Emerald First Love (本編完結) (Shige_puni)
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プロローグ

出会いは1年生の時

 

「松浦さん、だっけ? 隣同士よろしくな!」

 

「あ、うん。よろしく。八神君、だよね」

 

……

 

「へぇ~果南さん家ってダイビング屋さんなんだ」

 

「うん!良かったら来てね」

 

「おうよ。泳ぐのは好きだけど、ダイビングはあんまり経験ないな~」

 

「ふふっ、じゃあビシバシ教えてあげるね!」

 

「お手柔らかに~」

 

 

 最初は、なんかめっちゃ美人でかわいい女子が隣になってラッキー!って感じだったかな

 思わず話しかけてしまったけど、俺にしては攻めたな……

 

 

「隼人君、部活何にするか決めた?」

 

「うん、アメフト部に入るわ」

 

「アメフト!?カッコいいね!」

 

「ははっ、ありがとう。果南さんは?」

 

「実はスクールアイドル始めるんだ! ダイヤと鞠莉と一緒に」

 

「アイドルか~。あんまりわかんないけど果南さんがやるなら見てみようかな」

 

「うん♪ よろしくね。お互い頑張ろ!」

 

「おう!そういやグループ名は?」

 

「Aqours だよ!」

 

 

……

 

 

「試合凄かったね!隼人君も初出場おめでとう!」

 

「ありがとう! いやでもホント先輩たちすげぇわ。俺もあんな風になりたいな~」

 

「そのためにもっと練習だね!」

 

「ガンバリマス……」

 

 

 最初は、なんか隣の男子が話しかけてきた、くらいにしか思わなかったな

 でも話してる内に段々打ち解けて、気付けばクラスで一番仲の良い男子になってた

 

 

「ライブ来てくれてありがとう♪ どうだったかな?」

 

「ああいうの初めて見たけどめっちゃ楽しかった! 曲とか衣装も自作なの?」

 

「うん。3人で分担してね」

 

「ほぇ~。練習もキツそうなのに凄いな」

 

「えっ、見てたの?」

 

「屋上で踊ってるのがグラウンドから見えた」

 

「なんかちょっと恥ずかしい……」

 

 

 グラウンド上の彼は、燃えていた

 ステージ上の彼女は、輝いていた

 

 

「八神さん、江井さん。最近よく応援してくださってるみたいですわね。ありがとうございます♪」

 

「これからも、私たちのシャイニーなパフォーマンスを楽しんでね!」

 

「おう。ひっそりと応援してるぜ!」

 

 クラス内では、この5人でいることが増えた

 

 しかし……

 

「……この前のライブ、どうしたんだ?」

 

「……急に、頭が真っ白になっちゃって……」

 

「そっか。まぁ、俺も似たようなことあるし、何となくわかる気はする」

 

「でもまぁ次頑張ろうぜ!」

 

「……もう、スクールアイドルは辞める」

 

「えっ!?」

 

 

……

 

 

「果南、帰宅部も何だし、良ければウチのマネージャーとかどうかな?」

 

「マネージャーかぁ……気持ちだけもらっておくね。家の手伝いもあるし」

 

「あ、あぁ。わかった」

 

「ごめんね」

 

「いや……大丈夫」

 

 

 

━━━━

 

 

 

2年生になり

 

「休学?」

 

「うん。お祖父ちゃんがケガしちゃって、お店の方も大変なんだ」

 

「それは災難だな。でも仕方ないとは言え、寂しくなるな」

 

「ごめんね?」

 

「まぁお店に行けば会える訳だし、ちょいちょいお邪魔しようかな」

 

「うん、お待ちしてるね」

 

 

……

 

 

「あれ?今日も来てくれたの?」

 

「おう。何か手伝えることある?重たい物運ぶくらいならできるけど」

 

「じゃあお言葉に甘えて、そこのボンベをお願い」

 

「任せろ!」

 

(やっぱり優しいんだね……)

 

 

 いつからかな。こんな気持ちを抱くようになったのは

 でもこの気持ちが何なのか、まだよくわからなかった

 

 

「ふふっ、すっかり常連さんだね。部活の方はどう?」

 

「あ~……一応今年からレギュラーになった」

 

「凄いじゃん!おめでとう♪」

 

「ははっ、ありがとう。でも出番が増えた分ミスも多くなって、先輩に怒られまくり……」

 

「あら、そうだったんだ」

 

「でもさ、前に果南が "海も空もすごく広くて、自分はなんて小さいんだろうって思う"って言ってたのを思い出して」

 

「そんなことも言ったかな」アハハ

 

「だからこうして海と空を見てると、また頑張ろうって思えるんだわ……ありがとな」

 

「いえいえ♪ っていうか、私何もしてないよ?」

 

「いやいや、充分に力をもらってる。今日も元気出たわ」

 

「それなら良かった♪」

 

「おう。じゃあ今日は帰るわ。しばらく忙しいから、次はいつかわからんけど、またな!」

 

「うん、またね!」

 

 

 

━━━━

 

 

 

そして3年生

 

「復学したんだな。御大はもう大丈夫なの?」

 

「うん、おかげさまで」

 

 

……

 

 

「優勝おめでとう!しかも初優勝、すごいね!!」

 

「ありがとう!果南に色々励ましてもらったおかげだな」

 

「どういたしまして♪」

 

 

 果南が復学、マリーはなんと理事長に。ダイヤさんは生徒会長、似合う。

 俺と江井ちゃんはまぁぼちぼち。静岡大会初優勝したからちょっと有名にはなったかな

 

 

 クラスではかつての5人が揃ってはいるけど、雰囲気はなんとなくぎこちない

 1人1人と話すのは問題ないんだけど

 

 そしてあの出来事が起きる

 

 

「強情なのも大概に……!」

 

「うるさい!」

 

「2人ともお止めなさい!みんな見てますわよ!」

 

 

 

「あれヤバいだろ。何とかしたいが……」

 

「しかし女子の争いに俺たちでは無力……」

 

 流石に傍観はできず、立とうとしたその時

 

「いい加減に、しろぉぉーーーー!!」

 

「「!?」」

 

 

 

━━━━

 

 

 

この日以来3人は仲直りし、さらに絆を深めたみたいだ

なんとなく気まずかったのも解消したし、勇敢なみかん嬢には感謝だな

 

 

うぅ、恥ずかしい処を見せちゃったね……

でも心機一転、頑張るよ!

 

 

 

  - 此処から始まる、彼らの日常の物語 -



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1話 始まりの日常

1学期 その1

 

~始業前、教室にて~

 

 日課となっている朝練を終えた果南が教室に入ると、例の彼が既にいた

 

果南「隼人君おはよう!」

 

隼人「お~おはよう!今日も朝練?」

 

果南「そうだよ。やっぱり朝から運動するのは気持ち良いよね♪」

 

隼人「ハハッ、全くもって同感だ!そうだ、今日お店行きたいんだけど放課後は練習?」

 

果南「今日は練習休みだからお店にいるよ。でもどうしたの?今までは普通に来てたのに」

 

隼人「あぁその、今までは果南がお店にいるってのはほぼ確実だったからさ。折角行くなら果南がいないとな!って感じだな」

 

果南「ふふっ。そういうことなら、お待ちしてるね♪ あ、今日は千歌たちが来るんだけどそれでも良いかな?」

 

隼人「おう。そしたら邪魔にならんように1人で気ままに泳ぐわ。その後一緒にまったりお茶でもしようぜ~」

 

果南「うん、わかった。よろしくね♪」

 

隼人「こちらこそ~」

 

 と言った処で、2人にとって聞き慣れた声に振り向く

 

ダイヤ「おはようございます」

鞠莉「Good morning!」

 

果南・隼人「おはよ~」

 

果南「ちょっと遅かったね」

 

ダイヤ「ええ、書類を少しでも整理しようと思いまして」

 

鞠莉「臨時の補正予算とかもあったからね♪」

 

 事務処理が増えたハズなのに、妙に嬉しそうな2人である

 

隼人「それは大変だな~……って、ひょっとして俺たちのあれか?」

 

鞠莉「えぇ、そうよ♪」

 

隼人「うおぉやっぱり。今回の遠征は学校で一部補助してもらったな。理事長とオーナーには頭上がらねぇよ。ホントありがとう!」

 

鞠莉「Don't worry♪ パパはフットボールのファンだから、ド~ンとお任せデース♪」

 

隼人「Oh~マリー. My goddess……!」

 

鞠莉「Yeah!」

 

ダイヤ「改めて、初優勝おめでとうございます!」

 

果南「おめでとう♪ 試合カッコ良かったよ♪」

 

隼人「おう、ありがとう!忙しい中見に来てくれたのもマジ嬉しいわ」

 

 

 静岡の高校アメフト部は、ここ近年はとある強豪校が連覇していた

 浦の星は元は女子校だったためアメフト部の歴史は浅いが、この春に悲願の初優勝を達成。これに歓喜したOBなどからの寄付が集まり、学校側が関東大会への交通費などを補助した形となった

 因みにフットボールというとイギリスなどではサッカー(アソシエーションフットボール)を指すが、アメリカでは当然アメリカンフットボールを指す

 

 

隼人「しかし関東大会じゃ初戦敗退になっちまって面目ない……」

 

ダイヤ「では秋大会でリベンジしてくださいね♪」

 

鞠莉「さっきも言ったけど、予算のことはDon't worryだから、存分にFightしてね♪」

 

果南「ふふっ、頑張ってね」

 

隼人「あぁ、結果で恩返しするぜ!ってな」

 

 そう言ってやや照れながら笑う隼人

 そんな彼の横顔を、目を細めて見つめる果南

 

ダイヤ・鞠莉(あら……?)

 

 と、予鈴のチャイムが鳴り響く

 

果南「あ、そろそろ先生来るし、また後でね!」

 

ダイヤ「えぇ、ではまた後程」

 

鞠莉「Ciao~☆」

 

隼人「おう!」

 

 

 

━━━━

 

 

 

~放課後・松浦家ダイビングショップにて~

 

 今日は予定通り、海の音が聞きたいという梨子のため、千歌・曜も来ている

 

曜「ぷはぁ。いや~やっぱりここの海は何度潜っても最高だね!」

 

千歌「うんうん♪ホントそうだよね~。梨子ちゃん、海の音はどうだった?」

 

梨子「今日は何て言うか、温かく包み込んでくれるような音が聞こえたな♪」

 

果南「ふふっ、流石の感性だね。 あ!」

 

 ウェットスーツに着替えた隼人を見付け、手を振る果南。隼人もこちらに気付き、笑顔で手を上げる

 千歌と曜は軽く頭をさげ、梨子もそれに続く

 

梨子「果南ちゃん、今の人は?」

 

果南「クラスメイトの八神隼人君だよ。たまにお店に来てくれるんだ」

 

曜「先輩はアメフト部なんだよ。ちょいちょい果南ちゃんとも一緒に筋トレしてるんだ♪」

 

梨子「き、筋トレ!?」

 

千歌「曜ちゃんは筋トレが趣味だもんね~」

 

梨子「そ、そうなんだね」

 

果南「後でゆっくりお話ししよっか♪それまでもうひと泳ぎしよう!」

 

ようちかりこ「うん!」

 

 

━━━━

 

 

隼人「ちわ~っす」

 

果南祖父「おう隼人君いらっしゃい!ちょっと久々じゃないか」

 

隼人「お久しぶりです。春大会やらなんやらあったので。ケガはもう大丈夫なんですか?」

 

祖父「あぁ、もう大丈夫だ。心配かけたね。それと初優勝おめでとう!誉れ高いな!」

 

隼人「ありがとうございます!今度も優勝して関東……いや全国行きたいですね」

 

祖父「うむ、その意気だ。 果南はもう海におるから早速行くかい?」

 

隼人「はい、そうさせてもらいます」

 

 

 因みにこの御大、元々漁師だったこともあって年齢の割に鍛えられた身体をしている。ケガはしてしまったが、医者も驚きの回復力だったそうだ

 何かと隼人を気にかけてくれることもあり、密かに尊敬している

 

 そしてウェットスーツに着替えて海へ。果南は既にいるとのことだが……

 

 

隼人(お~いたいた。一緒にいるのは、筋トレ仲間とみかん嬢と、新人さんかな)

 

隼人(しかし果南のダイビングスーツ姿ってこう何というか、すばらだよな!)

 

 軽く挨拶を交わし、そんな煩悩を振り払うように彼は海に飛び込んだ

 

 

 

━━━━

 

 

 

~ダイビングショップ・休憩コーナー~

 

 

千歌「う~疲れた~!けど楽しかった!」

 

梨子「ホントに綺麗だったな~。内浦がもっと好きになっちゃった♪」

 

曜「うんうん♪それが何より嬉しいね!」

 

果南「ふふっ、そうだね♪来てもらった甲斐があったね」

 

 ひとしきり海を堪能した4人が休憩コーナーへ

 するとその一角に

 

隼人「」zzz

 

 少々寛ぎ過ぎな彼がいた

 

果南(あらあら。でも寝てるのもちょっとかわいいかも、なんてね♪)

 

果南「隼人君お待たせ。起きて~!」

 

隼人「ん~……お~果南、悪い寝ちゃった」

 

ようちかりこ「こんにちは~!」

 

隼人「お~う千歌ちゃん曜ちゃん、とお友達かな。おっす!」

 

梨子「初めまして!浦の星学院高校2年の桜内梨子です。よろしくお願いします」

 

隼人「これはご丁寧に。浦の星学院高校3年の八神隼人だ。こちらこそよろしく!初対面が寝起きですまんな」ハハッ

 

 

……

 

 

 その後5人で雑談

 梨子が東京から転校してきたこと

 千歌が発端となり、スクールアイドル・Aqoursを結成したこと

 熱心な勧誘や3年生教室での出来事など、話題には事欠かない

 そして9人集まり、ラブライブを目指す!

 隼人はアメフトの話を。と言ってもまずアメフトとラグビーの違いから話すのが常である

 

 しばらく話し込み……

 

 

果南「ところでみんな時間は大丈夫?」

 

千歌「わあ~!早く帰らないと美渡姉に怒られる~!」

 

梨子「結構いい時間になっちゃったね」

 

曜「じゃあ私たちも帰ろうか」

 

隼人「俺はもうちょいお邪魔してようかな」

 

ようちかりこ「さようなら~」

 

果南「また明日ね♪」

隼人「おう、またな!」

 

 

 

━━━━

 

 

 

 果南・隼人の2人だけになる

 旧Aqoursのことを思い出し、隼人は語り出す

 

 

隼人「しかしまぁ、Aqoursが9人か。何というか、感慨深いものがあるな」

 

果南「うん。私も、まさかまたスクールアイドルをやるなんて思ってなかったよ」

 

隼人「でもまぁ、ファンとしては嬉しい限りだけどな」

 

果南「なんか直接ファンって言ってもらえると嬉しいけど、ちょっと照れるね」アハハ

 

隼人「ははっ、まぁみんな良い子達だし、さぞ賑やかで楽しいだろうよ」

 

果南「うん、とっても楽しいよ♪」

 

隼人「それは何よりだ。なぁ、果南」

 

果南「ん?どうしたの?」

 

隼人「あぁいや……これから、お互い頑張ろうな!」

 

隼人(まだ聞くのは早いか……)

 

果南「? うん、頑張ろうね♪」

 

隼人「それじゃあ、俺もそろそろお暇するわ」

 

果南「うん、今日は来てくれてありがとうね」

 

隼人「こちらこそ楽しかったぜ。また今度ゆっくり話したり、泳いだりしような」

 

果南「そうだね♪じゃあまた明日!」

 

隼人「ああ、また明日!」

 

 

 

つづく

━━━━

 

 

ダイヤ「こうして、果南さんと隼人さんの物語が始まりましたわ」

 

鞠莉「私たちも頑張らないとね!」

 



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2話 恋する筋トレBlaster

1学期 その2

 

~昼休み・図書室にて~

 

 なんだかんだ受験生である隼人。生物学系の大学を志望している

 知識を深めるため、図書室で本を借りることにした

 

隼人(セントラルドグマ、カルビンベンソン回路、ベンゼン環と愉快な仲間たち…)

 

 生物・化学系の本を手に取り受付へ

 ついでに言うと、それぞれDNA、光合成、有機化学に関係する

 

隼人「お願いしま~すっと」

 

受付「はい。返却は再来週になりますずら」

 

隼人「ずら?」

 

受付「あぁ~!またやっちゃった……」

 

隼人「いや、気にしないでくれ。ひょっとしてAqoursの国木田花丸ちゃんかな?」

 

花丸「え?オラを知ってるんですか?」

 

隼人「ああ、果南たちから話を聞いてね。方言がかわいいって言ってたからな」

 

花丸「恥ずかしいです……」

 

隼人「すまんすまん。っと俺は3年の八神隼人、よろしくな。んでそっちの陰にいるのが……」

 

??「ピギィ!」

 

隼人「黒澤ルビィちゃんだね。お姉ちゃんともクラスメイトだし、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ」

 

ルビィ「ピ、はいぃ…」

 

隼人「ハハ。時間取らせたな。じゃあこれで」

 

花丸「失礼しますずら。あ、また…」

 

 隼人が教室に戻ろうとすると、黒髪お団子の一年生とすれ違う

 

??「ずら丸もルビィもここにいたのね」

 

花丸「図書委員だから当然ずら、善子ちゃん」

 

善子「ヨ・ハ・ネ!」

 

花丸「図書室ではお静かに」

 

隼人「ヨハネ?」

 

善子「あ、いえその……」

 

 その名前に聞き覚えがあった隼人

 敢えて口調を変えて話しかけた

 

隼人「ふむ、其方がAqoursの堕天使、ヨハネか」

 

善子「! このヨハネを知っているとは、貴方もなかなかやるわね」

 

花丸「善子ちゃん、先輩ずら」

 

隼人「余は……そうだな、Blasterとでも呼ぶが良い。其方らAqoursがこれからどんな物語-Roman-を紡ぐのか、期待しておるぞ」

 

 そしてBlasterは不敵な笑みを浮かべながら図書室を出る

 周りに生徒が少なかったため、他に闇の眷属は増えなかった

 

善子「フフッ、こんな処でリトルデーモンに出会うなんてね……!」

 

花丸「ノリの良い先輩で助かったずら」

 

ルビィ「そ、そうだね……」

 

 

 

━━━━

 

 

 

~放課後~

 

Aqoursの練習場は基本的に屋上であるが、今日は生憎の雨

全体練習はできないため一旦解散となり、各々で出来ることを探していた

 

曜「ねぇ果南ちゃん、良かったら今から筋トレしない?」

 

果南「お、良いねぇ~」

 

曜「空いてるかはわからないけど、とりあえず行こうよ!」

 

 2人は体育館受付に行き、トレーニングルームが空いているか確認する。先客はいるようだが、使用可とのことだった

 早速受付名簿に名前を書く。その際、見知った名前がちらほら

 

果南・曜「おじゃましま~す」

 

隼人「ん~?おう、果南に曜ちゃんいらっしゃ~い!」

 

江井「おっす!ちょいとむさ苦しいけど勘弁な!」

 

 アメフト部もAqoursと似た状況のようである

 時間が合えばこの4人で筋トレをする仲だ

 

隼人「ウチのも何人かいるけど、部として使ってる訳じゃないから気にせずやっていこう」

 

隼人「う~し、みんな挨拶だけしとけ~」

 

アメフト部員たち「「こんにちは!」」

 

果南・曜「こ、こんにちは!」

 

隼人「んじゃあぼちぼちやるか!」

 

果南「うん!」曜「はい!」江井「おう!」

 

 

……

 

 

 ひと段落して休憩中

 

隼人「ふぅ~。あ、そういえば昼に図書室でAqoursの1年生に会ったよ」

 

果南「そうだったんだ。かわいい子達でしょ♪」

 

隼人「だな~。あと堕天使を筆頭になかなかに個性的だった」

 

曜「あの3人も千歌ちゃんが熱心に勧誘したんですよ」

 

隼人「ははっ、千歌ちゃんらしいな」

 

江井「そっかAqours9人なんだよな」

 

果南「うん、賑やかで楽しいよ♪」

 

江井「それは良かった」

 

曜「ねぇみんな、見て見て!」

 

 そう言って腕をまくり、ドヤ顔をして先輩たちに見せる曜

 学年こそ違うが、打ち解けた今ではそれを感じさせない間柄となっている

 

隼人「お!やるねぇ」

 

江井「美しい上腕二頭筋だな!」

 

曜「へへっ。Aqoursでダンスの練習とかしてたら良い感じに鍛えられちゃいました!」

 

果南「お~、これは私もうかうかしてられないね」

 

 筋肉を褒められるのに抵抗がある方もいるだろうが、運動が好きな女子としては嬉しいものである

 というか、Aqoursファンの方ならこの会話の元ネタはお分かり頂けるだろう

 

江井(しかしまぁ、隼人……)

 

隼人(あぁ、すばらだ……)

 

 

 健全な男子としては、女子と運動するのはテンションが上がる

 増してこれ程の美少女である上に、果南も曜もナイスバディの持ち主である。よく筋トレする仲だからといって見慣れてなどいない

 

 紅潮した頬、うなじを伝う汗、水を飲む時の無防備な表情、薄っすら汗ばんだTシャツと、その下にある豊満な双丘……

 嗚呼、此処にロマンがあった……

 

 勿論、筋トレ仲間になったのは下心からではない。ハズだ

 だが隼人は、これまで色んな表情の果南を見てきた

 普段の優しい表情、旧Aqoursで輝いていた時、鞠莉と無邪気にじゃれ合っていた時。実はこの時少し嫉妬してしまっていた

 解散してしまい沈んでいた頃は積極的にお店に行った。今はAqoursが再始動して輝きを取り戻している果南

 

 彼はそんな彼女のことが……

 

 

隼人(おっといかんいかん、気持ちを切り替えよう。ベンチプレス頑張っちゃうぞ~!)

 

隼人「じゃあみんな、もうひとこえ行くか!」

 

果南・曜・江井「お~!」

 

 

……

 

 

隼人「燃え尽きたぜ……!」ガクッ

 

曜「隼人せんぱ~い!?」

 

江井「隼人……無茶しやがって……」

 

果南「隼人君大丈夫!?汗拭いてあげるから、じっとしててね」

 

隼人「むぐ」

 

曜・江井「!?」

 

 

 張り切り過ぎてぐったりしている隼人の汗を、果南がポンポンと拭いていく

 対する隼人はされるがままだ

 トレーニング中のアメフト部員たちもこの様子には驚いているようだ

 

 

果南「ひとまずこんなもんかな。あれ、2人ともどうしたの?」

 

曜「いや~果南ちゃん大胆だな~って」

 

江井「ホント、果南さんは良い嫁さんになるぜ」

 

果南「えっ!?嫁さんだなんて恥ずかしいよ!///」

 

果南(でも、悪くはない……かも///)

 

隼人(果南が嫁かぁ。良いなぁ……)

 

 

 こうして、この日の筋トレが終了した

 隼人が部内でこの件についてネタにされたのは言うまでもない……

 

 

 

つづく

━━━━

 

 

曜「果南ちゃんと隼人先輩って実際どうなんですかね?」

 

江井「う~ん2人とも案外奥手だからなぁ」

 

曜「ですよね~」




男子2人のキャラ分けができない……


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3話 勉強会

1学期 その3

 

 もうすぐ期末テストである。成績優秀なダイヤだが、生物においては隼人と江井という壁がある

 この手の話に出てくる男子にしては珍しく(?)、授業は寝ずにちゃんと受ける2人である

 

 

ダイヤ「隼人さん江井さん、今度こそ決着をつけますわよ!」

 

隼人・江井「お手柔らかに~」

 

果南「アハハ……」

 

鞠莉「もう、ダイヤったらそんなにこだわらなくても良いんじゃない?もっと気楽にいきましょう」

 

ダイヤ「そうは参りません。黒澤家に相応しいのは常に勝利のみですわ!」

 

 いつになく気合いが入っているダイヤ

 

ダイヤ「しかしながら、いつもの方法ではいけませんわね……そうだ、勉強会ですわ!」

 

4人「勉強会?」

 

ダイヤ「そうです。今日の放課後、この5人で私の家で行います。よろしいですね?」

 

果南「私たちも?」

 

ダイヤ「当然ですわ」

 

隼人「しかし」

 

江井「俺たちが行っても良いのだろうか」

 

 黒澤家はこの辺りではかなりの名家。その上、女子の家となるとなかなかハードルが高い

 

ダイヤ「何を仰いますの?私が好敵手と認めたお2人なら問題ありませんわ」

 

隼人「それは、光栄だ」

 

江井「それならお邪魔しようか」

 

 

 

━━━━

 

 

 

放課後、黒澤家にて

 

4人「「お邪魔します」」

 

ダイヤ「いらっしゃいませ。荷物はこちらへどうぞ。では早速始めましょうか」

 

 

……

 

 

~勉強会ダイジェスト~

 

 コドンと対応するアンチコドンが

 ピルビン酸がこうなって

 生態系の始まりとして

 

 

……

 

 

ダイヤ「一息つきましょうか」

 

隼人「なんか5人だといつもより捗るな~」

 

鞠莉「これは、敵にソルトを送ってしまったわね?」

 

ダイヤ「否定はできませんわね……」

 

江井「どうせテストは100点までだから、みんなで満点取れば良いんじゃね?」

 

果南「また大胆だね……!」

 

江井「まぁそれくらいの気持ちで、な」

 

鞠莉「そうだ、折角だし恋バナでもしない?」

 

果南・隼人「!?」

 

ダイヤ「いきなり何を仰いますの!?」

 

鞠莉「だって私たち夏の高校生なのよ。恋バナくらいしたいじゃない!」

 

江井「でもスクールアイドル的に恋愛はどうなの?」

 

 突然の鞠莉の話題に驚く一同。しかしプロのアイドルでは恋愛はご法度という風潮があるため、江井の懸念は尤もだ

 

ダイヤ「勿論ぶっぶーですわ!と言いたい処ですが……」チラッ

 

果南「?」

 

ダイヤ「全面禁止は流石に厳しいですわね。でもやはりアイドルですから、その辺りに理解と節度がないといけませんわね」

 

隼人「まぁ確かに、あんまり目立つと良くないわな」

 

 即否定するのかと思いきや、果南を一瞥した後に条件付きで恋愛OKを出したダイヤ

 

鞠莉「ダイヤにしては甘いわね~。もしかして!」ニヤニヤ

 

ダイヤ「なっ!私は何もありませんわ!アメフトのお2人はどうなんですの?」

 

隼人「俺たちは特にないな~」

 

果南(いないんだ……)ホッ

 

鞠莉(ふむ……♪)

 

江井「でも先輩でマネージャーと付き合ってる人はいたよね」

 

隼人「いたな~。まぁ俺たちには縁のない話だが」

 

果南「マネージャーと付き合いたいとか思わないの?」

 

江井「そういう訳ではないけど、なんかこう……な?」

 

隼人「ん~めっちゃサポートしてもらってるから恋愛よりも感謝、みたいな? 上手く言えないけど」

 

江井「まぁ、そんな感じだな」

 

鞠莉「う~ん、なかなかeasyにはいかないものね」

 

隼人「確かにな~。でも教科書に載ってたらロマンがないけどな」

 

果南「フフッ、ロマンって言いたいだけでしょ」

 

隼人「バレたか」ハハッ

 

ダイヤ「さぁ、そろそろ勉強を再開致しましょうか」

 

4人「「は~い」」

 

 

……青春に満ちた勉強会であった

 

 

 

━━━━

 

 

 

~数日後~

 

 無事にテストは終了

 全員で100点とはいかなかったが、各々それなりの点数は取れたようだ

 

 そして今日は終業式。校長先生のお話があったり、生徒指導の先生が夏休みの過ごし方について話したりする

 また、成績優秀な部活動の表彰もある。アメフト部もその1つ。キャプテンの隼人が壇上で挨拶するようだ。その横にはAqoursのリーダーが一緒に立っている

 

 

隼人「皆さんいつも応援ありがとうございます!秋大会は全国目指して頑張ります。また今日はこの場をお借りして、宣伝をさせて頂きます。今度の日曜日、オープンキャンパスにて招待試合をします。浦高グラウンドにて、10:00キックオフです。その際……」

 

千歌「ハーフタイムショーとして、私達Aqoursがライブをします!お忙しいとは思いますが、足を運んで頂けると嬉しいです!」

 

「「よろしくお願いします!」」

 

 

 

━━━━

 

 

 

~勉強会終了後に遡る~

 

 

まりだいなん「ハーフタイムショー?」

 

隼人「あぁ、やってみたいんだけど、どうかな? 静岡初優勝の俺たちと、近年更に熱を帯びているスクールアイドル。そのコラボとなれば話題性はそれなりにあるハズだ」

 

江井「東京の高校が対戦に来てくれるから、Aqoursを東京に広める切欠にもなる、かも?」

 

果南「面白そうだね♪良いと思うよ」

 

鞠莉「そうね♪アメリカでは大きな大会のハーフタイムショーに呼ばれるのは名誉なことみたいだし」

 

ダイヤ「悪くない試みですわね。細かい処は今から調整するとして、気になるのが……」

 

4人「?」

 

ダイヤ「ルビィは大丈夫かしら?」

 

4人「あらら」

 

隼人「まぁ勿論無理にとは言わんし、場慣れするため~とか気軽に考えてもらって構わんよ」

 

果南「うん分かった。他のみんなにも聞いてみるね」

 

 

 

━━━━

 

 

 

~とある日のAqours部室~

 

 

果南「……という訳なんだけど、どうかな?」

 

曜「私はやってみたいな。防具カッコ良いし!」

 

千歌「私もやりたい。何事も挑戦だよ!」

 

梨子「アメフトかぁ。確か果南ちゃんのお店で会った……」

 

果南「そう、隼人君からのお誘いでね」

 

梨子「お話を聞いてから、アメフト見てみたいって思ってたから私も参加したいな♪でも優しそうな方だったから、アメフトやってるって聞いてちょっと意外だった」

 

果南「確かに、普段とのギャップは凄いよね♪」

 

鞠莉(うふふ、果南ってばノリノリね♪)

 

花丸「そういえば、その八神さんって図書室でお会いしたずら」

 

善子「リトルデーモン・Blasterね……!」

 

鞠莉「Blaster?」

 

花丸「八神さんが善子ちゃんの堕天使設定に合わせてくれたずら」

 

善子「ヨハネ!あと設定言うな!」

 

果南「アハハ、隼人君らしいね」

 

ルビィ「でもルビィ、たくさんの男の人の前で上手くできるかなぁ……」

 

ダイヤ「ルビィ……」

 

 普段のライブとは状況が大きく違い、防具を付けた男子が大勢いる中で開催される。ルビィでなくとも不安に感じる処はあるだろう

 

花丸「ルビィちゃん、マル達が付いてるよ♪」

 

善子「そうよ!私たちでBlasterさんたちを堕天させるわよ!」

 

ダイヤ「ええ。しっかり練習頑張っていますし、ルビィなら出来ますわ!」

 

 他のメンバーも優しく見守っている

 

ルビィ「……うん!頑張ルビィ!」

 

果南「ふふっ、頑張ろうね!じゃあAqoursとしてはOKって隼人君に伝えとくね」

 

千歌「うん、よろしくね、果南ちゃん!」

 

 

 

━━━━

 

 

 

~終業式後・教室~

 

 

隼人「受けてくれてありがとうな。告知も終わったし、後は練習あるのみだな!先方も快くOK出してくれて良かった」

 

ダイヤ「お互い良いパフォーマンスが出来るように頑張りましょう」

 

隼人「おうよ!めっちゃ楽しみだな~。俺らはライブってあんま見られないし、しかも特等席!」

 

 ライブも試合も土日開催が多いため、お互いのイベントを見るタイミングは少ない。そのため今回は貴重な機会とも言える

 

隼人「とは言いつつ実際ハーフタイムはミーティング状態だから、集中しては見られないのが残念で申し訳ないが……」

 

鞠莉「あらぁ、それはノーシャイニーね。でもそれなら、ミーティングしてても釘付けにするようなライブにしないとね♪」

 

江井「それは楽しみだな。でも試合にも集中せねば……」

 

隼人「まぁぶっちぎりで勝ってれば余裕はあるだろ。その意味でも頑張らんとな!」

 

果南「ふふっ、応援してるよ♪ でも私たちもライブの準備とかあるから、前半はあんまり見られないかもだけどね」

 

隼人「そりゃそうだよな。なら、みんなが見てる間に1本タッチダウン取らなきゃな!」

 

ダイヤ「期待しておりますわよ」

 

果南(こうして話してるだけでも楽しいな♪ でも、なんかもやもやするような……?)

