後ろの席の八幡くん (気力♪)
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後ろの席の八幡くん

ある朝、日課のランニングをしているとき一つの事故を目撃した。

 

それは、散歩中の犬が黒い高そうな車の前に飛び出してしまうと言うもの。

 

それを見ていたのは二人、俺と、総武高校の制服を着た男。

 

距離は同じくらい。

 

俺は、先の恐怖を考えてしまって走り出すのが一歩遅れた。

その間に、男は飛び出して犬を救い出してみせた。

 

それが、俺が比企谷八幡という男を知るきっかけだった。

 


 

「ハッちゃん、お勤めご苦労さん」

「収監はされてねぇよ」

「似たようなもんじゃね?ああ、バッグ持つわ」

「...サンキュ」

「ハッちゃんは同士であり不倶戴天の敵だからな。あ、席は俺の後ろな」

 

松葉杖をつきながらなんとか席に辿り着くハッちゃん。見舞いに行った時に知ったのだが、彼はなんとMAXコーヒーを缶で飲む派なのである。

ペットボトル派の自分とは相容れないのだ。

 

しっかりと味わって飲むハッちゃんと、量を飲んでエネルギーにする自分とでは割と噛み合わない。

が、この総武高校では少数派のMAXコーヒー愛好家なので邪険にもできない。難しい話である。

 

「そういや、由比ヶ浜とは会ったか?あいつも総武の一年なんだけど」

「...誰だっけ、そいつ」

「ハッちゃんの事故の元その1ガールよ。犬の方。あれは磨けば美人になると見た」

「あー、そんな名前だったっけな」

「自分の人生棒に振りかけた事件を半分忘れてやがる。すげーや」

「いや、身体が勝手に動いただけだから。あれは黒歴史だから引っ張るな」

 

などと言いつつカバンから教科書を取り出すハッちゃん。初登校の際に教科書を忘れるなんて事はなかったようだ。少し安心。

 

そんな会話をぐだぐだしていると、人がそろそろ集まり始めて来た。

 

自分をぼっちぼっち言うハッちゃんのポテンシャルはどんなものか割と興味はあるのだが、まぁ孤立をさせない程度にはフォローする事にしよう。

 


 

「終わった...」

「ハッちゃん、お前アレ過ぎない?」

 

とりあえず、授業については問題はなかった。入院中にもちょくちょくノートのコピーを持っていったのと、授業内容がまだ中学のおさらいが終わった所程度の進み具合だった事からだ。

 

だが、問題は休み時間。

グループはある程度できているとはいえ、クラスの男子にはハッちゃんがどうして怪我をしたのかや、その根が善良な人柄は話している。なのでさほど苦もなくクラスに溶け込めるかと思っていたが。

 

この野郎、質問責めに合うやいなや「ちょっとトイレ」とエスケープをかましたのである。マジかお前。

 

それからは、アンタッチャブルな雰囲気が醸し出されてしまった。「あいつは一人が好きなんだよ」とは誰かの言葉。やめてくれ、その言葉は俺にも効く。

 

「スタートダッシュで出遅れて、どこまで行っても離されるーを実演してんじゃねぇよ。だからお前は八幡なんだよ」

「おい、お前も小町もだけど八幡を悪口みたいに使うなや。あと、マキバオーとか誰が知ってんだよ」

「むしろハッちゃんが知ってる事にビビってんだが」

 

なんて言葉を交わしつつ、バッグを二つ持って行く。

 

「ハッちゃん、バッグが重い。置き勉しとけよ」

「ばっかお前、それやったら盗まれたり落書きされたりするだろうが」

「初日からのリスクヘッジが常人のレベルじゃねぇ。でも言わせてくれ。馬鹿じゃねえの?」

「...でも良いのか?お前、俺に付き合って貰って」

「ハッちゃんよ、一つ教えてやる」

 

「どっかのグループに入れてたら、そもそもハッちゃんの世話係とか立候補しないから」

「...お前もぼっちの道を行く奴だったのか」

「フッ、趣味は一人TRPGだ」

「アレ一緒にやる友達が付属してないって欠陥品だよな」

「まぁ、いつも通りハッちゃんに布教するとするよ。CoCなら一対一でやれなくないし」

「お前作るシナリオエグいんだよ」

「App17の子がいっぱい出てくるハーレムシナリオでもか?」

「それ全員神話生物だった奴じゃねぇか」

「ハッハッハ」

「うぜぇ」

「酷ッ」

 

ハッちゃんの歩く速度に合わせてのんびりと駅に向かう。

 

「ハッちゃん目の付け所が斜め下過ぎてシナリオの本線に乗ってくれないんだよなー。いや、それはそれで楽しいんだけど」

「お前何でも楽しむな」

「あれよ多分」

 

「お前といるってだけで、それなりに楽しいんだよ」

「...おう」

 

そんな会話をしつつ、ハッちゃんの登校初日は過ぎていった。

 


 

