太陽の軌跡 (三年後)
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プロローグ
プロローグ~リーヴスにて~


始めまして。軌跡IVをやってしばらくたって軌跡ロスがおこってしまったので衝動的に書き始めました!
初投稿です。駄文ですがよろしくお願いします。
内容については原作知識がないと厳しいと思います。


「では爺、ここで大丈夫だ。送ってもらってありがとう。父上と姉上の留守はよろしく頼む。」

「はい、レイン様もお気をつけて。」

 

 【近郊都市リーヴス】、今日、帝都から西に少し行ったこの町に新たな風が吹こうとしていた。トールズ士官学院・第II分校。多くの政治的思惑をもとに設立されたこの学校も今日入学式を迎えようとしていた。

 レインと呼ばれたこの若者もこのトールズの制服を身にまとっていた。彼はレイン・S・アルゼイド。帝国の双剣とされる2つの名門貴族の一つ、アルゼイド流を振るう剣士だ。その佇まいはさすがは名門貴族というような迫力があり、ただ立っているだけなのに気品があふれていた。髪は短髪で彼の父の雰囲気を持っているが、髪の色は薄い金髪で父や姉とは違う雰囲気があった。その理由は彼が彼がアルゼイドの血をひかない養子であるが故だが、それは彼自身もう気にすることはなくなっていた。

 

―――さすがにレグラムからだと遠かったな。しかしリーヴスか。うん、いい生活が出来そうな雰囲気だな。

 

 レインはリーヴスの街を見渡しながらそんな感想を抱いていた。彼の出身であるレグラムは大きな湖の隣に作られた古き良き田舎町という感じの雰囲気を持っている。それ故にリーヴスのような落ち着いた街のほうが彼は好きだった。小さいころから辺境であるレグラムで育ったレインは今回、初めて家を出て一人で生活することになる。そこに少々の不安もあったが街の雰囲気を感じ取ってそんな不安もなくなっていた。

 それにレインにとって今日はとても楽しみにしていた日でもある。レインの姉であるラウラ・S・アルゼイドは1年前にトールズ士官学院の本校にあった7組を卒業し、その7組で多くのことを学んだ。そして今は父であるヴィクター・S・アルゼイドとともに奥義伝承の旅に出るほどの実力も経験も得た。レインはそれゆえに自分も大きな高みに至るためにトールズへの入学を希望した。合格通知が届いたとき、本校でなく分校の通知が届いたときは少し落胆もしたが、数日後にはもう気にしなくなっていた。

 なぜ、帝国の剣であるアルゼイドの剣士が本校でなく分校に入学することになったのかは、その姉が大きな理由になっているがレインにそれを知る由はなかった。トールズ士官学院・第II分校。この場所の設立には一つ大きな理由がある。今年から変革される本校の方針に邪魔になりそうなもの、つまり現オズボーン政権の邪魔になりうるものを集めているのだ。生徒、そして教官に関わらず。

 

―――さて、入学式まではまだ時間があるしな。とりあえずこの町を見て回ってみるか。

 

 現在時刻は10時を回ったところだ。入学式は13時からだしまだまだ時間がある。そうして、これから2年過ごすことになる街に期待をもってレインは歩き出した。




初投稿でした。
ありがとうございます。
基本的に自己満足で進んでいきます。ご了承ください。


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序章
街巡り~武器工房【アカスチ】~


11:00

 

「おお!さすがに帝都が近いだけあってみたことない剣も多いな。」

 

 レインが街の散策を始めて約1時間が立っていた。彼は今、リーヴスにある武器工房【アカスチ】にてテンションが上がっていた。

 彼は自分がアルゼイドを修める身でありながら、他の流派の剣や武器に大変興味があった。簡単に言うと武器マニアなのである。ただ、彼はほとんどレグラムを出たことがなかったので、他地方の見たことない剣にとても興奮しているのである。

 

「店主!これってどういう剣なんですか?とても斬れるようには見えないんですが。」

「お?そいつは【ソードブレイカー】っていう種類の剣だ。その特徴的な形は相手の細剣をからめとるためだ。いわゆる剣殺しって言われる剣だが、最近は剣より銃が一般的になってきてるからほとんど使い手は見なくなったな。それにしても兄ちゃん、今時に剣に興味があるってなかなかもの好きだなー。」

