リゼロ×リボーン (にーくん)
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EP0 怠惰の目覚め

予告編みたいなものです。本編も早く上げたいです


「――ぜデス!」

 

(誰だ……)

 

 呼吸音すら耳に届かない圧倒的静寂と、一点の光も届かない圧倒的暗闇が支配する空間。その中で、少年は直接脳に響くノイズに自問自答する。

 

「――なぜデス!」

 

 ただただ独り言のように続くノイズは、付随するような形で映像までも脳に運んでくる。

 

 血に染まった祭壇に祈りを捧げ続ける、黒いローブを纏った色白の痩せこけた男――。

 

 見覚えのないはずの男の顔がはっきりと思い浮かぶ様は、まるで“他人の記憶が脳に刷り込まれている”そんな摩訶不思議な感覚だった

 

 そしてそれは単に映像で終わることなく、次いで少年の精神にも影響を与え始める。

 

 全身に走る寒気。この上無い禍々しさから来る血の引くような悪寒が少年の心を蝕んでいった。

 それは男の骨格まで浮き彫りになった顔に恐怖を抱いたからでも、呪いの儀式を目の当たりにして嫌悪感を抱いたからでもない。

 男の想いの重さを、少年が理解してしまった――ただそれだけの理由だった。

 

「―――ナゼ!ナゼ!ナゼ! これほどまでに魔女を! アナタを! アナタを愛しているというのにナゼ! ナゼあなたは私の愛を受け入れてくれなかったのデス! ナゼあなたは姿をお見せになってくれないのデス!」 

 

 その祈りは崇拝を超えて狂気。

 自らの捧げられる愛全てを――、この世界に蔓延る愛全てを――、憎悪、嫌悪、怨嗟、憤怒、悲嘆、嫉妬、絶望の込められた憎愛すらも――、勤勉に魔女に捧げる男の姿だ。

 

(お前は一体……)

 

 どれだけ少年が歩み寄ろうとしても、その声は男には届かない。少年は不可解な状況下にただただ脳を疲労させていった。

 

 そんな少年に、休む暇も与えず次の景色がインプットされた。

 

 先ほどの狂気とは真逆の優しく愛おしい空間。

 銀髪の母娘と青年が仲睦まじく生活している幸せな記憶だ。

 

 木々に囲まれた平地で小鳥と戯れる銀髪の少女と、それを優しく眺める二人――。

 駄々をこねる子供と、しかる母と、娘の頭を撫でる青年――。

 三人で手をつないで、森の奥へと歩いていく三人の家族――。

 

 そんな数々の正の感情に溢れた光景が――

 記憶と呼ぶには朧げな、願いのようにも思える光景が――

 次々と少年の頭に刷り込まれて行く。

 

 しかし少年には、それを純粋に感じ取って微笑んでいる余裕はなかった。

 記憶が刷り込まれるたびに、脳への負担が頭痛となって少年を襲う。

 

(俺に何を伝えたいんだ……)

 

「―――約束を」

 

(約束?)

 

 答えた刹那、緑溢れた景色をきらびやかな赤い炎が襲う。

 木々は倒れ、血で溢れ、生き物は息絶え、辺り一面は火の海と化す。その倒壊した森の姿はまさに地獄絵図であった

 

 煙炎天に張る地獄の中、先ほどの青年が立ちつくしていた。

 少年は、初めて青年と目が合った。

 

「―――ジョット。約束を」

 

(それは……)

 

 ――俺じゃない

 

 しかし少年のその言葉は青年には届かなかった。情景の中を眩いばかりの白い光が走り、強制的にかき消した。

 白光が過ぎ去り世界が色を取り戻すと、辺り一面は白銀世界へと変わっていた。

 先ほどの地獄とは、対極をなす地獄だ。

 ただ、そこに絶望は感じなかった。絶望よりも物言えぬ悲しみがはるかに勝っていた。

 少年は言葉を失っていた。どんな言葉を紡ごうと巡り巡る記憶の連鎖を受け入れるしかないと悟った。

 そんな少年が言葉を取り戻したのは、情景の奥に人影が映し出された時だった。

 氷漬けになった銀髪の少女と、その前に佇む狂気の化身の痩せ男。

 少年はすぐに、この空間を支配する悲しみの理由を理解した。

 男にとって、その少女は何を賭しても守らなければならない大切なものだった。

 全てを尽くして助け出さなければならない存在だった。

 それを証明するように。男からは強い後悔と決意が溢れていた。

 

