智慧を与えましょう (ねこです89)
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旅立ちの日

我暗き宇宙の大口を開けるを見たり
そこは暗き惑星のあてどなく廻り
恐怖より目をそらす術も無く廻り
知も光輝も名も無くして廻る場なり
――ネメシス。


「神父さま、貴方は何故、悪魔と関わりを持った私に優しくしてくれるのでしょうか?」

 

金髪の少女は黒い男にそう話した。

黒い男は少女の方は振り向き笑い、こう返した。

 

「それは貴方が素晴らしい人間性を持っているからです。アーシア・アルジェント」

 

黒い男は彼女の人間性を褒め称えた。金髪の少女、アーシアは褒められたことに対して少し笑いながらも疑問に思った事を黒い男に話す。

 

「しかし貴方は教会の神父です。私と関わりを持っていることを知られてしまったら…」

「その時はその時です。その時、私は神に見放されたということになるのでしょう」

 

黒い男はアーシアの言葉を遮って自分の意見を答える。

アーシアはその言葉を聞いて、少し眉をひそめた。

その様子を見た黒い男は、微笑を浮かべながらその手袋をはめた手でアーシアの頭を撫でた。

父親が我が子を可愛がるように優しく撫で、黒い男はこう言った。

 

「アーシア、貴方がここから如何なる理由で離れても、この孤児院は貴方の家です。いつでもきていいんですよ」

 

その言葉を聞いたアーシアは、瞳を大きく開いて、その瞳から大粒の涙をボロボロとこぼした。

その涙をぬぐいながら、アーシアは笑ってこう言った。

 

「はい!また会えますよね!」

 

「ナイ神父!」

 

石炭のように漆黒の肌を持ち、真っ黒なキャソックを身にまとい、白い手袋をはめた黒い神父、ナイ神父はアーシアに笑って(嗤って)こう返した。

 

「はい、また会いましょう」

 

ナイ神父は後日、孤児院の子供たちと共に教会から定められた通常のゴスペルを聖歌隊が歌い始め、豪華な食事をアーシアを見送るために用意した。

アーシアは嬉し泣きをしながら、この孤児院に別れを告げた。

 

■◆■◆■◆■◆

 

 

アーシアを見送ってから子供たちは片付けをしていた。そのとき、教会の扉が叩かれる音を聞いた。

ナイ神父がそれに応対するために扉を開けると、キャソックを身にまとった二人の男性がナイ神父に近寄ってその手に持った銃を向けた。

 

「ナイ神父、『魔女』であるアーシア・アルジェントと関わるなと注意勧告を受けたはずだ」

「ええ、それがどうされたのでしょうか」

 

ナイ神父は笑って言葉を交わした。余裕そうな態度でまるで挑発するような顔つきをしながら屁理屈をこねた。

 

「私は『魔女』であるアーシアに関わってはおりません。関わったのはこの孤児院の子供の一人であるアーシアです」

「屁理屈をこねるな!貴様には悪魔崇拝の儀式の容疑がかかっているのだ!一緒に来てもらおう。抵抗する場合は大天使様から射殺許可も貰っている!」

 

そう言って銃を構えた神父はナイ神父へと叫んだ。

しかしそんな叫びを軽く受け流しナイ神父は銃を構えている神父の一人に近寄っていく。

 

「ほう、悪魔信仰ですか?一体その痕跡はどこにあったのでしょうね…」

「しらばっくれる気か貴様!私は見たぞ。地下に置かれた奇怪な蛸のような怪物へそこの子供たちと共に礼拝を行なっていたことを!貴様が子供達に説教を行なっていたことを!その説教の内容も異様だったのも知っている!我々の神は存在せず異界から飛来した怪物がこの世界の神だと!?ふざけるんじゃあない!あれの!あれのどこが神なのだ!?」

 

そう叫ぶ神父は少々気が狂っていたのかもしれない。尋常じゃないほど冷や汗をかいており、瞳孔は開ききっていた。

まるでその存在を信じてしまったかのように。

その言葉を聞いたナイ神父は嘲るように嗤ってこう答えた。

 

「そうですかそうですか、貴方のような教会の下に着く方は真実を知らされていなかったのですね」

「真実…、だと?」

 

ええ、とナイ神父は肯定した。ナイ神父はできの悪い生徒へ分かりやすく説明する教師のようにその銃を構えた神父たちに説教をした。

 

説教が始まった途端に、その場の雰囲気が変わった。

どこからかこの教会にグスターヴ・ホルストが作曲した「惑星組曲」が流れ始め、鼻をつく病的な匂いが漂う。

 

「『聖書』『クルアーン』『タルムード』は全て時代遅れである。それらに記された伝承や戒律は砂漠の民の生き様には合っており、彼方に潜む宇宙的真実に考えの及ぶことはない、他に縛り付けられた生活を導くものだった。今、われらがそれらのページをめくったとして、現代の課題に当てはまるものはないのだ」

「何を、言っている…」

 

銃を構えた神父は震えながら言った。

 

汝らに安らぎと知恵を(Peace and wisdom to you)

ナイ神父がそう述べる。子供たちもその言葉を唱和する。

星の知恵を(Starry wisdom)

子供たちもその言葉を唱和する。

超自然の事は当然、神父も知っている。

悪魔や堕天使などのことは知っている。

しかしこの男が言おうとしている超自然は悪魔や天使などに当てはまらないのだ。

それを、神父は昨日の地下で起こった異様な儀式を知っているのだ。

冷や汗とともに構えていた銃を向けてナイ神父が話す彼の超自然論を遮るように叫ぶ。

 

「黙れェエエェエエエェェエ!!!!!!!」

 

そう叫び銃を構えていた神父は引き金を引いた。

パンッと薬莢が弾ける音と共にナイ神父が仰け反る。

神父の構えていた銃が火を噴く。乾いた音とカランと薬莢が落ちる音が教会内に響いた。

銃を撃ちきった男は肩を上下させながら銃を下ろした。

そして横にいる神父を見て、仕事が終わったことを伝えようとした。

 

しかしそこにいたのは穴だらけの死体だった。

神父は銃弾の雨を浴びたように血を穴から垂れ流していた。

 

「は…?」

「何がおかしいのでしょうか?」

 

前からあの男の声がする。

気がつくと神父の周りを子供たちが囲んでいた。

その顔は、狂気だった。嗤っていた。

 

男は神父に近寄って、手袋を外し始めた。

その手は、漆黒だった。

掌は、暗黒だった。

 

「この方は、貴方が殺したのですよ」

「違う…」銃を持つ震えた手をもう片方の腕で震えを抑えながら神父は言う。

 

「違いません、貴方が殺した」

「違う!私が放った銃は全て貴様に…ッ!!!!何故…!」

 

神父は叫んで持っている銃を暗黒の男(ナイ神父)へと向けて引き金を引く。

しかし先ほどの銃撃で弾を使い切ったのだろう。腰の弾倉を引き抜こうとした時手首に激痛が走った。

 

子供がナイフで神父の手首に突き刺していたのだ。

どくどくと血が指を伝って地面に落ちる。

神父は手首を抑え、痛みに悶える。

口から苦痛の声が漏れでてくる。

 

「さて、貴方には見てもらいましょうか。皆さん、彼を地下に連れて行きなさい」

「はい、神父様」

 

子供たちは笑いながら地下へと神父を連れて行く。

神父の血だらけな手を引く子供たちはその眼に奇妙に映ったのだろう。

まるで別世界へと続くような階段を降りる。

そして地下へと着き、神父は昨日見た、あの忌々しい蛸のような怪物の像と再会をした。

ナイ神父は像をさすりながら神父に話す。これが我々が崇拝する神『クトゥルフ』なのだと。

その体を神父はハッキリと見た。

なんとなく類人的な外観をしているが、蛸に似た頭部がついており、顔には触角がかたまって密生している。

鱗に覆われたゴムのように見える体、前足と後ろ足には大きなかぎ爪、背中には細長い蝙蝠のような翼を生やしていた。

気持ち悪い、グロテスクな体を持っていることをこの精巧な石像からでも理解できる。

 

「この神こそが、いずれこの地球を統べるのです」

「貴方たちは理解していない。この世界を統べるのは貴方たち人間でも、悪魔でも、天使でも、ましてや堕天使などでもない」

 

「異界の神なのですよ」

 

そうナイ神父は話した。そう話した瞬間、目の前の像がゆっくりと動き始めた。

像は段々と色づき始め、大きくなって行く。

幻覚なのだろうか、それとも現実なのだろうか

 

触手はうねりながら神父を掴み像の近くへと引きずりこむ。

神父は神に祈った。

 

「神よ…」

 

ナイ神父はその言葉を聞くと同時に、全てを嘲笑するような顔で笑いながら死にゆく神父へと言い放った。

 

「神は死んだ!…と、どこかの人間が言いましたね。この言葉、貴方に送りますよ」

 

「死んだのは貴方の信仰する聖書の神だけですがね」

 

神父が最後に見たのは目玉も鼻も口もないただただ漆黒の顔に血のように赤い燃える三つの眼を持つ暗黒の男(ナイ神父)の皮を被った無貌だった。

 

 

 

 

◆■◆■

 

「また会えますよね、ナイ神父、みんな…」

 

アーシアは孤児院で起こったことなど露知らずにナイ神父が予約してくれた飛行機に乗っていた。

窓からは青空と雲が漂っていた。

その様子をアーシアは興奮しながら心のカメラに収めていた。

この飛行機の行く先は日本の駒王町という町である。

彼女は教会へと派遣されることとなったのだ。

 

彼女は首から下げている漆黒のペンダントを開けて、笑った。

そこにはナイ神父からプレゼントされたほぼ漆黒の所々に赤い線が入った輝く多面体が入っていた。

 

その名は「輝くトラペゾヘドロン(Shining Trapezohedron)

 

この邪悪な宝石が齎す災厄を、彼女はまだ知らない。

 

 

 




ナイ神父が最高に暗躍しているアーカム計画を買ってくれ(絶版)

クトゥルフ神話の知識
『ナイ神父』出展:『アーカム計画』
名前から察せられる通りニャルラトホテプの仮面の一つ。
今回は『教会』の大司教の地位についていたがとある優秀な祓魔師に地下の秘密の聖堂での儀式を見られたことにより『天使』から邪教の信徒として処理されるはずだった。

『汝らに安らぎと知恵を。星の知恵を』出展:『クトゥルフ・カルトナウ』
『星の知恵派』の洗脳に近い説教を行う前に言う文句。

『星の知恵派』出展:『アーカム計画』
『ナイ神父』が率いるクトゥルフを中心に崇拝するカルト組織。
非常に秘匿性が高いため、様々な場所で痕跡は確認されてはいるが断定はできない。
今でも『星の知恵派』を名乗るカルト教団は数多く存在する。
秘密を知ったものに対してはどのような行為を行っても消す残忍な一面を持っている。

『クトゥルフ』出展:『クトゥルフの呼び声』
ゾスから地球に飛来した旧支配者。
核を落とされても蘇ったりする。死ぬこともある。作家の違いである。
多くのカルト教団に崇拝され中でも有名なのは『銀の黄昏教団』と『星の知恵派』などである。
それに加えて各地にクトゥルフの秘密を守るために暗殺教団までもが存在するという噂がある。

『輝くトラペゾヘドロン』出展:『闇をさまようもの』
ニャルラトホテプが作成したのかミ=ゴが作成したのかは不明だが遥か太古から伝わるガラクタのような宝石。
ニャルラトホテプの化身『闇をさまようもの』と関わりを持ち、『星の知恵派』はこの宝石を使ってこの化身と接触をしていたようだ。
その効果に加えて、この宝石は忌まわしき血脈の進行を早める力を持っている。


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駒王町に降り立つ

アーシアはイタリアの首都ローマから東京の成田空港までの約12時間のフライトを終え、無事日本の首都東京へ降り立った。

長時間座っていたためか少々ふらつきながらもナイ神父から手渡されたメモ用紙を見る。

「えーっと…たしか…、『シンジュク』…、この文字で合ってますよね…」

メモ用紙に書かれた『新宿』という文字を電光掲示板から探し出し、電車に乗る。

大量の人間にもみくちゃにされながら途中数回下車することができなかったが数時間を経てなんとか新宿駅で下車することができた。

その後、1時間かけて駒王駅へと向かう電車に乗り、揺さぶられながらも到着することができた。

「人が多いです…。言語も通じないですし…ナイ神父に日本語を教えて貰えばよかったです…」

ナイ神父は殆どの言語に長けている。

英語、ラテン語はもちろんのことイタリア語、ロシア語、フランス語にドイツ語、ギリシャ語やアラビア語、日本語…それに加えて聞いたことのないような言語も簡単に話せてしまうのだ。

アーシアは一応彼から殆どの言語の読み書きは教わったが日常会話レベルまでは教えられていない。

それ故に駅員や警察の人間には筆談で会話し場所を教えてもらい、なんとか言語を読み解きながら都会を彷徨いながらも目的地へ着くことができたのだ。

アーシアが向かっているのは駒王町という関東圏の地方都市である。

その駒王町の教会にナイ神父からの伝手でアーシアは赴任してきたのだ。

彼女は紹介された仕事先への未来を感じながらルンルン気分で徒歩で向かっている最中、ちょっとした段差でこけてしまった。

そのまま重力に逆らうことなく彼女は地面へと自分の体と荷物を打ち付けてしまう。

荷物から衣類やその他のものが出てきてその場で散らばってしまった。

「あいたた…、どうしてこんな場所で転んでしまうのでしょうか…」

ぶつけた部位をさすりながら立ち上がろうとした時、一人の高校生くらいの少年が手を差し伸べた。

「だ、大丈夫っすか?」

アーシアは初めてこの国でイタリア語(母国語)を聞いた。

彼女は「ありがとうございます」と言って差し伸べられた手を取り、立ち上がる。

その瞬間、突風とともに自分の頭に被っていたベールが飛ばされてしまった。

少年と目が合った。

少年は自分を見て動かなくなったのを見たアーシアは

「あ、あの…」と、声をかけた。

少年はその言葉で正気に戻ったのか謝罪とともに握っていた手を離した。

アーシアはどう声をかけようかと考えていた時、さらに風が吹いて自分のベールを何処かへと飛ばそうとする。

少年は飛んで行こうとしたベールを掴み取りアーシアへと渡した。

アーシアは感謝の気持ちを伝えてベールを被り直す。

少年はそれに「いえいえ」と返して

「えーっと…、今日の天気はいい塩梅で!」

とアーシアに話した。少年は心の中で「近所のばあさんか俺は!?」と叫んだ。

 

