三兄弟の系統樹 (出来立て饅頭)
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第一話 系統樹の始まり

二次創作の小説を書きたくなった作者ですw

この作品は<Infinite Dendrogram>の二次創作です。ジョブやモンスターなどはいくつか捏造しますので、それらを踏まえてお読みください。


「<Infinite Dendrogram>は新世界とあなただけの可能性(オンリーワン)を提供します」

 

 ――<Infinite Dendrogram>――

 

フルダイブ型VRMMOでは唯一の成功例。今までに発売されたVRゲームはどれもこれもが失敗作だったと言われている。中には健康被害まで出したゲームもあるのだから、失敗作と言われるのもわかるという物だ。

 

この<Infinite Dendrogram>もリリース当初はまた失敗作だろうと言う意見が大半だった。何せリリース直前まで何の情報もなかったのだから疑われるのも当然だろう。しかし、極少数の購入者によって評価はがらりと変わる。

 

リアルと変わらない世界に人間と疑ってしまうNPCの受け答え。迫力満点すぎるモンスターにリアルの一時間がゲーム内では三倍になる技術などなど購入者の口コミやネット掲示板による書き込みで<Infinite Dendrogram>が失敗作ではない本物であると世の中に認知された。

 

<Infinite Dendrogram>は超人気ゲームとして世界規模で売れに売れまくっている・・・・

 

 

 

『じゃあ、ようやく手に入れたんだな!』

「ああ・・・遅くなってしまって悪かった」

『気にするな!あれほど人気なんだ。むしろもう少しかかるかと思っていたぜ?』

 

俺こと水谷 高次は兄である水谷 流と電話で話している。話の内容は人気ゲームであるフルダイブ型VRMMO<Infinite Dendrogram>をようやく俺が買うことができたことを兄に報告したところだ。

 

半年前に兄から『一緒に<Infinite Dendrogram>をやらないか?』と言われてようやく手に入れることが出来た。最初は<Infinite Dendrogram>がどう言う物かわからずに兄に呆れられた。

 

その頃の俺は日々の時間と仕事に追われて少々活力不足だった。兄ほど多趣味でもないし近頃は心躍るゲームも出なかったから、世の中の流行を知らずに過ごしていた。

 

兄に言われて調べてみると、VRゲームとして初の成功例としていろいろ情報はあふれていた。曰くリアルと疑うような世界。曰く人ではないかと疑うほどのNPCの受け答え。そして何より驚きなのがゲーム内では三倍の時間で時が進んでいると言うのだ。リアルで一時間遊んでもゲーム内では三時間遊んだことになる。

 

調べて行くにつれて久しく忘れていた高揚感を感じ、すぐさま購入しようとしたがあいにく俺の知っている購入先ではどれも品切れ。店舗はおろかネット通販ですらいつ入荷できるかは不明と言うのだから、人気の高さがうかがえる。

 

そんなこんなで手に入れるのに半年もかかってしまった・・・ちなみに俺達は三兄弟なのだが、末っ子である水谷 芳樹も兄は誘ってすでに手に入れている。ただ、二人はまだゲームを始めていないとのこと。せっかくだから昔みたいに三人でやりたいと言ってくれたのだ。

 

・・・俺としては手に入れるのに半年もかかってしまったので申し訳ない気持ちでいっぱいだ。二人には何かお礼を考えるとしよう。

 

『じゃあ、前に相談した通りアルター王国所属で始めるよな?』

「もちろん」

『よし!じゃあ、一足先に待っているぞ!』

 

そう言って兄は電話を切った。俺は弟にもメールで連絡し返信を受け取ってから<Infinite Dendrogram>を始める・・・・

 

 

 

「はーい、ようこそいらっしゃいましたー」

 

気付いた時にはどこかの書斎に居た。そして書斎の真ん中には安楽椅子に座るベストを着た白猫が居た。

 

「とりあえず、こんにちは?」

 

多分だが、ここはチュートリアルの空間なのだろう。情報収集していた頃にそう言うことを書き込んでいた提示板を見た。

 

「いいねー挨拶をしてくれた人はなかなかいなかったよー」

 

ネコは嬉しいのか尻尾を揺らしていた。・・・いや、うれしい時に尻尾を揺らすのは犬だったな・・・

 

「あ、僕は<Infinite Dendrogram>管理AI13号のチェシャだよーよろしくねー」

「よろしくお願いします」

 

とりあえず挨拶は大事なのできっちりと頭を下げる。

 

「いやー本当に礼儀正しい人だねーすごく好感が持てるよー まぁ、雑談はこれくらいにしてここではチュートリアルとしていろいろ決めてもらいますー まずは描画選択ねー今からサンプル映像に切り替わるからねー」

 

目の前の猫・・・・チェシャがそう言うと俺の視界はどこかの大通りになりそこには人が行きかっていた。しばらくすると周りの建物がCGになり、さらに時間が進むと今度はアニメ映像になった。

 

それもしばらくすると元の書斎に戻った。リアルだってことは知っていたがCGやアニメの視界もできるのは知らなかったな・・・

 

「今の見た映像でどれにしたいかなー」

「ちなみにどれが一番多いのかな?」

「一番はやっぱりリアルだねーそれと、ゲーム内で映像切り替えるアイテムがあるから不満があればすぐに替えることができるよー」

「じゃあ、リアルのままで」

 

アニメとかも気になるけど、せっかくリアルと変わらないと騒がれているのだしまずはそれを経験したい。

 

「オッケー、次はプレイヤーネームの設定だよー ゲームの中の名前は何にするー?」

「ゲイル・アクアバレーで」

 

ゲイルって名前に関しては単純にカッコいいから他のゲームでも使っている。ファミリーネームは兄と弟と話し合って決めた。水谷を英語に変換しただけだが・・・・

 

「了解ー次は容姿設定だよー」

 

チェシャのセリフの直後、俺の目の前にマネキンといくつもの項目が並んだ画面が出現した。

 

「このマネキンを目の前の画面に並んでいる項目を使ってゲーム内アバターを作ってねー」

「んー時間かかりそうだからリアルの容姿を弄ることはできるかな?」

「お安い御用だよー」

 

そう言ってチェシャは何やら操作する動作をし、その直後マネキンは俺そっくりになる。

 

「これでいいかなー?」

「ありがとう」

 

兄や弟が待っているかもしれないので髪の色を緑色に両目は黄色。体も引き締めて筋肉質に変える。

 

「これでOKっと」

「お疲れ様ー次は一般配布アイテムを渡すねー」

 

チェシャがそう言うと俺の目の前の頭上からカバンが落ちてきた。

 

「それは収納カバン、ゲームではお馴染みのアイテムボックスだよー。中は異次元の収納空間だからーゲイルの持ち物は入るけど、他の人のは入らない仕様だからねー」

「他に注意点はあるかい?」

「そのアイテムボックスの広さは学校の教室くらいでー入る重さは地球換算で一トンくらいー。それとそのアイテムボックスは《窃盗》スキル対策がされてないから盗まれる可能性があるよー」

「き、気を付けるよ・・・」

 

何を気を付ければいいかはわからんけど・・・・

 

「後はーアイテムボックスにも耐久度があるよーそれを超えると中身が溢れちゃうからそれも注意してねー」

 

耐久値か・・・壊れないアイテムボックスとかもあるのかね?

 

「次は初心者装備ですー、ゲイルはどれを選ぶー?」

 

チェシャは本棚から取り出した本を俺に見せる。ページを開くとそれは色々な装備が書かれている所謂カタログだった。

 

「そうだな・・・これにするよ」

 

そう言ってカタログのページをチェシャに見せる。ページに描かれているのは動きやすそうな革鎧、ブーツ、皮手袋にズボンを穿いているなんとなく冒険者の様な格好だ。

 

「了解だよー続いて初期武器はどうするー?」

 

カタログの別ページには武器が書かれていた。ここは即決だな。

 

「剣はあるかな?」

「模擬剣だけどあるよー」

「じゃあそれで」

「わかったーじゃあ装備と武器を・・・ほりゃー」

 

気合が入っているのかいないのかわからない掛け声をチェシャが上げると、俺の姿はアバターに変わり装備は先ほど決めた冒険者風に。腰には模擬剣が鞘と共にベルトに括り付けられていた。書斎にある姿見で確認すると違和感はないので満足だ。

 

「それとー最初の路銀も渡しておくねー」

 

そう言ってチェシャは俺の5枚の銀貨を渡した。

 

「銀貨五枚で5000リルだよーちなみにおにぎり一つで10リルくらいだねー」

 

日本円だと・・・めんどくさいので思考放棄。ぶっちゃけた話一々日本円に直そうとするのは意味が分からん。

 

「さてー次は<エンブリオ>の移植だよー」

「<エンブリオ>・・・・」

 

<エンブリオ>とはこの<Infinite Dendrogram>を人気ゲームにした最大の特徴である。プレイヤー一人一人に渡され、千差万別と言っていいほどの能力を得る。誰一人として同じ<エンブリオ>を持たず真の意味でのオンリーワン。それが<エンブリオ>だ。

 

「<エンブリオ>の説明は聞くー?」

「お願いするよ」

「オッケーまずは・・・」

 

チェシャの説明だと<エンブリオ>はチュートリアルで渡されて、渡した直後は第0形態と言い卵のような状態なんだとか。最初は誰もがこの形態であり、進化して第一形態になるとそのプレイヤーだけの<エンブリオ>になるとのこと。あと千差万別であるがカテゴリーという物がある。

 

プレイヤーが装備する武器防具、道具型のTYPE:アームズ

プレイヤーを護衛するモンスター型のTYPE:ガードナー

プレイヤ-が搭乗する乗り物型のTYPE:チャリオッツ

プレイヤーが居住できる建物型のTYPE:キャッスル

プレイヤーが展開する結界型のTYPE:テリトリー

 

このほかにも珍しいレアカテゴリーや進化し続けることで上位のカテゴリーにもなるとのこと。ちなみにこのゲームはキャラの作り直しはできない仕様だという。脳波データを登録しているので新しいハードを買っても同じキャラで始まるとのこと。

 

そして説明を聞いている間に俺の左手の甲には<エンブリオ>が。今はまだ卵のような状態だが、俺のエンブリオはどんなのになるのかな?

