この素晴らしい現代風カズめぐをリレー小説で! (勾玉)
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この素晴らしい学校生活に幕開けを!【執筆者:勾玉】
「はぁ~…やっぱりブランクあるとキっツイわぁ…」
俺の名前は佐藤和真。現在進行形の高校生。ただいま学校を終えて直帰の真っ最中。
突然だが、俺は一般的な高校生とはちょっと異なる経歴をもっている。
なんと、二週間ほど前まで異世界でファンタジーな生活を送っていたのだ。
そして異世界で魔王を倒して華々しく英雄となった俺は…、こらそこ、可哀想な人を見る目で俺をみるんじゃない。
…で、日本に帰ってくることができたわけだが、今は日本の学校に通いながら、学校にほど近いマンションの一室で一人暮らしをするようになったわけだ。
「あぁ~、やっと家まで着いた…えーっと鍵は…」
俺は懐から自宅マンションの鍵を取り出し、ガチャガチャと玄関の扉の鍵を開錠する。
「はぁ~ただまぁ~っと、やっと一人でグダグダでき…」
…あ、そうそう。それともう一つ重要なことがあって…
「帰ってきたわねカズマ!遅いわよ!エアコンのリモコンが見つからなくて茹で上がるところだったんですけどー!」
ノースリーブ姿でへそを出しながら寝転がりガリガリ君を片手に雑誌を読みふけっている駄女神様は言う。
「カズマ、おかえりなさい。あ、カズマの好きなモナカを買ってきて冷凍庫に入れてますけど、食べます?」
黒いワンピース姿で漆黒の猫を膝に置きスイカバーを片手にテレビのリモコンをいじっている紅魔族の娘は言う。
「…カ、カズマ!昨日カズマから借りた五等分の花嫁だが、続きを…早く続きを読ませてくれぇぇ!」
肩が露出した薄手のブラウス姿で金髪の変態娘が荒ぶる。傍らには積み上げられた漫画と雪見大福。
「…うん、お前ら、なんでひとんちに勝手にあがってんの?」
そう、俺の異世界でのパーティーメンバーもおまけで日本についてきてしまいました。
「なんでって…カズマが何かあったらって言って私達に合鍵渡したんでしょ。私達が勝手に上がってるのは当然でしょ」
アクアがガリガリ君をひょいひょい揺らしながらムカつく態度で応えるが、
「当然じゃないわ!何かあったら、って言ったろ!見るからになんもねぇじゃねぇか!わざわざグダグダするためにうちに来たのかよ!」
「ちょっと失礼ね!私たちは別にグダグダするためだけにカズマの家に来たわけじゃないわよ。ね!めぐみん!」
「いえ、アクアはカズマの家にグダグダしに行きましょう!って言ってましたよ。それを聞いてダクネスが明日から始まる学校生活のこと色々カズマに聞いておいた方がいいな、って言ったんです。」
俺はじとーっとアクアを見やる。
「そ、そうだったかしら…まぁ私は学校生活とか余裕よ、余裕!元々日本の女神だったしね!教科書に載ってもいいレベルよ」
アクアがばいーんと胸を張って得意げに言い張るが、俺としてはめぐみんやダクネスよりもアクアが一番不安なのだ…
そう。こいつらも日本で学校に通うことになったのだが、こちらの世界に慣れるための時間が必要だということで俺よりも遅れて学校に転校してくることになった。しかも、こいつらの転校先が俺と同じ高校ときたものだ。
体格的にダクネスやアクアは超高校級だが、めぐみんとかロリ過ぎないだろうか。
「…おい、今私に対して無礼なことを思っているな」
俺がめぐみんの胸部を凝視していたことに目ざとく気付いためぐみんが低い声でうなる。
「いや、しかしお前ら…」
外見からして…
「ダクネスは外国人とか言えば100歩譲ってなんとかなるかもしれんが、アクア、お前、その青髪とか絶対ヤバいって。日本の学生としては目立ちすぎだぞ。他の学生に合わせて髪黒くした方がいいだろ」
「何言ってんの、この青髪は私のアイデンティティよ。そもそも人々が神様に合わせるならともかく、何で女神が人間に合わせないといけないんですかー…冷たッ!?」
ガリガリ君がアクアの手に落下したようだ。どうやらヘラと接している部分の氷が溶けたようだ。ざまぁ。
「お前は初日から生活指導の先生に捕まって指導確定だな。めぐみんも瞳が赤いとか、この国だと病気を疑われるレベルなんだけど」
「まぁ、私もこの瞳が紅魔族のアイデンティティですから。それに、その指導とかで捕まりそうになったら我が最強魔法で窮地を脱しますのでご心配なく」
「誰もお前のことは心配しねぇよ!学校の方が心配だわ!」
とんでもないことを言い出したロリっ子に本気で突っ込む。こいつは窮地ではテンパり癖があるのでマジで爆裂魔法をぶっ放ちかねない危うさがある。
「いいか、めぐみん。他二人は大丈夫だろうが、お前の爆裂魔法は超超超危険だ。絶対この世界で使うなよ?いいな?絶対だぞ?」
「わかってます。私も日本のテレビとかを見てこの世界のことをいろいろと学んだのです。それが芸人風の前振りだということもきちんとわかって…」
「ちっげーよっ!!!いらんことばっか学んでんじゃねーよっ!!」
全く…せっかく日本に戻ってきたってのにノリが前の異世界と変わらないのは如何なものか。
「…ってかお前ら流石に馴染みすぎだろ。まだこっちの世界に来て二週間くらいだろ。」
俺がこいつらの世界に行ってすぐの頃なんてそれは酷いホームシックになったものだ…
異世界なのに土木作業やらされたり、でかいカエルに喰われそうになったり、飛来するキャベツとかいう意味不明な存在を追いかけまわすことになったり…
なのにこいつらときたら既に個人のスマホを所有しているだけではなく、すでにLINEとか使ってやがる。
俺ら四人のグループトークで、ダクネスが謝罪の言葉を楽天パンダのスタンプ(動く)でしてきやがった時なんて俺は壁にスマホをたたきつけたくなったものだ。アクアがめぐみんとダクネスと三人で撮った写メを授業中に送り付けて来て『スタバなう』とかメッセージを添えたのを見た時なんて授業中にもかかわらずスマホを床に叩きつけてしまった。そして先生に怒られた。
「まぁ、私達もできるだけカズマの手を煩わせないように、早くこの世界に慣れようとしているんだ。多少失敗もあると思うが、大目に見てやってくれ」
ダクネスが俺に向けて優し気な微笑みを浮かべる。
「ダクネス…」
それに対して俺は。
「…お前、少女漫画が好きなんだな…」
「なぁ!べ、別にいいだろうッ…!」
ダクネスの傍らに置かれている別冊マーガレットを見て、それを指摘せざるを得なかった。
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仮にもお客様である三人娘に飲み物でもだしてやろうとキッチンへと向かったところ、めぐみんが俺の後をトテトテとついてきた。
とりあえず、人数分のコップを…
「…なんだこれ」
まだほとんど使われていないキッチンで初めて目にした物があった。
「あぁ、それはカズマの家にあったら便利だと思って私達で買って来た全員分のコップです。その端っこの緑のやつがカズマのですよ。結構可愛くないですか?」
「お前ら、俺んちに居座る気満々なのな」
ちなみに、俺が一人暮らし用のマンションを天界の便宜で用意してもらったのと同じように、こいつらにも三人一室のマンションが用意されている。
こいつらのマンションに必要な備品の買い出しに付き合ったとき部屋の中を見させてもらったが、俺のマンションよりもだいぶ広くて良いとこだった。オートロックだし。
何で魔王を倒した俺よりいい部屋を用意してもらってるんだよと、腹立たしいことである。
「なんだか異世界で暮らしてた時の方が数倍はいい暮らしだった気がする。学校に行かなくてもよかったし…。こんなことなら魔王討伐で与えられた願いを叶える権利は別のことに使っておけばよかったよ」
そう、俺は魔王討伐を成し遂げた見返りとして、こいつらと一緒に日本で暮らすことを願ったのだ。そのお陰で今はテレポート先の一つを日本に登録して、異世界と日本を行き来することができるようになった。
ちなみに、めぐみんは日本にいる間ずっと爆裂魔法が撃てないとボンッってなりそうなので、定期的にテレポートで異世界に送って爆裂魔法を撃たせている。
そして、俺がなんでそんなことを魔王討伐の見返りとして願ったのかというと…
「『俺がお前たちの世界のことを良く思ったように、お前たちにも俺の世界を好きになって欲しい』…でしたっけ?」
「うげ、やめろよ…他人の口から聞かされると俺がどんなに恥ずかしいこと言ってたのか自覚して悶絶したくなるから」
くそ、少し顔が熱っぽい。
「ふふ…あなたがそう言ってくれたこと、私はすごく嬉しかったんですよ。多分、ダクネスも。それで、私もダクネスも本気でこっちの世界を知ろうとしているんです」
…こいつらがこっちの世界に異様に馴染んでいるのも一応、努力の証ということだろうか。
「さぁ、飲み物を持っていきましょう」
そう言って、めぐみんは全員分のコップを蛇口の水で軽くすすぎ、製氷機で作った氷をコップに入れる。ついでに冷凍庫の中の俺の分のモナカを手渡してくれた。ってかこれ俺の好きなチョコモナカジャンボじゃなくてモナ王じゃねーか。…まぁいいか。
めぐみんは氷を入れたコップに飲み物を注ぎ、紙包装されたストローの包装を器用に破いて口を付ける部分の包装だけを残したストローをコップにさして…
「…流石に馴染み過ぎじゃないか」
「紅魔族はとても頭が良いのです」
ならチョコモナカジャンボを買ってきてほしかった。
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俺たちはテーブルの上にプリントを広げて確認作業に明け暮れている。
明日から俺の学校に転校してくるこいつらの持ち物チェックだ。
「制服はこの前買ったな」
ダクネスがそう言うのを聞いて、俺は。
「アクア…お前の年齢でよく制服を着ようと…「あらカズマさん、神のグーをご所望のようね」」
アクアが拳をパキパキならす。
「悪い悪い…制服といえばこのネタを使わざるを得ないと思って…ほれ、俺のモナカひとかけやるから」
俺はそういってアクアの口にモナ王をひとかけ突っ込む。
アクアは不服そうに口をもごもごさせている。
「…うん、持っていくものは全て揃えてるな」
ダクネスが手元のチェックリストに全てチェックをし終えて満足そうな顔をする。
「ところでカズマ、予定表に書いていたこれなんだが…」
そう言ってダクネスは俺の前に予定表を示す。
「この中間試験とは何の試験をするのだ?」
「げ…」
アクアが声を漏らす。
「げ…じゃねーだろ。学生なんだから当然試験はあるだろ」
「えぇ…わたしは神様よ…」
そういって口をすぼめる神様。
「お前がこっちの世界で学生やりたいって言ったんだろ」
「だって、めぐみんもダクネスも学生やるって言ったんだもん!独りは寂しいじゃない!」
「じゃあ勉強するんだな」
そう俺がいうとアクアは懐をごそごそして一枚のカードを取り出す。
「これ見てよ。私の知力、8よ!8!レベル47なのに知力8よ!」
「お前、開き直りやがったな…ってか冒険者カードまで持ってきたのかよ」
なんか俺達が異世界との間を行き来しているせいで科学と魔術が交差してしまうのではなかろうか。
「仕方ないわね…試験を作る先生を私の最強宴会芸で虜にしている隙に…」
「てめぇ…不正したらマジで許さねぇからな」