 

担任教諭「みんな着席~。お待ちかねの通知表も配るぞ~」

 

ダイヤ「いよいよですわ!」

 

隼人「まぁいつも通りだろうな~」

 

果南(……)

 

 毎度ながらダイヤはテンションが高い

 だが成績以外にも気になることが多い、夏の高校生たちである

 

 

 

つづく

━━━━

 

 

鞠莉「ねぇダイヤ、やっぱり果南って……」

 

ダイヤ「えぇ、恐らくは」

 

 



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4話 オープンキャンパス

アメフトの描写が多いです。分かりづらい部分も多いかと思いますが、少しでもアメフトに興味を持って頂ければ嬉しいです!
文章だけではアメフトの熱さをお伝えしきれなかったので、動画サイト等で試合の様子をご覧になることをおススメします


夏休み その1

 

~オープンキャンパス当日~

 

 即ち、アメフト部の招待試合&Aqoursのハーフタイムショー本番の日である

 対戦相手は東京のF高校。激戦区東京に於いて中堅クラスの高校だ

 強豪、とまでは言えないが、小さくまとまった良いチームだと、浦の星の監督は言う

 

 

 

━━━━

 

 

 

~グラウンド~

 

 両校の選手が横に並び、グラウンドを挟んで向かい合う

 主将・副主将と主審がグラウンド中央でコイントス

 

 そして……

 

 

「行くぞお前らあぁぁぁぁ!!!!」

「「「ファイ、オー、ファイ、オー、ファイ、オーーーーッ!、トゥーーッッ!!」」」

 

 

    試 合 開 始(k i c k  o f f) !!

 

 

 浦の星のキックから始まる。実質後攻だ。

 キッカーを中心にして幅広く横並びになる。対して相手は、前衛・後衛が分かれて並ぶ

 キッカーが両端の選手に合図を出し、隼人の掛け声で全員が走り出す

 

隼人「ハードタックル、レディーッゴー!!」

 

 勢いよくボールが蹴り出され、浦の星グラウンド上を舞い上がる

 

 

 

━━━━

 

 

 

ダイヤ「始まりましたわね!」

 

曜「う~ん、相変わらず良い声だよね~」

 

花丸「果南ちゃん、八神さんはどの人?」

 

善子「我が魔眼を以ってしても、あの鎧の奥は見えないわね……」

 

果南「アハハ、赤いユニフォームで69番の人が隼人君だよ」

 

 その時、味方選手が相手をタックルし、一旦プレーが止まる。敵陣35ヤード付近か

 

ルビィ「ピギィ!お姉ちゃ~ん……」

 

ダイヤ「あらあらルビィ。大丈夫、怖くありませんわよ」

 

鞠莉「やっぱり凄い迫力ね! パパがハマるのも分かるわ♪」

 

千歌「あれ、隼人先輩が戻ってきた。出番あれだけ?」

 

果南「今から浦の星ディフェンスが始まるから、オフェンス専門の隼人君は一旦戻るんだよ」

 

千歌「あ~何かそんなこと聞いたような?でも難しくてわかんないよ~」

 

梨子「先日お話聞いたけど、やっぱり難しいね……」

 

果南「まぁやっぱりそうだよね。隼人君は"まずはボールの位置を追ってみて。無理ならその場の雰囲気を味わって欲しい"って言ってたよ」

 

 

 

━━━━

 

 

 

 程なくして、浦の星Dが相手の攻撃を抑え、攻守交代となる

 ラグビーやサッカーと違って攻守がハッキリ分かれており、その際にオフェンス・ディフェンスの選手が入れ替わる

 人数等の関係で攻守両面で出場する選手もいるが、その際の疲労は尋常ではない……

 

 

隼人「オッケー、ナイD!」

 

D選手「オフェンスよろしく!」

 

 

 すれ違い様にハイタッチを交わす

 いよいよ浦の星の攻撃である

 因みにアメフトは攻撃権が4回あり、その間に10ヤード以上進めば攻撃権が更新される

 10ヤード進めなかった場合や、ボールを奪われるなどした場合は攻守交代となる

 

 隼人のポジションはオフェンスライン。ボールを持つバックス(後衛)の為に壁や盾となるポジションだ。その中でもセンターを務める

 

 

隼人「トゥーッ!」

 

「「おう!」」

 

 某芸人が「トゥース!」とやっているが、元々はアメフトの集合の合図、ハドルである

 

 

 

━━━━

 

 

 

曜「おっ、先輩出てきたよ!」

 

善子「リトルデーモン・Blasterの実力を見せてもらいましょう!」

 

花丸「善子ちゃん、先輩ずら」

 

梨子「あの合図もカッコ良いね!先輩風に言うなら、気合いが入るって言うのかな」

 

果南「ふふっ、そうだよね♪」

 

果南(隼人君、頑張って……!)

 

 

 

━━━━

 

 

 

QB「右プロI(アイ)からBlast。コール1、レディ」

 

「「GO!」」

 

 

 攻撃の司令塔であるクォーターバック(QB)からプレーの指示が出て、各々のポジションに付く

 置かれたボールの位置に隼人が、センターを含めたOLが5人並び、その横にタイトエンドがいる。TEはプレーによって壁にもバックスにもなる

 センターの真後ろにQB、その後ろにボールを持って走るランニングバック(RB)が2人。某アメフト漫画の主人公がこのポジションだ。そして両翼にパスを受けるワイドレシーバー(WR)が2人

 総勢11人

 

 対して相手のディフェンスは、前衛のディフェンスライン(DL)4人、中衛のラインバッカー(LB)が3人、後衛のディフェンスバック(DB)が4人の態勢だ

 もちろん、OもDもフォーメーションはチームや状況によって様々な形がある

 

 

QB「行きますDown。Set、Hut!」

 

ゴン!ガゴン!

 

 

 センターがボールをスナップし、股越しにQBに渡す。そしてQBからRBへハンドオフ

 アメフトのプレーはある程度パッケージされており、Blastは中央のラン。OLがこじ開けた走路にRBが突っ込むというシンプルにして激しいプレーだ

 4ヤード程進んだ処で相手LBにタックルされ一旦プレーが止まる。まずまずの前進だ

 

 

隼人「ナイスラン!」

 

RB「ナイスブロック!」

 

 そしてまた隼人がハドルをかけ、QBが指示を出す。しばらくこれを繰り返す

 

 

 

━━━━

 

 

 

果南「良いよー!浦の星ファイトー!」

 

曜「ヨーソロー!」

 

鞠莉「シャイニー!」

 

 慣れている3人は、それぞれ声援を送る

 

善子「凄い迫力なのは分かるけど、正直何が起きたかさっぱりわからないわ……」

 

梨子「わ、私も……」

千歌「私も未だに……えへへ」

花丸「ずら~」

ルビィ「ピギィ……」

 

ダイヤ「流石の私も最初はそうでした。でも徐々に目が慣れて参りますわ」

 

ルビィ「で、でも痛くないのかな?」

 

曜「試合や練習中はアドレナリンが出てるから、多少のことは痛くないって言ってたよ」

 

善子「いやあれで痛くないとかおかしいわよ!」

 

 

 

━━━━

 

 

 

 一進一退の攻防を繰り返し、第1クォーター中盤。浦の星はゴール前残り5ヤードまで来ていた

 

 

QB「両タイトからDiveフェイクパス。コール1、レディ」

 

「「GO!」」

 

 

 ゴール前になると、互いに前衛重視のフォーメーションになる

 O側は走路のため、パス壁のため。D側はそれを防ぐため

 

 

QB「行きますDown。Set、Hut!」

 

 

 Diveも中央のランプレー。QBからRBへハンドオフ……フェイクしてQBがWRへパス!

 

 そして……

 

 

ピピーッ!!

 

 

 審判が笛を吹き両手を上げる。タッチダウン!

 

 

「ナイスキャッチ!」

「ナイスパス!」

 

 

 

━━━━

 

 

 

果南「やったよ!タッチダウンだ!」

 

善子「これでやっと点が入ったの?大変な競技ね……」

 

梨子「今ので確か6点だっけ?」

 

果南「梨子ちゃんよく覚えてたね。今のタッチダウンで6点。この後にボーナスポイントのチャンスがあるハズだよ」

 

果南(隼人君、調子良さそうで安心した……ふふっ♪)

 

花丸(果南ちゃん嬉しそうずら♪)

 

 

 

━━━━

 

 

 

 前述の通り、TDの後にはトライフォーポイントというプレーがある

 ゴール前3ヤード地点から、1点狙いのキック、または2点狙いのタッチダウンから選択。通常、より確実なキックが選ばれることが多い。そのため、便宜上TDは実質7点で考慮されることもある

 

 浦の星も難なくキックを決め、現在 7-0

 

 そして浦の星のキックオフで試合再開

 

 

 

━━━━

 

 

 

鞠莉「じゃあ、私たちはそろそろライブの準備をしましょうか」

 

ダイヤ「アメフトのみなさんに負けないように頑張りましょう」

 

「「おー!」」

 

 

 

━━━━

 

 

 

 しばらくして第2Qに入り、グラウンドの位置が入れ替わる。テニスのコートチェンジのようなイメージだ

 試合時間だが、プロでは1Qで15分、学生の試合では12分が一般的。しかしアメフトではプレーによって時間が止まったり止まらなかったりするため、実質1Qで30分以上かかることも多い

 因みに今回は公式戦ではないため1Q10分で行っており、その分ハーフタイムを長めに取っている

 

 

隼人(果南たちは流石にもう行ったか。その前にTD出来て良かったな。2Qもこの調子で行こう)

 

 

 

━━━━

 

 

 

2Q

 

 互いにTDを1本ずつ取り合う展開に。更に浦の星がキックを1本決め、前半終了時点で 17-7 (通常のキックは3点)

 

 そしてお待ちかね、Aqoursのハーフタイムショーが始まる

 

 

 

━━━━

 

 

 

千歌「果南ちゃん、今日は提案ありがとう!」

 

果南「いえいえ。でもそれは隼人君に言ってあげてね」

 

千歌「うん!じゃあその気持ちも込めて、みんなに私たちの歌を届けよう!」

 

 

千歌「Aqours!」

 

「「サ~ンシャイ~ン!」」

 

 

 

━━━━

 

 

 

  見~た~こと~ない夢の軌道~追いかけて~♪

 

<始まった~!

<かわいい~!

 

  届かない~星だ~って~♪

 

<正直ウチのスクールアイドルより良いかも?

<うむ!

 

 観客の反応は好感触だ

 

  遠くへ、遠くへ、声が、届くように!

 

果南(私たちの声は届いてるかな?いや、届けるんだ!)

 

 

 隼人を始め、アメフト部の面々は真剣な表情で試合について話し合っている。思ったより点差がつかず、あまり余裕はない様子だ。だから果南は、彼のことを応援せずにはいられなかった

 

 

……

 

 

 ライブが終わり、歓声・拍手に包まれる。そんな中果南は、彼の姿を探す

 

 すると

 

 

隼人:グッb

 

果南「!」グッb

 

 力強い表情でサムズアップする彼と目が合った

 

果南(隼人君……!)ホッ

 

鞠莉(もう、果南ったら♪)

 

ダイヤ(良かったですわ。ライブも、果南さんのことも、ちゃんと見てくれたようですわね)

 

 

 その後隼人は右腕を高々と掲げ、果南に背を向けて後半の試合へと向かって行った

 

 

 

後半へつづく

━━━━



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5話 巡り会った恋心

Aqours5thライブ最高でした。3年生のお三方を間近で拝見できるとは……
生きてて良かったです。

さて、この5話は最初の山場(のつもり)です。
特に後半は力を入れて書きました。
楽しんで頂ければ幸いです。


夏休み その1.5

 

~アメフト招待試合後半~

 現在スコア 17-7

 

 さぁ、後半だ。練習試合とはいえ、静岡王者としてはこんな点差では終われない

 何より果南が見ている、無様な姿は見せられない!

 

 

隼人「よっしゃぁ!みんな行くぞオラァッ!!」

 

「「おう!!」」

 

 

 

━━━━

 

 

 

<ブラストォォ!

<うおおぉぉぉぉぉぁぁぁ!!

<このまま行けぇぇぇぇぇぇ!!

<おい誰か中央止めろぉ!

<オッケーナイラーン!

 

<パス来るぞ!

<おぉ!?江井ちゃんナイスサック!

<パスプロ薄いぞ!何やってんの!

<ナイD!!

 

 

……

 

 

 ハーフタイムショーによって気合いが迸った隼人を中心に、ライン勢が奮起。壁がしっかり機能すればバックスも動きやすい。内外のラン、パス、フェイクにオプション。色んなプレーができる

 ディフェンスでは、相手QBがパスを投げる前にタックルするサックを江井が決めた

 

 後半で3本のTDを追加。相手も意地を見せ4Q序盤にTDを1本取る熱い展開になった

 

 そして最後は両チーム整列して挨拶だ

 

 

主審「浦の星38対F高14で試合終了です。ナイスゲーム!」

 

「「ありがとうございましたッ!」」

 

 

「遠い処ありがとうな」

 

「今度は関東大会で会いましょう!」

 

 爽やかに挨拶を交わした後、応援席へ向かう

 

「気を付け、礼!」

「「ありがとうございました!」」

 

 そしてAqoursには個別に挨拶。リーダー同士が言葉を交わす

 

隼人「今日はホントにありがとう。みんなのライブのお陰で、気合い入ったわ」

 

千歌「いえ、誘ってくれてありがとうございます。正直、アメフトのことはまだよくわかんないんですけど、みなさんとっても輝いてました!その輝きに負けないように、私たちも頑張りました!」

 

隼人「あぁ!Aqoursも輝いてたぜ!あんまりライブ見られなくてごめんな。でも声はしっかり届いたよ」

 

千歌「! それなら良かったです!」

 

 ふと、視線を感じた隼人

 

果南:グッb

 

隼人「!」グッb

 

 サムズアップする果南と目が合った

 

果南「」ニコッ

 

隼人「ッ!///」

 

ダイヤ鞠莉江井(ほほう)

 

千歌「?」

 

隼人「あぁいや、何でもない。今日はホントお疲れ様。ラブライブ、応援してるぜ!」

 

千歌「はい!アメフト部のみなさんも頑張ってください!」

 

「「ありがとうございました!」」

 

 

 

━━━━

 

 

 

~帰り道~

 

隼人「いや~しかし江井ちゃんのサックはシビれたわ!」

 

江井「あれは気持ち良かったわ。しかし後半の隼人はあからさまにおかしいだろ!」

 

隼人「ホント自分でもビックリ。監督にも"できるなら最初からやれ!"って言われたわ」

 

江井「ブリッツ処理も良かったしな」

 

隼人「まぁ、春にやられて練習しまくったからな。それに、アイツに比べりゃかわいいもんだ」

 

 ブリッツ。プレー開始と同時にLB(ディフェンスの中衛)が突っ込んで来るプレーだ。当然オフェンス側も警戒はしていたが、春に関東大会で戦った相手LBが高校アメフト界でも有名な選手で、そのブリッツにやられたのが敗因の一つだった

 

江井「確かにそうだわな。でもまぁ後半のあれは……」

 

隼人「それは、お察しの通りだと思うぜ~」

 

江井「そっか。向こうはスクールアイドルだし、色々事情はあるだろうけど俺は応援してるから安心してくれ」

 

隼人「ありがとう。心強いわ」

 

江井「おう。ところで夏休みのライン練習は?」

 

隼人「予定通りOLはゾーン、DLはリーディング」

 

江井「了解!ラインとしては燃えるな」

 

 ゾーンとリーディング。細かい説明は省くが、ちょっと特殊なプレーだ。前話でも述べた通り、アメフトのプレーはある程度パッケージされているが、この2つにはそれがない

 

隼人「おうよ。ただ今日やってみた感じだと精度がもうちょいだった」

 

江井「ふんふむ。それは今から上げて行こう」

 

隼人「実戦デビューさせた1年生たちももっと鍛えなきゃな。あとは、アレをやる」

 

江井「……本気か?」

 

隼人「あぁ。監督にも相談して、まずは様子を見てくれるそうだ。"お前のロングスナップなら出来るかも知れない"とも言ってくれた」

 

 何やら秘策があるようだ

 

江井「OK。どこまでも着いて行くぜ!でも今日は……」

 

隼人「あぁ!帰って寝る!」

 

江井「うっし、じゃあまた明後日の練習でな!」

 

隼人「おう!」

 

 

 

━━━━

 

 

 

~一方その頃のAqours~

 とある喫茶店で打ち上げ中

 

 

「「かんぱ~い!!」」

 

千歌「いや~やっぱりライブ後のみかんジュースは格別だね~♪」

 

曜「千歌ちゃんといえばみかんだもんね!梨子ちゃんは何飲んでるの?」

 

梨子「私はアイスコーヒー。果南ちゃんに勧められてからハマっちゃった♪」

 

果南「それは良かった♪みんなライブ振り返ってどうだったかな?」

 

善子「鎧を纏ったリトルデーモン達が駆け巡る戦場に舞い降りる堕天使、悪くなかったわ……!」

 

花丸「最初は迫力に圧倒されそうだったけど、楽しかったずら。ね?ルビィちゃん♪」

 

ルビィ「うん!ルビィも最初はちょっと怖かったけど、みんなのお陰で頑張れたよ!」

 

ダイヤ「良かったですわね、ルビィ!」

 

ルビィ「うん!」

 

鞠莉「私は久しぶりにフットボールの試合が見られて楽しかったわ。ね?果南♪」

 

果南「そうだね♪また一緒にコラボできると良いな♪」

 

ダイヤ「ふふっ、そうですわね。学校全体も盛り上がりましたし、ライブ自体も、オープンキャンパスとしても大成功でしたわ!」

 

鞠莉「でも果南にとっては、もっと大事なことがあるわよね~♪」

 

果南「べ、別にそんなことないよ!」

 

千歌「え?なになに~?」

 

果南「なんでもないよ!」

 

花丸(やっぱり果南ちゃんは八神さんが気になるずら?)

 

善子(Blasterさんに堕天しているの!?)

 

ルビィ(善子ちゃん……)

 

 

 

━━━━

 

 

 

~松浦家~

 

果南「ただいま~」

 

祖父「おうお帰り。どうだった?」

 

果南「ライブは成功、試合は快勝って感じかな♪」

 

祖父「ハッハッハ、それは何より。果南も隼人君のカッコ良い処が見られて良かったな!」

 

果南「……うん♪」

 

 意外にも、祖父の前では素直な果南

 

祖父「うむ。もうお店の方は大丈夫だから部屋でゆっくりしといで」

 

果南「うん、ありがとう」

 

祖父(……青春だのう)フフッ

 

 

 

━━━━

 

 

 

~果南自室~

 

(ふぅ~。今日は、楽しかったな……♪)

 

 ライブは無事成功し、アメフトの試合も勝利。観客は喜んでいたし、自分たちは練習の成果を出せたと感じる

 

 そして何より

 

(隼人君、カッコ良かったな……)

 

 普段は優しく穏やかな隼人だが、試合中や筋トレの時には別の表情になる。そのギャップが、果南の心に響いているようだ

 

(なんだろう、会いたいな……。でも今からじゃ……そうだ)

 

 何かを思い立ったようにスマートフォンを操作する

 

(声だけでも聞きたいな。出てくれるかな?)

 

 数コール程して、彼の声が聞こえた

 

『はいはい~。電話とは珍しい。どした?』

 

「今日は結局お話できなかったからさ。試合お疲れ様、カッコ良かったよ♪」

 

『お~ありがとう~!ちょっと照れる。でもまぁ、果南に良い処見せなきゃって思ってたから嬉しいわ』

 

「えへへ。それは良かった♪」

 

『でもホント、ライブありがとう。何度も言うようだけど、あんま見られなくてごめんな』

 

「そんなに気にしなくて大丈夫だよ。私たちも楽しかったし、久々にアメフトも見られて良かったな♪」

 

『そう言ってもらえると助かるわ。やっぱ、果南は優しいな』

 

「ん~別に普通じゃないかなぁ?」

 

『いやいや、俺はそんな果南だから……』

 

「えっ?」

 

『あ~いや、だから俺は頑張れるのさ』ハハッ

 

「う~んまぁそれなら良かったよ♪」

 

『おう。でもそういや、"遠くへ声が届くように"って歌詞はハッキリ聞こえたんだ』

 

「!」

 

『しっかり俺には届いたよ!そのお陰で後半は自分でもビックリするくらい動けたんだ。Aqoursの、果南のお陰だな!』

 

「ふふっ」

 

『あ、なんか変なこと言ったかな?』

 

「ううん、そうじゃなくて、その曲を歌う時にね、"隼人君に私たちの声を届けるんだ!"って思ってたんだ」

 

『!』

 

「だから、そう言ってもらえて、凄く嬉しいんだ♪」

 

『そっか……そうだったんだな』フフッ

 

 それから急に黙り込む隼人

 

「ん?どうかした?」

 

『いや、実はさ……このハーフタイムショーって、1年の時からの夢だったんだ』

 

「えっ、そうなの?」

 

『あぁ。ハーフタイムショーに憧れてたってのもあるけど、初めて前のAqoursのライブを見た時に思ったんだ、一緒にやってみたいって。色々あって半分諦めてたけど、今日それが実現して……ホントに嬉しいんだ』

 

「うん……♪」

 

 穏やかな口調の中に、嬉しさと感謝と満足感がにじみ出ている

 その声を聞いているだけで、果南も嬉しさで胸が温かくなるのを感じていた

 

『なんか色々伝えたいんだけど、上手く言葉にできねぇや』ハハッ

 

「ううん、充分伝わってるよ」

 

『そっか、それなら良かった。っと、長く喋っちゃったな。いい時間だし、そろそろ切るな』

 

「うん、じゃあね!」

 

『おう!』

 

 

 通話が終わり、静寂

 

 

「ふふっ♪」

 

 

 スマートフォンを胸に抱き、今の会話を思い返す

 大した内容の会話ではなかったかも知れない。だが自分の声や思いが届いたこと、彼と思いを共有できたこと。それがわかっただけで、今の果南には幸せに感じた

 

 この気持ちは何だろうか。ダイヤや鞠莉、Aqoursのみんなやクラスメイトへ抱く感情とは全く別のもの……

 

 

 

 

 

「"好き"って、こんな気持ちなのかな……?」

 

 

 

 

 

 そう口にした瞬間、胸がトクンと高鳴った

 確信がある訳ではない。でも、この表現が一番しっくりくるような気がした

 

 

 

「……ッ!///やっぱり、そうなのかな///」

 

 

 

 巡り会ったこの想い。その気持ちが

 

 

 

 

 

           - 恋 に な っ た 夜 -

 

 

 

 

つづく

━━━━



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6話 恋愛相談

遅くなったけどマリー誕生日おめでとう!

書き溜めの都合etc.で今後は更新遅くなりますが、ぼちぼち頑張ります。


夏休み その2

 

~試合の数日後、学校の屋上にてAqoursが練習中~

 

 

果南「ワン、ツー、スリー、フォー、ワン、ツー、スリー、フォー……」

 

果南「はいオッケー!一旦休憩にしようか」

 

千歌「ふぅ~、良い汗かいたね~」

 

曜「はい千歌ちゃん、スポーツドリンク」

 

千歌「曜ちゃんありがと~。ぷはぁ、生き返る~」

 

ダイヤ「みなさんも水分補給はしっかりしてくださいね」

 

鞠莉「でも1年生も大分練習に着いてこられるようになったわね!」

 

善子「フフッ、このヨハネにかかれば造作もないわ!」

 

花丸「善子ちゃん、無理はしない方が良いずら」

 

善子「ヨハネ!」

 

ルビィ「でも、最初の頃よりは辛くなくなってきたよ!」

 

ダイヤ「日々の練習のお陰ですわね」

 

 

 

 

アメフト部マネージャー「残り1分でーす!」

 

隼人「OK!ラスト3本!」

 

「行きます。セット、レディーゴー!」

 

ゴン!ガゴン!……

 

 

マネ「終了でーす!」

 

隼人「おっし、水入れよう!」

 

 

 グラウンドを見ると、アメフト部も練習中のようだ

 因みに隼人はラインキャプテンも兼務。ラインの練習を指揮する

 

 

 

 

梨子「うわぁ、練習も凄いね……!」

 

千歌「ただでさえ暑いのにあんな格好したら溶けちゃうよ~」

 

 

 真夏の太陽が照り付ける中、防具を着けてグラウンドを暴れ回る彼ら

 クソ暑い日こそ「アメフト日和だぜ!」と言って、喜び勇んでグラウンドに飛び出る隼人ら。よく考えなくてもおかしい

 だが練習が終わって防具を脱いだ時の爽快感、シャワーで汗と泥を流し、腹いっぱい昼を食べた後にアイスを食べて昼寝する

 何事にも代えがたい、青春の日々である

 

 

果南(隼人君、どこかな?……あ!)

 

 自然と彼の姿を探す果南。マネージャーからボトルを渡され、笑顔で答える彼が見えた

 

果南(むむ、あの子と仲良いのかな?)

 

 

 恋は盲目。マネージャーとは恋愛になりづらいと彼は言っていたのに、ついそんなことを考えてしまう

 すると隼人がこちらに気付いたのか、大きく手を振っている

 

 

果南(あっ!気付いた!)

 

 こちらも笑顔で手を振る

 

果南(ふふ♪)

 

鞠莉「ほ~ら、果南もちゃんと水分摂ってね。はい」

 

果南「ありがとう」

 

ダイヤ「ではそろそろ練習を再開致しましょうか」

 

果南「うん! そうだダイヤ、鞠莉」

 

2人「?」

 

果南「練習終わったらちょっと良いかな? 話というか相談があるんだけど……」

 

ダイヤ「ええ、構いませんわ」

 

鞠莉「大丈夫よ♪」

 

果南「ありがとう、よろしくね。じゃあ練習戻ろっか!」

 

 そう言って踵を返す果南

 

ダイヤ「ふむ……。ひとまず練習に集中しましょうか」

 

鞠莉「そうね♪」

 

 

 

━━━━

 

 

 

~練習後~

 

 

ダイヤ・鞠莉「好きな人がいる?」

 

果南「うん、そうなんだ……」

 

 思い切って打ち明けてみた。すると……

 

鞠莉「それってハヤトのことかしら?」

 

果南「!?」

 

ダイヤ「やっぱりそうなんですのね」

 

果南「えっ?やっぱりって?」

 

鞠莉「だって果南ったら彼への視線がシャイニーだもの♪」

 

ダイヤ「バレバレ、とは言いませんが、気付いている方はいるかも知れませんわね」

 

果南「そうなんだね……。恥ずかしいな……」アハハ

 

ダイヤ「果南さん、勉強会の時も言いましたが私たちはスクールアイドル。それなりの節度が必要です」

 

果南「うん。わかってる」

 

ダイヤ「まぁ彼はその辺りに理解はあるようですから、安心してお任せできますわね」

 

鞠莉「ふふっ。でも嬉しいわ♪」

 

ダイヤ「何がですの?」

 

鞠莉「だってあの果南がSecretなheartを打ち明けてくれたのよ!」

 

ダイヤ「うふふ、それもそうですわね♪」

 

果南「も、もう!2人とも!///」

 

鞠莉「ゴメンゴメン!」(果南かわいい♪)

 

ダイヤ「おっと私としたことが。失礼致しました」

 

 2年前、相手のことを思いやりすぎて真意を隠し、それですれ違っていたことを思うと、今回の恋愛相談は半ば予想外とも言えるだろう

 

果南「でも隼人君は、私のことどう思ってるんだろう……?仲は悪くないと思うんだけど……」

 

鞠莉(これは……)

 

ダイヤ(どうお伝えしましょうか)

 

果南「ダメそうかなぁ……」

 

ダイヤ「……いえ、むしろ逆ですわ」

 

果南「!?」

 

鞠莉「ええ、そうね♪」

 

果南「えっ、ホントに!?」

 

ダイヤ「お2人の仲は良好に思いますわ」

 

鞠莉「でも隼人はシャイな処もあるから、もう少し積極的になればイチコロよ!」

 

果南「積極的にかぁ」

 

ダイヤ「あまり急だと不自然ですから、少し意識する程度で良いのではないかと」

 

果南「うん。頑張ってみる!」

 

ダイヤ「私たちもできる限りサポート致しますわ」

 

鞠莉「ハヤトを果南のトリコにしなくちゃね♪」(既になってるかもだけど♪)

 

果南「2人とも……ありがとう!」

 

 

 

━━━━

 

 

 

~数日後・アメフト部練習後~

 

 

江井「隼人~、一緒に飯食って帰ろうぜ~」

 

隼人「お~う。あ、でもなんかマリーとダイヤさんに呼ばれてるんだわ。食ったら解散でよろしく」

 

江井「そうなのか。了解~」

 

江井(あの件かな)

 

隼人「なんの話だろうな~。合同イベか文化祭とか?」

 

江井「まぁ、行ってみてのお楽しみ、だろ」

 

隼人「? まぁそうだな」

 

 

 

━━━━

 

 

 

~理事長室~

 

 

隼人「失礼しま~す」

 

鞠莉「どうぞ~」

 

ダイヤ「練習お疲れ様です。お呼び立てしてすみません」

 

隼人「いえいえ。しかし理事長室でとは」

 

ダイヤ「プライベートな話なので本来ならば相応しくありませんが……」

 

鞠莉「固いことはいいじゃない♪ ただ、人目のない場所が良くてね」

 

隼人「? そうなんだ。それで話って?」

 

ダイヤ「……果南さんのことです」

 

隼人「!!」

 

ダイヤ「私が言うのも何ですが、そんなに緊張しなくて大丈夫です。ただ、お気持ちを伺いたいんですの」

 

ダイヤ「単刀直入にお聞きします。隼人さん、果南さんのことは……」

 

隼人「あぁ、好きだ」

 

ダイヤ「即答ですわね」

 

隼人「お2人には隠す必要はないし、むしろ相談したいなって思ってたからな」

 

 当初は暢気に構えていた隼人。予想外にシリアスな展開に、やや困惑気味だ

 スクールアイドルだから、と釘を刺されるのだろうかと思っていると……

 

鞠莉「誤解させたならゴメンナサイ。何もハヤトと果南の仲を邪魔したい訳じゃないの」

 

隼人「?」

 

ダイヤ「むしろ応援したいと思っています。だからこそ、果南さんへの気持ちと、その強さを確認させて頂きたいのです」

 

隼人「気持ちの強さ?」

 

鞠莉「私たちはスクールアイドルだから、もし付き合うならその辺りの配慮が必要って話は以前したわよね?」

 

隼人「あぁ、そうだな」

 

ダイヤ「隼人さんならご理解頂けているとは思いますが、もし何かお考えなら聞かせてもらえますか?急に申し訳ありませんが…」

 

 ダイヤと鞠莉にとって、果南はスクールアイドルである前に大事な親友だ。いくら隼人とは言え、中途半端な気持ちであるならば、応援などできない

 

隼人「ふむ……」

 

ダイヤ「……」

鞠莉「……」

 

隼人「俺は果南が好き。これは揺るがない。でも万が一にもAqoursの活動に支障は出したくないし、ウチの部にも影響があるかも知れない。だから、しばらく思いは伝えないつもりだ。臆病者の言い訳かも知れないが……」

 

ダイヤ「臆病だなんて思いませんわ、ちゃんとしたお考えがあってのことですし」

 

隼人「そう言ってもらえると助かるな。だからもし告白するとなれば……Aqoursのラブライブ優勝を見届けてから、かな」

 

隼人「……ごめんちょっと調子に乗った」アハハ

 

ダイヤ「いえ、素晴らしいですわ!」

 

隼人「へ?」

 

鞠莉「Yes!もうPerfectよ!」

 

隼人「Oh. んじゃあ……合格?」

 

 意外にハードルは低かったようだ

 

ダイヤ「えぇ。私たちで出来る限りサポート致しますわ」

 

隼人「それは心強い。けど一番の問題は果南が俺のことをどう思ってるかだけどね」アハハ

 

鞠莉(あらあら♪)

ダイヤ(うふふ♪)

 

隼人「? どうかした?」

 

 果南と同じようなことを言う隼人。それを聞いて、2人は微笑ましく感じた

 

ダイヤ「いえ。客観的に見て、お2人の仲は良好に思いますわ」

 

 果南の時と同じ言葉を返すダイヤ

 

鞠莉「だから、自信を持ってね♪」

 

隼人「……ありがとう!」

 

ダイヤ「あっ!」

 

鞠莉・隼人「?」

 

ダイヤ「いえ、応援するとは言え、お2人の仲を深める時点で、周りの目に気を付けるべきなのでは、と思いまして」

 

鞠莉「う~ん、確かにそうかも知れないわね。でも私たち5人でよく一緒にいるから、クラスや学校のみんなは大丈夫じゃないかしら」

 

隼人「まぁ、もし何か言われたらボディーガードってことにしとこう。人前では最大限気を付けるよ。まぁ俺ヘタレだし……」

 

ダイヤ「……わかりました。あまり神経質にならない方が良いのかも知れませんね」

 

鞠莉「しっかり果南のことを守ってあげてね♪」

 

隼人「おう!ラインだしな。でも守るのは果南だけじゃない、君たちもだ」

 

ダイヤ・鞠莉「!」

 

隼人「協力してもらう以上、何かあれば2人のことも守るのが筋だと思う。それだけじゃない、Aqoursのことも。江井ちゃんには話すし、必要ならアメフト部がAqoursにとっての盾になる。まぁ、具体的に何すれば良いかは全然わかんないけど」アハハ

 

ダイヤ「もう、其処はビシッと決めてください」フフッ

 

鞠莉「途中まではとってもcoolだったのに~」

 

隼人「あはは、よく言われる」

 

ダイヤ「しかし、隼人さんが全力サポートに相応しい方なのは良く分かりましたわ!」

 

鞠莉「Yes!ド~ンとお任せよ♪」

 

隼人「2人とも……ありがとう。よろしく!」

 

 

 

つづく

━━━━

 

 

 

ダイヤ「全く、世話が焼けますわね」フフッ

 

鞠莉「ダイヤ、ちょっとお母さんみたいね♪」

 

ダイヤ「ちょっ、何を仰いますの!?」

 

鞠莉「Sorry~。あの2人、案外似た者同士みたいね。お似合いだわ♪」

 

ダイヤ「……えぇ、そうですわね。」

 

鞠莉「ひょっとして、惜しいことしたって思ってる?」

 

ダイヤ「まさか!……ですが、気は優しくて力持ち。彼のそんな処に、果南さんは惹かれているのでしょうね」

 

鞠莉「えぇ、そうね。ふふっ、頑張ってサポートしなくちゃね」

 

 



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7話 真夏のライブ

夏休み その3

 

今日は海の家イベントが開催され、Aqoursがメインで参加する

(スクフェスのメインストーリー25章より)

 

 

千歌「準備万端!お客さん、いっぱい来てくれるかなぁ?」

 

梨子「ふふっ、頑張ろうね、千歌ちゃん♪」

 

 そこへ男子2人組がやってきた

 

「「いらっしゃいませ~!」」

 

隼人「おっ、ここで間違いないな」

 

江井「お邪魔しま~す」

 

果南(あっ♪)

 

果南「来てくれたんだね。いらっしゃい♪」

 

隼人「おう、もちろん!今日は午前中筋トレで、あとは自主練にしてきた」

 

江井「職権をフル活用だな」

 

隼人「それよりも……」

 

江井「うむ……」

 

 

 水着である

 水着である!

