ゴッドイーター2~転生者で空気な神機使い~ (ねこめ)
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本編よりまえの話
1 今日からお前は


頑張って書きます。いいものになるかは保障できないけど・・・。


 まずは自己紹介から。

 僕の名前は西村悠也。どこにでもいそうな普通の男子高校生だ。いやついさっきまでは普通のと言えただろう。

「ここどこ・・・」

 今僕は真っ白な空間にいる。人工物はもちろん、空すらない。いや正確には空と思わしきものまで真っ白なのだ。

 いきなりこんなこと言われてもわからないと思うからこうなるまでのいきさつを説明しよう。

 

   ◆◆◆

 

 この時期、僕は冬休み中でソロ充生活を楽しんでいた。友達はいることにはいるけど自分は自分、他人は他人という考え方の人が多いせいか集まる機会はほとんどない。僕はどちらかというと誰かと一緒になにかするのは結構好きなほうなんだけど。でも人を誘うほどの勇気は僕にはない。だから今日も家でMMOをやっていた。しかし、今日は親しいフレンドも都合が悪いのかどれだけ待ってもログインして来なかった。

 だらだらと過ごしていると一日というのはあっという間に終わるものだ。夜になってMMOにも飽きたのでとあるゲームをやるためにPlaystation vitaを起動する。そのゲームとはずばり、ゴッドイーター2だ。このゲームは無印時代からずっと追いかけているゲームでドハマりしているゲームだ。なによりの魅力はキャラとシナリオ。このゲームのお話はいつも泣かせてくれる。特にBURSTの主人公のセリフにぶわっ(涙の音)てなった

 僕はウチの子大好きなタイプなので本当に感動した。「キャァァシャベッタァァァ!」なんて言えるものじゃなかったね。

 ちなみに女主人公だ。ボイスは15。このゲームのおかげでボイス15の声優さんのファンになったなんてエピソードも。

 ともかくゴッドイーターはすごいゲームなのだ。

 

 熱意は伝わったと思うから話を戻す。

 vitaを起動すると迷わずGE2を選ぶ。

 そして僕は今夜も自分の分身(アバター)である「神戸クレハ」を操作してアラガミを狩っていった。

 プレイしているとどんどん時間が過ぎていく。眠くなってきたけどそのまま続けていた。そしたら意識が飛んだ。

 

  ◆◆◆

 

 そして目が覚めたら目の前には真っ白なにもない世界が広がっていました・・・と。

 完全に夢だと思う。でもこんなに意識がはっきりした夢を見るのは初めてだ。頬をつねったりすねをつねったり。挙句には自分で自分を思いっきりなぐってみたけど全く目が覚める様子はない。

「ここどこ・・・」

「ここはどこかじゃよ」

 背後から声が聞こえた。振り返ってみると僕より若干年下っぽい少女が立っていた。

「きみだれ?」

「ワシか? ワシは・・・う~ん」

 少女は腕を組んで悩む。

「わかんないとか言わないよね?」

「言うぞ。さっぱりわからん!」

 いきなりなんなんだ、この子。そうだ。この子のことは置いといて。

「ここどこなの?」

「じゃから、ここはどこかなんじゃって」

「それってわからないってこと?」

「わからんわけではない、ここはこの世界のどこかなんじゃ」

 それわからないっていうことと変わらないから・・・。たぶん、この世界というのは夢の世界なんだろうけど。ハッキリ言ってそっちのほうがいい。異次元なんて話にならない。

「おお、そうじゃ。ワシはお前に用があるのじゃった」

「用ってなに・・・」

 それが終わったらさっさと自室という世界に戻りたいんだけど。

「唐突じゃがお前には今日からとある世界に行ってもらう」

「は?」

 唐突って言っても限度っていうものがあると思う。

「これはそのなんじゃ。上からの命令なんじゃ。我慢してくれたも」

「上ってなに? 大体きみは何者なの?」

「ワシは神の代理を務めている者じゃ」

「神の代理?」

「そうじゃ、まあワシももっと頑張れば本物の神になれるのじゃが・・・。これがまた疲れるモンで」

 さっきから言ってることが意味不明だ。このロリババァ神様もどき(ロリではないか)。なんかこんな喋り方してるキャラがいたようないなかったような・・・。

「そういやとある世界に行くって言ってたけど」

「ああ、それじゃ。お前にはごっどいーたーの世界に行ってもらう」

 まずい。これは非常にまずい。死亡フラグビンビンじゃないか。

「なに!? 僕がなにしたっていうの!? そんな地獄に行くのとほぼ同じことされるようなことはしてないよ!?」

「心当りはないのかの?」

「う・・・」

 ないかと言われるとあるけど、地獄に落とされるようなことはしてないはずだ。

「ところでなんで僕がその世界に行かなきゃいけないの?」

「いや・・・まあ・・・それは企業秘密じゃ」

 絶対適当な理由だな・・・。

「そうだ、その行ったあとの僕がいた世界ってどうなるの?」

「なにも変わらぬが。ただお前の失踪事件がてれびで放送されるかもしれぬの」

「それ絶対にダメだから! せめてその世界の時間止めておくとかGEの世界に行ってから数分経った世界に戻すとか」

「一個目はできぬが二個目の方法ならできぬこともないの。じゃが、平行世界に飛ばすだけじゃから周りの人間が一人いないことになっているかもしれぬのぉ・・・」

 さすがにそれは困る・・・。

「ちなみに僕に拒否権は・・・」

「ないの」

 デスヨネー。人間が神に対して拒否権持ってるわけないっすよね・・・。

「まあ、安心せい。その体をは我々がしばらく預かっておくから死んだとしてもある程度対処できる」

「あ、そうですか・・・」

あれ、体を預かられたらどうやって生きていくんだ? 別の体を使うしかないんじゃ···。ん? ということは···。

「まさか・・・」

「そのまさか。転生というわけじゃ」

「ええええええ!?」

 それってあれだよね! 二次小説でよくある別人になっちゃうってあれだよね!

「・・・ちなみにだれに転生するの?」

「もちろん、主人公じゃ」

 ああ、この流れって、

「もしかしてその人って『神戸クレハ』?」

「おお! よくわかったの!」

 やっぱりそうか・・・。二次小説でよくあるよね。自分のPCに転生って。

 しかも僕の場合は例の通り女主人公。ボイスは20。はい。BURSTのPCと同じ声優さんです。

「ということは僕は女になってしまうわけか・・・」

 しかもあのボイスの性格だったら今の性格となんら変わらないじゃん・・・。

「気の毒じゃがそうじゃの。じゃが大丈夫じゃ」

「なにが・・・」

「前の世界の記憶は一般常識および知識的なもの以外全部こちらで預からせてもらうからの」

「え・・・なにそれ・・・」

「未練があってはいかんからのぉ・・・」

 確かにもし前の記憶が残ってたら寂しさや悲しさで死にたくなるかもしれない・・・。

「・・・ねえ、もう一度聞くけど拒否権はないんだよね」

「そうじゃ。気の毒じゃが」

「・・・わかった、僕行くよ。その世界」

「それはまことかの?」

「うん」

 もうこうなったらやれるだけやってみようと思う。どっかで死ぬのはもうわかってるし。それにあのボイス、任務を楽勝でこなしたときにフラグ立てるくらいだし・・・。

 少女はじっと僕の目をみるとうなずいた。

「では、そんなお前にひとつ特殊能力を与えようぞ」

「たぶん、チートなんだろうけど。それってなに?」

「自動空気すきるじゃ!」

「自動空気スキル・・・?」

「この能力があれば敵はおろか、味方からも見つからない優れものじゃ!」

「味方からも見つからなかったらだめだから!」

「ふむ、では自動不運すきるはどうじゃ?」

「んなもんいらんわ! なに? なんなの? 某不憫な中学生意識してんの? 中の人つなかがりなの?」

「まあそれは置いといて自動空気すきるはもう付与してあるからはずせぬぞ」

 勝手になにやってんだこいつ・・・。

「ああ、それともうひとつ特典がついておる」

「・・・で、なに」

 少女は一歩前に出るとこう言った。

「このワシがついてくる!」

「いらんわ・・・」

「そんな冷たいこといわずに。のう?」

「そんなかわいい声出してもいらないものはいらないよ・・・」

「いらぬと言ってもワシはお前に同行許可どころか同行任務が出ているのじゃよ」

「なんで···?」

「お前がちゃんと主人公としての役割を果たすかどうかを監視するためじゃ」

まあ、僕なら逃げだしてもおかしくないか。

「つまり同行するのが義務と?」

「そうじゃ。心配せんでもお前以外の人間にワシは見えぬ」

 それはそれで苦労しそうだよ・・・。

「これでワシからは以上じゃ。なにか質問はあるかの?」

 なにかないかなと考えた結果二つ疑問が出た。

「神様が神様食べちゃう世界に行っていいの?」

「偽りの神と一緒にするでないわ」

 この子も偽りではないにしろ神様見習いみたいなものなんだよね・・・。

 そして二つ目。

「きみ、いくつ? 喋り方どうしたの? もしかして中二病?」

「15歳じゃ。それにワシは昔からこの喋り方じゃ。中二病ではないわ」

 昔から中二病ってわけか・・・。しかも神様なのにまだ15歳かい・・・。あ、見習いだからか。

「今頭のなかで悪口言ったじゃろ」

「言ってないよ」

 悪口じゃないもん。ほんとのこと言ったただけだもん。

「まあ今回は堪忍しといてやる。で、質問は以上かの?」

「そだね、もう聞きたいことはないかな」

「では始めるとするかの」

 そう言うと少女は巫女さんとかが祈祷するときに使う先端に紙がついた棒を取り出す。するとその棒をこちらに向けた。

「今日からお前は・・・富士山じゃ!」

「は・・・?」

 ナニイッテルノカナ、コノコ。

「いやなに、軽いじょーくじゃよ、じょーく」

「ジョークはいいから早くしてよ・・・」

「まあ、そう慌てるな。ではゆくぞ」

 少女がなにか呪文みたいなのを唱え始めたけどうまく聞き取れない。

「どぅああああああああ!」

 そして突然大声で叫んだかと思うと棒をこちらに向けて高らかに言った。

「西村悠也よ! 今日からお前は『神戸クレハ』じゃ!」

 その言葉を聞いた途端、視界が眩い光に包まれた。

 

 そして僕の・・・いや、私の人生が始まった。




 改めまして。作者のねこめです。最後まで読んでいただいてありがとうございました。
このお話はねこめにとってネット投稿始めての作品です。なにか至らぬところがありましたら教えてくださると幸いです。絶対誤字脱字してると思うので。あと更新遅れる可能性大です。
 ちなみにねこめは百合好きです。このお話もソフト百合にしていくつもりです。(デキルダケソフトニシテイキタイ)
 いやだってシエルさんはどう考えてもゆ(ry
 ともかく、これからよろしくお願いします。

 どうでもいいですけどボイス20のセリフは面白いですww


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2 幼少期という束の間の休息

 今回は結構長いです。本編は次のお話からです。
あ、そうだ。メリークリスマスなのです。


 最初はなにが起きたのかよくわからなかった。

 でもこの世界に出て来て日にちが経ってからようやく自分が何者なのか思い出した。

 私は転生者。でも前の世界の記憶は全くない。確か神様見習いみたいなのが預かってるんだっけか。どうも転生する直前の一部の記憶だけは覚えているようだった。知識はちゃんとあった。どこで覚えたのかは定かではないけど。この世界がゴッドイーターというゲームの世界だということもしっかり覚えていた。

 さて、問題なのは、

 (ここどこ・・・)

 またもやこの展開だよ・・・。

「お、やっと自分が誰なのか思い出したかの?」

 声がしたほうを見ようとするがなかなか体がうまく動かない。私はどうやら仰向けになっているようでどこかの部屋の天井しか見えない。

「ほれ、ここじゃよここ」

 例の少女が上から覗き込んできた。

「あ、ええおおあおおあお(あ、ねえここはどこなの?)」

 うわぁ・・・。うまくしゃべれないよ・・・。

「なに言ってるかさっぱりじゃな・・・。あ、お前今の状況が知りたいのか?」

 私はなんとか両手で丸を作ることでyesと答えた。

「おお、言葉は通じるみたいじゃな。ではほれ」

 少女は私を座らせてくれた。でも首が座っていないのか思うように周りを見渡せない。視界に入る限り子供部屋のようだ。私はベッドのようなものに寝かされているようだ。

「ここはどこかの外部居住区の児童保育所みたいなものらしい。しかもほとんどの子供が身寄りがないそうじゃ」

 この世界のことだ。私はその身寄りのない子なんだろう。前の世界の記憶がなくてよかったと思う。あったら絶望していたことだろう。

 

   ◆◆◆

 

 それから私はなにごともなく成長した。

 氏名は年長の子たちが意見を出し合って決めてくれた。そこから私は「神戸暮葉(かんべくれは)」という名前になった。ゲームでは下の名前はカタカナだったのでこれからは「クレハ」と表記していく。(ドキュンネームじゃなくてよかったぁ・・・)

 保育所では基本的な読み書き、計算、歴史っぽいことなどを習った。最初は前の知識が役にたったおかげで出来は保育所でいつも一番だった。

 勉強ばかりやっているわけじゃない。むしろ勉強はそこまでやっているわけじゃなかった。なかにはやっている子もいたけど。

 私はよく範囲を保育所内に限定したかくれんぼをした。

 ここでたぶん「あ・・・(察し)」と思ったに違いない。そう! 誰も見つけてくれないの! 理由は例の自動空気スキルだよ! おかげで夕方まで見つけてもらえないし、しかもみんな私のこと忘れてるし。

 はっきり言って好きな遊びはかくれんぼだけど、嫌いな遊びもかくれんぼだ・・・。

 そんなことを考えながら私は保育所の子たちと一緒に夕食を食べていた。今日も見つけてもらえず自分から見つかりにいった。だからこんなことをみんなに聞いてみた。

「ねえ、なんでみんな最後まで探さないの?」

 それを聞いた一人の歳の近い女の子が言う。

「だってクレハちゃん隠れるのすごいうまいんだもん」

「そうだなぁ、ちょっと心配になるくらいだな」

 年長のお兄ちゃんもそう言った。

「私なんか保育所の外に行ったのかと思って探しに行ったことあるんだよ?」

 年長のお姉ちゃんもそう言った。

「先生なんか捜索届け出そうかと思ったことあるわよ」

 先生までそう言った。

「いやまあ、私ってそういう子だよね・・・。たぶん死んでも誰にも気付かれないんだよ・・・うん」

 私はブツブツと自虐を始めた。

「あーあ、せんせーがクレハちゃんのトラウマスイッチ押したー」

「え、私だけ? みんなもいろいろ言ってたじゃない・・・」

「お、俺は押してないよ!」

「私も押してない!」

「きみら全員押してるから・・・」

 この能力、某蛇が出てくる戦争の世界だったらすごく役に立ってたんだろうな・・・。あんなごついおっさんになるのはいやだけど。

 

   ◆◆◆

 

 夕食を済ませて私は自室に行った。この保育所は人が少ないので一人ずつ自室が与えられている。

「お帰りなのじゃ、クレハ」

「うん、ただいま」

 いつものように例の少女が出迎えてくれる。

「今日はどうじゃった?」

 どうというのはかくれんぼのことだ。

「いつも通りの結果だったよ・・・」

「おお、この調子で行けば生存間違いなしじゃの」

 生存という言葉を聞くと私はうんざりする。なぜなら・・・、

「私ってやっぱり神機使いになるの・・・?」

「お前は一応原作でいう主人公という設定じゃからの」

「しかもブラッドというわけですか・・・」

「お前は二作品目の主人公じゃ。つまりはそのぶらっどというものに入ることになるじゃろうな」

「はあ・・・。できることなら貧しくてもいいから一般人が良かったなぁ・・・」

 なんでそんな死亡フラグ満載の職業につく運命なのやら。A:主人公だから。

「主人公ならもっとイケてる主人公が良かったなぁ。確かボイスの10とかってすごいクールビューティな感じだったっけ。記憶じゃなくて知識だから前の世界でどう思ってたか知らないけど今はすごい羨ましい。だってめっちゃカッコいいじゃん。リンクエイドのときに微笑みながら『フフ、減給されるぞ?』とか女の私でも落ちるよ」

「いや、意味がわからぬわ・・・」

「14でもいいね。あの活発でスポーツできそうな感じ」

「言っておくが性格は今の世界にも引き継がれておるから意味ないぞ?」

「え? そうなの?」

「それにその顔でくーるなやつじゃったら引く」

「女子高生くらいの年なのにおばあさん口調な人に言われたくないよ!」

 自分で言うのもなんだけど、私はどちらかというとカッコいい系というよりはカワイイ系だと思う。

 まあ、自分の感性なんて信じられたものじゃないけど。

「ところでクレハ、ひとつ相談なんじゃが」

「なに?」

「名前をつけてはくれぬか?」

「なんの?」

「・・・わかっておるくせに」

「・・・?」

 私がしばらく考えていると少女は言う。

「ワシの名前じゃ!」

「そういえば自分の名前わかんないんだっけ?」

「そうじゃ、このままではなにかと不便じゃろ」

 私にしか見えないんだからいらないと思うけど。まあいいか。

「そうだなぁ・・・」

 なんとなく頭に浮かんだものを言ってみる。

「コトなんてどうかな?」

「・・・コト? なぜにその名前なのじゃ?」

 少し戸惑った様子で聞いてくる。

「いや、なんとなく・・・」

「漢字はどんなのを書くのかの?」

「え・・・漢字まで考えるの・・・」

 そう聞くとこくりと嬉しそうにうなずく。

「しょうがないなぁ・・・」

 机の引き出しから紙とペンを取り出す。ちなみにこの世界では紙もペンのインクも少しだけ高価なものとなっている。

 私はこれまたなんとなくで思いついたものを紙に書く。

「これはどうかな?」

 紙には『琴』と書いてある。

「そのまま『琴』かい・・・」

「私の頭じゃそこまで難しい漢字は書けないよ・・・」

 でも7歳でこの漢字を書けるのはすごいと思う。まあ人生そのものが強くてニューゲーム状態なんだから当たり前だけど。

「ではクレハ、早速呼んでみてたも」

「なにを・・・?」

「名前じゃ、名前」

 ああ、たった今つけたやつのことか。

「コト」

「おお! もう一回なのじゃもう一回!」

「もう一回・・・? ・・・コト」

「もっかいなのじゃ!」

 わけがわからない。でも断るとあとが面倒なので言っておく。

「コト・・・」

「うう・・・。クレハ~!」

 突然コトが抱きついてきた。自分より二倍近い背丈の人間が抱きついてくるとなるとそりゃ押し倒されるよね。で、ほぼ下敷き。

「ちょ! 重い重い重い重い!」

「失敬な。ワシはどう見ても痩せてるほうじゃぞ!」

「私の今の歳を考えてよ!」

 そんなことをしていると扉がノックされた。

「クレハー? もう遅いから寝なさい?」

 先生だった。私は急いで返事する。扉を開けられて一人でなにやってんだとか思われたくないしね。

「はっ、はい!」

「それじゃ、おやすみ」

「はい! おやすみなさいです!」

 先生が扉の前から去っていく気配を感じると私はコトに言う。

「どいてくれない・・・?」

「おお、すまぬ」

 コトは私から離れると予備としておかれているふとんを敷き始めた。私も自分用の小さいふとんを敷いてそのふとんに入った。

「おやすみなのじゃ、クレハ」

「おやすみ、コト」

 こうして今日もなにごともなく平和に終わった。

 でもそんな日々もいつかは終わって戦場に立たなきゃならない日が来る。そんなことを思い出した夜はコトにばれないように枕を濡らした。今日もあんな話をしたからなのかふいに涙が出てきた。そして今夜もひっそりと涙を流した。

 

   ◆◆◆

 

 気がつけば私は15歳になっていた。確かコトと同い年じゃないかな?

 私は毎日年少の子たちの世話をしていた。私が小さいときに年長だった子たちはひとり立ちしていった。なかには保育所に残ってここの家計を支えている子もいたけど。そういえば私もそろそろひとり立ちするころなんだろうけど。正直、ここで家事してたほうが非常に楽だ。おかげで女子力どころか生活力もついたし。ってあれ? それだと女子力とはいえないか・・・。

「クレハ姉ちゃん、かくれんぼしよー」

 そんなことを考えていると無邪気に年少の子達が遊びに誘ってきた。冬なのに元気なことだ。

「いいのかなー? 私は強いよー?」

「だからこそだよ! 今度こそくれねえを見つけてやるよ!」

 これでやっぱり見つからないんだから私の能力って本当にすごいと思う。しかもかくれんぼばっかやってるから見つけるのも簡単になってたり。

「クレハー? ねえクレハってどこにいる?」

 先生の声が聞こえてきたから私は隠れていた場所から出た。

「クレハ、ちょっといいかしら?」

「なんですか?」

「ちょっと話があるのよ」

 そう言って先生の部屋に連れて来られた。

「あの・・・もしかして私なにか良からぬことをやっちゃいましたか・・・?」

「そういうわけじゃないのよ、まあミルクティーでも飲んで一回落ち着きなさい」

 そう言うと先生はカップに紅茶を注いだあとミルクを注いで渡してくれた。先生がこうやってミルクティーを出してくれるときは機嫌がいい証拠だ。

 私はそれを一口飲んだ。紅茶の香りとミルクの甘さが緊張した心を癒し、少し熱めの温度は冷えた体を温めてくれる。

「落ち着いた?」

「はい・・・」

「じゃあ、話を始めるわよ」

 私は椅子に座り直した。

「あなたは今いくつかしら?」

「15歳です」

「昔の年長の子たちがひとり立ちしていったのっていつくらいだったかしら?」

「15、6歳です・・・」

「そうね・・・」

「あの、先生? まさか・・・」

「あなたもいい歳だわ。そろそろ自分のやりたいことをやるべきだと私は思うの」

「私のやりたいことはここに残ることです」

「ほんとにそれでいいの?」

 私は無言でうなずいた。

 実際、私はこの保育所に残りたい。ここで家事っぽいことしてるほうが楽しい。

「そう・・・なら、そうするといいわ」

 そう言うと先生は立ち上がって窓の外を見た。

「でもね。私はもっとあなたにいろんな世界を見てもらいたい。こんな小さな世界じゃなくていろいろなところに行ってもらいたい。いや、あなただけじゃないわ。本当のところ、ここにいる子たちみんなにいろんな景色を見てもらいたいわ」

「先生はなにが言いたいんですか・・・?」

 私がそう言うと先生は少し躊躇いを見せたあと私にこう言った。

「あなた、フェンリル職員になってみない?」

「え・・・」

 それってましゃか・・・。

「そのフェンリルの中にフライアっていうのがあるらしいんだけど、なんでもそれって動く基地らしいのよ。だからそこに勤めればいろんなところに行けるんじゃないかなって」

 ああ、ついに来ちゃったよ・・・。ついにこの単語を聞くときが来ちゃったよ・・・。

「それにあなたの頭の良さならきっと試験だって受かるだろうと思うし」

「それ、ほんとに職員ですよね!? 神機使いのほうじゃないですよね!?」

「大丈夫よ。ちゃんと職員のほうよ」

「・・・それなら大丈夫ですね」

 私はほっと胸をなでおろした。そして俯いた。

「でも私は・・・」

「あっ、いやなら無理しなくていいの! さっきのは私のしょうもない願望だから」

 ここに残りたいという思いもあるけど先生に恩返しがしたいという思いもある。ジレンマだ・・・。

「まあ今、結論を出せって言ってるわけじゃないから。決まったら伝えてちょうだい」

「はい・・・。失礼しました」

 私は退室した。

「赤乱雲(せきらんうん)だ! 赤い雨が来るぞ!」

 途端にそんな叫び声が聞こえてきた。私は急いで外にいる子たちを建物のなかに避難させるために外へと出た。私たち、年長組は年少、中の子たちが全員建物のなかへ避難したことを確認してから避難した。

 赤乱雲とは、積乱雲のことではなくその名の通り赤い雲だ。赤い雨を降らせ、その雨に濡れると黒珠病という病になってしまう。これはなればほぼ必ず死ぬという不知の病だ。

「クレハ姉ちゃん・・・」

 窓の外を見ていると一人の女の子が私の袖を掴んできた。

「大丈夫、すぐに止むから」

 頭をなでてあげると幾分か不安が和らいだような顔になった。

「この雨をなくすのも主人公が鍵なんじゃがの」

 横でコトが言った。

 ああ、神様。偽りの神とか神様見習いじゃない神様。どうか、主人公を私ではない人にしてください。お願いします。

 

 しかしそんな願いは聞き入れてもらえないのだった。




 うわぁ・・・。これ書いてたらイブじゃなくて本番の日になっちゃいましたよ・・・。
 それはさて置き誤字脱字の報告など、コメント待ってます。

 感想待ってます。
 感想を書くとねこめが発狂するほど喜びます。(°▽°)フオオオオオオオオ!

 あと、お気に入り登録してくださった方、本当にありがとうございます!登録されていることを知ったときは発狂して喜びましたよ(マジで)。皆さんのご期待に応えられるように頑張ります!


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私はブラッドになった
3 私一応主人公だし···


 三話から本編って書きましたがその本編はお話の三分の一もないというw

それではどうぞお楽しみください!
(ホントニタノシメルカナー?)


 あれから私がどうしたのかというと、フェンリル職員の試験を受けることにした。先生への恩返しというのもあるし、赤い雨を止めたいというのもあった。私は主人公になる気はないけれど。ちなみにこの試験を受けることになって初めてここがヨーロッパの小さな支部であることを知った。うちの保育所は偶然日系の子が多かったらしい。もしかしたら私も純粋な日本人ではないのかもしれない。

 

 それはさておき。試験の出来はそれなりだった。しかも試験中に横からコトがいろいろ言ってきたから半分カンニングだった。でもほとんど知ってることだった。ただ数学だけはほんとに助かった。

 諸君、私は数学が苦手だ。

 それはともかく、問題なのは試験終了後に行われたもう一つの試験だった。

「募集要項の紙に書いてあった通り、念のため神機使い適合パッチテストを受けて頂きます」

(え・・・そんなの書い・・・てあったぁぁぁぁ!)

 紙の下のほうにめちゃくちゃ小さな字で「受験者には神機使い適合パッチテストを受けて頂く場合があります。」と書いてあった。

「これ詐欺でしょ!? 軽く詐欺でしょ!?」

 私がそう小声で言うとコトが茶化す。

「じゃあ、いつ訴えるか、今じゃろ」

 警察がいないこの世界でだれに訴えるって言うんだ・・・。

 そんなことを考えていると私の番だ。スルーされそうになったのは置いといて(今回ばかりはそのままスルーしてほしかった)横ではコトと試験官が見ている。

 (お願いだから当たりませんように!)

「これは・・・!?」

 試験官が驚いていた。この反応はどう考えても当たったな・・・。まあ、もともと当たる運命だったし・・・。私一応主人公だし・・・。

「し、しばらくお待ちください!」

 そう言うと試験官は走って試験場から出ていった。

「コト、私逃げちゃダメ?」

「逃げたら逆にまずいことになるぞ」

「デスヨネー」

 少し時間が経ってから試験官が戻ってきた。

「ええと、神戸クレハさんでよろしいですか」

「はい、そうですが・・・」

「では、神戸さん。これをお受け取りください」

 試験官は冊子を渡してきた。

「あの・・・これって・・・」

「神機使いを職業としたい方へのご案内状のようなものです」

「ということは・・・」

「神戸さん、あなたは神機使い適合者です。しかも非常に適合率が高いためブラッドへの推薦も来ています!  あ、ブラッドについてご説明しましょうか?」

「いえ・・・大丈夫です・・・」

 ブラッドというのはジュリウス隊長率いる神機使いの超特殊部隊だ。普段はフライアを活動拠点として働いている。

 先生への恩返しにはなるけど神機使いはちょっと・・・。っていうか推薦来んの早いな。

「あ、でも強制ではないので」

 私の不安げな気配を感じ取ったのか試験官がそう付け加えた。

「え、任意なんですか?」

「はい。なんでも人口が増えてきたから職業選択の自由をもっと尊重しようという方針だそうで」

「そうだったんですか」

 な~んだ。すぐにフラグ折れたじゃん。やったねってあれ? これこそがフラグ···?

 

  ◆◆◆

 

 保育所に戻ると先生の部屋に呼ばれた。なんだか背後からすごい視線を感じる。

「それで結果はどうだった?」

「普通の試験のほうは良かったんですけど・・・もう一つのほうが・・・」

「もう一つ?」

 私は募集要項の紙の下のほうを指さす。

「ん~? ・・・ぅえ!?」

 先生にしては珍しく裏返った声を出して驚いた。

「まさかあなた・・・」

「はい、大当たりでした・・・」

 先生は数秒放心したあと、

「ごめんね! 本当にごめんね! 私がちゃんと気づいてれば!」

 全力で謝ってきた。

「いや、私も自分のことなのに気づかなくてごめんなさい・・・」

 数分間謝罪合戦が起きた。

「神機使いって適合してるってわかったらなにがなんでもならされるのよね」

「あの、でも最近は強制じゃないみたいですよ」

「ってことは断れるの?」

「はい」

「な~んだ、じゃあさっさとお断りの手紙を出しちゃいましょう?」

 そう言って冊子に付いているハガキを取り出した。すると後ろから声が聞こえた。

「くれねえ神機使いにならないの?」

 知らないうちに年少の子たちが部屋に入っていた。

「あなたたち、盗み聞きは良くないわね」

 先生がたしなめるけど今回は全く効果がないのか一人の男の子が目を輝かせながら言う。

「くれねえすごいじゃん! 神機使いなんてなりたくてもなれないんだぞ!」

「それはわかってるけど・・・」

 年少の子たちは「神機使いかぁ。カッコいいなぁ」「おきゅーりょーがっぽがぽ?」「そりゃもうすごいと思うよ!」と楽しそうに話している。

「でも、私は・・・」

「お、なにこれ?」

 男の子が冊子を手に取る。

「ええと、あなたは・・・ブラッドに・・・されました?」

 漢字が読めないらしい。

「あなたは特殊部隊ブラッドに推薦されましただよ」

 年少のなかで最も頭がいい子が言い直す。

「とくしゅぶたいぃ!?」

 男の子はちょっとオーバーなくらい驚いた。

「すげーじゃん! すげーじゃんくれねえ! とくしゅぶたいって!」

「とくしゅぶたいってなに?」

 女の子が聞く。

「とくしゅぶたいってのは、ええと・・・一番強くて一番いろんなところに行けるんだよ」

「いろんなところ? ロシアとかきょくとうのほうにも? ほっきょくにも?」

 北極なんて絶対行きたくない。それにゲームではそんな展開なかったはず。でもこの世界はゲームとは少し勝手が違うというのもあるので実際のところはわからない。だから神機使いになるのはいやなんだ。

「クレハ姉ちゃん、なんで神機使いになるのいやなの?」

「それは・・・」

 戦うのがいやと言ったらこの子たちは私を笑うかな。

「オレたちならもうくれねえの世話は大丈夫だぜ!」

 男の子がニカっと笑って言った。

「そうだよ。わたしたちもう自分のことは自分でできるもん!」

 女の子も自信満々にそう言った。

「だからさ、クレハ姉さんは自分のやりたいことをやればいいと思う」

 一番頭のいい子もそう言った。

 そういうわけじゃないんだけどなー・・・。私がやりたいことは戦わず平和に暮らすことだ。

「あとオレたち、くれねえのカッコいいとこ一回も見たことないし」

 グサッ。(心になにかが刺さる音)

「そういえばクレハ姉ちゃんって家事とかくれんぼしかしてるイメージないなぁ」

 グサグサッ!

「そういえば私もクレハに家事しか頼んだことないわねぇ」

 グサグサグサグサァッ・・・!  ピチューン! (心のなにかが壊れる音)

「そうだよね・・・。私、なにもできない子だもんね・・・。私はダメな子なんだよ・・・。私はダメダメなダメッ子なんだよ・・・」

 私のトラウマスイッチがオンになった。

「どうすんだよ、これ。くれねえ短くてもあと十分はこの状態だぞ・・・」

「ほっときましょう。じきもとに戻るわ」

「ごめんね、クレハ姉ちゃん・・・」

「ああ、もう・・・私もボイス14とか10みたいにかっこよかったら・・・」

 

  ◆◆◆

 

「まーだいじけておるのか」

「だってショックだったんだもん・・・」

 私はかれこれ三十分は体育座りの状態だ。気づいたらコトが横にいた。

「私もクールキャラだったら・・・」

「さっきも同じせりふ言うておったぞ」

 そう言うとコトはため息をついてから言う。

「そんなに悔しいならば見返してやれば良いではないか」

「・・・・・・」

「大手柄立てて数多の給料なり報告なりを持ってきて、どうだ、私にもすごいところあるんだぞって言ってやったらどうじゃ?」

「でも戦うのは・・・」

「戦わずに生きていこうなど、そんなに世間は甘くないわ」

 それはわかってる。わかってるけど・・・!

「前の世界のお前もそうじゃった。面倒なことから逃げていつも楽な方向を進んでおった。そのせいでありきたりな人生を送っておった」

「そうなの・・・?」

「いやワシの想像じゃ」

「ズコー・・・」

 しっかりしてよ、神様(見習い)・・・。

「じゃが、本当にそうなのではないかとワシは思う」

「まあ性格が引き継がれてるからなぁ・・・」

「どうじゃ、この世界でひとつ大きなことをしてみようとは思わぬか?」

 確かにとてつもなく大きなチャンスかもしれない。

「でも神機使いじゃないとダメ?」

「ま、まあ確かにそうじゃけど・・・ワシとしとしては神機使いのほうが良いのじゃが・・・」

「裏方でだいせいこ~うっていうのは?」

「そんなのあるんかい・・・」

 職員が活躍してるなんて話聞いたことないけどいいじゃん別に。もし出世すれば結構な収入になるし。

 

  ◆◆◆

 

 試験の結果の日が近づいてきた。お断りの手紙は出せずにいた。

 そして今日は雨の中、珍しくお客さんが来た。今日は普通の雨だった。

「クレハ? なんかあなたに用があるって人が来たけど」

 先生が洗いものをしてる私を呼びに来た。

「誰だろう。はーいちょっと待ってくださーい」

 手を拭きながら昇降口に向かうと扉を開ける。

「はい、私にどのようなご用でしょ・・・う・・・か」

 お客さんを見て私は固まった。

 全身黒い服を着た車椅子の女性がいた。二人ほどフライアの職員を連れていて一人は女性が濡れないように傘を差していた。

「こんにちは。私はラケルといいます。今日はあなた、神戸クレハさんにお話があって来た次第です」

 お客さんはラケル博士だった。彼女はブラッドの創設者だ。つまりはすごいお偉いさんだ。

「あ、どうぞ上がってください! 雨も降ってますし!」

 私はラケル博士を客間に通した。職員さんはなぜかなかに入ることを頑なに拒んだ。

 お偉いさんというのもあるけど下手に扱うとなにされるかわからなくて怖いというのもあって私はかなり緊張していた。

「あの、それでお話とは・・・」

「あなたが神機使いの適合者でブラッドに推薦されていることは知っていますね?」

「あ、そのことですけど。誠に申し訳ないのですがお断りさせていただこうと思っているのですが・・・」

「そうですか。それは残念です」

 ラケルさん(まだ博士とは教えられていないのでここからはさん付けで表記していく)は少し考える素振りを見せた。そしてこう言った。

「いい保育所ですわね」

 ラケルさんは客間を見回した。

「ではひとつ条件を提示します」

「条件・・・ですか?」

「もしあなたが神機使いになりブラッドに入隊してくださるならばこの保育所の経費の五割を補償しましょう」

 五割!? そんなに補償があったら建物を増設できちゃうよ!?

「でも、もしあなたがそれを拒むというなら・・・」

 ラケルさんは手招きをして私を近くに来るように促した。

「この保育所を買い取ろうと思います」

「え・・・」

「私は『マグノリア=コンパス』という児童養護施設を経営しています。そこで育てられた子供たちはみんな独り立ちしています。ご承知のことだとは思いますがこの時代でそれはとても珍しいことです。なのにこの保育所もほとんどの子たちが独り立ちしています。私はそれほど優秀な人材がたくさんいるのならばさらにその才能を伸ばしたいのです。これが私が条件を提示した理由です」

 ラケルさんは私を見据えると恐怖を感じるほど綺麗に微笑んで言った。

「さて、あなたはどちらを選ぶのでしょう」

 ラケルさんの狙いは保育所だけじゃない。恐らく本当の狙いは私という人材だ。百万人、いや百億人もしくはそれ以上のなかからたった一人見つかるくらい。ブラッドの適合者はそれくらい珍しい。彼女ならどんな手を使ってでも私を手に入れようとするだろう。他にも酷い目的があるのだけどネタバレになるから言わないことにする。

 私の答えはもちろん、

「・・・わかりました。私、ブラッドに入隊します・・・」

「それは喜ばしいことです。では職員試験の結果報告日に迎えに来ます」

「はい・・・」

「それでは、今日はありがとうございました」

「こちらこそ・・・ありがとうございました・・・」

 ラケルさんは自力で扉を開けて部屋から退出して行った。

 閉まった扉の向こうで先生が対応している声が聞こえる。

 数秒経ってからいつもの年少の子たちが入ってきた。

「くれねえ・・・」

「みんな・・・。揃いも揃ってどうしたの?」

 三人とも浮かない顔をしていた。

「あ、そうだ。私、神機使いになることになったんだよ! どう? これでみんなにカッコいいとこ見せられるよ!」

 私がそう言っても彼らは下を向いていた。 そして一番賢い子が口を開いた。

「ごめんなさい、僕たち詳しいことも知らないで神機使いになったらなんて言って・・・」

 女の子もそれに続けて半分泣きながら言う。

「わたし、ここがせんせーじゃない人のものになっちゃうのはいやだけど、やっぱりクレハ姉ちゃんと会えなくなっちゃうのはいやだよ!」

 そして男の子も言う。

「オレ、バカだからよくわかんないけどあのおばさんにここを好き勝手にされるのは絶対にいやだ。もちろんくれねえのこともだ」

 みんな幼いなりにいろいろ考えてくれてるんだなと思うと胸が熱くなった。でも私はそんな彼らにこんな言葉しかかけてあげられなかった。私はしゃがんで彼らと同じ目線になる。

「ありがとう、みんな。私、この保育所が大好き。でもだからこそここを守るためにも私はここを離れなきゃいけないんだ・・・。本当にごめん・・・」

 そう言うとみんな泣き出してしまった。男の子だけは後ろを向いて涙を隠していた。

 私は「ごめんね」と言いながら彼らを慰めることしかできなかった。

 

  ◆◆◆

 

 そんなこんなで私は神機使い、すなわちゴッドイーターの適合試験を受けることとなった。

 保育所を出るときにはみんなには涙なしでと言ったらちゃんと泣かずに送り出してくれた。私のことだから泣かれたら絶対に行きたくなくなるから。言うまでもないけどコトはしっかりついてきた。

 そしてついに適合試験の時間となった。

 私は実験台のようなものに仰向けに寝かされていた。横ではコトが見守っている。なんか初めてこの世界に来たときを思い出すな・・・。

「気を楽になさい。あなたは選ばれた子なのですから」

 あれ、セリフがゲームと違うぞ?

「なにを行う試験なのかの説明は必要ありませんね?」

 あれれー、ゲームだとちゃんと説明してくれたのに。やっぱりこの世界ってゲームと若干違うのかな。

「準備が出来たらその腕輪に手を置いてください」

 セリフの違いは気にしないとして、天井には禍々しい機械が設置されている。あそこからまた機械が出てきて黒い腕輪を通して神機使いになるための細胞であるオラクル細胞、もっと正確に言えばブラッドとなるためのオラクル細胞、P66偏食因子を体へと送り込む。

 ゲームだと主人公めちゃくちゃ叫んでたよなぁ・・・。やっぱ体内に全く別のものを埋め込まれるんだからそりゃ激痛だよなぁ···。そういやこれってジュリウス隊長も立ち会ってるんだっけか。ということはあの取り乱してる姿を見られるわけか。彼にそんな趣味はないと言えども複雑な気持ちだ。

「はよせぬか。まだ覚悟ができておらんのか」

「わ、わかってるよ」

 私は腕輪になるであろう部分に手を置き、神機の柄を握った。手首に黒く大きな腕輪が巻かれる。すると天井の機械が開いてまた機械が出てきた。

 そしてそれは勢いよく腕輪に接続された。

「うあああああああぁぁぁあああああ!?」

 瞬間、激痛が走った。痛みは腕を通して全身へと伝わっていく。私は体を反らせて悲鳴を上げながらも痛みに耐える。

「ああぁぁぁああ!」

「頑張れ頑張れ絶対できる頑張れ頑張れそこじゃそこであきらめるな絶対できる頑張れ頑張れ頑張れ北京だって頑張っとるんじゃから!」

 コト!? なにふざけてんのっ!? こっちは失敗したら死ぬっていうのにっ!!

 そんなことを考えている暇もなかった。

 腕輪と神機の固定がはずれて私は床に転げ落ちた。その間も私は悲鳴を上げ続けていた。

「クレハ!今までの苦労を思い出すのじゃ! それに比べればこんなもん」

 今までの苦労・・・ではなく思い出が頭のなかに一気に流れ込んできた。・・・ってなに走馬灯見せてんのー!?

「それにしてもよう叫ぶのう。まあ当たり前じゃが」

(バカにしてんの!? もしかしてバカにしてんの!? ・・・ってあれ?)

 だんだん痛みが引いてきた。

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」

 私は息が切れていた。ゲームの主人公のように床に神機をぶっ刺すなんてことは体力的にも精神的にも無理だった。私の場合はただ床に座り込んでいるだけだ。腕輪からは黒い煙のようなモヤが出ていた。

「適合おめでとう・・・。あなたは今日からゴッドイーターとなりました。そして極致化技術開発局『ブラッド』に配属されます。そしてそこで強くなることであなたは『血の力』に目覚めることでしょう」

 ラケルさんがなんかいろいろと話していた。私はというと、

「期待していますよ。神戸クレハ」

「はあ・・・はあ・・・っ・・・はあ・・・」

 返事をすることすらできなかった。そんな私にコトは、

「情けないのぉ。先が思いやられるわ・・・」

 冷たい言葉を浴びせた。

 なんだよー。頑張ったねくらい言ってくれたっていいじゃん! 贅沢言わせてもらえばほんの少しだけ抱きしめてもらいたかったよ。私が小さいころはよく抱きついてきたくせにぃ・・・。

 

 私は無事に神機使いとなってブラッドに配属された。そこでも私は波乱万丈の生活を送ることとなったのだった。

 ま、そんなの最初からわかってたけどね。




 いやなに、百合要素はもう少し話が進んでからが本番ですよ。なにせ役者が揃ってないもので・・・。
それにしても、もとはシリアスなシーンもコトがいると途端にコメディになりますねw

そして・・・
(°▽°)ふおおおお! お気に入り登録少しずつ増えてる! しかも高評価もらってる! 本当にありがとうございます! ねこめはさらに精進します!
あと感想や批評大歓迎です! 今回アドバイスをくれた方々本当にありがとうございました!

次回はジュリウス隊長の登場です。


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4 私マジ空気だね・・・

 まず言えるのは、
・タイトルがお話と言うほど関係ない。
・本編要素少なっ!
・もうしわけ程度の百合要素
・ジュリウスファンの方、すいませんでした・・・。

 日に日にお気に入り登録が増えてる! ありがとうございます!


 神機適合試験を終えて制服から私服に着替えた私はロビーに待機するよう言われていた。で、言われたから来たけどそこから何をするんだっけ。ゲームでは確か庭園に行ってジュリウス隊長に会いに行くんだよね。

「神戸クレハさんでよろしいでしょうか」

 突然声をかけられた。

「私はフランと申します。このフライアでオペレーターを務めています。今日からよろしくお願いします」

 フランさんはそう言うと丁寧にお辞儀をした。そういやこの人すごい名前長いんだよね。確かフランチェスカ・フラン・・・ええと、フランドール? それだと某吸血鬼の妹の名前か。

「ジュリウス隊長からあなたに庭園に来るようにとのことです。庭園はロビーの下の階にあるエレベーターから行けます」

 なにか質問があればオペレーターカウンターに来てください、と言うと自分の持ち場に戻って行った。

 すごいなぁ。フランさんカッコいいなぁ。私もフランさんみたいにできる女性になりたいなぁ。

「お前は死んでもあんな風にはなれぬじゃろうな」

 コトがからかってきた。

「そんなことないよ。私もほんとはできる子だもん。たぶん・・・」

「たぶんかい・・・」

 

     ◆◆◆

 

 私は庭園に来た。

「わあ・・・」

 庭園には色とりどりの花たちがきれいに咲いていた。素人目に見てもよく手入れされていることがわかる。私はエレベーターを降りて感嘆の声を上げてしまった。

 庭園の奥に植えられている木の下にはジュリウス隊長が木にもたれて座っていた。

 話しかけようと歩いて行くが一向に気づく気配がない。こんなときにも自動空気スキルが発動してるのかも。でも結構な距離まで近づいてるのに気づかない。まさか私には自動超消音スキルまでついているんだろうか・・・。

「あ、あの~・・・」

「ん・・・? ああ、いたのか。気づかなくてすまない」

 やっぱり気づいてなかったよ! この隊長!

「適合試験、お疲れ様。なにごともなく成功して良かった」

「あ、はい」

「まあ、そこに腰かけるといい」

 私はまた原作とセリフが違うことを不思議に思いながら座った。

「ここはフライアのなかで、一番リラックスできるところなんだ。暇があるときはいつもここでボーッとしている」

 ゲームではこのあとに「いい場所ですね」と「あなたは?」という選択肢が出てくるけどこれは現実だからそんなもの出てこない。それになんども言うようだけどこの世界は原作とは勝手が違う。でも私は原作通りにこう言った。

「いい場所ですね」

「ああ、あまりに居心地が良くてときどき居眠りしてしまうこともある」

 またセリフが違うよ・・・。こっちはちゃんとしたセリフしゃべってるってのに・・・。

「自己紹介がまだだったな。俺はジュリウス・ヴィスコンティ。これからお前が配属されるブラッドの隊長を務めている」

「あ、これからよろしくお願いします!」

「ああ、こちらこそよろしく頼む」

 なんでだ・・・。さっきからしゃべるセリフが意味は同じだけど全然違うぞ・・・。三つ前のセリフなんて意味すら違う。

「さて・・・少し休んだらフライアを見て回るといい」

 立ち上がってそう言った。ここは同じだなと思ったら、

「もし、迷いそうなら案内しようか?」

 シナリオごと変えてくるようなセリフを言ってきた。

「あ、いや・・・大丈夫です・・・」

「そうか。なにかわからないことがあったら聞いてくれ。職員に尋ねるのもいい。ではあとで会おう」

 ジュリウス隊長は去っていった。

 親切だなぁ隊長・・・。

「外見も内面もいけめんなやつじゃったのぉ」

「まあ、そうだねぇ」

「なんじゃ、興味ないのかの?」

「いや、まあ。うーん・・・」

 なんかよくわかんないけど私にとってジュリウス隊長ってそこまで惹かれるようなタイプじゃないんだよなあ。

「ないならないで良いわ」

 

      ◆◆◆

 

 次になにをすればいいのかわからなかったからフランさんに聞いてみた。フライアの人たちへの挨拶もすでに済ましていた。

「では、今日は休んでください」

「え、訓練があるんじゃないんですか?」

「今日は訓練はありません。しかし明日は一日訓練となっています」

「そのためにも休めと・・・?」

 はい、と淡々とフランさんは言った。

「ま、今日はゆっくりと休んで力を蓄えようではないか」

 コトも横から休むことを勧めた。

 私は仕方なくもう一度エレベーターに乗り、新たな自室に向かった。

「おお! ずいぶんと優遇されておるの!」

 部屋に入るなりコトは大はしゃぎだ。

「みよ! クレハ! べっどじゃぞ! べっどがある! ふとんではないぞ!」

「見りゃわかるから・・・」

 今さら気づいたけどゲームで自室には行けなかったな。

「あ、しかしそうなるとどちらかが床で寝ることになるのか・・・」

 そうか。ふとんじゃないとそういうのが困るね。

「フランさんに頼んでみよう」

 私たちはもう一度フランさんに会うためにロビーに来た。

「どうされましたか」

「あの、ベッドって馴れなくて。ふとんを貸していただけないでしょうか・・・」

「承知いたしました。必ずとは言えませんがなるべくお渡しできるように努力してみます」

「あ、ありがとうございます!」

 さすがフランさんだ! こんなしょーもないお願いでも聞いてくれるあたりプロだと思う。

「さて、途端に暇になっちゃったな」

 私たちはまた自室に戻ってきた。

「しりとりでもするかの」

「じゃあしりとりの『り』で『りんご』」

「ごま」

「窓」

「土器」

「霧」

「りす」

「スリ」

「り・・・理科」

「カマキリ」

「また『り』かい・・・。り・・・り・・・利子」

「しぼり」

「ぐっ・・・。り・・・り・・・理性」

「怒り」

「だああああ! しりとりはやめじゃ!」

 さすがにこのやり方はかわいそうだったかな?

「じゃ次なにする?」

 私は質問してみる。

「むう・・・。することは特にないんじゃのう・・・」

「保育所にいたときは家事とか年少の子たちと遊んだりしてたからなぁ」

 保育所にいたら暇になるときは全くなかった。

「お前なにも持ってきてないのかの?」

「うん・・・もっと忙しいのかと思ってたし・・・。あ、そうだ」

 私はターミナルを操作する。

「なにをしておるのじゃ?」

「まあ見ててよ」

 私はアーカイブの画面を出す。そして2010年代のものを出した。

「あ、やっぱダメか」

「なんじゃこりゃ・・・」

「アニメ」

 私は知識として残っている前の世界のアニメを探してみたけどやっぱりなかった。

「でもこれではっきりわかったね」

「なにがじゃ?」

 コトは首をかしげる。

「ここは前の世界とは平行世界どころか全く別次元の世界ってことだよ」

「ああ、そういうことか」

 だから旧世代のものを調べても知らないことばかりが出てくる。

「これはまた暇になっちゃったな・・・」

「でーたべーすを読んでみてはどうじゃ」

「私は前の世界の知識があるから読まなくていい」

「では、やはり暇じゃのう・・・」

 やることないからもう一度庭園に行ってみた。

「ふむ、隊長はここはとても居心地が良いと言っておったの」

「特にあの木の下がいいらしいね」

 だれも来ないことを確認して私たちは木の下に座った。

「のどかな気分になるねぇ・・・」

「そうじゃのう・・・」

 私はなんだか眠くなってきた。そこから先は覚えてない。

 

      ◆◆◆

 

 ここはどこだろう。なんだか懐かしい感じがする。

「クレハ。ほらこっちだ」

 これは年長のお兄ちゃんやお姉ちゃんたちだ。

「ふふ、やっぱりクレハは賢いね」

 そう言うとお姉ちゃんは頭をなでてくれた。いい気持ちだ・・・。

「幸せそうな顔しとるのぉ、お前・・・」

 お姉ちゃんたちの後ろにコトがいた。なんできみはいつもそうやって冷やかすかなぁ・・・。

「お前、一体どのような夢を見ておるのじゃ?」

 (は? 夢?)

 急に目の前の景色が保育所から庭園へと変わった。

「あ、あれ・・・?」

 なんだか頭がボーッとする。

 周りを目だけで見渡すと庭園は橙色に染まっていた。

「隊長の言うとおり居眠りしちゃったな・・・」

「ははっ。そうだな。ぐっすり眠っていたな」

 横から男性の声が聞こえてきた。そういえばなんか頭がなにかにもたれかかっているような・・・。 目線だけで斜め上を向くと隊長の顔があった。

「え・・・? え・・・? え・・・?」

 ちょっと待ってよ? これどういう展開?