そんなことは知らないアーシアは、そういえばと思って手をもじもじしながら少年に道に迷っている旨を伝える。

「あの、えっと、すいません… 道に迷って困ってるんです…」

そう話すと少年は親指を立てて

「そういうことなら案内するぜ、俺地元だしな!」

と言って彼は道案内を担当してくれるようだった。

 

◆■◆■

 

 

少年はアーシアの荷物を見ながら

「そういえば、旅行?」と聞いた。

アーシアは首を横に振って

「いえ、違うんです。この街の教会に赴任することになりまして…」

「へぇ〜、シスターなんだ。それでそういう格好を」

少年はアーシアの服装を見て納得した。

アーシアはニコリと笑って

「親切そうな人に会えてよかった〜。これも主のお導きですね」

と神と少年に感謝の気持ちを伝えた。

少年は照れたように後頭部をポリポリとかいた。

だが、少年は何か嫌なものを見たような顔をして顔を背けた。

「どうしました?」

とアーシアが少年に声をかけた。

「いや…、なんでも」

少年ははぐらかすように笑ってこう言った。

 

そう歩きながら話していると公園の方から子供の泣き声がした。

その声を聞いたアーシアは少年の制止を聞かずにすぐに泣き声のもとへと駆け寄った。

そこには膝を擦りむいた小学生くらいの男の子がいた。

アーシアは怪我の具合を見て男の子の頭をさすった。

「男の子ならこのくらいの怪我で泣いてはダメですよ」

アーシアは手を男の子の擦りむいた膝の上に翳す。

その瞬間、彼女の手が光りみるみると男の子の傷が治っていく。

男の子も少年もびっくりした様子でその現象を見ていた。

「はい、傷は無くなりましたよ」

アーシアは傷が完治したのを確認すると男の子を安心させるように言った。

そして少年の方を向いて「すいません、つい」と謝罪の言葉を口にした。

 

◆■◆■

 

 

「驚いたでしょう?」

アーシアは町案内をしてくれている少年に聞いた。

「いやぁ…、君、すごい力を持っているんだね」

「神様からいただいた、素晴らしい力です」

アーシアはそう言ってもう一度、言葉を繰り返した。

「そう、素晴らしい…」

 

過去のことを思い出しながらアーシアは微妙な表情を浮かべた。

 

そうして歩いていると目の前に教会が見えた。

「あそこですね!」

アーシアはナイ神父から貰った写真を見比べて同一のものだと理解した。

「あぁ、うん。この街の教会って言ったらあそこだけだから」

少年は肯定するようにそう言った。

「よかった〜、本当に助かりました」

アーシアは少年に感謝の言葉を伝える。

しかし少年は疑問に思っていることをアーシアに話す。

「で、でもあそこに誰かいたところ、見たことないけど…」

だが、アーシアは少年に感謝を伝えるために教会へ導こうとする。

「是非お礼がしたいので、一緒に来ていただきませんか…?」

「い、いや、ちょっと用事があるんで…」

少年はそう答えてアーシアの誘いを拒否する。

「そうですか…、私はアーシア・アルジェント。アーシアと呼んでください」

アーシアは残念そうな顔をしながらも自分の名前を少年に告げた。

少年もそれを返すように自分の名前を伝える。

「俺は兵藤一誠、イッセーでいいよ」

「イッセーさん!」

アーシアは一誠の名前を覚え、反復するように口ずさんだ。

「日本に来て、すぐにイッセーさんのような親切で優しい方と出会えて、私は幸せです!」

アーシアは一誠に自分の本心を伝えた。

一誠は照れながら後頭部をかく。どうやら彼の癖のようだ。

「是非ともお時間があるときに、教会までお越しください。約束ですよ!」

アーシアは一誠に約束を取り付ける。

「あぁ、わかった。んじゃあまた」

「はい、またお会いしましょう」

一誠もその約束を了承して別れの言葉を交わす。

 

アーシアは一誠の姿が見えなくなるまで手を振った。

そして見えなくなったとき、手を下ろしてペンダントを掴んだ。

 

「ナイ神父、初めて外国で友達ができましたよ…」

 

そう言って踵を返し、彼女は教会へと向かった。




アーシアは多分アクロ語とかヴァルーシア語とかは読むことができるんじゃないかな…魔女と呼ばれても仕方ないのでは?


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漆黒の影

教会にやってきたアーシアを迎え入れたのは白髪の神父服の少年だった。

彼の名前は「フリード・セルゼン」

彼は元々教会での祓魔師(エクソシスト)であったがとある一件にて教会から追放を受け、ナイ神父に匿ってもらい日本まで逃げてきた男である。

彼は現在堕天使と共闘を行なっているがそれは金銭による契約のため、少しの力で千切れてしまうような細い糸のような関係だ。

フリードは荒廃した教会の長椅子で寝っ転がって天井にぽっかり空いた人1人なら簡単に通り抜けられるほどの巨大な穴から見える星を見ていた。

そんな中教会の扉が開き、アーシアが中へと入ってくる。

そういえば上司の堕天使の姐さんが至高の堕天使になるためにわざわざ海外から取り寄せたシスターが来ると伝えられていたことをフリードは思い出す。

ピョンと柔らかい体を動かし椅子から飛び上がり、目の前のシスターにふざけた口調で盛大に迎え入れた。

 

「はぁ〜い、どぉも聞いておりましたよォ!悪魔を治す力を持つ聖女もとい魔・女!アーシアアルジェント様一名様のご案内でありまぁ〜す!」

 

そのような奇妙な物言いで迎え入れられたアーシアは当然困惑しながらもフリードに話を聞く。

 

「えっと…、貴方がナイ神父の言っていたこの教会の人ですか…?」

 

フリードは頷き、ペラペラと喋り出した。

 

「はい!わっちはフリードセルゼン!宗派は元キリスト教!なんでしたがひょんなことから追放食らって現在はぐれ祓魔師(エクソシスト)継続中で〜〜す!ナイ神父にはお世話になったんすよ!よろしくでござんす!」

 

一般人には到底理解できない名状しがたい変なポーズで彼はキメ顔をする。

 

「私は今回、ナイ神父からの紹介でこちらに来ました。アーシア・アルジェントと言います。よろしくお願いします」

 

フリードのふざけた自己紹介とは打って変わって極めて普通な自己紹介を行う。

フリードはその自己紹介を面白くなさそうに聞いた。

その後、互いの自己紹介を終えたアーシアはフリードの案内とともに礼拝堂などを見て回る。

天井を見れば所々に小さな穴が空き、ステンドグラスは割られ、十字架は上部が破壊されている。

祭壇は黒ずんでおり、壁や柱にはヒビが入っている。

恐らくは数年間は使われていなかったのだろう。

しかしこの教会でアーシアは一つの事が気になった。

教会には先ほど言ったとおり小さな穴が空いていたりヒビが入っている。

しかしそれは自然現象で起きるような形跡はないのだ。

まるで、突然この場所に巨大な何かが出現して辺りを押し潰しながら天井を破壊して消えたような感じだ。

フリードは巨大な穴を見ているアーシアを見てこう言った。

 

「この穴が気になる?気になるよね〜!これはね、『月に吠えるもの』が立ち去った痕なのよ!」

 

「『月に吠えるもの』…?」

 

フリードは頷き、アーシアと同じように天井を見上げる。

そこから見えるのは月と星々の光である。

星々はまるで自分たちを見下ろして嘲笑うかのように光っている。

 

「確か三年くらい前におれっちがくそ悪魔をぶっ殺しに日本に来た時ね、この教会に寄ったのよ。その時にねェ、この教会に忍び込んできた悪魔がいたのよ」

 

フリードは長椅子に腰を落ち着けて昔話を子供に聞かせるように話した。

瓦礫を手に取りひょいひょいと片手でお手玉をする。

 

「まぁその悪魔くん、結構なイケメンでなんていうんだろうな…、そうだサテュロス!頭に『角を持つ男』が堕天使と相対してさあ、なんか問題起こしたみたいで堕天使とその配下の祓魔師(エクソシスト)に囲まれてたのね。でもさぁ、めっちゃそのイケメンは飄々としてたの」

 

「俺は隠れてたんだけどね」とニヤニヤと思い出し笑いをしながらもフリードは語る。

どんどんとお手玉のスピードが上がっていく。

 

「そのあと堕天使の槍で貫かれてさ、そのサテュロスくんはその場で倒れたんだけどさ…、なんか体がぐにゃぐにゃって動き出したの。なんて言うのかな〜〜、そう、体の中に巨大なスライムが動き出したって言うのがわかりやすいかな〜。んで、体の中からでっかいグロテスクな手が出てきてイケメンを殺した堕天使を掴んだのよね」

 

まるで出来の悪いホラー小説のような展開だ。

フリードは笑い始める。余程おかしいのか笑っていた。

いや、おかしいのではない。所々彼は体を震わせていた。まるで何かに恐怖しているような感覚をアーシアは感じ取る。

アーシアが様子のおかしいフリードに声をかけようとするとフリードは頭をガリガリとかきむしる。

お手玉をしていた瓦礫を握りつぶしその瓦礫の棘が掌に突き刺さったのか真紅の血液がぼたぼたと地面に垂れ始めた。

彼は興奮した様子でアーシアに叫ぶように自分に起こった体験を話し始めた。

 

「その手はよぉ!その殺してきた堕天使を握りつぶしてさァ…、堕天使とか祓魔師(エクソシスト)とかをいきなりぶっ殺し始めた!そりゃもう俺の頭で天国と地獄が流れるくらいの勢いだった!」

 

アーシアはいよいよフリードが狂気に押しつぶされているのをはっきりと理解できた。

アーシアはフリードにかけより、落ち付けようとする。

 

「俺はそいつがあたりのモノというモノを破壊したのを見てさぁ!これが神なんだなって思ったよ!俺が信じていた神なんてそんなもんとは比べ物にならないくらいだ!」

 

ゼーハーと肩で息をするフリードの背中をさすりながらアーシアは彼の言葉を待った。

フリードは次第に落ち着いて、アーシアの方を向いた。

 

「俺がその神の名前を『月に吠えるもの』ってつけたのはさ…、月に向かって吠えるような嗤い声が聞こえたからさ」

 

フリードは月を見上げて最初にアーシアにあった時のように飄々とした態度に戻っていく。

 

「んで、敢え無く神の不在を叫んじまったら教会から異端として追放されちまったワケ!いや他にも理由はあるけどそんな感じよ!オワカリ?」

 

「え、えぇ…、なんとなく分かりました」

 

アーシアは彼の狂気に怖気づきながらも相槌を打つ。

この巨大な穴がもたらした被害を彼女はよくよく理解した。

そして辺りを見渡せば確かにこの場で起こった悲劇が垣間見える。

床には潰された死体があったであろう痕、壁には飛び散った血液の痕など、よく考えれば十二分ほどに理解できる。

 

「…さぁて、では俺の話も終わった事だし俺の上司の話もしようかね」

 

「ねぇレイナーレの姐さぁん」

 

そうフリードが声をかけると空から4人の人外の影が見える。

空から現れた黒い翼を羽ばたかせる堕天使…、そのリーダー格らしきボンテージ姿の女性はアーシアを一瞥した。

 

「貴方が魔女のアーシア・アルジェントね。私はレイナーレ、こっちの3人はドーナシーク、ミッテルト、カラワーナ。短い間だけどよろしくね」

 

傲慢そうで人間を見下した目、アーシアはこの目を何度向けられたことだろううか。

その目に嫌悪感を抱きながらも心優しきシスターはそのように見下すには何か理由があると考える。

 

「よろしくお願いします。私はアーシア・アルジェントです」

 

アーシアは頭を下げる。レイナーレはフリードに彼女を地下の寝台に連れていくよう伝えるとすぐに堕天使の4人を引き連れて別の場所へ飛んで行ってしまった。

フリードはレイナーレの言葉を聞いてふざけたポーズで敬礼を取ったあと、アーシアを地下へと案内する。

 

「んま、短い間だけどヨロシクゥ!明日は仕事に付き合ってもらうからゆっくりしていってね!」

 

フリードはそう言ってアーシアを寝台とトイレなどの場所を教えてその場から立ち去る。

アーシアは教会での出来事を思い出しながら寝台で寝転ぶ。

とても硬い寝台だった。

アーシアはフリードに聞いた出来事を思い出しながら漆黒のペンダントを頭上に掲げる。

 

「これも神からの私の試練なのでしょうか…ナイ神父」

 

そう言ってアーシアは目を閉じた。




フリードに巻き起こったちょっとした神話事象(1d10/1d100)

『月に吠えるもの』
ニャルラトホテプの人間の化身やその他の化身を殺した場合、肉体から飛び出してくる本性と言うべき姿。
デストラップとしてよく運用される。

『角を持つ男』
パンとかサタンとかサテュロスとか呼ばれているニャルラトホテプの化身。
サバトなどで呼び出されることがある。


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暗躍

夜の街、様々な怪異が跋扈し夜な夜な人々に恐怖を与える時間帯。

悪魔や堕天使は当然のこと知られざる神話の勢力をも動き出している。

暗闇の駒王町の廃墟でとある黒人と怪物が交流をしていた。

暗くてよく見えないがその黒人は神父服を着ており白い手袋をつけた男性のようだ。

 

「バイサー、そろそろ奴らが来るぞ」

 

黒人はバイサーと呼んだ女性にそう呟く。

バイサーは柱の陰から姿を現わす。その姿は醜悪だった。

上半身は人間の女性であるのに下半身は獣のように毛深く巨大な人間の手を持っていた。

その人間の手も人を殺すためにより残虐な進化を遂げ、爪が異様に成長していた。

 

「はい、我が神よ…。しかし何故このような事を?」

 

バイサーは黒人に疑問をぶつける。

黒人は笑い、指を一本立てる。

 

「アーシアは私の計画に必要だ。その為にあの宝石を渡した」

 