俺は、俺のクラスメイトである氷川誠二を少し不気味に思っている。

それはきっと、氷川からの善意に見返りが見えないからだ。ぼっちといっても俺と氷川は違う。俺は友達を作れないのに対して、氷川は親しい友達を作っていないだけだからだ。コミュニケーション能力も、中の上の容姿もあり、その気になればクラスのトップカーストに食い込めるだろうに。

 

それを放り投げて、俺の手助けをしてくれている。それは、とても歪に思えてならない。

 

裏切る為の演技かと思ったことは何度となくある。だが、疑えば疑うほど、こいつの行動には善意と敬意をがあるのだとわかってしまう。

俺に敬意を抱くなど、そんな無意味な事をする奴には見えないのだが。

 

「なぁ氷川」

「ん?」

「なんで、俺に構うんだ?」

「...んー、きっかけはお前が凄い奴だって思ったからだよ。あの日の事故、俺は飛び出せる位置にいた。けど、足がすくんで立ち止まっちまった。だから、その勇気を俺は知りたかった」

「...んなもんねぇよ」

「いや、ある。考える前に体が動いていたんだろ?それは、お前の心の深い所にある勇気が体を動かした、俺にはそうとしか見えなかった」

 

「要するに、カッコいいって思ったんだよ。お前の事を」

 

その言葉に、返す言葉がある。

 

「それを言うなら、お前だってカッコ良かっただろうが」

「...あ、やっぱ覚えてた?恥ずかしいから忘れて欲しいんだけど」

「無理だ、あんなの忘れられるかよ」

 


 

それは、事故にあってすぐの事。

車に轢かれて足は妙な方向に曲がり、頭も打ってしまった。

 

激痛と目に入る血から、死んだかなぁと思ったその時。

 

声が聞こえた。

 

「飼い主さん!救急車呼んで!110番で!」

「う、うん!わかったし!」

「運転手さん、手を貸して下さい!彼の応急手当てをします!」

 

そんな声と共に、俺の体は仰向けにされ、足は正しい方向に直された。ネクタイを外され胸元を開けられたが、苦しみは減らなかった。

 

「運転手さんは止血を!ハンカチを当てて圧迫するだけでも変わります!...気道確保オーケー、意識あり、呼吸なし」

 

不意に、閉じる視界、息を吹き込まれると共に、詰まっていた呼吸が戻ってきたのを感じた。

 

「良し、戻ってきた!呼吸をしっかり!大丈夫、お前は助かる!だから、生きる事を諦めるな!」

 

霞んだ目で見たその顔は、命を助けるヒーローの顔だった。

 


 

「や、小町ちゃん。お兄ちゃん連行してきたよ」

「ありがとーございます!氷川さん!」

「うん、やっぱいつ見てもハッちゃんと小町ちゃんが兄弟には見えないわ。浮気疑ったほうがいいんじゃない?」

「ウチを家庭版案件のネタにするんじゃねぇよ」

 

家までついてきた氷川。いや、松葉杖の身では駅からの移動は辛かったのでありがたいが、やはり善意が慣れない。

 

こいつにはもう過剰なまでに貰ってしまっている、なら何かで返さないと帳尻が合わない。

 

「じゃ、今度MAXコーヒー奢ってくれや。ペットボトルで」

「邪教徒め」

「いいだろ別に、量飲むタイプだって悪くないだろ、健康以外には」

「いいじゃんお兄ちゃん、せっかくできた友達なんだし。あ、今の小町的にポイント高くない?」

 

「「...友達?」」

 

「あれ、氷川さんまでお兄ちゃんっぽくなってる」

 

酷くない?

 

「ま、いいや。また明日な、ハッちゃん」

「おー...ってバッグ持ってくんじゃねぇよ」

「すまん、忘れてた」

「うっかりさんなんですねー、氷川さんって」

 

そんな言葉と共に氷川は去っていく。

 

「うん、氷川さんがいるなら、お兄ちゃんの高校生活も安心だね!」

「...まぁな」

 

本日いきなり逃亡をかましてしまったのは黙っておこう。ぼっちに質問責めの対処とか無理なんだ、うん。

 

そんな、1日があった。




オリヒロインがいるのなら、オリ友達(未満)がいても良いはず!という妄想から生まれた話です。

ちなみに、オリ主こと氷川誠二くんは医者の次男坊。親からいざって時の対処法は仕込まれていたという設定。ただ、ヒッキーとは逆に文系(特に古文)が壊滅的で特進クラスに入れなかった経歴を持っている。

あ、続くかどうかは未定です。俺ガイルはアニメ派なので(にわか宣言)


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1-Cの大乱闘

続いた(驚愕)



今は6月、ハッちゃんの足のギブスも松葉杖も取れ、体育の「二人組組んでー」で一人余る状況になってしまった事以外はとりあえず問題はない。ちなみにその一人はハッちゃんと俺と材木座の3人の熾烈なる勝負(じゃんけん)によって決まる事が通例となっている。

もっとも、どこかで欠員が出たら俺がヘルプに行くというのは決まっているのだが。だってあいつら買収してくるんだもん。MAXコーヒーのペットボトルを箱で買う自分としては、出費は抑えられるなら抑えたいのだ。