「あ・・・」

 私はすぐに自分の顔が熱くなったのがわかった。

「どうかしたか?」

 ましゃか・・・。ましゃかましゃかみゃしゃか・・・。

 私は勢いよく立ち上がった。

「しっ・・・しつれいいたしましたああああぁぁ!!」

 そして全速力で逃げ出し、エレベーターに駆け込んで自室がある階のボタンを押した。

「おい! 待つのじゃクレハ! 置いてかないでたも!」

 ドアが閉まるぎりぎりでコトが乗り込んできた。

「クレハ、大丈夫かの?」

 コトの声は聞こえるけど今の私には返事をする余裕はなかった。

 私はエレベーターのドアが開くなり自室に駆け込んでベッドにうつ伏せに寝る。そして顔を枕にうずめると、

「わああああああああぁぁぁ!」

 思いっきり叫んだ。

「どうしたのじゃ? いきなり叫んで?」

「うわああああああああぁぁ!」

 まだ顔が熱い。

「な、なんなのじゃ一体?」

 コトが近づいてくる気配がする。私はうつ伏せのまま枕から顔を上げてコトに質問する。

「ねえ・・・さっき私どんなカッコだった・・・?」

「どうした・・・。顔が異常に赤いぞ・・・?」

「いいからどんなだったの!?」

「ええと、ジュリウスの肩にもたれて眠っていたの・・・」

 コトは苦笑いをしながら答えた。

「うっわああああああああぁぁ!!」

 今度は顔だけではなく体中が熱くなった。

「大丈夫かの? なんだか額が熱いぞ?」

 コトが心配して私の額に手を当てる。

「こんなときはこれを言うんじゃったの?」

 は?

「もっと熱くなれよ。熱い血燃やしてけよ。人間熱くなったときが本当の自分に出会えるのじゃ。だからこそ、もっと、熱くなれよおおおぉぉぉぉ!」

「バカにしてんのかあああぁぁ!?」

 

      ◆◆◆

 

 私はいつものトラウマのあれが発生したときより長い時間枕に顔をうずめていた。

「・・・・・・」

「落ち着いたかの?」

「・・・ん」

「では食堂にでも行ってみようかの」

 食堂・・・。

「コト、隊長がいないか見に行って・・・」

「は?」

「私、今日はあの人と会いたくない・・・」

「まあ・・・理由はわかっとる。行ってやるか」

 コトは一人で部屋を出て行った。

「ふう・・・」

 私は仰向けになってひとつ息を吐いた。

 一人ごとターイム。

「なんなんだ、あの隊長。会って間もない娘(こ)にあんなことするなんてタラシなのかな? 一体全体どうしてあの態勢になったのか。いや私は惹かれるようなタイプじゃないけどさ。あんなことされたら普通恥ずかしいじゃん。なのになにあの人。『どうかしたか?』ってそりゃどうかするよ。なに? 鈍感なの? ラノベの主人公なの? この世界の主人公って私じゃないの? いやそれならむしろいいのでは。いやでもそれはありえないか。ならあれか。この世界はゴッドイーター2を乙女ゲー風に改造したものか。ああなるほど。ということはあの人は攻略対象ってことか。ギルは簡単に落とせそうだな。なにせ主人公ラブだし。それだとシエルもか。それって百合? この世界は百合ゲーにも対応してんの? ということはエリナもありそうだな。あの人は軽く先輩ラブだし。ただハルさんには絶対捕まらないようにしないと・・・って私はなに言ってるんだ・・・」

「ほんとになにを言っておるのじゃ・・・」

「え?」

 入口にコトが立っていた。

「今の全部・・・?」

「聞いておったぞ」

「うわああああぁぁ!」

「ええい! ええ加減にせい!」

「いった!?」

 ポカンと頭を叩かれた。

「そんなことではこの先やっていけぬぞ!」

「サーセン・・・」

「やつはおらぬ。ほれ行くぞ」

 コトは後ろを向いて歩いていく。

「はい・・・」

 私は起き上がってベッドから下りた。

 するとコトが小声でつぶやいた。

 (なぜワシが入っておらぬのじゃ・・・)

「え?」

「なんでもない」

 なにを言ったのかはよく聞き取れなかった。

 私たちは食堂に向かった。ここもゲームでは行けなかったな。

「あ、すいません」

「はい。なににしますか?」

「えっと~・・・」

 なにがあるのか知らないので決めようがない。ちなみにここの職員および神機使いは無料で注文することができる。

「もしかして新人のブラッドさんですか?」

 店員さんが質問してきた。

「は、はい。そうですけど・・・なぜそれを?」

「腕輪でわかりました」

 そうか。腕輪か。すっかり忘れてた。

「おすすめはうどん定食とかそば定食とか。他にもカレーなどありますけど。どうしますか?」

「なぜにそのおすすめ・・・」

「いや、日本人の方かな~と思って」

 私ってそんなに日本人ぽいだろうか。

「たぶん雰囲気じゃろ。顔もどちらかというとあじあ系であるし」

 コトが後ろで言った。雰囲気でわかるもんかね・・・。

「じゃあ、うどんで」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 私は適当な席に座った。なんとなく周りを見渡してみると、

「あれは・・・ロミオさんかな?」

 見るからに奇抜でチャラそうな格好の人が遠くの席に座っていた。あれはどう見てもロミオさんだ。彼もブラッドだけど、ここで会うとシナリオに支障が出てきそうだから関わらないようにした。こういうときに私の特殊能力って便利だな。

「おまたせしました。こちらうどん定食でございます」

 しばらくすると店員さんが注文した品を持ってきてくれた。

「これは前の世界と同じような感じだね」

 ご丁寧に緑茶まで付いている。サービス満点だ。

 私がうどんを食べていると向かいの席でコトがじっとこちらを見てきた。

「うまそうじゃのぉ・・・」

「コトってなにも食べないでも大丈夫なんじゃないの?」

 コトは神様(見習い)だけあって食事を摂らなくてもいいらしい。保育所にいたときもほとんど部屋にいて半分ニート状態だった。

「一口食べてよいかの?」

「いいけど・・・。もう口つけちゃったよ?」

「よいよい♪」

 そう言うとどこから持ってきたのかわからないけど箸を取り出してうどんの麺をすすった。

「一応もの食べれるんだ・・・」

「ん~。これはまた美味じゃのう。やはり和食はいいのう」

 グルメリポーターみたいにおいしそうに食べるなぁ・・・。

「ほれ返すぞい」

「ん」

「明日も一口もらうからの」

「明日もかい・・・」

 そんな話をしながら食べていると誰かが近づいてくる気配がした。

「ごちそうさんでした~」

 ロミオさんだった・・・。ロミオさんが私のすぐ後ろまで来た。

 (ヤバい・・・気付かれる・・・)

 そう思っていたけどスルーされた。

「ヒュー・・・。危なかったー・・・」

「自動空気すきる万歳じゃな」

「ほんとだね。私マジ空気だね・・・」

 

      ◆◆◆

 

 夜、さらにやることがない。

「もういいや、ものすごい早いけど寝よう」

 今日はいろんなことがありすぎて疲れた。すぐに夢の世界に行けるだろう。

「とは言ったものの。ふとんがないんじゃちょっとね・・・」

 ふとんが配給はされるのは明日だそうだ。

「い、一緒にべっどに寝るのはダメかのう・・・」

 コトがそう言った。

「いいけど狭いよ? 私ももう15歳だし」

「そ、そうか。ワシと同い年か。クレハも成長したのぉ・・・」

「・・・? まあいいや私が床で寝ようか?」

「いや、お前は明日初訓練があるのじゃからいかん。それにたまにはそういうのも良いであろう?」

「いいけど・・・」

 な~んか様子がおかしいな。

「なんか企んでない?」

「な!? 心外じゃ! 今回ばかりはなにも企んでおらん!」

「前は企んでたのか・・・」

 まあ、この反応を見る限り今回はなにも企んでないみたいだ。今回は。ならいいか。

 私はベッドのスペースを半分開けた形で寝る。

「じゃ私は疲れたからもう寝るよ」

「もう寝るのかの? こういうのってなにか語り合うものではないのかの?」

「どこぞのアニメじゃないんだから。それに私たちもう15年間も一緒にいるんだから語り合うようなことなんてないと思うよ」

「・・・そうじゃな。この世界でお前と一番付き合いが長いのはこのワシじゃからな。お互いのことなどとっくに熟知しとるか」

 なぜか嬉しそうに、納得した様子のコト。するとベッドに入った。

「おやすみなのじゃ、クレハ」

「おやすみ、コト」

 このやり取りもこの世界に来て言葉がしゃべれるようになってから今まで、ずっとしてきた。そう考えるとコトとの付き合いも大分長くなってきたように思えて感慨深い気持ちになった。

 明日は初訓練だ。万全の状態で挑もうと体が思っているのか、すぐに眠りに落ちた。

 




 ああもう、ノンケ話ですよ。意味違うかもしれないけど。あとなかなか百合要素を出すタイミングがありません。やはりあの人がいないと百合はうまく行かないのでしょうか・・・。神様(見習い)だとソフト過ぎるんですよねぇ。ねこめが過激なやつに慣れすぎてるだけかもしれませんがw
 次回は訓練とナナが出てきます。

 あとからウィキで調べたところ(ねこめはウィキ厨)
 
異性愛者 - 同性愛者から見て、同性愛の“ケ”(その気)がない人を指す隠語。

だそうです。うん? うちのクレハは百合になりつつありますよ?(違ったとしても作者の絶対的力でならせる)となるとあのくだりはノンケでありませんね。たぶん・・・。

 改変は予告なく行います。なので読み返すと「あれ、ここ前と違うな」ということがあります。


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5 オリキャラ紹介

 オリキャラたち(まだ二人しかいないけど)の紹介です。字数稼ぎのために前書き的なものもここに書いています(セコイナー)。これは念のために書いたものなので読まなくても大丈夫です。というかもうすでに自分のなかでイメージができている方はむしろ読まないほうがいいかもしれません・・・。

 あとフェイスは自分のセンスが信じられないので書きません。

 ここまでのことがおkなかたはどうぞ。

 数字だけではわかりにくいのでかっこのなかに詳しい説明をいれておきました。

 

 神戸暮葉(クレハ) 15歳

 

 性別 女性

 

 ヘアスタイル 12(イメージ的にはボサっとしたセミロングに近い)

 ヘアカラー 明るさ;5 赤;3 緑;10 青;15 つや;35(黒髪)

 

 アクセサリー 53(青いヘアピンを二つ平行につけている)

 

 共通アクセサリー 1(なにもつけていない)

 

 アイカラー1(黒、黒目の部分が多い)

 

 スキンカラー 色見;-39 明るさ;84(血色のいい色白)

 

 ボイス 20(ってこれ作中で表記しましたよね···。声優さんは攻略wikiとかに載ってます)

 

 装備は変えられるという設定。

 

  ☆このお話での設定

 ごく普通のソロ充高校生、西村悠哉が自分のプレイヤーキャラクターに転生した姿。しかし西村悠哉という人物であったときの記憶は神様たちに預かられており、こちらが本来の姿になりつつある。

 性格は基本ネガティブで平和主義。本当はボイス14とかのクールキャラになりたかったが前の世界の性格が引き継がれているので最初から不可能。

 記憶はなくても知識は残っていたため保育所にいた頃は(残念な)天才だった。

 自動空気スキルという特殊能力を付与されているため異常に影が薄い。天才に(残念な)がついているのはこれが原因。幼少期、かくれんぼをすると最後まで見つからなかった。そしてそのまま忘れられていた。そのせいか、影が薄いことがトラウマになった。他にも「ダメな子」などのトラウマワードがある。

 前の世界の感覚が若干残っているせいで百合になる可能性大。

 

 

 琴(コト) 15歳

 

 神様見習いの少女。

 服装は和服。髪型は長い黒髪をポニテにしてある。イメージとしては薄桜鬼の雪村千鶴(当作品の主人公)の髪をさらに長くして黒くしたような髪型。 

 クレハの同行任務を任されため転生者であるクレハについてきた。名前はクレハ(7歳)につけてもらった。

「~のじゃ」が口癖で古風なおばあさん口調。ものを頼むときには「~してたも」というところからもしかしたら本人は姫様口調のつもりなのかもしれない。カタカナや英語が苦手。

性格は明るくいつもふざけている。よく某テニス選手の名言を自分風にアレンジして言う。神様らしくクレハに助言をすることもある。

 クレハにしか見えず、この世界で一番クレハとの付き合いが長い。彼女がまだ自分という存在を認識していないときから一緒にいた(裏設定)。

 もとから百合の可能性あり。




案外100字越えで1000文字いきましたw

あとなぜか自動で段落一字下げてくれるのが機能しない・・・(TAT)
vitaで書いてるからなのでしょうか・・・。

パソコンでやったらできました。もしかしたらvitaでもできてたかもしれません・・・。


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6 (この子、串ごと食べた・・・!)

 皆さん、あけましておめでとうございます。今年もよろしくおねがいします。

 年が明けても相変わらずタイトルが内容と言うほど関係ないし、文才も上がっていません。そんな作者ですが読んでくださると嬉しいです。
(出来れば感想もほしいなぁ・・・)


 今日は初訓練だ。

 私は緊張とともに心にわだかまりを感じていた。理由は昨日の隊長との出来事だ。なぜあんなことになったのか。それを確かめたかった。そうでもしないととても訓練なんか集中できそうもない。

「で、結局フラン殿に居場所を尋ねるのか・・・」

 コトが呆れたように言った。

「しょうがないじゃん、ここゲームで行けなかった場所がいっぱいあるんだもん」

 私はロビーに降りてカウンターへ向かった。

「あの、ジュリウス隊長ってどこにいらっしゃいますか?」

「ジュリウス隊長は今ラケル博士の研究室にいらっしゃいます」

 フランさんは理由は聞かずに隊長の居場所を教えてくれた。さすがプロだね

「ありがとうございます」

 お礼を言うと私は研究室へと向かった。すると隊長がモニターの前に置かれた椅子に座っていた。どうやらここから訓練をモニタリングするらしい。ラケル博士は今は留守にしているようだ。そして案の定私には気づいていないようだ。

「あの・・・すいません」

「ん? ああ、お前か。お前は気配を消すのが上手だな」

「あ、はい。ありがとうございます・・・?」

 あまり素直に喜べない・・・。

「それでどうした? この後の訓練のことでなにか質問があるのか?」

「いえ、訓練のことじゃないんですけど・・・」

「どうした?」

 はあ・・・。あのことを聞いてる自分がいると思うといやになってくる。

「えと・・・昨日のことなんですけど、あの、なんであんなことに・・・?」

 隊長は少し考えると思い出したように言う。

「ああ、あれか。あのときのことなんだが・・・。俺は任務が終わっていつものように庭園でくつろごうと思い、木にもたれながら座った。そしてお前が横にいることに全く気づかなかった」

 また私は存在感ゼロの状態だったのか・・・。

「するとお前が寄りかかってきた。起こそうかと思ったんだが、幸せそうに寝ていたものだから・・・。気を悪くしたのならすまない・・・」

「・・・いや別に全然気にしてないですから大丈夫です!」

 大嘘だけどね・・・。

「そうか・・・。なら良かった。俺も急に逃げられてまずいことをしたんじゃないかと思っていたから」

「あ、いや・・・その、すいません」

 っていうかほとんどの原因は私だったんじゃん···。

 

   ◆◆◆

 

 その後、私はフランさんから訓練という名の任務を受注して今は訓練場に立っている。コトには自室でお留守番してもらっている。

「これより、訓練を始める」

 無線から隊長の声が聞こえる。

「よっ、よろしくお願いします!」

 私は初めての訓練とあってひどく緊張していた。ちなみに、やはり最初だからなのか全てブラッドの初期装備であるクロガネ装備だ。そして念のために服は制服に着替えておいた。

「今のお前は神機使いになって身体能力が飛躍的に向上している。まずは少し体を慣らす訓練だ」

「はっ、はい!」

「少し走ってみろ」

 私は軽く走ってみる。特に変わったことはない。

「今度は全力で走ってみろ」

 言われた通り、全力で走ってみる。

「え!?」

 自分でもびっくりするほど足が速くなっていた。

「周りを見渡してみろ。段差があるだろう」

 いや、これ段差なんてものじゃないでしょ。ちょっとした高台でしょ

「それに登ってみろ。戦闘では高低差が有利になることもある」

「登るって、まさか跳び乗れってんですか?」

「そうだ。今のお前はオラクル細胞のおかげで常人と比べものにならない身体能力を持っている。簡単に登れるはずだ」

(ほんとかな~・・・)

 私は少し心配だったから左にある低いほうの高台に登ることにした。

 

 ぴょん

 

「うわっ!?」

 ほんとに「ぴょん」と軽く跳んだつもりなのに目線が自分の身長の倍の高さまでになった。

 

 しゅたっ

 

 もっとドンと落ちるかと思ったら、猫が着地するように私は高台に乗った。

「次は向こうの少し高い段差に乗ってみろ」

 私は自分が乗っている高台から飛び降りた。こんな高いところから飛び降りたら捻挫するかもと思ったけど足にはなんの痛みも感じなかった。

「たっか・・・」

 近くまで行くと私の三倍はあろうかという高台だった。

「高い段差には崖のようになっているところに手をかけてよじ登るといい」

 私はさっきのようにぴょんと跳ぶと高台に手をかけた。そしてどこぞの配管工のように壁ジャンプでよじ登った。

「すごい・・・」

 さっきから私は驚きっぱなしだ。

「あまり動き回り過ぎるとスタミナの消費が多くなり不利になるので注意だ」

 この世界にはスタミナゲージのようなものはないらしい。

「では、少し体を動かしてみろ」

 適当に歩いてみたり、ショートの神機を振ってみたりする。だいぶ慣れてきたかな。

「ウォーミングアップは終了だ。次は戦い方について説明する」

 そうだ・・・。戦わなくちゃならないんだった・・・。

「今お前が持っている武器は神機といってアラガミを攻撃できる唯一の存在だ」

 すると地面からなにか生えてきた。

「訓練用のダミーアラガミだ。倒してみろ」

「あの、いきなり戦闘ですか・・・?」

「それはアラガミのなかでも特に弱い個体のダミーだ。攻撃は歩きながらでも避けられる」

 確かに小型の地面に固定されているタイプのやつだけど・・・。

「しかもそいつはお前に気づいていない。奇襲を仕掛けることも可能だ」

「ですがそんな戦略的なことは私にはまだ・・・」

「お前の特技はなんだ?」

「特技・・・? あ・・・」

 そうだ。私は自動空気スキルがついてたんだ。ということは視界にさえ入らなければ絶対に見つからないんだ。ってあれ。今思いっきり相手の視界に入ってるんだけど・・・。

 もしかしてと思い、私はダミーに歩いていってみた。

「そんな無防備な状態では攻撃を受けてしま・・・うぞ?」

 隊長が戸惑っているのが無線ごしにもわかった。

 ダミーは全く攻撃してこない。それどころか私のことが全く見えていないように思えた。

「あの、すいません。これ壊れてないですか・・・?」

「そんなはずはない・・・。だがなぜだ・・・? とりあえずそれに攻撃してみろ」

 私は念のために後ろから神機をひと振りしてダミーを切ってみた。

 

 ズシャッ!

 

「ー!?」

「ひっ・・・!」

 ダミーが反応した。私は小さく悲鳴を上げながら高台の影に隠れた。

「???」

 ダミーはなにが「起きたんだ?」と言わんばかりに辺りを忙しなく見回している。

「ほんとに気づいてない・・・」

 どうやら攻撃されてやっとこちらの存在がわかるらしい。

「その調子で倒してみろ」

 隊長はダミーの不具合のようなものは一旦置いておくことにしたらしい。

 私はさっきのように一回ダミーを切る。

「や!」

 

 ザシュッ!

 

 切れ目からダミーの血が吹き出てくる。さっきも思ったけど汚いな・・・。私は兵長じゃないけど・・・。

「!?」

 そして高台の影に隠れる。

「???」

 知能が低いのかダミーはさっきと全く同じ動きをする。

 面倒臭くなってきたから後ろから連続で切ってみる。

「やっ! たっ!」

 

 ザシュッ! ズシャッ! ザシュッ!

 

「っ!!!! ・・・。」

 

 ダミーは動かなくなった。倒したみたいだ。しばらくすると霧散した。

(なにが起きたのかわからずに死ぬって怖いんだろうな・・・)

 敵だけど少し同情してしまった・・・。

「お前の神機は銃形態にもなる。銃形態に変形させて弾を撃って攻撃してみろ」

 私はアサルト型である銃形態に柄の小さなボタンを押すことで神機を変形させた。

 するとまた同じタイプのダミーアラガミが地面から生えてきた。

 ちょうどダミーの出現場所の真後ろにいたので至近距離から引き金を引いて弾を撃ち込む。

「当たって!」

 

 ズカンッ!

 

 意外と反動が少なかった。

「!!?」

 かなりのダメージだったらしくダミーは一発目でダウンした。

「もう一発かな・・・?」

 

 ズカンッ!

 

「・・・・・・」

 ダミーはたちまち屍となった。どうもゲームと違って距離も威力に関係してくるようだ。

「銃形態による攻撃はOP(オラクルポイント)を消費する。残量に気をつけながら行動しろ」

 OPとはいわゆる残弾数のことだ。

「ここまでの説明を参考にして自分なりに戦ってみろ」

 またダミーが床から生えてきた。私は試しに後ろからダミーを神機の先でつっついてみた。

「?」

 かゆいと感じるだけのようでこちらを振り向こうともしない。

「なにをしている・・・」

 さすがの隊長も引き気味だ。

「いやほんとになにしても気付かないんだなぁって・・・」

「そのことについてはあとで博士と相談する。ともかくそれを討伐しろ・・・」

「あ・・・はい」

 今度は正々堂々と真正面から攻撃してみることにした。

 ダミーの正面に立って剣形態で突き攻撃を繰り出す。

「たあ!」

 

 グサッ!

 

「!」

 すぐにバックステップで距離をとる。

 このダミーだけはこちらに気付いたようでずいぶんと遅いモヤのような弾を撃ってきた。私はそれを軽く走ることで避ける。そしてそのまま背後をとって、

 

「やあっ! たあっ!」

 

 グサッ! ザスッ!

 

 突き攻撃で連撃を繰り出した。

「・・・・・・・」

 ダミーは振り向くこともままならずに屍となった。すると隊長から無線が入る。

「本日の訓練は終了だ。今後の活躍に役立てくれ」

「あ、ありがとうございました!」

 訓練は私に非常に大きな心残りを残して無事(?)に終わった。

 

   ◆◆◆

 

 訓練を終えてロビーに戻ってくると下の階に髪型を猫耳のようにしてあるやけに露出度の高い少女が椅子に座ってパンのようなものを食べていた。横には大きな袋が置いてある。

 私はとりあえず彼女の座っている前の椅子に座ってみた。やっぱりこちらに気付かないので声を掛けてみた。

「あの・・・」

「ん? あれ・・・いつのまに・・・」

 デスヨネー。はじめはそういう反応するよねー・・・。

「ともかくお疲れ様ー」

「あ、はい。お疲れ様です」

「敬語じゃなくていいよ。歳も近そうだし」

「あ、うん・・・」

 実はこの子のほうが私よりふたつも年上なんだよな・・・。

「君もブラッドの新入生・・・じゃなくて新人さんだよね?」

「うん。そうだよ」

「私はナナ。君と同じ新人です! よろしくね!」

 さて、ここで原作なら選択肢が出るけどこの世界ではもちろん出ない。だから自分で適当に考えなければいけない。でもとっさにいいセリフが思いつかず私は黙ってしまう。あとめんどくさいからこれからは選択肢がどうのとかは言わないことにする。

「君は訓練うまくいった?」

 ナナから質問して来てくれた。

「ちょっと微妙だった・・・(いろんな意味で)。それに緊張しまくっちゃって・・・」

「あっ、私もだよー! やっぱ最初ってうまくいかないよね」

 それを聞いて私は小声で言う。

「たぶん私はずっとだと思うけどね・・・」

「え?」

「いやなんでもないよ」

「まあいいや。これから仲良くしてやってねー!」

 そう言うと手に持っているパンのようなものを一気に食べ始めた。

(この子、串ごと食べた・・・!)

「そうだ! これもらってよ!」

 ナナは驚愕している私に構わずに自分の横に置いてある袋からなにか取り出した。

「はい!」

 それはホットドックのソーセージの代わりにおでんがはさんであるパンだった。

「なにこれ・・・」

 原作知識として知っていたけど実際に見ると聞かずにはいられない代物だった。

「おでんパンだよ! お母さんからの直伝で私の手作り」

「あ、そうなんだ・・・。ありがとう」

 私は戸惑いながらもそれを受け取った。ナナは私におでんパンを渡すと立ち上がって言う。

「もう訓練の時間だ。それじゃいってきます!」

 ナナは階段へと走っていった。

「全部食べてねー!」

 気付くとナナがこちらにそう叫んでいた。そして上の階に行った。

「つまり串も食べろと・・・。マジですか・・・」

 私は手に持っているものを見る。一口かじってみる。

「あれ、意外と美味しい・・・」

 おでんの出汁とパンって合うんだ。うん。これ結構いける。

「今度作り方教えてもらって保育所の子たちにも食べてもらおう。串はなしで」

 串はこっそり捨てた。




 はい。訓練回兼ナナ回です。今回もセリフが違いますがクレハは無視しております。

 年末ということでいろんなところに行っとりました。冬コミにも行ってました。参加者の皆さんお疲れ様でした。
 ねこめは二日間ですごい支出になりましたよw(一日目は行ってません)
 それとアバター交換してくださった方ありがとうございます!

 ちなみに買ったのは東方と艦こればっかでした。

 (゜▽゜)電ちゃんマジ !すでのな使天

 失礼いたしました。少し舞い上がってしまいました・・・。

 それはともかく、次回はロミオが出てきます。訓練もあります。


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7 ちょ···。それ私のセリフ···。

 はい、ナナ話目です(ツマンネ)。それではどうぞ!

●ねこめの独り言●
お気に入りの増えようにびっくりしました。前話の投稿後の閲覧数にもびっくりしました。


 ここに配属されてから三日目、今日も訓練だ。

 でも訓練に行く前にコトにひとつ聞いておきたいことがあった。私は身支度をしながら質問してみた。

「ねえさ、私の自動空気スキルって敵からこっちの姿を見えなくすることもできるの?」

「いや、そんな能力はないと思うがの」

 コトはベッドに座って本を読んでいる。どこから持って来たか知らないけど。

「でも昨日さ・・・」

 私は昨日の訓練でダミーアラガミが視界に入っているのにこちらに気づかないことなどを話した。

「ううむ。それは少し気になるの。だみーの不具合という線もあるが・・・」

 コトは腕を組んで考え込んだ。

「よし!」

 勢いよく立ち上がるコト。

「今回の訓練はワシも同行しよう。お前になにか変な能力を付与したのであっては困るからの」

「いいけど・・・。あんまり邪魔するようなことはしないでよ」

「合点承知じゃ」

 

   ◆◆◆

 

「もしかして訓練場まで来るの・・・?」

 神機格納庫までコトがついてきたので聞いてみた。

「なにかあっては困るからの」

 別になにもないと思うんだけど・・・。普通に博士の研究室からモニターで見てりゃいいのに。

 それはおいといて。今日も訓練の時間だ。昨日と同じように隊長の声が無線を通して聞こえてくる。コトは訓練場のはじでこちらの様子を見ている。

「まずは昨日の復習だ」

 今回のダミーは生えてくるのではなく地中を掘って地面に飛び出してきたような感じで登場してきた。無印やBAUSTのときにも登場したオウガテイル種と似た形のダミーだ。昨日はナイトホロウという種と似ていて、地面に固定された砲台型だった。

 私はすぐさま高台の影に隠れた。

「そのダミーアラガミを倒してみろ。攻撃を避けることが困難な場合は装甲を展開してガードしろ」

 いやいや、ちょっと待ってくださいよ。隊長さん。二日目でいきなり移動可能な敵って・・・。それに装甲展開する暇なんてないんじゃ・・・。

「なるほど。一旦隠れて奇襲を仕掛けるのか。いい判断だ」

 隊長、悪いですが違います。怖いんです・・・。

「どうしたのじゃ? 視界に入っても気づかれないのじゃろう?」

 コトはアラガミにも見えないのか自然体でびくびくと震えている私に近づいてきた。

「そうだけど・・・。怖いんだもん・・・。もしも見えたら襲ってくるし・・・」

「見えたら襲ってくるのは当たり前じゃ。腰抜けが」

 なんでこの子はいつもスパルタなんだろう・・・。もう少し優しくしてくれたっていいじゃん・・・。

「そんなお前にはこの言葉を送ろう」

「いやな予感しかしないな・・・」

 コトは少し息を吸うとこう言った。

「失敗を怖がってるのではないか? 失敗やだとか思っているのではないか?」

 あれ? 意外とまとも?

「ワシはふぇいる、失敗だ~いすきじゃ。失敗は自分をどんどん成長させていってくれるのじゃ」

 おお、なんかいいこと言ってる気がする。

「だから今日からお前もどんどん失敗していこう! 今日から失敗したら、がっつぽーずじゃ!」

 なるほどな。失敗を積み重ねて成功を生み出すってか。でも・・・、

「これ失敗したら大怪我だからね・・・?」

「む・・・そうか・・・」

 なんでそこに気づかないの・・・。

「では、具体的な策を提示するとしよう」

 そう言うとコトは高いほうの高台を見る。

「あの上からそのあさるとで連撃を浴びせるのじゃ」

「でもあそこまで行けるかな・・・」

 今私たちがいるのは低いほうの高台だ。向こうの高いほうの高台へは少し距離がある。

「なぁに。お前の特殊能力を持ってすればやつの後ろを通り過ぎることなど簡単じゃ」

「う~ん・・・。とりあえずやってみるかぁ・・・」

 私は高台の影から出てダミーがこちらに気づいていないことを確認してから向こうの高台へと向かう。

「よし、行こう」

 足音を立てないようにゆっくり・・・ゆっくり・・・。

「クレハっ!」

 突然、コトに呼ばれた。振り向くとある方向を指で示していた。なにかと思ってその方向に視線をやると、

「あ・・・」

 ダミーがジーっとこちらを見つめていた。

「ヤ・・・ヤバい」

 なんでこれは私のことが見えるんだ・・・。

「なにをしている。戦場で棒立ちになるなど自殺行為だぞ」

 隊長の声が無線から聞こえてきた。私とは裏腹になぜか冷静な声音だ。

「クレハ! 高台じゃ! 早う高台に登るのじゃ!」

 私はコトの声で我に帰った。そして全速力で高台へ走った。

「ガアア!」

 ダミーは威嚇しながら尻尾から針を飛ばしてきた。いや、あの太さは針なんてものじゃない! 槍だよ!

 しかし構えてから発射までタイムラグがあるせいで全力疾走している私には全く当たらない。

「はあ・・・はあ・・・」

 やっとの思いで高台に登った私は息が切れていた。ゲームのように動きは制限されないけど、非常に不利な状態になるのは確かだ。高台の上じゃなかったらかなり危なかっただろう。

「ガアア! ギャアア!」

 下ではダミーが高台に飛び乗ろうと頑張っている。なんかこんなシーンを別のゲームでも見たことあるな。

 さて、ここまで来ればもう安心。

 

 

 ズカンッ! ズカンッ! ズカカンッ!

 

 上から弾丸を浴びせかけるだけ。

「ギャァ・・・」

 連射弾を駆使して数発撃つとダミーは沈黙した。

「ふう・・・」

 私はひとつため息を吐いた。

「自分の体力には常に気をつけろ。手遅れになる前に必ず回復するんだ」

 私と違って隊長はいつでもは冷静だ。

「実際の戦場ではゆっくり回復する余裕はない。罠や閃光弾(スタングレネード)で足止めするなどして対処しろ」

 うへぇ・・・。本番はこれよりもっと酷いのか・・・。

「それでは先ほどのアラガミをもう一度倒せ」

「え・・・」

 隊長の声が悪魔の声に聞こえた。

 またさっきと同じ形のダミーが地面から出てくる。高台にいるおかげでまだ見つかっていない。

「ちょっとコト・・・! 」

 いつの間にか下にいるコトを呼ぶ。

「なんじゃ?」

 コトはこっちを見上げた。

「なんでさっきバレたの・・・!?」

「あれはたまたまだみーがこちらを向いただけじゃ。お前の気配に気づいたわけではない」

「じゃ、なんで私のこと見えたの・・・?」

「むしろ、見えぬほうがおかしいわ・・・」

 それもそうか・・・。

「恐らく弱いものじゃとお前の姿でさえ認識できぬのではないか?」

「あれは強い種類だからか」

 ナットク。

「それでどうするのじゃ? またそこから撃つのかの?」

「そうだね。安全だし」

「やれやれ。楽な道ばかり進んでいるとあとが大変じゃぞ」

 わざわざ危険な道を歩いて酷い目にあうよりかはいいと思う。

「そんなお前にはこれじゃな・・・」

「もういいよ・・・」

「ぬるま湯などに浸かっとるではないわ! お前!」

「・・・うるさあああああい!」

 

 ズガガガガガガガッ!

 

「・・・・・・」

 気づいたらダミーの屍ができていた。

「お前、ほんとに怒ったら怖いじゃろ・・・」

「いや、ただイライラをぶつけてみたらこうなっただけで・・・」

 どこかの誤射姫じゃないんだから・・・。そんなことを話していると無線が入った。

「神機にはもうひとつ特徴がある」

 本当にジュリウス隊長は冷静だなぁ・・・。

「補食形態(プレデターフォーム)と言って補食したアラガミの力を奪える。そして一時的に自らの能力を上げることができる。これをバースト状態という」

 あの禍々しい形態か。

「隙を見て・・・ってすでに倒しているか・・・」

「すいません・・・」

「いや、迅速に敵を討伐できるのは良いことだ。では三体目だ」

 え? 三体目?

「今度はダウンしたところを狙って補食してみろ」

 その言葉とほぼ同時にまたさっきのダミーが出てきた。

「もうやめてよ・・・」

 私、泣きそう・・・。

「そうら、さっきのように撃って撃って撃ちまくるのじゃ~!」

 コトはなんか楽しそうだ。

「うう・・・他人事だと思ってぇ・・・」

「他人事じゃからな」

「十五年間一緒に過ごしてきたんじゃなかったのぉ・・・?」

「良いから、はよ倒すのじゃ」

「・・・わかったよう」

 私はダミーに照準を合わせる。そして引き金を弾く。

 

 ズカンッ! ズカンッ! ドサッ!

 

 ダミーがダウンした。

「ほれ! そこが食いどころじゃ!」

 コトはすごく楽しそうだけど、私はぜんっぜん楽しくない。降りるのやだなぁ・・・。敵の射程内に入るのやだなぁ・・・。まあ、降りるけど。

 ダミーはまだダウンしている。私は神機を剣形態に変形させて、遠近切り替えのときとは別のボタンを押して神機を補食形態にした。そしてダウンしているアラガミ目掛けて、

 

 ガブッ!

 

 神機で補食した。その途端に体の底から力が湧いてきた。

「おお・・・。これなら接近戦でも行けるかも・・・!」

 私はまだダウンしているダミーの後ろに回って数回切りつける。

「えい! やあっ! たあっ!」

 

 ズシャッ! ザシュ! 

 

 これだけ切ってもダウンから起きそうだったからバックステップで距離をとる。そして神機を銃形態に変形させて、

「当たって!」

 

 ズガガガガガガガッ!

 

 撃って撃って撃ちまくる!

 あっという間にダミーは沈黙した。

「バースト状態ってすごい・・・」

 これにリンクバーストも重なるとするとほんとにすごいな・・・。ちなみにリンクバーストというのは仲間へアラガミから奪った弾を受け渡したときに起きるものだ。ゲームだと受け渡すときに光の球を仲間に撃って渡してたけどあれどうなってるんだろう・・・。

「アラガミの屍を補食するとコアが手に入る。アラガミの研究や装備の強化に必要なものだ。回収を忘れないように」

 隊長から無線が入った。これがないと私はいつまでたってもクロガネ装備のままだ。例えばこのままショートを使うなら鉄乙女剣あたりが使えそうかな。そういやお菓子の神機があったな。あれ一度だけ使ってみたいな。見た目がかわいいし。まあかなり先の話だけど。

「素材を手に入れる方法はもうひとつある。フィールドに落ちている廃材を拾うことだ」

 ゲームだとこれって廃材なの? と思うようなものまで落ちていた気がする・・・。

「この訓練場にも配置してある。回収してくれ。あと二十秒ほどで訓練を終了する」

 えっと、どれ・・・? ゲームと違って光ってないからわかんないんですけど・・・。

「場所的にはこの辺だよね・・・」

 知識として覚えている場所を探してみると、明らかに偽物だということがわかる回収素材が落ちていた。

「なるほど。これは訓練が必要だね」

 この世界は素材ひとつ集めるのにこんなに苦労するのか。

「これで今日の訓練は終了だ。今後の活躍に役立てくれ」

「ありがとうございましたっ!」

 

   ◆◆◆

 

「ふう・・・疲れた・・・」

 ロビーに戻ると昨日と同じように下の階の椅子に座って、ナナが待機していた。

「お疲れ様・・・」

 やっぱり私に気づかないから自分から声を掛けた。

「へ? あ、お疲れ様ー」

 うわぁい・・・。やっぱ全然気づかれてなかったよ・・・。

「今日はどうだった? うまくいった?」

 ナナが訓練のでできばえを聞いてきた

「やっぱりダメダメだった・・・」

 私は彼女の横に座る。

「あー。だよねー。私もだよ」

 たぶん、私よりかはマシだと思うけど・・・。

「誰なのじゃ?」

 コトが後ろから質問してきた。

「あとで説明する」

 今コトと話したら気味悪がられちゃうし。

「あ、そうだ。昨日もらったあれだけど・・・」

 私はおでんパンの話題を振ってみた。

「あー、あれ。どうだった? すごく美味しかったでしょ?」

「うん。できればでいいんだけど、あれの作り方教えてくれないかな?」

「もちろんだよ! 機会があればちょっと変わったおでんパンのも教えるよ!」

 ナナは満面の笑みで言った。でも変わったのはいらないかな・・・。

「そういえば、君の名前を聞いてなかったね」

「え? あ・・・」

 確かに昨日はちょっとバタバタしてて名乗る暇がなかったね。

「神戸クレハだよ。ちなみに15歳」

「私より年下だったのかあ。でもそのままタメ語でね。よろしくね! クレハちゃん!」

「クレハちゃん・・・」

 ちゃんって・・・。ちゃんって・・・。

「あ、もしかしてまずかったかな・・・?」

「いいいい、いや全然そんなことないよ! むしろ嬉しいくらい!」

「そっか。良かった」

 ナナはそう言うとニコリと笑う。あ、なんかかわいい。

「ちゃん付けであんまり呼ばれないの?」

「確かに保育所にいた頃も小さいときしか呼ばれなかったなぁ。同級生もすぐにどっかに行っちゃったし。男子はほとんどの子が呼び捨てか、名字だったし」

 コトも昔っから呼び捨てだったし・・・。

 そんな話をしているとどこからか鼻歌が聞こえてきた。

「あれ、君たち。もしかして・・・」

 ロミオさんだった。

「こんにちは」

「こ・・・こんにちは」

 物怖じせずに言うナナ。緊張しまくりの私。

「噂の新人さん?」

「はい。これからお世話になります。先輩」

「よっ、よろしくお願いします!」

 それを聞いたロミオさんはなんだか感動しているようだ。

「先輩・・・いいね! いい響き!」

 ロミオさんは私たちの正面の椅子に座る。

「俺はロミオだ。俺がなんでも教えてやるからなんでも聞いてよ!」

 実際に見るとほんとに軽そうな人だなぁ。

「その前に。ブラッドは甘くないぞ。覚悟しとけ!」

「う・・・、はい・・・」

「あ・・・甘くないって言っても死ぬほどじゃないから」

 目に見えて落ち込んでいるであろう私をロミオ先輩(これからは一応『先輩』と表記していく)がフォローしてくれた。

「はいはーい! 先輩!」

 ナナが手を挙げる。

「ブラッドって何ですか?」

 ちょ・・・。それ私のセリフ・・・。

「お、おお・・・いい質問だね!」

 この世界のロミオさんも勉強はできないようだ。

「ブラッドは・・・えーと『血の力』を秘めていて・・・そうだ! 『血の力』に目覚めると必殺技が使えるんだ! うちの隊長なんてすごいんだぜ? どんなアラガミもズバーン! ドバーン! ドッカーン! ってな感じで倒しちまうんだから」

 ロミオ先輩は手振りを添えて教えてくれる。なんか原作より内容がオーバーな気がする・・・。

「すごーい! じゃあロミオ先輩の必殺技ってどんなのなんですか?」

「バッカ、お前、必殺技ってのはそんな簡単に使えるようにはならないんだよ・・・」

 頬をかきながらそう言うロミオ先輩。

「あ、そうだ! そういうことはラケル博士に聞けばいいと思うよ! じゃ、またな!」

 そう言うと足早に去っていった。

「あれ・・・質問タイム、もう終わり? もしかしてまずいこと聞いちゃったかな」

 聞いたね。思いっきり聞いたね。

「たぶん、ロミオ先輩、後輩の前だからいい顔したかったんじゃないかな・・・」

 私がそう言うとナナは納得したような顔をする。

「そうかぁ。これからは先輩の顔を立てれるようにしようかな・・・」

 ナナはいい子だなぁ。

「ワシならあのお調子者をさらに突き落としたいがの」

「コト、ちょっと黙ってて・・・」

 私は小声で言う。

「ん? どうしたの?」

「いや、なんでもないよ!」

 みんなに見えないものが見えるなんてわかったらこの子はどんな顔ををするのかな・・・。

「ねえ、結局ブラッドってなんなの?」

 ナナが私に質問してきた。まあ、さっきのはあまり具体的じゃなかったよなぁ・・・。

「えと・・・確か・・・」

 知識として頭に残っているものを思い出す。

「普通の神機使いよりもすごい潜在能力を持ってるんだよね。それで旧世代の神機使いを導く存在としてかなり大きな作戦とかの指揮を執ったり、救援をしたりする部隊なんだよ」

「へ、へぇ・・・」

「それで、ブラッドの潜在能力で『血の力』っていうのはきっかけが必要なんだよね」

「きっかけ?」

「よくわかんないけど、なにかしらのきっかけがあれば『血の力』に目覚めるんじゃなかったかな」

 きっかけって前の世界にもそんなネトゲがあったな。ワルキューレがどうのって。ただそのきっかけというのに18禁成分が含まれているという・・・ってなんで私はこんなこと知ってんだろ。

「すごいね、クレハちゃん・・・。勉強したの?」

「いやまあ、(前の世界で)データベースを読んでたら覚えただけで・・・」

「へえ。私、データベースなんて読んだことないよ」

 感心したというような様子のナナ。

「もし、神機使いに筆記試験があったらクレハちゃんは一番になれるかもしれないね!」

「そんなことないよ。それにそうだとしても実技で落ちる・・・」

 私はスポーツとか運動ができない・・・。

「でもクレハちゃんはこれから強くなる気がするよ」

「・・・そうかなぁ」

「なんかそんな気がする。アニメとかだとダメな子がどんどん成長していくってあるじゃんか」

 

 グサァッ!

 

「ダメな子・・・!」

 

 ピチューン!

 

「そうだよね・・・。やっぱり私はダメな子なんだよね・・・」

「え? ちょ・・・クレハちゃん・・・?」

「なにもうまくできないほんとにダメなやつなんだよ・・・。やっぱり私はダメな子だよね・・・。ダメっ子だよね・・・」

 トラウマスイッチオン!

「やれやれまた始まった」

 コトがいつものように呆れたように言う。

「ご、ごめんね! そんなつもりで言ったんじゃなくてね!」

 ナナが慰めてくれる。

「ほら、これから強くなるって話でね!」

「うう・・・。ナナは優しいね・・・。いつもみんな突き放してほっとくから・・・」

「ええ? それは酷いなぁ」

「でもそれも全部私が悪いんだけど・・・」

「そんな・・・」

 そう言うと私はなにか温かいものに包まれた。

「クレハちゃんは悪くないよ」

「え・・・?」

 気づくとナナに抱かれていた。

「みんながクレハちゃんのすごさに気づいてないだけだよ」

「ううっ・・・」

 どうしよう・・・。なんか涙出てきた・・・。私は涙をぬぐった。それを見てナナは、

「会ってあまり経ってないのにこんなこと言うのは変だと思うけど」

 こう言った。

「泣きたいときは泣いたらいいと思う」

 涙腺崩壊。

「うっ・・・くっ・・・ぐすっ・・・」

 もうダメだ・・・。止まらない・・・。ナナってこんなキャラだったっけ・・・。でももうどうでもいいや・・・。

「そう。苦しいときは思いっきり泣いたらいいよ。全部吐き出せばいいと思う」

 私はナナに抱かれながら声を抑えて泣いた。

 その間、なぜかうっすらと背中に殺気を感じた。




 ソフトすぎる百合が書けましたよ(百合かどうかも怪しい)。ナナのキャラが若干違うのはご了承ください・・・。そして一瞬しか出てこないロミオ先輩。・・・すんません。ロミオパートになったらたくさん出ると思います。次回はクレハたちの実地訓練です。今回のヘタレさを見る限りロクなものにならない気がしますw

 そしてお気に入り登録やコメントくださった方ありがとうございました!

 というわけで感想や批評、誤字脱字の指摘待ってマース!(金剛さん風・・・ってわかる人少ないかw)

 あとこれは私事ながら申し訳ないのですが、冬休みが終わってしまったがゆえにたださえ遅い更新がさらに遅くなります。ですが時間を見つけてちまちまと書いていこうと思います。


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8 さ、初陣だよ! 行こう!

 お久しぶりです。ねこめでございます。案の定、更新スピードがこの有様です・・・。もっと早く更新できるよう努力します。


 ブラッドに配属されて三日目。私は今日も訓練に励む毎日。訓練に入る前にラケル博士がお話しがあるということで研究室に呼び出された。内容はブラッドの『血の力』ついてで私が昨日ナナに話したこととほとんど同じだったから省略する。

 そのあとジュリウス隊長に呼び出された。

「実地訓練!?」

 私の声が廊下に響いた。

「昨日で基礎訓練は終了した。お前たちには実際の戦場の感覚を掴んでもらう」

 お前たちというのはナナも含まれているからだ。

 私は恐る恐る聞いてみる。

「あのお言葉ですが・・・」

「なんだ?」

「まだ三日しか経ってませんよね・・・?」

「そうだが?」

 隊長はそれがどうかしたとでも言うような顔をした。

「いえ・・・なんでもないです・・・」

 ダメだ。この人、自分じゃ気づいてないみたいだけど恐ろしくスパルタだ。

「それでは指定の時刻になったら待ち合わせ場所で会おう」

「あ...はい」

 去っていくジュリウス隊長の背中を見てロミオ先輩の言葉が頭に浮かんだ。

 

『ブラッドは甘くないぞ。覚悟しとけ』

 

「あっはは・・・。ほんと甘くないわぁ・・・」

 そう私は一人で呟いた。

 世界がもっとミルクティーみたいに甘かったらなぁ・・・。

 

   ◆◆◆

 

 そしていつもの自室。

「とうとう本番か」

 コトが私に言った。今回ばかりは真剣だった。私は相変わらず緊張していた。

「なにお前の能力を持ってすれば簡単じゃて」

「それでもやっぱり戦うのやだよ・・・。めちゃくちゃ怖いよ・・・」

 だってアラガミが私たちの討伐対象なら私たちもまたアラガミにとって補食対象だから。しくじれば確実に死が待っている。

「仕方ない。今回もワシが同行しよう」

「ほんと!?」

「じゃが、ワシはあまりこの世界に干渉することは許されておらぬから。もしものときくらいしか助けてやれぬぞ?」

「それでもフラグ回避ができるだけで十分だよ!」

 これで一応死ぬことはない。けど恐怖からは逃れらないわけで。

「・・・ようし・・・大丈夫。い、行こう・・・」

「声が震えておるぞ」

「だ、大丈夫・・・」

 私はロビーに来てオペレーターカウンターへ向かった。

「あ、クレハちゃ~ん」

 ナナが先にいた。たった今訓練を受注したばかりのようだ。

「今日は一緒の訓練だよね。よろしく!」

「う、うん。よろしく・・・」

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。実地訓練なんて今まで教えられたことを覚えてれば簡単だよ」

 うわー。この子すごいポジティブだわー。っていうか実地訓練ってこと教えられてるんだ。

「そういえばクレハちゃんっていつも制服だよね」

 確かにこの三日間は訓練があるからほとんど制服で生活している。

「訓練だから制服のほうがいいかなって・・・」

「真面目だなぁ。私なんかいつもこれだけどなにか言われたことないよ?」

 その露出度高すぎる服装でよくなにも言われないな・・・。

「クレハちゃんも私服で来たらいいのに」

「う~ん。じゃあ今度そうしてみようかな」

 ただ自分のセンスをあまり信じられない・・・。

「お話しのところ失礼ですがそろそろ訓練の時間です」

 フランさんが時間を教えてくれた。

「あ、もうそんな時間か」

 ナナはそう言うとフランさんにこんなことを聞いた。

「フランさんもいつも制服だけど、私服ってどんな感じなんですか?」

 この人にそういうことは聞かないほうがいいと思う...。

「業務中なのであとにして頂けますか」

 フランさんは手元のキーボードのようなものを操作しながら言った。

「あ、・・・はい」

 まあ、こうなるよね。

「ナナ、そろそろ行こうよ」

 私がそう提案するとナナは「うん」と首を縦に振った。

 オペレーターカウンターから少し離れたところでナナが声を潜めて言う。

「なんかごまかされたような気がするんだけど・・・」

「いや・・・そんなことはないと思うけど」

 もしごまかされたとすると、私と同じようにセンスに自信がないのか。はたまたクールな性格とは裏腹に私服がめっちゃかわいいとかかな。

 

  ザザッ

 

 突然、無線が起動した。

「なにもごまかしていませんが」

 フランさんだった。

(聞こえてたよー!)

 私たちは回れ右すると、

「「すいませんでしたああああぁ!」」

 全力で謝罪して、ダッシュで隊長との待ち合わせ場所に向かった。

 

   ◆◆◆

 

 外部訓練だからヘリで待ち合わせ場所まで行った。

「来たか・・・」

 隊長はすでにその場所にいた。私たちは走って行くと敬礼する。するとナナが言う。

「フェンリル極致化技術開発局、ブラッド所属、第二期候補生二名、到着致しましたあ!」

「ああ。早速だが実地訓練を始める」

 そう言うと隊長は任務開始地点の崖へと歩いていく。

「見ろ・・・あれが我々人類を脅かす災い、駆逐すべき天敵。アラガミだ」

 一匹残らず駆逐してやる、というセリフが頭をよぎった。でもなんのセリフだっけ・・・。

「手段は問わない。完膚なきまでにアラガミを叩きのめせ、いいな?」

「りょ、了解です・・・」

 私は力なく返事した。

「お前たちの本来の実力を発揮すれば問題ない」

 

  グワアアアアァァァ!

 

 突然、オウガテイルが崖の下から飛び出してきた。

 

  ズドンッ!

 

 かと思ったら滞空中に弾丸によって撃ち落とされた。

 隊長がやったのかと思ってそのほうを見てみたけど攻撃動作をしたようではないようで、どうも違うみたい。ナナも同じく違うみたいだ。そうなると・・・。私は自分の手元に視線を落とす。

「え・・・あれ・・・」

 私は銃形態の神機を構えていたのだった。私がアレを撃ち落としていた。

「クレハちゃん、すごい・・・」

 ナナが唖然としている。

「そうだ。その調子だ」

 隊長も誉めてくれた。

「なんか体が勝手に動いたような・・・」

 私がそう呟くとコトが後ろから言う。

「お前、反射的に撃ったじゃろ・・・」

 そんなアホな・・・。

「やはりお前、本気で怒ったら怖いやつじゃな」

 なんか反論できない気がしてきた・・・。とにかく、私、原作のシナリオを変えちゃったけど大丈夫なのかな・・・。

「古来より人間は狂暴な敵と対峙してきた」

 一応ジュリウス隊長は原作通りのセリフを言ってるけど。

「強靭な牙や爪も持たない人類がなぜ勝利してきたのか。共闘し、連係し、助け合う『戦術』・・・・・・。人という群れをひとつにする『意志』の力・・・・・・」

 隊長は私たちに背を向ける。

「『意志』こそが俺たち人間に与えられた最大の武器なんだ。それを忘れるな!」

 神機を構え、

「時間だ、行くぞ」

 崖から飛び降りた。

「え・・・こっから飛び降りるの・・・?」

「大丈夫だよ。私たち神機使いだし」

 ナナはびくびくしている私に言う。

「さ、初陣だよ! 行こう!」

 なんか今のカッコいいな・・・。漫画のワンシーンみたい。

「どうしたのじゃ、ここにいてもなにも始まらぬぞ」

 コトも後ろから言った。なんかよくわかんないけど、この実地訓練、なんとかなるような気がしてきた!