 いずれ劣らぬ美少女が9人、水着である

 もはや絶景という他ない。健全な男子としては(略

 

 

善子「フフッ、お久し振りね。Blaster」

 

 脳が煩悩に支配される前の絶妙なタイミングで話しかけてきた善子。正直助かったと思う男子2人であった

 

隼人「ほう、ヨハネではないか。息災であったか」

 

善子「ご心配には及ばないわ。貴方もお元気そうで何よりね」

 

花丸(始まったずら)

 

隼人「無論だ。しかしヨハネ、闇の住人たる其方がこの陽光を浴びて無事とは……中々やりおる」

 

善子「!其処に気付くとは流石ねBlaster」

 

花丸「最初は辛かったけど、段々慣れてきました。練習の成果ずら♪」

 

隼人「そっか、それは良かった。分かってるとは思うけど、水分・塩分はしっかりな!」

 

果南「花丸ちゃんとは普通なんだね」

 

隼人「そうだな、アムピトリーテー」

 

果南「えっ?」

 

江井「キャラが安定しないな」

 

 アムピトリーテー。ギリシャ神話に登場する海の女神の一柱だ

 

鞠莉「う~ん、果南がアムピトリーテーなら、ハヤトはポセイドンにしたら良いのに♪」

 

果南・隼人「!」

 

 ポセイドン。ご存知、ギリシャ神話の海の神。最高神ゼウスの兄弟で、彼に次ぐ強大な力を持っていたとされる

 

ダイヤ「荒々しいとされるポセイドンとは普段は性格が逆かも知れませんが、試合中の隼人さんはポセイドンのような気迫でしたわね♪」

 

隼人「あ~、恐れ多いのと恥ずかしいのと……」アハハ

 

果南「でもホント、カッコ良かったよ♪」

 

隼人「ありがとう。でも流石に照れる……」

 

善子(置いてけぼり……)

 

ルビィ(ど、どんまい)

 

千歌(あれ、2人はどうしちゃったの?)

 

花丸(確かギリシャ神話で、アムピトリーテーとポセイドンは夫婦だったずら)

 

千歌(そうなんだ~。2人は仲良しだからピッタリかもね~♪)

 

 

……

 

 

江井「まぁ気を取り直して、メニューあるかな?」

 

曜「こちらであります!」

 

江井「ありがとう。どれどれ……」

 

 

・スペシャルヨキソバ

・堕天使カレー

・黒ごま団子

・焼きトウモロコシ

・冷やしおでん

・ゴージャス焼き

・シャイ煮

・かき氷(ふわふわいちご・抹茶あずきミルク・みかん)

 

 

隼人「これってみんなが考えたメニューなんだよね?」

 

ダイヤ「ええ、そうですわ」

 

鞠莉「どれもおススメよ♪」

 

隼人「ふむ。とりあえず一通り頼むか」

 

江井「そうだな。腹減ったし」

 

梨子「そ、そんなに食べるんですか?」

 

隼人「男子高校生の胃袋はinfinityだからな!」

 

 量もそうだが一部怪しいメニューがある。突っ込むどころか躊躇いもなく注文した、infinity胃袋の持ち主

 

江井「流石にデザート系は1つを2人で分けたいんだけど良いかな?」

 

千歌「大丈夫です!」

 

 

……

 

 

「「ごちそうさまでした!」」

 

果南「お粗末様でした。どうだった?」

 

隼人「いや~どれも美味かった~!お世辞じゃなくマジで」

 

江井「ホント、みんな良い嫁さんになるぜ!」

 

千歌「嫁さんは照れるけど、喜んでもらえて良かったです!」

 

梨子「ありがとうございます♪」

 

果南「それは良かった♪ でも隼人君、江井君」

 

隼人・江井「?」

 

果南「視線には気付いてるからね」

 

隼人・江井「ごめんなさい」

 

 

 椅子に座っている男子2人の目線の高さは、立っているAqoursの胸元辺りになる。目の前に圧倒的存在感を放つ果南の双丘があるのだから、つい見てしまうのは仕方ない

 

 

隼人(しかしマリーや曜ちゃんも勿論だけど、花丸ちゃんが1年生にしてあの破壊力……!恐ろしいぜ……)

 

 などと考えていると

 

「「はぁ……」」

 

隼人「!」

 

花丸「なんか邪なものを感じたずら……」

 

ダイヤ「全く、殿方というのは……」

 

隼人「重ねてごめんなさい」

 

果南「まぁ見るなとは言わないけど、もうちょっと気を付けて欲しいな」

 

鞠莉「別に良いじゃない、減るもんじゃないし。もっと見せつけなきゃ♪」

 

 

ワシィッ!!

 

 

隼人・江井「!?!?」

 

果南「きゃあっ!!ちょっと鞠莉!訴えるよ!!」

 

 

 突如、鞠莉が果南のおもちを鷲掴みに!

 いや、正確には両手で下から持ち上げた形だ。が、この状況ではその違いは意味をなさない!

 

 

ダイヤ「鞠莉さん!?破廉恥です!お止めなさい!」

 

「「あわわわわ……!」」

 

 これには他のAqoursメンバーもビックリである

 

 一方男子は……

 

隼人「」

江井「」

 

 あまりの衝撃に固まってしまったようだ……

 

 

 

━━━━

 

 

 

江井「ん~なんか昼を食べてからの記憶が曖昧だな……」

 

隼人「うむぅ。なにか途轍もないものを見た気がするんだけどな……」

 

果南「別に!何もなかったと、思うよ!」

 

隼人「う~んそうかなぁ~。まぁ、良いか」

 

果南(ホッ……)

 

鞠莉(果南ごめんね?)

 

果南(もうホントだよ!)

 

隼人「みんなこの後はライブだよね。何か手伝うことある?」

 

ダイヤ「いえ、もう大丈夫ですわ。昨日アメフト部の皆さんに手伝って頂きましたから」

 

鞠莉「まさかあんなに来てくれるなんてね。まさに百人力デース!」

 

ダイヤ「しかしご迷惑ではなかったのですか?アメフトの練習もあったでしょうに」

 

隼人「とんでもない!むしろみんな喜んでたし」

 

曜「そうなんですか?」

 

隼人「あぁ。先日のハーフタイムショー以降、ウチの部のAqours熱が凄くてさ」

 

江井「Aqoursの手伝いって、むしろ士気を上げるにも丁度良かったんだよね」アハハ

 

 

 暑い中、練習もマンネリ化しがちなこの時期、どうしても心身が疲れ気味になる

 そこに憧れのAqoursと一緒にイベント準備となれば当然テンションは上がる

 純粋にAqoursの力になりたい者、少しでもお近づきになりたい者。理由は様々だろうが、アメフト部有志が集まった

 ついでに筋トレにもなり、Aqoursとしては強力な助っ人が来た。所謂win-winである

 彩色や風船などは、所謂神モブのみんながやってくれた

 

 

ルビィ「ルビィ、重たい物を運ぼうとしてて困ってたら、クラスの男の子が助けてくれたんだ!」

 

ダイヤ「ふふっ、良かったですわね、ルビィ」

 

ルビィ「うん!話したことなくて、最初はちょっとビックリしちゃったんだけど、優しい子だったから安心したんだ」

 

隼人「そいつぁ、良かった」フフッ

 

梨子「私たちだけじゃ運べないものもありましたし、ホント助かりました!」

 

善子「まぁ、このヨハネの魔力を以てすれば造作もないのだけれど」クックック

 

花丸「善子ちゃんもいっぱい手伝ってもらってたずらね♪」

 

善子「うっさい!あれはリトルデーモン達に指令を出してたの!」

 

千歌「各地で大活躍だったみたいだね。こんな身近に私たちのファンがいて、イベントを手伝ってくれるのってホント嬉しいね!」

 

隼人「……まぁ、お役に立てたなら何よりだ」

 

江井「だな」

 

果南「何照れてるのさ♪」

 

 そう言いながら隼人の脇腹をつつく果南

 

隼人「ぷにっ。いや、別に照れてないし」

 

鞠莉(そんな果南は妬いてるのかしら♪)

 

江井「んじゃまぁライブまでちょいと泳ぐか」

 

隼人「そうすっか。じゃあみんなまた後で!頑張ってな!」

 

果南「うん!また後でね!」

 

千歌「よ~し、じゃあみんな頑張って行こ~!」

 

「「お~!!」」

 

 

 

━━━━

 

 

 

<終わらない夏への扉を

 

<Ah 情熱で灼かれたい

 

<地元愛!

 

<こんなに楽しい夏が、ずっと続いてくって信じてたよ

 

 

 

 

 それぞれ2人または3人に分かれ、夏をイメージした4曲が披露された

 早めに席を確保し前列でライブを見た隼人たち。アメフト部の他のメンバーもちらほら見えた。皆、彼女らのパフォーマンスのトリコとなったことだろう

 

そして何より……

 

 

隼人(なんか、ライブ中にちょいちょい果南と目が合った気がするんだが……。いや落ち着け。果南はアイドルなんだから、ファンサービスみたいな感じだろ。俺だけに向けた訳じゃないハズだ……それはそれで凹むけど……)

 

 高まる胸を抑えながら、尚も自問自答を続ける

 

隼人(それでもまぁやっぱり、ドキドキしちまう俺がいる訳で……)

 

 鞠莉とダイヤに約束した以上、しばらく想いを伝えることはない。勢い余って言いそうになったことはあるが

 

江井「どうした隼人?。ライブの片付け、手伝おうぜ」

 

隼人「おう。行くか」

 

江井(……わかりやすいな、我が相棒は)フフッ

 

隼人(とりあえず今は、一緒にいられるだけで……充分かな。くれぐれも、粗相のないようにってね)

 

 

 言えない想いのその先で、ステージに輝く彼女の笑顔

 それは些か、今の彼には眩し過ぎるようだ

 

 

 

つづく

━━━━



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8話 夏祭り

リアルの友人から、焦れったいと感想をもらいました
あと暴走に気を付けてと……

今回は特に力を入れた回その2です
果南が可愛く書けていれば良いなと思います
それではどうぞ


夏休み その4

 

 今日は夏祭りが開催される

 果南・ダイヤ・鞠莉・隼人・江井の5人で行くこととなった。Aqoursみんなで行こうという話も当然出たが、あまり大人数だと行動しにくいため、学年で分かれる案に落ち着いた

 そんなこんなでお祭り会場入り口付近に集合。約束の時間10分前

 

 

隼人「おっす!早いな」

 

果南「ううん、私たちも今来た処だよ♪」

 

ダイヤ(果南さん、とても楽しみにしていたようですからね)フフッ

 

鞠莉「ところで、私たちの浴衣、どうかしら?」

 

 

 3人は、各々のイメージカラーが基調の浴衣を着ている。それぞれ違う魅力があり、何かの撮影かと思われてもおかしくないほどで、現に道行く人がちらほらこちらを見ている

 因みに男子の方も、体格が良いためか甚平がそれなりに似合っている

 

 

江井「ふむ……ダイヤさんは流石の着こなし、マリーさんは普段とのギャップが良い感じだな!」

 

ダイヤ「ふふっ、ありがとうございます♪」

鞠莉「Thank you♪」

 

江井「果南さんは……お前が言え!」

 

隼人「お、おう!」

隼人「……」ジー

 

果南「ど、どうかな……?」

果南(ん~なんか、ドキドキしちゃうな……///)

 

隼人「……」ボー

 

ダイヤ・鞠莉(あらあら♪)

 

果南「あ、あの……そんなに見られると恥ずかしいんだけど///」

 

隼人「あっ、あぁすまん……」

 

鞠莉「もしかして、ハヤトったら果南に見惚れちゃったの?」

 

果南「えっ、そうなの……?」

 

隼人「うん、恥ずかしながら……」

 

 照れながら頬を掻く隼人

 

隼人「なんて言うかその……浴衣、似合ってる。髪の結び方も、いつもと違うんだな。美しさと凛々しいのと……綺麗だよ、果南」

 

隼人「ってすまん!何言ってんだ俺……///」

 

果南「ううん。ありがとう♪」

 

隼人「……あぁ」

 

江井(あ~、何か暑いな)

ダイヤ(完全にお2人の世界ですわね)

鞠莉(2人ともシャイニーね☆)

 

ダイヤ「……お取込み中すみませんが、そろそろ参りましょうか」

 

果南「うん!」

隼人「おう!」

 

 

 

━━━━

 

 

 

鞠莉「スーパーボールすくいがあるわ。丁度空いてるし、やってみましょう♪」

 

果南「ふふっ、ちょっと久々かもね」

 

隼人「よっしゃ! ん?ダイヤさんどした?」

 

ダイヤ「あ、いえ。なんだか懐かしいなと思いまして」

 

 それぞれお金を払い、ポイを受け取る。ポイは最中の生地のようになっている

 

隼人「毎回思うんだけどさ、このポイにジャム付けて食べたら美味そうだよな」

 

江井「うむ、スーパーボール掬ってから試してみれば?」

 

隼人「No way!」

 

果南「漫才はその辺にして、やろ♪」

 

隼人「……ッ/// そうだな!」

 

隼人(あ~、ヤバい……)

 

江井(今のは仕方ない)フフッ

 

 ますます果南の笑顔に弱くなった隼人であった

 

……

 

 

鞠莉「じゃあ、いっちょやっちゃいますか!」

 

 

 それぞれしゃがみ込んで掬い始める。皆それなりに器用なのか1つ2つと掬い上げる

 小休止しようと隼人が顔を上げると、左前に位置する果南が目に入った

 

 

隼人(やっぱり今日は一段と綺麗だなぁ。美丈夫って言うのかな……)

 

 楽しみながらも真剣な果南の横顔に、再び隼人は見惚れてしまう

 すると

 

ダイヤ「あら?ポイが流れてきましたわ」

 

江井「てか隼人のじゃね?」

 

 ハッとして手元を見ると、右手に持っていたハズのポイが金具だけになっていた

 

鞠莉「残念~ハヤトが最初に脱落ね!」

 

果南「隼人君どんまい♪」

 

隼人「……ハハッ」

 

 肩をすくめ、おどけた表情で誤魔化した

 

 

 

━━━━

 

 

 

隼人「さ~て次は~っと」

 

トン!

 

果南「きゃっ!」

 

隼人「おっと」

 

通行人「あっ、すみませ~ん!」

 

果南「大丈夫で~す」

 

 果南が通行人と接触しバランスを崩した処を隼人が受け止めた。必然的に2人の距離は近くなる

 

果南「あっ、ありがと///」

 

隼人「あぁ……/// ケガは、ない?」

 

果南「うん、大丈夫……♪」

 

 またもや2人の世界になってしまった。するとダイヤが何やら考え込み……

 

ダイヤ「やはり二手に分かれましょうか」

 

鞠莉「そうね。その方が動きやすいわね」

 

江井「んじゃ、そうするか。じゃあ隼人、しっかり果南さんを守るんだぞ!」

 

ダイヤ「1時間程したら、また入り口に集合致しましょう」

 

鞠莉「じゃあ果南も頑張ってね~♪」

 

果南「え!?ちょっと待って!」

 

隼人「ちょ、え?マジで?」

 

 まるで示し合わせていたかのように去っていく3人。人込みに紛れ、あっという間に見えなくなった

 

隼人(気ぃ利かせてくれたの……かな?)

 

果南「2人に、なっちゃったね」

 

隼人「あぁ、そうだな。まぁ、とりあえず回ろうか!」

 

果南(折角2人きりなんだし、鞠莉に言われたように、積極的に……)

 

果南「ねぇ……手、繋がない?その、はぐれないように、さ」

 

隼人「!」

 

果南「どう、かな……?」

 

 

ギュッ

 

 

果南「!」

 

隼人「さぁ、行こうぜ!」

 

果南「……うん♪」

 

果南(隼人君の手って思ったより大きいな。なんか安心する)

 

隼人(ヤバい、ドキドキする……。手汗とか大丈夫かな?)

 

 果南の誘いに応え、手を握る隼人。流石に恋人繋ぎではないが、今の2人はこれでも充分満足だろう

 

 

 

━━━━

 

 

 

果南「あ!射的があるよ、やってみない?」

 

隼人「おっ、やってみるか!」

 

果南「折角だし、勝負しない?」

 

隼人「そりゃあ良いな。取った個数で勝負するか」

 

隼人(果南に勝てる気はしないけど、楽しけりゃ良いか)

 

果南「オッケー!」

 

 お金を払い、弾を5発受け取る

 

隼人「しかし久々だな~。構えはこんな感じだっけ?」

 

果南「ん~ちょっと変だな。ここをこうして……」

 

隼人「え!?あ、おっおう」

 

 隼人のフォームを修正する果南。当然2人の距離は近くなり、さらには果南の手が隼人に触れることになる

 

隼人(今日の果南はどうしたんだ?やけに積極的というか……)

 

果南「そのまま狙って撃てば大丈夫なハズだよ」

 

隼人「……了解」

 

隼人(煩悩退散煩悩退散……)

 

コン!

 

果南「やった♪当たったね!」

 

隼人「ふぅ……お陰様で」

 

果南(ふふっ、動揺しちゃってかわいいかも♪)

 

 そんな果南の顔も赤くなっているのは何故だろうか

 

 

……

 

 

 その後は果南が先攻になり、3発目までお互いノーミスで景品を撃ち落としていく

 

果南「さて次は……っと!」

 

 4発目も果南は難なく命中

 

果南「よっし、これでリーチだね!」

 

隼人「流石果南だな~。じゃあ次は、あのデジ〇ンのにしよう」

 

果南「あれは結構重そうだね。大丈夫?」

 

隼人「とりあえず狙い撃つ……なっ……!」

 

果南「惜しい~!」

 

 隼人が撃った弾は見事景品に命中。しかし位置はズレたものの、落ちるには至らなかった

 

隼人「マジか!あいつ体幹強いな~」

 

果南「体幹って……プランク得意なのかな? これで私が一歩リードだね」

 

果南「じゃあ次も遠慮なく……っと。やった♪」

 

隼人「パーフェクト!ってことは俺の負け確定か。まぁ気持ち切り替えてあいつを……うっし!」

 

果南「あっ!今度は落ちたね。さっきのが効いたのかな」

 

隼人「かもな。まぁこいつ欲しかったから良いや」

 

射的店主「はいよ。お2人さんのはこれで全部かい?」

 

果南「そうですね。ありがとうございます」

 

店主「おう。また来てな!と言いたい処だが、毎回あんだけ取られちゃ商売上がったりだな!ハハハ! 今度は2人専用の的でも作って待ってるよ!」

 

隼人「そりゃあ楽しみですね。また来年も2人で来ますよ!」

 

果南「!」

 

店主「おう。また来てな!」

 

 射的を後にし、2人はまた手を繋いで歩き出す

 

 

……

 

 

隼人「豪快で気さくなおっちゃんだったな」

 

果南「ふふっ。そうだ!罰ゲームは何にしようかな~♪」

 

隼人「罰ゲームあるのか!お手柔らかに」

 

果南「じゃあ色々食べ歩きしよ♪隼人君の奢りで!」

 

隼人「仰せのままに!」

 

果南「ハハッなにそれ。じゃあまずはそこのリンゴ飴一緒に食べよ♪」

 

隼人「おうよ」

 

果南「ん~どれにしようかな~。隼人君先に取っちゃって」

 

隼人「ふむ、じゃあこれだ!」

 

果南「即決!?ちょっとでも大きいのとかにしないの?」

 

隼人「それも良いんだけど、やっぱセンターで!」

 

果南「なるほどね。じゃあ私はこれにしよっと♪ じゃあ乾杯しよ♪」

 

「「かんぱ~い」」

 

隼人「因みにそれにした決め手は?」

 

果南「う~ん、内緒♪」

 

隼人「あらら。まぁいっか」

 

果南(隼人君の隣のが良かったんだよね。えへへ)

 

果南「あっ、でもこれじゃ手繋げないね…」

 

 隼人は射的の景品をまとめた袋を持っているため、リンゴ飴で手が塞がる

 

隼人「う~ん……ちょっとこれ持っててくれる?」

 

果南「あ、うん」

 

 リンゴ飴を一旦果南に渡し、荷物を右肘にかける。そしてリンゴ飴を右手で持てば左手が空く

 

隼人「これでOK!」

 

果南「ありがと♪ これならわたあめでもいけるね!」

 

隼人「ハハッ、お任せあれ!」

 

 

 

━━━━

 

 

 

~お祭り会場入り口。即ち集合場所~

 

 

鞠莉「あの2人は上手くやってるかしら♪」

 

江井「尾k……様子を見守ろうと思ったけど見失っちまったからな」

 

ダイヤ「もう、鞠莉さんが急にいなくなるからですわ!」

 

鞠莉「Sorry~。色んな誘惑に負けちゃった♪」

 

江井「まぁあのケバブ美味かったし結果オーライで、な」

 

ダイヤ「まぁ、もう終わったことですし仕方ありませんわ」

 

江井(しかしダイヤさんが尾行に一番ノリノリだったのは意外だな)

 

江井「お!来たんじゃないか?……って、おい」フフッ

 

ダイヤ「予想以上ですわ♪」

 

鞠莉「ふふっ、仲良しさんね♪」

 

 3人が見たのは手を繋いで寄り添い歩く、果南と隼人の姿であった

 

果南「あ、みんなもう来てたんだね」

 

3人「」ニヤニヤ

 

果南・隼人「?……ッ!」

 

 手を繋いだままだったことに気付き、思わず手を離す2人

 

鞠莉「あらぁ、別にそのままでも良かったのに~♪」

 

果南「いや、その、流石に恥ずかしい///」

 

江井「いや~見せつけてくれるねぇ~」

 

隼人「マジで恥ずかしいから止めてくれ……///」

 

ダイヤ(ふぅ、本来あまり目立つのは良くないのですが、それを言うのは野暮ですわね)フフッ

 

ダイヤ「みなさん、もうすぐ打ち上げ花火の時間です。移動しましょう」

 

4人「は~い」

 

 

 

━━━━

 

 

 

 一行は、予め決めておいた花火が良く見える場所へと移動する

 

 海岸の方から打ち上がった大輪の花が、夜空を彩る

 

 

「「たーまやー!」」

 

「シャイニー!」

 

「これは見事ですわ!」

 

「綺麗だね……!」

 

「あぁ……」

 

 

チョンチョン

 

 

「?」

 

 

ギュッ

 

 

「!」

 

(フフッ♪)

(あらあら♪)

(これで付き合ってないとかマジかよ)

 

 

 其処には、照れながらも嬉しそうに手を繋ぐ2人と、優しく見守る3人がいた

 

 

 

━━━━

 

 

 

江井「いや~今日は楽しかったな~」

 

鞠莉「とってもシャイニーな一日だったわね!」

 

ダイヤ「えぇ、予想以上に充実していましたわ」

 

ダイヤ(特に、お2人にとって♪)

 

果南「みんなありがとう。楽しかった♪」

 

隼人「なんか、気ぃ使ってくれたみたいだし。ありがとう」

 

鞠莉「さぁ、何のことやら♪」

 

江井「まぁ明日もみんな練習だろうし、そろそろ解散すっか」

 

ダイヤ「そうですわね。ではみなさん、失礼致します」

 

鞠莉「Ciao~☆」

 

隼人「おう、おやすみ~」

 

果南「またね~」

 

 

……

 

 

キュッ

 

 

隼人「?」

 

 

 彼が振り返ると、果南が袖をつまんでいた。やや俯いて、顔を赤らめているように見える

 

 

果南「ねぇ、もう少しだけ、一緒にいない……?」

 

 

隼人「! あぁ。喜んで」

 

 

……

 

 

 それから2人は、近くにあったベンチに並んで座った。特に何を話す訳ではない。だが2人寄り添って座っている、これだけで充分幸せを感じていた

 

 そして隼人は、今日幾度となく果南に見惚れていた。花火が照らす横顔、澄み渡る泉のような瞳、今宵の星空のように煌めいて靡く黒髪、その全てが彼を魅了していた

 

 しばらくして、果南が口を開いた

 

 

果南「お祭り、楽しかった?私はすごーーっく楽しかったよ。ありがとう♡」

 

隼人「俺もすっっげぇ楽しかった!ありがとな」

 

果南「……また来年も、一緒に来たいな」

 

隼人「……だな。射的のおっちゃんにも約束したし」ハハッ

 

果南「ふふっ♪ じゃあそろそろ帰ろっか。ゴメンね付き合わせちゃって」

 

隼人「なんのなんの。まぁその、俺も少しでも長く一緒に居たかったし……」ゴニョゴニョ

 

果南「ん?」

 

隼人「あ~いや……やっぱり手を、繋いで帰りたいな、って……」

 

 

ギュッ

 

 

隼人「!」

 

果南「えへへ、さっきと逆だね♪」

 

隼人「ハハッ、そうだな」

 

 

 この日はお互いの気持ちが深まった2人にとって、特別な夏祭りになった

 

 

 

つづく

━━━━




参考動画
https://www.youtube.com/watch?v=Snuq-CAlnuU
沼津夏祭り


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9話 恋とアメフトと

遅くなりました。今回はちょっとシリアス?です
難産でした。私にはこれが限界……
またアメフト描写あります


2学期 その1

 

 夏休み終盤、アメフト部・Aqours共に夏合宿を行い、その後Aqoursは予備予選があった

 梨子のピアノコンクールと重なって8人での出場となったが、だからこそ想いがひとつになるライブとなった

 そして9月も半ばとなった今日、高校アメフト選手権秋季大会が始まる

 

 

~初戦・試合前~

 相手は春にも対戦して勝利した高校。正直言うとかなり格下だ。しかし静岡1位でないと関東大会に進めない。試合数が少ない分、ここでの負けは断じて許されない

 

 

監督「相手が格下だからと気を緩めるな。まずは初戦、大勝して勢いに乗ろう。圧倒的なパワーと圧倒的なスピードで圧倒的に勝つ!行くぞ!」

 

「「はい!!」」

 

 

「ハードタックル、レディーッゴー!!」

 

 

……

 

 

試合終了

80-0

 

 まさに圧倒的であった。厳しい練習の成果と、相手選手の殆どがオフェンスとディフェンス両面出場というのも要因か

 「こんな点数あり得ない」と思われるかも知れないが、実際に 102-0 という試合も存在する

 

 

 

━━━━

 

 

 

~翌日・教室にて~

 

果南「おはよ!試合どうだった?」

 

隼人「おう!もうボコボコよ」

 

鞠莉「Fantastic!見に行きたかったわ~」

 

ダイヤ「お気持ちはわかりますが、練習をお休みにする訳にも……」

 

江井「ハハハ。でもいつだかウチのグラウンドで試合あるよな?」

 

隼人「確か県大会最終戦だな。まぁ練習の合間にでも見てくれ」

 

鞠莉「ふふっ、そうするわ♪」

 

隼人「おうよ。でもまぁ今回はあんまり手の内を見せずに勝てて良かったわ」

 

 どのスポーツもそうだろうが、試合になると他チームが敵情視察でビデオを撮るなどしてミーティング資料にする。逆に、敢えてトリックプレーを行い、相手のミーティングの手間を増やすこともできる

 因みに練習の偵察はNGだ

 

果南「それは凄いね。次の試合も頑張ってね!」

 

隼人・江井「おう!」

 

 

 

━━━━

 

 

 

~数週間後~

 

 Aqoursは予備予選2回目を無事に終え、アメフト部は続く試合も無事に勝利し、残すは最終戦となった

 そんなある日、練習を終え1人帰宅中の果南

 

 

果南(今日も良い練習だったな。あとは休息あるのみだね)

 

??「あ、ひょっとして松浦果南さんだよね?」

 

果南「え?そうですけど……」

 

 他校の男子生徒に話しかけられた。体格は隼人に似ているが、この生徒の方がやや横に大きい

 

生徒「俺ファンなんです!会えて良かった!」

 

果南「あ、ありがとうございます」

 

生徒「それで、あの、突然なんだけど……」

 

果南「はい?」

 

生徒「すっ好きです!付き合ってください!」

 

果南「……!?」

 

 

……

 

 

 居残り自主練(通称アフター)を終え帰宅する隼人。ロングスナップを極めるべく、今日も練習に打ち込んだ

 

隼人(う~ん悪くはなかったが、職人としちゃあまだまだだな~ってそうだプロテイン買い足そう)

 

 タンパク質は身体作りに重要だ。吸収時間も考慮して、運動後と寝る前では少し成分が異なる

 彼が買い物を済ませると……

 

隼人「お、果南じゃん!ってあれは……」

 

 

……

 

 

果南「あの、気持ちは嬉しいけど、初対面だし私スクールアイドルだし……」

 

生徒「そこを何とか!」

 

果南「ア、アハハ……」

 

 なかなか引かない相手に困惑し、乾いた笑いが出る果南

 そこへ

 

隼人「おっす果南! んで、そっちは久々だな」

 

生徒「お前は……浦の星のセンター!」

 

果南「知り合いなの?」

 

