグシャァッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

「(終わりましたね(老害))」

 

 

 

 

 

 結果は単純であった。

 一人は倒され、もう一人は地にしっかりと足を踏みしめていた。だが、この結末を誰が予測しただろうか。

 身体中ボロボロであり、ところどころ出血までしている。それでも、必殺の攻撃を受けて尚まだ彼は立っていた。

 そう、地面に叩きつけられたのは上条ではない。学園都市最強の一方通行だ!

 

「(な、なんとなんと、何ということでしょうか!!信じられません!あの必殺の攻撃を躱し、強烈な右ストレートを叩き付けましたッ!!(熱血アナウンサー))」

「(これはスゴイ!あの攻撃にカウンターを入れられる人がどれくらいいるのでしょうか(有識者))」

「(見事なダウンです(ダンディvoice))」

「(た、たまたまに決まっとるやんけ!足が汗で滑ってたまたま入ったラッキーパンチや。どんな障害があっても最後に勝利するっ!最後には絶対勝つから王者なんや(老害))」

「(この試合は屋外でのスペシャルマッチです。砂利のリングのため汗で滑ることはありません(熱血アナウンサー))」

 

 その後も戦況は進み。

 

「(ラッシュ、ラッシュ、ラッッシュッッ!!!!怒濤のラッシュが決まっていくぅ!!(熱血アナウンサー))」

「(ジャブ、フック、ジャブ。……おおっ!右ストレート!全ての攻撃がミートしていて、気持ちがいいです。ここに来て調子が上がって来たように見えますが、彼はかなりのスロースターターなのですか?(有識者))」

「(はい。上条選手は試合の中で突破口を見つけるスタイルで、相手のスタイルを見極めてから反撃するのが、彼のお馴染みのパターンのようです。(熱血アナウンサー))」

「(なるほど、それは見ていて楽しいプレイヤーですね(有識者))」

「(彼の今後が楽しみです(ダンディvoice))」

「( ゚д゚)ポカーン(老害)」

 

 ドゴッッッ!!!!

 

「(ここで、アッパーカットだあああ!!!!!体の芯を揺らす強烈な一撃が鮮やかに決まりました!!(熱血アナウンサー))」

「(いやー、これまた綺麗に入りました!(有識者))」

「(二度目のダウンです(ダンディvoice))」

「(これはもう立つことはできないかぁ!?(熱血アナウンサー))」

「(う、嘘や……!嘘やろチャンプッ!?ワイが憧れてたアンタはこんなところで敗けへんッ!!立つんや、立ってくれ!ジョー!!!!(老害))」

 

 ブワッと大気が揺れた。

 

「……?」

 

 訳が分からず眉を歪める上条。だが、変化はすぐに起きた。 

 

「くかきけこかかきくけききこかきくここくけくきくきこきかかかーーーッッッッ!!!!」

 

 

 

 大気が爆発したのだ。

 

 

 

 一方通行を中心に突風が吹き荒れた。近くにあるものがまとめて吹き飛ばされる。

 

「(うおおおおおお!!!!!それでこそチャンプやッ!さっさとそのガキを───)

 ───と、流石に放っておく訳にはいかないね……!」

 

 遊びを中断し、天野は一方通行が作り出した強風で、吹き飛ばされた後輩を空間移動(テレポート)で救出しに行く。

 普通の空間転移能力者(テレポーター)では、この嵐の中では演算すること自体が難しいが、天野に限っては当てはまらない。

 荒れ狂う強風の中、後輩の少年を見つけて何とか学ランの袖を掴んだ。

 

「『よっとこれで…………あら?』」

 

 何故か空間移動ができない。白井黒子であるにも関わらずだ。

 奇妙なことに疑問が浮かぶが、すぐに氷解する。

 

 

 

「(あ、幻想殺し(イマジンブレイカー)……)」

 

 

 

 一瞬後に、天野は風力発電の風車に激突した。

 

 

 

 

 

 

 




◆裏話◆
くだらない妄想なんてしてるから、大事なことを忘れちゃってこの子は……。
実はドMなのでは?ってくらい自業自得です。

◆作者の戯れ言◆
一方通行ってオティヌスと似てますよね。
望みを叶えるために悪逆の限りを尽くしたり、周りとは隔絶した力があって、誰にも自分のことを理解されないし、理解されようとは思ってもいない。
だけど、心の中じゃ理解して側に居てくれる存在を欲してる。
それを浮き彫りにさせた上条さんってスゲェや。


こんな話書くつもりなかったのになぁ……。なんでこうなったんだろ?台風だからかな。


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24.殺し《ブレイカー》

24話です。
この話だけ話の雰囲気が変わります。






 朝の5:30。

 男の朝は早い。

 選手の経歴や特徴を入念に調べ、それを基にした原稿を擦り切れるまで読み続ける。

 □□ □□。若干27歳という若さでこの地位を手に入れた、期待のホープだ。

 巷では熱血アナウンサーと言われており、知名度がかなりある。

 元々□□は某テレビ局の人気アナウンサーだった。

 その彼がどうしてボクシングメインのアナウンサーとなったのか。

 それには並々ならぬ強い思いがあった。

 

 

 

 

 

 8年前。

 朝の大きな番組のアナウンサーに抜擢された。

 仕事に忙殺される日々だったという。

 人前に出るのは苦ではなく、出演者との掛け合いや顔が濃く整っていたため、すぐに人気がでた。

 

 車内VTR

 「あの時期は本当に大変でしたね……。原稿のチェックは厳しくて怒鳴られてばっかりですし、どんどん変わっていく報道の空気は、まさに生き物のようでした」

 

 それでも、いい経験だったと□□は言う。

 それがあるから今の自分があった。 

 仕事に不満はなかった。

 

 ポーン 【何故出世街道を逸れたのか】

 

「昔からボクシングが好きだったんです。でも、テレビのアナウンサーでしていた爽やかな自分だと、ボクシングのアナウンサーでは浮いてしまい、話になりません。

 言ってしまえば、僕はテレビの爽やかな自分か、ボクシングの熱い自分を比べて、ボクシングを取りました」

 

 ポーン 【後悔をしたことは?】

 

「一度もしてないです。収入は確かに減りましたけど、好きで選んだ道ですから」

 

 □□の顔は憂い一つなかった。

 そこには、お金よりも大事なものを掴んだ、男の顔があった。

 

 

 

 

「おはようございますッ!!」オハヨウゴザイマス

 

 □□の現場入りは誰よりも大きな挨拶から始まる。

 それは、上司だけではなくスタッフ全員だった。

 敬われる立場にも関わらず、後輩にもきっちりとしていた。

 

 ポーン 【なぜそこまで徹底するのか】

 

 車内VTR

 「挨拶って社会人として大事なことだと思います。でもそれだけではなく、これから仕事のスイッチを入れるぞっ、という意味でも大事な事だと僕は思っています」

 

 後から現場入りしてくるスタッフ一人一人にも、変わらず大きな挨拶をする□□。

 有言実行だった。

 

 

 

 

 

 外の天気は雲一つない快晴だった。

 

「青コーナぁー、……○○ッッ!!!!」ウオオオオオ!!!

 

 □□は選手を呼ぶこの瞬間が好きであると語った。

 

「この闘いが始まるぞって感じがたまらないですね(笑)」

 

 そう言って笑っていたが、こうも言っていた。

 

「このコールから自分達の本当の戦いが始まります」

 

 試合前と、試合中では仕事の質が変わると□□は言う。

 

「邪魔にならない程度の解説をしなくてはならない。その配分を見極めるのがこの仕事の難しいところです」

 

 だが、やりがいがあると語った。

 そして、試合が始まる。

 

 

 

「さあ、始まりました。米花杯!この時を今か今かと待ちわびてました!さあ、チャンピオンの二度目防衛なるか!はたまた、新しいチャンピオンが、ここ米花町で生まれることとなるのか!」

 

「無事開催することができて良かったです。この近くで殺人事件が起きてたらしいですからねぇー」

 

 ズットォサガッシテイタ~♪

 

 【□□にとってボクシングとは?】

 

 室内VTR

 「アナウンサーとしての新しい可能性を、教えてくれたかけがえのないモノです」

 

 マエニィーー、、、、、、ススモー

 

 

「さて、それでは38回米花杯始まりのゴングです!」

 

 カァーーン!!!ウオオオオオ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……ここは……?」

 

 天野倶佐利は再び目覚めた。

 

「(……何を見たかは忘れちまったけど、何かを見てた気がする……。もしかして、走馬灯か?)」

 

 いや、違う。

 

「(おいおい、病院の中だってのに穏やかじゃ…………あれ?)」

 

 天野が周りを見るとコンテナと砂利の地面の、先ほどの風景だった。

 

「(まさか、まだ戦いは終わってないのか……?いや、それはおかしいだろ……。じゃあ何で()()()()()()()()()()?)」

 

 後ろを見ると、何故か上条とミコっちゃん、御坂妹が座り込んでいた。

 

「(何で後ろに居るんだよ。前行けよ!前!

  つーか、何で俺は立っているッッ!!)」

 

 訳が分からん。全然分からん。

 ……何よりも分からんのが。

 

 遠くのほうで地面が割れて、何か凄いスーパートルネードが巻き起こっている。

 

「…………」

 

 段々と規模は大きくなっており、近いうちにここら一帯も呑み込まれることだろう。

 あれを止められるのは、ここに集まったこの四人だけである。

 

 

 学園都市に居る230万人の命守るために、今こそその拳を握れ!上条当麻!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから、その展開知らんってばッ!!お前たち、俺がいない間何をしたッ!?

 

 

 

 

 

 




エルキドゥですッ☆マスターに危害を加える人間が多いよね。そんな敵をズバッとして解決!激おこぷんぷん丸ぅー!!⤴
 ……したいところだけど、マスターにとってこれは大切な戦いらしい。僕もギルとの戦いでは僕達だけで戦いたいからね。気持ちはわかるとも。
 だけど、君が望むのなら喜んで一緒に、ギルをボコボコにしよう。うん、それも悪くないね。
 傷も治しておいたよ。地面にいたこともあって、今回は僕の力で治せてよかった。
 …………でも、君が理不尽な理由で致命傷を負ったときは躊躇はしないよ。気にしなくていい。サーヴァントとして当然のことさ。

◆裏話◆
とある仕事の拳闘解説
皆さん気になっていたであろうあのキャラを、ピックアップしたお話でしたね!
できた経緯はノリと勢いです。

◆作者の戯れ言◆
何でこうなったんだろう?
ヤベェ、今回はブーイングの嵐かもしれん……!((( ;゚Д゚)))
釈明:全ては台風が悪いんです。
題名の意味は皆さんで理解してもらえると嬉しいです。


まあ、シリアスブレイカーなんですけどね。


おや?エルキドゥのようすが?


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25.暴走

23話の【アンケートで友達から聞いてこの小説を知った】、が思ったよりいて驚きました。
こんなマイナーな小説を薦めるとは、なかなかの変態ですねぇ( ´,_ゝ`)

あ、設定変えました。&エルキドゥの中身を消しました。


「───圧縮、圧縮、空気を圧縮ゥ!イイぜェ……愉快なこと思いついた!」

 

 まるで、新しいオモチャを手に入れた子供のように、一方通行(アクセラレータ)が強大な力を振り回す。

 何tもあるコンテナが風船のように飛んでいく光景は、その場にいたとしても信じられないものであった。

 

「ギャハハッ!感謝を込めてオマエを跡形もなく「ぐッ……!」………………あ?」

 

 一方通行が目を向けると、多少傷付きながらも立ち上がろうとしているツンツン頭の少年の姿が目に入った。

 

「…………。」

 

 どォいうことだ?あの高さから落ちてほとんど無傷で立ち上がるだと?

 今までどンだけ殺してきたと思っていやがる。人間の強度から見てもそんなことがあり得るはずがねェ……ッ!

 一体どんなカラクリが…………───ッ!!

 

 

「…………オマエ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「づッ……!痛ッ……!」

 

 一方通行に生み出された突風に吹き飛ばされた上条は、至るところに傷を負っていた。例え完璧な受け身をとっていたとしても高さが高さだ。当然無傷とはいかない。

 だが、上条は違和感を抱いた。

 

「……あれ?何で俺こんなにピンピンしてるんだ?」

 

 そう、いくら上条の体が平均より頑丈であっても、超能力を扱うこともできず、ましてやプロの魔術師ですらない高校生の上条当麻が、あの高さから落下してしまえば重傷は免れない。

 天文学的な確率により、落下時に緩衝材となる物を挟み込み、衝撃を全て逃がすことに成功した、などということはもちろんない。

 あまりにも荒唐無稽な話であるし、不幸が宿命付けられている上条にそんな幸運は絶対にあり得ない。

 では、上条は一体何をクッションにしたのか。

 それは、視界の端にあった。

 

「…………………………えっ?」

 

 戦場の真っ只中であるにも関わらず、上条の思考が空白になる。

 上条にとって彼女は飄々としていながらも、不思議なことにどこか芯が強い印象があった。動きは優雅で常に微笑みを浮かべているその姿は、心の余裕を感じられた。

 だが、その余裕は自らが高位能力者である、優越感から抱いているものではない。実際に無能力者(レベル0)に囲まれながらも見下さずに、対等な存在として接していた。

 模範的な優等生であるにも関わらず、馬鹿騒ぎや冗談に乗ってくる柔軟性。気配りができ厄介事に首を突っ込む世話焼きな性分。

 その容姿や能力から嫉妬を抱くものはいるだろうが、彼女の人となりを知れば、そのような感情を抱くのは難しいだろう。

 一般高校でありながらも、陰でお姉様と呼ばれていることからも、その人望の厚さが分かる。

 そんな誰よりも頼れる女の子が、血と泥で汚れて無惨にも倒れていた。

 

 

 

 

 

 

 

「先輩ッ!先輩ッ!!」

 

 クソ野郎がアイツに声を投げ掛けている。

 何なんだこりゃ?パクり野郎と会ってから理解できねェことばかりだ。

 

 オマエの肩には鉛玉がブチ抜いてた。今までの殺しの経験から、ロクに動くことすらできねェことなんて、考えるまでもなく分かる。

 その状況でヒロイックなテメェに酔うほどの余裕はないはずだ。にも関わらず、何でアイツは血塗れになってンだ?

 まさか、本気で他人のために命を懸けてたとでもいうのか……?

 

 ッ何なんだよそりゃあッ!!

 

 オマエの中にも一端とはいえ、俺と同じ能力があンだろ?

 この力の恐ろしさを正確に理解しているクセに、何故平然としている?何故周りに他人を置こうと思えるッ……!

 言ってたじゃねェか!!あの日、あの時、あの場所でッ!!

 

 

 

《僕は今まで何千と能力をコピーしてきたけど、その中でもこの力は一番恐ろしいね》

 

《……あ?》

 

《だってそうだろう?一端だけとはいえコピーした僕でも、とてつもない破壊を呼び起こせてしまうんだ。もし、これが僕の能力だったなら───ーーー----》

 

 

 

 この力が俺じゃなくてオマエのモンだったのなら、こンな風にはならなかったのか……?

 

 

 

 

「があ"あ"あ"あ"あ"あああァァァァアアアアアア!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ、血が全然止まらない……ッ!!早く病院に連れて行かないと間に合わなくなる!!」

 

 上条が全力で止血をするが血は少しも止まらない。このままでは失血死してしまうことだろう。

 

「どうすれば、…………ッそういやさっき声が……!──御坂!居るんだろ!頼む出てきてくれッ!!」

 

「元々そのつもりよッ!それで何!?どうしたの!?」

 

 声を掛けたとほぼ同時に、コンテナの陰から御坂が飛び出してくる。

 

「先輩が俺を助けたせいで重傷なんだ!すぐに病院に連れてってくれ!」

 

「先輩って……ッ!な、何でこの女が……!?」

 

 少年のすぐそばを見ると、数時間前に河川敷で戦っていた少女の姿が目に映った。

 

「(この傷まさか一方通行にやられたっていうの!?いや、でもこの女は実験の関係者のはず……それなのにどうして?まさかの仲間割れ……?)」

 

 御坂が経緯を把握しようと思考を回そうとするが、上条の声が割って入る。

 

「御坂!!」

 

「……ッ、ああもう、わかったわよ!私の行き付けの病院でいいわね!」

 

 例え殺しあった仲だとしても、見殺しにするのは何かと寝覚めが悪いし、彼女が何かしらの情報を有していることは間違いない。

 その上、浅い関係であるにも関わらず、命を張っている少年からの願いであれば、それをしないのは余りにも恩知らずだ。

 

 磁力を使って病院まで飛ぶため、近くに落ちていたコンテナの破片を即席の担架にしようとしたその時。

 

 

 

 ドバッッンッッッッ!!!!!と、空気震わせる突風がまたしても吹き荒れた。

 

 

 

「「がッッはッッ!?」」

 

 いつもの二人ならば警戒していてしかるべきだが、今回ばかりは事情が違った。

 片や一番信頼する先輩が自らのために、瀕死の重傷を負ってしまった罪悪感に苛まれていたこと。

 片や先ほどまで殺しあった刺客でありながら、この場にいる少年の先輩だという少女を、助けるのだという動揺。だが、これはあまり関係ない。

 御坂が予想外であったのは突風での攻撃だったということだ。何故なら空気を圧縮し、一方通行はプラズマの生成をしようとしていたのだから。

 仮にプラズマが完成したのだとしても、妹達に対抗策はすでに伝えたため、少しばかりは時間に余裕ができるものだと考えていた。

 

 そんな二人であったために起きた不意討ち。上条、御坂、天野は空へと打ち上げられる。

 

「ッッ!舐めんなァッッッ!!!」

 

 御坂は地面にあるコンテナに磁力を使ってUターンをし、見事に着地をしてみせた。

 その時にコンテナの破片にくくりつけた天野と、上条を回収しようとしたが、

 

「なッ!?」

 

 少年の方の磁力の糸が突然断ちきられた。

 

 一瞬訳が分からなかったが、すぐにあの右手によるものだと理解する。

 おそらく、風に煽られ反射的に、右手を振り回してしまったのだろう。

 

「それなら、何回だって……!!───ウソでしょッ!?」

 

 磁力の糸を伸ばそうとすると次の変化が訪れた。

 一方通行がいる周辺の地盤が、花を開くようにめくれかえったのだ。

 その地盤を微塵切りにするかのように、一方通行が生み出した鎌鼬が、バラバラに切り裂いた。

 そして、御坂が悲鳴を上げた理由はここからだ。

 

 ドガガガガガガッッッッッッッ!!!!!!!と、凄まじい音を立てながら高速で何かが横切って行く。

 

 切り裂かれた瓦礫は先ほど御坂達を巻き上げた突風に乗り、辺り一面に無秩序に吹き飛ばされてきたのだ。

 砂鉄は風のせいで使えないだろうが、雷撃の槍や超電磁砲(レールガン)などを使えば、瓦礫群を何とか凌ぐことは可能である。だが、それはつまり少年のフォローに回す余力が無いことを意味する。

 無限の砲撃から身を守るためには、全ての演算を使わなくてはならない。巻き上げられた瓦礫は御坂達に降りかかる物もあれば、上条と一緒に上空に巻き上げられたものもある。

 

「(この空間は大気の流れを掌握している以上、全ては一方通行の支配下にある!つまり、放出される風さえも演算をしているってこと……!)」

 

 であるならば、何が問題なのか。

 演算をしている以上、次に演算をする際には、より効率的にできるようするのが普通だ。風のより効率良い運用とは何か。

 

 つまり、───循環だ。

 

 風の力を超能力で強くするには、風を循環させるための演算を割り出し、循環させた風に新しい風を巻き込ませて、より風に勢いを生ませるシステムを構築する。

 台風やつむじ風をイメージすれば、分かりやすいかもしれない。

 とはいえ、それが実行できるほどの空力使いがどれだけいるのか。出力はもちろんのこと常に変わる風の向きや、新しく生み出した風の掌握。それを屋外で実現するには並大抵の人間では不可能だ。

 

「(この風が循環しているのなら、瓦礫が飛び交うこの空間はミキサーと一緒じゃないッ!!)」

 

 少年は助けなくては間違いなく死ぬ。

 そのため、すぐにでも助けに入りたいが瓦礫群が襲い掛かってくる。

 

「(ぐぎぎ……!……四方八方からの間隙の無い攻撃なんて、……どれだけッ!ふざけてんのよ……ッ!!)」

 

 ランダムに飛んでくる瓦礫を一つ残らず、全て撃ち落としていく。本来ならば危険を承知で、少年を助けるために突貫するのだが、足下には少年から預かった少女がいるため、動けなくなっていた。

 だが、このランダムに飛んでくる瓦礫に対し、僅かな違和感を美琴は感じていた。

 

 そんな最中、ふと上空を見ると少年の近くに飛び交う、幾つかの瓦礫が見えた。

 

「ッ!!」

 

 近づいてくる瓦礫をすぐさま砕き、強引に少年に近づく瓦礫を撃ち落とそうとコインを掲げるが、轟音と共に凄まじい衝撃が御坂を襲う。

 

「しまッ!!」

 

 御坂がコインを掲げる前に撃ち落としたのは、自分に向かって飛んでくる物だけだった。無意識の内に立っているコンテナへ向かってくる瓦礫を演算から外してしまったのだ。

 突然起きた少年の危機。天野との戦闘での疲労と現在進行中の瓦礫の嵐を捌く精神的疲労。そう言った様々な要因から出たミスだった。このままでは、足下の少女は疎か御坂自身もただでは済まない。

 

 ……この際、自分の命は捨てても構わない。

 

 ここまでしてもらったのだ。

 今さら自分の命に執着などしない。……だが、例え自分の命を捨てたとしても少年を助けることは不可能であった。

 

 少年に磁力を使い手繰り寄せることは、あの右手がある限りほぼ不可能だ。距離があるため万が一成功したとしても、その間に演算を割いた私はほぼ死ぬ。

 さらに、その前にあの瓦礫を一つ残らず撃ち落とさなければ、少年の挽き肉になる未来は変わらない。

 

「あ"、ああ……ッ!!」

 

 つまり、少年を助けるための方法は一つもないのだ。

 

「あ"あ"ああああああああああッッッ!!!!!」

 

 

 

 まさに、詰みであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『エルキドゥ、起動する』

 

 

 

 

 

 

 ここに神造兵装が居なければ。

 

 ジャララララララララ!!!!と、金属音が連続的に響き、竜巻と空中に飛び交っていた瓦礫を、一つ残らず破壊した。

 

 

 

「…………………………………………………………は?」

 

 

 静寂が支配する空間に美琴の声だけが聞こえた。

 

 余りにも突飛なことに頭が追い付いてこない。

 あれほどの猛威が一瞬で消えてしまったのだ。急遽襲い来る猛攻も心臓に悪いが、突然中断されるのもゆとりができたことで、逆に不安感が倍増してしまい、同じくらい心臓に悪いのだと美琴は知った。

 呆然としながらも口から言葉が溢れる。

 

「い、一体何が……?」

 

「やはり、万全とはいかないね。少し性能が落ちているようだ」

 

 その声を聞いた途端に背筋が震えた。

 全身から緊急アラートが鳴り響き、冷や汗が止まらない。

 

「(何なの!?このプレッシャー……ッ!!まるで一方通行と同等じゃない……ッ!!)」

 

 つい数週間前に感じた、強烈なプレッシャーと酷似したものが、美琴の体を貫いていた。

 

 だが、美琴は一つ勘違いをしている。

 

 そのプレッシャーは一方通行が殺意を向けた状態と、同等であるということ。つまり、今の美琴を()()()()()()()()()()()エルキドゥと同等なのだ。

 

 とはいえ、それも仕方の無いことである。

 完全体にならなくても神々が生み出した兵器。歴史的に見てもこれほど異質な存在はそうはいない。齢14の少女に目の前の存在を正確に計れというのも、土台無理な話だ。

 

幻想殺し(イマジンブレイカー)と言ったかな。彼も回収しなくてはね」

 

 そういったあと、鎖が出ている左手を上空から手繰り寄せた。ジャラララララ!と鎖が鳴る音と共に、ツンツン頭の少年がターザンロープの要領で輸送されてくる。

 

「ぅぉぉぉぉぉおおおおおお!?!?!?!?」

 

 あの右手に触れないようにするためか、手首から上を幾つもの鎖が巻き付けられ、動かないように固定されている。

 ますます出荷される動物にしか見えない。

 

「ってちょっと!!あのまま落ちてきたら死ぬわよ!?」

 

「心配ないよ」

 

 ガンッ!ガンッ!ガンッ!と断続的に何かにぶつかる音が聞こえた。

 

 物凄い勢いであったが、少しずつ停まるように何かしらの仕掛けがしてあったらしい。死ぬことがないと分かり安心する。

 その衝撃を食らっている少年は、堪ったものではないだろうが。

 最後の部分で数回、遊園地のバイキングのように揺れたあと、無事に着地をした。

 

「し、死ぬかと思った……ッ!空中でいきなり拘束されたと思ったら落下させられて、今回ばかりは本当に死ぬかと思った!もうスカイダイビングとか絶対イヤッ!どれだけお金を積まれても上条さんは行きませんことよ!」

 

 ……心の傷までは無事とはいかなかったみたいね。

 撹乱してオカマになっている、ツンツン頭の馬鹿が顔を上げたと同時に、この不可思議な存在を目にして驚愕する。

 

「えっ!?先輩!?傷は!?大丈夫なんですか!?」

 

「【完全なる形】は問題なく発動しているようだね」

 

「あれ?先輩に無視されてる……?ヤバい、どうしよう!?俺何かしたっけ!?心当たりが多すぎる……ッ!先輩に見放されたらもう立ち直れない……!!」

 

 ……一方通行に立ち向かった時の、頼もしいこいつはどこ行った?こいつの中でこの女の占める割合が、なんだか異常に高い気がするんだけど。

 

「瓦礫も風も吹き飛ばしたけど、時間の問題だろうね。それと、君は彼女のことを気にするといい」

 

「……彼女って一体誰のことy「おそらくミサカのことではないのでしょうかと、ミサカはお姉様に進言してみます」……ってうわっ!アンタ何でこんなところに居るのよ!あの距離なら早く逃げてればどうにかなったでしょう!?」

 

 あの距離なら即座に逃げれば、危険領域から脱出できたはずだ。

 何故未だここにいるのか問いただすと、彼女は申し訳なさそうに、けれどハッキリと言葉にする。

 

「ミサカは足手まといかもしれません。ですが、ここで逃げるわけにはいかないのだと、ミサカは胸のうちをお姉様に語ります」

 

「アンタ……!」

 

 妹達(シスターズ)は感情をプログラムされていない。だから、自分のことを実験動物だと言えてしまうのだ。彼女達は殺されることに恐怖を覚えない。

 

 しかし、それは心がないこととイコールではない。美しいと感じる心がある。缶バッチを大切だと思う心がある。

 そして、きっと───自分のために命を懸ける人を見て、その勇姿を無駄にしたくないと想える心があるのだ。

 

 なら、私のすることは常識だとか、分かりやすい戦力差などで彼女を除け者にすることじゃない。

 この戦いはそこの少年や私だけの戦いじゃない。彼女達の人生の岐路となる戦いなのだ。ならば、彼女達が立ち上がることに何の不思議がある?

 

 目を伏せ、叱られるのを待つかのようにしている、彼女の手をそっと握る。

 

「……お姉様?」

 

「──大丈夫よ。何も気にしなくていいわ。アンタ達に降りかかるどんな火の粉も私が全部振り払うから」

 

 その言葉はこの戦いだけではなく、更にその先のことまでを含めて言っているのだろう。

 

「だから、……私のこと信じてくれる?」

 

「はい」

 

 一瞬の迷いなく答えた彼女に驚き、しかし嬉しそうにして掴んだ手を再び握り締めた。

 握り締める手は優しく。そして力強くて、とても温かかった。

 

「なら、アンタのことは私が守るわ。もう傷一つ付けさせない。だから好きなように動いて構わないわよ。どんな障害だって私が吹き飛ばしてみせるから」

 

「……何故……そこまで……」

 

 そこまで話して彼女は笑みを溢した。彼女は久しぶりに彼女らしい勝ち気な笑みを浮かべて言い切ったのだった。

 

 

 

 

「アンタ達は私の妹だから。

 だから、それくらいのワガママは聞いてあげるわ。

 ───お姉ちゃんに任せときなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「創造したものに魂を入れたがるのは、神々も人間も変わらないね」

 

「先輩?」

 

 何故かは分からないが、先輩が先輩らしくないような気がする。浮世離れが更に突き抜けてしまったような感覚だ。

 

「さっきの光景は他言無用で頼むよ。では、僕はこれで去ろうか。これはマスターの戦いだからね。あとはマスターに任せることにするよ」

 

 そう言って目を閉じると一瞬動かなくなってしまったが、すぐさま覚醒した。

 …………もしや自己暗示系の催眠方法だったのだろうか。食蜂と仲が良いしそういうのも知っているのだろう。

 目を覚ました先輩は俺が知っている先輩そのもので、最悪の状況は変わらないのに、思わず安堵してしまった。

 

 こちらをしばし眺めた先輩はすぐに前を向く。その背中は覚悟を決めたいつもの頼もしい背中であった。

 

 当然、その背中から逃げる選択肢は上条当麻に存在せず、強く拳を握り、頼りになる先輩の隣に立ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(いやいや、説明せいや。)」

 

 上条が頼りになると信じた人物は、割りと切羽詰まってた。それもそのはず、オリ主は今この瞬間に覚醒したのだから。

 

「(何?そのイケメンフェイス?覚悟決めた男の顔してんじゃん。カッケェなあ、おい。

 ……じゃなくてさ?とりあえず教えてっ!本当に訳分かんないのっ!!

 最初にさ「まずはその幻想をぶち殺す!」って顔、一回止めよ?話し合お。な?)」

 

 内心でめちゃパニくっている先輩が、主人公の隣に立っているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ呑気に話すのはここまでみたいよ!またあの竜巻と瓦礫の嵐が来るわ!」

 

 一方通行の周りに風が巻き起こり始めた。またあの地獄がやって来る。

 

 先ほどの天変地異を思い出し、三人は身構える。

 残りの一人は、

 

「(な、なに?何が来んの!?はい!説明を求めますっ!)」

 

 とはいえ、腐っても常盤台中学出身。無駄に鍛えたその優秀な頭を高速で回す。

 

「(竜巻?プラズマを生み出す前のあれのことか?じゃあ、瓦礫ってなに?そんなシーンなくね?

 う、うーん。強いて言えば垣根帝督のときに使った二段蹴りか?あれの数を数百倍に増やせばそう言えなくもないかな?)」

 

 何だかんだで割りとニアピンな答えだった。

 

「(でも何でそんなことしてんの?上条を殺すならそれは正解だけど、プラズマに夢中だったじゃん。プライドが超高い一方通行が、恐怖で辺り一帯をまとめて吹き飛ばしました。なんてオチじゃないだろうし……。あ、もしかして)」

 

「能力の暴走かな?」

 

 皆の視線が天野に集中する。

 

「暴走?」

 

「うん、あそこまでの単純な破壊は、一方通行の好みとは違うはずだよ。彼なら血流操作で殺すだろう。

 もしあっても、普通の能力者では実現不可能な、高次元の攻撃をするときのみだろうさ」

 

 一方通行のことを詳しく知っているかのようなセリフに、首を傾げるが、先輩ならあり得ると納得して上条は話を聞く。

 

 そして、学園都市第三位がそれを裏付けるように付け加えた。

 

「───ええ、きっとそうよ。飛んでくる瓦礫はランダムだったから」

 

 その言葉を聞いて上条は疑問を言う。

 

「それっておかしいのか?風で吹き飛ばされたんだから、ランダムにくるのは自然だろ?」

 

「それが自然の風ならね。人工の風で循環している以上、絶対に規則性が出るはずなのよ。なら、その計算を乱している何かがある。それが、能力の暴走ってわけね。…………だけど、暴走しながらしっかり循環はしているなんて、つくづく化け物染みてるわ」

 

 畏怖を抱くように呟かれたその言葉には、美琴の心情がこれでもかと詰め込まれていた。

 そして、ふと先ほどの会話を思い出す。

 

 

 

「ねえ、さっき一方通行のことを理解しているようだったけど、何か打開策があるんじゃないの?」

 

「(は?この子は何を言うてはりますのん?)」

 

 まさかの流れ弾に、キャラがブレるほどの衝撃が天野を襲う。

 

「(知らん知らん!あんなチート野郎に勝つなんて無理だよ!演算パターンなんてほんの少ししか知らんから、木原神拳は俺できんし。右手どころか全身パーンよ?

 あんなのおかしな右手持ってる、同じチートをぶつけるしかないって!)」

 

「本当ですか!?先輩!」

 

「(アイエエエ!?どどどどどうしたら───ッ!?)」

 

 その時、オリ主の頭に電流が走る。

 

「(そうだっ!確か親友が言ってたな。エルキドゥのコスプレしてるときに分からない質問されたら、あの言葉を言うと万事解決だって!)」

 

 前世の友人が俺にグーサインしてるのが分かる!よし、分かった!ありがとう!

 

「先輩もしかしてあの攻撃の弱点が分かるんですか!?」

 

 その言葉に不敵な笑みを浮かべて、少女は言い切った。

 

 

 

 

「ああ、わかるとも」

 

 ※分かっていません

 

 

 

 

 

 

 




◆裏話◆

◆作者の戯れ言◆
いやー、戦闘描写辛いわぁ。書いてて楽しいけどメッチャ大変。細かく書いてるせいなんですけどね。
それにしても膨らむ膨らむ。この25話で一方通行戦は終わらすつもりだったのになぁ。
次回で決着…………のはず。

アドバイスに従い、評価に文字数をいれることにしました。
変化が余りにもなくて、つまらないのでやっぱりやめます。


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26.最弱の拳

コナンの二次小説を書きたいと思う今日この頃。

25話です。


「(さぁ~~て、………………どうしようか。)」

 

 このポンコツ。安易にわかるなどと言ってしまったため、引くに引けない状況へと陥ってしまった。

 

「(上条が御坂妹と同じくらいボロボロなくせに、目が異常に輝いてるわー。「やっぱり年上の女の人ってスゴイなー」みたいな目してるし。

 ここで「な~~んつって!テヘペロっ!」……なんて言えないよなー。……いや、実際に言えないんだけどさ)」

 

 上条が某心理掌握(メンタルアウト)のような、お目目椎茸になっていることに冷や汗を流すが、ノープランでここまで来た以上は高度な柔軟性を保ちつつ、臨機応変に対応しなくてはならない。

 そんなオリ主がまず最初に思い付いたのは、───「話術で捩じ伏せる」だった。

 

「今の彼に勝つには後輩だけでは不可能だ」

 

 まず純然たる事実。

 これでこれから先の言葉に真実味を持たせる。ここでなるべく残酷な事を言うと効果大。

 その指摘に上条は悔しそうな顔をする。実験を凍結させるためには、学園都市最強を学園都市最弱の自分が倒さなくては達成できないと考えているからだ。

 ……実をいうと今となってはそうでもないのだが。

 

 それに比べて他の二人はすんなりと理解してくれた。

 ここまで頑張ってくれた上条に感謝こそすれ、文句などあるはずもなかったのだ。実際に凍結にできるかどうかはわからないが、この戦場を乗りきったあとは自分達でどうにかしようとすら考えていた。

 

 御坂美琴は普段の言動からは理解しにくいが、学園都市でも屈指のズバ抜けた頭脳を持っている。疑心を抱かれる可能性があったが、この絶体絶命の状況が味方をしてくれた。

 天野にとってこれ以上ないほどに場が整った。

 

 そんな彼らを見渡したあとに、天野は少し声を整えて彼らに問う。

 

「なら、どうすればいいのか。もうわかるよね?」

 

 天野倶佐利はキメ顔でこういった。

 

「この戦いに勝つにはここにいる全員の力が必要なんだ」

 

 

 

 

 

 

 ……要するに何が言いたいのかというと、これから決行するであろう作戦の責任を、全員に分散したいということだ。

 

 割りと今のコイツはクズである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンテナを幾つも軽々と吹き飛ばす災害を前にして、少女達は一歩も退かずに前を向いていた。

 その片割れが作戦の重要な作業に取り掛かった。

 

「『それでは行って来ますのっお姉様!』」

 

「アンタにお姉様言われる筋合いなんてないわよっ!」

 

 数時間前に死闘を演じていた二人は、何故か今共闘をしていた。

 その理由は数分前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 天野は上手く話が進んだことで「俺ってもしかして天才じゃね!?」と超絶浮かれていた。

 主人公はもちろん、言わずもがなの学園都市第三位。感情を忘れた(元々無い)アンドロイド少女こと、くーるびゅーてぃー御坂妹。

 この三人を話術で騙し抜き自らの危機的状況を脱したことは、オリ主にとてつもない達成感を与えていた。

 

「いいかい。彼を倒すには後輩の右手しかない。ここまではわかるね?」

 

 三人が頷く。

 誰も魔術を使えない以上は幻想殺し(イマジンブレイカー)でしか突破口はない。そんな当たり前のことを言うことで場の支配と、最適な作戦を即興で頭の中に思い描いていく。

 結論が既にあるのならば、適当に理論を作りあとから付け足せばどうとにもなるのだ。

 

「問題は後輩の道を強引にでも作らなくてはいけないことだ。本来なら僕が空間移動で連れて行くんだけどね」

 

「白井もできなかったし、この右手を持っている俺じゃ空間移動はできないからな」

 

「だからこそ、まずはあのトルネードを対処する人員がいるんだ」

 

「私の出番ってわけね」

 

「僕も手伝うよ」

 

 そう言ったのはここに居るなかで一番の高位能力者、御坂美琴。超能力者(レベル5)には超能力者(レベル5)というのは利にかなっているが。

 

「でも、今の私には超電磁砲(レールガン)を二発打つのが限界よ?」

 

 いくら学園都市第三位だとしても、天野との戦闘。上条との我慢比べ。さらに、先ほど一方通行(アクセラレータ)が生み出した瓦礫の嵐に対する高度な演算。

 今の美琴はそういったこともあり、かなり衰弱している。

 

「なら、超電磁砲(レールガン)は一発だけにして、あとは僕のフォローを任せようか」

 

 ここまで即興で言っているものの、今のところ目立った矛盾はないように思える。

 だが、ここで御坂妹が声を上げる。

 

「……今までの作戦を聞いた限りミサカはいないほうが良いのではないでしょうかと、ミサカは戦闘能力の差を歯痒く思いながらも冷静に分析をします」

 

 それな。

 責任を分散させるために巻き込んでおいてなんだけど、御坂妹の出番がさしてないわ……。いや、ほんと考えなしでごめん……。

 でも、それじゃあ俺の身が危ないんだよ!「よくも妹を誑かしたわねッ!!」何て言われて背中に超電磁砲食らいたくないんだ!(必死)

 

「いや、君は後輩の側に居てくれると助かるよ。後輩の右手は能力以外の自然現象には効力を発揮しないからね。彼をコンテナから守ってほしい」

 

 適当に言ったけどなんかいい感じの答えじゃね?

 上条が必要不可欠なんて言い方をしてるけど実際はそうでもない。能力の暴走をしてるから幻想殺しが無くても勝てる可能性が充分にあるんだよ。

 とはいえ、原作の流れと変わってる以上は堅実な勝利を選ぶのは当たり前だろ?

 

「……もしかして、あのトルネードにこの子を突撃させるつもりじゃないでしょうね?」 

 

 目を鋭くしたミコっちゃんが俺を睨んできた。

 …………やっべぇ。そこまで考えてなかったぁ……ッ!!

 どどどどないしましょ!?このままだと撃たれるぅッ!?

 いやいや何だかんだで上条の側に居れば安心じゃん!?上条ならもしもの時は体を張って助けてくれるって!

 ……ああー、でもこの状況で言っても説得力皆無か。実際に襲ってくるのは異能の脅威じゃなくて、異能が生み出した脅威だもんな。

 う、うーん。さて、どうしたもん───あ、そういえば……

 

 

 

「姉なら妹の障害ぐらいどうにかするんじゃなかったかな?」

 

「ぬぐっ!?い、いや、それは……っ!!」

 

 痛いところを突かれたかのようにミコっちゃんは退いた。だが、ここで伏兵がダメ押しにかかる。

 

「お姉様……」

 

 呼ばれただけだが、彼女が何を言いたいのか美琴は十全に理解する。そんなワガママを言う御坂妹を見て、ミコっちゃんは頭を掻き毟った。

 

「んがああああああっ!!わかった!わかったわよ!やりゃあいいんでしょ!やりゃあっ!!」

 

 やけくそ気味に俺の押し付けをミコっちゃんは了承した。ついさっき御坂妹の前でカッコ良く啖呵を切ったんだから、次は実行しないといけないよな。はっはっはっ!

 あと言ってるうちに気付いたのだが、もしかしたら御坂妹が一方通行を倒す、ジャイアントキリングが発生するかもしれん。その場合、上条のやるべきことがなくなるのでは……?

 そんな不安を抱いている俺に、再びミコっちゃんが顔を合わせてくる。言いくるめられたことで俺にムカついたのか、少し語気を強くしてミコっちゃんが一番重要なことを聞いてきた。

 

「それで、あのトルネードを攻略する具体的な案は?」

 

 そう、そこなんだよ。連続超電磁砲(レールマシンガン)ぐらいやって欲しかったんだけどなー。実質一発だし無理かー。

 そうなると余ってる俺か。あのトルネードをブッ飛ばすなら軍覇の一撃しかないんだよな。

 だけど相手が風じゃ暖簾に腕押しだし、ほんの数秒しかもたないか。なら、空間移動で跳んでそのあとに───あれ?

 

 無駄に優秀な頭脳を働かせて全体図を見事完成させたところで、オリ主がふと気付いた。

 

 これ一番被害食らうの俺じゃね?

 

「(いや、いやいやいや!な、なにか他に方法があるはずだ!このままじゃ何故か体が治ったのに、またしても大怪我をする羽目になるッ!!)」

 

 そのあと必死に頭を回したが、それ以上の案は一つも出てこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(暴力ってダメだと俺思うんだ……)」

 

 既にオリ主は現実逃避をしていた。あそこまで言っておきながら黙秘など無理だし、何より他に代わりになる方法がなかったのだ。

 

「(そんなことよりも他に目を向けるべきだろう?ほら、見てごらん。空はこんなに澄みきっているし、大地からは地球の力強さが───)」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッッッ!!!!!!

 

 一方通行が生み出したトルネードで天気は大荒れ。大地は地盤を剥がしたことにより言うまでもなく。

 その目は間違いなく節穴であった。

 どうやら世界はオリ主に現実逃避も許してはくれないらしい。

 

「(…………これも上条と一緒にいる不幸かぁ……。えー。それでは皆さんご唱和下さい。

 それでは、はい!せーぇー、のーぉー……で!)」

 

「『すごいパァァンチッッッッ!!!!』」

 

 とてつもない威力の衝撃波が第七位(天野)の手から発射され、一方通行が作り出すトルネードを大きくえぐる。

 

 そしてそのあと、すぐさまシュンッ!と空間移動(テレポート)特有の移動音を鳴らし、緑髪のツインテールの少女が掻き消えた。

 彼女が次に現れたのは

 

 

 先ほどえぐったトルネードの中だった。

 

 

「『うぐッ!』」

 

 弱まったとはいえ強風の勢いに、白井(天野)の口から苦悶の声が漏れる。小柄な白井黒子の体では体勢を整えることもできない。このままでは再び巻き起こるトルネードに何もできずに呑み込まれて、死体を晒すことになるだろう。

 

 しかし、ビタッッ!!と何故か空中で不自然に止まる。

 

 その理由は彼女の後方にいる第三位の仕業だ。

 前髪から電気を発生させながら、彼女は自らの後輩を真似る少女に向かって吠えた。

 

「アンタ私の後輩の姿で無茶するんじゃないってのっ!」

 

「『ッ……流石はお姉様。常盤台のエースは伊達ではありませんわねッ』」

 

 実は天野の背中にはコンテナの小さめの破片が装備されていた。その破片を磁力で操り無理矢理空間に固定したのだ。

 超能力者(レベル5)の実力を遺憾無く発揮しているわけだが、御坂美琴の顔は青ざめていた。

 

「(あのトルネードが数秒後に来たら、一秒も経たずに全身の骨が砕けるのよ!?固定してるぶん風を受け流せないから確実に即死だってのに……。あの女普通に突っ込んで行きやがるしっ!

 恐怖とかないわけ!?さっきの戦闘を見てなかったらこんな馬鹿げたことに絶対付き合わないってのに……!)」

 

 自分が盛大な彼女の自殺に付き合わされてるのではと、ゾッとしないことを頭の片隅で思いながら、第七位は銃弾が心臓に当たっても痛いですむとの噂を彼女は全力で信じた(今は第七位の姿ではないため、あまり関係はないのだが)。

 

 

 ※ちなみに先ほど天野は撃たれました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『そんじゃあ行くわよ!』」

 

 またしても天野が変身をする。次に姿を変えた相手はまさかの御坂美琴だ。

 コインを右手に構える。

 

「『これが私の全力だああああああッ!!!!』」

 

 天野の超電磁砲(レールガン)が放たれた。

 学園都市第三位の代名詞である一撃。その破壊力は折り紙付きだ。

 だが、思い出してほしい。

 

 劣化模倣(デッドコピー)の能力を持つ彼女が、御坂美琴の能力で超電磁砲(レールガン)を放つとどうなるのか。

 

 

 ドゴバァッッッッ!!!!!!と、天野が生み出した衝撃波でトルネードに大きな穴が開ける。

 

 

 天野が超電磁砲をコピーすると、うまく操作できずに衝撃波となって四方八方に振り撒かれるのだ。天野は自爆技と認識しているため使う機会などないと考えていたのだが、思わぬところで使う羽目になった。

 

「『ぐっ!!』」

 

 衝撃波が一方通行に反射をして天野を後ろに吹き飛ばす。一方通行は寝ている間でさえも反射を使えたため、暴走状態であっても変わらずに使えるのだろう。

 

「だけどそれも計算内ッ!」

 

 コインを右手に掴んだ御坂美琴が躍り出る。

 天野は反射が働いてる可能性を予期していたのだ。能力も碌に使えない暴走した状態でそんなことができるなど、まさに荒唐無稽な話である。

 しかし、天野はそこは絶対に譲らず計画の計算に入れた。それは彼に対する一種の信頼であった。

 トルネードをまとめて全て第七位の衝撃砲で吹き飛ばそうとすると、あの馬鹿げた威力が一方通行に反射されて返ってくる。

 オリ主版超電磁砲ならばさほど周囲に影響を与えることはない。

 天野は爆風にわざと吹き飛ばされることで、美琴の射線上から上手く外れることに成功したのだった。

 

 そして、作戦通りに待機していた電撃姫が力を解き放つ。

 

 

「勘違いするんじゃないわよ、こっちが本家本元だってのッ!!!!」

 

 

 ドウッッ!!!!とオレンジの閃光が御坂美琴から発射された。天野とは違い真っ直ぐに閃光が伸びていく。

 

 着弾したのは一方通行───ではなく彼が立つ足場だ。

 

「ッ!?」

 

 ドバンッッ!!!!と一方通行の立つ地面が弾け飛んだ。

 当然反射が働いたが、その石や瓦礫が向かう先は真下の破裂した地面。それがさらに足場を粉砕する。

 

 一方通行の暴走は外部からの影響ではなく、一方通行の精神に大きな揺れが起きた内面的な影響が原因だ。つまり、一方通行の精神が落ち着けば自然と元に戻る。それは、能力の暴走の中でも軽度のものであるということ。

 そのため、能力の暴走状態であっても、反射だけはまだ正常に発動することができる。だが裏を返えせば、未だ能力を僅かながらも一方通行自身が制御しているということだ。

 では、彼の足場がなくなる不足の事態が起こると、果たしてどうなるのか。その結果は歴然だった。

 

 

 嵐が収まった。

 

 

 防衛本能が働き、反射的に反射を含めた自衛に演算を割いたためだ。

 天野が周囲の風を吹き飛ばし、御坂美琴がトルネードの発生を遅らせる。

 数瞬の安全地帯が確保された。

 

 ならば、あの男がこれ以上立ち止まる理由はない。

 

 

「行くぞ!」

 

「了解しました」

 

 

 上条当麻と御坂妹の二人が駆け出す。

 その距離約四メートル。

 到達するためには僅か1秒弱。だが、最高峰の頭脳をもつ一方通行が、再び能力を発動するには充分過ぎる時間だ。

 異能を打ち消す右手しか持たない上条当麻は、再び爆風に吹き飛ばされてしまえばどうすることもできない。

 一方通行が再び能力の暴走を始める一瞬前。

 

 そんな上条を救う者が上条の背後から横に飛び出した。

 

 御坂妹だ。

 

「ッ!!」

 

 バチィッ!と手から激しい音を鳴らして、一方通行に電撃を撃ち放つ。

 だがしかし、

 

 

 一方通行に触れたその瞬間、電撃が御坂妹に反射した。

 

 

「(て、……はあ!?)」

 

 能力の暴走は能力が能力者の手元から離れてしまい、無差別に力が振るわれることだ。暴走状態は周囲の人や建物もちろん、ときに能力使用者自身も大怪我をしてしまうこともある。

 一方通行の精神的なダメージからの暴走のため、その状態は軽度ではあるのだが、能力の暴走であることには変わりはない。

 

 その状態でプラズマである電気の演算もできるわけがない。反射を完璧に制御していることは普通に考えてあり得ないのだ。

 

「(ちょいちょいちょい!流石に予想外なんですけど!?暴走状態で光や熱のベクトルまで反射できんの!?チーターや!チーター!)」

 

 しかし、そんな天野の思考は当然無視して、無情にも電撃は御坂妹に向かって跳ね返ってくる。全身ボロボロの御坂妹が電撃を食らえばただでは済まない。最悪命を落としてしまうだろう。

 御坂妹の危機に対し、ツンツン頭のあの男が足を踏み出す。

 

 

 ───前に。

 

 

「(か、かかか上条サンッ!?)」

 

 御坂妹のピンチを前にして、あの上条が助けに割って入らなかったのだ。

 普段の上条当麻ならば絶対に取らない選択肢。

 例え作戦が失敗しようとも、彼ならすぐさま横に飛んで御坂妹を救いに行く。そんな風に誰であっても見捨てるなんて絶対にできないのが上条当麻だ。

 そんな彼が何故、御坂妹を無視して一方通行の方に向かったのか?

 

 

 

 それは、信じていたからに他ならない。

 

 

 

「言ったはずよ。アンタの障害は私が全部吹き飛ばすってねッ!!」

 

 

 先ほど一方通行の立つ地面を吹き飛ばした御坂美琴が、強力な電磁波を生み出し、御坂妹に向かって来ていた電撃を強引に直角に曲げて、弾き飛ばした。

 

 結果的に御坂妹は一方通行にダメージを与えることができなかった。しかし、ダメージを与えることだけが攻撃ではない。

 御坂妹は電撃を一方通行の顔面に向けて放った。人間は意識のない状態でも瞳に光を当てられると瞳孔が収縮する。つまり、ただの光で体が反応してしまうのだ。

 当然、前後不覚になっていたとしても、体は条件反射で雷光に一瞬反応してしまう。御坂妹が体を張って作り出したのは一瞬の猶予だ。

 

 そして、その絶好のチャンスを上条当麻は見逃さない。足を強く踏み出し拳を力の限り振り抜く!

 

「うおおおおおッ!!!!」

 

「ッッガハッ!?」

 

 グゴキィッ!!と原始的な音が響く。渾身の一撃を受けて一方通行の体が後ろに傾いた。

 その拍子に能力の暴走が幻想殺しによって打ち消されたのか、今しがた吹いていた強風が鳴りを潜め無風の空間が帰ってくる。

 上条達の攻撃により一方通行の体はふらつき、今にも倒れそうになっていた。

 

 揺れる視界の中で一方通行は思う。

 

 

 

 ま……負ける……のか?この俺が?

 

 この一方通行(アクセラレータ)が?

 

 こんな妄言垂れ流すだけのクソ野郎共に……?

 

 

 

 ───ふざけんじゃねェぞッッ!!

 

 

 

「ッ!!があああァァァアアアッッッッ!!!!」

 

 だが、その一撃は一方通行を正気に戻した。痛みと共に演算を取り戻した一方通行は、自身にストレスをかけ続ける目の前の敵を排除するため、上条を殺しにかかる。

 

「オオァッッ!!!!」

 

「ぐあッ!?」

 

 一方通行が足を地面に叩き付けると、ドバンッッ!!!!と、砂利を含めた地面全てが広範囲にショットガンのように打ち出される。その威力は手榴弾を遥かに超えていた。直撃すれば重傷は免れない。

 それが半径3メートルの扇状に繰り出され、上条を津波のように呑み込んだ。

 上条が立つ空間に向けた上下左右を含めた範囲攻撃。砂利を吹き飛ばすだけなら、上体を深く下げれば避けれるだろうが、今度の攻撃にそんな隙間は在りはしない。特殊な右手しか持たない上条では万に一つも避けることは不可能だ。

 

「そんなッ!?」

 

 美琴が悲壮な声を上げた。声には出していないが10032号も呆然とした表情から、同じことを想像したのだろう。

 土煙で隠されているが、あの中はさぞ悲惨な光景が出来上がっているはずだ。ツンツン頭の少年の原型が未だに残されているかも分からない。

 

 そんな状況を一瞬で作り出した白い悪魔は、世界に宣言するかのように声を上げる。

 

「俺は一方通行(アクセラレーター)。俺の進む道は絶対だァ!誰も反論なんてできねェ……ッ!それがこの世界の法則(ルール)なんだからなァッ!!!!」

 

 手を広げたその姿は、まるで自分がこの世界の主であるかのようであった。誰も彼に敵わず、彼が恐れる敵などこの世界には誰一人としていない。まさしく頂点に相応しき絶対の力。

 今後も実験は続けられるのだろう。彼が無敵へと至るためにどれだけ時間がかかったとしても。

 そのために、流される彼女達の血は見向きもされない。彼女達の死はただの数字に変換されて地獄は何度も繰り返す。

 少女達の亡骸を養分にして白い悪魔が次の段階へと羽化するその瞬間まで。

 

 そして、きっと近いうちに───涙を流す女の子でさえも、上から踏み潰すのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「そうかよ。なら、そんなふざけた幻想は俺がぶち殺してやる」

 

 

 

 

 

 

 

 一つの影が突き破るようにして砂煙から身を踊らす。理不尽を打ち砕くその右手を握り締めて。

 

「何ッ!?(バカな……。今のタイミングで避けられるはずがねェ……!このクソ野郎何をしやがった!?)」

 

 血を流して傷だらけにはなっているものの、未だに五体満足でいることなど、どう計算してもあり得ない。

 

 一方通行は気付けない。

 上条の背中が天野同様に膨らんでおり、上条の遥か後ろでは御坂美琴に変身した天野倶佐利がいることなどは、一方通行に知る術はない。

 なぜなら、一方通行に対し背中を見せるはずもない上条と、自らが生み出した砂煙で天野の姿は覆い隠されているからだ。

 

 ザンッ!と上条が足を強く踏み込む。

 既にそこは上条の間合いであった。

 

「──チィッ!!」

 

 手が全力で上条に伸ばされた。

 動きからして咄嗟に動かしたのだろう。腰など入っていない上に拳ですらない、ただ手を伸ばしただけであった。

 しかし、一方通行は全身が凶器であり、指先が触れるだけで相手を絶命させることができる。上条の体に触れるだけで生体電気であろうが、血流だろうが一瞬で逆流にすることできる必殺の毒手となるのだ。

 その手を止めることなどできない。なぜなら、彼はあらゆるベクトルを操ることができるのだから。それは、彼に触れるということはこの世界の理を超越することと同義である。

 彼は物理法則の中で人間という種でありながら、生物最強の地位に君臨している。

 

 

 だが、

 

 

 パキュンッッ!!と能力の打ち消す甲高い音と共に、一方通行の指が上条の拳にへし折られた。

 

「ガアァッッ!?!?」

 

 痛みに呻く一方通行に対し、弓を引くかのように上条は再び右腕を強く引き絞り、この戦いの幕を下ろす最後の言葉を一方通行に送る。

 

 

 

 

「歯を食いしばれよ最強。俺の最弱は…………ちっとばっか響くぞ…………!」

 

 

 

 

 静かに発せられた言葉とは違い、その拳は岩のように強く握り締められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (何でだ!?何でコイツは折れねェ……ッ!)

 

 何度吹き飛ばそうが目の前のクソ野郎は立ち上がりやがる!右手以外が俺の体に触れればハジけ飛ぶンだぞ。

 血を流して守るほどの価値がコイツらに有るとでも言うつもりか。

 

 

 (あと一歩で絶対のチカラ。

 

 何で、

 

 何で俺はァ……ッ!!)

 

 

 

 

【この能力(チカラ)はいつか世界を敵に回し、世界その物を壊してしまうかもしれない。

 このチカラが戦いを生み出すのなら、俺自身が戦う気にすらならない絶対的な存在になればいい】

 

 大量の重火器を向けられたあの時、ガキでありながら俺は全てを悟った。

 だから、人との関係を断ち一人で生きてきた。傷付けなくても済むように。何も壊さないでいられるように。

 だが、無駄であった。

 最強の称号欲しさに、さらに近寄ってくるヤツらが増える始末。最強程度では何も変わらなかった。

 このままじゃ俺の望みは叶わねェ……ッ!

 

 そしてようやく見つけた絶対的な存在(レベル6)

 あァ、これになれさえすれば、

 

 

《気にする必要はない、彼女達は人工物でしかないのだから》

 

 

 そうすればいつか……

 

 

《モルモット》

 

《人形》

 

複製人間(クローン)

 

 

 誰も傷つけなくても……───

 

 

妹達(シスターズ)だって精一杯生きてるんだぞッ!』

 

『私の妹だから』

 

 

 ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無敵になれば変わるモンだと思っていた。

 そうすれば、ようやく望みが叶うンだと。

 

 だが、本当にそうなのか?

 

《僕は今まで何千と能力をコピーしてきたけど、その中でもこの力は一番恐ろしいね》

 

 俺が望んだものは無敵なんてものに頼らなくちゃ手にはいらねェモンだったのか?

 一万もの屍を作る必要が本当にあったのか? 

 

《一端だけとはいえコピーした僕でも、とてつもない破壊を呼び起こせてしまうんだ》

 

 俺が……

 

《もし、これが僕の能力だったなら》

 

 俺が、本当に欲しかったのは───

 

 

 

 

 

 

 

 

《この世界を壊してしまうのではないかと、一歩ですらまともに歩くことができないよ》

 

 

 ───ああ、何やってンだ 俺。

 

 

 ドガッッッッン!!!!!!

 

 

 

 




◆作者のやらかし◆
その一
実は前前回の裏話が伏線になってました。一体何人の人が気付けたでしょうか?


……すいません嘘です。載っける話を一話前にしてしまっただけです。申し訳ない。

そのニ
ロリ時代の天野倶佐利
「(ヤッベえなベクトル操作……。チート過ぎるわ。自転砲超パネェって。
 モビルスーツ恋査も言ってたけどこれ最強一卓じゃね?ずっと一方通行でよくないk───待てよ。自転砲ってことは地球の自転を簡単に操れるってことだよな。
 それって下手こくと、一歩踏み出しただけで地球ブッ壊れないか……?
 …………こッッッわ!?何だこれ!?お前の能力頭おかしいんじゃねぇの!?)」
 ちなみに言ったことはほぼ忘れています。

 ↑これを間違って一つ前に載せてしまいました。申し訳ない

◆裏話◆
一方通行が欲しかったのは、能力に畏怖を抱き自分を怯える相手でもなく、科学者や研究者がモルモットを見るような、自分に好機の目を抱く相手でもない。
自分をただの人間として見て、能力の恐ろしさを同じ視点で見てくれる、そんな存在ではないかと思いました。

◆作者の戯れ言◆
これにて一方通行編は完結です。ここまで長かったわ……。
ここまでは結構早めに終わらせようとしていたのに、どんどんどんどん文字数が多くなっていく計画性の無さね。文才が欲しい……。

この小説ではFGOからはエルキドゥのみの登場となります。とあるの世界を余り壊したくないので。

……無限の剣製を書いてみたいなんて思っていませんよ。


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27.ティータイム

書いてて思った。前話は超書きにくかったって。今回はカッチリハマった感覚でスラスラ書けました。
気になって考察動画を見たんですが、ガチ勢がスゴすぎてビックリしました。なんかいろいろな類似点や、伏線やらが多く散りばめられてたんですね。いくつか設定にぶちこみたいと思います。

あと終わったって書きましたけど、絶対能力者編の後日談です。


 ここは常盤台中学の学舎の園。

 うら若いお嬢様達の秘密の花園だ。夏休みであってもキャッキャウフフとあちこちから黄色い声が飛びかっている。

 その学舎の園の中に『派閥』と呼ばれる集団の、専用スペースが存在していた。その場に訪れる者は派閥の一員とその派閥を束ねる『女王』のみである。

 だが、今日だけは事情が違うようだ。

 

 食蜂操祈はティーカップをソーサーの上に戻し、来客に視線を移した。ジト目で。

 

「それで、あなたはあの人と御坂さぁんを必死力で守って、ボロボロの全身血塗れになった、ということでいいのかしらぁ?それって、御坂さんとの戦闘がなければもっと楽に済んだ事じゃないのぉ?」

 

 と、真っ当なことを言われている髪が異様に長い女。彼女は食蜂と同じ蜂蜜入りの紅茶を優雅に味わっていた。

 常にマイペースであるために、こんなあからさまな言い方をしても動揺することはないだろうが。

 そして、それは正しい。

 彼女はその言葉を聞いて苛つきなど一切感じておらず、平然としていた。それに何よりもその女には言い分があった。

 

「それは彼女がいきなり襲って来たせいだよ」

 

 澄まし顔で御坂美琴に全責任を押し付ける三つ年上(前世含めるとそれ以上)の常盤台OG。何も知らないオリ主からすれば、そう見えるのも仕方のないことではあるのたが。

 

「それも本当なのかしらねぇ?私の予想力だと意味深な言葉で、御坂さんに勘違いさせるようなことを言ったんじゃないかしらぁ?」

 

 大正解である。

 見事な分析力だがオリ主は自分の非を絶対に認めないため、答えは平行線であった。

 そんな天野に溜め息を溢しつつも、紅茶を注いだティーカップを再び手に持ち食蜂は事の顛末を聞いた。

 

「それで、どうなったの実験は?」

 

「うん?ああ、それは───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めて最初に映ったのは夜空に浮かぶ三日月だった。物音一つしないことから戦いは終わり、ヤツらは既に去ったあとなのだろう。

 その証明とも言える全身から伝わる痛みで、あのクソ野郎に負けたことを理解する。

 

「クソったれがッ……!」

 

 生まれてはじめて味わう敗北。プライドの塊である一方通行(アクセラレータ)には到底看過できない事態だ。

 その上、能力の暴走などという無様過ぎる敗因だったことが、なおさら一方通行をイラつかせた。

 だが、いつまでもこのままでいるわけにもいかない。ダメージ回復のため治療がいる。評判のいい医者に大枚はたいて入院することを決定しつつ、これからの事を予測していく。

 そして、ひとまず体を起こそうとすると、視界の隅に薄緑色の艶やかな髪が目に映った。

 

 そいつはほぼ俺の真横で膝を折って片手を足の上に置き、もう片手は耳に髪をかけている。

 俺と目が合った事を確認すると、微笑みをこっちにぶつけながら声をかけてきた。

 

 

 

「やあ、おはよう」

 

「何してンだ、オマエ?」

 

 

 

 一方通行は結構素で問いただした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶふぅっ!?」

 

 食蜂がお嬢様にあるまじき振る舞いをする。

 ティーカップから口を離さず吹いたことで被害はゼロに近いが、彼女を知るものが居れば目を疑うだろう。

 一年近い間柄の天野は特に気にはしていない。

 

「女王ともあろうものが随分と品がないことをするね。派閥の子達に呆れられてしまうよ?」

 

「誰のせいだと思っているのかしらぁ!?あなたそのまま殺されても文句いえないわよぉ!?」

 

 あのツンツン頭以外にこれほど取り乱すのは、食蜂操祈には天野倶佐利しかいない。

 食蜂は人の思考をボタン一つで読み取ることができる心理掌握(メンタルアウト)の使い手だ。その能力も天野相手では何故か効力を全く発揮しない。

 とはいえ、食蜂操祈は他人の弱みは手に入れたいが、自分の弱みは絶対に見せたくない人間である。当然、最初は完璧女王を振る舞っていたが、ツンツン頭の近くにいると何故かハプニングばかりに巻き込まれ、とんでもない醜態ばかりさらす羽目になっていたのだ。

 まあ、要するに開き直ったのである。

 能力で記憶を改竄もできず、だからといって少年から離れるのも認められなかったため、ズルズルと関係を続けていくうちに、いつの間にか気の置けない間柄となっていた。

 

「はぁ~~……。それで、どうしてまだその場に残っていたのよぉ?倒したんだからさっさと退散するのが普通でしょう?」

 

「うん?ああ、それはもちろん───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目を覚ましたときに一人っきりというのは寂しいものだろう?」

 

 なんてことを目の前の女は澄まし顔で言いやがった。

 

「……随分と舐められたもんだなァ。この俺をこんな無様な目に合わせやがったオマエらに何もしねェとか、そンな都合のイイ展開を考えてンのか?こんな状態だが一秒あればオマエを愉快なオブジェに変えられンぞ」

 

 凶悪な目付きをした一方通行が天野を脅す。だが、天野は微塵も臆しはせずにこう切り返した。

 

 

「君はしないよ。今の君はもうしない」

 

 

 一瞬の間もなく断言した。これには一方通行も目を丸くする。

 

「もし、虚言だと思うのなら今すぐ僕の首に手を添えるといい」

 

 一方通行は手を添えるだけで人体を容易く破壊することができる、能力の持ち主である。一方通行の能力をコピーしている天野は、身に染みて理解しているはずだ。

 首を掴まれることは自らの殺生与奪を、一方通行に預けることに他ならない。

 その言葉がハッタリでもなんでも無いことは、らしくもない真剣な顔を見れば一目瞭然。この女はどうやら本気で俺が何もしないと確信しているらしい。

 

「チッ!……それで、命を懸けてまで何が目的だ」

 

「うん?君と会話をしに来ただけだよ?」

 

「…………。」

 

 コイツはやはりどこかイカれているのでは?と、一方通行の目が理解できない未確認生物を見る目になった。

 しかし、そんなことは気にも停めず天野は勝手にしゃべりだす。

 

「君の打倒は彼らにとって予想外だろう。さらに君の能力の暴走で決定的だね。

 御坂美琴(レールガン)の話では樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)は既に破壊されていて、再演算も不可能なようだ。ここまで明らかな計画の狂いが起きているのだから、樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)無しでの再開は絶望的だよ」

 

「……オマエ、俺に殺されてェのか?」

 

 淡々と話していく天野に、一方通行が殺意をぶつけた。

 今までの道のりを台無しにした張本人が、ここまで明け透けに言えるものだろうか。短気の一方通行でなくとも殺意を向けられて当然である。というか煽られていると取られても全くおかしくない。

 

 これまで通り、天野は一方通行が放つ全ての怒気の一切を受け流して、自分の聞きたい事を聞いた。

 

 

「君はまだ絶対能力者(レベル6)にこだわっているかい?」

 

「」

 

 

 こちらの内心を見透かしたような物言いにしばし固まった。まるでこの程度は当然とも言いたげな、常と変わらぬ姿に唖然とする。

 あのクソ野郎に殴られたときに全てを思い出したのだ。それから実験に対して一切ノリ気ではなくなっている。

 そんな俺を見て全てを察したようなその面はこの上なく鬱陶しいが、今さら誤魔化すのは馬鹿らしくもあった。

 

「……二度もあんなつまんねェ作業させられるなんざ、どんだけ頭下げられよォが願い下げだ。半分までやったが大した変化も感じられねェしな。

 つーか、そもそもヤツらが樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)に、俺のデータを正確に入力できてるとも思えねェ。オマエに言われるまでもなく俺の旨味はキレイさっぱり消えてンだよ」

 

 そう言ったあと、一方通行は口を閉ざし黙り込んだ。

 その様子を見た天野は笑みを深くする。天野は立ち上がり一方通行に語りかける。

 

「君がこれからどう生きるのか僕にはわからない。だけどもし、今回の事で何か新しいものを見いだせたのなら、君はきっと変われるよ」

 

 見下ろす視線には侮蔑などは一切含まれておらず、ただ真摯な想いがそこにはあった。

 まるで迷える子羊のために祈りを捧げる修道女のように、あるいはようやく前を向いた伝説のボクサーを送り出すように、彼女は彼にそっと言葉を送る。

 

「応援してるよ。一方通行(アクセラレータ)

 

 そう言って笑った天野は背中を向けて去って行く。スタスタと一方通行が攻撃することなど、微塵も考えていないかのような軽い足取りであった。

 

 

 結局、天野は最後まで一度も振り返ることはしなかった。

 一人残された一方通行は彼らしくはない、まるで負け惜しみをするかように吐き捨てる。

 

 

「チッ………………クソが」

 

 




原作知識あるからもう改心したこと知っています。
オリ主「よぉ、元気?お疲れちゃん!(笑)」みたいな距離の近さです。


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28.ティータイムその2

感想いただきありがとうございます!やる気に繋がります!
では27話です。



「あなたが第一位に釘を刺すために、無謀力全開でわざわざ残ったのは理解したわぁ。でも、共闘したとはいえ、よく御坂さぁんと無事に別れることができたわねぇ?」

 

 それな。

 マジで何事もなく済んで良かったわぁ。何度もびびって振り返って確認しちゃったし。

 結論、やっぱ上条さんってすげぇや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未だに信じられない……。

 あの学園都市第一位の一方通行(アクセラレータ)を本当に倒してしまった。

 その立役者ともいえるツンツン頭の少年が、傷だらけの状態でこちらを向く。

 

「はぁ、はぁ……っ、なんとかなったな。でも、俺だけの力じゃ勝つことはできなかった。これじゃあ実験は凍結されないよな……」

 

 上条は自らの力の無さを嘆く。上条の夢である、『何一つ失うことなくみんなで笑って帰る』に手を届かせることができなかったのだ。

 

「いや、そうでもないさ」

 

 そんな上条にそう言って声をかけたのは、彼の頼れる先輩である天野倶佐利だった。

 

「一方通行は学園都市の頂点だ。第三位では相手にならないほどの実力差がある。そこに無能力者(レベル0)妹達(シスターズ)大能力者(レベル4)が加わっても勝つことなんて万に一つもあり得ないよ。

 もし仮に負けるようなことがあれば、それは演算のほうが間違っていたことになる。学園都市の研究者や科学者ならこう考えるはずさ」

 

 確かに、巡洋艦と同等以上の戦力を持つ御坂美琴が、傷一つ与えられない相手に、能力を持たないただの人間が付いたところで、足手まといにしかならないのが現実のはずだ。

 そのお荷物を守ったことで更に、御坂美琴と一方通行の差はそこまで離れていなかったことの証明となる。

 つまり、樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)の演算は最初から間違っていたことに他ならないのだ。

 

「なら、一方通行は同じ超能力者(レベル5)の御坂に敗れたことになるから、偶然だって言い切られる可能性があるんじゃ……っ!」

 

「確かに、そういった強硬派も当然現れるだろうね」

 

「「ッ!」」

 

 上条と御坂は息を飲む。

 ここまでの大掛かりな計画ならば、今回産み出される利益のために莫大な出資をした組織もあるはずだ。

 あとに引けないヤツらは今回の出来事を誤差と切り捨てて、強引にでも実験を継続させようとするだろう。

 二人はその可能性が思い過ごしではないことが分かり、相手の執念深さに苦悩する。

 そんな二人を見た天野倶佐利は、得意気な笑みを浮かべて言った。

 

 

「だけど、実験を推し進めることは絶対にあり得ないんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある研究施設にあるその一室。

 

 ダンッ!!と机に手が叩きつけられる。

 

「どういうことだ!!」

 

「何ですか?ミスター天井」

 

 問い詰めてきたのは怒りの形相で、鼻息を荒くしている天井亜雄であった。

 

「何故、絶対能力者進化(レベル6シフト)計画が凍結されようとしている!?」

 

 

 

 

「人の頭脳を遥かに超えた演算装置である樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)が、超電磁砲(レールガン)は128手で詰むと算出した。彼らにとってこれは神の啓示と等しい。

 だが、前提条件である最強の一方通行が、敗北するということが起きてしまった。彼らからすれば青天の霹靂だろうね。

 前提条件が覆った以上、彼らの計画は目的地にたどり着くようなものではなかったことの、証明になるのだから」

 

 

 

 

「演算が間違っていた以上この計画は既に破綻していまス。ならば、計画を凍結するのは道理だと思いまスが?」

 

「ただ一度負けたってだけだ!一方通行が絶対能力者(レベル6)に届く可能性があるのなら続けるべきだ!学園都市の研究者ならば当然のことだろう!?」

 

 彼は半狂乱になり怒鳴り散らすが、逆に私は冷めていった。確かに、絶対能力者(レベル6)は学園都市の到達目標とされており、研究者や科学者はその存在を生み出すためにいると言っても過言ではない。

 しかし、今回ばかりは勝手が違う。

 こんなことは理解していて当たり前なのですが、彼は重要なことを忘れているようですね。

 

 

 

 

「一方通行はこの街の技術の結晶とも呼べる存在だ。能力の凶悪性やスーパーコンピューター並の頭脳から、それは推して図るべきだろう。

 彼の能力は学園都市に莫大な利益を及ぼしている。そんな彼を結果が不確かなものに付き合わせるなんてあり得ないさ」

 

 

 

 

「このまま進めたとして、仮に一方通行が間違った方向に進んでしまったとしたら?あなたにその責任が取れまスか?」

 

「そ、それは……!」

 

「敵はそれこそ学園都市全てになるでしょう。逃げ出すのは不可能。地獄ですら生温い拷問の末に殺されるのが目に見えてまス。

 もし、あなたがやる気を出しても、そんな無謀なことに付き合う物好きな人は誰もいませんよ」

 

 天井亜雄は最後まで駄々をこねたが、賛同する者は誰も現れなかった。

 こうして、絶対能力者進化(レベル6シフト)計画は凍結したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 話を聞き終えた美琴は、ずっと気になっていたことを天野に問う。

 

「アンタ重傷だったのに何で傷が一切なくなってるのよ」

 

「以前コピーした治癒系統の能力を使ったんだ。この能力は僕しか使用できない欠点があるんだけどね」

 

 天野は体が無傷な理由を語る。だが、自分自身不可解なことがある。

 

「(……今は回復領域(ヒーリングドメイン)を使って治したけど、その前の撃たれた傷はなんで治ってるんだ?)」

 

 あの時点では体力も底をついていて、能力を使用できない状態だった。

 だが、再び目を覚ませば何故か上条達を庇う位置に立っており、その上全快した状態であったのだ。

 

「(まさか覚醒パティーンか!?そうなのか!?岩場にブッ刺さった大量の剣から自分の剣を見つける修行とかするのか!?)」

 

 まさか、近い未来「我が名を叫べ!我が名は──」「斬月ッ!」とか言うのだろうかと、一通りこれからの自分の未来に思いを馳せたあとに(なっている状況は割りと近い)、彼らに今からの自分の行動を伝える。

 

 

「三人は病院に早く向かうといい。僕は彼が目覚めるのを待つとするよ」

 

「「はあ!?」」

 

 二人が驚愕の声を上げる。

 それも当然だろう。今さっきまでそこに倒れているヤツと戦っていたのだ。目を覚ますと同時にこっちへ殺しに来てもおかしくはないのだ。

 

「彼とは幼馴染みとも言える関係でね。個人的に話してみたいと思ってたんだ」

 

「そいつは一万人もの人間を殺してきたのよ!?そんなヤツ相手に会話なんて通じるわけがないわ!」

 

「なら、なおさら彼と話さないとね」

 

 それでも彼の知り合いとして、そして一人の大人としてここに残らなくてはならない。

 

 

 

 

 

 

「(だって、ちゃんとお疲れ様って言うのは社会人として当たり前じゃん?)」

 

 思いのほか、理由が軽かった。

 

「(一応聞きに行くけど改心したの知ってるし、そこら辺は特に気にしてない。

 それより、アイツのこれからって結構大変だから、ちょっくらエールでも送ってやるとしましょうかねっ!

 くぅ~~!!よっ!気を使える良い女!才色兼備に温厚篤実、純情可憐のPerfect girl 天野倶佐利ちゃんでぇーす☆Yeahhhhhhhh!)」

 

 酔っ払っているのかお前。

 

 このアホは何気に即席の作戦が上手くいき、達成感が満ち溢れているのだ。追い詰められた状況からの逆転ホームランとなったことで、これ以上ないほどにテンションが爆上がりしていた。

 

「それにアンタには聞きたいことが山ほどあんのよ!」

 

「すまないけどそれはまた後日にしてもらえないかな。信用できないなら後輩か操祈に逢わせるように言えばいいさ。だから、ここは僕に任せて欲しい」

 

 天野は二人に頼み込む。

 「みさき……?」と知らない名前の人物を言われ困惑するが(食蜂操祈のことを名前で呼ぶ人物がいないために、美琴はピンと来ない)、美琴はなおも食い下がろうとした。

 しかし、それを上条が止める。

 

「先輩がここまで言うんだ。心配することはねぇよ。何か先輩に用事があるなら俺から伝えるから、早く御坂妹を病院に連れていこうぜ」

 

「…………はぁ、わかったわよ。アンタの顔に免じてここは退いてあげる。ていうか何なのアンタのその女に対する信用度の高さは?

 そもそも、怪我の具合じゃアンタのほうが酷いこと忘れてんじゃないでしょうね!?」

 

「あの、お姉様。そんなに動かれると激痛がミサカを襲いますと、ミサカは身体の状態を簡潔に報告します」

 

 やいのやいの言いながら三人は病院に、天野は一方通行の元に向かって歩いていく。

 

 天野は倒れている一方通行まで行くと、スッと膝を折りしゃがみこんだ。

 物憂げに目を細めて、少女は少年が目を覚ますまでずっとその顔を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

「(一方通行がやられたところ写真撮りてーなぁー!良い顔してるわぁ。滞空回線さえなければ連写で撮りまくって、一方通行を目一杯からかってやるのに。

 …………あのビーカー野郎、ぶっ殺してやる……ッ!

 とはいえだ。一方通行を倒したのが上条で安心した。上条が殴って終わらなかったら、認識が変わってたかもしれなかったんだよな。

 一回上条を目指したから原作の一方通行があるわけだし、そこは変わらなくて良かった。

 それに、上条の一番大好きなあのセリフも聞けたし、うんうん、満足する最高な一日だったぜ!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 御坂妹を担ぐと言った上条を美琴が断り、御坂妹の肩を支えて歩いて行く。そこには譲ることはしてはいけないという使命感があった。……単純に怪我人だから自重しろ、という意味合いも含まれていたが。

 

 先程の戦場から離れた場所で腰を落ち着けて、救急車を待つ間に御坂が俺に話しかけてきた。

 

「……ねえ、あの女はどうして()()()を出さなかったのかしらね」

 

「急にどうしたんだよ?」

 

「ちょっとした疑問よ。あれなら、もっと楽に一方通行まで到達できたと思わない?」

 

 上条がひき肉に変えられそうなときに助けたあの攻撃は、一方通行の攻撃を全て薙ぎ払っていた。

 ならば、何故あのような遠回りのような真似をしたのか。

 御坂妹が自分の考えを答える。

 

「ミサカの気持ちを汲んで下さりあの作戦にしたのでは?と、ミサカは思い付いたことを言ってみます」

 

「あれは少しでも間違えば死人が出てたわ。わざわざ死ぬ可能性があるかもしれない作戦を実行するとは思えない」

 

「雰囲気も違ったから自己暗示の一種なんじゃねえのか?先輩は体を変化させる能力者なんだから、無理をすればできないことじゃないかもしれないしな」

 

「自己暗示か……」

 

 能力はその能力者の演算と自分だけの現実(パーソナルリアリティー)によって生み出される。

 つまり、自分だけの現実(パーソナルリアリティー)を変化させることは、能力の変化に繋がることになる。とはいえ、そんな軽々とできることではないのだが。

 だが、ここで重要なのはできるかできないかの討論ではない。このツンツン頭の馬鹿は適当に言っているだけだろうが、自分だけの現実(パーソナルリアリティー)を拡大させるには、自己暗示が効果的であることは確かだ。だが、そこに美琴は違和感を感じた。

 

 

「本当にただの自己暗示なのかしらね」

 

「どういうことだ?」

 

 上条が疑問の声を上げる。

 

「自己暗示ってあくまで自分だけの現実(パーソナルリアリティー)の拡大に使うものでしょ?原石だからってそれが体に現れるものなの?」

 

 そして、美琴は彼女の雰囲気と共に変わっていた部分を指摘する。

 

 

 

 

 

 

 

「……()()()()()()()()()()()()()()変わってたのよ」

 

 

 

 

 

 




※ちなみに削板軍覇は色が変わるどころか目が光ります。


◆戯れ言◆
エルキドゥは近々本格的に戦います。ですがその前に登場させておきたいヤツがいるので、ちょっとだけ話を挟みつつその話を展開していくつもりです。


◆追記◆
皆さん、ご存知だろうか。エルキドゥは緑色の目にもなれることを。

言っている意味がわからない人は、とあるの考察で検索、検索ぅ!


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29.敵の名は。

長かったので前話と分割しました。
なので早めの投稿です。
では、28話です。


 優雅にティータイムを楽しむ二人の少女は、仲睦まじく会話を弾ませていた。

 

「それに、何もしなくてもまた会うのだから、誤解を解くのはその時でもいいだろう」

 

「卒業した常盤台OGであっても再び入ることが難しい学舎の園に、あなたがこうして奥深くまで来ているのは、()()()()があるからだものねぇ」

 

「僕が派閥を作る切っ掛けともなったものだからね」

 

「…………派閥を受け継いだ私には、結構受け入れ難い経緯なのよねぇあれって。お嬢様学校ならではと言えなくもないんだけど」

 

 お淑やとも言える光景がそこには広がっていた。お嬢様然とした彼女達はそれこそ少女の憧れと言ってもいいだろう。和やかな雰囲気が流れるが、断ち切るように食蜂が切り出す。

 

「それで本題はなんなのかしらぁ?天野さんが学園都市の上層部に関わる危険な案件を、わざわざ私に伝えようとするはずないものねぇ」

 

「ふむ、君の目には僕がとても良い人間に映っているようだね」

 

「天野さぁんのお節介力は知ってますぅ。私のときのようなことを何度もしてることは、今までの付き合いからわかっていることだわぁ。どうせ何かしらの問題が起きても、一人で解決するのがあなたのやり方だものねぇ?」

 

 拗ねたように唇を尖らす常盤台中学の女王。それは彼女がめったに見せない年相応な愛らしい姿だった。天野はその様子を見て微笑ましげに笑みを浮かべる。

 天野はティーカップを置いたと同時に、声の調子を変えて話し出す。

 

「僕が撃たれたことは話したね」

 

「ええ、その傷を自分の能力で無事に治したこともねぇ」

 

 ここは違うが嘘をつかなければならない。アレイスターに滞空回線(アンダーライン)で、自分でも把握していない自分の秘密を読み取られるかもしれないからだ。盗聴する機能があるかは知らないが。

 おそらく、記憶がない間のことは滞空回線(アンダーライン)に記録されてはいないはずだ。

 原作で後方のアックアの攻撃により、滞空回線(アンダーライン)が機能不全となっていた。そして、今回の一方通行の暴走は災害レベルの威力だったことから、同じようなことが起きた可能性が高い。

 情報は与えないに限る。

 

「僕は刺客に気付いていなかったわけではないんだ」

 

「それって、本当なのぉ?」

 

 言外に負け惜しみじゃね?と目で言ってくる食蜂に、さらりと天野は答える。

 

「後ろから気配を感じたからね」

 

「気配なんてものを言われても、あなたの正気力を疑うんだゾ☆」

 

「軍覇もこれぐらいはできるよ」

 

「……原石って獣か何かなのかしらぁ?」

 

 原石とは天然物の能力者のことである。

 周囲の環境が学園都市の開発と偶発的に一致し、能力を発現した者達のことだ。つまり、自然によって作り出された能力者のため、人工で発現する能力者達よりも、そういった感覚が鋭いのかもしれない。

 

「でもそれってぇ、わざと撃たれたってことぉ?」

 

「いや、撃たれる気はなかったよ。撃つだなんて思ってもいなかったからね」

 

「それはどうして?」

 

「僕が原石だからだよ」

 

「?…………ああ、なるほど」

 

 一瞬首を傾げたのはおそらく付き合いの長さから来るものだろう。俺と出会っていなければ、『原石』の立ち位置をみさきちなら正確に理解していたはずだ。

 

「原石は世界に50人程度しかいない稀少な存在だ。僕は今まで様々な施設に協力すると共に、手を出されないように振る舞ってきた。

 例えば、勝手に僕で実験をしようとすれば、組織同士で利権を巡る抗争へと発展するように仕組んだりね」

 

 世界最大の原石、削板軍覇がいる以上はあくまで俺はスペア扱いにされる。すると、珍しい原石を使って解剖やら実験をしようとする、科学者や研究者は必ず出てくる。

 そのため、削板軍覇とは違うタイプの原石だということのアピールや、能力の多様性を発揮してそれぞれの研究施設での旨みを見せ、膠着状態を作り出して今の平穏な日常を確保しているのだ。

 

「その僕に声もかけずにいきなり銃撃をするとは、流石に思わなくてね。立ち振舞いはプロとはとても言えない杜撰なものだったし、そのうえ一方通行の実験中だったこともあって予想の範囲外だよ」

 

 原石だからなのか何故か気配という曖昧なものを、明確に察することができる。

 最初は戸惑ったものだ。まあ、慣れたが。人間は順応していくものだということを知った。

 この気配察知はマップ上に敵の位置がわかるゲームの仕様に近い。これも、この世界が本物に見えない原因の一つだろう。

 

「そして、話はここからだ。さて、僕に刺客を差し向けたのは誰かな?」

 

 天野が食蜂に問う。

 

「そうねぇ、さっき言ってた原石の天野さんを狙っている人達じゃない?」

 

「いや、彼らは独占させないためお互いに監視をしているんだ。それをあんな腕の人間が越えられるとは思えない」

 

「……刺客を送り出したのはもっと上の人間?」

 

「おそらくね」

 

 食蜂は天野の相手が学園都市の中でも、相当深いところまで食い込んでいることを理解した。とはいえ、いまさら降りる気は全くないが。

 

「というか、どうしてわざわざそんな人を送り込んだの?それほどの人間なら暗部のプロを使わないかしらぁ?」

 

「暗部はそんな便利なものではないよ。暗部は基本的にお金で動くが依頼者は確実に名前が残る。権力があればその履歴を抹消できるけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「とある人間?」

 

「この学園都市の長、統括理事長アレイスター=クロウリーさ」

 

「ッ!?」

 

 まさか、ここでその名前が出るとは思わなかった。学園都市を統治する存在が出る以上は、これからの話は波乱を呼び起こすものになる。

 

「つまり、その人物は僕を使って学園都市に害することをしようとしているんだ。僕の見立てではあくまでそれは結果的にそうなるだけで、本当の目的は別にあるだろうけどね」

 

 下っ端のために圧力や情報操作で場を整えたのだろう。あれは、元々威嚇目的だったのだろうが、何の偶然かモブキャラが思わぬ成果を上げてしまったようだ。

 

「言ってしまえばあれは、僕に向けた『手を出すな』というメッセージだったんだろうね。僕の思考パターンを把握していて、実験場までの予測経路を割り出すことができる人物。

 学園都市の上層部しか知らない絶対能力者移行(レベル6シフト)計画の概要を、誰よりも把握している人間だ」

 

「さっきから、随分とその人物のことを理解しているような口振りねぇ?」

 

「僕と君は長い因縁のある相手だよ。こうして君に伝えたのは、きっと君にも近々何かをしてくるだろうと思ってね」

 

 一方通行にとっての木原数多。

 木原数多は一方通行の能力開発をする科学者だ。彼は一方通行の演算パターンから反射を逆算し、反射を利用して殴るという奇天烈な戦法、木原神拳を編み出した野原ひろしである。

 つまり、能力者の演算パターンを把握することは、その人物の思考や行動パターンを予測でき、能力の欠陥も詳しく知ることができるということだ。

 そして、天野倶佐利にも同じような存在がいる。

 

「その人物の名前は───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い暗い闇のさらに深い闇の中に、老翁の姿をした妖怪がいた。

 

「ひょっ、ひょっ、ひょっ、ひょっ」

 

 独特な笑い声を上げる年老いた科学者は、今回のことを振り返る。

 

「ふむふむ、絶対能力者移行(レベル6シフト)計画は凍結してしまったようだねぇ?一方通行が敗北した上に暴走なんてするとは。はぁ……そのデータを取りたかったなぁ」

 

 自らが押し進めていた計画が頓挫したにも関わらず、木原幻生に悲嘆の二文字はない。この妖怪には知的好奇心しかないのだ。

 

「慎重が過ぎたかな?餌に引っ掛かった無名の暗部の人間だとはいえ、まさか指定したタイミングよりも遥かに遅れた上に、よりにもよって実験場で仕掛けるとは思わなかったよ。

 やはり、僕の部隊を動かせば良かったね。だけど、僕の動きを統括理事長に気づかれてしまえば、今進めていることを止められるかもしれないからねぇ。顔が広いというのも考えものだよ」

 

 彼は科学者の中でも重鎮と呼ばれる地位を獲得していた。

 その顔は知れ渡り、彼のことを知らない科学者はいないほどだ。

 ならば、どんなに抹消しようとしても、パイプを作ろうと暗部の連中は必ず繋がりを残す。当然、彼らも漏れないようにはするだろうが、相手は学園都市の統括理事長。

 その方法は不明だが何かしらの方法で、学園都市の細部に至るまで極秘の監視網があるらしい。ならば、痕跡を残すような真似は控えるべきだ。

 残念だが今回は運が悪かった。この結果を呼び込んだ彼には既にこの世から消えてもらっているため、これ以上の不利益は起こらないだろう。

 

「なら、次はあれを試してみようかな。達成する可能性があるのは御坂君か、あるいは……───」

 

 

 

 

 

 

 

 

「──木原幻生。あのマッドサイエンティストさ」

 

 

 

 

 

 

 




これで本当に絶対能力者編は完結です。
次回から日常編を少しします。

そして、申し訳ありませんがアイツを出すには物語の都合上あまりにも早すぎたので、代わりに近々アイツを出すことにしました。

◆嘘告知◆
平凡な女子高生(レベル4の能力者にして原石)である天野倶佐利は、目が覚めたらあり得ないことに妖怪ジジイになっていた!?(能力でなることはいつでも可能)
現状を二人は理解し、幻生との入れ替わり生活が始まる(始まらない)
そんな中、数ヶ月後にハレー彗星(僧正)が落ちてくることを知ったオリ主は、果たしてどうやってその幻想を打ち砕くのか!
今、話題沸騰のボーイ(ジジイ)ミーツガール(元男)の青春物語を見届けろ!
海鮮茶漬けが送るB級映画の最高峰!

「敵の名は。」



敵がジジイしかいねぇ……。


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幕間
30.淑女会合


オリジナルストーリーです。
2、3話で終わる予定。


 常盤台中学は学園都市でも有数の、お嬢様学校だと有名なのは既にご存知だろう。

 強能力者(レベル3)以上であることが入学の条件であり、彼女達の多くは本当のお嬢様である。そのため、話し方も普通の学校とは一線を画していた。

 

「ご機嫌よう、泡浮さん湾内さん」

 

「「ご機嫌よう、婚后様」」

 

「お二人とも今日の()()で着る衣装、とてもお似合いですわよ」

 

「婚后様のドレスもとってもお似合いで素敵ですわ」

 

「わ、私は着なれない服装のため、少々気恥ずかしいですね……」

 

 しかし、今日の学舎の園はいつもより一風変わっていた。

 巨大なホールにシャンデリアを吊るし、クロスがかけられたテーブルを幾つか配置している、西洋のパーティーのような空間がひろがっている。

 彼女達はドレスコードをしてそれぞれ動いているようだが、明らかにおかしな光景がそこにはあった。

 

 彼女はこの光景を見て溜め息を吐く。

 

「本当に何なのよこの行事は……」

 

「突然どうしましたのお姉様?」

 

 そう答えたのはルームメイトの後輩、白井黒子だ。彼女はその髪色に合わせたフリル多めのドレスを着て、彼女の隣に控えていた。

 いや、今回ばかりは逆かもしれない。

 

「……はぁ、本当に私がこんなのを着ることを望んでる子がいるのかしらね?」

 

「何を仰るのですかお姉様!お姉様のそのようなお姿を拝見することができて、この白井黒子まさに感無量ですの!!」

 

「あーはいはい、ありがとね。アンタも似合ってるわよそのドレス」

 

 手をヒラヒラしながら適当に答えた御坂美琴は、視線を下に向ける。いや、正確には自らの着ている服を。

 

「何で私がタキシードなんか着てんのよ……」

 

 御坂美琴が着ていた服はタキシードだった。白のシャツに黒のタキシードがよく映えている。首元にあるブラックタイがいいアクセントになっている。ブラックタイを隠さないためか後ろで髪を一くくりにしていますの。そのお姿は凛々しいお姉様にさらに引き立てています。今夜はこのパーティーが終わり次第、このままお姉様と黒子だけの大人なディープな二次会が───」

 

「あるわけないでしょうがっ!この変態がああああ!!!!」

 

 モノローグを有り余る熱量で奪い取った白井黒子に、御坂美琴の電撃による鉄槌が放たれる。

 白井黒子はいつもの3割増しでテンションが上がっているようだが、周りの常盤台の生徒も美琴を見てキャーキャー言っているのだから、それも仕方がないのかもしれない。

 何故こんな服を着ているのかというと参加しているこの行事が関係していた。

 この行事では特別に常盤台の制服を着なくても良くなっている。その代わり参加する生徒の3分の1は男装をしなくてはならない。(この行事の開催経緯は後書きに記載)

 だが、人気の高い女子生徒は全校生徒の要望により、服が事前に用意されることがある。超能力者(レベル5)の御坂美琴には当然多数の要望が出され、2着用意されていたのだが。

 

「はぁ……まあ、流石に王子様よりはマシかしらね」

 

 試着室に行くと用意されていたのは黒のタキシードと、白をベースに裏地が鮮やかな青い着色がされたコートと、真っ白な白のズボンだった。意外と少女趣味の彼女は自分が着るのには抵抗があったのだ。

 ちなみに用意されるだけで強制力はない。では何故着るのかといえば一重に御坂美琴の優しさだろう。

 

 このイベントは常盤台中学で数年前に生まれた行事である。学年の隔たりや派閥などで、普段接触しない者同士が話し合える数少ない機会だ。

 だが、この行事は参加自由という生徒の自主性に任したものだ。年上や他の派閥がいるなら参加しにくいと思うかもしれないが、なんと全校生徒の96%が参加するという大人気イベントとなっている。

 理由は様々あるが一番の理由は仮装をするという非日常さが、そういったものを感じさせないことだろう。

 

「(私としては一刻も早くあの女をとっちめたいんだけど、あの子やあの馬鹿のお見舞いもあって、なかなかできなかったのよね)」

 

 お見舞いにあの女も行ったようなのだが、狙い済ましたかのように行き違いが起きて、結局あの後に会うことはなかった。

 これが終わったらあの少年に連れてくるように言うのだと、決心している美琴に甘ったるい声がかけられた。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「喧嘩売ってるならいい値で買うわよ?食蜂」

 

 扉から派閥の人間を引き連れて来たのは、常盤台の女王食蜂操祈だ。彼女は美琴に自らの豊満な胸を強調して見せつけた。その女子中学生の平均を大幅に上回るバストを見せつけられ、御坂美琴の頬がつり上がると同時に頭から電気が迸る。

 食蜂操祈は本当にどこかの国の女王が着るような、豪華なドレスにその身を包み会場に赴いていた。

 不敵な笑顔を浮かべる食蜂操祈と御坂美琴は、余程絵になっていたのだろう。二人の険悪な空気とは違い周囲の生徒は黄色い声を上げている。

 見目麗しい彼女達がコスプ──もとい、華麗な衣装を着ていればそうなるもの必然だった。

 

「まあ、御坂さんにお姫様は似合わないわよねぇ?王子様なんて待たずに自力でまとめて吹き飛ばすか、王子様を差し置いてお姫様を先に助け出すのがあなただものねぇ」

 

「アンタの場合は助けに来た王子様を能力で傀儡にして、都合の良い肉壁に変えるんでしょ」

 

 そんなこんなでしばしの間言い合っていると、食蜂の派閥の一人が食蜂に時間がきたことを教える。

 

「そろそろビッグゲストのご登場よぉ」

 

「ビッグゲスト?常盤台に絶対外部の人間は入れないだろうから、まさか衣装着た先生とか?」

 

「残念ハズレだゾ☆今回ばかりは外部の人間を招いているのよぉ」

 

「はあ!?よりによってこのふざけたイベントに!?常盤台の先生達は何を考えているのよ……」

 

「大丈夫よぉ。来るのはここのOGだもの。それにあなたのいうふざけたイベントの考案者だから、そういった心配力は皆無よぉ」

 

「え!?この行事って生徒の考案なの!?……何かとんでもない人っぽいわね……」

 

「あら?ちょうど来たみたいよぉ。御坂さんが言う通りのとんでもない人がねぇ」

 

 ガチャっと扉が開けられた先には、スポットライトが当てられている、足元まである()()の長い髪をポニーテールに纏めた麗人が立っていた。

 彼女はビシッ!とキレのある動きでポーズをとると、コートをはためかせて清々しい顔をしながら言い放った。

 

 

 

 

 

「やあ、スペシャルゲストの僕だよ」

 

「何やってんのアンタ!?」

 

 

 

 

 

 




~淑女会合の開催経緯~

「寮監少しいいかな?」

「天野、貴様はどれほど言っても敬語を使わないな。そろそろ、その体に刻み込んでやろうか」

「僕は原石だ。そこは仕方ないと諦めてくれ」

「それとこれとは明らかに話が別だ」ギリギリギリギリ

「それで話なんだけどね。この学校の生徒は男に免疫が無さすぎると思うんだ」プラーン

「ほう、まさか不純異性交遊がしたいなどと抜かすつもりか?それならば指導室にこのまま連行してやるが……」ギリギリ

「倫理観はあるつもりだよ。常盤台は男子禁制の学校だ。そのために、男と触れ合う機会が異常に少ない。この学校にいる間はそれで良いとしても、社会に出れば男と無関係ではいられないだろう?」プラーン

「なるほど、確かに一理ある。男を見るだけで悲鳴を上げているようでは、ままならぬことも確かにあるだろう。だが、生徒達は家も能力も頭脳も平均より優れた者ばかりだ。その彼女達を男に近づかせるのはリスクが高すぎる」ポーイ

「なら、男を呼ばなければいい」シュタ

「……何が言いたい?」

「ほら、居るじゃないか。女でありながら男の姿になれる特異な存在がね」

「なるほどな。貴様ならば保護者の理解を得やすいということか」

「そのイベントを学校主催でしてくれないかい?一部の女の子にそんなことをしていたら、人が思いの外多くなってしまってね」

「貴様の言いたいことはわかったが、私の一存では決められん。ひとまず上に掛け合ってみよう」

「日付は夏休みの終わり頃がいいかな。日程を合わせやすいだろうしね」

~一部抜粋~

◆作者の戯れ言◆
この話を読んで「はあ?何だよこのどうでもいい話。メインストーリーと関係ねぇじゃん」と考えてしまったそこのあなた!m9(´・д・`)ビシッ!!

…………あながち間違っていない。

いやでも、後々きっといくつの要素がメインと関係あるから!……多分ね。



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31.派閥誕生秘話

そろそろ、4Xとか書くの嫌なので書きました。


~五年前~

 

「原石だからって些か調子に乗りすぎじゃありませんこと?」

 

 そんな陰口が廊下の端から聞こえてくる。

 転生してから早10年ちょい。女のコミュニティもだんだんと把握してくる頃、常盤台中学で俺は針の筵だった。

 学園都市は能力の高さと同じくらいに成績が重要視される。

高位能力者は高度な演算能力を持つため、上位に入るのが普通だ。 

 一応大能力者(レベル4)なのだが、成績は下の上から中の下くらい。能力開発を受けていないため、どうしてもそこまで頭はよくならないのだ。

 

 さらに、このエルキドゥの体だと澄ました言葉しか出てこず、それも彼女達の琴線に触れたらしい。常盤台はお嬢様学校だが全員がいい子ちゃんではない。一部の生徒には陰口をする子もいる。

 それは不思議なことではない。女子の陰口などもはや挨拶だ。いくら文化圏が違おうとも、女子の話す内容などはある程度分かる。

 

 

 

 悪口、愚痴、噂話、下ネタ。要約するとこれだ。(※あくまで個人の感想です)

 

 

 

 女子の会話など誰かの悪口+「私、超不憫でかわいそう……」みたいな話ばっかりである。

 では、そういったときどうやって対処をすればいいのか?

 

 そう言うときの返しは「うんうん、分かるわー(棒)」

 これが正解である。

 

 女子の悩みなど既に答えがもうあるのが普通だ。欲しいのは共感なのでヘタに親身になるのは下策である。

 常盤台にもそう言った普通の子はいる。

 

 

 

 うん?それ以外の常盤台の生徒?分かりやすいお嬢様同士の会話を抜き出すとこんな感じ。

 

 

 

『「朝方花壇に咲いているお花がとても美しかったですわー」

 「まあ!それは是非拝見したいものですわー」

 「ウフフフフ」「オホホホホ」』

 

 もはや魔境である。

 

 

 

 こういう会話が多くを占めており、市民権を得ているのでは?と思うほどにあちこちで言われているのがいつもの日常だ。

 これが常盤台スタンダード。お嬢様クオリティー。

 思考回路に花束でもぶちこんだのだろうか。お嬢様は謎に満ちている。

 

 話を戻そう。そんなヤツら無視しとけばよくね?と思うかもしれないが、そういうわけにもいかないのだ。

 

 ぶっちゃけ、ものすっっごくめんどくさい。例えるなら、人型のGとも言えるしつこさと、夏場に現れる蚊のねちっこさを併せ持った怪物だ。……殺虫スプレーをまとめて振り掛けてやりたい……。

 対立構造を作り出し、こちらをまるで悪役のように仕立て上げる。

 そんな同調圧力や集団心理まで使ったやり方を見ると、とある誰かを思い出さないだろうか?

 

 

 

 そう、歴史に刻まれている独裁政権を敷いた、伍長閣下ことヒトラーである。

 

 

 

 ヤツらはあの悪魔の生まれ変わりなのだ。

 庇えば撃ち殺す、とも言わんばかりのあの空気感。日常で出すなバカ。

 その上、「私達は当然のことをしています」とでもいいたげなあの顔。

 

 次会ったらぶん殴ってやるッ!!

 

 

 

 閑話休題(一回だけだと思うなよっ!)

 

 

 

 ゴホンっ。まあこんな具合で目の敵にされるのはノーサンキューなわけだが、何しろこちらには改善のしようがない。

 だって口調が変わるのは仕様だし。

 隅っこですごしていたいが何せ顔がいいので。とっても顔が整っているので。

 まあ、イラストは美形に描かれることが極めて多いものだ。エルキドゥが美形なのもそうなのだろうな。

 それは、しょうがないと割りきれるが、頭の悪さはどうしようもない。だって能力開発してないし。

 あんなヤク漬け脳ミソ改造チルドレン(言葉の暴力)と、一緒の土俵に上がれというのがそもそも無理な話である。

 常盤台の中で下の下に入っていない事実に震えるべきだ。

 とはいえ、いくら頑張っても今の順位には凡人がなれるはずがない。それなのに、どうして今の順位をキープできているのか。

 

 

 そんなもの決まっている。毎回ズルをしているからだ。

 

 

 いや、ちゃうねん(震え声)

 超能力だしセーフだよ。ギリギリセーフ。

 授業の前と後に精神感応(テレパス)の能力で先生や周りの生徒の思考を読み取ったり、読心能力者(サイコメトラー)で他人のノートに触れて勉強方法盗んだりとか、いろいろ頑張っているのである。(それは、ギリアウトなのでは?)

 

 まあ、当然凡人のそんな頑張りは理解してもらえるはずもなく、常盤台では劣等生扱いにされている。勉強自体はやっているというのに……。

 終いには原石ってだけで常盤台に来た卑怯者と言われる始末。

 ……いや、それはあながち間違っているとは言えないかもな。

 

 

 

 

 ゴホンっ。いろいろ脱線をしたが、とにかく現状を何とかしないといけない。俺に敵対しなくなるような、何か新たな物を生み出せばどうにかなるはずなのだ。

 言ってしまえばヤツらは、俺に利用価値(損得だけではなくカリスマ的な何かも含む)があれば手のひらを返す。ならば、ヤツらも含めた大衆を巻き込んだことをすればいい。

 

「(常盤台の生徒が好きそうなもの、女子ウケが良さそうなもの……)」

 

 とはいえ、JK(お嬢様)が欲しがりそうな事なんてそうそう思い付かない。

 

「(食べ物?いや、学舎の園にはたくさんのカフェやレストランがあるから、興味を持つ人間はまずいない。あと学内でできることのほうがいい気がするな……)」

 

 そうしてしばらく試行錯誤をしていくうちに、オリ主の頭の中に最適解が浮かび上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~第一回社交遊戯~

 

「あの方の発案らしいですけど」

 

「思い付きで周りを巻き込むなど品位が無いのではなくて?」

 

「全く付き合わされるこちらの身にもなって欲しいですわね!」

 

 キーキー言っているのは天野を陰で悪く言っていた生徒達だ。参加自由であるにも関わらずここに来たのは、天野の評判を下げるためだろう。

 周りもその話の内容を聞かされ、少しばかり不信感を抱いてしまっている。

 会場がそんな不穏な雰囲気になっていると、扉から人影が現れた。視線をそちらに移すと、

 

 

 

 

 

 そこには男が立っていた。

 

 

 

 

 キャー!!!と、そこらじゅうからから悲鳴が溢れ出す。会場、大パニックである。

 

「なななななななんで常盤台にとと殿方がいらっしゃいまして!?」

 

「け、警備!警備の方はどこにいらっしゃいますの!?」

 

 先ほどのお嬢様方も取り乱している。常盤台に男がいるというのはそれほどに異常なのだ。

 その男の隣に立つ寮監が声を上げた。

 

「……天野。貴様説明していないのか?」

 

「『こういうのは、サプライズがないとつまらないと思うんですよね』」

 

「面倒事を増やすな馬鹿者」

 

 そう言った寮監が皆に説明をしていく。

 

「今回この場を開いたのはお前達が男に慣れておくためだ。天野には疑似体験の相手として男として振る舞ってもらう。この場で男がどういうものか天野から学ぶといい」

 

 説明が終わるとお嬢様方は安心したように息を吐いた。

  

「ま、全く人騒がせな!なんて人ですの!?」

 

 そんな感じでギャーギャー言っている人もいるが、人間とは好奇心に心動かされる人も当然いる。

 

「あ、あの!少し触らしていただいても……?」

 

「『ええ、もちろん』」

 

 そんな感じでペタペタ触るお嬢様が周りに群がっている。その数は遠巻きに見る人と半々───どころか、過半数以上が好奇心の眼差しを向けていた。

 

「な、何てみっともない!私はこれで帰らしてもらいますわ!」

 

 そう言ってスタスタ戻っていく、名も知れぬお嬢様方。

 

「(へっ、残念だったなぁ。これで独自のコミュニティーを構築すれば数の理は俺に傾く。嫌がらせは以前よりもやりにくくなったはず)」

 

 打算まみれのオリ主らしいやり方である。

 

「(今は男でキャーキャー言われているだけだが、お次はショタやロリになって母性本能を刺激してやれば後はこっちのもんよ)」

 

 ケッケッケッケッ、と。内心で悪魔のように笑いながら人心掌握のプランを考える悪魔。果たしてコイツが裁かれるときはくるのか。

 そんなオリ主を尻目に件のお嬢様方はお帰りになった。

 

「全く!今回はとんだ時間の無駄となって──キャア!?」

 

 しかし、階段を上がり出口へと向かっていくその途中で、先頭にいるお嬢様のヒールの踵が不幸にも折れてしまった。バランスを崩しそのまま階段へと落ちそうになる。

 このままでは関西の地域の名前が入っている、アイドルデュオの片割れが主演を務める、舞台の見せ場と同じような光景が繰り広げられてしまうだろう。

 その光景を見た周りのお嬢様方が咄嗟に支えようとするが、普段着なれないドレスであったため反応が鈍り、一瞬行動が遅れてしまう。

 遠くにいるお嬢様方もこれからの惨事を想像したのか、小さく悲鳴を上げてしまっていた。

 

 そんな痛々しい光景が起こるその寸前に、緑色が空間を切り裂いた。

 

 衝撃に耐えるように身を縮めるが、思ったよりも衝撃が来ないことに少女は驚く。目を開けるとそこには穏やかな顔をした少女がいた。

 

「……えっ?……あれ?」

 

 理解できずにぱちぱちと目を瞬かせるお嬢様。

 痛みが来ると思い体を小さくしていると、上から声がかけられた。

 

「やあ、危ないところだったね」

 

 そう声をかけてきたのは、先程まで離れたところにいた天野倶佐利だった。今の倒れる数秒の間に駆け付けてきたようだ。

 今回オリ主が変身を解いていることから、本来の姿ではないと間に合わないと判断したようだ。

 

「えっ……あの、どうして私を……」

 

 先程まで散々悪態を吐いていた自分を何故助けるのか、彼女には分からなかった。いい気味だと見捨てる方が自然だろう。

 

 それを聞いた天野は流し目と柔和な笑みを浮かべて言った。

 

 

 

「つい体が動いてしまってね。怪我はしてないかい?」

 

「は、はい♡」トゥンク

 

 

 

 一瞬で目の奥をハートにしたお嬢様は後に、天野が常盤台を卒業するまで右腕として───そして、ファンクラブ会員ナンバー0001として、天野が率いていた派閥のまとめ役を、卒業まで見事果たしてみせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが常盤台に僕の派閥が生まれた経緯だよ」

 

「えぇ……」

 

 大ホールに設置されているテーブルを天野と御坂、食蜂という珍しすぎる面子で囲んでいる一卓があった。

 憧れの超能力者(レベル5)の二人と、見たことがない男装の麗人という絵になり過ぎる光景に、多くの女子生徒がうっとりしているが、食蜂は頭が痛そうにこめかみを押さえているし、御坂美琴はドン引きをしている。

 しかし、どうやら乙女フィルターにはそんなことは些細な問題らしい。若干一名ツインテールをうねうねと動かしているメデューサがいるが、彼女には乙女フィルターではない、何か他のフィルターが搭載されているようだ。

 まあ、御坂美琴が気にしてない時点で、大したことではないのかもしれないが。

 

「…………食蜂アンタ……」

 

「言わないで。私がこれを知ったのは派閥を踏襲したあとなのよ。だから私は関係無いから」

 

 辟易としてますということを、これでもかと全面に押し出す食蜂。

 それもそうだろう、先代が今の自分とは違い女王などではなく、オタサーの姫(?)のようなものだったと知ったときの衝撃は幾許か。女王として振る舞ってきた彼女には同情を禁じ得ない。

 派閥の誰にもこれは言えねぇと、内心呟く現・派閥の長。

 致し方なし。

 

「そんな経緯でね、僕が男の体になって耐性を作るというのが目的だったけど、本来の僕が良いという意見が多くなってしまってね。

 軽く暴動が起きそうになってしまったから、先生達もこの行事の目的を変えるしかなかったんだ。

 年を跨ぐごとにいつの間にか名前が変わって、今では学年を越えた女の子同士の交流会となったわけさ」

 

「当初の目的どころか、別の道に進んでんじゃないのその人達!?」

 

 男子に慣れるために催されたにも関わらず、別の世界の扉を開けてしまったようだ。もはや、デメリットなのではないかとすら美琴は思った。

 通りで先輩達からの黒子を見る視線が、どこか懐かしいものをみるような目であったはずだ。

 くそっ!下地は既に生まれていたのか!と、今にもテーブルに拳を打ち付けるのではないかと思うほどに、悔恨の表情で唇を噛み締める御坂美琴。

 通りで風聞が悪いから止めろと、一度も寮監を含めた先生達や上級生が黒子に何も言ってこないはずだ。

 

「それじゃあ、僕達のわだかまりをここで晴らしておこうか」

 

「今、このタイミングで!?」

 

 そのあと、めちゃめちゃ和解した。




※もちろん核心に迫ることはしゃべらずに和解します。何故こんな人が多いところかというと、美琴が突然荒ぶっても周りに人が居れば、穏便になるだろうと考えたため。
食蜂が居るのももしものときを考えたためです。
とはいえ、某暴君とは違うので、美琴はそこまで理不尽ではありません。
いつものオリ主なら分かったでしょうが、先日叩きのめされたので軽くトラウマになっているため、ビビり散らかしています。


~とある日常のワンシーン~

 いつもと変わらない学園都市の街を歩いていると、それは突拍子もなく起きた。

「きゃっ!」「のわっ!」

 青年は走ってきた女の子とぶつかってしまったのだ。小柄な女の子は吹き飛ばされ、しりもちをついてしまった。

「す、すまない。大丈夫か?」「は、はい。申し訳ございません!」

 頭を下げてくる小柄な少女。制服からして常盤台の生徒らしい。彼女は急いでいるらしく、謝罪を済ませるとどこかに向かおうとするが、

 ヒラリっと、ハンカチが落ちた。

「あ、ちょっと君!ハンカチ落としたぞ!(常盤台の生徒と知り合いになるいい機会だ!)」

「え?……まあ!ありがとうございます!」

 その小さな女の子はハンカチを確認すると、また引き返してきた。予想通りの展開に男の口元が弧を描く。男に耐性がないお嬢様を攻略する算段を立てていると、

 女の子が青年の手をグワシッ!と掴み取った。

「ぬえっ?」

「ありがとうございます!このハンカチはお友達に頂いた物なんです!」

 その小さな女の子は青年の手を掴み、お礼を言ってくる。
 青年はお嬢様からの予想外の接触に動揺してしまった。
 常盤台のお嬢様が男と接触をしないことは、周知の事実だからだ。
 だが、女の子は青年の鼻先15cmまで近づいており、上目遣いで「感謝しています!」とキラキラした目で見つめている。
 それに圧倒されていた青年は「よ、良かった」としか言えなかった。
 そして、女の子はふと気が付いたかのように腕時計を見る。

「あ、もうお時間なのでこれで失礼いたしますわ」

 そう言った次の瞬間、目の前にいた小さな女の子はシュバッと雑踏の中に消えてしまった。
 余りにも素早い動きに青年は全く反応できず、しばらくポカーンと間抜けにも口を広げていたのだった。




 別れた少女が路地裏で歩いていると、不思議なことが起こる。だんだんとシルエットが変わっているのだ。少しすると先ほどの面影はもう無くなっている。
 小柄な体躯から長身の姿に変わった少女は、いつもの余裕がある表情をしていた。



「(くっくっくっ。……お金を払わずに可愛い女の子と触れ合えたんだ。コピられるなんて大したことじゃないよなぁ?)」

 もし、彼女の本当の顔が見ることができれば、その顔には「計 画 通 り」と書かれていたに違いない。


※オリ主が変身した相手は当時16歳でしたが、10年経っているので大人になっています。そのため、本人には当然見えず男に探し出すことは不可能です。
ちなみに常盤台の生徒ですらなく、学園都市の研究者の一人でした。その誰かを彼が見付けることは、絶対に不可能ということですね。

◆変更◆


◆作者の戯れ言◆
あと一話で完結。
───そして、物語は最終章へ







あ、嘘です。


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32.ある日の路地裏

ヤベェ……。
メインストーリーよりも先に幕間終わらせないといかん。じゃないとずっとタイトルが3X.のままじゃん……(焦り)


にもかかわらず、関係ない幕間書きました。どうぞ


 人助け。

 人助けは世間一般では当然良いこととされるものであり、善行と呼ばれるものである。善行は進んでやることは素晴らしいことだ。

 日本の諺にも「情けは人のためならず」という言葉があることからもこれは分かるだろう。ちなみに諺の意味は、行った善行が回り回って自分に返って来るという意味である。仏教、キリスト教といった様々な宗派であってもこれと同じことを述べている。

 つまり、徳を積むことが人として正しいことであるのは、世界共通の認識なわけだ。助けることに貴賤なし、と言ったところか。

 

 

 だが、善行だけではなく偽善というのがこの世界にはある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テ、テメェ……次あったらただじゃおかねぇ!覚えてやがれ!!」

 

 そんなありきたりな捨てセリフを吐き捨てたのは、どこにでもいるチンピラA。そんな彼の顔面はボッコボコに腫れていた。まるで、誰かに殴られたようである。

 そんな顔をして逃げていく彼の後ろを、焦ったように付いていくのはチンピラB~H。彼らの顔もチンピラAと同様に、誰かに顔を殴られたかのように腫れ上がっていた。

 

 何故彼らがそんな姿で立ち去って行くのか。

 そんなもの決まっている。殴ったヤツがいるからだ。

 

「あ、ありがとうございました!」

 

 そんなふうに勢いよく頭を下げてくるのは、柵川中学の制服を着た女の子。

 彼女は言ってしまえばクラスの中心的なグループには所属していないが、クラスの可愛い女の子ランキングでかなり良い順位に入りそうな容姿をしていた。

 セミロングで礼儀正しそうな様子はチャーミングである。確かに、声をかけたくなる気持ちは分かる。だって可愛いもん。

 

 

 でもな、中学生だぞ?(困惑)

 

 

 何で学園都市のチンピラ共は中学生にナンパをするのか。もっと育ってるヤツに声をかけろよ。

 学園都市にはロリコンしかいないの?

 

 

 

 

 

 適当に街をぶらついていると、チンピラのお兄さん達に囲まれて、涙目になりながら路地裏に連れてかれていく女の子を発見したのだ。

 みっともなく嗤っていたチンピラ達を後ろから奇襲し、風紀員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)の動きを取り入れた体術でボコボコにしてやった。

 上条さんではないので説教なんてしないよ?悪・即・斬は基本です。

 

 そんな訳で感謝されてるのが今だ。というか、そんなに感謝されると逆に申し訳ないんだよなぁ。

 

 

 

「(だってそもそも人助けって、上条に会うときに良い印象持たれやすくするためにしていたし)」

 

 

 

 NPCをいちいち助けてるプレイヤーなんていないじゃん?そりゃあ、俺だって最初はちょっぴり正義感みたいなのはあったけど、毎日、毎日そんな場面に出くわしたら流石に慣れるわ(辟易)

 なのに、何故こんなことをしているのか。その理由の前に前提条件を提示しておこう。

 

 

 上条当麻は正義に生きている人間じゃなく、悲劇を見ていられない人間だ。

 

 

 一見、同じように見えるかもしれないが、上条は目の前の人間を救うことに全てをかけるため、そのあとのことまで気が回らないのだ。いや、回さないというべきか。

 あまりピンとこないかもしれないが、例を挙げるならオルソラ誘拐事件編だ。

 建宮達やインデックスに科学サイドである上条が、魔術サイドの問題に介入すれば、科学サイドと魔術サイドで戦争が起きると言われているにも関わらず、上条はオルソラを救出に乗り込んだ。

 

 これは結果的にオルソラを救うことができたが、その実、相当危険な橋を渡っていた事件である。

 

 例えば、上条が十字架のネックレスをステイルから受け取っていなかったら。

 例えば、オルソラがネックレスをかけて欲しいと上条に言わなかったら。

 

 ほぼ間違いなく戦争は起きていた。

 それこそ、オティヌスが上条に見せた地獄の一つに似た、『上条の身勝手な選択で多くの人間が死ぬ未来』へとなったことだろう。

 

 自分の心が向くままに人を助ける。それが上条当麻だ。

 

 もし、人道に反した行いをしたら説教喰らって殴られて和解して終わりだ。ぶっちゃけ、何をしても最後には許してくれるだろうし、上条ならどんな人格でも受け入れてくれるだろう。

 

 でも、それではダメなのだ。

 俺には野望がある。

 

 

 そう、とあるの名シーンに立ち会うという野望がな!(ここは曲げない)

 

 

 そのためには、上条のすぐそばにいなければならない。

 禁書の主人公であり幻想殺し(イマジンブレイカー)を宿している上条は、名シーンを生み出すとんでもない大事件に関わるからだ。

 体がサーヴァントで特別な存在だからメインキャラになれる?そんな馬鹿な話があるわけないだろう。

 

 なら、何で姫神秋沙は影が薄いんだよ!!(慟哭)

 

 吸血殺し(ディープブラッド)なんてとんでもない存在なのに、メインどころかサブですら怪しいポジションなんだぜあの子。2回目の見せ場が大覇星祭でオリアナの攻撃による、大出血という可哀想過ぎるキャラなのだ。

 つまりだ、ミステリアスってだけじゃこの世界では生き残れない。(キャスティング的に)

 そのうち、ちょい役で出されて「あのキャラがストーリーの根幹に関わるキーパーソンだった!?」みたいな感じで、第二のヒューズ風斬化待ったなしよ。

 知ってる知ってる。どうせ俺が酷い目に遭わされて「くふふふ。これで計画(プラン)の大幅な短縮に繋がるだろう……」とか、アレイスターにビーカー越しに言われるに決まってるんだ!

 そんな未来はごめん被るので、アレイスターの計画(プラン)のメインである上条と、親密な関係になることが目標にして生き残ることの最低条件。上条の日常で欠かせない存在となれば、襲われる可能性は格段に低くなるはずなのだ。

 身近な人間が死ぬとか、明らかに上条の成長を阻害する真似はしないだろうし。

 

 そんなわけで俺は考えた。上条の中で替えの利かない存在とは何か?

 

 守るべき存在?どれだけ居ると思ってるんだバカ。

 敵対し殴り合って生まれた友人?どれだけ居ると思ってるんだバカ。

 上条と恋人関係?あれだけの数のヒロインができないことができるわけないだろ。というか、俺の精神男だからそれないわー(笑)

 

 それから結構長い間考えまくった。あの数のヒロインと被らないようにするのはなかなかキツかったわマジで。

 まあ、そんな経緯で思い付いたのが先輩ポジションよ。

 先輩ポジションには雲川芹亜がいるが、逆に言ってしまえばコイツだけだ。頼りにされるのもその頭脳やコネを活かしたものだから、その他を俺が全部カバーすれば割と楽勝だろうと考えた(無慈悲)

 違いを出すためにあっちがクレバー路線なら、こっちは善人路線。

 これにも理由があって、上条は新訳で神裂に「ある意味、俺なんかよりお前の方がヒーローに向いてる!敵味方関係なく救える現実的な力を持ってるんだから!」などと言ったりしていたため、その理想を俺が上条の身近で叶えちまおうぜ!というわけだ。

 言ってしまえば、雲川と神裂の良いとこ取りだな。

 頭脳派と行動派で住み分けができて被りもなし。ここしかないって思ったね。

 そんなわけで、上条と神裂を見習って人助けの毎日がスタートした。

 

 そこからはもう作業みたいなもんよ。

 サーヴァントのスペックで人間相手に後れをとることなんてまずないし、たまに風紀員や警備員(こっちは能力による変装や偶然を装って)の手伝いしてたから、彼らの捕縛術を見て盗む機会が何度かあったんだよね。

 そのおかげで能力無しの喧嘩でも負けることなんてなくなった。

 警備員の体術はアレンジを加えると、肉弾戦のエキスパートである土御門ですら圧倒することができる代物になることは、原作が証明してるので覚えておいて損はないのだ。

 

 

 

 

 

 そんな理由で助けたので別に可哀想だからというわけでは全くない。

 どっちかというと嗤ってるチンピラに腹を立てたからぶっ飛ばした、という理由のほうが遥かに大きい。

 ゲームとかで調子乗ってるキャラクターとかぶっ飛ばしたくなるじゃん?ああいう感じ。

 

 

 

 オリ主はシミュレーテッドリアリティーを患っている。だがその認識はあながち間違いでもない。なぜなら、オリ主にとってこの世界は本当に創作物であり、有機物、無機物に関わらず全て作り物でしかないのだ。

 そんなNPCとしか認識できない世界で彼は生きている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(名乗るほどの者じゃないんで、とかいって去った方が遥かに楽なんだけど、タイミング逃したなこりゃ……)」

 

 本当にそんな感謝されることでもないんだけどな。気分としては缶蹴りの感じだし。(缶はチンピラ′s)

 

「(ほとんど暇潰し感覚だから本当に気にしなくてもいいんだよなぁ……)」

 

 気まずさにそろそろ帰っちまおうかと思っていると、女の子がポツポツと話し出す。

 

「私、あんなことされるの初めてで……ぐすっ……すごく怖くて、何もできなくて……。

 周りの人達を見てもいないかのように目線をずらされたのが、すごく悲しくて……ひぐっ……そんな中であなたが助けに来てくれて……本当のヒーローみたいで……うぅっ」

 

 そう言った彼女は涙を流して震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………はあ。

 

 

「良かったらこのあとお茶しないかい?」

 

「え?」

 

「割引券がちょうどあってね。誰と行こうか迷ってたんだ。そこの紅茶はとても美味しくて、何かの雑誌でも取り上げられていたらしいよ」

 

 女の子はいきなりの展開に混乱している。

 やってることがナンパのそれである。弱ってるところに言っているためこっちのほうが余程悪質かもしれない。

 俺だってこんな一文の得にもならないことをしたいわけじゃないんだぞ?別に助ける義理はないし、というか助けた後だし。上条には結構好印象を持たれているはずだろうから、今さらこんなことをする必要性は全くないしね。

 

 けどまぁ、習慣というのはなかなか消えないんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「報酬としてお姉さんとデートして欲しいんだ」

 

 

 はあ、人助けって本当にめんどい。




天野の豆知識
紅茶の中にはテアニンという、リラックス効果のある成分が入っています。

とある喫茶店
「ふむ、結構な長居になってしまったね。そろそろ帰ろうか」

「は、はい!今日はありがとうございました!」

「いや、構わないよ。報酬も貰ったからね」

「(なんて優しいんだろ。私に気を使わせないようにしたんだ。すごいなぁ……)あっ!今日はありがとうございました!とても気持ちが軽くなりました!」

「気にすることはないよ。じゃあ、行こうか」

「あ、お金……」

「さっきトイレに行くときに一緒に払っておいたから気にしなくていい。もう、日も遅いから送っていこうか」

「い、いや、そんな何から何までお世話になるには……」

「これは僕のワガママだよ。君の身に何かあると考えるだけで安心して眠れないんだ。僕のためにもう少しデートをしてくれると嬉しいな」(^_-)≡★

「(あ、好き)」トゥンク

 とかがあったとかなかったとか。


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御使堕し編
33.サービス回


幕間が進まなかったので、次の章にいきます。ごめんなさい。
おそらく、今年ラストの投稿かな?

季節感は全く無いもよう。


「(なんだここ……?)」

 

 閉じていた目蓋を開くとその空間を漂っていた。

 この空間はいつもの見慣れたものではなく、空もなければ地面もありはしない。この空間に類似したものをオリ主の知識から導き出すと宇宙だろうか。

 だがしかし、

 

「(宇宙にオーロラがなんであるんだ?……それに、()()()()()()()()()()?)」

 

 幾億の星が瞬くこの宇宙空間に人間が居て、とても無事で済むとは思えない。

 もっと言えば何故オーロラが宇宙空間にあるのか意味がわからない。そして、どんなに見渡しても地球が見当たらないのだ。

 ここはなんなのか。その理由は既に、オリ主には見当はついている。そして、次の光景を見て確信をした。

 

 白い毛並みに余計な脂肪が一切ない、筋肉質なフォルムをして風を切りながら走る有名な草食動物。

 宇宙空間でありながらザッ!ザッ!と鋭い足音と共に、(たてがみ)を振るわせて近寄ってきた。

 

「ブルルッ!」

 

「…………なんでユニコーン?俺って夢で見るくらいにメルヘン野郎だっけ?」

 

 何故かその馬の額には角が生えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私こと上条当麻はただいま学園都市の外の海辺にやって来ている。

 何故こんなところに来ているのかというと、話せば長くなるのだが、学園都市最強の超能力者(レベル5)と殴り合いの末に、なんとか勝利する事ができたものの、しかしそのおかげであの無能力者(レベル0)を倒せば学園都市最強になれる、だとかいう根も葉もない噂が広まってしまい、昼夜問わずに街中のチンピラ達が、俺のもとにやって来るようになってしまったのだ。

 そのため、上条当麻の夏休みは数多のチンピラを相手取る、80年代の不良漫画さながらのバイオレンスな生活が始まったのだった。

 そんな揉め事ばかり起こす上条当麻に、学園都市のお偉いさん達が「君、バカすぎるから少し離れていなさい」という怒りのメッセージと共に、学園都市の外に外出できるよう、いろいろ取り計らってくれたらしい。

 情報操作やらなんやらを済ませるには、俺は邪魔でしかないため、とりあえずチンピラ達と会わないように、学園都市の外へと追放したようだ。

 俺としても平和になるのなら全然構わないのだが、ではどこに行くのかというと、学園都市の学生が帰る場所は実家なのだ。

 

 上条当麻は記憶をなくしている。 

 そのため、親の顔など知るはずもなく、上条当麻にとっては安心できる里帰りではない。

 上条当麻の歴史を全く知らぬまま会うなど、いささか無謀ではあるが、にっちもさっちもいかない状況であるため、腹を括るしかないのが現状だ。

 だが、今回は不幸ばかりではないらしい。

 

「わーい!くさり!とっても海がキレイなんだよ!」

 

「ふふっ、そうだね」

 

 海辺で戯れる少女達。

 インデックスは海で遊ぶのが楽しいのか、ピンク色のワンピース水着を着てはしゃいでいた。

 微笑ましい風景ではあるのだが、幼児体型すぎて目の保養には全くならない。上条さんの好みのタイプは寮の管理人のお姉さんなのであって、断じて銀髪西洋ロリではないのだ。

 

「おや?遊ばないのかい?後輩」

 

 そう言って振り向いた先輩は、いつもと雰囲気が違っていた。 

 白いビキニに大きめの麦わら帽子。

 珍しくもない組み合わせだが、先輩がするとまるで絵画のように神秘的だ。

 スラッと伸びた手足にキレイなくびれ(インデックスとは違って)。慎ましいながらもしっかりと主張する胸(インデックスには無い)。普通の水着を着ているだけなのに、男子高校生の上条当麻はそんな先輩に対して、年上の色っぽさを感じていたのだ(インデックスには微塵も感じ取れない」

 

 

 

「………………とうま。それが最期の遺言でいいんだね?」

 

「……はい?」

 

 ガキンッ、ガキンッと、どこかの拘束具のように歯を鳴らしたインデックスが、ハイライトを失った瞳で俺を見下ろしていた。

 

「後輩。気付いていないかも知れないけど、さっきことは全部声に出ていたよ。()の中の言葉もね」

 

 尊敬する先輩の言葉に上条の頭が一瞬空白になる。

 

「…………まさか先輩に全部聞かれちまったのか!?思春期真っ盛りの男子高校生の妄想を、よりにもよって本人に聞かれちまうなんて、俺はこれからどうやってこれからの高校生活を過ごしtぎゃあああああああ!!」

 

 その妄想で虚仮にされた、もう一人の本人であるインデックスは、ごめんなさいが言えないツンツン頭の馬鹿に制裁を下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ハっハっハっ!どうよ、このパーフェクトコーディネートは!)」

 

 オリ主結構ノリノリである。

 

「(どうせあのブレインならば、上条の前だからって頑張って黒のビキニなんかを着るだろうが、それは悪手でしかないのだよ)」

 

 上条当麻は思春期真っ盛りの男子高校生だ。確かにそんな上条にはおっぱいドーン!は確かに効果的ではある。

 ……だが、それではいつかなってしまうのだ。

 

 

 そう、イロモノ枠になッ!(迫真)

 

 

 神裂火織しかり、五和しかり、オルソラ=アクィナスしかり、巨乳キャラはイロモノ枠になるのだと宿命付けられているのだ。

 

「(ほっほっほっ、顔を赤くしている上条を見て、ニヤついている姿が目に浮かぶようじゃ。

 だが、雲川芹亜。お主は所詮その程度の女よ)」

 

 夏の日差しのせいか、オリ主は悪徳大名のような口調になっていた。

 

 男女問わず憧れの的となる完璧な凹凸のスタイル。統括理事会のブレインに任命されるほどの類い稀なる頭脳に、超能力者(レベル5)心理掌握(メンタルアウト)に張り合える人心掌握術。

 これほどのスペックならば男を手玉に取るなど、赤子の手をひねるようにこなすだろう。

 

 だがしかし、上条当麻を除くという注意書きが入る。

 

「(上条をドキドキさせつつ、イロモノ枠に入らないようにするには清楚さ、そして滲み出る色気。この二つよ。

 いつの時代も白ビキニは男受けがいいうえに、ピンクなどと違ってあざとさも割りと感じにくい。

 前世の男目線と今世の女目線、さらに原作知識のメタ視点が加わり、完全無欠のコーディネートをすることができるのだ!

 その気になればヒロインの座も楽勝よぉ。ふはははは!

 同じ高校生としてではなく、女として誘惑したのがお主の敗因だぁ!

 そもそも性欲でどうこうできるなら、何人かは既に手込めになってるっての!バーカ!バーカ!)」

 

 勝手に一人で盛り上がっているが、小馬鹿にしている雲川芹亜は、上条に水着を着て誘惑したことなど一度もない。

 貧乏学生の上条当麻にプールに行く発想はないし、雲川芹亜は基本的に裏方の引きこもりである。出会うシチュエーションはほぼ皆無なのだ。

 

 というか、どちらかというと誘惑しようとしてるのはお前なのでは?

 

 特にそういう対象として見ていないにも関わらず、思わせ振りな行動は女目線から見てどうなのだろうか。この17年で何を学んできたのか、小一時間程話を聞きたいものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故この場にオリ主がいるのか。それには当然理由がある。

 原作では上条一人で一方通行(アクセラレーター)を倒した上条ではあるが、この世界では上条、美琴、御坂妹、さらに天野倶佐利の四人で倒すこととなった。

 御坂妹は学園都市の最高機密のため話題に上がることすらなかったが、他の三人は別である。

 美琴は常盤台の生徒のため学舎の園からでなければ、話を在学生に幾度も聞かされることはあっても、街中で襲われることはなかった。

 

 しかし、上条と天野はそうではない。

 街中で襲われることはザラにあったのだ。天野は争い事に上条同様馴れているため、適当に叩きのめしたり逃げたりしていたのだが、数が数のため鬱陶しく内心では思っていた。

 だが、そんな最中おかしなことが起きていた。よくよく調べると上条のほうが件数が遥かに多かったのだ。

 「無能力者(レベル0)がとどめを刺した」や、「一人で一方通行をタコ殴りにした」など、微妙に合っている噂が出ていたためだ。

 無能力者(レベル0)であるため相手としてやり易いのか、あるいは天野に媚びを売ろうとした研究施設が、勝手に流した噂なのかは預かり知らないが、上条が集中的に狙われ始めたのだ。

 それを優等生である天野が放っておけるわけもなく、上条を助けに何度もしていると、何故かお偉いさん方に恋人同士だと勘違いされた。

 

 なんだコイツら恋愛脳か?と思うかもしれないが、四六時中隣で歩き(警護のため)買い物を同伴する仲であり(警護+セール品を一緒に買うため)そのまま男子の家に上がり込む(警護+食事を振る舞うため)ことを知ればそういう結論にもなるだろう。

 

 ()の中でさえ既に怪しいものである。

 

 そして、天野の親は海外を転々としており、日本に家はない。そのため海外に行くしかないのだが、海外の組織に連れ拐われる可能性もあるため、なるべく日本本土が望ましい。

 そう言った経緯で彼氏(仮)に同行させることにしたのだった。

 

 それから、インデックスが帽子と勘違いした海月を、上条の顔面に押し付けるなどお決まりの展開が起きつつ、泊まることになっていた旅館『わだつみ』に移動することとなった。

 

 

 

 

 

 着いた旅館の一室は田舎の旅館のイメージ通り質素なものであったが、案外快適に過ごせるものであった。

 部屋自体には文句はない。だが、上条当麻にとって見過ごせないことがあった。

 

「いやいや、先輩が俺と一緒の部屋なのはマズすぎだろ!?」

 

 愕然とする上条。もちろん、お世話になっている先輩と同じ部屋なのが嫌なのではない。だが、持ち前の不幸で先輩に迷惑をかける可能性や、そのあとのインデックスによる頭部への噛みつきを考えると、喜んでばかりもいられないのだ。

 

「とうま。いきなりどうしたの?私は倶佐利とお泊まりできて嬉しいかも!」

 

 このお子ちゃまシスターは能天気に言っているが、割りとマズい状況である。年頃の若い男女が一つ屋根の下で寝るなど、先輩のご両親に会うと同時に、キン肉バスターをくらっても文句は言えないのだ。

 そんな上条を気にしてか天野は声をかけた。

 

「構わないさ。僕は気にしないよ」

 

 微笑みと共にかけられた言葉で、男として見られていないことを実感し、落ち込む上条。

 キレイな女の子に「お前なんて全く意識してねぇから」と言われたら、男なら誰でもそうなるだろう。

 

「僕は君のことを誰よりも信頼しているからね」

 

 とはいえ、キレイな女の子に信頼していると言われれば、男なら誰でもテンションが上がるものだ。

 

「(……本当に単純だなぁ。気持ちは分かるけど)」

 

 もしかしたら、雲川芹亜と同じくらい人心掌握術を持っているのでは?と思うくらいに、男心を上手く転がしているオリ主である。

 いつもの微笑みを浮かべながらも、どこかウキウキしながら先輩は俺達に言った。

 

「さあ、そろそろ温泉に行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 後半に続く。

 

 

 




まさかの後編。でも、結構増えたからしゃーない。

メリークリスマース!
皆さん幸せですか?絶望ですか?だけど、大丈夫!ハーメルンにはサンタ(作者)が多くいるから、プレゼント(投稿)には困らないんだよ!
…………エタった人も書いてくれないかなぁ。

サンタが来る人も来ない人にも、海鮮茶漬けからのプレゼント(投稿)おあがりよ!


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34.サービス回その2

メリークリスマース!!
海鮮茶漬けサンタからのプレゼント(投稿)だ!m9(゚Д゚)ドーン!



 先輩の言葉に従い俺達は温泉へと向かった。

 途中何故か中居さんに混浴を勧められたりなどしたが、無事に男女別れた温泉へと入浴する。上条は一安心して浸かっていると、すぐ隣から二人の声が聞こえてきた。

 

「あっ!くさり、この温泉なんか色が違うよ!」

 

「これは濁り湯だね。確か硫黄とカルシウムが成分だったかな?白く濁っている仕組みは雲と同じらしいね」

 

「へぇー!それじゃあこの温泉を使えば中国神話の西遊記。雲の上を歩ける蓮の糸で編みこんだ、履き物の魔術を使えるかも知れないね!

 雲の上まで行くのが大変だし、雲はすぐに散っていっちゃうけど、この温泉ならずっと上を歩ける。それこそ履き物を履いて意識を向けれるだけで、光速の早さで移動できるかも!

 蓮は植物だから水との相性もいいだろうし、可能性は高いんだよ!」

 

 インデックスによる魔術のマシンガントークが炸裂していた。インデックスの一件で先輩が魔術に関わりを持ったことは、ステイルの手紙から既に知っていたが、科学サイドである先輩に言っても伝わるはずもないだろうに。

 

「ほら、まずは体を洗わなくてはね。僕が君の背中を流すよ」

 

「え、本当に!私もあとからくさりの背中を流してあげるんだよ!」

 

 壁が薄いからか、あるいは彼女達の声が大きいからなのか、女子風呂の声がよく聞こえてくる。

 

「ふぁ~~、とっても気持ちいいんだよ……。くさりって髪洗うの上手なんだねぇー」

 

「僕も髪が長いからね。洗い方は熟知しているよ。如何に髪に負担にならずに、シャンプーを行き渡らせるにはどうするのか、よく調べたものさ。そんな調査の副産物に頭皮のマッサージやツボを知ってね。それを踏まえて洗うとリラックスできてとてもいいんだ」

 

「へにゃ~~♪これ、凄く最高なんだよぉ。これだけで、ここに来て良かったと思うんだよ」

 

「ふふっ、これは帰ってからでもできるけどね」

 

「うん!また一緒にお風呂入ろうね!」

 

 女の子らしい(?)会話を聞いてしまい、居心地が悪くなった上条。そのため、上条宅で天野が風呂に入りに来る予約が、たった今なされたことに気付いていない。

 

「よし!次は私が洗ってあげるんだよ!」

 

「じゃあ、任せたよ」

 

 その声を聞き、インデックスが何かやらかさないか不安になった。インデックスは魔術が絡まなければ、基本的にうっかりの不器用さんなのだ。

 しかし、上条の心配を余所にインデックスは恙無く洗っているようだった。

 

「くさり、痒いところはなぁい?」

 

「うん、大丈夫だよ。もしかして美容室の真似かい?」

 

「うん!この前テレビでやってたんだよ。こうするんでしょ?」

 

 女の子同士にしても、ここまで和やかな会話もそうそうないだろう。

 

「くさりの髪って不思議だね。キレイな薄緑色をしているんだよ」

 

「これが原石としての一つの証明だね。人間ではあり得ない緑色の髪。遺伝子操作もしていないから、自然に発生するには原石でもなければ不可能だ。変な髪色だという自覚はあるけどね」

 

「ううん、くさりに似合っててとっても素敵かも!」

 

 心が温まるいい話だ。インデックスの善性があっての会話だろう。だが、そんな上条の気持ちとは裏腹に、おかしな方向性へと話は進んでいく。

 

「それにしても、くさりはやっぱりとってもキレイなんだよ。手足は長いし胸もあるし……」

 

「わっ!…………ゴホン、急に触ったら驚いてしまうだろう?そもそもお触り厳禁だよ?」

 

 先輩の慌てた声に上条少年はどぎまぎしていたが、貸し切りのために知る人はいない。

 インデックスのイタズラに対して、余裕ある大人の対応をする天野に、インデックスはプクーと頬を膨らました。

 

「私もくさりみたいになりたいんだよ!シスターとして男の人を惑わす女性的な胸があるのは、ちょっと不適切かもしれないよ?だけどね?私にも女の子としての矜持というか尊厳があってだね!?

 というか、今日のとうまはずっとくさりの水着姿ばかり見てるし!!」

 

 そこでゴフッと男湯の方から音が聞こえたが、ヒートアップしたインデックスには聞こえなかったようだ。

 

「僕の胸は平均的なサイズだよ。羨むのなら例のポニーテールに結んだ女剣士にするといい」

 

「それって、かおりのこと?確かにスゴく大きかったかも……」

 

 そう言ってインデックスは聖人の姿を思い出す。魔術的な意味合いを出すために、変則的な服装に身を包んだ彼女には、確かにTシャツを押し上げる豊かな胸部があった。

 話によると18歳なのだという。そんなばかな。

 自らの薄い胸に手をやりため息を吐いた。顔を上げたインデックスは断言をする。

 

「かおりと一緒にお風呂に入ることはないんだよ」

 

 遠い海岸の方から「え!?」と驚きの声が挙がったような気がするが、多分気のせいだろう。いくら埒外染みた身体能力を有した聖人でも、特別聴力が良くなることなどないのだから。

 インデックスはこんなことを今は言っているが、実際そのときになれば喜んで一緒に風呂に入るはずだ。優劣や上下などの認識を、彼女は対人関係に抱くことはないのだから。

 

 

 

 

 

 そんなこんなでお互いの体を洗い終えた二人は、温泉に浸かった。

 

「はあ~~~♪体に染み渡るんだよぉ……」

 

 温泉に浸かりインデックスは蕩けに蕩けている。昼間に海で遊び、疲れていたのだろう。

 

「うん、確かに体の芯まで温まるいい湯加減だね」

 

 そういいながら、天野はタオルで頬を拭ったあと、リラックスしたように息を吐いた。その動作にそこはかとない色っぽさを感じ、インデックスは感心したように言葉を溢した。

 

「かおりは18歳に見えないけど、くさりもとうまと一つ違いにはとても思えないんだよ」

 

「どういうことだい?」

 

 天野と同様に長い髪を結っているインデックスは、小動物のように天野を上目遣いで見詰める。

 

「一つ一つの所作が大人っぽいんだよ。学園都市はそういったことも学ぶの?」

 

「僕は常盤台中学に通っていたからね。あそこはお嬢様学校だからそう言った所作に厳しいのさ」

 

「へぇー!常盤台ってすごいんだね!」

 

「(そういや、ビリビリも常盤台だよな?……同じ学校に通っているとはとても思えん)」

 

 意識しなくても聞こえてくる女子の会話を聞いて、上条は美琴本人が聞けば間違いなく、電撃を浴びせられるだろうことを考えていた。

 それからも、二人は波長が合うのか、途切れることなく会話が弾み続ける。

 

「(なんか気まずいし、そろそろ上がるか……)」

 

「とーまー!そっちはどおー?」

 

「ぬお!?……あ、あー、インデックスか?」

 

 出ようとした瞬間に声をかけられて一瞬動揺したが、何事もなかったかのように話を続ける。

 

「こっちはとっても気持ちよくていい感じかも!」

 

「おー、こっちもゆっくりできて満喫してるぞ。偶然とはいえ旅行客が少なくて、貸し切りってのも悪くないな」

 

 そんな風に和んでいると、インデックスが小さな口から「ふあ~~」と欠伸が出た。

 それを見たオリ主はエルキドゥらしい微笑みを浮かべて、インデックスをからかう。

 

「気持ちいいからといって、寝てしまってはいけないよ?」

 

「先輩に迷惑かけるなよインデックス。眠たくなったらすぐに出るんだぞ」

 

「もーーう!とうまもくさりも私を子供扱いしすぎかも!」

 

 温泉という開放的な空間で、インデックスの声が遠くまで響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ついにやって来た、この時が……っ!」

 

 温泉から上がれば当然部屋へと戻ることになる。何度も言うが思春期真っ盛りの上条当麻には、年上の憧れの先輩と同じ部屋に泊まるという行為は、なかなかハードルが高いのだ。

 鋼の理性を上条当麻は持っているとはいえ、万が一がある可能性もなきにしもあらず。だが、自分のことを信頼している二人を思えば、そんなことを考えること自体失礼なのでは?とぐるぐると考えていると女子達が会話をしていた。

 

「布団の位置にこだわりはあるかい?」

 

「ううん、特にそういうのはないかも。くさりが決めていいんだよ」

 

 そんな上条を差し置いて、何故か女子二人は全く意識せずに平然としていた。あれ?もしかして自分がおかしいの?と、自らの常識に自信が持てなくなりつつも、そんな平然とした二人の態度に、安堵と情けなさを抱いた上条であった。

 

 布団の位置決めも終わり、各自がそれぞれ寛ぐ。インデックスは背を先輩に預けており、先輩もそんなインデックスを抱き締めるように座っていた。

 

「それでね!すているもかおりもあの後、私のことをまるで手のかかる子供みたいに話してたんだよ!」

 

「ふふっ、簡単に想像がついてしまうね」

 

 そうやって微笑む彼女をインデックスは、真上を見るように見上げてふと思った。

 

「(お姉ちゃんがいればこういう感じなのかも)」

 

 記憶を一年周期で消されていたインデックスには、血縁者の記憶は無い。自らに姉妹がいたかどうかもわからないが、もし居るとするならば、姉とはこんな雰囲気の人なのだろうと思った。

 

 そんな二人っきりの空間が生み出されてしまえば、当然もう一人に介入する余地はない。

 上条は一人、手持ち無沙汰となってしまったのだった。

 

「(うーん、適当にテレビでも点けるかぁ)」

 

 思えばこれが間違いであったのだろう。

 

 上条は近くに置いてあったリモコンを手に取り、何の気なしにボタンを押した。いや、押してしまった。上条はこの選択を後悔することとなる。

 

 

 映ったのはプロレスだった。

 

 

 男女という変則的な組み合わせではあったが、全く無いことはない。

 実際に男女混合プロレスは実際に何度も開催されている。

 だが、男が女を組伏せているのにも関わらず、ゴングが鳴るどころかレフェリーすらいないようだ。

 画面ではパツキンのパイオツカイデーのチャンネーが、裸で声を上げているところばかりが映る。

 つまり、これは男女混合プロレスではないかもしれない。

 もっと言えば、これは一種のドキュメンタリーなのではないだろうか?

 要するに、何が言いたいのかというとR18指定のビデオ。

 

 

 

 所謂(いわゆる)世間一般で言うところの、アダルトビデオと呼ばれる物であった。

 

 

 

「ぴやあッ!?」

 

 それを見たインデックスの顔が一瞬で沸騰する。そういったものに耐性が全く無いらしい。実に女の子らしい反応だ。

 

「ッ!!」

 

 上条も思春期の高校生。チャンネルを変えるために素早く動いた。

 ポチッとボタンを押す。

 

 だが、

 

 

 

《もっとぉ、『閲覧規制』で『自主規制』を『検閲』してぇ~♡》

 

 

 

「とととととうま!?」

 

「なっ!?ち、違う!体が動かないんだよ!!」

 

「いくらなんでも、そんなことあるわけがないんだよ!!」

 

 真っ赤な顔で驚愕するインデックスに、上条も顔を赤くしながら必死に弁明をする。

 しかし、体が動かなくなることなど本当にあるのだろうか?もし、そうだとするならば一体誰がどんな目的で、そんな無意味なことを───

 

 

 

「『はぁ~い☆このリモコンは回収させてもらうんだゾ☆』」

 

 

 

 敵はすぐ近くにいた。

 上条の手の中にあるリモコンをサッと奪ったのは、上条が一番信用する先輩だった。

 さっきのボタンも、オリ主が持つリモコンから鳴ったものだ。見たところ食蜂操祈の能力で、上条の体の主導権を完全に奪っている。

 

 まだ、クラスメイトAとしか登場していない彼のお株を奪う、綺麗な裏切りであった。

 

「「〈先輩/くさり〉ッ!?」」

 

 二人の驚きの声を聞きながら、緑髪の食蜂操祈は拘束するかのように、インデックスの体に廻した腕を強くする。

 

「『こういうのも、大きなくくりでは社会勉強の一環とも言えるんじゃないかしらぁ?

 だからぁ、…………教材を使ってお姉さんと一緒にお勉強するんだゾ☆

 そ、れ、に♪』」

 

 口をパクパクしながら首筋まで赤くしている、インデックスの耳に口を寄せて、何かを囁く食蜂操祈(偽)。

 

「インデックスさんは上条さんに、女の子として見てもらいたいんじゃない?」

「そ、それは、そうだけど……」

「『いい?鈍感力高めな上条さんを意識させるには、普通に接していてもダメなんだゾ☆意識させるには、……ごにょごにょ、ごにょごにょ』」

「…………確かにそうかも」

「女の子は攻めるのが基本なんだゾ☆というわけで、レッツ、チャレンジ☆」

 

 小声での会話が終わったあと、ごほん、と一つ咳払いしたインデックスは、居住まいを正して言った。

 

「社会勉強ならしょうがないんだよ」

 

「インデックスさん!?」

 

 上条はまさかの寝返りに驚愕する。

 だが、これで二対一。数の暴力とは時に残酷なものである。

 オリ主はルンルン気分で、テレビの音声を大きくしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、始まった羞恥による地獄の時間だが、開始3分でインデックスが目を回して、気絶したためお開きとなった。

 

 上条少年は心の底からほっとしたそうな。

 

 




強要、ダメ、ゼッタイ。
オリ主それ普通にセクハラなんだよなぁ。

※この作品はフィクションです。

◆温泉でのオリ主◆

「(めちゃくちゃ可愛いけど、インデックスって本当に幼児体型だなぁ……)」

「うん?どうしたのくさり?」

「いや、なんでもないよ(女子の体を見て男のときの名残か、そういったことを思うときがたまにあるけど、そういうのが微塵もないな。
 というか、インデックスで興奮したら、人間として終わってると思う)」

「そお?のぼせちゃったらすぐに言うんだよ?」

「うん、ありがとう(まあ、まだ14歳だしなぁ。明らかに他がおかしいよ。食蜂操祈中学二年生とかな。
 でも、お色気枠と一緒に風呂入りたいなぁ。とりあえず、女としても男としてもデカイ乳は見ておきたい。いや、女としてみたらムカつきが上回るけども)」

 なんか全体的にひどい。


◆裏話◆
上条には右手しか幻想殺しはありません。
食蜂操祈の心理掌握は頭に向かってかけるため、右手に反応しなかったのです。(広がる電波よりは、直線的に向かうビームのほうが近いかも?)
新訳でも食蜂に記憶の消去をされますが、後に右手で頭に触れることで無効化していました。
今回は記憶の消去ではなく体の支配ですので、右手が動かせずに無効化することができないのです。

◆作者の戯れ言◆
感想、評価ありがとうございます!評価の一言もちゃんと見てます!とっても力になっています!
ストーリーは少し凝ったものを展開していくつもりなので、それはお楽しみにしてもらいたいのですが、キャラクターとか大丈夫ですか?違和感ないといいんですけど。
作者目線だとわからんのです……。
どんどんお願いします!


◆次回予告◆
先輩のイタズラでなかなか寝付けなかった昨日だが、今日は両親と初めて会う俺にとって特別な日──ってなんだそりゃ!?
インデックスが母さんで、ビリビリが従妹の女の子!?さらに、この不可思議な状況に魔術師まで来やがった。一体全体どうなってるんだよ!?
そんな混乱渦巻く状況の中、俺の尊敬する先輩はというと……。

科学と魔術と神話が交差するとき物語は始まる


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35.入れ替わり

携帯がブッ壊れたぜ☆
ハーメルン引退かと思いましたが、ログインできたので書きます。


後半少し付け足しました。


 目が覚めた上条当麻は旅館にやってくる両親を、インデックスよりも先に会うために一人で待っていた。

 

「インデックスが両親のことを聞いてきても、何にも答えられないからな……」

 

 そのために、いち早く両親と会っておいて、少しでも記憶喪失になる前の上条当麻を聞き出す必要があるのだ。

 もちろん、両親に会うことの不安はあるが、記憶喪失は実際に起きているため、先送りにしても解決する問題じゃない。なら、状況を打開するためにするべきことをするしかないのだ。

 そうしていると、無精髭を生やした中年のおっさんと目が合った。

 

 

「当麻!元気だったかっ!」

 

 

 一瞬記憶の無い人物に声をかけられて呆然とするが、すぐに理解して話を合わせる。

 

「……あ、ああ、元気だったよ。父さん。(この人が俺の父親……)」

 

 初めて父親の顔を見てこの人が自分の父親なのかと、上条は漠然と感じていた。

 

「そうか良かった。ああ、これはな、海外で見つけた厄除けのお土産だ。ほら」

 

「え?お、おう(海外に赴任してるらしいし、こういうお土産が毎回の恒例なのか?)」

 

 海外の如何にも長年この地で親しまれている民芸品です、とでもいいたげなお土産を父親から渡された。学園都市の住人でもないのだから、お守りなんかのオカルトは信じていたとしても、あながちおかしいわけでもないのだろう。

 そんなことを考えていると元気な声が後ろから飛んできた。

 

「お兄ちゃぁーーん!!」

 

「うおっ!?」

 

 誰かが俺の背中にタックルを仕掛けてきやがった!

 土御門や青髪ピアスと常日頃から闘っていなければ、吹き飛ばされていただろう。やはり、持つべきものはやっぱり悪友なのだろうか…………いや、やっぱり違うわ。

 メイド姿が似合うのは寮の管理人のお姉さん一択なのだ。

 悲しいかな、やれ義妹だネコミミロリっ娘だのと、アブノーマルな人種とは残念ながら上条さんは解りあえないのである。

 

 それにしても、この猫撫で声を聞いて背筋が震えるのはなぜだろうか?

 恐怖というよりも饒舌し難い不気味悪さ。例えるなら、強面のオッサンの趣味が、フリルだけで質量の半分以上の重さを占める、女の子向けの人形集めだと知ったようなおぞましさだろうか。

 

「久しぶりだね!おにーちゃん!」

 

「って、お前ビリビリか!?こんなところで何やってんだッ!?」

 

 俺にお兄ちゃんなどと宣いながら、抱き付いてきているのは言わずと知れたビリビリ中学生。いくらなんでもご近所さんじゃないだろうし、何でこんな辺鄙なところに来ているのかさっぱり分からない。

 

「全く何を言っているんだ。ほら、母さんも来たぞ」

 

「えっ?」

 

 そう言われた方向を見ると女性がこっちに歩いてきていた。麦わら帽子でも隠せないまるで絹のような長い銀髪。ゆったりとした服からは物腰の柔らかさが垣間見得る。

 小柄な体躯はまるで少女のよう。上条の知識から似ている人物を挙げるなら、そうまるで

 

「あらあら、当麻さん久しぶりね」

 

 インデックスと瓜二つであった───

 

 

「なんだそりゃああああ!!!!」

 

 

 上条当麻ついに爆発。

 

「いくらなんでも若すぎるだろうがッ!お前が母親は無理があるわ!明らかに俺のほうが年上にしか見えねえよ!!」

 

「あらあら、当麻さん的にはお母さん歳の割りに若々しいのかしら」

 

「コラ、当麻。母さんが嬉しがってるじゃないか」

 

 そんなマイペースな二人に「うがああああ!!」と上条は吠えた。何故か知らんが、久しぶりに会うはずの息子相手にどうやらドッキリでも仕掛けているらしい。

 

「というか、「おにーちゃんっ!」なんてお前のキャラじゃねえだろ!年がら年中喧嘩腰の反抗期みたいに、ツンツンしてんのがお前だろうが!!」

 

「うん?何言ってるのおにーちゃん。もしかして、頭でもぶつけた?いつも以上に言ってることが分からないよ?おにーちゃんはおにーちゃんじゃん。ええっと、……ほら!」

 

 そう言って見せてきたのは俺と女の子のツーショットだった。この黒髪のベリーショートの子が乙姫という俺の従妹らしいのだが。

 

「(なんだ?まるで、外見だけが入れ替わっているような……。いや、流石にそんな馬鹿げた話なんてあるわけないか)」

 

 なんてことを考えていたせいなのかどうなのか。どうやら世界は俺の知らないところで、ガラリと変わってしまったらしい。

 

 旅館に戻れば何故か御坂妹が女将をやっていたり、さらに、あのステイルが従業員として働いていたり、果てにはテレビを点けると白井が大統領に就任したりと、意味不明なこと目白押しだ。

 大したことではないが、青髪の大男になったインデックス締め上げたりしたせいで、もし姿が戻ったら頭部を噛み砕かれるだろうことに、あとから愕然としたりもした。

 

 それにしても、

 

 

 

「先輩はどこに居るんだ?」

 

 

 

 そう、いつも頼りになるあの先輩が全く見あたらないのだ。

 先輩のことだから両親と久しぶりに会う(記憶喪失でなければ)俺のために、気を使って一人にしてくれたのかと思っていたのだが、それにしてはかなり時間が経ちすぎている。

 

「もしかして、先輩もこの異常な世界に気付いたのか?」

 

 この非常事態に気付いた先輩は一人で調べ回っているのかもしれない。先輩は品があって落ち着いた女の子ではあるのだが、いざというときは行動派で積極的に動くタイプでもある。

 そのおかげで面倒事にかなり巻き込まれるらしいが、持ち前の頭脳と能力であっさりと切り抜けて、いろいろな人に感謝されているらしい。助けられた女の子の中には先輩に恋心を抱く子もいるようだ。

 ある時「もし、先輩が男に生まれていたらハーレムとかできそうだなあ……」と言ってしまい、初めて見た先輩のジト目をくらいながら、頬をグイッと引っ張られた。

 先輩はそんなつもりで助けたわけじゃないだろうし、今思うとあれは流石に失礼だった。だが、そんな不出来な後輩を今まで見捨てずにくれる先輩なら、知恵を貸してくれると思ったのだがどこを探しても一向に見つからない。

 

「うーん、てっきり書き置きの一つぐらいあると思ってたんだけどな」

 

 以前の御坂の電撃で携帯が故障していたせいで、先輩に電話をかけることができない。先輩のことだから大丈夫だとは思うが、女の子がこの非常事態に一人っきりというのは不味くないだろうが。

 

「もしかしたら、俺と同じでパニックになっていることだって……!」

 

 こんな意味不明な状況にいきなり放り出されれば、戸惑うのが普通だ。今頃、一人で涙を流しているかもしれない。

 

 

 

 

 …………いや、ないか。

 

 どっちかというと、身近な人の姿でその人ではあり得ないセリフを言う事に、心の底から楽しみそうだ。

 先輩にはそう言ったお茶目な(マイルド表現)ところがある。それさえなければ完璧美少女なのだが、仮に先輩がそういった人であったのなら、ここまで仲良くなれていなかったかもしれない。

 気にはなるがまだ朝であるし、あの先輩がなんのヒントも残さず、何かしらの事件に巻き込まれたことも考えにくい。ここは動かず先輩の帰りを待つことにする。

 

「うん?ちょっと待て。先輩だって他の人の姿に変わってる可能性もあるんじゃないか?」

 

 普通に考えればそうなって当然だ。俺の右手には幻想殺し(イマジンブレイカー)がある。だからこの現象から切り離されたと考えられるが、先輩はそうじゃない。

 何故こんなことを最初に思い付かないのか、天野倶佐利に対する絶対的な信頼?確かにそれもある。だが、一番の理由はそれではない。それは───

 

「……先輩がゴリゴリのマッチョになっているかもしれないのか!?」

 

 尊敬する綺麗な女の子がそんなおぞましい姿に変わるのを、想像したくなかったのだ。つまりは現実逃避である。

 上条の中で天野倶佐利という女の子は綺麗な女の子である。それは清潔感であるし、顔立ちでもあるし、立ち姿や動きの所作一つ一つとっても綺麗という他ない。

 愚痴や悪口は当然のこと、一度たりとも苛立ちや不満というマイナスな感情を表に出したことがないのだ。それは、戦いのときもそうであり、一度たりともその姿は品を失うことはなかった。

 そんな彼女は上条にとってまさに、理想の綺麗な女の子なのだ。……いささか理想像過ぎるとも言えなくはないのだが。

 

 

 

 

 

 そんなにっちもさっちもいかない中で、砂浜でインデックス相手にイチャコラしようとする親父のヤバさを全力で防いでいると、「上やーーーーーん!!!!」という大声を出しながらズザザザァッ!と目の前の砂浜に突撃してくる奴が現れた。

 

「ヤバいぜよ上やん!ねーちんがこっちにやってくるにゃー!」

 

「はあ!?土御門、何でお前がここにいるんだ!?」

 

「ええいっ!そんなことに気にしている場合じゃないんだぜい!いいからさっさとズラかる───」

 

 

 

「見付けましたよ上条当麻」

 

「えっ?」

 

 

 

 あっちゃー、と額に手をやるグラサンアロハの同級生が居ることに、疑問が当然の如く浮かんでいたが、Tシャツの裾をくくりジーンズの片方を根元から切断した、異常に露出度の高い服のお姉さんが鬼気迫る様子でそこにはいた。

 

「さあ、とっとと御使堕し(エンゼルフォール)を解除してください。私が強行手段をとる前に」

 

 そう言いながら、()()()()()()二メートルくらいの長い刀を持つヤバいお姉さんが、柄を握って脅迫してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話を聞くと、どうやらこの奇妙奇天烈なお姉さんは、インデックスのときに居合わせた魔術師らしい。なんでもこの騒動を収めにわざわざイギリスから来たという。

 だが、この話を一般人である土御門の前ですべきなのかどうなのか考えていると、土御門がああ、と気付いたように言い

 

「実は土御門さんって魔術結社、必要悪の教会(ネセサリウス)の一員なんだぜい?」

 

 と、衝撃発言をぶちかましてきたのだ。

 

「はあ!?お前が魔術師!?」

 

「さらに言うと、学園都市に潜入しているスパイってやつだにゃー」

 

 そんなことを平然に言い放ったのは、寮の隣人にして同級生である土御門元春であった。

 元々、彼は陰陽師博士とかなんとかだったらしく、学園都市で能力開発を受けて能力者になってしまったことで、今では魔術を使ってしまうと拒絶反応で死んでしまうのだとか。

 その土御門が言うには世界規模で大魔術が発動しているようだ。何でもこの入れ替わりはその魔術によるものらしい。

 この二人は偶然にこの魔術の影響下から逃れたようだが、神裂はステイル=マグヌスの姿になってしまったらしく、「赤髪の大男が女のようなしなをつくって歩いているなどと、言われる苦しみが貴方に分かりますか!?」と言っていることからも、相当ストレスになっていることが分かる。

 

「それで、この魔術を仕掛けたと疑われている最有力候補が、上やんってことだせい」

 

「いやいやいやいや、おかしいだろ!だって俺は能力者だぞ!?俺が無能力者(レベル0)っていっても、能力開発を受ければ魔術を使うことはできないはずだろ?」

 

「しかし、土御門のように魔術を使った際の出血を、服で隠してしまえば外からではわかりません。なので、今から貴方の全身のいたるところを調べます」

 

「……えっ?ちょ、嘘でしょ?まさか、今からありとあらゆるところを手でまさぐられるってのか!?思春期絶賛突入中の上条さんには、なかなかにハードルが高───」

 

 

 

 閑話休題(しばらくお待ちください)

 

 

 

 ジリジリと太陽の日差しが降り注ぐ中、しくしく言いながら少し離れた砂浜で、ツンツン頭の少年が一人俯きながら膝を抱えていた。

 

「まあ、上やんには幻想殺し(イマジンブレイカー)があるから、今回の魔術から外れたってオチだろうぜい」

 

「それでは、最初から考え直しですか……」

 

 全て知っていたように語るにゃーにゃー陰陽師は、笑いながら神裂火織に言った。……コイツ幻想殺しのことも知っていやがるのか。

 

「いや、そうでもねーぜよねーちん。俺に心当たりがないでもないにゃー」

 

「っ!本当ですか土御門!」

 

 その言葉を聞いた神裂が勢いよく聞き返す。……どんだけその姿が嫌なんだよ。

 

「言ったはずだぜい。上やんが最有力候補ってことは第二候補だって当然考えていますたい」

 

「私はその人物を聞いていないのですが……」

 

「はっはっはー。ねーちんは聞いたとたんに、上やんのときみたく突撃していくのが目に浮かぶからにゃー。そんなことにはならないように自分の中で留めておいたんだぜい」

 

 その言葉を聞いて神裂は視線を横にずらした。先ほどの自分がしていたことに多少の罪悪感があるらしい。

 はぁー、とため息を吐きながら俺は立ち上がる。

 

「なら、さっさとその疑われているヤツに会いに行こうぜ。こんな世界が当たり前になっちまうなんて流石にごめんだからな」

 

 このままではインデックスは青髪の大男に、母親は銀髪碧眼のロリっ子になってしまう。流石にそれは不幸すぎる。そんなふざけた幻想は全速力でぶち壊さなくてはならない。

 

 そんな一代決心をする俺に土御門はニヤリと笑い、もったいぶるようにその人物の名前を言った。

 

 

 

 

 

「現在行方不明の天野倶佐利だにゃー」

 

 

 

 

 




◆作者の戯れ言◆
再びリアルが忙しくなってきたので更新ペースはガクッと落ちるでしょうが、エターナルしないように頑張ります!


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36.情報の開示

なんか評価のコメントと感想見てテンション上がったうえに、祝日だったから勢いのまま書いちゃったぜ☆



というわけで、どうぞ。


「何、だって……?」

 

 その告げられた余りにも意外な名前に呆然としてしまう。

 

「どうしてここに天野倶佐利が来ていることを知っているのかっていう疑問は、さっき言った禁書目録争奪戦や三沢塾戦を調べていた俺にかかれば、この程度の情報を掴まえることなんざお茶の子さいさいなんだぜい!

 いやー、タイプの違う女の子二人を連れて愛の逃避行とは、上やんもすみに置けないぜよ!」

 

 なっはっはっは!と、惚けた態度をする土御門に沸点が一瞬で超えた。

 

「ッそうじゃねぇ!何で先輩が疑われてんだよ!?あの人が能力者だなんてことはお前も知ってるだろ!」

 

 怒鳴り散らす俺には全く反応せずに、落ち着いたようすで土御門は一つ一つ説明する。

 

「確かに、俺もこの目で能力を使っているところを何度も見たし、書庫(バンク)にも書いてあったから間違いないにゃー。天野倶佐利は魔術師ではない」

 

「だったらッ──」

 

「男子高校生として過ごして来た上やんには、確かに辿り着きにくい思考かもしれないな」

 

 すると、土御門はサングラスの奥の瞳を僅かに鋭くする。

 

「いいか上やん。スパイってのは何も外側からやってくるわけじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。学園都市にやって来た魔術師が言葉巧みに唆して、天野倶佐利をスパイに仕立て上げたって可能性も全然あるんだにゃー。

 行方不明なのも魔術の反動を食らって動けないからで、実はそこら辺に息を潜めているからかもしれないしな」

 

「なっ!先輩がそんなヤツらの言葉に耳を傾けたって言うつもりか!?」

 

「唆すってのは何も損得の話だけじゃないぜよ。言うことを聞かないのなら聞かせるようにするってだけの話だ。

 人質、殺人未遂・予告、拷問、後ろ暗い過去の暴露、などなど。脅迫の仕方なんてその道のプロなら何でも御座れだにゃー。自分達の手駒にするには手段を選ばないのはどこも世界も同じですたい」

 

「ッ!!」

 

 こんな話を表情も変えずに淡々としているのは、土御門元春にとってはこの程度の話は珍しくも何ともない、身近な話なのかもしれない。それは、彼がいる世界はそれだけ闇が深いということだろうか。

 その過剰に声音を落ち着けたりせずに声の調子を全く変えないことが、逆に話の内容に真実味を持たせていた。

 

「このタイミングで居なくなり未だ姿を見せないなんて、どうぞ疑って下さいと言っているものだにゃー。実行犯か協力者の可能性が高いと言わざるをえないぜい」

 

 上条としては言い返したいところだが、実際に疑う理由が揃ってしまっているのもまた事実。そして、人質ならば先輩だとしても、協力する可能性があるかもしれないと上条も思ってしまっていた。

 そんな苦悩する上条と同じく、神裂も思い悩んでいたが偶然にも二人は気づかない。

 

「まあ、仮にそうだとしても術式を止めるには術者を倒す以外にも、儀式場を破壊すればいいからにゃー。この御使堕し(エンゼルフォール)を止めた後に、三人でその魔術師をぶん殴りに行けば解決だろ?上やん」

 

「…………ああ、分かった。真相がどうであっても、それが先輩のためになるのは間違いないんだ。この騒動をさっさと終わらせてやる!」

 

 拳を握り締める上条。上条にとって世界規模の魔術よりも、女の子がクソ魔術師に苦しめられている方が重要らしい。もちろん、御使堕しをきっちり解除はするために、動くのではあるだろうが。

 上条は御使堕しを解決するために意識を切り替える。

 

「それで?その御使堕しっていうのは一体何なんだ?」

 

「貴方は『セフィロトの樹』というのを知っていますか。神様、天使、人間などの魂を表した身分階級表です」

 

 上条はいきなりの魔術用語に付いていけなくなるが、土御門がフォローに入る。

 

「要するに、ここからここは俺達の領分だから入ってくるんじゃねーよ、っていうことを表したものなんだにゃー」

 

「通常は人間が天使の位に昇ることはなく、当然その逆もありません。ですが、天使が魔術の影響で人間の位にまで堕ちてきた」

 

「神様、天使、人間は全部常に満席状態ぜよ。そんな状態の中、天使が人間まで堕ちたことで『見た目』と『中身』がバラバラになっちまった。『見た目』は我先にと『中身』と一つになろうとした結果、このトチ狂った世界が生まれたんだぜい」

 

 そんなぶっ飛んだ話を聞いて思わず話を中断したくなったが、今は一分一秒を争う事態だ。そんな暇は与えられていない。

 

「……本当に天使何てものがいるのか?そんなの見たことも感じたこともないぞ。天国だって宇宙まで行ったって見つけられるもんでもねえだろ?」

 

「上やん、物理的な高い低いの問題じゃないんだぜい。例えるなら高周波の高い低いに近いかにゃー。人間の聞き取れる高さは決まっていて、ある一定以上の高さや低さになると聞き取れなくなるだろ?それと一緒で神様が隣にいても上やんは気付くこともできないんだにゃー。文字通り住んでる世界が違うからな。

 そんで、超常の存在自体が信じられないなら、ここにいる聖人、神裂火織を見てみるんだぜい。なんせ、偶像の理論で神の子の力の一端を使うことができるんだからにゃー」

 

「偶像の理論?」

 

 聞き慣れない単語に首を傾げる。土御門の説明を付け足すように神裂が説明をする。

 

「姿や役割が似ている物同士は互いに影響しあい、性質、状態、能力などが似てくるという魔術理論です。

 私たちは生まれついたときに聖人の特徴である聖痕(スティグマ)というのが体の一部にあり、この偶像崇拝の理論によって神の子の力を0.00000数%ですが、その身に宿すことができるのです」

 

「そのほんの数%で核兵器並の戦力だからにゃー。本物がどれだけ埒外の存在なのか、魔術を知らない上やんでも理解できるだろ?」

 

「…………」

 

 実際のところ記憶の無い上条当麻には、神裂の強さを推し測ることは全くできない。だが、土御門がこの状況で過剰な表現を使うはずも無いことは上条にも理解できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、上条達はそれらしいところを探し回ったものの、未だに術者も儀式場も見つけることができていなかった。

 そのため、一度腰を据えて話し合うために、上条が泊まっている旅館へと三人はやって来たのだ。部屋に戻った上条は天野倶佐利について寝転びながら考える。

 

「(先輩が魔術師の言いなりになっていた?だけど、そんな様子は全く感じられなかったぞ。やっぱり何かの間違いないなんじゃあ……?)」

 

 年上の女の子はいつもの微笑みで上条達と接しており、何も変わったところは見受けられなかった。誰かに脅迫されているとは思えない。

 

「(……いや、先輩なら俺達に心配かけないよう完璧に演技をするはずだ。そもそも、俺は土御門がスパイってことを微塵も疑ってなかったじゃねえか。そんな俺が先輩の優しい嘘を見抜けるなんてできるわけがねえだろッ!

 先輩は一人で耐えていたんだ。脅された方法が人質だとしたら、小萌先生かインデックス、隣に引っ越して来たらしい姫神か、───あるいは、この俺、上条当麻か)」

 

 もっと先輩と話していれば気付けたはずだ。

 先輩はいつも笑顔を浮かべて俺達を見守ってくれていた。だから、ピンチになれば手を差し伸べてくれる、頼りになる人間だと決め付けていた。

 先輩がそんな危機的状況に陥るはずがなく、もしそうなっても遠慮なく自分に頼ってくれるはずだと信じきっていたんじゃないか?

 確かに、今までは先輩が俺に協力してくれるよう、頼んでくれることが何度かあった。

 

 でも、それは先輩が誰かを助けようとしたときだけだ。

 

 自分自身のために協力を求めてくることは一度もなかった。食蜂も今まで先輩自身の問題で、自分のことを一度も頼ってくれないと言っていたではないか。

 何故、傲慢にも自分なら頼ってくれるだなんて思い込んでいた?

 

 先輩だって完璧な存在じゃない。

 魔術師という未知の存在相手では手を小招くことだってあるはずだ。

 あの穏やかな笑顔の下で降りかかる重圧に耐えきれず、涙を流してていたのかもしれない。そんなことにも気付かずにのほほんとしていた過去の自分をぶん殴りたくなるッ!

 

「(本当に俺は、何やってんだ……ッ!)」

 

 上条は自らの情けなさに強く歯を食い縛った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな上条の足を床から生えた手が掴んだ。

 

「ッッッ!?!?!?」

 

 バガンッ!という音と共に床下から出てきた誰とも知らない手が、自分の足をガッシリと掴んでいるのだ。

 自分の目が信じられない。

 何の前兆もなく、いきなり成人男性ほどの腕に足首を掴まれたのだ。この反応も当然だろう。

 

 油断しているところに起きたことで上条も混乱に陥った。だが、上条とて戦場は幾度も経験している。すぐさま対処しようとするが上条の動きがピタリと止まった。

 そう、彼は見てしまったのだ。

 

 

 伸びた手は爪が剥がれ色が黒に変質しており、拷問でも受けたかのように傷だらけ。

 床の隙間から覗く暗い影の中に見えた瞳は、焦点を見失い明らかに正気を保っていないことを。

 

 

 

 

「うああああああああ!?!?!?!?!?」

 

 余りのおぞましさに絶叫を上げる。強いだとか弱いという話ではなかった。脳が存在を拒否していた。

 一方通行(アクセラレーター)やアウレオルス=イザードのときの、真正面からの命を懸けた戦いであれば上条は問題なく拳を握ることができただろう。

 だが、このような異常極まる状況では、いつも通りの行動などできないのも道理だった。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!!」

 

 自然と吐く息が荒くなっていく。予想外の出来事により上条は恐慌状態に陥っていたのだ。

 狂気に呑み込まれた上条には指先一つ動かすことはできない。そんな上条の足に、ゆっくりと鈍色に光る何かをソイツは添えた。

 

 金縛りのように動かない体の先で、何が添えられているのか眼を見開いた上条は正確に理解する。

 今ではホームセンターなんかで簡単に買うことができる物。

 

 上条の足にはナイフが添えられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エンゼルさま……

 

 男の名は最近ニュースになっていた火野神作。27人を殺したという大量殺人犯だ。

 

 




~ある日の帰り道~
「(ぶっはあッ!!今回も本っっ当に疲れたぁ。はぁ……、上条を巻き込んでどうにか楽したいーーっ!(クズの発想)
 だけど、それだと原作変わるかもしれんしなぁ。ままならんなぁ。はぁ……。
 そもそも、上条巻き込むと5、6ページですむ程度の事件が、単行本150ページくらいの厚さがある内容に様変わりするんだよなぁ。……うーーん、やっぱなしだわ)」

 打算だらけのオリ主である。

◆作者の戯れ言◆
時間がないのは事実なので不定期には違いありません。
余裕があるときに書く方針です。


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37.ミーシャ=クロイツェフ

2月から創約が始まりますね。
いやーすごく楽しみです。果たしてアレイスターが居なくなった学園都市はこれからどうなっていくのか。LEVEL6とはなんなのか。主人公である上条当麻とドラゴンの関係とは。
気になることばかりですね!

……この小説が旧訳を書ききるまでに創約が完結しそう。(震え声)



「安心してください。彼女はロシア成教『殲滅白書(Annihilatus)』所属の魔術師です。私達と同じく今回の騒動を収めに来たのでしょう」

 

 神裂がそう言った少女は、赤色のローブに拘束具という奇抜な格好の服装をしていた。上条としてはその風貌に何かしら言っておきたいところではあるのだが、そんな彼女は自分の命の恩人であるため今回ばかりは自重しておく。

 

 火野神作に足を斬られるその寸前、彼女が窓から乱入して火野を撃退してくれたのだ。

 彼女がいなければ上条は今ここに居なかったかもしれない。

 

「さっきは助けてくれてありがとう。もし、助けてもらわなかったら今頃「問一、貴方が御使堕しの首謀者か」──ッ!?」

 

 一瞬で目の前に現れた。

 瞬きをしていないにも関わらず上条は全く反応することができない。ヒヤリとする首にいきなり添えられたものは、火野を撃退するときに使ったノコギリだ。

 日用品としてありふれたものであるが、それを人間相手に使えばどうなるかなど語るまでもない。

 

「ッ!?ま、待って下さい!彼が無実だという確証があったがために助けたのでは!?」

 

「解答一。少年が御使堕しに関わっているかどうかは不明であった。そのため、あの場では保留とし、殺害するよりも生け捕りにするほうが最善であると判断した。

 もう一度問う、貴方が御使堕しを引き起こしたのか」

 

 抑揚のない声音と前髪に隠れている目で読み取りにくいが、ここでくだらないことを言えば間違いなく首が吹っ飛ぶことだろう。

 

「待て待て待て待てっ!俺は魔術なんてものはよく知りもしないし、そんなものを扱うことなんてできないんだって!」

 

 俺の物言いに疑問を浮かんだのか首を傾げるミーシャ。それを汲んだかのように土御門が説明する。

 

「上やんには魔術を使うことはできないぜよ。幻想殺し(イマジンブレイカー)っていうどんな異能も消し飛ばす、特殊すぎる力がその右手には宿ってるからにゃー」

 

 土御門がそういうとミーシャは何か言葉を呟いた。すると海から水が重力に反するように吹き上がる。そして、そのまま幾つかの水柱が上条に殺到した。

 

「ッ!!」

 

 パキーンッ!と右手をつき出すと何かが砕ける音と共に、水柱がただの水に戻る。もし、今の水柱を打ち消していなければ今頃足元に刻まれている、陥没した地面と同じようなことになっていただろう。

 

「あっぶねえな!!殺す気か!?」

 

「真偽を明らかにするためとはいえ、刃を向けたことを謝罪をする。彼が御使堕しに関与していない事を確認した。問一、では他に容疑者を割り出しているか」

 

「お前もしかして全然反省してないな!?」

 

 すんなり過ぎる返答に大声で抗議するがミーシャはガン無視を決めていた。そんな中、神裂が先ほどの火野神作が一番怪しいというと、ミーシャは火野が逃げたベランダにそのまま向かおうとする。

 だが、それを止める人間が居た。

 

 

「待って下さい」

 

 

 ガシッ!と神裂がミーシャの腕を掴んだ。ミーシャの表情は隠れていてよくわからないが、どこか不満を抱いているようだ。

 

「既に用は済んだ。これ以上共に行動する理由はない」

 

「協力体制を敷きませんか?」

 

 神裂が話を切り出す。

 

「解答一、それに意味はない。私個人でも充分に追跡することができる」

 

「貴方に逃亡者を相手取る心得があるのですか?必要悪の教会(ネセサリウス)は魔女狩りのために創られた組織です。逃亡する者を追う技術を私達は身に付けています。

 それに対し、殲滅白書は幽霊狩りに特化した組織。そのような技術には明るくないとお見受けします。ならば、共に行動した方が合理的なのでは?」

 

「……」

 

 そんなこんなで、ミーシャと俺達は協力して火野神作を追うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数時間後、既に夕日が差す時間帯へとなっていた。俺達は今現在特に何の変哲もない一般的な一軒家の中に居る。

 その一軒家とは記憶喪失になる前に上条が住んでいた実家であったのだが、何も気分転換に来た訳ではない。

 こんな騒動の中、わざわざここに来たのにはもちろん理由がある。

 

「エンゼルさま、エンゼルさま、エンゼルさま……」

 

 そう言い続けているのは大量殺人犯、火野神作。

 何故火野がこんな状態になっているのかというと、俺達は火野神作を運良く探しだしたあと、無事に火野を捕まえることに成功したのだ。

 それまでにいろんなこと(単行本40ページ程の内容)があったが、わざわざ言うことでもないだろう。

 一つ言うなら、今回活躍したのは上条当麻ではなく土御門元春だった、という話だ。

 

「さあーて、そんじゃあキリキリ吐いて貰うぜよ。お前が話すのは他の協力者の有無と儀式場の場所だけだ。他の言葉を言える余裕があるとは思わないことだな」

 

「…………」

 

 指を鳴らす土御門に引き続き、ミーシャもノコギリやバールといった工具を取り出す。魔女狩りのために産み出された必要悪の教会は尋問や拷問はお手の物である。火野が動機を説明するのも時間の問題だろう。

 そんな中、上条は火野の行動に違和感を抱いた。

 

「(何だ……?何か見落としているような……。……27人殺害…………潜伏……責任能力……)」

 

 ハッと気付いた。

 

「そうだ!二重人格だ!」

 

 突然声を上げた上条に皆の視線が向く。

 

「火野神作は二重人格の可能性ががあるってニュースで言っていた。……なあ、素人の俺じゃよく分からないんだけど、「中身A」と「中身B」の人格の入れ替わりは、御使堕しだとどうなるんだ?」

 

 魔術師は揃って顔を見合わせるが誰も答えを持っていない。それもそのはず。なぜなら、御使堕しはこの地球が始まって以来の大魔術なのだから。この場の魔術に精通した者でも知るものはいないのだ。

 そんな上条の言葉から火野はどこか怯えるように言葉を発した。

 

「な、何を言っている!エンゼルさまは本当に居るんだ!ま、まさか、お前らもあの医者と同じような事を言うのか!」

 

 その言葉を聞き、神裂は神妙な面持ちで火野に尋ねる。

 

「……貴方の言っているエンゼルさまというのは、医者の診断で二重人格と言われたのですか?」

 

「や、やめろ……!俺をそんな目で俺を見るな!!エンゼルさまは本当に居るんだっ!何でエンゼルさまのことが分からないんだ!!」

 

 そんな風に発狂する火野神作を見て上条は結論を下す。

 

「……決まりだな。二重人格だったから中身と外見が入れ替わったようには見えなかった。火野は巻き込まれただけ。

 ───つまり、火野神作は御使堕しの実行犯じゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザザァッと、押して返す波のさざめきが聞こえる高台に、髪を風に靡かせる人影が立っていた。高台は年期が入っているが、どこか故障したわけでもなければ破損したわけでもない。

 そのため、工事で作業員が高台に登っているということではないし、そもそも彼女の服は作業着ではなく普通の私服であった。この高台は田舎にあることもあり、特に観光スポットになっているわけでもない。年頃の女の子が来るような場所では当然ないのだ。

 では、何故彼女はこんな辺鄙な場所に訪れたのか。そんなもの一つしかない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

「───ふむ。まだ、その時ではないようだね」

 

 

 




ようやく下準備が終わりましたね。
というわけで、ようやく次回オリ主が出てきます。長かった……。

ちなみに、旧約のプロットは9割方決まってます。あとは書くだけ。でも、それが一番大変なんだなぁ。海鮮茶漬け


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38.一方その頃

ようやく、あのキャラの登場です。


「(なるほど、御使堕し(エンゼルフォール)下では二重人格の者は人格が切り替わるのですか。それなら、彼女もそうなっている可能性が高い。ならば、彼女は容疑者から外れますね)」

 

 上条が火野が御使堕しの犯人ではないと断言する中で、神裂は一人胸を撫で下ろした。彼女からすれば天野という少女は上条と同じく、感謝してもしたりないくらいの恩人である。

 インデックスの首輪の件はもちろん、彼女がいなければ神裂とステイルは、インデックスと今の関係にはならなかっただろう。

 

「(ステイルはおそらく彼女の前には現れず、陰で彼女のことを守っていたでしょう。会えば話をし合う今の二人は見ていて嬉しいものがあります)」

 

 インデックスの純真さに年相応の反応をする彼を見るのは、とても微笑ましい光景だった。彼は望んでいなかったかもしれないが、それでも今の関係は彼にとって悪いものではないはずだ。

 

「(……ですが、新たな疑問が浮かびます。今、彼女──いえ、()()()()は果たしてどこにいるのか)」

 

 神裂はあの邂逅を思い出す。あれほどの力を持った存在ならば、地球を脅かす何かをしている可能性がある。早急に探し出さなければならない。

 神裂は結局インデックスの首輪を破壊したあとに現れた、超常の存在をイギリス聖教に報告していなかった。

 それは、天野の身に降りかかるであろう災いを予測してということもあったが、神裂自身イギリス清教に教える必要性も特にないからだ。

 確かに、組織に所属する人間ならば報告は当然の義務であるが、彼女は魔術師。魔術師とは全より個を優先する生き物だ。

 『救われぬものに救いの手を』を魔法名にする彼女にしてみれば、確実に彼女の人生を苦難ばかりのものに変えてしまうならば、そんなものを認めるはずもない。

 さらに、彼女を巡って科学サイドと魔術サイドがぶつかる火種になる可能性もある。報告を慎重になるのも頷けることだ。

 

「(あのあと、彼女を観察しましたが大して変化が見られなかったため、超常の存在の言葉を信じましたが、今回の御使堕しに乗じて何かするつもりなのかもしれませんね……)」

 

 御使堕しの中で新たに大魔術などをすれば、この世界に致命的な破壊を呼び起こすかもしれない。彼女の安全を売るような真似はしたくはないが、世界の崩壊の可能性がある以上は魔術師として進言しなくては。

 

「あの、土御門。貴方に伝えなければ「あれ?この写真……入れ替わっていない……?」──なんですって?」

 

 聞き捨てならないセリフが聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おもむろに、上条が手を伸ばした写真立てにはとある人物が写っていた。その人物を隣から見て土御門も予想外のことなのか聞き返してくる。

 

「それは本当なのか上やん?」

 

 訝しむ土御門の質問に、俺自身とてもじゃないが信じられない目の前の事実を口にする。

 

 

「あ、ああ。()()()()()()()()()()()()()()()……。つまり、父さんは……───」

 

 

 上条がそこまで言うと、ダンッ!と音を鳴らしてミーシャは勢い良く外に飛び出した。

 

「まずい……ッ!上やん!ねーちん!急いで刀夜氏の保護に向かえ!!」

 

「土御門……!」

 

 思わず土御門の顔を見る。土御門は俺の顔を見て苦笑を浮かべて言った。

 

「なーに、術者を殺すのが術式を止めるのに一番簡単とはいえ、好き好んで殺す必要もないからな。血が流れないならそれが一番いいことには変わらないぜよ。

 それに引き換えミーシャは短絡的だ。間違いなく術者である上条刀夜を殺して事態を収拾しようとしてやがる」

 

「ッ!?」

 

 背筋が凍る。ミーシャは火野に向けたような暴力を父さんに与えようとしているのか……!

 土御門はグラサン越しに珍しく真剣な目を向けた。

 

「儀式場のことは俺に任せろ。二人はそっちを頼んだ」

 

「ああッ!!」

 

 何で父さんが魔術なんてもんに手を出しちまったのかは分からねえ!だけど、ミーシャ。そんな真似は絶対にさせねえぞッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ここは、本当にどこなんだ?)」

 

 所変わって久方ぶりの登場となったこのオリ主。相変わらず辺り一面無駄にメルヘンな空間の中に居た。

 

「(ユニコーンの他にもグリフォンやら妖精やら、それこそドラゴンまでいる、メルヘンな方向にブッ飛んだ世界なんだよなぁ)」

 

 さらには、なんかメチャクチャ派手な服着た、よくわからん女まで出てくる始末。もう訳が分からないよ。

 そんなことを思いながら、この宇宙空間らしき場所をスイーっと体を動かし移動する。

 なんとこのオリ主、わけの分からないこの不可思議な空間に順応しつつあった。

 

 宇宙空間のため距離を測ることはできないが、既に数十キロ近く動き回っている。しかし、出口はおろかこの不思議プラネタリウムの風景は全く変わらなかった。

 

「(やっべぇな。何の手掛かりも見付けられなかった。そろそろ焦るわ)」

 

 遅ぇよ。

 

 オリ主は童心を刺激されてメルヘンな動物を観察していたのだ。夢の世界ならそれで満足していたが、どうやらちゃんと意識があるため、この世界がただの幻想ではないことにようやく気付いた。

 

「(無駄かも知れないけど一応やってみるか)あのー、すみませーん!誰かいませんかー?」

 

 返事はない。

 

「迷子なんですー!助けてくださーい!」

 

 返事はない。

 

「そろそろ地面が恋しいんですー!元の世界に戻してー!」

 

 返事はない。

 

「Arrrrrrrrrrrrrr!!!!」

 

  返事はない。

 

「■■■■■■■■ーーーー!!!!」

 

 返事はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰かああああーーー!!」

 

 

「やかましいわッッ!!!!」

 

 

 !?

 

 

 

 




はい、久しぶりにオリ主登場ですね。
この小説を書き始めていろいろと調べることが多くなりました。御使堕し編の第三巻も買っちゃいましたし。
旧約の中だと3本の指に入るほど、この小説では重要なストーリーってのもありますけどね。


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39.斜め上の展開へと

連日投稿だあ!うほほーい☆(建前)
もう、無理ぃ……。(本音)

書きました。どうぞ。


「(え!?なんだ!?急に大声が聞こえたぞ!?急過ぎて心臓止まるかと思ったわ!)」

 

 まさかのコールアンドレスポンスにビビり倒すオリ主。ストレス発散気味でやっていたのでオリ主からすれば寝耳に水だ。(アホかな?)

 そんなオリ主に対して不機嫌そうな声が降ってくる。

 

「さっきから、ピーピーピーピーうっさいのぉ。こっちは徹夜明けじゃというのに少しは配慮というのをしたらどうなんじゃ全く……」

 

 こ、このどこか聞き覚えのある、如何にもやる気が無さそうな声は……まさか!

 

「……ん?なんでお主がそんな場所に居るんじゃ?」

 

 神ぃっ!?!?!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけんな!俺の人生が不幸しかねえなんて決め付けんじゃねえ!俺は今幸せなんだよ!」

 

 父さんは不幸な俺を想ってオカルトに手を出したらしい。学園都市に暮らす以前は周りから疫病神なんて言われたり、ナイフを持った男に襲われたりした俺を不幸から守るために。

 俺はそんなの望んじゃいねえ。今までの出来事は並大抵のことじゃなかったけど、そのお陰でいろんな人に出会うことができた。

 不幸があったから誰かの悲劇に立ち会えて拳を握ることができた。それだって変わらない事実なんだ。仮に、もしあの時あの場所に居れなかったらと思うとゾッする。

 確かに何度も死にかけたけど、誰かが血塗れになるのを見捨てずに済んだんだ。それが不幸だなんてわけがねえんだ!

 

「…………そうか。当麻は、幸せだったのか。父さん意味のないことをしていたんだな。俺はお前の不幸(幸せ)を奪ってしまうところだったわけだ。

 とはいえ、俺にできたことは何もなかったがな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………は?」

 

 言っていることが一瞬理解できなかった。

 

「ああ、これからはお土産を買ってくることは止めにするよ。お前の幸せを奪うことなんて私にはできないし、母さんも菓子のほうが喜ぶからな」

 

「ちょ、ちょっと待て!父さんが御使堕し(エンゼルフォール)引き起こしたんだろ?俺の不幸を誰かと入れ替えるためにッ!」

 

 父さんはこの大魔術で俺を不幸から救い出すために、世界中の皆を巻き込んだはずだ。だって、今俺達はその話を───

 

 

 

「えんぜるふぉーる?何だそれは?新しい流行語か?」

 

 

 

 上条の思考が今度こそ空白となる。

 

「(……どういう……ことだ……?御使堕しを知らない……?父さんが術者のはずなのに、どうなって……?)」

 

 先ほどまで抱いていた怒りが霧散して、新たな疑問が頭の中を駆け巡る。

 今更誤魔化す必要はない。俺が幸せだと知ったなら今すぐに中止すればいい。わざわざ魔術師に殺されるリスクなんて負う必要は、もうないんだから。

 

 ならば、上条刀夜は御使堕しの犯人ではない?

 

 ここに来て前提条件がここに来て引っくり返ってしまった。解決への道がこんがらがってしまったような感覚だ。

 理解が及ばない上条であったが無情にも事態は進む。それは不幸な上条らしく、上条が望まない方向へと。

 

 

「標的を捕捉完了。これより排除する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「退きなさい上条当麻!!」

 

 バールを振り上げるミーシャとの激突の寸前、飛び込んできた神裂による一閃が砂煙の壁を作り、俺に束の間の余裕を生み出した。人間を越えたプレッシャーを放つミーシャに対応してくれなかったら、素人の俺では死んでいたかもしれない。

 

 

「御苦労さん、上やん。よくやったぜい。(バトル)は俺達に任せな」

 

「土御門……」

 

 いつの間にか現れた土御門も、俺の隣に立ってミーシャと相対する。

 

「な、なあ、アイツは一体どうしちまったんだ?」

 

「よく考えてみればおかしな話だ。偽名を使うにしてもミーシャはない。その時点で気付くべきだったにゃー」

 

 意味が分からない。ミーシャに何か魔術的な意味があるのか……?

 

「ミーシャというのはですね。ロシアでは男性に付けられる名前なんです。偽名だとしてもおかしすぎる」

 

「じゃあ、何だってそんな名前を……」

 

 土御門はそこで獰猛に嗤いながら言った。

 

「いるんだよ、上やん。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。名前を偽るなんて真似は絶対にできねえのさ」

 

 確かに、両性の生き物はこの世にはいるにはいるが、神話に両性であることが当たり前の生物などいるのか?

 俺のそんな顔を見て土御門が答えを言った。

 

「忘れたかい、上やん?この大魔術がなんて呼ばれていたかを」

 

 そして次の瞬間、夕暮れが星が煌めく夜へと切り替わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー、この前ぶりじゃな。いや、人間の時間では結構経っておるのかの?」

 

 そう、俺が聞いた声はこのとあるの世界にぶちこんだ張本人こと、神だった。

 まさかの再登場にビックリである。俺を転生させる以外にもまだ仕事があるとは思わなんだ。

 

「また、お主に会うことになるとは流石に思ってなかったぞ。そんなにエルキドゥの身体は嫌だったのか?」

 

 どうやら神としても予想外であったらしい。ならば、何故こんな場所に居るのだろうか。俺の予測では今頃御使堕しの影響で、見た目が愉快なことになっているはずなのだが。

 どうしてこんなところに?

 

「えーと、神様?今中々面白そうなことが上条の周りで起きているので、用がないのでしたら元の世界に返して欲しいんですけど……」

 

「無理じゃな」

 

「えぇ……」

 

 即座に断言されてしまった。神様ならそれぐらい簡単じゃねーの?

 そんなことを考えていたからだろうか。神が話し出した。

 

「できることはできるが世界に裂け目が生まれて、近いうちに世界が崩壊するぞ?」

 

「いえ、このままで大丈夫です」

 

 あっぶねえ!!世界が壊れるところだった!

 自分の選択が世界を滅ぼすかもしれなかったと知り、背中がゾッとする。よし、この話題からすぐに離れようか!

 

「それと、エルキドゥの身体に不満はありませんよ。今もこうして自由に動けますし」

 

 方向転換のために先ほどの問いに答えたところ、神の声音が少しだけ変わった。

 

「もしや、お主気付いていないのか?」

 

「何をです?」

 

「マジで気付いてないのかお主。そこは一番始めに気付くところじゃろーに。はあ、もうそこまでなっておるとはのぉ……」

 

 ちょーい?人のことまるでボケが進んだ年寄りみたいに言うの止めて欲しいんですけど?失礼すぎでしょ。

 あァん?神様気取りですかァ?…………ガチの神だわ。

 

 そんなことを考えていると、ため息を吐いた後啓示を与えるように神はこう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お主、今ガブリエルの身体に入っておるぞ?」

 

「え??」

 

 




え?という展開となったでしょうか?

作者はオリ主が二重人格だなんて、一度も書いていませんよ?

感想欄で伏線を張っていたので分かる人には分かっていたでしょう。
御使堕しの真髄は入れ替わりではなく、天使を人間の位階まで落とすことにありますから、当然人間から天使の位階へと上がる精神もあるってことですよ。

それにしても、コメディを書いてると落ち着きますね。
最近シリアスばっかなんだよなぁ。……嫌いではないけどね?

感想お願いします。


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40.異世界の正体

勢いで書いてしまった。なんか微妙なところで終わっちゃったし。


では、どうぞ。



「お前を一人置いて行けるかよッ!俺も戦う!俺の右手は『神の力』にだって通じるはずだ!」

 

 上条当麻からそんな言葉が飛んでくる。聖人相手にそんなセリフを言うとは、ステイルの報告通り彼は調子を崩しにくるようです。その気遣いは好ましいですがね。

 

「天使相手に勝つという考えが既に間違っているんです。あれは私達とは規格からして違う。

 勝とうとは思っていません。私がするのは互角の時間稼ぎ。その間に貴方と土御門は御使堕しの解除をしてください。

 そうすれば、あの天使も文明を焼き尽くす火矢の豪雨『一掃』を発動する意味はなくなります。

 ───彼女を首輪から救ったように、次は私を救っていただけると助かります」

 

 そう言うと数瞬考えた後、彼の表情が変わった。

 

「……ああ、分かった!神裂、お前を信用する!!」

 

 そう言って、少年はこの場から去って行った。そのセリフに思わずふっと笑ってしまう。

 

「この私に対して信用するときましたか。確かに調子が狂いますね。───ですが、お陰で私の生存確率が高まりました」

 

 天使の背中から水晶らしきものと海水で、新たな攻撃手段である長大な翼が何本も生み出された。翼の先から先まで『天使の力(テレズマ)』が満たしているあれは、一撃で山脈を吹き飛ばす程の威力を有している。

 そんな絶体絶命の状況でも彼女は一歩も退くことはない。敵わないと知りながら神裂は誰かのために刃を振るう。

 

「『唯閃』の使用とともに、一つの名を」

 

 愛刀である七天七刀を強く掴み、あの誓いを口にする。

 

「───Salvere000(救われぬ者に救いの手を)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなシリアス極まる場面から変わり、オリ主サイドに移る。そこには神と天使(?)がいた。

 

「普通気付くじゃろお主アホか?」

 

 果てしなくムカつくがぐうの音も出ないセリフだった。身体中が肌色じゃなくて全体的に白いことに何故気付かなかったのか。

 

「というか、何でガブガブの身体に入ってるんだ!?もう、わけが分からないよ……」

 

 ペタペタ身体を触っても明らかに感触が違う。どうやら人間とは素材から違うらしい。頭とかどうなってんのこれ?

 

御使堕し(エンゼルフォール)とかいうのが天使を人間の位階に堕す術ならば、空いた天使の椅子に誰かが座るのは道理じゃろ」

 

「いやいや、それが俺とかどんな確率だよ。流石にご都合主義だろそんなのさぁ……」

 

 60億分の1を当てるなど余りにも出来過ぎている。魔術師としては知らんが一般人からしてみれば天使の身体など災いの元である。これは、本格的に上条の不幸が移ったか?

 そんな風に呟く俺に対して神は端的に告げた。

 

 

 

「何を言っておるんじゃ。お主がガブリエルの身体に入ることは必然じゃぞ?」

 

 は?

 

 

 

 ふむ、と間をとって神は話を続ける。

 

「お主はそもそもこの世界がどこなのか分かっているのかの?」

 

 そんなもの知るわけがない。こんな世界に見に覚えなどあるほうがどうかしているだろう。

 だが、神は当然の如くそれを言った。

 

「お主は知っておるぞ。何せ一度この世界に訪れたことがあるのだからな」

 

「!?」

 

 こちらの思考を読んだかのようなセリフに驚いたが、それよりもこんな世界に俺が来たことがある……?一体どういうことなんだ?

 神はそんな俺を相手に話し出した

 

「この世界はアストラル界と呼ばれる場所じゃ。幽界とも呼ばれる場所じゃな。一度死んだときにお主はこの世界に来ておるのだから、この世界と関係深いガブリエルの身体に入ることに、他よりも適正があるのは当然のことよ」

 

「ちょ、ちょっと待った!ここって死後の世界なのか!?」

 

 うっそだろ!?あの世ってこんなにメルヘンなところなのかよ!?

 

「知識にないヤツに説明するのは面倒なんじゃが、まあサービスということにしておいてやろう。

 アストラル界は天球の世界じゃ。ここはアストラル体が存在しうる場所である。アストラル体とは人が持つ感情的、情緒的なものを司る身体を言う。他の動物や植物なんぞにはアストラル体は在りはしない。

 周りに居るのは幻想種ばかりじゃろう?そう言ったものは人の情緒が生み出したものじゃからの」

 

「なら、これってやっぱり幻なのか」

 

()()()()()()()()()()()()()()説明が面倒じゃから省くぞい。その世界は死んだ者が最初に訪れる世界じゃ。お主も当然来ておる。知識には残っておらぬとも魂にはそれが刻み込まれておるはずじゃぞ」

 

 全く覚えていないが、どこか懐かしさや既知感があったのはそういうことか。

 

「そんなことよりもお主は気にすべきことがあるだろうに」

 

 この世界の話を「そんなこと」でまとめていいのか?結構重要だったと思うんだけど。

 神はこの期に及んで何か言うつもりらしい。まあ、今更何を言われたとしても受け止めるつもりだけど。

 

 

 

「今頃、エルキドゥがお主の身体で暴れているのではないか?」

 

「……はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スパン!と、襲い掛かる『水翼』を七天七刀で両断する。

 

「天草十字凄教は日本独自に進化してきた宗教です。ですから、十字教ならば天使を傷つけることはできない、という制約の外にいます。

 更にあなたからすれば不思議なことかもしれませんが、日本では神を殺す神話も存在します。……さて、天草十字凄教をかつて束ねていた私がその術式を有していないと思いますか?」

 

「…………」

 

 天使───いや『神の力』は答えない。そんなことに頓着はしない。有るのは元の世界に帰るということだけ。そのために新たな水翼を作りだし、目の前にいる存在を消し飛ばそうとする。

 神裂も呼吸を変え対神殺し用の魔力を練る。人の領域を越えて目の前の存在がいる領域へと届かせるために。

 

 

 

 

 

 そして、両者が互いの刃を振った。

 

 

「ッッッッ!!!!!!」

 

 そこから始まったのは常人では視認することはもちろん、何をしているかということですら理解できない斬り合いだった。

 1秒間に45回という超高速の斬り合いは凄まじく、本当に選ばれた一握りの者しか見ることのできない世界だが、何より驚愕すべきことは両者はフェイントを入れる余裕があることだろう。

 牽制や時間差、攻撃方法の変化などをその速さで実行しているのだ。卓越した戦闘能力がなければ不可能な斬り合いである。

 だが、すぐに両者の差が浮き彫りになった。

 

「ぐッ!…………っはあッ!!」

 

 神裂の体が発熱している。それは運動による発熱にしては異常であった。それもそのはず、神を殺すための術式を編んだとしても、それが人間が万全に使用できるかというと別の話なのだ。

 神裂の『唯閃』は超高速の抜刀術で切り裂く一撃である。では何故一撃なのか。それは、唯閃を問題なく振るうのは一撃が限界であるということだ。聖人は絶大な力を有している反面、魔術などで緩和しなければ自らの力で体を壊してしまうことになる。

 もし、それを続ければ自滅しまうことは当然だった。

 

「(手を弛めることはできない。少しでも力を抜けば次の瞬間肉片へと変えられる……ッ!)」

 

 体が軋みを上げる。遠心力で関節は伸び、内臓には負荷が掛かり吐血してしまう。このままでは、神裂の体が持つわけがない。しかし、それを理解していながら神裂は手を弛めない。

 上条が御使堕しを解除すると信用しているからだ。

 

「(ここは、私の全てを用いて絶対に死守してみせるっ!)」

 

 『神の力』と『神を裂く者』の短くも長い戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その寸前、人影が高速で割って入った。

 

「ふっ!!」

 

「───qkd!?」

 

「なっ!?」

 

 ドガァッ!と、凄まじい轟音とともに人影は数十メートル程ミーシャを蹴り飛ばした。その事実が神裂にはとても信じられない。

 今の戦闘に隙を見いだして奇襲を成功させたこと───ではなく。天使という存在を吹き飛ばしたことそれ自体。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ただの蹴りで天使を吹き飛ばすことなど、聖人ですら片手で数えられる程度しかいないはずだ。あんな馬鹿げたことをした者は味方か敵か、あるいは第三勢力か。

 そんな風に乱入者を仰ぎ見ると、神裂の目が大きく見開かれた。その人物は今回の騒動に今まで関わり合いがなく、この騒動が起きてから姿を一度も見せていなかった人物だったからだ。

 

 金色の瞳を煌めかせて長い髪を靡かせながら、その()()は『神の力』に対して言った。

 

 

 

 

 

「恨みは無いけれど僕のマスターのために、君には少し大人しくしてもらおうか」

 

 




アストラル界…………はあ?っとなった皆さん、その理由はまた次の話でします。
まあ、多くの読者さんには分かってるでしょうけどね。

ある一定の人達は「神とかww流石にないわー(失笑)」とか思ったでしょうが、ぶっちゃけ結構重要なキャラです。
というか、とあるのような綿密に練られた小説を書いておきながら、無意味に神なんて存在を書くわけないよねっ!


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41.神に明かされる秘密

いつの間にか40話を超えていました。
でも、まだ原作4巻目。杉田塾編は書かずに匂わす程度だったので実質3巻分。そして、旧約は全部で22巻。
……長ぁーい。


「やあ、久しぶりだね」

 

「はあ……っ、はあ……っ、……貴方は、まさか……」

 

 『神の力』と戦い消耗した私に話し掛けて来たのは、彼女ではなく超常の存在だった。この尋常ならざる気配は人間が出せるものではなく、どちらというとそこにいる『神の力』に近いことから、それは間違いないだろう。

 

「(予測はしていましたが、やはり入れ替わってましたか……)貴方は何故ここに?術者が彼女だとお思いなのですか?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「!!」

 

 知られていた。

 

 どこまで把握されているのか探りを入れた途端に、意趣返しのように真実を答えられた。これは厳しい展開になったかもしれない……。

 神裂は間合いを測りつつ言葉を投げ掛けた。

 

「……彼の父親を殺すつもりですか?」

 

「何故そう思うんだい?」

 

「貴方はかつて彼女のことを(マスター)と呼びました。ならば、彼女のために一刻も早く事態を収拾したいのでは?」

 

 もし、そうであれば今度はこの存在にも刃を向けなくてはならない。この状況ではまさしく最悪でしかないが、それでも魔法名と彼に対して既に誓っている。仮に命を落としたとしても誓いは必ず果たす。

 そんな決意固める神裂に、微笑みながら彼は言った。

 

「僕のマスターは優しくてね。そんな真似をすれば彼女は傷付くだろう。それは僕の望むところではないよ。サーヴァントというのはマスターの矛であり盾だ。

 彼女が心から求めたときに、僕はあらゆる障害を打ち砕こう」

 

 神裂は話しを聞いても何故そこまでするのかは分からなかった。天野倶佐利という少女には一体何があるのだろうか。その理由が神裂には見えない。だが、神裂にはその姿勢にどこか強い忠誠心のようなものが見えた。

 

「(それを全て真に受ける訳にはいけませんが、ここで三つ巴になれば既に疲労が蓄積している私の敗北は必定。そうなれば、世界の命運は彼らに握られる。

 であるならば、私はこの超常の存在を信じて戦うことが最善の選択ですか……)」

 

 神裂は名も知らぬ超常の存在に対し、先ほどからかけていた警戒を僅かに解いた。それだけで、形勢は決まった。

 

「……」

 

 そうなれば、数で負けるのは当然ミーシャだ。しかし、劣勢となるが微塵も焦りはしない。何故ならば自らは『神の力』。負けることなど絶対に有りはしないのだから。

 海水を巻き上げ水翼の数を増やすと共に、その長さは一つにつき70メートル程の長さにまで伸長していた。

 そんな破壊力の塊を見てどこか楽し気に超常の存在は言った。

 

「天使と戦うのは初めてだね。───さぁ、どちらの性能が優っているのか競い合おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エルキドゥが暴れてる……?」

 

 口から出たのはそんな言葉だった。

 エルキドゥは特典改ニとかいうのを体に宿すために、用意されただけだったはずなのに一体どういうことだ?

 

「これは儂としても予想外なんじゃが、どうやらエルキドゥの魂が何かの拍子に呼び起こされたようでの。お主が知らぬ間に天野倶佐利の身体には、お主とエルキドゥの2つの魂があったんじゃ」

 

 ……えぇー?いつの間に俺ってシェアハウスしてた?これって不法入居じゃね?…………あ、どっちかっていうとそれは俺になるのか?

 

「あれ?それはおかしくないか?じゃあ、何で俺はエルキドゥじゃなくてガブリエルと入れ替わってるんだ?」

 

 前世でアニメでは描写されなかったという場面が気になり、立ち読みしたときに、二重人格は「中身」がただ入れ替わるだけって書いてたはずだ。

 

「お主達が普通の二重人格ならばそうなるじゃろうな。だが、エルキドゥの特異性がこの結果を招くこととなった」

 

 エルキドゥの特異性?

 

「エルキドゥとは魂ではなくその身体に重きを置かれる存在での。普通のサーヴァントとは勝手が違うのじゃよ。その影響でなかなかお主の身体は愉快なことになっていたのだが。

 お主に分かりやすく説明するのならば駆動鎧(パワードスーツ)……いや、原作で浜面仕上が使用していた『ドラゴンライダー』かの。

 あのスーツには最高時速1050kmの中でも活動できるよう、操縦支援ソフトなるもの……アネリ?とかいうのがあったじゃろ。それと同じく身体の方にエルキドゥの魂があったのじゃ。

 ……いや、正確にはエルキドゥがそのようになるよう調整したのが正解じゃな」

 

 なんとも信じがたいことだ。しかし、夢遊病や異常なまでの回復力はエルキドゥというサーヴァントのお陰だとすれば、いろいろ納得もいく。

 

「うーん?いやでも、人格が二つあるなら、変わらずに御使堕しの影響は受けるのでは?」

 

「エルキドゥの特異性は他にも在っての。【対魔力】というのが極めて高いんじゃ」

 

「たいまりょく?」

 

 対魔忍的な?…………全然安心できねえ。(震え声)

 

「【対魔力】とは魔力に対する抵抗する力じゃ。それがエルキドゥは極めて高いために今回の魔術を無効化したのじゃよ」

 

「…………魔術障壁が万全なところで、何とか土御門と神裂は助かることができたってのに?」

 

「大魔術だろうがなんだろうが、物理的な攻撃力を持たねばエルキドゥに魔術はおおよそ効かん」

 

 なにそれチート?それってほとんど無敵……ってわけでもないな。魔力だけ飛ばす魔術師なんて、とあるの世界には全くいないじゃん。だいたい炎とか何かを召喚したりして、どいつもこいつも物理的な攻撃万歳じゃん。

 あ、でも呪術系なら防げるか?

 

「お、そうじゃ。呪いや病などは普通に致命傷じゃぞ」

 

 なんでさ!?