「うっ、うん!」

 私はなんとか返事をした。

「よし! じゃあ、出撃だ!」

 ナナは先に降りていった。私は崖へと歩いていってひとつ深呼吸をした。

「神戸クレハ、出撃します!」

 気合いを入れるためにそう叫ぶと戦場へと降り立った。

 

   ◆◆◆

 

 討伐対象は砲台型アラガミのナイトホロウ、足しかない虫のようなアラガミのドレッドパイク以下二種だ。

 

  ズガガガッ! ズシャッ! ザスッ! グシャッ! 

 

 耳にいろいろな音が入ってくる。銃で撃つ音、アラガミを断ち切る音、アラガミを叩きつぶす音。聞いていてとても気持ちのいいものじゃない。でもこれもすぐに慣れるのかな。そう思うと救われるような、悲しいような気持ちになった。

 ジュリウス隊長がブレードで切り、ナナがハンマーで叩き、私がアサルトで撃つ。ただそれだけ。

「よぉく狙ってぇ・・・」

 

  ズドン! ズドン!

 

 どちらの種も動きが遅いから狙いやすかった。耐久もないから簡単にダウンする。その間に接近し、補食してバースト化。そしてすぐに距離を取って銃形態で撃つ。

 なぜこんなに簡単なのかというと私は彼らの眼中に全く入ってないみたいだからだ。

「なんで私ばっか狙われてんのー!?」

「俺もだ」

 だから二人が前衛で必死に頑張ってくれてる。おかげで私はずっと後衛でいられた。ちょっと悪いことをしたなぁ・・・。

 戦場にたちまちアラガミの屍ができ上がっていった。隊長が私とナナを交互に見て言う。

「今日の訓練はこれで終了だ。ごくろう」

「ワシはいらんかったのぉ」

 コトがぼやいた。確かにそうかも。でも一緒にいてくれるだけでも安心するってあると思うんだ。まあ、今は言えないけど。

 

  ザザッ

 

「周囲に多数のアラガミ反応!」

 無線でフランさんの声が聞こえてきた。隊長が種族を聞くとオウガテイル種だとフランさんは答えた。

「了解。迎撃する」

「え・・・、さっさと逃げちゃったほうがいいと思うんですけど・・・」

 

 ギャアアアアアアアアァァ!

 

 突然、数体のオウガテイルが頭上から飛びかかってきた。まさに上田エリックさん状態だ。ナナと隊長はそれを後ろに跳ぶことで避けた。私はというと・・・、

「あ・・・あ・・・」

 さっきみたいに反射的には動けず、あまりのことに立ち尽くしていた。寸でのところでコトにタックルをくらって助け(?)られた。

「馬鹿者! あと少しで死んでおったぞ!」

 仰向けのままの私に覆い被さるような状態でコトは怒鳴った。

「ご・・・ごめん・・・」

「全く! ワシがおってよかったわ!」

 コトは立ち上がりながら言った。私も起き上がった。目線の先にはジュリウス隊長とナナがオウガテイルの群れと睨みあっていた。

「もしかして・・・また私、忘れられてる?」

「致し方ないことじゃ」

「はあ・・・」

 私はため息をついて二人の近くまで歩いて行った。オウガテイルたちですらも私のことは忘れているみたいだ・・・。

「いい機会だ。お前たちが目覚めるであろう『血の力』をここで見せておこう」

 ジュリウス隊長はゼロスタンスと呼ばれる居合い切りのような構えをしてさらに自分の前に構える。その瞬間、隊長の神機が赤く光った。

「・・・力が・・・みなぎる・・・!」

 ナナが言った。私もバースト状態のとき、いやそれ以上の力を体の奥底から感じた。

「今から『ブラッドアーツ』を目標に対して放つ。少し離れていろ」

 隊長は背を向けたまま言った。

「ブラッドアーツ・・・?」

 ナナが質問する。

「戦況を覆す大いなる力・・・。戦いの中でどこまでも進化する。刻まれた血の成せる技」

 なんか隊長が中二病の人に見えてきちゃった・・・。言い回しのせいかな・・・?

 隊長は今度は神機を後ろに構えた。すると隊長本人から赤い光が発せられる。次の瞬間、

「はあっっ!」

 

 ズシャッ! ズシャッ! ズシャッ! ズシャッ! ズシャッ!

 

 隊長がオウガテイルを切りつけながら群れを走り抜けた。オウガテイルたちにいくつもの閃光が走った。気づいたときには群れの全てが屍となっていた。

「おお。まさに神業じゃのぅ」

 コト、神様がそれを言うのか・・・。

 オウガテイルたちは霧散していった。

 隊長は軽く服を払うと振り向いて言う。

「これがブラッドアーツだ」

 そしてこっちに歩いて来る。

「俺たちブラッドに宿る『血の力』、そしてブラッドアーツ、これをどう伸ばし、そしてどう生かして行くのかは、全て、お前たちの『意思』次第だ。覚えておいてくれ。いいな?」

 私たちは無言で頷いた。

「まあ、そのためには接近戦もできるようにならねばのう?」

 コトがからかってくる。・・・いいんだよ。私は前衛より後衛向きなんだよ!

 

   ◆◆◆

 

 夜、

「あのさ、コト。今日はありがとね」

 私は寝る前にコトにお礼を言った。

「なんじゃいきなり」

「今日ついてきてくれてさ。すごく安心できたよ」

「あー、そんなことかい。なんなら毎日ついていってやろうかのぉ?」

「毎日はちょっと・・・」

 私は少し苦笑いで言った。

「あと・・・」

「まだあるんかい」

「助けてくれてありがとう」

「・・・・・・」

 コトは数秒沈黙してから口を開いた。

「クレハ、死ぬd・・・」

「ちょっと待って! それ死亡フラグ!」

「おお、すまぬ。ついうっかり死ぬでないぞなんて・・・。あ・・・」

「あ・・・」

「すまぬ・・・」

「いや・・・たぶん今のはネタとして扱われるやつだと思うからたぶん大丈夫・・・のはず」

「で、ではこれならどうかの?」

「なに・・・?」

コトはそれを言おうとしたけど躊躇う素振りを見せた。

「・・・いや、今は言わないでおこう」

「え~? なんで?」

「今言うのはもったいない気がするでの・・・」

「そう。じゃあまた今度聞かしてもらうよ」

「うむ。おやすみなのじゃ、クレハ」

「おやすみ、コト」

 私は目を閉じた。

 今日もいろんなことがあったなぁ。この三日間、本当にいろんなことがあった。保育所にいたときが昨日のようにも感じられるけど一年前のようにも感じられる。それだけ忙しかった。

 恐らく明日も今日みたいに実地訓練、いやもしかしたらあのスパルタ隊長ならいきなり本物の任務ということになるかもしれない・・・。

 

 これがほんとにそうなんだから私って天才かも・・・(涙目)




 改めましてねこめでございます。今回は実戦回でした。更新が遅れても相変わらず主人公ちゃんはヘタレで空気ですw
 あと最後のシーンですが、クレハがベッド、コトがふとんで寝ています。


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9 これでもまだ序盤なんだよなぁ・・・

 うう・・・。一週間以内に更新するのは叶いませんでしたよ。

 それはともかく、今回は完全に戦闘回且つ非常に短いです。あとどうでもいいですけどなぜか六話目の閲覧数が多いです。タイトルって大事なんだなって思いましたw


 淀んだ曇り空。目の前には大きな竜巻。

 今、私は嘆きの平原と呼ばれている場所に来ている。なんでこんなところにいるのかというと・・・。

「今日もお仕事頑張ろー!」

 ナナが元気よく言う。お仕事→任務。しかも今回は隊長の同行はなし。コトもしかり。つまりガチ本番。ちなみにまた制服で来た。

「はあ・・・。今日からほんとの仕事か・・・」

 やっぱり私はこんな感じ。

「大丈夫だよ。今回の討伐対象も動かない小型アラガミなんでしょ? しかも二匹だけ」

 ナナがフォローしてくれるけれど私は

「うち一匹はいつもより強いやつね・・・」

 この有り様。強いやつというのは「コクーンメイデン」という人の顔が付いた、砲台型の小型アラガミだ。ナイトホロウと同じで動けないけれど耐久性能や攻撃速度など、どれをとってもナイトホロウより強い。頭からレーザーやジャベリンを撃ってくる。遠距離攻撃しかできないのかと思いきや胴の部分から大量の針を飛び出させることによる近接攻撃もできる。GEBのときはこの種族が大量に出てくる任務がある。集中放火をくらった神機使いも多いとか。

 名前を直訳すると「サナギの少女」となるけれど、昆虫のサナギのようにかえって蝶になるわけでもない(まだ未発見なだけかもしれない)。お世辞にも少女には見えない。

 余談だけれど、ナイトホロウは「夜の亡霊」となる。別に亡霊でもないし、昼夜構わず出没する。

 それらは置いといて。「ザザッ」という音のあと無線が入る。

「こちらオペレーターのフランです。無線は問題なく機能していますか?」

 今回は訓練といえども一応任務を兼ねたものだからフランさんがオペレーターをしている。

「は、はい!」

 私はたどたどしく答えた。

「では、これから実地訓練及びアラガミ討伐任務を始めます。まず初めに今回の討伐対象を改めて確認します。今回の討伐対象はナイトホロウとコクーンメイデンが一体ずつです」

 ああ、ついに本番だよ・・・。

「わかりましたか?」

「はっ、はい! 了解でしゅ!あ・・・了解です!」

 いきなり問いただされて噛んじゃったよ・・・。

「では任務を始めてください」

 その言葉ともに無線は切られた。

「あー、切られちゃった。」

 ナナは気楽そうだ。

「それじゃ行こっか」

「うん・・・」

 私はテンション下がりまくりだ。

「だから大丈夫だって。昨日みたいにズドンッ! ってやればいいんだよ」

「昨日みたいに? あ・・・」

 突然、崖を飛び越えてきたオウガテイルを一発で撃ち落としたことか・・・。

「あれだけの瞬発力があれば動けないアラガミなんて敵じゃないよ!」

「う~ん、そうかなぁ」

「そうだって! じゃ行こ!」

 まあ、近寄らずに遠くから撃ってれば被害はないかな。

「・・・わかった」

「よし! じゃ私が前衛やるからクレハちゃんは後衛を頼むよ」

「了解!」

 そんな会話を終えると私たちは崖のほうを向いて神機を構える。

「そんじゃ、ブラッド第二期候補生しゅつげーき!」

 ナナの高らかな一声とともに崖から飛び降りた。

 

   ◆◆◆

 

 戦闘は驚くほどスムーズなものだった。

「おおりゃああ!」

 

  ドスッ! ゴスッ!

 

 ナイトホロウがナナのハンマーで殴られている。

 ナナがバックステップで一旦距離をとる。

「当たって!」

 

  ズガンッ! ズガンッ!

 

 そして私がアサルトで撃つ。ナイトホロウが項垂れた。

「アラガミ、ダウンです」

 フランさんが無線で言う。

 私たちはナイトホロウに走っていって、

「喰らって!」

「パクっと♪」

 神機で補食する。食いちぎられた部分から血が吹き出てきた。

 バースト状態となり、力が湧いてくる。

 まだダウンしているナイトホロウを二人でボコす。私はショートだからボコすというより切るという言い方になるけど。攻撃することも、ダウンから回復することもなくナイトホロウは屍と化した。するとまた無線が入った。

「アラガミ、活動停止」

 私は補食によって素材回収を行って、

「これで一体目か」

 そう呟くとナナも言う。

「案外簡単だったね~」

 確かに思ったよりも楽に倒せた気がする。でもこれは・・・、

「次で大苦戦するパターンだ、これ・・・」

「そんなネガティブに考えちゃダメだよ。もっと前向きに行かなきゃ」

「ナナ、私の場合はそれが油断に繋がるから・・・」

「んー。まあとりあえず次行こ」

 そんな話をしながらしばらく歩いているとコクーンメイデン発見した。向こうも私たちに気づいたようで攻撃体制になる。

「よーし。さっきのアラガミみたいにボコボコにしちゃうよ~!」

 ナナが意気込んで走っていく。

「あ、正面から近接攻撃はダメ!」

「え、なんで?」←こっちを向いて

「よそ見もダメ!」

 と、コクーンメイデンがレーザーを発射してきた。

「危ない!」

 私はとっさに走り出してナナの前に立ち、装甲であるバックラーを展開する。レーザーはバックラーに弾かれた。

「早く移動して!」

「う、うん!」

 私の言葉にナナは素直に応じてくれた。

「後ろから攻撃して! 一撃くらわせるごとにバックステップ!」

「りょーかい!」

 ナナはコクーンメイデンの後ろに回るとヒット&アウェイでコクーンメイデンを殴っていく。これなら針で攻撃しても届かないし、レーザーを撃つにしても向きを変えるのに時間がかかる。

 私は自動空気スキルを利用して誤射をしないようにアサルトで撃つ。さっきのナイトホロウから奪ったアラガミ弾もいっしょに撃ち込む。なんか私も固定砲台に近い状態になってるな・・・。

「アラガミがダウンしました」

 無線でフランさんが伝えてくれる。

 ここからはナイトホロウのときと同じように、

 

  補食→バースト化→近接攻撃でボコす→倒す

 

 というような感じで終わるわけがなかった。

 コクーンメイデンは耐久能力が高い。つまり一回くらいダウンしたところで倒れない。ダウンから回復すると胴の部分を真上へと伸ばした。この予備動作は・・・!

「ヤバい! すぐ離れて!」

「りょーかい!」

 私たちが退いてすぐコクーンメイデンを中心として無数の針が四方八方に飛び出した。

「危なかったぁ・・・」

 私は呟いた。ほっとしたのも束の間。またレーザーを発射してきた。ナナはそれをステップで避ける。私は能力のおかげで全く相手にされてない。

「さっきみたいに攻撃したら退いて!」

「わかった!」

 ナナにそう言うとまたヒット&アウェイを繰り返す。私も引き金を弾いて弾丸を撃ち込む。

 

  ズガンッ! ゴスッ! ズガンッ! ガスッ!  

 

 殴打する音と銃声が交互に、なにかの曲のように鳴り響く。そう思えるようになってしまったほどに戦場が発する音に慣れてしまったのかもしれない。

 そんなことを考えているとコクーンメイデンが二度目のダウン状態になっていた。ダウンしている間にできるだけダメージを与えるために補食行動なしで切りまくった。

 今度はダウンから回復することはままならずに沈黙した。

「ふう・・・やっと倒せた・・・」

「ちょっと手強かったねぇ」

 私は疲れ気味だけれどナナはまだまだいけるといった様子。

「討伐対象の殲滅を確認。任務完了、お疲れ様でした」

 フランさんが無線で任務の終了を伝えてくれた。

「終わったか・・・」

 私はへたへたと座り込んだ。

「クレハちゃん、大丈夫・・・?」

「うん・・・たぶん・・・」

 ナナが心配してくれる。

「これでもまだ序盤なんだよなぁ・・・」

 原作ではあんな小型のものだけじゃなくて戦車みたいに大きなものとも戦わなくちゃいけない。

「序盤って?」

「い、いやなんでもないよ!」

 この世界で序盤とかいう単語を発することはメタ発言となんら変わらないことだから迂闊に言うとかなりまずい。

「まあいいや。立てる?」

「大丈夫だよ。ちょっと安心して腰が抜けちゃっただけだから」

 私はなんとか立ち上がって制服についた土をパパッと払って歩き出した。

 

   ◆◆◆

 

 ヘリポートへと続く帰り道でこんな話をした。

「さっきはありがとね」

「さっき・・・?」

 いきなりお礼を言われて私は戸惑った。

「ほら、庇ってくれたじゃん」

「え? あ、あれか。お礼を言われるようなことじゃないよ」

 そう私が言うと前に見た屈託のない笑顔で言う。

「でも助けてもらったんだから言わせてよ」

「じゃ、じゃあどういたしまして・・・」 

「クレハちゃんはなんか堅いんだよな~」

 そう言われてもなぁ・・・。私はこれが普通なんだけれど・・・。

「まずはさ、その制服で来る癖を直したらいいんじゃないかな」

「・・・やっぱダメ?」

「ダメダメ! せっかく可愛いんだからさ~」

「へ・・・?」

「スタイルもそれなりにいいんだし」

 私は足が止まってしまう。

「お、お世辞は止めてよ!」

「お世辞じゃないよ~。本当にクレハちゃんは可愛いよ!」

 ああ、もう! なにこの子! 悔しいことに自分でも顔が赤くなっていることがわかった。

「そんな風に私の反応を見て楽しんでるんでしょ!?」

「そうだよ。照れてるクレハちゃん、ほんっと可愛い!」

「・・・・・・」

 なになに!? なんなのこの子!? あっさり肯定したよ!? 原作じゃこんなんじゃなかったはずだよね!?

「もう知らない!!」

「あ、ちょっと待ってよー!」

 私は走り出した。でも行く場所は同じヘリポートだから結局は追い付かれた。ていうかよくあんな重たそうなものを持って走れるな・・・。

「いくらなんでも純情過ぎだよ~・・・」

 ナナは息が切れてぜぇぜぇと呼吸する私に言った。

「いきなりあんなこと言うほうがどうかしてるよ!」

「だってほんとのことだもん」

 うぬぬ・・・。それも狙って言ってんの・・・?

「本当のことでも言わないほうがいいこともあるんだよ!」

「ウソ言うよりかはいいと思うよ?」

「だったらそんなストレートじゃなくてもっとオブラートに包んで言うの!」

「じゃあ、今度からそうするよ」

 できることならあまりああいうことは言ってほしくない。いや、嫌なんじゃなくてどう反応したらいいのか困るんだよ・・・。

 ヘリに乗ってからも私はナナに誉め殺されるかと思った。

 

 この話をコトにしたらナナの部屋に殴り込みに行きそうになったのはまた別のお話。




 なぜでしょう・・・、なぜこうもつなぎの話になってしまったのでしょうか・・・。どうも戦闘描写がうまくいきませんorz 
 ナナのことで、「キャラ崩壊」タグってつけたほうがいいでしょうかね? そのことに関してもご意見くださるとうれしいです。


 ●ねこめの独り言●
桜trickがやばい。見る度に発狂しそうになるw (°▽°)フオオオオオ! って心の中で叫んでましたw

追記:お願いですから感想をぉぉぉぉ・・・。 ねこめどう書いていけばわからないよぅ・・・。


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10 番外編;保育所時代

 十話目ということで書いてみました。本音は本編のネタが思いつかなかったんですw

  注意! ていうか警告! WARNING!
 今回はねこめが大暴走しています! 要約→ガチ百合要素が入ってます。ソフトじゃないです。ガチです。
 苦手な方は即ブラウザバックしてください。全く耐性がない人にはかなり危険ですw いや別にエロが入ってるわけじゃなくてですね。入ってたらR18タグ入れてますよww

それに耐性がある、もしくは「大好物ですからぁぁ! ざんねぇぇん!」(←ネタ古いw)という方はどうぞ!

あと本来カタカナで書かれるものがひらがなで書かれていますがそのキャラの特徴なのでご了承ください。


「それじゃ行ってくるね」

「ああ、行ってらっしゃいなのじゃ」

 いつものように部屋からクレハを見送った。今日も訓練を兼ねた任務らしい。またナナとかいう露出度が高いやつと一緒で。

 最近昔のある出来事を思い出して不安になる。

 それはクレハがまだ十歳だった頃の話だった。

 

   ◆◆◆

 

 ワシは自分の任務をこなしていた。監視と言うと聞こえが悪いがあやつの動向を見守るのがワシの任務である。普段は部屋にいると見せかけて実はすぐ近くにいた。

 今、クレハは授業を受けており、ワシは教室の外から中の様子を伺っていた。

「では、今日はここまでです」

 ありがとうございましたー、という声のあと室内が騒がしくなる。授業が終わったらしい。ワシは物陰に隠れた。

「ふう、知ってることを教わるってのも大変だなぁ・・・」

 クレハが独り言を言いながら教室から出てきた。また人に聞かれるとまずいことを・・・。

「ク~レハちゃん♪」

「ひゃっ!? アンズ?」

 クレハに後ろから勢いよく抱きついたこの少女はアンズという。この頃、よくクレハと遊んでいた。

「驚かさないでよ・・・」

「あっはは、そんなにびっくりすることないじゃん」

 アンズは無邪気に笑いながら言った。彼女は基本、明るい性格である。名前は日本人のようだが長い金髪を二つに結んだ髪型で顔もはーふといった感じである。しかしその容姿が彼女の明るい性格とよく合っている。余談だがアンズは一般人より索敵能力というか気配を感じるのが上手いのか、この保育所で唯一クレハの存在によく気づく存在だった。

「授業も終わったし遊びに行こうよ!」

「いいけど、なにするの?」

 二人が話していると、

「クレハ姉さん! かくれんぼしようぜ~」

 当時の年少組の子供たちが遊びに誘いにきた。この時からクレハは年少の子供に人気があった。

「えっ、あっ・・・」

 クレハは気まずそうにアンズと子供たちを交互に見る。

「アンズお姉ちゃんもやる?」

 年少組の一人からそんな声が出た。

「そ、そうだよ! アンズも一緒にやろうよ!」

「え・・・あ、うん」

 実はこのアンズ、年下の子供はあまり好きなほうではないらしい。同級生や年上のほうが気が合うようである。

「じゃ、いつも通り保育所内だけでね」

「鬼決めよー」

 子供たちは元気である。人間、年を取ると元気がなくなっていく。悲しいものである。ワシは神様だが。だれじゃ見習いだけどねとか言ったやつ。

「じゃんけんで決める」

「よーし、じゃ行くよ!」

「最初はグー、じゃーんけーん」

 

   ぽん!

 

「あ・・・」

「アンズお姉ちゃんが、鬼ー」

 アンズがグー、他は全員パーという結果になった。

「じゃあ、隠れろー!」

「わーっ!」

 一斉に散っていきアンズのみが残される形となってしまった。ワシもクレハを見失ってしまった。

「もう、クレハちゃんまで・・・」

「全くじゃ・・・」

 アンズの言葉に同情する。ワシの声はアンズには聞こえぬが。

「しょうがない、探すか」

 アンズは渋々といった様子で捜索を始めた。ワシはしばらく彼女についていくことにした。

 

   ◆◆◆

 

「みーっけ」

「あー・・・」

 年少組はまた一人、また一人と次々にアンズに見つけられていった。さすがはクレハの存在によく気づくだけある。なによりこやつ、勘が人一倍いい。探している最中は特になにか根拠があって探しているようには見えなかった。

「さてと、あとはクレハちゃんだけか」

 ワシはいくらこやつでも見つけられまいと思った。だが・・・。

「もしかして・・・」

 アンズは保育所の本所の後ろ、その隅にある小さな倉庫へと足を向けた。重い扉を開けると積み重なるだんぼーる箱に歩いていった。

 まず脚立を押してその上に昇ると一番上のだんぼーるに手を伸ばした。それは開けずにどかした。中身は軽いものらしい。そしてその下のだんぼーる箱に手を掛けて身を乗り出す。

「ふふっ♪ クレハちゃんみっけ!」

 するとだんぼーるの塔の間からクレハが顔を出した。

「どうして・・・? どうしてわかったの・・・?」

 クレハは驚愕と困惑が入り乱れたような顔をしていた。

「わたし、クレハちゃんの考えることなんてすぐわかるよ」

 満面の笑みとでも言うべきか、そんな感じの笑顔で言った。

「そ、そうなんだ・・・」

 そうなのか・・・とワシもつい心の中で呟いた。ワシはクレハの考えることがわかるだろうか。

「ねえ、ここってまだわたし以外誰にも見つかってないの?」

 アンズはそうクレハに尋ねた。

「そうだよ。アンズが初めてだよ」

「じゃあさ、ここわたしたちだけの秘密の場所にしない?」

「秘密の場所?」

「そう。普段できないこととか話とかをここでするの」

 普段できないこととか話ってなんなのだろうか。

「そうしようよ」

「それは・・・その」

 アンズはさらに困惑気味のクレハの手に自分の手を重ねて、

「ね?」

 と言った。

「う・・・うん」

 クレハはこういう「ね?」というような台詞に弱い傾向がある。ワシとしては少し耐性をつけて欲しいところなのだが。

「それじゃ、ここはわたしたちだけの秘密」

「うん・・・秘密」

 クレハは少し躊躇いながら頷いた。

「そろそろ行かないと、みんな待ってる」

 クレハが言った。

「そうだね。行こっか」

 クレハが歩き出すとアンズが駆け寄って行き、きゅっとクレハの手を握った。

 またもクレハは困惑の表情になるが、アンズに微笑み掛けられると微笑み返し、手を繋いで倉庫を出ていった。

 ワシは少し羨ましいような、妬ましいような気持ちになった。なぜなら、

「あやつ、なんて幸せそうな顔をしとるのじゃ・・・」

 

   ◆◆◆

 

 あの出来事があって以来、二人は自由時間になるといつも例の倉庫で話をしていた。ワシは倉庫の窓から二人の様子を見ていた。

「実はあの子は誰々が好き」とか「先生はあそこにへそくりを隠してる」とか「この保育所は昔はものすごい大規模な保育所だった」など他愛ないこともあれば、聞かれるとかなりまずいことまで話していた。

「アンズちゃんすごいね・・・。どこからそんな情報仕入れてくるの?」

 いつしかクレハもアンズをちゃん付けで呼ぶようになっていた。

「自分で調べることもあれば人から聞いたものもあるよ」

 索敵能力はときに隠密能力より優れたものとなる。早く敵の存在に気付けば迅速に行動し、隠れることなく難を逃れることができることもある。これを活かしてアンズは情報を仕入れているのであろう。

「あ・・・。来た・・・」

 アンズは耳に手を当てて音を聞き取ろうとする。

「え?」

「誰か来た!」

 索敵を得意とするアンズ。隠密を得意とするクレハ。この二人の能力は誰かが倉庫に近づくごとに発揮された。クレハはもとから見つからぬ。アンズはその索敵能力のひとつである聴力で倉庫に近づく者の足音を聞く。聞こえなかったとしても気配を感じ取る。彼女も神機使いの素質があるのではないかと思うほどの能力である。

 そしていつものだんぼーる箱の塔の間に二人で隠れるのである。しかし二人で隠れるには狭く、密着する形となってしまう。

 ワシはそれを見ているとなぜかやきもきした。時折りアンズが、

「クレハちゃんあったかい・・・」

 と言った。それを聞いてまたやきもきした。

 それにクレハも少し赤くなって困惑しているのを見ると憤りまで感じてしまった。

「・・・・・・」

 アンズはまた耳に手を当てて音を聞き取ろうとしていた。

 ガラガラと音を立てて入口の扉が開け放たれ、一人の生徒が工具箱を持って入ってくる。工具箱を棚に置くと、またガラガラと扉を閉めて去って行った。

「行ったみたいだね・・・」

「ヒュー・・・危なかったぁ・・・」

 二人はほうと安堵の溜息をつく。クレハは隠れている場所から出ようとした。そこをアンズに服の袖を掴まれて止められた。

「もすこし、ここにいよ?」

「え、狭いんだけど・・・」

「いいでしょ? ね?」

 彼女お得意の「ね?」と、さらには上目遣いで懇願する。まるでクレハが苦手とする仕草を知っているかのように。

「・・・わかった」

 クレハは少し戸惑った素振りを見せるが従った。

「えへへ」

 アンズは嬉しそうにクレハに体を擦り寄せた。

「クレハちゃんなんか体が熱いよ? 熱でもある?」

「え・・・いやそんなことは・・・」

「どれどれ~?」

 額と額を合わせた。

「え、え・・・?」

「う~ん、結構高いね。これはあとで先生に報告だ」

「いや・・・大丈夫だから・・・」

 額を離すとまた体を擦り寄せた。

「酷かったら、わたしが看病してあげるからね」

「・・・だから全然熱じゃないって」

「もしもの話だよ」

 ワシはこのとき酷く胸の辺りが痛んだ。理由はわからぬが酷くしめつけられるような感覚に襲われた。

 そんなやり取りをしていると自由時間もそろそろ終わりに近づいていた。

「あーあ、今日ももう終わりかー」

 アンズが残念そうに呟く。

「ずっと、このままだったらいいのにな」

「そうだねぇ・・・(ずっと保育所暮らしがいいなぁ)」

 クレハまでそう言っていた。いっそう胸がしめつけられた。

 

   ◆◆◆

 

 数日経ったある日、事件が起きた。とは言っても二人の間で起きた小さな事件。でもワシにとってはとてつもなく大きな事件だった。

「あ、人来た!」

 今日も一目を盗んで秘密を言いあっていたところに誰かが来た。急いで隠れ場所へと移る。

 二人が密着している状態を見るのもある程度慣れた。しかし、クレハのアンズに対しての好感度が日に日に上がっていくのは慣れることができなかった。

「もう行ったかな?」

「まだ・・・まだだよ」

 試しに入口のほうに行ってみたがとっくに通り過ぎている。こやつ、なにを考えているのだ。

「ねえ、もういいんじゃな・・・んむっ!?」

 これが事件である。

「声出したらばれちゃうよ?」

 アンズは唇でクレハの口をふさいだのである。

「・・・な・・・な、な」

 クレハはなにが起きたのかわからぬといった様子だった。

「じゃ、そろそろ出よっか」

 アンズにそう言われてクレハも隠れ場所から出る。しかしその動作も意図的ではなく今までやってきた行動を本能的にやっているようにしか見えない。

「どうしたの?」

 問いかけられてもクレハは答えることができないようだった。

「さっきの続き、したい?」

 クレハはパクパクと口を動かすだけで声は出ず、話すことすらままならない。その代わりゆっくりと首を横に振った。それだけは唯一の救いだった。

「わたしはしたいなぁ・・・」

 とても十歳の少女がしているとは思えないねっとりとした視線をアンズはクレハに向けると、顔を近づけて言う。

「いいよね? ね?」

 クレハは躊躇するも「ね?」ともう一度言われ、先程と同じ速さでゆっくりと首を縦に振った。

「じゃあ・・・」

 アンズはクレハの唇に自らの唇を重ねた。

「んむぅ・・・ん・・・」

 クレハが声を出す。ワシはその様子を憤りとともにどきどきと胸が高鳴っているのを感じながら見ていた。

「ん・・・ぷはっ」

 アンズは口づけをやめた。クレハは安心と心惜しさが混ざったような顔をしていた。

「ふふ。すごく良かったよ、クレハちゃん」

 年相応ではない微笑み方をするアンズ。クレハは恥ずかしそうにうつむいて目を逸らした。

「もう一回、いい?」

 クレハはうつむいたままである。

「もしかして、いや・・・?」

 問われてもなにも答えない。いや答えることができないのだろう。

「だったら、クレハちゃんの友達やめよっかな~」

 それを聞くとクレハははっと顔を上げ、勢いよく自分の唇を重ねた。

「ん!」

 さすがにこれにはアンズも驚いたようだった。

 あまりに勢いが強すぎてアンズを押し倒してしまった。すぐにクレハは起き上がって言う。

「いや・・・その・・・これは・・・ちがっ・・・!」

 ようやく声を出すことができたクレハにアンズは優しく微笑む。

「もう、冗談だよ。そんなこと本気にしてこんなことするなんてクレハちゃんてば大胆」

「違うって言って・・・」

 アンズに抱き寄せられてまた唇で唇を塞がれる。

「ん・・・ん・・・」

「んぅ・・・」

 互いに快楽にまみれた声を出してた。

「もういやじゃ・・・」

 ワシは小声でそう言うとその場から走り去った。

 胸がしめつけられ、潰されるかと思った。前がかすんでよく見えなかった。頬を掠めていく風が冷たかった。

 

 ワシは神様なのじゃ。人間と相容れるなどない。それにワシはただの観察者じゃ。

 

 走りながら無理やり自分を納得させようとしていた。しかしそんなことではどうにもならないなにかがあった。

 気付くと保育所から少し離れたところにいた。

「クレハ・・・」

 一人呟く。なぜこんなに苦しいのかわからなかった。昔はこのようなことはなかった。だがあの少女が現れてからワシの心はごちゃごちゃになっていった。

「・・・ワシはただの監視者じゃ」

 その事実はワシとクレハの関係に絶対的な制限をかける。観察対象の人間の人間関係に影響を与えるような干渉は許されない。ゆえにクレハとその周りの人間がどうなろうとワシにはどうすることもできない。クレハの前世の記憶を抜いたようにあの出来事の記憶を抜いてしまえば良いと思われるだろうが、前世の記憶を抜いたのはワシではなくワシの上司に当たる神である。ワシのような見習いはそのような技術は持っていない

「・・・くそ!・・・くそ!」

 悪態を吐く。

「よりにもよって相手が女だとは・・・!」

 もし、相手が少年であったりすればワシも勝ち目がないと思って素直に諦めていたであろう。だがしかし、アンズは少女だ。神という点を抜けばワシだって一応は女である。その理屈はおかしいという意見もあるだろう。でも感情は理屈で収まるものではなかった。

 

   ◆◆◆

 

 それから一、二年経って、アンズは里親が見つかって保育所を出ることとなった。

 保育所を出る前日は二人揃って「別れたくない」「もっと一緒にいたい」と泣きじゃくっていたが泣いたところで現実は変わらず、そのまま次の日となった。

 別れのときは涙なしでということになった。互いに背を向け、振り向かずに、ゆっくりと、ゆっくりと、自分のいるべき場所へと歩いていった。

「うっ・・・くっ・・・」

 クレハは泣き出してしまった。それを抑えるように振り向かず、こう叫んだ。

「アンズちゃん! 絶対また会おうね!」

 アンズも振り向かずに叫んだ。

「ぜったああぁぁいにまた会おうねええぇ!」

 そして歩き出す。しかしそのあと肩を震わせながら目の辺りをぬぐっていた。

 クレハは自室へと戻っていった。

 あとに残ったのはワシ一人。

「どちらも約束を守れていないではないか」

 そう呟くと自室に戻っていった。

 自室に戻ると、クレハが机に突っ伏し、声を押し殺して泣いていた。ワシはなにも声を掛けず、すぐそばでその様子を見守っていた。

 ここで声を掛けたらワシは卑怯なことをすると思ったから。

 

 

 こんな過去があった。

 時々、ナナの姿があの金髪少女の姿と重なって見えてしまう。

 クレハ本人は全くそんなことは思ってないようだがワシはまたあの過去のような出来事が起きてしまうのではないか、あの感情をまた味わうことになるのではないか、非常に不安である。

「ミッションお~わり~♪」

「あれ? 意外と無事に終わった・・・?」

 そして今日もこっそりとクレハの任務を見守っていた。




 というわけで神様見習い視点のガチ百合(レズ?)回でした。
 書いててとても楽しかったです。あなたは今回のお話をどう思われたでしょうか。まだまだだな、という方のほうが多いと思いますが・・・。

 オリジナル作品の「みんなの世界」もよろしくお願いします!


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11 慢心ダメ、絶対・・・

 原作よりオリジナル展開のほうが多いってどういうことだよって? 全てに意味がなきゃいけないと思ってんじゃねぇか? あ、すいません・・・。ちょ、お願いですからブラウザバックしないで・・・。

 というわけで今回も戦闘回です。書き方を変えてみたのでなにかおかしな点、もしくは前のほうがよかったなどの意見がある場合はコメントに書いてくださると幸いです。

 そして今回は主人公ちゃんがコスチュームチェンジします。わからない場合はGoogleなどで画像検索かけてみてください。


 ここに来て今日で何日が経ったんだろう。まあ今日も仕事だ・・・。はっきり言って仮病を使おうかという考えまで浮かんだ。そんなことを考えてもしょうがないから行くけど・・・。

「さて、私服ねぇ・・・」

「どうしたのじゃ?」

 クローゼットの前で眉間にしわを寄せている私にコトが聞いてきた。

「いやね、ナナにいい加減制服ぐせやめろって言われたんだけど・・・」

「どれにしたら良いのかわからんのか」

「うん・・・。先生がくれたのが何着かあるんだけど・・・」

 デコアタレットの上下セットを手に取る。白を基調としたコーディネートの服だ。先生がどこでどのようにして手に入れたかは不明。

「白いね・・・」

「白いの」

「やめだ」

「は?」

 それらをクローゼットに戻して違うものを取り出す。

「うん、こっちだ」

 私はエオニウムモードと呼ばれるものの上下を手に取った。

「うおっ・・・。茶色い・・・し、地味じゃの・・・」

 この人、エオニウムモードをアバターに着せている全ユーザーさんを敵にまわしたな・・・。

「別にいいでしょ。任務におしゃれしてってどうすんのさ」

「いやまあ、そうじゃが・・・」

 だれに見せるわけでもないんだし。

「おはよーう! クレハちゃん!」

 部屋のドアがスライドしてナナが現れる。

「なぜ鍵をかけなかった!?」

 コトが若干怒った様子で質問してきた。

「もうすぐ出かけるからと思って・・・」

「あれクレハちゃん、また制服なの?」

 私は念のためにすでに制服に着替えておいた。

「だから制服はダメだって言ったじゃんか!」

「い、一応私服にしようと思ってたんだよ!」

 ほら、とエオニウムモードを見せる。

「うわ・・・。茶色い・・・し、ちょっと地味かなぁ」

「え゛・・・」

 キミもか・・・。

「こっちにしたら?」

 と言って取り出したのはあれだった。

「う・・・デコア・・・」

「もしくはこっちとか」

「げ・・・パラー」

 こっちは黒いタレット系、パラータレットだ。

「私としては、髪色的に白いほうがいいと思うなぁ」

 私の髪の色は黒だ。違う色だと思っていた方、ごめんなさい・・・。

「でも、白とか黒って・・・目立つよね・・・?」

「むしろクレハちゃんはもう少し目立ったほうがいいと思うよ」

 うぐ・・・。ごもっとも・・・。

「じ、じゃあデコアで・・・」

「はいじゃあ着替えて! 着替えて!」

 ・・・・・・。

「ん、なに?」

「着替えるから出てってくれない・・・?」

「なーに言ってんの。女の子同士なのに」

「女の子同士でも!」

 私はナナを部屋から追い出した。

「なに考えてんだか・・・」

 ドアのロックを掛ける。

「あぁ・・・、クレハ。ワシは良いのかの?」

 コトが少し躊躇いながら聞いてきた。

「ああ、コトはもうなんていうか、姉妹みたいな感じだからいいかなって」

「そ、そうか・・・。シマイシマイシマイシマイシマイシマイ・・・」

 なにかをブツブツと言っている。大丈夫かな、この神様見習い・・・。

 

   ◆◆◆

 

「さてと、今日はお前らと組むわけなんだけど・・・」

 今日はロミオさんと組むことになった。もちろんナナもいる。コトはこの前の任務から来ないことになった。

「おお・・・。おお!」

「ナナ・・・話、聞いてる?」

 なんかさっきからナナが目をキラキラと輝かせながら私を見ている・・・。

「すごいね、クレハちゃん! 全然、雰囲気違うね!」

「そうかなぁ・・・」

 人は服装ひとつで変わるというけど、そんなに違うかな・・・。

「ね! ロミオ先輩もそう思いますよね!」

「え? あ、そういえば制服じゃないじゃん」

 今更ですかーい・・・。これも全自動空気スキルのせいか。

「いいじゃん。似合ってるんじゃない?」

「ありがとうございます・・・」

 自分がそうは思ってないことを褒められるってどうも居心地が悪い。

「んじゃ話を戻すぞ。ええと、今回の討伐対象はオウガテイルの群れだ。数はだいたい十くらいだったかな」

「じゅう・・・ですか」

 私は放心したように呟いた。

「まあ、雑魚だし。心配することもないっしょ」

 私はうつむいてこう言った。

「慢心ダメ、絶対・・・」

「ん? なんか言った?」

「い、いえなんでもありません」

「まあいいか。難しいことは考えずにちゃっちゃと終わらせようぜ!」

 なんかこの人の下にいるとロクなことがない気がする・・・。

「それじゃ、ブラッド出撃!」

 ロミオ先輩の掛け声で私達はガケから飛び降りた。

 

   ◆◆◆

 

 現在、私たちは「鉄塔の森」と呼ばれる場所に来ている。昔は近くの街に電力供給を行っていた発電施設だった。今は環境が変わって鉄塔など建造物と植物が乱立した状態となっている。発電機などの稼動音が鳴り響いていたのは遠い過去の話。

 それはともかく、

「見つけた・・・!」

 一匹のオウガテイルを発見した。

「よーし、やっちゃうよー」

「ちょっと待って」

 私はナナが神機を構えるのをやめさせた。

「しばらく様子を見よう」

「なんで?」

 私は理由を説明した。内容はこうだ。

 群れから離れたものはいずれ群れに戻っていく。だからその個体を尾行すればその個体が所属する群れの居場所に辿り着けるというもの。

 昔のかくれんぼの探すほうが上手な親友が教えてくれた知識だ。

「私があれを追うので、二人はレーダーを使って遠くから私のあとをついてきてください」

「りょーかい!」

「りょ、了解・・・」

 ナナは元気よく返事したがロミオ先輩は呆気にとられているようだった。

「では」

 私は自分の能力を活かしてはぐれオウガテイルの尾行を始めた。

 オウガテイルは捕食活動を行った。少しすると移動していった。私は捕食していた場所に向かい、素材回収を行うと建物の影に隠れながら追跡対象を追った。身を物陰に隠しながら尾行するこの技術は、親友と先生のヘソクリのありかを探すことをしているうちに身につけた技術だ。

 どうでもいいけど今の私の頭の中では太陽に〇〇〇!の「追跡のテーマ」が流れている。気分は敏腕刑事だ。あだ名はたぶん、エア刑事、もしくは空気刑事とでも呼ばれるんだろうか・・・。ネタがわからない? まあ若い子にはわかりづらいかな。

 それはさておき、オウガテイルを追っていると目的である群れを発見した。

「ああ、聞こえますか? 群れを発見しました。合流してください」

 無線を使って二人を呼ぶ。

「はいはーい」

「そっちに行くよ」

 数分後、二人が合流した。

「あれか・・・」

「じゃあこれから奇襲をかけるんですけど・・・」

 私はチラッとロミオ先輩を見る。

「え? あ、ああ。作戦な、うん。わかってるよ」

 考えてなかったのか、この人・・・。

「作戦なんてめんどくさいこと考えなくてもいいじゃん」

 ナナが言った。

「この前だってそんな感じで勝ったじゃん」

「その油断がダメなんだよ」

 勝利に慢心してはダメって正規空母のなんちゃらさんも言ってるじゃんか。

「と、とにかく。ナナは前衛でロミオ先輩は遊撃、私は後衛に入ります」

「りょーかい!」

「了解・・・」

 あ、ロミオ先輩が落ち込んでる・・・。なんかその、すいません・・・。

「それじゃあ戦闘開始ぃ!」

 ナナはそう言うと、

「うりゃああぁ!」

 オウガテイルの群れのなかに走っていった。

「あのバカ! あれじゃ自殺行為だ!」

 ロミオさんが叫ぶ。私は直ぐ様アサルトを構える。ちょうどオウガテイルがナナの背後から飛びかかろうとしていた。

「ギャアアアァッ!」

「当たって!」

「ガアア!?」

 滞空時間中に撃ち落とした。

「・・・え? あ、ナイスフォロー! クレハ!」

 ロミオ先輩が褒めてくれる。たった今私がいることに気がついたような素振りをしたのは私の気のせいなのかな・・・?

「ガアアァッ!」

「あ! まただ!」

 正面の敵に夢中のナナに別のオウガテイルが背後から飛びかかろうとしていた。

「らああああぁっ!」

 今度はロミオ先輩がそれに走っていって、

「せやっ!」

「グギャア!?」

 横から叩きっ切った。

「ナナ! お前は一旦下がれ!」

 ロミオ先輩はオウガテイルの攻撃に応戦しながらナナに言った。

「え!? なんで!?」

「いいから下がれ!」

「グワアアッ!」

 今度はロミオ先輩の背後からオウガテイルが飛びかかる。

「危ない!」

 私はさっきのように撃ち落とそうとした、けど・・・、

「いでっ!?」

「ああっ!?」

 ちょうどそれをステップで避けたロミオ先輩に当たってしまった。

「ご、ごめんなさいぃ!! あとでなんでもしますからぁ!!」

「そんなことよりあいつをなんとかしてくれ!」

「おりゃぁ! おりゃぁ!」

 ナナはほとんど周りが見えていないみたいで、背中ががら空きだ。

「ああ、もう!」

 今度は私が群れのなかに走っていく。さすが全自動空気スキル。オウガテイルどころかナナすら私に見向きもしない。

「よっ!」

 群れを跳び越える。

 着地してから周りを見て後悔した。わざわざ自分から敵に囲まれに行ったことに。

「・・・崖っぷちだ」

 そのとき、頭の中(かもしれない)で声がした。

 

 

  崖っぷちだと思っとる、そなた。 諦めようとしているのではないか? 無理だと思っとるのではないか? なに言っとるか。その崖っぷちが最高のチャンスなんじゃぞ。自分の全ての力を出し切れるんじゃから!

 

 

 絶望で沈んでいた心が一気に浮き上がった。 

「ナナ!」

「へ?」

「背中合わせだよ!」

「りょうかい!」

 ばっとお互いに背中を合わせる。これなら背後をとられることは無くなる。

「せやぁっ!」

 背後からグシャァッと肉がつぶれる音がする。

 正面から敵が迫ってきた。

「避けないで!」

「グギャ!」

 アサルトで迎え撃ちダウンさせる。

「まだか・・・」

 さらに弾を撃ち込もうとすると、

「ギャアアアァ!」

 ダウンしているオウガテイルの後ろからまた別のアラガミが私目がけて飛んできた。いや違う。私だとしたら飛ぶ高さが高すぎる。これが標的にしてるのはナナだ!

 私は神機を剣形態に切り替えると高く跳ぶ。

「キミの相手は私だよ!」

 ショートのクロガネで頭部を削ぐ。

「ッ!?」 

 声帯ごと削がれたオウガテイルは声を上げることなく地面に落ちていった。それでも絶命していないようだ。

「やああぁっ!」

 空中から突き攻撃を食らわす。

「ッ! ・・・・・・」

 断末魔の声を上げることもなく沈黙した。

 ふと視線を正面に向けるとさっきダウンしていたのが起き上がろうとしていた。

「そっちは?」

 ナナに声を掛ける。

「全部片付いたよ~!」

 じゃあこれが・・・。

「ようし! 最後の一匹!」

 互いに視線を通わせ、うなずいた。二人一緒に走っていく。そして上に高く飛んで、

「たああっ!」

 ショートで貫いて・・・、

「ううぅりゃああ!」

 ハンマーで叩き潰す!

「・・・・・・」

 オウガテイルは沈黙した。

「全ての討伐対象の討伐を確認。お疲れ様でした」

 無線でフランさんの声が聞こえた。

「やったぁ! 終わった!」

 ナナが両手を上げて喜ぶ。

「あはは・・・。俺いらなかったな・・・」

 ロミオ先輩が渇いた笑いをしながら言う。

「そんなことないですよ。ロミオ先輩がいなきゃナナはやられてましたから」

 一応フォローしておいた。

「えへへ・・・すいません」

 ナナは頭をかきながら言った。この子あんまり反省してないな・・・。

 

   ◆◆◆

 

「だいたいお前は前に突っ込みすぎなんだよ」

 ロビーにて今日の任務の反省会だ。

「えー!? なんで私だけ!?」

 さっきのセリフはロミオ先輩がナナにだけ言ったものだ。

「クレハちゃんだって群れんなかに入ってたじゃんっ」

「バカかお前は! クレハはお前を助けるために入ってったんだよ!」

「じゃロミオ先輩はどうなの?」

 ナナはいつのまにかタメ語になっている・・・。

「いや、俺はさ。遠くから撃ってたんだよ」

 うわー。私だけ会話からはずされてるみたいになってるよー。

「ま、まあ私もなるべく安全に戦ったほうがいいと思うよ?」

 私はとりあえずこう言ってみた。

「ええ? クレハちゃんが臆病なだけなんじゃないの?」

 ナナがこちらに歩み寄る。

「ちょ、ちょっと・・・近いって・・・」

 そのセリフ、私が言われるのか・・・。いやまあ臆病なのはもっともだけど・・・。

 私が後ずさりするとドンッと誰かにぶつかった。

「きゃっ」

 振り向くと私と同い年くらいの少女だった。

「あ、ごめんなさい!」

 私はその少女に謝った。

「あ、すいません」

「す、すいません。うわっ」

 二人も謝った。ロミオさんは驚いているようだ。

「全く貴様らは・・・」

 後ろから少し肥え気味で色黒の中年男性と赤い髪の艶やかな印象を受ける女性が出てきた。確か男性がこのクレイドルの局長、グレム局長で女性がラケル博士の姉のレア博士だったかな。

 今言ったのはグレム局長だ。

「ユノさん、本当にすみませんねぇ」

「いえ、そんな・・・」

 ユノと呼ばれた少女は首を横に振りながら言った。

 すると私たちは女性に言われる。

「あんまりロビーでははしゃがないでね? 大事なお客様にご迷惑でしょ」

 声音は柔かいけど目があまり笑っているようには見えなかった。

「はーい・・・すみませんでしたー」

「す、すみませんでした・・・!」

 同じ言葉だけどナナと私では真剣さが違うと思った。

「いやー、不躾ですみませんねぇ、戦うしか能のないやつらで・・・」

 ほんとすいません・・・、と私は心の中でもう一度謝罪した。

 局長たちは去っていった。

「あれー? ロミオ先輩どうしたの?」

 ふと気付くとロミオ先輩が固まっていた。

「バッカ、あれ、あれ・・・ユノっ!」

 ロミオ先輩がわなわなと震えながら言う。

「ユノ? 知ってる?」

 ナナの質問に私は答える。

「えっと葦原ユノ、だっけ? 独立拠点出身の歌姫だとかなんとかってデータベースに載ってたような・・・。年は17歳だからナナと同い年だね」

「おお! クレハよく知ってんな! もっと言うと誕生日は11月20日! 自ら作詞作曲した『光のアリア』は超人気曲だよ! んで身長は166cm! あと体重は・・・」

「先輩・・・そこまでいくと危ない人に見えるよ・・・」

 ナナがめちゃくちゃ引いている。俗に言う「ドン引き」だ。

「なっ! そんなことないだろ! な、クレハ」

 うげ・・・こっち来た・・・。

「う、えと・・・好きなことに没頭するのはいいことだと思いますよ?」

「それ、答えになってないよ・・・」

 ナナに真面目にツッコまれた。

「なあさ、局長室に行ったらもう一回ユノさんに会えるかな!?」

 ロミオ先輩はさっきから興奮しっぱなしだ。

「それはわからないけど・・・」

 ナナが答えた。

「とにかく! 今から局長室に行ってみようぜ!」

「私はいいや」

「なんだよナナ、つれねぇなぁ。じゃあクレハは・・・ってあれ?」

 私は能力を使ってすでにその場から逃げ出していた。シナリオ変えちゃって大丈夫なのかって? この世界にシナリオもなにもない・・・はず。




 ユノ出番少なっ! と思った方はすいませんでした・・・。なにぶん原作ではあの場面の尺があまりないのでこうなってしまいましたorz 
 他にもレオニウムモードユーザーの方にはほんとすいませんでしたぁぁ!
 あと更新遅れてすいませんでした! 言い訳としては英検と期末試験でございます・・・。次の更新も遅れる予定です。

 今回は読者様に謝ることだらけです・・・。
 こんな作者ですが今後ともよろしくお願いします。


 ツイッターのフォローしてくださった方、ありがとうございます! ねこめはなんかしょうもないことばかり呟いているようなやつですが絡んでくれてどうもです!
 