 

だが、問題になっていない事が問題な事もある。

俺は普通にクラスメイトとも話したりするのだが、ハッちゃんは未だに「ああ」とか「うん」とかをどもりながら言う程度なのだ。自己主張って大事だと思うんだよなお兄さん。

 

「なぁハッちゃん、お前そろそろクラスに馴染まね?」

「いや、馴染んでるから。空気として必要不可欠な存在なまであるから」

「流石に空気はあかんだろ。今のお前はクラスでは刺身のツマくらいの価値しかないぞ」

「...それは流石に言い過ぎじゃね?結構傷つくんだが」

「まぁ好きでも嫌いでもないって位置は楽だから気持ちはわかるんだけどな」

 

かたやスマホゲームの周回をしながら、かたやSwitchでゲームをしながらでの会話である。どっちが悪いといえば、どっちも悪い。お前ら学校に何しにきているのだ。とは某現国教師の談である。

 

「んで、お前今何やってんの?」

「カリギュラOD。Switch版で出るとは思わなかったからつい買っちまったよ。PS4版持ってんのに」

「ブルジョワめ」

「医者の家系なめんなよ、ハッちゃん。まぁ、金はバイトからだけどな」

「何、お前働いてんの?引くわー」

「引かれるのかよ。漫画喫茶はいいぞ?やる事なくて金だけ貰えるんだから」

「マジか」

「マジマジ。住人の人との挨拶さえしてれば問題はない。むしろ住人の人仕事自主的に手伝ってくれたりするから」

「すげーな住人の人」

「本当に頭上がらないわ。まぁ、社会の底辺だから見習いたくはないけど」

「お前...」

「ハッちゃんもウチ来てみる?社会見学的な感じで」

「いや、遠慮しとくわ」

「来といて損はないと思うぞ?いつか小町ちゃんが結婚したとき、家から追い出されるのは誰かを考えたらさぁ」

「いや、小町を嫁に出す訳ないだろ。常識的に考えろ」

「あ、シスコンスイッチ入った」

 

などと言いつつ予鈴がなったのでセーブポイントでセーブをしてSwitchをしまう。メビウスにはコンビニよりもセーブポイントが多いのだ。まさにコンビニエンス。

 

「んで、ハッちゃんよ。貸したゲームはやってみたか?」

「...ああ、やったよ。正直甘く見てたわ。エロ展開になった時はクソビビったけど、すっげえ面白かった。でも作者以外FGOと関係なくね?」

「いずれ分かるさ、いずれな」

「お前それ言いたかっただけだろ」

「使い所意外とないんだよなー」

「まぁいいや、とりあえず言えるのはアルクェイドが最高だって事だな」

「は?琥珀さんが最高に決まってんだろ」

「は?」

 

その言葉がきっかけとなり睨み合いが始まるが、現国の平塚先生がやってきた事でそこから先に進展することはなかった。

 

「続きは後でな」

「ああ」

 

どうでもいい決闘が始まる!

 

事はなく、次の休み時間である昼休みになるとどちらも口を閉ざした。

だがそれは、刃を完全に収めた訳ではない。居合斬りのように、敵を一撃で言い負かす一刀を探しているだけなのだ!

 

 

「それはともかく、スマブラやる人手ー上げて」

「あ、やるやるー」

「氷川またSwitch持ってきたのかよ懲りないな」

「じゃあ、ステージランダムアイテム全ありの3スト制なー」

 

わらわらと集まってくる男子たち。やっぱみんなスマブラ好きなのね。

 

とりあえずいつも通り俺とハッちゃんと佐伯と春日が最初になる。

 

だが、所有者でありこの中で最強である俺は皆に集中狙いを受けてすぐに落とされた。いや、スネークのリモミサはピットじゃ無理やねん。

 

それからはいつも通りのハッちゃんの独壇場、3人乱闘では真ん中にいる奴が死ぬという事をわかっているので、ひたすらに端に逃げ回りながらブラスターを決めていた。横槍を入れるタイミングの悪辣さにおいて比企谷八幡は最強。さすがの卑劣さである。

そして、二対1になりやられるまでがテンプレ。厨キャラのウルフ使ってそれってどんな気持ち?と煽ってみたらボディにいいのを食らった。おのれハッちゃんめ。

 

「じゃあ、交代なー。一位以外ローテで」

「あの!」

「どした?目黒」

「ぼ、僕もSwitch持ってきたんだけど、良いかな?」

「...よっしゃ野朗ども!追加じゃ!目黒大先生を敬いながら引きずり下ろすのだ!」

「まぁ俺らは次見てるだけだけどな」

「あ、ちょっと待って。いまローカル通信オンにするから。ついでにフレ登録よろしくなー」

「あ、うん!」

 

そうして、ウチのクラスの昼休みの名物となったスマブラは、8人対戦をできるまでの規模となった。

尚、これが一年続いてもハッちゃんのコミュ力改善には役に立たなかったというのは、俺の少ない人生経験の中でも衝撃の真実の一つである。

 