バイサーはその言葉を聞くと目を見開く。

黒人がアーシアに渡した漆黒の宝石「輝くトラペゾヘドロン」とは邪神の化身の一つ「闇をさまようもの」と強い関係のある宝石だ。

この宝石の起源は信じられないほど古い。

地球にもたらされた輝くトラペゾヘドロンは古のもの(Elder Thing)はしばらくそれを持っていたが日光から保護する為に金属製の箱の中にこの宝石を取り付けた。

その後ショゴスの反乱とともにこの宝石は消え去った。

次に見つかったのはヴァルーシアの蛇人間によってである。

古のもの(Elder Thing)の廃墟都市から宝石は引き上げられヴァルーシアにもたらされた。

その後何年に渡ってレムリア、ヴァルーシア、アトランティスといった古代の様々な大陸を巡った。

その後アトランティスが沈んだあとミノアの漁師が網で宝石を引っ掛けるまでは姿を見せることはなかった。

ミノアの漁師は宝石を売り、ケムの商人に売られ、忘れられた暗黒のファラオ「ネフレン=カ」の手に渡った。

その後、ネフレン=カとともにこの宝石は眠り女王ニトクリスに発掘された。

しかしニトクリスはこの宝石により堕落させられ、その後この宝石の行方は知られなかった。

1844年にアメリカのプロヴィデンスにて「星の知恵教団」がこの宝石を使用していた痕跡が残っており、その後1935年にとある作家の死体とともに発見された。

その後地元の医者がナラガンセット湾の冷たい海中へと投げ捨てた。

 

この宝石が齎すものは知恵と破滅ということをこれまでの歴史を知れば黙然だった。

 

「アーシアは彼らとともに成長してもらわなければならない。これは私個人だけではない。他の私もこの計画に賛同しているのだ」

 

理解しているね?と黒人は問いかける。

バイサーは頷き彼の命令を聞く。

 

「さて、君はリアス・グレモリー率いる勢力と戦闘し戦闘力や知力などを図れ」

 

「了解」

 

バイサーが頷いた。

ナイ神父は彼女の様子を見て笑った。

 

「その体も使い勝手が良いのかね?元血塗られた舌教団のバイサーよ」

 

バイサーは嗤う。

その笑みは嗜虐的であり、数々の人間を屠り自分が信ずる神へと献上した冷酷な暗殺者の顔だった。

 

「えぇ、少々不便なことは多いですがね」

 

そう話していた時、近くから魔力の反応に黒人は気づく。

バイサーに目配せをして、彼は闇は溶けるように消え去った。

バイサーも同じように闇にその巨大な図体を隠し、グレモリーの勢力と相見えるためにその巨大な爪を研いだ。

 

まずバイサーの目に入ったのは白髪の背丈の小さい女の子である。

そして黒髪のポニーテールの女性、赤髪の女性に剣を持った金髪の少年と茶髪の少年。

バイサーは身を潜ませながら悪魔の団体を待ち構えていた。

 

しかしバイサーの巨体が動く際にザリッと身体を擦る音が室内にこだまする。

 

「そこ…!」

 

白髪の少女…、塔城仔猫が瓦礫を持ち上げ柱の奥へと投げつける。

膨大な力で投げつけられた大きめな瓦礫は柱を粉砕した。

 

「(あっ…ぶないわね…)」

 

バイサーは間一髪瓦礫の直撃は免れたが石の破片で少々体に傷がついた。

姿を現したバイザーを見た悪魔たちは構えを取る。

 

「はぐれ悪魔バイサー、主人の元を逃げ、その欲求を満たすために暴れまわる不逞の輩…。その罪、万死に値するわ。グレモリー公爵の名において、貴方を吹き飛ばしてあげる!」

 

赤髪の女性…、リアスグレモリーは傲慢そうにそう言い切った。

バイサーはそのリアスの傲慢さに笑い声をあげる。

 

「小賢しい小娘だこと…。来なさいな、潰してあげましょう」

 

バイサーは挑発するように手招きする。

 

巨大な手を大きく振り上げ、リアスのいた場所へと振り下ろす。

リアスはその一撃を軽く避ける。

リアスがいた場所には大きな手形とともに破壊の後が残される。

一撃一撃が重いことをリアスは理解する。

 

「これがはぐれ悪魔…」

 

その巨大すぎる手を見た茶髪の少年、兵藤一誠は巨大な胸と巨大な手を交互に見合わせた。

 

「さっき言ったろ?心も肉体も醜悪になるって」

 

剣を構えた金髪の少年、木場祐斗はそう一誠に言った。

 

「あんないいおっぱいなのに…、勿体無…い!?」

 

一誠が馬鹿を言っている瞬間、木場に頭を抑えられ、地面にぶつける。

巨大な手が高速で自分たちの頭があった場所を薙いだ。

その巨大な手が掬った風が暴風となって髪を揺さぶる。

一誠は暴風が吹き荒れ、その元凶の巨大な手をチラリと見て「おっかねぇ…」と呟いた。

瞬間、もう一つの巨大な手が下にある瓦礫を軽く掬い上げ小さく砕く。

そして音速に近い速度で砕いた瓦礫を飛ばす。その瓦礫は散弾銃のようにこの戦場に飛び交う。

木場は剣で岩を切り裂き受け流し、子猫はその小さい体躯を生かして瓦礫に隠れる。

 

その石の散弾銃が飛び交う戦場に黒髪のポニーテールの女性…、姫島朱乃が雷のレーザーによりバイサーの巨大な腕を根本から焼き切った。

バイサーは痛みに悶えながらも残った腕で地面を叩き土煙をあげる。

しかし土煙が蔓延する前に瞬間移動のごとき速度で木場の振るった剣により土煙は切り裂かれ、バイサーの残った腕が千切れ飛ぶ。

一誠は木場が消えたと思っていたがリアスが木場の特性の説明を行う。

両腕を無くし、バランスを崩したところを子猫が追撃のように瓦礫を投げつけ、その小さな体躯から繰り出される拳の乱打によりバイサーが吹き飛ばされる。

吹き飛ばされたバイサーは壁に打ち付けられる。

バイサーは体制を整えようと体を動かしながら思考する。

 

「(戦闘能力は普通の悪魔よりは上、しかし詰めが甘いのね…。バランス型で、チームワークを完璧…)」

 

冷静に分析しながら二つの腕を遠隔で動かし一つは木場、もう一つはリアスに対して握り潰そうと動かす。

しかし木場のその音速を超える速さで振るわれた剣により両断され、油断していたリアスへ向けられた腕も一誠に殴り飛ばされる。

どうやら一誠は危機察知能力が高いようだ。

バイサーはそれを理解し腹に潜ませた第2の口をパクリと開き、近くにいる子猫を噛み潰す。

しかし子猫の人離れした筋力により歯がおられ客に内部に振りかぶった拳の一撃を入れられる。

ドンッと重いボディストレートが入り、バイサーが仰け反る。

 

「朱乃、やってしまいなさい」

 

リアスが姫島に声をかける。姫島は両手を魔力の雷を放電させる。

 

「部長に手をかけるおいたなんてするなんて…、お仕置きが必要ですわね?」

 

その放電をバイサーへとぶつける。魔力のこもった一撃は傷ついた体にさらにダメージを与える。

バイサーが痛みにより悲鳴をあげ、その悲鳴により姫島はその声を聞くためにさらに雷を落とす。

リアスは姫島の行っている雷による攻撃を制止し、バイサーの前へとやってくる。

 

「(クソ…!思っていたより強い…!)」

 

雷のダメージは思ったよりも深刻でバイサーは自分が消されることを理解した。

バイサーはガリガリとボロボロの爪で地面に書いた。

ここでバイサーは自分の役割を終えたのだ。

 

「最後に残すことはあるかしら?」

 

リアスが倒れたバイサーの目の前でそう聞く。

バイサーは笑いながらリアスに言った。

 

「そうね…、星辰正しき刻はすぐそこだということを伝えておくわ」

 

バイサーはその時を見ることができないのは残念だが自分の信ずる神に与えられた使命をこなせたことのみが誇りとなった。

リアスは彼女の言ったことを理解できなかった。

 

「星辰正しき刻…?」

 

バイサーはその返答答えず、リアスは自分の消滅の魔力を集め、バイサーに向けて放つ。

 

「何も話さないならいいわ。チェックメイトよ」

 

バイサーはその魔力によりそのまま消滅した。

一欠片もなくこの世界から消滅した。

取り敢えず、自分たちの仕事を終えたリアスたちは一息つき、この場から離れようとした時、リアスが何かに気づいた。

それは血の匂いと生きている人間の気配だ。

バイサーが食べていた人間の生き残りだろうか?

 

「朱野、何か別の場所から気配がしない…?」

 

「はい、どこからか…、あちらの扉でしょうか?」

 

朱野は頷き、音が聞こえてくる場所に指を指す。

リアスは一誠たちを率いてその扉へ向かう。

扉は壊れ、ドアノブを捻らずとも開くようでリアスがぎぃと軋んだ扉を開ける。

そこには人間の死体の数々が散らばっており謎の魔法陣が描かれていた。

辺りはカビのようなものが飛び散っており血が所々飛び散っていた。

そしてなにより異常だったのは人間の死体は全て脳が抜き取られていた事だ。

 

「バイサーは随分と偏食家だったのね?」

 

しかし木場はその死体に近づき、そのぱっくり割れた頭蓋を見る。

そして驚きの表情でリアスたちを見る。

 

「部長…、これ、バイサーの仕業じゃありません…。精密に…手術を行ったみたいに開けられてます」

 

木場は冷や汗を垂らしながら言った。

冥界でもこんなにも綺麗に人間の頭を切り開くことはできない。

リアスたちはここでバイサー以外の勢力がいたことを理解する。

そしてこの魔法陣は一体なんだろうと考えた。

 

そう考えていた時、後ろから人間の足音が聞こえた。

そこには石炭のように黒い肌をした神父が居た。その神父は黒いキャソックをまとい真っ白な手袋をしていた。

リアスたちはいきなりの神父の登場に驚きながらも戦闘態勢に入るが神父は両手を挙げて降参の旨を伝える。

 

「別に君たちと闘いに来たわけではない」

 

黒い神父はヒラヒラと手を揺らしながらそう言った。

リアスたちは不審げに神父を見る。

 

「ならば何故結界も張っているのにここまで来れているの?教えてちょうだい」

 

「昔からそういう体質でね。結界が効かないんだ。ここにいる理由は悪魔がいると聞いて神父として処理するためにここに来たというわけだよ」

 

リアスの疑問に彼はそう答えた。

 

「私ははぐれ悪魔を狩るために派遣されたに過ぎない。ここがグレモリーの領地だということはわかっていたが、これ以上人間に被害が蔓延しないように動いていたというわけだ。

しかし貴方方がこのようにはぐれ悪魔を処理をしてくれたおかげで私の仕事がなくなったというわけです」

 

そこで子猫はスンスンと鼻を動かし、やはりと言った顔をしながら黒い神父に疑問を投げかける。

 

「貴方、なんでバイサーさんの匂いがするんですか?」

 

瞬間、全員が戦闘態勢に入る。

 

「…、なんのことですか?」

 

黒い神父がニコニコしながら子猫に問いかける。

子猫はその黒い神父の圧倒的なプレッシャーを受けながらも言った。

 

「嘘をつかないでください。貴方が…、バイサーさんと共謀してこのことを行なったのですか?」

 

この場所からも貴方の匂いがする。とスンスンと鼻を子猫は動かす。

その言葉を聞くと黒い神父は嘲笑するように嗤い始めた。

そしてリアスたちの方を向いてにやけた顔で話し始める。

 

「素晴らしい。ここまで鼻が聞くとはね…。そうとも、ここでこの死体の脳を持って行かせたのは私の主導だ」

 

リアスたちはこの場所で脳を持って帰ったという話を聞き目を見開いた。

リアスが黒い神父に一体なぜと疑問を言うと彼はこう言った。

 

「ああ、その頭脳を取引材料にしているだけだよ。彼らは私と協力しているだけだ」

 

「彼らって…何?この魔法陣も何なの!貴方はここで何をしようとしているの!?」

 

リアスが疑問という疑問を黒い神父に投げつけた。

黒い神父は手を後ろでに組み、嗤いながらその疑問に答えた。

 

「彼らとは『ミ=ゴ』だ。外宇宙からの侵略者だよ。この魔法陣は『門』という。詳しくは面倒だから話さないがな。そして私がここで何をしようとしているのかは…、秘密だ」

 

彼は指を口に立てる。

リアスは苛立ち交じりに叫んだ。

 

「ここは私の領土よ!何をしようとしているのかは知らないけどここで貴方を消してもいいの。何をしようとしているのか話しなさい!」

 

「実に傲慢だ。悪魔のお嬢さん、貴方は自分がどの立ち位置にいるか理解したほうがいい」

 

黒い神父の口から文字という文字の発音ではない言葉が出てくる。

そして瞬間、目の前にあった『門』が書かれた壁が大きなヒビとともに崩れていく。

いきなり壁が劣化し天井を支えきれなくなったような、そんな感覚を覚え、リアスはこの状況から一誠たちに逃げるように伝える。

リアスたちが目を離した隙に黒い神父は消えており、逃げられたとリアスは屈辱を覚えた。

その後、廃墟が崩れ落ちそこにあった人間の死体や魔法陣のかけらは見つけることができなかった。

 

「屈辱だわ…」

 

リアスは崩れ落ちた廃墟を見ながらうでをふるわせながら唇を噛み締める。




『血塗られた舌教団』
ニャルラトホテプの化身『血塗られた舌』を崇拝する組織。
アフリカなどで見かけられるようでその教団の人間たちの殆どは暗殺者である。

『ネフレン=カ』
忘れられた暗黒のファラオ。
ニャルラトホテプと接触して未来視の能力を得たが本当のファラオに地下に幽閉された。
その後死ぬまで未来の出来事などを書いたようだ。

『ミ=ゴ』
異世界からの侵略者。
有能な人間脳缶にするマン。
科学力がヤベー奴でシュブニグラスを中心に外なる神を崇拝している。
簡単にマーシャルアーツで屠れると思っているような人がいるが皆電気銃とかの攻撃を受けたもののみその話をしてほしい。
アメリカではグレイとして契約を結んだり結構狡猾。
『門』の魔術をよく使う。

『門』
簡単に言えば、どこでもドア。


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悪魔との接触

(上天の悪魔じゃ)ないです


真夜中の丑三つ時に近い時間。兵藤一誠は自転車を漕いでいた。

ジャコジャコと歯車を足で回し自転車を動かす。

依頼者の自宅まであと少しだ。

しかし彼は今、依頼者の事を考えておらず、自分の夢について考えていた。

そう、ハーレム王の事である。その煩悩に塗れたピンク色の脳内から弾き出された答えはやはり地道にやって行くしかない事だった。

 