 長々と失礼しました。ここまで読んでいただきありがとうございます。今回のあとがきはこれで終わりとさせていただきます。


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12 仲介役を頼まれまして・・・

 どうも、ねこめでございます。
 更新遅れてすいません。期末試験と英検の面接のためです・・・。
 それはさておき、勘のいい方ならわかったと思いますが今回の話は新キャラが出てきます。と言っても原作キャラですがw
 
 それではほぼ半分がオリジナルの任務シーンですがどうぞ。


 今、私は巨大なダムがある場所に来ている。そう、「蒼氷の峡谷」だ。

 遠い昔は景色が良かったらしい。でもここも環境の変化によって流氷が浮かぶほど寒冷な地域になってしまっている。だから、

「寒い・・・」

 モード系のコスチュームを着てきたのでまだましだけど。ゲームだと主人公たちは半袖だろうがめちゃくちゃ露出度の高いコスチュームだろうが元気に戦っていたっけか・・・。とある別ゲーの主人公も半袖もしくはノースリーブ、さらにはミニスカートで雪の降る森や氷の洞窟を走り回ってたな・・・。

「待たせたな」

 私が到着してから数分くらいするとジュリウス隊長が到着した。私は少し早く来すぎてしまったいた。

「あれ・・・? ナナは今日はいないんですか?」

 私は疑問に思って質問してみた。

「ナナはロミオと別の任務に行ってもらっている」

 ジュリウス隊長は淡々と説明した。

 今回は別々の場所で大型アラガミが出現したということでふたつのチームを作り、手分けして任務をこなすらしい。

 そして今回の討伐対象はウコンバサラというアラガミだ。ワニのような容姿をしている。大きなアゴでの噛みつき攻撃や体内の発電器官による電撃攻撃など、今までの小型のものと比べるとだいぶ厄介な相手となる。

 苦戦する可能性は高いだろうな・・・。

「初めての相手になるがいつもどおりの力を出せばいい」

「あ、はい・・・」

 私はよっぽど不安気な顔をしていたのか、隊長が微笑みながらアドバイスしてくれた。

「さて時間だ。行くぞ」

「え、もうです・・・か・・・」

 私が問う間もなく隊長は任務開始地点の崖の上を飛び降りていった。少しくらい心の準備が整ってからにしてほしかったなぁ・・・。

 そんな心配をすることは無駄だと思ったのはその戦闘中だった。

 

      ◆◆◆

 

 討伐対象はすぐに見つかった。

 このフィールドは直線になっているため索敵が非常に簡単だ。でもそれは隠れることが非常に困難な地形とも言える。私としては能力を活かせないからあまり好きな地形じゃない。

 討伐対象であるウコンバサラは補食行動を行っていた。

「奇襲を仕掛けるぞ」

「了解です」

 隊長の作戦命令に応える。

 神機を剣形態にして忍び足でウコンバサラの背後に近づくと、

「せやっ!」

「たあっ!」

 連撃を食らわせた。

「ッ!?」

 突然の奇襲にウコンバラが怯んだところに私たちはさらに攻撃を加える。そして一旦間合いをとった。奇襲はうまくいったけど問題はその次だ。

「グワアアア!!」

 ウコンバサラは私をいないもののように無視して隊長のみに攻撃していた。

「ああ・・・やっぱり・・・」

 でも隊長はそんな戦況でもなんなく戦っていた。

 ウコンバサラが何歩か後ろに下がる。あの動作は突進攻撃の前触れだ。動きが遅いのでバレバレだけど。

 そして私の予想通りウコンバサラは隊長めがけて突っ込んでいった。

 それを隊長は横に跳ぶことでかわし、すぐにカウンターを仕掛ける。

 噛み付き、突進、電撃、隊長はそれら全ての攻撃をかわしていた。そして隙ができたらすかさず攻撃を加え、着実にダメージを与えていた。私はというと遠くから援護射撃を行っているだけ。

 ウコンバサラの動きが止まった。

「アラガミ、ダウンしました」

 無線で戦況報告が伝えられる。

 私達は神機を捕食形態にして捕食、バースト状態となった。私はすぐに引いてアサルトでの援護射撃に戻った。

 ふと隊長も銃形態に変更すると、

「使え」

 こちらに向かって光の弾を二発撃ってきた。アラガミバレッド、アラガミから奪ったオラクル細胞から生成された弾の受渡し弾だ。これによりリンクバーストという通常のバーストよりもさらに強化されたバースト状態となる。

「私なんかに渡さなくても隊長だけでできると思うんだけど・・・」

 私は隊長に聞こえないように小声で言った。そんなことを言ってる間にも隊長はウコンバサラを何度も怯ませていた。

「そうだ! アラガミバレッド!」

 私は「雷光」と呼ばれるアラガミバレッドを選択する。ちょうど隊長が下がったところだった。

 (今だ・・・!)

 引き金を引く。

「お返しします!」

 ズドンッと大きな銃声が鳴り響く。銃口から三つの巨大な電気の球が発射され、全てウコンバサラに命中した。ウコンバサラはダウンした。

「もう、終わり・・・ですよね?」

「いや、まだだ」

 隊長は私の言葉を即否定する。

 ウコンバサラがダウンから起き上がる。そして、

「グアアアアアアッ!!」

 大きく吼えた。

「アラガミ、活性化します!」

「え・・・、うそぉ・・・」

 私は情けない声を出した。

 さっきよりウコンバサラの動きが速くなる。隊長に「雷光」が撃たれる。隊長はそれもひらりと避ける。私はというと、

「うわっ!? 危なっ!」

 流れ弾を避けるのに精一杯だった。一応攻撃はしているけどさっきよりは回数が減っている。

「ミッション開始から5分が経過しました」

 フランさんから無線が入った。

 もう5分も経ったのか、と思った矢先、

「アラガミ、ダウン。アラガミのオラクル反応が低下してきました!」

 ウコンバサラが今回で3度目となるダウン状態になっていた。

「そろそろだな」

 隊長はそう呟くとゼロスタンスの構えをする。

「もしかして・・・あのときの・・・!」

 私はとある技名を思い出す。

「せやあ!」

 隊長がウコンバサラを切り付ける。

「ガアアアアッ!?」

 刹那、無数の斬撃がウコンバサラを襲った。

「疾風ノ太刀・鉄・・・!」

 私が技名を言い終えるのと同時にウコンバサラは倒れた。

「アラガミ、沈黙」

 フランさんが任務の終了を伝えた。

「どうした、任務終了だぞ」

「はっ・・・。あ、そうですね」

 隊長に声を掛けられて我に帰った。私はどうも隊長の技に見入っていたようだった。

 

      ◆◆◆

 

「よくあの技の名前がわかったな」

「データベースを読んでいたら見つけただけで・・・」

 私たちは任務から帰投してロビーの下の階で雑談をしていた。

「暇だからときどき覗いてるんです」

 私はそう言い訳した。前世の知識から引っ張ってきているなんて言えない・・・。

「勉強熱心だな」

 隊長は感心といった様子。

「い、いえ・・・。あわよくば前の世界のものがないかなぁ・・・と」

「前の世界?」

「え? あ・・・」

しまった・・・。口が滑った・・・。

「あ、いや・・・、前の世界っていうのは前いた場所っていう意味でしてね!」

私はなんとかごまかそうとした。

「ほら! 比喩ですよ! 比喩!」

「ははっ。面白いことを言うな」

うまくいったかな・・・? でもその爽やかな笑顔が逆に不安になるな・・・。

 

  ドカッ!

 

 私たちが話していると上の階から誰かを殴る音が聞こえた。

「いっ・・・てぇ・・・」

 何事かと思い、上の階に行ってみるとロミオ先輩が尻餅をついていた。

「いきなり殴ることないだろ!」

 ロミオ先輩は青い帽子を被った男の人に言った。男の人はロミオ先輩を見下ろしていた。

「・・・状況を説明してくれるか」

 隊長が尋ねる。

「ちょっとよくわかんなくて・・・」

 ナナは頭を搔きながら言った。

「こいつの前いたとことか聞いただけだよ! そしたら、いきなり殴ってきて」

 ロミオ先輩は床に片手をついて言う。

「あんたが隊長か・・・」

 青い帽子の男の人が隊長に話掛ける。

「俺はギルバート・マクレイン。ギルでいい。このクソガキにむかついたから殴った、それだけだ」

 そう言うと背を向けて、

「懲罰房でも除隊処分でも、なんでもいいから勝手に処分してくれ。じゃあな」

 去っていった。

 それを見ながらロミオ先輩が言う。

「あいつ気、短かすぎるよ。そりゃ俺もちょっとしつこかったかもしんないけどさ」

 するとナナが腰に手を当てて言う。

「暴力はよくないねぇ・・・。でも先輩もいじりすぎだったかもしんないけどさー」

「軽く言ったほうがはやく打ち解けられるじゃん」

 私としてはロミオ先輩の自論はあまり好きじゃないな・・・。初対面の人とは少しずつ関係を深めていったほうがいいと思う。紅茶だってゆっくりと時間をかけて淹れたほうが美味しくなるし。ヘタレだって? ほっといてよ・・・。

「今回の件は不問に付す」

 隊長が言った。

「ただし、戦場に私情を持ちこまないよう、関係を修復しておくこと。いいな?」

 それを聞いてロミオ先輩が「えー!」と声を上げる。

「無理だよあんなのー」

 そう言うとようやく床から立ち上がる。

 もしコトなら「無理ではない! この貧弱者!」と渇をいれているところだろう・・・。

「お前たちもサポートしてくれ」

 そう言うと隊長も去っていった。

「無理だって! あんな暴力ゴリラとなんか、やってらんないよ・・・」

 ロミオ先輩はまだ言っている。またコトの話になるけど、あの子なら「ワシはこんな軽い男とやってられぬわ」とからかっているだろう。

 

      ◆◆◆

 

「クレハ、少しいいか?」

 ロビーの下の階でナナと雑談していると、隊長に呼ばれた。

「すまないがひとつ頼みがある」

「なんですか?」

「ギルとロミオの件なんだがまだ和解していないようなんだ」

「えっと、もしかしてそれをなんとかしろってことですか?」

 私が苦笑いをして聞いてみると隊長は言う。

「早い話がそうだが、引き受けてくれるか?」

「別の人じゃダメなんですか・・・?」

「お前ならいい潤滑油になると思うのだが・・・」

 私は潤滑油どころかサビに値すると思うんですけど・・・。

「クレハちゃんは仲介役向いてそうだよね」

 ナナ、また適当なことを・・・。

「そういうわけで、行ってくれるか?」

 こういうときにちゃんと断れないところが私の悪いところだ。

「わかりました・・・」

 私は少し俯き加減で言った。

 

      ◆◆◆

 

 さて、了解したもののどこを探したらよいのやら。

「して、何ゆえワシも探さねばならぬのじゃ」

 私はコトを連れ出してギルさんを探していた。

「だっていきなり人を殴るような人だよ? 一人じゃやだよ・・・」

「このヘタレが・・・」

 まあ言われても仕方ないね・・・。

「ところで居場所の予想はついているのかの?」

「いや全然だよ」

 私が聞くとコトはためを吐いて言った。

「お前、知識が残っているのではないのかの?」

 そういえばそうだ、と私は納得したけど、

「最近うろ覚えになってきちゃって・・・」

「馬鹿者・・・」

 コトは額に手を当てて言った。

「誰かに聞く他なさそうだね」

「そうじゃな。仕方あるまい」

 というわけで職員さんに聞いて回ったところ庭園に行ったところを目撃されているとのこと。

 そして、庭園。ギルさんはベンチに座っていた。例の通り、私には気づかない。

「あ、あのぅ・・・」

 私はそっと話掛けてみた。

「ん? うおっ!?」

ギルさんは私の姿を確認すると驚いた。

「お前、いつからそこにいた・・・」

「ついさっきからですけど・・・」

 こんなときでもしっかり発動してしまうのがこの能力の難点だ。

「まあ、いいか・・・。それで、俺の処罰が決まったか」

「えと、違います・・・。あなたとロミオ先輩の仲介役を頼まれまして・・・」

 私は弱々しく答えた。

「仲介役? あの隊長に頼まれたのか」

「はい・・・。なのでロミオ先輩と和解していただけないでしょうか・・・」

 私がそう言うとギルさんは少し考える素振りを見せたのちこんな質問をしてきた。

「お前、あのときいたか?」

 あのときから私、空気だったのか・・・。確かに一言もしゃべらなかったけどさ。

「いました・・・」

 私は力なく答えた。

「そうか、気づかなくてすまない」

「いえ・・・いつものことですから・・・」

 まあ、今は私の存在感なんてどうでもいい。

「あの、それでロミオ先輩のことなんですけど・・・」

「ああ、あれか。俺はやるべきことをやった。それだけだ」

 殴ることがやるべきことってのは、あまり賛成できないな。怖くて言えないけど。

「まあ、配属されて早々につまんないもん見せたのは詫びるよ。ロミオにも言っておくか」

 ギルさんは後頭部をかきながら言った。

「そうだ。まだ名乗ってなかったな」

「いや、だからいましたって・・・」

 この人も軽く天然入ってんのかな・・・?

「そ、そうか。でもあのときは変な流れになったからな」

 そう言うと帽子のつばをつまみ、少し上に上げて言った。

「俺はギルバート・マクレイン。グラスゴー支部からの転属だ」

「あ、私は神戸クレハです。えっと、新人です・・・!」

 私は相変わらず初対面の人との自己紹介は緊張してしまう。

「ああ、よろしくな。それと敬語はやめてくれ。少しやりづらいからな」

「で、でもギルさんは私なんかよりベテランじゃないですか」

「確かに神機使いとしてのキャリアは5年だが、ブラッドになったのはつい先日だ。お前とはほぼ同期みたいなもんだろ」

「それは、そうですけど・・・」

 なんかギルさんもゲームのときと若干キャラが違うぞ・・・。

「そういうことでよろしくな、クレハ」

「よ、よろしく・・・ギルさん」

 するとギルさんは苦笑いで言う。

「ギルさんか・・・」

「さん付け、ダメかな・・・?」

「いや、好きに呼んでくれて構わない」

「そ、そう・・・」

 呼び捨てにしてくれとか言われたら私は逃げ出していたかもしれない。

「それじゃロミオのとこ行ってくる」

 ギルさんはエレベーターに乗って去っていった。

「なんだか思ってたよりイメージ違う人だったな」

「本当はあのような感じではないのか?」

 私の呟きにコトが聞いてくる。

「まあ、日を追うごとに打ち解けて行くんだけど。あのギルさん、最初から好感度が結構ありそうなんだよなぁ・・・」

 コトはふむ、と言って右手を口元に持ってくる。

「やはり世界の勝手が違うと人格も違うのかもしれぬの」

「そうかもしれないね」

 世界の勝手が違うと人格も違う、か。私の知識が役に立たない場合もあるってことか。覚えておこう。

「それにしてもあやつも結構な男前じゃったの」

「コト、好みなの?」

 私は少しからかってみようと思ったけど、

「いや、そうでもないの」

「あ、そう・・・」

 全く動揺する気配を見せないからがっかりした。

「お前はどうなのじゃ?」

 今度はコトが聞いてきた。

「私はなんていうか、最近思ったんだけどそこまで男の人に惹かれないんだよね」

 親友とのあの過去のせいで女の子のほうにいくことが多くなってしまった、というのは口が裂けても言えない。

「そうか・・・」

 引かれるかと思ったけど、なぜかコトは安心した様子だった。




 男性キャラとのフラグをとことんへし折るっていうねw まあ百合小説ですからお許しください。

 さて、今回もご精読ありがとうございます! 閲覧数が作者の動力源でございます。ゆえに番外編の閲覧数みたときは久しぶりに発狂しましたよ (゜▽゜)フオオオオオオ! と、同時にこんなにも同志がいるのかと思い、とても嬉しく感じました! できればコメントもほしいなぁ・・・(小声)

 というわけで、今回も更新が遅れて申し訳ありませんでした。これからもねこめ及びこのお話をよろしくお願いします!

 誤字脱字見つけたら教えてくださると嬉しいです。 


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13 この人も中二病入ってんのかな?

 やっと期末試験と英検が終わったと思ったら今度は部活の部誌の原稿ですよ・・・。これが更新遅れた言い訳です。最近どんどん遅くなってきて、楽しみにしてくださっている方には本当に申し訳ないです・・・。


 今日も仕事だ・・・。一応任務がない日もあることにはあるけど、そういう日は訓練がある。私にはどちらも同等な労力が必要だ。休みが欲しい・・・。

 愚痴はこのあたりにして。今日の任務はギルさんともう一人別の支部から派遣されてくる人との任務らしい。ちなみに訓練を除けばギルさんと一緒に任務に行くのは初めてだ。

「一緒に行くの、別の人にしてくれないかなぁ・・・」

 私は自室で呟いた。

「あのギルとかいうやつのことかの?」

 私の呟きにコトが聞いてきた。私はそれに首を縦に振った。

「だってあの人、敵に突っ込んでくんだもん」

「突っ込んでいくのはナナも同じじゃろ」

「そうなんだけど、ナナは射線上に入らないように気をつけてくれるんだよ」

 訓練中にわかったことだけどナナは私との戦闘では、私が教えたヒット&アウェイの戦い方をしてくれる。おかげでこっちが誤射をすることはない。

 しかしギルさんの場合、突進を繰り返す。いやここまではまだマシだ。問題なのは周りを見ていないせいか、なんども射線上に入ってくることだ。だから私は何度も誤射しそうになった。引き金を引こうとしたら射線上の先にいるものだからひやひやさせられる。

「まあ、仕方あるまい。頑張って来い」

 コトは私の話しを聞き終わると笑顔で言った。

「いや、頑張って来いって簡単に言うけどさ・・・」

「誤射するのがいやなんじゃろ? ならばいっそのこと銃を使わなければ良いじゃろうが」

「接近戦でいけっての!?」

 私は剣形態で戦う自分をイメージしてみた。敵のカウンターをくらう自分が見えた。

「・・・そんなことしたら大ケガしちゃうじゃん!」

「アホか、おのれは。普通は無傷で帰ってくるほうが稀じゃよ・・・」

 コトはいつものように呆れる。

 そういえば私は能力のおかげで一度もダメージを受けていなかった。もっと言えば私と一緒に同行した人がダメージを受けているところも見たことがない。

「ところで、もう一人の同行者とは誰なのじゃ?」

 コトが話題を変えてきた。

「そうだ。あと一人いるんだ」

 ギルさんの対処についてのことを考えていたら大事なことを忘れていた。

「私もよくわからないんだよね。たぶん原作にはないシナリオだと思うけど」

「変なやつではないと良いの・・・」

 変なやつってなんだよ・・・。

 

      ◆◆◆

 

 私はコトに行ってきますを言ってロビーに向かった。ちょうど私が任務を受注したところにギルさんが来た。

「よう。今日はよろしくな」

「うん。よろしく」

 訓練を通して私もある程度この人に慣れた。最初のほうはつい敬語で喋ってしまったけれどしょうがないと思う。だってギルさん、どう見ても年上だし。異性ってのもあるんだろうけど私は基本、年上には敬語だし。

「ブラッドというのは君のことか?」

 ふと後ろから声を掛けられた。振り向くと如何にも貴族の人という風貌の人が立っていた。

 (この人・・・)

「緊張するのも無理はない。だが安心したまえ。この僕が来たからには心配は完全に無用だっ!」

 貴族風の人が力強くそう宣言する。しかし、微妙な空気が流れた。空気って言っても私のことじゃないからね?

「おっと、失礼・・・。僕はエミール。栄えある極東支部『第一部隊』所属! エミール・フォン・シュトラスブルクだ!」

 (なんで今出て来るんだよおぉ!?)

 さっき貴族の風貌と言ったけど実際、エミールさんは貴公子だ。それはさておき、この人は本来はギルさんとの任務をこなしたあとに出てくるはずなのに今回は同時に出てきた。もうシナリオごちゃごちゃ。

「・・・そうか、よろしくな」

 ギルさんは引きながら且つ面倒くさそうにそう言った。

「この船はいい船だ。実に趣味がいい」

 エミールさんは唐突にそんなことを話し始めた。

 船というのはこの支部、すなわちフライアのことだ。前にも話したけどこのフライアは移動可能な要塞で各地を回っている。原作ではなかったけど船というだけあって海の上も進める。それももしかしたらこの世界の独自のものなのかもしれない。

 私がそんなことを考えている間にもエミールさんは話し続ける。

「しかぁし! この船の美しい船の祝福すべき航海を妨げるかのように怒濤のような数のアラガミの群れが待ち受けているというではないかっ・・・」

 航海って言っても今は陸を走ってるわけだけど・・・。

「君たちはきっと不安に怯えているのだろう・・・。そう思うと僕は・・・僕は・・・」

 一拍置くとこう言った。

「いてもたってもいられなくなったんだ!」

 熱い・・・。どこからか「もっと熱くなれよおおおぉぉ!」という声が聞こえてきそうなほどに。

「というわけで、君たちには僕が同行する。大船に乗ったつもりでいてくれたまえ」

 私は人手が増えるのはいいことだと思う。でもギルさんはちょっと鬱陶しそうな様子。

「ところでこれで全員か?」

 エミールさんはギルさんに聞いた。

「そうだ」

「今回の任務は三人と聞いたのだが・・・」

 ん・・・? ましゃかこの展開って・・・。

「あと一人足りないようだが・・・」

 エミールさんは右、左とあたりを見回す。

「・・・さっきからずっとここにいるんですけど・・・」

 私は右手を力なく上げて言った。

「ん? ・・・ぬおっ!?」

 やっぱり必ず初対面の人はみんなこういう反応するよね・・・。そういえばさっきも「君たち」とは言ってなかったけか・・・。

「これは失礼。いやしかしさすがブラッド。ここまで気配を消すことができるとは」

 エミールさん、そんなことに感心されても全然嬉しくないです・・・。

 

      ◆◆◆

 

 任務場所は鉄塔の森。討伐対象はウコンバサラとシユウ各一体。

 シユウというのは人型のアラガミだ。両腕に翼を持っていて滑空による突進攻撃や回転攻撃を行う。さらには拳にエネルギー弾のような火球を放つという攻撃もあって、おまけに連射や溜め撃ちまでできる。このように人型というだけでなく、サイ〇人みたいな戦い方をするアラガミでもある。データベースでは武人のような肉弾戦を仕掛けてくるとあるけど私は遠距離攻撃ばかりするので火球の攻撃のほうが厄介だ。討伐対象が二体いる時点で十分厄介だけど。

 シユウの特徴はこんな感じだ。

 そして任務が始まった。

「それでは行こう! 人類の未来のために!」

 エミールさんは突然走り出した。

「あ、エミールさん!」

 私は呼び止めたけど、

「恐れることはない! 僕に続けえ!」

 そのまま走り去ってしまった。

「行っちゃった・・・」

「まあ馬鹿はほっといて俺らは俺らで行こう」

 ギルさんはそう言うと別の方向に歩いていった。

「大丈夫かな・・・」

「死にはしないだろ」

 私は少し心配だったけどとりあえず放っておくことにした。

 そしてしばらく周りを警戒しながら歩いていると曲がり角を曲がろうとしたところでシユウを見つけた。

「このままだと鉢合わせるな・・・」

 シユウは真っ直ぐこちらに歩いてくる。

「ええと」

 私は周りを見回すと高台を見つけた。

「ちょっと低いけど影に隠れるには十分かな」

 一応、人一人分の高さはあるけどこの程度の高さ、アラガミたちにはちょっとした段差に過ぎないので軽々と登ってきてしまう。

「ギルさん、あそこの高台の影に隠れて奇襲を仕掛けるのってどうかな?」

「いいぜ、了解した」

 私の提案にギルさんは賛成してくれた。私たちはその作戦を実行した。

 のっしのっしと堂々と歩いてくるシユウ。確かに武人に見えなくもなかった。そしてすぐ近くまで歩いてきたところで、

「今だよ!」

「おう!」

 私は高台に飛び乗って弾丸を連射、ギルさんは正面からシユウに突進攻撃。

「!?」

 シユウは私たちの奇襲に驚きつつも後ろへ飛び退いてなんとか攻撃を逃れた。

「へっ、やるじゃねえか」

 ギルさんが楽しそうに言う。

「うう、奇襲失敗かぁ・・・」

 それとは裏腹に私は肩を落とす。

 そんなことをしている間にもシユウは攻撃の予備動作をしていた。エネルギー波の連射だ。

「当たるかよ!」

 ギルさんはそれを避けながらも確実にシユウとの距離を詰めていった。そして跳んでいって、

「そら!」

 槍をシユウの頭部へ突き刺した。

「グアアアアア!!」

 シユウが叫び声あげる。しかしギルさんは攻撃の手を止めない。すぐに槍を抜くと今度は翼を何度も切りつけた。そして一旦距離を取った。

「避けないで!」

 その隙に私は弾丸を何発も放った。

 シユウが怯んだ。

「まだダウンしないか・・・」

「そう簡単に死なれてもつまらないしな」

 この人、戦うの好きなんだな・・・。私は嫌いだけど・・・。

「くらいな!」

 ギルさんはまた突進攻撃でシユウに突っ込む。続いて乱れづき。シユウが地面に手をつくと無線が入った。

「アラガミ、ダウンしました」

 そこからはセオリー通り補食攻撃。

「暴れないで・・・!」

 グシャリと肉を食いちぎる音が響いた。

 シユウは立ち上がると逃げ出した。

「アラガミ、補食に向かいました」

 見たのは初めてだけどほとんどのアラガミは戦闘中に補食によって体力を回復しようとする。

「追わなきゃダメだよね・・・」

「当たり前だろうが・・・」

 こんな会話をしているけど、戦闘中だ。

 (追わなくてもいい方法・・・そうだ!)

「よぉし・・・」

 私は軽く深呼吸すると銃を構える。

「よ~く、狙って・・・」

 私はオウガテイルの頭を削ぎとったときのことを思い出した。あのときは声帯ごと切った。つまりこの世界はゲームとは違って結合崩壊以上の損害を与えるこができる。

 だったら、

 (脳の部分を狙えば・・・!)

「当たってえええぇ!」

 私は引き金を引いた。

 耳に銃声が響き渡った。

「ガアッ!?」

 見事に銃弾はシユウの頭部の少し上をぶち抜いた。

 シユウが膝まずいた。

「あ、当たった・・・」

 本当に当たるとは思わなかったから呆然としてしまう。

「アラガミのオラクル反応、一気に弱まっています!」

 フランさんがいつもの冷静さからは想像できないくらいに驚いた様子で言った。

「トドメを刺すぞ!」

 ギルさんに叫ばれて我に帰った。

「了解!」

 私は神機を構え直す。

「これは痛いぜ」

 ギルさんも溜め動作をすると、

「おおらああ!」

 槍でシユウの下半身を貫いた。シユウは絶命寸前だ。

 私はあれほど接近戦がいやだと言っていたにも関わらず、シユウの手が届く範囲まで走っていって頭に銃口を向けた。するとシユウが顔を上げた。

「こっ、これで終わりだよっ!」

 引き金を引いた。シユウは片手を上げて火球を撃とうとするけど、

「ー!!」

 至近距離で顔面に弾丸を受けたため、そのまま地に伏せた。

「目標の討伐を確認」

 フランさんが無線で伝えてくれた。今度は落ち着いた様子だ。

「これで終わりですか・・・?」

「いえ、まだウコンバサラが残っています」

「デスヨネー・・・」

 エミールさんがやったのを願ったけど、やっぱりそれはなかったみたいだ。交戦を開始したっていう連絡もなかったし。

「あ、たった今エミールさんが討伐対象のアラガミと戦闘を開始しました」

 遅っ! 探すのにどんだけかかってんの!?

「ま、とりあえず合流するか」

 ギルさんも呆れた様子だ。

「索敵能力低すぎるでしょ・・・」

 私は誰にも聞こえないように呟いた。

 

   グワアアアアッ!

 

 遠くからなにかが吠える音が聞こえた。

「小型アラガミが数匹近づいてきています!」

 種別はオウガテイル種です、とフランさんは伝えた。

「oh、乱入クエストデスカー・・・」

 私はさぞや絶望の顔をしていただろう。外人口調なのは少しでも気を和らげるためだ。

 

      ◆◆◆

 

 周りを見回すとオウガテイルの屍が転がっていた。

「あらかた片付いたか?」

 ギルさんが神機を肩に担いで言う。

「・・・うわあああああ!」

 遠くから叫び声がする。今度は人の叫び声だ。

「のわあああああ!」

 声のするほうを見ると建物の影からエミールさんとウコンバサラが飛び出してきた。エミールさんはウコンバサラの攻撃で吹っ飛ばされてきたみたいだ。

「闇の眷属どもめ・・・」

 エミールさんはゆっくりと立ち上がる。

「ここは僕の、騎士道精神に懸けて、お前を土に還してやるッ!」

 そう言うと金色のハンマーの神機を構えて、

「うおおおおお!」

 ウコンバサラに突っ込んで行く。

「ぬわああああ!?」

 そして吹っ飛ばされてドサッと地面に叩きつけられる。

「おのれ、なかなかやるじゃないか・・・。だが、今度はこちらの番だッ!」

 それでも口元を拭いながらまた立ち上がる。

「必殺! エミール・スペシャル・ウルトラ・・・のわああああああっ!」

 吹っ飛ばされる。さっきのギルさんのセリフを借りると、まさに「これはイタいぜ」というような状況だった。

「尋常ならざる怪力・・・!」

 まだ立ち上がるエミールさん。

「チッ」

 それを見てギルさんが舌打ちをした。

「一人で突っ走りやがって。さっさと終わらせるぞ」

 一人で突っ走るのはギルさんもだからね・・・?

「こいつは僕に任せてくれ!」

 加戦しようとしたギルさんをエミールさんは制止した。

「僕の騎士道精神を、君たちに証明してみせる!」

 この人も中二病入ってんのかな? まあこれがゲームの話なら中の人は別の作品で中二病やってたけど。

「いいだろう・・・」

 エミールさんは神機を構え直す。

「こちらも死を以てして・・・ぐわあああああ!?」

 とうとうウコンバサラもセリフを待たずに攻撃した。

「お前の騎士道とやらに付き合ってる暇はないからな。さっさと終わらせてもらうぞ」

 そう言って前に出ていく。

「ちょ、ちょっと待って・・・!」

 私は行く手を阻むことでギルさんを止めた。

「ああ? なんだよ」

 ギルさんからは呆れどころかイラつきすら見えた。

「とっ、とりあえずここは任せてみようよ」

「なんでだよ」

「やるだけやらせてみて、死にそうになったら助けに行けばいいと思うし・・・」

 本音は自分が今日はもう戦いたくないから。

「・・・好きにしろ」

 ギルさんは不承不承、了解した。

「・・・ゴッドイーターの戦いはただの戦いではない・・・」

 正面に視線を戻すとエミールさんがゆっくりと立ち上がっているところだった。ふと思ったけどなんであのウコンバサラはエミールさんのセリフが終わるのをわざわざ待ってるんだろう。エミールさんのこと、おちょくってるのかな?

「この絶望が溢れる世界に於いて、神機使いは人々の希望の依り代だ!」

 エミールさんはじっとウコンバサラを見据えながら話し続ける。

「正義が勝つから、民は明日を信じることができ! 正義が負けないから、前を向いて生きることができる!」

 コトとはまた違った熱さだけど、いいこと言ってる気がする。

「だから僕は! 騎士は! 決して負けるわけにはいかないのだッ!」

 するとウコンバサラが突進しながらエミールさんに噛みつこうとした。それをハイジャンプで避けて通常の何倍もの高さまで跳ぶ。そして落下のスピードを利用してウコンバサラの頭に鉄槌を食らわした。

「グオアアアアア!」

 ウコンバサラが断末魔の叫びを上げた。

「ふん、バカなりに筋は通ったやつみたいだな」

 ギルさんは鼻で笑ってそう言った。

「やった・・・。やったぞ。騎士の、騎士道精神の勝利だ! うおおおおおおおおぉぉ!」

 私もいちいちうるさい人だとは思ったけどホントはすごい人なんだろう。

 

 

      ◆◆◆

 

 その任務があった夜、

「それでね、まさかとは思ったんだけど当たったんだよ!」

 私は自室でコトに今日の任務のことを話していた。

「お前、相変わらず射撃の腕前だけはすごいのぉ」

 コトは感心した様子で言った。

「ほ、他にもすごいとこあるもん・・・! たぶん・・・」

 私は反論するけど、結局思い当たることがなくて弱気になってしまう。

「いっそすないぱーのほうに変えてみたらどうじゃ?」

「スナイパーか・・・」

 スナイパーとは銃形態の型のひとつだ。命中精度が高く火力もそれなりにある。でも、

「連射できないからいいや」

「おい・・・」

「それにスナイパーって反動が大きいから撃ってすぐに動けないし」

 要約すると絶対にダメージを受けたくないということだ。

「じゃがの、すないぱーの特殊能力は敵から一切見えなくなるというものじゃぞ」

「いや、私にはいらないでしょ・・・」

 ただでさえ空気なのに、そんなもの使ったら味方にも見えなくなるわ・・・。

「まあ、そのままが戦いやすいというならそれでも良いか」

 そう言うとふとんに入っていった。

「もう寝るの?」

 私が聞くとコトは時計を指さした。

「もう子の刻じゃ」

「子の刻・・・? ああ、零時ってことね」

 時計の針は12の数字をさしていた。どうやら話に夢中になってこんなに時間が経ってたみたいだ。

「それじゃ寝るか」

 私は電気を消してベッドに入った。

「おやすみ、コト」

「おやすみなのじゃ、クレハ」

 そう言って私はまぶたを閉じた。

「・・・のお、クレハ?」

「なに・・・?」

 寝ようって言ったのはそっちなのになんで起こしてくるの・・・。

「今日の任務の話は誰かがどうのというものではなかったの」

 確かに今日は珍しく私自身の話をしてたな。

「そうだけど、それがなんなの?」

「次もそうじゃと良いのと思っただけじゃ」

 うん。さっぱり意味がわからない。

「つまりじゃの、明日もお前自身の話が聞きたいのじゃ!」

「えっと、なんで?」

 私は理由が全くわからなかったから聞き返してみた。

「もう良いっ」

 コトはそう言うとそっぽを向いてしまった。

 (なにをそんなに怒ってるの?・・・)

 そのあと声をかけても無視されるだけだったから私もそのまま寝ることにした。




 今回はエミール回でしたと・・・。はっきり言うと、男キャラいい加減にしてくれ! 二話も百合要素が薄すぎる話になっちゃったじゃないか! 前の話は読者さんに百合要素ない(´・ω・`) って言われちゃうし! って言ってもねこめの技量が足りないのが半分原因なんですけどねorz
しかし次回からはなんとかなります。しかも15話目からはついにアノ人が出ますからねw


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14 崖っぷち、ありがとう!

 はい、どうもねこめでござます。ここまで早く更新できたの久しぶりですよー。普段が遅いんですけどね···。
 というわけで今回は覚醒回です。戦闘を二本立てでお送りします。ちゃんと百合要素も入れましたよ!
 タイトルは若干ふざけてますけどね···。


 今日ほど嫌な日はないと思う出来事があった。

「単独任務、ですか・・・?」

 私はフランさんに聞き返した。

「はい。今回は皆さん、別々の任務にあたっていただいています」

「そんなぁ・・・」

 私の全自動空気スキルは仲間がいて初めて戦闘で力を発揮する。偵察には役に立っても一人で戦闘するとなると全く意味がない。

「はっ、そうだ。エミールさんは?」

 あの人ならまだフライアにいるし、ブラッドじゃないからいるはずだと思ったけど・・・、

「同じく別の任務に」

「あらー・・・」

 なんてこったい・・・。こうなったら・・・。

 私は自室に戻った。

「おや? 今日は任務はなかったのかの?」

 ドアを開けるとコトがマンガを読んでいた。

「コト、助けて~!」

「にょああああああ!? なななななんじゃああああ!?」

 私はコトに泣きながら抱きついた。

 

      ◆◆◆

 

「ふうむ、単独任務か・・・」

 コトは腕を組んで考える。

「そうなんだよ、どうにかならないかな?」

「それなら・・・」

「なになに、なんかいい道具でもあるの?」

「ワシはどこぞの青ダヌキではないぞ・・・?」

 あの猫型ロボットのこと知ってるんだ・・・。まあさすがにそれくらい知ってるか。

「今回はワシも行こう」

「一緒に戦ってくれるの!?」

「いや、死にそうになったら助けるだけじゃ」

 そういえばこの世界への過度な干渉は許されてないんだったけか。

「わかったらさっさと仕度せい」

「うん・・・」

 がっかりしつつも私はターミナルを操作する。

「あ、そうだ。そろそろ別の神機作れるんじゃないかな」

 ここまでいろいろなアラガミから素材を手に入れてきた。しかもクロガネ装備のままで。まあ味方が前衛で戦ってくれたからなんだけど。

 まずは一番よく使うアサルトのものを調べてみる。50型機関砲や連弩、尾弩イバラキといった名前の銃があった。言ってなかったけどこの世界にも火、氷、雷、神の四つの属性がある。つまり討伐するアラガミによって弾の属性を変えなければならない。

 というわけで今回はいろいろな弾をを扱える尾弩イバラキを作ることにした。そして余った素材を複合コアに変換して尾弩イバラキに合成することで強化。新しい銃の出来上がり。

「剣はどうするのじゃ」

 後ろからコトが言った。

「使わないし、別にいいかなぁ・・・」

 私がそう言うとコトは「甘い!」と声を上げた。

「一対一のときは接近戦になる可能性が高い。剣も強化しとかぬと痛い目に遭うぞ」

「そうかもしれないけどさぁ・・・」

 すぐ目の前に敵がいると考えると恐怖で鼓動が速くなった。訓練で剣のほうの練習をしてないわけではないけれど。

「良いか。銃ほど隙ができる武器はないのじゃぞ」

「どういうこと?」

 剣のほうが敵の攻撃が当たりやすいから危ないと思うけど。

「構える、狙う、引き金を引く。この三つの動作が攻撃する際に必要じゃろ?」

「そうだけど、普通じゃない?」

 私の言葉にコトは深くため息を吐いた。

「よいか? 三つじゃぞ? 相手はその間にもこちらに向かってくるのじゃぞ?」

「そりゃそうでしょ」

「それに比べて剣や槍などの近接武器は、構える、降り下ろすの二つだけじゃからな」

 動作が少なければ隙が少なくなる。確かにそうかもしれないけど、

「相手の攻撃範囲に入らなきゃ攻撃できないじゃん」

「そんなもん避けたり盾で防いだりするに決まっとる」

 あー、結局は瞬発力とか、自分のステータスに依るのね・・・。

「わかったらはよ、作れ」

 まあ作って損するものじゃないし、作るか・・・。

 剣には特にこだわりはないから適当に前にも言ってた、無属性の鉄乙女剣というショート型のものを作った。

「次は盾じゃな」

「え、装甲も・・・?」

「当然じゃろう。接近戦なのじゃから」

 ぬおぅ・・・。素材とお金がどんどん消えていくぅ・・・。

「お、これが良いのではないか?」

 コトがひとつの装甲を指さして言う。

「ん? ダークアイ?」

 名前と見た目が好みじゃないから目にも留めなかった。

「すきるもついておるし」

「スキル~・・・?」

 どんなスキルか確認してみると、

 

  スキル:空気

 

「ちょっと待ってよ!!」

 なんで自動空気スキルの上に普通の空気スキル重ねなきゃなんないの!?

「いやー、よい盾が見つかって良かったのぉ」

「どこも良くないわああぁ!!」

 

      ◆◆◆

 

 場所は黎明の亡都。

 ここは大きな庭園を中心に図書館や植物園の跡地が並んでいる廃墟だ。近くの水辺には建物が横倒しになって埋没している。各施設がいっぺんに放置されたせいか、当時の図書館の書物がそのまま残されている。アラガミが現れる前はきれいな場所だったんだろう。

 そして今日もこの場所を廃墟にした種族であるアラガミを駆逐する。

 今回の討伐対象のアラガミはコンゴウというアラガミだ。

 猿のような姿をしていて体を丸めて転がる突進攻撃や回転攻撃、タックルなどこの前のシユウとはまた違った肉弾戦を仕掛けてくる。他にも空気を凝縮して撃ち出すという遠距離攻撃もする。いつもは群れで行動しているけど今回のは群れからはぐれた個体らしい。なお、某高速戦艦とは一切関係ない。というかあってたまるか。

 ちなみに今回の装備は鉄乙女剣、尾弩イバラキ、クロガネ小盾型。装甲はいつものクロガネ型を強化したものだ。

「それで、今回はどう戦うのじゃ?」

 コトは任務開始地点に着くなり質問してきた。

「とりあえず最初は銃撃で攻撃して様子見かな」

「剣はどうするのじゃ」

 聞かれて私は目を逸らした。

「まあ、それはそのときがきたらね・・・」

「そうかい・・・」

 白い目でこちらを見るコト。

「ともかくもう行くよ」

 私は崖のほうを見て言った。

「では、ワシはここで見てるからの」

 コトはそう言って崖のそばに座った。

「了解・・・」

 私は力なく返事した。それを見てコトが聞いてきた。

「不満か?」

 そりゃ、まあね・・・。

「一緒に戦ってくれないかなぁ・・・と」

 そう言うとまたため息を吐かれた。

「何度も言うようじゃがワシがこの世界に干渉できるのは万が一のときだけじゃ」

「やっぱりダメ・・・?」

「決まりじゃからな」

 神様の掟みたいなものか・・・。

「わかったよ・・・。じゃ、行くか」

 私は崖から飛び降りた。

「さてと、どこにいるかな」

 レーダーを見てコンゴウの居場所を確認する。どうやら図書館のほうにいるらしい。

「あのエリアはまずいな・・・」

 図書館があるエリアは狭く、一本道になっている。そんな場所で戦うのは得策とは言えない。

「ここは一回攻撃して広いところにおびき寄せるか」

 私はレーダーを頼りにコンゴウを探し出した。コンゴウはこちらに背を向けて歩いていた。

「よし、この距離なら」

 私は銃を構える。そして一発だけコンゴウに向けて銃弾を放った。

「ゴオ!?」

 コンゴウがこちらの存在に気づいた。やっぱり攻撃されれば気づくらしい。コンゴウはこちらに向かって走ってきた。それを確認すると私は全力で逃げ出す。コンゴウは大きな体であるというのにすごいスピードでこっちへ向かってきた。

 やっと広いとこに出てきて後ろを振り向くと、コンゴウが空気を凝縮して発射してきた。

「危なっ!」

 私はそれをローリングで避けた。かと思えば今度は転がる突進攻撃だ。

「うわっ!?」

 それも横にローリングすることで避ける。転がったあとのコンゴウに一瞬だけ隙ができた。

「い、今だ!」

 私は銃を構えてコンゴウを狙う。が、

「ゴオッ!」

 また空気の塊を発射してきた。それを私はバックステップで避けた。

「全然攻撃できない・・・」

 私は今まで自分の能力にどれだけ頼ってきたかを思い知らされた。

「クレハ! 剣じゃ! 剣を使うのじゃ!」

 ふとコトの声が聞こえてきた。

「剣・・・」

 私は呟いた。コンゴウは攻撃を止めない。こちらにタックルを仕掛けてくる。

 

 剣は、構える、降り下ろすの二つの動作だけ。

 

「だああ! もうヤケクソだ!」

 私はコンゴウの攻撃をジャンプで避けた。そして滞空中に神機を剣形態に変形させて、

「やあああっ!」

 そのまま重力による落下にまかせてコンゴウの背中に突き刺した。

「ギャアアアアアアアッ!」

 コンゴウは私を振り払おうと暴れる。

「ぐう・・・。落ちるもんか・・・!」

 私は神機の柄を強く握りしめた。体が上下左右に振り回される。

「ゴォ・・・」

 しばらくするとコンゴウはダウンした。私は神機をコンゴウから抜いて背中から降りると、

「喰らって!」

 補食攻撃からのバースト化。よっぽどダメージが大きかったのかまだコンゴウは立ち上がらない。

「だったら・・・」

 私は神機を銃形態に戻すともう一度コンゴウの上に乗った。剣形態で突き刺した背中には大きく穴が開いていた。そこに砲頭をぶちこむと、銃弾を内部に直接撃ち込みまくった。

「ギャアアアアアアア!!」

 コンゴウが叫ぶが私は引き金を引く手を止めない。

「オラクル反応、弱ってます!」

 大逆転とはまさにこのことだろう。コンゴウは撃たれる度に痙攣を起こしていた。

「ゴオ・・・」

 ついには痙攣すらも起こさなくなった。

「あ、アラガミ沈黙しました・・・」

 さすがにフランさんも驚いていた。

「終わった・・・」

 私は安堵のため息を吐いてコンゴウから降りた。

「やはりお前は怒らせると恐ろしいやつじゃの・・・」

 後ろから言われた。気づくとコトが背後に立っていた。

「別に怒ってたわけじゃないけどね・・・」

 まあ確かに今回は狂気の沙汰かもしれないけど、と私は内心苦笑した。

「近くに大型アラガミが近づいています!」

 突然、無線が入ってそう伝えられると、

 

   ぅぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

 遠くから聞き覚えのある叫び声が聞こえてきた。

「この声は・・・」

 植物園のほうから手に金色のハンマーを携えた貴族風の人物が走ってきた。

「なぜだ! なぜ神機が動かない!?」

 どう見てもエミールさんだった。

「え、エミールさん!? って・・・」

 必死の表情で走ってくるエミールさんの後ろから巨大な白い狼に触手がついたようなアラガミが現れた。狼のようなアラガミはエミールさんに追いつくと、

「崖っぷちだ! まさに崖っぷちだこれわああああっ!?」

 前足でエミールさんを横殴りにした。エミールさんは地面を滑っていった。

「これはかなり不味いのではないかの・・・?」

 コトが私に言う。

「でもエミールさんを助けないと・・・」

「しかしじゃの・・・」

 アラガミは私には見向きもせずにエミールさんへと歩いていく。襲われているエミールさんでさえ私の存在に気づいていない。

「気づくかわかんないけど一発だけ撃ってみる」

 私はそう言うとズドンと一発、連射弾を放った。弾はアラガミの触手のような場所に当たった。

「!?」

 どうやらやっとこっちに気づいたようだ。アラガミがこちらに顔を向ける。

「エミールさん! 今のうちに逃げてください!」

「すまない! 恩に着る!」

 エミールさんは図書館のほうに逃げていった。

「さてと・・・」

 私はアラガミと目を合わせた。アラガミはなんだお前はとでも言いたげに私を睨んだ。

「して、どうするのじゃ」

 さっきと同じようにコトが後ろから質問してきた。

「そんなの決まってんじゃん」

 私は別のゲームのようにクイックターンをすると、

「全力で逃げるんだよおお!!」

 逃げ出した。けど、

「うわあっ!?」

 アラガミが私の頭上を飛び越えて行く手を塞いだ。

「じゃあ反対から・・・!」

 今度は逆の方向へ逃げ出そうとすると、また行く手を阻まれた。

「戦うしかないのか・・・」

 私は神機を構える。

「クレハ、そいつはかなり不味い相手じゃぞ!」

 また後ろから喋っているのかと思って振り向いて見たけど姿がない。どうやら別のところから見ているらしい。

「よそ見するでない!」

 言われてアラガミのほうを見るとさっきエミールさんがくらった攻撃を仕掛けてきた。私は得意のバックステップで避ける。続いてアラガミは大きな尻尾を振り回す。それはジャンプで避けた。でもそれが判断ミスだったと気づいたときには遅かった。

 アラガミは空中に逃れた私を同じく空中へ跳ぶことで追撃。そして前足を降り下ろしてきた。

 

 間に合わない・・・!

 

「かはっ・・・」

 地面に叩きつけられる。肺にある空気が無理やり全て吐き出させられた。

「クレハっ!」

 どこからかはわからないけどコトが私の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。

「クレハ! さっきと同じじゃ! 剣じゃ!」

 剣・・・。そうだ。剣形態なら装甲を使える。

 私は地面から起き上がって神機を剣形態に切り替える。

 アラガミはまた前足を大きく振り上げる。

「ぐうっ・・・!」

 それを装甲で受け止めた。力が強すぎて地面に亀裂が走った。アラガミは一旦装甲から前足を離すとまた降り下ろしてきた。それは受け止めず、横に跳ぶことで避けた。そしてそのままアラガミの背後に回り込んだ。

「やあっ!」

 尻尾に攻撃を加えようとしたけどすぐに気づかれて、

「あああっ!?」

 尻尾ではたかれた。私は何メートルも吹き飛ばされる。

「まだ、だよ・・・」

 神機を杖にしてなんとか立ち上がる。顔を上げるとアラガミがこちらに向かってきた。そして体当たりを仕掛けてきた。私はとっさに装甲を展開したけど、

「きゃあああっ!」

 衝撃を逃しきれずにまた吹っ飛んで地面に伏す。

 もうダメかと思いかけたそのとき、

「・・・思い出すのじゃ! 崖っぷちは最高のちゃんすなんじゃぞ!」

 そうだ、そうだよ。

「崖っぷちはチャンスなんだ・・・」

 そう自分にいい聞かせて顔を上げる。

「・・・自分の全ての力を出し切れるんだから」

 アラガミはトドメと言わんばかりに両の前足に炎をまとわせてこちらに跳んできた。

「崖っぷち、ありがとう!」

 ギリギリですり抜けてアラガミの懐に飛び込んで、

「はあああああっ!!」

 左目を思いっきり切りつけた。

「グオアアアアアア!!」

 赤い閃光が走った。私の十何倍もの大きさのアラガミが吹っ飛んだ。

「うっ・・・!」

 突然、体中に痛みが走った。

「なにこれ・・・」

 体が追いついてないの、か・・・な・・・?

 私はその場に座り込んでしまう。アラガミがそれを見逃すはずもなかった。アラガミは両の前足に炎をまとわせると全身から赤い光を放った。どうも怒らせたみたいだ。するとその巨大な炎を球体にして私目掛けて発射してきた。

「やだ、やだよ・・・。まだ・・・」

 目の前まで煉獄の炎が迫っている。ここで終わりなのか、と目をつぶった。

 

「させぬわあぁっ!」

 

 (あれ・・・?)

