男の娘が冒険したって良いじゃない、寧ろしていけ (magunetto01)
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第一話

まず始めに、この小説に興味を抱いていただきありがとうございます。この小説は作者の空想が詰まりまくってますので『あっ、これ苦手だわ』と思いましたら直ぐに閲覧をお辞めください。最後まで見ていただけると嬉しいんですけどね。それでは最後に、男の娘すこ


紅い館の一室。肩にまで届く程に長く艶のある黒髪。黒曜石のような綺麗な黒色の瞳に、少女と見間違えてしまうほど可憐な少年が椅子に座り読書に耽っていた

 

「──ん?おや、珍しいお客さんだね。ようこそ紅魔館へ。僕は概道蒼夜(がいどうそうや)、よろしくね」

 

少女の様な少年は栞を挿してから本を閉じ、昔話をする様な口調で語りだす

 

「君達みたいなお客さんが来るのはとても珍しくてね。本来なら茶菓子でも出すべきなんけど君達には何か物語を語った方が良いかな。そうだね……僕の昔話なんてどうだい?と言っても僕が語るわけじゃなくて、僕の記憶と世界に記録された過去を見せるだけなんだけどね。それじゃ、まずは僕がこの世界で目覚めた所から見てみよう」

 

 

 

 

 

何処かも分からぬ森で少年が目覚める

 

(──ん?ここは……どこ?木が辺り一面に生えてるのを見るに森みたいだけど。でも確か僕はあの時、あの女性を助けようとして鉄柱の下敷きに……。死んだにしては意識はしっかりとある、手も足もしっかり動く。つまり生きている。ふーむ、なるほど、つまりこれはラノベとかで見た異世界転生ってやつかな?いやまあお決まりの神様に会ってないし特典も貰ってもないけど)

 

(ああ、それにしてもまさか僕が女性を助けるために動くなんてね。転生した事より驚くよ。それでこんな何処とも知れない森に来ちゃったんだから、笑い話にすらならないよ。……はあ。このまま延々と愚痴っても良いけど、それで助けが来るわけでも無いし、この森から脱出するために時間を使った方が遥かに有意義だよね)

 

「よし!善は急げだごーごー!」

 

 

 

 

 

脱出するために探索を始めてから十分程経った現在。蒼夜はやや異形の化物から逃げていた。熊の尻尾部分が蛇になっただけの見た目だが、その握力と脚力、蛇の部分から発せられる霧は見るからに毒性を持ち人間を呆気なく死に追い込むには充分な威力を持っているのが見てとれる。死に追い掛けられると言う表現がピッタリ当てはまってしまった

 

慣れない足場を走り続けたのと元から体力も少ないのが災いし蒼夜は木の幹に足を引っ掛けてしまい盛大に転んだ。後ろを見るとあの化物が近付いてくる

 

距離もそこまで離れておらず、やろうと思えば一瞬で殺せる。それを解っているのか恐怖で動けなくなった蒼夜の恐怖心を更に煽るように、ゆっくりと近付き、ついにその腕を振り上げた

 

そして腕が振り下ろされるその瞬間、何かが風切り音と共に蒼夜の頭上を通り過ぎ、そのまま化物の眉間を貫く。そのたった一発だけで巨体は倒れ、起き上がることは無かった

 

「貴女、大丈夫かしら?」

 

三つ編みの銀髪で赤と青にはっきりと別れた服にその配色と位置が逆のスカートを履いて、ナースが付けてるような帽子を被ったとても綺麗な女性が立っていた。その女性の持っている弓から察するに、化物を死に至らしめたのは矢のようだ

 

「……ッ。はい、大丈夫です。助けていただきありがとうございます」

 

助かった、とホッとするも自分が忌み嫌う女性に助けられた、その事実から一瞬だけ顔を顰めるも直ぐに戻した

 

「それは良かったわ。それにしても、何故貴女はこんな所に居たのかしら?」

 

「それが……僕にも分からなくて。気付いたら森に居て、探索してたらあの化物に見つかって追いかけられたんです」

 

「原因不明、ねえ。そうだ、近くに月の都って言う都市があるのだけど、行く宛が無いならそこに来ないかしら?」

 

少し考えた後、その提案を受けた蒼夜は警戒心を抱きながらも、女性の案内で都市に向かって歩き始めた

 

 

 

 

 

蒼夜を助けた女性、八意永琳(やごころえいりん)の案内で都市、月の都に着いた蒼夜はそのまま都市の最も中心に位置するタワーに連れていかれ、今現在エレベーター内でガチガチに緊張していた。なにせ、これから神に会うと言うのだから緊張して当然である。永琳曰く他の神に比べればフランクらしい

 

エレベーターが止まり、ドアが開くと一面白銀色の壁に、月がその向こうに見えるドーム状の天井が現れ、その最奥に見た目に反して神としての威厳を感じさせる銀髪の少女が居た

 

「初めまして、少女よ。私は月夜見(つくよみ)、月を象徴する神だ。気軽に接してくれてもいいが敬意は忘れるなよ?」

 

「は、はい!概道蒼夜です!え、えっと、よろしくお願いします!!」

 

「そこまで緊張しなくても良いのだがな……まあいい。君がこの都市に住むにせよ住まないにせよ私は、この都市は君を歓迎しよう」

 

それで。と言いながら月夜見は二枚の書類を蒼夜に渡した

 

「この書類に自分の名前と年齢と性別と有れば職業と能力を。こっちは住所及びそれに関する書類だが……これは後日提出で構わないぞ。どこか適当な場所で記入して一階の受付に出してくれれば君の身分証明書が作れるから、少なくともこっちの書類は忘れず提出するように」