「へぇ、じゃあこれはどうしてこんな形を?」

「おお、それはな...」

 

 レインはカウンター越しの椅子に座っている中年の店主に話しかけると、店主はレインに興味を持ったようにレインに近づいてきた。帝都近くだけあって様々な種類の剣があり、それを一つ一つ説明してくれる店主にレインはすごい好感を感じるとともに、そこまで様々な武器に精通していることに素直に尊敬の念を抱いていた。

 ただ、レインには一つ気になることがあった。それは多種多様な武器があるが、なぜか店頭には1本づつしか陳列されていない。剣の反対に陳列されている銃器は剣ほどの種類がないが、その分、1種類ごとに何本か置いてある。

 それについてレインが店主に聞いてみると、予想外の答えが返ってきた。

 

「ああ、そいつはこの店の技術を表すために置いてるんだ。というより、そこに陳列してる剣は全部売り物じゃない。うちは剣は完全オーダーメイドで作っていてね。最近は戦い方の多様化が進んでるから、武器もその人にあったものをっていうのが俺の考えでね。」

 

 店主は自信満々にそう答えた。もっとも店主の自信は当然であり、アルゼイド流の総本山であるレグラムも剣の工房はいくつかあったが、今レインが背負っている剣を含め、ほとんどが同一の形の市販品だった。

 

「というか、お前さん新しくできた学院の生徒さんか?その背中に背負っているのは剣と見た、良ければ見せてもらってもいいか?」

 

 店主が何かに気づいたようにレインの背負っている剣を指さして言った。

 

「ええ、今日が入学式なんです。少し時間があったのでせっかくならと街を見て回っていたら武器屋を見つけてお邪魔させてもらいました。おっしゃる通りこれは剣ですよ。良ければぜひ見てください。」

 

 店主の突然の問いに少々驚いたが、店主の目に自分と同じ武器好きの雰囲気を感じ取っていたので、レインは好意的にそう答えた。

 そしてレインは横にあるテーブルに背負っていた剣を置き、その包みを開けた。包みの中からはほんのり赤身のある綺麗な大剣が姿を現した。

 

「こいつは...、やっぱりアルゼイドの剣か。ここらじゃ珍しいな。」

 

 武器屋の店主は興味深そうにレインの剣を観察していた。やはりレグラムから相当距離がある以上、使い手はほとんどいないのだろう。もちろん店にもアルゼイドの剣は置いていなかった。

 

「はい。レイン・S・アルゼイド、それが俺の名です。まだまだ修行中の身なのでその剣に見合う実力があるとはとても言えませんが。」

 

「おお本当か!まさかアルゼイドのご子息とはおもってなかったわ。たしかによく見ると力強そうな体つきをしたるな。」

 

 店主は少し面食らったような反応をしたが、さっきまで話していてレインの人柄を感じていたのか、そこまで大きく口調を変えたりすることはなかった。正直レインとしても貴族であることで傲慢な態度をとる性格ではなかったのでこの対応はありがたかった。というより、アルゼイドの名を持つ父や姉も含めて、領民などと身分関係なく接していたのでそれが当然のようにも感じていた。

 そして、レインの剣をじっくり見たいと店主が言ったので、レインは他の陳列された剣をもう一度見直すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

「うむ、ありがとう。いいものを見せてもらったよ。ぜひ研ぎなおしとかの時はうちに来てくれ。誠心誠意研がせてもらおう。」

「ええ。2年間は学院で生活するので、その時はぜひお願いします。」

 

 しばらくして店主が剣を返してくれると時間はいつの間にか12時を回りそうになっていた。さすがにお昼を食べずに入学式に出たくはないので、そろそろ武器屋を出ないと間に合わない。

 そこで、レインは店主にお礼をいって店を後にしようとしたが、そういえば店主の名前を聞いていなかった。

 

「おお、そういえば名乗ってなかったな。俺はシンラ・アカスチだ。今後もよろしくな。レインくん」

 

「ええ、よろしくお願いしますシンラさん。」

 

そうしてレインは武器屋【アカスチ】を後にした。

 




読んでいただきありがとうございます。

書くにあたって原作の街の店の数とかだけだと足りなくなりそうなので、もう少し大きい街のイメージで書いていきます。オリキャラとかも出ていくのでご了承ください。


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入学式~不安と期待~

12:40 トールズ士官学院第II分校 正門前

 