だいたい俺だって引きこもりだったうえに長いこと異世界にいたのだ。まず間違いなく赤点だ。こいつは絶対に道連れにしなければならない。俺が赤点でアクアが学年トップとか絶対阻止しなければならない。
「数学…ふむ。領主代行にも就いていたし会計なら心得はあるのだが役立つだろうか…理科…理科…?」
ダクネスは試験のプリントを熱心に読んでいる。
「ダクネスは…読めねーな…。真面目な勉強できるキャラともとれるし、脳筋バカともとれる…」
俺はじっとダクネスの方を観察していると、ダクネスがこちらに気づき、
「む…今私を見て、エロい体しやがってこのメス豚が、と思っているか」
「思ってねーよ!!全然思ってねーよ!!」
「へー花火大会とかあるんですね。これなら爆裂魔法のひとつやふたつ…」
「できねーよ!死人が出るわ!ってかサラッと雑誌読んでんじゃねーよ!」
「あ!出店も結構でるのね!ねぇねぇ、ウィズを呼んできてあげましょうよ!」
「日本で魔道具売ろうすんじゃねー!」
そんなこんなドタバタしていると、日はどんどんと沈んでいって…
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辺りはすっかりと暗くなり、三人娘を家まで送っている道中、俺達は道端のコンビニに立ち寄った。
コンビニの籠を片手に弁当コーナーを眺めるダクネス。何だか私服と相まって授業帰りの女子大生感がすごい。いや、実際女子大生に相応する年齢か。
そんなダクネスの横にアクアがトテトテと寄っていく。片手にはカップ麺。
「ちょっとダクネス、このカップ麺見て!爆裂ラーメンの味を完全再現ですって!もう何だかここまでネタに走ると頭おかしいのを通り越していっそ清々しいわね!」
「アクア、この前ネタ商品を買っていって結局半分も食べれずに捨ててしまっただろう。戻してこい。それより、このぶっかけ蕎麦というのはどんなものなんだ」
「おっ、ダクネスいいところに目を付けるわね!そうね、日本に来てお蕎麦を食べないなんて、アルカンレティアでアルカン饅頭を食べないくらい愚の骨頂だわ。これはね…」
ダクネスとアクアがキャイキャイとコンビニの商品を手に騒ぐ。
「…あいつらまじで馴染んでるな。本当にこっちの世界に来てまだ二週間かよ」
俺はダクネスとアクアがコンビニの弁当コーナーで駄弁っているのを横目に雑誌コーナーに移動する。確か今日は週刊マガジンの発売日だ。
俺は目的の雑誌を見つけてパラパラと読み始める。と、そんな俺の横にぴたっとめぐみんがくっ付いて俺の手の中の漫画を眺める。
………
「…めぐみんさん、同じ雑誌、そちらにまだありますよ…」
ヘタレな俺は周りの目を気にしてちょっとキョどりながら言う。
「いいじゃないですか。どうせ私はカズマの読むやつしか読みませんし」
いや、こんなくっ付かれると緊張して漫画の内容が頭に入ってこないんですが…
だからといってこの状況から離れるのも何だか勿体ないので俺はそのまま漫画のページをめくる。
うん。めぐみんの感触とめぐみんの匂いばかりに意識がいってしまって漫画の内容が全然頭に入ってきません。
俺は漫画の内容を理解することを諦めてめぐみんが読むペースに合わせてページをめくる役に徹することにした。
「…」
「…」
「…」
「…」
「…あ、ちょっとめくるの待ってください」
「ん、わりぃ」
「………ごめんなさい、いいですよ」
「お、おう…」
「…」
「…」
「…結構いい感じの引きで終わりましたね。来週が楽しみです」
「引きって…まじでお前ら馴染んでるよな。さてと、俺は飲み物買ってくるけど、めぐみんも何か買ってく?」
「んー、いえ。必要なものはスーパーの特売で揃えたので…私は外で待ってます」
そんな主婦じみたことを言ってめぐみんはコンビニの入り口に向かって歩いていった。
アクアとダクネスは…
「ダクネス、私これがいいわ。スミノフアイス。やっぱり異世界と違って日本はオシャレなお酒が豊富よね」
(おいアクア、私達はこっちの世界ではまだ飲酒が禁止されている年齢なんだぞ)
(大丈夫よダクネス、私の実年齢は……まぁ神様ですから人間の法律が適用されないの。それにこのコンビニは店員さんがチョロいのよ)
(だからといってなぁ…)
…こいつらまだ少し時間かかりそうだな。
コンビニの外をチラリとみるとめぐみんは宵闇の中、ぼやっと道行く人々を眺めている。
…待たせちゃ悪いか。
俺は飲み物を買ってコンビニの外にでた。
「…悪いなめぐみん、アクア達まだ買い物してるみたいだったよ」
めぐみんは俺の方を見て苦笑する。
「なんでカズマが謝るんですか」
コンビニの明りで小柄なめぐみんの輪郭がほんのり照らされる。
「…一緒に待ってくれるんですよね?」
「お、おう…」
そのままめぐみんは、改めて正面の道端の方に目を向けた。
「…」
「…」
街灯に照らされた夜道。自動車の通る車道。ビジネスバックを片手に速足で夜道をいくサラリーマン。人々の手元にはスマートフォン。イヤフォンを付けて歩くあの人が見ているのは映画だろうか。科学技術と合理主義を練り込んで組み上げたような光景を、
魔術的で幻想的なめぐみんの真紅の瞳が写し出す。
「私の住んでいた世界と全然違う…」
めぐみんの口からぽろりと言葉が漏れる。
俺にとっては懐かしささえ感じる目の前の風景も、彼女の目には異質なものであふれかえる異世界だ。
この世のものではない美しく真紅に輝く彼女の瞳は、彼女とこの世界との絶対的な差を示しているようで。
俺はなんだかその少女がとても遠い存在のように思えてきて。
「…どうしたのですか?カズマ?」
めぐみんは俺の方にキョトンとした顔を向ける。
無意識に俺はめぐみんのその小さな手を握っていた。
「…え?あ、わ、悪い…!」
衝動。それが俺の不安からきたものだと理解して、俺は全身から恥ずかしさが溢れ出し、急いで手を引っ込めようと…
…するが、離れつつあった俺の手を今度は逆にめぐみんが握り返す。そのままグイっと引っ張られ…
「え…」
よろけた俺は、人形のように均整の取れた美貌を持つ少女の口元に吸い込まれるように…
「ッ…」
唇と唇が重なる。
「…」
彼女の柔らかな感触。
「…ン」
微かな震えも敏感に伝わってくる。
「…」
「…」
「…ぱぁ」
そっと唇を離してめぐみんが息をつく。
それは僅か数秒の優しい口づけだった。
「お、おまっ…」
往来での口づけ。偶然にも周りに人影はなかった。いや、彼女の計算か…?
「えへへ…久しぶりでしたね。こっちの世界に来てからドタバタしていてあまり二人きりの時間もとれませんでしたね…」
いたずらっ子のようにはにかむめぐみんの頬にはほんのりと朱の色が浮かんでいる。
そして、めぐみんは俺から目線を逸らして、うつむき加減で述べる。
「私にも、カズマが遠い存在に感じて、いつかカズマが私の元からいなくなるんじゃないかって。不安で不安で、眠れなかった日があります…たくさん」
「私の世界とカズマの世界は全然違ってて…大きな壁があるみたいです。でも…私達はその壁を越えて、今ここで、こうして手を握っている」
俺と繋ぐその小さな手にめぐみんはきゅっと力を込める。
「どんな世界にいても私はカズマの手を放しませんよ。カズマも、ずっと…私の手を放さないでくださいね…」
そして…
「カズマが過ごした世界でまた一緒に始めましょう。一から…いえ…ゼロから!」
「うん、越えちゃいけない世界の壁まで越えちゃってるな!!!」
コンビニの明かりが漏れるほの暗い駐車場、時折道端を横切る車のライト、人々が生活する家からはテレビのバラエティ番組が発する笑い声が小さく漏れている。
そんな世界の只中で、異世界の少女は幻想的なルビーの輝きを放つ瞳を細めてくすくす笑う。
「学校生活…楽しみですね」
繋いだ手を通して伝わってきたものは、世界が違えど変わることは無い彼女の緩やかで力強い情動だった。
リレー小説のトップバッターを務める勾玉です。
カズめぐタグを付けた小説で、恋愛描写よりもネタに走る生き物です。ごめんなさい。
さて、私は風呂敷を広げるだけ広げましたが、これ以降の展開は全く予想がつきません。ですので、一読者としてこの物語の行く末を見守りたいと思います。
読者の皆様につきましては、二話目以降、是非ともお付き合いのほど、よろしくお願い致します。
※アクア様がお酒を買おうとする場面がありますが、人間は日本ではお酒は二十歳になってからです!
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この
蜂の巣状雲によって朝日が見え隠れしているにも関わらず、涼しいと感じることはなく、日陰に入ろうとも気休め程度にしか暑さが変わらない。そんな温暖湿潤な日本の気候を改めて知覚し、帰ってきたことを再度噛み締めながら一人、登校する俺だったが、教室に入るなり嫌な現実に遭遇してしまった。
教室内はある話題で持ち切りだったのだ。
「ねえねえ、あの話聞いた?」
「聞いた聞いた。転校生の話でしょ?」
「楽しみよね」
「どんな子なんだろ?」
「なあ聞いたか?今度の転校生全員女子らしいぞ」
「嗚呼、しかも全員美人らしい。昨日部活の帰りに見たって奴がいたんだ」
「おお!マジか!その全員が同じクラスって俺達ついてるな」
「だよな。ホームルームが楽しみだぜ」
男女問わず皆、教室に増えた机を見ながら、新たな転校生に思いを馳せている。
そんな中、昨日までの昂りは消え、俺は独り憂鬱な気分だった。
「どうした和真?徹夜か?お前なら飛び付きそうな話なのに珍しいな」
「・・・何でもない。ちょっと心配事があるだけだ」
ちょっと所じゃないが、今言っても仕方ない。
俺の気持ちを汲み取ってくれたのか、みんな俺から少し離れた場所に移動してくれた。
自分で望んでおきながらどうなんだと言われるかもしれないが、あいつらと一緒に学校生活するのが不安になってきている。しかも同じクラスってのが一番の悩みどころ。ホームルームで知り合いの俺に注目が集まるのは目に見えてる。
だがしかし、クラスが別の方が何するか分からなくて怖いから、まだマシと思うしかない。
「みんな席に着けー、ちょっと早いがホームルーム始めるから他のクラスの奴は悪いが出てってくれ」
副担任が入って来ると同時に騒がしかった教室は静まり返り、視線が一点に集まる。
「ええー、全員知っていると思うが今日このクラスに転校生が来ることになった」
先生からの正式発表に教室だけに留まらず廊下までもが湧いていた。
そんな歓喜に溢れている中それを盛り上げるかの如くチャイムが鳴り響いた。
「いま担任と校長先生が対応しているから、もう少しで来るだろう。あと、廊下のお前らさっさと自分の教室に戻れ!さっきのチャイムは聞こえてただろ!」
先生から叱られて、蜘蛛の子を散らすように去って行く他クラスの奴らを見つつ、今から起こるイベントに皆焦がれていた。
一方、俺は如何にして自分へのダメージを減らせるかの考察を始めた。
「コホン。話を戻すが転校生は三人。三人共に女子で、みんな留学生だから文化の違いで笑ったりせず、普通に接してあげるんだぞ」
多分めぐみんのことだろう。
クラスのみんなは当たり前だと言った感じだが、断言出来る。みんな軽く引くなり嗤うと。
まあ、その時は先生がフォローするだろうけど。
「先生!その子達って日本語は話せるんですか?」
「それについては問題ない。全員流暢な日本語を話せるからな」
副担任が謎のドヤ顔で言った言葉で皆の期待が更に高まっていた。
この期待が裏切られた時の反応が楽しみだな。
おい、誰だゲスマとか言った奴!