 ――あなたにお願いがあるのデス

 

 男と目が合う。その目には血の涙が流れていた。

 

 ――滅びゆく私の代わりに、彼女を守って欲しいのデス

 

 その惨憺たる表情に不思議と恐怖は感じなかった。

 男の決意を感じ取った脳髄が不純な感情を抱くことを拒否しているようだった。

 

(わかった。必ず守るよ)

 

 少年は記憶の中の男に誓いを立てた。

 実在しない妄想の中の産物だとも、記憶の中だけの存在だとも、少年には思えなかった。

 

 ――後は、任せたの、デス

 

 生気の薄れていく、弱々しい声だった。

 男の意識をつなぎとめていた強い意志が、目的をやり遂げた安堵から薄らいだためだと、少年は理解した。

  

 ――自らの使命を他人に任せて死にゆく……、怠惰デスね

 

 悔しさの混じったその言葉を最後に、景色は闇に覆われた。

 そしてその記憶もまた、まるで夢の話だったかのように薄れ、少年――沢田綱吉の意識は覚醒した。

 




あまり深く考えないほうがいいプロローグ


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EP1 異世界

誤字報告ありがとうございます

暫くツナパートとなります。


(なんだここは……)

 

 リボーン不在を良い事に土日の休みを思う存分謳歌していたはずの沢田綱吉は、目の前に広がる景色を呆然と眺めていた。

 欧州風にデザインされた建築物の数々、小さな恐竜が引く馬車、人にまぎれて歩く獣人――まるでファンタジーの世界に迷い込んだような風景は、ツナの思考を奪い去るには十分過ぎるものだった。

 歩く人々もまた、ツナを珍奇な動物を見るかの如く一瞥して通り過ぎて行った。

 お気に入りの黄色いパーカーにジーンズと、この世界の住人から見れば明らかに浮いた服装であった。

 

(ここは、一体……)

 

 ツナは自分の陥っている境遇について考える。

 友人の獄寺や山本と遊びに出かけ、外で偶然あった雲雀に追いかけられ、またもや偶然出会った京子にドギマギする。そんなザ・沢田綱吉の一日を過ごしていたはずである。

 ところが皆と別れてすぐのことだ。気が付いたらここにいた。

 正確に表現するならば、少し眠くなって目をこすり、ほんの一瞬だけ視界は閉ざされた。その後ぼやけた視界が晴れ、目の前の景色が鮮明に把握できるようになった時、すでに街並みはがらりと変わり果てていた。

 とはいえ、そんなものが異世界召喚のトリガーになってはたまらない。気が付いたらと言っても差し支えないだろう。

 そう思いながらも、ツナはもう一度目をこすってみた。

 もしかしたらこれは悪い夢かもしれない。目を開ければきっと“沢田”と表札の入った一軒家が目の前に現れるはずだ、と――。

 しかし、その儚い望みは数秒後に打ち崩される。目の前を横切った竜車がツナに現実を突きつけた。

 

「って!! こんな落ち着いてる場合じゃねー!! これ異世界召喚じゃん!! 帰れないじゃん!!」 

 

 街行く人々の行列がぴたりと止まり、その視線が一気にツナに集まった。

 恥ずかしさからツナは顔を赤く染め、逃げるようにそそくさと歩いた。

 

(でも、ホントになんなんだここは?)

 

 先ほどの失態を頭から拭い去ると、ツナは頭を冷やして考察を始める。

 現状で分かっているのは、今回のケースがこれまで直面してきた、“常人が決して経験することがない”こととは大きくかけ離れているということだった。

 

 ツナこと沢田綱吉、彼はただの一般人ではなかった。

 

 見た目こそ華奢な学生だが、その体にはマフィアの血が流れているのだ。

 伝統・格式・規模・勢力すべてにおいて別格といわれるイタリアの最大手マフィア、ボンゴレファミリー。裏世界に通じるものなら誰もが身を震わせる、裏世界の頂点に君臨する最強のマフィア。その十代目が沢田綱吉であった。

 表世界では語られることのない多くの抗争や命掛けの戦いも潜り抜けてきた。

 裏世界の重役や政界のトップたちとの顔合わせもしてきた。

 死ぬ気の炎をはじめとした表世界には決して明るみに出ることのない様々な非科学的な事象も目の当たりにしてきた。

 そんな経験が積み重なり、大抵のことは受け入れられるはずのツナでも、置かれている状況を受け入れることはできなかった。

 ツナが受け入れることの前提条件として、明確な“原因”が存在する必要があったからだ。

 今回のケースに比較的に近い10年後の世界に訪れた時も、思惑は只あれど、10年バズーカの弾に直撃した、という明確な原因がそこには存在していた。

 何も感じることもできずに起きた今回の現象は、想定の範疇を明らかに上回った出来事であった。

 

 (これ、戻れるよね?)