「(下僕を持つには、上級悪魔にならなきゃならない…。最初から上級悪魔の部長とは違って俺たち転生者は力を認められて昇格しなければならない…。だが俺は『兵士』。最弱の駒、捨て駒じゃねーか)」

 

ため息をついて「ハーレム王への道は遠いな〜」とぼやく。

坂道を下ってどんどんとスピードが上がって行く自転車とは反比例して一誠のテンションは下がって行く一方だ。

町の街灯が一誠を見送るように照らす。

そして依頼者の自宅に一誠は辿り着いた。

自転車を塀に立てかけ、玄関のインターフォンを押す。

数秒たっても返答がない。何度か押してみるがいまだに返答がなかった。

いないのかと思って一誠は扉のレバーハンドルを握って外側に引く。

すると鍵がかかっていなかったのか簡単に扉は開いた。

開けっ放しなんて不用心だなと一誠が思いながらも中にいるはずの依頼者に声をかける。

やはり返答がない。

一誠は訝しげに土足で上がり込んだその瞬間に、悪魔の勘が止まれと叫んだ。

嫌な予感がする。戻ったほうがいいかもしれない。

しかしこのまま帰ってしまったらいよいよ部長に合わせる顔がない。

一誠は覚悟を決め、開けた扉を閉めて依頼者の家に上り込む。

お邪魔しますよと挨拶をして廊下を歩く。

真っ暗な廊下ではあるが奥にリビングがあるようでそこから光が漏れていた。

もしかしたら玄関のカメラに自分が映っていたから居留守を決め込んでいたのかもしれないと一誠は考えた。

廊下を通り、リビングへとやってくる。

リビングは薄暗く、雰囲気がある。

一誠は雰囲気作っちゃってと悪魔がやってくるという事を楽しみにしていたのだろうなと笑いながらリビングを歩こうとする。

しかし何か液体を踏んでしまったようでようやく自分が土足で入っていた事を一誠は理解した。

靴に付着した液体を拭き取ろうと触った時妙に粘着力があると一誠は思い、触った手を見た。

それは赤黒い液体だった。鉄臭い独特の匂いが鼻をつく。

それが血だと確信するのに一誠は数秒かかってしまった。

そしてその血が溢れ出ている元へと目線を向けて行く。

そこにあったのは、バラバラにサイコロステーキのように切断された人間だったものだ。

辛うじて残った頭部や顎に短く切られた髪や青い髭が生えてるのを確認してそれが男だという事を理解する。

とても人間が行うとは思えない行為。

そこにある人間サイコロステーキに血のソースがふんだんにかけられている様子を一誠の精神は耐えられなかった。

胃が逆流して吐き気がこみ上げる。

しかし彼を正気に戻したのは、少年の声だった。

 

「悪い人は、お仕置きよ…って、聖なるお方の言葉を借りて…みましたァ」

 

どこかのアニメで聞いたような言葉とともに先ほどまで目の前の死体に目を取られて気づかなかったが横にあるソファに白髪の神父服を着た少年が座っていた。

彼は一誠を馬鹿にしたように顔だけ一誠の方へ向けて舌を出して醜悪に笑う。

一誠は瞬時にこの少年が犯人だと確信して後退る。

神父はソファから間延びをした声とともに立ち上がり、一誠の方へ身体を向けた。

 

「これはこれは、悪魔くんではあ〜りませんかァ〜」

 

間延びした口調が胡散臭さを感じさせる。

丁寧にその白髪の少年神父は一誠に頭を下げる。

 

「俺の名前はフリードセルゼン。とある悪魔祓い組織に所属している少年神父でござんす!」

 

変なダンスを披露しながら彼は自己紹介を行なった。

一誠は目の前の少年神父が変人でありながら精神破綻者だという事を知った。

フリードは一誠を殺意の眼差しで睨みつけた。

 

「まぁ、悪魔みたいなクソじゃないのは確かですが…」

 

「お前がやったのか!?」

 

一誠はサイコロステーキになった死体を指差し、フリードに問う。

フリードはチラリと死体を見る。

 

「悪魔に頼るなんて人として終わった証拠…、エンドですよエンド!」

 

フリードは物言わぬ肉塊になった住人から漏れ出た血液を思い切り踏み、小さな水たまりが弾けたような音を立てた。

一誠の恐怖する顔を見ながらフリードは顔を歪める。

 

「だから殺してあげたんですぅ!クソ悪魔とクソに魅入られたクソ以下を退治するのが、俺様のお仕事なんでェ」

 

そうフリードは一誠に吐き捨て神父服に隠し持っていた拳銃と光の剣を取り出す。

その真っ白で眩い光は悪魔にとっては有害である事を一誠は悪魔の本能から理解した。

フリードは光の剣を一誠に向ける。

 

「今からお前のハートにこの刃をおったてて、このイカす銃でお前のドタマに必殺必中フォーリンラブ、しちゃいます!」

 

そうフリードが一誠に叫ぶと同時に彼は地面から飛び上がりその光の剣を振り下ろす。

空気を引き裂き一誠の制服を切り裂く。

一誠はなんとか肉体が切られることは回避しながらゴロゴロと転がる。

しかし即座に拳銃を一誠に向けたフリードはバキュンと擬音を声に出しながら拳銃に引き金を引く。

薬莢が弾ける音と共に放たれた銃弾は一誠の脹脛を貫く。

その貫通した脹脛から血液が止めどなく溢れ、激痛に一誠は悶える。

 

祓魔師(エクソシスト)謹製、祓魔弾…、お味はいかがっすか〜?」

 

心底馬鹿にしたような口ぶりで一誠を煽る。

その態度が癪に触った一誠は左手を構えて神器(セイクリッド・ギア)を発現させる。

光と共に赤い龍を模した籠手が一誠の腕に出現した。

フリードは抵抗を示した一誠を嗤う。

 

「おぉ、まさに悪!その方が私も悪魔祓いの気分がでますなぁ〜」

 

そう言って油断をしているフリードに一誠は大振りに左手を振り上げ叫びながら殴りかかる。

だが、フリードは掛け声と共にその拳を避けて光の剣を振り下ろす。

背中を抉られた一誠が床に倒れる。

その様子をフリードは見ながら見掛け倒しなのが1番ムカつくざんすとふざけた言葉遣いと共に立ち上がろうとした一誠の首を刈り取ろうと、構えていた光の剣を振り下ろそうとする。

しかしその光の剣は少女の悲鳴で遮られた。

一誠が振り向くとそこには今日であったシスターの少女…、アーシアがバラバラに細切れにされた死体を見ながら腰を抜かしていた。

何故こんなところにと一誠は目を見開いた。

 

「おんや〜?助手のアーシアちゃん?結界は張り終わったのかなぁ〜?」

 

フリードはアーシアに出していた命令を行なったのか声をかける。

しかしアーシアは目の前の死体に気を取られており、この状況に混乱していた。

フリードは少し考える仕草と共に頭の上の豆電球が光った。

 

「そっかそっか〜!君はビギナーでしたなぁ〜?これが俺らの仕事。悪魔に魅入られたダメ人間をこうして始末するんす」

 

アーシアはその言葉に驚き、そんなと声を上げる。

彼女はフリードの方を向くと共に傷だらけの一誠を発見する。

 

「なになに?君たちお知り合い?」

 

フリードが揶揄うように2人に問い、アーシアがどうしてここにいるのかと一誠に聞いた。

一誠はアーシアから目を背け、謝罪と共に自分が悪魔だと告げる。

その言葉にアーシアはさらに驚く。

一誠はアーシアの方を振り向く。

 

「騙したんじゃない!だから君とは会わない方がいいって…決めてたのに…!」

 

そんなとアーシアは口に手を当てて涙を溜める。

自分の恩人が悪魔だと知ったその事実はアーシアの心を大きく揺さぶった。

フリードはアーシアに嫌味ったらしく残念だけど悪魔と人間は相容れないと耳元で囁く。

追い討ちをかけるように自分たちは堕天使の加護がなければ生きていけない半端者だと囁いた。

一誠はその言葉を聞き流すことなく彼らのバックについているのが堕天使だということを知る。

フリードはアーシアを説得したと思い、一誠を殺すためにその光の剣を首に当てる。

 

「覚悟はok?なくてもいきます!」

 

そうフリードが一誠に向けて一方的に話し返事を待たずに光の剣を振り下ろそうとする。

しかしアーシアが一誠の目の前に立ち庇い立てる。

そのような行為に及んだアーシアをゴミを見る目で見て、自分の肩をトントンと光の剣で叩く。

 

「オイオイ、まじですか?」

 

「フリード神父!お願いです!この方をお許しください!どうかお見逃しを!」

 

そう言ってアーシアはフリードに懇願する。

フリードは苛立つように今何をやっているのか分かっているのかとアーシアに威圧的に話す。

 

「たとえ悪魔だとしても…、一誠さんはいい人です!それにこんなこと…、ナイ神父が貴方を庇ったというのにあんまりです!」

 

「ハァイ?いやいや、君さぁ、あの人の事知らないの?」

 

フリードははぁ?と疑問をアーシアに向ける。

アーシアはその返事に対してさらに疑問の目をフリードに向けた。

 

「あぁ、知らないんだ!そうかそうか、君ってそういえばあの人のお気に入りだもんね。そりゃ知らねえわ〜」

 

フリードが肩をすくめながらそう話す。

そう話した瞬間にガッとアーシアを掴み壁に押し付ける。

フリードは嗜虐的な笑みを浮かべる。

そして彼は真実を教えてやるよとアーシアに言った。

アーシアはえ?と困惑したがその反応を無視して彼は喋り出す。

 

「あの人はさ、テメェを外なら神々の神官にしようとしてんだよ。光栄な事だろう?お前みたいなどこにも居場所がない魔女が真実の神に奉仕することができるのはよぉ」

 

彼は何を言っているのだとアーシアは理解を拒んだ。

そんなことを自分を拾ってくれたあの優しい人がそのような悪魔に私を売るような真似をするわけがない。とアーシアはそう思った。

しかしフリードはさらに追撃をする。

 

「あの方はテメェを計画に組み込んでらっしゃるんだよ。お前にも利益がある。お前が信じていた神じゃあねえけど神の如き方々がお前に褒美を与えてくれるさ。どんなものでもくれると思うぜ?例えばテメェが欲しかった…「愛」とかよォ…」

 

フリードはそうアーシアに告げた。

アーシアはそのような言葉を聞いて渾身の力でフリードの鳩尾に蹴りを入れた。

フリードはいきなりの反撃と激痛により掴んでいたアーシアの服を離してしまう。

そしてアーシアは叫んだ。

 

「あの人は、ナイ神父はそんなことをする人じゃありません!」

 

先ほどの反撃に加えて否定をされたフリードは苛立ち交じりにガリガリと頭を掻き毟り舌打ちと共にアーシアの頬を大きく振りかぶった拳で殴った。

アーシアの軽い身体がフリードに殴られた方向へと飛ぶ。

 

「テメェ如きの矮小なる存在があの方のことを勝手に決めつけてんじゃねえボケ!頭に蛆が湧いてんじゃあねえのか?アァ!?」

 

そう言ってアーシアの方へと向かい、フリードはうつ伏せになったアーシアの身体を足で強引に仰向けにさせる。

そして思い切り腹を蹴り上げる。

その暴行は一度では終わらず何度も何度も繰り返される。

フリードは狂ったようにアーシアに暴言を吐き、脇腹に蹴りを入れる。

アーシアに振るわれる暴力はどんどんと強くなっていき、アーシアは血を流しながら頭に涙する。

それを見ていた一誠はやめろ!と叫んで激痛に耐えながら立ち上がる。

フリードは一誠の方を向き、睨みつける。

 

「アーシアを…、離せ!」

 

「今さぁ、こいつにお仕置きしてんの。分かる?空気読めクソ悪魔!テメェ如き悪魔の紛い物がウダウダ言ってんじゃねえぞ!」

 

そう言って光の剣を構えて一誠に向ける。

濃縮された殺意を向けられた一誠は全身に針が刺されているような感覚に陥る。

しかし一誠には後に引けない思いがあった。

勝ち目もないし死ぬ可能性の方が圧倒的に高い。

しかし自分を庇ってくれた女の子を見捨てて逃げるほど彼は腐っていなかった。

射抜かれた脹脛からは絶え間なく血が溢れる。

しかし、一誠は叫びながらその痛みに耐えて左腕を振り上げフリードの顔面に叩き込む。

重いストレートがフリードの左頬を殴りぬき、吹き飛んだ。

殴られたフリードは口内を切ったようで血混じりの唾を床に吐き捨て、立ち上がり光の剣を構える。

 

「あァ、ホンッットテメェクソクソクソ鬱陶しいんだよクソが!クソ悪魔が!テメェは関係ねえだろうがよォォ…!!!!」

 

そう一誠に呪詛を吐き、もう片方の足を拳銃で3発撃ちぬく、かなりの射撃能力を持っているようで太ももが大きく抉られる。

その激痛により一誠は倒れ、フリードは苛立った表情で大きく振りかぶった光の剣を振り下ろした。

一誠はここで死を悟った。

次の瞬間赤い魔法陣が目の前に出現し、そこから高速で飛び出した金髪の少年が振り下ろした光の剣を受け流した。

一誠は目を見開き、やってきた少年に声をかけた。

 

「木場…!」

 

「兵藤くん、助けに来たよ」

 

木場が魔法陣からは現れ、一誠の命を刈り取る一撃を受け流した。

突如現れた木場に驚きながらもフリードは冷静に新たな敵の致命的な部位を斬り裂こうと剣を振るうが全て受け流される。

高速で振られた剣の摩擦と魔力によって火花が散る。

フリードは後ろに飛び、この民家に悪魔の団体がやってきたのを理解した。

 

魔法陣からは続々とリアスの下僕たちが姿を現わす。

木場祐斗に姫島朱乃、塔城子猫がこの民家に姿を現した。

彼らはフリードを見て、あらあらと呟いたり祓魔師(エクソシスト)…と敵意を向けたりする。

 

「みんな…!」

 

一誠はそう呟いで自分が助かったことを理解した。

 

「悪いね、彼は僕らの仲間なんだ」

 

