ラブライブ!サンシャイン!!〜Aqours☆RIDERS〜 (白銀るる)
しおりを挟む

動き出したヒーロー編
1/彼の心を再び動かすのはなにか


パッと頭に浮かんでしまい、書きたくなってしまったので投稿することに決めました。
ビルドやオーズ外伝と同時進行で行うので、一シリーズごとの頻度は落ちてしまいますが、ご了承ください。

後書きと次回のサブタイトルを編集しました。



 世界の破滅ってやつは、突然起きるみたいだ。

 たとえば、アイドルのライブを楽しんでいたりする、その時に……。

 

 三年前、「グローバルフリーズ」と呼ばれる現象が起きた。

 それは、とある科学者によって生み出された機械生命体「ロイミュード」が人間に反旗を翻し、引き起こした未曾有の大災害だ。

 

 その被害はこれまでの天災の比ではない。

 多くの罪のない命が奪われ、また多くの人々が恐怖の記憶を植え付けられた。

 

 どんよりとした世界で倒壊、炎上する建物。

 何もかもがゆっくりと進む世界で、奴らだけが自由に動き回り世界を地獄に変貌させた。

 

 俺はその地獄の中で親友を、そして家族を失った。

 目の前に現れた怪物はいとも容易く命を絶ったのだ。

 親友……ユウの体から赤く熱い液体が飛沫して、俺の視界は赤色の血で染まっていった。

 ユウの向こう側には、左手に大きな砲身を装備した異形が立っていた。

 銃口から煙が出ていたので、奴がそれでユウを撃ったのは明白だった。

 ユウを撃った怪物は、今度は俺にその銃口を向けた。

 銃とともに向けられた殺意、そして怪物の悦ぶ顔。

 恐怖と怒り、憎しみが俺の中で混じり合う。

 だが俺には反撃はおろか動くことすら許されない。

 そんな俺を見て奴は更に歪んだ笑顔を浮かべた。

 

 俺は生まれて初めて「死」というものを強く意識した。

 

 ここ数日間のユウとのやり取りが俺の中に去来した。

 些細なことで喧嘩をし、顔を合わせても直ぐに目を逸らしてすれ違った。

 今日こそユウに謝ろう。そう思い振り返った直後の出来事だった。

 すれ違ったはずのユウも体をこちらに向けていた。

 きっと、アイツも俺と同じことを考えていたんだ。

 けどそれは叶わなかった。

 

 怪物は俺の息の根を止めるべく、ユウを撃ったその銃を発砲した。

 刹那、俺と怪物の間に黒い影が割って入ってきた。

 それも目に見えないほどのスピードで。

 影はあっと言う間に怪物を追い詰めて倒した。

 怪物が消えるとどんよりも無くなり、周りの速度は元に戻った。

 

 怪物を倒した影は、また視認出来ない速さでどこかへ去って行った。

 影が去った後、俺はユウを助ける為に病院に電話した。

 だが何度かけても繋がらなかった。

 後で分かったことだが、このどんよりは世界各地で起きていたようだ。

 

 その後、ユウは俺の腕の中で息を引き取った。

 俺は泣いた。

 空は俺の心を表したかのように雲に覆われ、冷たい雨が降る中で俺は泣いた。

 

 それからすぐ、俺の両親も怪物に殺されたことを知った。

 そして俺は叔父である(とまり)正義(せいぎ)に引き取られた。

 これが、あの日俺こと泊進太郎(しんたろう)の身に起きた全てのことだ。

 

 ─R─

 

 グローバルフリーズが起きてから三年、十九歳になった俺は正義叔父さんの計らいで、一年前から私立浦の星学院の生徒として学生生活を過ごしていた。

 俺はユウと両親を失ったショックで不登校になり、最後は当時通っていた学校を中退してしまい、それを見かねた叔父さんが昔のツテで通わせてくれているのだ。

 なんでも浦の星学院は統廃合の危機に瀕していて、共学化を図ったが成果は芳しくないらしい。

 俺を含めても男子生徒は二人、全校生徒の1〜2パーセントと言ったところか。

 周りはみんな女子ばかりで、正直いづらい。

 だから昼休みなんかの空いた時間は、いつも一人で昼寝をしている。

「あ、あんなところにいた! 進太郎!」

 ……見つかった。

 俺の名前を呼んでこちらに向かってくる金髪の少女。

 俺が一人でいる理由は、先のこと以外にもう一つある。

 そのもう一つの理由こそ、彼女であることにほかならない。

「今日こそスクールアイドル部に来てもらうわよ!」

 ふんす、とまるでマンガのような鼻息をし、豊満な胸の前で腕を組むこの少女は小原鞠莉。

 一見するとただの女子生徒だが、実は彼女の家の小原は浦の星学院を支える大企業で、小原鞠莉(おはら)はこの学校に理事長なのだ。

 色々とツッコみたいところはあるが、いちいち気にしていたらキリがないので、俺は考えることをやめてその事実を受け入れた。

「あのな、小原、俺はスクールアイドルなんてやってる暇ないし、そもそも興味無いんだ。悪いが他を当たってくれ」

「もう……『小原』じゃなくて『マリー』よ。それに進太郎のことはオジサマから『面倒を見てくれ』って頼まれてるの。オジサマとの約束をブレイクするわけにはいかないんだから」

「いや、正義叔父さんとスクールアイドルは関係ないだろ」

 むう、と頬を膨らませたのも束の間、小原は悪い笑みを浮かべた。

 その顔を見て嫌な予感を感じるも時すでに遅し。

 小原は俺の左腕を掴み無理やり立たせて引っ張る。

 しかも逃げられないようにする為か、ガッチリと腕でホールドしてきた。

「ちょ! お前何して……!?」

「何って、進太郎が逃げられないようにキャッチしてるの」

 本人がそう言っているのであればそうなのだろう。

 だが何の事情も知らない人達の目にはカップルのように映ってもおかしくない。

 おまけに凶悪なまでに大きな胸だ。

 今、俺の腕は小原の腕と胸でロックされている。

 嫌でも感触が伝わってくるのだ。

「あら~? 進太郎、顔赤いわよ~?」

「……お前、わざとやってるだろ」

 睨むと小原はさらに腕に力を入れ、俺の腕はさらに谷間にうずまっていく。

「分かった! 分かったから離してくれ!」

「ダーメ。マリーにこんなに手間をかけさせたんだから、バツとしてこのまま部室まで行くわよー!」

「勘弁してくれ……」

 どうにか抜け出そうと抵抗を試みたが、腕を動かすと変な声を出したため、俺は腕を捕らえられたまま連行されたのだった。

 

 周囲の視線に耐えながら連行されてきたのは体育館、さらにその中にある部屋の一つだ。

 部屋で待っていたのは八人の少女達。

 と言っても彼女達が待っていたのが鞠莉だけであることは、その反応を見れば明らかだ。

 ほとんどの者はポカンと口を開けたまま固まり、ある者は他の者の後ろに隠れてしまっている。

 クラスメイトの二人──松浦果南は苦笑いをし、黒澤ダイヤは呆れた顔をしていた。

「鞠莉さん……貴女という人は……。申し訳ございません、泊さん。鞠莉さんにはきつく言っておきますわ……」

「そうしてくれると助かる……」

「えー! 二人ともひどーい!」

「わたしからも謝るよ。ごめんね、泊君。でも鞠莉も悪気があってやったわけじゃないと思うから許してあげて?」

「悪気はない……ねえ……」

 さっきまでの仕打ちを思い返しながら松浦から視線を外す。

 そんな俺の様子から松浦と黒澤は何かを察したようで小原を問い詰めた。

 流石に大きな声で言うのは憚られたのか、小原は耳打ちで二人にだけ詳細を伝えていた。

 すると、松浦と黒澤はみるみるうちに顔を真っ赤に染め上げていった。

 そうだよな。それが普通の反応だよな。

「あの……」

 アホ毛が一本ちょこんと立ったオレンジ色の髪の少女が俺に話しかけてきた。

 まあ、突然連れてこられた未確認物体に興味を抱くなという方が無理な話だ。

「どうした?」

「もしかして『泊さん』って去年編入してきたっていう……」

「ああ、そうだ。まあ色々あってな。俺は泊進太郎だ」

「わたしは高海千歌って言います。こっちは幼馴染の渡辺曜ちゃん。それから少し前に転校してきた桜内梨子ちゃんと、一年生の国木田花丸ちゃん、津島善子ちゃん、黒澤ルビィちゃん。それから三年生の松浦果南ちゃん、黒澤ダイヤさん、小原鞠莉ちゃんの計九人でスクールアイドルやってます。グループ名はAqoursです」

 高海に紹介された彼女達は俺に会釈した。

「よろしくな。あと『黒澤』ってことはもしかして……」

「ルビィはわたくしの妹ですわ」

 俺が聞こうとした事柄を黒澤(姉)が不意に話しかけてきた。

 どうやら小原への説教が終わったらしい。

「千歌さんが今おっしゃったように、わたくし達はスクールアイドルをしています。泊さんも名前くらいは知っていますでしょう?」

「ああ。確か学校単位で活動してるアイドルだったよな。最近だとプロのアイドルにも引けを取らないグループがいたり、卒業後はそのままプロデビューする人らもいるって話も小原から聞いた」

「流石進太郎! ちゃんと覚えてたのね」

「覚えるまで教えてきたのはお前だろ。まあ、それは一旦置いといて、何で俺をここに呼んだのかだ」

 スクールアイドルのことは知ってはいるが、俺はそんなものとは無縁な人生を歩んできた。

 その詳細を認知したのだって小原達と出会ってからだ。

 そんな俺が何故アイドル部(こんなところ)に連れてこられたのか。

 まさか、俺にスクールアイドルをやれ、と言うんじゃないだろうな……? 