「そろそろ三人が来るようだからみんな静かに待ってろよ」
副担任はそう言って教室を立ち去り、教室には静寂が訪れる。そして、数分後また扉が開かれ、担任とあの三人が入って来た。
「さっき説明があったと思うけど、この三人が転校して来た子達よ。今から自己紹介して貰うから、何を質問するか考えておいてね」
三人の登場にクラス全体がどよめいていた。皆、一様に可愛いだの、綺麗だの、モデルさんみたいだのと呟いている。それを目の当たりにした三人は俺の方をドヤ顔で見て来たが無視しておこう。と言うよりも皆が言うように制服姿が眩しくて見られないと言った方が正しいかもしれない。
「それじゃあアクアさんからお願いします」
よりによってアクアが一番手か。
五十音順だから仕方ないとは言え一番危険な奴だし最後にした方が・・・いや、めぐみんよりマシか。
・・・何か視線を感じる。まさかなと思いつつめぐみんを見るとこちらを軽く睨み付けていた。あいつ読心術って言うスキル持ってないだろうな?
「ご紹介に預けためが、アクアよ!これからよろしくね!よっ『花鳥風月』!」
早速ボロを出す駄女神。
そこは預かりましただろ。それにあいつ絶対女神って言おうとしたよな。でも言い切った方が良かったと思う。みんなメガ・アクアが名前だと思ってるし。とは言え宴会芸でみんな盛り上がってるから成功と言えるだろう。
「ええっと、私の名はダクネス。迷惑をかけるだろうがよろしく頼む」
比較的にマシと言うか普通だった。
さっきはちょっと笑いが起こってたけど、今はそれがない。
まあ、ダクネスだから普通なのが通常運転かもな。
何も無いのも味気ないから、ここでララティーナって叫んでみるのもありかもしれないが、周りから変な目で見られそうだから辞めておこう。
後はめぐみんだけだが、ちょっと変な空気にはなる位で問題はないだろう。
「我が名はめぐみん!」
予想通りの中二病全開の自己紹介に教室がざわつき始めた。
分かるよその気持ち。俺も初めは変なガキに絡まれたって思ってたし。
「紅魔族随一の天才にして、やがてカズマの妻となる者!」
俺の予想した通り紅魔族特有の名乗りに笑いが起ころうと・・・・・・え?
ちょっ、あいついきなり何言ってんの!?馬鹿なの?めっちゃ俺見られてんだけど!恥ずかしくて心臓破裂しそうなんですけど!
「皆さんよろしくお願いします。一応言っておきますがめぐみんは本名なので恵ではありません」
そんなことどうでもいいからこの状況なんとかしろよ!
なんでめぐみんはいつも予想の斜めを行くやらかしを俺を巻き込んでやるんだ!
アクアとダクネスも何か言ってくれればいいのに、アクアは腹抱えて笑ってるし、ダクネスはなんか俺の方を羨ましそうに見てるし何なんだよ。担任も面白そうに青春だなあって呟いてるだけだし、味方不在だ。
「あの、どうして私はこんなに見られているのでしょうか?恥ずかしいのですが」
無自覚!?
今ので余計に信憑性が増したのかさっきとは違い男子からは殺気立った、女子からは好奇の視線が一斉に向けられた。
めぐみんはと言うと未だに理解してないのか困惑して、隣にいたダクネスに質問している。
俺は急な展開に対応しきれず反射的に首を横に振ることしか出来なかった。
「今、和真って言ったよな」
「そうだけど偶然同じ名前なだけだって、カズマって名前は珍しくもないし、和真も首を振ってるからないだろ」
「だよな。睨み付けちまったけど、あの和真がロリコンな訳ないよな」
「「「ははははは!」」」
こいつら終わったな。
確かにタイプの女性像とはかけ離れてはいるけど、もうちょっと考えてくれ。
それにみんな釣られて笑ってるし、ダメだこれ。
頼むからこれ以上めぐみんを怒らすようなこと言うなよ。
「それに、和真なんかがこんな美少女と付き合ってるってだけでも有り得ない話だわ」
「それな。おい、和真も黙って無いでなんか言えよ」
俺の願いも虚しく、めぐみんの気に触ることを言いやがった。
めぐみんの前で俺を侮辱して、無事だった奴は少なくともあのろくでもない世界には居ない。
だから俺はもうこいつらを助けないと決めた。そしてこの件には一切関わらないと。
なぜなら俺に気を取られて気付いていないがめぐみんの沸点は既に超えている。
「おい、私が妻だとカズマがロリコン呼ばわりされる理由を聞こうじゃないか!」
急に声を荒らげためぐみんに全員が戦慄した。
恐怖からか振り返らずに、小刻みに震えていた。
「それにカズマなんかがとはなんですか!カズマは凄いんですよ!まおぐっ!?ちょっとダクネス何をするんですか!離してください!今から如何にカズマがカッコイイかを語ろうとしているのですよ!」
ナイスダクネス!もっとやれ、てかもうめぐみんを離すな。
あいつは危険だ。
今も魔王って言いかけてたし、公衆の面前で惚気け話しようとするしこっちの身が持たない。正直、魔王と戦ってた時の方がまだゆとりがあった気がする。
「カズマの気持ちも考えるんだ。ここは私を罵って耐えてくれ!」
「嫌です!私はやりますよ!言ってカズマの凄さを教えるんです!」
「仲間からの攻撃!あー、何て最高なシチュエーションなんだ!」
ダクネスを一瞬でも味方だと思ってしまった俺が馬鹿だった。
くっ、こうなったらアクアが最後のと・・・
「スースースー」
こいつ!
笑い転げたまま寝てやがる!
よくこの状況で寝ていられるな。逆に尊敬するわ。
「「「・・・・・え?」」」
ヤドン並に反応に遅れて、やっと声を発したみんなだった。
未だに繰り広げられるめぐみんとダクネスの攻防を見つつ、俺を一定周期で見ている。
「なあ、あの二人の言ってるカズマって和真のことじゃないよな?」
一人が確認したことで視線がまた俺一人に集まる。
「そうだと嬉しいんだがな」
自嘲気味に俺が笑いながら言うと同時にみんなから血の気が消えていった。
そしてみんなの視線が再び前へ移る。
するとさっきまで空気だった担任が二人を止めて、立っていた。
「えーと、みんな気になることはあると思うけど、それは休み時間か放課後に聴いてね。はい、今日は特に連絡事項はないのでショートは終わりです!」
担任はそれだけ告げると逃げるように教室から出て行き、ダクネスも寝ているアクアを連れて退出。教室は未だに怒りが鎮まっていないめぐみんとそれに恐怖を感じている俺達だけとなった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「か、和真。悪かった。さっきのは謝るから彼女を何とかしてくれって」
「嫌だ。まずあいつは彼女ではないから俺は動かないぞ」
めぐみんは彼女なんて言う程度の低い相手ではない。
強いて言うなら婚約者とかその辺だろう。でも言ったら後で茶化されるから黙っておこう。てか俺とめぐみんの今の関係ってどう説明するのが正解なんだろう?こっちじゃあまだ結婚出来る歳じゃないし。分からないな。
「そこをなんとか・・・」
隣の加藤が急に喋らなくなった。
加藤の顔は俺の後ろに鬼でもいるかのように青白くなっていった。
その変化が気になり振り向くとさっきまで教卓の隣にいたはずのめぐみんが後ろに居た。
「カズマ。・・・少し話があります。着いてきてください」
「わ、分かった」
いつも以上に穏やかな口調に恐怖を感じ、視線を集めながら大人しくめぐみんの後を追い廊下へ出た。
廊下までは数歩しかないと言うのに延々と感じられ、表情が見えないことで更に不安を高める。
俺が扉を閉めると同時に、涙を浮かべためぐみんが振り向いて言った。
「彼女じゃないって、カズマは私のことをどう思っているのですか?昨日の話やこれまでのはなんだったんですか!」
「いや、そう言う意味じゃなくて、めぐみんは許嫁って言うか婚約者みたいな関係だから彼女ではないってことだ」
確かに誤解を与える言い方だったかもしれないが、付き合ってないのは事実だから仕方ない。
でもこうなっためぐみんってあまり話を聞かないしどうすればいいんだ?
ふとめぐみんを見るとさっきまで辛そうな表情だったのに、赤面したまま動かなくなっているのに気付いた。
「どうした?顔真っ赤だぞ?大丈夫か?」
「・・・」
確認してみるもぼーっとしているだけで返答はない。めぐみんが惚け始めた理由が分からない。
一つだけ言えるのは今のめぐみんがすげえ可愛いって事なんだが、なんと言うか俺の危険センサーが凄く反応してる。
具体的に言うと聞かれちゃ不味い系の話を聞かれた時のあれだ。
俺さっきなに言ったっけ?
確かめぐみんが勘違いして怒ってたから訂正しようとし・・・
「い、今。婚約者って聞こえたよね?」
「ああ、許嫁とも言ってた」
そうそう、許嫁と婚約者だ。って俺はなに言ってんだ!めぐみんに馬鹿だろとか言ってたのに何してんだ俺!
やばい俺もめぐみん見たく耳まで赤くなってるのが分かる。
これあれだ。
このまま卒業した後もいじられるやつだわ。
二人して照れて動かなくなってるわけだし。
「か、カズマ!めぐみんもちょうど良かった。アクアが目を離した隙に居なくなって今探しているの、だ、が・・・何が、いや、なんでもない失礼した」
ダクネスが走って来た音にも気付かない程に俺らは動揺していたようだ。って冷静に振り返ってる場合じゃない。
「ダクネス待てって!アクアが居ないってどういうことだ?」
「・・・自己紹介のあと眠ったアクアを連れ残った手続きを済ませていたのだが、全てが終わり、アクアの寝ていたソファーを見ると既に居なくてな。今手の空いていた先生方と探している所なのだ」
「そうですか。私達も探しましょう。人数が多い方が早く見つかるでしょう」
いつの間にか復活していためぐみん。俺ならまだ止まったままだと思う。流石魔性のめぐみんと言った所か。
「うむ、向こう側はまだ誰も捜索していないだろうから二人は連絡階段の方を頼む」
「分かった」
「分かりました」
こうして学校生活初日の朝から波乱の幕開けとなった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あれから十数分後、アクアは無事に見つかった。発見者は保健部の先生で、保健室に戻るとアクアの寝息が聞こえたらしい。
その後直ぐに叩き起され、一限目が終わる頃にはしっかり席に着いて勉強していた。
他の授業も滞りなく終わり夏休み前最後の登校日が終わろうとしており、朝の事件以外何も起こらずに帰れると思っていたのだが、そうは問屋が卸さなかった。
「アーちゃんのメガってファミリーネームはアーちゃんの国では普通なの?」
「めが?私の名前はアクア。そう、ただのアクアよ」
また越えちゃいけない壁越えやがって。
次はダクネスがやったりしないよな?