まぁ、害悪ブラスターウルフが好まれるかといえばそうでないのは当たり前といえば当たり前なのだが。

ちなみに目黒の持ちキャラはヨッシーであった。空中戦の鬼がおる。1on1では厄介そうだ。負けるつもりはないが。

なんて事を考えながら見ていると、目黒は見事一位を取ってみせた。流石に新参を集中放火するのはリモミサの鬼佐伯でも躊躇われたのだろうか?いや、そんな甘い奴ならさっき一位を取れる訳はない。

つまり、目黒の実力という事だろう。これは楽しみだ。

 

尚、最終戦でアイテムなし終点をやってみたが、俺と目黒はだいたい互角くらいだった。つまり人柄で一位を取ったのか、策士だな目黒。

 


 

本日の放課後。帰宅ラッシュに巻き込まれないようにちょっと駄弁ってから帰るのが俺とハッちゃんのいつもの流れとなっていた。

 

「んでハッちゃんよ。クラスの連中とそこそこ仲良くなれたかい?」

「...多分な。まぁ、ゲーム仲間って感じだろ」

「そこから一歩進むのが難しいんだよなー。この件じゃ俺も人の事言えないんだけど」

「お前でも、そうなのか?」

「なんかねー、普通に仲良くするのも出来るのよ。一緒に遊んだりするのも楽しいって思う。けど、そこで止まっちまうんだよ、俺は。正直、こんな波長の合う奴とかハッちゃんが始めてなんだぜ?」

「...そうは見えないがな」

「ハッちゃんにはどう見えてんだよ」

「このクラスのリーダー格」

 

その言葉に思わず吹き出す。どれだけ俺を高く、自分を低くみているのやら。

 

「そしたらハッちゃんは取り巻き一号か?似合わねー」

「...だな」

「うん、ねぇな。なんでスクールカーストとか面倒なのに関わらなきゃなんないんだよ。番外で十分十分」

「出た、番外とかいう厨二ワード」

「カッコいいと思う心を失わない事は、大事だと思うんだ俺」

「いや、それ病気が解けた後で死ぬほど後悔する奴だから」

「ハッちゃん的に経験があったり」

「は?ねーし何言ってんの?」

「よし、小町ちゃんにLINEで聞いてみよう」

「やめろ下さい。...ていうかいつ小町と連絡先交換しやがったお前」

「あ、シスコンスイッチ入った」

 

グダグダな会話をしつつ、そろそろ良い時間なので下校を始める。

 

「さて、じゃあ琥珀さんが最高である事を教えてやろう」

「は?アルクェイドが最高にきまってんだろ」

 

噛み合わないが、噛み合う二人。その姿を友人と言わないのは、当人たちだけだった。

 


 

病院生活に少し慣れたころ、親に持ってきてもらったラノベも読み尽くした頃、来客があった。

 

「失礼しまーす」

 

入ってきたのは、総武高校の制服を着た、どこかで見た事のある少年だった。

 

「こんにちわ、比企谷八幡くん。俺は氷川誠二、1-Cのクラスメイトだ」

「ど、ども」

「プリントとかノートのコピーとか持ってきた。病院って暇だろ?勉強でもしてるといいかなーって」

「はぁ」

 

そうして渡されたノートとプリントと一冊の本。

 

紛う事なき、エロ本だった。

 

「は?」

「なぁに、そいつはサービスよ」

「馬鹿かお前?」

「ありゃ?気に入らなかった?二次元にしか興奮しない人?」

「人を勝手に異常者の括りに入れてんじゃねぇよ」

「まぁ、どんなのが好きか聞かないで渡した俺も悪い。仕方ない、持ち帰ろう」

「.,.ちょっとだけ中見てもいいか?」

「どーぞどーぞ。でも見すぎるのはダメだぜ?未知のページの方がエロく感じるもんだから。古事記にもそう書いてある」

「忍殺かよ」

「わかる人増えたよなー、アニメ効果って凄い」

「あのアニメは衝撃だったよな、いろんな意味で」

 

「お兄ちゃん、見舞いに来たよー!」

 

瞬間、アイコンタクトが飛んでくる。

 

俺が壁になる、その隙に布団の中に隠せ!

 

行動は、一瞬だった。

 

「こんにちわ、君は比企谷くんの妹さん?俺は氷川誠二、クラスメイトだよ」

「あ、どうも!比企谷小町です。お兄ちゃんのお見舞いですか?」

「ああ、比企谷とは席が近くてね。ノートとかプリントとか持ってきた感じよ。それに、比企谷も学校復帰した時に知り合いが居たら多少楽かなーなんて老婆心もあったり」

「わざわざありがとうございます!」

「いえいえ」

 

チラッとこっちを見る氷川、ありがとう、お前のおかげでなんとか小町にゴミを見るような目で見られる事は避けられた。

 

って元凶もこいつじゃねぇかと思考をリセットする。プラマイゼロ、むしろマイナスだ。

 