「ここが、第II分校か。さすがに新校舎だけあって現代風のきれいな造りだなあ。」

 

 武器屋をでたレインはリーヴスの宿酒場【バーニーズ】でランチを食べ、正門前に着いていた。

 

「君も入学生だな...ってもしかしてレインか?」

 

「ん?」

 

 校舎の雰囲気を感じながら正門を抜けると、突然声をかけられた。それもどうやらレインのことを知っているらしい。

 

「クルトじゃないか!!久しぶりだな、3年前の共同稽古以来じゃないか!」

 

 そこにいたのは水色の髪をもつ、整った顔立ちを持つ男性だった。彼はクルト・ヴァンダール。アルゼイドと双璧を成す帝国の剣の流派【ヴァンダール流】の剣士だ。アルゼイド流とヴァンダール流は少し前までお互いの成長のために定期的に共同稽古を行っていた。ただ、2年前の内戦など帝国の情勢が安定していない今日において、だんだんその余裕もなくなってしまい、最近ではそれもなくなってしまっていた。

 その後、クルトとの久々の再会に話が弾んだ。話をしていると、どうやらリーヴスに早く着いてしまったクルトは街でたまたま教官を名乗る赤毛の男性に、入学式に来る学生の案内を頼まれたらしい。入学案内に正門でお出迎えと書いていたのに関わらず、どうやら教官陣の人手がたりなくなったらしい。

 

「入学早々災難だったな、クルト。」

 

「本当にこんな役回りばかりな気がするよ。まあ、これから同学になる人と先に挨拶しておけるからよかったと思うようにしたよ。」

 

 レインがいたわりの言葉をかけると、意外にもクルトから前向きな返答が返ってくる。そんな風に考えられることにクルトの真面目さと人のよさを感じ、実は自分も早くリーヴスにに着いて街の探索を堪能していたなんてとてもレインには言えなかった。

 

「そうか、これから2年は一緒だな。良い稽古相手が出来たと思うとうれしい限りだ。よろしくなクルト。」

 

「ああ。こちらこそよろしく頼む。」

 

 そうしてクルトと別れたレインは案内役のクルトに言われた通り、教室に荷物を置いた後入学式会場であるグラウンドに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

13:05 第II分校 グラウンド

 

 入学式は始まって早々驚くことの連続だった。まず、入学式会場にいる生徒が自分を含めて21名しかいないという、あれだけ大きな校舎とは不釣り合いな人数であったことだ。

 そしてそれとは比べられないほどの驚きは意外過ぎる教官陣にある。レインの姉ラウラ・S・アルゼイドのかつての級友で、今では帝国の英雄【灰色の騎士】となったリィン・シュバルツァー。導力器を発明したエプスタイン博士の三高弟の一人、G・シュミット博士。そして何より驚いたのは、分校長を務めるのがアルゼイド流とヴァンダール流2つの皆伝に至り、【黄金の羅殺】の異名を持つオーレリア・ルグィンであることだ。

 そして入学式早々不安も一つできてしまった。先程、教官というより軍人色の強い、黄色髪の教官が略式としての入学式やクラス分けなどを一通り話したのだが、レインの名前が呼ばれなかったのだ。まさか、手続きのミスで入学できないなんてことになっていたらどうしようと不安になるが、隣に並んでいるクルトもなんだか落ち着かない様子だし、多分さっきも名前を呼ばれていないと思う。呼ばれていないのはなにか理由があるのだと信じたい。

 

「薄々気づいている通り、この第II分校は"捨て石"だ。」

 

 黄色髪の教官が一通りの話を終えた後、分校長の話になったのだが、オーレリアの第一声は衝撃的なものだった。————捨て石ってなんだ!?————と、捨て石だなどと考えもしていなかったレインは周りの様子を伺うが、大体みんな気づいていたかのような落ち着きぶりである。クルトも先程より落ち着いて分校長の話を聞いているので、本当に気づいていなかったのはレインだけなのかもしれない。

 

「本年度から皇太子を迎え、徹底改革される【トールズ本校】。そこで受け入れられない厄介者や曰くつきをまとめて使いつぶすためのな...。そなたらも、そして私を含めた教官陣も同じであろう。」