そう木場がフリードに言い放つとフリードは下品な言葉を並べ立て木場を煽るが木場は神父とは思えない下品な物言いだとフリードに言い放つと。

上品ぶるなよとフリードは苛立ち交じりにそう返した。

フリードと木場たちが軽口を叩きあいながらもフリードは気絶したアーシアを米を担ぐように持つ。

 

「逃げる気か!そうはさせない!」

「逃げちゃ…、ダメです!」

 

木場がフリードにそう言うと共に剣を振り下ろす。

子猫は机やテレビを投げ、フリードは片手しか使えない状態で受け流しながら廊下へ向かう。

その瞬間、赤い魔法陣から滅びの魔力が放射される。

その魔力を間一髪でフリードは避け、そこから現れた存在を見る。

 

「当てるつもりだったのだけど、小回りが利くわね」

 

そこに現れたのはリアス・グレモリーだった。リアスが放った滅びの魔力により地面は抉れ、フリードも体勢を崩す。

これを好機だと見た木場と子猫はフリードに追撃を仕掛けるために廊下で倒れているフリードに剣と拳の一撃を入れようとした瞬間、フリードが神父服に隠していた閃光手榴弾を取り出す。

その閃光手榴弾は悪魔に対して、ノックバックさせる祓魔師(エクソシスト)謹製の品物だ。

 

「そっちとこっちじゃ戦力差が半端ねぇんだよクソが!」

 

そうセリフを吐き、フリードは閃光手榴弾のピンを抜く。

閃光手榴弾から発せられた光が木場たちの目を焼く。

フリードは舌を出しながら木場たちに言う。

 

「逃げるんじゃなくて時間稼ぎだよバーカ、形勢逆転っすなァ!」

 

フリードの上に堕天使のゲートが見える。

それを見たリアスはここは撤退が先決と考える。

 

「朱乃、ジャンプの用意を。子猫は一誠を頼むわ」

 

姫島と子猫がはいと返事をして姫島は魔法陣、子猫はフリードに机を投げつける。

フリードは机を光の剣で受け流そうとするがアーシアを抱えているせいかバランスを崩して頭にぶつけてしまう。

アーシアはフリードの肩から落とされる。

一誠はボロ雑巾のようになったアーシアを見てリアスに叫ぶ。

 

「部長!あの子も一緒に!

 

「それは無理よ、この魔法陣は私と眷属しかジャンプできないの」

 

一誠の懇願を切り捨て、リアスの魔法陣が活性化する。

目を閉じたアーシアに一誠は手を伸ばし、アーシアの名前を呼ぶ。

その声にアーシアは気がついたが時はすでに遅く、アーシアはボロボロの体に鞭を打ち一誠に言う。

 

「一誠さん…、またいつか、どこかで」

 

そうアーシアは微笑んだ。

一誠はアーシアの名前を叫び、子猫から離れようとする。

しかし『戦車』の駒の特性を持つ子猫に叶うことはなく、そのまま魔法陣の力が作動し、一誠たちはこの部室へと戻ることとなった。

 




サイコロステーキ好きか?好きです。
たまに気が向いた時に後書きとかに小説内で出た組織とかを大まかに書いたりします。
お気に入り50超えありがとうございます!


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最後の晩餐

お気に入り50ありがとうございます!
二個も高評価でとても嬉しいです!
感想もありがとうございます!


一誠は昨日の経験から自分が弱いことを認めた。

そのため、彼はリアスから治療を受けてすぐ、朝に身体を鍛えるために公園で遊具を用いて運動をしていた。

鉄棒を用いて懸垂をするがフリードから受けた傷はまだ癒えておらず、無理な運動が響いて激痛とともに掴んでいた棒を離してしまい、尻から地面に落ちてしまう。

痛みの走る部位を抑えながらも立ち上がり、昨夜であった神父とアーシアをこれ以上一緒にいさせれば、アーシアが不幸になることが考えなくてもわかる。

早くアーシアを助けださなければと一誠は考えていると不意に声をかけられる。

 

「一誠さん?」

 

その声の方へと向くとそこには今自分の中で話題の少女、アーシアが立っていた。

 

「アーシア?」

 

彼らはまたも出会った。運命とは奇妙なものである。

一誠はとりあえず公園ではなんだしと近くの有名チェーン店のマクドナルドへと足を運んだ。

店内でハンバーガーのセットを二個注文して金銭を払い商品を受け取る。

今はまだ混んでいる時間ではないようで空いている席にアーシアを案内して一緒に座る。

ハンバーガーを初めて見たようで、近くにもスプーンやフォークが置いてないのに困惑しながら凝視している。

一誠はアーシアにこうするんですよ姫君と軽口を叩き、包み紙を剥がして大口を開けて豪快に食す。

そのような食べ方を見たアーシアは驚嘆しながらも真似をするように一誠の食べ方を見ながら小口で食べる。

ハンバーガーを食べたアーシアは目を見開いておいしいと一誠に伝える。

アーシアの反応を面白そうに一誠は見る。

 

「それより、どうして公園にいたの?」

 

一誠はアーシアにそう聞いた。

聞かれた本人のアーシアは一誠から目線を逸らし、少し考えるそぶりをした。

 

「その、休み時間だったので…街のお散歩でもと…」

 

アーシアは苦しい言い訳を一誠に話した。

一誠はアーシアの言い訳を遮るように言った。

 

「アーシア!」

 

「はい!」

 

「今日は思いっきり遊ぼうか!」

 

そう言って一誠はにっこりと笑ってアーシアを遊びに誘った。

アーシアは目を点にして一誠の言葉を脳内で反芻する。

恩人の彼からの誘いを無闇に断る理由もないしなによりも今日が最後の日だ。

今日くらいは我儘を言ってもいいだろうと、一誠の誘いを了承した。

一誠はそうと決まればと立ち上がりハンバーガーを頬張り、ゲームセンターに案内する。

アーシアは初めて見たように目を輝かせてあれは?と一誠に尋ねる。

一誠はアーシアにゲームセンターの大型筐体ゲームのレースゲームで遊んだり、メダルゲームで遊んだらする。

アーシアはメダルゲーム系が上手いようであっという間にバケツにこんもりとメダルがたまってしまった。

そのほかにダンスゲームなどが上手いようで激しい動きもリズムに合わせて高得点を叩き出す。

周りを見てみればそのゲームの上級者らしき人物がびっくりしながらも中々のセンスの持ち主と言っていたのも聞こえる。

プリクラなどで写真を撮り、デコレーションをしたりする。

楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

そしてそろそろ昼食でも取ろうかなと思っていた時、アーシアが何かを見つけたようでそちらの方へと走っていく。

一誠は一体なんだとアーシアを追いかけると、クレーンゲームの前でアーシアが何かを見ていた。

どうかしたの?と一誠がアーシアに聞いてみるとなんでもないと言うがそこまで鈍感ではない一誠はクレーンゲームのぬいぐるみ『ゆるらとほてぷ』を指差してこれが欲しいのか?と聞く。

アーシアは目線を泳がせながらも一誠の質問にイエスと答える。

一誠はその言葉を聞くと同時に百円玉を入れてクレーンを器用に動かす。

彼はこう見えて帰宅部の時に友人とともに近所のゲームセンターを駆け抜けた男である。

このようなぬいぐるみ系の取り方は熟知しておりワンコインで『ゆるらとほてぷ』を取ってしまった。

そのぬいぐるみをアーシアに渡すとアーシアはとても嬉しそうに受け取った。

 

「ありがとうございます!このほてぷくんは一誠さんとの出会いが生んだ宝物です!」

 

そう言ってぬいぐるみを抱きしめる。

一誠は照れたように違うところ行こうとアーシアに言う。

 

「そう、この出会いは今日だけの大切な…」

そうアーシアは一誠に聞こえないようにボソリと呟いた。

 

その後数時間ほど昼ごはんも忘れてゲームセンターで遊んでから外に出る。

近くの自販機で飲み物を買い、カラカラな喉を潤す。

アーシアはこんなに楽しいのは生まれて初めてだと一誠に言うが一誠はいちいち大袈裟だと言う。

その時昨夜の傷が疼き、小さな声を一誠は上げる。

アーシアは一誠に近づいて悲しそうな顔であの時の怪我ですねと言う。

一誠はそうだと言うと、アーシアは手当てをするために近くの人気のない場所へ一誠の手を引く。

そしてアーシアは自分の持つ能力の聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)の力で一誠の体を蝕む傷を癒していく。

みるみるとその傷は治っていき、傷跡すら残さずに完治した。

一誠は腕を回したりその場で走ってみたりしたが痛みなどは全くなく、すげえよアーシアと言ってアーシアを褒める。

アーシアは照れ臭そうに笑ってベンチに座った。

そして目の前の泉を見ながら、ポツポツと一斉に話し始めた。

 

「私、生まれてすぐ親に捨てられたんです」

 

一誠はえ、と声を上げる。

アーシアは悲しげに泉に映る自分を見ながらも話を続ける。

 

「ヨーロッパの田舎町の教会…。その前で泣いていたそうです。私はそこで育ちました。…八つの時です。怪我をして死にかけた子犬が教会に迷い込んできました。その子犬を助けて欲しいと私は必死に祈りました。その時、奇跡が起きたのです」

 

一誠は奇跡と聞いてアーシアの力を頭に浮かべた。

恐らくそこでアーシアは自分の力に気づいたのだろう。

アーシアは絵本をめくるように自分の歩んできた20年も行かない人生を一誠に読み聞かせるように話す。

 

「その出来事からすぐ、私は大きな教会に連れてこられて、世界中から訪ねてくる信者の病や怪我を治すよう言いつかりました。私は自分の力が人々の役に立てることが本当に嬉しかったんです!」

 

そう言って、アーシアは微笑を浮かべた。

その顔を見た一誠は可愛さに胸を打たれながらも彼女の話を聞く。

 

「そんなある日、怪我をして倒れている男の人に出会いました。偶然出会ったその人は…」

 

悪魔だったんです。とアーシアが言った。

そこから教会の人間が手のひらを返して自分を魔女と呼んで教会から悪魔を治療する異教徒という烙印を押され、追放を受けたとアーシアは言った。

一誠はそんな彼女を見ていることしかできなかった。

 

「しかし神は私に手を差し伸べてくれたのです。ひとりの神父様が行き倒れそうだった私を救ってくださったのです」

 

「その人が、ナイ神父って人なのか?」

 

アーシアは頷いて、ナイ神父について話した。

彼のこと、そして彼の開く孤児院の子供たちのこともだ。

 

「リリーは心優しい子でした。本が好きでしたが火事で家族が死んでしまって孤児になってしまった子です。ウィルは格好つけたがりの男の子です。紙飛行機を作るのが得意な子でした」

 

そう孤児院の子供たちのことを楽しそうに話す。

一誠は楽しそうに話す彼女を見て、本当に孤児院の子供たちが好きなんだなと言う。

アーシアはコクコクと頷き、当然ですと笑って返した。

 

「だから、そんな優しい子たちを救って実費で子供たちの世話をするナイ神父がそんなことをするはずありません…、あの人が言うことは…嘘です…ッ!」

 

自分の父も同然な人を馬鹿にされたと言わんばかりに目尻に涙をためて歯噛みする。

 

「色々なことがありましたが私は、神への祈りを…感謝を忘れたことはありません。ましてやあの方たちが皆、あんなひどいことをしていたなんて…」

 

アーシアは俯いて、きっとこれは主の試練なんだと言った。

この試練を乗り越えたらいつか主は、私の夢を叶えてくれると彼女はそう信じていると話した。

一誠はアーシアの夢が何なのかを尋ねた。

アーシアはぬいぐるみを抱きしめる。

 

「沢山お友達ができて、友達と一緒にお花を買ったり、本を読んだり、お喋りしたり…そんな夢です」

 

私、友達がいないのでとアーシアは悲しそうに笑って泉を見ていた。

一誠はその言葉を聞き、アーシアの悲しげな表情を見てから、何かを決意した顔をしてベンチから立ち上がる。

アーシアはいきなり立ち上がった一誠に声をかけると一誠はアーシアにこう言った。

 

「俺がアーシアの友達になってやる」

 

その言葉を聞いたアーシアは目を見開いた。

 

「つーかさ、俺たちもう友達だろ?一緒に遊んだし喋ったりしたしさ!まぁ花とか本はなかったけども…」

 

彼は照れ臭そうにこんなんじゃダメかなと聞いた。

アーシアはそんな言葉を聞いてそんなことはないと首を何度も何度も横に降る。

彼女はそう言いながら涙を零す。

それは悲しみの涙でも怒りの涙でもない…、嬉し泣きだった。

しかしアーシアは迷惑をかけてしまうのではと一誠を心配するが一誠はそんなの友達には関係ないと言った。

アーシアはぎゅっとぬいぐるみを抱きしめて一誠に告げた。

 

「私…、嬉しいです!」

 

「それは無理ね」

 

そうアーシアが言った瞬間、泉から一誠たちの関係を引き裂くように見知った声が聞こえる。

そこに現れたのは黒い翼を羽ばたかせた魅惑の体をボンテージ姿で隠した妖艶な堕天使の姿である。

 

「夕麻ちゃん…!?」

 

「レイナーレ様…!?」

 

一誠とアーシアの驚きの声が重なる。

そして一誠は彼女が堕天使だと言うことを理解した。

天野夕麻…、レイナーレは一誠たちを見下した様子で話し始める。

 

「悪魔に成り下がって、無様に生きていると言うのは本当だったのね」

 

ギロリと睨みつけながらアーシアに逃げても無駄だと言い放つ。

アーシアはレイナーレの言葉を拒絶し、突っ撥ねる。

そしてアーシアは一誠に謝罪と経緯を伝える。

一誠はそんなことだろうと言い、レイナーレに何の用だと問いただす。

レイナーレは気軽に話しかけるなと傲慢に吐き捨てる。

 

「邪魔をするなら…」

 

そう言って眩い光が濃縮された槍を一誠に向ける。

一誠は光の槍と呟いてアーシアを庇うように動く。

 

「今度は完全に消滅させるわよ」

 

一誠は脅しに対して自分の力である神器(セイクリッド・ギア)を発現させる。

赤い籠手が左手に装着される。

レイナーレは目を見開いて次の瞬間声高らかに笑い始める。

そして残念そうに一誠を見る。

 

「何かと思えば、ただの龍の手(トゥワイス・クリティカル)…、飛んだ見当違いね」

 