「それにしても、比企谷と似てないねー。すっごく可愛い。将来が楽しみだ」

「ありがとうございます。けど、今ここには比企谷が二人居ますし、小町で良いですよ?」

「ちょっと小町ちゃん?何、この中途半端イケメンに絆されちゃった感じ?」

 

ガバッと近づいて耳打ちしてくる小町。

 

「お兄ちゃん、これはチャンスなんだよ!わざわざお見舞いに来てくれるクラスメイトなんて居ないんだから、この機会に友達になってぼっち卒業しちゃいなよ!」

「ばっか、そんな簡単にぼっちが卒業できるわけないだろ。不治の病だから」

「そんなんだからゴミいちゃんなんだよ」

 

「協議の結果、名前呼びでオーケーになりました!」

「そうなの?じゃあよろしく小町ちゃん、八幡...言いにくいな、ハッちゃんで良い?」

「...もうなんでも良いわ」

 

その後は、氷川主催の簡単なノートの範囲の講義があった後、面会時間が終了し、二人は帰っていった。

 

「どうすんだコレ」

 

一冊のエロ本を残して。

 


 

ちなみに、氷川がこの日からずっと小町の事を家まで送っていたという事実が発覚して、怪我を押しての乱闘に発展しかけるまであと2週間だった。

 

 




評価してくださった方々、ありがとうございます!
いや、短編ランキング3位とかに上がったのを見てビビりました、やっぱ俺ガイル効果凄いですねー。


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隣のクラスのガハマさん

「やっはろー!」

「うん、その挨拶にだけは慣れんわ。高校デビュー暴走してない?」

「そ、そうかな...」

「いや、見た目はすっごく可愛くなったんだけど、ちょっとチャラい感じがねー。多分ハッちゃんとか「苦手なタイプの女子だ...」ってなると思うぞ」

「それはちょっと...でも、これは優美子とか姫菜とかに手伝って貰って、変われた!って私だから、この私でいたいんだ」

「...うん、それなら良いんじゃない?じゃ、頑張ってハッちゃん口説いてねー」

 

そう言って逃げようとするも、その手を掴まれる。意外と力強いぞガハマさんッ⁉︎

 

「そこはホラ!協力してくれたりとかじゃないの!」

「いや、なんでハッちゃんがリア充になるのを応援しないといけないんだよ。むしろ積極的に妨害するぞ俺は」

「りあ、じゅう?」

「あ、そこ通じないかー。最近の若者言葉に混ざってると思ったんだがなー、ネットスラング。ああ、今はリアルが充実してる人の事。つまり俺の敵だ」

「いや、なんで敵対するの?」

「だって自分より幸せなやつとかムカつくじゃん」

「割と最悪な理由ッ⁉︎」

 

「というわけで、俺はガハマさんの恋の応援はしないよ」

「こ、恋じゃないし!」

「そう?前見た時は恋する乙女って感じだったけど」

 

それは、ハッちゃんが入院して初めての金曜日の事だった。

 


 

「すー、はー、すー、はー...よし!...でもなぁ...」

「すまん、通って良いか?」

「あ、うん大丈夫です」

「所で、見覚えがあるんだけど、君ってあの時の飼い主さん?」

「なんでそれを...ってあの時のお医者さん!」

「ども、氷川誠二です。医者は志望してるけどまだ学生よ。ハッちゃんに用事?」

「ハッちゃん?」

「比企谷八幡、ここの病室の主の事。1人部屋って豪勢な金の使い方してるよなー、払いは車の人らしいけど」

「そっか、これひきがやはちまんって読むんだ」

「なんだと思ってた?

「えっと、ヒキタニヤハタかな?」

「八幡製鉄所は有名だもんなー、というわけで扉オープン」

「ちょ、ちょっとタンマ!」

 

「何やってんだお前」

「や、ハッちゃん。お客を連れてきたよ」

「ど、どーも」

「ド、ドーモ」

「ニンジャの挨拶かお前ら」

 

とりあえず、目線で「こいつ誰だよ!」と必死に伝えてくるハッちゃんの目線がうっとおしいので自己紹介をさせるとしよう。ハッちゃんも好意的な感情を向けられて悪い気はしないだろう。

 

「こちらはいつぞやの犬の飼い主さん。覚えてる?」

「いや、まったく」

 

「え⁉︎」と固まる由比ヶ浜さん。まぁ、ぼっちってこういう生態なのよ。

 

「じゃあ、自己紹介からだな。改めて、俺は氷川誠二。忘れてないよな?ハッちゃん」

「あ、当たり前だろ」

 

死んだ目が泳いでる、コイツ忘れてやがったな。

 

「じゃあ次、コイツは比企谷八幡。あの日のヒーローな」

「茶化すんじゃねぇよ」

「事実じゃね?」

「あんなんをヒーローだとか認めてたまるか。今日日のヒーローは誰かを助けつつ自分も助かるもんなんだよ」

 

などとヒーローの持論を語るハッちゃん。やはり貴様もニチアサの徒か!