「え?でも自己紹介の時めがって付けてたよね?」
「あ、あれは女神って言っちゃいそうになったよね」
流石駄女神。ありのまま言いやがった。
「あははは、なにそれウケる!」
「いつものくせなんちゃってテヘペロ」
「アクアちゃん面白すぎ」
あいつ妙に馴染んでるな。
年齢不詳の女神はJKと友達ってなんかラノベにありそう。
「ララティーナちゃんって貴族の出って本当なの?」
「どどうしてその名前を!?」
ララティーナが睨んでくるがお門違いだ。
話したのはアクア。俺は見てただけで何もしていない。
「いやまあ、そうなのだが。だからと言って気遣いはいらないのだが、その、ララティーナ呼びは出来ればしないで欲しい」
「OK!でもララティーナって可愛くていい名前だと思うよね」
「だよねー。私なら逆にララティーナって名乗りたいくらいだわ」
ダクネスが何故嫌がるのかに気付かず、傷口に塩を塗る行為を悪意なく行う女子たち。
さすがにダクネスが可哀想に思えてきた。とは言え止める気はないけど。
「ねえねえ、めぐちゃんって佐藤君の何処が好きなの?」
「まずは優しい所ですね。他にも私のことをよく理解してくれているとか色々ありますよ」
「その色々ってなんなの?」
「そうですね。料理が上手いとか、名前がカッコイイとか、頭の回転が・・・」
くっ、女子の打ち解けの早さが恨めしい。
めぐみんも何故堂々と語れるんだよ。俺が今どういう状況に立たされてるか理解してやってるよな?
あと、名前がカッコイイは褒められてる気がしない。
「おい、和真。俺らは悲しいぞ。こんな身近に、しかも重鎮に裏切り者が居たとはな」
俺を囲んでいる奴らのリーダーが言った。
いつものゲーム仲間集団なのだが、非リアの集まりでもあり、この状況は所謂、弾劾裁判的なあれだ。
一応ゲームの中じゃ幹部だし、他の奴らは俺の教え子でもあるから、こいつしか俺に物言えない面もある。とは言え完璧な上下関係がある訳でもなく、階級社会ではないことだけは事実だ。
「別に裏切ったつもりはないんだって。ただ言いづらかったと言うか」
「そこなんだよ!正直に言ってくれればそれはそれで良かったんだ」
え?言っても大丈夫だったの?いつもリア充爆発しろって言ってるくせに?
「俺達も祝ってやったって言うのに、如何してなんだ。それにいつも胸が一番とか言ってたお前が如何してなんだ」
こいつら。
なんていい奴らなんだ。
でも最後のはめぐみんに丸聞こえだから覚悟しといた方がいい。
てか今のでクラスの女子から蔑まれた目で見られてんだけど、どうしてくれんの?みんな黙っちゃって恥ずいんですけど!あとめぐみんが睨み付けてきて今にも爆裂しそうなんですけど!どう落とし前付けてくれようか?
「とまあ、私と言う者が有りながらあんなことを言ってるカスマですが、それでもああ言う馬鹿な所も含めて私はカズマが好きです」
ふう、大丈夫だった。じゃねえ!
何公衆の面前で告白みたいなことしてんのこいつ!
してやったり顔だなおい。
「ひゅーひゅー、アツアツのバカップルね!」
アクアめ!
あいつ帰ったら警察に未成年飲酒で突き出してやろうか。
「羨ましい限りだな。カズマその位置を代わってくれ」
こんな時に恥ずい思いをしてるのを羨ましがるなよ!百合的な方に勘違いされるぞ!
「駄目です!カズマは渡しませんよダクネス」
ここにもややこしいやつが!
今の話の何処から俺の取り合いに発展するんだ!恥ずかしいから辞めてくれ!
「そう言われて、食い下がる訳が無いだろう。さあ、来いめぐみん!」
「ええ、いいでしょう。どちらがカズマに相応しいか勝負です。我がライバルダクネス!」
おい、ゆんゆんが可哀想だろ。
はあ。
もうこいつらが何しようがどうでも良くなってきた。一周回って悟ってる感じで。
「このコップを見ててね。ここに種を入れて、念じると、ほら出来たわ!バカップルが!」
原理は分からないが種から出てきた芽が急成長して、俺とめぐみんぽい二人が出来た。
アクアの宴会芸って毎回思うけど、どうやってんだろ?流石宴会芸の女神って所か。
バカップルって言ったぶんは、帰ったら昨日あいつの買ったアイス貰っておこう。
「アーちゃん、アンコール!」
「アクアさん、アンコール!」
「アクア様!もう一度お願いします!」
?
今変なのが居た気がするが気の所為だよな?
「・・・和真。そのなんだ。お前の知り合いって賑やかだな。それとお前のかのじゃなくて婚約者すげえな」
「・・・・・・・・・なあ、一緒に帰ろうぜ」
「お、おう」
この場から去りたかった俺は最後までアクアの芸にもダクネスとめぐみんのバトルにも行かなかったリーダーと帰ることにした。
リーダーは察して何も聴かずに着いてきてくれる。
やっぱり持つべきは友だな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
リーダーと別れ一人帰路につき、夕食を何にするか考えていると見覚えのある奴がいた。
「いつもありがとね。これちょっとしたお礼よ」
「いえ、これは仕事なのでお礼とかは頂けないですよ」
何とも真面目な配達員。
そして、それに動じないおばさん。
「いいのよ。これは気持ちだからね。気にしないの」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
おばさんにみかんを渡され流れで受け取ってしまう銀髪のハーフヒューマン。
そしてそれを録画する俺。
すると銀髪の配達員はこちらに気付き、慌ててみかんを返し、猛スピードで走ってきた。
反射的に逃げた俺の先には運悪く工事中の看板が立っていた。
逃げるのは諦め潜伏スキルで隠れた。
「おかしいな?ここに入っていったと思ったのに。こうなったら夜に忍び込んで、データを消すしか」
「クリス久しぶりだな。元気してたか」
あぶねえ。もし勝手にスマホ見られたら寝顔撮ってるのがバレる所だった。
「・・・ねえ、確認だけど見られると不味いものがその中にあるの?あとさっきの動画消しておいてね」
「いやだなあ、俺にそんなものある訳ないだろ。で何してんだ?配達員なんかして。動画についてはもうダクネスに送っちょっ!やめろ!俺のスマホ割っても送った事実は変わらな、やめ、やめろおおおおお!」
何でこんなに疲れなきゃいけないんだ。帰ったら補習という名の授業までの課題を済ませようとしていたのにやる気が失せた。と言うか夕飯も作る気なくしたしLINEしとこ。
「いきなり何すんだよ。冗談だって、無駄に疲れて気力無くなったわ」
「なっ!元はと言えばキミが動画撮ってたからだよね!」
何を言い出すかと思えば責任転嫁。アクアみたいだな。
クリスってこういう所があるから、あの事実を知った時のギャップが凄いんだよな。
「それを是が非でも消さなきゃならない状況をつくったのは誰なんだよ?」
「そ、それは・・・」
「まあ、そんなことはおいといて、如何して配達員なんかしてるんだ?」
良くぞ聞いてくれましたって顔をしているクリス。
なんかムカついて来たな。本当にダクネスにさっきの動画送ってやろうか。
「実はカズマくん達をこっちに送った時に、って自分から聴いたんだから最後まで聞きなよ!」
嫌な予感がした俺は瞬時に耳を塞いだ。
どうせまたあれさせられるのは目に見えてる。この法治国家日本で捕まったら普通の生活なんて出来なくなると言っても過言じゃない。
「嫌です。俺は日本人です。犯罪はしませんし、加担もしません。ではこれで」
「ちょっと待って別に頼み事はしないから待って!」
「ホントか?」
俺の嫌な予感が外れるのは珍しい。
引き留める為の嘘だったらダクネスにバラそう。
「大丈夫だよ。私がここに来た理由はキミたちの監視のようなものだから気にしないで。後は・・・」
「監視ってまさか俺らの家には盗聴器が」
「ち、違うよ!人聞きの悪い事言わないでさ。ただ魔法を使ってしまった時の後処理が必要だから派遣されてるだけだよ」
何となく読めた。
要はアクアかめぐみんが暴走した時の為の保険みたいなもんだろう。
「分かった。クリスの仕事が増えないようにあいつらにちゃんと注意しておくよ」
「・・・今のところキミが一番あたしを煩わせてるんだけどな」
「何言ってんだ?俺は何もしてないし、今のこれはお前の所為だろ」
こっちで魔法を使うのは家ぐらいだし、見られてないはずだ。文句を言われる筋合いはない。
「はぁ、じゃあ聞くけど、昨日の三限目、エアコンが故障した時何したか覚えてる?」
「何って暑くなってきたからフリーズで涼を取ってたけどそれがどうかしたか?」
特に問題行為もなかったはずだ。
クリスは何が言いたいんだ?
「それが問題なんだけど」
「・・・あっ、慣れ過ぎて魔法使ってる感覚なかった。悪い」
これは悪いことをしたな。まさかここまで魔法に慣れてしまっているとは自分でも驚きを隠せない。
向こうに戻ったらやらかした分だけ手伝おう。
「分かって貰えればそれで十分かな。まだ配達物もあるしもう行くね」
クリスはそう告げると返事も聞かずに去っていった。
さてと、俺も帰るか。
通知によると今日はカレーらしい。
辛いもの食べてからアイス食べるって通な食い方もありだな。そうだ、昨日食べられなかったチョコモナカジャンボとみんなのアイス買って帰るか。
この時の俺は今日以上の面倒事が起こるなど考えもしていなかった。
リレー小説のセカンドランナーを務めるめむみんです!
明らかにレベルダウンしていて申し訳ないです。前回よりはカズめぐが少し増えた感じになりましたかね?