「実はね、進太郎にはAqoursのマネージャーになってもらおうと思うの。というかなってもらわないと困るわ」

「どういうこと、鞠莉?」

「進太郎って浦の星に来てからずっと一人でしょ? でもわたし達と話してるのを見ても、女の子が苦手っていう風には見えないし、女の子(わたし達)って言うより人と関わるのを避けている気がするのよねぇ」

 小原の観察力には恐れ入るが、ここで動揺する素振りは見せない。

 これ以上、アイツに弱みを晒すのはどうにか回避したいからだ。

「仮にそうだとして、どうして俺がスクールアイドルのマネージャーにならなきゃいけないんだ? どうせ卒業まで一年もない。誰の記憶にも残らずにひっそりと消えてくさ」

「だーかーらー! それじゃダメって何度も言っているでしょう? オジサマから『進太郎がロンリーにならないように』って……」

「悪い、小原。ちょっと一人にさせてくれ」

「進太郎……」

 俺のことで必死になる小原にユウの幻が重なる。

 そしてグローバルフリーズの記憶がフラッシュバックした。

 俺はその幻を消すために唇を噛み、部室から立ち去った。

 

 ─R─

 

 小原達から逃げるように沼津の自宅──正確には叔父さんの自宅──に帰宅した。

 いや、実際俺は逃げたんだ。

 小原は友達のように……いや、アイツは俺に友達として接してくれている。

 出来れば俺も小原達と友人関係を築きたいとは思っている。

 けど、俺を縛るものがそれを許さないんだ。

 あの日、ユウに本当の気持ちを伝えられなかった俺に、友達を得る資格なんてない。

「おかえり、進太郎。どうしたんだい? そんな顔をして」

 俺の帰りを迎えてくれた声。

「ただいま、ベルトさん。学校でちょっとな……」

 傍から見たら見えないナニカと会話をしているヤバい奴に見えるかもしれないが、俺の話し相手は存在している。

 それは、今しがた俺の肩に乗った赤いミニカーだ。

 彼の名前は「クリム・スタインベルト」。

 曰く、「天才科学者の頭脳をコピーしたAI」らしい。

 自称なのでどこまで本当かは分からないが、少なくとも恐ろしく知能が高いのは確かだ。

「その様子だと、いつも君が話している『小原鞠莉』関係だね?」

「まあな。なんでもスクールアイドルのマネージャーになって欲しいんだと」

「ほう! それはいい話じゃないか。君の心のリハビリにはもってこいだ!」

「あー……でもまだ返事はしてない。保留ってことにしておいてある」

 このミニカーのどこに目、あるいはそれに準ずるものがあるのだろうか。

 ベルトさんは今の俺の雰囲気を正確に感じとったようだ。

「進太郎。過去のことを振り返るのは悪いことではない。だが囚われ過ぎていては、君はいつまでも前を向けないままになってしまうよ」

「分かってる……けど、無理だ。忘れられねーよ。あのことは……」

 俺に親身になって考えてくれるベルトさん。

 彼との出会いはほんの数ヶ月前のことだ。

 

『わたしとともに戦士になって欲しい』

 それがベルトさんとの出会いだった。

「戦士」、それは三年前にグローバルフリーズを起こした怪物、「ロイミュード」に対抗すべく生み出された存在。

 三年前にも戦士は存在し、ベルトさんとともにグローバルフリーズを終息させたという。

 あの時、俺を救ったあの黒い影。あれこそがその戦士だったのだ。

 だが最後の戦いで戦士と最後のロイミュードは相討ちになり、彼はその消息を絶ったらしい。

 

 それから三年もの間、ベルトさんは戦士となるに相応しい人間を探してきた。それが俺だというのだ。

 もちろん、そんなものになる気はサラサラなかった。

 俺はベルトさんを軽くあしらい、それでも彼は俺にアタックを続ける、そんな関係が数ヶ月も続いた。

 その間、俺とベルトさんは徐々に距離が短くなっていき、今ではこうして話し相手になれるほどに発展した。

 

「進太郎、わたしは信じているよ。君の心のエンジンに再び日が灯るのを」

「……ありがとう、ベルトさん」

 ベルトさんからのエールは、とても暖かい。

 彼が機械であるとは思えないほどにだ。

 だがそのエールに応えられる日が来ることは無い。

 自分のなかで俺はそう完結させていた。

 

 ─R─

 

 小原の誘いを保留にしてから一晩が明けた。

 また虚ろな一日を学校で過ごした後、今日は小原に捕まらないようにすぐに教室を出た……のだが。

「小原……」

 見つからないように慎重に進んだことが仇となり、先回りされてしまった。

「今日は逃がさないわよ、進太郎」

「別に逃げてねーよ」

「ねえ、ちゃんとわたしの目を見て話してよ。どうしてみんなを避けようとするの? そんなにこの学校が……わたし達が嫌い!?」

 そう叫んだ小原は目尻に涙を浮かべていた。

 出会ってから一年間、涙のなの字も見せてこなかったあの小原が泣いていたのだ。

「小原……」

「ほら……また『小原』って……。何度も言ってるじゃない。『マリー』だって」

 あの時と同じだ。

 一時の感情に任せて心にもない言葉を言い放ち、ユウを傷つけて言い争いになった。

 本当はそんなことしたくなかったのに。

 今度は本心を伝えようとせず、それで小原を傷つけた。

 これじゃああの時と変わらない。変われない。

 また失ってしまう。

 

 失う? 何を? 

 

 自分自身へのその問いかけの答えはすぐに出た。

 知らず知らずのうちに、俺は好きになっていたのかもしれない。

 この学校や小原達のことが。

 そうだ、好きじゃなきゃ友達になりたいなんて思わないじゃないか。

 相変わらず、俺は気付くのが遅いんだな……。

 

 涙を流しながら俺を睨む小原。

 その怒りを宿した瞳は少し変化した。

 俺が彼女の目を真っ直ぐ見つめたからだ。

「ごめん」、その言葉を紡ごうと口を開いた刹那、それはやって来た。

 三年前と同じどんよりが。

 

 声が出せない。体が動かせない。

 いや、それよりも重大なこと。

 これが起きたということは、この近くに奴らが……。

 

 奴らは思ったよりも近くで現れた。

 そう、俺の視界の片隅に。

「ここが浦の星学院かあ……。噂で聞いた通り女しかいねえ」

「へっへっへっ。ここなら良い顔が見れるかもしれねぇなぁ」

「手始めにあの女からやっちまおうぜ。そうだな……あそこに突っ立ってる男を殺れば良いか」

 どんよりの中で普通に動いている三人組の男達。

 物騒なセリフとともに奴らはその正体を現した。

 奴ら……ロイミュード達は小原と俺を標的に見据え、近付いてくる。

 逃げようにも重加速のせいで思うように動けない。

 万事休すか……。

 

 ……また俺は守れないのか。

 今度は俺自身が殺され、小原に……鞠莉にトラウマを植え付けてしまう。

 心に一生消えない傷をアイツの心に残してしまう。

 

 嫌だ。それだけは絶対に嫌だ。

 動け! 動け! 動けよ! 

 俺は決めたんだ! 鞠莉達と友達になる! 

 そのために鞠莉を守る! 

 

 そんな俺の想いに呼応したかのように、遠くから四つのミニカーが走って来た。

 いつもの赤いミニカーが一台と、オレンジ、紫、緑色のミニカー達。

 そしてそれらは妙な形のベルトとブレスレットを俺の手に運んだ。

 赤いミニカーが俺の手に収まった瞬間、俺を覆うどんよりが消える。

 残りのミニカー達は、それぞれロイミュード達を迎撃した。

「このベルトは……?」

「やあ、進太郎。この姿のわたしと会うのは初めてだね」

「その声……ベルトさんか!」

「イグザクトリー! 君の熱いハートが彼らの目を覚まさせたんだ」

「彼ら……?」

 小さいながらもロイミュードと互角の戦いを繰り広げているミニカー達。ベルトさんの言う「彼ら」とはあのミニカー達のことだろう。

「進太郎。君も彼らと……そしてわたしともに戦うんだ!」

「……ああ、分かった!」

「その『シフトブレス』とわたしを装着してキーを回せ! そして最後に『シフトスピード』を変形させてブレスにはめて叫ぶんだ! 『変身』と」

 俺はベルトさんに言われた流れに沿って動き、鞠莉を助けたいという一心で叫んだ。

「変身!」

「ドライブ! タイプスピード!!」

 ベルトさんの掛け声とともに俺の体は装甲に覆われていき、どこからか飛び出してきた赤い車から射出されたタイヤがたすき掛けのように体に装着された。

「これが戦士……」

「ああ。戦士、ドライブだ」

 ドライブ……。赤い戦士。

 力が漲ってくる。これならロイミュードと戦える! 

 

 俺がロイミュード達を見据えると、奴らと交戦していたミニカー達が戻って来て、ベルトの横のホルスターに収まった。

「彼らは『シフトカー』。ドライブ(きみ)の仲間達さ」

「シフトカーか。よし、それじゃあみんな、ひとっ走り付き合えよ!」

「オーケイ! スタート・ユア・エンジン!」

 ドライブに変身した俺は、ロイミュードの懐まで駆け寄りパンチを叩き込んだ。

 胸に「029」と書かれていたロイミュードは、後方に大きく吹き飛んだ。

 更に周りにいた二体にも蹴りと打撃を浴びせ、俺は数でこそ負けていたが、戦況としては俺が優勢だった。

 ……いや、俺達は数でも負けていなかったな。

「ぐぅ……貴様、何者だ!? 何故重加速の中で動ける!?」

「詳しいことはさっぱりだ。けどこれだけは言える。鞠莉やこの学校の人達に手出しはさせない!」

 俺の怒号に呼応し、ホルスターからオレンジ色のシフトカーが走り出した。

「彼は『マックスフレア』。炎の力を操るシフトカーだ」

「炎の力か。よし、俺の心の炎をもっと滾らせてくれ!」

 マックスフレアは俺の言葉に答えるように体を発光させる。

 俺はシフトスピードを外し、マックスフレアを変形させてシフトブレスに挿し込んだ。

「タイヤコウカン! マックスフレア!!」

 赤い車から新しい形のタイヤが射出され、スピードのタイヤと換装される。

 拳に力を込めると炎が発生し、沸き上がる力は更に熱気を帯びた。

 再び襲いくるロイミュード達。

 だが俺は拳と蹴りに炎を纏わせ、ロイミュードのボディを焼き尽くした。

「トドメだ進太郎! もう一度キーを回してからブレスのボタンを押してレバーを倒すんだ!」

 俺はシフトカーをもう一度シフトスピードに代え、ベルトさんの指示通りの手順を踏んだ。

「ヒッサーツ! フルスロットル! スピード!!」

 すると、ベルトさん達とともに駆け付けた赤い車が走り出し、ロイミュード達を囲んで逃げ場を奪う。

 俺はその中へ飛び込み、車と連携して連続キックを叩き込んだ。

 キックを受けたロイミュード達は爆発四散し、数字のようなものが二つ砕け散ったのだった。

「ナイスドライブ、進太郎!」

 勝った……。ロイミュードを倒したんだ。

 俺は大事なものを守れたんだ……。

 