レイナーレは一誠に一定時間力を倍加させるありふれた能力と説明する。

 

「貴方の持つ神器(セイクリッド・ギア)は危険。って上から命令を受けたからあんなつまらない真似までしたのに…」

 

次の瞬間、声を変えて、天野夕麻の声で一誠の鼓膜を揺らす。

告白の場面のみを演技して、馬鹿にするように高笑いをする。

一誠はレイナーレが馬鹿にするのを聞いていられなくなり、籠手を構えて黙れと叫ぶ。

レイナーレは素直にアーシアを渡して立ち去りなさいと一誠を諭すが、一誠は拒否する。

 

「友達くらい守れなくてどうすんだ!」

 

そう断言して神器(セイクリッド・ギア)に呼びかける。

 

『Boost!』

 

その瞬間、籠手から自分の体内に力が流れ込んでくる感覚を一誠は感じる。

この力があれば、あの堕天使を…!と思った瞬間。

 

腹に穴が空いた。

 

え?と声を上げると同時に腹から耐えきれないほどの激痛が走る。

とめどなく腹から血液が吹きこぼれ、目が霞む。

その様子を見たアーシアは悲鳴をあげながら手に持っていた『ゆるらとほてぷ』を落とし、一誠に駆け寄る。

 

「わかった?1の力が2になったところで、大した違いはないわ」

 

レイナーレは一誠にそう吐き捨てる。

一誠はただ睨むことしかできなかった。その時、腹の痛みが急に和らいだ。

腹を見るとアーシアが神器(セイクリッド・ギア)を使用して穴が空いた腹を癒してくれていた。

大丈夫かとアーシアが一誠の身を案じる。一誠は痛みが引いていくのを感じながら大丈夫だと言った。

レイナーレはその様子を見てくすくすと笑いだしてアーシアを諭し出す。

 

「アーシア、大人しく私とともに戻りなさい。貴方の聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)にはそいつの神器(セイクリッド・ギア)とは比較にならないくらい希少なの」

 

「やはりあなた方は、私の力が必要なだけだったのですね…!」

 

そう言って目の前の堕天使をアーシアは睨んだ。

レイナーレは光の槍を作り出し、構えながら戻ってくるならばその悪魔は生かしてあげると取引を持ちかけた。

その取引にならないような交渉に一誠は意を唱える。

しかし低級悪魔如きに口出しされたのが苛立ったのかレイナーレは飛び上がり、手に持った光の槍にエネルギーを注入して思い切り一誠がいる地面は突き立てた。

一誠はアーシアを後ろに庇い、地面を穿った光の槍が爆発するのを全身で受けてしまう。

まるで全身が焼け焦げたような痛みとともに爆風によって泉まで吹き飛ばされる。

泉にそのまま一誠は落下し、水に身体を打ち付ける。

しかしふらふらになりながらも彼は立ち上がるが以前の光の槍よりも体のダメージが大きく、そのまま倒れてしまう。

レイナーレはアーシアの横に降り立ち、先ほどの一撃はわざと外した事と当たれば貴方の治癒でも間に合うかどうかわからないと伝える。

その言葉を伝えられたアーシアはわかりましたとレイナーレの取引に応じた。

一誠はギロリと睨みつけるしかなかった。

 

レイナーレはその黒い翼でアーシアを包み込み頭を優しく撫でる。

 

「いい子ね、今夜の儀式が済めば、悩みや苦しみから全て解放されるわ…。じゃあね、一誠くん」

 

「ダメだ!アーシアァァァァ!!!!」

 

一誠は自分の手を伸ばす。

アーシアは笑いながらも涙を零して

 

「さようなら、一誠さん」

 

アーシアが一誠に別れを告げるとともに、レイナーレとアーシアの影が消えた。

一誠は足から崩れ落ちて、自らの弱さに打ち拉がれる。

そこに残ったのは泉の中で泣き崩れる弱き少年ただ1人だった。



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忌まわしき狩人

狂信者フリード戦&忌まわしき狩人戦です。
60お気に入り謝謝茄子!
NieRの「双極ノ悪夢」を聴きながら書きました。


一誠たちは走る。

闇の中、教会へと悪魔の力を使い地を駆ける。

その速度はタイガーの走る速度に近い。

そして教会を取り巻く森に身を潜める。

何故、真夜中の森の中で一誠、木場、子猫が教会へと突入準備をしているのかと問われるならば少し時間は遡る。

 

 

■◆■◆

 

 

 

オカルト研究部の部屋の中でパシンと乾いた音が響く。

頰を叩かれた一誠は、頰を抑えながらリアスを見た。

 

「何度言えば分かるの?ダメなものはダメよ。彼女のことは忘れなさい。貴方はグレモリー家の眷属なのよ」

 

リアスは子供に説教をする親のように一誠を説得する。

しかし一誠はそれならば自分をその眷属から外せば問題ないだろうと文句を言う。

リアスはできるわけがないでしょうと言うが、一誠は自分は捨て駒なんだし一つくらい消えたってと言い返す。

 

「お黙りなさい!」

 

その言葉を聞いたリアスは顔を顰めて一誠に怒声を浴びせる。

一誠はリアスの聞いたことのないような怒りの声に吃驚して、俯きがちだった顔を上げる。

 

「一誠は、兵士(ポーン)が1番弱い駒だと思っているわけ?」

 

一誠は目線を逸らしながらも首を縦にふった。

それもそうだろう。一誠はチェスで言えば前に進むことしかできない存在なのだ。

戦車(ルーク)のように上下左右自由に動くこともできなければ、騎士(ナイト)のように駒を飛び越えて動くこともできない。

ただただ前に進むだけしか能のない駒…。それが兵士(ポーン)だ。

そう一誠は思っていた。

リアスは身体を壁に預けて、一誠に説明をする。

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)は、実際のチェスの駒と同様の特徴を持つと言ったはずよ」

 

「実際の…、兵士(ポーン)の特徴って…?」

 

そうだ。一誠は飽くまで思っていただけで理解していなかった。

チェスなどのボードゲームにはあまり興味がなかったし駒はこんな感じで動く程度しかよく理解していなかった。

しかし兵士(ポーン)には兵士(ポーン)の特徴を持っている。

敵陣地に攻め込んで敵の大将の首を取るために死力を尽くす兵士は強いものだ。

 

「『昇格(プロモーション)』」

 

兵士(ポーン)は、敵陣地の最奥まで駒を進めれば(キング)以外の駒に昇格できるとリアスは腕を組みながら説明した。

一誠はそれ聞いてリアスに他のみんなの力を持てるって事ですかと聞くと頷いて、主人である私がそこを敵陣地だと認めればだけれどと話す。

リアスは例え話としてと頭につけて一誠にこう言った。

 

「例えば、『教会』のように」

 

そう言って一誠の持っている力を倍加する神器(セイクリッド・ギア)について説明しようとするが一誠はもう天野夕麻(堕天使)に聞いているとリアスに話す。

神妙な顔つきで自分を裏切った堕天使のことを考えていた一誠の頰をリアスは優しく撫でる。

そしてリアスは一誠の顔を視線が行き交うように持ち上げる。

 

「思いなさい。神器(セイクリッド・ギア)は持ち主の思う力で動くの。その思いが強ければ強いほど、必ずそれに答えてくれるはずよ」

 

「思いの、力…」

 

一誠は自分の左手をグーパーして、見る。

この腕に宿った力がアーシアを助けたいと言う意思に呼応するのかと、そう考える。

そう一誠とリアスが会話を行なっていると部屋に入ってきた姫島がリアスの耳元で、何か有事があったのか囁く。

その言葉を聞くとともに彼女は頷いて、急用ができたと言ってリアスと姫島は部室を立ち去る。

一誠はリアスを引き止めようと話は終わっていないと声をかけるが、リアスは姫島とともに魔法陣の上に立つ。

 

「いいこと?昇格(プロモーション)を使ったとしても、駒一つで勝てるほど堕天使は甘くないわよ」

 

そう一誠に注意をするように言いつけた。

一誠はそのくらいわかってますよと呟いて、部室から出ようとする。

木場は一誠に行くのかいと聞いた。

一誠は頷き、止めたって無駄だからなと宣言する。

 

「殺されるよ?」

 

「たとえ死んでも、アーシアだけは逃す…!」

 

木場は一誠の覚悟をいい覚悟だと認めるがやはり無謀だと呟く。

一誠はネチネチと言ってくる木場に腹が立ち、うるせぇイケメン!と叫ぶがその声は金属が擦れる音にかき消された。

そこにいたのは長剣を腰に携えた木場の姿だった。

 

「僕も行く」

 

そう一誠にはっきりと言った。

一誠は止められるかと思っていたが予想外の回答に戸惑いの声をあげた。

 

「部長は君に、たとえプロモーションを使ってもって仰ってたろ?」

 

一誠はリアスの言葉を思い出しながらあぁと頷いた。

木場は一誠に部長は教会を敵陣地だと決めたんだよと話した。

その言葉を聞いて一誠はハッとして立ち上がった木場と子猫を見る。

 

「じゃあ…」

 

「勿論、僕らで兵藤くんをフォローしろって指示でもあるからね」

 

木場は横目に子猫を見る。

一誠は子猫を見て子猫ちゃんも一緒に来てくれるのかと聞いた。

子猫は頷いて無表情に2人では不安だと吐露した。

 

そうやって彼らは教会の前までやってきたのだ。

ビリビリと教会から感じる殺気が一誠の身体を震わす。

一誠たちは木の陰に隠れたり草むらに忍んだりしている。

 

「神父も相当集まっているようだね」

 

マジか…と一誠は呟くがその後に来てくれて助かったぜと木場と子猫2人に伝える。

木場は笑顔で仲間だから当然だろうと言う。

しかし木場はその後に、キッと目を鋭くして個人的に堕天使と神父は好きじゃないと憎悪を交えた声色で呟いた。

いきなり雰囲気が変わった木場を一誠は声をかけるがその返答は子猫が教会へと足を進めたことにより返ってくることはなかった。

一誠は子猫が向かった教会の正門へと続く。

子猫は向こうも私たちに気づいているでしょうからと言い、脚をあげてその巨大な扉を小さな体が込めた力で蹴破る。

扉はその勢いで開かれる。

真っ暗闇の奇妙な雰囲気が蔓延する教会。

パラパラと天井に大きく開いた穴から風化した木材の粉が落ちていく。

十字架は砕かれ、辺りは荒らされている。

一誠は辺りを見渡しその荒廃具合を見てひでぇもんだと呟く。

次の瞬間、その大きな穴から拍手の音が聞こえる。

一誠たちが天井を見ると同時にその少年は降りてくる。

一誠たちはその白い髪と赤い目には見覚えがあった。

しかしその姿は明らかに前の神父服とは違っていた。

動きやすそうな服装に防弾ベストのようなものを着込んでおり、その両手にはサブマシンガンが握られていた。

黒に塗られ、長い弾倉が月明かりに照らされて不気味に光る。

一誠はその銃にゲームではあるが見覚えのあった。

イングラムMAC11と呼ばれる短機関銃だ。

そして背中にはライフルのようなものも背負っており顔は笑ってはいるが明らかに殺意の眼差しで一誠たちを見ていた。

 

「再会だねぇ、感動的ですねぇ」

 

「フリード!アーシアをどこにやった!!!!」

 

一誠はその武装した白髪の少年…、フリードセルゼンの名前を叫ぶ。

 

「うるせえよボケ、悪魔の紛い物どもを地下に通すわけにはいかないでござる。にんにん」

 

そうふざけながらもフリードはジャコッと両手のイングラムのコッキングレバーを引いて一誠たちに向ける。

銃口を一切たちに向けて引き金を躊躇いなく手にかけた。

 

「そういえばそこのクソ悪魔は殴ってくれた諸々の借りを返していなかったよなァ…???じゃあこれプレゼントとしてあの世で悪魔のみなさんにばらまいといてくれや!!!!聖なる力でコーティングされたこの弾丸64発をよォォオオオ!!!!!!!!」

 

「一誠くん!」

 

フリードの叫びと共に短機関銃二丁から放たれる62発の弾丸がこの教会内で飛び回る。

ステンドガラスを割り、壁に穴を開ける。

子猫は素早く近くの長椅子を持ち上げて自分たちの目の前へ置く。

ガガガガガガと軽機関銃の銃声がフリードの狂った笑い声とともに演奏を奏で始める。

しかしイングラムの発射速度は非常に高いことを一誠は知っている。

その隙を着けばと木場たちに伝える。

わかったと木場と子猫は言ってすぐに横から飛び出すことができる配置に着く。

コンクリートの床に金属がジャラジャラと落ちる音が聞こえ、そのあとはすぐに聞こえなくなった。

一誠の考えは的中し、2秒経たずに32連装弾倉を撃ち尽くしたイングラムから撃ち出されるのは熱を持った煙だけだった。

好機と見た3人は穴だらけになった長椅子から飛び出して攻撃を仕掛けようとする。

一誠は神器(セイクリッド・ギア)と叫びながら左手に籠手を出現させ、フリードに近づく。

木場も手に持った長剣でフリードの腹から肩にかけて斬り裂こうと騎士(ナイト)の力を使って高速でフリードに近づいた。

子猫は2人を援護するように長椅子を二個、その戦車(ルーク)の力で持ち上げて投げ飛ばす。

一気に窮地に陥ったはずのフリードは口を大きく歪めて肩に背負ったライフルをくるりと回して両手で掴み、狙いをつける。

狙いは飛んできた長椅子二つ、その二つが重なっている時に引き金を引く。

大きな銃声とともにその7.62mmのライフル弾が二つの長椅子を穿ち、破壊する。

吹き飛んだ長椅子は木材の破片となって一誠たちに降りかかる。

その隙をフリードは見逃すことはなかった。

素早くイングラムを一丁リロードして、一誠たちに連射する。

薬莢が地面に転がり、一誠たちの体を穿たんばかりに放たれた。

しかし木場が機転を利かし、魔剣創造(ソード・バース)を即座に行い、地面から巨大な魔剣を飛び出させる。

その巨大な魔剣がフリードの放った大量の弾丸を防ぎきる。

木場はその魔剣の創造で結構な力を持っていかれたようで肩で息をしながらも、フリードに二本の爆発する魔剣を投げ込む。

フリードはくるりと体を回転させ、物陰に隠れて爆発をやり過ごす。

 