 

「次は最初の所属国家を決めてもらいますー」

「アルター王国で」

「・・・・早いねーちなみに軽いアンケートなんだけどなんでそこを選んだのー?」

 

この<Infinite Dendrogram>には7つの大きな国があり、プレイヤーはどこかに所属することになる。簡単に国々を紹介すると・・・

 

騎士の国【アルター王国】 

刃の国【天地】

武仙の国【黄河帝国】

機械の国【ドライフ皇国】

商業都市郡【カルディナ】

海上国家【グランバロア】

妖精郷【レジェンダリア】

 

西洋ファンタジーのアルター王国。東洋の神秘天地。中華ファンタジー黄河帝国。近代国家なドライフ皇国。砂漠のオアシスと共に生きるカルディナ。大航海時代なグランバロア。エルフと妖精の国レジェンダリア。

 

一言付け加えるならこんなとこか。あと、俺がと言うか三兄弟がアルター王国を選んだかと言えば・・・

 

「アルター王国が一番おもしろそうだと思ったんだ」

「ふむーなるほどー答えてくれてありがとうねー」

 

もう一つ言えばやはり西洋ファンタジーは王道だと思うのですよ。

 

「じゃあ、アルター王国の王都アルテアに飛ばすねー」

「ああ、そうだその前に聞きたいことがある」

「なにかなー?」

「このゲームではプレイヤーは何をすればいいんだ?」

 

ふつうのRPGなら魔王を倒せとかあるいは何かしらのストーリーがあってそれをなぞることになるが、いくら調べてもこの<Infinite Dendrogram>にそんな情報はなかった。だから運営側である管理AIに質問したんだが・・・

 

「何をしてもいいよー」

「え?」

「英雄になるのも魔王になるのも、王になるのも奴隷になるのも、善人になるのも悪人になるのも、何かするのも何もしないのもすべては君の自由だよ」

 

チェシャはこれまでの間延びした語尾をせずにそう言った。

 

「<Infinite Dendrogram>へようこそ。これから始まる無限の可能性をどうか楽しんでね?」

 

そう言った直後、俺の周りは天高い大空の真っただ中に投げ出された。

 

「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁ~!!!!」

 

俺の叫びは誰にも聞こえることなく地上に落ちてゆく・・・・




原作のプロローグに似ているのは作者も自覚しているので、指摘しないで頂けるとありがたい・・・


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第二話 三兄弟合流とジョブ

「ああ~びっくりしたぁ~」

 

リアルでも経験がないのにいきなりスカイダイビングをやることになるとは思わなかった・・・提示板でも書かれていなかったが、ひょっとしてわざと書き込まれていなかったのか?

 

しかし、びっくりして鼓動が速くなる音や汗を掻いた感触に歩いている土を踏む音・・・情報通りすごくリアルだ。現実と言われても信じてしまうくらいには。

 

「とりあえず感動するのは後にしてあそこに向かうか・・・」

 

俺の目の前には巨大な門と街を囲む巨大な壁。そしてその門の向こう側にはいろいろな装備をしている人が行き来している。とりあえずは門を潜ってその周辺で待っていればいいだろうな。ひょっとしたらもう待っているかもしれないしな・・・

 

などと考えながら門を潜ると横から声を掛けられた。その声は俺がよく知っている者の声だ。

 

「もしかして兄貴・・・ゲイル・アクアバレーですか?」

「お?」

 

俺に声を掛けたのは銀髪を肩以上に伸ばして後ろで束ねている。青い目をした狩人のような恰好をした二十歳前後の男性だった。声は聞き覚えがあり、顔にもリアルの面影が残っているので一発でわかった。

 

「ああ、そうだ。お前さんはウッド・アクアバレーでいいんだよな?」

「あ~よかったぁ。合流できるかどうかわからなくてドキドキしてたんだよ」

 

目の前に居るのが俺達三兄弟の三男で水谷 芳樹。キャラ名はウッド・アクアバレーにちゃんとしている様だな。

 

「まあ、髪の色と目の色を変えたぐらいでわからないほどじゃあないだろう?」

「確かにそうだけど、ここはリアルと遜色ないから緊張するんだよ」

「ああ、それはあるな。俺もこれほどとは思わなかったしな」

 

とりあえず立ち話もなんだから、近くに有ったベンチに座りチュートリアルのことを話す。

 

「まさかいきなりスカイダイビングするとは思わなかったな・・・」

「僕も驚いて思わず大声で叫んじゃったよ・・・」

 

ああ、やっばりこいつもスカイダイビングを味わったのか。

 

「でもまさかお前が一番先に待っているとは思わなかったな」

「それは僕も思った。ただ、流兄貴じゃない・・・クロス兄貴は凝り性だからキャラメイクや装備品のカタログで悩んでるんじゃないかな?」

「ああ~眼に浮かぶな・・・」

 

それからしばらく雑談をしていると不意に門から街に入ってきた中に知っている人に似た顔を見つけた。

 

「おい、ウッド。喜べ兄貴らしき人物を見つけたぞ」

「やっと来た・・・」

 

俺達はそろってその人物に近づき、俺が声を掛ける。

 

「そこの人、名前はクロス・アクアバレーじゃないかな?」

「違います」

「嘘着け!声がリアルと同じだぞ!」

「む!そうか・・・声もキャラメイクで変えておけばよかったか・・・」

 

いきなりボケをかました目の前の人が俺達の長男で水谷 流 キャラ名はクロス・アクアバレーにしているはずだ。

 

「クロス兄貴遅かったけど、やっぱりキャラメイクや装備に時間掛かった?」

「おう!いやーあそこまでいろいろ弄れるとは思わなくて遊んでたら時間掛かっちまった!」

 

兄貴のキャラは紙は角刈りにして色はワインレッド。目は茶色で装備は魔法使いのロープを短くして動きやすくしたものを羽織ってあとは蒼と黒の色合いの上着とズボンを着ている。

 

「戦士風な人が魔法使いのコプスレしているみたいだな」

「言うな・・・俺もそう見えるのを気にしているんだからよ・・・」

 

あ、自覚してた。

 

「まぁまぁ、とりあえず当初の予定通りジョブに就きに行こうよ」

「そうだな」

「そうするか」

 

ジョブと言うのはこの<Infinite Dendrogram>で強くなるために必要な物だ。現在の俺達のLvは0これはジョブに就いていないからであり、ジョブに就かなければ永遠にLv0のままである。

 

ジョブには下級職、上級職、超級職と在り最初に就けるのは下級職だけである。上級職は就くために条件があり、その条件が下級職のLvカンストの場合がほとんどだ。今から俺達はそれぞれが就きたい下級職に就くための場所へと向かっているのだ。場所は事前情報で入手済みだ。

 

「まず最初は【弓士(アーチャー)】になりたいウッドの場所に行くぞ」

「おう」

「楽しみだ」

 

下級職にも色々あり、前衛攻撃職である【戦士】や【闘士】などのできることが幅広い職業からできることを一つのことに集中した【剣士】や【槍士】などいろいろある。他にも後衛攻撃職である【弓士】や【銃士】 魔法攻撃職である【魔術師】などもある。

 

さらには生産職に【鍛冶師】や【皮革職人】などこのアルター王国では幅広い職業を選べるのが特徴の一つだ。まぁ、その国限定のジョブとかもあるんだかね? 【武士】とかは天地に行かないと就けないらしいし。

 

今のところは確認すべきところはこんなことろか? そんなことを考えながら進んでいるうちに目的の場所へと到着しウッドは無事に【弓士】へと就いた。

 

「次はゲイル兄貴の【騎士(ナイト)】だね」

「おう」

 

【騎士】はアルター王国限定のジョブだ。能力としては前衛攻撃職でどちらかと言うと防御が得意な、いわゆるタンクができる前衛だ。

 

「そう言えば何で【騎士】を選んだ?」

「【戦士】とどっちかにしようか悩んだんだが、やっぱり騎士甲冑着て見たかった」

「ゲイル兄貴は全身鎧とか好きだよね」

 

うむ。元祖狩りゲーと言われているゲームシリーズでも全身鎧系ばっかり狙っていたからな。・・・あのゲームカッコいい全身鎧の防具は結構強いモンスターばっかりだったから苦労したっけなぁ・・・

 

閑話休題。

 

目的地へ着いて早速【騎士】になるための手続きをし、無事に【騎士】に就くことができた。

 

「最後は兄貴だけど・・・」

「クロス兄貴は行く場所多いよね?」

「すまんが付き合ってくれ二人とも」

 

まあ、文句があるわけじゃあないからね。まずは魔術師ギルドへと行こう。俺達がジョブに就くために目指していた場所はジョブ専門のギルドだ。ちなみに冒険者ギルドもあるが、ここは所謂何でも屋であり能力があれば誰でもクエストを受けることができる。

 

ジョブ専門のギルドはそのジョブに就いた者しかクエストを受けられない場所だ。そのジョブに就くこともできるためにまずは目指したと言うわけだ。

 

普通なら<エンブリオ>が羽化してからその能力に有ったジョブを選択すればいいと思うだろうが、どうも情報収集したところ第0形態では<マスター>のパーソナルや行動などを経験して<エンブリオ>が生まれると言う。

 

ならば最初にジョブを選んでもその行動で<エンブリオ>の能力をある程度は誘導できるのではないかと言う意見があるのだ。実際それを実行した人は選んだジョブでも使える能力をもった<エンブリオ>が生まれたと言う。