何とか起承転結の承を作り終えましたが、あとのお二人に丸投げな終わり方になりすみません。
終わってから改めて思うのは私の場違い感が凄いって事ですかね笑
憧れの先輩方との共同作業程、緊張するものはないかなと思います。
読者の皆様方、三話以降も是非よろしくお願いします。
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この2人きりの時間に祝福を!【執筆者:ピカしば】
「ただまー」
「おかりー、カズマさん随分と遅かったわね」
クリスとのゴタゴタはありつつも俺は無事に家に着いていた。
家の中ではカレーの匂いが充満していて、食欲をそそると共に少し懐かしい気持ちにもなる。
「おかえりなさいカズマ、もう少ししたら出来上がるのでリビングで待っていて下さいね」
キッチンからプイッと顔を出して来た赤いエプロン姿のめぐみんがそれだけ言って顔を引っ込めた。…可愛い。
俺は短な廊下を歩きリビングへと向かう。
「ねぇねぇカズマさん、私達より早く学校から出たのにどうして帰ってくるのが遅くなったの?」
「あぁ、帰る途中でアイスを買っててな、それと帰る途中でクリスに会った」
「く、クリス!?この世界でクリスに会ったのかカズマ!!どういう事だ、今なら誰でもこのニホンに来れるのか!!」
凄い剣幕でそう言ってきたのはダクネスだ。
しまった、言うべきではなかったかもしれない。
「いや、俺の願いが『俺にとって大切な人も一緒に』って感じだったはずだから多分そこに同じ盗賊団として命を預けあったクリスもふくまれてたんじゃないかな??」
クリスはエリス様として俺達の監視の為に日本に来てるわけだが、そんな事言えるはずも無く、その場で思いついたそれっぽい理由を重ねた。いや、消して間違いでは無いはずだ。俺は魔王を倒した後もこの3人と暮らしていきたいと望んでいたのだから…。
「そ、そうか…大切な人か。ふふ…」
「何だよ…」
「いや、カズマがそんな照れ臭い事を言うのは魔王城への道中以来だな」
またコイツは恥ずかしい事を…
「ねえねえダクネス!その話を詳しく聞かせてちょうだい!!」
「あぁ、私がカズマとめぐみんとでアクアを追っていた道中でカズマが…」
「あああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」
「カズマさんどうしたの!?実は日本に戻ってくる時、頭パァになっちゃってたとか!?ごめんなさいカズマさん、事例が無いから大丈夫だと思ってたのだけれどしっかりと忠告はしておくべきだったわね…。」
「おい待てアクア、パァって何だ?あっちに転生する時も似たような事言ってたよな。エリス様は知ってたのか!?あの人も知ってて黙ってたのか!!」
「ちょっと待って落ち着いてカズマさん、エリスは何も知らないわ。あの子は純粋で優しいから、そんな事を知ったら飛ばせないわよ。あの世界に転生する時にパァになる可能性があるってのも最近伝えたばかりなのよ。その時もね……」
「あの、盛り上がってる所悪いのですがカレーが出来上がりました」
怒り心頭の俺とそれにビビってアタフタするアクアの間にカレーの入ったお鍋を持っためぐみんが割り込んできた。
・
・
・
・
「3人とも落ち着いて下さい、隣の人に迷惑ですよ」
「す、すまないめぐみん。私がしっかりと静止役に回る事が出来ていれば…」
いつもは爆裂魔法で街中の人々に迷惑をかけまくっているめぐみんがやれやれといった顔でそんな事を言っていた。
「にしてもこのカレーは美味いな。昔母さんに作ってもらったカレーを思い出すよ」
「本当ね、めぐみんのカレーはお母さんの味って感じがするわ!」
「そ、そうですか…ありがとうございます…」
めぐみんが頬を赤くして目線を逸らす。
にしても本当に美味い、めぐみんだから味の心配はしてなかったがまさかここまで美味しいとは思わなかった。
「この世界の野菜は逃げたりしないので下処理が凄く楽なんですよ。しかもここの野菜はあっちの活きの良い野菜と同じぐらい新鮮で調理のしがいがありました!」
「ほんと、元の世界に戻ってきたんだなぁってしみじみ思うわ。まさか野菜が暴れないだけでここまで安心感を得られるとは…」
「この世界に来て1番最初に野菜を見た時、顔をぐちゃぐちゃにして泣いてましたもんねカズマは」
「玉ねぎの汁が目に入っただけです…」
「そういう事にしといてあげますよ。」
めぐみんは俺の歯切れ悪い言い訳にクスクスと笑いながら「でも…」と続けて、
「そうやってこの世界でのカズマを知っていく度、なんだかあの世界での冒険が恋しくなってきます」
めぐみんは目線を下に落とし、少し寂しそうな笑顔に変わる。
「今は学校の事で色々と忙しいけど、落ち着いたら皆でまた冒険するのもありかもな…」
「はい、落ち着いたらまた皆で冒険しましょう…」
紅い瞳を輝かせ、無邪気に彼女は頷いた ━━
「なあカズマ、冒険に行くなら以前から気になっていた触手モンスターを…」
「ねえねえカズマさん、本気で言ってるの?私は嫌よ!お金も沢山あるんだし冒険なんて行く必要無いじゃない!私は家でダラダラして待ってるから!!」
「めぐみん、俺もう冒険したくなくなってきたわ」
「えっ」
━ 翌日 ━
「なあカズマ、昨日はテンション上がっちまって流してたけど許嫁ってどういう事だ?お前の家実は結構な名家だったのか?」
「それな!許嫁とか婚約者とかって今時聞かないもんな。付き合ってるわけじゃないんだろ?」
俺は早朝から学校で質問攻めに会っていた。
「うーん、どう言えば良いんだろうな。許嫁とか婚約者とかも言葉の綾というか、もう色々進んでるんだけどまだ付き合ってないっていう不思議な関係?」
「なんでカズマが疑問形になるんだよ、そこははっきりしないと可哀想じゃないか?あっちはあんなに好きだって言ってくれてるのに。お前はめぐみんさんの事を好きじゃないのか?」
「いや、滅茶苦茶好きだ。大好きだ。俺以上にめぐみんが好きな奴は居ないと断言出来る。」
反射的に反応してしまった。なんだろう、モヤモヤする。
「そ、そうか…すまんな疑って。なら何で付き合ってないんだ?相思相愛なのは確実なのに」
「いや、それは…」
痛い所を突かれて目線を逸らす。
「なるほどなぁ…何となく分かっちまったよ」
他の奴らもうんうんと分かりやすく深い相槌を打つ。流石いつも俺と一緒にゲームしてるだけの事はあるな俺の事をよく分かっている。
「よし!俺達に任せとけ!!お前のそのヘタレた根性でもめぐみんさんと付き合える様に俺達も助力してやるさ!!!」
この瞬間俺はアクア達がやらかす時と同じ嫌な予感が頭を過ぎった。━━━━━
━━━「なあアクア、一緒に飯食べないか?」
昼休みの時間になり、俺は一緒にご飯を食べようとアクアに声をかけていた。
「あ!か、カズマさん!!今日は先約が合ってカズマさんとは食べられないの、ごめんね!」
「そっか、じゃあ仕方ないダクネスにでも…」
「あああああああああぁぁぁ!!!ダクネスも一緒に誘われてるの!だから、ダクネスもカズマさんと一緒は出来ないのよ!」
アクアが汗をタラタラと垂らしながら捲し立てる。なんだか怪しい。
だが、ダクネスも無理だとするとめぐみんも誘われてると考えるのが妥当か。女子同士での交友みたいな物なのかもしれない。
仕方ない大人しく男同士で食べるか
「なあお前ら一緒に飯を……」
「あ、カズマ!すまねぇな、今回は定員オーバーなんだ!!申し訳ないんだが他当たってくれ!」
なんだこの状況は。
見渡して見ると既に食べる為のグループが固まっており、俺の食べる為の席すらも無くなっていた。
仕方ない、屋上で1人飯かと思っていたその時、
「「あっ」」
ふと同じくボッチになってた紅い瞳の仲間と目が合った。
・・・・・・
「俺もお前も随分と除け者にされたもんだよな」
「そうですね、でも私はこうしてカズマと2人でご飯を食べる事が出来てるので満足ですよ?」
そう言って、本当に幸せそうにめぐみんははにかんだ。
その顔を見てると、ハブられた結果とはいえこいつと2人で昼飯を食べるのも悪くない様に思えてくる。
「まあ、そうかもな…。意外と俺達今まで2人きりで飯とかあんまり無かった気がするし、よく良く考えれば屋上で女の子と2人飯って凄く青春って感じがしてきた!」
「セイシュン?が何なのかはよく分かりませんが、確かにこれまで2人きりでって事自体少なかった気がします…。これからは意識して2人きりで何かをする機会を増やしていきましょう」
俺はめぐみんに「そうだな」と言って笑いかけた。
それ以降は、学校の授業はどうだとか、この世界にはそろそろ慣れたかとかをお弁当の具を交換したりしながら語り合った ━━━━━
━ 放課後 ━
「それにしても、今日いきなり2人きりってのを実行するとはなぁ…」
俺は終礼後、めぐみんに誘われて2人で帰っていた。
2人で行動する機会を増やしていく事に賛成はしたものの、まさかその日のうちからになるとは思っていなかった。
「良いじゃないですか。私だって、カズマと2人きりで居ることに緊張しないわけじゃないんですよ?」
そう言うとめぐみんは紅く輝く瞳を隠すように目線を下に逸らした。こういう所は本当にずるいと思う、女の子ってヤバい。
「あ!そうだ!!アクアとダクネスはどうしたんだ?今日は昨日に比べて自由だっただろうし、皆で帰ろうって言い出しそうなもんだけど」
「あの2人には先に2人で家に帰って下さいと言っておきました。」
「そっか…あ!昨日はああ言ったけど明日は学校も休みだし皆で冒険でも…」
「行くか!」と言おうとした間からめぐみんが、
「その明日の休みについてなんですが…」
と、めぐみんはそこで1度切り軽く息を整え、
「その…」
珍しくめぐみんが歯切れ悪く顔を赤くしつつもしっかりとこちらの目を見て、
「明日、私と1日デートをしませんか?」
青春の幕開けを告げた。
非常に遅れてしまった事を先にお詫びします。第3話を担当させて頂いたピカしばと申します。他の皆さんがこのすば小説書きの重鎮さんばかりの中1人変な奴が混じってしまった事をお許しください。
最後のアンカーはリルシュさんです、きっと綺麗に締めてくれると思います!
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この素晴らしいデートに永遠を!【執筆者:リルシュ】
「デートか…」
めぐみんと2人で出かける約束を取り付けたその日。
俺は帰宅してからずっと明日の予定について頭を悩ませていた。
異世界にいた時も、結局魔王を倒すまでにまともなデートなんて片手で数えられるぐらいしか出来てなかった気がする。
大抵は途中で邪魔が入ったり異世界流のルールというか常識なんかに流されたりして…
まぁ、こちらの世界ならばそうそう変な展開にはならないだろうが。
引きこもっていたとはいえ、一般常識程度なら心得ている。
向こうの世界にはいつでも帰れるし、デートは日本で楽しみたい。
というか、めぐみんもそれを望んでいるはずだ。
「遊園地…水族館…動物園…映画館とかゲーセンもありか」
ありきたりな場所を思い浮かべては、めぐみんとそこで過ごす空想を広げてみる。
…うん。
アイツとなら、結局どこ行っても退屈しなさそうなんだよな。
「ま、時間はたっぷりあるんだし、これからいろんなとこ連れて行ってやれば…ん?」
ゴロンとベッドに横になると、携帯が僅かに振動しSNSアプリに着信があった事を知らせてきた。
通知欄を見れば、めぐみんの名前が…
「まさかドタキャンじゃないよな?」
これだけ期待させておいてそんなことされた日には、とても口では言えないような凄いことをお見舞いしてやるしかなくなるのだが。
めぐみんは本人の意思じゃないが前例があるし、ちょっと怖い。
おそるおそるメッセージを確認すると…
「どうしましょう。楽しみ過ぎて眠れません。カズマもどうせまだ起きてるんですよね?」
そんな不安は一瞬で杞憂に終わることになった。
「起きてるよ。明日はハメを外しすぎないようにな。何度も言ってるが、こっちの世界じゃ色々勝手が違うんだぞ?何をどう間違っても爆裂魔法は御法度だ。分かってるよな?」
「あの…実はその事で相談が…」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「エクスプロージョンッ!」
うん。
そうだよね。
よくよく考えれば、1日中デートするという件でテンションが高まってるコイツが、爆裂欲求に耐えられるわけがなかった。
「はァっ…気持ちいいっ…ですっ。スッキリしましたよ、カズマ。付き合ってくれてありがとうございます。パタリ」
なんて字面だけ見れば色気があるようにも感じられるセリフを呟き、めぐみんは後ろに控えていた俺の胸元に倒れ込む。
デート当日の早朝。
彼女のお願いで異世界にテレポートし、爆裂魔法を撃たせてあげていたのだ。
「いや、もうお前に爆裂魔法をずっと我慢させるのは死刑宣告みたいなもんだから、こうなる可能性は考慮してたけども」
せっかくのデートの始まりが爆裂魔法というのもどうなのだろうか?
