もしも…【東條希生誕記念】 (雷電p)
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もしも…【東條希生誕記念】

 

 もしも、ウチがμ’sに入ってなかったら―――?

 

 

 桜の花びらがあたたかな風に乗って空に舞い上がる春の一時。春一番よりも唐突な言葉をあなたから贈られて、ウチはちょっぴり驚いた。

 もしも…だなんて、今まで考えたことが無かったかもしれない……。

……うぅん、違う。

 前に一度だけ、ほんの少しだけ深くはなかったけど、ふと自分で考えてみたことがあった。

 

 あれは、そう、μ’sのみんなで初めての合宿に行った時のこと。

 先輩も後輩も禁止にしてみんなとの親睦がより深まったあの夏。

 μ’sに入ってホンマによかったって思っとった時に、ふと頭に過ったことなんよ。

 

 

 

 もしも、ウチがμ’sに入っていなかったら―――

 

 

 

 もしかしたら、えりちと一緒にずっと生徒会をやっていたのかもしれない。

 えりちはウチの親友。

 ウチが生徒会に入ったのもえりちの影響があったから……と言うよりか、えりちを支えてあげないとあかんなぁと思っていた。

 えりちは頭もよくって人望もあるけれど、あの頃の性格はウチが言うのもなんやけど、とってもキツかったわ。

 廃校のことで余裕がなくって、毎日イライラした顔をしてて、生徒会のみんなも近寄りにくかったなぁ。

 でも、時折見せてくれる子供のようなくしゃれた笑顔がとってもキラキラしてて、ウチの心をときめかせるくらい可愛かったんやで?

 それを見たウチは、「あぁ、もっとえりちのことを笑顔にしてあげたい」って思うようになって、えりちと一緒に頑張ろうって思ってたんよ。

 

 

 

 もしも、μ’sがなかったら―――

 

 

 

 せやなぁ……わからんね。

 学校が廃校になるのが決まってしまうんやろうかな?

 決まったら、えりち、とっても悲しむかもしれへん……。

 そんなえりちをウチは支えてあげられるんやろか?

 ホンマに、わからんなぁ……。

 

 

 

 ん? 大丈夫やで。心配してくれてありがとな。

 

 ウチがしょんぼりしているように見えたんやろうか、あなたはウチを励まそうと陽気な声をかけてくれた。

 その励まし方がちょっぴりぎこちなく見えて思わず、くすっと笑みがこぼれた。

 

 

 え? もしも、えりちたちもおらんかったら何をしていたって?

 う~ん……また難しいことを聞くなぁ~。

 

 話を変えようと、あなたは押し気味に聞いてきた。

 強引やなぁ、と思うのやけど、あなたがそう言うならと少し考えてみる。

 

 

 

 もしも、えりちもにこっちもいなかったら―――

 

 

 

 多分、ウチはそれなりに充実した毎日を過ごせていたかもしれない。

 友達もつくれていたと思う。

 まずは自分の隣の机の子に声をかけておしゃべりする仲になって、そこから段々その範囲を広げてたくさんの友達をつくっていたかもしれない。

 今までにも友達をつくろうと思っても、親の関係ですぐに転校しちゃって、友達と呼べる人は誰もおらんかった。

 そのせいなのか、すぐ人と仲良くなる処世術は身に付いたけれど、友達の作り方は下手っぴ。

 だから、いくら友達をたくさんつくっても、えりちたちのように心を打ち明けられるほどの友達がつくれたかどうかはわからない。

 部活動も生徒会も多分入ってはいない。

 みんなえりちとにこっちがいたから入ったものだから、自分から何かをやりたいとは思わんかったのかもしれない。

 あるとしたら……神社のお手伝いくらいかな?