 

書類をしっかりと受け取った蒼夜は月夜見に礼を言い、永琳と共にエレベーターで一階、ではなく二階に移動した

 

「さあ、貴方の能力を調べましょう」

 

「能力、ですか?ここに来る途中で説明されましたけど……とても僕にあるとは」

 

「無かったら無かったで良いのよ。さっ、始めましょう。そこに座って」

 

二階にある能力検査室。そこに設置されてある椅子に座ったのを確認すると永琳は近くにあるパネルを操作し始めた

 

「一応言っておくけど人によってはほんの少し異物感を感じるらしいわ。でも、もしそうなっても我慢してね?」

 

言い終わると同時にパネルの操作を終えると蒼夜の体を覆うように幾つもの線が行ったり来たり……しかし数十秒程で線は消えた

 

永琳の手元のパネルに『判定中』と点滅しながら表示された画面がやがて審議中となり、最終的に『計測不能』と表示された

 

「計測不能……ですって?そんな、この表示がされるはずが無いのに、なんで?」

 

「僕に能力が無いからそう表示されてるんじゃないんですか?」

 

「いいえ、それは無いわ。能力が無いなら能力無しって表示されるように作ったもの。一応この表示を組み込んだものの表示されることは無いと思ってたのだけれど……貴方、一体何者?」

 

そう聞かれても、蒼夜は明確な答えは出せない

 

「さあ?僕に聞かれましても……」

 

「貴方の事なのに……まあいいわ。その内自ずと判る時が来ると期待しましょう。さて、後はそこの机で書類に記入して提出しに行くだけね。住所は、そうねえ……暫く家に泊めてあげるわ、だから八意永琳宅って書けばいいわ」

 

「えっ!?いやそんな、でも、うーん」

 

やんわりと断ろうと思った蒼夜だが、外は既に暗く、泊まる宛も宿も金も無く、野宿をしようにも不安が勝る。最終的に辿り着いた結論は

 

「分かりました、そう書きます。それと暫くの間お世話になります」

 

永琳の自宅に泊まることだった。二枚の書類に記入を済ませた蒼夜は永琳と共に一階に向かい、自身の身分を証明するカードを手に入れた

 

「それじゃあ早速私の家に案内するわ。夜が開けたらこの都市を、月の都を隅々まで歩き回るわよ」

 

「はい」

 

月と人工的な明かりが照らす都市を二人が歩いて行く。永琳は上機嫌に、蒼夜は内心嫌がりながら




ベースとなってる世界がIS世界と東方世界なんですが、IS世界とか言う極端な女尊男卑思想が蔓延ってる世界で生きてきたんならそりゃ女性に対する警戒心は持ってそうだもんなあ……克服できなきゃ幻想郷編で苦労しそう


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第二話

月の都中心部にあるビルより徒歩五分の場所にあるビルに八意さんの自宅があり、そのリビングに置いてあるソファーで僕は寝たふりをしていた

 

(こんな無防備な姿を晒せばきっと本性を現すか何かしらしてくるはず。それが僕に害を成す事だったらさっさと逃げよう)

 

(……こんな事する必要あるのかなあ。この世界はあの腐りきった世界とは違う。男性は普通に街中を歩いてたし横暴な態度を取る女性も居なさそうだった。なら、この警戒ほ無意味なのかな)

 

そう考え起き上がろうとした時、八意さんが脱衣所から出てきてしまった

 

「あら、蒼夜……寝てしまったのね」

 

寝たふりを止めれない僕に近付き、暫くすると頬を軽く突っ付き始めた

 

「すっごい柔らかい……何時までも触っていたくなるわね」

 

(何故だろう……女性に触られてるのにあんまり嫌悪感が無いや。まともに人と接したのが久々だからかな。それとも八意さんだから?分かんないや。まあそれはそれとして、さすがに突きすぎでは?)

 

「ん……八意さん?」

 

「あら、起こしてしまってごめんなさい。貴方の頬がとても突き心地が良くって、つい」

 

「いえ、お気になさらず。寧ろ起こしてくれてありがとうございます」

 

起き上がって、少し話した後に八意さんが使っている寝室とは別の寝室を借りて寝た。その日は、久々に良く眠れた

 

 

 

 

 

三週間程経って、僕は永琳さん(と呼ぶようにお願いされたので仕方無く下の名前で呼んでいる)に薦められて軍の試験を受け、無事合格し軍に所属している。まあ軍と言っても対人じゃなく対怪異組織、昔で言う陰陽師……なのかな?それに近いんだけどね

 

「おやすみ、十六夜君」

 

「おう、おやすみ~」

 

寮の同居人、十六夜君におやすみを告げて僕の一日は終わる。起きれば身支度を整え訓練に精を出し、また眠る。一見すれば過酷そうに見えるけど、実際に訓練は結構きついけど休みの日はあるし前の世界に比べればそこそこ充実している

 

この世界に来れて良かった。ずっと、とまでは言えないけどできれば長く、続いて欲しい

 

 

 

 

「今日も異常無し。後は交代してもらって帰るだけだね」

 

この世界に来てから一年程経って。今の僕の役職は都市を囲む壁の外側の見張り役をしている。見張りと言っても妖怪が来ることなんて少ないから思わず欠伸が出ちゃうし、来たとしても知能の低い低級程度だし大したことないんだけどね

 

何時もの様に欠伸をしながら見張りを終えて後の人に交代を告げようと門に向けて歩き始めた直後、突然立っていられない程の強い揺れが起きて目を瞑って揺れが収まるのを待った

 

幸いにも揺れはほんの少しの間だけで直ぐに収まった。都市に異常が無いか確認しようと辺りを見渡すと──

 

「……え?」

 

何故か周りを岩に囲まれていた。いや、さっきまで都市を囲ってる壁があったよね?あの壁が一瞬で消えるなんて有り得ないし、だとしたら僕の方が移動した?でもそのタイミングは目を瞑ってた時だろうけど移動した覚えなんて無い。じゃあなんで……?