 

「じゃあ最後、どうぞ!」

「え、えっと、私は由比ヶ浜結衣です。比企谷さん、あの日サブレを助けてくれて本当にありがとうございました!お陰で、サブレは今も元気です!...あ、えっとサブレってのはあの日助けて貰った犬の事で...」

「あー、そういう事か」

 

ハッちゃんが何かを察したのか、空気が冷え込むのを感じる。

 

「俺は、俺の勝手で動いただけだ。というか、思わず体が動いてたってだけなんだよ。だからあんたが責任を負う必要はない」

「いや、違くて!」

「しかも入院費用はあちらさんが全部持ってくれてる。お陰で俺は学校に行かないでのんびりできてるって訳だ。だから、あんたが気にする必要とかは全くないんだよ」

 

などと、突き放す言葉で伸ばされた手を払いのけようとするハッちゃん。

全く、なんで俺がと思わなくはないが、それでも今泣きそうな彼女をそのままにしてはおけない。

 

だって、後味が悪いだろう。

 

「ハッちゃんよ、このまま喋らせておけば「私、なんでもします!」とか言質取れたかも知れないのに勿体無いな」

「オイ」

「それから由比ヶ浜さん、言葉を曲解することに定評のあるハッちゃんだ。伝えたい事があるのなら、ど真ん中ストレートで思いっきりだよ。もう終わった事なのに君がここまで来たのは、それだけ想いが強かったって事だろ?なら、言葉に出さないと」

「...ありがと」

 

そうして、一つ深呼吸をしてから、少女は言った。

 

「ありがとうございました、本当に。私馬鹿だから、それしか言えないです。けど、この気持ちは責任とかそんなものじゃなくて!」

 

「あなたに、サブレの命を救ってもらった家族の、権利なんです。多分」

 

「権利なら侵害はできないな、ハッちゃん」

「氷川、お前...」

「だから、黙って受け取ってやりなよ」

 

言外に、キツイ言い方をした事を咎めつつ先を促す。

 

「わかった、受け取っとく」

「うん!」

 


 

「まぁ、そんな青春イベントを頭の中から放り出してるのがハッちゃんクオリティなんだけど」

「ま...マジ?」

「うん、前にさらっと聞いてみたらガハマさんの名前すら覚えてなかったよ。イメチェンした今じゃ、顔も一致しないんじゃないかな?」

「うー...なら、もっかい仲良くなれば良いだけだし!」

「頑張ってねー、俺は手伝わないけど」

 

「そろそろ予鈴が鳴る、次の授業の準備しなきゃな」

「うー...じゃ、また今度ね!絶対ヒッキーと仲良くなりたいんだから!」

 

元気にタタッと隣の教室に戻っていくガハマさん。

 

「ハッちゃん爆発しねーかなー」

 

おっと本音が漏れた、気をつけねば。

 

その後、席に戻ると「何今のビッチ、お前彼女いたの?」とかほざきやがった奴がいた。てめーの客だよ畜生。

 


 

「それでさー、ガチに覚えてない訳?ガハマさんの事」

「いや、ぼっちの対人スキル舐めんなよ。一度会っただけの奴とか覚えてられるか」

「ぼっちにも色々いると思うぞ」

 

放課後の教室、帰宅ラッシュから逃れるためのちょっとした駄弁り。

何だかんだと続いている奇妙な習慣である。

 

「それで、そのガハマさんとやらがどうしたんだよ」

「今日来たお前がビッチとか言ったチャラい子にジョグレス進化してた。ありゃ男子どもがほっとかんよ」

「へー」

「興味なさげなハッちゃんに耳より情報。実はもう言い寄られた事があるらしいけど、その時に好きな人がいる!で乗り切ったそうだよ」

「そいつはなんとも、リア充が好きそうな話だな」

「その人は、颯爽と駆けつけて、我が身を顧みずに車から家族を助けてくれた人なんだってさ」

「...オイ、お前」

「つまるところそういう事。俺、ハッちゃんへの繋ぎの為だけに脈のない美少女に利用されてんだぜ?MAXコーヒー奢ってくれや、ペットボトルで」

「...まぁ、時間が経てば頭冷えるだろ。恋なんて衝動みたいなもんだ」

「ちなみに、俺はガハマさんをハッちゃんと合わせるつもりはないんだけど」

「一応聞くが、なんでだ?」

「ハッちゃんがリア充とか殺したくなるじゃん」

「真顔でしれっと言うな、怖いだろうが」

 

そんな事を言いつつも、いい時間なので自然と席を立つ。もう少しで吹奏楽部が教室を使いにくるのだ。初めてそれに遭遇した時のハッちゃんの顔は割と見ものだった。どうして写真撮っておかなかったのかッ!