 1人暮らしするからね、お母さんたちからの仕送りは来ると思うけど、自分で稼ぐくらいはしておかないとって思うかもしれない。

 そこは今と同じ気持ちかもね。

 

 満足できた生活ができていたかは分からない。

 でも、今とはまったく違う環境だったと思うと、なんだか寂しい気持ちになる。

 

 楽しくおしゃべりできる親友。

 ひとつのことに全力で取り組める部活動。

 笑いあったり、ふざけあったりしてくれる仲間。

 

 今のウチには抱えきれないほどの幸せに囲まれて……、それが全部無くと思うと気持ちが暗くなる。

 それくらい、今の生活が充実してて、楽しいと思えるからなんやろうなぁ。

 

 

―――これがウチの考えた答え。

 

 どう、わかってくれたかなぁ?

 自信ない気持ちで聞いてみると、あなたは、うんわかったよ。ありがとうと言ってくれる。

 そか、ありがとな。とウチもつい感謝してしまう。

 ウチの話を聞いてくれて、ホンマに嬉しかったんや。

 

 一応言っておくけど、このことはまだ誰にも話しとらんのよ。

 えりちにもにこっちにも、ね?

 だから、ウチとあなただけのヒミツにしていてほしいんよ。いいかなぁ?

 

 ちょっぴりにこっちみたいにあざとく聞いてみた。

 そしたら、あなたは頬っぺたを紅くさせちゃって、少し照れくさそうに、いいよと返してくれた。

 ふふっ、あなたのそういうかわいい反応が見たかったんやで♪

 ちょっといじわるな感じやけど、2人だけのヒミツにして欲しいのはホントのこと。

 ウチはあなたのことを信頼してるから内緒の話もできるよ。

 

 

 あとね――、とふと脳裏に思い浮かんだもうひとつのことをあなたに教えたくて、思わず口走っちゃった。

 あなたはさっきと変わらないまま、ウチのことをジッと見つめて聞いてくれる様子だ。

 そんなに見つめられちゃうと恥ずかしいなぁと思っちゃうけど、これはあなたのことだからと言葉を紡ぎ出す。

 

 

 

 

 もしも、μ’sに入っていなかったら―――

 

 

 

 ウチは、あなたに出会えていなかったのかも……

 

 

 μ’sは、ウチとあなたが出会ったきっかけ。

 ウチのことを応援してくれたあなたと目があって、運命を感じちゃった。

 運命は思いがけない時に来るってよく言うもんやなぁ。

 初めてあなたと出会った時、ウチは気持ちを隠してたけど、胸の奥ではずっとドキドキしたのを覚えてる。

 

 ウチとあなたとの出会い。

 とっても甘酸っぱくって、とってもあたたかな時間やった。

 μ’sがあったおかげで、今こうしてあなたの隣にいられる。

 

 

 あなたと出会ってから、楽しい時間がたくさん増えた。

 あなたと過ごした数え切れないほどの時間がどれも楽しくて、嬉しくて、尊いものだったか……もう計りきれないわ。

 そして、今まで知らなかった感情に気付くことができた。

 

 

 ねぇ、覚えてる?

 ウチがあなたに打ち明けた想いを……。

 冬のあの日に伝えた、二言の言葉を、ね。

 

 

 

 ねぇ、知ってる?

 あれはね、寒い冬の夜。

 μ’sのみんなと過ごした夜の出来事。

 

 手の平にこぼれ落ちた、白くて小さな、小さな雪がウチに運んできてくれた想い―――

 

 

 

 

 

 

 

『好き』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウチは、あなたのことが、好き……』

 

 

 

 

 

 

 

 あなたに届いてほしいと本気で願った言葉。

 白くて凍りそうな息を吐きながら、あなたに打ち明けたウチの想い。

 

 その想いを受け止めるように、あなたはウチのことをギュッと抱きしめてくれた。

 あったかくって、安心してしまうあなたの胸の中でほろりと涙が溢れた。

 ウチの想いが、望みが叶ったんやなと思って、ついつい涙が止まらんかった。

 

 