 

 直面した特異ケースに、ツナの表情から不安の色が強くなる。

 戻れる保証も助けが来る保証もないことはツナ自身も気付き始めていた。

 ともかく、帰る方法を見つける事と、最悪でもそれが見つかるまでの生活方法は確立させなければならない。

 その問題解決のために一番問題になってくるのは金銭面だろう、見る迄もなく日本円が通用する場所ではない。

 

「このリンガ下さい」

「どこの金貨だ。冷やかしなら帰んな」 

 

 ほら思った通りである。

 日本円が使えないとなると物々交換しかないが、手持ちは手袋(X・グローブ)と死ぬ気丸とヘッドホンとスマホである。唯一売ってもよさそうなものはスマホしかないのだが、電波が届かないとはいえ現代若者の必需品を売るのは最終手段にしたい。売れるかどうかは別として。

 

「すみません。少しお話を聞きたいんですけど……」

 

 とりあえず、話を聞いてからだ。ツナはちょうど前を横切った青年に話しかけた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 ツナはため息をついた。

 道行く人々から元の世界に帰る手がかりを訪ねるも、戻るヒントは愚かまともに話を聞いてくれる人すらいなかった。

 そもそも、異世界というワードに皆首を傾げた。

 この世界には異世界という概念自体が存在しないのだろう。現実世界と異世界のカルチャーギャップの弊害を早々に叩きつけられた。

 ならばと行く先々の商人にスマホを見せても、それに価値を見出せる人間がいなかった。

 骨董品好きの貴族ぐらいにしか需要がない、売れるかどうかもわからないガラクタ。それが商人たちの目か見たスマホの評価であった。 

 ロム爺という鑑定士ならあるいは――、と話しを上げる商人も中にはいたが、そのロム爺は王都から離れたアストレア家の本邸に移り住んだらしく、コンタクトを取るのは不可能だった。

 何せ、この世界の移動手段である竜車を買うお金がない。

 最終手段で飛んでいく事も考えたが、外の状況はまるでわからないし、距離も不明。オマケに怪しい服装の人間が手から炎を出して飛んでいたと噂されれば、怪訝な目で見られて居場所すらなくなってしまう恐れもあった。

 

 と、そんなこんなでツナが悩んでいる時だった。

 

「何やってんだ嬢ちゃん!!」

 

 商い通りに怒声が響いた。

 驚いて振り返ると、店前に陳列された花瓶の前で、綺麗な青色の瞳に涙をためている少女の姿がそこにはあった。

 6,7歳ほどの緑髪の少女だ。それに対し、店主は長身の筋肉質な体に、強面の坊主頭の男性だ。大人ですら怒声を浴びせたら泣かしかねない、そんな男であった。

 

「価値もわからない子供が勝手に触ってるんじゃない! 汚れでもしたらどうすんだ!」

「だ、だって……、きれいな花瓶だったから……」

 

 少女が泣き出す10秒前。恐怖心が表情に鮮明に表れ、怯えから少女は後退りする。

 少女の瞳から涙が零れ落ちたとき、次の水滴は隣から発せられる声に塞き止められた。

 

「すいません。その花瓶本当にそんなにいいものなんですか?」

 

 ツナは少女のそばに立って店主の男と向かいあった。

 その言わんとすることを店主も理解したらしく、ガンを垂れるように睨みつける。

 

「言いたいことがあるなら言ってみな兄ちゃん。ことと次第によっちゃただじゃおかねぇぞ」

「いえ、ただこの花瓶……見たところ石で作られているみたいですが表面が綺麗すぎる気がしたので。石工製の花瓶は石の味を出すために、削る量を最低限に抑えるのが主流と思っていたものですから」