 

「・・・・・・・・。」

 

 続けられる分校長の話に生徒たちは真剣に耳を傾けている。正直、レインにはトールズにとって厄介者扱いされる覚えが全くなかったので、全然話が入ってこなかったのだが...。

 

「分校長!それはあまりに。。。」

 

 さっきまで話していた黄色髪の教官があまりに辛辣な分校長の言葉にたまらず反論しようとする。厄介者の自覚がないレインにとっては正直気分のいい話ではなかったので、————がんばれ、黄色髪の人!————と思ってしまった。

 しかし、その考えはそのあとに続けられるオーレリアの話によって考えを改めることになる。

 

「だが、常在戦場という言葉がある。平時で得難きその気風を学ぶには絶好の場所であるともいえるだろう...。自らを高める覚悟なき者は今、この場で去れ!!...教練中に気を緩ませ、女神のもとへ行きたくなければな。」

 

 最後の最後の分校長の厳しくも、生徒を鼓舞するその言葉にレインも今度は共感するところがあるらしく、これからの学院生活への決意を改めて固めていた。

 オーレリア・ルグィンは2年前の内戦では貴族連合の総司令として常勝無敗の戦果をあげ、その後の北方戦役でもノーザンブリアへ進攻し新たな帝国領とするなど、剣士としてだけでなく将軍としての器も人の域を超えていた。その名将たる由縁が彼女のこの人を鼓舞する力であり、彼女の部隊の兵士は普段以上の力を出すことが出来ていた。

 

「フフ。ならば、ようこそ。トールズ士官学院第II分校へ...。若者よ、世の礎たれ...。かのドライケルス帝の言葉をもって諸君らを歓迎させてもらおう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 分校長の話しが終わった後、入学式は間もなく閉式した。その後、生徒たちは先程あったクラス分けに従って移動を始めた。

 

————そういえば、クラス分けで名前がなかったんだった。————

 

 完全に分校長の話の勢いにもっていかれてそのことを忘れてしまっていた。どうやらどうすればよいか分からなくなっているのはレインとクルト、後ピンク髪の女子と銀髪の少女の4人だった。

 

「って。なんか気迫に飲み込まれちゃったけど...。」

 

「ああ...。結局のところ僕たちはどうすれば。」

 

 ピンク髪の女子もレインと同じように分校長の話に飲まれていたらしい。やっぱり、レイン以外の3人も何も聞いていないようだ。

 

「ここまで来て入学できないとかなったら相当困るんだが...。」

 

「はい...それは困ります。ですが、手続きは正式なモノが通ったのを確認済みなのでその心配はないかと...。ああして、リィンさんの配属も言われていませんし。」

 

 レインが相当不安を募らせていたが、意外にもどう見てもまだ子供という感じの銀髪の少女が、冷静に、そして的確に返答した。そして、彼女の言う通り、レインの不安は必要のないものだった。

 

「将軍...いえ、分校長。そろそろクラス分けの続きを発表してもらえませんか?」

 

 リィンのすべてわかってるというような言葉を聞いて、銀髪の少女以外の3人は少し安堵の表情を浮かべた。

 

「ふふ、よかろう。本分校の編成は、本校のIからVI組に続くVIIからIX組の3クラスとなる。そなたら4名の所属は【VII組 特務科】。担当教官はその者、リィン・シュバルツァーとなる。」

 

 そうして分校長が語るVII組の名と、姉のかつての級友であるリィンが教官と知り、レインはより一層学院生活への期待を膨らませた。




読んでいただきありがとうございます。

今回は基本的に原作ベースで会話を進めました。
始めの方はこの形が多くなるかもしれませんが、慣れてきたら自分で書きたい内容を増やしていきたいと思います。よろしくお願いします。


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アインヘル小要塞・LV0 ①

 入学式の後、レインたちはなぜか荷物をもって校舎裏手の建物に案内された。建物の名は【アインヘル小要塞】。第II分校の特別顧問になったシュミット博士の手によって作られた訓練用実験施設で、内部は導力機構による可変式で難易度の設定も思いのまま。

 そしてレインにとって何よりも驚きなのは、敵性対象として魔獣が放たれているというのだ。いくら訓練で魔獣との戦闘経験がある彼でも、まだまだ経験が足りていないのは事実である。そんな危険のある魔獣をあろうことか学院内に放ってあるというのだからそれも当然である。