隼人「あ~彼は別の高校のアメフト部でな、試合でよく当たるんだわ」

 

 

 この生徒はディフェンスライン。その中でも中央付近に位置するディフェンスタックル(DT){またはノーズタックル(NT)}

 両者は試合中何度もぶつかり合うポジションだ (以降、彼をNで)

 

 

隼人「しかしグラウンド以外で会うのは初めてかもな。何やってたの?」

 

N「別に、たまたま通っただけだよ」

 

果南「なんか、私のファンらしくて……」

 

隼人「お~それで会いに来たと。行動力は大したもんだが、あんまり果南を困らすなよ?」

 

N「……困らせてねぇよ。大体、お前は果南さんの何なんだ?」

 

隼人「……ボディガードだ」

 

果南(……)

 

N「ボディガード?」

 

隼人「そう。不届き者からAqoursを、果南を守るためのな」

 

N「なんだそりゃ。まぁ良いや。とりあえず今日は帰るわ……今度の試合、よろしくな」

 

隼人「こちらこそ。まぁ、また俺たちが勝つけどな!」

 

N「言ってろ。それと、果南さん。やっぱり、さっきはゴメン。でも俺は諦めないから。じゃあね!」

 

果南「え、うん。さようなら~」

 

 そう言って去っていくN。少し頭が冷えたか、いくらか反省した様子だった

 

隼人「やっぱり……何かあったのか?」

 

果南「うん、まぁ……ちょっとね……」

 

 流石に動揺が隠せない果南

 

隼人「……どうしたんだ?」

 

果南「その前に、一つ聞かせて。隼人君が心配してくれるのは、ボディガードだからなの?」

 

隼人「……あぁ、そうだ」

 

果南「……そう、なんだ」

 

隼人「でも、それだけじゃない。上手くは言えないんだけど……俺は、果南のこと、大事に思ってるから……だから……」

 

果南「うん、わかった。ありがとう♪ じゃあその、さっき実は……」

 

 事務的というか、義務感で心配してくれていたと不安になった様子であったが、そうじゃないと分かり一先ず安心した果南。先ほどの押し掛け告白について話した

 

隼人「そんなことが!他に何か嫌なことはされてない?」

 

果南「ううん、それは大丈夫。まぁ流石にビックリしたけどね……」

 

隼人「そっか。しかしまぁ……ホント、見上げた行動力だ……」

 

 後半は独り言に近かった。伝えてしまいたい気持ちと裏腹に、告白しないと決めた隼人には、羨ましいという気持ちすらある

 しかし何より

 

隼人「守ってあげらんなくて、ごめんな」

 

果南「ううん、あの時来てくれたから助かったんだよ?ありがとう」

 

隼人「でも……」

 

果南「じゃあ今度の試合、絶対勝って優勝して!そこでカッコ良い処みせてほしいな♪」

 

隼人「……わかった、約束する!」

 

果南「うん♪」

 

 

 

━━━━

 

 

 

~数日後~

 

 静岡県大会最終戦。浦の星と、Nがいる高校が対戦する

 両校とも全勝のため、この試合が事実上決勝戦と言っても過言ではない

 

 

監督「いよいよ県大会最終戦だ。いつも通り、お前らの圧倒的なアメフトをやれば大丈夫だ。行くぞ!」

 

「「はいッ!!」」

 

 

「行くぞお前らあぁぁぁぁ!!」

「おうッ!」

「ぶちかますぞォッ!!」

「おうッ!」

「絶対優勝すんぞォォォォォォッ!!!!」

「「「ファイ、オー、ファイ、オー、ファイ、オーーーーッ!、トゥーーッッ!!!!」」」

 

 

……

 

 

~一方のAqours~

 

 屋上にて練習の休憩中

 

鞠莉「試合、始まったわね」

 

果南「……うん」

 

ダイヤ「隼人さーん、やっておしまいなさーい!!」

 

果南「ちょっとダイヤ!?」

 

ダイヤ「ファンの方と言えど、あんな不届き者は成敗ですわ!」

 

 先日の件を2人に話した果南。ダイヤはかなりご立腹のようだ

 

千歌「ダイヤちゃんはどうしちゃったの?」

 

ルビィ「困ったファンが果南ちゃんに押し掛けてきたみたいだよ」

 

千歌「そうだったんだ~。果南ちゃん大丈夫?」

 

果南「うん。ちょっとビックリしたけど大丈夫。隼人君が来てくれたから」

 

曜「おぉ~隼人先輩カッコ良い~!でも私たちも気を付けなきゃだね」

 

 そうこうしているうちに、浦の星オフェンスが始まる

 

 

……

 

 

 QBの指示が出され、各々所定の位置に着く

 隼人とNがほぼ目の前で対峙する

 

 

N「センター行こうぜ!」

 

隼人「DTよろしくぅ!」

 

 

 お互いに挑発し合い、テンションを上げる。試合中のこの2人にはいつものやり取りだ

 因みにこのN、軽い性格はしているが、静岡でも屈指のDLだ。彼にこちらのプレーが止められたのは一度や二度ではない

 

 

隼人(果南のためにも、気合い入れて行くぜ!)

 

 

……

 

 

 第2クォーター終盤、一進一退の攻防を続け 14-14 の展開

 浦の星の攻撃

 

 

QB「右プロIからBlast。コール1、レディ」

 

「「GO!」」

 

 いつもの通りQBから指示が出て、所定の位置につく

 

QB「行きますDown。Set、Hut!」

 

隼人「ブリッツ!」

ゴン!ガゴン!

 

 

 Blast。もはや定番のプレーだ。無論他にも様々なプレーを織り交ぜているが、浦の星のBlastは要注意、と他チームも警戒している。そのため、この時相手チームはブリッツを2人同時に仕掛けてきた

 隼人たちオフェンスラインも反応はしたが、どうしても走路がつぶされる

 

 

ピピーッ!

 

 

 殆ど前進できずプレーが止まる。2枚ブリッツならある程度仕方ないか

 しかし選手が1人うずくまっている。どうやら浦の星の選手のようだ。激しい接触が多いスポーツであるため、ケガ人が出ることが少なくない

 

 

……

 

 

善子「ちょっと誰か倒れてるけど大丈夫なの!?」

 

花丸「人がもみくちゃになってて……あ、見えたずら」

 

梨子「赤いユニフォームで69って、もしかして……」

 

果南「隼人君ッ!?」

 

 

 仲間に支えられながら立ち上がる隼人を見て、動揺が隠せない果南。自分が傷つくより仲間が傷つく方が耐えられない彼女。グラウンドまで駆け付けたい気持ちだろう

 しかし幸い大したことはなく、そのまま試合に出るようだ

 

 

鞠莉「果南、気持ちは分かるけど、私たちが知ってるハヤトならきっと大丈夫」

 

ダイヤ「えぇ。今の私たちにできるのは、信じて応援することですわ」

 

果南「……うん」

 

果南(隼人君……)

 

 

……

 

 

 そのまま敵陣深くまで攻めた浦の星アメフト部。しかしタッチダウンは取れそうになく、キックで3点追加 17-14

 ちょうど時間を使い切り、そのまま前半終了

 

 

監督「さっきはどうした隼人、大丈夫か?」

 

隼人「すいません、軽い"ももかん"です。冷やしときゃ問題ないと思います」

 

監督「わかった。ゆっくり伸ばしながら冷やせよ」

 

隼人「はい」

 

 ももかん。太ももの強い打撲だ。太ももにもパッドは入っているが、全面保護ではないためしばしば起こる

 因みに結構痛い

 

マネージャー「隼人さん氷です!」

 

隼人「ありがと!」

 

 患部に氷袋を当て、軽くテーピングで固定しゆっくりストレッチする隼人

 

隼人(カッコ良い処を見せるって約束したけど、みっともない処見せちゃったな。まぁ、気持ち切り替えて後半だ)

 

 

……

 

 

後半

 江井を始めディフェンス選手が踏ん張るも、一本取り返されてしまう。17-21

 そしてキックオフで攻守交代し、試合を続ける

 

 試合が進むに連れて、隼人の様子が変わっていく。幾度となく対戦しているNは、その変化を感じていた

 

 

N(なんかアイツいつもと違うな。なんつーか……止まらねぇ)

 

 

 そう、止まらなかった。中央のランプレーは、堅実にゲインこそするが、一気に距離を稼ぐことは少ない

 それでも止まらない。ファーストダウン(攻撃権を更新)しまくって、敵陣へと進む

 夏の招待試合の時、いやそれ以上の気迫で、ブリッツなどお構いなく道をこじ開けてフィールドを支配していた

 

 

隼人(……)

 

N「ぐっ……!」

 

 

 もはや誰も止められない……!

 ゴール前ディフェンスで相手が前衛を固めた処で、もう手遅れだった

 

 

ピピーッ!

 

 

 審判がタッチダウンのホイッスル!

 その瞬間

 

 

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 隼人のその咆哮は会場中に轟き渡り、見る者全てを圧倒していた

 

 

……

 

 

ダイヤ「手負いの獣は恐ろしいと言いますが……」

 

鞠莉「えぇ、いつにも増して気迫が凄いわ……」

 

善子「もう、ホントにポセイドンじゃない」

 

果南「ビックリしたけど、ちょっと安心した……♪」

 

 

 

━━━━

 

 

 

試合終了 31-21

 

 ここに浦の星の静岡大会優勝が決定し、春大会に続き関東への切符を手にした

 

 

審判「ナイスゲーム!」

 

「「ありがとうございました!!」」

 

 そしてすれ違い様に言葉を交わす選手たち

 

N「……負けたよ」

 

隼人「……おう。お前らの分まで、関東で暴れてくる」

 

 その先の言葉は、口に出さなくても分かる

 

((またいつか、戦おうぜ!))

 

 

 

━━━━

 

 

 

~挨拶やアメフト雑誌の取材などが終わり帰り道~

 

 

隼人「あ~、めっさ疲れた。でもホント、優勝できて良かった~!」

 

江井「ホントだな。てかまた後半の隼人はマジでどうしたあれ?」

 

隼人「正直、はっきり覚えてないんだよな。でもなんかランが止まる気がしなかったし、思わず叫んじまったな」

 

江井「あれはなかなかの迫力でカッコ良かったけどな」

 

 隼人の相棒たる江井から見ても珍しい光景だった。あの時隼人は、超集中状態"ゾーン"に入っていたのかも知れない……と

 

果南「隼人君!」

ダイヤ「優勝、おめでとうございます!」

鞠莉「とってもシャイニーだったわ!」

 

隼人・江井「ありがとう!」

 

果南「ケガは大丈夫なの?」

 

隼人「あぁ、大丈夫。念のためまだ冷やしてるけど」

 

 そういう隼人の右太ももには、服が濡れるのも構わず氷袋がテーピングしてある

 

果南「……」

 

江井「じゃあ俺は先に帰るから、ゆっくり歩いて帰れよ!」

ダイヤ「お大事になさってください」

鞠莉「ふふっ、あんまり無茶はしないようにね♪」

 

隼人「あ、あぁ」

 

 そうして夏祭りの時のように去っていく3人

 

果南「……ホントに、心配したんだよ?」

 

隼人「ゴメンな心配かけて。でももう痛みもないし、安心してくれ」

 

果南「……うん」

 

 するとそこへ

 

N「よう、お二人さん」

 

果南「!」

 

隼人「爽やかに終わったと思ったのに締まらんヤツだなおい」

 

N「まぁそう言うなって。果南さん」

 

果南「あ、はい」

 

N「潔く諦める。迷惑かけてごめんなさい。んじゃ、頑張れよ"ボディガード"」

 

 そう言って去っていくN

 

隼人「フッ……カッコつけやがって」

 

果南「でも隼人君のあの雄叫び凄かったよ。カッコ良かった♪」

 

隼人「ハハッ、なんか恥ずかしいな。あの時はホントに不思議な感覚でさ、相手の動きが良く見えて、自分が凄い動けて……。タッチダウンした時はなんかもう爆発した感じだった」

 

果南「そうだったんだね。そうだまだ言ってなかった。優勝おめでとう♪関東大会も頑張って!」

 

隼人「おう、ありがとう!」

 

 

 

つづく

━━━━

 

 

果南「私の気持ちも、もう……」

 



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10話 溢れ出す恋心

ついに来ました。このSSで一番書きたかった回です
ぶっちゃけこの話のためにSS書き始めました
早速どうぞ


2学期 その2

 

 先日無事に静岡大会を勝ち抜いた浦の星高校アメフト部

 いよいよ関東大会が始まり、高校アメフト界は盛り上がりを増している。昨日の1回戦を何とか勝ち、春大会の成績は越えた

 次の試合は春に負けた高校。リベンジに燃える隼人達ではあるが……

 

 

隼人「流石に遠征翌日はダルい……」

 

江井「全身の筋肉痛が……」

 

ダイヤ「もう、お2人ともだらしないですわよ。シャキッとしてくださいな」

 

鞠莉「そうやって机に寝てると、なんだかゆるキャラみたいね」

 

果南「……」

 

隼人「あれ、果南もなんか元気ない?」

 

果南「えっ、あぁ別に大丈夫だよ」

 

隼人「ん~なら良いんだけど」

 

江井「しかしスクールアイドルってさ、俺らと違って監督やコーチがいない訳じゃん?その辺り大変だよな~」

 

隼人「確かにな。そうすると3人が選手兼監督、みたいな?そりゃ疲れるわ」

 

ダイヤ「確かにアドバイスをすることはありますが、みんなで意見を出し合うことも多いですわ」

 

鞠莉「それに何より楽しんでやってるし、大変ってことはないから問題ナッシングよ♪」

 

果南「でも今は、千歌が猛特訓中なんだけどね」

 

隼人「あらまぁ。それが気になってたの?」

 

果南「う、うん。まぁね。でも、そもそもどう見ても2人の方がヘロヘロなんだから、しっかりケアしてね?」

 

鞠莉(果南がハグすれば一発だと思うけど♪)

 

ダイヤ「でも授業中に寝るのはぶっぶーですわよ!」

 

江井「それは勿論。まぁ昼には多少回復するハズだ」

 

 

……

 

 

~授業中~

 

教師「じゃあ、この問題を……松浦、解いてみて」

 

果南「……」

 

教師「おーい松浦、聞いとるか?」

 

ダイヤ(果南さん、当てられてますわよ!)

 

果南「あっ、はい!」

 

教師「ちゃんと集中しろ。じゃあこれは代わりに……」

 

果南「すみません……」

 

隼人(……)

 

 

……

 

 

~休み時間~

 

 

隼人「果南さっきはどした?珍しい」

 

果南「アハハ、恥ずかしい……でも大丈夫だよ」

 

隼人「う~んやっぱり体調悪いんじゃね?なら保健室に……」

 

果南「だから大丈夫だってば!」

 

隼人「!」

 

果南「あ、その……」

 

隼人「ゴメン、お節介だったな。俺もうちょっと寝てるわ……」

 

果南「あ、うん……」

 

隼人(なんか悪いことしたのかな……)

 

ダイヤ鞠莉江井(……?)

 

 

……

 

 

~昼休み~

 

 

鞠莉「果南どうしたの?流石に様子がおかしいわ」

 

果南「それは……」

 

ダイヤ「千歌さんの特訓ですか? それとも、隼人さん関連ですか?」

 

果南「!?」

 

ダイヤ「やはり。何かありましたの?」

 

果南「そういう訳じゃないんだけど……」

 

鞠莉「話してみて果南。私たちはイチレンタクショーなんだから!」

 

果南「あ、うん。実は……」

 

……

 

ダイヤ「そういうことでしたのね」

 

鞠莉「とってもシャイニーじゃない♪」

 

果南「止めないんだね」

 

ダイヤ「勿論です。一蓮托生ですからね」フフッ

 

鞠莉「まずはハヤトのネガティブモードを解除しなくちゃね」

 

ダイヤ「後でフォロー致しましょうか」

 

鞠莉「だから、果南は大船に乗った気分でいてね♪」

 

果南「……うん。ありがとう!」

 

 

……

 

 

鞠莉「ハヤト!STAND UP!!」

 

隼人「Oh!?」

 

ダイヤ「いつまでもウジウジしない!」

 

隼人「Oh……」

 

江井「あぁ良かったお二人さん。こいつのネガティブモードをどうにかしてくれ。俺の手には負えぬ……」

 

隼人「果南に何か悪いことして嫌われたかと思うと……」

 

鞠莉「これは重症デース……」

 

ダイヤ「果南さんが貴方を嫌うハズありませんわ。色々考え事があるようです」

 

鞠莉「何かハヤトに用事があるみたいだから、後で聞きに行ってね♪」

 

隼人「え、俺から行くの?」

 

ダイヤ「当然です!果南さんもさっきのことを気にしていますから、行ってあげてください」

 

江井「それくらいは根性を見せなきゃな」

 

隼人「う~ん……わかった」

 

江井(ちょっと荒療治だったけど助かったわ。ありがとう)

 

鞠莉(いえいえ♪)

 

ダイヤ(手のかかる弟みたいですわね)

 

 

……

 

 

隼人「果南、さっきは、すまんな。なんか用事があるって聞いたんだけど」

 

果南「こっちこそごめんね。用事って程じゃないんだけど……今日は部活ある?」

 

隼人「今日は軽くミーティングだけだな」

 

果南「そしたら、終わったら海岸通りまで来てくれない?」

 

隼人「それは構わんけど。あ、でもトレーニングとかならキツいかも」

 

果南「ちょっと2人でお話したいだけだから。良いかな?」

 

隼人「OK。終わったらすぐ行くな!」

 

果南「ありがとう。よろしくね!」

 

 

 

鞠莉(何とか大丈夫そうね♪)

 

ダイヤ(しかしこれからが本番ですわよ!)

 

江井(えっ?どういうこと?)

 

鞠莉(ヒソヒソ……)

 

江井(!)

 

 

 

━━━━

 

 

 

~海岸通り~

 

 ある決意を胸に秘め、果南は隼人を呼び出した

 長く青みがかった黒髪を海風に揺らしながら待っていると、やがて待ち人が現れた

 

「おっす、お待たせ!ってこれ何回目かな?」

 

「大丈夫だよ。結構早かったね」

 

「あぁ。アサインの確認と微調整だけだったから」

 

 

 アサインメント。アメフトの作戦表のようなものである

 基本的に、どの選手がどう動くかパッケージされているが、自分や相手のフォーメーションによって微妙に異なるため、仮想敵に応じたアサインメントが必要になってくる

 尤も、事前にある程度用意しているため、今日はすぐ終わったようだ

 

 

「ってか寒かったろ?何処かお店入る?」

 

「これくらいなら平気だよ。ちょっと行きたい処があるから一緒に行こ?」

 

「OK~。因みに何処へ?」

 

「すぐ近くに、お気に入りの砂浜があるんだ♪」

 

「はいよ~」

 

 

……

 

 

「ここだよ。昔よく鞠莉とダイヤと遊んだんだ。まぁ、ちょっとしたプライベートビーチって感じかな♪」

 

 

 そこは岩場に囲まれた小さな砂浜

 子供が遊ぶには充分な広さだが、大人が泳ぐには狭すぎるため、地元の人もあまり行かない

 幼い頃の3人が、鞠莉の母の目から逃れて遊ぶには丁度良かったのだろう

 

 

「こんな処があったのか。初めて来たわ」

 

「まぁ私も久しぶりに来たんだけどね。そこに座ろ」

 

 

 果南が指したのは、台のように平らな形をした岩。ベンチのようにもなっており、2人なら充分座れる大きさだ

 

 

「んで、話って?」

 

「あぁその……このところ忙しかったからさ、2人でゆっくり話したいなって思って。ホントは隼人君も忙しいだろうし、疲れてるのにゴメンね?」

 

「それは大丈夫。良い息抜きだよ」

 

(むしろ果南と2人でいられるなら大歓迎だしな)

 

 

 それからしばらく2人は話し込む

 千歌の特訓、アメフトの関東大会、互いの練習中の出来事や、果南のお店での話など

そうしているうちに、日が傾き始めた

 

 

「水面がキラキラ光って……キレイだね」

 

「ホントだな~。いつ見てもここの海はキレイだけど、今日は一段とキレイだな。こうして一緒に見てるからかな……」

 

「えっ?///」

 

「あ、声に出てた!?恥ずかしい……」

 

 

 照れ隠しに立ち上がって背伸びをする隼人。彼の頬は、夕日に照らされてか赤くなっている

 そんな彼を見て、果南は微笑む

 

 

 

 

あぁ、やっぱり私は、隼人君が好き

……うん。今なら言える

 

 

 

 

 果南も立ち上がり、隼人と向き合う

 そして、すぅっと息を吸い込み……

 

 

「ねぇ……大事な話があるんだけど、聞いて、くれる?」

 

「ん? おう」

 

 

 しかし気持ちを固めたつもりでも、いざ言うとなると躊躇ってしまう

 改めて深呼吸し……

 

 

「果南?」

 

 

 

 

 

 

「あの、私ね……隼人君が好き、なんだ。私じゃダメ、かな?」

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

 燃えるように顔が熱い。心臓の鼓動が激しく、彼に聞こえるのではないかと思うほどだ

 胸の前で手を組み、恥ずかしさで顔を俯かせながらも、上目遣いで懸命に想いを伝えた

 

 其処へ一陣の風が吹き、果南は思わず目を閉じる

 その刹那……

 

 

ガバッ!

 

 

「!?」

 

 

 目を開いて状況を把握する

 ……隼人が、果南を抱き締めていた

 

 

 

 

「ダメな訳ないだろ。果南、俺も果南が好きだ。ダメなんかじゃない、果南が良いんだ。果南じゃなきゃ、ダメなんだ……!」

 

 

 

 

 抱き締める力を強めながら、彼も秘めた想いを打ち明ける

 

 

「ありがとう……!嬉しい……」

 

 

 嬉しさに目を潤ませながら、隼人の広い背中に手を回す果南

 

 そんな2人を、夕焼けの光が優しく包み込んでいる

 

 

……

 

 

 どれくらいそうしていただろうか。どちらからともなく抱擁を解く

 目と目が合い、照れくさそうに微笑む

 

 

「えへへ」

 

「ははっ……夢じゃ、ないんだよな」

 

「私も信じられないけど……えいっ」

 

 

ギュッ

 

 

「こうすれば、わかる……でしょ?」

 

「! そうだな……」

 

 

 再びハグしあう2人。上着越しに互いのぬくもりを感じ、夢ではないと確かめる

 今度はすぐに離れ、手を繋ぐ。夏の時とは違って指を絡ませる恋人繋ぎだ

 

 そして夕暮れの海岸を歩きだす。その後ろには長い影が2つ、幸せそうに揺れている

 

 

……

 

 

~船着き場~

 

 秋の日は釣瓶落とし。夜の帳が下り始めた

 淡島への連絡船の最終便が、もうすぐ出発となる

 

 

果南「今日はここでお別れだね」

 

隼人「あぁ。まぁその、これから改めてよろしくな!」

 

果南「こちらこそ! まぁあまりオープンにはできないけど……ゴメンね?」

 

隼人「それは気にしなくて良いよ。あ~でもあの3人には一応報告しとくか」

 

果南「そうしようか。……そうだ!」

 

隼人「ん?」

 

果南「ちょっと、目を閉じててくれる?」

 

隼人「え?おう」

 

隼人(……俺の左側に回って、どうしたんだろう?)

 

 

 つま先立ちになり彼の肩に手を掛け、顔を寄せて耳元で囁く

 そして……

 

 

 

 

「好きだよ……♡」

 

 

 

 

チュッ

 

 

 

 

隼人「!?!?」

 

果南「えへへ、じゃあまた明日ね!」

 

隼人「え?ちょっ、果南!?」

 

 

 顔を真っ赤にして船へと走る果南

 状況がすぐに飲み込めず混乱する隼人

 

 今、頬に触れた感触は……

 

 

隼人「今のって、今のって……。明日、どんな顔して会おう……」

 

果南(やっちゃった、やっちゃった! 思い返すと凄い恥ずかしい……。明日、平常心でいられるかな?)

 

 

 ようやく、ようやく想いを伝えあった2人

 その未来は、きっと明るいものだろう

 幸多からんことを……

 

 

 

つづく

━━━━

 

 

(Wow!2人とも大胆ね♪)

 

(ちょっと鞠莉さん、バレてしまいますわ!)

 

(末永く、爆発しろ……!)




参考動画
https://www.youtube.com/watch?v=6qq0W3KGnwQ&t=524s
8:42辺り~

8話あとがきにも夏祭り参考動画を入れました


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11話 クリスマスボウル

遅くなりました。色々な意味で……
ようやく2人の想いが通じ合いました

アメフト描写は今回で最後の予定です。元アメフト部としてのありったけのロマンをぶち込んだつもりです
あと文中のフォーメーションですが、筆者が大学の時に見かけて憧れたフォーメーションです。ただ資料不足なので、描写があまり正確ではないです……申し訳ありません
アメフトをご存知ない方には分かりづらくて毎度申し訳ありませんが、熱さだけでも感じて頂ければ嬉しいです


2学期 その3

 

~翌朝、教室にて~

 

 

果南「あ」

隼人「あ」

 

果南「お、おはよ!///」

 

隼人「あぁ、おはよう///」

 

 

「「///」」

 

 

 ようやく(両)片想いから両想いになった2人。あまりオープンにはできないハズだが、昨日の今日では仕方ない

 

江井「おはよう。どうした2人とも?」

 

隼人「おほぉい!あぁ、江井ちゃんおはよう」

 

江井「いやビックリし過ぎだろ。こっちがビビったわ」

 

果南「江井君おはよう」

 

江井「おはよう。何かあった?」

江井(まぁ、分かっちゃいるけど)

 

隼人「あ~、後で話すわ。昼休みとか。果南もそれで良い?」

 

果南「うん、大丈夫。江井君良いかな?」

 

江井「おう、了解」

 

 

……

 

 

~昼休み、屋上にて~

 

 

ダイヤ「なんでしょう、お話とは?」

 

鞠莉(わくわく)

 

隼人「実は……俺たち」

 

果南「付き合うことに」

 

「「なりました!」」

 

ダイヤ「ふふっ、おめでとうございます♪」

鞠莉「Congratulations!」

江井「おめでとう!」

 

果南・隼人「……ありがとう!」

 

 きちんと3人に報告し、照れながらも祝福を受けた2人

 

江井「しかしまぁ、やっとかぁって感じもするな」ハハッ

 

鞠莉「確かに、ちょっと焦れったかったわよねぇ」

 

果南・隼人「うぐ……」

 

 茶化すような鞠莉と江井に反論できない2人

 

ダイヤ「もう、お2人ともあまりからかってはいけませんわ」フフッ

 

鞠莉「Sorry~♪」

江井「ハハッ、悪ぃな」

 

果南・隼人「ハハハ……」

 

 今度は真剣な表情でダイヤが言う

 

ダイヤ「隼人さん。果南さんは私たちの大切な親友。どうぞ、よろしくお願いいたします」

 

鞠莉「私からも、よろしくお願いします」

 

隼人「!……わかった!」

 

江井「果南さんも、相棒をよろしくな!」

 

果南「……うん!」

 

 本当に良い親友を持ったと、心から思う2人だった

 

 

━━━━

 

 

 

~数日後~

 

 純情な2人の様子からクラス内には気付いている者も多いが、親友たちの働きかけもあり"公然の秘密"となっている

 

 そしてラブライブ地区予選

 

 

千歌「0から1へ、1からその先へ!Aqours!」

「「サ~ンシャイ~ン!!」」

 

 

<できるかな? (HI!) できる! (HI!)

 

 

……

 

 

 特訓の成果で見事AqoursWAVE(ロンダート→バック転)を完成させた千歌

 状況次第では「棄権してでも止める」と言っていた果南だが、無事にMIRACLEを呼び寄せられたようだ

 

 

 

━━━━

 

 

 

~さらに数日後~

 

 明後日はいよいよクリスマス。Aqoursはクリスマスライブ、アメフト部はなんとクリスマスボウルに出場だ

 アメフト部は早朝に出発し、現地で調整する予定だ。多方面からの様々な支援で、大阪の会場までバスが出ることになった

 隼人が集合場所に向かおうと家を出ると

 

 

果南「おはよ」

 

隼人「おぉおはよう。どうしたこんな早くに!?ってか船は?」

 

果南「どうしても会いたくて、釣りに行くお祖父ちゃんに着いて来ちゃった」

 

隼人「流石御大……」

 

果南「……いよいよだね」

 

隼人「あぁ。いっちょやってくる」

 

果南「えいっ!」

 

 

ギュッ

 

 

隼人「!」

 

果南「行ってらっしゃいのハグ、だよ♪」

 

隼人「……ありがとう」

 

 人気のない早朝、抱き合う2人

 そして果南は、隼人のある異変に気付いた

 

果南「ちょっと震えてる?」

 

隼人「……武者震いだ」

 

果南「ホントに~?」

 

隼人「……」

 

 答える代わりに、果南を強く抱きしめる隼人

 クリスマスボウル、即ち全国大会の決勝だ。楽しみな反面、緊張も大きいのだろう

 

果南「隼人君が頑張ってたのは、私がよく知ってる。だから、自分を信じて全力で戦って!」

 

隼人「……ありがとう。全力全開、ぶちかまして来る!」

 

果南「うん♪」

 

 もう一度強く抱き合い、見つめ合う

 

隼人「じゃあ、行ってくる。果南もライブ、頑張ってな」

 

果南「ありがとう。行ってらっしゃい!」

 

 

 

━━━━

 

 

 

~そしてクリスマスボウル~

 

監督「いよいよクリスマスボウルだ。みんな今までよく厳しい練習に耐えてくれたな。全ては今日この時のためにある。ぶつかろう、出し切ろう、そして勝とう!全力全開、行くぞ!!」

 

「「はいッ!!」」

 

 

 今まで本当に色々な人の支えがあってここまで来た。家族、マネージャー、監督やOB、学校のみんな……挙げればキリがない

 だがそれは相手も同じ。究極的に、戦場(フィールド)には信頼する仲間たちと、倒すべき相手がいる。それだけだ

 

 いざ往かん、甲冑の鋼を照り返し。迎え撃つ敵の力、まだ計り知れずとも!

 

 

……

 

 

~ハーフタイム~

 

 前半終了時点で7-21で負けている

 流石は全国二連覇の超強豪校だ。タッチダウンは2本差だが、それ以上の地力の差を感じる。オフェンス・ディフェンス・スペシャルプレー(キックなど)、この試合は出し惜しみせずに色んな手を使ってきた

 

 ただ一つを除いて……

 

 

隼人「監督、後半一発目……アレをやらせてください」

 

監督「……できるか?」

 

隼人「やります。話題のためじゃない、ロマンでもない。勝つために!ここで一本取るために、やらせてください!」

 

監督「わかった。ただし、絶対に一本取って来い!!」

 

隼人「はいッ!!」

 

 鍛え上げた力解き放ち、今こそ頂点を取ってみせる!

 

 

……

 

 

 後半最初の浦の星の攻撃。ついに秘策を出す時が来た

 

相手選手「おいなんだあのフォーメーション!?」

 

相手監督「くっ……タイムアウト!」

 

相手監督(まさかアイランドフォーメーションをやるとは……見掛け倒しではないだろうな?)

 

 

 通常、アメフトのオフェンスフォーメーションは壁役のラインが横一列に5~6人が並ぶことが殆どだ。しかしこのアイランドは、センターである隼人が1人、他のラインと離れている。その5ヤード程後ろにQB、他のOLの後ろにRBが2人、両翼にWRが2人だ

 

 予想外の隊形に相手はたまらずタイムアウト。作戦や休憩等で使われるタイムアウトを後半早々に消費させただけでも戦略的には意味がある

 相手チームが慌てた様子で対策を練り、タイムアウトが明ける

 

 

隼人(さぁ、お披露目といこうか)

 

QB「行きますDown。Set、Hut!」

 

 

 まずはショットガンフォーメーションのようにQBにロングスナップし、其処からパスを決めた

 続くプレー、同様にQBにロングスナップ……せず斜め後ろのRBにダイレクトスナップ!

 この時隼人は自分の股越しにボールを投げるため後ろは見ていない。しかも構えの時にボールの向きを変えると相手にバレるため、まっすぐなボールの向きからの斜めダイレクトスナップ

 地味な部分ではあるが、それなりの技術が必要だ

 

 

相手監督「あの位置にダイレクトスナップだと?どうマークすべきか……」

 

隼人(舐めてもらっちゃ困るんだよな。ロングスナップだけは、誰にも負けねえ!!)