 遠坂の物理ダメージのガンドならともかく、何だその微妙な縛りは!このサーヴァント当たりなのか外れなのか何か微妙だなぁ……。

 

「そんな便利な力があるなら、俺の魔術も無効化してくれればいいのに……」

 

 つい、そんなことをブツブツ呟いてしまう。拗ねたガブリエルの姿は、それはそれは違和感バリバリだろう。

 それを聞いた神が俺の言葉を切り捨てる。

 

「アホめ。先ほど言ったであろう。エルキドゥはサポートに徹しておったのだ。それも極限までお主に関わらぬようにしてな。お主に能力が掛からぬように能力を切っておったのだから、お主に影響がでるのは当然じゃ」

 

「何でそんなことを?」

 

「共有している身体を治す程度だけならば影響はさしてないが、魂にまで魔力を通せばエルキドゥの魂にお主の魂が侵食されるぞ?」

 

 ……ファ!?

 

「そもそも、一つの身体にサーヴァントと普通の人間の魂が共存するなどありえんことじゃ。混じりあって新しい人格が生まれることもあるが、お主の場合は致命的にエルキドゥと噛み合わなかったからのぉ。魂が耐えきれず消滅するのがオチじゃった。

 表に出るときも少ない時間であることや、【完全なる形】で即席の余剰空間にお主の魂を押し込まねば、魂は間違いなく消滅していたな。

 今のお主があるのはエルキドゥがサポートに徹したためじゃぞ?エルキドゥには心から感謝せよ」

 

 

 イメージするのは[Heaven′s Feel]の片腕アーチャー士郎だろうか。もし、エルキドゥがとことん配慮し、手加減しなければああなっていた。

 とはいえ、[Heaven′s Feel]を見ていないオリ主には、イメージする事もできないのだが。

 

 

 確かに、本当にそうならエルキドゥには感謝してもし足りない。だが、少し納得できないことがある。

 

「そもそも、エルキドゥの魂が何であるんですか?エルキドゥの身体は特典改ニを付ける以外に何か理由があったんですか?」

 

 もしかして、この神は俺を使って何かしようとしてるのか?そんな疑念が沸く俺に神は言った。

 

「儂は転生させるのが与えられた役目じゃ。既にお主は儂の手から離れておる。世界を跨いで儂がお主にできることなど有りはせんよ。

 こうして話ができるのも神と人との伝令役である、ガブリエルの身体にお主が入ってるお陰じゃ。どっちかというと、儂の居るところまでアクセスしてきたのはお主のほうじゃからな?神とはいえ儂は万能ではないぞ」

 

 確かに、全知全能はゼウスぐらいしか聞いたことがないかも知れない。トールはあくまでも『とある』の世界だけだと思うし。

 神は真剣な声音で言った。

 

 

「お主の損になるようなことはせん。神に誓おう」

 

 

 お前が神やろがい!

 

 ……しかし、俺に対して嘘を言う必要もない。だって神だし。それに、反逆なんて俺にできるはずもないのだから。

 まあ、『とある』は前世で一番好きな作品だったし、特に不満という不満もないのだが。

 

「どちらにせよ、お主にできることは何もない。お主の世界の魔術師に後は任せることにせよ」

 

 そう言った後、神の声は聞こえなくなった。そうなれば、またこの世界で一人きりだ。

 

「(……することもないし、この何か無駄によく分からん知識が入ってくる場所で、ガブガブの身体でも使いながらしばらく遊ぶかー)」

 

 相変わらずオリ主は能天気だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇夜が支配するとある田舎の海水浴場には静けさが戻っていた。数十分前までこの場で繰り広げていた天使の猛威は既に鳴りを潜めている。それは御使堕しが解除されていたからなどという理由ではなく、もっと単純にして明確な理由だ。

 

「nisthp拘束ndッ!?」

 

 鎖の中でもがく天使を眺めながら、彼女に宿る存在は言った。

 

「僕に君を壊させないでおくれ。作り出された存在にも関わらず元の世界に帰りたいと願う君は、僕にはとても好ましい存在なんだ」

 

 




戦闘描写はまたの機会に。

あんまり意味無かったんで止めます。


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42.使い魔から見た主

ちょこっと修正しました


 目が覚めたエルキドゥがまずしたことは、自らのマスターを探すことだった。

 

「(まさか、僕の身体の中にマスターが居るとはね。この身体も不可思議なことこの上ない。僕と同型機であるはずなのに人間として確立している。人間の子に僕の能力を移し替えたようだ)」

 

 それもそのはず、神はオリ主の原作愛を見たかったために、エルキドゥの身体に少し細工をした。

 

「(別の世界の神だとはいえ、彼らの都合で世界に生み出されたところまで共通しているとは。……身体だけではなくそういった縁もあって、ここに呼ばれたのかもしれないね)」

 

 エルキドゥはキングゥの知識を有していたこともあり、身体に記録されていた僅かな情報から、神がオリ主に隠している計略についても正確に読み取った。

 

「(神の傲慢には思うところはあるけれど、直接的な干渉は今後二度と無いようだから僕にできることはないね。マスターが望んでいないことを強要するわけにもいけない)」

 

 エルキドゥは事の真意に気付いても行動しない。それは自分で気付かない者には手を貸す義理はない、だとかいうそんな理由ではなく、もっと単純にエルキドゥというサーヴァントは兵器なのだ。

 彼はマスターに危険が迫れば忠告や警告はするが、自ら行動しようとはしない。彼は兵器として扱われることを望むサーヴァント。

 何かを強請ることも求めることもない。望むことは一つ、道具として無慈悲に使われることだけだ。

 そんな彼は自らの力で実現不可能である事柄を、わざわざマスターに伝えるなどの意味の無い行動はしない。

 危険性があるわけでもなく現状にマスターが満足しているのなら、無理をしてそれを教える必要性はないからだ。

 

 判断基準が自らの心や価値観や常識ではなく、マスターがどう思っているかを基準にしていることが、彼が自らの行動を兵器として確立していることを読み取れる。

 その思考の元となっているのは生まれ方か、あるいはウルクで死んだからか。

 

 エルキドゥの死因は神による呪いだ。そのため、呪いと病には弱くなっているがサーヴァント同士の戦いは、主に物理的な攻撃能力がものをいう。

 つまり、身体が神に作られた兵器であるエルキドゥは、ことサーヴァント同士の闘争において、キャスターなどの呪術系統の魔術を駆使する以外のサーヴァントでは、太刀打ちすることすら難しい。

 

「(魔力も聖杯から直接注がれているように豊潤だ。これはマスターというよりも、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 それは偶像の理論によるものだが、エルキドゥが与えられた知識は聖杯以外にオリ主の知識によるものしかない。

 なまじ聖人以外の存在は偶像の理論で説明されていないため、オリ主は仮にここに居たとしても理解できないし、エルキドゥはそもそも力の全てを理解しようとすら思わないだろう。

 あるならば使う。彼の思考は兵器なのだ。

 

 とはいえ、サーヴァントとしてのエルキドゥの力と、偶像の理論によるエネルギーがあれば、星がマスターになったときの魔力を得ることができる。

 だが、ここまで良い条件が整っているにもかかわらず、エルキドゥは力をセーブしている。兵器である彼に自重などの二文字はないはずである。では、何故力をセーブしなければならないのか。

 とどのつまり、結局はオリ主のせいである。

 

「(彼女に宝具を射つことを止めたのは、冷静になったからというだけじゃない。僕の魔力にマスターが押し潰されそうになったからだ)」

 

 魂がただの凡人であるオリ主が、エルキドゥの本気について行けるわけがない。魂が軋みを上げたため即座に解除したのだ。

 パートナーの足を引っ張るどうしようもないマスターである。

 

 しかし、エルキドゥはオリ主のことを驚くべきことにかなり慕っていた。それは、友人(一番は揺るがない)となる者の条件にオリ主が当てはまっているからだ。

 

 

 

「(マスターは博愛精神に満ち、全体主義であり、それでいて自分を第一として考える者だ。心から敬愛と感心を抱くよ)」

 

 

 

 誰だそれは?

 

 その人物には心当たりがない。

 そんなキャラクターは誰か居ただろうか?もしや、オリ主がマスターになったせいでどこか故障したのか?

 そもそも、エルキドゥが好感を抱く基準は意外と高い。

 まず、自己中心的な者が多い魔術師ではほぼ無理な上、普通の感性の持ち主でも全体主義でありながら、自分を第一にするなど少し矛盾しているのではないだろうか。

 もし、その全体主義が打算によるものだとしても、その人物が博愛精神に満ちていることなどあるのか?

 オリ主がこんな高いハードルを越えたなど、不可思議なことこの上ないが、少し冷静になって考えてみよう。無理矢理そのセリフにオリ主を当てはめるとどうなるか。

 

 

「(マスターは博愛精神に満ち(打算と人並み善意)、全体主義であり(原作崩壊させないため)、それでいて自分を第一として考える者だ(これはあってる)。心から敬愛と感心を抱くよ)」

 

 

 う、うーーん。分からなくもなくもない……かなぁ?(困惑)

 

 まあ、彼の感性を否定するのは間違っているし、そもそも何も問題はない。何故なら彼は、今まで無茶ばかりする無鉄砲を全力でカバーしてきたのだ。サーヴァントの鑑であることには変わりないのだ。

 

「(サーヴァントとして僕は君に尽くそう。例え願いを叶える為の聖杯が無いのだとしてもね。僕は君の立ち塞がる敵の悉くを破壊する。だからもし願うならば──)」

 

 例え仕組まれたものでもそうでなくとも、彼がすべきことは変わらないし、オリ主(マスター)に望むことも変わらない。

 

 

 

「どうか僕を自在に、無慈悲に使って欲しいな。マスター」

 

 

 

 




バイオハッカーの存在を最近知りました。
単行本にまとめてくれないかなぁ。


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43.神の力VS天の鎖&神を裂く者

書きたいことを書きなぐってた感じでしたが、正気に戻りました。


そんな正気を取り戻した作者の初投稿です。


「(知識によるとマスターはどこか別の身体へと行ってしまったようだ。代わりに僕の中に居るのが誰なのかは知らないけど、今は眠っててもらおう)」

 

 余剰空間にオリ主の代わりに入った魂を無理矢理押し込み、主導権を有無を言わさず握った。出力を調整すればどうにかなるだろう。御使堕し編が終われば記憶が無く混乱する程度の被害で済むはずだ。

 

「(この身体に馴染まない魂だから、マスターのときよりも出力を調整しなくてはね)」

 

 オリ主は身体だけとはいえ既に十数年過ごしたため、一般的な魂よりかはエルキドゥの出力に僅かだが耐えられた。しかし、当然魂ぶちこまれた一般人が耐性などあるはずもなく、出力を絞らなければ一瞬で消滅するだろう。

 しかし、仮初めの姿とはいえ相手が天使ならば手加減などできないだろうが、今回ばかりは協力者がいる。

 

 

 

「──唯閃──」

 

 

 

 斬ッ!と、切断された水翼が海辺に大きく飛沫を上げて落ちた。あの天使相手の攻撃に食らい付いていけるだけで十分すぎる戦力だ。

 

「(剣術だけならサーヴァントを相手にしても、食らい付いていけるかもしれないね)」

 

 さすがに、英霊が生きていた時代では()()()()()()()()()()斬り合うのは不可能だろうが、生前よりもステータスが下がったサーヴァントならば、剣術のみではあるがトップクラスのセイバーのサーヴァントとも、互角の勝負ができるだろう。

 

「(彼女はあれで魔術師らしい。世界が変わるとここまで違いが出るのかな)」

 

 エルキドゥが知ってる魔術師は近接戦闘などはしなかった。ウルクに居たときもそうだったし、参加した聖杯戦争のときもそうだった。カルデアのときも同じだ。

 キャスターは罠などの搦め手を好むはずなのだが、彼女の立ち振舞いはまさに正々堂々のものであった。性能を競い合うのならこれ以上ない相手であるのだが。

 

「僕も見ているだけではいけないね」

 

 振り下ろされる水翼は『天使の力(テレズマ)』を大量に含んでいるためか、黒に近い濃い藍色をしていた。山脈をも跡形もなく吹き飛ばす程の一撃が襲い掛かる。

 エルキドゥがした動作は一つだけだった。

 

「はっ!」

 

 ドガガガガガガッッ!!、と。地面の波紋から夥しい武具が水翼に襲いかかり跡形もなくバラバラに破壊した。

 それを見て神の力は前髪の奥で目を細める。

 

「……nitedh疑問nts?」

 

 『天の力』は理解ができない。それは、地面から噴き出した数多の武器の群れを見たからではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 先程まで剣を振るう魔術師と刃を幾度も交え、その魔術からある程度のこの世界の魔術基盤は理解した。ならばこそ、その魔術は人間が生み出せるものではないと判断する。

 だが、その肉体は間違いなく人間のものだ。自らと同じようにこの魔術で堕ちて来たわけではないだろう。では何故?

 

「sbrd殲滅fehg」

 

 ──いや、疑問は浮かぶが自らの成すべきことは元の位相へと戻ること。謎は謎のままで構わず圧殺すればどうでもいい。

 

「(あの翼を破壊するのにも、5~10程度の武器を掃射しないといけないようだ。やはり、今の僕でも有効的な攻撃は一つしかないね)」

 

 相手の攻撃が力を蓄えた質量ならばこちらは物量での戦法。本来の彼の実力ならば真正面から切り崩しにかかるだろうが、今のステータスはおそらくサーヴァントの中でも平均並み程度しかない。

 トップレベルのサーヴァントであるエルキドゥだが、全てのステータスが軒並み2ランクも下がってしまえば、いつもの戦法は通じないのも道理だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迫り来る神の力の翼を高速で切り伏せながら、神裂は思考する。

 

「(どういうことでしょうか。以前刃を交えたときよりも力が落ちている……?)」

 

 神裂は理解することができない。何故なら天使や悪魔などが人に取り憑けば、肉体の強度もそれに合わせて向上するのが当たり前だ。神の力が憑依しているサーシャ=クロイツェフを見ればそれが分かるだろう。

 神の力に憑依されたサーシャ=クロイツェフと神裂と初めて相対したとき、彼女は高速で接近し上条当麻の首元にノコギリを添えた。

 では、何故上条当麻が無実であると既に把握していた神裂は、みすみすその強攻を見逃したのか。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして、神裂火織にさえ反応できない速度などを、普通の人間が出せるわけもないし、出せば間違いなく壊れてしまう。

 ならば逆説的に必ず超常の存在が憑依した者は、その出力に耐えられる肉体へと、軒並みステータスが押し上げられるということであるはずだ。では、何故以前よりも力が下がっているのか?

 

 神裂は知るよしもないがエルキドゥと神の力とでは勝手が違う。サーシャ=クロイツェフは偶然憑依されたというだけだ。当然、神の力は元々人間ではないのだから、聖人のような身体の類似点などはない。

 それに引き換え、エルキドゥは天野倶佐利の身体を媒体に召喚されているという経緯がある。神はエルキドゥの身体に手を加えオリ主の身体を造ったため、その手を加えたところ以外はエルキドゥそのものと言ってもいい。

 では、それが何に繋がるのか。私達は既にそれを知っている。

 

 そう、偶像の理論だ。

 

 姿や役割が似ているもの同士は互いに影響し合い、性質・状態・能力なども似てくるという魔術理論。

 この偶像の理論は埒外のエネルギーを確保する事ができる。神に多少改造されたとはいえ、その身体はエルキドゥそのもの。聖人よりも遥かにその恩恵を得ることができるのである。

 しかし、だからこそ一つ問題が発生する。エルキドゥが余りにも適応してしまうため、自分以外の魂が身体の中に居れば消し飛ばしてもしまうのだ。

 例えるなら、中に乗る人間のことを考えずに設計されたジェット機だろうか。速さのみを追い求め世界最速のスピードを誇る物だとしても、20、30Gに人間が耐えられるはずがない。

 エルキドゥが表に出てくるとオリ主が気絶するのはこれが理由である。つまりこれは、エルキドゥがそのままポックリオリ主が死なないように、出力を常に下げて気を使っているのだ。

 オリ主でそれならば別の魂では尚更だ。オリ主が耐G訓練を受けているパイロットならば、今入ってきた魂はただの一般人。オリ主のときよりもさらに気を使わなくてはならない。

 そのために、エルキドゥは出力を抑えている。だが、今回ばかりは全力を出せる方法があった。

 

 

 中に居るその魂を押し潰してしまえばいい。

 

 

 その誰かは自らのマスターではないのだから、そのまま消し飛ばしてもエルキドゥには関係はない。それこそ、身体がその影響でエルキドゥに限りなく近付いても、御使堕しが解ける前に元の天野倶佐利の身体へと、スキルの【変容】を使って身体を戻してしまえばいいだけの話だ。

 それに対するエルキドゥの答えは簡潔なものだった。

 

「(僕は敵対してはいない人間を殺す趣味はないし、あの心優しいマスターはそんなことをした僕にいい気はしないだろう)」

 

 ここで一つ勘違い。エルキドゥは身体の記録から、オリ主が今まで何をしてきたかを読み取ったがそれはあくまでも記録。オリ主が何を想い行動してきたかの理由には触れなかった。

 そのため、オリ主を他のキャラクター達同様に勘違いしてしまったのだ。

 

「(分かってはいたけれどかなり出力が出せないね。宝具の使用はできない。つまり、彼女が人類の脅威となっても僕はその恩恵を引き出すことができない)」

 

 エルキドゥは互いの性能差を比べ、このままでは敗北することを察する。全力ならまだしもここまでハンデがあると、流石のエルキドゥでも対処が難しかった。

 そして、恥というものが一切無い彼は当然のように隣の彼女に問い掛けた。

 

「ねえ、君。彼女の倒し方に心当たりはないのかい?」

 

「ッ……それは!不可能なんですッ!天使とは私達とは位階が違い、ます!から!倒せるなんてできない……ッ!もし、そんな方法が分かっているなら!今こうして刃を振るっている……とッ…………思いますかッ!?」

 

 神裂火織キレる。

 地面から武器を生成し掃射しているエルキドゥとは違い、今なお襲いかかる水翼を神裂はその身一つで対処している。しゃべる余裕があるのはエルキドゥだけであるのは自ずとわかるだろう。

 必要なことだとはいえ、全速力で必死に走ってる人に対して「もっと何か楽な方法があるんじゃない?」と、並走する車から聞くぐらいの暴挙である。

 こういうところは、やはりエルキドゥというべきか。

 

「少し彼女を止めてくれれば勝機はあるよ」

 

「!……本当ですか!?」

 

「うん。僕の力の中には彼女のような存在に、絶対的な力を有する物がある」

 

 

 

 

 

「それも、彼女を消滅させずに済むやり方があるよ。さあ、どうする?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パターンが変わった。

 人間達が個人での迎撃から共同での迎撃スタイルへと変えたようだ。

 

「シッ!!」

 

 真正面からの攻撃には神裂の七天七刀とワイヤーを使って、水翼を粉砕。

 

「はあッ!」

 

 左右からの攻撃には地面を触手のように使い、その先を武器へと変えた不可解な攻撃で打ち砕く。

 前衛後衛の役割分担。やってることは変わらないがチームプレイになっため、先程よりもそれぞれ余裕が生まれている。

 

「fpn不遜rstmg」

 

 抗い続ける人間に神の力は苛立ちを覚える。神の力としては持久戦へと持ち込み自滅するのを待っていたが、こうなっては余りにも時間がかかりすぎる。

 ならば、こちらも戦い方を変えよう。

 

 すると、ブワッ!と背中の水翼が一斉に天へと伸びた。天を衝くようなその光景は幻想的で神秘的のものだ。

 だが忘れてはならない。その翼の一つ一つの一撃で地形が変わってしまうのだと。その強力な翼を集めた神の力は、

 

 

 全てを纏めて一斉に振り下ろした。

 

「!?」

 

 

 ゴオッ!!と、風が吹き荒れる音と共に、破壊の権化が地球という星へと向かう。

 神の力がとった行動は明解にして最適解だ。それこそ戦法とも言えない力業である。先ほどまでの戦術をまとめて放り出したかのような単純なもの。

 しかし、その一撃の重さは片手間で防げるようなものではないし、何よりラグが一切無い。それは、それぞれの水翼による潰し合いも不可能に近いということ。

 あの一撃は未だ嘗て無い地震を生み出し、ここら一体は衝撃で吹き飛ばされることになる。そして、次は津波による被害が日本だけではなく、世界中の人々の多くを死に至らしめるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神裂火織の目の前には黒い壁があった。

 空を夜へと変えられたこともあり辺りは薄暗くなっている。水翼が深い藍色だとしても、この空に加えて覆うように展開したこの一撃は、月明かりが影になった漆黒へと変貌していた。

 一面を覆う黒。

 破壊の権化そのものであった。

 

「(しかし、諦めるわけにはいかない……ッ!!)」

 

 自分を殺したあと、この力は上条親子に向く。儀式を止めるために動く上条親子は、天の力の『一掃』に反抗するだろう。

 そうなれば、天使はあの親子を間違いなく殺して『一掃』を発動させる。そうして、次は世界中に居る罪無き人々も虐殺するだろう。

 

「そんなものは認めない!させてたまるかッ!!」

 

 ミシッッ!!と、神裂は強く七天七刀を握り締める。

 

 神裂は『選ばれた』人間だった。

 12歳の若さで女教皇(プリエステス)に選ばれた。

 飛行機の墜落では自分以外が全員死んだ。

 敵組織の襲撃を受ければその弾丸や凶刃は決まって、隣に居る誰かへと吸い込まれていくかのように突き刺さった。

 そんな幸運ばかりの人生を生きてきた神裂は一人苦悩してきた。

 

 何故、神は救う人間と救わない人間を区別するのか。地獄など行かせずに全員を天国に連れて行けばいいのに。

 何故、幸運を自分などに与えたのか。他の誰かに与えてくれればよかったのに。

 

 『選ばれた』人間が生き残るために『選ばれなかった』人間は踏み台にされていく。アジトを爆破されたときにこんな自分を庇った男の子が、こっちを見て笑いながら死んでいくことがまかり通るなど間違っている。

 そんな風に目の前で『選ばれなかった』人が『選ばれた』人間のために死んでいくなんて、……そんなものは二度とごめんだッ!

 

「──神様。貴方が『選ばれなかった』人々を救わないのならば、私が代わりにその人々を一人残さず救い出す」

 

 魔術師が戦闘の前に最初に言うことが習わしである殺し名。だが、神裂は場合は少し異なる。

 神裂は他の魔術師とは変わった人間だった。利己的に自らの願いを求め、立ち塞がる敵をを排除するのが一般的だとするならば、神裂が込める意味はその逆。

 

 静謐な祝詞(のりと)のように、神裂はその魂に刻んだ言葉を(うた)い上げる。

 

 

 

 

 

「誓いを再び今ここに。──救われぬ者に救いの手を(Salvere000)──」

 

 

 

 

 キュガッッ!!!!と、不自然に空気を鳴らしたような音のあと、黒い壁の一切が計八本の煌めく閃光に、まとめて吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆発でもあったかのように吹き飛ぶ幾つもの水翼がそこにはあった。天使の一撃を人間が防ぐというあり得ないことが起こる。それは、人間という種が示した可能性そのものだった。

 

 ──しかし、神の力の顔は微塵も変わらない。

 必殺の一手を目の前で粉々にされても神の力に焦りはない。翼などは水さえあれば幾らでも作り出せるのだから。

 このまま圧殺すれば、あの血塗れの人間が壊れることはもう分かっている。あとは、『一掃』の準備が終わるまでに妨害をしてきそうな、後ろに居るもう一人を仕留めれば……

 

 そこで神の力は疑問を浮かべた。

 

 

 

 

 

 ───もう一人はどこだ?

 

 

 

 

 

「今、気を弛めたね」

 

「!?」

 

 

 ジャラララララ!!!!、と。背後から声が聞こえた途端に、身体に巻き付く何か。神の力は知らないだろうが、それは下界では鎖と呼ばれる鉄で作られたものだ。──一般的には。

 

「nitciru破壊uierg───ッ!?」

 

 力付くで逃げようとしても脱出ができない。天使を下界に留めるには神殿を造るなどのやり方はあるが、こんな小規模の道具で拘束などできるわけがない。

 そこでふと気付いた。この鎖は先程までの武具の数々とは違い、自分達天界に住むものにとって絶対的な何かがあると。

 

「その鎖は少々特殊でね。君たちのような存在には決してほどけることはないよ」

 

 天の鎖。神性が高ければ高いほど頑丈になる力を持つ鎖。例え、全力の力ではなくとも、『天使の力』の塊である天使ならば絶対に逃がすことはない。

 神裂が体を引き摺りながらこちらに近付いてくる。

 

「はぁっはぁっ…………天使であれば撃墜術式などを使うこともないという予測が当たりましたね」

 

 天使には当然の如くそんな術式は通じない。悪魔に堕ちるときは何かしらの命令系統のバグのため、飛行術式を改良すればどうなるというものではない。

 しかし、それは逆も同じこと。あのような強力な攻撃手段を持ちながら、人間用の術式などを修めているわけもない。そのため、普段では使えないような飛行術式も使用することができる。

 

「(とはいえ、貴方の飛行も私達とは違うようですがね)協力感謝します。貴方がいなければ敗北していたかもしれません」

 

「君の考えた作戦が上手くいったようだね」

 

「ええ。とはいえ運の要素も無かったとは言えません。先ほどの攻撃然り、神の力の油断がなければ間違いなく敗北していたでしょう」

 

 そこまで言うと、神裂は不可思議な鎖で縛られている神の力に視線を向ける。

 

「神の力、貴方は私を持久戦で倒そうとしていました。ならば、私達が戦法を変えて一塊になるとしたら、一撃で殺す方法へと変えるはずだと考えましたが、上手く行ったようで助かりました」

 

「その合理的な攻撃は僕達の姿を一時的に隠すことになる。彼女が攻撃したのと同時に砂浜を潜り、海へと潜って飛行し君の背後を取る。

 僕の力を目にすれば君は対策を立てただろうからね。ずっと物量頼りの戦い方をしていたんだ。君なら一瞬で危険なものだと気づくだろうから」

 

 実際にそうなるかどうかは大分賭けではあった。

 それこそ、新たな戦法を用いて攻撃してくる可能性も十分にあったのだから。しかし、神裂に対して持久戦による自滅を謀ったことから、この展開に神裂は賭けたのだ。

 

「fgkbnm退避hcdg……!?」

 

 超常の存在の言う通り神の力は、どうやらその場から動くことすらできないらしい。天使を統括するような存在なのか、もしや悪魔の類いなのか。神裂には未だに検討もつかない。

 

「nitsyd不快efh……ッ!」

 

「君の身体の主導権は僕が握っている。君の翼はほぼ無効化できるからこれ以上の戦闘はお勧めはしないよ。それでも戦うと言うのなら僕は君を壊さなくてはならない」

 

 それでも抗い続けた神の力であったが、結局その拘束を解くことはできず、最後は時間切れとなった。

 神裂達の上を通過する一条の閃光。

 それが上条宅付近へと向かっていき、その輝く着弾の光がこの御使堕し(エンゼルフォール)の幕引きの合図となった。天使は天界へと還り、人々の中身と見た目も元に戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──何だこれ!?全身ベッタベッタで気持ち悪っ!?

 




というか、とある科学の超電磁砲Tが始まる前に、軍覇を出そうと思ってたのに物語が全然進んでない!(驚愕)
アニメの前に軍覇がどんなキャラか説明して、アニメを視聴してもらうつもりだったのに……!





※ここからはネタバレを含み、なおかつ原作組(新訳読破済み)にしか間違いなく分からないと思います。
感想欄を見て幻想殺しと理想送りを作者なりに考察してみました。そうしてみると、つくづく対極な能力だと思います。その理由を述べていきます。しかし、ただの考察なので興味があれば見てください。

まず、一つ目は力の本質。
魔神達の言っていることが本当ならば、幻想殺しは魔神達が存在しているだけで及ぼす影響を、打ち消して元の世界がどういうものかの『基準点』となる力。
そして、理想送りは幻想殺しがその受け止めきれる限界があることなど、その性能に不備を見つけたために新たに願われた、いくら影響を与えても復元する仮初めの世界『新天地』へ行くための力。
つまり、幻想殺しは本物の世界で生きていくために必要な力で、理想送りは偽物の世界で生きていくために必要な力なのではないだろうか?

二つ目は力の指向性。
幻想殺しと理想送りの違いの最たるものは、遠距離での攻撃ができるかどうか。これは、幻想殺しにはない理想送りのみに付与された力だとは思っていないか?
別に作者も幻想殺しが遠距離攻撃をできると言いたいわけではない。あの竜は幻想殺しとは別だと原作でも説明されている。
理想送りが右手の影を通して『外』へ能力を向ける力だとするなら、幻想殺しはその逆、つまり『内』に向かって効力を発揮しているのだ。上条の中にあるものを打ち消すために。
つまり、幻想殺しは理想送り同様に、能力が右手以外にも存在していることになる。
それについては原作でもブラックボックスのために考察は止めておく。

三つ目は力の相違点
1、幻想殺しは触れた異能の物を一撃で消し飛ばすが、理想送りには対象を吹き飛ばすラグあり、表層から深層に段々と伝わっていくこと。

2、千切れたとしても幻想殺しは所有者の腕に返ってくる(vsフィアンマ)のに対し、理想送りは別の所有者の手に渡る(vs木原唯一)点。これは、幻想殺しが特定の所有者の右手に能力が宿るのに対し、理想送りは右手が特定の所有者に宿るか決める力だと考えられる。

3、一つ目の力の本質と重なるが、幻想殺しは基準点として幻想を消滅させるのに対し、理想送りは幻想を作り出す能力であること。
ここで、多くの読者(新訳まで読破済み)はあり得ないと思っただろう。
何故なら、所有者となった木原唯一が「理想送りは抹消ソフトに近い」と述べているからだ。抹消ソフトならば幻想殺しと近い能力かと考えるかもしれないが、そうではない。いや、その考え方事態ではない。上里や唯一などの理想送りの所有者からすればそう認識できるというだけなのだ。ならば、魔神視点ではどうなるのか?
魔神視点だと、理想送りはいくら破壊しても大丈夫な『世界を創造』した力なのだ。
そして、これが最後の4。幻想殺しが世界を元通りにするための直接的な力なら、理想送りは間接的な力。つまり、創造した世界である『新天地』へと繋げるための扉のこそが理想送り。その『新天地』こそが真髄なのではと思う。

ちなみにですが、能力の同じところは右手自体にも能力の影響があるところです。影ができない暗闇で幻想殺しと理想送りがぶつかったのにも関わらず、能力が発動した描写や、上里が右手をはめて追放された描写からもそれは明らかでしょう。
禁書には幻想殺しを始め、右手に関する能力が幾つか出てきます。おそらく、聖書の「神の右の御手」になぞらえていらっしゃるのでしょう。そのため、左手ではなく共通した右手なのだと思います。

以上が作者の考察です。見てくれた人に感謝を。


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44.神の思惑

行き詰まったので投稿します。

※この話は全てを知っている神からの視点だと思ってください。おそらく新訳を最後まで読まないと意味が分からないと思います。

この話は賛否両論あると思いますがどうぞ。


「ふむ、繋がっていた経路(パス)が途切れたか」

 

 そう呟いたのはオリ主をとあるの世界に送った神であった。おもむろに神は傍に置いてある鏡に視線を移すと、そこにはオリ主があの世界の下界へと堕ち、天野倶佐利の身体へと戻ったところが映っていた。

 

「まさか、ガブリエルの神の言葉を人に伝えるという側面から、強引に接続してくるとは。エルキドゥの身体を儂が作り出したとはいえ、世界そのものを越えるなどそう簡単ではないのだがなぁ」

 

 世界を越えると言ったが、そもそもあの世界は一体何なのか。

 説明するためには『新訳とある魔術の禁書目録』に出てくる、とある二つのキャラクターについて説明しなければならない。

 一つ目のキャラクターの名前は上里(かみさと)翔流(かける)

 彼が持つ右手は、幻想殺しを盾とするならば矛となる右手である。

 上条当麻の右手に宿っている幻想殺し(イマジンブレイカー)が盾とするならば、上里翔流の右手に宿っている理想送り(ワールドリジェクター)が矛となる力だ。

 

 その力の効果は『願いが重複しているものを新天地へと追放する』というもの。オリ主や上条達がいる世界を説明するために重要なのは『新天地』の部分だ。

 この『新天地』とは世界の容量の限界を100%とし、人の意識の中で構築された世界は100%の内の、ほんの20~30%だけでしかない。新天地はその残った空き容量で構成されており、同じ世界だとしても触れ合うことはない、とのこと。

 つまり、この『新天地』を本来のオリ主の居た世界に適応させるのだ。

 その部分で現実世界の70~80%で『新天地』を作り、これを世界のベースにする。そして、さらにこの世界に手を加える。

 

 そのために必要な、二つ目のキャラクターの名前は魔神オティヌスだ。

 

 とあるの世界で度々出てくる『位相』というものを知っているだろうか?位相とは「純粋な物理法則の世界」の上に人が投影し、塗り重ねた宗教概念のことである。

 魔術に関係しているかどうかに関わらず、目に映る世界はこうした宗教概念という色眼鏡を介する歪んだ景色に過ぎないのだ。その色眼鏡を変化させる程の力を加えると、世界の『見え方』はがらりと姿を変わってしまう。 

 そうすると、向こう側にある「純粋な物理法則の世界」そのものを直接弄っているわけにも関わらず、人の主観では世界が全く違うものへと、作り替えられていることと変わらないことになる。

 

 魔神オティヌスはこの位相を世界に挟み込み、『見え方』を改変して上条当麻に幾億の地獄を味合わせ続けた。ならば、この方法で世界に幾つも位相を挟むと?

 

 魔術という異能が生まれるための位相。

 アンナ=シュプレンゲルが存在するための位相。

 十字教の名の元に様々な魔術宗派が生まれるため位相。

 魔術結社『黄金』が魔術の工作キットを生み出すための位相。

 アレイスター=クロウリーが学園都市を生み出すための位相。

 超能力が生まれるための位相。

 インデックスが誕生し、禁書目録へとなるための位相。

 御坂美琴が……

 神裂火織が……

 ステイル=マグヌスが……

 一方通行が……

 アウレオルス=イザードが……

 …………

 ………

 ……

 

 ───そして、主人公上条当麻がその右手に幻想殺しを宿し誕生するための位相。

 

 このように全ての事柄を一つ一つ入力していけば、想像した望み通りの世界が構築することが可能になるのではないか?

 

「儂は魂を転生させるのが与えられた役目とする神じゃ。そのため、他の権能は持ち合わせておらん。神々の黄昏(ラグナロク)に巻き込まれれば儂は何もできずに死ぬことじゃろうしな。全能などとは程遠い」

 

 神は自身の力を冷静に分析する。 

 

「その世界も天地創造などと大層なものでもない。お主の世界に手を加えて形を整えただけじゃ。1から物質世界の万物を創り出した創造神とは、比べることすら烏滸がましい程に格が遥かに違う。儂がしておるのはその程度のこと」

 

 生み出すことは同じだが無から有へ、有から有へは難易度が天と地ほど離れている、ということだろう。

 世界の神々は世界の重要な要素の化身ともいえるが、この神はそうではない。例え居なくなったとしても世界には微塵も影響は出ないのだから。天国か地獄へとたどり着くまでの、『転生世界』という寄り道の世界を創ることしかできない。

 そんな既存の物から世界を作り出せない神は言った。

 

「じゃが、『転生』において儂以上に優れた神もそうはいない」

 

 贋作を作ることしかできない神は自分の存在や力を誇るように断言した。どう思われようと自らは神の一柱であると言うように。

 魔神オティヌスは全ての『見え方』を操作することはできない、と言っている。だが、魔神とは違った純粋な神ならばそれが実現できるのも道理だろう。

 だが、そこまで話して神はどこか気分が下がったかのように続けた。

 

「儂は数多の者を転生させてきた神じゃ。特典などという人に有り余るものを付けてそれぞれの行く末を眺めてきた。

 与えられた力に振り回され、外道に堕ちる者や破滅する者などは観ていて見物ではあったが、ここまで力に溺れる者ばかりじゃとさすがに一辺倒すぎる」

 

 その顔には呆れが見えた。何十、何百、何千と繰り返してきた転生は類似していき、見応えがなくなってくる。それでは、何のために力を授けているのか分からない。

 そこまで言って神は口許に弧を描いた。

 

 

「そして、儂はふと思ったのじゃ。逆に考えてみればよいとな。すると、驚くことに簡単に面白そうなことを思い付いた!そして、思い付いたのならば試すしかあるまい!?」

 

 

 それは一体どういう思惑なのか。

 退屈を弄ぶ神が、目を輝かせて取り掛かる企てとは一体なんなのか?オリ主が映る鏡を見ながら神は分析するように言った。

 

「経過は順調。さらに枝分かれした分岐も成長中──か。ククッ!本当に楽しませてくれる!」

 

 椅子に深く座り直した神は、まるで患者のカルテを診る医者のようであった。だが、その顔はとても良医とは到底呼べるものではない、彼をまるで実験動物のように見るかのようだ。

 

 神とは傲慢な生き物だ。人間に配慮するほうが物珍しい程に。

 この神も同じだったというだけ。試練を与え乗り越えれば祝福を。乗り越えられなければ切り捨てる。

 つまり、今回もそういうことだった。

 

 

「よい。実によい。()()()()()()()()()()()()()

 

 

 果たして何のことだろうか?何をオリ主は忘れているのか。この神が企てることに、オリ主に対する思いやりがあるとは少しも思えない。

 神はその説明がないままに、鑑に映るオリ主に対して疑問を投げかけた。

 

「お主は何故死にたくないと考えながらも死地に向かっていく?それが、一度も痛い目を見なかった無知さならばまだ分かるが、幾度も傷を作り血を流しとるのじゃぞ?

 もし、原作が好きというならば、街中で話す程度の関係性で満足したはずじゃ。実際に以前のお主ならそうしたであろうに」

 

 言ってしまえばオリ主には一貫性がない。矛盾ばかりが目に写るのだ。

 そこまで言って自身の胸の内から噴き上がる衝動に、まるで堪えきれなくなったかのようにして、神は思わず口角を上げた。

 

「虚言などは言ってはいないぞ?儂はお主に()()何かをするつもりはない。儂はただ眺めるだけよ。

 ───さぁて、お主は最後まで『愛』を抱き続けられるかのぉ?」

 

 手間暇を費やして整えたものが軌道上に乗って、神はこれ以上ない程の高揚感を神は感じていた。あとはただ盤面を眺めることのみだ。

 

 

「ああ、楽しみじゃわい。あやつがどこまで■■として『愛』を貫けるのか」

 

 

 神が何を『愛』と呼ぶのか。それは博愛なのか純愛なのか友愛なのか、あるいはそれ以外の『愛』なのか。

 そして、付け加えるように神は言った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。もう既に、お主の結末はその世界の行く末すら決めかねんぞ?」

 

 自らの手間暇かけて作り出したものが、壊されるかもしれないというのに、神はどこまでも愉しげだった。

 

「そんなお主が、その愛する世界で成すのは救世か、はたまた破滅か。これからが楽しみじゃ」

 

 神は台座に置かれた杯を手に持ち、その中身を飲み干す。

 

「(更なる、苦難があやつには降りかかるだろう。その先であやつは変わらないのか、それとも失うのか、あるいは───)」

 

 隠しきれない邪悪な笑みを浮かべて神は言った。

 

 

 

 

 

「お主の『愛』がどういった未来を選ぶのか儂に見せておくれ」

 

 

 

 

 

 




アドバイスがあったので匂わしながら、これから少しずつ秘密を明らかにしていくことにします。

内容を先に知ってしまった人はごめんなさい。


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45.検索、検索ぅ!

ここまで長かった。
でも、まだもう少しだけ続きます。


 ガブガブの身体から出たら何か全身が濡れ濡れのスケスケのジャリジャリだった。嫁入り前の女の子として(嫁入るつもりはないが)これは頂けない。

 というか、これは原作でいうならラッキースケベともいえる姿ではなかろうか? ハッ!まさか上条、貴様どこかから見ているなっ!?

 辺りをバッ!バッ!と探すがどこにも見当たらない。

 それを知りゆっくりと胸を撫で下ろす。

 

「(ふぅ……。どうやら、まだヒロイン枠にはされていないみたいだ)」

 

 そもそも、御使堕し(エンゼルフォール)が解除されたということは、土御門に上条はボッコボコにされて気絶しているはずである。居る可能性などあるはずもなかった。

 

「(えぇ……。それって何?原作でいうなら挿し絵にする価値も無いってか!何かそれスゲェ腹立つんですけど!腹立つんですけど!?)」

 

 内心で意味がわからないキレ方をしているが、その顔は無表情である。

 

「ふぅ……。どうやら元の貴方に戻ったらしいですね」

 

 そんな風に話し掛けてきたのは血塗れの神裂火織。年上の雰囲気を醸し出してきたが、血塗れである。

 

「申し訳ありません。今回もまたこちらの都合に貴方を巻き込んでしまったようです」

 

 えっ?いや、それよりも早く病院……。

 

「説明は今回も控えさせて下さい。貴方を私達の問題に関わらせるのは、貴方にとっても芳しくない結果へと導くことでしょう。ひとまず旅館へと貴方は向かってください」

 

 だから、病院行かんとヤバくない?血スゴいよ?

 血の臭いとか醸し出されてもこまるんだけど……。

 

 とっとと旅館へと戻りたいのも本音であるのだが、血塗れでフラフラの人間を置いていくのも忍びない。ちょっくらやってみっか!

 

「?あの一体どうしたので……!?」

 

 みょんみょんみょんみょん、と。神裂の怪我が治っていく。やり過ぎると逆に危険なので注意が必要だ。でも、聖人だし?どうにかなるっしょ?

 

「ぜぇ……はぁ……っ。か、かなり疲れましたが怪我を治療してくれたようですね。感謝します」

 

 いえいえ、ぶっちゃけ血塗れで放置とか鬼畜にもほどがあるし。上条のヒロイン……じゃないのかな?よくわからんけど放っとくわけにもいかんわ。

 

「ふぅ……。私は彼らの回収に向かいます。貴方は旅館に向かってください。では──」

 

 そう言って、神裂のねーちんは空へと跳んでいった。能力使ったから結構疲れているはずなのに、聖人ってスゲー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわけでやって来ました。旅館『わだつみ』。

 いやー、人居ねえー。

 田舎の上に大量殺人犯の襲撃があったらしいし、人がさらに少なくなるのも当然か。

 

「(いやー、貸切の温泉はいいもんだなぁ~)」

 

 ポカポカになった体を涼ましていると女将さんにあった。当然だが御坂妹ではないらしい。

 そんな女将さんにとある相談をしてみる。

 

「少しパソコンを貸してくれないかな?調べものがあるんだ」

 

「ウチはそんなサービスしてないんだけどねぇ。とはいえ、今回のことで客引きも上手くいかないだろうし、さらに印象悪くさせるのもダメだね。

 はぁ……、良いよ。私の私物のやつなら貸せるけど、その代わり調べものだけだよ。変なことしたら承知しないよっ!」

 

「うん、それで構わないよ」

 

 そうして、従業員専用の部屋へと女将さんの好意で入室した。こんな場所まで借りて何を調べたいかというと、やはりあれしかないだろう。

 

「えぇと。検索:[エルキドゥ]……っと」

 

 そう、この身体の元となった存在である、エルキドゥのことだ。

 神に言われて今では特に気にしていなかったが、既に魂が現れているなら調べないわけにもいかない。

 さらに、ここは学園都市でもないため滞空回線(アンダーライン)が存在しない。つまり、アレイスターの監視網の外に居ることと同じだ。

 ならば、学園都市内ではできなかったエルキドゥの検索も気軽にできる。

 そして、カチカチッとサイトを開くと出るわ出るわ。思いもよらなかった新事実の数々。

 

「(えっ?ちょっと待って。エルキドゥって神話の存在!?しかも、あのギルガメッシュの友ってマジでか!?)」

 

 てっきり、無性などというニッチな属性のためにイロモノサーヴァントかと思っていたら、ガチの英霊じゃねえか!!

 

「(その上、ギルガメッシュと三日三晩殺し合える戦闘力とかパネェよ……)」

 

 あの慢心王の力はアニメを見ればよくわかる。確か、あのクーフーリンでも半日ぐらいとか聞いたことあるぞ。

 絶対星5とかいうのじゃね?ギルガメッシュの友だし、さすがに最高位のサーヴァントだろこれ。

 

「(おぉう……。そうなるとこれはこれでピンチじゃん)」

 

 内心で頭を抱えるオリ主。何故そんなことになっているのか。これはエルキドゥというサーヴァントを知らないがために、起きた悲劇である。

 

「(あの暴君と友達なんて絶対ロクなヤツじゃねえ……!)」

 

 オリ主はFate/Unlimited Blade Worksでしか、ギルガメッシュを知らないのだ。大分あやふやではあるが、イリヤ斬殺やワカメ生け贄などをした残虐性は思い出せる。

 あの王の友達なんぞ、人のもがく様を見て喜ぶ愉悦部の一員に決まっている。見た目はこんなおしとやかだけど、どうせ戦闘になったら筋肉モリモリのマッチョに豹変して、大声で笑いながら戦うバケモノになるんだろ!?

 

「(そんなヤベーヤツと体を共有してるなんて、何て恐ろしいんだ……!)」

 

 内心ガクブルである。

 

「(神がフォローしてくれているなどと言っていたが、俺の無様さに愉悦を感じているだけかもしれん……!飽きたらさっさと捨てられる!お願いだから捨てないでぇ!!)」

 

 エルキドゥが慕うマスターの正体なんぞこの程度のヤツである。諸行無常。

 

 一通り絶望して、また新たに調べ物をする。

 

「(ふぅ……。ヤバい事実とはいえ受け止めないとな。学園都市の外に出るチャンスなんて滅多に無いんだし、調べなきゃいけないのは全て調べないとな)」

 

 そんな風にしてカチカチッと次のサイトへとクリックする。

 

「(ふむふむ、ガブガブの正体は大天使。神の言葉を人間に伝える伝令の役目がある。さらには、中性に描かれることが多い天使だが、ガブリエルは受胎告知などの伝承があるために女性で描かれることもあると。

 さらに、受胎告知をして産まれた存在は十字教でも重要な存在であるあの神の子───)」

 

「──動くな」

 

 そこまで読んだときに、カチャリと頭の後ろに突き付けられる硬い感触。後ろは動くなと言われたので向けないが、シチュエーション的に考えれば拳銃が妥当だろう。

 その声は俺が知っているものだが、この世界では一度も聞いたことの無い重い声音だった。

 

「ここまで長かったぞ。ようやく、尻尾を出してくれたな」

 

 語尾がふざけたもので無いことからも、しっかりと仕事モードなのだろう。

 え?なんでさ。

 

 

 

 

「さあ、ここからは隠し事は無しで行こうか」

 

 多角スパイにして暗部所属のシスコン軍曹。

 土御門元春が俺の頭に拳銃を突き付けていた。

 

 

 




神裂はヒロインというよりも物騒なお姉さん枠かな?
惚れたなんて描写は今まで微塵もないしね。


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46.土御門元春の疑念

謎が謎を呼ぶ46話です。


「……」

 

 目の前にいるのはパソコンの前に座っている女、天野倶佐利だ。

 窓に反射し、パソコンの光に照らされたその顔は『無』そのものだった。焦りを隠す表情にしては表情筋に力が全く入っていない。

 俺達、魔術師がやる精神の切り離しに近いか。そのプロ顔負けの精度に危険度を一段階引き上げた。

 

「黙りか。良い手とは言えないな。こっちは常に引き金に指が引ける状況なんだ。この優位性は馬鹿にはできないぞ?

 拳銃で片手が塞がっているのだとしても、プロは片手あれば人を絶望の淵に叩きつけることができる。それを体感してみるか?」

 

 慈悲を与えないという意思表明は、プロの魔術師による尋問や拷問の基本だ。

 不安や恐怖を如何に与えるかということが、相手から情報を引き抜くことと直結してくる。

 上条宅で魔術を使用したあとに神裂からことのあらましを聞いた。それから、能力の自動再生(オートリバース)で応急手当をし急いでここまでやって来たというわけだ。

 そのお陰でロクな準備など当然できるはずもなく、持っていた拳銃一丁とブラフを使っての尋問だが、果たしてどこまで通用するのか。俺の腕の見せ所だ。

 

「その前に病院に向かったほうが良いんじゃないかい?血の臭いが後ろを向いていても伝わってくるよ」

 

「ご配慮深く感謝するが、血の臭いがするから俺が血を流してるとは些か早計ではないか?何故、ここに来るまでに他の人間の血を浴びたとは思い付かない?

 俺が居るのはそういった世界だ。お前にも俺が居る世界を味わってもらうぞ」

 

 とは言ったものの、これは間違いなく俺の血だ。いくら血管や肉を再生しても血までは戻ることはない。貧血気味であり拳銃を弾き飛ばされれば今の俺に勝ち目はまずない。

 今なら、上やんどころか舞夏にすら勝てるかどうかってところまで消耗している。

 本来ならばまたの機会へと見送るところだが、今回のチャンスを逃せば次がいつやって来るのか分からない。ここで叩かなければならないのだ。

 

「さあ、どうする?地獄というものを体感してみるか?」

 

「それはイヤだね。それで僕に聞きたいことは何かな?」

 

 いつもと変わらずに返答する目の前の女。この状況で突き付けられている物が分からないほど馬鹿ではないだろう。

 人のことは言えないが、その胆力をその歳で身に付けるとは大したものだ。萎縮してくれれば尋問も大分やり易かったのたが、やはり、そう上手くいくはずもないか。

 

 

 

 

 

 俺が学園都市に入り込んだのはスパイのためだ。

 魔術サイドと科学サイドを衝突させないためのバランサー。それが俺に与えられた役目であった。

 入り込んでくる魔術師の対処や学園都市の暗部として活動。必要悪の教会(ネセサリウス)の一員としての自分に、学生としての自分。多角スパイをしながらじゃあ、当然だがやることが多くなるもんだ。

 一体何足の草鞋を履いてるのか数えるだけでも億劫だが、この生活はスリルがあって嫌いじゃない。

 

 そんな中で見つけた不思議な女が天野倶佐利。

 上条当麻のコントローラーとして隣人の友人となった後、自然とコイツとは出会った。何故なら、上条当麻に最も近い存在が天野倶佐利だったためだ。

 当然、全ての情報を調べ上げた。どんな過去がありどんな能力、人格をしているのか全て。そこで、分かった情報が悉く常軌を逸していた。

 

 まず一つ目が原石の能力者という特異性。学園都市が不可能だと確定した多重能力者(デュアルスキル)に似た能力。

 学園都市の科学者が如何にも喉から手が出るほど欲しそうな、貴重なサンプルにも関わらずどうして無事なのかと調べれば、組織同士で睨み合わせ硬直状態を生み出しているようだ。

 暗部に浸かっていないにも関わらず、ここまで巧みに幾つか組織達を手玉に取るとは、もはや天才としか呼びようがないだろう。

 

 二つ目、戦闘能力。かつては風紀員(ジャッジメント)に民間人として協力していたこともあるらしく、さらには警備員(アンチスキル)の現場にも出張ってきたことがあるらしい。

 そのため、彼らの体術を身に付けており、既に正規員よりも高レベルで取得しているようだ。

 それに加えて数えられないほどの能力者をコピーしたため、戦闘パターンを把握することは不可能に近い。

 その上、体術も組み合わせた戦法は変幻自在でありながら隙がない。

 

 三つ目、人望。性格は温厚篤実ながら冗談も話すなどの柔軟さを持っている。風紀員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)はもちろん、学校の生徒達にまで慕われているようだ。

 さらには、学舎の園の出身であるらしく常盤台の生徒からも未だに繋がりがある模様。

 超能力(レベル5)の第一位、一方通行(アクセラレーター)、第五位の心理掌握(メンタルアウト)、さらに第七位との面識がある。

 一方通行とは能力の精度を測るために邂逅し、心理掌握とは先輩後輩として仲は良好。第七位は昔一悶着あったようだが今では友人関係のようだ。

 一時期は共に『原石ド根性コンビ』などと名乗って、人命救助や外道に手を染める組織などを相手に暴れまわっていたらしい。相手が原石のため上も粛清もできなかったようだ。

 そして、人助けを呼吸するかのようにしているお人好し。あの上条当麻に尊敬と嫉妬の感情を抱かせていた。

 元々、偽善使い(フォックスワード)などと自分を揶揄するヤツだ。そう思うのも仕方ない。

 ……いや、揶揄するヤツだった、というべきか。

 

 ここまで、男女が抱く理想を詰め込んだような女もそうはいないだろう。だが、かえって俺はその振る舞いにどこか作り物めいたものを感じていた。

 とはいえ、周りから良く見られたいという感情は、人間ならば少なからず抱くものであることもまた事実。そこまで疑ってかかるほどのことではない。

 

 だが、俺はあるときから天野倶佐利に本格的に疑いを持つようになった。

 

 それは、高校入学前に上条と密接な関係へとなったあとに、降りかかってくる事件を解決するため、共に奔走した記録が山のようにあったのを調べてからだ。

 最初はあの上条当麻と共にいれば、事件に巻き込まれるのは当然とも言えるし、そもそも人助けを進んでやるようなお人好しならば、そういったことに出会う機会も多くなるだろうと最初は思っていた。

 

 その情報を精査していくうちに、ふと俺は思ったわけだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 もちろん全てというわけてはないが、幾つかの事件で上条当麻を事件の中心に誘導していたのだ。それが1つ、2つならばともかく20、30と続けば偶然では済まない。これは故意で起こしたものだ。

 さらに、不審なのはある行動。

 誰も彼も助けようとする天野が、何もせずに立ち去っている記録が幾つかあった。それをよくよく調べていくと一つの事実が浮かび上がる。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 当然、学園都市に住む子供が魔術などを知っているわけがない。ならば、幾ら風貌が少し変わっているからといって、それが介入を躊躇する理由にはならないだろう。

 ヤツはレポートによると風紀員や警備員の事件に、介入するほどの正義感の持ち主のはずだ。事件があればすぐさま突っ込むような人格の持ち主が途中でそれを止める。

 

 その理由は一つ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 最初は俺と同じようにどこかのスパイかと思ったが、それにしては余りにも目立ちすぎる。『外』からのスパイではないだろう。

 だから、今まで立ち位置が分からなかった。

 

「お前は魔術のことを知っていたな?何故、魔術サイドの世界へと足を踏み入れようとする?」

 

「知らないかもしれないけど、僕はあの女剣士の彼女とは顔見知りなんだ。インデックスを助けるときに魔術の存在を知ったというだけさ」

 

 だが、今日ようやく尻尾を出してくれた。これで、この女の正体にやっと辿り着ける。

 

 

 

 

「ほぉ、じゃあ聞くがその画面は何だ?俺には大天使ガブリエルについて調べてるようにしか見えないけどな。

 魔術について何も知らないなら当然、御使堕しのことも知らないはずだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぉ、じゃあ聞くがその画面は何だ?俺には大天使ガブリエルについて調べてるようにしか見えないけどな。

 魔術について何も知らないなら当然、御使堕しのことも知らないはずだろう?」 

 

 ほああああああああ!?!?!?!?

 あかーんっ!?これって今回のことに関わっている証拠じゃん!

 

「神裂はプロの魔術師だ。生来のお人好しであることもあって何も知らない素人を、魔術の世界へと引き込まないようにする配慮は人一倍ある。

 そんな神裂が今回の魔術について説明するはずなんてあり得ないし、その中心でもあるガブリエルのことをお前に教えるわけが無いんだよ」

 

 確かに説明してなかったけどさ!ただ、気になったから検索しただけなのにぃ!(泣)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは言ってしまえば不幸な行き違いだった。

 神裂は上条親子と出血多量の土御門に動揺していた。

 

「土御門っ!これは何事ですか!!」

 

「うーす、ねーちん。俺の魔術で儀式場を破壊したんだ。そのために、これは必要なことだったつーことですたい。

 それに、俺達にはまだやることがあるだろ?さっさと天野倶佐利を探し出さねぇとな」

 

「い、いえ、そちらについては大丈夫です。先程、彼女と出会い旅館へ行くように言いましたので」

 

「……何だと?」

 

「彼女が元の身体へと戻ったようで本当に何よりです」

 

 土御門に言われ神裂はオリ主を旅館へ向かわせたことを伝えたが、土御門の目が鋭くなっていることに、サングラスであることもあり察することができなかった。

 

 

 

 そう、神裂は知らなかったのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 しかし、神裂を責めることはできない。なぜなら、エルキドゥですら主の魂がどこにあるのかわからなかったのだから。

 そして、神裂は知っていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ガブリエル相手に協力して戦っていたのだから当然だろう。

 

 

 

 その神裂の断片的な情報から土御門は疑いを持った。

 神裂は天野倶佐利の中身と見た目が戻ったことに安堵しているようだが、着目すべきはそこじゃない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 土御門はそんな不可思議な状況に一つの仮説を建てた。もし、この仮説が正しければ迅速に行動しなければならない。

 

 天野に土御門は魔術との関係性について問いただすつもりだが、神裂は今回ばかりは邪魔になる可能性があった。

 インデックスのときの借りもそうだが、さらにここに来るまでに怪我を治してもらったらしいからだ。

 優しい神裂火織はプロの宿命だとはいえ、その恩人に向けて冷酷な魔術師で居られるとは思えない。

 そんな神裂が取り調べの場にいるのはまずい。相手が人心掌握に長けた曲者であるなら、そんな神裂の心中などお見通しだと考えた。

 希望を与えるのも取り調べの技術の一つだが、噂によると心理掌握などの心理のスペシャリストを相手にして、立ち回るどころか弄んでいるなどという話もあることから、そういった不確定なものはなるべく排除した方がいい。

 さらに、そのように利用した神裂と、これで亀裂を入れるのは得策とは言えなかった。

 そのため、土御門は神裂に悟られぬように二人を病院に連れていくように言って、旅館へと一人向かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔術師の言葉が今になって信じられなくなり、ネットを使って調べたってとこか。ネットの情報に確実なものはないだろうが、無いよりはマシということもまた事実だしな。一人になったことで気が弛んだか?

 お前は御使堕し(エンゼルフォール)について知っていた。それも、俺達ではなく別口の魔術師による情報でな。つまり、どこかの何重にも貼られた防御魔術が万全な場所に居て、御使堕しを防ぐことができる魔術師。

 そんなことができる魔術師は生半可な地位にいる人物ではないってことだ。あるいは、ソイツのバックに付いているヤツがな。

 おそらく、俺達が来る前に携帯か魔術を使って連絡を取り合っていたんだろう。

 全く、道理で見つからないわけだ。今までこの騒動に乗じて外部の魔術師共と密会していたんだからな」

 

 外部の魔術師って何!?

 チャキッて音が後ろから聞こえるんですけど!?不意討ちで───ダメだ。あの土御門だぞ?あの反則王、土御門元春に不意討ちなんて効くわけもないし、そのまま反撃されるのが目に見えてる。

 印象良くするために敵対するのは止めよう。そうしよう。

 それじゃあ、隠さず真実を全て言えばいい。

 

「僕は入れ替わりでガブリエルの身体に入ってね。それで気になったんだ」

 

「ほう、60億人分の1を自分が偶然引き当てた、と本気で言うつもりか?」

 

 あ、ヤベェ無理だわ。

 逆の立場だったら絶対に信じねえもん。

 とはいえ、何もしなかったらここで死ぬ!

 思考を回せ!ハッタリでも何でもいい。原作知識を使ってこの窮地を乗り越えるんだ!

 

 話術サイドは上条だけじゃない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前はどこの魔術師と繋がっている?ローマ正教、ロシア成教。まずはここら辺から絞っていこうか。

 どうせ魔術結社のどこかからだろうが、自分達の宗派を言っている可能性も充分あるしな。

 言い逃れは止めておけ。お前がかなり以前から魔術サイドと通じあっていたのは分かっている」

 

 可能性は可能性。おそらくそれを聞くことはできないが、上下関係を決めるにはこういったことも必要だ。

 ブラフをどこまで信じ込ませ、今あるもので拷問を完成させる。別に本当に拷問をしなくてもいい。何かをする、そう思い込ませるだけで話し出すこともあるからな。

 とはいえ、コイツから情報を引き出すのは並大抵のことでは無理だろう。

 

 そんな風にこの後の展開に頭を巡らしていると、それを断ち切るように天野倶佐利がその名前を言った。

 

 

 

 

 

()()()()()()()

 

 

 

 

 

 その名を聞いて土御門の肩がピクッと動いた。

 

「……何?」

 

 聞こえた単語が信じられずに思わず聞き返してしまう。しかし、天野はその予想外の回答に、さらに衝撃的なその答えを付け足したのだった。

 

「聞こえなかったかい?僕の協力者はイギリス清教の最大主教(アークビショップ)ローラ=スチュアート。

 

 ──君達のボスだよ」

 

 

 




このポンコツぅ!!とはいえ、怪しいからやむ無し。
仕事しすぎなんだよ。一回休め。

オリ主の危機察知
「(うわー。この事件に深入りしたけど、あれって絶対に魔術師じゃん。痴女みたいな服装をこんな真っ昼間からしているヤツなんて、魔術師以外いないって。その上、外国人だし。
 俺のせいで魔術サイドの動きが変わって戦争突入とか洒落にならんし、うん、トンズラしますか!)」


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47.悪魔

ちょっと話が膨らんだので二つに分けます。


 イギリス清教の最大主教(アークビショップ)ローラ=スチュアート。

 魔術師ならば誰でも知っているほどの人物だ。必要悪の教会(ネセサリウス)のトップでありその影響力は計り知れない。

 

「ふん、大きく出たな。あの雌狐がお前の上だと?

 笑わせるな。何故あの女がお前なんぞを駒にする?あり得るわけがないだろう。聞いたことのある名前を適当に言ったのが仇になったな」

 

 最大主教は魔術サイドでは狡猾な女として有名だ。確かに、スケープゴートとしてこれ以上ないだろう。だが、そのような女がこんな特殊な学生をスパイに選ぶわけがない。

 

「全ては君のせいだよ。土御門元春。君が魔術サイドを裏切り学園都市に付いたから僕が選ばれた」

 

「この状況でまだそんな法螺が吹けるとは大した役者だな。だが、発言には気を付けろ。あんまり嘘をつき続けるとどんなに真実を話しても信じてもらえなく──」

 

「──土御門舞夏」

 

「!」

 

 その名前が出ると同時に、背中へ氷柱を当てられたかのような感覚に襲われた。

 

「君が土御門舞夏の身の安全と安心した生活を送れるように、アレイスター=クロウリーと協力関係なのは既に把握しているよ」

 

 何故だ?何故コイツはその事を知っている?多角スパイである俺だが舞夏の生活のために、学園都市よりとなっていることは否めない。アレイスターのヤツに情報を流す間は、舞夏の身の安全を保障することができるからだ。

 ……ブラフか?上条当麻の部屋に赴いているコイツは、俺と舞夏の仲の良さを知っている。とはいえ、そんなものは今さらどうでもいい。

 コイツが舞夏の名前を出した瞬間にコイツの未来は決まった。

 

「……おい、俺はさっき言ったぞ。嘘をつき続けると信じてもらえなくなるとな」

 

 コイツは俺の地雷を踏み抜いた。このペテン野郎の頭から狙いを外す。

 何も許したわけじゃない。

 その逆だ。

 今から始まる地獄の時間を長引かせてやるために致命傷を外すのだ。その拷問の始まりの一歩目に右肩を撃ち抜く。

 人差し指にかかる引き金を、容赦なく引こうとしたその瞬間。

 

 

 

 

「『おいおい、随分と物騒だなー兄貴ぃー』」

 

「」

 

 

 

 

 引き金を引く指が止まる。

 

「『もー、こういうのはホイホイ使うもんじゃないぞー?』」

 

 銃口を向けた先で振り返る顔に見覚えがあった。

 

「何だ?もしかして私のご飯が食べたくなったのかー?悪いけど今ここには作れるものはないからなー。家に帰ってからなー』」

 

 呼吸が止まった。

 

 視界が明滅するようだ。これは先程流した血のせいではないことは分かっている。目の前の残酷な光景が信じられないことが原因だ。

 

「な……何でだ!?お、お前には……そんなこと…………できるはずが……ッ!!」

 

「『うーん?何を言っているー?」

 

 そのゆったりとした声音も動作も俺は良く知っている。誰よりも近くで毎日聞いてきて見てきた。それは瓜二つなんてレベルじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「『おー!そうかーなるほどなー』」

 

 向日葵のようないつも通りの明るい笑顔で彼女は言った。

 

 

 

 

「『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』」

 

 

 

 

 目の前の視界が歪んでいくようだった。

 この最悪な光景に吐きそうだ。震える声で問いただす。

 

「お前の劣化模倣(デッドコピー)は……その髪色だけは変えることができなかったはずだ……。お前にできるはずが……」

 

「『兄貴なら知ってるはずだぞー?実際に能力を抑えて生活してるヤツも少なからずいるだろー?

 学園都市はそういった順位や枠組みにこだわるように、意識を向けるようにしていたのを私は知っていたからなー。

 わざわざ、ソイツ等の思惑に乗ってやる必要もないし、そもそも私は原石だぞー。素養格付(パラメーターリスト)なんて当てにはならないし、能力開発(カリキュラム)を受ける必要性もないんだから、大能力者(レベル4)くらいがちょうどいいとは思わないかー?』」

 

 舞夏の姿で暗部のことを話すその口を止めてやりたいが、引き金を引くことができない。それどころか照準がブレてこの距離でも当たるかわからなくなっている始末だ。

 目の前の存在は椅子から立ち上がり俺と向かい合う。いつもの表情で。

 

「『愛している人の姿を模した偽物だと分かっていても、兄貴は撃てないよなー。変身したのだとしても()()()は違うと、あらかじめ心構えをしていたんだからなー。

 予想とは違って知っているそのままの姿で出てこられたら、混乱するのが普通だから心配することはないぞー?』」

 

 当然、土御門は妹の舞夏の姿に天野倶佐利が変身する可能性も考慮に入れていた。

 愛する妹の偽物だとしても撃ち抜くことには反吐が出るが、緑の髪色という絶対的な違いさえ把握していれば、引き金を引けるはずだと思っていた。

 

 思っていたのに……ッッ!!

 

「『本物じゃないなら関係ないなんていうのはいい加減だよなー。愛してれば愛してるだけその人の面影があると、自然と引き金は重くなるもんだー。

 それも、見た目、骨格、身長、体重、声音、口調、表情、動作の全てが一緒だと、面影を思い浮かべるなっていうのも無理な話だー。

 愛してる妹の苦しむ様なんて兄貴が一番見たくないものだろー?えへへ、知ってはいたがそこまで想ってもらえるとなんだか照れくさいぞー』」

 

 飄々といいながらも照れた姿はますます既知感を与える。

 少し見ただけでそこまで把握することなんてできないはずだ。舞夏と近づけさせないために、出来る限り接触を避けるように動いてきた。

 それなのに、何だこの完成度は。

 

「『とはいえ、無茶していい理由にはならないからなー。じゃないと──』」

 

「──がはッッ!?!?」

 

 ドガッッ!!、と。背中から受け身も取れず地面に叩き付けられた。足を払い体重移動や俺自身の体重を使い、地面に叩き落としたらしい。肺にあった空気が外に吐き出される。

 

「『こうやって、私なんかに地面に転がされることになるからなー。気を付けろよー?普段の兄貴なら簡単に躱せるだろうに、そんなに血を流してるからだぞー?』」

 

 今回、俺はミスを侵した。

 血を流しすぎたことによる判断力の低下や、今まで溜まり続けたストレスで判断を逸ったことは否めない。

 上条当麻の部屋に上がり込む仲ってのは、隣人である俺達、つまり舞夏と接触する機会が多くなるってことだ。

 そして、コイツがどこかの裏と繋がっていたなら、舞夏の姿を模倣し俺に対して何か脅しをかけてくる可能性があった。

 例えば、コイツなら舞夏のそう言った匂いを残してミスリードを作り、どこかの暗部組織、魔術結社をいいように唆すことができる。

 舞夏のような一般人が裏に関わることなどあるはずがない、という前提条件を舞夏の姿で実行することにより、一瞬にして取り払うことができるのだ。

 そう、その僅かな可能性で俺はコイツをすぐにでも排除したかった。

 

 そして、生まれたのがこの状況。

 

 だが、手札がある程度揃っていたこともまた事実だ。そして、あっちの手札は把握済みだった。……いや、そう思い込まされた。

 敵が倒れる俺の上に馬乗りになる。その手には俺が衝撃で手放した拳銃が握られていた。

 

「『どうするー?兄貴ほどのシスコンなら最期に見る顔は妹の顔がいいよなー。私ならその希望を叶えてやるぞー?』」

 

 最悪だ。最悪の悪夢だ。

 だが悪魔はそこで終わらない。

 

「それとも、『私』が撃つと仮定して、そのとき浮かべるであろう顔も再現してやろうかー?』」

 

「お、お前ッ……!!」

 

 目の前が憤怒で赤く染まる。

 憎悪が胸の内から溢れるが人の顔で笑う悪魔は止まることはない。

 

「『うーん、それが嫌なら──』」

 

 そう言って、ソイツは銃口を俺から外して、

 

「ッ!!」

 

「『そこでそんな顔していたら、私の術中だと言ってるようなものだぞー?』」

 

 銃口を自らの掌に向けていた。たったそれだけの動作で心臓が凍る。

 

「『妹の血飛沫浴びてみるかー?さすがに、そこまでのプレイをリアルでしてるほど拗らせてはいないよなー?』」

 

 どこまでコイツは悪趣味なんだ。

 

「そんなことが──」

 

「そんなことができるわけがないかー?兄貴は私の能力の中に回復系の能力があることを、知っているはずなんだがなー?

 この体をどれだけ痛めつけても私は無傷の状態へと戻れるんだぞー。それに引き換え精神力だけで意識を留めてる兄貴には、これは結構致命傷だと思うんだがなー?」

 

 何が正義感だ。

 コイツのどこにそんなものがあるっていうんだ。

 

「『他にも兄貴の心を抉る方法が23通りあるんだが、全部実践してみるかー?』」

 

 俺は理解した。これは完全な敗北だと。

 それも、俺の自滅という情けないものだ。今まで散々舞夏と接触しようとこちらを窺っていたのも、俺にストレスを与え続けて判断を鈍らせるためかと、今になって気付いた。

 ここまでいいように手のひらで踊らされたとは。

 土御門元春の人生でもここまでの大ポカは初めてだ。

 

 上条当麻は来ない。

 神裂火織は来ない。

 土御門元春に土御門舞夏は撃てない。

 

 全身の力を抜いて悪魔がその遊びに飽き、俺を殺すその時を心を殺してひたすら待つ。

 そんな俺を見て、笑う悪魔は今まで通りの声音で言った。

 

 

 

「『と。まあ、このぐらいでいいかなー』」

 

 

 

 そう言ってソイツは銃口をくるり、と上に回して拳銃を掴んだ。

 その不可解な行動に眉根を寄せる。

 

「……どういうつもりだ?」

 

「『私は兄貴を殺すなんて一言も言ってないぞー?頭に血が上ってるみたいだったからなー。これで、少しは冷静になっただろー?』」

 

 殺意と憎悪でとても冷静などとは言えないが、とはいえ何故コイツは撃つのを止めた?

 

「『兄貴は私を殺せないし殺されたくもない。つまり、この場で絶対的な優位に立った今なら私の話を聞いてくれるだろー?』」

 

「……何をだ?」

 

「『真実』」

 

 端的に言われた言葉にさらに疑心が深くなる。笑いながらソイツは話し続ける。

 

「『それにしても、兄貴にしては随分と杜撰なやり方だったなー。血が足りてないんだとしても随分と短絡的じゃないかー?

 もしかして、今私を襲ったのも状況証拠ばっかりで、物的証拠は一つも無かったりしてなー」

 

 そうだ。

 コイツはここまで怪しいながらも、一切その証拠が出なかった。何度考えすぎだ、思い違いだ、と自らを律しながらも、確実に魔術と関わらないようにする動きと、舞夏へ執拗に接触しようとする振る舞いが、俺達兄妹に何かしようとする前準備だとしか受け取れなかった。

 だから、学園都市に帰るまで悠長に待っていられなかった。敵ならばすぐにでも暴かなければいけなかったからだ。

 

「『気づいてるかー?その疑心だって誰かに謀られたものかもしれないんだぞー?私と兄貴で潰し合うようになー。それこそ、アジテート──()()()()()()()()()()()()()()。』」

 

 何だ?何を言っている?魔術を──いや、何をどこまで知っている?

 

 

「『少なくとも兄貴よりかは知っているぞー』」

 

 

 その言葉には重みがあった。ブラフとは思えない真に迫ったものが。

 コイツの経歴は能力も含めて何もかもが偽造だったのか?

 プロファイリングから逃れるために何十年も?

 何故そこまでしてローラ=スチュアートに肩入れしようとする?

 俺にも学園都市にも気付かれず、いつコンタクトを取っていた?

 

 そんな疑問が浮き出ては答えが出ずに沈んでいく。それもそのはずだ。何故ならその痕跡を見付けられなかったから、俺は今こうしているんだから。

 

「『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 うーん、どうしたものかー……』」

 

 魔術サイドと科学サイドの衝突がその程度、だと……?最悪国の幾つかが滅ぶかもしれない事態へと発展するだろうことが、その程度と言ったのか?

 ますます、言っていることがわからない。コイツの価値観と俺の価値観が何もかもが違って聞こえさえする。

 一体どんな視点から物事を見てるんだ……?

 しばらくして、簡潔に伝えることができる言葉が思い浮かんだらしく、悪魔はその言葉を淡々と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『結論を先に言うと遠くない未来、ローラ=スチュアートが学園都市を中心に世界を滅ぼす、と言えば少しは伝わるかー?』」

 

 

 

 は?

 

 

 




何故か豹変してしまったオリ主。一体何が!?


~次回予告~
お願い、惑わされないで土御門!あんたが今ここで倒れたら(倒れてます)、舞(夏)さんとの生活はどうなっちゃうの?ここを耐えればオリ主に(上手く奇襲や不意討ちをすれば)勝てるんだから!
次回、「土御門堕つ」デュエルスタンバイ☆


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48.悪魔の誘惑

サイレントパーティー編の皆で戦う日っていつなんだろう?
詳しい人教えて!


「『おーい!聞こえているかー?兄貴ぃー』」

 

 いきなりぶっ飛んだ話に一瞬間抜け顔を晒してしまった。

 

「『このままだと世界がヤバいんだよー』」

 

「…………………………………………」

 

「『いやいや、これは小粋な心理戦だとかじゃなくてなー。マジな話だぞー。何のためにデモンストレーションまでしたと思ってるんだー。信じないと殴るぞー。マジでな』」

 

「……」

 

「『私はガブリエルの身体に入ってだなー。……まだ、信じなくていいからちゃんと聞けよー?

 そこである声を聞いたんだー』」

 

「ある声?」

 

 そこまで言って今までの会話とは違った雰囲気を出した。土御門舞夏のままでという器用にムカつくことをしながら。

 コイツは溜めを作ったあと俺に言った。

 

「神様というヤツだー」

 

「………………………………………………………………………………はぁ」

 

 何だそれは。

 

「『あー!今、痛い妄想女だと思っただろー!?私だって結構ヤバいこと言ってる自覚はあるんだぞー!!』」

 

 頬を引っ張ったりしてダメージを与えてくる痛い妄想女。

 それでも、顔面を殴らないのは重傷の俺に対する配慮なのか。

 俺を出し抜いたヤツはこんな女だと知って泣きたくなる。

 誰か嘘だと言ってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『大天使ガブリエルは伝令の役目を担った存在だー。それなのに、バグって役目を守る気が無いらしくてなー。代わりに身体に入っていた私に代理を頼んだというわけだー』」

 

「人間であるお前にか?」

 

「『ガブリエルの身体に入ってたんだから、その資格はあるだろうー?そうじゃないと人類が絶滅するのは目に見えていたから、断腸の思いというやつじゃないかー?神様に腸があるかは知らんがなー』」

 

「……それで、その神はお前に何て言ったんだ?」

 

「『【ローラ=スチュアートは科学の街を中心にし、世界を滅ぼす悪魔である。さらに、その要因となったアレイスター=クロウリーには注意せよ】って話だー』」

 

「…………」

 

 手を合わせて何を言っているんだコイツ。それに、悪魔はお前のことだろう?

 

「『私もそんな話は信じられないが、これからの未来に起こることをいろいろ聞いてしまってなー。もし、それが本当なら蔑ろにしてはいられないのだろー?』」

 

 そして、ねだるように俺の服を掴みソイツは懇願してくる。

 

「『私と一緒に人類を助けてくれよー。魔術や科学なんて言ってる場合じゃないんだぞー!人類が終わってしまうんだー!』」

 

 ぐいぐいやってくる馬鹿を視線から外し少し考えてみる。

 確かに、あのポンコツ天使はメチャクチャしていたのも事実。最大主教(アークビショップ)が百年もあの地位にいる化け物なのも事実。

 それらを総合的に分析して答えを出す。

 

 

 

「ふざけているのか?そのような何の確証もない話を俺に信じろと?──舐めるのもいい加減にしろ……!」

 

 

 

 確かに、あの年増BBAは異常という言葉に尽きるが、悪魔などと馬鹿げた存在のはずがないだろう。召喚魔術はアレイスター=クロウリーを最後に成功したものはいない。

 そのアレイスターも既にその大悪魔コロンゾンを元の位相へと追い返している。そして、他の悪魔がこの世界に存在しているわけがない。不老の魔術を行使していると言われたほうがまだ現実的だ。

 そんな拒絶の意味を含めた俺の返答に、何故かコイツは嬉しそうな反応をした。

 その姿に驚き目を見開く。

 

「『うんうん、兄貴ならそう言うよなー。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』」

 

「……………………」

 

 心理戦ではないという発言も実は嘘で、俺がどの程度参っているのか俺の発言を引き出した……?

 チッ!どこまでが計算なのかそうじゃないのか、その線引きが分からなくなってきている。まさか、ここまで底が見えない相手だとは思わなかった。

 畳み掛けるように悪魔は言った。 

 

「『だから、信じてもらえなかった場合のために、それとは別の利点を私は既に提示しているぞー?」

 

「利点だと?」

 

 コイツは何のことを言っている?俺がコイツを信じること自体に利点などあるわけがない。

 何だ?今さら何が望みだ?

 ソイツは俺に顔を寄せ、至近距離から囁くように言った。

 

 

 

 

 

「兄貴ですら違和感を抱けない程に模倣する人間なんて、これ以上無いほどの(デコイ)になると思わないかー?」

 

「………………………………………………………………………………」

 

 

 

 

 唖然とした。

 

「『土御門舞夏が土御門元春に向かって拳銃を向ける、なんていうあり得ない状況でも、兄貴は違和感を抱けなかっただろー?

 これって言ってしまえば、兄貴以外の人間なら気付くことすら100%無理ってことの、証明になると思うんだがー?」

 

 確かに、身内で暗部に身をおいている俺ですら見抜けないなら、他人に見破ることは不可能だろう。

 

「超能力開発だけではなく学園都市の技術は確かにゲテモノだけどなー。言ってしまえばその見分けるシステムを誤認させてしまえば、逆にこれ以上ない情報操作の鍵になるとは思わないかー?』」

 

「……無理だ。学園都市の技術は外のものとはわけが違う。イカれた精密機械を騙せるわけがない」

 

「ただの変装と一緒にされては困るぞー。

 たった数回会っただけで完璧な動作に口調ができる達人が、どれ程いるかはわざわざ聞くまでもないよなー?

 その上、少なくとも見た目、骨格、身長、体重、声音は全く同じなんだぞー?あとの口調、表情、動作を合わせていけば、何が本物と違うのか私には分からないなー。

 このままさらに人間観察をすれば、クローンでさえも真っ青なコピー人間ができるんじゃないかー?』」

 

 確かに、どんな化け物染みた精密機械でも判別するのは前者のみだろう。だが、誤魔化すのはどんなプロでも難しい。何故なら基本のベースはどうあっても他人なのだ。

 変装では骨格だけは誤魔化すのが不可能なのは、考えるまでもない。学園都市のカメラには骨格検知が搭載されているものがある。人間の骨格をAIが記憶し識別するというものだ。いくら見た目を変装で気付かれなくしたって、骨格検知だけは絶対に気付く。

 そして、スペクトログラム。

 これは、複合信号を窓関数にし、周波数スペクトルを計算したものだが、この精度も馬鹿にできない。

 声音は人間が聞き取れないレベルでの声紋というのがついて回る。これはどれだけ他人の声を真似ようが出てくる声の指紋だ。アレイスターのヤツなら、既に舞夏の声紋は取っているはず。

 つまり、いくら囮を用意しても骨格検知搭載のカメラや、スペクトログラムの音声識別装置に引っ掛かれば、一秒も経たずにバレることになる。

 

 だが、それをもしクリアできる存在がいるとしたら?

 

「今も兄貴の僅かな反応から、リアルタイムで修正しているんだぞー?いつも一緒にいる人間はその人の動作や口調を、人は記憶しているものだー。

 その記憶との差異に人間は、無意識レベルで反応してしまうからなー。それを読み取って逆算していくと、自然と答えが浮かび上がるのだー。

 ───どうだ?もう、精神的ショックや貧血でなくなったとしても、微塵も気付けなくなるほどなんじゃないかー?

 とはいえ、今の兄貴に言っても仕方ないんだけどなー。あっはっはっはー!」

 

 逆算?何を言っている?本人ですらないのにコピーの修正ができるなんて絶対にあり得ない。

 あり得ないはず。……なのに、何だこの雰囲気は。

 ここが殺し合いや取り引きの場ではなくて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 いや、そもそもコイツの言う利点とは何だ?これではまるで……。

 

 

 

「ここからは、私が勝手に話すからなー。返事はしなくていいぞー。

 まず一番の問題点は、学園都市統括理事長・アレイスター=クロウリーだなー。統括理事長と言うだけあってその影響力と権力は私には無いものだー。

 そして、その統括理事長と私という存在を天秤にかければ、統括理事長という存在に天秤が傾くのは当然のことだー。

 しかし、そもそもの話アレイスターに肩入れすることが、土御門舞夏の安全を守る方法という、一択しか兄貴には残されていないんじゃないかー?」

 

「……」

 

「そして、アレイスターの庇護を受けているのは暗部の活躍というよりも、上条当麻のコントローラーとして機能しているから、という面が大きいだろー?

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……」

 

「兄貴は近いうちにこの状況をどうにかしたいと思っているだろうけど、どうしたって何かするときには、土御門舞夏の身の回りは無防備になるだろー?

 そのときに私を使えばいいのだー。純粋な武力でも(デコイ)でも要望の120%を出せると自負しているぞー」

 

 えっへんっ!とでも言いたげな顔が腹が立つのと同時に、どこか僅かに愛おしさまで沸き上がる時点で、コイツのいう修正が嘘ではないことを悟った。

 だが、そんなことすらどうでもよくなるようなことをコイツは言い放った。まさか、

 

「……まさか、お前の今までの行動は」

 

「私は最初に()()()()()()()()()()だと、ちゃんと言っただろー?」

 

 その言葉である結論が導き出された。

 そんな馬鹿な。まさかコイツの目的は俺を殺すまでのオモチャにすることでもなく、ましてや操ることでもない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 俺の中で最大主教より悪魔らしい悪魔な神の使いは、何でもないように言った。

 

 

 

 

 

「私を兄貴の懐刀にしてみないかー?」

 

 

 

 

 




~次回予告~
「野郎、ぶっ殺してやるッッ!!」
「ちょ、ちょ待てよ(イケボ)」
「いや、さすがに。さすがにあるわけがないッスよねー?」
「───あるよ(ダンディvoice)」
「え?」

◆オリ主への質問◆
Q.何故コピー能力の実証のためとはいえ、土御門をあそこまで追い込んだのですか?やり過ぎでは?
A.この世界来て初めて、コピー能力をフルに使ってテンションが上がっちゃって……(*´∀`)ゝテヘヘ


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49.悪魔の思惑

ストックが尽きたので投稿スピードは落ちます。


 つまり何か?今までの全ては、自分を俺に売り込むためのプレゼンテーションだとでも?

 

「さあ、私のプレゼンは以上だー。さあ、どうする兄貴ぃー。私を使うか否かどうするんだー?」

 

 確かに、手駒としてこれ以上無いほどの存在だろう。もし、精密機械でも騙せるならあの科学の街でも自由に動くことができる。

 それらを鑑みて、コイツの存在は俺の切り札となり得ると冷静に判断する。

 返事をニコニコして待っているコイツに対して俺は言い放つ。

 

 

「却下だ」

 

 

 ニコニコした顔から驚いた顔になったことで、幾らか胸が透く思いだ。とはいえ、別に嫌がらせの意味で拒否したわけではない。

 誠に遺憾だがコイツの変身能力は完璧なものだ。確かに、先程の仕事はこなせるだろうが、俺自身にすら気付けない模倣など、信用など置けるわけがないだろう。

 俺のそんな思考を察したのか、握った拳を手のひらにポンっと叩いた。

 

「おー!なるほどなー。兄貴は私が妹といつの間にか入れ替わるのを危惧しているのかー。でも、その心配はどうとでもなるぞー?」

 

「何?」

 

 ここまでの模倣を見せておきながら、本物か偽物かを俺が知る方法あるとでもいうつもりか?

 俺の魔術には人物の真偽を見分ける方法があるにはあるが、その度に出血なんて割に合わないし、超能力の方は肉体再生(オートリバース)の回復系能力。精密機械を騙すための変身に、精密機械を使っての実証など馬鹿げている。

 嘘か真実かを簡単に知ることなんて到底───

 

「あの右手、幻想殺し(イマジンブレイカー)だー」

 

 あっ、と。土御門は声に出してしまった。

 

「あの右手は私の能力さえも解除することができるからなー。心配になったらそれとなく触れるように仕向ければいいだろー?

 まあ、他にも本人が目の前に居る状態で、私に電話をかければいいのだー。幾ら私でもドッペルゲンガーを作り出せるわけではないから、こっちの方がずっと楽だろうけどなー」

 

 確かにそうだ。あの右手ならば如何なる能力でも打ち消すことができる。それは今までの激しい戦闘からも明らかだ。あの異能に対して絶対的な効力を発揮する力なら真偽は確かめられる。

 その次の案に対しても、質問を10~20程ランダムで投げ掛ければ、本人かどうかは判別できる。確かに、有効な方法ではあったが一つ疑問が出てくる。

 

「何でそこまで俺に肩入れしようとする?お前に何のメリットがあるって言うんだ?」

 

 言ってしまえば、今までの説明は能力の抜け穴を自ら暴露しているようなものだ。ここで俺を始末してしまう方がずっと楽だろう。

 コイツの能力ならば死亡推定日時すら容易に誤認させることができる。死体は発火能力(パイロキネシスト)なんかの数多の能力を使えば、どうとにでもなるだろうしな。

 

 そんな俺の疑問を答える前に、何故か天野倶佐利は変装を解いた。

 

「……は?」

 

「ここからは『僕』が話さなければ意味がない」

 

 土御門舞夏の姿を解く。

 それは、自らこの場の主導権を放り捨てたものだ。何故この場でそんなことをするのかが分からない。

 体力的には厳しいが一矢報いるチャンスが、1%は生まれたことに変わりはない。何故わざわざ反撃する余地を与える?

 そんな俺の考えを嘲笑うかのようにヤツは耳にかかった髪を後ろに払う。

 月光に輝く髪を靡かせた姿は、どこか年不相応に色香を漂わせたものだった。

 こちらを見下ろしながら、その小さな口元から天野は言った。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 またしても、呆然とする。俺は一体何度予想外のことを言われるのか。

 

「君がいなくなる。ただそれだけで彼の生存は怪しくなるだろう」

 

 確かに、俺は上条当麻のコントローラー。

 アイツが最適な場所で戦え、何とか生き残るように手を加えているのも確かだ。だが、分からない。

 

「何故、上条当麻にそこまで固執する。あの右手、幻想殺しがそこまで魅力的か……?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()僕が気になっているのは上条当麻本人さ」

 

 そこで気付いた。まさか、コイツ……。

 

「お前どこまで……?」

 

「ああ、勘違いをさせてしまったかな?そちらに関してはどうでもいいよ。僕は上条当麻という人間に興味があるんだ」

 

「……?」

 

「おや?血が無くなりすぎたせいで、流石の君でも理解が遅くなっているのかな?いや、僕が別の方に意識を向けてしまったせいか。うん、端的にいうなら───」

 

 さも当然とばかりに天野倶佐利は言い切った。

 

 

 

「僕は彼のことが大好きなんだ」

 

 

 

 それは真剣な顔だった。疑いを持つ余地など微塵もないほどに。端的に告げられた言葉は、脚色されて並べ立てたものでは無かったために、逆に真実味を持たせた。

 テレビのコメンテーターが大袈裟に言葉を並び立てた表現よりも、隣の席から聞こえた「美味い」の一言の聞いたほうが、説得力があるようなものだ。

 

「彼がいない世界なんて僕はまともに生きていける自信がないんだ。だから、僕は彼を守るためにどんな力にも手を伸ばすし、どんな力も手に入れる」

 

 どう考えても分からなかったコイツの動機が今分かった。

 なんてことはない。その思惑は俺と一緒だ。

 

「そして、彼は余りにも悲劇に慣れていない。君と君の妹が死ぬようなことになれば、彼は受け止めきれないだろう。僕としてはそれは絶対に看過できない事柄なんだよ。───だから、そのために僕に力を貸して欲しい」

 

 そうか、コイツが最大主教と手を繋いだのもそれだったのだ。

 上条当麻とその周りの全てを守る。ただそれだけのために、コイツはあの雌狐と手を結んだのだ。

 その目に誤魔化しなど一切無かった。

 つまり、コイツは分かって言っているのだ。如何にそれが難しいことかを。

 眼前に伸ばされた手を見て何を求めているかを察する。

 

「……上条当麻だけではなく、アイツの守りたいもの全てを守りたいか。それがどれだけ無謀なことなのか分かっているのか?」

 

 上条当麻は悲劇に合う被害者だけではなく、加害者ですら救おうとする超ド級のバカだ。

 数時間前にも「誰かの悲劇に立ち会える不幸が幸せなんだ」何て言うおかしなセリフからもそれは明らかだろう。

 アイツの理想は青臭い理想論でしかない。それを守るなんて本当にできると思うのか?

 

「分かるとも。確かに彼の理想は高く、とても現実的とは言え無い。でも、誰もが笑顔でいられる幻想なんて、とても素敵だとは思わないかい?

 そんな素敵な幻想を守れるなら、僕は世界を救うし世界を敵に回すよ」

 

 今までのやり取りは何だったのかと言うぐらい、赤裸々な言葉だった。その姿に羞恥心などは微塵もなく、それどころか胸を張っているようにも見えた。

 

「……誰もが笑顔でいられるために世界を敵に回す、なんていくらなんでも矛盾が過ぎるだろう」

 

「後輩は近い未来、一人の女の子を助けるために60億人の人類を敵に回すよ」

 

「ハ!抜かせ。電波女が」

 

 ここに来てそんな馬鹿げた妄言を吐く女だが、さっきの表情は間違いなく本物だろう。確かに、コイツの行動も能力も信用ならないのは変わらない事実だ。だが、惚れている誰かを守りたいというのは理解できた。

 その願いはきっと俺と同じものだ。世界を敵に回しても舞夏を守りたいと俺は思っている。なら、その一点に関しては俺とコイツは同類だ。

 

 ならば、信用できる。

 差し伸ばされた手を俺は掴んだ。

 

 

 

「舞夏を守るために利用してやる。精々、背中には気を付けるんだな」

 

「うん、肝に銘じるよ。君も彼の幻想の敵にならないようにしておくれ。もし、敵になれば容赦はしないよ」

 

 

 

 こうして、密かにスパイによる協力体制が組まれた。

 




「(……事実なんだよなぁ)」
とかオリ主は考えていますね。

まさかのオリ主による大胆な告白!
いやー、この小説がここまでピンクになるとはねー(棒読み)

◆作者の考察◆
※ネタバレを幾つか含みます。
幻想殺しに許容量があるのは、上条の中にあるものを打ち消しているため、という意見があったので、それについて反論しつつ新たに考察をしてみたいと思います。
とはいえ、これは他に聞いたことが無いので、作者自身もちょっぴり不安ですけど。

許容量があるのは上条の中のモノ。つまり、中条を打ち消しているためだという推察は、ほぼ間違いなく間違っています。
では、何故か?

1つ、幻想殺しの破損
作者が幻想殺しに許容量が、あらかじめ設定されていると考えた一番の理由はこれです。
理想送りは魔神オティヌスが上条の幻想殺しを破壊したことにより、生まれた右手というのは間違いないでしょう。そこで1つ疑問に思いませんか?

何故「致命的な破損」をしたのにも関わらず、幻想殺しに何の異変も無いのか?

「いや、上条の中のモノが抑えられてないだろ?」と、思うかもしれませんが、中条を無効化するために右手のリソースを割いていたのなら、なぜ上条の体を突き破るほどの出力が中条にあるにも関わらず、幻想殺しはリソースをそちらに向けていないのでしょう? 右手に触れたモノを打ち消すならば、体の中にある異能を優先的に打ち消すのが自然ではありませんか。

中条を打ち消しているせいで、幻想殺しが100%のポテンシャルを出せないとするなら、中条の出力が上がるのと比例して、右手そのものの出力がさらに下がるはずです。
ですが、上条が腕をオティヌスに破壊されたあとに、幻想殺しの出力が下がった描写は一度もしていません。そして、幻想殺しに命を託している上条が、その事に気付かないことなどまずあり得ないでしょう。

そのことから、右手そのものによる打ち消しと右手の『内』に向けての打ち消しは、あらかじめ設定されており「右手の破損」も『内』に与える幻想殺しの力、つまり中条を押し留める力が壊れて、理想送りに流れたと考えられます。

2つ、幻想殺しは基準点である
これは原作組ならば把握しているでしょうが、幻想殺しは基準点だと幾度も明記しています。
その役割は魔神が歪めてしまった世界を取り戻すための力。そのことから幻想殺しは基準点と言われています。魔神は世界を作り直すほどの力を所有していますが、歪める前の世界の情報が無ければ、全く同じ世界は作ることが当然できません。
そのために、その幻想殺しが宿る右手から体温やら大きさやらを計算し、元の世界を思い出すための鍵とするわけです。
つまり、幻想殺しは魔神が自然と歪めてしまう力を打ち消すことができても、それ以上は打ち消すことができないということになります。

何故なら魔神の世界を作り直す力にも、打ち消しが発動してしまうからです。

世界を変えるときには当然、右手の幻想殺しも含まれてしまうため、作り変えることはできなくなってしまいます。
 もし、幻想殺しが全ての異能を打ち消すならば、『基準点』であれるはずがないのです。つまり、オッレルスの言っていた「幻想殺しは魔神の怯えと願いが生み出した」ということが本当ならば、幻想殺しにはあらかじめ、打ち消せる許容量が決まっていたことに他なりません。

そうすると、幻想殺しよりも理想送りのほうが、何故出力が上なのが見えてきます。幻想殺しは基準点の役割を果たすために、魔神の全力には打ち消しが及ばないように設定されているのに対し、理想送りはその逆。
現世に何の影響も与えずに魔神が力を行使できる世界、『新天地』への扉の役割が理想送り。そのため、魔神の存在そのものを全て『新天地』へと送り出せるように設定されているのです。
そのために、打ち消しの許容量が設定されている幻想殺しと、魔神を吹き飛ばす力を有した理想送りでは、理想送りのほうが出力が上となります。

まあ、上条当麻にとってあくまでも幻想殺しは付属品ですから。幻想殺しの方が理想送りよりも能力が劣っているからといって、上条が上里に劣っているわけではありませんのでご注意を。

以上のことから、幻想殺しはあらかじめ異能を打ち消す許容量を設定されていて、右手そのものに宿る打ち消しと、体の『内』に向けての打ち消しがそれぞれ設定されていると考えられます。


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革命未明編
50.夏休み最終日の一日前


革命未明編の戦いは31日らしいですが、この小説では30日にします。なぜかというと、アニオリをところどころ改変しないと辻褄が合わないからですね。

一七~一六歳に変えました。


 ここは学園都市。

 人口230万人が暮らす科学の総本山である。そんな学園都市に膝裏まで届く長い髪を、風に揺らしている少女がいた。

 その雰囲気に通り過ぎる人達が、思わず目でその姿を追ってしまっている。それは殺気や怒気とは違って、清廉さを併せ持つ美しさに目を惹かれることが理由であった。

 そんな周囲の視線がまるで一切目に入っていないかのように、淀みなく進む姿が却って目を惹き付けることを、彼女はおそらく気付いてはいないのだろう。

 彼女は堂々とした足取りで歩き続ける。

 

 天野倶佐利は帰ってきた。学園都市へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あ"ー、キッツぅー。マジで死ぬかと思ったぁ……)」

 

 なんかよくわからんうちに御使堕し(エンゼルフォール)が解決するわ、土御門に拷問されそうになるわで、はちゃめちゃな休暇であった。

 とはいえ、結果的に土御門と協力関係になれたため、リカバリーは成功したはず。……まあ、嘘がバレたら殺し合いになるだろうけど。

 バレるとしたらやっぱりローラ……もとい、蝿が(たか)る便所ブラシかなぁ。

 あいつを巻き込んだのは、スパイの容疑をかけられても大丈夫な相手だからだ。

 他のキャラクターを巻き込むと暗部に堕ちてしまったり、魔術結社から拷問される可能性があるが、仮にローラが責められることになっても全然問題はない。

 

 存在自体が人類の敵みたいなヤツだし、あいつがそれで刃をもし向けられても良心の呵責に苛まれることもないのだ。

 これからも喜んでスケープゴートにしたいのだが、そうそう上手くはいかないと思う。アイツの力は自身の武力だけではなく必要悪の教会(ネセサリウス)を自由に動かせる権力もそうだし。

 エルキドゥがもし全力だったとしても、聖人神裂火織を始めたとした魔術師全てを相手にするのは難しいはずだ。もし、バレて殺されそうになったら、俺の能力で逃亡生活するしか生き残る道は無いと思う。

 

 ……いや、待て待て。そうしたらこれからのイベントに立ち会えなくなるのでは?いやー、それはなぁ。

 でも、命と比べたらそのほうが……。いやー、でもなぁ。

 

 

 

 

 うーん、うーんと頭を捻っているのはこの俺、天野倶佐利一六歳の高校二年生。ピチピチの今どきJKだ。

 口と表情が動かなくなる体質があるだけの、いたって普通の大能力者(レベル4)で原石の能力者である。

 

 本来なら31日に上条とインデックスとともに学園都市に戻るつもりだったのだが、ローラ=スチュアートのスパイなどと言ったため、その辻褄を合わせるために早めに帰ることとなった。

 

 スパイの俺が一人になったらローラは、再接触をしてくるだろうから、そのときに土御門にバレたことを言う。

 そうすると、ローラは必要悪の教会(ネセサリウス)はおろか、イギリスそのものを騙していたことになるため、これ以上一般人である天野倶佐利にこれ以上の接触はしないはずだ……という筋書き。

 

 魔術サイドの重鎮が科学サイドの人間と繋がっていたなんて、バッシングが起こること間違いなし。そして、魔術サイドの情報などあのローラが教えるわけもないのだから、わざわざ魔術師を送り込んでくる可能性も限りなく少ない。

 名前や所属は土御門の推測をパクり、他の所属の魔術師が騙っていたことにしたことにすればいいので、ローラはそのような理由で証拠を確たるものにしないために、知らぬ存ぜぬを貫くだろう。と、土御門には説明した。

 実際にそうなるかどうかは関係がない。というか、そんな風には絶対にならない。だってスパイじゃないし。

 

 ここで重要なのは土御門が納得するかどうかだ。ローラにスパイのことを言っても煙に撒くだろうことをイメージさせ、土御門が天野倶佐利のことを言ってしまうと、体よく天野倶佐利を抹殺に向かわせる口実が生まれることを理解させた。

 とはいえ、土御門ならば得意の駆け引きを使って、スパイのことを問いただそうとするかもしれないが、こればっかりは土御門しだいのため何かすることはできない。

 あのローラから情報を取るために画策するのか、協力者を失う危険を侵してまでカードを切る必要性が無いと判断するのか、ここは土御門の気分次第のため、もしチクられたらその時はその時だ。

 

 これからどう動くのかは土御門には既に言っているので問題はない。ぶっちゃけ結束はしたが、することは今まで通りの生活と大して変わらないため、特段気を付ける必要はなかったりする。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 そんなわけで、こうしてお先に学園都市へと舞い戻ってきたのだ。今頃上条と土御門が仲良く病室で話したり、インデックスに噛み付かれたりしているはずだ。

 そのシーンに立ち会えないのは口惜しいが、この世界で生きていくためには耐えなければならない。

 

 そのような理由のため今日は8月30日。上条達が帰る日にちとは一日ズレた日程となっている。

 上条はいないし一方通行(アクセラレータ)打ち止め(ラストオーダー)の名シーンは31日の深夜のため、まだまだ時間がある。

 つまり、今日は完全なフリーだ。

 

「(帰ったのが深夜だから今って早朝なんだよなー。タクシーの中で睡眠取ったから大して眠くないし、はてさてどうやって時間を潰そうか……)」

 

 友達でも誘えばいいのだろうが、オリ主には連絡を取れる人間は意外にも少ない。

 確かに人望はあるが、その容姿や能力から遠巻きに見られることが多く、連絡を取り合うような近しい人物は両手の指で足りる。立ち位置でいうとレアキャラだ。はぐれメタルのようなものである。

 

「(みさきちは多分派閥の皆と交流してるだろうし、軍覇は連絡しても意味無いだろうし……)」

 

 食蜂操祈は派閥の女王として自由気儘に振る舞うが、その実派閥想いの女の子である。そんな彼女であれば派閥の皆と遊んでいる可能性が高いため、誘うのに気が引けた。

 軍覇はおそらく誘えば了承しそうだが、いつでもどこでも暑苦しく行動しているため、携帯が鳴っていても気付かない可能性がめちゃくちゃある。勘だがまず不可能だろう。

 というか、土御門とあんなヤバイ展開になった翌日に、根性バカの相手をしてられないのが本音だ。あのテンションはもっとフラットな気分なときに付き合いたいのだ。

 あとは、小萌先生という奥の手もあるが、さすがに教師を学校が始まる数日前に、暇潰しで時間を使わせるのも忍びないので小萌先生もなし。上条とインデックスは言わずもがな。

 

「(あれ?もしかして俺って友達少なすぎ……?)」 

 

 とはいえ、そんな残念なオリ主でも、さすがに携帯に登録されている名前はこれだけではない。ある少女に電話を掛ける。

 

 Trrrr

 

「……」

 

 Trrrr……

 

「……」

 

 Trrrr……

 

「……」

 

 Trrrr……お掛けになっt──プツン

 

「(……うーん?朝って言ってももう6時だし起きてるはずなんだけどな?もしかして、本当に何かの事件に巻き込まれたか?)」

 

 仕事柄そう言ったことに巻き込まれやすいとはいえ、まさか原作に無い展開を生み出すとは。

 まさか外伝の主人公にでも選ばれてしまったのだろうか。

 

 

 

「(それじゃあ、いっちょ助けますか。何だかんだ仲の良い友達だし、原作の流れ的にも無視はできないし。

 そもそも、とあるのキャラの中でも結構好きな女キャラだから、助けに行かない理由のほうがないしな。

 か、勘違いしないでよね!別にあのおっぱいを久し振りに揉みしだきたいわけじゃないんだからっ!)」

 

 さて、オリ主の本音はどれだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人を探すのはGPSなどの機械から調べればどうとでもなるが、あいにくオリ主の能力には劣化してしまうという特性があるため、数あるコピーしたそういった能力(例えば御坂美琴などの電撃使い(エレクトロマスター))を使用しようとしても、本家のような精密な作業をすることはできない。

 そのため、本来は読心能力者(サイコメトリー)などの能力を使って追跡していくのだが、()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()使()()()()

 

 その力はFateの世界では気配察知と呼ばれる。主に回避などで使われる能力である。

 エルキドゥの気配察知は全サーヴァントでも、五本の指に入るほどの代物だ。泥から造られた存在のため自然との相性が良く、大地を通じて遠くの水源を見付け出すことも可能だという。

 

 しかし、なぜ人探しでこんなアバウトな能力を使うことにしたのか。それは探し人のやっている活動に起因する。

 

「(風紀委員ならほぼ間違いなく人の多いところに居るから、その内の一人の風紀員に直接聞けば、探すための情報の土台くらいにはなると思う)」

 

 意外と頭を使っているオリ主。とはいえ、10年近くその身体と付き合っていれば、自分の身体に対する理解が深くなるのは必然なのかもしれない。

 目を瞑り集中していく。そして、その力を発動した。

 

 

 

「(直感スキル発動……っ!)」

 

 気配察知である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警備員(アンチスキル)を手懐けた程度でいい気にならないでよね!」

 

 そんなわけで早々に見つけた矢鱈と人の多い場所に訪れると、目的の人物が普通に居た。

 内心「えぇ……」と気分が真っ逆さまに落ちている俺を尻目に、赤のレザージャケットを身に纏ったメガネおっぱいが、テンション高めで周りの風紀委員を扇動しているではないか。

 さらに、白井黒子や初春飾理を始めとした風紀委員の皆様方と、なぜかプラスワンで参加している佐天さん。とある科学の超電磁砲Sの最終回に、この全員集合のこの絵面は確かに映えるものだろうと思う。

 

「学園都市の風紀を乱す者は!」

 

「それからフェブリを苛めるヤツはっ!」

 

「この盾の印に懸けて!」

 

「絶対に許しませんのっ!」

 

 テレビだったら今最高に盛り上がってるんだろうなー。と、死んだ目で見つめていた。

 ……何だろう、友達を遊びに誘おうとしたら、既に仲良しグループで遊んでいる光景を、偶然目撃してしまったのかのような疎外感を感じる……。

 

「じゃあ、今回は白井さん流に」

 

「へ?」

 

 あーはいはい、皆で言うあれでしょ?居るよね~、矢鱈とグループで同じことをする女子って。

 青春とか言いながら結局それって黒歴史だし。輝かしい青春の1ページとかじゃ断じてないし。

 

 俺の探し人である固法(このり)美偉(みい)は、まるでリア充のように皆の呼吸を合わせて言った。

 

 

 

 

風紀委員(ジャッジメント)ですのっ!!』

 

「ちゅーのぉ!?」

 

 

 

 

 ぐすんっ…………もう、帰ろっかなぁ。

 




評価のコメントで三人称を、天野で統一して欲しいとの意見がありました。違和感を抱きやすいと思いますが、このように表記していることにもちゃんと意味があります。
さらに、この後の小説のストーリーにも深く関わってくるので、変えることはありません。申し訳ないです。


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51.風紀委員とは斯くあるべし

この章はレールガンのキャラを魅せていく章になると思います。
もちろん、オリ展開もするつもりです。


『うおおおおおおッッ!!』

 

 盾を持った風紀委員(ジャッジメント)達がパワードスーツの群れにぶつかって行く。風紀委員の生徒達とパワードスーツの大群という、珍しい抗争が行われていた。

 その戦いの中で一番の戦果(スコア)を叩き出しているのは、御坂美琴狂いという一点を除けば、まさに風紀委員の鑑とも言えるツインテールの少女。

 

「白井さんっ!」

 

「感謝しますの!」

 

 槍が入ったバックを風紀委員(ジャッジメント)の一人から受け取り、すぐさまリロードを行う。

 身の丈程のあるバックは明らかに戦闘には適していないが、白井黒子程の空間転移能力者(テレポーター)にはそれは当てはまらない。

 

「はあッ!!」

 

 ガガガガンッ!!と音を鳴らし、槍が一瞬で幾つもパワードスーツに打ち込まれる。一気に無力化するその制圧力は他の追随を一切許さない。

 しかし、この場に居るのは白井黒子だけではない。

 

「おい!そっち行ったぞ!」

 

「二人で動きを止めるんだ!」

 

 ガンッ!と振り下ろされるパワードスーツの一撃を防ぎ、後ろからもう一人が襲撃する。スリーマンセルでパワードスーツと相対しているため、例え攻撃的な能力を持たなくとも、押しきられることは無いだろう。

 

「離れて下さいな!」

 

「ッ散開!」

 

 投げ掛けられた言葉に従い、すぐさまパワードスーツを押し退けて離脱する。当然の如くパワードスーツは彼らを追おうとするがそれは不可能だった。

 

 

「どっせぇーーいっ!!」

 

 

 豪快な掛け声と共に放たれた一撃が、パワードスーツを水平に吹き飛ばす。使われた砲弾は吹き飛ばしたパワードスーツと同じ機体の一つだ。

 

「おーほっほっほっほ!この(わたくし)、婚后光子の手に掛かればこの程度のことなど造作もないですわ!」

 

 扇子を広げて意気揚々としゃべるのは大能力者(レベル4)空力使い(エアロハンド)、婚后光子。彼女に掛かればパワードスーツを撃退することなど一人で充分なのだ。

 そんな婚后に近く居た女子の風紀委員が、焦ったような声を出す。

 

「っ!危ないっ!!」

 

 高笑いを上げる婚后光子に接近する二体のパワードスーツ。いくら大能力者(レベル4)の能力者といえども、その体は女子中学生のものでしかない。

 直撃すれば最悪致命傷となるかもしれないが、婚后光子はこの程度で慌てるなどの無様は晒さない。

 

 

 少女を間合いに捉えた瞬間、二体のパワードスーツが空へと高く打ち上げられた。

 

 

 婚后光子の空力使いは、手で触れた箇所を噴射口にして空気を打ち出すというもの。

 そして、それは地面にも適応しており、さらには任意のタイミングで発動できるため、こうして(トラップ)として使えば強力なものとなる。

 

「無人機ということはプログラム通りに動くことしかできないということ。そして、搭載されているAIの性能は既に把握できています。

 アルゴリズムが変化しないことを察するに、質より量と言ったところでしょうか。そのような代物では私に傷を付けることなど、百年掛かっても不可能ですわよ!おーほっほっほっほ!」

 

 艶やかな黒のロング自らの空力使いで靡かせているのは、常盤台でも屈指のお嬢様である婚后光子。おでこを見せ付けるかのような髪型は、まるで彼女の気の強さの現れのようだ。

 高飛車な言葉遣いをする少女だが実は情に厚い女の子である。今こうしてここに居るのも、御坂美琴に助太刀を頼まれたためだ。

 「そのような悪党は許しては置けませんわ!この私、婚后光子にお任せ下さいませ!」と、事のあらましを聞いた途端に二つ返事で了承したことが、彼女の人柄の良さを現している。

 彼女は大能力者(レベル4)のため、同じ動きしかしない相手など歯牙にもかけないだろう。とはいえ、不測の事態というのは得てして、気を弛めたときにやってくるものだ。

 

 

 

 婚后光子の背後から、突然パワードスーツが建物と植木の影から現れた。

 

「えっ、えっ、……のわぁああ!?」

 

 その出現は絶対にあり得ないものだった。

 風紀委員に所属しているという守護神(ゴールキーパー)の算出したものによると、エリアごとにパワードスーツは配分されており、現れる方向は統一しているという。

 しかし、このパワードスーツは明らかに他とは逸脱した動きで、婚后の警戒範囲の外から突然現れた。

 

「(まさか、外部から新たなアルゴリズムの入力を!?……いえ、そうではなく他の担当エリアの打ちこぼしですか!)」

 

 所々損壊していることから、おそらく向こうのエリアから吹き飛ばされて来たのだ。索敵→接近→攻撃という単純なアルゴリズムのため、偶然にも索敵の範囲に引っ掛かった婚后に向かって、背後から襲い掛かって来たのだろう。

 背後を取られた婚后に対処することはできない。能力はあらかじめ設置するタイプであり、とっさの防御には適さないものだからだ。

 

「「婚后さんっ!!」」

 

 その様子に婚后といつも一緒にいる泡浮と湾内の二人が、急いで助けに向かおうとするが、二人は遊撃として動いていたため婚后とは距離がかなり離れてしまっていた。

 他の周りにいる風紀委員も急いで対応しようとするが、不測の事態のため対処が遅れてしまい間に合わない。

 彼らの懸命な動きを嘲笑うかのように、無慈悲にもその一撃は振り下ろされた。

 

 

 

 

 男子でも二人がかりでもないと受け止められない程の一撃だ。

 その上、それを脳天に叩き付けられれば、少女の頭蓋がただで済むとは思えない。

 それにも関わらず、

 

「……あ、あら?来ない……?」

 

 ぎゅっと、強く目をつぶる婚后だが、強烈な一撃はいつまで経ってもやって来ない。それどころか何故か安心感まで感じる程だ。

 そんな婚后に向けて上から声が掛けられた。

 

「『はあ~~~~。全く本当に世話が掛かる人ですのね。あなたは』」

 

「し、白井さんっ!?」

 

 自分をお姫様抱っこしている人物は、同じ大能力者(レベル4)にしてとことん馬が合わない風紀委員。白井黒子だった。

 空間移動(テレポート)を使い助けたのだろう。先程のパワードスーツに槍が刺さっていることから、助けたと同時に破壊したことが分かる。ひとまず先の危険からは退いたようだ。

 

「あ、ありがとうございました。お陰で助かりましたわ。……しかし、何故あなたがここに……?あなたの管轄エリアは正面玄関だったはずでしょう?()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう、いくら空間移動(テレポート)ならば一瞬で駆け付けられるとしても、その状況を視認していなければ介入できるはずもない。

 

 まるでその言葉を待っていたかのように、ニヤリと白井黒子は笑みを作ると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、パワードスーツや周りの人間に向かって、宣言するかのように言い放った。

 

 

「『私を誰と心得ていますの?学園都市の治安を守る風紀委員(ジャッジメント)の白井黒子ですのよ!助けを呼ばれれば誰だろうとすぐさま駆け付けますの!』」

 

 いつものように小柄でありながら、頼れる背中をしたツインテールの風紀委員は、いつもと同じく誰かのために危険に身を投じる。

 

 何故かいつものピンクがかった茶髪ではなく、黒髪という珍しい髪色をしていたが。

 

 



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52.久し振りのご挨拶

どうぞ


「みんなここは絶対に凌いで!」

 

『了解っ!』

 

 パワードスーツと風紀委員(ジャッジメント)の面々がぶつかる。風紀委員は治安を守るためにある組織のため、それぞれの地区に相応の人員が配置されている。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それもそのはず、風紀委員に所属しているのは戦闘員だけではない。

 裏方で働いている人間も当然いるのだ。パワードスーツに対抗するための人員を合わせようとすると、各支部から裏方以外の風紀委員の全てが持ち場にいないこととなってしまう。

 そのため、スリーマンセルで当たるのが最適なのだが、ツーマンセルでパワードスーツと相対する組みも出てきてしまう。

 

「パワードスーツの攻撃を二人で防ぐことができて良かったわ……。そうじゃなきゃ能力者にかかる負担が大きすぎたはずだもの」

 

 風紀委員にも能力者の人員はいるが、治安の問題のために全ての人員は確保できない。御坂さんが常盤台から何人かの生徒を集めてくれたが、それでようやく拮抗する戦力だ。

 固法(このり)美偉(みい)は考える。

 

「(このままいけば戦線を保つことはできる。でも、何か不測の事態になったときに、そっち側に回す余裕はないわね……)」

 

 全員が今出せる全てを出して事に当たってくれているが、集中力がいつまでも続くわけがない。もし集中力が切れて何らかのミスが起こるのは大惨事だ。

 

「(何かあと一手!一手あれば……っ!)」

 

 無い物ねだりだとしても望んでしまう。何かしらの打開策があればそれだけ個々人が余裕を持って戦える。

 だが、今出せる全ての戦力は既に投入済みなのだ。そんなものが都合良く現れるはずが───

 

 

 

「ふっ!!」

 

 

 

 ドガァアッッ!!と、まるでトラックが激突するかのような轟音と共に、目の前に迫っていたパワードスーツが近くの壁へ勢い良くぶつかっていった。

 

「は?」

 

 不可解な出来事に硬直してしまう。高速で横から飛んできた何かがパワードスーツを蹴り飛ばしたのだろう。あくまで何かを蹴り飛ばした後の姿勢を見ての推察でしかないのだが。

 

「(一体、あれは……?まさか増援……?御坂さんが他にも声を掛けていたの?)」

 

 思考を回すために僅かに注意が逸れてしまった。それが固法の命運を分けた。

 

 目の前の人物が視界から消えたと同時に、脇の下から手が伸びて自身の胸を掴んだのだ。

 

「うひゃあっ!?」

 

「『うふふふっ相変わらず立派なものをお持ちですのね。この手にかかる重さも懐かしい──……おや?なんだかあの頃よりもさらに重量感があるような……?

 ま、まさか、まだ伸び代があるとでもいいますの!?そんな馬鹿な!?どこまで進化をすれば気が済むんですのこのお胸は!?こんなもの、既に物理法則の外にまで飛躍しているッ!?

 …………しかし、この世界に存在しているのですから、物理法則の中にあることは変えられない事実。では、なぜこのような致命的な誤差が生まれたのでしょうか?

 いくらあの牛乳にそのような効果があったとしても、ここまで大きくなるなど計算が合わないはずですのに…………いや、もしやスケールが私の予測を超越している……!?

 ま、まさか地球の物理学では計算ができないということなのでは!?

 この現象を理解するためには地球ではなく、宇宙の理論を当てはめることが正しいということ。

 一般相対理論で光の速度は変わらないのに対し、宇宙は常に膨張していますの。そのため宇宙の広さを正確に測ることは、星々の輝きを観測しても不可能。つまり、これこそが誤差の原因……!

 ということは、逆説的にこのお胸を解析していけば宇宙の神秘を解き明かすことも遠くない未来にはできるのでは……?』」

 

 レザージャケット越しとはいえ、自身の胸をいきなり掴まれた。というかそのまま揉まれ続けている。

 白昼堂々現れたそんなことをする変態野郎には、全くもって遠慮というものがなかった。がしっではなく、ぐわしっという感じでずっと揉みしだいてやがるのだ。

 そしてこのイヤに身に覚えがあるシチュエーションに、目を逆三角にした固法はその手をぐわしっと掴む。「へ?」と間抜けな声を出した襲撃者の視点が一瞬で裏返った。

 

「人の後輩に化けて何を語ってんのよッ!!」

 

 それは綺麗な背負い投げだった。

 速く、鋭く、素早く、なにより重い一撃だった。

 だが、その一撃が決まるかどうかはまた別の話。

 

「『──よっと、全く今の背負い投げが決まっていたらどうするつもりでしたの?アスファルトに背負い投げなど普通の人間でしたら重傷ですのよ?』」

 

「素でパワードスーツを蹴り飛ばすような女に、この程度の一撃が通じるわけがないでしょうがッ!」

 

 空間移動(テレポート)を使い背負い投げから逃げた変態は、帽子を被り顔を見えないようにしているが、間違いなくあの正義感が強いツインテールの少女の姿をしているはず。

 忌々しいド変態である。

 

「『そのご様子では私の正体までしっかりと、認識されてしまっているようですわね』」

 

 そういうとウェーブがかった長い髪が、さらに長い長髪へと伸び等身も見下ろしていた小柄な体躯から、見上げる程の身長へと伸びていた。

 いつもは余裕あるお姉さんとして白井や初春の前では振る舞っているが、額に井桁を浮かび上がらせてぶちギレていた。

 

「それで何で呼んでもないのにここに居るのかしら?天野倶佐利さん?」

 

「そんなに怒るほどのことでもないだろう?僕と君との長年のコミュニケーションじゃないか」

 

「へぇ……、私がいつそのコミュニケーションの方法を了承したのか、是非教えて欲しいわねぇ……?」

 

 そんな風に固法と仲良く(?)話しているのは天野倶佐利だ。彼女は白井と以前バディを組む前に、177支部を出入りをしていた。

 とはいえ、固法や白井とは違い正式な風紀委員ではなく、御坂美琴のように民間人の協力者として事件で関わることが多く、いつの間にか居るのが当たり前になったというだけなのだが。

 しかし、ここ最近はめっきり関わることもなかったため、今では連絡を取り合うこともなかった。

 そんな彼女は帽子を目深に被り、()()()()()()()()()()()()を揺らして言った。

 

「すまないね。僕にもやることがあるんだ。こうして正体不明の飛び入りとして振る舞っているのが限界なんだよ」

 

 それは本当に振る舞っているのか?

 

「そのお詫びにこの機械をある程度まで減らすから、それで許しておくれ」

 

「はぁ……、あなたって本当に暗躍が好きよね。大概は上手くいかないくせに」

 

「あらかじめ手を打てば最悪の状況にはならないからね。僕は慎重なんだよ。……それと、さりげなく言った上手くいかないという言葉には反論するよ」

 

「でも、事実じゃない」

 

 そんな会話をしながらパワードスーツ相手に、徒手空拳でどうにかする長い黒髪に帽子を被った女。周りからは珍妙な行動ばかりするヤベー奴認定を食らっていることに、どうやら気づいていないようだ。

 

「ある程度まで減らしたら別のところにも行くよ。そしたら戦闘行為も帳消しにしておくれ」

 

「ええ、それに関しては協力志願の要請をあらかじめ受けたことにしてあげる。……でも、さっきのセクハラはしょっぴいてあげるから覚悟なさい」

 

 先程の暴行を許した訳ではなかったのだ。婦女の暴行の現行犯で捕まえてやると割りとマジで考えていた。

 そんな彼女の様子を見た天野倶佐利は、何でもないかのようにその事実を言った。

 

「ふむ、そうなるとさっき僕がコピーした君の後輩である彼女は、明らかに僕よりも罪状が上のようだけど、彼女も連行するのかい?」

 

「…………」

 

 固法美偉は悔しげに唇を噛み締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人通りの少ない関係者専用通路を、コツコツと靴を鳴らし四人の少女達が歩いていく。四人には当然音を出さずに歩くことなど造作もないが、これは蹂躙のためバレたらバレたで全員潰せばいいだけだ。

 

「…………」

 

「あーあ、麦野完璧にキレてるよねーこれ。私達も今回何かミスったらただじゃ済まないんじゃない?……はぁー、本当に散々って訳よ」

 

「それはそうかもしれませんが、……あの、麦野の怒りがこっちに向きそうなこと超言わないでもらえますか?死ぬのはフレンダだけにしてくださいよ。超迷惑なんで」

 

「……うん、私も今回はそう思う」

 

「うええっ!?あの滝壺が応援までしてくれないの!?私そんな地雷踏んだ!?」

 

「おい、うるせぇぞテメェら!……それ以上騒ぐようなら強制的に口を閉ざしてやるわよ」

 

『…………』

 

 

 




何を書いてんでしょうね。書いてる最中も書き終わった後もてんで意味がわからないや。
あと、風紀を乱すと言えば巨乳Tシャツの奴も大概では?

ちなみに、固法先輩は作者の一番好きな女キャラだったりします。黒髪セミロングでメガネをかけた面倒見がいい美人なお姉さん。その上cv植田さんですからね。
他にあんまり固法先輩推しがいなくて悲しいです。
どうかレールガンでもっと出番が増えてくれっ


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53.とある風紀委員の昔

あの先輩の昔話です


 あのいろんな意味での変態の少女が、無人機のパワードスーツをある程度撃退して、私の前から去っていった。今頃他のエリアで暴れているのだろう。

 

「本当に都合良く現れてくれるわ。千里眼の能力でも持って…………はいるのでしょうね」

 

 いや、能力の特質からも持っている方が自然とも言える。触れた相手の能力と髪色以外の姿をコピーする能力。噂では超能力者(レベル5)に近い大能力者(レベル4)の一人と言われているらしい。

 

「能力のレベルが高ければ高いほど、人格が個性的なのは当然とも言えるけど」

 

 彼女は飄々としていて掴み所がないにも関わらず、こちらの懐に自然と入ってくるおおらかさがある。彼女が隣にいるだけで安心してしまうようなそんな何かが。

 能力のレベルが高いということは自分だけの現実(パーソナルリアリティー)がより強固ということ。それは一般的な人よりも個性が強いことを意味する。

 個性が強いということは周りに合わせず、"自分らしさ"を伸ばすことへ一切の躊躇が無いということだ。

 御坂美琴のあの反抗期真っ只中とでも言える小生意気さと、相反するような世話焼きの性分。白井黒子のあの正義に懸ける懸命さと御坂美琴に懸ける変態性。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は、高位能力者の特質とも言えるものだ。

 そんな彼女達を見ていると、彼女達にレベルが劣っているところを見せつけられているかのようだ。

 でも、私には私にしかできないことがあることももう知っている。だから、今さらそんなことでくよくよしてられない。

 とりあえず、今回の事件を解決することに全力を尽くす。私は風紀委員(ジャッジメント)なのだから。

 

 

 

 ──私はかつてそんな彼ら彼女らに憧れた。高位能力者達は私の目標だったから。

 

「……いや、違うわね」

 

 そうだ。私はそんな不特定多数の能力者に憧れたんじゃない。あの全てが変わっている少女、天野倶佐利という少女に憧れたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~3年前~

 

「はぁ……っ!はぁ……っ!」

 

 先輩に連れられて私は路地裏を走る。

 連絡があったのが数分前。たかが数分前だがその数分さえあれば、人間をどうこうすることなど学園都市の不良には容易いことだ。

 支部からオペレートしてくれる仲間の指示を聞き、最短距離の道を走り抜ける。

 そして、目的地へ最後の角を曲がりようやく到着した。腕章を引っ張り警告を飛ばす。

 

風紀委員(ジャッジメント)です!大人しく拘……束…………」

 

 そこにいたのは不良たちではなかった。いや居るには居るが軒並み地に倒れ伏していた。その彼らの中央に長い髪を揺らして立っている少女がこの場の支配者だった。その彼女が私に気付いたのかゆっくりと振り返る。

 

「──おや、まさか君が来るとはね」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今は夏真っ盛りのため半袖ではあるが気温が高い。

 走ってきた私と先輩は汗だくにもかかわらず、この数十人の不良相手にして碌に汗をかいていないとは、果たしてどういうことだろうか?

 能力で対処したのかはたまた純粋な体のスペックか。どちらにしても凡人とは一線を画している。

 

「(天野倶佐利……。)」

 

 私が第一七七支部に配属されて少し経ってから、彼女はよく見かけるようになった。それは犯罪を何度も繰り返しているからなんて理由ではなく、逆に起こる犯罪を鎮圧しているのだ。

 犯罪行為を見つけ次第関与しているため、新米の風紀委員(ジャッジメント)よりも遭遇件数が多いほどだ。「……はあ」と隣に居る男の風紀委員の先輩が重く息を吐いた。

 

「お前今回で何回目だ?別に俺達も事件に関わるなとは言わん。民間人の協力はこちらも助かっているからな。だが、お前の解決件数は既に正規の風紀委員と同じほどまでになっている。なら、もう風紀委員になったほうがいいんじゃないのか?」

 

 風紀委員になるためには弱能力者(レベル1)以上であることと、ある程度の教養。そして、正義を成す強い意思。

 彼女は大能力者(レベル4)で常盤台に通い、幾度も事件を解決している少女は全て充たしているといえる。

 

「風紀委員になれば捕まえた犯罪者から、個人で恨まれるリスクを減らすことができる。このままだと徒党を組まれて襲われる可能性がある。風紀委員になればその所属支部の管轄区画とはいえ、正式に治安維持をすることができる。何故風紀委員にならないんだ?」

 

 そう、風紀委員になれば今よりも安全に、活動することができるようになるのだ。活動範囲が減るとはいえその利点は活用すべきだろう。

 だが、

 

「すまないけど僕にはいろいろとすべきことがあってね。風紀委員(ジャッジメント)の仕事にかかりきりになるわけにはいかない。今まで通り趣味としてやらしてもらうよ」

 

 そう言って彼女は去っていった。

 彼女は世にも珍しい原石でありながら高位の能力者だ。そんな彼女は私の透視能力(クレアボイアンス)なんかとは違い、希少で強力な能力者だった。

 そんな彼女が風紀委員の活動と似たようなことをしていたため、誰に言われるでもなく私は自分と彼女を比較した。

 そして、当時能力が伸びず悩んでいた私は、当然のように彼女に嫉妬と羨望を抱いてしまった。彼女は能力で伸び悩んでいた私には眩し過ぎたのだ。

 

 

 

 

 

 現実に勝手に押し潰されていた私は、ある雨が降る日に一人の男の人と出会った。

 黒妻(くろづま)綿流(わたる)

 雨の日に柄の悪い男に絡まれている女の子を彼は助けていた。そんな彼が私には何故か輝いて見えたのだ。そして、私は大して時間も置かず、彼がリーダーをしている「ビッグスパイダー」に入ることとなった。

 ビッグスパイダーは武装集団(スキルアウト)であり、私とは無縁のところだったが意外と居心地が良かった。

 彼らは無能力者(レベル0)であったために能力の話題はなく、それが能力が伸び悩んでいた私には心地良い場所となっていた。

 

「ゴクゴク……っぷはぁ。やっぱり牛乳は、ムサシノ牛乳だな!」

 

「先輩って毎日それ飲んでますよね」

 

「おう、元気の源ってな!お前も飲まねぇと大きくしたいところが育たないぞ?」

 

「なっ!?どこを見ていってるんですか!余計なお世話です!それに牛乳で大きくなるなんて迷信ですよ」

 

「ん?知らねぇのか?実際に大きくなったっていう口コミが結構多いんだぜ?」

 

「………………詳しく」

 

 先輩とのそんな些細な会話が好きだった。この日常がずっと続けばいいと思うほどに。そして、いつしか私は先輩に尊敬以上の感情を持つようになっていた。

 そんな風にブラックスパイダーの一員として馴染み始めていると、ある日先輩から呼び出された。

 そんなシチュエーションに心を踊らして、淡い期待を抱いていた私は、会ってそうそう先輩に言われた言葉に凍りつく。

 

「美偉、お前本当は能力者なんだろ?」

 

「……え?…………な、何で……」

 

「それぐらい分かるさ。お前が俺らとは違うところに居る人間だっていうぐらいはな。何かしら理由があるとは思っていたんだが、ここを気分転換として過ごす分には良いと思ってた。

 でも、これ以上はお前はここに居るべきじゃない。お前には俺達と違って帰る場所がある。それなら、その場所に戻るべきだ」

 

「っ!私の居場所は……!」

 

「なら、お前はそっちの生活を捨てられるのか?」

 

「っ!!」

 

 私はそこで断言することができなかった。

 そんな私に何故か先輩は安心するような顔になった。

 

「捨てられねえだろ?お前は責任感が強い奴だからな。そんなお前だから俺は気に入ったんだ」

 

 みんなを騙している事実に気付き、ポロポロとみっともなく「ごめんなさい」と涙ぐむ私をあやすように、私の頭に手を置いた先輩は最後まで優しく接してくれた。

 

「──美偉、お前は今日でブラックスパイダーを卒業だ。頑張れよ」

 

 それが決定的な言葉だと私は分かった。だけど、先輩が切り出してくれた別れは拒絶なのではなく、私の背中を押すものだということも分かっていたから。

 私は眼鏡をどかしてブラックスパイダーの一員であることの証である、赤色のレザージャケットの裾で涙を拭い、挑発的な表情を無理矢理作り小生意気に笑ってやったのだ。

 

「いつか先輩がびっくりするようなナイスバディの女になって、後悔させてあげます!」

 

「……くくっ!そうかそれは楽しみだな。じゃあ、当然()()を飲まなきゃいけないな」

 

 本当に嬉しそうに笑ったあと先輩は、私にニヤリと先ほどとは別種の笑みを投げかけてきた。私もそれに答えるようにニヤリと笑う。

 そして、タイミングを合わせて二人同時にその何度も聞いた言葉を言った。

 

 

 

「「やっぱり牛乳は、ムサシノ牛乳!!」」

 

 

 

 これが私の宝石のように大切な思い出。笑顔で締め括られた決別だ。先輩のお陰で私は風紀委員として胸を張って仕事ができる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、先輩と再会したときに驚かすことに成功したので良しとしよう。

 

 

 ……あと、彼女に劣等感を感じていたために気付いてはいなかったが、風紀委員として再び活動するようになってあることに気付いた。

 

 

 

 

 

 

「…………ねえ、どうして他の人に化けているのかしら?」

 

「『え"』」

 

 どうやら彼女の変身を、何故か私は見破ることができたらしい。

 

 

 




上条とインデックス、そして小萌先生以外の主要キャラからの始めの印象は基本的に最悪のオリ主。

正の感情
上条 尊敬(普段の言動+勉強や荒事などの手助け+ご飯)
イン 親愛(ご飯+首輪の感謝)
先生 溺愛(基本的には優秀だが問題児の側面もあるため)
─────────────────────────
神裂 罪悪感(上条を叩きのめしたため)
─────────────────────────
負の感情
食蜂 不信(能力の無効化+普段の言動)
神父 警戒(???)
一方 拒絶(一方が他者と距離を取ろうとしていたため)
雲川 疑心(能力の特性故+上条との関係)
美琴 敵意(実験の関係者と誤認)
土御門 殺意(スパイ容疑と過度な妹への接触による疑惑)
根性 ???(???)
固法 劣等感(レベルの差から) ←NEW!!

固法先輩がブラックスパイダーを脱退した経緯を、どうしても思い出せないのため作者がそれっぽい話を創作しました。ごめんなさい。

◆考察◆
上条当麻のプロフィールを見て作者は一つ気になったことがあったため、今回はその考察をしたいと思います。

上条当麻のキャラクターのプロフィール。
代表的なのは異能を打ち消す右手の幻想殺しを有していることだ。そして幻想殺しがあるために、上条当麻は不幸体質であるということが最初に思い付くだろう。
だが、今回注目したのは上条当麻の特質ではなく、身体の数値である。
それは、度々話題に上がる上条当麻の身長だ。

168cm。それが上条の身長である。いささか身長の高い者や成人男性と殴り合うには小さい気もするが、「普通の男子高校生」と上条が自らのことを作中で何度も明言していることから、高校一年の男子の平均身長を当てはめたのだろう。と、作者は今ではそう思っていた。
いや、おそらくそれも正しいのだろう。だが、設定した理由にはもう一つの隠された意味がある。

数字の中にはエンジェルナンバーやラッキーナンバーというものをご存知だろうか?所謂「ラッキーセブン」などがまさにそれだ。
数字を風水的な観点から見ると一つ一つに様々な意味がある。その中でもエンジェルナンバーは天使からのメッセージで、生活をよりよくするためのアドバイスのための数字なのだという。
168という数字はそのエンジェルナンバーに該当する数字だ。

そして、168の数字の意味は「物質面での改善」。

上条が右手に宿す幻想殺しは異能を打ち消して、元の世界である純粋な物理法則の世界を取り戻すためにある。
世界を歪める魔術を打ち消して改善する、幻想殺しを宿す上条を指しているのではないだろうか。
そのような理由で鎌池先生は、上条当麻の身長を決めたのではないかと作者は考える。


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54.世界の分析

オリ主のターン


~現在~

 

 この騒動の黒幕である『スタディ』の潜伏先へと、『フェブリ』を担いで向かったミコっちゃん。そのあとを遅れて俺も追跡する。

 その最中、俺は先ほどの手にのし掛かった確かな感触を思い出しながら、その持ち主との昔を思い出す。

 

「(いやー、あのときはビビったなぁ。この世界に来て初めて髪色もコピー元に合わせた変身を、完璧に見破られたんだよな)」

 

 そのあとも何度もコピーして見破られたから偶然ではない。本人にその理由を聞いたところ、「なんとなく」とかいう実にアバウトな理由だった。

 メガネをかけているくせに何だその感覚的な説明は。

 

「(というか、この世界の革命未明(サイレントパーティー)編はやっぱりいろいろおかしいぞ)」

 

 あの牛乳(うしちち)メガネに話を聞いたところ、今回の黒幕の科学者達の組織である、『スタディ』は暗部組織ではないらしい。とある暗部組織と取引をし資金や武器などを手に入れたようなのだ。

 能力者を量産型のパワードスーツで圧倒することにより、能力者達の価値を下げて能力開発よりも機械工学の分野が、より有益であることを証明することが有冨の狙いのようだ。

 

「(無能力者(レベル0)のために周りから評価されないコンプレックスが、今回の事件の動機みたいだ。要するに科学者として有能であることを示したいってことか)」

 

 今までは能力者としてではなく、一科学者としてあることで、自らの承認欲求を満たしていたのだろう。そのままであれば何も実害はなかった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(くそっ!あの爺本当に碌なことしないな!……まあ、有冨達を唆したわけじゃなく、目指している到達目標をただ酷評しただけだから、この騒動で一番悪いのは富竹なんだけど)」

 

 とはいえ、それがきっかけで今回の事件が起きたのだから、やっぱり元凶はあの爺だ(断言)

 

「(ミコっちゃんのクローンである妹達(シスターズ)とは違い、『フェブリ』は完全な人工生命体。そして、その姉だか妹だかよく知らない双子の『ジャーニー』を、無意識下のうちに富竹が外部から操り、あの無数の無人機のパワードスーツを動かしているらしい。

 ジャーニーの髪を媒体にすれば、AIM拡散力場を発生させることが可能らしく、それを遠隔操作で操ることにより無人機のパワードスーツが出来上がるようだ。

 ぶっちゃけこの仕組みはよく知らないし覚えていないが、それが『ジャーニー』の能力みたい。

 人工生命体だからいくらでも有冨は使い捨てる。それを止めたくて、ミコっちゃん達はこの研究施設に乗り込んできたらしい。)」

 

 双子の彼女達を使った計画名は『模造生命遠隔装置(ケミカロイド)計画』。科学で作り上げた数の暴力こそが富竹達の答えだった。

 そして、フェブリはそんな『スタディ』から逃げ出したため、安定させるカプセルに入っていない間は、体を安定させる特殊な飴を舐めていなければ、体調が安定せず死んでしまう。

 死んでしまう…………はずなのだが。

 

 

「(そのフェブリなんだけど……なんか普通に治せたみたいなんだよね)」

 

 

 これにはさすがにビックリした。つい二度も聞き直した程だ。

 

「(フェブリは人工生命体でありジャーニーのスペア。長生きできるような身体を造る意味がないから、身体を安定させる飴を舐めていなければ変調をきたして、彼女は死んでしまうはずだ。

 アニメではその飴の成分を入手することも必要条件だったのだが、なんと冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が必要なデータやら器具を集めて来て、一晩かからずに無事フェブリの飴の作成と、元の容れられていたカプセルよりも、さらに高性能なカプセルを用意したらしい(そんな馬鹿な)

 カエル顔の医者曰く、『患者に必要な物を全て揃えるのが僕のモットーでね?この程度ならすぐに用意してみせるよ?』……とのことだ。

 さすが回復チートキャラ。さすが◼️◼️◼️=◼️◼️◼️◼️。

 アニオリのときとは大違いである。)」

 

 一晩で治療法を確立させるとか流石は公式チート。回復系の能力者の存在意義(居るのかは不明)を一切合切無くす存在だ。

 

「(そんですぐに治る予定のフェブリだが、ジャーニーを助けるために必要最低限の飴を確保したのち、双子ということを活かしてジャーニーの居場所へと向かうための、ナビゲーターとして美琴に担がれて『スタディ』のアジトへと突入していた。

 まあ、他に見付ける方法もないし、ジャーニーを速攻で発見するためには必要な人材なのだとは思うけど)」

 

 俺が学園都市から海沿いの僻地へと飛ばされ、天使になっている間にミコっちゃん達は、相変わらずめんどくさい事件に巻き込まれていた。

 

「(辻褄が合うように話の設定や日時が、変わってるなんて思わなかったなぁ……)」

 

 この『革命未明(サイレントパーティー)編』は明日。つまり、8月の31日の午前中にやる話なのだ。それが30日に起こるなんていうのは異常事態だ。

 おそらく、31日は正午に御坂と上条がデートする話があるため、それに合わせて日時が前倒しになったのだろう。

 

「(え?…………ちょっと待って……。まさか、この世界は原作に合わないことなんかは、無理矢理合わせようとするのか……!?)」

 

 それはヤバい。めっちゃヤバい。

 というのも原作が崩壊する可能性がかなり高い。今までは自分の不用意な行動で原作を崩壊させないように動いてきた。しかし、それでは全然足りないかもしれない。

 この世界が統合性を取ろうと改変するなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(ぐおおおっ!!今までの俺の完璧なロールプレイがアニオリという不確定分子のせいで、全部無意味になるのか!?最悪だぁ!!)」

 

 猛スピードで駆け抜ける少女は頭の中でのたうちまわっていた。しかし、感情と表情がリンクしないために感情が消えたその表情は、今から誰かを消しに行きそうなほど表情が死んでいた。

 

「(……いやちょっと待てよ。世界が原作に合わせようとするなら、逆に原作と致命的なズレは起こらないんじゃないか?

 もし、原作とアニオリを無理矢理組み込むとしたら、朝は革命未明を解決して昼に上条とデートだからほぼ無理な日程だ。

 最終回でミサイルを撃ち落として、芝生で四人仲良く寝てた描写があったから、時間的な側面で上条と出会うシチュエーションがそもそも生まれなくなる。

 そうなると、上条とエツァリの戦いが起こらずに、ミコっちゃんが照れるイベントがなくなるし、本当の海原が口封じで始末される可能性があったのか……)」

 

 そうやって考えてみれば大した問題ではない。世界が修正をしてくれるなら味方も同然なんだから。

 

「(ふぅ~。最大の悩みが解決して気が楽になったー!……そんじゃあ、ここからは俺のボーナスステージ。この革命未明での俺の利益を頂戴してきますかねっ)」

 

 天野はニヤリと不敵な笑みを見せ、黒く染めたその髪を靡かせながら、美琴が"彼女ら"とかち合った場所へと走る。

 

「(天敵に対してあらかじめ対策を用意するのは当然の事。卑怯、汚いは敗者の戯言よぉ。おっほっほっほ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~15分後~

 

「みっともなくケツ振って逃げるだけかぁ!?もっと私を楽しませろ売女ァッ!!」

 

「『うわああああああん!!だじゅげでっ!助げてとうましゃああん!!うわあああぁぁぁぁ!!』」

 

 まるでどこかの駄女神のように泣きわめき、壁を貫いて襲ってくる幾つもの殺人光線から、全力で走って逃げる少女がそこにはいた。

 

 




ぶっちゃけ革命未明編はアイテムとかち合うための、導入でしかなかったという話。


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55.暗部組織『アイテム』

 広いドーム状の空間に緑色の閃光が幾度も瞬いた。

 その自然には発生しないはずの光線に貫かれた機体は、物を言わないガラクタへと成り下がる。

 その機体を踏みつけて蹂躙しているリーダーに向かって、黒髪のどこかぼーっとしている少女が声をかけた。

 

「ねえ、行かせても良かったの麦野?」

 

「青臭いガキにいつまでも関わってらんないわよ。こっちもそんなことする暇もないしね」

 

 そう言って目を向けたのは、以前戦った学園都市第三位御坂美琴が走っていった方向だ。

 既にパワードスーツの軍団で見えなくなっているが、彼女ならば追うことは難しくはない。それをしないということは、本当に興味がもうないようだ。

 そして、視線を自らの能力と同じような光を出す機械へと向けると、長い髪を掻き乱しこれでもかと言うほどに、苛つきを込めた低い声を吐き出した。

 

「あ"あ?もしかして、ここ最近の訳の分からない依頼の数々は、こんな不良品を作るためだったってオチかぁ?……いいように使われてデータを取られるなんざマヌケ過ぎるぞッ!!」

 

 背後から『スタディ』が作り出した、劣化版の原子崩し(メルトダウナー)が放たれる前に、学園都市の第四位、麦野沈理から本物の原子崩しが放たれる。

 格の差を見せ付けるかのようなその様子は、まさに蹂躙と言っても過言ではない。

 

「あちゃ~、麦野やっぱりめちゃくちゃキレてるよねあれ」

 

「能力者にとって能力のデータを取られることは超死活問題です。それを学園都市の闇とも言えないような、ガリ勉の一般人にデータを取られていたわけですから、麦野がああなるのも当然ですよ」

 

 そんな風に話すのは麦野がリーダーを勤める、『アイテム』のメンバーであるフレンダ=セルヴェルンと絹旗最愛。

 彼女達の戦いを見れば、これが子供騙しの戦闘でしかないことが分かるだろう。気負うことなく会話をしながらパワードスーツを破壊していく。

 

 そんな中、それはいきなり起きた。 

 

「──がはっ!?」

 

「…………あん?」

 

 バタリっと、突然滝壺が倒れた。

 

「ちょ、滝壺さん!?大丈夫ですか!?」

 

「ええっ!?一体どうした訳よ!?」

 

 いくらぼーっとしている少女であっても、突然躓いて転んだ訳ではないだろう。そして、直接的な攻撃手段を持たない彼女を、『アイテム』の面々はパワードスーツから守護するような、立ち振る舞いをしていた。それにも関わらず滝壺は倒れた。

 それはおそらく、滝壺の崩れ落ちたその先にいる奴が原因だ。パワードスーツに気を取られ、背後からの接近に気が付かなかったようだ。

 

「ざけんじゃねぇぞ!このクソ野郎がッ!」

 

 この状況で、パワードスーツや大型の機体に隠れて接近されるのは、暗部として生きてきた麦野であっても予想外であった。

 それもそのはず、パワードスーツは見境なく襲うため乱戦になるのは当然であり、新たな人間が現れれば麦野達がそれに気付かない道理も無かった。

 下手人を見つけると即座に原子崩しを発射させる麦野。しかし、その人物は後ろに眼でもあるかのように次々と躱していく。

 

「(チッ!コイツあの第三位と同じ電気使い(エレクトロマスター)か。それも機械のセンサーから逃れるタイプ。電磁波で私の原子崩しを察知してやがる!)」

 

「麦野っ!滝壺さんは気絶させられているだけのようです」

 

「はあ?そんなわけないでしょ。どうせなんか盛られてるわ」

 

「いえ、それにしては注射の跡もありませんし、呼吸も安定しています。何かしらの毒物である可能性は超低いでしょう」

 

「……何ですって?」

 

 『アイテム』は暗部組織であるため、出回っている薬物のことにもある程度の知識がある。

 学園都市のゲテモノ染みた科学ならば、遅効性の毒物の一つや二つは当然あるにはあるが、今この状況でそんなものを使うメリットは無い。

 それもそのはず、暗部組織の『アイテム』ならば時間は多少かかるかもしれないが、解毒剤を用意することは容易い。その彼女達にわざわざ時間のかかる毒物を投与させることに意味は無いのだ。

 ならば、何故滝壺を気絶させたのか。導かれる答えは一つ。

 

「つまりなんだ?面白半分で『アイテム』に喧嘩売ったってことか?」

 

 滝壺から視線を外し逃げていく下手人に視線を再び合わす。彼女の顔には一つの感情しか現れてなかった。

 そして、その顔を見た『アイテム』のメンバーであるフレンダと絹旗は、今まで共に活動してきたにも関わらず、初めて見せたリーダーのその顔に震え上がる。

 地獄から響くように低く、殺意を煮詰めたような声がその口から吐き出された。

 

 

 

 

「……………………ブチ殺す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(よーしよしよしよし!目標達成っ!!)」

 

 そんな風に調子に乗っているのは毎度お馴染みのオリ主である。この度の成果に彼は満足していた。

 

「(暗部の人間で機械系に強い電気使い(エレクトロマスター)がいて良かった!機械に強いって言っても劣化しているから、センサーに反応しなくなる程度と、電磁波に敏感になる程度しか利点が無いんだけどね)」

 

 はっきり言って大して使い道が無い能力である。自動ドアは反応しないし家電製品の電磁波を鬱陶しく感じたりと、デメリットの方が本来は強い能力だ。

 しかし、今回相手にするのは無人機のパワードスーツのため、センサーに反応しないと攻撃してくることはない。

 原子崩しを打ち出す大型の機械に、ビームオバサンが気を取られてるから相手にする必要がないしな。

 あとは、バレないように近付くだけでミッション達成。随分楽なものになっていた。

 

「(麦野の原子崩しはコピーした劣化している一方通行(アクセラレータ)の反射じゃ防げないし、ミコっちゃんの電磁波も劣化してて、原子崩しを逸らすことはできないから逃げるしか方法が無い、鬼門の一つだ。

 本来なら関わるなんて今後一切ゴメンだけど、……もう絹旗ブッ飛ばしてるんだよなぁ……。

 そんなわけで、これから『アイテム』と戦闘に発展する可能性がゼロじゃないから、何かしらの保険が欲しかった)」

 

 以前戦った御坂美琴と一方通行でオリ主は、やはり超能力者(レベル5)と戦うには、あらかじめ対策を立てておく事が重要であると認識していた。

 御坂美琴は彼女の甘さや焦りを利用して勝利し、一方通行とは上条という切り札や、御坂美琴と御坂妹の二人の能力者が居たから生き残ることができた。

 だが、『アイテム』にはこれはおそらく通じることはない。

 多少の慢心はあるだろうが、オリ主が大能力者(レベル4)で原石であることを知れば、浜面のときのようにあからさまな油断はしないだろう。

 

 何よりも重要なのが、『アイテム』には容赦が存在しない。

 

 御坂美琴のときはそれが打開策となった。一方通行は能力の暴走のため、容赦をするしない以前に意識が保てていたか疑わしい。

 土御門元春には容赦は無かったが、満身創痍で戦闘をすることは不可能であった。

 そう、オリ主が今まで何とか生き残ってきたのは、全員が本気で襲い掛かってきながら、誰一人として本来の力を出すことができなかったからだ。

 

 もし、御坂美琴が白井黒子の姿で動揺せず、最後の瞬間に倒れているオリ主の側に、超電磁砲(レールガン)を撃ち込むことを躊躇しなかったら?

 もし、一方通行が暴走せずに一対一で戦うような事態に発展していたら?

 もし、土御門元春に余裕があり、決定的な何かを見つけるまで取り繕い、掴んだそれらしき証拠をアレイスターに告げていたら?

 

 オリ主はまず間違いなく敗北していただろう。

 エルキドゥという埒外な存在が身に宿っているため、学園都市の住人が相手ならば死ぬことはおそらく無い。

 しかし、アレイスターや魔術サイドに露見すれば、殺されるか人権を無視して骨の髄まで利用されるのが目に見えている。

 

「(だからこその滝壺の能力のコピー。はっきり言って暴走状態じゃないと使えない能力であるから、劣化したらと思うと目も当てられないけど滝壺の姿は使える)」

 

 それこそが、オリ主が滝壺を気絶させた理由だ。直接的な戦闘員でないため、戦闘能力は確実に自らよりも下であり、能力追跡(AIMストーカー)の能力があるため、意識があるとオリ主のAIM拡散力場が捕捉されてしまう。

 そのため、当て身で滝壺を気絶させたと同時に、コピーしてトンズラをこいたのだ。

 その中で麦野をコピーしなかったのは、戦闘能力が能力を使わずとも強く、近付けばほぼ間違いなく捕捉されるためだ。

 

「(前回の絹旗でコピーできればよかったんだけど、窒素装甲(オフェンスアーマー)のせいで触ることができなかったんだよな……)」

 

 実は一方通行で絹旗を腹パンをして、絹旗をコピーできていると思っていたのだが、実際には不可能であった。

 あくまでも触ったのは窒素のために、絹旗を触ったと判定されなかったようだ。

 

「(とはいえ、これで『アイテム』と戦うことになったとしても、保険のカードができたから有利に戦闘を行うことができる。触っただけでコピーなんて流石に思わないだろうし)」

 

 麦野達はパワードスーツの軍団を相手にするしか道がないため、素通りできる俺には確実に追い付くことができない。

 移動系の能力者が居れば話は変わっただろうけどな。

 

「え!?ちょっと麦野!?」

「何してんの!?」

 

 遠くから『アイテム』の面々が喚いているが、そっちに打開策が無い以上は俺の安全性は確保されている。今さら何をしても遅い遅いっ。

 ふはははっ!よし、勝ったな!帰ったら風呂にでも入るか。そんな風にこのあとの予定すら考える余裕すら俺にはあった。

 

 だが次の瞬間、背中に氷を当てられたかのような悪寒が走り抜ける。

 

「!?!?!?!?」

 

 その現象に理解ができない。

 もう既に危険分子は全て排除したはずだ。今さらあっちにどうこうできる手段など残されていないはず。

 このまま前を向いて走り抜けるのが正しいと頭では理解できているが、本能の部分が警鐘を鳴らす。

 本能に導かれるまま俺は振り返った。そして、視界に映るその光景に目を見開いて俺は驚愕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞳孔が開いた二つの瞳が無機質にこちらを捉えていたのだ。

 

 

 




リアルが非常に大変になってきました。そして、モチベも下がってきたので、投稿頻度がまたしても落ちていきます。


◆考察◆
※今回の考察は旧約読破済みにしか確実にわかりません。
今回の考察では神浄の討魔についての考察をしていく。
幻想殺しや上条当麻の設定にまで考察したのだから、その上条当麻の最大の謎について考察してみたい。
とはいえ、他の考察者さんの多くが取り扱っている謎のため、その方々の補足などをしても面白くはない。
つまり、またしても新説を唱えようと思う。(既に考察済みという可能性はあるが)

神浄の討魔。
これは間違いなく上条当麻の『真なる意思』だと考えられる。では、その真なる意思とはなんなのか。
これはアレイスター=クロウリーが所属していた、「黄金の夜明け団」を離脱後に創設した魔術結社、「銀の星」の位階構造の8=3に該当するものである。(詳細はwiki参照)
しかし、既読済みなら当然思っただろう。これが上条当麻の真なる意思なのだろうか?神浄の討魔は明らかに今までの上条当麻の行動理念から、逸脱した行動をしている。
確かに、前条は怯えを抱いて戦っていたが、最後には誰かを助けるためにその拳を握っていた。そんな上条が他者を傷付けることを肯定するわけがない。

そのことから、作者は真なる意思について考察してみた。
1.垣根帝督
 まず、様々な考察者さんが考えるように、真っ白な垣根帝督は8=3に到達していると前提で考える。そうすると、一つの考察が生まれる。

 『真なる意思』とは隠された本性、つまりそのキャラクターの裏の顔のことではないのか。

 悪党である垣根帝督から善性の垣根帝督が生まれた。そして、その善性の垣根が本来の垣根を殺して、垣根として存在を確立した。
 これは8=3、つまり神殿の首領に至る方法と同じなのである。高位の自己が低位の自己を消滅させ、善なる垣根は緑色の瞳を宿すことに成功したのだから。
 これを上条に当てはめるとどうなるか。垣根同様に裏の顔、つまり善性の上条だと計算高い利己的な悪の部分を肥大化させると、神浄の討魔となるのではないか。

2.タロット
 そもそもトートタロットはアレイスターが作り出したものだ。ならば、学園都市にもそれを使っていることは予測できる。だが、いきなりトートタロットと言われても困惑するだろう。
 しかし、原作でそれについてダイアン=フォーチュンが上条に既に言っているのだ。幻想殺しはタロットの「愚者」であると。正確には違うらしいのだが、ここではそれについての考察は止めておく。
 では、それは幻想殺しのみに当てはめられた「愚者」なのか。もしかしたら、それは上条当麻自身にも該当するのでは?と、作者は考えた。
 そもそもタロットにおける「愚者」とはどのようなものなのか。原作で述べられていた時代で変化するものとしてではなく、カードの絵から読み取れることを書こうと思う。

《「愚者」のカードには「トリックスター」を強調しているところがあり、「愚者」が道化などと同様に相対する二つの極を持っていることを表しており、カードに描かれている人物の愚行を象徴するもの、計算高くしたたかな側面を象徴しているものである》、とされている。

 「愚者」の愚行とは上条当麻の行動だろう。それが、利他的な行動からか、幻想殺しや中条に大して何も知らずにいることかはわからないが、これはおそらく上条のことを指している。
 そして、残る「トリックスター」の役割こそが神浄の討魔だ。計算高くしたたかな「愚者」の側面。これは表に出てきた神浄の討魔の行動と合致するだろう。
 まだ見付けることはできていないが、垣根を含めたレベル5は上条同様にタロットのカードに合わせた、何かの要素があるのではないかと作者は考えた。


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56.地力の差

56話にして大覇星祭にすらまだ届いていないこの小説。道が長げぇ……(絶望)
エタル前ってこんな感覚なのかなって思いつつ、56話投稿します。




 『スタディ』がアジトにしていた研究施設から脱出し、オリ主は学園都市の街を駆け抜けていた。

 

「『いーやーー!!!!』」

 

 泣きべそをかきながら街中を走るのは、先ほど『アイテム』に喧嘩を売ったオリ主だ。本人は必要事項のためにコピーをした程度の認識だが、『アイテム』の一員を昏倒させている時点で、敵対行動そのものである。

 情けない声とみっともなさ過ぎる泣き顔に、思わず周りの人間が振り返っているが、その事にさえもオリ主は一切気付いた様子はない。

 

「『何あれ!?何あれ!?暗部は木原の爺といい、異常者しかいないのかッ!!』」

 

 何をそんなに泣きわめいているのかというと、先ほど『スタディ』の根城で能力追跡(AIMストーカー)の能力者である、滝壺理后にオリ主のAIM拡散力場を捕捉されたからだ。

 AIM拡散力場とは能力者が無意識に放出する力場のことだ。それを無くすことは能力者である限りできはしない。(※例外はいます)

 例えるなら、御坂美琴が常に電磁波を放出してしまい、動物から感知されてしまうことがまさにそうだ。滝壺はその無意識に放出される力を、全ての能力者から感知することができ、なおかつ標的が太陽系の外に居ても位置を把握できる。

 そんな能力を持つ滝壺は、能力者にとって鬼門とも言える存在だが、オリ主は真っ先に滝壺理后を気絶させたはずだ。気絶していれば能力を発動することは当然できない。では、何故滝壺に捕捉されたのか。

 

 麦野沈利が気絶している滝壺に、体晶を無理矢理飲ませたからに他ならない。

 

 体晶とは能力を意図的に暴走させ、能力の出力を増幅させる劇薬である。

 副作用で能力者の体を徐々に蝕んでいく、デメリットを備えた物なのだが憤怒に染まった麦野には、それを滝壺へ投与することに一切の躊躇いはない。

 そうして滝壺は能力の暴走と共に意識を覚醒し、オリ主のAIM拡散力場を捕捉したのだった。

 

 オリ主は混乱したままとある工場の中へと隠れる。

 

「(ヤベェよあいつ!本当におんなじ人間か!?倫理観や常識をどこに置いてきちゃったの!?)」

 

 暗部の人間に倫理観や常識を求めるのは間違っていると思うのだが。

 しかし、そんな当たり前のことは、死ぬ恐怖に怯えるオリ主は理解はできない。 

 

「(あのツインテールレズオセロに変身して、瞬間移動(テレポート)したいけどやっぱダメだよなぁ。というか、ここでこの暗部のモブ女キャラ以外の変身自体もう無理)」

 

 もちろん、変身自体は当然できるのだが、それを状況が許さない。

 

「(俺は今回助かるかもしれないけど、その変身した相手のAIM拡散力場を、滝壺が別のところで捕捉してしまえば、その人間が『アイテム』に狙われることになる。きっと死ぬわそいつ。

 だってミコっちゃんでギリギリだったのを、並の能力者が対処できるとは思えないし。

 それに、突然AIM拡散力場が変わったら、変身能力を持つ天野俱佐利がやらかしたのだと後々気付かれるかもしれない。そうしたら地の底まで追ってくるよなコイツら……)」

 

 そんな想像をしてしまい「『今回は何も悪いことをしていないのに……!』」と、頭を抱えて自らの境遇を嘆くオリ主だが、暗部のメンバーを襲撃するなど、どう考えても恨まれるに決まっている。

 

「(ええい!この際麦野を含めた『アイテム』全員をコピーして、いつかやる『とあるのキャラコスプレ一人大会』の、暗部シリーズに加えてやる!)」

 

 そんなこと考えていたのかコイツ。

 

 この小説のあらすじに書いてあるコスプレについて、今までは大して明言されて来なかったが、どうやらコスプレをすることができなくて鬱憤が相当溜まっていたらしい。

 

「(今は滞空回線(アンダーライン)でアレイスターに盗撮されてることもあって、コピーを加減しなくちゃいけないけど、あと四ヶ月もすれば俺の時代の到来だ。

 アンナ=シュプレンゲルとかいう、よくわからん奴が現れるみたいだけど、どうせ新シリーズで出てくるのは3、4巻先だろうし、危険になったら上条か一方通行(アクセラレータ)の近くを、まとわりついてれば安全は確保できる。

 …………できるよね?新シリーズになったからって、早速主要キャラ殺すような真似はしないよね?)」

 

 アンナ=シュプレンゲルという新キャラが、新約22巻の最後に出てきたこともあって、新シリーズが出ているだろうとオリ主は予測している。

 

「(中条の秘密やミコっちゃんの闇堕ち案件。さらには、唯一が去鳴達に施した木原増殖実験と、ヤバめな伏線をあれだけばら撒いておきながら、新約シリーズの続きで完結はしないでしょ流石に)」

 

 『とある魔術の禁書目録』はキャラクターや能力バトルよりも、神話や実物のアレイスターが提唱した、魔術理論を基に深く練られた設定こそが醍醐味の作品だ。(異論は認める)

 そのため、謎のまま完結する可能性は大分低いとオリ主は考えていた。

 

「(まあ、全部推測でしかないんだけどさ。

 旧約は22巻で新約に変わったけど、新約は22巻が発売されても新シリーズについてのことは言ってなかったから、もしかして新約が続いている可能性もあるし。

 アレイスターがああなって(未読への配慮)、学園都市が全く別のものになるのは確定したから、それから新シリーズに移行するものだと思ってたんだけど、……鎌池先生だからなぁ)」

 

 先の展開が予測できないことが楽しくて、前世は熱心に読んでいたのだが、転生してしまうとこうも頭を悩ませる要因になってしまうのだとは、前世では思ってもいなかった。

 

「(クソっ!新シリーズが出ていたら超読みたい!『終約、とある魔術の禁書目録』。面白いだろうなぁ!)」

 

 何かいきなり興奮しているが、ヤバい奴らから逃走している自覚があるのだろうか?割りとマジで死ぬかもしれないのだが。やはり、オリ主は頭のネジは2、3本外れているらしい。

 

 ちなみに、新シリーズは『創約、とある魔術の禁書目録』である。

 

「(おっと、今はそれよりも『アイテム』だ。あっちは別に瞬間移動の能力者が居るわけじゃないから、車じゃ通れないようなところを適当に進んでいけば、時間を稼ぐこと事態はできるはず。

 そんな風に逃げてれば、滝壺の能力はすぐに切れる。だって暴走状態のままいるなんてどう考えても無理だろうし。それじゃあ、そろそろ移動しますかね)」

 

 すると、オリ主が一瞬前まで居た場所を緑色の殺人光線が貫いた。

 どうやらこの場所は既に特定されてしまったようだ。壁に空けられた穴から少女達が続々とやって来る。

 

「人が少ないところに超逃げたんでしょうけど、滝壺さんがいる時点で障害物や見通しの悪さは無いも当然です」

 

「上手く逃げたつもりかもしれないけど、返って袋の鼠って訳よ!」

 

「(いやいやいやいや早えーよ!?別にここに籠城したんじゃないんだけど!?次のポイントへの通過地点なんだよここはっ!!)」

 

 オリ主が『とある魔術の禁書目録』の単行本について、想いを馳せていると、とうとう『アイテム』に追い付かれてしまった。

 これで今の変身を変えられずに、原子崩し(メルトダウナー)の射程範囲内にいるオリ主は、本当に崖っぷちへと追い込まれてしまったのだ。

 

 馬鹿かな?

 

「チッ!本当にムカつく奴ね。面倒臭せェところに逃げこみやがって……」

 

「はぁ……はぁ……」

 

「大丈夫滝壺?」

 

「うん……フレンダ、ごめんね……」

 

「このくらい仲間なんだから当然ってわけよ!」

 

 そんな風にしゃべっている少女達を尻目に、オリ主は距離をとるため工場の奥へと逃げるように進む。

 この工場はかなり大きく、どうやら学園都市の中でもかなり利益を取れるような、製品を生み出すの製造工場のようだ。

 中は迷路のように要り組んでおり、麦野達とも先ほどまでより距離を空けられたようだ。

 

「『マジでヤバくね?いやいやどーすんのー?割りとマジで洒落にならないじゃんこれって。切り抜ける方法とか何一つ見付けられて無いんだけど。今回は流石にマジでヤバいわー。

 AIM拡散力場捕捉されたら終わりとかマジでチート。軽く詰んでね?

 ……あと、マジでマジで煩すぎだから』」

 

 どうやらオリ主が変身した能力者は、矢鱈と「マジで」を連呼する人間だったらしい。口調が軽い割りに表情が、ホラー漫画のキャラのようなとんでもないことになっている。

 

「(ヤバいヤバい!何か一発逆転できるような物は!?こんだけデカイ工場なら何か攻撃に転用できる、機械の一つや二つはあるだろ!)」

 

 休日にそんな危険なものが勝手に稼働しないよう、全て停止させている事実に気付くまであと5分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園都市第四位にして、暗部組織『アイテム』のリーダーである麦野沈理は、自分が置かれている今の状況に血管が浮き出るほどにイラついていた。

 逃げた獲物が迷い込んだ工場が、自分にとって都合の悪いことこの上なかったのだ。

 

「(本当に鬱陶しいところに逃げ込みやがったわねクソがっ!)」

 

「麦野、滝壺さんはそろそろ限界です。下部組織に連絡して離脱してもらった方がいいのでは?」

 

 絹旗は隣でフラフラしている滝壺を見てそう進言する。

 

「馬鹿ね。奴は前回戦った第三位とは違って、絶対にここに留まる必要が無い。その気になればいつだってここから逃げ出すことができんのよ。滝壺が居なかったらあのクソ野郎が逃げた先が、分からなくなるでしょうが。

 ここでアイツは潰す。だから、滝壺をここで退かせはしないわ」

 

 絹旗としては滝壺をここで下がらせたかったが、リーダーである麦野がそう決定したなら異論は挟めない。

 

「大丈夫だから……絹旗も心配しないで……?」

 

「滝壺さん……」

 

 額に脂汗をかいてそう言う少女に、絹旗は肩を貸しながら気遣う視線を送る。

 そんな彼女達を無視して麦野は一人考える。

 

「(あのクソ野郎はここがそうだと知って逃げ込みやがったのか?足が付かないよう表でも活動している企業にやらしていたが、どこからバレやがった?)」

 

 稼働していない無人の工場の中を、不機嫌そうにカツカツと靴を鳴らして進む麦野。

 思い返してみれば、未だにオリ主が逃げれているこの状況が、既におかしい。滝壺の能力追跡(AIMストーカー)も確かに強力だが、『アイテム』の一番の火力は学園都市第四位の麦野だ。

 麦野の能力である原子崩しは、粒子か波形になるところの電子を曖昧なまま固定して操るというもの。その攻撃力は強力でイージス艦を輪切りにできるほどである。

 そのため、障害物などは跡形もなく溶解させることができるだが、最初の一撃以来麦野は一度も原子崩しを使用していない。壁などを吹き飛ばしてしまえば、簡単にショートカットできるのにも関わらずだ。

 

「お望み通り愉快なオブジェに変えてやる……」

 

 そんな物騒なことを言う麦野は、着実にオリ主の元へと近付いていく。こうして歩いているのも既にクソ野郎の目前だからに他ならない。

 

「チッ!やっぱりここか。面倒なことこの上無いわね」

 

 舌打ちとともに吐き捨てられたのは、純粋な憤怒の言葉だった。格下にこうも振り回されるのは、彼女のプライドが許さないのだろう。

 彼女は何の気負いもなくその場所に足を踏み入れる。その工場の区画に入る扉の上にあるプレートには、『半導体珪素製造所』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「出てこい売女ァ!!!!」

 

 その区画に入ると同時に麦野は殺意を込めた咆哮を上げた。

 

「(ヒィィ!?ヤバいヤバい!打開するための策が何一つ浮かんでいないんだけど!?マジで詰んだ!?)」

 

 とんでもない気炎をあげている第四位に、ビビり倒しているオリ主。あれから様々な機械に大して使えない電気操作能力を使い、幾つかは無理矢理作動させたが、それがアラームを鳴らしてしまう結果になってしまうなど、それは散々なものだった。

 それが麦野には挑発に見えて、さらに怒りを燃え上がらせているため始末に負えない。

 

「それにしても、ここの設備はなかなか大きいですね。一体どんなものを作っているのでしょう?」

 

「3メートルはありそうだよねこれ」

 

 そう言ってフレンダはその大きな筒状の設備を見上げた。

 

「これらの大型設備に隠れて奇襲を行えば、勝算があると踏んだんでしょうが、超残念でしたね。滝壺さんには一切通じませんよ」

 

「(知ってるわボケェ!でも、表に出ていっても狙い撃ちされるじゃん!?なら俺はこうして隠れるしかないんじゃい!)」

 

 殺人集団に追い立てられてガクブルなオリ主。結局電気を無理矢理流しても、作動したのは麦野達の傍にある大型の設備と、他の数機だけだったのだ。

 当然、そんなものが麦野達『アイテム』に通じるわけもない。

 

「あ"あ、面倒臭せぇッ!!フレンダ、あんたがあのカスを爆弾で炙り出しなさい」

 

「え?私!?麦野が原子崩しで一掃しちゃえば良くない?」

 

「私にも都合があんのよ。いいからあんまり物を壊さないようにして、攻撃し続けろ」

 

「いやいや、私の獲物は爆弾だからあんまり被害の調節とかは難しいんだけd「いいからやれ」……はい」

 

 あんまりにも横暴な物言いだが、麦野はこれが通常運転である。フレンダはしぶしぶ時間差で爆発するタイプの、小型爆弾を幾つか襲撃者がいる方向へと投げた。

 小型爆弾であって威力は少な目だが、人体に当たれば爆風だけだとしても、相当なダメージを与えることができる。

 あとは、耐えきれず表に出てきて総攻撃を食らうか、そのまま焼け死ぬかはソイツ次第だ。

 

 そんな絶対的な優位の中で、麦野はふと気付いた。

 先ほどから横に置いてある筒状の設備の蓋が空いていると。

 

「(あん?何でコイツが開いて……───ッ!?)チィ……ッ!全員すぐにここから退避するわよッ!!」

 

「え?麦野一体どうしたってわけぐぼぉお!?」

 

 困惑するフレンダの首根っこを掴み、強引に出口の方に走る麦野。その様子を見て絹旗も反射的に滝壺を連れて退避する。

 

 

 

 

 ところでご存知だろうか?

 以前日本のある工場で、高純度多結晶・単結晶シリコンを製造する過程で、水素精製設備の熱交換器を洗浄する際に大事故が起きた。

 熱交換器内部に付着したシリコンの原料である、液化ガスのトリクロロシランを分解する際に発生した水素が、何かに引火して爆発したのだ。

 

 それを踏まえて今回のことと結び合わせて見よう。

 シリコンは半導体の大部分を占める素材であり、パソコン、テレビ、スマートフォンといった電化製品にも使われるものである。

 当然、科学の総本山である学園都市にも、必要不可欠な素材であることは説明しなくても理解できるだろう。

 そして、この工場はその半導体シリコンを生み出すための製造工場だ。学園都市は科学が2、30年進んでいるために工程の大幅な短縮はあったが、冷却の工程だけはどうしても残さざるをえなかった。

 とはいえ、学園都市の安全は並大抵のものではない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ここまで言えば理解できただろう。

 大型の設備のために学園都市では、既に手動から電動に移行しているその設備を、矢鱈目ったら電流を流して偶然にも作動させてしまった馬鹿を、私達は知っている。

 そして、蓋から溢れだしたその気体に引火すること間違いなしの空間に、小型爆弾などを加えればどうなるのか。

 

 

 ドゴオオオオオオオオオオオオンッッッッッッッ!!!!!!

 

 

 と、凄まじい爆発音とともに、学園都市のとある工場が跡形もなく吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ちなみにだが、麦野沈理が使用する拡散支援半導体(シリコンバーン)は、実をいうとここで製造されていたりする。




爆破オチなんてサイテー!また爆発してますねこのオリ主。

アニメで軍覇と上条の共闘が見れただけでも、レールガンTは最高!声も合っててスゴく良かった!


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57.痛み分け

日刊ランキングに載っていたので書きました。

後日譚です。


 地獄を見た。

 

 当たり一面火の海で元の建物の外観など微塵も残していなかった。

 

 地獄を見た。

 

 空気が高温に熱せられ、呼吸をするだけで肺に痛みが襲う。

 

 地獄を見た。

 

 そんな中で尚存命している『アイテム』の連中の気配がした。

 

「……がはァッ……!……はぁ、はぁ……クソがっ!」

 

「痛ぅ~~!」

 

「ぐッ……!」

 

「はぁ、はぁ……」

 

 あの爆風を間近に受けたのにも関わらず、なんと『アイテム』全員が存命していた。これにも理由がある。

 

「はぁ、はぁ……麦野が私達と爆風の間に、原子崩し(メルトダウナー)を挟まなかったら、今頃超死んでますね」

 

 そう、爆発の数秒前に麦野は原子崩しを展開したのだ。ぐるぐるウインナーのように円形に原子崩しを伸ばし、爆風をある程度相殺したため、こうして4人は人の形を保つことができている。

 

「全員、大なり小なり火傷を負ってるわね……。これ以上の戦闘は無理か。まあ、あのクソ野郎は爆発源にいたから骨一つ残ってないでしょうけど」

 

 滝壺を見ても頷いていることから、襲撃者が死んでいるのだろう。

 つまり、敵の狙いはただ逃走して自分達から隠れることではなかった。麦野達を誘導し、この工場で水素爆発を起こして自爆することだったのだ。

 

「(原子崩しのデータ取られるわ、まんまと誘い込まれるわ……)」

 

 麦野は額にこれでもかと血管を浮き上がらせて、感情のままに叫んだ。

 

 

「クソったれがああああああッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ひゅーっ、ひゅーっ、……ゥア"ア……ッ!』」

 

 その爆心地から少し離れた路地裏に、全身大火傷を負った女性がしゃがみこみ、深い呼吸を繰り返していた。

 その姿を一目見れば、誰もが救急車をすぐに連絡しないと女性の命が危険な状態であることが分かるだろう。

 もし医者が彼女を見れば、とある名医を除いて、彼女をこの世に留めとくことが不可能だと察してしまうはずだ。

 

 だが、そんな彼女に不可思議なことが起こる。

 

 全身の至るところがみるみると回復──()()()()()()()()()()()()()()

 先程まで瀕死としか形容できない姿であったにも関わらず、彼女の肌には火傷の痕すら残されてはいなかった。彼女は痛みが引いた体を見て思わず呟く。

 

「『はぁ、はぁ……体が元に戻っていくっていうのは意外とホラーね……。でも、死に体であっても、彼女達から離れることができたのは行幸だったわ』」

 

 一部体が炭化するほどの大火傷を負いながら、彼女は『アイテム』の傍から逃走したのだ。

 そんな彼女は寝不足なのか目の下に隈がくっきりとあり、手入れがされずに適当に伸ばされた髪は、お洒落なとどとは縁遠い人物であることが分かる。

 もちろん、彼女は偶然通りがかった一般人などでは当然なく、能力を使い変身したオリ主である。では、何故そんな人物に姿を変えているのか。

 

「『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』」

 

 能力者が無意識に発してしまうAIM拡散力場を、捕捉するのが滝壺の能力のため、逆に言えば能力者ではない人間に変身してしまえば、能力追跡からは簡単に抜け出せるということだ。

 無能力者(レベル0)の子供に変身しないのは、無能力者であってもAIM拡散力場が全く無いのか、断言できなかったためである。

 

「(能力者でもない人間に変身しなかったら、今もずっと追いかけられてたかもしれん……)」

 

 そんな訳で見事『アイテム』の魔の手から、生還して見せたオリ主だが、何故か拳を握るほどに何かを悔いているようだった。

 オリ主は苛立ちとともに内心で一人呟く。

 

 

 

「(何でこれをもっと早く思い付かなかったんだ……ッ!!)」

 

 本当にな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わってとある木造建築のボロアパート。

 そこで青髪ピアス曰く、合法ロリの代名詞にして生きる伝説こと、とある高校の担任をしている小萌は、夏休み明けの教師生活に胸を踊らせていた。

 

「みんなとまた学校生活を送れると思うと、ついついお酒が進んじゃいますねー♪」

 

 135㎝という驚異のスタイルを持つ彼女は、その体躯に似合わない缶ビールを幾つも開けて嬉しそうに呑んでいた。絵面的には相当ヤバいが、彼女はちゃんと成人を迎えた大人の女性である。

 

「天野ちゃんと一緒になってサポートしているとはいえ、上条ちゃんの単位は一般的な生徒さんと比べて、ちょっとヤバいことになっているのですが、まあ、これ以上休まずにちゃんと出席してくれれば、取り返すことは十分に可能ですねー」

 

 ゴクッゴクッと、缶ビールを男らしく呑みながら言う小萌。

 ここで男子高校生にとって、建ってはいけないフラグが建ってしまったようだが、不幸の代名詞の彼にはこれは日常なので、気にしなくても構わないだろう。

 

「天野ちゃんも上条ちゃんと同じで人助けをするために、度々学校を抜けてしまうことはありますが、常盤台に行っていたこともあり成績は優秀で、さらにはあの能力のお陰でどんな記録術(かいはつ)でもオールグリーンですからねー。

 上条ちゃんはその逆で全ての項目でオールレッドですけど」

 

 記録術(かいはつ)

 学園都市が行う時間割り(カリキュラム)の一つにして、ポピュラーな能力開発である。

 目隠しポーカーやスプーン曲げなどをするのだが、様々な能力者に変身できる天野には、できないことを探す方がよっぽど難しいほどの項目ばかりだ。

 そして、異能を問答無用で消し飛ばす幻想殺し(イマジンブレイカー)を宿す上条には、当然超能力が目覚めるはずもなく、この科目は鬼門だったりする(一般的な教科が得意ということでもない)。

 

「天野ちゃんはしっかり良い子なんですけど、もう少し大人の私を頼って欲しいのですよー。

 大人っぽく在りたいお年頃かもしれませんけど、実は誰かに甘えるということは、大人になったら必要になってくる技能のひとつですからねー。

 大人になったからって何でも一人でできるというわけではなく、誰かの力を借りないと達成できないことも、多くあるのですから」

 

 ここまで大人の先達者っぽいことを言っているが、その実、手のかかる生徒の方が個人的に好きなだけである。頼られることでさらにモチベーションが上がる彼女に、教職はまさに天職であった。

 そんな彼女が天野のことを思い、「しっかり者の彼女がもっと甘えられるような環境を作らねばっ!」と、一人奮起していると突如携帯に着信が入った。

 

「おや?天野ちゃんからのお電話ですかー?」

 

 彼女は急ぎでは無いときはメールをしてくるので、何かしら急用なのだろう。あらかじめ、既に手を回していることの多い彼女から数少ないお呼びだしだ。

 

「《もしもし、小萌かい?頼みたいことがあるのだけど、ちょっといいかな?》」

 

「はい!大丈夫ですよー!それでどうかしましたかー?」

 

 早速、頼ってくれる何かが起きたことに、不謹慎かもしれないが小萌は少し嬉しくなった。彼女にどんな注文をされるのか楽しm

 

 

 

「《いろいろあって僕は外で全裸になってしまってね。今すぐに服が欲しいんだけど頼めないかな?》」

 

「……え?…………あの、今なんと?」

 

 

 

 小萌は何か聞き間違いをしたのかと思った。それはそうだ。

 たまに予期せぬ行動を起こして、それが後々面倒なことに発展することもあるが、いつもは成績優秀で品行方正な彼女である。

 いくらなんでもあの少女が、全裸で外にいるわけ

 

 

 

 

「《このままだと風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)に捕まってしまうから、僕の体を覆えるくらいの衣服を持ってきて欲しいんだ》」

 

「は、はいぃぃいいいい!?!?!?」

 

 

 

 待ちに待った可愛らしい生徒のお願いに、小萌は絶叫を上げた。

 




これにて、革命未明編は終了です。次はアステカの魔術師ですね。

えっ?ミサイル?美琴がレールガン撃っておしまいです。


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アステカの魔術師編
58.デート回


テコ入れ回とも言う


「……むむむ、むぅ~~っ!!」

 

「…………はぁ……」

 

 (わたくし)上条当麻は夏休み最終日である31日に、ご存知ビリビリ中学生と、何故か恋人ごっこをするはめになったのだった。

 思い返してみれば昨日からおかしなことばかりである。

 学園都市の外から寮に戻ると、何故か先輩がうちの扉の前で体育座りをしていて、インデックスを見かけると同時に抱き付いたりするなどという、普段では考えられないようなことをしたのだ。

 そして、断固としてその理由を話そうとせず、ひとしきりインデックスに甘えると家に帰っていった。

 先輩が弱っているという珍しいものを見たときから、いつもの日常から既に外れていたのかもしれない。

 ちなみに、抱き付いている先輩の頭を撫でていたその姿を見て、インデックスが修道女であることを実感したりもした。

 

 そのことで、先輩がインデックスにお礼をしたいらしく、今日はインデックスの世話をしてもらえることになった。今日は土御門や青髪と出掛ける予定があったため、お言葉に甘えて先輩に頼んだのだが、……それがどうしてこうなったのやら。

 

「それで?見分けはつきましたかお嬢様?」

 

「あーー!もう、分かんないわよっ!じゃあ、はい!アンタはこっち!」

 

 そう言ってつき出されたのは食べかけのホットドッグ。同じものを頼んだのだから、そこまで気にするほどのことでも無いのだが、どうやらこのビリビリ中学生もいっぱしのお嬢様のようで、そこら辺のマナーは気にするものらしい。

 貧乏苦学生の上条当麻は「卵の殻をミキサーで粉々にすれば、もしかしたら食べられるのでは?」と、考えるほどに食べ物への執念を持ち合わせているため、溝に落下したわけでもないホットドッグを食べることに一瞬の躊躇も無い。

 

 その様子を正面で見ていた彼女は、顔を赤くしながら心を乱れに乱していた。

 

「(本当に本当にこいつは……っ、そういうの気にしなさいよねそこら辺気にするもんじゃないの普通は!?私だってテンパって誘っちゃったけどそもそもアンタあの人のこと好きなんじゃないの!?

 問い詰めて実際は付き合ってないことは分かったけど、あの距離感でただの先輩後輩は流石に嘘でしょ……!)」

 

 少年の否定された言葉と、自分が如何に女性からモテないかを死んだ目で語るその姿に、虚偽は感じられなかったがそれにしてもあの距離感は余りにも近すぎる。

 と、そこで彼女はあることに気付いた。

 

「(あ、あれ?もしかして私って客観的に見ると、女の子に言い寄られている男を横恋慕しようとしてる泥棒猫なんじゃ……?)」

 

 ここで彼女は気付いてしまった。赤かった顔を青くして視線を右往左往させる。

 

「(い、いや、これはそういうのじゃないし!デデデデートって言ってもこれは偽物だし!以前こいつと少女が仲良く歩いているのを共に目撃したから、今の状況がそう見えなくもないだけで……。ま、まあ、深い意味はないけどあの三人には絶対に会わないようにしよう……)」

 

 友達に仲睦まじい男女に割り込む女とは思われたくなかった思春期の少女であった。

 

「(というか、何でコイツ相手にこんなに動揺してんのよ私ぃ~っっ!!)」

 

 自分の感情が理解できない彼女は百面相をしているが、上条は「お嬢様ってのは分からん」と、勝手に結論を出してホットドッグを頬張った。

 

「~~~~っ!!)」

 

 それを見た美琴はまたしても顔を赤くする。常識だとか倫理だとかは再びどこかに飛んでいった。彼女は思春期なのである。自分の感情に振り回されるお年頃なのだ。

 

 上条は「デートとかよく分からんねーし、勉強も終わらないし何で俺夏休みのラストスパートでこんなことしてんだ?」と、思いながら残りのホットドッグを食べていく。

 そして、そんなことを考えていたせいで、横で顔を赤くしてモジモジしている第三位がいることに、当然の如く不幸な上条当麻は気付けないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がぶがぶ、ごくんっ!もぐもぐ、がぶがぶっ!!」

 

 ところ変わって上条宅。

 もはや、様式美とも言える光景が生み出されていた。

 

「(暴飲暴食は修道女としてアウトなのでは?)」

 

 先日、ここに押し掛けたお詫びに、インデックスの面倒を見ることになったのだが、やることといえばフライパンを振ることだけだ。

 ジュージュー、フライパンにいわせて、様々な国の料理をこれでもかと調理していく。……それが数十秒で無くなる様は言葉を失うのだが。

 

「バリバリっ、もぐもぐ、ごくんっ、……ぷはーっ!くさりの料理は本当に美味しいんだよ!」

 

「ふふっ、それは良かったよ(そろそろ腕がプルプルしてきたっ。つるって、本当につっちゃうぅ~~!!)」

 

 笑顔で返答しながらも、フライパンを持つ手が僅かに揺れている。既に何十食とつくってきたのだからそれも当然だろう。

 だが、恐ろしいことに暴食シスターの勢いに減速は無い。このシスターの胃袋は、どうやら質量保存の法則とかは知らない子らしかった。

 しかし、オリ主にはこのシスターに借りがあるため、手を止めるわけにはいかないのだ。

 

「(爆発のせいで、着ていた服は全部吹き飛んじゃったから、小萌先生が来るまで全裸でいるしかなかったんだよ。文字通りの全裸待機だったよ。しかも、外でなっ!(泣)

 一人路地裏で情けない姿で居たせいか、小萌先生が間違った方向に勘違いして顔を青白くさせたり、それを正そうと言い訳をしようにも、暗部が関わっているから言えないしで、めちゃくちゃ神経を使ったのだ。

 その結果がインデックス抱き付き事件である。あれはしゃーない。上条の中で先輩の新しい一面を見たくらいの認識であってくれ。今回のことで俺をイロモノ枠にしないでください。お願いします)」

 

 昨日のことを思い出して、内心で落ち込みまくっているオリ主だが、顔色一つ変わらないのでインデックスが気付くことはない。

 サーモンのマリネを掻き込みながら(せめて味わえ)、インデックスは言った。

 

「くさりって魚料理が得意なんだね!お肉やパスタも美味しいけど、お魚が料理の中で一番美味しいんだよ!」

 

「そうだね。確かに魚料理を一番作ることが多いかな。隣人に料理を振る舞うときに、肉なんかの油っぽいものはなるべく控えるようにしているからね。

 (小萌先生は検査ではめちゃくちゃ健康体で、肌艶も理論値的にあり得ないモノらしいけど、普段の飲酒やら喫煙を見てると、どうしても健康的なものを作りたくなっちゃうんだよなー)」

 

 小萌はあのなりで大量の飲酒はもちろん、重度のヘビースモーカーである。口に咥えるだけで銘柄を当てられる特技を持つと、前に自慢していた。

 そんな話をしながら、オリ主が次の料理を作ろうと調理を進めるが、ふと動きが止まる。

 

「おっと、そう言えば君の宗教ではワインは大丈夫かい?」

 

「え?もしかして飲酒するの?それはしちゃダメなんだよ」

 

「いや、料理の香り付けやコクを出すために使うんだ。フライパンでアルコールは飛ばすから、未成年者飲酒禁止法には抵触しないさ」

 

 ワインやビールはアルコールがあるから禁止されるのであって、それさえなければ未成年が摂取することは問題ない。

 アルコールは未成年者の身体には良くないものが、多く含まれているから禁止されているわけだし。

 それを聞いてインデックスは安堵したかのように、息を吐いた。

 

「そういうことなんだね。うん、構わないんだよ。ワインを口に含んじゃダメって教義はないし、教会で禁止しているところはあるけど、聖書には飲酒喫煙については禁止してないからね。

 すているを見れば分かるけど、牧師さんのヘビースモーカーもいるから、必要悪の教会(ネセサリウス)では飲酒喫煙は禁止してないんだよ」

 

「へぇー、そういうものなんだね。(宗教には詳しくないからこうして聞かないと、そこのところはよく分からないんだよなー。

 常盤台で宗教では出しちゃいけない料理もあることは学んだけど、それを全て覚えている訳じゃないし。

 まあ、いいならいいか。はい、どばーっ)」

 

 キリスト教にはワインの逸話が確かあったはずだから、もしかしたらワインを飲んではいけません、みたいな教義があるのかと思ったがそうではないらしい。

 その話を聞いて安心してフライパンにワインを投下する。熱しられたフライパンに投下されたため、放たれたワインの香りにインデックスのお腹から音が鳴る。おいおい、お前マジか(驚愕)。

 

 それから少し煮込んで、ブラックペッパーで味付けすれば、ほい、完成。

 

「鮭のアクアパッツァだよ。召し上がれ」

 

「わーい!もう既にたまらないんだよっ!」

 

 蓋を開けて蒸気のカーテンから出てきた、色とりどりのパプリカや旨味が凝縮された鮭に、インデックスの瞳がどこかの第五位と同じようにキラキラする。

 

「アクアパッツァは僕の得意料理でね。よく小萌にも作るんだ。味には自信があるよ」

 

「くさりの料理はどれも美味しいんだよ!とうまの料理も美味しいけど、くさりの料理はお店で出されているのよりも、もっと美味しいかも!」

 

「ふふっ、ありがとう(あれ?いやでもインデックスのいうお店ってファミレスじゃね?えー、それってどうなの?いや、最近のファミレスの料理はめちゃくちゃ美味しいけどさー)」

 

 せめてレストランの味くらい言ってくれたらと、やたら高望みをしているオリ主である。

 まあ、一年前より前の記憶は無いし、逃亡生活でレストランに行く余裕なんて無かっただろう。

 そして、上条がレストランにインデックスを連れていけるような、甲斐性などあるはずもないのだから、レストランの味を知らなくてもしょうがないことだ。

 そうして数十分後、ようやく食卓の戦争から解放されたオリ主は、インデックスを膝に乗せて『超機動少女(マジカルパワード)カナミン』という、女児向けアニメを観てのんびりと過ごしていた。

 

 そんな平和を満喫していると、インデックスの携帯電話に着信が鳴った。

 

「あれ?とうま?一体どうしたのかな?」

 

「(うん?あれ?そういえば確かミコっちゃんとのデートだと……)」

 

 俺が原作を思い出したのと上条がそれを言ったのは同時であった。

 

 

『インデックス!ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいか!?』

 

 

 あー、そうだアステカのストーカーだ。(言い方)

 そうそう、確か上条勢力の排除とか監視とか、そんな理由で襲ってくるんだった。

 いつもならインデックスを戦闘から遠ざける上条だが、今回ばかりはインデックスに協力を求めた。まあ、素人がプロの魔術師相手に無知で挑んでもそら死ぬわな。

 

「……黒いナイフは黒曜石。……照らされる光は金星。──うん、それはトラウィスカルパンテクウトリの槍だね」

 

「は?何だって?」

 

 は?何だって?

 

「トラウィスカルパンテクウトリの槍。分解魔術だよ。黒曜石のナイフを鏡として設定して、金星の角度を合わせると金星の光を「槍」に変えて照射するの。その光に当てられたらどんなものでも一撃で分解されちゃうんだよ」

 

 えぐっ、そんなヤツだっけ?当たったら一撃で即死じゃん。なかなかヤバい能力だったんだな。それなのにどうして印象が薄いんだ?

 

 ……あ、そうか。一度も人に当たったことがないんだ(察し)

 なるほどねぇ。やっぱりどこの世界でも槍は当たらないんだね。強いけどランサーはどうしても勝てないのが宿命か。

 まあ、エルキドゥはギルガメッシュと戦ったらしいから、同じように物量で戦ったはず。

 

 つまり、エルキドゥはアーチャーなのさ!

 ふっ、これは常勝無敗ですわニッコリ

 

「それでどうすればいい!」

 

「トラウィスカルパンテクウトリの槍は魔術的な加工がされているから、とうまの右手で黒曜石のナイフに触れば壊れるはずだよ」

 

「分かったサンキュっ!」

 

 ツーツーと、途切れる携帯電話。それほど切羽詰まった状況なのだろう。……いやまあ、知ってるけどさ。

 助かることを知らないインデックスは不安そうにしているが、それでも動こうとはしなかった。魔術師の狙いが自分なら、安易に動けば上条の邪魔になるかもしれないからだ。

 そんな健気な少女を見てしまって、何もしないのはあれなので、昨日のお返しに抱き締めて頭を撫でていると、三毛猫も心配するように鳴き声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、しばらく三毛猫とともにインデックスを励ましていると、玄関の方からどこか気の抜けたツンツン頭の家主の声が聞こえてきたのであった。




他宗教の配慮大事。医療で昔そのことで裁判起きたらしいし。

デート回と言う名の飯テロ回。デート回でオリ主が一ミリも関与しないのは、他の二次小説と比べても珍しいのではなかろうか?
まあ、一話でアステカの魔術師編が終わったからいいかな!
……これもはや、~編っていうのも間違っているような……?一話だけだし。


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日本神道の魔術師編
59.夏休みの最終日は宿題の日


高評価もらってテンションが上がりましたので投稿します。
エタる?褒められたらやる気出ちゃうチョロい作者ですが何か?

はい、というわけで日常です。


 上条が家に帰ってきた数分後、今俺は上条に勉強を教えていた。

 

「いいかい。日本で初めての能力者は御船(みふね)千鶴子(ちづこ)だ。これはどう考えてもテストに出る。今後も彼女の名前が出てくる問題も間違いなく出るだろうから、覚えておいて損はないよ」

 

 そう言って、上条に暗記させるためにノートに書かせる。暗記は手で実際に書かせた方が絶対にいいからな。まあ、例外もいるわけだが。

 

「とうまは大変だよね。色々とみょうちくりんなことを覚えないといけないし」

 

 完全記憶能力。

 一度見たこと聞いたことを完璧に記憶する能力を持つ彼女だが、どうやら科学は例外のようで、電子機器の取り扱いはもちろん科学の言葉は受け付けないようだ。

 

「みょうちくりんって……、俺から言わせれば魔術も大概訳がわからねぇけどな。ルーンだの神話だの、覚えづらいったらないぞ」

 

「それは、とうまが表面的なことしか覚えようとしてないからだよ。ルーン文字は北欧神話が起源なんだよ。だから、北欧神話の最高神であるあのオーディンもルーン魔術を使ったし、ケルトの大英雄、クーフーリンも得意とした魔術なんだよ。

 でも北欧神話はあくまで伝承の起源でしかなくてね、そもそも北欧神話自体がエッダっていう、口承で伝えられていた伝説だから、本当の起源は──「ストップ」……むぅ~」

 

 なんか長くなりそうなので、ここら辺で止めておく。小さな頬を膨らませているが、上条は夏休みの宿題が終わっていないヤバい状況なのだ。

 脳の容量をこれ以上無くしてしまったら、マジで間に合わなくなる。

 それに見てみろ。あかべこ人形みたいに頷いてるけど、あれ絶対に理解してないから。それで、キレて噛み付くんだろ?

 そういうのは宿題が終わった後にしてくれ。

 

 その後も超能力概論や、ESPカード実験の必須条件のレポートなどの宿題も、着々と終わらしていく。

 いやー、常盤台じゃ一年生で習ったので助かったわー(※常盤台は中学校である)

 そんな感じで宿題の消化は黙々と進んでいき、そしてあのっ、あのっ!上条当麻の宿題が終わるという、その偉業が成されるまさにその寸前。

 

 

 上条が宿題をしている机をぐわしっ!と掴み、後ろへとぶん投げた。

 

 

「「はえ?」」

 

 ドガシャァアッ!!と当たり前のように机の落下音が聞こえる。そんないきなりの俺の奇行に、目を白黒する上条とインデックス。

 しかし、そんなことに頓着している暇はないので、問答無用で困惑するインデックスの腰をひっ掴み、上条を無理矢理立たせて右手をベランダの方へ突き出させる。「え、えと、先輩……?」と、ドン引きしている上条に対して端的に告げる。

 

「もう、来るよ」

 

「えーと、何が来るのでせうか?先輩の行動が上条さんには全く理解でき

 

 

 

「──断魔の弦」

 

 

 

 いい感じのテノールの声音とともに、ベランダが跡形もなく粉砕した。

 

 あーあ、宿題の大半が木っ端微塵に……。




信じられるか……?上条ってこの数時間前に他の魔術師と戦ってるんだぜ?
あとまた、ランサーの話ししてるよコイツ……。
日常とは一体……。上条と居るとすぐに戦闘描写になりますね。でもしょうがないよね!だって上条って二週間に一度は死にかけてるんだもん!


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60.怖い顔してるけど実は良い人

なんだろう。この前までエタったはずなのに書けちゃった。
まあ、書けたんなら投稿しないとね!

とあるを知らないのに、この小説を面白いと言ってくれる人が多くなりました。とっても嬉しいです!これからも頑張ります!


 パキュゥゥンッ!!

 

「な……ッ!?」

 

 先輩の突然の奇行に驚いていると、右手に異能が打ち消される独特の感触がした。その先を見るとベランダが見るも無惨なことになっていた。打ち消していなければもっと大変なことになっていただろう。

 

「ほう、こちらの攻撃を事前に察知したのか。なかなか手強いようだ」

 

「ッテメェ!一体何も……ん……?」

 

 攻撃を仕掛けてきた魔術師がこちらの戦力を分析する。感情のコントロールができない魔術師の中では、相当に冷静沈着な男だということが分かる。

 ……いや、もしかしたらあらかじめ、ブレないように覚悟を固めているのかもしれない。

 しかし、そんなことよりも俺達は別のことに注意を向けることとなった。

 

「「「あ」」」

 

 パラパラと舞い落ちるそれを見て、俺達は三人同時に声を出す。だが、侵入者は当たり前だがそんなことには頓着しない。

 

「ほう、そこの娘が禁書目録か」

 

 右腕に籠手とボウガンを組み合わせたような、特殊な武具を装備している、スーツ姿の大男がベランダから入ってきた。男は細い目でインデックスを見詰める。

 男は決まり文句のような忠告を上条と俺に告げた。

 

「今ならそこにいる禁書目録を大人しく渡せば、危害は加え「お前……ッ」……ん?」

 

 そこでようやく闇咲は上条の様子に気が付く。闇咲が目を向けるとそこには怒りで震える少年がいた。

 

「おうおうおうおう、どうせインデックス目当ての魔術師なんだろ?俺と先輩の汗と涙の結晶を木っ端微塵にしやがって!

 当然、覚悟はできてんだろうなぁ!?どう落とし前付けるつもりだ!

 それとも何?お前が今までの分やってくれんの!?俺の宿題お前がやってくれんの!?そこんとこどうなんだおおんッ!?」

 

「とうま。なんだか不良みたいなんだよ」

 

「あそこまで不良らしいのはなかなかいないけどね」

 

 そう言いながら、俺はインデックスを降ろした。あんなに食べたくせにめちゃくちゃ軽かったので、別に持つだけなら良かったのだが、絵面的に俺が誘拐犯みたいでなんかイヤだったのだ。

 誘拐しようとしてるのはあっちである。

 空気がなんかまったりとしているが、それもしょうがないだろう。

 上条もインデックスも普段からこんな感じだし、俺はこの先どうなるか全部知っているし。

 

 だって……ねぇ?コイツめちゃくちゃ良い奴だろ?緊張感持てっていう方が無理だわ。

 魔術師なんてどいつもこいつもあれな性格ばかりの中で、好きな女性のために人知れず命懸けるような奴じゃん。

 インデックス傷付ける事が目的じゃないし、上条の右手を言えばもうこれ終わりだし。

 ……うん、シリアスになる必要が全く無いわ。

 

 とはいえ、その事を闇咲(やみさか)逢魔(おうま)が知るわけもない。

 

 気炎を上げて威嚇する上条。それに対して魔術師は冷静に告げる。

 

「知ったことか」

 

「あ"あん!?」

 

 あら?言葉遣いがお下品ですわよ?(常盤台風味)

 様子が明らかにいつもとは違うが、それほどまでに怒り心頭なのだろう。まあ、今までやって来たのをほとんど全て台無しにされれば、そうなるかとも思う。

 ちなみに、俺も少し苛立ってはいる。

 机に乗ってあった数個以外の宿題が全て無くなると言うことは、今まで教えたヤツが全部パーということだ。また、教えるの俺なんだぞコラ。

 

 つーか、何でここなの?原作じゃファミレスだったじゃん(マジギレ)

 じゃあ、俺悪くなくない?そんなの予測なんて無理だし。

 これだから、魔術師ってヤツは。……ハンッ!(嘲笑)

 

 うん?でもそういや何でファミレス行ったんだっけ?何か理由があったような……?

 え~と、確か上条がミコっちゃんとデートして、エツァリ(アステカの魔術師の本名)と殴りあって好きな人の話をぶちまける青春して、その後家で宿題やってる最中に…………。

 

 

 あっ、インデックスが腹空いたって言ったんだった。

 

 

 

 

 ……………………おーと。

 

 サーモンのマリネ、鮭のアクアパッツァ、ボンゴレビアンコ、タラのグリル、ペペロンチーノ、牛肉の赤ワイン煮込み、海鮮丼、鯖の照り焼き、豚の生姜焼き、若鳥の山賊焼き、シャリアピンステーキ、麻婆豆腐、青椒肉絲、油淋鶏、タコス、ワラチェ、パエリアなどなど……。

 

 …………。

 

 …………。

 

 テヘっ!、俺なんかやっちゃいました?(冷や汗)

 

 

 はい、ごめんなさい。俺が悪いです。

 そりゃあ、ご飯食べに行こうなんて言わないよな。だって俺が食わせてたんだもん。

 そりゃ、ここで邂逅するわ(納得)

 

「子供の遊びに付き合っている暇はない」

 

「ッインデックス!」

 

 魔術師がいつの間にか、離したインデックスの背後へと移動している。

 ……気配で分かってたけど敢えて見逃す!その理由?一旦人質にされて上条が助けた方がカッコイイだろ?(クズぅ)

 シチュエーション的に上条のウチっていうのも締まらんし。それに、こういうのって実際に戦わないと、信用してもらえなそうだし。

 ほらっ骨身に沁みたって感じ?リアルな感覚は必要だと思うんだよね。上条の拳は文字通り骨身に沁みるけど。

 あ、いや実際のダメージはスフィンクス(上条家の三毛猫)なんだっけ?これもう訳分かんねーな。

 そんなことを考えていると、男の右腕に装着している弓が、ひとりでに動き弦が弾かれた。

 

「透魔の弦」

 

 当麻の弦?幻想殺し(イマジンブレイカー)かな?

 何て下らないことを思っていると、透魔の弦によって闇咲とインデックスの姿がだんだんと消えていく。

 

「クソッ!インデックス!!」

 

 上条が焦ったように二人が居たところに手を伸ばす。それを見て急いで俺も手を伸ばす。

 すると、

 

「ひゃあ!?」

 

 ふにょんと、左手が女の子特有の柔らかい部位に触り、インデックスが高い声を上げた。小さいながらもその確かな感触は明らかにおっぱいだ。

 

 ───フッ、勝った。

 

 上条よりも先に左手が到達したために、インデックスの慎ましやかな胸を触ることができた。ラッキースケベは俺が頂くっ!(確信犯)

 

 まあ、そんなことしてたら当然逃げられるよね。上条と二手に別れて行動するが、もうそれっぽいビルも見付けたし、後は闇咲が術式を発動するのを待てばいいかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~30分後~

 

「……誰かを助けたいと思うことは間違っているのか……!この命に替えても救ってやりたいと思うのはまちがっているのかッ!」

 

「間違っているに決まってんだろッ!」

 

「ッ!?」

 

 

 あのあと、原作通りインデックスが捕まっているビルに向かって、上条が儀式場を破壊した。原典を読むなんて成功なんてするはずがないんだよなぁ。

 原典は猛毒でしかないから一冊見ただけで死にかけるし。それで、呪いを解くための原典が見つかるまで読むなんて、普通に考えて無理だよね。

 

 

「辛かったはずだ。苦しかったはずだ。泣きたかったはずだ。逃げ出したかったはずだ。なら、それを誰かに押し付けちゃダメだ!

 そんな痛みを大切な誰かに味合わせるのだけは、絶対にしちゃダメなんだよ!!」

 

 このセリフは上条と類似しているところがある。記憶が無い苦しみを、インデックスに味合わせないようにしているわけだし。

 

 ……いっそのこと記憶喪失のこと知ってるって、言った方がいいかな?なんかフォローできるかもしれんし。

 ……あぁいや、そもそも記憶喪失なるの知ってて止めなかったわけだし、そんな資格もないか……。

 

 はぁ……、なんかテンション下がったから、ここからは箇条書きで。

 

 

 

 そんな風に上条が説教して。

 でも闇咲が原典による猛毒の痛みで気絶しそうになって。

 それでスフィンクスが爪を引っ掻いて止めを刺して。

 闇咲が覚醒した。

 

 なんだこれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上条は右手を闇咲によく見せるように開いて説明する。

 

「ほら、俺の右手。幻想殺し(イマジンブレイカー)って言うんだけどさ。どんな超常の物でも異能でさえあれば打ち消すことができるんだ。

 あんたの大切な人が苦しんでいる呪いってのも、結局は異能なんだろ?じゃあ、俺の右手で触ればそれで終わりだ」

 

「ほ、本当にそんなことが!?」

 

「あんたも見たはずだ。あんたの異能を打ち消すところをな。この右手はそういうものなんだ。ここまで来て見捨てるなんてしねーよ。その人を助けたいんだろ?なら助けに行こうぜ。

 あんたのせいで夏休みの宿題は散々だ。間に合わせるのはもう絶望的だぞ?

 そんな中でその人のところまで行くんだから、あんたにもその大切な人が居るところまでは、意地でも付き合ってもらうからな」

 

 聞いた言葉が信じられないかのように闇咲は呆然とし、その事実をきちんと理解したのか涙を流し始めた。

 最悪の結末を変えることができるのだと、今しっかりと理解したのだ。挫折を味わい続けた男がようやく掴んだ希望だった。

 大人の男が泣いている様は情けないように見えたが、不思議と惨めだとは一切思わなかった。

 自分のためではなく誰かを想っての涙だからだろう。

 

「はぁ、全く魔術だの呪いだの。訳わかんねぇもんに振り回されやがって……」

 

 インデックスも上条の先輩である天野倶佐利も、笑顔でそんな男のことを見詰めていることが分かる。

 顔を合わせなくてもみんながみんな、この馬鹿な男のことを助けたいと思ったのだ。

 ならば不足など何一つない。

 

 泣き崩れる男に向かって上条当麻は、グッと力強く右手を伸ばす。

 

 ここから先は悲劇なんて起きやしない。ハッピーエンドまでの片道切符だ。それをこの男に分からせるために、不敵な笑みを浮かべて上条は言った。

 

 

 

 

「そういった、くだらねぇ幻想を全部まとめて、ぶち殺しに行こうぜ!」

 

 

 




何気にこの話好きだなぁ。
あと、オリ主はどこまでも自業自得です。

ようやくこれで風斬氷華が出せるぞいっ!次の章ではオリ主の秘密がいくつか明かされます!多分!

これで流石にしばらくは投稿するのは無理かなぁ。


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正体不明編
61.九月一日


闇咲の大切な人を助けに行く話って、原作でも詳しく描写されてないんだね。
それでは、正体不明編です。


 九月一日。

 今日から学校が始まる。学校に通うことは学生にとってありふれたことだろうが、上条当麻にとっては未知の世界だ。

 口に溜まった唾を飲み込んで、ガララッ!と教室の扉を一思いに開けた。

 

「よ、よお。みんな久し振りだな……」

 

 俺からしたら初めて見る顔ばかりだが、記憶喪失のことは誰も知らないため、無理矢理合わせに行くしかない。探り探りやって行くつもり───だったのだが。

 

 予想外にも何故か教室はピリついていた。

 この状況が訳がわからずに混乱してしまう。一体このクラスで何があったんだ……!?

 緊張感張り詰める教室の中で、記憶喪失後も面識がある青髪ピアスが、俺に声をかけてきた。

 

「上やん。もしかして……」

 

「な、なんだよ。青髪……?」

 

 驚いたことに青髪の声は真に迫ったものだった。

 もしかして上条当麻として、何か不自然なことでもあっただろうか?

 当然だが今の上条には見当もつかない。本人でさえ気付かない失態に冷や汗を流すが、青髪の口は止まることはない。

 心の準備をする暇すらなく、青髪はその言葉を言ったのだった。

 

 

 

「夏休みの宿題ぜーんぶウチに忘れたんか?いやー、流石の不幸やね。その切羽詰まった顔を見れば一目瞭然やで」

 

「…………は?」

 

 

 

 微塵も思っていなかったことを明るく青髪が言うと、クラスメイト達がスタンディングオベーションをするかのように、一斉に立ち上がった。

 驚いて見渡すと全員が全員、喜色満面だ。

 

「よっっしゃぁぁああああ!!これで、不幸に愛されている上条に先生達の説教が集中するから、俺達へのダメージは軽減される!」

 

「やったわ!私達、助かるのねっ!」

 

「キャー!カッコいいよ!上条くんっ!」

 

「同類バンザーイっ!!」

 

「って、おおいっ!つーか、テメェら誰もやってねえのかよ!?」

 

 そんな風に喜んでいる同級生を見て、堪らず叫んだ。何なんだこのクラス……。

 そんな動揺を隠せない俺の肩を叩き、青髪が言った。

 

「まあ、そない気にすることでも無いやろ。クラスの三分の二が補習に参加しとるぐらいやし、小萌先生もそれで喜んでくれとるから、win-winやで」

 

「どんな理屈だよ!?おいおい、あの人居酒屋とかで酒呑みながら、一人で泣いてるんじゃねえだろうな!?」

 

「あっはっはっは!大丈夫やって!僕なんか小萌先生に怒られるためだけに、宿題全部終わってんのに敢えて一つ残らずウチに置いてきましたよ?」

 

「やめてやれよ!好きな子にイタズラしたい小学生か!!」

 

 人が並々ならない覚悟を決めて来たというのに、一気に気が抜けてしまった。

 ……いや、違うこれが本来の日常なのだ。

 

 ──ただ俺にとっては初めてというだけで。

 

 初めて見る同級生の男子や女子が、心底安心したかのように胸を撫で下ろす。その様子を見て、先ほどあることを言っていなかったことに思い出した。

 

「いやー、助かったぜ。不幸の避雷針である上条が居れば、俺達の学生生活は安ぜ

 

 

 

「言ってなかったけど、俺はもう宿題は九割近くは終わってるぞ?あとは提出するだけだ」

 

『……は?』

 

 

 

 教室の空気が凍った。それは偶然にも先ほどの上条と同じシチュエーションである。

 その中で一番最初に驚愕から立ち直った青髪が、おずおずとした様子で話しかけてきた。

 

「い、いやいや、上やん……?ウソはあかんで?あの上条当麻が夏休みの宿題を提出できるなんてっ!そんな馬鹿な話あるわけないやろ!!」

 

 あんまりにもあんまりなセリフだが、上条当麻と同じ教室で共に過ごした学友には、当然の如く降りかかる不幸は認知されている。

 不良に絡まれることはいうまでもないことだが、じゃんけんなどの運試しでは人生で一度も勝った経験は無いし、駐輪場に自転車を停めれば100%盗まれる。

 そんな、全ての不幸を背負っているかのような男が、上条当麻なのだ。その上条当麻が宿題を出せる状況であるという、摩訶不思議なこの状況。

 彼らからすればそんな馬鹿げたご都合展開など、絶対にある訳がないのだ。上条はそこまで言われて逆に得意気に言った。

 

「フッ、上条さんには勿体ないほどに優秀すぎる、家庭教師がついてくれていたからな。その人の力さえ貸して貰えれば、不幸なんて敵にすらなりはしませんことよ」

 

 そんな一気に調子に乗っている上条だが、宿題はまだ残っている事実をどうやら忘れているらしい。

 だが、そんな上条のセリフに反応する男がいた。

 

「家庭教師?………………!…まさかッ……………………………………」

 

「…………え?え?ちょ、ちょっと青髪?いきなりどうしたんだ?」

 

 青髪ピアスが何かに気付いたかのようなリアクションをすると、急激にテンションが落ちた。余りの下がりように、青髪をつい心配するような言葉を投げかけてしまうほどだ。

 周りのクラスメイトもそんな異常な青髪を、流石に不審な目で見ている。

 そんなドン引きの視線を一切気にせず、青髪は端的に上条に問う。

 

 

 

「上やん。その家庭教師って天野倶佐利お姉様のことや、あらへんよねぇ……?」

 

 

 

 まるで呪詛のようなおどろおどろしい声音に身震いする上条。明らかに今の青髪はヤバい。

 しかし、そんな上条とは違って、その言葉を聞いたクラスメイト達はそれ以上の困惑などせずに、ブリキ人形のようなカクカクした動きで、ゆっくりと顔をこちらに向けてきた。

 その異常な光景に「ひぃっ!?」と情けない声を上げるが、仕方のないことだろう。

 青髪ピアスは尚も言葉を続ける。

 

「ほうほう、上やんは俺達が寂しく夏休みを過ごしている間、あの学園のマドンナである天野倶佐お姉様と、贅沢にもマンツーマンでのお勉強かいな。

 いやー、それは勉強も進むやろなぁ。天野お姉様が網タイツ穿いたエロエロな女教師コスで、手取り足取りみっちりと教えてくれる個人授業なんやから。

 ───それはそれは、随分と捗ったんやないの?色・々・と」

 

「(あ、これヤバいやつだ)」

 

 上条の第六感がここにいては不味いことを感じ取った。先輩への風評被害もどうにかしたいが、ここに居れば間違いなく殺られる……!

 すぐさま回れ右して扉の方に走ろうとするが、ピシャンッ!と音が鳴り扉が閉じられた。クラスメイトの男子生徒の手によって、既に出入口は押さえられている。

 ならばっ、と窓の方を向くがあらかじめ想定していたのか、何人かの人員がもう回っていた。

 

 くっ、退路を全て押さえられた……!!