 

いや、今は原因を考えるよりもこの洞窟っぽい所から脱出しよう。かなり高温みたいでこのままだと熱中症を引き起こして倒れちゃいそう

 

 

 

 

 

どうにか脱出しようと移動し続けてる内に不自然なまでに広がる空間にポツンと剣が、赤く綺麗に煌めく大剣が地面に突き刺さっていた

 

「とっても綺麗……」

 

熱さも忘れて大剣を見続け、好奇心から大剣を引き抜こうと柄に手を掛けた、その瞬間。教会で鳴るような鐘の音が響き始める

 

「っ!?何!?」

 

耳元で鳴ったかのように大音量で鐘の音が響き咄嗟に腰に添えてある剣の柄に手を掛けながら後退り、辺りを見渡すも映るのは岩塊と赤い大剣だけ……何だったんだろう今のは。そっと近付き今度は慎重に柄に手を掛けた。その瞬間にさっきまでそこに有った筈の大剣が突き刺さっていた痕跡だけを残して完全に消えてしまった

 

「幻覚……って訳無いよね。確かに大剣はそこに有った筈なんだ」

 

ならば何処へ消えたのか?頭を捻って考えてみるも全く解らない。これは幾ら考えたところで分かりそうにないし切り上げてさっさと出口を探そう

 

──そういえばさっきから、正確に言えば大剣が消えた直後から胸の辺りが少し熱い様な……気のせいかな

 

 

 

 

 

出口を求めて三千里、も歩いては無いだろうけどそれなりには歩いて漸く日の光が見えた。出口だ

 

「ん~眩しい!」

 

体感数十分程しか経ってないけどあの蒸し暑い洞窟に居たせいか風が何時もの数倍気持ち良く感じる

 

涼しい風を全身で受けながら休憩がてら空を眺めていたら鳥が……いや、あれは本当に鳥?にしては大きすぎるような?

 

いやちょっと待ってあの鳥こっちに向かってきてる!?それに近くなってきたから分かったけど僕より軽く数倍はありそうなんだけど!?どうする?応戦するしかない!?と思ったけどやっぱり大きさ的に絶対無理ー!!洞窟に逃げ込む!!それしか無い!

 

慌てて踵を返して洞窟に転がりながら逃げ込むと同時に鳥が洞窟内に突っ込んできて何処かで突っ掛かったのか止まった。良かったあ、けど出口を塞がれちゃったな。別の出口を探すしかないのかなあ

 

そう考えてふとバチバチと聞こえて鳥の方を見たら口が大きく開けられていてその中に光るものが──

 

「え?」

 

瞬間、意識が途絶えた




東方要素が薄くなってクリプトラクト要素が濃くなっていく……と言うわけでクリプトラクト編です


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第三話

全ての列伝を読んだわけでは無いのでキャラの口調とか行動理由とかおかしい部分があるかもしれません


およそ数十分程前、パルガトラ火山内部で大規模な振動と空間の歪みが観測された。その原因を調査するため私とカトレア、ルゼットと兵士数十人を連れてパルガトラ火山洞に行くことになった

 

「数ヶ月前のあの出来事を思い出しますね~」

 

鬱蒼とした森を歩む最中、ルゼットが懐かしむ様にそう呟いた

 

──数ヶ月前、最後の試験まで勝ち残った当時アルケミスト候補生だったルゼットとアマリリス、他のアルケミスト達を連れて今と同じようにパルガトラ火山の調査に向かった

 

そこで出会ってしまった。炎の様に赤く、人の数十倍は優にある巨大な体躯、首から上が無い鎧姿。その巨躯は動く度に炎を生み、地響きを轟かせ、どこからか鐘の音を響かせる。後に調べてみるとそいつは(いち)の使徒ゼネスペトロと言う兵器だと分かった。そんな奴を相手にルゼットとアマリリスを逃がす事は出来たものの、私達は全滅寸前にまで追い込まれてしまった

 

あと少しで殺されかけた所を幻獣から力を受け取り、戻ってきたルゼットに助けられ、余力を振り絞り、ゼネスペトロが動いたせいで脆くなった洞窟を崩落させることでその場はなんとか生き残ることができた

 

その数日後、ゼネスペトロを完全に仕止める為に万全の状態に整え、再びパルガトラ火山洞内部の崩落地に向かったけど……そこには岩塊以外何も無かった。まるであの巨大な兵器なんて元から無かったかのように

 

「──ツィアさん!ルクレツィアさん!!」

 

「っ!?……ごめんなさい、考え事をしていたわ。それで、ルゼット?何かしら?」

 

「火山洞に入れる唯一の入口がヴィフラテイルのせいで塞がれてるみたいですよ!」

 

鬱蒼とした森を抜け、パルガトラ火山の麓まで近付いて漸くその存在が確認できた

 

ヴィフラテイル。嵐を連れて羽ばたくと言われる鳥型の幻獣。それが何故無様にもパルガトラ火山に突っ込んでいるのだろうか?いえ、今はそんな事を考える必要は無いわね

 

「調査の邪魔になるわね。蹴散らすわ」

 

 

 

 

 

ヴィフラテイルが塵となって消えていく。パルガトラ火山に突っ込んでいたおかげで一方的に攻撃し、倒すことが出来た

 