 

まぁ、この<Infinite Dendrogram>では下級職は六つまで上級職は二つまで就けるので最初に失敗しても<エンブリオ>に合わなければセーブポイントでジョブリセットもできるからそれほど問題はない。ちなみに下級職はLv50でカンストで上級職はLv100でカンストだ。

 

考え事をしている間に魔術師ギルドに到着。すぐに手続きをして兄貴は【魔術師(メイジ)】に就いた。そして次の目的地である剣士ギルドへと行き、【剣士】に就きそのまま目的のジョブである・・・

 

魔法剣士(マジックソードマン)】に就いた。

 

この【魔法剣士】は攻撃魔法が使える前衛攻撃職だ。ただ、このジョブに就くためには兄貴がしたように【魔術師】と【剣士】の二つのジョブに就く必要がある。しかも能力的には器用貧乏でLvがカンストしても【剣士】や【魔術師】のように特化しているジョブには敵わない。手札が増えることは利点だが、逆に言えばそれ以外の利点がないジョブだ。

 

「兄貴的にはよかったのかそのジョブで?」

「問題ない。前衛で剣を扱いたいし魔法も使ってみたいからな。両方ができるこのジョブは俺の理想だ」

 

ふむ・・・気持ちはわかるかな?リアルじゃ絶対にできない魔法を使ってみたいと言う気持ちは。

 

「とりあえずこの後はどうしようか?<エンブリオ>羽化してないけど戦闘する?」

 

ウッドが聞いてくるが、さすがに<エンブリオ>が生まれていないのに戦闘はなぁ~

 

「と言うかウッド、お前矢は持っているのか?」

「一応は。ただ先がとがっていない木の矢だけど」

「・・・・とりあえず今ある所持金で装備を整えるだけ整えようか?」

「・・・・そうだな」

「・・・・それがいいかも」

 

と言うわけで装備を整えるために移動しようとし、剣士ギルドを出た瞬間左手の<エンブリオ>が輝きだした!

 

「え!?」

「おいおいこれってまさか・・・」

「多分想像通りだと思うよ・・・」

「「「羽化する!!」」」

 

俺達の<エンブリオ>が誕生しようとしていた。



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第三話 三兄弟の<エンブリオ>

主人公たちのエンブリオが登場!


  ◇ 【騎士(ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

俺達三人がジョブに就き、手持ちの所持金で装備御整えようと剣士ギルドを出た直後に俺達の<エンブリオ>が羽化する兆しを見せた。

 

「タイミング良すぎだな・・・」

「そんなことよりもどんなのが生まれるんだ!」

「楽しみだね!」

 

俺はタイミングの良さに驚いているが、兄であるクロスは待ちきれない様にそわそわし弟のウッドは左手の甲をじっと見つめた。

 

まあ俺だってどんなのが生まれるのか楽しみではあるな。そんなことを考えている間に光は輝きを増して紋章になった。<エンブリオ>が羽化すると左手の甲に<マスター>の証である紋章が浮かび上がるらしい。ちなみに俺の紋章は騎士甲冑を着込んだ騎士が背中合わせで並んでいる物だった。

 

「ふむ・・・俺の紋章は中々カッコいいな?二人はどんなのだ?」

 

俺は二人にも訪ねてみた。まずは兄のクロスが答える。

 

「俺のはなんか本が開いている紋章だな?」

 

俺のよりシンプルな紋章だ。次は弟のウッドが答える。

 

「僕のは羽を広げた鳥の紋章ですね」

 

むむ? 中々カッコいいなそれ。二人が答えたので俺も自分の左手の甲を見せた。

 

「そっちもなかなかいいなぁ~」

「カッコいいですね!」

 

二人にそう言われると照れる・・・俺達は話をする前に剣士ギルドの入口に居るので邪魔になるため取り敢えず移動することに。そして比較的近くの中央噴水広場までやってきた。

 

「とりあえず、ステータス画面で<エンブリオ>を確認するとしよう」

「そうだな」

「異議なしです」

 

そう言うと二人は早速ステータス画面を開き、<エンブリオ>の項目を見ている様だ。俺も見るとしようかね・・・ステータス画面を開き<エンブリオ>項目を開くとそこに書かれていたのは・・・・

 

 

 

 ◇ 【魔法剣士(マジックソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

俺達は自分の<エンブリオ>のステータス画面を確認している最中だ。そして俺は自身の<エンブリオ>を見て能力も確認した結果、歓喜した。

 

魔法を使いたいと思っていた俺にはぴったりの能力だしこれなら前衛で剣も扱える。あとは実際に戦闘して使い勝手を確認したいが、残念ながら今すぐにそれは出来そうにないな・・・・

 

「確認できたか?」

「オウ!」

「できたよ」

 

ゲイルが確認の声を上げる。二人の様子は落胆しているようには見えない。ゲイルはまだまだ判断材料が足りないって感じか? ウッドはニコニコしているので好みに合ったんだろうな。まぁ、<エンブリオ>の能力が気に入らないって言うケースはないらしいからそこは心配してないけど。

 

「じゃあ、よければどんな能力か説明し合うか?」

「ちょっと待て。ここではやめておこう」

「なんで?」

「ほかの<マスター>に聞かれる恐れがある。さすがにそれは避けたい」

 

この<Infinite Dendrogram>がリリースされて半年、PKやNPCであるティアンを襲うような強盗まがいの<マスター>も出始めているらしいからな。そんな奴らが今周りにいないとも限らん。

 

「少し危険だが、装備を整えて街の外で話そう。今の俺達じゃあ防音設備がしっかりした飲食店を知っていても金が足らんだろうしな」

 

俺の意見に二人は納得し、ジョブギルドで聞いたお勧めの店に向かいできるだけ装備を整えた。ゲイルは円形盾と直剣を。ウッドは先が尖っている木の矢と弓を新調した。俺は悩んだが少々お高いサーベルを購入した。ちなみにお値段はゲイルが3000リルでウッドが3500リル俺が4000リルだ。

 

王都アルテアは四方に門があり、その先は初心者に向いている狩場なんだそうだ。俺達は東門の先にある<イースター平原>の門の近くに集まっていた。

 

「ここなら大丈夫かね?」

「ま、楽観視はできないけど気にしすぎるのもな」

「これで聞かれたら運が悪かったと思うしかないかと」

 

確かにな。

 

「まずは俺から説明するな。まず俺の<エンブリオ>の名前は【吸収魔本 ガルドラボーグ】だ」

 

ステータス画面ではこんな表示だな。

 

 

 

 【吸収魔本 ガルドラボーク】

 

 TYPE:テリトリー・アームズ

 

 装備+MP100

 

 ステータス補正

 

 HP補正:G

 MP補正:D

 SP補正:G

 STR補正:E

 END補正:F

 DEX補正:F

 AGI補正:E

 LUC補正:G

 

 『保有スキル』

 ≪マジック・アブソープション≫Lv1 アクティブスキル

 <マスター>の周囲2mに魔法を吸収する結界を構築する。

 吸収された魔法はMPとして<エンブリオ>に蓄積させる。

 

 ≪オーバー・マジック≫ アクティブスキル

 上記のスキルによって蓄積されたMPを<マスター>の魔法攻撃に使うことができる

 

 

 

ステータス補正はそんなに高くはないがスキルが魔法限定ではあるが強力だな。魔法を多用するモンスターならかなり有利に戦えるだろう。二人にも口頭で説明する。

 

「完全に対魔法特化な<エンブリオ>か」

「前衛で攻撃ができるクロス兄貴にはぴったりだね」

「まぁ、さすがに初心者の狩場には魔法を使うような奴はいないだろうがな」

 

俺は気に入っているがこいつの能力がフルに使われるのは暫くあとだろうなぁ・・・

 

 

 

 ◇  【弓士(アーチャー)】ウッド・アクアバレー

 

 

「じゃあ次は僕の<エンブリオ>を紹介するね」

「ん?紹介?」

「こういうことだよ。出てきて!ヒッポグリフ!」

 

「クル~!」

 

僕がそう言うと紋章から一体のモンスターが出現した。そのモンスターは体の前半身が鷲で残りが馬の幻獣ヒッポグリフだ。

 

「おお、かっこいいな!」

「これはすごい。ひょっとしてガードナーの<エンブリオ>か?」

「半分正解。この子は【鳥獣馬 ヒッポグリフ】チャリオッツ・ガードナーだよ」

 

ステータス画面で見た場合はこんな感じだったよ。

 

 

 【鳥獣馬 ヒッポグリフ】

 

 TYPE:チャリオッツ・ガードナー

 

 ステータス補正

 HP補正:G

 MP補正:F

 SP補正:E

 STR補正:F

 END補正:G

 DEX補正:D

 AGI補正:F

 LUC補正:F

 

 『保有スキル』

 ≪弓騎一体≫Lv1 パッシブスキル

 <エンブリオ>に騎乗すると<マスター>のSTRとDEXを20%アップ。

 <エンブリオ>の全ステータスも10%アップ

 副次効果として<マスター>に【酩酊】の状態異常耐性付与

 

 ≪ウィンドブレス≫Lv1 アクティブスキル

 <エンブリオ>の攻撃スキル。口から不可視の風属性魔法攻撃ブレスを吐く。

 

 ≪風の加護≫Lv1 アクティブスキル

 騎乗時に任意で発動する防御結界スキル。<エンブリオ>の意思でも発動可能。

 魔法攻撃のダメージ10%減少、遠距離攻撃ダメージ20軽減

 <マスター>のMP消費

 

 

ステータス補正はクロス兄貴のガルドラボーグより低いけどその反面スキルは一つ多い。ガルドラボーグほど強力なスキルではないからかもしれないけど。

 

「クル~」

 

ヒッポグリフが僕に甘えるように頭を擦り付けてきた。なんだかかわいいな。あと、出してみて初めて分かったけどヒッポグリフは普通の馬よりも一回り小さいみたいだ。それでもチャリオッツだし僕なら乗れるよね?