 

 内部の構造は機械仕掛けの訓練施設というままの形だった。どうやら1Fはエントランスになっていて、奥にはエレベーターがあるので小要塞としてのダンジョンは2F、3Fなどにあるのだろうとレインは予想していた。

 

「それじゃあ先に自己紹介を済ませておこうか。わるいがここには着いたばかりで君たち3人のことはまだ知らなくてね。俺は...。」

「名乗る必要なんてないでしょう。灰色の騎士リィン・シュバルツァー、帝国の内戦を終結させクロスベルでの共和国からの防衛線でも活躍した若き英雄。帝国だけでなくクロスベルでも知らない人はいないくらい有名人じゃないですか。」

「はい。それに付け加えるとオーレリア将軍、ウォレス准将と協力しノーザンブリア併合にも貢献したとか...。」

「オーレリアってさっきの...、って併合に協力したって。」

 

 小要塞のセッティングまではしばらく時間がかかるそうでその間にリィンが自己紹介を進めようと提案する。しかし、リィンに敵意むき出しのピンク髪の女子は嫌みったらしくリィンの言葉を遮ると、続いてクルトもその怒りを煽るようなことを言い出す。

 

「ちょっと待ってくれ...、せっかく教官がこう言ってくれてるんだ。これから魔獣とも戦うんだからお互いの最低限の連携は必要だろう。」

「戦うって...こんなバカげたことに本当に参加するつもりなの!?」

「まあ、シュミット博士は冗談でこんなことをする人じゃないしな。やるしかないだろう。そうだな...まずは君から聞いてもいいかい?」

「はい。俺はレイン・S・アルゼイド。まだ初伝の身ですがアルゼイド流に名を連ねる者の一人です。リィン教官については姉上から『頼りになる男』と聞いています。どうぞご教授お願いしたいです。」

「アルゼイドの...。そうか、こちらこそよろしく頼む、レイン。」

 

 さすがに教官に対しての態度としてあまりにも失礼だと感じたレインはたまらず話を遮ると、脱線した話をもとに戻そうとする。リィンもその意図を感じたのか、スムーズに話を自己紹介の流れに戻すことが出来た。そして、初めにレインから名乗る流れになったが、リィンはレインがかつての級友の家族であったことに少しばかり驚いていた。

 その後、クルト、ユウナと名乗ったピンク髪の女子、アルティナという銀髪の少女の順で、自己紹介を終えた。ユウナは先日帝国に併合されたクロスベルの出身であり、帝国人やリィンを嫌う態度はそれ故のものだった。そして周囲を驚かせたのはアルティナが帝国軍情報局の出身であるということだった。帝国軍情報局についてレインは詳しく知らなかったが、帝国の諜報機関の一つで、様々な秘匿事項を抱える謎の多い組織であると姉から聞いたことがあった。どうやらリィン教官はもとから知り合いのようだが、それ関連で入学したのだろうか?

 

「じゃあ攻略にあたり、君たちにはこれを配っておく。」

 

 自己紹介が終わった後、リィンはポケットから小さな球体をいくつか取り出した。リィンが取り出したものはMクオーツというもので新世代戦術オーブメント【ARCUS.II】を使うのに必要な物だった。戦術オーブメントは近代の戦闘において欠かせないものとなった導力魔法を発現するために必要な物で、ARCUS.IIは帝国ラインフォルト社とエプスタイン財団の共同で開発された最新機体だった。ARCUS.IIには先代機である【ARCUS】を超える新機能があったが、リィンは実戦で教えていこうと考えていたので言葉で説明することはなかった。 

 

「お待たせしました。LV0セッティング完了です。」

「この声...さっきの金髪の??」

「ああ、だが彼女も僕たちと同じ新入生のはずでは?」

「なにか特別な理由があるのかもな。」

 

ARCUS.IIの説明とMクオーツのセットを終えると、天井のスピーカーから明るい声でセッティング完了を知らされる。声の主も今年から第II分校に入学する生徒だが、彼女はある理由によりシュミット博士の手伝いをすることになっていた。

 

「ではアインヘル小要塞・LV0の攻略を始めてもらう。せいぜい気をつけて進が良い。」

「えっ!?」

「なっ!?」

 

 シュミット博士のその掛け声とともに、急に足元の地面がなくなった。そうしてレインたちは闇の中へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

―――――パチッ!!?