「だ、誰か倒れてますよ!?息は……してます、生きてますよ!」

 

ヴィフラテイルが突っ込んでいた洞窟の奥でヴィフラテイルの雷でボロボロになったと思われる服を纏い、身体には傷一つ見当たらない少女が倒れていた。直ぐに救護班に手当てをさせ、カトレアに護衛を頼みルゼットと私は洞窟の奥に進んだ

 

「今のところ、何も異常はありませんね」

 

「そうね。岩塊しか見当たらないわ」

 

やがて行き止まりに到達し引き返すしか無くなってしまった。大規模な振動と空間の歪みの原因らしき物は何も無かったわね。となると手掛かりとなるのはあの少女かしら

 

 

 

 

 

──熱い。目覚めてから感じたのはそれだった。いや、目覚めてないねこれ。多分明晰夢的なやつだろう。何せ前世で住んでいた自宅の前に月の都の兵士用の服を着て立ってるんだから

 

「懐かしいなあ……」

 

夢の中とは言え懐かしの我が家を見れたのは嬉しい。……周りが火の海じゃなかったらもっと嬉しいんだけどなあ。そうやってかつての自宅と虚空を見ていると視界の端に人影が写った。ただその人影はぼやけすぎていて誰だか分からないし首から上のシルエットが無いような……?

 

ぼやけた人影を見続けていると段々と体の感覚が無くなっていくのを感じた。多分夢から目覚め始めているんだろう。その感覚に身を任せて目を閉じる

 

──何処からか響く鐘の音を聞きながら夢から目覚めた

 

 

 

 

 

お決まりの展開の様に目覚めた僕の視界には知らない天井が写っていた

 

「あっ、あの娘起きてますよルクレツィアさーん!!」

 

医務室と思わしき部屋の扉が開いて一瞬だけ緑色の髪が見えたと思ったら次の瞬間には声だけ残して消えてしまった……。数分後にさっきの緑色の髪の少女とそれに加えて銀髪の少女がやってきた

 

「初めまして!私はルゼット、でこちらは」

 

「ルクレツィアよ。早速だけど貴女の名前と、何故あの洞窟に居たのか話してくれるかしら」

 

それから僕は話せる部分だけ話して、その次に記憶喪失認定を受けながらこの世界について聞いた

 

この世界には幻獣と呼ばれる、天災そのものと言える生物が存在するらしく僕が気を失う前に見たあの大きな鳥はヴィフラテイルと呼ばれる幻獣らしい。ルゼットさん達みたいに幻獣の成り立ちを調べる人達はアルケミスト、と呼ばれているらしい。うん、成る程理解が追い付かない

 

そんな訳で療養と経過観察のため暫くはここ、アルケミスト養成学院に身を置くことになった。元の世界に戻る手掛かりを探すためにもこの世界について学ぶためにも、後でこの学院の書庫に行ってみよっと




クリプトラクトで好きなキャラはバルドル君です(隙自語)


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第四話

確かクリプトラクトのメインストーリーはアルケミスト・ゼロ、探空家と約束の天使、天翔の記より約200年程後の話だったような気がしますが詳しくは忘れたので上記全ての出来事を同年代とします


『この世界の人類史を語るにあたって絶対に避けてはならない戦いがある。それが幻獣戦役。その時代は数多くの英雄が生まれた時代。その中の一人、ギルザと言う男とそのギルザが率いる暁の傭兵団が幻獣王プロビデンスを打ち倒し人類の生存圏を勝ち取った正に人類史の礎と言える戦いだ』

 

アルケミスト養成学院の医務室で着替えを受け取って着替えた後、この世界の事を詳しく知るために学院の書庫でルゼットさんとルクレツィアさんの薦めもあり最初に『幻獣戦役』と銘打たれた本を読み始めた

 

その内容は後にギルサニアの祖と呼ばれるギルザと言う人が暁の傭兵団を結成する経緯と幻獣戦役、その最終決戦とギルサニアと呼ばれる国が出来るまでの出来事を描いた物語だった。天災と言われる幻獣達の王と一騎討ちで勝つなんて凄い!他にはどんな英雄譚があるのか知りたいし他の本も借りてこよっと

 

 

 

 

 

一週間後。ソウヤは書庫にある殆どの本を読み終え今はアルケミストについての本を読んでいる。私はその隣で紅茶を飲みながら見守っているだけだ

 

──やっぱりおかしいわ。パルガトラ火山で保護した時は気にする暇は無かったけれど今こうして思い返してみるとおかしな部分があった

 

医務室で出会った時、服はボロボロでもその綺麗な肌には傷一つ無かった。幻獣の攻撃を受けた筈なのにその身体は健康体そのもの。救護班の手当てによるものかと思ったけれどその救護班から手当ては特にする必要は無かったと報告が上がっている。なら何故服はボロボロなのに身体には傷が無かったのか?仮説は幾らでも浮かびはしたけれどどれも仮説の域を出なかった。結局の所幾ら考えても答えは出ず、真実は恐らくソウヤが忘れてしまった記憶の中にあるのでしょう

 

「わっ!ルクレツィアさん、何か出ちゃいました!」

 

ソウヤの驚いたような声に思考を中断して横を見ると薄く赤色に発光しているウサギらしき生物が浮いていた。いや、あれは生物じゃなくて

 

「えっ、それってまさか……法獣?」

 

いや、そんな訳が。でも法獣と同じようなエネルギーを感じるし……でもこんな直ぐに法獣が出せるわけ

 

「凄いですねこのアルケミスト入門書。直ぐに法獣?が出せました!」

 