 

 

 その後もパスやジェットスウィープなどで前進

 相手が浮足立っている間に一気に畳みかける!

 そして……

 

 

 

ピピーッ!

 

 

 

 タッチダウン!

 

 

「よっしゃあぁぁ!!」

 

「ナイスキャッチー!!」

 

「ナイスブロック!!」

 

QB「ナイススナップ!」

 

隼人「サンキュー!ナイスパス!!」

 

 

監督(ホントに一本取るとは……!俺の目に間違いはなかったな。だが、ここからがキツいぞ隼人)

 

 アイランドはどうしてもセンターの負担が大きい。その上相手も対応してくるだろう。ここからが正念場だ

 

 

……

 

 

次の浦の星の攻撃

 

 

隼人(……ピンチか)

 

 ピンチ。センターを2人のDTで挟むようなDLの布陣だ。プレーそのものより、隼人にプレッシャーをかけてスナップミスを狙う意図が強そうだ

 

隼人(だが俺のスナップは簡単には動じない。さあ、受けて立とう)

 

QB「行きますDown。Set、Hut!」

 

ゴン!ガゴン!

隼人(ぐっ……!)

 

 

 通常のピンチであれば、OLの仲間と共に押しのけることができる。そして隼人の好きなBlastなどは、センターと隣にいるガードの2人でブロックすることが多い。簡単に言うとOL1人に対しDLが2人の態勢は、普段と人数比が逆となり異例だ。スナップこそ無事にできたが、まともなブロックは出来なかった

 幸い、隼人がいないサイドのプレーだったので、ある程度前進はできた

 

 

隼人「悪い、抜かれちまった。RBフォローありがとな」

 

RB「おう、流石にあれはな」

 

QB(監督からのサイン……了解)

 

QB「ショットガンからの……」

 

隼人(……まぁしょうがねぇ。実際あれが続くとキツい)

 

 ずっとピンチの布陣が続く訳ではないだろうが、リスクは避けたい。今後はまた色々織り交ぜて試合を展開するつもりだろう

 

 

……

 

 

~試合終盤~

 

 その後両チームともタッチダウンを一本ずつ追加し、21-28。後一本で追い付く

 

 

隼人(流石にちょいとキツくなってきたが、まだ行ける!)

 

 

 今までも困難な状況は数え切れないほどあった。そして、傷付き悔しい思いをする度に確信した、誰よりも強くなりたいと

 まだ間に合う。さぁ、抗おう……!

 

 

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 両校の意地と意地が激突!

 

 その結末は……

 

 

 

つづく

━━━━

 



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番外編 miss YOU……

曜ちゃんから見た本編。それは、少し切ない恋物語


 皆さんヨーソロー!

 浦の星学院高校2年、渡辺曜です!

 幼なじみの千歌ちゃんや果南ちゃんとスクールアイドルやってます!あと水泳も!……って、皆さん知ってますよね

 

 

 そんな私なんだけど、実は好きな人がいて……ってこれ恥ずかしいね!エヘヘ

 その人は1つ上の先輩で、アメフト部。たまに一緒に筋トレしたりするんだ

 アメフトや筋トレしてる時の先輩は力強くてカッコ良くて、普段は優しい笑顔を見せてくれて。そう、誰にでも優しいんだよね……なんて

 

 

 初めて出会ったのは私が1年生の時。1人で学校のトレーニング室に行こうか悩んでいた時に、道に迷っていると思って声をかけて案内してくれた

 最初はちょっとビックリしたけど、優しい先輩だったから安心した

 

 

 いつからこんな気持ちを抱くようになったのかはわかんない。でも、その気持ちを自覚した時には、先輩は果南ちゃんのことが好きなんだって気付いた。そして果南ちゃんも、先輩のことを好きなんだろうなって……

 ちょっと、遅すぎたのかな?

 

 最初から諦めてたって訳じゃないけど、苦しくなりそうな恋だとは思ってた

 一緒にいるだけでも楽しくて、ちょっと苦しくて。でも少しでも気を引きたくて、筋トレ中に上腕筋を見てもらったり

 

 

 言えない想いのその先で、私には見せないその笑顔。もし先輩が、果南ちゃんより先に私に会ってたら、その特別な笑顔を私に見せてくれたのかな……なんて考えたこともあった

 こんなに近くにいるのに、なんだか遠く感じてしまう

 

 

 もし出会わなければ、もし恋と気付かずにいられたら、この想いを眠らせられたのかな

 気持ちを隠し続けて壊れそうな心が騒ぐ。無謀なんて知ってる、頭では分かってる。でも、やっぱり……

 

 

 

━━━━

 

 

 

「私……先輩のこと、好きなんです」

 

「……!」

 

「やっぱり、全然気付いてなかったんですね」

 

「すまん……」

 

「ううん、良いんです。だって先輩は、果南ちゃんのことが好きなんでしょ?」

 

「知ってたのか。でもそれなら……」

 

「はい。困らせてしまうのは分かってたけど、気持ちだけ……伝えたかったんです」

 

「そうか、ありがとう。気持ちは素直に嬉しいけど……ごめんな」

 

「いえ……答えてもらえただけで、嬉しいです。だから、付き合ってとは言いません。その代わり……ハグして、くれませんか?」

 

 

 せっかく勇気を振り絞ったんだから、ちょっとくらい……わがまま言ってもいいよね?

 

 

「……」

 

 

 黙ったままの先輩がゆっくり手を広げて、そして……

 

 

ポン

 

 

 ……ハグする代わりに、大きな手で優しく撫でてくれた

 

 

「これで、許してくれるかな?」

 

「う~ん、及第点ですね」

 

「ハハッ……そうかい」

 

 

 そう言いながらも撫で続けてくれる、優しい先輩

 もうちょっとって思ったけど、これ以上は……色々と溢れてきちゃいそう

 

 

「もう、大丈夫です。ありがとうございます」

 

「おう」

 

「今日は本当にごめんなさい。でも、ありがとうございます!」

 

「こちらこそ、な」

 

「……私の分も、果南ちゃんのこと、よろしくお願いします!」

 

「あぁ、おまかせあれ!」

 

「また一緒に、筋トレしてくれますか?」

 

「もちろん。いつでも誘ってくれ!」

 

「ありがとうございます。じゃあ今日は、これで失礼します」

 

「おう、じゃあな」

 

 

 

 

   さようなら、私の初恋……

 

 

 

 

━━━━

 

 

 

 その後誰もいないハズの部室に行ったら、千歌ちゃんと梨子ちゃんがいた

 2人には、私の秘密を伝えてあるから、それで待っていてくれたのかな?

 

 

「曜ちゃん……」

 

 

 心配そうに、私の名前を言う梨子ちゃん

 

 

「うん、振られ……ちゃった」

 

 

 私は、そう返すのが精一杯だった

 

 

「曜ちゃあぁん……!」

 

「なんで千歌ちゃんが先に泣いてるのさ」

 

 

 そして、2人で私を抱きしめてくれた

 

 

「今は、我慢しないで、ね?」

「一緒に泣こう!」

 

「……うぅ、うわあぁぁぁん!!」

 

 

 

 何も言わずに、泣きじゃくる私を慰めてくれた

 ありがとう……2人とも大好きだよ!

 

 

 

━━━━

 

 

 

 その後先輩と果南ちゃんが付き合い始めたのは、雰囲気で何となくわかった

 聖人君子って訳じゃないから、果南ちゃんのことを妬んだりもしたけど、やっぱり大事な友達だから、幸せになって欲しい

 だから先輩、果南ちゃんのこと、よろしくね!

 



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最終話 Emerald Eternal Love

千歌誕イェイ~

いよいよ最終話&エピローグです
ちょっと駆け足感はありますが、どうぞ!


冬休み その1

 

 クリスマスライブはルビィたちが中心となり、北海道のスクールアイドル"Saint Snow"と共に"Saint Aqours Snow"としてスペシャルライブを行い、美しく尊い姉妹愛が函館の夜に響き渡った

 

 

 

━━━━

 

 

 

~淡島·船着き場~

 

 沼津と淡島を結ぶ連絡船が到着した

 

 

「……あ!」

 

「おっす!」

 

「待ってたよ♪」

 

「おう!」

 

「じゃあ、行こうか」

 

「うん」

 

 

 言葉は少ないが幸せそうな2人

 早速手を繋いで歩き出す

 

 

……

 

 

~松浦家・果南自室~

 

 今日は地味に2人の初デートである。諸事情を考慮し、家デートとなった

 

 

「お、お邪魔します……」

 

「そんなに緊張しなくても良いのに」

 

「だってさ、部屋に上がるのは初めてだし、しかも彼女の部屋となるともう……」

 

「そう言われると私も緊張しちゃうじゃん……」

 

「わ、悪い……」

 

「まぁとりあえず座って。クッションとお茶持ってくるね」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 

……

 

 

 その後ベッドに並んで座り、手を繋ぐ形となった。そして果南は隼人の肩に頭を乗せ、その上に隼人の頭が乗っている

 

 

「試合、お疲れ様。残念だったね」

 

「あぁ。負けちった」

 

 先日のクリスマスボウル、死力を尽くしたが惜しくも一歩届かず、準優勝となった

 

「うん……。でも、個人の賞はもらったんでしょ?」

 

「おう、ベストセンター賞とベストラインマン賞。俺なんかが恐れ多いわ」

 

「何言ってるの。今まで頑張った成果なんだから、ちゃんと胸張って!」

 

「……ありがとう。果南にそう言われるのが、一番嬉しいわ」

 

 そう言って少し目が赤くなっている隼人

 

「すまん、あれから涙腺が緩んだままでな」ハハッ

 

「良いんだよ?」

 

「え?」

 

「頑張ってる姿も、カッコ良い処も可愛い処も、つらそうな時も。色んな隼人君を見てきた。だからその……もっと私に甘えて良いんだよ?」

 

 隼人を包み込むようにハグしながら、果南が言う

 

「……ありがとう。じゃあしばらく、こうしててもらって良いかな?」

 

「うん。もちろん♪」

 

 

……

 

 

「ありがとう。大分落ち着いた。やっぱり果南のハグは世界一だな!」

 

「ちょっと恥ずかしいけど……どういたしまして♪」

 

「なぁ果南。一つ……聞いても良いかな?」

 

「うん。どうしたの?」

 

「その……実は今まで怖くて聞けなかったんだけど、1年のあのライブで何があったのか、教えてくれないか?」

 

「!」

 

 今までも聞こうとしたことはあった。だが折角仲直りして9人のAqoursが結成されたばかりでは聞きづらく(1話終盤)、その後も聞けずにいた

 

「もちろん無理にとは言わないけど……」

 

「うん、もう大丈夫だから。実は……」

 

 当時鞠莉が足をケガしており、ライブで果南がわざと歌わなかったこと。相手を思うあまり真意を隠してすれ違ってしまっていたこと。それらを簡潔に話した

 

「そうだったのか……」

 

「今思えばちょっとバカらしいけどね」アハハ

 

「でも、相手を思ってのことだからなぁ。果南らしいといえばらしい……かも?」

 

「む~!意地悪……」

 

「おっとゴメンゴメン……言ってくれて、ありがとな」

 

「うん……♪」

 

 

……

 

 

 続いて、話題は進路のことに

 

 

「隼人君は卒業したら大学に行くんだよね?」

 

「そのつもりだな~」

 

「スポーツ推薦は考えてないの?」

 

「う~ん、声をかけてもらってる処もあるけど、面接とか堅苦しいのダルいから普通に勉強する方が楽かな~と思って一般受験で」

 

「なんか逆の考えの人が多そうだね」

 

「フフッ、よく言われる。果南はどうするの?」

 

「私は、ダイビングをもっと勉強したい。だから、留学するかも知れないな」

 

「おぉう、それは寂しいな。勿論応援はするけど」

 

「ありがと。出来るだけ短期で行けるように調べてはいるんだ」

 

「そっか……」

 

「もう、そんな顔しないで?ハグしてあげるから♪」

 

「そうされたらもう何も言えねぇな」フフッ

 

 

……

 

 

 そしてもう一つ、隼人には言っておきたいことがある

 言わなくても良いことなのかも知れないが、バカが付く程に正直な彼は一応伝えておこうと思ったようだ

 

 

「それと果南、曜ちゃんのことなんだけど……」

 

「……うん、本人に聞いたよ。私の分まで幸せになってって」

 

「! そうだったのか……。強いな、曜ちゃんは」

 

「うん、ホントにね……」

 

 

 どうやら曜は、果南にあの件を話したようだ。恋敵と言えど、いやだからこそ真意を伝え、その上で相手の幸せを願う。その真っすぐで強かな姿勢に、2人は感じ入るものがあった

 

 

「その、曜ちゃんに対して罪悪感というか……そういう気持ちがない訳じゃないけど、俺が好きなのは果南だけだから、安心してくれ」

 

 そう言って果南をハグする隼人

 

「うん、わかった♪……それに、こうやって思い切りハグされると、貴方で良かったって心が歌うんだ……♪」

 

「それは、俺も同じだ……」

 

「ねぇ……もっと、ギュッてして?」

 

「あぁ……」

 

 その後隼人は、果南の頭をゆっくりと撫で始めた

 

「果南の髪、サラサラで綺麗だな……」

 

「えへへ、ありがと♪」

 

「……」ナデナデ

 

「……♪」

 

 

 それからしばらく、そっと、ぎゅっと、寄り添っていた2人。心から溢れ出す愛おしさが止まらない

 

 そして見つめ合い、瞳を閉じる果南。それを見た隼人は一瞬ハッとしたものの、彼女の頬に手を添える。そして徐々に顔を寄せ……

 

 

 

 

「///」

「///」

 

 

 

 

……

 

 

「その、今日は来てくれてありがとう♪」

 

「あ、あぁこちらこそありがとう。今度会うのは、もう来年かな」

 

「うん、そうだね。良いお年を!」

 

「おう、良いお年を!」

 

 

 

━━━━

 

 

 

~年明け・3学期~

 

 教室にて

 5人で初詣という案もあったが、それぞれ多忙なため見送られた

 

 

「「「あけましておめでとうございます!」」」

 

ダイヤ「いよいよ高校生活も大詰めですわ。以前に増して、気を引き締めて参りましょう!」

 

隼人「だな。まずは大学受験」

 

鞠莉「そのあとはいよいよ!」

 

果南「ラブライブの決勝……だね!」

 

江井「盛り上がってきたな!」

 

隼人「ちょうど国立大学の二次試験終わってからだから見に行けそうだな!」

 

ダイヤ「ふふっ、応援よろしくお願いいたします♪」

 

鞠莉「最高にシャイニーなパフォーマンスをするからね!」

 

果南「隼人君たちアメフト部の分まで、頑張るね!」

 

隼人「あぁ。俺たちの代わりに、頂点取ってくれ!」

 

江井「すまんが任せた!」

 

「「「おまかせあれ!」」」

 

 

 皆気合い充分、と言った処か

 しかしこの5人で一緒にいられるのもあと僅か。敢えて誰も口にはしなかった

 

 

 

━━━━

 

 

 

~大学受験が無事終わり、ラブライブ決勝~

 

 

「みんな、勝ちたい?」

 

「もちろん!」

 

「楽しみたい!」

 

「9人で!」

 

「全力で!!」

 

 

……

 

 

  イマはイマで昨日と違うよ

  明日への途中じゃなくイマはイマだね

  この瞬間のことが 重なっては消えてく

  ココロに刻むんだ WATER BLUE

 

 

  MY NEW WORLD

  新しい場所 探す時がきたよ

  次の輝きへと 海を渡ろう

  夢が見たい想いは いつでも僕たちを

  繋いでくれるから 笑っていこう

 

  イマを重ね そして ミライへ向かおう!

 

 

 

━━━━

 

 

 

~卒業式~

 

 Aqoursはラブライブ決勝で勝利し、全国の頂点を取った

 

 そして今日、これ以上ないほど充実した高校生活が、ついに卒業の日を迎えた

 校長先生からクラスの代表が卒業証書を受け取り、校長、卒業生代表のダイヤ、在校生代表の千歌がそれぞれ挨拶を行い、無事に式は終了した

 

 一旦教室に戻り、担任教諭から生徒一人ひとりに卒業証書が渡される

 その後解散となり、卒業アルバムに寄せ書きの時間が始まる。仲の良い友人同士が、今までの思い出や照れくさくて言えなかったことなどを書いていく。またお世話になった先生に一言頂くために校内を巡る者も少なくない

 

 

……

 

 

 その後は部活動ごとに集まったり、グラウンド、部室、屋上、プールなど、思い入れの強い場所に行ったりと、生徒それぞれが高校生活を反芻し、想いを巡らせる

 

 勿論隼人もその1人。アメフト部の挨拶を終え、学校各地を戦友たちと回った。そしてトレーニングルーム前で1人佇んでいると

 

 

曜「先輩!良かったここにいたんですね。ご卒業おめでとうございます!」

 

隼人「おぉありがとう!そのためにわざわざ?」

 

曜「はい。ここなら先輩に会えるかなって思って。それに、私にとって先輩との思い出は、ここが中心だったから……」

 

隼人「そっか、そうだよな……」

 

 

 しかし今思えば、隼人にとっても凄いメンバーでトレーニングしていた訳だ。自分の想い人、自分を慕ってくれていた後輩、無二の相棒。この4人でのトレーニングもまた、高校生活の大事な1ピースだ。それをしみじみと思い出す

 

 

曜「どうしたんですか?」

 

隼人「あぁいや、色々思い出しててな。走馬灯のように~ってやつ?」

 

曜「なんかちょっと不吉な感じもしますね……」

 

隼人「ハハッ、悪い悪い。……筋トレ、楽しかったわ。ありがとな」

 

曜「いえ、こちらこそ。あの……」

 

隼人「ん?」

 

曜「その……第二ボタン、もらえませんか?」

 

隼人「おう、お安い御用だ」

 

 言いながら、自分の制服の第二ボタンを取り、それを曜は両手でそっと受け取った

 

曜「ありがとうございます……えいっ!」

 

隼人「ちょっ!?」

 

 不意打ちのように隼人に抱き着く曜。隼人がビックリしている間に、もう離れている

 

隼人「全く……困った後輩だ」フフッ

 

曜「えへへ、ごめんなさい♪」

 

隼人「……Aqoursも水泳も、続けるんだよな。頑張って!」

 

曜「ありがとうございます!先輩も大学で頑張ってください!」

 

隼人「おう!」

 

 

……

 

 

 そして最後に、例の5人で集まった

 

果南「本当に、色々なことがあったね」

 

隼人「あぁ。まぁ一時はどうなるかと思ったわ」

 

鞠莉「その節はお騒がせしちゃったわね」

 

ダイヤ「ですが、良いことも悪いことも、全てがかけがえのない時間でしたわ」

 

江井「勉強も部活も、プライベートも、な!」

 

 そう言って、隼人の方を見る江井。そう言われ、照れ笑いをする隼人

 

隼人「フッ……本当に、全部全部ひっくるめて、みんなに感謝だ」

 

果南「うん……みんな、大好きだよ♪ そうだ!5人でハグしない?」

 

ダイヤ「ふふっ、それは名案ですわね♪」

 

鞠莉「最っ高にシャイニーね!!」

 

江井「おう!でもなんか円陣になりそう」

 

隼人「ま、細かいことは良いだろ!」

 

 誰からともなく密着し合う5人。Aqoursとも、アメフト部ともまた別の、この5人の絆がある

 

 

「ホントに、ホントにありがとう!」

 

「こちらこそ。みんなに出会えて、幸せだよ」

 

「目が赤くなってますわ」

 

「人のこと言えないわよ~?」

 

「それはみんな、同じみたいだな」

 

 

 卒業は終わりじゃない、これからも仲間だ

 大好きって言うなら、大大好きって返そう

 

 

   Thank you, FRIENDS!!

 

 

 

━━━━

 

 

 

~数日後~

 

 3年生たちは卒業旅行へ

 Aqoursはイタリア、アメフト部は沖縄だ

 

 沖縄では、食べ歩きしたり、琉球ガラス工房で体験をしたり、食べ歩きしたり、ダイビングをした後に海へ沈む夕日を眺めたり……楽しめた様子であった

 

 

隼人(いつか、果南とも来たいな……)

 

江井(なんて考えてそうだな)フフッ

 

 

……

 

 

 一方のAqours。ドタバタ劇がありつつも、下級生たちも加えてイタリア各地を巡りながら、互いの絆を再確認

 帰国後、AqoursとSaint Snowによる"ラブライブ決勝・延長戦"も行った

 

 

  Believe again!

 

  何処へ行っても、忘れないよBrightest Melody

 

 

……

 

 

 そして、ファイナルライブ

 片翼の6人でステージにいるが、気持ちはいつも、両翼の3人も一緒だ

 

 

  新しい輝きへと、手を伸ばそう……

 

 

……

 

 

「もう、大丈夫そうね」

 

「えぇ、あの子たちならしっかりやっていけますわ」

 

「安心して、私たちも前に進もう」

 

 

 

━━━━

 

 

 

~駅のホーム~

 

 

「これで、一旦お別れだね」

 

「まだ実感ねぇな~」

 

「ふふっ、でもきっとまた会えますわ」

 

「是非イタリアにも来てね♪」

 

「そしたら、バイトしてお金貯めなきゃな」

 

 

 国内組は大学が東京近辺なため、会おうと思えば会えるが、頻繁にとはいかないだろう

 イタリアに行く鞠莉はさらに難しい

 

 

「でも、この空は繋がってる、どんなに遠くてもずっと」

 

「おう、そしていつかまた、ここで集まろう!」

 

 

 1人が拳を突き出し、全員で合わせる。5人の目には、力強く計り知れない可能性が宿っていた

 その時、一羽の白い鴉が羽ばたいた。彼らの未来を導くように……

 さぁ行こう。それぞれの未来に向かって!

 

 

 

 

   - 此処から始まる、彼らの新しい物語 -

 

 

 

 

おしまい

━━━━

 

 

 

 

 

━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~エピローグ~

 

 隼人と江井は同じ大学の違う学科に通っている。敷地は同じな上、アメフト部に所属しているため顔を合わせる機会は多い。因みに本校は東京だが、理系キャンパスは ちょっと山の中にある

 

 ダイヤは東京の某名門大学へ

 果南も東京が本校の大学だが、ダイビングの勉強のためいずれ半年間短期留学する予定だ

 

 それぞれ忙しい日々を送っているが、たまに集まって近況報告や、イタリアにいる鞠莉にテレビ電話をしている

 

 もちろん果南と隼人の2人で会うこともある。春は花見、夏は海水浴、秋は紅葉狩り、冬はスノボ etc.

 

 

……

 

 

~そして果南の留学の日~

 

 空港にて。見送りは"都合が合わず"隼人だけとなった

 

 

「気を付けてな」

 

「うん。同期とも一緒に行くから、そんなに心配しなくて大丈夫だよ」

 

「そっか。でもやっぱ、寂しいな」

 

 

ギュッ

 

 

「!」

 

「いつだかしてくれた、行ってらっしゃいのハグだ」

 

「ふふっ、ありがと♪」

 

 

「……」

「……」

 

 

「このまま、何処かへ連れて逃げたいな」

 

「もう、寂しがり屋なんだから……」

 

「果南は寂しくないの?」

 

「そりゃあもちろん寂しいよ……?でも毎日連絡はできるし、戻ったらいつでもハグしてあげる♪」

 

「……わかった。じゃあ改めて、体に気を付けて、頑張ってな!」

 

「うん!隼人もオールスター戦、頑張って!ケガしないでね」

 

「おう!」

 

 

 

━━━━

 

 

 

~数年後~

 

 大学を卒業後、晴れて果南はダイビングのインストラクターになり、隼人は実業団のアメフトチームでプレーしている

 新生活にも慣れ、なんとか休暇を合わせた2人は、久々に内浦に遊びに来ていた

 

 

「う~ん、やっぱりここの海は最高だね!」

 

「あぁ、そうだな……」

 

「ん、どうしたの?」

 

 気持ち良さそうに背伸びをする果南に対し、やや表情が硬い隼人

 

「いや、その……うっし!」

 

「!?」

 

 急に気合いを入れ、何やら懐から小さい箱を取り出した

 それを開けながら、果南をじっと見つめ

 

 

 

 

 

 

「果南……俺と、結婚して欲しい」

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

 箱の中には、綺麗に輝くエメラルドのエンゲージリング

 驚きと喜びで声が出ない果南

 

 

「どう、かな?」

 

「はい……喜んで!」

 

 

 大粒の涙を流しながら、満面の笑みで答えた

 隼人が果南の左手を取り、指輪をゆっくりと薬指にはめていく

 幸せそうに自分の指を眺め、海に向けたり、太陽にかざしたり、今にも踊り出しそうだ

 そんな彼女を、同じ表情で見つめる隼人

 

 そして2人はハグをして見つめ合い、唇を寄せた……

 

 

 

━━━━

 

 

 

~結婚式~

 

 ホテルオハラにて執り行われる

 

 

「「「久し振り!」」」

 

「しかし内浦で全員再会するのが、2人の結婚式とはねぇ」

 

「これ以上ない良いタイミングね♪」

 

「お二人が幸せそうで何よりですわ♪」

 

「マリーさんも遠い処お疲れ様」

 

「いえいえ♪2人の門出を祝うためなら何処へでも駆け付けるわ!それに、久しぶぅりの実家も悪くないし」

 

「鞠莉さんの実家で結婚式……よく考えると凄いことですわね」

 

「確かにな……」

 

「あ、もうすぐ時間よ。チャペルに移動しましょ」

 

 

……

 

 

 両親、Aqours、かつての戦友たちや仕事仲間などに見守られながら、新郎に続き、御大と腕を組んだ新婦が入場

 式は順次進行し、横に控えている三重奏が"パッヘルベルのカノン"を奏で始めた

 

 

「それでは、誓いのキスを」

 

 

 

(果南、愛してる)

(私もだよ、隼人)

 

 

 

  この2人に、限りない祝福を……

 

 

 

 

             - そして初恋(First Love)は、永遠の愛(Eternal Love)へ -

 

 

 

~Emerald First Love~

~完~



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おまけ? 大学生編
春の遊園地デート


番外編 その1

本編よりコミカルな雰囲気になりました
今後は大学生になった2人の日常がメインです


~遊園地デート~

 

 春、絶好の行楽日和

 

「あれっ、隼人!?」

 

「お~う、果南おはよ~」

 

「おはよう。ってかなり早くない!?」

 

「あ~その、早く会いたくてさ……」

 

「それは……私もだよ♪」

 

「おう。それに、今日も……かわいいな。よく似合ってるよ」

 

 今日の果南は全体的にシンプルな装いで、春らしい明るい色がメインだ

 

「ふふっ、ありがと♪隼人もなかなか良い感じだよ!じゃあ、行こっか!」

 

「あぁ!」

 

 久々のデート。2人はとある遊園地に来ていた

 スタッフにチケットを見せた後、しっかりと手を繋ぎながら入園ゲートをくぐった

 

「あ~、最近部活ばっかりだったから久し振りに遊べるわ~!」

 

(実は楽しみ過ぎてあんまり寝られなかったんだけど、まぁ大丈夫だろ)

 

「ふふっ、その分いっぱい楽しもうね! 何に乗ろっか?」

 

「ん~とりあえず()いてるやつ……」

 

「あ、ゴーカートならすぐ乗れそうだね。行こ♪」

 

「おう!」

 

 時間は1秒たりとも無駄にしない。そんな気持ちで向かっていく

 

 

……

 

 

 2人乗りのゴーカート。運転席に彼氏、助手席に彼女が乗ってわいわいがやがや……ではない。"バトルしようぜ!"と言わんばかりのノリで、それぞれの機体に乗り込む

 

(ふふっ、飛ばして行くよ!周りの迷惑にならない程度に、ね♪)

 

(さぁお見せしよう。俺の、迸る安全運転を!)

 

 正直言ってバトる気はない隼人。慎重にアクセルを踏み込む

 

(ヨーソロー!ってね。お~結構速いな~ 「お先に~♪」 って速っ!!)

 

 あの声とポニーテールは間違えようがない

 

(……適度に急ぐか。あんまり待たせるのも何だし)

 

 

……

 

 

 予想通りと言うべきか、果南の圧勝である。みかん畑のモノレールをぶっ壊す勢い……とは言わないが、見事なハンドル捌きで颯爽とコースを駆け抜けて行った

 

「ふぅ~楽しかったね~♪」

 

「おう!ってか果南速すぎ。勝てる気がしないわ」ハハッ

 

「ふふっ、流石でしょ♪ 次は……あれが良いかな?」

 

「あれも面白そうだな~」

 

 2人が向かおうとしているのは、コースターが10数メートルの高さから一気に水に落ちてスプラッシュするアトラクションだ

 

「でも結構濡れそうだな……。カッパの貸し出ししてるみたいだし、一応借りる?」

 

「う~ん、そうだね。念のため」

 

 

……

 

 

 客を乗せたコースターが、徐々にレールを昇っていく

 

「お~思ったより高いな~」

 

「そ、そうだね……」

 

(うぅ、下から見た時は行けるかなって思ったけど、結構高い……)

 

ギュッ

 

「?」

 

 果南が、隼人の手を握ってきた

 

「は、隼人が怖いなら……手、握ってて、あげるね!」

 

「!……それは心強いな」

 

 微笑みながら、果南の手を握り返す……と

 

「うおおぉぉぉぉ!」

 

「キャーーー!!」

 

 勢いよくコースターが水に落ちる!

 そして……

 

バシャーン!!

 

 特大の水しぶきが上がり、乗客を濡らしていく。カッパを借りていて正解だった

 よほど怖かったのか、隼人の手を握り締めたままの果南。意外にも高い処が苦手なようだ

 

「いや~面白かった~!果南は大丈、夫……!?」

 

 果南を心配して声をかけたが、何故かすぐに目を逸らしてしまった

 

「う、うん……。何とか……」

 

 果南自身は大丈夫だったようだが、全くもって無事ではない処があった

 それは……

 

 

「果南、その……透けてる……///」

 

 

 ハッとして下を見る果南。慌てて胸を隠し、口を尖らせる

 

「もう!隼人のエッチ!!///」

 

「すまん!っていや、俺悪くないよな……」

 

 カッパはちゃんと着ていたが、ファスナーではなくボタンの物であった。何かの拍子に外れてしまったのだろう。胸の辺りが濡れてしまい、うっすらと淡いグリーンの下着が透けてしまっていた

 

(うぅ~。こんなことなら、もっとかわいいのを着けて来れば良かったな……って何考えてるんだろ私……///)

 

「ほら、とりあえずこれ着とけ」

 

 言いながら、彼は自分のジャケットを脱いでいる

 

「えっ、でも……」

 

「良いから。かなり大きいだろうけど、それは我慢してくれ」

 

「……うん♪」

 

 彼の気持ちを感じながら、ブカブカのジャケットを羽織る

 

(えへへ、あったかいなぁ……♡)

 

 

……

 

 

 その後2人は売店へ行き、着替えとなるTシャツを買った。色が濃い目なので透ける心配はない。この遊園地のロゴが入っており、ついでにお揃いだ

 

「お揃いって、ちょっと照れるけど嬉しいね♪」

 

「だな。今日の記念にもなるし」

 

「そうだね♪流石に普段着るのは控えるけど」

 

「確かに。まぁまたこれ着て来れば良いしな!さて、そろそろ昼にするか」

 

 

 

━━━━

 

 

 

~昼食~

 

 

「さ~て、何処にすっかな~」

 

「あの、実はね……お弁当作ってきたんだ」

 

「マジか!えっ、ちょー嬉しい!」

 

「う、うん。じゃあそこのベンチで食べよ」

 

「おう!」

 

……

 

「いただきます!」

 

「どうぞ召し上がれ♪」

 

 早速一口食べる隼人。それを見て少し不安そうな果南

 

「どう、かな?」

 

「美味い……!」

 

「ホント!?良かった~……」

 

 味付けももちろんだが、彼女の手作り弁当ということそのものが男としては最高だ

 幸せそうに食べる隼人を見て安心した果南は……

 

「あ、ちょっと貸してみてくれる?」

 

「ん?おう」

 

 弁当箱と箸を受け取っておかずを一品つまみ……

 

「はい、あーん♪」

 

「!? あーん……」

 

パクッ

 

「えへへ、どう?」

 

「嗚呼、生きてて良かった……」ジーン

 

「もう、大袈裟だよ」フフッ

 

「よし、じゃあ今度は俺が果南に!」

 

「え!?いやいいよ私は!」

 

「俺もやってみたいんだ。ダメかな?」

 

「……わかった」

 

「OK!んじゃあ、あーん」

 

「あーん」

 

「どう?」

 

「我ながら美味しい。けど、凄い恥ずかしい……///」

 

「うん、思ったより凄いよなこれ……でもありがとな♪」

 

「こちらこそ♪」

 

 これ以上は恥ずかしさが勝ってしまうので、普通に食べることにした

 美味しさと幸せを噛み締めながら

 

 

……

 

 

「ふぅ~ご馳走様でした!」

 

「お粗末様でした♪」

 

 弁当箱を片付けて、次のアトラクションを探す

 

「食直後だし激しいのはあんまりな~っと」

 

 彼の目に入ったのは"お化け屋敷"の看板

 

(偶にはこういうのもアリかもな)

 

「果南、あれはどう?」

 

「え? お化け屋敷か~……」

 

(暗いのも苦手だけど……どうしようかな?)