 だから、もしも、μ’sがなかったら…と思うと胸が苦しくなるんよ。

 今のウチには、μ’sや仲間たちだけやない。

 あなたが隣にいてくれている。

 こんなにも幸せに溢れた生活が無くなるだなんて、考えられへんし、なりたいとは思わへん。

 あなたはもう、ウチにとってかけがえのない存在なんやで。

 

 

 

 

……って、たくさん語ってしもうたな。

 なんだか恥ずかしいわ……。

 

 

 自分からいろいろと話をしてしまって、思い返すととても恥ずかしい気持ちになる。

 顔がかぁーっと熱くなって、少しくらくらしちゃいそうや。

 

 

 えっ……俺も希のことが好きだよ――ってぇっ!? そ、そんなっ……まっすぐ見つめられて言うやなんて……卑怯やん……。

 でも、そう言ってくれることを期待していたところもあって、正直嬉し過ぎて言葉が見つからんかった。

 それでもあなたにはちゃんと言っておかないとあかんなと思い、ありがとな――と照れくさそうに言ってみた。

 するとあなたはとても素直にウチの言葉を受け止めてくれて、微笑んだ様子を見せてくれた。

 

 そんなあなたを見て、あぁ、この人でよかった――って嬉しく思える。

 

 

 

 

 

 あっ、もうそろそろ練習に戻らんと! またにこっちに叱られてまうなぁ。

 時計を見て、みんなと約束した時間が過ぎようとしていたから焦った。

 

 ウチら3年生は学校を卒業したけど、まだμ’sのままでいる。

 そして、そのμ’sの最後のライブがあともう少しで始まろうとしているから、今は毎日みんなと練習している。

 これで最後なんやなぁ、と思うととても寂しくなる。

 今のウチを生み出してくれたμ’sは最後のライブを終えると無くなってしまう。

 みんなともバラバラになってしまう。

 それがとっても悲しくって、寂しい気持ちになる。

 

 

 でもね、以前と比べたら平気になっている。

 離れ離れになってもウチらはちゃんと繋がっているんやって信じている。

 それに、もうウチはひとりぼっちやない。

 ウチのことを支えてくれる、大切な人がすぐ近くにおるんやから……。

 

 

 

 ねぇ、最後のライブでのウチの姿をちゃんと目に焼き付けてな!

 

 そう言ったら、あぁ、もちろんだよ――とあなたはまた微笑んでくれる。

 あなたのその顔を見たら、頑張れそうな気がしてきた。

 

 うん、大丈夫。

 もう怖くないからね。

 

 

 前に進んで、みんなのところに向かって駆け始める。

 

 

 

 

 

 あと、もうひとつ……

 今度は、未来に向けてのお話を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もしも、あなたがウチの――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

fin...





希、誕生日おめでとう。


どうも、うp主です。
今年でラブライブは9周年を迎えまして、希も一応9回目


の誕生日を迎えることが出来ました。今日まで長く続いたことを感謝したいものです。

μ'sもライブをすることが決まり、本格的にラブライブの世界が大きく揺れ動く一年となりますが、その一挙一動を見逃さずにいきたいものです。

さて、今回の話は、ほんとにぱっと思いついた話です。
天啓と言うべきか、急に先日こんな話を、と頭の中によぎりそのまま書きだしましたら今回の話になったわけです。

「もしも…」という題名は、『もしもからきっと』の希のソロから来ています。
もしもは、希がよく思っていた言葉。
こうであってほしいとたくさんの願いを込めての言葉だったと思います。
実際、希はどんなことを願っていたのか?
その結果がアニメ、映画と繋がる正道であると思います。

今回の“もしも”はその逆で、μ'sが無かった時の彼女はどうしていたのだろうか?と言うことを自問自答していくものです。
様々な未来があったはずですが、今この瞬間がどれほど尊いものなのか、と言うことに深く感じることが出来たのではないかと思います。
そして、どんな未来にあったとしても、希のことを好きになれるのだろうか?という問いを置いて終わらせていただきます。

本当に好きならば、どんな彼女でも愛せるのだと、そう言える人に私はなりたい。


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