 

「じゃ、また明日なー」

「おー」

 

ハッちゃんは自転車でせかせかと、俺は徒歩でのんびりと帰る。

 

今日はバイトも無いので、帰ったらハッちゃんを陥れる次のCoCのシナリオでも書くとしよう。

 

「あ、でも何処でやろ?...ハッちゃん家押しかけてみるか」

 

TRPGは割と時間がかかるので、学校でさらっととかはできないのだ。ゴリラTRPGみたいなのを除いてだが。

 

いや、学校でゴリラTRPGをやる勇気は俺にはない。アレは深夜テンションでやるものだ。うん。

 

そんな日の事だった。




ガハマさん回でした。ちなみに、主人公の応急手当てのお陰で意識を取り戻すのが早まり、結果遭遇できたという設定です。


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休日の2人

遊戯王がひと段落ついたので、こっちの投稿を再開したいと思います。まぁちょこちょこ書いてたのなんですけどねー。

規約を確認して企業へのステマではないと(自分では)判断したので投げてみます。運営に怒られたらこの話はちゃんと書き直すのでご了承ください。


「ちわー、遊びに来たよー」

「おにーちゃん、氷川さん来たよー」

「いや、なんで休日にウチ来てんだよ」

「え、ほら昨日言ったじゃん。TRPGやるからCoCのキャラシ作っとけって」

「だからってマジで来るか?」

「いや、暇だって小町ちゃんから聞いてたし」

「妹としては、お兄ちゃん相手に普通にしてくれる氷川さんは大切にしたい訳なんですよ」

「お前ら俺の都合無視か」

「ちゃんとウルトラマン見れるように午後から来てやったろ?」

「いや、俺ウルトラマン見てないし」

 

その言葉に仰天する。なんと、ウルトラマンタイガなかなか良さげな空気だったのに何故だ?

 

「よし、予定変更だ。貴様をウルトラマン好きに染め上げてやるー」

「はぁ?」

「ま、俺もにわかなんだけど」

「オイ」

「もう新しいウルトラマン始まってるし、布教ついでに復習も良いかなーって」

 

「というわけで、ハッちゃんが好きそうなのと言えば...やっぱジードかねー」

「ウルトラマンもいろいろいるしな。それで、そのジードってのはどんな奴なんだ?」

「悪のウルトラマン、ウルトラマンベリアルの息子が本当のヒーローになるまでの物語よ」

 

あ、ちょっと反応した。

 

「まず、ウルトラマンベリアルってのは光の国を裏切った悪のウルトラマンで、初出は映画、大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE。ベリアルの宿敵であるウルトラマンゼロもここで登場してるな。その後生き返ったりなんなりしながらついに宇宙の破壊に成功した!ってのがジードの始まり。まぁ多くは語るまい、見よーぜー」

 

そうして、バッグからタブレットを取り出す。

 

「あ、無線借りて良い?」

「まぁ、構わんぞ」

 

教えられたパスワードで無線を設定して、定額動画サービスに接続する。本当にいい文明になったと思う。いや、いちいちレンタルビデオ屋に行くのも楽しかったけどね。

 

「じゃあ、始めるぞー」

 


 

「意外といけるな、ウルトラマン」

「そうだろ?」

「正直甘く見てたわ、子供向けだろ?って」

「始めっからウルトラマンはオタク向けなんだよなー。俺も古いのちょっと見たけどあれブラック過ぎてクソ笑うからな」

「それはそれで気になるな」

 

とりあえず6話見終わっての小休止。小町ちゃんの入れてくれた麦茶のなんと美味しい事か。

そして、やっぱ6話は良い。前半のギャグからレイトさんのサラリーマンの生き方がリクに生き方を気付かせるあたりはちょっとウルっときたくらいだ。

 

「だが、プリキュアほどじゃあないな」

「えー、スタートゥインクル言うほど良いか?変身シーンは好きだけど、前作が神過ぎたからどうしても比べちゃってなー」

「別物は別もんで良いだろうが」

「それと同じ事よ。Hugプリが面白いのもスタートゥインクルが面白いのもウルトラマンジードが面白いのも全部別で全部良い。あれだ、みんな違ってみんな良いんだよ」

「お前...それ本気で思ってるか?」

「いや、擁護できないほどのクソはこの世に存在していることは体験した」

「お前もだったか...」

「オープニングはいい曲なんだけどなー、さすがオーイシお兄さんって感じで。ただあのアニメと紐つけされてしまったが為に聞くたびに悪夢が蘇るのだ」

「お前CD買ったのかよ」

「いや、Apple Musicで」

「お前定額制好きだな」

「学生のうちは安いんだよ、Apple Music。お陰でアプリ入れてないのにバンドリの曲のプレイリストがあるくらいに」

「お前アプリやれよ、課金して社会を回せよそこは」

「音ゲー苦手なんだよ。あと、俺の課金力は全てFGOに吸い尽くされているので無理だ」

「ちなみに月いくら?」

「福袋ある時に課金するだけ。流石に当たらないとわかってるガチャに金は出せん...けどなぁ、ガネーシャさんクソ欲しくて1万入れたんだよなぁ、爆死したけど」

「分からん。ツイッター見たが中身デブいオタク系キャラだろ?なんでそこまで」

「そりゃ、CCCやりゃわかるさ。あの子...って年じゃないけど、あの子は苦しんで、迷って、間違って、それでも2人の男に命と心を救われてその先の未来の姿がガネーシャさんなんだよ。マイルームの会話超気になるじゃん。ウチにはカルナも居ないけど」

「ざまぁ」

「おのれリアルラックでカルナ引いた男め!」

 

話が脱線しまくるが、今日の目的を忘れてはならない。ような気がしたが、ハッちゃん家も定額動画サービス入ってるしまぁここまで悪い反応ではなかったから後は勝手に沼に落ちるだろう。

 

「じゃ、どうする?