 

「行って、みようか」

 

「大丈夫?」

 

「うん、大丈夫……」

 

 

……

 

 

「け、結構、本格的だね……」

 

「だな~。ん?"この入れ歯を持ち主に返してあげてください"か。面白い設定だなおい。出口辺りにいらっしゃるんかな」

 

(うぅ……)

 

 おどろおどろしい雰囲気のBGM、壁を叩く音や助けを求めるような声。果南はどんどんと恐怖感が増していった

 

「果南大丈夫?」

 

「こ、これくらい平気だよ……!」

 

(どう見てもアカンけどどうしたものか……)

 

 いっそ途中の出口からリタイヤしようかと隼人が考えた矢先……

 

「ハグぅッ!」

 

 

ムニュ

 

 

「!」

 

 恐怖感に堪えられなくなったのか、果南は隼人の左腕に抱き着く

 

 そしてこの感触はまさしく……

 

(すばら!!……じゃなかった。正直、お化け屋敷どころじゃねぇな……)

 

 ひとまず果南を安心させるため、空いている右手で彼女を抱き寄せる

 

「果南、俺がいるから大丈夫だ。もう少しだけ、頑張れるか?」

 

「うん。頑張る……」

 

 子供のような彼女の表情に愛おしさを覚えながら、ギュッと抱きしめる

 そして正面に向き直り

 

(神さえ、悪魔さえ、俺は超える。果南のために!……って試合中とかならカッコ良いんだけどねぇ)

 

 左腕の感触を紛らわせるために無駄な思考を巡らせながら、ゆっくり奥へと進んで行った

 

 

……

 

 

 そしてゴール目前。入口にあった"入れ歯"の持ち主がいた。ポケットから取り出し、人形の口に嵌める

 

(これで良しっと。じゃあな旦那。もう入れ歯落とすんじゃねぇぞ!ってね)

 

 これでなんとか脱出した2人。ずっと暗い処にいたため、日の光が少し眩しい

 

「果南、終わったよ。もう明るいから大丈夫だ」

 

「……うん」

 

 お化け屋敷から出てもずっとしがみついている果南

 

(まさかこんなに怖がりだったとは。悪いことしたな……)

 

「ごめんな、こういうの苦手って知らなくて……怖かったろ?」

 

「ううん、私も言ってなかったし。でも……」

 

「ん?」

 

「もっかい、ハグして……?」

 

「ッ!/// お安い御用だ」

 

ギュッ

 

「ん……」

 

「……」ナデナデ

 

 甘えるような果南の声にドキッとしながら、ハグをして頭を撫でる

 

(今日の果南は甘えん坊だな)フフッ

 

「でもごめんね、迷惑かけてばっかり……」

 

「何言ってんだ。そんなの気にすんなって。むしろかわいい果南が見られて良かったくらいだ」

 

「うぅ、恥ずかしいよ~……」

 

「ハハッ、悪い悪い。少しは落ち着いた?」

 

「うん。ありがとう」

 

「じゃあちょっと一息ついて、ゆっくり回ろうか」

 

「うん」

 

(お化け屋敷は怖かったけど、やっぱり隼人のハグは安心するな……♪)

 

 

 

━━━━

 

 

 

 その後はゲームコーナーなどでまったり園内を巡り、楽しい時間を過ごした2人

 最後に、景色の良い処にあるベンチに腰掛けて今日一日を振り返る

 

「果南、今日はどうだったかな?」

 

「う~ん色々予想外なことが多かったけど、なんだかんだで楽しかったよ!ありがとう♪」

 

「そうか、なら良かった……。嫌な思いをさせまくったかと思って心配だったんだ……」

 

「ゴメンね。でもそんなに気にしなくて大丈夫だよ」

 

「そっか。でもホント、俺も楽しかった。こちらこそありがとう!」

 

 果南が暗い処や高い処が苦手とは知らず、彼女を振り回してしまったと思っていた隼人だったが、どうやら考え過ぎだったのかも知れない。色々とハプニングもあったが、ちゃんと楽しめたようだ

 

 その後はゆっくりと穏やかな時間を過ごし、そうしている内に隼人は……

 

「……」zzz

 

 安心したのか、寝不足のせいか、いつぞやのように寝てしまっていた

 本来デート中に寝るなどご法度だが、果南は彼のほっぺたを軽くつつきながら優しく見守る

 

(相変わらずかわいい寝顔しちゃって……)フフッ

 

(部活とかでお疲れなのかな?そんな中、色々計画してくれてありがと♪)

 

 怒るどころか感謝する。こういう処にも果南の優しさや包容力が垣間見える

 

(そしたら……ちょっと恥ずかしいけど、頑張ってくれた隼人にご褒美あげなきゃね……♪)

 

 周りに人がいないことを確認して顔を寄せ……

 

 

 

 

 その無防備で愛しい横顔に、そっとキスをした

 

 

 

 

おしまい

━━━━

 



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真夏のプール

番外編 その2
諸事情で予定より大幅遅れで投稿です……

今回は台本形式です。隼人と江井が出るとごっちゃになるので……
あと果南はアニメは高所恐怖症だけどスクフェスでは絶叫マシン大丈夫なんですね。確認不足でした
それではどうぞ!


~都内、とあるプール~

 

 夏。人々を開放的にする季節がやってきた

 果南たちは都内のプールに来ている。隼人にダイヤと江井も加え、4人での夏イベントとなった

 

ダイヤ「お誘いありがとうございます♪しかしお二人のお邪魔にはなりませんか?」

 

隼人「それもアリだけど、今回は気にせずに皆で夏を満喫しようぜ!」

 

果南「うん!わいわい楽しもうよ♪」

 

江井「んじゃ、遠慮なくご一緒するか!」

 

 

……

 

 

~女子ロッカールーム~

 

 着替え終了後

 

果南「ダイヤ、背中に日焼け止め塗ってくれない?」

 

ダイヤ「えぇ、構いませんわ」

 

 日焼け止めを渡し、果南はダイヤに背を向ける

 しかしダイヤは手を止めたままだ

 

果南「どうしたの?」

 

ダイヤ「あぁいえ。折角ですから、隼人さんに塗ってもらうのは如何でしょう?」

 

果南「えっ、ダイヤ!?」

 

 以前のダイヤなら"破廉恥ですわ!"と言い出しそうな内容だ。鞠莉が言うならまだしも、それをダイヤから提案されるのは予想外である

 

果南「恥ずかしいけど……やって、もらおうかな///」

 

ダイヤ「ふふっ、それがよろしいですわ♪ では、私の背中をお願いします」

 

 そう言って自分の日焼け止めを果南に渡し、背を向ける

 

ダイヤ(鞠莉さんから"シャイな2人をシャイニーにしてあげてね♪"と言われましたが……どうなるでしょうか?)

 

 

 

━━━━

 

 

 

~プール入口~

 

 ロッカールームを出た処に、青年が2人立っていた。厚い胸板、逞しい腕、一般女子のウエストより太かろう大腿、その腹筋は見事なシックスパック……とは程遠いが、鍛えられた肉体であることに変わりはない。それでいて纏っているオーラに威圧感はなく、穏やかな雰囲気の2人である

 

 一方で、しばらくするとロッカールームから2人の女性が出てきた。1人は青みがかった黒髪を、もう1人は漆黒の髪を綺麗に束ねている。男なら誰もが振り返るような美貌に、テニス選手のように美しくしなやかな筋肉、健康的に()()()()伸びた脚、キュッとくびれたウエスト、引き締まったヒップ、もはや芸術的な美しさすらある

 さらに、前者は圧倒的なバストも兼ね備え、その瞳には母性を宿している。後者の方はバストは控えめではあるが、清楚な雰囲気の中に華やかな存在感がある。そしてそんなモデル顔負けのパーフェクトボディを、大胆なビキニで惜しげもなく晒している2人

 

 当然というべきか、周りの男たちの視線が集まる。だが待ち合わせでもしているのか、そんな視線は全く意に介さずに目的の人物を探しているようだった。やがてその相手が見付かったのか、笑顔で其処へ駆け寄る

 

 お察しの方も多いだろうが、先ほどの青年2人だ

 

 

ダイヤ「お待たせ致しました」

 

隼人「いやいや、お気になさらず」

 

果南「ん~2人ともまた腕太くなった?」

 

ダイヤ「確かに、さらにガッシリされていますわね」

 

江井「ん~まぁそうかも知れないな。ようやく俺らベンチプレス100㎏上がったし」

 

隼人「あれは嬉しかったな~」

 

 高校時代よりさらに厳しい練習を積んでいる2人。"ぷにマッチョ"に磨きがかかったようだ

 因みに2人を比較すると、前腕は江井が太く、上腕は隼人が太い

 

隼人「てか2人も水着新調した?」

 

果南「あ、気付いてくれた?」

 

江井「そりゃもう。それにポニーテールのダイヤさんも新鮮で良い感じだな」

 

ダイヤ「ふふっ、ありがとうございます♪」

 

隼人(この流れは……)

 

江井「果南さんは……お前が言え!」

 

隼人「やっぱり!?ってかもうその……ホント最高で言葉にならんよ。幸せ者だねぇ俺は……」

 

果南「ふふっ、ありがと。気に入ってくれて良かった♪」

 

隼人「……ッ///」

 

 見た目の美しさもさることながら、自分に見せるためにこの水着を選んだのだろうかと考えると愛しさがこみあげてくる

 

果南「あと、それでね……背中に、日焼け止めを塗って欲しいんだ///」

 

隼人「!?」

 

ダイヤ「是非塗ってあげてください♪」

 

江井「マジか!? 羨ましいぜ……」

 

 

……

 

 

 果南の日焼け止めを持ったまま、隼人は彼女の背中を見つめている。先ほどのやり取りだけで、純情な彼のメンタルは既にオーバーヒート寸前だ

 泳ぐことが多いハズだが、ダイビングスーツを着ているからかその背中は白い。今は髪を前に降ろしているためうなじまで見えるその肌は、肌理(きめ)が細かくシミ一つない。浮き出た肩甲骨や背筋から腰にかけての曲線もまた美しい

 

 つい見惚れてしまい、こんな美しいものに触って良いのだろうかとさえ思ってしまう隼人であった

 

 

果南「あの、恥ずかしいから、早く塗って欲しいな……」

 

隼人「あぁ悪い。じゃあ、塗っていくよ」

 

果南「うん……」

 

 果南に促され、日焼け止めクリームを塗り始める

 何故かそこそこ美肌な隼人。男にしては繊細な指が、果南の肌をなぞっていく

 

果南「んっ!」ビクッ

 

隼人「大丈夫!?」

 

果南「うん、ちょっとくすぐったかっただけだから。続き、お願い」

 

隼人「おう。あ~っと、紐の処も塗った方が良いよね?」

 

果南「うん。外さないでね?」

 

隼人「外さないよ!?」

 

 再び塗り始めた隼人。ビキニ紐の下の素肌には、特に慎重に指を這わせる

 

隼人(なんか余計に緊張というか……)

 

果南(恥ずかしいけど、ちょっと気持ち良いかも……♪)

 

 

 

隼人「こんなもんかな?」

 

果南「ありがとう♪じゃあ今度は、私が塗ってあげる♪」

 

隼人「え!?いや俺はいいよ」

 

果南「いいから♪ほら、背中向けて?」

 

隼人「あ、あぁ」

 

 そう言って、隼人の大きな背中に日焼け止めを塗り始める。筋肉で盛り上がっており、とても頼もしい背中だ

 

果南(なんかハグというより、抱きつきたくなる背中だな……♪)

 

果南「高校の時もそうだったけど、ホントにくっきりな日焼け跡だよね」

 

隼人「ホント自分でもそう思うわ」

 

 元々色白な隼人が防具を着て炎天下にいると、首から上・両腕・ふくらはぎが真っ黒に日焼けする。そこで上裸になると、日焼け跡というより白いTシャツを着ているように見える

 

隼人(こうやって塗ってもらってると、なんか煩悩が浄化される感じがするぅ~……)

 

果南(……♪)

 

 照れながらも嬉しそうに塗り合う光景を見ていた2人は

 

江井(しかしまぁ、マジで羨ましいな……)

 

ダイヤ「ふむ……。では、江井さんの肩には私が塗って差し上げますわ」

 

江井「!?」

 

ダイヤ「江井さんが寂しそうだから仕方なくですわ!別にあのお二人が羨ましいとかそういう訳では……!」

 

 言いながら、口元のホクロを掻いている

 

江井「んじゃあ~お言葉に甘えて、よろしくお願いします!」

 

江井(しかしまぁ、ダイヤさんも凛々しかったり可愛らしかったり、面白い人だよホント)フフッ

 

 この2人も、心が止まれない季節の熱に当てられてしまったようだ

 

 

 

━━━━

 

 

 

~流れるプール~

 

 このプールでは、とある回転寿司チェーンとコラボし、そのお店の寿司皿を模した浮き輪が期間限定で貸し出しされている

 

ダイヤ「これを……使いますの?」

 

隼人「おう!これめっちゃ人気だから2つ確保できたのは幸運だ」

 

江井「これを目当てに来てる人も多いしな」

 

果南「とりあえず隼人乗ってみてよ♪写真撮ってあげるから」

 

隼人「よっしゃ!」

 

 プールに入る前に、空いているスペースで浮き輪に仰向けに乗る。果南は防水のポーチからスマートフォンを取り出し、"お皿"に乗った隼人を撮影する。

 

隼人「白身で程よく脂が乗ってるぜ!」

 

江井「一部は炙ってる感じだな。……炙りとろサーモン的な?」

 

果南「美味しそうだね!」

 

ダイヤ「……何をやっているんですの?」

 

江井「ただのネタだよ。色んな意味でな」

 

ダイヤ「は、はぁ……」

 

果南「ゴメンねダイヤ。じゃあプール入ろうか!」

 

「はい!」

「「おう!」」

 

 

……

 

 

隼人「しかしまぁ、改めて人口密度がヤバいな」

 

江井「テレビとかで見て想像はしてたけど……」

 

ダイヤ「実際に来るのとでは大違いですわね」

 

果南「確かに、"泳ぐ"って雰囲気じゃないね」

 

隼人「まぁ競泳用プールもあったし、後で行くのも良いかもな」

 

 内浦の海で育った4人にとって、都内のプールは予想外の光景だった。だがここでの遊び方はある程度予習しているため問題はない

 まずは女子2人が浮き輪に乗っている。男子2人は浮き輪に掴まって一緒に漂ったり、目が回らない程度にゆっくりと浮き輪を回したり

 

ダイヤ「ふふっ、こうやってゆっくり水に浮かんでいるのも悪くありませんわ♪」

 

果南「うん♪思ったより楽しいね!」

 

隼人「いつもはガチで泳ぐか潜るかが殆どだったもんな~」

 

隼人(というか……)

 

 果南のパーフェクトボディが至近距離にあるため、目のやり場に困ってしまう。ダイヤと一緒の江井も同様だろう。相変わらずの2人である

 加えて偶に視線が合い、微笑み返す。まったり漂っているハズなのにドキドキしてしまう

 

隼人(まさかこんなに良いものだとはねぇ……)

 

果南(ふふっ、楽しいな♪)

 

 

果南「そうだ隼人、そろそろ代わろうか?」

 

隼人「お、じゃあ頼むわ」

 

 タイミングを見て果南が降り、炙りとろサーモンこと隼人が乗る

 

隼人「お~また違った景色だな」

 

果南「じゃあ回してあげるね!」

 

隼人「Oh」

 

 早速浮き輪を回し始める。先ほどよりちょっと速めだ

 

隼人「あ~れ~」

 

果南「良いではないか、良いではないか~♪」

 

ダイヤ(楽しそうですわね♪)

 

江井「ダイヤさんも、もっとやる?」

 

ダイヤ「私は!……お願い致しますわ……」

 

江井「御意!」

 

 この2人もなかなか良いコンビではなかろうか

 

 

……

 

 

果南「ん~、もう一周したら別の処に行こうか?」

 

隼人「だな。みんなもそれで良い?」

 

ダイヤ「構いませんわ」

江井「OKだ」

 

果南「うん!じゃあ……!?」

 

 その時果南に見えたのは、向かい合わせで浮き輪に入っている別のカップル。2人の距離が近いため、見ているこちらも少しドキドキしてしまう

 

果南(恥ずかしいけど、やってみたいな……/// そうだ!)

 

果南「ねぇ隼人、2人で……浮き輪に入ってみない?あそこの人みたいに……」

 

隼人「!?」

 

果南「どう、かな?」

 

隼人「よ、喜んでッ!んじゃあ一旦降りるわ」

 

 輪っかが大きいため、上半身を残したまま両脚を水中に降ろせた隼人。そして両手を広げ

 

隼人「……いらっしゃい、ってね」

 

果南「うん、お邪魔します♪」

 

 2人でも充分入れる大きさとはいえやはり近い。人前なのもありハグこそしないが、いつぞやのように見つめ合って2人の世界に入ってしまった

 

江井(水温上がった……?)

 

ダイヤ(シャイなのか大胆なのか分かりませんわ……)

 

 流石に向かい合わせのままでは恥ずかしいので、果南はさっき思い付いたことを提案してみた

 

果南「ちょっと、背中向けてみてくれる?」

 

隼人「おう」

 

果南「えいっ♪」

 

隼人「おっと」

 

 彼が背を向けた処で、嬉しそうにその広い背中に飛び付く

 

果南「えへへ、やってみたかったんだ♪」

 

隼人「ハハッ、こういうのも良いな♪」

 

 隼人は果南を背中に乗せながら浮き輪に掴まり、プールの底をちょんちょんと蹴るようにしてゆっくり歩く

 互いの素肌が触れているため先ほどに増してドキドキするが、それよりも充足感が強い

 

果南(手を繋いだりハグしたりも好きだけど、こうやっておんぶしてもらうのも良いな……♪)

 

 おんぶされるのは恐らく子供の時以来だろう。少し懐かしい気持ちになる。また、恋人の背中に乗るというのは、スキンシップが好きな彼女にとって想像以上に心地好いものだった

 思わずギュッと抱きしめて、頬を寄せる

 

隼人「……」フフッ

 

果南「……♡」

 

 そんな果南に顔を向けて彼は微笑む

 背中の感触もあって愛情と煩悩の板挟みになっていた隼人だが、今は愛しさが勝っているようだ

 

ダイヤ(全く、あの2人は……)フフッ

 

江井(爆発しろ!と言いつつなんだかんだ俺も幸せだけどな~)

 

ダイヤ(!?)

 

江井(あぁいや、特に深い意味はないんだが……)

 

ダイヤ(私も、貴方と話すのは……それほど嫌じゃありませんわ)

 

江井(!?)

 

 

 

━━━━

 

 

 

 続いて一行は、ウォータースライダーに並んでいた。これは流石に初めてのものだ

 

隼人「果南これは大丈夫?」

 

果南「う~ん何か大丈夫な気がしてきた」

 

 前回の遊園地以降何かが吹っ切れたのだろうか?既にその時乗ったアトラクションより高い位置にいるが平然としている。気を使っている訳でもなさそうだ

 

江井「しかし30分待ってようやくあと何組かって処か~」

 

ダイヤ「階段入口には"ここから120分"とありましたし、これでも早い方なのかもしれませんわね」

 

隼人「2時間……。それならカラオケ行けるな」

 

果南「それだけ待つのは流石に辛いね~……」

 

 都心では珍しくないことだが、改めて人の多さに驚いてしまう

 

 このスライダーだが、4人乗りのゴムボートで滑降するものだ。ボートは家庭用のビニールプールくらいの大きさで、落下防止の取っ手に掴まるようになっている

 そして順番が来て早速乗り込む。乗った位置は隼人を先頭にして、時計回りに果南・ダイヤ・江井の順だ。構造上、先頭は後ろ向きになる

 

隼人「これだと重心がとても偏っているな」

 

江井「めっちゃ加速しそう」

 

ダイヤ「楽しみですわね♪」

 

果南「ふふっ、ちょっとドキドキするね」

 

 と言っていると係員からGOサインが出た

 

係員「はいどうぞ~!」

 

ダイヤ「行きますわよ!」

江井「OK!」

隼人「ヨーソロー!」

果南「キャーー♪」

 

 それぞれ声を出しながら滑り出す。そしてしばらくすると、想像通りボートの向きが男子を下にしたまま偏る

 

隼人「ちょ、ま。後ろ向きだからぁ、どっち進むかわからんんッ!」

 

江井「しかも結構、凹凸がっ、あるぅぅッ!!」

 

果南「アハハッ!2人とも面白い~♪」

 

ダイヤ「もう、驚き過ぎですわ!」フフッ

 

 半ば芸人のようなリアクションをする2人を見て女子組は大笑い。屋根がない部分もあるため気持ちに余裕があれば青空を見たりもできるが、それどころではないようだ

 実際、前向きと後ろ向きではかなり乗り心地は異なるのだろうが

 

 速度を落とさずに幾度かカーブを越え、凹凸で揺られるうちにゴールが見えてきた。女子は気付いているが、あえて黙っている

 そして……

 

ダイヤ「ピギャッ!」

果南「キャーッ!」

隼人「うおぁっ!?」

江井「のわっ!?」

 

 着水!

 大きな水しぶきが上がる。落ち着いてからボートを降り、係員に預ける

 4人それぞれ様子は異なるが、無論全員無事である

 

果南「2人とも大丈夫?」

 

隼人「ハハッ、大丈夫大丈夫。思ったよりスリル満点だったけどな」

 

ダイヤ「それほど怖かったのですか?」

 

江井「楽しい怖さだったけどな」

 

果南「楽しかったならOKだね!」

 

隼人「おう! ん~なんだかんだ良い時間だし、お昼にしちゃうか」

 

「「は~い」」

 

 

……

 

 

隼人「何食おっかな~。お?」

 

果南「何か良さそうなのあった?」

 

隼人「あの"肉ラーメン"ってとてもロマン……!」

 

江井「確かにありゃ美味そうだな」

 

 チャーシューではなく焼いた牛肉を使っているようだ。イメージ写真では麺が見えないほどに肉が敷き詰められており、未だに食べ盛りの男子にはたまらないだろう

 だが女子としてはカロリー等が気になる処だろうか

 

果南「私もお腹空いたしそれにしようかな。ダイヤは?」

 

ダイヤ「私も同じもので結構ですわ」

 

 普段から運動しているこの2人は、カロリーはさほど気にしないようだ

 

隼人「了解!じゃあダイヤさんと江井ちゃんで席取っててくれるか?」

 

江井「それは構わんが、俺と隼人で行った方が良くね?」

 

 荷物を持つなら男手の方が良いと考えたのだろう。ある種当然だ

 

隼人「あ~それでも良いんだが、果南とダイヤさんが2人で座ってたらどうなると思う?」

 

果南「?」

ダイヤ「?」

 

江井「……あ!なるほど、他の男が放っておかないな」

 

果南「ナンパってこと?」

 

隼人「そういうこった。プールサイドでハードタックルする訳にもいかんしな」

 

ダイヤ「ふふっ、わかりましたわ。お任せください♪ では江井さん、参りましょうか」

 

江井「よっしゃ!」

 

 

隼人「……うむ!」

 

 席を探し始めた2人の背中を見て何故か満足気だ

 

果南「そこまで考えてるなんて流石だね!ありがと♪」

 

隼人「いやいや。それに何より……」

 

果南「?」

 

隼人「これで2人きりになれたしな」

 

果南「!……うん♪」

 

隼人「と言っても何分もないけどな」ハハッ

 

果南「じゃあその分……」

 

隼人「!!」

 

 満面の笑みで隼人の腕に抱き着く果南

 この腕の感触、先日のお化け屋敷でもそうだったが、今回は水着越しである。彼はもう、言わずにはいられなかった

 

隼人「果南、当たってるぞ」

 

果南「……当ててるんだよ♪」

 

隼人「!?!?」

 

 

……

 

 

果南「お待たせ~」

 

ダイヤ「ありがとうございます♪」

江井「サンキュー!って隼人どした?」

 

隼人「運ぶのにめっちゃ集中してたからな……」

 

果南(ふふっ、ゴメンね♪)

 

隼人(大丈夫だ。むしろその……うん)

 

ダイヤ「どうされました?伸びないうちに頂きましょう」

 

果南「うん」

隼人「おう」

 

「「いただきます!」」

 

 

……

 

 

「「ごちそうさまでした」」

 

江井「ふぅ~。思ったよりは量あったな」

 

隼人「だな。なんか食ったら眠くなってきた」

 

江井「子供か!」

 

隼人「今日は寝ないから大丈夫!」

 

ダイヤ「"今日は"ってことは、いつだか寝たのですか?」

 

隼人「あ~、前のデートの終盤に……」

 

江井「それはないわ~」ハハッ

 

果南「まぁ私としてはかわいい寝顔が見られて良かったよ♪」

 

隼人「Oh」

 

江井「果南さん優しいな~。でも隼人はなんだかんだ尻に敷かれるなこりゃ」

 

ダイヤ「ふふっ、同感ですわね」

 

隼人「全くもって否定できんな」ハハッ

 

果南「え~どういうこと?」

 

江井「ん~何と言うか、果南さんの包容力に隼人は逆らえないだろうな~って感じ」

 

果南「う~ん、そうなの?」

 

隼人「そうなの!」

 

果南「よくわかんないけど、隼人が嬉しそうだから良いかな♪」

 

ダイヤ「ふふっ♪では一息ついたら移動致しましょうか」

 

「「は~い」」

 

 

……

 

 

 それから一行は浅瀬のプールへ。ビーチボールをするつもりのようだ

 

果南「はいっ」

 

隼人「ほいっ」

 

ダイヤ「とうっ」

 

江井「せいっ」

 

果南「えいっ!」

 

隼人「ちょっ!?」

 

 ゆっくりラリーをしながら、時折強烈なスパイクが飛んでくる。その後も、逸れた球をレシーブしようとバランスを崩して水飛沫を上げたり、隣のグループと球を拾い合ったりしながら続けて行く

 

隼人「うお冷たっ!」

 

果南「どうしたの?」

 

隼人「なんか背中に水をかけられたような……あれか?」

 

 隼人が振り返ると、プール上段に子供用の遊具のようなものがあった。よく見ると水鉄砲が備え付けてあり、少年が発射した流れ弾?が当たったのだろう

 ビーチボールを始めた時は少し距離があったハズだが、いつの間にか移動していたようだ

 

 すると彼は少年の正面を向いて胸を張った

 

隼人「良かろう。正面から全て受け切ろうではないか!」

 

 少年は意図を察したか、隼人の胸板を打ち抜いていく

 それを見た江井は手で水鉄砲を作り、脇腹を狙い撃つ!

 

果南「よ~し私も、ってダイヤどうしたの?」

 

 手で水を握り、その場で暴発させてしまっているダイヤ

 

ダイヤ「うぅむ……仕方ありませんわ!」

 

 と言ってビーチボールを隼人の背中に軽く投げつける

 それを微笑ましく見ながら、果南と江井と少年で隼人をハチの巣にしていく

 

隼人「いやお前ら十字砲火しすぎいぃ!」

 

江井「芸人としては最高に美味しいんじゃね?」

 

隼人「芸人じゃねぇし!」

 

 

……

 

 

 その後は競泳用プールでガチ泳ぎして周りの人を驚かせたり、クールダウンで波のプールで漂ったり、短めのウォータースライダーに乗ったりと、ほぼ一通りは回った

 

ダイヤ「最後に行きたい処はありませんか?」

 

隼人「もう大丈夫かな。ナイトプールってのが気になるけど、もうちょっと大人になってからにしよう」

 

江井「だな~」

 

果南「じゃあ着替えてからまた合流しようか」

 

 

……

 

 

 再び集合。心地よい疲労感が一行を包む

 クレープを食べながら、今日1日を振り返る

 

隼人「いや~今日はマジ楽しかったな~」

 

江井「なんだかんだ見せ付けてくれたねぇ~」

 

隼人「恥ずかしい……けど、おんぶの時におもちが当たってヤバかった!」

 

果南「やだ……そういうのは恥ずかしいからダメっ!///」

 

ダイヤ「全く、殿方というのは……」

 

隼人「ハハッ、悪い悪い。とりあえず撮った写真は後でLINEに載せるか」

 

 今日の4人に鞠莉を加えた5人のグループLINEがあり、何かイベント等あれば投稿している。今回の写真は特に鞠莉が羨ましがることだろう

 

果南「今度は5人でも来たいな~」

 

ダイヤ「イタリアの海にも行ってみたいですわね」

 

隼人「そりゃ良いな!来年の夏はそうしよう」

 

江井「部活は……まぁ何とかするか!」

 

 そんな話をしている内に日が傾いてきた

 ちょうどクレープを食べ終わり、今日は解散となった

 

ダイヤ「今日はありがとうございました」

 

隼人「こちらこそ。まぁまた連絡するわ」

 

果南「うん。よろしくね!」

 

江井「じゃあな!」

 

 

……

 

 

~帰り際~

 

隼人「さて、これでまた2人きりだな~。ホントに気が利く2人だわ、ってどした?」

 

果南「……」

 

 顔を俯かせたまま、無言で彼の脇腹をぷにぷにとつついている

 

果南「さっきはホントに恥ずかしかったんだからね!///」

 

先ほどのおんぶについてだろう。実際、背中に乗っている時は安らぎと愛しさを感じていた。勿論隼人も同様ではあるが、男としてはどうしても煩悩が混じるのは仕方ない。その感想を口に出すかは別として

 

 自ら当てた時より、意図せず当たったことを指摘される方が断然恥ずかしいようだ

 

隼人「いや~すまんって」

 

 

ギュッ

 

 

果南「……ハグすれば良いって思ってるでしょ」

 

隼人「……違うか?」

 

果南「合ってるけど、なんか悔しい……」

 

 そう言って口を尖らせながらも、隼人の胸に顔を(うず)める

 

隼人(全く……かわいすぎだろ)

 

隼人「なんか微妙な空腹具合だし、なんか軽く食って帰る?」

 

果南「……隼人の奢りね」

 

隼人「はいよ、お手柔らかに」

 

 なんだかんだ言っても、結局は尻に敷かれる隼人であった

 

 

おしまい

━━━━

 



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秋の2人

番外編 その3
お久しぶりです。ちょっと燃え尽きてました
番外編は今まで学年を考えていませんでしたが、今回は大学3年生の設定です
アメフトの話は出ますが描写は殆どありません
短いですがどうぞ


 秋、アメフトの公式戦シーズンだ。文化祭もそこそこに、練習や試合に全力を注ぐ学生フットボーラーたち。もちろん隼人や江井も例外ではない

 一昨年は"期待の新人"として入部し、去年からは試合に出場する機会が増えた。そして今年はレギュラーとして定着している

 

 朝晩の冷え込みが増してきたこの日も試合がある

 

 

……

 

 

~試合前・会場~

 

 恋人の雄姿を見るために、今日も含め殆どの試合で果南が見に来ている。たまにダイヤも一緒だ

 最初はチームメイトや相手校、周りの観客にも驚かれ、"M大の試合には元スクールアイドルが現れる!"と一時話題になったが、今では半ばおなじみともなっている。だがAqoursは根強い人気があるため、握手やサインを求められることも多い。むしろこちらを目当てにする人もちらほら

 

 観客席から果南が見つめる先には、準備運動を終えた隼人がいた。来ることは事前に伝えてあるが、試合前とあって果南に気付く様子はなさそうだ

 それを見たマネージャーが隼人に駆け寄り何やら耳打ちすると、彼がこちらを向いて軽く手を振った

 

(今日も頑張って!)