 目を開けると氷のように透き通った刀を持った少女がいた。

「コ・・・ト・・・?」

 神様見習いだった。

「どうして・・・」

「言ったじゃろ? 万が一のときは助けると」

 そう言うと刀を構えてアラガミを睨み付ける。

「ワシのクレハにここまでやってくれたのじゃ。しっかり礼はさせてもらう」

 目がいつものコトじゃなかった。

 アラガミはコトを見据える。どうも今のコトには神様特有のステルス能力がないらしい。

 また炎の球を発射してきた。

「甘いの」

 コトは炎の球を避けようとしない。

「危ないよ!」

 私がそう叫んでもいっこうに動こうとしない。炎はすぐそこまで来ている。

「しゃっ!」

 コトは炎の球を切り上げた。その瞬間、炎が消え去った。

「まだまだァ!」

 コトは一瞬にしてアラガミとの距離を詰めて刀で切りつけようとする。

「偽りの神がワシに勝とうなど!」

 でもアラガミもそれ相応の力を持っているらしく、前足で受け止めた。

「くっ・・・」

 コトは息を詰まらせるとコンマ何秒の速さで距離をとった。アラガミも後ろに跳んで距離をとる。アラガミの前足を見ると少し凍っていた。炎をまとうほどの前足が凍っていた。でもすぐに解けてもとに戻った。

「ふん、悪くないの」

 コトはニヤリと笑って言った。

「クレハちゃん!」

「え・・・?」

 名前を呼ばれて、後ろを振り向くとブラッドのみんなが駆けつけてくれていた。

「増援か?」

 コトもそれを確認する。

 ナナ、ロミオ先輩そしてギルさんはアラガミに銃撃で集中放火を浴びせた。これにはアラガミもたまらず建物の上に逃げた。しばらくこちらを見下ろしていたけど背を向けてどこかにいった。あとからジュリウス隊長も合流した。

 

      ◆◆◆

 

 ブラッドの面々は座り込んでいる私に駆け寄ってきた。

「大丈夫?」

 ナナが労るように聞いてきた。

「う、うん・・・」

 私は頷いて立ち上がった。全身の痛みはなくなっていた。

「よくここまで耐えたな」

 隊長が私の肩に手を置こうとした。

「触るな!」

 コトがそれを素早く払った。隊長はコトの姿を捉えると冷静に質問した。他の三人は困惑した様子だけど。

「あなたはどなたですか」

「誰が答えるか!」

 コトは隊長に怒鳴った。そしてこう続ける。

「なぜもっと早よう、来なかった!? あと少し遅れておったらクレハは死んでおったのじゃぞ!」

「我々もなるべく早く駆けつけるように努力しました。しかし自分の任務の終了が最優先です」

 ジュリウス隊長はいたって冷静だ。

「貴様っ・・・。それでも同じ部隊の仲間か!」

 コトは隊長の胸ぐらを掴む。

「誰だか知らねえが、他人の前にまず自分の問題をなんとかしなきゃいけねえんだよ」

 ギルさんが横から言った。

「先に目の前のアラガミをやっつけないとみんなに迷惑かけちゃうしね・・・」

 ナナも続けて言った。

「ここはそういう職場だ」

 ギルさんはそう言い切った。

「・・・っ」

 それを聞くとコトは隊長を突き飛ばした。

「行くぞ、クレハ」

 私はコトに腕を掴まれる。

「ちょ、ちょっと待ってよ! どこに行くの!?」

「いいから行くぞ!」

 私の腕を掴んで引っ張っていった。隊長たちの姿がどんどん小さくなっていく。

「コト、待ってよ!」

 呼び掛けてもうつむいたまま私を引っ張り続ける。どんどん歩いて、本来のフィールドからかなり離れたところまで来てしまった。隊長たちが全く見えなくなったところでコトはようやく足を止めた。

「コト・・・?」

 呼び掛けても返事がない。代わりに喉を詰まらせる声が聞こえた。

「うっ・・・くっ・・・」

 コトは泣いていた。

「どど、どうしたの!?」

 私が聞くと、

「クレハっ!」

「ひゃっ!?」

 いきなり抱きついてきた。思わぬ展開に神機を落としてしまった。

「クレハっ・・・! クレハっ・・・!」

 コトは泣きながら何度も私の名前を呼んだ。

「どうしたの・・・?」

 なるべく優しく聞いてみると、声を詰まらせながら話し始めた。

「うっ・・・クレハ、ワシは怖かった」

「え・・・?」

 コトが弱音を吐くのは初めてだったからびっくりした。

「クレハが死んでしまうのではないかと思った・・・。とても怖かった・・・」

 そう言うと私を抱きしめる力が強くなった。私もコトを強く抱きしめた。

「でもコトが助けてくれたじゃんか」

「それでもっ! クレハが苦しんでいるのを見るのはいやじゃ! クレハが苦しんでいるのにぎりぎりまで助けられないのはいやじゃ!」

 ここまで自分のことを大切に思ってくれている、そう思うと胸が熱くなった。

「ありがとう、コト・・・」

 私がそう言うとコトは、

「う・・・うわあああ!! クレハあぁぁ!!」

 声を上げて泣き出した

 

      ◆◆◆

 

 それからコトが泣き止むまでそこからは動けなかった。運よくアラガミに襲われることはなく、帰りはフランさんに無線で道案内してもらいながら歩いてフライアまで帰った。道中は二人でずっと手をつないで歩いていた。

 フライアに着く頃にはコトのステルス能力ももとに戻っていた。おかげでごまかすのに手こずったけど・・・。

 そしてその夜。コトの希望で今日は一緒にベッドで寝ることになった。

「のう、クレハ」

 ベッドに入るなり、コトが話し掛けてきた。

「ええと、その・・・じゃな」

 コトは目を伏せて言う。

「きょ、今日も一緒にいてくれてありがとうなのじゃ・・・」

「うん、どういたしまして・・・?」

 急にそう言われて私にはわけがわからなかった。

「じゃからなその・・・」

「ええと、なに?」

 私は聞き返してみた。

「その、ちょっと横を向いてたも」

「横?」

 戸惑いつつも従った。

 

   ちゅ

 

 頬になにか柔らかいものを感じた。

「え・・・?」

 私は最初、なにをされたのかわからなかった。

「こ、これは礼じゃ・・・」

 ゆっくりとコトのほうに目を向けると顔を真っ赤にしていた。

「そ、そんなに見るなっ!」

 そう言うとそっぽを向かれてしまった。そんなに見てたかな・・・?

「ねえ、コト。こっち向いてよ」

「むむむ無理じゃ!」

 私はそれならとコトの腰に手を回して密着した。

「っっ!?」

 コトがびくりと肩を震わせた。

「・・・コトもいつも守ってくれてありがとう」

 自分からやっておいてなんだけど、すごく恥ずかしかった。

「・・・・・・」

 それからはお互い無言で、でもずっとそのままの状態で眠りに落ちた。




 なんか神様見習いが一気に持ってた感じが半端ないですw
 
 前回もたくさんの閲覧、お気に入り登録ありがとうございました! あとなぜか更新していないのに閲覧数が伸びた日はどなたか宣伝してくださったんですよね? そうですよね? ねこめはそう信じたいです···。と、ともかく宣伝やコメントをくださった方もありがとうございました!

 次回はいよいよアノお方の登場です。どうなる、主人公ちゃん! どうする、神様見習い! 次回をおおざっぱに説明するとこんな感じですかねw?

 というわけで次回もよろしくお願いします!


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副隊長です
15 これまとめろってですか・・・


 ハァ~ 百合もねェ 気配もねェ 文才それほど上がってねェ

 というわけでねこめでございます。
 今回は言い訳しません! 更新遅れてすいませんでした! なぜ言い訳しないかと言うと執筆すっぽかして別のことやっていたからです! ともかくすいませんでしたァ!


『連絡します。本日、マルハチマルマル、ブラッド各員はラケル博士の研究室に集合してください。繰り返します。本日・・・』

 

 食堂で朝ご飯を食べていると放送が流れた。なにか会議でもあるのかなと思い、前の世界の知識を探ってみたけどなかなか思い出せない。

「なんだっけ~・・・」

「なにをそんなに悩んでおるのじゃ?」

 頭を抱えていると前の席に座ってるコトに話し掛けられた。

「いやなんか、これからすっごい大事なことが起きるはずなんだけど・・・なんだっけな~・・・」

 確か、主人公の今後に大きく関わる出来事だったはずだよなぁ・・・。

「まあ、思い出せぬものはどんなに思い出そうとしても無理じゃ」

「う~ん、そういうものかなぁ」

 そういうものじゃ、と言うと無料で飲める緑茶をすすった。

「そんなことより、その味噌汁一口もらえぬかの?」

 もう、この神様見習いは毎日、毎日人のご飯もらって・・・。あげるけどさ。

 

    ◆◆◆

 

「全員揃ったな」

 隊長が全員の顔を見渡す。

「よし、入れ」

 隊長が扉に向かって言うと外から声が聞こえてきた。

「シエル・アランソン入ります」

 扉が開かれて銀髪の少女が現れた。銀髪の少女はこちらに歩いてきて敬礼した。

「本日付で、極致化技術開発局、ブラッド所属となりました。シエル・アランソンと申します。ジュリウス隊長と同じく児童養護施設、『マグノリア=コンパス』にてラケル博士の薫陶を賜りました」

 銀髪の少女もといシエルさんはずっと敬礼したまま続ける。

「基本、戦闘術に特化した教育を受けて参りましたので今後は戦術、戦略の攻略に謹みたいと思います」

 そう言うとシエルさんはようやく敬礼した右手を下ろした。それを見て隊長がくすりと笑った。やっぱり昔馴染みの関係だから相変わらずだなとでも思ってるのだろうか。

「・・・以上です」

 シエルさんはラケル博士を見て言った。

「そんなに固くならなくていいのよ、シエル。ようこそブラッドへ。これでブラッドの候補生が皆揃いましたね」

 ラケル博士は私たちを順繰りに見回す。

「『血の力』を以てあまねく神機使いを、さらには救いの手を求める人々を導いてくださいね」

 ラケル博士はそう言うと隊長に説明させるよう促した。

「今後ブラッドは戦術面における連携を重視していく。そしてその命令系統をまとめるために副隊長を任命する。ブラッドを取りまとめていく役割を担ってもらいたい」

 ジュリウス隊長は一歩前に出る。あれ、なんかすごく嫌な予感がする・・・。

「これまでの行動、また、早くも『血の力』に目覚めたという結果から・・・」

 隊長はゆっくりと私と目を合わせた。ましゃか・・・。

「クレハ、お前が適任だと判断した」

 嫌な予感の正体はこれか・・・。

「副隊長、やってくれるな?」

「え、な・・・ちょっと待っ・・・」

「わー! 副隊長かー! おめでとー!」

「まあ妥当だな」

 私の言葉はナナとギルさんに遮られた。

 (私はまだやるとは・・・)

「ナナは少しあれだし、ロミオじゃ心細いしな」

 ギルさんの言葉にロミオさんがつっかかる。

「うるさいよ! お前のほうがもっとありえないよ!」

「前にも言ったがお前は敵との距離を取りすぎだ。なのに被弾率が高いのはどういうことだ」

「猪馬鹿に言われたかないね。みんなの射線の邪魔になってんのわかってないの?」

 キミらお互いのことよくわかってるなぁ・・・。

「みんなって誰だよ」

「わたしじゃないよー・・・」

 ナナが二人の間から言う。いやまあ、ナナはほとんど銃使わないから。強いて言うなら私のことだな。絶対言えないけど・・・。

「俺だよ! バーカ!」

 ああ、ロミオ先輩もか・・・。それを見て隊長は苦笑いして私に言う。

「部隊の連携に不安定さが残る現状だが・・・」

「これまとめろってですか・・・」

「お前ならきっとできるさ」

 これが部下にほとんど任せようとする上司の姿か・・・。この言い方はちょっと失礼かな・・・?

「シエル、副隊長とブラッドについてのコンセンサス重ねるように」

 隊長にそう言われるとシエルさんは「了解です」と胸に拳を当てて言った。

「お前たちもそのくらいにしておけ」

 隊長に言われて三人は静かになる。

「戦場でもそのように規律正しく頼む」

 隊長が言い終わるのと同時にシエルさんは私に言った。

「副隊長、改めてよろしくお願いいたします」

「あ、はい・・・。よろしくお願いします・・・」

 あまりの礼儀正しさに萎縮してしまう。

「それでは今日はここまでとする。皆、持ち場に戻ってくれ」

 隊長の言葉と同時に全員、研究室を出た。

「あの、副隊長」

 かと思ったらシエルさんに呼び止められた。

「へ? あ、そうか。私、副隊長か・・・」

 これから副隊長って呼ばれるのか・・・。

「最初に確認しておきたいことがあります」

「あ、はい・・・」

「ブラッドとしての作戦行動を取った回数はどのくらいでしょうか」

 作戦、いわゆる戦術的な行動みたいな感じのやつかな。

「作戦と言えるようなことはほとんどしてないような・・・」

「わかりました。それでは次回の任務以降、しばらくは戦術レベルでの連携任務を行っていくべきですね」

 やっぱりそうなるよね・・・。隊長やナナはともかく連携って大切だと思うよ、うん。

「副隊長から私になにか質問はありませんか?」

 質問か・・・、特にないと言えば嘘になるけど突然言われてもな。あ、そうだ。

「戦術面に特化した教育を受けてきたって言ってましたけど・・・」

「そうですね、体術や各種武器の扱いのほかに・・・」

 もうこの時点ですごい子だなぁと思ったのもつかの間。

「破壊工作」

 ん!? はかいこうさく!?

「諜報活動」

 ちょうほう・・・、敵の情報を盗むことかな・・・?

「暗殺術」

 あんさつって・・・。

「・・・などを一通り学んだ程度です」

 シエルさん、程度の使い方が間違ってます。もしかしてあれですか、どこぞの異世界の人たちみたいなやつですか? 空を飛ぶ程度の能力とか、時を操る程度の能力とか、気配を消す程度の能力とか・・・ってそれは私もか。

「シエルさんってすごいですね・・・」

「いえ、既に第一線で戦っている皆様に誇れるものはありません」

 誇れるよ・・・、いや、むしろ誇るべきだよ・・・。

「他になにかありますか?」

 他に・・・他に・・・。

「他には・・・今は特にないですね」

「そうですか」

 シエルさんは一呼吸おいて話を続ける。

「副隊長の活躍はラケル先生から伺いました。早くも『血の力』に目覚め、素晴らしい戦果を上げた、と」

 そういえばこの前、とてつもない力を発揮してたな。あれは『血の力』に目覚めてたのか。

「私は実戦経験では及びませんがそのぶん、戦術における知識を活かして部隊に貢献できればと考えています」

 そう言うと私から目線を外して考える素振りを見せる。

「ええと、こういうときは・・・あ、すみません、思い出しました」

 少し上目遣いで言った。

「お互いに足りないところを補って、高め合っていければ・・・と思っています」

 シエルさんはたどたどしく、どこかでセリフを用意してきたようにそう言った。

「あ、おかしなことを言っていたらすみません。社交的な会話にはどうも不馴れなもので・・・」

「い、いや全然おかしなことじゃないですよ」

「そうですか。それなら良いのですが・・・」

 たぶん、シエルさんは昔からこんな風に人と話すのはあまりなかったのかもしれない。

「あ、そうだ。この資料に目を通していただけますか?」

 シエルさんはファイルのようなものを取り出して言った。

「皆さんの戦闘データを基に作成したトレーニングメニューです」

 すごい、もうそんなことまでしたのか・・・。

「1日24時間として睡眠に8時間、食事やその他の雑事に2時間、任務に4時間として、残り10時間は訓練に4時間と座学に6時間とします」

 きゃー、超スパルタスケジュールだー。

「そしてこちらが各隊員に合わせた訓練計画です。少し甘いかもしれませんが十分、小隊戦力の底上げにはなるはずです」

 これでも甘いと申しますか・・・。

「えと、休憩は・・・?」

「休憩ですか。そうですね、ときには休養も必要ですね」

 そこに気づいてもらえてほっとしたと思ったら、

「では、どこかに10分休憩を入れましょう」

「10分だけですか・・・?」

「はい」

 10分だけで休まるわけないじゃないですかー! とは言えなかった。

「あとひとつ、私からお願いしたいことがあるのですが」

「はい・・・」

 まだなんかあるの・・・?

「敬語でなくても問題ありません。それに上官に敬語で話されるのは・・・」

「ええと、タメ語で話せってことですか・・・?」

「タメ語、とはなんでしょうか」

 あ、そうか。こういう言葉は知らないのか。

「えと、つまり、こんな風に砕けた感じで喋ればいいんだよね?」

「そうですね。ではそのタメ語という話し方でお願いします」

「はい・・・あ、うん」

 部下なんてできたことないからなんだか慣れないなぁ・・・。保育所も先輩後輩というより兄弟姉妹みたいな感じだったし。

「では失礼致します。これからよろしくお願いいたします」

「あ、こちらこそよろしくね・・・!」

「では」

 シエルさんは研究室から出ていった。

「どうも、やっていきづらそうなやつじゃのう」

 シエルさんが退出して行ったのと同時にコトが入ってきた。外から中の様子を聞いていたらしい。

「まあ真面目でいいとは思うんだけどね・・・」

「ちと真面目すぎるの」

「そうだねぇ・・・」

 私はため息を吐いた。

「そういえばお前、副隊長になったのじゃな」

「そうなんだよねぇ・・・」

「あの連中をまとめるのか。大変じゃのう・・・」

 ほんと、これから大変だよ・・・。

 

      ◆◆◆

 

 そして、数日経った日、

「ほれ! 起きよ! バカもん!」

「はいぃ! 接近戦の基本は!」

「な~に寝ぼけておるのじゃ」

「あれ・・・?」

 周りを見渡すと自室だった。さっきまで訓練場だったのに。

「夢の中でも訓練しとるのかおのれは」

 だって毎日ハード過ぎるんだもん・・・。そりゃ夢にも出るよ・・・。

「もうとっくに朝じゃぞ」

「今、何時?」

 ほれ、と時計を渡される。時計の針は7:00を指していた。

「どぅおああ!! 遅刻だあああ!」

 私は急いで身支度を始めた。

「ふむ、疲れると目覚ましが効かなくなるんじゃのぉ」

 コトはのほほんと言う。

「なんで起こしてくれなかったの!?」

「い、いや起こそうとしたのじゃが・・・」

「したけどなに!?」

 髪を解きながら問いただす。

「少しお前の寝顔を拝んでおっての・・・」

「私の寝顔なんて拝んでどうすんのさ!!」

 もう朝っぱらからなんなんだよ! 逆ギレだって? うるさいよ!

「・・・ワシの相手をしとる場合ではないと思うがの」

「ああもう、知ってるよ!」

 身支度を済ませて自室を出る。食堂では簡単なものを頼んだ。そして食堂をあとにして訓練場へ急いだ。

「遅れてすんませんでしたああああ!」

 私は訓練場の待機場所に着くなり叫んだ。

「副隊長、おはようございます」

「お、おはよう・・・ってあれ?」

 いるのはギルさんとシエルさんだけだった。

「二人だけ?」

 質問にはギルさんが答えてくれた。

「そうだな。隊長は任務。ロミオとナナはさしずめ寝坊だろ」

「そうなんだ・・・」

 隊長も大変だな・・・。で、あの二人は・・・。

「それにしてもお前もギリギリだったな」

 時計を確認するとちょうど定刻の時間になったところだった。

「すいません・・・」

 私は肩を落として言った。

「二人はあとで呼びに行くとして、今は私たちだけで訓練を行いましょう」

 シエルさんの提案に私たちも同意した。

 一通り共通の訓練が終わって、水分補給の時間となった。

「副隊長は接近戦が苦手でしたね」

「そうなんだよねぇ・・・」

 これまでシエルさんとの任務も何回かこなしてきたけど、相変わらず接近戦はうまくいかない。

「というわけで、今日は少し訓練メニューを組み換えてみたいのですが」

「いいけど」

 いやな予感しかしないな・・・。

「対人訓練をやってみてはいかがでしょうか」

「対人訓練?」

「はい、神機の殺傷能力を0にして行うものなのですが」

 神機の殺傷能力ってなくせるんだ・・・ってそうじゃなくて!

「ええとつまり仲間同士で戦うんだよね?」

「そうですね」

「それはなんかやだなぁ・・・」

「しかし、戦闘能力の向上には確実に役に立つと思います」

 そりゃそうだけどさぁ・・・。

「そうでもしないとお前、全然、近距離戦やらないだろ」

 うう、ギルさんまでぇ・・・。

「というわけで、今回は私と戦っていただきます」

 そう言うとシエルさんは立ち上がった。

「えっ!? 今からやるの!?」

「はい、なにか不都合でしたか?」

「い、いや別にそんなんじゃないけど・・・」

 これはとても断れない状況だ・・・。

「わかったよ・・・やるよ」

 私はしぶしぶ了解した。

 

      ◆◆◆

 

 ルールは、先に二回攻撃を当てたほうが勝ち。また制限時間の10分以内に決着が着かなかった場合は攻撃のヒット数が多いほうを勝ちとする。審判はモニタリングしているフランさんだ。

「ただいまより対人訓練を行います。お二人とも準備はよろしいですか」

 フランさんの言葉に私たちは答える。

「こちらの準備はできています」

「大丈夫・・・で、す・・・。一応・・・」

 私は初任務のときのように緊張しっぱなしだ。

「それでは訓練を開始します」

 ビーッ! という放送音が流れる。開始の合図のようだ。

「行きますよ、副隊長」

 お互いに神機を構える。

 さてどうしようか。互いにショート型の神機だから武器においてのハンデはない。でも相手は戦闘のプロ、普通に戦って勝ち目はない。

「さて、どうするか・・・」

 周りを見渡す。いつもの高台がある訓練場だ。

「来ないのならこちらから」

「え? うわっ!」

 シエルさんがこちらにクロガネの剣を突き出してきた。私は体を捻って避ける。

 (は、速い!)

 今、避けたのはほとんどまぐれだろう。

「まだですよ」

 さらにもう一発突き攻撃を繰り出してきた。

 (一旦距離を取らないと・・・!)

 私はバックステップでシエルさんの攻撃範囲から外れる。

「一度距離を取る、良い判断ですね。ですが」

 シエルさんはこちらを見据えて言う。

「いつまでも受け身では勝てませんよ」

 シエルさんは数秒でこちらとの距離を詰めると神機を降り下ろしてきた。

「っ!!」

 軽くかすったけど当たったことにはならないみたいだ。

 今度は横に切り払ってきた。

「ぐっ!」

 私は間一発、装甲でガードする。シエルさんはガードされたのを確認するとすぐに後ろに跳んで距離を取った。

「瞬発力は十分にあるようですね」

「あ、ありがと・・・」

 私はなんとか答える。

 さて、このまま戦っても負けるか、引き分けになるだけだ。別に引き分けでもいいけど。そうだ!

 私は二つあるうち高いほうの高台に向かって走った。

「どこへ行くのですか」

 シエルさんが追いかけてくる。私も全力で走る。それでもってこのあたりまでくればちょうどシエルさんからは高台の影になって見えなくなる位置。そうしたら息を殺してなるべく心拍数が上がらないようにする。

「隠れても無駄です」

 私はシエルさんに見つかるギリギリで高台に登った。

「おや・・・?」

 これなら彼女の視界に入ることなく気配を消すことができる。我ながらいいアイデアかも!

「副隊長・・・?」

 シエルさんがあたりをキョロキョロと見回している間に私は高台の反対側からなるべく足音を立てないように床に降りた。

 (そぉ~っと、そぉ~っと・・・)

 密かにシエルさんの背後に近づいていき、すぐ後ろまで近づいて、

「どこに行かれたのですか、副たいちょ・・・」

「ごめんなさいっ!!」

 剣を降り下ろした。

「攻撃、ヒットしました」

 フランさんから無線が入る。

 私はカウンターを食らわないように後ろに跳んで何メートルも距離を取った。

「いつのまに・・・!」

 シエルさんは心底驚いているようだった。ちなみに、シエルさんは私がとんでもなく存在感が薄いということをまだ知らなかった。

「やりますね、副隊長」

「シエルさんもすごいじゃん・・・」

 私はこの時点でかなりの体力を消耗しているけどシエルさんはまだまだといった様子だ。

「では、こちらも本気でいかせていただきます!」

 そう言うと神機を低く構える。

「やあっ!」

 ものすごい速さで攻撃を仕掛けてきた。

「うわっ!?」

 私は高台に登ってなんとか難を逃れる。

「同じ手は何度も通じませんよ」

 シエルさんも私を追って高台に登ってきた。

「わかったよ! ちゃんと戦えばいいんでしょ!」

 この際、せこい手はなしだ。

「わああっ!」

 私はシエルさんに突っ込んでいく。そして斜めに神機を降り下ろす。

「たあっ!」

 装甲で難なく弾かれる。

「ただ攻撃するだけではカウンターを食らいますよ」

「ぐっ・・・!」

 見事に腹部に突き攻撃食らってしまった。

「攻撃、ヒットです」

 でも殺傷能力がないというのは本当で多少衝撃のようなものがあるたけで痛くはない。

 私は攻撃の反動を利用してシエルさんから離れた。

「これでお互いに残機は0だね・・・」

「残機とはなんでしょうか」

 今だ!

 シエルさんに一瞬隙ができる。

「気にしてる場合じゃないと思うよ!」

 私は間合いを詰めて神機を降り下ろす。

「っ!!」

 シエルさんは神機を剣形態のままで攻撃を受け止めて、すぐに弾き返す。

 そして互いに攻撃を繰り出した。ガキンッ! と鉄がぶつかり合う大きな音が響いてばぜり合いになる。それをやめて距離を取り合った。

「やあっ!」

 私が突きを繰り出すとシエルさんはさっと避ける。

「たあっ!」

 何度も攻撃を重ねても全て舞うように避ける。

 (すごい・・・)

「ぼーっとしてると負けますよ」

「わっ!?」

 攻防が一転、今度は私が攻撃を受ける番になった。距離を取ろうと後ろに下がってもそのままついてくる。確実にこちらの弱点を狙ってくる戦い方は正にプロだった。

 少しずつ後ろに下がりながら攻撃を避け続ける。このままだと高台から落ちてしまう。

「こうなったら・・・」

 私はひざに力を入れると後ろに大きく跳んで空中に逃げた。

「それは不正解です」

 シエルさんはそう言うと同じく高く跳んで、追撃を仕掛けてきた。

 不正解? いや・・・。

「世界に・・・」

 神機を銃形態に切り替える。

「正解も・・・不正解も・・・」

 片目をつぶって照準を合わせる。

「ないんだよ!!」

 引き金を引く。

「なっ・・・!?」

 

   ドォン!

 

 銃声が響いた。弾丸はシエルさんに当たった。

「攻撃、ヒットしました・・・?」

 フランさんの戸惑い気味の声が無線から聞こえた。

 私とシエルさんは床に着地する。

 (あ・・・しまった)

「ご、ごめんなさい!!」

 私は膝まづいているシエルさんに駆け寄った。

「・・・・・・」

 シエルさんは黙ったままだ。

「あの、やっぱり怒ってるよね・・・」

 接近戦の訓練なのに銃を使うのはさすがにまずいと思う・・・。

「・・・いえ。これは私の負けです」

「へ・・・?」

 シエルさんは立ち上がって顔を上げた。その顔は清々しいものだった。

「隠密能力や瞬発力、及びそのひらめき。とても素晴らしかったです」

「いや、そんな・・・。シエルさんのほうが何倍も上だよ!」

 剣だけであれだけの戦闘能力を発揮できるのはとても常人とは思えない。いや神機使いの時点で常人ではないのだけれど。

「それに私、銃を使っちゃったし・・・」

「使ってはいけないとは言っていません」

「え・・・」

「私は接近戦の訓練とは言いましたが、決して接近戦以外の行動を取ってはいけないとは言っていません」

 ということは・・・。

「私、騙されてた!?」

「すみません、最初に言っておくべきでしたね」

 だったら最初から使えばよかったぁ・・・。

「しかし、あの場面で銃を使い、しかも当てるとは・・・。あなたが副隊長に選ばれる理由も理解できます」

 いや、自分の戦闘能力が高いだけで統率力が全くなかったら意味ないと思うよ・・・?

「まあ何メートルも離れたシユウの頭をぶち抜くくらいだからな」

 ギルさんも褒めてくれた。

「副隊長」

 シエルさんがこっちに向き直る。

「な、なに・・・?」

「次の対人訓練のときは遠距離戦のみにしましょう」

「え!? なんで!?」

 さっきまでは接近戦を練習しようって言ってたのに・・・。

「その射撃能力を上げれば接近戦に劣らない戦闘能力になるはずです」

「ほんとに? ほんとにいいの?」

「ええ。それと今度は私以外の方とも戦ってみてください」

 仲間と戦うのは少し気が引けるけど、銃を使ってもいいなら幾分か気が楽だった。

「でもちゃんと近距離での対人訓練もやりますので」

「あ、うん・・・やっぱりそうだよね・・・」

 シエルさんに付け足されて私は苦笑いをした。

「遅れてすいませ~ん!!」

 扉のほうから二人の声が聞こえてきた。

「ごめん! 寝坊した!」

 ロミオ先輩とナナだった。

「お前ら遅かったな。面白いものが見れたのによ」

 ギルさんが二人をからかうように言った。

「え、なになに!? なんかあったの!?」

 ナナが私に詰め寄る。

「ねえ、クレハちゃん! なにがあったの!?」

「いやまあ、えっとあはは・・・」

 だから近いって・・・。

「笑ってないで教えてよー!」

「遅刻したやつには教えないってさ」

 横からギルさんが言う。別にそういうつもりじゃないんだけど・・・。

「えー!? クレハちゃん教えてよ!」

「えっとじゃあひとつだけ・・・」

「うん! なになに?」

 わくわく顔で言葉を待つナナとロミオ先輩に真顔で私は直球で言った。

「シエルさんと戦った」

「は・・・?」

「え・・・?」

 それを聞くなり二人とも固まった。そして

「ええええええええええええっっ!?」

 二人の声がフライア中に響いた。




 今回もご精読ありがとうございます。

 百合がない! 対人訓練ってなんなんだ! 
 あと、シエルさんってもう少し話が進まないと全然百合シナリオに使えないじゃないですか! いや普通どんなキャラでもそうなんですけど・・・。
 
 というわけでバトルネタが濃いお話でした・・・。
 次回はもっとハートフルなものが書けると思います・・・。
 


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16 ゆ・う・きゅう♪ ゆ・う・きゅう♪

 試験がボロボロですよー(泣) なんて私情はどうでもいいんです。

 今回のお話はバトルなしです! 百合はソフト程度ですがw あと、急いで書いたために誤字脱字があるかもしれません。ご指摘くださると幸いです。


 私はいつものようにハードな訓練を終えてから任務を受注するためにカウンターに向かった。そこでフランさんから任務内容を聞こうと思ったら、

「今日は任務はありません」

 フランさんの声が天使のものかと思えた。

「今、なんと・・・?」

「今日の任務はありません」

「も、もっかい・・・」

 自分の耳が信じられない。

「今日の任務はありません」

 ぬおお! なんていい響き!

「ええと、なんでですか?」

 一応理由を聞いてみた。

「現在、フライアがいる場所の敵はすでに、近くの支部の神機使いたちが殲滅してしまいました」

「あ、なるほど。そういうことですか」

 他所の神機使いさんお疲れ様です。

「ということは今日は休みですか!?」

 今の私は目をギンギラギンに輝かせていることだろう。

「はい、今日は有給休暇となります」

「ぃいやったあああ!」

 あまりの嬉しさに声を上げた。はっとしてフランさんを見たけどいつも通り無表情。でもなんとなく目が「なにこの人」という感じだった・・・。

「突然のアラガミの襲来に備えていつでも出撃できるようにしてください」

「わ、わかりました」

 油断はするなってことか。

 私は自室に戻ることにした。

「ゆ・う・きゅう♪ ゆ・う・きゅう♪」

 日頃の疲れはどこに行ったんだというようなほどに足が軽い。

「あれ? クレハちゃんどうしたの?」

 戻る途中、ロビーの下の階でナナと出会った。

「任務は?」

「今日休みだって!」

「え!? 休み!?」

「うん! 嘘だと思うならフランさんに聞いてみなよ」

 私がそう言うとナナは上の階のカウンターに走っていった。そしてものすごい速さで戻ってきた。

「ほんとに休みだった!!」

「そうだよ! ほんとに休み!」

 二人して休みという単語を連呼する。

「そうだ! 休みならおでんパンの作り方教えるよ!」

「そういえば、まだ教えてもらってなかったね。じゃあお言葉に甘えて・・・あ・・・」

「どうしたの?」

 ふと一人の人物の顔が頭をよぎった。

「これシエルさんに知られたら・・・」

 私はさっきの興奮から一気に覚めた。

「知られたらどうなるの?」

「任務がなくなった分、訓練増やされる・・・」

「あ・・・」

 さっきは二人して興奮していたけど、今度は二人して青ざめた。

「見つからないうちに戻ろう・・・」

 ナナは声を潜めて言った。

「賛成・・・」

 私たちはエレベーターのほうへ向かった。エレベーターに乗り込んで自室の階のボタンを押す。

「あ、なんか嫌な予感・・・」

 フラグの臭いがプンプンする。こういうエレベーターでのシチュエーションは降りるときに鉢合わせるというパターンが多いからだ。ホラーゲームならなおさら。この世界はホラーゲームではないけど・・・。

 そして案の定、

「おや、二人ともどうされましたか?」

 例の銀髪がいた。

「あー・・・これはそのえっと・・・」

 私は言葉に詰まってナナを見る。ナナも同じようにこちらに目を合わせてきた。そして「あ」と声を上げてなにか思い付いたような顔をした。

「今日は休みだって!」

 そうそう、休み・・・っておいいいい!!

「休み?」

 ナナは理由を話したあとにこう続けた。

「それでね、今日はクレハちゃんにおでんパンの作り方を教えてあげようと思ったんだけど、シエルちゃんも一緒にどうかな?」

「え・・・? あの・・・ええと・・・」

 シエルさんは突然のことで対処に困ってるみたいだ。社交的会話が苦手だって言ってたけど、それをうまく利用してるのかな? いや、さすがにこの子はそこまで考えてないか。

 というわけで私も言葉の援護射撃。

「ほら、腹が減っては戦は出来ぬって言うし!」

「それは、そうですが・・・」

 よし、確実にダメージを与えてる。でもシエルさんはまだ目を伏せたままだ。

「わかったら私の部屋に行こう!」

「え、ちょっとなにを・・・!」

 ここでナナ、シエルさんの背中を押して実力行使だ。少し悪い気もするけど・・・。

 

      ◆◆◆

 

 そういうわけで、ナナの部屋。

「まず、おでんを作りまーす」

 ナナのお料理教室~みたいな感じになっているけど、この子ゲームでは料理はからっきしダメだった気がする・・・。

「出汁はすでに買ってきたもので済ませてー、あとは茹でまーす」

 その口調どうにかならないのか・・・。

「あとは茹でたおでんを串にさしてこのパンに挟めばできあがりでーす!」

 そう言うと三つおでんパンが乗った皿をテーブルに持っていく。

「じゃあどうぞ!」

「いただきます」

「い、いただきます・・・」

 私たちはひとつずつおでんパンを手に取る。シエルさんはおでんパンを観察している。

 見た目は前に見たものと変わらないけど、

 (串、どうしよ・・・)

「どうしたの?」

「いやなんでもないよ!」

 とりあえず上のほうをかじって見た。パンの生地のふわふわとおでんの出汁という不思議な味がした。

「どう? おいしいでしょ?」

「うん、おいしいよ」

「良かった! シエルちゃんも食べてみてよ」

 シエルさんは少し躊躇っていた。まあ、こう言ったらなんだけどパンにおでんが挟まってる光景なんてめったに出くわさないしね・・・。

「で、では・・・」

 そう言うと決心して一口かじった。

「こ、これは・・・!」

 シエルさんは突然目を見開いて言った。

「もしかしてダメだった・・・?」

 ナナが不安そうに聞く。

「そんな、これとてもおいしいです!」

「ほんとに!?」

 ナナの顔がパアッと明るくなった。

「はい。今まで食べたことのない味で、とても興味深いです」

「良かったぁ! どんどん食べて! 作ればまだまだあるから」

 そういうとナナは自分のパンをいつぞやのように串ごと一気に食べた。

「ねえ、その串、食べられるの・・・?」

「食べられるよー?」

 言われてシエルさんと私は固まってしまった。

「だってこれパスタだもん」

 ますますわけがわからない・・・。

「ええと、パスタって普通は茹でてありますよね・・・?」

 シエルさんが恐る恐るといった感じで尋ねる。

「茹でたら、くにゃくにゃになっちゃって串にならないじゃん」

 当たり前だと言いたげな顔をされる。ナナ、まずパスタは串にするものじゃない。

「それにパスタならゴミも出ないし」

 そういう問題じゃないと思う・・・とは思いつつも私はバリバリと音を立てながらなんとか串(パスタ製)ごと食べきった。はっきり言って茹でてないパスタはそこまでおいしくはなかった・・・。

「どうする? まだ作る?」

 ナナに聞かれて私は首を横に振った。

「代わりに私がなにか作るからさ」

 別におでんパンを食べたくないわけじゃないし、作ってもらったり教えてもらってばかりじゃ申し訳ないと思っただけだ。

「ちょっとしたお菓子でも作ろうかと」

「クレハちゃんお菓子作れるの!?」

 失敬な。これでも保育所じゃ生活力は高いほうだったんだよ。女子力はないけど。

 で、今回作るのは

「カルメ焼きっていうお菓子なんだけど」

 クッキーとかじゃないのかって? 言ったはずだ、女子力なんぞこれっぽっちもないと。

「カルメ焼き・・・?」

「なんですかそれは?」

 二人の頭上にハテナマークが浮かぶ。

「聞くより見たほうが早いよ」

「なるほど。百聞一見にしかず、ですね」

 さすがシエルさん、わかってる。

「ひゃくぶんいっけん・・・? なにそれ?」

 対するナナはさらにハテナマークが増えたようだ。

「ともかくザラメと重曹ある?」

「あるけど・・・」

 ナナは戸棚からザラメと重曹を持ってきてくれた。

「よし、あとはお玉と菜箸、あとタオルは・・・」

「はい」

 またもやナナが持ってきてくれた。結構乗り気だな。

 材料と道具は揃った。

 (さて、クレハのお料理教室といきますか)

 まずタオルを濡らすしておく。次にお玉にザラメと少しの水を入れてコンロの火にかけて融かす。横から見ている二人にはなにをしているのかわからないだろう。

「こんなもんかな」

 火からお玉を外し、重曹を加えたら菜箸でかき混ぜる。

「さあ、よーく見ててよ」

 泡立ってきたところを見計らって濡れタオルにお玉を押し付ける。

「いりゅーじょん!」

 するとただの加熱した砂糖水がみるみる膨らんでいく。

「わあ!」

「これは・・・」

 シエルさんとナナは釘付けだ。

「すごい! 今のどうやったの!?」

「とても興味深いですね・・・」

 なんだかこの二人を見てると保育所の年少の子たちを思い出すなぁ・・・。

 

   ~少女回想中~

 

「すげえ! くれねえ、これどうやったんだ!?」

「おもしろいな・・・」

「ふわふわしてておいしそー!」

 年少組の子たちが目をキラキラさせながら感動の言葉を言う。

「これ僕も作ってみたい」

「あ、オレも!」

「わたしも作りたい!」

 というわけで作らせてみたら、

「あー! 焦げたー!」

「全然ふくらまないんだけど・・・」

「腕疲れた・・・」

 やっぱ子供には難しいか・・・。

 

「クレハちゃん?」

 

   ~少女回想終了~

 

「はっ・・・」

 ナナの声で我に帰った。

「どうかしましたか?」

 シエルさんにも心配の目を向けられてしまう。

「いや、ちょっと昔のこと思い出しただけだよ・・・」

 というのもカルメ焼きにはいろんな思い出がある。つい保育所時代を思い出してしまった。

「ねえ、これ私でも作れる?」

「練習すれば作れるけど、失敗しすぎると材料がもったいないしなぁ・・・」

 私も年少のころに年長の人たちに教えてもらったけど、それはもう大量のザラメと重曹を消費した。あとで先生にこっぴどく叱られたっけか。

「じゃあ、三回くらいならいいでしょ?」

「まあ、三回くらいならいいか」

 回数を決めればなんとかなるかな・・・?

「あ、あの・・・」

 振り向くとシエルさんがさっきのようになにか言いたそうに目を伏せていた。それを見て私はこう言った。

「シエルさんも一緒に作ろう?」

「は、はい・・・!」

 シエルさんは顔を上げてそう言った。

 で、作らせたら、

「あ、焦げてしまいました・・・」

「あれー? 全然ふくらまないよー?」

 シエルさんは火から離すのが遅すぎ、逆にナナは速すぎで、慎重なシエルさんの性格と大雑把なナナの性格が手に取るようにわかった。それでも諦めずに何度もチャレンジするところは見習わなきゃね・・・。

「シエルちゃん、意外と夢中になってるね」

「そ、そうでしょうか」

「なんかいつも仕事のことばっか考えてるイメージがあったからさ」

 そういえばこんなことをしている場合じゃないとか言いそうなのに真剣に作ってるよな。・・・ってそんなこと言ったら・・・。

「仕事・・・はっ・・・!」

 あーあ、思い出しちゃったよ・・・。

「時間は・・・」

 シエルさんは時計を見ると目を見開いた。

「スケジュールが・・・」

「ごめんね、シエルさん・・・」

 私は項垂れるシエルさんに謝った。

「いえ、副隊長のせいではありません。これは私のミスです・・・」

 そうとうショックだったようだ。

「いいんじゃない? スケジュール通りじゃなくても」

 ナナは調理する手を止めて言った。

「今、なんと」

「だから、予定通りじゃなくてもいいんじゃない?」

 私は神様見習いみたく「馬鹿者!」と叫びそうになった。シエルさんはそういう考えは絶対反対だと思うし・・・。

「予定はあくまで予定で変わることだってあるんだからさ。今日みたいな日がたまにはあってもいいと思う」

「ですが」

「それにさ、休みの日がないっていうのはあんまり感心しないよ、私」

「しかし、神機使いは一日も無駄にしてはならないと私は思いますが」

 あれ・・・。これ、もしかして口論になってる・・・?

「神機使いも人なんだからさ、休みの日があっていいと思うよ!」

「その油断が犠牲を生むんです」

 あわわ・・・。どうする・・・、どうする私・・・。

「あ、あのぉ・・・」

 仲介に入ろうとすると・・・、

「クレハちゃんも趣味の時間は必要だと思うよね!?」

「副隊長、正直に仰ってください」

 二人に詰め寄られた。はっきり言って怖い・・・。

「え、えとさ・・・、確かに趣味の時間は必要だけど仕事関連の時間も大切だよね・・・」

「結局どっちなの!?」

「どちらですか」

 どっちに味方してもあとが怖いよ・・・。ん? でもこれはむしろチャンスなんじゃないかな? ようし。

「あのさ、訓練をやる日を曜日制にしてみたらどうかな?」

「曜日制?」

「そう。休みの曜日は思いっきり休む、仕事とか訓練がある曜日は思いっきり働く」

 二人はまだ納得していないようだ。私の持論を披露するときが来たみたいだ。

「いい? 平日と休日、この二つは互いになくてはならない存在なんだよ。仕事だけだったらいつかボロが出て倒れる。反対に休日だけだったらそれが当たり前になって休みも全くありがたみのないものになっちゃう」

「つまりなにが仰りたいのですか?」

「仕事には休みというエネルギーが必要で、休みの幸せを味わうのも仕事という調味料が必要だってことだよ」

 これでどうだ。なんと収拾ついたかな?

「え~と、どっちも大切ってことだよね?」

 ナナ、それ私が一番最初に言った。シエルさんは意を得たりといった感じだけど。

「要するに休暇の曜日を作れ、ということですね。しかし・・・」

 まだ迷ってるのか。だったらここでこのセリフをかましてみましょうか!

「シエルさん、今日、楽しくなかったの・・・?」

 極力しおらしく見えるように言ってみる。

「えっ・・・いえ・・・そんなことは・・・!」

 よし、当たりだ。やっぱりシエルさんみたいなキャラには効果バツグンだね。それにしてもこんなところでノベルゲームの知識が役に立つなんて。なんでそんな知識持ってんのか知らないけど。

「じゃあこういう休みの日を作ってさ、それで今度の休みの日、今日みたいにまた一緒に遊ぼうよ」

 言葉の追加攻撃。

「ふ、副隊長がそう言うなら・・・」

「うん・・・?」

 今、気になる言葉が聞こえたよ・・・?

「暦の上ではちょうど日曜日ですし・・・今日は休日とします」

「じゃあ他のブラッドのみんなにも伝えなきゃね」

「はい」

 すると、シエルさんは扉に歩いていく。

「どこいくの?」

「皆さんに今日のことを伝えてきます。あ、それとナナ・・・」

「なに・・・?」

 ナナはそっぽを向いて返事した。

「少し冷静になるべきでしたね、すいません」

「え・・・」

「では」

 そう言うと部屋から出ていった。ナナは茫然と扉を見つめていた。

「ナナ?」

 声をかけるとこちらを見て、眉を下げて笑った。

「いや~、私もまだまだ子供だな~・・・」

「そうだねぇ」

「そうだねぇって・・・。少しはフォローしてくれてもいいじゃん!」

 そう言って口を尖らせる。

「まあでも、クレハちゃんには敵わないや」

「え?」

「だってあのシエルちゃんを納得させちゃうんだもん。それにあの言い方」

 楽しくなかったの? とかいうセリフのところか・・・。

「あ、あれはさ・・・。ほら、話術というかなんというか・・・」

「クレハちゃんも案外小悪魔なところあるんだね~」

 心外だ・・・。断じて私は小悪魔なんかじゃない・・・。って、そんなことより、

「そんなことより、行かなくていいの?」

「え?」

「謝られっぱなしでいいの?」

「・・・・・・」

 ナナは下を向いて黙った。そしてさっと顔を上げると扉へと走っていく。

「私、シエルちゃんとこ行ってくる!」

「うん、行ってらっしゃい!」

 扉を開けると振り向く。

「ありがとう! クレハちゃん!」

「どういたしまして!」

 ナナは部屋の外に駆け出していった。

「ふう・・・」

 一旦自室に戻ろう。で、紅茶とミルク持ってきてミルクティーでお茶会でもしようかな。

 

 

      ◆◆◆

 

 それからまた何日かあとのこと。廊下を歩いていると赤い髪の女性とすれ違った。

「あら、こんにちは」

「こ、こんにちは」

 ラケル博士の姉、レア博士だった。相変わらずまとっているオーラが妖艶だ。

「そういえば・・・」

「はい?」

 突然後ろから声をかけられた。

「シエルの様子はどうかしら?」

「シエルさんですか?」

「ええ。部隊に溶け込めているのかしら?」

 なんだそんなことか。

「シエルさんならたぶん、大丈夫だと思います」

「え? そうなの?」

 私は数日前のことを話した。

「そうなの。てっきりまた仕事のことばかりかと思っていたけれど・・・」

 レア博士はどこか嬉しそうに頬を緩めた。でもすぐに、暗い顔になってこんなことを話し始めた。

「シエルはもとは裕福な軍閥の出身で、両親が亡くなったのがきっかけでラケルに引き取られたの」

 今の今まで忘れていたけど、シエルさんって生れはお嬢様なんだよね。

「『マグノリア=コンパス』でとても過酷な軍事教育を施されていたようでね。極限状態でのストレステスト、小さなミスでも懲罰房に入れられたりして・・・」

 子供にやらせることじゃない気が・・・。まあ、あの博士ならやりそうな気もするけど・・・。

「それから時が経ってから会ったときの彼女は命令を忠実に実行する猟犬、そんな女の子になっていたの。その後、年が近いということから長い間、ジュリウスのボディーガードに就いていたのだけど、守る守られるの関係だったせいなのか、友達にはなれなかったみたいね・・・」

 なんだか・・・、可哀そうな子なんだよね・・・。

「で、でもシエルさんは、これからは楽しいとか、悲しいとか、もっと普通の女の子みたいな心を持てると思います・・・!」

「あら、どうして?」

「へ? あ・・・あの・・・」

 あれ・・・、私、なに言って・・・。

「す、すいません・・・。勝手なこと言って・・・」

 気がついたら口が動いていたというような感覚だった・・・。

「いいのよ」

 レア博士はそう言うと「ふふっ」と微笑んだ。

「シエルがあなたを高く評価している理由がわかった気がするわ」

「・・・どういうことですか?」

「そのうちわかるわよ」

 そのうちっていつなんですか・・・。

「話に付き合ってくれてありがとう。それじゃ」

 レア博士は赤い髪を翻して去っていった。




 うっわ、なんか途中で話がぐだってる・・・。読み返してそう思いました。

 というわけで、今回の話は休日編でした。オリジナル展開だらけですがお許しくださいませ・・・。
 そしてこの頃、シナリオを考えるのに予想以上に手こずっております。次回はなんとかしたいですねー・・・。
 ちなみにカルメ焼きはすごく難しいです!


 誤字率が下がらない···。


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17 今日から友達っていうのはどうかな?

 お久しぶりです。どうも、ねこめでございます。
 今回は本当に更新が遅れましたね・・・。申し訳ないです。試験もうひとつのほうの部活の大会(兼部)に文化祭のほうの原稿、この時期は大忙しです・・・。

 言い訳はこのくらいにして。というわけで、じゅうナナ話目(マタソレイウノカヨ)。今回は銀髪のデレ回とでも言えましょうか。前からデレていた気もしますが・・・。
 
 それではどうぞ。


 朝起きて、横を見て、誰もいない、あれ・・・?