「進……太郎……?」

 ロイミュードが倒れたことで重加速が解け、止まっていた鞠莉がドライブとなった俺の名前を呼んだ。

「進太郎なの……?」

「あっと、これはその……」

 ドライブに変身している俺を見た鞠莉は、まだ涙の痕は消えていないものの、驚きの表情を浮かべていた。

「ここで変身を解くのはまずい。彼女を連れて一度ここから離れよう」

「あ、ああ、分かった」

「え、ちょ、ちょっと!」

 ドライブの装備を解除しようとすると、ベルトさんがそれを止めて赤い車を俺達の前まで呼んだ。

「このトライドロンに乗りたまえ。進太郎、運転は出来るね?」

「一応、免許は持ってる」

「オーケイ。わたしがナビする場所に向かうんだ」

「さっきから誰と話してるの!?一体どういう状況なのー!!」

 未だに状況が飲み込めていない鞠莉を助手席に乗せ、俺はベルトさんのナビでトライドロンを走らせたのだった。

 




鞠莉)ちょっと進太郎!さっきのあれは一体何なの!?
進太郎)俺もさっき初めて変身したばかりで何がなんだか……。なあ、ベルトさん。ちゃんと教えてくれるんだよな?
ベルト)もちろんだ。だがその前にやるべきことがあるみたいだよ。
進太郎)やるべきこと……?これを読めばいいのか?えっと、次回「2/仮面ライダーとはなにか」
ベルトさん)仮面ライダーか……悪くない名前だ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2/彼はなにを守るのか

進太郎)前回までのラブライブ!サンシャイン!!〜Aqours☆RIDERS~……なんか長いな。
鞠莉)じゃあ、ラブライダーズなんてどう?
進太郎)ラブライダーズか……まあ、略称としては少し長いけど、悪くは無いかな。
鞠莉)それじゃあ決まりね!改めて……前回までのラブライダーズ!
進太郎)三年前のグローバルフリーズで親友と両親を亡くし、トラウマを抱えた俺は、転入先の浦の星でもその過去を引きずっていた。
鞠莉)わたしは進太郎のオジサマのお願いを聞き入れ、浦の星の理事長として、そして同じ学校に通う仲間として進太郎に馴染んでもらおうと奮闘するも、進太郎は頑なに心を開かないまま。何も話してくれない進太郎に遂にわたしの怒りが爆発したの。
進太郎)鞠莉の涙を見た俺は、本当の気持ちを彼女に打ち明けようと決意する。しかし、そんな俺達の前に三体のロイミュードが現れる。絶体絶命の危機かと思いきや、そこへ駆けつけたベルトやシフトカー達の力を借り、戦士ドライブへ変身したことで窮地を脱したのだった。

一部改定しました。


 ベルトさんのナビゲーションのもとトライドロンを走らせること数十分。

 辿り着いたのは正義叔父さんと俺が暮らしている家だった。

「ここは……?」

「俺と叔父さんの家……。ベルトさん、ここで間違いないのか?」

「ああ、ここで合っているよ。少し待ってくれ、今ロックを解除しよう」

 ロックを解除? 一体何の? 

 そんな疑問が浮かんだのもつかの間、次の瞬間に俺はとんでもないものを目にした。

 なんと、家の隣の車庫が開き、その中に地下への道が開けていたのだ。

「何、これ……」

「俺にも分からん……」

 二人揃って呆然としていると、トライドロンがひとりでに進み始めた。

 多分、ベルトさんが動かしているのだろう。

 

 トライドロンが進む通路はまさしく秘密基地の出入口という雰囲気で、普段生活している家の地下にこんなものがあったのかと思うと、驚かずにはいられない。

 やがてトライドロンが暗闇の中で止まると、しばらくしてからパッと明かりがついた。

 一瞬だけ目を閉じて再び瞼を上げた時、そこはやはり秘密基地と呼ぶにふさわしい景色が広がっていた。

「ドライブピットへようこそ、二人とも!」

 いつの間にか外に出ていたベルトさん、そしてシフトカー達のクラクションでの歓迎に俺達はまた驚かされた。

 俺はトライドロンから降り、台座にハマっているベルトさんに歩み寄る。

「ベルトさん、これは……?」

「ここはドライブピット。わたし達の秘密基地さ。ドライブの秘密を話すには、ここが一番最適な場所だろう?」

「秘密基地……か。まあ、それは良いけどよ……」

 俺が視線を移した先にいるのはもちろん鞠莉だ。

 面食らった顔をして完全に止まっている。

「お、おーい。大丈夫か?」

「……は!? し、進太郎!? ……ここはどこなの?」

「俺の家の地下っぽい……。とりあえず降りろよ。話はそれからだ。な、ベルトさん」

「ベルトさん……?」

 誰のことだ、と言いたげに首を傾げる鞠莉。

 まあ、それはそうなるだろう。

 なんせ、俺が話しかけた先に人はいない。

 そこにいるのは、奇妙な形をしたベルトだけなのだから。

「初めまして、小原鞠莉君。わたしの名前はクリム・スタインベルトだ。よろしく」

「べ、ベルトが喋った!? それにわたしの名前も……」

「君のことは進太郎からよく聞かされていたんだ。会えて光栄だよ」

「ど、どうも……。えっと、ベルトさん……で良いのかしら?」

「ああ、好きに呼んでくれて構わないよ」

 鞠莉はベルトさんに機械ならぬ奇怪な物を見るような目を向けていた。

 一方、ベルトさんはそんなことは気にも留めずに話を続けた。

「君達をここに招待したのは、わたし達と奴らの話をするためなんだ」

「奴ら……?」

 突然、妙な場所に連れてこられたことに戸惑いながら、鞠莉はベルトさんの「奴ら」という言葉に首を傾げる。

 それもそのはず、鞠莉は……鞠莉達はロイミュードについてなんの知識も持ち合わせていないからだ。

 三年前、ロイミュードはグローバルフリーズを起こし、その名前と存在が世界中で認知されたが、その詳細を知っている者はほとんどいない。

 世間では、ロイミュードは突如現れた謎の怪物なのだ。

 だから、まずベルトさんはロイミュードのことを話した。

 

 ある二人の科学者が生み出してしまったアンドロイド、それがロイミュードであること。

 一人の裏切りによってそのほとんどが悪に堕ちてしまったこと。

 そして、グローバルフリーズが起きた時、二人ともロイミュードに命を奪われたこと。

 

 とても現実のこととは思えない、壮絶な過去が彼の口から語られた。

 鞠莉はもちろん、ロイミュードのことをある程度聞いていた俺でさえも言葉を失ってしまった。

「そして命が尽きる最期の瞬間、一人の科学者は小さなベルトにその意識をコピーした」

「それが……ベルトさん……」

「イグザクトリー。わたしは未来に希望を託した。わたしとともに戦ってくれる戦士が現れることを」

「それがあの赤い鎧の姿なのね……」

「イエス。あの姿は戦士ドライブ。わたしとシフトカー達の力を使うことで進太郎が変身できる、ロイミュードに対抗出来る唯一の存在。言わば、『正義のヒーロー』さ」

「正義のヒーロー……」

 その名前は、漫画やアニメで聞く以上に重いものを感じた。

 ベルトさんの過去が、彼の願いがそうさせたに違いない。

「あの装備を身に着けることで、重加速……君達がどんよりと称する状況下でも自由に動くことが出来るんだ。一度変身した君はその力を感じただろう」

 俺は、ベルトさんにそう聞かれ、戦いの記憶を蘇らせた。

 確かに変身した時、俺は普通に……いや、いつもより速く動くことが出来ていた。

 それにロイミュードにダメージを与え、倒せるほどのパワーもあった。

 心の奥底から力が漲る感覚があった。

「ああ。浦の星を守りたい、そう思ったらベルトさん達が来て俺を変身させてくれたんだ」

「ドライブシステムには変身する者、つまり君の心が必要不可欠なんだ。大切なものを守りたい、という正義の心がね」

 ベルトさんの言葉に反応し、マックスフレア達がクラクションを鳴らす。

 そしてフレアと緑色のシフトカーが俺の両肩に、紫色のシフトカーが鞠莉の手のひらに乗った。

「そして彼らはシフトカー。マックスフレアにファンキースパイク、そしてミッドナイトシャドー。体は小さいが一台一台が特殊な能力を持っている。我々の頼もしい仲間だ」

 ロイミュードを相手に戦っている彼らの姿は俺も見た。

 その様はベルトさんが言ったように、本当に頼もしく勇ましかった。

「改めてよろしくな、三人とも」

 俺がそう声をかけると、フレア達は再びクラクションを鳴らして返事をくれた。

「……ロイミュードとドライブのことは分かったわ。でも、まだ分からないことが一つある。なぜ進太郎なの? ロイミュードと戦うなら、もっと強い人にドライブになってもらえばいいのに」

 ふと、そんな疑問を鞠莉はベルトさんにぶつけた。

 言い方は多少心にくるが、全くもってその通りだ。

 俺より強い人間ならこの世界にはごまんといる。

 それなのに、なぜ俺だったのか。

「うむ、それはね……私にも分からないんだ」

 真剣な表情をディスプレイに浮かべ、間を置いて更に醸された深刻な雰囲気は、彼の陽気なトーンによって一瞬で打ち砕かれた。

 拍子抜け過ぎる答えに、俺達はギャグ漫画よろしく、肩口をずらしてズッコケた。

「わ、分からないって……本当にどういうことなんだよ……」

「本当に分からないんだ。進太郎の他にも、ドライブの候補者は何人もいた。その中には、確かに進太郎よりも力のある人間もいたよ。けれど進太郎を見てわたしは、彼しかいない、そう思ったんだ」