「読んで直ぐに出せるものだったかしら……?」

 

頭の中をクエスチョンマークで埋め尽くしているとソウヤの法獣が私の膝の上に降りてきた。抱き締めてみるともふもふとした気持ちいい感触が伝わる

 

「そうだわ。ソウヤ、来年の認定試験を受けてみたらどうかしら?」

 

入門書を読んだだけで法獣が出せたのだからその秘めた才能は相当なものでしょう。幻獣にはまだ未知の部分が多い。それの解明には優秀な人材が必要だしソウヤみたいな将来有望な若者をこうして引き込んでおくことも必要でしょう

 

「アルケミスト認定試験、でしたっけ。その試験を受ける前に旅をしてきても良いですか?」

 

「旅?まあ次の試験が実施される一ヶ月ぐらい前までなら大丈夫だと思うけれど……どうして急に?」

 

「僕がこの世界について色々と知らなさすぎるのと本だけじゃなくて色んな場所の光景をこの目で見てみたいな、って思って」

 

なるほど。来年に向けてこの学院で鍛えるのも有りだと思うけれどソウヤがそうしたいのならば止める必要は無いわね

 

 

 

 

 

翌日。クリアランドと言う島に向かう船の甲板にある柵から僕の法獣ファウィスと一緒に海を眺めていた。潮風が気持ちいいね。前世でも前の世界でも船に乗る機会なんて無かったから新鮮な気分だなあ

 

──ん?おや?あれは……何だっけな。確かクラーケンの幼体だったっけ。それが群れを成して真正面から船に向かってくる。幾ら幼体とは言え幻獣、その群れがこのまま船に激突すれば船が沈むのは想像に難くない。ならばやるべき事は一つ

 

「ファウィス!」

 

肩に乗っていたファウィスが僕の頭上に移動し火炎放射を群れに向かって放つ。その傍ら火属性の初級魔法で弱ったやつを沈めていく

 

十分かそれ以上か。クラーケンの幼体の群れを全て駆除し終えた頃には魔力を使いすぎたせいで頭がフラフラし始めた

 

「ありがとうお嬢さん。おかげで沈没せずにクリアランドまで行けそうだ」

 

「そ、それは良かった……です……」

 

船長と思わしき初老の男性から感謝されたけどもうダメ、意識を保てない……

 

魔力切れを引き起こした僕は膝から崩れ落ちて初老の男性に僕の性別についての誤解を解けぬまま倒れ込み、気絶した




魔力はあらゆる生命に多少なりともあるそうです(東方の設定を参照。いやそもそも東方における魔力の設定ってかなり曖昧だったような気がするけどまあいいか)


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第五話

クリプトラクト世界の設定集が欲しい


港の喧騒が聞こえる宿屋の一室に魔力切れで倒れた蒼夜が寝ていた。あの後、船長が周りに呼び掛けたのととあるアルケミストの助けもあり、蒼夜をこの宿屋まで運んだのだ

 

時折、蒼夜の左胸から僅かながら炎が零れる。その量は微量で直ぐに消えてしまうため宿屋が焼ける心配は無いがそもそも炎が零れる事自体がおかしいのだ。その原因は少年の夢の世界、或いは精神世界的なつまり内部で起きている戦闘が原因のようだ

 

ただただ真っ白い景色だけが続く世界で炎を纏った剣が左から右へ斜めに振り下ろされる。それを躱した蒼夜は即座に横凪ぎに今しがた振るわれた剣と酷似しているものの、炎を纏っていない剣を振るう。しかし、相手の振り上げによってその剣を破壊され無防備になった所を叩き付ける様に斬られて死亡。これで五度目だ

 

またあの首が無い騎士の前にリスポーンする。これで五回目だっけ。死んだ時に痛みを感じないけど不快感は残る。その不快感を振り払うように駆け出し、相手の心臓を貫こうと切っ先を突き出すもなんと片手で捕まれ一瞬だけ止まる。けれどちょっとだけ違うものの阻まれるのは想定内、柄を手放し左斜め上から迫る刃を躱して相手の左後ろに回り込む

 

「──はっ!?」

 

飛び起きた。最悪な終わりだったよ。相手の剣を奪おうとして腕を動かした瞬間にいきなり後ろ蹴りを入れられて怯んだ所を逆手に持った剣で体のど真ん中を貫かれて起きるなんて……。あの嫌な最後を思い出していると殆ど意味の無いノックの音と扉を開ける音が同時に聞こえた

 

「あら、起きたみたいね」

 

青いカエルみたいな生物を肩に乗せた金髪の女性が入ってきた。どちら様?

 

「起きたばかりで状況を把握できてないだろうから簡単に説明するわ。貴女はクラーケンの幼体の群れを相手に奮闘してその後魔力切れで気絶。そして気絶した貴女を船長さんと私の協力でここに運んだって訳、今の説明で分かったかしら?」

 

「分かりやすい説明ありがとうございます。あの、気になってたんですけど貴女ってアルケミスト……なんですか?」

 

「ええ、そうよ。私はリディ。ここクリアランドを拠点にしてるアルケミストよ。貴女のその兎から察するに貴女もアルケミストみたいだけど……今年の認定試験で貴女を見た記憶が無いのよねえ。貴女の法獣ちょっとだけ他より強い力を感じるし記憶に残ると思うんだけど」

 

「えっと、僕は今年の試験は受けてなくて来年のを受ける予定なんです。今はちょっとした旅をし始めたばかりで」

 

「ふーん、じゃあクリアランドを案内してあげる。起きたばかりだろうけど立てる?」

 

「大丈夫……みたいです」

 

少しフラつく足で立ち上がって外へ向けて歩き始めた

 

「そうそう、折角街に出るんだからオシャレとかしてみない?スカートとか着てさ」

 

「僕、見た目はこんなでも男なのでスカートとかはちょっと着たくはないかな~、って」

 

「えっ!?」

 

 

 

 

 

性別の誤解を解いた後、リディさんの案内でクリアランドを見終わった後、リディさんと別れて宿に戻ろうとした時にふと耳に綺麗な歌声が微かに聞こえてきた。郊外にある屋敷の方から聞こえてくるような?