「コト?」

 いつものふとんがすでに片されている。時間を確認すると寝坊したというような時間でもないし、もし寝坊だとしたら起こされるはずだ。

「出掛けてるのかな・・・」

 でもどこに? 神様(見習い)の行く場所って言ったらこの世界とはまた別の世界とかかな? 考えても仕方ない、準備しよう。と、思ったら、

「ん・・・? わあっ!?」

 突然、部屋の壁に穴が開いた。しかも穴の奥は隣の部屋ではなく、白い光で満たされていた。

「ぃよいしょっと・・・。ふぅ・・・やれやれなのじゃ・・・」

「えっ!? コト!?」

 穴を潜って例の神様見習いが出てきた。

「おお、クレハ。突然、留守にしてすまぬの・・・」

「ちょっ、な、なにそれ・・・!?」

 留守にしてたとかそれ以上にあの得体の知れない穴が気になった。

「これか。これはワシの上司にあたる神が作った、世界と世界の繋ぎ目じゃ」

「繋ぎ目ぇ!? そ、それになんでそんなとっから出てきたのさ・・・?」

「ちと別の世界で説教を聞かされておっての・・・。この世界に干渉しすぎるな、と」

 この前のブラッドの人たちとのやり取りの話か。いくら致し方ないとは言え、やっぱりやりすぎると怒られるんだね・・・。

「そういえば、コトは自分じゃ入り口を作れないの?」

「そうじゃの。ワシはそのような能力は持っておらぬからの」

 上司が、と言っていたあたり、予想はできたけど。あれ、そうなると次元を操れる能力とかだろうか。

「ねえさ、コトの上司の能力ってどんなのなの?」

「ワシもよく知らぬのじゃが、空間がなんとかって言っていたの」

「空間・・・」

 察するに、空間を操る、もしくは司る能力だろうか。だから世界の繋ぎ目を作れるとか。

「それより、こんな話しとる場合かの?」

 コトに言われて時計を見ると大分時間が経っていた。

「あ、ヤバっ!」

 私は急いで身支度をして部屋から出る。視界の端で穴がゆっくりと閉じていくのが見えた。

「あ、そうじゃクレハ」

「んー? なに?」

 コトに後ろから声を掛けられる。

「ぶらっどあーつとか言ったかの。あれは使うでないぞ」

「わかってるよ、使ったら動けなくなっちゃうからね」

「なら良い。いってらっしゃいなのじゃ」

「うん、行ってきます」

 (なんかすごくフラグの臭いがするなぁ・・・)

 不吉な予感を抱きながら仕事に向かった。

 

      ◆◆◆

 

 さて、今日も訓練をしてから任務だ。

 今回の任務、場所は鉄塔の森。討伐対象はヤクシャ一体とオウガテイルニ体だ。

 ヤクシャとは右手が砲身になっている人型のアラガミだ。用心深く、戦闘音を探知すると音の発生源へと移動する性質を持っている。攻撃方法は右手の砲身からのオラクル発射だ。でも、予備動作が長かったり、弾そのものが遅かったりと、避けるのは容易く、近接攻撃もして来ない。落ち着いて対処すれば苦戦しないとは言うけど、私が落ち着いて戦えるかどうか・・・。

 そして今回の編成は、

「副隊長、今日はよろしくお願いします」

 この人、シエルさんだ。

「直接、ペアを組むのは初めてですね」

 任務に行くのは初めてではないけど、四人編成で二手に別れて行動することが多く、ペアを組むことはなかった。本来のシナリオならペアでなくとも一緒に行動する任務があるのだけど、この世界では今日まで一度もなかった。

「・・・う、うん。足を引っ張らないように頑張るよ」

「私のほうこそ、ご迷惑をお掛けしないように気をつけます」

 シエルさんが迷惑になることなんてあるわけないと思うけど・・・。

「あ、そろそろ任務開始時間です。作戦はどのようにしますか?」

 作戦か。シエルさんはまだ私が空気スキルの持ち主だってことは知らないんだよね。だったら、

「シエルさんは先にヤクシャを発見次第攻撃を初めて。私はオウガテイルを片付けてから合流するよ」

「了解です」

 さっきも言ったけど、ヤクシャは戦闘音を探知してその場所に向かう。音まで誤魔化せるとは思わないけど、私の能力をもってすればオウガテイルと戦っていてもある程度は見つからないはずだ。

「それじゃ行こうか」

 私は崖のほうへ歩いて行く。途中でシエルさんに呼び止められた。

「あ、あの、副隊長」

「ん? どうしたの?」

「・・・いえなんでもありません」

「・・・・・・?」

 なんでもなさそうには見えないんだけど···。

 

      ◆◆◆

 

 崖から降りて、私たちは二手に別れて、それぞれの目標へ向かった。

 少し歩いたところで、さっそく私は二匹のオウガテイルを発見した。

「二匹程度ならなんとかなるよね・・・?」

 敵はまだ、こちらに気づいてない。私は二匹の内の一匹に数メートルまでそっと近づいていく。これだけ近くにいるというのにオウガテイルはまだ気がつかない。今日も元気に空気、と言ったところか。

 さて、ここまで近づけばやることはただひとつ。弾を撃ち込むのみ。

「ギャアアア!?」

 至近距離から弾を受けてオウガテイルは地に伏した。

 もう一匹に目線をやる。もう一匹は突然、仲間が襲われて呆然としていた。表情が変わるわけじゃないけどなんとなくそんな感じだ

 もう一匹に見つかっているとなれば、当然攻撃を仕掛けてくるに違いない。補食している暇もない。そして思った通り、もう一匹のオウガテイルは私目掛けて針を飛ばしてきた。

「よっ」

 私はそれを横に跳ぶことで避け、回避中に神機を剣形態に切り替える。シエルさんとの対人訓練のおかげか私の瞬発力は大分上がっていた。針やレーザーが飛んでくる度にローリングで転げ回っていた頃が懐かしい。

「やっ!」

 私はオウガテイルの顔面に鉄乙女剣を降り下ろした。

「ガアアア!」

 オウガテイルの顔面に亀裂が走るとダウンした。

 後ろを振り向くとさっきダウンさせたオウガテイルがよろよろと立ち上がっているところだった。

 私はダッシュで間合いを詰めるとこれまた顔面に剣を突き刺した。

「アラガミ、沈黙です」

 無線によって討伐完了を伝えられる。でもあと一匹残ってる。と思ったら銃声が鳴り響いた。

「なっ!?」

 さっきのオウガテイルがダウンどころかすでに動かなくなっている。

「これってどういう・・・あ、まさか・・・」

 嫌な予感がした。突然の銃声、気づくと目の前の敵が死んでいる。このシチュエーションはさらに強い敵、さっき戦っていた敵にとっても敵の登場の前触れだ、と前の世界の知識が言っている。

「ウオオオオオォォォォォ!」

 工場の建物の上から人に近い咆哮が聞こえた。ヤクシャだった。ヤクシャは建物の上から飛び降りるとオウガテイルのもとへ歩いていく。そしてオウガテイルを左手で掴むと頭からかじった。

「あ、頭から食べる派なのね・・・。ってそうじゃなくて!」

 ボケてる場合じゃない。なんでアレは建物の上から来れたんだ? 原作ではそんなルートはなかったはず。そう、原作では・・・。

「しまった・・・」

 この世界は原作とは勝手が違うということをすっかり忘れていた。ということはこのヤクシャは原作にはない場所を通ってきたっていうの? そういやシエルさんがヤクシャと交戦したっていう無線も来てないし・・・。

 ヤクシャはオウガテイルを腹部まで食べきった。かなりグロい・・・。

 それはともかく、このヤクシャ、こっちを見向きもしない。能力のおかげなのか、ただ単に食事に夢中なのか。まあどちらでも構わない。先制を取れるのには変わりないし。

「ようし・・・」

 私はシエルさんに合流要請を出してから神機を銃形態に切り替えると物音を立てないようにヤクシャの背後に回る。そしてヤクシャの頭の高さまでジャンプして、

「食事中だけどごめんね!」

 引き金を引いた。

「グアッ!?」

 ヤクシャが膝まづく。数センチの距離で、しかも突然後頭部をぶち抜かれたらこうもなる。

 私はヤクシャに向かって捕食攻撃を食らわせバースト状態となった。

「副隊長!」

 声がするほうを見るとシエルさんが走ってきた。私はヤクシャから離れてシエルさんのもとへ向かった。

「私が後衛をやるからシエルさんは前衛をお願い!」

「了解しました」

 いつも私は後衛だけどこれが一番安全だし、なにより一番慣れてる。

 ヤクシャが大きく吠えた。

「アラガミ、活性化します」

 まあいきなりあんなことされたら怒るよね・・・。

 ヤクシャは真上に向かって弾を発射した。曲射だ。でも着弾が遅いから走るだけでも避けれる。

 シエルさんはその間にヤクシャとの距離を縮めて、

「はあっ!」

 デファイヨンと呼ばれるショートで連続で切りつけた。でもショート程度の威力では怯まない。ヤクシャもそこまで弱くないらしい。シエルさんもそれを確認すると一旦退いた。

 そこにすかさず私はアサルトを連射した。

「当たって!」

 弾が当たってもお構い無し、完全に無視されている。ヤクシャはシエルさんへと照準を合わせてしゃがみ撃ちの体勢になる。でもチャージするための時間が長いためシエルさんはその隙にもう一度連撃を食らわせた。ヤクシャが再び膝まづく。

「アラガミ、ダウンです!」

 二度目のダウン、ここまでほとんど攻撃できていないヤクシャ。どう考えてもこちらが有利だ。なら戦況が変わる前に一気に決めてしまったほうがいい。

 そう思って、畳み掛けようと思った瞬間、

「ウオアアアアア!!」

 大きく吠えて、連射を繰り出してきた。伏せた状態になって反動を抑えて速射できるようになったのか。

「シエルさん一旦退いて!」

 私がそう叫ぶとオラクル弾を避けつつこちらに戻ってきた。

「こんな攻撃方法があったなんて・・・」

 私の知識はまたもや役に立たなかった。どこからか「これを、不測の事態って言うんだよ」という声が聞こえて来そうだ。

「そっちがそう来るならこっちだって・・・」

 私は原作の主人公とは違う。この世界の主人公、すなわち完全なオリジナルだ。アドリブが使える。

「シエルさん! 後衛お願い!」

「了解しました」

 私は原作では上れなかった建物の上に飛び乗り、その上を走ってヤクシャの頭上に陣取る。

 その間にもヤクシャはシエルさんへオラクル弾を放っていった。しかし、シエルさんには当たらず全て避けられた。

「狙い撃つ!」

 ヤクシャの残弾がなくなったのを見計らってシエルさんがレーザーを撃った。レーザーは見事にヤクシャの顔面に命中する。

「ゴアアアッ!!」

「今だ・・・!」

 私はヤクシャの真上に跳ぶと、鉄乙女剣を真下に構える。その刹那、鉄乙女剣が赤い光を放った。そして心の中で唱える、

 (必殺、神縫い!)

「でやああああぁぁ!!」

 次の瞬間、私は真下へ一気に急降下し、鉄乙女剣がヤクシャの頭に突き刺さった。

「ウアアアアァァァ!!?」

 高さも相まって大ダメージだ。ヤクシャはうつ伏せに倒れ、ダウンした。剣をヤクシャの頭から抜き、地面に着地してそれを確認する。そして止めを刺そうと、もう一度剣を降り下ろそうとするが、

「うっ・・・」

 急に目眩に襲われた。

「こ、の・・・!」

なんとか剣を持つ腕を上に上げて重力に任せてヤクシャの頭上に鉄乙女剣を突き刺した。

「討伐対象の殲滅を確認、お疲れ様でした」

 無線で任務の終了を告げられた。

「任務完了、お疲れ様でした」

「うん、お疲れ様・・・」

「大丈夫ですか・・・? 顔色が悪いですよ?」

 シエルさんに心配の言葉を掛けられてはっとする。

「うん・・・大丈夫」

 そう、大丈夫だ。今はなんとか立っていられるし、だいじょ···

「あれ・・・・・・?」

「副隊長!?」

 途端に全身に力が入らなくなり、膝から崩れ落ちる。

「やっぱり、ダメ・・・か・・・」

 目の前が真っ暗になっていく。

「副隊長! 大丈夫ですか!? 副隊長!!」

 暗闇の中、シエルさんの声だけが響いていた。

 

      ◆◆◆

 

「う・・・ん・・・」

 視界には白い天井と蛍光灯、

「目ぇ覚めたかの?」

 そして神様見習い。私はベッドに寝かされてるようだ。

「ここどこ・・・?」

「病室じゃ」

 そうか、私、また・・・。

「・・・ごめん」

 私はコトに謝る。

「本当にお前は心配かけおって・・・」

「・・・ごめんね」

「まあそれはともかく、ワシ以外にも謝罪するべき者がおるのではないのか?」

「あ、シエルさん・・・」

 そういえばシエルさんにも迷惑掛けちゃったな・・・。と、思っていたら入り口のドアが開いた。まさに噂をすればなんとやらだ。

「副隊長・・・」

 シエルさんは私が寝ているベッドに駆け寄って来た。

「あ、あの、シエ・・・」

「副隊長、すみません・・・」

「へ・・・?」

 謝ろうとしたら逆に謝られて私は狼狽えてしまった。

「お体の調子が悪いのに・・・。それに気づかず・・・」

 シエルさんはそう言うと俯いてしまった。

「あのね、シエルさん。あれはブラッドアーツを使ったからなんだよ」

「え・・・?」

「体の調子は悪くないし、私、元からブラッドアーツを使うと体が追いつかなくてあんな風に気絶しちゃったり、動けなくなっちゃったりするんだ」

「そうだったんですか・・・」

「うん、心配かけてごめんね・・・」

「副隊長・・・」

「さてと・・・」

 私は体を起こしてベッドから降りた。

「あ、あの、もう少しお休みになられたほうが・・・」

「いや、もう大丈夫。それにこれ以上寝たら夜、寝られなくなっちゃう」

 時計は確認してないけどだいぶ長いこと眠っていた気がする。もう夕方だろうか。

「今日はもう何もないんだっけ」

「あ、はい・・・。あとは自由行動です」

 前と比べるとずいぶんと楽なスケジュールになったよなぁ。残りの時間は自室で前の世界のことでも調べてみようかな。

「あ、副隊長」

「ん、なに?」

「あの・・・ええと・・・」

 なにか言いたそうにしているから次の言葉を待っていたけど、

「・・・いえ、なんでもありません」

 また「なんでもありません」で終わってしまった。焦れったいな・・・、気になるじゃんか・・・。

「ねえさ、任務行く前もそうやってなんでもないって言ってたけど、どうしたの?」

「・・・・・・すみません」

 いや、すみませんじゃなくて・・・。

「なにかあるなら言ってよ。同じ部隊の仲間なんだからさ」

 ってなに私カッコつけてんだ・・・。

「副隊長・・・」

 シエルさんは私をしばらく見つめたあと口を開いた。

「大したことではないのですが、少しお話したいことがありまして・・・庭園に来ていただけませんか?」

「ここじゃできない話なの?」

「はい、できれば人目のない場所で・・・」

 人目のない場所じゃないとできない話ってなんだろう。

「では、庭園でお待ちしています」

 そう言うとシエルさんは病室から出ていった。

「話したいことってなんじゃろうな」

「う~ん、これってなんかのムービーイベントだったっけか・・・」

 だとしたら、結構重要な話なのかな・・・?

「まあともかく悩んでも仕方ない、行こう」

「そうじゃな」

「コトはお留守番ね」

「なんでじゃ!」

 

      ◆◆◆

 

 

 というわけでいつもの庭園。

 窓の外には沈みかけた太陽が見えて、庭園をオレンジ色に染めていた。その景色はいつぞやの隊長とのやり取りを思い出させる。記憶から抹消したい出来事のひとつだ。

 ちなみにシエルさんに人目がない場所でと言われたから、コトにも来ないでと言っておいた。まああの子のことだからどこかしらから見てそうな気もするけど。

「お忙しいなかお呼び立てしてすみません」

「大丈夫だよ。それで話ってなに?」

「あ、はい。えっと」

 シエルさんは一呼吸おくと話し始めた。

「ブラッドは高い汎用性や戦闘スキルを兼ね備えている部隊です」

 このセリフどこかで・・・。

「更に驚いたのは戦闘における知識や理解がないにも関わらず、連係が取れていることもある点です」

 あれ、やっぱりなんか違う・・・。イベントパートに入ったかと思ったけど私の思い過ごしかな? 確かに一部を除けば連係は取れているけども。

「私が考えている以上に、ブラッドはとても高度に機能しています。それはきっとあなたがいるからだと思うんです」

「へ? 私・・・?」

 全く心当たりがないことを言われてきょとんとしてしまう。

「はい。あなたがみんなを繋いでいると私は思います」

「はあ・・・」

 いきなりそんな大それたことを言われても反応に困るんですけど・・・。

「私はとても困惑しています・・・。私はもっと知識や理解を深めてこそ、強くなれると思っていたのに・・・」

「シエルさんの気持ち、なんとなくわかる気がする。私も昔はそんな感じだったんだ。ものごとを理屈で考えようとしてさ。世界にあるものには全て理由があると思ってた。でもそうじゃないんだよね」

 私は昔を思い出しながら話を続けた。

「保育所にいたとき、姉妹みたいに仲がいい友達に言われたんだ。こんな風に・・・」

 私はあの口調を真似する。

「『理由ばっかり考えているでないわ。仕事、恋愛、全てにおいて理由。意味がなきゃいけないと思っとるのではないか?』って。そのあと、先生の部屋に案内されて『これを見てみよ』って言われてね。こっそり中を覗けって言われたから言う通りにしたら先生が、こ~んな長い口のポットで紅茶入れてて」

 私は手を広げて長さを表現した。

「なぜにそんなことを・・・?」

「たぶん、隠し芸にするつもりだったんじゃないのかなぁ・・・。先生それを何度も練習してるんだよね。それを見てたらその友達に『な~んの意味もないじゃろ~?』って。そのときさ思ったんだよね」

「なにをですか・・・?」

 シエルさんの目がなんとなく、こいつなに言ってんだ、みたいな感じだけど、気にせず続ける。

「理屈じゃ説明できないなにかが人間を動かしてるんじゃないかなって・・・」

「理屈じゃ説明できないなにか、ですか」

 シエルさんは少し考える素振りを見せるとこう言った。

「・・・そのなにかというのは、心、でしょうか」

 私はそれを言われて胸になにかがストンと落ちたような感じがした。

「そう! それだよ! 私が言いたかったの!」

 私はまた話し始める。

「よく『心で感じるのじゃよ、心で』って言われたたんだよねぇ」

「あの、副隊長?」

「へ? あ、私としたことが・・・ごめん」

 ついつい昔の思い出に夢中になって話がそれてしまった・・・。

「・・・で、話ってなんだっけ?」

「はい、折り入ってお願いがあります・・・」

 シエルさんはそう言うとそわそわと落ち着かない様子を見せた。

「えっと・・・あの、その・・・」

「大丈夫・・・? ゆっくりでいいから」

「は、はい・・・。・・・すいません」

 シエルさんはそう言うと、息を整えてからばっと頭を下げた。

「私と友達になってください!」

「へ・・・?」

 これまたいきなりの展開で私は唖然としてしまった。

「やっぱりそうですよね・・・」

 なにが・・・? まだ私なにも言ってないよ・・・?

「すみません、突然こんなことを申し上げて・・・。昔からこういうことには慣れていなくて・・・。それにあなたのご友人と違って私は頭も堅いですし・・・ダメ・・・ですよね」

 シエルさんは自分の腕を掴んで俯いて言った。それに対して私は極力明るく言う。

「そ、そんなことないよ! あとさ、私たちってもう友達になってたんじゃないの・・・?」

「え・・・?」

 シエルさんは不安そうに顔を上げる。

「一緒にお菓子も作って、一緒に戦って、しかも剣まで交えて。ここまで一緒にいろんなことをしてきたらもう友達だよ」

「す、すいません・・・」

 シエルさんがしゅんとするのを見て慌てて付け加えた。

「別に責めてるわけじゃないよ!? えっと、もしまだそうじゃないなら今日から友達っていうのはどうかな?」

「え、いいんですか・・・?」

私は大きく「うん!」とうなずいた。

「ありがとうございます・・・!」

するとシエルさんは安心したように笑みを浮かべた。

「憧れてたんです。仲間とか信頼とか・・・命令ではなく、心から信頼できる仲間・・・」

 レア博士が言ってたけど、隊長とも守る守られるの関係って言ってたもんなぁ・・・。

「あの、もう一つ不躾なお願いがあるんですけど・・・」

「なに?」

「名前で呼んでもいいですか・・・?」

「な、名前!?」

 あまりの展開に声を上げてしまう。

「あ、すみません! まだ名前で呼ぶのは早すぎますよね!」

「いやいやいやいや、全然早くないよ! ただそんなこと言ってもらえるなんてびっくりしちゃって・・・」

 てっきりシナリオ通り「君」って呼ばれるのかと思ったからかなり驚いた。

「そ、そうですか・・・。じゃあ・・・」

「うん! クレハって呼んでいいよ!」

「え・・・、下の名前ですか・・・!?」

「えっ、上の名前?」

「え・・・違うんですか・・・?」

 お互いに沈黙してしまった。その沈黙を破ったのは、

「く、クレハ・・・さん」

「え・・・?」

 シエルさんだった。

「こっ、これでいいですか・・・?」

「・・・うん! いいよ! すっごくいい!」

 さん付けだけど、今までずっと役職名で呼ばれてたから妙な喜びを感じた。さん付けだけど・・・。

「あ、あの・・・」

「なに? シエル?」

「っっっ!!!????」

シエルの顔が湯気でも出そうなくらい赤くなった。

「え、どうしたの?」

「よ、よ、よ・・・」

「よ?」

「よ、呼び捨てはやめてください・・・!」

「え? あっ・・・ごめん、緊張が解れてつい・・・」

「うう・・・」

 そんな両手で顔を隠すことはないでしょ・・・。少しかわいいと思ってしまった私は自分の心の健康を疑ったほうがいいのかな?

「でもナナにはちゃん付けで呼ばれてるし、逆に呼ぶときも呼び捨てじゃん」

「ナナはいいんです!」

「じゃあ、なんで私のときはダメなの・・・?」

 私は差別でも受けてんのか・・・? それとも空気だからか・・・!?

「そ、それは・・・」

 なぜにそこで口ごもるし・・・。

 そういや、他の隊員には呼び捨てなのになんで私だけ副隊長としか呼ばれなかったんだろう。

「理由なんてどうでもいいのではないのですか・・・?」

「あ、それ今言うのずるい・・・」

 自分が言ったこと(ほんとは神様見習いだけど)をそのまま使われるとは・・・。

「もう、呼び捨てでも構いません・・・」

「ホントに?」

「はい、私もあなたのことを、くっ・・・クレハ、と呼びますから・・・」

「ぇえ!? いいの!?」

 さん取れた! たった二文字だけど全然違うよ!

「そんなに喜ぶことでしょうか・・・?」

 シエルはまだ頬を赤く紅潮させている。夕陽に照らされてなおさら赤く見える。

「シエルは嬉しい?」

 昔の親友の真似をしながら言ってみる。なんかシエルといるときの私って若干キャラ変わるんだな。

「・・・う、嬉しいです」

 そう言うと、俯き気味に微笑みを浮かべた。これ男の子だったら完全にずきゅううぅぅぅんとくるやつだよ。

「じゃあ・・・」

 私は右手を差し出す。

「これからもよろしくね、シエル」

 するとシエルも同じく右手を出して私の手を握った。

「はい、クレハ」

 そしてお互いに微笑んだ。なんか照れるな・・・。

「っっ!?」

 瞬間、背筋が凍るような感触を抱いた。

「な、なんだ・・・?」

 振り向くと木の後ろになにかが隠れたように見えた。気のせいかな···?

「どうかしましたか・・・?」

「ううん、なんでもない・・・」

 とりあえず気にしないことにした。

「少し冷えてきましたね・・・そろそろ戻りましょう」

「・・・うん」

 冷える、という単語がなんとなく引っ掛かったけどそれも気にしないことにした。気にしたら不味いと本能が告げていた。




 今回もご精読ありがとうございます! コメントや評価、お気に入り登録してくださった方々もありがとうございます! 
 
 内容についてですが、戦闘シーン長ぁい・・・。というかお話そのものが長ぁい・・・。長くなってもなるべくgdらないようにはしているのですがどうもうまく行きませんね・・・。
 そして、これは百合なのか? という程度の百合要素。まあ、うん、次があるっしょ・・・。


 あと、更新については本当にすみませんでした。休みに入ればある程度早くなると思います。
 
 


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18 でもここまで楽だと逆に怖いよ・・・

 はい、どうもねこめでございます。

 今回のお話は神機兵のお話です。タイトルはあんまり関係がございませんが、いつものことです・・・w

 それではどうぞー。


 『連絡します、ブラッド各員は局長室に集合してください。繰り返します。ブラッド各員は・・・」

 任務を終えて自室でくつろいでいると、集合命令があった。

「今度はなんじゃろうな」

「放送を使って命令するくらいだから重要なことなんじゃないかな?」

「ううむ・・・、じゃがその重要なこととはなんじゃ?」

 コトと二人で腕を組んで考え込む。

「あっ」

「なにか思い出したかの?」

 この召集はたぶん・・・。

「これは極東に行く日が近いかもしれない・・・」

「なに、極東?」

 フェンリル極東支部、通称アナグラと呼ばれる支部のことだ。言うまでもないけどもとは日本と呼ばれていた場所だ。

「やっぱ、こうなるよねぇ・・・」

 私は頭を抱えて言った。

「・・・どうしたのじゃ」

「極東っていうのはね、アラガミがうじゃうじゃいる場所なんだよ・・・」

「ほう・・・」

「弱いのから強いのまで、いろんな怖いのがたくさぁん・・・」

 私が涙目で訴えてもコトは、

「ま、まあそれだけ手柄が立てられるじゃろ・・・?」

「手柄なんていらないよぉ・・・」

 

 

      ◆◆◆

 

 落ち込んでいても仕方がないし、局長室に来た。

 局長室にはすでにブラッドの面々が一列に並んでいた。私もその列に加わった。ラケル博士とレア博士も集合していた。残るは局長か。

「一括で受けるからこそ、利ザヤが取れるんだろうが!」

 しばらく待っていると、扉の向こうから野太い声が聞こえてきた。またお金儲けの話か・・・。でもりざやってなに?

「そんな弱気でどうするんだ! 競合なんざ潰してしまえ!」

 扉が開いて、局長と気弱そうな印象の白衣の男性が入室してきた。競合って潰しちゃまずいような・・・。

「・・・この話はまた後にしよう」

 局長は私たちの姿を確認すると、そう言った。そして、手に持っている葉巻を吸った。ナナはその葉巻の煙が苦手なようで咳をしていた。

「足を運んでいただき感謝いたします、グレム局長」

 ラケル博士がそう言うと、レア博士もソファから立ち上がって続ける。

「お忙しいなか時間を取らせてしまい、申し訳ありません」

「今は挨拶はいい。理由を聞かせてもらおうか。なぜ最前線である極東にこの支部を向かわせるのか」

 ラケル博士はグレム局長の質問を無視して私たちに言った。

「こちらは、フェンリル本部特別顧問であり、この支部を統括するグレム局長です」

 それを聞いて局長は白い煙とともにため息を吐いた。

「相変わらず話を聞かない人だ・・・。少しは君のお姉さんを見習いたまえ」

 これ、博士以外のいろんな人にも言えるよね。

「フフッ、あまり失礼のないようにね、ラケル」

 レア博士はラケル博士をたしなめた。それに反応することなく、ラケル博士は局長に理由を述べた。

「極東支部にて、ブラッドと神機兵の運用実績がほしいのです」

 神機兵とはいわば機械仕掛けの神機使いだ。無人と有人の二つのタイプがあり、倫理的な理由でどちらを実用化するかにあたっては意見が別れている。退役した神機使いは無人に賛成の人が多いらしい。

「実績ならこの近辺のアラガミの討伐だけで十分だろう」

 その通りだ。今回ばかりはあなたの意見に賛成するよ、局長さん。

「なにも、あんなアラガミの動物園のような所に行く必要はない」

 例えが酷いけど、まあ賛成かな・・・。

 それに対しラケル博士はこう返した。

「神機兵の安定した運用を目指すならば、さらに様々なデータがないと本部も認めてはくれません」

「・・・しかしだな」

 グレム局長はまだ折れない、っていうか折れないでください、局長。

「極東支部には葦原ユノ様がいらっしゃいます」

 レア博士は続けて言う。

「本部に対しても発言力のある彼女への助力なら、決して無駄な投資にはならないかと」

 ちょっと、お金の話はダメだよ~・・・。お金に有利なこと言ったらこの人、簡単になびいちゃうじゃんか・・・。

「確かにな・・・」

 ほらぁ・・・、局長、納得しちゃった・・・。

「ラケル君、神機兵とブラッド、どちらも損害を出さずに済むんだろうな」

「ええ、信頼を裏切ることはありませんわ」

 それを聞くと、局長はううむと唸って少し逡巡するけど、

「よし、わかった!」

 あーあ、わかっちゃったよ・・・。

「後で稟議書を提出しておいてくれ。レア君だけは残りたまえ、あとは下がっていい」

 ん? なんでレア博士だけ?

「では」

 私たちは退出したけど、空気と化していた(私ほどではないけど)白衣の男性は残っていた。かと思えば私たちが退出したあとすぐに落ち込んだ様子で部屋から出てきた。

 他のみんなはどこかへ行ってしまったけど私だけは局長室の扉の前に残った。

「なにをしているのじゃ?」

 部屋の外で待機していたコトに質問される。

「なんか怪しいと思ってね」

「お前、真相を知っているのではないのかの・・・?」

「だってもう、うろ覚えになってきちゃってるんだもん。ちゃんと確認しないと」

 そう言って、私は扉に耳を当てて中の様子をうかがった。

「やれやれ・・・、神に与えられた能力を盗み聞きに使うとは・・・」

 うるさいよ! 私の自動空気スキルってこういうときに役に立てないでどうすんのさ!

「あ、なんか話し始めた・・・!」

 私は耳に神経を集中させる。レア博士と局長が会話する声が聞こえてきた。

「ありがとうございました。・・・でも、あまり私の可愛い妹をいじめないでくださいね・・・?」

「いらついていたところにお嬢さんのわがままにムキになってしまっただけだ」

「ならば、いいのですけど」

 なんだ? 重要な話(悪巧み)をするんじゃないの?

「また、なにか不都合なことでもありましたか?」

「あ、ああ・・・」

 なんで今のセリフのグレム局長、噛んだみたいになったんだ?

「神機兵の人工筋肉に対して、ウチが一括受注する件だ」

 さっきの白衣の男性と話してたことか。

「あれについて本部から横槍が入り始めてな・・・」

「まだ一括受注にこだわってらっしゃるのですか?」

 逆に考えると、本部はなんで一括受注を邪魔するんだろう。あ、競合潰されたくないからかな? 私は経済学は全く知らないからよくわからないけど。

「お金儲けもほどほどになさっては?」

 そう言うレア博士のあとに局長の声が聞こえてきた。

「なにを言う、多額の投資をするなら確実に回収できる目処を立ててからでないと」

「どうやら、もう少し、綿密な打合せが必要そうですね・・・?」

「同感だ・・・」

 なに今の「綿密な打合せ(意味深)」みたいな言い方・・・。私はしびれを切らして扉をそっと、小さく開けて中を覗いてみた。

 そこには執務机に足を組んで座るレア博士と博士の頬に右手の甲を当てる局長。さらに驚いたのはレア博士が微笑んだあとに舌を出して、その舌には銀色のフェンリルのマークが刻まれていた。

 (なんじゃあこりゃぁあ!?)

 心の中でとある刑事ドラマのように叫んでしまった。

 いやもう、いろんな意味でなんじゃこりゃだよ。なんかよくわかんない意味深シーンがあったり、衝撃の事実が発覚したり。バレないうちに離れよう。

「なんじゃ、どうしたのじゃ?」

「あとで説明する・・・」

 とりあえず、自室に戻ってコトに推測を交えず、起こったことのみを話した。それを聞いたコトは吐き気もよおした様子を見せた。キミは一体なにを想像してんのカナー・・・?

 

      ◆◆◆

 

 それから数日後、今度は部隊の全員ではなく私とシエルさん、そして隊長に集合命令がかかった。

 局長室に入室すると入れ違いでレア博士が退室していった。この前とはうってかわって機嫌が悪そうだった。なにがあったんだろう。

「ブラッド、ジュリウス・ビスコンティ。以下二名、入ります」

「来たか」

 局長は椅子に座り直す。 

「早速本題だが、神機兵の無人運用テスト、および護衛任務にあたってほしい。詳しい話は、クジョウ君」

「あ、はい、えーと・・・」

 局長はこの前もいた白衣の男性、改めクジョウ博士に説明するように言った。

「ジュリウスさんとシエルさんは確かレア博士とラケル博士のもとで・・・」

 その質問には隊長が答えた。

「ええ、両博士に育てていただきました。なので、神機兵の運用試験で搭乗したこともあります」

「ならば話が早いですね。要するに神機兵の戦闘を観察し、かつ万が一のときは守ってほしいのです」

 機械を人が守るというのもなんだか不思議な話だけど。

「なるべく神機兵とアラガミが一対一で戦う状況を作りたいのでまずは近辺にいるアラガミを一掃していただきます」

 それを聞いて隊長が局長に質問する。

「露払いをしろ、ということですか」

「そういうことだ。今回の主役はあくまで神機兵だということを肝に銘じておけ、いいな」

「・・・了解しました」

 そう言う隊長はどこかほんの少し、納得していない様子だった。

「よし。あとは現場で話を詰めてくれ、クジョウ君」

「はいっ、えーではジュリウスさん、詳しいことはブリーフィングのときに・・・」

「承りました、それでは後程」

 

      ◆◆◆

 

 ブリーフィングの内容を簡単に説明すると、今回は広い範囲に、もちろんゲームでは行けなかった場所にも複数の神機兵を配置する。そのため実質的にはそれぞれが単独任務をこなすこととなる。もはや原作とは全く別のものだけど気にしたら負けだ。

 場所は蒼氷の峡谷、討伐対象はシユウとコンゴウ。一度の任務で二体も倒さなければいけない。一体だけでも苦戦するのに二体いっぺんに来たらビッグブリッ〇の死闘ならぬ、ブルーアイスキャニオンの死闘、なんてね。まあ、担当場所が原作にもあったフィールドなだけ幸いか・・・。

「なんで今回もワシがついて来なければいかんのじゃ・・・」

 任務開始地点に着くと、横でコトが呆れて言った。

「だって単独任務なんだもん・・・」

「お前、そのくらいのことで・・・」

 私にとってはそのくらいのことで済む話じゃないんだよ! それに、

「もしものときは助けてくれるんでしょ・・・?」

「いやそうじゃが・・・」

 助けてくれる人がいて、死なないってかなりチートだと思う。でも私がこの世界で生き延びるには必要不可欠な存在だ。空気スキルもまあ、チートと言えばチートだけど・・・。

「それじゃ行くか」

「頑張ってこい」

 言われてコトをじとっと見る。

「そんな目をしてもワシはついていかぬぞ?」

「・・・わかったよ」

 私は崖から飛び降りて、目標へと向かった。

 まずは耳がいいコンゴウから倒すことにした。シユウと戦ってる最中に音を感知されて乱戦なんてたまったもんじゃない。

 気配を消してレーダーの情報を頼りに索敵する。途中シユウとすれ違ったけどまるで見向きもせず、通りすぎていった。ここまでくるとステルス能力だね。

 やがて補食中のコンゴウを発見した。近づいていって補食攻撃。

「喰らって!」

 そしてすぐに後ろに跳んで距離を取る。補食をしている相手を補食するとはなんともおもしろい話だと思う。

 そこから先は今まで苦戦していたのはなんだったんだと思えるほどに楽勝で、簡単に倒してしまった。というのも以前よりコンゴウの動きを遅く感じた。シユウもまた然りで、活性化したときに速くなる滑空による攻撃もタイミングを覚えてローリングを使えば簡単に避けられる。飛びすぎて壁に激突してるところを見たときは思わず、「ねえ、今どんな気持ち?」と言ってしまったくらいだ。すかさずそこに弾を撃ち込み、仕止めた。

「任務完了、帰投してください」

 なんだかパッとしない任務だった。

「楽ができて良かったのぉ」

 声がして横を見るとコトが立っていた。

「でもここまで楽だと逆に怖いよ・・・、この後なにか起こりそうな気がして・・・」

「なんじゃ、いつもは苦戦ばかりで大変とか言っておるくせに」

「それとは話が別だよ・・・」

 そんな話をしながら神機兵が到着するまで、しばらくそこで待機していた。

「お、来たぞ」

 遠くのほうから大きな長刀を肩に担いだ神機兵が歩いてきた。

「なんだか不気味なやつじゃのぉ・・・」

 コトが呟く。表情一つ変えず、何も喋らない人型の機械。もちろん意思なんて持っていない。戦うためだけに作られた存在だ。確かに不気味だけど、なんとなく哀れに思えてくるのは私だけかな・・・。

 神機兵は立ち止まると周りを見渡す。私は見てるだけだからその辺の隅っこに立っていた。

「敵が来るまでああやって待ってるのか」

 神機兵は奇襲を受けないように周りを警戒していた。

 数分もしないうちに神機兵が歩いてきた方向から一体のシユウが歩いてきた。

「あ、敵が来たよ」

「奴の初陣というわけか」

 私たちは傍観者の立場を決め込んでいた。

 最初に仕掛けたのは神機兵だった。

 走り出すと長刀型の神機をシユウ目掛けて降り下ろした。見事にシユウの翼部に命中する。シユウはそれに怯む。そこにさらに斬激を食らわせ、カウンターを恐れてか一度シユウから距離を取った。

 神機兵が距離を取ったのを確認すると、シユウは火球を曲射で放った。でも神機兵にはそれも簡単に避けられてしまう。まるで神機兵は相手の行動パターンを全て知っているかのように立ち回っていた。

「もしかして、戦闘データをインプットされてるのかも」

「せんとうでーた?」

 私の呟きにコトが首を傾げて質問してくる。

「あの神機兵にはシユウのやることは全てお見通しってわけだよ」

 その証拠にシユウが翼部、頭部、下半身などいろいろなところが結合破壊されているのに対して、神機兵は全くの無傷だ。

 足掻きとばかりにシユウが滑空による突進攻撃を繰り出した。神機兵は軽々と避けて、横から神機でシユウを叩き切った。グシャァと肉が切断される不快な音がした。シユウは下半身と上半身、真っ二つに別れていた。

「おお、やるのー神機兵とやら」

 両手をぱちぱちと叩いて感心するコト。

「うん、まあそうだね・・・」

「なんじゃ、浮かぬ顔をして」

「いや、なんかね・・・」

 敵であるアラガミを駆逐してくれたのはありがたいけど、なんかすっきりしない。なんでかはわからないけど・・・。

「いやなんでもないよ。それじゃ帰ろう」

 私はそう言って、帰投準備を始めた。

 帰投には神機兵も一緒に連れて帰らなければならない。だというのに、

「おい・・・、神機兵がついて来ぬぞ・・・?」

 神機兵がなぜかついて来ない。

「おーい! こっちだよー!」

 目の前で呼び掛けてみたけど突っ立ったまま。神機兵の肩までよじ登って耳と思われる部位に向かって叫ぶ。

「ついて来てって言ってんでしょーーー!!!」

 すると、神機兵はやっとこちらに視線を向けた。

「やっと気づいたか・・・」

 私は神機兵の肩から降りると歩き出した。後ろから神機兵の重い足音が聞こえてきた。

 それにしても私の空気スキルって機械にも通用するのね・・・。

 

      ◆◆◆

 

 帰投途中で隊長とシエルさんを除いたブラッドのみんなと合流した。隊長はすでに帰投済みらしい。

 このときから私は嫌な予感がした。事がうまく進み過ぎている。特別な任務のときはいつもなにかしらトラブルがあるはずなのに。

「ねえさぁ、なんかあの雲、変じゃない···?」

 唐突にナナに言われて空を見上げると、

「――っ!!」

 私は声にならない悲鳴を上げた。禍々しい真っ赤な雲が見えた。ギルさんは冷静に無線で今の状況を伝える。

「こちらギル、赤い雲を確認した」

「噂には聞いてたけど、すごいな・・・」

 ロミオ先輩が空を眺めて、呟いた。

「これってまずくない・・・?」

 ナナも赤く染まっている遠くの空を見上げて言った。

「ねえ、シエルは・・・?」

 私がギルさんに質問するとギルさんは神妙な面持ちで答えた。

「・・・まだ担当の神機兵がアラガミと交戦中だ」

「え・・・」

 私の悪い予感はぴたりと当たってしまった・・・。

 




 完全につなぎの話になってますね・・・。でも次の話なら・・・。なんか前にもこんなこと書いたような気が・・・。

 次回は銀髪さん救出回、みたいな感じですかね。さて、主人公ちゃんはどうやって彼女を助けるのか、それとも別の人が助けちゃって出番なしなのか!?←オイッ 

 ということで、今回はここまでとします。ご精読ありがとうございました!


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19 遅くなってごめんね・・・

 はい、どうもねこめでございます。
 今回はシエルの救出編ですね。主人公ちゃん活躍なるか?

 それではどうぞー。


 空が赤く染まっていく。

「みんな急いで建物の中に入って!」

 一番最初にそう叫んだのは私だった。私たちはダムを管理するためのものと思われる建物に逃げ込む。保育所時代のときの景色が重なって見えた。

『総員即時撤退だ!」』

 ノイズとともに無線で隊長から命令が告げられる。それを見計らったかのように窓の外で、ぽたり、ぽたり、と、空は赤い涙を流し始めた。

「なあ、シエルのほうって今どんな状況になってんだ・・・?」

 ロミオ先輩がみんなに言う。

「どこかしらに避難してると思うけど・・・」

 私がそう言いかけたところで隊長から命令が下された。

『各員、防護服を着用、及び携行しシエルの救護に急行!』

 私たちはこういう緊急時のために持っている防護服を着こんだ。でも形はほとんどレインコートと同じで頼りない。

「もしかしてシエルちゃんはまだ・・・」

 ナナの問いにギルさんが答える。

「ああ、恐らく避難していない・・・」

『戦闘中に防護服が破損する可能性が高い、できるだけ交戦を避けるようにしてくれ。シエルはその場で雨を凌ぎつつ救援まで待機!』

『待て勝手に命令を下すな!』

 突然、無線から聞こえてくる声が野太いものに変わった。

『神機兵が最優先だ。傷付かないように神機兵を守り続けろ』

『あの赤い雨の中では戦いようがない!』

『俺がここの最高責任者だ! つべこべ言わず命令を守れ! 神機兵を守れ!』

 無線で隊長と局長が言い争っているのが聞こえてきた。そして、机を叩きつける音がしたあと、隊長の荒ぶった声が聞こえてくる。

『人命軽視も甚だしい! あの雨の恐ろしさはあなたも知っているはずだろう!?』

『隊長の命令には従えません』

 途中からシエルの声が聞こえた。

『救援は不要です。不十分な装備での救援は高い確率で赤い雨の二次被害を招くことになります』

 そんな装備で大丈夫か? ってボケてる場合じゃない。

『したがって、上官である局長の命令を優先し、各部隊、その場で待機すべきだと考えます』

「ダメだよ、シエル!」

 私が訴えても、

『更新された任務を遂行します』

「シエル! ちょっとシエル!」

 応答がない。無線を切られたか・・・。

「なあ、どうするんだよ・・・」

 ロミオ先輩、そんな不安そうに言うのやめてくださいよ・・・。いやな予感ばっか思い浮かんじゃうじゃないですか・・・。

「言われた通り待機するのがいいだろう」

 ギルさんは冷静さを保っているようだけど・・・。

「でもこのままじゃシエルちゃんが・・・」

 ナナ、そんなことはわかってるんだよ・・・。だから私はこう叫んだ

「わ、私以外全員ここで待機!」

 そう言って外の神機兵に向かって走り出した。

「おい、クレハ!?」

 ロミオ先輩が叫ぶ。でも無視して神機兵の背中によじ登った。

「私が主人公なら大丈夫なはず・・・!」

 背中のハッチようなものを開けて乗り込む。入って操縦席に座った瞬間、

「あああああああっっっ!!?」

 身体中に激痛が走った。

「っっ!! ・・・言うこと聞いて!!」

 操縦席になっている場所にあった装置を握るけど、神機兵そのものが暴れだした。私は外に放り出された。

「いったぁ・・・なんで・・・?」

 神機兵はなにごともなかったように警戒体制に戻った。どうも拒絶反応があったらしい。でもなんで拒絶反応なんて起きるの? 私一応主人公でしょ・・・?

「お前は主人公でも、少し違うみたいじゃの」

 はっとして後ろを見るとコトが氷のように透明な番傘を差して立っていた。

「私じゃダメってこと・・・?」

「まあそういうことじゃ」

 この世界が原作とは別物ってことは知ってるけどここまで違うのか・・・。

「じゃあどうすればいいの!?」

 私は声を荒げた。

「ワシに怒ってどうする・・・」

「ご、ごめん・・・」

 ダメだ、こんな情緒不安定になってちゃダメなんだ・・・。

 混乱状態に陥りそうになるのを抑えて、なにか策はないかと考えているとふとコトが持っているものが目についた。

「ねえさ、その透明な番傘なに・・・」

「ああこれか、自分で作ったのじゃ」

「作った!? まさかとは思うけどそれ氷でできてる・・・?」

「そうじゃ。ワシの能力の一つじゃの」

 そういえばコトって見習いとは言っても神様なんだよね・・・、こういう特殊能力みたいなのが使えてもおかしくないか・・・。あ、もしかしてこれ使えるんじゃ・・・。

「コト、傘以外も作れる?」

「まあ大体のものは作れるの・・・ってまさかお前、なにか作ってくれと言うのではなかろうな?」

 ぎくっ、今日は察しがいいな・・・。

「お願い! なんか役に立つもの作って!」

 私は両手を合わせてお願いする。

「しかしじゃの~・・・、あまり勝手なことをするとワシが怒られるのじゃ・・・」

「そこをなんとかっ!」

「う~ん・・・」

「お願いだよ! シエルを、友達を助けたいんだよ・・・!」

 コトはそれを聞くと「ふっ・・・」と軽く笑った。

「お前も成長したの~、クレハ」

「え?」

「そこまで言うなら作ってやらんこともないぞ?」

「いいの!? ありがとうコト!」

 私はコトに抱きついた。でもすぐに剥がされてこう言われた。

「たっ、ただし今日は一緒のふとんで寝させてたも・・・」

「そんなんでいいの?」

「・・・そんなんでいいのじゃ。わかったら離さんか・・・」

 私は言うとおりコトを解放する。

「して、なにを作るのかの?」

 ここは地面がデコボコだから車は無理だしだったら、

「飛行機とかって作れる?」

「さすがに空を飛ぶものは無理じゃわい・・・」

 空を飛んでいくのはダメか・・・。それならこのあたりはダムだし多少流氷があっても水が多いから、

「船ってダメ?」

「船では遅すぎると思うぞ?」

「し〇かぜみたいに速いやつ」

「すまぬが、ワシは知っとるものしか作れぬ」

 ぐぬ・・・、意外と使えないな・・・。

「今バカにしたじゃろ」

「し、してないよ。全然してない、うん」

 ジトっとした目で見られる。

「見ておれ! 今から便利なもの作ってやるからの!」

 そう言うとコトは後ろを向いて両手を開いて頭の上に腕を上げる。

「行くぞ・・・!」

 そしてどこかの魔法ファンタジー小説の登場人物のようにその開いた両手を正面に振り下ろした。

「凍てつけぇい!」

 すると信じられないことに水もないのに氷が出現しなにかを形成していった。雪の女王とかいうお話に出てくるワンシーンを彷彿とさせるようだ。

 最終的にできたのは透明な氷でできたセダンだった。って、おい・・・。

「車じゃダメでしょうが!」

「大丈夫じゃて。なんの心配も無用じゃ」

「いやいや、心配するでしょ。ここすごい起伏が激しいしデコボコだしで車じゃ行けないでしょ!」

「ぎゃーぎゃーうるさいのぉ。はよ乗らんか」

 言ってる間に運転席に乗ってるし、この神様見習い・・・。

「ほれ」

 ぽんぽんと助手席を叩くコト。

「わかったよ・・・」

 言っても聞かなそうだし、ここは言うとおりにしておくことにした。私はドアを開けてシートに座った。

「冷たっ!」

「当たり前じゃ、氷じゃからな」

 そうだった・・・。これ全部氷で出来てるんだった・・・。コトはなんともないみたいだけど。それにしても冷たい。お尻が霜焼けになりそう・・・。

「神機はいつでも使えるようにしておけ」

「え? ああ、わかった」

 走ってる最中に敵が来たらまずいもんね。

 私がコトにシエルの居場所がダムの反対側だと伝えると、

「この地形では遠回りせぬといかんの・・・」

 ここから続くダムの周りの道には瓦礫があったりして反対側には行けない。というわけでいったんダムから降りてふもとの近くの道路を走っていくことになった。

「ではしっかり掴まっておれよ」

「え、なにちょっとまってえええええええええぇぇぇぇぇ!」

 車はエンジン音もなく走り出し、デコボコ道をもろともせず滑るように走っていった。しかもすごいGを伴う速度で。

「スピード出しすぎでしょおおぉぉぉぉおおお!!」

「ひゃはははははは! 最高じゃあああああ!!!」

 話聞いてねええええ!!

「うわああああぁぁぁぁぁあああああ!?」

 絶叫、絶叫、さらに絶叫。

「飛ぶぞ!!」

「へ? 待って待って待って待って!!!」

 ちょうどジャンプ台のように変形している道路へ向かって走っていくと小さな崖を飛び越えていった。

「次はふもとまで降りねばならぬの」

 途中で道路が別れている。そこのふもとに続く道へ向かう途中、道が瓦礫でふさがれていた。

「行き止まりじゃん!」

「まあ見ておれ」

 コトは車を道路右端の崖に寄せていく。

「え、ちょ、まさか」

 さっきのスタントアクションを見た限りここでやることはだいたい想像がつく。

 車体の右側が浮き上がったと思ったらその次には車体そのものがほぼ真横になっていた。

「壁走りってえええええええ!!??」

 体が後方と真下に引っ張られる。車は瓦礫の上を崖を登りながら通り過ぎていった。そしてすぐに道路に戻っていった。

「ざっとこんなもんじゃ」

 コトは楽しそうだけど私はげっそりしていた。たぶん私、こういうジェットコースター系ダメなんだね・・・。

 スタントアクションがなくなってからは、ずっとスピードが速いだけだったから慣れてきて今走ってる場所がどんなところかも把握できた。物資の輸送とかに使われていたような感じの道路だった。両脇はつららが垂れ下がっている木々の林だ。

 あとこの車、動力源は不明だけど材料が氷なだけに本当に滑って移動しているらしい。なのにちゃんとハンドルがきいてるというのも全く持って不思議だ。まさに神の領域。今回は見習いということはおいておこう。

「ガアアアアア!」

 しばらく走っていると咆哮が聞こえてきた。

「げぇっ!? ヴァジュラ!?」

 前方の遠くのほうに虎のような風貌をしたアラガミ、ヴァジュラが林から飛び出してきた。

 このアラガミは見た目どおりの機動力を持っていてたてがみは発電することができ、放電攻撃や電気の球、例えるなら〇ケモンのエレキ〇ールのような攻撃などをしてくる。なんてのんきに説明してる場合じゃない。

「クレハ出番じゃ!」

「ええ!?」

「やつの足を撃て!」

 この状態で!?

「お前の腕ならできる!」

 確かに射撃特化のタイプではあるけどこの状況でできるかどうか・・・。

「クレハ! 心で狙うのじゃ!」

「心で・・・」

 会話をしている間にもヴァジュラはどんどん迫ってくる。しかも電気の球を発射する予備動作の最中だ。

「ああもう! やるよ!」

 私がそう言うと、コトは速度を落とした。

 私は立ち上がってハイルーフを開けてそこから顔を出した。そして後部座席に横たえてあったアサルト型の神機、尾弩イバラキを手に取って構える。本来ならスナイパーのほうがこういうのには向いているけど今はそんなことを言っている場合じゃない。

「ギリギリまで引き付けるぞ!」

「うん!」

 ヴァジュラが球を発射してきた。

「あらよっと」

 それをコトは軽くハンドルを右に回すだけで避けた。

 

「よおし、大丈夫。大丈夫だよ私・・・」

 

 どくどくと心臓が鳴り響いて耳鳴りがする。

 

「心で、心で・・・」

 

 ヴァジュラとの距離は数メートルもない。距離も短いし、的も大きい。これならなんとかなるかもしれない。

 

 周りの景色がゆっくりと動く。というよりは周りにあるもの全てがゆっくりと動いていた。

 

 ターゲットとの距離が二メートルになる。

 

「当たってええええ!」

 

 ズドンッと耳をつんざくような大きな銃撃音が鳴り響いた。

 

 その次の瞬間にはヴァジュラが右の前足を折り曲げて体を地面に打ち付けていた。

 

 気付けば、車はヴァジュラを避けて横切っていくところだった。

 

「お手柄じゃぞ、クレハ」

 コトにそう言われてやっと景色はもとの速さに戻った。私は座席に崩れるように座った。

「おっと、一難去ってまた一難じゃ」

「え・・・」

 林の道を抜けて、やっとダムに続く道が見えてきたかと思ったら、

「ちょっと道ないんですけどぉっ!?」

 途中から大きな崖になっていた。さっきみたいに飛び越えるにはとても大きすぎる。

 叫ぶ私を尻目に車は直進する。

「クレハ、運転頼む」

「え゛・・・」

 コトは運転席を離れてハイルーフから顔を出す。

「ちょっと! 私、運転なんてしたことないって!」

「はんどるが動かないようにして、ずっとあくせるを踏んでおるだけでよい」

「いやでも道ないって!」

 とは言いつつも運転席に座る私。

「クレハ、道というのはもとからあるものではない。自分で作るものじゃ!!」

 そう言うと、車を作り出したときと同じ構えをして、崖に向かって開いた両手を突き出した。

「凍てつけっ!」

 コトの手から大量の冷気が放射される。その冷気によって崖は氷の道で繋がっていた。そこを車は走り抜けていった。

 道を作る(物理)かよ・・・。

 

      ◆◆◆

 

 瓦礫越え、崖越え、ヴァジュラ越えて、やっとダムの反対側に辿り着いた。

「この先でシエルが待ってる・・・」

 念のため無線を入れる。

「シエル、応答して」

『クレハ・・・』

 良かった、まだ無事みたいだ。

「今そっちに着くから待っててね!」

『了解です。あ・・・、すみません、またあとで連絡します』

「え、どうしたの・・・。切れちゃった・・・」

 切れる寸前にシユウの叫び声らしきものが聞こえた。

「急いでコト! シエルが危ない!」

「合点承知じゃ!」

 車は猛スピードで発進した。

 レーダーによるとシエルとの距離は数十メートル程度だ。これならすぐに着く。

「あっ!」

 先には神機兵の影にいるシエル、そして、

「堕天種・・・」

 堕天種のシユウがいた。堕天種とは通常種とは違い、特殊な環境に生息していたものが変化したもので通常種よりも強い。おまけに属性まで変わってしまう。シユウの場合は雷属性の攻撃をしてくるようになる。

 そして、今まさに堕天シユウはシエルに向けて電気の球を溜めて撃とうとしているところだった。

「どうするのじゃ」

「え、ええと・・・」

 私が判断に迷っていると、

「ワシならこうするがの!」

 コトのその声を合図に車体の前部がつららを横にしたような形状に変形する。そしてコトは窓から右手を出すと冷気を放射して道路に氷で傾斜を作りシユウに突進していった。

「串刺しじゃああああ!」

 言葉通り、堕天シユウの体をつららが貫いた。体液がつららを伝って窓に落ちてくる。数秒間、シユウはピクピクと痙攣していたけど、やがて動かなくなった。

「成敗・・・」

 コトがそう呟くと堕天シユウは赤く染まる空へ霧散していった。

 私は防護服を手に取ると車から降りてシエルのもとへ駆け寄った。

「シエル!」

「クレハ・・・」

 私はシエルを抱きしめた。

「遅くなってごめんね・・・。ケガはない?」

「は、はい・・・。大丈夫・・・です」

「そう、よかった・・・。うっ・・・」

 安心したら涙が出てきた。

「ひぐ・・・無事でよかった」

「・・・すみません、心配かけて」

「ううん、いいの。シエルが無事ならそれでいいから···」

 

 その瞬間、心が通じ合ったような温かいなにかを感じた。

 

 私は涙を拭いて防護服を差し出した。

「さ、これ着て逃げよ!」

 シエルはそれを着込むと、あるものを指さした。 

「あの、あれは・・・」

 例の氷の車だ。あれをどうやって説明するべきか・・・、もういっそ説明しないほうがいい気もしてきた。

「話はあと! 今は逃げよう!」

「ですが、神機兵の背部に損傷があって・・・」

「あー、ちょっと待ってて」

 私は運転席のコトのところへ戻る。

「ねえさ、氷で損傷した部分をふさぐのってできる?」

「できるぞ」

 案外さらっと言われた。

 コトは車を降りて神機兵のもとへ歩いていくと両手を開いて神機兵の背中に向ける。

「凍てつけい!」

 冷気が放射されて神機兵の背中についた傷が氷でコーティングされていった。

「すごいですね、ところでそちらの方は?」

「そちらの方・・・? はっ・・・!」

 まさかと思ってコトを見る。

「ん? あ・・・」

 本人もようやく気付いたようだ。またステルス能力が外れていたことに。

「それではワシはこの辺で・・・さらばじゃ!」

 コトはそう叫ぶと自らの周りに冷気で吹雪を起こした。吹雪が収まるとそこにコトの姿はなかった。車も融けて水になっていた。

「あの方は、アラガミかなにかだったのでしょうか・・・」

 呆然と呟くシエル。私はそれに笑顔で答えた。

「あれはアラガミなんかじゃない。神様見習いだよ」

 

      ◆◆◆

 

 それからすぐにフライアの救護班がヘリで迎えに来た。ヘリに乗るときにコトはちゃっかりステルスをつけて戻ってきていた。

 そしてヘリの中。

「あの、クレハ・・・」

「なに?」

 ずっとなにも喋らなかったシエルに話しかけられた。

「手を繋いでもいいですか・・・?」

「え・・・?」

「あ、いえ迷惑だったらいいんです・・・!」

「全然、ほら」

 私はシエルの手を取ると軽く握った。

「寂しかったらいつでも言ってよ」

「あ、ありがとうございます・・・」

 シエルは柔らかく笑みを浮かべた。そして安心したのか、私の左肩にもたれて眠ってしまった。すると右肩にも、もたれかかられる感覚を覚えた。見るとコトが上目遣いで私を睨んでいた。

「なに・・・」

「約束忘れてないじゃろうな・・・」

「忘れてないけど、これはなに・・・」

「神機兵のときの借りじゃ」

 そうふくれっつらで言われた。

 もしかしてこの神様見習い、シエルに焼きもち焼いてんのかな・・・? 私の思い過ごしかもしれないけど。でもちゃんと夜一緒に寝てあげたんだからいいよね?