 

 逃げ場を失った上条に向かって、エセ関西弁を話すその男はゆっくり歩きながら言った。

 

「さぁて、始業式まではちょおっとばかし時間はあるで。

 それまでに、何で仲良いことをまるで見せ付けるみたいに密着して、わざわざ一緒に登校してきたその理由から、二人ともおんなじように寝不足気味な理由まで、一つ一つ精査して行こうやないか。なあ、上やん?」

 

 まるで、理論武装で追い詰めていくかのようなセリフに反して、指をポキポキ鳴らしているのは一体何故だろう……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は絶望していた。

 

 闇咲の大切な人を助けるために学園都市から脱出し、上条と一緒になって朝方に帰ってきた。それについてはどうこう言うつもりはない。

 闇咲の大切な人だからアニメで詳しくやっていなくても、興味はあったし。

 その魔術師達もフルボッコにしてやってスッキリはした。幻想殺し(イマジンブレイカー)って超便利だわ。呪いにかかったら即解除してくれるから安心安心。

 まあ、エルキドゥの特性が怖くて、受けてやる気にはならなかったけど。

 そんな感じで暴れに暴れ、闇咲の件は恙無く無事に完了した。

 

 では、何故俺は絶望しているのか。

 ほぼ徹夜明けなのにも関わらず、午前中だけとはいえ学校があるから?

 違う。

 夢でエルキドゥと対話みたいな妄想をこの頃しているから?

 違う。

 

 俺は闇咲の大切な人を助けるために戦っていたため、ものの見事にその大事なイベントの日付を忘れていたのだ。

 

 

「(昨日は一方通行(アクセラレータ)打ち止め(ラストオーダー)を助ける話じゃんっ!!)」

 

 

 あの尊い名シーンに立ち会えないなんて!俺は何を求めてわざわざ転生をしたんだッ!(神により無理矢理である)

 何かいい感じの雰囲気に流されちまったっ!もっと深く思考を回しておけば……いや、仮に気付いてもあそこで、「このあと一方通行を出刃亀するからお疲れ~♪」なんて、そもそも言えないし?どうしようもなかった話なんだけども!

 うおぉ~。でも、どうせアレイスターの奴が覗き見してるだろうから、立ち会えても目をつけられる可能性があるし、結果的にはこれで良かったのか……?

 いや、でもな~~!

 

 そんな感じで始業式は一人の世界に入ったまま、適当に流した。つーか、逆に始業式で気合い入れて来る奴なんて見たことがない。

 ……あぁ、一人根性入れて来る奴に心当たりがあるわ俺。

 

 上条と一緒に速攻であっちの魔術師を倒したあと、家庭教師として移動中に宿題を幾つか消化しといた。一度やったことをなぞるだけだから、別に不可能と言うわけでもないしな。

 上条と俺の記憶から、書いた文章をまた書く作業をこなせば終わりだ。

 時間さえあれば今日中に全部終わるのだが、時間がないために小萌先生などの優しい先生の宿題だけは残すことにした。これはしょうがない。

 

 あとはそれをまた不幸で木っ端微塵にならないように、上条を護衛するだけでいい。

 発火系の能力者や水流操作の能力者の能力が、やたらと上条の鞄の吸い込まれるかのように発動したり、転がっていた空き缶に上条が足を捕られて鞄を放り投げてしまったり、「遅刻、遅刻ぅ~~!」とも言いたげな女子中学生達が、上条にタックルかましてきて危うく鞄が川に落下などなど、上げていけばキリがない。

 エルキドゥのスペックと劣化模倣(デッドコピー)ならば、上条の腕を引いて危険から回避したり、能力で鞄を回収することができる。

 その甲斐あって、上条を無事に送り出せたのだった。

 

 別れるとき「何か言いましたか上条ちゃん!?まさか、また先生のことを背後からこっそり近づいて、高い高いしようとしてますか!?」「してねえよ!疑心暗鬼になりすぎだアンタ!」なんていう言葉だけだと、意味がわからないセリフのはずなのに、何故か心当たりがある会話なのは……まあ気のせいだろう。

 

「(俺が家庭教師をしたのに全然できてないとか、小萌先生に失望されちゃうって。それは流石にキツい。

 まあ、家庭教師だけじゃなく俺が事件に関わったせいで、何かが変わっているかどうかを確かめるって意味もあったけど、無事に原作通りに進んでいるようで何より何より)」

 

 そう、今日は九月一日。

 つまり、上条達が風斬(かざきり)氷華(ひょうか)と出会う日なのだ。原作通り上条が学校に居るのなら、恙無くストーリーは進むはず。

 つまり、心配するようなことは何一つ残ってはいない。

 

「(今日は帰って少し寝るか~)」

 

 気になるっちゃあ気になるが、今回の敵であるシェリー=クロムウェルは、今後の話で重要になってくるようなキャラでもない。

 風斬氷華はこのあとも出番があるキャラだけど、何も最初から出会う必要はないだろう。適当なところで途中介入するのが良いと思う。

 あと眠いし。テンション下がってるし。

 だから、今日はこのまま直帰だわ。お疲れ~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、すんなりいくほどこの世界は、うまくはできていないらしい。

 

「あっ、くさり!」

 

 そう言ってトテトテ歩いてきたのは真っ白なシスター。

 ……あぁ、そりゃ学校に居るよねー。

 

 この話はインデックスがお腹を空かせて、上条の学校に来てしまうことで始まったと言っても過言じゃない。インデックスと風斬氷華の友情物語なのだ。

 まあ、そうなると、

 

「こんにちは。俺達このあと遊びに行くんですけど、先輩もどうですか?」

 

 保護者も居るよな。もう午後だし。

 

「申し訳ないけど断らせてもらうよ。少し眠くてね。家に帰って仮眠を取るつもりなんだ」

 

「あ、すみません先輩。俺が朝まで付き合わせちゃったばっかりに……」

 

「あっ、そうなんだよ!どうして私を縄で身動きできないくらい縛って放置して、とうまとくさりは一緒にさっさと行っちゃったの!?

 この私を差し置いてそんなことするなんて、常識的に考えてあり得ないんだよ!三人の中で私が一番に行くべきだったのにっ!

 あと、朝まで耳元で鳴かれてたから、ちょっと寝不足なんだよ!」

 

 結局、学園都市の外に出たのは上条と俺の二人だ。上条はインデックスを危険な目には遭わせたくないらしく、闇咲に頼んでインデックスを魔術を使って縄で縛り上げた。

 そして、不本意にもインデックスはお留守番となったのだ。

 魔導図書館であるインデックスからすれば、完璧に魔術サイドである今回の戦いに連れて行って貰えなかったことは、不満でしかないのだろう。

 問答無用で縛るように言った上条もまあ、悪いかなとは思うし。

 俺?そこら辺は教え子の主体性を尊重してるので。上条にお任せですけど?

 あと、最後のはスフィンクスのせいだから、俺達関係なくない?

 そんな、いろいろ込み合った話しをしていると、インデックスの後ろにいた女生徒が口を開いた。

 

「え、えっと……会話の内容がかなり不穏だけど……。……もし、本当にそういうことだったら…………私、何か言った方がいいのかな……?」

 

 なんか既にキャパシティ越えしている、おどおど系の眼鏡巨乳……もとい、作中屈指の超乳を持つ少女。

 今の俺達の会話で、何をそんなに戸惑っているのかと考えてみると、すぐにその答えは出た。

 

「(……あー、なるほど。確かに不穏だわ。というか、すっごく如何わしいなこれ。日本語ってフシギダネー)」

 

 理解はできたが……まあ、いっか!

 このむっつり超乳眼鏡を勘違いさせておくのも愉しそう……もとい、楽しそうだし。

 

「そうだ、くさりは知らなかったよね。こっちに居るのがひょうかなんだよ!」

 

 そうして元気よく紹介された少女は、こっちを見ると同時にどこか怯えたような反応をした。

 ……間違いなく誤解されてるなぁ。もしかして、この中で一番大人っぽいから主犯格にされてる?

 

 そうして、インデックスに促されて、おどおどしながらも少女は自己紹介をする。

 予想通りというか当たり前のことなのだが、やっぱり少女はその特徴的な名前を言ったのだった。

 

 

 

「えっと、あの……は、初めまして……。風斬氷華……です」




導入だから少なめ……でもないな。青ピのセリフなんか入れたくて書いてたらかなり増えました。
今回は勘違い要素を強くしてみました。できてるかな?
あと、少しラノベっぽい雰囲気も取り入れてみました。
高評価ありがとうございます!頑張ります!


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62.愉悦

闇咲「食うか?」

大切な人「ええ、頂くわね。あーんっ──辛ッッッ!!!!」

闇咲「愉悦(笑)」


「とうま、ずっと思ってたんだけど、何でそんなにボロボロなの?」

 

「クラスメイトの団結力って奴を味わった結果だ。……何であの中に女子も混じってたのか不思議だったんだけど、先輩に助けられてファンになった奴が、ウチのクラスの中にもいたらしいんだよな

 

「「???」」

 

 やたらとボロボロの上条。

 いやいや、学校に来るまでは俺がしっかり警護してたじゃん。何があったし。

 インデックスと一緒に首をかしげるが、答えはでない。

 

 それにしても、夏休み明けの一日目でそんなことになるなんて、ちょっと世紀末すぎない?

 少し目を離した隙にそうなるとか、どんだけバイオレンスな日常なんだよ……。今日の本番はこれからだぞ?

 

 

 

 

 

 

 あのあと、俺は結局上条達に着いていくことになった。不眠不休なのに。

 まあ、しゃーない。あのまま放っておいたら絶対とんでもないことになるからな。

 上条達は遊ぶためにどうやら地下街に向かっているらしい。やべぇ、ここら辺はそもそも印象にないわ……。ビキニアーマーしか記憶にねぇんだけどどうしよう。あー、えーと、シェリー来るのいつだっけ……?

 無茶苦茶強いって訳でもないから、戦闘もアニメだと割りとあっさりしてたんだよなぁ。くっ、アニメを適当に見すぎた弊害か……。

 そんなことを考えていたせいだろう。上条の言葉でようやくそのことに気付いた。

 

「えーと、それで風斬(かざきり)さん?どうしてそんなに離れていらっしゃるのでせうか?」

 

「……いえ、その……お構い無く……」

 

 なんかやたら風斬に距離を取られている上条。

 それは距離を取られるに決まってるわ。逆に普通に接してきたら怖いレベル。

 だって、不純異性交遊の中でも、かなりのハイレベルなステージに居ると思われてるからね?俺達。

 それこそ強さ的には超能力者(レベル5)級だよ?

 

「もうっ、とうまが怖がらせるからだよ!……大丈夫だよひょうか。とうまは女の子に片っ端から関わっていくような珍種だけど、いい人だから」

 

「どうしよう……。さらに、危ない人なのが確定しちゃった……」

 

 うーん、このシスターとことんまで誤解をさせるのに、余念がない。

 俺達いたいけなシスターを縄で縛った上に、その近くでエキサイトしてたクソ野郎共だと思われてるから、そりゃあ優等生気質な風斬は近寄りたくもないよ。

 その上、その縛られた可哀想なシスターも割りと乗り気とかいう時点で、もうどこにも救いがない。

 そんなのに直面したら風斬も大混乱だわな。

 

 それでも、風斬が未だにインデックスの側に居るのは、最初に見付けてくれた女の子ってのが大きいと思う。

 全く銀髪シスターは純粋だし。ツンツン頭の男子高校生は鈍感の塊だ。

 

「(やれやれ、しょうがない。

 ここは緑髪のスーパーロングで、人の機微に聡いこの俺に任したまえ)」

 

 後ろ手に手を組み上条と話すために近づく。そして、他の二人に対しては言葉を投げ掛けてはいないけれど、それでも確かに聞こえる音量に調節する。

 そして、「それにしても……」とオリ主は話を切り出した。

 

 

 

「昨日は予想よりも激しいものになってしまったね後輩。僕も久し振りに好きに動けていい気分転換になったよ。

 あっ、そういえば君の体の調子はどうかな?無理をしてないかい?」

 

 コイツ、完璧に確信犯である。

 

 

 

 創作の世界にいるため、オリ主はこの世界がリアルだとは思えない。そのせいか主要キャラからの評価は気にするが、それ以外の世間体についてはあまり頓着しなかったりする。

 そのセリフを聞いた風斬は顔を真っ赤にしていたが、皆目見当もつかない。イッタイナンデナンダロウネー。

 

「まあ、こんくらいは全然大丈夫です。先輩こそ徹夜ですけどキツくないですか?(昨日の戦いから不眠不休の俺を心配してくれたのか……!先輩も同じ状況なのに、なんて気配りができるんだっ!)」

 

 上条は年上の女の子の細やかで、心暖まるそんな優しさに胸が震える。

 ……それを言葉にすれば、風斬の誤解も解けただろうに。

 

「むぅ~~!!くさりばかりずるいんだよ!私もやれば(魔術に限り、とうまのフォローを)誰よりもうまくできるのにっ!」

 

「…………」

 

 インデックスはそんな風に通じあっている二人を見て怒った。

 ……それを言わなければ、風斬の誤解も深まることはなかっただろうに。

 なんかもう風斬がドン引きの極致みたいな顔してる。いや、俺としてはインデックス辺りが、魔術結社(マジックキャロル)がどうこう言い出すと思って話をふったんだけど、ここまで状況を悪化させるとは。……天然こわい。

 しょうがないなぁ。借一だぞ?(ここまで発展させた元凶)

 

 えー、ごほんっ。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………………………………………………………へ?」

 

 

 

 気まずそうに俯いていた風斬だが、俺の言葉を聞いて呆気に取られたような表情をした。

 

「やっぱり、くさりもそう思うよね!?そうなんだよそれが当たり前なんだよ!」

 

「先輩!?インデックス縛って置いて行くときに、何も言ってなかったのに!?突然の裏切りに上条さんは悲しぎゃああああああああああ!!!!」

 

 今までの鬱憤が爆発したのか、上条の頭に(かじ)り付くインデックス。

 

 そんないきなりのギャグ展開に着いていけず、風斬は困惑した。

 

「え?、え……?どういうこと……?だって、……え?」

 

 うん、マジで困惑してるな。

 

「痛たたたたたっ!!いや、だ、だから!インデックスは直接的な自衛手段はないだろ!?今回の呪いは俺の右手で打ち消せるものだったから、俺一人で解決できるじゃねえか!」

 

「ほんっとうに馬鹿だねとうまは!敵が呪い以外を使うことだって普通にありえるんだよ!魔術は一つの系統だけじゃなくて、様々な魔術体系の要素を取り込むから、超能力なんかとは違ってやれることの幅が広いんだから!

 右手で絶対に触らないといけないとうまに、もし物量で押し潰す魔術を出されたら!?もし、魔術で目で見えないように隠蔽されたら?もし、何かの魔術で加工していて、その魔術を解いた途端に魔術が関わらない、質量で押し潰す攻撃なら、とうまは今頃地面の染みになってるんだよ!!」

 

 ぐあー!!と、再び上条の頭に噛み付くインデックス。

 

 まあ、呪いを打ち消せるのだとしても、魔術師がもし打ち消したことで新たに発動する何かがあれば、魔術知識の持たない上条と俺では対処できない場合があるし、魔術側の情報のアドバイザーがその場にいるなら、最悪の展開になることは万に一つもないよね。

 それを分かっていても上条は、インデックスを戦場に出したくなかったみたいだけど。

 

 そんな俺達の会話についてこれない風斬に、俺が昨日の夜のことを説明する。

 

「実は僕と後輩は、とある不器用な男が助けたいという女性のために、学園都市の外にいる悪い奴らへ殴り込みをかけに行ってね。

 無事にその女性を助け出し、今日の朝方また学園都市に戻ってきたというわけさ」

 

 あまりにもぶっ飛んだ話についていけないようだ。だが、今喧嘩している二人の様子から本当のことなのだろうと、うっすら理解したようである。

 流石にあれが誤魔化しかどうかぐらいは分かるだろ。

 

 ふぅーー、これでインデックスや上条の悪印象は払拭して、安心して友達に…………おや?

 

「~~~~っ!!!!」

 

 なんか、いきなり頭から湯気だして、茹で蛸みたいに顔を真っ赤にしているぞ?

 ……ははーん、こやつ。ようやく自分のドエロい勘違いに気付いたな?あの二人がそんな淫らな関係性なわけが無いだろうに。

 会話してればなんとなく分かると思うんだけどなー?先入観というのは恐ろしいものだね。

 

 だが、歳という概念があるかは知らんけど、一応先輩としてこの愛らしい少女に声をかけないとな。

 今の羞恥をずっと味合わせておくなんて、そんな真似は俺にはできない。

 

「随分と顔が赤くなっているけど、どうしたんだい?」

 

 ビクゥッ!と肩が震えた。話しかけただけだというのに、流石ににビビられすぎじゃね?

 ……ふぅー、全く悲しいなぁ。

 

「ふむ、今の話を聞いて何かショッキングなことでも分かったのかな?」

 

「ああああの、その、え、ええっとっ!」

 

「──それとも」

 

 目をぐるぐるさせて涙目の彼女は、庇護欲を掻き立てられる。本当に魅力的な少女だ。

 そんな素敵な彼女の目線に合わせるように覗き込む。

 羞恥で真っ赤になって震える彼女に、慈愛の笑みと柔らかな声音を作って、優しく聞いた。

 

 

 

 

「もしかして、今まで何か別のことと勘違いしていたのかな?」

 

 

 

 

 今の羞恥のさらに、向こうへ!

 

 Plus Ultra!!

 




やめてやれ(切実)
鬼畜加減が一気に上がった気がする。

ちなみに、「借り一だぞ?」ってセリフはオティヌスからパクったりしてます。誰も気付かんよね。


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63.緊急警戒警報

もう少しでこの小説を書き始めて一年になります。

一周年記念ですが、そりゃあ何かありますよねっ!(1ヶ月半後の自分にプレッシャーをかけていくスタイル)

もしかしたら、電子レンジの前で電子メールを送るかも。


 風斬をその話題で散々弄り倒し終わる頃には、上条インデックス達の痴話喧嘩も終息していた。

 涙目の風斬を近付かせて「ひょうかどうしたの?」と、純粋な目で見てくるインデックスに、先ほど自分が思い描いていた光景を思い出し、風斬は自己嫌悪に陥ったのか目線をひたすら避けているが、そこはインデックス。

 犬のように風斬と目線を合わせようとぐるぐる回り、それが余計に風斬を追い詰めている。この純粋の塊であるシスターの無垢さを見せ付けられ、自分の汚れ具合を自覚しているのだろう。

 ふはははっ、その悪感情。誠に美味であるっ!

 

 そのあと、予定通り上条達と地下街の服屋や、ゲーセンを回ることとなった。

 上条に見られるのはなんかあれだったので、インデックスと風斬をうまく生け贄にし、アニメのコスプレ姿を見られるという屈辱から回避したりなど、順調に遊んでいた。

 だが、ふと横を見ると風斬がじーっと、俺のことをみているではないか。気付いて顔を合わせるとすぐに反らす。それの繰り返しだ。

 ……また、弄り倒してやろうか小娘。

 

 

 

 そんな風に四人でそこら辺を歩いていると、壁から目玉のようなものが浮き上がり、ゴスロリ金髪ことシェリー=クロムウェルが宣戦布告をしてきた。

 そのときに、「禁書目録に幻想殺し(イマジンブレイカー)に、虚数学区の鍵まであるじゃない。無関係なガキまでいるが関係ねえか。……まとめて殺しちまったほうが早いわね」などという、ふざけた言葉を送って来やがった。

 

 ……おおん?この(自称)世界第二位の原石を知らんのかこのゴスロリぃ?

 ハッ!魔術サイドの中だと全然大したことないくせに、盛大にイキりやがって!(オリ主は現在イキっています)あの野郎しばいたるっ!……と、決意していたら御坂美琴と白井黒子が偶然合流した。

 緊急警戒警報が出されて地下街は、シェリーの手によって電気が落とされ、今は停電用の灯りが付いているため、周囲が見えないことはないが、遊んでいた学生達は地震と停電に慌てふためいている。

 それを風紀委員(ジャッジメント)として解決するため、オセロはここまで来たらしい。

 そのオセロ……もとい、白井黒子はテロリストであるシェリーと戦闘をし、シェリーからまんまと攻撃食らったが、そこに現れたミコっちゃんが華麗に助け出したようだ。

 それからは、事件解決するために共に行動しているとのこと。

 あれ?何だかんだこれがヒロイン同士の初めての邂逅じゃね?おーと、テンション上がってきたー!

 修羅場っ!フーッ!修羅場っ!フーッ!(wktk)

 

「というか、それならこの人はここに残ってもいいんですの?誰も彼女のことを入れてませんでしたけど」

 

「そうだよ!くさりも女の子なんだから、とうまと暗闇の中でいるなんて危ないんだよ!」

 

「……インデックスさん?もう少し俺に対する信頼はないのか?」

 

 そのセリフに風斬も同じようなことを思っていたのか、人が多くなって萎縮しながらも疑問の表情をしていた。

 それを見た二人+俺は納得したように頷いた。

 

「あー、黒子は知っていても、直接見たことはなかったわね。この人アンタにも姿を変えられるのよ」

 

「は?」

 

 口をあんぐりと開けるオセロ。

 俺の力は知っていても見ないと眉唾物だと思うし、しゃーないか。それに、知らない間にコピられてるとは思わないわな。

 さあ、今以上に度肝を抜いてやるか。そんなわけで、あーらよっと。

 

「『これこそが、私の劣化模倣(デッドコピー)。多様性という意味では超能力者(レベル5)であっても他の追随を許しませんの』」

 

「なっ、ぬうっ、はあっ……!?」

 

「ええっ!?くさりの姿がそこにいる短髪の付き添いと変わっちゃったんだよ!まるで伝承のドッペルゲンガーみたいだけど、これって魔術じゃないんだよね……?」

 

 おぉ、すげぇ。全部綺麗にスタッカート決めてたな。流石は黒子だな。出てきた言葉は訳わからんけど。

 まあ、これで理解してもらえるのはすごく楽だったりする。百聞は一見に如かずとはよく言ったものだな。

 それに、この初めて見せるときはやっぱりワクワクする。キャラクターの普段見れないリアクションが見れてなかなか嬉しい。インデックスも初めて見せるから、良いリアクションをしてくれるし。

 でも、インデックスさん……?ちょっとオセロへの扱いが、適当すぎない?まあ、別にいいけどさ。

 

「そんなわけで、この人が居れば黒子と同じように空間移動(テレポート)できるから、この馬鹿が誰かと残ることにはなんないのよ」

 

「『それはできませんわよ』」

 

「……………………え?」

 

 自らの後輩に話していたがミコっちゃんだが、俺の言葉を聞き目を見開く。上条も驚いたようにこっちを見る。

 いやいや、そんなに見詰められても無理なもんは無理だよ?

 

「はあ!?アンタこの前黒子の姿をして空間移動してたじゃない!何でできないの!?」

 

「『はぁ、全く。お姉様は私の能力名をお忘れですの?ちゃんと覚えて下さいな』」

 

「あームカつく!黒子のしゃべり方のくせして、どこか馬鹿にしてるところがすごく腹立んだけど!?」

 

「わー!すごいんだよ!まるで白井が二人居るみたい!」

 

「何と言いますか……。自分を客観視するとこういう気持ちになりますのね……」

 

 そんなわーきゃーしているみんなを無視して話し出す。話さないと収まりそうにないし。

 

「『私の能力である劣化模倣ですが、名前の通り模倣した相手の能力がどこかしら劣化してしまうのです。

 御坂美琴ならば電力と精密さが、白井黒子なら限界許容量と目視した場所にしか転移できないという、一種の制約のようなものが付いてきてしまうのですわ。

 そのため、シャッターの向こう側が見えない以上は、転移などができるわけがない、ということになりますの。

 都市伝説の『どんな能力もコピーする』というのは、いささか大言壮語が過ぎますわね』」

 

 そのセリフに全員が押し黙る。それは能力の特異性か、はたまた三人が残るというその事実かは当人しか分からない。

 

「『まあ、この能力が使えなくとも、私の能力の持ち味はその多様性にこそっ!この能力を使わなくとも脱出なんてお茶の子さいさいですのっ!

 ……ですが、どんな能力を使っても私一人での脱出が限界です。白井のように自分以外の脱出は不可能でしょう』」

 

「それなら、先輩には早く脱出してもらって、俺ともう一人はここで白井を大人しく待った方がいいか。それじゃあ、白井。風斬とインデックスを頼む」

 

 まあ、上条が思い付く中でも合理的な判断ではあるが、年下組は納得できなかったようで感情を爆発させた。

 

「へー!とうまは私よりも短髪と一緒に残りたいって言うんだね!」

 

「えぇ……?それじゃあ、風斬と御坂を外に連れ出してくれ」

 

「ほほぅ?アンタはこのチビッ子と残りたいと?ほほぅ?」

 

「えぇ……」

 

「……早く決めてくださいません?」

 

 白井が一緒に連れていける人数は二人までとのこと。それで風斬とインデックスのペアか、風斬とミコっちゃんのペアかで言い争っていた。

 これ見たことあるー、と思っていると、上条が決めてミコっちゃんとインデックスが、黒子に問答無用で外へ連れていかれた。

 そんな二人を見て、俺も脱出のため残った上条と風斬から離れる。なんか悪いことしてるみたいだなこれ。

 

 まあ、悪いことと言えば悪いことだけど。

 ぶっちゃけ、隔壁を壊さずに俺ともう一人を外に出す方法は幾つかある。なのに、何故それをしないのかというとそれは風斬にあるのだ。

 

 風斬は人間ではない。

 その正体は能力者が無意識に発する、AIM拡散力場の集合体。それが風斬の正体だ。そして、虚数学区・五行機関を開けるための『鍵』にもされる、悲劇のヒロインだ。

 

 このまま、原作通りなら風斬はシェリーが生み出す、土塊の巨人のエリスによって頭を強打し、空洞の頭の中にある三角柱の物体を見て、自らが人間ではないことを知る。

 俺が立ち会えばシェリーなんて上条と共にフルボッコ確定だが、それだと風斬は自らをAIM拡散力場の集合体だと、自覚することはない。

 そうすると、もしかしたら原作崩壊の起点となる可能性が生まれるのだ。風斬はその特異性から物語のキーマンとなる存在である。

 その風斬が自らの存在を自覚しないと、大幅な出力の低下に繋がるため、ロシア編で最悪天使に負けてしまうかもしれない。つまり、ロシア編で物語が終わる。

 ……まあ、ここでなら上条やインデックスはもちろん、警備員(スキルアウト)なんかの良い大人が居るため、風斬を否定するのはシェリーだけだ。

 正体が明らかになるシチュエーションとして、これ以上の場は無いし、気兼ねなくみんなに救われるといいさ。

 

 遠くで銃撃戦のようなものが始まっていることから、もうすでにシェリーと邂逅したのだろう。俺もそろそろ行動しなくては。

 それで、そもそもどうやって脱出するかというと。

 

 

「『……どっせええええええいッッッ!!!!』」

 

 

 ドガガガンッッッ!!!!と轟音と共に、重い障壁が一瞬上がり、一人の少女が綺麗な前回り受け身を取りながら出てきた。

 スガァァンッッ!!と再び降りるシャッターを背後にして、少女はよく通る高笑いをきめる。

 

「『この婚后光子にこの程度の防壁など、あって無いようなものですわっ!おーほっほっほっほ!』」

 




~学舎の園~
「そう言えば私、婚后さんの先日起きた話を聞きました」

「はい!私もあの話を聞いてとても感心してしまいましたわ!」

「噂?どういったお話ですの?」

「婚后さんがテロリストを無力化したというお話ですわ!」

「え」

「地下街を占拠したテロリストに単身挑み撃破したのち、そのテロリストの自滅で崩壊する地下街から、シャッターを押し退けてギリギリ脱出したとか」

「はい!何でもシャッターから出る時の身のこなしが、無駄が一つもなかったと、スポーツ科学を専攻している先生が太鼓判を押していたとか!本当に素晴らしいですわ!」ニコニコ

「え」


◆作者の戯れ言◆
この小説を紹介してくれてた人を見付けて、その内容をよく見てみると、基本的には褒めてくれてたけど、最後に地雷注意の警告を出しててワロタ。
……うん、否定はできないなぁ。


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64.友達

とあるの動画を見てると、小説を書きたくなってくるの不思議。Twitterでこの小説についての事を言ってくれている人が居て、やる気になりました。ありがとうございます!


 防壁を力業で無理矢理開いて脱出した5分後。インデックスと御坂に合流した。

 

「あ、くさり!こっちなんだよ!」

 

「黒子とかの空間移動(テレポート)の能力以外でどうやって、あの防壁を抜け出せたのよ……。まさか、他にも空間移動能力者(テレポーター)のコピーをしてるって言うの……?」

 

 元気一杯のインデックスと、懐疑的な視線を向けるミコっちゃんが対照的で、それぞれの個性を表している。

 

「君達はこんなところに居て熱くは無いのかい?」

 

「とうまを待っているんだよ」

 

 そういう彼女は、照り付ける日差しを浴びて小さな額から汗を流していた。全身を覆うような修道服ならば、こうなるのも自然のことだ。

 そんなインデックスを見て、ミコっちゃんは何とも言えないような顔をしている。原作通りならインデックスから聞いた、二人の距離感にやきもきしているのだろう。

 

「それもそうだね。じゃあ、君も?」

 

「は、はあ!?何でこの私が、あんな奴待たないといけないのよ!!私が待ってんのは黒子……そうよ!黒子を待ってんのっ!」

 

「まるで、今思いついたかのような口振りだね」

 

「そそそそんな訳ないでしょうがっ!……わ、私にはアイツを待つ理由なんてそもそも微塵もないし!黒子を待つのがそんなに不自然だっていうの!?」

 

 真っ赤な顔で否定するミコっちゃんは、絵に書いたようなツンデレそのもので、どこか懐かしくそれでいて実際に初めて見るその姿に、笑顔で感謝と共に10点満点を差し上げたかった。

 

 そんなことを思っていると、スフィンクスがインデックスの腕から逃げ出す。

 

「あっ!スフィンクス!逃げちゃダメなんだよ」

 

「ス、スフィンクス……?…………え、嘘でしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スフィンクスを追ってトコトコ歩いて行くインデックス。今後の展開的に放置して風斬が来るまで待っていたいのだが、そんなことをしたら上条からの信頼をまず失う。

 それは絶対に避けなければならないので、今回はちょっとだけ原作に介入することにした。

 ま、まあ、風斬が来る頃に適当に捌ければ、原作を崩壊させずに済むだろう。

 

「インデックス」

 

「あ、くさりは短髪じゃなくて私の方に来たんだね」

 

「彼女とのわだかまりは無くなったけど、和やかに話せる間柄ではないからね」

 

 まあ、実際にはからかうことに何の躊躇もないのだが、そこをわざわざ言う必要は無いだろう。

 

「それで、あの子は見付けたのかい?」

 

「うん、ほらっ!」

 

「ニャー」

 

 そう言って手に持ったスフィンクスを、こっちに突き出してきた。ぶっちゃけスフィンクスは嫌そうに身を捩っているので、すぐに解放して欲しいのだろう。

 そんな和やかなことをしていると、突然マンホールや街灯などがカタカタと揺れ出した。

 

「おや?地震かな?」

 

「……いや、違うよ。これは───ッ!!」

 

 地面が盛り上がりインデックスやオリ主の背丈を超えても、尚も大きくなっている。既にその高さは3メートルを越えるほどだ。

 そして、不思議なことにそのシルエットは、人のような手足や頭のようなものがあり、その姿は地面でできた巨人とも言えるだろう。アスファルトやマンホールなどの、地面にある物で作られた巨人は、誕生の産声を上げた。

 

 

 

「ぐおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!」

 

 

 

 そんな咆哮を上げる恐ろしい化け物相手に、『必要悪の教会(ネセサリウス)』の禁書目録は、一切慌てることなくスッと目を細めた。

 

「──基礎理論はカバラ、主要目的は防衛・敵性の排除。抽出年代は十六世紀、ゲルショム=ショーレム曰く、その本質は無形と不定形」

 

「あれはやっぱり魔術かい?」

 

「うん。カバラでは、神様は土から人を作ったとされていてね。その手法を人が真似たのがゴーレムなの」

 

「神は土から人を作った……」

 

「だけど、このゴーレムは単なる人型とは違うんだよ。さらに、上の存在である天使にまで近づけようとしている。

 たぶんより戦闘に特化した泥と土の天使でも、作り上げるつもりだったんだと思う」

 

 そうインデックスが言うと、巨人の石像が腕を振りかぶり、インデックス達に振り下ろそうとする。

 オリ主が迎撃しようとするが、それよりも前に隣の少女が動いた。

 

 

左方へ歪曲せよ(T T T L)

 

 

 ドゴォオオッッ!!!!と凄まじい音と共に、激しく土煙が上がるがそこに少女達はいない。彼女達が避けたのではなく、巨大な石像の腕が蛇のように左へ向かっていったのだ。

 インデックスは超能力はもちろん魔術でさえ使えない、か弱い女の子だ。しかし、彼女には膨大な『知識』がある。10万3000冊の魔導書。

 その全てを使えば、魔神にさえも至れるとすらされている叡知を使えば、かけられている魔術の割り込みなど容易い。

 

「へぇ、流石だね。なるほど、後輩が異能特攻だとすれば君は魔術特攻と言ったところかな」

 

「うん、それすっごくいいかも!私には10万3000冊の魔導書があるから、どんな魔術でもすぐに解読して弱点を突けるからね」

 

「それと比べてしまうと、僕には特攻と呼べるものはないけど──」

 

 ズバチィッッ!!と空気を焼く音と共に、再び攻撃を仕掛けようとする石像の巨人の腕を電撃が破壊した。

 短くなった髪を揺らして、一歩も退かずに少女は石像の巨人の前に立つ。

 

「『私のこの万能さは結構使えるのよ?』」

 

 帯電する石像の巨人を少女は勝ち気な笑顔で見上げた。

 

「おー、次は短髪なんだよ。くさりってどんな人にも姿を変えられるの?」

 

「『直接触らないといけないけどね。多分人間だったら誰でも変身できるはずよ』」

 

 ほら、もう楽勝ですよ。

 魔術に割り込むインデックスの強制詠唱(スペルインターセプト)と、魔術師と同等の汎用性も持つ劣化模倣(デッドコピー)があれば、魔術で作った石像などごり押しでどうとでもなる。

 風斬が来る前にどうやって負けるべきか。問題はここだ。

 石像の巨人であるエリスにインデックスがピンチにされないと、風斬が身体を破壊してでも介入しようとは思わないのだ。だが、そうしないとインデックスは風斬の存在に気付くことはない。

 え、マジでどうしよう……(汗)

 何かいい案が浮かぶかと思ったけど全然思い付かん……。ここで自然にインデックスがピンチになることなくない?

 ここでミスることなんて無いし、逆にこの優勢の中でやられたら上条に失望されるわ。

 どうする、どうする!この状況の中で自然にフェードアウトするためには……何か……───っそうか!あれだ!あれしかない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隣にいる天野(あまの)倶佐利(くさり)の能力がどういったものなのか、インデックスは知らなかったのだが、実際にその能力を見てかなり驚いた。

 

「(まさか超能力が魔術と同じくらい、いろいろなことができるとは思ってなかったんだよ。でも、これなら倒すことだってできる!)」

 

 そんな事ができるのはそいつだけである。

 

 インデックスは天野の能力と強制詠唱で互いの長所で補い合えば、万が一にも敗北することはないと計算した。

 いくら魔術といえど物理的な攻撃が全く通じない事はなく、衝撃波や電撃でダメージは与えられるのだ。

 つまり、天野が石像の巨人へダメージを与えている間に、自分がこの石像の巨人を止めるための解を導き出せば、それでチェックメイト。

 そんな勝ち筋が見えたところで、天野から一つの提案がされた。

 

「『この感じなら余裕ね。あ、じゃあ試して見たいことあるからやってみてもいい?』」

 

「やってみたいこと?」

 

 そう言うと、天野の身体がまたしても変化する。美琴から少し背が伸びたやせ形の体型。さらに女の子らしい顔立ちから、悪人面の中性的な顔立ちへと変化した。

 先程とは明らかに雰囲気が変わった天野に、インデックスはまたもや驚いた。

 そして石像の巨人も何かを感じ取ったのか、あるいは偶然敵性を攻撃する指令が出されたのか、周囲の物を取り込んで再生した、無機質な巨腕を再び振り下ろす。

 

「『果たして、学園都市第一位のベクトル操作は、魔術を反射する事ができるのかっつゥ単純な疑問だ。

 オリジナルとは違って反射できねェのも俺にはあるが、ただの土の人形なら俺の反射の範囲内でしかねェ』」

 

「ッ!?待ってくさりっ!受けちゃダメ!!」

 

 そのセリフに血相を変えて天野を止めるインデックス。だが、そんな彼女の焦燥を伝える時間などは、もう残ってはいなかった。

 突っ込んでくるダンプカーさえ弾き返すその巨人の一撃が、回避を一切しない天野に直撃する。

 そして、ギンッ!!という、一方通行(アクセラレータ)の独特の反射音が、激突と同時に出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園都市第一位の一方通行は、あらゆるベクトルを操作するという凶悪な能力を有している。そのベクトル操作を利用した反射は、いかなる物理攻撃もそのまま跳ね返す最強の防御だ。

 そして、その一方通行の防御能力をコピーしたオリ主は、その場から一切動けなくなることと、電撃や炎などのプラズマは反射できないという劣化はあるものの、単純な物理攻撃は全て跳ね返すことができる。

 

 

 

 そんなオリ主はエリスに吹き飛ばされ、10メートルほど離れた建築現場の鉄骨へと、その背中を預けていた。

 

 

 

「ごほっ!がはっ!…………はぁ……はぁ……、まさか、彼の反射が通じないとはね……」

 

 直撃を食らったはずなのに、オリ主がまだ人の形を保っているのかというと、エリスの一撃を受けて吹き飛んだ軌道が直線ではなく、物理法則的にあり得ない、山なりの放物線を描いて吹き飛んだからである。

 

「(……一方通行が魔術を反射すると、物理法則ではあり得ない結果が残る。水の魔術を受けると反射ではなく光となって分散されたりな。

 だからそのまま押し潰されるのは無いとは踏んでたけど、まさかここまで吹き飛ばされるとは思わなかった)」

 

 あの巨腕の一撃によるダメージは反射により三分の一も無かったが、その分何故か後ろへのベクトルが異常に働いたのだ。

 そのため、めちゃくちゃダメージを受けたような大袈裟な吹き飛び方をしてしまった。

 

「(まあ、普通なら何十メートルも吹き飛んだら、それで死ぬけどね。離脱できたから結果オーライか……?超怖かったけど)」

 

 オリ主は背中を鉄骨から離して、インデックスの方へと歩いて行く。敷地内から出てインデックスの居る方を見ると、予想通りにストーリーのクライマックスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 損傷したため修復をする機能が壊れ、周りの物をひたすら体に吸い寄せるエリス。もはや、その吸収は小型の台風と化しており、その場に立つことすら出来はしない。

 その近くにはインデックスが吹き飛ばされないように、近くの標識にしがみついていた。

 インデックスはエリスを止めるために、シスター服を留めるための安全ピンを外している。そのため、チャイナドレスのように片足を露出していて、なんかセクシーで危ない。

 ……いや、そんなことを言っている場合ではないな。

 

 そのインデックスの前を見ると、そこにはエリスの腕を受け止める風斬が居た。だが、そんな細腕でエリスの巨腕を受け止められるはずがない。

 巨腕を受け止められず、風斬の腕がミシミシと音を出して壊れていく……が。

 

「ぐ、ぬぬぅ……ああああああッッ!!!!」

 

 光の線が走ると共にその細腕が一秒とかからず修復された。一瞬前まで崩れかかっていたのが嘘のようだ。

 その光景を見たインデックスはポカーンと口を開く。目の前でそんな治り方したらそりゃ驚くわ。

 

「……っ」

 

 そんなインデックスを見て僅かに傷付いた表情をする風斬。しかし、すぐに前へと向き直り、今までに見せてこなかった覚悟を決めた表情をしている。

 だが、そんな風斬にプログラムされた石像の巨人は、微塵も手を弛めはしない。

 風斬が受け止めたのはエリスの右腕一つ。そう、まだエリスには左腕が残っている。

 エリスはその左腕を振りかぶり、轟ッ!!と空気を押し潰すかのような強烈な一撃を、風斬に向かって無慈悲に振り下ろした。

 

「ひょうか!!」

 

 インデックスの悲痛な叫び声が響く。もう、その巨腕が到達するまでもう数秒と無い。

 いつもの俺なら、自分のせいで原作が解離してしまっている可能性を考えて、どぎまぎしているのだろうが、今回はそんな心配はしていなかった。

 

 遠くから力強く地面を踏み締める足音が聞こえていたから。

 

 

「風斬ィィいいいいいいッッッッ!!!!!!」

 

 

 ダンッ!と靴で地面を強く踏み鳴らして、自分の背丈を優に超える石像への巨人へ、上条当麻は一切の躊躇なく突っ込んだ。

 

「とうま!」

 

 喜びに声を上げるインデックスを見ながら、俺もそんな上条を見ながらしみじみと思ってしまう。

 

「(上条の誰かのために我武者羅に走るところ、やっぱカッコイイなぁ)」

 

 この世界に来て、上条が誰かのために走るところは何度も見てきた。その度に思うのだ。自分が憧れた主人公は、やっぱりこの世界でもカッコイイのだと。

 

 友達を守るために涙を浮かべて、一人きりで脅威へと立ち向かっている少女へ再び宣言する。

 

「──()()()()()()

 

「っ!」

 

 静かだがしっかりと芯が通った声で上条は言う。

 少女を安心させるように。絶対にこれだけは変わらないのだと理解させるために。

 自分が世界の異分子なんかじゃないということを、分からせるために。

 

「お前の住んでるこの世界には、まだまだ救いがあるって事を!」

 

 元の大きさの倍近くまで体積を増したエリスのその一撃は、数メートルまで陥没させるほどの衝撃を有していた。当然その拳も大きく、飛び込んだ上条の上半身近くまである。

 そんなものが接近すれば身がすくむのが当たり前だが、上条は万感の想いを乗せるように、その拳を微塵の躊躇無く振り抜いた。

 

「教えてやるってなあッ!!!!」

 

 パキュゥゥンッ!!!!と、魔術が打ち消される音と共に、上条の右手がエリスの巨大な左腕に接触すると、あれだけ猛威を奮っていたエリスがボロボロと崩れた。

 シェリーが企てた魔術サイドと科学サイドの、火種を作るためのテロは、上条のその一撃で幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、風斬にインデックスが変わらない友情を見せることで、二人はこれからも友達のままだ。そこらへんの話は今回ノータッチだ。

 まあ、立ち合いたい気持ちは確かにあったが、今回俺は事件を引っ掻き回しただけと言ってしまえるので、なんか僅かに罪悪感が刺激されたのだ。

 え?それじゃあ、もしかしてそのシーンを見なかったのかって?

 

 いや、遠くからこの視力を活かして見てたけど?(罪悪感とは……)

 

 まあ、インデックスを風斬の元に行かせるために、風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)が来る前に、離れた方がいいというミコっちゃんやオセロを引き留めていたから、これぐらいはきっと、多分、おそらく許されるだろう。

 

 そして冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の病院で上条と一緒に、インデックスの元へ向かうと、寂しそうだったがそれでも笑顔のインデックスがいた。

 原作通り、風斬はまた誰にも認識できない『陽炎の街』にへと、帰ったようだ。風斬はAIM拡散力場の集合体のため、自由にこの世界に居られる訳じゃない。再びこの世界へとやって来るのを待つしかないのだ。

 インデックスの寂しげな笑顔で、俺達と風斬(かざきり)氷華(ひょうか)の出会いの一日は終わった。再び会うのは0930事件の時だろう。それまでは一端お別れだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて良い感じに終わろうとする、俺と上条の手をぐわしっ!と、小さな手が掴んだ。

 その先を辿ると視線を下に向けると、そこには俺が住んでいるボロアパートの隣人にして、上条のクラスの担任である小萌先生が、なんか怖い笑顔でこっちを向いていた。

 その暗黒微笑に嫌な予感をしている俺とは違って、二人はこの突然の展開に困惑しているだけのようだ。

 そして、その笑顔に付け加えられたセリフは、いつもならばこっちの事情を鑑みて疑問系にするはずなのだが、何故か今回は有無を言わせない断言であった。

 

「少しお話したいことがあるので、お時間を頂きますね」

 




言ってしまえば、今までの話は前座です。これからがこの小説の本編となります。
オリ主の秘密が一つ分かるかも?

次に付け加えたい話があるので、最後を少し変えました。数時間後に投稿します。


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65.お説教

書いてなかったので書いときます。

姫神のセリフの区切りがが読点(、)ではなく句点(。)でしたので、変えときました。


 カエル顔の医者が勤めている病院を出た俺達は、上条とインデックスが住む学生寮へと行くこととなった。別に疲れたから上条の部屋でのんびりと過ごすというわけではない。

 端的に俺達はミニマムな先生からお叱りを受けていた。

 

「上条ちゃん、先生は上条ちゃんをクラスきっての問題児だと思っていますが、それでも根は真っ直ぐな良い子だと思っています。ですから、あの話の真意を先生は聞きたいのですよ」

 

「えーと、小萌先生?急に畏まってどうしたんですか?話があるからって俺の部屋まで入ってもらいましたけど、ここまできても上条さんにはさっぱりなんですが。

 つーか、クラス一番の問題児は俺じゃなくて、土御門や青髪でしょ。あの全性癖コンプリート野郎とシスコン軍曹よりも上だとか、流石の上条さんも素通りできないわけで」

 

「ううん。上条くんは間違いなくクラス一。自信を持っていい」

 

「……あの姫神さん?あなた今日やって来た転校生ですよね?」

 

 そう上条に答えたのは俺の知らない所で見せ場が終わり、二度目の登場でもある転校してきた日は、インデックスと風斬(かざきり)によって印象が全く無くなってしまった、影が薄い地味な女の子こと姫神だ。

 学年が違うためそもそも出会わず、小萌先生に紹介されなければ、今日この日が初めて会うこととなったに違いない。

 ちなみに、姫神は吸血殺し(ディープブラッド)という能力を持ち、吸血鬼を殺すことができる。この体質のせいでアウレオルスに目をつけられることとなるが、まあそこら辺はいいだろう。

 何故彼女がこの部屋に居るのかというと、この集まりは彼女が発端だからだ。

 彼女は長い黒髪のロングで無表情という、ありきたりな風貌のためヤンチャな変人ばかり居る上条のクラスでは、どうしても地味な女の子に分類されてしまう姫神はその事実を話し出した。

 

「インデックスがしゃべっているのを私は聞いた」

 

「私?」

 

 目を真ん丸にしてインデックスがコテンと首を傾げる。全くもって心当たりが無いのだろう。

 

「それで、一体なんの話なんだよ。無能力者(レベル0)の上条さんには言葉で言ってくれねーと分かんねえぞ?」

 

 いやいや、大能力者(レベル4)でも分からんわ。いや、まあ能力を使えば大体は分かると思うけどね?

 それより、戦闘が終わった直後で、もう既に夕日が出てしまっているのに何を話すというのか。

 俺もこのあと休むつもりだったのに、全く勘弁して欲しいものである。まあ、姫神との会話は「初めまして、姫神秋沙です」という言葉以外は聞いたこと無いから、話してみたかったのは本当だけど。

 というか、ろくに話したことすら無いにもかかわらず、俺に何を言いたいのだろうか。純粋に気になるな。

 

 姫神は上条のその言葉を聞き、どこか言いにくそうにしながらもその衝撃の事実を言った。

 

 

 

 

「三人は◆◆◆◆◆◆◆◆の関係で。昨日は上条くんがインデックスを縄で■■■■に縛って。その状態のインデックスに見せ付けるように朝まで天野倶佐利と●●●●し続け。▲▲▲▲▲をさせていた。と」

 

「────はあ!?」 

 

 

 あー、なるほど。それかー(白い目)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日、風斬にセクハラをかますために、誤解を適当に流していたところに、この地味子は偶然通りがかったようだ。

 …………え?居た?気配を全く感じなかったけど、もしかしてエルキドゥの直感(気配察知)すり抜けたの?本当に人間?

 

 

「先生は君達のような年頃の子が、そういう事に関心や興味を持つことは理解できているつもりですし、大人が目くじらを立てて介入し過ぎるのは先生もどうかと思います。

 しかしですね、何事にも程度というものがあって、三人の取り巻く状況は余りにも逸脱し過ぎです。

 特に今回のような今後の人生を左右する事では、刹那的な行動は控えるべきですし、先生としては三人とも健全なお付き合いを、それぞれしてもらいたいのです。

 刺激的な事を求めてしまうのは、思春期を迎えている君達にはよくあることですが、ぶっちゃけ盛るにも程度があるだろ問題児共、というのが先生の本音でしてね?

 難しいかもしれませんがもう少し理性を働かせて欲しい訳ですよ。分かりましたか三人とも?まだ分からないようでしたら先生としても、上に掛け合わなくちゃならないのです。

 …………いえ、今の状況でもアウトです。ギリギリなんてちゃちな事は言いません。デッドラインにヘッドスライディングをかましている事に、マジで三人には気付いて欲しいですよ」

 

 いつものように語尾を長音で伸ばさない、先生然とした小萌先生は本当にマジのガチだった。

 あの善人の代表のような彼女がキレていることから、相当今回の話は退っ引きならない事態なのだと、俺はようやく身に染みた。

 ……そうだ。俺達は子供(オリ主は中身は三十路)でまだ責任一つ取れないような存在でしかないんだ……!

 そんな身で思春期の衝動に流されちゃあいけn…………………

 

 あれ?ガチの説教食らって雰囲気に流されそうになったけど、これってそもそも全部勘違いじゃね?

 

「待て待て待て待て!なんだよそりゃあ!?俺がそんなことするはずがないでしょうが!?冤罪だ!事実無根だ!!」

 

「!?!?!?!?」

 

 上条が珍しく顔を赤くして声を上げた。

 そりゃそうだよな。いきなりとんでもないアブノーマルな性癖の持ち主で、その上女の子二人(一人は精神的に男)を手込めにしているなんて、素面じゃ聞いてられねぇわ。

 インデックスはその反対に、顔を真っ赤にして口をパクパクしていた。おそらくインデックスはそっちの知識が乏しいため、所々分からない部分があったはずだが、姫神がほとんど直接的に言ったために、重要な所が理解できてしまったようだ。

 神話なんかでも性行為くらいは書かれているし、その言葉を知らないことは……まあ無いわな。

 

「……先生としても実は事の真意を聞くためにここに来ました。三人がそんな事をするとはそもそも思えませんでしたしね。じゃあ、姫神ちゃんの聞いたことは全部聞き間違いと言うことでいいのですね?」

 

「ええ、そりゃあもちろん。というか、違うと思ってたんなら何であんな説教したんですか?先生って別に説教したいとか、そういう人じゃ無いですよね?」

 

 そうだ。小萌先生は学生のときに嫌だと感じたことはしない、ということを決めていて、抜き打ちテストの類いはしたことが無いなど、生徒目線に常に立ってくれる良い先生なのだ。

 そんな小萌先生が説教をどこかのツンツン頭とは違って、好き好んでやるわけがないのだ。

 『とある』特有の、相手の言い分を聞かないノリなのかもしれないけど。

 

「……そうですか。上条ちゃんがそう言うなら先生としても信じてあげたいのです。

 ──なら、これが一体どういうことなのか、ちゃんと説明してもらえるのですよね?」

 

 そう言って背後から取り出したのはホームセンターに売られている、ノコギリやバーベルなどよりも遥かに庶民にとって、馴染み深く使い勝手の良い物だ。

 登山などのアウトドアや工事現場などでも使われる、頑丈でありながら柔軟性を兼ね備え、実用性が高くコストが低い便利グッズ。

 

 

 

 要するに麻縄。つまり、ロープである。

 それは、間違いなく闇咲(やみさか)がインデックスを拘束するために使ったロープだった。

 

 

 

「先生としても三人を信じたかったのですよ。でも部屋の隅にこんな決定的な証拠が在ったら、確信するしかないじゃないですか!!」

 

 感情が振り切れて涙を浮かべている小萌先生。

 ……いや、先生違うよ?違くないけど違うんだわ……。

 

「あっ……、いや、それは闇咲の奴がしたのであって、俺は別にインデックスを縛ったという訳じゃ……」

 

「何ですか!?また他の女の子を手込めにしてるんですかアンタ!?流石に先生も体罰と言われようとも拳を振るいますよ!?」

 

 更なる混沌(カオス)へと突入していくこの茶番劇。見てる分には楽しいんだけど、当事者にはなりたくなかったなぁ(遠い目)

 あと、何気に闇咲が女の子にされている件について。あのガタイで女の子は流石に無理あるだろぉ……。

 闇咲も可哀想にな。確かに、ツンデレツンデレ言ってたけどまさか想像で女体化させられるなんて(憐憫)

 流石クールジャパン。やることがクレイジーだぜっ!

 

 そして、というか。やっぱり俺にもとうとう火の粉が降りかかってきた。

 

「天野ちゃんとインデックスちゃんにも、あなたって最年長だとか修道女だとか、まーだまだいろいろ言いたいことはありますが、まずは一つ絶対に確認しておかなくてはならないことがあります」

 

 そう言って話しかけて来た小萌先生は、135㎝という身長にもかかわらず大人の表情をしており、その佇まいは彼女が責任感のある大人であることを雄弁に語っている。

 嘘は許さないと言葉にしなくても分かるほどの、真剣な目で俺達の目を見詰めながら、小萌先生はその言葉を言った。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 ゴボォブハァッ!?!?!?!?(吐血)

 

 俺は血を吐いた。

 いや、物理的には吐いてはいないが俺の魂が吐血した。自分で何を言っているのか分からないが、俺はどこかに致命傷になる傷を負ったのだ。エルキドゥの動作しかできないというのが、功をそうしたらしい。

 おそらく、本物のエルキドゥも吐血ぐらいはするかもしれないが、ギャグで吐血はおそらくしないキャラなのだろう。

 ………………いや、俺はマジで致命傷なのだが。

 

「いやいやいやいや、先生!?何言ってるんですか!?赤ん坊なんて居るわけないでしょうが!!」

 

「ええいっ!ちょっとアンタは黙ってなさいのですよ!

 せめて学生寮にビニール紐じゃなくて、麻縄なんていう物があることを、理路整然と言える言い訳ができるまでそこでステイっ!」

 

 まるで上条の扱いが犬だが、(ケダモノ)だというのなら同じだ。……いや、実際は全然違うんだよ?

 だが、小萌先生から一方的に言葉をぶつけられ続ける上条ではない。当然、上条は言い返そうとした。だが、一つ疑問に思う。

 

「(…………………………………………なんて言おう?)」

 

 上条は考える。仮に昨日のバイオレンスな一夜を正直に伝えたとして、果たして信じてもらえるだろうか?と。

 

 勘違いがフルスロットルなここでは、この場を取り仕切る小萌先生は絶対的な支配者だ。ならば、当然どのように麻縄を使ったのか説明しなければならない。

 しかし麻縄は闇咲が用意したもので、上条が買ったわけではないのだから、日常で使う用途などまず有りはしない。

 さて、一体なんと言えば……?

 

「赤ちゃんは居るのですか。居ないのですか?そこで君達の処遇が決まってしまいます。

 ですけど、安心してください。仮にどうなったとしても先生は、最後の最後まであなた達に付き合うことをここに誓うのです。日陰になんて居させやしません!必ず皆笑顔で正しい道を歩ませてみますよ!!」

 

 なんて良い先生なのだろうか。道を間違った生徒を正しい道へと戻すのは並大抵の苦労ではない。先生としての理想像ではあるが、それを実際に実行へと移れるのは一握りのはずだ。

 生活指導へとぶん投げて、必要最低限の言葉と処置だけする先生だって居ないことはない。

 それに対しこの小さな先生は無責任などではなく、しっかりと責任を持って最後まで付き合うのだという。感動で涙しか出ない。

 ──これで本当に俺達が酒池肉林をしていたら。

 

「あうあうあうあう……」

 

 隣のインデックスは可哀想なくらい顔を真っ赤にして、瞳に涙を浮かべ言語化できない言葉を言っていた。

 あっ、可愛い(脳死)

 あーいや、それよりもさっさと否定した方が良いと思うよ?言わないと誤解は解けないからね。

 え?俺は否定しないのかって?ああ、俺なら……

 

 

 

 

 

 

「」(まっしろ)

 

 

 

 

 

 

 言葉を受け止めきれずに灰になってるけど?

 いや……ちょっと待てって……。恋仲なんていうのにも受け止められるか分からないのに、赤ん坊……?

 ははっ、この人が何を言っているか俺分からないなー。

 

 …………もう、帰っていいですか?(死んだ目)

 

「さあ、天野ちゃん。それで妊娠しているのですか!どうなのですか!ここはなあなあにはしておけません!正直に言ってもらいますからね!」

 

 ヤメロォ!もう、そっち関係の単語を俺にぶつけるのはヤメロォ!!こっちはもう致命傷なんだよ!(切実)

 通常攻撃が二回攻撃なんてレベルじゃなくて、全部必殺技なんですけど!?どういうことなのこれ?MPは無限なの?

 

 

 それからも話は続き、真っ白になった俺と真っ赤になったインデックスから、妊娠してないという言質を小萌先生は取って、再び俺達三人に説教を始めた。

 その説教の合間に俺達は事実無根であることを、悪戦苦闘してなんとか理解してもらうのだが、それができたのは日が明けたてしまった翌日。

 こうして、当然のことだが俺と上条は、まさかの二徹を味わうこととなったのだった。

 

 

 

 

 ちなみに、今回の発端である姫神は、「眠たいから私は寝る」と本当に寝だし、余計なスパイスを投入しやがったスフィンクスは、仰向けで無防備に腹を出しながら爆睡していた。

 なんか分からんけど無性に腹立つなコイツら。

 

 ただの二徹ならともかく、連日で戦闘をしたのだから疲労はピーク。当然の如く初っぱなの授業で爆睡した。

 そんな俺に周りの生徒や先生は驚いていたけど、流石に取り繕えるかい!一切周りを気にせず眠りましたとも。

 いつも守ってきたルーティンをぶち壊した今日は、なかなかに痛快ではあったが、明日クラスメイトの対応を考えると実に面倒だ。

 はぁ、とため息が出てしまうが、こればかりは仕方がないだろう。

 だが今日の予定はもう終わりのため、今日こそはゆっくりと家でまったりする事を誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誓ったのだが……。

 

「(え、なんか目の前に居るー)」

 

 後日、出歩いてみると、風斬氷華が街中に普通に居た。




Weak Critical!!
言葉の刃が突き刺さりましたねー。致命傷を負ったオリ主。因果応報ですね。ニッコリ


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66.迷宮無しの名探偵

多分次の投稿は明日かな?しゃーない、だって区切りよかったんだもの

200文字加筆


 あれれ?おかしいぞ~?あそこにやたらスタイルがいい、おどおど系メガネ女子がいる気がするなー。

 

 え?お前見えなくなったんじゃないの?こんな原作乖離は流石に予測してないんだけど?(困惑)

 今回はハチャメチャに物語を引っ掻き回したが、結果として事件の解決は上条とインデックスの二人で成し遂げた。俺の今回の影響はゼロのはずなのに、何故風斬はまだ俺達に見えるのだろう?

 

 彼女の名は風斬(かざきり)氷華(ひょうか)。彼女は正体不明(カウンターストップ)と呼ばれ、かつて姫神(ひめがみ)秋沙(あいさ)が在籍していた霧ヶ丘女学院で、首席の成績を取っていた生徒だ。

 だが、姫神は一度も風斬を見たことはなく、学園都市を裏で牛耳る虚数学区・五行機関の鍵などという噂があったりと、実に怪しい女の子である。

 まあ、その実態は学園都市に居る能力者が生み出し続ける、AIM拡散力場の集合体なのだが。で、そんな彼女を俺が見ることができるということは……。

 

「(AIM拡散力場が学園都市に俺が居ることで、何か変調をきたしている……?いや、もしかしてアレイスターが計画(プラン)を短縮するために、俺と風斬を使って何かをする気なのか?)」

 

 一体それがどのようなバタフライエフェクトなのか、答えを導き出すことすら俺にはできない。

 仮定をして元に戻す対策を練ってみるが、アレイスターの計画は複雑過ぎて、どれくらい本筋から外れるのかが予測できないのが現状だ。

 

「(ヤバいヤバいヤバいヤバい!『とある魔術の禁書目録』はアレイスターの計画を基に進んでいく。アレイスターが方針を変えたら原作が全く違うものになるじゃねえか!こんな旧約の序盤で原作崩壊なんてもうどうにもできないぞ!?)」

 

 確かに、アレイスターの計画はどんなに横道へズレようとも、最後には最終目標へと達成するようにできている。

 だが、それは原作でも(新約22巻まで)まだ明らかにされていないのだ。それこそ、新約のオティヌスが現れるまで乖離したままなんていう、ふざけた未来が待っているのかもしれない。

 そんな先まで思考を回していたが、見ていれば簡単に気付くことに、今更ながらようやく気付いた。

 

「(()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 そう、目の前に居るにも関わらず、誰も風斬の方を見ようとしない。それどころか見間違いでなければ、身体を素通りしているようにも見える。

 

「(……ちょっと待てよ。俺の勘違いでなければもしかしてそういうことか?いや、でも何で俺は風斬が見えるんだ?)」

 

 頭の中で疑問がたくさん浮かぶが、このまま素通りするよりは、何かしらアクションを取った方が建設的だ。

 ということで、新しくコピーした彼女の力を使おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風斬は『陽炎の街』を一人歩いていた。

 その街は上条やインデックスがいる世界とは、類似していても決定的に何かが違っていた。ビル清掃員は揺らぎと共に杖を持つ老婆に変わったり、建設中のビルが揺らいだかと思えば小学校になっていたりなど、一秒一秒でその姿は簡単に変わってしまう。

 ここはおそらく数多の能力者のAIM拡散力場が生み出す、虚構の世界なのだろう。だが、全てがそうというわけではない。

 変わる人も居ればそのまま変わらない人も居る。それはおそらく、現実の世界とこの世界が地続きだからだ。

 変わらない人は現実の世界の住人なのだが、風斬に気付くことはない。文字通り住んでいる世界が違うからだ。風斬の姿は見えず、どんなに声を挙げても決して届かない。

 だから、あの白いシスター服を着ている女の子の肩に、触れられた時は驚いたし、自身の声が届いた時は嬉しかったのだ。

 だが、あれが限り無く可能性が低い奇跡だったのは、風斬には分かっていた。

 だから、泣きそうな顔で問うインデックスに、せめて言葉だけでもと、笑いながら再び会う約束をしたのだ。

 それが、どれだけ可能性が薄いのだとしても。

 

 風斬は帰ってきた。

 いや、帰ってしまったというべきか。

 

 誰もが自分を素通りしていく世界。誰かの触れ合いや笑顔をショーウインドーから眺める、そんな孤独な街へと。

 だから、それは風斬にとっては全くの予想外であった。

 

 

 

 

『あー、テステス。そこの眼鏡をかけた女子生徒。こちら風紀委員(ジャッジメント)第177支部。聞こえてるなら今すぐそこから立ち去りなさいっ!』

 

「ひっ!ご、ごめんなさ……………………………あれ?」

 

 

 

 

 反射的に謝ってしまってから気付く。

 

「え?え?何で……?何で声が聞こえるの?それに、この感じはこの前の?」

 

 誰も自分に話し掛けない世界で、突然声をかけられた風斬はそれはもう驚いた。

 言ってしまえばこの世界は携帯の電波が届かない、圏外のような世界だ。自分から送信することはできないし、相手から受信することもできない。

 自分ができるのは外の世界を盗み見ることだけ。

 

 だが、その声は間違いなく自分に向けて声を投げ掛けていた。それは言った言葉と自分が類似しているわけではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 風斬が振り返るとそこに彼女は居た。あの時会った、生真面目そうで少々強気な表情をしている風紀委員の少女だ。

 しかし、風斬は知っている。限り無くあの時の少女に似ているが一ヶ所だけ全く違うところを。

 とあることが切っ掛けで少し苦手意識を抱いている、特徴的な髪色の少女と同じ色をしていたのだ。

 彼女の能力を風斬は実際に目の前で見て知っていたし、何よりも自分では絶対にできない、前衛的な明るいヘラカラーだったため、記憶に焼き付いていた。

 

『おっと、その様子じゃ聞こえているみたいね。試してみるもんだわ!それじゃあ、昨日振りね』

 

 元の人間とは全く違うハキハキとした態度に困惑しつつも、風斬はその言葉をしっかりと記憶した。

 

 

『世界第二位の原石にして、大能力者(レベル4)の変身能力者であり、上条当麻の先輩の天野倶佐利よ。よろしく』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 精神感応(テレパス)を使って風斬にナンパをしてみると、いい感じに釣れた。ゲヘヘヘッこの小娘を美味しく頂いてやるぜっ、などというのは需要が全く無いので、さっさと話を聞こう。

 

『それで、どうして私にはあなたが見えるのかしら?』

 

「さ、さあ?……どっちかって言うと、私の方が知りたいです……」

 

 そんな感じで実にあやふやな答えだった。まあ、風斬としても予想外だったらしく、一切の情報がなかった。

 えぇ……。俺も何一つ分からないんだから、このままじゃ迷宮入りだぞ。

 

「それよりも……どうして精神感応で話してるんですか?普通に話せばいいのに……」

 

『それじゃあ、アレイスターの奴に気付かれて私が消されるでしょ。あなたと違って私は計画(プラン)とは関係無いんだし』

 

「え?……消される……?一体何の話を……?」

 

 俺の死亡フラグの話だよ。

 

 それよりも何かないか?こう、ビビっ!とやティンっ!と来る感じの直感的な何か感じない?風斬だけがこう何て言うか、受信できる何かがきっとあるんじゃね?(曖昧さ必中)

 

「…………」

 

 ……おっと?この反応もしかして何か心当たりがある感じ?

 

「えっと、でも……」

 

 情報が何にも無いこの状況は、直感的な意見も有難いんだから、まずは好きに言っちゃえ!言っちゃえ!

 へへっ!俺は知ってるんだ。こう言うときの直感は案外的を射たものが多いってな!

 そのクソデカメガネもあの身体は子供、頭脳は大人の探偵を真似てだろう?

 うんうん、風斬も身体は…………文句なしに大人だな。

 あっ、でも頭脳は子どm…………AIM拡散力場の頭脳は子供なのだろうか?

 う、うーん。あの東の高校生探偵(ネタバレ)よりも存在が面倒臭いぞこいつ……。

 まあ、こういうときキーパーソンって相場が決まってるんだ。さあ!事件解決のためのその一言を言っちゃいNA☆

 

 

 

 

 

 

「あの……もしかして、あなたは私のお姉ちゃんですか……?」

 

 ……お前小五郎かよ!?

 

 




自称ばっかだこのオリ主ェ……。合間に本当の事を混ぜる高等テクニック(?)


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67.オリ主の身体の異常性

エルキドゥGETのチャンス到来!
ぶっちゃけセイバーの星五いないからセイバーが欲しいけどっ!ランサーはカルナいるから別にいらないけどっ!
それでも、手にいれましょうエルキドゥのためにっ!



「あの……もしかして、あなたは私のお姉ちゃんですか……?」

 

 んなわけあるかい(真顔)

 何を期待してんだこのドエロボディは?(ド直球)

 俺にはちゃんと血の通った肉体があるだろ?中身空洞じゃねーもん。受肉したサーヴァントだから肉体があんのさ。

 それを聞いた風斬はどこかしょんぼりとしてしまった。あっ、なんかごめんね?……いや、でも違うし……。

 しかし、風斬は確信を持ってその言葉を言った。

 

「……だけど、あなたから私と同じような感覚がしますよ……?」

 

 ……なんですと?

 何かとんでもないことを言われた気がする。

 

「私と同じように……いろいろな人のAIM拡散力場が、集まっているような気がします」

 

 そんな馬鹿な……いや、ちょっと待て。いろいろな人のAIM拡散力場?もしかして劣化模倣(デッドコピー)のことか……?

 劣化模倣は相手をコピーするとき、僅かに自分だけの現実(パーソナルリアリティー)を取得するから、それが蓄積して風斬みたいなことになっているのか?

 もももももしや、俺の中にも三角柱がっ!?

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 待て待て待て待て!まだ消化しきれてないのに、本人が知らん情報をポンポン出すなって!

 

 ええっと、何だっけ?そうそうこの身体ね。この身体はエルキドゥを女体化した身体だよ?

 まあ、受肉しているサーヴァントっていう変わり種だけど。でも受肉してるおかげで幻想殺し(イマジンブレイカー)に触れても大丈夫なんだけどさ。

 ……ん?そういや確か、エルキドゥって泥から神が作り上げた兵器じゃなかったっけ?そんなエルキドゥに上条が触ったら、風斬と同じく跡形も無く消し飛ぶんじゃあ……?

 

 怖っ!!もしかしたら俺何も知らない間に、死んでたかもしれんの!?

 

 え?何!?この身体って受肉してるだけじゃねえの!?もしかして、まだ秘密があるのか!?あの神やっぱり全然本当のこと話してねぇじゃねえかっ!!

 

 そんな風にあり得たかもしれない未来にガクブル震えるが、とあることに気付く。

 

「(……あれ?じゃあ、何で俺に上条が触っても大丈夫なんだ?受肉ってのは人間になるってことじゃなくて、サーヴァント本来の姿になって現界することだったよな?

 だったら、神秘の塊であるエルキドゥの身体に、幻想殺しが反応しないのは何でだ……?)」

 

 今までは当たり前過ぎて気にしてもなかったが、よくよく考えるとこの身体はいろいろとおかしい。

 

「(神はFGOのエルキドゥを基に身体を作ったとは言ったが、人間の身体にするとは言ってはいなかった。美琴によるとこの身体には生体電気が流れていないらしく、純粋な人間とは言えないはずだ。

 しかし、この身体に幻想殺しは反応しなかったということは、間違いなく俺は人間としてこの世界を生きている。

 魔神のようにニュートラルで命が世界に馴染んでいるのか……?いや、この身体のエルキドゥはサーヴァント。

 確か、本来の力よりも格落ちしているはずだし、神そのものではなくエルキドゥは神が作り出した兵器なのだから、それであの幻想殺しを防げるとは思えない。

 だけど、実際にエルキドゥがこの身体に宿っている以上は、エルキドゥのように神秘に近い個体であることもまた事実)」

 

 オリ主の身体は矛盾だらけだ。科学か魔術かという話ですらなく、人間なのかあるいは神の兵器なのか、そのすべての境界線が全く分からない。 

 

「(()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 人間の身体。

 神の兵器。

 虚数学区の鍵に近いAIM拡散力場。

 神からの特典。

 そして、当初から表記されている『オリ主』という名前。果たして、彼がこの世界で与えられた役割は、本当に神に「愛」を示すことだけなのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで満足かアレイスター」

 

 窓も玄関も階段も通気孔さえ無い、異常極まるビルの中へ土御門元春は来ていた。ここに来るのでさえ土御門だけでは絶対に不可能だ。

 『案内役』と呼ばれる空間移動(テレポーター)の能力を借りて、ようやくこの場所へ訪れる事ができる。

 何故この場所に居るのかというと、土御門は魔術サイドと科学サイド、そして他の組織からの多角スパイであり、その実態は妹の土御門舞夏の安全を確保するため、アレイスターに付いているからだ。

 そして、土御門は今回の件を目の前の『人間』から聞いていた。

 

「これでお前は虚数学区・五行機関の鍵を手に入れた。……俺にはお前が化け物に見えるぞ。

 オッズどころかどんな博打をやるのかさえ分からないにも関わらず、オールインするような暴挙だぞこれは」

 

「何、自我を与えたのは一部分に過ぎん。例え爆発したとしても然したる影響はない。大局を揺るがすほどのことになどならんさ」

 

「ハッ!虚数学区・五行機関……()()()A()I()M()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 虚数学区は不安定な力そのもので、現実の世界に果たしてどの程度の力なのか、どの程度の規模なのか全く未知数の『衝撃』を及ぼす可能性がある。

 そのために、幻想殺し(イマジンブレイカー)を近付かせて、自我を植え付けるなど、思い付いたとしても普通は誰もそんなことを実際にしない。

 藪をつついて蛇ならまだしも、竜が出るかもしれないからだ。……正気の沙汰とは思えないな」

 

 風斬が居た『陽炎の街』の正体こそが、虚数学区・五行機関。学園都市の学生が無意識に作り出すAIM拡散力場の集合体。

 作り出された街並みは副産物でしかなく、その世界に在るもの全てが力そのものだ。

 それは、いつどんなタイミングで現実の世界に、如何なる影響を及ぼすのか全くの未知数。しかし、それに自我を与えてしまえば話は変わる。

 意識的にか無意識的にか計測し、交渉や脅迫が通じるとなれば、その不安定な力を逆に手中に納めることができる。

 その虚数学区・五行機関の鍵こそが風斬氷華だ。

 

 だが、どうして力の塊でしかない風斬に自我が生まれたのか?これは、先ほど土御門元春が言ったように幻想殺し。

 つまり、上条が持つ右手の影響である。

 

 生物は死の危険がなければ自我など生まれないのだ。痛みから恐怖から飢餓から、生物は死を感じ生きるために自我を獲得する。

 ならば、AIM拡散力場の天敵となる力を、側に配置しておくとどうなるのか。

 風斬氷華は10年ほど前から自我に目覚めたらしい。すると、一つの推察ができる。

 

 もしかして上条当麻が学園都市にやって来たのは、そのときではないのだろうか?

 

 AIM拡散力場を触れただけで、消滅させる存在が現れたことで自我が生まれて風斬氷華が形成されたのだ。

 それから風斬は虚数学区を一人さ迷い続け、インデックスの肩を叩くときに何かしらの『衝撃』が起きて、この世界に現れたとするならば、いろいろ説明がつく。

 

「今回の件をお前はイギリス清教の魔術師を警備員(アンチスキル)に対処させた。そんな事をすれば、当然(セント)ジョージ大聖堂の面々が見過ごすはずがない。

 魔術サイドの魔術師全員とこの小さな街が戦って、まさか勝てるとは思ってないだろうな」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……ッまさか、風斬の役目は人工の天使!?ならば、虚数学区・五行機関とはただのAIM拡散力場のではなく、人工的な天界の構築が目的か!」

 

「さてね」

 

 能力者が魔術を使うと起きるあの副作用が、虚数学区・五行機関が発動している場所では、魔術を使う魔術師にもそれが起きるなら、全ての魔術師は戦う力を一切失ってしまう。

 そうなれば、飛び抜けた科学がある学園都市の独壇場だ。戦争とも言えないような蹂躙が始まる。

 

「(妹達(シスターズ)を産み出したのは、一方通行(アクセラレータ)絶対能力者(レベル6)にするためじゃなく、世界中に妹達を配置し、虚数学区のアンテナを張り巡らせたのか……!)」

 

 世界の誰も気付いていないこの事実に、土御門のこめかみに汗が流れるが、それはアレイスターの企みだけではなかった。

 そう、この時点でさらに一つの事実が明らかになった。

 

「(()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 実はあの協力体勢を組んだときに、これから起こることをあらかじめいくつか土御門は聞いていた。その一つが学園都市に現れる天使の存在。

 そんな事が起きれば、間違いなく学園都市は滅んでいると思っていたが、学園都市の中で造られた人工天使なのだとしたら、丸っきり話は変わってくる。

 まだ聞いた予知の一つ目だが、妄想の類いではないかもしれないのだ。

 

「(チッ!……協力者の存在が一番の悩みの種とはな。あの切り札(ジョーカー)を上手く切るのは骨が折れそうだ)」

 

 そんな悪態を内心でつきながら、土御門は空間移動者(テレポーター)の手によって外へと出る。あとに残ったのはガラスの円筒に逆さになっている、病人服を着た『人間』だけだった。

 

 

 

 

 

 

 風斬は幻想殺しによって死ぬ恐怖で、自我が生まれた。

 ならば、死という概念は自我を保つ上で、必要不可欠なものなのだということが分かるだろう。

 だが、オリ主はその感情が持ちにくくなってしまっている。

 オリ主は『とあるの世界の物語』に関する記憶しかないため、この世界についてリアリティーを持てず、死の恐怖が希薄になってしまっているのだ。

 

 

 …………だが、本当にそうなのか?

 この世界の興味関心が高まったことによって、死に関してそこまで無関心になれるものだろうか?

 ガブリエルの身体に入ったあと、すぐに適応して平然としていたのは?御坂美琴に全身大火傷を負わされ殺されそうになっても、数日後には打ち解けたのは?

 現在もうすでに『アイテム』への恐怖を、微塵も感じていない理由は?

 

 

 

 風斬が死の恐怖で自我が生まれたとしたら、オリ主の死の恐怖がすぐに消失してしまうのはどうして?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界的に有名な建造物の中にその存在は居た。そこに辿り着くには、どんなに才能があろうとも並大抵の努力では到達できない場所だ。

 しかし、そんな場所に女は当たり前のように存在している。周囲とは一風変わり、きらびやかな衣装を身に纏い、化粧をしたどこかの貴婦人のような女がだ。

 その女は魔の物達に囲まれていた。

 当然、そんな魔に属する異形の存在に、か弱い貴婦人が敵うはずもない。歯が刃のようにギザギザのものから、全身が鱗に被われているものまで多種多様な異形のもの達が、女をぐるっと覆うように目を光らせていた。

 このままでは女のスラリと伸びた手足は、無惨にもその異形の化け物達に食い千切られてしまうのは、誰の目にも明らかだ。

 しかし、彼女はか弱い貴婦人などではない。

 彼女の周りををよく見れば、食われるどころかその化け物達を逆に従えているではないか。

 そして異形の魔物はそのことに一つも不満を挙げることなく、粛々と従っている。その事がまるで至極当然であるかのように。

 中心に佇むその美しき女は、そんな魔物達を足蹴にして暇を潰す。

 その手に黄金の(さかずき)を携えながら。

 

 

 

 

 

 

 オリ主は自分の身体に意識を向け過ぎていたのだ。エルキドゥについてももっと思考を割くべきだった。

 エルキドゥは一度も聖杯が無いとは言っていない。あくまで「魔力も聖杯から直接注がれているように豊潤だ。これはマスターというよりも、まるで別のところから与えられているように感じるね」と、言っているだけなのだから。

 触媒はオリ主が編み出していた、無意識に働くエルキドゥの言動。縁はオリ主の身体。そして、現在のスペックの向上は間違いなく偶像の理論である。

 だが、そもそもエルキドゥはサーヴァントだ。とある物が無くては世界に現界できない。召喚など絶対に不可能なのだ。

 つまり、この『とある魔術の禁書目録』の世界には存在する。レイヴェニア=バードウェイのように霊装などではなく、その実物。

 

 

 

 

 

 

 聖なる杯が。

 

 

 




これでオリ主の秘密の三分の一くらいが、なんとなくわかったのではないでしょうか?
すみません。オリ主の表記についての説明は、どう考えても早すぎなのでそのときになったら説明します。m(_ _;m)三(m;_ _)m
あと、今後もしかしたら感想欄の予測には、返信しなくなるかもです。その返信したコメントでネタバレしてしまってはあれなので。

次の投稿は来月です。


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68.お洒落

アガルタにエルキドゥ連れてって、すぐに正式加入させました。
言葉の間とか作者のイメージと違いましたね。
やっぱり実際に持っていないと分からないものです。

67話を2000字加筆しました。


 九月一日、俺は原作通りにシェリー=クロムウェルの企みを、上条とインデックスの力を借りて見事退けることに成功した。

 しかし、俺の話は終わらないようで、正体不明(カウンターストップ)編のヒロインである、風斬(かざきり)氷華(ひょうか)と翌日に再び邂逅する。

 AIM拡散力場の集合体の風斬だけが存在できる、『陽炎の街』に風斬がいるはずだが、何故だか俺だけには風斬を見付けることができるようだ。

 そして風斬との会話の中で、この身体に未だ明かされていない秘密があることを知る。

 それは神が与えたただのオプションなのか。あるいは、この世界に来てから生まれた変異なのか。謎は依然見当も付かない。

 だが、直感的にだが上条と同じく、いつか全ての秘密が開示されるだろうことが俺には分かった。

 

 

 

 ───そして、それがきっと全てが手遅れになった後だろうことも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな俺が今一体何をしているかというと。

 

「えーと、その先輩?……いきなりどうしたんでせうか?」

 

「うん?ああ、ちょっとね。気分転換だよ。気にしないでくれ」

 

「髪を弄られるのを気にしないっていうのは、なかなか難易度が高めな気がするんですけど……」

 

 上条のツンツン頭のセッティングをしていた。

 髪を一房一房に束ね、ワックスを浸透させるようにしてツンツン頭を形作っていく。そう、俺は上条の住んでいる寮の一室で、上条のヘアアレンジをしていたのだ。

 

「あれ?みさきそれってもしかして香油?」

 

「ええ、そうよぉ。どうせなら普段上条さんがしない、ちょっとお洒落な嗜好品を使用してもらうのも面白いでしょう?

 私の蜂蜜の香りのオイルよりも、天野さんが使っている香油の方が、嗜好品を余り使わない上条さんには合っているはずだって、昨日二人で話し合ってわざわざ持ってきたんだゾ☆」

 

 そんな風にきゃっきゃっ、うふふとしているのは、暴食シスターことインデックスと、常盤台中学の一大派閥を率いる女王の食蜂操祈だ。

 あのあと、新事実が多く発覚して容量(キャパ)を超えてしまい、俺はリフレッシュするため、食蜂を誘って次の休みに上条の寮へとやって来たのだった。

 みさきちはインデックスを上条を取り合う恋敵と睨みながらも、なんだかんだで彼女の純真さに当てられ、友達関係へとなったようだ。

 とはいえ、そこはみさきち。まだ警戒していて心を全ては開いていないご様子。

 

「(うんうん、『とある魔術の禁書目録』のメインヒロインが誰かを即座に見抜き、警戒するとは流石に勘が冴えてるな。そこに痺れる、憧れるぅ!)」

 

 インデックスと話しながらも食蜂は考える。

 

「(インデックスさんと上条さんの反応から、今間違いなく独走しているのは天野さんよねぇ。

 インデックスさんも警戒力が必要な強敵だけどぉ、どちらかというと女の子としてより、家族として上条さんは認識してるっぽいしぃ。

 インデックスさんに頑張ってもらって二人で膠着状態を作ってもらった方が、派閥を率いていて余りこっちに来れない私には有り難いんだゾ☆)」

 

 流石は超能力者(レベル5)の学園都市第五位にして、精神操作系の頂点の心理掌握(メンタルアウト)食蜂(しょくほう)操祈(みさき)

 打算的に計算して、謀略を練ることにおいてのスペシャリストだ。自分に優位な立ち位置をすぐさま見付け、相手を無意識に不利な状況に追い込んでいる。

 

「(天野さんには返しきれない恩があるけど、こればかりは譲れない。一切手を抜かずに行くわぁ。

 まあ、私が気を使ったと思ったら天野さんは直接言いに来そうだけど。

 もう少しズルくても、女の子なんだから全然構わないのにねぇ。御坂さんと違ってそういう工作ができない訳じゃないのに、わざわざ真正面からしか行かないのは、ちょーと男前(りょく)が高過ぎじゃない?

 もし、先に上条さんと出会ってなかったら、前に見た天野さんの信者さんみたいに私もなってたのかしらねぇ……)」

 

 その光景を想像して顔がひきつる。ちょっとした地獄絵図だ。

 そして、彼女のそんな思考には全く気付かないオリ主は、今整えている上条の髪の事に思考をシフトしていた。

 

「(本当にあのツンツン頭はワックスで整えたものなんだな。ツンツンじゃない上条とか激レアじゃね?)」

 

 そんな風に考えながらもぱぱっとセットするオリ主。それを見てインデックスが声を出した。

 

「ねえ、くさりって髪整えるの上手だよね。私もそうだけどみさきの髪もお洒落に整えちゃったし」

 

「僕が常盤台で派閥を率いていたときは、よく周りに居た女の子の髪をよく弄っていたからね」

 

「天野さんってそんな事してたの?女王たるもの派閥の子にやらせてあげるのが優しさだと思うけど?」

 

「相変わらず女王様してるんだなお前……。御坂にも言ったけど、あんまりそういうことしてるとあとで痛い目みるぞ?」

 

「……あらあらぁ?聞き間違いかしらぁ?今胸囲力が戦闘力に吸収されたアマゾーンの名前が聞こえたけど、気のせいに決まっているわよねぇ?

 最近忙しかったからもしかして疲れているのかしらぁ?はぁ~~、派閥の女王でいるのも楽じゃないわぁ」

 

「はぁ……、本当に御坂と食蜂って仲が悪いよな。何がそんなに気に食わないんだ?」

 

「…………主な理由はあなたなんだけどねぇ?まあ、それがなくても御坂さんと私は水と油、歩み寄るなんて元から不可能なんだけど」

 

 食蜂からすればミコっちゃんは、自分の居たポジションを奪い取った泥棒猫だ。そりゃあ仲良くなんてなれないし、能力的にもお互いに嫌悪感を抱いてるから、仲良くできる方がどうかしてるか。

 ……ん?そういや、能力効かない俺は大丈夫なのか?あれ?もしかして、陰では嫌な奴とか思ってる?

 えぇ……めっちゃへこむそれ……。でも聞くのも怖いしどうしよう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな感じに三人をお洒落にして満足した俺は、みさきちに生まれた疑念を無かったことにして、一人で街へと繰り出すことにした。

 逃げたとかそんな理由ではないけれど、一人にふとなりたいときも人にはあるものだ。当てもなく適当に街をぶらぶら歩いていると、偶然にも懐かしい人物と会った。

 

「おや、愛穂じゃないか」

 

「何度も言っているが私はお前より大人で先生で年上だ。敬語を使え敬語を。そろそろ本気で教育的指導をしてやるじゃんよ」

 

 そこに居たのは微塵も色気の無い緑のジャージ姿の癖に、グラビア紙で表紙を張れそうな凹凸ハッキリしたグラマラスボディをしている、大人の色気が隠しきれない残念美人な先生が居た。

 黄泉川愛穂。小萌先生と友人の関係であり、街の平和を守る警備員(アンチスキル)で活動している熱血教師。

 真ん中で前髪を分けて襟足で一本で纏めている、お洒落とは縁遠い人物だ。

 

「うん?髪型がいつもと違うじゃんよ。ははーん、もしかして男でもできたか?色気付くなんてお前さんにも、少しは可愛いところがあるじゃん」

 

「違うよ。友人と今まで会っていてね。そこで髪型をお互いにセットしただけさ。

 あと、君はもう少し見た目に気を使った方がいい。素材は充分にいいんだから、少し手を加えれば劇的に変わるだろうに」

 

 ニヤニヤしてくるその表情がムカついたので、すぐに事実を言った。他人の髪をセットなどしたことが無い、みさきちとインデックスに髪をメチャクチャにされたので、最終的には上条に髪をそれっぽくセットしてもらったが、二人にも一応してもらったし決して間違いではない。

 

「余計なお世話じゃんよ。それにそんなことしてたら、もしもが起きたときに万全に動けないしな。

 私は男を捕まえる事よりも、間違った道へ進む生徒の手を掴むことに情熱を燃やしたいじゃん」

 

 小萌先生といい何でこんなドス黒い陰謀が渦巻く、学園都市にこんな良い先生が在籍しているんだろう?治安が悪いから逆にそういった人達が集まるのか?

 

「君は変わってるね」

 

「お前に言われるのは心外じゃんよ」

 

 そんな会話をしているといきなり、ドバァッ!!という衝撃音と共に、路地裏の奥で何人かの悲鳴が聞こえた。それなりに音は大きく、周りの通行人の足が止まってしまっている。

 そんな中で一番に動けたのはプロである黄泉川だった。

 

「全く……!この街は問題ばっかり起きるじゃんよ!───私は警備員の黄泉川愛穂だ!民間人は今すぐここから待避しろ!!

 ……こちら黄泉川。何かしらの異常事態が起きた。今すぐ何人か派遣してくれ!ここは第七学区の…………っておい!?待て天野!!」

 

 黄泉川は携帯で警備員に連絡をしていたので、先に行って様子を見てくる。爆音でもレーザー音でも無かったから『アイテム』じゃないし、他の超能力者(レベル5)の暗部組織だったらきっと見逃してくれるはず!……多分!

 それになーんか今の衝撃に既視感があるのだ。具体的には数ヶ月前ぐらいまで隣で見てきたかのような気がする。

 持ち前の身体能力を使って突っ切っていくと、そこには想像していた通りの人物が居た。

 

「ったく、こんな程度で吹き飛ぶなんて、見た目通りに根性がねえ奴らだぜ。俺を倒したいんならもっと根性付けてからにするんだな!」

 

 その姿は最後に見たときと同じように、頭に白いハチマキを巻き、白い学ランを肩にかけた独特の格好。

 以前と変わらずに暑苦しい瞳して、彼はいつも通り胸を堂々と張っていた。

 

「やっぱり君か」

 

「……はぁ、今日は思い出の顔ぶれに矢鱈と会うじゃんよ」

 

 路地裏では数十人のチンピラと思わしき風貌の奴らが、とある人物を中心にして纏めて伸びていた。おそらくまたあの意味が分からない力で吹き飛ばしたのだろう。

 前世に居たあのテニスプレイヤーと並ぶほどに、熱いこの男はいつも通りに根性で、何もかもを解決していたらしい。

 

 『とある魔術の禁書目録』では、三人のキャラクターがヒーローとして扱われているのは、新約既読者ならば当然知っていることだろう。

 

 主人公である上条当麻。

 ダークヒーローの一方通行(アクセラレータ)

 そして一般人視点のヒーロー、浜面仕上。

 

 それが公式だが、実際にこの世界で直接見た主観的な意見を言わせてもらえるなら、俺は最後のヒーローは浜面仕上ではなく、このキャラクターを推したい。

 

「ん?よお!久し振りだな天野!」

 

 世界最高の原石にして超能力者(レベル5)のナンバーセブン。理不尽な根性で全てを乗り切る男、削板(そぎいた)軍覇(ぐんは)

 そんな彼は俺の元相棒でもある。 




やっとこの男を出せました。次からは過去のお話


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多重能力編
69.初顔合わせ


削板とオリ主が居ることで、間違いなく起こるであろう事を一辺に書いちゃいます。どんどん巻きで書かないと旧約が終わらねぇ……。


「おっ!黄泉川センセーも居るじゃねーか!久し振りだなっ!」

 

「……名前呼びじゃないからセーフという訳でも無いじゃんよ。原石っていうのは敬語を言えないような縛りでもあるのか?」

 

「さあ?どうだろうね。僕達以外の原石は見たこと無いから分からないな」

 

 そんな俺のセリフにため息を吐く黄泉川先生。

 えっと、その、なんかゴメンね?エルキドゥって敬語使わないみたいなんだよね。

 原石二人と警備員(アンチスキル)という異色のトリオだが、そんな俺達にはとある事件から繋がりがある。

 今から二年前。

 固法(このり)美韋(みい)と出会った後のことだ。一年後に俺はこの世界最高の原石と出会った。

 この街が生み出した一つの悲劇の真ん中で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは学園都市にある研究施設の一つだった。最高峰の設備ばかり揃えられていることから、そこが学園都市にとって如何に重要視されているか伺い知ることができる。

 しかし、今ではその高品質な設備は軒並み停止している。電力を止めていないだけで、その研究施設は全く稼働していなかったのだ。

 そんな施設をよく見ると、白衣を着た人間が何人か倒れている。彼らは全員気絶していた。襲撃を受けたのだ。それも外部からではなく内部からによる襲撃によって。

 この現状を生み出した白衣の女に、まだ意識がある男は睨み付けた。

 

「き、貴様っ!こんな真似をしてただで済むと思っているのか!この施設は学園都市の未来のたmぐはっ!?」

 

「『はあ……?アンタあたしのこと馬鹿にしてんの?そんな事は当然全部知っているに決まってるでしょ?

 ぜーんぶ分かった上でここを潰しに来てるのよ』」

 

 そう言ったのは、高圧的な声を上げる身長が平均よりも高い女だった。彼女はここの研究者で、進めていたプロジェクトの副リーダーだったのだが、今はこうして何故か上司を踏みつけている。

 その奇行を行う女は懐からある書類を取り出した。

 

「『こーれっ。これ見える?ここの成果のデータ。数年間続けて全くのゼロ。

 研究者の夢?はあ?生産性が皆無ならやる意味なんて何も無いてしょ。

 この実績と私自身が生み出すデータ、どっちの方がより実用的か上の方も分かってるようね。目障りだから潰すと言ったら「どうぞ」だってさ。

 アンタ達は無事、なんにーも出来ずに終わったのよ』」

 

「な、何故だ?貴様にはこのプロジェクトに直接的な関係はなかったはずだ。

 まさか下らん英雄志望か?貴様の唯一性を失いたくないからか?馬鹿馬鹿しい!そんな個人的な事で我々の偉業を妨げるなど、愚昧にも程があるっ!

 この実験の成果はなぁ!全ての能力者の可能性を広げる偉大n──たわばっ!?」

 

「『全然違うわよカス。知ったかされると本当に腹立つわ。まあ、本当のことをアンタなんかに話す気は無いけどね』」

 

 ヒールの踵で男の脳天を勢いよく踏みつける。そしてそのままぐりぐりと踵をめり込ませながら女は言った。

 

「『アンタ達がしていたことが、学園都市の未来のためだろうがなんだろうが、何も成せて無い時点で無意味な虐殺よ。

 アンタは人間としても科学者としても終わってる負け犬。そこら辺を学園都市の闇から、責任を追われながら実感したら?』」

 

 最後に男をその細い足で二メートル程吹き飛ばした女は、以降男の方を一切見ることなく、あるところへ向かって歩いていく。そして、ついた先はシャッターが閉じられている部屋だった。

 先程の男から奪ったIDカードを読み込ませ、その閉ざされたシャッターを開ける。

 開いたその先は大して広くもない部屋だ。何か特殊な設備が置いてあるわけでも無い。

 このままでは何故厳重に閉じていたのか分からないが、答えは側面一杯に取り付けられた巨大なガラスの向こうにある。

 変身を解いて緑色の髪を流している女は、そこにある光景を上から見下ろした。

 

「(これはNPCがどうとか以前に胸糞悪いな)」

 

 そこには科学者が産み出した地獄があった。懐から取り出した書類とは別のレポートに記されている。

 

 ここの名は特例能力者多重調整技術研究所。縮めて『特力研』。

 ここでは多重能力(デュアルスキル)の研究が行われていた。

 多重能力とは能力が一つ以上の能力を有する能力者の事だ。絶対能力者と同じくらいに、科学者に重要視されている事柄でもある。

 そして、俺は常盤台に入りたてのとき、それに関係するある噂を耳にしていた。

 

『非人道的に多重能力者(デュアルスキル)の能力開発が進んでいる』、と。

 

 別にそれは不思議なことじゃない。原作でも少ししか触れていなかったが、多重能力者の実験はかなりの数の犠牲者を産み出していたはずだ。

 ある意味では原作通りとも言えた。

 しかし、見過ごせない言葉を俺は聞いてしまった。

 

 

 

 その実験は劣化模倣(デッドコピー)を第一目標に据えている。

 

 

 

 まさか自分の名前を好きなように使われているとは、思ってなかった。確かに、科学者共は多重能力者と俺のことを期待していたのは知っていたが、まさか、都合良く俺を火の元に立たせているとは。

 

「(俺が居なくても多重能力の実験は散々してただろうが!都合よくスケープゴートにしやがってっ……!)」

 

 オリ主ブチギレである。

 まあ、自分を知らない間に矢面に立たせて、散々甘い汁を吸っていた奴が居たのなら、堪忍袋の緒が切れるのも仕方がないだろう。

 こうして、オリ主は八つ当たりで殺される可能性や、都合よく利用されるのにムカついたため、変身能力を使い内部からぶっ壊すことにしたのだ。

 

 ──ちなみにだが、土御門にローラ=スチュアートのスパイだととっさに言ったのは、自分がされたようにいつか誰かをスケープゴートにするのだと、画策していたからだ。

 要するに、ただの八つ当たりである。

 

 そんな経緯があったために、オリ主はいろいろなところに手を回して、この施設を破壊することにしたのだ。

 良くも悪くもそう言った伝は矢鱈とあるので、学園都市の上と掛け合うのは難しくはなかった。まあ、実行までに二ヶ月もかかってしまったのだが。

 紆余曲折あったがこうして特力研を潰すことに成功した。

 

 そして、この施設の成果ともいえる悲劇がそこにはあった。

 

「(まさか子供の脳ミソを切ったり付けたりしてるとはな。突然変異があとから起こるかもしれないと、あの状態のまま生かされてるのか……)」

 

 その隔離された空間には無惨な姿の子供達が居た。

 話す言葉はとても言葉にはなっておらず、歩くことすら出来ていない。乳児のような声や動きをする、四十人程の小学生の子供達は異常そのものだ。

 言語能力、計算能力、おそらく判断能力までも無くなってしまっているのだろう。

 

「(科学者によると俺が変身するとき、どうやら演算が途中で跳んだようになって、結果がいきなり算出されるらしい。

 まあ、これは神の特典だから演算をそもそも使わないけど、変身した相手のことを僅かにトレースするから、それが僅かながら演算という結果で現れてしまっているのだと思う)」

 

 何が言いたいかというと、科学者達は能力が算出させる演算に主体において研究をしているが、オリ主の能力にとって演算などは副産物であり、入力するときに混ざり込んだ異物でしかないのだ。

 

「(そのことを当然知らない科学者や研究者達は、逆転の発想をすれば多重能力者が、人工的に生まれるのではないかと考えた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 最初は計算能力から始まり、言語能力、記憶力と削っていき、どんな変化が能力者に現れるのか計測したのだろう。

 演算に必要ないところも切除していることから、こいつらのヤバさが分かる。

 本当に実験動物(モルモット)としか見てないのな。

 

「(本来ならもう殺してやるしか救いが無いけど、この街には名医が居るからきっとどうにかなるはずだ。時間はかかるだろうけど、きっと心の安寧も取り戻してくれる。

 死んでなきゃ絶対に助けてくれるからなあのお医者様は)」

 

 そしてとある病院に電話をかけながら、オリ主はその場から踵を返す。

 

「(あとは、あらかじめ呼んでおいた警備員がかけつけて来るまで、証拠を隠滅しようとするアホを、見張っとくのが俺の役目だな)」

 

 すべきことを再確認し、この馬鹿げたプロジェクトを完膚なきまでに終わらすつもりなのだ。とはいえ、この施設に居た科学者も研究者も気絶させ、外部との連絡手段は軒並み破壊したので、どうすることもできないのだが。

 オリ主は科学者や研究者が外に逃げないように、一旦外に出ることにした。仮に目覚めても気配を辿れば、視認しなくても見付けられるのだが、わざわざ奥の狭まったところに居る意味も無い。

 そのような理由で、オリ主が先ほど開いたシャッターから、まさに一歩目を踏み出したところで。

 

 

 目の前の天井が落ちた。

 

 

 ドゴシャァァアアアア!!!!と、凄まじい音を出したその地点は、一瞬で視界を奪うほどの砂煙を立ち上らせる。この光景にさしものオリ主も目が点になった。

 「(まさか、隕石でも落ちたのか……?)」と思ったが、そんな偶然があるわけもない。オリ主はその砂煙の向こうから聞こえる声を聞いた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()鹿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 聞いたことの無い声だった。前世での知識も合わせて、『とあるシリーズ』の主要キャラには絶対に居なかった声だ。おそらく、この世界に転生した後に、付けられた声なのだろう。

 セリフから善人であることが分かる。ならここですぐに無力化したあと、全ての理由を話せば手っ取り早いとオリ主は考えた。

 

 だが、その目論見が甘かったことを察する。砂煙から出てきたキャラクターに驚愕した。

 その姿を見て背中に冷や汗がだくだくと流れ出す。アニメでは見たことは無かったが、その服装と髪型に見覚えがあったのだ。

 肩にかけた白ランとハチマキを靡かして、その男は気合いの籠った声で言った。

 

 

「そのひん曲がった性根を、俺の根性で叩き直してやる!」

 

 

 超能力者(レベル5)にして世界最高の原石。削板(そぎいた)軍覇(ぐんは)がオリ主の前に立ち塞がる。




アニメが始まる前に出したかったんだけど、なんかアニメで削板の出番がまだ終わってないし、セーフと言えばセーフですかね?

◆作者の戯れ言◆
低評価と高評価の振り幅ぁ……。
作者にしか分からないけど、評価のコメントを見ると『本当にこの人たち同じ小説見てるの?』って気分になってくる。
「はぁ……、もう止めちまうか……」と「よしっ!もっと書こう!」って感情を行ったり来たり。
……え?本当に同じ小説見てるんだよね?


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70.ナンバーセブン

嬉しいコメントを見てやる気が上がりました。もうちょっと頑張ってみようと思います。
しかし、作者はクソ雑魚メンタルなので、いつか心が折れて書かなることがあると思います。
そのときは、また暖かい言葉を送って貰えると嬉しいです。



 遡ること二十分前。

 オリ主は『特力研』に乗り込むために路地裏を通っていた。コピーした研究者の名前や衣服などは手に入れたが、そのキャラの行動パターンを全て把握したわけではない。

 そのため、なるべく人目を避けて潜入し、素早く片付けた方が都合がいいのだ。

 

「(あーもう、また武装無能力集団(スキルアウト)か?)」

 

 だが、そう上手くはいかない。治安が最悪なこの学園都市では時間帯が遅くなっても、路地裏などで武装能力者集団が普通にたむろしている。

 騒ぎになってもあれなので、一応避けてはいるのだが。

 

「(……これで八回目。どんだけ居るんだよコイツら……。さっさと帰れっちゅーに。

 はぁ……、別のところ探すかぁ…………ん?何だ?)」

 

 そうして、別のルートを探そうとするが、ふと三人分の話し声が聞こえた。よく聞いてみるとどうやら穏やかな会話ではないようだ。

 

「は、離してくださいっ!こんなことしていいと思ってるの!?」

 

「おいおい、そんなツレねぇこと言うなよ。俺達に少しだけお金を恵んでくれるだけでいいからさー。あ、それがイヤならその体で払ってくれてもいいんだぜ?」

 

「おっ、そりゃあいい。確かに結構いい体つきしてるしな。俺達もたまには羽目外して楽しみたいし」

 

 マジでそれなっ、ぎゃははゲラゲラ!と品なく笑っている馬鹿二人。

 そして、そんな男二人に壁に追い込まれてもなお、少女は気丈に振る舞うが手足が震えてしまっている。

 その少女は前髪を上げていて利発そうな印象を受けるが、相手は自分よりも体格が良く数も多い。この状態で恐怖を感じるなというのは、中学生の彼女には些か無理()いが過ぎるというものだ。

 本来ならばこんなとこで目立つ意味はないため、できるだけ争い事は避けたい。しかし、いつもの習慣はそう簡単に抜けず、尚且つオリ主の精神状態は平時とはかけ離れていた。

 

「……あ?何だお前。白衣なんか着て科学者かなんかか?」

 

 面白いところで水を差されてチンピラは苛立つ。白けさせた乱入者にキツめの視線を向けた。

 しかし、それも一秒後には態度も変わる。

 

「おおっ!?すっげぇ美人じゃねぇか!俺達超ツいてるぜ!」

 

「おっぱいはこっちの嬢ちゃんよりはねぇけど、平均ぐらいはあるか?まあ、個人的にその個性出しまくってるその髪色は、どうかと思うけど」

 

「そうか?俺としては似合ってるからセーフだな」

 

「ッ私はいいから今すぐ逃げて!」

 

 そんな馬鹿を絵にかいたような二人と、貞操の危機にも関わらずこちらを案じるような少女。そんな三人の出すそれぞれのアクションを軒並み無視して、馬鹿二人に白衣の少女は近付いた。

 

「おっ、なんだ?アンタってそういう趣味があるぼげらぁ!?」

 

「って、半蔵ォオ!?」

 

 ノーモーションで繰り出された蹴りが、バンダナを被っている少年を壁に吹き飛ばした。

 壁に叩き付けられた少年はズルズルと崩れ落ちる。そして、その少年を見向きもせずにオリ主は残りの少年へと近付いた。

 

「僕は忙しいんだ。そして、個人的に苛立ついていてね。痛い目にあってもらうよ(頭が痛くなるようなことばかり起こりやがって……!少しだけサンドバッグにしてやる!)」

 

「ふ、ふざけんな!テメェよくも半蔵をッ!きっちりケジメ付けさせてぶごべらばあ!?」

 

 ドゴッ!と重い衝撃と共に、残りの少年も一撃もらっただけで昏倒してしまった。

 戦いにおいてノーモーションの攻撃は、相手に回避の準備をさせない有効な攻撃手段ではあるが、動かす部分の筋肉しか力を加えられないために、どうしても威力が無くなってしまう。

 しかし、エルキドゥのポテンシャル故か、矢鱈と膂力のあるオリ主が同じ動作をすると、成人男性並みの一撃となる。

 二人を倒したオリ主は残った少女に近付いていく。

 

「二十メートル南南西に警備員がいるから、保護してもらうといい」

 

「あ、ありがとうございました!助かりました!お礼をさせて頂きたいので、お名前と通っている学校を教えてもらってもよろしいですか?」

 

「大したことじゃないよ。それにごめんね、今急いでるんだ。運が良かったと思って欲しい。ほら、もうお行き」

 

「はい!本当にありがとうございました!」

 

 そうして駆けていく彼女を見送って、俺は目的地である『特力研』に向かうため踵を返した。

 おっと、その前に。

 

「───また、彼女を襲うなら容赦はしないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ……、気付いてやがったか……」

 

 半蔵はゆっくりと立ち上がって、去っていった女の方を見る。蹴りが当たる前に腕を差し込み、バックステップで威力を減らしたのを、どうやら感づかれたようだ。

 壁に勢いよくぶつかったのは事実のため、それなりのダメージは食らってはいたが、いざとなれば袖に隠した打ち根を出すつもりていた。

 だが、白衣の女は()()()()の擬態を簡単に見破り、さらに警告まで投げ掛けてきた。あれは能力者うんぬんではなく、技術がプロと呼ばれる者の領域まで上り詰めている観察眼だ。

 それに、あの動きは何かの体術でも修めているのだろう。能力に胡座を組んでくれれば楽だが、どうやらその様子もない。以上のことからもう関わらない方が身のためだろう。

 半蔵は肩にもう一人の少年を担いぎ、警備員が来る前にとっととトンズラする。

 今から逃げれば捕まることは無いはすだ。

 

「自惚れているつもりは無かったが、まさか俺が身体能力は疎か、磨いた技まで看破されるとは思ってなかったぜ」

 

「う、うーん?半蔵?あれ?俺何して……」

 

 肩に担いだ友人が目を覚ます。間抜け面を晒す友人は寝惚けて、直前の記憶を思い出せないらしい。

 

「白衣着た女一人にボコボコにされたんだよ俺達」

 

「……ああっ!そうだ、あの野郎!次あったらただじゃおかねえ!

 確か最近、能力者に毒電波垂れ流す機械が開発されてるって、噂があったな。

 手に入れてたら一番に使って、今回のケジメ付けさせてやる!」

 

「馬鹿か!!あれは能力で身体能力を底上げしてるだけじゃねえ。身のこなしや技量も相当だ。下手したら暗部の人間だぞあれは」

 

「……?何でお前にそんなことが分かるんだ?」

 

「あ、いや、ほらっ、勢いよく吹き飛んだ俺もお前も、怪我一つねえだろ?手加減されてたんだよ。じゃなかったら今頃骨の二、三本は逝っちまってる」

 

「ああ、確かにな。それもそうか」

 

 馬鹿で助かった……とでも言いたげな安堵の表情をして、半蔵はダメージが残っている浜面を担いで歩いていく。

 

「あークソっ。結局何もできずにやられたままかよ。能力さえあればよぉ」

 

「浜面。今さらそんなこと言っても意味なんかねえだろ。俺達は得られなかった側の、人間でしかねえんだからな」

 

 無能力者(レベル0)。学園都市では決して珍しいことではない。何故なら6割が無能力者であるため、少数というわけではないのだ。

 しかし、そこには能力者との絶対的な差が実際にある。その格差に耐えきれずコースアウトしたのが、彼ら武装無能力者(スキルアウト)だ。

 傷の慰めでしかないことは分かっているが、同じはみ出し者と共に行動するのは楽だ。

 先ほどの行動が善行ではないことなど分かってはいるが、それでも華奢な少女にああも簡単に無力化されたのは、なかなか堪える。

 そんな陰鬱な空気を出している二人に、後ろから声をかける人物が居た。

 

「お前ら!ちょっといいか?聞きたいことがあるんだけどよ」

 

「あん?」

 

 そんな彼らが振り返るとそこには、この蒸し暑いなかで長袖の白ランを肩にかけている男が居た。その男は真剣な瞳をしてこちらに問いかけてきた。

 

「ここに緑髪の科学者みたいな奴は来なかったか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらに遡ること一時間前。

 

「クソっ!い、一体どうすれば!あの女のせいであの実験が終わってしまう……!そうなってしまえば、少しでも利益を貪り食おうと、今までの金の流れが隈無く調べられる。

 そうなれば、私があの実験の資金を、別の場所にプールしていたことが連鎖的にバレてしまうではないかッ!」

 

 男は研究者だが多重能力(デュアルスキル)発現実験の、直接的な関わりは無かった。しかし、何も専門的な一つの機関が、計画(プロジェクト)の全てを請け負っている訳ではない。

 金の工面は何も学園都市の上層部からだけではない。甘い蜜を吸おうとして様々な研究機関が援助していた。結果は芳しくはなかったが、学園都市の上層部が進める計画ならば、パイプを作る意味でもやって損は無い。

 この男の研究機関も同じ様に投資をしていた。だが、この男は私欲に走った。援助するはずの資金を幾らか手元に勝手にプールし、金を渡していたのだ。

 本来ならばこの悪事などすぐにバレるが。何しろ多重能力発現実験は開始当初から全く成果を上げられてはおらず、『特力研』もそれは認識をしていた。

 そのため、投資額を下げられたとしても、文句など言えなかったのだ。

 その弱みにこの男は付け込んだ。業績を全く上げられないために、金をプールしても気付くことはない。ある程度貯まったら、「自分が交渉して投資額を上げてもらうことに成功した」などと言って、さらに恩を売ることも可能かもしれないと頭の中で計算していたが、それも全てパーだ。

 それどころか、その罰として責任を(なす)り付けられ、自分を矢面に無理矢理立たせるつもりかもしれない。そうなれば、破産はもちろん命すら危うい。

 しかし、もうどうすることもできない。

 二週間前に偶然にもあの『原石』が、特力研を潰すことは知ったが、暗部に依頼しても上層部が既に多重能力発現実験に、見切りを付けているため動こうとはしない。

 あの『原石』は触れた人間に変化するため、他の能力者とは違って脳ミソだけあればいいというわけではない。

 能力の足掛かりさえ掴んでいない現在、他人の能力を取得する工程を失うということは、他人に変化するという結果しか分からなくなってしまうのだ。

 それでは、永遠に多重能力へのヒントを失ってしまう可能性がある。それを怖れて誰もあの女を殺そうとはしない。

 

「(馬鹿共めがっ!多重能力発現実験を再開する気さえないのなら、生かしておく意味など無いだろうが!)」

 

 後に、別の方法で多才能力(マルチスキル)なども生まれるため、全くの無意味などではないのだが、平凡な研究者でしかないこの男にはそんなことを考えれるはずもない。

 

「(どうにかあの女を殺さなくては……。だが、奴を仕留められるような武力など個人で持ち合わせてなどはいない。

 さらに奴は大能力者(レベル4)。半端な能力者など相手にもならん。クソッ!私の人生はここまでなのか!?)」

 

 そうして悲嘆に暮れる男に奇跡が起きる。

 男の前をある少年が通り過ぎたのだ。

 あの少年を男は知っている。何故なら奴と同じ『原石』のため、一度書類に目を通していたからだ。

 あの女と同じ『原石』でありながらさらに価値があり、強度(レベル)も超えている学園都市唯一の存在。

 少年のその直情的な思考回路も男は知っていた。ならば、自分が取るべき行動はただ一つ。

 

 その『原石』を見付けた男は嫌らしく口角を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから十秒後。

 

 超能力者(レベル5)を打倒するために、やって来たチンピラ達を軽く伸して自宅へ帰る途中に、削板はとある研究者と出会った。

 

「あ、あいったー!」

 

「うおっと。……何だぁ?このあからさまなインテリは?おーい、アンタ立てるか?」

 

 削板の隣に如何にもな研究者が、躓いて思いっきり転んだのだ。

 根性があればその程度すぐに起き上がれるだろうが、明らかに鍛えていないこの研究者にそれは無理だと思い、削板は手を差し伸べるが、男は気付かずにいきなり声を上げた。

 

「ひ、ひぃーー。あーもう、オシマイダーー。このままでは罪の無いコドモたちが大勢死んでしまうぅうぅうぅう!」

 

「何だと……?おい、そいつはどういうことだ」

 

 目の前の男はどんくさい奴程度の認識でしかなかったが、何やら物々しいセリフその男から聞こえ、今までの適当な雰囲気から真剣なものへと切り替える。

 男は削板の声に勢いよく振り返り、次々と喋り出す。

 

天野(あまの)倶佐利(くさり)この名を知っているか?奴は大能力者(レベル4)の原石だ。

 奴は、どうやら置き去り(チャイルドエラー)の子供達を集めて、人体実験に使っていたようだ。私も手を尽くしたがもう既に輸送されてしまった後だった……。

 このままではあのマッドサイエンティストに、みんな殺されてしまう」

 

「マッドサイエンティスト?能力を持つ学生がか?」

 

「ああ、アイツは変わり種なんだ。能力者でありながら科学者でもある。そんな奴が推し進める計画は、多重能力(デュアルスキル)発現開発計画」

 

「何でソイツは子供を利用する。意味は何だ?」

 

「証明だよ」

 

 削板の質問に男は間髪開けずに答える。

 

「奴は劣化模倣(デッドコピー)という、どんな能力者にも成れる学園都市唯一の存在だ。学園都市の夢であった多重能力(デュアルスキル)の能力者だと、当時は祭り上げられていたらしい。

 だが、結局学園都市は奴を多重能力(デュアルスキル)とは認めなかった。それどころか強度(レベル)超能力者(レベル5)にも届かないものだと評価された。

 奴からすればそれは裏切りだったのだろう。それから奴は狂った。自分が最も多重能力(デュアルスキル)に近いことを証明するために、わざと失敗するような人体実験をしているのだ。

 あー、ナントイウコトダー。このままでは人間の皮を被った悪魔に、未来ある子供達がまだまだ殺されてしまうぅぅぅぅ………………チラッチラッ」

 

 いきなり出てきたインテリ研究者は、ただの偶然通りがかった削板相手に、異常なまでにペラペラと機密の情報を話していく。

 この時点で怪しいことこの上ないが、削板軍覇という男はそんな些末なことは気にしない。

 命の危ない子供がいる。根性がある男というのは、それだけで命を懸けることができるのだから。

 

 

 

 

「……そんなクソ野郎が居るとはな。いいぜ、この俺がソイツに根性ってのを見せてやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、巻き戻ること現在。

 

「(何で削板軍覇がここに居んの!?お前原作でも絶対これと関係無いだろ!?つーか、空間転移(テレポート)に純粋な身体能力で肉薄すんじゃねえよ!)」

 

 空間転移(テレポート)で距離を取るが、異常な速さで追い付かれる。実際にまだ会ったことは無いが、おそらく聖人である神裂と肉弾戦を出来るのではないかとさえ思う。

 なんせこの身体のフルスペックでも、追い縋るのがやっとなのだ。おそらくこれを客観的に見たら、所謂(いわゆる)ヤムチャ視点というものになるはずだ。

 

「性根が捻じ曲がってるくせに、歪んだ根性見せやがる。俺のスピードでも掴みきれねえとはな。

 ハッ!思ったよりやるじゃねえか」

 

「(ひぇえ……、コイツヤベェ……。……本当に人間?

 このスピードじゃそろそろ対応が遅れ──うっへいっ!?ちょちょちょちょ、今かすった!かすったよ!今!?)」

 

 謀略と呼ぶには些かキャストが馬鹿ばかりだが、こうしてオリ主と削板は男の思惑通りに激突した。




次はバトルです。バトルは大変なんだよなぁ……。
軍覇との出会いは二年前にしました。

ちなみに、半蔵が起きていることに気付いたのは、もちろんエルキドゥの気配察知です。


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71.原石VS原石

ちょっとミスったんで改めて投稿し直しました。



 学園都市最新鋭の機材が揃ったその施設は、二人の人物により既に壊滅的な被害を受けていたが、今尚戦闘が続いていた。

 白ランを肩に乗せている男が、腰を低くして構えながら言葉を投げ掛ける

 

「お前真似っ子か?気持ちは分かるが目移りしちまうのはよくねえ。男なら一つに絞って突き進んだ方が、ビシッと根性が据わるもんだ!」

 

「とは言ってもね、僕は女だよ(まあ、元は男だけどな!)」

 

 能力を使い、発火能力(パイロキネシス)の炎を放つ。普通なら回避をするのだがそこは超能力者(レベル5)の能力者。当たり前のように迎撃する。

 しかし、そこは世界最大の原石。()()()()()()()()()()()()()()

 

「すぅ~~~~~~~~~~~~~~」

 

 火が迫ってる中で突然深呼吸をし出す削板。炎という脅威が近づいているのにも関わらず、焦った様子は微塵もない。

 肺に限界まで貯まった空気を音に変換して、削板は勢いよく吐き出した。

 

 

「──根性ォオオッッ!!!!」

 

 

 ブォオオ!!と、その雄叫びはとてつもない衝撃を巻き起こし、迫る炎を火の粉一つ残さずに、跡形もなく掻き消した。

 

「『なっ』」

 

 炎を掻き消しても衝撃は止まらず、オリ主の肌がその余波でビリビリと痺れる。

 ただの雄叫びすら攻撃に変わる。それが学園都市の第七位にして世界最高の原石、削板(そぎいた)軍覇(ぐんは)多重能力(デュアルスキル)に最も近いと言われたオリ主を、遥かに凌駕する存在。

 そんな削板が作り出した光景を見て、オリ主の顔色が変わる。

 

「(な、なんだそりゃああああああああああ!?!?!?雄叫びで飛んでくる炎吹き飛ばしたぞアイツ!?

 アイツだけ出る作品間違えてねえか!?)」

 

 大パニックであった。理解の範疇を超えるこの超人にただただ驚愕する。

 

「(音を衝撃波に変えて打ち出す音響兵器は確かにあるけど、もっと爆音のはずだ。だから無人機じゃないと使用できないのが常識。

 鼓膜が破れる事ももちろんだけど、何より爆音と衝撃破で脳震盪を起こして気絶しちまう。こんな雄叫び程度の声が炎を吹き飛ばすなんて、どう考えてもあり得ないんだけど…………実際に起きちゃってるんだよなぁ……。

 二段階ジャンプはするわ音速の速さで動き回るわ、常識も物理法則もガン無視じゃん。実は週刊少年ジャンプ出身だったりしない?

 あーもう!こんな奴にどうやって勝てって言うんだよぉおお!!)」

 

 少年の夢が詰まったような男に出会えて、嬉しいのは嬉しいが敵としては会いたくはなかった。

 なぜなら、削板の能力は全体的によく分からないからだ。

 いや、マジで分からん。原作でも理解不能って扱いだし、弱点なんて本当にあんの?

 

「(確か、雷神ミサカにも進化する前までは張り合ってたし、あの時点では超能力者の中で一番強いんじゃね?そんな奴に能力勝負で勝てるかいっ!

 あと切り札のこの身体のスペックも凌駕されてるし。えぇ……、どうすりゃいいのさこれ?)」

 

 自分の認識では一般人と聖人の間くらいのスペックが、この身体にはあると思っているが、この目の前の第七位にはそれが全く通じない。マジで聖人クラスの身体能力ではないだろうか。

 勝つビジョンが全く想像できない。逃げることもできない。八方塞がりとはまさにこのことだ。

 

 というか、そもそもの話

 

「君と僕が戦う必要があるのか僕には分からないな。何で君は僕に襲い掛かって来たんだい?」

 

 そう、オリ主には削板と戦う理由が無いのだ。

 削板にいきなり攻撃されたから、防いだのが始まりであるのだから。だが、どうやらそう思ってるのはオリ主だけのようで

 

「おいおい、ここまできてしらばっくれるつもりか?」

 

 目の前の男から苛立ちが伝わってくる。

 

「お前が子供を集めて、くだらねぇ実験をしてるのを聞いちまってな。それを直接確かめに来たって訳だ。

 お前が出てきたとこにどんな子供達が居るのか、さっき落ちてくるときに見た。白衣なんてモン着て、イッチョ前に科学者してるかと思えば、やってることは子供を使った馬鹿げた実験だ。

 はぁ~、全く…………

 

 ──ここまで根性が入ってねぇ奴が同じ原石とは思わなかったぜ」

 

 

 覇気が可視化できるほどに激情を燻らせている、超能力者がそこには居た。それを見てオリ主は察する。

 

「(……あれ?もうこれって弁解無理じゃね?)」

 

 事実は全く違うが削板からすれば、火災現場から覆面被った黒服の男が出てきたようなものだ。

 この状態で「犯人はお前にここまで情報を渡した男だ!」と言っても、信じる奴はまずいないだろう。冷や汗をダラダラ流しているオリ主の未来は暗い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黄泉川愛穂は他の警備員(アンチスキル)と共に、電話を受けて現場に急行していた。

 とはいえ、この事件を知ったのは数時間前。事件の深刻さから作戦会議が開かれ、どうするのが一番いいのか散々話し合わされたが、如何せん時間がない。

 万全とは言い難いが決行する事となった。

 

「(せめてもう一日あればいろいろ情報集めて、より確実な作戦も練れただろうに。だが、奴等がこのまま雲隠れする動きがあると言うのなら、悲劇を繰り返さないためにもここでぶっ潰すしかないじゃんよ)

 虎穴に入らずんば虎子を得ず。生徒を救いたいなら命を懸ける必要がある。──皆、いつも通り子供のために命懸けで先生するぞ」

 

『了解!』

 

 問題の研究施設の付近に到着した。

 ここからは車では察知されるため足で施設へと近付く。そして、あらかじめ決めていた配置にそれぞれ着こうとしたその時、

 

「だらっしゃああああああああッッッッ!!!!」

 

「『クソ野郎がァァアアアアッッッッ!!!!』」

 

 ドゴォオッ!!と、何かと何かが空中でぶつかり合うような、轟音が響き渡った。その拍子にガラスが割れて「きゃああ!?」と部下の鉄装(てっそう)綴里(つづり)が悲鳴を上げる。

 予想外の事態に黄泉川が舌打ちをしながら、無線を向かって声を張り上げた。

 

「クソッ!もうドンパチしてんのかっ!第一、第二部隊突入ッ!」

 

 その声と共に警備員が次々と突入していく。組織間での抗争でもしているのかやけに派手な音がしているが、腰を引いていては警備員としてここに居る意味はない。

 何より今回は罪の無い子供達が被害に合っているのだ。自分達大人が命を懸けなくてはならないのは当然だ。

 警備員達は鉄火場に向かって躊躇いもなく駆け出す。

 

「おい!警備員だ!双方、大人しく投降するじゃn「ドガァァアアアン!!!!」───なッ!?」

 

 黄泉川が警告を飛ばそうとすると、勢いよく数メートル横に何かが突っ込んできた。その拍子に設備を破壊したため、その人物の飛び出た足しか確認ができない。

 今の速度でぶつかれば、まず間違いなく無事では済まない。しかし、その飛んできた人間は倒れたまま声を発した。

 

「流石は世界最高の原石と言ったところかな。こうも攻撃が通じないとはね」

 

「……お前は」

 

 そう言って顔を上げたのは、緑色のアバンギャルドな髪をしている高校生ぐらいの少女だった。能力で先ほどの衝撃を緩和したのか、どこか怪我をした様子はない。

 そして黄泉川は思う。先ほどの攻撃を食らえば仮に痛みは無かったとしても、何かしらの感情は抱くのが普通だ。それは、憤怒であったり恐怖であったりなどを抱かなければおかしい。

 戦場で感情が動かないなど、それは全てを悟った聖人か狂人しかいないだろう。

 だが、目の前の少女の様子はまさにそれだ。

 

「(どんな人生を送れば、そんな精神を持つことができる…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 凪ぎの心。巨大な大木のような揺るが無さ。この少女は一体どんな境地に居るのか。大人である黄泉川ですら全く分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(うん、無理☆)」

 

 お釈迦となった最新鋭の設備の上で、オリ主は諦めの境地に至っていた。オリ主がたどり着いた境地など、残念ながらこの程度のものである。

 

「(いやいや、俺も結構頑張ったよ?念動能力(サイコキネシス)縛り付けても根性で振りほどくし、精神系能力も根性で無理矢理解除するし、発火能力(パイロキネシス)風力使い(エアロシューター)が直撃したのに、めちゃくちゃピンピンしてるわで本当に彼人間?

 頼みの綱の一方通行(アクセラレータ)の反射も見事にぶっ飛ばされたし。まあ、確かに本家とは違ってスカラーは反射出来ないけど、あなた殴ったのただの拳ですよね?何でそれ通じちゃうかなー?

 まあ、本当にダメージが全て貫通してたら、こんな程度じゃ済まないだろうけど)」

 

 オリ主の十八番である、原作知識を使いキャラクターの弱点の能力を組み合わせて、有利な戦況に持っていく戦闘理論が微塵も通用しない。

 全盛期の一方通行(アクセラレータ)を除いた超能力者(レベル5)は、軍隊を相手にできるほどの能力を一人一人持っているが、その身体は普通の人間と同じだ。

 そしてこの身体はサーヴァントのものであり、尚且つ俺の能力は様々な能力を使用できる劣化模倣(デッドコピー)

 身体能力では常人を遥かに超えており、相手の能力の弱点となる能力を選び、原作知識で正確に突くことができる。上手く戦闘の主導権を握れれば、彼らを打倒する事も全くのゼロではないのだ。

 だが、この削板と一方通行は別だ。

 コイツらチート過ぎて上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)が無いと、どっちの対処も不可能なのだ。

 

「よっと!」

 

 俺をぶっ飛ばした削板が空中で一回転回って、俺の数メートル前に着地する。

 

「(ははっ、あーあ負けた負けた。チート過ぎるわ第七位。まあ、削板に負けるのも悪くないかぁ。別に最強とか無敗とか興味無いし。

 まあ、警備員に情報流したのは俺だから、無実であることも証明されて……)」

 

 そこで気付いた。

 

「(木原の爺いは警備員に捕まった俺に対して、何もしないのだろうか?)」

 

 思い出せ前世のことを。『とある』の魔術ではなく、科学でのあのマッドサイエンティストの所業を。

 

「(あの爺い、警策(こうざく)看取(みとり)を牢屋から連れ出してなかったっけ?しかも書類には心不全とか情報操作して)」

 

 そう、木原幻生は少年院にコンタクトを取り、警策看取を脱獄させた。つまり、間違いなく幻生の手は少年院まで伸びている。

 なら、もしかして……。

 

「(警備員の中にも幻生の手駒が居る可能性があったり……?)」

 

 あの陰謀において木原の中でもトップクラスの幻生が、警備員という組織に手駒を一つも用意していないのだろうか。警備員は善良な教師がしているという、前提条件が学園都市では当たり前になっている。

 

 ならば逆説的に、悪事をするならこれ以上の組織は無いのではないだろうか。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それに木原幻生の権力を加えると、無実の人間を罪人へと変えることも容易いのでは?

 

「(えーと、そうなったらまず間違いなくあの爺いの実験動物(モルモット)……行……き…………?

 ……あれ?もしかして、俺詰んだ?)」

 

 木原幻生とはこの学園都市に来たときからの付き合いである。彼が原石の事を長年知りたがっているのをオリ主はよく知っていた。

 

「(ヤっっベェ!弱みを見せたら水を得た魚のように、活発に動き出す奴へ理由を与えちまった……っ!

 今まではそれぞれの組織で対立構造がなるようにしてたけど、警備員に捕まったら、最悪あの爺いの独壇場!そうなったらあれよあれよと出荷される豚と変わらんぞ!?

 それに黄泉川も今来たばっかだから、俺の無実を証明してくれない。もういっそのこと逃げたとしても、削板を振りほどける気が微塵もしねえ!!)」

 

「──なあ、お前って本当にここの科学者か?」

 

「(いーやぁぁああああ!!そんな事になったら木原の爺いに、垣根工場長みたいに実験動物(モルモット)にされr…………え?ん?何だって?)」

 

 木原幻生の姿を思い浮かべ、恐怖にビビり倒しているといきなり削板から声をかけられた。

 削板は腕を組んだまま思案するかのように眉根を寄せている。

 

「なんつうか真似っ子ではあるが、お前の戦い方には卑怯さがねえ。全部真正面のガチンコだ。

 その上、子供は人質には取らねえし、攻撃も周りに被害が出ねえようにしてるみたいだしよ。なーんか違和感ばっかなんだよなぁ」

 

 そう言った削板はどこか釈然とした様子ではなかった。話に聞いていたマッドサイエンティストとは、どうにもイメージが繋がらないのだ。

 

「僕は自分の事を科学者なんて言った覚えは無いよ。全部君の勘違いさ」

 

「つってもよぉ。じゃあ、その姿はなんだよ」

 

「僕が他の人間に変身ができることは、君はもう知っているはずだよ。ここの科学者に変身して施設に潜入し、内部からここを壊滅させたんだ。

 その証拠と言ってはあれだけど、僕以外の科学者は全員倒れているだろう?」

 

 そのセリフを聞いて削板が目を丸くする。

 

「ってことは何だ?お前もここをぶっ潰しに来たのか?」

 

「うん、そうだとも。勝手に僕の名前が使われて悲劇が引き起こされていたんだ。流石に見過ごせないから、こうして単身乗り込んだのさ」

 

「マジでか」

 

「マジだよ」

 

 全く意味の無い戦闘でしかなかったが、どうやらこれで終止符が付いたようだ。

 エルキドゥの言動がオートでされるためスラスラ言葉が出てくるが、実際は「マジよかったぁ……!今回ばかりは詰んだかと思った。まだ上条にすら会ってないのに、解剖コースにならなくて本当に良かった……っ!」と、内心めちゃくちゃ安堵してたりする。

 和解した二人に、一人の女性が近付いた。

 

「二人だけの空間を構築されても私らは困るじゃん。どういうことなのか私達にも説明して欲しいじゃんよ」

 

「せ、先輩っ!危ないですよ!彼らは数秒前まで戦闘をしてたのに……っ」

 

「子供から逃げてるようじゃ教師はやれないじゃん。どんな高位能力者であっても、いつでも大人としての対応をすることが大切じゃんよ」

 

 それが黄泉川の矜持なのだろう。どんなに強大で軍隊を相手取れるような力を有していても、子供であるなら媚びへつらったりしない。

 それは子供に舐められたくないとかいう理由ではなく、自らが子供が不安を抱かないように、大人として泰然としたいという気持ちの現れなのだ。

 そして、原石の二人はそんな黄泉川に、嫌悪感を抱くような人間ではなかった。

 

「アンタなかなか根性入ったセンセーだな!俺の名前は削板(そぎいた)軍覇(ぐんは)だ!」

 

「僕の名前は天野(あまの)俱佐利(くさり)。よろしくね」

 

「……まあ、さっきまで戦闘をしてたんだ。敬語云々をここで言うのは酷って話じゃん。二人には事情聴取に付き合って貰うじゃん。

 このままだと不法侵入でしょっぴかないといけないしな。」

 

 この時黄泉川は、この決断が現在まで響いてくるとは全く思わなかったのであった。

 とはいえ、先程とは打って変わって和やかな空気が流れ始める。事件は終わったのだ。今さらピリピリする理由もない。

 そんな皆の緊張の糸が切れた間隙にそれは起きた。

 

 

 

 スパァァアアアアン!!と畳を叩くような音と共に、オリ主の長い髪がいきなり扇状に広がったのだ。

 

 




7000近く書いたのに終わりませんでした。……このオリストーリーはさらっと終わるつもりだったのに。上手くはいきませんね。

それはそうと65話ってどうでしたか?TS要素出してみたんですけどやっぱりやり過ぎでしたかね?作者の立場だとよくわからないので、感想を頂けると嬉しいです。


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72.予測不能

連日投稿いきます。

また伏線といいますか、原作のあれを匂わしていきます。あれを出せるのはいつなのだろうか……。


「(くくくくっ、この時を待っていた……)」

 

 物陰に隠れるこの男は、削板に「根性が無いインテリ」と言われた小悪党の研究者である。

 

「(貴様を倒すほどの戦力を用意は出来ないが、何も武器が一つもない訳ではない。しかし、それが貴様に通じる事が無いことも知っていた。そして、そのための第七位だ。

 第七位とぶつかれば如何にあの女とはいえ必ず敗北する。

 私ととしてはそのまま第七位に奴を殺して貰う事が、最高の結果だったのだがな……。

 だが、第七位は私の策略に気付くかもしれないと、あらかじめ予測はしていた。そして、気付いた時には狙い通り、あの女に相当なダメージを与えた後だ。なら、後は私でも奴を殺すことができる)」

 

 男は手に持っていた鞄から、筒状の機械に幾本もの突起のようなものが付いた、不可思議な物を取り出した。その青白い金属の脚立と銃身の側面にはこう書かれていた。

 

 Model_Case_"Aero_Shooter"

 "Aero_Shooting_Gun"

 

「(暗部でも量産されなかった銃だが、いつかプレミアになると確信して入手しておいてよかったよ。この銃は風力使い(エアロシューター)の超能力を基にした銃だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、それは今はどうでもいい)」

 

 まるでスナイパーライフルのような銃を、死角の陰から構える男。

 何故こんなことをしてもバレないかというと、オリ主が手当たり次第に科学者や研究者をしばき倒したため、警備員も昏倒しているかどうか見るだけでは見分けが付かず、さらには原石同士の戦いに意識を向けていたため、それぞれの確認作業へとまだ入れていなかったのが原因だった。

 

「(警備員が来たときは焦ったが、貴様達の戦いへと注意がそれたお陰で事なきを得た。後はこの銃で始末してしまえばそれで仕舞いだ)」

 

 カチャッ、と銃口をオリ主の方へと向けた。

 

「(この銃の飛距離は50メートルと拳銃程度しか無い上に、その大きさはスナイパーライフルと同じほどに大きく、さらに発射音もかなり出てしまうなど、比較すると遥かに拳銃の方が使い勝手がいい。

 そのため、本来なら使おうとする暗部の奴はまず居はしないが、逆に私のような素人にはこの銃は有り難い。

 何故ならこの銃は文字通り風と空気を使い、金属の銃弾を打ち出す武器だが、その反動が全く存在しないように設計されている。つまり、ゲームのガンシューティングと同じだということだ。

 この距離で都合良く射線も開いている。幾ら素人の私でもこれを外す事はない)」

 

 スコープからオリ主の額を覗きながら、男は自虐とも言える思考を回す。

 

「(ああ分かっているとも。第七位が貴様を殺さなかった時点で私の破滅は変わらない。

 だが、私だけ地獄に落ちるなど認めてなるものか。私を追い詰めた貴様がのうのうと生きていくなど許してはおけん。行くのならば諸共にだ。

 私も近いうちにそちらに行く。だから、私が行く前に貴様が先に行けぇッ!!)」

 

 引き金が引かれた青白い銃口から、金属の弾丸が飛び出した。畳を叩くような激しい音と共に、弾丸は1㎜もズレることなく正確にオリ主の額に突き進み、そして。

 

 

 

 ──着弾した。

 

 

 

 オリ主の髪が衝撃で扇状に広がる。幾ら回復系の能力を有していても、脳に弾丸を貫かれて即死ならば、能力を行使できないのは道理だ。

 

「……くっふふ、馬鹿めが。下らん正義感など出さずに見過ごしていれば、まだ長生きできたものを。これで後は───ん……?」

 

 爽快感で気持ちがこれ以上無いほどに高揚するが、その結果を再びスコープ越しに見るとあることに気付く。

 

 スコープに映っているのはあの女の顔ではない。それは例えるなら、まるで人間の手のようではないか?

 そんな疑問を浮かべる男の思考に、根性が具現化したかのような少年の声が割り込んだ。

 

「ふー、危ねぇ危ねぇ。おい、無事か?」

 

「お陰様でね。ありがとう助かったよ」

 

「なーに、俺も間違ってアンタに喧嘩を売っちまったからな。これぐらい良いってことよ」

 

 そんな風に呑気に会話していることが分からない。片方は銃弾に撃ち抜かれて死んでなければおかしいのだ。

 

「(どういうことだ……?間違いなく弾丸はあの女を貫いたはずだ!!なのに何故生きている!?)」

 

 まさか誤射でもしてしまったのか?と男は考えるが、次の瞬間目を見開いて驚愕する。結果は思いの外簡単に見付けられた。

 

「こんなモンを使うたぁ、つくづく根性ってのが分かってねえらしいな」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「は、はあ!?何だそれは!?」

 

 削板の右手の中にある弾丸から、削板が天野に着弾する寸前に掴みきった事が分かる。これだけでもふざけた結果だが、男は万全を期して削板から見えない位置から射撃した。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その事から、先ほどのあの女の髪が広がったのは、削板がマッハの速度で動いた影響だろう事が推測できた。

 

「こういうときの首の後ろがピリピリする感覚は馬鹿にできねえ。勘でしか無かったが動いたのが正解だったな」

 

「か、勘だと……?そんな馬鹿げた理由で私の渾身の一手が……っ」

 

 男は自分の理解が全く及ばない事態に茫然自失となる。まあ、だからといって容赦をする理由は全く無い。

 削板が男を睨み付けた。

 

「ヒイィィッッ!!ア、警備員(アンチスキル)!俺を早く捕まえて保護しろっ!お前達には俺を無意味な暴力から守る義務があるはずだ!!」

 

 男は飛んでくる銃弾を受け止める能力者を目の当たりにして、錯乱状態へと陥った。彼にとって削板は化け物以外の存在には見えなかったのだろう。

 馬鹿な男の自分勝手な発言を聞いた黄泉川は、端的に答える。

 

「お前は特殊な武器を所持しているから、不用意に近付くのは危険じゃんよ。

 本来なら私達でどうこうするのが筋だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それを私達が邪魔して逆に危険になる可能性もあるし、今回は傍観させて貰うじゃん。

 …………──子供に銃弾撃ち込んどいて、ただで済むと本気で思ってるのか?」

 

 その言葉を聞いて男の顔が青白くなる。この場から脱する方法がないと理解したのだ。

 ナンバーセブンは様々な感情を噛み締めるように、拳を握り締める。

 

「簡単に騙されちまった俺も俺だが、人の事を騙して動かして自分は高みの見物とはな。こんな根性無しは初めて見たぜ」

 

「ヒィイッ!?」

 

「そんなお前にこの俺が根性ってモンを教えてやる。歯ぁ食いしばれ!!」

 

 今まで最低でも十メートルは離れていたはずなのに、一瞬で目の前に現れた削板に男は悲鳴を上げる。

 腰を落とし振りかぶった拳を削板はそのまま振り抜いた。

 

「すごいパーンチ!!」

 

「な、何だそのふざけたネーミぐるぷぎゃ!?!?!?」

 

 削板から繰り出されたその一撃を受けて、男の研究者は切り揉み状に回転して飛んで行く。それはプロのフィギュアスケート選手でさえ、感心してしまうほどの回転数だったという。

 ドサッ!と地面に叩き付けられた男は昏倒し、無事そのまま警備員の御用となったのだった。




削板の描写をやり過ぎたかもしれない。本当にこんなことできんのかな?


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73.原石同士の会話

そこそこ頑張って書いているつもりなのに、全然物語が進んでいる気がしない。
70話書いてまだ旧約の6巻とか、おかしくないですかね?

そんな事を思いつつ73話です。


「本当にスマンかった!!」

 

 勢い良く頭を下げる超能力者(レベル5)。あの七人の中でこんなことをするのは、ミコっちゃんと削板(そぎいた)だけなのではないだろうか?

 

「殴る奴を間違えるなんて馬鹿げたことをしちまった。詫びと言っちゃあなんたが、俺にできることなら何でもするぜ」

 

「大丈夫だよ。特に怪我という怪我もしてない上に、君も手加減してくれたしね」

 

「手加減って、おもいっきり機材にぶつけてなかったか?お前らどんだけぶっとんでるじゃんよ……」

 

 そう、なんだかんだ結構削板は手加減をしてくれていたのだ。全力だったのは空間移動(テレポート)のときぐらいではないだろうか。

 俺に向けて「すごいパーンチ」は、結局最後まで出さずに戦っていたし。まあ、それでも全く歯が立たなかったんだけどさ。スーパーマンかコイツ。

 でもなんか言わないとコイツ、それについてめちゃくちゃなんか行動しそう。別に嫌じゃないけどさ。

 なんか直感だけど大変なことになりそうなんだよなー。

 うーん、それじゃあ無難に……。

 

「それじゃあ、君の連絡先を教えてくれないかな?」

 

「俺のか?」

 

「原石としても能力者としても上の君からなら、色々学べそうだしね」

 

 とは言ったものの、学園都市での希少価値ではトップランクに入る存在の削板とパイプができれば、武力としても駆け引きとしても使えるカードだ。

 貰えるものは全て貰うのが俺の流儀である。

 

 そして、この騒動は無事に終わり、俺が学園都市第七位に敗北を味合わされて得られたのは、削板の連絡先と警備員(アンチスキル)である黄泉川愛穂との繋がりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 削板が吹き飛ばした少年達は理由をごねて足掻いていたが、削板の周りに散らばっていた、ナイフやバットなどの凶器が動かぬ証拠となってお縄になった。

 黄泉川に連れていかれた彼らは、しばらく牢屋の中で反省することだろう。……いや、しないかもしれない。学園都市の不良だし。

 先ほどまで凶器を向けられていたとは思えない笑顔を浮かべ、ナンバーセブンは親しげに声を掛けてくる。

 

「そんで?前に言ってたおもしれー後輩ってのは最近どうだ?また何かに巻き込まれてんのか?」

 

「そうだね。彼が何かに巻き込まれない一週間は今のところ無いかな」

 

「ははっ!やっぱ、一度会ってみてーなそいつ!」

 

 削板に話したことはそんなに無かったはずだが、どうやら覚えていたようだ。俺が話す度に「根性あるじゃねえか!」と言っていたため、上条に関するエピソードが記憶に深く残っていたのだろう。

 ヒーロー同士の関わりは大覇星祭までお預けだが、こうして削板が上条の話題でテンションを上げてるのを見ると嬉しくなるな。

 

 削板とはあの後も交流があった。それについては俺としても嬉しいことだったのだが、何故か削板とペアで居るときは矢鱈と面倒事に巻き込まれるのだ。

 とある暗部組織の権力闘争やら、学園都市の闇が産んだ怪物退治やら

 そんなことを思っていると削板が目を合わせてきた。

 

「つーか、お前どうした?」

 

「何がだい?」

 

 削板が唐突に疑問の声を上げる。いきなりだが削板相手ではよくあることだ。削板は俺を見ながら不思議そうな顔をしていた。

 

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 んん??何のこっちゃ?全く知らんのだけど。

 そんな事を言ったら、「ふーん、別に問題ねえならいいんじゃねえか?」なんて適当なことを言いやがった。

 適当にも程があるだろそれは。

 

「いや、ただの勘だし確たる証拠があるわけでもねえんだ。今、安定してんならそれでいいだろ。余計なことしてバランスが崩れねぇともかぎらねぇしよ」

 

 長い付き合いだけど、お前に論理的な言動を感じたことは一度として無いんだけど?あと、それ明らかに何かしらの確信がある言葉じゃん。

 意味深な事だけ言って放り投げるとか、お前は矢鱈と結論を引っ張る探偵か何かか?

 ほらっ!言っちまえよ!俺に隠されたその秘密、一思いに言っちまえよっ!

 

「ねえ、それについてもう少し「おっと、いけねえ!もう時間が来ちまった!」……」

 

 話の途中でぶったぎりやがったぞコイツ。急に立ち止まり別の方を向く削板。

 えっ?まさか、本当に?

 

「悪ぃが俺はここで行かせて貰うぜ!今から全力で行かねえと、モツ鍋との決闘に遅れちまうからな───とうっ!!」

 

 そう言って垂直跳びで五メートル飛び上がり、空気を蹴って削板は去って行く。そのファンタジーの具現化のような動きを見ながら、遠い目をして俺は思った。

 

「…………」

 

 ……モツ鍋と決闘ってなにする気だアイツ?

 




『外伝 とある原石の神造人形』書きました。是非そちらも読んで貰えると嬉しいです


評価するときに一言必須なのが、めんどくさいという意見が幾つかありました。
そうしてしまうと低評価が増えるのに対し、何故押したのかその理由を言ってくれる人が、全くいない事が多々ありました。
改善できるところは改善していくのが作者のやり方のため、評価に一言を必須ということにしましたのが理由です。
高評価のその詳しい理由を貰えることで、テンションが上がって単純にモチベが上がるという意図もあります。

めんどくさいかもしれませんが、ご協力のほどお願いいたします。m(_ _)m


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最強蹂躙編
74.その日の午後


どうぞ


 そんな訳でさっきまで居た二人が、なんとも二人らしい理由で去ってしまったので、またもやフリーになってしまった。

 まあ、予定が詰まってないと不安とかそういった繊細な人格じゃないため、構わないといえば構わないのだが、あれだけ濃い面子のあとだとどうも物足りない。

 

 Trrrrrr……

 

「おや?」

 

 そんな事を考えていると着信がかかってきた。その表示された名前を見てふと思い出す。

 

「(そういえばアニメ最終回の日は……)」

 

 『とある科学の超電磁砲S』のアニメ最終回の日に、布束(ぬのたば)砥信(しのぶ)はフェブリとジャーニーを連れて、学園都市を去って行くのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、あなた暇なの?」

 

 まあ、実際にはそんな事にはなってはいないけど。そもそも二日なんてとうに過ぎてるし。

 何故未だに布束砥信が学園都市に居るのか?答えは簡単、カエル顔の医者が全てやってくれました。

 全て完璧に治療したため、わざわざ学園都市の専門機関など行くだけ無駄であり、安全性においてもこの病院以上のところは、世界のどこにも無い。

 そんな訳でフェブリ&ジャーニーの治療やらなんやらで、妹達(シスターズ)と一緒にあの双子はこの病院に居ることとなったみたいだ。

 あと、布束は学習装置(テスタメント)の知識を応用して、ミサカネットワーク関連の事にその力を注いでいるらしい。まあ、あの冥土帰し(ヘブンキャンセラー)に専門家自体必要なのか?という疑問もあるが、作業を分担できれば負担も減るため無意味という事は無いだろう。

 俺はそんな彼女達に会うためと上条の付き添いで、この病院に頻繁に訪れていた。常連である。怪我はしてるけど自分自身で治すから一回も患者じゃないのに。

 

「僕にとってここは第二の我が家みたいなものだからね。暇さえあればここに来るとも」

 

「ここはそんな気軽に来るべきところじゃ無いと僕は思うけどね?」

 

 お馴染みのカエル顔の医者が、ガールズトークに割って入ってきた。

 なんて奴だろうか。言っている事が正論過ぎる。

 

「たまに手伝って居るだろう?」

 

「もしかして受け付けのバイトの事を言うつもりかしら?あなた誰かに変身しないとまともに受け答えもできないじゃない」

 

「ドッペルゲンガーなんて噂は流さないでおくれよ?学園都市なら大丈夫だろうけど、そう言った迷信で患者が不安になってしまう事もあるからね?」

 

「安心しておくれ。次に受付嬢をするときは彼女の姿に変身して、双子の片割れとして振る舞うよ」

 

「Indeed 私の姿になればあなたでも敬語は使えるでしょね。でも、私の姿になって対応したら、暗部組織に目を付けられるわ」

 

「僕としてもここに居る患者を危険な状況に追い込むことは感心しないね?」

 

「なら、別の受付嬢の双子になるとするよ」

 

「そもそも、私は一度も受付をしたことは無いのだけど」

 

 とまあ、そんな訳で問題児丸出しなのだが、これにも理由がある。アニメレールガンこと通称アニレーの、二期を思い出して欲しい。

 『とある科学の超電磁砲S』第一話で御坂達四人組は、春上さんの友人である枝先(えださき)絆理(ばんり)を見舞いに来たのだが、テロリストが起こした事件に巻き込まれてしまう。

 そして、事件が起きた場所が何を隠そうこの病院なのだ。ぶっちゃけここは目を離しておくと、戦場になっていたとしてもおかしくはない。

 結果的に布束をここに留まらせたのは俺なので、「気が付いたら戦場に居ました」なんていうのは、さすがに良心が痛む。

 

「今までもここが襲われたときは鎮圧してきたし、決して無駄というわけでもないだろう?」

 

 そう、何だかんだで俺が常連になってからここは何回か襲撃を受けている。単なるテロリスト相手なら本家よりも劣る能力であっても、ハッキリ言って充分過ぎる。

 つまり、決して俺はいらない子では無いのだ。

 

「それで警備員(アンチスキル)に睨まれていては目も当てられないね?君、彼らに何度も注意されているだろう?」

 

 彼らは通報を受けて対処するのに対して、俺はその場でどうにかしてしまうため警備員よりも行動が早い。

 まあ、彼らは活躍の場を奪われて説教を受けているわけではなく、俺と言う子供が危険な事に首を突っ込むのが嫌なのだろう。

 黄泉川はそこら辺は緩そうなキャラに見えるが、小言の数は誰よりも多かったりする。警備員は能力者が居ないため殉職者が多い。

 そして、警備員になる先生はいい人ばかりなので、なるべく戦場に立たない状況になることが結果的に子供達のためになる。

 そう思っていつも迅速に行動し、そのあと警備員に怒られ、小萌先生に伝わって説教を受ける。

 …………あれ?怒られてばっかじゃね?

 

「あれぇ?くさりだぁ、わーい!」

 

「わーい!」

 

「おっと、相変わらずお転婆だね君達は」

 

 そんないきなり現れた金髪紫眼の美幼女達は、俺の腹にタックルを叩き込む。彼女の名前はフェブリとジャーニー。

 何がそんなに琴線に触れたのか、アニレー二期の様子とは違って彼女達は俺に人見知りをしなかった。はて?何か親近感を抱くようなものでもあったのだろうか?

 疑問を抱きながら幼女達を抱き締めている傍で、他の二人が話をしていた。

 

「……何故二人は彼女にあそこまで懐いているのかしら?私の中で彼女ほど胡散臭いお人好しもいないのに。彼女達に変な影響を与えないでしょうね?」

 

「まあ、彼女達は様々な人間と接する事も必要だから、全てが全て悪いことではないけどね?それも彼女達の成長へと繋がるしね?

 これは彼女のお節介気質なのか、はたまた野次馬根性なのかは分からないけど、彼女は何かしらの出来事に居合わせることが多い。

 例えば、先ほど言っていたテロリストの襲撃だね?実際に手を貸して貰っているから、僕からは強く言えないところが実に嫌らしいね?」

 

 なんか善人二人に毒を吐かれた気がするがそんなことは気にしない。今は金髪ダブルロリを愛でるのが俺の最優先事項なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな訳でいつもならこれで用は済んでしまうのだが今日は違う。奴に会うためその病室へと向かって歩く。

 

「(流石、第一位。病院のVIPルーム使う人間がマジで居るとは。まあ、他の患者の安全の意味もあるのか?)」

 

 そんな事を思いながら歩いていると、目的地周辺から声が聞こえてきた。

 

「それでね!ミサカネットワークの接続から弱い個体は、もしかして0号なんじゃないのかなって、ミサカはミサカは自分でもよく分からないことをあなたに言って、新しいフラグをここぞとばかりに立ててみる!」

 

 明らかにその患者の雰囲気とは似合わないソプラノボイスが、その専用の病室から漏れ出ていた。ここからでも聞こえると言うことは、おそらく扉を閉めるのを忘れていたのだろう。

 彼をよく知る人物ならば病室を間違えたのかと思うはずだが、俺はどちらかというと「ようやくか」という気持ちの方が大きい。

 転生して10年以上経ってから聞く人気声優の声にテンションが上がりながら、俺はその半端に開けられた扉の前に立って声をかけた。

 

「『少しいいかい?一方通行(アクセラレータ)』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その声を聞いて一方通行はため息を吐いた。別にその声をかけてきた相手に何か思うところがある訳じゃない。確かにかったるくはあるが、ため息の原因はこんな状況になっている自分自身を再確認したからだ。

 目の前に居る小さな子供は、妹達(シスターズ)を繋いでいる電子ネットワークを統括している個体、打ち止め(ラストオーダー)

 20001号目に生み出された彼女は、数日前に天井亜雄によってウイルスを打ち込まれ生命の危機に瀕していた。

 そんな彼女を一方通行はスパコン並みと言われる演算能力と、ベクトル操作の能力で生体電気を操り、打ち込まれたウイルスを全て除去し打ち止めは今尚生存している。

 

「……そういや、あのパクリ女も俺の能力がどうとか言っていたか」

 

 あのときは、能力の別の使い方を咄嗟に思い付いたが、既に答え自体は自分の記憶の中にあったのだ。

 

「(他の奴を守るヒーローにでもなれっつゥ意味だと受け取ったが、もう少し思考を巡らせときゃこんな無様な姿にはなってなかったかもしれねェな)」

 

 一方通行は先日、打ち止めにウイルスを打ち込んだ天井の手によって、頭部に銃弾を撃ち込まれて脳に甚大な重傷を負った。

 その結果一万人の演算領域であるミサカネットワークで代理演算をし、言語能力と計算能力を賄っている。

 しかし、ミサカネットワークに接続するためにはネットワーク特有の脳波に変える必要があり、日常生活ならば長時間は問題は無いが能力を使用する際には、その首元に付けられたチョーカー型のバッテリーをフル稼働させなければ能力を使用できない。

 そのため、能力を使用できる時間はバッテリーの限界である数十分間だけなのだ。

 

「え?パクリ女?ってミサカはミサカは口裂け女的な迷信の事なのかなって、科学的常識から逸脱して柔軟に想像してみる!」

 

「はぁ……なンでもねェよ」

 

「……ってうわぁあ!?そういえば()()が外で待ってるんだったってミサカはミサカは思い出して、大丈夫だよ!ってあなたに聞かずに勝手に声を投げ返してみる!」

 

 妹達の統括であるはずだがやたらと喧しい奴である。しかし、それこそが自分とは違い、真っ当に表で生きる事ができる奴であることの証明なのだろう。

 そんな事を思っていたからだろうか。ガララッと扉を開いて現れた人物が予想とは違い、目を大きく開いてしまう。

 その特徴的すぎる髪色は一方通行の記憶では一人しかおらず、数週間前に敵対していた人物のはずだ。しかし、その長い髪の女は記憶が抜け落ちてしまったのか、さも当然のように親しげに声をかけてきた。

 

 

 

「やあ、二週間振りだね一方通行(アクセラレータ)

 

 

 

 天野(あまの)倶佐利(くさり)。一方通行にとって長い付き合いとなる少女がそこに立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな予想外の事をされて驚いたのは何も一方通行だけではない。

 

「ええっ!?ってさっきの声は先生の声だったのに突然女の子が現れた!ってミサカはミサカはあなたがラブコメの主人公のような展開を繰り広げてて、思わず声を上げて驚いてみる!」

 

 スカートを穿いてるにも関わらず台の上で胡座(あぐら)を組む打ち止めは、驚愕している事を声だけではなく表情でも分かるほどに表現力豊かだった。

 

「(やっぱり他の妹達とは違ってオーバーリアクションだなぁ。こうしてみるとインデックスと打ち止めって結構似てるわ。

 感情豊かで誰だろうと物怖じせず、厄介事を持ち込むトラブルメーカー。さらに、下心なく一途に相手を思う優しさ。似てないのは…………なんだろ?食欲とか?暴力性?)」

 

 このオリ主内心でボロクソである。

 

「……何してンだオマエ」

 

「お見舞いだよ。好きな銘柄は分からなかったから無糖を選んでおいたよ」

 

 コトッと隣の机に置かれたコーヒーを見て、いつ自分の好みを知ったのかと疑問に思うがすぐに理解する。

 

「(あァ、そういやコイツと数年振りに会ったのは、俺がコンビニ帰りだったか……。

 つゥかコイツはマジでイカれてンのか?ここで俺にぶん殴られても微塵もおかしくはねェぞ?)」

 

 初めてあの一人だけの教室から出会ったときも、大概おかしな奴だとは思っていたが、数年後にここまで珍妙な生物になっているとは思ってなかった。

 「もしかして、記憶を幾らか美化しちまってンのか?」と本気で考えてしまったほどだ。

 そんな事を考えていると、黙っていた打ち止めがガバッと機敏に動き、乱入者に声を投げ掛けた。

 

「ええい!私とこの人の空間にズケズケと入ってきたあなたは誰なの!?あと、先生はどこに行っちゃったの!?ってミサカはミサカは突然現れた女の子に行儀悪く指を突き付けながら問いただしてみる!」

 

「へえ、彼女が打ち止め(ラストオーダー)か。聞いていた通り他の妹達(シスターズ)とは背丈が全く違うね」

 

「あれぇ!?私の疑問については全くの無視なの!?ってミサカはミサカ──うひゃあっ!?」

 

「面影はあるけど性格は超電磁砲(レールガン)にも妹達にも似てないね。反応の仕方も彼女達と類似しているところはないようだ」

 

「突然脇に両手を入れられて高い高いされて、不満を現すためにジタバタしてみるけど全く意に介さないあなたに、自分の無力さを痛感するってミサカはミサカは──ってわあああ!?」

 

「随分軽いね。ちゃんと食べているかい?彼は君を甘やかしたりしないだろうからその分僕が代わりにしてあげよう」

 

「別にそんな事は頼んでない!ってミサカはミサカはどこであなたの母性本能を刺激してしまったのか分からないけど、変なスイッチを押してしまった事を自覚して、ぐるぐる回されながら悲嘆に暮れてみるぅうぅう!」

 

「ふふっ、何遠慮することはないよ。これでも子供の扱いは慣れているんだ。存分に楽しませるとも」

 

「この人全然人の話を聞いてくれないよ!?ってミサカはミサカは何度かミサカのセリフを途中で中断した女の子に、またしても驚愕をしながら、さらに増えていく回転数にびっくりぃうわわわわわわ!?!?!?」

 

 アハハ!ウフフ!っとオリ主の頭では微笑ましい光景がイメージされているが、実際は洒落にならない速さの回転に打ち止めはもはやノックダウン状態だ。

 そんな繰り広げられる馬鹿げた光景に、この病室の主であるアルビノの患者はため息を吐きながら言った。

 

「……イカれてやがる」

 




すみません誰か教えてください。m(_ _)m
エンデュミオンのヒロインであるアリサは最後どうなったのでしょうか?
2人が合体して元に戻ったあと、なんか消えてしまったという話を小耳に挟みました。
考えてもみたんですけど上条とインデックスの最後の会話も、世界に合体した2人が居るのなら、本人に直接聞けばいいだけの話ですしね。
死んでしまったのか、風斬と同じように視認できない世界に行ってしまったのか。
それさえ分かれば本編でもアリサを出せるかもしれませんので、是非教えて貰えると嬉しいです!


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75.格の差

ラストオーダー書くの結構楽しいです


一方通行(アクセラレータ)。この子はなかなか可愛い子だね」

 

「ミ、ミサカはミサカは目をぐるぐるさせながら名前も知らない女の子の腕の中で、一切の抵抗もできずに捕獲されてしまったり~ぃ──ガクッ」

 

 ひとしきり打ち止め(ラストオーダー)を弄んだ後、天野はどこか満足そうな顔で打ち止めに両腕を回し、自身の胸の辺りで抱き締めていた。

 それを見て一方通行は遠い目をして思う。

 

「(もう少し理知的な奴のイメージだったンだがなァ……)」

 

 一方通行にとって天野俱佐利はそれなりに特別な人間だった。幼少期の出会いで幾らか救われもしたのだ。

 だがまあ、基本的に幻想とは打ち砕かれるものなので、一方通行には甘んじて受け止めて貰うしかない。

 すると、突然「それにしても」と天野は言って話し出す。

 

「何故か病院には無縁の何か香ばしい香りがむぐっ」

 

「わー!?ってミサカはミサカは半分飛んでいた意識を無理矢理覚醒させて、突然ネタバレをする曲者の口をすぐに塞いでみる!」

 

 目を回して力尽きていた打ち止めがカッと目を見開き、背後に居る天野に万歳をする動きで口を塞ぐ。

 

「このふぁおりは、やふぃもふぉふぁい?もひぃかしてふぃっひぃ──」

「ふぎゃー!?この人、口を押さえてるのに構わずに言ってる!?ってミサカはミサカはこのいきなり現れた理解不能な暴走機関車さんに、驚愕しながらもさらに手を強く押さえ付けてみる!」

 

 漫才のような事をしている二人を、呆れた目で見ているのは一方通行だ。ギャーギャー言ってる二人を止めないのは、優しさからかはたまた単純にめんどくさいからか。

 何かは知らないが打ち止めは何かを隠しているらしい。別に興味は無いので一方通行は特に聞き出しはしなかったが。

 

 

 医者が知ればまず怒られるだろうバカ騒ぎしている二時過ぎのことだ。

 それは突然だった。けたたましくアラームが院内に響き渡る。この時点で異常事態だと分かるだろう。そして、次に院内放送でそれは確信に変わった。

 

 

 ───武装したテロリストが侵入してきました。院内に居る医師患者問わず、直ちに退避してください。

 繰り返し放送します。武装したテロリストが侵入してきました。院内に居る医師患者問わず、直ちに退避してください───

 

 

 アラームと共に放送された内容に、一方通行は僅かに片眉を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ほーら、来た来た。学園都市では大して珍しくもないテロリスト。一丁叩きのめしてきますか!)」

 

 存分に打ち止めを愛でたオリ主は二人を置いて現場に急行していた。とても放送を聞いていたとは思えない行動だが、オリ主にとってはこれが必要な役目のような認識だ。

 

「(テロリストを叩きのめして、俺ができる子だという事を証明してやるっ!)」

 

 なんだかんだ先ほどのカエル顔の医者と、布束に言われていたことを気にしていたらしい。自分がいらない子ではないのだと言うことを示すために、喜んでテロリストに突撃していく。

 その噂のテロリストが侵入して来たらしい正面玄関に向かって行くと、見知った顔が居た。

 

「おや?愛穂じゃないか」

 

「あら?あなたの知り合い?」

 

「……はあ、またお前か天野」

 

 午前中に出会った黄泉川がそこに居た。結局あれから他の事件が起きてしまい、休みだったのを返上したそうだ。もう少し休んでもいいんじゃない?

 そして黄泉川の横に居るのは芳川桔梗。絶対能力進化(レベル6シフト)計画の研究者の一人。今は隣に居る黄泉川の家に居候中。フランス語はペラペラらしい。

 彼女は一方通行が脳にダメージを負ったあの日、とどめを刺そうとした天井亜雄と拳銃を突き付け相討ちを謀る。しかし銃弾を胸部に受けて重傷を負った芳川を、気絶したまま一方通行は無意識下で能力を発動し、流れる血液を千切れた血管に無理矢理繋いで彼女を存命させた。

 そんな彼女は当然の如く入院し、ここの患者となっている。

 

 休日を返上した黄泉川の話だと、何でも対一方通行用の秘密兵器がテロリストの手に渡ってしまったらしい。いや、ザルゥ……。幾らなんでもザル過ぎるだろ……。管理能力皆無か。

 まあ、アレイスターがそこら辺は甘くしているらしいし?決してそいつらが無能ってわけでも……あれ?確かアレイスターが甘くしているのは魔術サイドの介入だったっけ?…………ザルゥ……(しみじみ)

 

 いや、ちょっと待て。()()()()()()()()()()()だって……?

 

「(何盗まれてんだこの馬鹿ッ!普通に死ぬわそんなもん!ここら辺全部更地になるんじゃねえの!?

 俺そんなの知らんのだけども。まさか、火野神作みたいに原作じゃあこの話があったのか!?

 ヤ、ヤベェ、まさかこんなところに地雷が隠されてたとは……!!

 何てこった。劣化した俺じゃあそんな化け者の相手なんか絶対無理だぞ!?)」

 

 このまま一方通行が来るまで隠れてやり過ごそうか、という考えが浮かんだまさにその時、正面玄関から三人組がやって来た。

 

「あのぉー?一方通行くん居ますかー?」

 

 三人組の真ん中にはなんか変な機械を背負った、そばかす女がそこには居た。その光景を見てオリ主は直感する。

 

「一方通行ちゃーん!手術の時間ですよォーー?キヒヒッ!!」

 

 お前、さてはモブだな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イキった雰囲気を撒き散らすソバカスのチビ女が、小馬鹿にしたような口調でさっきから「ヤバイヤバイ」言っている。そんなテロリストを見て俺は思った。

 

「(何て言うかコイツ等パッとしねえ……。本当に鎌池先生とはいむら先生のキャラクターか?何て言うかクセが足りないんだよなぁ。

 いや、まあこれが『ブロック』的な大人の暗部組織ならまだしも、その手に『対一方通行用の秘匿兵器』を持ったキャラクターだぞ?絶対重要なキャラじゃん。それが暗部キャラの劣化みたいな奴とかあり得なくね?

 もしかして、いきなり力を得てしまった新約の加納神華とかの一般人枠か?それならあの地味というか普通過ぎる、両隣の奴らは何とか理解できるけど、それだと逆にあのソバカス女がやたらと主張してくる……。

 ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()?)」

 

 そこでオリ主は思考を巡らす。

 

「(ハッ!まさかそれが狙いか?つまり奴らはやられ役なのか。

 奴らは(デコイ)であり裏では黒夜のような暗部の人間が、本物の『対一方通行用の秘匿兵器』で一方通行の命を狙っている……?

 いや、それこそ全部が虚偽(フェイク)で本命は別にあるとか?鎌池先生ならこれはありそうだ。本当は一方通行ではなくて打ち止めを狙ってたとか)」

 

 次々と憶測を積み重ねていくオリ主。暗部の謀略が張り巡らされた作戦では解決しようとすることで、土壺にハマることもあるのだ。考えすぎということは無い。

 

 だが、状況は当たり前のように動く。

 

「それじゃあ、無理矢理出させるしかないじゃん!!」

 

 ソバカス女が声を出すと同時に、青色のレーザーのような物が警備員を襲う。その結果は一目瞭然だった。

 

「ぐあああッッ!!!!」

 

 そのレーザーは警備員の盾を両断しその隊員の腕を切断したのだ。「全員直ちに下がれッ!」という黄泉川の声と共に、戦線が後退してくる。

 そのときに素早く斬られた隊員に近寄って掴み、切断された腕も掴んで同じく離脱した。

 

「それじゃあ、先生のところに行ってくるよ」

 

 重傷者を担いで動き回るのもあれなので、黒子の空間移動(テレポート)で迅速に運ぶ。まあ、上条の腕がくっついたしどうとでもなるでしょ。あの先生なら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言って去って行く天野を見て、目の前のテロリストに警戒しながら隊員の一人が言った。

 

「なんというか本当にこういうときにアイツは動揺しないな……。ああも冷静に動けるものか?」

 

 それは黄泉川も思った。応急処置をすぐさま済ませあの医者に見せる。それが最適解だとは理解できる。

 

「(だが、それが目の前で腕を切断された人間を見て、すぐさまできるかは別の話じゃんよ)」

 

 腕が切断されるなどのショッキングな光景を見れば、普通は思考が空白になるものだろう。そして、次に来るのはその凶刃が自分に襲い掛かるかもしれないという恐怖だ。

 そのはずだが、

 

「(アイツは事も有ろうに、切断されたその腕を何事もなく平然と掴んだ。そんな芸当がただの女子高生にできるはずもない。まさか、見慣れているはずもないしな。

 ……天野、お前は今まで一体どんな環境で何を見て来たんだ?)」

 

 ふとしたときに現れる天野俱佐利の異常性。黄泉川は他の警備員よりかは彼女と接してきたつもりだが、いつになっても慣れる気がしない。

 

「ッそんなこと考えてる暇は無いようだ!後ろには重篤で動けない患者が居る!これ以上は退けないぞ!」

 

 そうここから先は重篤な患者が居るエリアだ。何人避難したかは分からないが襲撃が突然起きた事を踏まえると、おそらく全員ではないだろう。

 

「あれー?何々逃げるの止めちゃうのー?それじゃあ、真っ二つになりたいのは誰かなー?」

 

 そんな風に挑発してくる子供に警備員達それぞれは目を合わせた。

 

「黄泉川……」

 

「ああ、今から三人で突入して斬られなかった奴がアイツを取り抑えるじゃん」

 

「なるほどな。じゃあ、誰が斬られたとしても恨みっこ無しだ」

 

「ヤバイヤバイ!三人位一振りで斬れちゃうってばっ!」

 

 決死の突入をした三人に向かって、少女の手に繋がれた兵器から青いレーザーが襲いかかった。このままでは間違いなく誰かは両断されるだろうその未来がやってくる。

 しかし、幸運なことにもレーザーなどとは比べ物にならない存在が、彼らの前に現れる。

 

 ドゴオオオオンッ!!という破壊音と共に、三人組の大男がその人物が登場した拍子に吹き飛ばれた。

 

「ッ何!?」

 

 破壊されて壁から出てきたのは、アルビノ特有の白髪赤目をしている学園都市最強の能力者。

 一方通行(アクセラレータ)

 彼は戦場こそがまるで居場所とでもいうように、なんの気負いなく靴を鳴らし歩く。

 

 

 

「オマエかァ?俺に喧嘩を売りに来たっつゥ自殺志願者は?精々俺のリハビリ程度には足掻きやがれ」

 

 寝ていた白い怪物が再び動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤバッ!もう会えちゃったじゃん!──それじゃあさっさと斬られちゃってよ!!」

 

 そう言って両手の兵器から一方通行に向けてレーザーを発射した。その二つの青は一方通行へと到達し、

 

 

 蛇のようにうねり見当違いの方に向かって行った。

 

 

 その不可思議の光景を見てソバカス女の声が僅かに低くなる。

 

「……へぇ、アンタを倒すのは簡単じゃ無さそうだね」

 

「お前を倒すのは簡単そォだけどなァ?」

 

 そう言って睨み付ける両者。ぶつかり合うその数秒前に場に似合わないソプラノが響いた。

 

「あー!こんなところに居た!ってミサカはミサカはこんなところに居るあなたに声を掛けてみたり!」

 

「あン?」

 

 振り向くとそこには何か小包を持った打ち止めがそこには居た。そして、近寄ってくる打ち止めの居るところから異常な音が響く

 ピシッ!ピシッッ!!と天井から聞こえてきたのだ。どうやら先ほどの戦いで脆くなっていたようだ。

 

「チィッ!」

 

 崩壊を予測し、すぐさま近寄ろうとする。だがまたしても変なことが起きた。崩落箇所に居たはずの打ち止めが消えたのだ。

 

「なッ……!?」

 

 天井を見ていた一瞬あとに打ち止めの影も形も消え失せた。まさかの事態に一方通行も驚愕する。

 何が起きたのかその優秀な頭脳で理解する前に、その理由は簡単に提示された。

 

「うわわっ!?ってミサカはミサカは突然変わった景色に驚いて声を上げてみたり!」

 

「『全く、お転婆が過ぎますわよあなた。戦場にトコトコ歩いていくなど能天気にも限度がありますの。危機感を持って下さいまし』」

 

 打ち止めは黄泉川の居る辺りまで移動していた。見てはいないがこの事実から推測するに空間移動系の能力だろう。

 打ち止めの隣に居る人物に心当たりは無いが、その髪色で一方通行は誰であるのかを理解した。

 

「パクリ女か」

 

「『全く、(わたくし)には天野俱佐利という名前がありますのよ!はあ"ーー、これだから男というのは。

 ……まあ、今回はよろしいでしょう。彼女は私にお任せ下さいな。あなたはあなたのすべき事をしてくださいませ』」

 

 そう言って訳知り顔をしながら、打ち止めが動かないように再び抱き寄せる天野。

 突然掴まれ「ふぎゃあー!?」などと打ち止めは言っているが、この場で一番安全なのがそこであることは明らかだ。

 言外に一方通行の懸念事項を無くしておくと言っているのを察し、様々な感情が浮かぶがその全てを無視した。今は目の前の存在に意識する。

 

「釈然としねェが、これでオマエらだけに意識を向ければいいわけだ。

 さァて、──何秒持ってくれンだ?オマエ?」

 

 後顧の憂いが無くなり、一方通行は改めて目の前のテロリストにその赤い目を向けた。

 それを見たにも関わらずテロリストに怯えの感情は見えない。「キヒヒッ」と笑いそのレーザーを再び一方通行に向けた。

 

「こっちにはアンタ用の兵器用意してるんだっての!!余裕ぶっこいたまま倒されろッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、それから十八秒後。その三人組は無事拘束された。

 えぇ……。

 

「なるほどねぇ。あのレーザーの正体は窒素を溶かしたウォーターカッター。でもそれはフェイクで本命は、空気を窒息させる濃度の窒素へと変える能力。

 確かに、細工をしたのが目に見えない空気だから分かりづらいし、彼の能力はあらゆるベクトルの向きを操作する埒外の能力だけど、空気を吸って吐いている私達と同じ人間。

 当然空気が窒素ばかりになれば窒息してしまうわね」

 

「それを僅かな情報で分析してしまうアイツも大概じゃん。流石学園都市第一位ってところかね」

 

 ……いや、確かにそうだけどショボくねえ?そんなんで本当にあの一方通行を倒せるとか思ったの?

 ファイブオーバー(超能力(レベル5)の能力を科学で再現し、その基となった能力を超える兵器)クラスの化け物科学でないと、歯牙にもかけないって。

 

「それじゃあ、芳川。さっさと病室に戻るじゃん。治療してもらったとはいえ、お前も重傷じゃんよ」

 

「ええ、そうさせてもらうわ。あなたも早く帰りなさいね」

 

 そう言って芳川と黄泉川は病室に向かって行った。一方通行と打ち止めも戻ったためここには俺しかいない。

 本来なら帰るところだが、俺にはまだやるべきことがある。

 

 

「(さあ!まだ出ぬ黒幕よ!俺が見つけ出して成敗してやる!)」

 

 

 人知れず気炎を上げる少女は平穏な日常から背を向け、一人戦いに向かう。多くの人間が血を流す最悪な状況を回避するために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八時間後。黒幕の痕跡一つ見付けられず、とぼとぼ帰った奴が居るらしい。




皆さん大丈夫でしょうか?あんまりにも話が進まなくて辟易してない?作者は書きたいところ書けなくてちょっとイライラしてます
でも、伏線とか大事なところばかりなので短縮できなかったり。
新約どころかこのままだと、100話までに大覇星祭いけないのではなかろうか?


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残骸争奪編
76.夜食飯


導入回にしてご飯回


「とうまっ!とうまっ!お肉っ!お肉なんだよ!」

 

「ああっ!我が家ではまずお目にかかれない羊肉だ!よかったなインデックスっ!先輩に感謝するんだぞ!」

 

「うん!ありがとうくさりっ!──慈悲深い彼女に主のご加護が有らんことを──」

 

 肉でシスターさんのお言葉を貰っちゃったんだけど、それってどうなんだろ?賄賂なのでは?

 よく分からんタイミングで急にシスター属性を出してきた、インデックスを眺めながら肉の下拵えをしていく。

 何度も調理したキッチンなので、どこに何が置いてあるのかは全て把握していおり手早く調理器具を出す。

 今日は上条の家で料理をする日なのだ。取り寄せていた羊肉が手に入ったので二人に食べるかと聞いてみると、「食べる!」と(暴食シスターが)即答したので、この日は上条の家で料理を振る舞うこととなった。

 いろいろあって(チンピラ退治に迷子を風紀委員(ジャッジメント)に送り届けたりなどなど)時間帯がかなり遅れてしまいヤバい事になっているが、もう肉食獣の意識は肉に向いて期待値マックスのため、ここで余程の事がなければ機嫌を損ねたりはしないだろう。

 ちなみにだがいつもの気配を察知するあれを使えば、巡回している警備員に補導されるなどという心配はない。

 

 えっ?今日は何月何日なのかって?めんどくさいし取り敢えずあの日からプレイバックだ!(眼鏡のガキンチョ風)

 

 

 

 

 9月7日

 

 一方通行のお見舞いとモブキャラ三人の襲撃。そして、八時間の無駄骨。

 

 

 

 

 9月8日

 

 一方通行(アクセラレータ)のお見舞いに行った日の翌日に、上条宅に行くとそこには誰も居なかった。

 その代わりなんか通路で不安そうに掃除ロボットの上で、ぐるぐる回っているいる土御門舞夏が居たので、話を聞いてみるとどうやらインデックスが赤く染めたロン毛の神父に誘拐されたそうだ。

 それで上条が果たし状を突き付けられて、インデックスの元に向かっているらしい。

 この時点で色々と察した。これはオルソラの事件ですね間違いない。

 『法の書』は魔術師アレイスター=クロウリーが執筆した魔導書である。この魔導書が解読されれば十字教の時代、つまりオシリスの時代が終わってしまうという、十字教宗派の人間にとって破滅の魔導書なのだ。

 それを解読したオルソラ=アクィナスは、ローマ正教の暗部に消されることになる。そして彼女から助けを求められ、ローマ正教の魔の手から彼女を守るのが今回の上条の役割なのだ。

 事件解決後は当然の如く上条は病院に連れて行かれ、ベッドで目を覚ますこととなる。毎度の事だね。

 

 あっ、もちろんお見舞いには行きました。

 

 

 

 

 9月9日

 

 この日はなんと言っても朝から怪奇現象が起きた。世界から色が消えたのである。世界がモノクロとなってしまい、てっきりあの神が何かしやがったのかと思ったがどうやら違うらしい。

 そんで外を見てみれば、なんとそこには『生命の樹(セフィロト)』がっ!?

 空中に魔術サイドの象徴みたいなやつがあって、かなり驚いたのを覚えている。

 てっきり原作を変えたせいで予定より早まり、魔術サイドからの斬新な宣戦布告なのかと思ったが、すぐに消えてしまいその後魔術サイドからなんのアクションも無いことから、別にそんな大層なものではないのだ、という結論に落ち着く。

 

 

 

 

 9月11日

 

 この日はなんか道中で、いきなり前触れなく空間が爆発する事件が起こったらしい。だが、今回は確実に上条達が関わっているようだ。

 小萌先生曰く「上条ちゃんは中間試験の追い込みのときに上の空ですし、チャイムと同時にシスターちゃんが教室にやって来るわで、てんやわんやだったのですよ!」と言っていたので間違いない。

 「その上、電磁波の事を聞いてきたかと思ったら間違った解釈で納得されてしまったのです!シスターちゃんはともかく上条ちゃんは分かってしかるべき事柄だと思いますよね!?

 というか何でシスターちゃんが、電子レンジの仕組みをいきなり知りたがったのか、先生には全く分かりませんっ!」と言っていたので電気系か念動力系の魔術師なのだろう。

 

 

 と言っても、あくまでその話を聞いたのは後日だったため、その日俺は他の学生と同じように普通に過ごしていた。

 強いていうなら暇だったため、(ちまた)で『金星探査プロジェクト』とかいうのが話題になっていた事もあり、夜に第二十三学区付近まで近付いてみたことだろうか。

 第二十三学区は『とある魔術の禁書目録』ではよく出てくる学区のため、一度来てみたいと思っていたからちょうどよかったのだ。

 しかし、実際の打ち上げ場は宇宙開発のためか警備が厳しかったため、遠くから見ることしかできなかったのが残念ではあったけど。

 そんな訳で、一応当初の目的は達したため、踵を返して帰ろうとしたところでそれは起きた。

 

 いきなり極太のレーザーが地面に向かって、豪雨みたいに幾本も落ちやがったのだ。

 

 エルキドゥの言動しかできないためどうなっているかは知らないが、前世ならば腹話術の人形のように、目を見開き顎が外れるほどに口を開けていただろう。

 でもまあ、爆発が起きたとかそういう事もなかったので、そこまで気にする事でも無いのかもしれない。

 

「…………」

 

 

 

 

 

 とは思ったのだが、訳が分からなすぎたのでインデックスと上条の二人にその話を聞いてみたところ、『天上より来たる神々の門』とかいう魔術結社が、『アグニの祭火』とかいう魔術使って学園都市を滅ぼすために暗躍し、最後には『ブラフマーストラ』何て言うのを発射したとかなんとか。

 全く知らん。何だそいつ等。

 

 

 

 

 9月14日

 

 つまり今日である。一週間でとんでもない事が起きすぎでは?スパンが短すぎだろ。まあ、「学園都市ならしょうがなくね?」と言われればそれまでなのだが。

 そんな波瀾万丈な一週間を乗り切った俺にあるものが届いた。ご褒美と言ってもいいかもしれない。

 取り寄せていた羊肉が届いたのである。

 もちろんマトンではなくラムだ。なぜラム肉なのかというと、羊肉の臭み成分は餌にある。そのため、年老いた羊肉であるマトンではなく年若い羊肉のラムの方が臭みが少ないのだ。

 とはいえ、全く臭みがないわけではないので、水と重曹を入れたボウルに半日近く漬け込む必要がある。

 リンゴやパイナップルで漬け込む方法やワインなどの酒で漬け込む方法があるが、水と重曹というお手頃な方法が一番楽チンなのだ。他の臭み消しだと臭いが移ることもあるし。

 

 そんな訳で10時間漬け込んだお肉がこちらっ!見てくださいルビーのように光輝いています。美味しそうですね~。

 あっ、ほーら、白い小型肉食獣も舌舐めずりをして、今か今かと眼光を鋭くしています。いやー、怖いです。

 若干、臭いが残っておりましたので茹でていきましょう。骨付き肉を沸騰したお湯に投入し最後の下処理です。

 

 そんな料理番組のようなテンションで調理していると、上条から声がかけられた。

 

 おや、上条さんやどうしたんだい?え、何?自分も何か手伝いたい?

 それじゃあ、そこにある明らかに旬が過ぎ去った菜の花を、塩を入れたお湯で下茹でしたあとに冷水にぶちこんでちょうだい。それにゆで卵を入れてサラダにするから一緒にやっといて。

 えっ?何?「野菜はいらないんだよ?」

 要るわ。めちゃくちゃ要るって。肉ばっかじゃ胃がもたれるでしょうが。この苦味がいい感じに胃の中をリセットしてくれんの。全く好き嫌いは…………え?違う?サラダだと腹は膨れない?

 えぇ……。まさかの腹持ちの心配?君は一体どんな極限状態にいるのさ……(困惑)

 

 そんな感じで調理を進めているとチャイムが鳴った。上条が「誰だこんな時間に……?」とか言いながら玄関の方を向くと扉が勢いよく開けられた。鍵ぐらい閉めとけって。

 その扉を開けた張本人を見てみると、この場の誰もと面識がある人物だった。

 

「御坂?……あ、いや、妹の方か?」

 

「ミサカはあなたにお願いがあって来ましたと、ミサカはあなたの戸惑いを無視して真摯にお願いしてみます」

 

「お願い?」

 

 こうして押し掛けてくるのは初めてなのだろう。上条が戸惑っている。そんな上条を置き去りにして、御坂妹はその言葉を言った。

 

 

 

「ミサカと、ミサカの妹(たち)を助けてください、とミサカはあなたに向かって頭を下げます」

 

「──分かった。それで何があった?」

 

 

 

 上条は御坂妹の懇願に一切の拒絶を示さず了承し、その内容を促した。

 それを見て俺の背景に電撃が走る。

 

「(カ、カッコいい……だとぉ!?(驚愕)

 マジかコイツ。明らかに地雷の案件をタイムラグ無しで了承しちゃったよ。何?主人公なの?……コイツ主人公だわ)」

 

 目の前の魚介類頭が急にイケメンになって、その緩急に風邪引きそう。そんな俺には当然気付かず御坂妹は事の次第を話し出す。

 

樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)が再び開発されようとしていますと、ミサカはミサカは事のあらましを端的に述べてみます」

 

「っ!?おい、ちょっと待てッ!樹形図の設計者って言やあ……!」

 

「はい。ミサカ達が生み出される切っ掛けとなった、量産型能力者(レディオノイズ)計画を算出した学園都市の誇るスーパーコンピューター、別名超高度並列演算処理器(アブソリュート=シミュレータ)であると、ミサカは詳しく説明します」

 

 ああ、もうそんな時期か。流石に日付まで完璧に知っていた訳じゃないからなぁ。

 

「いやでも、インデッ──じゃなくて、あれは既に破壊されていたはずだろ?何で今さら?」

 

「『金星探査プロジェクト』をご存知ですか?と、質問に答える前にあなたに確認してみます」

 

 あっ、あれかー。と思いながら11日の事を思い出す。あの量の流星が落ちてくるのは流石にビビった。でも、それが何の関係があるんだ……?

 

「それってあれだろ?小惑星の名前を命名権をもらえるかもしれないっていう」

 

「それはSNSでどの探査機が新発見をするのかを予測し、小惑星の命名権の抽選に参加する、あくまで利用者視点での認識であるとミサカはジト目をしてあなたを睨みます」

 

 じーっと口に出しながら睨んでくる御坂妹に、視線を逸らして上条はたじろいだ。「上条当麻星と名付けたいっ!」と言ってたぐらいだし、そっちの方が印象に残ったんかね。

 後ろでインデックスが「カロテン怖い、カロテン怖い……」と言っていて不気味だった。カロテンにどんなトラウマが?

 そんな俺達を無視し御坂妹はその目的を説明していく。

 

「金星にある何かの死骸などの痕跡を見つけ出し、その痕跡から既存の生物などが居た証拠を見付けるプロジェクトです。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「表向きの題目?」

 

 ん?あれって金星の調査が目的じゃなかったのか?俺達が知らないその隠された目的を御坂妹は話し出す。

 

「あの打ち上げられたロケットは金星の探査機ではなく、宇宙空間に残っている樹形図の設計者の残骸を、回収するための物だとミサカは答えます」

 

「道理で宇宙エレベーター建造の隠れ蓑だったにも関わらず、大々的に公になってもずっと大量にロケットを発射していたのか」

 

「時期的に考えてもおそらくはそうでしょうと、ミサカは残骸(レムナント)回収とロケットの打ち上げ数低下の日付を、比較して推察してみます」

 

 うげぇ。流石学園都市。謀略が渦巻いてるわ。

 他国から宇宙エレベーター、通称『エンデュミオン』。これの影響は大きくそれは宇宙開発に留まらない。宇宙エレベーターに大量の爆発物を運び、軌道衛生上に放り投げれば世界のあらゆるところで空爆が可能となる。

 そして、仮にエンデュミオンにミサイルなんかを撃ち込まれても、スペースデブリ(シャトル打ち上げなどで滞在する人工的な宇宙のゴミ)を操り相殺させることができるらしい。

 つまり、学園都市という世界どころか日本でも僅かなエリアしか存在しない場所が世界の支配者となるのだ。

 

 そして、それは科学サイドだけではなく魔術サイドにも影響を及ぼす。大量に生まれたスペースデブリのせいで、星が見えなくなってしまう事が起こり得るのだ。

 魔術と星座は切っても切れないほどに関わりがある。神話の星座を取り扱った物は多くあるし、星座の並びや輝きを取り扱った事柄は歴史上でも多く記載されてきた。その全てが時代遅れの無価値な物へと変貌するのだ。

 そのため、星座を使う魔術が使えなくなってしまったり、魔術を行使すると暴発してしまったりする魔術師が現れる。

 そうなれば、科学サイド魔術サイド問わず学園都市一強の時代がやって来る。

 宇宙開発という華やかな一面とは裏腹に、世界中の人々を空爆による恐怖のどん底に落とす悪魔の塔。それが、エンデュミオンの正体だ。

 

「(学園都市上層部が世界を取る気満々じゃん。そんなに戦争がしたいのか?聖人にも星座を使う奴とかいたら弱体化するだろうけど、アイツ等多分それを差し引いても化け物級だぞ?死にたいの?)」

 

 ただの無知なのか、知っていて高を括っているのか。その「なん……だと……?」ムーヴに付き合わされるのは勘弁してくれ。魔術サイドにはガチの化け物ばっかりなんだから。

 内心でそんなことを思ってる間に、御坂妹の話は終わりまで来ていた。

 

「その残骸(レムナント)を回収し再び樹形図の設計者を作られれば、おそらく実験を再開しようと目論む動きが出てくるでしょう」

 

 御坂妹はそこまで言うと頭を下げて再び懇願した。

 

 

 

「まだ恩を返せていないにも関わらず、再び関係の無いあなたにこのようなお願いをするのは厚かましいと自覚しながらも、ミサカはあの実験に関わるのはもうまっぴらだ、と断言し改めてあなたに協力を仰ぎます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、そんな訳で人命救助優先のため晩御飯……というか、夜食に近いご飯はまたお預けとなった。インデックスとしては空腹で辛いはずなのだが、誰かの人生のための行動なのでどうやら上条を止める事はないようだ。

 ……ぐるるるるるると、お腹は鳴っていたが。

 

 そして、体調が悪くなった御坂妹は上条の住んでいる一室で休ませることとなった。それも当然だ。

 彼女はただでさえ寿命の短い体細胞クローンの体に、成長促進を与えられてさらに体のバランスが崩れてしまっている。

 その上、10032号は一方通行によって痛め付けられていたため、他の妹達(シスターズ)よりも危険な状態だ。

 カエル顔の医者が治療しているがまだ安静にすべき段階であり、ここまでの無理な運動は体に大きな負担をかけるに決まっていた。

 

「お前はここで休んどけ。あとは俺がなんとかしてやる」

 

 そう言ってカッコよく戦場に向かおうとする上条の手を、御坂妹は何故か掴んだ。何故に?

 

「はぁ、はぁ、ミサカは重要な事をまだ言っていませんと、あなたの手を必死に掴みながら言います」

 

 はて?他に何かあっただろうか?あとは結標(むすじめ)淡希(あわき)からアタッシュケースをぶん取れば終了のはずだが。

 そんなことを考える俺に御坂妹は衝撃の事実を告げた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 は……?何?……破損だって……?

 この事件で知らない単語に困惑してしまう。破壊と破損で何で訂正する必要があるんだ?

 背中に嫌な汗が流れた。まるで、水面下でとんでもない事が起きているような……。

 そして、そんな俺の予想は的中する。

 

「つまり、樹形図の設計者は超高密度の熱源によってその機能を停止しましたが、主要なところは依然として残ったままなのです。

 『演算中枢(シリコランダム)』はもちろん『複製中枢(バックアップ)』も未だに健在です。とはいえ、そのどちらもが学園都市で回収できたことが不幸中の幸いとも言えますが。

 もし、他国で回収されていれば外部組織の手によって、今頃樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)が完成していたでしょうと、ミサカは最悪の想定を話してみます」

 

 えっ、ちょっ!は、はあ!?ま、待て待て待て待て!!それじゃあ何か!?まさかバックアップってことは──!

 

 

 

 

「つまり、樹形図の設計者の開発を阻止するためには、二つの『核』が入ったそれぞれのキャリーケースを破壊しなければなりませんと、ミサカはその事実を告げます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、イイね。実にイイ」

 

 そこには風が吹くビルの屋上の(へり)で、狂気の笑みを浮かべた黒髪の少女がそこには居た。

 白のコートを風に靡かせて、トランシーバー片手にその少女は夜の学園都市の街並みを眺める。

 

「仕事内容は大した事は無いパシリ同然で当時はムカついたもんだが、依頼を出すときに感じた依頼人の、不審さから調べておいて良かったぜ。

 いやー、分かってないね。警告なんて分かりやすすぎるアクションを出しちまった事が、逆に私の興味を引いちまうだろうと想像できない時点でボンクラとしか言いようがない。

 暗部の掟は絶対に守るもんだと決め付けてるからそうなる。

 私が警告されたぐらいで、本当にこんな面白そうな事を確認しないのかと思ったのかにゃーん?」

 

『本来なら喜ばれる事ではないぞ。最悪ただ無意味に消された可能性もある』

 

「ハッ!何のために透視能力者をわざわざ引っ張ってきたと思ってる。確証はもちろんあったが、その辺の安全策は当然取っているに決まっているだろう」

 

 暗部で運び屋をするならば、その物品について詳しく知ろうとしないのが当然の常識だ。言ってしまえば今回の事はルール破りであり、制裁をされても文句は言えない。

 しかし、そのタブーに触れたのだとしても強行する価値がそこにはあった。

 

「まあ、これでコイツの重要性は理解できたな。コイツがあれば私達が暗部の天辺に立つことも不可能じゃねェってわけだ。

 そういや、もう一つの方は外部に運ばれているらしいな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 結標は外部の組織と手を結んでいるだけで、暗部として活動しているわけではない。『案内人』としてあの『人間』と関わる事はあったが、それだけしか接点と呼べるものがないのだ。

 つまり、暗部としての生き方に身を落としているわけではない。だから知ることすらできなかった。自分達の計画の裏で別の意思が動いている事を。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

()()()()()()()()()()()()()()

 




※オリ主は外伝書庫の話をを一切読んでいません。なので、そこら辺の知識が一切無いのです

◆裏話◆
『とある科学の一方通行』の事件が具体的に何日と書かれていないため、オルソラの事件が解決した日に自己解釈でそうしました。
この日は昼まで上条は気絶していたので、朝に起きたモノクロの世界には気付く事ができなかった。
そのため、世界がモノクロになって生命の樹が空に浮かんだにも関わらず、上条やインデックスがその場に来ない理由だと考察しました。もし、実際に見ていたらその話題を二人がしていないのはおかしくないかな?と思ったしだいです。

◆作者の戯れ言◆
18話の伏線をようやく回収できました。58話もかかるとは流石に思いませんでしたね。
導入回のくせに長くて申し訳ない。キリがいいところがなくて伸びてしまいました。


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77.バタフライエフェクト

この前外伝書庫が出ました。辞書かってぐらい厚い厚い。
そして、来月は創約の2巻が出ますし、再来月には外伝書庫2が発売とアニメが再開されます。ファンには堪らない3ヶ月です


 上条と御坂妹が事件の概要を話している傍で、この緑色の髪をした奇抜な女も当然その内容を聞いている。

 だが、その女の思考が不安や焦りによって、別方向に向かっている事には当然誰も気が付かなかった。

 

「(二つってどういうことだ!?そんな無かったはずだぞ!?まさか、アニメが火野神作の話みたいに内容をカットでもしたのか!?)」

 

 俺は予期せぬ突然の事態に大パニックだ。流石にこんなのは予想外も予想外すぎる。

 だが、ふと思い出した事があった。

 

「(……確かこの話はカットされた大事なシーンがあるとかで、かなり話題になった。

 それで、セリフの改変や動きの説明の不備は言及されていたけど、火野の話みたいなまるまるカットのとこは言われてなかったはず……。じゃあ、もしかして俺か?)」

 

 もし、この予想が合ってるとするなら、バタフライエフェクトを起こしたのは俺となる。だが一つ問題となる事が一つある。

 

「(いや、俺別に宇宙とは関係無くね?)」

 

 エルキドゥがやんちゃして宇宙まで行っちゃったら別だが、そんなことしてたら今頃アレイスターとおそらく対面しているだろう。

 それがないということはエルキドゥではなく、俺が原因ということだ。

 

「(宇宙そのものが原因じゃないとするなら竜の息吹(ドラゴンブレス)だけど、俺その場に居ないからなぁ。俺の可能性は逆に低くなるんだよ。なるほど、上条かステイル達のせいだねこれは)」

 

 オリ主は安堵の息を吐く。自分以外のせいならフォローという感じで対処すればいいため、心理的に結構楽だ。

 とはいえ、原作にない展開のため、無関係というわけでは絶対にないのだが。

 

「(にしても、何が原因でこんな事になったんだ?原作よりも前に首輪の破壊の情報があったから……?

 だけど、インデックスが魔力を行使できるかどうかは、自動書記(ヨハネのペン)が起動しないと分からなかったはず。事前情報から対処できるのは、ローラが仕掛けたであろうインデックスの発熱に対してだけだ。

 つまり、上条達の戦いはおそらく原作とそう変わらないはず)」

 

 うーん?ますます分からないぞ。戦い自体に差異が無いとするならどこでレールが変わったんだ?

 そこまで考えたところで、御坂妹が体調を崩しながらも懸命に話続ける。

 

「はぁ、はぁ、未確認高熱源は樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)()()()()()()()まとめて吹き飛ばしたそうです。……そのダメージのせいで今まで稼働することができず、ニュースの天気予報も度々外れていたのだと、ミサカはあなたに実感できるほどのスケールまで話を落として説明します」

 

 どういう事だ?アニメでも樹形図の設計者は中心ど真ん中を貫いていた。なら、同じように中心を貫くのが普通だ。どうして右側にスライドしたような結果に……。

 

「(()()()()()()()())」

 

 その言葉が浮かぶと同時にオリ主の額に大量の汗が流れ出した。

 ドッドッドッ!と心臓が脈打ち、俯いたまま視線が不自然に揺れ出す。予想通りならその理由がようやく理解できた。

 インデックスを首輪から解き放つときに、ある人物が「部屋は僕の部屋に移ろう。これ以上小萌に迷惑はかけられないからね」などと言い、原作の首輪を破壊する場所である小萌先生の部屋から出て、右隣の自宅へと場所を変えた奴がいなかったか?

 その結果、樹形図の設計者の中心から外れてしまい、複製中枢(バックアップ)なんてものが残ってしまったのでは?

 

 それでは、そんな事を言い出したアホは果たして誰なのか。

 

 

「(もしかして、俺じゃね……?)」

 

 

 お前である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、俺と上条は二手に別れてそれぞれ残骸(レムナント)を追うこととなった。上条はひたすら走っていたら美琴と出会うため、結標(むすじめ)の対処は任せて大丈夫だろう。

 だから、俺が追うのはその複製中枢(バックアップ)なのだが。

 

「(原作知識が使えねえ……!一体どこの誰が持ってんだ!?)」

 

 今までのような『ある程度の見当』が一切付けられない。

 残骸は今運搬されているのか。それは結標のような空間移動(テレポーター)なのか。それとも、車やバイクといったアナログな運び方なのか。

 それどころか、既にどこかに隠されたあとなのか。運ばれるのは学園都市の中なのか外なのかそれすらも分かってはいない。

 

「(上条じゃあるまいし、走ってたら偶然事件の取っ掛かりを見付けられるわけもないよな……。このままじゃ…………ん?)」

 

 夜の学園都市を走るオリ主のポケットから、携帯の着信による振動が伝わった。

 

『もしもし、先輩ですか?』

 

「おや?後輩かい?」

 

 電話を掛けてきたのは数分前に別れた上条からだった。

 

『御坂からの情報なんですけど、もう一つの残骸は外じゃなくて中に向かって運ばれたみたいです』

 

「(なるほど、監視カメラの映像か。ハッキングして見付けたって事ね。

 ……いや、ちょっと待て。君達出会うの早くない?運命の赤い糸で繋がってんの?)」

 

 もはや引力とも言えてしまうような巡り合わせに戦慄する。ちょっと怖い。

 

「(俺的には仲の良いみさきちを応援したいんだけど、こういうのを知るとやっぱりミコっちゃんもヒロインなんだよなぁ)」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「車ごと?」

 

『はい。なんか御坂がえーと、演算中枢(シリコランダム)……?と平行で、複製中枢(バックアップ)の運搬経路を調べているときに、そいつらが見えにくい物陰でひしゃげた車と一緒に気絶していたみたいですよ』

 

「何か特徴はなかったかい?例えば能力を使用した痕跡とか」

 

『御坂どうだ?……─ええっと、そうね。能力かは分かんないけど何かしらの武力を持っている事は確かよ─……それ、本当か?じゃあ、先輩と代わるな。……え、ちょっ──っておい馬鹿っ!いきなり携帯投げんな!』

 

 電話越しで漫才でもしてんのかってぐらい、二人は盛り上がっていた。いや、あの、割りと切羽詰まってるから、笑ってる余裕ないんだけど……。

 上条から電話を変わったミコっちゃんがしゃべり出す。

 

『……始めに言っとくけど今回の暴れてる奴達は相当の腕利きよ。それでウチの後輩も痛い目をみてる。

 以前の事でアンタにはもう十分に助けられた。もう関わっちゃったみたいだけど、今ならきっとどうにかなるわ。

 ──手を引くなら今しかないわよ』

 

「全て覚悟の上さ。実験が再開したとしてもそれをまた食い止めるのは変わらないしね。防げる手があるなら事前に打っておくのは当然だよ」

 

『…………はぁ、アンタといいコイツといい。お人好しよね本当に』

 

「君ほどじゃないさ」

 

 流石に本編でヒロインしたり番外編で主人公したりはできんわ。どんだけ戦ってんだって話しだし。

 

「(負い目やら原作崩壊を防ぐっていう理由が俺にはちゃんとあるから、ただ助けたいって理由だけで命掛ける上条と比べられるのは、ちょっと荷が重いです)」

 

 奴は打算無しで助けに行くので、同類に扱われてしまうと胃に穴が空いてしまう。エルキドゥの身体だから空かないだろうけど。

 

『それじゃあ、簡潔に伝えるわね。その壊された車体の近くに人間の足の三、四倍くらいの窪みが二つできていたわ。多分駆動鎧(パワードスーツ)がアスファルトを踏み締めたときに、陥没したんだと思う』

 

駆動鎧(パワードスーツ)?という事は、もしかして相手は警備員(アンチスキル)かい?」

 

『確かに、上から命令されて警備員が残骸を運んでいるとしても可能性は普通にありえるわ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 おっと?まさか、断言されるとは思わなかった。何か根拠があるようだ。

 

「何か確信があるようだね」

 

『やり方が警備員らしくないのよ。普通、警告ぐらいは最初に飛ばすものでしょ?

 そのはずなのに近くに居た人は()()居なかったみたいだけど、それでも離れていても拡声器の音や避難指示の声は聞こえるはず。

 それなのに、破壊音が突然聞こえたってこと以外の情報が得られなかったってことは』

 

「注意喚起すらせずに強行したということだね」

 

 確かにそれは警備員らしくない。その何者かは警備員の駆動鎧を持っていたのなら、警備員の振る舞いをして撹乱すべきだったろう。なのにそれをしなかったのは明白だ。

 

「騒ぎを起こして少しでも注目されるのを避けたかった、というところかな」

 

 つまり、残骸を運んでいるのは後ろ暗い奴等だということ。ということは、

 

「(絶対に暗部じゃんこれ)」

 

 暗部堕ちしたくないから、ちょっと関わりたくないなぁ~と内心思っていたが、そんな心配をしなくてもいいことに気が付いた。

 

「(別に人道に反する事をしなければいいんじゃね?確かアレイスターとしても絶対能力進化(レベル6シフト)計画は再開されない方がいいはず。エイワス出せないし。

 なら、関わること自体は構わないのでは?)」

 

 なんかいい感じの免罪符が完成すると共に、ミコっちゃんが『それと……』と付け加えて、何故か続きを少し言い淀んだ。

 なんかまだあるん?個人的にいい情報がそろそろ欲しいです。

 

『…………今回ばかりは一人じゃ手が回りそうにないから、断腸の思いで()()()に頼んでるのよ。あとはそっちから聞いた方がいいと思うわ』

 

「あの女?」

 

 疑問に思って聞き返そうとしたところ、いきなり横から声を掛けられた。

 

「──あらあらあらぁ?こんなところで何をしているのかしらぁ?まさか、お節介力を全開にして今回の事件にも介入したりとかぁ?

 ……あなただと普通にありえるから怖いわね。ていうことは、もしかして、あの人も出てきたりしてるのかしらぁ?」

 

 見たことのないスーツ姿の妙齢の女性が、「さ、流石にその年齢でそのポーズはどうなの……?」と、逆にこちらが心配してしまうような、あざとい格好をしながら言葉を投げ掛けてきた。

 本来なら「学園都市にいる人間はやっぱり個性的だなぁ」で、見てみぬフリをするのだが、その言葉使いと瞳の椎茸は余りにも見に覚えがありすぎる。

 

「(なるほど。そりゃあ頼りたくはなかっただろうなぁ)」

 

 苦虫を噛み締めたような声音の理由が理解できた。確かに頼るならこれ以上ない人選だけど、仲が致命的に悪すぎる。

 そして、俺がよく知っているその人物の名前が、電話口から明かされた。

 

『食蜂操祈。アンタの友達よ』

 

「詳しく聞かしてもらうゾ☆」



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78.戦闘直前

 夜の学園都市を並走している、紫色をした縦ロールの彼女に問い掛ける。

 

「それで、情報は何かあるかい?」

 

「はい、『私達』の調査によると現在駆動鎧(パワードスーツ)を動かしている警備員(アンチスキル)は居ないようです。つまり、何者かが駆動鎧を使っているのは間違いないかと。

 さらに、その条件に該当する痕跡を割り出していますが、おそらく芳しい結果は得られないでしょう」

 

 まあ、これは残念だが仕方ない事だと思う。暗部の深い人間なら、表の人間が知らないような方法で自分の痕跡を消すのは、難しい事じゃないだろう。

 彼女達が追えないのも無理はない。

 

「だからこそ私の出番って事なんだゾ☆私ならそういった痕跡を辿る事においては、御坂さん以上に利便性が高いわけだしぃ。

 監視カメラなんかの電子機器で追えない相手の場合、私以上に追跡力がある能力者は居ないんだから☆」

 

 そんな事を言ったのは現在縦ロールこと帆風(ほかぜ)潤子(じゅんこ)にお姫様だっこされている、常盤台中学一大派閥の女王食蜂操祈だ。

 

「それにしても、君まで表に出てくるとは思わなかったよ。君のことだからてっきり裏方に徹するものかと思っていたけどね」

 

「私だってそうしたかったけどぉ。電子機器からの情報は少なすぎてウチの子達も完璧に追うことはできないのよねぇ。だから、こうやって私自ら行動してるってわけ。

 でも、私のような存在に対処するためか、平面じゃなくて立体的な動きで時間を稼ごうって魂胆みたいだし、今回の敵はなかなかやるみたいねぇ。

 まあ、私と帆風のタッグならそれぐらいの事は何て事はないんだけど」

 

「光栄です『女王』!全力を尽くします!」

 

 うわぁ、嬉しそう(小並感)

 

「それより私が気になるのは、全力ではないとはいえ帆風の天衣装着(ランペイジドレス)のスピードに、平然と着いてくるあなたの身体能力よぉ。

 帆風は能力で生体電気に介入して底上げしてるけど、あなたのそれって素のものなんでしょう?本当に天野さんの身体ってなんなのかしら?」

 

「原石だからね。これぐらいは当然さ」

 

「……多分だけどあなたと噂の第七位以外は、そんな身体能力を持った原石はきっとないと思うわ」

 

 まあ、そうだろうな。だってこの身体ってエルキドゥのものだし、どっかの七位とはまた違ったベクトルでぶっ飛んでると思う。

 ……それでも全く歯が立たなかったけど。

 

「あ、帆風。次はそこのビルの屋上よぉ」

 

「はい!『女王』、お任せください!」

 

 なんかめちゃくちゃ嬉しそうな声を上げて、非常階段を掛け上がるというより、階段を無視して踊り場に跳び移るように上がっていく縦ロール。

 掴まってる食蜂は彼女を信頼はしているのだろうが、その余りのスピードに恐怖を感じてるようである。どうやらテンションが上がった縦ロールは、食蜂が顔をひきつらせていることには気付いてないようだ。

 

 頼られるのが嬉しいんだろうなぁ……。

 

 そんなワンコ系お嬢様の縦ロールと女王様のみさきちという、巨乳コンビの百合百合しい光景を肴に階段を掛け上がれば、先ほどみさきちが敵の触れた場所を読心能力で読み取った、次のポイントへと辿り着いた。

 近くにあった手すりにリモコンを押し当てたみさきちは、今までとは違った反応を示した。

 

「あらぁ?ここに来たのはついさっきみたいねぇ。ということは、次でご対面よ。覚悟はいいかしら天野さん」

 

「もちろんだとも。さあ、すぐに終わらせよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーんてふざけたこと考えてンなら、流石に暗部を舐めすぎってモンだ」

 

 活気づいている大型の複合施設の中に彼女達は入り込んでいた。シルバークロース=アルファも着ていた駆動鎧を脱いで人混みに紛れている。しかし、これでは今までのような立体的な動きはできないだろう。

 駆動鎧は彼の武器である。それを装着していないということは、戦場に丸腰で挑むなど自殺志願者でしかない。

 だが、その愚行こそが彼女達に勝算を生ませるのだ。

 すると、丸腰と言っても過言ではない彼が、不安を隠すように話し出した。

 

「念のため仕込んでおいたカメラで動向を探ることができたが、それがなければ何の準備もなしに立ち会うところだった。

 第三位と関わりがあり、あの事件にも介入していた天野(あまの)倶佐利(くさり)は想定していたが、第五位まで出てくるとは当初の想定からは大幅にズレている。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「いや、まだその段階じゃない。いろいろ細工をしなくちゃいけなさそうだが、超能力者の中じゃ食蜂操祈は俺達と一番相性がいいんだ。

 戦略の組み立て方次第では、奴を打倒することも残骸を回収することも不可能じゃないだろう?なら、今は私達の計画を続行して目的を達成するために行動するべきだ」

 

 学園都市の学生230万人の頂点である超能力者(レベル5)を、まるでついでのように扱う彼女が、どれだけ異常なのかは今さら語るまでもない。

 無謀としか言えないような事を言う彼女の表情には、高位能力者達を打倒する絶対的な確信があるようだ。

 彼女は口を歪ませて言った。

 

「──天野倶佐利。ここで心理掌握(メンタルアウト)共々殺してやるさ」

 

 人混みに入り込み二人の人間が特定できなくなるその瞬間、人々の賑わいに紛れながらもその言葉は確かに発せられた。

 

 

 

「せめてそれなりには楽しませてくれよ?『模範生』サマ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある高級ホテルの一室に彼女達は集まっていた。ブラックカードがなければ足を踏入れることさえできない場所がここだ。

 そんなセレブ御用達のこのホテルの一室を、アジトの一つとしかカウントしていないことから、彼女達の財力がどれ程凄まじい事が分かる。

 彼女達がここに集まっている理由は()()()()()()()()()()()()()、まだここに全員居るのは別に理由がある。

 その理由は目の前の画面から聞こえる音声からなのだが、『SOUND ONLY』としか画面にはなく、通信者の顔が分からなくなっていた。とはいえ、これは彼女達には見慣れたものなので大して気にはならない。

 そして、話すべき事は終わったのか通信が途切れる。それと同時に彼女達のリーダーが立ち上がり言った。

 

「アンタ達仕事よ。準備しなさい」

 

「えぇっ!?やっぱりこの仕事受けることにするの~!?さっきまで別の仕事してて、もう全身くたくたって訳よ!」

 

「フレンダは愚痴言ってないでさっさと準備してください。今までとは違って報酬も格段に良いですし、ポイントにもなります。

 受けないのはデメリットにしか超なりません。麦野の判断は正しいですよ」

 

「……前の仕事で珍しく頑張ったフレンダを私は応援してる」

 

 彼女達の所属する暗部組織の名は『アイテム』。彼女達の役目は学園都市にある不穏分子の削除・抹消である。



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79.張り巡らされた悪意

少し遅くなりましたが79話です。


「あら?もう用事は終わったのぉ?」

 

「うん。時間を取らせて悪いね」

 

 突入する数十秒だけ天野は食蜂達から離れていた。流石にこの状況で無駄な事はしないだろう。

 

「……まさか、戦場に行く前にあの人と内緒で電話して、ラブコメ的な展開はしてないでしょうねぇ?もし、そうだったら運び屋を捕まえる前に天野さんと戦わなくちゃならないけど」

 

「流石にその疑惑は予想外だよ。君ってそんなに感情的な人間だったかな?」

 

 敵が居るだろう場所に潜入する前だというのに、そこだけは絶対にブレないようだ。例え出会った頃の記憶が無くとも食蜂にとっては、上条は替えの効かない王子様らしい。知ってるけど。

 

「もしや、女王にはお慕いしている殿方がおられるので──「消去」それでは、天野さんも来ましたし参りましょうか女王」

 

「ええ、そうねぇ」

 

「相変わらずだね君は」

 

 食蜂達三人は複合施設の中へと潜入した。しかし、常盤台の制服を着た食蜂と帆風。そして、緑髪をしている天野では潜入というには些か目立つ格好だ。

 そんな堂々とした三人は緊張など全くしておらず、とりあえず周囲を見渡す。

 

「木を隠すなら森の中って事からしらぁ?今までの人が寄り付かない場所じゃないのは、そういったあからさまなポイントを外してきたって事かしらねぇ」

 

 天野達が訪れたその複合施設は一階にショッピングセンター、二階にビリヤードやボーリングなどの遊技場が建設された建物であった。ナイトシアターなどもこの施設にはあるため、この時間にも関わらず閉店していないのだろう。

 学園都市と言うだけあって、ほとんどの学生は既に帰宅しいないようだが、未だに何人かの学生がここに滞在していた。天野は周りを見渡して隣の食蜂に話し掛けた。

 

「……この人数は少し骨が折れそうだね」

 

 昼よりは遥かに少ないとはいえ、それでも他の施設に比べればその人の多さは群を抜いている。

 

「まあ、普通ならねぇ。でも、読心能力で運び屋達の背格好や特徴は把握してるから、難易度はぐっと下がるわぁ。

 つまり、これからは私の能力の真骨頂って事だゾ☆」

 

 そう言った食蜂はおもむろに鞄からリモコンを取り出して、目に写る人達に能力をかけていく。

 その人達が今まで進んでいた進行方向とは逆の方向へと方向転換していく。それを眺める食蜂は得意気な顔で言った。

 

「ふふふふっ、人海戦術の脅威力を味わわせてあげるわぁ」

 

「君はこういうときにイキイキするね」

 

「流石です!女王!」

 

 悪どく笑う食蜂に対してどこか呆れを滲ませる天野と、心酔レベルで褒め称える帆風。

 そんな彼女達の違いは食蜂を敬うべき『女王』と見ているか、どこにでも居る年頃の女子中学生と見ているかの違いだろう。

 

「っと、あちらさんの尻尾を誰かが掴んだようねぇ。それじゃあ、残骸(レムナント)を運んでいる誰かさんをちゃっちゃと捕まえるわよぉ」

 

 そんな軽い雰囲気を出しながら、食蜂は敵の居る場所へと歩を進める。人波を掻き分けていくとボーリング場へと辿り着いた。目の前に広がる光景を見て帆風が食蜂に疑問を言った。

 

「こんなところで受け渡しをすれば、目立つと思うのですが……」

 

「そうねぇ。奇を狙っても目立ってしまったらアウトなのだし、もしかしたら何か別の──」

 

 そこまで言って食蜂は違和感に気が付いた。

 

「(おかしい……。急いでいるのだとしてもいくらなんでもアナログな方法に頼りすぎている)」

 

 ここまでは順調とも言えるほどに、すんなりとやって来ることができた。それは間違いなく食蜂の能力の力の影響が大きく、帆風が食蜂を連れて立体的な動きをして追跡したからだ。

 他の能力者達ならばここまで上手く事を運ぶことはまず不可能だっただろう。それこそ、隣に居る数多の能力者の能力を使う、彼女でもここまでスムーズに進められるとは思えない。

 そして、食蜂は御坂に頼まれた途中参加のイレギュラーだ。この事件に確実に介入する可能性自体、元々低かった。

 それらを統合して食蜂は相手の変則的な動きは、いずれ来るだろう未知数の追っ手のための保険だと考えていた。

 だが、それでは腑に落ちない点がある。

 

「(私のような精神能力者から時間を稼ぐためだとしたら、それこそ御坂さんのように電子機器を操る能力者じゃないと、入ることもない場所を通過しない事はあり得ない。

 それこそ精神系能力者以外の、人の匂いから目標を追跡する能力者なんかが相手だとしても、電子的なストッパーを越えるときには必ず跡が付く)」

 

 今までの運び屋の行動は、監視カメラに映らないところを立体的に動き撹乱していた。持っているのが学園都市内外で狙われている物だと知っているなら、その行動の意義は分かっていても焦りが出てしまうものだ。

 しかし、盗み見た情報からは運び屋が焦っている様子は無かった。つまり、ほぼ平常心であったということだ。監視カメラの位置を把握していることから相手は暗部のはず。

 つまり、相手は暗部に浸かり生死のプレッシャーに慣れているそんな人物。そんな相手がその程度の事にも考えが及ばず、さらには杜撰な受け渡し場所を指定するだろうか?