「チビもイケメン悪魔もクソ悪魔も邪魔くせえんだよォォ!!!!早く死ねやボケ!!!!」

 

「あっちもなかなかやるもんだ…」

 

フリードは悪態をつきながらも冷静に銃のリロードを行う。

フリードの残りの武器は両手の弾切れのイングラムMAC11が二丁にその弾倉が一個、ライフルの弾倉6個、腰のホルスターに入れてあるグロック19が一つに隠し持ってる閃光手榴弾が二つ。

そして聖なる光を付与したマチェットナイフが一つである。

対する木場は呼吸を落ち着けて、巨大な魔剣の影に隠れる。彼もまだ幾らかの魔力を残しており、数十本の魔剣は恐らく作れるだろう。

それにこのような男に負けていては『聖剣』には勝てないのだから。

憎しみの表情でフリードを睨む。

教会の上層部では激闘が繰り広げられていた。

 

 

そんな中、裏門ではリアスと姫島がレイナーレの部下の3人の堕天使と対峙していた。

しかしリアスの滅びの魔力で彼らはすでに消滅させられていた。

巫女服を着た姫島が辺りに散乱したカラスの羽を掃除しようとした時、森の暗がりから姫島を食い破らんと奇妙に歪んだ頭を持つ黒い蛇のような怪物が飛び出してくる。

姫島は魔力でその噛みつきを受け流す。

そこに現れたのは、巨大なクサリヘビのようでありながら芋虫のようでもある奇妙に歪んだ頭とグロテスクな巨大なかぎ爪のついた付属器官がついていた。

黒いゴム状の恐ろしく大きなコウモリのような翼を羽ばたかせた12mを優に超える怪物が姿を現わす。

その怪物の体は絶え間なく変化するように見えた。

その怪物は口をワニのように大きく開けてグロテスクな口内を見せながら大きな耳障りな声で吠えた。

 

「なんなの…!この怪物は…ッ!?」

 

リアスたちは目の前の見たことがないグロテスクな怪物に対峙した。

怪物はガパリと大きな口を開き、リアスを喰い殺そうとする。

しかし姫島の雷が怪物の注意を逸らす。

雷のダメージは感じていないようで怪物はうねうねと蠢き、ターゲットをリアスから姫島に変更する。

そして即座にその巨大な尾を叩きつける。

その強烈なパワーにより姫島は大きく吹き飛ばされ、教会の壁に叩きつけられる。

醜悪なクサリヘビは更なる攻撃を加えようとその芋虫のような体を歪め、恐ろしいほどのスピードで突撃しようとする。

 

「朱乃!!!!!!!!」

 

リアスが怪物に滅びの魔力を収縮させ、その魔力を雨のように落とす。

爆発音とともに怪物の体に裂傷や火傷などの傷をつける。

リアスの全力を持ってしてもこの忌まわしき怪物にはこの程度の傷しかつけられないのかと絶望しそうになるが、その瞬間、醜悪なクサリヘビの近くの教会の壁が爆発して、土煙をあげながらマチェットナイフと魔剣を鍔迫り合いさせるフリードと木場が飛び出してくる。

ナイフと剣が2人の攻撃に合わせて二、三度火花を散らせる。

リアスは飛び出してきた木場を見て声をあげた。

 

「祐斗!?」

 

「部長!下がってください…!」

 

木場が大きく魔剣を振り上げ、フリードの持っていたマチェットナイフを上へ弾き飛ばす。

フリードは腰のホルスターからグロックを取り出し、木場に近距離で連射する。

木場は身体を仰け反らせてグロックから発射された弾丸を回避し、脚を振り上げてフリードの銃を持つ右手を蹴り上げる。

そして魔剣創造の力で地面から無数の魔剣を飛び出させる。

フリードの身体にその無数の魔剣のうち数本が刺さり、彼の腹部から鮮血が溢れ出す。

 

「ガァァァァァ…ッ!!!!クッソ悪魔…がァ!!!!こんなゴミの作った剣でェ…ッ!」

 

腹部から貫かれたフリードは血反吐を吐きながら貫かれた剣を抜き、腰に垂らしていた閃光手榴弾を木場の目の前で爆発させる。

木場はその場から騎士(ナイト)の特性を生かして即座に後ろに飛ぶ。

瞬間、光が辺りを包む。木場たちは何とか目を潰されずに済んだがその隙を見てフリードは逃走する。

 

「次は絶対殺してやる…ッ!!!!覚えてろよ…クソ悪魔どもォ!!!!」

 

フリードはその場で憎悪の声でそう叫ぶ。そして足早にこの場から去っていった。

木場はフリードから受けたダメージと疲労が大きく、その場で膝をつきそうになる。

しかし、更なる脅威が目の前に現れた。

何故か先ほどよりも焼け焦げたその巨大なクサリヘビは教会の壁に体を打ち付けた姫島より優先して木場を標的にしたようだ。

リアスは何故そんな非効率な動きをと思ったが、木場とフリードの攻防の最後の閃光手榴弾が原因だと考えた。

つまり、この怪物は『光』に弱い!

リアスは叫び声とともに木場に伝える。

 

「祐斗!この怪物は光に弱いわ!無理難題なことはわかってる…ッ!でもここでなんとかしなきゃいけないの!お願い、祐斗!」

 

木場はその言葉を聞いてこちらに向かってくる怪物を見た。

自分の身長の9倍はある相手だ。

それがどうしたと言うのだと木場は怪物を睨む。

主人が倒せといったんだと自分の体に鞭を打ち、立ち上がる。

魔剣を創造し右手に構え、フリードが落としていった光が付与されたマチェットナイフを左手に構える。

 

「部長、任せてください。僕はあなたの」

 

騎士(ナイト)なのですから!」

 

そう自分の主人であるリアスグレモリーに叫び、突進してくるクサリヘビを躱し、二本の剣で斬りつける。

魔剣はやはり効果が薄いようだがマチェットナイフの方は装甲を切り裂き、そのドス黒い黒といっても過言ではない内臓を木場は垣間見る。

リアスは木場の援護に回って、滅びの魔力のレーザーを展開して歪んだ頭をさらに歪めたクサリヘビへと放射する。

爆発とともに土煙が舞った時、その土煙からいきなり巨大な尾が木場を巻き取る。

 

「祐斗!」

 

獲物が油断した時に狡猾に動くその姿はまるで狩人を思わせる。

忌々しき狩人はその尻尾の力を徐々に入れて、木場を締め上げる。

木場の体内からボキボキと骨が折れ、内臓が潰れる音が響く。

木場は血の泡を吐きながらその場から逃れようとする。

しかしその尾からいきなり力がなくなった。

それは教会の方面から飛んできた雷の一閃がその尻尾を灼き切っていたのだ。

爆発とともに土煙が舞う。

そこから煙をかき分けながら現れたのは、リアスの女王(クイーン)である姫島朱乃その人だった。

 

「よくもやってくださいましたね…、その上私たちの(キング)にもこのような怪我をさせて…」

 

「その体を雷に灼かれて死になさい」

 

そう姫島がボロボロの巫女服のまま印を組む。

その瞬間、彼女の体に雷が迸る。

木場が切り落とされた蛇の尾から飛び出して蛇の頭にマチェットナイフを突き立てる。

装甲を切り裂いた木場は内側の肉が見え、骨を剥き出しにさせる。

 

「今です!姫島さん!」

 

「ありがとう、祐斗くん。では…」

 

姫島が両手をバチバチと雷を纏わせてそのエネルギーを収縮させる。

その収縮させた雷のレーザーを忌まわしき狩人の頭蓋目掛けて一点放射し、頭蓋を灼き切り、脳を焼き焦がす。

内側から雷の熱に灼かれ、忌まわしき狩人は悶え苦しむ。

まだまだ姫島は追撃を仕掛けるように頭を一点集中で雷を叩き込む。

忌まわしき狩人は想像を絶する痛みと雷の光のエネルギーによって体をどんどんと萎びさせていく。

 

「これで、最後です!」

 

極太の雷が忌まわしき狩人を焼き、狩人は耳障りな声をあげながらその場で末端から灰になっていく。

ボロボロとその体をゴミにして、最後に残ったのは灰の山だけだった。

この場でボロボロになりながらもリアスたちは怪物を打ち滅ぼすことができたのだ。

リアスは木場と姫島の方に振り返り、2人を抱きしめる。

 

「ありがとう…祐斗、朱乃…」

 

そう抱きしめられたリアスの眷属たちは、当然のことをしたまでと返す。

リアスはこの場にいないあと2人の眷属のことを木場に尋ねた。

木場は一誠と子猫は教会の地下に向かってアーシアを助けにいったと伝える。

そう答えられたリアスはすぐさま地下へと向かおうとする。

その瞬間、教会を中心に地面が大きく揺れた。

一体地下で何があったのだとリアスたちは教会の地下へと足早に向かった。



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輝くトラペゾヘドロン

アーシア憑依(?)編


教会上層部での激戦を見ながら、満月の下で黒い男はワインを飲んでいた。

高級ホテルの屋上で彼は様子を見ていた。

教会での激戦にちょっかいを入れたのは彼である。

一誠と木場、子猫にはフリードをぶつけ、リアスと姫島には配下の『忌まわしき狩人』を差し向けた。

その結果、木場はフリードを打ち破り、リアスと姫島は教会からフリードと共に飛び出してきた木場と協力してフリードの落としていった特殊なマチェットナイフで頭を切り開き、頭蓋に雷の一撃を叩き込んだ。

 

「面白い…、面白い…」

 

人間とは本当に面白い。

小賢しい知恵を用いて大を打ち破る。

ワインが進むではないかとゴクゴクと一瓶をあっという間に飲み干してしまう。

だが、教会での激闘も見ものだったがそれ以上に地下の方に彼は期待していた。

かの堕ちた聖女こと『アーシア・アルジェント』。

彼は彼女に神父として接触し、無知な彼女に様々な物を与えた。

飯を与えた。水を与えた。娯楽を与えた。

そして、叡智を与えた。

彼女には、そこらの石ころのような人間よりも素晴らしい精神力を持っていた。

かの悪名高き『ネクロノミコン』を読ませても狂わず、故意に宇宙的恐怖に接触させても狂わなかった。

珍しい人間だ。

さて、どのようなことをしても真の意味で堕ちない彼女にどのような存在でも堕とす力を持つアーティファクト『輝くトラペゾヘドロン』が彼女に接触すればどういう反応が起きるのか。

気になる。とても気になる。

好奇心旺盛に黒い男は考えていた頃には教会での激闘には終止符が打たれていたようだ。

それを確認すると同時に血まみれのフリードが帰ってくる。

 

「おや、フリード…、どうでしたか?」

 

「いやぁ!無理無理!あの剣士くん強かったんですよォ…、あいてて…」

 

土手っ腹に穴が空きそこから内臓が飛び出しているのにフリードは痛みを感じていないように振る舞う。

いや、実際に感じていないのだろう。

血液がほとんど抜けきっているのに正常に動き、正常に話す。

それは異常だった。

 

「私が墓地の王(バロン・サムディ)の力を使っていなければ貴方はあそこで気絶していたでしょうね。いやはや、お疲れ様です。眠ってていいですよ」

 

「了解でェ、我が神」

 

そうフリードは礼をしてホテルへと戻っていく。

彼がこの身体になったのには理由がある。

フリードは前回、アーシアに話していた『月に吠えるもの』で話していないことがあった。

それは『自分があの時潰されて死ぬ間際だった』ということだ。

彼はあの時潰されて、外宇宙へと持ち去られた。

その時フリードは月の裏側に蔓延る存在。宇宙の奥にある『沸騰する混沌の中心』などを見て、この世界における人間がどれほどまでに矮小な人間かを理解した。

そして彼は死に体で『月に吠えるもの』に叫んだ。

 

「まだ死にたくない」

 

宇宙空間でその声が届くことはあり得ないはずだが神はその声を聞いたのかその化身は笑い始めた。

そして彼は人型の『暗黒の男』の姿を取り、彼の身体を癒し、死なない身体を与えたのだ。

そこから彼は外なる神の下僕となったのだ。

そんな彼を今回の計画のためにニャルラトホテプは連れてきたのだ。

フリードに永遠を与えた本人であるニャルラトホテプは教会を見つめ、口を大きく歪める。

 

「アーシア、君はどんな風にその力を使うのかな?」

 

 

■◆■◆

 

 

教会の地下ではレイナーレがアーシアを磔にしていた。

彼女は振り返り、一誠たちを確認すると余裕そうに笑った。

 

「いらっしゃい、悪魔のお二人さん…、遅かったわね」

 

アーシアのその様子を確認した一誠はアーシアの名前を叫ぶ。

その声が届いたのか、アーシアは目を開き、一誠の顔を見て、小さく彼の名前を呟いた。

一誠はアーシアを助けようとがむしゃらに突っ込もうとする。

瞬間、子猫に首根っこを掴まれて後ろに引っ張られる。

一誠が進もうとした場所にレイナーレの光の槍が深々と突き刺さり、光の爆発を起こす。

2人は爆発の余波を受けて、壁に思い切り叩きつけられる。

 

「感動の対面だけど残念ねぇ…、もう儀式は終わるところなの」

 

レイナーレがそう一誠たちに吐き捨てた瞬間、アーシアが喉が張り裂けんばかりの絶叫を上げる。

身体を痙攣させて、激痛を逃がすために反らし、捻る。

しかし両腕両足を鎖で締め上げられ、ピクリとも動かすことができない。

一誠はアーシアの絶叫を聞き、レイナーレに何が目的だと叫ぶ。

レイナーレは声高らかに神器(セイクリッド・ギア)を奪うと断言する。

一誠はそんなことしたらアーシアはどうなるとレイナーレに叫ぶ。

アーシアの漆黒のペンダントをかけた胸元が光を発する。

アーシアは目を見開き、今まで以上に身体を大きく反らした。

子猫は少し言い澱みながらも彼女が死ぬと一誠に伝える。

一誠はそのことに驚き、助けに行こうと駆け出した。

しかし、その瞬間、アーシアの体がひときわ大きく痙攣して、彼女のエメラルドの瞳から光が失われていく。

アーシアのこわばっていた体から力が抜け、髪とペンダントが揺れる。

 

聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)…、ついに私の手の元に…」

 

レイナーレはアーシアの体から出現した一対の指輪を手に取り、幸せそうに微笑む。

 