 

兄貴たちにはスキルの説明もしておいた。するといろいろ考えだした。

 

「初期に飛べるモンスターに乗れるのって反則に近いような・・・」

「いや、そうとも言えないぞ?空を飛ぶモンスターはどれも強力って話だ。遭遇なんてしたらデスペナは確定だ」

 

あ~そう言えばそんな情報もあったね。確かこの<Infinite Dendrogram>のデスペナルティーは24時間のログイン制限だったけ?最初に知った時はそんなのありかって驚いたっけ。

 

しかも、極偶に<UBM>って言う超強い個体も飛んでいるって話だし、しばらくはヒッポグリフに乗って飛ぶのはなしかな?

 

「クル?」

「なんでもないよ。あと今日から君のことはグリフって呼ぶね?これからよろしくね!」

「クルル!」

 

とにかくしばらくはグリフと一緒に強くなろう。

 

 

 

 ◇  【騎士(ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

兄と弟の<エンブリオ>の詳細を教えてもらい、次は俺の番になった。

 

「ゲイル兄貴の<エンブリオ>はどんなのかな?」

「俺のもまずは出してみていいか?」

「いいぞ?説明だけだと判断できないのか?」

「まぁ、そうだな。装着【ボルックス】」

 

俺が言葉を口にした瞬間、俺の装いは激変した。端的に言えばフルプレートの全身鎧を装着しているだろう。

 

「全身鎧とはゲイル兄貴の好みにドンピシャだね?」

「いや・・・フルプレートの全身鎧にしては、妙に重厚すぎるな?」

『兄貴は鋭いね。この<エンブリオ>の名前は【双人鎧 ボルックス】で機械式甲冑・・・いわゆるパワードスーツだよ』

 

ステータス画面で確認した性能説明はこんな感じ。

 

 

 【双人鎧 ポルックス】

 

 TYPE:アームズ・ガードナー

 

 装備防御力+150

 

 ステータス補正

 HP補正:D

 MP補正:G

 SP補正:E

 STR補正:D

 END補正:D

 DEX補正:E

 AGI補正:F

 LUC補正:G

 

 『保有スキル』: 

 ≪バトル・シルエット≫

 <エンブリオ>をガードナーとして扱う場合に自動発動するスキル。

 ガードナーとしての戦闘力は<マスター>のステータスの半分。

 

 

ステータス補正は兄や弟の<エンブリオ>より高い様だが、反面スキルは一番少ない。おそらくはステータス補正と防具性能特化な<エンブリオ>なんだろうな。あと、ガードナーとしても扱えるらしいが、スキル説明によるとガードナーとしての戦闘力は現時点では弱い。

 

俺自身がまだステータス的に弱いからな。俺のステータスがガードナーとしての強さに直結するスキルだからしばらくはガードナーとして運用できないかな?

 

俺の<エンブリオ>の説明が終わると二人は驚いていた。

 

「現時点でも強力な<エンブリオ>だな・・・」

「装備防御力も今のLvで装備できる物では一番高いよ・・・」

 

まぁ、そうだな。ちなみにこの<Infinite Dendrogram>では武器や防具にはLv制限があり、装備が求めるLvでないと装備することができない。そう言う意味では俺は最初の装備としては破格な物を手に入れたことになるな?

 

「よし。全員の<エンブリオ>の確認はできたな。ちょうどいいからこのままLv上げでもするか?」

「いいですね。僕もグリフと一緒に戦って見たいです」

「クル!」

「異議なしだ」

 

クロス兄貴の提案に俺とウッドは反対することなく同意した。そのまま<イースター平原>を進みモンスターを探すことに。さてさて・・・・初の戦闘はどんなものかな?



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第四話 初戦闘といきなりの・・・

 ◇  【魔法剣士(マジックソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

兄弟の<エンブリオ>を把握してから、俺達は<イースター平原>でLv上げをするためにモンスターを探している最中だ。しかし、改めてこの<Infinite Dendrogram>・・・長いからデンドロいいか。デンドロのリアルさには驚かされる。

 

風が肌に当たる感覚や草と土の匂い。本当にリアルとの違いなんてないと断言できるほどだ。などと考えていると前方からモンスターが迫ってきた。二足歩行の緑色の鬼みたいな奴らだ。姿を確認した直後に頭上に【リトルゴブリン】と出た。

 

「一匹だけだな」

「ウッド。弓の練習したらどうだ?」

「そうだね。やってみるよ」

「クル!」

 

ウッドの<エンブリオ>であるヒッポグリフのグリフが頑張れ!っと言うように鳴き声を上げた。その声に答えるためにウッドは弓を構え、矢を番えって弦を引き矢を放った。矢は中々のスピードで【リトルゴブリン】に向かってゆき、右肩にヒット。続けて放った矢も当たり3本目の矢が頭に当たるとそのまま倒れて光の粒子になった

 

「当たるもんだな~VRMMOの漫画や小説だと弓は不遇扱いだが」

「ある程度DEXがあれば簡単な弓なら扱えるらしいからね」

「まぁ、なんにせよ十分戦えそうだな」

 

実はちょっとだけ心配だったんだよ。弓でちゃんと戦えるのか。しかし、その心配は杞憂だった。心配の種が無くなったしLv上げを頑張るか!

 

 

その後。俺達は<イースター平原>を歩きながら現れる【リトルゴブリン】や【パシラビット】と戦いLvは全員が4まで上がった。

 

あとは俺以外のゲイルとウッドの<エンブリオ>も活躍して、能力の高さを改めて確認できた。一応俺の<エンブリオ>も紋章から出したんだが、俺の周囲に浮いているだけで何もしてない。どうもこの【ガルドラボーク】は特殊装備品と言う形らしく、ステータス画面ではその装備欄が埋まっていた。

 

まずはゲイルの【ポルックス】だが、やはり防具の性能が高いのでここで出てくるモンスター程度ではダメージを与えられない。そのおかげでゲイルは攻撃に集中できモンスターを蹂躙している。

 

さらに使ったことで【ポルックス】の性能も把握できた言っていた。まず機械式甲冑タイプでフルフェイスのヘルムも被っているが、視界は邪魔されないらしい。むしろロボットゲーのコックピットのように自身のステータスであるHP、MP、SPが表示されて敵の攻撃もアラームとどこから攻撃されるのか知らせてくれるらしい。

 

ついでにガードナーとしても確かめるために戦わせてみた。それでわかった事は、ガードナーとして戦わせるためには一度紋章に戻して出す必要があるようだ。その逆で防具として使用したいならやはり一度紋章に戻す必要がある。

 

ガードナー運用している最中に防具として装着は出来ず、その逆もできない。まぁ、ある意味当然のデメリットと言えるだろう。ガードナーとしての戦闘は正直イマイチだった。防具としての性能は高いのでダメージは無いのだが、攻撃手段が格闘戦しかないのとステータスの低さが原因だろうな。

 

ガードナー運用するためにはステータスと攻撃手段の問題を解決しないとダメだな。あと、フルヘルムのせいだろうが、声が反響して聞こえるな?

 

次はウッドの【ヒッポグリフ】のグリフだ。グリフの場合は騎乗するための装備である鞍、鐙、手綱はなかったのでガードナーとして戦いに参加した。

 

結論から言うとかなり強い。飛んでからの急降下攻撃でここのモンスターは一撃で瀕死。さらには攻撃スキルである<ウィンドブレス>が強力だ。威力は高くないが不可視の攻撃で相手を吹き飛ばしたり、追い打ちや先制攻撃に役立っている。

 

とは言え、今のグリフでは3回使用するとしばらくは使えなくなるがね。クールタイムとかは短い様だが、MP消費が多い様だな。

 

<エンブリオ>に関してはこんなところだな。次は俺達のジョブに関してだ。Lv3になった時に全員がスキルを一つだけ覚えた。ゲイルは《野獣斬り》 モンスター種族:魔獣に対してダメージ増の種族特攻な攻撃スキルだ。

 

【騎士】の攻撃スキルはこういった種族特攻な攻撃スキルであり、上級職になるとそれから派生して各上級職のスタイルに合わせた攻撃スキルを覚えるらしい。

 

ウッドは《ウィングアロー》 飛距離と威力が高い攻撃スキルだと言う。

 

俺は《マナ・ブレード》 このスキルを簡単に言えばMP消費の遠距離攻撃スキルだ。MPを消費して剣を振るうと青い三日月状の物がなかなかの速さで進み、敵にダメージを与える。この攻撃はMP消費なので魔法攻撃扱いなんだとさ。

 

戦闘に関しては順調なのだが、正直弱い者いじめだな。敵は多くても1匹しか現れない。そりゃあ戦闘をしていると集まってくることもあるが、それでもこちらとの戦闘力の差は歴然だ。

 

「なぁ、提案なんだが」

「どうかした?クロス兄貴」

「他の狩場に行かないか?ここだとどうも苦戦なんてしそうにないし」

『そうだな・・・あまり簡単だと<エンブリオ>の次の進化にも影響するか・・・』

「あ~それは問題だね」

「そういうことだ。異論はないな」

 

二人は頷き、俺達は王都へと戻ることに。<エンブリオ>は羽化した後も<マスター>の経験を蓄積し次の進化の形を決める。楽な戦いばかりだといい進化はしないだろう。と言うわけで今までのモンスターのドロップ品を売ってから次の狩場に行こう!