俺たちらしいといえば、らしいのかもしれないが。
「仕方ないじゃないですか。私にとって爆裂魔法をぶっぱなすのは、衣食住に匹敵するぐらい生きる上で欠かせない行動なのです」
「分かってるよ。だからこうして付き合ってるんだろ。でも今日の本番はこれからなんだからな。ほら、帰るぞ」
ぐったりと力が抜けて全体重をかけてくるめぐみんの体を、丁寧におぶってやった。
うーん慣れたもんだな。
コイツをおんぶするのも。
「よしっ…テレポート!」
と言うわけで、めちゃめちゃ便利な魔法のおかげで無事日本に戻ってこれたのは良いのだが…
体がだるい!
テレポートの魔法に加え、めぐみんが自力で動けるようにとドレインタッチで分け与えた魔力消費で上手く力が入らない。
だからと言って、せっかくのデート時間をここでダラダラ過ごす訳にもいかないが。
「カズマカズマっ!まずはどこに行くんですか!私もこの2週間ちょっとの間で色々と日本を回りましたけど、男女のデートスポットに当てはまりそうなところはなるべく避けてきたつもりなので、ワクワクしますよ!」
本当に楽しみなんだろう。
瞳をキラキラと紅く輝かせながら早口でそう捲したてる彼女が、グイグイと迫ってくる。
「顔が近いぞ落ち着け。俺だってなんにも考えてないわけじゃ無いんだから。今日はカズマさん立案企画の日本体験スペシャルコースを連れまわしてやろう」
「おぉー!」
純粋な感心の声を上げて拍手してくるめぐみんを見ていると、若干大げさに言いすぎたかと不安になるが今更プランの変更が出来るわけもないので、まず最初の場所に連れていくことにした。
「着いたぞここだ」
道中見かけた異世界ではお目にかかれないような施設や道具の件で質問されることも無く、無事にたどり着く。
スマホなんかも早々に使いこなしていたし、本当にある程度はこの世界についての知識も得ているんだろうな。
「ここはゲーセンという場所ですね!」
「え?ここも知ってるのか?」
ピカピカチカチカと、彼女達の世界では滅多にお目にかかれないであろう電子の光で溢れる室内。
様々な筐体から溢れ出る機械的な音が絶えず聴覚を刺激する場所。
ゲームセンターという場所に、俺はめぐみんを連れて来ていた。
「はいっ!来るのは初めてですけど、アクアから聞いたことがあります。その時カズマがこういうのには詳しいと聞いて、あなたと一緒に行けるまで訪れるのはやめておいたのですよ」
と、彼女はなんとも嬉しいことを宣言した。
予定では見慣れぬものに囲まれて右往左往とするめぐみんを眺めるつもりだったのだが、こんな風に期待されるのも悪くない。
「よーし任せておけ。ゲームセンターに来るのはかなり久しぶりだが、ビデオゲームの類なら俺の独壇場だ。かっこいいところをたくさん見せてやる!」
嬉しそうな笑顔で俺の意気込みに頷いた彼女を連れ回しながら、様々な筐体を巡っていく。
アクアからゲームセンターという存在だけは聞かされていたらしいが、本当にそれ以上の知識は仕入れていなかったようだ。
普通のアーケードコントローラーを扱う筐体からガンシューティングのような体感型のものまで、新しいゲームに触れる度に興味津々に俺に説明を求めてくるめぐみんの姿には、年相応の可愛らしさも相見え思わず頬が緩んでしまう。
「それにしても凄いですねカズマ。どのゲームでも手馴れた様子で軽々と…かっこいいです!」
「ふっ…まぁな。俺にかかればこの程度わけないぞ」
少し調子に乗ってみたら、背伸びしためぐみんがニコニコしながら無言で頭を撫でてくれた。
しかしこれじゃ恋人というより親子っぽくないか?
しかも年の差を考えると立場が逆転している。
…嬉しくない訳じゃないから、周りの視線が気になるまでしばらくこのまま甘えて撫でてもらうけど。
「お?カズマカズマっ!あれはなんですか?何やら人形のようなものがたくさん中に入っていますが…」
それから程なくして、俺の背後に視線を移しためぐみんが頭撫でを中断し、そちらに歩み寄っていく。
そこにはゲーセンデートと言えばお約束の、あるゲームが設置されていた。
「あぁ、これはな、クレーンゲームって言うんだ」
「ほほぅ…どうやらあのアームを使って、中の商品を掴んで手に入れることを目的とするゲームだとお見受けしましたよ!」
流石に慣れてきたのか、めぐみんは俺が詳しい説明をする前にそう言い当てた。
「概ねその通りだな。因みにゲーセンでデートする男女にとって、このゲームはほぼ避けては通れない道だ」
「なるほど!では、今度は私からチャレンジしますねっ!何か手に入ったら、カズマにあげますよ」
だからそれは立場が逆転しているような気もするのだが…
「お、おぅ。さんきゅ」
腕まくりまでしながらやる気満々のめぐみんを見ていると、そんな理由で横槍を入れる気にはなれなかった。
しかし、このゲームはシンプルに見えても店員の絶妙なバランス調整により、取れそうな装いを見せながら中々取れないというイジワルな仕様になっている事がほとんどなのだ。
さて、天才魔法使いさんのお手並み拝見と言ったところかな。
………
……
…
「くっ…ダメでした」
流石にゲーセン初日の初心者にそんな簡単に獲物をゲットさせてくれる訳もなく、見事に小銭を次々と筐体に飲み込まれていっためぐみんが、とぼとぼと悔しそうに唇を噛み締め俺の元に戻ってきた。
「まぁそう落ち込むな。それが普通だ。簡単に取れるようになってないんだよ」
「…カズマなら取れますか?」
「んー。たぶん」
俺の観点から言わせてもらうと、無理やり掴もうとしているのがいけないと見える。
あの配置なら、アームが開く時の押し出す力を使えばめぐみんの狙っていた人形…まるでちょむすけのような黒猫のあれは、手に入れられるはずだ。
「流石に少し悔しいので、お手本を見せて下さい!」
「おう。任せとけ。惚れ直すなよ?」
めぐみんの頭を軽く撫で、彼女の期待が詰まった眼差しを背に、俺はクレーンゲームのボタンに手を伸ばした。
………
……
…
「くくく…さすが俺、数年のブランクも障害にならないということを証明してしまったな」
1発。1発だ。
めぐみんが頑なに狙っていた黒猫の人形は、狙い通りの方法で穴に吸い込まれ、俺の手に抱かれることになった。
彼女が位置をいい感じにずらしてくれていたのもあるが。
そういう意味では共同作業と言えるだろう。
…しかしなんでだろう?
以前にも、めぐみんにUFOキャッチャーで取れた商品をプレゼントした記憶があるような…。
いや、彼女と一緒に日本に来たことは無いのだから、絶対に初めてのはずなのだが。
デジャヴというやつだろうか。
「おぉぉぉぉ!!!流石ですねカズマ!ゲーセンでなら、あなたに敵はないようにすら思えますよ!」
そんな事を考えていたら、駆け寄ってきためぐみんがとんっと背中を叩いて健闘を称えてくれた。
「あったりまえだろ。ここは俺に任せておけ」
まぁ細かいことはいいか。
今は好きな女の子に褒めちぎられるという、良い気分をたっぷり味わうとしよう。
「へいへいそこのにいちゃんよぉ!」
そんな幸せ空間を満喫していたら、なにやらチャラチャラしたいかにもな男達がどこからともなくゾロゾロと現れた。
年齢は俺やめぐみんと大差なく見えるが…
ふむ。何やらめんどうな匂いがする。
そう、これはデート中の男女に絡んでくるこれまたお約束のしょうもない男たちの匂いだ!
「よしめぐみん。ここはもういいだろ。次の場所へ行こうぜ」
「そうですね。十分楽しみましたし」
「ちょっぉ!待てって!話ぐらい聞いて行けよ!」
彼らを意に介さずにくるっと背を向け歩み始めたのだが、がっしりと肩をつかまれてしまった。
以前の…異世界に向かう前の俺だったら、ここで尻込みしガクガク震えて動けもしなかっただろう。
だが、今は違う。
あの世界で、文字通り命を懸けた死線を潜り抜けてきた今となっては、人間のチンピラなど恐るるに足らず。
それに冒険者カードの効力はこちらの世界でも生きているようなので、多少魔力不足で怠くても一般人に引けを取ることはないのだ。
ぶっちゃけ空飛ぶキャベツの方がはるかに怖い。
「はいはい分かりましたよ。なんで絡んできたのか目的は言わなくていいんで、決着付けるならゲーセンらしくゲームで勝負をつけましょう」
「はぁ?…いや、そりゃねがったりかなったりだが…いいのかお前?」
「もちろん」
物わかりの良さに一瞬たじろいだチンピラどもだが、俺の返事にニタりといやらしい顔を浮かべてうなずいた。
「なら、勝負するゲームも俺たちが決めていいよな」
「お好きにどうぞ」
負ける気はさらさら無いので適当に返事を返すと、彼らは肩を組んで相談をしはじめる。
どのゲームにするかで話し合いをしているようだが…
「カズマカズマっ」
「ん?あぁ、ごめんなめぐみん。暇だよな」
ちょいちょいと袖を引っ張ってきためぐみんが、心配そうにこちらに視線を向けた。
「…どうした?まさか俺が負けるとでも思ってる?」
「いいえ。カズマがゲームで負けるなんて微塵も思ってないですが、ああいう輩は総じて卑怯な手段をとると相場が決まっているのです。くれぐれも油断しないでくださいね」
「分かってるよ。お前とゆんゆんの勝負で見慣れてるし。ありがとな、めぐみん」
「いえ、カズマを想っての事で…って、おい。私で見慣れているとはどういう意味なのか聞こうじゃないか!」
彼女のかわいい声援を背に、俺は戦場へと赴くのだった。
………
……
…
あまりにも一方的だったので結果からあっさり言ってしまうが、圧勝だった。
格ゲーでも落ち物パズルでもレースでも、彼らはゲーセンを根城にしているチンピラではないのだろうかと疑うほどに弱かった。
「グッ…!だ、だめだぁ!勝てねぇ!なんなんだコイツは!化け物かっ!?」
「ふっ…修行が足らんな。出直しておいで」
玉座に居座る王のように、跪くチンピラどもの中央にふてぶてしく居座っていたら、背後からパチパチと拍手の音が聞こえてきた。
「魔王みたいですね!カッコイイですっ!」
素直に喜んで良いのか困る褒め方をしてくれるめぐみんに、どんな表情で返事をするか悩んでいたその時。
「待て…最後はあの…ガンシューティングで勝負だ」
今までの戦果で既に冷や汗をダラダラと垂れ流していたチンピラのトップだと思われる男が、震える手で一つの筐体を指さした。
「俺たちにも予定があるから、それで最後な」
「あぁ…分かってる…」
…?