 もし、今までの行動の一つ一つが、ただ追っ手を想定しての念のためのものではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()──

 

 

「(まさか、この私()()()()をここに誘い込むための罠ッ!?)」

 

 

 その思考に辿り着くと同時に食蜂は声を張り上げた。

 

「帆風!すぐにここから離脱するわッ!天野さん!早くここから──『流石は心理掌握(メンタルアウト)。まさか気付かれるとは思わなかったぜ。だけどよォ、それじゃあ対応が遅過ぎやしないかにゃーん?』ッ!?」

 

 音源がオンになったアナウンスから少女の声が流れた。事務連絡ではないその口調に周りの学生達は困惑しているが、ここに乗り込んだ三人にそれがなんなのか分からないはずもない。

 今回の騒動に関わっているその運び屋がマイク越しに命令すると同時に、出入口や窓から駆動鎧(パワードスーツ)が侵入し三人を包囲していく。

 先程までの日常からいきなり切り離され、理解できずに混乱する人々の様を監視カメラから眺める黒夜は、悪意が滲み出る笑みを浮かべながら一人呟いた。

 

「さあ、大物食い(ジャイアントキリング)といこうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁー!ってミサカはミサカはあの人に残骸(レムナント)の事を吐かされてしまったーって一人嘆いてみる!」

 

 病院のベッドの上でジタバタしている打ち止め(ラストオーダー)。彼女はミサカネットワークを用いて妹達(シスターズ)間での情報交換を行っていたところ、ついその内容を病室で口走ってしまい、そのフレーズを聞いた一方通行(アクセラレータ)に問い詰められた。

 

 

 

 

「いや、えっとね……?ってミサカはミサカは、言い辛いその内容に視線をあちこちに飛ばしてモジモジしてみる」

 

「それで?」

 

「ミ、ミサカネットワークを介してその状況を知ったんだけど、本当かどうか精査する必要があってね?と、ミサカはミサカは言い訳と共に、あなたをテレビ番組でやっていた庇護欲をそそるという上目遣いで見上げてみたり」

 

「それで?」

 

「じょ、状況が状況だしあなたにも最後には協力して貰おうと思ってたと、ミサカはミサカは覚悟を決める前にあなたに勘づかれてしまって、今やもう言い訳にしかならないような事を自覚しながらも、胡麻を()るために笑顔を浮かべながら懸命にあなたに伝えて──」

 

「さっさと言え」

 

「はい」

 

 

 

 

 という一幕があったとか無かったとか。

 まあ、学園都市第一位の一方通行ならば確実に鎮圧させられるため、最善手といえば最善手なのだが。

 

「確かに、今の複雑な状況を打開するにはあの人の力を借りた方が良いのは理解しているけど、あの人はこの前ミサカ達を助けるために頭に怪我を負って、その傷がまたミサカのせいで開いちゃったばかりの病人だから、また迷惑かけるのはできなかったのと白状してみる」

 

 一方通行がこの病人に入院しているのも、再び怪我を負ったのも自分のせいなのだ。あのカエル顔の医者からも安静が言い渡されている。

 そんな怪我人である一方通行に、戦場に行ってくれと頼むのは気が引けた。そうすれば少なくとも絶対に片方の残骸が、片付くと分かっていてもなかなか言い出せなかったのである。

 

「二つあるからあの人とヒーローさんは別々の方をそれぞれ対処して欲しいけど、情報が無さすぎて二人とも同じ方の残骸を追ってしまうかもって、ミサカはミサカは懸念事項を言ってみる」

 

 二人は連絡を取り合ってはいないため、役割分担ができないのだ。それどころか今の二人が出会えば殺し合いが始まる可能性がある。

 あのプライドの塊である一方通行に敗北を与えた存在。それを一方通行がそう簡単に許すとは思えない。

 

「でも、お姉様(オリジナル)や途中参加の人も居るらしいから大丈夫だよねって、ミサカはミサカはその事実に気付いてほっとしてみたり」

 

 まさか、その三人が一人の能力者に対して集まるとは、思ってもいない打ち止めであった。これだけの面子がたった一人に対処するとは流石に考え付かないだろう。

 そのことを知らない打ち止めは、不安材料が消えたと思い病室を出て、自動販売機の前まで歩く。その道すがら先程のまでの安堵した表情から一転して、激情に声を震わした。

 

「あの天野って人は本当にマイペースだよね!10032号を使って言ってくるなんて非常識にも程があるよっ!

 妹達にも負担になるし少しは私達の事も考慮してくれるべきじゃないかな!?ってミサカはミサカは頬を膨らまして怒ってみる!」

 

 プンスコしている女の子に偶然にも怒る大人は周囲にはいなかった。深夜帯なので出歩く人自体が少ないというのもある。

 そして打ち止めは気付いた。ここは夜の病院なのだと。

 怒りで忘れていたがそんな事に今さら気付き、打ち止めは顔を青くした。

 

「……な、なんか見渡してみるとちょっとだけ怖い気もするって、ミサカはミサカは腰が引けた状態になってみたり」

 

 暗く先が見えにくい病院。大人ですら怖がる人は多く居るだろう。それを特殊な出自とはいえ、そこら辺に居る子供と同じ感性を持った打ち止めが怖くない訳がない。

 

「だだだ大丈夫だよ。自動販売機はそんなに遠くはないしちょっと行って帰ってくるだけだもんって、ミサカはミサカは若干涙目になりながら気丈にも一歩一歩歩いてみる」

 

 ビビりながら恐る恐る歩けば、目的の赤色の自動販売機へと辿り着いた。

 

「ええっと、ヤシの実サイダー。ヤシの実サイダーっと。

 あ!あったって、ミサカはミサカは目的の飲料水を見付けて、迅速に投入機にお金を入れてみたり」

 

 ガシャコンッと出てきたヤシの実サイダーを取り出し、元の病室へと帰るだけとなった打ち止めは、そこで余裕が生まれた。そして、余裕が生まれたということは緊張の糸が途切れたということでもある。

 そうすると今まで気付かなかった事にも気付く。今まで恐怖から一度も見ようとはしなかった、暗がりの通路の向こう側へと視線が向いてしまったのだ。

 そこにあった光景を見て、打ち止めは口から心臓が飛び出るかと思った。

 なぜなら、

 

 

 

 通路の奥の方から金髪の子供が地面を這ってきたからだ。

 

 

 

「うぎゃああああああああああああ!!!!ってミサカはミサカは絶叫してみるぅぅっ!!」

 

 手にしていた缶ジュースを放り投げるアホ毛の少女。

 病院内で絶叫するなど非常識にも程があるが、今まさに非常識が目の前で起こっているのだ。今回ばかりは許して欲しい。

 科学の街で起こる怪奇現象に打ち止めは大パニックだ。妹達がまた悲劇に巻き込まれないように、多くの人が残骸の対処に尽力してくれているというのに、自分は何でこんな全く関係のないピンチに陥っているのだろうと、本気で嘆く打ち止め。

 腰が抜けて動く事もできない打ち止めは、これから自分が念動力(サイコキネシス)のような力で潰されるのか、はたまた身体能力向上系の能力者のように、その体からはあり得ない埒外の膂力で首を絞められるのか、あるいは科学では説明不可能な非科学で殺されるなどの、悲惨な未来想像し彼女はぶっちゃけ泣いていた。

 

 だが、いくら震えていても目の前に居る金髪の子供は、打ち止めへと襲い掛かって来ない。立ち上がる様子が一切無いのだ。

 

「……あ、あれ?ってミサカはミサカは想定とは違った結果に戸惑ってみたり……」

 

 恐る恐るという足取りでその金髪の子供に近付く打ち止め。怖くはあるがこのまま放置するのもそれはそれで怖い。そろ~りと足を伸ばしながら近付いてみると、なんだか女の子の吐く息が荒い。

 そんな新事実に足へ力が入りかけるが、よく聞いてみるとその吐く息はどこか苦しそうな感じがする。その顔を上から覗き込んでみると、その子は最近この病院に入院している女の子だった。

 

「あなたって確か……」

 

「はあ……っ、はあ……っ、……助けて…………るいこ……」




一応キャラの特徴なんかは詳しく書いてるつもりなんですけど、とある未読者にはイメージし辛かったりするのでしょうか。
自分自身だと分からないので、感想欄で書いてもらえると嬉しいです。


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80.無人駆動鎧

 予想外の非常事態に、ボウリング場の中は阿鼻叫喚となっていた。突然乱雑に駆動鎧(パワードスーツ)が侵入してきたのだ。こうなるのは必然であった。

 そんな周りの惨状を見ながら、天野は納得したかのように呟く。

 

「なるほど。追い詰めていたのは僕達の方ではなかったということだね」

 

『そういうことだ。「超能力者(レベル5)が相手なら逃げ腰になるに決まっている」、なんて事を無意識下で認識しちまった時点で私達の術中だ』

 

 こちらの言動に応じて言葉が返ってくる。おそらく近くに盗聴器のような物が設置されているのだろう。混乱した周囲のざわめき具合からみても、声をわざわざ潜める必要は無いようだ。

 その事を把握すると食蜂は気持ちを切り替え、機械の向こう側に居る運び屋に対して切り込んでいく。

 

「……確かに、今回はあなた達にしてやられたけど、別にだからと言ってこちらの戦力が変わる訳ではないでしょう?

 超能力者(レベル5)大能力者(レベル4)、それに加えて数値では認められなくても、多重能力(デュアルスキル)と言っても過言ではない彼女を合わせた、私達を相手にしてあなた達に何ができるのかしらぁ?」

 

 これは傲りでも何でもなく純然たる事実だ。対人なら無類の強さを誇る食蜂と、体のリミッターを外し常人の数倍の身体能力を行使できる帆風。

 さらには、どのような能力者や状況においても、対処する術を即座に用意することができる天野。このメンバーならば隔絶した差がある学園都市第一位や第二位を除いた能力者に、後れを取ることの方が難しい。

 そして、いくら不利な状況に追いやったとしても、それからリカバリーすることが可能な人間がこの場には最低でも二人は居る。

 精神面と戦力の両方から鑑みても、掠り傷を負うことよりも無傷で帰還する確率の方が圧倒的に高い。

 しかし、その事実を知ったにも関わらず、相手の調子は微塵も変化しなかった。

 

『ああそうだな。それぞれの戦力をリスト化すれば、私達はお前達に全く及びもしない。真正面からやり合えば何もできずに敗北するのがオチだろうさ。

 ──だが、それでも抜け穴は存在するんだよ』

 

 食蜂の片眉が僅かに下がる。食蜂の想定ではここで心理的なアドバンテージが、多少であっても取れるはずだった。

 人の心理を操るのプロフェッショナルとして、こう言った精神的な負荷を相手に与える事は食蜂の十八番である。しかし、相手からの反応には全く手応えを感じない。

 恐怖を興奮や自己暗示で抑え込んでいる訳ではないという事だ。

 では、コイツのこの余裕はなんだ?

 

『お前達は決して完璧なんかじゃない。ふとしたミスもすれば間違った行動する事も当然ある。つまり、この世全ての事柄を数値化して0か1かで判断する、合理性を突き詰めたAIみたいな奴等じゃねェ訳だ』

 

 先程の食蜂みたく、既に分かりきっている事柄を明らかにするかのように説明していく運び屋。しかし、そこには自分のように優位性を確立するための作為を食蜂は相手から全く感じられなかった。

 食蜂の背中に冷たい物が伝う。

 

『感情っていうバグがあるなら、最適解を選び続ける事なんざまず不可能だ。なら、あとはそこを突けばいい』

 

「ご高説はもう充分よぉ。たかが駆動鎧(パワードスーツ)に入ったぐらいで、私の能力に対抗できると……ッ何ですって!?」

 

 食蜂はリモコンを駆動鎧に突き付けボタンを押すが、何故か駆動鎧の中の人間が能力にかかった様子はない。

 食蜂の能力に対応するための、専用の機械でも取り付けているのかとも考えたが、能力開発の科学者に洗脳をして書き換えてあるし、今回の食蜂は飛び入り参加のため、彼女らも都合良く用意はできないはずだ。

 生半可な機械など当然のように効力を発揮することはないため、用意するのは食蜂専用の機械ということになる。とはいえ、どのようにして能力を行使するかは未だ確証がないことから、専用器具でも防ぐことができるかは疑問だが。

 

 その事から食蜂の能力を防ぐことは彼女達には不可能である。しかし、こうして実際に駆動鎧を操縦している人間が、能力にかかった様子はない。

 ならば、答えは一つだけだ。

 

「まさか、……全て無人機だって言うの!?」

 

『純粋な機械相手じゃお前の能力は効力を発揮しない。そして、駆動鎧の動きを統括しているアイツの脳を、機械越しに弄くる事もできないだろう?

 さて、頼みの綱の能力が行使できないこの状況で、お前に何ができる?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな会話をしている横でオリ主は動揺していた。

 

「(クソッ!聞いたことねえ声じゃねえか!誰なのか判断できねえんだけど!?)」

 

 オリ主は澄まし顔とは裏腹に、内心では焦りに焦っている。それもそのはず、今回は今までのような既知の展開ではなく、明確に外れた展開へと変わってしまっているのだ。

 そのため、打開するために自分のあらゆる知識を総動員して、何かしらの突破口を見付けようと足掻くが、何故か運び屋の事は記憶のどこにもヒットしなかった。

 

「(禁書の三期にこんな声の声優は出ていなかったぞ……?『旧約』に居ないのならまさか本当にモブキャラ?でも、それにしてはパンチがある気がするんだよな……。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 疑問は尽きないが、どれもこれも答えを導き出せないのが現状だ。敵は未だ分からず樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の、もう一つの残骸(レムナント)を何に利用するかも分かっていない。

 俺達にはみさきちが言ったように戦力は充分に整っているが、地の利はあっちにある上に、大量の駆動鎧の用意からして、おそらくこちらの能力は割れていると考えるべきだ。

 そして、駆動鎧の無人機と聞いて一つの推測が浮かぶ。

 

「……君、その技術をどこで手に入れたんだい?」

 

『ほう?どうやらお前はコイツ等の事も知っているようだな』

 

 目の前の駆動鎧から音声が流れる。聞こえたのはアナウンスの少女とは違った別の男の声だ。どうやら駆動鎧のどこかに会話をするための機械を、あとから取り付けたらしい。

 その名も知らない男に向かってオリ主は話し続ける。

 

模造生命遠隔装置(ケミカロイド)計画。半月ほど前に『スタディ』が企て実行した計画だろう?」

 

 半月ほど前の出来事を思い出しながら問い質す。

 

『その通りだ。彼等の研究成果と私達独自の知識から、核となる能力者である人造人間が手元に居なくても、無人駆動鎧を行動させることに成功した』

 

「驚いたね。まさかそんな事ができるとは思わなかったよ。産みの親である『スタディ』だってできなかったのに」

 

『手元に既にあるのならわざわざそんなことをする必要がないだろう。それに、何もリスクもない訳じゃない』

 

「何だって?」

 

 怪しいセリフに反射的に言葉が出た。

 

『無人駆動鎧は人造人間から切り離した、髪の毛を介して起動している。私達がしているのはその髪から、本体の人造人間に接続しているに過ぎない。

 だが、端末からできることなど高がしれている。本体に届いたとしても端末からの情報など、切り捨てられる可能性が高い。

 ならば、打ち込むべきはただのデータでは不適切だ。そこで私は思い付いた。天野倶佐利、お前のお陰でな』

 

「僕の……?」

 

 『スタディ』関連についてはほぼノータッチだった。『アイテム』の方にちょっかいをかけていたのにも関わらず、何でそこで俺の名が出てくる?

 俺の疑問に答えるように男は、その内容を話し出した。

 

 

()()()()()()()一方通行(アクセラレータ)との戦いで、お前は暴走し爆発的に能力が向上した奴と相対しただろう。そのレポートを見付け今回の事に利用させて貰った』

 

 

 まさか、あれが今回の事に繋がっているとは考えもしなかった。確かに、俺が原作に介入してしまった事で起きた事だが、それさえもコイツ等の力になっていたとは。

 

「……フェブリ達の心理を揺さぶったのかい?」

 

『いや、そんなまどろっこしい真似をする必要はない。暴走とは能力者が能力を制御できなくなる状態の事だ。つまり、それと同じ状況にすればいい訳だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(なるほど、能力が容量以上(キャパオーバー)になれば、それは間違いなく能力の暴走になる。その上、フェブリ達は科学で生み出された存在。

 通常の能力者よりもデータが揃っていて、能力を発動するときはカプセルの中へと入れられていたから、他の能力者よりも外から入力されることに脆弱なのか……!)」

 

 そういう風に生み出されたため、そうあって然るべきなのかもしれない。冥土帰し(ヘブンキャンセラー)も流石にそこまでの対処は行っていないはずだ。

 苦々しく思いながらオリ主は嫌味を言った。

 

「でも、驚いたね。あの場には様々な勢力が居て、君達のような暗部の人間は近付きにくかったはずなんだけど。

 まさか、その技術をあの騒動の中で手に入れていた組織が居たとはね」

 

『確かに、この無人機に使われている技術は、彼等の研究成果を流用させて貰ってはいるが、お前は一つ勘違いをしている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「どういうことだい?もしかして、君達が雇った凄腕のハッカーが彼等のデータを盗んだとでも?」

 

 そんな人材が居るならそれも可能かもしれない。だってセキュリティもあの『スタディ』が使ってたものだろうし。

 それを聞いた男は俺の発言に、失笑したかのような態度を取った。

 

『残念ながら私もあの女もハッキングに関しての技術は持ち合わせていない。どちらかというと工学系統だろう。

 私達が『スタディ』の研究成果を手に入れたのは、そんな邪道ではなくどちらかというと正攻法だ』

 

 え?暗部が正攻法とか何言ってんの?(困惑)

 お前らって正攻法とか正々堂々とかのフレーズに、嫌悪感を抱く人種じゃなかったっけ?

 

 そんな言いたい放題なオリ主の内心などもちろん伝わらず、男は事のあらましを説明していく。

 

『聞いたことはないか?奴等のような暗部に浸かる事もできない半端者に、援助している暗部組織があるとな』

 

「そういえば聞いたことがあるね」

 

 事件の終わりにそんな話を人伝で聞いたような気がする。明らかに成功する確率が限りなく低く、理由が承認欲求に突き動かされた損得ではなく、感情によって定められた方針なんて最悪の一言なのに、とんだ物好きも居たものだなと思っていたけど、それがまさか

 

 

『彼等に資金面での援助等を行っていたパトロンは、私達だということだ。彼等に期待は微塵もしてはいなかったが、彼等の研究成果は駆動鎧を扱う私にとって非常に有益であった』

 

 

 どうせ話を噛み合わせるための設定のようなものだと思っていた。ラノベでよく見る、『なんかよくは分からないけど物語を進める上で都合よく居る存在』みたいのかと勝手に思い込んでいたのだ。

 そんな思い込みでこんなしっぺ返しが来るとは、流石に思ってなかったわ。

 

「(クソっ、思ってた以上に話が地続きに話が進んでる。原作から外れるとこういう展開が当たり前のように生まれちまうのか……?)」

 

 気付くと同時に背筋が震えた。

 それこそ最も恐れていた原作崩壊だ。いくら修正力が働くとはいえ、その修正自体もバタフライエフェクトとして処理されるならば、その内どこかで処理落ちしてしまうことだろう。

 その時に起きた決定的な何かが、この世界を終焉へと導く事になるかもしれないのだ。

 その事を明確に悟り、意識が飛びそうになった。

 

『他にもそう言った小粒な集団に援助と銘打って、様々な技術や情報を手にすることに成功した。

 一大組織とは違い数段質は落ちるが、縛りが無い分数さえ集めれば後々こちらの方が利益になるということだ。もちろん、闇雲ではなく利益になりそうなところを、あらかじめピックアップはしているが』

 

「……つまり、あなた達はその技術を全て使い、物量で以て私達を制圧するという訳ですか」

 

 男とオリ主の会話に帆風潤子が割って入り、男に話し掛けた。今現在、オリ主はダウンしているためナイスプレーだ。

 

『卑怯だと思うか?だが、お前達のような高位能力者を相手取るには、こう言った物をこちらも用意しなくては歯が立たない。

 恨むのならばお前をこの場に連れてきた、そいつ等と自らの不幸を恨むんだな』

 

「──もう、結構です」

 

『何?』

 

 突然会話を断ち切った帆風は、挑みかかるようにして視線を駆動鎧へと向けた。

 

「私の行動は全て女王のためにあります。このような状況で女王のお側に居られること自体が私の幸せなのです。

 私に不幸と呼ばれる事態が仮にあるならば、何も知らずあとになって全てが手遅れになったその時。

 女王の命令で私はここにいる事に、一切の不満もございません」

 

 強敵を前にして帆風は堂々と断言をした。

 無数の駆動鎧を前にして彼女は一瞬の怯みもしない。側に居た食蜂を抱えて、四方を取り囲む駆動鎧に強い視線を向けて言い放った。

 

「余り私の覚悟を馬鹿にしないでいただきたいですわ」

 




◆裏話◆
オリ主はこの小説の開始日である2019年6月5日に転生したため、2020年3月24日に幻想収束にて発表された、黒夜の声優さんの声を知ることが絶対にできないために、声優さんからキャラを判別することが不可能なのです。
ちなみに、とある魔術の禁書目録Ⅲは2019年4月まで放送されていました。


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81.帆風潤子の敬愛

このキャラはさらっと書いて終わるつもりだったのに、サブタイトルに乗るほどになってしまいましたね。
それでは連日投稿の81話です。どうぞ


 それは食蜂が学舎の園を飛び出す数分前に(さかのぼ)る。

 

「帆風。あらかじめ言っておくけど、今回の騒動はかなり危険のものになるわ。覚悟はいいかしらぁ?」

 

「もちろん覚悟はできております。……ですが、女王。一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

 

「許すわぁ。何かしら?」

 

「女王は御坂様といつご関係が改善されたのでしょうか?」

 

「……えーと?どこをどう見たら私と御坂さんが、仲良くなったように見えるのかしらぁ?私と彼女が仲良くお茶すると思う?

 それに、御坂さんとは運命力で、一生分かりあえないと決定付けられてるし」

 

「いえ、てっきり女王なら御坂様の頼み事は、断るかと思っていましたから。一切の取り引きも無しに応じるとは、申し訳ございませんが思ってもいませんでした」

 

「……ああ、そういうこと。別に全てが全て御坂さんのためではないわぁ。今回の物が学園都市の修復力で直されるのなら、私としても事前に破壊しておきたいのよぉ。

 だから、これは御坂さんのためとかじゃなくてこれは全部私のわがまま。その事を踏まえてもう一度聞くわぁ。私の駒となる覚悟はあるかしら?」

 

「──はい、もちろんです。自由にお使いください」

 

「…………はあ、今さらだし私が言うのもあれだけどぉ。よく他人に命令されたいなんて思うわねぇ?私だったら絶対に聞かないのに」

 

「ふふっ、そう言った人間も居るということですよ女王」

 

 そんな朗らかな笑顔での返答に、肩を竦めて敵を追跡するために出掛ける彼女を、帆風は後ろから付いて行く。その顔は決意に満ちた戦士の顔であった。

 

「(女王。あなたがわたくし達の事を『駒』と呼びながらも、本当は大切にしていただけていることには全員が気付いております。それこそ、いざとなれば身を呈してお庇いになられるでしょう。

 その事がわたくし達には分かります。自惚れなどではなくわたくし達が育んできた絆は、それほどまでに強固に繋がっていますから。

 仮にもしその時が来ても、あなたは一切の責任をわたくしに与えず、自らがお抱えになるはず。

 ……そんなことは絶対にさせません。そんな状況になったとしても必ず打破してみせます。

 あなたが床につくなどあってはいけない。あなたがわたくし達のせいで俯くなどあってはならない)」

 

 彼女は心酔レベルで食蜂を特別視しているが、それは神聖視していることと同義ではない。食蜂が普通の女の子としての感性もあることを知っている。食蜂の能力が無敵ではないことも知っている。

 そんな彼女だから付き従うかいがあるとも思っている。

 帆風潤子は思う。

 駒になることには一切の不満はない。それが彼女のためになるのならば。

 

「(あなたのその在り方にわたくし達は憧れ、そして敬愛しているのですから)」

 

 

 

 

 

 

 

 無人機が溢れるボーリング場。

 その空間を金髪と紫が縦横無尽に駆け巡っていた。速度は人間が出せる速度を超えているが、どちらも不安は一切感じられない。

 片割れの少女がもう一人の少女へ端的に命令を出す。

 

「帆風。八時の方向に二機」

 

「はいっ!女王!」

 

 その言葉を聞いて方向転換をした帆風潤子は、食蜂を抱えながら現場に急行する。一般人に襲い掛かろうとした駆動鎧(パワードスーツ)の背後へと接近した。

 

「はあッ!!」

 

 裂帛の声と共に飛び蹴りを放ち、駆動鎧を破壊する。左にいた駆動鎧が手に持ったバールを振り落としてくるが、一歩横に移動しいとも簡単に躱した。当然のことだが、食蜂を攻撃から一番遠くへと移動させる事も忘れない。

 自らの背中の近くへとバールが通過する風を感じ取りながら、足を入れ替えて回し蹴りを放った。

 

 バキャァッ!!と機体が凹む感覚が足を伝うのを感じながら、そのまま他の機体が居る方向へと蹴り飛ばす。

 これで既に十三回目だ。息の合った主従のコンビネーションは、流石の一言だろう。

 

「女王、一時の方角に向かいます!」

 

「分かったわ」

 

 この掛け合いが既に何度も繰り返されている。食蜂は帆風にお姫様抱っこされているため、死角となる背後の状況について知ることができる。それを有効活用し彼女に指示に出しているのだ。

 

 だが、それでは対処できないケースもある。

 駆動鎧がほぼ同じタイミングで人々に襲い掛かったのだ。一体を即座に撃破しもう一体に向かうが、あっちの方が僅かに早い。それを見た帆風は抱えている食蜂に向かって声を掛ける。

 

「ッ女王!」

 

「任せなさぁい☆」

 

 帆風のスペックではどう能力を絞り出しても、あの攻撃には間に合わない。

 だからこそ、その一歩を後押しする。食蜂は手に持っていたリモコンを帆風のこめかみに押し付けた。

 

意識改変(カテゴリ348)。危機管理能力の低下と共に、上限ギリギリの能力の行使」

 

「ッ!!」

 

 ドウッ!!っと空気を切り裂く音を震わすその速さは、今までの速度とは段違いだ。その超人的な挙動は、絶対に間に合わないはずのタイミングへと滑り込む。

 一般人に叩き付けようとしたその右腕を蹴り飛ばし、左足で胴体を遥か彼方まで吹き飛ばす。後ろにいた他の駆動鎧を巻き込みながらその駆動鎧は大破した。

 それに対して、駆動鎧達は先程の攻撃とは打って代わり、面での攻撃に移ろうとするが、

 

「頼んでもいいかしらぁ?」

 

「『誰に言ってんのよッ!!』」

 

 ズバチィ!と瞬いた高圧電流が、鋼鉄の壁をまとめて弾き飛ばす。

 そこにいたのは学園都市第三位の御坂美琴、ではなく彼女に変身した天野倶佐利だ。彼女は緑色の髪を揺らして駆動鎧を沈黙させていく。

 

「私達の役目は天野さんが撃破できなかった、両サイドから漏れ出た駆動鎧の破壊よぉ。あなたは一対一ならともかく相手が大勢だと少し分が悪いわぁ。なら、その機動力を活かす遊撃として動いた方がいい。

 天野さんの能力は劣化しているのだし、御坂さんのようにはいかないでしょうしねぇ」

 

 帆風もその言葉を聞いて、実際にそうかもしれないと思った。

 

「(御坂様の能力がどこまでできるのか、わたくしは存じておりませんが、相手が金属を取り入れた駆動鎧ならば、磁力を操りまとめて制圧できるのではないでしょうか?

 それをせずに電撃で対処されていると言うことは、磁力での操作はそこまで上手くはできないということの裏返しとも取れますね)」

 

 代名詞の超電磁砲(レールガン)を放たない事も、それが一因なのだろう。

 伝え聞いた話によると、この駆動鎧の集団など一掃できるほどの攻撃力があるにも関わらず、未だに出さない理由は無い。威力の調整もできるようなので、一般人を傷付ける可能性も低いはずだ。

 推測だが天野倶佐利は出力はもちろん、精度すら本家より数段落ちているのではないだろうか。

 そんなことを考えながら目の前の駆動鎧を破壊すると、食蜂から次の指示が飛んできた。

 

「次は五時の方向よ。……でも障害物が多いようね。まずは迂回ルートを割り出して「女王しっかりとわたくしに掴まっていて下さい」……へ?」

 

 そう言った帆風は近くの壁へと近付き、三角飛びの要領で壁を蹴った。

 漫画の描写が起源のため、この動きは日常生活では目にすることも、実際に活用することも普通は無いが、そこまで異常な行動ではない。

 

 それで五メートル先まで跳躍しなければ。

 

 平面が無理ならば立体的な動きをする。その動きで運び屋を追って来たのだから、この場で彼女ができない理由はない。

 彼女が着地点に居る駆動鎧に意識を向けた。数瞬後に駆動鎧はスクラップにされる事だろう。出力では超能力者(レベル5)並みと言われているのは伊達ではない。

 

 

 これは余談だが、食蜂は帆風に抱えられていたため、急に襲ってきためちゃくちゃな負荷を当然の如く味わうこととなった。

 そんな彼女は帆風の腕の中で、潰れた蛙のような声を出したようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくし、数が大分減った駆動鎧を眺め緑髪の短髪少女は深く息を吐いた。

 

「『流石、アンタの派閥の人なだけあるわね。まさか、ここまでできるなんて思ってなかったわ』」

 

「ふふんっ驚いてくれたかしらぁ?帆風は派閥の中でも私の右腕よ。私と組めばどんな状況も覆せるわぁ。

 ……それと、もう御坂さんの姿になるのは止めてもいいんじゃないかしらぁ?無関係な一般人は避難させて、駆動鎧も三分の一程度になったわけだし」

 

「『まあ、確かにそうだけど。……理由って本当にそれだけ?』」

 

「あと単純にムカつく」

 

「──相変わらず君はわがままだね」

 

 変身を解いてやれやれとでも言いたげなオリ主を見て、そっぽを向く食蜂。美琴とは相性が致命的に悪いため、これもしょうがないことなのだろう。

 そんなプリプリしている食蜂から目線を外し、駆動鎧の方に目を向けた。

 

「それで、君達はどうするつもりだい?頼みの綱の無人駆動鎧も半分以下で人質ももういない。僕としては降参するのを奨めるよ」

 

 てっきり駆動鎧の男から返答が帰ってくるかと思ったが、上のアナウンスから幼めの女の声が流れてきた。

 

『おいおい、もう勝った気か?』

 

「そっちこそ、ここから逆転の目があるとでも?」

 

 その問い掛けには答えず、逆に食蜂は高圧的に問い掛ける。

 

「確かに、私の能力はあなた達に無力化されたわぁ。でも私達(レベル5)には能力がなくとも高度な演算能力がある。突破口の一つや二つ見付けるのなんて、二人が作り出す時間があればいくらでも思い付くわぁ。

 ──あまり超能力者を舐めないでくれるかしらぁ?」

 

 強力な能力ばかりに目を向けがちだが、彼女達の能力を支えているのはその演算能力である。計算し結果を導き出すのは彼女達にとってお手の物だ。

 本来ならば能力を使用するために思考の何割かを割いているのだが、駆動鎧に能力が効かないため、逆に今の食蜂は全てのリソースをそちらに向けることができる。

 230万人いる能力者のたった七人しか存在しない、超能力者の一人にして精神系能力者の頂点。心理掌握(メンタルアウト)

 彼女は誰もが認める天才中の天才なのだ。

 

「そういうことさ。君の勝つ可能性は無いよ」

 

『……』

 

 その言葉を聞いてマイクから発する声は沈黙した。

 それは図星だったからか、はたまた怒りで言葉が出なくなったのか。

 だが、結果から言えば両方とも違った。

 

『くっくっ、ははははははははははははははははははははッッ!!』

 

「……何か面白い事でもあったかい?」

 

 まるで堪えきれないとばかりに笑っていた声は、言葉となって俺達に感情の全てをぶつけてきた。

 

『ああッ!これが笑わずにはいられるか!?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「「ッ!?」」」

 

 その声と同時に再び階下から駆動鎧が入り込んできた。確かに、二度目があるとは思わなかったが、別段そこに真新しさはない。現時点で戦力が増加されても、同じ作業をすればいいのだから問題となることが全くないのだ。

 つまり、三人が驚いたのは駆動鎧の登場ではなかった。明らかに先程までと違った点が一つだけあるのだ。

 

 機体の部品が変わった様子も出力が増加した様子も見られない。先程の駆動鎧と全く変わらないモデルだ。

 先程と変わった部分は一つだけ。先程はバールなどの凶器を掴んでいたその手に()()()が握られているのだ。

 その人間の手より一回り巨大な手に握られていたのは凶器などではなく、

 

 

 

 

 先程、食蜂達が逃がした人質達だった。

 

 

 

 

「な……」

 

『ほら、たーんと味わえよ。ここからはしっかり味の付いた物を出してやる。前菜なんかの薄味で満足してたら、最後まで辿り着かずに脱落だぞ?』

 

 その駆動鎧達は人質を掴んだ腕を上げた、まるでこれからその人質を使って何かをするように。

 

「ま、さか……!」

 

 食蜂がその先の展開を予想し顔を青ざめる。その様子をどこかのカメラで見たのか、敵の女はさらに狂った笑い声を上げた。

 そんな中で駆動鎧達は叫びを上げる人質を無視し行動する。すると、その右腕を三人の居る方角へと振り抜いた。

 

 つまりは、投擲。

 サーカスで言うところの人間大砲。だがこれは、本来のものとは違い、着地することなど念頭に置いていない悪魔の諸行だ。その光景に三人の喉が干上がった。

 

 今までの三人の活躍を嘲笑うかのように、悪意にまみれた作戦を戸惑いなく実行してくる敵。この容赦の無さや悪辣さは、今まで三人がそれぞれ体験した悪意の中でもかなり悍ましいものだ。

 まるで、学園都市の闇を体現したかのようなその人物は、全ての悪意を集約させたような声で彼女達に言い放った。

 

『──暗部を舐めてンじゃねェぞクソガキ』

 

 




この章でまとめて消化しないといけない話を全てやっちゃいます。もう少しお付き合い下さい。


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82.悪辣な罠

連日投稿二回目です。


 無人駆動鎧が三人の少女に破壊されていく様子を、駆動鎧を操る男であるシルバークロース=アルファはカメラ越しに眺めていた。

 

「なるほど最適解だな」

 

 三人の動きをシルバークロースはそう評価した。それに対して音声越しに黒夜も賛同する。

 

『まず、パニックに陥っている一般人を第五位が洗脳し、この場から迅速に離脱させる。当然、その一般人達を私達は人質を取り返そうとするが、天野倶佐利の劣化模倣(デッドコピー)で第三位に変身し、その駆動鎧(パワードスーツ)を無力化。撃ち漏らしたのを第五位を抱えた女が身体能力強化の能力で破壊する。

 チッ、どうせなら一体ぐらいは中身に、人間を詰め込んだ方がよかったか?』

 

「そうなると、規格の問題が出てくるだろう。中には人造人間の能力を引き出すためのケースがセッティングしている。

 そこにさらに詰め込むならば、スペースを作るために改造しなければならない。そして、外から分からないようにするためには、普通よりも時間がかかる。

 はっきり言ってしまえば時間の無駄だ」

 

 「ふーん、そうかい」と呟いた黒夜には、大して未練は見受けられない。言ったこともただの思い付きで、否定されたとしても特に気にはならないようだ。

 こちらが本題とも言うように、声の調子を変えた黒夜はシルバークロースに事務連絡を伝える。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。第一段階を終了し第二段階へと移る』

 

「了解した」

 

 そうして通信は切れた。

 突入させた無人駆動鎧の大半が行動不能になるのは規定路線だ。勿体ない気もするが黒夜が立てたこの計画の立案通り、ここで使い潰すのは悪くない考えだろう。

 

「数は揃えられるが愚鈍な事に加えて精度も大したことはない。奴等の成果物など所詮はこんなものか」

 

 シルバークロースにはいくつかの『コレクション』があるが、人造人間の駆動鎧はそのレパートリーの中でも下位の部類だ。

 物量のごり押しがシルバークロースのやり方だが、この兵器は鈍重な事もあって目標を撃破するのには向いていない。

 

 画面の中でまた一つ駆動鎧が破壊される。それを見ながらこれからの作戦をシルバークロースは頭の中に作戦内容を思い浮かべた。

 その内容を思い出し、画面に移る緑髪の原石を見て彼はあり得るだろう未来を予測した。

 

「今回、もしも生き残ることができたのならば、お前は暗部(こちら)へと足を踏み入れる事になるかもしれないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「うわああああああッッ!?!?!?」」

 

 その機械の巨腕から投擲されたい二人の少女は、真っ直ぐ三人の方へ向かってきた。

 

「くッ……!!」

 

 帆風はすぐさま飛んでくる人間の対処へと移る。その迅速さは見事と言う他がない。しかし、人の命が懸かってくる状況へと、いきなり追い込まれたプレッシャーは精神的に帆風を追い込む。

 

「(どのくらい衝撃を往なせるかに掛かってきます!普通に受け止めては必ずどこかにダメージが残ってしまう──ならばッ!)」

 

 突っ込んできた人の足と背中を掴むと同時に、その場で三回転程スピンをする。

 ギュルルルルッ!!と、牛革の靴底から凄まじい音が放たれたが、その軸がブレることはない。

 

 格闘技であるボクシングや拳法の太極拳で、共通するのは円の動きだ。力を出す上で円の動きこそが力をより加えられる。

 これは力を逃がす事にも応用できる。力を上手く伝えられるということは、力のベクトルを効率よく変換するということでもあるからだ。

 そして、体細胞中の電気信号を操作し、身体能力を底上げする帆風潤子にとって、流れる力のイメージは常人より遥かに掴みやすい。

 まあ、あの学園都市一位のように理論的にではなく、どちらかというと感覚的にではあるが。

 

 そして、回転が終わった彼女を見てみると、掴んだ人質も帆風もダメージを負ったようには見えない。つまり、彼女はあの衝撃を完璧に往なしほぼ0に抑えたのだ。

 

 隣を見るがそこには天野倶佐利は居なかった。自分よりも後方二、三メートル程離れた場に所居る。どうやら力を受け流すために後方へ下がったらしい。

 帆風と比べてしまえばあれだが、勢いよく飛んでくる人間を怪我無く受け止めたのだ。大したものであると言ってもいいだろう。

 

「ふぅーー……。なんとかできましたが、次もわたし達に投擲してくるかは分かりません。早々にあの駆動鎧(パワードスーツ)を破壊しなくては!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あー、つい反射的に受け止めちゃったわ)」

 

 間一髪の人命救助をしたにも関わらず、めちゃくちゃ冷めている奴が居た。

 

「(いや、もうなんかこれ条件反射みたいになってない?何十年同じこと繰り返してると、体に染み付いちゃうものなんだなぁ……)」

 

 しみじみとオリ主は人体の不思議を実感した。

 

「(おいおい、体が自然と人助けしちゃうとか上条かよ。いやー無いわー。上条はオンリーワンだっつの。紛い物が過ぎるわ。

 ……いや、ちょっと待って。上条の偽物とかアレイスター案件じゃね?

 うっわ!なにそれ最悪じゃん。しかも、上条を手本にしたからあながち間違ってないのがあれだわ)」

 

 内心では人質の事の心配は微塵もしていないオリ主だった。オリ主にとってモブキャラは文字通りのNPC。それこそ、この世界にあるオブジェクトの一つという認識だ。

 ゲーム進める度にNPCを助ける行動などしていては、効率が悪いにも程がある。そんな無駄な行為をし続けたい奴はまずいない。

 

「(でもまあ、ここで人質ほっぽって行くとみさきち達に軽蔑されるし、今までの積み重ねも無駄になるし全員助けてやりますかね。なんだかんだ今まで続けて来れたんだし、今回も変わらんか。

 それこそ、NPC救出クエストだと思えばありでしょ)」

 

 実際はNPC救出クエストって、キャラのレベルとかほとんど関係無いから嫌いなんだよなー、とか思いながら人質の少女を降ろそうとするが、なにやら引っ付いて離れない。

 ぎゅー、と袖にしがみついているのだ。

 

「(えぇ……。こんなタイムロスまであんの?他の奴も助けないといけないからマジで離れて欲しいんだけど。

 ……え?いや、まさか、このまま助け続けろなんていう無茶ぶりじゃないよね?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 食蜂は全ての思考を能力の演算ではなく、状況把握に向けている。だからこそ気付けた。

 

「(おかしいわよねこれって。暗部は学園都市の運営の障害となる存在を、排除するために生まれた組織。

 一般人を実際に巻き込むなんて粛正対象じゃないのぉ?

 仮に今回の依頼人が統括理事会の人間だとしても、暗黙の了解を有耶無耶になんてできるわけがないわよねぇ。まさか、力業でどうとなるとでも?

 ……いや、あの発言からみてもその可能性は低いわねぇ)」

 

 先程、マイクの女が言っていた、『暗部を舐めてンじゃねェぞ』と言う発言と照らし合わせるなら、今この状況こそ彼女達自身が暗部を舐めているとも取れるのではないだろうか。

 

「(彼女達にとって暗部と言うのは、それほどまでに重要視される事。そこから外れて傲慢に振る舞うなんて彼女達のポリシーに反しているわ)」

 

 辻褄が合わない。しかし、そこで停滞せず超能力者(レベル5)の頭脳はあらゆる可能性を模索する。

 

「(人質を殺しても暗部に粛正されない理由。例えば捕まっている人質が学園都市にとって不利益になるような人物。

 この場所を指定したのは彼女達だしその可能性は高いけど、捕まっている人質の年齢が小学生ぐらいの子供ばかり。余りにも幼すぎる。

 親が学園都市に不利益を及ぼす存在なのだとしても、わざわざ子供を殺す必要はない。それこそ反発が強くなるだけ。

 ましてや、あの子供達が学園都市に仇なす存在だとしても、この場で殺す必要性が感じられないわ)」

 

 今まさに人質が投擲された。しかし、食蜂に不安の二文字はない。

 

「(あの二人なら大丈夫。それより次の行動よ。次は対処できる投擲での攻撃なんてして来ない。量を増やすのかやり方を変えてくるか。どちらにしてもエグい方法なのは決まっているッ!)」

 

 その可能性を明確に読み取り二人を信じて思考に没頭する。

 

「(なら、何なの?人質を殺すメリットは学園都市には無い。つまり、粛正対象となることは必然になる。人質を殺しても粛正されないその理由って……。

 …………いえ、それよりも()()()()()()()()()()()())」

 

 無視できない違和感が浮かんだ。

 

「(天野さんや帆風のスペックなら、飛んでくる人間を殺さずに受け止める事なんて、今までの戦闘映像を見れば容易に想像付くはず。何故二人なんていうそれぞれが対処できる数にしたの?

 相手に手加減する必要なんて無い。それこそ数を増やしたり、投げてくると同時に攻撃を仕掛けてもよさそうなのに、駆動鎧は特に動いてはいない。

 何なの?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……ッ!?)」

 

 思い至ったと同時に食蜂の腕が動いた。

 鞄にしまっていたリモコンを取り出し、その標的に狙いをつける。

 

 

()()ッ!その少女を振りほどいて全力回避ィッ!!」

 

 

 ダンッ!!と何かに弾かれたように後ろへ飛び退く。今まさに駆動鎧へと向かおうとしていた本人は、その自らの挙動が理解できず、状況を理解するまで数秒の時間を要した。

 

「じょ、女王!?いきなりどうし──」

 

「チッ……あともうちょいで殺れたのに」

 

「ッ!?」

 

 着地同時にその声の方に目線を向けると、先ほどまで自らの腕の中に居た少女が恐ろしい言葉を言っている。その手には光を反射している刃物が握られていた。

 そのどこにでも居るような、ツインテールの少女はどこか不満そうでありながらも、にこやかな笑みを浮かべて続けてこう言った。

 

「まァ、いいや。本命の方はやり遂げてくれたようだしねェ」

 

「あ、あなたは一体「天野さんッ!!」──ッ!?」

 

 自らが仕える女王の叫び声を聞いて反射的に顔を向けた。その顔はいつもの自信に満ち溢れた顔ではなく、か弱い女の子のものだ。

 ただならぬ事態だと察し、その名前の人物に視線を向けると、とても信じられない光景が広がっていた。

 

 

 

 ポタポタッと、座り込んだ彼女の足下にそれが滴り落ちていたのだ。そこから視線を上に上げると、雫の発生源である腹部から光を反射するナイフが生えていた。

 

 

 




感想欄でもあったグサーですね。


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83.暗闇の五月計画

本当に書きたかった話。


 ナイフを突き刺した少女は笑みを浮かべて言った。

 

「まだだよねェ?アンタはこの程度じゃ死なないもん」

 

「ガハッ!?」

 

 ブシュッ!と天野倶佐利の傷口から、赤黒い液体が地面へと溢れた。その光景を天野の腹部からナイフを引き抜いた少女は、嬉しそうに眺める。長年の願いが叶ったような恍惚の表情だ。

 そして、その少女はそこで止まらず、再び凶器を突き刺すために振り上げる。

 

「……本当に羨ましいよ。初めから何の苦労もなく手に入れた力ってのはさァッ!!」

 

気絶昏倒(カテゴリ030)ッ!!」

 

 少女は腕を振り上げると同時に、体から力が抜けたように崩れ落ちた。

 食蜂の能力で意識を飛ばされたのだ。そして、もう一人の帆風を襲った方にも能力を掛ける。

 二人の少女を昏倒させた食蜂は、自分の対応が間に合わず歯噛みをするがそれも仕方がない事だ。

 能力をかけるのは帆風に掛け慣れていたし、食蜂には『能力を掛けた者の面倒を見る』という自分ルールがある。

 先ほどまで能力を掛けていた帆風に、能力を優先的に掛けることは不思議じゃない。

 だが、それで天野は傷付いた。

 

「(帆風に掛けるんじゃなくて『少女二人の意識の剥奪』と命令していれば……っ!!)」

 

 判断ミス。それで自分以外が傷付いたことに後悔する。

 ……だが、天野は死んだ訳じゃない。それこそ、時間さえあれば彼女自身の能力で傷を治すこともできるはず。

 

「帆風ッ!今すぐ天野さんの援護を──きゃああッ!?」

 

 ドガァンッッ!!と爆発音が辺りに木霊した。そして、それと同時に天野の姿が突然現れた煙の奥へと忽然と消えた。しかし、一ヵ所だけ起きた粉塵と、何かが落下したような音を基に帆風は推論を導き出す。

 

「……まさか、一階へとッ!?」

 

 煙が晴れて今しがた天野が居た場所が、綺麗にくり貫かれたようになっているのを実際にその目で見たが、とても信じられる光景ではない。

 しかし、すぐに意識を切り替え追いかけようとするが、状況がそれを許さなかった。まだ残っていた駆動鎧の群れが一斉に彼女達を襲ってきたのだ。

 まるで、こうなることをあらかじめ予想していたように。

 その光景を見た食蜂は驚き、目を剥いて叫んだ。

 

「あなた達の本命は能力を無力化された私じゃなくて、戦闘能力が一番高い天野さん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パラパラとコンクリートの破片が落ちる音を聞きながら、その少女は腹部を押さえて苦しんでいた。

 

「ッ……はあ……っ、はあ……っ」

 

 地面をくり貫かれ落下した地点は、ちょうどショッピングセンターの十字路となる場所だった。既に二階でのことは伝わっていたのか、店員はどこにも居ない。

 一人の空間に(いざな)われたオリ主は、刺された腹部を押さえてそのまま能力で治療しようとしたその瞬間。

 

 ゾバンッ!!と空気を断つ音を鳴らして、何かがオリ主の居る場所に迫ってきた。

 

「ぐッ……!!」

 

 それを必死に躱して事なきを得る。避けきれず髪が数本散るが、逆に言えばそれだけで済んだことを喜ぶべきだろう。

 そして、自分に襲い掛かってきた先を見てみるとそこに人影がは居た。

 

「おいおい、その怪我でまだそんなに動けるのかよ。いやー、これは予測の範囲外だ。流石はあの第七位と同じ原石って事か?」

 

 そこに居たのは十二歳ほどの少女だ。その少女は肘まであるロンググローブとズボンが、ボンテージの編み上げとなっている。全体的にパンクの装いの服を着ていた。

 編み上げの部分やお腹の部分などから地肌が出ているが、色気を感じないのは年齢よりも彼女が纏うその空気だろう。

 憎悪や殺意の中を歩んで来たかのようにその目は濁り、とてもその年齢の少女とは思えない眼差しをしている。

 明らかに『表』の人間てはなく、『裏』の人間だ。

 

 フードを頭に被せただけの白コートから、僅かに黒髪を覗かして歩いてくる少女は、まるで理解できないような物を見る目でこちらを見ている。

 そんな、彼女をオリ主は見たことがあった。

 

「……何故、君が……」

 

「おやぁ?私の事を知ってくれてるのかにゃーん?『模範生』サマに知って貰えてるなんて光栄だね」

 

 そんなことは実際に微塵も思ってなさそうな声音で、少女は小馬鹿にしたようにオリ主へ言葉を投げ掛ける。

 

 

黒夜(くろよる)海鳥(うみどり)。アンタを殺す女だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帆風!早くここを突破するわッ!」

 

 食蜂がいつも纏っている泰然とした余裕は、そこには微塵もなかった。先程の光景はそれほど衝撃的だったのだ。

 それもそのはず、オリ主は今まで食蜂の前では重傷を負ったことが一度もない。話では大怪我を何度もしているのは聞いていたが、食蜂の中では天野倶佐利という少女は、スマートに何でもこなす人間であった。

 爆裂の槍(クイーンダイバー)のときも颯爽と現れ解決した。そして、自らの能力があの少年よりも全く効かない能力者。

 そのことから、どんなに絶望的な戦いでも一人ピンピンした様子で帰ってくる、自分よりも遥かに強い能力者だとそんな幻想を無意識の内に思ってしまっていたのだ。

 

 だが、実際に包帯を巻いているところを今まで一度も見ていないため、その思考になってしまうのも仕方ないかもしれない。

 「刃物で刺された」、「銃弾で撃ち抜かれた」と言われても、翌日には怪我一つなければ実感もしにくいはずだ。

 

「ですが『女王』!この数が相手では……ッ!」

 

 無尽蔵とも言えるほどに現れてくる駆動鎧(パワードスーツ)。帆風一人なら撹乱すれば対処する事は容易な動きだとしても、抱えている食蜂を守りながらでは、防御か回避に徹するしかない。

 先程とは違い天野の援助もなければ、洗脳をして無理矢理能力の向上も得策とは言えない。

 あれは、ギリギリの出力を短時間だけ行使する事で帆風の負担をできるだけ減らしている。この数を相手にすれば、いつしか帆風の身体が先に壊れてしまうのは目に見えている。

 食蜂もそれは分かっているのだが、天野の状況を鑑みればすぐにでも割って入らないと命が危ない。そして、その事を分かっていながら、帆風に言ってしまった理由は他にもある。

 

「さっきのあのセリフ……」

 

 さっきの襲撃犯の少女が言っていた、『……本当に羨ましいよ。初めから何の苦労もなく手に入れた力ってのはさァッ!!』という言葉から察するに、もしかして彼女達が天野俱佐利を襲う彼等の理由は……。

 

「今回の算段は急造で立てられたものじゃなく、以前から決められた可能性がある。もし、本当にそうならそれこそ一刻の猶予もないじゃない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その名を名乗られてオリ主は一瞬だけ痛みが遠退いた。それほどまでに衝撃の名前だったからだ。

 

「(黒夜……海鳥、だって……ッ!?なんで『新約』の登場キャラがここにもういるんだ!?)」

 

 そう、黒夜は旧約には出てこない。新約の一巻目に初めて登場するキャラなのだ。こんな序盤の序盤で出てくるなど絶対にあり得ない。しかし、そのビジュアルも言葉遣いもオリ主には見覚えがありすぎた。

 

「(……なるほど、感じていた既視感はこれか。一方通行(アクセラレータ)をコピってんだから、そりゃこの世界で身に覚えがある演算パターンだ。

 今までの容赦の無さや悪辣さはまさに黒夜そのものだし)」

 

 そんな内心驚愕しながらも納得しているオリ主に気付かず、黒夜は言葉を投げ掛けてくる。

 

「まさか、第五位まで巻き込んで来るなんざ思わなかったが、アンタが来るだろう事は予測していた。アンタの事は前から注目してたからな」

 

「(…………注……目?)」

 

 言っている事が分からずに、オリ主は激痛に堪えながら眉を潜めた。それもそのはず、彼女は暗部に身をおいている人間である。

 それに対して、オリ主は今まで暗部になるべく関わらないようにしてきたために、暗部が今までしてきたことはほぼノータッチなのだ。

 

「(そんな暗部とは関係のない表の人間の動向に、あの黒夜がいちいち注目なんてするのか……?)」

 

 そんなオリ主の疑念を察したのかどうなのか、黒夜がとある単語を出した。

 

 

「私の事を知ってるって事は、当然聞いたことがあるんだろ?──『暗闇の五月計画』をよ」

 

 

 もちろん知っている。とある好きなら知らない人はいない程の単語だろう。だが、なぜここでその名前が出てくるんだ?

 

「学園都市第一位の一方通行(アクセラレータ)の演算パターンを植え付け、能力を向上させるって計画だ。

 私はその数少ない成功例で、一方通行の演算パターンを取り入れて能力を強化した。

 周りの科学者共に媚びへつらっていた、絹旗ちゃんは『優等生』とか言われて、私は『劣等生』なんて呼ばれててな?」

 

 ちょっと待て。コイツもしかして……。

 

「まさか……僕を狙ったのは……ッ!」

 

「おっと、勘違いさせちまったか?別にそれが襲撃した理由なんて言わないよ。コンプレックスでもないしな。

 アイツらが欲しかったのは強い能力を持った、顎で使える都合のいい『犬』だ。そんな条件下で優秀だなんだって言われても反吐が出ちまうだろ?

 結果的には能力の向上になったわけだから、むしろ感謝してるぐらいさ。まあ、一方通行の攻撃性に近付き過ぎたせいで、あの計画の関係者全員皆殺ししちまった私が言ってもあれだがな」

 

 淡々と語るその様子から、黒夜にとっては本当になんでもないような事なのだろう。

 

「アイツらが勝手に決めたラベリングに興味は無かったが、アイツらから時々話に出てくる『優等生』や『劣等生』とは違う、『模範生』って奴に興味があってな。あとになって調べてみれば面白い経歴ばっかで驚いたぜ。

 そんでこの間はあの『一方通行の撃破』の一役買ったそうだな。最後に倒したのが無能力者(レベル0)つうのが分からなかったが、あの怪物を倒しちまうとか、一体どうやったらできんだ?」

 

「(……やっぱり、一方通行との戦闘も知ってるか)」

 

 凍結したとはいえ二ヶ月前の事だ。知っていたとしても不思議はない。

 だが、もしこれまでの出来事全てを知っているのなら、何気に今までの相手の中でも、手強い相手なのかもしれない事を直感的にオリ主は察した。そして、自らの現状を鑑みて判断する。

 

「(ぐッ……ヤバいな……このままじゃ痛みで碌に動けない……。黒夜が話してる隙に回復を──ッ!?)」

 

 その時、オリ主の元に小さな影が接近する。何が来るのか理解できていないが回避に移る。そして、それが正解だった。

 

 ドゴォッッ!!と、重たい一撃が地面を粉砕した。

 

 オリ主の今の状態で受けていれば、原型を留めていたかも怪しい程の破壊力であった。

 今のオリ主には余裕など一欠片も無い。着地することもできないのかゴロゴロと転がりながら距離を取り難を逃れた。

 

 その絶体絶命の状況でオリ主の頭は思考を働かせる。

 黒夜達はどこからこのような戦力を手に入れたのか。この人数の能力者を引き連れるなんて、暗部であってもそう簡単にできることじゃないのにも関わらず。

 そして、黒夜というキャラクターがこう言った連中を、実戦で周りに用意する事もなんだか不自然のような気がした。

 

「(……そもそも上の階に居た時点でおかしな事ばかりだった。どうして上の階で俺はナイフで刺された?

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 そう、ナイフなどよりも殺傷能力が高い窒素爆槍(ボンバーランス)でオリ主を攻撃していれば、より深い傷を与えられたのは明らかだ。

 そして、それは縦ロールにしても同じことが言える。あのとき、彼女も受けた攻撃は確かナイフだったはず。

 あの黒夜がいたぶるという理由で、暗部の仕事に時間を掛ける可能性は低い。それほどまでに黒夜は暗部であることに誇りを持っている。

 それにも関わらずそれをしなかったのには、他に理由があるのだ。

 絶大な信頼を向ける己の武器を使わない理由。つまり、あのとき自分を襲った二人の少女は、

 

「(黒夜じゃ、ない……?)」

 

「──そろそろ気付いたころか」

 

 オリ主の思考に挟み込むように話し掛けてくる黒夜。その顔には謎を解かせることで、自分の計算通りの答えに誘導することができた愉悦の笑みが広がっていた。

 そして、まるでそれが合図であったかのように、状況はいきなり変化した。

 

 ザザザザンッ!!とオリ主と黒夜を囲むように、二十余りの人影が地面や棚の上などに飛び移るようにして現れたのだ。

 

 まるで、ここから絶対に逃がさないとでも言うように、殺気が辺り一面に充満する。いきなり現れた小さな襲撃者達にオリ主は動揺した。

 

「(コイツらこんなに居たのか!?この人数相手だと本当にヤベェ!?)」

 

 隙を突けばどうにかなるという次元を超えており、これは王手を掛けられたものだ。なにもできず下り坂を転がり落ちていくイメージをオリ主は想起した。

 それに対し、この場を作り出したその人物は、その整えた舞台が完成したことで内から歓喜の感情が止まらず湧き出ている。

 その溢れる感情を一切抑えず、黒夜は嬉々として語った。

 

「ここにいる奴等の共通点。それはアンタに対する憎悪だ。

 どうしてもアンタが許せねェっていう連中に、コンタクトを取ってこうやって集結させた。ここまで集めるのには苦労したぜ。

 アンタに報復したいって理由で心理掌握(メンタルアウト)の前に立った、アイツ等には感謝してるよ本当にね。

 だって、──お陰でダメージを負わせて、私達は確実にアンタを嬲殺しにできるンだからな」

 

 憎悪を全く抱かれ無いとは言わない。それなりにこの世界でヤンチャな事を幾つかしてきたつもりだ。しかし、この年代の子供に恨まれるなんて事があるのだろうか?全く関わりがないのにも関わらず。

 そんなオリ主の反応を見て黒夜は笑った。

 

「身に覚えが無いってか?ああ、そうだろォな。アンタは私達に何かした訳じゃない。アンタはアンタの人生を送ってただけなンだからな。

 だが、アンタがコイツ等に恨まれるのは仕方がねェ。直接関わってなくても、アンタのせいで悲劇が生まれちまった事には変わりねェからな。

 なんてったって『模範生』サマだ。これほど分かりやすい対象も居ねェよなァ?」

 

 その話を聞いて嫌な予想が脳裏を浮かぶ。

 黒夜が言った『私達』というのは、自分とシルバークロースという意味ではなく別のコミュニティの事だったのでは?

 再びナイフを振り下ろそうとした、あの少女の口調は黒夜を真似たものではなく、どちらかと言えばその逆。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……?

 ドッと嫌な汗がオリ主の全身から流れる。

 

 まさかッ!

 まさかッ!

 まさかッ!

 

 コイツら正体は!

 

 その光景を見てかそれともその事実自体を知ってなのか、初めて痛み以外の顔で明確に歪んだ相手を嗜虐的な表情で眺め、黒夜はこの時を待ちに待ったと言わんばかりに大声で言った。

 

 

 

「ここにいる奴らはみんな『暗闇の五月計画』の被験体だ!!」

 

 

 




叙述トリックです。多分ですけど。
実は早めに黒夜の名前を出したのも今までの噛ませムーブも、読者に勘違いさせるためだったり


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84.分析・解析

日常回をそろそろ書きたいですね。
でも、まだ終わらないんだ(無情)
だから速攻で書ききって次の章に行きましょう


 それは一方的な蹂躙だった。たった一人に向けて二十人余りの少女達が殺意を抱き、能力を用いて襲いかかってくるのだ。

 その地獄を捌きながらオリ主は能力を使おうとする。

 

「『ヤバい!そろそろ──』」

 

「やらせるかよォ!!」

 

「『くッ…………がはッ!!』」

 

 黒夜が隠れていた障害物をまとめて窒素爆槍(ボンバーランス)で破壊しながら、オリ主へと攻撃する。それを躱わしたせいで腹部の傷は再び開いてしまった。

 痛みに呻くその様子を見た黒夜は、得意気に笑いながら自らの予測を口にする。

 

「アンタの能力は変身するまで僅かなラグがある。そんで傷を治す能力はあるにはあるが、その能力は細胞を超活性化させた自然治癒。

 それでナイフでぶっ刺さられたところを治すってンだ、かなり時間が必要なンじゃねェか!?」

 

「『……ッ!』」

 

 図星だった。

 完治させるにはそれこそ最短でも十五分から三十分近く掛かってしまう。その上、体力も回復に持ってかれるため、運動能力はぐんと下がるのだ。怒濤の勢いで襲い掛かってくる彼女達を相手に、その状態は余りにも命取りである。

 

「アンタは別に最強の能力者って訳じゃない。確かに、私達とは違って一つの能力に縛られず様々な能力を扱えるが、言ってしまえばそれだけだ。

 能力は軒並み劣化してる。それは出力であったり精度であったりな?だが、それが勝敗の分かれ道になんねェのは、アンタの手札の切り方にある。

 使う能力の劣化部分が弱点にならねェように、すぐさま他の能力に切り換えてそれを埋めてる。つまり、アンタの強さの源は能力の多さじゃなくて、適切なカードを切るテクニックって訳だ!」

 

 今現在、小さな刺客達に襲い掛かられながら、オリ主は回避しているがいつもの繊細さがない。地面を転がったりなどの全力回避だ。

 近くにある物を障害物にしたり、消火器を爆発させたりなどして撹乱し、未だに生きていることに黒夜は内心驚愕していた。

 

 だからといって手を抜くつもりは一切無いが。

 

「なら、その出させるカード自体を制限させちまえばいい。空間移動(テレポート)は物を乱立させた場所に誘導することで封じ、一方通行の劣化した能力は電撃や発火系の能力者で対応させる。

 そして、腹を刺された痛みのせいで今のアンタは長い間能力を使うこともできなければ、ただでさえ劣化した能力を十全に振るうこともできやしない!

 第三位の能力は電撃が限界なんだろう?磁力は元から精細さがねェからな。そして、第五位は運動神経がそもそもゴミだ。能力を使用しながら回避なンてしてたら串刺しだぞ?」

 

 能力のタネが見事に割れている。

 オリ主の戦いを知っているなら、その能力の多様さに対策のしようがないと結論付けてしまうものだ。しかし、黒夜は一つ一つを解析しそれに全て合致する作戦を練ってきた。

 この世界で生まれて初めての経験に、オリ主は焦って即物的な解決法を選ぶ。

 

 オリ主の姿がまたしても変わった。その立ち姿は勇ましく、目には消えることの無い根性の火が燃え盛っている男に。

 つまり、同じ原石にして格上の存在、削板軍覇へとオリ主は変身した。その一撃のみに関して、オリジナルとほぼ同等の威力を生み出す破壊の嵐。

 腕を引き絞りオリ主はその適当に付けられた技名を叫ぶ。

 

「『すごいパ』」

 

「おいおい、いいのか?上にはお前のお友達が居るんだぞ?」

 

「『!?』」

 

 ビタッ!!と、黒夜のその言葉に動きを止める。

 天野は第七位の一撃を再現するのに成功している。だが、言ってしまえばそれだけだ。他の力を使う事は何一つできなず、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それをこんなところで使えば間違いなくこの施設は崩落し、上に居る食蜂もそれに巻き込まれてしまう。

 その事に気付き体の動きを静止させた。そして、その決定的な隙を黒夜は見逃さない。

 

「ほら、隙ありだ」

 

「『ぐおぁッ!?』」

 

 黒夜の窒素爆槍がオリ主を襲い後ろへと吹き飛ばす。黒夜はその現象に眉を潜める。

 

「(あァん……?どォいう事だ?)」

 

 窒素爆槍が直撃したのならこんな結果にはなりはしない。それこそ防護膜を張っている絹旗最愛ぐらいなものだからだ。

 だが、煙が晴れたその光景を見て黒夜は納得した。

 変身した第七位の左腕が抉れていたのだ。どうやら、あの一撃を第七位の劣化した強固さで防いだらしい。そして、天野が居た足元が粉砕していることから考えて、後ろに自ら飛んで威力を減らしたようだ。

 商品や棚に囲まれているオリ主に黒夜は口笛を吹いた。

 

「ヒュー!流石だねェ『模範生』サマ。そうでなくっちゃ殺し甲斐がないよ。

 いいぜ、そのしぶとさに免じて教えてやる。何でアンタがコイツらに恨まれているのかをな」

 

 動けないオリ主は黒夜の話を聞くしかできない。そして、聞かない理由も無かった。

 

「さっき言ったな。アンタが『模範生』って呼ばれてたって。何で実験の参加者じゃないアンタがそう呼ばれてるか分かるかい?」

 

 知っている訳がない。だからこうして困惑しているのだから。

 

「『暗闇の五月計画』は一方通行の演算パターンを切り取り、置き去り(チャイルドエラー)のガキに植え付けて能力を向上させるプロジェクトだ。

 だが、他人の演算パターンを植え付けられれば、高確率で人格の分裂や廃人になっちまう」

 

「…………」

 

「だが、奴らは構わず実験をやり続けた。研究者共の強行ってわけじゃなく、実際『上』からも大量の資金が与えられていたらしい。つまりは、その実験の有益性を学園都市が認めてたってわけだ。

 とある一人の能力者のせいでな」

 

 ……なるほど、話の流れが読めてきたぞ。まさか、その話からすると俺と『暗闇の五月計画』の関連性っていうのは……。

 オリ主が導き出した推察と黒夜の話が合致する。

 

 

「奴らにとってアンタの存在は、自分達の実験の最終目標の一つとされていたらしい。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 つまりはそういう事だ。オリ主はこれまで何千何万とコピーしてきた。その特異性が『暗闇の五月計画』において、重要視された項目ということだろう。

 

「まァ、アンタは私達と違って元からある能力の向上って訳じゃねェから、『首席』にはならなかったらしいけどな。

 とはいえ、どのみち()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(……黒にゃん風情が小癪な。……その内、電気の能力でどっかの不良娘と同じことしてやる……っ)」

 

 そんな事を思いながらオリ主は結論を出す。

 『暗闇の五月計画』の被験体(コイツら)がしてるのは、はただの八つ当たりだ。実際に悪いのはどう考えてもその科学者達に決まってる。

 だが、もしも「どうしてあの『模範生』ようにできないんだ!」とか「アイツと同じ事ができなければ価値はない!」なんて事を言われ続けていたなら、俺に憎しみが向くことも不思議じゃない。

 ──それが四、五人なら。

 

「……君『簒奪の槍(クイーンダイバー)』の主義主張を転用しているんだね」

 

「!……何の事かにゃーん?」

 

 一瞬、驚いた顔をしたあとに黒にゃんは口を三日月に歪ませた。

 

 ……ビンゴだ。

 やっぱりアイツらの思考をそのまま、『暗闇の五月計画』の子供に刷り込んでやがる……!

 

 簒奪の槍(クイーンダイバー)は自分達が挫折した理由は、食蜂操祈にあると考えた。

 能力者は無意識に放たれるAIM拡散力場というものがある。御坂美琴でいうところの「動物に忌避されてしまう微弱な電磁波」だ。

 その事から簒奪の槍は彼女の能力である心理掌握(メンタルアウト)にも、同じように無意識に能力が放出されているのではないかと考えた。

 要するに、その無意識に放たれた心理掌握が自分達の精神を操り、道を外れさせたという結論ができあがったのだ。

 その理由から食蜂を襲うというのが、彼らの主義主張なのだが、やっぱり今回も同じことが言える。

 

「(自らの不幸や挫折をたった一人の要因のせいだと設定して、周りに居る似通った境遇の人物と感情を同調し、その思考を一本化する主義主張。確か、社会心理学じゃあエコーチェンバー現象とか言ったっけか。

 その考えを利用してこれだけの人数を集める事に成功した。なおかつ全員が俺を殺すためだけに行動する、黒夜にとって都合のいい駒になっている)」

 

 一方通行の演算パターンを植え付けられているなら、集団よりもなるべく個人で動こうとする傾向にあるはずだ。絹旗のような防御性ならばともかく、それ以外の演算パターンならばそういう傾向になるはずなのだ。

 そして、彼女達の思考を一本化するために、強固付けているものがある。

 

「(今回の場合は実際に科学者共が俺の名前を言っていたらしいから、「かもしれない」なんて根拠の無いものじゃないのが厭らしい……)」

 

 調べるまでもなくその張本人が言っていたのなら、当然憎悪は俺に向きやすい。

 

「(ええい!ことごとく俺が関わって、原作を変えた事件ばかり作戦に組み込みやがってッ!当て擦りのつもりかッ!?)」

 

 実際このオリ主の考えは当たりである。黒夜は天野俱佐利に注目していた他のどの能力者よりも、だからどんな情報も手に入れてその一つ一つを考察していた。

 そして、生み出されたのがこの作戦なのだ。オリ主の軌跡を利用して悪用し自分の利益に変える。これこそが黒夜海鳥。暗部を生きる女である。

 

「はぁ、はぁ……、君は僕を殺したあとの報復は怖くはないのかい?君を間違いなく彼らは殺しにくるよ」

 

「残念ながらそれはねェぞ?」

 

「…………何だって?」

 

 何を言ってるんだコイツ。多重能力(デュアルスキル)の突破口として俺が重宝されてる事も知らないのか?上層部に殺されるのは目に見えてるだろうに。

 

「僕の唯一性は誰もが知っていると思うけどね。そして、多重能力はまだ生まれていない。なら、僕を失うデメリットが分からない彼らではないと思うけどね」

 

 どうして削板軍覇がいるのに、俺が実験動物送りにされてないと思ってるんだ。削板と並ぶ程の貴重なサンプルだからだぞ?そんな俺に殺してもいいだなんて命令を出すわけがない。

 しかし、俺のそんな思考を馬鹿にするかのように黒夜は喋り出す。

 

「分からねェかなァ。いつから自分だけが特別だなンて錯覚したンだ?その体質が今後一生、誰にも解析できねェもんだと何故決め付けた?

 科学者なンて生き物は粒子加速器を生み出し、地球に居ちゃあ観測不可能なビッグバンをも理解しようとする連中だぞ?そんな奴らがお前のその特性を微塵も解析できねェとでも?」

 

 何を言っている……?

 まるで、それじゃあ成功したと聞こえるぞ?そんな訳がない。何故なら、この能力も身体も腐っても神が造ったものだ。人間ごときに解明なんてできる訳がない。

 しかし、黒夜は語る。その絶対にあり得ないはずの決定的な一言を。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 今度こそ思考が空白になった。




もはや、黒夜はオリ主のファンではないだろうか

この話に杠林檎は居た方がいいのかな?まだ『とある科学の未現物質』買ってないから分からないですね。
流れ的にいないとおかしいのかな?分かる人アドバイスお願いします。


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85.絶対的な机上の空論

あともうちょい。


「理論が完成された……?」

 

 その言葉に驚愕する。そんなことは一度ですら考えた事はない予想外の事態だった。原作でも不可能であったと散々言われていたため、実現するなどあり得ないと思っていた。

 もし、それが本当ならば原作改変の最悪とも言ってもいい。

 

 だが、頭の冷静な部分がそれを否定する。

 

「嘘だね」

 

「あン?」

 

「もし、理論が完成されたのだとしても、その存在が今まで僕の耳に入って来ないなんてことは、まずあり得ない。

 それにあくまでも理論は理論だ。実際に生まれていない以上、ただの机上の空論でしかないよ」

 

 そんなふざけた理由で殺されるなんて冗談じゃない。実物がいない以上どうせ成果を誤魔化して、どこかの科学者がでっち上げたような事か、あるいは俺の事が気に入らないどこかの誰かが吹き込んだ真っ赤な嘘。

 あるいは、俺の動揺を誘うためのブラフとして考えるのが妥当だ。

 だが、俺の言葉を聞いても黒夜の顔には嘲りがあった。

 

「おいおい、忘れちまったか?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……何を言って?」

 

 言っていることが分からず混乱する。机上の空論なんてものはただの想像や妄想だ。絶対的な根拠なんて無い。そのものを実際に作り出して初めて断言できる。

 それなのに、黒夜はその机上の空論に信頼を置いているようだ。黒夜はその絶対的な信頼の根拠を述べた。

 

「分かンねェか?いや、それとも分かりたくねェのか?何、簡単な話だよ。仮に机上の空論だとしても、この街の奴らが絶対の信頼を置くもんがあるはずだ。

 例えそれが、前人未到の計画だとしても、必ず成功すると算出するこの街の叡知。

 ──樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)がな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「御姉様ぁ~♡」

 

「ええいっ!必要以上にしがみつくな!アンタ大怪我してるんでしょうが!!そろそろ死ぬわよ!?」

 

「お姉様の腕の中で死ねるのならそれも本望ですの。お姉様、どうか黒子の有終の美を飾って下さいまし~♡」

 

「コ、コイツまさか、血が無くなりすぎてハイになってるっ!?でも、電撃浴びせたり殴ったらマジで死ぬわよね。

 え?嘘?詰んだ?私には唇を奪われるか、ここで黒子を抹殺するかの二択しか無いって言うの……?」

 

 あの少年と後輩のピンチを救って別れたあと、大怪我をした後輩を救急車が来るまで側に付いていた御坂美琴だったが、ここに来てそれを少し後悔していた。

 救急車を待つ間、ぐったりしていた白井黒子が急にしがみついてきて、「ぐふふふっ、今はあの類人猿すらいない、わたくしとお姉様だけの二人きりのプライスレぇスなこの状況。ピンチを助けて貰ったわたくしは、さしずめ囚われ身から助けて頂いたお姫様と呼称するのが正しいのでしょう。ええ、そうでしょうそうでしょう。

 ならばその姫がすることは手を振ってさようならなどという無礼千万な事ではなく、ちゃんとした褒賞を与えることですの。

 ええ、これは黒子の欲望などではなくちゃんとしたマナー。つまりは淑女の嗜み。性別の壁などは問題ではありません、感謝を伝えることは誰もがすべき事なのですの。

 そんな些細な事で頓着するなど淑女としてはおろか、人間として恥ずべき思考回路。例え、黒子のファーストキスがこの場で失ったとしても、それは仕方の無い事。ええ、これは断じて黒子の欲望などではありません。ここに他の人が居たとしても必ずそうするはず。そうするのが自然の摂理なのですからぐふふふ」と、耳元で垂れ流しされたときは全身を悪寒が走り抜けた。

 言っていることがめちゃくちゃな事から、それほどまでに意識が朦朧としているのかとあのときは考えたが、そもそも平時でもこんな奴だと思い直す。

 しかし、重傷には変わり無いため振りほどけないのが現状だ。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!さっきの理屈で言ったらあの馬鹿も対象に当てはまるわよ!?いいのそれで!?」

 

「お姉様と唇を交わせるなら、犬に噛まれたと思って受け入れますの。ああ!でも、そうしたら流石の黒子でも傷ついてしまいます。ならば、そんな傷心の黒子を再びお姉様に、癒して貰わなければいけませんね。

 ああ!(高音)なんという事でしょう!お姉様と再びベーゼを交わせるだなんて黒子感激ですの!愛してますお姉様ぁん♪」

 

「勝手に決断して勝手に妄想して勝手にトリップした!?どこまで行く気なのこの後輩!?自己完結型の変態なんて、流石の私でも手が付けられないわよ!?

 気付きなさい黒子!ソイツは私じゃないから!アンタの作り出した妄想でしかないから!」

 

 あの少年に半ば解決する役目を押し切られたが、やっぱり自分が行った方が良かったのでは?

 選択肢を間違えたか?とかなんとか思っていると、すぐ目の前に唇を突き出す後輩の顔があった。

 

「お姉様~♡わたくしと結婚を前提に熱いベーゼをぉ♡」

 

「ストップ止まれ止まんなさい止まれって言ってんだろうがあああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心臓が強く脈打つ。何を言っている?何を言ってるんだ?樹形図の設計者による算出?そんなの不可能に決まっている。だって、

 

「樹形図の設計者は破壊され、その残骸(レムナント)は君達が実際に持っているはずだろう……?」

 

「ああ、確かに残骸は私達が持っている。破壊されたのも嘘じゃない。なら答えは一つだ」

 

 その返答で黒夜に言われるよりも早く結論へと達した。とてもじゃないが信じられない。しかし、黒夜は「きっとそうだろう」何て言う裏付けの無いもので行動はしないだろう。

 暗部を生き辛くしようとする意味が黒夜には一切無いのだ。つまり、この推測はかなり高い確率で当たっていると言うことになる。

 樹形図の設計者が破壊されているにも拘らず、多重能力が発現すると既に算出されている。

 その矛盾をなくしながら、その全てを満たしながら樹形図の設計者を使う唯一の方法

 

 

 

「破壊される以前から、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)によって、多重能力(デュアルスキル)を生み出すシミュレートは打ち込まれていた……?」

 

 

 

 これならば、例え机上の空論だとしても『上』が動く理由にはなる。「正解だ」と言い黒夜はさらに付け足す。

 

「まあ、アンタの言っていたこともあながち間違ってはいない。本当の意味での多重能力は結局測定不能だったらしいからな」

 

「本当の意味での?」

 

「何でも樹形図の設計者が導き出し確立したのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それについてもクリアしないといけねェポイントが幾つかあるらしいが、そもそも費用が馬鹿みたいに高いらしくて未だ開発はされてねェらしい。

 言っちまえばそのコストさえどうにかすれば、実現可能って訳だ。高過ぎて今後しばらくは出てこないらしいが」

 

「(純粋な工学技術で生み出す、コストが高い多重能力?)」

 

 その話を聞いてオリ主は既視感を覚えた。それは、前世での知識での事。体がサイボーグだかアンドロイドだかの、あらゆる能力者の能力を使うことができるチートキャラ。

 

「(それって恋査じゃね?)」

 

 なんて事はない原作キャラだった。

 安堵の息を吐きそうになるがそれでも疑問が浮かぶ。どうしてオリ主の能力から恋査が導き出されたのか。

 

「(俺の劣化模倣(デッドコピー)は神からの特典だぞ?それが何で恋査に影響する?)」

 

 オリ主の能力である特典改弐は、相手に触れることでその姿を完璧にコピーし、劣化はするものの能力も宿すことができる一種のチートである。

 それに対し、恋査は学園都市で生み出された神とは全く関係の無い技術だ。

 背面に格納されている『編み棒』を展開し、計算式を基に体の設計図を組み換えることで、複数の能力者の特徴をその身に宿す。それがオリ主と恋査の能力の違い。

 そこまで考えてオリ主は思った。

 

「(割りと共通点あるわこれ)」 

 

 能力者へと姿を変えて能力を切り換えるなんて、まさにそのもの。さらに、本来とは全く違うチートの体を操るなんてところも似通っている。まあ、これはおそらく偶然だろうが。

 その事からオリ主を調べていく内に、その理論ができても特別おかしくはないということだ。

 

「実際に超簡易版の実証実験も成功したようだ。まァ、さっきも言った通り余りにもかかる金が莫大過ぎて、フルスペックで作れねェのがネックになるらしいがな」

 

 黒夜はおそらくその再現されるコピーが、俺と同じように劣化した能力だと思っているのだろう。俺の能力から導き出された理論だからそう思い込んでも仕方がない。

 実際には測定不能である削板軍覇以外の、超能力者(レベル5)の完璧なコピーと、半径200メートル以内に居る能力者の能力を、任意でコピーするというチート野郎なのだが。

 とは言え、腑に落ちない点が存在した。しかし、その疑問を黒夜は容赦なく粉砕していく。

 

「アンタに知らせなかったのはデータを寄越さなくなるのを防ぐため。純粋な工学技術で生み出す理論は確立しても、人間の能力者としての多重能力は未だ確立していないからな。

 奴らは謎を謎のままなのは気に入らないんだとさ。まァ、それも分からなくも無いがね」

 

「……なら」

 

「だが、中にはお前にもう価値を見出だせていない奴らも居るンだよ。工学技術で再現するのはあくまで最終目標。

 その途中段階である多重能力者を生み出す方式が、一切分かって無いのが問題でね。

 第七位と同じようにアンタは測定不能。だが、第七位の演算パターンが繊細で複雑なのに対し、アンタは大雑把で適当。解明されるのは第七位よりも長い年月が必要だとされている。

 そンな訳で、最近じゃあアンタの身体の方を解剖して分析し、その数値を新しく入力しよう、なんて連中も居てな。

 私の依頼主もその一人って訳さ。能力が生み出される根源は未だに解明されていない事もあって、その身体を調べたいンだと。

 奴らが言うには自分の姿を変えるアンタは、その身体自体に能力を宿しているんじゃないのかってよ」

 

 どちらかというと魂の方だと思っていたが、確か神も合わせるために改造したとか言っていたから、あながち間違っていないかもしれない。

 そして、経験則とかつての知識からそれに気付く。

 

「……そうか、君の後ろに居るのは統括理事会の一人だね。何かしらの絶対的な取り引きをしていれば、もし擁護派からの何らかの制裁があったとしても、身の安全を守るならこれ以上無い人選だ」

 

「おっと?ここら辺はアンタが今までやって来た、権力闘争の分野だから理解が早いな。もちろん、ここら辺を詳しく言う気はないけどな」

 

 ここまで強気に出られたのはそう言うことだ。絶対的な後ろ楯があるからこその行動。

 

「(今の会話で傷を治すことはできなかったけど、体力はある程度回復した。今なら磁力でコイツらを叩き伏せるぐら……い……?)」

 

 ドサッ!とオリ主の身体が完全に地面に倒れ伏した。困惑し眼球を動かし状況を把握しようとするがさっぱり理解ができない。

 身体を動かそうとしても指一つ動かせないのだ。

 黒夜が笑いながら話し掛けてくる。

 

「まさか、本当にこの私がただの暇潰しで、長々としゃべってたと思ってたのか?これもアンタを倒すその一手だよ。

 アンタはあらかじめカードの切り方を決めているが、別に臨機応変に動けない訳じゃない。その場で機転を利かせて逆転することもあったよなァ?

 なら、アンタと長い間戦うのは得策とはいえない。時間を稼がれたときの保険の一つや二つは当然手を打ってあるさ。

 ──あンだけ動き回ったんだ。そろそろナイフに着けておいた麻痺毒が全身に回っている頃じゃねェか?」

 

「(マジか!嘘だろ!?)」

 

 腹部の痛みと感じていた緊張感で、その僅かな異変に全く気が付かなかった。それこそ、黒夜の手のひらの上で踊らされていたのだ。

 

「(ヤ、ヤベェ……ッ!このままじゃ!)」

 

 黒夜の手のひらから窒素の槍が生み出される。他の被験体の子供も同じようにそれぞれの武器を構えて、オリ主へと向けた。

 

「それじゃあ、これで終わりだ。バイバイ天野ちゃん♪」

 

 ゴバァッ!!と、その声と同時に四方八方から殺戮の嵐が降りかかる。一つ一つが人間を死に至らしめる攻撃だった。

 そんな死の檻の中でオリ主にできることはただ一つ。

 

「(助けてくださいお願いします!!)」

 

 懇願である。命乞いとも言う。

 そして、そんな情けない声に答える存在が、この場には居る。

 

 

 

 ドバンッッ!!!!と空間が震える音と共に、オリ主を殺すために向かっていた少女達が、まとめて放射状に吹き飛ばされた。

 

 

 

 ドサッドサッ!と、落下する彼女達は悲鳴を上げる暇さえありはしなかった。窒素爆槍(ボンバーランス)を伸ばして範囲外に居た黒夜以外は、ほぼ全滅と言ってもいい。

 いきなりの逆転劇に黒夜は何一つ理解ができずに混乱する。

 

「……な……にが……」

 

「──君が僕の敵だね」

 

「!?」

 

 先程までは毒と腹部刺傷によって、動くこともできなかったはずの少女が平然とそこに立っていた。

 彼女は今までの困惑の眼差しとは違い、全てを俯瞰するかのような視点と好戦的な目をして、その言葉を告げる。

 

 

「さあ、どこを切り落とそうか」

 

 




久し振りの登場です。


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86.ウルクのアクティブモンスター

 天野倶佐利を殺す。

 そうすれば、強力な後ろ楯と暗部での権力が手に入る。

 作戦は一分の隙もなく完璧。全ては狙い通り進みノーミスのパーフェクトゲームで幕を閉じ、私は新しい門出を歩み始めるはずだった。

 

 それなのに何だこれは?

 

 集めた戦力の大部分は今の攻撃によって行動不能にされた。少数以外はまともに立っている事もできていない。それも、たった一撃でだ。

 ほんの数秒までは確実に、こちらの圧倒的な優勢だったにも関わらず、今では形勢は見事に逆転されていた。

 そして、変化はそれだけじゃない。

 先程まで焦燥が見えていた顔などは微塵もなく、そこには今までの奴とは明らかに何かが切り替わった天野倶佐利が居た。

 

 

「君達がマスターの敵なら君達は僕の敵だ。容赦はしないよ」

 

 

 先程の言葉も合わせて物騒な事を言っているが、声音はどちらかというと穏やかだ。そこにはあからさまな殺意がない。

 

「(どォいうことだ?まるで他人事みてェに言いやがる。マスターってのは一体何の事だ?)」

 

 黒夜にとって今の天野が言っている事は、理解のできないことばかりだった。

 

「マスターは随分と慎重派のようだね。僕の存在意義は使われてこそなんだけど」

 

「ああン?」

 

「とはいえ、マスターの行動方針に意見するのは兵器としてはあってはならない事だね。マスターの行動に従うよ」

 

 黒夜は天野から発せられる言葉に疑問を持つが、どうやらこちらの反応などお構い無しのようだ。黒夜を無視して奴は一人呟く。

 

「(舐めやがって、私達の事なんざ眼中にもねェってかァ?……本来ならこのままぶち殺すところだが、あの平然とした姿から腹の傷も毒も何らかの方法で治療したはずだ。

 一気に既知から未知へと外れやがって。これも原石の力って事か?クソッ、今までの計算が全てパアだ)」

 

 今までのアドバンテージが全て消え去り、黒夜は撤退へと既に舵を切っていた。今までの一方的な戦闘は、相手の能力から導き出された必勝法と、数の差で圧倒していたという事に過ぎない。

 その全てが覆った今再び優勢に持っていく事は不可能だ。

 黒夜のこれからの行動が固まった、そんな時だった。

 

「ガアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 先程地面を砕いた少女が再び天野を襲う。その姿はフリルがふんだんに装飾されたファンシーな装いとは違い、まるで荒れ狂う獣のようだった。

 

「(そういやアイツは一方通行(アクセラレータ)の『怒り』の演算パターンを入力してたな。

 さっきの奇襲で感情が高まって今のでトンじまったか。私の得になるなら何でもいい。存分にやり合いやがれ)」

 

 黒夜は集めた『暗闇の五月計画』の被験体に対して、仲間意識は一切無い。

 一方通行の演算パターンを植え付けられたせいで、集団心理に馴染めない事もそうだが、何よりこの街の悲劇などはありふれたものでしかないのだ。

 無惨に殺された被験体に思うところは全く無いし、演算パターンを植え付けられたお陰で、こうして暗部で充分に活動することができるため、不満など微塵も無い。

 全ては自らの利益へと還元するための行動に過ぎないのだ。

 そのために必要なら幾らでも使い潰す。それが暗部だから。

 

「(さあ、どォ動く。能力による回避か迎撃か。どちらにしても撤退する時間を稼げる事には変わりねェ)」

 

 二人が衝突したあとに行動をするつもりでいた黒夜は、数秒後に起きた出来事に目を見開いて驚愕する。

 

「──なるほど、確かに"人間"が出せる出力を超えているね。様子から見てサーヴァントでいう『狂化』に近いのかな?」

 

「グガァ……ッ!!」

 

 フリルの少女が先程生み出した破壊は起きなかった。それは少女が手加減したなどということではない。そもそも、彼女は一定の怒りを抱くと理性を無くし、発散するまで暴れ続けるのだ。

 上で戦っている帆風潤子と同じく電気信号を操り、身体能力を向上させる能力なのだが、ほぼ同出力であり理性を無くしている分、彼女よりも劣っていると評価された。

 とはいえ、彼女の能力は本物だ。

 帆風とは違い自らの人体への配慮が無いため、引き起こす破壊力だけをみれば上と言えた。そんな彼女が未だに破壊を引き起こしていない理由はただ一つ。

 彼女の突き出された拳を覆うように、目の前の存在の手のひらでその拳を受け止められていたからだ。

 

 

「でも、どうやら僕の性能の方が上のようだ」

 

 

 ミシッ!と少女の拳から軋んだ音が鳴る。堪らずに少女は狂った声で呻き声を上げた。

 しかし、次の瞬間には目の前の存在へと睨み付ける。一瞬で切り替え再び攻撃へと移ったのだ。

 流石は一方通行の演算パターンを植え付けられているとでも言うべきか、痛みに苦しみ続けるのではなく、すぐさま目の前の敵を破壊するために行動を移した。

 

「ゴアアアアアアッッ!!」

 

 先程地面を砕いた時に血塗れとなった右手を、再び攻撃に使う。そんな痛々しい彼女に目の前の存在がした行動は一つだけ。

 

 

 

 ドゴォオッ!!と凄まじい音を鳴らして、少女を水平に蹴り飛ばしたのだ。

 

 

 

 真横にかっ飛んだ少女は棚や商品を多く巻き込み、壁付近でようやく止まった。当然の如く彼女の意識は既に無い。

 その光景を見て黒夜は驚愕する。

 

「(フ……ザケンじゃねェッ!?アイツはウチらの中じゃ一番攻撃力が高い被験体だぞ!?それを片手だけで対処し、一撃で沈めるなんざ幾ら何でも出鱈目すぎる!)」

 

 そして、黒夜はもう一つの事実にも気付いた。

 

「(奴の能力については散々調べに調べた。その資料からアイツが能力を使うには、姿を変えるのは絶対条件のはず……。

 ……()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()())」

 

 あり得ない事だが、もし能力を使わずにただの身体能力によるものだとしたら、もう既に黒夜には勝ち目が無い。

 何故なら先程の能力者は出力だけなら帆風と同じ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それをただの身体能力で防いだとすれば、それはもう大能力者(レベル4)に収まる存在ではないことと同義だ。

 

「オイ!オマエら──」

 

「遅いよ」

 

 ドガドゴバキゴキッ!!と、何かが砕ける音と共に黒夜以外の少女達が一斉にドサッと音を鳴らし地面へ沈む。残るは黒夜だけだ。

 黒夜は一瞬で目の前に現れた存在に目を見開く。

 

「残るは君だけだね」

 

「ば、馬鹿な!?怪力だけじゃなくスピードもだとッ!?」

 

 黒夜はてっきり天野はパワーだけ上げているのかと思っていた。しかしそれだけではなく、今の視認できない速さから想定すると、全ての身体能力が向上しているようだ。

 つまり、フリルの少女と同じということになる。先程のフリルの少女や帆風が超能力者と同等の出力ならば、目の前の存在はさらにその上、超能力者よりも高い出力と考えていい。

 

「(化け物め!化け物め!化け物めッ!こんなもの超能力者と同等かも怪しいぞ!?これで大能力者とかこの街の科学者はイカレてンのか!?)」

 

「覚悟はいいね?」

 

「ッなんだそりゃあ!?」

 

 黒夜が驚いたのも無理はない。天野が振り上げた右手から剣が生えていたのだから。

 

「(コイツの能力は変身能力のはずだ!能力のコピーもその延長線上のものに過ぎねェのに、何故そんな現象が起こりやがる!?)」

 

 理解ができない現象が立て続けに起こり、混乱が最高潮になる黒夜だが、目の前の存在は黒夜の戦闘準備など待ってくれない。

 そこで黒夜は偶然にも気付いた。目の前の存在が何を見ているのかを。

 

「(コ、コイツまさか私の手を……ッ!?)」

 

 何を考えているのか読み取れない目で見ていたものは、黒夜の両手だった。黒夜の能力の起点は手のひらであり、そこを噴出点として窒素爆槍を生み出す。

 無力化するならばそれは間違いなく有効手段であった。実際に振り上げた剣を鑑みても、黒夜の両手を切り落とそうとしている事は明白だ。

 しかし、黒夜にはどうにもできない。0.1秒後に両手が切り落とされるのをどうにかしろというのが無理な話。今から窒素爆槍を噴射し、背後に飛ぼうとしても先に切り落とされるのは分かりきっている。

 

 黒夜はその瞬間まで目の前の敵を見ていた。その姿には弱者をいたぶる愉悦も、強者という傲慢からくる油断も一切無く、淡々と作業のように攻撃を繰り出し勝利する機械のようだ。

 

「(止めろ止めろ止めろ止めろおおおおおおおお!!!!)」

 

 そして、その時が来る。

 

 

 

 ドガァァアアアアン!!という轟音と共に、ショックセンターの壁が破壊された。

 

 

 

「時間切れかな?」

 

「…………?」

 

 何だ?何が起きた?何故壁が突然破壊された?まさか新手か?それとも増援?いや、そもそも何故攻撃を止めた?

 疑問は尽きない。

 しかし、一時的に脅威は去ったのだろう。それは、既に剣から普通の手へと戻っている事から理解できた。

 

「…………ぷはぁっ!!ぜぇ……っ、はぁ……っ!」

 

 黒夜はそこまで思考を回してようやく呼吸を再開した。無意識の内に呼吸をすることを忘れていたのだ。しかし、それも仕方の無い事だろう。

 自らの理解の範疇を超えた現象ばかりが起き、突然自らの両手が切断されようとしたのだ。身体を正常に操れなくなってもおかしくはない。

 身体を正常に動かそうと懸命に息を整える黒夜だが、そんな彼女に話し掛ける存在が居た。

 

「おや、今回のターゲットはあなたでしたか。道理でクソ野郎特有の匂いが超すると思いましたよ」

 

 今しがた壁を破壊した存在は、粉塵の中から堂々とした様子で近付いて来る。気負いなど一切無く、まるでここがホームグラウンドであるかのように。

 その相手を見ると同時に、今までの変調を覆い隠す黒夜。例え命の危機だとしても弱味を絶対に見せたくないらしい。

 平静を取り繕った黒夜は口角を無理矢理上げて、その相手を挑発するように言葉を投げ掛けた。

 

「同窓会の招待状は出してなかったはずなんだかなァ?ハブられちまった可哀想ォな『優等生』の絹旗ちゃンよォ」




待ってたぜヒーロー!!(違う)

容赦とはなんぞや?とでも言いたげな鬼畜がいるらしい。12歳の少女をサッカーボールにする17歳(中身は違う)が、都市伝説で流行り出すかもしれませんね


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87.黒夜の決断

 パラパラと落ちるコンクリートの破片を聞きながら、12歳の少女は破壊の跡から悠々と歩いてきた。

 

「どうやら私が一番乗りみたいですね。まあ、今回の敵がアナタだと察し、逆算してここを特定したのですから当然と言えば当然ですが」

 

 彼女の名は絹旗最愛(きぬはたさいあい)。暗部組織『アイテム』に所属する大能力者(レベル4)だ。

 

「とはいえ、あなたがここに居るのは驚きました天野さん」

 

「──おや?僕がここに居るのはそんなに意外かい?僕からすれば君の登場の方が意外だけどね」

 

 そう言ったのは天野(あまの)倶佐利(くさり)()()()()()()()()()()()()、絹旗の人生において決して無関係とは言えない人物である。

 

 彼女が居たから実験は生まれた。

 その実験で生まれた数少ない成功例を、彼女と同じようにするために、演算パターンをさらに植え付けて廃人にしたりなど、悲惨なものを散々見てきた。

 そんなあの実験に身をもって関わっていた絹旗が、彼女に思うことは一つである。

 

「まあ、超どうでもいいことですけど」

 

 絹旗は暗部の人間だ。

 悲惨な光景など見慣れているしその光景を作り出す側である。今さら過去の事で因縁を付けるなど馬鹿げているし、時間の無駄だ。

 敵対するなら潰すし必要ないなら関わらない。彼女にとってそれだけの話でしかないのだ。

 

「あなたもそいつに加担して…………はいませんか。この光景を見てそれを思うのは超考え無しです」

 

 倒れ伏している黒夜の手下達を見て、絹旗は天野がやったのだと推測する。

 その天野は絹旗の隣まで歩いて来ると、耳打ちするほどの声音で言葉を発した。

 

「僕としてはあのアタッシュケースさえ手に入ればいいんだけど、君も戦うのかい?」

 

「ええ、私も依頼を受けてここに来てますから」

 

 先程も言ったが絹旗最愛は敵対するなら潰す。今回はそれが天野に適用されたというだけ。そして、今ここに『暗闇の五月計画』の関係者による、三つ巴の戦いが切って落とされようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(うえぇ……酔った……)」

 

 そんな最中(さなか)、オリ主は体調を崩していた。どこでそんな出来事が起きていたのか分からないかもしれないが、それにもちゃんとした理由がある。

 

「(もう少し加減して!?高速戦闘には慣れてないんだってっ!吐いちゃうからどうか気を付けてください()()()()()()()()!?)」

 

『ふむ、頼みどおり早急に敵性を排除したつもりだったけど、確かにマスターのことは気にかけてなかったね。ごめんよ』

 

 驚くべき事にそこにはマスターとサーヴァントの関係性が確かにあった。彼らは互いを認識し、それぞれの存在を確かに感じ取っていたのだ。

 思い返してみれば、『未明革命(サイレントパーティー)』の事件のときに滝壺(たきつぼ)理后(りこう)を気絶させ、『アイテム』に追い掛けられたときも、大爆発で負った傷がすぐさま治ることを知っていたかのような物言いをしていた。

 そもそも、あのとき大人に変身していたため、超能力を使うことができなかったのである。つまり、あの傷を治したのはエルキドゥの能力である【完全なる形】。

 つまり、そのときには既に二人の主従は、コミュニケーションを交わしていたということになる。

 

「(にしてもパネぇわエルキドゥ。さすがは神が造り出した兵器。いろいろ段違いだわ)」

 

『でもマスター、僕はまだ性能を出しきれていないよ』

 

「(マジで!?)」

 

 驚愕の事実。どうやらエルキドゥは手加減していたらしい。

 

『マスターとしては生かしておく方が、都合が良いのだろう?なら、兵器たる僕がそれを汲まない理由はないよ』

 

「(あらカッコいい。これは最優のサーヴァントですね間違いない)」

 

 立ち振舞いや剣に手を変化させたことから、ぶっちゃけエルキドゥってセイバーじゃね?とかオリ主は勝手に思っていたりする。

 しかし、それを思うだけで念話で伝えないところがオリ主である。

 

「(それにしても──)」

 

 

 

 

「フッ!」

 

 短い呼気と共に細い腕が突き出された。

 その細腕から繰り出される拳などたかが知れているが、窒素装甲(オフェンスアーマー)を纏えば話は変わってくる。12歳の少女の拳が何倍にも威力が膨れ上がるのだ。

 容易にコンクリートを砕く一撃が、通常攻撃として繰り出されるため、その凶悪さは語るまでもない。

 

 しかし、その一撃は難なく受け止められた。

 

 

「『なかなかやるが、俺の根性と比べちまうとまだまだだ』」

 

 

 快活に笑う少年は削板軍覇……の姿をしているオリ主である。何で絹旗最愛と殴りあっているのか実は分からなかったりする。

 

「(何で『アイテム』まで来るんだよ。居なかったよね君達。俺がエルキドゥと代わっている間に居たから、敵か味方かよくわからんぞ。……まあ、暗部だから味方ってことはないだろうけど)」

 

 事情を聞きたいが本当の事を話してくれる確証もないので、取り敢えず叩きのめし、残骸(レムナント)を回収することにした。

 掴んだ拳に力を入れると絹旗の体が浮き上がる。

 

「そんな馬鹿なッ!?」

 

「『よっこらせぇッッ!!』」

 

 そのまま拳だけで絹旗を捕まえた緑髪の少年は、背負い投げをするかのように体を捻り、地面へそのまま叩き伏せた。

 

「がはッ!!」

 

 ドガァンッ!!という破壊音と共に、蜘蛛の巣を張ったように地面が絹旗を中心にひび割れる。窒素装甲がなければ間違いなく絹旗の人生は終わっていた。

 

「(ぐっ……!肉弾戦でここまで上をいかれるとは予想外です。しかし、資料通りどうやら人を殺すことはできないみたいですね。後ろで伸びている奴らも生きているようですし)」

 

 叩き伏せられたがすぐさま距離を取り、安全圏まで下がる。

 一方通行のコピーは調べた資料によると、できるようだが反射で相手を殺めてしまうかもしれない、と考え自制しているというのは本当のようだ。

 ならば、絹旗はそこにかけるしかない。相手の善良な心に漬け込み活路を見出だす。これも実に暗部らしいと言えるだろう。

 距離を取りながら絹旗は、勝つために必要な事柄を思い浮かべながら両手を構える。

 そして、先ほどから視界に映る人間に対して、嘲るように声を掛けた。

 

「あなたは何もせずそこで見学ですか?超イイ気なものですね」

 

「…………」

 

 無言で立っているのは黒夜だ。彼女は事態がどう動くのか観察していた。いや、どちらかというと天野倶佐利を観察していた。

 

「もしかして、この場で一番弱いことを自覚しましたか?

 あなたが私と天野さんとの戦いで、文字通りの横槍を入れたにもかかわらず、傷一つ付けられない事がショックだと?

 あなたはあそこで私よりも『成績』を出せなかった。それなら、こうなるのも必然だと超思いますけどね」

 

 そう黒夜は二人の戦いに乗じて窒素爆槍(ボンバーランス)を絹旗にぶつけたが、結果はかすり傷無い無傷。

 黒夜の攻撃は絹旗には通じず、万全の状態の天野に敵うはずもないため、一番の弱者と断定された。

 

「(本来なら一番弱い奴から倒すのがセオリーですが、私一人では天野さんに勝つのはかなり厳しい。同じ大能力者(レベル4)ですが、あの人はほとんど別枠みたいなものですし。

 アイツの攻撃は私には微塵も通じませんが、天野さんには当たればダメージを与えられる。天野さんを邪魔するギミックになればっと思ったのですけどね)」

 

 黒夜を利用しようとしていた絹旗だが、その黒夜はほとんど棒立ちで碌に動こうとしない。その役立たずっぷりに侮蔑の視線を向ける。

 そんな視線を向けられた黒夜は小さく呟いた。

 

「……チッ、これしかねェか」

 

「?まだ、何かするつもりでs──」

 

 

「シルバー=クロース!!プランCに切り替える!」

 

 

 その大声が響き渡ると同時にドローンのような機械が、四方八方から飛び込んでくる。それを見た絹旗はさらに軽蔑するかのような視線を向けた。

 

「こんな機械で私達を撹乱できるとでも?破れかぶれだとしても私達を舐め過ぎでしょう」

 

「絹旗ちゃンよォそう先走るなよ。コイツの真価は破壊力じゃねェ。それを身をもって味わいやがれッ!!」

 

 そう言うと同時に、

 

 

 ジリィィィィイイイイイイイ!!!!と、甲高い音が辺りに鳴り響いた。

 

 

「ぐあッ……!?」

 

「この音は……」

 

「ッ……能力者の力を削ぐ音響兵器、知的能力の低下(キャパシティダウン)さ」

 

 黒夜はその音に自らも苦しみながら答えた。

 

「……あり得ません……ッ。あれは大きな機材が必要なはず。こんな小型の機械で再現できるはずがないです!」

 

「確かにな。だがそれが端末なら話が別だ。実際に音波を出す本体から端末へと経由して、この幾つものドローンで補い合えば知的能力の低下(キャパシティダウン)の真似事ぐらいならできる。

 とはいえ、あくまでも真似事だ。出力は落ちてるから軽い頭痛程度だが隙を作るには充分だろう?」

 

「ッまさか……!」

 

 黒夜の策略に気付いた絹旗が声を上げると同時に、

 

 ブシュゥウウ!!とドローンから煙幕が噴射され、辺りが煙で包まれる。

 視界に黒夜は映らない。

 

「(なるほど。これじゃあ空間移動(テレポート)はできない。今まで使わなかったのは、黒夜の能力だと発動するだけで煙幕が吹き飛ぶからか)」

 

 ドローンも生み出す風で煙幕が吹き飛ばしそうなものだが、おそらくもう範囲外のところまで遠ざかり、音を出す装置としての役割だけをしているはずだ。

 

「(()()()()()()()()()()?こんな事ってあるのか?)」

 

 初めての感覚に頭を捻るオリ主だが、それをエルキドゥが答える。

 

『僕の気配察知は大地と感覚を一体化し、違和感を炙り出すという方法。本来の身体ではないマスターの身体だとそれがさらに顕著だ。つまり、相手がそこにいなければ見付けることはできないよ』

 

「(大地と感覚を一体化?……まさか、黒にゃんの野郎!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 煙幕が充満する複合施設の隙間から、飛行機雲のように煙幕の線を背中に付けて、黒髪の少女が飛び出ててきた。

 彼女の背中には機械で作られたような、黒く塗られたメタリックなハングライダーが付けられている。両手から窒素爆槍を吹き出しながら黒夜は闇夜を鳥のように飛んでいるようだ。

 

「ああ、クソッ!これで統括理事会の方は失敗だ!ふざけやがってッ!なんなんだあの野郎マジモンの化け物か!」

 

 見せ付けられた理不尽さに一人声を荒立てる黒夜。先日、超能力者(レベル5)から力の差を見せ付けられたが、それとはまた違った理不尽さだ。

 黒夜は薄々理解していた。自分ではあの天野の中に眠っている特異性には、逆立ちしても勝てないということを。

 だからこそ牽制の攻撃しかできなかった。再び『あれ』が表に出てこないように。

 

「ッ……シルバー=クロース!プランBでいく。いいなッ!?」

 

『分かっている。だからそのハングライダーをお前が受け取りやすい位置に置いておいただろう。

 黒夜、何をそんなに取り乱している?敗北する可能性も俺達は考えていたはずだ。そのためのもう一つを確実に得るためのプランBだ。

 まだ、これも俺達の規定路線の一つ。何も慌てることは無い』

 

 黒夜はそんなシルバー=クロースの態度に舌打ちをしたくなった。しかし、あの見た光景を伝えても動揺するだけだ。なぜなら、それを話す黒夜がまだ消化しきれていないのだから。

 下手に動揺させる必要はない。今だって確実に安全圏へと逃げられたわけではないのだ。

 

「(資料によると、どうやらアイツの察知能力は平面的なものでなく、立体的な位置に居る存在には鈍いと観測されている。

 明確なものじゃないが、この状況ではそれにすがるしかねェ……!)」

 

 黒夜は唇を噛み締めながら次の算段へと思考を回す。どんなに動揺していてもこうして思考を止めずに回せることが、暗部で生きてこれた理由なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ……逃げられましたか」

 

 煙が晴れると既に黒夜の影も形もありはしなかった。『暗闇の五月計画』の被験体はどうやら見捨てたようだ。

 

「私があのクソ野郎の予測パターンを構築しても、裏を掛かれるだけでしょう。麦野達に連絡して新しい策敵方法を見付けなくてはなりませんね」

 

 絹旗は肩の力を抜いて構えを解いた。

 天野倶佐利も例のアタッシュケースを追っているらしい。ならば、ここで争うのは不毛が過ぎる。

 天野もそう考えていたのか構えを解いて目を瞑っていた。逃げられたことがそれほどまでに悔しいのだろう。

 自分も逃げられた事に何か思わなくはない。理性はともかく気持ちは分かるのだから。

 そんな天野は閉じていた目蓋開けて呟いた。

 

「──見付けた」

 

「は?」

 

 ぶっ飛んだ回答に絹旗が声を上げた。余りにも突飛なことで絹旗はそれが自分の聞き間違いかと思ったのだ。

 しかし、そんな絹旗の反応には一切気にせず、天野は続けてこう言った。

 

 

「この方向は……うん、大丈夫だね。彼が居る」

 

 

 




高評価ありがとうございます!コメントを見てやる気に繋がりました!
その中に鋭い人もいて、オリ主の馬鹿な思考が伏線である事に気付いていました。
第一部での重要な伏線にもリストアップしていて、やっぱりアホな作者一人では隠せないものだと実感してます。

なぜ、オリ主が見付けられたかはまた次回。


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88.頼れる男

あと2話でこの章も終わりだと思います


 タンっ!と軽快な音を鳴らして黒夜はビルの屋上から再び空に舞う。窒素爆槍だけで飛び続けるのはさすがに無理があったのだ。

 一度高いところに降り立ち、再びハングライダーを使うことで消耗を抑えている。

 戦闘がもう無いとは限らない。体力を残しておいて損はないのだ。

 

『落ち合う場所には先に着いている。付けられるようなへまはするなよ』

 

「……ああ、分かっている」

 

 返事はしたものの、あの女にそれが確実にできるのか不明である。気配などという非科学めいたものなど本当に断つことができるのか。

 

「(アタッシュケースはシルバー=クロースの手の中にある。それこそ、付けられれば私が囮になることで作戦は成功するだろう。もちろん、あの怪物達を出し抜ければ……の話だがな)」

 

 黒夜とて制裁を受けるつもりは無いのだから、付けられない事が一番なのだが。

 

「それで状況はどうなっている」

 

『ああ、無人機の多くは破壊されたが、あの女まともに動くことはできないほど消耗している。心理掌握(メンタルアウト)を連れて追ってくることは不可能だろう』

 

「それは重畳(ちょうじょう)。だが、こっちは問題が発生した『アイテム』の奴らが出張ってやがるようだ」

 

『あの原子崩し(メルトダウナー)が居る暗部組織か!?』

 

 超能力者(レベル5)の第四位に座る女。原子崩し(メルトダウナー)麦野沈利。

 こんな撤退戦をしながら立ち向かう敵ではない。

 

『黒夜』

 

「分かっている。必要ならプランCにも移るつもりだ」

 

『ただの保険のつもりだったのだがな』

 

 全くだ、と同意しながら黒夜は夜の学園都市を滑空する。

 黒に塗られたハングライダーを見付けるのは至難だろう。その蝙蝠は悲劇を生み出す悪魔の頭脳を、再び組み立てるために空を飛ぶ。

 

「(天野倶佐利を殺すだけの計画に、超能力者が二人も出てくるなんてな。本人の化け物さもそうだがこんな状況読み取れるわけが──)」

 

『ま、待て黒夜!異常事態だッ!』

 

「あン?」

 

 もしやマシントラブルか何かか?と眉根を寄せる。シルバー=クロースは駆動鎧(パワードスーツ)を操る男だ。マシントラブルはいい話ではない。

 だが、そんな事態はシルバー=クロース自身で解決できるだろう。事務連絡だとしてもここまで慌てはしないはず。

 

「何が起こった。それは早急に私へ伝えなければならない事なのか?」

 

『ああ!奴が現れた!あの怪物がッ!』

 

「……『怪物』?」

 

 まさか、天野倶佐利が先回りしシルバー=クロースの前に現れたのか?いや、だとしたら『怪物』などとは言わないはずだ。それこそあの光景を見もしない限り。

 では、シルバー=クロースは誰の事を言っている?この場面で出てくる奴とは一体誰だ?

 

 その答えは本人であるシルバー=クロースの口から伝えられた。

 

 

『学園都市第一位の超能力者(レベル5)一方通行(アクセラレータ)だ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その怪物は学園都市の暗闇から現れた。血よりも赤い瞳を輝かせ白髪の髪を靡かせて歩くその姿は、とても同じ人間とは思えない。

 杖を突くその姿から弱さを連想するかもしれないが、そんなことは有りはしない。核弾頭を撃ち込まれても傷一つ付かないという触れ込みは、その能力の凶悪性を知っていれば、さして誇張でも何でもないことが分かるだろう。

 その人物は呆れたように言葉を発した。

 

「ったく、オイオイなんですかァこれは?オモチャ遊びは他所でやりやがれゴミ共」

 

 迫り来る無数の殺人兵器を見て、その人物が呟いた事はそれだけだった。そんな彼が起こしたアクションはただ一つ。足元の小石を蹴っただけ。

 だが、それをしたのが一方通行だと話が変わる。

 

 

 ギュゴォアッッ!!!!と、聞き慣れない音を発しながら小石がマッハ3で吹き飛んだ。

 

 

 だが、そんな速度で飛べば当然の如く、空気の摩擦により小石は消滅する。実際に小石はその速度に耐えきれず消し飛んだ。

 しかし、それは生み出した衝撃波まで消える事はない。その衝撃波は目の前に居た殺人兵器を軒並み破壊する。

 爆発するその光をスポットライトにして、白い怪物は一歩一歩踏み締めながら歩いていく。

 それをカメラ越しに見るシルバー=クロースの顔はひきつっていた。

 

「クソッ!どういうことだ!?なぜ奴がここに居るッ!!もう一つの残骸に向かって行ったのではないのか!?」

 

 全ての機械を統括するためのトラックの中で呟く、シルバー=クロースの嘆きの声を出した。

 すると、無線機の向こうから黒夜の呟くような声が聞こえてくる。

 

『このタイミングでの登場に狙ったような位置取り、偶然な訳がねェ……。第一位が現れるその理由…………ッまさか!!』

 

 そして、ある可能性に気付き声を張り上げた。

 

『この状況も計算づくかあの野郎ッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ、怪我人に無駄な労力かけさせるンじゃねェよボケが」

 

 一方通行は視界に鬱陶しく映る兵器を、一息で無力化しながら一人呟く。彼が何故この場に居るのかと言うと、数分前までさかのぼる。

 

 

 

 

 

 

 

 ガラスが地面にそこらじゅうに散りばめられた、異質な空間が作り上げられていた。この惨状を見ればわかる通りここでは大規模な戦闘があった。しかし、その戦闘は一分もかかっていない。

 それはつまりここにただ一人立つ、彼の圧倒的な勝利を意味していた。

 やるべきことを終わらせ、彼は言葉を吐き捨てるように言った。

 

「それでも、あのガキの前じゃ最強を名乗り続けることに決めてンだよ。くそったれが」

 

 半裸に近い空間移動能力者(テレポーター)が持っていた残骸を木っ端微塵にした一方通行は、そのままその空間移動能力者をフェンスに叩き付け無力化したのだ。

 

 もし、この場にオリ主が入れば、彼の横でカメラを回し撮影していたかもしれない(おそらく無理だが)

 

 やることが終わり自らの病室に帰っている途中、そんな一方通行に声をかける存在が現れた。

 

「はぁ……っ、はぁ……っ、少しよろしいでしょうか?とミサカは体調を明らかに崩しながらも、懸命にあなたに尋ねてみます」

 

「オマエは……」

 

 その顔に一方通行は見に覚えがあった。

 それもそのはず、それこそ実際に一万回以上見た妹達(シスターズ)の一人だったのだから。

 

「ミサカはあなたに伝えなければならないことがありますと、ミサカは簡潔に告げます」

 

「あァン?」

 

 息を乱しながらいる目の前のクローンが、一体何号なのか一方通行には分からないまま話は進む。

 

「もう一つの残骸がある場所が特定され、そこにあなたが向かうように指示が出されました、とミサカはネットワークから送られた不審な情報をあなたに直接伝えます」

 

「……何言ってンだオマエ?」

 

 一方通行は本気で目の前の妹達がバグったのかと思った。

 

「特定されたにも関わらず不審な情報だァ?なんだそのいい加減な情報は。オマエ俺の事をおちょくってンのか?」

 

 そう言いながら一方通行は、妹達の体調が本当に悪そうなことを悟る。

 

「(呼吸の乱れ、体幹のブレに異様な発汗。これじゃあ確かにバグの一つや二つは起きても不思議じゃねェか)」

 

 そんな結論を出した一方通行に妹達は再び声をかける。

 

「いえ、ミサカネットワークにハッキングがありましたと、ミサカはあなたの言い分にムッとしながら答えます」

 

「ハッキングだと?」

 

 その言葉を聞いて一方通行の目の色が変わる。

 

「(ミサカネットワークはクローン共で構築されるもんだ。普通ならそこに介入することは不可能だが、天井亜雄の野郎のようにウイルスを打ち込んだクソ野郎がいやがるのか?

 チッ!面倒くせェ事になりやがったな……)」

 

 おそらく首謀者は残骸を用いて、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)を作る事に力を注いでいる組織の一人。一方通行の足止めが主な理由だろう。

 しかし、だとすれば分からない事がある。

 

「(何故目の前のコイツはそれについて言わず、残骸の場所を俺に伝える?常識的に考えてネットワークの統括たる打ち止め(ラストオーダー)の治療を優先すべきだろう。

 あのクソガキの話によると他の連中も動いているようだし、わざわざ俺に行かせる必要は無いはずだ。

 ネットワークに介入し思考を無理矢理操作してンのか?いや、それなら打ち止めの方に向かわせるはず。なおさら理解ができねェ……)」

 

 一方通行は思考を回すが答えは出ない。

 そんな一方通行に妹達(シスターズ)は淡々と言った。

 

「勘違いをしているだろうあなたに言いますが、ハッキングと言いましたが正確には成り済ましに近いと、ミサカは目付きがさらに悪くなったあなたにドン引きしながらも伝えます」

 

「チッ、余計なことをいちいち挟むンじゃねェ。……それにしても成り済ましだァ?それに悪意あるハッキングじゃねェだと?一体全体どォいうことだ」

 

 要領を得ない会話に一方通行が苛立つが、妹達は特に気もした様子もない。こんなことは慣れているとでも言わんばかりだ。

 そして、そんな理解ができない一方通行に、愉悦を抱く精神性を妹達が持っている訳もなく、彼女は淡々とその事実を話す。

 その答えを聞いた一方通行の反応は次のようなものだった。

 

 

「は?」

 

 

 彼の返答が「あン?」や「ハア?」じゃないことが、彼の驚き具合を雄弁に現しているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程の複合施設から抜け出した俺達二人は、学園都市の夜の街並みをゆっくりと歩きながら話していた。

 すると背中から弱々しい声が聞こえてくる。

 

「あ、あのぉ、わたくしもう立てるのですが……」

 

「そんなこと言ってぇ、さっきまでフラフラだったじゃない。ここは大人しく天野さんに甘えときなさぁい」

 

「君は軽いからね大した負担にはならないよ」

 

「い、いえ、お恥ずかしい話ですが、この頃少し体重が増えてしまったりしているんです……」

 

「何を言っているのよぉ。帆風は逆にもっと食べなさぁい?どちらかというとあなた食べなさすぎよぉ。私の右腕が拒食症なんて笑えないわぁ」

 

「そ、そんな大層なものではございませんよ女王。わたくしの能力である天衣装着(ランペイジドレス)は、体細胞中の電気信号に作用し身体能力を底上げするものですので、無意識に能力が発動しカロリーを勝手に消化しているだけだと思います」

 

「なに?その全自動楽ちんダイエット能力。割りと本気で私も欲しい」

 

 なんか乙女な少女の切迫した声が聞こえたような気がしたが、おそらく気のせいだろう。

 それにしても、とオリ主は思う。

 

「(胸デッカッ!!なんだこの背中に当たる圧迫感は!?みさきちと同じ……いや、まさか超えている……?

 そんな馬鹿なッ!?コイツまさかニュータイプか!?あ、危ねえ……雲川や風斬に会ってなかったら即死だったぜ(錯乱))」

 

 スかした顔で最低なことを考えていた。念話は当然していない。

 すると、横を歩いている食蜂が話しかけてきた。

 

「それでぇ?天野さんは、あの第一位をどうやって呼び出したのかしら?もしかしてメル友だったり?」

 

「いや、彼とはそこまでの交遊関係はまだ構築できていないよ。というか、彼にメル友が果たしているのかな?」

 

 そんなことを話しながら歩いていく。急ぐ理由はない。既にチェックメイトなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 複合施設へ突入する数分前のこと。

 食蜂達と距離を取ったオリ主は自分の携帯を見つめた。

 

「(この事件は原作から外れた話であることは間違いない。だけど、今回のことでミスすることは、原作を致命的に破壊する要因になりかねない。

 つまり、保険に保険を重ねるぐらい慎重の方がいい)」

 

 そこで思い付いたのが超能力者(レベル5)だ。彼らの圧倒的な戦力ならば封殺できる。

 

「(なら、いっそのこと削板に頼むか?削板なら損得なしで頼めば駆け付けてくれるだろうし。

 ……ああいや、ミコっちゃんみたいに『外伝』で学園都市のために動いている可能性もあるし、こんな暗部が深いところまで根付いてる事件に、削板を関わらせたらどんなことになるのか分からないか……)」

 

 この世界は様々なシリーズを統合してできている。それはつまり、俺が転生したあとに連載されたシリーズもこの世界に含まれている可能性があるということだ。

 

「(削板なんて如何にも主人公になりそうなキャラだし、『外伝』が既に発売されてもおかしくはないか……。なら、あんまり削板を頼ることは無い方がいいわけだ。俺が頼ったせいで時系列が捻れる可能性もあるわけだし。

 それに削板は熱血で曲がったことが嫌いな男。この事件の概要を知ることになったら、暗部そのものに喧嘩を売ることが無いとは言えない)」

 

 普段からハチャメチャなのに、さらに燃料を投下したらどうなるか検討も付かない。

 暗部は悪どいことも多くやるが、治安維持をしていることもなくはない。清濁併せ呑むという訳ではないが、暗部がなければ原作通りになんて進むはずもないのもまた事実。

 

「(くそぉ~!一発で解決できる手札があるのに切れないなんて、なんてもどかしい!)」

 

 唇を噛むがすぐに思考を切り替えた。

 

「(だったら上条はどうだ?下手に事件に介入させ無い方がいいかもしれないけど、この騒動で既に関わっている関係者だ。どちらかと言えばグレーといったところか。

 それに、今回のことで上条に降りかかる揉め事は、俺が粉砕すればいいことだし)」

 

 上条と一緒に居ることが多いため、護衛ぐらいは自然とできるだろう。そして、エルキドゥの策敵能力を使えば不自然に動く奴らを炙り出すのも容易だ。

 

「(『アイテム』、『スクール』辺りだと一人で対処するしかないが、今回の敵は少女と青年のコンビ。どちらも二つの暗部組織とは関連性がない。つまりは雑魚と断定していい。

 垣根帝督が女の子を連れて歩いているなんて、そんな馬鹿げた光景あるわけないわな。どこの第一位だよって話だし)」

 

 オリ主は上条を呼び出してもいい理由を、幾つかピックアップしていくなかで致命的な事柄を思い出した。

 

「(そうだ。上条は黒子を救出している最中だった。あれも結構時間はシビアだったはず。俺が変に動揺させて間に合いませんでしたってなったら目も当てられない)」

 

 上条の場合それが不幸になりかねない。それでもきっと助け出すだろうが、引き換えに全身大怪我しました、が普通にありそうで怖い。

 

「(時系列的に次はエンディミオンか?怪我してたら多分乗り切れないと思うから絶対に無理だな)」

 

 時系列がさすがにタイト過ぎやしないだろうか?

 

「(いっそのこと一方通行に来てもらうか。雑魚なら文字通り一蹴だろうし、残骸を破壊するという理由で関わる経緯も動機も充分だし…………とは言っても)」

 

 そう言って電話しようとするが、当然アドレス交換していないため名前があるはずもない。

 

「(電話できないなら方法は一つ。これは、できるかどうか結構怪しいけど……)」

 

 そして、ある人物へと変身したオリ主は、金庫のダイアルを解錠するかのように周波数を調整していく。

 数分後それは偶然にも繋がった。

 

 (どうしました?、とミサカ14454号は通信を受けてその内容に耳を傾けます)

 

 (何かお手伝いできるような事ができましたか?、とミサカ19002号も尋ねます)

 

 (あれ?ってミサカはミサカは、何故か電波の調子が悪そうな10032号に疑問を浮かべてみたり!)

 

「(ご都合主義キター!やったぜマジでラッキーだ!このまま一方通行に来るように伝えt──)」

 

 (ミ、ミサカはその人物が偽物だと報告します。10032号はこのミサカですと、ミサカは他のミサカ達に伝わるように名乗りあげます)

 

「(早っや!バレるの早くない!?というか御坂妹って気絶してたんじゃないの!?)」

 

 空気は一転しお前は誰だという感じで、一万人ほどの女の子から問い質される。どんなドMでもこの数は無理なんじゃないかと思う。数の暴力って馬鹿にできねえや。

 そんな俺はすぐに吐いた。だって怖いもん。

 

 

 (私の名前は天野倶佐利であると、アマノ1号は簡潔に答えます)

 

 

 俺のその発言でさらに揉めにもめて、そこからさらに一悶着あったあと、一方通行を無事呼ぶことになったのだった。




オリ主の弱さとエルキドゥの強さが、この章で書けていたらなと思います。完璧な弱点対策されて振り払えるのが他のレベル5で、できないのがオリ主ですね。

タイトルは正確に言うと(電話で)頼れる男ですね


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89.交渉

90話と分割しました。そのまま書いたら一万字いきそうだったので。
その分話が1話増えます。


 白い怪物は科学が生んだ殺戮兵器の数々を一掃し、辺りには静寂が訪れていた。

 

「くだらねェオモチャでハシャいでる三下共に、この俺直々に現実を教えてやる」

 

 埃一つ着けることなく真正面からそれらを潰した一方通行は、その兵器を寄越した者達に向かって足を踏み出す。蹂躙をするために動く一方通行を止められる存在など一人もいない。

 破壊の行進をしようとした一方通行にの耳に、モーター音が届き一方通行は視線を上に上げた。

 

「あァン?」

 

 その方向を見るとカメラとスピーカーが取り付けられた、一機のドローンが飛んでいる。スピーカーから性別が判別できない機械音で、その言葉は一方通行に投げ掛けられた。

 

一方通行(アクセラレータ)。アンタと話がしたい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどねぇ、突入する前に一人でそんな画策力を発揮していただなんて、思いもしなかったわぁ」

 

「来てくれるかは賭けの部分もあったけどね」

 

 気配察知で杖を突いているかのように、フラフラ歩いている人物見付けたときは、胸を撫で下ろしたものである。

 

「(信じてくれない可能性も無いとは言えなかったしな。まあ、あくまでも保険として連絡しだけだから、別に無視してくれても構わないぐらいの心持ちだったのもあるけど)」

 

 これを幸運と呼ぶかオリ主が築いてきた信頼と呼ぶかは、その人次第である。

 

「だったらもう私達がこうして外を出歩く必要力も、もう無いんじゃないかしらぁ?第一位が居るならそれで充分だと思うんだけど」

 

「いや、第四位はアタッシュケースをどうするか分からないからね。順当に考えれば破壊するだろうけど、それを私利私欲のために利用する可能性もゼロじゃない」

 

「それならば、私達もすぐに向かった方が良いのではッ!?」

 

「それだと逆に余計に混乱を生んでしまうんだ。一歩引いたところに居るぐらいが一番効果的さ」

 

 俺の言葉を聞いた帆風潤子が俺の背中で首を傾げる。そのせいで縦ロールが顔にかかった。……これ遠目でみたら俺が縦ロールしてるように見えないか?

 そんな帆風に食蜂が答える。

 

「つまり、運び屋の人達から見ればどういうことになるかということよぉ」

 

「運び屋の方々から見ると?」

 

「この状況で出し抜けるだなんて思うほど、彼らもさすがに思い上がってはいないはずよぉ。超能力者(レベル5)の能力者三人に追い掛けられる光景を思い浮かべなさぁい?」

 

「………………悪夢ですね……」

 

 今の縦ロールの顔超見たかった!絶対にいい顔してたのに!

 まあ、いい。こっちは背中に当たる感触に幸福と苛立ちを抱いてるんだからなあ!!(興奮)

 …………これってもしかしてプラマイ0なのでは?

 

 い、いや、俺だって無いわけではないのだ。だってBよりだろうがなんだろうが数字としてCだし。そもそもアホみたいな巨乳や超乳がいるから平均値がはね上がるせいで、その被害を被ってるのが俺達なんだよ?胸が大きくないほうが返ってスタイルよく見えたりするから、全然マイナスじゃないし。なんだかんだ巨乳より普通の大きさぐらいが男受けいいし。俺はそっちの方が良いもん。つーか、どいつもこいつも中学生や高校生でそんなにあるわけねえだろッ!日本人でそんなにあることの方が異常じゃない?あれだろ?俺は知ってるんだ。巨乳御手(バストアッパー)だろ?そういった促進剤みたいなのどうかなぁって思うよ俺は。それも一つの個性だと思うな俺は。そもそも女の子の魅力は胸の大きさだけじゃなくて、他にも色々あっt

 

(20行省略されています)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程まで戦場だったそこで、白い怪物はスピーカーの向こうにいる人物と会話をしていた。

 

「ハッ、雑魚が雑魚らしく命乞いかァ?」

 

『言っただろう取り引きさ。こっちもこっちで色々都合があってね』

 

「取り引きィ?寝言は寝て言いやがれ。この俺がお前と取り引きする利点があるとでも?自惚れてンじゃねェぞ三下。

 オマエらをこのまま潰した方が、どう考えても手っ取り早いだろうが」

 

『今回、私達に依頼した人間が雲隠れするかもしれないのにか?』

 

「あン?」

 

『私達の依頼人は統括理事会に加わるかもしれないと言われているほどの男だよ。いくらアンタでも本気で隠れられたら見付けるのは難しいんじゃない?』

 

「……次期統括理事会ねェ」

 

 残骸を回収しようとする黒幕を知り、一方通行の目が座る。

 

「(まァ、当然と言えば当然か。何でか知らねェが上層部が残骸の回収に動いたような形跡はねェ。なら、当然表立って動いてるのは外部の組織か上の方針に逆らう内部の裏切り者の二択。

 半端な奴ならすぐに潰されているだろォが、未だにコイツらが動いている。つまり、裏切り者は上層部と同等の力を持った人間に絞られるってことだ)」

 

 そこまで思考を回すと一方通行は、馬鹿にしたような笑みを作った。

 

「それにしてもいいのかァ?これで俺がオマエらから聞く情報が一つ減っちまったなァ?自分から寿命を削る真似するなんざ、今回の馬鹿は自殺志願者かなにかですかァ?」

 

『おいおい、逆に聞くがアンタが置かれた状況を、正確に分かって言ってるのか?一方通行』

 

「ハァ?何を言って──」

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………」

 

 

 

 その言葉を聞き一方通行の目線が今までよりも鋭くなる。

 

「(……この野郎。電極のことをどこで知りやがった)」

 

『アンタの電極はあとどれくらい持つのかね。

 それこそ、私達を見付けて潰すことぐらいは簡単だろうけど、既にもう片方の残骸(レムナント)を片付けてたアンタのバッテリーは、その統括理事会ほどの権力を持つ男をぶち殺すまで、果たして持ってくれるのかな?

 奴ならアンタがガス欠してる間に、完璧に雲隠れするくらいはわけないし、なんなら部隊の一つでもアンタに送ってくると思うけどね』

 

「チッ!」

 

 図星だった。一方通行のバッテリーは四分の一しか使ってはいないが、スピーカーの向こうに居る敵は、間違いなく逃げることに全身全霊をかけるだろう。

 そうなれば、その追いかけっこで大量にバッテリーが消費されることは目に見えている。

 

「それにしても、随分とペラペラ吐いてくれるじゃねェか。それなりの報復の一つや二つはあるンじゃねェのかァ?」

 

『まあね。でも、先に裏切っていたのはあっちだ。このままじゃ私達まで暗部から追われ続けることになる。

 わざわざそこまでして義理立てる理由もない。ペナルティも甘んじて受けるよ』

 

 学園都市の闇は知っていても、まだ暗部の世界を知らない一方通行には、そのペナルティがどんなものなのかは分からないし、知りたいとは思わない。

 だが、それがこの先一生自分には関わりがないと思うほど、彼は能天気ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の事件でアタッシュケースを破壊する動きと、回収する動きがあるのは分かるわね?私達は当然破壊する側。天野さんの話によると第一位も破壊する側らしいわぁ。

 運び屋さんは分かる通り回収する側。そして、第四位のチームは不明だけどその組織の結成目的から、どちらかと言えば破壊する側なんじゃないかしらぁ」

 

「そして、運び屋の彼女は第四位のチームの女の子と既に戦闘をしてしまっていて、メンバーの一人と顔見知りで性格を熟知している。そして、チームメンバーの中には僕以上の策敵能力者がいるようだ。

 彼女の立場なら第四位の方に交渉を持ち掛ける可能性はまず無いだろうね」

 

 敵の敵は味方と言うけれど、黒夜にとって『アイテム』は地雷が多すぎる。その上、交渉も『アイテム』が残骸(レムナント)を回収する側でなければ、意味をなさない低い可能性。

 

「彼女は僕のデータを集めていたようだからね。僕と彼の仲がそれほど悪くないことも知っていたはずだよ。

 僕から彼に頼んだことも当然思い付くはずさ」

 

 今回の俺の弱点対策からみても、間違いなく俺が今回の騒動に首を突っ込んで来るのを予測していた。つまりそれは、俺の過去やら人物像を入念に調べていたことに他ならない。

 なら、敵対したあとも病院にお見舞いに行ったことも、知っている可能性が高い。

 だが、まあ別に知らなくても関係はない。

 

「第一位の方に交渉を持ち掛け、無事にアタッシュケースを渡せば少なくとも第一位の方はどうにかなるかもしれないわ。脅威力で言えば当然第一位が飛び抜けているわけだしねぇ。

 天野さんの話じゃ彼はアタッシュケースを破壊するらしいし、御坂さんにアタッシュケースを破壊するように頼まれた私達も、そうなればわざわざ運び屋さんを追う必要力もなくなる。この時点で二人の超能力者(レベル5)が追っ手から居なくなるわぁ」

 

「それも交渉次第だけどね。彼がその気になれば徹底的な殲滅になるかもしれない」

 

「まあ、それはそれで私達と第一位が組んで制圧すればいいわけだし、どのみち結果は見えてるってことだゾ☆」

 

 黒夜がまだ諦めないなら少ない可能性を信じて、『アイテム』と一時的に交渉し、一方通行に対抗するっていうのが方法の一つだけど、相性最悪の絹旗が居ることや滝壺の存在から『アイテム』と組む可能性はゼロだ。

 そして、一方通行の弱点はチョーカー型の電極のバッテリーのみ。それを俺達でフォローすればもう敵はいない。

 

「ですが、それだともし第四位の方の目的が残骸の回収なのだとしたら、彼らは追われ続けるということではないでしょうか?」

 

「それについての対処法はあるわぁ」

 

「第四位の所属するチームは暗部組織だ。なら、裏で交渉や取り引きをすれば、顔を会わせることなく終わらせることも不可能ではないよ。とはいえ、かなり厳しいけどね」

 

 そこまで言うと携帯に着信がかかってきた。

 その番号は非通知だったが、その人物にあらかた予想ができたため素直に通話ボタンを押す。前にミサカネットワークで教えたのだから、おそらくその誰かだろう。

 電話越しに聞こえたその声はめちゃくちゃ明るいソプラノボイスで、誰が電話をしたのかは一目瞭然であった。彼女は無事にアタッシュケースを一方通行が破壊したことを連絡してきてくれたのだ。

 それを聞き終え携帯を再びしまうと歩く方向を変え、二人の住居がある学舎の園に歩いていく。

 

 こうして彼女達の戦いは幕を閉じた。殺伐とした非日常からいつも通りの日常へと彼女達は帰っていく。

 しかし、それこそが彼女達が守るべき大切なものなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、帆風に暗部の知識はいらないから、私の能力で削除しとくゾ☆」

 

 ピッ。



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90.黒夜の目的

一話増えるとか書いておきながら、後日談は新章の冒頭でするつもりですので、この章はここで終わりになります。ごめんなさい
【速報】次回、日常回。

※プランBをCに変更し、プランDを保険に変えました。


「チッ、全く無駄足もいいところだぜ。こんだけ戦力ぶち込んで戦果が無いどころかペナルティとはな」

 

「文句があるとするならば私の方だと思うが。保険は用意していたが、あの絶対的に有利な状況で敗北するなど全く思わなかったぞ」

 

 そう話す二人はとある路地裏を歩いていた。暗部の依頼を失敗をした二人にはそれ相応のペナルティが待っている。学園都市の闇からは逃げられないし、逃げればもう暗部には戻れない。

 二人は指定されたその場所まで粛々と歩を進める。

 

「ふン、あんなもんは集めてきたデータに不備があったんだ。データが間違ってるのにデータに基づいた作戦が成功するはずもねェ」

 

「はぁ……、ではどうするつもりだ?統括理事会の依頼は」

 

「……口惜しいがあの化けモンに手を出すのはヤメだ。『アレ』がある限りこっちに勝機はまずねェからな」

 

 そこまで話すと黒夜の携帯から着信がかかってくる。液晶にその名前が出ると黒夜は鬱陶しそうに通話ボタンを押した。

 

「どォも、こちら黒夜ちゃんでェーす」

 

『オイ、貴様ら!よくもこの私を売ってくれたなッ!?どうなるのか分かっているのだろうな!!』

 

 電話越しから怒鳴り声が聞こえてくる。黒夜に依頼した男によるものだ。

 

劣化模倣(デッドコピー)などを相手にするからこうなるのだ!大人しく残骸だけを運んでおればこんな事にはなっていなかったもののッ!』

 

「いやーそれはどうかなァ?あの場で潰しておかないと安心にはほど遠いと思うけどねェ。まァ、確かに欲をかいたっていう側面が無いってこともないけど」

 

 黒夜は既に男を依頼人としては見ていない。どちらかというと出荷される家畜かなにかに見えている。

 男は捲し上げてこう言った。

 

『貴様らは私と共に地獄行きなのだ!今さら『上』に媚を売ってもどうにもならんぞ!自分達だけ無罪放免になるわけが──』

 

「まず、私達は箱の中身を知らなかった。そりゃあそうだよな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『ッ!』

 

 そう、黒夜達はその中身がなんなのか説明を受けていなかった。だが、暗部ならばどちらかというとこれはよくある話だ。

 これを黒夜は逆手に取る。

 

「その証拠はちゃんとデータを復元して私達の手元にある。つまり、文字通り私達はなにも知らず使われた、哀れな使いっぱしりなんだ。中身がなにか知っていたアンタよりは、まだ言い訳の余地はあるだろうさ」

 

『だ、だが、それでは』

 

「まァ、当分の間は上層部の都合のいい犬かねェ。でも、報復まで来るかは怪しいラインだと思うけどな」

 

 黒夜も学園都市に敵対して、絶対に安全であるとは断言しない。それを無邪気に信じるような時期は、物心つく遥か前に過ぎ去っている。

 

「それじゃあ、お互い生きてたらまた会おうぜ。じゃあな」

 

『ま、待て!私はこんなところで──』

 

 ピッ、という音で通話は終了した。

 男は最後の最後まで足掻き続けるだろう。だが、それは次の陽の目を見れるかどうかという僅かな足掻きでしかない。

 黒夜は携帯を非通知状態に設定し、ポケットに締まった。

 

「これで、私達の野望も終了だな。失敗ってのが情けないが」

 

「だが、他のプランとは違い報復の可能性はかなり減った。深く闇に潜ることで得ることも多くあるはずだ。綱渡りには変わりないがな」

 

 その言葉を聞くと黒夜は残骸を回収する前日に、シルバークロースと話し合ったときのことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アジトで黒夜とシルバークロースは、顔を付き合わせて会議をしていた。液晶越しのやり取りではないのはハッキングで傍受されるのを防ぐためだ。

 そして黒夜が切り出した。

 

「今さっき依頼の要請が届いた。内容はアタッシュケースを目的地に運ぶということだが、ほぼ間違いなく樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の残骸の回収が今回の依頼だ。予定通り私達はこの依頼を受けるぞ」

 

 最後に受諾するかどうかをシルバークロースに問う黒夜。その問いにシルバークロースは返答した。

 

「それについては構わないが、これが私達の進退を決める岐路になることは間違いない。あらゆるパターンについてあらかじめ用意しておくべきだろう」

 

「当然だな。今回ばかりは臨機応変に対応するじゃ不十分だ。私もそれについては既に考えてある」

 

「ほう?」

 

 興味深そうにシルバークロースが疑問の声を上げた。黒夜は指を四本立てて話し出す。

 

「まず最悪なものから説明していく。プランDは天野倶佐利を殺せず、残骸を回収できなかった場合。全ての責任を依頼主の統括理事会候補の男に押し付ける。これは失敗したときの保険だな」

 

「なるほど。確かにその場合それしか私達が生き残る方法はないか」

 

「次にプランCだが、もし私が天野を殺せなければ依頼主の男に残骸をそのまま渡して、権力の恩恵を頂く」

 

「あの次期統括理事会候補の男か。慎重派だが自己中心的で傲慢な気性。そこまで優良物件とは言えないな」

 

「だが、奴には権力がある。その一点にのみ私は奴を評価している」

 

 言外に暗部としては落第だと黒夜は述べた。それに対し、シルバークロースはもちろん異議を唱えることはない。

 

「そして、プランBだがこれは私が天野を殺したあと、なんらかの勢力によって残骸が奪われた場合は、天野の死体を統括理事会の一派に渡して権力を得る」

 

「グレードは下がるがなくはない……か」

 

「そういうことだ。プランCと比べると上等なものだが、プランAと比べちまうとどうしても物足りない」

 

 そう、この運送依頼は黒夜達にとって、暗部のよる依頼というだけではない。彼女達にはプランDはもちろん、CやBですら成功とは言い難い。

 つまり、その最後の路線こそが本命。

 黒夜はその第一志望の策を話す。

 

 

 

「プランAは天野倶佐利を殺し、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の残骸を私の物として回収したあと、改造を施して外部演算装置として活用する算段だ」

 

 

 

 あの樹形図の設計者を個人で所有するという暴挙。それこそが黒夜の真の目的だった。

 

「第一位が入院していることを知り、探りを入れたのが功をそうしたな」

 

「ああ、あの三人組をけしかけた意味があった。お陰であの最強様が脳ミソに、電極なんてモンを取り付けていることが分かったからな。ただの捨て駒だったが良い情報を私達に与えてくれたよ」

 

 黒夜は一方通行だけではなく、様々な能力者にこうした事をして、生きたデータを手に入れていた。戦力差などを正確に測るためだ。

 シルバークロースが呆れたように言った。

 

「それにしても、『一方通行用の秘匿兵器』か……。よくそんなデマを流せたものだ」

 

「おいおい、別に私が言い出したわけではないぞ?実際の物とは天と地も離れているが、予算を出させるためにはそれぐらいの触れ込みが良かったんだろうよ。

 実物を知っていながら、既に形骸化しているそれを広めたのは私だけどな」

 

 元からある情報を広めただけならば、そこまで労力が必要なわけではないのだ。匿名を名乗りそれを公にすればいいだけなのだから。

 

「それに、あの三人のカスさと触れ込みの割りに、チープすぎるその兵器が真実を詳しく調べようとする思考を妨げる。

 実際に、一方通行は自らを狙う路地裏の奴らとそう変わらないと認識し、警備員(アンチスキル)にそこら辺は丸投げしたみたいだしな。

 ……とはいえ、あの後天野倶佐利が一人で、学園都市を走り回り情報収集しているのを知ったときは、さすがに驚いたがな」

 

 あの三人とは直接的な接触はしておらず、本人達ですら誘導されたと理解しているのか怪しいほどに、黒夜は自身の存在を必要以上に隠した。

 それをオリ主が暴き出せるはずもない。

 

「まァ、あの兵器のことは私が誰よりも知ってるからな。噂を流すのは簡単だった」

 

 覚えているだろうか?約一週間前。カエル顔の医者が勤める病院でテロが起きたことを。

 そのときの首謀者である、そばかすの少女のことを思い出して欲しい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あれは空気を圧縮して販売する企業の、研究施設で生み出された兵器だ。窒素を圧縮して貫く私の窒素爆槍(ボンバーランス)をモデルに作られた工学兵器。

 攻撃力を上げるために液体窒素やら付け加えたせいで、既に原形が残っちゃいないがな。まあ、私に目を付けた理由は理解できる。

 一方通行の能力を工学で再現するなら、建物などの建築物が最適だ。計算した衝撃のベクトルを散らしたりすることは、動いていると余計に複雑になったりするからな。兵器として実用段階に移ることはまずあり得ない」

 

 工学技術のできることとできないことの範囲を、黒夜は既に調べている。彼女は専門的に工学系を学び直しているのだ。自身をさらに高みへと昇らせるために。

 黒夜は続けて言った。

 

「絹旗ちゃんの窒素装甲(オフェンスアーマー)を工学で再現するなら、体の周辺に窒素を展開しなくちゃならねェが、そんなことするなら素直に駆動鎧(パワードスーツ)の品質向上に、力を入れた方が合理的だ。

 そいつらに比べると私の窒素爆槍は工学化しやすい。手のひらから窒素を圧縮して打ち出す仕組みを作り出せばいいンだからな。

 私が流した噂もあながち間違いじゃない。奴らは一方通行の演算パターンを植え付けられた、『暗闇の五月計画』の被験体である私に目を付けた訳だしな」

 

 一方通行を打倒するという大言壮語を、彼らの組織は最後まで掲げることはしなかった。しかし、最強の能力者である一方通行の恩恵を少しでも得ようと、画策していたのは変えようがない事実である。

 

「一方通行のデータの取得と共に、お前の能力を工学化しようとした奴らに対しての報復も、あの騒動は兼ねていたというわけか」

 

「まァ、逆説的に私の能力が工学技術との相性が良いことを理解した切っ掛けでもあるがな」

 

 そこまで言うと黒夜は話を戻す。

 

「能力強化の足掛かりと共に、演算能力も強化できる機械さえあれば、大能力者(レベル4)の枠組みからも逸脱できるかもしれねェ。暗部で上を目指すならどうしても能力の強さは必要になる」

 

「私も駆動鎧に行動を補助するAIを搭載しているから言えるが、確かに有用だろう。私とは違い黒夜の場合は統計を集めても無意味だ。より高度な補助装置が必要となる」

 

 シルバークロースのコレクションの一つである駆動鎧は、思考に割り込みをかけ、無理なく滑らかな動きを最適な動作を実行できる。その結果人体を破壊する箇所を練習なしでくりだせたり、プロの格闘家並みの動きを再現できるのだ。

 しかし、能力者の場合はそうではない。なぜなら同じ能力で全く同じ動きをする能力者などいるわけがないからだ。似たような能力でも発動条件や出力が変わるのは当たり前。

 さらに黒夜は『暗闇の五月計画』の被験体という変わり種だ。該当能力者はさらに減る。

 

「それで、目を付けたのが樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)だ。その残骸を再び組み立てて私専用の装置に作り替える。あの完璧な数値を算出できる機械なら、確実に私にとってプラスになる」

 

「だが、樹形図の設計者は間違った予測をしたと聞いたが」

 

「ハッ、あんなもん『原石』なんていう不確定分子の存在や、一方通行の能力の暴走が主な原因だろう。

 無能力者(レベル0)のガキがしたことなんて、どうせ偶然湧いたラッキーパンチかなにかだろ。

 あの実験が凍結した本当の理由は、一方通行の能力の暴走による致命的な成長の変化を怖れてだ。樹形図の設計者が演算を間違えたから、なんて理由じゃない」

 

「つまりは、一方通行の心理的なものによるイレギュラーを、科学者達が計算していなかっただけ、というわけか」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。シルバークロースは黒夜と同じ結論に至った。

 

「前例は確かにあるンだ。それも学園都市の天辺である、あの第一位が演算能力を工学技術による外部演算に任せてるんだからな。なら、同じくしてそれに続くのが成功への道だろう?

 一方通行を越える演算装置を手に入れ、優れた武器を手に入れ、絶大な権力を手にする。それが全て揃ったとき私は奴を越えることができる」

 

 未来予知レベルのシミュレーションを可能とする演算装置ならば、黒夜のパフォーマンスを限界以上に引き出すことも決して不可能ではないはず。

 そして、依頼主である男のことをシルバークロースは思い浮かべた。

 

「プランDに関しては言うまでも無いが、プランA、Bの路線となった場合黒夜は残骸を私物化し独占するつもりだろう。だとすると、あの男が黙ってはいないはずだ。それについてはどうする?」

 

「そのときは次期統括理事会候補の男を殺して黙らせる。それが一番手っ取り早い」

 

 事も無げに言う黒夜。

 彼女にとって他人の生死は余りにも軽い。これが暗部で培った価値観である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とはいえ、その未来も泡沫の夢。

 彼女達は最悪の想定を選ぶこととなってしまった。しかし、彼女の瞳に絶望はない。

 

「今回は統括理事会一派の依頼は失敗したが、連中とのコネはまだ幾つか残ってる」

 

 冷たい闇の中へ向かいながら、黒夜は口を三日月に広げて野心を燃やす。まるでその野心を燃料に、空へ再び羽ばたくのを誓うように。

 

「ここから這い上がってやる。私はまだまだ終わらないぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その『人間』はその全ての様子を窓の無いビルの奥から眺めていた。巨大なビーカーの中で逆さになっている『人間』は、とある『木原』と会話をしていた。

 

「ふむ、なかなか興味深い存在だ」

 

『確かに、私としても彼女に臨床研究の申請を出したいぐらいだ』

 

 その『人間』が会話をしていた存在は、人ではなく一匹の犬だった。ゴールデンレトリバーが葉巻を咥えて低い声で話すその姿は、余りにも人間臭く違和感しかない。そんな珍妙な姿の一人と一匹は会話の本題へと入っていく。

 

『それで、天野倶佐利の正体は掴めたのかね?アレイスター』

 

「ふむ、私が出した結論を端的に述べようか」

 

 アレイスターは今回の騒動の一部始終を、滞空回線(アンダーライン)から盗み見みていた。

 その送られてくる映像と、自身の頭の中に記憶されている古今東西のあらゆる知識を総動員して、天野倶佐利の正体を割り出していたのだ。

 そして、アレイスターは答えを導き出した。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 まさかの答えだった。これには木原脳幹も意表を突かれた。アレイスターは自らの考えを言葉にしていく。

 

「近しい存在は三十三通りほど想定できるが、どれも荒唐無稽でしかない。『原石』というだけの特異性だけでは、存在することは万が一にもあり得ないということだ。

 限りなく低い可能性だが、上条当麻のように様々な要素が重なりあって存在している個体かもしれん。私のような者の手をなくして、あそこまでの成長をするとは思えないが」

 

『ほう、君にそこまで言わせるとはな。科学者としてさらに興味が湧いてしまった。もしかすると『木原』としての(さが)かもしれんがね』

 

「一つ確実なことだが、間違いなく魔術サイドの力を天野倶佐利は有している。彼女が反逆した場合は恋査で止めることができるかどうかは怪しいところだ。

 つまりは君の管轄ということだよ」

 

『はぁ……、やれやれ、ロマンを抱くこともできないというのは難儀なものだ』

 

 落胆した様子でゴールデンレトリバーは口から煙を吐き出した。しかし、彼はアレイスターのために割り切って武器を振るうのだろう。それが彼が与えられた役目であるのだから。

 

 その『人間』はそこまで言うと、別のモニターに映し出されている緑色という奇抜な髪色の少女を見た。長年世界を眺めてきた自らの理解の外に居る存在。

 そんな存在に対して不安も忌避感も抱かず、逆に心の底から楽しむような笑みを浮かべながら、『人間』は言葉を発した。

 

「君が私の計画(プラン)にとって利となる天使なのか。それとも障害となる悪魔なのかどうか、存分に見極めさせてもらおう」




◆裏話◆
その1
実は黒夜の依頼主は一人ではなかったというお話ですね。
残骸を欲しがる次期統括理事会の男と、『原石』である天野倶佐利の身体を欲しがる統括理事会一派の、二つから依頼が来てました。
プランC以外で次期統括理事会候補の男が、生き残る未来はありません(無情)

その2
75話のオリ主のモノローグ
 奴らは囮であり裏では黒夜のような暗部の人間が、本物の『対一方通行兵器』で一方通行の命を狙っている……?
↑このオリ主の思考はちょっとした伏線だったりします

その3
~黒夜の作戦立案に動機まで~
✅簒奪の槍(思想)
✅禁書目録編(樹形図の設計者)
✅絶対能力進化編(一方通行の暴走)←NEW
✅革命未明編(無人駆動鎧)
✅最強蹂躙編(液体窒素の兵器&電極&一通との関係の把握)←NEW
バタフライエフェクトフルコンボだドン!

◆作者の戯れ言◆
そばかす女の使っていたのが窒素爆槍をモデルにした工学兵器?もちろん作者の適当な捏造ですよ?


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エンデュミオンの奇蹟
91.日常の過ごし方


映画のため内容が濃すぎるので、飛ばし飛ばしで重要なとこだけ書いていきたいと思ってます。でも、序盤だけは詳しく書くことにします。重要なところですので

要するに、伏線のための章と言うことですね



 雀の鳴き声で目を覚ました。朝チュンというやつである。

 ……いや、別にいかがわしい意味ではなく。ベランダから雀の鳴き声が聞こえたのだ。

 でも、だからといって寝てるベッドの隣に誰もいないというわけではない。

 

「スゥー……スゥー……えへへ」

 

 なんということでしょう。目を開ければそこには銀髪美少女が安らかな寝息を立てているではありませんか。昨夜の暴食ぶりがまるで嘘のようです。

 羊肉をかぶり付いていた大きな口は閉じられ、薄く息を吐いているその様子は、まごうことなき可憐な少女。匠(料理人)の手によってあの獰猛な肉食獣の姿は跡形もありません。今ここに夢のシチュエーションが完成致しました。

 それでは、上条さんの反応を見てみましょう。

 

「……そういえば、後輩はバスタブで寝ているんだったね」

 

 寝起きのせいか馬鹿なモノローグを差し込んでしまった。もしかしたら、目の前にいる美少女のことを、上条と共有したかったのかもしれない。

 

「(てっきり、どこかに歯形でもできるのかと思ってたけど、何もなくてなりよりだ。寝る寸前まで耳が噛り取られるかもしれないってビビってたし)」

 

 あの上顎と下顎に噛み付かれれば、冗談ではなく本当に身体のどこかが失っても不思議ではない。それこそ、「くさりは私と一緒に寝るのイヤ?」と、上目遣いで言われていなければ絶対にしなかった。

 そんなことを思い出しながらあることを思い出す。

 

「もう九時か、時間まであと少しだね。今日は休日だから仕方ないけど遅れるわけにもいかない。今回は仕方ないと言えば仕方ないけど」

 

 というか俺が無理だった。

 だって昨日は腹刺されるわぶっ飛ばされるわで、いくらなんでも色々あり過ぎた。それなのに、上条の家で腹ペコシスターのために料理したんだよ?

 みさきち達を送り届けたあと、空間移動(テレポート)で家に速攻で帰宅し、血みどろの服を急いで着替えてそのまま上条の家で料理したから、精神的にも肉体的にも疲労困憊だ。

 一応腹ペコシスターのために、面白い作り方のクッキーを手土産にしてご機嫌取りをしたところ、なんかイギリスっていうよりは宗教的に馴染み深いものだったらしくて好評で、長い間待たせたのはそれでチャラになったらしい。

 ……あと、「記憶は無いから知識だけで知ってたけど、修道女としていつか食べて見たかったんだよ!ありがとうくさり!」なんて言われたから、近いうちにまた作ってあげようかなんて思ったり。

 

 さて、そんなわけで完食したのが朝の三時。

 帰っても良かったのだがインデックスに、「時間も遅いから泊まっていくといいんだよ!」と、無垢な目線で言われてしまい。男の家で一夜を過ごすという一大イベントが起きることとなった(一夜の半分は血みどろの戦闘)。

 まあ、相変わらずというべきか上条は風呂場で寝ているみたいだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 微睡みの中その声は聞こえてきた。

 

「…………こ……はい……こうは……」

 

「う、うぅん……」

 

 昨日の夜は走り回ったせいで疲労が溜まっていることもあり、もっと眠っていたいと本能が目覚めることを拒む。しかし、変わらずにその穏やかな声は上から囁きかけるように耳に届いた。

 

「……ほら、時間だよ──。目を──んだ

 

「……じ、かん……?」

 

 無理な体勢で寝ていたこともあり、体の節々が痛みを発する。しかし、遅刻に関するフレーズは上条当麻には効果抜群なため、無理矢理寝ぼけ(まなこ)でその声の方に視線を向けると、

 

 

 

「やあ、おはよう。後輩」

 

「」

 

 

 

 浴槽の縁に両手を着けてしゃがんだ体勢で、自分のことを優しげな視線で見下ろす先輩の顔がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(いやー、焦ったぁ。起こしに行って目が覚めたと思ったら硬直して動かなくなるんだもの。石化の魔眼でも宿したのかと思ったぜ)」

 

 瞳孔から何まで微動だにしない人間というのは恐怖である。それを今日は学んだ。あの剥製みたいなビー玉のような目で見られるのはマジで怖い。呼び掛けても反応しないからなおさら怖い。

 ビビった俺は笑顔で退散すると、ベッドで寝ているインデックスへと突撃し、「ふえ!?に、にゃに!?なにが起きたんだよ!?」と混乱するインデックスを問答無用で抱き締めた。

 髪を撫でたりしていると気持ちが落ち着いてきたので、鎮静剤としての作用はバッチリであったことをここに明記しておく。

 困惑しっぱなしだったが途中から、「……どうしたの?大丈夫?」と言ってくれたインデックスには、また今度何かご馳走してあげようと誓った。あれがシスターか。

 ……なんかテンパると毎回インデックスに甘えている気がする。アニマルセラピーかな?

 

 落ち着いた俺のもとに上条が戻ってきたのだが、なにやら様子が変わっていた。詳しく話を聞くと、どうやら俺が目を覚ましに行った記憶がすっぽりとなくなっているようだ。

 なに?そんなにショッキングだった?自分で言うのもあれだけどかなりの美形だと思うんだけど……。まあ、浴槽で長い長髪の女がニヤニヤしながら見てたら怖いか。怖いな(納得)。

 くしゃくしゃにしてしまったインデックスの髪を解かしていると、そういえば、と上条が前置きして言った。

 

「先輩ってカラコン入れてます?()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ああ、これか……」 

 

 これは昨日みさきち達にも言われた。灰色から青緑色になったのにはもちろん心当たりはある。多分だけどエルキドゥとコミュニケーションを取った後で身体を渡したから、親和性みたいのが上がったせいだと思う。

 とはいえ、それをそのまま伝えるのはできないため適当に言葉を濁す。

 

「原石だからね。目の色くらいその気になれば変えられるさ」

 

「……マジで?」

 

「マジだよ」

 

 説明にもなってない説明で、無理矢理納得させようとするオリ主。エルキドゥ関連の話だからこれ以上話を広げたくないのである。強引にも程があるが。

 それに対して「やっぱり先輩ってスゲー」などと、隣の後輩から思われていることを、焦っているオリ主は知るよしもない。

 そんなこんなで着々と身支度を整え、オリ主が二人に声をかける。

 

「それじゃあ、そろそろ行こうか」

 

「そうですね。おい、インデックスもう行くぞ!」

 

「うん、分かったんだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数十分後。

 病院の通路に設置されている待合椅子で、頬に紅葉が浮き出たツンツン頭の少年が不貞腐れたように座っていた。

 

「不幸だ……」

 

「ふんっ、とうまはもっと反省するといいんだよ」

 

「今回はさすがに擁護できないかな」

 

 ずーんと、落ち込む上条。でも今回はそう言われても仕方ないと思う。ノックもなしに年頃の少女の病室に入るのは、さすが主人公だよ。

 まあ、原作でも不幸の幾つかは、上条自身の不注意やうっかりとからしいし、上条なら普通にありえるのかもしれない。気落ちしてくたびれた上条にインデックスが追撃を仕掛ける。

 

「それで、とうまはあのツインテールに格好良さげなセリフを言っておきながら、なんの成果も持って帰らなかったんだね」

 

「うっ!?い、いや、白井の予測ルート辿ったら既にアタッシュケースがぶっ壊れてて、その運んでたらしき女の子も倒れてたんだって!誰かさんが人知れず壊してくれてたんだよな。いやー、親切な人も居たもんだなぁ」

 

「とうま!とうま!こんなこと滅多に言わないけど言うね!今までの中で一番格好悪い!」

 

「ゴバァッ!?」

 

 上条を一撃でノックアウトにしたインデックスは、上条を無視して近くの自動販売機のルーレットに興味津々である。慈悲はないようだ。

 

 そんなこんなで、手土産もオセロと御坂妹の二人に渡してお見舞いもを済まし、病院から出ることとなった。

 時刻はだいたい十一時前ぐらいだろうか。そして、病院を出ると同時に二人に伝える。

 

「それじゃあ、僕はここで君達とは別行動することにしようかな」

 

「そうですか。……あっ、そうだ先輩。昨日はありがとうございました!」

 

「君も体を張った当事者の一人だろう?ふふっ、君は本当に見ていて飽きないね。では、またね」

 

「うんっ、またねくさり!」

 

 そうして二人と別れて学園都市の街並みを一人歩く。すれ違う人々からその奇抜な髪色に視線を向けられるが、それらを一切無視してオリ主は頷きながら思う。

 

「(上条とは適度な距離感じゃないとヒロインにされちゃうからな。目指すは吹寄ポジション!頑張れ俺!)」

 

 自らのあるべき姿を目指し人知れず誓うオリ主。しかし、オリ主は忘れていた。

 オリ主が目指している吹寄は、上条の自宅までわざわざご飯を作りに行くこともなければ、インデックスと仲良く超機動少女(マジカルパワード)カナミンを観ることなど、万が一にもあるわけがないことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな感じで街中をブラブラしながら歩くと、既に昼の12時を回っていた。学園都市には興味深い物ばかりで時間が経つのが早く感じる。

 そんなのほほんと街を散策していると、俺の前で突如異変が起った。

 

 ズバチィッ!!という凄まじい音と共に電光が瞬いたのだ。

 

 一瞬呆けたがすぐさま思考を切り替え、騒動の中心であるファーストフード店に突っ込んでいく。

 こんな人通りの多いファーストフード店で高圧電流とか馬鹿じゃないの?目立つにも程があるだろ警備員のお縄になりたいのか?

 一体どういった理由d──ん?高圧電流?

 

 店内に入ると同時にふと思い立った予想が、正しいものだったことを店内の様子を見て理解した。

 

「ったく、それ以上近付くな変態!あのリアルゲコ太先生に一日で動けるようにしてもらったのに、暴れてんじゃないわよ!」

 

「もう御坂さん。それだと白井さんは喜んじゃいますから。こういうときは放置が一番ですよ」

 

「おーい、初春ー?かわいい初春のダークな部分が出ちゃってるよー?」

 

「お、お姉様……そんなつれないところもス・テ・キ♡」

 

「ね?」

 

「はぁ……」

 

 どうやら、いつもの仲良し四人組らしかった。アニメでは微笑ましいで終わったのだが、彼女達のせいで近くのカップルが破局する危機に陥っていた。

 まあ、怒鳴り散らす少女達がいるところで、デートをしたいのは少数だろう。

 

「(どうやら店員も困っているようだし、ここは()()としてお灸を据えるべきだな)」

 

 そう判断するとオリ主は彼女達の方へ足を進めたのだった。




初春と佐天の登場をお待ちの人。お待たせいたしました。ようやく出せました。上条とは如何せん絡みがないから出せないんですよね。

オリ主の行動を滞空回線で覗き見すると、また違った受け取りかたになります。それも結局は勘違いになるんですけど


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92.『平凡』と『特別』

題名変えました


 ぷすぷすと高圧電流を浴びせられて、恍惚の表情をしている変態を蔑むように見る御坂美琴。

 電撃を浴びせられたにも関わらず、何故こんな顔ができるのか超能力者(レベル5)の頭脳をもってしても分からない。普通の人間が通常はありもしない扉が、一体彼女には幾つあるのだろうか?

 

「(いや、別に興味があるわけじゃないけど。どっちかっていうと聞きたくない)」

 

 この後輩は頼りになるときとただの変態であるときの差が酷い。それこそ彼女と関わった人間が、尊敬と失望の感情で板挟みにされるくらいには。

 そんな彼女は今回風紀委員(ジャッジメント)としてではなく、ただの変態白井黒子として行動してしまった。今はフリーのため仕事中というわけではないのだが、それでも彼女は風紀委員のエースである。

 そんな彼女が空間移動(テレポート)で机の上に現れて散らかし、騒ぎ立てたなどと知られれば当然叱責は免れない。それこそ彼女とか。

 

 

「『ねぇ、白井さん?私には街の風紀を守る風紀委員(ジャッジメント)の一員であるあなたが、まるで自分から風紀を乱していると思うんだけどこれは一体どういうことなのかしらあ?』」

 

「ひょええッ!?」

 

「え!固法先輩っ!?」

 

 

 二人が条件反射のように声を上げる。おそらく人生で叱られてきた人間の中で、その人物はトップ3に入るほどに関わり深い相手なのだからそうなるのも自然だろう。

 しかし、この場には彼女の後輩ではない人物が二人いた。

 

「うぅん……?いや、でもなんか髪色が随分と……」

 

「……ああ、なるほどね。そういうこと」

 

 声よりも姿の方が馴染み深いため二人はいち早く気付けた。初春も一瞬遅れて違和感に気付く。気付かないのは彼女の前に後ろ向きでいる彼女だけだ。

 

「『風紀委員で正規員に対して特別訓練メニューが今練られてるって話聞いたことある?男性の風紀委員は既にその特訓内容が実際に有効なのか試されたんだけど、女性の風紀委員はまだ誰も体験してないのよね。そうだ白井さん参加してみる?ダイエットの効果も期待できるそうよ?』」

 

「……ダイエット?」

 

 その単語に少しばかり惹かれるが、次の言葉でそんな幻想は打ち砕かれた。

 

「『ええ、なんでもスポーツテストで最高に近い成績を出した風紀委員の男子が、疲労で倒れて最後までメニューを完遂できなかったらしいのよね。体重も一日で3キロ減ってしまったそうだけど、元気が有り余っている白井さんには楽勝よね?』

 

「誠に申し訳ございませんですのおおおッ!!」

 

 全力の謝罪が店内に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁーー。本当に勘弁して欲しいですわ。心臓が喉から飛び出るかと思いましたの」

 

 結局、四人と一人は店を追い出され、そこら辺をぶらぶら歩いていた。

 

「私も本物の固法先輩かと思っちゃいましたよ」

 

「私も声だけ聞いてたら完璧に間違えてたなー。再現度が凄かったもん。あと【どんな能力でもコピーする能力をもつ女】の都市伝説を実際に見れるときが訪れるとは思いませんでしたよ!」

 

「あはは……。佐天さんは相変わらずね」

 

 美琴は佐天の反応に呆れた風な反応を見せているが、実は内心ではこの場にいることに気まずさでいっぱいであった。

 

「(絶対能力進化(レベル6シフト)計画のときに喧嘩売って怪我させておきながら、計画を凍結させるのに協力してもらって、残骸(レムナント)のときも力を貸してもらった。

 そんな人物にどの面さげて和やかに話せって言うのよ……)」

 

 彼女の気持ちも理解できるだろう。犯人だと勝手に思い込んだあげく、その人物に一度ならず二度も助けられるなど、考えられる想定の中でも最低の部類だ。

 そしてそこに生まれる問題がもう一つ。

 

「(今すぐにでも謝りたいけど、みんながいるからそれもできないのよね……。

 理由は間違いなく聞かれるだろうし、はぐらかしても初春さんなら監視カメラやデータのハッキングやらで、万が一だけどあの計画の一端を掴みかねない。

 そのせいで暗部なんかに目をつけられるかもしれないし……)」

 

 彼女達を学園都市の闇に近付けることはなるべくしたくない。それが自分が引き起こした計画ならなおさらだ。

 そんな風に頭を抱えて蹲りたい衝動を抑えていると、横を歩いている佐天が何の気なしに言った。

 

「でも、いいですよねコピー能力って。たくさんの能力を使えるなんてまさに夢の力ですもん。私って無能力者(レベル0)だから余計にそう感じちゃいます」

 

「佐天さんそれは……」

 

「え?……わー!?す、すみません!私なんか嫌味みたいなこと言っちゃってっ!別に嫉妬とかじゃなくて私純粋にスゴいって思ったんです!」

 

「構わないよ。それは君の目を見ればわかるからね。それにこの能力にもかなりのデメリットはあるんだ」

 

「……それって現れる能力が劣化するってこと?」

 

「確かに、それでは完璧なコピーとはならないでしょうが、そこまで問題視するほどのことでしょうか?他の能力と組み合わせることができれば、さして問題にならないと思いますの」

 

「僕も実際にそうやって能力の穴を埋めているからそれは問題じゃない。僕が言っているのはもっと()()の部分の話だよ」

 

「根幹?」

 

 佐天さんがこてんっと首を傾げた。他の三人も同じような疑問が浮かんでいる表情をしている。

 天野はその衝撃的な事実を話し出した。

 

「僕の能力は能力と一緒に、その人物の言動容姿や演算パターンを一部を模倣するというものだ。それを続けていればどうなるか一目瞭然だろう?

 ──つまり、使用者の人格がコピーした相手の人格や、演算パターンに侵食されるリスクがあるんだよ」

 

「「「ッ!?」」」

 

「侵食?」

 

 さらりと言われたその事実に三人に衝撃が走る。佐天は演算パターンと言う言葉だけでその答えに辿り着くことはできなかったようだが、能力を開花させている三人はそれが異常な話だと理解できた。

 

「他人の演算パターンに侵食されるって、そんなことあり得るの!?」

 

「今まで平然としていらっしゃるから見落としてましたけど、……それってもうデメリットなんて言葉で片付けて良いことじゃないですよ!?」

 

「そうですの!それこそ未だに廃人になっていない方がおかしいですの!!」

 

「え?え、あの、ちょっと……?」

 

 その言葉を聞いた三人の急激な豹変に付いていけず、取り残される佐天に対して天野は淡々と説明していく。

 

「演算パターンと言うと分かりにくいかもね。少し違うけど簡単に言うなら"その人の思考回路"かな。イメージして貰うと分かりやすいかもね。

 例えば、御坂美琴のようながさつで短気で喧嘩っぱやくて困っているいる人を見ると放っておけない正義感なお人好し。そして友達想いな子供趣味があるツンデレで実は乙女な女の子。

 もし、そんな彼女とまったく同じ思考回路を持ち、ふとしたとき自然と同じような言動をする人間がいるとしたら、それは御坂美琴ではない一体"誰"なんだと思うかな?」

 

「いや、でもそれは」

 

「もともと子供趣味じゃなかったのに視線がそれに釘付けになったり、ちょっとしたことで短気になったり、言いたいことを上手く言えなくなったりすることは違和感ばかりだよ。

 それこそ『今の状態はコピーだ』なんて割り切れなくなるぐらいにはね」

 

 その話を聞いて佐天もようやく理解が追い付いた。これは同じように振る舞えば良いなんて次元では無い。自然とした動作で体と頭が勝手に動いてしまうということなのだから。

 天野は理解した彼女達を見て、少し別の角度から能力について話すことにした。

 

「とはいえ、全てが全てコピーした人間と同じようになる訳じゃないよ。それだと自分の全てを明け渡すことと同じだからね。ここにちょうど見本がある。ちょっとやってみようか」

 

 そういうと彼女は御坂美琴に近付きながら能力で姿を変えた。

 

「『お姉様ー!!』」

 

「ええぇっ!?」

 

 先ほどまで結構ガチな話をしていたにも関わらず、白井黒子へと変身した天野は御坂美琴へと駆け寄り手を取った。

 つい癖で電撃を与えてしまいそうになるが、返せないほどの借りがある相手であることを思い出し、その一線を越えないように理性で踏み留まる。

 

「(黒子の思考回路と同じものになるってことは、このあとに起きる展開も同じ……!?)」

 

 それを予見し身構える美琴だが、いつまで経ってもそれ以上のことは起きなかった。

 

「……あ、あれ?」

 

「『まあ、お姉様わたくしがもしかしてこんな往来で、まさか獣のように荒ぶるとでも?あまり倶佐利を舐めないで下さいまし』」

 

「あれぇ……?」

 

 白井黒子という少女の生態……もとい、性格を知っている彼女からすればこの反応は全くの予想外だ。その困惑に緑色の髪をした彼女は手を握ったまま話し出す。

 

「『私のコピーは確かに触れた相手の演算パターンを取得しますが、何も判断や決断全てを囚われるわけではありませんの。例え、お姉様を独占したい、何からナニまで味わい尽くしたいと言った感情が湧いても、その衝動に身を任せるかどうなのかは、わたくし自身が決められます。

 言ってしまえば、食事や睡眠などと言った本能を理性で我慢すると言った具合でしょうかね』」

 

「あ、なるほど。そういう感覚──ってちょっと待った。黒子アンタいつも私のことをそんなふうに見てたの!?」

 

「も、もう!プライバシーの侵害ですわよ!」

 

 照れたように頬を赤く染める白井だが、美琴の方は顔を青くし冷や汗を流していた。彼女の倒すべき敵はもしかしたら一番側にいるのかもしれない。

 そんな今しがた照れていた彼女の敵は、いきなり不審な態度を取り始め震えた声音でその人物に問い掛けた。

 

「そ、それはそうとあの天野さん?どどどどうして未だにお姉様の手を握ってらっしゃるので……?」

 

「『どうせなら、この場でわたくしが示せる正解例を提示しようと思いましたの。あなたはいささか本能に身を任せすぎですのよ。

 こうして手を繋ぎ寄り添うだけで、幾らかはその欲望も抑えることができますし、お姉様もこれぐらいでは電撃などの制裁は下しませんの』」

 

「確かに、私としても一日中手を繋ぐのはあれだし、知人や多くの人前でやり続けたいとは思わないけど、これぐらいで自重できるならその方がいいわね」

 

「お姉様!?なんてことを……!わたくしからのスキンシップが無くなってもよろしいのですの!?」

 

「うん、その方が助かるわ」

 

「お姉様ぁっ!?」

 

 美琴のマジトーンな返答に白井はショックを受けていた。そんな彼女を無視して興味本意で美琴は天野に聞いてみる。

 

「ちなみにだけど、その抑えてる欲求を言葉にするとどんな感じなの?」

 

「『お姉様に抱き付きその華奢な全身をまさぐりたい、わたくしがいなければ一生満足できない体にしたい、という欲求が湯水のように溢れ出て止まりませんの♪』」

 

「思っていた以上にどぎつい返しが来たっ!?ニコニコしながらそんなこと思ってたの!?」

 

 本能に身を任せる奴も大概だが、外面がこんな風に完璧だとそれはそれで安心できないと美琴は実感する。

 彼女は美琴の手から離れ変身を解き、本来の彼女の姿へと戻った。

 

「──僕の能力をその身に宿すなら、絶対に揺るがない自我を持つことが必須なんだ。つまりは自我の強さ。それこそ自分だけの現実(パーソナルリアリティー)の強固さと言っていいかもしれない。

 実際に調べたことはないけど、超能力者(レベル5)を含めた全ての能力者の中で、僕よりも強固な自分だけの現実(パーソナルリアリティー)を持つ者はいないのかもしれないね」

 

「……」

 

 美琴は考える。

 仮に学園都市第三位である自分が、その能力を持っていたら果たして自我を保ったままだったのだろうか、と。

 そして、数秒もせずに結論が出た。

 首を振って彼女は答える。

 

「無理ね。仮に私が宿していても他人の演算パターンに掻き乱されて、自我を間違いなく失うわ。それこそ幼少期から能力を宿しているなら100%」

 

「が、学園都市第三位の御坂さんでも……?」

 

「どんなに強固な自分だけの現実(パーソナルリアリティー)があっても、常に誰かの演算パターンが入力されたら、その人物と自分自身の境目が分からなくなる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 信じられない話を聞いて呆然とする佐天に、天野は話し掛けた。

 

「高位能力者になればなるほど人格は歪むし、能力の恐ろしさも比例していく。僕からしたら君の誰にでも波長を合わせられる人並みさは羨ましい限りさ。君は自分が思うよりもずっと特別なんだよ」

 

「その私……」

 

「ふふっ、これで少しは『能力』の異常さが分かったかな?君が今恐ろしいと思った感情を大切にするといい。

 僕はこのあとちょっと会いたい人がいるから、ここで失礼させて貰うよ」

 

 そう言った彼女は横断歩道を渡った。その儚げな後ろ姿にハッとした佐天は、彼女の背中に向けて大きな声で伝える。

 

「あのっ、失礼なこと聞いてごめんなさい!それとありがとうございました!」

 

 首だけを捻りこちらに視線を向けた彼女は、優しい微笑みを浮かべて去っていく。

 自分とはいろいろ違って特別な人だなとは変わらずに思う。学園都市でも稀少な『原石』でもあり、夢のような力を持った高位能力者。

 何も持っていない自分が憧れてしまうのは当然だ。

 無能力者(レベル0)の劣等感から生まれた能力に対する渇望は、幻想御手(レベルアッパー)事件でなくなったけど、能力者になりたいという羨望や嫉妬みたいな心は、変わらずに持ち続けている。

 あんな目にあったというのに、私は『特別』に憧れてしまうのは止められないままだった。

 

 しかし、彼女の言葉から佐天は初めて恐怖を感じた。

 今までとは違い、理想や羨望だけではなく『超能力』という異常さを認識できるようになったのだ。

 これは小さな一歩だろう。今までになかった新しいフィルターを手に入れ、それが見れるようになったというだけなのだから。

 佐天は相変わらず無能力者(レベル0)のままだし、人に自慢できるようなスキルは身に付けていない。佐天涙子はどこにでもいるただの中学一年の女の子だ。

 

 だが、その些細な変化を人は成長と呼ぶ。

 

 物事を否定的な目線で見ることができるようになった。それは嫉妬からでも憎悪からでもない、もっとフラットな視点を彼女は手に入れたのだ。

 だが、それは彼女の性格がまるごと変わったこととイコールではない。

 その好奇心大勢なところは変わらず、噂好きなのも変わらない。親友のスカートめくりを止めるつもりもないだろう。それでも間違いなく彼女は変わったと言える。

 

 なぜなら、以前よりも能力者に対して抱いていた羨望が薄くなったことを、佐天涙子は自覚していたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、そういえば、美偉(みい)の話だと近いうちに特別訓練があるのは本当らしいよ」

 

「「え」」

 



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93.そして事件が始まる

それでは93話です


 学園都市の街並みをスタスタと迷いなく歩く少女。彼女が通り過ぎた人垣の多くは思わず振り返り、彼女に視線を向けている。それは髪の毛の奇抜さや容姿の精巧さ、そして彼女が纏う空気によるものだ。

 そんな風に無自覚で人の視線を集めてしまう彼女が思うことは一つだけ。

 

 

「(佐天さんは黙ってれば黒髪ロングの美少女。しゃべり出すととかわいいただの美少女。

 へっ、危うく抱き締めちゃうところだったぜ(事案))」

 

 

 先ほど少女に講釈を垂れていた人物とは、とても思えない内容だった。そんなことを考えていて恥ずかしくはないのだろうか?

 

「(明るくて楽しいだけじゃなくて、コンプレックスがあるのがいい味出してるんだよねー。あの卑屈さがあるからキャラに深みが出ているというか?

 あーもう!抱き締めていい子いい子したいー!!(欲望全開)」

 

 ……オリ主は上げた株を自ら叩き落とすのがマイブームらしい。

 

「(普通普通言いながら佐天さんって美少女なんだよなー。あれはもう普通普通詐欺だね。美少女の時点で普通じゃねえもん)」

 

 顔や動作に出ないことをいいことに、これでもかと欲望をぶちまけるオリ主。

 こんなのに説得されてしまった佐天涙子が不憫だ。

 

「(佐天さんといい感じの関係性を築くために、それっぽい話で先輩風を吹かせたのは我ながらグッジョブだった。本当は特典や転生が理由だから適当なことこの上ないんだけど。

 ふっふっふっ!アニメで佐天さんを含めたキャラクターの裏事情は把握している。それを使えば原作キャラとはほぼ確実に仲良くなれるわけだ。俺からみれば全員チョロイン同然よぉ)」

 

 ゲスである。頭の中に打算しかない。

 オリ主のこの技術は実は原作でも使用されている。オリ主は知るよしもないが、『創約 とある魔術の禁書目録』にてアンナ=シュプレンゲルが、立ち上げたサイトにアクセスした人々の情報を閲覧し、欲しい言葉を言って聞かせ思うがままに操っているのだ。

 つまり、良い先輩を気取っているが、オリ主がしていることは人格破綻者のアンナ=シュプレンゲルとそう変わらないのである。

 

 そんなゲスな事を考えていると、あることに思い至った。

 

「(なーんか、どっかで見たことがあるんだよなあ……)」

 

 今しがた見た光景が、前世の記憶とリンクしているようなデジャブを感じたのだった。

 

「(……あと何か大事なことを忘れてるような気がする)」

 

 うーん?と思案しながら首をかしげるオリ主。今の状態を例えるなら、喉に小骨が刺さった感じだろうか。

 

「(本編である『とある魔術の禁書目録』か?それとも他の外伝シリーズ?……なーんかピンとこない。佐天さんがいるから禁書じゃないと思うけど、超電磁砲でこんなシーンあったかあ……?)」

 

 単行本を暗部抗争編から本格的に集めていたため、それ以前の話は曖昧に知っていた。そのため、いくら前世の知識を思い返しても、詳しい事実を思い出すのは実質不可能なのだ。

 

「(まあ、いいか。あの感じからしてそこまで事件の進展具合は無いはず。もし、何かあったら風紀委員(ジャッジメント)の二人があんな呑気にファミレス居るわけないしな。

 魔術サイドの事件なら十中八九、上条が関わっているだろうけど、流石に数時間で大災害を引き起こす事件に出くわすわけが…………どうしよう普通にありえる)」

 

 上条の人生で一回でも遭遇すれば、逆に奇跡のようなとんでもない厄介事を吸い込み続ける、ブラックホールのような体質は、原作はもちろん今まで隣に居たこともあり、オリ主はよく知っている。

 恐ろしい話だが数時間後に会うと、既に学園都市の未来を掛けた戦いのクライマックスなんてことも普通にあり得るのだ。

 立ち止まったオリ主は神妙な顔になった。それもそのはず、知らない間に自分の命がついで感覚で、吹き飛ばされる可能性があるのだ。平然としているなんてどんな無神経でもあり得ないだろう。

 そして、オリ主は解決案を思い浮かべた。

 

「(……めんどくさいし直接聞いてみるか?)」

 

 そんなわけで電話をかけてみる。

 何度か呼び出し音が鳴ったあとに、上条ではないソプラノの声が電話口から聞こえた。

 

『え、えと、もしもし、くさり?こちらインデックスなんだよ。どうしたの?とうまに何か用事?』

 

「(あ、戸惑ってるかわいい)うん、少し彼に確認したいことがあってね。君が出たということは彼はそこに居ないのかい?」

 

『ううん、居るよ。でも、とうまはばってぃんぐましんと戦っているから、代わりに私が携帯を使うことになったんだよ』

 

「バッティングマシン?」

 

 すると、上条の声が聞こえてきた。

 

『成功っていうのは、怖がらずに打席に立って!打ちたいって願って!思い切り振った奴にしか訪れないんだっ!…………あれ?』

 

『今のとうまのどこに説得力があるのか私には分からないんだよ』

 

 どうやらフルスイングで空振ったらしい。らしいと言えばらしい。

 だが、電話口から聞こえた一連の流れにオリ主は疑問を抱いた。

 

「(まさか、二人が居るのはバッティングセンターか?)」

 

 男子高校生が訪れる場所で、バッティングセンターはさほど珍しい場所ではない。

 だが、それには『上条当麻以外』という注釈が入る。

 

「(原作で上条がバッティングマシンなんて使う事あったか?生活にゆとりがない上条が、そんなところに暇潰しで行くとは思えないんだよな……でも、なんだか見覚えがあるような?)」

 

 もう喉元まで出てかかっているそれがが、なんなのか分からずどうもすっきりしない。

 すると、電話口から新しい女の声が聞こえた。

 

 

『当麻くーん!もう少しだよ頑張って!』

 

「(……()()()()()()())」

 

 

 オリ主は今さら上条の近くに女の子が突然現れても、大して驚きはしない。それこそ、「だって上条だし」で済んでしまう事だ。

 それなのにどうしてオリ主は反応したのか。引っ掛かったのはその呼び方である。

 

「(上条の呼ばれ方は色々ある。インデックスの『とうま』や土御門や青髪の『上やん』。

 ミコっちゃんの『アンタ』や一方通行《アクセラレータ》の『クソ野郎』や『三下』、果てには、食蜂の『交差点の食パン激突男』なんてものまで様々だ。

 そして、今呼ばれた『当麻くん』呼びは、実は原作で誰一人呼んでいない)」

 

 不思議なことだが、上条当麻を下の名前で呼ぶキャラクターは意外と少ない。

 上条が知り合うパターンの一つとして、窮地を救われ知り合ったというのがあるが、その場合は大抵その戦いが終われば離れてしまうため、下の名前で呼び会う関係性にはなりにくいという実態がある。

 元々敵だったというのがあるが、その場合は『あいつ』や『あの野郎』などと言われており、どこか一線を引いたニュアンスが残っているのだ。

 そのため、原作に出てきていないはずのキャラクターなのだが、オリ主はその呼び方と声音を知っている。そして、それを決定付ける声が電話口から聞こえてきた。

 

『い、いや~、上条さんの肩がようやく温まってきましたな~。おーし、見てろよインデックスに()()()。ここからはホームラン連発だぜ!……うおおおおおっっ!!』

 

 上条の裂帛した声が電話口から聞こえているが、オリ主はそれどころではなかった。

 

 

 

「(アリサって……まさか、鳴護(めいご)アリサかッ!?てことは、まさか、今回の事件はエンデュミオンかよ!?)」

 

 

 

 思わずオリ主は地上から遥か空まで伸びる、宇宙エレベーターを見上げた。何故天空までそびえ立つ科学の塔を今まで思い付かなかったのか、不思議でならない。

 

「(……いや、最近は残骸(レムナント)の原作のズレと、黒夜によるリンチでそこら辺に思考を回す余裕がなかった。

 宇宙エレベーターの存在は知っていても、まさか昨日の今日で映画の内容だなんて思わないっつの。というか、やっぱり世界の危機的状況まであと数十時間じゃん)」

 

 オリ主は映画の内容を思い出しながらため息を吐きたくなった。しかし、今回はむやみやたらに動き回る訳にもいかなくなってしまったようだ。

 それもそのはず、なぜなら

 

 

「(や、やべえ……映画の内容なんてほとんどうろ覚えだぞ!?)」

 

 

 オリ主の前世の記憶はその特異な状況から、『とあるシリーズ』の情報が重点的に残ってはいるが、その残っている記憶も転生した直後の記憶が残っているだけなのだ。

 つまり、転生するときに『とあるシリーズ』に関する全ての事柄を与えられたわけではなく、その原作知識は大学生だったオリ主の記憶力が基となる。

 そんなオリ主の記憶は、はたして6年前に放映された映画の内容を満遍なく記憶しているのか。

 

「(無理。穴空きでしか覚えてないわ。これはヘタに介入するとなんかやらかして、本来の結末とは違ったシナリオになる)」

 

 細かく覚えているならやりようはあるが、オリ主が記憶しているのは『アリサ可愛い』と『お泊まり回』と『真空ですよおおおお!?』ぐらいなのだ。

 その上、今回の事件は失敗してしまうと、今までのようなカバーが出来るか怪しい。

 おぼろ気だが上条の病室で土御門が、北半球が未曾有の大災害に見舞われる、とかなんとか言っていた気がする。多分。

 もし、それが本当ならミーシャ=クロイツェフ。つまり御使堕し(エンゼルフォール)大天使ガブリエルの事件と、同等の被害を出す可能性が付いて回ることになる。

 

「(ここは放置が適切かな。何ができるのか明確なビジョンが定まってないのに、リスクが今までの数十倍はあるとかマジありえん)」

 

 そう結論付けたオリ主は、このあとに約束していた人物へ会いに向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、白井さんは昔よりはマシになったとはいえ、一人でなんとかしようって行動しすぎなのよ。警備員(アンチスキル)の案件まで首を突っ込んで、怪我するなんて日常茶飯事。

 その上、今回は取り引きしていた不審人物を捕まえようとして入院する始末。あの子の能力は強力だけど彼女は紛れもない中学一年生の女の子なのよ。

 今回は運が良かったけど、最悪取り返しの付かない事態になっていたかもしれないのに……(以下略」

 

 それで、今何をしているかというと、お分かりの通り目の前の彼女から愚痴を聞いているのだ。

 友人である固法(このり)美偉(みい)風紀委員(ジャッジメント)であり、あの白井黒子の先輩である。実は彼女が初めてバディを組んだのも固法美偉であったりする。

 

「(相変わらず話が長ぁい……。もう数十分経ってるのに全然止まらん。愚痴の内容も悪口とかじゃなくて、世話好きな性分からくる心配事だから微笑ましく聞いてられるけどさ……。

 でも、そんなに話すことある?子供を心配するお母さんなの?精神年齢高くない?……あ、そっか。オセロが中一で固法が高二だからそこまでおかしくないのか……。

 ……あんなに命懸けの戦闘をしておきながら、去年まで小学生とかマジ?)」

 

 改めて言葉にするとその事実に呆然としてしまう。オリ主の感覚としては自分より一つや二つしたの、女の子のイメージであったのだ(それでもおかしなことではあるが)。

 そんな事を考えていると目の前の机に、コトリと湯飲みが置かれた。

 

「ごめんねー?みいが迷惑かけて。この子もストレスが溜まっちゃってるみたいで私以外にもこうして吐き出したいみたい」

 

「うん、分かってるよ。彼女は生真面目で世話好きだからね。心労が他の人よりも溜まり易いんだろう。これぐらいは友人としなくてはね」

 

 彼女こそは固法美偉のルームメイトである彼氏持ちの友人である。名前は知らない。そんな彼女と軽く話していると固法がムッとして睨んできた。

 

「ねえ、ちょっと聞いてるの?私が言いたいのは──」

 

「(もしかして酔ってるのかな?)」

 

 余りの口数の多さと絡み方を見て思わず飲酒しているのかと思ったが、ザ・優等生の彼女がそんな事をするはずもない。

 単純に黒子は正義感は強いが割りと無鉄砲なところがあるため、安心することができない彼女は、それだけ日々ストレスが溜まっているのだろう。

 そんな彼女の愚痴ぐらいは喜んで聞こう。数少ない友人なのだし。

 

 

「私が思うに白井さんだけじゃなくて、初春さんも初春さんよ。バディを組んでいるなら補助するだけじゃなくて、止めるところはちゃんと止めることも必要でしょ?

 いくら風紀委員としては後輩だとしても、そこら辺はきっちりと線引きを──」




気分が乗らず執筆からちょっとばかり遠ざかっていました。この小説を書き始めて1年3ヶ月経ちましたが、こんなことは今までなかったため作者も少し困惑しています。
もしかしたらスランプ気味かもしれないので、今までよりも投稿スピードが落ちていくかもしれません。



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94.とある教室の一幕

何度も書いても手応えがなかったので、アドバイス通りに禁書を読み返してこの話を閃きました。
でも、手応えが薄いので本調子まで時間がかかると思います。

そんなこんなで94話です


 翌日、学校があったため学生として当然の如く登校する。

 本来なら授業の時間がくるまで小萌先生と話したりして、適当に時間を潰すのだが、介入しないとはいえエンデュミオンの進行具合を知りたいのは事実のため、上条のクラスへと向かった。

 その途中で何人かの生徒から注目されるが、よくあることなのでもう一切気にしない。慣れって怖いね。

 すると、上条のクラスの近くまで来てみれば、上条のクラスの教室から似非関西弁口調のテノールの声音が、教室の外まで響き渡っていた。

 なにやらその声に真に迫るものがあったので、試しに耳を傾けてみると。

 

 

「ええか、上やん。アイドルを応援する醍醐味っちゅうのは青田買いにあるんやッ!!」

 

 

 どうやら今日も世界は平和らしい。

 

「ちーっとばっか目を離すと、埋もれていたはずの子がいつの間にかメジャーになってしまうんや!一瞬たりとも気が抜けん世界やでえ!」

 

「ああ、そう……」

 

「特にアリサちゃんなんて、ビジュアル良し歌声良し笑顔良しスタイル良しの四拍子や。

 当然有名になる前からファンもおってな?よくある古参のファンと新参のファンとの間に、どうやら確執ももう起こってるみたいなんや」

 

「ふぅん、俺にはよくわからん世界だ……」

 

「一般人の上やんには理解できひんやろなぁ。しゃーない、僕がそれを説明したる」

 

「いや、別に聞きたいとは言っt」

 

「古参のマウントを取りたい気持ちは僕にはよう分かんねん。それは愛情の裏返しや。

 古参には俺の方がずっと応援してきたっちゅうプライドみたいなもんがあるんよ。ミーハーの奴らとは違う。俺達の気持ちは一過性のものとは違うんやで!みたいな気持ちがどぉしても沸いてくる。

 でも、それが結果的にアリサちゃんの迷惑になるわけで。その事を考えたら自分の中にある葛藤を押し殺してでも、アリサちゃんの邪魔をするわけにはあかん。

 だって彼女はみんなに夢を届けてくれてるんや。なら、僕らもその姿を曇らせることなんてできるわけがないやろ?

 だから、僕としては夢を届けてくれるアリサちゃんの力になれるよう、古参新参関係なく彼女のシンデレラストーリーを見守ることこそが大事やと思っとるッ!!」

 

 机に手をバンッ!と叩き付けて熱弁する青髪ピアス。相変わらずスゴい情熱だ(サブカルチャーと変態な事に対して)。

 それを聞いた上条は辟易とした表情をしている。興味ない人に熱弁してその熱意が届くとどうして思ったのだろう?

 

「はあ……もうなんでもいいから寝させてくれ」

 

「どうしたぜよ上やん。なんだかお疲れみたいだぜい?」

 

 上条の机に肩肘を付いて、頭の上から伺うように土御門が問いかけた。この友達特有の距離感って、上条の数少ない男子高校生としての日常の感じがしてエモいよね(ただの禁書ファン)。

 

「……居候が増えて枕も何もかも全部奪われた……」

 

「……枕も。全部。奪われた……」

 

 すぐ近くからそんな声音が聞こえてきた。そっちをみれば地味な巫女少女こと姫神秋沙が、表情を変えずにそんな言葉を呟いている。

 姫神がLOVEなのかLIKEなのかは知らないが、上条に好意を持っているのは間違いないだろう。原作でもそれについては詳しく明言はされていなかったはず。多分だけど。

 なら、勘違いを正さなくてはならないな。一人の先輩として。

 

「──彼のことだからそう言った意味じゃないと思うよ?どうせ厄介事をまた背負い込んだんだろう」

 

「きゃっ!?」

 

 女の子っぽい悲鳴が姫神から漏れたが、それも仕方ないだろう。突然あすなろ抱きされたらそりゃあ驚くわ。

 それにしても今の声可愛い。スゴく女の子っぽくて個人的に100点です。

 声と口調から俺の事が分かったのだろう。姫神が据わった目でこちらを見てくる。可愛い。

 

「……いきなりこういうことをするのは止めて欲しい。心臓に悪すぎる」

 

「これくらいは女の子同士のスキンシップの一環だろう?僕と君は同じロングヘアーの(よし)みじゃないか」

 

「私はあなたほどに伸ばしてはいないから。同じというのにはいささか無理がある。同じ括りというのなら『原石』の部分だけ」

 

 そう、地味すぎて忘れてしまっている読者がいても不思議じゃないが、姫神秋沙は『原石』の一人だ。

 その能力は吸血殺し(ディープブラッド)。吸血鬼を殺す能力だ。

 食虫植物のように吸血鬼を誘い出し、自らの血を吸わせると吸血鬼を灰塵へと変えることができる能力。

 この力は常に発動しているため姫神自身が操れるわけではないが、逆に吸血鬼だけに影響を与える能力のため、普通の人間に対する効力は一切無いことから、一般人として生活するのには苦ではなかったりする。

 

「(というか、日常生活でデメリットあるのって俺だけじゃね?……あ、いや、そうでもないか。上里ハーレム──もとい上里勢力の暮亜(くれあ)も暑いと、しなしなになるんだっけ?)」

 

 暮亜とは上里勢力に居る『原石』である。

 丸縁眼鏡で黒髪の長いおさげという風体で、どこかの誰かと同じように地味な女の子としか印象に残らなそうなキャラクターだが、その特異性は類を見ないものとなっている。

 彼女はその能力の影響で細胞が人間よりも植物に近いものとなっており、体がフレンダ──もとい上半身と下半身を真っ二つにされても復元するという、驚異的な生存能力がある。

 さらには、植物の能力だけでミサイルを作ることも不可能ではなく、アルコールを燃焼し高速戦闘までこなす、汎用性が非常に高い能力なのだ。

 そんな彼女だからこそ暑さや乾燥には弱くなっている。それも『原石』である能力者の弊害だと言える。

 

「(まあ、俺のこれは特典だから勝手が違うんだけどさ。……うん?)」

 

 そんなことを考えていると、周囲から今までの視線とは違ったものを感じた。どこか浮き足立っているようななんとも言えないかんじだ。

 その事に首を傾げていると、青髪ピアスが元気な声で話し掛けてきた。

 

「そこにいらっしゃるのは天野お姉様やないですか!いやー、これはテンション上がるってもんですよ!」

 

「(う、うーん?それでこのテンションは何か違くないか?言葉にできないけど別の──ああ、なるほどっ、そういうことか)」

 

 皆の視線がどちらかというと、姫神の首に回された腕を見ていることに気付いたオリ主は、いたずらっぽい顔をしてより姫神に密着する。

 

「どうだい男子諸君。彼女にこんな風に密着できる僕が羨ましいかい?これは女の子同士の特権でね。

 僕と違って君達には、彼女の彼氏にならなければならないという高いハードルがある。それを思うと君達を不憫に思うね」

 

「……嫌ではないけど恥ずかしいから止めて欲しい……」

 

 頬と頬が重なるほどに近いため、さすがの姫神とて恥ずかしく思うようだ。

 すると、いきなり青髪が胸を押さえた状況で立ち上がり、何故か苦し気に言葉を発した。

 

「こ、これが…………三次元の、百合……かっ!……な、なんて尊いん……や…………」バタンッ

 

「いやー同じ学校の生徒ってのも、さらにあの状況に背徳感を増してるぜよ。二人とも美少女だから余計に絵になるにゃー。なっ?上やんもそう思うだろ?」

 

「……ノーコメントで」

 

 地味めだとはいえ姫神は紛れもない美少女。そんな子にこんな堂々と抱き付ける俺を羨ましがるといい。ふははははっ!

 そんなことを思っていると背後から、ただならぬ大声が発せられた。

 

「ま、まさか、あああああ天野せせせ先輩っっ!?!?」

 

「……うん?」

 

 首を捻り後ろを見てみると、そこには「対カミジョー属性全ガードの女」にして、「美人なのにちっとも色っぽくない鉄壁の女」の吹寄(ふきよせ)制理(せいり)が居た。

 ……いや、この名前のインパクトよ……。この単語を女の子のキャラクターに付ける先生パネェわ。

 

 それよりも、重大なことがある。この吹寄だがその胸の大きさがなんと作中トップクラスの爆乳なのである。そして、確かどこかのサイトで見た情報によると女生徒系統では一番の大きさだとか。

 

 

 皆さんお気付きだろうか?

 

 

 その『女生徒系統』の括りがどこまでなのかは知らないが、もし学園都市に在籍している、全ての女生徒を含めているならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だから何?と一見思うかもしれないが、とあるアルファベットを知ればその認識も変わるだろう。

 

 雲川(くもかわ)芹亜(せりあ)Gなのである。

 

 この英字は男のときはよく実感できずにいたが、女になったあとも余計に訳が分からん。どいうことやねんGって。もはやちょっと怖いわ。

 Cとかって割りと平均ぐらいあるよね?何で英字が2倍した文字より先に行くんだよ。

 文字はCと似ているのに一画足しただけで戦力差が段違いなんですけど?一体どいうことなのこれ?(錯乱)

 

 そして、その雲川を超える可能性を持つ吹寄制理。しかも、高校生一年生。

 

 ……なんなの君、もしかしてレベル6?

 

 ちなみにだが、姫神とのもう一つの共通点がさっきからやたらと話題にしている身体的特徴の英字であったりする。

 

「確か君は吹寄制理だったかな?僕に何か用かい?」

 

「あっ、えと、そのあの……っ」

 

「…………」

 

 うーん?あ、あれ?吹寄ってこんなキャラだったっけ?

 もっとズバズバしていて拳で言うこと聞かせる、真面目な堅物委員長みたいなキャラだったはずなのに。

 こんな描写少なくとも原作には無いはずだぞ?

 とはいえ、このまま放置するわけにもいかないだろう。先輩風というのは吹かせられるときに吹かしまくるというのが俺の持論だ。

 まあ、やり過ぎて引かれないようにするという調整は必要だが。安心させるように目を合わせてなるべく優しく問いかけた。

 

 

「落ち着いて。ゆっくりでいい。君の話を聞かせてくれないかな?」

 

「ちちち近っ!?」

 

 

 ──なのだが。何故か吹寄は勢いよく後退った。

 ……何でさ?エルキドゥって美形だから、そんな身体ごと退くように動かすようなポイントなんて無いと思うんだけど……(困惑)

 

 そして、勢いよく下がった吹寄は運悪く、通路にある鉄筋コンクリートの柱に足を引っ掛けて、後ろに向かって倒れ込む。

 

「きゃあっ!?」

 

 このままなら、吹寄は背中やお尻を強打することは間違いないだろう。それどころか頭を打てばそれ以上の被害になるだろうことは想像に難くない。

 予備動作無しの行動というのはそれだけで意表を突く。暗部に身を置き身体能力が高い土御門でも、これに反応することは難しいだろう。

 しかしそれは逆に、普通の人間以上の身体能力があるなら、結果は変わるということでもある。

 

 

「──大丈夫かい?」

 

 

 余裕で重力に従い落ちていく吹寄を捕まえ、地面への落下を阻止する。エルキドゥの力の一部分しか使えないのだとしても、これぐらいは朝飯前だ。

 ……エルキドゥありきなのでそこまで威張れることでもないけど。

 

 まあ、でも一応マスターなのだから使う権利ぐらいはあるだろうし、エルキドゥもそっちの方が喜ぶため、結果的にはこれでいいはず。

 でも、滞空回線があるから表に出せないのはごめんね?あの変態官能小説家の魔術師が全部悪いんだよ。

 

 そんなことを思いつつ腕の中に居る吹寄を見る。ちなみにだが、普通に吹寄の腕を取って彼女の体勢を維持したのではない。

 先ほども言ったが俺は先輩風を吹かしたいのである。格好付けるためにはそれだけだと印象が薄い。

 そのため、俺が取った行動はよりインパクトがある絵面だ。

 

 吹寄の腕を掴みながらその腰に手を添えたのである。

 

 周りから見ればそれはダンスの一幕のようにも見えたかもしれない。

 我ながら見事な救出劇を演出を作り上げたため、つい得意気な表情をしてしまいそうになるが(エルキドゥは微笑み程度しかしないためおそらく無理)、腰を掴む手から伝わる感触で驚愕に思考を塗り潰された。

 

 

「(腰細っそッ!!なんだこれマジもんのボンキュッボンか!?美人でこれとか、愛嬌さえあれば天下取れる逸材だぞこれは……っ)」

 

 

 思わず冷や汗を流すオリ主。この状況で何を考えてるんだコイツ(呆れ)

 

 微笑みを浮かべながら、内心では目の前の少女が持つポテンシャルに(おのの)いていると、吹寄は自らが陥っている状況へ理解が追い付いたのだろう。

 言葉にならない言葉を発して、先ほど以上に目をぐるぐるさせた吹寄は一切の行動を停止した。

 

「きゅう……」

 

 急に身体を弛緩させた吹寄に驚いていると、予鈴(よれい)が鳴る。そして、前の方の扉から135㎝の小学生にしか見えない、ちんまい先生がソプラノ声を出しながら教室へと入ってきた。

 

「はーい!皆さん席に着いてくだ──えぇ!?吹寄ちゃん一体どうしたのですか!?もしかして、気絶しているのですか!?あと何で予鈴がなる寸前まで天野ちゃんがこの教室にっ!?」

 

 「私、驚愕してます!」と言わんばかりの態度に逆に冷静になってしまった。小萌先生は本当に和むなぁ……。

 

 

 …………あっ、結局上条に話聞いてないや。




◆作者の戯れ言◆
正直に言います。
実を言うと作者はおっぱいネタはあんまり好みではないのです。では、何故何回もおっぱいネタを繰り返すのか?それにはちゃんとした理由があります。

一つ、原作でもおっぱいネタは多くとりあつかっているため。
主に女キャラクターのマウントの取り合いですかね。
ここで重要なのが他のラノベでありがちな主人公がそこを指摘して馬鹿にしているのではなく、美琴が勝手にそう思ったり言っているだけなのです。
上条は大きい方が好みなだけで、そう言ったことでからかうことは(めったに)ありません(食蜂のときのことは見なかったことにする)。

だから仕方ないんだ!だって大正義の原作でも多くしているネタだもの!二次創作ならその要素も当然取り入れるのが礼儀だよね!?(ごり押しの言い訳)

それと、この頃スランプ気味なのでブレイクスルーのために取り入れました。

二つ、分かりやすいTS要素。
男女の違いで胸は明確な違いの一つと言ってもいいでしょう。これを書くことで読者の人たちに、オリ主がTSして男から女の子になったことを実感してもらうのが、何よりも手っ取り早いんです。
逆にそれ以外だと生々しくて話が浮いちゃう可能性があります。おっぱいネタですと読者の人も、「ああ、ギャグだわこれw」的なことを一目でお分かりになると思います。そのため、これもとあるの世界を壊さずに進めるための、配慮の一環となっております。


何故こんな弁明を長々としているかというと、ここまで読んでいただいた読者の皆様のお分かりの通り、今回の話はおっぱいネタがてんこ盛りだからです。
現状打破のために取り入れましたが、作者もここまで多く書くことになるとは思いもしませんでした(本音)
この94話まで長い間お付き合いしていただいただろう、読者の皆さんのことですから、「作者めっちゃノリノリじゃん(笑)」ぐらいで受け入れてもらえてることを願ってます。



要約:作者は個人的には好きじゃないですが、おっぱいネタは
重宝させていただいております。       かしこ


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95.吹寄制理の追想

実はあのときの子はモブじゃなかったというお話。

姫神の口調を原作通り読点から句点に変えました。



 私、吹寄(ふきよせ)制理(せいり)があの人を知ったのは二年ほど前だった。

 あの日は受験までもう少しなこともあって、寝不足気味で学生バスの中で眠ってしまい、目的地を通り過ぎてしまったせいで、いつもよりも帰るのが遅くなってしまった。

 さらに不運なことに、あの日は工事とかでいつもの道が通れなくて、遠回りしなくちゃいけなかったのよね。だから、近道するために路地裏に入ったのが運の尽き。

 

 私は路地裏で馬面っぽい男と、バンダナを巻いた男に絡まれてしまった。

 その片方の男が逃がさないように私の腕を掴んだ。

 

「は、離してくださいっ!こんなことしていいと思ってるの!?」

 

 そうは言ったもの、見た感じ無能力者集団(スキルアウト)であろう彼らに、こんな言葉を言っても意味がないことは分かっていた。ここで都合よくこんな路地裏に警備員(アンチスキル)が通るわけもない。私は文字通りの絶体絶命だった。

 

「おいおい、そんなツレねぇこと言うなよ。俺達に少しだけお金を恵んでくれるだけでいいからさー。あ、それがイヤならその体で払ってくれてもいいんだぜ?」

 

「おっ、そりゃあいい。確かに結構いい体つきしてるしな。俺達もたまには羽目外して楽しみたいし」

 

 ぎゃはは!ゲラゲラ!と下品に笑っている彼らの言葉を聞いて、金銭だけではなく身の危険まで迫っているのが分かった。

 同年代の女子より発育が進んでいるのは自覚していたけど、そう言った感情をこうして見ず知らずの男達に向けられると、寒気が全身を走る。

 無能力者(レベル0)で自衛手段がこの身一つの私では、運よく一人を不意討ちで撃退できても、残ったもう一人はどうしようもない。私に彼らの拘束を解いて逃げる手段はなかったわ。

 

 そこからはやせ我慢だった。

 我ながら気丈に振る舞いはしたけど、手足が震えてしまっていたと思う。それでも、こんな卑怯な奴らに屈するのは嫌だという意地だけで、あの場は退かなかった。

 あれが対応として良かったのかどうかは分からないけど、それでもきっと無駄じゃなかった。

 

 

 だって彼女が来てくれたんだから。

 

 

 詰め寄られていた私の近くに、白衣を着た人物が突然現れた。それには彼らも驚いていたわね。多分寸前までバレないように接近していたんだと思う。

 私を掴んでいた男はその人にドスの利いた声で威嚇した。

 

「……あ?何だお前。白衣なんか着て科学者かなんかか?」

 

 乱入されて水を差された彼らは、突然現れた人物に苛立ったみたいだった。私は大人の人なら助けてくれるかもしれない!なんて希望を抱いたわ。当然よね今まさに襲われる寸前だったんだもの。

 だけど、それが淡い期待だったことにすぐに気付いた。

 

「おおっ!?すっげぇ美人じゃねぇか!俺達超ツいてるぜ!」

 

 現れたその人は女の子で、私と同年代くらいの少女だったのよ。私は本当に運が尽きたと思って絶望したわ。男二人に対して女二人じゃ敵うわけがないって思ってね。科学者の子なら能力者である可能性も低かったし。

 私が絶望していることに気付かずに、男たちは突然現れた少女の品評会を始めた。

 

「おっぱいはこっちの嬢ちゃんよりはねえけど、平均ぐらいはあるか?まあ、個人的にその個性出しまくってるその髪色は、どうかと思うけど」

 

「そうか?俺としては似合ってるからセーフだな」

 

「ッ私はいいから今すぐ逃げて!」

 

 そんな彼らの言葉に反射的に答えていた。私だけじゃなくて目の前の少女も襲うつもりなのはその会話で分かったから。

 でも、自分のことだけど自分自身の身も危うい状況で、どこにそんな余裕があったのかしらね。

 でも、そのときはこのままだと彼女も被害に遭ってしまう!だから助けなきゃ!って。自分でも不思議だけどそのときはただその一心だった。

 だけど、私が逃げるように大声で言ったにも関わらず、彼女は私の声が聞こえていないかのように、まるで自然体で二人の男に近付いて行った。

 その様子を見たバンダナの男が好奇の視線を彼女に向けたわ。

 

「おっ、なんだ?アンタってそういう趣味があるぼげらぁ!?」

 

「って、半蔵ォオ!?」

 

 その人の細い足から繰り出された蹴りが、バンダナを被っている少年を軽々と壁に蹴り飛ばしたのよ。驚いたわ、人ってあんなに簡単に宙を飛ぶのね。

 そして、その不意討ちが始まりの合図になった。

 たった一撃で一人を倒した彼女は、残っていたもう一人もすぐに倒してしまったの。相手に何一つさせない一方的なものだったわ。

 

 そんな急展開に当然のように私は付いていけずに、呆然としていた私に彼女は近付いて、身を守れる安全圏の場所を教えてくれた。

 

「二十メートル南南西に警備員がいるから、保護してもらうといい」

 

「あ、ありがとうございました!助かりました!お礼をさせて頂きたいので、お名前と通っている学校を教えてもらってもよろしいですか?」

 

 混乱していたけどその対応は間違ってなかったと思う。助けてもらった恩人に報いることはすべきだと思ったから。

 でも、彼女はその与えられるべき報酬を一瞬の躊躇もなく断った。

 

「大したことじゃないよ。それにごめんね、今急いでるんだ。君は運が良かったと思って欲しい。ほら、もうお行き」

 

「はい!本当にありがとうございました!」

 

 それ以上は恩の押し売りだと思って引いたわ。彼女にも何か用事があったみたいだし、それを邪魔してでも問いただすほど厚顔無恥でもなかったもの。

 私が振り返っても彼女はそこにいたわ。彼女も口振りからして急いでいるはずなのに。きっと私を見守っていてくれたんだと思う。

 私はそのときに彼女に憧れたのよ。

 強く気高くなおかつそれが自然体だった彼女にね。それからかしらね腕っぷしを鍛え始めたのは。彼女ほどじゃなくても理不尽に抗える力が欲しかったから。

 

 まあ、それが今では3馬鹿をシバくことにしか、使われてないのが情けなくなるけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、日が過ぎて私は受験に受かって高校生になった。あの日出会った彼女のことは一日も忘れることはなかったけど、同時に二度と会うことが無いと思ってた。

 それもそうよ。だって白衣を纏っていたんだから当然科学者だと思うじゃない。彼女もあのとき男の言葉を否定していなかったしね。

 ……だから、当然長点上機(ながてんじょうき)学園みたいなエリート高の生徒なんだと思ったわ。あの若さで科学者ならそれぐらいの高校じゃないと無理だろうし。

 私は別に勉強が嫌いじゃなかったけど特別できる訳じゃなかったから、そう言った道に行って彼女と再開することは不可能だとすぐにわかった。

 だから、近くの身の丈にあった高校を選んで、彼女のように堂々と自分らしく生きるようにしてきた。それが彼女に対するせめてもの恩返しだと思っていたから。

 

 だから、衝撃だった。一つ上の学年に彼女が居たことに。

 まさか、あの3馬鹿や他の連中が言っていたマドンナが、彼女のことだとは夢にも思わなかったわ。

 私は彼女を科学者だと思っていたし、天野(あまの)倶佐利(くさり)という名前にも聞き覚えがなかった。彼女はあのとき名前を名乗らなかったから当然だけどね。

 

 そして、私はミーハーじゃないから噂になっている人物を見に行ったり、その人がどういう人なのか気になることは全くなかった。どちらかというと、そんな噂に流される連中を注意していたぐらいだ。

 その上、私は先生に頼られやすい(たち)だから、教室を空けることがよくあって、彼女が思い付きで教室に来てもその場に居ないことが多々あった。

 ……奴ではないが、それこそ不幸とでも言うしかない運命のイタズラのせいで、私は彼女の存在を知ることになったのは、二学期の始めとなってしまったのだ。

 

 そして、彼女がこの学校の生徒だと私が知ったのはあの男、上条当麻が深く関わっている。

 

 上条がその噂のマドンナと腕を組みながら、一緒に登校していたとして一時期話題になった。

 上条がどこで痴情のもつれを引き起こそうが私としてはどうでもよかったのだが、上条を捕縛して場を仕切っていた青髪に、そのときの瞬間を激写して、状況証拠として主張していた男子の手に握られている写真を偶然見て、私は驚愕することになる。

 

 

 その写真の中には上条の他に、緑色の長い髪をした私の憧れの人物がいたのだ。

 

 

 それを見た私の行動は速かった。

 全身を覆う黒い布を被ったクラスメイトから写真を奪い取った。今まで傍観者をしていたはずの私が、上条の審問会だか処刑場だかに乱入して場は騒然となったが、私にはそんなことは本当に些細なことでしかなかった。

 だって諦めていたことが実現できるかもしれなかったのよ?風聞なんて気にしてられないわ。

 

 まあ、勢い余って縛られている上条の胸ぐらを掴みながら問い詰めたのは、さすがに動揺しすぎだったとは思うけど。

 

 そして、そのときにようやく彼女がこの学校の生徒で、私の一つ上の先輩だと知ったのよ。それを知ったときの衝撃は凄まじかったわ。

 だって、もう話すこともできないと思っていた人物が、こんな近くに居ただなんて信じられる?こんなの余りにも私にとって都合が良すぎて、何度も上条に特徴を聞き出して確認を取ったほどだもの。

 そして、私は彼女──いいえ、()()()()のクラスを翌日には聞いて会いに行こうとしたわ。あのときの感謝を改めて伝えなきゃって思ってね。

 でも、私はそのときあることに気付いた。

 

 天野先輩の噂は学校中に広まってる。それは本人も気付いているはず。連日その話で持ちきりのときもあったみたいだしね。

 だから、天野先輩はこう思うと思ったの。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 「今まで忘れていたけど不意に思い出したから、こうして会いに来たのではないのか」私はそんな社交辞令の一環として天野先輩に認識されるのことが何よりも怖かった。

 だって、私はあの日のことを忘れたことなんてなかったし、私は今まで出会ってきた人の中で一番に天野先輩を尊敬してる。それを誤解されたくなかった。

 

 でも、なんて説明すればいい?