「この花瓶はかの有名な石工職人ムラトーレが造形した作品だぞ。お前のようなガキに価値がわかるはずがないだろ。この綺麗な造形こそムラトーレの持ち味なんだよ」

「でしたら、その証明書は当然お持ちですよね?」

 

 男の表情が一変したことに気付く。これまで見せていた怒気は薄れ、代わりに動揺の色が一気に濃くなる。

 周りの客や同業者にも気づかれるほどの変化で、周囲からの視線も怪訝になる。

 

「そ、それはカルデアに置いてきて……」

「そうですか……、でしたら最後に聞きたいことが。本当にこの花瓶に価値があるとして、この子が触った箇所の確認をしていないのは何故ですか? 本当に価値があるのなら、何よりもまず花瓶に汚れがついているかを確認すると思うのですが」

「えっと。そ、それは……」

 

 畳みかけられた店主は、言葉を途切らせて目を泳がせた。

 疑っていた周りの客や同業者も、それが花瓶の価値の解答だと気づくと、一斉に詰め寄った。

 

「おいあんた! どういうことだ!」

「ここに置いてあるのはインチキ商品だってーのか!」

「い、いやー、それはですね」

 

 責め立てられる店主を後目に、ツナは少女に微笑んだ。

 

「いこっか」

 

 もう少女の瞳に涙は浮かんでいない。少女は笑顔で頷いた。

 




大筋は大体できてても、文章書けない。つらい


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EP2 家族

短いです。毎回このぐらいです


「お兄ちゃんすごいね。パッと見ただけで偽物だってわかっちゃうなんて、まるで花瓶の神様みたい」

 

 少女――プリムは憧れのヒーローを見るようなキラキラとした目でツナを見つめた。少女の純粋さを受け止めると、対照的にツナの表情は少しだけ沈んだ。

 

(すごい、か……)

 

 プリムがすごいとほめた力は、少女とは無縁の――否、未来永劫縁があってはならない世界で得た力だ。

 裏世界での取引の際に騙されないようにリボーンから教わった付け焼刃の鑑定眼と、死が付随する憎しと悲しみの連鎖を生み出してきた自身の血筋がなせるものなのだから――。

 無邪気に尊敬の眼差しを向ける少女に、それを知る由はない。

 無論ツナもうれしくないわけではないが、それを純粋に喜べるほど、ツナの心はまだ裏の世界に浸透してはいなかった。

 

「どうしたの?」

 

 プリムが心配そうな顔でツナを見上げる。

 ツナは心の中で首を振って葛藤を振り払うと、プリムに笑顔を返した。

 

「いや、俺の力は血筋みたいなもんだか。思っているほどかっこいいものじゃないよ。それに俺から見たらプリムちゃんのほうがずっとすごい。俺が同い年ぐらいのときだったら、絶対すぐに泣いてるもん」

 

 同い年はおろか、小学生ぐらいまでの自分なら間違いなく泣いてしまう自信がある。

 そんな間違った自信を抱えつつ、ツナはリボーンと出会う前の昔の自分を思い出した。

 他者と比べては卑屈になり、自らの力量を理解してはすべてを諦め、責任が伴うことかは逃げる。

 日々を怠惰に過ごし、ただただ時間を浪費してきた自分の姿――。

 

 「そんなことないと思うけどなぁ」とツナを憧望するプリムの頭を、慈しむように褒めるように、優しく撫でた。幼さ以上に強い心を持っている少女を、愛おしく感じた。

 立派に成長していく年の離れた妹を見守る兄の感覚だろう。まだまだ鋭意成長中の、血は繋がっていないが弟や妹のように思っている家族がいるツナにはそう感じられた。

 

「そういえば一人だったけど。お母さんとかは? もしかして迷子?」

「迷子じゃないよ。ママの誕生日プレゼント選んでたの。お花を摘んで花瓶に入れてプレゼントしようと思って」

 

 誕生日プレゼント、ということはサプライズである可能性が高い。先ほどの件も考えると、街の治安がいいとは言えず、娘の不在に気付いた両親が心配しているはずである。プリムの目的が果たせなかったにせよ、帰宅させるのが吉だろう。

 本来ならばプリムに言い聞かせて帰らせるのが最善策だ。しかし、今に関して言えば、プリムを一人で出歩かせるわけにはいかない。先ほどの騒動の腹いせに店主がプリムを襲う危険性があったからだ。 