 

そう言えば郊外の屋敷は呪われている。て言う噂を聞いたっけ。けれども好奇心に押されて屋敷に向かった

 

音を出来る限り出さないように草を掻き分け進み続けるとそこそこ手入れのされている広い庭が見えた。その中心で黒いドレスを着た少女が演劇の様に歌い続けている

 

「素晴らしい演目だったよメイディア」

 

少女の歌が終わり、少しの間をおいて青い紳士服を着た男性の拍手が鳴り響く。鎧を纏った騎士風の女性や少女達の拍手も鳴り始めた

 

「ところで──そこに隠れているお客さんは、出てこなくていいのかな?」

 

紳士服を着た男性の拍手が鳴り止むと同時にその視線と目が合った。ば、バレてる……

 

「あー、えっと……見物料はいくら払えば良いのかな?」




ガルニエの怪人好き。ある意味ハッピーエンドで好き。
もっと長く書きたかったけどいやーきついっす。ブレス・オブ・ザ・ワイルドに時間を取られ過ぎた。女装リンク君がメチャクチャ性癖に刺さる


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第六話

なんでティラノサウルスと再臨ケルベロスはあんなに心をへし折りに来る鬼畜難易度なんですか(満身創痍)


青服の紳士ビザールさんに見つかった後、夜のお茶会に招待されてメイディアさんの演劇やアルマさんの剣舞を観賞したりしてその夜を過ごした

 

蒼夜がその日見た夢は、昨日と同じく何もない景色の中で首無し騎士との戦闘を強いられる夢だった。時には首を斬られ、時には炎剣で叩き潰され、時には燃やされ……散々な死に方ばかりだが昨日と違う点を上げれば騎士の鎧の所々に罅が入っていることか

 

『──!』

 

炎剣が横凪ぎに振るわれ咄嗟に防御しようとした蒼夜だったが呆気なく破られ死んだ

 

再び騎士との戦闘直前の状態にまで巻き戻され再開される。距離を詰めて右腕を狙った攻撃は炎剣によって阻まれ押し返された所に即座に振り下ろしが来る

 

「ぐっ!」

 

振り下ろされる炎剣の側面を拳で強打し、右手の骨を何本も折る重症を負いながら左腕スレスレを斬られながらも回避した。直後に炎剣が大爆発。巻き込まれた蒼夜は勿論死亡、再び巻き戻され再開される。距離を詰め、初撃の振り下ろしを避けながらカウンター気味に首を狙った一閃は当然の様に防がれ届かない。すぐさま首無し騎士の攻撃が来てそれを逸らそうとするも呆気なく破られ死亡。そのまま巻き戻され再開される……事は無く、夢から目覚める時が来たようだ

 

「ん、うう……はあ。何時になったらあの夢は見なくなるんだろう」

 

あの騎士を倒すまで終わらないのかな?だとしたら相当先は長いよね。朝から憂鬱な気分になりながら身支度を済ませ、ビザールさん達に別れを告げてクリアランドの漁港近くにあるカフェに向けて歩き始めた

 

 

 

 

 

「ご注文はお決まりでしょうか」

 

「パンケーキセットを一つください」

 

「畏まりました。少々お待ちください」

 

1500ゴルド(日本円換算で1500円)のコーヒーとパンケーキのセットが届くまで暇潰しに近くに置いてあった新聞を読んでみたら随分と興味の惹かれる記事が有った。記事の内容は探空家のジョットとメープルの兄妹が祖先であるジョルジュが書き残したヴィクトール浮島群より遥か高くにあるとされる世界を見つけた、と言う内容だ。探空家自体にも惹かれるけど未知の世界ってのもロマン詰まってて良いよね~。記事じゃ詳細は書かれてないけど。アルケミスト兼探空家にでもなってみたいなあ。なんて空想を広げてたらコーヒーとパンケーキが運ばれてきた。これを食べ終えたら早くリディさんにお別れを告げないとなあ。確か昨日僕が運び込まれた部屋の隣に居るんだっけ

 

 

 

 

 

「リディさーん、居ますかー?」

 

ノックをしてから中に居ることを願いながら訪ねる。直ぐに足音が聞こえたため中に居るんだと安心した

 

「はいはーい、何か用かしら?ソウヤ」

 

「用って言うか旅に出るから別れの挨拶をしようかと。短い間でしたけどありがとうございました」

 

「あ、もう旅に出ちゃうの?そっか。次に会うとしたらクリアランド(ここ)か、選定試験って事になるのね?」

 

「多分そうなりますね。それじゃあ、お互いに元気で!」

 

「ええ、また会いましょう!」

 

握手をした後、次なる目的地に向けて歩みを進めた。行く先はこの大陸、セントレア大陸における最大級の国家ギルサニア帝国の皇都セントラルだ!