「なるほど……つまりベルトさんは進太郎に一目惚れしたってわけね」

「おい、その言い方は何か良からぬ誤解を招く」

「はっはっはっ! 確かにそういうことになるね」

「ベルトさんもノらないでくれ!」

 鞠莉のノリにベルトさんも乗っかり、二人は完全に意気投合していた。

 元々、俺に対しての接し方が似ていたから、この二人が出会ったらもしかしたらとは思ってはいたが。

 

 それから二人は俺のことで話に花を咲かせていた。

 ベルトさんと楽しそうに笑う鞠莉を見て、俺は彼女を救うことが出来たんだと改めて実感する。

 そしてこれからも守っていくんだ、という使命感も心の中に湧き上がってきた。

 

 それからしばらくの間、ベルトさんと鞠莉の会話は絶えることなく続いた。

 それが中断されたのは、ある人物がここに訪れたからだ。

「よう、クリム。意外と早くにここのことを明かしたんだな……って小原のお嬢ちゃんまで!? 一体どうなってやがんだ……」

 現れたのはドライブピットの頭上にある家、泊宅の家主である泊正義叔父さんだ。

「まあ、色々事情があったんですよ……。って、叔父さんが帰ってきてるってことは……!?」

 スマホの時計を確認すると、時刻は既に午後五時半を回っていた。

「もうこんな時間なの? もっとクリムと進太郎のことでトークにフラワーを咲かせたかったけど、そろそろ戻らなきゃ」

 ベルトさんのことを「クリム」とサラッと呼び捨てにする鞠莉。

 しかも、ベルトさんがそれを指摘しないなんて、どれだけ仲良くなったんだ……。

「それじゃあ進太郎、君が鞠莉を送ってあげるといい。わたしは正義と少し話すことがあるのでね」

「分かった。んじゃ、行くか」

「ああ、それから、鞠莉、ドライブとわたしのことはここにいる我々だけの秘密にしておいてくれ」

「オーケイ。それじゃあ、またゆっくり話しましょう」

 鞠莉とベルトさんはそう別れを告げ、俺達はトライドロンに乗ってドライブピットを出発した。

 

 ─R─

 

 ドライブピットに来た時と違い、トライドロンには俺と鞠莉の二人だけ。

 さっきは終始ベルトさんに問答していた為に少々騒がしかったが、今はとても静かだ。

 声を出すのも少し躊躇われたが、ここで話をつけなければ覚悟を決めた意味が無い。

 俺は再び腹を括り、なんとか話を切り出した。

「なあ、おは……じゃない。鞠莉、お前に話があるんだ」

「……え」

 突然声をかけられた鞠莉が驚いているのは、運転していて顔を見ていなくてもよく分かる。

「俺、スクールアイドルのマネージャーやろうと思う。今までは、いろいろと一人で背負ってていっぱいいっぱいで、全然余裕が無くて誤魔化してたけど……やっと気付いたんだ。俺は、また友達と笑い合いたかったんだ、って……。まあ、まだうまくいかないこともあるだろうけれど、お前が許してくれるなら、俺はスクールアイドル部に入りたい」

 ユウとの思い出、三年前のあの事件、そして鞠莉と関わったここ最近の記憶が脳裏に過ぎる。

 もし、俺にその資格があるなら、許されるならば、俺はもう一度友達と笑い合いたい。

 懇願というのは少し違うが、俺の中の願いのようなものを言葉にし、彼女に告げた。

「もちろん、わたしは歓迎するわ! ……やっと、言ってくれたわね、『友達』って……」

 赤信号で車が止まると同時に、鞠莉は微笑みながら了承の返事をくれた。

「本当は『マリー』って呼んで欲しかったけれど……」

「うっ……それは流石に恥ずかしいから『鞠莉』で許してください……」

 信号が青になって再び車が走り出す。

 その頃には、ロイミュードと戦う前のギスギスした空気は消え去っていた。

 俺達は談笑しながら船着き場まで車を走らせた。

 

 ─R─

 

 進太郎と鞠莉がドライブピットに着いた頃、少々浮いた格好をした四人組が町の一角でたむろしている所に029の数字の形をした何かが飛来した。

「029? 029じゃないか。どうしたんだ、その姿は?」

 黒いジャケットを来た長身の男が、その数字に声をかける。

 そう、この029はドライブとの戦いに敗れ、肉体を失ってしまったロイミュード、そのコアなのだ。

 ジャケットの男の問いかけに、029は悔しそうな声を絞り出す。

「……人間にやられた。赤い姿に変わった人間に。他の奴らはコアまで破壊された!」

「赤い姿に変わった人間? ほう……それは面白そうな話だな」

 029の話を聞くと、ジャケットの男は不敵な笑いをう浮かべる。その顔は、まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のようにも見える。

「行けませんよ、ファイト。強そうな相手を見つけては戦いたがる。貴方の悪い癖だ」

 ジャケットの男──ファイトを窘めるのは、青いスーツを着込みメガネをかけた女性。

 彼女はファイトとは異なり、落ち着いた雰囲気を纏っている。

「分かってる。少し興味が湧いただけさ。全く、ミストは心配性だな」

 スーツの女性、ミストはやれやれと大きく溜め息を吐いた。

「029、その人間はベルトをしていませんでしたか?」

「ああ。ちっこい車も使って、赤くなった後は重加速の中で俺達に戦いを挑んできたんだ!」

「そうですか……」と、ミストはまた溜め息を吐いて深刻な面持ちになった。

 彼女は思い出しているのだ。三年前、憎き奴に舐めさせられた苦汁を。

「頼む! 俺にバイラルコアをくれ! 今度こそ奴を打ちのめすんだ!!」

「……良いでしょう」

 029の懇願にミストは、蛇が巻きついたような装飾が施されたミニカーを029に与えた。

 すると、029はミニカーと融合してロイミュードとしての姿を取り戻した。

「恩に着るぜ、ミストさん。これで今度こそ……!!」

 憎しみを込めた言葉を吐きながら、029は人間の姿に化けて町の中へ消えて行った。

「おいおい……俺はダメなのに029の奴は良いのか?」

「ファイト。わたしの予想が正しければ、029が遭遇したのは『仮面ライダー』だ」

「『仮面ライダー』……? それはあの時、俺達の仲間を一人残らず倒したっていう奴か? だが奴ならマックスが……」

「いえ……仮面ライダーは生きていますよ。ゼロ、貴方も行って見てきてください」

「……分かった」

 029とのやり取りに、一切口を出さなかった紫色のライダースジャケットを来た少年、ゼロは短い返事をして029の向かった先に足を向ける。

「……わたしも行く」

 ゼロの背中を追い、彼より頭一つ分ほど背の小さい少女が、これまた小さな声でそう申し出た。

「いえ、ゼロ一人でじゅうぶ……「別に良いじゃないか」ファイト……」

「ミューズもゼロが心配なんだ。お前と同じだ」

「……分かりました。しかし、余計な戦闘などは避けてください」

 ゼロとミューズはこくりと頷き、今度こそ029の後を追いかけた。

「全く……貴方は本当にミューズには甘いですね」

「仮面ライダーか……どんな奴何だろうな?」

「……聞いてませんね」

 ミストは再三溜め息を吐く。

 バトルジャンキーのファイトと仮面ライダーと思しき敵。

 大きな悩みの種は、彼女を憂鬱にする。

 

 ─R─

 

 翌日、放課後に鞠莉達とともに部室に姿を見せると、やはり高海達は昨日と同じ……いや、昨日より驚いた顔で俺を見ていた。

 もっとも、あんな去り方をして再びここに来たのだから、驚かないわけがないのだが。

「えっと……今日からスクールアイドル……なんだっけ?」

「Aqoursよ、進太郎」

「そうそう、Aqoursのマネージャーをすることになった泊進太郎だ。改めてよろしく。俺のことは好きに呼んでくれて構わない」

「という訳だから、みんな進太郎と仲良くね」

「うん! よろしくね、進太郎君!」

 鞠莉の仲介もあり、ひとまず害は無いと判断されたようで、高海達は俺のことを快く受け入れてくれた。

「それにしても、どういう風の吹き回し?」

「大したことはないさ。少し自分の気持ちに素直になっただけだ」

「そう、なら安心した。また鞠莉が何かしたんじゃないかと思ってさ」

「むぅ、果南! それどういう意味!?」

「それは自分の胸に聞きなさい」

「えー! ダイヤまでひどーい!」

「いや、あれは俺もどうかと思うわ」

「進太郎まで!」

 松浦、黒澤に続き、俺も鞠莉の軽率過ぎる行動を窘める。

 俺だったからまだ良かったものの、もし危ない男だったらどうなっていたことか……。

 そのことを知らない高海達は、疑問符を浮べて首を傾げる。

「四人とも、どうかしたの?」

「チカっち聞いてよ! 進太郎に……」

 高海達に余計なことを口走ろうとした鞠莉を再び三人で止めた後、スクールアイドル部について彼女達から教わることとなった。

 

 ……なったのだが。

「お、おお……」

 プロジェクターに映し出された映像及び資料を背にし、延々とスクールアイドルについて語り続ける黒澤を前にして、俺はただただ呆然としているしかなかった。

「な、なあ、松浦。黒澤はいつもああなのか……?」

「あー……多分、泊君に教えられるのが嬉しくて舞い上がってるんだと思うよ。まあ、こうなったら誰にも止められないし、全部聞くまで逃げられないと思った方がいいよ」

「マジか……」

 松浦は苦笑いしながらそう答えた。

 そして彼女の言った通りこの講習は長時間続き、解放される頃には完全下校時刻の三分前まで迫っていた。

 

 理事長(鞠莉)の許可を貰い、設けてもらった駐車スペースに泊めたトライドロンの中で、俺はベルトさんと今日のことを振り返っていた。

「はあ……初日からこんなに教えられるとは……おかげで授業で覚えたもん全部上書きされた……」

「はっはっはっ! 確かにスクールアイドルにかける彼女の情熱は凄いものだよ。何かに対するああいう姿勢は、わたし達も見習わなければね」

 黒澤に関心しているベルトさん。

 対する俺は嘆息してぐったりしていた。

 