「これこそ、私が求めていた力…!これさえあれば私は愛を頂ける…」

 

そう言って口を歪ませてその聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)を身体に取り込ませる。

瞬き光とともに彼女の体は高笑いをする。

 

「至高の力…、これで私は至高の堕天使になれる!私を馬鹿にしてきた奴らを見返すことができるわ…!」

 

「ざけんじゃねぇ!」

 

そう叫んで一誠はレイナーレを殴り倒すために駆け出す。

目の前には数十人の祓魔師(エクソシスト)が光の剣や拳銃を向けて斬りかかったり撃ち殺そうとしてくる。

どけ!と一誠は罵りながら籠手で振り下ろされた剣を受け流し、アッパーカットで祓魔師を跳ね上げ、悪魔の力で脚を振り回してまた一人蹴り飛ばす。

しかし多勢に無勢と言うように後ろから切り裂かれそうになる。

だが、彼の身体を切り裂こうとする男は大きく上に吹き飛ばされ、頭を天井に突き刺すこととなる。

後ろを見れば子猫が拳を構えて、祓魔師たちをその圧倒的なパワーで吹き飛ばしていた。

 

「一誠先輩、行ってください」

 

そう子猫が一誠に言う。

一誠はありがとうと感謝を伝えて、子猫が切り開いた道を走る。

数人の邪魔な祓魔師を殴り、階段を駆け上がる。

そこにはレイナーレが一誠を侮蔑を交えた目で見ていた。

そしてレイナーレの隣にある十字架にアーシアは磔にされた状態で目を閉じていた。

一誠は呆然と立ち尽くす。

レイナーレはここまでたどり着いたご褒美と称してパチンと指を鳴らし、アーシアを縛っていた鎖を外す。

意識を失ったアーシアは重力に従って地面に倒れそうになるが、一誠が優しく抱きしめ、声をかける。

アーシアは薄く目を開けて、一誠がいることに安堵の表情を浮かべる。

一誠は迎えに来たぞと声を震わせながらアーシアに言う。

 

「その子は貴方にあげるわ」

 

レイナーレは一誠にそう声をかける。

アーシアをモノ扱いするレイナーレを睨み、神器(セイクリッド・ギア)を戻せと叫ぶ。

そう言われたレイナーレは馬鹿言わないでと一誠の方を向いた。

 

「私は上を欺いてまでこの計画を進めたのよ?残念ながら貴方たちはその証拠となってしまうの…」

レイナーレは一誠たちを見下して、「でもいいでしょう?二人仲良く消えるんだから」と光の槍を構えた。

子猫が数人の祓魔師に追い詰められる。

瓦礫を小粒にして戦車の力を最大限に引き出して蹴り飛ばす。

その瓦礫はライフル弾のように飛んでいき、祓魔師2、3人の身体を貫いていく。

しかし手数が足りない。そろそろ数で押し切られそうだ。

 

「(兵藤先輩…ッ!そろそろ不味いです)」

 

チラリと子猫は階段の上を見た。

 

一誠とレイナーレが問答をしている時、アーシアは無力な自分を恥じた。

自分の恩人がこんなに傷ついているのに自分は何もしてあげられないのだ。

その瞳から涙が一粒零れ落ちた。

 

その時、自分の頭に声が聞こえた。

闇から響いてくる悪魔のような声、全てを食いつぶさんとするその圧倒的なプレッシャー。

壮年の男性の声が頭に響いてきた。

 

「貴様、ここで死にたいのか?」

 

男性の声らしきものはアーシアにそう問いかけた。

アーシアはそんなわけがないと心の中で叫ぶ。

その声は、その言葉を聞くと少し笑った。

 

「今ここで、お前が助かると言ったらお前はどうする」

 

助かる…そう言われた。

アーシアは一瞬、それに応じようとする。

しかし、その伸ばそうとした手をもう一つの手で掴み、抑える。

闇から手が飛び出して、肩を掴む。

早く答えろ!と叫ぶ。

その声がどんどんと近づいてくる。

声の主が目の前に現れ、アーシアはその存在を確認した。

三つに分かれた燃え上がる眼を持つ闇…、アーシアの知識にその存在は該当した。

アーシアは恐怖を覚えるが、ぐっと歯を食いしばり恐怖を克服しその闇の手を逆に掴む。

 

「『闇をさまようもの』よ!私は貴方を恐れない!貴方に体を渡せば世界が…、一誠さんが死んでしまうかもしれない!」

 

アーシアはそう叫んで頭でその三つの目の間に頭突きする勢いで叩きつける。

 

「ナイ神父は本当に私のことを利用していただけだったのですね…、あのペンダントの正体は『輝くトラペゾヘドロン』!」

 

影は面白そうに嗤い、アーシアを称賛した。

あのネクロノミコンを読んでなお、貴様は神を信じるとはと素直に驚いているようだ。

アーシアは目の前の怪異に叫ぶ。

 

「私は魔女です!ならば貴方と契約を交わすことができるはず…ッ!」

 

『闇をさまようもの』はその答えを聞いた時にその燃え上がる眼をさらに燃え上がらせた。

 

「貴様のような小娘が私を支配すると!?面白い!面白い!やってみるがよい!だが、覚えておけよ小娘!貴様の正気が消え失せた時、私は貴様を乗っ取り、『星辰正しき刻』に全ての神々を導くものとなることを!」

 

そう『闇をさまようもの』が叫ぶとともにアーシアに飛びつく。

アーシアは激痛と苦痛、そして脳がこの怪異に侵されていくのにその強靭な精神力で耐える。

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」

 

『闇をさまようもの』が脳を侵食せんと蠢き、アーシアは頭を抑えて破裂しそうなほどの痛みに耐える。

 

「私は…、貴方を支配する…!そして…、世界を…、一誠さんを…!助けるんです…ッ!!!!」

 

ビキビキと頭の血管という血管が浮き上がり、精神体であるはずなのに血がでているような感覚に陥る。

その痛みは永遠に感じたが、現実世界では一瞬だったのだろう。

最後に勝ったのは、アーシアだった。

そうして、アーシアは眼を覚ました。

 

「レイナァァァアアアアアレェェエエエ!!!!!!!!」

 

「腐ったガキが、その名前を気安く呼ぶんじゃないわよ!」

 

一誠がそう叫ぶとレイナーレが目を見開き、狂気に見える壮絶な表情でその光の槍を振り下ろす。

一誠はその様子がスローに見えた。

あぁ、ここで死ぬんだなとそう思った。

次の瞬間、無数の棘がレイナーレを貫いていた。

いや、棘などではない。影だ。目玉や口が無数についた影がうねりながらレイナーレを突き刺したのだ。

カツカツという足音とともに現れたのは、真っ黒なドレスに身を包んだアーシアの姿だった。

アーシアの影にはグニャグニャと何かが蠢き、まだらに目や口が蠢いていた。

 

「一誠さん、ありがとうございます。あとは私に、任せてください!」

 

アーシアがそういう声とともに別人の表情となって下を睨み、地下から無数にアーシアの足元から黒い影が伸び、下にいる神父とレイナーレをまるで饗宴のように貪り始める。

子猫はひょいひょいと影をかわし、勘がいう通りに安全地へと逃げる。

しかし子猫以外の祓魔師たちはバラバラ死体となって、その惨状は血の池地獄と呼ぶにふさわしいものだった。

レイナーレはなんとか光の槍などで斬り、穴が空いた箇所に聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)によって治療する。

 

「なんなのあんた…、ど田舎の小娘が私に…、至高の堕天使に傷をつけるとは!」

 

アーシアはまるで昨日とは比べ物にならないほど低い声…、本来であれば可憐な少女から出る声ではない壮年の男性の声でレイナーレに顔を歪めながらこう言った。

 

「至高の堕天使に成り上がったと思っているだろうが、貴様は自惚れすぎだ」

 

その瞬間、影が音速を超えて動き、レイナーレの肩から腹にかけて大きくそのチェーンソーのような歯で切り裂いた。

レイナーレは肩を抑えながら治癒を行うが治癒が間に合わない、

 

「なんで…!?聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)が遅すぎる…!私は至高の堕天使よ…ッ!こんな田舎町の小娘に…」

 

「こんな田舎町の小娘に…?」

 

いつのまにか迫っていたアーシアに気付いた時にはすでに遅く振り上げられた影を巻きつけた脚がレイナーレの腹部に強く刺さり、内臓や骨をかき回す。

口が血で満たされて、ぼたぼたと地面に垂らし、そのまま天井まで吹き飛ばされる。

天井に叩きつけられ、さらに追撃として影のハンマーがレイナーレを叩きつける。

その勢いは天井を破壊し、レイナーレは蛙が潰れる声を上げて教会のステンドグラスを破り、外に投げ出される。

既にボロボロなレイナーレは聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)を使っても微々たる回復しかもたらさない。

 

「(まずい、まずいまずいまずいまずい!まずい!!!!)」

 

レイナーレは何度も何度も聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)をかける。

カツカツと自分の近くで足音がする。

はやく逃げなければと動こうとした時、足を影が貫いた。

レイナーレは叫び声をあげながら、血が溢れる足を抑え、足音がした方向を睨む。

そこには一誠とアーシアが立っていた。

すぐに翼を広げて飛び去ろうとするが一誠が駆け出し、手を掴む。

 

「逃がすわけがないだろ!馬鹿が…!」

 

「私は、私は!私は至高の堕天使よ!?」

 

「知らねえよ…!歯ァ食いしばれよクソ天使…!一発行くぞ!!!!」

「吹っ飛べ!クソ天使ィ!!!!!!!!」

 

一誠の渾身の一撃がレイナーレの体を吹き飛ばす。

宙に浮き、木に叩きつけられた。

レイナーレは意識を失い、倒れる。

ふらふらとなりながらも、一誠は自分が勝ったことを理解した。

 

「やるね、一誠くん」

 

一誠は声がした方を振り返る。

そこにはナイフでの切傷や銃創などが残った痛ましい姿をした木場だった。

 

「木場!あのクソ神父を何とかできたのか!」

 

「まぁね、結構危なかったよ」

 

まさか二連戦とは…と頰をかいた。

教会の方では扉が開き、同じくボロボロな子猫の姿が見える。

 

「子猫ちゃんも!」

 

「影に襲われそうになりましたけどなんとか…」

 

そう言って、子猫はアーシアの方を見る。

アーシアは先程までの苛烈な表情から一変、いつものアーシアの顔に戻っていた。

その後、リアスや姫島などがこの場所に集まり、元凶である堕天使を起こし、話を聞くこととなった。

 

「はじめまして、堕天使レイナーレ。私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主よ」

 

リアスがレイナーレを見下しながらそう言った。

レイナーレは驚愕しながらその震える瞳孔をリアスに向ける。

 

「グレモリー一族の娘か!?」

 

「どうぞお見知り置きを、短い間でしょうけど、それから___」

 

そう言ってポケットから三枚の黒い羽をレイナーレの目の前に捨てる。

それはレイナーレの部下であるドーナシーク、カラワーナ、ミッテルトの三人の死を意味した。

 

「訪ねてきた貴方のお友達は私が消し飛ばしておいたわ」

 

そう言われて、レイナーレは目を見開いてその黒い羽を見た。

確かにあの三人の羽で、彼らは死んだと理解した。

一誠は消しとばしたと驚いていたがそれを木場が解説する。

 

「貴方たちはここで色々と企んでいたみたいだけど私たちに害がないなら無視しておくつもりだったのだけど…」

 

一誠はリアスに俺のためにと有難そうに笑うがリアスは一誠の籠手を見ると少し目を見開いて、そうと呟いた。

 

「赤い龍、そういうことなのね…」

 

と、リアスは一人で納得したように頷いて、レイナーレを見下ろす。

 

「堕天使レイナーレ、この子兵藤一誠の神器(セイクリッド・ギア)は単なる龍の手(トゥワイス・クリティカル)じゃあないわ」

 

「なに…!?」

 

レイナーレはリアスに対してなにを言っているという目で見て、リアスはそれが13つの神滅具(ロンギヌス)の一つ、赤龍帝の籠手(ブーステット・ギア)だと告げる。

レイナーレはその言葉を聞いて、こんな子供に宿っていたとはと驚く。

そして、リアスは手に魔力を集めてこの堕天使を消し飛ばそうとする。

このままでは死んでしまうと考えたレイナーレは一誠を唆かすために天野夕麻となって言いくるめようとする。

しかし一誠には通用しなかった。

一誠は天野夕麻(レイナーレ)から離れ、リアスに頼みますと声をかける。

リアスはレイナーレに近づき、思い出したかのようにレイナーレに問う。

 

「貴方、頭が歪んだ翼を持つ蛇について心当たりはあるの?」

 

「何よ、それ…。知らないわ」

 

その答えにそうとリアスは頷いてレイナーレを自分の魔力で消し去ろうとした瞬間、アーシアが前に出る。

リアスはそこを退きなさいとアーシアに言う。

一誠はアーシアの手を引こうとした時に、アーシアの顔つきが違うことに気がついた。

さらに、アーシアの目が燃えるように揺らめいていて、額にも小さな炎が燃えて揺らめいていた。

アーシアは一誠に、彼女とケリをつけたいと話し、リアスを説得する。

リアスはそれに了承し、道を退いた。

 

「レイナーレさん、私のことを騙していたのですね…」

 

「違うの!これは堕天使として仕方なく…!」

 

アーシアはそうですか…と呟いて、次の瞬間影がレイナーレの腹部を貫いた。

その時のアーシアの顔は笑っていた。

まるで二重人格のようだ。一誠はそう思った。

貫かれた腹部からうねうねと影が蠢き牙が生え始める。

 

「レイナーレさん、貴方は至高の堕天使にはならなかったですね」

 

「いや、嫌だ…、まだ死にたくない…」

 

レイナーレは腹部を押さえて後退る。

アーシアは顔を歪ませて大きく笑い高らかに声を上げる。

 

「残 念 だ っ た な !」

 

影が大きく口を開けて、レイナーレを噛み潰す。

中から小さく絶叫が聞こえ、骨が折れる音と筋肉が潰れる音などの音が数秒続いたかと思えば、その音は影に沈んだ後全く聞こえなくなってしまった。

リアスたちは目の前の異常な存在に冷や汗を隠せなかった。

 

 




アーシアの影のイメージはハガレンのプライドの影を思ってください。
残念だったな!はニャルラトホテプ繋がりで


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