 「噂の人物があなただとは知りませんでした」、「もっとエリート校に進学しているかと思っていました」なんて言えば良かった?

 そんなことできるわけがないじゃない……っ。だってこのあり得ないはずの一瞬を何度も私は夢に見てきたんだもの。それがこんな言い訳ばかりの情けないものだなんて絶対に嫌だった。

 彼女と再び会うときは、胸を張って堂々としている自分を見てもらいたかったのよ。ただの自己満足だけど彼女の背中を追って来た私としては、そこだけは譲ることができなかったから。

 

 あと、彼女はあのときにお礼はしなくてもいいって言っていたから、私が足を運ぶのも迷惑なんじゃないかって思ってね。

 それこそ、入学当初なら新入生らしく、勢いで言えたかもしれないけど、今では新入生としての目新しさよりも、既にこの学校の一生徒として上級生達には見られてしまっている。

 つまり、既に私にはそんな無鉄砲な勢いは無くなっていたのよ。私に残ったのは不安だけだった。

 そして、ずっとその考えが頭を巡って、結局会うことができずに半月が流れてしまった。

 

 でも、その日がとうとう来てしまったの。

 

 朝早く来ていた私はいつものように、先生に頼まれて授業で使う道具の移動を手伝っていたの。その先生は年配の方だから手伝わないなんてあり得なかったし。

 だから、予鈴(よれい)が鳴るギリギリで教室の前に来たのよ。私はそのとき時間があと少しなのを分かっていたから、廊下だけど駆け足で授業が始まる前に教室に戻ることしか頭になかった。

 だから、その特徴的な髪と声音を聞いたのは、全くの不意討ちだった。

 

 そこからはさっきの醜態に醜態を重ねたあの様よ。私の夢の瞬間があんなにみっともない事になるなんて……。ううぅ……っ、……泣きたい。

 

 

 

「そんなに気にする事でもないと思う。彼女もあなたを保健室まで運ぶのは嫌そうじゃなかったし」

 

「そう言う問題じゃないわよ。少しは立派になった姿を見せたかったのに、本人を前にして気絶だなんて。しかも、また助けてもらうなんて…………情けなさすぎる……」

 

 そういうと吹寄はガバッ!とシーツを被って丸まった。今までの彼女らしくなく椅子に腰掛けた少女は少し驚く。でも、それも当然なのかもしれない。

 今までの彼女が相手にしていた人物達と、今回の相手は向ける感情の大きさやベクトルが大きく違う。

 ならば、当然対応の仕方や向き合い方も違ってくるのだから、こんな新たな一面が見れるのもおかしな話ではない。

 とはいえ、人間ふて腐れてしまうとなかなか立ち直ることはできないものだ。普段サバサバしている彼女も例外ではないだろう。

 それを思い、休み時間に見舞いに来ている姫神秋沙はため息を吐いた。

 

「別に嫌いというわけでもないけど。私にやたらと面倒事を押し付けるのは止めて欲しい」

 

 というのも、この姫神。先ほどまでの天野との距離感で質問攻めに遭っていたのだ。姫神はあれだけ一辺に人と話すことがなかったために実はかなりお疲れなのである。

 しかし、姫神は精神的な疲れの中でふと思った。

 

 

 

 

 

 

 ロングヘアーの(よし)み…………個性獲得としてはありかもしれない。




◆作者の戯れ言◆
すまない。話が進まなくてすまない。さらっと書くつもりだったのに1話丸々使ってすまない。

◆話の詳細◆
吹寄も佐天さん同様に一般人視点から見たオリ主ですね。違いは能力者と見るか個人として見るかの違いです。当然、能力コンプレックスがあるかどうかでオリ主の見え方も変わってきます

あと、個人的にオリ主ageって苦手なんですよね。背中が無図痒くなる感じと言いますか
でも、こう言った第三者視点を入れないと話に深みがでないので、悩ましいところです


まあ、最後にやっぱりギャグに逃げちゃうところが、海鮮茶漬けのダメなところなんですけど


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96.年下からのお願い

100話が近付いてきました


 吹寄が突然倒れるなどのハプニングがあったが、授業が終わった放課後。俺は上条にようやく話を聞くことができた。

 

「えーと、それでいろいろあって今ウチに新しい居候が居るんですよ。それで寝床は取られるわで、結局昨日は風呂場で隙間風に背中を撫でられながら眠ることになりましたし。

 まあ、もう一人の方はインデックスとは違って噛み付かないのが救いですけど」

 

「へえ、君のところに新しい居候がね。そして、その子は女の子であると」

 

「まるで当たり前であるかのように言われた!?……いや、まあ事実なんですけど……」

 

 へっ、爆発しろ(呪詛)

 

 ──おっと、いけないいけない今は女の子だった。口には気を付けないとね。

 まあ、上条なら爆発なんてそもそも日常茶飯事か。近いうちに神様から数億回ぐらい殺されるわけだし、全然大したことじゃないな(感覚麻痺)

 にしても、可愛くて女の子らしくて胸が大きい歌姫かあ…………これは議長(青ピ)案件ですね間違いない。

 

「屋根の下で女の子二人と共同生活。男の夢ってやつかな?」

 

「い、いや、そんなことないですって!さっきも言いましたけど俺の居場所減ってますし!そもそも、そうなった経緯も結構バイオレンスなんですから!」

 

 あれー?なんかちょっと殴りたくなってきたぞー?(半ギレ)

 はあ……、これだからハーレム野郎は。いやまあ、それでも上条になりたいかと言われると別の話なんだけどさ。

 ぶっちゃけ上条に向けられる感情ってだいたい恩義とか親愛ばっかりで、実際に恋愛的に好きなのって5~10人ぐらいなんだよな。それでも多いとは思うけど、代償が週単位での瀕死の重傷とか割に合わないわ。新約じゃあ今までのがお遊びみたいに痛め付けられるし。

 まあ、無能力者(レベル0)派の妹達(シスターズ)も含めると文字通り桁が跳ね上がるけど数に入れていいのかな?……例え妹達を入れて鑑みても、あとの惨状を考えると割に合わないんだよなぁ。

 

「物は相談なんだけど、今日も晩御飯を作りに行ってもいいかい?」

 

「それはすごい助かりますけど。でも一昨日も来てもらいましたし先輩にそこまでしてもらうのは……」

 

「気にしなくていいよ。僕が君達に料理を振る舞いたいからそうしているわけだしね。それに、その新しい居候の女の子にも会ってみたいんだ」

 

 いやー、このシチュエーションでアリサに会わないとか絶対無いわ。女の子らしいヒロインとか禁書では貴重だし(かなり失礼)

 

 

 ──もちろん、こんな打算をしているとは思わない上条は「年上の女の子ってやっぱすげえや!腹ペコ噛み付きシスターや出会い頭に電撃撃ってくる年下とは、根本からいろいろ違う……!」なんて感動しているが、残念ながらそれは見当違いにも程があった。

 

 

 二人で並んで上条が暮らしている学生寮の前に到着すると、扉越しに女の子二人の可愛らしい声が聞こえてくる。

 

ねー、見せてよアリサ~

 

ダメッ!恥ずかしいから……っ

 

「……フッ、あいつ達……」

 

 その声を聞いて上条は苦笑を浮かべる。平穏な日常が嬉しいんだろうな。確かアリサってステイルに狙われてたはずだし。

 あれ?そう言えば何か大事なイベントを忘れているような気が……?

 

この歌詞ができたら一緒に歌お?ね?

 

うん分かった!──約束だからね」

 

「おーす、ただい……マッ!?」

 

 その扉を開けるとあら不思議。なんとそこは桃源郷だった。白の壁紙の寮の一室にもかかわらず、やたらと肌色が占める割合が多い。端的に言ってインデックスもアリサも全裸だった。

 

「と、当麻くん……!?」

 

 タオルで髪だけ巻いたアリサは腕で身体を隠し、インデックスは目を尖らせた。

 

「とーうーまァーッ!!」

 

 ガウウッ!と唸りながら歯を鳴らし、そのまま上条に飛び付くように接近してくる。その様子を見て上条は諦めたように「フッ」と笑い、いつものあのセリフを言った。

 

「不幸だああああああああっっ!!!!」

 

 ガブリッ!と、頭蓋骨が鳴ってはいけない音を鳴らして、上条の頭部が銀髪少女に捕食された。そんな弱肉強食の惨劇を見ながら俺は思う。

 

「(鍵持ってる男の居候先の家の居間で、普通全裸でいるかね?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなぐだぐだというかショッキングな顔合わせというか、そんな出会いをした俺とアリサだったが、話してみればお互いに人見知りというわけでもなく敵意もないため、すんなりと挨拶を交わして自己紹介をした。

 まあ、多少初めて会ったときの姿が裸だったこともあって、気まずそうにはしていたけど。

 そして、そこら辺の段取りを終えれば俺がすることは一つ。

 

「「うまーいっ!!」」

 

 がつがつばくばくっと、食べるいつもの面子を傍目に俺はフライパンを振るう。どんだけ料理作るんだよ俺。

 まあ、料理作るためって理由で接してれば、確実に上条勢力には入れるからやめる理由はないし、俺に何かあったときに「最近、料理作りに来てないなー」的な些細なことで、救済フラグ立つかもしれないから、やめたらやめたで逆に不利益になりそうな感じはする。

 本音を言えばこの二人より小萌先生の方が心配なんだよなー。酒の量が半端無いから、放っとくとマジで危ないのよ。

 

「すごい……!これって本当に豆腐なの?」

 

「肉を巻いて火を通すことで旨味が豆腐に移るんだ。溢れた肉汁をかけることをすればさらに肉っぽい味わいになるね。一般的にはヘルシー料理としても有名かな」

 

「がつがつばくばくっ、……ごくんっ、アリサ!アリサ!こっちの豆腐の料理もおいしいんだよ!」

 

「それは豆腐と挽き肉の味噌炒めだね。味噌他にみりんや料理酒で味付けするだけの簡単な料理だよ。ネギを乗せれば味も締まるから、お手頃で味にも妥協せずに済むのは助かるね」

 

 すると、本来の台所を預かる家主は、パイナップルのように包帯を頭に巻いた状態で身体を震わしていた。

 

「う、嘘だろ……?俺の想定していた食費を大幅に下げている!?その上、味のクオリティも落としてないなんて……。しかも、相手はあのインデックスと意外にも健啖家のアリサなんだぞ!?その二人にこの立ち振舞い……これが高位能力者の実力なのかッッ!?!?!?」

 

「事件の中盤で今まで以上に相手の底知れなさを実感したみたいな迫真の反応をされても、僕には困惑することしかできないよ?」

 

 ここまでで察することができる通り、今日のメインは豆腐である。それがジャンル問わずに6~7皿ほど。

 本来なら料理のジャンルを合わしたいところなのだが、それにもちゃんと理由がある。

 

「(安上がりで腹持ちがいいってことを最優先にしてるから、和食も中華も洋食も出せるものはなんでも出す方針に変えたんだよな。そんなのに拘ってたらあの暴食シスターの相手はできんのだよ)」

 

 そんなわけで、今晩の料理はめちゃくちゃ家計に優しいメニューになっている。

 ……まあ、あのちんまい先生のために考案した、ヘルシー料理という側面もあるけど。

 

「お料理もできるなんてすごいなぁ……。私はそんなにできないからすごく羨ましいです」

 

「うんうん、貧者に施しを与えるその姿は、まるで聖大アナスタシアだね!慈愛の心に懐の深さ、そして誰かのために懸命に行動するところなんかまさにその通りだよ!」

 

「褒められてるんだろうけど、誰なのか分からないからピンと来ないね。宗教に関しては学園都市の学問の外だから、そもそも知る機会が無いのが原因なんだけどさ」

 

「倶佐利さんって当麻くんの先輩なんですよね?学校だと当麻くんってどんな感じなんですか?」

 

「あ!それ私も気になるんだよ!」

 

「お、おい!やめろってっ!あと、インデックス。お前は俺の学校に一度来たことあるだろ?」

 

「あれだけじゃ、とうまの学校での様子なんて分かる訳がないんだよ。ここはくさりにとうまの学校での生活を教えてもらうしかないよね!」

 

 と、二人に言われてしまったため、上条の学校生活を躊躇なく暴露していく。主にデルタフォースのことであったが、二人が笑顔だったからチョイスは良かったんじゃないかと思う。

 そんな風に話しながら食事を終えた俺は、ご馳走さまを言うと皿を洗おうとするが、上条とアリサに止められた。

 

「先輩、それぐらいはやらさせて下さい。家主である俺がこのまま何もしないのは流石にダメですし」

 

「あ、それじゃあ私も。すごく美味しかったのでこれぐらいはしたいなって……」

 

 おいおい、全く。それ以上インデックスの株を落としてやるなよ?(辛辣)

 あれだよ、インデックスはマスコット的なやつだからね。まあ、だから何?えーと……仕方ないよね?

 そんな訳で二人に洗い物は任せてインデックスと一緒にまったりしていると、上条がアリサに話し出した

 

「明日はどうするんだ?」

 

「明日はオービッド・ポータル社との契約をしに行くんだ」

 

「オービッド・ポータル社?」

 

 何だそれ?そんなんあったっけ?

 

「あ!そうだまだ言ってなかったですね。アリサは歌を歌っててもうすぐプロになるんですよ」

 

「すごいよね!カナミンと同じになっちゃうんだよ!?」

 

 カナミンとは別の意味で次元が違うと思うけどな。でも、なるほどそう言うことか。話の流れからしてそのオービッド・ポータル社は、レデリィーが社長してる企業なんだろう。

 流石にいちいち細かいところの名前なんて覚えてないってば。

 

「あー、でも明日俺は補習だから行けないし、……そうだ!先輩アリサの付き添いで行ってもらってもいいですか?」

 

「ごめんよ、明日は僕も空いて無くてね。午後からなら大丈夫なんだけど」

 

 実際にはそんな予定はないが、内容があやふやのため下手に介入することができない。能力が劣化してるというのはそれだけで躊躇させる要因になるのだ。

 

「なあ、アリサ。誰か居ないのか?信用できて頼りにできそうな奴」

 

「うーん、そうだなあ…………あ!彼女なら」

 

「おや、誰か心当たりがあるのかい?」

 

 白々しくも誰かを知っていながら尋ねる。ここで尋ねないのは怪しい気がするし。

 そんな打算を当然知ることもなく、アリサはその人物を話し出す。

 

「はい、彼女とはこの前あったばかりなんですけど、すごく親切で優しいんです。多分知ってると思うんですけど、学園都市第三位の御坂美琴ちゃんに頼んでみようと思います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、当日。

 結局、適当に時間を潰すことにした。万が一それでバレたらクズが発覚してしまう。そのため、髪色を変えて能力で変身した姿で移動しながら、特に用事もないのに冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の病院に行ってみたりした。

 フェブリに会いに来たと知り、布束に馬鹿を見る目で見られたり、ついでに一方通行(アクセラレータ)の病室に行って打ち止め(ラストオーダー)と戯れた。

 まあ、一方通行のお見舞いと言えば楽に潜入──もとい、訪れることができるので、暇なときにはうってつけだったりする。

 

「もうそろそろかな」

 

 正午になったためアリサに電話をする。ミコっちゃんと合流して既にオービッドなんとか社に着いているはずだし。

 

『もしもし、アリサです。倶佐利さんですか?』

 

「うん、こっちの用事が終わったからね。今から合流しようと思うんだけどいいかな?」

 

『はい、大丈夫「もしかして天野さんですか!?」わわっ!?』

 

 急に入ってきたその声音に俺は聞き覚えがあった。

 

「もしかして、今の声は……」

 

『!はい、佐天です!天野さんですか?昨日ぶりです!』

 

 元気に返事をする佐天さんに少し圧倒されるも、転生してから磨きあげた外面で対応する。

 

「君もそこに居るんだね。そっちは今どうなっているのかな?」

 

『あ、そうでした!天野さん助けて下さい!私、今すごくピンチなんです!』

 

 !しまった。まさか、レデリィーの部隊やステイル達の魔術師達がアリサを狙ってきたのか!?映画の内容はうろ覚えだけど確か巻き込まれる描写があったはず。

 もう少し遅い気がしてたけど、まさかこんなに早く行動してくるなんて……!

 佐天さんを助けるために俺は行動を開始した。

 

「分かったすぐ向かうよ。場所は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 佐天さんのヘルプに応え駆け付ければ、何故か眩しいフラッシュが瞬くステージが俺を待っていた。

 ステージの一番中央ではアリサがフラッシュに負けないくらいの眩しい笑顔を浮かべながら、記者なのか一般人のファンなのかよく分からない相手に手を振っている。

 その姿を見れば彼女が期待の新星であることは誰の目にも明らかだ。問題なのはそのステージに何故か俺まで立っていることである。

 困り顔のミコっちゃんと吹っ切れて楽しんでいる初春の隣に、俺と恥ずかしがっている佐天さんの二人が、彼女達と同じ衣装を着て並んでいるのが今の現状だ。

 何でこうなったんだろう?

 

 

 俺はどっちかって言うと、あっちでこのステージ見ていたい側なんだけどなぁ……。

 




さらっと伏線を貼っていくスタイル。まあ、回収するのはずっと先なんですけどね?
そして、やたらと多い料理描写。どうしてでしょうかね?


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97.運が良い女の子

最近黒髪ロングの美少女キャラばっか出てきますよねこの小説
おそらく、あと2話でこの章は終わると思います。


「ほらほら、佐天さんいつもの元気はどこにいったんですか!もっと楽しみましょうよぉ」

 

「無理無理無理無理っ。このスカート(たけ)短いし私にこんな可愛い衣装とか似合わないし何よりも人多すぎぃっ!!」

 

 舞台袖にいた佐天さんを初春が腕を引っ張りながら、壇上に連れてくる。

 あー佐天さんが可愛いんじゃ~。こういう普通の感性というか恥じらいがあるとこが、佐天さんのいいところなんだよなぁ。

 そんなことを思っているとミコっちゃんがこっちに話し掛けてきた。

 

「えーと、あ、天野さんはやっぱり緊張しないんですね。やっぱり常盤台出身だからですか?」

 

「そうだね。かつては曲がりなりにも派閥を率いていたから、この程度の状況は慣れているんだ。例のイベントの最多参加者でもあるし」

 

「あー、なるほど。淑女会合か……」

 

 そう、あのイベントのせいで(オリ主発案)見世物にさせるのは既に慣れてしまっている。それに、コスプレか本職が手配したガチの衣装かを比べれば、どちらがまともなんて言うまでもないことだ。オリ主はもう何も怖くない。

 

「あと、佐天さんの話だと勘違いしませんでしたか?佐天さんが天野さんだって知って舞い上がっちゃって」

 

「確かに、勘違いはしたけど何もないようで何よりさ。今日は偶然(変装のため)髪を染めていてよかったよ。僕の髪色じゃあ派手すぎるからね」

 

 主役のアイドルより目立つ緑髪の女なんて最悪そのものだろう。話題をかっさらう気なのか疑いたくもなる。

 

「それと、敬語が慣れないならしなくてもいいよ。後輩と同じ口調で構わない。君にはそっちの方が似合ってるしね」

 

「あ、あはは~……(恩人に対して言えないってぇ~)」

 

 いろいろな事情があり「あ、そう?じゃあそうさせてもらうわね」とは口が裂けても言えない彼女は、人知れず胃をキリキリ痛めていた。

 それに対しオリ主はと言うと

 

「(ミコっちゃんって敬語使うシーンがあんまりないから、違和感しかないんだよなー。おもいっきり喧嘩して一緒に戦ったから、戦友扱いしてくれないかな?)」

 

 微塵も気にしてはいなかった。

 原作キャラかつ日常で普通に話すことができる時点で、ポイントが鰻上がりだ。言ってしまえばそこら辺の禍根は、一切合切無くなっているのである。今まで恨み言一つ無いのがその証拠だろう。

 本人に聞いても「あー、そんなこともあったなぁ」ぐらいの反応しか返っては来ないのが現実である。

 

 

 ※ちなみにだが、おかしいのは明らかにオリ主であり、御坂美琴は正常であることをここに明記しておく。

 

 

 そんなことを考えていても周りのことは案外見えているもので、佐天さんは相変わらず及び腰だった。それを見た俺は彼女の手を握る。

 

「……え?」

 

「僕達はあくまでも彼女のサポート役でおまけだ。そんなに肩肘張る必要はないよ」

 

 前を見ながら佐天さんに話し掛ける。別にファッションショーではないのだから、横にいるオマケ同士で手を繋いでも気にするような奴はまずいない。手を繋いだから目立つというわけでもないしな。

 

「で、でも私みんなみたいに可愛くないし、こんなヒラヒラな衣装とか似合わなくないですか?」

 

「僕はそうは思わないかな。君も充分魅力的だと思うよ。容姿も整っているし黒髪だって綺麗だ。同年代の女の子に羨望を向けられる女の子だと思うけどね」

 

「いや、あの、えと……」

 

「君は胸を張って堂々としていればいい。恥ずかしいことなんて一つも無いよ」

 

 うんうん、佐天さんは卑屈なところも良いところだけど、女子力のステータスはぶっちぎりの断トツだ。言ってはなんだがヤバい奴ばかりの『とある』の中で、普通の感性を持つというだけでもかなりの好評価である。

 『とある』で彼女にしたい女キャラ前俺ランキングでは堂々の一位だ。可愛いは正義。

 

 そんなわけで、こうして話すのは幸せの一言であり、佐天さんが上目遣いでこちらを見上げてくるのは最高に可愛い。

 ……だけど、佐天さんや。今、俺達撮影されてるんやで?(青髪ピアス風)

 ちょっとばかしこっち見すぎじゃないですかね?

 佐天さんからの熱視線はバッチコイだけど、今は状況が状況じゃない?佐天さんにはそんな気はないだろうけど、俺達に百合の花が咲き乱れることを想像するアホが現れるかもしれない。

 そうなると、俺の昔のツレが…………ぶっちゃけると常盤台時代の派閥の奴達が、押し寄せて来る可能性があるんだわ(震え声)

 基本的に良い子達なんだけど、派閥が産まれた経緯もあれだから、統制もみさきちほどできてなくて何人かは過激派の奴らが居るんだよね。

 卒業とかもあってそのまま放逐しちゃったから、性癖が治ってない奴等がいるんだよな。

 

 ベッドの上で目を覚ますと、目の前に雌の肉食獣が涎を滴らせながら上に跨るとか、そんな中学時代とか何なの?

 

 そのときはどうにかなったけど、もし俺が百合を許容したなんて話が出回ればどうなるかなんて火を見るよりも明らかだ。

 俺はあのとき知った。どんなに可愛くてもぐいぐい来られると逃げたくなるのは、動物の本能なのだと。

 なんなのあの積極性?とても中学生とはとても思えない。あの学校に居たってことはお嬢様ですよねあなた?

 さすが学園都市、個性豊かな子供ばかりだなー(遠い目)

 

 一抹の不安を抱えながら写真撮影をしていると、ふと視界の隅に見知ったツンツン頭が映る。

 

 

「(んんっっ!?!?)」

 

 

 バッ!と振り向きたい衝動を抑えつつ、視線だけ一瞬その人物に向けたあとにすぐさま前にへと戻す。オリ主は信じられない者を見て驚愕していた。

 

「(ちょっ、なんでここにあのツンツン頭がっ!?補習行ってんじゃねえの!?)」

 

 混乱の極致であった。

 今の姿は今まで上条に植え付けていた印象を、全て破壊するかのようなはしゃぎっぷりだ。百人見れば百人がそう思うだろう。

 頼れてミステリアスな女子力MAXの年上の先輩美少女という、これまで頑張って形成してきたイメージが、この一瞬で崩れてしまうことになるのではと懸念を募らせ、オリ主は冷や汗が止まらなくなっていた。

 

「(こ、これはイロモノじゃないよな!?だってヒロイン格のミコっちゃんを含めてみんな着てるし。イロモノのそのものであるオセロが車椅子で着てない以上は、逆に衣装を着ている俺が正常なのでは!?)」

 

 見栄云々よりもイロモノ属性を恐れる花の女子校生。なんかもういろいろと残念すぎていた。当の上条は既に離れてしまっていることにすら気付いていない。

 オリ主はその間、訳のわからない理論を何度も展開していた。

 

「(もちつけもちつけもちつけぇッッ!!)」

 

「?……天野さん?」

 

 佐天さんが俺に疑問の声を上げると同時に、会場の電気がいきなり落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何よこれ!?」

 

「ヤバい!早く逃げろおおおお!!!!」

 

 ドガァァアアアアン!!と、どこからともなく響く爆発音に、会場中が大パニックだ。その上、爆発の影響で建物の鉄材が周囲の人間に降り注ぐ。

 

「黒子!」

 

「はい、ですの!」

 

 黒子に初春さんと佐天さんを空間移動(テレポート)で避難させて、二人の無事を確保させる。

 

「(くっ……!いくらなんでも数が多すぎるっ!)」

 

 そう思いながらも、目の前にいるアリサさんの頭上に倒れてくる大きな鉄の柱を磁力を使い変形させ、安全地帯を形成する。これぐらいなら難なく彼女は実行することができる。

 だが、会場の複雑さや降り注ぐ鉄材の多さから鑑みても、一斉にこれをするのは余りにも手が足りないのは見れば明らかだ。

 

 しかし、そんな彼女に助太刀が入る。

 

「『私が左側を受け持つわ!アンタは右側をッ!』」

 

「っ!……分かったわ!」

 

 自らと全く同じ口調と電磁波を受けて一瞬硬直するが、すぐに再起動し右側に意識を向けて行動する。

 たった一人の増援。心許ない数ではあるが、それが『御坂美琴』ならば話は違う。

 

「『はあああああああああッッ!!!!』」

 

 ガッ!ゴッ!ガンッ!ドンッ!と、無差別に落下する鉄材が一ヵ所に集まるように落下していく。

 あの辺りはどちらかというと人も少なく広い空白の空間がある。そのため、能力が劣化してしまうデメリットを鑑みて、自らの最善を叩き出せる場所を受け持ったのだろう。

 

「(それをあの一瞬で……いくらなんでも空間把握能力が異次元すぎるわ。──でも、それでどうにかなるッ!)」

 

 範囲が絞れるならば学園都市第三位にとって、この程度は苦でもなんでも無い。電磁レーダーを使い人の場所を把握し、人のいない場所に糸を通すかのように落下させてく。

 

「(よし、これなら──)」

 

 ここまでは好調だった。だからこそそれが隙となったのだろう。

 天野さんの頭上にさっきアリサさんの上へと落ちた、大きな鉄の柱と類似したものが倒れていった。

 

「『このッ……!』」

 

 それを磁力の放射を全開にし寸前で受け止めた。あの重量とあのタイミングではそれも仕方無い。

 だが、それのせいで天野さんは他から意識が離れることになる。そうなれば結果は分かりきっていた。

 

「『しま……ッ!!』」

 

 磁力でかき集めることができずに、鉄材が重力の通りに落下していく。その落下先にはぬいぐるみを持ちながら泣き叫ぶ女の子がいた。おそらく、母親と離れてしまったのだろう。

 そんな彼女に質量の塊が無慈悲に押し潰さんとしている。

 

「(ここからなら届く?いや、そうしたら私もこっちが疎かになる。そうしたら鉄材の側にいる人達が落下した鉄材の雪崩に押し潰される。なら、超電磁砲(レールガン)で?

 無理。その威力のせいで今度こそ完璧にこの建物は崩落する。被害に遭う人を増やすだけ)」

 

 頭を回し最善策を見付けようとするが、出てくるのは不可能の三文字。もう助けようがないという事実だけだ。

 その結果を一秒先は子供の死。その瞬間を私は見ることしかできなかった。

 

 

 

 だが、絶望が生み出されるまさにその寸前、──奇蹟は起きた。

 

 

 

 倒れる鉄の柱の側面に当たるように別の柱が倒れ込んできたのだ。その衝撃で柱は軌道を変え、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

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 うって変わって静寂に包まれた周囲を見て、私は驚愕した。

 

「……まさか、全員無事なの……?そんなことって……」

 

 目の前に起きているにもかかわらず、未だに光景を信じられない。半分は天野さんが引き受けてくれたが、それも柱の転倒により中断されてしまった。

 そんな状態で乱雑に降り注ぐ鉄材が運良く誰にも当たらないなど、果たしてどの程度の確率なのだろうか?その都合の良さに安堵よりも不気味さが勝る。

 そして、その光景を見て人々はその言葉を実際に口にする。

 

「これは奇蹟だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、当然の如く上条が傷付いていたため、寝ている内に能力を使って治しておいた。意識はあったから多少体力が無くなってもすぐに良くなるだろう。多分きっと。

 今回の事件だが事故だか分からないけど、俺が失敗したせいで大変なことになったが、そもそも映画でも大惨事だった気がするから、そこまで気にすることでもないのかもしれない。

 とはいえ、アリサの様子を見といた方が良いだろうと思い、学園都市を歩き回れば運良く探し出すことに成功したのだが、何故か声をかける寸前でツンツン頭に先を越された。

 本来ならさらっと適当に話に加わるのだが、映画の話をあまり知らない上にある問題が俺にはあった。

 

「(だ、大丈夫だよな……?まだ、頼れる先輩ポジションだよね……?)」

 

 要するにビビっていたのだ。とはいえ、自分の生死に関わるためこれも仕方無いだろう。

 そのせいで思い通り動けず歯噛みしそうになるが、よくよく考えてもみれば、『とある』には珍しいイチャイチャパートだ。見ておいて損は無い。

 ということで、息を殺して出刃亀をすることにした。

 

「私ね。三年前よりも前の記憶が無いの。記憶喪失みたいなんだ。でも、歌ってると何かが体から何かが溢れてくる感じがするの。だから、きっと歌っていれば昔の事が思い出せる気がするんだ」

 

「……そうか、なんとなくだけど分かるよ」

 

 はっはーん、なるほどそういうことか(後方腕組み父兄面)

 この二人似た者同士なのか。アリサは三年前以前の記憶が、上条は一月半より以前の記憶が無くなっている。

 つまり、二人は同じ境遇の苦しみを分かち合うことができる。何だヒロインじゃないか(確信)

 いやー、これはそのままゴールインですわー…………あれ?

 

 そこで俺はあることに気が付いた。

 もしかしたら、歴史的な大発見なのかもしれない。その事実に思い至った瞬間驚愕に目を見開いた。

 誰も気が付いて無いだろうその事実を、内心で確認するように反芻させた。

 

 

「(そういえば、インデックスも記憶が無いんだった……ッ!)」

 

 

 ──言うまでもないがオリ主はアホである。




◆考察◆
 久しぶりに考察の方をしていきたいと思います。今回はアンナ=シュプレンゲルについてです。
 ※創約の話になりますのでネタバレはもちろん、極少数だけしかおそらくピンと来ないでしょうことを、あらかじめ述べておきます。






 アンナ=シュプレンゲル。彼女は薔薇十字の魔術師ですが実際に存在したということが確認されていない、リアルの歴史の記述に書かれた存在をモチーフにして『とある』では描かれています。
 そして、物語の流れからするとアレイスターの領域よりも先におり、魔神とも別種の存在のようです。そのため、現時点では歴史的な記述や『とある』の設定から推測するのは、かなり難しいとしか言えません。
 そのため、アンナ=シュプレンゲルに深く関係するとあるキャラクターから彼女の実態を炙り出そうと思います。

・エイワス
 これは創約を読んでいる人ならば、当然思い至るキャラクターでしょう。アンナ=シュプレンゲルが出てからというもの常に隣に居ますので。おそらく、彼がアンナを考察することができるキャラクターなのではないかと思います。
 彼はアレイスターから離れて、創約で再び舞台に上がると何故か鳥頭になっていました。変形していたエイワスに「もはやコイツ誰だ?」と困惑した読者も居たことでしょう。
 その形体のエイワスですが、近しい姿で歴史に記述されている存在がいます。
 それが天空神ホルスです。
 天空神ホルスは頭部が隼の男神であり、ラーなどの様々な神が習合していると見られる見解が多々あります。そのことからエジプトの神々の中で最古で、偉大で、多様化した神だとも言われています。
 そのことから、もしかするとアンナが出した最古の武器シリーズも実際にはアンナの力ではなく、天空神もどきとなったエイワスを介して召喚したものなのかもしれません。
 例えるならば、A.A.Aを使う木原脳幹でしょうか。あれも、脳幹が使っているにも関わらず、産み出したのはアレイスターであり、木原脳幹には同じものを一から作ることはできませんから。

 そして、アレイスター=クロウリーはエイワスを初め、自らの聖守護天使と認識していました。そして、実際にエイワスはどこかアレイスターと近しい姿をしています。
 それは何故か?おそらく、エイワスは主の願う姿へと自らの姿を変貌させるのではないでしょうか。
 そして、アンナ=シュプレンゲルは自分が、無償で誰かの施しを享受するべき存在だと言っています。しかし、自分よりも上の存在がいないためにそれが出来ないとも。
 そのことから、天空神の偉大さはアンナにとって無償で施しを与えられる存在として、認識しているのかもしれません。

 ここまでエイワスは主の願望の姿になると考察を述べてきましたが、別にもう一つ気がかりなことがあります。
 それは天空神は幼児か、成人の姿で書かれることが多いらしいです。アンナは変化するときに大人の姿か、幼女の姿かのニパターンしか未だに描かれていません。
 もしかすると、エイワスは主の望む姿となりその姿から、必要な知識や力を抽出し、主へと還元することができる存在なのかも。


 そして、ここから先ほどの考察の延長線上となりますが、ホルスの姿となったエイワスは、もしかするとアンナの映し鏡となのではと考察もしました。
 というのも先ほど言った通り、天空神は様々は神を習合した神です。それをアンナに当てはめると、アンナはシークレットチーフ以外の何か適正を有しているかもしれません。それこそ、アンナの言った巫女とか。
 例えば、天空神に仕えていた神官などですかね。エジプト神話の巫女の立ち位置は神官ですから、アンナにはピッタリかと思います。
 そのため、アンナの「世界が小さすぎる」も、言葉通り世界のフォーマットが合っていないのかも。神に近しい人間の神官であるにも関わらず、時代が違うために繰り上げられてしまい、暫定的に一番上になってしまった、ということかもしれません。
 つまり、十字教のオシリスではなくホルスの世界ではないと、アンナは本来の位置に座れないという意味なのかもしれませんね。

 まあ、アレイスター曰く十字教の時代は終わっていたらしいので、ホルスの世界を仮に望んでいるとするなら、アンナが望んでいる世界はフィアンマのやった世界の浄化のホルス版であり、その世界を維持させることなのかもしれませんが、それを神浄の討魔で達成できたのかは未知数です。
 だってドラゴンになった姿しか書かれてませんので。


p.s.
 ……実は小萌先生を主軸に置いた考察もありましたが、めちゃくちゃ多くなりそうだったので止めときました

             これで以上です。海鮮茶漬け


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98.奇跡の歌

後から見てみればこの章は伏線を張るためと、佐天さんの可愛さを出すための章でした

まあ、あと後日談が一話ありますけどね

そして、計100話到達。随分と遠くに来たものです。


 そして、宇宙エレベーターエンデュミオンの御披露目会で、アリサのライブが開催される前日の夜、人知れず彼らは連絡を取り合い合流していた。

 学生寮近くの小さな広場で二人の少年達は向かい合っている。蛍光灯だけが照らす夜の空間の中で、彼らは二人はお互いの事情について話し合うためだ。

 

「いやー、流石上やんぜよ。まさか、居候があの鳴護アリサとは」

 

「てことは知ってるんだな土御門。アリサが狙われる理由を」

 

「それについては私から説明しましょう」

 

神裂(かんざき)!?」

 

 影から現れたのは世界でも有数の魔術師、聖人神裂(かんざき)火織(かおり)。悪竜を切っただとか獣王を倒したなどの功績を持つ実力者だ。

 

「いや待て、何で神裂が出てくるんだ?ステイルと土御門だけじゃ戦力として不足の事態ってことなのか?」

 

「それは正解であり不正解ってところですかにゃー。まあ、それについては俺よりも、さっき言った通りねーちんの口からの方が筋は通ってるかもな」

 

 そんな遠回しの口振りをする土御門に上条は疑問を抱くが、神裂がすぐさまその答えを言った。

 

「あの子は聖人です。もしくはそれに類する力を有しています」

 

「アリサが聖人だって!?」

 

「序列は暫定で第九位とされています。覚醒すれば私を上回るとも言われています」

 

「いや、でもそんな素振りは……。ッ!本当なのか土御門!」

 

「落ち着けよ上やん。あくまで推測、何の証明もされてないぜよ」

 

「では、土御門。あなたの見解は?」

 

「どうだかにゃー。そもそも聖人の定義すら曖昧なものだし何とも言えんぜよ

 ──まあ、学園都市はあの子の資質や能力なんかを解剖学的に解明したいみたいだ。特にあのロリっ子社長のレディリー=タングルロードはな」

 

 そこまで聞いて上条は眉を顰めた。とても人道的に認められることではないが、学園都市の闇を幾つか垣間見た上条にとって、その可能性は認めなくてはならないものだった。

 そんな彼らの間を一陣の風が吹く。

 

 すると、突然神裂が刀の柄に手を添えた。

 

「──何者ですか」

 

「は?おい、神裂。いきなり何を言って」

 

「──おや、やっぱり気付くか。流石だね」

 

「え!?先輩!?」

 

 神裂がやって来た方向と真逆の方向から、その人物はやって来た。

 

「貴方でしたか天野(あまの)倶佐利(くさり)

 

「久しぶりだね。日本人だから学園都市にやって来ることが多いのかい?」

 

 天野と神裂はミーシャ=クロイツェフのときに会っていることから、これで三度目の邂逅となる。神裂としては聖人の問題であるため余り彼女に介入してもらいたく無いのが本心だ。

 それも、ステイルに聖人なのではと疑われている、彼女には特に。

 

「(今回のことで彼女に憑依しているだろう存在が、露見しないとも限りませんからね)」

 

「それが本当の君の顔かい?元春」

 

「いやー、ここまでバレちまったら隠すのはもう流石に無理だにゃー。まあ、いつかこういう日が来ても不思議じゃなかったわけだし、ちょうどいい機会かもしれないか」

 

 どこか諦めたような雰囲気を滲ませながら、土御門元春は不敵な笑みを浮かべて言った。

 

「そう、俺はここにいる神裂やステイルと同じ必要悪の教会(ネセサリウス)の魔術師にして、魔術サイドからのスパイとしてこの学園都市に潜入している、陰陽道のスペシャリストなんだぜい?」

 

「へえ……まさか、君が魔術師だとはね。()()()()()()()()()()()()()()

 

「それがスパイってもんですからにゃー。あっはっはっはー!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、逆に開き直った方が有利に進められるという魂胆なのかもしれない。

 素人の上条はそこら辺の技術を修めていないため何とも言えなかった。

 そんな上条に電話に着信が入る。それに出てみれば衝撃の事実が電話口から告げられたのだった。

 

「え?アリサが拐われたッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからは随分とスピーディーに進んだ。

 魔術サイドと科学サイドがアリサを巡って交戦し、そこに介入した上条が爆発に巻き込まれて入院した。そして、上条が馴染み深いあの病院のベッドで目を覚ますと、鳴護アリサが科学サイドだけではなく魔術サイドからも命を狙われることになっていたのだ。

 その事に激怒した上条は傷が治っていない状態で、病院を脱け出そうとするが土御門に呼び止められ、打開策を与えられた。

 アリサが殺されることを防ぐために、上条とインデックスは土御門の案に乗りスペースシャトルで成層圏まで飛んでいった。

 

 どういうこっちゃ(呆然)

 

 ここら辺は終盤なので覚えているのだが、それにしてもいろいろ急展開すぎでは?こんなにスケジュールみっちりだったっけか?流石に人間辞めてるだろ上やん……。

 ちなみに上条の傷は終盤近いので敢えて治さなかった。体力減った状態で勝てるとは思えないし。

 付いていってもいいのだが、もし仮にバタフライエフェクトがあるとするなら地上だと思う。俺が今回関わったのはアリサよりもミコっちゃん達の配分が多いだろうから、それこそ彼女達の精神を揺るがしてしまった可能性が高いからだ。

 それこそ下手に佐天さんとかが介入してきたら、ただでは済まない結果に繋がることになるかもしれない。そのため隣で行動しているのだが、ぶっちゃけあんまり変わっていなかった。

 まあ、「頑張れ!頑張れ!もっとやる気だせよッ!!」とか言ってないから、そうそう変わるとも思えんけどね。

 

「もう!お姉様!黒子使いが本当に荒いんですからっ!」

 

「人命優先!アンタもそれが分かってるから手を貸してるんでしょ!」

 

 そんな会話をしながら二人は空間移動(テレポート)で高速移動していく。ん?空間移動だから高速じゃないのか?

 

「それにしても、どうしてあなたまで一緒ですの?民間人は避難しててもらいたいのですけど」

 

「『あら、人手が必要なときではありませんの?出し惜しんでいてはこの学園都市が未曾有の事態へと陥るかもしれませんわよ?思ったよりも随分と余裕ですのね。感心致しますわ』」

 

「キーッ!何ですのこの女!憎たらしい顔をしてすっっごく腹立ちますのッ!!」

 

「いや、アンタの顔でしょうが」

 

 そんな漫才をしながら空間移動をしていくと、エンデュミオンの真下へと辿り着く。既にそこではレデリィーが用意した兵器と警備員(アンチスキル)が銃撃戦を始めていた。

 お遊びはここまでのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……!このままじゃ……」

 

 警備員(アンチスキル)のチーフを勤める黄泉川は、エンデュミオン内部へと侵入するための橋を塞ぐ兵器を見て歯噛みをする。

 

「このままじゃ被害が大きくなるだけだ。何かしらの突破口が無いと間に合わなくなるじゃんよ……!」

 

 レディリー=タングルロードがエンデュミオンを崩落させようとしているのを掴んだが、相手もあらかじめ大型の兵器を用いて足止めをさせるつもりだったらしい。警備員(アンチスキル)に支給される装備ではどうしようも無いのが現状であった。

 

 しかし、そこに彼女が求める現状を打破する突破口であり、なおかつ彼女がこういった場所から一番遠ざけたい者が現れる。

 

 ギュリリリリリッッ!!と、タイヤをスリップさせながらその銃弾が飛び交う戦場に、彼女達は車椅子を横滑りして躍り出た。

 

「──全く……」

 

 車椅子の後ろに乗っていた少女は、コインを指で弾きながら苛立ちを込めて言葉を吐き捨てた。

 

 

「どっかズれてるのよね!あの馬鹿は!!」

 

 

 ギュゴッッ!!と、空気を切り裂く音と共に、その少女の手の先から一条の閃光が瞬いた。着弾地点の兵器を容易く貫通し、木っ端微塵に破壊する。

 それを最後まで見ずに御坂美琴は傍らに居る少女へ話し掛けた。

 

「黒子、ここはアンタに任せたわ」

 

「お姉様まさか……!」

 

「アンタにしか頼めないの」

 

「……ッ!」

 

 白井は身体の怪我で満足に動くことができない。それこそ移動だけならばどうとでもなるが、戦闘になれば否が応でも全力で動かなくてはならないだろう。

 そうなれば痛みで演算が乱れて、空間移動ができずに危機に陥る可能性が高い。そうなれば敬愛する御坂美琴の邪魔になると、自分が今まで培ってきた経験と知識からそのことを導き出す。

 危険な場所に一人で送り出す事を許してしまう、自分の不甲斐なさに打ちのめされる彼女に対して、声をかける者が居た。

 

「彼女のことは僕に任せるといい」

 

「……天野さん」

 

 白井達とこの場に急行した少女、天野俱佐利。彼女は御坂美琴には劣るが白井と同じ大能力者(レベル4)にして原石の実力者。この場で彼女以上に実力、人格共に優れて信用できる者を白井には心当たりはない。

 

「……申し訳ありませんが黒子の代わりに、お姉様のことはお任せ致しますの」

 

「うん、任された。怪我一つさせないよ。君も後ろの彼女達の事は頼んだよ」

 

 そう言って二人の少女達はエンデュミオンの中へと走っていく。その後ろ姿を見ることしかできない彼女は、車椅子の上で手を握り締めるが、自分がすべきことを思い出して後ろを見る。

 そこには彼女に駆け寄る二人の少女の姿が見えた。その一人である花飾りを頭に付けた相棒が、十全に戦えるよう状況を作り出すのが今できる最善。

 

「自分の無力さに打ちひしがれるのはこれが全て終わったあと。今は今できる最善を尽くしなさい。それが多くの人が助かることとなるのだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(よし……!黒子って見張りが入ればいくら佐天さんでも迂闊なことはできまい。

 あとは、バタフライエフェクトの可能性がありそうな、エンデュミオンを支える三つのボルトを破壊する、エンデュミオンをパージする作業の主要人物三人の動きだな)」

 

 白井黒子が覚悟を決める傍らで、またしてもオリ主は打算で行動していた。まあ、今回は最悪エンデュミオンが落ちることとなるので、余裕が無いだけかもしれないが。

 

「こっちは任せて。一つは私が受け持つわ」

 

「(うん、ここのミコっちゃんは一緒だから原作というか映画通り。あとは、あの二人なんだけどステイルは今回一度も見てないから怪しいな。居ないとかないよね?)

 先ほど約束した彼女には悪いけど、もう一つは僕が担当しよう。とはいえ、場所が少し遠く場所を把握するのも難しい上に、僕の能力は劣化するから一撃での破壊は難しいかもだけどね」

 

 ぶっちゃけこれはガチの懸念事項である。確かどいつもこいつも全力の一撃を出していた気がするから、劣化している能力では粉砕するのに威力が足りない可能性がある。

 エルキドゥが居るから万が一は無いけど、極力表には出したくないし今はバタフライエフェクトの可能性もあるから、正規メンバーのあの三人に任したいのが本音だ。

 マジで危なくなったらそりゃあ出てきてもらうしかないけど。

 

『うん、全力を出すよ』

 

 出しちゃダメだからね?

 そんな風に考えていると、突然警備員の暗号通信に割り込んできた男の声が聞こえる。

 

『もっしもーし!こちらペンネーム、匿名希望の"妹と書いて人生と読む"さんからだにゃー。話は聞かせてもらったぜい!ボルトの一つはこっちで対処できるから任せてくれていいぜよ』

 

「警備員の暗号通信に割り込めるってなら野次馬じゃないわね……。ええい!今は人手が要る!そっちは任せたわよ!」

 

『了解だぜい!』

 

 そう言って通信が切れる。……まんま土御門だったな。

 ということは話の流れからしてステイルが居るのは確定的。これで残るはあの『最強』なのだが、関わった度合いで言えばミコっちゃんとどっこいどっこいである。何か変化が無いとも言い切れない。俺はそっちに行くべきだろう。

 

「なら、僕はもう一本を警備員と共に破壊しに行こう。それで三つ全てのボルトは破壊できるはずだ」

 

「分かりましたそっちは任せます。私は私の役目を!」

 

 そう言って二手に別れてそれぞれ目標に向けて走り出す。敬語はなかなか取れないらしい。

 

「(原作通りなのかどうか確かめてやる!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、意気込んでいたのだが、そうそう変わる要素もなかったためなのか、当然のように奴は来て「エ"エ"イッッ!!」とぶっ壊した。

 そういや、「他と違って通常攻撃で破壊していたなこの第一位」と遠い目をしていると、打ち止め(ラストオーダー)をお姫様抱っこで抱えて、そのまま空に飛んで行ってしまった。

 

「(重力と風のベクトルを弄ってるのか?ダメだ、よくわからん)」

 

 スパコン並みの頭脳を持つ第一位がしていることなんて分かるわけもなく、結局は物陰から呆然と見詰めることしかできなかった。もしものときのためにスタンバっていたのだが、最終的に取り残されてしまった。

 ちょっとへこみながらもと来た道を帰っていると、ある人物に出くわす。

 

「おや、君か。あの男同様……いや、あの男と共に行動して今回の騒動に関わった口か」

 

 そこに居たのは赤毛の大男14歳、ステイル=マグヌス。偶然出くわしてしまった。まあ、共に避難中なのだから倒壊してない方を進めば出会う可能性も高くなるだろう。

 それにしても、こいつ美少女三人侍らすとか何様な訳?その上師匠呼び?はあ?(威圧)

 まさかこいつ、カミジョー属性持ちかこの野郎。チッ、インデックスとの過去が無かったらぶん殴っているところだ。実際インデックスしか眼中に無いだろうけど。

 そんな感じで退避をする俺だが一つ思った。というより、思ってしまった。

 

「(()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()())」

 

 ステイルと別れる寸前に変身をして姿を変える。気分は魔法少女である。

 変ぇー身☆…………いや、無いわ。

 

 すると、目敏く視界の隅で変身した俺に気付いたステイルが、こちらに訝しげな視線を向けた。

 

「ちょっと君…………何をしようとしてるんだい?」

 

「『ここで私がすることなんて一つだけです』」

 

 アリサの姿へと変身した俺がすることなど、言うまでもなく決まっているのである。

 歌を歌うのはこの世界だと片手で数えられるほどにしかないが、アリサなのだし上手く歌えるだろう。きっと。多分。

 あとは、ノリと勢いで誤魔化せば乗り切る。今までもこうして乗り切ってきたのだからどうにかなるはずだ。

 

 それじゃあ、一丁やってやりますか。……エルキドゥ以外だと割りとすんなり言えるから困惑するな。まあ、テンション上げることができるなら何でもいいけど。

 

 緑髪をしていて歌うんだから当然あのセリフじゃないと締まらないってものよ。んんっ!あー、あー、テステス。ごほんっ。

 それじゃあ行っくよー?スゥゥ…………私の歌を聞けいっ!!

 

 

「『みんな抱きしめて!銀河の果てまでっ!』」

 

 




分かる人には分かる伏線回収。もう無いから幻の伏線ですね
ドゥルドゥルイーヤー♪(ゝω・´★)キラッ
混ざったけどまあいいか。

ちなみに、時系列を合わせるためにライブシーンを一部カットしています。その事にオリ主は気付いてもいません。

◆作者の戯れ言◆
 今まで皆さんに言ってなかったことを言います。ぶっちゃけ随分と前に気付いていたのですが、タイミングを逃してしまい通算100話到達までかかってしまいました。それでは不躾ながらここで述べさせてもらいます。

 誤字脱字報告ありがとうございます!助かってます!
                   by 海鮮茶漬け
               100話目でした↓


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99.シャットアリサ=セクウェンツィア

ハッピーハロウィーン!!(2日遅れ)
今回は少し遅れてしまいました。基本不定期ですが頑張って投稿していきたいと思っている所存です


「(あ、あぶ、危なっ!?マジで死ぬかと思ったわッ!!)」

 

 崩落したエンデュミオンの近くで、建物に寄り掛かっている長髪の女が深く息を吐いて休んでいた。というか、俺だった。

 

「(歌っていい感じにテンション上げてたら出口は塞がれるわ、初めて上条と対峙した一方通行が、ベクトルを弄って線路を飛ばしたときみたいに鉄材が吹っ飛んできて、串刺しにされるわ散々だったぜ。……もしかして、上条の不幸が乗り移ってるんじゃ?いや、それとも神のせいか?)」

 

 ──間違いなくオリ主の自業自得である。

 

「(空いた風穴を治療しながら、崩落するエンデュミオンを命からがら脱出することになるとかマジでヤバいわ。『奇跡』とかやってみるもんじゃねえなこりゃ)」

 

 そう、このオリ主、アリサの『奇跡』を真似ようとしたのだ。映画のアリサと同様に、降ってくる瓦礫を破壊できたらいいなと安直に真似をしてみれば、落下の衝撃か何かで跳ねた細長い複数の鉄材が、ノーバウンドで水平に向かって4メートルほど勢いそのままに、オリ主の腹部を貫通。

 その時オリ主は

 

 

「『今夜は星が綺麗ねだから、きっとーー…………届くーーーーーーううううッッ!?!?!?』」

 

 

 届いたそうな。

 

 まあ、それはそれとして奇蹟は何一つ起きず、オリ主には馬鹿な真似をした代償が降りかかった。さもありなん。

 とはいえ、何も伊達や酔狂でオリ主も真似をした訳ではない。半分はちゃんとした理由がある。しかし、結果は見ての通りマイナスのことしか起きなかった。所謂(いわゆる)大失敗である。

 

「(まあ、そうそう上手く行くわけもないか……。大人しく帰りますかね)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャットアウラとの交戦のあと、当然の如く上条が大怪我を負っていたので、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が治療したあと俺が能力で治癒したから、夕方頃にはピンピンしていた。まあ、数時間ほど体力奪われてグロッキーだったけどね。

 明日には無事、大覇星祭を頑張って出場しつつ、オリアナと殴り合うことになるだろう。……つーか、俺が居なかったらどうなってたんだこれ……?

 

『ねえ、もしかして私もこの世界の一部分として組み込まれているとか?そうなるといろいろ難儀なことになるのよね。具体的には傍観者で居ることができないのよ』

 

「え、えーと……、全体的によく分からないです。これって聞いちゃってもいい話なのかな……?」

 

 暴露に暴露を重ねる俺に戸惑うおどおど系巨乳メガネ女子。知ったことかい!こちとらストレスが溜まりに溜まってるんじゃい!

 

『いいのよ、どうせ誰も聞いてないから。エイワスも別の位相に居るらしいから心配無いし、アレイスターも精神感応(テレパス)の内容までは盗聴することも不可能でしょうからね』

 

 基本的にアレイスターは学園都市のゲテモノ科学を用いてこの街を監視している。ならば、ショッピング感覚で変身しながら動き、街中の風斬を見付けたあと、適当に何かカモフラージュの動きをしながら、精神感応で話せば誰も俺達の密談を知ることはできない。

 エイワスも新約で「どこかで寄り道でもしていたのかねアレイスターっ!?」とか言っていたから、街の全てを把握していないのは確定済み。

 それで、現実世界へ浮き彫りになる前はどこに居たかというと、流石にアレイスターの側を魂的な状態で居たとは考えられないから、やっぱりガブリエルなんかと同じように、どこかの位相に居たのが有力だろう。

 

『全く本当に世知辛い世の中ですよ。比喩とかではなくね。まあ、それでも嫌いにはなれないんだけど』

 

 そんなことを精神感応で呟いていると、突然エルキドゥが語りかけてきた。

 

『マスター、おかしな気配が僕の気配察知に反応している。確認を取るべきだと思うよ』

 

「(ん?おかしな気配……?)」

 

 と言われても全く分からない。そこは何もない空間でしかなかった。

 

『二時の方向に気配があるにも関わらず、マスターの視点からでは彼女が目に写らないみたいだ。もしかすると生きている者には認識できないのかもしれないね』

 

「『?……まあ、一応使ってみるけど……』」

 

 取り敢えず精神感応をエルキドゥが指定する場所に使ってみる。しかし、予想外にも反応が一切無かった。

 

「(……ん?どうなったんだ?全く分からんのだけど)」

 

 困惑している俺にエルキドゥが告げる。

 

『彼女がこちらに反応したよ。やはりマスターには感知できないらしいね』

 

「(うーん、ダメだ全く分からん。つーか、この学園都市に居る透明人間って誰?一応変身したけど電気使い(エアクトロマスター)でも感知できないとかマジの化け物では?)」

 

 ヤバい可能性が浮かんでしまったが、未だに相手が何のアクションも起こしてないため、おそらく話す余地はある相手なのだろう。魔術関係だったら俺にはほとんどお手上げで、エルキドゥのごり押しに頼るしか俺にはできることがない。

 

 とはいえ、このタイミングで現れる存在など居るのだろうか?

 

 オリアナが来るのは明日ではあるが、下見に来ることはまずないだろう。オリアナはあくまでも囮のため前日に下見に来て動くことはまずありえない。バレて目を付けられれば囮ですらできない可能性があるからだ。

 本命であるリドヴィアは潜入している可能性もあるにはあるが、学園都市の外だとしても察知される可能性がある以上はそれも低いはず。

 

「(つまり、オリアナ達ではない魔術師?……いやー、それはないだろ。流石にそれは突飛すぎる。俺が起こしたであろうバタフライエフェクトも学園都市の中だけだ。

 闇咲(やみさか)は魔術サイドの人間だけど個人で動いてたし、その敵対していた組織もちゃんと潰したからどうこうなることはないはず。俺はサポートで主に上条が動いてたから、目を付けられるなら上条だろうしな)」

 

 だとすると、残るは学園都市に居る能力者かもしれないが、姿を完璧に消すことができる能力者など聞いたことがない。もし居るとするなら超能力者(レベル5)クラスではなかろうか。

 

「(まさか、第六位か……?)」

 

 それならば、学園都市中に存在が認知されていない理由にはなるが、それならばおかしなことが一つある。

 

「(そんな完璧な光学迷彩ならミコっちゃんとむぎのんは瞬殺じゃない?)」

 

 そうなのだ。電磁波も察知できないのなら電磁レーダーなど使える訳もないため、暗殺されてしまうのが落ちだろう。そして、その能力の有用性は対人に(とど)まらない。

 理想の兵器の到達点の一つ。完璧なステルキ機が生まれる可能性がある。光学技術の応用ではそれこそ美琴すら上回るだろう。それが第六位だとは到底思えないのだ。

 つまり、魔術でも超能力でも、ましてや科学でもない認識することすらできない力とは一体なんなのだろうか?

 そうな風に頭を捻っているとそれに引っ掛かりを覚えた。

 

 

「(うん?ちょっと待て。……()()()()()()())」

 

 

 その言葉に前世の記憶が刺激された。そこからは点と点が結び付き、高速で事実が浮き彫りになっていく。

 

「(エンデュミオンの奇蹟が終わり……退院した上条がアリサの声が聞こえたと言ってて……誰にも認識できない人物……)」

 

 先ほどの不明瞭な人物像とはうって変わり、どんな人物なのか記憶から導くことができている。それもそのはず、俺はその人物の片割れとは会っていたのだから、その記憶を呼び起こすのは簡単だった。

 エンデュミオンに関する記憶を思い出すと同時に、その人物が明確に脳裏に浮かび上がった。

 

 

「(まさか、シャットアウラ……?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで、黒髪巨乳美少女であるシャットアウラ(多分)が目の前に居るという事態にかち合った俺である。これはこの孔明の目を持ってしても予測できんかったよ。

 

「(会いたいとは思ってたけど今この瞬間かね。何の心構えもできてないんですけど?)」

 

 劇中でなんかやたらと攻撃的だった気がするシャットアウラに、どう接しれば悩んでいる途中で、とある事実に気付いた。

 

「(あれ?接するも何もそもそもしゃべれなくね……?)」

 

 姿も声も聞こえないのだから会話などできるはずもない。

 ……なんだかピンポンダッシュした気分である。あとから気付いたが交信できないのに呼び掛けるのは非常識ではなかろうか。

 

「(そもそも、確かシャットアウラって誰にも認識できないようになってるんじゃなかったっけか。そんなデバフがかかった状態で俺が認識できるようになるなんて無理に決まって『できるよ』…………あれえ?)」

 

 さらっと言われてしまい困惑するが、ウチの有能サーヴァントはトントン拍子で進めてしまう。

 

『どうやら生きている者に彼女は察知できないようだ。いや、もしかしたら何かしらの歪みのせいでそうなった可能性の方が高いようだけどね。だけど、それなら僕の目と耳を同調させれば彼女と会話できるようになるということだ』

 

「(い、いやいや、そんなことできるん?確かエルキドゥが手加減してくれないと俺の魂が押し潰されるとか聞いたんだけど)」

 

『間違いなくね。本来ならば魂の不一致もあって、僕とマスターが魂を同調させることは不可能だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今のマスターなら耐えられるはずさ』

 

 すると、聴覚に揺らぎのようなものが起きた。風斬とはまた違った感覚に戸惑っている俺に前世で聞き覚えがある声が届く。

 

「誰だ貴様」

 

「(うわっと!?マジでシャットアウラじゃん…………いや、でもなんか……?)」

 

 その姿は何故かノイズのように姿がブレており、正確に人間として認識できなかった。

 

『おそらくマスターの本来の姿ではないからだね。僕の完全な同一機ではなければ同調はできないようだ。これはその不具合のようだね』

 

「(なるほど、同調なら姿の有無は確かに関係あるかも)」

 

 コピーではなく本来の姿ではないためなのか、それとも生死の基準のためかは分からないが、これは仕方無い事らしい。さして問題もないからいいけどさ。

 

「(映画の終わり方から見るとシャットアウラは、アリサと一体になったんだっけ。それでアリサの人格がシャットアウラに吸収されたんだっけか)」

 

 前世の記憶を遡って映画を思い出していく。つまり、ここにいるのはアリサではなく、シャットアウラということになるわけだ。

 

「(変わったことと言えば、確かシャットアウラの胸が大きくなったとかおかしな現象が起きたんだっけ。

 いやまあ……、歌とか記憶とかの大切な思い出は分かるよ?アリサがシャットアウラの無くしてしまった大事なものなんだなって納得できるとも。

 でも、それらに加えて胸ってなにさ。ピンポイントにもほどがあるわ(困惑)

 当時のシャットアウラの大切なものの中にそれがあったの?え、何?多感な時期なの?)」

 

 シャットアウラが高校生ぐらいだとするなら、中学生くらいなので思春期に入っていてもおかしくはないかもしれない。そこら辺を気にするお年頃と言われても間違っているとは言えない。ちょっと、無理矢理感が否めないが。

 そして、シャットアウラの言動から気付いた。

 

「(あー……そっか、シャットアウラとは会ったことが無かったっけ)」

 

 見知った顔で話しかけてしまったが、映画以外では会っていないためそりゃあ不審な奴だと思われるのは仕方ない。

 これは説明するのに骨がかかると思っていると、突然声の調子が変わる。その声に俺は聞き覚えがあった。

 

 

「──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、俺の前では一体何が起こっているのだろうか?

 

「──こちらは天野倶佐利さん。えーと私の友達かな?」

 

「──なぜ疑問系なんだ」

 

「──私が知っている天野さんとは見た目違うし、そもそも出会ってから一日しか経ってなかったから、そう言ってもいいのかなって不安になっちゃって……」

 

 一人で黒髪巨乳美少女がぶつくさ言ってる。なんか不思議な光景だな。つーか、最近マジで黒髪美少女ばっかと会う頻度が多くない?嬉しいけどさ。

 

「それで、貴様は一体何者だ?どうして()()のことを認識できる」

 

『……私達ねえ』

 

 なんかシャットアウラからその言葉を聞くのは新鮮だな。まあ、シャットアウラとアリサは最後の瞬間まで距離を置いていたり、殺し殺されかけたりなど、いろいろあったためそう思うのかもしれないけど。

 

「奇蹟を使いエンデュミオンのスペースステーションの落下を阻止した私達は、その代償に誰からも認識できないようになったはずだ。それにも関わらず何故お前には私達を認識できる?」

 

『あー、それについてはいろいろと事情があってね。まあ、周囲が認識できない二人には話してもいいから話そうか』

 

 このあとのことを考えながら、本音をぶちまけられる相手が増えたことに内心ガッツポーズを取った。胃痛仲間は増やすに限る。

 

「(世界の真実を教えてやるよシャットアウラとアリサ──もとい、シャットアリサちゃん♪)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話をするため近くのテラスまで移動する最中、俺は一人思考を回す。考えていることはこの状況から導き出せる一つの事実だった。

 

「(よし、運が良いぞ。予想とは大幅に違ったけど()()()()()())」

 

 今回のシャットアリサの珍事は全くの予想外の事ではあったが、偶然にもこれでとある確証を得た。

 

 

「(俺の劣化模倣(デッドコピー)は『願いの集積体』も模倣することができる)」

 

 

 今回の試みとは『願いの集積体』を模倣できるかどうか。とあるの世界には魔術と超能力の他にも不思議な力が存在している。それが『願いの集積体』だ。

 複数の願いに同一の指向を与えれば因果律にも作用し得る力となると、アレイスターは映画でそう明言していた。それが魔術とも超能力とも異なる『願いの力』であると。

 

 だからこそ、あの場で試してみたのだ。アリサとなって奇跡を使うことで奇跡を使えるようになるのかを。

 

「(それこそシャットアウラとアリサみたいに、エルキドゥと分離するなんてことも可能性の一つではあったし。安全とは程遠いリスクを孕んでいたけどね。まあ、それがマスターとサーヴァントの正しい在り方なのかもしれないけど)」

 

 これは物的証拠が無いためあくまで推察でしかないが、おそらく俺の奇跡は目の前で起きていた建物の崩落ではなく、アリサの方へと向かっていったのだろう。

 そして、その代償として俺はリアル黒ひげ危機一髪と、エンデュミオンの崩落による瓦礫に呑み込まれそうになったのだ。それこそ、この身体でなければ確実に死んでいたため、奇跡の代償の可能性が高い。

 

 このことから、俺の奇跡は劣化模倣(デッドコピー)により自分自身を殺してしまうほどの代償と、発動する場所が俺の意図しない地点に捻じ曲がると推察できる。

 

「(アリサの奇蹟はデメリットがデカ過ぎて使い道が無いな。その上起こる現象もランダムとかリターンになる確率が余りにも低すぎる)」

 

 ハイリスクローリターンと呼ぶしかないものだ。それこそどうしようもなくなったときの神頼みくらいにしか、この力は使うシチュエーションは無いだろう。

 

「(だけど、本命は『願いの集積体』のコピーできるかの有無。アリサの奇蹟ができたのなら、魔神の『願い』から生まれた幻想殺し(イマジンブレイカー)理想送り(ワールドリジェクター)もコピーできることになるってことだ)」

 

 おそらく今回の奇蹟同様に、何かしらの劣化があるものだと考えられるが、知っているのと知らないのだとは天と地ほどの差がある。

 

「(とはいえ、幻想殺しはコピーすると身体が弾け飛ぶのはほぼ確定で、理想送りもサンプル=ショゴスが無い場合もどうなるか分からない。そもそも『願いの重複』の基準が曖昧だから俺に効力があるのかどうかさえも未知数)」

 

 自分自身の願いが一本化しているのか、それとも重複しているのかの判断を客観的に下すのは難しい。

 

「(あのイレギュラーな右手達は魔神が生み出したから、所有者以外に牙を剥く特別な付加価値があるのかどうなのか、原作で明言されてない以上、俺に答えを導き出すのは不可能だ。

 まあ、恋査のことから安易にコピーしたらダメってことはあらかじめ分かってから、一番大丈夫そうな『奇蹟』をコピーしたんだけど、それであのしっぺ返しだからな。『願いの集積体』はどうしようもなくなったときの最後の切り札として、使うしか無いかも)」

 

 この命懸けの挑戦は戦略の一つとして手に入れるためなのか、はたまた原作愛から来るものなのかは本人しか分からない。

 




アンケート取りましたが独白だけで5000文字は無理なことに気付きました。普通に無理ですわ(諦め)
そもそも独白って結構要所要所でやってるんで100話に相応しいキャラもいないっていうね。

だから、作者は考えました。「そうだ、キャラクター同士でオリ主を主軸に置いたインタビュー形式を書けばいいんじゃね?」と。今の候補はオリ主といい感じの話をした、佐天さんがよくいる美琴達と上条達ですね。客観的な視点だけというのも今まで無かった気もしますし
それに加えて他のキャラにも聞く感じで練っています。……どうですかね?(汗)


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祝百話記念
100.彼ら彼女らの印象


そんな訳で100話記念です


 某日、突然それは行われた。

 以前から疑問視されていた事柄ではあったが、それを行う者は誰一人としていなかった。機密保持の側面や個人のプライバシーに抵触する怖れ、その上関係者各所に目を付けられる可能性などがあり、結果的にメリットよりもデメリットの方が大きくなるため、好奇心が幾ら刺激されようと誰も敢行することはなかったのだ。

 しかし、その今までの暗黙の了解を打ち破り、禁忌(タブー)へと手を掛ける者が現れた。その身に降りかかる火の粉を恐れずに真実を(つまび)らかにせんとする勇者が。

 

 これはとあるジャーナリストが血と汗と涙を流して入手した、ドキュメンタリーである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女と面識があるとある高校の教室に赴いてみた。

 

「えーと、先輩がどんな人かだって?」

 

 取り敢えず目の前に居たツンツン頭の少年達がいるグループから聞いてみた。彼らは学年が違うにも関わらず彼女のことをよく知っているらしい。

 

「そりゃあ知っておるでー。天野先輩と言うたらこの学校の二大マドンナの片割れや。年不相応な落ち着きに庶民の生活では得ることがないだろう上品な所作を持ちつつ、一切の堅苦しさの感じさせない時たま見せるお茶目さのギャップ。

 そして、あの優しい微笑みを向けられたら天野先輩に対して憧れへん奴はおらんで?くぅ~~!!天野先輩が同じ学校にいる!それだけで僕の学校生活は薔薇色や!!」

 

 いつものは常人には理解できない趣味趣向から、その発言に同調するものはまずいないのだが、その人物が実際に何度も教室に訪れておりその振る舞いを実際に受けていたため、教室に居たクラスメイト達からは珍しく同調の声が上がった。

 

「その理想のお姉さん振りは男子だけじゃなく女子にまで及んでますたい。この学校でお姉様なんて呼ばれ方をしているのはあの人以外いないぜよ。

 最近じゃあ男子人気よりも女子人気が多いみたいだしにゃー。思春期爆発させている男子はもう一人の雲川って先輩に憧れて。年上の凛とした振る舞いに憧れを抱く女子には、さっきから言っている天野倶佐利に憧れるってとこですたい。その筆頭がそこの吹寄だにゃー」

 

「え、何?天野先輩について聞きたいですって?い、いや、私はそこまで知っているわけじゃないし、そもそもまともに会話をしだしたのも最近だから、天野先輩のことを詳しく知っているわけじゃないわ。

 それに噂とか信憑性の無いものは余り口に出したくないわね。別に噂すること自体は良いと思うけど、個人的に責任の取れないことは簡単に口にしたくないのよ」

 

 そこまで聞くとインタビュアーは彼女から話を聞き出すのは無理だと悟った。そして、今しがた無責任なことを言いたくないと告げた彼女に賛同するかのように、周りの空気が落ち着いたことから、このクラスから聞けることはもう無いだろうと察する。

 あとは、天野倶佐利がこの間、夜中に親しい後輩の寮に一緒に入っていったという噂があったのだが、それを聞いて回ることはこの雰囲気では不可能だと気付き撤収をした。

 

「って、うおおいッ!?何さらっと問題発言をしてくれてんの!?その『あなた達の考えに感服しました』とも言いたげな顔しながらその言い逃げは流石にズル──ッは!?」

 

「──なあ、上やん。どうやら僕の薔薇色の青春は、上やんのおかげでどうやらもーっと紅くなるみたいやなあ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日の昼下がり彼女達はそこに集まっていた。

 

「え?天野(あまの)倶佐利(くさり)さんのことをどう思っているかって?」

 

 彼女は学園都市に七人しかいない超能力者(レベル5)の一人にして、電気使い(エアクトロマスター)の頂点に君臨する少女、御坂美琴。

 彼女は友人達と一緒に某ファミレスで食事をしている。

 

「あの方の事ですか。人様のプライバシーを探るようなことはどうかと思いますけど、気になるのは同意しますわね」

 

「私達も何度かお話したことはありますけど、知り合って間もないですから深くは知りませんよ?」

 

 そう言いながらパフェを頬張る彼女達は(こちらの自費)、こちらの質問に答える様子を見せる。インタビューは順調と言えるだろう。

 

「にしても、こういうことをする物好きな人って佐天さん以外にもいるものなんですねぇ。まあ、風紀委員(ジャッジメント)として取り締まるほどではないんですけど」

 

「ちょっと初春。この私がこんな街角インタビューみたいなことをするなんて思ってるの?」

 

「都市伝説の情報収集が趣味の人のセリフとは到底思えないですよ?佐天さん」

 

 都市伝説の話を美琴達に教えることはもちろん、その噂に首を突っ込んでは度々事件に巻き込まれる事態へ、発展していることを知っている初春はジト目で彼女を見る。

 同じくそれを知っている白井も真偽を問うように尋ねた。

 

「それで?本当にあなたはしないんですの?」

 

「もちろん、やるに決まってるじゃないですか!というか、もうしたあとです!」

 

「えぇ……、もう手遅れじゃない……」

 

 呆れたように美琴がため息を吐いた。和やかに話す彼女達を見ながらも、質問にそろそろ答えてもらえなくてはこちらも困る。

 

「ええっと、そうね。え、えーと……じゃあ誰から言う?誰からでもいいけど」

 

「お姉様?如何しましたの?いつもとは違い何やら言い淀むかのようにして」

 

「いや、そ、そんなわけないでしょ……?」

 

「うーん、それじゃあ私からでいいですか?ちょっと調べたりしたので知識で言えば、ここにいる人の中でも一番でしょうし」

 

 口をまごつかせる美琴の代わりに、そう前置きをして長い黒髪の少女は話し始める。

 

「天野さんが逸脱したところは能力はもちろんのことその経歴です!希少な能力者を集めていて、成績も『能力の希少価値』でランク付けされる、あの霧ヶ丘(きりがおか)女学院から推薦が来たにも関わらず、それを蹴って常盤台に自力で入学したらしいんですよ!」

 

「あー、なるほどね。確かに天野さんの能力なら常盤台よりも霧ヶ丘女学院の方が適性は高いか」

 

「白井さん。確か霧ヶ丘女学院って常盤台と同じくらいの名門校ですよね?」

 

「ええ、常盤台が汎用性に優れた一般的な能力者の開発の育成をしているのに比べ、霧ヶ丘女学院は特異で希少な再現が限りなく難しい能力者を育てるエキスパート、と言ったところですわね。

 当然、その学校から推薦が来ることなんてまずあり得ませんの。それこそ、お姉様のような超能力者(レベル5)の能力者でもない限りは」

 

「それなのに、霧ヶ丘女学院を止めて常盤台に……。あっ、もしかして常盤台からも推薦が?」

 

「ううん、違うらしいよ。何でも一般入試での入学だってさ。いやー、すごいよね。あれかな?自分の実力は希少さだけじゃないって証明したかったのかな?」

 

「適性が無い学校に行くことに加えて、今の常盤台の『派閥』という文化を生み出した立役者。ほえー、能力の希少性だけじゃなく人格も人並み外れた人なんですねー」

 

「霧ヶ丘女学院からすれば、学園都市でも四人しかいない肉体変化(メタモルフォーゼ)でありながら『原石』でもある彼女は、喉から手が出る程に欲しかった人材だったのでしょうね。

 まあ、進路を決めるのは個人の自由ですの。人にはそれぞれ抱く信念や目標がありますから、外野が得意不得意で騒ぐのはナンセンスかもしれませんわね」

 

 天野倶佐利という少女が歩んできた道のりを知り、少女達は感嘆の声を上げる。その中で御坂美琴はドリンクを飲みながら一人遠い目をする。

 

「(これは元は『派閥』があの人のファンクラブってのは言えないなー。佐天さんの目がどこぞの第五位みたいに輝いてるし、夢を進んで打ち砕くのも違うだろうし……)」

 

 彼女はあの人に諭されたようなものなため、私達とは違って尊敬の気持ちが一つも二つも上の位置にあるのだろう。

 ……彼女が嘗て居たというファンクラブの一員にならないことを、ただ祈るばかりである。

 

 

 ※ちなみに、ファンクラブは解散されておらず全盛期とは言わずとも、未だに数を増やしていることを美琴はもちろん当の本人である天野も気が付いてはいない。

 

 

 頭に花飾りのカチューシャをしている初春飾利が佐天の次に話し出す。

 

「うーん、佐天さんの次というのもこれはこれで難しいですね。能力なんかの個人情報は言えないですし、見た目も印象的過ぎて言ってしまうと迷惑になりそうなので控えた方がいいですよね」

 

「ですわね。本人がそのことを気にしなくても、不利益を被ってしまう可能性がある以上は言わないのが無難ですの。まあ、そうすると大して話してもいないわたくし達が言えることは格段に減りますけど。

 お姉様もそうですよね?」

 

「え!?……あ、あー、私はちょっと関わりがあってね」

 

「へえー、そうだったんですね。それじゃあ、聞かせて下さいよ御坂さん!」

 

「うぐっ」

 

 佐天のワクワクした瞳に気圧されながらも、彼女はポツポツと話し出した。

 

「私は何て言えばいいのか難しいけど、私の個人的な事情でいろいろと迷惑をかけちゃった相手なのよね。

 あの人は気にするなって言ってたけど、あの馬鹿同様にいつか纏めて返す予定よ」

 

 そのどこか覚悟の決まった表情のする美琴は前を向いていた。後ろめたい気持ちもあるのだろうが、嘗ての絶望していたときとは別人のような変わりようである。

 そして、そんな彼女の隣で、ツインテールの少女から喜怒哀楽の色が抜け落ちた。

 

「ほう……?お姉様その()鹿()とは一体どちらの方のことでしょうか?」

 

「えっ!?い、いやいや!別にそんないちいち気にするような大層な奴じゃ──」

 

「あ!もしかして、噂の彼氏さんですか!?」

 

「カレシ……?お姉様、──イッタイドウイウコトデショウカ……?

 

「ひいっ!?白井さんが壊れたオモチャみたいな気持ち悪い挙動を……!?」

 

「ば、馬鹿!勘違いすんじゃないっての!アイツとはそんな関係じゃあ無いわよ!あの馬鹿とはべ、別に何でも──」

 

 そこからちょっとした言い合いになったため、彼女達のインタビューは終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああン?パクり女の事を知りたいだァ?」

 

 こちらの質問に不機嫌そうに答えたのは白髪に赤目の人物だった。

 

「何でも周りの人間から見たアイツのことを知りたいらしくてな。なら、私だけじゃなくお前さんにも聞くのを勧めたじゃん。それに暇をもて余す打ち止め(ラストオーダー)の暇潰しにもなる一石二鳥。良いこと尽くめじゃんよ」

 

 横でパクパクとパフェやらクレープなどの、ひたすら甘ったるい物を食べ続けている打ち止めを横目で見ると、チッと舌打ちした彼は隣にいた元研究者に視線を向ける。

 

 (オイ、裏は取ったんだろうなァ?)

 

 (当然よ。暗部の人間特有の臭いも信用できる人間かどうかはちゃんと調べたわ。まあ、愛穂は見る目があるしあなたに会わせるほどだから、その心配は杞憂でしかないだろうけど。

 念のためにこうして狙撃の心配の無い安全な場所で、彼女と会うことにはしたから万が一も無いわ)

 

 それを聞くと、フンッと不満気に椅子に座る一方通行(アクセラレータ)

 その姿を見て芳川の頬が弛む。彼の態度の理由が自分達の安全を考えての事なのか、あるいは話題に出ている少女の安全を考慮してなのか、どちらにしてもその心の機微は芳川にとって好印象であった。

 

 そんな饒舌し難い雰囲気をものともせず、鋼の魂を持ってインタビュアーはそれぞれが抱く彼女への印象を尋ねた。

 

「珍獣」

 

「一方通行、流石に言い過ぎじゃんよ。せめて人扱いはしてやれ」

 

「愛穂……それあなたも大概よ?」

 

 一方通行に続き彼女と面識がある黄泉川もこう言っていることから、かなりの変わった子供なのだと芳川は推察する。……まあ、二人の価値観を信じるという前提はあるが。

 

「あいつの頓珍漢で奇天烈の行動は、私もこの目で何度も見てるからなー。その側面が印象に残りやすいのは認めるしかないじゃんよ」

 

「会って話もしたことがない私からだと、まともにイメージできないわね。ねえ、そう言えば打ち止めは彼女と知り合いなのよね?あなたから見て彼女はどういった子なの?」

 

 芳川が次に話を振ったのは一方通行の隣に座っている少女だった。彼女はパフェから口を離し端的に言う。

 

「変人って答えてみる」

 

「打ち止めあなたまで……」

 

 人扱いにはなったが、それは言ってしまえば人扱いになっただけである。打ち止めの答えは一方通行の答えと大した違いはない。芳川はこめかみを手で抑えた。

 そんな芳川が目に入っていないのか、打ち止めは口をへの字に曲げて不満をぶつける。

 

「ミサカにとってあの人は天敵なの!ってミサカはミサカは主張してみる!突発的に自分のしたいことを優先させるところや、言いたいことをズバズバ勝手に言うところなんて、まさに傍若無人そのものってミサカはミサカはあの人の迷惑さを声に大にして主張してみたり!」

 

 プンスコといきり立つ打ち止めは怒りの感情そのままに、声を大きくした。それを見ていた保護者三人は内心で同じことを考える。

 

「「「(それは自己紹介か何かか?)」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天野倶佐利の行き付けの病院

 

「病院に来るのを飲食店に来るかのように、行き付けと表現されるのは困るね?まあ、何が一番困るかというと彼女の態度を見るに、そう言った気持ちで本当に来てそうな事なんだけど」

 

 彼女と関わり合いが深いとある医者にインタビューをした。彼女についてどう思っているのだろうか。

 

「ふむ、彼女の行動には頭を痛めることも多いけど、実際に彼女の能力がなければここに運ばれて来た患者の何人かは亡くなっていたはずだよ?

 それは、度々ここに来て様々な場合の応急措置のやり方を、学んでいたからという理由が大きいだろう。

 まあ、それは彼女が事件が起こりそうな場所に、野次馬根性を出して首を突っ込んでいることと同じだから、手放しで褒めることはできないけれどね?」

 

 病院に研修へ来ている少女N。

 

「彼女について詳細を語ることはできないけど、well 彼女の振る舞いくらいなら言っても構わないでしょう。

 一言で言うなら彼女には遠慮と言うものがないわ。日常の何気無い時でも人命が関わった切迫した瞬間でも、関係無しに相手の領域へ踏み込んでくるのよ。それだけでも、相手を腹立たせるには充分過ぎる事でしょう。

 でも、おかしな事なのだけど、結果的にはそれが相手のためになっているのだから始末に負えないわ。彼女は相手の意思を捻じ曲げて相手から恨まれても、より良い未来にしようとするのよ。相手からすればありがた迷惑以外の何物でも無いでしょうに。

 私が何でそんな事をするのかを聞いたときに、彼女が何て答えたか分かる?『後輩ならこうするだろう』って言っていたわ。会ったことは無いけどおそらく彼女と同じくらいのお馬鹿さんなのでしょうね」

 

 飴を咥えた双子の金髪ロリ。

 

「くさりはねぇ、わたし達の友達だよ~。よくここに遊びに来るのー!おままごととか絵本とか見てるんだーえへへっ」

 

 ほっこりしたインタビュアーはそれを聞いてここを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あん?俺に天野について聞きたいだ?」

 

 彼は何故か腕立て伏せを公園の真ん中でしていた。10000回とか聞こえたがおそらく気のせいだろう。そんなインタビュアーの言葉を聞くと、腕立て伏せの姿勢から腕と背筋の力だけで倒立し、そのまま前方に空中で回転しながら地面に着地した。

 

「よっと!……まあ、あいつとは旧知の仲だからな。俺に分かることなら教えてやるぜ!」

 

 では、彼女と一時期共に行動していたという話を聞いたのですが、それは本当なのでしょうか?

 

「ああっ、本当だぜ!いやー、あの時期は楽しかったー!初めて会ったときが会ったときだからな。ぶっちゃけて言うと二人でチーム組んで行動するなんて想像もしてなかったんだが、案外気が合ってよ!二人で悪振ってる武装無能力者集団(スキルアウト)なんかの根性ねえ奴らを、根性で叩きのめしに行ったもんだ!

 まあ、俺が命名した『スーパーエキセントリック爆裂ド根性ゴールデン原石コンビ』っていうチーム名が、あいつがどうも気に入らなかったみてえでよ。唯一あいつと意見が真っ二つに別れた事だな!

 どっちも譲らねえから結果的に俺のこのチーム名を縮める事になったな」

 

 ちなみに、彼女自身についてどう思っていますか?

 

「おう!根性ある奴だと思ってるぜ!」

 

 ……え、えーと……、そ、それ以外で彼女に思うことは……?

 

「根性があるかどうか!重要なのはそれだけだ!根性があれば真っ直ぐ前を向いて歩けるし、例え間違った道を行っちまってもやり直せる!

 俺はあいつと会ってから下を向いているところを見たことがねえ!なら、それだけで充分だ!あいつが根性ある生き方をしているならそれでいいし、もし間違えちまったなら俺の根性で目を覚まさせてやる!それが根性ある生き方をしている男ってもんだ!!」

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある学生寮の玄関前。

 

「はーい、どちら様で……って、またあんたか!?つーか、あんたのせいで俺はクラスメイトの奴らにあのあとボコボコにされて──って聞けよ!?」

 

「うん?くさりについて?何が知りたいのかな?」

 

 ここに天野倶佐利さんが訪れたことがあるとお聞きしまして、その事についてお伺いしたいのですが。

 

「うん、くさりはここに何度も来てるよ?」

 

「あ、馬鹿……っ!」

 

 ほほう?それでここで彼女は何をしているのですか?

 

「主に食事を作りに来てくれるんだよ!それがねっ、すっごく美味しいんだ!あれがほぼ毎日食べられるなんて私は幸せかも!あと、この前はお泊まりもして楽しかったなぁ。また、誘おうねとうま!」

 

 ふむふむなるほどなるほど。同居中の銀髪美少女シスター(年下)を住まわせているにも関わらず、学校の先輩に通い妻をさせつつ家のベッドに誘う、と。

 

「うおおいッ!?何かとてつもなくヤバい解釈をされているだろこれ!?違う違う!これは全くもってそんな深い意味じゃないから!?」

 

 では、あなたのベッドで彼女は寝ていないと?

 

「ううん、お泊まりのときはくさりと一緒に私もとうまのベッドで寝たんだよ」

 

「ちょっと黙っててくれませんかねインデックスさん!?」

 

 カキカキカキっと。ふむ、まあこんなところでしょうか。

 それでは上条さん夜分遅くに申し訳ありませんでした。ご協力ありがとうございます。では、私はこれで。

 

「あっ、ちょっと待って!今までのは全部誤解……って帰るの速っ!?ち、ちょっとお!?せめて!せめて説明だけでもさせて欲しいんだけどー!?」

 

 そんな焦りと絶望にまみれた声が、夜の学園都市の街に響いたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。

 

「『集めた重要なキャラクター達の私に対する情報から、これから起こるだろうズレの予測が少しでもできればと思ったんだけど、やっぱりそんな上手くいかないよね。

 私という駒が新たに加わったことで、連鎖的にいろいろな人間関係も変わってきてるだろうし、これだけじゃ余りにも情報不足かー。うーん、はてさてどうしたものか……』」

 

「……昼間っから何をぶつぶつやってるのよあなたは。変装している不審者として取り締まわれたいの?」




次回から待ちに待った大覇星祭だぜ!!


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大覇星祭編『上』
101.宣誓


新訳の良作MADを見てしまった……。意欲が湧いてもそこはまだまだ書けないんだよなぁ(悲しみ)

この章でも伏線を貼りつつ、次の大覇星祭『下』でここ最近の伏線を一気に回収しながらはっちゃけます(確定事項)


 風斬とシャットアリサに邂逅した翌日。

 俺達学生は数少ない盛り上がる学校イベントであるその日を迎えた。恋愛云々の甘酸っぱい青春ではない汗と涙の運動会。

 つまりは、大覇星祭を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……何だっけな?忘れちまった…………まあ、いいか!」

 

 そんなことを宣ったその男は、段取りなど知ったことかと言いたげな様子で言葉を自分勝手に紡いでいく。隣で真っ当に言っている第五位のこととか一切考えて…………考えて無いんだろうなあ……(遠い目)

 なんか勝手に一人ボルテージを上げたその男は、その感情を表に出すかのように拳を勢いよく突き上げた。

 

「あらゆる困難、障害、艱難辛苦(かんなんしんく)、七転び八起きが起きようともッ!全て根性を持って挑むことを誓うぜッッ!!」

 

 キュドーンッ!という効果音と共に、七色の爆発が会場から発生する。文字通りの感情の爆発である。ハハッ訳分からん(諦め)

 

 原作知識とか経験則から奴の実態を知っている俺からすれば、まあ成るべくして成ったという感想である。

 それこそ、仮に彼ら以外の第一位のもやしや第二位のホストが来ていたとするなら、最悪気絶していたかもしれないほどの衝撃を受けていただろう。そんなイレギュラーも起きることはなく、恙無(つつがな)く大覇星祭のオープンセレモニーは無事俺の想定する通りに進んだ。

 強いて予想外のことがあるならば、各校合わせた校長オールスターズの、地獄の自分語り──もとい、校長先生のありがたいお話が思いの外地味なダメージを与えたが、それでもなんとか乗り切ることに成功したのだった。

 そんな俺だが、一つだけ今も悩んでいることがある。というのも、

 

「(今回の事件に介入するべきかしないべきか……)」

 

 そう、原作知識を用いれば今回の事は手っ取り早く片付くのである。素早くオリアナを倒しリドヴィアを捕獲しにいく。もちろん、バレないようにする必要はあるだろうが、それさえ気を付ければいいだけなのだ。

 だが、原作を思い出すとそれもなかなかいい手ではない気もする。

 

「(確か、イギリスで上条はオリアナと共闘するから、説教無しで速攻で倒すと互いに禍根が残る可能性がある。

 上条ならそのコミュ力でどうとでもできるかもしれないけど、わざわざ不安要素を生み出す必要は無いし、それにグレムリンの正規メンバーとオリアナが戦うってなった場面で、幻想殺し(イマジンブレイカー)対策で戦うとかなんとか言っていた気がするから、上条との戦闘の経験値が無いとあの18禁お姉さんが死ぬかも)」

 

 それらを踏まえるとクライマックスに四人で横一列に並び、オリアナと対峙する構図になるのは避けるべきだろう。

 

「(それに確か、魔術サイドの問題に科学サイドの人間がでしゃばると、戦争の火種とかにならなかったっけ?あの時期より前になるとか原作崩壊まっしぐらだよな。

 あー……、これはダメだわ。『土御門の珍しくカッコイイところ見てみたい☆フフゥ⤴️⤴️』で介入できる話じゃねえわこれ)」

 

 結末が確定しつつ自分が加わっても問題無いのならば、テンションに任せてはしゃいでいたいのだが、どうやらそう簡単に物事は進まないらしい。

 そこで、ふと思った。

 

「(ん?つーか、それだと何で上条はいいんだ?確かに上条は無能力者(レベル0)ではあるけど『外』の人間である魔術師からすれば、『科学サイドの能力者である』という同じ枠組みでしかないから大した違いは無くないか?

 ステイルは魔術一辺倒の人間じゃなく科学サイドの理解もあるから、能力者の強度(レベル)に関して知識はあるかもしれないけど、他の魔術師達全てが把握しているとは思えないし……)」

 

 それなのに上条はよくて俺はダメだという理屈はどういうことだろうか?頭を悩ませながら競技場の外を歩く。

 

「(まあ、答えが出ないことを考えても意味無いか。つーか、それとしてかなりの屋台が出てるなー。

 舞夏が通う繚乱家政女学校なんかは臨時収入や、日頃の研鑽の成果を大々的にアピールしたいだろうから、力を入れるのは分かるんだけどさ)」

 

 そこら辺の売店を見ながらそんなことを思う。大覇星祭は競技以外で生徒が縛られることは基本的には無い。他の学校の応援やコンビニで雑誌なんかを見ても問題にはならないのである。

 とはいえ、ここまで売店が出ているとは思わなかった。流石学園都市と言うべきか。

 

「(上条達もどこかにいるんだろうけど……)」

 

 俺は今、上条達と行動してはいない。というか、まだ今日は目にしても無いのだ。というのも、今日は一大イベントのため、学生達は早めに現地に到着するのが決まりであるためである。

 開会式が終わるとすぐさま棒倒しが始まり、学年が違う俺と上条は会うこと無くそれぞれの学年へと別れ、俺はクラスメイトと交流したりなどがあったため、結局会わずじまいとなってしまった。

 それに加えて今回の騒動に参加するかを悩み、積極的に上条達を探しに行かないでいる。

 そもそも、大覇星祭は様々な中高の学校が参加しており、学生の数も比例してとんでもない数となっていて、さらに一般公開ということで学園都市が外部との規制を緩めるため、学園都市に訪れる者がかなり増えているのだ。

 つまり、この場に居るのは参加する学生に加えてその親となるため、無闇やたらと動いても彼らを見付けることはまず不可能だ。

 

「(いや、まあ電話すればいい話なんだけどさ。さっきしても出なかったんだよなー。多分教室に忘れたってオチなんたろうけど。そして、偶然教室で着替えていた吹寄の裸を目撃したと……あいつ一発殴ってやろうかな)」

 

 そんな羨まけしからんことをしてるなど、些かズルいではなかろうか(文法崩壊)。

 内心でちょっとだけ欲望がちらついていると、いきなり腕を引かれた。もしや、迷子か何かなのだろうかと思いその方向を振り向けば、思いもよらぬキャラがいた。

 

 

「ふぅー、ようやく見付けたぞ天野倶佐利」

 

「おや、どうしたんだい?元春」

 

 

 そこにいたのはニャーニャー陰陽師こと土御門元春だった。彼はステイルと共にオリアナを追うための算段を付けているはずなのに、何故こんな場所にいるのだろうか?

 

「(……まさか、アニメと原作ではここら辺の時系列が違うのか?禁書のアニメ二期以降から単行本を買い始めたから、違うのかどうか判断できんわ)」

 

 もしや、またバタフライエフェクトを起こしたかもと冷や汗をかくが、何もしないままだと事態は悪化するに決まっているので、土御門から内容を聞き出すことにする。

 

「おや、僕を探していたのかい?何か用かな」

 

 というか、さっき語尾がふざけてなかったよな?つまりはガチの魔術師モード?え?何で?まさか俺を処す?処すなの?

 しかし、こうして会話をしていることから問答無用ではないようだ。と、思っていると土御門が何かしらの魔術を使い始めた。

 ええ……、結局使うんかい。

 

「づッ……!…………やはりな……」

 

 魔術の拒絶反応で血を流している土御門は、何かに気が付いたように呟く。え?何?まさかローラのことが嘘だとバレた?あ、死ぬぅ(思考停止)

 そして、俺の目に視線を合わせた土御門は、俺の運命を握るその言葉を言ったのだ。

 

 

「天野、お前は大覇星祭の間はインデックスに近付くな。かなり面倒な事になる」

 

 ……………………あれ?そんだけ?

 思わずそんなことしか考えられないが、それも仕方ない事だろう。思ったよりも大したことでなくて安心しているくらいだ。

 

「(とにかく、セ、セーフゥ……!なんかよくわからんがどうやら助かったー!ふぅー、危ねー死ぬかと思ったぜ……。

 いやでも、インデックスに近付くなってどういうことだ?)」

 

 意味が分からなかったので土御門に尋ねてみる。

 

「その理由を聞いてもいいかな?」

 

「インデックスは大覇星祭の間、多くの魔術結社の魔術師達からサーチがかけられている。

 三沢塾戦、闇咲逢魔の強襲、そしてアステカの魔術師の襲撃なんかのその他諸々は、上やんじゃなく禁書目録を中心として起きていると、魔術の世界では認識されているんだよ。

 それだけ禁書目録はメジャーな名前であり、彼女の周りで起きた魔術師の動向から、学園都市に揺さぶりをかけようとする奴らがいるんだ」

 

 ふーん、なるほどね。まあ、10万3000冊を記憶している魔導図書館の叡智を用いれば、魔神にも手が届くなんて言われているから、一男子高校生よりも注目されやすいわな。

 ん?じゃあ何で俺が近付いたらダメなんだ?

 

「その様子じゃ本当に気付いてないみたいだな。俺も神裂から話を聞いていなかったら間違いなく気付かなかったわけだから、胸を張って言える訳じゃないが……」

 

 どこか肩を竦めるようにする土御門。焦って俺を見付け出した事からもそれは本心なのだろう。だが、それでも分からない。何でその流れから俺のところに来るのだろうか?

 その疑問を解消するかのように、土御門はその不可思議な事を言った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 は?魔力……?普通に過ごしているだけで、そんなことしようと思ったことすら無いんだけど?

 困惑しているとエルキドゥが俺に語りかけてきた。

 

『いや、マスターは魔力を生み出し続けているよ。その原理から考えてみれば僕のせいなんだけどね』

 

 エルキドゥのせい……?どういうこっちゃ?

 

『僕はマスターと肉体を共有しているけど本質はサーヴァントだ。つまり、サーヴァントとして現界している以上は魔力がどうしても必要になる。

 そして、僕が魔力の吸収を止めようとしても、どうやらこの身体が僕の身体を基にしているからか不可能のようだ。馴染み過ぎていると言えばいいのかな。

 心臓が意識するしないに関係なく動くように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 な、なるほど。よう分からんけど分かった……。でも、何で俺達の事を全く知らない土御門がそれに気付けたんだ?

 そんな俺の疑問を解消するかのように土御門は言った。

 

 

「神裂とあの後に落ち合うことがあってな。そのときにお前の身体の中に何かが居ることを知ったんだよ」

 

 

「(ええええっ!?神裂サン!?何でよりにもよって魔法名に『背中刺す刃』なんて刻んでいる奴に教えちゃうのん!?)」

 

 そんな俺の驚愕を知ってか知らずか、土御門は事の経緯を説明していく。

 

「『御使堕し(エンゼルフォール)』のとき俺が仮説で、術者の第二候補を上げると上やんは当然激昂したが、神裂は動揺してはいたがどちらかというと困惑の様子だった。

 プロの魔術師とはいえあの優しい神裂が義憤の感情すら無く、困惑ばかりで行動していたのはそのときから気にしていたからな。後日問い質してみれば予感的中ってとこだ」

 

 な、なるほど。そりゃあ言い逃れできんわ。つーか神裂に口止めしとくの忘れてた……。いや、土御門の襲撃とかいろいろあったから忘れちゃっても仕方ないじゃん?(クソガバ)

 まあ、問い質さないと分からなかったことから、誰にも言わないでくれたのか?やっべぇ……次会ったら頼んどこ。

 

「先日、()()にも俺が魔術師だってバレちまったから、こうして白昼堂々注意しに来たってことだ。その分だけ余計な手間が省けたことからも幸いだな。魔術を使っちまったのはマイナスと言えばマイナスだが。

 まあ、このあとの事を思えば必要経費だと思うが。それじゃあ話はこれで終わりだ。じゃあ──……いや、ここまで来てわざわざ遠ざける必要も無い……。実力も場数も申し分ない上に、何も知らず下手に介入されるよりかは、いっそのこと巻き込んだ方が都合がいいか……?」

 

「(え?あの土御門さん……?)」

 

 イヤーな予感を抱いていると、皮肉にも想像通りの内容の話が土御門から返ってきた。

 

 

「天野、今魔術師がこの街で霊装(れいそう)の受け渡しをしようとしている。それを止めるために力を貸せ」

 




創約3巻見ました。この前の考察が見当外れといいますか、間違いな事に気が付きましたが、まだ発売から数日なためネタバレを回避するために詳しく言うのは止めておきます。
そこら辺も含めた考察はまた後日。

p.s リアルが忙しくなってきたので少しばかり次の投稿が遅れるかもしれません。ご理解のほどよろしくお願いいたします。


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102.ステイル=マグヌスの不器用さ

ち、ちゃうねん(震え声)
軽く時間が空いたときに息抜きに書こうって思ったら、思いの外進んじゃって結果的に書き上げてしまってね?書かない書かない詐欺とかじゃないんだよ?本当だよ?

次回はマジで結構間隔が空くと思う(多分)


「……それで?どうして彼女がここに居るんだい?」

 

 辟易とした声を発したのは必要悪の教会(ネセサリウス)所属の魔術師、ステイル=マグヌスだ。彼はいつものようにタバコを吹かしながら学園都市に足を踏み入れていた。

 

「いやー、今回のことが偶然にもバレちまってなー。隠し通す事もできそうにないから、早期の事件収束のために一緒に行動してもらおうかと思ったんだよ」

 

「(いや、ほとんど無理矢理だったけどね?)」

 

 かなりマイルドな説明になっているが、その実あの返答に拒否権など無かったものである。まあ、それにも理由があるのだが。

 

「(()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 そう、オリ主は旅館『わだつみ』で土御門に幾つか未来予知(原作知識)を教えた中に、今回の『使徒十字(クローチェディピエトロ)』に関することも説明していた。

 土御門からしたら未来の知識がある分、俺という人材の確保はしたいところだろう。その知識さえあれば一般人に被害が及ばなくなるかもしれないし。

 

「(しかも、土御門には俺が上条の守りたい物を守りたいなんて言ってるから、戦争が起きるかもしれないなんて言われて拒否しないのは当然だと思ってるんだよなー。上条みたいに土御門の都合で仕方なく巻き込まれる場合とは違って、どうぞ巻き込んで下さいって言ってるのと同じだし。

 マジで選択肢ミスったなこりゃ。暗部関係のはノーサンキューなんだけどそこら辺は分かっているんだろうかこのシスコン魔術師)」

 

 そんな自分の不注意で生まれた暗黙の了解に頭を痛めるオリ主である。ステイルは土御門の言葉を聞いても納得いかないようで(とげ)がある声音で話し出す。

 

「彼女は科学サイドの人間だろう。わざわざ戦争が起こる火種を作ることもないと僕は思うが?」

 

 その土御門を責めるような言葉を直接受けたにもかかわらず、隣の多角スパイはいつもと変わらずに飄々とした様子で答える。

 

「まあ、その通りなのはその通りなんだが、そこまで徹底してるとこっちも穿った見方をしちまうぜい?」

 

「それはどういう意味だい?」

 

「端的に言っちまうとそれを建前にして、天野倶佐利を魔術師の戦闘に巻き込まれないように、遠ざけてるみたいだってことさ」

 

 はあ……?何だそりゃ?

 なんかその言い方だとまるで俺を守ってるみたいな……。

 とても信じられない言葉に固まっていると、それを聞いたステイルが鼻で笑った。

 

「随分と都合のいい解釈をするね土御門。僕達の役目の一つが魔術サイドと科学サイドの均衡を保つというのがあるだろう。なら、そこの彼女を遠ざけることになんの疑問があるんだい」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……え?」

 

 あ、あれえ……?そうじゃなかったっけ……?(困惑)

 俺が記憶を呼び起こしても一向に分からない状態の中で、土御門がその詳細を語り出す。

 

「魔術師を科学サイドの組織である警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)が取り締まるのは問題がある。それは、彼らが学園都市が生み出し管轄している組織だからだ。

 その証拠に彼らは学園都市の上層部辺りが指示を出して動かしているだろう?だから、学園都市の息が掛かった彼らは科学サイドの手足のような扱いを受けるんだよ」

 

「(なるほど。確かに)」

 

 実際に警備員達は『上』からの指示次第では、動けなくなる場面が原作やアニメで多々あった気がする。確かに、上層部の声一つで動く事を知ると、一般的に言うところの警察か自衛隊に見えなくもない。

 

「……だが、能力者が魔術師を倒せばそれを問題視する者も出てくる。魔術師からすれば科学サイドは存在しているだけで目の敵だ」

 

「それも間違ってはいないが、実際にそれを問題視するのはどれくらいだ?大きな括りでは科学サイドと言えるかもしれないが、天野倶佐利は一人の能力者であるとはいえ学園都市の一生徒に過ぎない。

 つまり、学園都市に在籍はしているが学園都市の公的な組織の人員としては加算されないんだ。そんな天野が不審人物を発見して追跡し、その過程で魔術師を倒してしまったとしても、それこそ偶然起きてしまった事故だったと結論付けられるさ」

 

 その土御門の話を聞いて俺は率直に思った。

 

「……そんな都合よく進むのかい?」

 

「ああ。というか、お前達の生活圏に入って自由気ままに争い事を起こしてるのは魔術師達の方だ。それぞれの組織が決めた『上』の意向を知るよしもない()()()()()()()()()が、罪を犯す魔術師を反撃しても咎められることはまずあり得ない。

 自分達が管理している組織ならともかく、在住している市民一人一人を完璧に操作することなんて、それこそ独裁国家でもなければできないだろう?まあ、魔術を秘匿しろっていう魔術サイドの注文を破ればそうとも限らないだろうが、魔術サイドはそれを許すことはしないし学園都市もそれは望んじゃいない。

 まあ、実際に錬金術師アウレオルス=イザードやアステカの魔術師、ローマ正教のアニェーゼ部隊なんかを、科学サイドの住人である上やんは倒してるけど、今現在致命的な軋轢(あつれき)ができてるわけでもないのがその証拠だ」

 

 あー!そう言えば倒した敵を警備員や風紀委員に渡すのはダメみたいな話は聞いたことがあるな。逆に能力者が魔術師を倒すのがダメみたいな話は確かに覚えはないかも。

 結局、上条を巡って戦争が起きたけど、あれは『上』が調整をミスったみたいなことをアニメで土御門は言っていた気がする。つまり、結果的には戦争を招いたとはいえ、この時期はそれで細かい線引きされていないと言うことだ。

 

「上やんは禁書目録の首輪外すのに必要不可欠な人材だった。施された魔術は必要悪の教会のトップが掛けた特別仕様。幻想殺し(イマジンブレイカー)を使わねえと時間もかかるし、不確定要素が多過ぎる。

 そんであの場には聖人の戦力に神裂が居て、ルーン魔術の若き天才のステイルまで居るんだ。そういう意味じゃあの場で要らなかったのは天野倶佐利ってことになる。魔術のド素人が戦闘に加わっても邪魔にしかならないからな」

 

 ねえ?こいつちょっと言い過ぎじゃない?俺の心をへし折りたいの?

 いやまあ、魔術の兆候が一切分からない奴が突撃しても、死にに行くようなものだとは思うよ?上条みたいに魔術を含めた異能に対して()()絶対的な盾があるわけもないし、相手がペンデックスだと割りとマジで死ぬと思うしね?

 でもさ、もうちょっと言い方あるじゃん?(涙目)

 

「ってことは、ステイルが本来言うべき言葉は『科学サイドの人間が魔術サイドに関わると戦争の火種になる』じゃなくて、『魔術の戦闘に素人が入ると邪魔になるから立ち入るな』、とかになりそうじゃないか?」

 

「ふむ、確かに」

 

 おー、なるほど……。言われてみればその通りかもしれない。あのときは前条を見殺しにする自己嫌悪とかで、そこら辺まで気が回らなかったけど、邪魔だと直接的に言う方がステイルっぽくはある。

 すると、ニヤニヤと土御門がさらに笑みを深くした。

 

「つまり、ステイルが本当に言いたかったのは戦争の火種云々じゃなくて、単純に戦場が危険だから近付くなっていうお前に対して心ぱ「灰は灰に 塵は塵に 吸血殺しの──」って馬鹿野郎ッ!?こんな往来で魔術を使うなオリアナにバレるだろう!!」

 

 額に血管を浮き上がらせたステイルは、ルーンが刻まれたカードに魔術を込めようとするが、マジの顔の土御門に止められた。状況からして今回の事件への作戦全てが、お釈迦になるところだったのだろう。

 

「……チッ、いいか勘違いするなよ。僕はあの子に降りかかる障害を全て破壊することに決めている。君がこちらの世界に踏み込めば、あの子は放っておくなんてできないだろうし、上条当麻もそれに賛同するだろう。つまり、君のせいであの子に全く関係の無い火の粉が降りかかる事が僕は許せないんだよ」

 

 その言葉を聞いて俺は思った。

 

 

「(おおっと、…………これはヤンデレかツンデレのどっちだ……?)」

 

 

 ヤンデレがインデックスに対してで、『好きな女の子に迷惑かける奴は見えないところで灰になるまで焼き殺す系男子』という、好きな相手にではなく周囲にその牙を向けるタイプのヤンデレのことである。

 そして、ツンデレは言うに及ばず俺の今の率直な主観だ。かなーりシビアな二択ではあるが、俺としてはツンデレだったら面白いと思う。

 

「そうは言ってもなステイル。幾らなんでも俺らと上やんだけじゃ厳しいのが現実だろ?現地協力者はケチらないで確保するべきだと俺は思うがな。

 それこそ、戦争が起きちまえば元も子もないんだ。この学園都市にも火の粉が降り注がないなんて事はまず無いし、インデックスの所属は必要悪の教会。当然無関係ではいられないだろ。

 安全の可能性は高め過ぎくらいが丁度いい。それが自分じゃなく守りたい者に対してなら尚更な」

 

 その言葉を聞いたステイルは渋面を作った。土御門はステイルに決断を早く済ませるように言葉を促す。

 

「それじゃあ、ステイル。今から天野に概要を話すがいいな?」

 

「はあ……、勝手にするといい」

 

 そう言うとステイルは近くの壁に背中を預けて、新しいタバコに火を付ける。それを見た土御門は俺に視線を向けて話し出した。

 

「学園都市に潜入している魔術師はローマ正教のリドヴィア=ロレンツェッティと、運び屋のオリアナ=トムソンの二人だ。その取り引き相手は不明。今のところロシア成教の人間が怪しいと報告があるが、断定できるほどの情報がないのが現状だ」

 

「運び屋か……」

 

「どうした何か気になることでも?」

 

「ううん、こちらの話さ」

 

 黒夜のことで『運び屋』に良いイメージが無い訳だよなあ……と、思ったが一般的にそもそも運び屋という言葉自体に、良いイメージは無かったなと思い返す。

 

「続けるぞ。奴等はこの学園都市である物を取り引きしようとしている。それを阻止するのが俺達の役目だ」

 

「でも、何故それで戦争が起きるんだい?言っては何だけど学園都市で取り引きができたからって、そんな騒動にならないと思うんだけどな」

 

「ああ、その通りだ。学園都市で取り引きされることが問題なんじゃない。問題なのは取り引きされるその物品の方。

 その名も『刺突杭剣(スタブソード)』って言うんだが、それに宿ってる力は切っ先を向けただけで、あの聖人を殺すことができるっていう代物なんだよ。

 天野、十字架に架けられた神の子の最後が刺殺だという事を知っているか?『刺突杭剣』はその宗教的な意味合いを限界まで抽出し集約させた、『竜をも貫き大地に縫い止める』とまで言われる強力な霊装(れいそう)。魔術の粋を集めて込められた力は折り紙付きだ。なんせ切っ先を向けられた聖人を、一撃で死に至らしめることができるんだからな」

 

 ここら辺の説明は昔過ぎてあやふやだったけど、確かにそれを野放しにするのはダメだな。まあ、それを軽々しく持ち出すところがあるとしたらもうこの世界は終わってると思うけど。

 

「なるほど。もし、聖人が殺されたりしたら勢力図が変わる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ああ、そうなればその魔術組織は内外に敵が生まれ、魔術戦が日常茶飯事になるだろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そうなると確信した馬鹿のせいで戦争が始まる切っ掛けが生まれ、それに便乗し漁夫の利を得ようとする組織が現れれば、戦争は世界規模に発展していく。

 もし、仮にだがどこかの組織が本当に潰れたりしたらもう止められない。野心を燃料にして世界が燃え尽きるまで、終わりの無い戦いが始まることになる」

 

 埒外の戦闘能力を有しているために、彼らは存在しているというだけで戦争の抑止力になり、世の平和の均衡に貢献していると言えるのかもしれない。

 ……まあ、互いに始まれば破滅するほどのミサイルを保持したことで、生まれた冷戦を安全である状態と声を大にするのはどうかと思うが。

 でも、これで嘘情報を思い出すことができた。

 

「今までの話から推測すると、その取り引きをする上で学園都市ほど()()魔術師に見られにくい環境も無いってことだね。

 必要悪の教会の魔術師は過度な干渉は許されず、学園都市もいつもの警備体制(セキュリティ)を大覇星祭で緩めているから、潜入しやすい状況にある」

 

「ああ、オリアナ達にとって今ほどの絶好のチャンスは他には無いってことだ」

 

「そして、それを止められるのは、『上条当麻の関係者であり大覇星祭というイベントで顔を再び会わせに来た』という、肩書きを持つ僕達しかいない。

 関係の無い魔術師では周りに邪推され、隙を作る危険性があるからね。だから、この街に潜り込んだ魔術師をどうにかしなくてはならない訳だ。僕達の手で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、それってどういうことだ?」

 

 その言葉に三人とも声が発せられた方向に振り向く。そこには、このミッション最後の参加者(強制)が居た。いつもとは違い体操服を着た彼は真剣な表情でこちらに視線を向けている。

 そして、同時にツンツン頭の彼が俺を認識したことで、この騒動から逃げることは100%不可能だと悟ったのだった。



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103.魔術師同士の戦い

そんなに期間空かなかったなあ……と思いつつ103話です。


「──というわけで、学園都市の取り引きを俺達が止めなくちゃならないってことだにゃー。そんで、インデックスの問題は上やんに丸投げするからよろしく頼むぜい!

 事件が起きていることを隠し通す方向で、なんとか口八丁手八丁で言いくるめてくれってトコですたい」

 

「いや、お前はそう簡単に言うけどさあ……!」

 

「大丈夫だって!フラグまみれの上条当麻ならやれるやれる!適当に餌付けするか、いっそのこと事件と逆方向に食べ物投げとけば丸っと解決だにゃー!」

 

「インデックスが聞いてたらぶちキレそうなセリフだな……。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(……あら?)」

 

 なんかさらっと受け入れたな。いつもの上条ならもうちょっと渋りそうなのに。

 まさか、何か心変わりでもあった?もしかしてバタフライエフェクト?そんな小さくてよく分からない変化とか止めてくれない?(懇願)

 

「(先輩やっぱり気付かないところで無茶をしようとしてたのか。きっとこの騒動の解決も土御門達とだけでやるつもりで、俺を遠ざけようとしていたんだな。

 先輩のその優しさは嬉しいけど、それで先輩が傷付くのはダメだ。先輩が女の子ってのもあるけど、何より日頃からお世話になっている人を危険の渦中に行かせるわけにはいかない……。

 先輩がなるべくフォローへ回る状況になるように、今回は積極的に俺が介入していく)」

 

 つまり、上条当麻は自らが率先して騒動に関わることで、オリ主がフォローに回らざるを得ない状況に、持ち込ませようとしているのだ。

 上条はその右手もあって近接戦闘しかできないため、必然的にフォローではなくメインで戦うこととなる。それを利用し自分の立ち位置がメインとなる事で、オリ主をフォローするポジションに固定させるため、上条は珍しくも自分からオリアナ達と遭遇して戦うことを望んでいるのだ。

 自分の不幸は許容するが誰かの不幸は見ていられない。そんな彼は何度も助けてもらった女の子が苦しむ姿など、絶対に許容するわけにはいかなかった。

 

「(例え、どんなに俺が傷付いたとしても、そんな事にさせてたまるか)」

 

 彼は人知れずその拳を強く握り締めた。

 

 

 

 

 

 まあ、それが勘違いでなければきっと熱い展開になったのだろう。

 

 残念ながらここにいるのは、先輩のために率先して危険な騒動に介入する後輩に対して、「(うわぁ、物語の調整箇所が出てきて面倒臭せぇ……)」と、考えているクズである。

 幸か不幸か上条は何も知らずに、騒動へ深く関わっていくこととなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 土御門の提案で俺達は別々に行動することとなった。俺と上条、そして土御門は競技があるためそちらに参加し、ステイルは単独での行動。

 競技をサボれば何かあるのかと疑われ、周りの人間に注目される事もあり得る。そのため、こんな状況でありながら、学生生活を飾る青春の一ページを満喫しなければならないのだ。

 

「(どちらかというと俺としては、騒動に関わらず青春の一ページを作ることに集中したいなぁー……なんて、思うんだけど)」

 

 他のメンバーが戦争を起こさないように神経を尖らせている中で、このオリ主、ほとほと呆れるくらい適当であった。

 

「(結局は三人で事件解決するから俺いらないんだよな。上条も大して怪我してないしわざわざ俺が出張ることもなくない?

 ここは原作一巻から登場してくる男三人が結託しながら、オリアナ達をどうこうするのがエモいのであって、そこに女が加わるのは物語の雰囲気ぶち壊しじゃね?

 なんかさー、やっぱ今回は全体的に気が乗らねえんだよなぁ……。ヤバさで言ったらどっちかと言うと明日の方が大変だし、科学と魔術の摩擦がそこまで気にする必要が無いって分かっても、結局は上条のことで戦争が起きるのは変わらないんだよね)」

 

 結末を知っており介入すること自体が不純物になる。それを察しているため今一つ必死になれない。それが今のオリ主の状態だった。

 

「(俺というなんか科学とも魔術とも言えるような、よく分からん奴が騒動の中心に行くと、いろいろなところから目を付けられて原作の流れが変わりそうだし。

 だから、今回は手出ししたくないなーってのが嘘偽らざる本音。うーん、どうやって離脱しようか……)」

 

 ボイコットするための算段を付けているオリ主。自らを慕ってくれている後輩の、先程の内心を聞かせてやりたいものである。

 上条当麻も思うまい。まさか、上条に知らせないどころか最初は押し付けてトンズラしようとしていたなど。

 

 そして、上条と同じく勘違いをしている男がもう一人。

 

「(ほう、流石だな。上やんはさっき言われた事もあって、動揺が表に出ちまっているのは仕方無い。だが、逆にそこまで何事も無いように振る舞えるのは一種の才能だ)」

 

 競技に参加している土御門はさりげない仕草で、観客席にいるオリ主を確認する。上条がどこか思い詰めているような雰囲気を纏っていることから、オリ主も何かしらの影響が出ているのではと思い至ったためだ。

 だが、それもいい意味で彼は肩透かしをくらっていた。

 

「(()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ……まあ、あいつの生い立ちや生きてきた環境を思えば、そうでもできなきゃ生きてこれなかったんだろうがな)」

 

 なんだかんだで相手の内心を看破しているのは流石はプロと言ったところだろうか。だが、土御門もそれが本心だとは見破る事はできなかった。

 それもそうだろう。そんな事を考えていたらとんでもない人でなしだからだ。

 

 それが正解であると分からぬまま、彼らの大玉転がしが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛てて……、まさか大玉に踏み潰されるなんて不幸だ……」

 

「あれは競技中にこっちのことを考え過ぎた自業自得だぜい。まあ、俺達としてはそっちの方が大切だから、そうしてもらえると助かるんだけどにゃー。

 それより、あらかじめ決めていた通りに、上やんはインデックスの注意を引いてもらうぜよ。どこにインデックスが居るかその連絡も忘れるなよ?」

 

 「了解」と短く答えた上条はインデックスの方へ駆けて行った。

 

「まあ、これでインデックスは大丈夫だろ。お前の特殊な体質もインデックスの場所を把握していれば、問題にはならないわけだしな」

 

「だけど、彼女が移動していたらどうするんだい?後輩も運び屋を追うのだからずっと共には居られないだろう?」

 

「それも大丈夫。上やんに適当に契約した携帯をインデックスに持たせるよう言ってある。その携帯のGPS辿れば鉢合わせることはもちろん、サーチに入る心配も無い」

 

 なるほど確かにそれなら安心だ。インデックスが車に乗って移動する描写がアニメで無かったから大丈夫だろう。原作ではどうかは分からないが交通も規制していたから大丈夫のはず。

 

「そんじゃあ、俺とステイルは魔術の痕跡を探してくる。分かっていると思うが競技は適当に流せよ。下手に勝ち続けるとその分だけ競技に拘束されるからな」

 

「うん、でもそれは皆次第かな」

 

「あん?どういうことだ?」

 

「だって次は綱引きだしね」

 

 そう言うと、土御門は納得したように答えた。

 

「ああ、なるほどな。相手校に怪力系統の能力者が居なければ、拮抗して長引く可能性もあるか」

 

「終わったら電話するよ。それまではクラスの輪に混ざっていることにしよう」

 

 そして、俺と土御門も別れて行動をする。土御門としては少しでもオリアナ達の居場所を掴みたいのだろう。話し終わると小走りでどこかに向かって行った。

 俺もこのあとの綱引きに向けてクラスのもとへと向かって行く。目の前に居る二年の女子達の顔を見れば、余りやる気がないため早く終わるかもしれないと当たりをつける。

 これはすぐ終わるだろうなぁと思いつつ、歩く最中でふと俺は思った。

 

 

「(両手が塞がる綱引きって能力使える奴が極端に減らないか?そんな状態で綱引きとか、大覇星祭の中でもかなり絵面地味な競技じゃね?)」

 

 

 華はないし綱を強く引っ張るときは、必死になって力を入れることで顔がスゴいことになるわなどの理由で、映像で映し出される大覇星祭では綱引きの女子人気は凄まじく無かったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、僕はこれで失礼するよ。知り合いと待ち合わせをしているんだ」

 

 そんな言葉を言ってクラスから離れる。両方ともやる気がなかったために自棄(やけ)に長引いてしまったが、これで三人と合流できるだろう。

 

「(まあ、合流したいのかと言われるとそうでも無いんだけど。連絡するって言ってるから早くした方がいいよな)」

 

 そんな感じて電話を掛ければすぐに土御門が電話に出た。

 

《っと、天野か?競技が終わったのならこっちに来てくれ。多分だがお前の治癒能力が必要になるからな》

 

「おや?運び屋を探すのではなかったのかい?もしかして、倒してしまったとか?」

 

《いや、オリアナを見付けはしたが取り逃がした。流石は追跡封じ(ルートディスターブ)のオリアナ=トムソンと言われるだけのことはあるようだ。コイツはなかなかの鬱陶しさだぞ》

 

 あー、なるほど。最初の取り逃がしたところか。確かトラップに対処している間に雲隠れしたところだっけか。そんな事を思っていると土御門が別の相手と会話をし出したようだ。

 

《──あん?それはオリアナが使っている霊装(れいそう)だよ。『Soil Symbol』ってのは土の象徴。五大元素とか聞いた事はないかにゃー?そいつには『土のお札』っていう意味もあるが、土の属性色は『緑』だ。

 だが、コイツは『青』で書かれているだろ?『青』は水の属性色だから普通は『土』の魔術には使わない。土の魔術を使いたければ相性の良い『緑』や『円盤(アイテム)』なんかの象徴を重ねるはずだからな。

 ………………まさか。間違えてるなんてあり得ないぜよ。いいか上やんコイツはわざと変えてるのさ。ズレた配色を意図的に設置して、その反発力を攻撃力に変えてるんだ。

 五行で言うなら相克(そうこく)だ。悪い相性は悪い効果を生む、ってトコですたい》

 

 おそらく、上条がオリアナが残したらしい魔術の霊装を見て土御門に尋ねたようだ。電話口を抑えなかったのはオリアナの魔術関連のため、俺に断片的でも聞かれた方が良いという判断だろう。

 

「(まあ、魔術に関してはさっぱりなんだけどね。マスターはマスターでも三流以下の一般ピーポーですので)」

 

 衛宮士郎でさえ魔術の『投影』と『強化』ができたことからすると、本当にどうしようもないマスターなのだと自覚する。

 

「(あれ?そう言えばFGOのマスターも一般人なんだっけか?なら、そんなに珍しく無かったり?)」

 

 FGOの主人公は血液検査でたまたま適正がある事が分かり、補欠として加わっていただけで、本来ならば人理を守るマスターとして行動する予定は無かった。

 彼?彼女?がマスターとなったのは他にレイシフト適正という、時代を渡るための適正がある魔術師の生き残りがいなかったためである。

 つまり、ずぶの素人がサーヴァントを使役するマスターになるなど、本来ならばまずあり得ない事なのだが、半端な知識を有していたためにオリ主は勝手にそう認識してしまったのだった。

 

《まあ、とにかく迅速に頼む。このままじゃオリアナに逃げられるからな。お前が居るのと居ないのじゃあ戦闘の続行に、かなりの違いが出てくる》

 

「分かったよ元春。すぐに向かう」

 

 そう言い終え通話を終えると携帯をしまい、指定された場所に向かって空間移動(テレポート)を開始する。

 

 遅れて好感度が下がるのは避けなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空間移動で移動すると当然の話だが走るよりも遥かに早い。三秒後には数十メートル先にいるのだから、当然と言われれば当然である。

 お馴染みの白井黒子に変身して能力を使えば、すぐに目的地へと到着することができた。

 

「(やっぱり超便利だな空間移動って。ぶっちゃけ一方通行とかじゃなかったら、不意打ちだったらまず防げない能力なんだよなぁ)」

 

 空間を押し出して現れるなんていうヤバい能力である。狙いを外させる事しかできず防御ができない攻撃とか、どんなチートだよっていう話だ。

 相手が魔術師でも通用する能力だと言えるのでは無いだろうか。

 

「(当たればそれこそグレムリンのメンバーの何人かはダウンしそうなんだな。実際に全能神トールに残ったメンバー完敗してるし)」

 

 空間移動の有用性を考えながら指定された場所に向かうと、そこには既に三人集まっていた。どうやら一番最後となってしまったようだ。

 見た感じもう魔術か何かをしているらしい。確か、そんな話もあった気がする。大覇星祭の話は昔過ぎて所々覚えてないのが痛い。関わらないようにするつもりだったから、事細やかに思い出そうとしてなかったのがここで足を引っ張っていた。

 取り敢えず、遅れた謝罪と共に声を掛けようとした直前、それは起きた。

 

 

「が、ああああああああああッッ!!」

 

 

 ステイル=マグヌスの絶叫が響き渡る。

 バキベキバキッ!と発せられる異音から、良くない事が起きているのは明らかだ。土御門の指示に従い、上条がステイルの身体に右手を叩きつけると、その音が止みステイルが崩れ落ちた。

 

「『どうしたんですの!?』」

 

「え!?白井!?……あ、何だ先輩か」

 

「──ごめんよ。紛らわしい事をしたね。それで彼はどうしたんだい?」

 

「逆探の魔術でオリアナの居場所を見付けようとしたらこの通りだ。おそらく逆探知の魔術に反応する迎撃術式を組み込まれていたんだろうぜい」

 

「ぐッ…………なるほど、先ほど使った魔術から僕の生命力を逆算したというわけか。つまり、僕の魔力に反応して封じにかかる迎撃術式というわけだね……全く厄介な。

 ……だが、『自動処理』というやり方にどこか見覚えがあるんだけど……まさかね」

 

 ほーん、話からするとステイルの魔力に反応して、迎撃をする魔術があらかじめ仕掛けられているらしいかった。そう言えば、アニメでもそんな感じの話をやった気がする。

 

「いや、ステイル。俺も同意見だぜい」

 

「本気かい?……だが、それなら自動的に作動することには理屈が通る」

 

「?何の話なんだ?」

 

「僕も詳しく聞かせて欲しいな」

 

 分かり合っている魔術師達の側で素人二人が首を傾げている。魔術のことは分からんのですよ。科学も怪しいけど。

 土御門が苦笑混じりで答える。

 

「上やんはその存在について既に知っているんだけどにゃー。まあ、実物を見たことは無いから仕方無いっちゃあ仕方無いかもしれないが」

 

 魔術師でそんな奴居たっけか……?と、頭を巡らせていると土御門がさらっと続きを言った。

 

「魔術に関する知識を詰め込まれ、それ自体が術者の意思によらず一つの魔方陣として起動するもの。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ほら、お前の隣にはアレを103000冊も記憶している禁書目録が居るだろう?」

 

「ま、さか」

 

 目を見開く上条に土御門はニヤリと口角を上げてその物の名を言った。

 

 

「"魔道書の原典"さ」

 




五行では反発しているのに、何故オリ主はアックアのように爆発していないのか。明かされるときは長いですね(遠い目)
ちなみに原作と同じセリフは伏線です


◆考察◆
 それではまた考察をしていきたいと思います。この考察が既存なのかどうかは分からないので、仮にあったとしても『同じこと言ってるー』程度の認識でいてもらえると助かります。
 そして、今回は前回言っていたアンナ=シュプレンゲルとエイワスの考察は一旦保留とします。(……ぶっちゃけホルスではなくラーだったねくらいしか言えませんし……あるいは、ラーとホルスの習合の神かな?)
 そんなわけで今回は別の考察をしていきたいと思います。今回の考察の題材はズバリ『原石』です。


『原石』
 天然の能力者。作中では能力開発をする環境が偶然にも合致して生まれる能力者が、『原石』と説明されている。この『原石』だが分類的には超能力、つまりは科学サイドだとされていることは、原作の読者ならば知っているだろう。
 しかし、本当にそうなのか?原作では『魔術』と『超能力』の違いは特に無いとされている。ならば、魔術よりも先に存在している『原石』が、後の世でアレイスターの手によって分類された、科学サイドであるというのもおかしな話だと思わないだろうか?

 つまり、『原石』とはそもそも科学サイドに分類される存在では無いのだ。
 それでは『魔術』なのかと言われるとそれも違う。それについても理由があり、木原数多の発言にそれがある。彼は科学を突き詰めると非科学が出てくると言っていた。非科学、つまりはオカルト。
 ならば、同じ木原である幻生がそれに気付かないはずが無い。もし、そんな不純物であるとしたら気持ち悪いほどにテンションを上げて、「万象をゼロで割るかのような破格の計測」などと言うと思えないし、幻生の性格からして削板を観測場所から遠ざけたいと考えるのでは?少なくとも取り乱すほどに興奮することは無いでしょう。
 ならば、『魔術』でもなく『超能力』でもない、別の能力であると推察することができる。では、作中に出てきていない新たな能力なのか?
 それについても、作者は違うと考えている。鎌池先生ならば既に伏線のような言外に述べられているのではないかと考えた。
 では、その力とはなんなのか。これについて考えたときに作者は一つの推論が生まれた。

 そう、つまり『原石』の正体とは『願いの集積体』なのではないかと。

 先に説明するが『願いの集積体』とは、複数の願いに同一の指向を与えれば、因果律に作用し得る力が生まれる、というものだ。
 一見、これは突拍子も無い考察なのではないかと思うかもしれないが、とあるSS一巻で統括理事の一人である貝積継敏が、雲川芹亜にある言葉を言っている。
 「『原石』とは何だ?まともな能力とは思えん。発火や発電などと言った「発現しやすい」能力とは完全に方向性が違うように感じられる」
 つまり、この事から分かるように、生まれ方が極めて『まとも』では無いのだ。まさに唯一無二と言えるような特別な稀有な能力を持つ存在。そんな『原石』が生まれるとするならば『願いの集積体』が近いのでは、と思い至った。
 分かりやすい『原石』の例として姫神秋沙を挙げる。彼女の能力は『吸血殺し』。吸血鬼が彼女に牙を突き立てようとすると灰になって死んでいくという、世にも珍しい能力を持つ少女。
 これが自然に発生すると考えるのは些か無理がある。ならば、生まれるような状況が必ずあるはずだ。

 それこそ、吸血鬼に恐怖する人達が吸血鬼を殺せるような、同一の願いを抱くなどの理由が。

 おそらく彼らは願ったのだろう。『吸血鬼という恐怖を一身に惹き付け、一瞬で消滅させる事ができる人間』などという夢物語を。
 そして、そんな願いから生まれた『願いの集積体』が『吸血殺し』だと考えられる。

 さらに、この考察の次の根拠として上げられるのが、姫神と同じ『原石』である削板軍覇だ。彼の能力を見たとき初めはほとんどの人物が同じ事を思ったはず。

『少年漫画の主人公やニチアサヒーローのような能力だ』、と。

 とあるの世界には悲劇が溢れている。ならば、『根性』で全ての不条理を打ち砕き、悲劇を喜劇のように笑いながら乗り切る存在へ、憧れない者がいたとしても不思議では無いのでは?
 と言うのも、科学が世に広まっているのならば、アニメのようなサブカルチャーも広まっているはず。ならば、そう言ったイメージを多くの人が抱き、一致することがそんなに珍しいことだとは思えない。
 『超能力』がこの世にあるのならば、そう言った超人のような人物が現れるのもあり得ない話ではないと、人々が憧れ、願うのもおかしな事では無いはずだ。

 そして、このことからある推察ができる。削板の能力は科学サイドに近しい能力となっているのではないかと。

 これでは、削板は最初に言っていた考察と矛盾していると考えるかもしれないが、『願いの集積体』は人々が抱く同一の思考から生まれるため、人々が科学サイドに夢を見て願ったのなら、当然科学サイドに類する存在が生まれるのだ。
 『魔術』は世に広まらないよう秘匿されているのに対して、『超能力』は大々的に名が広まっているのもその要因だろう。超常に対して憧れを抱くものが『超能力』と定義されるのは必然だ。
 だからこそ、科学者達が能力を完璧に解析できずとも、オカルトという分類にカテゴリしない理由なのではないかと考える。
 そしてそれは逆説的に、もし魔術師が魔術を広めていたとするなら、削板の魔術サイド版の存在が生まれたかもしれないといことだ。
 ……いや、あるいはそれこそが『聖人』という存在の可能性も……。

 だが、この考察には一つの矛盾点がある。
 それは上里勢力の『原石』、田妻暮亜だ。彼女は身体の細胞が植物に近い植物人間である(本来の意味とは違う)。もし、彼女が『願いの集積体』だとするならば、多くの人間が『植物でできた人間を望む』という世にも奇妙な事が起きる。
 地球温暖化に対して『人間が二酸化炭素を吸い込んで酸素を放出できたら、この問題も解決するよなー』という空想を抱く人も居るには居るだろうが、果たしてそんな願いかどうかも怪しい考えで『願いの集積体』なり得るのだろうか?考えてみると首を捻ってしまう事柄だ。
 もし、これに考察を強引に当て嵌めるとするならば、前提条件として田妻暮亜が『原石』となったのは作中でも書かれている通り、上里に『理想送り』が宿ってから。つまり、この『理想送り』こそが『願いの集積体』を生み出す、あるいは作用する何かしらの力があるのではないだろうか。

 上里のやり方は誰かの背中を後押しして、その人物の力となることだ。ならば、その性質は理想送りにも備わっているのではないかと考えた。
 実際に上条は相手の意見を否定し、皆の輪の中にその人物を加えようとする性質がある。そして、実際にその右手には相手の幻想を打ち砕く力が宿っているのだ。
 ならば、それが理想送りに備わっていてもおかしくはない。『上里の力になりたいや、地味ではない特別な女の子になりたい』などと言った周りの少女達の想いを後押しした結果、限り無く低い可能性が開花したのではないのか。

 つまり、上里が感じていた上里勢力の歪みは、本来ならば表に出ること無かった内面や、可能性が低く開花しなかった才能が芽吹いたことによる変化だったのでは?と、いうことである。

 そのため、右手の所有者が変わっても彼女達の好意は変わらなかった。なぜなら、元々あったものから生まれた感情や力だったからだ。
 そして、右手に宿る『願いが重複したものを新天地へと吹き飛ばす』と言う力と、『願いの集積体』という存在。この二つに共通する『願い』と言うフレーズ。これは果たして偶然なのか?
 これから先は蛇足でしかないため考察は打ち切るが、以上の事から『願い』と『原石』には、何かしらの因果関係があるのではないかと推察できるだろう。

 作者としてはそうであったら面白いと思います。以上です


p.s.
 あっ、ちなみに考察と合わせて一万字言ってました。大変申し訳ないです。m(_ _;m)三(m;_ _)m


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104.玉入れ実況

リアルでストレスが溜まったので小説の執筆にそのフラストレーションをぶつけます。



 魔道書の原典。

 魔術を記した書物にして、文章・文節・文字が一つの魔法陣として起動する。原典を破壊しようとする者に半永久的に迎撃を行うため、破壊することができずに封印するしか手を打つことができない。

 さらに、半自動的に魔力を大地から魔力を吸い上げて稼働することから、人類が滅んだ後も世に残り続け、消滅することはない世界にとっての異物。

 

 

 

「元々、魔道書と魔法陣は根本的には同じなんだにゃー」

 

「全然違うだろ。魔道書ってのは厚い感じの本にびっしり書かれたゲームのアイテム的なヤツで、魔法陣ってのは丸書いて中に星を書いたお決まりのヤツだろ?」

 

「……それはダビデの刻印だよ馬鹿野郎。それが単品ではなく円形陣の一部として使われたのは中期からだ。最初期は単なる円だった」

 

 そう言うと地面に円を書く。ほえー、フリーハンドなのに綺麗な円。

 

「それよりいいのかい?身体の治療をしなくても」

 

「君の能力では体力を必要としてしまうようじゃないか。オリアナの術式が分からないうちにそんな事をすれば、最悪戦線復帰が厳しくなる。なら、少なくともオリアナの迎撃術式に当たりが満足にできていない間はやるべきじゃない」

 

 ステイルが辛そうな顔をして言う。ダメージで少しイライラしているのが見てとれた。おそらく、こうしているのも土御門の解析を待つ間の、暇潰し感覚で魔法陣を教えているのだろう。

 

「続きを話すぞ。五芒星や六芒星は、追加効果に使われているものだ。ベースとなる円の効果を増やすためにソロモンやダビデの刻印などを重ねて描いているという訳だよ。

 さらに後期になると円の外周に力を借りたい天使の名前を書くようになるんだ。欲しい力の種類に質と量。この適量が正しくないと術式は失敗することになる。そして、その力をどう使うかの記述を書いていくと、こんな風に本のページのようになる訳だ」

 

 なるほどね。つまりは菓子作りと同じか。分量間違えたりすると焦げたりするんだよなー。他にも混ぜすぎるとめちゃ固くなるし。グルテンが出まくるのが原因らしいんだけど、もはや石だわあの強度。とても食べられる材料から生まれたとは思えないよあれ。

 要するに魔術を起動するための術式のレシピって訳ね。

 

「よく分かんないんだけど……オリアナは今回のために原典を用意したってのか?」

 

「……それができるかはかなり怪しい。仮にあらかじめ用意していたとしても、こんな場面で安易に使うような物じゃない。

 だが、オリアナが原典を書いたというのも信じられない話だ。錬金術師アウレオルス=イザードも原典の著者として知られるが、最速筆と言われた奴でも三日は掛かる代物だ。それを逃亡中にオリアナがすることなどできるものか……?」

 

 ステイルが腑に落ちない表情で唸っていると、土御門が何の気なしに言った。

 

「別に本を丸々作り出す必要はないんじゃないかにゃー。必要なのは魔道書の自動迎撃術式なんだから、適当な殴り書きでもいいんだろ」

 

「名付けるなら『速記原典(ショートハンド)』ってところかな。そんな事ができる人物が居るとは僕にはとても思えないけどね」

 

 ここで名前が決まったのか速記原典って。相変わらず洒落た当て字だよなー。流石は鎌池先生。

 それはそうと、オリアナって実はめちゃくちゃスゴい魔術師なんじゃね?何で運び屋なんてしてるんだろ?峰不二子にでも憧れたりしたのかな?

 

「でも、どうするんだ?これでステイルは魔術を使えなくなっちまったんなら、『理派四陣』だかなんだかでの探知はできなくなったんだろ?土御門も魔術を使えないみたいだし」

 

「なら、使えるようにするだけだぜい。言っちまえばその迎撃術式を破壊してやればそれで終わりだ。()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「は!?」

 

「……」

 

「上やん、何を驚いているんだ?俺達は刺突杭剣(スタブソード)を見付けなくちゃならないんだぞ?もし失敗したとするならそれは戦争の始まりと同義だ。なら、身体がどうなろうが少しでもまともな状態になることは必須条件だろう。

 なんたってオリアナを止めても、リドヴィアと取り引き相手がまだ居るんだからな。不安要素となるものは全て破壊しなくちゃならない」

 

「だけど、それだとステイルがまた倒れることに「……馴れ合うなよ上条当麻」……ッ!」

 

 ステイルが上条を睨み付ける。その迫力に上条は二の句が継げない。そこに居たのは間違いなくプロの魔術師だった。

 

「僕はあの子の世界を守ると決めている。そのためならこの程度は許容範囲なんだよ。……それより土御門。分かっているな」

 

「ああ、学園都市においてインデックスの身の安全を確約できるよう手配する。インデックスの強制送還なんて真似はさせない」

 

 その言葉を聞いたステイルは土御門が新しく書いた『占術円陣(せんじゅつえんじん)』の上に躊躇なく止まり、再び魔術を使った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……天野、ステイルに治癒能力を頼む。完治させなければ戦闘に復帰できるはずだ……」

 

「了解したよ」

 

 血塗れになった土御門からそう言われ、変身した状態でステイルの背中に右手を添える。

 症状が重度の日射病に近いものだったため、外傷を治すよりかは体力を減らさずに済んだのが功を奏し、おそらく数分もせずに立ち上がることもできるはずだ。

 

「──それにしても術式とやらを組むだけで拒絶反応が起こるとはね」

 

「……大きなものか小さなものかは問題じゃない。能力者が魔術を使うという事自体が既に大きなリスクを孕んでいるんだ。

 ……俺の能力が肉体再生(オートリバース)じゃなかったら、間違いなくとっくの昔に死んでるんだにゃー……。まあ、このせいでステイルにも負担を掛けちまったのは面目次第も無いがな……」

 

 身体を能力で回復させながら死に体で俺の質問に答える土御門。

 えーと、あの、ごめんね?今の適当な一人言だったから、そんな無理して答えなくてもいいんだけど……。

 

「それで上やん。術式の場所は?北西の三〇二メートルの位置に何がある?」

 

「──くそッ!マジかよ本当に北西なんだな土御門!?」

 

 上条が携帯を見て急に取り乱す。その携帯の画面には中学校の校庭が表示されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、ステイルを人目の付かない場所に放置して、止血をしたあと新しい体操服を入手しなければならない土御門は時間が掛かるため、既に上条はオリアナを追って行った。

 この話し方で分かる通り俺は上条に付いていかず、土御門の側で待機している。

 

「本来なら上やんと一緒に会場付近へ先に行ってもらうとこなんだが、俺の怪我も治りきってなくてな。ぶっちゃけ空間移動(テレポート)で運んでもらえると助かる」

 

「それが一番効率的のようだし僕に不満はないよ。それに、僕はこの髪色だと潜入は向いていないから、この先は君達に任せるしかないみたいだしね。この程度の事は喜んでするとも」

 

 まあ、そんなことを言いながら事件に介入する機会が減って、ちょっと安心してたりしてるんだけど。まあ、土御門の金髪が地味に見えるほど目立つ緑髪だし、これで潜入なんかしたら後々バレるに決まっているよな。

 

「(このままアッシー君になれないかなー…………なれないよなぁ……)」

 

「──よし、こんなもんだろう。それじゃあ頼む。すぐに向かわないとまずい事になるかもしれない」

 

「まずい事って?」

 

「向かいながら話す。今は一分一秒無駄にできない」

 

 それもそうかと思いながら土御門を連れて空間移動を開始する。上条が相手だと幻想殺し(イマジンブレイカー)に打ち消されてしまうが、土御門ならば問題はない。

 あと、大した話ではないが自分以外の人間と一緒に空間移動してヒヤヒヤしてしまうのは、空間移動能力者(テレポーター)のあるあるネタだと思う。

 

「──つーわけだ上やん。選手として乗り込んで術式を破壊するしかないって事ですたい」

 

『いやいや、中学生に混ざるとか普通にバレないか!?まさか、何か裏技的な対策をお持ちで?』

 

「若ささ。フレッシュでエネルギッシュな若さを思い出せば、俺達ならできる!」

 

『なんかダメな気がしてきたー!?』

 

 急にほのぼのパートに入って多少困惑するが、思い返してみれば『とある』ってこんな物語だったな、と思い出した。ここ最近ずっとシリアスだったから忘れてたわ。

 

「だがな上やん。そうも言ってられない。ステイルに使われた術式は魔術に関係の無い一般人にも牙を剥く可能性がある」

 

『は?』

 

「いいか、冷静になって聞け。オリアナが迎撃術式は『魔術の準備を読み取り、その使用者の生命力を識別して妨害する』というものだ。その()()()()()()()()()()って何だと思う?」

 

『えーと、変な呪文を唱えたりとか魔法陣描いたり、とか?』

 

 ……こんな会話あったっけ?うーん、ダメだ覚えてない。まあ、魔術の基礎的な奴は旧約の序盤でやってそうではあるけど、こんな細かいところまで覚えてる訳無いんだよなー(呆れ)

 

「しかし、それでいいのなら……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『ッ!?』

 

 言霊……?俗に言うフラグとかか?

 おーと……なんかやたらと現実味が出てきたぞお……?(実体験)

 

「とはいえ、言霊の並べ方には法則性があるし使えるワードにも制限がある。それだけじゃ一般人に危害が及ぶことはないが……なら、世界で最も簡単な魔術儀式って何だか知ってるか?」

 

『は、はあ?』

 

 学園都市という科学の街で生きてきた上条には分からないのだろう。もちろん、俺にも分からない。

 俺と空間移動しながら土御門は上条にその答えを伝える。

 

「『触れる』事だよ。特に「手で触れる」事は意味があんのさ。多くの宗教で右と左の価値が異なるのも、元々はそれぞれの役割分担によるものだ。

 新約聖書でご活躍の「神の子」だって、右手で触れることで病や死から人々を救ったと言われてるぜい。もしも、その動作に迎撃術式が反応するなら?

 そして、本格的な魔術師ならともかく素人の一般人が魔術の防壁を持つわけがない。防御力が無い分はその症状はステイルの比にならないと思う」

 

『で、でも、魔術師でもない能力者に魔術が反応するのか……?魔力だって練ることはできないんだぜ?』

 

「いや、オリアナの術式は『魔力に反応して迎撃する』事じゃなく、『生命力に反応して迎撃をする』ものだからにゃー。魔術を使えるかどうかはこの術式には関係がないんだぜい。

 ──要するにその該当する『魔術の準備』をしちまったら、発動する魔術だと思っといた方がいい」

 

『くそったれッ!あの野郎本気でぶん殴ってやる!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(そんなわけで始まりました。大覇星祭の競技、玉入れのお時間です。実はこれを楽しみにしてたー、という方も多かったのではないでしょうか。そして、解説はこの人達に来ていただきました(熱血アナウンサー))」

「(有識者です)」

「(ダンディvoiceです)」

「(どーも老害っすわ)」

「(いやー、お久し振りですね皆さん。こうしてまた同じ光景を見られる事を嬉しく思います。そう言えば有識者さんは何か以前と変わった事があるとか(熱血アナウンサー))」

「(ええ、実は先月に式を挙げさせて頂きました(有識者))」

「(そうだったんですか!?おめでとうございますっ!(熱血アナウンサー))」

「(おめでとう(ダンディvoice))」

「(ほーん、そうなんや(老害))」

「(ありがとうございます。結婚を言うタイミングを逃し続けていたせいで長引いてしまいましたが、ダンディvoiceさんのお陰で無事に想いを伝える事ができ、こうして一緒になる事ができたんですよ(有識者))」

「(ええ!?ダンディvoiceさんが!?そうなんですか!?(熱血アナウンサー))」

「(軽いアドバイスですよ。全ては彼の頑張りあってこそです(ダンディvoice))」

「(いやいや、ダンディvoiceさんが切っ掛けをくれたんです感謝してます!それにダンディvoiceさん、実は仲人もしてくれたんです(有識者))」

「(本当ですか!?流石ですね!(熱血アナウンサー))」

「(彼の背中を押したのは自分なのでそれくらいはと。長い話をするのは得意ではないので少し困りましたがね(ダンディvoice))」

「(ここでダンディvoiceさんの紹介をしていきたいと思います。多くの人はもちろんご存知かと思いますが、ダンディvoiceさんは(かつ)てボクサーだった経歴を持つ方です。その実力はメディアを始め多くの関係者から有望視されていたほどであり、新しい風をボクシング界に巻き起こすだろうとさえ言われていました。

 しかし、怪我をしてしまいプロを断念、その後俳優の道を歩んでいきます。整ったルックスに渋い声で女性人気を獲得。その後は連ドラに大河ドラマと人気俳優の道をかけ上がって行きました。

 女性人気が圧倒的に多くありましたが、それに引き換え男性人気は余り獲得していませんでした。これはメディアがダンディvoiceさんの事をそういう風に取り上げたせいでしょう。

 しかし、それも『紫煙の探偵』で再びブレイクしたことで流れが変わります。最初はこの時代にタバコを吹かすキャラクターなどと、批判も多くありましたが、放送されるとダンディvoiceさんのルックスとタバコが絶妙にマッチしていた事もあり絶賛の嵐。そして、何と言っても重要なのがスタント無しでのアクションシーンが話題を呼びます。鬼気迫る様子とその巧みな体捌きで女性だけではなく、多くの男性を魅了することとなったのです。

 そして、今現在は現役で俳優業をしながらも、ボクシング界人気の一助となればと、こうして実況も携わっていらっしゃいます(熱血アナウンサー))」

「(自分も『紫煙の探偵』から大ファンです!あの『官僚の浮気調査をしている女探偵』という建前で、日本政府の機密を入手しようとしていた女スパイとのシガーキスは憧れましたよ(有識者))」

「(ああ、あの口封じで撃たれてライターすら持てずに、ダンディvoiceさんが演じた『大門(だいもん)真理(しんり)』にタバコの火をもらうところですね。お互いに少し心許していたシーンがあっただけに、あのシーンは衝撃的でした(熱血アナウンサー))」

「(会ったときの最初のセリフが『タバコ吸う男って嫌いなのよ私』でしたからね。まさか、大門が吸っていたタバコの銘柄を買っていたとは思いませんでした。

 その初めての一本が大門とのシガーキスですからね。悲しいやらなんやらで号泣しましたよ僕(有識者))」

「(まあ、あれからタバコが売れてしまってクレームが常に鳴っていたそうです。私が実際に咥えていたのは電子タバコなんですけどね(ダンディvoice))」

「(儂からすればタバコ吸うのが何が悪いのか理解できんわ。別に違法でもあるまいしそんな後ろ指指される事もないやろ。その上喫煙所で吸うことすら白い目で見られる意味が分からん(老害))」

「(解説席が盛り上がってきましたがここで選手達の出場です。凛々しい表情から不屈の精神が伺えます。やる気は充分と言ったところでしょうか(熱血アナウンサー))」

「(これも多くの種目を行う大覇星祭の中で、盛り上がる競技の一つですね(有識者))」

「(しょーもな、たかが玉入れやろ。どこに見所があんねん(老害))」

「(おっと、老害さんはもしかして大覇星祭をご覧になったことがございませんか?凄まじいとしか言い様の無い競技ですよ。──そして、その注目の玉入れが今始まります(熱血アナウンサー))」

 

「(全く、何をそんな大袈裟に……ってなんじゃこりゃああああああ!?!?!?(老害))」

 

「(いやぁ、始まりましたね玉入れ。やっぱり派手な競技です(有識者))」

「(ええ、あの中を潜り抜けるのは至難の技でしょう(ダンディvoice))」

「(いやいやいやいや、おかしいやろあれ!?なんで能力ぶちかましてんねん!玉投げろ玉をッ!!(老害))」

「(あれも玉入れの妨害として正式に認められていますのでセーフです。なんと言っても大覇星祭ですからね(熱血アナウンサー))」

「(でも、三、四メートル打ち上げられてへんか!?死ぬやろあれは!?(老害))」

 

「(まあ、そのときはそのときです(有識者))」

 

「(ッ!?(老害))」

「(とはいえ、未だに大覇星祭で大怪我を負ったものがいないことから、裏で何かしらの対処がされているのは間違いないでしょう。…………おや、あれは?(ダンディvoice))」

「(おっと、あれは以前熱い戦いを見せてもらった少年ではないでしょうか?あの彼をまさか、この場で見られるとは誰が思ったでしょうか!?超能力が飛び交う戦場を縫うように進んで行くぞぉ!?(熱血アナウンサー))」

「(あの身のこなし……彼で間違いないでしょう。また、彼の勇姿が見れるとは心躍りますね(ダンディvoice))」

 

「(あんのクソガキィィイイイイ!!!!よよよよよくその生意気な面を儂の前に出せたもんやなあッ!?あ"あん!?(老害))」

 

「(ど、どうどう。落ち着いてください。あのあと調べても卑怯なんてなく、正真正銘の真正面から彼は第一位と戦い勝利したでしょう?それにあの戦いはあそこで終わってますから彼を逆恨みしても仕方ないですよ(有識者))」

「((かつ)て闘していた者同士が拳を交わし合うのはこれはこれで良いものですね。これはどちらかと言うとプロレスの方が近いのかもしれません(ダンディvoice))」

 

「(──なんとその彼が御坂選手を押し倒しました!!なんと思い切った行動でしょうか!(熱血アナウンサー))」

 

「(ふむ、寝技ですか。彼はボクシングだけではなく、プロレスの心得もあるようですね(ダンディvoice))」

「(ここからでは砂煙もあってよく見えませんね。ですが、膠着具合から彼が常盤台のエースを完封していると見ていいでしょう(有識者))」

「(ぐぬぬぬ、あの全身高圧電娘をどうやって抑えたんや……。まさか、本当にまぐれちゃうんか……?(老害))」

「(ですが、御坂選手もすかさず少年を引き剥がします。ここは流石といいましょうか。マウントを取られましたがすぐさま不利な状況から脱しました。どうやら少年も彼女相手では一筋縄ではいかないようです(熱血アナウンサー))」

「(とはいえ、御坂選手赤面していますね。おそらく振りほどく事に余程の力を使ったのでしょう。これが今後にどう影響していくのか気になります(有識者))」

「(ん!?おおっとこれはどういうことだ!?突然レフェリーからストップがかかります。一体どういう事でしょう(熱血アナウンサー))」

「(別段おかしなところは見あたりませんでしたが(ダンディvoice))」

「(僕達からでは見ることができなかったところでハプニングでも起こったのでしょうかね(有識者))」

「(ええっと……、情報に依りますとなんと少年はこの場に乱入してきた部外者であり、選手では無いと言う事です(熱血アナウンサー))」

「(どうやら自らの闘争心を抑えられなかったようですね。若者ならばよくあることです。この愚かさを若さと取るか情熱と取るかは人によるでしょう(ダンディvoice))」

「(はっはっはっは!やっぱりセコい小僧やんけ!チャンプだって次の対戦を待っとるのに、ド新人が何を調子付いとんねん!(老害))」

「(うーん、これは退場となり出場停止処分の可能性も……おや、どうしたのでしょうか突然レフェリーが倒れましたよ。少年が近付きます(熱血アナウンサー))」

「(なんや?一体何が起きた?(老害))」

「(これは……どうやら熱中症のようですね。涼しくなってきたとはいえ、夏ですからね。水分補給を忘れてしまうとこういうことがあります(有識者))」

「(金髪のサングラスをした少年も近寄っていますね。……どうやら重度の症状のようだ。救急車を呼ぶことになりそ───)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 考え事が終わったのか観客席に一人で座っていた少女は、すくっと立ち上がり観客席の最前列にゆっくりと歩いていく。動揺が走る周囲との反応の違いで浮いているが、突然の状況で彼女を注視する者はいない。

 彼女は観客席と競技場との柵に手を掛けながら呟いた。

 

「介入するなら今しかないかな」




時間が無いので考察は次にします。まさか、一日で書き上がるとは……ストレス溜まってるなあ(しみじみ)


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105.救いの手

ハッピーニューイヤー(^-^)/
今年もよろしくお願いします。クリスマスにも年明けにも間に合いませんでしたが、気にせず余裕ができたときに投稿していきます(ヤケクソ)


 競技場がざわついている。それもそうだろう。可能性はあると誰もが認識はしていたが、実際に誰かが倒れると思って行動していた人間は当然だが誰も居ないのだ。彼らが戸惑うのは自然だった。

 

 倒れる彼女の側に居る二人の少年以外は。

 

「おい、土御門!吹寄はッ!?」

 

「生命力が空転したんだろう。それこそ前に言っていた重度の熱中症と思った方がいい。俺達ができるのは保健室……じゃダメだな。救急車を呼んで腕のいい医者の居るところへ運ばれる事を、祈る事だけだ」

 

 安易に大丈夫と言わずに状況を残酷なほど冷静に言うのは、プロの魔術師として軽々しく、上条に希望的観測を抱かせない厳しさだった。おそらく、今言った条件から一つでも外れてしまえば、助かることは無いのだろう。

 

「クソッ!どうする事もできねえってのかよ……ッ!!」

 

 上条が拳を地面に叩き付ける。

 全力で行動した事は間違いない。だが、それでも間に合わず吹寄(ふきよせ)制理(せいり)は魔術の攻撃をその身に受けた。魔術による影響は打ち消したが、それでもダメージまで打ち消せる訳ではない。

 短い間だったとしても魔術は吹寄の身体を蝕み意識を刈り取ったのだ。そんな級友の惨状を見ながら、上条は己の不甲斐なさに歯を食い縛る事しかできなかった。

 

 

 

 しかし、そこに救いの手が現れる。

 

 

 

 ふわりと観客席から飛び降りて来たのは、緑色をした長い髪の少女だった。かなりの高さがあるにもかかわらず軽やかに着地をしたのは、その身のこなしよりも純粋な身体能力があってのものだろう。

 彼女は周りの視線など微塵も気にせずに、上条の前に横たえられている彼女のもとへと歩み寄って来た。

 

「……先……輩……?」

 

「後輩、君は最善を尽くした。だからここは僕に任せて欲しい」

 

「どうするつもりだ?もう俺達にできることはないぞ」

 

 土御門のその言葉はプロの魔術師としての判断なのだろう。天野(あまの)倶佐利(くさり)の能力を以ってしても、回復する事は不可能だと言外にそう言っている。

 しかし、天野は少しも揺らぎはしなかった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「何……?」

 

 天野倶佐利の能力である劣化模倣は、他者の能力を得ることができる能力であり、回復系統の能力も有している。

 しかし、その能力は劣化しており代償に体力を膨大に失うというデメリットが存在し、今の衰弱した吹寄制理に能力を使えばどうなるかなど火を見るよりも明らかだ。

 だからこその土御門の見識だったのだが、どうやら従来の方法でのやり方では無いらしい。天野は右手を吹寄に(かざ)した。

 

「超能力だけでは届かないのなら別の()を併用して届かせる。他でもない僕だからできる事だよ」

 

 上条には彼女が何を言っているのか理解できなかった。万能とも言える超能力を持ちながらも、まだ先があるとはにわかには信じられないからだ。

 しかし、土御門は違った。ハッと何かに気付いた彼は信じられないものを見るかのように凝視する。

 彼が気付けたのは超能力と魔術それぞれに造詣が深いからではない。百歩譲って魔術はともかく、超能力ともなれば専門家どころか学校の先生よりも劣っているくらいだ。

 そんな彼がそれに気付けたのは文字通り体に身に覚えがあったから。()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして、オリアナ捜索当初に気付いたとある事柄が、彼を答えへと導いた。動揺を隠すことも出来ず考え付いたその推測をそのまま言葉を吐き出した。

 

 

「まさかお前、魔術を使って回復させる気なのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(はい、と言うわけで今回はこちらの事態に対処していきたいと思います。まず材料の確認ですね。

 目の前に生命力の流れをめちゃくちゃにされて重体な女の子が一人。そして、特典のコピー能力が一つにエルキドゥ産の力が多めに用意されています。

 これらの材料を用いて吹寄さんを治していきます。レシピは最後に載せますのでそちらをご覧ください)」

 

 まるで、どこかの3分クッキングのように軽快に内心で語るオリ主。その様子を使い魔が不思議そうな声音で尋ねる。

 

『マスターいつもと口調が違うみたいだけどどうしたんだい?』

 

「(え?いつもだいたいこんな感──ごほんげほんっ!あ、あー、その何……?ルーティンみたいな?精神統一みたいなもんだようん。

 エルキドゥはしないかもしれないけど、人間は決まった動作をすると集中力が上がるんだ)」

 

『なるほど。確かに魔術師の中にはそういった方法で、魔術を行使する魔術師も居ると聖杯からの知識ではあるね。ごめんよマスター。無駄な時間を使わせてしまったね』

 

「(あ……いや、……え、えーと、……そのまあ?マスターとサーヴァントは一蓮托生だし?そんな気にしなくても全然構わないからね?いやいやホントホント)」

 

 純粋なサーヴァントを口先で騙しているマスターがどこかに居るようだが、もちろん事態は緊急を要している。先ほどの小芝居もリラックスするためと言う意味もあるにはあるのだ。

 

「(前提条件で劣化模倣だけじゃ治す事はできない。劣化模倣の回復は体力を消費するから熱中症が治っても衰弱死になるからだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 オリ主を特別足らしめているのは神からの特典である『劣化模倣』だけではなく、ほぼ同一の身体でありその身に宿している『エルキドゥ』の存在だ。ならば、両方の力を使う事に躊躇う理由は無い。

 

「(いや、本音を言うと滞空回線(アンダーライン)でアレイスターに見られているから、エルキドゥの存在は隠したいけど、土御門にバレた時点でアレイスターにも俺の中に何か居るのは気付かれただろうし、逆に無理矢理隠そうとしたらその作為に気付いて潰しに来るかもしれない。

 ……こうなると、アレイスターとの対決も視野に入れるってことになるか……。切り札であるエルキドゥの存在はもちろん隠すとして、なるべくエルキドゥってバレないようなところだけ表に出しつつ、肝心なところは伏せて力を行使すれば、あっちも下手に干渉しようとは思わないはず)」

 

 針に糸を通すかのような駆け引きをするオリ主。ネックとなるのが相手の反応が見れず全て推測するしか無いという事だろうか。まあ、あのアレイスターがオリ主の前で分かりやすく表に出すとは思えないが。

 

「(つーか、うわーテンション下がるわー……。アレイスターとか本気で相手にしたくない。『失敗』をどれだけしようが相手は世界最高の魔術師とか言われている化け物なのには変わり無いし。

 そこにエルキドゥの天敵の『対魔術式駆動鎧(アンチアートアタッチメント)』や『霊的蹴たぐり』、『衝撃の杖(ブラスティングロッド)』……そして、現時点で自由に出せるかは知らないが『聖守護天使エイワス』……。

 持ってる手札の数も質もアレイスターが(ことごと)く上をいってる。今ぶつかったら逃げるしか手がないなこりゃ)」

 

 そして逃げられる可能性も低いとオリ主は算段をつけている。『とある』世界でのアレイスター=クロウリーはそれだけ強大な存在なのだ。

 

「(それはともかく、今はこっちを優先だな)」

 

 オリ主が視線を吹寄に向ける。

 

「(それじゃあ始めていこうかね)それじゃあ、まずは「待て」……どうしたんだい元春?」

 

 いざ始めようとすると土御門が遮ってきた。何か用だろうか?ちょっと今は忙しいんだけど。

 土御門が周りに聞こえないように耳打ちをしてきた。

 

「おい、まさか魔術を行使するつもりなのか?なら止めろ。魔術がカメラを通して目にされれば、魔術サイドと科学サイドの衝突の原因に成りかねない」

 

「それについては大丈夫だよ。学園都市としても熱中症となった生徒を中継で映したくは無いはずさ。もう中継は止めて今日の競技のピックアップでも流しているだろう。

 例えここで僕が能力を使って治したとしても、自分達の管理不届きを大々的に映したいとは思わないと思うよ。そして、僕の主な治療法は超能力だから魔術サイドに勘づかれる事もない」

 

「主な……?天野、お前何をする気だ?」

 

 見とけ見とけ。そうすりゃ分かるって。

 

 そして、オリ主は吹寄制理を助けるために行動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上条には土御門の様子から魔術関連の事態なのだと察するが、それは魔術に疎い上条でもおかしいという事は分かる。

 

「お、おい、土御門。魔術ってどういう事なんだ?だって先輩は能力者だろ?」

 

「…………」

 

 土御門はその問いに答えなかった。それは別に意地の悪いいたずらなどではなく、プロの魔術師である土御門も答えあぐねているからだ。

 

「(何をしようとしている天野)」

 

 訝しむ土御門の前で天野は動き出す。

 

「最初に──『劣化模倣(デッドコピー)』」

 

 そう言うと天野の姿が変わる。髪色はそのままに背丈、骨格、体つき、様々な要素が天野倶佐利から逸脱していく。そして、変化した姿に上条は驚いた。

 

「え、吹寄……?何でこの状況で?」

 

 てっきり回復能力持ちの能力者に変身すると思っていた上条は、まさかの人選に困惑する。その様子を見ている隣の土御門もその必要性が理解できない。

 この場において……いや、おそらく彼女の行動を理解している者は、世界のどこを探しても存在しないだろう。それこそ、あのアレイスター=クロウリーであっても。

 それほどまでに言動一つ一つが異端なのだ。誰にも理解できない前人未踏。彼女はその一歩目を踏み出している。

 そして、明確な一歩目となるその言葉を発した。

 

 

 

「『──同調(トレース)開始(オン)』」

 

 

 

 その言葉に聞き覚えは無い。意味も分からない。だが、その言葉に確固たる意思のようなものがある気がした。

 

「『基本骨子───解明』、」

 

 目を(つぶ)り発せられる声音には、理由を問い質すのを躊躇うほどに真に迫っている。話し掛けてしまえば何かが壊れてしまう光景を上条は幻見した。

 

「『構成材質───解明』、」

 

 立て続けに何かの工程を終えたらしい。だが、それを上条が察する事はできない。何かが行われているという事を言葉から察するだけだ。

 そして、彼女は最後の言葉を紡ぐ。

 

 

「『──同調(トレース)完了(オフ)。……よし、これで最初の工程は完了ね』」

 

 

 そう言うと彼女は深く息を吐いた。そして、能力を解き元の姿へと戻る。

 

「そして、次からが本番だね」

 

 またしても、変身し別人の姿へと変貌する天野。その姿は上条も何度か見たことのある回復系能力者の少女のものだった。土御門はそれを見て眉間に皺を寄せる。

 

「(今の工程に何の意味がある?魔術を使った形跡は無い。能力で変身したようにしか見えなかったぞ?そもそも魔術を使う際には道具と魔術の知識が必要になる。今のお前にはそのどちらも不足しているだろう

 その上、その能力者の能力はデメリットがある。お前なら当然それも分かっているはずだが……)」

 

 能力を把握している土御門からすれば、吹寄制理を能力を使い衰弱死させようとしているとしか見れない。それを止めないのは(ひと)に天野の事を信用しているからだ。

 人柄であったり歩んできた人生であったりと、そう言ったものを総合して、天野倶佐利は無謀な考えで人の生死に関わる事はしないと確信していたから。そのため、彼は声を掛けるという無駄なことはしない。

 誰もが理解できない状況の中、変身した彼女は手を吹寄に添える。

 

 ──そして、天野は一歩間違えば人を殺しかねない能力を躊躇(ためら)いもなく使った。

 

「『そ、それじゃあ始めます……えいっ!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 救急の患者が居ると連絡を受けたその病院の看護師達は、慌ただしく動いていた。電話から伝えられる少女の症状がそれほどまでに重かったからだ。

 症状で言えば熱中症のⅢ度。後に後遺症が残るかもしれないほどの重症だ。患者を救うために必要なのは迅速な行動、つまりは「時間との戦い」なのだが、一つおかしな事がある。

 彼らの顔には緊張や焦りはあるものの、そこに不安は一切無いのだ。電話からの状態から察するに後遺症の可能性どころか、生死にも関わる危険な状態にもかかわらず、誰一人として最悪なケースを想像してもいない。それは、彼らに指示を飛ばす男の存在が大きい。

 

 巷で有名な「カエル顔の医者」である。

 

 彼に助けられた人は多くいる。それもそのはず、死んでいなければ絶対に救い出すという事を実行してきたからだ。そのため、表の人間だけではなく裏で行動する人間も、彼に救われて生きている者は大勢居る。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな彼が居るのならば間違いなく、少女の生存はもちろん後遺症など一切残らないだろうと彼らは確信している。なぜなら、彼らはその神業を目の当たりにしてきたからだ。

 曲芸とも言える妙技を単純な作業のように行うその姿に、神格化する者も現れるほど。それほどまでに医者としてのスキルが卓逸していた。

 その絶対的な信頼が彼らの完璧なパフォーマンスに繋がるのだから、良いことしかない。居るだけで誰かを救うための一助となる。それが彼だった。

 

 だからこそ、彼としても再び電話が来たときは驚いた。

 その発せられる内容とともにそれを行った下手人。それぞれを鑑みて深く息を吐く。彼はてきぱきと動く彼らを止めるような事はしない。

 ぶり返しのような事態が無いとも限らないからだ。最悪な想定を常にしておく。それが誰かを救うための秘訣なのかもしれない。

 救急車が到着し、その中から倒れて意識を失った少女が運ばれてくる。しかし、彼女の身体に痙攣などの症状は見られない。おそらく、電話での事が関わっているのだろう。

 彼は眠っている彼女の付き添いとして来た、やけに見覚えがある緑髪の少女を見て呆れるように言った。

 

 

「医師免許無しの医療行為は法律で裁かれてしまうって知っているかな?」

 

「僕としては能力を使った応急措置として認めて欲しいところだね」

 



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106.脳内会議

おまたせ、待った?(アンカト風)

ちょうど三ヶ月振りですか。こんなに間が空くのは初めてですね。
いや、ほんとすみませんでした。リアルが忙しかったのもありますが、この話は構成が難しかったんです(汗)


 吹寄を病院に付き添いで訪れた俺は、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)から安静にしていればすぐによくなると聞き、安心して病院から出て上条達のもとへと向かう。

 

「(今頃、上条と土御門でオリアナとバトってるんだろうなぁ。上手い具合で抜けれたことは幸いだった)」

 

 あの場でしゃしゃり出たのは吹寄を救うためだけではなく、オリ主なりの打算があった。

 

「(オリアナ戦まで深く関わると最悪、オリアナが負けることになりかねない。俺としても吹寄に連れ添う事で自然に離脱することができたというわけだ)」

 

 土御門はあれで甘いところがあるし、魔術師の戦いに素人、しかも学校の同級生を巻き込んだ事に罪悪感を抱いているはず。そこに付け込み脱出することに成功したという訳だ。

 

「(まあ、回復できるかどうかは一発勝負ってところではあったけど)」

 

 オリ主としても今回の回復能力の使い方は初めてだった。とはいえ、計算上ではできる可能性が高かったから実行したのだが。

 これも、優秀なサポーターが居たからに他ならない。

 

「(今回は助かったよエルキドゥ。今回はエルキドゥが居なかったら間違いなく実現しなかった)」

 

 そう、今回の立役者はオリ主ではなくエルキドゥなのだ。その最高のサーヴァントは功績を誇るでもなく、淡々とマスターを立てる完璧な振る舞いをする。

 

 

『いや、僕じゃ思い付くことさえできなかったよ。まさか、あんな方法で回復させるとはね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれは遡ること約二〇分前。

 空間移動(テレポート)で土御門を運んでいたときのことだ。移動しながら俺はずっと考えていた。

 

「(今回、俺にできることは少ない……。少なくともあの状態の吹寄を劣化模倣(デッドコピー)で救うことができないのは言うまでも無いし、魔術を人前で使っちゃいけない以上、魔術を土御門から教えてもらいながら吹寄を回復させることもできないか……)」

 

 その思考回路は『原作知識』あってのものだ。小萌先生が自動書記モードのインデックスから魔術を教えてもらい、回復魔術を使用したようにする方法。

 当然、拒絶反応が起こるが土御門と同じ様に、回復能力を持つ俺ならば激痛を我慢すれば不可能じゃない。衆人環視という状況でなければ。

 

 これは隣に居る土御門もその土御門と話している上条も知らない、吹寄制理に起こる未来の悲劇。原作知識からそれを俺は知っている。だからこそ、考える時間だけは誰よりもあった。

 とはいえ、そんなすぐに思い付くものでもない。思い付くのは空間移動で吹寄を病院に運ぶくらいだ。

 

 だから、そもそもの前提を変えてみた。

 

 

「(エルキドゥ、力を貸してくれ)」

 

『もちろんだとも。それで僕は何をすればいいんだい?』

 

 

 一人でできないのなら優秀なサーヴァントに頼ればいいじゃない、と。

 カッコつけたって解決しないのなら、エルキドゥに頼ってみよう。だって今までの傾向からしてエルキドゥって頼ったときの方が生き生きしてるし。

 あの暴君の友達っていうから安易に頼ると、失望されて縁を切られそうだと思ってたから、今まで会話くらいしかしかして来なかったけど、そうじゃなかったらそりゃあバンバン頼りますとも。

 

「(まず相談。エルキドゥって自分以外を回復する能力とかある?)」

 

『該当するのは【完全なる形】だね。でも、残念だけどマスターの身体と一体となったことで、【完全なる形】はこの機体にしか作用しなくなってしまったみたいだ。

 今の僕に他者の身体を治す機能は備わっていないよ。可能にするにはスキルの【変容】を使って、僕本来の姿へとならないといけないだろうね。

 だけど、間違いなくマスターの魂を圧迫してしまうから、何かしら影響が出てしまうだろう。僕としては止めておいた方がいいと思うよ』

 

 これも身体を共有することになった影響の一つなのだろう。本来のスペックよりもグレードダウンしてしまい、今のエルキドゥには他者にまで回復をかける力は備わっていないようだ。

 

「(……そうなるとエルキドゥのスキルっていうのは、今回に限って言えば使えないってことか。そして、それは俺の劣化模倣に関しても同様。……やっぱりこれは一筋縄じゃいかないな)」

 

 エルキドゥが他者への回復ができないのなら、エルキドゥの力を当てにすることも難しいだろう。それこそ無理を通して本来のエルキドゥの姿となってしまっても、アレイスターに感知されてしまう可能性が高い。

 

「(エルキドゥだと分からなかったとしても、少なくとも大天使クラスの存在だということは間違いなくバレる)」

 

 アレイスターにバレてしまえば全てが台無しになる。あくまでも劣化模倣で治したという事実が必要なのだ。

 

「(つまり、必要事項をまとめると……)」

 

 

 

『エルキドゥではなく天野倶佐利の状態+劣化模倣での回復能力を使ったように見せる』

 

 

 

 という事実が必要になってくるのだが、

 

「(…………無理じゃね?)」

 

 思ったよりかなり難しい条件だった。一瞬で諦めようかと思ってしまうほどに。

 

「(えぇ……。エルキドゥの力が使えず俺の劣化模倣も使えないとか、無理ゲーもいいとこなのでは?どうやってやんの?これ?)」

 

 ここで出来ませんでしたと諦めたいところではあるが、ここで諦めては別の問題が出てくる。

 

「(いやでも、このままだと今の流れに乗ってオリアナと戦うことになるからなー……。そうなると間違いなくボロが出るじゃんよー)」

 

 オリアナは強力な魔術師ではあるが、それは多様な魔術と身体能力の高さにある。だが、それを俺が相手では相性が悪すぎる。

 速記原典(ショートハンド)と同じ様に、違う能力を複数使うことができることに加え、警備員(アンチスキル)の捕縛術にエルキドゥの身体のスペック。

 そして、さらに原作知識の知識チートによる行動パターンの把握などという、もはや嫌がらせなのではないかと思うレベルでマウントを取れるのである。

 その上、原作通り上条まで居ることで幻想殺し(イマジンブレイカー)という異能チートまで、オリアナに襲い掛かることになる。

 さらにさらにどうしようがないのが、手加減などしようものならばプロの魔術師である土御門と、直感が鋭い上条のコンビに見破られる可能性があるため、必然的にコピーした超能力のバーゲンセールをしなければならないということになるのだ。

 

 はっきり言って勝っちゃうのである。

 

 逆に負け筋が見当たらない困った展開になってしまう。ここで上条の幻想殺しに倒されなければ、後で出てくるグレムリンによってオリアナは殺されてしまうだろう。

 俺が居るなら土御門は上条を不意をつくための切り札として使うだろうから、主に戦うのは俺となるはず。つまり、上条はオリアナの渾身の一撃を防ぐポジションに収まってしまうのだ。

 もし、それで事件が解決してしまったら、オリアナが幻想殺しに対策を原作程に練るとは思えない。何かしらの魔術による相殺だと考えるのではないだろうか。

 そうなればグレムリンの魔術師に敗北することが確定する。

 

 そしてここまではオリアナの話だが上条にもマイナスなことばかりだ。オリアナとの単純な戦いの経験値もそうだが、幻想殺しでの打ち消し後にラグが起こるのを、しっかりと認識したのは多分ここなのだと思う。

 ここで幻想殺しの弱点の一つを認識していないために、あとでとんでもないことになるという可能性がある。そして、それが起こるとするなら魔術サイドの事件のはずだ。

 今回で俺は魔術サイドの問題と関わることにはなったが、おそらく上条ほどに自由に介入できるわけではないだろう。上条は無能力者(レベル0)にして、禁書目録のパートナーだからこそ許されているのである。

 多くの魔術サイドの人間にとっては、友達の友達くらいの距離感の人間が自分達の領域に入られていい気はしないはず。

 それこそ、エルキドゥを世間に知られていない俺は、外から見れば学園都市製の能力者でしかないだから。

 

「(……それにしても、熱中症かぁ……)」

 

 たかが熱中症。

 しかし、超能力と神代の神造兵器の力を以てしても、治す手立ては無いのが現状だ。八方塞がりの中で思い出したようにエルキドゥが問い掛けてきた。

 

『それとマスター。それは「病」でいいのかな?』

 

「(え?急になんで?)」

 

 今更な質問に呆気に取られる。何故急にそんなことを聞くのだろうか。

 

『確かこの国では「日射病」とも言われている病気だったはず。もし病だとするなら僕との相性は最悪だ。余計に力にならないどころか身体を共有しているマスターに、何かしらの影響を与えてしまう可能性がある』

 

「(……ああ、なるほどね。熱中症は気温が高い場所に居続けることで起こる、身体の水分と塩分のバランスが崩れた状態のことだから、細菌やウイルスと直接関係ある症状じゃないんだよ。

 それと、昔は病気は神様から与えられるとか言われてたらしいけど、今じゃ細菌やウイルスって解明されてるから、神様って概念はぶっちゃけ無い。

 だから、そう言う概念的な要素も大分薄れてると思うし、エルキドゥの特性でも多分大丈夫じゃないか?)」

 

 全ての事象が神様によるものだとされていた神話の時代は、病であっても神秘が宿っていたに違いない。だとするならば、神秘が薄れた今の時代ならそこまで重篤な状態にはならないはずだ。

 ……まあ、魔術による攻撃だと効く可能性が高いけど。

 

「(そもそも、劣化模倣でコピーした能力の方は外傷を修復する力だから、水分と塩分のバランスが崩れる原因の、脳が体温調節機能に支障をきたす状態の回復にはとことん向いていない。

 つまりは、デメリットが無くても熱中症には使うことができな…………ん?熱中症?)」

 

 そこで違和感を覚える。

 重度の熱中症。

 それが吹寄の身に起こる症状だ。それは間違いない。だが、何か根本的なことを間違えているような感覚に陥る。本来ならそうなるはずがないのにもかかわらず、何故か辻褄が合ってしまい成立しているようなそんな歪さ。

 そして、ハッとしてその事実に気付く。

 

 

「(──そうだ。『吹寄の熱中症を治すこと』を考えるんじゃなくて、『魔術によって熱中症のような症状になっている吹寄を治すこと』を考えるんだ)」

 

 

『……?それは何が違うんだい?』

 

 エルキドゥが疑問の声を上げる。念話ではない思考をサーヴァントは受け取ることはできない。そのため、エルキドゥは直接尋ねてきたのだ。

 

『どちらにせよ熱中症という結果は変わらないのだから、それを改善する方法を見付けなくてはいけないんじゃないのかな?』

 

「(いや、その前提があるなら、わざわざ熱中症の治し方をする必要が無い。と言うか、そもそもそれが当たり前なんだよ)」

 

 思わず疲れたような声を上げてしまった。当然だがこれは理解できないエルキドゥを叱責するようなものではない。

 ため息を吐くような気だるげな雰囲気を漂わせながら、俺はその名前を言った。

 

 

「(冥土帰し(ヘブンキャンセラー)。あの人が思考を妨げていた特異点だ)」

 

 

 その名前はエルキドゥも中から見ていたため知っている。だからこそ、ここで名前が出てきたことを不思議に感じたのだろう。

 

『彼は彼女を救った医者なのではなかったのかな?マスターの話から考えても何か特別なことをしたとは思えないけど』

 

「(その通り。あの人は別に吹寄を救うために、魔術の領域に足を踏み入れた訳ではないと思う。アレイスターの知人であっても魔術を根絶させたいアレイスターが、魔術を使う人物に容赦するとは思えない。

 それこそ、アニメで見せた親しげな雰囲気にはきっとならないだろうな)」

 

 そもそもの話、科学的な方法で治そうと考えていたのはチートカエル先生の影響が大きい。エルキドゥの能力も俺の劣化模倣(デッドコピー)も、カエル顔の先生と同じように『熱中症を治療する』ことに使おうとしていた。

 あの先生が治した方法が科学医療なのだから、それが正解なのだとオリ主は思っていたのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『……それはそうだけど。それは今さらな気もしないかい?他に方法があるのならそれを探す方が確実だと思うけど』

 

「(いや、きっとここが問題打破の糸口だ。熱中症が治せないなら別の方法。つまり、生命力に干渉して吹寄を治すことができればこれは解決するはずだ。

 元はと言えば、生命力が空転してしまい吹寄は熱中症のような状態になっているのだから、その生命力に正しい流れで力を注ぎ込めば改善する可能性は高い。…………まあ、それを実現するのが難しいんだけど)」

 

 科学サイドの熱中症の治癒ではなく、生命力そのものの干渉。

 

 熱中症を治す術がないならば、生命力を(なら)すことで回復させようとする考え方。おそらくこれが原因に対して直接的に治す方法である。

 そもそも、冥土帰しと同じ方法では絶対に無理だ。それは熱中症を治す能力が無いという事実だけではなく、おそらく熱中症を治すセオリーだけではない医療技術を、あの先生は使っている。

 これは予測でしかないが、魔術によって発症する症状が医療で認知されている症状と、全く同じなどということがあるのだろうか。

 実際に土御門も熱中症に近い症状と言っただけで、熱中症そのものと言ったわけではないのだ。それなのに、熱中症の治し方で対処する方がどうかしている。

 

 え?でも、カエル顔の医者は医術でどうにかしているじゃないかって?

 ……いや、ほら。あの人は回復チートだから(汗)

 

 そんなわけで、吹寄を助けるなら生命力に干渉すること一択なのだが、エルキドゥの能力が他者に使えないため俺だけの力。つまり、天野(あまの)倶佐利(くさり)が持つ力でどうにかしなくてはならないのである。となると、必然的に劣化模倣(デッドコピー)に頼ることに……。

 そこまで考えているとエルキドゥが話しかけてきた。

 

『マスターの勘違いを一つ正しておくよ』

 

「(ん?何?何か間違ったこと言ったっけ?)」

 

『僕の【完全なる形】を使えば魔術による拒絶反応はすぐに修復する。あの魔術師の少年から専用の魔術を聞いて、それを行使すればいいだけだから、魔術が全て使えないというわけではないと思うよ』

 

「(あー、なるほど。エルキドゥの力に頼らなくても、魔術という手段はなくならないという訳か)」

 

 中継に魔術の使用するところを見られる訳にはいかないが、吹寄が倒れたのだからずっと映しておくことはないだろう。それならば魔術の使用も問題はない。

 しかし、だとするなら一つ疑問が生まれる。

 

「(なんで土御門はあのときなんの処置もしなかった?オリアナが居るから体力温存を兼ねて?

 ……これはまああり得る。土御門が発動できる魔術には弾数があるらしいから、吹寄を見捨てる算段を立てたのかもしれない。

 だが、もう一つのパターンが有力だと俺は思ってる。そう、つまり、生命力へ干渉し調整する魔術など存在しないのではないのか、と)」

 

 オリアナの迎撃魔術は生命力に対して反応しているが、それに対して土御門がステイルに何も魔術を行使していないのだ。土御門本人がダメでもそれをステイルが使えばいいのにだ。

 もし、仮に宗教の違いでステイルが使用することができないのだとしたら、なおさら魔術を使ったことがない俺にできる訳がない。

 これは、つまりどういうことかというと、

 

「(俺に魔術を使うことは現時点で不可能。うーん、やっぱダメかあ?)」

 

 とはいえ、無意識の内につい、天野倶佐利=科学サイドの人間なんだっていう式が出来上がっていた。土御門やステイルに科学サイドの人間であると言われたり、学園都市では超能力しか使えないから、エルキドゥの力が使えないと分かると、すぐに科学サイドの力に頼ろうとするのは俺の悪い癖だな。

 俺の真価は特典とエルキドゥの力を合わせることで生まれる、科学、魔術問わないハイブリッドなんだから。

 今回はダメだったけどエルキドゥみたいな科学サイドも魔術サイドも同じくらい柔軟な…………──あ。

 

 その瞬間天啓のようなものが頭に降って湧いた。曇っていた視界が丸ごと晴れたのだ。

 

「(分かったかもしんない……)」

 

『何がだい?』

 

 エルキドゥから疑問の声が上がる。エルキドゥからすればただ単に俺が勘違いしていることに関して、訂正をするために話しかけたに過ぎないだろうが、それが最後のピースになったのだ。

 それを伝えるために力強くエルキドゥに告げた。

 

 

 

「救うその方法が分かったんだ」

 

 




申し訳ない。次話まで続きます。


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107.成功の裏側

一ヶ月振りの投稿です。
これは偶然ですが5月4日の今日だけ小説『とある魔術の禁書目録』がアプリで無料で読めるのだとか。
基本的には原作沿いで書いているので、この小説の内容と照らし合わせてみると面白いかも?


「ここまででいい。本来ならお前の力も借りたいが、無意識に練っているお前の魔力から迎撃術式が発動しないとも限らない。今回は不測の事態に備えて待機しててくれ」

 

 そう言い残し、土御門はオリ主を置いて競技場の入り口の方へと走っていく。残ったオリ主は駆けていく彼を見てこのあとの展開を思い出す。

 

「(確か、どうやって入ろうか考えている上条と入り口で合流するんだけっか。目的地を事前に決めてればそこに向かうのは当然分かるか)」

 

 記憶を思い出しながら一人納得するオリ主。

 そして、先ほど土御門を降ろすために中断してしまった話を、自らのサーヴァントに話し出す。

 

「(それで、吹寄を助ける方法だけど生命力の見極めかたは原作の方法で十分できる)」

 

『?それが無いからマスターは今まで悩んでいたのではなかったかい?』

 

 そう、生命力に関する情報は『とある』では出てこない。正確にはその言葉は出てくるが詳しい描写などはないのである。

 原作に描かれていることと言えば、『能力者が魔術を使えば拒絶反応で重傷を負う』ことだけであり、生命力と言うものがどういう風に身体を流れるなど一切書かれていないのだ。

 

 しかし、オリ主の原作知識はただの文字列の暗記ではない。前世で実際に原作を読んだ実体験に基づいた知識である。

 だからこそ、その印象深いシーンを覚えていた。

 

 

「(()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 

 旧約の最後のエピソードである、『神の右席』のフィアンマが起こした第三次世界大戦で、打ち止め(ラストオーダー)を治療するためロシアの地に赴いた一方通行(アクセラレータ)は、フィアンマが用意した羊皮紙を手に入れ、そこに書かれていた魔術を逆算することで、魔術のことを知らないまま魔術による打ち止めの回復を成功させた。

 オリ主がしようとしていることはこれなのだ。

 

「(まあ、とは言っても一方通行みたいに、物理法則全てを頭に叩き込んでいる訳じゃないから、本来ならそんなことは逆立ちしても不可能なんだけど)」

 

 一方通行が回復魔術を使用できたのは、物理法則に当てはまらない現象を全ての物理法則から逆算することで、魔術という存在を知らないままに、一方通行は理解不能である魔術の発動の仕方を導き出した。

 つまり、この世の物理法則を五割程度しか分からないポンコツに、同じ芸当ができる訳がないのである。

 このままでは当然机上の空論でしかないが、オリ主にはその全てをひっくり返す切り札がある。

 

「(俺の能力である劣化模倣(デッドコピー)には能力だけじゃなく姿形までコピーするという特性がある。これを使う)」

 

『いくら同じ身体を複製したとしても、今回の問題を解決するための糸口にはならないんじゃないかな?』

 

 その言葉を聞いたオリ主は笑みを浮かべて、自分の中に居るサーヴァントへ向けて、自分が編み出したその解決法を言った。 

 

 

 

「(劣化模倣で既に吹寄をコピーして吹寄の身体は既にストックしてある。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 一方通行と同じ様にありとあらゆる数式から不純物を見付け出すような真似をしなくても、比較対象があるならその違いを見付けるだけでいいってことだ)」

 

 

 

 比較対象がある。それが一方通行には無いオリ主だけの優位性なのだ。

 

「(なら、あとの話は簡単だ。あらかじめ、吹寄の身体を解析したあとに、迎撃魔術で生命力が空転した吹寄に触れて、生命力の乱れや空転した影響で起こる差異を元の身体と照合して割り出す。

 空転した直後なら、魔術で引き起こされた生命力への干渉の痕跡が分かりやすいはずだ)」

 

 正答と間違いを見付け出すだけならば、一方通行のようにスパコンと同じスペックがない凡人でも実現できる。これがオリ主が見付け出したオリ主だけにしかできない生命力の見付け方だった。

 だが、問題は他にもある。

 

「(あと、残ってる問題は回復方法。これに関しては生命力を治す方法として超能力はまず使えない。俺に分かるのは生命力の把握まで。一方通行のようにその治し方まで見付け出すことはできない)」

 

 一方通行のようにそこから応用に持っていけるような頭はない。いや、それこそ一方通行のように歌でも歌ってしまえば、魔術を使っていることを間違いなくアレイスターは感付くだろう。

 つまり、この世界での魔術は使うことができない。

 

「(なら、やっぱり答えは決まってる。伝説の魔術師であるアレイスターでも知らない異世界の存在。サーヴァントの能力、【スキル】を用いて吹寄を回復させる)」

 

 アレイスターに気付かれずに魔術サイドの力に頼るならば、アレイスターが知識で知らない、神代に造られたエルキドゥの能力に頼るしかない。

 【完全なる形】にも魔力が必要なのだが、そもそも考えてみればエルキドゥが表に出たとき、何回か【完全なる形】を発動しているらしい。

 なら、アレイスターにはサーヴァントのスキルを見破る術がないか。理由は分からないが何らかの理由で見逃されていると考えるべきだと思う。

 要するに、二回も三回もしちゃったならもうしょうがなくね?という、諦めの境地なのだ。エルキドゥが【完全なる形】を使わなかったら死んでたかもだから、エルキドゥは絶対に悪くないし(だだ甘)

 【完全なる形】の発動。しかし、それには問題がある。

 

『でも、僕の【完全なる形】はマスターにしか使えないよ』

 

 そう、今の【完全なる形】はこの身体にしか作用しない。これでは吹寄を回復させることなどできはしない。

 

 ──それが、本当にこの身体だけならば。

 

「(いや、それは正しくは違うだろ?正確には俺という異物のせいで他の人間や動物相手に、能力を通す経路(パス)を繋ぐことができないんだ。なら、その経路さえできてしまえば、【完全なる形】は他者にも行使することができるんだ)」

 

 その根拠は約三週間前の御使堕し(エンゼルフォール)と、初めてこの身体に宿ったときの神裂との戦闘にある。

 仮に、もし俺の身体にしか能力を使うことができないのなら、大地に魔力を通して武器を生成することなど不可能なのだ。

 何故これができるかというと、いくら異世界であろうとも大地そのものが変わっている訳ではないため、この身体であってもエルキドゥと大地の親和性で能力の発動が可能というわけだ。

 

 言ってしまえば、今のエルキドゥは滝から水を浴びるために、ダムを作りそこから水を汲み上げて、水から浴びているというかなり迂遠(うえん)な方法を取っている。

 

 見た目だけでは特に変わっている様子は無いけど、実際はエルキドゥの配慮に成り立っている。

 というのも当たり前の話で、もしエルキドゥが生前の力と同じ方法で力をしていれば、インデックスがとっくの昔にエルキドゥの存在を気付いている。

 なんとか気付かれずにいられるのは、エルキドゥが俺の身体に気を付けて『無理の無い範囲内で力を大地から得ているから』という、理由があるのだ。

 

 そして、他のことは身体の負荷を鑑みて力を十全に出せないのに、【完全なる形】での回復だけ異常に速いのは、これも俺の身体とエルキドゥが親和性が高いがため。

 それこそ、FGOのマシュ=キリエライトのように共通点が無いデミサーヴァントだとしたら、【完全なる形】の力もうまく作用しなかっただろう。

 

 他の生物相手では『親和性』という方法から治すことは当然できなくなる。あくまでも大地からの力で回復力を得ているエルキドゥは、他者の回復は副産物でしかないのだ。

 それこそ、この身体でしようとしてもうまくスキルを引き出すことはできないし、強引に行えば俺の魂が壊れてしまう。だからこその八方塞がりなのだが、俺自身がその経路を作りエルキドゥに提供すればそれも可能となる。

 

経路(パス)をどうするかというと、そこで俺の特典である劣化模倣を使う。

 劣化模倣の回復領域(ヒーリングドメイン)を使えば、『相手を回復させるために相手の肉体に干渉する』っていう、【完全なる形】と類似した経路になるはずだ。

 そして、あとの問題が回復領域は回復させようとすると自然治癒力が必要になるから、体力を大幅に食うことになるってこと。

 でも、回復させることじゃなくてただ単純に経路を繋ぐことが目的なら、自然治癒力を無理矢理上げる必要は無い。それこそ擦り傷なんかを1/100秒程度の回復にすれば、体力の消耗なんて微塵も感じ取ることができないだろうからな)」

 

 俺の回復領域は相手の自然治癒力を底上げして、無理矢理外傷を治す能力だ。実はそのスピードは俺の自由なのである。

 まあ、それこそ傷を完璧に塞ぐまで能力を解くことができなかったら、既に何人かは俺の能力でお陀仏になっていることだろう(主に上条)

 そんなわけで今回は回復領域を回復させる目的ではなく、エルキドゥのスキル【完全なる形】を相手に干渉させるための、経路として活用するというわけだ。

 

『ふむ、なるほど。確かにそれならなんとかなるかもしれないね』

 

「(よし!俺は吹寄の通常の状態を頭と身体に覚えさせるから、時間が来たら呼んでくれ)」

 

 それから、吹寄制理が倒れるまでオリ主は一人で、誰にも気付かれない作業を黙々とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、先程の工程を踏むことで吹寄制理の生命力は安定し、熱中症の症状も軽いものへとなった。病院に着く頃には疲労で眠ることはあっても、症状のせいで意識が飛ぶということはないだろう。

 全てを工程は驚くべきことに何一つ問題無く綺麗に進み、無事に大成功を納めたのだった。

 

 

 ──それこそ、気持ち悪い程に。

 

 

『マスターも僕も初めてにもかかわらず、全てが想定通り行くなんて余りにも僕たちに都合が良すぎる』

 

 今回の試みは言ってしまえば、医者が初めて使う器具で初めて見る手術方法を、全て何のミスもなく完璧に実行し成功させたようなものだ。

 

『マスターからもしもの時は、自分の魂がどうなってもいいから彼女を回復させて欲しいと、あらかじめ言われてはいたけどマスターはそんなことは絶対に無いとどこかで確信をしていた』

 

 自らのマスターのことを思いながら、その使い魔のサーヴァントはマスターに念話もせずに一人で考えていた。今回のことはそれほどまでに色々と逸脱したものだったのだ。

 

『マスターは楽観視をしながらもリスクには敏感だ。それこそ、自分の身体ならまだしも、他人の身体で「できそうだからやる」というのはマスターらしくない。

 それこそ、他に方法が無いような状況ならともかく、自分の都合で誰かの命に関わるような方法を取るとは思えない』

 

 いつもとは違う自らのマスターの行動と思考にエルキドゥは疑問を抱く。そして同時に、同じ身体を共有しているから気付いた事実へ思い至る。

 

 

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 身体を共有する上でエルキドゥはこの身体の構造を当然把握済みだ。それにもかかわらず、全く知りもしない得体の知れない力が加わっていたのだ。

 もし、魔術ならば今の状態では全てを弾くことはできないが、されれば気付くこと程度はエルキドゥも分かる。しかし、今回はその兆候に気付くこともできず、今考えてようやく発覚するほど自然に上乗せされていた力。

 

『…………まさか』

 

 祝福とも言わんばかりの力に思考を誘導し固めるやり方はエルキドゥは身に覚えがあった。それこそ、エルキドゥが活動していた神代の頃には珍しくもない話だ。

 そして、自らの主人に試練を与え祝福を授ける存在を、エルキドゥは主人の記憶と言葉から知っている。

 そして、何よりもエルキドゥはそれを実体験としてそれを知っていた。必然的にエルキドゥは今回の首謀者に辿り着く。

 

 

 

 

 

 

 ──君の仕業かい?異界の神よ

 

 




申し訳ありませんがまたしばらく書けなくなるかもしれません。時間が空いたら書こうと思いますので、楽しみにしてもらえると嬉しいです


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大覇星祭編『下』
108.二日目


大覇星祭編の本番です

後半付け足しました


 その後の結末は原作通り、上条と土御門とステイルの三人でオリアナを撃退したそうだ。俺は吹寄の治療のため付きっきりということとなり、無事メンバーから離脱。全てが想定通りの結末を迎えたのだった。

 

 

 

 そして、激しい戦闘の後に訪れた平和の時間────など、当然訪れる訳もなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大覇星祭二日目。

 今後の展開を見越して上条と行動を一緒にしようと画策していると、いきなりみさきちに呼び出しをくらった。

 

「ミサカネットワークを手に入れようとしている木原幻生を、とっ捕まえるのを手伝って欲しいんだゾ☆」

 

 そんな急すぎる内容を聞かされた挙げ句、場所を移動し俺はみさきちが所有するリムジンに乗っているのである。そして、その張本人は現在ここにはいない。

 

『貴方が天野(あまの)俱佐利(くさり)さんですカ。私はカイツ=ノックレーベンという者でス。おそらく短い間でしょうがよろしくお願いしますネ』

 

「うん、よろしくね」

 

 そんなリムジンの中で俺はみさきちに渡された携帯から、天井(あまい)亜雄(あお)絶対能力進化計画(レベル6シフト)計画の全責任を押し付けた、カイツ=ノックレーベンと初めましての挨拶をしていた。

 

 ……なんでさ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大覇星祭の事件として、使徒十字(クローチェディピエトロ)と雷神御坂がある。使徒十字は昨日の時点で解決し、二日目の雷神御坂の事件を解決すれば、大覇星祭での事件はなくなると言ってもいいだろう。

 そのため、オリ主は事件の終息を優先し(雷神御坂VS上条&削板が見たいという欲望あり)またしても事件に介入しようと考えた。そして、『とある科学の超電磁砲』の漫画を買っていたこともあり、大体の話の流れを知っていたため、今回は最終場面に登場し上条と共に解決しようと目論んでいた。

 

 しかし、現実は非情である。

 

「(……なーんで、よりにもよって俺を誘っちゃうの?いや、分かるよ?そりゃあ、こんな暗部どっぷりの問題に派閥の子達を介入させるのは駄目だし、弱い能力者だと幻生相手じゃ逆に足手まといもいいとこなんだけどさ。

 それにしたって、俺をあの妖怪ジジイと会わせるかね普通。ぶっちゃけあんな何をしてくるか分かったもんじゃない、マッドサイエンティストとこれ以上関わり合いたくないんですけど?)」

 

 表情や態度には出ないがオリ主のテンションはがた落ちであった。

 

「(……ゲテモノ科学を生み出す筆頭のイカレた一族である木原の中でも、さらに頭のネジが五本や十本抜けている妖怪ジジイの幻生が、相手とかマジで最悪もいいところだわ。

 それこそ、雷神御坂と戦う方が全然マシ。あー、あの脳筋サイドでお祭りしてー)」

 

 

 ※アニメで分かる通りそんな生易しいものでは断じてない。

 

 

「(幻生なんて仮に圧倒して捩じ伏せても、『ヒョヒョヒョヒョッ!』とか変な奇声上げて立ち上がってくるに決まってるんだよなー。

 それどころか、データを観測したいとか分析したいとかそんな理由で、暗部の兵器の二つや三つ呼び出すとか平気でしそう……。

 そもそも、幻生がファイブオーバーの一つも用意しなかったのは、心理掌握(メンタルアウト)を手に入れるには、殺さずに無力化しないといけないっていうのと、みさきち一人なら圧倒できると確信していたからだと思うから、下手に俺が介入しちゃうとあの妖怪が無駄にハッスルすると思うんだよなぁ……)」

 

 より安全を求めて武力を用意すれば、相手も同じ様に武力を用意するのは至極当然。ならば、危険だとしても食蜂(しょくほう)操祈(みさき)を一人にする方が、反って被害を抑えることになるのだ。

 

「(だから、上条と一緒に事件へ介入しようとしたのに……。というか、みさきちの好感度そんなに上がってたの?嬉しくはあるけど今回ばかりは誘って欲しくはなかったなぁ……)」

 

 カイツ=ノックレーベンとの挨拶が終わったため、あとの事に対して考える時間ができたオリ主は、ひたすらネガティブになっていた。いいとこ取りをしようとした罰である。

 

 そんなことを考えていると、オリ主を呼んだ張本人である食蜂操祈が再びリムジンに戻ってきた。そして、その隣に居る人物の顔を見て「え?これヤバくね?」と自分の置かれた状況に冷や汗を流す。

 オリ主はそんな形容しがたい居心地の悪さを抱きつつ、目の前に新たに現れた彼女に向かって言葉を発した。

 

「やあ、この頃よく会うね」

 

「天野さん!?」

 

 そこにいたのは予想通りの人物、食蜂操祈と並ぶ常盤台中学が誇る超能力者(レベル5)であり、電気系能力者(エアクトロマスター)最強の能力者。

 常盤台のエース御坂(みさか)美琴(みこと)が、驚愕の表情をしてオリ主の目の前に現れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──それで?いい加減説明してくれるんでしょうね?」

 

 目の前でミコっちゃんがぶちキレている。

 いや、本当にキレているなら電気がバチバチに出ているだろうから、これでもかなり押さえているのだろう。

 

「もちろんよぉ。そもそも、そのためにこうして話せる場を作ったんだし、こっちもこっちで時間が惜しいのよ。車で移動しながらちゃんと御坂さんにも理解できるように説明してあげるわぁ」

 

 ……何でそんなに喧嘩腰なんですかねこの二人は(呆れ)

 いやね?ミコっちゃんは婚后(こんごう)さんや佐天さんが巻き込まれたっぽいから分かるけど、みさきちはもっとやんわりとした感じで言った方がよくない?

 精神系最強なら当然ミコっちゃんの神経逆撫でするって分かってるよね?どんだけ気に入らないんだよ……。

 まあ、自分がしていたことをなぞるように、上条を相手にして同じ様なことされちゃあムカつくのも分かるけどさ。もうちょい穏便な方がいいなぁって思ったりしてね?(必死)

 はぁ……、ストレスで胃に穴が空きそうだわぁ……。

 

『大丈夫だよマスター。その程度の傷なら僕が修復しよう』

 

 違う。違うんだエルキドゥ。

 気持ちは嬉しいけどそうじゃない。そんな穴が空くことを前提に話をしないで欲しいんだ。身体に穴なんて空かない方がいいに決まってるしさ。

 

 そんなこんなで話は進み、ミサカネットワークのことや婚后さんの話を聞いて、取っ組み合いになりかけたり(何がとは言わないけど眼福でした)と、ちょっとした騒動があったもののリムジンは木原幻生の隠れ家へと迫っていく。

 

 ……やぶ蛇になるかもと聞いていなかったけど、逆に後回しにしておくと面倒臭いフラグになりかねないと思い至る。だから、ずっと気になっていたことを聞くことにした。

 

「君はどうして僕がここに居るのか聞かないのかい?」

 

 そう言うと、ミコっちゃんは何でもないように言葉を返した。

 

「そりゃあ、最初は何でここに居るのか疑問に思いましたけど、暗部の問題に天野さんが関わっているのを見るのは、これが初めてじゃないですし、あれだけ助けて貰ってれば誰だって敵だとは思わないですよ。

 それこそ、食蜂に操られている可能性もありますけど、いざとなればそこに居る食蜂に電流を流して止めさせるだけですから」

 

「あらぁ?御坂さん天野さんに(かつ)てコテンパンにされちゃったの忘れたのかしらぁ?そんな根拠もない余裕(りょく)を持っていると、また天野さんの手練手管で簡単にやられちゃうわよぉ?」

 

「な・ん・で、天野さんじゃなくてあんたが威張ってんのよ!つーか、あんたあの戦闘どこから見てたッ!?」

 

「直接見なくても戦闘があった場所の近くに転がってる石から情報を入手して、そのとき起きた出来事を再生すれば何をやっていたのかは簡単に分かるんだゾ☆

 私の心理掌握をただ記憶や認識を弄る程度の物だと勘違いしているなら心外だわぁ」

 

 君達ちょっと喧嘩腰過ぎない?(困惑)

 俺のターンだったはずなのに二人のいつものやり取りですぐに流されちゃったんだけど……。

 俺のモブ感がスゴくね?俺って本当に要るのかな?(遠い目)

 

「天野さんがここに居るのは幻生対策よ。今回幻生が手を出そうとしているのはミサカネットワーク関連。あの木原と高度な演算装置であるミサカネットワークの相性なんて(ろく)なことにならないわぁ。

 万が一にも私が出し抜かれるなんてことがあれば、既にチェックメイトなんてことにもなりかねない。万全に期すための必要な人材力よぉ。

 まあ、脳筋の御坂さんが乱入してくるって知っていたら、わざわざ天野さんにお手数をかけることもなかったんだけど。脳筋の御坂さんと違って天野さんなら暗躍の一つや二つはお手の物だし?」

 

「ほお~?この私を脳筋呼ばわりとはいい度胸ね。電子機器を自由に操る私の能力なら潜入なんて楽勝なんだけど、そこのところちゃんと理解できてるわけ?」

 

「分かってないみたいだから教えてあげるけど、木原一族は思考回路は狂っていても正真正銘、科学のスペシャリスト。あなたが戦ったテレスティーナ=木原=ライフラインは、木原の中では下の部類よぉ。

 彼女のインスピレーションは確かに木原特有の天才的なものだけど、やってたことは木原幻生の実験の延長線上に過ぎないし、超能力者(レベル5)の工学化なんて学園都市ならそう珍しい話でもないわぁ。

 それに対して木原幻生は、まさに木原の権化と呼ぶにふさわしいほどに狂ってる。あの爺さんは自分の好奇心を満たすためならどんなこともやるわ。絶対能力進化計画の主導者もそうだし、暗闇の五月計画もそう。

 科学の重鎮だからやりたい放題。今もどんな狂った実験をしているか予想もつかないわぁ」

 

 うーん、話をこうして聞くだけでも木原はクソ。木原一族は「被験者を壊さないと木原じゃない」みたいな、イカレた思想があるようだったし、まともなのって木原加群とかぐらいじゃない?