 だがスクールアイドル部に入り、これまでなら想像もつかなかった新たな発見もあった。

 まさか、黒澤にあんな一面があるなんて思いもしなかった。

 普段、教室で見ているアイツとはまるで別人のようだ。

 いや、あれこそが本当の「黒澤ダイヤ」の姿なのかもしれないな。

 俺は「友達」の新しい姿を発見出来たことに喜びつつ、帰宅する為にトライドロンのキーを回した。

 

 その時だった。

 一瞬だけどんよりが俺を襲った。

 シフトカー達のおかげで俺はどんよりから解放されたが、トライドロンの外はまだ重加速に飲まれたままだ。

「またロイミュードが出たのか!?」

「そのようだ。しかもかなり近い。進太郎、先に変身して襲撃に備えよう!」

 俺はベルトさんに従い、トライドロンの中で変身を完了させた。

 そしてシフトカー達とともにロイミュードの捜索を開始した。

 

 ─R─

 

 重加速に飲み込まれてしまった浦の星学院。

 昨日(さくじつ)襲撃を受けたばかりで、一日の間も置かずに再び襲ってきたどんよりは生徒や教師達、学校内に残っている者達にこれ以上ないほどの恐怖を与えた。

 

 一人の生徒の前に現れたロイミュード、胸に彫られているナンバーは029。

 この学校を再び襲ったのは、ドライブによって一度倒されたはずのロイミュードだった。

「出てこい、赤い鎧の人間……! さもなくば、ここにいる人間を全員殺す! こんな風になぁ!!」

 怒りの雄叫びを上げながら、029は手に持っていた鉄棒を生徒目掛けて振り下ろした。

 が、鉄棒が女生徒に当たることは無かった。

 どこからともなく発砲されたエネルギー弾が棒を消し飛ばし、更に二発目と三発目が029の体に命中して彼を退かせたからだ。

 

「見つけたぞ! ロイミュード!」

 そして、倒れた029の前に一度自らを倒した存在、ドライブが現れた。

 

 ─R─

 

 シフトカー達と手分けして遂に見つけたロイミュード。

 その前には逃げられなくなっていた生徒がいたが、妙なことにロイミュードは倒れて仰向けになっていた。

 何とも不可解な状況だが危機的なことには変わりない。

「進太郎。レバーを倒してシフトアップで加速して奴をこの学校の外へ連れ出すんだ!」

「レバーを倒すんだな、分かった!」

「スピード!」

 シフトスピードを変形させたレバーを一回倒す。

 すると、昨日戦った時よりも更に強い力が湧いてきた。

 俺は、立ち上がったロイミュードを捕え、そのまま学校外まで引きずり出した。

 

 人気のないところでロイミュードを離し、戦闘の態勢に入る。

「貴様……昨日は良くもやってくれたな! 俺の楽しみを奪っただけでなく、仲間まで! 絶対に許さん!!」

 怒りの言葉を吐きながら殴りかかって来たロイミュード。

 奴の言葉に俺はハッとする。

「昨日……お前、鞠莉を襲うとしたロイミュードか!」

「そうだ! 俺の怒りを思い知れ──ッ!!」

 ロイミュードは怒号を響かせる。

 その瞬間、俺の目の前で驚くべき出来事を目にした。

 なんと、ロイミュードの姿が変わったのだ。

 コブラのような形だった顔が、鬼のような形相というよりも鬼そのものとなり、肩にも怒りの表情を浮かべた鬼の顔が掘られたアーマーを纏っている。

 更に肉体も筋骨隆々なものへ変化し、その背には無数の棘のついた金棒が確認出来た。

「不味い……! 怒りの感情が奴を進化させてしまったようだ!」

「んなのありかよ!?」

 オーガロイミュードとでも呼ぶべき姿に進化した奴は、背負っていた金棒を振り回して攻撃を始めた。

 威力はさっきまでより強力なうえ、リーチも長いのでこちらの攻撃を当てることが出来ない。

「奴が武器を使うならこちらは盾を使おう!」

「盾!? そんなもんがあるのか!?」

「新しい仲間の力を借りるんだ。カモン、『ジャスティスハンター』!」

 ベルトさんの掛け声とともにどこからともなく新たなシフトカーが現れた。

 白と黒のツートーンカラーに、ルーフに取り付けられている赤色灯。

 警察車両──パトカーのシフトカーだ。

 パトカーのシフトカー、ジャスティスハンターはオーガを翻弄してから俺の手元までやって来る。

 俺はすかさずハンターをキャッチし、シフトスピードと入れ替えでシフトブレスにセットした。

「タイヤコウカン! ジャスティスハンター!!」

 マックスフレアの時と同様、胸部のタイヤがシフトカーに対応したものにコウカンされた。

 しかし前回と違う点が一つあった。それは、タイヤのコウカンと同時に円形の何かが俺の手に握らされた。

「なんだこれ!? もしかしてこれが盾か!?」

 盾というには格子のような形状をしていて頼りなさそうに見えるが……。

「そんなもんで俺の攻撃が防げるかー!!」

 ジャスティスハンターに妨害されたことで更に逆上するオーガ。

 オーガは金棒をでたらめに振り回した。

 咄嗟に俺は頼りなさそうな盾を構えて防御した。

 するとどうだろうか、盾はオーガの攻撃を完全に防ぎ、反動すらも感じさせない。

「え、なにこれスゲー!」

「それがジャスティスハンターの武器、『ジャスティスケージ』だ!」

「ジャスティスケージか。よし、このまま押し切るぞ! ハンター、ひとっ走り付き合えよ!」

 ブレスのセットされたハンターはサイレンを鳴らし、俺の言葉に答えた。

 

 再び金棒を振って襲い来るオーガだが、その攻撃をジャスティスケージで防ぐ。

 やはり攻撃が通ることは無く、奴は仰け反り体勢を崩した。

「仲間を倒されたお前の怒りは分からないでもない。だが、お前達がやろうとしたことを許すわけにはいかない!!」

「黙れ! 人間ごときがぁぁぁ!!」

 俺はベルトのキーを回してレバーとなったハンターを倒し、必殺技を発動した。

 ジャスティスケージをオーガに向かって放り投げると、ケージは檻となって奴を閉じ込めた。

 オーガはケージを破壊して脱出しようとするが、格子に触れた瞬間に強い電撃が流れてダメージを与える。

 そしてケージの周りに高速回転するタイヤの力で加速し、檻ごとロイミュードを貫いた。

 オーガは爆発四散し、排出された数字のようなものも砕け散った。

 こうして、二度にわたるロイミュードの襲撃事件は幕を閉じたのだった。

 

 ─R─

 

 029とドライブの戦いを見届けていたゼロとミューズ。

 二人は029が倒されたのことを確認し、ファイトとミストのもとへ帰った。

「やはり……色は違うが間違いない。仮面ライダーが復活した……」

 ゼロからドライブについての報告を受けたミスト。

 焦り、そして憎しみといった負の感情が彼女の顔から見て取れる。

「進化した029に勝ったのか! なるほど……ますますその『仮面ライダー』に興味が湧いてきた!」

 そんなミストとは真逆で、ファイトは強敵の出現に心を躍らせていた。

「ファイト! そんなことを言っている場合では無いのですよ!? 我々は一度奴に大敗している……。しかも、今度の奴はコアを破壊出来るほど強力になっている。負ければ命は無いんですよ!?」

「分かってるさ。けど、それでも俺は戦ってみたい。きっと楽しいんだろうな」

 子供のような無邪気な笑顔を見せるファイトに、呆れ果てて嘆息するミスト。

 そしてゼロもまた、ミストとは違った種類の険しい表情をしていた。

「大丈夫……?」

「ああ……頭の中が少しモヤモヤするだけだ。心配するな」

 心配そうな顔をするミューズにそう答えるゼロ。

 彼の脳裏に過ぎるのは、029を倒した赤い戦士。

 その姿が彼の中にある何かを刺激するのだ。

 だがそれが何なのか、彼には分からなかった。

 

 ─R─

 

 ロイミュードの浦の星襲撃から一夜が明けた今日。

 登校すると、ある話題が学校中でもちきりになっていた。

「仮面……ライダー……!?」

 廊下に張り出された校内新聞にでかい見出しとして書かれていたその名前。

 その隣には、ドライブの写真が掲載されていた。

 一体どういうことなんだと思った俺は、その新聞に群がっていた生徒の一人に声をかけた。

「な、なあ、ちょっと良いか? この新聞に載ってるのって……」

「そこに書いてあるじゃないですか! 仮面ライダーですよ、仮面ライダー!」

「えっと、そうじゃなくてだな、その仮面ライダーって何なんだ?」

「知らないんですか!? 三年前に起きたグローバルフリーズの中で、暴れ回るロイミュードを倒していったって言われていた正義の味方のことですよ!」

「へ、へえ……そうなんだ……」

 女の子とは思えないほど鼻息を荒くして熱く語る彼女。

 

 そして教室でも彼女同様、ほとんどの生徒が「仮面ライダー」の話で盛り上がっていた。

「仮面ライダー……仮面ライダードライブ。悪くない名前だ」

 周りに聞こえないほどの小さな声で、ベルトは呟いた。

 戦士ドライブ改め、正義のヒーロー「仮面ライダードライブ」の名はあっという間に広がっていったのだった。

 

 

 




???)なかなかやるね、ドライブ。まあ、今回のは借りにしておいてやるよ。俺がネクストシステムを使いこなせるようになったら、出番は無いかもね~。さて次回だ。「3/神とはいったいなんなのか」お楽しみに~。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3/死神とはいったいなんなのか

ベルト)前回のラブライダーズ!
過去のトラウマが原因となり、人と避けるようになってしまった進太郎。しかし、クラスメイトである小原鞠莉に危機が迫ったことで、彼の心のエンジンに再び火がついた!
鞠莉)戦士ドライブ改め、仮面ライダードライブに変身した進太郎はロイミュードを倒して、それを目撃したわたしを連れてドライブの秘密基地、ドライブピットに帰還した。
進太郎)そして、俺はスクールアイドルのマネージャーとなり、正式に彼女達の仲間になるが、そこへ倒したはずのロイミュードがパワーアップして蘇ってきた。一度はピンチに陥るも、ジャスティスハンターの力を借りてロイミュードを退けたのだった。