 

「ふん。これだから帝国の男子ってのは。」

「この場合、帝国云々は関係ない気がするのですが。」

 

 足元の地面がなくなったのはアインヘル小要塞LV0の入り口だったようだ。攻略の内容は簡単、最奥に到達し1Fに戻るというものだった。

 まあそれ以前にクルトの善意が運悪く悪い方向に転び、ユウナの怒りに触れてしまった。

 

「その...災難だったな...。」

「いや、無様な体制で落ちた自分の落度だ。仕方ないさ...。」

 

 レインは一応クルトを慰めるが、どういうわけかクルトはもう開き直ったような態度に、――――真面目すぎるだろ――――と、自分の知るクルトとの変化を感じるレインだった。

 

「まあ、あんまり遅くなりすぎても良くないし、そろそろ攻略を開始しよう。俺は基本的にやばそうなときのバックアップに徹するから4人で連携をとって迅速かつ慎重な攻略を頼む。各自武器相性などでの連携も考えてくれ。」

「なるほど、そういう感じなんですね。」

 

 てっきりリィン中心で攻略していくと思っていたレインには少し意外だったが、強くなるために入学したレインからすれば生徒中心のダンジョン攻略は正直うれしかった。それに武器好きのレインからすればこの武装紹介は趣味の面からも楽しみだった。

 

「じゃあぼちぼち、はじめようか...。俺はこれだ。」

「やっぱりその剣を使うのね...。そんなの本当に振れるの?」

「そりゃあ振れるさ、レインはアルゼイドの剣士なんだからね。」

 

 クルトとユウナの間を取り持つようにレインは自分の背から大剣を抜いて見せる。ずっと背負っていたのでユウナも見ていたのだろう。それほど剣自体には驚かなかったが、触れるのかどうかに疑問を抱いている様子だった。ユウナはクロスベルの出身と言っていたし剣の道に精通していなければアルゼイドの名も知らないだろう。

 そして、クルト、ユウナと武装を見せていく。クルトは言わずも知れたヴァンダールの大剣...ではなく、ヴァンダールの双剣だ。ヴァンダールの剣もやはり何度見てもきれいな業物だったが、レインの関心は初めて見るユウナの武装に持っていかれた。

 

「トンファーか!?たしか東方の由来の武器だよな?」

「えっ?あ、うん。でもこれは導力仕掛けになってるから銃撃もできる...って!?」

「銃撃!?どこから出るんだ?ここか?ここか?」

「おい、レイン。悪い癖が出てるぞ。」

「あ!ごめん、ユウナ。」

 

 レインの凶変ぶりにユウナは若干退きがちになり、とっさにクルトのフォローが入る。さすがは旧知の知り合いということもある。正直、そんな時間がないのも事実なのでとても助かったが、レインとしてはもう少ししっかり導力仕掛けのトンファーというのを見たかった。

 しかし、ユウナの武器も珍しいと思ったが、アルティナの武装はそれ以上に驚くものだった。彼女が【クラウ・ソラス】と呼ぶ人形のようなものは、彼女の合図で何もないところから現れた。ただ、たしかに驚きはしたがレインは少し残念ではあった。————なにかこれじゃない――――という感がとてもぬぐえなかった。こんな小さな少女が戦える最新の武器が情報局ということもあり、少し期待していたのだが、これは武器?か分からず、レインの関心を惹かなかった。

 

「はあ、なにか疲れたわ。とりあえず攻略を始めよう。」

「ああ、そうだな。すまない、彼は昔からああなんだ。」

「うん。クルト君さっきはごめんね。不可抗力っていうのはわかってたのに。」

「いや、こちらこそすまなかった。」

 

 勝手にテンションがあがったり下がったりするレインにあきれるユウナとクルトは、お互い冷静になったのか急速な仲直りを見せていた。他人のふり見て我がふりなおすということだろう。

 そうして、少し疲れながらも攻略を開始するのだった。




読んでいただきありがとうございます。

今作ではレインの大剣は背から抜くということで考えています。あれが腰にささってるのだいぶ違和感だったので。

次回はいよいよ攻略開始と行きたいです。よろしくお願いします。


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