どうしたんだろうコイツ。
切羽詰まっているというか…挙動不審というか…
「さぁ…コントローラーを取れよ」
「あ、あぁ」
明らかに様子がおかしいそのチンピラに言われるがまま、俺は銃型のコントローラーを手に取り画面へと視線を向けた。
…あれ?敵感知スキルが反応してる…
「カズマっ!危ないですっ!」
慌てたようなめぐみんの叫び声で、反射的に様子がおかしかったチンピラの方へと視線を向ける。銃型のコントローラーを振りかぶってる彼の姿が目に映った。
「っ!」
だから仕方がない。
それは身の安全を守るための反射行動だった。
そのチンピラにとっさに銃を構えた俺は、
「スパークッ!」
雷の初級魔法を発動してしまった。
玩具である銃型のコントローラーが、バリバリという本来ならあり得ない故障を疑うレベルの電撃音を響かせ、先端から迸った鋭い稲光がチンピラに襲いかかる。
刹那の光が振りかぶっていた凶器を穿ち、それを取り落としたチンピラがビクリと跳ねて腰を抜かした。
「っ!?」
何が起きたのか完全には把握しきれていないのだろう。
彼はポカンと呆けた顔で俺に視線を送っていた。
まずい。
完全にやってしまった。
幸い威力が低い初級魔法の…それもゲーセンの騒音と光に紛れるものだったので、チンピラの意識もあるし気が付いたのもその取り巻きまでぐらいだが、クリスの…エリス様の仕事を増やしてしまった。
「おい…見たか?今の…」
「あ、あぁ…いまアイツの銃から…」
「カズマ!今がチャンスですよ!逃げましょう!」
打開策に思考を巡らせ足を鈍らせてしまっていたが、めぐみんのその声にハッと我に返る。
彼女はとっさの判断で俺の手を取り、強く引っ張ってすぐにでも走りだせそうな体勢に移行していた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
踵を返した瞬間、魔法を目の当たりにしたチンピラの弱々しい声が聞こえた。
「な、なぁ!お前今…この玩具から本物の電撃?みたいなの、撃っただろ?」
その核心を突いた一言に、足が止まってしまう。
言い訳を必死に考えてグルグルと思考を巡らせていると、
「か、かっけぇぇ!!! 」
……は?
「どうすればそんな芸当ができるようになるんだ!?」
「いや、どうすればって…」
「あ…すまん。そうだよな。まずはいきなり殴りかかろうとしたこと謝んなきゃな。ゲーマーの風上にも置けない最低な行動だった…本当にすまん…けどすげぇなアンタ。頼めた義理じゃねぇのは分かってるけど、よかったら俺たちにゲームの指導をしてくれないか?あ、いや。してくださいっ!!!」
「いやいやいやだからちょっと待てって!」
いきなり話がぶっ飛びすぎだ!
なんでそんな簡単に受け入れられるんだよ!
俺、本当に日本に帰ってきたんだよな!?
「あの…なんだか面倒ですし、早く次の場所に行きませんか?」
そうだよ!
今日はせっかくのめぐみんとのデートなんだぞ!
こんなところで見ず知らずの男達に時間を使うつもりは…
「そう言えばそっちの女の子は?アンタの…妹か?」
「いやちがう。まぁその…デート中なんだよ。なんだお前ら?めぐみんと俺がイチャイチャしてるのが気に食わなくて絡んできたんじゃないのか?」
デート中と言われ少しだけ気分が良くなったのか、ふふんと口端を上げためぐみんが腰に手を当て薄い胸をそらし自慢気なポーズをとる。
「え?違う違う。この辺のハイスコアを根こそぎ塗り替えてるアンタのゲームの腕に挑戦するために…」
「だいたい俺らロリコンじゃねぇし…」
「おい!今の発言について詳しく聞こうじゃないか!」
「待て落ち着け!もうこれ以上ここで時間を使ってられねぇって!行くぞめぐみん!」
「待ってくださいカズマ!今コイツらに目にものを見せて…!」
俺のよく知る日本のはずなのに、まるであの異世界にいた時のように、店員が駆けつけてくるまで無駄にドタバタと騒いでしまうのだった…
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「着いた。次はここ。デートといえばの定番、遊園地だ」
「おー!何やら興味をそそられるような建造物や…あれは乗り物なんでしょうか?とにかくワクワクしますねっ!」
ゲーセンでなんとかめぐみんを落ち着かせ、チンピラたちをあしらった後。
本当は某夢の国みたいなでっかいテーマパークにでも行こうと思っていたのだが、初遊園地という事だし時間の都合もあるので、とりあえず地元の小規模な場所に連れてくることにした。
さっきの場所で思っていたより時間を取られ、既にお昼過ぎになってしまっていたが、それでもこんな風に瞳を光らせ期待してくれている彼女の姿にこっちまで嬉しくなってくる。
「カズマ!あれはなんでしょうか!すごく気になります!」
小規模と言っても、事前に調べた限りでは遊園地の定番アトラクションは一通り抑えてあった。
今、めぐみんが興味津々に指を差したものも、遊園地でデートするなら欠かせないものだ。
「あぁ。観覧車だな」
「観覧車…」
紅魔族の琴線にでも触れたのだろうか。
口をポカンと開けて瞳を紅く光らせながら、めぐみんはひたすらそれを見上げていた。
「あー…楽しみそうにしてるところ悪いけど、あれは締めに乗るのがお約束ってやつなんだよ。まずは他の所から見て回らないか?」
「そうなんですか?分かりました。カズマがそう言うなら、お楽しみにとっておきましょう!」
素直に言いながらニコッと微笑むめぐみんの手を取って、俺は是非コイツとなら行ってみたいと思っていたあるアトラクションの前まで赴いていた。
「あの…カズマ?」
「はいカズマです」
「この不気味な建物はなんでしょうか…?」
そうです。お化け屋敷です。
「どうしためぐみん?声が震えてるぞ?大丈夫大丈夫とっても楽しい場所だから」
「嘘ですよね!?この看板『お化け屋敷』って書いてありますよ!?私だってもうこれぐらいの日本語は読めるんですからね!」
「え?お化けこわいの?」
「んなっ…!ぜ、全然怖くなんてないですよ!えぇ!怖くなんてありませんとも!」
正直俺も得意とか好きなわけじゃないんだが、今の反応を見る限り、めぐみんとなら絶対に楽しめるという確信がある。
異世界の屋敷にいた時の人形事件を乗り越えた今となっては、そんじょそこいらの恐怖体験じゃ屈しない自信もあるし。
「真意はともかく、遊園地でデートする男女ならお化け屋敷も中々王道な道だと思うぞ」
「うっ…本当ですか?そう言えば私を誘導できるとか、企んでませんか?」
「企んでないさ。それにいざとなったら俺が守ってやろう。抱きついちゃってもいいぞ」
「なるほど。真の目的はそれでしたか。納得です」
ちょっとした冗談だったのに、じとっーと睨まれてしまった。
「…けど、確かにカズマが一緒なんですもんね。怖がることありませんでした。もう随分前の話になりますけど、あなたは屋敷で動く人形に襲われたとき、最後まで決して私を見捨てませんでしたからね。今回もしっかり守ってくれるんでしょう?」
えへへとはにかむめぐみんが、俺が思い出していたのと同じ過去の話題を持ち出して、そっと腕を組んできた。
どうしよう。コイツ可愛すぎるんですけど。
「当たり前だろ。ずっと傍にいてやるから安心しろって。それに今回はただのお遊びだ。本物のお化けが出てくるわけじゃないんだし、あの時の体験に比べたら月とスッポンぐらいの恐怖度の差だって」
「そうですよね。頼りにしてますよ、カズマっ」
結果的に、私のそばを絶対に離れないでくださいという彼女の言葉に約束することで、お化け屋敷への第1歩を踏み出すことになったのだった。
「中々雰囲気あるな…」
「…そ、そうですね」
入口のスタッフにニヤニヤされながら行ってらっしゃいと言われ、恐怖よりも楽しみが勝る心境で臨んだものの…
暗闇の中にポツポツ点る蝋燭のように小さく頼りない配色の光源。どこからともなく響く水滴の滴る音。そして2人並んで歩くのが精一杯といった程の狭い通路。
…怖さを楽しむための場所なのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、作り込まれた恐怖というものを甘く見ていたかもしれない。
これは人工のものだと頭では理解出来ていても、体が震えてくる。
それは紅魔族であるめぐみんも同様らしく、ぎゅぅと先程から痛いほどに腕を絡ませて無言を貫いていた。
「おいめぐみん。あんまりうるさくしたら怒られるけど、だからって一言もしゃべるなってわけじゃないんだぞ」
「え?…へ?あ、な、何かいいまひたか、かじゅまっ???」
ダメだこりゃ。
よく見りゃ膝もガクガクと震えておぼつかない。
予想以上に堪えているようだ。
「ぜ、絶対離れないで下さいよ?」
「わかってるわかってる。お前の身体の感触も楽しめるし、離れてと言っても離れない」
「は、はいっ…ありがとうございます」
おっと。
ちょっとしたセクハラにもツッコミをいれる余裕すらないようだ。
いつもの勝気な様子と打って変わってしなだれ、暗闇の中弱々しく光る深紅の瞳に見上げられ…
俺はこんな場所だと言うのに少しドキドキしてきてしまった。
いや、有り体にいえばちょっとムラムラしてきた。
僅かな明かりしかない暗闇の中で、好きな女の子にそっと添い遂げられ身体が密着した状態で、「離れないで」と言われる場面を想像してみてほしい。
これはかなりくる。きます。ヤバい。
どうしよう。
キスぐらいなら許されるだろうか。
「…カズマ?」
足を止めたことを不審に思ったのか、めぐみんが不安そうな声を出して腕をくいっと引っ張ってきた。
あぁーもうっ!
コイツが可愛すぎるのがいけないんだからな!
俺は悪くない!
「んっ!?」
心の準備がまだ出来ていなかったであろう彼女の顎に手を添えて、少しだけ上を向かせる。
驚きに目を見開くめぐみんの顔をしっかりと網膜にやきつけてから瞼を閉じて、俺は唇を押し付け重ねた。
「あぅっ!?」
柔らかく温かい感触が口から全身に伝わり、体が熱くなるのが分かる。
くちゅり…
と、彼女の方から舌を差し込んできたのが分かって、俺の興奮は一気に高まった。
「あふっ…かじゅっ…かずまぁ…」
甘い声を漏らしながら、キスによる交わりでトロンと瞳を惚けさせるめぐみんの姿にもう辛抱たまらなくなった俺は、自らの服に手をかけ…
「あのぉ…お客様?ここはそのような事をする場では無いのですが…」
幽霊の姿に扮し苦笑いを浮かべるスタッフの声で、正気に帰るのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「…カズマのばか」
恥ずかしいやら情けないやらで、スタッフの方に深々と謝罪したあと逃げるようにお化け屋敷を後にした。
「ご、ごめん」
これに関しては俺が悪いのだろう。
お前が可愛すぎるのがいけないんだとか、ちょっとこの空気では言いにくい。
「………」
…でもこいつ、自分の唇をそっと撫でながらぽっーとして、満更でもなさそうな…
…って、ダメだダメだ!
なんかまた変な気分になってくる!