 その出会いはまさしく突然だった。

 町に出掛けていた俺達は、銀行強盗を働くロイミュード達と遭遇。

 その内の二体を撃破し、最後の一体を追い掛けていた。

「待て! ロイミュード!!」

「うるせー! 待てと言われて待つ奴があるか! それに……早くしないと死神の野郎が……」

「死神……?」

 俺の腕を振り払ったロイミュードは、重加速の所為で動けずにいた車を奪取し、町中を爆走して逃走を図ろうとした。

 俺ははすぐさまトライドロンを乗り込み、それに乗ってロイミュードとのカーチェイスが始まった。

 なんの躊躇いもなく、障害物の間を針を縫うように走る奴と、動けない人や車を避けながら走る俺。

 奴と俺の差はどんどん開いていった。

 このままでは奴を取り逃してしまう……。

 そんな焦りを感じ始めた時だった。

「ロイミュードの車が止まった……?」

 逃げていた車が突然急停止し、その次の瞬間にロイミュードのものと思しき断末魔とともに爆発を起こしたのだった。

「何だ!? 何が起こったんだ!?」

「まさか何者かがあのロイミュードを倒したのか……!?」

 目の前で起きた出来事に、俺もベルトさんが驚きの声を上げる。

 そして、やはり今の爆発でロイミュードは倒されたらしく、重加速が解除されて周りの時間の流れも元に戻った。

 

 煌々と燃え上がる車の向こう側から人影が現れる。

 紫を基調としたチグハグな装甲。

 仮面ライダーとは言い難いが、目の前のソイツの姿はドライブに近しい何かを感じる。

 ふと、さっきのロイミュードが言っていた言葉が蘇った。

「……死神」

 それが、俺とソイツの出会いだった。

 

 ─R─

 

 スクールアイドル部に入部してから一週間が経った。

 専門的な知識を覚えるのは少々手間取ったが(主に黒澤の所為で)、必要な練習の種類やマネージャーとしての仕事に関しては、比較的すんなりと飲み込むことが出来た。

 部員達との関係もまだ何人かとは距離を感じるものの、良好的と言って差し支えない。

 そう遠くないうちに完全に打ち解けられるだろう。

 

 と思っていたのも既に過去のこと。

 実は、昨日の部活で「進太郎君の歓迎会をしようよ!」と高海が言い出し、満場一致で流れるように開催が決定されたのだ。

「歓迎会だなんて大げさな」と断ろうとしたのだが、何人かとの「見えない壁」を指摘され、歓迎会兼懇親会として、何故か俺の家で開催されることになったのだ。

 そして現在、鞠莉と一緒にデパートで買い物を済ませた俺は、会場である家に帰る為にトライドロンを走らせていた。

 一緒に出掛けた鞠莉はもちろん、ベルトさんとシフトカーたちもいる。

 俺が運転している隣で、みんな楽しそうに歓迎会のことで話に花を咲かせていた。

「なあ、楽しそうなのは良いんだが、どうして俺まで駆り出されてるんだ?」

「うちの部には進太郎みたいに力持ちな子が果南しかいないのよ。だから果南がいなくなっちゃうと、会場の準備の方が滞っちゃうの。だから、ごめんね」

「なるほど、それは納得だ。でも(うち)でパーティするのはベルトさん的には良いのか?」

「問題無い、むしろ大歓迎だよ。フレア達も君の友人が遊びに来るのを楽しみにしているんだ」

 ホルスターから発進したマックスフレアが、頷く代わりのクラクションを鳴らす。

「『進太郎の友達が初めて家に来るんだ。楽しみ以外の何物でもない』そうだよ」

「フレアってば、まるで進太郎のパパみたいね」

 鞠莉とベルトさん、さらにシフトカー達も一緒になって賑わう車内。

 以前の俺ならただ「うるさい」としか思えなかっただろう。

 それが、今は楽しいと感じてしまってしようがない。

 

「……なんか良いな。こういうの」

 彼らを横目に自然と口が動いていた。

「進太郎、今何か言った?」

「別に。大したことじゃないさ」

「えー、気になるー。あ、もしかしてマリーみたいな美少女とデート出来て嬉しいとか!?」

「自分で美少女って言うのか……」

 そうツッコんではみたものの、本人はきっと冗談のつもりで言っている。

 だがその冗談は冗談の域に留まってはいない。

 実際、鞠莉の容姿は他の女子高生のそれを遥かに上回っている。

 特にスタイルは、Aqoursのメンバーの中でも秀でている。

 ……オッサン臭い発言とセクハラがなければ、完璧なスーパー美少女だ。

「……まあ、それがお前の良いところかもな」

「あまり独り言が多いと髪の毛が無くなっちゃうわよ〜」

「お前は小学生か」

 そんな冗談を交わしながら、叔父さんの家を目指した俺達。

 

 だがその平穏は、たった数秒で惨劇と化した。

 

 この辺り一帯を重加速が覆い、トライドロン以外の車の動きがゆっくりになる。

「近いぞ、進太郎!」

「ああ、分かってる! 変身!!」

「ドライブ! タイプスピード!!」

 ドライブに変身して辺りを見回すと、札束の覗くカバンを持った不審な三人組の男が銀行から逃げ出して行った。

「あの人達、どんよりの中でも動けてる?」

「恐らく奴らがロイミュードだ」

 ロイミュードと思しき男を追いかける為、アクセルペダルを踏み込もうとすると、今度は銀行のドアが銃で撃ち砕かれた。

 そして、その中から三体のロイミュードが姿を現した。

「まだロイミュードがいたのか!?」

「さっきの三人はハンター達に追わせよう。君はあの三体を倒すんだ!」

「了解だ、ベルトさん! フレア、スパイク、シャドー。お前達は俺と来てくれ。他のみんなは鞠莉を頼む!」

 ハンターとファイヤーブレイバー、そしてバーニングソーラーがトライドロンから飛び出して男達を追いかけ、フレア達はホルスターに収まった。

 残りのシフトカー達は、「任せろ」と言わんばかりにクラクションを鳴らした。

 俺が降りると鞠莉を乗せたトライドロンはこの場から離れていく。

 トライドロンが隠れたことを確認した俺はロイミュード達に戦いを挑んだ。

 

「そこまでだ、ロイミュード!」

 俺の声に反応し、奴らは一斉にこちらに視線を向けた。

「貴様は……仮面ライダーか!?」

「俺達の邪魔をするなら容赦しねえ!」

 ロイミュード達は怒号を上げ、一斉に構えて襲いかかって来た。

 だが、以前戦ったオーガ・ロイミュードと比べ、攻撃の威力は低く、反撃も容易く通った。

 多対一と言えど、苦戦する相手ではない。

「ち、チクショウ……! なんて強さだ!」

「怯むな! 相手は一人だ。三人で連携を取ればいける!」

 ロイミュード達は闇雲に戦っていても勝てないと判断し、俺を囲むようにして陣形を組んできた。

 数で優っている奴らが連携をとれば、俺達が不利になるのは明白。

 そうはさせまいと、俺は正面にいたロイミュード051に攻撃を仕掛けた。

 

 それが罠だと気付かずに。

 

 051は真正面から迎え撃ち、俺の拳を掴んだ。

「掛かったな! バカが!」

 罵る言葉と共に大声で笑う051。

 これが罠だと悟った時には既に手遅れで、俺はロイミュード089が吐き出した糸に絡まれてしまった。

「しまった……!」

「こーんなに簡単にひっかるなんてなー。仮面ライダーも案外大した事ねーな」

 糸には粘着性があり、俺の体を腕ごと縛って自由を奪う。

 そして思うように動けなくなった俺を嘲笑し、奴らは攻撃を仕掛けてきた。

 

 この間のオーガ程ではないにせよ、ロイミュードの攻撃をまともに受けるのはかなりキツイ。

 このまま受け続ければ、そう長く変身した状態は保てない。

「ベルトさん……何か手は無いか……?」

「援軍を呼ぼう。カモン、マッシブモンスター!」

 ベルトさんが大声で叫ぶと、オーガ戦の時と同じように一台のシフトカーがやって来た。

 そのシフトカーは体当たりでロイミュード達を弾き、更には俺の体に巻き付いた糸を噛み千切った。

「ベルトさん、コイツは?」

「彼はマッシブモンスター。非常に強力なパワーを持つシフトカーで、わたし達の仲間の中でも随一のならず者さ」

「よろしく頼むぞ、モンスター!」

 クラクションでの返事を聞き、モンスターを変形させてシフトブレスに装填する。

 それからいつもの手順でレバーとなったモンスターを倒した。

「タイヤコウカン! マッシブモンスター!!」

 トライドロンからモンスターのタイヤには専用の装備が付属していて、タイヤがたすき掛けされると同時に両手に装備された。

「モンスターのタイヤには顔がついてるのか。よし、いくぞ!」

 俺はモンスターの武器で089を殴りつけた。

 その威力は凄まじく、たった一撃で089を軽々と吹き飛ばした。

「おお……! コイツはスゲー! よし、さっさと倒してあの男を追い掛けるぞ!」

「こんにゃろう! 俺達のことはもう眼中にねーのかよ!」

 わめくロイミュード104は翼を広げ、空に飛んで助走をつけて突撃して来た。

 しかし、104はタイヤから伸びた舌に叩き落とされ、攻撃は失敗に終わった。

 二体がダウンしたので立っているのは一体だけ。

 まずはそいつに狙いを定め、俺は必殺技を発動させた。

「ヒッサーツ! フルスロットル! モンスター!!」

 両手の武器に緑色のエネルギーが蓄積されていく。

 俺はその攻撃を確実に当てるために、再びタイヤの舌を伸ばして089を捕らえた。

「や、やめろ──ッ!!」

 体に巻きついた舌は、089を無理やり技の発動圏内に引きずり込んだ。

「嫌だァァァァッ!!」

 断末魔とともに089は爆散し、そのコアも砕け散った。

「コノヤロウ! よくもやりやがったな!!」

 089が倒されたことで、104が怒りをあらわにしながら拳を振るう。

 だがその攻撃は俺には届かず、俺は再び奴を舌で引っぱたいた。

 最後はもう一度武器にエネルギーを溜めて104を噛み砕いた。

「ば、バカな……! こんなことが……」

 一気に二人もの仲間を失い、形成逆転されたことに酷く狼狽した様子を見せる051。

 だがこの町の平和を乱し、人々を恐怖に陥れたロイミュードにくれてやる慈悲は無い。

「さあ、後はお前だけだ! 覚悟しろ、051!!」

「冗談じゃない! こんな所でくたばってたまるか!」

 051は背負っていた袋を俺に顔に投げつけて視界を遮る。

 袋の中からは、奴らが銀行から奪った大量のお金が詰め込まれていた。

「ちょ、待て! あーん、でもこれを放置するのも不味いし……」

 小さくなっていく051の背中と袋からこぼれそうになっているお金の板挟みになり、おろおろしているとタクシー型のシフトカー「ディメンションキャブ」がやって来た。

「このお金は彼に任せよう! 君は奴を追うんだ!」

「分かった。ちゃんと銀行に返しておいてくれ。頼んだぞ、キャブ」

 俺はシフトカーをシフトスピードに戻してレバーを倒し、加速してロイミュードを追跡した。

 