 

 

 ◇  【騎士(ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

クロス兄貴の提案に従い、俺達は王都へ帰還している最中だ。もちろんその道中にもモンスターは現れるので戦っている。しかし、俺達は王都への帰還を優先しているので、モンスターが現れても周りに居る他の<マスター>によって倒される。

 

俺たち以外にもここでLv上げを行っている<マスター>は多い。装備などはチュートリアルのカタログで目にした初心者装備だから、始めたばかりだろう。

 

ただ、<マスター>だからなかなか個性豊かな<エンブリオ>らしき物を使い戦っている。

 

ある者は双剣。モンスターと戦っていると不意打ちを仕掛けたモンスターの攻撃を回避すると陽炎の様な残影を残して、その残影はモンスターを切り捨てると消えた。

 

ある者は結界。<マスター>が緑色の結界を構築するとその結界内では土の塊が柱のように盛り上がりモンスターを攻撃している。

 

ある者はバギー。四輪駆動の小型バギーがモンスターの周りを走り回り、頭上に設置されている銃が自動でモンスターに攻撃していた。

 

あれらが全て<エンブリオ>なのは明白だろう。双剣はアームズ。結界はテリトリー。バギーはチャリオッツだな。

 

「いろいろな<エンブリオ>があるよな~」

「本当に千差万別なんですね~」

『眺めているだけでも面白いな』

 

一人一人に全く能力が異なるオンリーワンの物があるってのは本当にすごい。しかも、これからより強力になるのだから楽しみでしょうがない。

 

などと話していると、前方から三人の<マスター>らしき人たちがやってきた。左手に紋章があるから間違いないだろう。装備は初心者装備よりも一目で違いが分る物だったが、<イースター平原>の先へ行く人たちかな?

 

俺達がその人たちとすれ違いそのまま過ぎ去ろうとした時、俺の【ポルックス】が真後ろからの攻撃を知らせるアラームが鳴り響いた。

 

『!!』

 

俺はそのアラームを信じて後ろを振り返り、盾を構えた。盾に二度の衝撃と甲高い音を響かせて奇襲を仕掛けてきた相手は一度後退して離れた。攻撃してきた相手はモンスターではなく・・・・

 

「ちっ!気付かれたか・・・<エンブリオ>に危機察知能力があるのか?」

 

先ほどすれ違った<マスター>の一人だった。

 

 

 ◇  【弓士(アーチャー)】ウッド・アクアバレー

 

 

いきなり後ろから甲高い音・・・まるで金属同士がぶつかった様な音が響いたのを僕とクロス兄貴は何事かと思い振り返ると、先ほどすれ違った<マスター>の一人が大きな爪を両腕に装備して盾を構えているゲイル兄貴に攻撃していた。

 

しかもゲイル兄貴のHPが減っている。兄貴の<エンブリオ>は防具としての能力が高いはずなのに。それにゲイル兄貴のジョブ【騎士】はENDのステータスも高めだ。それなのに・・・

 

「ちっ!気付かれたか・・・<エンブリオ>に危機察知能力があるのか?」

 

攻撃してきた<マスター>は一度離れてそんなことを口にした。

 

「おいおい、お前の<エンブリオ>は奇襲時にはダメージが増えるんだろう?気付かれちゃ意味ないだろう」

「ははは、笑える・・・」

「やかましいぞ!気付かれちまったものはしょうがねえだろうが!正面から殺せばいいんだよ!」

 

そう言って僕たちの目の前にいる<マスター>たちは、戦闘準備を始めた。最初にゲイル兄貴に攻撃した<マスター>はいつでも飛び掛かれるように構え、残りの<マスター>は紋章から<エンブリオ>を出して構える。大斧と杖だ。

 

「お前らPKだな?」

「それ以外の何に見えるんだよ?」

 

クロス兄貴が俺の前に出て剣を構えながら、断言するように言葉を放った。その言葉に答えたのは爪を装備した男だ。

 

「初心者を狙ったPK。ずいぶんかっこ悪いことしてるんだな?」

「何とでも言え。モンスターを倒すより<マスター>やNPCを狙った方がLvアップしやすいんだよ」

 

どうやら彼らは<マスター>だけでなくNPC・・・ティアンも襲った事がある強盗プレイヤーの様だ。

 

「そうかい。でもこっちだってタダでは負けないぞ?」

「初心者が何言ってやがる。それに・・・もうお前らの負けだ」

 

彼らがそう言うと前衛である大斧と爪を装備した<マスター>二人が後退して、杖を持つ<マスター>が前面に出て持っていた杖を頭上に掲げて・・・・

 

「燃やし尽くせ、業火の嵐!《ファイヤストーム》!」

 

その瞬間、俺達に向かって炎が放たれた・・・



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第五話 PKとの戦闘

<Infinite Dendrogram>ではPKには3種類居ると言われている。

 

1つ目は<マスター>を専門に狙うPK。<Infinite Dendrogram>では<マスター>同士のいざこざはティアンの法律対象外なのだ。よって<マスター>のPKが同じ<マスター>を殺しても何のお咎めもない。このルールがあるので<マスター>のみを狙うPKはそれなりに居る。

 

2つ目は上記とある意味同じだが、性質が異なるPK・・・デスペナルティー前提の真剣勝負がしたくて<マスター>相手に死合いを申し込むのだ。要は戦闘狂とか呼ばれる人種がやる野試合である。のちに<マスター>の間で【修羅の国】と呼ばれる天地に多く生息するPKだ。

 

そして・・・3つ目なのだが、このPKは人によっては信じられないと思うような奴らである。すなわち<マスター>だけでなくティアンまでも襲うPK・・・強盗プレイヤーや野盗プレイヤーと言われている<マスター>たちだ。

 

リアルなゲームである<Infinite Dendrogram>で人と間違うような受け答えをするNPC・・・ティアンすらも襲い殺害する。そんなPKが存在するのである。

 

無論、これにはかなりのデメリットが存在する。<マスター>同士のいざこざはティアンの法律対象外だが<マスター>がティアンに対して犯罪行為を行い、それが露見すれば国から指名手配されセーブポイントが使えなくなるのだ。

 

セープポイントが使えない状態でデスペナルティーになれば、<マスター>は監獄と呼ばれる場所でしかログインできない。強盗や野盗プレイヤーはこの監獄で犯罪の刑期を過ごすこととなる。

 

しかし、この様なデメリットがあるにもかかわらずティアンを襲う<マスター>はそれなりに居る。彼らが何を考えてリアルなゲームで犯罪や殺人をしているのかは、当事者や同じことをしている者にしか理解できないのかもしれない・・・・

 

 

 

 ◇  【魔法剣士(マジックソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

「《マジック・アブソープション》展開!」

 

相手の魔法攻撃に対して、俺は一度も使っていない<エンブリオ>のスキルを宣言した。これによって俺の範囲2mに魔法を吸収する結界が構築される。幸いゲイルもウッドもこの範囲内に居るので二人がダメージを受けることはない!

 

展開された結界に相手が発動した魔法が触れると、魔法は消え去り代わりに青白い光が俺の【ガルドラボーク】に吸い取られ、何枚かのページが黒く染まった。

 

「なに!?」

「なんだその<エンブリオ>は!?」

 

格下である初心者に魔法攻撃を無力化されて、PKたちは驚いている。その隙をついてゲイルは持っている円形盾を魔法を使った<マスター>向けてフリスピーのように投げた!

 

「なぁ!?」

 

これで終わりだと思っていた攻撃が無効化され、棒立ちになっていた<マスター>にはこの攻撃を回避できずに首にクリーンヒット!

 

「・・・・!?」

「やば!?こいつ【骨折】と【呼吸困難】の状態異常になった!?」

「格下の攻撃くらい避けろよ!」

 

仲間に対して心配するでもなく、むしろ何やっているんだと言いたげに言葉を放つPKたち。デンドロの状態異常はかなりの種類があり、全部の対策を取るのはそう言う能力の<エンブリオ>でなければ不可能と言われている。

 

とりあえず、俺は魔法使いに止めを刺すために覚えたばかりのスキルを使う。

 

「《マナ・ブレード》!・・・・あれ?」

 

発動したスキルはそのまま青白い光となり、【ガルドラボーク】に吸収された・・・・

 

「敵味方の区別しないのかよこのスキル!?」

 

一度も使っていなかったからこんなデメリットがあるとは知らなかった。

 

「ウッド!追撃してくれ!」

「わ、わかった!」

 

仕方なく俺以外に遠距離攻撃手段があるウッドに追撃を頼む。その間に俺はスキルを解除して結界を解く。また魔法攻撃してきたら発動すればいいし、今の敵は魔法を発動できないだろうしな。

 

 

 

 ◇  【弓士(アーチャー)】ウッド・アクアバレー

 

 

クロス兄貴の咄嗟の行動で全滅は免れた。相手のPKはこっちより格上だろうし、クロス兄貴はともかくゲイル兄貴と僕は各上の魔法攻撃を喰らえば倒されていただろうし。

 

さらにゲイル兄貴は相手の隙をついて持っていた円形盾を投げて、魔法を使ったPKにダメージを与えた。格下に反撃されるとは思ってなかったようで相手は混乱している。

 

その隙にクロス兄貴がスキルを使って追撃を放つが、兄貴のスキルも魔法攻撃のため【ガルドラボーク】に吸収された。あのスキル敵味方問わずに問答無用で吸収するのか・・・

 

「ウッド!追撃してくれ!」

「わ、わかった!」

 

クロス兄貴の指示に従い、僕は矢を放つ。その矢は魔法使いのPKの脳天にヒットして光の粒子となる。

 

「今度は【脳損傷】で即死になったか・・・」

「運の悪い奴だぜ!」

 

仲間が倒されデスペナルティーになったのにPKたちには僕たちに対する怒りも浮かばず、むしろ仲間を責めるような言葉を吐く。

 

『・・・仲間が死んだってのにえらく冷めてるな?』

「ふん!単純に目的が一緒だからつるんでいただけだ。それにあいつはここのところ調子に乗っていたからちょうどいい」

「分け前を多く寄越すように言っていた。正直イライラしてたんだ」

 

この人達いろんな意味で最悪だと思う。僕だけでなく兄貴たちも同じだろう。

 

「<エンブリオ>の能力であいつは倒せたようだが。ここからは油断しねえぞ?」

「こっちの方が強いのは明白・・・」

『・・・今の状況だと負け犬の遠吠えにしか聞こえんな』

「同感」

 

兄貴たちの言葉にPK二人は頭に来たのか、大斧を持った人はゲイル兄貴に接近し爪を装備した人はクロス兄貴に爪を振りかぶった。

 

『ウッドは兄貴を援護しろ!』

「わかった!」

 

ゲイル兄貴は剣を構えて大斧を振りかぶるPKを迎え撃つ。ゲイル兄貴は心配だけど俺達の中で一番戦闘力が高いからね。あの爪のPKをすぐに倒してやる!