「な、なぁめぐみん。気分転換に…そうだな。ジェットコースターとか乗ってみないか?」
「ジェットコースター?」
そうそうと頷きながら俺が指さした乗り物。
ハイスピードでレール上を爆走するそれを見て…
「是非!行きましょう!」
瞳をキラキラさせて無邪気な表情を浮かべてくれるのだった。
この手の乗り物に身長制限があったことを思い出してヒヤッとしたものの、流石にその基準はクリアしてた興奮気味のめぐみんの隣に腰掛けつつ、俺はコースターが発進するのを待機していた。
「むっ…1番後ろですか」
めぐみんが足をパタパタさせ、頬をふくらませる。
「そんなに拗ねるなって。ジェットコースターは最後尾が1番スリルを感じるらしいぞ」
彼女は先頭が良かったのかもしれないが、昔ネットの記事で読んだことがある知識を披露すると、途端に瞳の輝きを取り戻した。
「ほぅ…まぁ、カズマがそう言うなら、信じてみましょう」
安全バーが降りてきて車体が動き出しても、鼻息を荒くしソワソワと落ち着かない彼女の様子にほっと笑みを浮かべてしまった。
………
……
…
「はぁぁぁ!スッキリしましたねー!中々の爽快感です!」
「そうか。お気に召したようでよかったよ」
コースターがスピードに乗った瞬間、テンションが高まったのか、
『おぉぉぉぉ!!!かずまぁぁぁぁぁ!!!これはぁぁぁぁっ!凄いですねぇぇぇぇ!』
などと大声で叫びながら何度も俺の名前を呼びかけてくるのは、恥ずかしいからやめて欲しかったけどな。
「カズマカズマっ!次はあれが気になるのですが!」
グイグイと、すっかりテンションが高まっている彼女が次に興味を示したものは…
「コーヒーカップか。確かにあれも、カップルで乗ってる人が多い気がするな」
「ぐるぐるぐるぐると、真ん中のハンドルのようなものを回すと乗り物ごと回ってますね…あれですね!より多く回転させられるかを競っているのでしょうか!」
「いやちがう。そんなくだらない争い、俺はゴメンだぞ」
勝負師気質のめぐみんが意気揚々とそちらに向かうのを、手を取りとどめる。
「む。しかしやるからにはハイスコアを目指したいのですが」
「ここはもうゲームセンターじゃないからな?」
それにコーヒーカップはただ力任せに回せば良いってわけじゃないはずだ。
俺も詳しくは知らないけど。
まぁ、彼女が興味を示してくれたことは事実なので、コーヒーカップの乗り場へは向かった。
ジェットコースターの息抜きにもちょうど良いだろう。
そう思ってたんだが…
ガシッ!!
カップに乗り込んだ途端、ガッチリと両の手で彼女がハンドルを掴むのを見て、イヤな予感をひしひしと感じる。
結論から言うと、俺はめぐみんの事を甘く見すぎていた。
「…あのー。めぐみん?なんでそんなに気合バッチリでハンドルを握って…」
「私は…自分にできることには全力で取り組む女なんです」
「ちょっと待て!なんでこう、くだらないことにだけそんなにやる気出すんだよ!だったら普段からもっと役に立つような」
俺の言葉は1度そこで区切れた。
相変わらず瞳をメラメラと燃やしていためぐみんが、見た目からは想像できない腕力でハンドルを回し始めたのだ。
グイッと身体が真横に引っ張られる感覚と共に、俺の体は椅子をスライドし真正面に座っていたはずのめぐみんの横にまで移動していた。
「ばか!危ないだろ!お前少しは遠慮して」
グルンっ!
あぁ、だめだ。
何が楽しいのか、うぉぉぉぉとジェットコースターの時と同じように叫びながら、彼女は夢中になってコーヒーカップを回し続ける。
下手に喋って舌を噛んだりしたら嫌なので、仕方なく俺はめぐみんの真横で大人しくすることにした。
高速で回転する景色を見て酔わないように、心の底から楽しそうに笑う彼女の横顔を、時間いっぱいじっーと見つめてやろう。
こんなに楽しそうにしてくれるなら、多少の無茶には目を瞑ってもいいかと思ってしまう俺自身に、本当にめぐみんに対しては甘くなってしまったなと苦笑を漏らす。
「ふははは!どうでしたかカズマ!きっと最高回転記録を塗り替えてやりましたよ!」
「そ、そうだな。凄いな。でも次からは1人で乗ってくれ」
コーヒーカップがぶっ壊れるんじゃないかと思うぐらい思う存分グルグルさせて、スタッフに若干引かれているめぐみんに手を引かれながら、俺は深呼吸して気分を整えていた。
いくら視点を固定していたとはいえ、無影響というわけにはいかなかったようだ。
しかし、結構日が落ちてきてしまったな。
夕日の照らす園内が、どことなくノスタルジックさを醸し出している。
あんまり夜遅くなっても明日に響くし、次で最後にしておくか。
「カズマっ!あの、そろそろ観覧車に乗りませんか?」
先導していためぐみんがくるりと振り返り、ニコッと微笑みながらそう言った。
どうやら彼女も同じ事を考えていたらしい。
「そうだな。行こうか」
断る理由もないし、早速乗り場まで向かう。
そんなに大きな観覧車ではなかったが、今日1日を振り返って語るぐらいの時間は確保できるだろう。
係の人に2人で乗ることを告げたら、お化け屋敷の時と同じように意味深にニヤニヤされたが気にせず乗り込んだ。
「ふぁー!楽しかったですねぇ」
ボフンと勢いよく椅子に座っためぐみんの振動で、グラっと僅かに観覧車が揺れる。
…まぁ、大騒ぎしなければ大丈夫だろう。
俺も彼女を見習って、その正面に腰を下ろした。
「…隣、来てくれないんですか?」
チラリと横目でこちらの様子を伺いながら、めぐみんが呟く。
その素直な要求に、ドキッと胸が高鳴った。
「あぁー…うん。そうだな」
この狭い空間の中で2人っきりという事実を自覚してしまいまごつく俺の代わりに、彼女の方が立ち上がり隣に場所を移してきた。
「やっぱりこっちの方が良いですよね」
「お、おぅ」
それほど密着する必要は無いぐらい座るスペースには余裕があるはずなのだが、めぐみんはぴったりと肌と肌が触れ合う至近距離を陣取っていた。
その方がこちらとしても嬉しいことは否定できないのだが。
「そう言えば昼飯食い損ねたな」
俺達が乗っている観覧車が園内を見渡せる程の高度まで来た時。
ドキドキして頭が回らず話題が思いつかなかったので、そんな空気の読めないことを言ってしまったが、
「ふふ。そうですね。カズマと遊ぶのが楽しくて、すっかり忘れてしまいました」
めぐみんはそんなことを恥ずかしげもなく言い切ると、頭を肩に預けてきて更に距離を縮めてきた。
…こちらのうるさい心拍音が聞こえてないか、少し不安になる。
「すごい景色ですよね。こんなに高い場所にいるのに、まだまだ見上げるほど大きな建物が沢山あります」
彼女の世界では、それこそ城レベルの規模を持つような珍しい大きさのビルが、こちらでは当たり前のように立ち並んでいる。
めぐみんは外の景色をじっくりと、その深紅の瞳に焼き付けていた。
「お前さえ良ければ、これからも色んなところに連れて行ってやるよ」
そんな彼女の姿を見ていたら、自然と口が動いていた。
今までこの世界に特に興味なんか持っていなかったが、コイツと一緒なら行けるとこまで行ってみるのも悪くない。
日本を巡り終わったら海外なんかにも足を伸ばしたりして…。
「ふふっ。ありがとうございます」
柔らかな笑みを携えためぐみんが、吐息が当たるほどの至近距離で俺を見上げる。
「最初は見慣れないものばかりで正直不安もありましたけど、カズマが私たちの世界を好いてくれたように、私もこの世界の…カズマが生まれてきてくれたこの世界の事が、段々と好きになってきましたよ」
「そうか。そりゃ嬉しいな。でも、俺だってまだお前たちの世界を隅から隅まで行き通ったわけじゃないからな。いつかお前のオススメの場所とか、まだあるんなら紹介してくれよ」
「分かりました。候補を考えておきます」
お互いに笑みを見せあう。
いい雰囲気だ。
俺たちが乗っている観覧車は、ちょうどてっぺんに行き着こうとしていた。
…やるしかないだろう。
「めぐみん」
「はい?」
「…実はな、遊園地デートで観覧車に乗った男女は、頂点まで来たら…その…キスとかするのがお約束だったりするんだが」
両想いだとは分かっていても、こういう提案をするのは気恥しさがあるもんだ。
そのうち慣れたりするのだろうか。
…いや、全然慣れる気がしない。
「キス…だけなんですか?」
鎖骨にめぐみんの手が優しく触れた。
俺が言った言葉以上に平気で大胆な発言をするのも、こいつらしいというかなんというか…
「そうだよ。エロみん」
「む…その呼び方はやめて下さい。私がこんなことするのは、あなただけなんですから」
知ってる。
そのセリフが聞きたくて、意地悪を言ったようなもんだ。
「お前、夕日が似合うな」
「カズマこそ、中々男前に見えてますよ」
夕暮れの光に照らされた観覧車の中、俺たちは静かに唇を重ねた。
ガタンッ!!!
「「んっ!?」」
全身に幸福感が満ち溢れそうになったその瞬間、
突然異音とともにグラグラと揺れる観覧車。
何が起きたのかついていけずに不安になる俺たちの耳に、機械の不調を伝える園内放送が流れ込んできた。
一時的に停止してしまっただけで、大きな事故にはならないらしいが…
お互いきょとんと相手を見つめてしまっていたが、事態を把握するとどちらからともなく笑いだしてしまっていた。
「おいおいおい。勘弁してくれよ。どうして俺たちにはこういつも邪魔が入るんだよ」
「ほんとですよね。まったく。せっかくおふざけ無しでカッコイイカズマが久々に見れたというのに」
園内放送の宣言通り観覧車はすぐに復旧して動き出したが、俺たちがいた場所は頂上をすぎて地上に向かってしまう段階の所だったため、どうにも気分が上がらずめぐみんは少しだけ距離をとって座り直した。
「カズマがさっきも言ってましたけど、お昼から何も食べてないのでお腹が減っちゃいましたね。何か晩ごはんの予定はあるのですか?」
「あーいや。そこまで考えてなかったなぁ」
というか、昨日の段階で周辺の飲食店を調べたら既に満席だったからなのだが。
ちょっとカッコつけた場所ばかり探していたのが悪かったのかもしれないな。
「そうだ。この前お前が作ってくれたカレーがまだ余ってるから、家で一緒に食べようぜ」
寝かせると美味しくなると言うし、デートの締めに彼女の料理を食べるというのも悪くない。
とっさの判断にしては中々粋なことを言えたんじゃないかと内心自賛していた俺に、めぐみんがコクリと嬉しそうに頷いてくれた。
いきなり背伸びする必要は無いのかもしれない。
俺たちは俺たちらしく、ゆっくり一緒に進んでいけば良い。
観覧車から降りて、頭を下げて謝罪するスタッフにめぐみんと腕を組んでる姿をたっぷり見せつけながら、次の休日の予定を考え俺は帰路に着くのだった。
END
皆さん大変長らくお待たせしました!
リレー小説アンカーを務めさせていただいたリルシュです。
SS形式のカズめぐメインな現パロは初めて書いたので、カズめぐらしさを保ちつつ現代の施設でイチャイチャさせる…
ということが中々思うようにいかず難しかったですが、今の自分の力を出し切ったつもりです。
次にこのような機会があれば、腕を磨いてまた挑戦させていただきたい所存です!
企画主の勾玉さん、参加者のめむさんとピカしばさん。
そしてここまで読んでくださった読者のみなさん、本当にありがとうございました!
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