 噂で聞く木原那由多も風紀委員(ジャッジメント)らしいけど、なんかヤバイ奴みたいだし。

 

「(木原特攻の一方通行(アクセラレータ)が俺の代わりに事件解決してくれねえかなぁ……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……まさか、こういう展開になるなんてねぇ……)」

 

 私、食蜂操祈は御坂美琴という戦力を手に入れたにも拘わらず、浮かない顔をしていた。敵の凶悪さを知るなら本来なら得をしたと喜ぶべきではあるのだが、

 

「(直接的な戦闘員は天野さんが居るから、ハッキリ言って御坂さんって要らないのよねぇ。

 天野さんは私の能力を実際に使ったことがあるから、心理掌握の得手不得手もある程度は把握してるし、今までの付き合いからお互い息も合わせやすい。そして、暗部の手合いと戦うことも天野さんは御坂さんよりかは経験が多いわぁ。

 その上、天野さんの能力は直接的な戦闘はもちろんだけど、手札の多さから対策をすること自体がかなり難しい。御坂さんと天野さんでは対策をする項目が文字通り桁が違うんだからねぇ。

 幻生を相手にするならそのアドバンテージは、超能力者(レベル5)の火力よりも遥かに貴重なものになるわ)」

 

 仮に超能力者(レベル5)達と天野倶佐利が戦うとするなら、出力の違いからそのまま押し潰されるだろう。

 それこそ、類いまれな身体能力と正確な状況判断能力、コピーした能力の的確な使い分けなど、彼女の技術を使えば勝てる場合もあるだろうが、チート染みた能力を持つ第一位や第二位には、勝つことは不可能なはずだ。

 

 

 しかし、それは相手が超能力者(レベル5)の場合の話。

 

 

 相手が超能力者(レベル5)でなければ、彼女の力は無類の強さを誇る。

 

「(いくら幻生が学園都市のゲテモノ兵器を持ってきても、天野さんなら状況に応じていくらでも切り替えが可能。御坂さんには電気系の能力者対策を施した兵器を用意すればいいけど、天野さんにその方法は通用しないから、木原にとっては相性が最悪と言ってもいい相手。

 だからこそ、人間に関しては私が担当して、それ以外は天野さんが請け負うことで無敵の布陣になるはずだったのに。はぁ……、本当にいろいろ気が利かない残念な人ねぇ、御坂さんって)」

 

 完璧だったバランスが崩れることの要因ができてしまい、間違いなく作戦の成功率が以前よりも落ちている。全てが終わるまでそっとしておいてくれたらよかったのに。

 

「(まあ、例え死んでも心が痛まない駒が増えたと考えれば、一応プラスと考えてもいいかもしれないけどぉ。せいぜい私達の邪魔だけはしないでもらいたいわねぇ)」

 

 それぞれの策謀が渦巻く中、木原幻生の隠れ家へ突入が決行される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──その一分前。

 

「ぜえ……はあ……、何一人で盛り上がってるのよぉ……。私が、教えたんだから……私に……足並みを合わせるのは、当然でしょぉ……?」

 

「…………えぇ……」

 

 敵地に乗り込む前に既に疲労困憊なみさきちを見て、ドン引きなミコっちゃんがそこには居た。何故こういう状況になったのかはもう見たまんまなのだが、幻生の隠れ家に向かうまでの十数メートルでみさきちが体力を使い果たしたのである。

 

「……アンタ、前から何で体育の授業に出ないのかと思ってたけど運痴だったのね」

 

「は、はあ!?はああああ!?だだだだ誰が運動音痴なのよッ!?御坂さんが馬鹿みたいに全力で走っただけでしょう!?」

 

「いや、ただの駆け足なんだけど」

 

「…………」

 

 あっ、黙っちゃった。

 しかし、すぐに立ち直った彼女は胸を張って得意気な顔をする。

 

「まあ、私は御坂さんと違って一部分の質量が大きいからぁ、身体を動かすにあたって不便(りょく)が働くってだけだしぃ?持っている人間っていろいろと大変よねぇ?」

 

「おい、貴様。それは私に対して喧嘩を吹っ掛けてるのか?いいわよ。言い値で買って上げるわ。その胸に付いた脂肪を私の電流で蒸発させてあげる」

 

「あらあらぁ?私は一言もバストの事なんて言ってないんだゾ☆もしかして、自分の胸にコンプレックスを感じているのかしらぁ?まあ、自己主張力が性格と裏腹に、そんな控えめなら当然かもしれないわねぇ?」

 

「ッ!言わせておけば将来自分が横にブクブクに太るって分からないかしら、このキンキラ女ッ!!」

 

「ちょっと待ちなさい!それ誰から聞いたのッ!?さっさと言いなさいよこのビリビリ女ッ!!」

 

 わーわーぎゃーぎゃー、とそこから言い合いになった。

 ……君達ここが敵地の目の前って知らないの?いや、まあ、ここに幻生はいないんだけどさ(ネタバレ)

 だからこそ、そんな二人に親戚のオバサンみたいな温かい目で見ていると、二人が俺の視線に気付いたようで、頬を赤らめながら咳払いをして仕切り直した。

 

「ごほんっ……無駄話はここまでよ。それじゃあ、さっさとその木原幻生っていう奴を捕まえるけど、足を引っ張るんじゃないわよ」

 

「それはこっちのセリフだゾ☆邪魔だと判断したら躊躇なく見捨てるからそのつもりで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなぐだぐだな感じでミコっちゃんが最初に乗り込んだあと、残ったみさきちに気になっていたことを尋ねてみる。

 

「どうして僕に担がせなかったんだい?君一人を運ぶくらいなんてことないのは君もよく知っているだろう?」

 

 そう聞くとみさきちが答える。

 

「本当は私もそうして欲しかったんだけどぉ、今回天野さんを巻き込んだのは私なのは間違いないわぁ。例え、天野さんが私に言われなくても騒動に首を突っ込むお人好しだとしてもねぇ」

 

「(…………いや、実はバックレようとしてました……)」

 

 みさきちにぶん投げようとしていたとか言えないなぁ(遠い目)

 そんな俺の内心に気付かず、みさきちは喋り続ける。

 

「その私が天野さんをタクシー代わりに使えばどうなるかなんて明白よぉ。事情を知ってる上条さんには間違いなく良い顔はされないし、御坂さんに至っては知られた時点で言い返せないわぁ。

 それこそ、御坂さんに自分の先輩にまで敬意を示さない、礼儀知らずなんて思われるのは癪でしょう?

 私も自分自身を大概だとは思ってはいるけど、私にもポリシーがあるの。勘違いだとしてもその部分で見下されるのは我慢ならないのよぉ。

 下らないかもしれないけどその一線は絶対に譲らない。特に相手が御坂さんだと尚更ねぇ」

 

 なんかよく分からないが自分ルール的な奴なのだろう。原作でも「洗脳した人間に責任を持つ」とかあったけど、その項目の一つに新しく俺が入ると全く分からん。

 だって原作に俺が居ないもん。

 

「(……とか言ってるけど、単純に天野さんを派閥の子達みたいな分類で見られるのがイヤだっただけなのよねぇ。

 あの子達はあれで納得して私に付いてきてくれるけど、そもそも天野さんはそういう関係性じゃないし。どっちかと言うと御坂さんに天野さんが私の下に付いているって認識させるのがムカついたってだけの話なのよねぇ。

 あくまで天野さんと私の関係性は対等。それを認識させるのは合理性や効率よりも優先するべきことだった、それだけ。まあ、絶対に御坂さんにも天野さんにも教えないけど)」

 

 ふーっ、と息を吐いたみさきちが、こっちに振り向いて宣言する。

 

「先に防衛網を御坂さんに制圧されて、得意気な顔をされるのも気に入らないし、心理掌握で洗脳する私を天野さんがサポートする無敵のコンビで、パパッと制圧しちゃいましょう☆」

 

 そんな感じでミコっちゃんに続くように、女の子二人(一人はTS女子)は黒幕のアジトに乗り込むのであった。



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109.突然の回想

昔のを手直ししただけなので割りとすぐにできました。
まさか100話もかかるとは。
最初期から見てくれている人はお久し振りの話です。


 これは今から十年以上前の出来事。

 とある青年がこの世界で意識を取り戻すところまで遡る。

 

「(……う、ううん、なんか変な夢を見たな)」

 

 とはいえ、神が用意したであろう『無』しかない異質な空間よりは、遥かに親近感を抱く場所ではあったが。

 

「(……いや、そもそも、あれ自体が夢だろ。死んで転生なんて常識的に考えてもあり得ない。やたらと身体に感じる感覚に現実味があったから、一瞬勘違いしてしまった)」

 

 そんな自分の隠れた転生願望に気付き赤面する。まさか、そんなものがあるとは考えてもいなかったのだ。そして反射的に頭に手を当ててしまうが、その瞬間に違和感を抱いた。

 

「(あれ?俺ってこんなに髪艶良かったっけ?なんかキューティクル効きすぎじゃ……ってなんだこれ!?)」

 

 そして、遅れて自分の髪質の変化に留まらず、長さ、色などが元の黒色からかけ離れた異質な物に変化していることに気付いた。

 

「(み、緑……?前日していたコスプレのかつらだっけ……?いや、俺がしていた格好は上条当麻だ。こんなかつらはしてない。じゃあ、これは?)」

 

 朝起きたら髪がアニメの色のようになっていたら誰でも驚く。彼も例外ではなく言葉を失っていると、更に追い討ちをかけるようにあることに気付き驚愕する。

 

「(デ、デカイ!?なんだこの部屋ッ!?部屋の大きさも物も異様にデカ過ぎる!!その前にどこだここ!?俺の部屋とは全然違うぞ!?)」

 

 拉致などが考えられるが、それにしては余りにも費用がかかっており採算が取れていない。元々はアミューズメントパークだったとしても、これほど大掛かりな設備があるのなら、ニュースやバラエティーで取り上げられないなんてことがあるだろうか?

 相手の思惑はどうであれ想定していない不可思議な事態に巻き込まれ、彼の思考能力はパニックで全く働かなくなっていた。

 

 そんな彼だったが驚愕の事実はまだ終わらない。

 

「(……いや、なんだよこの手足は!?もしかして子供……かッ!?嘘だろ!?何がどうなってるんだ!?)」

 

 目が覚めると知らない場所に常識から逸脱した物。そして、様変わりした自らの身体。こんな現象、名探偵コナ●でしか見たことがない。

 

「(どうなっているんだ……?現実でアポトキシン4869が開発されたとでも?いや、だったとしても俺なんかに使うわけが……)」

 

 混乱の極致に居る彼だったが、自分の姿の特徴からハッとあることに思い至る。

 

「(待てよ……この姿にこの風景……。まるで夢の中であったことの地続きみたいな……)」

 

 そんな馬鹿な。と思うが、その疑念が脳裏から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼がエルキドゥを知ったのは死ぬ日で見た友人のコスプレである。コミケでコスプレするという約束でいざ当日会ってみると、その友人がエルキドゥの格好をして参加していたのだ。

 友人曰く、「Unlimited Blade Works を見てるなら、FGOのエルキドゥも知っていると思ってた」とかいう、偏見甚だしいセリフを吐かれたのである。

 

 嘗て友人のコスプレを見たときは思いもしなかった姿だ。コスプレとして大の大人が子供キャラの衣装を、着ることがないわけではない。コスプレとはその人が着たいものを着るのが正しい。

 

「(……とはいえ、二十歳になった一八〇センチある成人の男がそのチョイスだとは思わないだろぉ……)」

 

 予想外も予想外。やたらと様になっていたから勘違いをしてしまっていたのだ。

 

「(……確信が欲しいから姿見があるといいんだけど、そんな便利なものはさすがに無いか。子供がいちいち鏡を見るなんてケースは少ないだろうし)」

 

 身体の大きさからしておそらく幼稚園児ぐらいだろう。そんな子供が見てくれなど気にする方がどうにかしている。そのため、部屋を出るべきかどうか検討していると、その扉から明らかに部屋着ではない女性が現れた。

 

「(誰だこの人?)」

 

 疑問と共にその人の格好を見れば、メイド服を着ていた。しかも、メイド喫茶みたいなフリフリなやつではない、ガチのやつだ。確かヴィクトリアンだかの服だった気がする。

 そのガチメイドさんが俺に向けて言葉を発した。

 

「おはようございますお嬢様。朝食の準備はできています」

 

「(………………は?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、一ヶ月の時が経ち、その間で俺はあることに気付いた。そう、この身体になってからまともにしゃべることができなくなっていたのだ。

 初めはそれは驚いたが、試しに友人のコスプレでしゃべっていたエルキドゥの話し方をすれば、口から言葉を発することはできることを知ってからは、慣れないしゃべり方に四苦八苦しながらも生活することができた。

 まあ、生活といっても家政婦さんと話す程度でしかないが。……母親や父親と会うことはできていない。海外赴任という可能性はあるが俺がこの身体に宿る前にどうやら

 敬語が使えないのは痛いが、『とある』の世界ならば敬語使えないキャラはそんなに珍しくもないのでは?とも思う。

 

 それにしても、いやー、辛かった。ふとしたときに、つい地が出てしまい、いきなり眼と口と顔の表情筋が死ぬのである。この度に、使用人が怯えてしまいとっっても心苦しかった。

 別に怒ってないんだよ。表情筋が俺の管理下から勝手に外れるだけなんだ……。

 

「(あー……それと、まあ、何ていうか……実は初日で気付いていたことなんdガチャ「惧佐利(くさり)お嬢様、そろそろお時間ですよ」…………。

 

 

 

 そうなんだよ。俺、実は女の子のお嬢様になってるんだよね。

 

 

 

 そんな属性もりもりの俺の今の名前は、天野(あまの)惧佐利(くさり)と言うらしい。名前の由来は見たまんまだ。名前の付け方がまるでヒロアカの世界である。

 そんなわけで自分のことを理解できた俺が思うことがある。

 

 それは、原作に介入しない方針で行こう、ということだ。

 

 本来なら、原作のキャラと会って話をしたいのは山々ではある。それはもう本当に。だが、一番恐ろしいのは原作ブレイクなのだ。俺のせいで原作が崩壊しては俺に待っているのは死だ。

 上条のギリギリで命を繋いでいる感じは、原作を読んでいる読者なら全員が共感してくれるだろう。

 一回死んでいるとしても前世は苦痛どころか、死んだ認識すらできずにポックリ逝ったらしいため、当然死に慣れているなどはあり得ない。俺からすればいつの間にか死亡童貞を失った、という話でしかない。怖いものは怖いのだ。

 まあ、本来なら初めてが最後になるのが普通ではあるのだが、こうしてよく分からん状態ではあるが二度目の生を得ている以上は、結構生きたいというのが本音である。

 それに、確か新訳で学園都市から離れた日本で、上条や()()達が暴れるという話があったはずだ。偶然にかけるしかないがこれで遠目から見るという方法もある。

 

「(まあ、グレムリンの攻撃に巻き込まれないといけないっていう、超危険な状況と背中合わせになるけど。それに、こっちの方が可能性は低いだろうけど神里と会うかもしれないしな。

 このサーヴァント身体と前世持ちっていう、地雷ふんだんの女なら上里の右手の性質が引き寄せる可能性もある)」

 

 上里翔流が上条当麻と邂逅するのは新訳のおよそ中盤だ。それまで雌伏の時を過ごせば、上条勢力もそれなりの関係性を築くことができるだろう。それからなら、介入しても大幅に原作が変化する隙はもうないと言ってもいい。

 そこから学園都市のメンバーと出会うのもありではある。

 

「(……まあ、上里ハーレムの中にはもう原石のキャラがいるから、多様性から見て無視される可能性が高くはあるけどさ。うーん、それはそれとして、上里の側に居たくねえんだよなぁ……。

 まあ、あの厄介女製造機のせいで、いつのまにか『上里が一番カッコイイ!』みたいに俺がなったら最悪過ぎる)」

 

 上条と上里の違いは簡単である。

 端的に言ってしまうと、上条は『ラノベ主人公』で、上里は『なろう主人公』なのだ。

 上条はヒロイン達と天然でイチャイチャしながら、敵とは命懸けの戦いをする系の主人公で、上里は上里でなろうでよくあるチート能力+自分の置かれている状況に不満を持っている悲劇の主人公、と言った具合だろう。

 新訳で上里が多くの読者から嫌われている理由は、『なろう主人公』の悪い側面が描写されていたからではないだろうか?

 だからこそ、その置かれた状況であり背景を知ることで、上里が嫌いではなくなったという人も多いはず。

 

 要するに、『なろう主人公』特有の試すような上から目線の行動で、「ときめいて好きになりました」みたいな洗脳されるくらいなら、死んだ方がまだマシという話なのだ。

 

 

「(まあ、もったいないけど適当に学園都市の外で過ごして生きますかね)」

 

 

 

 

 

 ちなみに、上条を『ジャンプの主人公』ではなくラノベ主人公としたのは、削板軍覇というハチャメチャな奴が存在するためである(+ハーレムという存在がいない点も挙げられる)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、さらに一年後。

 俺は家から出て俺はバスの停留所に向かっている。家から出たのは転生してから初めてのことだった。まあ、幼稚園児の子供を連れ回すのは金持ちの家では余り無いことなのだろう。

 

「(誘拐のリスクとかあるからしょうがないとはいえ、外を知らないからここが一体何県なのかすら分からん。まあ、飯とベッドがあるから大して気にしてもなかったけど)」

 

 そんなぐうたらできる天国を満喫した俺は、こんな小さい子供をバスに乗せれば騒ぎ出す可能性もあるのに、よく乗らせるな他人事のように思う。

 子供の躾ができていないなんてことを噂されるのはイメージとしてどうなのだろうか?

 

「(まあ、俺は必要最低限の言葉しか言わないから、そんな心配もないっちゃないか)」

 

 そんなわけで、この金持ちの家の外聞を汚すことも無いというわけなのだろう。信頼というか生態を把握されたと言った方がいいのかもしれない。

 それを理解してバスに乗ると、なんかメイドが『行ってらっしゃいませお嬢様』と言ってバスを見送った。

 

 

「(……いや、アンタ乗ってこないの!?)」

 

 

 まさに、驚天動地。予想外過ぎた。

 この身体になってから驚いてばっかりである。そんな状態だったためにバスが動き出したことを数秒後に知り、バスを止めるための行動すらできなくなったのであった。

 

「(あーもう、どうでもいいや。どうせ、幼稚園かなんかだろ)」

 

 子供をバスで送るといえばそれぐらいしか思い付かない。説明が無いのは気になったが、それこそこの身体に宿る前に説明していたのなら分からなくもないことだ。

 

「(……あれ?それにしてはどうして保護者同伴じゃないんだ?)」

 

 気にはなったが周りの子供も似たようなもののため、勝手に納得して考えるのを止めた。

 

 ───ああ、この時もう少し考えていれば……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポーンと軽快な音と共にハキハキとした元気な声が、手元にあるマイクから車内全てに通るかのように発せられた。

 

「はーい!皆さんここがどこだか分かりますかー?」

 

「「「がくえんとしー!!」」」

 

 近未来的な学園都市の街並みをスクールバスが子供達を乗せてどんどん進む。その途中で目的地につくまでの間、子供達を楽しませるよえにバスガイドが学園都市についての説明をしていた。

 そんな、バスガイドが子供達の好奇心を煽っているのを横目に、緑色の長い髪を膝元まで伸ばしている死んだ眼をしている子供がいた。

 

 

 

 というか、俺であった。

 




次はあの妖怪の話です
そもそも今回はその前フリだったり


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110.回想の終わりと現実

速く投稿できたのはこれも過去に投稿したものを直したものだからです。
そんなわけで110話です


 学園都市のスクールバスによる送迎で、子供達が連れてこられたのは、超能力を宿すための特殊な施設であった。ここが能力者になるためのまさに第一歩目と言っても過言ではないのだ。

 それぞれがこれから超能力を会得することを想像して、将来に胸を踊らせていることは元気いっぱいな顔を見れば一目瞭然だろう。

 

 そんな中で一人だけ不自然な子供がいた。いや、正確にはその子供と老人が纏う雰囲気が余りにも異常であったと言うべきだろうか。。

 

「ひょっ、ひょっ、ひょっ、ひょっ」

 

「…………」

 

 周囲に居た子供達のいる空間から離れた場所で向かい合う、大きな痣が頭にあるお爺さんが、実に楽しそうな独特の笑い方をしながら、死んだ眼をしている子供を見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数分後。

 能力開発の始まりを受けた少年少女達は、学園都市の街並みを観光するバスへ再び乗ることになった。その中で一人の少女だけ雰囲気が周りとは違った。

 その少女が何を考えているのというと──

 

「(ぷっはぁっっっっ!!!!あ、危ねぇ!もう少しであのジジィの懐に連れて行かれるところだった!テンパって爺さん相手に男性恐怖症なんて言っちまったときには終わったかと思ったわ!!)」

 

 緊張状態から解放された彼は安堵の息を人知れず付いていたのだ。あの科学者相手に弱味を見せることは、自ら断頭台へ足を進めることだと理解しているためである。

 

「(なんで学園都市にいる科学者の重鎮がこんな場所に居るんだよ!木原とか死神そのものだし。よりにもよってその中でも一番のイカレ科学者に目を付けられるなんて不幸過ぎる!)」

 

 検査中に神から原石だと言われたことを思い出し、それを研究者の若い女に遠回しに言うと、やたらテンションが上がってはしゃいでいた。

 それを見て、その希少性を知っている俺からすれば『どうせモルモットとしか見てないんだろうなぁ』とかしか思えなかったが、そこに現れたのがあの悪名高きマッドサイエンティスト、木原幻生。

 マジで詰んだと思ったね。

 ビックリし過ぎて意識が軽く飛んでた。

 

「(……まあ、気絶まではいかなかったからすぐにリカバリーはしたけど……言い訳がジジィ見て男性恐怖症を発症しました、なんてわざとらしいにもほどがある。いくらお嬢様でもジジィに男性恐怖症はねえだろぉ……)」

 

 自分の発言が信じられない。あんなミス犯すなんてどうぞ殺して下さいと言ってるのと同義だ。

 

「(突然現れた木原幻生が俺を見掛けたと同時に、笑顔でやって来るとかマジでホラーでしかねえよ!なんで原作キャラ第一人目がお前なの!?予想できるか!!)」

 

 まさか、学園都市生活一日目でサイコジジィに俺をロックオンされるとか難易度調整狂ってやがる……。

 それにしても、最初あの場に幻生は居なかった。それなのに、どうして他の科学者よりもあのジジィがいの一番に来たんだ?あの反応からして俺が原石ってこと知らなかったはずなのに……。

 ……もしかして、原石の話を聞いて駆け付けてきたのか?この短い時間に……?

 

 

 化け物かあのジジィ……(驚愕)

 

 

 い、いや大丈夫。あの潔さから見るに大して興味持ってなかったはずだ。多分だけど削板軍覇がもう既に学園都市にいるから、原石自体大して珍しくなかったなんて場合もあるんじゃね?

 削板がいつから超能力者(レベル5)なのかは知らないが、ああいう性格で生きている以上、子供の頃から何かしらの片鱗はあったとみていい。それに比べれば俺なんか多少周りに比べて理路整然としゃべっている程度でしかない。

 それで話し方は子供離れしていたかもしれないが、木原ではよくある事だからそんな注目することの程でもない。あいつら生まれながらの化け物だから、幼稚園児で大学で習う問題を感覚で解いてたりするだろうし。

 そんな化け物共から見たら、俺なんかちょっとマセたガキにしか見えないはず。しかも、エルキドゥの飄々とした口調だから幻生にしてみれば物足りなかっただろうし。

 それこそ、一方通行(アクセラレータ)なんかと比べればほぼ無個性みたいなもんさ。

 

 まあ、要するに幻生が俺にちょっかいをかけてくる可能性はかなり低いってことだ。

 

 

「(……あれ?ちょっと待てよ。もし削板が学園都市に居て俺より優秀な結果を残し続けると、俺の価値って『原石』ってだけだからモルモット行きなのでは?)」

 

 

 大量の汗が背中から流れる。あっ、これ俺死ぬんだぁ……。

 

「(い、いや!まだ俺の能力というか特典がどこまでの力があるかは分からんけど、特典っていうくらいだから並み以上の出力は出るはず!…………でも、二つの特典の融合とからしいから出力はもしかすると落ちてるのか?

 そうなると最悪低能力者(レベル1)異能力者(レベル2)って可能性あったり?

 いやいやいや、その程度の出力じゃホルマリン漬けじゃねえか!ヤベェよ!死ぬぅ!マジで死ぬッ!)」

 

 その事実に気付き一種の恐慌状態になるが、ふと同時にあることに気付く。

 

「(……あれ?待てよそれ以前に多重能力(デュアルスキル)と同じ事ができないか俺って?)」

 

 学園都市が実現不可能とされていた存在に、近しい能力者であると思い出す。ならば、そこから自らの価値を見出だすことも可能なのではないかと思う。

 

「(学園都市の理想の一つを体現できるなら命を脅かされる心配は無いんじゃないか?たとえレベルが低かったとしても夢の一つであることには間違いない。

 なら、そこから安全圏を確保することもできるはずだ!研究結果なんかで科学者達を釣ることができれば…………ああいや、流石にそれだけで安心するのは馬鹿だな。いっそのこと多重能力に目が眩んでいる科学者共の隙をついて、より確実な安全圏を手に入れるべきだろ。

 木原が居る以上は俺は一生実験したいモルモット上位だろうから、下手な安全圏はただの狩り場になっちまうんだから。あのマッドサイエンティスト共から逃げるには安全を何十にも重ねて、絶対に干渉できないセーフティポイントを作らないと安心なんて永遠にできない。

 統括理事会なら親船か。でも、親船の影響力だけじゃかなり厳しい。ここは他の統括理事会にもちょっかいかけてみるか?)」

 

 本来なら実現不可能だろうが原作知識からの人間性の把握や、『原石』、『多重能力』といった自身の価値に対しての、適切な売り出し方を考えれば届かない目標ではないだろう。

 それなりの目処がたったところで息を吐いた。

 

「(あー、全くなんだよ驚かせやがって。まあ、そのお陰で身の振り方を理解できたから無駄じゃなかったけど。担当に付いた科学者を適当にいなしながら安全圏を確保するかー。

 全く、木原一族と一緒にさっさと退治されてしまえ妖怪ジジィめ)」

 

 

 

 

 

 それから、数日後。

 俺の能力開発の担当が木原幻生に決まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻生の隠れ家に突入した俺達は、難なく幻生の隠れ家を制圧し幻生を捕らえることに成功したのだった。

 

「(そういや、あのジジィと出会ったのは学園都市に来て最初だったなぁ。『とある科学の超電磁砲』を見てたときは面白いキャラって思ってたけど、リアルで接するとクソだわクソ。

 マジで外道でしかねえよこのジジィ。なーにが、『これだけコピーさせても人格崩壊の兆しが起こらないというのは予想外だねぇ。最低でも三回は起きてないとおかしいのに、天野くんは本当に不思議な女の子だよ』だ。

 馬鹿なのか!廃人にしようとすんなよ!こちとら世にも珍しい原石なのだがッ!?

 軽々しく人体実験してんじゃねえ!あーもう、これだから木原一族はよぉ……!)」

 

 内心で不満を爆発させていると、何かに気付いた食蜂が幻生に近付き顔を掴んだ。

 

「ち、ちょっと、アンタ何して……」

 

 戸惑うミコっちゃんを無視して、捕まえた幻生の顔面をいきなり掴んだみさきちが、そのまま顔を剥ぐように腕を引けばそこから現れたのは幻生とは似ても似つかない中年の男だった。

 

 

「幻生……じゃないッ!?」

 

 

 そんな彼女の悲鳴と共に明かされる事実に、その場に居るものは全員驚愕する。

 

「(まあ、知ってたけど)」

 

 原作通りの展開で安心しつつ、あのクソ妖怪爺の存在にとことんまで辟易する。

 

「(なんなら、さっさとくたばってくれないかなぁ。冗談とかじゃなく割りとマジで)」

 

 実はオリ主の好感度最低値を現在マークしているのは幻生だったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めましてお嬢さん。僕は学園都市で科学者をやっているんだ」

 

 まさか、こんな逸材に巡り会えるとは、たまには研究室から出てみるものだねぇ。

 

「(子供に能力開発話を実施する担当の子が、いやに興奮しているものだから話を聞けば、彼女は世にも珍しい『原石』のようだねぇ。世界で五十と無い検体が目の前にあるなら、興奮するのは科学者なら当然とも言える。

 そして、興奮が抑えられないのは僕としても同じこと。機具を一通り揃えて彼女のデータを録りたいよ)」

 

 抑えきれない知的好奇心が溢れそうになるが、そのためには色々と根回しをしなければならない。学園都市の闇を生き抜いてきた妖怪はその行程を怠ると、あとでしっぺ返し来ることを経験則として理解していたのだ。

 

「(その根回しはするとして……彼女は原石を抜きにしても面白いねぇ。あの年齢であそこまで聡いとは思わなかったよ)」

 

 僕の姿を見た瞬間、彼女の顔から表情が消えた。学園都市の暗部に長い間、身を置いて来た僕から言わせてもらうと、内心を気取られ無いために表情を消すのは愚策でしかない。だが、彼女はその精度が尋常ではなかった。

 

「(まるで、意識が飛んでしまっているかのようだねぇ)」

 

 それから、僕が名前や超能力のことを聞いても彼女は無言を貫いた。

 人間は顔や仕草さから、無意識に自分の感情が表に出てしまうものだ。隠そうとすればするほどに表に出てしまう。暗部で生き残ってきた僕はその挙動を見逃さない。

 しかし、この木原幻生の眼を以てしても、彼女がどういう感情を抱いているか何一つ読み取ることが出来なかった。

 

「これは精神系能力者の洗脳を受けている症状に近いねぇ。僕の研究室で調べる必要があるかもしれないね」

 

「心配はいらないよ。僕は昔から男の人を前にしてしまうと、固まってしまうことが度々あってね。それに、知らない人には付いていくなと言われてるんだ」

 

「(ふむ、まさか断りと共に釘を刺してくるとは。実際に彼女は僕を見て動きを止めたから、言い分としては食い違っていない。嘘っぱちなのはまるわかりだがね。

 それにしても、一瞬で表情と態度を社交的にするとはね。切り替えの早さ、そしてこれ以上黙っていると不利になると理解した判断力、さらには、この論理立てされた会話から見ても、ますます四歳児には見えないねぇ)」

 

 一瞬でそこまで理解し判断したのは、木原幻生からしても感心の一言だった。

 

「(何よりも大人を前にして、平然と嘘を言っても変わらないその面の皮の厚さ。そして、個性的な口調と性格、思考回路。

 うんうん、彼女は素晴らしい能力者になるだろうね。本人から名前を聞くことが出来なかったことからも、年齢にそぐわない警戒心だと言える。

 科学者や研究者を邪険に扱えば能力開発においては不利でしかないけど、ここまで的確な対応ができる以上彼女が理解していないはずがないよねぇ。

 彼女の場合は『原石』であるから、もしかするとそもそも能力者に憧れがないのかな?……刺激するならそこを初めにした方が良さそうだねぇ)」

 

 目の前の子供を権力だけではなく、自ら進んで協力するようになるように知略を組み立てていく。彼からすれば子供を夢や希望という甘い密で誘い、操るなど造作もないのだ。

 

「(彼女にどこまで通じるかは怪しいところではあるけど、それはそれで楽しみができたと考えればいいね。

 ……ふむ、おそらくだけど『原石』相手だと素養格差(パラメーターリスト)の正しい数値を算出することは難しいだろうね。見た様子だと高位能力者になるための要素はあるけど、こればっかりは運の部分もあるからねぇ。

 経過観察でどれ程の才能があるのか見極めていくしかないかな。『原石』の検体は少ないから能力の出力が低くてもデータを録る意味はあるけど、もし低能力者(レベル1)のままだと解剖した方がいい場合もあるだろうしね。

 まあ、高位能力者だと録れるデータが低位能力者より多くなるのは当然のこと。僕としてはその方が嬉しいから是非とも大成して欲しいものだ)」

 

 そんな有望な子供の行く末に楽しみ抱く外道は、まるで好々爺のような笑顔を向けて彼女に声をかけて去っていく。

 

 

「呼び止めてしまって申し訳ないね。楽しい時間だったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれほど興味深い子供と出会ったのは天野くんが最初で最後だったねぇ」

 

 そう話すのはマッドサイエンティスト木原幻生。

 彼は目的の外装大脳(エクステリア)へ向かっている最中である。彼は隠れ家に食蜂達が突入するのをあらかじめ予測していたのだ。そんな悠々と歩く彼に手元のスマートフォンから声が投げ掛けられた。

 

『ふーん、まあ、原石なんていう世界でもレアな存在なら、アンタでも興味を引くだろうけどさぁ。結局は温い表で生きてきた甘ちゃんでしょお?買い被り過ぎじゃない?』

 

「いやいや、彼女の能力は強力だけど彼女を彼女足らしめているのはその精神性だよ。彼女の能力開発の担当になってからは、かなりの能力者と会わせて能力をコピーさせてみたけど、彼女の精神が崩れることはついぞなかった。

 どう計算してもあり得ないんだけどねぇ。人格に影響が出るなら僕が直々に調整してあげようとしていたのにとても残念だよ」

 

 それが善意での発言ではないのは明らかだった。この科学者にとって重要なのは自らの知的好奇心を満たすことだけなのだから。

 

『……あーあ、可哀想に。こんなマッドサイエンティストが担当だなんてその子もついてないね』

 

「それは心外だよ警策(こうざく)くん。僕の(つて)があったからこそ彼女の能力の幅が増えたのだからね。僕と彼女はWinーWinの関係性だよ」

 

 科学の重鎮。

 その地位を確立している木原幻生が持つ伝は学園都市中にあると言ってもいい。実際に彼がもしオリ主の能力開発の担当にならなければ、オリ主が保有する能力の半分は手に入らなかっただろう。

 

一方通行(アクセラレータ)くんは自分の強大過ぎる力に怯える子供らしさがあったし、あの年齢だと木原一族であったとしても木原円周くんのような無邪気さがあるものだけど、天野くんは周囲を見渡せる視野の広さと物事を理解する能力に長けていた。

 その状況把握能力と判断力がなければ既に学園都市の闇に呑み込まれているだろえねぇ」

 

 それはただの事実だった。

 どこまでも子供らしくなく、大人顔負けの冷静さに『学園都市の大人は誰も信用できない』とでも言わんばかりの警戒心の強さ。

 その正確なまでの観察眼は暗部の人間以上と言ってもいいだろう。

 

「僕が知らない間に穏健派の統括理事会の一員とコンタクトを取っていたらしいし、今の能力開発で得た情報による権力の分散も、僕を通さずに勝手にしていたんだよ。

 しかも、その必要性を理論立てて僕に説明したり、他の『木原』からのスカウトを受ける、なんていう脅しもされちゃってねぇ。いやはや、随分と世渡りが上手になっちゃったものだよ。

 彼女が暗部として裏で活動したことはないけど、彼女の根っこの思考回路はどっちかというと裏の人間と類似している。まあ、表の人間らしく犠牲は認められないみたいだけどねぇ」

 

『それほんとぉ?貰った資料からは御坂美琴以上の善人にしか見えないけどさ。もしかして、自分が能力開発したから色眼鏡で見てるんじゃないの?』

 

「ふむ、そこがおかしなところでね。今までのデータから見ればただのお人好しの良い子でしかないんだけど、彼女が今尚五体満足で居るには周囲を敵だと認識していないと成り立たないんだ。

 御坂くんのように周囲の人間を信じるが余り、学園都市の人間にDNAマップを渡したりするようなミスは一度もしていないし、様々な要因があったにせよ、人の心の醜さや学園都市の闇を知り、疑心暗鬼を抱いている食蜂くんとはすぐに打ち解けたにも関わらず、素直な御坂くんとは少しだけ心の壁がある。

 それは彼女の思考がこちらよりであることの証明だよ」

 

 タイミングの悪さももちろんあるが、単純な相性としての不一致。彼女達を分けるのは学園都市に希望があるのかどうかという点である。

 御坂美琴は『学園都市で出会った人や築いた関係性に希望がある』と思い、残りの二人は『学園都市を絶望を生み出す大人が多くいるから、大切な人間をそれから守る』という思考回路をしている。

 幻生からすればどちらも甘いの一言だが、より現実的な考えをしているのは食蜂達だろう。そんな彼女達と御坂美琴の考えが合うはずもないのである。

 

「まあ、天野くんは持ち前の社交性と相手の人間性を読み取る観察眼で、その壁を取り除きつつあるみたいだけどね。彼女の見方はどうであれ彼女が貫いてきたスタンスは表の世界で生きていくこと。

 実際に表で生きてきた彼女からすれば、同じ感性になることはできなくとも理解し共感する程度のことは朝飯前ということなのだろう」

 

 だからこそ、誰彼構わずに助ける彼女の在り方は異常でしかなかった。

 

「まるで彼女は上条くんの在り方と類似しているんだけど、上条くんと会ったのはずっとあとだからねぇ。僕の育て方なら救うという考え方にはならず、間違いなく切り捨てるという思考になるはずなんだけど、どこで化学反応が起きたのか僕としても気になるところだよ」

 

『ふーん、なるほど。つまり、過去の資料通りのデータだけで判断するのは危ないってことね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その言葉を聞いたその老人は実に楽しそうな笑みを浮かべて言ったのだった。

 

 

 

「それについては問題ないよ。それどころか僕としては御坂くんよりも面白いことになるんじゃないかと思ってるんだよねぇ」

 

 

 




◆裏話◆
実は能力開発の担当が幻生じゃないと、能力のコピーの数もそうですが伝が無く安全圏を確保できないため、暗部に堕ちるしかなかったりします
自覚はありませんがオリ主はかなり幻生という存在に助けられていたりしますね


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111.雑魚狩り無双

上里の声優が決定しましたね。……まさか、本当になろう系主人公だとは


「『食らいなさいッ!!』」

 

 裂帛の声と共に電流が少女の身体から溢れ出した。その電流は漏れ一つ無く狙った対象に向けて直撃していく。

 電流が直撃して動かなくなったその敵を退け、後ろから新たな敵が続々と投入されて来るのが遠目でもよくわかる。その数は目視で確認できるだけでも五十は超えていた。

 

「『どんだけ居んのよこのガラクタはッ!…………でも、そっちがその気なら付き合ってあげる。全部ぶっ壊してやるわ!』」

 

 身体から電流を放出させる彼女は目の前の大量の敵に一切臆せずに、勝ち気な笑みを浮かべる。

 その表情は彼女らしさ溢れる清々しい顔だった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(クククク……ッ!最高だ!最高過ぎるッ!転生最高おおおおおおおおおお!!)」

 

 そんな態度とは裏腹にめちゃくちゃテンションが上がってるアホが居た。オリ主だった。

 

「(雷神御坂vs上条&削板とか超楽しみなんですけど!イヤッホー!!『とあるシリーズ』におけるベストバウトの一つの戦い!あれを間近で観戦できるとか最高過ぎるッ!)」

 

 過去最高レベルでテンションが上がっているアホがそこには居た。本当にどうしようもない奴である。

 

「(頼り甲斐のある先輩として、後輩達を見守らなといけないからっていう建前があれば、あの場に居ても違和感は無いはずだし、それに加えて削板と知り合いの上に、ミコっちゃんとも関係性がある俺なら共闘するシチュエーションとしてはバッチリ。

 いやー……、今まで頑張ってきたもんなー。今までの頑張りを評価してのご褒美だったら受け取らない訳にはいかないよなー!……アレイスターさえいなければカメラで撮影していたのに……ッ!)」

 

 『とある』の世界に転生する上で、最も鬼門となる滞空回線(アンダーライン)。オリ主もまた他の学園都市の住人と変わらず苦しめられていた。御坂美琴の顔で「ぐぬぬっ」と恨めしげな表情をしていると、目の前に新たな影が現れる。

 それに対して能力を発動して、すぐさま電撃をぶつけることで行動不能にしていく。

 

「(……それにしても、まーたコイツらかよ。流石にくどくね?)」

 

 そんなオリ主の前に現れる駆動鎧(パワードスーツ)の群れ。そこに居たのは最早お馴染みとなった、模造生命遠隔装置(ケミカロイド)計画から生まれた無人駆動鎧である。

 

「(もう、いい加減本当にしつこいわー。そろそろ見飽きたんですけど。つーか、どんだけ居るんだよ。『スタディ』、モブのくせして頑張りすぎじゃね?)」

 

 まだまだ大量に出てくる無人駆動鎧に辟易としながら、数体を一気に鎮圧していくオリ主。電撃を浴びせれば活動を停止するため捌くこと自体はかなり楽である。

 

「(とはいえ、俺からしたら幻生と戦うみさきちと離れられてラッキーと言えばラッキーではあるけどさ。雷神御坂までのワクワクをここで発散できると考えれば、俺も結構満喫してると言っても過言じゃないし)」

 

 随分と呑気なものである。

 とはいえ、オリ主もただ遊んでいる訳ではない。

 

「(三人で外装代脳(エクステリア)があるみさきちの拠点に入るその直前に、コイツらがうじゃうじゃと出てきたんだよなぁ。まあ、最高戦力である二人を先に行かせて、俺が残ることに違和感が無いから助かるけど)」

 

 御坂はオリ主を置いていくことに難色を示したが、何故ここに連れてきたのか説明を受けていない御坂が、雑魚狩りをするためにここに残るのは不満であろうことを話し説得することで、自分がここに残ることを正当化し、この場に残ることをゴリ押ししたのである。

 

「(まあ、幻生は俺の体力の限界を狙ってるんだろうけど、エルキドゥスペックの俺の身体の体力は常人の数十倍。こんな雑魚相手なら数十時間は楽勝なんだよなー)」

 

 電撃が飽きたら砂鉄の槍で串刺しにして行動不能にする。的が人間よりも大きく人的な被害な無いのなら、磁力の制御が甘かろうが関係無い。

 それが、オリ主が今までになく自由に戦えている理由である。

 

「(『スタディ』の奴等ミコっちゃん相手にしたときと、黒夜達が手に入れた無人駆動鎧で全部かと思ってたんだけど、まさかこんな在庫が残っていたとは……。

 原作とは違って黒夜達が出資したから生産した数がアニメよりも多いのか?うーん、革命未明編はアニオリらしいから詳しいバックボーンが分かってないんだよなぁ……)」

 

 アニメとの相違点からくるものなのか、オリジナルストーリーでもともと合った設定から大量生産されて今ここにあるのか。今この場では分からないことだった。

 そんなことを考えながら無人駆動鎧を破壊していく中であるものに目を引かれる。そのパーツを見るとオリ主の目が大きく開かれた。

 

「(え……?何だこれ?どうなってるんだ?)」

 

 実際にはオリ主はそこにある物に驚いた訳ではない。逆に本来そこにあるべき物が存在していなかったから驚いたのだ。

 そう、それはつまりどういうことかというと、

 

 

「(()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある病院の廊下にて。

 

「「わーい!」」

 

「……ふぅ、体力であれば私の方があるはずなのに私よりもどうして動けるのかしら」

 

 息を切らしながら呟く少女の名前は布束(ぬのたば)砥信(しのぶ)。彼女は今現在、第七学区にある病院の中庭で金髪の少女達と戯れていた。

 

「子供の代謝は大人よりも遥かに良いし、日常でかかるストレスも大人と比べれば格段に少ない。それこそ、幼少期の子供は一流アスリート並みのスペックを有しているらしいね?

 君は妹達(シスターズ)学習装置(テスタメント)を担当していたらしいから、てっきり把握していると思っていたよ?」

 

「私が担当していたのはあくまでも学習装置の調整。学習装置に詰め込まれた全ての知識を把握しているわけではないですし、クローン技術についてはノータッチですので、人体の変化について専門的な知識があるわけではないです」

 

 彼女を知る人間からしてみれば敬語を使う姿など思い付かないだろう。しかし、御坂美琴に対して年上に敬語を使わないからと、回し蹴りを食らわした布束が、フェブリ達の命の恩人である冥土帰しに対して敬語を使わないのは、いささか道理に反しているとも言える。

 

「(この光景を見た天野(あまの)倶佐利(くさり)が私をからかってきたのは、今思い出しても腹が立つわね……。今度、何かしら反撃しようかしら)」

 

 彼女が天野に対して御坂と同じ様に回し蹴りをしないのは、一応恩人であることと相手の身体能力が異常なほどに高いために、大して意味が無いであろうことを予め察しているからである。

 布束はため息を吐いて気分を切り替えるように話題を変えた。

 

「Anyway フェブリ達の毛髪を利用した、遠隔操作による能力の強制発動は本当に解決したのですか?フェブリ達は元々能力を引き出すように造られたため、ハッキングなどによる外部からのセキュリティには脆弱性がどうしても付きまとう。

 ……それこそ、悪名高い木原に目を付けられればプロテクトで弾くことは難しいのでは?」

 

「僕には『患者に必要な物は何でも揃える』というモットーがある。色々な人の手術をしてきたから(つて)はそれなりにあってね?彼女達に最高峰のセキュリティを施す程度はどうとでもなるとも」

 

「(……さらっと言ってはいるけど、あの科学の天才達である木原にも突破できないプロテクトを施すなんて生半可なことじゃない。間違いなく暗部系統の技術のはずなのに、こうも事も無げに言うなんてこの先生も本当に大概みたいね)」

 

 あの天野(あまの)倶佐利(くさり)が懇意にしている時点で大分怪しかったが、やはりこの医者もぶっ飛んでいるようだ、と彼女は再びため息を付いた。

 そんな彼女の意識を逸らす高い可愛らしい声が再び響く。

 

「「キャー♪」」

 

「二人とも走るのなら中庭に行くわよ。また看護婦の人に怒られたくはないでしょう?」

 

 彼女達が望むこともできなかった穏やかな日常が、笑顔と共にそこには確かにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 襲い掛かる無人駆動の群れを捌きながら、オリ主はテンションを下げて状況の把握に集中していく。

 

「(ストレス発散で今まで頭を使ってなかったけど、あの『スタディ』に御坂戦と同等の無人駆動鎧があるはずもないよな。能力者を工学技術で打倒するとか言ってたし、必要最低限の駆動鎧しか渡そうとしないで多くは自分で所有したいと思うのが自然だよな)」

 

 暗部からの資金という理由があったとしても、駆動鎧を造るのも楽なことでは無いだろう。フェブリ達の毛髪による稼働ならば、他所で使用されてしまい自分達の駆動鎧はその余波で動かなくなる、なんて可能性もなくはないはずだ。

 フェブリ達の容量(キャパシティ)がどれくらいかは知らないが、フェブリは常に飴型の薬を飲んでなければ倒れてしまうくらいに影響が出ていた。ならば、数が多くなればフェブリの負担も当然大きくなるはず。

 そんな状況を知っているはずの『スタディ』が無人駆動鎧をこんなに用意するだろうか?暗部の資金欲しさに自分達が行う計画の成功率を下げようとするのか?

 

「(……割りとありそうだなぁ……)」

 

 頭の中に『くそっ!あいつらまさかこのタイミングで無人駆動鎧を動かしているのか!?今日決行だとあらかじめ言っていただろうッ!?……これだから大して信用できない暗部に僕は頼りたくなかったんだ!!』とか言って、(わめ)いている『スタディ』のリーダーが見事に想像できた。

 もしかして、そんな感じじゃね?とか半ば思いはしたが、肝心のフェブリ達の毛髪を入れた容器がないため、思考を新たに巡らしていく。

 

「(ていうことは、……あんまり考えられないけどまさかそういうことか?)」

 

 状況から見ればそれが一番正しく、逆にそれ以外の理由が見付けられない。だからこそ、するっとその答えが自分の中に入ってきた。

 

「(木原幻生が『スタディ』の技術を流用している?)」

 

 随分と在り来たりな理由だと思いながらも、無人駆動鎧の利点を考えると頭ごなしに否定できるものではない。

 

「(うーん、いやまあ、時間稼ぎの雑兵としちゃあ及第点ではあるか。『スタディ』レベルであの数用意できたんだから、木原幻生ならその数倍は用意できそうだし、コストとか考えたら割りと現実的ではある。

 この数相手じゃ素の身体能力で倒すのはいつか限界が来るだろうし、劣化模倣(デッドコピー)の能力で倒すのもいつか限界が来るしな。俺を打倒するならともかく単純な足止めならこれが一番効率的かもしれん)」

 

 削板の一撃でぶっ飛ばすとその派手さから当然騒ぎになるだろうし、後ろの建物にも影響が出そうで出せないからしないが、削板の全力の一撃を出せば大きな隙が生まれるから、ゲテモノ技術を有している木原幻生を相手じゃそれはできない。

 暗部組織『メンバー』の馬場が御坂妹を眠らした蚊のロボットで、戦闘不能にされるリスクあるのだ。

 

「(まあ、無人駆動鎧ってわかっていれば、()()()も出せるんだけどさ……!)」

 

 オリ主の手から甲高い音と共にコインが打ち上げられ、再び手元に戻ってくると高速で撃ち抜かれる。

 

 超電磁砲(レールガン)

 

 ミコっちゃんの代名詞である技だが、俺が使うと制御の難しさから衝撃波を振り撒くという傍迷惑な技である。

 建物からある程度距離を取っていたという理由と、無人駆動鎧がクッションになっていなければ建物に削板ほどで無いにしろ、影響が出ていた一撃は周りに居た無人駆動鎧を薙ぎ倒すことに成功したのであった。

 

「(これで仕切り直しっと。無人駆動鎧にも何か仕掛けがあるわけじゃないみたいだし、本当にコスト面からの流用だったみたいだな)」

 

 中に人が入っている外道みたいな真似もしておらず、特殊なギミックが搭載されているわけでもない。そんな無人駆動鎧にどこか肩透かしを食らったような気分になったが、状況を考えればそれも自然だとは思う。

 

「(幻生からしてみれば俺なんて、ミコっちゃんが絶対能力者(レベル6)に至る前に立ち塞がってる障害の一つくらいの認識だろうし、そこまで対策に時間を割きたくないって感じなんだろうな)」

 

 今回の主役は天野倶佐利ではなく、御坂美琴。

 それ以外は絶対能力者の邪魔者と言ってもいい。

 

「(まあ、幻生なら俺が介入したらそれはそれで喜びそうなのがあれだけど)」

 

 想像した幻生に辟易としながらも、うって変わってそんな幻生をどこかを小馬鹿にしたムカつく態度で話し出した。

 

 

「『いやぁ、それにしても便利だからって、まさかあの科学の重鎮である幻生が他人の技術を流用するとか、随分と角が落ちて丸くなったじゃない。いくらお邪魔虫が相手でもそんな手抜きをするなんて本当にらしく……………………………………あれ?』」

 

 

 そこで違和感が生まれた。

 あの木原幻生が他人の……それも『スタディ』の技術を利用する?

 

「(……あの『スタディ』の技術を学生の図画工作レベルだと思ってるだろう木原幻生が、その技術を流用するなんてあり得るのか?

 『スタディ』みたいなフェブリ達の毛髪を必要しない新しい方法を確立したんだろうけど、それにしてもそれだけであの木原幻生が満足するのか?)」

 

 確かに凡人相手に格の違いを見せ付けて優越感に浸る木原一族のキャラクターは確かに居る。しかし、あの木原幻生がただの学生相手にそんな無駄なことをするだろうか?もし、そんなことに時間を使うのなら全く新しい最先端の機械を生み出すのでは?

 

「(…………)」

 

 合わない。

 木原幻生というキャラクターらしくない。オリ主という存在から木原幻生に何かしらの影響を与えているのだとしても、余りにも強烈な違和感。

 そこでふと真逆の考えが浮かんだ。

 

 

「(……()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 

 その理由とはなんだろうか。オリ主は無人駆動鎧と戦いながら考える。

 

「(あの木原幻生がわざわざ『スタディ』の技術を流用する理由……そんなのあるか?木原幻生って言えば科学の重鎮だからそのコネも技術も他の人間よりも卓逸しているのは明らか。

 それなのに、なんでそんなショボイのを作るんだ?訳が分からん。無駄にもほどがあるだろうに)」

 

 一度生まれた疑問は無くなることはなく、より濃いものになっていく。オリ主がその疑問を解消しようと頭を働かせるが、事態はそんなに悠長に待ってはくれない。

 

 

 

 

 

 

 時間切れ(タイムアップ)を知らせる黒い稲妻が、曇天を勢いよく走り抜けた。




たまには読み専の頃のように『とある』の作品が読みたいと思うこの頃。伏線ゴリゴリに張った頭のおかしい奴が読みたい。誰か書かないか?


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112.外装代脳

いや、すいませんでした!『スタディ』のくだりを書こうと思ったらない方がスッキリしましたので次かその次に書こうと思います。
お詫びと言ってはなんですがすぐ上げるので待ってもらえると嬉しいですm(_ _;m)三(m;_ _)m


施設の中を走りながら二人の少女は言い合っていた。

 

「ねえ!本当に一人にしちゃってよかったの!?やっぱり私も残って全て黙らせてからの方が……ッ」

 

「はあ……っ、はあ……っ、馬鹿言わないで……、今は妹達(シスターズ)の子の保護が最優先よぉ。一応護衛は付けているけど、あの人はどっちかというと頭で物事を進めて解決するタイプ。

 幻生の小飼に拠点を潜入された時点でできることは時間稼ぎが精々よ。幻生が妹達(シスターズ)の子を手にしたら、ミサカネットワークを奪われることとイコールと考えるべきなんだから……ここは天野さんに任せるべき場面でしょう?……ぜえ……っ、はあ……っ、まあ、彼女の安否よりも先にしなくちゃならない確認事項があるんだけど……」

 

 戦う前から既に倒れそうな食蜂は、荒い息を吐きながら今の行動の正当性を告げた。

 

「(ミサカネットワークが幻生の手に落ちた場合、おそらく御坂さんならどうにかできる可能性がある。幻生が何をするつもりかは知らないけど、そもそもミサカネットワークは御坂さんのDNAマップからクローン技術で生み出された妹達が、身体から発する電磁波を繋ぐことで生み出されたもの。

 なら、幻生がミサカネットワークに干渉しても妹達の元となった御坂さんなら、打開する(すべ)が何かあるかもしれない。天野さんはあくまで能力のコピーだから御坂さんほどの精密さはないはずだし。

 それに幻生の手駒がどれほどの実力かは知らないけど、御坂さんも伊達に超能力者(レベル5)な訳じゃないし、私との組み合わせならあの幻生にも勝てるはず。……仮に幻生の狙いがあっちでもね)」

 

 科学の重鎮であり学園都市の闇を生き抜いてきた木原幻生ではあるが、人の精神に干渉できる食蜂と電子機器を支配することができる御坂の組み合わせならば、木原幻生が有する科学系統の技術と手駒達は完璧にねじ伏せられると食蜂は考えている。

 

「……まあ、あの幻生が御坂さんと私が組むことを想定していない、なんてことあるはずもないだろうけどねぇ……」

 

 御坂美琴の逆鱗に触れるようなことをしておいて、幻生に対して彼女の怒りが向かってこないなどあるはずがない。つまり、幻生は食蜂と御坂のコンビでも打倒する(すべ)があると考えるべきだ。

 

「(……あの入り口から大量に現れた駆動鎧(パワードスーツ)は、おそらく天野さんに対しての足止めのため。つまり、今の盤面は幻生の思い通りってことなんだけど……。適材適所で行動すると今の人員の配置が最適解。…………誘われていても今は御坂さんと乗り込むしかない)」

 

 狙い澄ましたかのようなあの襲撃からして、幻生の策略の一つなのは間違いない。それがわかっておきながら他の選択を取れない自分自身に対して、食蜂は歯噛みしながらも全力で道を走り抜ける(御坂美琴曰く駆け足程度の速度)

 しかし、食蜂の顔はどこか安堵もしているようだった。

 

「……天野さんは言ってしまえば今回は部外者。いくら妹達(シスターズ)を見捨てられないからって鉄火場に出てくる必要はないわ」

 

 妹達(シスターズ)

 今回の騒動の起点となっている少女が、生み出される原因となった計画の名称。これは御坂美琴がDNAマップを科学者に渡してしまったから生まれたと言っても過言ではない。

 本来なら天野倶佐利同様に食蜂操祈も部外者である。ある事情がなければ。

 

「(ドリー……。あなたのような存在は二度と生み出させはしないわ)」

 

 食蜂操祈が妹達を気にかける理由である。『メンバー』の馬場芳郞(よしお)の手によって眠らされた妹達を保護したのはその少女が居たからである。

 

 

「それに、天野さんには今まで充分お世話になったもの。私達の因縁にまで付き合わせると、本当にそろそろあの人の隣には立てなくなっちゃうしね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コツコツッ、と靴音を鳴らしてその老人は手下達が捜索している部隊から離れていく。指示した場所から一人遠ざかる彼は淡々とした声音で話し出した。

 

「天野くんは入り口付近で駆動鎧の足止めを。食蜂くんと御坂くんは建物の中に入って来たと……。ふむふむ、万事順調だねぇ」

 

 ひょっ、ひょっ、ひょっ、ひょっ、と独特な笑い声を上げて、木原幻生は目の前の携帯端末を手にし喜色を浮かべた。そんな彼に向けて手持ちの端末から声がかけられる。

 

『まあ、こっちも統括理事会を通して無い事がバレちゃったけど、別にもういいよねー。計画も最終段の詰めにまで来てるんだし』

 

「そうだねぇ。今さら何をしたところで間に合うはずもないから、放っておいていいよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは確証の無い自信などではなく、計算によって弾き出された事実でしかない。単純な火力だけ見れば今からの実験の成果物は、学園都市中の能力者全てを集結させても相手にならないほどの、文字通り次元が違うものになるのだ。

 彼は屋上への階段を上がりながら、まるで宣言するように狂気を感じさせるような笑みで呟いた。

 

「──さあ、実験を始めよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食蜂によって連れてこられた場所は妹達のところではなかった。その事に文句を言おうとした御坂だったが、目の前にある(おぞま)しい光景を目にしいつもの様子からは想像もできない声音で言葉を発した。

 

「な、何よこれ……」

 

「……天野さんならともかく、よりにもよって御坂さんに見られちゃうなんて最悪だわぁ」

 

 今、食蜂達が突入した施設は食蜂にとって最重要拠点である隠れ家だ。本来ならば誰にも知られたくはなかった、彼女にとっても弱点に成りうる拠点。そこにあるものもまた尋常な物ではない。

 彼女としても御坂妹を助けるのを優先ではあるのだが、食蜂からすればこちらをどうにかされるとそれだけで戦局が引っくり返る代物。

 

 

 

「学園都市の科学者達の狂気が生み出した人工臓器──外装代脳(エクステリア)

 

 

 

 そこには直径何メートルあるのか分からないほど大きな脳が、左脳と右脳それぞれ一つずつ、培養液が満たす容器の中に入れられていた。

 その異様な光景をただの一般人が見れば、皆一様に狂っているとしか表現できないほどに異常なものであった。

 

「これは私の大脳皮質の一部を切り取って培養し、肥大化させた巨大脳。私の能力を底上げする私の切り札よぉ。……本来は別の使い方みたいだけど」

 

「……別の?」

 

「言ったでしょう科学者の狂気だって。最初の理由は違ったみたいだけど、この脳は私の心理掌握(メンタルアウト)を他の人間が使用するための機械になってる。私の能力の底上げは副次的な効果よぉ。

 私以外の人間が心理掌握を使えば、能力に振り回されてどんな人間も外道に堕ちる。私のような高潔な人間でなければ心理掌握は制御できない代物。それを、俗物が使えばどうなるかなんて言うまでもないのにねぇ?

 まあ、こんなものを作る科学者がまともな思考をしているとは思えないし、その筆頭である幻生の手に落ちればどうなるかなんてわざわざ説明する必要もないでしょう?」

 

「……アンタがあの子よりもここを優先したのはそういう理由なのね」

 

「とはいえ、心理掌握の所有権を譲渡するための登録はそれなりの日数が掛かるから、幻生でもどうにもすることはできないけどぉ(外装代脳が狙いじゃない?あの子には何重にもプロテクトが

掛けてあるから安全のはず……幻生は一体何を狙って)」

 

 そこまで考えていると、食蜂の端末から着信を知らせる音がなった。

 

『食蜂さんですか?こちらは妹達を確保しました。現在、彼女を連れて屋上に退避しています』

 

「でかしたわっ!そっちに全てのステータスを戦闘力に極振りしたアマゾーンを連れていくから、安心して待ってなさいね!」

 

「……おいコラ。今誰のことを言った?」

 

 そんな風にじゃれあっていると、突如電話の相手がカイツから変わる。その声音は食蜂にとって一番聞きたくない声だった。

 

 

 

『──やあやあ、食蜂くん。元気かな?』

 

「幻生!?」

 

 

 

 突然、味方の携帯から敵の声が聞こえ食蜂は驚愕する。そして、幻生が与えてくる驚きはそれで止まらなかった。

 

『食蜂くんはどうやら外装代脳は登録しなければ使用できないと思っていたようだけど、巨大脳に僕の脳波を調律して合わせれば能力を引き出すことは可能だよ。それで能力が使用できる事例は君も知っているたろう?』

 

「(幻想御手(レベルアッパー)……ッ!)」

 

「彼女にイントラクションを授けたのは僕だからねぇ。脳波を調律し君達能力者の能力を使用するのは、彼女よりも僕の方が当然長けているとも」

 

 心理掌握が盗まれる。それはつまり、プロテクトをかけた妹達が無防備の状態になることと同義。それを理解した彼女はもう一人の相手に指示を飛ばす。

 

「御坂さん!早く屋上に向かって!このままじゃミサカネットワークが幻生に乗っ取られるわッ!」

 

「ッ!」

 

 本来ならば何かしら口答えの一つでもしていきそうではあるが、彼女も学園都市の頂点の一人。自分がすべきことを即座に理解して磁力を使い屋上までかけ上がっていく。

 彼女からしてみれば次々に新しい情報が出てきて混乱もいいところだ。しかし、妹達は守ってみせると嘗てあの場所で誓ったため、それだけを為すためだけに全力で御坂妹の下へと速度を上げる。

 磁力を使ったショートカットで幾つもの階層を、吹き抜けから一直線に登りきると、そこに倒すべき敵である幻生は居た。

 

 倒れた御坂一〇〇三二号と共に。

 

 それを見た瞬間、身体から溢れだした電流と共に御坂美琴の怒りが沸点を超える。

 

 

 

「その子に何をしたああッッッッ!!!!」

 

 

 

 バリバリビシャァアッッ!!!!と、空間を震わす高圧電流が辺りに振り撒かれる。

 そんな軍隊と渡り合えると言われる超能力者(レベル5)の彼女怒声を向けられても、木原幻生の笑みが途絶えることはなく、それどころか電光で照らされたその顔には狂気に彩られた笑みを更に深めた幻生が映っていた。

 

「ククククッ!ミサカネットワークに特殊なウイルスを打ち込むことで、生み出したこの莫大なエネルギー。どうするのが一番面白いと思うかな?──ねえ、御坂くん?」

 

 その言葉を発した後に先ほどから空を覆っていた黒い稲妻が、御坂美琴の頭上に向かって集約し───

 

 

 

 

 ───彼女に落ちた。

 

 

 

 

 その黒い稲妻が落ちると共に凄まじい電撃が御坂美琴から吹き出す。

 先ほど御坂美琴が生み出した電撃とは比較になら無いほどの電流が溢れだした後、電流が急激に引いていく。

 そこに居たのはこめかみから角のような白い帯を生やし、本来あるはずの人間の瞳から青白い電光を瞬かせる御坂美琴の成れの果てが(たたず)んでいた。

 それを見た木原幻生はこれから行う実験の行く末を想像し、溢れ出る愉悦に表情を歪ませながら言葉を発する。

 

「御坂くんは天上の意志、絶対能力者(レベル6)に果たして辿り着けるかなぁ?」

 

 不自然に身体から淡い白い光を発する彼女を中心にして騒動は更に勢いよく動き出す。

 

 木原幻生の思惑は止まらず盤上に居る駒は動きを止められない。皆が皆、望んでいないにもかかわらず下り坂から転がり落ちていく。

 それは、一見(いっけん)関係が無さそうな駒であっても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、全てがそうではない。

 

「あれ?確かここで落ち合うって話だったんだけど佐天さんはどこだ?」

 

「おっと、なんかここら辺で面白れえことが起きそうだな!ちょっくら行ってみっか!」



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113.木原幻生の策略

もう無理寝る


「お、おおう……。流石のお姉さんもちびっちゃいそうだよ」

 

 そう言ったのは警策(こうざく)看取(みとり)

 彼女は水銀を操る能力者にして木原幻生の手下である。頭の横で結わえたツインテールと、ピンク色がベースとなったナース服の亜種のようなコスプレ染みた格好をした彼女は、目の前の光景を見てそんな感嘆の声を上げた。

 

「まさか、ここまで大きな雷を片手間で撃てるだなんて思わなかったよ。……でも、これでアレイスターは…………ッ!?」

 

 

 

 街の中央に建てられたその建造物は御坂美琴の深層心理に干渉し攻撃させた雷撃を受けても尚、傷一つ付けることは叶わなかったのだ。

 窓の無いビルは依然無傷。

 

 

 

「ち、ちょっとどういうことッ!?話が違うんだけど!!」

 

『最近の子は堪えることを知らないねぇ。僕が弾き出した事前の計算によると御坂くんは完全な絶対能力者(レベル6)到達まで二パーセント程度しか進んでいない。まだ成長途中なんだよ。あれを破壊したければもう少し待つことだね。分かったかい?』

 

「……はーい」

 

 警策はその言葉を聞き大人しく引き下がる。確かに窓の無いビルを破壊することは出来なかったが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。同じ大きさの他の建物ならば丸ごと消滅してもおかしくない雷である。

 

「(まあ、最後には窓の無いビルを破壊できるならなんでもいいかな。どうやら天野ちゃんの方も上手くいってるみたいだし)」

 

 手元の端末から送られてくるカメラの映像には不自然に動かなくなっている天野倶佐利がいた。

 

「(悪いね……妹達を生み出す原因を作ってしまった美琴ちゃんとは違って、あなたは今回の騒動に全く関係無いけど、統括理事長のアレイスターを窓の無いビルごと消すのなら、美琴ちゃんの絶対能力者《レベル6》への進化は必須。

 勝手で悪いけどそこで人柱になってちょうだい)」

 

「僕は外装代脳(エクステリア)から出力される心理掌握(メンタルアウト)の確認作業をしなくてはならなくてね。何か聞きたいことがあれば片手間になってしまうけど、できるだけ答えよう」

 

「ふーん………………あ、そうだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻生からしてみれば能力の確認など慣れていることのため、誰かと話しながら作業をするなど労力という労力ではない。だが、警策からすぐに話し掛けられるとは思ってはいなかった。

 

『まあ、私としちゃあ美琴ちゃんが計画通り進んでくれればそれでいいけどぉ。何であんなオモチャを用意したの?お爺ちゃんならもっと優れた兵器の二つや三つは持ってるんじゃない?』

 

 電話の向こうに居る警策(こうざく)は時間潰し程度の認識で、大して自分と関わり無いため聞かなかったその疑問を幻生に尋ねていたのだろう。その疑問を幻生はなんでもないように答える。

 

「ああ、もちろんそうだとも。僕としてもあれほど退屈な時間もなかったけど、計画というのは少しでもおざなりなところがあると、そこから(ほころ)んで瓦解してしまうからねぇ。無駄でも無価値でもない以上はやらなければいけない。

 彼らの駆動鎧(パワードスーツ)は学生レベルもいいところの拙劣(せつれつ)な物だ。品質で言えばそれこそ価格を付けるのも(はばか)られる程に。でも、そこに重要な価値を生ませることもてきる」

 

『重要な価値……ってあれのこと?牢屋に居る「スタディ」とかいう連中が聞いたら顔真っ赤にして怒り出しそうだよねぇ』

 

 どこか小馬鹿にしつつも同情するような声音で警策は言った。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 劣っているからこそ意味がある。そんな科学に殉ずる者の口からは到底出ないような理由だった。

 

「天野くんを攻略する上であれが一番効果的だった。彼女の能力の長所短所や思考回路から分析してね。これは君には既に言ったと思ったんだがねぇ」

 

『あのねえ、私のこと馬鹿にしてる?それは聞いたけど、だったら別にあのガラクタじゃなくてもよくない?「木原」なんだから他に方法なんていくらでもあるでしょ』

 

 まるで理解できないとでも言いたげな声が通話越しに聞こえてくる。木原幻生は子供をあやすかのような言い方で答えた。

 

「言ったはずだよ警策くん。一番効率が良いってね。天野くんをあの状態にしておくのはあれが一番確実で効果的だった。それこそ、僕の自慢の兵器を出しても不可能な可能性が高い。警策くんも今回の天野くんが請け負う役目を知っているんだから、実はなんとなく想像付くんじゃないかな?」

 

『それを確かなものにしたいから聞いてるんだけど……』

 

 物覚えが悪い子供に教えるように幻生は一つ一つ話すことにした。

 

「ふむ、それじゃあ、警策くんが察している部分であろう『全く同じ規格の大量生産』から考えてみようか。何故僕がそんな無駄なことをしたと思う?」

 

『大量生産を無駄って……まあ、いいや。大方、同じ戦い方で同じアルゴリズムをする敵が立て続けに現れたら、ゲームなんかと同じで同じ戦法かつ楽して倒したいってとこかな?』

 

「うん、正解だね。自分の能力と相手の能力を比べたときに、自らの能力が高ければわざわざ試行錯誤をして色々試す必要性はない。

 ならば、その考え方を使えば『天野くんを御坂くんに変身してもらい続ける』という僕の狙いは簡単に達成できるということだよ」

 

 つまり、今回の無人駆動鎧は『天野倶佐利を御坂美琴に変身させ続ける』という一点のみの理由で幻生に採用されたのだった。

 

「何故『スタディ』の駆動鎧かと言えば、天野くんが相手にして簡単に薙ぎ倒せるという点と、(かつ)て戦いその戦闘パターンを既に知っているという点の二つの要因だよ。

 最新鋭の兵器を出してしまうと、彼女は攻略しようとして彼女自身が持つ能力を多く使おうとするはずだ。そうなれば、彼女を御坂くんの姿で居させることは不可能。天野くんには最初から最後まで御坂くんの姿で居てもらわなくてはいけなかったからねぇ」

 

 オリ主はその能力の豊富さから攻略方法が無数にあると言ってもいい。だからこそ、攻略方法をあらかじめ知っているあの駆動鎧が必要だったというわけだ。

 

『まあ、そんなとこだろうとは思ってたけどね。……いやはや、お爺ちゃんもラッキーだねえ。倶佐利ちゃんが偶然『スタディ』製の駆動鎧と戦っていてさ』

 

 その小生意気な返答を聞いた幻生は先程までの好々爺然とした振る舞いを止め、不敵な笑みを浮かべた。

 

「──警策くん。それが本当に偶然だと思うかい?」

 

『え?』

 

 その言葉に警策は呆気に取られる。幻生は続けてこう言った。

 

「全て僕の計算通りだよ。若い子相手に大人気ないと思わなくはないけど」

 

 その衝撃的な事実を幻生は本当になんでもないように言ってのけた。そう、恐るべきことにあの場に居た全ての人間から存在を隠し通した妖怪が居たのだ。暗躍し表舞台から一番遠い舞台から眺めていたこの老人は誰よりも漁夫の利を掴み取っていたのである。

 しかし、学園都市の闇を生き抜いてきた彼からすれば、こんなことは大したことではない。

 

「『スタディ』の彼らが僕のことを敵視していたのは知っていたよ。彼らは取るに足らない存在ではあるが、学園都市の闇に幾星霜の日々を生き抜いてきた僕からすれば、何が原因で足を引っ張られることとなるのか分かったものじゃないからねえ。

 彼らのことは特別注意してはなかったが、頭の隅に入れとく程度の認識はしていたよ」

 

 それは、彼らの存在は丸っきり眼中に無いという意味に他ならない言葉だった。

 

「そして、彼らが起こした騒動に天野くんが関わったと知って、僕は今回の実験に彼らの計画が使えるのではと考えた。でも、それにはサンプルが余りにも少なかったんだ。天野くんにとっても僕にとってもね。

 だからこそ、二度目の無人駆動鎧との戦いが必要だったということさ」

 

 それが残骸(レムナント)争奪戦。

 あの騒動の裏にはこの老人の影があったのだ。

 

『……私もアンタ経由でその騒動は知っていたけどそれにも関わっていたっていうわけ?』

 

「まあね。黒夜くんが行動するなら彼女が考えているだろう展開は僕には簡単に分かるんだ」

 

 そう断言する幻生に警策は、先ほどまでとは違ってどこか警戒するように尋ねた。

 

『それは暗部に長年属してきたから?』

 

「それもあるが一番の理由は、彼女が『暗闇の五月計画』の被験者だからってところかな」

 

 学園都市の闇を象徴する実験の一つ。その主導者は他でもないこの木原幻生である。

 

「彼女の演算パターンは僕も既に確認済みだ。一方通行(アクセラレータ)くんの攻撃的な側面の演算パターンを組み込まれた彼女は、他の能力者の子供よりも幾分か分かりやすい。

 一方通行くんほどの絶対的な力もなく権力も無い彼女が暗部でのし上がるには、能力の出力を外部の力を借りて上げるか、手下を増やすかしかないからねぇ。

 散り散りになった『暗闇の五月計画』の被験者の子供を黒夜くんに気付かれないよう誘いやすい状態にするために、色々動いたのは懐かしいねえ」

 

 木原幻生は科学の重鎮。

 彼が電話を一本かけるだけで、科学者の管理下に置かれている子供を一時的に彼らの目から離させることや、別の施設に移動させるための許可を取ることなどは朝飯前なのである。

 

『……』

 

 通話越しに語られるその言葉は能力者である以上、警策も無関係ではない。まるで解りきった方程式を一つ一つ説明するかのようなその言葉に、彼女は背筋が寒くなってくる。演算パターンを把握される恐ろしさをこの時警策は強く認識した。

 

 もちろん、演算パターンを知っていたとしても、ここまで察することができるのは一重に学園都市の闇を生き抜いてきた老骨だからである。

 

 そんな警策の様子を知ってか知らずか木原幻生の口調は止まることはなく、つらつらと説明を続けていく。

 

「そして、彼女が天野くんに対して『スタディ』から得た駆動鎧を稼働させる状況。つまりは、食蜂くんとのコンビを意図的に作り出す。

 こればかりは、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の残骸が二つ分できたことに感謝しなければね。そうでなければ、嘘の情報を流すしかなかったよ。

 もし、そんなことをすれば僕も表舞台に名が上がっていたかも知れない。運が良かったとしか言いようがないねぇ」

 

 これは幻生の偽らざる本音であった。もし、そういう事態にならなければ計画を見直していたか、雲隠れして潜伏するしかなかっただろう。

 

 だが、こうして運を味方につけ木原幻生は誰よりも優位に立った。

 

「黒夜くんはよく働いてくれたよ。無人駆動鎧に対する天野くんの戦闘データの補強。天野くんの性格から取るだろう行動パターンのサンプルデータの確保。

 そして、追い込まれたときに現れる物理法則では説明できない──オカルトの有無の割り出し。

 どれも価千金の価値だよ。そのお礼を込めてちゃんと僕の(つて)を使って、統括理事会の一員に黒夜くんの紹介などの根回しをしたからね。まあ、残念ながら結局は予想通り意味は無くなったみたいだけどねぇ」

 

 残念などとは一切思っていないだろう声音で言われたその内容に、警策はこの通話の相手は本当に妖怪なのではないかと考えていた。しかし、彼女には完璧に納得できていない点があった。

 

『その黒夜って子がどういう行動を取るのか分かってることに加えて、アンタが倶佐利ちゃんの能力開発の担当であっても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その馬鹿げた能力のストックの多さは凄まじく、既に千の能力をコピーしているという噂を知っている警策は幻生を言葉を訝しむ。幻生がしていたのは建物の入り口に大量の駆動鎧を用意しただけ。話で聞いた黒夜が行ったという、能力の長所短所を的確に突いた方法と比べてしまうと、随分と手抜きがあるように見える。

 

「それで充分だという話だよ。わざわざ無駄なことをするのも馬鹿らしいだろう?」

 

 それは必要最低限の手数で相手の攻撃を捌く、棋士に近いのかもしれない。合理的な手段を選んでいけばそれが最小のコストを生むようなものだろうか。

 黒夜と幻生では経験してきた場数の多さが全く違う。二人の埋まらない差はここにある。

 

「建物の中には外装代脳《エクステリア》があるから、強い衝撃を生み出す能力は使えず、一方通行くんの反射はずっと立ち止まらなくてはならないから、天野くんではなく入り口に殺到してくる駆動鎧にそんな受動的な行動は取れない。

 空間移動(テレポート)は目視しなければならず、囲まれている中で使うには不適格だ。この時点で彼女がいつも優先的に使う能力の多くは完璧に封じられる。

 そして決定的なのが、天野くんは『スタディ』が用意した駆動鎧を御坂くんが薙ぎ倒す瞬間を目にしているということだ。これが天野くんが御坂くんに変身して戦う大きな理由の一つでもある」

 

『なんで?別に戦う姿を見なくちゃいけないなんて言う縛りはなかったはずだと思うんだけど……。経歴を見ても色々なシチュエーションで能力を使い分けてるから、そんなデータどこにもなくない?』

 

「いや、実はそうでもない。『スタディ』の彼らが起こしたと言う未明革命(サイレントパーティー)で最初に確認された変身した姿は、白井黒子という空間移動能力者(テレポーター)だったらしい。

 話によればあの区域を守っていたのはその少女だったようだねぇ」

 

『それがなんなの?偶然選んだ高位能力者がそこに居たって話なんじゃないの?』

 

「では、君ならわざわざ大能力者(レベル4)の能力を使うかい?空間移動は便利ではあるけど、超能力者(レベル5)である御坂くんか食蜂くんの能力の方が魅力的に見えないかい?」

 

 そう、普通に考えれば強力であり、自身が安全な位置に居続けられる力を求めるのが普通の考えだ。

 目視では数秒の空白の時間と周囲の状況確認で時間を取られるが、御坂美琴の電磁レーザーで周囲の策敵をわざわざする時間は無いに等しいし、高速の速さで動くことも可能な磁力で移動すれば、空間移動の代わりにはなるはずだ。

 そして、食蜂の能力を常日頃から使うようにしていれば、正確に相手の考えが理解できるようになる。幻生達は当然知らないが原作知識があろうとも正解がすぐそこにあるのに調べない人間が、果たしてどれくらいいるのだろうか。

 

「彼女にはそう言った癖のようなものがある。元の使用者を尊重して同じ様にその状況を乗り切ろうとする癖がね。もちろん、能力が劣化していて使えない状況になれば、別の能力で補う柔軟な思考は持ってはいるとも。

 しかし、駆動鎧を文字通り一人で一掃した御坂くんの姿を見た天野くんは、『本家がそうしていて最大の実績を上げているなら自分もそうするべき』という考えが無意識にあるのだよ」

 

 警策はその話を聞き天野倶佐利について考える。

 

『「(……誰かの能力をコピーする能力者だからこそのコンプレックスってとこ?能力が劣化する以上は本家よりも上に行くことはない。その考えは他の能力との連携の組み合わせることに繋がったり、コピー元の能力者だからこそ長年使ってきた先達としての意識か。

 初めての敵に関しては目の前で戦う能力者の能力を、無意識にコピーしてなぞろうとするのはそこら辺が影響しているのかもね)」』

 

「そして、それで成功した戦闘経験から考えても、天野くんは他の能力を使うという思考回路にならない。つまり、天野くんは確実に御坂くんに変身して戦い続けるのさ。

 まあ、黒夜くんはあの戦力で打倒しようとしていて、僕はあくまでも足止め。そもそも難易度で言えば僕の方が遥かに下ではあるから威張れやしないけどね」

 

 ここまで他人を利用してできたのが足止め。これを知った人は幻生に失望するかもしれないが、警策は知っている。この足止めの意味が。

 警策は幻生に対する恐れと共にその理由を告げた。

 

 

 

『まさか、美琴ちゃんと一緒に天野ちゃんにまで、あの黒い稲妻を落とそうだなんて誰も想像できないって』

 

 

 

 あの場でミサカネットワークにウイルスを注入されて生み出された、黒い稲妻が落ちたのは御坂美琴だけではなかったのだ。

 

「もし、ミサカネットワークから生み出されたエネルギーが、『御坂美琴』の(もと)に向かってくるならば、当然御坂くんの姿をした天野くんにもそのエネルギーは降りかかる、というわけさ」

 

 これが計算を下に弾き出した結論だった。 

 

「天野くんの能力は元の能力より劣化して、なおかつコピー元の髪色にならないという、全てのステータスが一歩足りないという能力ではあるけど、その体質だけはコピー元のものと全く同じだ。

 それは彼女がミサカネットワークに割り込めたことからも分かる。もし、体質まで劣化するならばノイズだらけで返信応答などそう簡単にできるはずない。天野くんの体質が変わらないのなら当然、御坂くんが無意識に生み出す電磁波のチャンネルも全く同じと見ていい。

 ならば、御坂くんにエネルギーを落とせば、同じ様に連動して天野くんの頭上にもエネルギーは落ちる。まあ、その力の大部分は御坂くんに流れるだろうけどね。でも、出力の違いがあることで新しい役目ができる、というわけさ」

 

『それが万一、美琴ちゃんの進化が予想外の事態になったときの安全弁。電子負荷装置としての天野ちゃんの役割ってことね』

 

 もし、仮に進化の成長スピードが乱れても、同様の電波を有しているオリ主を媒体にし介入すれば、絶対能力者(レベル6)に至るまでの道のりにすら干渉できるという、余人が考え付きもしなかった大発見である。

 

『これって天野ちゃんの変身能力があってこそって感じだから、学会じゃあ発表できないかな?まあ、ここまで来てアンタがそんなことを気にしているとは思えないけどさ』

 

「僕としては絶対能力者(レベル6)を生み出せるならそれでいいけどね。これもまた、科学の発展に繋がるだろうさ」

 

 心からそう考えているからこそ警策には理解できない。いや、理解できないままでも利害が一致すれば彼女は手を組む。それをするためのドグマが彼女の中にはあるのだ。

 

「──ふむふむ、なるほどなるほど。つまりは、リミッター解除コードが必要となってくるわけか。僕はこれから食蜂くんとの追いかけっこのようだねぇ。では、敵性の排除を頼んだよ警策くん」

 

『はいはーい。それじゃあ、あとは私に任せて行って──……って、はあああああッッ!?何これ!何でこんなことが起きんのッ!?意味がわからないんだけど……!?』

 

「──……ッッ!!!!」

 

 その言葉を聞いて外装代脳同様に、脳波を調律し能力者達の能力を勝手に引き出す技術、多才能力(マルチスキル)を使い、幻生は千里眼を宿した瞳でその方向を見る。

 その瞳に映る光景を目視し、幻生の興奮は一気に上昇して最高潮になった。

 

「──やはり!やはり!やはり!やはりッッ!ああ、そうだろうとも!そうでなければつまらん!それでこそ実験の意義があるというものッ!!」

 

 その瞬間、木原幻生は長い人生で最高の興奮を抱いていた。感じる興奮は果たしてどのくらいか。幻生は今までの実験は全て知識欲を満たすため行ってきた。それは今回も変わらない。

 今回よりも莫大な資金を用意して行った実験もあった。今回よりも多くの根回しをした上で実行した実験もあった。今回よりも自分の研究に沿ってきた楽しい実験もあった。

 

 しかし、今回の実験はその今まで行ってきた数百の実験よりも最も興奮しているのだ。

 それは何故か?

 

 

 

 今回は明確に今までの路線と外れたからである。

 

 

 

 それは単純に自分の得意分野だとかではなく、もっと広い意味での外れた。レールがどこか全く違う場所に切り替わったこの様な感覚。

 これを一流の科学者は自然と目にするようになる。しかし、それを理解できないとブラックボックスに容れられてしまうのが、ほとんど当たり前だった。しかし、彼は今回の実験で本来の流れから外れてしまうだろうことをあらかじめ察していたのだ。

 

 今ある興奮をそのままに、幻生は世界に訴えかけるような気迫で、曇が覆う空に向かって宣言するように言葉を投げ掛けた。

 

 

 

 

「ありきたりで分かりきった科学の範疇で終わる実験などつまらんよなあッ!?理解不能なオカルトまで足を踏み入ってこその科学じゃろうッッ!!!!」

 

 

 

 




寝不足なのでどこか誤字があるかもです

幻生のヤバさが表現できてたらいいな


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114.彼はようやく舞台へ上がる

なんか今月は評価やら感想で良いこと書かれてるので、スイスイ進みます。ありがとうございます!


 ~数十分前~

 

 通行量はさほど多い訳ではない場所で、その男子高校生は嘆くように言葉を絞り出す。

 

「借り物競争のお題が御守りだと分かったときは毎度毎度の不幸だと思ったけど、この科学の街の学園都市で御守りを持ってる人と出会えるなんて不幸中の幸いだった。……もしかして、今日の俺はラッキーなのでは?」

 

 不幸中の幸いでラッキーと言ってしまえる男。言わずと知れた上条当麻である。ツンツン頭のこの男子高校生は()()()()()()御守りを見て感謝するように話し出す。

 

「佐天さんのおかげでビリだったけどリタイアにはならずに済んで、吹寄にヘッドバッド食らわなかったしクラスの奴らから制裁も無かったしで本当に助かったな。

 ……いや、お題がお題だから多目に見てくれても良くねえか?これが当たったら誰でも無理だろ……。それにしても、佐天さんは本当にどこ行ったんだ?あれだけ大事にしていたなら待ち合わせの場所を忘れることなんて無いよな……?」

 

 先日、魔術師とやりやったばかりの彼は、翌日にはそんなことを忘れたかのようにクラスに馴染んでいた。

 命懸けの戦いがあったのだから、クラスメイトに先日の大覇星祭をサボったと問い詰められ、普通ならば何かしら言い返したいと思うはずだがこの男、不幸なことに慣れすぎて「文句言われる理由が実際にあるだけマシ」という思考回路をしているのである。

 自分の意志で行動し、自分でそのこと全てを黙秘するという選択を取ることを、他でもない自分で選び納得したため、彼はこうして参加賞という大してポイントにならないポイントのために、そこらじゅうを駆けずり回ったのである。

 まあ、魔術師関連のことは口に出せないため、当然と言えば当然ではあるのだが。

 

「あっ、そういや確か会えなかった場合は、風紀委員(ジャッジメント)の第一七七支部に行くんだっけか?それじゃあ、行ってみるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、地面から雷が出てらあ。根性あるなあ!」

 

 その男はいつもの白い長ランではなく、赤ジャージを肩に掛けてその光景を遠くから見ていた。その異様極まる光景に驚くどころか何故かいきなり褒めるという、本当に訳が分からない男だ。

 誰よりも根性を愛し根性を貫いて生きているその男は、此度も己の根性に従って行動する。

 

「いいぜ、俺も俺の根性を見せてやる!!」

 

 そう言って空気を踏み締めながら、その男は騒動の中心へ殴り込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~数分後~

 

 上条と待ち合わせをしていた佐天は少し離れた廃工場の中に居た。

 

「いやー、すみません。助かりました」

 

「次からはもっと考えてから行動しろ。暗部に関わる気がないのなら無闇に顔を突っ込むな」

 

 何故か廃工事から出てきた佐天涙子は大覇星祭に参加している学校のものではない、市販で売られているだろうジャージを着た女性から説教を食らっていた。

 

「……お前、運があったから生きてるようなものだが、あのシチュエーションでこうして生きてるのが不自然だからな?」

 

 あはははっ、と苦笑いで笑う佐天に対して、コイツ実は何も理解してないんじゃないか?と思うジャージの女性だが、ため息を一つ吐いてこの場から離れるように動く。

 

 そもそも、彼女が佐天と行動してるのは佐天が暗部の人間の密会を聞いてしまったからである。好奇心旺盛な少女は超能力のコンプレックスが無くなったため、余計に無鉄砲になったのかもしれない。

 

 彼女からしてみれば今までの行動は暗部組織『メンバー』として認められるための行動と言ってもよく、本来の目的のための行動はここからなのだ。そもそも彼女が佐天と関わる必要性も特に無い。

 彼女からしてみれば義理を返す程度の意味合いでしかない行動だ。もう充分過ぎるほどに世話をしてやったとすら認識している。

 そう考えて別れるための一歩目を踏み出した瞬間。

 

「さっきのドロドロした……水銀?使いの人の目的ってなんでしょうね?」

 

「……」

 

 くるっとその身を翻した彼女は、佐天の登頂部に握り締めた拳をそのまま振り下ろした。

 

「~~~~ッッ!?!?!?」

 

「だから無闇矢鱈と関わるなと言ったろう!?聞いていなかったのかお前は!?……はあ……っ、なんでこんな能天気な奴のために私は……」

 

 深いため息を吐きながらジャージ姿の彼女は喋り出す。

 

「私も偽りの情報で踊らされていた一人だ。詳しくは知らん。……だが、任務で不可解な点を見付けてその意図を問い質したことがある。明解な答えは得られなかったが、あのときの反応で大体は察することができる」

 

 佐天涙子は彼女の口から出てきたその名前を聞き、驚愕することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不自然なまでに人が通らない学園都市のとある路地裏。

 

「……暗部組織が動いているようだから一応調べてみたが、所詮は科学サイドの揉め事か。俺が動く意味は大して無い……が、アイツが今回の事に巻き込まれて使い物にならなくなると、俺にとっても他人事じゃ済まない。

 それにアイツの身体は少々特殊だ。念のため残ってる魔術師が行っている策敵範囲でも調べておくか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時を同じくして、待ち人が来なかった上条はもう一つの情報である第一七七支部に向かおうと、うろ覚えな知識を頼りに向かって歩いていく。

 そこであることに気付いた。

 

「そういや、あそこって白井が居たよな。いざとなれば、あいつに頼んでおけば大丈夫か」

 

 風紀委員(ジャッジメント)に属している白井黒子ならば、顔も広く上条のことも知っているため、不運な擦れ違いも無いだろうと当たりを付けたのだ。

 それは間違ってはおらず、佐天が話していた顔見知りの一人のため、無事に佐天の下に御守りは届いたことだろう。……もし、本当にそうなればの話ではあるが。

 上条が第一七七支部に向かって進んでいると、偶然にも視界の隅に誰か二人分の人影を見付けた。

 

「あれ?もしかして、あの片方って佐天さんか?おーい、佐天さん!借りてた御守り──」

 

 

 

 

「奴らの真の狙いは御坂美琴だ。奴ら学園都市第三位を利用して何かとんでもない事をする気だぞ」

 

 

 

 

 その聞こえてきた言葉に上条の動きが止まる。不穏なワードと知り合いの名前が今のセリフにはあったからだ。

 

「え!?御坂さんが!?一体、なんでッ、どうして──」

 

「私も知らん。そう言ったろう。……というか、お前、御坂美琴の知り合いか何かなのか?」

 

「あっ……いや、そういう訳じゃ……」

 

 上条は今少し聞いただけで今の会話の前に何を話していたのか、上条は一切何も知らない。どんな脈絡での言葉なのか何一つ理解してないが、そんな小さなことに頓着しないのがこの男である。

 上条は話し合っている二人の前に躍り出た。

 

 

「……なあ、その話俺にも聞かせてもらっていいか?」

 

 

 しかし、脈絡もなく現れて話を聞こうとする奴を怪しまない奴はいない。

 

「──なんだお前は。いきなり出てきて随分と「えっ!?上条さん!?なんでここに!?」…………お前の知り合いかよ……」

 

 市販で売られているジャージを来た女性は、なんかもう色々と疲れたような息を吐いた。その女性はもう早く解放されたいのか突然現れた上条に対して、持っている情報をスラスラ言っていく。

 

「私が知っている情報は大して無い。私は偽の情報に踊らされていただけからな。まずは、これを念頭に入れておけ。

 ……奴らの片割れは木原幻生。学園都市の中でもかなりのマッドサイエンティストらしい。学園都市の闇にどっぷり浸かっていたようだ。まあ、実際に会ったことはないからこれ以上の情報は無いな。

 そして、もう一人の方は液体のよく分からん奴を、人形に変えてこちらと話をしていた能力者。こちらも大した情報は無いがこの女だと思われる奴は、どうやら何かを木原幻生と裏で進めていたらしく、その鍵となるのがおそらく御坂美琴ということになるのだろう。

 最後にさっさとこの土地から離れた方が良い、とか言っていたし、もしかすると、この学園都市全てに影響を与える何かをしようとしているかもしれん。

 ……とはいえ、あくまで、ここまで全て私の所感だ。証拠を出せと言われても何も出せん。信じられないというのならさっさと忘れるんだな」

 

「……いや、今は情報ならなんでもありがたい。ありがとう、ここからは自分の足で騒動の中心に行ってみることにするよ」

 

「…………」

 

 思っていた以上にすんなり受け入れられて彼女は少し動揺する。彼女の話がデマの可能性だって当然あり得るケースだろうに、目の前の男はその突拍子もない話を頭ごなしに否定はしなかった。

 お人好しの馬鹿は隣の奴だけかと思ったが、意外な発見である。

 

「(……まるでこの程度のことは起きてもおかしくないかのような『慣れ』を感じるが、見た感じからして暗部の匂いはしない。ただのお人好しか……?)」

 

 まあ、なんにしても彼女からすればこれ以上馬鹿に付き合わされるのもこりごりのため、さっさとここからおさらばしたいのが本音だ。

 

「佐天さん御守りありがとな。俺は今から御坂の奴を探してくるからここでお別れだ。本当に助かったよ」

 

「い、いえ」

 

 上条から返された御守りを受け取ると、上条はそのままどこに居るのかも分からない御坂美琴を見付けるために走っていった。そして、近くを見渡せばいつの間にかジャージ姿の女性も居なくなってる。

 一人になってしまった佐天はこれから自分はどうするべきなのかを考えた。そして、導き出した解答は実にシンプルだった。

 

「よしっ!初春のとこに行って何か手伝おう!二人ならなんとかしてくれるはず!多分!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外装代脳(エクステリア)、設置拠点。

 

「はあ……っ、はあ……っ、警備員(アンチスキル)が出張ってきても死体の山が出来上がるだけだものねぇ……。あなた達の正義(りょく)はまた別の場面で見せてちょうだい。今のシチュエーションに真っ当な人間は要らないわぁ」

 

 相手が木原幻生のため警備員に手加減など一切しないだろうし、反って食蜂の行動の邪魔になりかねない。ここは大人らしく民間人の保護に回らせた方が余程建設的だ。

 

「あの姿からして御坂さんは幻生の手に落ちたってところかしら。まあ、御坂さんなら別にどうなってくれても全然構わないんだけどぉ。御坂さんが絶対能力者(レベル6)になったら学園都市が大変なことになるみたいだし、どうにか止めなくちゃいけないみたい展開みたいなのよねぇ。

 でも、私は幻生から逃走しているまっしぐら。ただでさえ能力が御坂さんに効かないのに、状況がそれを許さない。……この八方塞がりの状況をどうにか……──!」

 

 ふとガラス張りの壁から下を覗いてみれば、そこに見知った男子高校生が居た。一見どこにでもいる普通の男の子のようであり、食蜂操祈にとっては他と代えがたい大切な男の子。

 そんな彼をこのシチュエーションで見たときの彼女の反応は実に分かりやすいものだった。

 

「……あらあらあらあらぁ、登場するタイミング(りょく)があんまりにも良すぎて、もし私の関係しない事件によるものなら流石に引いちゃうわぁ」

 

 そう言いながらも少女の顔は、花が咲いたかのように輝いている。

 それこそ、心から物語で語られるような王子様の存在を夢見つつ、いつか自分のことを迎えに来てくれるのを待っている、どこにでもいる夢見がちな恋する女の子のものだった。

 

 そんな彼女の気持ちなど露知らず、ツンツン頭はようやく最前線の戦場に足を踏み入れる。




繋ぎの回にしてそこそこ重要な話

次回は未定。
多分、意外に割りとすぐかも(確証はない)


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115.雷神招来

トールとか書きたいなぁ……なんて思いつつ、115話です


 大覇星祭。

 学園都市で開かれる全校の生徒が競い合う運動会。この期間は外部からの保護者も入ることを許された特別な行事である。

 その学園都市中がお祭り騒ぎの中で上条当麻は誰よりも全力で走っていた。それも、競技とは一切関係無い場所で。

 

「うわああああああああああああッッ!?!?!?」

 

 ドガガガガッ!!と飛んでくる瓦礫から、上条は尻尾巻いて全力で逃げている。異能に対して絶対的な効力をもたらすその右手も、異能では無い攻撃を無効化することはできないのである。

 

「……ッ!!」

 

 瞬間、身に覚えのある感覚に背筋が震え、上条は勢いよくその場で振り返りその右手を振るうと、

 

 パキィィン!!と砕けるような音と共に、上条の背中に迫っていた高圧電流が打ち消された。

 

「……イケる!威力はヤバいけど打ち消せるのなら防ぎきれる!」

 

 上条当麻がたった一人でこの様な死地に何故居るかというと、あれは少し前のこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 佐天と別れたあと、上条は御坂美琴の事件に介入するため

 

『はあ~い♡こんなところで会うなんてやっぱり上条さんとは運命力(りょく)を感じるわぁ♪』

 

「のわっ!?な、なんだ!?」

 

 ピッとリモコンのボタンを押したかのような音と共に、その声は突然上条の頭の中に流れてきた。

 

「ま、まさか、()()か!?」

 

『上条さんならきっと私の名前を言わなくても気付いてくれるって信じてるから、わざわざ名前を言うのは時間の無駄だから省きますね♡もし、気付いて無かったらトラウマになる何かを送信しちゃうゾ☆』

 

「物騒ッ!?」

 

 乙女の心は何が切っ掛けで砕けるか分からないのである。そして、その中身が可愛いものだと思っているのは、楽天的な馬鹿な鈍感野郎だけだと彼女は思っている。

 彼女の恋心を察っすることができない時点で、上条当麻は落第も良いところだが。

 

『ちなみに、この送信は一方通行で全部情報を入力したあとだから、右手で頭を触らないように。それじゃあ、なんかヤバいことになっている御坂さんの状況を説明するわぁ』

 

「やっぱり御坂なのかッ!?」

 

『あの御坂さんはミサカネットワークから送られたエネルギーが、御坂さんに流れ込んだことによる影響みたいだけどぉ。そのエネルギーがとある科学者が打ち込んだ、ウイルスによって生み出されたものらしいんだけどぉ。

 そのウイルスがなんなのかまでは分かってないから、そのエネルギーがなんなのかは不明。現状そのエネルギーを送り続けている科学者をこっちで打倒するのが、事件解決の近道ってところねぇ』

 

「……そうか、こっちの声は聞こえないんだっけ。食蜂も悠長に話してられる状況じゃないってことか?」

 

『上条さんにはその御坂さんの周りで動いてもらうことで、御坂さんの成長?進化?を邪魔することができると思う……多分……おそらく……きっと……』

 

「あやふやだな!?」

 

『まあ、他に思い付かないし、取り敢えずレッツチャレンジ☆』

 

「………………マジ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……最初はどうなるものかと思ったけど、これなら持ちこたえられる」

 

 打ち消すことができたいつもぶつけられる電撃とは、比較にならないほどの電撃が消えるのを確認しながら、上条は右手を握り締める。

 どこに居るかも分からない食蜂からのメッセージを聞いた彼は、今の自分にできることを身体を張って実践しており、今の攻撃を受けて任された役目を遂行することが可能であると確信した。

 だからこそ、生まれた安堵。しかし、彼は忘れている。あの第三位はその火力などよりも汎用性が自らの長所だということを。

 

 電撃を打ち消して覆っていた粉塵が晴れたその先には、鉄材を磁力で固め巨大な岩石にした雷神がそこに居た。

 

「いやいや、それはちょっと反則……」

 

 その異能とは違う単純な質量が上条の頭に落下してくる。異能を打ち消すしかできない上条にその塊が落ちるとどうなるかなど、言葉でわざわざ言う必要も無い。上条はその攻撃を受け入れるしかなかった。

 ──他に登場人物が居なければ。

 

 シュタタッ!っと、後方から駆けるような足音と共に、自信に溢れた声が上条の耳に聞こえてくる。

 

「ハイパーエキセントリックウルトラグレートギガエクストリーム、もっかいハイパー……」

 

 上条の真後ろから大きく飛び上がった人影は、何故か落ちないジャージをはためかせながら、人を簡単に押し潰す塊に突っ込んで行く。そんな馬鹿げた存在が生み出す結果も馬鹿げていた。

 

 

「すごいパーンチッッ!!!!」

 

 

 その言葉と共に繰り出された拳が、巨塊に当たった瞬間凄まじい破壊音と共に何故か特大の大爆発が巻き起こる。その瞬間を目にした上条は突然の事態に口を開けて放心してしまうのだった。

 その結果を生み出した張本人はなんでもないかのように上条に振り返り言った。

 

「大丈夫か?」

 

「え……?あ、ああ。わりぃ助かった」

 

「うしっ!だったらここを早く離れな。ここは俺に任せろ!」

 

「へ?……いや、あんなことになってるけど俺の知り合いなんだ。他人には任せられねーよ」

 

「つってもあれは只者じゃねーぞ?悪いことは言わねえからさっさと避難しとけ。角生やしてる時点でとんでもねえ根性持ってる奴だからな!」

 

「……どういう基準なんだ?」

 

 そんな会話をしている二人に向かって電撃が向かってくる。上条は右手で打ち消し、突然現れた彼は左手で叩き落とす。

 その結果にそれぞれの男は驚愕する。

 

「(電撃を叩き落とした!?)」

 

「(電撃を掻き消した……?)」

 

 本来ならば絶対にあり得ない現象を生み出す相手を見て、彼らは同じことを考えた。

 

「「(なんだコイツ……?)」」

 

 奇怪な現象を生み出す相手が突然現れれば警戒することが自然だが、根性を心に持って行動する男にはそんな雑念は一切浮かばない。

 ただ一つ彼に分かったことは、目の前の男が共に戦場を駆ける相応しい力を持っていることだけだけ。しかし、それで充分だった。

 

「へっ!俺の名前は削板(そぎいた)軍覇(ぐんは)。お前は?」

 

「上条当麻……」

 

 削板は背中を預ける男の名前を聞き、片方の掌に拳をぶつけながら上条に対して挑発するように言い放った。

 

 

「足引っ張んなよカミジョー!」

 

「俺のセリフだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先ほど上条を視認した場所よりも更に進んだ場所まで来た食蜂は、これからのことを考えながらも足を変わらず進めていた。

 

「はあ……っ、はあ……っ、上条さんに必要なことは伝えたからあとは私は私のことに集中すればいい。逃げることぐらいしかできないけどねぇ……」

 

 上条に対して必要な情報を伝えた食蜂は、幻生を倒す方法を考えながら先に進む。彼女とて彼らと変わらず窮地にいるのだ。しかし、実を言うと彼女には幻生を倒すまではいかなくとも、状況を五分五分にするくらいの手札はあった。

 

「……それにしても、天野さんはどこに行っちゃったのかしらぁ?」

 

 彼女がこの戦場で信じられる人間の一人。本来ならばいの一番に隣に居て欲しい強者だ。

 

「御坂さんがダメになった以上、私同様に心理掌握(メンタルアウト)が効かない天野さんなら幻生相手でも心強いのにぃ。一体どこで何をしているのよぉ……」

 

 自分の心理掌握のリミッターコードが奪われればチェックメイト。この状況で安全地帯に居て欲しいなどと馬鹿なことを言うつもりは無い。

 おそらく、幻生が企みが成功すれば学園都市がただでは済まないのだ。最悪な結果をなってしまうのならば背に腹はかえられない。

 

「……もしかして、上条さんの方に行っちゃったとか?…………あり得るわね。天野さんってそんな態度は普段の生活で一切見せないけど、ちゃっかり上条さんの隣に居座るように水面下で行動してるのよねぇ。

 澄まし顔でいるから気付かないけど、実は私達の中でも相当愛情(りょく)が重いんじゃない?」

 

 人知れず勝手に愛が重い設定を付け加えられているオリ主である。

 

「……天野さんの公平さを重んじる理性が弾けた瞬間、果たしてどうなるのか。人間の中身なんて基本的にアレだけど、あの天野さんのドロドロした部分が表に出てくるとなるとどうなっちゃうのか私でも分からないわねぇ。

 それこそ、可愛い嫉妬ぐらいならいいけど、もし逆にそれ相応のものが出てきたらカウンセリング程度で済むとは思えない。俗に言うヤンデレみたいにならないといいけど」

 

 いつの間にかヤンデレにされるオリ主。本人が聞けば憤慨ものであろうその言葉は誰にも聞かれず虚空に消える。

 

「……っと、こんなことを考えている暇はないわ。早く次の行動を…………──え?」

 

 雷雲を窓から見ながら考えていた食蜂は、幻生から少しでも離れるために前に進もうと、窓からから視線を切るその一瞬、あるものが視界に映る。

 その、あり得ないその人影を見て困惑が彼女の頭の中を埋め尽くす。

 

「え?……ち、ちょっと待ちなさい。なんであなたがそこに居るの……?だってあなたは……………………いえ、もしかしてそういうことなの……?

 それじゃあ、幻生の狙いってまさか…………ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高圧電流が(ほとばし)る中、その男達は拳を振るっていた。

 

「うおりゃああああッ!!」

 

 裂帛の声と共に電撃が幾つも叩き落される。そのあり得ない現象を目の当たりにしても攻撃の手が弛むことはなく、死角から滑り込ませるように電撃が迫っていく。

 しかし、そんな彼の背中を守るかのように飛び出す者が居た。

 

「ッ!」

 

 その右手で触れると迫っていた電撃が一瞬で掻き消された。上条と削板はお互いに背中を預けながら、未だに変容した御坂美琴の攻撃を(しの)いでいた。

 

「電撃やら鉄材やらやたらと攻撃手段が豊富だな」

 

「ああ、アイツ確かそれで自慢してたような気がするし、多分もっとスゲーのもできるはずだ。さすがに今の状態で超電磁砲(レールガン)はできないだろうけど」

 

 そんな話をしていると磁力によって打ち出された鉄骨が迫ってくる。その光景を見て即座に自分では対処ができないと悟る上条。

 避けようと動こうとするが、削板は一歩も動かず待ちの姿勢だった。上条としては先ほどと同じく攻撃して吹き飛ばすかと思っていたが、削板は衝撃の行動を取る。

 

 ゴィィイインッ!!と、金属が鳴らす特有の音を出しながら額で受け止め、弾き返したのだった。

 

「はあ!?」

 

 そのあんまりにもあり得ない光景を見た上条はまたしても唖然とする。もし、自分があんなことをすれば当然の如く頭蓋骨は砕け散っているだろう。

 

「(超能力者(レベル5)って本当にどいつもこいつもぶっ飛んでるな……。まあ、一方通行(アクセラレータ)も御坂もできそうっちゃできそうだけど)」

 

 ベクトル操作。磁力制御。

 どちらでも似たような結果は生み出されるだろうが、本人達の性格からしてあのような真似を果たしてするかと言われると疑問ではある。

 上条は削板の能力の正体は、身体能力増加系の能力ではないかと最初は思っていた。しかし、それにしては不可解な現象が起こりすぎていると、上条は今までの戦闘経験から導き出した直感で察する。

 魔術とも違ったその現象に困惑しながらも上条はそんな彼に声をかけた。

 

「アンタ本当にやること無茶苦茶だな……」

 

「俺みたいな根性ある男は無茶を通してなんぼだからな!道理だろうがなんだろうが俺の根性があればぶっ壊せるぜ!」

 

「いや、これ根性でどうにかできるレベルか?」

 

 そんなことを言い合いながらも二人は異形の姿となった彼女から目を一切離さない。気を抜いた瞬間どうなるのか予測が付かないのである。現在も防ぐばかりで根本的な解決法があるわけでもないのが実状だった。

 

「カミジョーを投げ飛ばしてもすぐ元に戻っちまうからなー。本当に時間稼ぎしか方法がねーのか?俺としては根性でババッと解決してーところなんだけどよ。どうせならもう一回しとくか?」

 

「なんでだよ!?しねえよッ!?右手で打ち消してもどっかから力が送られてきてるから無意味だって言ったろ!?人間大砲はもう嫌だぞ!?」

 

 先ほどのことを思い出して冷や汗を流す上条。砂鉄のバリアを抜けるためとはいえ自分を砲弾のように撃ち出されるのは、もう御免なのである。

 

「俺の幻想殺し(イマジンブレイカー)はそこにある異能を打ち消すだけの力だ。御坂に注がれ続けている何かを止めるには、送っている元栓自体を俺の右手で直接触らないといけないんだよ。……まあ、それも異能でないと結局意味はないけどな」

 

「つーことは、このままアイツの攻撃を根性で防いでいればいいのか?待ちの姿勢ってのは俺の趣味じゃないが、それ以外の方法がないっていうなら仕方ねーか…………ん?」

 

 そんな彼らに影が射した。またしても砂鉄で引き寄せ掻き集めた、コンクリートブロックなどでできた集合体の塊をぶつけようとしているのだ。

 

「その攻撃はさっきもう見たぜ…………あん?」

 

 削板がいきなりその攻撃とは別方向の方向に振り向く。その様子を見て上条は思わずぎょっとする。

 

「お、おい、どうしたんだ!?さっきのあれが来るぞ!早く壊さないと…………──ッ!!」

 

 その瞬間、上条も遅れて身体が反応する。それは上条自身が知覚したのではなく文字通り身体が勝手に反応したのだ。

 

 前兆の感知。

 上条当麻が幾多の魔術師や能力者と相対した経験から身に付いた、異能の力を引き出す直前に起こる前兆を察知する察知術。一見便利な技能ではあるがある欠点が存在している。

 それは、察知するためには相手の攻撃が出る直前の微弱な反応や、術者の癖などを知っていなくてはならないという点だ。そして、今回上条が前兆の感知を発動したということは相手も当然知人ということになる。

 では、その相手とは誰か?答えはその攻撃が雄弁に語っていた。

 

 上条と削板の上空を切り裂くようにオレンジの閃光が瞬き、その着弾地点である巨塊が粉々に弾け飛ぶ。彼はその攻撃を見たことがあった。

 

超電磁砲(レールガン)ッッ!?!?!?」

 

 レールガン。

 それは、電磁誘導を用いて物体を飛ばして攻撃する近代兵器の一つである。その兵器の名を冠する少女が学園都市には存在する。

 その人物は電気系能力者(エアクトロマスター)の頂点して、七人しかいない超能力者(レベル5)の一人。

 

「おっ?空から誰かやって来るぞ」

 

 削板がいち早くその事実に気付く。彼が助けに向かわないのは必要ないと判断してのことだろう。

 その巨塊に攻撃した更なる乱入者は、少年達二人の遥か上空から舞い降りた。その人物を見て上条は信じられないものを見るかのようや顔をする。

 

「くっ!流石にそりゃあ遅れるか!…………でも、アンタが居るなら最悪なことにはなっていないわよね」

 

「……お、お前、なんでそこに……?」

 

 人間が落ちればまず助からない高度から飛び降りたにもかかわらず、その人物には怪我一つありはしなかった。その事実がその人物の有する力がどれ程のものかを証明している。

 実力と性格から推測しても彼女のクローンではないことは明白。当然、自らの先輩たる彼女の模倣にしては、能力の精錬さと出力共に模倣の限界値を軽々と上回っている。

 ならば、上条の記憶に該当する人物は一人しかいない。上条の前に現れた乱入者は、今の今まで必死に助けようとしていた学園都市第三位にして常盤台のエース。

 

 

 御坂美琴、まさにその人だった。

 

 

「なんだぁ?もしかして双子か?」

 

 調子が変わらないのは削板軍覇。ちょっとやそっとの状況の変化では一切揺るがないその強靭な精神は、まさに超能力者(レベル5)の一角だ。とはいえ、ここには無能力者(レベル0)の常識人である少年と、超能力者(レベル5)の中でも比較的常識人枠の少女が居たため、認識の齟齬は生まれなかった。

 

「いきなりで悪いんだけど、御坂。……俺達がさっきから戦っているアレが何か分かるか?」

 

 アレとは当然先ほどから上条達と戦闘をしている、本家の御坂美琴よりも強大な力を有する存在である。その上、角や光の帯などを生やしており異形と言っても過言ではない見た目をしており、上条にとっては初めて出会う未知の存在だった。

 

「……そうね。この場にあとから来ておきながら情けない話だけど、私も絶対的な確証がない。一つ心当たりはあるけどどっちかっていうと私自身が本当にそうなのか、未だに半信半疑だもの。

 状況から考えてみてもそれが一番可能性が高いってだけのね。……それに、今回ばかりは外れてくれた方が嬉しいってのが本音」

 

 その口から出てきた言葉は、いつもの溌剌な彼女らしくなく口ごもった発言だった。実際に本当に自分の推察があっているのか確信がないのだろう。そして、状況を理解するためとはいえ予測を立てるのさえ躊躇する内容ということだ。

 上条は話を聞きながら、どこかで気付きながらも無意識で考えないようにしていたその予測を、御坂美琴は異形と化した自分の姿を見据えて躊躇い気味の口調で言った。

 

 

 

「おそらく、アレは…………天野さんだと思うわ」

 

 

 




オリ主、念願通りに雷神戦参戦!!


これで今月は多分終わりです。では、また来月


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116.黒幕達の衝突

久し振りに一万字近くの分量。切るところが無かったのが原因

116話です


 ビルの屋上でことの成り行きを見ていた彼女は、想定とは大幅に違う状況を見て取り乱していた。

 

「ちょっとどういうことなのッ!?私、こんなの聞いてないんだけど!?」

 

 手元にある端末に向かって警策(こうざく)看取(みとり)は動揺する心境のまま大声で叫ぶ。その相手は警策のことなど一切気にせず呟き続ける。

 

『なるほど、僕の予想通り……いや、御坂くんから全てのエネルギーを奪い去ってしまうとは、実に予想以上だ。やはり器としての完成度の高さが影響しているのか。

 あるいは、それ以外の要因からかな?計測が可能な能力者を配置しなけれ────「ッ!聞けこのクソジジイッッ!!!!」……ん?ああ、警策くんか。どうしたんだね?』

 

 はあ……はあ……、と堪忍袋が切れて叫んだことで呼吸が荒くなる警策は、仮に今の言葉で反応しないのならば、自らの能力を使い幻生を殺してやろうと考えていた。

 それほど、事態は混迷を極めており行き着く先がこのまま不明瞭ならば、警策の念願が叶うかどうか分からないのだから。

 

『何かに没頭すると他のことが目に入らなくなるのは僕の悪い癖なんだ。実際にそのせいで何度も死にかけているんだよ。身体のあちこちがその影響で、人工代替模型みたいな愉快なことになっているのは因果応報だね』

 

「ねえ!そんなどうでもいいことよりなんなのこの状況はッ!?美琴ちゃんを絶対能力者(レベル6)にする計画でしょ!?

 それなのに、どうして倶佐利(くさり)ちゃんが絶対能力者になろうとしてるのッ!?私がなんでアンタに協力してるか忘れちゃったわけッ!?」

 

 一切情報を伝えず予定とは全く違うことをした行為は、警策にとって裏切りである。今回のために労力を割いたことはもちろん、契約内容と違うのだから激昂するのは至極当然と言えた。

 返事次第では本当に抹殺も視野に入れて警策は幻生に問い質す。

 

『勘違いさせないために前もって言うけど、君に教えた計画は間違いなく僕も目指して行動し、僕自身も絶対能力者を生み出すために動いていた。

 君を騙して僕個人の実験をするために企んでいた訳ではないとも』

 

「……じゃあ、なんで美琴ちゃんは通常の状態に戻って、安全弁として機能するはずだった倶佐利ちゃんはああなってるの?あの反応からしてアンタはこうなるってわかってた。それを私に教えなかったって時点で私に対する裏切りでしょ?」

 

 極僅かな可能性であったとしても、何かしら計画に支障をきたす可能性があるならば事前に説明するべきであるし、計画を変更して別の方向から結果を生み出すのだとしても、当然あらかじめ言っておくべき事柄である。

 

 

『ふむ、なるほどね。それは確かにそうだね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……はあ?」

 

 

 その言葉に警策は形の良い眉を潜める。

 

「何言ってんの?アンタは予測を立てて実際にそれは起きた。その時点で実現する可能性が少しでもあったってことの証明でしょ?予想外の事態じゃないならそれはもう可能性の一つとして確立していたことになる。

 まさか、アンタの手下として動いている私にはそんな細部のことまで知る必要は無いとか言わないよね?もし、そんなことを言うようならアンタを本気で殺すけど」

 

『ひょっひょっひょっ、堪え性が無いのが若い者のいけないところだねぇ。君の納得を得るにはどうやら一から説明するしかないようだ』

 

 苛立つ警策に対して幻生は一つ一つ説明する。

 

『まず最初にミサカネットワークから生まれた力を誰かに注ぐとしたら御坂くんの他にはいない。これは分かるね?』

 

「…………ミサカネットワークは美琴ちゃんから生まれた妹達(シスターズ)が作り出したものだから、他の電気系能力者(エアクトロマスター)の能力者はそもそもチャンネルが合わない上に、超能力者(レベル5)じゃない人間じゃあ下地ができていないから、絶対能力者(レベル6)に到達するのは絶対に不可能ってことでしょ」

 

『その通り。学園都市第三位の御坂くんですら一瞬でしか辿り着くことしかできないのに、強度(レベル)で劣る能力者では初期段階にも至れないのは自明の理だねぇ』

 

「ッだけど『──それなのに、天野くんは絶対能力者(レベル6)になろうとしている。これではその前提条件が崩れてしまっていて、仮に絶対能力者になったとしても天野くんでは、窓の無いビルを破壊するだけのエネルギーが足りないかもしれない。詰まるところ君が気にしていることはそれだろう?』……チッ!」

 

 警策は舌打ちをする。彼女としては幻生に計画を隠されていたことはもちろん業腹だが、何よりも窓の無いビルの破壊が、御坂美琴よりも強度が劣る天野倶佐利では、絶対能力者に至っても不可能と考えてのことだ。

 学園都市で七人しかいない天才達は、それだけ他の能力者と隔絶した潜在能力(ポテンシャル)を有しているからである。そんな警策の考えがまるで間違っているかのように幻生は話し出す。

 

『僕の推測ではそれは杞憂で終わると思うよ。おそらく、天野くんは御坂くんが絶対能力者になるよりも、遥か高みに行くだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……」

 

 幻生の言う通り絶対能力者に至るために変貌を遂げた御坂美琴が、まるで風船が萎んでいくかのように力を失っていき、それに反比例するように力を増し変貌を遂げたのは天野倶佐利だった。

 目視だけの情報ならば、超能力者の御坂美琴よりも大能力者の天野倶佐利の方が、絶対能力者に相応しいということを示している証拠かもしれない。

 

 しかし、御坂美琴は超能力者ではあるが天野倶佐利は大能力者である。

 

 能力者は学園都市が進める能力開発(カリキュラム)に則って能力を成長させているため、能力者の成長具合も計算で算出することができるのだ。

 しかし、今回は何故か下位の能力者が上位の能力者より上回るという不思議な結果を生み出した。そんな本来ならばあり得ない状況を予測する要因とは一体?

 

神ならぬ身にして天上の意思に辿り着くもの(S Y S T E M)とはこの世の真理を解き明かすことだ。しかし、人の身ではそれを成すことは不可能。人間ではスペックが足りなすぎるという訳だねぇ。

 絶対能力者を生み出すには人間以上のステータスを有していることが絶対条件。つまり、超能力者とは人の限界を超越するための資格を手に入れることができた存在と言っても過言ではないのだよ。

 学園都市の掲げる目標が絶対能力者であることを考えれば、当然の帰結ではあるけどねぇ』

 

「だったら、余計に超能力者の美琴ちゃんじゃなくて大能力者の倶佐利ちゃんがああなる理由が……」

 

『その答えは今言っただろう?』

 

「?」

 

 今の会話を思い出しても、天野倶佐利が絶対能力者になれる要因を説明している箇所があるとは思えなかった。幻生は絶対能力者になるためには超能力者になることは、必須条件ということしか言っていないからだ。

 

『ふむ、能力者である君には……いや、学園都市に居る人間にとって能力者の強度(レベル)の大小は必要以上に意識を向けてしまうものらしい。分かりやすく観測できる指標だからそうなってしまうのだろうね』

 

 どうやら幻生は能力の強度(レベル)とは、全く違う観点から天野倶佐利に価値を見出しているらしい。

 もしや、世界でも希少な原石という特殊な人間だから、普通とは違う結果をもたらすためなのだろうかとも考えるが、幻生にはそんな警策の思考すら読み取られたのだろう。出来の悪い子供に問題の答えを告げるような軽い態度で彼はその言葉を発した。

 

 

 

『答えはとてもシンプルだ。超能力者にならずとも天野くんは既に人間以上のステータスを有しているという事実に他ならない、ということさ』

 

「……………………………………………………………………は?」

 

 

 

 警策はその言葉が理解できずに呆けた声を上げた。

 能力者の飛び級自体は確かにある。御坂美琴は弱能力者(レベル1)から一つ一つ強度(レベル)を上げているが、高位能力者の多くは初めから能力の強度(レベル)がある程度高いのである。

 しかし、学園都市で七人しかいない超能力者(レベル5)を飛び級するなど、果たして誰が考えられるだろうか。

 そんな荒唐無稽な話を聞かされた警策は、今まで抱いていた猜疑心と怒りが一瞬だけ全て忘れるほどの衝撃を受ける。

 

『考えてみればなんてことは無いんだけどねぇ。絶対能力者になるためには人間以上のステータスを持ち合わせていなければならない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは、あくまでも仮定の話であった。聞くものが聞けば鼻で嗤ってしまう程度の机上の空論であり無理矢理こじつけた暴論だ。しかし、それを直接見た人間には、その話を笑い飛ばすことなどとてもできはしない。

 幻生はそんな警策の困惑を当然のものとして、自分の考えを説明していく。

 

『天野くんの変身能力のすごいところは見た目だけの変化では無いところだ。脳、血液、細胞、と全てがコピーした相手のものと全く遜色(そんしょく)無いものになるという点だよ。

 だからこそ、わざわざ僕や木山くんのように脳波の調律をしなくても他人の能力を使えるのだろうね。

 ちなみに、この情報は天野くんの手によって厳重に秘匿されていて、部外者が知る機会はまずない。僕がその検査を行った張本人でなければ、その事実を知る術は無かったほどに念入りに情報が抹消している。

 天野くんにとって他人のDNAマップが盗まれる可能性はそれだけ容認できなかったのだろう。

 いやはや、天野くんの能力開発の担当をしていて本当に良かったよ。まあ、僕も知るべき人間じゃないと判断されて、食蜂くんの能力で僕の記憶を消したようだけど。もしもの時のために記録を残しておかなければ、食蜂くんの能力で記憶を消されて情報を手にいれることは不可能だっただろう』

 

 手を貸したのに酷いことをするものだよ、と端末の向こう側からどこか落胆したような声音が聞こえてくる。警策としてはこの妖怪の外道さを知っているため、その判断は妥当としか思えないが。

 

『まあ、そもそも天野くんは本当に大能力者なのかは疑問だね。臓器から細胞まで同質のものとなるのならば、何故髪色だけが変化しないのか。僕としてはその方が違和感でならないよ』

 

「……つまり、天野倶佐利は既に変身能力(メタモルフォーゼ)で超能力者に至っている……?」

 

 強度(レベル)の詐称。

 超能力者としてのステージに天野倶佐利は登っている……?それこそが、天野倶佐利が絶対能力者に登り詰めた理由なのだろうか。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()注目すべきところは身体をコピーした相手のものと全く同質のものにできるという点だよ。

 天野くんは人間にしかコピー能力を使っていないから、その他の動物に変身できるかどうかは未知数ではあるけど、コピーする対象の大きさが関係無いところや、無能力者(レベル0)に変身しても能力の切り替えができるのだから、僕は可能であると見ている。

 ──ならば、何者にも姿を変化できるのならば、人間を超越した「何か」にも成れるのではないかな?』

 

 そんな空想どころか暴論とも判断されるようなことを、科学の重鎮が言うのを警策は頭が痛くなるような思いで聞いていた。

 言いたいことはそれはたくさんある。しかし、相手の考えを聞かずに文句を言っていては話が進まないのも事実であった。

 

「(だけど、納得できるところも確かにある。倶佐利ちゃんは能力開発の担当である木原幻生にも、隠匿するほどに能力を低く見せていたのは事実っぽい。なら、本当に超能力者に……?

 でも、超能力者ってメリットばかりだと思うんだけど。名声はもちろん能力開発の最先端設備の利用みたいなものまで。それを目立ちたく無いって理由だけで隠すものかな?

 高位能力者ほど人格破綻者であるものだし、周りの視線とか無視して効率とか合理性に流れそうなものだけど。

 細胞までコピーするとなるとそれこそ実験動物(モルモット)として狙う輩が増えるから?それとも単純に生来の気質からかな?)」

 

 疑問は尽きないが、それを聞いた警策は思ったことをそのまま言葉にすることにした。

 

「…………だとしても、身体の許容限界の差異だけで美琴ちゃんよりも上に行くとは思えない」

 

『僕も同感だね。身体の特筆だけでは覆せない道理というものがある。もし、僕の想定が正しかったとしても力の奪い合いで、オリジナルである御坂くんにああも圧倒するなどまず絶対にあり得ない』

 

 即答の肯定に警策はたじろぐ。思っていた反応と全く違ったからだ。

 

「(てっきり、何かしら言い返してくるもんだと思ったけど)」

 

 疑問が頭に浮かぶが幻生の言葉を思い出してハッとする。

 

「え……?今、圧倒って言った?」

 

『そうだとも、見た限り全く話にならなかったね。実に天野くんは興味深くて知的好奇心が刺激されているよ』

 

「い、いやいやいや、美琴ちゃんは最初、絶対能力者に成りかけてたでしょ?実際に窓の無いビルにデカイ雷を落としてたんだし。結果的に天野ちゃんが力を手にしたんだけとしても、割りと競っていたんじゃない?」

 

『君の反応からそれなりの威力だと想定していたけど、あの程度の落雷なら絶対能力者の初期段階としても落第だ。僕の想定ではあの三倍くらいの大きさくらいになるはずだよ。

 眩しいからと稲光を千里眼で直視をしていなかったのが仇となったねぇ。窓の無いビル周辺の被害から逆算しなければならなくなったよ』

 

「さん……ッ!?」

 

 その数字に警策は言葉を失う。先ほどの落雷は本来の落雷の数十倍から数百倍の閃光だった。

 もし、あの三倍だとするならば果たしてどれ程の雷なのだろうか。その想定される凄まじさに内心で動揺するも、それが幻生に伝わらないように取り繕って警策は問い掛ける。

 

「……絶対能力者の二%の出力だって言ってなかった?」

 

『おやおや、「事前に弾き出した計算上では」とも言ったはずだがね』

 

 そんな彼女から出たちょっとした嫌味も妖怪はにべもなく答える。確かに、幻生はそんなセリフを言っていた記憶がある。

 

『おそらく、最初に御坂くんが絶対能力者になるための力を僅かながらも有していたのは、上空から落ちてきたエネルギーに対して天野くんよりも高い位置で受け取ったからだろう。

 御坂くんは建物の屋上でエネルギーを受けたのに対して、天野くんは地上だから時間のラグがあったということださ。

 当初は力の配分的に御坂くんが上回っていたために、おそらく吸収するのが遅くなったのだろうねぇ。

 ふむ、磁石で例えると分かりやすいかな。強い磁石と弱い磁石を用意しその二つの磁石とは異なる磁石を中央に置いたとき、当然強い磁石に引き寄せられるだろう?

 今回のケースは弱い磁石の近くに異なる極の磁石を、あらかじめ配置していたから、強い磁石の引力と偶然にも釣り合っていたというだけのことさ。

 もし、同じ様な条件下で再び実験をすれば、御坂くんが絶対能力者の姿になることができたかどうかも怪しいねぇ』

 

 なんてことだ。全てにおいて圧倒的に有利な条件であるはずの御坂美琴が、姿形を真似た劣化した模造品に敗北したという事実だけが浮き彫りとなったのである。

 

「…………それで、美琴ちゃんを圧倒した理由は?」

 

 理解の範疇を超えた説明を受けて既に許容量は限界に近いが、これだけはどうしても聞いておかなければならない。

 もし、天野倶佐利が絶対能力者になると考えるその根拠が、警策に納得できるものであれば、絶対能力者に至る者が御坂美琴ではなく天野倶佐利であったとしても、幻生の言う通り確かに警策は問題視しない。彼女にとって重要なのは目的を達成することができるかどうかなのだから。

 

 しかし、同時にこうも感じている。その理由が説明されたとき今まで自分を支えていた価値観が、音を立てて壊れてしまうようなそんな寒気がする予感。

 いつの間にか崖っぷちに立ってしまったかのような、そんな人生の分水嶺に立っていることに警策は直感で察していた。そんな言葉にできない恐怖を抱きながらも彼女は端末からの返事を待つ。

 

 そして、返ってきた言葉は思いの外、簡素なものだった。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………はあ?」

 

 

 

 通話口からまるで自分が理解できないことが情けない、とも言わんばかりの声音が返ってきたのだ。

 

『僕としても天野くんと御坂くんが力の主導権を得るために殺し合う可能性や、流れ込んだエネルギーが共鳴することで、より早く絶対能力者に至る可能性は予測していたけど、まさかこうも一方的だとは。

 天野くんには身体の類いまれなる特徴だけではなく、他にも特殊なものがあるのかもしれないねぇ』

 

 それこそ、ミサカネットワークから流れたエネルギーに対して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と幻生は話した。

 突飛なことの連発で警策が困惑していると、幻生がどうしてこのような話をしたのかを説明する。

 

『今までの話を聞いて分かっただろう?警策くんに言わなかったのは今の話の多くは、僕の願望に近い仮定の推測が基に想定されたものだからだよ。確証なんて何一つ無い上に可能性は限りなく低い。

 小数点以下を切り捨てたときに、0%の確率でしか起きない作戦を警策くんに話しても、無意味でしかないだろう?』

 

「……でも、アンタはその低い可能性に賭けていたんじゃないの?暗部の人間を利用までして」

 

『老人のちょっとした趣味の一貫に過ぎないよ。開花すれば面白い。その程度のものだと思ってくれていいとも。あくまでも計算上では天野くんを安全弁として、御坂くんを安定した絶対能力者にするほうが現実的さ。

 僕自身も天野くんが僕の期待に応えられるか半信半疑ではあったしねぇ。まあ、結果として想像以上の結果を叩き出すところが天野くんの素晴らしいところだけど』

 

 どうやら、幻生からしてもここまでの成果になるとは思ってもいなかったようだ。天野倶佐利があの姿になって喜んでいたことからも虚偽では無いだろう。

 警策看取は通話口から意識を離して一人考える。

 

「…………」

 

 ……信用はできない。だが、警策はもう戻ることもできはしない。たとえ破滅するのだとしても彼女には成し遂げたいことがあるのだから。

 通話口の向こうに居る妖怪はそんな警策の思考を読んだように滔々とした口調で語りかけた。

 

 

 

『安心するといい。警策くん、君の願いは叶う。天野くんが最終的にどんな境地に至ったとしてもね』

 

 

 




◆裏話◆
幻生がオリ主の抹消に気付いた理由は、過去の記憶を遡ると変に途切れた箇所を見付けたため。食蜂ならば替えの記憶を差し込んで誤魔化すこともできますが、オリ主の心理掌握は劣化しているのでそこまではできません。
これはオリ主のポカが理由ではありますが、普通記憶は磨耗していくもの。思い出せなくても忘れてしまったかな?となるのが普通です。相手が『木原』でなければ誤魔化すのは容易だったでしょう

◆作者の戯れ言◆
天上の意思に辿り着くもの《SYSTEM》は旧約3巻で小萌先生が語っています。後々どこかで出そうと思っていたのですが、それを聞いたのがインデックスと姫神という、レベル6と一切関係無いキャラクター達なので伏線が張れませんでした(汗)
後々、レベル6シフト計画の章のどれかに追加すると思います。見通しが甘く申し訳ありません。m(_ _;m)三(m;_ _)m


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117.Phase5.1→Phase5.2

あと数話で今月分終わりです


「ひょっ、ひょっ、ひょっ、さあ、大方の説明はこんなところだよ。現時点で天野くんが絶対能力者(レベル6)に至ることはほぼ間違いないと言ってもいい。

 数値で評価できないところが難しくはあるけど、御坂くんのように一定ラインを越えると精神が変容することもないはずさ。目視で計算した到達率の上昇も想定の一.八倍といったところだろう。

 君の役目は天野くんの精神を誘導し、窓の無いビルを破壊するように悪意を向けることだね」

 

『……それしか方法が無い訳だからやるけど、そもそも美琴ちゃんほどの憎悪が天野ちゃんにあるのかな?何気に天野ちゃんって学園都市の闇との関わりってそんなに無くない?

 窓の無いビルを破壊したいって思わせることができるか怪しいと思うんだけど』

 

「それについては大丈夫だろう。彼女と関わりが深い一方通行(アクセラレータ)くんが参加していた絶対能力者進化(レベル6シフト)計画の全容も天野くんは知っているし、それこそ直近でぶつけた黒夜くん主催による『暗闇の五月計画』の被験者達の集団、『同窓会』も彼女の心身共に傷となって無事に刻み込まれたことだろう。

 学園都市の悪意を当事者となることで、より強く意識する前段階は既に済ませてある。あとは、君の手腕によるところが大きいね。期待しているよ」

 

『私からみれば自分の名前を勝手に利用されただけなんだから、美琴ちゃんとは違って気にすること無いと思うけどね。それが天野ちゃんにとってはそんな風に割り切れないってことか。

 こんなに周りに気を使って不都合にならないように立ち回ってるのに、それでも自分を責め続けるなんて随分と温い世界に居たみたいだねー。力が有って期待され続けるとこんな潔癖症になっちゃうんだとしたら、それはそれで不憫だけどさ』

 

 天野倶佐利(くさり)は学園都市の悪意をほぼ完璧に跳ね返してきた。それも、他者に影響が向かないように細心の注意を払ってきたことを考えれば驚嘆に値するだろう。

 普通の子供が物心が付く前にこれだけ精神が確立しており、大人達の欺瞞や誘惑などの手練手管を見事に躱し続けたのだから、彼女のしたことは称賛されることはあれど非難されることなどあるわけがない。

 だが、それを彼女自身がそれを認めない。一方通行のこと然り、『暗闇の五月計画』のこと然り、多重能力(デュアルスキル)の能力発現研究所の長期に渡る運営然りと、彼女が関わることすらできなかった事柄も、全て自分のせいだと感じているようだ。

 

「(倶佐利ちゃんならこの程度の感情の揺れは本来一人で消化できる。それは過去のことからみても間違いない。この程度で感情的に行動するならもっと昔に何か致命的な失敗をしているはず。

 でも、私が介入するのはガードが弛くなった深層心理。そして、ダメ押しでお爺ちゃんが倶佐利ちゃんの心を揺さぶったことで、隙が大きくなっている。チャンスは今この瞬間しかないか……)」

 

 善意で扇動しても駄目。悪意を振りかざしても無意味。損得で誘い込んでも拒絶する。そんな鉄壁の牙城を崩せる可能性が生まれたのだ。彼女を狙う科学者からすれば喉から手が出る程に羨ましい状況なのだろう。

 まあ、警策からしてみればどうでもいいことだが。

 

「僕は念のために心理掌握のリミッター解除コードを手に入れるよ。天野くんの様子から無用の長物になりかねないけど、天野くんの適性や能力を算出できない以上は保険として必要だろうしね」

 

『了解。私も指定の場所に移動するんで』

 

 そう言うと幻生の端末の通話機能が切れた。彼はそれを見ながら呟く。

 

「このまま行けば絶対能力者(レベル6)に天野くんは(じき)に到達するだろう。だけど、天野くんがそんな順当な結果を果たして出してくれるかな?

 期待しているよ天野くん。是非とも僕に心が震えるほどの何かを見せてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強力な電気によって発生した、電磁パルスの音が鳴り響く中で、肩にジャージをかけた少年は突如乱入してきた少女に問い掛ける。

 

「オイオイ、それじゃあ何か?あの角生やしてんのが天野の奴なのか?」

 

「多分……だけどね。他の妹達(シスターズ)である可能性もなくはないけど、強度(レベル)でならコピーした天野さんの方が高いし、何より私達がいた建物周辺にも居なかったみたいだから、可能性でいえば天野さんが一番高いわ。

 ……それはそうとアンタって大覇星祭で選手宣誓してた超能力者(レベル5)よね?なんでここに居んの?」

 

 学園都市で七人しかいない超能力者が、偶然居合わせるという珍しい事態となったが、今の状況において言えばそんな二人よりもさらに異質な存在がいる。

 御坂美琴の姿をしていながらも異形としか形容できない姿へとなっている少女。この場はそんな彼女を中心として形成しているのだ。

 

「にしても、敵に操られるなんて随分と根性が無くなっちまいやがったみたいだな。

 よしッ!(かつ)て相棒だった(よし)みでいっちょ盛大に根性注入してやるか!」

 

 そのさらっと出てきたとんでもない言葉を聞いた二人は、同時に削板の方へ驚愕の顔を向けた。

 

「えぇっ!?削板が先輩の相棒!?なんだそれ聞いたこと無いぞ!?」

 

 御坂も声には出さなかったが、あの一人で行動するのが好きそうな捉え所の無い少女に、相棒と呼べる誰かがいることが驚きだった。

 

「ん?知らねえのか?俺と天野は一年くらい前に『ド根性原石コンビ』ってチーム名のタッグを組んでたんだ。困ってる奴助けたり悪の組織をブッ飛ばしたりして、巷じゃそれなりに名を馳せたものだ!」

 

「「え、えぇ……」」

 

 あんまりなネーミングセンスにドン引きしている後輩二人。彼女のことを知っている二人からすれば、そんなチーム名を恥ずかしげもなく名乗り行動するなど到底思えなかったのだ。

 若気の至りというやつなのだろうか?と、それぞれショックを少なからず受けていると、彼は懐かしむように続きを話す。

 

「いやー、本当は『ド根性爆裂スーパーアルティメット最強原石コンビ』って名乗りたかったんだが、天野がやたらと拒否してなー。本当に見た目に反して控え目な奴だぜ」

 

「「なるほど貴様が原因か」」

 

 どうやら嬉々として名乗っていたわけではなく、妥協してしぶしぶ受け入れたようだ。飄々として常に自分のペースで動いているような人間を諦めさせるとは流石は超能力者と言うべきか。

 そんな我が道を行く根性馬鹿の辞書には、デリカシーという言葉はどこにも記述されていなかった。

 

「アイツに俺以外の男が側に居たとこ見たことなかったんだが、もしかして天野が言っていた面白い後輩ってカミジョーのことか?お前もしかしてアイツと付き合ってんの?」

 

「「ぶふうッ!?」」

 

 とんでもない発言に二人は吹き出した。初対面でいきなりなんてことを聞いてくるのか。

 

「先輩にはいろいろとお世話になってるけどそんな関係じゃないって!」

 

「そ、そうよ!あの人からすればコイツなんてどんだけ頑張っても弟分が限界のはずよ。女の子の扱いすらまともにできないデリカシーゼロ助が、よりにもよって彼氏なんて百万年早いっての!」

 

「…………あの、御坂さん?あなたにはオブラートに包むという優しさはないのかね?いくら事実であってもそれを言葉にするのはどうかと上条さんは思いますことよ?」

 

 そんな会話をしながらも三人は異形の姿となった天野倶佐利(くさり)の攻撃を防いでいく。超能力者の参入はそれだけでパワーバランスを容易に覆すのだ。

 

「(とはいえ、そこに居る野郎共とは違って逸らしたりするのが限界ね……。まあ、電撃を打ち消したり叩き落としたりする奴らを気にするだけ無駄か)」

 

 横目で電撃を捌く彼らを見ながら御坂はため息を吐いた。

 

「(それにしても、自信無くすわね……。まさか、天野さんの力が私以上に増加するなんて事態考えたこともなかったわ。

 まあ、私の力はその出力が長所じゃなくてその汎用性にこそある。出力が負けていても電気の扱いなら充分に渡り合えるんだろうけど……このまま何も無いなんてことはきっと無い)」

 

 木原幻生。

 今回の黒幕の正体を知っている彼女からしてみれば、ただ力を増すだけなんてことは無いだろう。おそらく、まだ何かしら状況が悪化する可能性を秘めている可能性がある。

 

「(幻生の最後に見た言動と黒い雷から、本来は私に向けてのアクションだったはず。それなのに、こうなったってことはなんらかの原因で天野さんにエネルギーが流れたってとこかしら?

 それに、私がここ来るまでなんの妨害もなかったところをみると、私はもう幻生の眼中に入って無い可能性があるわね……。

 だとすると、私にしようとしていた何かを天野さんで代用しようとしている……?

 …………幻生の狙いがなんなのか知らないから全部推測でしかないからなんとも言えないか。やっぱり、この騒動を止めるには大本の幻生を止めるしかないって訳ね)」

 

 おそらく、聞いた話の内容からして二人は飛び入り参加の可能性が高い。そんな詳細を知らない人間にこのような難解な状況を預けるには気が引けた。

 しかし、現状を打破するには今の人数の偏りは維持していいものではないのもまた事実。

 

「(やっぱり、いくら厚顔無恥であろうとも、二人に頼んで私が食蜂の助けに向かうことが最善か……)」

 

 そして、思考の途中で飛んできた電撃を上条が右手で打ち消す。

 

「本当におもしれーな。その右手」

 

「ああ、できればコイツで触れて先輩が元に戻るか試したいんだけど……──って、なんだッ!?」

 

 上条と御坂がそれぞれ問題を解決するための方法を提案しようとしたその矢先。相対する天野倶佐利に異変が起こった。

 

 ビキビキッという異音と共に、彼女の額に生えた角が捻れ曲がる。重なりあうようにして伸びた角同士の中央に黒い目玉のようなものが浮かび上がった。

 

「な……何よ、あれ……?」

 

 異形の姿がより禍々しいものに変化していく。自分の姿が基になっているのだから御坂としては背筋が凍るものだ。

 

「オイ、なんか変わったぞ?なんだありゃ?」

 

「……注がれてる力の影響だとは思うけど、詳しい話を理解できてないから俺からはなんともいえない。食蜂の話じゃ俺が側にいるだけでいくらか阻害できるって話だったけど、本当にそうなのか分から「ッ!!ヤバい来るわよ!!」……へ?」

 

 ビュオッ!!と、突然空気を裂く音がした。それがどういう理由で起きたものなのか上条はすぐに理解することになる。

 

「そ、削板ッッ!!!!」

 

 弾き飛ばされた削板が鉄筋コンクリートで構築された建物に直撃する。並の人間ならばこれで物言わぬ肉塊になっている。しかし、彼は突き抜けた天才の一人。

 ドガッ!と、建物の天井を突き破り元の位置まで一足で戻ってきた。

 

「ふぅー、油断した情けねー」

 

「お、お前、あれを受けて無事とかどんだけ…………!」

 

 言葉の途中で上条の視界に赤いものが映る。それは人間の内側に流れているのが正常で、外界で見てはならないものだった。

 

「……こりゃあ、根性入れねーとマズイぞ」

 

 額から血を流した削板は、先ほどよりも敵の力量が大幅に増加したことをその身で認識しながら、内心で一人呟く。

 

「(全く見えなかった)」

 

 先ほどまで安定してこちらに傾いていたパワーバランスが、明確に崩れてしまったことを、その事実と共に彼は察した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは深層意識の奥深く。

 意識が無い状態の夢と現が曖昧な状態。微睡みの中にいる状態と言えば分かりやすいだろうか。その個々人で構築される他者が入り込む余地が無いはずの場所に、何故か第三者の思考が割って入る。

 

『ネーネー、この街で起こってることを見逃していいのかな?この街がしてきたことがどんなのか、この学園都市で生きていればあなたも当然幾つか知って──』

 

『うん、分かってる。あのビルを壊すんでしょ。だってあのビルがあるからクローンのあの子達があんな目にあってるんだから。あのビルさえなければこれ以上変な実験だって……』

 

『……ん、んん?(どういうこと?あなたは美琴ちゃんじゃなくて倶佐利ちゃんでしょ?なんで美琴ちゃんみたいなこと……)』

 

『私があのビルを壊して悲劇を無くさなきゃ。だから、今は力を集めるんでしょ?』

 

『(もしかして、ミサカネットワークを経由して同じエネルギーが注入されたから、美琴ちゃんと倶佐利ちゃんで意識が同期しちゃったってこと……?

 いくらなんでも、深層心理まで美琴ちゃんになってるなんて予想外過ぎるけど、結果としては美琴ちゃんの方が思考を誘導しやすいから私としては好都合なのも事実)』

 

 そこまで考え、警策(こうざく)の胸にチクリと(とげ)が刺さった。

 

『(……でも、流石に心が痛みはするよね。倶佐利ちゃんの能力の情報はあらかじめ幻生から送られてる。資料によると言動はコピー元のものだけど意識は間違いなく倶佐利ちゃんであることが確認されてた。

 つまり、深層心理まで影響があるはずは絶対に無いってこと。このことから考えられることとして…………もう、倶佐利ちゃんの自我は無い可能性が高い)』

 

 ただの記憶喪失ならばまだ可能性はあっただろう。記憶喪失の人間がエピソード記憶を失い、記憶の断片から自我を構成してしまうことで精神が違う人間として確立してしまうケースはある。

 しかし、今回は勘違いや思い込みではなく、御坂美琴の記憶から意識まで全てが同期してしまったが故の精神の変換。

 妹達(シスターズ)学習装置(テスタメント)で精神が同じように固定されるものと同じく、自然に以前の自分へと戻ることはまず無い。

 

『(学園都市をまとめて吹き飛ばす以上は倶佐利ちゃんも当然死ぬことになるけど、……死ぬ前に自我が全く別人のものにされるなんてそれこそ生命の冒涜でしかない。

 死ぬ間近だからこそ尊厳は失っちゃいけないはずなのに…………分かってはいたけど、私の地獄行きは確定みたいだね)』

 

 意図したことではない上に計画したのも自分ではないが、こうして自我を変えられた彼女を手駒として扱う以上は、自分は無関係などというほど恥知らずではなかった。

 しかし、どれだけ外道に墜ちようとも為すべきことは変わることはない。

 

『うん、そうだね。力を溜めさえすればあんなビルすぐに壊せるよ』




オリ主が死んだ!この人でなし!

◆裏話◆
原作よりも絶対能力者への到達率が早いために、上条が右手を使う暇がありませんでした


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118.天野倶佐利の異常性

 息も絶え絶えな様子で少女は走る。非力な自分では接近されてしまうと大して抵抗ができないと知っているからだ。

 時間稼ぎも兼ねて、彼女は手元の端末から幻生に話し掛けた。

 

「天野さんを絶対能力者(レベル6)にしたいみたいだけど、確か絶対能力者に到達(りょく)のある能力者は第一位だけという結論が出たんじゃなかったかしらぁ?」

 

 設置されているスピーカーから声が投げ掛けられた幻生は、その質問を肯定する。

 

『うん、理論的には安定して絶対能力者に達しうるのは彼だけだねぇ』

 

「……理論的には安定して……?」

 

『それこそ、御坂くんでは理論上で到達率五十三%で精神が別次元のものへと変異してしまうんだ。

 一〇〇%に到達するまでは自我がなくては困るから、それを防ぐための方法として心理掌握を手に入れた訳だけど、天野くんが絶対能力者に至る人員として確定しまった以上は、それも無用の長物になりかねないねぇ』

 

「……勝手に能力を奪われた側としては物申したいところだけどぉ。ここは私の強靭な忍耐力で飲み込んで上げるわぁ。

 私が聞きたいのは御坂さんでも安定しないなら、天野さんだったら更に難しいんじゃないかってことなんだけど、そこのところ私にも答えてくれるかしらぁ?」

 

 食蜂の口から出た当然の疑問。

 しかし、幻生は先ほどの警策との問答でそれは食傷気味であった。ならばと、幻生は少し視点を変えて話し出す。

 

『食蜂くん。君は「オカルト」を信じるかい?』

 

「……はあ?」

 

 文脈を断ち切るかのような話題変換に食蜂は困惑する。話の方向性が百八十度変わったのだからそれも当然だった。そんな食蜂を気にせず幻生はしゃべり出す。

 

『科学というのはあらゆる法則を数値化して紐解いていくと、ポッカリと理論では説明できない理解不可能な箇所が生まれることが度々ある。

 僕達科学者はその事を「非科学(オカルト)」と名付け、その解き明かせない行き止まりをブラックボックスに放り投げてきた』

 

「……」

 

 『オカルト』。

 幻生からその言葉が出てくることに違和感しか感じられないが、食蜂は天野が置かれている状況を把握したいがために、湧き出る疑問を全て封殺する。

 話の内容の真偽はともかく、少なくとも時間稼ぎの時間が稼げているのは事実だ。

 

『天野くんはその「オカルト」の数値を弾き出すことが殊更(ことさら)に多いんだ。特定の条件下でしか出てこないはずの「オカルト」が彼女を相手に計測しているとどんどん出てくる。まるで、その「オカルト」を自ら精製しているかのようにね』

 

「ふーん、つまり天野さんが使う能力は超能力じゃなくて『オカルト』だとでも?」

 

『いやいや、それは早計だよ。僕の考えでは彼女の力自体は超能力に分類してもいいものなのだろう。彼女の不可思議な力は能力の行使とはまた違ったときに発現しているから、彼女の能力とはまた別物と僕は思っているよ。

 本人ですら把握していないようだから、意識せずとも自然と発生するもののようだね』

 

 そして、と更に幻生は付け加える。

 

『ここ最近は「非科学」がより多く計測できるようになったんだ。推定で二ヶ月ほど前くらいかな?』

 

 そのやたらと詳しい様子に、まさかと思いながら食蜂は問い質す。

 

「……もしかして、天野さんを遠くから監視して、データを取っていたりとかしてるんじゃないでしょうね?あなたならしてもおかしくはないけど、ちょっと変態(りょく)が極まり過ぎじゃないかしらぁ?」

 

『天野くんのデータは貴重なサンプルだからねぇ。一分で集まるデータが値千金になる。科学者なら垂涎(よだれ)が出るほど欲しいものさ』

 

「…………コイツ、真面目に殺した方が良いんじゃないかしらぁ。天野さんの貞操を守るためにもなるべく早く」

 

 データのためならば乙女の私生活まで土足で踏み入れようとしていることに、食蜂は軽蔑と嫌悪感で鳥肌が立った。

 

『いやいや、プライバシーはそれなりに守るようにしてるよ。まあ、それも近付き過ぎるとバレる可能性があるからだけどねぇ。

 天野くんの察知能力は極めて高い。だけど、それは特定の個人を見付けられるほどに精度は高くはないんだ。

 なら、やりようはいくらでもあるとも。彼女が視認しても大丈夫な風景に馴染むことが可能な人員と、データを取っていると一目では分からない機材を用意すれば、仮に彼女の索敵範囲に入ったとしても誤魔化すことは簡単さ』

 

 事も無げに言う相手の神経に反吐が出る。年頃の少女の私生活を見張るなんてゴミカスとしか思えない。絶対に何かしらの天誅を下してやると彼女は決意した。

 

『そして、僕は集めたデータから一つの結論を出した。「非科学」が最も計測出来たのは天野くんの危機的状況だったことから、おそらく自動迎撃システムのようなものとして、「科学では立証出来ない力によって生み出された何か」が存在しているのだろうとね』

 

「(自動迎撃システムって、CIWSのようなもの……?自国へ発射されたミサイルなんかを迎撃する近接防御火気システム。それと似たようなものが天野さんの中に……?)」

 

 幻生の発言からどうやら火事場の馬鹿力とは別種のもののようだ。疑問を抱く食蜂に幻生は自らが叩き出したその方策を語った。

 

 

 

 

『そして、どうやら天野くんに眠る「非科学」はなかなか強力なものらしくてねぇ。今回の実験に支障をきたす可能性が高かったんだ。

 だから僕は考えた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 これこそが答えだった。何故オリ主の危機的状況にもかかわらず、未だにエルキドゥが表に出て来ないかと言えば、エルキドゥもオリ主同様ミサカネットワークから送られたエネルギーで、ショートしてしまったからに他ならない。

 この結果の要因はミサカネットワークから送られたエネルギーが、魔術ではなく科学サイドのものだったからだ。

 エルキドゥは魔術に関しての防御機能は途轍もなく高いが、科学による攻撃は門外漢である。

 これが生半可なものであったとしたら、エルキドゥはダメージを受ける程度で済んだだろうが、このエネルギーは能力者を神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの(S Y S T E M)へと押し上げる程の高密なエネルギーを秘めている。

 その上、幻生の狙い通りに身体の主導権をオリ主へと預けていたため、十全に力が発揮できない状態だったのも災いした。しかし、似たような事態を偶然か必然か、彼らは既に経験している。

 

 

 ──そう、御使堕し(エンゼルフォール)だ。

 

 

 あの経験があったからこそ、逆にオリ主もエルキドゥも油断していたのだろう。

 オリ主はあのような経験は原作知識からもう無いと確信してしまい、エルキドゥは御使堕しで今後似たような事態を防ぐための心構えをしていても、それはあくまで魔術によるもの。科学サイドというものをオリ主の視点から観察していたからこそ、そちらに対しての防御の認識を弛めていたのだ。

 それこそ、実際に科学サイドの一つの頂点である一方通行(アクセラレータ)と対峙したのも原因であるかもしれない。脅威的な力だと認識はしても、自らの力を使えばあの絶対防御は貫けるものだと、エルキドゥは正確に認識してしまった。

 そして、マスターの意向から科学サイドの問題には、なるべく介入しないようにしていたからこそ、悪意を感じられても即座に動くことはなかったのだ。

 

 言ってしまえば、思い込みによるそれぞれのミス。今回に限りそれが致命的な失敗だったというだけのこと。その結果オリ主もエルキドゥも完全にその意思を停止してしまうこととなった。

 

 そして、これは彼らのミスでもありながらも、この結果を生み出すこととなったのは、他でもない幻生の導き出した解決案が最適解であったからだ。

 それこそ、オリ主のデータを常に幻生が取っていたからこそ、生まれた攻略法だったのだから。

 

 

 

 

 

『その結果はご覧の通りだよ。天野くんの中に居る「何か」は無事に封じ込めることに成功し、天野くんは絶対能力者の一歩を踏み出すことが出来た。

 何せ「非科学」は数値化できないからねぇ。もし、注がれたエネルギーを跳ね返す力すら持っていたとしたら、天野くんは絶対能力者になるための一歩を踏み出せなかったよ。まあ、そのときは元から進めていた御坂くんの絶対能力者計画を進めるだけなんだけど』

 

 あくまでも第二計画(セカンドプラン)。成功しようがしまいが構わないということだった。

 

「……つまり、天野さんが御坂さんを遥かに凌駕する理由は、その科学じゃ導き出せない何かが要因ってこと?」

 

『それも一つの要因になる、ということだよ。僕の協力者にも伝えたけど天野くんの特別なところは、身体だけじゃなくその精神性もだからねぇ。あれだけ特異な精神を持つ子はこの世に二人といない』

 

 タブレットに映る幻生は愉快そうに話す。食蜂はその言葉に違和感を抱いた。

 

「確かに、天野さんの精神面は記録から大人顔負けみたいだけど、私達、超能力者(レベル5)と比べるとそこまでに思えないわぁ。

 第二位、第四位は暗部と深い繋がりがあるし、それこそ第一位はクローンを一〇〇〇〇人殺してる。天野さんもかなり特殊だとは思うけど、その人達の方が大概の性格だと思うけどぉ?」

 

『ひょっ、ひょっ、ひょっ、食蜂くんは分かってないねぇ。まあ、食蜂くんは彼女のことをさして知らないようだから当然と言えば当然かな』

 

 ビキリッ!と、その言葉を聞いた食蜂のこめかみに線が走った。先程までよりも幾らか声の高さが下がった彼女は、小さな眉根を寄せて幻生に向け棘のある声で話し出す。

 

「……へ、へえ?この私が天野さんに対して知らないことがあるとでも?残念だけどあの人の置かれている状況を把握するために、だいたいのことは調べ上げてるわぁ。

 まあ、あなたのようにプライバシーを無視するかのような情報までは得ないようにする配慮(りょく)はあるから、情報の多さではあなたの方が少し上回ってるかもしれないけどねぇ」

 

 食蜂は幻生を小馬鹿にするように告げる。彼女としては天野との関係もそれなりに続いており、彼女の周辺のことは既にリサーチ済みだ。

 これは相手のことを完全に信用できない食蜂が、相手の情報を握ることで不安材料を無くしたいからという、精神的安定を求めたのが始まりではあるのだが、関係が深まることで天野の置かれている状況を知ることとなり、それを改善するため彼女の情報をより詳しく調べ上げていた過去がある。

 だからこそ、天野の情報はかなり知っている部類だと食蜂は自認していた。そんな彼女の態度がまるで可愛らしいとでも言いたげな声音で、幻生は衝撃的な真実を話し出す。

 

 

 

『それなら、食蜂くんは知ってるかい?天野くんが置き去り(チャイルドエラー)だということを』

 

「は…………?」

 

 

 

 食蜂はその言葉に呆然とする。何故なら彼女はそんな情報は一切知らないからだ。動揺する彼女に対して幻生は諭すように囁きかけた。

 

『君も不思議に思ってたんじゃないかな?能力情報の提供で生み出される莫大な資金は果たしてどこに使われているのかをね』

 

 食蜂としても調査する中で見付けた莫大な金の流れは、確かに興味を抱いたことがある。そして、彼女はその答えを直接本人から聞いていた。

 

「う、嘘…………天野さんは多くのお金の流れを作ることで、自分の能力で利益を得ようとしている研究施設に対して、イニシアチブを取りやすくするためだって……」

 

『もちろん、それも理由の一つではあるのは間違いないだろう。普通に彼女と取り引きをすれば、能力研究的にも金銭的にも潤沢とも言える報酬が確約されるのだからね。

 それを欲張って強行しようとすれば、彼女と協力関係の企業から妨害や刺客を送られる可能性があることを考えれば、彼女に取り入るのが一番安全で確実だ。そう言った流れを作るためにお金を利用するのは効果的で合理的だよ』

 

「……いや、だとしても天野さんの実家が、それ相応のお金持ちって情報は確かよ。お嬢様なんだから金銭的な余裕が無いはずが……」

 

『なおのこと、それだと辻褄が合わなくなるんだ。何せ彼女がお金の流れを作ったのは彼女の能力が知れ渡り、初めて襲撃されるよりももっと前。それこそ、学園都市に来て初めて取り組んだことがそれだよ。

 まあ、先の展開を読んで仕組んだ自衛という可能性もあるけど、お金持ちのお嬢様である少女が一番に金銭を気にするのは、いささかおかしくないかな?』

 

 確かにそうだ。幾ら聡明な子供でも能力開発という、分かりやすいオモチャがあるのならそちらに目を向けるはず。お金の重要性を仮に理解していたとしても、家がお嬢様ならば地に足を着けた状態で取り組むのが一番自然なのだから。

 ……しかし、もしそれが本当のことならば天野倶佐利という少女は……。

 

 

『──君の立場ならどうだろう。お腹を痛めて産んだ赤ん坊が緑の髪をした異常な子だとするなら、君はその子に「愛情」を注げるかな?』

 

「…………」

 

 

 ……つまりは、そういうことなのだ。置き去りはそもそも金銭的な理由などから生まれる障害を、乗り越えられなかった親が子供にする厄介払い。

 箱入り娘のお腹から天野倶佐利のような特殊な子供が生まれたのならば、少しでも遠くへ遠ざけたいと考えてもおかしくはないだろう。

 その上、超能力者を研究する学園都市ならば受け入れを拒否するはずもない。

 食蜂は天野が背負ってきた境遇を思い唇を噛み締める。

 

『彼女の母親は天野くんが産まれると、山深くにある別荘に彼女を隔離し、学園都市に来るまでの世話はメイドに任せていたそうだ。彼女には両親が海外に行ってしまい、「手違いで不幸にも振り込みが止まってしまった」と知らされたけど、聡明な彼女のことだ。とうの昔にそれが嘘だと見破っているだろう。

 小さなときから母親にも父親にも会えずに過ごした嬰児(みどりご)が、そのまま誰も知り合いがいない学園都市に放り込まれて過ごすなど、パニックになっても仕方がないことさ。しかし、僕が知る限り彼女はそんなところを一切していない』

 

 物心付く前に知らない土地にたった一人で投げ出される恐怖は如何様なものか。食蜂は自らがそうだったらと想像して背筋が凍った。

 

『この歳まで絵に描いたように真っ直ぐ育つことがそもそも異常なことだよ。

 彼女が周囲の人間を助けようとするのも、誰にも与えられなかった「愛情」を誰かを助けるという行為の報酬として、無意識に求めるが故なのかもしれないねぇ』

 

 考えたこともなかった。あの少女がそんな境遇を過ごしていたなど想像もしていなかったのだ。

 もし、そんな風に育てられたのなら、自分は果たして今のような精神性をしていただろうか。『愛情』を注がれるのは自己肯定感と承認欲求を満たすことに繋がる。それが一切与えられなかったとするならば、常に足場の無い不安定な状況に置かれていること同然なのではないだろうか。

 

「(なら、当然だけど普通は安定を求める。『愛情』を受けることに貪欲になってもおかしくはない。……けど、私はそんな状態の天野さんを見たことがないわ)」

 

 愛情を注がれるべき時期に一度も愛情を注がれることなく過ごし、今もなお愛に飢えているとするならば、それを身近な人間にさえ一切気取られない強靭な理性は、果たしてどのように形成されたのだろうか。

 

『飄々とした態度の裏では、一体どんな葛藤を繰り広げているんだろうねぇ。親から絶縁された孤独な生活で、一度も疑問を抱かなかったことは無かったはずだろうに。

 それこそ、当時は理解できなかったとしても学園都市で周囲の話を聞けば、どれだけ自分が異常な環境下ですごしたのか理解できるはずだ。

 それにもかかわらず、愛情を受けとることが出来なかった理由だろう緑色の髪をあそこまで伸ばすその意味。……実に、(いびつ)な精神だとは思わないかね?』

 

 ……確かに、そのような事実があればコンプレックスになっていても不思議ではない。あれほどまで伸ばす理由が何故なのか食蜂には理解出来なかった。

 

『流石は高位能力者の一人と言えばいいのかねぇ。実に独自性がある思考回路だ。そして、それを表に一切出さない器用さも彼女を彼女足らしめる要因なのだろう。

 その独自性の高い思考回路からみても、やはり全ての能力者の中でも飛び抜けた自分だけの現実(パーソナルリアリティー)の強固さと言えるね』

 

「……自分だけの現実……?どうして、今の会話からそんな話に?」

 

『ふむ、幾らか周回遅れは否めないが君は僕ほど面白いデータを手に入れてないから仕方の無いことなのだろうね。そして、君にも分かるように説明して上げてもいいんだけど────どうやら時間のようだねぇ」

 

「ッッ!?!?」

 

 その声を背後から聞いた食蜂はすぐさま逃げようとするも、多才能力(マルチスキル)の能力の一つであろう氷の能力で、体操服が壁と挟まるようにして凍り付く。

 壁から体操服を抜き取る時間をくれるような相手では無いことを察して、食蜂は無駄な力を使うのを止めた。そして、敢えて今まで聞かなかったことを幻生に尋ねてみる。

 

「……というか、そもそもなんで私を追っているわけぇ?御坂さんならともかく、天野さんに心理掌握が全く効かないのは調査済みでしょう?

 リミッター解除コードで心理掌握の出力が増加させたとしても、能力が通らないものは通らないわ」

 

 これは心理掌握を長年使ってきたから理解できることだった。0に何を掛けても0にしかならない。

 リミッター解除コードで心理掌握の出力が増したとしても、動物である犬猫には心理掌握が通じないのと同じ様に、幻生がリミッター解除コードを手に入れても、天野への精神介入は不可能でしかないのだ。

 食蜂からすれば無意味でしかないことに付き合わされているのは、馬鹿馬鹿しいことこの上無い。

 それを聞いた幻生は更に笑みを深くする。

 

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「……指標ですって?」

 

 思いもしなかった返答に疑問を抱く。しかし、幻生はそんな食蜂のことは気にせずに話し続ける。

 

「けど、それはあくまでも今の話だ。今のまま進めば無事に天野くんは初めての絶対能力者となり無用の長物に成り果てる。

 だけど、仮に僕が予測するような可能性を見せてくれれば、君の心理掌握、そしてリミッター解除コードもあとから重要な役割を担うことになる」

 

 相手に効かない能力に一体なんの意味があるというのだろうか?食蜂にはその意味が全く分からない。そんな食蜂など眼中に無いかのように愉快気な声で幻生は笑い出す。

 

「クククッ、絶対能力者になれば天野くんは人間の枠組みを超越することになる。それこそ、彼女の存在に世界が軋みを上げるだろうねぇ。

 そうなれば、被害に遭うのは間違いなく彼女の居る土地。つまりは、学園都市だ。

 彼女の成長が世界を滅ぼすのか、それとも理を解き明かすことで世界を丸ごと掌握するのか。科学者としてとても面白い研究対象だよ」

 

 食蜂には幻生が何を言っているのか理解出来なかった。それこそ、相手が机上の空論を日常会話で繰り広げているかのような、気持ち悪さが彼女の中を渦巻く。

 しかし、持ち前の天才的な頭脳を用いて言葉を分析し、今の話から生まれた疑問を幻生に尋ねた。

 

「……今の話がどこまで本気かは分からないけど、それだと学園都市に居るあなたも無事では済まないんじゃないの?」

 

 その質問を聞いた幻生はなんでもないように、しかしそれこそが科学者のあるべき姿なのだとまるで主張するように、不気味など落ち着いた穏やかな声音で幻生はその言葉を発した。

 

 

 

「──科学の発展に犠牲はつきものだろう?」

 

 

 

 清々しくもそんな狂ったことを平然と(のたま)う妖怪を見据えて、食蜂は嫌悪感を隠しもせずに呟いた。

 

「……これだから、正気(りょく)が低いのを相手するのは嫌なのよねぇ」




【速報】衝撃の事実、オリ主YAMA育ち

◆裏話◆
オリ主「ええ?振り込み無いの?なら、しゃあない稼ぐかー……そういや、労基法は大丈夫か?」



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119.Phase5.2→Phase5.3

お待たせしました


『……この状況は良くないね』

 

 周囲が曖昧な背景で包まれた異様な空間の中に彼/彼女は居た。性別がどちらとも判断できない容姿は、人間には作り出せない神秘的な『美』を感じさせるが、その姿は実際のものではなく、自意識が生み出した仮初の姿でしかないのだ。

 

 その様な状況の中でエルキドゥは佇んでいた。

 

 そこが何処かと問われれば答えるのは難しい。

 人には表層意識と深層心理と言うものがある。表層意識とは主観と客観が照らし出し、その当人が認識する自意識のことである。

 深層心理とはその逆。その当人ですら把握していない無意識下で行う思考のことである。ならば、エルキドゥが居るこの場は深層心理なのか。

 

 答えは否である。

 

 そもそも、ここは警策(こうざく)看取(みとり)が介入した深層心理などではない。更に深い部分にして最奥に位置する場所。魂と呼ばれる生物の根源的な部分というのが一番近いだろうか。

 そして、ここは本来ならば思考など介入する余地の無い場所なのだ。その様な場所で何故エルキドゥの意識があるのかと言えば、理由はオリ主に他ならない。

 

『僕とマスターの相性の悪さが功を奏した……というべきなのかな?僕達は一つの身体に二つの魂が存在している特異な存在だ。

 だからこそ、身体に入っている魂の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 今僕がしている僕の思考のようなものは見せかけのものだろう。……いや、それどころかこのエルキドゥも断片を繋ぎ合わせた偽物でしかなく、本物のエルキドゥは今も眠っているのかもしれない』

 

 それは人間に限りなく近付いた人工知能に近いのかもしれない。例として上げるのならば、後に騒動になる『天賦夢路(ドリームランカー)編』の操歯(くりば)涼子(りょうこ)とドッペルゲンガーの関係性に近いだろう。

 

 病に()せる操歯涼子の母親を救うためには、病症となっている部分を丸ごと取り除きサイボーグ技術で補うしか方法がなかった。

 しかし、学園都市のサイボーグ技術はそこまで進んでいなく、母親の余命はあと数年と宣告された操歯は、自身の身体を実験体にした。その内容は身体をバラバラに解体し機械の身体で補うことで、サイボーグ人間を二人分生み出して効率的にデータを取るというもの。

 実験は上手くいきデータを取ることに成功するが、とある問題が浮上した。それが操歯涼子がサイボーグから肉体を取り戻したあとに、繋ぎ合わせたサイボーグに魂が宿るというもの。実際には魂ではなく、操歯涼子のデータから学習したAIであるというのが結末だった。

 

 今のエルキドゥもまさにそれだ。

 

 本人ですら自覚するのは容易ではないほどの、膨大なデータが集約することで生まれる個性にして自我。本来ならば気付くことからも逃避してしまうが、ここは魂という自我が生まれる可能性すら無い場所。

 だからこそ、エルキドゥは気付けてしまった。意識が生まれない場所で意識があるのだから、ここにある意識も偽物なのだと。それに気付くことは自己の崩壊に繋がることと同義だ。

 その時点で発狂してもなんらおかしくはないが、彼/彼女は他でもないエルキドゥだ。精神性を人間と同じにしてはいけない。

 

『僕を使い潰して本体のエルキドゥの意識を甦らせることもどうやら出来ないようだ。マスターの方に呼び掛けても応答は無い……手詰まりだね』

 

 エルキドゥはただ佇んでいるわけではない。エルキドゥから出来ることは既に全て試したあとなのだ。その結果としてエルキドゥからできることは何一つ存在しないという事実を理解したのだ。

 

『科学の力がこうも曖昧模糊として捉え所の無いエネルギーだとは……身体に許容することは出来ても扱えないのならば、毒にしかならないということかな』

 

 実体を感じることが出来るにもかかわらず、掴みきることが出来ずにいる。それこそ、エルキドゥからしてみれば水を掴むのと同じ様なものなのかもしれない。

 だからこそ、エルキドゥはミサカネットワークからのエネルギーを扱うことは早急に諦めた。エルキドゥで不可能ならばより適格な人物が存在したという理由もある。

 

『令呪から呼び掛けても魂に直接訴えても覚醒しないとなると、本当に打つ手が無いね』

 

 エルキドゥは今こうしている瞬間も自らのマスターに向けて、信号を送り続けている。擬似的だとしても科学に属する超能力を扱ってきたオリ主ならば、制御することも可能なのではないかと考えてのことだ。

 しかし、最も効果的であろうこの対策ですら効果が見込まれないのだから、エルキドゥができることなどたかが知れていた。そんなエルキドゥだが、信号を送る最中にあることに気付く。

 

『……どうやら、今までよりも相性が悪くなっているのは間違いないようだ。それに加えて、何だか変な異音も身体からしている異常事態も同時に起こっている。本当に不味い状況だね……』

 

 拒絶しているからこそ、その部分がより強調される。それは魂の不一致性や身体の違和感という形で表に浮き上がった。そして特殊な状況だからこそ彼/彼女はあることに気付く。

 

『いや、どちらかと言うとまるで僕の方がマスターを拒絶している……?それも、時間が経つことでより明確に……』

 

 今まで感じていた相性の悪さではなく、また別種のものであるとエルキドゥは自覚する。そして、エルキドゥは身を以て知っているその既視感を直感的に理解した。

 

『……この拒絶感はまさか……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは戦場であった。

 本来ならば、片手の数で足りる程度の人数で戦争などと(のたま)えば失笑ものだ。しかし、目の前で繰り広げている光景を見て、同じ様な態度を取る人はいないだろう。

 飛び交う一撃一撃が大砲レベルの攻撃が放たれるその戦場は、判断を誤れば次の瞬間には物を言わぬ肉塊にされてもおかしくはないまさに死地。

 そんな絶望的な状況の中で、三人の少年少女達は未だに生存していた。

 

「次、前から来るわよッ!!」

 

 その声に応じて削板(そぎいた)が上条を掴んで飛び上がる。掴まれた上条ですら視認出来ない速度で、移動した彼らのあとに追従してくる物があった。

 

 ズバンッッ!!!!と、今さっき上条が居たところを異様な輝きを灯す翼が貫く。一秒遅れていれば上条に直撃していたその事実に、上条の背中から冷や汗が流れる。

 そんな上条のことなど気にせず、削板は疑問の声を投げ掛けた。

 

「なあ、どうして天野の奴はカミジョーばっかり狙うんだ?もしかして、カミジョーって天野の奴に嫌われてんのか?」

 

「いやいやいやいや、状況を考えろよ!どう考えても今の先輩に意志は無いだろ!?」

 

 そうであって欲しいという本音を隠しながら、上条は削板に向けて反論する。記憶を失う前後共に迷惑をかけた相手No.1であろう人物が、深層心理で自分へ何を思っているかは知らない方が幸せだ。

 もし、辟易としていたならば単純に心がへし折れる。

 

「それにしても、アイツの攻撃する場所がよく事前に分かるもんだなあ。この俺でも視てからじゃねーと避けられねえのによ」

 

「多分だけど、私と天野さんで一時的にネットワークみたいなものが繋がっていたから、その影響で直感的にだけど攻撃する場所が分かるのかもしれないわ。

 ……全くの同一存在で電気系能力者(エレクトロマスター)だから、無意識に発せられる電磁波とAIM拡散力場で動きが先読み出来るのかしら?」

 

 それを人によっては擬似的な『前兆の感知』というのかもしれない。行動を起こす前に発せられる僅かな前兆を感じ取る、上条が身に付けた能力である。

 絶対能力者(レベル6)へと登り詰めるに従って、比例するように強くなるAIM拡散力場と、幻生が打ち込んだウイルスによって生まれた擬似ミサカネットワーク。

 その先読みがあるからこそ、上条を含めた全員が重傷を負わずに立ち回れている。

 

「(だとしても、なんなのかしらこの違和感?まるで、強制的に私の脳へ攻撃箇所が送られてくるような気が……?)」

 

 御坂が抱いた疑問を掻き消すかのように上条の焦った声が発せられた。

 

「でも、このままじゃただ逃げるしかできないぞ!?先輩がこのまま強くなるなら時間が経つにつれて、より崖っぷちに追いやられる!」

 

 均衡が崩れた以上は防御に回るしかないが、時間の有利性は向こう側にある。それこそ、真綿で首を絞めるよりも切迫した状況に彼らは置かれているのだから、この主張を否定することはできない。

 そして、状況はより悪化する。

 

 

 

 ゾアッッッッ!!!!!!と、今まで感じていた空気が全くの別の物に変化した感覚を全身で理解した。

 

 

 

「な……何よ、これ……ッ!」

 

 重くのし掛かるかのような異常極まる圧力。まるで空間が耐えきれずに声無き悲鳴を上げているかのような錯覚が御坂を襲った。

 その発生源は先ほどまで相対していた少女からのものだ。その顔が夜を思わせる黒い闇に着々と覆われていっており、人間かどうかも怪しくなってきている。

 生命本能が警鐘を鳴らすことすらしなくなる、大海をも思い出させる莫大なプレッシャー。その理解の範疇を超えた存在感を前にしたとき、小人は測る尺度が違うために理解することも出来ず、ただその光景を眺めるしか方法は無い。

 

 御坂美琴は一時的にネットワークが繋がったことで、天野がさらに高次の存在へと変貌していくことを鮮明に理解した。

 それこそ、学園都市に居る超能力者(レベル5)を全て動員したとしても、彼女を倒すことが出来ないだろうことを、直感的に理解できたのだ。

 嘗て立ち塞がった第一位以上の巨大な壁に、彼女が膝が折れそうになったその瞬間────二人の男が飛び出した。

 

 

「削板ッッッッ!!!!!!」

 

「おうよッッ!!!!」

 

 

 削板が上条を先導するかのように突っ込む。オリ主に向かって走る最中に、上条が御坂に対して言葉をぶつけるかのように投げ掛けた。

 

「御坂!!チャンスは今この瞬間だ!さっき先輩が変化したときに、数秒間だけ動きが止まってた。きっと今回も同じだとするなら俺の幻想殺し(イマジンブレイカー)で触れられるのはここしかない!

 この機会を逃せばさらに強くなった先輩相手にやらなくちゃならなくなる!先輩を助け出すなら今しかないんだ!!」

 

 一度しか変化する瞬間を見てないのだから確証はもちろん無い。だが、勝機があるとするなら確かにここしかないのも事実。

 他でもないこの少年がまだ諦めていないのだから、ここで膝を折るのは余りにも格好悪いにもほどがある。

 彼女は歯を食いしばって再び足に力を無理矢理入れる。一人(うずく)って結果を待つなど認めるわけにはいかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ!まさか、このタイミングをずっと狙ってたって訳!?」

 

 警策(こうざく)看取(みとり)はタブレットに映る光景を見て荒げた声を上げた。彼女が上条を狙うようにオリ主へ指示を出していたのは、一重に幻想殺しを危惧してのことだ。

 

「(倶佐利ちゃんに注入される力は幻生によって外部から注がれているものだけど、変身能力に限って言えばそれは倶佐利ちゃん自身のものでしかない!

 つまり、絶対能力者になるために常に注がれている力と違って、倶佐利ちゃんの変身能力は打ち消せば簡単に戻っちゃう!)」

 

 あくまでも、天野の身体にミサカネットワークから力が注がれている理由は、天野が御坂美琴の姿へと変身して電磁波のチャンネルが合っているからである。

 その前提が無くなれば当然のように力の注入などできるはずもない。

 

「(チャンネルが合ったのは幾つもの条件をクリアしたから。例え、倶佐利ちゃんが戻ったあとまた美琴ちゃんの姿になってもきっとできない)」

 

 つまり、チャンスは今回限りの一発勝負。だからこそ、失敗など許されるはずもないのだ。

 

「だからこそ、幻想殺しをいち早く潰しておきたかったのに!第七位までやって来るなんて最悪過ぎるッ!!」

 

 今のオリ主のスペックならば、上条と御坂のどちらかは行動不能にしていてもおかしくはない。それこそ、絶対能力者になるのが御坂美琴ならば幻想殺しで触れようとも、力は注がれ続けているために打ち消しても即座に修復しただろう。

 

「幻生が倶佐利ちゃんで絶対能力者に至ろうと考えるから、こんな面倒なことに……ッ!」

 

 髪を片手で掻きむしりつつ、警策は手元にある端末を使い天野へ信号を送る。

 

「進化途中なのだとしても、磁力や電力が全く使えない訳じゃない。結局のところ、あの右手が倶佐利ちゃんに触らせないように妨害させて、時間を稼げばいいってだけ!

 今でさえギリギリなんだから、さらにパワーアップした倶佐利ちゃん相手に持ちこたえることはまず不可能。

 つまり、───ここを乗り切れば私達の勝ちだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおッッ!!!!」

 

 ドガガガガッ!!と、降り注ぐ鉄骨の攻撃を両手の拳を使い削板が打ち落とす。へし折れて地面に叩き落とされる鉄骨が、まるで墓標のように乱立していく光景は異常そのもの。

 だが、着実に一歩一歩進んでいくその姿に、勝ちの目が開けていくことを肌で感じていた。

 

「(いける……!先輩の攻撃の威力が格段に落ちてる今なら、幻想殺しで触れることだって……!)」

 

「ッッ上から攻撃が飛んでくるわよ!!」

 

「「ッ!?」」

 

 目の前に例の翼が迫り来る。そのスピードは人間の動体視力では反応することすらままならない。

 

「(今の不安定な状態であの一撃が放てるのか!?しまった……この体勢じゃあ避けきれない……ッ!?)」

 

 一瞬の驚愕が命運を分けた。

 先の思い込みが生み出した硬直は、右手を迫り来る攻撃に合わせる暇を奪ったのだ。

 全力で前へと走っていたために突然曲がることなどできるはずもなく、今の上条には屈む程度のことしかできないが、上から縦に振り下ろす形での攻撃に意味などあるはずもなかった。

 万事休す。

 上条の身体が翼に押し潰されて挽き肉となるその直前、そこにある人影が割って入った。

 

「お、おお、おおおおおおおおッッッッ!!!!!!!!」

 

 翼と削板の交差された両の腕がぶつかり合う。後ろに高速で下がった削板は、上条を守るように腕で翼の一撃をガードして防いだのである。

 ミシミシミシッッ!!と、(きし)む腕の音がその攻撃の凄まじさを雄弁に語っていた。削板は歯を食いしばりながら言葉を吐き出す。

 

「行けえッ!カミジョーッ!!」

 

「ッッ!!」

 

 弾かれたように上条は削板の脇の横から前方に走り出す。目標はさらに変貌しようとしている天野倶佐利ただ一人。その距離三メートル弱。

 

 

 

『……雑音(ノイズ)がこっちに来る……』

 

「雑音って……幻想殺しッ!?くそっ!やっぱり全てを懸けて止めに来てる!なら、翼を動かして吹き飛ばして!!」

 

『…………動かせない……』

 

「はあ!?いきなりなんでッ!?美琴ちゃんに今の倶佐利ちゃんと張り合えるような力は無いのに、一体どうしてそんなことがッ!?」

 

 

 

 その理由は動き回る翼を止める男が居たからだ。その男は不敵な笑みを浮かべながら全身に力を入れ続ける。

 

「ずっと止めることは生憎とこの俺にもできそうにないが、コイツを動かねーようにするだけなら俺の根性で十秒程度は楽勝だ。

 ──俺の根性がどれくらいのもんか。久し振りに教えてやるぜ天野ッッ!!」

 

 ギシギシギシギシッ!!と、金属が鳴らす独特の鈍い音を響かせながら、人間の限界を超えた引っ張り合いが繰り広げられる。

 そして、必殺の武器が無くなった以上、残るはサブウェポンの力だけ。

 

 だが、世界で最も特異なその右手は、そう言った小手先の力の一切をまとめて消し飛ばす。

 

 右手に触れた砂鉄の壁が力を失ったかのように空気中へ舞い散る。目の前を覆っていたベールを越えた先には、打ち消すことをあらかじめ理解していたかのように、瓦礫の群れが空中に待機していた。

 幻想殺しには異能以外を打ち消す力は存在しない。純粋な質量を伴った力には無力でしかない。

 ──だからこそ、上条は自らの命運を彼女に託した。

 

「以前天野さんと戦ったときに言いましたよね?私の能力は汎用性が売りだって!」

 

 オレンジの閃光が上条の後ろから幾条も駆け巡った。超電磁砲(レールガン)。彼女の代名詞となった一撃が一度に複数放たれる。

 しかし、その攻撃の全てが空中に浮かぶ瓦礫を素通りしていく。御坂美琴が放った渾身の攻撃は、一見すると的を外して失敗した……かのように見えた。

 

 空中を浮かんでいた鉄屑が、音を立てて力を失ったのように地面へ落下していく。そんな不思議な現象を起こしたのは、もちろんこの場に居る御坂美琴に他ならない。

 

「磁力はある一定の温度を超えると力が弱くなる。なら、超電磁砲で発生する熱を天野さんが作り出す磁界へ干渉するように撃ち込めば、それで磁力をある程度は抑え込めることができるってこと」

 

 超電磁砲を直接当てなかった理由は、一重に上条へ破壊した破片を当てないためだ。一メートル離れているかどうかでは、運が悪ければ破片が直撃して死に至る可能性があった。

 そのため、超電磁砲を形成する上で発生する熱量を、磁力を遮るための切り札とした。もちろん、ただ超電磁砲を放っただけでは副産物の放熱程度でどうにかできるはずもない。

 空中に浮かぶ瓦礫の大きさと配置から、空気中で超電磁砲の熱が収束するスポットを演算で導き出し、最大の効果が見込める箇所へ必要なだけ撃ち込んだのだ。

 

「まあ、これは磁界に対して揺らぎを与える程度の効果でしかないから、すぐに回復するでしょうけど、その一瞬あれば充分でしょ!」

 

 その御坂からの答えは口頭によるものではなく、行動によって示された。

 ザンッ!!と、力強く踏み出された足は右手が届く間合いの内側へ、ようやく侵入を果たしたのだ。

 

「うおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!」

 

 あらゆる異能を打ち消す右手が、少年の雄叫びと共に今まさに天野倶佐利へと伸ばされる。天野に触れるまであと数センチとなったその瞬間、右手から感じるその馴れ親しんだ感覚に上条は目を見開いた。

 

「(な……ッ!?触れる瞬間に放電して()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 打ち消されるために能力を使う。この言葉だけで考えてみると無駄な行為でしか無いが、幻想殺しが異能を打ち消す際に一瞬だけラグが生まれ、空白の時間ができる事実を知っている者からすれば、それが如何に有益なものか理解出来るだろう。

 生まれる時間など一秒にも満たない僅かな時間だ。しかし、彼女にはその時間だけで充分だった。

 

 上条の右手が再び伸ばされるが空を切る。天野倶佐利は再び磁力の制御を取り戻し、足場にあった鉄材を磁力で浮かせ地上から五メートルほど空中へ浮上した。

 警策は端末の向こう側から人知れず勝利を確信する。

 

「幻生の話では幻想殺しは異能を打ち消すだけの力。だったら絶対に届かない空中こそが安全圏!不安要素はなるべく早めに潰したかったけどこの際仕方ない。

 第七位は力業で抑え込めるし、美琴ちゃんに限っては今の倶佐利ちゃんの下位互換でしかないから、実質的な脅威は幻想殺しのみ!二人に攻撃しながら幻想殺しを質量による攻撃で翻弄していけば、着実に目標を達成できる!」

 

 今の状態で二人の超能力者を抑え込める力を有しているなら、さらに絶対能力者への成長率が上がれば上がるほど、圧倒していくのは自明の理。

 

「天野ちゃんは今この瞬間もさらに上の次元に登り詰める!現時点ですら対抗できるか怪しいのに、さらに強くなっていく倶佐利ちゃん相手に勝つことなんて不可能でしょ!」

 

 そして、今この瞬間に次の進化は完了した。

 つまり、先ほどまでよりもさらに強くなった天野ならば懐に入られることもなくなるはずだ。

 天敵から絶対的なアドバンテージと確定した未来予想図を掴み取り、彼女の口角が上がった。念願を達成するまでの筋道ができたのだから達成感はえも言われぬものだろう。

 このまま行けば彼女は無事に復讐を果たすことが可能となる。

 

「(ドリー……このくそったれの街と諸悪の根元を吹き飛ばして、必ずあなたの仇を取ってみせる)」

 

 亡き友のために人生の全てを注いできた復讐を完遂させる。この街に利益をもたらすために生み出され、殺された、人生を最初から最後まで他者によって弄ばれた少女へと捧げるために。

 

 

 

 ──しかし、それが誰かの不幸を生み出すのならば、その男は決して黙ってなどいない。

 

 

 

『………………………………え?』

 

 天野の思考が空白となった。それもそのはず、地上に置いてきたはずの上条当麻が何故か目の前に居るからだ。

 ここは地上から五メートル離れた空中であり、その特異な右手を除いて並みの身体能力しか持たない上条当麻が、遥か空中に居る天野の目の前に居ることなど絶対にあり得ない。

 それも、天野が空中に飛んだのと全く同じタイミングでだ。当たり前だが、垂直跳びでそんなことが上条当麻にできるはずもない。

 ならば、他にそれを為した人間が他に居る。

 

「──言ったはずよ。私と天野さんの間には一時的にネットワークが構築されているって。

 例え、多くの性能(スペック)で劣っていたとしても、磁力を使って移動するという現象そのものに出力の有無は関係無い。それを、先読みが可能な条件下で私が出遅れるなんてこと絶対にあり得ないわ!!」

 

 警策の言う通り、超電磁砲が使えなくとも翼と電力の出力で天野倶佐利は御坂美琴を圧倒することが可能だろう。しかし、その技術の練度の差と一時的な先読みを用いれば、その出力の違いも埋められる。

 それもそのはず、御坂美琴の能力の突出しているものは、出力の大きさではなくその汎用性の高さなのだから。

 磁力によって形成された足場を踏み締めながら、目の前の男は言葉を発する。

 

「俺は右手を振るうしか脳がない奴だけど御坂にはすげえ頭脳がある。アイツならすぐにここからの必勝法を思い付くはずだ。

 御坂がその必勝法を編み出すのが先か、それともそっちがさらに強くなるのが先か…………もうこっちが一方的に崖へ転がり落ちる下り坂なんかじゃない、状況はもう五分五分まで吊り上がったんだ!!」

 

 またしても、上条が突き出した右手により放電が打ち消される。しかし、先ほどとは違った結果に天野は戸惑うこととなった。

 

『!?…………電力が遥かに落ちてる。一体何故……?』

 

 進化しているのだから性能が上昇しても下がることなどあり得ない。その不可思議な現象を生み出している人物は少年を上空へと打ち上げた少女だ。

 息を深く吐きつつも彼女は少年からの期待に応えてみせた。

 

「空気中の絶縁体破壊とそれを利用した電流の誘導。私の土俵である電気の扱いでそう簡単には負けられないのよ。こちとら、どっかの脳筋の第四位と違って幅広い汎用性があんの。これくらいできなきゃ学園都市第三位は務まらないわ」

 

 電力が落ちているのではなく、あらかじめ決まった方向に拡散したために上条に到達する電力が落ちていただけ。しかし、それに気付くには時間も経験も足りなかった。

 そして、その困惑は明確な隙となる。電撃を打ち消した少年の掌が目の前へと迫っていた。

 

 相手の攻撃を抑える少年は血管を浮き上がらせて獰猛に笑い。少女は次に何が起きてもリカバリーするため、六感も含めた全神経を張り巡らせている。

 

 既に王手を掛けられていた。

 仮に今の状況を防いだとしても次の攻防はより厳しくなると想定してしまうのは無理からぬことだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「先輩を犠牲にして何かをするつもりなら何度でも俺達が止めてみせる!どこの誰かも分からない奴らの、筋書きなんて跡形も無くぶっ壊してやる!」

 

 恐怖に駆られて身動きができなくなった彼女に、上条の右手が伸ばされる。

 

『や、やめ……!』

 

「俺達は絶対に先輩を諦めない」

 

 ──そして、彼女を縛り付ける(くさび)が少年の手によって打ち砕かれた。




◆作者の戯れ言◆
一万字を超えてしまい申し訳ありません。でも、途中で切ると勢いも切れそうだったのでこうなりました(言い訳)
戦闘描写は難いんだぁ……

あと、まだまだこの章は終わらなかったり


◆裏話◆
『御坂美琴=ヌイト』説
 アレイスター=クロウリーが学園都市でしようとしているのはテレマの再来。そのテレマにて至高の神は女神ヌイト。
 女神ヌイトは『夜空を覆う女』とアレイスターは述べている。つまりは、夜空にある星もヌイトの作り出す物と言っても過言ではない。
 そして、御坂美琴は子供の頃に布団の中で能力を使い、それを星の瞬きに見えたと言っており、レベル6に成長していく御坂美琴は『夜空の奥行き』が見えると考えた。
 これが、『御坂美琴=ヌイト』説の大まかな内容である。

 ちなみに、女神ヌイトは魔術師アレイスター=クロウリーが、テレマでその存在を初めて述べたのではなく、アレイスターが産まれる以前から存在していた女神である。
 記前年二〇世紀から伝わるようになったエジプト神話にて、天地創造に由来する神だけではなく、オシリス、イシス、セト、ネフティス、大ホルスを産んだ原初の女神がヌイト。
・所有色=黒、濃い青、黄
・所有元素=風
・方角=北、左方
・同一神=ハトホル



◆考察◆
『御坂美琴=ヌイト』説についての作者の補足であり考察(箇条書き)

●女神ヌイトは雌牛の形で表現されることもある→雷神御坂、初期状態の角の可能性。
●女神ヌイトが持つ称号:『千の魂持つもの』→殺されたシスターズが残した魂(記録)達を、ミサカネットワークを通じて送ったことにより獲得したと思われる。
 ※シスターズは一万の死の記憶のため、『千の魂持つもの』とはそもそも数が合わない。しかし、シスターズはクローンであることや急速成長させた事実もあるため、絶対に間違いとも言い切れない。
 (学習装置や身体の促進剤などの、外部からの力で存在を確立しているために、魂としての質が足りない可能性がある。あるいは、記録として残ってるため完全な魂とは言えないためか)
●伝承:女神ヌイトの涙は雨となり、笑いは雷鳴となった。→雷という点で御坂美琴との類似性がある。
 反論として、巨大な雷を落としたときの御坂美琴は怒りの感情で染まっていたため、笑い声は上げていない。


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120.妖怪の謀略

ここから本番だったり


 顔を覆っていた夜も消えるように無くなり、発していた莫大な圧力も鳴りを潜ませている。腕の中に居る天野倶佐利が元の姿に戻りつつあることを上条当麻は認識した。

 

「──よっと、これで一件落着か?」

 

超能力者(レベル5)を遥かに凌駕する力を与えられた天野さんが元の状態に戻ったのなら、幻生……黒幕の思惑も挫いたってことなんじゃないかしら?

 あれだけの力を有した天野さんが、今回の騒動の本命じゃないなんて考えづらいしね」

 

 上条に近付いて来る二人の男女。今回、大きな被害が出ずに天野を助けることができたのはこの二人のお陰だ。

 

「二人ともありがとな。二人が居なかったら先輩を助けられなかった」

 

「礼を言われることじゃねーよ。人助けは根性あるならして当然だしな。それに、天野は元相棒だ。見捨てる理由を探す方が面倒くせえぜ!」

 

「私も天野さんには借りとかいろいろあったから、動いて当然と言うか。そもそも今回の騒動は私の代わりに巻き込まれちゃった可能性があるわけで、どっちかと言うと私は頭を下げなくちゃいけないかもだし……」

 

 命懸けの戦いだったにもかかわらず、なんでも無いかのように快活に笑う削板軍覇と、気まずそうに目線を下げる御坂美琴がそこには居た。

 御坂はともかくとして、削板に超能力者としての高いプライドがもしあったなら、上条と共闘することもなかったかもしれない。

 そう言った能力だけではなく人柄も加味した上で、上条はここに現れたのがこの二人で良かったと思った。

 

「つーか、その黒幕ってのはぶっ飛ばさなくていいのか?天野がああなったのもそいつの悪巧みでこんなことになったんだろ?このまま、とっちめに行った方がいいんじゃねーの?」

 

 削板の思考回路は根性の無い悪党を懲らしめればいい、と言うシンプルなものだが、今回はそれが最適解であった。

 

「……そうね。幻生は食蜂の心理掌握(メンタルアウト)も何かしらの対策をしているみたいだったし、それこそ、能力が無い戦いだとしたら、あの運動音痴がまともに勝てるとも思えないわね」

 

 御坂からすれば怪我の一つや二つはしやがれ、というスタンスなのだが、今回の黒幕である木原幻生を逃がしてしまうことの危険性は、既に嫌と言うほどに理解していた。それほどまでに幻生は危険すぎる。

 犬猿の仲である少女を思い出しながら御坂は呟いた。

 

「ヘマしてないでしょうねアイツ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ほう。どうやら、天野くんの絶対能力者(レベル6)への挑戦は失敗だったようだねえ。いやはや、幻想殺し(イマジンブレイカー)に加えて第七位の削板くんに第三位の御坂くん。少々、相手が悪かったかな?』

 

 外装代脳(エクステリア)が内蔵している施設の中で、幻生はその事実を千里眼で知覚する。幻生は再び食蜂を追って施設の内部を歩き回っていた。

 監視カメラの映像と音声を手元の端末からその情報を入手している食蜂は、端末から幻生に向けて挑発するように話し掛ける。

 

「あなたとしては今回の騒動に区切りを付けて、さっさと逃走したいってところかしらぁ?あるいは、強欲(りょく)を見せて私を殺し、心理掌握を自らの所有物にしてからこの場から去る、なんて考えているなら絶対に不可能よ。

 御坂さんは外装代脳を見てるから、あなたが心理掌握を手にしても外装代脳が弱点であることは把握済み。彼女お得意の超電磁砲(レールガン)で撃ち抜かれて、終わりってことじゃないかしらぁ」

 

 正直食蜂としては駆け引きで木原幻生を上回るのは厳しい。学園都市の闇を生き抜いてきた妖怪の、真贋を見極める目と手腕はもはや覚りの域である。

 そんな相手からイニシアチブを獲得するためならば、どんなに安い挑発だろうが挑発に挑発を重ねていく必要がある。

 

「(まあ、それさえも読まれてそうなのが嫌なことろなんだけど……)」

 

 それが疑心暗鬼と切り捨てることができないほどに、幻生の権謀術数は卓越していた。

 

『ひょっ、ひょっ、ひょっ、確かに彼らは君を助けるため、すぐにでもここへやって来るだろうねえ。それぞれが「ヒーロー」としての性質を持っているのだから、それもまた必然と言っていい。

 僕もさすがに彼ら全員を相手取って、勝利できると言うほど自惚れてはいないよ』

 

「ふぅーん?その割には随分と余裕ねぇ?まあ、あなたが私達(モルモット)を目の前にして怯える正気(りょく)があるとも思えないけど、失敗した実験にいちいち拘るような人間だとは思っていないのよねぇ。

 それよりも、なぁんで未だに私を追っかけているのかしらぁ?第七位はともかくとして、上条さんと御坂さんに効かないのは間違いないから、心理掌握のリミッター解除コードを手にいれたとしても、そこまで劇的に状況がひっくり返るとも思えないんだけどぉ」

 

 考えてみれば不可解なことばかりしている。実験が失敗したのならば固執せずにすぐにここから去ればいいだけの話だ。だが、それもせずにこうしてゆっくりと施設の中を歩き、食蜂を追い続けるなど自らの状況を悪化させているだけの悪手でしかない。

 

「(幻生は如何なる窮地であっても、冷静さを失い感情的になるような人間ではない。継続不可能の実験に未練を残して固執して大局を見失う簡単な相手ならば、ここまで苦労することもなかったわぁ)」

 

 何か状況を打破する策があるのか?だとするなら、何故悠長にしているのか?矛盾した行動が食蜂に混乱をもたらす。

 

『ふむ、君からすれば僕の計算外のことが発生していると見えても仕方ないかな』

 

 幻生の意味深な発言に食蜂は眉をひそめた。

 

『僕は一つのことに集中してしまうとどうも視野が狭くなってしまう悪癖があってね。先ほどの、上条くんと削板くんが天野くんの戦いに参戦するところを千里眼で見て、君を捕り逃してしまったときはまさにそれだ。

 だからこそ、君に対して「オカルト」の説明を蔑ろにしたまま、この局面まで来てしまった。まあ、そもそも僕に状況を説明する義理はないんだけどねえ』

 

 いきなり奇声を上げて、全く関係の無いことを突然言い出したときはドン引きしたが、結果的に食蜂が拘束を振りほどくだけの時間が生まれることとなった。

 もし、あの二人があの戦場に現れなければ、食蜂は心理掌握のリミッター解除コードを奪われ、あの場で殺されていたかもしれない。

 

「あらぁ?もしかして、あの話をまだするつもりなのかしらぁ?科学者らしくなくそんな不確定要素に頼ったことが敗因でしょう?

 それとも、この期に及んでみっともない女々しく言い訳(りょく)を発揮するつもりかしら。

 それが仮にあなたの予想範囲だろうが予想外だろうが、結局は上条さん達に絶対能力者(レベル6)の実験は頓挫されてしまったのだから、その仮定には意味がないんじゃないかと思うんだけど。

 まあ、端的に言えば理解できていない不確定要素に実験の行く末を委ねたあなたの判断ミス。科学者が数値で計れない『オカルト』なんて眉唾物に期待するのが、そもそもの間違いだったんだゾ☆」

 

 ……もし、図星ならば何かしらの反応は見せるはずだ。自分よりも遥かに年下の少女にここまで言われて反応しないはずがない。『木原』であるからこそ一個人でのプライドはなくても、科学者としての矜持だけは人一倍あるはずなのだから。

 そんな食蜂の思惑を知ってか知らずか、幻生はなんでもないかのように言葉を発した。

 

 

 

『確かに、絶対能力者への実験は彼らに止められてしまったねえ。僕の協力者もおそらく怒髪天を衝く思いをしているだろう。やれやれ、少々宥めるのに時間が掛かりそうなのが面倒だよ』

 

 

 

「…………」

 

 食蜂は今の一言で確信する。()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(……それじゃあ、幻生の狙いは何?私を追い続けている以上は心理掌握のリミッターコードで間違いないはず。でも、天野さんが元に戻ったのなら、『絶対能力者進化計画』に使うことは万が一にも叶わなくなった。

 それに、外装代脳の存在を御坂さんは知っているから、仮に私を亡き者にしようとも、御坂さんが知っているんだし意味がない。

 この詰みの状況を覆すにはリミッター解除コードだけじゃ、カードが弱い……いや、この場合は相性が悪いと言うべきか。心理掌握と多才能力(マルチスキル)の二つの手札で勝てるわけがないのは明白だから、幻生のブラフである可能性も無い)」

 

 幻生の長年の夢が絶対能力者であることは間違いない。

 それこそ、第一位の『絶対能力者進化(レベル6シフト)計画』の主導や、孫娘であるテレスティーナ=木原=ライフラインを利用した、『能力体結晶の投与実験』など、今まで絶対能力者を作り出すために並々ならぬ執着を見せている。

 

「(そもそもの話、念願である絶対能力者を生み出す計画が狂ったにも関わらず、どうして平常心のまま──────ッ!?)」

 

 食蜂はとある推論に辿り着き目を見開く。もし、本当にそうならば幻生のこの余裕にも納得ができる。しかし、もしそうならば今までの全ての事柄が、端末に映る妖怪の手中にあったことを意味していることに他ならない。

 その恐ろしい想定に背筋が凍りながら、食蜂は震える唇を動かして推論から導き出された答えを発した。

 

「…………まさか、天野さんの『絶対能力者進化(レベル6シフト)計画』は、こうなる状況まで全て計算通りだとでも……?」

 

 それはつまり、こうして不利な状況に追い込まれることすら織り込み済みと言うことだ。再び計画の軌道に乗せる方策があること。

 ……いや、より飛躍的に『絶対能力者進化計画』を促進させる何かの前段階という可能性すら生まれてくる。冷や汗を流す食蜂に向かって端末に映る老人はその質問を返答した。

 

『それは僕に対して過剰評価が過ぎるね。間違いなく絶対能力者を生み出すことは不可能になった。これは揺るぎない事実だとも』

 

「…………………………」

 

 これも違うのだとすれば食蜂に導き出せる答えはもう無い。この不可解な状況がどういった理由で構築されているのか、何一つ情報が無いからだ。ここまで来ると引き際を間違ったと言われた方がまだ納得できる。

 そのことを察したのだろうか。幻生は食蜂に説くように話し掛けた。

 

 

 

『おや、さすがの君でもここら辺が限界かな?とはいえ、それも仕方ないだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……………………………………………………ッッ!?!?!?」

 

 

 

 ──あり得ない。

 食蜂の脳内を占める思考はこれ一色だ。あの木原幻生が絶対能力者進化計画を諦め、別の計画を進めるなど信じきれなかった。

 

「(……別の計画に舵を切ったっていうの?この場面で?)」

 

 食蜂はその不可解な言葉に唖然とする。

 

「(これが安全な状況下での判断ならその可能性もあり得たでしょうけど、今は強大な力を持った複数の強者に追われる絶体絶命の窮地。

 この状況では一旦退いて、あとで別の絶対進化計画を進めることが得策なはず。絶対能力者よりも確実に劣る枝葉の計画のために、リスキーな行動をするなんて……一体どういうことなの?)」

 

 幻生の言うことが本当ならば、幻生は第二計画(スペアプラン)のために現在ここに居るらしかった。

 しかし、よく考えてみれば分かる通り、こちらには電子系統を掌握する第三位に、人心を掌握し嘘を完璧に見抜く第五位。この二人が手を組み追跡すれば、幻生とて事前準備さえなければ出し抜くのは難しいはず。

 それに加えて科学者の天敵とも呼べる科学で解析不能の第七位に、幻生の多才能力を完全に無力化できる幻想殺し。この四人が結託すれば如何に幻生でも捕まるのは時間の問題だ。

 

「(絶対能力者進化計画よりも劣りながらも、幻生が捕まっても成し遂げたい実験……。第七位の能力を解析する手立ての確立や、上条さんの右手の力の解明…………いや、重要度は高いでしょうけど絶対能力者(レベル6)よりも優先させるとは思えない。

 それじゃあ、統括理事長アレイスター=クロウリーの暗殺とか?……難攻不落の城に居るこの街の王様を殺すことができれば偉業と呼ばれるかもしれないけど、狂った科学者である幻生なら絶対能力者の方が魅力的なはず……。

 なら、統括理事会に加わる何かを欲して?…………これも違うわね。幻生は今現在も科学の重鎮として好き勝手してるんだから、今さら権力を手にいれるために博打を打つ意味がない)」

 

 幻生は一つの実験に執着するタイプではない。それこそ、失敗したと分かれば機会を改めて他の方法を考えるだろう。おそらく、幻生からすれば策を新たに練る時間も楽しいはずだ。

 にもかかわらず、最終目標を達成できない可能性が生まれるリスクを受け入れ、何かを成そうとしている。その乖離した幻生らしくない違和感の気持ち悪さが、食蜂に不快感を与えていた。

 

「(──いや、そもそも前提が違う?)」

 

 結果が間違っているのなるば、途中式が違うということではないだろうか?それこそ、食蜂が当たり前だと認識していた前提条件。

 例えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、などの至極当然の分析だ。

 

「……幻生が今からしようとしていることは捨て身の計画じゃない……?」

 

 幻生がゆっくりと行動しているのは単純に焦る理由が無いと言うこと。あらゆる側面で常人とは遥かに秀でた超人達が、背後から迫ってきてるにもかかわらず、一切動じない理由なんて誰でも分かりきっている。

 食蜂は目を見開いて叫ぶように声を出した。

 

 

「まさか、私達四人を相手取って逆転する(すべ)を用意していて、それはもう既に起動している…………ッッ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その『女』の口は動いていた。

 しかし、誰もそれを『声』と認識出来ない。

 何故ならばそれは通常の発声の仕方とは全くもって異なるからだ。

 呼吸法が違い、音を出す器官が違い、言語がこの世界のものと違っていた。この世界と異なるその『知識』から生まれたその音無き声は、誰も認識出来ないまま世界を振動させていく。

 

『?……今のは……?』

 

 ()()()()()()()()()()()

 ある者は察知してもどうすることもできない。何かするよりも先に音は空気と地面を伝わり流れていく。

 そして、その音は微弱ながらも異様なことにどこにぶつかっても一切途切れることは無く、この街を覆いながら反響し目を閉じて外界と断絶している声の主の下へと戻って行く。

 

 それは『超能力』か。はたまた、『魔術』か。あるいは……、




更新頻度が減っていくかもしれませんが、更新するのを待っていただけると嬉しいです

by海鮮茶漬け


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121.Phase5.3→???

ちょっと短めです


 ───ああ、無くなっていく。

 

 ───栓を抜いた湯船のように、『力』がどんどん身体から抜け落ちていく。

 

 ───…………取り戻さないといけない。あの全能感を取り戻さないと安心出来ない。弱くなるということは恐怖でしかない。

 

 ───手繰り寄せて、再び掴み取る。

 

 ───必ず、もう一度この手に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マッドサイエンティストは述べる。

 

「天野くんは素晴らしい能力者だよ。いつも僕の予想を幾つも超えてくれるんだからね。科学者としてこれほど嬉しいことはない。どんな結果を導き出すのか楽しみでならないよ」

 

 数値を変動させる要素はできる限り排除した上で、実験、または観測をすることは、科学者ならば語るまでもない常識である。だが、その理解の出来ない要素を解析し解明することも科学者の義務なのだ。

 

「数値を引っくり返す『未知』を嫌悪する科学者は三流さ。その未知を踏破せんと嬉々として踏み出す科学者こそが、本来あるべき姿なんだ」

 

 木原一族は実験体の限界を無視して壊すことが研究の第一歩、というイカれた思想を抱く一族であるにもかかわらず、木原幻生は『能力者の過剰コピー』以外の非人道的な実験を、天野倶佐利にはしてこなかった。

 もちろん、幻生がその思想を持ち合わせていないはずもない。科学の発展のためならば、自らも切り捨てる犠牲の一つとして数える狂人の、『木原』が薄いわけもない。

 そんな彼が天野を壊さなかった理由は単純明快。『そのまま放置していた方が観測しがいがある』という結論に至ったためである。一見、これは日和見主義のようにも見える。

 それこそ、木原一族の誰かが木原幻生のやり方を知れば、嫌悪と侮蔑の視線を向け殺意を持って殺しに行くはずだ。その様なやり方にあの木原幻生が変えたのは、天野倶佐利に眠る『未知』と邂逅したからに他ならない。

 

「新たな境地に至るためには数多の困難を超えねばならない。そのためには類い希なる才覚と運が必要だ。だけど、残念ながら僕には天野くんが至ろうとしている領域が、曖昧模糊としてとらえどころがない。

 だからこそ、天野くんの干渉を出来るだけ少なくして、彼女が歩む道から『科学』を取り除こうと考えた。まあ、この学園都市に居る間は科学と無縁になるなんてあり得ないけど、僕ら『木原』は科学の化身とも呼べるだろうからねぇ。

 僕の『木原』が彼女の特異性を失わせる可能性が高い以上は、観測に留めるべきだと判断したのさ」

 

 思い出してみれば、天野倶佐利は木原幻生以外の木原一族と一度たりとも接触をしていない。

 科学の重鎮である木原幻生としても何百と存在している『木原』から、天野倶佐利という特大の希少生物を守護するというのは、彼であっても並外れた尽力が必要だった。

 あの木原幻生の『実験体を壊されないように守り抜く』という、彼の在り方から外れたその行動によって、実際に数人の木原がこの世を去っていた。

 その馴れない行動によって幾度か三途の川を見たが、彼はこうしてここに居る。彼の科学への妄執は手足を失った程度で消えるような柔なものではない。

 

 実験体に手を出すことを自分自身に禁ずるという、拷問染みた制約を決めてから十年余り。

 その苦労が今この瞬間、ようやく実を結んだ。

 

「天野くんは幾つもの想定していた壁を越えた。それこそ、限り無くゼロの確率を当て続けるという、奇跡にも似た事象を繰り返すことでね。その献身のおかげで『未知』の輪郭を捉えることが、僕にもようやく成功したよ」

 

 

 

「──これで天野くんは最終フェーズ(Phase)に至る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その違和感を真っ先に察知したのは一番近くに居た上条であった。

 

「あっ、先輩起きましたか?」

 

 腕の中に居る少女の口から漏れ出る、微細な振動を感じ上条が問い掛ける。目覚めたのならば喜ばしいことだ。

 だが、不思議なことに彼の先輩である天野倶佐利の目は閉じたままだった。

 

「こんな状況で寝言とは根性あるな!」

 

「でも、途切れないところを見ると寝言って風には見えないけど……流石に寝たふりなんかしないだろうし、もしかして水に溺れる夢を見て息継ぎしてるとか?

 あるいは、変な力を注入されていたみたいだし弊害かもしれないわね。まあ、元の姿に戻りつつあるみたいだから後遺症として残るものはないとは思うけど」

 

 そう御坂美琴が夢を見ていると判断するのも無理からぬことだった。何故ならば、天野倶佐利は口から言語と呼べるようなものを発していなかったからだ。

 客観的に見たときに口をパクパク動かしているようにしか見えない。そして、仮にそれが異能の力だとするならば上条の右手が打ち消しているはず。ならば、当然意味などない無意識の行動と考えて当然だ。

 

 だから、気付くことが出来なかった。上条が直ぐにでも天野の口を閉じさせれば結果は変わったかもしれないのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仕掛けは難しいことじゃない。天野くんから能力のデータを集める際に生まれた未知なるブラックボックス。つまりは、科学に分類出来ない『非科学』に分類されるデータを音波として流すだけ。

 キャパシティダウンの機材を利用すればその実現は実に容易い。あとは、天野くんに眠る『オカルト』が自然と隆起するという寸法だよ。

 もちろん、科学に分類できないからこその『ブラックボックス』。当然、そのデータを希釈をしなければ使えないから、『非科学』の要素は薄まってしまう。

 だけど、おそらくはそれで充分だろう。御坂くんからエネルギーを奪い取るほどの何かを秘めているなら、それだけで恙無(つつがな)く進むはずさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ガハッ!?!?!?」」」

 

 脈絡というものがなかった。それは予備動作や予兆などは一切見られぬまま起きた。何が起きたかと言われれば答えられる者はここには居ない。

 ───何故ならば、吹き飛ばされたことで上条、御坂、削板の三人はようやく異常事態が起こっていることを認識したのだから。

 

 地面の上をゴロゴロと転がり元居た場所から数メートル弾き飛ばされた上条は、全身を襲う痛みに耐えながらゆっくりと起き上がる。

 

「づ……!……な、なんだ……?……何が起きたんだ……?」

 

 殴られたときのような痛みではなく、まるで爆発を全身に食らったかのような理解が出来ない攻撃。何をされたのか、何が起きたのか、上条は身に付けた多くの戦闘経験と照らし合わせても見当すら付けれない。

 未だ味わったことのない攻撃に戸惑っていると、目の前を覆っていた粉塵が晴れて元居た場所───つまり、天野倶佐利の姿が目の前に現れる。

 

「…………………………………………………………は?」

 

 上条の思考はそこで停止した。

 それは精神攻撃を受けたからだとか、新たな第三者による介入などではなく、単純に目の前の光景の異質さに呆然としていたからだ。

 

 先ほど黒幕の手から解放したはずの天野倶佐利が、再び力を取り戻していた。それは剥がれつつあった白い皮膚が再構築しているところから察することができる。

 

 しかし、先ほどとは決定的に異なることがあった。

 

 まるで、天野倶佐利の頭部には花嫁が被せられるベールのような物が覆られていた。それだけならば、上条とて動揺はしても直ぐ様持ち直したことだろう。

 しかし、その他の物は明らかに異常な物がある。

 一つは頭部を覆うベールの更に頭上に現れた光輪。イメージするのは天使の輪っかだが、どうにも人工的な何かを想起させる動きをしていた。

 その光輪の輪の外側に鉛筆のような棒が無数に出っ張り、ガシャガシャガチャガチャ!!と、高速で出し入れされている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、それがなんだったのか思い出せない。

 ……いや、正確には思い出すよりも先に他の物に注意を引き付けられた。

 

 天野倶佐利の背中から飛び出すように突き出された、深い紺色の巨大な柱。一見、鉱石のように見えるが上条はそれが何なのか知っている。

 夏休みの終盤。記憶を失った上条が初めて両親と出会うこととなった、『旅館わだつみ』への強制的な島流し。その間に起きた八月二十七日~八月二十九日の一連の騒動で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 上条は恐怖と共に頭に染み付いたその名前を、まるで自然と溢れ落ちたかのように震える唇から発した。

 

 

 

「…………ミ、……ミーシャ=クロイツェフ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「食蜂くん、君は絶対能力者(レベル6)だけが僕の人生最後を飾るに相応しい実験かと思っているかもしれないけど、『科学の発展』に重きを置いたとき、それは決して最重要項目とは言い切れない」

 

 幻生は端末の向こうに居る食蜂に向けて……いや、もしかすると何処かで話を盗み聞きしているかもしれない、学園都市統括理事長・アレイスター=クロウリーに向けて、それこそ教鞭を振るうかのように滔々と話し出した。

 

 学園都市の宿願である絶対能力者に勝るにも劣らない『科学の発展』、それ即ち。

 

 

 

「───科学が発展する際に必ず現れる『ブラックボックス』。『科学』の前に立ち塞がる『非科学(オカルト)』を、木原幻生が天野倶佐利というフィルターを通し解析することで、余すことなくその全貌を解明して見せよう」

 

 

 

 自らの知的好奇心と科学者としての誇りのためならば、禁断の領域へも軽食を食べに行くかのような軽い足取りで侵入していく。

 それこそが、科学者のあるべき姿なのだと胸を張りながら、その狂人は哄笑を上げて未開の大地に足を踏み入れる。

 

 

 

「全ては『科学』の更なる発展のために」

 

 

 




ま、こうなるよねって感じです
順当にガブガブの身体に入ったフラグを回収していきます(この章では一部分だけですが)



P.s
最近ガブリエルの身体に入ったの上里説の考察見て、『うっそだろお前!?』ってなってる作者です


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122.お助けキャラ

今年最後の投稿です。良いお年を(あと一日)


「──ッッ!?!?」

 

 上条がオリ主の異変を目視したとき、同じくして大覇星祭を小萌先生と回っていた彼女もそれに気付いた。

 

「おや?どうしたのですか?シスターちゃん。何かあり──ハッ……!ま、まさか、またしても出店の匂いに釣られてしまったのですか!?