 

「おら!」

「く!?」

 

たが、援護しようにも相手はこちらより格段にAGIが高いようで矢を放とうとしても狙いが定まらない!クロス兄貴は俺よりAGIが高いから攻撃を少しはガードしているが両腕に爪を装備している相手とは手数が違う!徐々にHPが減っている。

 

「はっはっは!これだよこれ!弱者をいたぶるのは最高に気分がいいぜ!」

 

そう言ってPKはいったん離れる。その顔には心底楽しいと言うように気持ち悪い笑顔を張り付いている。

 

「・・・そんなに楽しいか?弱い者いじめは?」

「ああ、最高だぜ!俺に対して何もできずに傷だけが増えていく相手をいたぶるのはな!!」

「そうかい。でも弱者だからって油断しちゃいけないよな?」

「はぁ?何言って・・・ぐは!?」

 

PKは兄貴の言葉に答えようとして途中で吹き飛ばされた。そのPKの後ろには空中にグリフが居て《ウィンドブレス》をPKに使ったところだ。

 

目に見えてダメージを受けたPK。多分ジョブがAGI特化なのだろう。グリフの弱い魔法攻撃でもダメージを与えられたのだから。

 

吹き飛ぶ先には剣を上段に構えているクロス兄貴。

 

「はっ!お前の攻撃ならAGI特化な俺でも耐えてやる!」

「それはどうかな?《マナ・ブレード》!」

「は?」

 

PKが見たのは大きくてとても速い三日月状の斬撃だった。それを無防備にくらったPKは真っ二つになり光の粒子となって消えた。ちょっとグロい物が見えたけど・・・

 

「ば、ばかな・・・」

『はぁ~どうする?あとはお前さんだけだが?』

 

残ったPKとその攻撃になんとか耐えていたゲイル兄貴はそう口にするが・・・

 

『と言っても謝ったって許さないけどな?』

「当然だな」

「因果応報って奴です」

 

この状況では彼に勝ち目はないも同然だった。

 

 

 

 ◇  【騎士(ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

いきなり始まった対人戦闘のPK戦は俺達の勝利だ。と言ってもこの勝利は相手がお馬鹿さんだったから勝てたのだが。こちらの<エンブリオ>が何かも調べないのもそうだし、こちらが格下だからと油断もしていた。

 

相手がもっと狡猾で俺達の<エンブリオ>の能力を調べていたら普通に負けていただろう。多分だがあいつらは自分の<エンブリオ>の能力だよりの力押しで今まではやれていたのだろう。

 

実際、俺が戦ったPKの<エンブリオ>能力は予想ではあるが【防御力無視】かそれに近い能力だろう。一撃受けて俺のHPが100以上は減ったからな。俺がHP高めの【騎士】で<エンブリオ>の補正が高くなかったら耐えられなかっただろうな。

 

ついでに言えば格上と言ってもせいぜい下級職3つで合計Lv100超えたくらいだろう。ぶっちゃけ初心者に毛が生えた程度の実力だと思う。

 

まぁ、それでも勝ちは勝ちなので俺達のLvはちょっと多めに上がった。全員がLv9になった。逆に言えばLv9しか上がらなかったからやっぱり格上と言ってもその程度だったと言うべきか?

 

スキルは全員が2つ覚えた。俺は《応急処置》と《植物斬り》 《応急処置》はHPを微量回復するアクティブスキルだ。数字にすると50くらいだ。《植物斬り》はモンスター種族:エレメンタルの植物タイプに対してダメージ増する。

 

クロス兄貴は《魔力強化》に《クロス・ブレード》 《魔力強化》はMP増加スキルで《クロス・ブレード》はバツ印の2連撃を放つ物理攻撃スキルだ。これはSP消費だな。

 

ウッドは《弓技能》に《ツインアロー》 《弓技能》は弓の攻撃力が上がり、弓の扱いが上手くなるセンススキルと呼ばれる物らしい。《ツインアロー》は矢を2連射する攻撃スキルだ。

 

さらにPKたちを倒したことで連中が持っていた所持金とアイテムが一部落ちていた。俺達はそれをすべて回収して王都へと戻った。ついでに門番さんに連中のことを訪ねてみた。

 

それによるとあいつらは最近になって<イースター平原>で活動する<マスター>に対してああいうことを繰り返していたらしい。ティアンの被害は重傷者のみで殺害には至っていないが、指名手配はされているらしく後で騎士団詰所に来てくれと言われた。

 

今まで逃げていたことを考えると、そう言う能力に特化した<エンブリオ>があったのかもしれないな。騎士団詰所に行く前に、PKたちからドロップしたものを三人で分けることに。まず所持金は全部で15万リルあったので5万リルづつに。

 

そしてアイテムに関しては回復アイテムは俺達で使うことにして他の装備品などは売ることに。ジョブギルドで教えてもらったお勧めのお店でモンスターのドロップ品合わせて9000リルになった。これも3000リルずつに分ける。

 

その後は門番さんの言われた騎士団詰所を訪れて、事情を説明。それからは相手の嘘を見抜く《真偽判定》のスキル持ちの職員さんの質問にいくつか答えて、連中を討伐したことが認められ懸賞金10万リルを手に入れた。

 

これも3万リルを山分けして残りの1万リルは回復アイテム購入に使うことに決まった。その後は一度ログアウトしてお昼を食べることに。今日と明日は仕事は休みなのでお昼を食べたらまたログインすることを約束して、俺達は近くログアウトした。



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第六話 <ノズ森林>での狩り

 ◇  水谷 流

 

 

俺は昼飯用に買っておいたおにぎり二個とインスタントの味噌汁を食べながら先ほどのことについて考えていた。

 

PKたちに襲われた突発的な対人戦闘のことだ。あの戦いは相手がこちらの<エンブリオ>の能力を調べなかったことと格下だと侮っていたから勝てた。ゲイル・・・高次ならこのことに気付いているだろうな。芳樹はどうだろうな?

 

あの戦いではっきりしたが、<マスター>にとって<エンブリオ>の能力は戦闘を左右する鬼札だ。Lv差があっても<エンブリオ>の能力次第では遥か格上でも倒すことができるな・・・

 

<マスター>同士の戦いでは<エンブリオ>の能力が勝敗を左右する。あとはジョブとのシナジーも大切だろうな。いくら強力な<エンブリオ>でもジョブと相性が悪かったり、全く意味が無かったりする場合は脅威度が下がるだろうな。

 

それらを踏まえて俺達のジョブとのシナジーを考えてみよう。まずは俺自身だが、これは相性はいい方だろう。スキルの《マジック・アブソープション》は魔法を吸収する。PKに勝てたのはこれのおかげだと断言できるしな。

 

敵味方区別しないのは困ったものだが、考えようによっては悪くないだろう。2つ目のスキルである《オーバー・マジック》のために自分の魔法攻撃でMPを溜めることができるのだし。

 

それにこの《オーバー・マジック》は俺にとっては切り札となりえる。PKに止めを刺した《マナ・ブレード》はこのスキルで威力を底上げしたからな。

 

《マジック・アブソープション》も俺は【魔法剣士】なんだし、この結界スキルを展開しながら魔法攻撃が主体の<マスター>及びモンスターと接近戦をすれば、相手は魔法を一切使えなくなるしな。

 

次にゲイルの場合を考えてみよう。ゲイルの場合は俺よりも相性がいいだろう。【騎士】はHPとSTRとENDのステータス補正があるジョブで相性抜群だ。ただ、今のところガードナー運用できない点が気になるところだが・・・

 

「そもそも、なんでゲイルの【ポルックス】はTYPE:アームズ・ガードナーなんだ?」

 

正直なところ普通に防具性能とステータス補正特化なアームズだけでいいような気がする。気になって調べてみたら、【ポルックス】と言うのは双子座の星の中で最も明るい星なんだと。

 

防具と自立行動・・・二つの特性があるのはふたご座だからか? これに関してはゲイルと進化次第かね?

 

ウッドの場合も相性はいいだろうな。相性の良さは全然発揮してないけどな。まぁ、騎乗するための道具がないのだしこれは仕方ない。PK戦で所持金は増えたから次の狩りでは揃えられるだろうしな。

 

考え事をしながらお昼を食べきり、俺はニュース番組を見ながら休憩してからデンドロにログインした。

 

 

 

 ◇  【弓士(アーチャー)】ウッド・アクアバレー

 

 

僕はお昼を早々に食べて、軽く休憩してからデンドロにログインした。ログイン場所はセープポイントである中央噴水広場だ。またしても僕が最初に来てしまったようでグリフを紋章から出して構いながら待つことにしよう。

 

「クルル~♪」

「よしよし。PKとの戦いではお疲れ様だったね」

「クル!」

 

グリフは先ほどの戦いのことを労う僕に任せて!と言うように胸を張りどこか誇らしげだ。PKとの戦いで所持金が増えたし、グリフに騎乗できる様に装備も買ってから次の狩場に行こうかな?