 

 

 

 

 

と意気込んで歩き続けたけど……

 

「ここどこ~!?」

 

ま よ っ た

 

おっかしいなあ?ちゃんと地図通り歩いてると思ってたんだけど。にしてもこうなった以上、暗くなる前に早く何処か安全地帯を見つけないと。野宿なんかして夜盗や野生動物に襲われて死ぬなんて真っ平ごめんだからね

 

モンスターを退けたり魔獣を燃やしたりしながら森を彷徨い続けておよそ数十分、暗くなりかけてたけど村を見つける事ができて更に泊めてもらうことも決まった。ついでにセントラルまでの道順まで教えてもらってラッキー

 

 

 

 

夜。殆どの生物が寝付き、静寂が訪れた頃。村から然程離れていない森に在る古びた魔方陣が仄かな光を放ち始めた。その数秒後に魔方陣から粘性の何かが這いずる音と共に獣の様に四足歩行で蠢く緑色の泥が這い上がった

 

『──』

 

蠢く泥はその体から泥を飛ばし、たまたま上空を飛んでいた鳥を撃ち落とし補食し始める。すると泥の一部が波打つ様に揺れ、その泥より一回り小さく、しかし人間と同等のサイズの泥が生まれた。それを切っ掛けに泥は周りの樹や土等を喰い荒し瞬く間にそして静かにその数を増やしていった

 

森の一部が消滅したと錯覚するほど食い荒らした後、悪意を持って喰み増える泥達が遂に人すら喰わんと動き始める



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第七話

クリプトラクト世界の料理はよく分かんないから解説本とか出してほしいな


その日は何故か寝付けなくて椅子に座ってファウィスを撫でながらボーッと月を眺めていた。だからなのかもしれない。その異変に最初に気付けたのは

 

窓を開けて正面の森、その少し手前に何かが蠢いている感じがしてそこを注視してみると確かに蠢いている何かが有った

 

その何かは徐々にハッキリと見えるようになりやがてそれが幻獣の、ウロデラディタの群れだと気付き直ぐに行動に移した。二階の窓から飛び降り地面に着地するまでの間に指先から火炎弾を飛ばす。狙いなんて一切付けていないけどあれだけの数だ、適当に撃っても何れかに当たる。結果は五発中二発ヒット。その二体が僅かに硬直しそれに後続が激突。群れの一部の動きを一時的だけど封じることに成功

 

「ファウィス!火炎放射!」

 

法獣による火炎放射と同時に両サイドのウロデラディタに火炎弾をお見舞いして更に今造れる限り大きい火炎玉を造り群れめがけて思いっきり蹴っ飛ばして爆発させる。しかし流石は幻獣。足止めにはなっても大したダメージにはなっていないようだ。どうやら今の爆音で村の人達が幻獣の襲来に気付いて避難し始めた。なら避難が終わるまで時間を稼がなきゃね

 

火炎弾を飛ばせるほどスペースに余裕が無くなれば後退しまた火炎弾を飛ばしながら泥と押し潰そうとしてくる前足を避けながら縦横無尽に動きウロデラディタを引き付ける。命懸けの回避を繰り返し続けてふと気付くと村の人達の声が聞こえなくなっている。どうやら避難できたようだ

 

「これで僕の役目は御仕舞い。それじゃあ逃げると──え!?」

 

逃げようと視線を逸らした先、逃げ損ねたのか家の影にに男の子が立っていた。それにウロデラディタも気付き男の子に向けて泥が飛来する

 

「危ない!──ぐぅぅっ!!」

 

僕の右腕を代償に泥を防いだ。今まで味わうことが無かった激痛が襲ってくる。多分右腕の大部分の骨が折れたのだろう、血が止めどなく流れて意識は消えそうなのに鼓動は速くなっていく。でも今はこの痛みに悶えるよりも先にこの子を安全な場所へ逃がす為に男の子の手を取った

 

「だ、大丈夫お姉ちゃん!?」

 

「ぐっ……ははっ、これぐらい平気さ。それより早く逃げよう」

 

 

 

 

 

どれだけ走ろうと足止めをしようとも幻獣の群れは執拗に蒼夜達を追い回し続けた

 

「あっ!くそっ、崖か……」

 

暗い世界の中必死に走り続けて辿り着いたのは前方を崖に阻まれ左は地面が見えないほど高い断崖しか無く後方には幻獣の群れ。唯一逃げられそうな右側に逃げようにもたった今幻獣が放った泥が木々をへし折りその木々が逃げ道を潰した。詰みだ

 

子供を庇いながら視界を多い尽くすほどの幻獣と戦い、勝てるか?否。不可能である

 

(いっそ下に川が流れてることを祈って飛び降りる?いや、もし下が地面だったら死だ。かといってこの数を相手にするのは無理、ならどうすればいい!)

 

思考を回転させ続けるも打開策は浮かばずただ死を待つしか無い。蒼夜達が詰んでいると確信しているのかゆっくりと近付く幻獣達。そして充分に近付き幻獣達が同時に前足を上げた瞬間

 

「ごめん、お姉ちゃん」

 

「え?」

 

視界に急激に星空が写し出され何かが潰れる音と落下する感覚を感じながら蒼夜の意識も落ちていった

 

 

 

 

 

「今日の依頼ちょっと簡単すぎたね~、団長」

 

「よほど危険な場所を渡らない限り行商の護衛なら今回みたいに簡単さ。それでいて報酬は良いんだから中々良い依頼だろう?まあ暇なのは辛いけどねえ」

 

月明かりとそれを反射する川の光だけが唯一の光源になっている道を青竜を連れた少女と赤髪の女性が歩いている

 

「今日はマールテイトに何作ってもらおっかな?牛丼♪海鮮丼♪パエリアも良いかも。迷っちゃうなあ~……ん?」

 

少女が上機嫌に今晩のリクエストを考えていると川の反射光を遮るほどの大きい物体、いや人が流れてきた。

 

「おや、人が流れてるなんて珍しいねえ。助けるかい?」

 

「いやいやいや呑気に言ってる場合じゃないよ団長!早く助けなきゃ!げるるん、あの人を引き寄せて!」

 

青竜が流れてきた人の襟元を軽く加えて少女の元まで引き寄せそれを受け取った少女が流れてきた人の心肺蘇生を試みる中赤髪の女性は右腕部分に大量に付着している血痕に気付き袖を上げて骨折等していないか確認してみたが特に異常は無かった

 

(おかしいねえ。あれだけ血の痕があればかなりボロボロになっている筈だけどこいつの腕はキレイだ。だとすると返り血?右腕だけに?)