 

 翌日、原作の主人公と違って神機兵には乗らなかったから懲罰房には入れられなかったけど、危険な行動をしたことと軽い命令違反ということできつく怒られた。




 カーアクションとか初めて書きましたよ。何気に難しかったです・・・w それと神様見習いのチート能力がだんだん明らかになってきましたね。そろそろ伏線回収が行われるかもです。

 そしてついに! 次回は20話目ということで番外編を書きます! どんなものにしましょうかねえ、またガチ百合でもいいし、オリキャラたちの過去を描くのも捨てがたいんですよね。と書いてる本人が楽しみにしていたことでもあります。ともかく次回はねこめ待望の番外編です。

 というわけで今回もご精読ありがとうございました!



 今回は直球で言います。

 お願えします! コメントをくだせえ!! 


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20 番外編;記憶と心

 はい、どうもねこめでございます。
 今回はタイトルからしてシリアスに見えますが、その通りですw 百合はソフトですがシリアスがそれはもうハードです。

 またもや更新が遅れてしまいました・・・。休みが終わってしまい、行事も相まってネタを考える時間が足りませんでした、という言い訳です・・・。 ge2トカスマブラヤッテタナンテイエナイ
 ともかく今回もすいませんでした!


 ここは、どこだろう。僕は、いったい誰なんだろう。いや、僕が誰かは覚えてる。でも名前は? 名前はなんだ?

 僕がいた町は? 家は? 皆は?

 覚えてるのは友達のことや両親のこと。でもそれ以外に思い出せることはない。記憶はある。でも、知識は? 試しに計算をしてみるがこれは簡単にできた。どうやら計算能力や言語能力だけはある程度残っているらしい。でもなぜだ。なぜに他はなにも思い出せない。

 そもそも僕の名前はなんだ? 駄目だ。頭の片隅にもない。

 頭? そういえば今の僕の体は・・・ない。元からなかったのか。いやそんなことはありえない。記憶の中の僕は確かに体があったはず。でも今はない。手も足も頭も胴体もなにもない。じゃあ僕はなぜ存在しているのだろう。考えても全くわからない。今の僕には考えるための材料が記憶しかないのだ。

 それならどうする。このままの状態でじっとしているのか。でも何もしなくてもいいような気もしてきた。何かしなければいけないかもしれない気もしてきた。

 まず、今の時点で僕はいったい何者なんだろう。魂? それともだれかの妄想の産物? わからない。今の僕にはなにもわからない。 

 なんだかずっと前からこんなことをしているような気がする。百年にも感じられるし、一億年にも感じるし、まだ数秒間しか経っていないようにも感じられる。今の僕に時間概念があるとは思えないけれど。

 周りの景色は真っ暗。もしかしたらただ目をつぶっているだけなのかもしれない。なにも聞こえない。なにもしゃべれない。なんの臭いも感じない。なにも触れてこない、これは体がないのだから当たり前だろうけど。

 死んでいるのか、生きているのか。それすらも定かではないこの状況。僕はどうすればいいんだろう。

 

      ◆◆◆

 

 あれは誰だろう。かすかに人の気配がした。本当にかすかなもの。聞こえるかどうかわからないけど試しにあいさしてみよう。

 

   こんにちは

 

「こんにちは、えーと、いきなりですけど、あなた誰ですか・・・?」

 

 聞き覚えのない声が返ってきた。僕はわからないと答える。

 

「それはどういうことですか?」

 

   覚えていないということ。記憶はある

 

「覚えていないのに記憶はある? ますますわからないんですけど・・・」

 

   記憶はある。でも知識はない

 

 うーんとうなる声が聞こえてきた。

 

   あなたの名前は

 

「クレハです」

 

 クレハ、記憶にない。

 

   君は知らない人

 

「他になにか覚えてないんですか?」

 

   覚えていないということは覚えている

 

 そう、自らの記憶以外で覚えていることは、覚えていないことだ。

 

「ところで、ここはどこですか?」

 

   わからない。

 

「・・・質問を変えます。これは夢なんですか?」

 

 夢・・・。夢なのだろうか。確かにこの全てが曖昧な感覚は夢に近いかもしれない。実はずっと長い夢を見ていていずれは両親、もしくは友人に起こされるのだろうか。でもなぜ知識が消えているのだ。その説明がつかない。夢と決めつけてしまえばしっくりくるような気もするが、それではなにか腑に落ちない感じがする。それに今、話しているこの声は誰のものなのか。これも僕の夢が作り出したものなのだろうか。でもなぜ作り出したのか。寂しいから? いや、僕に感情はない。確かに記憶では僕にも感情が残っていたようだが、今はまるで記憶のみが残った人間の脱け殻のような状態で、感情なんてこれっぽっちも存在しない。

 この声の主は感情があるように話しているがどうなのだろう。

 

   クレハ、あなたには感情があるか

 

「へ?」

 

   寂しかったり、悲しかったり、嬉しかったりするのか

 

「そ、そうですね・・・」

 

 感情、つまりは心というのは、心というのは・・・、心というのは? 心とはなんだ? 記憶によると僕にも心があるはずだ。だが、理論的にはもちろん、感覚的にも全く理解ができない。

 

「あの、あなたに心はないんですか?」

 

   今はない

 

「昔はあったんですか?」

 

   あった。だが今は抜け落ちた・・・いや、引き抜かれたようになくなっている

 

 僕がそう言うと声はこう返してきた。

 

「私と似てますね」

 

   似てる、とは

 

「私もとある記憶を失っているんです。でも新しい世界で過ごしていくうちにその世界の思い出がどんどん増えていったんです。みんなと笑ったり、怒ったり。そしたら前の記憶なんて気にならなくなってきて、今は今の記憶を大事にしようって思えました。例え、今の自分が前の自分と別人だったとしても」

 

 今の自分が前の自分と別人だったとしても。どういう意味なのだろう。僕には到底想像のつかないことだ。

 

   そのとあるものとは

 

「前の世界の記憶、今いる世界とは全く違う平和な世界だったと思います」

 

 僕の問いに声は答えた。

 

「たぶんですけど、普通に学校に行ったり、普通に友達といろんな場所に遊びに行ったり、死ぬことなんて深く考えずに暮らせる平和な世界だと思います」

 

 声の主が今住んでいる世界は死の危険がともなうとても厳しい世界らしい。対して過去に住んでいた世界は僕の記憶の中にある世界と同じようなものだった。

 でも記憶の中の僕と同じように友達とかいろんな人と暮らしている。

 うらやましいな・・・。

 あれ、なんだこれは。なんだか感じたことのないなにかが込み上げてくる。これはなんだ、味わったことのない感情だ。

 感情? 僕に感情などなかったはずだ。

 

「な、なに・・・これ。苦しい・・・!」

 

 聞こえてくる声が苦痛に満ちたものとなった。

 

「やだ・・・。なにこれ、苦しいよ、怖いよ・・・」

 

 声が悲痛に助けを求める。

 

「コト、助けて・・・」

 

 その言葉を最後に声はぴたりとやんだ。

 僕は感じたこともない恐怖に襲われていた。いや、恐怖以前になにかを感じたことなどなかったけれど。怖い。ただ怖い。なにかわからないものが自分に生じている。怖い怖い怖い怖い怖い。

 もしや心なのか。僕に心が生じたのか。あの声と会話することで感情が生まれたということか。だが心とはもっと温かいものではないのか。

 そういえばさっきの声、コト、と言っていたか。一体誰のことだ。

 しかしその人物は僕の味方側の存在だと思えた。根拠はないがそんな気がした。これも初めての経験だ。記憶から判断するのではなく感覚的に判断している。

 突然一人の人物の姿が頭に浮かんだ。

 

   に・・・むらゆ・・・や! 今日からお前は神戸クレハじゃ! 

 

 にしむら、ゆうや・・・? 西村ユウヤ・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁあぁぁぁぁあああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァああああああっっっっっ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思い出した・・・。知識はなくなったままだけど、なぜこんなことになったかは全て思い出した・・・。

 僕の名前は西村悠也だった。普通の高校生だった。神の手によって別の世界に飛ばされてしまったのだ。でも飛ばされたのは僕の知識と魂、心と言ったほうが正しいかもしれない。じゃあ今の僕は何者なんだ? あの少女、神戸クレハも僕、この西村悠也も僕。どちらも僕だ。どういうことなんだ。場所は違えども自分が同時に存在しているという世にも奇妙な現象が起きている。

 ここでひとつ疑問が浮かんだ。彼女のほうに魂が移っているのなら、なぜ今の僕も魂があるように思考することができるんだ?

 さっきから疑問ばかりだ。今の僕にはこの状況を判断するための情報が少なすぎるから無理もない。でもひとつだけわかることがある。

 

   帰らなきゃ。もとの世界に戻らなきゃ。この真っ暗な世界から抜け出さなきゃ。

 

   出してくれ! 誰でもいいからここから出してくれ!

 

 声が出せているわけじゃない。ただ頭のなかで必死に念じる。そうすることでこの真っ暗な場所で暴れているような気持ちになった。

 

   返せ! 返せよ! 僕の魂ッ! 僕の心ッ! 全部返せよ!

 

 怒りの矛先は神戸クレハという少女にも向かった。聞こえるわけもないのに。

 なんで、なんでだよ。なんであっちの僕は助けられてこっちの僕は見放されるんだ。どっちも同じ僕じゃないか。それに僕はなにもしていないはずだ。もし罪があるとすれば、こんな肉体と魂を奪われて監禁されるよりは地獄に落とされるほうがマシだ。

「おお、ご乱心みたいだねぇ」

 突然、先ほどの声とは違う声が聞こえてきた。

「ってあっれー? おかしいなぁ。キミに心なんてないはずなのに」

 

   心なんてない・・・?

 

「だってそうじゃんかぁ。キミはただの記憶の塊だよぉ? 記憶が心を持つなんて普通ありえないよぉ?」

 

   あんたは誰なの?

 

「あー、神様だよー」

 神様? こんなふざけたのが神様なの・・・?

「へー、神様にそんなこと言っちゃうんだー」

 念じて話さなくても考えていることは全てわかってしまうらしい。

「まあいいや。なんかキミに誰かの心がリンクしたみたいだけどそれの影響みたいだねぇ?」

 誰かなんて言わなくてもわかるんだろうな。

「なるほどねぇ。記憶だけでも心が発現することってあるんだ」

 記憶だけでも?

「いやむしろこの場合は記憶だからこそ発現したって感じだねぇ。記憶は思い出、その思い出のなかに含まれている感情の記憶を糧にすれば心ができるのかもしれないねぇ。さっき言ってたことと矛盾しちゃうけど」

 なにを言っているんだ。

「なんでも? 神様にしかわからないことなのだよー」

 なんかムカつくな、この神様。

「所詮は人間。わからなくて当然」

 このッ・・・!

「おやおや? 早速心を使っているみたいだねぇ?」

 さっきと違って僕にも感情がある。待てよ、もしかしてこの神様にも・・・。

「いいところに気づいたねぇ。そう、この神様にも心はあるんだよねぇ」

 こいつ、自分にも心があるのにッ!

「それは違うねぇ。心があるからこういうことをするっていうのもあるかなー」

 あるからこういうことをするのか?

「まあそんなことをキミが知る必要はないんだよねぇ」

 その言葉が終わるとともに空間に穴が開いてそこから人が這い出てきた。

「だってさ」

 神様だった。姿は小さな女の子にしか見えない。腰まで伸びた燃えるように赤い髪。無邪気に見える笑顔。でもその笑顔のなかに僕は恐ろしく残忍なものを感じた。赤い髪も血を連想させられるものだった。

「ぜ~んぶ忘れちゃうんだから。ねえ、西村悠也くん?」

 神様を名乗る女の子はこちらへ、ゆらり、ゆらりと歩いてくる。

 やめろ、来るな・・・。忘れたくない・・・。ここから出たい・・・。なにが目的でこんなことをするんだ・・・!

「教えてあげないよー」

 いやだ、やっと全部思い出したのに・・・。なんで僕なんだ、僕以外にもいただろう・・・。

「そこまで言うなら教えてあげようかなー。どーせ覚えてられないだろうけど」

 神様はそう言うと僕の目の前まで一気に歩いてきた。

「キミは世界のエラーって知ってる?」

 エラー・・・?

「あの子はそのエラーを修復する道具だよ。もっとも記憶だけのキミには用なんてないんだよねぇ」

 修復する道具? 一体なんのことなんだ。

「理解力ないなー。キミがその道具の素材として適役だったからだよー。同じことを言うようだけど付属品の記憶なんていらないけどねぇ。そこに部下の一人、コトとか言う名前もらってたっけ。まあその見習いの子をお目付け役にして開発していこうっていう計画。見習いちゃんも無意識のうちにいい感じに頼もしい子に教育していってくれてるみたいだし、順調順調って感じなんだよねぇ」

 道具、開発・・・だって? こいつ、人をなんだと思ってやがる。

「まあ少し、情が移っちゃったみたいだけどそこは多目に見るよ。あの世界の住人たちもいい材料になってるみたいだしねぇ。っていうかあの世界のエラーを直すために送り込んだんだけど、あの子はうまくそのエラーを利用してるっぽいねぇ。ま、私としては楽ができていいんだけどねぇ。自分も利用されてるなんて思いもしてないだろうけど」

 さっきから言っていることが全くわからない。

「わかったところでどうすることもできないと思うよー。この私でも未来がどうなるかわからないんだから」

 神様でもわからない・・・?

「エラーが起きた世界は規定のものとは全く違った動きをする。まあ小説とかゲームとかで例えるならシナリオが全く別のものに変わっちゃうのとおんなじだよねぇ。私は一応管理者だけど外の存在が下手に介入するのは良くないしー? あ、これは見習いちゃんにも言ってることなんだけどねぇ」

 規定のものとは全く違った動きってどんなのなんだ?

「そうだなー。例えば本来死なないはずの人が死んだり、逆に死ぬはずの人が死なかったりする」

 もし神戸クレハが規定外の行動を取った場合は?

「それはありえないねぇ。あの子は本来のシナリオを知ってるし、もし規定外のほうを取ったとしてもそれはすぐに修正される」

 エラーが起きているのに修正されるのか。

「世界はねぇ、とってもデリケートなんだよねぇ。言っちゃえばあの世界にもう一人のキミがいることは世界にとって相当な影響力を持つんだ。いるだけでもある程度エラーは修正される。なんでって思うよねぇ? それはね、あの世界は道を踏み外して堕ちるはずの世界だったからだよー」

 世界が堕ちるってどういう意味だ。

「神様の中にも悪いやつがいてさー。世界の歯車が狂うようなものを送り込んだらしいんだよねぇ。そこにこっちもあの子を送り込んである程度エラーを相殺できるってわけ。そしてそのエラーの修正を任されたのがこの私」

 つまり、それの排除も含めたのが神戸クレハの仕事っていうわけか。

「あったりー。外の存在でもあり内の存在でもあるもう一人のキミなら世界に悪影響を与えずに修正をしつつその存在も排除できるってね。でも今は世界の修正に専念してもらうけどねぇ」

 酷い話だけど、神から見たら人なんてそんなものなのかもしれない。でも人である僕にはその所業は悪にしか感じられなかった。ちょっと待てよ、神戸クレハがそのように利用されているなら、今の僕はどうなるんだ?

「キミにはいずれなにかのツールとして役に立ってもらおうかなー。別に捨てちゃってもいいんだけどねぇ」

 捨てる!? ちょっと待て! 捨てるってどういうことだよ!

「さてと、お話はここまで。キミとはここでお別れ」

 神様は真上に右手の人差し指を突き上げる。

 

   待ってよ! 僕は!? 僕はいったいどうなるんだよ!

 

「世界も、心も、記憶も、存在する全てはひとつの空間。私の力が通用しないことなんてありえないんだよねぇ」

 神様の指の先が輝く。

「それじゃおやすみ、西村くんの記憶」

 いやだ。僕は僕だ。確かにあのときは行ってもいいと言ったかもしれない。だけど、あのときは元に戻れるとわかっていたからだ。こんな仕打ちを受けるだなんて思いもしなかったんだ。お願いだ、許して・・・。助けて・・・、コト・・・。

「ざんね~ん、見習いちゃんが好きなのは記憶じゃない、キミとは違ってちゃんとした心もある生まれ変わった存在、『神戸クレハ』なんだよねぇ」

 そんな・・・。・・・許さない、絶対に許さない・・・。こいつも、見習いも、神戸クレハも、あの世界も、みんなみんな全部全部許さない。許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さないッ! 許さないッ! 許さないッ! ゆるさな・・・い! ゆるさ・・・。

 

 あれ。この女の子だれ? ここはどこなの? 僕は・・・まあいっか。別に覚えていなくても何も問題ない。なにかしてもなにもしなくても変わらない。あ、どこへ行くの? その穴どこに繋がっているの? まあでもどうでもいいか。そう、どうで、・・・もい・・・いん・・・。

 

      ●●●

 

 異変が起きたのは上司に呼び出されてから帰ってきた夜だった。

「う・・・うぅ・・・」

 うなり声が聞こえる。もちろんこの声はこの部屋の主のものだ。

「悪い夢でも見ているのかの・・・?」

 額には汗をかき、とても苦しそうだった。そして一言「コト、助けて・・・」と呟いた。助けてと言われるとワシはクレハの手を握る。

「大丈夫じゃ。ワシはここにいるのじゃ」

 しかし落ち着く様子はない。これはもう起こす他ない。

「クレハ、悪夢から早く目を覚ますのじゃ!」

「っ!?」

 ようやくクレハは目を開いた。

「コト・・・?」

「そうじゃ、なんじゃアラガミに襲われる夢でもみたかの?」

「ううぅ、コトぉ・・・」

 突然、クレハは泣き出してしまう。質問には答えずワシに抱きついた。

「なんじゃ、本当に怖い夢を見たのかの?」

 クレハはゆっくりとうなずいた。

「成長したかと思ったらこれか。まったく、やっぱりまだまだ子供じゃのう」

「だって・・・、すっごく怖かったんだもん・・・」

 身動きが取れないほどにワシを抱きしめるクレハ。そこまで恐ろしい夢だったのだろうか。今のワシには自分の鼓動をクレハに聞かれてしまうことのほうが怖かった。表は平静を保っているものの、本当は心臓が飛び上がりそうなのだ。おそらく顔も真っ赤に紅潮していることだろう。抱きつかれているので顔を見られないのは幸いだった。

「大丈夫じゃ。結局は夢だったのじゃろう?」

「でも、本当に怖かったんだもん・・・」

「して、どのような夢だったのじゃ?」

 クレハは鼻をすすりながら夢の内容を話し始めた。

「なにも見えなかったけど、声だけ聞こえてきたんだ・・・。その声と話をしていたら急にどす黒くてどろどろしてていやな感じがしたの・・・。直接頭の中にどんどんいやな感じが流れてきて、苦しくて・・・」

 ワシはこの話を聞いて少し、いやかなりいやな予感を感じた。

「でもそのいやな感じは、いやな感じなのにもともと私が持ってたものみたいな感じもして・・・。そこでコトに起こしてもらえたんだ・・・」

 よほど怖かったのかあまり話がまとまっていないが大体は把握できた。

 ワシはそっとクレハの頭をなでてやる。

「怖かったのぉ、苦しかったのぉ」

「うん・・・」

「でももう、大丈夫じゃ。今夜はワシが一緒に寝てやるわ」

「ありがとう・・・」

 なんだか昔に戻ったみたいだ。いつもと立場が完全に逆である。

「ワシがおれば悪い夢なぞ見ないはずじゃ。それに明日も早いのじゃから早く寝たほうがよい」

 クレハを体から離すと涙をぬぐってやる。

「わかったら、もう泣き止んでたも・・・。ワシもお前の泣き顔なんぞ見たくないわい」

「ごめん・・・、これでいいかな」

 涙の跡が残っているがとてもきれいな笑顔を浮かべた。

「そうじゃ。ワシは笑顔のお前が好きじゃ」

 今のは告白ではない・・・はずである。 

「わかったら今夜はもう寝たほうがよい」

 二人一緒にべっどに横になる。

「おやすみなのじゃ、クレハ」

「おやすみ、コト」

 クレハはワシの腕にしがみついてまた眠りについた。

「直接頭の中に、か・・・」

 ワシはさきほどのクレハの言葉を思い返した。同時に上司との会話も思い出していた。

 

      ◆◆◆

 

「前の世界の記憶に異変?」

 一時的に作りだされた真っ白な空間でワシは上司である神に聞き返した。

「そうなんだよねぇ。なんか変な動きをするようになったっていうかー、一部の記憶の力が強くなったりするんだよねぇ」

「それはどういうことなのでございましょう」

「あの記憶だけの存在にイレギュラーななにかが生じたってことだろうねぇ。まあなにがかは大体想像つくけど」

「なにかとは・・・」

 するとワシの胸を指差す。

「心、とか言ったらクサいかな?」

「いえ、そのようなことは・・・」

 ワシもクレハによく心がなんだとよく言っているので他人のことを言えた身ではない。

「まあさー、記憶って言っちゃえば思い出だしー? まあそんなことありえないだろうけど」

 この神の言っていることは神(見習いだが)であるワシにも理解できないことが多い。記憶から心が生まれる。そう言っておきながら自らその仮定を否定する。矛盾が生じる話し方である。

「もし、そうなったらどうなるのでしょうか」

 ワシが聞くとほんの少し真剣な様子になって言う。

「心だけってことは念だけって意味でもあるんだよね。念っていうのは形がないし相当な意思があればどこへでもつながる。例えば誰かがなにかしらの夢を見るとして、その夢にアレがリンクしたとしたらどうなると思う?」

「夢の中で会話することができる・・・」

「そう、たとえ次元が違ったとしてもね・・・」

 夢というのは至極曖昧なものである。人の頭の中で創造されるためなにが起きてもおかしくはないし、いつ壊れてもおかしくはない。おまけに曖昧なもの同士でつながることがある、言うなれば夢の送受信が起きることもあるのだ。

「夢の世界って一回だけ行ったことあるけど、あんな危ないところ二度と行きたくないねぇ。あんないつどんな危ないことがおきるかわからないような世界」

 この神が言うのだから相当危険なところなのだろう。

「まあ、そんな感じだからさ。もしヤバいことになったら私が対処するけど、神戸クレハに関する影響はそっちでまかせるよ。もしかしたらなんか変な影響が出ちゃうかもしれないしね。んじゃ、今回はこれで以上だよー」

「承知でございます」

 ワシがそう言って穴をくぐって戻ろうとすると

「あ、そうだ。古風っぽいしゃべり方いい加減やめたら?」

「ワシ・・・わたくしはこのしゃべり方が気に入っているのでよいのでございますっ」

「あ、そう。それならいいけど・・・・・・中二病」

 最後の言葉は無視してワシはあの世界に帰っていくのだった。

 

      ◆◆◆

 

 話の筋が通った。これは由々しき事態だ。おそらく向こうで上司がなんとかしてくださっているだろうが、クレハへの影響に関してはワシの仕事である。この先、クレハの状況にいつもよりもさらに目を光らせておく必要があるだろう。

 

 ・・・・・・。

 

 別にすとーかーというやつではないからの? あくまで仕事としての監視じゃ、監視・・・。

 




 いやー、完全に伏線回収および新たな伏線回となってしまいましたね。
 今回初めて出てきた本職神様、自分で書いといて言うのもなんですが、こいつうざいな・・・、と思いましたね(笑)
 それにしたってオリジナル要素が強くなりすぎですかね・・・? ま、まあ番外編だし別に大丈夫でしょ・・・?(超震え声)
 そして漂う鬱小説臭・・・。書く前は「ゆりんゆりんなの書くぞー!」と思っていたらなにを血迷ったかこんな形で伏線回を書いてしまうとは・・・。まあ百合を書くのも一般の方から見たらだいぶ血迷ってますけどw
 実を言うと百合を書こうとしたらこれでもないあれでもないと、なかなか決まらなくてふとこんなの書いてみようと思い立ったらできてしまった次第です。

 さて、今回はここまでとなります。
 次回からは本編に戻り、フライアが極東へと向かうお話となると思います。

 それでは今回も、ご精読ありがとうございました!


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21 気のせいじゃないカナー・・・?

 はい、どうもお久しぶりです。ねこめでございます。
 年末になってやっと暇ができました。長いこと書いていなかったせいか感覚を戻すのにも時間が掛かってしまいこの有様です。申し訳ないと思うと同時に自分が情けないです・・・。

 さて今回のお話ですが、長い分話が結構ぐだってます。しかもほとんどがオリジナルシナリオで、おまけにタイトルはそこまで内容と関係ないっていう、もうボロボロですよ・・・。

 それではどうぞー。


 次の日、私は一応神機兵に乗ったということでメディカルチェックを受けることになった。神機兵も適合率というものがあるらしくそれが低すぎると人体に影響が出てしまうそうだ。外見はなにも起きてないけど、念のために検査しておくらしい。

 というわけで今、私は神機の適合試験のときと同じ部屋で仰向けに寝かされている。

「なるほど、つまり・・・」

 スピーカーからラケル博士の声が聞こえてくる。

「あなたは芽生えを待つ種の、土や水・・・」

 どういうことなんだろう、と思った矢先に忘れていた知識が蘇った。

 ラケル博士が言っているのは私の「血の力」のこと。空気のほうではなく「喚起」という能力のことだ。これは「心を通わせた者の『意思の力』を呼び覚ます能力」とデータベースに書いてあったのを覚えている。仲良くなった相手の隠れた力を引き出してあげることができる、いわゆるいかがわしいギャルゲーとかの主人公が持ってそうな能力だと思ってくれればいい。

 ちなみに、この能力のおかげで原作とはだいぶ違うタイミングだけど、シエルの「血の力」を目覚めさせることができた。シエルの能力は「直覚」といって、敵の状態を味方全員に共有することができるという能力だ。戦闘力とまではいかなくともその敵の体力、そしてその敵が通常状態にあるのか警戒状態にあるのか、それとも戦闘状態にあるのかがレーダーに表示されたりする。ゲームなら、この能力は奇襲を仕掛けることや敵の分断に役に立ったりしたという知識が残っている。あくまで知識だけど。

「なにか気になるところはありませんか?」

 ラケル博士は唐突に質問してきた。私が特にないと答えると、

「そうですか・・・」

 ラケル博士は少し間をおいてから話を続けた。

「・・・とても微小ですが、妙な反応があなたの体内から発見されたのです」

「妙な反応、ですか・・・?」

「昨夜、なにかありませんでしたか?」

 昨夜・・・。特になにもないといえばなにもないけど、強いて言うなら・・・、

「おかしな夢を見ました」

「それはどのような夢ですか?」

 そうですか、と流されるかと思ったけど、聞いてくれるらしい。

「自分の手足も見えない、真っ暗な場所にいて、そしたら声が聞こえてきたんです」

 スピーカー越しだから彼女がどんな顔をして私の話を聞いているのかはわからない。いや、顔を見てもなにを考えているのかはわからないだろう。ただなにかを企んでいるというのはなんとなく想像できた。

「しばらくその声と話をしていたんですが、突然息が苦しくなって、怖くなって、目が覚めたら元の自室にいました」

 コトのことは話すとややこしくなるからしゃべらないでおいた。別にシャレじゃないからね。

「目覚めたあとに体に異変はありませんでしたか?」

 ラケル博士は少しの感情の変化も露にせずまた質問する。私は一言、はい、とだけ答えた。

「・・・今後、なにか体に異変があったら早急に訴えるようにしてくださいね」

「はい」

「では、メディカルチェックは終了です。お疲れ様」

「ありがとうございました」

 私が実験台のようなベッドから起きて退出しようとすると、

「言い忘れていました、今日は念のためブラッドには休暇を取ってもらいます」

「本当ですかっ!?」

 休暇という単語を聞いてつい声のトーンが上がってしまう私。

「あ、すいません・・・」

 舞い上がってしまったことを謝罪する。

「いえ。では今日はゆっくりとすごしてくださいね」

「了解しました。それでは失礼します」

 跳ねる気持ちを抑えて、私は自室に戻る・・・はずだった。

 

      ◆◆◆

 

 いやー、まさかお休みをもらえるとは思わなかったなー。今日はなにをしようかな。アーカイブのアニメでも見ようかな。そういえば、この前結構高い紅茶の茶葉を買ったんだっけ。それでミルクティーを作って、そのミルクティーを飲みながら優雅にアニメ鑑賞とかいいんじゃない?

 いや待てよ、ここはひとつピクニック隊長の真似をして、お茶会副隊長みたいなことをしてもいいんじゃないかな。

 原作での隊長は任務を楽勝でクリアすると「まるでピクニックだな」というセリフを言うことから、ユーザーからはピクニック隊長と呼ばれていたりする。あんたはお茶会副隊長よりも空気副隊長だろって? う、うるさいよ・・・。いいじゃんか別に、私だってオシャレなことしてみたいんだよ・・・。

「ようし、そうと決まればお昼にみんなを庭園に集めていざティータイムと・・・」

 そう私が考えているところにふと声が聞こえてきた。

「あ、副隊長、おはようございます」

「行こうじゃな、い・・・か・・・。あ、シエル。お、おはよう・・・」

 シエルだった。呼ばれ方が役職名なのは、二人きりでないと名前では呼んでくれないからだ。理由を聞いても教えてくれないし、私もどうしても名前で呼んでほしいっていうわけじゃないからそのままにしている。

「ティータイムがどうかしましたか?」

「ええと、その・・・」

 一人ごとを聞かれてたか・・・。

「それはそうと今、お時間空いていますか?」

「空いてるけどどうしたの?」

「少しお話があるのですが、よろしいですか?」

 お話ってなんだろう・・・。まあいいか、その話が終わってからお茶会のことを言えばいいし。

「では、庭園に行きましょうか」

 というわけで、いつもの庭園。今日も色とりどりの花々がたくさん咲いている。ここでお茶会できたらどんなに優雅だろうなぁ・・・。あ、でもイスとかテーブルがないからシートかな。でもそれだと、なんか、うん。なんだかなぁ・・・。

「クレハ? どうしましたか?」

 いけないいけない、つい考え事を・・・。

「いや、ここでお茶会できたらいいなぁ、って思って」

「ここはとても平和な気持ちにしてくれる場所ですから、お茶会というのも悪くないかもしれませんね」

 シエルは柔らかく微笑みを浮かべた。この笑顔ももしかしたら私しか見れない表情なのかもしれない。

「それより、話って?」

「あ、そうでした。とりあえず、座りましょうか」

 私たちは中央を囲むような円形のデザインのベンチに腰掛けた。ここには日避け用の屋根もある。まあここで紅茶を飲むのも悪くないかな。そんなことは今はどうでもいいか。

「それでお話っていうのは?」

 シエルは途端に真面目な雰囲気になって話し始める。聞いているこっちまで緊張してしまう。

「これからは、任務の効率を上げるためには遠距離攻撃を重点に置いたほうがいいと思うんです」

 仕事のお話でしたかー・・・。まあ確かにうちの部隊に銃を使う人が少ないのは事実だけど休みの日もお仕事の話か・・・。

「そういえば、あなたはバレットエディットを活用していますか?」

「あー・・・、全然使ってない」

 そもそもエディットの存在そのものを忘れてたよ・・・。

「やっぱり難しいですよね」

「まあ、うん・・・」

 さすがに忘れていたとは言えなかった。難しいと感じるのは事実だけど。

「やっぱりそうですか」

 そう呟くとシエルは目の色を変えて話を続けた。

「バレットエディットは複雑ゆえに、多くの神機使いは敬遠しがちなのですが、とてもすばらしい技術なんです!」

 なんか、急にイキイキし始めたな、この子・・・。普段の感じからは想像もできない・・・。

「弾道や挙動の変化は立ち位置が流動的になりがちな遠距離攻撃において、たくさんの選択肢を与えてくれるとともに、性質を変えることで威力や範囲の制御、さらには味方の回復効率の向上まで可能なんです!」

「う、うん・・・」

 私はシエルの雰囲気の変わりように少し狼狽えてしまった。

「あ、すみません・・・。少し熱くなってしまいました・・・」

 もっと熱くなれよおおおおおおおおおおおおおおおお!!! っていうのはいらないからね。

 まあ熱中できることがあるっていうのはいいことだ。

「バレットエディット、好きなんだね」

「はい、好きなんです・・・」

 うつむき加減で言うのはやめなさい、うつむき加減は。

 原作やっててここでどきっとしたでしょ。そこのキミだよ、そこのキミ! わかってると思うけど好きなのはバレットエディットのことであって主人公のことじゃないからね。

「そこでなんですが、もしもお時間があったらでいいのですが・・・、あの、その・・・」

 少しためらうような素振りを見せたあとこう言った。

「私が作製したバレッドの検証実験に付き合っていただけたらいいなと・・・」

 このあとの予定がない言えばうそになるけど、まあ断るのも悪いし。なにより、

「ダメ、でしたか・・・?」

 こんな、捨てられた子犬が拾ってくれと懇願するような目で眉を下げて、おまけに上目遣いなんてされたら断る気になんてそうそうなれない。

「いいけど私はなにをしたらいいの?」

「あ、いや、特になにか難しいことではなく、挙動を見てもらうだけで・・・、えとっ、自分では見えにくいので・・・」

 なにをあわててるのか知らないけど、まあここはこう言っておこう。

「うん、わかった。とりあえず落ち着いて」

「はい・・・」

 子供のころによく自分が言われていたことを言っているような気がする・・・。

「あの、可能であれば、すぐに実験に向かいたいのですが・・・準備は大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だよ」

 でももうちょっとゆっくりしてたかったけどねー・・・。

 

      ◆◆◆

 

 またまた、ところ変わって訓練場。今、ここにいるのは私とシエルの二人。無線越しではあるけどフランさんも一緒だ。

 原作だと、嘆きの平原の任務に連れてかれたような気がするけど、細かいことはいいや。

「それでは、お願いします」

 シエルは高台の上にいる私に視線を送って言った。

 私は高台の上から見ているだけ。万が一のために一応神機も装備している。シエルに限って万が一なんてないと思うけど。・・・限って? う、いやな予感・・・。

『それでは、訓練用アラガミが出現します』 

 フランさんのその一言でナイトホロウのダミーが床から飛び出した。

 何発か試験用のレーザーを撃ったシエルは一度ダミーの出現を止めるようフランさんに頼むとなにか考え込むように動かなくなった。

 なにかあったのかな、と私は高台から降りるとシエルに声をかけた。

「どうしたの?」

 すると、はっとしてこちらに顔を向ける。

「あっ、いえそのなんというか、神機が・・・」

「神機の調子が悪い?」

「いえ、そうではなくて。いくつかの試作バレッドが今までとは違った、しかも良い方向の挙動になっているんです」

「バレッドが変わっちゃったの?」

 これはもしかして・・・。

「はい、ですがその代わりに発射時の挙動に少し変化が生じているので、反動の制御を修正しなければいけないんですが・・・」

 これは、原作で言うところのイベントシーンに入ったというやつみたいだ。いつものとおりセリフは違うし、私自身、選択肢のセリフを忘れちゃったけど・・・。

「シエルの射撃能力ならすぐになんとかできると思うよ」

 私にはダミーを狙い打つ姿勢はいたっていつもと変わらないように見えた。おかげでなにも口出しすることなんてなくて私はシエルを見ているだけだった。

「そう、でしょうか・・・。あ、すいません。なんだか自慢するようなことを・・・」

「いやいや、全然そんなことないよ!」

 というか、私みたいなトーシロにとってはこういう専門っぽいことは結構勉強になる。

「・・・って、射撃能力は君もすごいじゃないですか」

「そう、かな・・・」

 シエルほどじゃないと思う。というのを言ったら褒め合い合戦が始まってキリがなさそうだからやめておいた。

「とりあえず、整備班の人たちに相談してみようよ」

「そうですね、調べてみます」

 私はこの変化したバレッドの正体を知っている。私にとってかなり重要なバレッド。これだけは忘れずに覚えていた。ネタバレになるから言わないけど。

「今日はありがとうございました。良ければ、またよろしくお願いしますね」

 そう言うとシエルは頭を下げた。

 

      ◆◆◆

 

 シエルはもう少し訓練場にいるということなので、私は自室に戻ってお茶の準備をすることにした。シエルに終わったら一緒にどうかと言ったら、

「ぜひ、お邪魔させていただきます」

 と、素直に了承してくれた。シエルもだいぶ丸くなったなぁ。神様見習いはどうするのって? まあ、今回はあの子が空気化してもらうしかないかな・・・。

 そんなことを考えながらロビーに戻ると、ギルさんに出くわした。

「おお、クレハ。そうだ、ひとつ話がある」

 今度はギルさんからのお話か。順番はバラバラだけどこれもイベントシーンだよね。

「お前がシエルを助けに行ったときのことなんだが」

 確か原作だと、なぜあんな無茶をしたって言われるんだっけ。理由はそうだな、仲間を見捨てることはできないから? 上官が部下を見捨てちゃダメとか? どっちも同じか。

 ともかく、適当に返しておけばいいよね。

「あの、和服のやつは何者だ」

「はい・・・?」

 なんてこったい、予想していたセリフと全く違うじゃん・・・。

「あのときにもいたな。マルドゥークと戦ったときだ」

 マルドゥークというのは私が血の力に目覚めたときに対峙した狼みたいなアラガミのことだ。

「あれはだれだ、あのときはごまかしていたようだったが・・・」

 これはまさしく例のアイツを言っている。神様見習いこと、コトだ。またダジャレみたいになったけど気にしないでほしい・・・。

 どうする、神戸クレハ。今回のこの人はそう簡単にごまかせそうにないよ・・・。

「え、ええと・・・」

 今の私は目が泳ぎまくっているに違いない。

「なにか言えない事情があるのか?」

 あるよ、ありまくりだよ。神様なんて言ったところで信じてもらえるわけないし。じゃあどう説明すればいいんだ・・・。というか、どうという以前にまず神様ということ以外説明なんてできないわけで・・・。

 そこへ、

「副隊長、まだ戻っていなかったんですか?」

 大天使シエル降臨! ナイスタイミング!

「ごめんちょっと話し込んでて」

「ギルとですか? なんの話ですか?」

 あれ、私の中のなにかがもっとまずいことになるって訴えてる・・・。

「ああ、シエルは見たことな・・・」

「ごめんギルさん! これからシエルと用事があるんだ!」

 私はギルさんの言葉を遮るとシエルの手を取る。シエルは少し驚いた様子を見せるけどすぐにもとの調子に戻る。

「用事と言いましてもそこまで急ぎの用事では・・・」

「しーっ! いいから黙ってついてきて・・・! 副隊長命令・・・!」

 命令と言うと、すぐに黙って私に手を引かれていった。

 私は怖くて後ろを振り返ることはできなかった。

 

      ◆◆◆

 

 自室に戻ると、私はシエルに適当な席を勧めてすぐにお茶の用意に取り掛かった。

「のお、クレハ」

 キッチンでミルクティーを作っている横からコトが話しかけてくるけど、

「なるべく、話かけないで」

 小声でこう言うしかない。さすがにシエルの前でコトと話すわけにはいかない。

「なぜ事前に言わぬのじゃ」

「だって、急に仕事休みになったから言う暇ないし・・・」

 ナナのときもそうだったけど、コトは私以外の人間が自室に来るのはあまり好きじゃないのかな・・・。って、あー・・・ミルク切らしてたか。しょうがない、普通の紅茶にしよ。

「あの、クレハ」

「ん、なに?」

 ソファーに座っているシエルに質問される。

「この部屋にいるのって私たち二人だけですよね?」

 この発言から察するに、ましゃか・・・。

「どこかにもう一人だれかいませんか?」

 ギク・・・。

「そ、そんなわけないじゃん!」

 ななな、なんでわかったし。気配でも感じ取ったのか、この子は。ん? 気配? あ、まさかましゃかみゃしゃか・・・・・・。

「血の力に目覚めてから今までよりさらによく気配を感じることができるようになりまして」

 血の力『直覚』が発動してるうううぅぅぅぅ!!

「気のせいじゃないカナー・・・?」

「そうでしょうか。君の右横あたりになにかがいるような気がしてならないんです」

 そう言うシエルの目線の先にはコトがいる。そうっと横目で見ると、

「・・・・・・」

 滅多に焦りを見せないコトが冷や汗をだらだらと流していた。ちょっとー・・・、普段の余裕はどこに行ったんだよー・・・! 

 あ、いいごまかし方を思いついた。

「あのぉ、シエル? もしかして幽霊がいるとか言い出さないよね?」

 そう、神様見習いを幽霊としてしまうのだ。その能力を持っている人以外には認識できないもの、その定番と言えば幽霊だという思考に私は至った。

「・・・やめてよ。私そういうのダメだから・・・」

 ここはホラー苦手系女子というのを装っておこう。

「ではこの気配は幽霊、ということになるのでしょうか」

「知らないよ・・・。シエルにしかわからないんだから」

 これまた大嘘だ。

「そんなことよりほら、お茶にしよ?」

 私は小皿に乗ったティーカップをシエルに渡す。それを受け取るとシエルは、いただきますと言って一口紅茶を飲んだ。

「美味しいです」

 シエルはほっとしたような表情をする。この反応は紅茶が好きな証拠で、だいたいの人は嫌いでなければ、もしくはよっぽど感情を表に出さない人でなければ、温かい紅茶を飲むとこういう表情をする。ちなみにこの知識は保育所の先生からの受け売りだ。

「それで、気配ですが・・・」

「その話はもうおしまい! 今からもうおしまい!」

 ごまかすのも疲れてきた・・・。

 わかりましたと言うとシエルはまた一口紅茶を飲む。

「・・・・・・」

 私から話を切り出したほうがいいかな・・・。そう思っていた矢先に、

「あ、すみません。まだ社交的な会話は・・・」

 やっぱりね・・・。

「大丈夫だよ。そうだ、なにか聞きたいこととかあるかな? そこから会話が弾むこともあるし」

「それでは、さっきの幽霊のことですが」

「それはナシ!」

 来るとは思ったけどさ・・・。

「わかりました。では、今後のブラッドの方針について」

「それも、ナシで・・・」

「わかりました。ならば、好きな戦術はなんですか?」

「あのさぁ・・・、お休みの日は仕事の話はやめようよ・・・」

 まあ好きな戦術って言ったら奇襲とか、前衛と後衛しっかり分けて自分は後衛に徹するとかだけど。

「では・・・」

 シエルは少し考えると、

「先程、ギルとなにを話していたのですか?」

 ギク・・・!

「・・・別に変わったことは話してないよ?」

「そうですか。急いで話を切り上げていましたが何か理由があるのではないですか?」

 ああもう、なんで今日はこんなにコトのことを聞かれるんだ・・・。ダジャレじゃな(以下省略)

 うーん、シエルになら言っても大丈夫かな・・・ってなにを考えてるんだ、私は。でも今のところ一番信頼がおけるのはシエルだ。シエルになら、コトの存在をバラしても大丈夫なんじゃないか。もちろん、神様見習いだということは言わない。シエルを助けたときに私が思わず口走ってしまったような気もするけど聞いた本人も忘れているようだからたぶん大丈夫かな・・・?

「ええと、ギルさんにちょっと問い詰められてて・・・」

「はい」

「シエルを助けたとき・・・」

 ここで私は「ざわ・・・ざわ・・・」というような胸騒ぎを感じた。ここでバラしたら大変なことになると思った。

 私は自らの経験と知識で一瞬のうちに思考を構築した。

 シエルはとても誠実だ。守ってくれと頼んだ約束は絶対に守るだろう。もちろん例外もあるだろうけど。でもこの誠実さが穴となる。なぜなら信用した目上の人間にはとても忠実になる、例えその人間がなにかを企んでいる人間だったとしてもだ。この場合の人間というのはラケル博士のことだ。人間、何かしら隠しごとがあれば若干だとしても表に出てくるものだ。ラケル博士なら他人の様子の違いなどすぐに見抜くだろう。そしてシエルは彼女に絶対の信頼を置いている。問い詰められたら簡単に口を開いてしまう。それでいろいろな情報が伝わってしまった場合、彼女のことだからすぐに私の正体に感付くはず。もしそうなれば、どんなことが起きるかは想像できないけどきっと面倒なことになるだろう。

 だからここは、

「なんであんな無茶をしたんだってい言われただけだよ」

 原作知識を使ってごまかした。

「本当ですか?」

 ジト目気味な目をさらにジトっとした感じにするシエル。

「ほんとほんと。なんかさ、助けた相手の前でそんな話するのもなんだからさ・・・」

 我ながら今日はよく頭が回るなぁ。

「そうでしたか・・・。それならば私からも言わせてください」

 するとシエルはテーブルにカップを置くと私を見据えてこう言った。

「お願いです、無茶はしないでください」

 真面目な口調も相まってその言葉はとても重いものに感じた。

「あなたがいなくなることで悲しむ人かいるんです。それだけはよく覚えておいてください」

 聞いててなんだかとても申し訳ない気持ちになった。

「・・・ごめん」

「あ、決して助けてくれなくていいということではなくて・・・!」

 シエルは慌てて付け足す。

「むしろ、あのときは本当に嬉しかったです」

「それは、どういたしまして・・・」

 面と向かって言われるとちょっと照れるな・・・。

「でも、これからは私がクレハを守りますから」

「え?」

「守ってもらってばかり、というわけにも行きませんからね」

 このときのシエルはすごくカッコよく見えた。それならと私も言葉を返す。

「私だってみんなを守らなきゃ。仲間を守れないなんて上官失格だからね」

「ふふ、そうですね」

 シエルは昼間に見た柔らかい、話す相手を優しい気持ちにさせるような、そんな感じの笑顔で言った。

 

      ◆◆◆

 

 それからは特に変わったことではなく、他愛のないおしゃべりとなった。私がほとんどしゃべっていたような気もするけど。

 ふと時計を見るともう夕方の時間となっていた。

 シエルは「今日は楽しかったです」などの言葉を言うと自室に戻っていった。前にナナも含めた三人で一緒に休暇を過ごしたときと比べると本当に丸くなったと思う。

 シエルが帰ったあと、なぜかコトが口を利いてくれなくなった。

「コト〜、私なんか悪いことした〜・・・?」

「・・・・・・」

 腕組みにあぐらをかくというスタイルでそっぽを向いて全く話を聞いてくれない。

「なんでそんなに機嫌悪いのさ?」

 聞いてもコトは黙ったまま。

「もしかして、まーたシエルに焼きもち焼いてんの?」

「そ、そんなわけがあるかっ!」

 ようやく口を開いたか。そしてすごくわかりやすーい。

「そうならそう言ってくれればいいのに」

「違うと言うとろうに!」

「ほらほら、コトも聞きたいことがあるなら言ってみなよ」

「き、聞きとうことなどないわ!」

「じゃあなに?」

 コトは少し躊躇いを見せると顔をこちらに向ける。

「・・・ワシだけ仲間はずれになっておるのが気に入らぬ」

 いやそれは・・・、

「さすがにそれは仕方ないね・・・」

 いきなりみんなの前に出てこられたらまずいし。

「それでも気に入らぬものは気に入らぬのじゃっ」

「えー・・・」

 どうしろって言うのさ・・・。

「私以外に話せないんだから仕方ないじゃん」

「それならもっとワシと話してたも」

「なにをだよ・・・」

「な、なんでもじゃ」

 なんでもって・・・。

「いきなり話せって言われても無理だから。ていうかやっぱり焼いてるんじゃん」

「ちーがーうーわー!」

 そんなに否定しなくてもいいんじゃないかな・・・。

「ならば、ワシとすきんきっぷとやらをしてもらおうかの」

「スキンシップ?」

「上司が言うておったがどういう意味なのじゃ?」

 言葉だけ知ってて意味は知らないのかよ・・・。

「まあ一言で言えば触れ合いってことかな」

「例えばどのようなものなのかの?」

「んー、頭を撫でるとか、ハグとかかな?」

 なにをもってしてスキンシップというのか、細かい定義は私も知らないけど。

 コトはほんの少し俯いて考える。

「・・・やはり今はよい」

「え、なんで?」

「・・・気が変わったのじゃ」

「ああそう・・・」

 まあそっちにその気がないならそれでいいか。

「(少しは察せ、馬鹿者)」

「え?」

 コトがなにか言ったみたいだけど、声が小さすぎて聞き取れない。

「なに?」

「なんでもない」

 何度なにを言ったのか聞いてもなんでもないと返されるだけだった。

 

      ◆◆◆

 

 その日の夜は、いつも通り別々で寝た。

 ベッドに潜ってどれくらい経ったか、どこからかかすかに声が聞こえた。いや、声というよりはその音が直接、頭の中で浮かんだと言ったほうが正しいかもしれない。

 

 

      ・・・・・・や

 

 

 

 や? なにが?

 声が聞こえたのは一回きりだった。夢なのかすら曖昧な感覚だった。




 そういうわけで、今回のお話は例のバレッドと神様見習いの存在がバレそうになるというお話でした。

 次の話で極東に向かうと言ったな。あれは嘘だ。

 はい、間の話があるのすっかり忘れていました・・・。次の回こそは極東に向かうと思います、たぶん・・・。


 そして、もう聞き飽きたと思われるかもしれませんが謝罪を。
 約三ヶ月も更新できず、すみませんでした。

 それでは、今回もご精読ありがとうございました!