 シフトアップしたドライブは重加速下にあるにもかかわらず、途轍もない速度であっという間にロイミュードに追いついた。

 051を捕らえるが、奴は倒されまいと抵抗をしてきた。

「待て! ロイミュード!!」

「うるせー! 待てと言われて待つ奴があるか! それに……早くしないと死神の野郎が……」

「死神……?」

 捕らえた051はさっきとは比べ物にならないくらいの焦りを見せていた。

 必死の抵抗を受けた俺は遂に腕を振り払われてしまい、奴の逃走を許してしまった。

 051は重加速の影響で逃げ遅れてしまっていた車を強奪し、遠く離れていく。

「奴をこのまま野放しにするわけにはいかない! 行くぞ、進太郎!」

 ベルトさんがトライドロンを呼び、それでロイミュードを追うように促してくる。

 助手席に乗っていたはずの鞠莉とフレア達の姿はなかった。恐らくフレア達と一緒にどこかに避難しているのだろう。

 俺はトライドロンに乗り込み、ロイミュードが運転する車を追いかけた。

 

 そして、俺がロイミュードに追いつくと同時に奴が奪った車は爆発を起こし、炎上したのだった。

「何だ!? 何が起こったんだ!?」

「まさか何者かがあのロイミュードを倒したのか……!?」

 予想だにしなかった展開に、俺もベルトさんも驚きを隠せなかった。

 爆発の際に聞こえた断末魔は間違いなく051のもの。

 つまり、ドライブ以外の誰かが奴を倒したことになる。

 顔は仮面で隠れてしまっているため見れないが、俺は口を開けたまま炎上する車を眺めていた。

 すると、俺とベルトさんは車の向こう側に誰かが立っているのをこの目で捉えた。

 紫、黒、銀色を主なカラーとする左右非対称のアーマー。

 全体的にバイクを彷彿とさせるデザインをしているが、その風貌はどこか仮面ライダーに似ているような気がする。

 

 アイツが051を倒したのか……? 

 そう言えば、051はこんなことを言っていた。「早くしないと死神の野郎が……」と。

「死神……」

 奴の言っていた死神とは、目の前にいるアイツのことなのか……? 

 俺が「死神」の言葉を呟くと、アイツはそれに反応したのかこちらに視線を向けた。

「お前が……死神か?」

「……相手の名前を聞く時は、まず自分から名乗るのが礼儀というものだろう」

 その風貌のイメージ通りの低い声で、俺の問いかけに答えるツギハギの戦士。

「だが……そうだな。俺が死神だ。そして、ロイミュードの番人。魔進チェイサー」

「魔進チェイサー……。ロイミュードの番人ってなんだ」

「俺の役目は、ロイミュードとして相応しくない行いをはたらく者を処刑し、リセットすることだ。故に俺は死神と呼ばれている。だが、俺から言わせてみれば、コアまで破壊してしまうお前の方がよほど死神と呼ぶに相応しい」

「俺の方が死神だと……? バカを言うな! 俺達人間からすれば、お前達ロイミュードの方が死神……いや、悪魔だ!」

 俺とチェイサーは睨み合い、互いに一歩も引かなかった。しかし、少しするとチェイサーは体の向きを変え、立ち去ろうとした。

 だが、二、三歩歩いた所で立ち止まって少しだけこちらに顔を傾けた。

「次に会う時は戦うことになるだろう。その時は覚悟しておくことだ。俺は他の奴ら程甘くは無い」

 チェイサーは再び歩み始め、車の反対側に止められていたと思われるバイクで去って行った。

 

 その後、ハンター達が追跡した銀行強盗達は気絶した状態で発見された。

 気を失っていた原因は分からなかったが、俺は三人を拘束して警察に引き渡した。

 

 ─R─

 

「えっ!? じゃあロイミュードに逃げられちゃったの!?」

「ああ……多分な」

 鞠莉達と合流し、再び帰路についた俺達。

 車内での会話はやはり戦いの話になってしまった。

「魔進チェイサーと名乗ったあの戦士……。恐らくドライブに匹敵する、あるいは同等以上の強さを持っているはずだ。彼と戦うためにも、早急に新装備を完成させてもらい、戦力の増強を図ろう」

「新装備か……」

 車内は重ためな空気に支配される。

 まあ、こんな物騒な話をしていれば当然だろう。

 だがこの空気は鞠莉によってすぐに打ち破られた。

「二人ともそんな難しい顔しない〜。準備も含めてみんなパーティを楽しみにしてるんだから」

 屈託のないその笑顔は昼を照らす太陽のようだ。

「……そうだな」

 俺は彼女の言葉に頷き、トライドロンを走らせた。

 

 ─R─

 

 051を処刑した魔進チェイサーはミューズの待つ場所までバイクを走らせた。

「大丈夫だった、ゼロ?」

「ああ。051はミスト達の所に行くだろう」

 チェイサーは武装を解いてゼロの姿に戻りながら、「それから……」と続けた。

「仮面ライダーと会ってきた。正確には丁度居合わせたか」

「もしかして戦ったの……?」

 ミューズはどこか後ろめたそうな表情でゼロに尋ねる。

 対してゼロは全く表情を崩さずに答えた。

「いや、今回は戦ってない。だがいずれ戦う時は来る。そう遠くないうちに」

「そう……」

 ミューズは、ゼロからヘルメットを受け取る。

「やっぱり戦うのね……」とミューズは呟くが、バイクのエンジン音に掻き消され、ゼロに届くことはなかった。

 

 

 




進太郎)死神と出会ってから一週間が経ち、正義叔父さんの家で俺の歓迎会が開かれた。……本当になんで叔父さんの家なんだ……?
鞠莉)Aqoursのみんなが入れるくらいの大きさの家ってなかなか無いでしょ?それにオジサマ達にもちゃんと挨拶しなきゃ。
進太郎)挨拶って……嫁入りじゃあるまいし……。まあ、ひとまず予告だな。次回、「4/そのパーティーの主役はだれか」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4/そのパーティの主役はだれか

鞠莉)前回のラブライダーズ!
進太郎がスクールアイドル部のマネージャーになってから一週間。わたし達は、進太郎の歓迎会を計画して着々と準備を進めていた。
進太郎)鞠莉、そしてベルトさんと買い出しに出掛けていた俺達だったが、そこへ銀行強盗を働くロイミュードと遭遇してしまう。ロイミュード達を撃破していく俺とベルトさんだったが、最後の一人を追う俺達の前に「死神」こと「魔進チェイサー」が現れた。
ベルト)チェイサーは、次に会う時は戦いの中である、とをわたし達に言い残し、その場を去る。そしてわたし達の知らない場所で、なにやら不穏なことが起きているのだった。


 魔進チェイサーに処刑され、肉体を失ったロイミュード051がやっとの思いで辿り着いたのは、チェイサーと同格の二人──ファイトとミストが拠点と定めたマンションだった。

「無様ですね、051。貴方のその姿を見るのは何度目でしょうか?」

 コアだけとなって自身の前に現れた051を鼻で笑うミスト。

 その態度に051は怒りをあらわにして叫んだ。

「ふざけんな! テメーが死神にやらせたんだろうが!」

「ふざけているのはどちらですか? わたしは何度も忠告したはずですよ。あまり派手に暴れるなと」

 ミストが鋭く冷たい眼で睨み付けると、051はその迫力に気圧されて萎縮してしまう。

「まあまあ、良いじゃないか。俺も051の気持ちは凄く分かる。俺だって暴れたいんだよ」

「やめてください、ファイト。貴方が暴れると後始末が大変なんですよ? それに、これは我々ロイミュードの存続がかかっている問題なんです。派手に動き回れば仮面ライダーが現れる。既に三人のロイミュードが倒されているんです。悪戯にこちらの数を減らすわけにはいきません!」