 流石の先生でも、お財布の中身がそろそろ怪しくなってきたのですけど!?」

 

 見た目少学生にしか見えない彼女ではあるが立派な大人である。煙草をカートンで吸うほどにヘビースモーカーであり、部屋にはビール缶が散乱している(オリ主が定期的に掃除している)淑女なのだ。

 そんな彼女は学校の先生として、自らの生徒の友人(?)の銀髪シスターであるインデックスを引率していたのである。

 というのも、彼女の保護者(?)である上条当麻が借り物競争で借りた御守りを持ち主に返しに行くらしく、その間預かることとなったのが事の経緯だった。

 

 その張本人であるインデックスは遠方を見ていた。それは、おそらく目の前にある建造物や大空ではない。まるで遥か遠くから特殊な電磁波を受信したかのように彼女はそれに反応したのだ。

 禁書目録としての知識から理解したその『力』の正体に、インデックスは顔を一瞬で青ざめる。

 彼女は驚愕した声音でその衝撃の事実を言った。

 

「……う、嘘……何で学園都市で天使の力(テレズマ)がッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「づ……、……い、一体何が起こったの……?」

 

 先ほどの『力』で吹き飛ばされた御坂美琴が瓦礫の上で目を覚ます。彼女は突然巻き起こされた衝撃を上条と同様に反応出来なかったため、磁力を用いての回避行動に移れず諸に当たってしまったのだ。

 その反動で引き起こされた軽い脳震盪から目を覚ました彼女は、周囲の状況を見てさらに驚愕することになった。

 

「嘘……これがさっきの一瞬で……?」

 

 先の戦いの影響で地面が傷付いていたり陥没していたりなどはしていたが、今現在のように整備された地面が捲れ上がり、辺り一面が更地に変わるほどのものではなかった。

 それが先ほど吹き飛ばされた『力』で引き起こされたならばこの反応も当然だろう。だが、だからこそ不自然だ。

 

「それなのに、なんで私は生きて……?この惨状からしてトラックの衝突事故なんかとは、比べられないくらいに強力な衝撃だったはずなのに……」

 

 それこそ、ロケットランチャーで攻撃されるくらいでなければ、このような惨状は生まれないだろう。どう考えても強力な超能力がなければ、一般的な女子中学生と変わらない耐久力しかない彼女には凌げるはずもない。

 自らが原型も残らないミンチになっていただろう可能性よりも、原因も結果が全く噛み合わない事象の方が、彼女からすると余程不気味に映った。

 しかし、そんな彼女の後ろから声が発せられる。

 

「いやー参った参った。俺としたことが気が弛んで根性を入れ損なっちまったぜ」

 

「アンタ……!」

 

 そこに居たのは学園都市第七位、削板(そぎいた)軍覇。彼はボロボロとなった身体を動かして彼女の側にまでやって来た。

 

「反射的に隣に居たお前を衝撃波から逃がすことはできたが、思ったよりなかなか根性ある力だったな。直撃食らった俺はかなり吹き飛ばされちまってよ戻ってくるまでに数秒かかっちまった」

 

 その言葉から削板が御坂を助けてくれたのは明らかだった。彼女は助けられた人間として彼に感謝を述べた。

 

「ありがとう助かったわ。アンタが助けてくれなかったら間違いなく死んでた」

 

「なーに気にすんな!困った時はお互い様だからな!」

 

 そう言って快活に笑う彼は、御坂を助けたことによって及んだダメージなどは一切気にしていない。いや、それこそそこで不満や疑問を抱くようならばここに来てはいないだろう。

 そして、ふとある人物のことを思い出す

 

「ちょっと待って!それじゃあ、あの時天野さんの近くに居たあのバカは……!」

 

「ああ、あの距離じゃあ流石の俺もカミジョーを助けることは出来なかった。本来なら元の形すら残ってねーはずなんだが……」

 

 そこまで言って削板はスッと横を向く。御坂も続いてその方向を見ると、そこにはツンツン頭の少年が地面に座り込んでいるのを視界に捉えた。

 

「生きてる……ッ!」

 

「どうやら、あの右手で吹き出た力を打ち消したみたいだ。衝撃の源があの右手で打ち消せるモンじゃなかったら、流石のカミジョーも死んでただろうけどな。

 まあ、同時に巻き起こされた純粋な衝撃波はどうしようもなかったようだが」

 

 削板の言う通り、上条も彼と同じくして体操服をボロボロにしていた。衝撃波で吹き飛ばされる最中でそうなったのだろう。

 

「お前を助けたっていっても身体が反射的に動いたってだけでよ。実は着地までのことは考えてなくてな。

 打ち所が悪かったりしたら普通に死んでることもあるって気付いて、焦って戻って来たんだ。いやー、生きてて何よりだぜ」

 

「(……待って。あのバカは天野さんの近くに居たことで『力』が噴出されるのを感知できたかもしれないけど、私と同じくして離れて居たコイツは、もしかしてあの衝撃波が引き起こされた後に身体を動かしてから、私を助け出したって言うの?)」

 

 ソニックブームが引き起こされるのは超音速である。先ほどの一見衝撃波と間違える『力』の噴出は、少なくともソニックブームと同程度の速度があったはずだ。

 それを条件反射だろうがなんだろうが、身体の速度を合わしたということはその速度で動くことが可能ということ。

 

「(もしかして、超電磁砲(レールガン)も見切って避けられる……?)」

 

 自分の奥の手すら届かない可能性が頭を過るが、今はそんなことを気にする暇が無いことに気付き頭を横に振る。現在より緊迫したものが他にあるのだ。

 

「それより、天野の奴また変な姿になってるじゃねーか。しかも、今までなかった変な力も感じてるしよ。

 もしかして、あのバカでけえ翼みたいなのがそれか?なんか一段と面倒臭いことになってるみてーだな」

 

「あれが天野さん……?」

 

 御坂も前を向けばそこには翼を広げた天野俱佐利の姿があった。御坂が今まで気付かなかったのは脳震盪の影響でちゃんと周囲を把握できていなかったためか、はたまた生物の本能で認識することから逃げていたのか、それは彼女自身にも理解のできないことである。

 御坂美琴は次々に与えられる情報を一つ一つ呑み込んでいくが、あることに気付き思考が止まる。この混乱の中心点にして一番の被害者である天野俱佐利に異変が起きた。

 

 正確に言うのならばその左肘から生えた白い槍が。

 

 右側は人間の形に戻ったものの、左側は依然として異形の造形をしている。その異形の左腕がまるで蕾から花が開くかのように、肘から上下に分かたれた。

 見方によっては傘が開くようにも見えるその光景を見て、御坂美琴がまず最初に連想したのは、銃火器が現れるまで長く戦いの道具として利用されていた、人類が生み出した遠距離からの狩猟武器にして、弾性を利用した最古のバネ。

 

「……弓?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その姿だけをみれば当然錯乱してしまったようにしか見えないだろう。事実、隣に居る目を真ん丸にした月詠小萌を初め、通りすがりの人々を好奇な視線を彼女に向けていた。

 しかし、彼女にとってからすればそんな周囲の視線などに、今は目を向ける必要性が微塵もない。そんなことよりも遥かに重要視するべき事柄が目の前に現れたからだ。

 

「学園都市に『天使の力』が発生するのもおかしいけど、量があり得ないくらい多いんだよ!偶像崇拝の理論で『天使の力』を利用している聖人を遥かに超える膨大な力の奔流……。

 大天使…………いや、もしかしてそれ以上の()()を呼び出そうとしている……ッ!?」

 

 『天使の力(テレズマ)』を利用して行われる魔術は少なくない。だが、制御することは生半可な者では不可能だ。通常、魔術を発動する際は生命力から魔力を精製し、その魔力を燃料にして魔術を発動する。

 しかし、『天使の力』には既に指向性というものが存在する。つまり、ある一定の『色』が存在しているのだ。

 それこそ、学園都市の超能力と類似しているだろう。多様性もなければ扱いづらさなどもあるため、総合的に見て『天使の力』の方が使いにくいのではあるが。

 つまり、大天使と同等の『天使の力』が現世に呼び出すには、何かしらの霊装を用いるしかないのだが、学園都市という科学信仰が広まる土地で発動するには無理がある。

 

「これが、星座や月の満ち欠けで発動する霊装なら学園都市でもおかしくないけど、これだけ膨大な『天使の力』を使用するとなると、土地なんかも必要な条件に含まれるはず……やっぱりどう考えても辻褄が合わないんだよッ!?」

 

「え、ええっと……シスターちゃん?」

 

 インデックスがこれ程焦っているのは、魔導図書館である自分が理解できない魔術サイドの事象が、科学サイドで起こっているというだけではない。

 もし、大天使が暴れることがあれば甚大な被害はほぼ確定と言ってもよく、学園都市を含めた日本全土が更地になることも当然考えられる。

 

「(ううん、大天使が本気を出すと丸ごと地球の環境が変わりかねない。しかも、その大天使を超える存在が現れるなら危険度も遥かに上回るんだよ!)」

 

 一〇万三〇〇〇冊の魔導書の原典を記憶している禁書目録だからこそ、この状況が途轍もなく緊迫していることを誰よりも理解した。この学園都市で魔術を行使するという常識破りも踏まえれば一刻の猶予もないだろう。

 すると、そんなインデックスが所持している0円携帯がいきなり鳴り響いた。

 

「あっ!シスターちゃん携帯なってますよ。もしかしたら、上条ちゃんですかね?」

 

「そうだ!当麻なら……!」

 

 上条当麻。彼と関り合いのある人間なるば、彼がどれ程の厄介な事態に巻き込まれ易いのかすぐに分かるはずだ。そして、魔術サイドの人間からしてみればその特異な右手は標的とされることもある。

 彼女としてはこれが合って欲しくはないが、インデックスは状況とタイミングからこの問題の中心に上条が近いと導き出した。だからこそ、上条にどういう事態なのか話を聞こうとするも、その考えは予想外の形で裏切られる。

 

『──おっと、タイミングはギリギリセーフってとこか』

 

「え?」

 

 通話口から聞こえてきた声にインデックスは意表を突かれた。この携帯のアドレスを唯一知っている上条当麻だけのはずなのだからそれも当然だろう。

 

『色々と疑問はあるだろうが取り敢えずこっちの指示に幾つか従って貰うぜい。じゃないと、学園都市に魔術師が攻め込んできちまうからな』

 

 その声にインデックスは聞き覚えがあった。しかし、だからこそこの局面で現れることに驚きを隠せない。

 

『全く、問題の中心は上やんだけで充分だってのに、天野の奴も大概トラブルメーカーですたい。やれやれ、困ったときのお助けキャラの土御門さんでも、さすがに手に余るってもんだにゃー』

 

「えっ!?もとはる!?」

 

 通話口の向こう側から聞こえてきた声の主は、インデックスが居候をしている学生寮のお隣さん、土御門元春だった。




通話をして聞こえてくる声は合成音声らしいですね。その声に近い音を当ててるだけなので実際は別物だとか。
まあ、それを聞いたのは結構前なので今の技術だと限りなく近く出来そうですけど。

山場は次話から


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123.魔術の深奥を知る者達の答え

元日の最後の最後に投稿するんだなぁこれが

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします!
今回はなかなか重要なお話。山場はまた次回(見積りが甘すぎるぞこの作者)


P.s木原脳幹は原作で『』でしゃべるようです。最初は「」だったのですが恐らく人ではなく犬ということで変えたのでしょう。
なので、作者もそうします(原作遵守)


『指定位置に着いた。いつでも行動可能だアレイスター』

 

 暗闇の中でとある声が発せられた。奇妙なことにそこに人影は存在しない。居るのは大型犬であるゴールデンレトリバー一匹。

 その名は木原脳幹。

 この犬こそがこの街で動く不穏分子を消し去る死神に他ならない。『オカルト』ではなく『科学』によって生み出された人の言葉を話す奇妙な獣は、遠くに居る『人間』へと通信を繋ぐ。

 

『そこならば問題はないだろう。大覇星祭というイベントがあることで交通規制が不自然にならずに済むのは僥倖ではあった』

 

 滞空回線(アンダーライン)

 この街を遍く支配するために作られた、肉眼では見付けられないほどに微細なサイズの監視カメラ。それを使用しているアレイスターがオリ主が引き起こしている事態を看過するわけがない。

 

『木原幻生が行う実験を利用して計画(プラン)の短縮に繋げようと画策していたのが裏目に出たな。まあ、代替機に力が移っただけと考えたのは私も同様ではあったがね。彼女の特異性がここまで突き抜けていたとは予想だにしていなかったとも』

 

 木原脳幹としても天野俱佐利は希少な存在ではあった。世界でも有数の原石の一人であり、多重能力(デュアルスキル)に最も近しい能力者。

 学園都市が有する『恋査』も天野俱佐利の能力から着想を経て、早期に発明されることとなったことは彼としても『ロマンがある』と高く評価していた。

 しかし、この街に魔術の力を持ち込み、長い歴史で作り上げたこの街の『色』を変えるというのならば、それは死神たる彼の管轄の範囲内なのだ。

 

『近くに幻想殺しや第三位、第七位といったそうそうたるメンバーが居るようだが、こいつを打ち出してもいいのかね?』

 

 ドン!!ガン!!と、何かが木原脳幹の周囲へと降ってきた。それは複数のコンテナだ。おもむろにそのコンテナが開けば中からアームや装甲などが現れ、その全てが木原脳幹に装着されていく。

 ミサイルやレーザー砲などの近代兵器を身に纏う姿は、科学の総本山たる学園都市らしいものだ。

 だが、そのシルエットを見たものは恐らく別の感想を抱くことだろう。最新鋭の兵器群により浮かび上がるその鋭く突き出たフォルムは悪魔を連想させる。

 

 

 その悪魔の鎧に書かれた名は対魔術式駆動鎧(アンチアートアタッチメント)

 とある『人間』が己の死の運命を超越してでも叶えたい野望の具現である。

 

 

『私の滞空回線と現地で直接君が照準を合わせたならば、周囲に居る彼らが理解する間もなく天野俱佐利を即刻排除できる』

 

『彼女は蠢動(しゅんどう)俊三(としぞう)が裏で糸を引いていた心理掌握(メンタルアウト)襲撃事件で、奴の思惑を飛び入りで粉砕してくれた借りがあるのだがね』

 

 蠢動俊三。嘗て第五位の心理掌握を強奪しようとした大人達の代表者。

 『デッドロック』達を追い詰め簒奪の槍(クイーンダイバー)を貸し与えた張本人。その者を含めた反逆者達は既にこの死神が爆殺しているが、あの場で食蜂操祈を失うことは『彼らの目的』から考えれば痛手となったことだろう。

 

『善悪で言えば善で好悪で言えば好ましい。……やれやれ、科学の領域を侵そうとする行動は許されざることだが、元はと言えば木原幻生が主犯であり彼女は外部から力を注入された被害者でしかないときた。

 もし、これで彼女も同罪などと宣うことがあれば、物事を理性的に俯瞰できない痴呆の烙印を押されることだろう。全く、意識を奪われ都合の良い人形と変えられた少女に銃口を向けるのは私の趣味ではないのだがね』

 

 この局面で共犯者相手に欺瞞を言う必要性は無い。これは木原脳幹の偽らざる本音であった。尻尾がいつもより垂れ下がっているように見えるのは気のせいではないだろう。

 

『だが、天野俱佐利は私達の障害と成り果てた。無視することはできない』

 

『もちろん分かっているとも。それこそ、今はまだ光が届かぬ暗闇以外で私がこれを使うことは避けたい事態だった。

 このような想定していた時期や相手と異なる場面で、「私達の敵」に対魔術式駆動鎧(アンチアートアタッチメント)の存在を察知される可能性を生んだのは事実。

 それこそ私達の都合上の話でしかないが、今更自らの信条から逸脱した程度で立ち止まるならば君に協力してはいない』

 

 その言葉は問い質すようなものではなく、確定事項を口に出す程度の意味合いしか無い。それも分かっているため木原脳幹としても思っていることを偽りなく答える。

 余人には分からない、当人同士しか理解できない信頼関係が確かにそこにはあった。この街の王たる『人間』が遣わした死神が特殊な機材を使い、全ての兵器の照準をたった一人に完璧に合わせる。

 

 

 

 そして、標的に向けられた銃口達が今まさに火を噴くまさにその寸前に、木原脳幹を送り込んだ張本人であるアレイスターがいきなりストップを掛けた。

 

 

 

『……おい、アレイスター。どういうつもりだ?今更、天野俱佐利の希少性を惜しく感じた訳でもあるまい。もしや、魔神などの無視できない特大な不穏分子でも現れたか?』

 

 その突然の静止を不審がり、木原脳幹は通信の向こうに居る王に問い掛ける。必要事項とはいえ気が乗らない仕事は早急に済ましたい彼としては、ここで待ったを掛けられるのは少々苛立ちを覚える程度には不満が涌き出る。

 とはいえ、この街の王である彼が無意味な指示を出す事はない。私情を全て飲み干し次の指示を待つことにした。

 

『アレイスター……?』

 

 だが、応答が無い。

 この局面で尻込みをするような精神性の『人間』ではないことは既に知っている。悲劇を生み出すこの街を生み出したのだから論ずるに値しない事柄だ。

 ならば、アレイスターが言葉を発することができなくなる状況とはなんだ?不穏分子が現れても複数の計画(プラン)を同時に進めているこの『人間』が、その程度で立ち止まるとは考えられない。

 

 上条当麻の覚醒?足りない。その程度ならば次に繋げる。

 一方通行の乱入?足りない。その程度ならば次に繋げる。

 風斬氷華の登場?足りない。その程度ならば次に繋げる。

 強力な魔術師の横槍?足りない。その程度ならば次に繋げる。

 

 一時的にとはいえ、憎悪と復讐の上で醸成された忌むべき救済の渇望なのだとしても、それを百年燃やし続けた『人間』の歩みを止めさせるほどの異常事態に、木原脳幹は心当たりがない。

 どれが頓挫しても次に繋げる複数の計画(プラン)は数万近くも想定しており、膨大と言えるほどに枝分かれするその計画の中には、当然打開の策も同様に用意していて然るべきなのだから。

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 電話越しから土御門の指示を聞き、月詠小萌と別れたインデックスはとあるビルの屋上へと訪れていた。

 

「難なく来れちゃったけどここって部外者が入れるようなところじゃないと思うんだよ」

 

『そこはこの土御門さんのコネってやつだぜい。俺が指示したポイントに置いておいた通行証と俺の口添えがあれば、そこに入れるようになってるんだにゃー』

 

 通話が繋がっているのは土御門元春である。彼女としてもお隣さんでしかなかった人物であるが、実態は自らと同じ魔術結社、『必要悪の教会(ネセサリウス)』に所属している魔術師だという。

 その上、学園都市でスパイをしているため普段は身分を隠していることも聞いたのだった。(実はおしゃべりなインデックス相手に、そこを隠したままだと余計なことを『必要悪の教会』の魔術師に伝え、面倒なことになりかねないという土御門の打算が裏にある)

 

『本来ならお前さんに俺のことを教えるのは控えたいんだが、ご存知の通り事態が事態だ。あれをどうにかするために力を借りたい』

 

「私としてもこれは見過ごせないから協力はもちろんするけど、なんでこんなとこに私を連れてきたの?近くの方がより観察できるのに……」

 

()()()()()()()()()()で禁書目録周辺に向けた、魔力感知の術式が昨日ほど広くなくなっているとしても、そのサーチに魔術師が入ってしまえば戦争の火種になるのは確定事項だ。

 裏でどこかの魔術師が動いてるって情報もあるし、あの騒動の中心にお前が行くのは許可できないってわけさ。

 今の天野が学園都市の外に居る魔術師のサーチに引っ掛からないのは、()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()

 魔術師が精製する魔力を関知するサーチで良かったぜよ。もし、『天使の力』もサーチに含まれていたら余裕のアウト。

 まあ、とはいえアイツから魔力が放出されるようになっちまったら、お前の周囲に展開されているサーチに引っ掛かって直ぐに戦争だ。それを危惧してさっきいた場所よりも離れた、見晴らしの良い場所で解析して貰うんだにゃー』

 

「でも、くさりが大変な目に遭ってるのに魔術サイドの住人である禁書目録の私がこんなところで『もし、サーチに引っ掛かれば戦争の火種になるだけじゃなく、天野の人生はその時点で終わりだ』──!」

 

 その言葉にインデックスの動きが静止する。

 

『学園都市側も出来る限りの体裁を保つために、「外部の魔術師による陰謀」とするはずだ。実際に学園都市でこうも大々的に魔術サイドの事象を科学サイドがするとも思えない。

 あちらとしても予期せぬ事態なのは間違いないだろうし、実際に魔術サイドの現象として認識しているのも片手で数えられる程度しかいないんじゃないか?

 だからこそ、学園都市としては取り敢えずの誠意として、天野を魔術結社の中でも信頼できる組織に身柄を渡し、人体解剖をして原因究明をさせることだろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()数多の能力者をコピーしたと言っても、その原理は学園都市でも解明出来ていない未知の方式によるもの。

 能力開発が学園都市の足下にも及ばない「外」の世界で、天野を標本として解析したとしても能力開発で発展するどころか、終わりの見えない泥沼に沈み込んで行く結末になるだろう』

 

 あらゆる人間が求める『超能力を身に宿す人間』だからこそドツボに嵌まりやすい。なまじ理想だからこそ追い求めるのを止められない楔になる。

 しかし、能力開発で他に追随を許さない学園都市が、多重能力者(デュアルスキラー)から劣化模倣(デッドコピー)に名前を変えるようにしたのは、一種の挫折だったのだろう。

 未だにその夢を諦めていない人間も居るが、学園都市全体の意向としては能力の解析を主体ではなく、天野俱佐利が生み出す結果から何かを得ようとする動きにチェンジしている。

 だからこそ、超能力者(レベル5)級の能力者の一人として数えられてはいるが、恋査のようなケースを除けば直接的な工学利用しにくいために、補欠達の中でも人によって評価値が大きく変わる特異な存在である。

 

 もちろん、貴重な存在とはいえ学園都市の存亡と比べればどちらが重要なのかは言うまでもない。

 

『或いは、戦争を避けられないと割り切り、魔術サイドの技術を取得するために人体実験やホルマリン漬けにして、学園都市側の戦力になるように血肉の一滴まで利用して活用するかの二択しかないな。

 どちらにせよ、天野に人権は無くなり道具として消費される未来のでき上がりだ』

 

「……」

 

 土御門の言葉は冷たく鋭いが、これが一番可能性の高い未来予想図になると言外に語っていた。魔術の知識が誰よりもあるからこそ戦争を回避、或いは乗り越えるためそうする必要があるのをインデックスはすぐさま理解する。

 彼女としては友人が危険な目に遭っているにも拘わらず、こうして安全地帯に居ることに対して、胸が引き裂けるほどに苦しい。どういった経緯があるにしろ魔術によって魔術と関係の無い一般人が苦しむのは、インデックスには容認できないのだ。

 魔術による知識があるのならば適した場所で解析し、即座に解決しなければならないという強迫観念が彼女にはある。世界で唯一の魔導図書館たる彼女の使命感なのかもしれない。

 彼女は深く息を吐いて色々な思いをリセットする。

 

「──分かった。ここでできることをしてみるんだよ」

 

『頼む』

 

 少女の覚悟を悟り土御門も一人の魔術師として短く返答した。

 

「(まあ、これでサーチの方は大丈夫として、これがステイル辺りにバレたら消し炭にされそうだぜい……。

 インデックスの優しさに漬け込んで行動を縛り付けるこのやり方は我ながら酷いもんだし、戦争の火種に成り得る可能性の鉄火場に連れて来てる時点であの男が容赦するはずもない、っと。

 このままステイルが知らないままでいることを願うことしか土御門さんにはできませんですにゃー)」

 

 土御門は使徒十字(クローチェディピアトロ)を持って逃走した、リドヴィア=ロレンツェッティを追跡しに行くため学園都市から離れたステイル=マグヌスが脳裏を(よぎ)る。

 土御門が言ったこととしていることを知れば、リドヴィアに向けているだろう敵意よりさらに激しい怒りを向けてくるのは想像に難くない。

 

『途中で手にいれた双眼鏡で観察を頼む。目盛りは合わしておいたから見るだけでいいはずだ』

 

 そう言われたインデックスは土御門が用意した双眼鏡を握る。未だにあの『天使の力(テレズマ)』の発生源が天野俱佐利だとは思えない。

 インデックスは彼女のことを知っているからこそ聞いたときは呆然とした。だからこそ、気持ちの整理を付けるべく双眼鏡で見る前に電話の向こうに居る魔術師に問い掛ける。

 

「……ねえ、もとはる。一応確認しておきたいんだけど、もしかして、くさりもどこかの魔術結社が送り込んだスパイだったりする?」

 

『禁書目録の周囲に居る人間の経歴は全て洗ってあるが、アイツが魔術結社と関わる可能性はゼロだ。学園都市に来てからも来る前も魔術とは縁遠い素人だにゃー』

 

 実際には『必要悪の教会』のトップであるローラ=スチュアートと会っていたらしいのだが、アレイスターに聞かれている可能性があるため秘匿する。

 

「(アレイスターには天野の秘密は伝えていない。天野が科学サイド魔術サイドの両サイドと関り合いがあるのは、後々のアドバンテージになる。

 ……まあ、いざとなれば、どこかの魔術師が裏で手を回していたとかの陰謀論をでっち上げればそれで済むだろう)」

 

 土御門がここまで天野の問題を解決しようとしているのは、科学サイドと魔術サイドの衝突を回避するためだけではなく、もしもの時の懐刀を失うわけにはいかないからという彼の都合もある。

 

 ちなみに、同じ考えでオリ主がローラ=スチュアートをスケープゴートにしたことを土御門はまだ知らない。

 

『俺としてもなんでアイツがああなってるのか理解ができないが、あのまま放っておくこともできない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だが、見れば分かる通り魔術が色濃く出ているのも確かだ。つーわけで、パパッと解析たのんだぜい。そこから先は俺が命を張る展開になるだろうからなるべく正確に頼むにゃー。

 大事な妹を持つお兄ちゃんとして、まだまだ死ぬのは先にしたいんだぜい!』

 

 最後は軽く茶化しはしたが、そこには魔導図書館である彼女に向けた信頼があった。記憶している一〇万三〇〇〇冊全てを使えば魔神にも届くとされている叡智。それを活用すれば魔術の事象の元を算出することなど造作もない。

 覚悟さえ決まれば、彼女は知識という限定な項目で世界最強の一角に成り得る。

 

 土御門のその考えは間違えていなかった。だから、分かってしまった。

 

 普通ならばここまで離れていては見えるはずの無い遥か遠くの光景を写し出す、最早ここまでいくと気味が悪いほどの技術で作られた器具に付けられているレンズ越しの光景。

 その瞳に写り込むあり得ない光景に目を限界まで大きくし、双眼鏡を細かく揺らす。その動作を実際に直接目にしてはいないが、呼吸と電話越しから微かに聞こえる音で何かを察したのか土御門が問い掛ける。

 

『禁書目録?どうした何か分かったのか』

 

 反応が返ってこない。それを電波障害か何かかと一瞬彼は訝しむ。

 

 ──土御門元春は知るよしも無いがインデックスの反応は、この街の王である学園都市統括理事長・アレイスター=クロウリーと同種のものだ。

 

 しかし、一〇万三〇〇〇冊の原点を有する魔導図書館の図書である彼女は、得た情報を言語化することに他の人間より慣れている。だからこそ、衝撃から復帰するのも早かった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 禁書目録たる彼女は頭をすぐさまクリアにして、知識から導き出したその言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

「参照元はトートの書。司る属性は水と土。称号は万能の主の娘。内包要素は閉じられた瞑想的な秘教の知恵。対応する(パス)はケテル=ティファレト。

 アレイスター=クロウリー曰く、トートタロットで二番目に該当する女教皇が示すこのカードは、純粋さを象徴とする永遠の処女たるイシスの最も精神的な姿を表しており、イシスはギリシャ神話におけるアルテミスに相当する存在である」

 

「……………………………………………………………………………………は?」

 

 

 

 

 その言葉に土御門は本当の意味で言葉を失った。それこそ、思いもしなかったところから不意討ちで打撃を食らったかのような衝撃。

 理解不能。意味不明。それが彼が頭に浮かぶ言葉だった。

 なんだそれは、そんな馬鹿な話があるはずがない。あれはそもそも存在しないはずのものではなかったか?いや、仮に存在していてもこの世に現れるなんてまずあり得ないだろう。

 しかし、そう口にするのは一〇万三〇〇〇冊ある魔導書の原点を全て記憶するあの禁書目録。嘘を言うことはまずあり得ないし、断定した以上は誤解など絶対にあり得ない。

 言葉を失う土御門に反して、彼女はその決定的な言葉を口に出す。

  

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 




そう言えばオリ主と初めて邂逅した魔術師である、堕天使エロメイドが似合いそうなどこかの聖人が、二回目の戦闘(中身がエルキドゥ)で神降ろしだのなんだのとフラグを言っていたような……?(すっとぼけ)

◆作者の戯れ言◆
はあ……考証が本当に大変なんだよなぁとある魔術の禁書目録って作品は(実はまんざらでもない……しかし、九割は本音である)


◆補足◆
ちなみに、属性と星はイシスとアルテミスどちらに重きを置くかで変わりますので悪しからず。


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124.???→天使・イシス=アルテミス

時間を置いたら忘れそうなので、オリ主の変質理由はパパっと書くことにします

そして、この話から魔術要素がさらに強くなっていくのです(次回が特にヤバイことに……)


 人気のいない路地裏で彼は携帯を片手に通話をしていた。その『穴場』を把握している多角スパイの彼は、その告げられた信じられない話を聞いて思わず通話相手へ言葉を投げ掛けた。

 

「まさか、天野の中に神が宿ってるってのか……?」

 

 土御門の問いには驚愕が多分に含まれていた。それもそのはず、神降ろしなど魔術サイドからみれば偉業に他ならない。それを科学サイドの人間が行うなど到底信じられるものではなかった。

 

『ううん、正確にはそうじゃないよ。神様の力が流れ込んで来ているって感じだと思う。根本的には偶像崇拝の理論……いや、どちらかというと神イシス=アルテミスと共鳴して力の受け渡しがされてるんじゃないかな』

 

 神様本体ではなくその力が流れ込んで来たことによる身体の変化が近いのだという。禁書目録曰く、普通ならば容量が耐えきれず内側から破裂している、とのこと。

 

「天野の変身能力が奴の容量(キャパシティ)を大きくしているのか?だが、魔術サイドの力だぞ。能力者が耐えきれるものか?」

 

『私も信じられないけど納得できる部分もあるんだよ。神降ろしや憑依っていうのを魔術で行うこともあるけど、素質や才能を持ち合わせた人ならあちら側からが干渉するケースがあるの。

 村娘であったジャンヌ=ダルクがある日教会で神の啓示を受けたようにね。その人のポテンシャルや運命力に引き付けられるようにして、超常の存在がコンタクトを取るなら人間が魔力を精製する必要無いんだよ。

 くさりから放出される純度の高い「天の力(テレズマ)」はそう言った理由なんじゃないかな』

 

 つまり、天野俱佐利が何かをしているわけではなく、一方的に受け入れている側ということだ。それを人は神の祝福と言うのかもしれないが余りにもその注がれる力が強すぎた。

 それこそ、意図せず周囲を破壊し尽くしてしまうほどに。

 

『でも、上手く力を受け止めれていないみたいなんだよ。正しく力を変換できてないって感じかも』

 

「正しく受け止めれていない……?」

 

『本当ならもっと力を有しているはずなんだけど、あの背中にある翼がその力を吸収・放出しちゃってるみたい。そもそも、イシス=アルテミスに翼は無いんだよ。神様の中で翼がある方が珍しいくらいだし』

 

 翼で描かれるのは圧倒的に天使の方だ。ならば、あの天野の状態は神というよりも天使の方が近いということになる。

 どうやら、御使堕し(エルゼルフォール)で天野俱佐利の魂が『神の力』に入ったことによる影響のようだ。

 

「……にしても、イシスとアルテミスが習合した神……か。実際に存在するものだったのか?アレイスターが適当にでっち上げた神格だと思ってたが」

 

『それこそ、他宗教の人間が自分の信仰する神様や神話を基準とするせいで、余所の神様に対して歪んだ認識のまま後世に伝わってしまった事例も確かにあるね。

 その結果、全く新しい神様のイメージを形作ったりしてしまうこともあるんだけど、アレイスター=クロウリーは聖守護天使エイワスの召還をして、この世界とは別の世界の知識を保有していたから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 他の人間が言うのならば眉唾物だろうが、相手はあの大魔術師アレイスター=クロウリー。

 聖守護天使エイワスや大悪魔コロンゾンと言った、超常の存在を幾度も召還しているために、彼が唱えた存在も妄想と切り捨てることができないのもまた事実なのだ。

 だが、仮にそれが真実であったとしても、異世界から神を呼び寄せることが普通でないのは言うまでもない。

 だからこそ、イギリス清教第零聖堂区『必要悪の教会(ネセサリウス)』の禁書目録は断言する。

 

 

『何かしら理由があるはず。異界の神様を呼び寄せる何か切っ掛けが』

 

 

 何かしらの縁がなければ繋がることはない。『神の力』、ミーシャ=クロイツェフも『御使堕し(エルゼルフォール)』という魔術がなければ、サーシャ=クロイツェフの身体に乗り移ることもなかったのだ。つまり、それ相応の何かがなければ神が人の身体に入ることはないということ。

 ならば、この神と交信する方法とは果たしてなんだ?どうすれば繋がることができる?

 その疑問に対して、魔術の叡智を有する彼女は即座に推論を叩き出す。

 

『アレイスターはトートタロットの『女教皇(プリエステル)』にイシス=アルテミスを当てはめた。だけど、その神様はそれ以降アレイスターの魔術理論で一度も語られることはなかったんだよ。

 つまり、イシス=アルテミスに干渉するんだからトートタロットが深く関わっているのは間違いないかも』

 

「とはいえ、トートタロットをこの学園都市で所持しているものか?科学信仰が蔓延り能力者が溢れるこの街だと入手するのも楽ではないと思うが」

 

 需要と供給が安定していなければ商品が市場に並ぶことは無い。インターネットでの購入もあり得るが、滞空回線(アンダーライン)というアレイスターの監視網をあれほど警戒していた奴が、そんな足が確実に付くヘマをするとは思えない。

 

「(アイツが自前で確保している可能性は限り無く低いってことだ)」

 

 だとすると、トートタロットを用いての呼び込み口ではないことになる。となると、外部から神降ろしするためのアジャストがされていた可能性が浮上した。

 

「つまり、魔術師による外部からの注入があったってことか?」

 

『それは難しいかも。学園都市の目を掻い潜って魔術師がくさりと接触しないといけない上に、トートタロット単品をくさりに与えたとしても、それで神降ろしの儀式が為されることはあり得ないんだよ。

 その上、科学サイドの人間に魔術サイドで発明されたトートタロットを、お土産感覚で渡すような魔術サイドの人間が居るとも思えないし、くさりがトートタロットを手に入れる機会は無いと思う』

 

 それはそうだ。トートタロット自体は占いを行うための方法の一種として、世間一般に知れ渡っているが、それを作った人間は他でもないアレイスター=クロウリーという魔術サイドの人間だ。

 何かの感謝の印として手土産を渡すとしても、好き好んでそれを選ぶ魔術師はいないだろう。

 

「……ということは、トートタロットの絵札が関係しているにもかかわらず、物品としてトートタロットが存在していない……?」

 

 その矛盾は推論の否定を意味していた。科学であれ魔術であれ過程と結果が成り立たなければ、世界に事象が生まれることはない。

 この矛盾を解明するため泥沼の思考へと陥りそうになった土御門を引っ張り上げたのは、他でもないインデックスだった。

 

『なら、答えが分からないトートタロットとの繋がりの件は一先(ひとま)ず置いといて、イシス=アルテミスが関係するだろう事柄に注目すべきなんだよ。

 イシス=アルテミスはトートタロットの中でしか登場しない神様。なら、今度はトートタロットを深掘りして、タロットが生まれることとなったそのものの起源。異なるセフィラを繋げる(パス)としての役割に焦点を当てるべきかも』

 

 トートタロットだけに思考を巡らせると答えに辿り着けないならば、トートタロットが何故魔術サイドの人間にとって馴染み深いかを考える。

 それは一見ありきたりな思考に見えるが、目の前に答えに繋がる鍵が落ちているにも拘わらず、その一切を無視して素通りして周辺を探すような割り切り方だ。

 神様が地上に顔を出すような異常事態で、これほど冷静に物事を考えられる人間が果たしてどれくらい存在するだろうか。

 そして、遅れて土御門もインデックスの言っている意味に気付く。

 タロットを使用する魔術師が多い理由は、世界最高の魔術師アレイスターが関わっているという部分ではなく、もっと他に根本的な理由があるということに。

 禁書目録はタロットカードの真髄からその推論を弾き出した。

 

 

 

『それぞれのセフィラを繋ぐ小経(パス)に、人間の進化・成長を促す大アルカナが生まれる起源となった、宇宙創造原理を解析するためのカバラ図表、───セフィロトの樹が怪しいんだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは目視できるようなものではなかった。光の瞬きとしか表現できない刹那によるものだった。当然の話だが人間が反応できる速度を優に越えていた。

 

 だから、上条は自身が右手を反射的に前へ突き出したことを、それとぶつかったあとに理解することになる。

 

「──が、ああああああああああああああああああああッッッッ!?!?!?」

 

 ゴキゴキゴキゴキィッ!!と、突然手首から伝わる衝撃に上条は困惑と共に声を上げた。伝わる衝撃は並大抵のものではなく、その今まで感じたことのない威力に、右手が余所へ弾かれるまさにその寸前、幻想殺し(イマジンブレイカー)の打ち消しが成功する。

 慣れ親しんだ打ち消しの感覚を理解すると共に、上条の苦悶の表情と共にこめかみから一筋の汗が流れ落ちた。

 

「ぐお……ッ、な、なんだ?どうして幻想殺し(イマジンブレイカー)が上手く発動しなかったんだ……?」

 

 数多の戦場を右手の特異性で切り抜けて来たからこそ、その右手の効果には一種の信頼が保証されている。触れれば一瞬で異能を粉砕する右手は今まで超能力、魔術関係なく打ち消しに成功してきた。

 しかし、今の打ち消しは今までとは全く違う。

 

「(まさか、打ち消しの処理落ち……?莫大な力だと幻想殺しの許容量を超えることもあるってことなのか!?)」

 

 異能ならば全て打ち消せると認識していたが、どうやらそこまで絶対的な効力を秘めているわけではないことに気付く。どうやら、今の感じからして右手がギリギリ耐えれる威力を有した攻撃が飛んできたらしい。

 

「ちょっと、アンタ無事なの!?」

 

「見た感じさっきまでと反応が違かったみてーだが、天野の攻撃が変わったせいか?」

 

 そんな上条を按じた二人が駆け寄ってくる。

 そう、削板が言うように今の攻撃は天野の攻撃によるものだ。あの攻撃は幻想殺しの打ち消しと拮抗するほどに強力なもの。もし、上条が受け損なっていれば、あの閃光が縦に真っ直ぐ学園都市を駆け抜けることになる。

 大覇星祭で人口密度が高くなっていることを踏まえると、一射で数千人が消し飛ぶこともあり得るだろう。

 

「(……それを、可能にしたのはあの弓だ。とんでもない威力の矢を打ち出してきた)」

 

 そう、上条は攻撃方法が理解できなかったのではない。直前まで左腕が変化した弓を引く動作は確認できていた。しかし、それが閃光となって飛んで来るとは思わなかったのだ。

 弓矢というより銃弾が飛んで来たという認識の方が余程近い。

 

「にしても、物体じゃねえ光そのものに反応できるなんてカミジョーは根性あるな!つーか、どうやったんだ?目が眩んで飛んでくる場所なんて把握できねえーだろ?」

 

「さ、さあ、俺にもよく分からない」

 

 前兆の感知。攻撃の予備動作や前兆から攻撃箇所やタイミングを把握する上条のスキルにして、本人が自覚すると逆に精度が甘くなるという無意識下で働く気配察知術。

 反応速度で追い付いたのではなく予備動作から攻撃を感知したのだが、本人がそのことを理解していないため説明などできるわけがない。

 

「あの攻撃に加えて背中にある翼まで使い出すとなると、更に根性入れねーとな。あの雰囲気からして見掛け倒しの硝子って訳でもねえだろうしよ」

 

 削板が視線を向けるのは天野の背中から伸びる深い紺色の翼だ。それに上条は見覚えがあった。

 

「ミーシャ=クロイツェフ……いや、だとしたら辻褄が合わない。ミーシャのことをそこまで知ってる訳じゃないけど、前と同じ様に天界に帰るのが目的なら自分の力を底上げするために、水が多くある場所に行くはずだ。

 翼だって前見たときより大分小さくなってる。神裂と戦うときだってあの翼を使ってたんだから、あれが主な攻撃手段なのは間違いないはずなのに」

 

 御使堕し(エルゼルフォール)

 あのときと今とでは戦闘方法が全く違う。翼も四、五メートルと大きいことには大きいが、あのときの方が遥かに大きかったため違和感が拭えない。

 

「ガブリエルに類似した存在ってことか?いや、だとしても先輩にその力が宿るそもそもの理由が……」

 

「ち、ちょっと、なんか知ってるなら一人でしゃべってないで共有しなさいっての!天野さんの姿が元に戻ってるってことは私の能力とは別物ってことでいいわけ?それとも、能力を集め過ぎるとあんな姿になるってことなの?

 そこんところ分かんないと、手探りで戦わなくちゃいけないんだけど!?」

 

「あー……いやそのだな……」

 

 そう言われても上条に分かることの方が少ない。あれが天使の翼だと言われても困惑するだろうし、どういった経緯で何の力が作用しているのか全く理解できないでいる。上条とて魔術サイドの問題に首を突っ込んでいるからと言っても詳しいわけではないのだ。

 禁書目録であるインデックスならば見当も着いただろうが、科学サイドの住人である上条当麻には皆目見当も付かないのが現状だった。

 

「(クソッ!魔術サイドの問題じゃあ学園都市に住んでる居る奴が理解できるわけがねえ!なんなら、魔術って物理法則とは違った法則に足を掬われる可能性まであるぞ……!)」

 

 大本が水の力だから電熱を利用して防ぐなどの行動を取り、本当に効果があるのか上条に判断は難しい。あくまでも能力者は物理世界の演算を基に能力を発動しており、そこに理解できないデータを入力されれば素通りしてしまうリスクもあるのだ。

 上条の右手は超能力、魔術関わらずまとめて消し去るが、純正の能力者である二人があれを受ければ果たしてどうなるのか全く読めない。

 

「(その上、あれは大天使であるミーシャが振るっていた水翼。『魔術』どころかこの世界とは別の位相にある、神様達の居る世界にあるらしい『天の力(テレズマ)』の場合、演算のフィルターを何一つ通さない可能性もあるってことになるんじゃ……ッ!?)」

 

 二人が攻撃を受ける側に回ったらそれで終わりもあり得ることを悟り、今置かれた危機的状況を上条は顔を青ざめながら認識したのだった。



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125.不可避の第一条件★図解あり

連日投稿です

図解を載せておきました


「うひょお!?なんと!なんと実に素晴らしいッ!!『非科学』のデータがまるで湯水のように溢れ出ている!この数分で今まで保存しておいたデータを遥かに超える膨大な量のデータを獲得できるとは、君はどこまで僕の期待に応えてくれるのかッ!?」

 

 千里眼を用いて事のあらましを把握する木原幻生は、懐からタブレットを取り出し、未知である『非科学』のデータを取得したことでガリガリッと、針が振りきれるほど動いている計測機器を確認する。

 

「天野くんがまさか本当に僕の想定通りに成長してくれると思わなかったから、必要最低限の人員しか配備していないことが仇となってしまったか。

 くぅー!更に人員を増やしてより精密なデータを取らねば……!」

 

 この千載一遇の機会を幻生は嬉々として活用する。実験こそが彼の娯楽にして生き甲斐なのだ。

 

「いやはや、万事全て成功したとしてもここまでの質と量を兼ね備えた、素晴らしいデータを取ることができるとはさすがに思っていなかったよ。

 こればかりは、想定していなかった僕の詰めの甘さを恥じ入るばかりだ……いや、ここは天野くんのポテンシャルが、僕の想像よりも遥かに高かったことを誉めるべきかな?彼女のお陰で科学とは全く別の枠組みの法則を知ることができる。それこそ、後世の人間に語り継ぐべき偉業に違いない!」

 

 もちろん、人間としてではなく優秀な実験の素体として。科学狂いの一族が生み出した妖怪は、人道を無視したその実験にこそ生きている意味を見出だす。

 

 

「科学の発展を足踏みする枷がまた一つ取り除かれる!ああ、なんと輝かしいことか!未来は希望に満ちている!!」

 

 

 科学に身を投じた人生の集大成。その最後を飾るに相応しい実験テーマに心を震わせて、若き頃の潤いが再び蘇ってくる。この場に彼だけならば沸き上がる昂りをこのまま享受し、興奮のままに実験を続けただろうが今の言葉を聞いていた者が居る。

 

『天野さんが犠牲となったことを祝福するような未来を、この私が許容すると本気で思っているのかしら?』

 

 食蜂操祈。

 彼女は今現在木原幻生に能力を無効化されて追われる危機的状況でありながら、幻生に対して煽るように挑発する。まるで、それが自分にとって譲れない一線だと言うかのように。

 それを聞いた幻生は先程より冷静になりながらも、口角を上げて笑みを広げる。

 

「このままデータを取り続けビックデータとなれば、『非科学の解明』の悲願を達成する事が可能となる。そうなれば、君の心理掌握(メンタルアウト)も天野くんに通じるようになるかもしれない。

 全ての異能を平等に打ち消す幻想殺しは指標にはならないが、天野くんに対して一切の効果の無い君の心理掌握は、彼女の特異性を測る上でこれ以上無い指標と成り得るだろう」

 

 未だに食蜂を追いかけ続けるのはオリ主に対してどこまで何が通じるのか、その差異を知るためだったのだ。

 求めている『リミッター解除コード』も出力を上げてより確実に多くのデータを取るため。実験のためならば遠慮といったものをこの妖怪がするわけもない。

 

「一体何が心理掌握をジャミングしているのか実に興味深いよ。いや、もしかすると何も存在しないのかもしれないねぇ。

 仮に天野くんの身体に生体電気が流れていないのだとすれば、果たして何を動力源として活動しているのだろう?きっと『非科学』に類するものがそうに違いない。

 もし、違うのだとしても全ての『非科学』を解明したのならばそれも解析できるはずさ。そのために、心理掌握の出力パターンを幾通りも試したいんだよ。『非科学』のデータを踏まえて数万も試せば自ずと解るはずだからねぇ」

 

 コツコツッと靴を鳴らす妖怪は、多才能力(マルチスキル)で壁に穴を開ける。最短距離で間合いを詰めるために。

 

「僕も天野くんに注力したい。そろそろ、君とのこの追いかけっこも終わらせるとしようか」

 

 全ては科学の発展のため。それが成されるならば文字通り全てを捧げる。

 常人には理解のできない物の()。しかし、だからこそ今まで成功を積み上げてきたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生命の樹(セフィロト)……。確かに、トートタロットを語る上では欠かせない要素ではあるが、それが天野とどう関係する?」

 

『考えにくいけどもし、くさりが生命の樹を昇っているのだとしたら、いきなりケテル=ティファレトの(パス)に存在している女教皇へ届くわけがないんだよ。

 生命の樹を上って行くならマルクトを出発点として、イェセド、ホド、ネツァクのどれかのセフィラを昇ってティファレトまでは絶対に行かなくちゃならないからね』

 

 どのセフィラに進むのかはその者の研鑽による実力と相性による。順番はあるが昇る道は一つだけではないのだ。

 

「(マルクトは物質界(アッシャー)、つまりこの世界であることを差す。しかし、一つのセフィラを超えるには並々ならぬ修練が必要になるものだ。

 アレイスターの奴は学園都市を第二のテレマ僧院にしているから、確かに学園都市の子供は知らず知らずの内に生命の樹と関係深い。だが、天野俱佐利は能力開発を受けていない『原石』の能力者だぞ?

 ただでさえ、縁遠い魔術サイドの事柄だけでなく、アレイスターの手が掛かっていない天然の能力者という点。生命の樹の取っ掛かりが果たしてあるのか……?)」

 

 考えを巡らせれば巡らせるほどに輪郭を掴めなくなっていく因果関係。マルクトのセフィラから次のセフィラに行けるとは到底思えない。

 これほど考えても分からないならば、実は世界でも有数の霊装が裏で運び込まれていただとか、天野俱佐利に流れる血脈が特別なもので神を呼び寄せたとか、そう言った全く違う理由なのではないだろうか?

 土御門がそう言った思考の袋小路に入り込むその前に、インデックスが話し出す。

 

『やっぱり不可解なのはあの翼かも。相性は良いはずなのに水の属性の「天使の力」がイシス=アルテミスの力を放出する根本的な理由になってる。

 元々存在しない翼がどうして付け加えられて要るんだろう?』

 

「(……()()を禁書目録に伝えるべき内容かどうか判断が難しいが、……状況を考えればやむ無しってところか……)」

 

 インデックスの率直な疑問に対し、土御門は幾つかの偶然があったとはいえその答えを知っている当事者の一人だった。

 

「ああ、あれは大天使の力の一端だぜい。お前さんは知らないかもしれないが、実は八月二八日に『御使堕し(エルゼルフォール)』っていう大魔術が発動したんだにゃー。要するに、天界から天使が落っこちちまったってことですたい。

 その影響で全人類規模で『外見』と『中身』が入れ代わるなんて未曾有の事態になっちまうしで、てんやわんやの事態に発展しちまったんだぜい」

 

『ええっ!?私そんなこと知らないんだよ!?』

 

「そりゃあそうだろう。世界に居るプロの魔術師達の中でも事態を把握できていたのは一握りの人間だけだろうし、俺とねーちんはウィンザー城に出頭してたからってのが大きい。

 (かつ)て禁書目録に施されていた『歩く教会』と同レベルの結界の内側に居た恩恵で、俺らは御使堕し(エルゼルフォール)にギリギリ呑まれなくて済んだってわけですたい。

 ちなみに、お前さんの姿は大柄の男に見えていたから、あのときの上やんの行動は大目に見てやれよ」

 

『…………』

 

 余りにも突拍子もない事柄の数々にどうやらインデックスは言葉が出ないようだ。土御門とて人伝(ひとづて)御使堕し(エルゼルフォール)の話を聞かされれば、同じ様な反応をしただろう。

 まあ、土御門としてはここからが本番であるのだが。

 

「いやー、さすがに突拍子も無く世界の命運を握る一人になるとは思わなかったぜい。なんせ堕ちてきたのがまさかの大天使『神の力』だからな。下手すれば人類滅亡の危機ってわけさ。

 ……それで、ここからの話は俺も信じていなかったんたが、天野の奴は堕ちてきた大天使の『中身』に入ったみたいでな。空いた大天使の椅子に偶然にも入っちまったらしい」

 

『大天使の「中身」に……?』

 

「実に眉唾物だろう?俺も幻覚か何かを見たせいかと思ってたんだんが、あの水翼はサーシャ=クロイツェフの身体に入った『神の力』が、海の水を巻き上げて攻撃に使っていたモンだ。実際にこの目で見たから間違いない」

 

 インデックスからすれば信じられない情報だろうが、そこは無理矢理にでも納得してもらうしかない。当然の話だが証拠なんて何処にもないし、仮にあったとしてもそんな物を見せては更に禁書目録を取り巻く環境は厳しいものになる。

 

「(カバラ業界や黄金夜明(S∴M∴)からすれば、『必要悪の教会(ネセサリウス)』と戦うことになったとしても得ておきたい情報だろうしな)」

 

 普段は一大宗派である『必要悪の教会』に楯突くことはないが、それ相応の理由さえできれば決死の覚悟で挑んできても不思議じゃない。

 御使堕し(エルゼルフォール)なんて大魔術はカバラをより解明するためにも、魔術結社『黄金』の真髄を知るためにも利用できる、魔術サイドからすれば価千金の術式なのだから。

 

『そうか……()()()()()……っ!もし、そう言うことなら必要最低限の条件はクリアできるかもしれない!』

 

 インデックスが弾かれたように声を上げた。そして、立て続けに土御門へ問い質すかのようにして言葉を重ねる。

 

『もとはる!「神の力」っていうことは大天使ガブリエルのことでいいんだよね!?』

 

「あ、ああ、それがどうかしたのか?」

 

 魔術サイドでは常識とも言えることを繰り返すインデックス。土御門は日本の陰陽師であり以前読んだ聖書ですら、既に埃に被っているほどに陰陽道に傾注している。

 嘗て陰陽博士と呼ばれていたことに踏まえて、能力開発を受けた影響で能力を使う度に命を落とすリスクを抱えているため、他宗派の魔術を組み込むよりかは慣れ親しんだ魔術を使う方が利に叶っていた。

 魔術を発動するだけで命を賭けた博打だと言うのに、更に効果が未知数な思い付きをして不発だとしたら始末に負えない。

 そう言った背景があるため他宗派の魔術を使う機会は早々無いが、イギリス清教『必要悪の教会』に所属する際に粗方の知識は頭に入れている。当然、大天使の名前や特徴も頭に叩き込んでいるのだが、それが分からない禁書目録ではないだろうに。

 

生命の樹(セフィロト)のセフィラには意味があるってのは知ってるよね。小経(パス)に意味を見出すまではそっちに意味を見出だしていて当たり前なんだし』

 

 秘主義を唱える者達がタロットカードで小径に意味を見出だすまで、生命の樹(セフィロト)にはセフィラしか存在しなかったのだから。もちろん、意味があって当然である。

 

『いい?各セフィラには数字の他に象徴する色や惑星なんかがあって、その他にもセフィラを守る守護天使が各セフィラには存在しているの』

 

 その言葉を聞いて土御門は眼を見開いた。そこまで言われれば、どんなに察しの悪い人間でも理解できる。天野俱佐利がマルクトのセフィラから次のセフィラに昇ってもおかしくない理由にして、決定的な切っ掛け。

 通話口の向こうに居るインデックスはそれを端的に述べたのだった。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()

 

 

 




◆セフィロトの樹図解◆
        
       / ̄ ̄\
       |①王冠|        ・①王冠
       \__/          ケテル
   /     |     \
/ ̄ ̄\     |     / ̄ ̄\ ・②知恵
|③理解| ー ー ー+ーーー  |②知恵 |  コクマー
\__/     |     \__/ ・③理解
        /|\           ビナー
ーー|ーー\ーーー|  | |ーーー/ー ー|ー ー ・○知識
  |   \   \ |/    /   |    ダアト
      \    |   /    
/ ̄ ̄\  \   |   /  / ̄ ̄\ ・④慈悲
|⑤峻厳|  ー ーー+ーー ー  |④慈悲 |   ケセド
\__/   \  | /    \__/ ・⑤峻厳
     \ / ̄ ̄\ /        ゲブラー
  |      | ⑥美 |      |   ・⑥美
 |      \__/     |    ティファレト
     /      \  
/ ̄ ̄\     |     / ̄ ̄\ ・⑦勝利
|⑧栄光|  -ー +ー -  |⑦勝利  |  ネツァク
\__/     |     \__/ ・⑧栄光
     \      /        ホド
       / ̄ ̄\    
    \   |⑨基盤 |  /      ・⑨基盤
     \  \__/  /        イェソド
         |
       / ̄ ̄\
       |⑩王国 |        ・⑩王国
       \__/          マルクト

◆補足◆
丸(見えないかもだけど)がセフィラと呼ばれるそれぞれの位階を表したものです。

◆セフィロトとクリフォトの違い◆
セフィロトは善の樹で、クリフォトは悪の樹です。
セフィロトが『高次の存在』になるための工程を記したものだとすれば、クリフォトは『虚無』に陥るものを表しています。

要するに、セフィロトが意識高い系のエリート東大生になるためのメソッドだとするなら、クリフォトは学校中退引きニートになる内容を記したものですね


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126.トートタロットと生命の樹★図解あり

一通りの説明はできたはず……ぶっちゃけ何言ってるのかワケわからんと思うので、あとがきに図解と説明をまた載せておきました(これ以上分かり易くするのは無理だったよ……)

セフィラが分からなくなったら、作者が一から書き込んだセフィロトと補足を見てね(推奨)


 守護天使ガブリエル。

 

 これが意味する事は一つ。つまり、天野俱佐利はガブリエルの身体の中に入ることで、意図せずセフィラを一つ超えたのではないかということだ。

 

「なるほどな。マルクトの次のセフィラであるイェセドか……それなら、生命の樹を昇る資格を得る第一条件はクリアしているな。

 しかもそうなると、ガブリエルという身体があったにせよ、擬似的にアストラル投射に成功しているということになる」

 

 アレイスター=クロウリーはアストラル界を行き来するために必要な、第二の身体を構築する魔術理論を発明した魔術師だ。

 『Oの書』で書かれたその第二の身体、『光体』はヨガの技法を用いて開発される魔術であり、クロウリーの体系では『光体』を達成するにはかなりの事前準備と修練が要求される。

 

 それを、ガブリエルの身体に入るという荒業で強行突破したのが天野俱佐利というわけだ。

 

「つまり、天野の奴は魔術師が長い年月を掛けて取り組む『大いなる業』を、宝くじ感覚で叶えちまったってことかにゃー」

 

『アレイスターも「外見」と「中身」を守護天使と入れ替える、なんて方法は考えてもいなかったはずだよ。アストラル界に行くのもそう言った超常の存在とコンタクトを取るためなんだから、手段と目的が綺麗に逆転しちゃってるね』

 

 アストラル界に行く主な目的は、「自らが進むべき道を見つけるための能力を身に付けることや、アストラル界にある知識や力を獲得する。あるいは、魔術を極める上で必要になるだろう、役立ち奉仕させることができるような存在との関係を構築すること」、である。

 その事から考えてみれば、確かに天野俱佐利の行動は逆転していると言えるだろう。

 

『アストラル投射は夢や瞑想の形式でも可能みたいだから、もしかしたら、後遺症みたいな感じでそのあともアストラル界に行ってたのかも。まあ、一度繋がったとはいえガブリエルの身体に二度も入れるわけないから難しいとは思うけどね。

 だけど、くさりが一度目のときにアストラル界に居る天使や悪魔、あとは精霊に何かを伝授された可能性があるんだよ。今の上げた存在の中に明確な人間の味方はいないわけだし。

 人間に寄り添うこともあるけど終末を告げる笛を吹くのは他でもない天使だし、人を誑かすのは悪魔の(さが)なんだよ。

 精霊に関しては記述が少ないし存在自体があやふやだからなんとも言えないけど、くさりがそのどれかの原因で次のセフィラに昇った可能性はあるね』

 

 インデックスが一つ一つ可能性を広げていく傍らで、土御門の頭の中に浮かんだのは『アレイスター=クロウリー』、『トートタロット』、そして、『第二のテレマ僧院』の三単語。

 その線が強くなってきたことで土御門の脳裏にある発想が浮かんだ。

 

「(……いや、まさか天野の初期段階の姿は『ヌイト』だったのか……?『ハディート』に該当するのは別に居るはずだし、『ラー=ホール=クイト』である可能性はもっと低い。

 あれは魔術ではない科学よりの力ではあったが、天野のあの変形とコピー元が御坂美琴なら、アレイスターの性質を加味すると可能性としては無くはない)」

 

 土御門は学園都市統括理事長が魔術師アレイスター=クロウリーだと知ったとき、当然アレイスターの経歴は全て洗い出した。もちろん、アレイスターが唱えたテレマ思想も調べ尽くしている。

 

「(テレマ宇宙論において至高の神格は女神ヌイトだ。当然、イシス=アルテミスのようなトートタロットで一度しか登場しない神ではなく、女神ヌイトに纏わるトートタロットは複数存在している。

 女神ヌイトを重点的に調べた際に、雷鳴を生み出したという記述が何処かにあったはずだ。その類似点から本来の目標である御坂美琴を次の位階に押し上げようとした……?)」

 

 突拍子も無いただの連想ゲームのような考えだが、学園都市は必要なものを全て科学で変換したテレマ僧院の再来。第一神の女神ヌイトが最も輝く『場』が形成されている。

 

「(……いや、ちょっと待て……天野の奴はトートタロットで女教皇のカードに描かれるイシス=アルテミスになったって話だよな。つまり、御坂美琴にしようとしていたのもそういうことか……ッ!?

 クソッ!道理でアレイスターの奴が俺でも調べ上げれる程度の事態に対して、一切の手を出して来ない訳だ。他でもないアイツが裏から手を回してやがんのかッ!!)」

 

 あくまで想像でしかないが、アレイスターは自らが掲げる計画(プラン)の前倒しになると思い一計を案じたのだろう。

 しかし、科学サイドと魔術サイドの状況をその身をもって把握している土御門は、アレイスターの望む思惑とは別の方向に流れが進んでいるのを理解する。

 

「(……だが、余りにも魔術の『色』が出過ぎてる。アレイスターからすれば気に入らない進化の仕方のはずだ。

 しかも、このままじゃ魔術サイドと戦争に発展するぞ?時期的に見ても科学サイドと魔術サイドがぶつかるには早いはず……なんなら、アレイスターが狙っていただろう女神ヌイトから完全にあれは外れているわけだしな。

 そこから考えると、もうアイツでさえも手綱を握れてないってところか?大方、天野の奴をスペアとしてしか見ておらず、気が付いたときには手出しができないほどに『失敗』してたってところだろう)」

 

 天野という特大の異分子(イレギュラー)に引っ掻き回されて頭でも抱えているのだろうと土御門は推測する。そして、それは間違ってはいなかった。

 

「(だがまあ、天野の奴が御使堕し(エンゼルフォール)の影響でイェセドのセフィラに到達したのなら粗方の見当がつく。

 本来なら御坂美琴という器に女神ヌイトの力が注がれるはずだったが、天野がガブリエルの『中身』へと移った影響で、ガブリエルの使命である『神の意思を人間へと伝えるメッセンジャーとしての役目』から派生した、『送受信』の性質が魂に宿ったという線が濃厚か?)」

 

 『神の力』たる大天使ガブリエルは、聖母へ『受胎告知』を告げている。神から人に伝える天使でこれほど有名な天使はそうはいない。

 魂だけとはいえ大天使の中身に入っていたのならば、そのような『外からの信号を受け取り易い』性質が移るといった影響が出ても不思議ではない。

 

「(それに、確かトートタロットではイェセドからホドに掛けて、女神ヌイトに関するタロットカード『太陽(The Sun)』があったはずだ)」

 

 とはいえ、トートタロットに使われるカードの内容を完全に把握しているわけではない。本来ならばここからは曖昧な記憶に頼らなければならないが、彼は自分よりも遥かに膨大な量の知識を有する人間から、その解答を得られる立場にある。

 

「禁書目録。確か『太陽(The Sun)』はイェセドと関係のあるトートタロットだったよな?」

 

『え?……う、うん、一九番目のカード「太陽(The Sun)」はホド=イェセドの小径(パス)に当てはめられるカードなんだよ。薔薇を中心にした太陽が描かれてるこのカードは、『ヘル=ラ=ハ』という新しい時代(アイオーン)の主の顕現を表してる。

 カード中央に描かれる太陽と薔薇の花びらには、男性性と女性性の結合という意味と共に、魔術結社『黄金』に強く影響を与えた『薔薇十字(ローゼンクロイツ)』の要素だね。

 太陽の周囲を黄道一二宮が囲むように描かれているのも特徴の一つ。この黄道一二宮は女神ヌイトの幼体とも言われるし、子供が描いた女神ヌイトとも言われてるんだよ。

 太陽の下で光を浴びて喜びを表現している翼の生えた双子は、カードの与える方向性を意味してる。その双子の足元にある薔薇十字は神性と現実性の結合なんて意味があるけど、それがどうかしたの?』

 

「いや、生命の樹(セフィロト)の順番から考えれば、イェセドからホドへと続くトートタロットの『太陽(The Sun)』が怪しいと思っただけだぜい」

 

 妹達(シスターズ)に打ち込まれたウイルスが、アレイスターの科学と魔術の知識から手掛けられた、女神ヌイトを基にしているウイルスの場合、P()h()a()s()e()5().()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それこそ、女神ヌイトの器として適性は天野よりも御坂美琴の方が高いかもしれない。しかし、()()()()()()()()()()()()()()に相応しいかと言えば天野に軍配が上がるというわけだ。

 

「(『太陽(The Sun)』のカードに描かれる十二星座はヌイトの幼体を表している。そこに、ガブリエルが持つ『送受信』の二要素が噛み合えば、アレイスターが用意していた既定路線を明確に踏み外す切っ掛けになり得る、というわけか)」

 

 そこまで、考えて土御門は手元の携帯を見た。

 

「(本当は女神ヌイトについてより深く聞きたいんだが、そこからアレイスターの線が確定する可能性がある。だが、今ならギリギリ天野の幸運による偶然で片付けられるだろう。

 学園都市統括理事長が『黄金』の魔術師アレイスター=クロウリーだと知られることは、アレイスターだけじゃなく俺も都合が悪くなる上に、禁書目録も危険な立ち位置となるしな)」

 

 かなり無理筋ではあるが切っ掛けである御使堕し(エンゼルフォール)は、上条刀夜が偶発的に起こしたもの。ならば、あの時にトートタロットを見たことにしてしまえばいい。

 天野が宿泊していた旅館『わだつみ』や、あの周囲の家屋に置いてあっても別段おかしくないだろうし、近隣の公民館などの施設にあとから偽装で置いておけばいいのだから。

 

「(いや、御使堕し(エンゼルフォール)を解決するために上やんの実家は、俺が跡形もなく吹き飛ばしたから探りようもないし、あの家に実は在ったっていうダミーストーリーが最適解かにゃー。

 上条刀夜は世界各地の縁起の良いお土産を手当たり次第集めていたから、その中にトートタロットがあってもおかしくないだろうし)」

 

 インデックスが大覇星祭で今現在学園都市に居る、上条刀夜に確認を取れば速攻でバレる嘘だが、天野が引き起こしている事態が事態のためおいそれと口外するのは誰であっても危険だ。

 

「(まあ、念のためにそこんところは再三俺が言い聞かせておけば……って、なんでもう事後処理のことまで考えなくちゃならないんだか。こうなった要因が幾つか分かったってだけでまだ事態は好転すらしてねえっつうのに……。

 ハァ……やれやれ、多角スパイもしながらの中間管理職は肩が凝るぜい。まあ、そう言ったところも含めて俺の領分なんだけどな)」

 

 魔術サイドと科学サイドのバランサー。そんな彼だからこそ成し遂げられることがある。そして、大局を俯瞰できる立場に居る彼は、確信を抱きながら推論を組み立てていく。

 

「(だが、これで道順は判明した。イェセドのセフィラから『太陽(The Sun)』の小径(パス)で移動したのならば、天野俱佐利はホドのセフィラに到達したことになる。

 ならば、そこからネツァクのセフィラに行くことはまずあり得ないだろう。何せ天野が神イシス=アルテミスになる直前に、天野は上条当麻に敗北しているんだからな。

 『勝利』の意味であるネツァクのセフィラから対極の状況だったんだ。なら、ネツァクの線は無い。俺としてはあそこで終わってくれれば話は簡単だったんだがにゃー)」

 

 土御門は騒動のことを知り事の成り行きを陰から監視していた。

 だが、天野俱佐利が有する力は土御門では対処不可能だった上、超能力者(レベル5)二名に上条当麻が居るならば介入する方が野暮だと考えていた。

 そして、土御門の想定通りに事は進み三人は天野俱佐利を打倒した。しかし、予想外にも上条の右手に宿る幻想殺し(イマジンブレイカー)で触れても事件解決とは為らず、現在の予測不明の混沌とした事態へと発展してしまった。

 

「(だが、ネツァクの線が消えたのなら答えは一つ。ティファレトからホドを繋ぐ『悪魔(The Devil)』の小径(パス)を経由してティファレトに──)」

 

 

 

『うーん、やっぱり可能性として高いのはティファレトからイェセドを繋ぐ「(The Art)」の小径(パス)だね』

 

「……は?」

 

 

 

 推測とは全く違う名前をいきなり出され、呆けた声を無意識に出してしまう。だが、すぐに理解した。

 

「(ああいや、当然のことだ。あらかじめ持ってる情報の多さが違うんだから分かるはずもない)」

 

 土御門の推論とかけ離れた禁書目録の推察。未だに天野俱佐利がイェセドからホドに到達していないことを考えてみれば、土御門の推論よりも遅れていると言える。

 

「(ヌイトとの関係性を知らなければ当然だ)」

 

 知識が合っても読み取る情報が欠落していては満足な推測なんてできるわけがないのは当然の話。それについて、勝手な都合で出し渋っている土御門がとやかく言える立場ではない。

 

「どうして、そう思う?」

 

 彼としては組み立てた推論を伝えたいところだが、女神ヌイトの話題は出し惜しみしたいところ。一先ず、禁書目録の推察を聞いてから正誤の判断をするのも必要だと判断した。

 

 ──(のち)に、土御門は秘された情報というアドバンテージがあるのは土御門だけではなく、魔導図書館たる禁書目録も有していることを驚愕と共に思い知ることになる。

 

『「(The Art)」のカードは反発するものを結合させるという意味があるの。

 カード中心に描かれている二つの顔のある人物は錬金術師で、相反する男性性を表す黒のキングと、女性性が表す白のクイーンが融合した姿なんだよ。

 変身能力で男女自由に姿を変えられるくさりなら、性別の違いは他の人間と比べて敷居は低いかも。

 それに加えて学園都市の住人であるくさりが、魔術師アレイスター=クロウリーが生み出したトートタロットを用いて、セフィロトを昇っていることを考えると、科学と魔術という相反する物を結合させているってことにならないかな?

 最短距離でティファレトを渡るにはこれが一番可能性があるんだけど……』

 

 確かに、納得できる部分は所々あるが学園都市は第二のテレマ僧院。アレイスターが手掛けている時点で魔術サイドの技術が全く関係しないことはあり得ない。天野の変身能力も性別の垣根は薄くなっているが決定打には欠けている。

 しかし、土御門に言われるまでもなく、彼女もこの推察の弱さに気付いていたのだろう。

 

『でも、イェセドからティファレトに上がるためには、相反する属性の火と水を掛け合わしたことで発生した、虹の蒸気を通過するための「矢」が必要なんだよ。そんなものが学園都市に運び込まれてる可能性は低いかも』

 

「……待て、『矢』だと?」

 

 その単語に嫌な予想が彼の脳裏をよぎる。魔術の記号としてはありきたりな物品ではあるが、『学園都市で彼に与えられた役目』からして考えれば決して無視できない単語だった。

 

『うん、大釜から立ち昇った蒸気は、達人(アデプト)の襟で二つの虹になるの。

 その蒸気の道を辿るように一本の矢が上昇するように描かれていて、この矢は女神アルテミスが狩猟に使う矢なんだけど、これは覚醒した魂のシンボルであると同時に、イェソドからティファレトに、達人(アデプト)を押し上げる矢でもあるんだよ。

 ……あっ!勘違いしないで欲しいんだけど、今のくさりが使ってる「天使の力(テレズマ)」を源に精製される矢じゃなくて、くさりが天使・イシス=アルテミスになる前に用意された、力を覚醒させるキーとなった霊装のことだね』

 

 インデックスの話を深刻そうに聞く土御門の顔は、ますます険しくなっていく。

 それもそうだろう。もし、脳裏によぎる物が関係あるならば、先ほど考えていた推論を全て取り下げる必要があるのだから。

 

『だから、イェセドからティファレトに繋がる工程の短縮になると思ったんだけど……現実的じゃないかも。

 必要とされる矢も『(The Art)』のトートタロットから、魔術的要素を限界まで抽出して高めた特殊霊装か、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それこそ、トートタロットを使う場合は『(The Art)』のカードだけでは足りなくて、セフィラ同士を繋げる矢の要素を抽出するために、『(The Art)』が繋ぐイェセドとティファレトの要素も必然的に取り込む必要があるんだよ。

 でも、不思議なことに生命の樹を一部分だけ抽出して魔術の記号に表そうとすると見た目が歪み易いんだよ。

 霊装として形作られる過程で元の形から大きく歪んで、常人には理解できないグロテスクな物になりかねないの。多分だけど位階が違うから似せようとするほど異なる要素が表に出易いのかな?』

 

 その上、持ち運ぶ際には矢を射った張本人である女神アルテミスの魔術的特徴を身体に宿らせねばならず、セフィラを押し上げる役目を薄れさせないために、常に適量の『天使の力(テレズマ)』を注がなくてはならないという厳しすぎる三重苦。

 そう言った様々な要因から隠して持ち込むことは現実的ではないとのこと。

 

『でも、可能性は限りなく低いけど他の矢の霊装で「(The Art)」の矢の代わりをさせているのなら解決するのは簡単かも。そう言うのって認識を誤魔化してたり足りない部分を他の物で代用したりして補ってるから、そこを突けばすぐに瓦解するんだよ。

 ……とはいえ、神様の力がくさりに注がれてる途中で霊装の方に逆流しているはずだから、霊装の保持者はただじゃ済まないだろうけどね』

 

 もちろん、そんな馬鹿が仮に居たとしてもアレイスターの目を掻い潜れるわけもない。本来ならば、インデックスと同じように土御門もこの推論を根拠が薄いと判断していたはずた。

 ……しかし、「矢」というフレーズが示すある物をイメージしてしまえば、とても見当外れなどとは口にできない。

 

 土御門は知っていた。

 いや、(かつ)て魔術師アレイスター=クロウリーの経歴を調べ上げたときに当然の如く知り得た情報だった。

 アレイスターは昔、自身の属する魔術結社を壊滅させた過去を持つ。その戦いの名は『ブライスロードの戦い』。

 その際に、アレイスターが同門の魔術師を屠るため使用した霊装がある。

 

 (やじり)は骨、矢羽は革、本体の矢柄は(ろう)と化した屍蝋(しろう)。とある聖者の右手を素材に製造された、召還失敗の際に退却せぬ者を魔法陣の向こうへと追い返すために用意された究極の追儺(ついな)霊装。

 (かつ)て、世界最大の魔術結社はそれを『ブライスロードの秘宝』と呼んでいた。しかし、『矢』はブライスロードの戦いで消滅し、その力は時代を渡り『次の時代』の器へと流れることになる。

 

 ──では、その『矢』の力は今現在何処に宿り、本来はなんと言う名称なのか?

 

 

 

幻想殺し(イマジンブレイカー)……!クソッ!思いっきり『黄金』印の()霊装じゃねえかッ!!」

 

 

 




◆セフィロトの樹図解◆
        
       / ̄ ̄\
       |①王冠|        ・①王冠
       \__/          ケテル
   /     |     \
/ ̄ ̄\     |     / ̄ ̄\ ・②知恵
|③理解| ー ー ー+ーーー  |②知恵 |  コクマー
\__/     |     \__/ ・③理解
        /|\           ビナー
ーー|ーー\ーーー|  | |ーーー/ー ー|ー ー ・○知識
  |   \   \ |/    /   |    ダアト
      \  『女教皇』 /    
/ ̄ ̄\  \   |   /  / ̄ ̄\ ・④慈悲
|⑤峻厳|  ー ーー+ーー ー  |④慈悲 |   ケセド
\__/   \  | /    \__/ ・⑤峻厳
     \ / ̄ ̄\ /        ゲブラー
  |      | ⑥美 |      |   ・⑥美
 |  『悪魔』\__/     |    ティファレト
     /      \  
/ ̄ ̄\    『技』   / ̄ ̄\ ・⑦勝利
|⑧栄光|  -ー +ー -  |⑦勝利  |  ネツァク
\__/『太陽』 |     \__/ ・⑧栄光
     \      /        ホド
       / ̄ ̄\    
    \   |⑨基盤 |  /      ・⑨基盤
     \  \__/  /        イェソド
         |
       / ̄ ̄\
       |⑩王国 |        ・⑩王国
       \__/          マルクト

◆解説◆
 『女教皇』は①から⑥の線上。←オリ主今ここ○
 『悪魔』は⑥から⑧の線上。
 『太陽』は⑧から⑨の線上。
 『技』は⑥から⑨の線上。←オリ主の通った経路○

 分かりやすくすると、ガブリエルの身体に入ったことで⑨に偶発的に到達し、『技』のカードと幻想殺しで⑥に進み、そこから『女教皇』のカードで①に行こうとしてます。

 ⑩→⑨→⑥→①の順番です。

【要約】直球ド真ん中のストレートで最短距離をオリ主爆走中。

◆補足◆
ちなみに、人間が居るのは一番下にある⑩のマルクト。①のケテルからセフィラが順番に生まれたそうな。
つまりは、生命の樹は人間が生まれるまでの道のりを、セフィラの順番が分かりやすく表している訳です。
タロットカードはこのセフィラ同士を繋ぐ線の部分を現しており、人間がセフィラを超えるための知識となっています。
※トートタロットの女教皇、太陽は個人で確認をお願いします(記号で表すのは無理)

◆作者の戯れ言◆
当然ですが最後の土御門は携帯の聞き取り口を抑えてます。

ちなみに、アレイスターの関与は作者の独自解釈です。
ミサカネットワークのウイルスについて、アレイスターは間違いなく関与してるでしょうが、アレイスターがそのウイルスデータを幻生に渡したかはどうかは不明。
窓の無いビルが吹き飛ぶ寸前だったのは間違いないですし、幻生が何処からか個人の力でウイルスデータを入手した可能性は捨てきれないので。
(例えば、アレイスターが何かしらの事件に関与したことで漏れ出た、魔術サイドのエッセンスを抽出してウイルスとして作成するなど)

◆考察◆
・『星』
 御坂美琴に注ぎ込まれた力の源は、アレイスターが純粋な科学で整えたトートタロットの『星』なのではないかと思ってます(作中で土御門がアレイスターの思惑だと思ったやつ)
 『星』のカードは②のコクマーと⑥のティファレトを繋ぐカードであり、カードに描かれている大地は結晶化したクリスタルで描かれていて(御坂を救ったあとに、現れたシャドーメタルと思わしき鉱石ですね)、岸と海にはアビスが隠されてます。
 言ってしまえばこれだけなのですが、セフィロトの樹を能力者に当て嵌めると意味が出てきます。
・能力者とセフィロト
 上の図で⑩のマルクトは物質世界を表しているため、能力者でない一般人がここに当てはまります。そして、能力者はアレイスターが言うところの『新なる意思』へ辿り着くために開発されたため、当然上へと昇っていきます。
 そうなると、⑨の『基盤』セフィラであるイェセドは能力者で言うところの能力開発を受けた者。

 つまりは、レベル0に該当するのではないでしょうか?
 そして、その考えの下に考えていくと……

 レベル1は⑧の『栄光』に。
 レベル2は⑦の『勝利』に。
 レベル3は⑥の『美』に。
 レベル4は⑤の『峻厳』に。 
 レベル5は④の『慈悲』に。

 それぞれ該当するのではないと思いました。
 つまり、レベル6に至るということはダアトがある深淵(アビス)を超えることと同義なのでしょう。

 しかし、「御坂美琴はレベル5なのだから④の『慈悲』ではないのか?」という人も居るかと思いますが、注がれた力の支点であるシスターズはレベル2~3であり、司令塔であるラストオーダーは原作でレベル3相当と書かれています。
 つまりは、⑥の『美』の位階に居ることになるわけですね。

 そう言った理由から、御坂美琴の中で⑥のセフィラと②のセフィラを繋げることで無理矢理アビスを超えさせ、8=3以上の位階に押し上げることがアレイスターの真の目的であり、学園都市が掲げるレベル6の正体なのではと考えました。

◆追記◆
Q.それじゃあ、何故オリ主が⑤峻厳に居ないの?それどころかガブリエルの中に入っていないと⑨基盤にもなってないのはおかしくない?
A.いえ、オリ主は転生特典とエルキドゥのガワを与えられた一般ピーポーですので。

ぶっちゃけ他人の『超能力』を『転生特典』で借りパクしてるだけですので、セフィロトを昇ることができないんですね。
学園都市が生み出す能力者の真価は『超能力』そのものではなく、ダアトが潜む深淵(アビス)を越えることができる超越者を誕生させることなのです。
つまり、能力者にとって『超能力』はあくまでも、セフィロトを昇る最中で手に入れる副産物でしか無いということですね。


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127.エルキドゥ〈アーチャー〉

外伝を書いていたのはこの題名の伏線です

P.s
ここ数話は理解できなくともニュアンスだけ伝わればいいや、と考えてますので目を通すだけで充分です。
最初に読者を置いてきぼりにして、あとの話で理解させる原作の手法を取っています


「ふざけんなァッッ!!!!」

 

 下水道に身を隠す警策看取は一切の連絡を取れなくなった端末に向けて怒声を吐いた。

 それもそのはず、彼女の目的は学園都市を生み出した学園都市統括理事長を暗殺すること。それにもかかわらず、何も説明をせずに自分勝手に事態を進めるなど道理が通らない。

 

「連絡取れなくなったってことはつまり裏切りってことだよね?しかも、私は追ってきている風紀委員(ジャッジメント)に対処するための都合の良い駒、と。

 …………………………………………………………ブッ殺してやる」

 

 それこそ、今の天野俱佐利の成長が警策の野望を成就するというのも、警策を騙して動かすための方便に違いない。

 実際に天野俱佐利は御坂美琴の情報を入力されて自我を失い、警策達の予定とは全く違った存在になろうとしている。学園都市を消滅させる力を宿すかは運次第のような有り様だ。

 幻生の言うことを信じる理由が薄くなっていたことに加えて、この対応が彼女の方針を固めた。つまりは、幻生との決別という形で。

 

「学園都市を消滅させるならいくらでも利用されるつもりだったけど、目的を果たせず無意味に使い潰されるなんて誰が了承するかっての!あのクソジジイを暗殺してから別の作戦を考えた方がマシ」

 

 そう言って彼女は下水道を去ろうと準備を始める。風紀委員(ジャッジメント)が彼女を追跡しているが、彼女の策によって特定されるには時間が掛かることだろう。

 しかし、顔が割れてしまっているために、監視カメラを避けて幻生の元へと向かわなければならないのだ。監視カメラに確実に映らない経路を特定して進む必要があるため、時間の猶予はそれほどあるわけではない。

 

「……嫌がらせで天野ちゃんに要らないデータでも送りたいところだけど、私は絶対能力者(レベル6)に至るための理論を知らないし、今の天野ちゃんの状態を何一つ分からないから手の出しようがない」

 

 苛立ちを抱きながらも警策は懐に入れていた、小型の端末から監視網を潜り抜ける算段を付けていく。その途中であることに気付いた。

 

「うん?これって天野ちゃんの……?」

 

 深層心理に介入するための機材へと繋がる端末が、突然信号を発した。

 液晶に写る数列に今までとは違った方式が混ざり始める。すると、ところどころ文字化けしているがある規則性の様なものが現れ始めた。その浮き出てきた文字に警策は眼を通していく。

 

「『──次の段階に至るためのシークエンスに欠損箇所判明。この肉体を私が制御下に置いた場合、必要項目である主人格の意識が目覚めておらず、次の段階である王冠(ケテル)へ昇ることが不可能と算出します。

 しかし、私から主人格に意識を切り換えた場合、累積したエネルギーを暴走させ死亡する確率が99.82%と算出結果が出たため、これを棄却。

 内側に貯蔵したエネルギーを最も効果的に活用する方法を現在シミュレート中』……なにこれ?」

 

 警策は意味が分からなかった。今現在、天野に対して何もしていないにもかかわらず、端末に表示された『何か』は間違いなく天野の中で起きているもの。勝手にこんなものが浮かび上がるはずもない。

 

「(今の俱佐利ちゃんの人格は美琴ちゃんに塗りつぶされているはず。でも、この冷静さと物言いが美琴ちゃんの思考回路とは思えない……。

 俱佐利ちゃん自身でないとするなら、幻生が俱佐利ちゃんに直接介入してるってこと……?)」

 

 つまり、警策は幻生に天野俱佐利を監視し誘導するという役目も取り上げられたということなのだろう。つくづく、幻生の手の平の上だと理解し歯噛みをする。

 もしや、こうして暗殺を企てている警策を何処からか監視しているのかもしれない。ならば、逃走経路を洗い直す必要性が出てくる。何処に暗殺者が居るか分かったものではないからだ。

 彼女は既に使い物にならなくなった片方のタブレットを放り投げ、自身の所有する端末に表示された監視カメラとマップから、安全な経路を再び割り出す作業に戻った。

 

 

 

 

 ──この時、彼女は混迷を極める今の状況が辿り着くだろう最終地点を、偶然にも知ることができる立場に居た。

 彼女が放り投げたタブレットは変わらず文字を表示し続けている。だが、唐突にそれが終わる。

 タブレットの液晶に表示されたその文字はとあるアルファベットだった。そこに書かれていた三単語……いや、それで一つの名称なのだろう。そこにはこう書かれていた。

 

 

『Ain=Soph=Aur』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぎッッ……おおああああああああッッ!!!!」

 

 上条の右手に閃光が突き刺さる。手首からの異音に顔をしかめながらも上条は右手を伸ばし続けた。これで六発目の攻防となるが状況の好転はしていない。

 いや、それどころか……

 

「(どんどん威力が増してやがる……!幻想殺し(イマジンブレイカー)の打ち消し上限を超えるほどの力を何発も撃てる余力があっちにはあるってのに、こっちには打開する方法が何一つ無い……。

 その上、御坂達が防げない可能性があることを考えれば、状況はさっきより断然悪い……このままじゃジリ貧もいいところだぞ!?)」

 

 衝撃によって手首が耐えきれず弾かれそうになるのを、左手を右手首に添えて固定する。右手が裂けて血が流れるがここで右手を退ければ、上条諸とも光の矢が学園都市を両断することになるだろう。痛みを理由に逃げることは上条に許されてはいない。

 それに加えて、ここ数発で打ち消すまでの時間が伸びているのだ。その理由を上条は右手から伝わる感触で当たりを付けた。

 

「(打ち消しに変な感覚が混じって……?まさか、そのノイズを打ち消す処理で更に処理能力を持ってかれてるのかッ!?)」

 

 ガキゴキゴリィッ!!と、内側から響く手首の衝撃に歯を食い縛るが、ジリジリと一秒一秒時間が経つ度に追い詰められていく。

 ──そして、上条の許容限界をついに超えた。

 

「(ヤ、ヤバ……!?)」

 

「カミジョーッッ!!!!」

 

 手が光の矢に弾かれるその寸前、上条のすぐ横に削板(そぎいた)軍覇が猛スピードで現れ、上条の右手首を上方に蹴り上げた。

 

 ズアァアアッッッッ!!!!と空気を切り裂きながら、光の矢が雲に吸い込まれるように飛んでいく。

 

 その速さは遠目からみれば空から雷が落ちたようにしか見えなかっただろう。その光景を間近で見ていた上条は数瞬理解が追い付かず呆然とするが、右手から感じる痛みですぐに意識を現実に戻す。

 

「ぐッ……助かった」

 

「なーに気にすんな。……それより、あの矢はマジでヤベェぞ。見切るのもキツイがあの威力は俺でも防ぎきれねえかもしれん」

 

 一切の油断無く削板は変わり果てた天野俱佐利を見る。嘗ての穏やかな雰囲気は影も形も無いその姿は、異形の姿で在りながらもどこか人間離れした神々しさを感じさせていた。

 それを見た上条はふと思った。

 

「(そもそも、送られてる力は本当に科学なのか……?御坂の姿のときも大概だったけどあの姿と先輩の関連性が一切見えない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 これまで魔術サイドの敵と幾度も戦ってきた上条当麻だからこその直感だった。様々な場数を越えてきた経験値が、敷かれていたレールが明確に切り替わったのだと教えてくる。

 しかし、突破口を探ろうにも上条の手札は余りにも少なすぎた。

 

「(インデックスを頼るにしてもあの攻撃が続く限り携帯に電話を掛けることもできないし、電話したせいで万が一『外』にいる魔術師が掛けているサーチに引っ掛かったら、科学サイドと魔術サイドの戦争が始まっちまう……。

 それに、魔術サイドのことを一切知らない二人にあの状態の先輩任せるには不安材料が多すぎるし……クソッ、一体どうすればいいんだ!?)」

 

 この事件を飛び入りで参加したために、事のあらましの一切を知らない上条には突破口など思い付くはずもない。周回遅れもいいところなのだ。

 

「いや、そもそも俺より深く関わってるらしい御坂も分かってないみたいだし……この状況を全て把握している人間が居るのか……?」

 

 まるで、誰も行き先を予想出来ない暴走列車に乗せられたような錯覚を覚える。黒幕も明確なビジョンを果たして抱けているのか、この混迷さを見るに怪しいところだ。

 すると、隣に居る削板が上条に疑問を問い掛けた。

 

「それにしても、あの『光の矢』ずっとカミジョーの頭に向けて飛んできてねえか?幾らなんでも六発全部偶然同じところに飛んでは来ないだろ」

 

 偶然というには攻撃に一定の法則のようなものがあった。誤差が一ミリも無いほどの正確な攻撃を続けられれば流石の上条でも気付く。

 そして、上条とて『前兆の感知』があろうと光の速さで飛んでくる攻撃を全て防げるわけではない。揺さぶりや力の入れにくいところに飛んで来ていれば、取り零しやそのまま絶命することもある。

 にもかかわらず今まで防げていたのは、同じタイミングで同じ場所に矢が飛んできていたからに他ならない。

 その様子はまるで、上条の頭を射抜くことに対し異常なまでに執着しているかのようだ。

 

「でも、そのお陰で周りに被害が出ていないのも事実だ。最悪なのは無作為に攻撃しだすこと。光の速さで俺が動けない以上、対処が間に合う筈もないんだから。

 俺って言う避雷針を狙い続けている内は先輩が誰かを殺めることはないって言うのは不幸中の幸いだ」

 

 しかし、手首から伝わる衝撃は回数を重ねていくごとに増えている。先ほどと同じ様に進化しているのか、はたまた身体が力に適応しているのか、上条には読み取ることもできはしない。

 

 そんな打開するためのヒントすら何処にもない絶体絶命の中で、御坂が思いもよらないことを話し出す。

 

「ねぇ、あの翼って空気中の水分に干渉してるんじゃないかしら?」

 

「……え?」

 

 上条が呆気に取られる。それはそうだろう。水を元にあの翼が生み出されたと知れば、御坂美琴ならば電気から攻撃しようとするだろう。

 しかし、あれは『神の力』が生み出していたもの。物理法則とは別の法則の力だ。そんなものに干渉すれば手堅いしっぺ返しはほぼ確実だろう。

 それを『魔術』という事柄を伏せたまま説明するのはまず不可能だと上条は考え、余計な混乱を生ませないために敢えて伏せておいた情報だったのだ。

 それにもかかわらず、何故御坂美琴はあの硬質な翼を見て水だと考えたのか。

 

「空気中の水分に変な法則が働いてる。それこそ、『学芸都市』のときみたいな水分を一定に均すみたいなね。でも、あのときみたいに水分を電気で集めて、空中を飛翔するみたいなことは出来そうにないわ。

 多分あの翼が空気中の水分を支配して集めてるんだと思う。上空の雲も天野さんに近付くかのように渦を巻いてるようにも見えるしね」

 

 そんな余裕が無かったため上条は気付かなかったが、確かに空を見ればそんな風に見えなくもない。

 上条は知らないことだが『学芸都市』にて御坂美琴はアステカの魔術結社と戦っている。本人は魔術サイドが関係しているとは認識していないが、その未知の法則を自覚せずに体験しているのだ。

 だからこそ、上条からヒントを与えられていなくとも答えを導き出せた。そして、その彼女の答えが上条に気付かせる。

 

「まさか、あの『光の矢』に『神の力』で集めた水が入り込んだせいで打ち消しのリソースを奪ってるのか!?」

 

 『光の矢』と共に撃ち出された時点で水自体は蒸発しているだろうが、そこに乗っかった力の源まで無くなるかは別の話。

 そもそも、『光の矢』が『天使の力(テレズマ)』を集約させたもののため、『神の力』由来の『天使の力(テレズマ)』が反発することはない。

 つまり、同じ『天使の力(テレズマ)』の力でありながら、実際には異なる性質を持った攻撃が、不完全な一体となって飛んできているのだ。

 完全に力が混ざり合って均一化していないために、幻想殺しの処理能力へ負荷がさらに掛かってしまっているのが真相だった。

 

「(斑模様になってるから打ち消すタイミングが僅かにズレるってことか……でも、それってあの水翼を砕き割れってことだろ?そんな芸当が出来ればそもそもこんなにピンチにはなってないぞ)」

 

 そう、上条が『光の矢』に対処している間、超能力者(レベル5)の二人は天野俱佐利に対して妨害を繰り返していた。当然水翼に向けても攻撃をしていたが、半壊させるのが限界であり直ぐ様修復するために破壊を断念していたのだ。だからこそ、状況を観察していた削板のフォローが間に合ったという経緯がある。

 上条としては手持ちの手札が無いために、打開の策を何かいち早く見付けたいところなのだが、もちろん相手はそんな上条の事情など一顧だにしない。

 

「来るぞッ!」

 

「ッ!!」

 

 ハッと上条が前を見れば、左手の弓をこちらに向けて番えるかのような格好をした天野俱佐利が前方に居た。

 そのあとの行動は考えるまでもない。──極光がやって来る。

 

「(また受け止めるだけじゃ押しきられる……!)」

 

 先ほどの攻撃が頭を過る。先ほどと同じ方法をとっても待ってるのは死だ。だからこそ、上条は先ほどとは別の方法を取った。

 

 

 ──『光の矢』とのインパクトの瞬間、『光の矢』を右手で掬い上げるかのように下から上へとかち上げたのだ。

 

 

 バチンッ!と弾かれるような音を立てて、『光の矢』が上条の真上に向かって跳ね上がるように飛んでいく。それはまるで削板が上条にしたことの再現だ。上条は荒く息を吐きながら呟いた。

 

「打ち消せないなら弾く……こんな方法もあるのか」

 

 なまじ、幻想殺し(イマジンブレイカー)の打ち消しが強すぎたために思いもしなかった方法だった。掻き消せないのならば逸らして受け流す。敵わないから諦めるのではなく、敵わないからどうすればいいのか。

 その手札が増えることは上条にとって生存圏の確保に繋がる。

 今のところ打開の策は思い付かないが、これならばまだ耐えることができる。それを確信し上条が右手を握り締めると同時に──それは起きた。

 

 

 ドクンッッ!!!!と、天野俱佐利の身体が鳴動する。

 

 

 まるで心臓が脈打つかのように大きく強く。しかし、身体が膨張したと言う分かりやすい理由ではないだろう。あれはもっと別の、視覚で理解できる範囲を優に超えたもの。それこそ、存在そのものが大きくなったようではないか?

 上条は前方を見る。

 瓦礫の中央に居る年上の少女を見て、嫌な汗が額から流れ落ちた。

 

「(な、んだあれ…………?天使みたいな姿になるときはヤバい感じもしたけど、今回のあれは一体なんだ?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 上条には分からない。何が起きているのか、何が起ころうとしているのか、上条と言うちっぽけな存在には把握するための土台が何一つ無いからだ。

 ──だが、世界はそんな上条の事情など考慮せずに進んでいく。

 

 天野俱佐利の頭上に浮かんでいた光輪が弾け飛び、頭を覆っていたヴェールが消えていく。それが力を失っていくことを意味していないことは、ここに居たならば子供でも悟ることが出来るだろう。

 それはまるで、爬虫類が古い身体を脱ぎ捨て新しい身体を得るために脱皮するような未練の無い切り捨て方。それこそ、新たに成長するために過去の自分と決別するかのような姿だった。

 分かりやすい変化は他にもある。彼女の肌が白から褐色に着々と変化しているのだ。今まで存在していた天野俱佐利を『何か』が上から塗り潰すかのように。

 

 その全てを目にしているにもかかわらず、上条には何が起きているのか一つも理解できない。しかし、この世界には上条が人生を掛けても辿り着けない知識と経験を有する存在が多く居る。

 例えば──

 

 

 

「……あら、これは驚いたわ。まさか、科学サイドの総本山とも言える学園都市の人間で、至る段階まで昇り詰めるなんてね。あの『人間』が王として君臨しているならそれもあり得る可能性なのかもしれないけれど」

 

 

 

 暗闇の世界でその誕生を感知する者が居た。上条が生涯を賭したとしても辿り着けない境地に身を置く者はその気配に鋭敏に気付く。

 そんな異端な存在でしか理解することが許されないこの状況を、双眼鏡で見ている彼女も同じくして察していた。しかし、彼女は明確な答えを有しているわけではない。膨大な知識を基にそれを推察したのだ。

 その自分自身ですら信じられない答えを。

 

「……う……そ…………あり得、ない…………」

 

 その声音はまるで世界の破滅を目にしているかのようなものだった。それこそ、異世界の天使の力を降ろしていることに気付いたときよりその動揺はさらに大きい。

 可能性としては極小どころか全くのゼロであるはずなのだ。

 

「どう考えたって……そんなことはッ…………いや、でも……あれが事実だとするなら…………………………」

 

 自らの価値観や常識をまとめてひっくり返し、粉々に粉砕されたかのような錯覚を覚える。まるで、足場が崩れ去り平衡感覚を失ったかのような精神を超えた肉体にまで影響するほどの強い衝撃。

 

 彼女……インデックスは実を言うと、理由は不明だが幾ら天野俱佐利がケテル=ティファレトの(パス)に該当するトートタロット、『女教皇(プリエステル)』に登り詰めてもそこが限界だと断じていた。

 それはそうだ。そこからさらに昇るには深淵に潜む知識(ダアト)を越えなければならない。魔術サイドのやり方で生命の樹を昇っているのならば当然魔術の深奥を知らなければならず、学園都市の人間がそれを手に入れる機会などある筈も無いからだ。

 

 ──では、必要な知識を手に入れてその境界を飛び越えた存在をなんと称する?

 

 それは、魔物という意味ではなく魔術を究めた結果、人の領域から外へ足を一歩踏み出した世界の特異点であり、禁書目録である彼女が記憶している一〇万三〇〇〇冊の魔導書の知識を全て駆使すれば、届くとされる魔術師達の金字塔。

 世界ですら抱えきれないほどの存在へと昇華した者達を、この世界はこう名付けた。

 

 

 

 ───魔神と。

 

 

 




テンション上がってハチャメチャに書いているわけではなく、着地点はちゃんと考えてあるから大丈夫です(断言)
要するに、ここまでは既定路線と言うやつですね


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128.天使・イシス=アルテミス→魔神イシス

前回の考察を流用して書いているところがあるので、『第三の樹』関連の話は原作で語られていない独自解釈となっています。
ぶっちゃけあの考察はこれからの土台を固めるためだったり。


「魔神ッ!?それも女神イシスだと!?」

 

『うん、可能性としてはそれが一番高いかも』

 

 土御門はその言葉を聞き絶句する。魔術師にとって……いや、世界と言うものにとってその言葉は無視できない名称なのだ。

 

「……冗談だろ……?そもそも、魔神なんていうのは魔術を究めた化け物の名前だぞ?ミーシャ=クロイツェフと言う前例がある、超常存在をその身に降ろす憑依は百歩譲って許容するとして、学園都市で生きてきた人間が魔神の領域まで行ける訳がない。

 世の魔術師達が目指しても届かない大偉業をアイツが成し遂げただって?幾らなんでも馬鹿げているッ!」

 

 そんなものは当たり前の事だった。前提条件として魔術師としての下地がなければならず、禁書目録並みの魔術知識が無ければ絶対に届くことはないのだ。

 魔術知識を与えた可能性があるローラ=スチュワートでも、禁書目録が有する知識と同程度の知識を与える訳がないし、天野俱佐利は学園都市で生活してきた原石の能力者。成し得ない可能性と条件の方が遥かに高い。

 しかし、土御門と話しているのは彼以上に専門家なのだと忘れてはならない。

 

『それは分かってるんだよ!でも、幾つかの特徴が魔神が生まれる瞬間に及ぼすだろう影響を引き起こしてて、このままだとくさりが人の領域を超えちゃうんだよ……!

 ……あーもうっ!私だって何でこうなってるのか全然分かんないんだよ!』

 

 電話口に居るインデックスも余りの事態に混乱しているようだ。彼女はこの街の王が魔術師アレイスター=クロウリーであることを知らず、上条の右手が先代の幻想殺し(イマジンブレイカー)である事実を知らないのだから、ある程度の納得がある土御門とは違い、最初から現在まで理解不能の連続である。

 それこそ、現場に居る三人と同じくして天野俱佐利の状態を最も説明して欲しいのは彼女に他ならないのだ。

 

「(魔神なんてもんが誕生するとしたら、それは地上に神が降臨するようなものだろう。ミーシャ=クロイツェフのときですら人類が絶滅する可能性があったんだぞ?

 神代が薄らいだ今の時代に対し、神の存在が及ぼす影響なんて計り知れない。最悪顕現しただけで学園都市が消し飛ぶことも……)」

 

 土御門は魔神というものがどのような存在なのか知っていても、魔神と言う存在が世界にどれほど影響を及ぼすのかは、想像すらできない。しかし、どのようなものだろうが厄災を振り撒くことになるだろう。

 余りのスケールの大きさと突拍子も無い荒唐無稽な話をなんとか飲み下し、これから自分がどんな行動を取るべきか考えていると、付け加えるようにインデックスが言葉を発した。

 

『でも、あれはまだ成りかけなんだよ。今なら止められる可能性があるかも』

 

「……………………何だって?」

 

 成りかけ。つまり、現時点では魔神へと至ってはいないということ。それを聞いた土御門はふと頭に湧いた疑問を口に出す。

 

「魔神になるというのはそう言った段階を踏むものなのか……?」

 

 土御門は魔神に関する知識が無いために尋ねるしかない。もしや、人から神への書き換えのようなものがあるのだろうか?

 

『ううん、魔神に至るまでに様々な準備とかは必要だけど、魔神に至ればその時点で超越者だから人じゃあ無くなっちゃう。でも、魔神に到達するために必須条件があるんだよ』

 

「必須条件?」

 

()()()()()()()魔神は絶対に死んで再び生き返ることで神格を得るの。多分だけどくさりは肉体か精神かで「死」に類する何かが合ったんだと思う。

 それが誤認なのかどうなのかは分からないけど、きっとそれを満たしちゃったから魔神へ変容してるんだと思う』

 

 死。

 生物の絶対に揺らぐことが無い定められた終着点。生きとし生けるものは最終的にすべからくそこへ収束する。

 しかし、そこで終わらずに更に一歩超えた存在こそが、世の理を逸脱する魔神なのだ。インデックスは何かの要因でその条件を満たしてしまったと推察した。

 

『その要因になってしまったのが、おそらくトートタロットの「(The Art)」。あのカードの絵札は「矢」を用いて次のセフィラに押し上げるって言ったよね?その「矢」が描かれている壺から立ち上る虹の煙は、達人(アデプト)の襟になってるって』

 

「あ、ああ……、それがどうかしたのか?」

 

『襟って言うのは首を一周するようにできてるでしょ?それはつまり、「矢」で押し上げられた者は達人(アデプト)の襟を形成するように、一つから二つの可能性を得るってことなの。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、みたいなのもあり得るはずだよ』

 

「……それ、じゃあ……何か……?魔神になることは第二志望の滑り止めだとでも……?」

 

 そろそろ本当に頭が痛くなってきた土御門は意味もなく空を仰ぐ。彼の経験からしてもこれほど混迷窮まる状況は初めてだった。半信半疑で思わず笑ってしまうかのような問い掛けに対して、禁書目録は止めを刺すかのように返答する。

 

『……それはどうだろうね。壺から立ち上る虹は襟を形成しているから、分かたれた可能性は最終的に一つに収束するようになってる……もしかすると、魔神になることは目標を達成するまでの寄り道の可能性もあるんだよ』

 

「…………………………………………………………意味分かんねえ」

 

 寄り掛かった壁をズルズルと落ちていく。魔術サイドの闇も科学サイドの闇も渡り歩いてきた百戦錬磨の猛者は、無自覚なまま突き進む馬鹿のせいで緊迫した状況であるにもかかわらず、一時的な思考放棄をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 疑問の声を上げていたのは土御門だけではない。この街の中核にもっとも近い彼も彼同様に通信相手に問い掛ける。

 

『……今なんと言ったアレイスター?魔神だと?』

 

 その老犬は通信相手に向かって確認を取る。彼からすればその名称はとても許容することができないものだった。

 

『木原幻生は科学サイドのアプローチで絶対能力者(レベル6)を生み出そうとしていたはずだ。それが何故魔術サイドの樹を昇ることになる?

 能力者が昇る樹は魔術サイドのセフィロトの樹やクリフォトの樹とは別種なもののはずだ。出力方法が違うのだから当然樹を昇ることは出来無いはずでは?』

 

『そうだとも。しかし、第三の樹は確立したものではなく不安定で曖昧模糊としている。

 信じがたいが私が手を加えた第三の樹を独自で変質させ、彼女が生み出した法則を無理やり生命の樹と第三の樹に照合させているのだろう。だからこそ、私が想定していない事柄までも合致させ、絶対能力者ではなく魔神へと舵を切った。

 その上、あの様子ではセフィロトに(とど)まらず、クリフォトの領分にまで介入しているのだろう。……とはいえ、魔神と成るのならば既に無用の長物となっている可能性が高いがな』

 

 それはつまり、統括理事長・アレイスター=クロウリーが長い月日を掛けて整備した道を活用しつつ、自分の都合の良いようにカスタマイズしているということだ。

 

『この街の王である君が打ち立てた法則をねじ曲げるか……科学を愛する私としては到底許すことのできん事柄だ。だが、攻撃することは出来ないのだろう?』

 

『ああ、私の打ち立てた法則を活用している以上は、A.A.Aも学園都市の最先端の科学技術も、彼女を更なる位階へと押し上げる手助けとなってしまう』

 

『……君の術式破りでもか?』

 

 それはつまり、()()()()()()()()()()()()()()()ならばどうかと言う問い掛けだった。魔術を絶滅させるためならば彼としても一時的にその力を許容することができるという、最大限の譲歩だった。

 しかし、そんな彼の覚悟とは裏腹に返ってきた言葉は淡々としたものだ。

 

『私が世界に認知されていないのは生命維持装置の中だからだ。その私が表に出る……それも、外の魔術師達が監視している大覇星祭の最中に、学園都市の中に私が居ると感知されれば、此度の騒動は凌いだとしても直ぐ様魔術サイド全体が学園都市に攻めて来るぞ。

 一方通行(アクセラレータ)打ち止め(ラストオーダー)のラインの形成と、ヒューズ=カザキリに人格を与えただけの状態では到底戦力になるはずもない。

 現時点では最新鋭の科学兵器と、君が持つA.A.Aのみが対抗策に成り得る。──つまり、今の戦力で戦うならば学園都市は確実に終わるということだ』

 

 要するに、新たな魔神の誕生を防ぐことが実質不可能と言うことだった。

 

『それに加えて、禁書目録だ。彼女の目の前で魔神の討伐などしてしまえば、科学サイドには魔神を滅ぼすほどの「何か」があると知れ渡る。影に隠れて行動したとしても科学サイドと魔術サイドの衝突は避けられない』

 

『ならば、禁書目録の記憶を弄り消去するのはどうだ?それならば、彼女が自分の所属の人間に言う心配は無いだろう』

 

 記憶の消去。学園都市の技術力ならば科学分野からでも、超能力の側面からでもどうとでもなる。

 

『いや、そうなれば不正アクセスとして必ず自動書記(ヨハネのペン)が起動することになる。幻想殺しが協力的で無い以上は私が出なければどうしようも無い。つまり、魔術戦になること請け合いだ。

 それこそ、虎の子であるA.A.Aと自動書記の戦力は私の見立てでは五分程度だろう。長引けば長引くほどに解析され不利となるが、一撃で粉砕できればこちらに勝機はある。

 しかし、禁書目録を亡き者にしてしまえばイギリス清教に間違いなく察知されるだろう。あの女狐が禁書目録の安否が分からないままになどするものか。

 何かしらの魔術が施されているか、安否を確認するための人員が配備されているとみていい』

 

 そこから、芋づる式に魔神のことがバレれば学園都市はどうすることも出来ずに破滅する、アレイスターは言外にそう言っていた。ゴールデンレトリーバーは口から煙を吐き出しながら言葉を吐き出す。

 

『……やれやれ、ここまで特大の異分子だとはな。大人達の固定観念を打ち砕くのは子供の権利だが、よもや世界の法則まで超越するとは思わないだろうに。

 そして何より、ここまでの事態を引き起こした当の本人は無自覚な被害者と言うのだから始末に終えない。それは、善意も無く悪意も無い災害に他ならないのだからな』

 

 そう言うと、木原脳幹は兵器の照準から天野俱佐利を外す。それはつまり、手の打ちようがないことを表す所作であった。彼は口に咥えた葉巻を消して展開した兵器を収納していく。

 それを遠くから察知したのだろう、彼の見知った人影が木原脳幹へと近づいて来る。そんな彼女を見て何かを察するように老犬は呟いた。

 

『唯一くんの嫉妬を防ぐために大きな行動はできなかったが、保険も入れず木原幻生の下に彼女を置いていたのは私の落ち度かもしれんな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズレたサングラスを掛け直した金髪の少年は、再び手元の携帯に向かって声を発した。

 

「……それで、なんでイシスなんだ?魔神になるとランダムに神の名前が宛がわれるのか?」

 

 あれから少しして冷静さを取り戻した土御門は疑問点を上げた。彼としてはもう少しこの問題へ取り組む前に時間が欲しいところだが、先送りにできるような時間が存在しないほどに事態は緊迫している。

 少なくとも魔術サイドの事柄を解決できるのは彼だけ。土御門元春がどうにかせねばならないのは変わらない。

 

『ううん、魔神っていうのは端的に言っちゃうと神格を得ると言うことなんだけど、神格を得ると自然と何かしらの「席」に座るの。

 もしかすると、魔神になるために究めた魔術の影響が大きいからかな?その中でくさりが多分据えられるだろう「席」が女神イシスってわけなんだよ』

 

「なら余計に天野の奴には不釣り合いだろう。天野から最も縁遠い要素ばかりじゃないか?」

 

 そうだ。魔神になるだけでも可笑しな話だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「イシスは魔術の神だ。それは魔術を究めて人から逸脱した結果魔神になる、って言うわけじゃなく、女神イシスの称号こそが『魔術の神』。

 それはつまり、あらゆる神達の中で最も魔術が秀でているということになる。そんな存在によりにもよって学園都市の人間が至るだって……?」

 

 魔神へと至るにはある系統の魔術を究め、人の枠組みから外れるしかない。

 その魔神の域に届いた者が学園都市に存在し、しかも『魔術の神』を冠する女神の魔神となるなど荒唐無稽にも程がある。

 

『……私もそう思うんだけど、くさりが魔術サイドの世界をよく知らず科学信仰の人間だとするなら、何かの神と共鳴して存在を引き上げられた可能性が高くなる。

 だったら、直前までその身に降ろしていた天使・イシス=アルテミスに関係している神様。つまり、原型となった女神イシスか女神アルテミスのどちらかに絞ることができるんだよ』

 

 もし、それ以外の神が隠れているとするならば彼女としてもお手上げとしか言いようがない。まあ、神格に縁が複数ある時点でどうかしているのだが。

 

「なら、アルテミスの方が可能性は高い。天使・イシス=アルテミスは女神アルテミスの側面が大きく出ていただろう?」

 

 女神イシスよりかはまだ信憑性がある可能性だった。それこそ、上条当麻(特別な人間の頭)を弓矢で執拗に狙っていたし、アルテミスの可能性の方が高くなると言えるのではないか?

 

『くさりは確か山育ちなんだよね?だったらイシスよりかは狩猟の女神であるアルテミスの可能性は高くなるよ。でも、肝心の弓はくさりが魔神になるために変質した瞬間、粉々に破壊されてる。

 アルテミスの神格を得るなら「弓」は絶対に外せない物。壊してそのままなんて絶対にあり得ない』

 

 それこそ、天使・イシス=アルテミスで無くなった瞬間に弓も翼も綺麗に砕け散ったのだ。それはつまり、今の天野には弓は不要であると示している。

 

『弓矢を持たないエフィソスのアルテミスの可能性もあるけど、くさりが左手に持ってるのはアンク十字。

 あれは古代エジプトで生まれて女神イシスが持っていたとされる物の一つなの。

 それに加えて、くさりがなろうとしているのがアルテミスじゃなくイシスなら、王冠(ケテル)を超えることが出来なかった理由を推察することができるよ』

 

 インデックスは記憶されている知識を総動員して仮説を組み立てていく。

 

『私達が名付けた「天使・イシス=アルテミス」だけど、そもそもここからおかしいんだよ。本来神様として在るものが天使として存在するなんて歪み過ぎてるからね。なら、そうなる理由が必ず何処かにある』

 

 天野を天使・イシス=アルテミス足らしめる何か。歪みの原因は一体何かと言われれば、先ほどまでこれ見よがしに主張していたにもかかわらず、一切直接的な攻撃手段として活用しなかった()()の可能性が高い。

 幾ら御坂美琴や削板軍覇が破壊したとしても、一度も報復のために使用しなかった攻撃手段にしてエネルギーの塊。

 

「──水翼か」

 

『うん、あの翼はくさりが「神の力」の身体に入った影響なんだろうけど、イェソドのセフィラを飛び越えた先にある、ケテル=ティファレトの(パス)に置かれた「女教皇(プリエステス)」には、「神の力」に関する要素は一つも無い。

 多分、ティファレト=イェソドを昇る際に使われた「矢」が不具合を起こさせたんだと思う。それが本来の物ではなかったせいなのか、別の要因なのかは分からないけど……』

 

「(……上やんの幻想殺し(イマジンブレイカー)は善悪関係無く平等に異能を消し飛ばす。「矢」としての資格は満たしていても幻想殺しの効果は変わらず発動し、位階を上がるために必要な何かを欠損させたってところか……?)」

 

 そもそも、「矢」という記号を付け加えたのも魔術結社黄金である。幻想殺しは世界の基準点として生み出された物のため、そこが変わることなどありはしない。

 

『そのせいか、くさりはイェソドから完全に抜け切ることができなくて、王冠(ケテル)まで昇ることができなかったんだと思う。

 それに、『女教皇(プリエステス)』のカードに描かれたイシス=アルテミスは「水」の属性があるから、水を司る『神の力』のエネルギーを呼び起こすには、これ以上無いほどに整った条件だったと思うんだよ』

 

 高みに至るということは余分なものを削ぎ落とさなければならない。不必要なものをパージ出来ずにいれば高みに至れず、更には自身を結い止める足枷に成り果てる。

 だからこそ、別のアプローチを試みた。

 

『「水」の要素を取り除けないなら、取り除かないまま高みに行ける道を選べばいい。女神イシスは魔術の神様であると同時に様々な属性が付け加えられた万能の神様なんだよ。

 「王座を守るもの」や「偉大なる女魔術師」みたいな称号が有名ではあるけど、ナイル川の増水の神様と崇められたり、エジプト各地で信仰されたギリシア・ローマ時代では、アレクサンドリア港の守護女神から航海の守護女神となったりして、女神イシスは「水」の属性も持つようになるんだよ』

 

「だが、直接的な女神イシスの伝承は『玉座』と『復活』だろう?そんな後世の人間が後から与えた付加価値に神が歪められるとは思えないけどな」

 

『それこそ、くさりが成ろうとしたイシス=アルテミスは習合した神様なんだよ。そこから、神様の要素を抽出するなら「席」に当て嵌められる神様も、そう言った歪みがあってもおかしくないし、古くから伝えられてる神様なら習合していない方が珍しいくらいだしね。

 それに、魔神の存在からして名前となった神様の、伝承をなぞった行動や魔術を行使するかはちょっと怪しいんだよ。

 魔術はあらゆる文化体系から生まれた伝承や神話から、術者にとって有益になる部分を抽出し掛け合わせるのが一般的だから、元々がそんな『魔術師』から始まった人間が、神様になったからって一つの神話体系の魔術しか使えなくなるとは思えないんだよ』

 

 『魔術』を究める『魔術師』とはそう言うものだと禁書目録は言った。

 

『どうしてそんな柔軟なことができるのか疑問ではあるけどね。王冠(ケテル)を目指してる以上は無限光(000)へ辿り着くのが目的なんだろうけど、魔神になるのも寄り道感覚で行けるものじゃないはずだから』

 

 そこまで言うと、インデックスは本当に理解出来ないものを見るかのように呟いた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()何処かの民族のメイクなのだとしてもイシスには関係無いし、くさりを操っている魔術の一種なのだとしても、あんな風になる魔術なんて無いはずなんだよ』

 

「……あれが魔術の影響だとするなら距離をとって正解だったな。お前に掛けられているサーチ内でアイツが居れば、外の魔術師達が侵入してきただろう」

 

 土御門は『天の力(テレズマ)』ではなく魔術が天野俱佐利から発していると分かり、インデックスに説明していて良かったと安心する。下手をすればインデックスがこの騒動の中心へと、土御門の警告を振り切り突入していた可能性があったのだから。

 

『あれは外部から何か信号を送られて発光しているのか、それとは全く関係無いものなのかは分からないかも。それと、多分ここは幾ら探しても分からないと思う。

 もし仮に、外から何かしてるんだとしたら未だに表に出ていないなんてこと無いと思うし、それが出来る相手を見付けるのは至難になるはず。そして、ここまで進行したら裏で糸を引いてる人も、全てを掌握することは出来てないと思うんだよ』

 

 もし、未だに裏で暗躍している黒幕が居たとしても、その黒幕自身も解決策に心当たりが無い可能性が高いとインデックスは述べる。つまりは、探しても無駄だ、と。

 土御門もそれに同意する。何故なら、新たな魔神の誕生の瞬間は刻一刻と迫っているのだから。

 

「あれをすぐにでも止める手立ては何かあるのか?」

 

 土御門は騒動を収めるためにどうするべきなのか分からない。それこそ、この街の王であるアレイスターが動いていないことから、彼等達がどうにかしなければならないのは明白だ。

 

「(それに加えて、この状況をおそらく監視しているにもかかわらず、連絡が一切無いことから推察すると、アレイスター自身も解決策が無いと考えて見ていい……)」

 

 ならば、答えを有している可能性があるのは電話相手の、彼女ただ一人だけである。

 そんな、一心に期待を向けられる一〇万三〇〇〇冊の魔導書を記憶している彼女は、いつもとは違いどこか自信無さげにその言葉を放った。

 

 

『……限り無く低い可能性だけど、一つだけあるかも』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ふむ、この世界の住人ではやはりここまでの予測が限界かのぉ?」




アルテミスは兄アポロンの策略で、遥か彼方にあるオリオンの頭を弓矢で打ち抜いた伝承があります


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129.神が語る術理

 玉座に座る転生の神は、オリ主達が巻き起こす騒動を遥か高みから見下ろしている。それは高度の高い低いではなく次元の高低。『とある』の世界に存在している人間を含めた、全ての存在とは尺度が全く違うのだ。

 老いた容貌をしているこの世界の全てを造り出した神は、蓄えた髭を擦りながら興味深そうに呟いた。

 

「ふむ、禁書目録がアルテミスを早々に候補から消したのは意外ではあったが、アルテミスの『水』にまつわる伝承は、恋仲であったオリオンが海から頭を出していたところを、アルテミスが誤射するギリシャ神話程度。

 『水』の要素が濃くなければ魔神へと至る理由に為り得んのだから、その可能性を切り捨てるのも自然か。実を言えばアルテミスになる可能性も高かったのじゃが……」

 

 全てを把握する唯一の存在は、まるでゲームの盤面がどのように動いたのか確認するように淡々と言葉を紡ぎ出す。実際にこの世界を創造した神からすれば、ただの確認作業でしかないのだ。

 何処の神話にも語られない奇妙極まる転生の神は、玉座に深く座り直し次々に流れが変わる盤上を、超越者ならではの傲慢な態度で見下ろした。

 

「まあ、ここから先は禁書目録やアレイスター=クロウリーであっても理解不可能じゃろう。それこそ、少ない情報で女神イシスまで紐解けたならば充分及第点じゃろうて。

 ここから先は、奴等が知らぬ『転生』と『エルキドゥ』の要素が絡んでくるんじゃからの」

 

 現地人では知るはずもない情報。オリ主がそう言った行動を明確にしてこなかったため、今まで表面化してこなかった秘密。

 その知識を知っている神は語り始める。この異常事態の真実を。

 

「一番の障害は女神ヌイトから変わり、次の段階へ切り替わることじゃった。それもそのはず、既にオリ主は御坂美琴の姿ではないために、木原幻生が打ち込んだウイルスを用いて力を得ることは不可能じゃったからの」

 

 そうなのだ。既に幻生が御坂妹に打ち込んだウイルスのエネルギーは途切れてしまっている。それは、オリ主が御坂美琴の姿をしていない点からして明らかだ。

 

「では、その代替エネルギーはどこから入手するのか。エルキドゥが介入できるエネルギーでは、オリ主の成長を内側から停止させ正気に戻せばそれで終わりとなってしまう」

 

 あのエルキドゥがマスターの危機と知って、何もしない可能性は極めて低い。マスターを守るために守護しようとするのは簡単に予測できることだ。

 

「大地に流れる地脈や龍脈はエルキドゥの十八番。『とある』世界独自の神性、『天使の力(テレズマ)』では(かえ)って相性の悪さが浮き彫りになり、オリ主の身体から弾かれてサーヴァントとして現界するかもしれん。

 魔術サイドのエネルギーでは取っ掛かりがある分、相性が良くても悪くても不測の事態が起こりやすいと言うわけじゃ」

 

 つまり、エルキドゥが扱い切れず、なおかつ抵抗させずに押し止められるほどの強大なエネルギーが求められた。

 

 では、そのエネルギーとは何だ?学園都市に存在しエルキドゥを抑え込めるほどの科学サイドの強大なエネルギーとは一体……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──しかし、それを考える前に何か忘れてはいないだろうか?

 

 何故、幻生が打ち込んだウイルスによるエネルギーが途絶えたと言うのに、妹達(シスターズ)一方通行(アクセラレータ)は未だ何一つアクションを起こしていないのか?

 被害が無くなったために楽観視するほど一方通行はお気楽ではないし、異常事態をネットワークを通じて事細かく把握できる妹達が、原因を究明しないなどあるわけがないのだ。

 

 そして、木原幻生は別のエネルギーがオリ主へ注入されていることに気付いていない。それは、彼が愚鈍だからと言うわけではなく、一重に彼がオリ主の観察に注力していたからだ。

 仮に予期せずオリ主の身体に『オカルト』が入っていたとしても、彼からしてみれば全く構わないどころか、そう言った不測の事態で起こり得る『オカルト』にこそ価値を求めているため、データを一通り全て取ったあとで詳しく精査するつもりでいた。

 つまり、彼としてはオリ主の成長が止まらない限り、手出しをするつもりは一切無かったと言うわけだ。

 

 そのため、幻生は変わらずミサカネットワークからエネルギーを流し続けていた。しかし、それでは確実に不具合が起こる。

 

 何故なら、原作で御坂美琴が事件を解決し終わるまで、一方通行が一切出てこなかったことを踏まえれば、ミサカネットワークから流し込まれたエネルギーは、常に御坂美琴へ注がれ続けていた、ことになる。

 それはつまり、送られてくるエネルギーの吸収場所がなければ溜まり続けると言うことに他ならない。では、御坂美琴が絶対能力者(レベル6)になった途端、学園都市が丸ごと消し飛ぶほどのエネルギーが滞留して大丈夫なのか?

 

 もちろん、大丈夫なはずが無いのである。

 

 そんなことになれば、その学園都市に何らかの重大な被害を出すことになる。それこそ、学園都市が運営不可能な事態へとなるほどの「未知数な何か」が。

 では、何故それが起こらないのか?そんなもの決まっている。全てはオリ主のせいなのだ。

 オリ主は自身にエネルギーを送っていたミサカネットワークへハッキングし、妹達(シスターズ)を助けるためにウイルスを除去した……などと言う理由では無く、そのウイルスを取り込み掌握して別のエネルギーを得るための『鍵』へと変質させた。

 

 しかし、お分かりの通りその時点であり得ない。

 何故ならば、オリ主へと送られていたエネルギーは妹達(シスターズ)からオリ主へと送る一律なものであるのだから。

 流れ落ちる滝が突然逆流することが無いように、与えられる側が主導権を奪うなどできるはずもない。それも、御坂美琴の身体ではなくなりネットワークのチャンネルが変わった状態で……。

 

 

 ──だが、仮にそれが可能だとしたら……?その全てが何らかの要因でクリアできるとするならどうだろう?

 

 

 妹達(シスターズ)全体に影響を与えるほどにミサカネットワークに負担を掛け、幻生が打ち込んだウイルスと変わらず異常を起こし、科学サイドが有する特大のエネルギーとなり得る代物。

 それを『とある』の世界ではこう言った。

 

 

 

 

「科学サイドの総本山である学園都市が生み出した学園都市最大の禁忌であり、アレイスターの切り札の一つ。───虚数学区・五行機関じゃ」

 

 

 

 

 虚数学区。

 能力者のAIM拡散力場が生み出した虚数空間にして、手付かずの資源の宝庫でもある『陽炎の街』。さらに言えば、世界のテクスチャ全てを塗り替えることが可能なエネルギー源でもある。

 

「アレイスターの考案した第三の樹を活用すれば、科学サイド由来のエネルギーを魔術のエンジンとしても活用することが出来るのは道理よ。

 オリ主は劣化模倣(デッドコピー)で手に入れた超能力を、自分のものとして扱うことができるが、能力開発を受けていないために分類としては『能力者』ではない。それはつまり、原則である『超能力者は魔術を使えない』という制約の外側におる。

 ならば、アレイスターが迂遠な方法で第三の樹に組み込んだ魔術サイドの理論を浮き彫りにして、直接的にその要素を利用することが出来るのじゃ」

 

 アレイスターがセフィロトの樹から、魔術要素を出来る限り排して必要なパラメーターだけで組み上げた物を、オリ主というアバターを操り神はいとも容易く手中に収めて汚し尽くす。

 

「儂以外の神が同じことをすれば神性が意図せず付与することになる。神というものは存在が強大すぎるためにその痕跡を消すこともままならんわけじゃな。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()最新鋭の科学に振り回される心の移り変わりを表す第三の樹ならば、アレイスターよりも掌握できるのじゃよ」

 

 だからこそ、アレイスターは気付けない。世界の創造神という莫大なエネルギーを有する存在からの介入でありながら、オリ主という間接的な方法と、第三の樹をアレイスターよりも深く理解し巧みに扱う神によって、それを異変を解明することが出来ないのだ。

 もちろん、オリ主が虚数学区に手を出していること自体は把握できている。しかし、どう言った方法で手に入れているのかまでは思い至ることができない。

 そして、神の力だけではなくオリ主にも虚数学区にアクセスできる理由がある。

 

「能力者の能力を劣化模倣(デッドコピー)で取得すれば、演算パターンを同時に取得することになる。

 だが実のところ、オリ主は相手の自分だけの現実(パーソナルリアリティー)も同時に取り込んでおるのじゃ。演算パターンを得たからと言って、相手の記憶まで取得するなどどう考えてもおかしいじゃろう?」

 

 もし、演算パターンを得ることで過去の記憶を得ることが可能ならば、『暗闇の五月計画』の実験体である絹旗最愛や黒夜海鳥が、一方通行の過去の記憶を有していないはずがない。

 

「では、何故そんなことが可能なのか?儂はそんなオプションを付けたわけでは無いというのに」

 

 神が授けた特典にそんな要素は存在しない。触れた相手を不完全なままコピーする力でしかないのだ。肉体ではなく精神面の情報の取得は特典の範囲外。つまり、手に入れることができるはずないのである。

 では、何故それができるのか?それにも理由があった。

 

「ほら、なんと言ったかの……ああ、木山春生(はるみ)か。奴は木原幻生から得た脳波の調律という技術を工学科し、聴いた音楽で脳波を一定のものへと整える幻想御手(レベルアッパー)を生み出し普及させた。

 その副産物が大人でありながら超能力を使用できる上に、数多の能力を扱える多才能力(マルチスキル)じゃ。しかし、多すぎる思念は独りでに形作り、幻想猛獣(AIMバースト)という怪物を生み出すことになる」

 

 胎児のようでもあり天使の要素を随所に示す怪物、幻想猛獣(AIMバースト)

 木山春生が彼女を止めに来た御坂美琴と、多才能力を用いての戦闘中に、その木山春生から生まれた数多の能力者の思念の集合体。

 その見た目は人間の胎児のようでもあったが、そこに愛らしさなど何処にも無く、異形の怪物としか表現出来ない禍々しさを有していた。

 

「要するに、オリ主は自己完結してるアレじゃよ。脳波の調律を目的としてないにしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 考えてみれば当然のことではあった。木山春生は他人の脳波を音で一律にさせて同一にする方法を取り、逆にオリ主はコピーする人物の脳波に自らの脳波を変えて同一とする。言ってしまえばそれだけの違いなのだ。

 

「現れた幻想猛獣から脳波を一律にされて床に臥せった、少年少女達の抱いている能力のレベル差からくる嘆きや、無念の感情が漏れだしておったじゃろう?

 つまり、脳波を合わせればそのような感情やそれに類する記憶を得られる可能性があるのじゃよ」

 

 低レベルの能力者が抱く無念や挫折感。そう言ったものが浮き彫りになっていたあの化け物は、能力者達が胸の内に秘める気持ちの発露でもあった。

 つまり、そこから逆算すれば脳波を合わせた人間が、どう言った人間なのかを分析することも可能になる。

 

 ……しかし、それで終わらない。幻想猛獣の一番の異常はそんな目に映る異形の姿でも、数千数万の思念の塊という事実でも無いのだから。

 

「──あったはずじゃ。幻想猛獣が御坂美琴に討たれるときに現れた不可解な物体が。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは、自然には発生しないだろう人工的な作為を思わせる三角柱の物体。まるで、何かに呼応するかのように、格子状の表面から一つ一つ異なる起伏を起こし、身体の中へいつしか宿る不可思議なアーティファクト。

 では、それを宿していたのは一体誰だ──?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリ主の身体の中で異音が鳴り響く。それは、今までと何も変わらないようで、しかし段々と存在感を増していた。オリ主もエルキドゥも身体を操ることが出来ない中、その音は身体の主の命令を受けずとも音を奏で続ける。

 

 

 カチカチカシャシャシャシャと、高速でキーボードを打ち込むような軽快な音を鳴らして。

 

 




◆要約◆
脳波を合わせることによって演算パターンだけじゃなく、実はパーソナルリアリティーも借りパクしてたよって話。
オリ主はAIMバースト(アニメレールガンで出てきた化け物)と似たような存在ってこと

◆補足◆
アニメ『とある科学の超電磁砲』要素が入ってきました。この小説で書いてないところなので気になる方はアニメを見るかかwikiで調べて下さいm(_ _)m

◆作者の戯れ言◆
伏線を回収していいところとダメなところの判別が難しい。その上、自分で張った伏線にこんがらがる作者の残念さよ


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130.オリ主の秘められた真実

彼奴(あやつ)に注がれてる動力源の真相はこんなところじゃよ。第三の樹を形成したアレイスターが真に現状を把握したとき、とても冷静ではいられなくなることじゃろうがのぉ?」

 

 魔神の安易な願いにより娘を亡くしたアレイスターからすれば、神の横行は怒髪天を衝く思いに駆られるだろうが、オリ主の存在すら正確に把握することすら出来ないアレイスターでは、この神を知ることも不可能だ。

 

「そして、エルキドゥが力を出せん理由は科学サイドのエネルギーだから、と言うだけではない。他にもあるのじゃよ。エルキドゥの存在に影響を与えるほどの事柄が」

 

 実は他にもエルキドゥを縛る理由があったのだ。今までのような科学サイドで生まれた力ではなく、エルキドゥが属する魔術サイドの現象で。

 

「エルキドゥには弱点が存在する。それは死因である『病・呪い』じゃ。これは、サーヴァントとなることで生前よりもより顕著になった。ならば、そこを突かん手はない」

 

 エルキドゥの弱体化。それを神は企んだ。

 

「とはいえ、エルキドゥを弱体化させる。大覇星祭編で毒を使う者も呪いを使う者もおらんかったからなぁ。下手に登場人物を増やせば、儂が望む到達点からズレる可能性も浮上するために、そうそう迂闊な行動は取れなんだ。

 ならば、エルキドゥに弱点を付与するのは儂ではなく、彼奴(あやつ)以外にあるまい?」

 

 それは、身体を共有しているマスターに対して、危険信号を満足に送信することすら出来なくなった原因だ。その、オリ主が女神ヌイトから天使・イシス=アルテミスに変化したときに、新しく付与された物とはなんだ?

 

 女神イシス=アルテミスたるを象徴する弓か?はたまた、『神の力』の翼であり攻撃手段でもある水翼か?

 その答えはどちらでもない。その二つ以外にオリ主の身体に付け加えられたもう一つの物──。

 

「『べール』じゃよ。トートタロットの『女教皇(プリエステル)』に描かれた、女神イシス=アルテミスが弓と同じくして象徴する物の一つ。

 頭部を覆い隠す花嫁の布。それが、エルキドゥの弱点とも為り得るのじゃ」

 

 Fate/Grand Orderのマテリアルにはベールが弱点などと書かれてはいない。書かれているのは毒と呪いだ。

 ならば、その根拠は『Fate』には存在しない。ベールが弱点となるその理由はエルキドゥの伝承にある。

 

「叙事詩にてエルキドゥは神の呪いにより、十二日に及ぶ高熱のあと死亡する。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 Fate/Grand Orderでは語られていないため知らぬ者の方が多いかもしれんがな」

 

 その事から、エルキドゥにベールを掛ける行為は『死』に該当するのだ。死因が強く浮き彫りに為りやすいサーヴァントならではの弱点だろう。

 

「とはいえ、チーズが当たると死ぬ女王メイヴのようにはいかん。エルキドゥの直接的な死因は神による呪い。ベールを被せただけではとても死ぬような事態へは発展せんよ。

 だが、(かつ)ての死に装束が少なからず影響を及ぼした結果、エルキドゥの弱体化と相成ったのじゃ」

 

 オリ主がトートタロットに描かれた女神イシス=アルテミスの姿となれば、特別何かしなくともベールを被せられたエルキドゥは自然と弱体化するのだ。

 

「そして、彼奴がイシス=アルテミスの姿ではなくなったことで、エルキドゥが被せられたベールから解放されたときには、既にマスターは魔神へと至っている。

 常のエルキドゥならば天の鎖で反逆することは出来ようが、身体のリソースが『神』となったマスターに食われた状態では、流石のエルキドゥとて天の鎖を顕現することは出来ん。意識を保つことが限界じゃろう」

 

 エルキドゥは神に抵抗する手段を全て潰されていて、自由を手にしたときには既に全てが手遅れとなっている。隙の無いエルキドゥ封じ。

 オリ主と共有する身体の器をエルキドゥの鳥籠に変貌させる。これは、そう言う筋書きだったのだ。

 

 すると、今まで独りでに語っていた神に対して、突然何処からか声が掛けられた。

 

 

 

 

『ふむ、動力源の入手経路もサーヴァントの不具合も理解した。──だが、何故あの凡庸な魂が神の領域に届く?己と世界の理を理解出来ぬ愚昧が至れるものではあるまい?』

 

 

 

 

 その声には蠱惑的な淫靡さがあった。優しく包み込むようでもあり冷たく突き放すような、聞いた者を魅了する声音。

 思わず心を許し委ねたくなるような声色も、人間ではない神相手では通じはしない。

 

「まあの。彼奴にはその才覚も修練を積んだ月日もないのだから、影を掴むことすら永遠に不可能じゃ」

 

 神は堕落を促すかのような声を掛けてきた存在に対し、常と変わらない態度で話し続ける。

 ……いや、そもそも今までの話はその存在に対して語り続けていたのだろう。この神が会話をしている時点で、他の存在とは一線を画する存在であるのは明らかだ。

 

「必要とされる様々な知識が無い。それこそ、彼奴は原作知識と言うあの世界から見れば特殊な知識を有しているものの、それで魔神に至れるのならば転生者の多くは魔神となっておる」

 

 転生の多くが前世で死亡し生まれ変わった結果なのだから、当然の帰結だろう。

 では、何故オリ主は魔神に至ったのか?神はその真実を語り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼奴(あやつ)を転生をさせたが、あれはどこまでも平凡な魂に過ぎん。

 それこそ、サーヴァントの魂に浸食される程度の強度と精神性にして、蓄えた知識も多くはない凡夫。彼奴(あやつ)の魂だけ見れば特に目新しさの欠片も無い」

 

 散々な物言い草ではあるが、今まで様々な魂を見てきた神からすれば凡庸の一言で終わってしまう。

 

「だが、彼奴の魂は『とある』の世界で強度を上げた。その原因は言うまでも無いほどに明らかとなっている。

 ──そう、『神の力』こと、大天使ガブリエルの身体に入ることでな」

 

 人間が大天使の身体へと入る。

 それがどれ程に異常なことなのかわざわざ言うまでも無い。

 

「あの出来事が彼奴(あやつ)の魂を一つ上の段階へと押し上げ、セフィロトの樹を昇る切っ掛けとなった。これでようやく凡夫から抜け出し、普通から逸脱した魂に昇華したのじゃ」

 

 『とある魔術の禁書目録』の原作を知っており、オリ主の性格を鑑みれば『御使堕し(エルゼルフォール)』への介入は予測できる。

 神がわざわざレールを切り替える必要は無い。オリ主が自らの意思で勝手に突き進む。まるで、始めからそう作られたかのように一切の変化も無く。

 

「魔神に至るために必要不可欠な項目の一つは『死』じゃ。それこそ、『新訳』で上条当麻の前に立ち塞がる魔神オティヌスも、魔神になるために泉へ眼球を捧げたのちに首を括って死んでおるじゃろう?

 それを言えば、彼奴の前世で『死』は既に果たされておった。だが、重要なのは『死ぬ』という生物の帰結よりも『死の記憶』そのもの。心不全で眠ったまま死んだ彼奴にはその記憶が無い」

 

 思い返せばオリ主は転生するその瞬間まで死んだことに気付いていなかった。それは神に直接言われてもすぐに呑み込めなかったことからも明らかな事実。

 これがどう影響するのか?

 

「『死の記憶』が無いのならば魔神へと至るのは不可能、これは変わらん。──だが、彼奴の魂と彼奴の身体には『死』にまつわることが蓄積していたじゃろう?」

 

 一つ目が、前世での『死』。

 二つ目が、◼️◼️◼️◼️◼️の『死』。

 三つ目が、ミサカネットワークから送られた妹達(シスターズ)一万〇〇三一人の『死』。

 四つ目が、御坂美琴と同調することで人格が塗り潰された『死』。

 そして五つ目が、エルキドゥの逸話に関連する『死』。

 

 

 

「ここまでの『死』があれば彼奴自身の『死の記憶』がなくとも、繋ぎ合わせて代わりのものを構築できる」

 

 

 

 これが、『死の記憶』がなくとも魔神へと至れる理由だった。

 『とある魔術の禁書目録』の外伝として発売された、『とある科学の一方通行』で登場するイサク=ローゼンタールという悪党は、死霊術を用いて『完全なるゴレム』を造り出すために、妹達(シスターズ)から『死の記憶』を抜き取り、神の領域まで昇ろうとした経歴を持つ。

 そして、そのやり方は今のオリ主と限り無く酷似している。

 

「ミサカネットワークを通じて彼奴に送られたものが、妹達(シスターズ)の『死の記憶』だけならば、すぐにでも魔神へ至ったのだろう。

 だが、送られた情報がウイルスで呼び起こされた不純な物の上に、彼奴は御坂美琴に扮した不正アクセスじゃから、データが全て正しく届かんかったのじゃ。

 破損したデータを埋めるような形で、今まで獲得した様々な『死』を補填させている。魔神への進化が緩やかに進んでいるのはその影響じゃよ」

 

 繋ぎ合わせて『死の記憶』を補完する。

 一見めちゃくちゃな理論に思うかもしれないが、オリ主が至ろうとしている魔神の中に、『魔神ネフティス』というエジプト神話に登場する女神の名を冠する魔神が居る。

 

 この魔神はファラオが埋葬されるときに、王の副葬品としてピラミッドに埋められた幾千幾万にも及ぶ、奴隷や使用人の亡骸から生まれた魔神だ。

 そんな特殊な生まれ方をした魔神が居るならば、同じく様々な『死』を取り込んだ魔神が誕生しても、別段おかしくは無いだろう。

 

 

 

 これで、魔神に必要な『死の記憶』は手に入った。これで、魔神は誕生するのか?

 ──いいや、まだダアトを超えるための『知識』が足りない。

 

 

 

 魔神へと至るために絶対不可欠な条件は、『死の記憶』と『知識』なのだから。

 

 魔神ネフティスの元となった埋められた者達が、生き残ろうと一緒に埋葬されたパピルスなどから魔術を紐解き、魔術の秘奥にまで届かせるほどの『知識』を獲得したように、オリ主も同じくらいの『知識』が必要なのだ。

 しかし、学園都市で過ごしてきたオリ主には、魔術の知識を得るための取っ掛かりが存在しない。

 

「学園都市では魔術の知識を得ることはできん。ならば、魔術の知識を得る場所に行かねばならんのは道理よ」

 

 それは何処で一体どのタイミングか?オリ主が学園都市の外に出て魔術と深く関わった事柄。そんなものは一つしかない。

 

 

「学園都市の『外』にある『旅館わだつみ』へ追放されて、巻き込まれた大魔術───御使堕し(エンゼルフォール)

 そこで、彼奴は魔神に至るほどの『知識』を獲得したのじゃ」

 

 

 オリ主を魔神に至らせる『知識』とは、果たして何を指しているのか。神は語り続ける。

 

「大天使の身体に入れることで彼奴の魂の格を上げる。それが、『神の力』の身体の中へと入れる一番の狙いではあった。だが、同時に彼奴を魔神へと至らせる仕込みをするためでもあったのじゃ」

 

 仕込み。それが大天使に入ることを示していないのなら、場所にこそ秘密がある。

 

「イェソドのセフィラにあるとされるアストラル界。あそこは知能生命体が作り出す集合的無意識であり、天国と地獄の境目とも言われておる。

 そして、その集合的無意識と神秘が一体化したアストラル界の深奥には何があるのか。

 アストラル界に突入するために『光体』の作成という魔術理論を新たに発明した、大魔術師アレイスター=クロウリーまでもが届かずに諦めた、『究極の知識』」

 

 それは、大魔術師アレイスター=クロウリーでも届かない境地にして、作品で言えば『とある』よりも『Fate』──いや、『型月』世界の方で名が多く上がるもの。

 

 『型月』で生まれたとある()()と共に述べられる機会が多く、この二つは深く関連付けられ、時には同一視されることすらある魔術世界の到達点。

 更にそれは、『型月』時空にて『万物の始まりにして終焉、この世全てを記録しこの世全てを作れる神の座』、あるいは『究極の知識』とまで称される世界の秘奥である。

 

 さて、思い出して欲しい。

 オリ主がガブリエルの身体へと入り再び神と邂逅したとき、神はオリ主を転生させたときには存在していなかった椅子に座っていなかったか?

 いや、そもそもの話。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 仮にオリ主を迎え入れたあの空間が、転生させた空間とは別物だとするならば、あそこは何処だ?

 

 それは、『型月』世界の魔術師達が生涯を賭して追い求めるもの。

 

 

 

この世全ての記憶(アカシックレコード)。──つまりは、『根源』じゃよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──おい、お前ら下がっとけ。あれは今までのヤツとはレベルが違えぞ」

 

 そう言う削板の顔には一切の余裕がなく、何処までも真剣そのものだった。実際にその顔には笑み一つ浮かんではいない。

 

「全く今までおかしな奴だとは思ってたが、ここまでブッ飛んだ奴とは思ってなかったぜ。あれはもう、人間の範疇から飛び出ちまってる。流石にあの根性の出し方は駄目だ。あそこまで行っちまうと天野じゃなくなっちまう」

 

 そう言うと、腕を回しながら前へと出る。足取りは軽いがそれは能天気さから来るものではなく、揺るぎ無い覚悟を決めているからだ。

 

「俺の自爆技でアイツの意識を飛ばす。勝算は高くはないがもうこれしかねえ。お前らは俺がミスったときのために力を温存しとけ」

 

「?……どういうこと?天野さんに一体何が起きてるか分かってるの?」

 

 御坂美琴からすれば天野の変貌した姿は今日で何度も見ている。彼も同じくそうであるはずなのだが、今回の変化だけは異常とも受け取れるほどに過敏に反応した。

 ──まるで、攻撃をさせることはおろか、変化すること自体を止めなければならないかのように。

 

「──カミジョー。もし、俺の自爆技で駄目ならお前の右手で触ってみろ。それでどうにかなるかは賭けになるが、多分アイツを元に戻してやる方法はこの二つだけだ」

 

「ち、ちょっと、待てって!自爆技ってそれは先輩を傷付けるってことだろ?なら、俺がまず最初に試して「時間がねえし、何よりダメージでも何でも与えて怯ませねえと、そんなチャンス来ねえぞ」……!」

 

 削板の目には研ぎ澄まされた覚悟が浮かんでいた。

 そして、その目を見れば明らかだ。削板はその自爆技で天野倶佐利を怯ませることすら出来ないと踏んでいる。

 それはつまり、超能力者(レベル5)の全身全霊の一撃であっても、傷を一つでも与えることが可能なのか怪しいと思っているのだ。

 あの削板が失敗することを前提で行動するなど、彼を知る者ならば驚愕することだろう。他でもない、低い可能性を根性で掴みとってきたのが彼なのだから。

 おそらく、彼は自らを捨て石に上条のチャンスを広げようとしている。ならば、それを無視することは出来ない。

 

「クソッ……それしかないのか」

 

 上条も今の天野倶佐利の状態が、先ほどよりも更に悪くなっていることに直感的に理解していた。このままだと手遅れになると漠然と感じている。

 そのため、自分よりも何かを感じ取っているだろう削板の案を、感情のまま突っぱねることが出来なかったのだ。何処かでそうするべきと上条自身が考えていたからかもしれない。

 上条が歯を噛み締めながら自分の無力さに打ちのめされていると、物陰から一人の男が出てくる。

 

「──残念ながら上やんの右手を安易に使っちまうと、更にゲテモノ染みた存在に天野が変質しかねない。今でさえ学園都市が破滅しちかねないほどのモンに成り掛けてんのに、これ以上の存在にされるとマジで打つ手がなくなるんだにゃー」

 

「お、お前……」

 

 上条はその姿に見覚えがあった。それもそのはず、同じ学校に通うクラスメイトにして上条が住む学生寮の隣人でもある、魔術サイドと科学サイド両方に足を踏み入れている多角スパイ。

 アロハシャツを羽織り金髪にサングラスを掛けたシスコンが、彼らの前に突然現れた。

 

「土御門ッ!?」

 

「よお、上やん。相変わらず面倒事に巻き込まれているようで、一周回って安心するぜよ。……まあ、今回の『不幸』は上やんなのか天野の奴なのか怪しいラインではあるがにゃー」

 

「何この見るからに怪しい奴……もしかして、アンタの知り合いなわけ?それに土御門……?まさかね……」

 

 裏で暗躍することを主な戦場としているはずの男が、自ら表舞台の激戦区に足を踏み入れた。魔術を何度も使えない彼は、戦うとしても専ら一対一の肉弾戦での戦闘を好んでいたはずだ。

 だからこそ、身体一つでは防御も儘ならないこの局面では出てくることはなく。もし、この騒動に加わるとしても舞台裏で暗躍するのが彼の行動パターンではなかったか?

 理解が出来ず彼を唖然とした表情で凝視してしまう上条と、突然現れた土御門が一体何処の誰なのか分からず困惑する二人に対し、ニヒルな笑みを浮かべながらも、これ以上無いほどに真剣な目をしながら彼は言い放った。

 

 

「この状況を引っくり返す一発逆転の策がある。アイツを助けるためにちょっとばかし手を貸して欲しい」

 

 




注意:オリ主は根元接続者ではありません。

は?と思った貴方。その答えはいつかします。

◆補足◆
その一
『とある科学の一方通行』の内容が出ました。タグに書いてあるので問題無いでしょう。
しかし、一応端的に説明しておきますと、魔術師の家系であるローゼンタール家は昔から死霊術を用いたゴーレムを作成していました。ぶっちゃけゾンビです(ゴーレムの定義がシェリーの土くれと違うのは宗派の違いから)
そのゾンビを作り出す魔術に、ミサカネットワークの中に存在している『死の記憶』を掛け合わせ、神のゾンビを生み出そうとしたわけですね

これで分からない人は『とある科学の一方通行』を観ましょう(匙投げ)

その二
TYPE-MOON(型月)が出した作品の一つが『Fate』なので、関連作品にも出てくる概念の「根元」を説明するなら、『Fate』ではなく『型月』と表現するのが適切だと思いそう書きました。紛らわしいかと思いますがこれが正答のようですのでご了承下さい。

しかし、作者はFGOしかプレイしたことがありませんので、詳しくは違うかもしれません。
有識者の人がいらっしゃいましたら、コメントにて御意見を頂けると嬉しいです。

その三
「根元」と「アカシックレコード」との違いが、どうにも作品ごとに違うようなので、この小説ではそこら辺は濁してます。


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131.巡る因果

 とある施設の一画に二人の人影があった。一人は体操服に身を包んだうら若き少女。もう一人は白衣を着た老年の科学者。

 対峙した二人は忍ばせた手札を用いて、相手の裏を読み合い騙し合う。食蜂は施設に搭載している防衛機能を、幻生は多才能力(マルチスキル)を用いて攻防を繰り広げた。

 食蜂がもしもの時に用意した防衛機能はその数も性能も高く、心理掌握(メンタルアウト)が通じない相手にも、充分対応出来るほどに準備が整っている。用意周到な彼女ならばこその戦力だった。

 

 そして、その勝敗は今ここに決した。

 

「カハ……ッ…………ア……!?」

 

「──まあ、こんなところだろうねぇ」

 

 首を押さえて声無き声を上げて(うめ)く食蜂操祈と、そんな彼女を見下ろす木原幻生。勝敗など誰が見ても明らかだった。

 

「超高出力振動体を埋め込んだ『魔女の包容(ハッグズハズ)』の地雷に、空間に自由に配置できる『重力子寄木板(グラビティパネル)』を用いたトラップの数々。

 うんうん、どれもこれも中々悪くないものだったけど、こればかりは年の功だろうねぇ。学園都市の闇を生き抜いてきた僕の目からすれば、君の企みは全て透けて見えるよ」

 

 多才能力(マルチスキル)の能力で周囲の空気を薄くされた食蜂は、幻生に対して嫌味を吐くことも出来ない。呼吸すらままならない彼女は簡単な思考すら回すことも出来ず、能力を発動するために必要な演算など到底出来るわけもない。

 幻生はそんな無防備となった食蜂に向けて、外装代脳(エクステリア)と脳波を合わせることで獲得した、彼女自身の能力である心理掌握(メンタルアウト)を、本来の所有者である彼女に向けて放つ。

 それは、今までのように抵抗することなく届き、幻生の求める情報を引き摺り出す。表情に喜悦を浮かばせた妖怪は手元の端末を見て口を開いた。

 

 

「──リミッター解除コードゲット。これで、『オカルト』を測るための指標を入手出来たね」

 

 

 彼が持つ端末に表示される文字列。それこそが、食蜂操祈の奥の手である外部代脳(エクステリア)を稼働させ、本来の性能以上の出力を発揮させるためのパスワードだ。

 こうして、幻生は心理掌握の使用と共に、外部代脳の使用も可能となった。

 

「天野くんの成長が止まらない以上はこのまま様子見をしたいところなんだけど、食蜂くんは必ず僕の命を狙ってくるから実験の妨げになる。

 その上、実験を邪魔される可能性もあるのだから君を今ここで殺した方が楽だよねぇ?」

 

 笑みを浮かべながらも一切の慈悲が無い無情過ぎる殺害予告。──だが、常人が思い付く絶望の更に先へ、突き落とすのが狂人なのだ。

 

「でも、どうせなら君には僕の実験に参加して貰おうかな。外部代脳は本来の出力以上の性能を引き出す構造上、どうしても心理掌握の所有者に負荷が掛かる。

 年老いた僕よりも食蜂くんの方が体力はあるだろうし、僕には天野くんから検出される『オカルト』を解析し、科学に落とし込むという役目があるから、食蜂くんには必要な『オカルト』のデータが集まるまで耐えて貰おうか。

 まあ、ざっと一万以上の数式を打ち込めば『オカルト』を解き明かすことも出来るだろう。君がそれまで壊れないように僕も細心の注意を払うとも」

 

 一度の使用で身体に異常が現れる心理掌握のリミッター解除。それを、そのような回数繰り返せば、当然食蜂の身体は持たず廃人となるだろう。

 だが、相手はあの木原幻生。脳波の調律を用いればその負荷を別の子供達に分配することも可能であるし、ホルマリン漬けにして脳を動かす機能だけにすれば、心理掌握の負荷をより長く耐えさせることもできるのだ。

 それこそ、方法など幾らでも存在している。科学の重鎮たる木原幻生には実現できないことの方が少ないのだから。

 

「食蜂くんとしても天野くんの秘密は知りたいところだろう?天野くんの秘密を暴くことが出来たとき、君は真に彼女のことを理解出来るのだからねぇ。全て解き明かしたとき君達は本当の友人となっているだろう」

 

 それは、幻生からの優しさなのか。はたまた、単純な気紛れでの一言なのかは分からないが、食蜂は自身に襲い掛かる苦痛に反芻する。

 

 ──本当の友人……?

 

 酸欠となり意識が朦朧とする中で、そのフレーズだけは妙に耳に残った。その言葉はまるで、心の奥底まで理解せねば友人ではないかのようではないか。

 

「…………違、う……ッ」

 

 視界がどんどん黒くなっていく中で食蜂は、無理やり口を開いて言葉を発する。食蜂は心理掌握を保有してるため人を信じることが出来ない。

 SNSの返信を常に気にしてしまう人のように、目の前の人間が何を考えているのか不安だから相手の心を覗くのだ。その人間不信さは筋金入りで食蜂にとって挨拶代わりの行動となっている。

 そんな人間が心を覗けない人間に対して心を許している訳がない、と幻生は考えているのだ。食蜂が御坂美琴ほどではなくとも天野俱佐利に警戒心を抱いているのではないかと。

 表面上で仲良く見せていても、深層心理では油断なら無い相手と認識している、だからこそ自分がその垣根を壊して上げようと木原幻生は宣った。

 

「……ふ、ざけるんじゃ……ないわぁ……ッ!私の精神性を把握した程度で私の心を全て理解出来るなんて、自惚れもいい加減にしなさいよ妖怪ジジイ……ッ!!」

 

 酸素が更に無くなることを理解しながらも、食蜂は無理やり言葉をぶつけた。その歯を食い縛り目を剥いた形相は、とても常盤台中学の一大派閥を率いる女王の姿ではない。しかし、その姿こそが彼女の内面をこれ以上無いほどに表していた。

 

「(深層心理では疑って掛かってる?実は天野さんの心を覗きたいと思ってる?だから何?そんなの当たり前のことでしょう?

 理解出来ないから理解して安心したいってのは、そんなに異常なことなんかじゃない!

 だって建前と本音が誰しもある時点で、目の前で笑ってる人間が自分に対して悪意が無いなんて、誰にも断言出来ないことなんだから!それを怖いと思うことがそんなにおかしいの!?

 私は他人が何を考えているのか分からないことが怖い。でも、それが天野さんを友達と認めていないことと、イコールになる訳じゃ絶対にないッ!

 一片の曇りなく心から信じるだけが友達の関係性じゃないわ。そんなもの見方を変えれば相手に依存してるのと変わらないんだから、それが一番美しくて正しい関係なんて決して限らない。

 信用しても信頼はしない。その関係性に打算以外入り込む余地が無いなんて勝手に決めるんじゃないわよ!絵に描いたような分かりやすい関係性なんてこっちから願い下げ!人間不信だから友人が誰もいないなんてそんな暴論はこの私が許さないわぁ!

 深層心理では不安でいっぱいでも、それでも一緒に居たいって思えるのが友人じゃないって言うなら一体なんなのよッ!……認めない。こんな表面の上っ面だけ見て私達の関係性に口出すような奴の言葉なんて認めない……ッ!偽物なんて絶対に言わせてたまるか……!!)」

 

 心から誰かを信じ、信じられる関係性は綺麗なものだろうが、砕けるのも一瞬だ。人間気分によって振る舞いなんて変わって当然なのだから、自分が想像する通りの行動や、相手が想像するような行動なんて取り続けられるはずがない。

 人間は機械的に動くAIではないのだから、信頼という名の無条件の期待は重荷にしかならないはずだ。疑うことが相手への優しさにもなると食蜂操祈という少女は信じる。

 

 だが、酸欠により意識が落ちそうになるのを止められず、食蜂の瞼が下に下がっていく。

 

「(く……っ、…………何、も……できず……に……)」

 

 幻生の姿が霞みがかって輪郭が捉えきれなくなっていき、食蜂は己の無力を嘆きながら暗闇に堕ちていく。

 

 そんな意識を保つのがギリギリ可能な状態だからこそ、突然目の前に現れた銀線を正しく認識することが出来なかった。

 

 

 ドスッと、鈍く静かな音が辺りに響く。

 

 

 その音の発生源である木原幻生は、忘れていた何かをようやく思い出したかのように目を開いた。そして、何処か自分自身に呆れるようにして声を発する。

 

「……やれやれ、これも僕の悪癖がまた出てしまった結果だね。彼女がこういう行動を取るのも予想出来なかったことではないのに、天野くんの『オカルト』に夢中になりすぎてケアをするのをお座なりにしてしまったよ。

 いささか短慮が過ぎるとはいえ、彼女の瞳に宿るドグマを見込んで勧誘したのは他ならない僕だと言うのにねぇ」

 

「──ガハッ!!ゴホッ!……ハァ……ッ!ハァ……ッ!」

 

 食蜂の元に空気が戻ってくる。呼吸を吸い込みすぎて()せながらも、食蜂は新鮮な空気を肺に取り込んだ。幾度か荒い息を深く吐いたあと、幾分か冷静な思考が戻ってきた食蜂は突然の事態に疑問を抱く。

 

「(な、何が起きたの……?)」

 

 幻生が能力を解除する理由が無い。意識を落としてから能力を解除するならともかく、こんな中途半端にしても時間が掛かるだけだ。彼が観察したい実験が他所にあるのだから、食蜂を苦しめても意味はない。

 

 だからこそ、その幻生が能力を解除するのなら、何か予想外の事態が起きたことに他ならない。

 

『チッ、胸刺されたら普通死ぬでしょ。素直に死んどけクソジジイ』

 

「おやおや、かなり怒らせてしまったようだね。実は後から説明するつもりで、君を無碍にしたわけではないと言って信じてくれるかな?」

 

 幻生の胸部に突き刺さるのは水銀の槍。その持ち主はダストボックスから現れた液化人影(リキッドシャドウ)

 この人の形をした水銀は本体ではなく、内蔵されたカメラから周囲を認識し、遠隔操作で操ることが出来る超能力で金属操作の一種に分類される能力。

 その能力の使用者は学園都市にただ一人だけ。

 

『私を捨て駒にしやがって!アンタの下らない計画をここでブッ壊してやる!!』

 

 スピーカーから流れる声は警策(こうざく)看取のもの。木原幻生に散々振り回された少女の報復が始まった。



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132.少女達の逃避行

お待たせしました。


 そこは日の光が入らない地下の空間。そこで制服の肩にクリップで腕章を縫い付けた少女が辺りを見渡しながら歩き続ける。一通りを見て回った少女は一人呟いた。

 

「……おかしいですわね。……まさか、居ない……?わたくしの読みが外れましたの?」

 

 警策(こうざく)看取(みとり)を探し続けた白井黒子は、ここに警策が居ないことを認識する。

 

「大会中継用カメラの位置から、あの場所に警策看取が居ないことはまず間違いないでしょう。だからこそ、学園都市中にある中継カメラと監視カメラが届かない、地下の安全地帯から襲っているものだと考えたのですが……」

 

 それこそ、地下以外で今の学園都市が動かしているカメラに映らないところなど、無いと言っても過言ではない。最先端科学のテクノロジーもそうだが、今は『大覇星祭』という一大イベントの真っ最中。監視カメラの数も平時の倍は稼働しているのだ。

 

『暗部で使われている日の光が届かない安全地帯が仮にあったとしても、「大覇星祭」のために外部から来た子供が迷子にでもなれば、捜索などで普段はカメラが入らない死角へ、いきなりカメラがやって来ることもありますしねー』

 

 通信機から問い掛けてくる初春飾利の声が白井に届く。突然白井への攻撃は止んだが、あの後警策が操っていた中継カメラを数万もの中から割り出して、警策が他の場所に潜みながら攻撃していると確証を得られたのは、他でもない彼女のお陰だ。

 とはいえ、そのことに最初に気付いたのはそんな相棒の親友だった。

 

『警策が何処かに潜んでいるのは間違いないと思いますけど、どうして下水道なんですか?他の適当な施設の中でもいいと思いますけど』

 

『おっ、確かに!別に隠れて遠くで操るってだけなら家の中でも出来るしね』

 

 彼女の隣に居る佐天涙子が元気な声を出す。時折聞こえてくる何かが凹むような音は、今回頑張ってくれた相棒に下敷きか何かで風でも送っているのだろうか。

 

「いえ、それだともしもの場合居場所が割れる可能性がありますの。あの異常とも言える強烈な雷が生み出す電磁波を考えれば、電子機器が電波障害を引き起こしやすくなるのは明白。

 おそらく、あの異常気象は警策が属する一派が生み出したものでしょうが、あの雷が及ぼす電磁波に対し完璧に対処することは難しいはず」

 

 何せ雷が落ちた場所が近い上に、あの巨大な雷を考えれば生み出される電磁波は通常の数十倍はあるのだから。

 

風紀委員(ジャッジメント)には一通りの対策があるため、今もこうして初春達と連絡が取れてますが、警策が能力の中に忍ばせた小型のカメラに関しては、どれだけ高性能でもショートするリスクが高い。

 だからこそ、最悪を考えたときに街中の監視カメラを撒きやすく、自分の居所がバレにくい下水道が隠れ家としては最適ですの」

 

『でも、警策の能力には感知する力がありますよね?わざわざ本体が側に居る必要性は無いと思うんですが』

 

 液化人影には反響定位(エコーロケーション)という周囲を認識する能力がある。それを考えると小型カメラは補助としての役割であり、一見そこまで必要だとは感じないだろう。

 

「今回の一件を企んだ警策が属する一派は、超能力者(レベル5)の能力者二人を作戦に組み込むと言う、極めてリスクの高いことをしています。つまり、彼女達にとって絶対に失敗出来ない作戦だということ。

 そして、超能力者が二人居るとなれば不測の事態が起きやすいのも事実。遠方から能力を飛ばし周囲の物体の位置を把握するだけでは、それに対処できない可能性も高くなりますの」

 

 反響定位はイルカなどの動物が使う習性で、超音波の反響から物体の大きさや距離を探知する知覚方法だ。しかし、これの欠点として色彩は取得することが出来ず気体やプラズマの情報は薄くなる。

 彼女の役割が食蜂操祈を封じることだとしても、仮に御坂美琴に何かしらのアクシデントが起これば、対処に回りたいと思うことは自然なことだ。

 

「不測の事態をリカバリーするには本人が直接軌道修正するしかないでしょう?それこそ、能力でどうこうできる範囲であれば問題ないでしょうが、それが出来ない状況に陥れば、能力に頼りきりな警策に打てる手は失くなってしまいます」

 

 あちらも決死の覚悟で挑んでいる。だからこそ、不測の事態に対処出来る状況を一つでも多く構築するはず。

 

「そして、一度警策と直接戦って分かりましたが、彼女は座して待つタイプではないでしょう。あの場に姿を現したのがその証明ですの」

 

 警策看取はどちらかというと行動的だ。それこそ、昼間に警策が表へ現れなければ、白井達は未だに彼女の素性を割ることが出来なかったかもしれないのだから。

 それが能力の性質のためなのか、彼女が持つ元来の気質なのかは不明だが、彼女が能力を行使するときには彼女自身も近くに居ると見て間違いない。

 

「警策は必ず近くにいるはずですの。でも、それが何処なのか……」

 

 目の付け所は悪くなかったはずだと考え、他の場所を頭の中に思い浮かべようと思考を回す最中、視界の隅に何かを見付ける。

 

「ん?……これは、タブレット……?」

 

 白井は足元に転がるタブレットを手に取った。まるで、思いっきり地面へ叩き付けたかのような液晶の壊れ方をしているのが不可思議ではあったが、それよりも気になることがある。

 

 未だにバッテリー残量がかなり残っているのだ。おそらく、一週間未満と見ていいだろう。

 

 では、誰がここにこのタブレットを捨てた可能性が高いのか。白井はこれが余りにも自分にとって都合の良い物だと気付く。

 

「まさか、ここに居た警策の私物……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひょっ、ひょっ、ひょっ、警策(こうざく)くんと敵対することになるとはとても残念だよ。でも、それも巡り合わせだ。心苦しいけど君を敵性勢力と認めようじゃないか」

 

『……よくもまあそんな上っ面なセリフをこの私の前で言えたモンだね。こっちはもうアンタのことをブチ殺すことも視野に入れてるんだけど、そこのところちゃんと理解してるわけ?』

 

 その憎悪が込められた言葉を聞いた幻生は笑みを浮かべる。

 

「なら心臓を正確に突かないとねぇ。狙いが右に大きくズレてしまっているじゃないか。液化人影に備え付けられた小型カメラでは狙いを絞ることは難しいかな?」

 

 液化人影(リキッドシャドウ)の槍と化した腕が通り過ぎた幻生の右胸は、反対側が見えるほどにくっきりと貫通していた。だが、それはおかしい。

 本来ならば傷口から溢れている血液で隙間など出来るはずがないのだから。

 

『流石に被験者だけじゃなく自身にも改造を加えるほどとは思ってなかったよ。この分じゃ心臓が元の位置にあるのかどうかなんて分かったもんじゃない。

 ……いや、それどころか心臓そのものを別の物に代替して、人間の仕組み自体を全く別の物に組み替えてる可能性もあるか』

 

 食蜂と幻生の間に割って入るようにして、ダクトの中から液化人影が地面に降り立った。息を整えた食蜂が水銀の人形に対して声をかける。

 

「もしかして、仲間割れなのかしらぁ?あの人間性で幻生に人望(りょく)があるとは思ってはなかったけど、随分と私に都合が良いタイミングで助かるわぁ。それで、あなたは私の味方になったってことでいいのね?」

 

『別にどっちでもいいよ今は幻生の敵ってだけだし。操祈ちゃんも殺しあってた人間から今から味方になりましたって言われて、素直に信じるほど弛い頭はしてないでしょ?お互い利用し合って不利益が出そうになったら手を切るお気楽な関係性がベストだよ』

 

「(信用出来ない人間とはいえ他に現状を打開する活路は無いわけだし、彼女の言う通り手を組んだ方が得策のようねぇ)」

 

 食蜂は手札を全て見破られ負ける寸前だったのだ。余力などあるはずもない。ここで彼女と協力関係にならねばどちらにしろ敗北するのは確定だ。

 

『幻生は操祈ちゃんの心理掌握(メンタルアウト)を手にしてるだろうけど、遠隔操作で液化人影を動かしている私には効力が及ばない。ぶっちゃけ私が敵になった時点でアンタ詰みでしょ?』

 

「いいえ、幻生は多才能力(マルチスキル)という能力で幾つもの能力を大人で在りながら使うことが出来る。単純な火力でもあなたの能力を超えていると思うわぁ」

 

『はあ!?何そのチート!?』

 

 食蜂としても同意見だがここであることに気付いた。

 

「あなたは幻生の多才能力を知らなかったようねぇ」

 

『幻生が協力者だからって私に手の内を見せるような奴に見える?学園都市の闇で生き抜いてきたんだから、情報の重要性を理解出来てないほど馬鹿じゃないってだけでしょ』

 

 それもそうか、と納得する。幻生の弱点の一つでも知っているかと思っていたが、この分ではそれも期待出来ないだろう。

 

「今の戦力差を私の類い稀な分析(りょく)で計算してみると、あなたが助っ人として割って入っても、頼りになるのかはちょっと微妙なラインで、言ってしまえば居ないよりかはマシってところねぇ」

 

『ねえー、操祈ちゃーん?私がここで手を切っちゃうと何も出来ずに幻生に負けるってこと本当に理解出来てるぅ?』

 

 一般的な女子中学生と比べ、遥かに劣る身体能力しか持たない食蜂操祈では、逃走したとしても直ぐに追い付かれるのは目に見えている。

 単純なスペックでは老体の幻生と()したる違いは無いだろうが、多才能力で障害物を物理的にカットすることが可能であり、千里眼で食蜂を常に捕捉することが出来る幻生相手に、脚力でどうこうするというのが土台無理な話だ。

 

「(無理難題もいいところよねぇ。私の手札は切り終えて頼みの綱の彼女の能力も勝ちの目は薄い。その彼女にしても絶対に私を守り通す義理もない、と)」

 

 となれば、食蜂の出来る行動などたかが知れている。

 

「おや、やはり逃げるかね?」

 

「当然でしょう?何の対抗手段も持ち合わせていない私は、あなたの手に落ちないよう逃げるしかないし、少なくともそれをし続ければあなたの予定を幾らか乱すことは出来る。

 彼女のお陰で私の息を整える時間も体力もある程度回復したし、またつまらない追いかけっこの時間よぉ」

 

 背を向けて走り出す。そんな彼女に当然の如く幻生が能力を使用しようとするが、そこに液化人影が手を槍にして割って入る。

 

 

『よく分かんないけど、操祈ちゃんがアンタに捕まらなければいいってことみたいだね。なら、トコトン邪魔させて貰うから』

 

「やれやれ、実験の観察が出来ないから手早く済ませたいんだがねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()、深く息を吐きながら走り続ける。

 

「はぁ……はぁ……私って結局のところこの施設を出れないのよねぇ。一般人の被害もそうだけど、幻生が保有している科学兵器を総動員して私を捕獲してきそうだしぃ」

 

 ここを出ても千里眼の能力を有している以上は何処に逃げても安心とは言えない。それこそ、建物の中だからこそ幻生はそう言った兵器を使わずに、多才能力(マルチスキル)で捕まえようとしているのではないかとすら思う。

 

「(何処に中継カメラや監視カメラがあるのか幻生も把握することは出来ない。だからこそ、無闇にそう言った兵器を飛ばすことが出来ずにいると見るべきかしら。

 だけど、街中に出れば何かで注意を引くような事をして、中継カメラを移動させるくらいのことはするでしょう。そうなれば、能力を無力化された私は幻生の有する多才能力と科学兵器の板挟み。……途中でどんな逃走手段を手に入れても詰みになる)」

 

 そして、幻生が望んでいるのは心理掌握を発動するために必要な食蜂の頭脳だ。それ以外にあの幻生が頓着するとは思えない。

 邪魔だと判断すれば手足を切り落とすくらいのことは平気でしそうである。

 

「この私の至高の肢体に傷を付けるなんて万死に値するわぁ。だから、科学兵器が出張ってくる可能性が高い外への脱出は却下。

 ……だから、協力者となった彼女に頼ってまたこの施設の中で追いかけっこを始めたんだけど、結局は先延ばしが精々ってところ」

 

 振動が足下から伝わってくる。突然現れ味方となった能力者と幻生が戦っているのだ。

 

「彼女も頑張ってはくれているみたいだけど……流石に分が悪い」

 

 遠くから破壊音や爆発音が聞こえているため、警策も出来ることはしてくれているようだが、協力者として幻生の側に居た警策の能力は、全て幻生に筒抜けだと考えていい。

 それに引き換え、警策は幻生の多才能力(マルチスキル)については何も知らないのだ。情報のアドバンテージに加え手札の多さも加わると、今の状況は彼女にとって最悪と言っても良い。

 

「このままだと何も出来ずにさっきの焼き増しになる。早く打開の策を講じないと……」

 

『──いやー、流石に無理じゃないアレ相手じゃ。スッゴくムカつくけど』

 

「!あなたどうしてここに……?」

 

 食蜂が声のする方に目を向ければ、そこには人の形をした水銀があった。天井のダクトから溢れるように現れるその姿を見て、食蜂は目を大きく開いた。

 

『いやー、失敗失敗。ご覧の通り私の液化人影を半分近く消し飛ばされたよ。ほら、壁をくり貫いてたヤツが直撃しちゃってね。生身だったら死んでたねあれは』

 

 その大きさは元の高校生程度のフォルムだったものが、一回り小さい小学生程度のものに縮んでいた。彼女が撤退したのもそのまま戦っていれば敗北すると悟ったからだろう。

 

『私の能力も物理的に消滅させられちゃうと、何も出来なくなるから打開の策としては弱いし、操祈ちゃんに限っては頼みの綱の能力が無力化されてるから、体力皆無の運動音痴でしかないし。

 うーん、ここはやっぱり逃げることを第一にした方がいいんじゃない?』

 

「だ……だだだ誰が運動音痴ですってえ!?今はずっと追い掛けられていたから体力が無いだけで、本来ならもっと余裕ですけどぉ!?」

 

『いや、さっき体力回復したって自分で言ったじゃん』

 

 顔が赤いのは酸欠からか、はたまた羞恥からか。そのことについて、指摘するのも面倒そうに彼女は食蜂に向けて声を飛ばす。

 今はとにかく時間が無いのだ。だからこそ、勿体ぶらずに警策は尋ねた。

 

 

 

『操祈ちゃん。今の状況を引っくり返すことは出来なくても、今の状況をより上手く先延ばしにする方法が、一つだけあるって言ったらどうする?』

 

「え?」

 

 

 

 食蜂が置かれている状況を全て理解出来てなくとも、ずっと幻生の側に居たのならば、あの老人が倫理感というものを微塵も理解せず、実験にしか興味を抱かないマッドサイエンティストなのは知っているはずだ。

 そして、科学の重鎮として絶大な権力を幻生が有してるのも当然分かっているだろう。それらを理解した上で彼女は今よりも幻生から逃げる可能性があると言っているのだろうか?

 

「……無関係の一般人が巻き込まれるリスクは?」

 

『そこを気にするとは意外と優しいね操祈ちゃん。まあ、それについては安心してよ。何も知らない一般人が巻き込まれる可能性は限り無く低いから。まあ、幻生の行動パターンが読めないから絶対に無いとは言いきれないんだけど』

 

「……」

 

 信用していいものかと悩むが、このまま食蜂が幻生の手に落ちれば、食蜂自身も学園都市も最悪の状況になるのは間違いない。現状では先延ばしもあと数分持つか持たないか。

 ならば、選択肢などあってないようなものだ。食蜂は深く溜め息を吐きながら呟いた。

 

「ハァー……、可能性が少しでもあるなら(すが)るしかないわよねぇ……」

 

 そうして、食蜂は警策の提案に了承した。ここで嫌疑を掛けて話し合いなどしても更に状況が悪化するだけ。何かしらの方法を食蜂が見出だせてない時点で、彼女に託すしか生き残る道はなかった。

 

『オーケー。じゃあ、準備をするよ』

 

 そう言うと、液化人影はガラス張りの窓に近付いて、剣の形にした手をそのまま振り下ろし切り裂いた。

 食蜂がその行動に唖然としていると、更にそのまま窓をくり貫くかのように大きな穴を開けたのだった。

 

『うーん、もう、そろそろだと思うんだけど……』

 

「え……ち、ちょっと何して……」

 

 余りにも突飛な行動に対しその理由を問い質そうとする食蜂の視界に、彼女が今世界で一番見たくない人間が現れる。

 

 

「うーん、まだこんなところに居ると言うことは、そろそろ諦めてくれたのかな?」

 

「幻生……!」

 

 

 笑みを浮かべる幻生に対し、恐怖を浮かべるようにして後ずさる食蜂。先ほどの攻撃と今の手札の無さを考えれば当然の反応だろう。今の彼女はまな板の鯉と言っても過言ではないのだから。

 だが、そんな彼女を守るように液化人影が前に出る。

 

『アンタなんかの思い通りになんてさせる訳ないでしょ』

 

「君に何が出来るんだい警策くん?液化人影の特性から出力まで僕は把握しているんだよ?それは先ほどの対峙で理解できただろうに」

 

 元が液体のために人体ではあり得ないタイミングでの攻撃も先読みされ、消化器を爆発させての目眩ましも千里眼で見破られ、天井や廊下を破壊しても風力使い(エアロシューター)などの能力で簡単に突破されてしまった。

 食蜂と同様に警策も幻生を打倒する方法が見付けられなかったのだ。だが、彼女は不敵に笑った。

 

「確かに、私にはアンタをブッ飛ばす算段は付けられないけど、吠え面かかせる事ぐらいは出来るっての!」

 

 そう言うと、液化人影が人の形を辞め一塊になって砲弾のように突っ込んだ。

 

 

 

 ───食蜂操祈の方に。

 

 

 

「なんとッ!?」

 

「………………え……?」

 

 幻生が目を見開いて、同じくして食蜂も目を剥いた。味方だと思っていた相手からの不意打ちなのだから唖然とするのも無理はない。

 警策は何でもないかのように告げた。

 

『そんなわけで命綱無しのバンジージャンプと洒落込もうか。操祈ちゃん』

 

 くり貫かれた窓ガラスから食蜂操祈の身体が宙に投げ出される。当然、食蜂操祈に空を飛ぶなどという芸当は出来ない。地面へそのまま吸い込まれていくかのように落ちていった。

 

 それを見た幻生は一瞬驚いたものの直ぐ様冷静になる。

 

「なるほど、それは想定してなかったよ」

 

 行動には驚いたが今更人が死ぬ程度のことは驚くに値しない。学園都市の闇で生きていれば見慣れた光景と言ってもいいだろう。

 

「ふむ、無知故の行動かな。まあ、心理掌握を相手に掛けられない食蜂くんが戦力として役に立つかは疑問ではあるがね」

 

 心理掌握を幻生の好きにさせないよう、能力の所有者である食蜂を始末したのかもしれないが、既に外装代脳(エクステリア)との脳波の調律は完了しているのだ。

 例え、大元の彼女を消しても心理掌握は未だ木原幻生の手の中にある。無駄な行動と言うしかない。

 

「リミッター解除コードの負担を僕から余所に移すために、子供の中から見繕って再び調律しなければいけなくなったから、この分の時間は取られてしまうだろう。これを踏まえれば、確かに無駄な行為とは言えないかもしれない」

 

 手間は掛かるが言ってしまえばそれだけだ。大局に影響は無い。

 だが、そこまで考えてあることに気付く。

 

 

 人が地面に叩き付けられた音がしない、と。

 

 

 幻生が急いで食蜂が落ちた場所から下を見れば、そこには一つの事実があった。

 

「……やれやれ、水銀の表情では先読みも上手くいかないのは当然だったかもしれないねぇ」

 

 人の表情や視線で相手の行動を予測する妖怪も、目が存在せず必要最低限の動きの変化しかない物体相手ではどうしようもない。相手にしてやられたことに対して何も感じない訳ではないが、今はそれよりも優先すべきことが彼にはあった。

 目を離し施設の中へ戻っていく幻生は屋上へと登って行く。天野倶佐利が生み出す事象を自らの目で観測するために。

 

 

 

 そして、そんな幻生が先ほどまで目を向けていた地面には、一滴の血すら在りはしない、ありふれたコンクリートの地面しかなかったのだった。

 

 

 




リアルが忙しいので更新するのが難しくなってます。これからは余裕が出来たときにまとめて書くことにします。


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133.素人の魔神

 天野倶佐利が人ではない何かに変貌しようとするその近くで、一塊になった少年少女達の輪の中から声が上がる。

 

「こんなモノで本当にどうにかなるわけッ!?アンタふざけてんじゃないでしょうね!?」

 

 御坂美琴が叫ぶ。その原因は突然現れた可笑しな風貌の男から渡された紙にあった。

 

「いやー、俺もこれでどうにかなるとは思えねえんだが……」

 

 それを見た削板も御坂と変わらず否定的な意見だ。この切羽詰まった状況の中で打開の策と言われたのだから、それ相応の物だと思っていて当然だろう。

 それがただの指示が書かれた紙であり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「大丈夫大丈夫。それは俺の()()を発動するのに必要な工程なんですたい。それさえ出来ればアイツを弱体化することなんて余裕だぜい。

 どっちかって言うと、俺としてはそれが第三位に出来るのかどうかが問題だにゃー。なんせ、あの状態の天野相手にそれをしなくちゃならないんだからな」

 

 土御門がそう言って目を向けるのは、周囲に炎や水などを生み出している天野倶佐利だ。

 

「どれもこれも出力は超能力者(レベル5)が生み出すものと同等かそれ以上。解析しての防御じゃ間に合わないから避けるか相殺するかの二択だ。それと並行してやらなくちゃいけねえんだからかなり厳しくなるだろうぜい」

 

 土御門は御坂美琴次第と言うが、当然彼女はその言い分に納得できない。能力者の中には何かしらの自己暗示によって能力を発動する者も確かに居るが、『土御門元春』なんて能力者は聞いたことがないからだ。

 そして、話を聞けば超能力者(レベル5)ですらないと言うではないか。超能力者(レベル5)の第三位と第七位が束になっても掠り傷一つ付けられない相手に、無名の能力者の能力が通用すると思えない。

 

「(もしかして、コイツ。自分の能力に酔ってるタイプの馬鹿なんじゃないの?ハァ……たまに居るのよねー自分の能力が他の人より珍しいとかなんとかの理由で、レベルが自分よりも高い能力者に挑んでくる身の程知らずって。

 そう言う奴に限って一芸しか持たない、使い勝手の悪い能力だったりするから始末に終えないし。コイツもきっと能力者っていう万能感に身を任せて、自己顕示欲を満たすために鉄火場にやって来たってところか。

 ……ダメね。話の信憑性もゼロだし、電撃で眠らせて適当な路地裏にでも押し込んどくか)」

 

 御坂美琴の前髪からバチバチッと電気が漏れだしたところで、彼女の隣の人物からアロハシャツの男に向かって声が発せられた。

 

「……土御門。本当にそれで先輩を助けることが出来るんだな?」

 

 土御門と唯一面識のある上条が尋ねる。それは疑念からではなく信頼から。伊達や酔狂で命を捨てる男ではないと、これまでの事で彼は知っていたのだ。

 だからこそ、確認の意味を込めて彼に真剣に言葉を投げ掛けた。

 

「未確定な事柄も含めると三割程度ってとこだな。……だが、これが成功したなら誰も死なず、天野の奴も正常に戻す事が出来る。──……さて、どうする?」

 

 可能性で言えば余りにも低い。だが、そんな最高な可能性が少しでもあるのならこの男は躊躇わない。

 

 

「分かった。それで先輩が救えるのならなんだってやってやる!」

 

 

 拳を握り力強く言い放つ。どれだけ困難で険しくても、皆が笑顔で帰れる未来が掴めるのならば迷いはしない。

 その言葉を聞いた世界最高の原石は快活に笑った。

 

「ははははっ!いいぜカミジョー俺も乗った!そっちの兄ちゃんのことは微塵も知らねえし話もよく分からねえが、俺はお前の根性は知っているからな!

 それに、もしものときはさっき言っていた俺の自爆技をやりゃあいいだけだ」

 

 開いた手の平に拳をぶつけながら彼は行動方針を固めた。背中を合わせて戦った戦友が信じるから自分も信じる、彼からすれば信じる理由などそれで充分なのだ。

 その様子を見たこの戦場で紅一点である彼女は、馬鹿二人を見ながら苛立ちのままに頭を掻いた。

 

「……あー、もう!アンタ達がいくら覚悟決めようが私がその作戦に加わらなきゃどうしようもないでしょうがッ!

 あと、別にそこの不審人物の話を信じた訳じゃないわよ。これが狂言だったりなんてしたら雷撃で撃ち抜く!」

 

 突然現れたことに加えて怪しい風貌に珍妙な指示書。それに加えて、軽薄な言葉遣いとくれば疑わしいことこの上ない。

 だが、どれだけ疑念を抱こうとも、有効な手段と呼べるものが他に無いのは事実だった。

 

「(このまま持久戦に持ち込んでも更に悪化していくと肌で感じる……。根拠なんて無いけどこのまま戦っていたら確実に詰みになる)」

 

 それは、彼女が幾度と越えてきた戦場から導き出した経験則か、はたまた遺伝子の奥深くに組み込まれた、生物が持つ生存本能からかは分からない。

 

 彼女の心境としては詐欺師に自ら進んで騙されに行くようなものだが、最終的に彼と唯一の関係がある上条の判断を信じて、彼女も土御門元春の策に加わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人の超能力者(レベル5)が変わり果てた天野と対峙しつつ、下準備をしていく様子を上条と土御門の二人は後方で待機しながら眺める。

 上条は異能を否定する右手しか持たないため、何かを生み出したり作り出すということには不向きであり、土御門も能力である肉体再生(オートリバース)は血管を繋ぎ合わせる程度しかない。

 もちろん、陰陽博士とまで言われた魔術サイドとしての土御門ならば、探知から攻撃まで幅広くこなすことは可能だが、能力開発を受けた現在では魔術を使う事に死ぬリスクがあるため多用は出来ない。

 そう言った理由から、準備が整うまでは二人とも待機となったのだ(御坂美琴は土御門から嘘を交えながらされたその話に一度キレた)。

 

「……上やん。ちょっといいか?」

 

「……?」

 

 土御門が隣に居る上条に話し掛けてくる。先程よりも真剣な声音に上条は眉を潜めた。

 

「天野の奴なんだが、どうやら魔神になろうとしているらしい」

 

「は……はあ!?な、なんで科学サイドの先輩が魔術サイドの存在になるって話になるんだよッ!?それに、インデックスの一〇万三〇〇〇冊の魔導書がなくちゃ魔神には成れないはずだろ!?」

 

「いや、別に一〇万三〇〇〇冊が必須条件って訳じゃない。あくまでも、それと同等の知識がなくちゃならないってだけだぜい。……そして、今重要なのはどうやってその知識を入手したかって事じゃなく、魔術を(ろく)に究めて無い人間が神になっちまうってことだ」

 

 土御門はその問題点を上条に分かりやすく一つ一つ説明していく。

 

「魔神って存在は文字通りの神様なんだよ。神様ってのは人に祝福を与えると共に様々な試練を人間に与えてきたものだが、それに付き合わされる方は堪ったものじゃない」

 

 大英雄ヘラクレス。

 彼は女神ヘラに存在を疎まれ、許しを得るために十二の試練を挑まされた。その無理難題をヘラクレスは挑戦し大英雄の栄誉が与えられるが、ヘラのせいで妻子を失った彼にとって、それが良いものだったのかどうかは本人にしか分からない。

 

「その上、アイツが得た神格は女神イシス。相性で言えば最悪も最悪だ。あのまま真の魔神になったらアイツは全世界から排除されるに相応しい敵になるぞ」

 

「先輩が科学サイドの人間だからってことか?戦争の火種としは充分だから……」

 

 科学サイドで生まれてはいけない存在だから、生け贄として抹消する。それは、科学サイドと魔術サイドの衝突が確実に起こり戦争となるから。

 上条とて魔術サイドの一端を知っているからこそ、それが見過ごせないのは既に理解している。

 土御門もそう言う意味合いで言っているのだと思っていたが、彼の口から出された言葉は上条の想像の上を行く。

 

 

「それもあるにはあるが、大前提として『魔神』へ天野がなったとしても、アイツには世界を壊すことしか絶対に出来ないんだよ」

 

「ッ!?」

 

 

 世界を壊す。それは、どういうことなのか?もしや、それこそが魔神の性質なのか?

 上条からしてみれば天野という少女がそんな存在になるなど、想像も付かない。

 

「魔神っていうのは世界を歪めて、自分の望むような世界へと丸ごと変えちまう程度のことは可能なんだ。分かりやすくその驚異を例えるなら核弾頭数億発を個人が持つようなものだな。その力が世界へ振るうことになれば世界はいとも簡単に終わっちまう」

 

 スケールがデカ過ぎて上条がその脅威を正しく認識するのは難しいが、それはつまり存在しているだけで危険だと世界から認識されると言うこと。

 

「エジプト神話全ての神の名を知る女神イシスは、全ての神の力を有していると伝えられている。

 女神イシスの伝承からしてこれだ。これだけでぶっ飛んだ神様だってことが分かると思うが、今回更に問題となるのが女神イシスが持つ称号だ。

 『魔術を司る神』と言う名が女神イシスで収まればいいが、もし世界各地で生まれた原初の魔術から最新の魔術まで、この世の全ての魔術が含まれるならば、一〇万三〇〇〇冊の魔導書を記憶する禁書目録であっても、その制御はまず不可能だろう」

 

「嘘だろ……?」

 

 それはもう、全ての知識を有していれば制御が出来るという範囲を優に超えていた。インデックスさえ多すぎて正常に扱うことが出来ない力。

 それもそのはず、魔術サイドが紡いできた歴史そのものが牙を向くのだから。

 

「魔神っていうのはそもそも魔術を究めて、神の領域まで辿り着いた奴らだ。だからこそ、その扱う魔術には傾向ってのがある。

 北欧魔術を究めたのなら北欧の魔神となり、アステカ魔術を究めたのならばアステカの魔神となるわけだ」

 

 一つのものを限界以上に究めるということは並大抵のことではない。他のものに目移りなどしていては達成など不可能に決まっている。

 

 だからこそ、『魔神イシス』は存在していなかった。『究めた魔術』がなければ魔神になることが出来ないにもかかわらず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 一つの魔術を生涯を掛けて究めても、魔神へと至る者はほんの一握りだというのに、全ての魔術を究めるなどどう考えても不可能だろう。

 

 ───しかし、その前提を全てひっくり返すことが出来るなら話は変わってくる。

 

「アイツはそもそも何かの魔術を限界まで究めて魔神になる訳じゃない。その時点で笑えないほどにふざけた話だが、もしそんなおかしな奴が魔神になっちまうと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なッ!?」

 

 魔術に触れたことが無いと言うことは、全てのパラメーターがゼロで一律だということ。

 魔術の研鑽で突出したものが無いために、魔神の条件である『究めた魔術』という項目が無理矢理天野に適応されたとするならば、この世全ての魔術が『究めた魔術』とされる。

 かなり暴論に近いがそもそも魔術を究めたことで人間の枠組みから乖離し、ただの人間が神様へとなってしまうのだから、重要視されるのは世界から見てではなく、その魔術師個人の能力によるものが正しい。

 

「そこにイシスの『魔術を司る神』という称号のブースト。……あり得ないがあり得る事態に為りかねない」

 

 これが、イシス以外の神格ならば、力を何一つ発揮できない神様が生まれた可能性があっただろう。しかし、イシスという女神は余りにも魔術との親和性が高過ぎた。

 

「世界に認められて魔神になるわけじゃない。力業で強引に神格をぶん取って世界に認めさせたのが魔神だ。『究めた魔術』が無いから魔術を発動できません、なんてのは楽観視もいいところだろう。

 もし、天野の『究めた魔術』として世界中の魔術が該当するなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………………………………………………………………………………………」

 

 つまり、世界を滅ぼす力を一つではなく複数。それも、世界中の魔術ともなれば一〇や二〇ではあり得ないだろう。上条が今まで戦ってきた魔術師達だけ見ても多種多様な魔術を用いて戦っていたのだから、魔術サイドが有する魔術の多さなど察して然るべきだ。

 それを、魔術サイドの力全てを一個人が所有し、誰にも届かないレベルで究めているとすれば、世界の全てから敵と見なされても仕方がない。

 

「……まあ、そうは言ったが、現実問題、魔術に関する知識も経験もアイツには無いことから、意識して魔術を自由に扱うことはまず不可能だろう。形だけ真似ても術理を理解してないんじゃ、正しく発動なんてしないのが魔術だ」

 

 その言葉に一縷の希望が生まれた。

 それこそ、天野倶佐利が魔術を学ばなければ、魔術が不発で終わるということだから。

 

「じ、じゃあ、先輩が世界の敵になることなんてないだろ?」

 

「……いや、だからこそ、ヤバいんだよ上やん」

 

 上条は土御門の言葉に希望を見出だすが、相手はあの魔神なのだ。常識なんて通用しない。

 

「本来の魔術では無反応として終わる不恰好な術式が、魔神の馬鹿げた出力で発動すると殺傷能力を持った魔術として現出しかねないんだ。

 本来の力から見れば百分の一や千分の一程度の出力でも、魔神がやればそれは劇的な変化だぞ」

 

 上条はその言葉にぎょっとする。それはつまり、科学サイドで言うところの、発動している能力が外から観測することができない無能力者(レベル0)の能力者が、大能力者(レベル4)超能力者(レベル5)の能力と同等の力まで跳ね上がることを意味していたのだから。

 

「で、でも、それだって先輩が魔術を学ばなければいいだけだろ?術理を理解してないと発動しないのが魔術だってお前が今言ったじゃねえか」

 

 その前提があるならば問題は無い筈だ。魔術が発動すれば災害並みの被害を出すとしても、それ事態が起こり得ないことならば考えるだけ無駄なことだ。

 それにもかかわらず、土御門の顔は優れない。彼は重い口を開けるかのように話し出す。

 

「最初期の魔術は今のような複雑なものじゃなかった。身振り手振りや特定の言葉、髪型の変化とかが主な物だ。上やんに昨日ステイルが教えた魔方陣の円もそれだな」

 

 上条は思い出す。

 最初期の魔方陣は円でしかなく、そこから円の効果を追加するためにソロモンやダビデの刻印を重ねて描いた、とあの不良神父は言っていたのだった。

 

「それぐらい簡素なものだったんだ。それこそ、碌に知識もない異国の子供が落書きで同一のものを描いてしまうほどに。

 だが、魔術を発動させるには必須条件である魔力の精製をしなければならず、魔術が世界の無作為に発動することはなかった。だが、相手はあの魔神だ。常に豊潤な魔力を精製していてもおかしくない。

 そして、さっきも言っただろう?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 上条はその言葉を聞いてぎょっとする。上条もここまで聞けば天野が魔神へとなることの脅威を認識できた。

 世界で生まれた簡単な原初の術式に常に精製される膨大な魔力、本来なら無反応で終わる魔術の過出力。それが意味することは一つ。

 

 

 

「アイツが無造作に身体を動かしたり、言葉を発したりするだけで、大天使が行うレベルの大魔術と同等の魔術が、無意識下で発動することになりかねないんだよ」

 

 

 

 なんだそれは、と上条は思う。一挙手一投足が世界を滅ぼす爆弾のスイッチになり得る、なんて冗談にもならない。

 

 例えば女神イシスへと至った天野倶佐利が、見掛けた人間に対して何気無く手を振り挨拶をしたとする。

 そこに世界の何処かで生まれた魔術と、どれか一つでも該当する記号があればその魔術が発動してしまう。それも、本来の数百、数千倍の威力で。

 

 そして、その対象となった人間がどうなるかなど、わざわざ説明する必要もない。

 

「手を握るだけ、目を開くだけ、言葉を発するだけ、一定の呼吸を繰り返すだけで世界に災いを及ぼし破壊する存在。そんな化物を許容できるほど世界は頑丈じゃないんだよ。

 悪意によるものですらなく無意識の行動一つで世界を壊しちまうなんてモンは、邪神なんかよりもよっぽど質が悪い」

 

 求める供物次第で考えを変える可能性がある邪神の方がまだマシと言う話だった。存在するだけで破壊を生み出すだけの神など、もうどうしようもない。

 世界の敵とされるのも極自然なことだ。人の意思が関わっていない以上それは人災ではなく、それはもはや天災そのものなのだから。排除して世界の安寧が保たれるならば打ち倒すのが正しい。

 

「(これは絶対に止めないといけない。こんな誰も幸せにならない結末は絶対にあっちゃいけない……ッ!)」

 

 上条の身体に緊張が走る。彼女と世界の行く末が背中に乗っているとなれば当然だろう。そんな上条の肩の力を抜くためか、土御門はいつものような軽薄な態度に戻る。

 

「いやー、今回ほど分の悪い作戦もそうそう無いぜい。なんたって、ほとんどが確証が無い推測なんだし。まあ、上やんからしたらそれが当たり前なのかもしれないけどにゃー」

 

「……いや、俺だって望んで未知の魔術師や能力者と戦いたいわけじゃないからな?前段階で知れるならそれに越したことはないし」

 

 その気遣いを理解した上条は彼に合わせ、いつもする日常での会話のように軽く言い返した。隣に並んだ彼等は小さく笑みを浮かべ歩き出す。

 

 彼等にはそれだけで充分だった。彼等が守るべきものなんてものは世界の行く末などではなく、きっとそんな当たり前な『日常』そのものなのだから。

 

「それじゃあ、配置に付いてくれ上やん。第三位に任せた下準備もそろそろ終わる。今からやることはスピード勝負だからにゃー。一秒の遅れも許されないぜい」

 

「ああ、分かってる」

 

 やることはいつもと変わらない。世界の命運がその背中に掛かっていようと上条が出来ることは右手を握り締めることだけなのだから。 

 一人の少女が誰かの勝手な都合や思惑で、世界の敵や天災なんてものにされる理不尽があっていい訳が無い。そして、それを止めることを咎められる筋合いも無い。

 

「………………」

 

 お(あつら)え向きにもこの右手には摩訶不思議な力が宿っている。上条には本来の使い道など知らない。正体も分からない。()()()()()()()()()()()宿()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()

 上条は不条理を生み出し続ける神様のシステムに対し、挑むかのように言葉を言い放った。

 

 

「先輩を魔神なんかにさせてたまるか!絶対に助け出すッ!!」

 

 

 一人の少女を救うために、下らない幻想を打ち砕け。




どうやって止めるのかはまた次回。

その次回は未定(結構先かも)。


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134.変貌した中身

この小説を書き始めた三周年記念です


『いやー、賭けの部分が大きかったけどなんとかなったねー』

 

「……そうねぇ。ちょっと納得(りょく)がいかないけどぉ、あなたの機転がなかったらあそこで終わっていたわぁ」

 

 元の居た施設から遠く離れたビルの屋上で食蜂は一息付いていた。あの状況から彼女は幻生の魔の手から見事逃れることに成功したのだ。

 もちろん、状況が好転したわけではないが、食蜂が捕まるという最悪の状況から脱することが出来たと考えれば、決して無駄な行動ではない。

 

「私達に与えられた時間は五分……いや、三分もあればいいところ。その間に打開の策を見付けることが出来なければゲームオーバー。幻生に通じる手札が一切無いこの状況で、それを見付けなくちゃならないってかなりの無茶よねぇ」

 

 負け戦。

 勝算が一切無い以上はそう言われても仕方がないだろう。だが、食蜂自身が狙われているため彼女には逃げることなど出来はしない。戦って勝つしか生き残る術は存在しないのだ。

 

 

「──それで、どう言うことなのか説明して頂けるのですよね?食蜂操祈?」

 

「ええ、それはもちろんよ白井さん」

 

 

 白井黒子。

 肩に腕章を付けた風紀委員(ジャッジメント)の一人にして、大能力者(レベル4)空間移動能力者(テレポーター)である彼女は、食蜂と同じく騒動に巻き込まれた超能力者(レベル5)の能力である、御坂美琴の()露払いをしていた少女。

 食蜂が助かった理屈は簡単だ。

 

『流石は風紀委員だねー。まさか、私が捨てたタブレットと同期しておいた、もう一つの端末のGPSをこんなに早く割り出すとは思ってなかったよ。

 操祈ちゃんを盾にした時間稼ぎも数分持てばいい方だったろうし、まさにグッドタイミングだね』

 

「分かり易過ぎて怪しいことこの上ありませんでしたが、来てみて正解でしたわね。空間移動(テレポート)した先で食蜂操祈が落下しているのを見たときは肝を冷やしましたけど」

 

 タブレットを拾った白井は第一七七支部へと一度帰還し、初春の解析力を駆使して同期した端末を特定したという訳だ。

 

『空間移動で五十メートルを一秒で移動出来るなら、時速換算で百八十キロ。日本じゃまず不可能な車のフルスロットルと同じ速度を出せることになる。これは、障害物の一切無い空中ならではだね。

 となると、タブレットを見付けたのが数十分前でも余裕で私に追い付けるでしょ?

 まあ、もちろんその同期した端末は液化人影(リキッドシャドウ)の中に入れたもので、本物の私は別のところに居るんだけど』

 

 小さくなった液化人影からにょきっと、端末機が現れる。

 

『タブレット捨てたときは一切の痕跡を消そうと思ったんだけどさ、相手はあの幻生だからねー。液化人影が通じない可能性ももちろんあったから、風紀委員を巻き込んで大騒動にしようと思ってさ。

 流石に、学園都市も風紀委員が幻生の手に落ちたらこれ以上の静観はしてられない。──間違いなく、学園都市総出で潰しに来るはずってね』

 

「つまり、わたくし達風紀委員を捨て駒にしようとしていたという訳ですのね。……本気でブチのめして欲しいようですわねこの野郎」

 

 警策のその言葉を聞き、こめかみに血管を浮き上がらせている少女を横目で見ながら、食蜂は思考を巡らす。

 

「(白井さんには悪いけど、心理掌握が幻生の手に渡った以上は私と特定の人間を除いた全ての人間が操り人形にされる予備軍。

 風紀委員という組織が幻生の手に落ちるのは避けるべき事態なんだろうけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 非情な策ではあるが、心理掌握はそれほどまでに凶悪なのだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ボタン一つであらゆる人間の人生を汚し尽くせる力は、所有者の人格にかなり大きく左右される。

 

「(心理掌握は私のような高潔な人間以外が扱えば、容易く地獄が生み出される。それが、あの木原幻生に渡った事実は白井さんが思うよりも大きい。

 それこそ、今の幻生を打倒する方法は学園都市が有する遠距離からの最先端科学兵器ぐらいじゃないかしら?心理掌握の間合いに入った時点で敗北なんだから当然だけど)」

 

 とはいえ、相手は科学の重鎮である木原幻生。果たして、彼にとって未知の兵器に該当する物がどれ程あるのかは疑問である。

 そんなことを思うが、それよりも先に彼女にはしなければならないことがある。

 

 

「言葉で説明している暇はないから、白井さんは今日二度目のレッツ!メンタルアウトだゾ☆」

 

 

 などと言いながら、御坂美琴に関する記憶を消しているため実はこれで三度目だったりするのだが。

 食蜂は白井に向けてテレビのリモコンのボタンを押すと、突然白井が頭を抑えて(うめ)いた。

 

「~~~~ッッ!情報がいきなり全部入力されるこの感じ、やはり違和感がとんでもないですわね……!」

 

「でも、今の危機的状況を完璧に理解してくれたでしょう?」

 

 幻生が心理掌握(メンタルアウト)を手に入れたことや、警策(こうざく)看取が協力者となったことを白井に一秒程度で全てを伝達したのだ。

 

「…………大まかなことは把握致しましたの。既に状況はマニュアル通りのやり方では通用しない崖っぷちの危機的状況。打開するために信用出来ないことを除けば、警策と協力関係となるのは悪くありません」

 

『おやぁ?てっきり私なんかと組むのはゴメンだーとか言うと思ったんだけど、意外と柔軟だねえ』

 

「わたくしとしても悪党と共に行動するのは勘弁願いたいですが、学園都市全域に被害が及ぶのならば、風紀委員としてそれをなんとしてでも止めなくてはなりませんので。

 ですが、大丈夫ですの?木原幻生の手に心理掌握が渡ったということは、同じくして心理掌握を有するあなた以外は変わらずに、能力の影響を受けるということ。

 自分で言うのもアレですが、空間移動能力者(テレポーター)が敵の手に渡るとなれば戦況が敵側に傾きかねないですわよ?」

 

 空間移動は十一次元の高度な演算が求められるが、それさえクリアしてしまえば一秒と掛からずに移動と攻撃が可能である、学園都市の能力者の中でも上位の能力だ。

 当然だが、大能力者(レベル4)の能力者である白井黒子が幻生の心理掌握に掛かればどうなるかなど、火を見るよりも明らかだろう。

 だからこそ、食蜂操祈が手を打たない訳がない。

 

「それは大丈夫よ。ここには絶対に幻生の心理掌握は届かない。それこそ、心理掌握のリミッターを解除してもね」

 

「?……どうしてですの?ここは元の居た場所からかなり離れてはいますが、あなたに送られた情報によれば未だにここは有効範囲内。それならば、ここはまだ危険地帯でしょう?」

 

 白井としては仮に幻生の心理掌握を受けても、本当の所有者である食蜂が持つ心理掌握でどうにか出来ると、あらかじめ情報を与えられているから冷静を保っていられるものの、出来ればここから早く離れたいと思うのは自然なことだった。

 しかし、食蜂は首を振って否定する。

 

 

 

「ここまで来れば大丈夫よ。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 彼女が前を向けばそこにあるのは変わり果てた彼女の友人と、二人の超能力者(レベル5)。そして彼女の想い人がそこに居た。

 

「心理掌握の発動パターンは二つ。相手の頭に向けて線状にするか、放射状に広げて多くの人間に伝えるか。

 私達を見失った幻生の取れる方法は放射状の能力発動だけだから、彼の右手を幻生の居る元居た場所の中間地点に置けば、心理掌握は打ち消されるわ」

 

『でも、幻生は多才能力(マルチスキル)で千里眼があるんじゃないの?操祈ちゃん達の場所も直ぐにバレて、ピンポイントで心理掌握を掛けられちゃうと思うんだけど』

 

 千里眼があったからこそ、幻生は食蜂を見失うことなく追い続けていたのだ。それを知る警策からすれば当然の疑問だろう。

 

「幻生の多才能力(マルチスキル)の原理は拉致をした子供の脳波を調律して、一つの演算装置としていることにある。だから、本来能力者ではない幻生も『能力者と全く同じ脳波を共有』しているからこそ、彼等の能力の噴出点として能力を使用できるのよ。……だけど、それにも限界はあるわ」

 

 食蜂は語る。

 多才能力の限界を。

 

「高位能力者は学園都市にとっても重要な存在。つまり、一個人へ簡単に渡せる存在じゃないのよ。となれば、能力は希少性が高いけど低位能力者しか幻生は手元に置くことが出来ないと見るべきでしょう?

 おそらく、元の千里眼の能力を持つ所有者の強度(レベル)は、無能力者(レベル0)弱能力者(レベル1)のどちらか。だからこそ、脳波の調律で能力の底上げを考えたんでしょうけど、超能力者(レベル5)までは間違いなく届いてない」

 

『じゃあ、拉致する子供の数を増やせばいいんじゃないの?演算をするための基盤を更に固めれば超能力者(レベル5)級の能力へ簡単に押し上げられるでしょ』

 

 警策の子供を拉致するという言葉に白井は忌避感を抱く。彼女としては幻生のその蛮行すら既に許しがたい悪行だ。だが、それと同時に白井は警策の推測が間違いだと知識で分かった。

 それこそ、あのときは彼女も騒動の中心に近付いた一人だったのだから。

 

 

「いいえ、それは不可能よ。(かつ)てそれをして木山春生(はるみ)は失敗をしているわ」

 

 

 木山春生。

 彼女のまた木原幻生によって人生を狂わされた一人だ。科学者の彼女が巡り巡って教師として面倒を見ることになった生徒達が、幻生の実験によって植物状態へと変えられてしまった。

 そんな彼女達を救うために学園都市に居る数万の能力者の脳波を一律にし、打開するための方法を探ったのだ。

 

 しかし、それは暴走し脳波で一つとなったAIM拡散力場が胎児の姿へと変貌しその後暴走。

 学園都市に甚大な被害を生み出す寸前に、御坂美琴の手によって真正面から打ち砕かれて騒動は終息したのだった。

 

「脳波を合わせる数を増やせば増やす程に、暴走するリスクが高まることに加えて、超能力者(レベル5)一人に片手間であしらわれることからそれ以下なのは明白。

 そのことから考えれば、幻生の多才能力はよくて強能力者(レベル3)程度でしょう。流石にその強度(レベル)でこの距離まで千里眼の目が届くわけがない」

 

 そのため、彼女達が警戒すべきは幻生が有する超能力ではなく、科学兵器一択なのだ。

 

「(とはいえ、この時間で何が私に出来るのか……)」

 

 彼女からしてみればこの安全地帯もいつまで保つのか分かったものではない。あの状態の天野が災害の如く暴れまくっているため、こちらにもその被害が飛んでこないとは限らないのだ。

 しかし、如何せん手が無い。

 あの場を離れることは九死に一生を得ることになったが、幻生の制限が失くなったことと同じ。状況は更に悪くなっていると言えよう。

 

「(リミッター解除コードを取られた以上は、いつでも私に負荷を掛けて能力を発動出来る。

 私の状態が見えないからって、うっかり私が耐えられる限界以上の負荷を与えて殺したりしないでしょうねあのジジイ……)」

 

 そこであることを思い出す。何故幻生が心理掌握とそのリミッター解除コードを狙っていたのかを。

 

「(……幻生は私の知らない未知の情報を数値に入れることで、天野さんから出力される『オカルト』を知りたがっていたけど、あれ程までに変わり果てた天野さんなら、私も何かしらの違和感を感じ取れたりするのかしら?)」

 

 今まで心理掌握を試しても虚空を切るかのように。あるいはそこに脳波がある人間が居ることを一切感じられない、それこそマネキンを相手にしているかのように感じられた天野倶佐利だが、今ならば『無』以外の情報が何かしら入手出来るのでは?

 

 それは、食蜂のちょっとした思い付きだ。だが、幻生と同じステージに立つには試しておいて損はないだろう。

 そんな軽い気持ちで食蜂は手元のリモコンを天野に向けてボタンを押した。その先は実に分かりやすい。

 

 

 

 

 どぼんっっ!!と音と共に、一気に水中へ食蜂は引き摺り込まれた。

 

 

 

 

「──きゃああッッ!?!?!?」

 

『操祈ちゃん!?』

 

「食蜂ッ!?」

 

 天野に向けて心理掌握を放った食蜂が弾かれたように尻もちを付く。それを見て何か食蜂の身に何かが起きたのかと案じた二人だったが、食蜂はそんな二人が目に入らないかのように呆然としながら呟いた。

 

()()()()()()()()今までみたいに素通りする感覚じゃない……」

 

 それはあり得ないことだった。幾度となく心理掌握を彼女に向けて使っていたからこそ、その違和感は顕著だった。

 

『どゆこと?倶佐利ちゃんには心理掌握は通じないって話でしょ?もしかして、あの状態になっちゃったことでその特別性が無くなったとか?』

 

 ズレていたものが横から衝撃を受けたことで正常になった。テレビを叩いて直すような物言いではあったが、警策としてはそれしか思い付かない。

 もし本当にそうならば、幻生の企みは自分の行いで全て潰れたことになる。いい気味だとほくそ笑みそうだ。

 

「ですが、それでその反応はおかしくありませんこと?(いささ)かオーバーリアクションが過ぎると思いますが」

 

 そうなのだ。食蜂からすれば心理掌握を人に掛けることは日常茶飯事。

 それが、今まで能力が通用しなかった相手に通じた程度で、()()()()()()()()()()退()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんな食蜂は震える唇をそのままに口を開く。

 

「……素通りはしてないけど引っ掛かる感覚がある訳じゃない……。まるで海に釣り糸を垂らした感覚はあるのに、魚にも岩礁にも当たる感覚が一切無い虚構みたいな掴み所が無い不思議な感覚……しかも、底が見えない深海のような果てしなさは何……?

 それに加えて、心理掌握をしたとたんに深海へ無理矢理引き摺り込まれたかのような圧迫感…………もしかして、天野さんの特異性が別のものに切り替わった……?」

 

 冷や汗を流しながら食蜂は言葉を紡ぐ。それは震える肩を掴みながら行うその言葉の羅列は少しでも頭の中の混乱を収めるための行動だった。天野の中身はそれほどまでに異質だったのだ。

 偽りの大海であるようで、同時に本物の生命そのもののような異質な感覚。あれが人間の中身だとはとても信じられない。

 

「(見え方が変わっただとかそんな話じゃない。あれは、構造からして全く違う。

 一から百まで既存の在り方から逸脱してる……あれが絶対能力者(レベル6)?あれこそが神様の頭脳?人間の脳を……いえ、中身をあんな風に作り変えるなんて正気じゃない……)」

 

 元々、まともな計画ではないと思っていたが、あんなものが備わっている人間などもはや人間と言っていいのか甚だ疑問だ。

 

 だが、これで分かった。

 分かってしまった。

 今の天野は限り無く危うい状態であると。

 

 

 

「何故かは分からないけど、今の天野さんに心理掌握は届いてしまう!このままだと、幻生の望む展開へとなるわ……ッ!」

 

 

 




◆作者の戯れ言◆
タグに関連作品もう書けないってばよ……。この話から明確なFate要素が入ってきます←申し訳ありませんまだまだ先でした!m(_ _)m
そのため、Fate要素が出てくるまで投稿します!