 まずは、この子をうちまで届けよう。

 次の目的が決まったことは、異世界生活に不安になりかけていたツナにとっては心情的にも救いだった。

 

「プリムちゃんはおうち帰れる? きっとお母さんも心配していると思うんだ」

「道はわかるけど……」

 

 ツナの言葉にプリムはうつむいた。おそらくはまだプレゼントが決まっていないことと、両親に何も言わずに出て行ってしまったこと、その二重の心配が表に現れているのだろう。

 

「大丈夫、何かあったらお兄ちゃんも一緒に謝ってあげるから」

 

 それを察し、ツナは笑顔で答えた。

 

 

 

 

 

 

 プリムから案内されたのは、店頭にリンゴ……もといリンガが陳列された小店だった。

 というか、ツナが一番最初に現実世界の小銭を見せた店だった。

 店頭では緑髪の強面顔のリンガ売りの店主と、茶髪の綺麗な女性が深刻な表情で話していた。

 ――一瞬、失礼千万な考えが頭をよぎった。

 

「ママー!」

「プリム!」

 

 プリムの呼びかけに気付いた女性が、駆け寄るプリムを抱きしめた。

 

「危ないでしょ! なんで一人で出かけたの! ただでさえ、今商人たちはピリピリしてるのに!」

「ごめんなさい。ママの誕生日プレゼント買おうと思って。誕生日にみんなで行こうって話してた旅行の話もなくなって……、だから……」

「プレゼント……、ほんとに、もう……」

 

 母親の抱きしめる力が強くなると、プリムの頬を水滴が伝う。それをたどると母親の瞳に行き着いた。それは娘が見つかった安堵よりも、湧き上がる嬉しさが詰まった家族愛の結晶だった。

 プリムの瞳から本日二度目の涙がこぼれた。

 

「もう絶対、勝手に一人で出かけちゃダメよ。約束」

「うん。ごめんなさい……」

 

 母娘は涙を零しながら笑い、指を絡めて約束を交わす。

 それ感慨深く見つめるツナに、もう一人の当事者である強面の店主が申し訳なさそうに近寄った。

 

「悪かったなうちの娘が迷惑をかけて」

「いえいえ迷惑だなんてそんな。とてもいい子で、こっちが感心するぐらいで」

「おお、よくわかってるじゃねーか! そうなんだよ、妻に似てお淑やかで可愛くて、気弱に見えて芯もしっかりしている。大人になったら絶対いいお嫁さんになるぞ。間違いない」

 

 これでもかと自慢げに娘のことを語る父親を見て、ツナは、ははは、と笑って返す。

 二人を一目見たときに感じた失礼千万な考えが再び頭をよぎる。プリムが母親似でよかったなんてのは口が裂けても言えない。

 

「ありがとうお兄ちゃん」

 

 ツナに駆け寄ったのは、涙をぬぐい終えた満面の笑みを浮かべたプリムだった。

 

「俺は何もしてないよ。プリムちゃんが正直に話したから許してもらえたんだ。えらかったね」

 

 プリムは撫でられるがまま、幸せそうな顔でツナの言葉を受け取った。

 

「そういえば、旅行の話が出ていたけど。あれは?」

「本当はね、水の都のほうに誕生日に旅行する予定だったの。白鯨って魔獣が倒されてこれから忙しくなるから、今のうちに旅行に行こうって。でも街の外が危ないから中止になったの」

「危険? ほかの魔獣とか?」

「ううん。魔獣じゃなくて、魔女教徒って悪い人たち」

 

 そう話すプリムの表情は深く沈んだ。よほど楽しみにしていたんだろう。

 

「きっとクルシュ様がやっつけてくれるから大丈夫よ」

 

 そう言って後ろからやってきたのはプリムの母親であった。

 

「娘から話は聞きました。助けてくださって本当にありがとうございます」

「うちも余裕があればなにか礼がしたいんだが、すまねぇな。せめてこれだけでも受け取ってくれ」

 

 そう言って店主はツナにリンガを渡した。

 

「ありがとうございます!」

「おう達者でな!」

 

 言葉を交わすと、ツナはその場を後にした。

 ――リンガ店を監視する視線があることも、ツナは気付いていた。

 




リゼロ1話の親子組です。設定とかわかりません

次回、リゼロのメインキャラがやっと登場します。たぶん


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