 

赤髪の女性が流れてきた人の血痕について思考している間に心肺蘇生が終わったようだ

 

「団長、この子拠点まで連れていって良い?」

 

「途中で投げ出して死なれたら後味悪いからね、連れていきな」

 

「よし!げるるん、この子の運搬お願いね」

 

少女が軽々と流れてきた人を担ぎ上げ青竜の背中に紐でしっかりと括り付け青竜が飛翔すると同時に少女と女性は凄まじい速度で拠点に向けて疾走し始めた




クリプト世界の奴らは大体人外の域に片足以上突っ込んでる


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第八話

昇華ナディア強すぎて草だけど素材要求数多すぎでしょ……五帝並じゃん


「……」

 

寝る前の記憶があやふやだけど何時もの何もない世界の夢を見ている。ただ何時もと違うのはあの首無し騎士ではなく全身黒い煙で覆われた人影が佇んでいた

 

『そんなに警戒しなくてもいいよ。僕は君に喋りかける以外に何も出来ないしその逆も然り』

 

「……あなたは誰?」

 

『ふふふ、僕は誰だろうね?まあ僕が誰かなんてどーでもいい事だし何れ遠き未来で知るだろうからここで語る必要は無し。今回ゼネス……あー、首無し騎士を押し退けてまで来たのは君に忠告するためさ、復讐心に呑まれるな。ってね。まあ無駄になるんだろうけど。それじゃあ言うべき事は言ったし僕は消えるよ、じゃあね~』

 

一方的に話すだけ話したら煙の様に消えてしまった……忠告しに来たって言ってたけど内容が全く分からない。復讐心に呑まれるなって。確かに強く恨んでる人は一人いるけどそれも前世の事だから復讐のしようが無いし……うーん分かんない

 

地面に寝そべって何も考えず頭空っぽにして過ごしていると段々と目覚めの兆候が来た

 

「ん……」

 

瞼の上から光を感じて目を開けた。朝日が眩しい。どこだろうかここは。窓から見える景色からすると二階建ての木造みたいだ。宿……ってわけないよね、泊まった記憶が無いし。誰か居ないか探しに行くついでに僕の服がどこにあるのかも探さないとね。この建物に住んでる人の物なのか緑色のパジャマみたいなの着てるし

 

ベッドから起き上がってバキボキと音を鳴らしながら軽く体を動かしてから廊下に出た。どうやら僕が寝ていた部屋は突き当たりの部屋らしく扉の真正面と右側には壁があって左側に5つのドアと奥に階段が見える

 

階段を下りて左側にターンすると厨房らしき場所に立つ薄紫色のような髪の人が居た。話しかけようかと思ったけど料理中みたいだし待ってよっと

 

蒼夜が待ち始めてから約三分後、階段正面の玄関が開いて緑髪の少女と赤髪の女が現れた

 

「あっ!川で溺れてた人!良かった~、目覚めて」

 

「お帰……お?リュナが連れてきた人、起きたの~」

 

厨房に立つ料理人が料理しながら振り返って漸く蒼夜の存在に気付いた

 

「川で……溺れてた?僕が?」

 

「そうだよ。あの時はビックリしたな~、水に顔突っ込んだ状態で流れてきたんだもん。咄嗟に岸まで引き寄せて応急処置をしたけど死んじゃったらどうしようって焦ったよ~」

 

「そんな状態だったんですか……。助けていただきありがとうございます。っとそうだ自己紹介がまだでしたね。僕は蒼夜、肩に居るのは法獣のファヴィス。まあ僕はまだアルケミストじゃないんですけど」

 

「私はリュナ。この角を見れば分かると思うけど竜人族だよ」

 

「マールテイトよ~。主に料理当番してるの~」

 

「私はメルセスカ。メルセスカエッジって言う傭兵団を率いる団長さ」

 

(メルセスカエッジ……確か学院の書庫に記載があったっけ。金を払えば大抵の事は引き受ける傭兵団。幻獣討伐も引き受けて……うっ!)

 

幻獣。その単語を思い浮かべた瞬間に緑色の何かが脳内に浮かびそれを拒絶するような痛みが脳内に走りその痛みに蒼夜は耐えきれず膝から崩れ落ちた。幸いにも意識は失ってはいないが壁に手を付けそれを支えに立ち上がるのがやっとな程衰弱してしまった

 

「ちょっ!?大丈夫!?やっぱりまだ何処かに傷があるんじゃ?」

 

「だ……大丈夫ですよこれぐらい。痛みは一瞬でしたから」

 

「良くないよ!?とりあえず座って!何か飲む?団長とマールテイトも手伝って!」

 

リュナとメルセスカの二人は蒼夜を椅子まで運びマールテイトは飲み物を取りに行った

 

「ほら、これ飲んで。マールテイトが淹れてくれた紅茶だよ」

 

蒼夜は礼を言い紅茶を飲み、一息吐いた



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