 

「でも・・・PKか・・・」

「クル?」

 

僕の呟きにグリフは首を傾げるが僕が頭を撫でてあげるとすぐに機嫌がよくなる。こんなリアルなデンドロでもPKが居るのは当たり前なんだけど、ティアンまで襲っているのは僕にとっては信じられない。

 

ティアンは僕たち<マスター>と違い死んだらそれまでだ。しかもモンスターと違い死体が残る。モンスターも消えてなくなるまでは、グロいし内臓なんかも見えたりするけどそれでもいつかは消える。

 

僕たちが倒したPKはティアン殺害まではやっていなかったそうだけど、かなりのティアンに重傷を負わせて指名手配されていたみたい。

 

「僕には理解できそうにないな・・・」

 

兄貴たち二人からしたら理解する必要はないって断言しそうだけど。まぁ、いつまでも悩むことはないかな? 丁度兄貴たち二人が同時にログインしてきたし、このデンドロを楽しむためにも悩むのはこれで終わりにしよう。

 

「また、待たせてしまったか?」

「大丈夫だよ。グリフも居たしね」

「クル」

「じゃあ、グリフに騎乗するための装備を買ったら<ノズ森林>ってとこに行くか!」

 

クロス兄貴の言葉に僕とゲイル兄貴は頷き、グリフも翼を広げてやる気満々だ。僕たちはまずは騎兵ギルドへ向かいグリフの鞍、鐙、手綱を売っているところを訪ねた。幸い騎兵ギルドでも売っていたので少々お高い装備を購入した。

 

購入した装備には【サイズ自動調整】のスキルが有り、騎獣が成長しても問題なく装備できる物だ。お値段はセットで1万3千リルだが、グリフが進化して急成長した場合を考えて購入した。

 

準備ができたので次の狩場である北の<ノズ森林>へと向かう。

 

 

<ノズ森林>に到着し、僕たちは戦闘準備を整えた。クロス兄貴はサーベルを鞘から抜き、ゲイル兄貴は【ポルックス】を装着して盾を左手に直剣を右手に持った。

 

僕もグリスに初騎乗する。本来はモンスターに騎乗するなら《騎乗》スキルが必要らしいんだけど、<エンブリオ>に騎乗する場合は必要と言うわけではないらしい。どういう理屈か疑問に思うけど、お得だと思っておこう。

 

準備は整ったので早速<ノズ森林>へと入る。<ノズ森林>は背の高い木々が生えていて視界が限定される。グリフに騎乗したけどここではあまり高くは飛べないかな?

 

などと考えていると前方から三匹の狼がこちらに向かってきた頭上には【ティールウルフ】と表示されている。狼だからか、かなりの速さで移動している。戦闘準備はしていたので前衛戦闘職である二人が前に出て、僕はグリフに飛ぶように指示。

 

グリフが飛んだ瞬間に【ティールウルフ】三匹と兄貴たちが戦闘になった。クロス兄貴が一匹を担当して、残りをゲイル兄貴が相手している。戦闘前の移動スピードからAGIが高いであろう狼たちはクロス兄貴は問題なく立ち回っているが、ゲイル兄貴はやり難そうだ。

 

ゲイル兄貴のAGIは僕よりも低いし、二匹を相手にしているのでどちらか一方に噛みつかれたり爪で攻撃されている。それでもENDが高いので僅かしかダメージを受けていないのはさすがだ。

 

援護するならゲイル兄貴だと思い、一旦離れた狼に狙いを定めて僕は矢を放つ。放った矢は狼の胴体に刺さり、僕は追撃としてグリフに《ウィンドブレス》を頭の中で指示。

 

<エンブリオ>は口で言葉にせずとも、頭の中でやってほしいことやスキル発動を思えばその通りのことをやってくれる。特に僕のようなガードナーにはそのアドバンテージはかなり高い。

 

《ウィンドブレス》を受けた狼はそのまま吹き飛び、木に激突して光の粒子となりドロップ品を落とした。

 

一匹倒したことでゲイル兄貴は戦いやすくなり、狼が攻撃した瞬間に剣による攻撃や盾で殴ったりしていた。

 

『《野獣斬り》!』

 

止めとして覚えたスキルを使い、狼を切り裂いた。そのまま光の粒子になる【ティールウルフ】。一方のクロス兄貴は・・・

 

「《クロス・ブレード》!」

 

二連撃の攻撃スキルで【ティールウルフ】倒したところだ。<ノズ森林>でも狩りは出来そうだね?

 

 

 

 ◇  【騎士(ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

 

最初の戦闘からしばらく経ち、俺達は現在<ノズ森林>の奥でボスモンスターである熊・・・【ビックフォレストベアー】と戦っている。

 

こいつは3m越えの濃い緑色をした体毛を生やした熊だ。ボスなだけはあり俺達が何度も攻撃しているが、まだ倒れない。俺の《野獣斬り》や兄貴の《マナ・ブレード》にウッドの《ツインアロー》などを何度か当てているが、HPが何割か削れるだけだ。

 

熊だしHPとENDは高めなんだろうな。AGIも低いわけではないようだし。とは言え俺達に不安や倒されると言った考えは浮かんでいない。

 

むしろ今が楽しくて仕方がない! 巨大なモンスター相手に仲間と協力して戦う・・・これこそこのデンドロで求めていた物だ! 兄貴やウッドも顔に笑みを浮かべているから、俺とほぼ同じ考えだろう。

 

戦闘状況は俺が熊の真正面に立ち攻撃をしながら、熊の攻撃を俺に集中させている。さすがにボスなだけはあり、上手く盾で受けないと大ダメージを受けてしまう。

 

クロス兄貴は左右正面に回り込んで、攻撃を繰り返しては離れるヒット&ウェイをしている。俺達の中では一番AGIは高いので攻撃役に徹している。

 

ウッドはグリフに騎乗して空中から援護している。地味に通常攻撃のダメージが多いのがウッドだ。グリフも《ウィンドブレス》を使って援護してくれているのでなかなか頼もしいコンビだ。

 

あと、どうもグリフは現段階で騎乗時は4mくらいの高さが飛行限界のようだ。グリフだけの場合は5m以上飛んでいたようだが。これに関しては進化で解決を願うしかないか?

 

「GAAAA!」

 

そろそろこの熊も倒せるか? 頭には何本も矢が刺さり、体も俺や兄貴が付けた切り傷が無数にある。最後まで気を抜かずに行こうか!

 

 

それからすぐに熊は倒れて、光の粒子となり消えた。ドロップ品として【巨大森林熊の宝櫃】が落ちていた。このデンドロではボスモンスターを倒せば【宝櫃】と呼ばれる物をドロップし、それを開けるとボスモンスター由来のアイテムが一つとボスモンスターのLv帯に応じたアイテムが複数手に入る場合があるとか。

 

とりあえず、この【宝櫃】は一番デスペナする可能性が低いウッドが持つことになった。

 

「いや~リアルで多少の恐怖はあったが楽しかったな!」

「緊張の連続だったけど、確かに楽しかった」

「クル!」

『俺もだな。真正面はさすがに怖かったが・・・』

 

熊の息遣いと臭さまで再現するのはどうかと思うぞ? 運営よ・・・・

 

『かなりLvは上がったが、まだまだ時間はあるしLv上げ続けるか?』

「「もちろん!」」

 

二人は俺の言葉に力強く頷いた。俺自身もまだまだ行けるし続けるかね?

 

その後の狩りを続けて成果は【ビッグフォレストベアー】を3匹と【ティールウルフ】13匹、【ブレイズウルフ】5匹を倒した。

 

Lvも全員が16に到達した。新たなスキルも獲得して旨味の多い狩場だったな。

 

俺が覚えたスキルは《乗馬》に《盾技能》だ。《乗馬》は馬や馬型モンスターに乗れるようになり、Lvが上がれば巧みに操れるようになるセンススキル。《騎乗》と似通っているが《乗馬》は馬に特化しているスキルで《騎乗》はいろんなモンスターに乗れるスキルと言う風に区別されている。

 

《盾技能》は盾の防御力が上がり、扱いやすくなるセンススキルだ。防御力が上がるのはありがたい。

 

クロス兄貴は《剣技能》に《マナ・バレット》を。《剣技能》は剣の攻撃力が上がり、扱いやすくなるセンススキル。《マナ・バレット》は簡単に言えば魔力弾を発射する魔法攻撃スキル。なんかどこぞの髪が黄色くなる戦闘民族を思い出す。

 

ウッドは《スパイラルアロー》と《風読み》を。《スパイラルアロー》は貫通力を強化した矢を放つ攻撃スキルだ。《風読み》は風がどこから吹くのかどれくらいの風速なのかが分かりやすくなるセンススキルだ。スキルはともかく通常攻撃は風の影響をもろに受けるから地味にありがたいスキルだろう。

 

そろそろデンドロの内部は夜になるので休憩もかねて一旦ログアウトすることに。ドロップ品の精算も次にログインしてから行うことに決めて俺達はログアウトした。



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第七話 ジョブクエストとフルパーティ

 ◇  【魔法剣士(マジックソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

翌日。俺達はリアルの朝早くからデンドロにログインしていた。いや~昨日は戦闘をしたことで思った以上に精神的疲労が溜まっていたようでログアウトした直後はすごくだるかった。

 

他の二人も同様だったらしく、無理をして仕事に差し支えるとまずいので昨日はそのままログインせずに夕食を食い、風呂に入り就寝した。

 

リアルでは朝早い時間だが、デンドロ内では日が高い。とりあえず最初にすることは・・・・

 

「まずは、昨日のボスからドロップした【宝櫃】を開けようぜ?」

「そうだな」

「何が出るかな・・・」

 

ウッドに預けていた3つの【宝櫃】を3人で分けて同時に開ける。出てきたのは・・・

 