「...ちょっと飽きた。いつでも見れるってのはこういうのがアレだよな」

「そうか...じゃあ、TRPGやる...にしてはちょっと時間足りないな。しゃーなし、面白いフリーゲーム見つけたからやろーぜー」

「へぇ、どんなのだ?」

「さまざまな困難をくぐり抜けて告白するゲーム。正直ハッちゃんのリアクションが見たい」

「どんなの...って人のPC勝手にいじるんじゃねぇよ」

「いいじゃないの、コメントオフにしてーと。さ、やってみ」

「...なぁ、タグにホラーゲームとかあるんだが」

「気にしない気にしない」

 

RPGアツマールにあるそのゲームを起動する。

 

タイトルは、“DokiDoki告白ゲームみつみつけ”

悪名高いと噂されている通称“ドキドキ文芸部”からインスパイアを受けて作成されたというゲームだ。

 

「さて、どうぞ」

「言っておくがリアルぼっちの俺に恋愛とか無理だから。なんならオンラインゲームでもぼっちを貫き通したまである」

「あ、俺もそうだわ。未だにスプラトゥーンのリーグマッチやったことないし」

「目黒だったか?あいつ誘えよ」

「いや、目黒っち今ブレワイの沼に嵌ってるんだよ」

「...まぁ、名作らしいしな」

「今度出るスイッチLite買ってやってみなって、崖を見ると登りたくなる衝動が生まれるから」

「いや、あれ買うなら普通にデカイの買うぞ。大画面でやりたいだろどうせなら」

「そうだよなー、何気にバトレボ以来だったもんなー本格ポケモンバトルを大画面でやれるのは。いや、ピカブイのあの空気も嫌いじゃないんだが、やっぱスカーフホルード様の地震で全てを薙ぎ払うのやりたいのさ」

「移行出来るか微妙だろ、ホルード」

「そこは信じるさ。いや、ローテトリプル無くなるって噂の時も信じて裏切られたけれども」

 

などと言いつつニューゲームをクリックするハッちゃん。

 

そして、開始して1分でハッピーエンドを迎えた。

 

「いや、何これ」

「まぁまぁ、セーブして次の週に進むのだ」

 

そうして、徐々に明らかになっていくストーリー。この世界は、男である主人公がヒロインにチョコレートを渡すまでに様々な困難を乗り越えていくという物語だ。

 

そして、ハッちゃんは作者の想定通りに困難を突破し、見事1度目のチョコレートを綾に渡す事を成功した。

 

途中で、元気系ヒロインの沙也加にチョコを一度も渡さなかったのは流石のハッちゃんというところだろう。エンドコンプの為に後々渡す事になるのだろうがこれは言わぬが華だ。

 

そして、綾に一度チョコレートを渡すと、教室の様子が様変わりした。綾の近くだけが、まるで牢獄のようになっているのだ。

 

「いや、ナニコレ?」

「全てに理由はあるから、まぁやるだけやってみ」

「...まぁ、意外とこのゲーム面白いからいいけどよ」

 

そうして、国語力の高いハッちゃんはヒントを完全に読み取り、見事綾に2度目のチョコレートを渡した。

 


 

「いや、スゲーゲームだったなオイ」

「まぁ、ハッちゃんはまだこのゲームをクリアしていないのだけどね」

「ああ、エンディング20がグランフィナーレって感じなのな。正直どのヒロインも怖くなってきたが、まぁやってやるさ」

「というわけで見事空を飛んだハッちゃんにヒントタイム。右上に居る子に話しかけまくると良い情報が貰えるぜー」

「いや、それ最初に言えよ」

「だって簡単にクリアされたら悔しいし」

 

などとぐだぐだしていたらもう良い時間だ。そろそろ帰らなくてはならない。一応医者の家系としては、私大医学部レベルの学力は身につけていないと居心地が悪いのだ。

 

「じゃ、感想聞かせてくれよー」

「おー、また学校でなー」

 

そして、次の日にハッちゃんにメッセージを送ってみたら、「このゲームは面白かった。だがそれはそれとして美人の幼馴染が両思いとか死ねばいいのに」と見事なクリア宣言をしてくれた。

 

これは、なかなかの好感触だろう。

 

今度は、猫耳猫でも貸してみよう。同じ作者さんの作品なのだからきっとハッちゃんも気にいるだろう。

 

そんな、土曜日の話だった。




とりあえず古いウルトラマン見つつNAROUファンタジーをやりつつ執筆しているマンの作者です。
どうしてマン兄さんがプライムで無料の時に最後まで見なかったのか後悔でなりません。いつ終了ってもっと目立つように書いて欲しいのですよねー。


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