次回は未定


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135.魔神の領域

次の話からFate要素などと言っておきながら、見通しが甘くあと二話ほどかかってしまうのが現状です。「はあ?100話以上書いてきてその程度のことも分からんのかこの作者?」と、言われてしまうと何も言い返ません。
そのため、お詫びと致しまして今日から3日間連日投稿にして、Fate要素が出てくるところまで投稿し続けます。楽しんで貰えたら幸いです。


 それはまさに災害であった。

 地形を変えることが当たり前だと言わんばかりの大火力。その一つ一つが辺り一帯を瓦礫に変えるに充分な天災だ。

 

 だが、その理不尽な攻撃の数々をまとめて吹き飛ばす理不尽な男が居た。

 

「おおおおおおおおッ!──根性ォッッ!!!!」

 

 彼の一撃が天野から放出された猛威の(ことごと)くを粉砕していく。

 しかし、攻撃を防ぐ度に削板の身体は火傷や打撲が多くなっていた。あれほどの攻撃は彼であっても容易に相殺出来るものではなく、相殺し損ねた余波が彼を傷付けていたのだ。

 このままでは、誰が見ても長く保たないのは明白。しかし、この戦場には彼だけでなくもう一人超能力者が居る。

 

「く……っ!このッ!!」

 

 第三位である彼女は飛んでくる攻撃に対し、彼女の代名詞である超電磁砲(レールガン)や磁力で引き寄せた鉄材をぶつけて捌く。

 初めは彼女も能力の汎用性を用いて戦おうとしていたが、許容量越えの大出力と手数の多さを悟り、直ぐ様コインをポケットから取り出したのだった。

 

 自らの切り札をいち早く切らねば、このまま押し潰されると理解したために。

 

 そして、彼女は生死の懸かったこの戦場でもう一つの作業もこなしていた。土御門から渡された紙に描かれていた図形を、天野が立つ位置を把握しながら地面へ書き記していたのだ。

 だからこそ、削板は音速の高速移動で天野の攻撃を躱さずに、作業をする御坂を守るように攻撃と防御を繰り返したため、いつもより消耗が激しくなっていた。

 そのような攻防がこの先も続くかと思われたが、削板と同じくして戦場の最前線に居た御坂が突然声を上げる。

 

 

「───()()()()()()()()()()

 

 

 土御門の指示通りに図形を描き終えた彼女は、土御門へ睨み付けるようにして問い詰める。

 

「これで本当にどうにかなるんでしょうね!?」

 

「──この出来なら下準備としては上々だぜい。あとは、こっちでなんとかするにゃー」

 

 土御門は描かれた図形を見て御坂に言葉を返す。彼女は時間稼ぎをするため戦場に居る削板のところへ戻るが、果たしてどれだけ

出来るか。

 数分と経たずにボロボロになってしまった削板を見れば、今がどれだけギリギリの戦況なのかは言うまでもないだろう。

 

 あとは、彼の秘策に委ねられる───はずだった。

 

 

 

 

 目も眩むほどの閃光と共に、先ほどまで天野が発生させていた稲妻と同等の大きさのレーザーが、天野の身体に目掛けて降り注いだ。

 

 

 

 

「「「ぐあッッ!?!?」」」

 

 その極光の余波によって天野の近くに居た三人に衝撃が及んだ。

 距離が離れているにもかかわらず、肌がジリジリと火傷を負っていく。天から降り注ぐ閃光はそれほどの熱量を有していた。

 

「(アレイスターの野郎……!衛星兵器まで出しやがったな!!俺達ごと蒸発しても構わないってことか!!)」

 

 行う作戦の性質上、上条を比較的遠くに配置しているとはいえ、この科学兵器は殺傷能力が極めて高い。二人の超能力者(レベル5)の損失もあり得たことを踏まえれば、アレイスターが天野の殺害になりふり構っていないのが読み取れるだろう。

 

 とはいえ、アレイスターの完全な不意打ちによる攻撃は、これ以上無いほどのタイミングで決まったのもまた事実。

 どれだけ冷静さを奪われても流石はアレイスター=クロウリーと言ったところか。あの極光を受けて蒸発しない生物などあり得ない。

 

 しかしそれは、相手が『普通』であるという前提条件があればこそだ。

 

 

 

 ゴギリィッッ!!という、余りにもおかしな音が響き渡る。

 

 

 

 攻撃してきたものがレーザーであることから、何かを貫通する際に削るような音が鳴ることもあるだろう。

 しかし、この威力のレーザーならばあらゆるものは蒸発し貫くはずなのだ。熱線による空気を切り裂く音ならまだしも、このような鈍い音が鳴るなどあり得ない。

 だが、何よりもあり得ないのはその光景。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その異常な光景を目にした土御門はある可能性に行き着く。

 

「魔神の過出力による魔術……!?あるいは、魔神という存在の特異性か!?……天野の奴、既に魔神に成っていたのか!?」

 

 純粋な魔力によるゴリ押しによるものなのだとすれば、それは魔神になったということ。そして、魔神に通じる魔術は同じ様に魔神の領域に居る者しか生み出せない。

 つまり、土御門の天野を元に戻す案は水泡に帰したのだ。

 

「(……いや、待て。()()()()()()()()()()()()()()()()()魔神について誰よりも調べ尽くしているアイツが……?)」

 

 アレイスター=クロウリーの目的が土御門の知るところだとすると、魔神についても殺害対象のはずだ。それにもかかわらず、その前段階であるなりかけの状態の天野を殺し損ねるなどあり得るのだろうか?

 

「(確かに、奴の魔術が扱えない以上は純粋な科学兵器で攻撃しなくてはならないが、それにしてもこんな無駄撃ちをするか?未だに学園都市の『外』には魔術師達が控えているんだぞ?)」

 

 つまり、アレイスターには天野を仕留める確信があったということに他ならない。それこそ、今の一撃で天野俱佐利を粉砕できるのだと確かな確信が。

 

「つまり、天野はまだ魔神に至っていない……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 生命維持装置の巨大なビーカーの中で『人間』は沈黙していた。

 学園都市が有する兵器の中でも衛星兵器は上位の殺戮兵器である。それを、片手で受け止められてはアレイスターであっても打つ手がなくなるのだ。

 それこそ、再び科学兵器を持ち出せば学園都市中に知れ渡ることになり、大覇星祭というイベントで学園都市の『外』から来た生徒の親は、科学兵器を知ったことで学園都市から子供を連れ出すだろう。

 そうなれば、子供が八割の学園都市は致命的な損失を受け、この先運営していくことは不可能となる。

 その上、学園都市の『外』に居る魔術師達に、学園都市が有する科学兵器。その起死回生の一撃を封殺されたアレイスターの内心は推し量るに余りある。

 そんなハイリスクな手を打ち終えた『人間』は、その閉じられた重たい口を開く。

 

「……今の天野俱佐利は魔神の途上。つまり、『オッレルス』と同等の存在ということになる。あの魔神に成り損ねた男と規格が同じだとするならば、殺すことは出来なくとも負傷させなければおかしい」

 

 『オッレルス』。

 魔神に成り損ねた男。子猫を助けるためにまたとない機会を棒に振り、後悔し続ける魔術師が彼である。彼は魔神の領域に辿り着いた有数の魔術師ではあるが、それでも『魔神』ではない。

 

「オッレルスが扱う魔術である『北欧王座(フリズスキャルグ)』。あれは、伝承に登場する王座を強引に利用した術式だ。本来の王座に攻撃的な機能は備わっていないが、それを組み込むことでより一層『説明できないもの』へと昇華させている。

 威力も攻撃範囲も攻撃そのものの実態も、曖昧なまま定義しているがために防御も回避も不可能な魔術。あれならば、衛星兵器のレーザーを打ち消すことも可能だろう」

 

 それこそが、魔神の領域まで足を踏み込んだものの術式。それがオッレルスが特別視される要因の一つだ。

 

「天野俱佐利がそのような魔術を修めていないのは分かっている。魔神の領域まで上り詰めた者が、普通の攻撃で死ぬような性能はしていないだろうが、並みの魔術師が扱う魔術しか使用できない制約を課された上で、不意打ちで衛星兵器のレーザー照射ならば無傷とはいかない」

 

 魔神となっていないのならば、未だに魔神の過出力は有していないことになる。

 では、どうやってレーザーを『手で掴む』などとことが可能なのか。その理由を、世界最強の魔術師アレイスター=クロウリーは誰よりも先に理解する。

 

「───なるほど。『質』ではなく『量』か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのことに、戦場に居る土御門も気付いた。

 いや、『究めた魔術』が魔神が持つ最低限の資格なのだとすれば、この可能性に辿り着かなければならなかった。

 

「───まさかッ!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 土御門はその推測に唖然とする。もしそうだとすると、彼の想定を超えることになる。

 

「(……()()()()()()()()という動作があらゆる魔術体系の魔術と一致した……!?その対象が形無き物だろうが一切の関係無く、『掴み取る』という結果だけを魔術で引き寄せやがったのか……ッ!?)」

 

 常識では計れないメチャクチャな話ではあるが、その異常すぎる『質』と『量』を除けば、実を言うとそこまで異端なことをしているわけではない。

 違う文化圏から生まれ、異なる宗派で生まれた魔術同士の組み合わせで、より目的に沿った魔術へと昇華する。

 その行為を突き詰めれば現代の魔術師そのものではないか?

 

 魔術から遠い場所に居た素人が、現代の魔術サイドが行っている方法を究めた上で、魔術サイドの金字塔である『魔神』に至ろうとしている。

 現代魔術師達から見れば皮肉以外の何ものでもないだろう。

 

「(何も知らずに魔神に至る天野と魔術を究めた順当な魔神とでは、圧倒的な隔たりがあると思ったが、古今東西のあらゆる魔術を何の準備もいらずまとめて発動できるなら、()()次第では他の魔神と並んでもおかしくはない)」

 

 それは土御門の予想より最悪の事態に他ならない。それこそ、魔神の出力で魔術の底上げだけでなく、類似した動作や術式が世界中に存在する魔術が勝手に乗算し出力されてしまうのだから。

 

「手元に火を着ける程度のものなのか、それとも世界を壊す一撃か。本人さえ分からない完全なギャンブル。

 それに加え、自分の意思関係無く常にサイコロを振り続けるせいで、終わる条件が世界を壊し尽くす以外に存在しない!

 クソッ!デタラメがすぎるッ!ふざけるのも大概にしろ……!」

 

 魔術的な要素が複雑に組み合わされたものよりも、世界共通のシンプルな動きの方が火力が上がる。

 土御門は魔神という存在の『質』から天野が魔神となるリスクを計算したが、今行われたのは全くの逆。

 数多の魔術体系に存在する同じ動作や、類似したシチュエーションから発動する魔術を全て束ねた『物量』による魔術。

 天野は隙間があるなら数で押し潰せばいいという暴論をそのまま実現させたのだ。

 

「『掴み取る』動作なんて時代や文化が違う程度で変わるもんじゃない。子供染みた絵空事の実現が魔術なんてものが生まれた経緯でもあるからな。該当する範囲はとんでもなく広い。

 その魔術の『量』がレーザーなんて形無いものを無理矢理固定させ、掴み取るという事象を生み出している」

 

 土御門がそこまで話すと、レーザーが甲高い音を立てて氷のようにひび割れ砕けていく。その不可思議な光景はプロの魔術師である土御門であっても原理がまるで分からない。

 それこそ、空から打ち出されたものがレーザーなどではなく、氷の柱だったと言われても信じてしまいそうだ。

 

「……それにしても、これほど強引な手を切ったとなると、本格的に御大層な計画(プラン)が全て打ち砕かれかねない事態に陥ったようだなアレイスター」

 

 学園都市の直ぐ外側に魔術師が居るにもかかわらず、このような破壊兵器を表へと出すのは明らかに悪手だろう。安全地帯からいつでも攻撃出来ると証明しているのだから。

 このような強引な手段を取ったアレイスターが抱く、動揺と危機感を土御門は読み取った。

 

「(とはいえ、今の光景を見て魔術により引き起こされたものだと理解できる奴はまず居ないだろうがな)」

 

 今の光景が魔術によるものだと明言することが可能な魔術師はまず居ない。ホログラムを用いた学園都市の催しの一環だと、魔術サイドに納得させること自体は可能の範疇でもある。

 結果的に他の誰でもない天野倶佐利によって、学園都市は助けられたことになるのだ。

 尤もそれに対してあの『人間』が感謝することはないだろうが。

 

「今のレーザーは純粋な科学兵器か。まあ、アレイスターの魔術が少しでも混じっていればアイツは進化してしまうのだから、リスクの低さを考えれば当然だな。

 ……全く、天野が地面に到達する前にレーザーを握り潰さなかったら、御坂美琴の頑張りが無に帰るところだったぞ」

 

 その間の悪さや他人の行動を信じず自分勝手に行動することが、『失敗』に繋がっているのだと彼は毒を吐く。

 理由も詳しく話さない人間の案に、二人の超能力者(レベル5)が命を懸けて協力してくれる今の状況が、奇跡であると分かっていればその苛つきも当然だ。

 

「……邪魔が入ったがようやく天野の奴を元に戻す魔術を起動できる。よりにもよって『虚数学区・五行機関』なんてゲテモノに、魔術師として介入しなくちゃならなくなる日が来るとはな」

 

 首より上を夜空のような何かが覆う、人ならざる存在に変貌しようとする天野俱佐利を見据えて、土御門元春は覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───カチャカチャガシャシャシャ!と、頭の中で叩く音が鳴り続ける。

 

 ───くるりくるりと回りながら鳴り響く。

 

 ───そこに、確かな(ひず)みを浮き彫りにして。

 

 ───災厄はもう直ぐそこに。




最後の『首より上を夜空のような何かが覆う』の描写は、雷神御坂最終ver.をイメージしていただきたいです


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136.土御門の秘策

夏です。そして、今年のコミケはヤバそうです(主に型月で)

※この話は虚数学区・五行機関に対して、作者の独自解釈があります


 異音が途切れる事なく鳴り響く。

 

 ───カチャカチャガシャシャッ!

 

 その音を出している、()()とは一体何か。

 止めどなく動き続けているその理由は?何と連動して稼働しているのか?

 その理由に誰も気付けない。誰も分からない。

 

 ならば、誰も考え付くことすら出来ないことが原因なのか?

 

 科学と魔術の両方の世界を知る土御門元春でも、学園都市統括理事長にして大魔術師アレイスター=クロウリーでも、人外の視点と知識を有する聖守護天使エイワスでも、察知することすら出来ないのだとするならば、それは世界にとってどれほど異質なものなのだろうか。

 

 ならば、

 

 ならば、

 

 ならば、

 

 ───その()()が未だに表出してこないのは、この音があるからなのでは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そもそも、『虚数学区・五行機関』とは一体何か?それが、理解できない内はどうすることも出来ない。

 学園都市最大の禁忌とされながら、風斬氷華という存在しか表に出てきていない未だに謎が多いもの。

 だが、その名称から導き出せる推測が幾つかある。

 

「虚数学区はその名の通り虚数に存在していて、学園都市は街を学区で分けられている。要するに、実数空間に存在する俺達には目に見えない街、学区が虚数学区だ」

 

 それを分かりやすく説明するならば、『陽炎の街』を説明しなければならないだろう。

 能力者が無意識に発するAIM拡散力場によって形作られた、実数には存在しない虚数に存在している街こそが『陽炎の街』。

 だからこそ、常人には知覚することはもちろん認識することも出来ない。

 

 唯一、『陽炎の街』に存在することを許される風斬氷華は、彼女自身もAIM拡散力場から構成されているため、本質的には『陽炎の街』と変わりがない。

 それこそ、幻想殺し(イマジンブレイカー)を近付けさせ自我を芽生えさせるなどといった、凶行が行われなければ彼女が自意識を持つことも無かったのだから。

 

「だからこそ、この虚数学区に接続出来るのは虚数学区の鍵である風斬氷華だけのはずなんだが、何故か天野の奴はそれを扱っていやがる。

 何かしらのイレギュラーが起きたせいだろうが、ここを追求しても解決にはおそらくならない」

 

 虚数学区に関する知識をアレイスターより土御門が有していないのは明らかだし、そのアレイスターが風斬を使って虚数学区との接続を切らないことから、それをすることが不可能なのだと推察する。

 

「重要視するのは『陽炎の街』と呼ばれる人工的な『天界』を構築出来るほどの、A()I()M()()()()()()()()()()()()()()()()()()鹿()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 元々はエネルギーの塊でしかないものが、一つの街を形作るほどに濃縮された異界を生み出している。外に漏れたエネルギーが自然とそのような街を形作ることはあり得ない。

 何故ならば、能力者が無意識に発するAIM拡散力場が源のため、自然と形成するものは『発生源の能力者』となるはずだからだ。

 それにもかかわらず、AIM拡散力場が街を形作っているのは、明らかに外部の誰かから手を加えられた結果だ。

 

 そして、その下手人こそ学園都市統括理事長・アレイスター=クロウリーに他ならない。

 

「大魔術師、アレイスター=クロウリーが生み出した人工的な『天界』である以上は、必ず魔術的な要素が絡んでくる」

 

 しかし、土御門が確信を持って断言出来るのはここまでだった。これより先は土御門がスパイとして手に入れてきた情報は役に立たなくなる。

 何故ならば、『虚数学区・五行機関』の『虚数学区』の説明は、『虚数学区の鍵』である風斬の存在とアレイスターの証言から分析可能だったが、後半の『五行機関』については情報が一つも存在しない。

 土御門の情報収集能力を持ってしても、それ以上の詳しい情報を得ることは不可能だったのだ。

 

 しかし、彼とてプロの魔術師。少ない情報から魔術が抽出された出典を探るのは、魔術師にとって必要技能と言って良い。そんな彼が思い付く『五行』とは一体何か。

 

 

 

「──五行思想。古代中国から日本に伝えられ、万物は木・火・土・金・水の五種類の元素で成り立つという自然哲学だろう」

 

 

 

 日本の学園都市に根城があることから分かるように、アレイスターは西洋の魔術だけではなく東洋の魔術体系にも関心を抱いていた。

 ならば、東洋で生まれた魔術思想を利用することに、なんの疑問があるだろうか。

 

「五行は互いに影響を与え合い、その生滅盛衰によって天地万物が変化し循環するとされている。おそらく、アレイスターの奴はこの性質を利用して『虚数学区・五行機関』を生み出し維持しているのだろう。

 なら、これに介入できる魔術サイドの人間は陰陽道に通じていて、日本で更なる体系変化を加えられた五行思想に対しても造詣に深く、アレイスターが修めた西洋魔術にも詳しいこの俺を除いて他には誰もいないって訳だ」

 

 それは、選ばれた人間である聖人にも不可能だった。

 比較的日本の魔術に詳しい天草十字凄教の面々でも、実行することは可能かもしれないが成功させることはまず出来ないだろう。

 そして、その二つをクリアしている『女教皇(プリエステス)』、神裂火織でも結果は変わらない。

 

 (かつ)て陰陽博士の異名を持っていた土御門元春だからこそ、この危機を打開することが可能なのだ。

 土御門は御坂が焼いた巨大な図形をぐるりと廻りながら話していく。

 

「五行思想は生滅盛衰。つまり、五行のみで再生と消滅を繰り返し循環している。その五行は木・火・土・金・水に分類されるがそれだけじゃない。他にも様々なものに照応させているんだ」

 

 色紙で作った四つの動物を、一つ一つ特定の位置へ置き彼は歩きながら語る。

 

「例えば、木は青に。火は赤に。土は黄に。金は白に。水は黒、と言った具合に色と関連付けされて五行思想には組み込まれてるし、他には方位や五獣なども照応させている。

 なら、あとは簡単だ。俺が上やんの実家を吹き飛ばしたときに利用した、四獣と照応させた折り紙をそれぞれの星の角に配置してやればいい。

 木は青竜に。火は朱雀に。金は白虎に。水は玄武にな」

 

 御坂美琴と削板軍覇が天野とぶつかり合う。天野をその場から一歩として動かせてはいないが、土御門にとってはそちらの方が都合が良い。

 そして、今話した説明には一つ足りないところがある。

 

「となると、だ。『土』には麒麟と照応させた黄色の折り紙を配置するのが順当だが、今回に限って言えば必要ない。変わりとするモノはそこにあるからな」

 

 土御門は円の内側に描かれた星の中心で足を止めた。ここが終着点。そして、ここまできてようやく始まるのだ。

 陰陽博士と言われた魔術の天才が編み出したこの事態を打開するための一手。それが今ここに明かされる。

 

 

 

「お前を残りの五行思想の『土』に照応させ、天野の中に居るだろう超常の存在を呼び起こす。この五芒星の陣を生み出した最強の陰陽師、───安倍晴明の晴明桔梗を用いてな」

 

 

 

 星形の魔法陣。

 子供が思い付くようなシンプルなものだが、安倍晴明が考案したその術式は最強の陰陽術と言われるほどに完成している。

 そして、それこそが土御門の賭けだった。しかし、これは知識がなければ考え付くことさえできなかったはずだ。土御門自身は直接見たことが一切無いエルキドゥの存在を。

 だが、その情報を彼が知っているのはある意味当然であった。

 

「天野の奴と旅館『わだつみ』で別れた後に、イギリスに戻るねーちんから天野のことを聞いておいた。

 俺より先に天野の奴と魔術を介して遭遇したねーちんなら、俺の知らない情報の一つや二つは知っているかと思ったが、まさか大天使クラスの化け物が内側に居るのは予想外だったぜよ」

 

 土御門は神裂火織から既にその存在の情報を得ていたのだ。これから協力者となる人物の裏を取るのは、スパイとして当然の行為だと彼は認識している。

 そして、彼等は学園都市に探りを入れるように上から言われていたのだから、情報を共有し合うこと自体におかしなことは一つもない。

 

「まあ、ねーちんにはちっとばかし渋られたが、昔イギリスにやって来たときに世話してやったことを持ち出したら簡単にゲロってくれたぜい。

 情けは人のためならずとは良く言ったものだぜよ!わーはっはっはっは!」

 

 と、彼は言っているが、天野倶佐利という少女に対して少なからず感謝の念がある神裂が、昔の負い目があるとは言え考えもなしに土御門へ喋るはずもない。

 

 土御門の柔軟さを知っていた彼女からすれば、インデックス命のステイルや科学サイド滅ぼすべしと考える魔術師達よりかは、よっぽど信用できる人物だったに違いない。

 そして、科学サイドと魔術サイドのバランサーである土御門元春ならば、『天野倶佐利』という少女が科学と魔術の両サイドに、それぞれ致命傷を与え兼ねない途轍もなく厄介な爆弾だと、正確に理解してくれる確信が彼女にはあったのだ。

 

「ねーちんの話じゃ斬り合ったときに、地面へわざわざ触れていたらしいな。大天使を含めた超常の存在ってのは人を見下すものだろう。

 だが、地面に手を触れるってことは相手をする人間を自然と見上げることになる。それを、お前達は許容しないはずだ。なら、答えは絞られる」

 

 土御門は少ない情報からその答えを導いた。

 

 

「つまり、天野の中に居るその超常の存在は、『土』や『大地』に馴染み深い存在のはず。少なくとも地面に手を付くことに一切の拒絶感を抱かない、『土』の属性を色濃く宿しているのは間違いないだろう」

 

 

 一度だけであったが大天使である『神の力』と遭遇したことが、土御門の予測を裏付けている。あのような存在が地上に居る人間程度に侮られるなど、看過できない事態のはずなのだから。

 

「だが、結局のところ天野の中に居る存在に対して、断定することは最後の最後まで出来なかった。日本神話や伝承に語られる土と関係深い存在なんて山の数ほどいやがるからな。

 日本神話だけならともかく各地で語られる土地神なんかも含めると、そう言った存在を断定するのは難しい上に、今の天野は外国の神話である女神イシスの力を扱っている。

 情報を得ようにも得られたのはイシスの情報のみだった、なんてことになりかねない。

 ……いや、イシスのことから考えるとそもそも天野の中に居る存在も日本由来じゃない、他の国で語られる存在かもしれないな」

 

 御坂美琴の電熱で焼いた魔法陣に魔力を流し込み、魔術を起動させる。本来なら魔方陣にも魔術師の魔力を注がなくてはならないが、今回だけは例外だ。

 

「そして、今回俺が介入するのは『虚数学区・五行機関』。そして、虚数学区を世界に根付かせるためにアレイスターの野郎は世界中に一体何を配置したのか」

 

 それがなんなのか、それは既に語られていた。

 

 妹達(シスターズ)

 御坂美琴のDNAマップから造られた一万弱のクローンの少女達。世界各地の研究機関に預けられた彼女達はそのネットワークを通じて、『虚数学区・五行機関』を世界中に展開するための、アンテナとしての役割を当人達の自覚なしに与えられているのだ。

 

「『虚数学区・五行機関』は能力者が無自覚に発するAIM拡散力場の集積体。つまり、能力者が集まるこの学園都市ならどこにでも展開されているんだ。それこそ、目に見えないだけで。

 そして、アレイスターの奴が妹達(シスターズ)を、学園都市の『外』で虚数学区を展開するための、『界』を形成するためのアンテナとするなら、オリジナルである第三位はそこに居るだけで充分な触媒なり得る。

 それに加えて、そのオリジナル様の能力によって作られた魔法陣だ。何かしらのご利益ぐらいはあるだろう?」

 

 暴走する今の天野を相手にしつつ魔法陣を書くという荒業を、能力者となってしまった土御門には実行することが出来ない。だからこそ、学園都市第三位である彼女に頼んだのだ。

 本来ならば術者である彼自身で魔法陣を書いた方がより効果が望めるが、それを実行していれば土御門は途中で力尽きていたことだろう。

 

「それに、今回の騒動は御坂美琴にミサカネットワークを繋げて呼び込んだのが発端のようだし、ラインの形成としては充分に機能する可能性がある。まあ、それだけじゃちっとばかし弱いから必要最低限の行程はこっちでもやるしな」

 

 そう言うと、土御門の雰囲気が変わる。これより行うのは文字通り命懸けの大博打。

 失敗すれば世界の破滅。成功したとしても土御門は死んでしまうかもしれない。このハイリスクな賭けに土御門は挑む。

 少年は不敵な笑みを浮かべながら呟いた。

 

 

 

「ここで俺が神頼みをするとしたらその対象はお前か?それじゃあ、大した御利益は無さそうだにゃー。

 なら、命を懸けた鉄火場で思い出すのは最愛の妹だと古来から相場が決まってるし、ここはやっぱりラブリーエンジェル舞夏に祈りを捧げるとするか」

 

 

 




◆作者の戯れ言◆
主人公がまるで土御門みたい(小並感)


それと、にじさんじと禁書がYouTubeでコラボしていて、「えっ!?」って声出して驚いたわ……


驚きましたわー!!(唐突)


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137.重なる五芒星

ようやくのFate要素です

135話と136話、137話を一緒にしてしまうと、二万字近くになってしまうので流石に分けました。見にくいにもほどがありますので

Fate要素はここから席巻します


「───場ヲ区切ル事(それではみなさん)紙ノ吹雪ヲ用イ現世ノ穢レ(タネもシカケもあるマ)ヲ祓エ清メ禊ヲ通シ場ヲ制定(ジックをごたんのうあれ)

 

 土御門は懐からフィルムケースを五つ取り出し、フタを開けて中身を全てばら撒く。この空間に力を満たし掌握する。

 一センチ四方の四角い紙片が舞い落ちる中で彼は言葉を発していく。

 

「───界ヲ結ブ事(ほんじつのステージはこちら)五方ヲ固メ五封ヲ配シ至宝ヲ得ン(まずはメンドクセエしたごしらえから)

 

 その瞬間、空気が明確に変わる。それこそ、取り巻く法則が全く変質してしまったかのように、レールが違うものへと変わったのだ。その中心点に居る彼は、星形の角に位置したままの天野に向けて視線を向ける。

 今から行う魔術は陰陽博士である土御門であっても成功するかどうか、最後まで確信が持てなかった。

 

 だが、そんな理由で止まるわけにはいかない。

 

 彼には守りたいものがある。第一はもちろん妹の舞夏ではあるが学園都市での生活も彼は気に入っていたのだ。

 通う学校では上条や青髪と共に馬鹿騒ぎして問題を起こし、クラス委員長である吹寄に叱られる、そんなありふれた普通の学生生活は魔術の世界で生きてきた彼からすれば得難い幸福だった。

 だから、それを守る。そんな何気ない毎日を硝煙の香りや鉄臭い血の匂いで汚さないために。

 

 表の世界を裏の世界が侵させないために、彼は命を懸ける。

 

 彼が今から行う詠唱は今まで慣れしんだ陰陽術の詠唱ではない。陰陽五行説を用いてバランスを崩すために、土御門が新たに構築した詠唱だ。

 今あるバランスを崩し、天野倶佐利を神から人へと叩き落とす。そのために、彼の知識と経験と技術と直感、その全てを集約させた魔術が科学の街で起動する───ッ!

 

 

 

「───告げる」

 

 

 

 それは、違和感を抱く光景だった。

 

「───我、陰陽の祖、安倍晴明の血筋を引く土御門家に連なる者也」

 

 土御門が厳かに詠唱する。

 しかし、彼が魔術を使う状況に出くわした者ならばそのことに違和感を抱くことだろう。嘗て、陰陽博士と呼ばれていた彼は魔術の詠唱を独自のものに変換する癖がある。

 それは、単純な技術の高さによるものだからだが、不良陰陽師となじられるくらいには通例を無視したものだ。だからこそ、彼が手を合わせ真っ当に詠唱を唱えることに違和感を抱く者もいることだろう。

 

 だが、考えてみればそれは当然のことだ。

 

 アレイスターが運用しているのが五行思想だけではない。それが、西洋魔術なのか科学の理論なのかは分からないが、何かしらのエッセンスを他所より取り入れているのは間違い無い。

 それを分かっていながら詠唱の簡略化や変換を行い、成功への可能性を低くするほど彼は愚かではなかった。

 

「───晴明公が生み出せし五行の理を五芒星の陣に照応させた晴明桔梗を用いて、我は世の理に干渉せん」

 

 陣の輝きが強まる。

 陰陽道は五行思想を組み合わすことで陰陽五行説を生み出し、その後の陰陽道の基盤となった。

 図形の黄金率と一筆書きが出来ることから魔が入る隙がないとされ、最強の覇魔の陰陽術として日本各地に広まった経緯がある。

 全ては希代の天才陰陽師である安倍晴明の手によって。

 

「───陣の内方に力を満たし、外界からの力を閉じよ。先に送らせし力を破却し、王冠より王国へ向かう道は今ここに形成される」

 

 出力され続ける『虚数学区・五行機関』を閉じ、アレイスター=クロウリーが提唱したテレマ思想の根幹である、カバラの樹とも照応させた詠唱。

 意図せず土御門はその文言を詠唱に組み込んだが、それは別世界に存在するとある詠唱と酷似していた。

 

 そして、それはまるでしっぺ返しのように起きる。

 

「───ガハッ!!ゴボ……ッ!!」

 

「ち、ちょっと、アンタ!何で吐血しているのよッ!?」

 

 それは、分かりきったことだった。『能力者は魔術を使用できない』という制約が土御門を襲ったのだ。

 身体中の血管が破裂し大量の血が流れていく。その悲惨さは土御門に対して疑心を抱いていた御坂が躊躇なく心配するほどだ。

 そのことを全て承知で実行した彼は、御坂から向けられる心配の一切を無視して魔法陣に集中する。

 チャンスは一度しか彼に与えられていない。

 

 それを誰よりも自覚している彼は歯を食い縛り最後の詠唱を唱えた。

 

 

 

「───汝、偉大なる我が祖が生み出した陣と我が呼び声に応えるならば、円環と五芒星より現れよ───ッ!」

 

 

 

 五芒星の陣が更に輝きを増す。今起きている戦闘を見ればいつ吹き飛んでもおかしくない程度の光かもしれないが、その輝きこそが最後の希望なのだ。

 その中で土御門は自身の身体に流れる命の源が、一秒ごとに流れ落ちるのを感じていた。視界がぼやけ焦点が合わなくなり、直ぐにでも意識が暗闇の中に落ちそうになるのをぐっと精神力で捩じ伏せる。

 

「づッ…………天野の中に居る存在について断定は出来ない。……だが、どの神話体系でもそれを信仰する宗教は必ず存在している。そして、宗教と魔術は切っても切り離せない関係性にあるもんだ」

 

 神話の中で魔術を扱う者達を魔女として排斥することもあれば、巫女や司祭として祭り上げることもある。

 容認するか淘汰するのかの違いはあれど、どの神話や伝承でも人が魔術を使用しているのはよくあることだ。

 

「御坂美琴は虚数学区へ干渉するための触媒として。五行思想は天野に『土』の属性を付与し、中に居る存在の性質を際立たせるため。

 ここまではどうにか揃えたが……まあ、どう考えてもこれだけじゃあ及第点にも届かない机上の空論だろう。大事なものが欠けすぎている」

 

 大部分が土御門の推測で成り立ってはいるが、それでも限界がある。虚数学区という『界』を擬似的に生み出し、天野の中に居る存在が『土』に該当する性質を持っているとしてもまだ足りない。

 それこそ、『土』の性質のみを隆起させればその存在の意識は帰らず、エネルギーだけがこちら側に表出する可能性がある。

 

 その影響は(まさ)しく大災害に他ならない。

 

「……それが地震ならまだどうにでもなる。俺の最悪の想定としては日本中の火山が噴火する大災害などに見舞われる可能性。

 地震については日本の科学力なら被害を最小に抑えられても、火山についてはモデルケースが余りにも少ない。

 富士山を含めた日本各地に存在する山々が前兆も無しに一斉に噴火すれば、日本は間違いなく終わっちまう」

 

 大天使クラスのエネルギーとはそれほどまでに強大だ。地形が変わる程度なら運が良い部類だろう。最悪は地球そのものの環境が変質してしまうことも容易にあり得るのだ。

 それこそ、人間を含めた全ての生命体が住めなくなる、死の星へと変わってもおかしくはないだろう。

 

「……だから、必要なのは魔術的な歴史だ。天野の奴が身体の内側に住まわせている存在が魔術サイドの存在なのだと定義する楔。五行思想はあくまでも思想に過ぎないんだか…………ら……」

 

 そこまで言うと、土御門はバシャッと水音を立てて血溜まりの中へと倒れた。能力者となった彼が魔術を行使すれば重傷になるのは避けられない。

 その事を誰よりも知っていた彼は、血溜まりの中に沈みながらも苦痛の中で希望を見いだし続ける。

 

「ゴホッ!ガハ……ッ!…………だ……だが、もしも天野の中に居る存在が日本由来の存在じゃないとするなら、陰陽術ではその楔には為り得ない……天野の中に居る存在と関連する魔術が、この術式を成功させるための最後のピース……。

 『虚数学区・五行機関』自体は学園都市で生み出されたものだから、このままじゃ魔術よりも科学に寄った何かが出てきちまうことだろう。

 それが、天野の中に居る存在と関連してるならまだしも、ねーちんの話じゃ魔術サイドの存在に違いないって話だし、この状態で呼び込むには希望的観測がすぎる……」

 

 だが、先ほども述べていたように天野の中に居る存在について、土御門は答えどころかヒントすら掴めていない。この状況でその存在が登場する神話や伝承から、当時の人々が抽出した魔術を特定することなど不可能だ。

 だからこそ、神話、伝承に寄り添うように発展してきた魔術の中で、特定の時代や文化、物語に結び付かないニュートラルなものが求められる。

 

 科学で形成された『界』と、陰陽五行説から生まれた晴明桔梗による『土』の属性と『日本の陰陽術』。

 天野の身体がエルキドゥの触媒なりえるのだが、他の色が強すぎるのも確かだった。

 エルキドゥを知る者からすれば前二つは該当しているが、この場合『陰陽術』という点が(いささ)か強調されすぎている。

 これを大きく塗り替えるには、それこそエルキドゥが登場する『ギルガメッシュ叙事詩』と共に、当時の人々が生み出した魔術が必要となるだろう。

 

 しかし、土御門はそれを導くことが出来ない。情報が余りにも不足している。

 

「……その上、シンプルな魔術であればあるほど、少しの違いが決定的な違いになってくる。それこそ、魔法陣の数を増やして魔術を発動したとしても、力が分散して効果が出にくくなるもんだ。

 ───つまり、この場合ピンポイントで関連する魔術を探り当て、術式を発動しなきゃならない」

 

 今の状況を知る者ならば、誰もが絶望的と判断することだろう。

 

 そして、最悪な要因はまだまだ存在している。

 十字教は『神の子』が現れる以前の宗教を否定している。これが権威を十字教に一点集中させるためなのか、はたまた他の理由からなのかは不明だが、エルキドゥは『神の子』が現れる以前の存在だ。

 当然、十字教以前の魔術は歴史から抹消されていることがほとんどのため、古代メソポタミアの魔術が時代を超えて渡り受け継がれたとしても、大部分が抹消されている可能性が高い。

 更に、土御門は日本の陰陽師。隠蔽された他国の魔術知識など有しているわけもない。

 だからこそ、土御門にはどうすることもできないはずだが、彼には立った一つの光明が見えていた。

 

「……だが、()()()()()()だけは例外だ。その魔法陣に限って言えば時代、土地、文明の差が一切関係なく何処にでも存在していた」

 

 何処の時代でも文化形体でも必ず生まれていたとされる魔法陣。時代が違えば人の在り方が違い、文化が違えば思想が異なる。

 それにもかかわらず、共通して描かれていたその魔法陣は、諸外国だけではなく日本にも同じくして生まれ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 土御門は自らを中心として展開される魔法陣を意識しながら、それを言葉にする。

 

 

 

「……五芒星の魔法陣。つまりは、星形の陣だよ。円の中に星形を描いてそこに魔術的な意味を見い出だすのは、どの時代もどこの国でもそうだった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ……他でもない世界最古の文明で生まれているのなら、該当しない魔術体系を探す方が難しいだろう?」

 

 

 

 要するに、『世界各地に該当する魔法陣』ならば、『日本の陰陽術』という小さな枠組みから外すことができるという訳だ。

 いや、正確には枠組みを日本という島国から世界全土へと、拡張することが可能になる、といった方が正しいのだろう。

 最強の陰陽術と言っても、ベースとなっているのは世界中でありふれた星形の魔方陣。基盤となっている魔方陣自体に手を加えられている訳ではないため、新たに何かをする必要はない。

 西洋魔術の要素を詠唱に取り入れることで、東洋の魔術要素を相殺する必要性はあるが、五芒星の魔法陣である『晴明桔梗』自体に土御門は直接手を加える必要は無い。

 

「(というか、こればかりはラッキーだった。『晴明桔梗』は安倍晴明が編み出しただけあって一分の隙もなく完成されている。

 これはつまり、魔術の基礎である必要ならば他の文化圏の魔術と組み合わせるってのが出来ない術であるということ。

 もし、世界各地で最も多く生み出された魔法陣が五芒星の陣じゃなかったら、打つ手がなかったぞ)」

 

 もし、最古に存在した文明が生み出した魔法陣が、星形の魔法陣ではなかったらこうはならなかったかもしれない。

 仮に五芒星ではなく六芒星が最初に生み出され、世界各地に広まっていたとするならば、命懸けのこの魔術は全てご破算だったのだから。

 

「(………………いや、無駄な仮定だ。この俺がこんな無意味な想定をするとはな…………そろそろ血が脳に回らなくなってきたってことか)」

 

 誰が見ても瀕死の重傷を負っている彼は、今にも閉じられそうな目蓋を懸命に開けて前を向く。

 

「(『虚数学区・五行機関』は閉じた。科学や陰陽道と言った色を最古の魔法陣である星形の魔法陣で打ち消して、科学と切り離した『魔術』と『土』の属性、天野の『身体』という触媒。

 これで、混じりけ無い召喚術式として起動できるはずだ……だが、それが俺の呼び声に反応するかは別の話……)」

 

 いくら主が危機的状況でも、碌に知らない人間の言うことを聞くかはまた話が違ってくる。中にはプライドを優先して主共々死に行く者もいることだろう。

 

 だからこそ、土御門に出来るのは頼ることだけだ。

 

 歯を砕き割るほどに食い縛ったあと、土御門は吠えるように声を出した。

 

「ッ……今の俺には魔術を持続させることすら難しい。だから、今の数秒で突破口を見付けやがれ!

 お前が本当に天野を大切としているなら、他人の思惑で神に祭り上げられそうな()をそこから解放してみせろ……ッ!」

 

 未確定な存在に作戦の命運を賭ける。土御門らしからぬ無謀な賭けとなったが、今ここに居る人材を鑑みた中でこれ以上の案は存在しない。

 信用はなく、信頼もなく、本当に存在しているのかも未だ不明。

 裏取りができていない他人の情報に命を懸けるなど、本音を言えば死んでも御免なのが彼の本音だ。

 禁書目録も神裂火織も他ならぬ本人自身が、それぞれ推察に明確な確信が持てない時点で最悪も最悪。

 

 だが、彼女達もプロの魔術師だった。インデックスの魔導図書館としての知識が、神裂の一騎当千の戦闘員としての経験則が、確かな答えへと無事に土御門を連れていったのだ。

 だからこそ、この結末は必然だったのだろう。

 

 

 ドンッッ!!と、いう重い音と共に、曇天の空から稲光と共に雷が落ちた。

 

 

 だが、その場に居たものは眉を潜める。雷というものはこのような音を出すものだったか?

 それこそ、電気使い(エレクトロマスター)である御坂美琴。電気を常日頃から扱う彼女は、今のが雷なのか確信を持てなかった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして、それは正しい。今の現象は物理法則から外れた魔術によるものなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雷光によって焼かれた視力が再び戻ってくる。そして、雷が落ちた先には人影が佇んでいた。その容姿を見て彼らは息を呑む。

 

 その者は美しかった。

 白いローブから覗かせるその手足は引き締まった男のようにも見え、その流れる長髪や顔立ちは女のようにも見える。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 遥か彼方。遥か昔。人類の歩みに寄り添った兵器が、本来の姿で再び地上に降臨したのだ。長い睫毛を開き翡翠の双眸で周囲を眺めたエルキドゥは、喚ばれた理由を直ぐ様看破する。

 

「───どうやら、優秀な魔術師がこの世界にも居るようだね。異世界の魔術と類似したものを編み出し、聖杯そのものに干渉する。碌な知識も無いだろうに実現出来るなんて驚いたよ」

 

「………………お前は?」

 

「マスター……天野俱佐利の中に居る兵器と言ったら分かるかな?おそらく、君が僕を喚んだんだろう?」

 

 そう言うと、『彼/彼女』は土御門に触れた。すると、土御門の傷が全て塞がり瀕死の状態から全快したのだ。

 それには、土御門も驚愕の表情を浮かべていたが、その者はそれをなんでもないかのように別の方へ視線を移す。

 

 その者は人に非ず。

 それは神々が造りし意思を持つ神造兵装にして、神に反逆せし『天の楔』を天へと連れ戻す役目を与えられた『天の鎖』。

 最古の人類史に語られる『彼/彼女』を、(のち)の人々はこう呼称する。

 

 

 

英雄 エルキドゥ

 

 

 

 そんなエルキドゥに向けて二人の超能力者(レベル5)が声を上げる。

 

「な、何!?何が起きてんのよ!なんか話の流れに着いて行けてないんだけど!!」

 

「おいおい、天野のヤツが二人も居やがるぞ?なんだ、アイツ双子だったのか?」

 

「ぬがああああッッ!ツッコミが出来ねえ!!間違いなく違うだろうけど、私もそれが断言出来るほど状況を理解出来てないし!!

 あの馬鹿も私に必要最低限の説明ぐらいしやがれつーか私のポジションいつからこんな微妙な感じになってんのよッ!?!?」

 

 状況が理解出来ていない二人を置き去りに、エルキドゥは坦々と語る。

 

「僕は君に喚ばれはしたけど君のサーヴァントになったわけじゃない。あくまでも、限定的なものだと理解して欲しい」

 

「サーヴァント……?」

 

「本来なら召喚者のサーヴァントとなるのが自然なんだけど、君の(いびつ)な魔法陣で…………いや、どちらかと言えばこれはマスターの中にある物が原因のようだね。

 こうして、僕がマスターの身体の中から出てこれたのもその恩恵が大きい。とはいえ、君の魔法陣があるから僕はこうして現界出来ているんだけどね。

 つまりは、今回は特例中の特例ということさ。もし、()()が無ければこうして表に出て来ることも出来なかっただろうから、力の一端を表出させることが限界だったかな。

 とはいえ、僕がこの魔法陣から出るとまたマスターの中へ戻るようだ。どうやら、こうしてマスターと離れて稼働出来るのも少しだけのようだ」

 

 土御門は目の前の存在が何を言っているか、ほとんど理解出来ていないが自分の決死の作戦が上手くいったことは分かった。

 

「君から魔力を吸うとそのまま死んでしまいそうだから、大気から力を分けて貰うしかない。そうなると、物量で押す戦法は取れそうにないかな。

 ───うん、ならやっぱりこれだね」

 

 そう言うとエルキドゥが手を前に伸ばす。その心意は直ぐに明らかとなる。

 

 

 

 

 ジャララララッッ!!と、金属音が響き渡る。その鎖は次々に魔神に至ろうとしていた天野を縛り付けていく。

 

 

 

 

「───なんだこれはッッ!?

 

 あれほど暴れていた天野がピタリと動けなくなる。鎖がギシギシと擦れ軋む音はするが砕ける様子はない。

 その光景は土御門としても予想外だ。

 

「(動きを阻害してくれれば御の字だったが、まさか完全に動きを封殺するとは……。コイツは魔神と同等かそれ以上の性能なのか……?)」

 

 魔神に対してあのような拘束具とも言えない鎖など、直ぐ様破壊されそうだが一向に壊れる様子はない。

 天の鎖は拘束に関して言えば、神性の者に対して圧倒的なアドバンテージを取れる。そのことを知らない土御門がその結論を導いてしまうのは仕方無いだろう。

 

 様々なイレギュラーが重なったが、こうして最終段階までやり通した。土御門は疲労を隠すために胡座へ組み直して前を見る。

 

 これで残るは最後の仕上げ。土御門の合図と共に天野の背後に向かって人影が砲弾のように駆け抜けた。

 

 上条当麻。

 今まで動きを見せなかった男が最後の切り札となって戦場に割って入る。

 

「上やんがいつ作戦無視して飛び出してくるか冷や冷やもんだったが、堪えてくれてよかったぜよ。その右手は俺の用意した魔法陣なんて一撃で粉砕しちまうだろうから近寄られただけで不備が出かねない」

 

 上条としても土御門を始めとして御坂や削板が傷付いていく様子を、安全地帯でただ眺めるというのは耐え難いものではあったが、土御門が魔術を発動する意味を知っている彼からすれば、それを無駄にする行為など出来るはずもなかった。

 それこそ、姫神がオリアナの攻撃によって重傷を負った際、ステイルから『その右手に幻想を殺す力はあっても、守る力は無い』と、断言されたことも踏み止まる理由になっただろう。

 いつもは誰よりも身体を張る男が何も出来ずにいるなど、どれほどの苦しみか。

 

「くそ……っ!」

 

 彼は無力感を抱きながら真っ直ぐに走る。その感情は彼が守りたい少女が常に感じているものだと彼は分かっているのだろうか。

 

「『(The Art)』のカードにある矢は下から上、つまりイセェドからティファレトに上がるために打ち出されているが、逆にティファレトからイセェドへ下がるためにも活用される。

 ……俺の詠唱で王冠(ケセド)から王国(マルクト)への流れは出来てる。つまり、流れは上から下だ。

 さっきは天野の奴を上に昇らしちまったが、今回は問題はない。──やっちまえよ上やん」

 

 鎖を解こうとするが擦れる音だけが木霊する。万全ではなくともその効力に陰りはない。

 幻想殺し(イマジンブレイカー)によって魔法陣が破壊されることはない。そのために、天野を術式の外側ギリギリに配置したのだ。術式が破壊される瞬間が右手で触れる瞬間に他ならない。

 

 

「今回俺は大したことは何も出来なかった。だけど、これはみんなが繋いでくれた大事なバトンだ。絶対に届かせてみせる」

 

「───やめろッッ!!」

 

 

 その言葉を受けてか急に暴れ出し、髪だけが意志を持つかのように動き出す。身体を封じられても尚、髪だけで反撃するつもりなのだ。

 しかし、たかが髪だと侮ってはいけない。

 

「ぐ……ッ!」

 

 先ほどと同じように炎や氷が上条を襲う。その出所は勿論ひとりでに動き出した天野の長い髪だ。

 女魔術師は髪型を変えることで天候を操るという伝承もある。それに加えて、髪は魔術的な意味合いを持つ。髪を操るだけで先程の真似事くらいは容易に可能なのだ。

 

「ふむ、魔力量が足りなさすぎたね。マスターの拘束に不備が出たようだ。この未知の力で充たされた空間は僕と相性が悪すぎる。───申し訳ないけどあとは君次第だ。僕のマスターを救って欲しい」

 

「───ああ、任せろ!」

 

 当たり前の話だが、上条はエルキドゥの名前も性格も考えも一切知らない。

 それこそ、目の前で助けようとしている自らの先輩と瓜二つな姿であり、空から現れるといった奇怪な方法で降り立ったことを踏まえれば、怪しみ未知の存在として恐れるのが当然だろう。

 しかし、上条にはそんなことは関係無い。同じ人を助けたいと心から願っているのならば、相手が天使だろうが悪魔だろうが上条は一切の躊躇はしないのだ。

 想いを力に変えて上条は拳を振るう。

 そんな上条を見ながら土御門はプロの魔術師として冷静に戦況を分析する。

 

「(髪型を変えることで魔術を発動するのはそう珍しいことじゃない。分かりやすい霊装が無いから今まで上やんが戦ってきた魔術師とは毛色が違うかもしれないが、……一つ明確な弱点がある)」

 

 土御門は意識が途切れながらもその欠陥に気付く。相手が普通の相手ならば髪だけの魔術でも通じたかもしれないが、上条当麻には相性が悪すぎる。

 それは言ってしまえば何て事はない。考えてみれば当然のことだった。

 

「──フッ!」

 

 死に物狂いで天野の攻撃を避けていた上条が急に軽々と攻撃を躱す。

 そこに焦りはない。まるで、分かりきっていたかのように安全地帯へと身体を滑り込ませたのだ。

 しかし、それで攻撃が止まることはない。天野は髪型を変えて別の魔術を発動する。それを見た上条は叫ぶように声を出した。

 

「──次は氷だろ!」

 

 上条の言う通りに天野の前方から巨大な氷塊が打ち出され、これも寸でのところで屈んで躱す。上条はまるで右手を使うまでもないというかのように、そのまま天野に向けて疾走する。

 

「髪型なんてそうそうあるもんじゃない!しかも、髪型を変えなきゃ他の魔術が出せないなら、切り替え途中は大きな隙になる!

 髪型のパターンさえ覚えれば次の攻撃で何が来るかは分かりきっている!!」

 

 それに加えて彼の有する前兆の感知。意識が無くただ闇雲に暴れる天野の攻撃が上条に当たるわけもなかった。

 天野がまたしても別の髪型に変える。しかし、上条は速度を落とさず構わず走り抜けた。

 その髪型のパターンは既に覚えていたから。

 

 

 

 パシュンッ!と軽い音と共に煙が突如噴き出した。それは、今までのような攻撃ではなく目に見える変化は無い。そして、それによる上条のダメージも一切生まれない。

 

 

 

 これが世界中に存在している魔術の重複による弊害だ。上条はそれを白日の下に暴き出す。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それこそ、日本じゃ手の平を下にして上下に降ろす動作が『こっちに来い』って意味なのに対して、海外じゃ『あっちに行け』って意味になっちまうのと同じ様に!!」

 

 文化圏かかわらず同じ様な意味合いの動作があるように、それに反する動作も世界中には様々存在している。

 重複が加算によるものだけとは限らない。相殺し合い減算する可能性も当然生まれるのだ。

 それが魔術の世界に無いと誰が言えよう?世界中の異なる意味を持つ魔術同士が相殺し合うことで、魔術が不発と終わる可能性も間違いなく存在しているのだ。

 

 そのまま、右手の届く間合いに踏み込むと握り締めた拳を開き、突き出すように上条は再び右手を伸ばす。目の前で邪魔する障害は一つもなくなった。

 上条は天野の変貌が著しい頭部を掴むようにして右手で触れる。それは、いつしかのインデックスを救ったときと類似していた。

 

 

 

 

 バギンッ!と、硬質な何が壊れる音と共に、その右手は土御門の魔術も天の鎖も───天野の魔神化も、その全てまとめて消し飛ばしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、……




◆裏話◆
1、上条VS魔神化オリ主
 上条が余裕でオリ主の攻撃を捌けたのは、オリ主に髪の毛の魔術しか扱えないという縛りがあったためであり、天の鎖による拘束がなければパターンを見切るなんて芸当は不可能でした。
 本来の状態だと手札が余りにも多すぎるためパターンを掴むなど不可能で、普通に圧殺されて終わります。

2.1、四大元素
 話の流れを途切れさせないために本文には載せませんでしたが、もし仮にオリ主の中に居る存在が、五大元素に類する存在ではなく四大元素に関する存在でも特に問題はありません。
 というのも、四大元素は火、地、風、水から構成され、それぞれがタロットで『火は杖(ワンド)』を、『地は盤(ペンタクルス)』を、『風は剣(ソード)』を、『水は杯(カップ)』をシンボルとしています。
 ここまで聞くと、五大元素や五芒星とは全く関係が無いように思えますが、『地の盤(ペンタクルス)』に限りその範囲から外れます。

 というのも、実は『地の盤(ペンタクルス)』の表面に描かれたものが、他でも無い『円と五芒星』なのです。

 つまり、土御門はオリ主の中に居る存在が、『土』の属性であることは推察から導きだしていたため、例え四大元素の存在であったとしても五芒星の陣を用いれば、問題なく『地の盤(ペンタクル)』を浮き彫りにすることが可能だった、というわけですね。

 必要な条件は『魔術』と『土』とオリ主の『身体』という触媒なので、どちらにしても問題はなかったというわけです。

2.2タロットの絵とか四大元素とそこまで深く関係あるんか?
 魔術サイドではタロットのような結び付きから霊装とか普通に作ります(『黄金』の頂点であるメイザースやバードウェイ等)
 出典元から別の魔術を抽出するなんてザラにあることなので、この程度は問題無いかと。


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138.泥人形

実はこの話で『TSに理由あり』の理由が五割程度判明します。

アーキタイプアース来ましたね。この小説を書かなければ月姫も調べることは無かったでしょう(しかし、にわかである)
どうでもいい話だが海鮮茶漬けは一時期、オリ主を真祖や吸血鬼にしようと思っていた過去がある。

いやー、遠くに来たものです(しみじみ)


 ───ガチャガチャガシャ……ガ…………シャ……………………。

 

 正体不明の人工物(アーティファクト)の動きが止まる。それは燃料が切れたからか。はたまた、稼働する意味がなくなったからか。

 

 ───違う。単純にその時が来てしまったというだけだ。

 

 檻は壊れていた。

 『精神』を塗り替えられ、元となった『肉体』は外部へ表出し、残った『魂』は神に弄ばれ不安定に変容している。

 ならば、中に隠されていた物が解き放たれるのは必然だった。

 

 自然界では生まれることの無い人工物が、花弁を開くかのようにその中身を晒け出していく。中に入っているのは希望か絶望か。

 あるいは、その両方か。

 

 隠された災厄が世界に()()現出する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それにしても、よくもまあ思い付くものよ』

 

 その女は杯を手にしながら艶やかな唇を動かす。淫靡さを隠しもしないどころか全面的に押し出して言葉を紡ぐその姿は、これ以上無いほどに『女』を意識させた。

 

『「人間」として確立させるために、異なる敷物(テクスチャ)の「泥」を混ぜ合わせるか。(まこと)の世界にある記録を自由気儘に再現出来る故の蛮行と言えよう』

 

 青白い光を時折身体から溢れさせる現象は彼女の力なのか?はたまた、それ以外の要因によるものなのか?彼女以外存在しないこの世界で答えるものなど誰もいない。

 

『それだけではなく、何かしらの手も加えているようだが、その副作用であの者が女の身体となるのは余も都合が良い。

 奴とは互いの利益のために婚姻を結んでやったが、余の要望とここまで一致するとはな』

 

 女はそこにいるだけで人の情欲を掻き立てる。手に掴む杯の中身を呑むその姿だけで理性を捨て去ってしまう者も居ることだろう。

 喉を潤した彼女は冷めた目で転生の神を思い出す。

 

『とはいえ、神が神の甘言に乗るようでは話にならん。その上、まるで御しているかのように思い込んでいるようでは先はない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()あのような自らの権能に酔う愚鈍な神では、察することさえ出来はしまい。

 果たして、いつ自らが既に下り坂を転がっている事実に気が付くものか。クフフフフ』

 

 神を嘲笑う。それは、何処の神話に出てくることもない新生の神だからではなく、例え聖書の神だろうが彼女はその姿勢を変えずに貫くことだろう。

 まるで、神をも怖れぬその在り方こそが自身の証明であるかのように。彼女は冷笑を浮かべながら地上での一幕を眺める。

 

『ここも数ある分岐点の一つ。ここで終わるか、それとも次に駒を進めるか。それもまた、人が選ぶ破滅の道筋よ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………あ?」

 

 上条の口から出た言葉はそんな意味をなさないものだった。魔神に成り掛かっている天野俱佐利を止めさせ救い出す。そう言った流れだったはずだ。

 それなのにこれはなんだ?

 原理が分からない。一体何が起きた?

 

 上条の右手が魔神化をする何かを打ち消し、その反動で天野が崩れ落ちる。そうだ、ここまでは理解出来る。

 外部から突然接続を切断されれば、動いていたものは行動を停止するしかない。

 だから、天野俱佐利が地面へ横たわっている事自体は、特別不自然なことではない。それこそ、幻想殺し(イマジンブレイカー)が発動し、意識を失うように崩れ落ちる人間を上条当麻は何度も見てきたのだから。

 だからこそ、この状況は上条が皆の期待通りの成果を上げたことの証明だ。これで、天野俱佐利に取り巻く(しがらみ)は全て消え去った筈だ。

 

 ならば、()()はなんだ?

 

 上条はその物体の前にして目を見開くことしか出来ないでいる。

 

 それは、場に不釣り合いなものだった。

 これが歪な形をしていれば上条はそれを魔術の霊装だと認識したことだろう。しかし、それは余りにも完成された形をしていた。

 円形や球に近しい物ならば自然の中で生まれることもあるだろう。

 だが、これはあり得ない。

 複雑さが無いシンプルな形でありながらも、人工的に生み出されたものだと一目で多くの人間が認識するだろうその造形。

 それに加え、天野の頭部が夜空のように変質していたにもかかわらず、まるで()()に色が乗り移ったかのように、天野は元の姿へと戻っていた。

 

「(……いや、先輩の髪や顔が元に戻っているなら、そもそも()()のせいであんな頭部になっていた……?)」

 

 天野の髪が変質したのではなく、ただ単に下にあるものが浮き出ていた。きっとそれだけの話だったのだろう。

 頭部に収まる筈の無い()()は在り方も普通ではない。

 

「浮かんでいる……?……いや、というよりかは、まるで空間に固定されているような……?」

 

 上条はプロの魔術師ではないため詳細なことは分からないが、彼の直感が物理法則ではあり得ないその答えを導き出した。もしかすると、それから溢れ出る圧迫感がそう感じさせたのかもしれない。

 予想外の光景を見た上条は思わず五秒近く硬直してしまう。上条からすれば問題を解決したあとに、全く新しい別の問題を出されたものなのだ。この反応はプロの魔術師達でも同じ様なものだっただろう。

 しかし、訪れる事態は彼の都合など一切考慮しない。

 どろり……っ、と地面と一番近い角から『泥』が溢れ落ちる。

 

 次の行動は直ぐ様行われた。

 

 

 

 金属音が鳴り響くと上条の腰に鎖が巻き付き、強引に手繰り寄せられたのだ。

 

 

 

「───ぐぼうばあッッッッ!?!?!?」

 

 突然の衝撃に上条の肺の中にあった空気が口から吐き出され、そのまま瓦礫の上を転がり回る。二メートル近くゴロゴロと転がった上条は突然のことに目を白黒とさせ、腹を抑えながら周囲を見渡す。

 

「ガバッ!?ゲホッ!?…………な、何が起きた……?」

 

 どうして投げ飛ばされたのか、その真意を問い質したいと思うのは当然だ。しかし、そんなことより目を引く光景がそこにはあった。

 

 鞭のようにしなった鎖が天野倶佐利を、五メートル以上水平に吹き飛ばしたのだ。

 

 受け身も取れず転がった天野倶佐利は変わらず意識が無い。人間が五メートルも横に吹き飛ぶ力とは一体どれ程のものか。それこそ、打ち所が悪ければ最悪の場合もあり得る。

 

「───テメェ……ッ!!」

 

 上条はその事実に頭に血が上り、正体不明のその存在に掴み掛かるその寸前で動きを止めた。()()()()()()()()()()()()()()

 

「(ッ……さっきまでと全然プレッシャーが違う……!これがコイツの本気か!?)」

 

 その存在から発せられる雰囲気が尋常なものではないからだ。それこそ、『神の力』と対峙したときのようなプレッシャー。つまりは、上条の内から湧き上がった生物が持つ危険信号が上条の動きを止めたのだ。

 肉食獣が餌を前にしたときのような、人間が発することが不可能なその異質な圧が上条の足を縫い止めた。

 しかし、相手が上条当麻ならばそれで拳を止めるようなことはしない。その恐怖に打ち勝ち拳を振り抜く心の強さを彼は持っている。

 そんな彼が未だに右手を動かさないのは、不自然な点が見られたからだ。

 

 それこそ、先ほど天野倶佐利を拘束したときは、何処か余裕のようなものを感じさせた振る舞いも鳴りを潜め、油断無く全意識を主の下へ向けていた。

 まるで、これから魔神化以上の事態が起こることを危惧するように。

 

「警戒……しているのか……?」

 

 それは一体何に対して?天野倶佐利は吹き飛ばして充分に距離を取った。もし、彼女と敵対するつもりならば直ぐにでも追撃し、天野倶佐利を亡き者にすることも出来るはず。

 それをせずに、こうして観察している様はまるで全く違う物に意識を向けているかのようで……───

 

「!───まさか、()()かッ!?」

 

 呆然としていたためにその結論を導くのに時間が掛かってしまったが、明確に流れが変わったのはあれの出現からだ。上条の脳が無意識に虚構であると認識してしまうほどに異質なモノ。

 それは、吹き飛ばされた天野倶佐利の位置へ移動していた。

 その動きはまるで、幻想殺し(イマジンブレイカー)が上条当麻に備わっていることで真価を発揮するように、あの箱が天野倶佐利と共にあることが宿命付けられているようではないか。

 

 それは、オリ主の最奥に隠された最大のブラックボックス。表に出てきてしまっただけで世界を壊しかねない未知の物体。

 

 ───それは、分かりやすい単色ではなかった。

 ───まるで、満点の星空を一つに集約したような輝きと暗黒を併せ持ち、見るものが見れば()()()神聖さを抱くほどに、常軌を逸していた。

 ───理解不明のその物体を言葉にするならこれしかないだろう。

 

 

 

 『黒い立方体の箱』

 

 

 

 それが、戦況を再び混沌(カオス)へと引きずり込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その箱はひとりでに吹き飛ばされた天野の元へ辿り着くと、溢れ出した『泥』を倒れた天野へ浸すように(したた)り落とす。

 

「ち、ちょっと、まだ終わらないの!?今の完璧に解決する流れだったでしょうが!?」

 

 御坂が声を荒げる。事態が二転三転どころではなく次々と進むのはもちろん、その全てが超弩級の厄介事のオンパレードでは、いくら彼女であっても許容量(キャパシティ)を超えてしまうのは仕方ないことだろう。

 そして、この場で誰よりも事態を把握しているこの男も、残念ながら抱く感想は彼女と変わらない。

 

「……第三位の意見に同感だな。幾らなんでも今起きている現象に至るまでの数々が、全て黒幕が仕組んだとは思えない。

 どちらかと言えば天野自身が抱えていた危険物が、一斉に表へ解き放たれているように感じるぞ」

 

 土御門は治癒された身体の調子を確かめつつ、エルキドゥに尋ねる。

 

「あれはなんだ?箱も突然現れたようだがあの液体が何なのか、お前は知っているのか?」

 

「さあ、どうだろう。近しい『泥』は幾つか知っているけど、そのどれとも同じという訳でもなさそうだ。僕としてもあの箱がマスターの身体の中にあったなんて驚きだよ」

 

 身体を共有しているエルキドゥさえ気づけなかった文字通りのブラックボックス。だが、その理屈をエルキドゥは理解していた。

 

「(彼がここに僕を喚ぶまで僕を押さえ付けていたあの力。おそらく、『この世界にある科学に属する力』で認識を阻害されていたと見るべきかな。

 僕の意識がこの身体に宿るまで十年以上あったようだから、遮断するための囲いを構築するには充分。これも間違いなくあの神の企みと見るべきだろう)」

 

 科学サイドである学園都市で生み出されたAIM拡散力場は、最古の神造兵装であるエルキドゥと相性が致命的に悪い。エルキドゥの感知を誤作動させる要因としてこれ以上の物は無いだろう。

 

「……風斬氷華。『虚数学区の鍵』とも呼ばれる存在である彼女とマスターは、彼女が勘違いしてしまうほどに近しい存在だと彼女本人が言っていたね。

 なら、マスターの頭の中にも彼女と同じ様に、三角柱の物体があったとしてもおかしくはない」

 

 頭部にあったと思われるあの黒い箱をスッポリ覆うように、AIM拡散力場によって形成された仕切りがあったのだろう。

 オリ主の身体は転生の神によって元のエルキドゥから大きく変質し、それに加えて超能力というエルキドゥからしてみれば未知の力も宿っている。

 身体を共有しているとはいえ、エルキドゥがそれに気付くのは不可能だったに違いない。

 

「マスターを遠ざけたけどダメだったね。この距離だと無理に天の鎖を出そうとすれば、手加減を間違えたり途中で消える可能性がある。とはいえ、マスターとの経路(パス)が切れてない以上は無事だと思うけどね」

 

 そうして話す最中も『泥』は途切れることなく溢れ続ける。

 

「あの黒い箱から出る液体はどこまで涌き続けるんだ?無限に涌き出るなんざごめんだぞ」

 

 明らかに溢れ落ちる『泥』は発生源である箱の許容量よりも多い。まるで、現在見ているのは蛇口から零れる水で、水源は遥か遠くにあるかのように思える。

 御坂は学園都市がこのような事態に陥ったとき、どのような組織が動くかを正確に思い出す。

 

「……マズイわね。この異常事態を知った警備員(アンチスキル)はもちろん風紀委員(ジャッジメント)が来ても、この状況がどうにかなるとは思えない。

 それこそ、あの真下に居る天野さんに気付かずに、攻撃し出すかもしれないわよ」

 

 このまま、泥が広がり続ければ無関係の人間もこの騒動に気付くことだろう。超能力者(レベル5)二人でも手に終えないこの状況で、更なる足枷などどうしようもない。

 

「あれは上やんの右手でどうにかなるか?」

 

「先輩が御坂の姿になっていた時やステイルの魔女狩りの王(イノケンティウス)と同じ様に、絶え間無く異能が送られてくるんじゃ一時的に打ち消しても意味がないはずだ。

 あの液体を止めるにはそもそもの根源を直接叩くしかないと思うんだけど……あれってもしかしなくてもヤバイ?」

 

「僕が知っている『泥』で毒性が無いものはなかったけど、どうやら今回のあれは触れた者を変質させる作用は持ち合わせていないようだ。ここまで近付いてそれが分からない筈が無いからね」

 

「つまりは、安全ってことか?」

 

「…………」

 

 危険性は低いようだ。ならば、二次被害を防ぐために迅速に行動した方がいいだろう。

 それまで不自然なほど沈黙していた男が、拳を手の平に打ち付けながら口を開いた。

 

「……うしっ!よく分からんが取り敢えずカミジョーをあの箱まで連れてけばいいわけだな。そんじゃあ、一丁道を作ってやっからあの箱ぶん殴ってこいよカミジョーッ!」

 

 溢れて広がった泥の付近まで削板が近付くと、彼は腰を低くして構えを取る。彼の拳圧ならば泥を吹き飛ばすことなど造作もない。

 深く息を吐いた彼はその技名を口に出す。

 

 

「超すごい…………───ッッッッ!?!?!?」

 

 

 ゾバンッッ!!!!

 

 上条達の耳に聞こえたのはそんな空気を裂く音だった。

 上条は知っている。

 彼の生み出す現象は理解不能なばかりだったが、あの技によって何度も助けられたこともあり、繰り出す度に発生していた衝撃音はこんな音ではなかったと。

 つまり、これは削板の技によって生まれた音ではない。

 その証拠に彼の前髪が切り裂かれたかのように切断されていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「削板ッッ!?!?!?」

 

「──ッ……掠っただけだ!」

 

 超反応で剣を避けた削板が上条達が居るところまで下がる。彼の額には新しい傷が出来ていた。彼はその傷を気にすることもせず鋭い視線を『泥』に向ける。

 

「やっぱり、とんでもなくヤベェなありゃあ」

 

 更に『泥』から『箱』に視線を向けて、削板はカミジョーに声をかける。 

 

「……カミジョー気を付けろ。あの『泥』も充分ヤベェがそれ以上にあの『箱』は、別の世界から来た文字通り『理解』のできねえモンだ。

 その右手もどういったモンかはよく分からんが、あれは今までのヤツと別物と言っていい。

 ───それこそ、あの箱から溢れた一端で()()だからな」

 

 削板の視線の先には想像を絶する光景が広がっていた。

 

 『泥』から浮き出るように人影が現れる。それも一人二人ではなく何十、何百、と武装した者達が続々と現れ続けていた。それは、意思の無い伽藍堂(がらんどう)の存在ではない。

 不意打ちだったとはいえ、警戒していた削板軍覇を傷付けることに成功している。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして、彼等は繰り返す。同じ言葉を念仏でも唱えるかのように何度も何度も。

 

 小さな声でブツブツと呟き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ」「セイハイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神々が泥から造り上げた『()()』は、箱を開けるための()としての役割が与えられた。その『女』は箱を開けるために創造され、その名もその箱の名称から名付けられることとなる。

 

 その箱には()()()()()()()()()が詰まっており、一度(ひとたび)開けてしまえば世界はその在り方を一変させてしまう。

 箱の中にはあらゆる災厄と絶望。そして、奥底に『希望(エルピス)』が詰め込まれていた。

 

 

 ───しかし、その本質はオリュンポスの神々が模倣し創造した星の安全機構に他ならない。

 

 

 目的は歴史の冗長化。箱の役目は星を長期維持させるためのサブシステム。

 星に掛かる負荷を分散させ、もしものときは換わりとして稼働させるための安全機構。それがあの箱の正体だ。

 

 キョウセイブンシサイセイソウチ───またの名を、

 

 

 

 『この世全ての贈り物(パンドーラー)

 

 

 




◆作者の戯れ言◆
その1
今回の『Fate』要素は『プリズマイリヤ』&『Fate/EXTELLA』です(おそらく、この二つのFateのシリーズを既読している読者は極少数)
読者の方の中には「ハイサーヴァントがFGOには何体か居るから、どうせ泥の共通点からエルキドゥとパンドラを組み合わせてんだろ」と、察していた方も居たかと思います。

言わないでくれてありがとうございますm(_ _)m

もし、コメント欄に書かれでもしたらモチベが下がり、失踪していたことでしょう。

その2
プリズマイリヤの原作者である、ひろやまひろし先生は『プリズマイリヤ』は「原作(Fate/stay night & FGO その他)にはフィードバックされない」、「原作との相違点にはツッこむな」と仰っておりますが、海鮮茶漬けは問答無用でじゃんじゃん取り入れます。

その3
中には「タグに書いてねーじゃん!」と、思われる方もいらっしゃるでしょうが、単純に文字制限を超えているので載せれないだけです(お手上げ)
この小説を書くにあたって履修した作品の多さでは、実を言うと『とある』よりも『Fate(型月)』作品の方が上です。関連作品多すぎなんだよなぁ(※『とある』が少ないわけではない)

世界観の主軸が『とある』世界のため、タグに載せる比率で『Fate』が少なくなるのはご容赦して貰えると助かりますm(_ _)m

◆補足◆
パンドラの名前は持っていた箱から名付けられたとありますが、これはおそらく『プリズマイリヤ』独自の解釈であり、神話で出てくる箱の名前は「ピュクシス」やら「ピトス」などと呼ばれているようです
※『プリズマイリヤ』の作中で「ピトス」の名前はパンドラとは別に出てきます(理解が出来ない人は単行本を買いなさい。『プリズマイリヤ3rei!!』9巻、11巻にて書かれています)


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139.魔術を絶滅させる者の装備

評価のコメントで「物語を深掘りするのではなく、典型的なオリ主を加えただけの二次小説」と書かれ、どうすればいいのか悩み続けました。

物語を深掘りする二次小説とはこれ如何に?


 泥を被った人影が津波のように押し寄せて来る。その状況下においても削板軍覇は前を見据えて、その絶望に突き進む。

 

「だらっしゃああああああああああッッ!!!!」

 

 その裂帛の声音と共に人影が纏めて吹き飛んでいく。泥から生まれた存在を次々とその拳で殴り飛ばしていくその光景は、まさに圧巻としか言えない。

 いとも簡単に吹き飛ばすその光景を見れば誰でも彼が優勢だと思うことだろうが、当事者である削板の表情は芳しくなかった。

 

「チッ…………やべぇな。速さじゃ俺の方が圧倒的に上なんだが、完璧にガードされてやがる。経験則からか直感からかは分からねえが一筋縄じゃいかねえぞ」

 

 削板は押し寄せる泥から生まれた存在と全力で相対していた。もちろん、音速の速さでだ。

 それほどの速さで攻撃されれば視認することなど出来ずに叩き伏せられるのが普通だろう。しかし、泥から現れた人影は全てではないが、対応出来るものがほとんどだった。

 まるで、人が生存出来る速度を超過した戦闘を今まで経験してきたかのように。

 

「───まさか、サーヴァントの速さ以上の人間がいるとはね。技巧で敵わなくても自分を卑下する必要はないよ。彼らは戦乱の時代を生きて『座』に登録された英雄なのだから」

 

 エルキドゥはこの泥の人影が、一体どういう原理で生まれ落ちたのかは分からなかったが、その者達がサーヴァントであると確信していた。それは技巧であったり人外の膂力であったりと、あたりを付けるのはそう難しいことではない。

 

 だからこそ、この場に居る誰よりも状況の危険さを把握していた、

 

「ハァッ!!」

 

 近付いてきたサーヴァントに対してエルキドゥが攻撃する。しかし、それが通じることはない。

 生み出した剣で刃を受け止めたエルキドゥは、更に迫り来る槍を身を翻し跳んで躱した。

 

「……『変容』で対応はしているけど、やはり本来の性能の一割程度しか出せないようだね。全てのステータスがほぼ最低値のことを踏まえれば、代行者と呼ばれる魔術師程度の性能まで落ちてしまっているようだ。

 気配察知でどこまで(しの)げるかの域にきてしまっている」

 

 本来のエルキドゥならば、押し寄せる泥のサーヴァントを一掃することなど朝飯前だ。泥から生まれたサーヴァントの中には、エルキドゥ相当の一級サーヴァントも存在しているが、泥の狂気に侵された相手ならばエルキドゥの相手になることはない。

 しかし、現在の限られた魔力に加えて、現界するための魔法陣という仕切りを踏まえて計算し直すと、エルキドゥのステータスは最弱サーヴァントであるアンリマユと同等までに減衰してしまっている。

 それを考えれば、今尚討たれることなく生存しているだけで、大健闘と言えた。

 

「どうなってんのよコイツらッッ!!」

 

 雷撃をぶつけるがすぐさま持ち直し攻撃を仕掛けてくるその異様なタフさに、御坂美琴は冷や汗をかく。

 

「雷撃を何発を食らわせてんのに全然落ちない……!流石の私もこの連戦続きで体力の限界が近いってのに!!」

 

 雷神、天使、不完全の魔神。

 それを戦い抜いてこの大軍を相手取るとなれば、流石の超能力者(レベル5)であろうとも体力の限界に到達するのは自然なことだった。

 今の彼女にできることは雷撃を泥の中から生まれた人影にぶつけ、一時的に動きを止める程度のことだけ。……しかしそれも、圧倒的な数の前には無力という他ない。

 

 それを見た土御門は諦念を顔に浮かばせながら、一人呟いた。

 

「……こっちは世界をぶっ壊すようなラスボスクラスの化け物の退治を何度もしてるってのに、最後の最後に出てくるのが無限に湧き出てくる聖人並みの泥の化け物共ってのは、ちっとばかしゲームバランス狂ってないかにゃー……?

 なんつーか、まるでこの世界を滅ぼしたい思念みたいなのを感じるぜよ」

 

 全員疲労困憊もいいところ。いつ脱落者が出てもおかしくないのだ。既に逃げることも出来はしない。このままでは、万事休す───

 

「土御門ッッ!!」

 

「ッ!?」

 

 その声と共に後ろへ振り向けば土御門の背後から鉄槌が迫りつつあった。この位置では逃げることは不可能。

 土御門は本能で一秒後に圧倒的な怪力で絶命することを察した。だが、それを許さない男が飛び込んでくる。

 

「うおおおおおおおおおおおおッッ!!!!」

 

 鉄槌と割り込んだ上条の右手が衝突すると、その鉄槌ごと大男が消滅したのだ。鉄槌だけでなく本体まで消えたのはその身に纏う泥の影響かもしれない。

 

「すまない助かった!」

 

「魔法陣の内側に居ないといけない土御門は逃げることも出来ないってことか。土御門の側に居る方がいいっぽいな」

 

 土御門元春は安易に魔術を使うことが出来ない。彼にとっての魔術の行使はロシアンルーレットでいつ死ぬか分からないからだ。今の緊迫した状況で使うのはおかしくはないが、打開できる道筋が確定出来てない現状では無駄撃ちになりかねない。

 

「(そもそも、俺の魔術がコイツらに効くのか怪しいってのもあるがな……)」

 

「……ヤバいぞ土御門。どいつもこいつも動きのスピードが人間を超えてる。神裂レベルの奴は削板が相手取ってるけど、このままじゃ時間の問題だ」

 

「同感だぜい上やん。それこそ、神裂のねーちんがこの場に居ても数に押し潰されるのが目に見えてる。第七位も頑張ってはくれているがアイツも第三位同様に連戦続きだ。時間の問題だろうな」

 

 どん詰まり。

 質でも量でも上回られているこの状況では、打開の策など講じれる訳もない。

 

 上条当麻は上位のサーヴァントの動きに反応出来ない。

 土御門元春は自衛することすら不可能。

 御坂美琴は限界間近。

 削板軍覇は技巧で劣っている。

 

 どれだけ絶望的な状況を機転と度胸で覆そうとも、何度も襲い掛かってくる災厄に心が折れていくことを実感する。

 果たして、箱から溢れ出すこの泥はどこまで広がるのか。学園都市だけで済むのか。はたまた、日本全域か。それこそ、()()()()()()()()()()()()()()。それは、誰にも分からない。

 しかし、その不安はその場に居る彼らだけの恐怖ではなかったのだ。

 

「───ッ……これは!」

 

 エルキドゥの身体に異変が起きた。エルキドゥはこの力に身に覚えがある。そのため、驚きながらもすぐさま納得した。この状況ならばそうなってもおかしくないと。

 そして、エルキドゥがその力を振るう前に状況は更に動く。

 

 

 

 キュガッッ!!という空気が破裂する音と共に、辺り一帯が爆炎に包まれたのだ。戦場に近代兵器による花が咲き乱れる。

 

 

 

「ぐあ……っ!?な……何だッ!?」

 

「学園都市の最新兵器……アレイスターの野郎か!?」

 

 爆風に煽られながら二人はその光景を目の当たりにする。泥のサーヴァント達が爆炎に飲み込まれて次々と消滅していく姿を。

 

「(アレイスターの奴がこの状況で出してきたってことは……奴の虎の子か!?)」

 

 科学サイドである学園都市が今回のことで表から動くことはまずあり得ない。魔術サイドの領分に入るということは敵対することと同義だからだ。

 そのため、これはアレイスター個人が所有している武力なのだと、土御門はあたりを付ける。

 

「(あの黒い箱が魔術なのか超能力なのかは分からないが、何かしらの『異能』による物なのは間違いない。なら、幻想殺し(イマジンブレイカー)が状況打破に必須なのはアレイスターも当然分かってるだろう。

 下手な爆撃は異能しか打ち消せない幻想殺しにとって相性は最悪。援護どころか邪魔にしかならない以上、奴はこの攻撃が効果的だと判断している……?)」

 

 その土御門の予想通りに、爆撃にあった泥のサーヴァントは全て消滅したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふむ、やはりあの箱は魔術の領分ということか』

 

 葉巻を吹かしながらその老犬は爆撃地点に目を向けた。そんな彼が背中に展開する兵器の名は『対魔術式駆動鎧(アンチアートアタッチメント)』。

 アレイスターが秘密裏に生み出した、科学と魔術の技術を組み合わせた兵器である。科学兵器の火力とアレイスターの魔術式による魔術の無効果により、対魔術戦では無類の強さを誇る科学と魔術の異端兵装。

 如何に万夫不当の英雄達であろうとも、神秘で練られたサーヴァントの身では耐えることなど出来はしない。

 

『それよりも、本当に問題は無いんだろうなアレイスター。彼女には「黄金」の要素があったのだろう?

 元とはいえ、お前は(かつ)て魔術結社「黄金」のメンバーの一人。如何なる手段を用いて魔術を上書きしたとしても、その癖や匂いを消すことは出来ないという話だった筈だが?』

 

 木原脳幹は葉巻を咥えながら通信相手に釘を刺す。アレイスターの魔術が相手を強くしてしまうのならば、アレイスターの魔術で起動する『A.A.A.』も同じく天敵になるのは道理だろう。

 

『いや、それについては問題は無いだろう。確かに、関係性は不明だが彼女が「黄金」の魔術理論を始めとした、様々なシンボルからエッセンスを抽出し魔神へ進化する以上、私の魔術は無駄骨どころか肥え太らせる餌にしかならない。

 だが、どうやら天野倶佐利は既に魔神への進化を完全に失敗したようだ。

 あの黒い箱が現出したあとは、どれだけ観察しても天野倶佐利に魔神の予兆は見えない。今ならば「黄金」の要素を含んだ魔術を与えても、こちらが一方的に不利になることはない』

 

 だからこそ、現時点でもって天野倶佐利を殺害するのだ。アレイスター=クロウリーが長年をかけて描いてきた絵図を、引っ掻き回すその異端者を処理するために。

 

『だが、今回のことでお前の計画(プラン)に大きな歪みが出来たのではないか?』

 

『不測の事態に直面するのはいつものことだ。何より根本を覆す致命的な損害が出てない以上は行幸だろう。

 まあ、確度を持たせるために計画(プラン)を幾らか拡張せねばならないだろうが、あり得た最悪の可能性の数々から比較すれば悪くない着地点だよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然の事態に付いていけてない上条が目を見開いた。

 

「目の前に居た奴らが全部消し飛んでる……ッ!?」

 

「……なんにせよ俺達の直近の死は遠退いたが、……ちょっとマズイ展開になったかもしれないぜよ、上やん」

 

「マズいだって?」

 

「泥の人影が消えたってことは俺達の危機が去ったってことと同時に、天野を遮る物が全て失くなったってことだ。このままじゃ、あそこで寝っ転がっている天野に向けて、さっきの攻撃がすぐにでも降り注いでくるぞ」

 

「ッ!……───先輩ッッ!!」

 

 何か行動を起こす、その時点で上条は二手も三手も遅れている。相手は近代兵器なのだから、その速度はマッハの領域。

 言葉を発する前には上条の上空に向けて、様々な兵器による攻撃が高速で駆け抜ける。

 そして、その爆撃に何一つ動くことが出来ないのは他の者達も同様だった。

 降り注ぐ兵器による攻撃に対処可能な超能力者(レベル5)の二人も、体力の消耗により対応することが間に合わない。この場に居る人間は誰一人として天野を救うことは不可能だった。

 

 そう、ここに居る人間には。

 

 

 

 

 

 

「───星に刻まれし傷と栄華、今こそ歌い上げよう───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのゴールデンレトリバーは自らが撃ち込んだ爆撃の行方をビルの屋上から眺めていた。

 

『これで天野倶佐利は死に魔術サイドの衝突を始めとした様々な問題も解消される。計画(プラン)の修正も可能だろう。君には予定よりも多く動いて貰うことになるがね。

 木原一族全体と暗部を利用すれば目標地点まで辿り着くことも不可能ではない。老犬を酷使させるのも忍びないが君にはこれから精力的に活動して貰うぞ』

 

 通話口でアレイスターが木原脳幹にこれからの予定を告げていく。天野倶佐利が引き起こした数々の問題行動により、空気中の滞空回線(アンダーライン)は使い物にならなくなっていた。

 しかし、今のアレイスターには木原脳幹が居る。学園都市の『死神』が死の鎌を振り下ろしたのならば対象者は確実に絶命している。それは、今までの戦歴から見てもそうであるし、何より意識が無い人間を殺し損ねるほど愚鈍ではないと確信していた。

 だからこそ、発せられたその言葉にアレイスターは驚愕することになる。

 目を細めた『死神』は苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。

 

『……全弾撃ち落とされただと……?馬鹿な、明らかにアレは魔術サイドのゲテモノだろうに』

 

『…………………………………………何だと?』

 

 彼は発射地点に居た薄緑色の髪をした存在が、何かを地面から造りだし迎撃をしたのを目にする。

 だがしかし、これは本来ならばあり得ないことだ。魔術で生み出した物ならば問答無用で粉砕する『A.A.A.』は、魔術で生み出した物で破壊することは不可能だ。

 そのことを、この兵器を多用してきた木原脳幹は誰よりも実感している。それこそ、この兵器を用いて幾度も魔術サイドの人間のみならず、科学サイドの敵勢力も今まで全て粉砕しているのだから。 

 

 彼が見下ろした先では、萌葱色の髪をした存在が微笑みを浮かべながら新しく兵器を地面から生み出している。その事象ですら木原脳幹には受け入れ難くはあるが、問題は更にその先。

 彼はその(つぶ)らな瞳でそれを視認したのだ。光と共に生み出された兵器の側面に刻まれたその文字を。

 

『……アレイスター、まさかお前製造方法を盗まれるなんて初歩的な「失敗」はしてないだろうな?』

 

 人外が生み出した兵器の側面には、彼にとって既に見慣れてしまった文字がそこに刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───Anti-Art-Attachment───

 

 




これから諸事情で忙しくなるため、しばらく投稿できなくなる可能性が高いです。
何度も述べているように何年掛かっても書き終えるつもりなので(止む終えない理由がなければ)、次の投稿まで待っていただけると嬉しいです。


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140.八条光星

今年はこれで投稿するのは最後だ!また来年


 空中に爆炎の大輪が咲き乱れた。

 爆風が吹き荒れる中で浅葱色の髪を靡かせているその者に、動揺の色は見えない。穏やかな、そして泰然とした様子でそこに佇むだけだ。

 彼/彼女は両腕を広げ、その言葉通りに歌うかのようにしてその名称を紡ぐ。

 

 

「───民の叡智(エイジ・オブ・バビロン)

 

 

 それは、エルキドゥが有する第二宝具。

 大地を変容させ武器を生み出す宝具であり、言の葉に霊器の欠片を混ぜることにより真価を発揮する物量で押し潰す宝具だ。

 そして、エルキドゥの第二宝具である民の叡智には、その圧倒的な物量の他にも注目すべき点がある。それは、エルキドゥの唯一無二の特性である、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 つまり、呼び出された聖杯戦争の時代が神代ならば、神秘を多く含む兵器を量産することが可能であり、遥か先の未来ならば宇宙戦艦さえもエルキドゥならばその場で生み出すことが可能なのである。

 この特性を持つからこそ、エルキドゥの盟友である()の英雄王ギルガメッシュは、あらゆる原典をバビロンの蔵から門を開き射出する、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)という対抗手段を生み出すに至ったのだ。

 

「『魔術師殺し』の霊装ではなく、『魔術殺し』の霊装を生み出すとは思わなかったよ。爆発や破壊の仕方も計算して魔術そのものを無効化するとは面白い性能だ。……でも、それで終わりなら僕を倒すことは出来ないよ」

 

 マスターからの原作知識もあるからか、エルキドゥはその兵器の秘密を暴いていく。どれだけ兵器を撃ち込まれようが原理を解明し、物量も相手の遥か上を行く今のエルキドゥを打倒することは不可能だろう。

 

「本来なら、性能の優劣が明確に分かった時点で矛を収めるのも悪くないんだけど、君は僕のマスターを殺そうとした。

 マスターはこの先を見据えて君が退場することは望まないだろうけど───少しだけ痛い目にあって貰うよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビルの屋上で木原脳幹はアレイスターに声を投げ掛ける。

 

『奴が同型機を操るのならば君が送る魔力を遮断してしまえばいいのではないかね?』

 

『それは不可能だ。君が操る A.A.A. は私が魔力を送り、君が現場で標準を合わせることで稼働することが出来ている。つまり、私の魔力の受け止めは君に一任しているということだ。

 そもそも、魔力自体には指向性がない。仮にその場に私が居ようとも魔力を君の有する物だけに注ぐことは不可能だろう』

 

(かつ)て世界最高の魔術師と呼ばれた男が聞いて呆れるな』

 

 と、木原脳幹は葉巻を吹かしながら言ったが、それが可能であればアレイスターは木原脳幹を現場に送り込まず、根城である窓のないビルという絶対の安全地帯から、一方的に敵対者を殲滅していたであろうことは容易に考えられた。

 

『( A.A.A. はアレイスターが科学と魔術の理論を、両方とも深淵と呼べるほどの知識と技術で組み合わせた奴のオリジナル。だからこそ、似たような類似品を生み出せる存在はいないと、私も含めて確信していた。

 おそらく、私が A.A.A. を撃つ前にこちらを捕捉し、即座にそっくりそのまま A.A.A. をコピーしたというところか。ふん、……これだから、魔術というのは肌に合わん)』

 

 そんなことを思っていると、センサーが急に反応を示した。

 

『ッ!殺そうとした私を殺しにくるのは当然だな!』

 

 見る迄もなく大量の兵器が津波のように襲い掛かってくる。木原脳幹は卓越した技術を用いて、 A.A.A. を扱い幾つか撃ち落とすも数の暴力の前にはどうしようもなかった。

 多勢に無勢。ロマンを詰め込んだ兵器が次々と破壊されていく光景を見詰めて、彼は悟ったように目を細める。

 

『……先生ッ!!』

 

 愛弟子の叫び声が別の通信機から聞こえたが今の彼には応答する時間もない。

 

 木原脳幹が居たビルは爆炎と共に崩壊したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビルが倒壊していく様子を穏やかな表情でエルキドゥは見詰める。

 

「これで邪魔してくる者は居なくなったね。おそらく、すぐに僕達を攻撃することは無い筈だ」

 

 ビルを片手間で一つ破壊したエルキドゥは何でもないように上条達に語りかける。エルキドゥからすればビルを一つ壊すことなど、積み木を崩すように簡単なことなのだ。

 

「とはいえ、星から与えられた力を僕の都合で勝手に使ってしまったからね。もう、あのような物は造り出せないと考えておくれ」

 

 魔力切れ間近のエルキドゥが魔力を得ることが出来たのは、この星の厄災となった『この世全ての贈り物(パンドーラー)』を破壊するために、ガイアの抑止力が力を与えたからだ。

 しかし、エルキドゥはそのための抑止力の力を個人的な理由で別のことに使ってしまった。そのため、二度目の機会は与えられないと思うべきだろう。

 

 

「───そうか。なら、チャンスは今しか無いってことだ」

 

 

 上条が誰に言われる迄もなく大地を蹴る。彼の直感がここを逃せば勝機がないことを導き出したのだ。A.A.A. により開けた道を走り抜ける。

 彼は未だに天野俱佐利を救おうとしていた。鈍感と言われる彼でも既に分かっているだろう。天野俱佐利はただの少女ではないことに。この数十分の間で世界を揺るがすような異常性を抱えた化け物だと認識するには充分だ。

 この先の未来で世界の敵となり殺されることで、祝日が生まれるかもしれないほどの何かを天野が仕出かす可能性は極めて高い。それこそ、この場で彼女の命を救ったというだけで、不特定多数から上条に向けて石を投げられる未来がやって来るかもしれないのだ。

 そんな助けたところで見返りどころか損しかやってこないだろう少女を前にして、上条はいつも通りに駆け出していく。

 

 彼の視線の先には「未知」を吐き出し続けるブラックボックス。その神々しくも禍々しい輝きは、異能を消し去る幻想殺し(イマジンブレイカー)さえ呑み込まれそうなほどに圧迫感を与えてくる。

 

 一度右手が触れれば身体ごと呑み込まれてしまうのでは?

 もしかして、現出していない別の厄災が飛び出すのでは?

 またしても、別のモノに変異してしまうのではないのか?

 何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何何何にかなかかかかかかかかかかかかかかかkkkkkkkkkkkk………………。

 

 

 それが「未知」への恐怖。

 

 一挙手一投足が悪い展開に陥るための要因なのではないかと言う疑惑。

 前例はあるのだ。雷神化を止めて、天使化も戻して、魔神化もこの右手で防いだにもかかわらず、こうして最悪の状態を脱け出すことは出来なかった。もしかすると、より悪い方に流れてしまったかもしれない。

 だから、次も同じ様に無駄な結果に終わる。それが頭をよぎることがおかしいと誰が言えるのか。土御門は上条の右手が天野俱佐利を別のモノに昇華したと言った。

 ならば、次もそうならないと誰が言える?その右手が苦しめる要因にならないと誰が断言出来る?

 

「……目の前で訳も分からず誰かの都合の良いように利用されて、自分の意思を無視されて、それで破壊の責任は全てお前の責任なんて、馬鹿げた真似をされかけている女の子が居るなら拳を握れッ!足を踏み出せッ!!」

 

 それは、足がすくんだ自分自身に向けた叱咤の言葉なのか。はたまた、理不尽な現実を与える「世界」に向けたものなのか。

 まるで、上条は内側から溢れて零れ出したかのように、次々と言葉を吐き出していく。

 

「絶望だからなんだ。不可能だからなんだ。理不尽だから何だってんだ……ッ!そこにそんなモンで苦しんでいる人が目の前に居るんだから、止まってる時間なんて一秒もねえだろうがッ!!

 一度目が駄目でも、二度目が無意味でも、三度目が失敗したとしても!……何度でも何度でも何度でも何度でも挑戦するんだよッ!

 誰かの不幸を『もういいや』や『俺は頑張った』で納得しちまうクソ野郎になりたくなかったらなッ、無様だろうがなんだろうが歯を食いしばって何度でも立ち上がるしかねえだろうがッッ!!

 叩き伏せられて地べた転がって、それでも這い上がって手を伸ばすんだ!それが誰かを救うってことだろ上条当麻ッッ!!!!」

 

 走る。走る。走る。走る。

 上条に完璧な正解なんて分からない。失敗してまた誰かに迷惑をかけるかもしれない。それでも、彼は誰かを救うことに一切の妥協なんてしない。

 

「上やん気を付けろ!また泥の奴らが出てきたぞ!!」

 

「……ッ!」

 

 泥の中から人影が再び現れ始める。泥を払ったとはいえ滝のように出続けているのだからこうなることは目に見えていた。

 しかし、上条に与えられたチャンスはここしかない。立ち止まればそこで終わりだ。

 

 だが、そのような覚悟を持ち合わすだけで越えられるほど英雄は甘くない。

 

 人型となった泥が光を発する。それが何なのか上条には理解出来なかったがそれは彼の落ち度ではない。それこそ、世界中に居るプロ魔術師でも知り得ないのだから。

 

 それは、この世界では存在しない『サーヴァント』と呼ばれる神秘が生み出す、人間の幻想を骨子として作り出す奥義。

 

 

 突如、上空に巨大な円盤が出現し泥の人影を連れていく。

 刃を付き出し五つの石を剣の周囲に回転させる。

 巨大な注射器を生み出してこちらに針を向ける。

 額が眩いほどに光輝き周囲を呑み込む。

 

 

 ───即ちそれは、宝具に他ならない。

 

 魔力が大量に迸るその光景に、この場で唯一の魔術師である土御門は冷や汗を流す。それはどれも自分達を仕留めるにたる力であると確信してしまったのだ。

 上条に声を掛けるが複数の攻撃に対応出来ないのが幻想殺しの弱点のため、上条一人で対処出来ないのは明らかだった。

 

「でらっしゃああああああああああッッ!!!!」

 

 突然、瓦礫の山が弾けとんだ。高速で駆け出した削板が注射器を持つ人影に拳を放つ。

 ドゴォッッ!!という重く響く音と共に、泥の人影は水平に向かって吹き飛び、額が輝く別の泥の人影に激突し遥か彼方に飛んでいく。

 それは、彼らしくない不意打ちによる攻撃だった。しかし、それにより二体による宝具の使用を中断させることに成功したのだ。

 それが彼が持つ野生の勘によるものなのか、それは最善の行動と言っても差し支えない結果を生んだ。

 そして、最適な行動を取れたのは削板だけではない。

 

「……舐めてんじゃないわよッ!!」

 

 刃と石を前方に展開する人影の足場にある鉄筋コンクリートを磁力で操り、こちらではなく別の方向へ向ける。絵に書いたような未確認飛行物体の居る上方に。

 

 それは(かつ)て、とある聖人が六畳間の部屋で魔導図書館の少女が打ち出す竜王の殺息(ドラゴンブレス)を、地面の畳を切断して視界を上方にずらした手法と酷似していた。

 

 長髪の人影の刃は螺旋を描いた極光を打ち放ち、空に浮かぶ未確認飛行物体へ直撃する。

 

 

 

 

 単純な事実として、御坂美琴が最大火力である超電磁砲(レールガン)を放たなかったのは、彼女がガス欠間近だからである。連戦に次ぐ連戦のためこうなるのは必然だった。

 だからこそ、敵の足場を崩して操り相手が何かをする前に、()()()()()()()()()()()()()()()()、程度のことしかすることが不可能だった。それだけなのだ。

 

 しかし、それが偶然にも最大の功績を生むこともある。

 

 

 

 

 地上から宝具を当てられた未確認飛行物体は四割ほど消滅していた。しかし、それでも攻撃は止まらずあらぬ方向へ光線を発射していく。

 それは、本人が全く意図していない方向へ。つまり、地上に居る他の人影をその極光で塗り潰していくように消し飛ばしたのだ。

 幾ら英霊といえども不意打ちで宝具を直撃されればただでは済まない。偶然によるものが大きいとはいえ、御坂美琴は最大級の戦果を生み出したのだった。

 

「……………………嘘だろ……?」

 

 その一連の破壊の嵐に上条は驚愕を隠せない。ほんの数十秒で戦局が塗り変わってしまった。これが、一人で軍と張り合えるとさえ言われる強者が住まう領域なのか、と。

 代わりに自分がそこに居たとして、彼女達のような結果を生み出すことは出来なかったと上条は断言する。彼は特殊な右手があるだけのいたって普通な男子高校生でしかないのだから。

 

「……だけど、やるしかねえんだ……ッ!!」

 

 上条の前にまたしても立ち塞がる泥の人影。幾ら数が少なくなってもその戦闘力は言わずもがなだ。最速で右手で触れて消滅させなくては再び数に押し潰される。

 攻撃を避けてを繰り返したあと、上条が決死の覚悟で人影に触れようとしたその寸前に、

 

 

 削板の拳によってその人影達は纏めて吹き飛ばされた。

 

 

 先ほどの光線で戦っていた人影が消滅したのが大きいのだろう。彼は上条を助けるために戦場を高速で横断したのだ。

 削板は英霊を身体能力で上回れる可能性を持つ存在。そんな彼が敵を薙ぎ払うその姿はまるで場を圧倒しているようだが、現実はそうではない。

 

「ハァ……ハァ……、へへっ、どいつもこいつもやりやがる」

 

「削板……ッ」

 

 上条が目にしたのは至る所に傷跡を付け、血塗れとなった削板軍覇だった。聖杯の泥に浸かろうとも相手はあの英霊。その上位の者達を相手に未だに生存していること自体が奇跡でしかない。

 そんな英傑はフラフラの状態ながらも上条に情報を渡す。

 

「一緒に戦ってた嬢ちゃんはガス欠で気絶したから、あのグラサンの奴に預けた。……そして、今ので俺も打ち止めだ。情けねえが意識を保つだけで精一杯ってとこだな」

 

 彼がどうしてここまで上条を信じてくれるのか上条自身にも分からない。限界を越えたその姿は自衛をする力さえ出し切ってしまったようにも見える。

 超能力者(レベル5)ならば自分の力に自信があって当然である。それは身に宿る能力や社会的地位はもちろん、高位能力者が持つ自分だけの理想(パーソナルリアリティー)の強固さを考えれば必然的とも言えるだろう。

 そんな彼がどうして上条にあとを託そうとするのか、上条には分からない。

 

 だが、その期待に応えなければ……それはきっと、根性なしだと言われても仕方がないことなのだ。だから、掛けられる言葉に上条はこう応える。

 

「───あとは任せるぜ」

 

「ああッ!」

 

 上条は足を踏み出す。後ろで膝を突く音が聞こえるがそれを無視する。その一切に気を取られることが彼等の献身を無駄にすると理解していたから。

 

 距離はあと五メートルもない。あの箱に右手で触れるために脇目もふらずに走り抜ける。

 だからこそ、見落とした。削板が吹き飛ばした者の中で枯れ木のような物を掴み、地面に突き刺すその光景を。

 

 そこから先はまさに天変地異だった。

 ドオオオオオオオオッッ!!!!という地響きの音と共に、勢いよく地面から岩石の山が飛び出したのだ。

 

「な……ッ!?」

 

 一瞬で上条の身体を覆い隠すほどの巨大な攻撃に、否が応でも視線が持ってかれる。

 

地臥す夜鷹の千年渓谷(そらはちよりちはそらへ)』。

 

 その宝具は対軍宝具。本来ならば、上条を磨り潰したあとに数千人の命を奪う強力な高範囲宝具であり、その力は同じサーヴァントでしか太刀打ち出来ないほどに強力なものだ。それに対し、人の力など些末なものでしかない。

 

「……だけど、それはオリアナのときに見てる!」

 

 しかし、その攻撃は上条にとって二度目だった。

 

 地面から目の前に迫り上がってくる岩石の群れ。このような攻撃は能力者なら出来る者も確かに居るだろうが、上条が知っているのは偶然にも目の前に居る、サーヴァントと同様に魔術サイドの人間が引き起こした攻撃だ。

 先日、オリアナ=トムソンは上条と土御門、ステイルの三人から逃走を図るために、トラップとして土石流が発生する魔術を仕掛けていた。

 もちろん、オリアナの仕掛けたトラップとは比べることなど出来ない出力と範囲なのだが、最大限発揮できる距離でないこと、そして幻想を殺す右手であることが有利に働いた。

 右手で触れると迫っていた岩山が跡形もなく消滅し、上条の前に再び道が出来る。

 

「これで……っ!」

 

 残り、二メートル。

 あと一歩と右手を伸ばすだけであの黒い箱に触れることが出来る。

 黒い箱に触れればいいのか、倒れている天野俱佐利に触れればいいのかその判断は付かないが、一先ず謎の人影を生み出し続ける源を抑えるべきだろう。

 その後に、彼女の安全を確かめる。これが最善の行動の筈だ。

 黒い箱の間合いに飛び込むために、足先に力を込めて上条が全身の筋肉を解放するまさにその瞬間。

 

 

 砕け散った岩壁の向こうから人影が現れた。

 

 

「あ……?」

 

 それは予想だにしていなかった事態だった。まさか、今の物量攻撃の向こうから直ぐ様、突撃を敢行してくる奴が居るなんて想定などする筈も無い。

 だが、相手はあの英霊だ。無茶無謀など当たり前のようにやってみせる。

 そのどこか絢爛さを醸し出すその女型の泥の人影は、小さな身体とはアンバランスな大剣をその手に掴んでいた。普通ならばまともに振るうことすら出来ないだろうが相手はあの英霊だ。常識など通じる筈もない。

 

「……ッ!!」

 

 上条は無理矢理右手を振り回すようにして右腕を動かす。敵の攻撃を読む『前兆の関知』から導いた行動だ。当たればその剣ごと消滅させることが出来る。

 しかし、それは相手が本当に剣士ならば有効だっただろう。

 

「(は……?何でそこで無意味な足運びを……?)」

 

 それは、剣士ならば絶対にしない動きであった。無駄としか言い様の無いただその動きを見せ付けるかのようなステップ。彼女の本質は剣士ではなく皇帝なのだから仕方ないことだろう。泥に浸かろうがその本質はそうそう変わることは無い。

 しかし、だからこそ上条の勘を欺くことが可能となった。

 

 踊るようなステップを刻みながら、その人影は薔薇のような大剣を今度こそ上条の右腕に向けて跳ね上げるように切り上げた。

 

「ガ……ッッ!?!?」

 

 空気を裂くようなその一刀は上条の右腕を寸断し血飛沫を上げる。それこそ、まるで舞踏を見ているかのように流麗な動きだった。

 くるくると右腕が宙を舞っていくのを横目で見ながら上条は歯を食い縛り意識を繋ぐ。意味が無い行為なのだとしてもここで意識を失っていてはただ殺されるだけだ。しかし、無情にも上条の右腕を切り落とした人影が上条を前にして再びその大剣を頭上に掲げた。

 不可思議な現象を起こす右手を排除してから止めを刺す。その冷徹な程に合理的な判断は、狂気に侵されながらも英雄ならではの判断力が為せる思考か、はたまた偶然による産物なのか。

 どちらかを判別することは不可能に近いが、幻想殺しの対処法としてはこれ以上無いほどに最適解と言えるだろう。

 

 こうして、上条当麻は何も出来ずに返す刃で振り下ろされる凶刃によって、深紅の血を周囲に撒き散らしながらその身体を左右に両断される

 

 

 

 

 

 

 ───()()()()()

 

 

 

 

 

 

「……ッ!?」

 

 それは一瞬のことだった。上条の右腕を切り落とした人影の右腕が紅の大剣ごと消失していたのだ。人影は正体不明の現象を受けて生物の生存本能から素早く距離を取る。

 周囲に居た者達が上条に異変に気が付き、自らの宝具を発動し消し飛ばそうとするがそれは不発に終わった。

 

 その全てが上条の右肩から生まれたドラゴン達に喰われたからだ。

 

「「「「「「「「GYOOOOOOOOOOOッッッッ!!!!」」」」」」」」

 

 雄叫びを上げながら八頭のドラゴンが人影を補食していくその光景は御伽噺か何かにしか見えない。

 何人かはそのドラゴン目掛けて剣を振るおうとしていたが、何分数が多いために発動する前に潰されているようだった。上条の右手と同じく触れた側から消滅するため、相性が極めて悪くなっていた。

 更に、未確認飛行物体からの攻撃により人員が減っていたこともあって、肉壁が少なくなっていたことが原因だろうか。

 

 先ほど右腕を大剣ごと消失した女型の人影が再び上条に襲い掛かろうとするが、上条の右肩から出てきた白い翼の生えたドラゴンに今度は全身を捕食される。塩の柱となった彼女は崩れて消滅したのだった。

 

 全ての泥の人影を喰らい尽くしたあとに、その根元である黒い箱に喰らい付くドラゴン達。ガリガリッバキバキという音を幾度も繰り返したあとに押し潰すようにドラゴン達が乗し掛かる。

 そして、────

 

 

 

 

 パキィンッ!と甲高い音と共に、黒い箱が跡形もなく消し飛んだ。

 

 

 

 

 箱の中に在ったものごと綺麗に食べ尽くしたのだろうか。役目を終えたとばかりにドラゴン達は消えていく。その蹂躙をした力は脅威としか表現出来ないだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして、残ったのは横たわる緑色の髪をした少女一人。

 これまでのように何か異変が起こるのかと身構えてもそのような兆候は見当たらず、暫くして少女が目を覚ました。

 いつものような穏やかで包み込むような雰囲気に、事件の終幕を彼等はようやく実感したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(うげぇ……二日酔いか何かかこれ?気持ち悪ぅ……)」




パンドラの箱……あっ(察し)
……うんうん、めでたしめでたしだなっ!

◆考察◆
『八条光星とアレイスタークロウリーが唱えた救世主』
 八条光星とはなんぞやと思うかも知れないが、海鮮茶漬けも実際のところまだ分かりません。これは、史実のアレイスター・クロウリーを調べている方が二名ほど同じ用語を使っており、作者が気になり調べたのが始まりだ。
 海鮮茶漬けの調べた中では八芒星が有力だった。これは、神の子(名前を出していいのか不明のため、『とある』での呼び方とする)が誕生したときに空に現れた星で、その星に導かれて三人の預言者が神の子の下に馳せ参じたのは有名な話だろう。それを誤訳、或いは別称としていると作者は考えた。
 しかし、本当にそれが正しいのかと疑問を抱いたのだ。

 何故ならば、アレイスター・クロウリーは神の子を否定していた張本人だからだ。

 『とある』では度々上条当麻が神の子と照応させている。それは、アンテ=シュプレンゲルの発言などを見れば明らかだ。しかし、アレイスターという人間が史実の主張を曲げていないのならば、上条当麻を本当にそのような風に作り上げるだろうか?
 上条の中のモノに対してエイワスも純度が甘いなどと言っていたことも踏まえると、上条当麻の中のモノにアレイスターが手を加えていたのは間違いない。

 ならば、アレイスターは何を作りたかったのか?神浄の討魔?ドラゴンストライク?
 確かに、別称としてどちらかは該当するかもしれないが、真名はそれではない筈だ。

 何故ならばその存在の名をアレイスターは実際に唱えている。神の子とは異なる救世主を。


 それが、『V.V.V.V.V.』。


 この同じローマ字が五つ並んだ存在がアレイスターが唱えた救世主である。あのエイワスと同じ様にアレイスターが自身の聖守護天使とも定めた存在。
 ※ちなみに、アレイスターの魔術名ではなく救世主の方(要するに、紛らわしいことこの上ないがV.V.V.V.V.は魔術名と救世主の名前の両方で出てくる)。
 新しいアイオーンでは神の子ではなくこのV.V.V.V.V.こそが救世主足り得ると考えていたのだ。それを考えるとアレイスターの書物の中では『八芒星』ではなく、『八条光星』の綴りで書かれている可能性が浮かんでこないだろうか?
 ……残念ながらアレイスターに関連する書物を調べても、頭の弱い作者には見付けることは不可能だったのだが、そうなると色々と辻褄が合ってくるのだ。

①上条当麻は神の子ではなくV.V.V.V.V.に似た性質を持つということ。
 このV.V.V.V.Vについてはまだ資料を読み込むことが出来ていないため、詳しいことは未だに不明ではあるが、神の子と似ているという登場人物達の証言はかまちーのミスリードの可能性が高い。
 これはつまり、神浄の討魔はV.V.V.V.V.である可能性があるということだ。

②八条光星とドラゴンストライク(八頭以上居るそうですが記号的な匂わせも考慮して)
 『とある科学の超電磁砲』で上条の中から出てきたドラゴンについて、八岐大蛇などの考察が有名ではあるが海鮮茶漬けは『八条光星』が怪しいと考えている。
 と言うのも、『とある』関連の考察動画をYouTubeで出している方が、「落ちてくる隕石をドラゴンと見ていた伝承が残る国もある」、と仰られていたのだ。そして、天使ドラゴンはある神話と関連深いとも。
 ならば、あのドラゴン達は世界中に落ちた隕石を、神話と共にドラゴンとして昇華した存在ではないかと考えた。

 …………これだけでは、幾らなんでもただの猿真似もいいところなのでもう一歩踏み込んだ考察をしてみたい。
 上条の中にあるものを『八条光星』とアレイスターが調節したのならば何かしらの意味がある筈だ。上条の中にあるのだからアレイスターに手を出すことは出来ない……とはならない。それは、エイワスの証言から読み取れる。

 では、その八頭のドラゴンの役目とは何だ?ここはシンプルに考えてみよう。救世主だけではなく自身の聖守護天使とも見ていたのならば、一時期聖守護天使として見ていたエイワスと同じような役目が可能なのでは?


 それはつまり、物理法則以外の位相の破壊などだ。


 あのドラゴン達が神話から生まれた存在であり、消去する力を同時に持つのならばあのドラゴンが元になった神話を喰らうことも可能となるのではないか?
 つまり、それこそがアレイスターが考えていた位相の破壊方法。

 雷神御坂が生み出した程度の異物を削除するために、八頭全てを呼んだとするなら幾らなんでも出力が低いんじゃね?と思うかもしれないが、その所有者が『上条当麻』から『神浄の討魔』に代わるとするならどうだろう?
 アンナ=シュプレンゲルが蛹から蝶になると形容したことから、神浄の討魔の出力は上条当麻よりも上だと考えることができる上に、アレイスターの調整次第では位相を砕くことも可能だろう。(※アレイスターが衝撃の杖で10倍にすることは不可能です。意思が存在しない位相には通用しないため)

③上条当麻と隕石
 そして、最後となるが上条に向けて作中で隕石が度々降ってきているのをご存知だろうか?
 例えば、本編から外れてしまうがエンデュミオンの事件発生前のスペースデブリを使用した魔術『ブラフマーアストラ』。
 あれを隕石と見るなら、あれでドラゴンが創られてもおかしくなくね?っとなる。いや、マジであれがドラゴンとなるのなら科学技術が生み出したスペースデブリから、物理法則の位相が喰われるんじゃね?とか疑問が浮かんでしまう。
 かまちーのミスか?とも一瞬思ったが、『失敗』することが確定のキャラクターが黒幕だったことで納得した。ああ、やりそうだと。
 まあ、神話の一撃とはいえ魔術師の再現のため、神話要素が足らずドラゴン化するかは難しいだろうと作者は考えている。それこそ、魔術師トールが全能神の力を出したとはいえ、それで神話のトール神と同等かと言われれば首を傾げる人は多いのではないだろうか。



 だが、もう一つ。本編で描写されている隕石が存在している。
 それは新訳の13刊。雲川芹亜と漫画雑誌とかお嬢様そーじょさんのラブレターだとか、フィアンマ風車事件だとか、そう言った諸々をこなした後の最後で出てきただろう?

 魔神の僧正と一体化したアローヘッド彗星が。

 上条当麻の身体から右腕が離れたとき、他の刊で表現されている内側から弾けるような「ぼごんっ!!」という音でもなく、コロンゾンに右腕を切り飛ばされて「めきめきめきめき!!」と、内側から溢れる力が表出するときの表現でもない。
 あの時、上条の右腕からは「ピシリピシリ」という亀裂の音がしたのではなかったか?ならば、あの時は他の時と明確に違う何かが起きていたのではないか?

 例えば、あれは上条の内側から何かが表出するのではなく、外側から向かってくる何かを「捕食」しようとしていたとか。

 魔神とは神格を得た魔術師のことを言うのならば、それは即ち神話の領域に足を踏み込んでいることと同義であると考えられる。つまり、あのアローヘッド彗星はドラゴン化に必要な条件を揃えていることになるのではないだろうか?
 まあ、だとしても上条を長年調節していたアレイスターからすれば、降って沸いた僧正のドラゴン化など邪魔でしかない。だから、木原脳幹を手配して取り込む前に消し飛ばしたのではないか、と私は考えた。

 備考
 上条の中にある透明な何かがV.V.V.V.V.である可能性もあり。神浄の討魔=V.V.V.V.V.かは考察であろうと断定できない。



 っとまあ、こんな如何にも自信満々で書いているように見えますが、全て海鮮茶漬けの妄想なのでそこのところお忘れなくm(_ _)m


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141.科学の重鎮

エルキドゥが強化されたので書き上げました。Fate/ACでもピックアップされるそうですよ。

変更
・オリ主の年齢を17→16


 それは、上条達が天野俱佐利を救い出すために最終決戦に立ち向かうのと同時刻。彼女達も同じくして今回の黒幕を叩くために行動していた。

 今回の騒動を引き起こしたマッドサイエンティスト木原幻生。彼には脳波の調律で獲得した多才能力(マルチスキル)や、外装代脳(エクステリア)の脳波を調律して使用可能となった心理掌握(メンタルアウト)を有している。

 更には、最新鋭の科学兵器を駆使することは勿論、純粋な心理戦だけでも学園都市の闇を生き抜くことが可能な妖怪。そんな学園都市の重鎮を相手に少女三人で挑まなくてはならない。

 心理掌握の真の所有者である食蜂操祈と、彼女と同じく常盤台中学の生徒にして風紀委員(ジャッジメント)の白井黒子。更には黒幕である木原幻生の手下であった警策(こうざく)看取(みとり)

 この異色も異色のスリーマンセルで、あの木原幻生を打倒しなくてはならないことに加えて、彼女達の敗北は学園都市の行く末さえ左右するものになる。

 幻生の権謀術数が張り巡らされた暗闇こそが彼女達の戦場。敵の強大さと厄介さを鑑みれば、表で戦っている上条達と引けを取らない鉄火場だ。その戦いは高位能力者である彼女達であっても掌握することは難しくなる。

 

 ───だからこそ、彼女達がこうして唖然とすることも当然のことだったかもしれない。

 

「…………ねえ、これはどういうことなのかしらぁ?」

 

 そう声を上げたのは食蜂だった。彼女達が助けに入るまで木原幻生を相手に一人で立ち向かっていた彼女は、木原幻生の妖怪の如く内面を読み透かす目と、現在所有している力の強さを身を持って知っている。だからこそ、目の前にあるこの状況を飲み込めないでいた。

 だが、そのことで彼女を責めることは出来ない。ここに居る人間の誰もが予想だにしなかった事態に遭遇してしまったのだから。それこそ、誰が想像出来るだろうか?

 

 

 

 ───まさか、対峙するために乗り込んだビル型の施設の中で、木原幻生が既に事切れていたなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (さかのぼ)ること十分前。

 木原幻生は目の前で起きている様々な事象に狂気的な笑みを広げていた。

 

「ヒョーッッ!!まさかまさかまさかまさかッ、これ程だとは想定してなかった!!

 絶対能力者(レベル6)に至る程の高エネルギーを注がれた天野くんが形成するあの力場が、『非科学』の世界でも最上級の結果を生み出すことは想定していたが、それがまさかこれ程までの現象を生み出すとは……ッッ!!」

 

 興奮による興奮。脳の血管がその湧き出る高揚感によって、千切れるのではないかと思うほどの歓喜が彼を襲っていた。

 

「彼女に干渉している幻想殺し(イマジンブレイカー)第七位(ナンバーセブン)の規格外の力が、更なる刺激となって天野くんを進化させ続けている!

 彼らの介入によって破格の観測となるのは期待はしていたが、代わる代わる集まる別種のデータが全て最高品質だとは誰が思うだろうか!

 これ程の高品質なデータが一回の実験で複数集まることなどそうは無い!間違いなく天野くんの尽力によって科学は更なる領域に足を踏み入れることが可能となるッ!」

 

 現在、幻生の下に集められるデータは彼であっても十分の一も理解出来ないものばかり。

 それは、『非科学』を取り扱う魔術サイドの人間でも、世界有数の卓越した知恵者達が頭を突き合わせなければ、答えの取っ掛かりを導き出すことすら不可能な事象の数々なのだから当然のことだ。

 今の木原幻生が置かれている状況は四則演算すらまともに出来ない子供に、フェルマーの最終定理や特異点定理を証明しろと言われているものなのだから。

 人間は理解不能だと判断した物を、異物だと認識して理解しようとすることを止めるものである。だが、彼は『木原』である。

 科学分野が発展する度に生まれ落ちる副産物の一種であり、「純粋な科学の一分野を悪用しようと思う時に、その一分野に現れる実行者」、それこそが木原一族だ。

 だからこそ、彼は立ち止まらない。それが、科学の外にある『非科学』だとしても、いずれ科学に落とし込み技術として活用する。無理難題も理解不能も彼からすれば宝の宝庫でしかない。

 

 一を知れば百を知るためにあらゆる手を尽くしてしまうのが『木原』の宿命なのだから。

 

 だが、それが全ての『木原』が望むことなのかはまた別の話。

 

 

 

『あ、あー、テステス、私の声が聞こえてますー?まあ、この私が調節しているので聞こえないなんてことある訳も無いんですけど、そこは様式美というか、先生風に言うならロマンがあるってところです。いやんっ、私ったら先生の真似をするだなんて大胆っ♪』

 

 

 

 女性の声が突如スピーカーから流れてきた。それは、食蜂のように管理権限があるのではなく、ハッキングによる無断使用。

 その声に対して木原幻生は先程までの気分の高鳴りを限界まで抑え、スピーカーから流れる声の主に向けて声を返した。

 

「ふむ、ようやく登場というところかな?アレイスター君の小飼。だけど、状況把握はもちろん対応も含めた全てが遅れていると言わざるをえないねぇ。それに加えて、この状況で代理を向かわせるなんて少々大きく見積り過ぎていたかな?」

 

『くすくす、あなた程度が先生の相手をして貰えるとか思ってたんですか?それは些か期待し過ぎでしょうに。余り分不相応なものを強情(ねだ)っちゃだめですよお爺ちゃんっ☆』

 

「脳幹君も八十辺りの年齢の筈だったんだがねぇ。人間とは違う犬だからか、そこの辺りも含めると同じ様に判断すること自体間違っているのかな?

 ……けれど、やっぱりこの状況はどう見積もっても合理的には程遠いねぇ。彼の言うロマンかとも思ったけどこれは流石におかしい。彼は僕達と違って人の脳ではなく、犬の脳を拡張して人と同等の知能を宿しているだろう?」

 

 人と同等の頭脳を持つゴールデンレトリバー。それは、木原一族の始祖達が生み出した科学の結晶でもあったのだ。だが、ここで重要なのはその正体では無い。

 

「ならば、脳が犬をベースにしていることで心理掌握(メンタルアウト)の効力の外に居ることが可能な、脳幹君が僕の相手となるのが一番合理的であり最適解だろう。それこそ、君ではこうして僕の前に立つことすら出来はしないのだからね」

 

 木原幻生は既にこの声の主が誰なのか理解している。彼女が学園都市はもちろん木原一族の中でどのようなポジションに着いているかも。

 

「だとするなら、外に居る天野くんの対応に追われているのかな?『非科学』はアレイスター君の中で最優先に対処しなくてはならない事柄ということだね。

 そうだろうと思ってはいたけど、この街の創設者であるアレイスター君は『非科学』の知識も有しているようだ。なら、『非科学』によって度重なる進化を遂げた天野くんであっても、アレイスター君ならば何かしらの手を打つことは不可能ではないと言うことだね」

 

 『非科学』に手を伸ばすこの街の闇の中を歩んできた妖怪は、隠された秘密をその頭脳と知識によって一つ一つ暴いていく。

 

「ふむ、……もしかすると、脳幹君が死神とも呼ばれている理由は、アレイスター君が有している『非科学』の知識を活用しているからかな?

 それならば、『科学』の範疇でしか生きてこなかったこの街の科学者は、どうやって殺されたのか理解することすら出来ずに死んでしまうことだろう。アレイスター君が彼を重宝するのも分かるというものだ」

 

『……あーあ、勝手にこっちの領分まで来ないで欲しいのですけど、そこら辺全くわかってねえんだろうなぁこのジジイ。分不相応ってさっき言ったばかりなんですけど。

 螺子が外れた年寄りの相手をするって若者にとっては地獄なんですけど、その機微程度は理解して欲しいんですよねえ』

 

 苛ついた声がスピーカーの向こうから流れてくる。これは隠すことに意味があることではないという意思表示だ。木原唯一からすれば統括理事長・アレイスターの都合などどうでもいい。それどころか、自らが尊敬する木原脳幹を手足のように扱うあの『人間』に対して、嫌悪感すらあるのだから当然だ。

 そして、ここまで個人の力で答えを導き出した『木原』に、下手な誤魔化しなど何一つ意味が無いことを、同じ『木原』である木原唯一は理解していた。

 

「だとするなら、やはり脳幹君は期待外れとしか言いようがないねぇ。『非科学』の存在を知りながらそれを解明しないなんて科学者としては落第もいいところ。

 未知があるのならば率先して解析してこそ科学者のあるべき姿だよ。直前で足を止めた木原脳幹君はそこで科学者としては死んでしまった。アレイスター君に尻尾を振るだけの獣に成り下がってしまったんだねぇ。

 いやはや、『木原』の科学者が零落する様を見ることになるとはとても残念だよ」

 

 それは、いつも木原幻生が教え子達に向けて評価するときのような口調だった。出来の悪い生徒を酷評する落胆を隠さない声音。

 そんな木原幻生の言葉を聞いた木原唯一の口から、彼女の感情がそっと溢れ出た。

 

 

『死ね。お前程度が先生を語るな。物の分別も理解出来なくなった老害風情が』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 多才能力。

 心理掌握。

 その強大な二つの力を有している木原幻生を倒す方法はそうそう在るものではない。それこそ、複数人の高位能力者を手の平の上で転がすことなど今の彼ならば朝飯前なのだ。

 彼が辿り着こうとしている『非科学』の魔術サイドの人間であっても、今の木原幻生を打倒することが可能な者が果たしてどれ程居るのだろう。

 しかし、この学園都市という科学の総本山であれば、不可能を可能にするゲテモノなど数多く生まれている。

 

「となれば、木原唯一が私に命令を飛ばしてくるっていうのも道理かな。それが一番効果的なのは間違いないし。そもそも、木原相手じゃその程度の反則なんて反則の内にも入らないだろうしね」

 

 そのように述べるのは、地上から遥か彼方になる宇宙空間に浮かぶ衛星『ひこぼしⅡ号』の主、天埜(あまの)郭夜(かぐや)

 時代錯誤な長い黒髪に十二単(じゅうにひとえ)を身に纏う中学生ほどの少女は、統括理事会を支える『忌まわしきブレイン』の一人である。

 彼女が居る『無重力生体影響実験室』と銘打たれたその『檻』は、地上に居る学園都市の大人の都合によるものが大きく、その頭脳を棄てるには惜しいが近くに置くのは御免被るという理由からだ。

 長い宇宙空間という軟禁生活の果てに地上の生活が不可能となってしまった彼女は、自分しか居ないその『檻』の中で地上で起きている様々な事柄を嘲笑する。

 

 だが、それも二十分も経てば話は変わる。天埜郭夜は宇宙空間という特殊な環境下によって少女漫画のように変容した自らの身体を動かして、地上との連絡手段である通信機に近寄った。

 

「……んん?おいおい、幾ら何でも時間が掛かりすぎだろ。仮に木原唯一の奴が同じ『木原』である木原幻生とのやり取りを楽しんでるにしても、予定時刻よりここまで遅れて未だに命令の一つも飛んで来ないものか?

 アイツの話しの口調はマイペースそのものではあったが、仕事に関してはドライで正確なイメージだったんだけどなあ?

 あのアレイスターが他の人間よりも近くに置いてあることから有能なのは間違いない筈なんだが」

 

 見た目の可憐さとは縁遠い粗野な物言いをする天埜遊郭は、通信相手であった木原唯一について思考を回す。

 あの統括理事長が一定の評価をする人間ならば、ここで指示を遅らせるなどと言うミスはまずしない。木原幻生の言動によって感情的になったとしても、逆に殺意を研ぎ澄ませ冷徹に確殺の一手を講じていくだろう。

 ならば、何故このようなことが起きている?天埜郭夜は今起きている事態を俯瞰して一つの結論を導いた。

 

「さては、木原幻生に出し抜かれたな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………」

 

 木原唯一は手元にある端末に視線を向けて眉根を寄せる。どれだけタップしても応答が無い。天埜郭夜がここで裏切るメリットは一つもない。

 ならば、その要因はあの老いぼれしかあり得ない。

 

『この僕が衛星からの攻撃に備えていないとはまさか思ってはいないだろうねぇ?君が僕よりアレイスター君に近かろうとも学園都市の闇で生き抜いてきた時間は僕の方が長い。年の功と言うやつだね』

 

「私が彼女と連絡するための電波の周波数を看破してジャミングしたとでも?それが、一つだけならまだしも私が利用する全ての周波数を抑えるなんて芸当は誰にも不可能です」

 

 仮に出来る者が居たとするならば、学園都市のありとあらゆる情報を滞空回線(アンダーライン)で取得している統括理事長くらいだろう。

 まあ、仮に相手がアレイスターであっても木原唯一ならば裏をかくことも不可能ではないのだが。

 

『多才能力と心理掌握を手にした僕は、対人戦において限られた者以外は歯牙にもかけない無類の強さを得たと言える。だけど、万能に近しい強さであって決して絶対の強さを得た訳じゃない。

 それこそ、多才能力は超能力者(レベル5)の子と比べてしまえば子供のお遊び程度のものだし、心理掌握はリミッター解除コードで能力を底上げしても宇宙空間までは届かないだろう』

 

 そう、今の木原幻生を最も確実に殺す最適解は宇宙空間からの爆撃である。心理掌握が届かない超アウトレンジからの攻撃。これこそが、木原幻生を確実に殺すことが可能な方法なのだ。

 

『だけど、君の言う通り僕はアレイスター君のように覗き見することはできないから、君の扱う衛星通信の周波数を確定することは不可能だ。

 君が衛星から僕に攻撃する手段を止める(すべ)は無かったよ───()()()()()()()()()()

 

「───まさかッ!?」

 

『「非科学」を利用させて貰ったよ。絶対能力者(レベル6)に至る前に天野君が大量に放出していた雷を利用してね』

 

 木原唯一は上空を仰ぎ見る。そこには今尚空を覆う雷雲が広がっていた。

 

『電波を阻害する「オカルト」は僕達科学者の前にいつも現れる代名詞といってもいい。僕は天野くんが生み出す「非科学」を解析して一部分ではあるけれど「科学」の内側に落とし込むことに成功していたのさ。

 とはいえ、電圧が低ければ衛星との通信をジャミングするなんてことは不可能だったよ。だけど、度々「オカルト」の実験結果が検出されていた天野君であれば、彼女が絶対能力者(レベル6)に成る途中で生み出した雷雲も「オカルト」を宿していてもおかしくはない。

 それこそ、彼女が生み出したあの巨大な雷雲を利用すれば、大きな電波障害を生み出すことも不可能ではないと、僕は踏んだわけだ』

 

 端的に言ってしまえば木原幻生がしたことは空電による電波障害だ。

 空電とは雷放電による電波障害のことであり、雷が発生したところではラジオなどにノイズが含まれるなどの被害を出す。しかし、これで電波を遮断すること自体は不可能と言ってもいい。

 雷によって家電などの電子機器が破損してしまうのは、空電による被害ではなく雷サージによるものだ。雷サージとは落雷が構造物の金属導体を伝う現象であり、電子機器が雷によって破損してしまうのはこの過電流によるものである。

 空電は大規模な影響を周囲に与えるが直接雷が流れる訳ではないため、前述の通りノイズなどの軽微な影響しか与えることは出来ず、最先端の科学技術を有している学園都市ならば、空電の被害など全て遮断出来て当然なのだ。

 それが出来ていない理由など、この男の手によるもの以外にはありはしない。

 

「……電波障害を引き起こしているのが人工衛星との通信だけに限定されているのも『非科学』が要因であると」

 

『学園都市に無作為に電波障害を起こしてしまうと、僕の所有する分析機器も使えなくなってしまうからねぇ。明確な数値と数式を理解することはまだ僕にも出来ないけど、この程度のことは今の僕でも実現出来るとも』

 

「(私が知らない『外』の知識。……なるほど、情報で負けていれば如何なる方法であろうと察知することすら出来ないと)」

 

 木原唯一は『木原一族』を統括するポジションに着いている。それこそ、少し先の未来で起こる『〇九三〇』事件にて、木原数多は一方通行(アクセラレータ)を相手に殴り飛ばすという偉業を為しているが、この技術は相手の血液中に気泡を生み出して死を招く、木原唯一の殺人拳が元となっているのだ。

 あの木原数多ですら不完全なコピーが限界だったことを考えれば、どれだけ木原唯一が『木原一族』の中でも優秀なのか理解出来るだろう。

 そんな木原唯一を出し抜く方法は、彼女が知り得ない『オカルト』の領域以外に道はない。

 しかし、相手はあの木原唯一だ。その程度で白旗を挙げるほど甘くはない。

 

「私が知り得ない知識を有していたとしても、結局は理論として証明出来ない穴だらけの付け焼き刃であることは変わらない。学園都市の中枢に近い私の方が用いる手札が多いことを考えても、詰め将棋よろしく私の勝利は確定している」

 

『おやおや、分かっていないねぇ。僕の知識は天野君が進化と成長を繰り返す度に、より知識の確度と集積が積み重なっていく。僕が「非科学」の理解を深めていく度に、君の状況は刻一刻と不利になっていくのを忘れてはいけないよ』

 

 学園都市の闇の中で生きてきた『大人』達による、暗闇の中での潰し合いが始まった。




◆作者の戯れ言◆
木原唯一の口調が難し過ぎる件について。

◆前回のサーヴァントメンバーについての説明◆
端的に言わせて貰うと、地球外パワーと隕石に関係のあるサーヴァント達が八竜の呼び水でした。

マハトマUFOのエレナ、ムーンセル(月)管理AIのBB、外なる神の力を持つアビゲイル、隕鉄の剣を持つネロ。

パラPは宝具で持つ剣が賢者の石に用いた魔術礼装であり、その賢者の石がフォトニック結晶(月の内部にある演算装置)と偶然(ここは不明)同じであるため、ムールセル(月)の一部として認識されました。
ムーンセル管理AIであるBBに反応したのならば、パラPの宝具に反応してもおかしく無い筈と考えてのことです。
ちなみに、千年渓谷は『地球外の飛来物』とは全く関係ありません。
それこそ、他のサーヴァントとは違い幻想殺しによって跡形もなく先に消されてますので、そもそも竜の餌にはなり得ないということですね(他の宝具は中途半端に顕現してるので)

※何でパンドラの箱を破壊できたのかはまだ秘密


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142.妖怪事変終幕

エルキドゥ来ましたね


『ねえ、ホントに死んでるの?そのジジイは簡単にくたばるような奴じゃないよ?』

 

 警策(こうざく)看取(みとり)が自身の操る能力である液化人影《リキッドシャドウ》に内蔵されたスピーカーを使い、食蜂に向けて問い掛ける。

 

「知ってるわぁ。私が騙されたときみたいに変装した赤の他人って訳じゃないし、これが木原幻生で間違いない。流石の私も何でこんなことになっているのかまでは分からないけどねぇ?」

 

 警策に言葉を返す食蜂は幻生との戦いで、所々体操服が破れてしまい扇情的な装いになってしまっていた。

 普段からしている長手袋と体操服という組み合わせの時点でかなり怪しいものだが、破れた体操服から覗く年不相応なスタイルがやらしさに拍車を掛けてしまっている。

 下手をすればそっち系のオネーさんに見られてもおかしくはないだろう(彼女は中学二年生である)。

 

「むむむむっ、よく分かりませんわね。今回の騒動を引き起こした黒幕である木原幻生を捕まえる筈が既に亡くなっていた……。わたくし達とは関係の無い第三者による打倒ということでしょうか」

 

 ボロボロになった施設を見渡しながら、共に行動する三人の内の一人である風紀委員(ジャッジメント)に所属している白井黒子が、顎に手を当てながら唸る。

 自らと全く関係の無いところで黒幕が都合よく敗北していたなど、不気味以外の何物ではない。

 

「ということで、ぱぱっと心理掌握(メンタルアウト)で幻生がここで誰と何をしたのかを読み取るわぁ」

 

 食蜂はリモコンを幻生に向ける。これが幻生の仕掛けた(トラップ)である可能性もあるにはあるが、ここで足踏みしていても理解出来る訳ではない。

 食蜂は何があったとしても対応出来るように心構えをしながらリモコンのボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひょっ、ひょっ、ひょっ、ひょっ。なかなか面白いオモチャを揃えてるねぇ」

 

 木原幻生は施設の中に入り込んで来る兵器群を、愉快だと言わんばかりに笑いながら破壊していく。

 人の死角に自動で入り込み銃撃するAI搭載ドローン兵器は風力使い(エアロシューター)の能力で打ち落とし、戦車の主砲として搭載される滑腔砲(かっこうほう)を装着された駆動鎧(パワードスーツ)の大群を電撃使い(エレクトロマスター)の電撃で行動不能にする。

 次々と送られる遠隔制御の兵器を捌いていく幻生のその姿は、誰もが想像する能力者の理想形と言えるだろう。人によってはとある緑色の髪をした少女の姿を思い出すかもしれない。

 

 だから、敵も一筋縄ではいかない。

 

 

 ドガガガガガガッッ!!!!と、大量の超電磁砲(レールガン)が隣のビルから発射された。

 

 

 数秒で施設の壁に大きな穴を空けるその破壊力はわざわざ説明する必要もない。だが、開けた穴から砂煙が立ち上るその光景をカメラ越しに見ていたそれは、砂煙から何事もなかったかのように現れる老人に再びカメラのピントを合わせることになる。

 

「───ファイブオーバーシリーズ。学園都市の中枢に近い君なら当然動かせるだろうと思っていたよ」

 

 FIVE_Over.─Gatlring_Railgun.

 カマキリのような兵器の側面に刻まれた名称。それこそ、この学園都市の技術の結晶とも言える最新鋭の科学兵器だ。超能力者(レベル5)の能力を工学兵器に転用し、元となった超能力者を超える性能を持つ軍略兵器として生み出す試みこそファイブオーバーシリーズである。

 第三位の御坂美琴が放つ超電磁砲を、飛距離と弾数を増やすことに成功した工学兵器がこのカマキリのような姿をした兵器だ。

 そのカマキリのような異様な姿に搭載された二つの銃身は、対象を欠片も残さず殲滅する筈だった。木原幻生が生き残った主な要因は彼もまた学園都市の闇の中で生きるものの一人だったということ。

 ファイブオーバーの運用方法を木原幻生も把握していた。だからこそ、(あらかじ)めこの施設を射撃可能な施設には電波(かく)乱兵器を仕込んでいる。

 複雑な行程を踏まなくてはならない最新鋭の兵器に、そのジャミングは致命的だった。その証拠に幻生が元に居たところとは、五メートル近く離れた場所に穴を空けていた。ファイブオーバーで木原幻生を討ち取ることはほぼ不可能と見ていいだろう。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 木原幻生がその場から後ろに二メートル程下がると、空気使い(エアロシューター)の能力を使い、何も無い空間に向かって圧縮した空気を幾つも撃ち放つ。

 すると、瞬く間に空間の揺らぎと共に幻生の居た場所が抉れていく。

 

「フムフム、これは暗部組織で使われている確か『オジギソウ』という兵器だったかな?見えない程に小型化した兵器を使い対象の細胞を一つ一つ掴み取る殺人兵器。

 人体にだけ作用するものだった筈なんだけど、木原印に改造したと言うところかねぇ。木原の人間がリサイクルとはなかなか興味深い」

 

 ファイブオーバーによる攻撃の最中に散布されたそれを、木原幻生は当然のように察知して回避する。学園都市の闇で生き抜いてきた妖怪は同じ闇の住人の思考を(ことごと)く読み切っていく。

 不自然な程一つ一つ確実に。

 

『……なるほど、それも「非科学」ですか。あなたの持ち得る能力の中に微細な機械を関知可能なレベルの電撃使い(エレクトロマスター)は無い。

 つまり、それは学園都市外の力によるものであると。これを解析するのは面倒なことこの上ないですねー』

 

「こちら側に来る勇気が君にあれば好きにするといいよ。科学の進歩に貢献出来る人材は僕も求めているからねぇ」

 

 狂気を含んだ笑みを広げて木原幻生は木原唯一に言葉を投げ掛ける。これが、ただの挑発でないところが彼のイカレているところだろう。

 

『(有効打となる一手が届かない。やはり、「非科学」という一部分が私の想定を狂わすフィルターである、と。

 その要素さえなければこんな腐れジジイなんて互角の勝負なんてさせずに捻り潰せるというのに。はーっ、やれやれ、枯れた老いぼれのくせして相手にすると鬱陶しいことこの上無い)』

 

 唯一は他のファイブオーバーを出そうかとも考えるが、木原一族の一人にそこまで手をかけてしまうと、あとあと面倒になりそうな展開になりそうだと思考する。

 

『(火力でのゴリ押しは確かに強いんですが、端から見れば脳死でやってるだけに見えるのは当然ですし、万が一にも「非科学」によってコントロールが奪われれば目も当てられないですねー)』

 

 爪を噛みつつ木原唯一は淡々とメリットとデメリットを秤にかけていく。それこそ、「非科学」という未知の部分さえ無ければ、とっくの昔に木原唯一は木原幻生を物言わぬ肉袋に変えているのだ。

 今の現状に苛立ちを覚えるのも仕方ないことだろう。

 

「(……とはいえ、このままでは八方塞がりなのも否めません。第一位や第四位のファイブオーバーも投入することも検討しなくてはいけませんか。

 先生の勇姿も見たいので短期決戦は私も望むところ。さて、まずは『非科学』による危機察知の傾向を割り出すところから始めましょうか)」

 

 だが、木原唯一の思考など無視して戦況は着々と変わっていく。

 

「───ふむ、天野くんの進化が止まりかけているのかな?別種のモノに変化するというよりは尻すぼみしていくような感じだ。()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう言うと、木原幻生は食蜂から奪ったタブレットを使い、とあるコードを打ち込んでいく。木原唯一の攻撃を受けている状況の中で幻生はその全てを打ち込み終わる。

 

「リミッター解除コードで天野くんの進化の促進をする実験を始める。……一万二千通りの内どれが『非科学』を浮き彫りにするのか、今からワクワクが止まらないよ」

 

 狂気に顔を歪めながらも子供のように目を輝かす妖怪は、未知への探求のためにその一歩を踏み出す。『科学(常識)』から『非科学(非常識)』の領域に足を踏み入れる。

 その最大の禁忌へ彼はようやく突入するのだ。

 

 

「科学の更なる発展のためにまだ見ぬ新たな境地へ、人類は今このときをもって再び足を踏み入れる」

 

 

 そして、万感の想いを胸に抱きそのまま木原幻生はタブレットに入力して、───彼はその生に終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ふーん、なるほどそういうこと」

 

 食蜂が幻生の亡骸から読み取った情報から、ここで何があったのかを理解する。彼女からすればそれは拍子抜けに感じてしまう。

 

『その様子じゃなんか分かったみたいだね。それじゃあ、事のあらましを私達にも説明してくれるかな操祈ちゃん?』

 

「そうねぇ。端的に言ってしまえば私が優秀すぎたってところかしらぁ?達成(りょく)とか皆無だから余り胸を張れないけどねぇ?」

 

「説明する気あるんですのこの方?それで、どういうことですの?」

 

 白井黒子が呆れつつも問い質す。食蜂自身もまだ飲み込めていなかっただけで誤魔化すつもりはなかったのだが、そう受け取られても仕方ないだろう。

 食蜂はここまで使命感で付いてきた彼女に対して真摯に伝えた。

 

「幻生は心理掌握(メンタルアウト)のリミッター解除コードを使って、天野さんに悪さをしようと画策していたみたいだけど、()()()()()()()()()()()使()()()幻生に記憶を抜き取られる前に、リミッター解除コードと『外装代脳(エクステリア)』の自壊コードの認識を入れ替えてたみたいねぇ」

 

 『外装代脳』は自壊コードを入力すると巨大脳のダメージが保有者に跳ね返り廃人になってしまう危険性があった。本来ならば食蜂に向けてフィードバックが来る筈なのだが、脳波の調律によって保有者となっていた幻生を『外装代脳』は所有者であると誤認し、フィードバックの相手とした。

 要は、食蜂は木原幻生を自滅させたのだ。

 

「……まあ、私にはその記憶がさっぱり無いから実感が難しいけど、幻生の最期の言葉から察するに大きな間違いは無い筈よぉ。その後、幻生の意識が無いから敵対していた人間がどこに行ったのかまでは知らないけどね」

 

 敵対者が幻生の死亡を確認したあと満足して去ったのかは食蜂には預かり知らぬことだ。ここで木原幻生は天野倶佐利に対して手を出すことも出来ずに死んだ。それが事実なのは変わらない。

 

「(それじゃあ、彼女達の治療法も調べないとよねぇ)」

 

 食蜂がリミッター解除コードと自滅コードの認識を変えてまで幻生を倒すことに注力したのは、幻生の頭の中を覗き妹達(シスターズ)に打ち込まれたウィルスデータの情報を得るという理由があった。

 木原印のウィルスであるなら民間の医者が対処可能なレベルを超えている筈だ。

 

 そのような思惑で物言わぬ死体となった幻生の記憶を覗いた食蜂は、その衝撃の事実に驚くしかない。

 

 食蜂は震える唇を動かしながら、背後で幻生の死亡を確認し逃走の準備をしている銀色のボディをした人形人影(リキッドシャドウ)と、それを見て太腿のケースに入れている鉄矢(ダーツ)を数本抜き取り、追跡の構えを取る正義感で荒ぶったツインテールを靡かせる風紀委員(ジャッジメント)の二人を見た。

 いや、正確には人形人影だけにその目は向けられている。それは、遠からず自分と因縁を持つ相手の名前だった。その名前に様々な感情を今まで感じていた食蜂は、水銀を操る本体の少女に向けて尋ねるしか出来なかった。

 

「……あ、あなたが『みーちゃん』……だったの……?」




◆考察◆
 学園都市の能力者について
 学園都市の能力者が何故魔術が扱えないのか。これについて作中では回路が違うとの理由が述べられています。今まで「へー、そう言うものなんだー」と、勝手に納得していましたがそれについて説明できそうな情報を入手しましたので書くことにします。

・超能力者と魔術師では回路が違う。
 これはインデックスが上条の疑問に答えるようにして、魔術を扱う必要な条件であるということを述べていました。では、具体的にインデックスの言うところの『才能』とは何か?


 その答えが『ヒューマンデザイン』


・『ヒューマンデザイン』とは何か。
 1987年に唱えられた、自分の自身がどういった精神をした人間なのかを知るための図表と言えるものであり、使われる用途では性格診断のような占いが代表的でしょう。
 ですが、その起源は神秘的でとある男性がある島で啓示を受けて書き上げた経緯があります。一見オカルト好きの妄想かと思われたこの図表は、なんと現代科学の観点から見ると思わず納得してしまう点が多く見られたとか。
 それこそ、オカルト方面では有名な占星術やカバラ、チャクラなどの要素も組み込まれていますが、同時に現代科学の心理学、遺伝学、ニュートリノ物理学などの要素も取り入れられた、摩訶不思議な図形こそが『ヒューマンデザイン』です。
 そして、特に注目すべきがニュートリノ物理学の要素です。

 ニュートリノとは素粒子の一つ。このニュートリノは超新星爆発によって発生するのですが、実は、『ヒューマンデザイン』の啓示を受けた男性が時期と、大マゼラン星雲で起きた超新星爆発の時期がほぼ同時期なのが確認されています。
 全てがただのデタラメとは言えないのがこの『ヒューマンデザイン』なのです。それに加えてこの『ヒューマンデザイン』を書いた男性は大のオカルトアンチであり、その突然受けた啓示の具体性に戸惑っていたらしく、苦々しく思いながらも使命感で書き上げたというのが実情のようです。

 それでは、先ほど述べたインデックスが作中で述べた『才能』ですが、実は、『ヒューマンデザイン』の項目に入っているのです。
 『自分の強み』、『自分の弱み』、『役割』、『魂の使命』、『基準』など様々な項目を埋めて自分自身をの特性や個性を導き出す『ヒューマンデザイン』。果たして、これは偶然の一致なのでしょうか?
 そして、言っていませんでしたがこの『ヒューマンデザイン』、実は人体の構造に乗っ取って作成されています。それぞれの図形位置が臓器や骨、と照応しているのです。
 自我や個性の生成に肉体が必要条件であるということかもしれませんね。
 そして、問題なのがこの『ヒューマンデザイン』の頭部に描かれているものです。不思議なことにここだけ他の図形と違い、人体を想定したときに距離が余りにも近いのです。
 それこそ、この箇所に二つも入れず他の体の部位へ、照応するような図形を書けば良いのにも拘わらず。
 その決して大きくない部位こそが人体で言うところの頭部にあたります。。

 そして、その頭部にある図形の形が二つの三角形の図形。

 別の役割がそれぞれありますが頭部の部分に二つとも収まっており、実はこの二つは回路で繋がっています。
 三本の線で繋がっているだけなのでイメージが湧きにくいですが、その二つの三角形の図形を物体をイメージしてそれぞれの角を線で結ぶとどうなるか?


 答え、人間の頭部がある位置に綺麗な三角柱が出来上がる。


 作者はこれこそが能力者と普通の人間との差異だと思います。能力者が魔術を扱えないのは生命の樹で想定された人間の構造ではなく、現代科学の理論も取り入れた『ヒューマンデザイン』によって変質した人間だから回路が違う(あるいは、宇宙からの飛来物であるニュートリノによる影響?)。
 能力者のパーソナルリアリティーも、『ヒューマンデザイン』の自我や個性を導く概念による影響だからと考えれば、府に落ちるのではないでしょうか。

◆P.S◆
 ぶっちゃけ次の更新に半年から一年位間が空くかもしれません。もしかすると、一時的に表記を未完にするかもです


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143.ファストフード店での作戦会議

一年と言ったな。あれはウソだ(時間ができただけ)


 黒幕であった木原幻生が倒れたことにより事件は終息を果たした。科学と魔術のバランスは奇跡的に保たれ、学園都市に日常が再び帰って来たのだ。

 そんな世界の在り方を一変するような大事件が、すぐ近くまで迫っていたことも知らずに、学園都市に住まう子供達と共に大覇星祭は変わりなくそのプログラムを進めていく。

 学園都市の一大イベントである大覇星祭で浮き足立ちながらも、陽が出て間もないことで比較的閑静なこの時間帯に、どこにでもあるファストフード店で彼女達は人知れず集まっていた。

 

「はあ、……白井さんには悪いことしちゃったわねぇ」

 

 摘まんだポテトを食べ終わると、食蜂は後輩にあたる風紀委員(ジャッジメント)の少女を思い出して嘆息しながら呟く。

 

「常盤台に編入させる訳にもいかないドリーのために、警策(こうざく)さんの護衛は必要不可欠。

 あそこまで事件の解決に邁進していた彼女の努力と使命感に、唾を付けるようで申し訳ないけど、今回の警策さんが行った諸々は全て消去済みよぉ」

 

「まあ、そうじゃなきゃ私がこうして日の下で過ごせる訳ないもんね」

 

 そう言うと、警策は注文したコーラに口を付ける。彼女としてもその事に関しては想定の範囲内だ。

 

心理掌握(メンタルアウト)で誰かを操って護衛に付かせるのもいいんだけど、今回の騒動で分かる通り私の心理掌握は完全無敵って訳じゃないってことが証明されたわぁ。

 それに、能力で操っていざというときは肉壁になれなんて、流石に人道(りょく)が低すぎだし?

 その役目を嬉々としてやってくれる人員がいるなら、その人をドリーの側に付かせるのが一番安全で確実なんだゾ☆」

 

「普通、面と向かって肉壁って人に対して言う?」

 

 所々嫌味を含ませている会話だがそこに険悪さは無い。それどころか、気を使うというプロセスが必要無い分、その関係性にはどこか気安さがあった。

 御坂美琴のDNAマップを用いて生み出された妹達(シスターズ)の試作を行う研究機関『才人工房(クローンドリー)』。

 その中で生まれた妹達(シスターズ)の『0号(プロトタイプ)』であるドリーと言う少女が、彼女達の縁を結んだ。

 ドリーの健康を無視して行われる実験を止めようとしたが、何も出来ずに関係を断たれてしまった警策と、警策の後釜としてドリーの会話相手に宛がわれ、事実を知ったのがドリーを看取った後の食蜂操祈。

 更には、幻生を相手に共闘した経験も彼女達の間に遠慮を取っ払った要因なのだろうか。

 

「(まあ、実際にはドリーと会ったときにした私達に対する謝罪から考えると、多分私達の時間を取り戻させようって考えなんだろうけどさ。

 自分の能力も満足に扱えない当時の操祈ちゃんに、大人達の思惑を全て察しろなんて無茶もいいところだって流石の私でも分かる。

 あの実験に参加した科学者達に隔離されて、ドリーが死んじゃったときにその場へ居合わせることも出来なかった私からすれば、ドリーを想って泣いて見送ってくれた子が居るってだけで充分なのにね……とはいえ、貰えるものは貰っとくから何も言わないけど)」

 

 警策はドリンクに再び口を付ける。復讐の道から外れても腹黒のところは流石は彼女である。

 そこまで話すと、食蜂はうって変わって神妙な顔付きになった。

 

 

「───まあ、それはそれとして、そろそろ本題に入りましょうか。天野さんについて詳しい話を聞かせて貰うわよ」

 

 

 それは、ドリーを助け出したあとのこと。帰りの車の中で警策が告げた衝撃的な事実が食蜂を襲った。

 

「……天野ちゃんの深層心理に潜り込んだとき、出会った人格が美琴ちゃんの人格そのものだった。あれは、ウイルスに侵食されたミサカネットワークが天野ちゃんに集約したせいで、天野ちゃんのコピー能力が許容限界を超えちゃったんだと思う」

 

 天野俱佐利の人格が御坂美琴の人格に上書きされた。それがどういう事なのか、学園都市の精神系能力者最強に君臨する彼女には誰よりも正確に判断が出来る。

 

「人格の書き換え、と言ってしまえばそれだけなんだけど、相手があの天野さんになってくるとちょっと難しくなっちゃうのよねぇ……」

 

 人格の書き換えなど心理掌握を扱う彼女からしてみれば、息を吸うのと大して変わらない事である。本来ならば彼女の心理掌握を使い塗り潰される前の元の人格を引っ張り出せばそれで済む話だった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()今回、起きた人格の上書きはミサカネットワークという膨大な情報によって引き起こされたもの。

 おそらく、それだけじゃ天野さんの人格に影響を与えることは不可能だと思うわ。既に何万人ものコピーをしている天野さんなら何かしらの影響はあっても人格が全て丸々塗り潰されるなんてありえない筈。

 ……だとすると、原因は『御坂さんの姿をした状態でミサカネットワークを出力された』こと」

 

 分かりきった事柄ではあるが、今は状況の一つ一つの精査と確認こそが解決への近道。天野俱佐利というそれぞれ親愛と罪悪感を抱く対象だからこそ、基本に忠実な解決方法を踏む必要がある。

 

「心理掌握じゃあ俱佐利ちゃんには届かない。でも、美琴ちゃんの状態での強引なミサカネットワークによる出力なら話は別。

 美琴ちゃんのDNAマップから生み出された、妹達(シスターズ)が構築しているミサカネットワークは、能力者が無意識に発しているAIM拡散力場を元に形成されたもの。

 要するに、同じ細胞のクローンである妹達(シスターズ)は、全員が電気使い(エアクトロマスター)であることも含めて、元々美琴ちゃんとかなり親和性が高かったって訳だね。

 俱佐利ちゃんもそうだけどコピー元の美琴ちゃんもそこを幻生に利用されちゃって、絶対能力者(レベル6)の入り口に一瞬だけとはいえ足を踏み入れちゃったんだし」

 

 幻生の部下として動いていた警策は、絶対能力者(レベル6)を生み出す概要を知っている。例えそれが、幻生の本命に至る前段階だとしても。

 

「……それと比べてしまうと、赤の他人の能力である心理掌握とミサカネットワークじゃあ、御坂さんの身体による馴染み易さからくる、天野さんに対してのハッキングの精度は天と地にも差がある…………あるんだけど、なーんか腑に落ちないのよねぇ」

 

「っていうと?」

 

 理屈は分かるのだが食蜂はその仮定に納得できない。天野俱佐利と共に過ごしてきた日々が彼女に違和感を抱かせる。

 

「私の心理掌握は天野さんには通じない。これは、分かりきっている事なんだけど、それは天野さんが身体をコピーして変身したあとも変わらないわ。

 なら、妹達(シスターズ)とは違ってミサカネットワークと直接繋がっていない御坂さんの身体だったなら、ミサカネットワークとの繋がりはただでさえ希薄でしょう?

 天野さんが絶対能力者《レベル6》に至るため、ミサカネットワークからエネルギーが送られたのが事実だとしても、繋がれたミサカネットワークの情報がちゃんと天野さんと繋がっていたかは怪しいわぁ」

 

「……幻生は俱佐利ちゃんの身体が絶対能力者(レベル6)の素体として優れてるとか言ってたけど?」

 

「でも、それってエネルギーを受け取り易いってだけでしょう?ミサカネットワークのそのものとの親和性が高い訳じゃない。加えて何かしらの要因がないと…………あっ」

 

 そこで彼女は思い出した。過去に妹達(シスターズ)と天野が接触していることを。

 

「天野さんは妹達(シスターズ)に過去で何回か接触しているわ。それこそ、その姿をコピーしたこともある。……まさか、そのときにミサカネットワークに登録された?」

 

 不正ログインのようなものだが自分達と同じ様な脳波を形成して、ミサカネットワークに一時的にでも接続したのならば、天野特有の劣化模倣によって変質した脳波が、ミサカネットワークのアクセス記録に登録されていてもおかしくはない。

 

「御坂さんの身体であっても天野さんの脳波は妹達(シスターズ)のときと変わらないと考えられるわぁ。DNAマップが同じなんだから御坂さんと妹達(シスターズ)から放出される電磁波の種類が変わらないのは当然のことなんだし。

 それこそ、一度もミサカネットワークのチャンネルに入ったことがないだろう御坂さんよりも、天野さんの方がミサカネットワークの親和性が高いってことになりえる……」

 

「でも、不正ログインなんてセキュリティ強化して閉め出すのが当然じゃない?何で彼女達はそこら辺対策してなかったのさ?」

 

 警策が疑問を投げ掛ける。食蜂には理由に心当たりがあった。

 

「ミサカネットワークの上位個体である打ち止め(ラストオーダー)は、第一位と一緒に行動しているようだからその関係なんじゃないかしらぁ?

 天野さんってフットワーク(りょく)軽いし、幼馴染みである一方通行へ会いに行ったついでに、彼女と知り合って仲良くなったんだと思うわぁ。

 そこで築いた信頼が今回は裏目に出てしまったってところかしらね」

 

 他にも、妹達(シスターズ)からの残骸(レムナント)破壊依頼による、ミサカネットワークの使用が初めてだったため、恩を受けておきながら弾き出すのは彼女達の良心が許せなかったという側面もあるだろう。

 

「まあ、それ以前にミサカネットワークは電磁波で形成されたAIM拡散力場のようなもの。上位個体の打ち止めでもそこまでの権限(りょく)を有しているかは怪しいけどねぇ」

 

 だが、エネルギーの吸収率の高さとミサカネットワークの親和性の高さが、オリジナルである御坂美琴よりも高かった事実が導き出せれば理屈が通る。

 ──しかし、だからこそ不明瞭な部分が浮き彫りになってくる。

 

「『オカルト』、『非科学』。あの幻生が見付け出そうとした未知の理論……。幻生の話じゃこれも関与しているのよね?」

 

「うん。私も馬鹿馬鹿しいと思ってたし学園都市をブッ潰せるならなんでもいいと思ってたけど、幻生が(しき)りに言ってたから間違いないよ。

 それこそ、それがなきゃ私も幻生と敵対関係になることも無かったかもしれないしね」

 

 科学の重鎮が取り組んだ全く新しいテーマ。同じく馬鹿馬鹿しいと思いながらも食蜂はその現象を幾つか目撃している。

 既存の物理法則とは違った力。目で見たものが真実ならばそれに向き合うしか方法はない。

 

「……本物の御坂さんに弾かれている時点で心理掌握は通じない。

 だから、天野さんの人格を元に戻すにはミサカネットワークを活用するしか方法は無い上に、幻生が生み出した理解不能の『オカルト』のエネルギーも必要になる…………不確定要素に加えて不安材料ばかりで嫌になっちゃうわぁ」

 

 食蜂には『オカルト』が何なのか全く分からないため、入力するために適切な出力も質もその一切が不明。それに加えて、昨日のような形態変化でもして学園都市を滅ぼす災害になれば手も付けられない。

 成功する可能性は極めて低い上に、そもそも必要な条件と満たすための前段階に辿り着けるかどうかも怪しいのだ。

 彼女から弱音が出てしまうのも仕方がないだろう。

 

「これからは、御坂さんと妹達(シスターズ)に色々協力して貰って一つ一つ試していくしかないわねぇ」

 

「つーか、その美琴ちゃんは?操祈ちゃんのことだからてっきりここに呼んでるかと思ったけど」

 

「私もそうしようと思ったんだけど電話が通じなかったわぁ。多分だけど昨日の天野さんとの電撃の打ち合いでショートしたってところが有力。

 どうせ自分よりも格上の電気使い(エレクトロマスター)と、全力で戦った記憶なんて碌に無いだろうから、携帯電話のことは頭から抜けているってところだと思うわぁ」

 

「それじゃあ、派閥のメンバーや操祈ちゃんの能力での人海戦術は?」

 

「今やってる。日を跨いで警策さんが言うからこんな朝方になってるのよぉ」

 

 そして、御坂美琴の携帯がショートしているということは、御坂美琴の姿で絶対能力者(レベル6)の領域に足を踏み入れ、特大の雷撃を振り撒いていた天野倶佐利の携帯も、同じくショートしているのは必然だった。

 もちろん、不幸な上条少年の携帯も電磁波で壊れているのは言うまでもない。

 

「(例のカエル顔のお医者様のところに入院したっていうから帆風を向かわせてみれば、既に自主退院したって言うし……。

 というか、入院日数が一日も居ないってそれ入院って言えるのかしらぁ?それを許すあの医者が適当なのか、天野さんが普通じゃないのか……)」

 

 まあ、明らかに後者が理由だろう。それこそ、傷一つ無い人間を入院させる必要なんてどこにもないのだから。

 

「(御坂さんは既に捕獲済みでここに連行中だけど、天野さんがどこで何をしているのかは分からない。

 ただでさえ行動範囲が広いのに、人格が御坂さんのものになっているなんてノイズまであると、私のプロファイリングもほとんどご破算。待つ以外のことが出来ない)」

 

「あ、あのー、操祈ちゃん?指をそんなに叩いても来るのは周囲の人達の視線なんだけど……」

 

 ミシンのように叩き続ける食蜂に警策が困惑しながら言うが、生憎彼女にその言葉は届かない。警策は居心地が悪化した状況に嘆息しながら手元のジュースに口を付けた。

 食蜂曰く、食品添加物盛り沢山の食品ばかりが幅をきかせる学園都市の中で、『当たり前の材料』を基に調理しているのがこの隠れた名店らしい。

 別に肥えた舌ががあるわけでもないが、より安全な食べ物が食べられるなら警策としては願ってもいないこと。要するに、『行き付けにしてもいいかなぁ』、と思うくらいの感想だ。

 彼女は目の前の少女から視線を外し、喉越しを突き抜けるフレッシュな甘味を感じながら、窓越しに流れる学園都市の風景を見ようとして

 

 

「ぶふぉッッ!?!?!?」

 

 

 盛大に噎せた。

 

「きゃあ!……ち、ちょっと、何なのよぉ?警策さん、幾らなんでも品性(りょく)が欠如しすぎじゃないかしらぁ……?」

 

 肩で息をする警策をかなり引いた目で見ながら苦言を呈する。

 こんなファストフード店や先日の戦いからは考えづらいかもしれないが、歴としたお嬢様である食蜂からすれば、品性からかけ離れた今の行動は受け入れがたいものがある。

 そんな彼女の反応に気付きながらも、警策はナプキンで口元を拭きながら窓の方に向かって指を指した。

 怪訝な顔をしながら彼女の指が指す方に顔を向ければ、そこには天野倶佐利がどこかキョトンとした顔をして、店の外から窓越しにこちらを眺めていた。

 

 

 天野倶佐利が。

 

 

「───はあッ!?」

 

 現在、行方不明で人格が上書きされたとされた少女が、まるで何でもないかのようにそこに立っていた。

 目立ちながらも落ち着く色合いの萌葱色の髪をいつものように流しながら、目が合う食蜂に向けてニッコリと笑いながら手を振っている。

 

 品性を感じられない声と抜けた顔をしたまま、食蜂はこうして数秒の間固まったのだった。




次回未定。


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木原襲来編
144.統括理事長の決定


ちょっと禁書のスレを覗いてきました。
この小説を書き始めたことによって何故か覚えた魔術知識を駆使すれば、「それなりに知識がある自分ならば大概の話には付いていけるのでは?」という自信を引っ提げて、ファンの深淵へと足を踏み入れてみました。

結論:有識者やばたにえん。

俺にはまだ早かったよ……


 巨大なビーカーの中で逆さまに揺蕩(たゆた)う、銀の長い髪を持ち男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える容姿をした『人間』は、世界一堅牢な城の中でその男と向き合っていた。

 

「それで、説明して貰えるんだろうなアレイスター?」

 

 グラサンとアロハシャツという、如何にもその場のノリで生きている人間のような風貌をしながら、その視線と圧力は闇の中で動く特有の凄みがある。

 土御門元春は暗部の顔をしてその『人間』と向かい合っていた。

 

「ふむ、まあそう来るだろうな。君としても理解を超えたことばかりだろう」

 

 統括理事長・アレイスター=クロウリーは多角スパイとしても動く少年に視線を向ける。

 

「今回ばかりはやり過ぎたな。危うく魔術サイドとぶつかり合うところだった。外部にいた俺でも分かるぞ。今回のことは途中からお前の手から離れて暴走していたってな。

 もしかすると、学園都市始まって以来の崩壊の危機だったんじゃないのか?」

 

 土御門はあのあと現場に残った痕跡で消せるものは消してここに来た。魔神が生まれそうになったことを考えても魔術の痕跡は消さなくてはならなかった。

 

 端的に言えば後処理を一人ですることになり、少々気が立っている。勿論、それが原因で冷静さを欠くようなことはあり得ないが。

 

「幾らなんでもあれはあり得ない。ただの偶然を超えている。一般人がクロウリー式のMagickの要素ばかりをその身に宿しているだって?

 作為的な何かがなければこんなことにはならない。この期に及んでシラを切るのはやめろよアレイスター」

 

 土御門は多角スパイという立場であり科学サイドの統括理事長に対して、何かを本来ならば言える立場ではない。しかし、科学サイドと魔術サイドのバランサーとして口出ししないわけにもいかなかった。

 規模が規模の上、天野倶佐利に対してされていることが余りにも度が過ぎている。倫理観はもちろん単純に戦争を呼び込む火種として。

 

「クロウリー式のMagick。その中でもセフィロトにトートタロットを対応させたカバラ魔術は、クロウリー式の代名詞だ。それこそ、『黄金』系魔術結社『明け色の陽射し』のボスは、トートタロットのアルカナを用いた戦闘方法を取っているらしいしな。

 お前が何を企んでいるのかは知らないが、天野倶佐利はお前が考えていた以上の爆弾となった。現場でフォローできる人間が一人でもいた方がお前的に助かるはずだ」

 

「ふむ……」

 

 アレイスターは目を細めた。土御門の問い掛けを吟味しているのだろう。アレイスターとしても科学サイドと魔術サイドの不文律を破る存在をそう明るみに出せる筈がない。

 取り扱いは最大限の警戒を抱いていることに何も不思議はない。アレイスターは土御門に向けて、いつもの感情の見えない顔をしながら言葉を発した。

 

 

 

「土御門元春。君は天野倶佐利という少女に対して、私が今まで一度も魔術的なアプローチをしていないと言ったら信じるかね?」

 

「……はあ?」

 

 

 

 土御門からすれば余りにも間の抜けた問いかけだった。何故ならば、それは一番あり得ないことだったからだ。

 

「冗談はやめろよアレイスター。この街で好き勝手住人の人生を決められる統括理事長にして、魔術……それもクロウリー式のMagickを好き勝手扱える『人間』なんてお前を除いて誰が居る」

 

「では、学園都市に訪れる以前、魔術に触れていた可能性は?」

 

「それこそ、夢物語だ。齢三つの幼児に魔術を極め尽くせとでも言うつもりか?学園都市じゃ満足に魔術を扱うことなんて出来る訳がない。

 お前の言い分が正しければ、天野倶佐利は十年以上魔術を使わずに秘匿し続け、外部からの後押しがあったとはいえ先日いきなり魔神になったということになる。

 そんな馬鹿な話があるものか。魔神という格がその程度ならば全魔術師の到達点などと言われることもないだろうよ」

 

 どのような天才であってもそんなことは不可能だ。(かつ)ては陰陽博士と言われた土御門としても笑い話と言いようがない。

 それこそ、一〇万三〇〇〇冊の魔道書を記憶したインデックスでさえ、魔神に届いてはいないのだ。ほぼ全ての人生を魔術と対極にある学園都市で過ごした少女が至れる領域ではない。

 

「君もその結論になるか。やはり、無理筋という他あるまい。

 魔術を究める方法は数多くあるが街全体を監視している私が、魔術を扱う特有の動きに今まで一度も気付かないなんてことがある筈がない。

 それこそ、私の作り出した魔術の系譜なのだとすれば尚更のこと」

 

「あ……?」

 

 土御門はそこである一つの疑念を思い浮かんだ。考えるだけでも馬鹿馬鹿しいがもしそうならば、先程からの不審なアレイスターの振る舞いにも合点がいく。

 今までの全ての仮定が間違いであり、先程の述べていたアレイスターの言葉を信じるのであれば……。

 

「……まさか、黒幕はお前以外に居るってのか?」

 

「逆に聞くが魔術を毛嫌いしている私が、この街の住人に対して魔術の技術を利用しようと思うと本気で思うとでも?」

 

 それはアレイスターならではの断言だった。そう、この『人間』の今までの在り方から推察すればそんなことはあり得ない。

 魔術の深淵を覗きながら魔術を何よりも憎むこととなったのがこの『人間』なのだから。

 

「……てっきり俺は二〇年前に行われた学園都市とイギリス清教合同の、『新たな能力者を作り出す』実験の成功例だと考えていたんだけどな」

 

「なるほど、能力者ではない原石だからと私が表に出さずに秘匿していたと考えていたのか。

 『能力者に魔術は扱えない』。この不文律に歪みが生まれると私が懸念してその判断を下したと」

 

「ああ、学園都市の闇に呑み込まれず生き抜いてきたアイツは、表でも裏でも顔が知れている。

 科学者達の間ではこれ以上無い程の実験対象として、常盤台を始めとした風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)の中でも、アイツを信頼するものは多い。

 迂闊に手中に納めるような真似をすればそいつらと共に、上条当麻が舞台に出てきかねないからな。そうなればお前の計画(プラン)も大きく修正する可能性が出てくることを、てっきり警戒をしているものだと踏んだんだが……」

 

「第七位が居るからこそ消耗品としての天野倶佐利の価値は高い。私が一度も成功例の無い実験に原石だからと天野倶佐利を用いれば、私のその横暴に我慢ならずクーデターに走る者が増大することだろう。

 それこそ、木原幻生が誰よりも早くにあの少女に目を付け近くにいたからな。今以上にあの老人の舵を握るのは難しくなっていただろう」

 

 木原一族がアレイスターに反逆しないのは『アーキタイプ・コントローラー』という存在以外にも、この街の生きやすさにある。アレイスターが作り上げたこの街はマッドサイエンティストにとってこれ以上無いほどの天国なのだ。

 それこそ、木原幻生程度ならば問題なく処理することは可能だが、科学の権威である側面を有している幻生は『木原』の中でも相当に相手にすると面倒な存在である。

 そして、下手をすると他の木原まで動き出す可能性を考えれば余り取りたくはない手であった。

 

「(いや、そこまで計算しているのか。都合の良い消耗品としての価値を示しつつ、手を出そうとすれば彼女を狙っている他の科学者や研究者が必ず報復に動き出す。

 旨味をそれぞれに与え供給しつつ、それを利用して利権を分散する方法。自らを都合の良い消耗品と客観視出来なければどこかで瓦解していたな。

 この街に訪れたばかりの子供がそこまで知恵を回すことができるとは、直接対峙した木原幻生以外で早々に理解できる者は居なかっただろう)」

 

 まるで、これからの人生を夢も希望もないと断じて、自らを一つの駒として見ているかのような冷静さ。一人盤外で見ているかのような俯瞰が出来なければ成立などする筈もない際どいバランス感覚。

 それだけで、如何に聡明な傑物か理解できるというもの。

 

「木原幻生はやはり黒幕と通じている訳ではないだろう。それにしては『オカルト』に対しての取り組み方が杜撰過ぎる。

 それこそ、一方通行(アクセラレータ)になぞらえて合流交通(エミュレータ)と彼女に名付けるつもりだったようだぞ。あの二人は幼い頃からの知り合いなのだから似たような名にするべきだとな」

 

「ハッ、悪趣味なことだな。それも天野倶佐利が超能力者(レベル5)になれないことが分かると同時に流れたってころか」

 

「幼い頃から魔術を彼女に施して入れば、完成形が彼とはまた乖離したものになるのは明らかだ。木原幻生は天野倶佐利の中にある『オカルト』には気付いてはいたが、調べようとも手の打ちようが今までなかった、と考えるべきだろう」

 

「……つまり、この街を隅から隅まで把握しているお前でも裏で動いている黒幕を掴めていない?」

 

「裏で糸を引いている者が甦った『黄金』の一人。そう言われても私は納得するぞ。

 いや、魔術の腕で私と並ぶメイザースであろうとも、私の敷いた科学の目まで掻い潜ることは出来ないことを考えれば、それ以上のゲテモノかもしれないな。

 それこそ、『薔薇十字』の名が隠れている可能性も捨てきれない」

 

「!…………」

 

 この街の王が影も形もその下手人の尻尾を掴むことが出来ていない。その事実に土御門は驚愕を隠せない。まだ見ぬ相手はあの統括理事長・アレイスターを完璧に出し抜いたというのだ。

 

「君も勘づいていないとなればこれ以上は不毛な時間だな。私はこれから彼女に対処する。これでお引き取り願おう」

 

「ッ!?待て、アレイスター!上条当麻に限りなく近い立ち位置の天野倶佐利を排除すれば、どんな悪影響が幻想殺し(イマジンブレイカー)に及ぶか分からないぞ!?」

 

「その可能性を踏まえても彼女は排除しなくてはならない。このままでは近いうちに魔術サイドとの戦争となる。今の時点でそれは避けなければならない事態だ。彼の前で直接殺すわけではないのだから被害は最小で済むだろう」

 

 そう言うと、土御門のすぐ隣に空間移動系能力者が現れる。次に何か言葉にする前に土御門のその姿が掻き消えた。

 再びアレイスターのみの静かな空間が出来上がる。しかし、その空間に新しい声が響いた。

 

 

『彼との問答は終わったかね?アレイスター』

 

 

 その渋い声は老犬のものだった。土御門がこの場から去るのを狙い済ましたかのように木原脳幹はアレイスターに声を送る。

 

「ああ、これで必要な要素は揃った。彼女を排除するための準備が完了したということだ」

 

『相手は科学でも魔術でもお前の上を行く敵か。様子見をして未だに隠れている黒幕の正体を見破るべきではないのか?』

 

「私と同等の魔術師が裏で糸を引いているのならば、証拠など何も残しはしないだろう。待っていれば馬脚を現すなどと楽観視すべきではない。

 ……いや、彼女という爆弾がいつ爆発するのかを、もしかすると彼女に魔術的な要素を詰め込んだ者にも把握出来ていない可能性が高いな。

 あの場でイシスの魔神となった天野倶佐利を、御しきれる魔術師など居はしないだろう。下手をすれば無意識下で放たれた呪詛返しによって彼女に殺されている可能性もある。

 爆破スイッチが黒幕の手から離れているのであれば、その者の動きに注目していても無駄だ」

 

『私は魔術に詳しい訳ではないからな。お前に聞かねばならない』

 

「何をだ」

 

 その老犬はいつものように葉巻を吹かしながら、アレイスターに向けて言葉を発する。

 

 

絶対能力者(レベル6)進化(シフト)。君が作り出した魔術の工作キットを利用した魔神への成長。そこまでは足りないピースを無理やり補えば道理を通すことも出来る。()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……」

 

『あれには道筋がない。屁理屈を並び立てることすら不可能な未知だ。まるで、最後の最後にキャンバスを黒で塗り潰す所業だぞ。三流物書きが書いた蛇足のようなものだ。あれは、事故などという偶発的な事象とは違った匂いがする』

 

 これに関してはロマンなどという言葉でどうこう言える範疇を超えている。頭で理解出来る出来ないとはまた違った領域だった。

 

「私が知らないところを見るとあらゆる魔術の要素を纏め上げたゲテモノなのだろう。だが、()()()ならまだしも箱となると数は限られる筈なのだが、一致するものが思い付かない」

 

『では、パンドラの箱はどうだ?何でもあらゆる災いを詰め込んだ箱なのだろう?』

 

「いや、実際にはパンドラの箱は壺の形をしている。あらゆる災いの魔術を詰め込むとしても、伝承通り壺の形をしなければ効果を発揮することはないだろう」

 

『時限爆弾としては有用だと思ったんだがな』

 

「それも否だ。パンドラの箱から溢れ落ちた災いは全世界に波及する。どれだけ事前に対処しようと災いは全人類に及ぶだろう。例外が生まれることは恐らく無い」

 

『利用しようとすればしっぺ返しを必ず食らうか。天罰……いや、魔術を行使することによる「火花」だったか?』

 

 種類で言えば人類が背負う原罪に近いだろうか。それも無作為に災いが選ばれるというのなら、対処するための魔術を作り出すだけで一生を費やすことになる。

 端的に言えば時間の浪費にしかならず、魔術のテクスチャにも影響が出る恐れも考えれば愚策としか言えない。

 一度、深く息をするかのように口から煙を吹いて、彼はその姿に見合わない声で述べた。

 

『では、やるのだな』

 

 その問い掛けというよりかは、確認のために投げ掛けられた言葉に対して、アレイスターは冷徹な視線に酷薄な笑みを浮かべて言い切った。

 

 

「ああ、彼女にはここでご退場願おうか」

 




一年後まで更新が無いとか宣言しながら、何度も気分で覆す作者がどうやら居るらしい。


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145.ドラゴンボ○ル大

 形容しがたい様々な感情を表情に出しながら、御坂美琴が切り出した。

 

「いきなり連れてこられて状況がよく分かってないんだけど……天野さんの人格が私のものになったって話じゃなかった?どう見てもいつもの天野さんじゃない」

 

「私にもどういうことなのか全く分からないわ。警策さんの話によると天野さんの人格が元に戻る可能性が極めて低いって話だったんだけど、今にして思えば御坂さんがその場で天野さんの状態を確認しない訳がないのよねぇ。私としたことが冷静(りょく)を失っていたわぁ。

 まあ、私がそんな醜態を晒したその発端は、他でもない警策さんなんだけど」

 

「私も別に嘘を言った訳じゃないからね?幻生の話じゃ人格が上書きされて、倶佐利ちゃんの人格は失くなっちゃったってことだったんだけどさ。いやーなんでだろうねー…………いや、マジでなんで?

 人格が上書きされたのにどうして元に戻ってるとか、訳分かんないんだけど」

 

 上から御坂、食蜂、警策が会話を繋げていく。超能力者(レベル5)二人でも達成できるのか不透明な難事に対して、各自がそれぞれの覚悟を抱いて集まってみれば、既に解決済みで問題なしだという肩透かし。

 誰も彼もが何も言えない気まずい雰囲気となってしまったのも、致し方なかっただろう。

 

「ハッ!!」

 

「セイッ!!」

 

 夏の熱気も落ち着き秋の涼やかな風が彼女達の頬を撫でる。現在、彼女達が居るのは集合場所であるファストフード店ではなく、近くの河川敷だ。

 理解できない事態が押し寄せてきたことにより、あのままでは追い出される可能性が高かった上に、込み入った話をするのならばどのみちあの場に留まることはできない。

 だからこそ、人気(ひとけ)が少ない場所に向かうのは自然な流れだった。そこまでは、学園都市でも有数の頭脳を持つ優秀な彼女達でも理解できる。

 理解ができないことと言えば、今現在行目の前で行われている行動だろう。

 

「……というか、何であの二人殴り合ってるの?」

 

 高速で縦横無尽に動き回る二人の影。萌葱色のストレートと藤色の縦ロール、二つ長髪が残像のように残り二人の軌跡がそこに刻まれる。

 一人は食蜂派閥のNo.2 帆風潤子。もう一人は何を隠そう他でもない天野倶佐利だ。二人の可憐な少女達は夕方でも無いのに、河川敷で殴り合っていた。

 ドゴォッッ!!と、重い音と共に大能力者(レベル4)同士によって生まれた衝撃波が、強風となって周囲に振り撒かれる。

 

「帆風が天野さんの戦い振りを残骸(レムナント)争奪戦で見て、いつか手合わせをしたいって言っていたのよ。それをどこで知ったのか、さっきの再会で天野さんが提案して帆風が快諾。あのやり取りを見ていたらなんとなく察することはできる筈よぉ?」

 

 生まれる風圧でバッサバッサと髪を乱しながら、達観した目で食蜂が答えた。

 

「いや、私が言ってるのは何かしら精神に異常があったらしい天野さんが、どうして何事もなかったかのように河川敷で全力の組み手をしてるのかってことなんだけど……っていうか、帆風さんってあんなタイプの人だったっけ?」

 

「……普段は常盤台の生徒らしい純粋な天然お嬢様なんだけど、能力の影響もあってか血気盛んな側面があの子にはあるのよねぇ。そのお転婆具合は御坂さんと同じくらいかもしれないわぁ」

 

「……いや、流石の私も組み手申し込まれてあんなに笑顔にはならないわよ?」

 

 人の出せる速度を優に越えた二人は足技なども使い、殺人級の威力の一撃を全力で相手にぶつけていた。その衝撃を受ければ苦悶の表情となるのが当然なのだが、相反するように帆風潤子は輝いた顔をしている。

 その晴れやかさはまるで部活に打ち込み良い汗を流す野球球児のようだ。

 

「能力使ってる操祈ちゃんの派閥の子と能力使わずに渡り合うって訳わかんないんだけど……。噂に聞く原石ってこんな感じのばっかなの?」

 

「さあ、分からないけど……あの第七位を見ちゃうとあながち違うとも言い切れないわね。それこそ、私よりも出力が上だった天野さんの雷撃をただの拳で叩き落としていたし」

 

「……今すごく頭の悪そうな文脈だった気がするけど、原石って存在に常識(りょく)を当て嵌めようとしても無駄よぉ。私はこの一年の間でよーく理解したもの」

 

 柔道の背負い投げの要領で投げ飛ばした天野に、空中で追い付き追撃を仕掛ける帆風だが、その突き出した腕を受け流して、身体の捻りを用いて生み出したエネルギーを使い、掌底で帆風を遠くに弾き飛ばす。

 四メートル程間合いが開けたが二人にとっては一歩あれば充分。瞬きの一瞬で互いに拳をぶつけ合っていた。

 

「現役常盤台と常盤台OGが、少年漫画さながらの熱血バトルしてるって言っても誰も信じないね。しかも、河川敷で殴り合うとか今の時代じゃベタ過ぎて化石扱いだよ」

 

「そうよねぇ。河川敷で決闘とか前時代過ぎてカビが生えてるわよねぇ。……ねえ、あなたもそう思うでしょう御・坂・さ・ん?」

 

「うっ……」

 

 河川敷でツンツン頭の少年と緑色の髪をした年上の少女に、それぞれ河川敷で決闘を申し込んだ前時代的な価値観の小娘が、どうやら学園都市に居るらしい。

 どちらも喧嘩を吹っ掛けたのが自分のため、珍しく御坂は食蜂に対して何も言い返せなかった。

 

「ま、まあ、それはそれとして、……明らかにおかしいわよ天野さんの動き」

 

「!……まさか、体調不良や動きが悪くなってる?」

 

 食蜂は瞬時に意識を切り替えて思考を回す。人格が一時的にでも全くの別人に塗り変わったのだ。何かしらの後遺症が残っても不思議ではない。

 食蜂はどちらかと言うと、暗躍や頭脳戦などの裏方でこそ無類の強さを発揮するタイプ。戦闘や組み手の様子を見て相手の状態を把握する技術は全く無い。

 それに引き換え、雷撃使い(エレクトロマスター)である御坂美琴は暗躍もできなくはないが、気質もあって戦場などの鉄火場でこそ強さを発揮する。その上、御坂は騒動が起こる以前の天野倶佐利と戦闘を行っている貴重な人物だ。

 そんな彼女が違和感を抱いたというのならば、そこには確かな違いがあるのだろう。耳を傾けるには充分な理由だ。

 

「そうじゃなくて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 少なくとも、帆風さんみたいな身体能力を向上させるような能力者と、能力無しで戦うなんてできることはなかったと思うわ」

 

「身体能力が上がってる……いや、そうか。絶対能力者(レベル6)に片足踏み入れたっていうなら、そう言った変化が倶佐利ちゃんにあってもおかしくないってことね」

 

「ふーん、なるほどねぇ。どうして天野さんが突然帆風に組み手の申し出をしたのか気にはなってたけど、自分の身体の差違を見付け出す確認作業も兼ねてたのねぇ。

 身体能力がいきなり増加したのなら、スパーリング相手として帆風以上の人選(りょく)はいない。身体能力強化の大能力者(レベル4)なんて探してそうそう居るものじゃないもの」

 

 御坂は(かつ)て天野相手に全力で戦った。あの時は殺すつもりはなかったがそれでも超能力者(レベル5)の全力による戦闘だ。

 あるものは全て使ったあの戦闘の中で天野が力をセーブしていたとは思えない。それこそ、治癒できるとはいえ大怪我を負うまで隠す必要があるかは疑問が浮かぶ。

 つまり、天野は一連の出来事を経て身体能力が飛躍的に向上したということになる。

 

「それも含めてちゃんと検査してほしいんだけど……」

 

「本人が『世界でも珍しい原石の一人にして多重能力(デュアルスキル)に近い能力者だから、気付かないうちに髪の毛なんかを盗まれるかもしれない』って言ってるんだからどうしようもないわぁ」

 

「…………」

 

 その様に食蜂から言われた御坂は口をつぐむしかない。何故ならば、自分が考えなしに渡したDNAマップを悪用されて、量産型能力者(レディオノイズ)計画が開始されたのだ。

 その自分と比べれば天野の懸念は被害妄想などという言葉で切り捨てられるものではない。人のためになるなどという甘言を疑わなかった自分よりも遥かに利口だろう。

 この街では危機管理意識を持ちすぎるくらいがちょうど良いのかもしれない。

 

「まあ、それはそれとして、幻生の記憶を心理掌握(メンタルアウト)で読み取ってみたんだけど、やっばり正気(りょく)を失っていたみたいねぇ。『非科学』って現象のことばかり考えていたわぁ」

 

「『非科学』?」

 

「木原幻生が今回でやろうとしたことだよ。科学を究めれば究める程に浮かび上がってくる理解不能な数値。木原幻生は倶佐利ちゃんを利用してそれを解明しようとした」

 

「警策さんは幻生に騙されて計画の片棒を担がされてたらしいし、そこの辺りも詳しい感じなの?」

 

「まあ、私はほとんど手駒みたいに動かされていたし、幻生が練っていた計画の細部までは知らないから、偉そうに何かを言える訳じゃないんだけどね」

 

 御坂からの視線をどこか避けるようにしながら警策は口を開く。彼女は騙されていたとはいえ、学園都市を滅ぼそうとしたのは紛れもない事実だ。

 本来ならばこうして、御坂美琴と話をするなどという一コマなど生まれるわけもないのだが、そこは心理掌握とカバーストーリーで誤魔化した。

 曲がりなりにも暗部にいた警策ならば、素面で嘘の一つや二つ言うことなど朝飯前である。

 

「流石はこの街で重鎮と呼ばれることはあるわぁ。ドリーのことだけじゃなくどこまで本当なのかは分からない虚数学区・五行機関のことなんかも、なんとなく察していたみたいよ」

 

「ああ、あの噂として流れていたヤツ。その正体も分かったの?」

 

「いいえ、幻生としても確証はなかったみたい。それこそ、天野さんの実験で連鎖的に立証できるだろうって考えていたようねぇ。その正体がなんであれ絶対能力者(レベル6)か『非科学』のどちらかに該当するだろうって」

 

「それじゃあ、倶佐利ちゃんの能力のことは?倶佐利ちゃんの能力開発担当者って幻生なんでしょ?」

 

「ええっ!?そうなの!?」

 

「御坂さんは知らないわよねぇ。まあ、今回は巻き込まれたみたいなものだしぃ、細部まで調べあげられなくても仕方ないわぁ。今の話から分かる通り、天野さんはあのマッドサイエンティストに幼い頃から目を付けられていたのよ。

 御坂さんのときのような甘言も暗躍も数え切れない程にあったにも拘わらす、あの人はその全てを捌ききってあの場所にいる。

 それこそ、一手でも仕損じれば学園都市の闇に呑み込まれていたんじゃないかしら?」

 

「……そうか。操祈ちゃん達と違って世界に数人しかいない原石で、多重能力(デュアルスキル)に一番近しい存在だから、片手で数えられる年齢であっても科学者や研究者からすれば超能力者(レベル5)と同じくらいに価値があるんだ……!」

 

「その上で、相手があの木原幻生となればその難易度さらに跳ね上がる。一瞬でも隙を見せたら血液やら髪の毛を取られるかもだし」

 

 周囲には敵しかおらず人間扱いなど表面的なものでしかない。自分を見てくる科学者達は被験体(モルモット)としか認識してこない。

 そんな中で何年も生活していれば精神が壊れてしまってもおかしくはないだろう。それこそ、人間不信になって当然とも言える。

 

「それなのに、天野さんが纏うあの余裕のあるお世話好きなお姉さんオーラは、どうやって生まれたの?幾らなんでも環境が劣悪すぎるでしょ?」

 

「それは幻生も不思議だったみたいねぇ。精神的なブレがある方が絡め取りやすいのに、常に余裕を持って立ち回り続けるからお手上げ状態だったって話みたいよぉ。

 小さい頃から一人っきりで学園都市の闇と戦い続けてきた彼女が成し得た、表で語られることの無い偉業ね」

 

 食蜂は目の前で行われるアニメのような動きを見ながら、そう締め括る。学園都市の闇にそれぞれ身に覚えがあるため否定の言葉など出るわけもない。

 最愛の友人を殺されたり、善意を殺戮の悲劇に変えられたりなど、そのような結果しか導くことしかできなかった彼女達からすれば、天野倶佐利が行った被害を最小限に抑え込むというのは理想そのものだった。

 

 

 

 その天野倶佐利は彼女達の悲劇を知っていたからこそ、近寄ってくる大人達に対して警戒度MAXで常にあり続けた事実は、ここで語られる必要のない事実である。

 

 

 

「それじゃあ、幻生も天野さんのチカラことは何も分かってなかったってことね。分類上『非科学』って話だし」

 

「そうねぇ。だから、私達の能力で天野さんの精密検査なんて芸当も出来ない。天野さんの特異性の原理が不明だし、私の能力も御坂さんの電磁レーダーも無効化されちゃうみたいだし?やっぱり様子見が最善手かしらねぇ」

 

 人格の上書きによって如何なる影響があるのか調べておきたいところではあるが、本人に受ける意思がなくこちらも解決方法が提示できないのであれば、何も言えることはない。

 このまま無事であることを願うばかりである。

 

「(……でも、あの幻生の記憶……。あれは一体なんなのかしらねぇ)」

 

 組み手が終わったのか手を握り合う二人を見ながら食蜂は思う。

 

「(一回だけ幻生の提案で行われた天野さんのMRIとCT検査。その結果に幻生は目の色を変えていたようだけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 誰が見ても検査ミスと断ずるべき結果が幻生の記憶にはあった。何十枚と撮ったものの一つ。エラーによって生まれた明らかな失敗。それを真に受ける科学者など、馬鹿馬鹿しいと嘲笑されて然るべきだ。

 

 それなのに何故?

 

 やりきったような満面の笑顔を浮かべてこちらに近付いてくる帆風と、いつも通りのたおやかな雰囲気を纏って歩いてくる天野を見ながら彼女は溜め息を付いた。

 相手はあの狂人だ。『非科学』に思考を囚われたマッドサイエンティスト相手に、馬鹿正直に付き合えば思考をおかしくされるのは目に見えている。

 様子見が結論として出たのならばこれ以上の推察は無意味だ。彼女は思考を打ち切り、(いささ)か暴力方面に思考が流れやすい配下に対して釘を刺すことに思考を回す。

 

 

 

 頭部のレントゲン写真に写る、白い長方形を忘れるようにして。

 




◆内心◆
「(学園都市の大人とかヤベー奴しかいないわ(断言)。善性のネームドキャラ以外の奴の言葉なんて、信じるに値しねぇよなあッ!?)」

オリ主の内面描写は次です。焦らしです(単純にそこまでいかなかっただけ)


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146.少女達のガールズトーク

不定期になりますが去年よりは多く投稿していきたいと思います。よろしくお願いします


 学園都市は大覇星祭が始まると同時に滅亡の危機が幾度も迫った。

 初日の九月一九日にはオリアナ=トムソンとリドヴィア=ロレンツェッティが共謀した、使徒十字(クローチェディピエトロ)を用いた学園都市の掌握計画。

 上条当麻と必要悪の教会(ネセサリウス)の人員で対処したが、もし成功していれば学園都市はその日にでもローマ正教に従属し、全ての指示を全て受け入れる洗脳下に陥ったことだろう。

 

 そして、先日九月二〇日。木原幻生の暴走による第二の絶対能力者(レベル6)進化(シフト)計画が行われた。

 しかし、その計画は複数の結果に枝分かれするように練られた計画であり、実験の主導者である木原幻生でさえも把握出来ない混沌へと繋がった。

 

 科学サイドの宿願である絶対能力者(レベル6)から、魔術サイドの金字塔である魔神へ到達する一歩手前まで至ったこと。

 新たな魔神誕生を防ぐと共に、天野倶佐利から現れた未知の黒い箱。そして、純粋なサーヴァントとして現界したエルキドゥ。

 

 そのような、滅亡がすぐそこまで迫った怒涛の二日間を乗り越えた学園都市だが、忘れてはならない。

 

 

 

 

 

 大覇星祭はまだ始まって三日目でしかないことを!!(七日間開催されるため折り返しにも届いていない)

 

 

 

 

 

「話が終わると同時に御坂さんは登録していた競技への出場に向かったけどよくやるわねぇ。学生生活満喫って感じかしら?私は熱血だとか柄じゃないからしないけどぉ」

 

 観客席に一塊となって見目麗しい少女達が並んで座っている。体操服という大覇星祭においてどの生徒でも着用している色気の無い野暮ったい衣服でありながら、彼女達が身に包むと不思議と魅力的に映るのだから美人というのは罪深い。

 

 とても中学生とは思えない体つきをしている常盤台の主従組。

 彼女達程ではないにしろ凹凸がハッキリしていることに加えて、暗部に居たこともありアングラ系の危険な香りを感じさせる警策看取。

 スレンダーな美しさを保ちながら女性らしい曲線を主張する高めの身長に、表情と所作から漂わせる掴み所の無いミステリアスな雰囲気と、たおやかな親しみ易さを滲み出している天野倶佐利。

 

 観客席の中には行われている競技ではなく、そんな彼女達に視線を向けている者も少なくはない。華やかな彼女達はそんな目にも慣れているのか、はたまた有象無象の視線など気にもしないのか完全に無視を決め込んでいた。

 警策はからかいを込めた声音をにんまりと歪ませた唇から発する。

 

「それって単純に操祈ちゃんが運動音痴ってだけでしょ?大覇星祭の競技は学園都市中に放送されちゃうもんねー?」

 

「違いますぅー!やらないだけですぅー!そもそも、運動で周囲に評価されるなんて小学生の子供時代まで。

 大人になればなるほど汗水垂らして必死(りょく)を主張するよりも、スマートに物事を処理する方が評価されるものでしょう?

 こんなイベントで頑張るのは御坂さんみたいな野蛮でファンシーな趣味のお子様ぐらいよぉ」

 

「あの……女王……。大覇星祭で良い成績を残せたものは内申点の評価に繋がるらしいですよ?」

 

 どこか気まずそうに帆風が食蜂に告げる。大覇星祭は学園都市中の学校が参加する一大イベント。そこで良い成績を出せば教師に評価されることは至極当然のことだ。

 逆に能力ありのこの行事で結果を残してもダメというのならば、もはやどこで実力を発揮すればいいのか分からないと、言われてしまうことだろう。

 

「それに、君はどちらかと言うと脇目もふらず必死になって頑張る人の方が好みだろう?もしかしたら、スマートなやり方をする人間に対して同族嫌悪の感情を持っているのかもしれないけど」

 

 遠回りだろうが一心に誰かのためや、自分を高めるために努力する人間を食蜂が笑うことはない。強いて言えば、そのような人間を陰で裁き、その歩みを阻害する障害物を人知れず排除するのが彼女のやり方だ。

 高潔な女王は表舞台でスポットライトを浴びるに相応しい振る舞いを心得ているが、舞台裏に周り他の演者を引き立たせる技術と所作も理解している。

 それに加えて、舞台袖で気を許した者に対して行う、子供のような反応や態度まで知ってしまったのなら、彼女を支えたいと思う魅力から逃れるものはそうはいない。

 

 そんな彼女だから帆風潤子は付き従い、何が相手でも勇敢に必死になって立ち向かっていく。そんな彼女に対して食蜂操祈が好感を抱かないわけがない。

 

 

 

 ───まあ、だからと言って食蜂が全力で動き回るという行為をすることは無いのだが。

 

 

 

「いやー、それにしても蒸し暑いねー。昼間よりよくなったとはいえ喉乾いちゃうよ」

 

 そう言って、警策はペットボトルのキャップを外し飲料水を口に含む。夏の猛暑は過ぎたとは言え地球温暖化もあってか蒸し暑く感じるこの頃。

 それに加えて、今日の天気は快晴。遮るものがない太陽の日差しは彼女達に降り注いでいる。

 パタパタと横から帆風が持つ団扇(うちわ)で煽られ涼んでいる食蜂は、細い足を組みながら口を開いた。

 

「まあ、お日様が一番上に昇ってくる時間帯を少し過ぎたくらいだから、あと一時間くらい経てば暑さも引く筈だけど、それまで屋内に居るっていうのもアレよねぇ」

 

「はい。大覇星祭で多くの人が集まる学園都市は飲食店を利用する方も多いですから、居続けてしまうとお店の方々に迷惑となってしまうかもしれませんね。

 セキュリティの関係上見回りも普段よりも多くなっていますから、私達が一ヶ所に留まり続けると教員の方に連絡が向かってしまうかもしれません」

 

「あー、そう言えば操祈ちゃんは選手宣誓したんだっけ?そんな子が何時間も飲食店に居座り続けて、真っ昼間から青春の汗流す選手達を差し置いて、空調の効いた場所に長時間居るのは体面が悪くなるってことね」

 

「その上、操祈は常盤台中学の超能力者(レベル5)だからね。ネームバリューもあって他の人よりも注目され易い。そして、多くの人の目に留まるということは同時に悪評が広まりやすいということだ。

 学校の体面もそうだけど、彼女が送るこれからの学生生活の平穏を守るという面からしても、教師として彼女を諌める義務があると言うわけだよ」

 

「有名税って言うやつねぇ。私の心理掌握(メンタルアウト)で店内に居る人全員の記憶を書き替えるっていう手もあるんだけど、人の出入りが多くて全員に漏れ無く掛けるっていうのは面倒だし、監視カメラに関しては能力の対象外。

 精神を操る能力を衆目に晒すだけっていう結果になるかもだし、策としては下策も下策。面倒事がやってくるリスクをわざわざ抱えるようなことでもないし、適当に街中を見て歩き回りましょう?

 競技を観戦することも売店を巡ることも、私達選手に許された正当な権利なんだゾ☆」

 

「まあ、私はなんでもいいよ。皆と違って出なくちゃいけない競技も無いし。あの子も操祈ちゃんの子達が守ってくれるっていうんなら、問題もないでしょ」

 

 そう答えながら警策は手元のタブレットを操作する。そこに映るのはセーフティーハウスに用意された監視カメラだ。食蜂が送った手駒の実力を疑ってはいないが、ドリーは学園都市の中でもかなり危うい立ち位置に居る。

 助け出したのが実質今日と言うこともあり、彼女が学園都市に対して警戒を抱かないわけもない。本音を言えば今すぐドリーの居るところに戻ってしまいたいが、聡い子のため適当に切り上げると勘づかれてしまう筈だ。

 

「(操祈ちゃんと計算した想定だと解決まで最低でも数日掛かる予定だったから、ドリーに夕方近くまで帰らないって言っちゃったしね)」

 

 ずっとカプセルの中に居たからか、ドリーの筋力は余り発達していない。それを含めて食蜂派閥は面倒を見ているが、ドリーからすれば知らない人間に囲まれて落ち着くことはないだろう。

 

「(でも、これから操祈ちゃんとは長い付き合いになるだろうから、操祈ちゃんの派閥で右腕らしい子と関係を深める時間はちゃんと取るべき。

 こんな自然に話せる機会なんて早々ないだろうから、冷静になれば私達の今後を左右するかもしれない絶好の機会とも考えられる)」

 

 何気ない会話ばかりだとしてもこのような時間が有ったかどうかで、人間関係は変わっていくものだ。ドリーの存在を教えるとかは出来ないが、彼女と知り合いになるというのはプラスにしかならない。

 

「(だからこそ、用事が出来たから途中で抜けますってなると、無礼だと取られることはなくても、人となりが分からないままだからプラマイゼロ。何かしらの形で彼女の記憶に残る必要がある。

 私が操祈ちゃんに媚売ったところで、派閥なんてものに所属しているお嬢様から見れば、見え透いた胡麻すりにしか映らない筈。

 反って悪印象に繋がりかねないし、やっぱり私の素で接して受け入れられるかどうかを試すべきかな。

 まあ、私と致命的に性格が合わなくても、いざとなったら操祈ちゃんの命令には従うみたいだから、万が一失敗しても問題はないって考えて今日だけは気楽に過ごすのが一番かなー)」

 

 暗部から足を洗い幻生という繋がりも断たれたことにより、自由の身になったが学園都市の闇がいつ自分達を消しに来るのか分からないのもまた事実。

 未来で何が起こるかなど誰にも分からない。この学園都市ならばなおのこと。

 

 そのような和気藹々と話す少女達から機械的な音が鳴った。

 

「おっと、すまないね。電話が掛かってきたようだ」

 

 天野倶佐利のポケットから着信を知らせる音色が鳴り響く。初期設定のためどこかチープさを感じられる音色だった。

 

「先ほど購入したばかりだというのにもう着信が?」

 

「それって本当に大丈夫なヤツ?薄暗い奴らが電話を特定してきたのならヤバくない?」

 

 警策が警戒の宿った目で疑念を口にする。学園都市の闇で生きてきた彼女からしてみれば思い至って当たり前の可能性だ。この学園都市ならばそれぐらいのことは普通にやりかねない。

 

「いや、一つ年下の同じ高校の友人だよ。購入してから何人かには携帯電話を替えたことを既に連絡をしているんだ。彼もその一人さ」

 

 そう言って、天野は出入口に向かって行く。選手の気合いの籠った雄叫びと、応援の声が鳴り響いていた競技場から少しだけ離れれば、電話をする場所としては充分だろう。

 

 余りにも自然な日常の一コマだ。だからこそ、食蜂は思いもしなかった。

 

 

 

 ───天野倶佐利が背中を向けて歩いていくその後ろ姿が、最後に見た彼女の姿になろうとは。




次回、辿り着くまでにハチャメチャ長かったオリ主の内面描写です(作者のせい)


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147.おまたせ、まった?♡

オリ主の主役回を書くときに『unwelcome school』流すと、スラスラ書けるようになりました。
でも、久し振り過ぎてどんなキャラだったのかあやふやで掴めてません。違和感あれば書き直します


 意識を失って目が覚めると、なんかいろいろ終わっていた件について。

 

 え?嘘、そんなことある?

 雷神御坂やら上条の腕からドラゴン生えたり(しかも複数)する場面を見過ごしたってマジ……?

 おいおい、嘘だろ?滞空回線(アンダーライン)があるから聖地巡礼は出来ないって諦めて、その代わりに名場面に直接居合わせることにしたのに、……それすらも出来ないって何なのさッ!?

 しかも、原作を含めた『とある』シリーズでも指折りの激ヤバシーンを見過ごすとかさぁ…………

 ……Aaaaaaaaaaaaa!!(狂化)

 

 ホント運命とかクソッ!なんなん『Fate/stay night』って!『Fate/stay night [Unlimite Blade Works]』しか見てないから、ノーマルルートが分からんわ!

 

 俺ってそもそもちゃんとした正しい聖杯戦争を見たことないんだけど大丈夫なのか?イレギュラーばっかの第五次聖杯戦争とか、絶対に他の聖杯戦争と比べてバカ騒ぎしてるって。

 英雄王ギルガメッシュが普通に出てくる時点でおかしいし。それこそ、他のやつではマスターである魔術師同士の頭脳戦とかがメインのストーリーとして数多く描かれている筈だ。

 

 だからこそ、逆説的にあの士郎ですら魔術使いなのにそれですらないマスターとか、そんな奴俺以外にいるかーっ!!

 俺の聖杯戦争はどこ!?……いや、来ても困るけども!!

 

 しかも、当然だけどアウレオルスとの戦闘見てないから、まだ上条ドラゴンズ一匹も見れてないんだけど……。

 原作通りだと『リターン』までドラゴン見れないじゃんかよォ!しかも、見たいドラゴンあれじゃない……ッ!(血涙)

 燃えて灰になれ。

 

「もしもし、元春かい?何か用かな?」

 

 

 そう言えば、土御門も何故か戦いに参戦していたらしい。しかも、魔術師として介入したのだとか。あなた、科学サイドと魔術サイドのバランサーとか言ってませんでしたっけ?

 

「(土御門の仕業かいつの間にか、右手の甲に星形のマークあるんだけど、左手の令呪といい調子乗って体に刺繍入れる、ウェーイ系みたいに見られそうでちょっとアレなんだよなぁ……。

 令呪はオシャレで意味もちゃんとあるし、個人的にはマスターの証明みたいで好きなんだけどさ。流石に星形のマークはダッサいわ)」

 

 全体的に訳分からん。

 上条曰く、『突然土御門から電話掛かってきて魔術サイドの奴らが今回の騒動に何かしてきたって聞いた』って話だけど……内容がふわっふわっし過ぎてハッキリ言って困る。

 

 介入してきた奴誰やねん。……いや、マジで誰?

 木原脳幹とかが後書きを越えたCパートで、首謀者を『A.A.A』使って撃退してるいつものパターンでいいの?

 

 こ、怖ーい!自分と関係無いところで勝手に終わってるパターンがあって怖すぎるぅ!!

 それってもう確認の取りようがないじゃん!学園都市の技術力なら完全犯罪も容易いから、調べても無意味になる可能性が高いんだよ!

 う、裏付けが出来ねぇ……!

 

 そもそもさぁ、なんか魔術が介入した事件へと発展したらしいって話だけど、……どこのバカだよ魔術要素ブチ込んだやつ。そんな予兆一つも無かったやんけ。

 原作だけでもとんでも展開なのに、魔術サイドまで介入したら混沌になるに決まってんじゃん……。

 

 

 やれやれ、塩梅が分かってねぇな塩梅がよ!

 カーッ、ペッ!このド素人が……ッ!!

 

 

 ふぅ……まあ、今回の大騒動に繋げた敵がまだ生きているなら推測は出来る。大方、俺の中にあるエルキドゥに目を付けた遠方にいる魔術師の仕業だな?

 

 知ってる知ってる。右方のフィアンマとかがしたり顔で裏から手を回してたんでしょ?

 どうせ薄暗いローマ正教の大聖堂の地下とかで、『この俺様の野望を果たすための試金石になれよ異物』、みたいな意味深なセリフ言いながら不敵な顔して頬杖突いてる展開ね。

 ハイハイ、テンプレテンプレ知ってまーすっ。まあ、原作で『御使堕し(エンゼルフォール)』も免れた上に、『神の力』やサーシャのことも完璧に把握して利用したから、それぐらいはやれるわな。

 

 はあ……マジかぁ。やっぱり『御使堕し』でエルキドゥが俺の外に出たから?そりゃバレるよねー……サーシャのことまで完璧に把握出来てるわけだし、エルキドゥのこともバレるかぁ。

 真名までバレてるとは思いたくないけど………………うん?バレるか?バレなくない?

 だってエルキドゥの時代って鎖を製造する技術とかまだ無いのでは?粘土板なんて使ってるくらいだし……。

 

 

 あっ……なんか大丈夫な気がしてきたぞ!(ポジティブ)

 

 

 なーんだ、それじゃあエルキドゥを完璧に把握できてないなら、エルキドゥのスペックでゴリ押し戦法出来るじゃん!ギルガメッシュと同等なら『聖なる右手』を避ける方法もあるでしょ!多分!

 

 というか、フィアンマの狙いって幻想殺し(イマジンブレイカー)だし、遠回りしてまで俺を果たして狙ってくるか?もしかすると、フィアンマじゃない可能性の方が高めだったりする?

 

 『グレムリン』……は第三次世界大戦で魔術サイドが負けたから生まれた組織だから、その構成員の線は薄い。そんなやる気があるなら第三次世界大戦で表に出てる筈。

 だから、現時点で世界を荒らす目的の実力者が俺を狙う可能性は低い。……ということは、フィアンマと『グレムリン』は首謀者の候補から外れるってことになるのか?

 

 じゃあ、もしアレイスターが消せない首謀者が世界に居るとしたら……ローラ……とか……?

 

 うーん、無理。どうしようもない。諦めよう(即決)。

 一大組織のドンとか手の出しようも無いって。……あー、なんだかフィアンマよりもローラの方が俺を使って悪巧みしてる様子が浮かぶわー……。

 名前とか普通に利用してるしなー俺って。

 

『ああ、少し面倒なことになった。密談がしたい。すぐに時間を取れるか?』

 

 電話から聞こえる土御門の声がどこか遠くに聞こえる。時間を欲しいのはこっちなんですけどね……。まあ、上条の説明よりも詳しく今回の事態を把握してるだろうから了承するけど。

 滞空回線を教えてある土御門が、俺に直接会いたいってことはかなり切羽詰まった状況なのかも。

 

「分かった。場所を教えてくれるかい。すぐに向かおう」

 

 魔術サイドの問題が関わっているのならみさきち達は巻き込めない。というか、電話一本で呼びつけるとか普通する?流石は魔術師、人の(常識)がない。

 協力者とはいえ同じ学校の先輩JKなんだけどなぁ俺。常識に囚われないところを見ると、やっぱシスコン軍曹の名は伊達じゃないってことか。

 まあ、アレイスターに察知される可能性があるから、なるべく言葉を少なくしたいってのが本当の理由なんだろうけどさ。

 

 う、うーん、この土御門のバディ感。このままだと、『おい』って言われて醤油を取って欲しいことを察する、長年暮らした熟年夫婦みたいな関係性に落ち着く感じ?

 初期設定だと土御門とはそこそこの距離感を保つつもりだったけど、それもありっちゃあり……なのか?

 えー、でも土御門ってフェードアウトギリギリのラインをうろちょろしてるから、それに巻き込まれると原作シーンを幾つも見逃すんだが……。

 

『第二学区の廃工場なら問題無い筈だ。いいか、絶対に付けられるなよ』

 

「了解」

 

 土御門って多角スパイで信用出来なさそうで……実は信用出来るってポジションではあるけど、それって俺にも適用出来てる?俺って必要なら切り捨てられるポジションに居ない?

 微妙に信用置けないんだよなぁ……。誘い方もあれだったしいざとなれば躊躇せずに切り捨てられそう。

 はぁ……、なんて掴み所が無い面倒な奴を協力者にしてしまったのか。(まま)ならないものである。

 

 ピッ、と通話を切りすぐさま行動を開始する。思えばこんなに思考を回しながら体を動かすことにも慣れてしまった。いつも間にか、頭の使い方がどうやら『とある』の世界に順応していたらしい。

 

 まあ、順応したからと言って何が変わるわけでもない。得をしたのならそれだけのこと。俺はいつも通り上条達、原作キャラの活躍をこの目で見物するだけである。

 ……ドラゴンは見たかったけどなッッ!!(歯軋り)

 

 どちらにしろ適当にそれっぽい内容のメールをみさきちに送って、土御門の下へさっさと向かわないといけない。

 ふぅー……それにしても、電話一本で呼びつけるとはやれやれ亭主関白気取りですか。そうですか。

 

 

 

 待遇が酷くなったらアリサになって、トリセツを耳元で歌ってやるゾ☆…………絶対に奇蹟の代償に巻き込んでやるからなぁ!?(八つ当たり)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、うん、分かっているよ、テレスティーナおばさん。こういう時、学園都市の闇から遠ざかろうとして逃げ続ける臆病者は、いつもの日常を取り戻したあと、一定の信用を確保しちゃうと疑うことを止めて、目の前に吊るされた人参へ舌を伸ばし続ける馬みたいに、馬鹿面晒しながら(おび)き出されるんだよね」

 

「おいおい、『木原』のこの俺に同じ『木原』の介護でもしろってかー?分っかんねーかなー?俺達に協調性とか期待してんなら見当違いもいいところですっての。

 まあ、学園都市に居る人間として、『上』の意向を聞かなくちゃならねーのは変わらねーし?俺の気分が続く限りはやってやるしかねー訳だがな。

 ──そんな訳でーえ、気分を盛り上げるために学園都市の闇どころか『木原一族』でも、引く手数多な大注目の実験体を相手に、この木原乱数(らんすう)ちゃんの見所満載な愉快なショーを開催しまぁーっす!

 さあーって、ゲストに選ばれた光栄なモルモットは、果たして最期まで原形を留めていられるのでしょーっかあ!?」

 

 ………………………………………………わーい、げんさくきゃらだー。




原作キャラの登場(しかし、外道である)。
そして、原作既読者以外は誰コイツら?案件である(気になった方は『新約とある魔術の禁書目録④』を購入して下さい。作者としては新約1巻から買うことを進めます)。

◆追記◆
新約シリーズは5巻からエンジンが掛かってくるので、実は勧め辛いのである(個人の意見)。
「前後関係とか関係無く『木原』の実態を知りたいー」という方は、木原一族が集まる『新約とある魔術の禁書目録④』をご購読下さると面白いかと思います。

……どの立場から原作の宣伝をしてるんだろ?


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