 

(おう!)

 

 実際に声が聞こえたかはわからないが、確かに気持ちは通じたようだ

 

 

 

━━━━

 

 

 

~試合開始~

 

「ハードタックル、レディーッゴー!!」

 

 

 

「センター行こうぜ!」

 

「DTよろしくぅ!」

 

 もはや腐れ縁とも言える高校時代からの宿敵。今日もグラウンドで相見える

 

(てかまたこいつデカくなったな……。重いったらありゃしねぇ)

 

 

 

━━━━

 

 

 

 この日の試合も無事終了し、隼人たちが勝利。試合後のミーティング等が終わり帰宅

 

「ただいま~っと」

 

 と言っても一人暮らしだから返事をする人はいないハズだが……

 

「おかえり~」

 

「Oh、流石にもう来てたか」

 

「うん♪」

 

 果南が来ていた。実は合鍵を持っており、しばしば隼人の家に来ることがある。その場合は予め隼人に連絡している。いつかサプライズしようと果南が密かに考えているのは内緒だ

 

「ちょっと遅かったね、って手首どうしたの!?」

 

「あ~あのNの野郎が滅茶苦茶重くてな、ちょっとやられた」

 

 左手首に包帯が巻かれ固定されている。行きつけとなっている接骨院で診てもらったようだ

 

「もう、ホント無茶するんだから……。今日は私がご飯作るから大人しくしてて!」

 

「……お言葉に甘えて、お願いします」

 

 ややご立腹な果南。もちろん隼人のことを心配しているからこそだが

 ケガ人としては下手に遠慮するより素直に従うことにした。実際、片手が使えないのでとても助かるというのも多分にある

 

「よろしい。冷蔵庫開けるよ……う~ん、今日の分は大丈夫そうだね。お肉は全部使っちゃう?」

 

「あぁ、使っちまって大丈夫~」

 

「了解♪」

 

 

……

 

 

「ごちそうさまでした!」

 

「お粗末様でした♪じゃあ片付けちゃうね」

 

「いやいや流石にそこまでは!」

 

「良いから。さっきも言ったけど今日は大人しくしてて。だから、早く治してね」

 

「……わかった。ありがとう!」

 

(ホントに、良い彼女だなぁ……)

 

「そういえば、お風呂はどうするの?」

 

「あ~、試合後にシャワー浴びたからもう今日はいいかなって」

 

 今の状態では左手は濡らせない。ビニール袋を被せてシャワーという方法もあるが、不便な上に気を遣うのでできれば楽をしたい。最低限の汗や汚れは流しているため、今日の処は問題ないだろう

 

「そっか~。せっかく背中流そうと思ってたのに~」

 

「!?」

 

「冗談だよ♪さて、終わったからそろそろ帰るね」

 

「Oh、ありがとう。じゃあ送っていくよ」

 

「ん~だから隼人はゆっくりしててって」

 

「俺が行きたいんだ。せめて駅までは」

 

「……うん、じゃあよろしく」

 

 

……

 

 

 しばらく歩いて駅に到着

 

「今日はホントにありがとな。マジで助かったわ」

 

「どういたしまして。治るまで毎日来ようか?」

 

「いや、流石に毎日来なくても大丈夫だぞ?」

 

「……迷惑かな?」

 

「とんでもない!というか果南が大変だろ?」

 

「私は大丈夫だよ。それに、さ……」

 

「……そうだな。じゃあお願いするけど、無理はするなよ?」

 

「うん!」

 

 果南が言わんとしていることを何となく察し、同意した隼人。そして人通りが少なくなったタイミングで……

 

「!」

 

「"今日はありがとうのハグ"だ!」

 

「ふふっ♪じゃあ私は、"試合お疲れ様と早く治してのハグ"だね」

 

「……おう。じゃあ、また明日?」

 

「うん。明日、講義が終わったら来るね!」

 

「了解!よろしく!」

 

 

 

━━━━

 

 

 

 ~数日後~

 

 本当に毎日のように隼人宅に通う果南。今日は食材の買い物だ

 いつもは隼人の左手と果南の右手を繋いでいるが、今日はそっと腕を組んでおり、そして互いの空いた手で荷物を持っている

 

「えへへ、なんかこういうのも楽しいね♪」

 

「ははっ、そうだな~」

 

「ん~……」

 

「どうしたの?」

 

「あぁその、こうして夕焼けの中を歩いてたら、果南が告白してくれた時を思い出してな……」

 

「! うぅ、恥ずかしい……」

 

「すまんすまん……」

 

「ううん。でもやっぱり、あの時勇気を出して良かったなって思う♪」

 

「うん……ありがとうな」

 

 自然と笑顔が綻ぶ2人を、あの日のような夕暮れの光が包み込む。そしてその後ろには長い影が2つ、幸せそうに揺れている

 

 

……

 

 

「「ただいま~」」

 

「なんか全く違和感ないな」

 

「ふふっ♪じゃあ早速作ろっか」

 

「おう!」

 

 大分回復してきた隼人も手伝い、とてもスムーズに夕食の準備が整った。果南がこのキッチンに慣れているのもあるが、2人の息が合っている証拠でもある

 

「「いただきます!」」

 

「どうかな?」

 

「今日もすばらッ!!」

 

「ふふっ、良かった♪」

 

 それはもう美味いに決まっている。料理の腕もあるが、愛情たっぷりなのである

 幸せを噛み締める隼人に対し、この数日を振り返った果南はこんなことを口にした

 

 

 

「なんかこうしてるとさ、新婚さんみたいだね……///」

 

 

 

「!?!?」

 

 絶大なインパクトに思わず咳き込みそうになってしまった

 

「ごめん!大丈夫!?」

 

「あぁ~いやすまん。大丈夫だ……」

 

 もちろん隼人も結婚を考えていない訳ではないが、少なくとも大学を卒業してからと考えている。恐らく果南も同様だろう

 

「そのまぁ何だ……もうちょっと大人になってから、だな」

 

(告白は果南からしてくれたから、プロポーズは絶対に俺からする!)

 

「……うん。待ってるね♪」

 

「……おう!」

 

 大学生になっても、ピュアなままの2人である

 

 

おしまい

━━━━

 

 

「でも、もうすぐ……」

 

「あぁ。しばらく寂しくなるな……」

 

そう。果南の留学の日が近付いている



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真冬と真夏のクリスマス

ド遅筆ですが何とかクリスマスイブに間に合いました
前回から数日後の処から始まります
飲酒描写がありますが、早生まれでも大学3年生なら20歳です。念のため
ダイビングのライセンスの話が出ますが、詳しくは知らないので大目に見て頂けると嬉しいです


~隼人宅~

 

「それでは、果南の留学成功を祈って~……」

 

「「かんぱ~い!!」」

 

「ありがとう~♪」

 

 果南の留学前に、隼人宅にてパーティーをしている。メンバーは、いつもの4人だ

 

「ふふっ、偶にはお酒も良いものですわね♪」

 

「そうだね~♪みんなで飲むの久し振りかな?」

 

「確かにな~」

 

「しかしお2人は部活で飲むのではないですか?運動部は凄いと聞きますが……」

 

「うん……。納会とかだとめっちゃビール出てくるんだけど、俺も隼人もビール好きじゃないんだよな」

 

「ホントそれ。だからこうやってゆっくり飲むの良いな~って……」

 

 因みに隼人はカルーアミルク、江井はハイボール、果南とダイヤは果実系のサワーを持っている

 

「全くだぜ……。って果南さんは何処に留学するんだっけ?」

 

「オーストラリアだよ。やっぱり世界有数のダイビングスポットだし、一度行ってみたいと思ってたんだ♪」

 

「良いですわね♪グレートバリアリーフを始めとして、美しい海が広がっているのでしょうね」

 

「おぉ~俺も潜りたい! けどなんか色々と問題に直面してるらしいな。生態系の講義で言ってた」

 

「マジかよ」

 

 気候変動・オニヒトデ・人為的な要因などが、グレートバリアリーフのサンゴに少なからず影響を与えている

 

「う~ん、そうなんだよね。でもダイビングを通じて、海や生き物の大切さを伝えたいんだ」

 

「それは素晴らしい心がけですわ!」

 

 

……

 

 

「続いて、隼人のオールスター選出を祝って~」

 

「「かんぱ~い!!」」

 

「おぉ、ありがとう~!」

 

「やっぱすげぇわお前は」

 

「まぁ流石に控えだけどな~」

 

 オールスターは実力的に4年生が選ばれることが多い。隼人が務めるセンターは、別チームの4年生がスタメン出場する見込みだ。隼人が出場するとしたら、キックオフでのブロッカーや、パントなどでのロングスナッパーだろう

 

「それでも凄いよ!見に行けないのが残念だなぁ」

 

「うむぅ……それならオーストラリアまでロングスナップ飛ばさなきゃだな」

 

「マジか。しかも果南さんのいる処ピンポイントだろ。人工衛星もビックリな精度だわ」

 

「……お2人とも酔っぱらってますわね」

 

「そう言うダイヤも、顔が赤くなってるよ♪」

 

 

……

 

 

 その後もまったり宴会が進んでいく。隼人が成人祝いに山口県の祖父母からもらった日本酒をみんなで飲むなどしているうちに、段々と酔いが回ってきた面々である

 

「ふぅ~良い感じにほろ酔いじゃのう」

 

「口調が変わってますわよ」

 

「あぁ、隼人は酔うとちょっと山口弁が出るんだわ」

 

「そ、そうなんですのね……。あら、どうされました果南さん?」

 

「……」

 

 とろんとした目でダイヤの方をじっと見つめて動かない果南。眠いのか、具合が悪いのかと皆が思った瞬間

 

「ダイヤ……ハグ、しよ♪」

 

「ピキャッ」

 

 突然のハグに可愛い悲鳴を上げるダイヤ

 

「「Oh、Heavenly……!」」

 

 美女同士のハグは何ともプライスレスだ。男子は思わず感嘆の声をあげる

 

「ふふっ、なんだか少し懐かしいですわね……って、ちょっと隼人さん何を撮っているのですか!?お止めなさい!」

 

「こんな光景を撮らずにはいられんって。後で江井ちゃんにも送るわ」

 

「サンキュー!」

 

「だからお止めなさいと言うのに!」

 

「流石にネットとかには載せんけぇ大丈夫。あ、でもマリーには送ろう」

 

「ぶっぶーですわ!!」

 

 

 

「じゃあ今度は……江井君、ハグしよ♪」

 

「おぉっと」

 

 "ハグ上戸"と言うべきだろうか、続いて江井にハグする。この組み合わせは初めてだろう

 

「ちょっと果南さん、隼人も見てるから!」

 

「えぇ~良いじゃん~」

 

 正直言って、男としては悪い気はしない。少し鼻の下が伸びている。だが、親友の視線が痛い

 

「江井ちゃん、次は無いけぇ覚えときんさい」

 

「いや、だから怖ぇよ!」

 

 

 

 そして最後は隼人にハグ……するかと思いきや

 

「えへへ~♪」

 

「……?」

 

(俺にはないのかな?)

 

 期待が膨らむ隼人に対し、なかなか焦らし上手な果南。笑顔で隼人を見つめたままだ

 

「う~ん、どうしよっかな~♪」

 

(諦めることに慣れた訳じゃなかっ……!?)

 

 半ば諦めたその時

 

 

ムギュッ

 

 

「とびっきりのハグ、しよ♡」

 

 

 果南がその豊満なおもちで隼人の顔を包み込む!

 

「果南さん!いけませんわ!」

 

「出た、大胆果南さん……!」

 

(これが、極楽浄土か……)

 

 三者三様の反応を示す。隼人にとっては確かに極楽ではあるかも知れないが、煩悩にまみれているため浄土ではないだろう

 やがてグッとサムズアップをした後、ゆっくりと彼の身体から力が抜けていった……

 

「おもちで窒息……。まぁ、本望だろうな」

 

「ぐぬぬ……」

 

「ぐぬぬ、って? あっ……」

 

「江井さん?」

 

「何でもないです!」

 

 そんな2人を尻目に、耳元で隼人に囁きかける果南

 

(ねぇ隼人)

 

(ん?)

 

(留学したらしばらくハグできなくなるからさ、今日はいっぱいハグしていたいな……)

 

(うん、そうだな……)

 

 だらんと下がっていた腕を果南の背中に回し、そっと抱き返す

 その優しい抱擁は、煩悩すらも溶かしていく……

 

(俺たちもいるの分かってるかな……?)

 

(お2人が幸せそうですから許して差し上げましょうか……)

 

 

……

 

 

 そこそこの時間になり、今日はお開きとなった。ダイヤと江井は帰ったが、果南は眠ってしまった

 2人の帰り際

 

「くれぐれも、くれぐれも健全に!ですわよ!」

 

「大丈夫だよ。隼人ヘタレだし」

 

「それもそうですわね」

 

「おい」

 

「悪い悪い。まぁあんま気にすんな。じゃあまた」

 

「ごめんください」

 

「おう。おやすみ」

 

 

……

 

 

(とりあえず……よっと)

 

 部屋に戻った隼人は、クッションを枕にして眠る恋人を優しく抱きかかえ、セミダブルの布団に横たえた。何とか起こさずに済んだようだ。因みに隼人はベッドより布団派だ

 すぅすぅと、規則正しく寝息をたてている果南。そんな彼女も愛おしく、目を細めてそっと頬に触れ、そして髪を撫でる。呼吸と共に微かに揺れ動くおもちも気になるが、ヘタレと言われようとここは我慢だ

 

(ふふっ、かわいい寝顔だな……)

 

 隣に横たわり、起こさないように優しく頭を撫でながら、じっと果南の寝顔を見つめる。お酒を飲んだせいだろう、彼女の頬は少し赤い。少しタレ気味の瞳は、睫毛と共に静かに閉じられている。そしてぷるんとした唇はわずかに開いており、その無防備さがまた愛おしい

 すぐに寝たがる隼人だが、今は眠るのがもったいない。この無防備な表情を目に焼き付けておきたいのだ

 

 しばらくそうしていると

 

「んん、ハグぅ……」

 

「!」

 

 かわいい寝言と共に、果南がハグしてきた。起こしてしまったか?と一瞬思ったが、そうではないようだ

 

(これは……動けねぇな。んなら俺も寝るか。おやすみ、果南……)

 

 果南の額に軽くキスをしてそっと抱き返し、隼人もゆっくりと眠りについた

 

 

……

 

 

 ~翌朝~

 果南が目を覚ますと、ほぼゼロ距離に隼人がいた。当然2人とも寝返り等で動いたハズだが、今はまたハグしている状態だ

 

「!? え~っと私、どうしたんだっけ……?」

 

 驚きで少し覚醒した頭を回転させ、昨晩のことを思い出す。4人で飲んでいたこと。酔いが回ってみんなにハグしたこと。その後は……

 

「途中で、寝ちゃったのかな?」

 

 隼人に"とびっきりのハグ"をした後の記憶が曖昧だ。恐らくその辺りで寝てしまったのだろう。だがいつの間にか布団にいる上に、毛布も掛けてある。自分でやってはいないだろう

 だとすると

 

(隼人がしてくれたのかな?ふふっ♪)

 

 確証はないがその可能性は高いだろう。その優しさに思わず頬が緩む

 

(う~ん、やっぱり隼人の抱き心地は最高だね♪)

 

 アメフトで鍛えた筋肉の上に、程よく脂肪がのっているためハグの感触はそれなりに良い。その上体格が大きいため安心感もある。抱き枕、或いは抱かれ枕としての性能は良いのではないだろうか。ただ、上に乗られたら重たいのが難点ではあるが

 などと考えていると、隼人も目を覚ました

 

「ん~……Oh、おはよう、果南」

 

「おはよう♪」

 

「「……」」

 

 

チュッ

 

 

「「……」」フフッ

 

 軽く口付けを交わし、見つめ合って微笑む

 

「もう少し、こうしてようか♪」

 

「おう♪」

 

 優しい時間がゆっくりと流れていた……

 

 

 

━━━━

 

 

 

 ~数日後~

 

 果南の留学の日

 

 空港にて。見送りは"都合が合わず"隼人だけとなった

 

「気を付けてな。体調とか治安とか……」

 

「うん。同期とも一緒に行くし、ホストファミリーも優しそうな人達だったから、そんなに心配しなくて大丈夫だよ」

 

「そっか。でもやっぱ、寂しいな」

 

 

ギュッ

 

 

「!」

 

「いつだかしてくれた、行ってらっしゃいのハグだ」

 

「ふふっ、ありがと♪」

 

 

「……」

「……」

 

 

 多少人目はあるが、それを気にする余裕はない

 何せこれから半年の間、会えなくなるのだ。もちろん連絡は取れる。だがこうして触れ合うことはできない

 

「このまま、何処かへ連れて逃げたいな」

 

「もう、寂しがり屋なんだから……」

 

「果南は寂しくないの?」

 

「そりゃあもちろん寂しいよ……?でも、戻ったらいつでもハグしてあげるから、ちょっとだけ我慢しよ?」

 

「……わかった。じゃあ改めて、体に気を付けて、頑張ってな!」

 

「うん!隼人もオールスター戦、頑張って!ケガしないでね」

 

「おう!」

 

 

 

━━━━

 

 

 

 恋人を乗せて南半球へ飛び立った飛行機。やがてそれが見えなくなっても、虚空を見上げて佇んでいる青年が1人。その横顔は……と、そんな彼に戦友が声をかけた

 

「果南さん、行っちゃったな」

 

「……来てたのか」

 

「私もおりますわよ」

 

「こりゃあ、賑やかだねぇ」

 

「ったく……んじゃまぁ、寂しい隼人の為にカラオケでも行きますか!良いかな、ダイヤさん?」

 

「構いませんわ♪さぁ、早速参りましょう」

 

「おう。……ありがとな」

 

 

……

 

 

 ~カラオケ。ダイジェスト~

 

 

 君にさよなら、告げるため僕ら~

 

 弓がしなり弾けた炎、夜空を凍らせて

 

 もう一度、キスしたかった……

 

 

(アカン)

 

(この調子で大丈夫でしょうか……)

 

 

 

━━━━

 

 

 

 ~冬~

 

 アメフトのリーグ戦は終了しているが、オールスター戦へ向けて練習やトレーニングに励む日々である。就活は……とりあえず置いておく

 男の原動力になるものとして、"女の子に良い処を見せたい!"というものがある。好きな女の子なら尚更だ

 "戦場で女の名前を出すのは野暮だ"という人がいるのも事実だが、精神力や状況にも依る

 

 だがやはりパフォーマンス云々よりも……

 

(やっぱり、寂しいな……)

 

 寂しがり屋である自覚はあるが、これは自分でもビックリするほどだ

 これまでも、合宿や遠征などで果南と会えない日は当然あった。しかしこれほど遠く、長い間というのは初めてだ。特に付き合ってからは

 

 今までの人生に於いて考えてみると、果南と一緒に過ごす時間の方が圧倒的に短い。当然である。出会ったのが高校1年生、付き合い始めたのが3年生の晩秋だ。だがこんな時間の長さの計算など意味はない。大事な人に会えない。それが寂しいのは当然だ

 果南は忙しい日々を過ごしているため、連絡を取れるタイミングは限られてしまっている

 

(ちょいと街に出てみるか~。ん?これって……)

 

 今日はオフ。気を紛らわすにも外に出た方が良いだろう。そう思って準備をしていると、去年のデートで買った2人用のマフラーを見付けた。これを巻いていれば、少しは寂しくないだろうか

 

 

……

 

 

 クリスマスシーズンということもあり、街の雰囲気もそれ相応になっている。夕方になると、木々に施されたイルミネーションが街中を彩り始めた

 道行く人の中には、若い男女が手を繋いだり、腕を組んでいる人も珍しくない

 

(ハハッ……逆効果だったかな)

 

 本来クリスマスはイエス・キリストの降誕祭であって、恋人達がちゅんちゅんするための日ではない。浦の星がミッション系なため、この辺りのことは教わっている。だが今の日本に於いてはこんなことを嘆いた処でもう手遅れである。とは言え、街が盛り上がること自体は悪いことではない

 実際、隼人の中でもクリスマスに対する認識が変わっている

 

 "クリスマスなんていらないくらい、日々が愛のかたまり"

 

 とある男性デュオの名曲の一節。カラオケでも人気の曲で、隼人と江井もよく歌っている。以前はこの歌詞の意味がよくわからなかったが、果南という恋人ができてからは実感しているように思う

 でも今は

 

(寒いな)

 

 去年も巻いたマフラーなのに、何故だかぬくもりが足りない。2人用を1人で巻いているため物理的には暖かいハズだが

 

(帰って筋トレでもするか)

 

 一度立ち止まって空を見上げ、遥か南の彼方に想いを馳せる

 

 果南は、元気にやっているだろうか

 

 

……

 

 

 ~クリスマス~

 

 今日は軽めの練習だったため、終わってから江井や他の友人と遊びに行った

 "愛しの果南ちゃんがいなくて寂しいな!"などと揶揄われたりしたが適当に流した。まぁ彼らなりに元気を出させようとしたのかも知れないが

 

 男だけでパーティーをする気にはならず夕方には解散し、自宅でゴロゴロ。夜用のプロテインを飲みながらテレビでも見ようかと思った時

 

 

 久し振りに、電話があった

 

 

 

━━━━

 

 

 

 ~その頃の果南~

 

 ダイビングのインストラクターになるため、オーストラリアに留学している。海外は高校の卒業旅行で行ったイタリア以来だ

 自分で潜るだけのダイビング免許では数日程度で取得できるが、インストラクターやマスターと言った上位のライセンスとなると、より長期の課程が必要だ

 そうなると実習は勿論のこと、座学も重要になってくる。船舶免許や救急救命法、指導法や客の安全確保など学ぶことは山ほどある。そういった知識を深めることは楽しい

 そしてやはりダイビング実習は最高だ。どこまでも広がる海、日本であまり見ない鮮やかな魚の群れ、広大なサンゴ礁など、内浦とはまた違った魅力がある。オーストラリアに来て良かったと潜る度に思う

 

 そんなある日、ホストファミリーとの団欒

 

『カナン、ここでの生活は慣れたかしら?』

 

『うん!おかげさまで。マムやみんなが優しいからね』

 

『あたしも、新しいお姉ちゃんができたみたいで嬉しい!』

 

『ふふっ。ダイビングの方はどう?』

 

『今のところ順調だよ。勉強することも楽しいこともいっぱいで、毎日充実してるんだ♪』

 

『それは良かったわ♪ でもカナン、たまに遠くを見るような時があるわね』

 

『あ~気付いてたんだ……』

 

『ひょっとして"ハヤト"のこと?』

 

『カナンにボーイフレンドがいるって知った時はちょっとショックだったんだぜ俺!』

 

『アハハ……』

 

『もう、カナンを困らすんじゃないよ。でもやっぱり、寂しいのかい?』

 

『うん、ちょっとね』

 

『もうすぐクリスマスだし連絡してみたら?日本では恋人と過ごす日なんだろう?』

 

『うん、そうしてみる♪』

 

 

 

 そう、当然と言うべきか、果南も寂しさを感じていた

 マムを始めホストファミリーはみんな優しくフレンドリーで、ダイビング関連のこともあり充実した日々を過ごしているのは間違いない

 だが時折空を見上げて、遥か彼方に想いを馳せる

 

 隼人は、元気にやっているだろうか

 

 

……

 

 

 ~クリスマス~

 

 今日はダイビング講習は休み。日中は南半球の陽気なクリスマスを大いに楽しんだ

 水上バイクで海から颯爽と現れたサンタクロース、話には聞いていたが実際に見るととてもファンキーに見える。豪快なBBQではダディたち男の腕の見せ所だ。クリスマスツリーは少し日本と違って涼しげな色合いだ。ケーキだけは日本と同様かも知れない

 

 (ふふっ、こういうクリスマスも楽しいな♪ でも隼人がいたらもっと……ね)

 

 

 その夜、久々に隼人へ電話することにした。場所にも依るが時差は±1時間(サマータイム除く)。まだ起きてはいるだろう

 

『は~いもしもし』

 

「メリークリスマス!隼人♪」

 

『お~メリークリスマス、果南!』

 

「寂しいからって1人でお酒飲んだりしてない?」

 

『ハハッ、練習後の酒は良くないからな。今日は飲んでない』

 

「そっか。ゴメンね、なかなか電話できなくて」

 

『ん~まぁそれだけ忙しいってことだろ。大丈夫だ』

 

「うん、ありがと。それでね……」

 

……

 

『忙しい処電話ありがとう。またな!』

 

「こちらこそありがと。久しぶりに声が聞けて嬉しかった♪」

 

『そうだな♪』

 

「じゃあ、またね」

 

『おう』

 

 互いの近況を簡潔に話し、通話が終了した

 メッセージではちらほら連絡しているが、声が聞けるのは久しぶりだ。それだけでも充分価値がある

 

 だが、一番伝えたいことは胸の奥に秘めたまま

 

 

 

      会いたい

 

 

 

 でもそれを伝える訳にはいかない。相手が心配してしまうから……。お互いに変な処で意地っ張りである

 

 ふと、夜空を見上げる2人

 

「ん~やっぱり東京は、あんま星が見えねぇな」

 

「今日は、南十字星が綺麗に見えるな」

 

 2人が見上げている星空は違っても、2人が感じている寂しさはきっと同じ色をしている

 再会の日はまだ先だが、この2人ならきっと大丈夫。お互いを信じてその日を待とう

 

 

 

おしまい

━━━━

 

「さて、気持ち切り替えて頑張りますかね!」

 

「一発で合格できるように頑張らなきゃね!」

 




恐らく今年最後の投稿です。初投稿から半年余り、お付き合い下さりありがとうございました!
皆様良いお年をお迎えください


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New Year shiny holidays

曜誕ヨーソロー!

こちらではお久しぶりです
大変な状況ではありますが皆様如何お過ごしでしょうか?

今回はまた台本形式です
いつにも増してまったりな日常風景になりました
少しでもほのぼのとして頂ければ幸いです

どうぞ


 ~大晦日~

 

 沼津駅にて

 

隼人「到着ぅ!! ん~、やはり落ち着くなぁ、我らが故郷は」

 

江井「全くだぜ」

 

 年末ギリギリまであった練習が終わり、隼人と江井は帰省している

 因みにダイヤは既に実家にいるようだ

 

隼人「さて、どうする江井ちゃん?」

 

江井「ん~、日頃の疲れを癒したい」

 

隼人「右に同じ!」

 

 3年生になったことで部活や研究室などで更に多忙な日々を送る2人。その上帰省ラッシュの人混みに揉まれたのだから実家に帰ってゆっくりしたい処だろう

 解散しようとした矢先

 

 

??「はぁい♪そこのお二人さん、私とお茶でもしない?」

 

 

「「!?」」

 

 

 後ろから声をかけられた

 こんな処で、こんな状況で、逆ナン?イミワカンナイ!!と思いながらも、妙に聞き覚えのある声だ

 

((いやしかしそれこそ有り得ん……!))

 

 そうなのだ。思い当たる声の主は、今は()()()()()()()に通っているハズなのだ

 などと数瞬考えて振り向くと……

 

 

 

 

鞠莉「お久しぶりデース!!♪」

 

 

 

 

「「マジかよ!?」」

 

 

 そこには本当に鞠莉がいた

 

鞠莉「もう何よ2人とも!折角感動の再会なのに!」

 

隼人「いやだってマリー、イタリアにいるんじゃ!?」

 

鞠莉「えぇそうよ。でもこの年末年始は実家に帰省なの♪」

 

江井「……飛行機代は?」

 

隼人「Oh……」

 

鞠莉「実はパパが仕事でイタリアから日本に来る処だったから、一緒について来たの」

 

江井「あぁ~なるほど?」

 

隼人「流石オーナー。今でも色々やってんだな」

 

鞠莉「Yes! ところで2人とも、とってもナイスガイになったわね!」

 

隼人「ハハッ、ありがとう。マリーの方こそ更にbeautifulになったな」

 

江井「うん、全くだ。なんかエレガントさが増した感じ?」

 

 未だに続いているグループトークでお互いに写真は見ているが、実際に会うのは久しぶりだ

 その感動も相まって互いを褒め合う

 

 正直言って、大学生になった鞠莉は以前に増してとても魅力的だ。芸能人顔負けのルックスとスタイルには、彼女を良く見知ったこの2人でも少しドキドキしてしまう

 

鞠莉「ふふっ、Thank you♪ところでこの後のご予定は?」

 

江井「ん~折角だし積もる話もあるし本当にお茶したい処だが……」

 

隼人「諸事情あって今日は実家に帰るつもり。すまんな」

 

鞠莉「あらぁ、それは残念ねぇ……」

 

江井「ゴメンよ。その代わりと言っちゃあなんだが、明日一緒に初詣行かない?ダイヤさんも一緒の予定なんだけど」

 

鞠莉「Wow!それは素敵ね!是非ご一緒するわ♪」

 

隼人「よっしゃ!」

 

江井「因みにマリーさんが帰ってるのはダイヤさんは知ってるの?」

 

鞠莉「もちろん伝えてないわ!」

 

隼人「Oh!流石マリー!」

 

江井「ならば隼人よ、ダイヤさんには伝えずにおこう」

 

隼人「OK!俺らみたいにビックリさせよう!」

 

鞠莉「ふふっ、楽しみね♪ それじゃあまた明日。良いお年を!Ciao~☆」

 

「「おう、良いお年を!」」

 

 

 

 

━━━━

 

 

 

 ~八神家~

 

隼人「ただいま~」

 

母「あ、お帰り~!早かったねぇ」

 

隼人「うん。特に寄り道しないできたからね」

 

母「そっかそっか。まぁ今日はゆっくりしとき」

 

隼人「ありがとう」

 

 

……

 

 

 年末の特番を見ながら、両親と夕食。父は進路が気になるようだ

 

父「大学院には行かないのか?」

 

隼人「ん~就職かな~と。食品関係かスポーツ関係かって処かな」

 

父「なるほどな。アメフトはどうするんだ?」

 

隼人「正直、Xリーグに挑戦したい気持ちもあるんだよね。実業団かクラブチームかは就職次第だけど」

 

父「わかった。全力を尽くすなら応援する!」

 

母「ケガには気を付けてね」

 

隼人「ありがとう!」

 

父「ハハッ!まぁ今日は飲もうじゃないか!」

 

母「もうお父さんったら。程々にね」

 

隼人「お手柔らかに~」

 

 息子と酒を飲む。親父として最高の瞬間の一つだ

 因みにもう一つはキャッチボールである

 

母「そういえば、果南ちゃんとはどうなの?」

 

父「そうだ、それも大事だな!あまり詳しくは知らないが」

 

母「とっても良い子なのよ!」

 

隼人「全くだ。俺にはもったいないくらい」

 

母「何言ってるの。でも、あんまり待たせちゃダメよ」

 

父「うむ。そうだな」

 

隼人「……わかってる。まぁでも、就職してからかな」

 

「「頑張れ」」

 

隼人「……うん!」

 

 

……

 

 

 大晦日恒例の長時間番組はそこそこの処で切り上げ、自室の布団に入る

 

隼人(ふふっ。なんだかんだ言って、やはり我が家は最高だなぁ……)

 

 玄関を開けると「お帰り」と言ってくれる。流石に手伝いはするが、全てを自分で準備しなくても食事ができる。そして一緒に食卓を囲む家族がいる。果南の話になった時は少しドキドキしたが

 

 そんな実家の温かさとありがたみを深く感じながら、眠りについた

 

 

 

 

━━━━

 

 

 

 

 ~翌日~

 

 新年。元日の午前中、即ち元旦

 今日は地元の神社へ初詣だ

 

「「「あけましておめでとうございます!!」」」

 

「「それと、誕生日おめでとう!」」

 

ダイヤ「ありがとうございます♪」

 

隼人「いつも思うけど、元日に誕生日ってなんか凄い」

 