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22 私の故郷『だった』場所か

 はい、どうもねこめでございます。

 いやー、とうとうこのお話も一年経ってしまいましたねー・・・。更新スピード上げないとですね・・・。

 それはそうと、今回はついに極東支部に行きます。はい、最初の更新から一年経ってやっと行きます。本来は半年くらいでいくつもりだったのですがなかなかうまくいかないものですね・・・。

 それではどうぞ。


『現在、フライアは赤い雨の中を通過中。いかなる理由でも、屋外に外出することを禁じます』

 放送が入る。

「はーい、良い子は雨の日はお出かけしちゃダメだもんねー・・・」

「赤い雨が続くな・・・」

 ナナに続いてギルさんが呟く。それにシエルさんも続いた。

「極東エリアに入りましたからね。もうじき極東支部に到着するかと」

 とうとう来たのか、極東支部。私の持っている知識から判断すると、前の世界の私の故郷だと考えられる。今の私にも故郷と言えるのかな。名前も日本人だし、カタカナで表示されるだけでちゃんと漢字があるしね。神戸暮葉(かんべくれは)って。

「赤い雨って・・・」

 ロミオさんが不安げに言う。

「神機兵の護衛のときに降ってたのだよ」

 今度は私が答えた。

「あれに濡れちゃったらマジでヤバいんでしょ・・・?」

「ええと確か・・・こけしゅ・・・こけしょ・・」

 こけしみたいに言うなよ、ナナ・・・。

「『黒殊病(こくしゅびょう)』です」

 シエルさんが言った。

「赤い雨に接触することで高確率で発病する病です」

「治せないんだよね・・・」

 私の呟きにシエルさんは付け足す。

「はい、現時点で治療法は発見されていません。そして致死率は、百パーセントと言われています」

 それを聞いたロミオ先輩に私は小さな恐怖を見た。

「ぬ、濡れなきゃ大丈夫だよ・・・」

「病気はやだなー・・・、食欲なくなっちゃうよ・・・」

 ナナは相変わらずの反応。

『現在、赤い雨を抜け極東地域を南下中』

 やっと通り過ぎたか。

「ちょっと私、庭園行ってくる」

「いってらっしゃーい」

 ナナにそう言われると私はエレベーターに乗り込んだ。

「なんじゃ、なにか思い出したかの?」

「わっ、コトいつのまに」

 振り向くと神様見習いの姿があった。

「先ほどからおったわ。気づかなかったかの?」」

「気づかなかった・・・。キミも空気スキル持ってるの・・・?」

「持っておらぬわ、お前じゃあるまいし」

 私の索敵能力が下がったのかな・・・。

「して、庭園なぞに行ってどうするのかの?」

「外の様子が知りたくて」

「そうか」

 なぜだか、一刻も早く極東の姿をこの目で見たくなった。

 やがて、エレベーターが庭園のフロアに到着する。

「あれか・・・」

 ガラス張りの庭園の壁から極東支部、そしてその周りの外部居住区が見えた。空には赤い雲はない。しかし、代わりに黒い雲が彼の空を覆っていた。

「これが極東・・・、これが日本・・・」

 なぜか心の奥に濁ったものを感じる。

「禍々しい雰囲気じゃのぅ」

「・・・うん」

 晴れていたらこんな気持ちにはならなかったのかな。いや、そういうわけでもなさそう。知識として残っている『日本』はもっときれいな場所だと思う。それがこんな寂れてしまって・・・。絶望感ではないけれど虚無感と言っても違っていて・・・、自分で自分の気持ちがわからない。

「なんか、重い・・・」

 よくわからないけど、それだけは確固として感じられた。

「確かに重い雰囲気ではあるの・・・」

「うん、なんか、ヤな感じ・・・」

 私がそう言うとコトは真剣な顔になって言った。

「身体的な事情でも精神的な事情でも何かがおかしいと思ったらすぐに言うのじゃぞ」

「わ、わかったよ・・・?」

 どういう意味なのか理解しかねるけど、とりあえず従っておく。

 正面に視線を戻すと、遠くのほうにあった極東支部がだいぶ近くまで迫っていた。

「私の故郷『だった』場所か」

 私の呟きにコトは少し申し訳なさそうに話す。

「・・・そうじゃの」

 どうしたのかと思っていると、

「すまぬの、クレハ・・・」

 いきなり謝られた。

「なにが・・・?」

「こんな世界に連れてきてしもうて・・・」

 そんなことか。そんなの・・・、

「そんなの、もういまさらだよ。この世界に連れてこられた理由はわからないけど、私はこの世界に来れてよかったって思ってるよ」

 この世界は地域によっては生きるのもやっとだけど、

「この世界は温かい人たちがいっぱいいる」

 私が持っている前の世界の知識から察するに、前の世界は平和ではあるけど、なにかが荒んでる、なにかが欠けてる。そんな風に感じた。

 それなのに、この世界の人たちときたらありえないほどいい人ばかり。根っからの悪人には未だ会ったことがない。私が見たことないだけかもしれないし、中には治安の悪い居住区もあるのかもしれないけど・・・。

 でも、私の前の世界の知識を引っ張り出してみると、この世界と前の世界では『なにもかも』が違うことがわかるのだ。

「それに、こっちの世界に来るようなことでもなけりゃ神様見習いになんて会えないしね」

「それは、どういう意味かの・・・?」

 ここはこの子の期待通りの言葉を言ってあげようか。

「コトと会えて良かったっていう意味だよ。・・・言わせないでよ、恥ずかしい」

 うん、実際に言うとほんとに恥ずかしい・・・。

「そ、そうか・・・」

 予想通りの反応、予想通りのセリフ。続けて私は恥ずかしさを紛らわせるためにこんなことも言ってみた。

「それにどうせ前の世界の『記憶』なんてないんだから。あっても知識だし」

 すると今度は打って変わって、

「・・・すまぬの」

 さっきとは比にならないくらいに暗いオーラを放ち始めた。

「なんでまた謝るの?」

「すまぬ・・・」

「いやだからなんで謝るのさ・・・」

「・・・・・」

 深く俯いてしまって表情を伺えない。どんな意味で謝っているのかも。

「もう、私、前の世界に未練なんて全くないから大丈夫だって」

 そう言ってあげても顔を上げてくれない。って、あれ。晴れてきてる。しかも夕焼けか・・・。そうだ。

「Sunset 太陽が沈んでくよ」

「は・・・?」

「キミも、今沈んでるって言ったよね?」

「・・・言っておらぬが」

「言ってないけど、沈んでるよね?」

 私はすぅと深く息を吸うと、

「ふざけんじゃないよ!」

 突然、怒鳴った。それに驚いたコトがびくっと肩を震わせてこちらに顔を向けた。

「この太陽とっ! キミの気持ちは違うよ」

「クレハ・・・?」

 やめて、そんないたわるような目で見ないで。別に私、どこもおかしくないし、キミのために言ってるんだから。

「太陽はね、今から一度沈んで、新たなっ! 思いでやってくるから沈んでくんじゃないか。沈んだままでしょ!? キミは!」

 自分でもなに言ってんだってのは思ってるよ。でも言っちゃったんだから、最後まで言わないと。

「起き上がらなきゃ! 大丈夫! なぜならキミは」

 私は人差し指を立てて、

「太陽だからっ!」

 びしっと暁に染まるお日様を示した。すると、

「プッ・・・、アッハハハ!」

 大笑いされた。

「なっ、なにさ! 昔コトが言ってたやつだよ!?」

 私が頬を膨らませて怒ってもコトはなんのその。

「わかっておる、わかっておるとも」

「じゃなに?」

「まさかこのワシがお前に言われるとはの」

「へ?」

「ワシも落ちぶれたものじゃ」

 この神様見習いは・・・。親友と別れていつまで経っても立ち直れない私に叱咤激励してたあの頃のキミはどこ行ったの・・・?

「心配して損したよ」

「その言葉、そっくりそのまま返してやるわ」

 似たもの同士、ってところかな・・・?

「やっぱ私たち姉妹みたいだね」

「な、なんじゃ藪から棒に」

 コトは少しうろたえた様子を見せる。

「だって、ここまで息の合うもの同士なんだもん」

 生まれも育ちも生物的種類も、それどころか存在意義すらも違うけどなぜかすごく波長が合う。一緒に過ごしてきた時間が長いっていうのもあるかもしれないけど。

「決めた! 姉妹の間で心配ごとは作らない、これ約束ね」

「はあ?」

「いいでしょ? ね?」

 私がそう言うとなぜか嫌そうな顔をした。

「その言い方、あまりするでないぞ・・・」

「・・・? ・・・うん」

 なんで言い方につっかかってきたんだろ・・・。まあいいか。

「それはともかく、姉妹ならワシが姉じゃな」

 言われてすぐに反論した。

「えぇ? 私がお姉ちゃんに決まってるじゃん!」

「なにを言うか、ワシのほうが年上なんじゃぞ?」

「もう追いついてますけどー?」

「馬鹿め、ワシはもう三十じゃぞ?」

「え゛・・・」

 ここで衝撃のカミングアウトだァーッ!

「コトって年取るの?」

「体はほとんど取っていないに等しいがの。じゃが精神的にはワシのほうが上じゃ」

 ということはアラサーってわけか。おお、モノホンのロリババァだ。いやロリではないか。言ったらブチ切レられそうだけど。

「でも泣き虫じゃん? お姉ちゃんの私が慰めてあげるよー?」

「ほう? この前怖い夢を見てワシに抱きついてきたのはだれじゃったかのぅ?」

 お互い煽ってくスタイル。

「で、でも私のほうがお姉ちゃんなんだから!」

「いいんや、ワシのほうが姉じゃ」

「私だよ!」

「ワシじゃよ」

「私!」

「ワシじゃ!」

 

 

 

 

 『フライア、極東支部に到着しました。ブラッドはアナグラへ向かう準備をしてください』

 

 

 

 

「あ・・・」

「着いたの・・・」

 

      ◆◆◆

 

 ブラッド隊員が支部長室に横一列に整列すると、隊長が言った。

「ブラッド隊長、ジュリウス・ヴィスコンティ。以下隊員各位、到着しました」 

「ああ、極東支部へようこそ!」

 それに返したのは狐目と呼ばれるような細長い目をした男性。

「ここの支部長、ペイラー・サカキだ」

 この人は原作では無印、BURSTにも出演しているかなりの重要人物だ。私は原作知識があるからここの所属の主要な人員はみんな知っているけど、さすがにいきなり名前もなにもかも知っていたら気味悪がられそうだから、これからは初めて会ったというような感じで接しようと思う。

「エミールが世話になったそうだね。できれば実際に会ってみたいと思っていたんだ」

 そういえば、エミールさん。あの人、知らないうちに極東に戻ってたよな・・・。

「ああ、マルドゥークのことですよね! あれ追っ払ったのコイツですよ!」

 ロミオ先輩が私を指で示して言う。

 最終的に追っ払ったのは私じゃなくて神様見習いだけどね・・・。話がややこしくなるから言わないけど。

「君がやってくれたのか。私からも礼を言うよ、ありがとう」

「い、いえ・・・」

 あとでコトになんか言われそうだ・・・。

「さて、今すぐにでも任務に取り掛かってもらいたいところだけど、まずは改めてこの支部が置かれている現状を説明するよ? 今、極東支部はいくつか、大きな問題を抱えている」

 話をまとまると、ひとつは『赤い雨』による『黒殊病』の発病。そしてもうひとつが『感応種』と総称される新種のアラガミについてだ。感応種は『接触禁忌種』とも呼ばれる。

 感応種は『偏食場』、すなわち『感応波』を使って周りのアラガミを操る特殊な能力を持っている。この能力は簡単に言えば、私たち、第二世代以降の神機使いの感応現象(感情や意志の力を増幅し空間を越えて伝わるもの、とデータベースには記るされている)の強化版のことだ。あまりに強い感応現象なので私たちブラッド以外の神機使いは神機の使用が不可能になり、実質的に戦闘不能に追い込まれてしまう。これが一つ目の問題だ。

 感応現象についてもっと簡単に、かつ私の想像も交えて言えば、カリスマオーラみたいなものが感応種から発せられて周りのアラガミはそのカリスマ性に魅了されて従っちゃう。神機もオラクル細胞、つまりはアラガミだから、そのカリスマオーラにすくんで力を発揮できなくなる、みたいな。で、逆に私たちの感応派(血の力)は「お前ら行くでぇ!」「うぉっしゃあ!」「ばんざああああああい!」「撃てえええええ!」みたいな感じで仲間を元気づけるみたいなものだと思う。たぶん。

 そして私たちは感応種であるマルドゥークの感応波の干渉を押しのけてアレに勝っている、ということもあってこう頼まれた。、

「『赤い雨』と『感応種』、この二つの問題の解決を君たち、ブラッドにも協力してほしいという話さ、どうだろうか?」

 とのこと。隊長はそれに言葉を返す。

「ええ、承りました。最善を尽くします」

「ありがとう、こちらも惜しみなくサポートをしよう。それと、ここを自分たちの家だと思って暮らしてくれれば幸いだよ」

 原作通り、フライアのときと同じくブラッド専用の棟があって自室があるらしい。まあさすがにそこは原作通りか。

 と、いうところに背後のドアが突然開いて誰かが支部長室に入ってきた。

「博士ー! 歓迎会のスケジュール全員に聞いてきました・・・よ・・・」

 頭に黄色いバンダナをした若い印象を受ける男性だった。

「もしかして、ブラッドの人たち?」

「ありがとう、コウタ君。彼らがブラッドだ」

 サカキさんが言葉を返すと、コウタと呼ばれた男性は一礼する。

「初めまして、極東支部第一部隊隊長、藤木コウタです。これから、よろしくね!」

 事務的なことは敬語で、挨拶はタメ語でそう言った。

「ブラッド隊長、ジュリウス・ヴィスコンティです。こちらこそよろしくお願いします」

 対するうちの隊長は全部敬語で話す。なんか、すっごい対照的。

「今は歓迎会の準備してるから。その間に極東支部を見て回るといいよ」

 歓迎会、という言葉を聞いてナナが反応する。

「コウタさん! 歓迎会って私たちのですか? どんな料理が出るんですか?」

「いきなりそれかよ、図々しいぞ!」

 それにはロミオさんが苦笑しながら言った。まあでも、ナナらしいといえばそうだね。

「ああ、期待しといて! 極東のメシは美味いぜ!」

 そう言うと、藤木さんは去っていった。

「ホントですか!?」

「やったー!」

 相変わらずこの二人は・・・、と今度は私がナナとロミオさんを見て苦笑した。

「さて、それでは今回はこれで解散としようか。お疲れ様、コウタ君の言うとおりゆっくりと極東支部を回るといい」

 サカキさん、改めサカキ博士のその言葉で、みんな各々に散っていった。




 主人公ちゃんに小さな小さな変化が起きてますねー(若干ネタバレ)

 百合要素もなければ、戦闘もない。伏線と大量の説明はありましたが・・・。次のお話はねこめ待望のキャラが出てきます。ずっと書きたかった人ですね。まあ少女のキャラはみんなだいたい好きですけどね!(カップリング考えられるから) だれかは次回のお話でわかります(次回がいつになるとは言ってない)。

 それでは、今回もご精読ありがとうございました!

 あと、ものすごいいまさらなのですが、あけましておめでとうございますなのです!












 コノオハナシダケジャナクテ ボクノオリジナルノショウセツモヨンデクレルトウレシイナー


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23 おやくそく!

 はいどうも、とんでもなくお久しぶりです。ねこめでございます。

 やっとこさ戻ってくることができました!

 今回は極東の第一部隊の面々が登場するお話です。あの三人とどのようなお話を繰り広げるのか!? と、ちょっと気取って言えばそんなところですかね。
 それではどうぞ。


 さて、自由に見て回っていいと言われてもどこに行けばいいのやら・・・。フライアと同じようにゲームで行けなかったところを探してみるというのも手だけれど。

 とりあえずロビーに来てみると例の貴族の人が制服の少女と話しているのを見つけたけど、まあいつもの通りこちらには気づいてない。せっかくだし挨拶しておこう。

「あ、あの」

 背後から声を掛けると、

「ん? わあっ!?」

「うわっ!?」

 二人に驚かれた。おやくそくだよね。ここから話しかけた相手があたふたするのもおやくそく。

「や、やあ・・・。ブラッドのええと、君じゃないか。ごきげんよう」

 エミールさん、今ごまかしましたよね。完全に私の名前を忘れてますよね? 

「えっと、あなたがブラッドの副隊長さん・・・ですよね?」

 制服を着た少女もいきなりなにもないところから登場した私に驚いてるみたい。大丈夫、初対面の人にこういう反応されるのはもう慣れた。悲しくないわけではないけどさ。

「あ、はい。ブラッド副隊長、神戸クレハです」

 私は今では定型文となった言葉を発する。それに少女も丁寧に言葉を返す。

「私はエリナ。エリナ・デア=フォーゲルヴァイデといいます」

 ここでピンと来た人がいるかもしれないないけど、そう、この子は『エリック上田』ことエリック・デア=フォーゲルヴァイデの妹。この世界であの人が生存しているかはわからないけど、たぶんすでに・・・。

「私たちは極東支部第一部隊所属の神機使いで・・・」

「極東はどうだい?」

 エリナさんの話の途中でエミールさんが割り込んできた。

「フライアも優雅ではあるが、ここ極東支部も趣があるだろう。土と油の匂い、しかしそれは断じて不快なものではない。むしろ懸命に生きる人々の活力が伝わってくる。さらにそのなかで一杯の紅茶をの・・・」

「エミールうるさい!」

 今度はエリナさんがエミールさんの話をカットした。原作だとちゃんと全部言い終わるまで待ってたと思うんだけど、これもこの世界の独自シナリオ的ななにかなのかな。

「む、どうしたエリナよ。新たな仲間同士、親睦を深めるべく」

「私が話してる途中でしょ!」

「そう、ここにいるのはエリナ」

 知ってます。というかあなたもやっぱり人が話してるのを無視してしゃべっちゃうのね・・・。

「我が盟友、エリック・デア=フォーゲルヴァイデの妹、つまり」

 なんだか嫌な知識か呼び覚まされてくる。

「つまり・・・?」

 このままだとその場にいるのに空気化ということになってしまいそうだから一応聞き返してみると、

「このエミール=フォン・シュトラスブルクの妹だと思ってくれればいい」

 うわぁ・・・。

「誰があんたの妹よ!」

 私も保育所育ちだからほぼお姉ちゃん状態の人もいたし、実際に自分もその状態になったことはあるけど、ここまで断言してくる人は初めて見たよ。いや別にヘイトするわじゃあないんですけど、なんだかなぁ。

「あっ、いたいた。おーい、エミール! エリナ! 任務だ・・・げっ・・・」

 ふとエレベーターのほうから声がしたかと思ったら、第一部隊隊長の藤木さんが二人を呼んでいた。

「お前ら、またもめてんのか」

「あ、隊長! またエミールが!」

「おや隊長」

 藤木さんに声を掛けられると二人は藤木さんにいろいろと話し出した。それに藤木さんは、

「わかったわかった、エミールは人が話してるときに割り込まない、それと変なこと言わないこと。エリナもいちいちカリカリしない。それでいいか?」

 藤木さんはすごいなぁ。まとめ役でいかにも頼れる隊長って感じがする。うちの隊長も頼れるけどジュリウス隊長とはまた違った感じ。

「で、肝心のブラッドの副隊長さんはどこ?」

 本日二回目のおやくそく!

「ここにいまぁ〜す・・・」

 小さく手を上げて自分がここにいることを示す。

「え? うわっ・・・。ごめん、気づかなくて・・・」

「いえ、いつものことですから・・・」

 慣れたとはいえやっぱり忘れられるっていうのは堪えるよ。 

「そうだ! 自己紹介はもう終わったよな?」

 藤木さんはなんとか話を逸らそうとしてくれてるみたい。

「エミールのほうは前に会ってたんだっけ。まあ細かいことはあとにして、二人とも腕は確かなんだけど、見ての通りアレでな・・・」

 本当に見ての通りの二人だよね。

「む、改善点があるのなら、ご指導願いたい」

 それに反応するエミールさん。これが神様見習いなら「それをわざわざ聞かねばわからぬのかの?」と言っているところだろう・・・。

「私をこいつと一緒にしないでくださいよ!」

 対して怒鳴るエリナさん。ベクトルは違えどエリナさんも似たようなものだよね、というのも黙っておこう。

「ああもう、わかったってば!」

 また藤木さんが止めに入る。本当に藤木さんも大変だなぁ・・・。

「まあこれから仲良くしてやってよ」

「は、はい・・・。よ、よろしくお願いします」

 藤木さんに続いてエミールさんも意気込んで言う。

「もちろんだ。我がライバル、極東で共にさらなる高みを目指そうではないか」

「・・・」

 エリナさんは少し私を睨んだあと、ただ一言。

「よろしく」

 それだけ言って私から目を逸らした。嫌われてるけど私なんか悪いことしたかなぁ。そういえば原作でもツンツンした子だったような。

「隊長、今回はどのような任務だ」

 エミールさんの質問に隊長は思い出したように話し始めた。

「ああそうだった。任務っていう任務じゃないんだけど、歓迎会の準備だ」

 あれ、出撃じゃないのか。

「そのようなことか、その程度の任務、このエミールに任せておけば万事安心だ」

 万事不安でしかありません・・・そんな言葉はないけど。エリナさんも小さくため息を吐いていた。その様子を見て藤木さんも苦笑い。そんな藤木さんが私に言う。

「・・・ま、まあ、そういうことだから。えっと、名前なんだっけ」

「神戸クレハです」

「じゃあ、クレハさん。またあとで。準備ができたらまた呼びに来るよ」

 すると、藤木さんは二人を連れてラウンジへ去っていった。

「騒がしい連中だったのう」

「まあ、うん・・・」

 実は最初からいたコトの呟きに私はあまり悪く言うわけにもいかず苦笑気味にただそう返した。

「でもこの世界にはあれくらいのほうがちょうどいいのかもしれぬの」

 いつ死ぬかわからないこの世界ではあれくらいの明るさがあったほうがいい、ということを意味した発言だと思ってこれも適当に「そうだね」と返しておいた。でもそのあと

「・・・私も少しは見習わなきゃなのかもね」

 それにコトは「そうじゃの」と私と同じように簡単に言葉を返してくる。特に私にそういう、明るくなることを強要するつもりはないのかな。

「それじゃ、準備ができるまで新しい自室でのんびりと・・・」

「あ、ブラッドの副隊長さんですよね」

 自室でのんびりしようと思ったらオペレーターの人らしき人から話しかけられた。この人はちゃんと私に気づいてくれたみたい。フランさんもちゃんと私に気づいてたあたり、やっぱりオペレーター職の人はいろんなことに気づけなきゃいけないから人を探すのもうまいのかね。

「はい、そうですけど」

「私は極東支部オペレーター、竹田ヒバリといいます」

 竹田ヒバリと名乗ったオペレーターの人はぺこりとお辞儀をした。動作からベテランの風格が滲み出ていてフランさんとはまた別の『できる女性』の雰囲気だった。

「わ、私は神戸クレハです・・・!」

 でもやっぱり私はこんなのなんだよねぇ。できる感じの女の人と、初対面でもちゃんと喋れるようになりたいよ・・・。

「極東支部はどうですか?」

 竹田さんは私に質問した。その声はさすがオペレーターと言ったところか、非常に聞き取りやすい。

「・・・とても居心地がいいです!」

「気に入っていただけてなによりです」

 竹田さんは笑顔でそう言った。そのまま話を続ける。

「さっそくですけど、業務の話になりますがよろしいですか?」

「あ、はい。大丈夫ですけど」

 話の内容は任務の受注の仕方、ターミナルの扱い方、出撃方法など。そこに加えてこんなことを言われた。

「その、到着されたばかりで申し訳ないのですが・・・」

 なんだかまた嫌な予感がする・・・。

「任務の依頼がきています」

 予感的中・・・。いやでも、

「任務って普通の討伐任務ですか?」

 もしかしたらと思い、当たり前のことを聞いてみる。

「普通の討伐任務です」

「討伐任務ですか・・・?」

「え? 討伐任務ですよ」

 何度聞いても返ってくる言葉は同じ。まあそりゃそうか。自分たちの歓迎会を自分たちで準備するのもおかしいもんね・・・。

「ああでも、支部周辺に出現した小型アラガミの討伐です。ブラッドの皆さんならすぐに終わりますよ!」

 あんまり期待しないでくださいよ・・・。でもここはブラッドの名誉に泥を塗るわけにもいかないか。

「わ、わかりました。すぐに終わらせてきます」

 ちょっとつっかえたけど、なんとかビシッとそう答えた。

「では出撃の準備ができたら、カウンターで受注をお願いしますね」

 そう言うと、竹田さんはロビーの下の階に続く階段を下りていった。

「はああぁ〜・・・」

「まあ今回は同情してやろう、嫌そうな態度も取らんかったからの・・・」

 それはもう深くため息を吐く私にさすがのコトも気の毒そう。

「私も歓迎する側がいいよー・・・」

「今回ばかりは致し方ない、我慢せい・・・」

 うわぁん、なんでこんなときに来るんだよー・・・。アラガミさん空気読んでよー・・・。

まあぐずってても仕方ない。任務終わった頃には歓迎会の準備も終わってるかな?

 




 はい、第一部隊にたじたじな空気さんでした、と。
 やっぱりつなぎのお話になってしまいましたね・・・。しかもバトルがないのもありますが、長いこと書いていないとなかなかにテンポが悪いです。もっと頑張らないとダメですね・・・。


 ここからは作者個人の話になります。
 生活は全く落ち着いていませんがモチベが戻ってきて、ネタも少しずつ浮かんできたのでお恥ずかしながら戻ってきた次第です。しかし、今となっては世の中にGERまで出てしまって、作者は遅れに遅れております・・・。今さらGE2かよ! と思う方もいるかもしれません。誰にも読んでもらえないかもしれません。それでもやっぱりまだこのお話を続けたくて書いてますので、カタツムリの歩みでも更新して参ります。
 まあなにが言いたいかっていうと、


 わたくしごときの作品を最後まで読んでいただけてありがとうございます! そんな御心優しいそこのあなた、いいねの一言でもいいから感想書いていきませんか!!!

 ということです。やっばりね、感想ってモチベーションに直結しますね・・・。


 長々と茶番失礼いたしました。
 ともかく、ここまで読んでいただいた読者の皆様には本当に感謝いたします。次回はなんとか二週間以内には更新できるようにしたいです。


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24 ひとりじゃできませんし!

 はい、どうも平均睡眠時間は三時間、ねこめでこざいます。いやね、寝る時間がないんですよほんとに・・・。

 そんなことはどうでもよくて、今回はほぼオリジナルというわけで、あのお嬢様が出てくるお話にしてみました。百合分は弱いですがその代わりにバトルシーンを多めにしてみました。

 それではどうぞ。



 任務場所は贖罪の街。

 ここにはアラガミ出現直後にたくさんの人間がこの街に集まっていたらしくてバリケードもそのままになっている。いわるゆ当時はシェルターになっていた場所がここ。おそらくアラガミの進化も進んで、そのバリケードも意味のないものになって街は崩壊、ゴーストタウンになってしまったというわけ。都会の象徴である高層ビルにはアラガミに食い破られ、大きな風穴がぽっかりと開いてしまっている。夜にでもなればどこぞのゾンビホラーゲームのような街並み、もしくはそれ以上に酷い風景だろう。

 今の私にはアラガミなんかじゃなくて、動きも遅くて大きさも人並みのゾンビのほうがまだマシなのかもしれない・・・。その場合は私たちはゴッドイーターではなく、○ウイルスを支配した新生物になってるわけで。まあ厳密に言えばゴッドイーターもオラクル細胞を打ち込まれた半アラガミの新生物という解釈もできるけどね。

 話がそれたけど、このフィールドの名前が『贖罪』の街というのもなかなか皮肉が効いているね。

 というわけで討伐対象はオウガテイルが二体、コクーメイデンが四体とのこと。

 そうそうまた別の話になるけど、前にコクーンメイデンは直訳でと『サナギの少女』と訳したね。この前ノルンでいろいろ調べてたんだけど、アイアン・メイデンっていう人が一人入る棺桶型の形の中に針がいっぱいある拷問器具を見つけたんだよ。どうもそれとコクーン、つまりサナギを掛け合わせたのが由来のアラガミっぽいね。それがどうしたって話だけど、このことを気づいた時に「自分、なに直訳でドヤ顔解説してんのさ・・・」ってなって一人で顔面真っ赤になったから話させて。ただこの世界でキャラの由来とか設定とかその他もろもろ話すとメタ発言でしかないんだけどね。まあ私は外から来た存在だし多少の発言は許してください、ネタバレはしませんので・・・。

 さて話を戻して、この程度の敵は一体ずつ倒していけばなんなく倒せるはず。神機ももだいぶ強化されてきたし。でもやっぱり、

「今日もお仕事だよ・・・」

 いつも通りの私ですよっと・・・。

「・・・あなたもうちょっとやる気ってものはないわけ?」

 と、隣で言うのは制服とベレー帽がよく似合う緑髪の女の子。

「すいません、エリナさん・・・」

 エリナさんです。人出不足ということで今回、ペアを組むことになった。隊長さんだけは一人でもいけるということでペアはなし。私の場合はソロ任務だと、まあお察しの通りだからついてきてもらったというわけ。原作だと別の任務をこなしたあとから一緒に任務に行けるようになるんだけど、相変わらずこの世界はそれを無視してる様子・・・。それでもめちゃくちゃすぎだよ、この世界。

 それにしても、この子はちゃんと神機使いにおける使命感のある子だもんね、私みたいなのはイラつくだろうね。

「はあ・・・、なんでこんなのに私がついていかなきゃならないのよ」

 ため息を吐いて額を押さえるエリナさん。こんなので誠に申し訳ないです・・・。

「それで、 作戦とかはあるの?」

 ブラッドなんだからそれくらい考えてるんでしょ、と私を一瞥する。しかし、作戦ねぇ・・・。

「コクーンの包囲網の中に突っ込まない、ですかね・・・?」

 戦術理論もちゃんと勉強してない私のおつむじゃ大層な作戦は思いつかない。

 エリナさんは私の発言に「ふーん」と返す。あんまり信用されてないね、これは・・・。

「まあいいわ、さっさと終わらせるわよ」

 そう言うと待機場所の崖から一人で飛び降りてしまった。

「あっ、ちょっと待ってください!」

 私も急いでそれに続く。

「ま、まずは離れてるのを一体ずつ倒したほうが・・・」

 前を歩くエリナさんに一応申し訳程度の作戦を提案するも、

「じゃああなたはそうしてれば? 私が片付けるから」

 全然聞いてくれないよー・・・。

「広場のほうに四体もいる・・・」

 EとFエリアに四つの赤いアイコン、それが動かないからたぶんコクーンメイデンだよね。離れてるどころか一箇所に密集してるよ。つまりこの人は包囲網に突っ込もうとしていると。

「ダメです!」

 とっさにエリナさんの腕を掴む。すると睨まれた。

「なによ?」

「敵陣に突っ込むなんて自殺行為です!」

 何度そういう人を見てきたことか。

「それに一人だけで頑張っても勝てませんよ・・・」

 私の言葉はエリナさんには届かなかったようで、

「あっ・・・」

 手を振りほどかれた。

「舐めないでくれる?」

 そう言ったエリナさんの私を睨む目は本当に怒ってた。もしかして私、なにか逆鱗に触れるようなことを言った・・・?

「見てなさい!」

「え? あっ」

 エリナさんはコクーンの群れに向かって走り出して飛ぶと、

「やあっ!」

 コクーン目掛けてブリリアンスと呼ばれるチャージスピアを重力に任せて突き刺す。しかしこの程度じゃ怯まないコクーン。

「まだ!」

 まだじゃないですよ、エリナさん。あなたの後ろの別のコクーンがレーザーの発射準備してるんですよ、打ち方よーいしてるんですよ。・・・ああもう!

「こっち向いて!」

 弾丸を何発か撃ち込む。するとこっちに注意は来なくともダウンさせることはできた。次は奥のほうにいる二体。こちらもまさに発射準備の最中。

「動かないで!」

 二体に交互に弾を撃ち込む。とりあえず怯ませて隙を作ることには成功した。エリナさんのほうを見るとやっと一体コクーンを倒したようだった。

「やった!」

 一体だけなんだよなぁ・・・。それにそのまま戦ってたら的になってしまう。

「エリナさん一回戻って!」

 声をかけても、「このまま押し切る!」と言って聞いちゃあいない。

 私がそう思っている間にもエリナさんは私がダウンさせたコクーンに捕食攻撃を食らわせる。と、狙っていたのか否か、その捕食の隙に奥のコクーン二体がエリナさん目掛けてジャベリンを発射した。

「危ない!」

「え?」

 私はとっさに走り出して神機を剣形態に変形させると装甲を展開した。

「ぐうっ・・・」

 ジャストガードにはならなかったけど一応攻撃は防ぐ。

「頼んでないのに・・・」

 こんな時に憎まれ口を叩いてる場合じゃないと思うんですけどねぇ・・・。

「そんなことより、倒さないと!」

「わ、わかってるわよ!」

 私の声に返事をしてから目の前のコクーンに連続で突き攻撃を食らわせた。やがてコクーンはだらんと脱力する。どうやら倒したみたい。

「次はあれね!」

 エリナさんがまた一人で走り出す。なんで私と組むのは突っ込んで行く人が多いんだろう。

 エリナさんが片方を攻撃している間にもう片方に銃撃を浴びせてダウンさせる。それがダウンしても、さっさと倒すべく、捕食などせずに私はそのまま引き金を引き続けた。そこでうまくいかないのが私の人生というもので・・・。

 

「グワアアアア!」

 

 背後から咆哮が聞こえてくる。はっと後ろを見るとオウガテイルが二体合流してきてしまっていた。

 エリナさんを見るとコクーンの体から飛び出てくる針を避けつつ未だに倒せていないみたい。私もあとちょっとのところで目の前のコクーンを倒せる。というところで二体のオウガテイルが迫ってくる。私ではなくエリナさんに・・・。

 急いで剣形態に切り替えるとダウンしているコクーンに鉄乙女剣を突き刺した。剣はコクーンを貫通し、絶命させる。それを確認するとすぐに銃に戻してオウガテイルに銃口を向けた。

「避けないで!」

 真っ直ぐに動く的なんて簡単に撃ち抜ける。

「ギャア!?」

「ゴオア!?」

 二体のオウガテイルにそれぞれ一個ずつ氷味の弾丸をごちそうしてあげた。こんな言い回しになるほどに、私も染まってきてしまったのかも・・・。

 ひるんだ二体はこりずにまたエリナさんへと走っていく。

「そっちがその気なら・・・」

 私はエリナさんが戦う背後に陣取ると、

「来ないで!」

 一回のトリガーで二発出てくるバレッドをマシンガンのように連射した。これにはオウガテイルもたちまち穴だらけ。残弾はすっからかん。

「こっちは終わった、よ?」

 エリナさんが振り返ったときには、

「全部終わりました・・・!」

 私がオウガテイルを二体、肉片に料理したあとだった。もちろんのことそれ以外にも周りにはコクーンの亡骸だらけ。すぐに霧散したけど。

「ご、ご苦労様・・・」

 エリナさんがうろたえている。まあ知らないうちに敵が全部死んでたらなんじゃこりゃってなるよね・・・。

「か、帰るわよ」

 エリナさんはちょっと居心地悪そうに言ってヘリの降下地点に歩き出す。

「は、はい!」

 私もすぐにエリナさんのあとをついていった。

 

 

 

「・・・」

 気まずい、話すことない・・・。

「ねえ」

「はいっ!?」

 急に話しかけられて、私は緊張もあってつい驚いてしまう。

「・・・あなた、そのヘタレどうにかなんないの?」 

 エリナさんにその反応を見て呆れられた・・・。

「善処します・・・」

 性格だもん、仕方ないもん・・・。

 そんなところに突然無線が入った。

『緊急事態発生!』

 なんか今、無線からすごく嫌な単語が聞こえてきたような。

『想定外の中型アラガミが、作戦エリアに向かっています!』

 それを聞いたときの私は死んだ目でエリナさんを見ていたと思う。

「な、なによ・・・」

「これって倒さなきゃいけないやつですよね・・・?」

 対するエリナさんは蔑んだ目で私に「当たり前でしょ」と返した。デスヨネー。

 種別はコンゴウ。レーダーを確認すると出現エリアはD。向こうが高台から降りてしばらく歩いてくれれば奇襲を仕掛けられるかな。とか思ってるとエリナさんが勝手に走り出した。ああもうまただよ!

「なっ、なによ!」

 また持前の瞬発力でエリナさんの腕をつかんで引き止めた。

「まだ行っちゃダメ、です・・・」

 勢いは動作だけで、やっぱり私の声はたどたどしいまま。

「どうしてよ」

 聞いてくれるならちゃんと言わないとね。

「奇襲を、仕掛けるんです」

「奇襲?」

 エリナさんが首を傾げて、そんな作戦成功するの、と怪訝な目で返してくる。コンゴウは耳がよくて索敵能力が高いからそう思うのもわかる。でもね、

「私に任せてください、私ならできます」

 いやこう言うよりは・・・よし、

「私とあなたならできます!」

 今の私の神機の火力じゃ絶対に仕留め切れないけど二人掛かりならギリギリでゴリ押せるはず。それに今の私だけじゃスキルである『ハイドアタック』もついてないし明らかに火力不足。ハイドアタックっていうのは相手に気づかれていなければ攻撃力が三倍に跳ね上がるスキルのこと。そのスキルに色々なステータス上昇系のスキルを組み合わせると化け物レベルのダメージを叩き出すことができるけど、あいにくそれすら持ってない。だけど、二人掛かりなら。

 そんな理由を知らないエリナさんはなにかを思ったのか、じっと私の目を見つめた。

「・・・わけわかんないけど。その作戦、乗った」

 そう言うとそっぽを向く。

「だからもう離してよ・・・」

「あっ! ごめんなさい!」

 私は慌てて手を離した。そんな私を見てエリナさんは少し笑ってくれた。なんでかよくわかんないけどなんとなく嬉しい。保育所のとき、小生意気な年中組の子に感じたのと同じような嬉しさだった。

「それで奇襲って?」

「あ、それでですね」

 

 

      ◆◆◆

 

 

「ほんとにうまく行くの?」

「大丈夫です。私を信じてください」

 エリアのI、教会に続く道に潜む私たち。音を立てないようにしゃがんでじっとしていると咆哮が聞こえてきた。チラと少しだけ顔を出してうかがうと、エリアDの壊れたビルの隙間から降りてくる巨大な猿の姿が見えた。コンゴウはアラガミ特有ののしのし歩きで段差を降りていく。

 さあここからどこに向かうのか。こっちに歩いてくるルートだったら一度教会を抜けて反対側に遠回りして背後を取るしかないかな。

 果たしてあれが取ったルートは私たちの向かいにある建物、エリアLに向かうルート。私たちはコンゴウが建物に入り切ったところで忍び足で追跡する。建物に入ってすぐ右には素材の回収場所、彼らにとっての捕食場所がある。もしもそこで捕食を始めてくれればもっと奇襲を仕掛けやすくなるんだけど。そう思っていたら本当に捕食行動を始めた。これはついてる!

 私はエリナさんに建物の上に登るように指示する。エリナさんはうなずくと、指示通りジャンプしてなんとか建物に手をかけるとその上に飛び乗った。彼女が私に手を振って準備OKの合図をするのを確認してから私も建物に入る。そして悠々とお食事中のコンゴウの背後に忍び寄った。

 深呼吸をして銃口をコンゴウの背中へ向ける。銃口と目標の距離は数センチ。ここまで距離を詰められるのも自動空気スキル様々だよね。こういうことができるから気配を悟られないっていうのはやっぱり大きい。特にこういう第六感の働く野生生物相手には。

 使用するバレッドは二種類。

 一つは一発当たれば、敵に張り付く球が発生し数秒後、その球の自然消滅とともに爆発する(爆発モジュール二つ重ね)バイ○ハザードにも出てくるマインスロアーのような、絶対もうすでに誰か作っていてもおかしくない自作弾。それにGEBのときによろず屋さんがブラスト用のバレッドとして同じようなものを普通に売っていたような気がする・・・。一応バレッド名はそのまま『マインスロアー』という名前にしてみた。『徹甲榴弾』って名前も考えてみたけど、別に徹甲弾みたいに弾頭が尖ってるわけでもないし、装甲をぶち破ることができるわけでもないからやめておいた。

 もう一つは単純に連射弾に弾丸を追加、連射弾は単発で、弾丸のほうは連射弾が当たったらすぐにその弾丸が発生して追加ダメージを与えるというマシンガン戦法用のバレッド『ただの連射弾』。これも絶対誰か作ってるけど、別になにがで調べたわけじゃないし、ネーミングセンスも含めて多めに見てくださいませ・・・。さてこれらをどう使うかというと、まあ実演したほうが早いということで。ようし。

「当たって!」

 こんな至近距離で外れるわけはないんだけど、それでも言わなきゃいけない使命感と共にまずはマインスロアーを発射。すかさず弾をリロード、というよりはOP補充。

「ギャア!?」

 音と痛みに反応してコンゴウが振り向くと同時に、

「いち・・・」

 後退しながら連射弾を乱射する。その弾幕をコンゴウは無理やり強行突破しようと弾丸に当たりながらも、後ろに走りつつ弾幕を展開する私を追いかけてくる。だんだんとコンゴウとの距離が短くなっていく。

「にぃ・・・」

 建物の出口に差し掛かる。私はそこからバックステップで一気に後ろへ下がって距離を開けた。私を追ってコンゴウもその入口から飛び出してくる。そして次の瞬間、

「さんッ!」

「ギャアアアアッ!?」

 コンゴウに張り付いていた弾が消滅すると同時に、奴の背中から派手に爆発が起きた。

「やった!」

 連射弾で稼いだダメージに加えてこの爆発の威力、ひるまずにはいられまい。

「エリナさん!」

「了解!」

 そこですぐに建物の上で待機していたエリナさんに声をかける。

 ゲームだと『スカイフォール』っていうブラッドアーツでも取得しない限り下突きアクションはできない。でもこの世界は私にとってはプログラムが支配する世界じゃない、多少は融通が利く現実・・・。だったらめちゃくちゃやってやろうじゃない!

「くらえええええ!!」

 エリナさんはブリリアンスを真下に突き出してコンゴウの体を串刺しにした。落下による加速も相まって大ダメージになる。ブリリアンスはコンゴウの体を完全に貫通し、地面に突き刺さっているようだった。いわゆるでかい釘で軽く貼り付けになっている状態。コンゴウは必死に抵抗するけど、エリナさんも負けじとロデオ状態になりながらもコンゴウを押さえつける。なんか別の狩りゲーでこんなの見たことあるな・・・。あとこれ、いまさらだけど私も前にやったことあったわ・・・。

「こっからどうすんの!?」

「そのまま貼り付けにしていてください!」

 エリナさんにそう言って、私は暴れるコンゴウの顔に鉄乙女剣を振り下ろして地面にコンゴウの顔がつくようにする。そしてまた銃形態の尾弩イバラキに神機を戻すとコンゴウに銃口を咥えさせる。残虐だけどそこに、

「おらああああああああああああ!!」

「ゴオオオオオオッッッ!!」

 激辛の飴玉、すなわち炎属性の弾丸を出血大サービスとばかりにこれでもかとごちそうしてやった。弾が切れればリロードして、

「おかわりだよ!」

 さらにトリガーを引く。またなくなればリロードしてさらにさらに弾丸をぶち込む。

「そろそろお腹いっぱいでパンパンかな?」

 コンゴウの抵抗が目に見えてきた。ここまでくれば、

「エリナさん、トドメです!」

「えっ、あ・・・はい!」

 下がってから、なんだか若干恐怖が見えるエリナさんにそう叫ぶとエリナさんは一度コンゴウの背中からブリリアンスを抜いて、

「落ちろ・・・、落ちろ・・・!」

 コンゴウの背中に陣取り、その背中を何度も突き刺した。最後の一突きは高く飛んで、

「落ちろおおおオオオオオオオオ!!」

 落下に任せてコンゴウの背中にブッ刺した。それと同時にコンゴウの背中から飛んで地面に着地するとブリリアンスを一振りした。これにはさすがのコンゴウも落ちたようで、体を大きく跳ね上げ、バッタリと地面に倒れた。

『あ・・・アラガミ、沈黙、です・・・」

 あ、ヒバリさんがドン引きしてる。いくらアラガミとはいえ残酷すぎたかね・・・。

「あの、お疲れさまでした」

 肩で息をするエリナさんに声をかけても無反応。なんだかちょっと手が震えてるみたいだった。もう一度「あの」と声をかけてみると今度はちゃんと反応してくれた。

「・・・なっ、なによ」

「いや、あの・・・大丈夫ですか?」

「な、なにがよ」

「手が・・・」

 手どころか声も震えてる。

「こっ、これは勝利の喜びの印だから!」

 いやどう見ても恐怖の震えですよね、って言いたかったけどまた怒られそうだからやめておいた。

「なんかすいません・・・」

 気づいたら私は本能的に謝っていた。当たり前だけど、なんで謝るの、と言葉が返ってくる。自分でも理由がうまく出てこなくて迷った挙句こう言ってみた。

「なんか、怖い思いをさせちゃったみたいで・・・」

「はあ? 怖かったわけ、な、ないでしょ!?」

 おー、震えてる震えてる・・・。でも怖かったのはたぶん私のあの所業だよね。でもね、私みたいな雑魚が勝つためには多少はああいう悪知恵が必要なのよ・・・。

「そりゃ、アラガミの背中に乗らされてあんな目に遭わされるとは思わなかったけど、それとは話が違うんだから!」

 あれ、私じゃないの・・・? 神様見習いいわく、私がガチ戦闘モードに入ったらヤバいって聞いたから気になったんだけど、違うならまあいいか。

「そんなことはいいから! 今度こそ任務が終わったんだから帰るわよ」

「そ、そうですね! 帰りましょう!」

 コンゴウのコアを回収すると、ブリリアンスを肩に担いでヘリの降下地点に歩き出すエリナさん。その横を私は歩いた。静かになった道中でエリナさんは神機の柄を撫でながら「今日は大変だったね、オスカー・・・」と呟いた。そういえばエリナさんって神機に名前をつけてるんだよね。私もつけてみようかな・・・いや、弾の名前の時点でネーミングセンスが酷いしやめとこ。ん? ネーミングセンス、神様見習い・・・。あっ・・・、いや深く考えないほうがよさそうだね。

「ねえ・・・」

「はい?」

 そこまでお互いに全く会話がなかったところに、ふとエリナさんに話しかけられる。

「あなたってさ、ブラッドっていう特殊部隊から来たんでしょ」

 その質問に私は特に付け加えるわけでもなくうなずいた。

「特殊部隊ってことは強いんだよね、しかもあなたはその中でも強いほうなんだよね・・・」

「いや全然強くないですよ・・・! だってほらこんなドジでヘタレで臆病な私ですよ!?」

 あまりに思い違いな言葉がきて全力否定する。なのにエリナさんは、

「ふうん・・・、あれがヘタレで臆病ねぇ」

 ジトッとした目でこちらを見てくる。さっき私のことを臆病なんだとか言ってきたのに・・・。あのときは戦闘がうまく進んでたからノリに乗ってただけなのに・・・。その旨を話してもエリナさんはジト目をやめてくれない。でもね、嘘じゃあないんだよぉ嘘じゃぁ・・・。

「・・・まあいいよ」

 それで会話は終わったのか私から目を離す。嫌われてるのか、好かれてはいなくとも能力は認めてもらえてるのか、よくわからない関係になっちゃったね・・・。

「あなたさ・・・」

 そこでやっぱり会話は終わってなかったみたいで呟くように言った。

「やるじゃん・・・」

「えっ・・・?」

 反応してから気づいた。これは原作でいうキャラクターエピソードのムービーに入ってるってやつか。でもタイミングがおかしいしここから先の会話はないはずなんだけど。

「私、無傷で任務成功させたのこれが初めてなんだ・・・」

 普通に先の会話がある。しかも原作よりやけに弱気・・・。それは置いといて、無傷なのは私がコクーンの攻撃から庇ったのもあったしね。

「それに中型種にトドメさせたのもこれが最初だし・・・。いっつも最後は隊長やエミールが刺すの」 

 あれは槍のほうが火力出るから、あと自分の仕事減らすためでも任せただけなんだけど・・・。

「ブラッドってさ、私みたいなのと組んでも完璧に仕事をこなすんだね・・・」

「いやエリナさんがちゃんと指示に従ってくれたからですよ!」

 なにせ私の戦法は一人じゃ絶対できないから。自動空気スキルはただ気配が限りなく0に近くなるだけで、単独での直接戦闘にはなんの役にも立たない。仲間がいればただ固定砲台になってればいいだけになるけど。それにこの前にも後にも、簡単には指示通りに動いてくれなさそうな人がいるんだよね。御曹司とか誤射姫とか借金ボーイとか。

「今日使った戦法だって、ひとりじゃできませんし!」

 ですからエリナさんもすごいんです、となるべく元気づけるように笑顔で言ってみる。実際、私とエリナさんの戦力差ってガードが使えるか使えないかの違いでしかないだろうし。ちゃんと周りを見るようにすればブラッドアーツも近接攻撃も使えない私なんかよりもっと強くなるはずだし。

「エリナさんがいたから私も無傷でいられるんですから!」

 すると弱気な感じに小さな怒りを含む。

「うそは言わないでよ」

「うそ?」

「私を庇ったときに手かすってるじゃない」

 自分の手を見ると赤い線が入っていた。ジャストガードじゃなかったからはじき切れなかったレーザーが手の甲に当たったのか。

「こんなの全然ケガでもなんでもないですよ」

「それでも私のせいでしょ・・・」

 そんなの気にしなくていいのに。でもねぇ、わからなくもないんだよねその気持ち。自分のせいで人にケガさせちゃったときの罪悪感。

「えっと、それじゃこうしましょう!」

 私はこんな提案をした。

「また一緒に任務に行ってください! それで借りは返してもらったことにします」

 きっとエリナさんは素直に言うこと聞いて動いてくれれば今までで一番戦いやすいペアのはずなんだ。だから任務に同行してくれるだけでも十分借りは返してもらったことになるはず。

「え、それじゃまた・・・!」

 その意見にエリナさんが眉を下げて抗議しようとするところに言葉をかぶせる。

「そのときはまた次のときに借りを返してください」

 まあ成長しない限りエンドレスなんだけど。結構鬼畜じゃないかって? まあダメだったらまた別なのを考えるよ・・・。

「・・・いいわ、次は庇われないようにしてやるわよ」

 黙って考えてからエリナさんはうなずいた。

 

 

 

 気づけば私たちはヘリの降下地点に到着していた。そこへちょうどヘリの音が聞こえてくる。ヘリに乗ってからというもののお互い一切会話をせず、ただ窓の外に広がるアラガミに食い荒らされた街を眺めているだけになる。少しだけエリナさんの様子をうかがうとやっぱり落ち込んでいるようだった。ときどきヘリの音に掻き消される小さなため息をつく。その様子を見て私までなんだか落ち込んでくる。こんなふうに自分の実力に落ち込んでる人って、どんな言葉をかけてあげればいいんだろうね・・・。それもそうだし、私も本当は自分の実力を見つめて、もっと頑張らなきゃって思わないとダメなんだよね・・・。

「あの、エリナさん」

「なに」

 こっちを見てはくれないものの、一応無視はされないことに安心する。

「・・・やっぱりなんでもないです」

「なによ、気になるじゃない」

「・・・怒りませんか?」

 私がびくびくして言うと「いいから言って」と急かされた。

「じゃ、じゃあ言いますね」

 怒られる・・・。

「誰にも負けたくないと思うの、すごいと、思います・・・」

 これ、私は負けてもいいと思ってるって言ってるのと同じだし・・・。

「・・・あなたにも負けませんから」

「は、はい!」

 私はなんか挑戦予告されてるみたいで慌てて返事をした。「すぐにエリナさんが私を追い抜きますよ・・・」とは言えずに。

 それからエリナさんは声をかけても一切反応してくれることはなかった。

 




 はい、というわけでクレハがエリナさんと任務に行くお話でした、と。
 いつも通りの主人公ちゃんのヘタレっぷり。そしてなぜか原作より当たりが強いエリナさん。まあ初期のエリナさんってこんな感じだったっけなー、と思いながら書いたらこうなりました・・・。
 そして自称自作バレッドの登場。こいつは実際にねこめがゲームのほうで使ってるバレッドですね。部位破壊したいときとかはなかなかに使えますよ! 作り方が知りたい方は聞いていただけたらツイッターかどこかに掲載致します。ただし、ねこめのツイッターは異常に闇があるので閲覧する際は自己責任で・・・!(@nekome0427)

 次の更新は一ヶ月以内にはしたいですね。その間にオリジナルのほうも読んでいただければ作者的には嬉しいです!

 それでは今回はこの辺で、ご精読ありがとうございました!

 

 あっ、そうだ(唐突) 容姿しばりが百合を書く上で異常に書きにくいことに気づいたので近々、設定の説明回を潰して、オリジナルな過去編のお話書きますゾ。


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