 ミストは051に同調するファイトを叱る。

 ファイトは「そう怒るなよ」と彼女をなだめようとするが、その言い分は正しい。

 ロイミュードの総数は百八体のみ。

 数少ない仲間を失うことは、彼らの計画の最終目標から遠ざかることを意味するのだ。

「そう言えば051。お前と一緒にいた089と104はどうした?」

 ミストの説教を聞き、ファイトは051には二人のロイミュードの仲間がいたことを思い出した。

 089と104も、051同様に何度もチェイサーに粛清されている。

 いつも一緒になって自分達の元へ来ていたことを覚えていたのだ。

「それが……アイツらは仮面ライダーに倒された」

「何ですって!?」

 クールダウンしかけていたミストは、顔を真っ赤にして051を怒鳴りつけた。

「貴方達は全く学習しないだけでなく、挙げ句の果ては仮面ライダーと接触して倒されたと言うのですか!?」

 ビクビクと震える051だったが、二人の間にファイトが割って入った。

「まあまあ、落ち着け。 それで051、もう一度仮面ライダーと戦ったとして勝つことは出来るか?」

 051は答えない。ファイトの問いかけに「イエス」と答えることが出来ないからだ。

 彼のプライドが「出来ない」と答えることを許さないのだ。

「やはりそうか……」

自らと同じロイミュードである051を追い詰めた人間に対するワクワク感、そして勝てないと認めてしまう仲間の情けなさという複雑な想いに、ファイトは溜め息を吐く。

しかし、そんな彼の矛盾は一つの解決策をもって解消された。

「よし! 俺がお前を鍛えてやる! みっちりな」

「なっ!? 正気ですか!? 貴方がわざわざこんなバカ相手に特訓だなんて……」

「ミスト。そこまでにしておけ」

 051をバカと罵るミストだったが、ファイトは彼女をたった一言で黙らせてみせた。

 静かに、しかし確かな怒りが彼の瞳には宿っていた。

 だが、それも数秒足らずで消え去った。

「あまり悪く言ってやるな。051だって俺達の仲間なんだから。仲間の力になるのは当然のことだろう? それに俺たちの目的の為には、強い仲間が一人でも多く必要なんだ。もう五人も大事な仲間がいなくなってる。なに、無茶はしないさ」

 そう言ってファイトは051にコブラの形をしたバイラルコアを与え、肉体を取り戻した彼とともに去って行った。

 そして二人と入れ替わるように、ゼロとミューズがミストのもとに帰還した。

「今、ファイトと051が二人で出て行ったようだが、何かあったのか?」

「……ファイトが051を鍛えるそうです。仮面ライダーを打倒するために」

「ふむ、そういうことか」

 ゼロがファイトの行き先を確認すると、ミストは神妙な面持ちで部屋を出て行こうとする。

 ゼロとミューズは、ミストが何かを持っているのを察知するも、ほとんど彼女の手に包まれているためにその全容を見ることは出来ない。

「わたしも少し出てきます。二人はここでファイト達の帰りを待っていてください」

「分かった」

 マンションの一室に二人を残し、ミストは玄関の扉を開いた。

 

 その手には、赤いボディのバイラルコアが握られていた。

 

 ─R─

 

 スクールアイドル部に入部してから二週間が経った。

 そして、明日はいよいよ俺の歓迎会が開かれる。

 開催場所は、俺が居候させてもらっている正義叔父さんの家。

 会場に選ばれた大部屋は既に飾り付けされていて、何時でも始められる状態になっている。

「明日には進太郎の歓迎会か。いいねー、青春だねー」

「すいません、叔父さん。この家を会場に選んでしまって……」

「そんなこと言うなって、何度も言ってるだろ。あの事件以来、友達が一人もいなかった進太郎に新しい友達が九人も出来て、しかも遊びに来てくれるんだ。こんなに嬉しいことは無いさ」

 自分のことのように喜んでくれる正義叔父さん。

 こんなに嬉しそうに笑っている叔父さんの顔は、一緒に住み始めてから初めて見た。

「で、その後はどうだい?」

 そんなことを思っていると、笑っていた叔父さんは突然真剣な顔になり、ひそひそ声で尋ねてきた。

「まあ、ボチボチって感じですよ。マネージャーの仕事って意外と大変で……」

 俺は、マネージャーのことを聞かれたのだと思い、この間の黒澤との話をしようとすると、叔父さんは「違う違う」と首を横に振った。

「小原のお嬢ちゃんとはどれぐらい進んだのか、ってことだよ」

 叔父さんが聞いてきたことは、つまりは恋愛関係(そういうこと)だった。

「なっ……!? 何言ってるんですか!? 別に鞠莉とはそういうんじゃないです! 他のみんなと同じ『友達』ですよ!」

「えー……あんなに良い子、ほっといたら他の男に取られちまうぞ?」

「えー……じゃないです。だいたい、アイツは大企業の令嬢ですよ? そこいらの一般人、それも俺みたいに一度ドロップアウトしてる人間となんて……って何言わすんです!?」

 反論する俺を見て、叔父さんはニヤニヤと笑っていた。

 確かに鞠莉は容姿、性格ともに魅力的な女性だ。

 だが俺達の関係はアイドルとマネージャー、そして良き友人であり、そこに恋愛感情はない。

「だ、第一、俺と鞠莉はマネージャーとアイドルです。そんな二人が恋愛なんて……」

 そう、そんな感情は抱いてはいけない。

 仮にそんな関係になったとして、それが世間に知られでもすれば鞠莉は糾弾されてしまうだろう。

 そして、みんなとの関係も終わってしまう。

 それだけはあってはならないのだ。

「そうか、そういやそうだったな。……お前はホント偉いよ。小原のお嬢ちゃん達に色目を使わず、ちゃーんと守ろうとしてる。大丈夫さ。あの子はお前を見放したりしねーよ」

 俯く俺の頭に手を乗せ、バツの悪そうな笑みを浮かべていた叔父さんは、またにかっと笑った。

「うっし! 明日は俺もとびっきりのサプライズを用意してやっからな!」

「それを言ったらサプライズじゃないんじゃ……」

「こまけーことは良いんだよ。んじゃ、おやすみ~」

 正義叔父さんはクルリと体を翻し、自分の部屋に戻っていった。

「おやすみなさい」と言葉を返し、俺も自室に戻って眠りについた。

 

 ─R─

 

 そしてその日はやって来た。

 煌びやかな飾り付けが施された部屋は、誰が見てもパーティ会場だと認めるだろう。

 その中で参加者達はクラッカーを持ち、それを鳴らす合図を待っていた。

「それでは! スクールアイドル部主催、泊進太郎君の歓迎会を始めます! ようこそ、スクールアイドル部へ!」

 高海の挨拶に続いて一斉に鳴るクラッカーと拍手。

 シフトカー達もこっそりと小さめのクラクションで祝ってくれた。

「まずは主役の進太郎君から一言!」

「お、俺から!? えーっと……みんな、ありがとう。俺のためにこんな会を開いてくれて。まだまだ分からないことは多いけど、みんなと一緒に頑張ろうと思う」

 再び拍手喝采が起きる。

 なんだか照れ臭いが、同時に嬉しい気持ちが湧いてきた。

「みなさん、グラスは持ちましたか!?」

 高海の号令にみんな元気よく返事をする。

 やはり、シフトカー達も隠れながらクラクションを鳴らしていた。

「それでは、かんぱーい!」

「「かんぱーい!!」」

 

 自分が住んでいる家で友達を呼んで遊ぶなんて、何年ぶりだろうか。

 みんな楽しそうに笑っていて、その笑顔を見ていると俺もつられて笑ってしまう。

「楽しいわね、進太郎」

「ああ。こんなに楽しいのは久しぶりだよ。……本当にありがとな、こんな俺を誘ってくれて」

「お礼を言われることなんてしてないわ。わたしはオジサマとの約束を守っただけ。……それに進太郎のことを放っておけなかったから」

「理事長としてってことか?」

「それもあるけど……やっぱり、一番は同じ学校に通う仲間としてよ」

 そう言って鞠莉は笑った。

 鞠莉を見ていると、俺はきっと彼女には勝てないと思わされる。

 そして、絶対に守り抜きたいと。

 

「進太郎ー! ちょっと手伝ってくれー!」

 台所の方から叔父さんが俺を呼ぶ。

 多分、料理を作り過ぎて一人では運び切れないんだ。

「今行きます」と返事をすると、「済まない」と言葉が返ってきた。

「待って、進太郎。わたしが行くわ」

「え? でも鞠莉はお客さんだし……」

「ノンノン。今日は貴方が主役なんだから。それじゃあ行ってくるわね」

 鞠莉は立ち上がると、台所の方へと消えていった。

 すると今度は高海と渡辺、桜内が俺の隣に来た。

 よく見るとニヤニヤと笑みを浮かべている。

「ねえねえ、進太郎?」

「なんだ?」

「進太郎君と鞠莉ちゃんってすっごく仲良いよね?」

「もしかして二人はそういう関係……?」

「ちょっと二人とも。あまりそういうことを詮索するのは良くないわよ?」

 どうやら俺達が恋仲であるのかと探りを入れに来たらしい。

 桜内は、そういった繊細なことを勘ぐるなと二人を注意した。

「違うよ。俺達はただの友達だ」

「でも、最初に部室に来た時と二回目に来た時とで、二人とも結構距離が縮まってたよね」

「梨子ちゃんは気にならないの!? どうしていきなり二人が近づいたのか!?」

「そ、それは……」

 俺の方をチラリと見て「やっぱりダメだよ!」と反論するが、どこか歯切れが悪い。

「ただ少し喧嘩しただけさ。俺が隠してきた本音をぶつけて、アイツがそれを受け止めてくれた。ただそれだけだ」

 ベルトさん達のこともあるし、あまり包み隠さず話してしまうと空気を悪くしてしまうので、大まかに教えた。

「本音?」

「……友達が欲しかったんだ。こんな風に笑い合える友達がさ。だからみんなには本当に感謝してる。改めてありがとうな」

 俺がお礼を言うと三人は微笑んだ。

 それから、いつの間にか俺達の方を見ていた五人も同じように笑っていた。

「追加の料理を持ってきたぞー!」

「パーティはまだまだ始まったばかり! もっともっと盛り上げていくわよー!」

 家の中が明るい笑顔で満たされていく。

 あの日以来、初めて永遠に続いて欲しい時間が、思い出が出来た瞬間だった。

 

 




正義)いやー、歓迎会楽しかったな!まさか、進太郎があんなに友達を連れてくるなんて思わなかったぞ。
進太郎)一番びっくりしてるのは俺ですよ。また、あんな風に笑えるなんて思ってもみなかったですから。
正義)まあ、これから頑張ってけよ。マネージャーも、ドライブも。
進太郎)はい。それじゃあ予告いきましょう。
正義)アイドル部のマネージャーとして、忙しくも充実した日々を送り始めていた進太郎のもとに、Aqours宛のイベントの招待状が届いた。
進太郎)俺が加わってから初のイベントに、Aqoursの面々は気合十分でイベントに臨むが、そこに悪意の影が忍び寄っていた……。次回「5/スクールアイドル達を狙うのはだれか」


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。