江井「おい語彙力!ていうか今更だけどルビィちゃんは良いの?」

 

ダイヤ「えぇ。今日は花丸さん善子さんと初詣に行くと言っていましたわ」

 

江井「ふんふむ。姉離れが嬉しいやら寂しいやら……みたいな?」

 

ダイヤ「もう!揶揄わないでくださいまし!まぁ、仰る通りですが……」

 

((かわいい))

 

隼人「ハハッ、忙しい処ありがとうな。んじゃあそろそろ……4人目が来たな」

 

江井「うむ」

 

ダイヤ「え?」

 

 今日は3人だと思い込んでいたダイヤが疑問の声を上げる

 

 

 

 

「Happy New Year!!」

 

 

 

 

ダイヤ「え!?」

 

 

 その声の主は、ダイヤが驚くのも構わず熱烈なハグをかます

 

 

ダイヤ「ま、鞠莉さん!?どうしてここに!?」

 

鞠莉「うふふ~♪ ドッキリ大成功!」

 

隼人「俺たちと同じ反応で何よりだぜ」

 

ダイヤ「え、ちょっと、どういうことですの!?」

 

江井「ダイヤさん、深呼吸!」

 

 混乱するダイヤをなんとか宥め、2人が昨日たまたま遭遇したこと、敢えてダイヤには伝えずにビックリさせようとしたことをかいつまんで説明する

 

ダイヤ「はぁ、そうだったんですのね……。鞠莉さんは今さらですが、お二人も意地が悪いですわ……」

 

隼人「ハハッ、すまんすまん」

 

ダイヤ「全くもう……。次は、ぶっぶーですわよ」

 

 悪意がないのはわかっているし、実害もないのですぐに許してくれたようだ

 それに、普段はお堅いイメージがあるダイヤにドッキリの類を仕掛ける相手は限られている。心のどこかで、少し喜んでいるのかも知れない

 

鞠莉「そうだダイヤ、まだ言ってなかったわね。Happy birthday!」

 

ダイヤ「ふふっ……ありがとうございます♪」

 

鞠莉「それじゃあ気を取り直して、Let's Go!」

 

 

 

……

 

 

 

鞠莉「到着~♪」

 

ダイヤ「ふふっ、この階段もなんだか懐かしかったですわね♪」

 

隼人「やっぱりこの神社に来ると、あの夏祭りを思い出すなぁ~」

 

江井「懐かしいなおい!そういやそんなこともあったな」

 

鞠莉「ふふっ。あの頃の2人はSo cuteだったわね♪」

 

ダイヤ「えぇ、とっても初心でしたわ♪」

 

江井「ハハッ。見てるこっちが恥ずかしいくらいにな」

 

隼人「んぐ……。でもまぁ、お陰で……な。その点は大感謝だわ」

 

「「「良いってことよ・ですわ!」」」

 

 

 

……

 

 

 

 しばし思い出に浸った後、手水で手と口を清めてから参拝する

 

 

「「……」」

 

 

 各々、神様へのご挨拶や願い事を済ませて、お御籤の時間だ

 

鞠莉「折角だし、せーので見てみない?」

 

隼人「良いね。そうするか」

 

江井「うむ」

 

ダイヤ「では行きますわよ!」

 

 

「「せーのっ!」」

 

 

「大吉だわ☆」

「大吉ですわね!」

「大吉だ!」

「!?!?」

 

 

 "大吉確定ガチャ"と言わんばかりの確率の中、1人だけ様子がおかしい

 

隼人「……」

 

江井「どうした隼人?……!?」

 

鞠莉「これは……」

 

ダイヤ「初めて見ましたわ……」

 

 固まってしまった隼人が引き当てたのは……

 

 

 

   凶

 

 

 

隼人「?」

 

ダイヤ「隼人さん、しっかりしてください!」

 

江井「隼人!中身は案外良いこと書いてあるかもだぞ!」

 

鞠莉「そうよね!ほら、読んでみて?」

 

 確かに、大吉が結構辛口な内容になっていることも珍しくない。ならば逆のことも充分あり得るのではないか

 

隼人「そうだな。じゃあえ~っと、願事(ねがいごと):当分は思うようにならないでしょう」

 

江井「あらら」

 

隼人「失物(うせもの):出てきません。諦めることです」

 

鞠莉「Oh……」

 

隼人「待人(まちびと):来ません。待たない方が良いでしょう」

 

ダイヤ「何という……」

 

 待人。今の彼には最も重要とも言える欄である。それがこうもあっさりバッサリ啓示されては、彼のサランラップのようなメンタルはズタボロになってしまう

 

 そして虚ろな表情でつぶやく

 

 

隼人「……果南、来ないの?帰ッテ来ナイノ?」

 

 

ダイヤ「隼人さん!お気を確かに!!」

 

江井「隼人!その顔はアカン!」

 

隼人「すまんすまん、冗談だよ。半分な」

 

江井「おい」

 

鞠莉「えっとこういう時は、お御籤を枝に結び付ければ良いのよ!」

 

隼人「だな。ちょっくら結んでくるわ。あと、なんか厄除けのお守りとか見てみようかな。みんなは?」

 

ダイヤ「折角ですし、ご一緒しますわ」

 

鞠莉「Yes!」

 

江井「同じく!」

 

隼人「……よっしゃ!」

 

 

……

 

 

 なんとか無事に(?)初詣を終えた一行。とりあえず昼食にしようという話になり、何処で食べようか決めようとした矢先

 

鞠莉「ふふっ、それなら~、マリーの家に来ない? New Year Partyよ!」

 

隼人「Oh!それはハラショー!」

 

江井「でも急に行って大丈夫なの?」

 

鞠莉「Yes! 元々そのつもりだったから、ある程度の準備はできてるハズよ♪」

 

隼人「流石だな……。あ、でもダイヤさんは?」

 

ダイヤ「えぇ、昼食くらいなら大丈夫ですわ。長引くようでしたら先にお暇するかも知れませんが」

 

江井「そしたら、みんなでお邪魔するか!」

 

鞠莉「ふふっ♪ 良かったわ!」

 

 

 

━━━━

 

 

 

隼人「それじゃあ改めて。あけまして~」

 

 

「「「おめでとうございます!」」」

 

 

 一行は鞠莉の家で、昼食という名の新年会だ

 

ダイヤ「みなさん昨日の歌合戦はご覧になりまして?」

 

鞠莉「やっぱり日本の年末はコーハクよね!」

 

隼人「あれだけ"見ない"とか言われてる割になんだかんだ高視聴率だしな」

 

江井「確かにねぇ。まぁ今年は途中で寝ちゃったけど」

 

隼人「俺もけん玉まで見て寝たわ」

 

鞠莉「今回は残念だったわよね~」

 

ダイヤ「相当なプレッシャーがあるのでしょうね」

 

隼人「だろうな~。てかAqours出ないの?」

 

「「えっ!?」」

 

江井「確かに!Aqours出るなら録画して1万回見るわ」

 

ダイヤ「1万回はちょっと……。でもお気持ちは嬉しいですわね♪」

 

鞠莉「そうね♪ 久しぶりに踊りたくなっちゃった!」

 

 ……

 

 この4人が集まるのは久しぶりなので自然と会話が弾む。特に鞠莉は積もりまくる話があるようで、イタリアでの様子やグループLINEの投稿について話が止まらない

 

 

鞠莉「もう!いつもみんな楽しそうでずるいわ!」

 

ダイヤ「なんですのいきなり!?」

 

鞠莉「だって!遊園地に行ったり、プールに行ったり、果南がダイヤにハグしてたり……マリーも混ざりたいわ!」

 

隼人「ふっふっふ、良いだろ~!」

 

江井「確かに、マリーさんがいればもっと楽しかっただろうけどな~」

 

ダイヤ「お二人とも煽らないでください。まぁ楽しかったのは事実ですが……」

 

鞠莉「む~……!」

 

((ダイヤさんが一番煽ってる……))

 

鞠莉「でもハヤトは、やっぱり果南がいなくて寂しいんじゃないの?」

 

隼人「……」

 

江井「だからっ、その死んだ目をやめろぉ!」

 

 鞠莉の反撃はタイプ一致で隼人の4倍弱点を突き、急所に当たったようである

 確定一発

 

隼人「大丈夫。襷で耐えた」

 

ダイヤ「??」

 

隼人「いや何度もすまんな。もちろん寂しいのは寂しいけど、ちょっと慣れてきた……かも?」

 

江井「そうなの?」

 

隼人「うむ。まぁまだ不安定な処もあるけど、どうせ会えないなら開き直った方が良いわな」

 

江井「隼人、強くなったな……」

 

鞠莉「そうよハヤト!適度な距離が、愛情を育むのよ!」

 

ダイヤ「適度……?」

 

 そんなやりとりをしていると、隼人のスマートフォンに着信があった

 

隼人「お!果南からだ!もしもし~」

 

果南『あ!隼人?あけましておめでとう♪』

 

隼人「おう、おめでとう!」

 

鞠莉(ふふっ、やっぱり嬉しそうね♪)

 

ダイヤ(えぇ。表情が活き活きとしていますわ)

 

江井(相変わらず分かりやすいぜ)

 

隼人「また電話もらっちゃったな。そうだ!今みんなで新年会やってるからスピーカーにするぜ!」

 

果南『あ、うん!』

 

「「「あけましておめでとう!」」」

 

ダイヤ「果南さんお久しぶりです。ダイヤですわ」

 

江井「江井だ!久しぶり!」

 

果南『久しぶり~。ダイヤ誕生日おめでとう♪』

 

ダイヤ「ふふっ、ありがとうございます♪」

 

果南『なんだかちょっと懐かしいな。う~んでももう一人声がしたような……?』

 

鞠莉「ふっふっふ~。カナ~ン!」

 

果南『えっ!?その声はまさか、鞠莉!?』

 

鞠莉「イエ~ス! ふふっ、この反応は何回聞いても楽しいわ♪」

 

隼人「ホント俺たちもみんなビックリしてな!今はマリーの家にお邪魔してるんだわ」

 

果南『へぇ~、そうだったんだね!』

 

ダイヤ「今日は果南さんはお休みですの?」

 

果南『そうだよ。今日は授業も実習も休みで、さっきランニングが終わった処。これからBBQなんだ。その後は……泳ごうかな♪』

 

江井「そうかそっちは真夏だもんな。良いな~BBQ」

 

 休みの日でもガッツリ身体を動かす果南には、今更誰も驚かないようだ

 

 久々の5人。先ほどに増して会話が弾む

 

 

……

 

 

果南『じゃあみんなまたね!』

 

ダイヤ「えぇ。またお話いたしましょう♪」

 

鞠莉「Ciao~☆」

 

江井「またな~」

 

隼人「……じゃあな。今度は俺からかけるわ」

 

果南『うん。待ってるね!』

 

 

 そうして通話が終了

 一瞬静かになるが、すぐに会話が再開される

 

 

ダイヤ「ふふっ、楽しかったですわね♪」

 

鞠莉「Yes!やっぱり5人揃わないとね」

 

江井「だな!」

 

隼人「……おう!」

 

ダイヤ「しかし結構話し込んでしまいましたが通話料金はどうなんでしょう?」

 

江井「まぁそれなりに高いだろうけど、隼人が払うから大丈夫だろ」

 

隼人「おい!いやまぁそれくらいは良いけどさ」

 

鞠莉「流石ハヤトね♪ それじゃあNew Year Party再開よ!」

 

「はい!」

「おう!」

「よっしゃ!」

 

 

 

……

 

 

 

「「「ご馳走様でした!」」」

 

鞠莉「お粗末様でした♪」

 

ダイヤ「というか本当にご馳走になって良かったんでしょうか?」

 

江井「うむ。シャイ煮とかもあったし」

 

隼人「電話代がかわいく思えるな……」

 

鞠莉「Don't worry♪ Best friendsなんだから、そんなことは気にしないで!」

 

隼人「んではお言葉に甘えて」

 

ダイヤ「ありがとうございます♪」

 

江井「改めてご馳走様! 次はいつ会えるかねぇ」

 

鞠莉「う~ん、まだわからないけれど、その時を楽しみにしましょう!」

 

隼人「御意!じゃあまた!画像いっぱい送るわ!!」

 

ダイヤ「ふふっ、程々にしてくださいね。では失礼しますわ」

 

 

……

 

 

 小原家の船で船着き場へと戻った3人。送迎付きの新年会になるとは思わなかった

 

江井「やっぱりやることがすげぇな……ありがたいけど」

 

隼人「全くだぜ……。ダイヤさんこの後はどうするの?」

 

ダイヤ「家に戻りますわ。三が日は何かとありますので……」

 

江井「各方面に新年の挨拶とか誕生日祝いとか忙しそう」

 

隼人「忙しいのにありがとうな。次に会うのは東京かな?」

 

ダイヤ「恐らくそうなりますわね。ではご機嫌よう。今日はありがとうございました♪」

 

「「ご機嫌よう!」」

 

 

 

 

 

━━━━

 

 

 

 

 

 そして、あっという間に東京に戻る日がきた

 帰省時と同じく、隼人と江井は電車に揺られている

 

江井「色々予想外だったけど、それ以上に楽しい冬休みだったな」

 

隼人「だな。昨日たまたま御大に会った時に"凶が吉に転ずる"って教えられて、正直気持ちが楽になった」

 

江井「そんなに気にしてたか」

 

隼人「恥ずかしながら。しかしまぁ、もう明日から練習か~」

 

江井「そうだな~。しかももうすぐオールスター戦だな。来年は俺も行くからよろしく」

 

隼人「おうよ!それに、今年こそ優勝したいしな」

 

江井「よろしく頼むぜキャプテン!」

 

隼人「こちらこそ、相棒!」

 

 充実した年末年始となり、気合充分な2人

 部活・就活・研究室と多忙な日々になるだろうが、無事に乗り切れるだろう

 

 

 

 

━━━━

 

 

 

 

 ~電話後の果南~

 

果南「いや~、まさか鞠莉がいるとは思わなかったけど、楽しかったな♪」

 

マム「カナン、電話は終わったかい?盛り上がってたようだね!」

 

果南「うん!隼人はみんなで集まってたみたいなんだけど、イタリアの大学に行ってる友達もいてビックリしちゃった!」

 

マム「Wow!それはビックリだね!さて、そろそろBBQの準備だよ」

 

果南「うん!」

 

 陽気な人たちに囲まれて、こちらでの文化にも大分慣れてきた

 ナンパが後を絶たないのが少々難点だが……これといった被害はない。念のためプライベートで泳ぐ時はクラスメイトと一緒に行っている

 

果南(寂しがってても仕方ないし、楽しんで行こう!)

 

 

 それぞれの日常は、まだまだこれからも続く

 

 

つづく

 

━━━━

 




凶の割合は神社によって違うみたいですね


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再会。そして……

大変遅くなりましたが、大学生編エピローグです
いやホンマ何ヶ月かかっとんねん……

また駆け足気味ですが、どうぞ!


~東京都内・とあるスタジアム~

 

 今日はこの会場で、関東の大学アメフトのオールスター戦が行われる

 選出された選手のチームメイトやOB、フットボールのファンなどでそこそこに賑わっている。隼人や4年生の雄姿を見るために、江井を始めとしたM大学アメフト部も例外ではない

 

「やっぱ隼人はすげぇなぁ。先輩と一緒にオールスターか」

 

「ホントですよね。俺も来年、江井さんや隼人さんと出たいです!」

 

「ハハッ。それは良いな。じゃあますます頑張らねぇと」

 

 真面目で向上心のある後輩のためにも来シーズンこそ!と思っている処に、"華やかな存在感を放つ黒髪の美女"が現れた

 

 

「みなさん、おはようございます」

 

 

「「おはようございます!」」

 

「お~、ダイヤさんおはよう!来てくれたか」

 

ダイヤと果南は、もはやこのチームの常連となっているため驚く者はいない。大学入学したての頃はちょっとした騒ぎになりかけたものだが、今ではもう懐かしい

 

「さて、キックオフだな。っておぉ、キックカバーも出るのか!」

 

 いつもと違うオールスター戦特製のユニフォームだが、キッカーの横に金色の字で"69"が見える

 

 

 

……

 

 

 

(しかしまぁ、ホントにオールスター戦に出られるとはねぇ……。さて、気合い入れて行くか!!)

 

 キッカーが両端の選手に合図を出し、隼人の掛け声で全員が走り出す

 

「ハードタックル、レディーゴー!!」

 

 その声に合わせて勢いよくボールが蹴り出され、グラウンド上を舞い上がる

 

 

 

……

 

 

 

「試合終了。ナイスゲーム!」

 

「「ありがとうございましたッ!」」

 

 

 隼人は主にパントやフィールドゴールのロングスナッパーとして出場した。試合は無事に終了し、勝利を収めることができた。流石に普段よりは出番は少なかったものの、オールスターに選ばれただけでも嬉しい。自チームの先輩や、リーグでも有名な他チームの選手たちに混ざってプレーするのは緊張したが、尊敬する人たちと一緒にいられるのはとても光栄なことだ

 

 

 

……

 

 

 

 解散後

 

「お~い隼人!お疲れさん!」

「お疲れ様です♪」

 

「お~江井ちゃんにダイヤさん。ありがとう♪」

 

「しかし思ったより出場したな!」

 

「全くだ。アイランドも念のため練習してたんだけど、ホントにやるとは思ってなくてな」

 

「ふふっ、素晴らしいパフォーマンスでしたわ♪」

 

「あぁ、ありがとう」

 

「果南さんに、届いたかな?」

 

「あぁ、何かそんなこと言ってたな。忘れてた」

 

「おい!ってまぁ試合に集中してたのは良いことか」

 

「心配しなくても、きっと届いていますわ」

 

「だと良いな。ビデオは撮ってあるんだろ?帰ってきたらめっちゃ見せよう!」

 

「あぁ、見せつけてやれ!」

 

(まぁ、果南がいればもっと良いパフォーマンスができたかも?なんてな)

 

「どうなさいました?」

 

「ん?あぁ。流石に疲れたし、タンパク質と甘味を摂ってから帰ろうと思うんだが如何?」

 

「お供するぜ!」

 

「えぇ、是非♪」

 

「よっしゃ!」

 

 そういって、近くのファミリーレストランに向かう一行だった

 

 

(帰ったら、果南にLINEしてみようかな……)

 

("果南さんに来て欲しかった"って顔に書いてあるぜ相棒)

 

(ふふっ、相変わらず分かりやすい方ですわ♪)

 

 

 

 

 

━━━━

 

 

 

 

 

 ~一方、その頃のオーストラリア~

 

「じゃあマム、みんなおやすみ~」

 

「「おやすみ~」」

 

 ファミリーとの団欒を終え、こちらでの自室に戻る果南。「おやすみ」とは言ったがまだ早いので寝る訳ではなく、部屋で軽く予習や復習するのが日課となっている。元々勉強は好きでも得意でもないが、留学が進むにつれて講義と実技が段々とハイレベルになってきている。自分の夢のためにも、ここからが踏ん張り処だ

 

「ふぅ~。こんなもんかな♪……ん?」

 

 隼人からLINEが来ていた

 

(あ♪)

 

『果南おっす! 今日無事にオールスター戦終わったぜ!何とか勝てた~!』

 

『ふふっ、それは良かった♪ 試合は出られたの?』

 

『おう。まぁロングスナッパーがメインだったけど、職人冥利に尽きるぜ!』

 

『う~!見たかったな~!』

 

『ホント、俺も見て欲しかったわ。まぁビデオ撮ってあるから帰って来たら一緒に見ようぜ! 果南の方はどう?順調?』

 

『うん。実技は順調。座学はまぁ……とりあえず何とかなってるかな?』

 

『ハハッ。実技は心配してないけど、座学が何とかなってるなら安心だわ』

 

『隼人やダイヤに鍛えてもらったおかげでね』

 

『お役に立てたなら何よりだ』

 

『うん、ありがとう♪ それじゃあまたね!』

 

『おう!』

 

 

 

……

 

 

 

 翌朝

 

「みんなおはよう~!」

 

「「おはよう~!」」

 

「おや?カナンなんだか嬉しそうだね」

 

「あぁ、うん!昨日隼人からちょっと連絡が来てね」

 

「それは良かったじゃないか!なんだって?」

 

「アメフトの試合があって、無事に勝てたんだって♪」

 

「ふふっ、ハヤトも頑張ってるみたいだね!」

 

「うん♪」

 

 

 

 

「でもカナン……最近ちょっとだけ、寂しそうな顔をしているね」

 

 この留学が終われば、晴れてダイビングの上級資格を取得して日本に帰れる。そうすれば隼人やダイヤ、みんなに会える

 しかし……

 

「うん……やっぱりちょっと寂しいな」

 

「ふふふ、それは私も一緒さ……。でも今は、そんなこと考えずに頑張りなよ!」

 

「……うん!」

 

 ここオーストラリアも、既に第二の故郷と言って差し支えない。マムたちファミリーと離れるのは、やはり寂しい

 

 

(ふふっ、ウチにホームステイに来る子は、ホントに良い子ばっかりだねぇ……。さぁ、この子も無事に送り出さないとね!)

 

 

 

 

 

━━━━

 

 

 

 

 

~翌春・日本~

 

 隼人たちは4年生になり、大学生活も大詰めを迎えている

 卒論とアメフトを両立するのは忙しいが、その分充実した毎日を送っている。因みに卒業に必要な他の単位は全て取得したので、その辺りの心配はない

 

 研究室では、ゼミの資料を先輩にボロクソ言われたり、溶液を作るため結晶を砕くのに苦労したり、女子学生がメロン栽培の研究で使う土や肥料を運ぶのを手伝ったり。時には大学内の圃場で採れた野菜をもらったり。そのジャガイモやタマネギを、実験の合間にレンジで温めて塩コショウで食べるのがささやかな楽しみになっている

 

 またゼミが終わった後に、仲の良いメンバーで突発的に飲み&カラオケに行くこともしばしば

 

「もう聞いてよ!ウチの彼氏がさぁ……」

 

「ホントホント!私の処も……」

 

「ふんふむ……」

 

 彼女らの愚痴を肴に、飲み放題のお酒を色々試すのが常である

 

「あっ、でもゴメンね。隼人君は……」

 

「果南ちゃん留学中なんだよね?寂しくないの?」

 

「ん~まぁ寂しいのは寂しいな」

 

「やっぱそうだよね~」

 

 実は、未だに黒髪ポニーテールを見掛けると目で追ってしまうことがあるのだが、それは彼女らには内緒だ

 

「ハハッ。まぁ、色々忙しいから、逆に気が紛れて良いかもな」

 

「浮気とかしないの?」

 

「うわ!ぶっちゃけた!」

 

「ん~、それはないな~。果南を裏切りたくないし。何より、あんなパーフェクト彼女、他にいない」

 

「そっか~。そんなに想われてるなら、果南ちゃん幸せだね」

 

「うん。正直羨ましい」

 

「お、おう」

 

「そういえば、馴れ初めを聞いてなかった!」

 

「そうだよ!今日こそ聞かせて!」

 

「ちょっ!?」

 

 

 

……

 

 

 

 ある日の部活中

 

「次、1 on 1!」

 

「「はい!」」

 

「よ~し一年生共、俺が相手だ!」

 

「え!?マジですか!?」

 

「あわわわ!!」

 

「ハハハ!隼人、疲れたら代わるぜ」

 

「おう!まぁ何とかなるだろ」

 

 1 on 1。簡単に言うと一対一でぶつかり合う練習だ。それを一年生全員を順番に相手しようとする隼人。もちろん、入部間もない彼らに全力は出さない

 

「行きますDown。Set、Hut!」

 

 教えられた通りに構え、隼人に向かって行った新入部員。それを横綱のように正面から受ける隼人

 

「おらよっ、と……。ふんふむ、筋は悪くねぇ」

 

「うぅ……やっぱ強すぎ……」

 

 その様子を見守っていた江井と後輩

 

(江井さん江井さん。隼人さん、なんとなく雰囲気が変わりました?なんか更にストイックになったというか……)

 

(あ、やっぱり? 俺も薄々思ってたんだよな)

 

 煩悩を捨て去った修行僧のように……とまでは言わないが、以前に増して練習やトレーニングに集中するようになった隼人である

 それは純粋な向上心からか、寂しさを紛らわせるためか。或いはその両方か

 

 

 

 だが、もうすぐ再会だ……

 

 

 

 

 

━━━━

 

 

 

 

 

 ~オーストラリア~

 

 無事にダイビング留学を修了した果南。長いようで短かった半年の留学期間が、今日終わりを告げる

 空港でホストファミリーと別れの挨拶を交わす

 

「みんな、本当に今までありがとう!」

 

「こちらこそ。楽しかったよ♪」

 

「いつか日本に、内浦に来て欲しいな。私が育った海をみんなに見て欲しい!」

 

「ふふっ、それは良いね♪」

 

「でも本当に帰っちゃうなんて信じられない。寂しいね……」

 

「今度来る時は、ハヤトも一緒にね!」

 

「新婚旅行でいらっしゃい!」

 

「ちょ、ちょっとマム!?」

 

 果南が驚いているのを気にせず、優しくマムが包み込む

 

 

「ふふっ、何処にいても、例えそれが地球の裏側でも、カナンはウチのファミリーさ。いつでも帰っておいで」

 

 

「うん、うん……!」

 

 当然日本に"帰る"訳だが、マムは"帰っておいで"と言ってくれた。それがとても嬉しい

 

 そんなマムのハグは、とても優しく暖かかった

 

 

 

 

━━━━

 

 

 

 

 ~日本~

 

 国際空港の到着ロビーに、恋人を待つ青年が1人佇んでいる。かなり……いや、非常に落ち着かない様子で何度も空を見上げ、何度も時計を確認している。

 やがて幾度となく見た時計が予定の時刻を指した時、一機の飛行機が降り立った。ハッとしてゲートを凝視しているうちに、次々と乗客の姿が見え始めた

 

 そしてその中に……

 

「……!」

 

 半年間待ち続けた恋人(ひと)の姿があった

 

 彼女もまた、恋人を探すように辺りを見回している

 

 するとその時、太いバリトンが響いた

 

 

「果南っ!!」

 

 

「!!」

 

 

 その声に反応し、弾かれたように彼女は振り向く

 

 

「隼人っ!!」

 

 

 2人は吸い寄せられるように駆け寄り、人目も憚らず熱く抱き合う。込み上げる様々な思いが、雫となって瞳から溢れ出る

 

 

「おかえり、果南……」

 

「ただいま、隼人……」

 

 

 半年振りの抱擁(ハグ)。正直なところ、まだ実感が持てない。しかし互いのぬくもりが、夢ではないと教えてくれる

 

 

 

……

 

 

 

 隼人宅

 

 果南が隼人の左腕に抱き着き、空いた手を繋いで座っている

 話したいこと、伝えたいことは山ほどあるが、また会えたことが嬉しくて上手く言葉にできない。それよりも今は、一緒にいられることが嬉しい

 

 

「……♪」

 

「……♡」

 

 

 今は、見つめ合う2人がそっと、そっと寄り添うだけ……

 

 

 

 

━━━━

 

 

 

 

 それから2人は、隼人宅で一緒に暮らし始めた。2人で住むには少々狭いが、そこは何とかなるだろう。

 因みに、果南の荷物の一部はダイヤ宅に置かせてもらっていたりする

 

 

 実は果南の留学前、こんなやり取りがあった

 

 

……

 

 

「ねぇ、私が留学から戻ったら、一緒に暮らさない?」

 

「何と!?」

 

「ダメかな……?」

 

「全然!……待ってるな!」

 

「うん……♪」

 

 やっぱり、いつも2人でいたい

 

 

 

……

 

 

 

 家賃や光熱費・食費等の分担を粗方定め、家事は流れで分担し、概ねスムーズに同棲生活を送っている

 もちろん一緒に住むのは良いことばかりではなく、偶にはケンカもする。概ね、生活習慣の違いや食べ物の嗜好などが原因だろう

 

 だが、相手の良い処を好きになり、悪い処を許せるようになれればこそ絆が深まる

 

 

 

 

━━━━

 

 

 

 

 そして時は過ぎ、大学生活も最終盤

 

 隼人は2年連続でのオールスター。今年は江井も一緒だ。2人ともスタメン出場な上に、学生最後の試合とあって気合いが迸る

 

「ハードタックル、レディーゴー!!」

 

 

「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

「凄い気迫だね……」

 

「えぇ。去年の比ではありませんわね……」

 

 観客席には去年に続きダイヤと、念願の観戦となった果南。もちろん隼人たちのチームメイトも一緒である

 

 

……

 

 

 試合が終盤に差し掛かった時、会場からどよめきが起きた

 

 オフェンスラインである背番号69の選手が1人、離れた位置に構えている

 

「果南さん、あのフォーメーションはまさか……?」

 

「うん!アイランドだ!」

 

 アイランドフォーメーション。かつてクリスマスボウル(高校大会決勝)で見せたフォーメーションだ。大学になってからもリーグ戦で極稀に実施しており、玄人ファンにはたまらない

 

(まさかアイランドまでさせてもらえるとは、ロングスナッパー(L S職人)として最高の名誉だな!)

 

「行きますDown。Set、Hut!」

 

「おらぁっ!!」

 

 

「やった!タッチダウンだよ!!」

 

「ふふっ、流石ですわ♪」

 

 

……

 

 

「試合終了。ナイスゲーム!」

 

「「ありがとうございましたッ!」」

 

 

 最後の最後の試合が、無事に終了した

 盟友たちと一緒に出場できたこと、自分の技で会場を沸かせられたことなど、全てが良い経験になった。しかも果南の目の前でとなれば、その喜びも一入だ

 

 

 

 

━━━━

 

 

 

 

 ~3月~

 

 卒業式の朝

 

「う~……就活でもそうだったけどスーツやだ。首が苦しい」

 

 パワー系アスリートは堅苦しい服装が苦手な人が多い。首・肩周り・腕・大腿、全てがキツい。因みにサイズ合わせでは、大腿に合わせるとウエストと丈をかなり詰めることになる

 

「もう、わがまま言わないの!ほら、ネクタイも曲がってるし……」

 

「お、おう。ありがとう……」

 

「……はい。折角似合ってるんだから、もっとビシッとして♪」

 

「はいよ」

 

(果南にネクタイ直してもらえるなら、スーツも悪くないかも……?いややっぱり苦しい)

 

「……どうしたの?」

 

「あぁいや、果南は時間大丈夫なの?」

 

「うん、私の学部は遅いから。一緒に出て美容院行けば大丈夫だよ」

 

「了解だ。でも果南の晴れ着が見られないのが残念だな」

 

「もう/// 早く準備するよ!」

 

「はいよ~」

 

(ホントは、隼人に一番見せたかったんだから……///)

 

 

 

 

 

━━━

 

 

 

 

 

 ~数年後~

 

 大学を卒業後、晴れて果南はダイビングのインストラクターになり、隼人は実業団のアメフトチームでプレーしている

 めでたく結婚し、なんとか休暇を合わせた2人は、新婚旅行でオーストラリアに訪れている

 

「ふんふむ、ここが例の!」

 

「うん、そうだよ♪ こんにちは~!」

 

「お~、カナン!久し振りじゃないか!っと違ったね。お帰り、カナン」

 

「マム、ただいま♪」

 

「それで、君がハヤトだね?写真で見るより良い男じゃないか」

 

「初めまして!いつぞやは果南がお世話になったということで……」

 

「ハッハッハ、何だいその挨拶は!」

 

「!?」

 

「カナンは私の娘なんだから、アンタはもう私の息子だよ」

 

「!!」

 

「だから、堅苦しいのはナシさ」

 

「わかりm……わかったマム。よろしく!」

 

「はい。こちらこそ♪」

 

「ふふっ♪ 2人が打ち解けてくれて嬉しいな♪」

 

「そうだ、大切なことを言ってなかった! 結婚、おめでとう」

 

「「ありがとう!」」

 

「さて、まぁ大したものはないけれど、ゆっくりしてお行き!」

 

「「うん!」」

 

 

 マムの豪快さに些か驚いた隼人だったが、とても包容力のある人なのはすぐにわかった

 

 この新婚旅行もまた、かけがえのない人生の1ページになった

 

 

 

 

おしまい

━━━━

 

 




これにて大学生編終了です
お付き合いありがとうございました!


と言いつつ書きたいネタはまだあるので、この作品自体は続く予定です
よろしくお願いします!


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