【【巨大森林熊の皮鎧】を獲得しました】

【【アリテウム】を2個獲得しました】

 

【【巨大森林熊の全身毛皮】を獲得しました】

【【巨大森林熊の爪】を獲得しました】

【【巨大森林熊の牙】を獲得しました】

 

【【巨大森林熊の皮装備一式】を獲得しました】

【【クルゴルム】を獲得しました】

 

順番に俺、ゲイル、ウッドが獲得したアイテムだ。俺の手には濃い緑家尾の毛皮の皮鎧と小さな赤い宝石のような物が。

 

ゲイルはまるで貴族の館にあるような熊の全身毛皮と爪と牙が。ウッドは俺の皮鎧と皮手袋、皮靴、緑色の皮ズボン、さらに熊の頭をそのまま利用した頭巾の様な頭装備に黒水晶のような物。

 

「これを見るとウッドが一番あたりか?」

「俺のは完全に素材系だしな・・・」

「そうなのかな?」

「ちなみにその防具の性能はどんな感じだ?」

 

ゲイルに聞かれたのでこの防具の性能を見てみよう。

 

 

 

 【巨大森林熊の皮鎧】

 <ノズ森林>に生息する【ビッグフォレストベアー】の毛皮を使用した皮鎧。

 【狩人】などに人気の品。

 

 ・装備補正

 

 防御力+60

 

 ・装備スキル

 《森林隠密》Lv3

 《筋力強化》Lv1

 

 ※装備制限:合計Lv15以上

 

 《森林隠密》Lv3

 場所が森林の場合、《認識阻害》の効果を装備者に付与する

 

 《筋力強化》Lv1

 STRが10アップ。

 

 

ふむ中々いいな? 能力的には申し分ない。ただ残念、俺の趣味じゃない。これを売って別の防具を買うかね?

 

俺の方は趣味が合わないが、ウッドの方は気に入っているらしく早速装備している。緑色の毛皮装備の弟が誕生した。これって・・・元祖狩りゲーに似たようなモンスター居たな? あれなんて名前だっけ?

 

「ウッドは売らずに装備するのか?」

「はい。能力もそうですが、この装備一式を装備するとSTRとDEXが30アップする効果もあるから」

「ああ、それはお前にピッタリだ」

 

まあ、確かに有用ではあるだろうが・・・なんだか熊に背中から食われているようにしか見えんな・・・

 

「僕はこの装備を貰いますから、ドロップ品の買い取り金額は兄貴二人で分けていいよ」

 

ウッドがそう言うので遠慮なく貰うことに。ではドロップ品を売りに行くとするかね!

 

 

 ◇  【騎士(ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

ボスモンスターのドロップ品である【宝櫃】を開けてから、俺達はドロップ品を売りに武具屋へと来ていた。ウッドは【宝櫃】から出た装備一式を自分の物にしたからドロップ品の買い取り金額は要らないと言っていた。

 

まぁ、そう言うならお言葉に甘えるが金額が多いならその時に再度相談すればいいしな。

 

そう考えて近くの武具屋に入り、ドロップ品を見てもらうと全部で4万6千リルの買い取りとなった。特に換金アイテムだった【アリテウム】と【クルゴルム】に【全身毛皮】が高かった。

 

丁度いいので兄貴と俺は2万リルを受け取り、残りをウッドに渡す。ウッドは頑なに受け取ろうとしなかったが、そこは兄貴として強引に受け取らせた。

 

所持金が10万リル近くになったので、俺と兄貴の装備を探すことに。兄貴は防具を俺は盾と剣を見定める。しばらくして兄貴は【スフィアシリーズ】と呼ばれる青色の面当て、軽鎧、篭手にズボンとブーツのセット防具を購入した。

 

 

 【スフィアシリーズ】

 青色の面当て、軽鎧、篭手、ズボン、ブーツがセットの防具シリーズ。

 すべて装備するとセットボーナスとして《筋力強化》Lv2と《俊敏強化》Lv2の

 効果を付与する

 

 ・装備補正

 

 防御力+90(全装備の合計)

 

 ・装備スキル

 

 《筋力強化》Lv2(セットボーナス限定)

 《俊敏強化》Lv2(セットボーナス限定)

 

 ※装備制限:合計Lv17

 

 

兄貴は下級職3つに就いているから合計Lvは18だ。ゆえにこの防具も装備できてしまう。お値段は5万リルと結構高めだ。

 

俺の方は今の装備している物より攻撃力と防御力が高い剣と盾を選んだ。アルター王国は騎士系統職業が人気のジョブらしく剣と盾の種類は豊富だったが、今の俺では金銭問題や要求Lvが高かったりして大半が選べなかった。

 

「準備は整ったし、狩りに行くか!」

「そうだね」

「ちょっと待った」

 

再び<ノズ森林>へと向かおうとする二人を俺は呼び止めた。

 

「なんだよ?何か忘れものか?」

「忘れ物と言えばそうだな。俺達のLvも上がったしそろそろジョブクエストを受けてみないか?」

 

ジョブクエスト。それはジョブギルドで受けられるジョブ専門のクエストだ。冒険者ギルドのように討伐系や素材集め系のクエストもあれば、そのジョブでしか受けられないようなクエストがある。

 

例えば、俺の【騎士】の場合は【《野獣斬り》スキルで獣型モンスターの一定数討伐】や【《乗馬》にて指定距離踏破】などだな。

 

これらのクエストはスキルLv上げに使われるし、ジョブクエストはクリアすると経験値が貰えるのだ。更にジョブクエストをこなすことで覚えるスキルや、ジョブクエストをいくつ達成したかが騎士系統職業の転職条件になっている場合がある。

 

最初にジョブギルドに行った時は、まだ<エンブリオ>も羽化していなかったし戦えるかどうかも不安だったからジョブクエストは受けていなかった。

 

しかし、今ならLvも上がり戦いも経験済みだから受けてもいいのではないかと考えたんだ。

 

「あ~確かにそろそろ受けた方がいいかもな?」

「うん。僕も賛成」

「じゃあ、<ノズ森林>に行く前にジョブクエストを見に行くか」

 

そうと決まれば、早速行ってみよう。そして、順番に回りいくつかのジョブクエストを受けた。

 

まず俺は3つのクエストを受け、内容は【【ティールウルフ】5頭を《野獣斬り》で止めを刺す】と【獣型モンスター5頭を《野獣斬り》で倒す】に【【ビッグフォレストベア】の討伐】

 

クロス兄貴は2つで【《マナ・ブレード》を使いモンスター5匹討伐】に【《マナ・バレット》を使い5匹のモンスターにダメージを与える】

 

ウッドの受けたクエストは少々難しい物を3つ受けた。【一定距離に居るモンスターに五回ダメージを与える】と【五回モンスターの頭に矢を当てる】で最後は【ボスモンスターの【宝櫃】一個納品】だ。

 

ウッドのクエストは技術的な要素もあり、俺達が受けたクエストでは一番厄介かもしれないな?

 

「他のクエストでもよかったんじゃないか?」

「僕もそうは思うけど、これくらいできないようじゃ【弓士】はやっていけないって言われてちょっとムキになってね・・・」

 

まぁ、確かにその通りかもしれないか? とにかく準備は整ったので<ノズ森林>に向かおう。

 

 

 

 ◇  【弓士(アーチャー)】ウッド・アクアバレー

 

 

<ノズ森林>へ向かいそろそろ門が見えてきたところで、北門近くで何やら揉めている声が聞こえてきた。更に近づくとそこには中学生くらいの男女の<マスター>がなにやら言い争っていた。

 

「だーかーら!大丈夫だって!俺らなら倒せるからよ!」

「む、無茶だよ~」

「そうよ。<エンブリオ>があるからってうまくいくとは思えないわ。考え直しなさい!」

 

戦士風な装備の男子に、魔法使いのようなロープと杖持ちの男子と、シスターの様な格好の女子が何やら揉めている。

 

多分だけど僕たちと同じ始めたばかりの初心者だろう。気にはなるが、僕たちは通り過ぎて<ノズ森林>へ入ろうとした。すると・・・

 

「すいません!そこの三人組の<マスター>の方!よければ一緒にパーティを組みませんか!?」

 

唐突にシスターのような恰好の女子がそんなことを言ってきた。代表してクロス兄貴が応対しようとするが・・・

 

「おいシルク! 何勝手なことをしてんだ!」

「あんたにだけは言われたくないわ! 勝手に難易度の高いクエストを受けて私たちの意見を無視してるじゃない!」

「大丈夫だって言ってるだろう!」

「信用できないって言ってるのよ!」

「なんだと!」

 

そう言って二人はまたも言い争いを始めた。代わりに魔術師風な男子がクロス兄貴に話しかけた。

 

「す、すいません。引き留めてしまって」

「それは構わんが、あの二人は放っておいていいのか?」

「い、いつものことです」

 

どうやらあの言い争いはこの子たちにとっては日常茶飯事らしい。

 

「シルクちゃんが言っていた通り僕達とパーティを組んでください」

「その前に事情を説明してもらえるか?出ないとこちらは判断のしようがない」

「そ、それもそうですね。その・・・実は・・・」

 

彼の話だとあそこで言い争っている男子が、勝手に難易度の高いクエストを冒険者ギルドで受けてしまい、それについて意見の食い違いで揉めていたと言う。

 

男子は自分達だけでクリアできると言い張り、女子と男子の二人は無理だと言って諦めさせたいがなかなか言うことを聞いてくれない。そこで女子の方はフルパーティで挑むことに意見を変え、俺達に話を振ったと言うことらしい。

 

もっとも、クエストを受けた男子はそれでも納得が出来なかったらしいが。

 

「ちなみになんだが、その受けたクエストはどんな物だ?」

「え~っと・・・それが<ノズ森林>に生息している亜竜クラスモンスターの【ブラストファングタイガー】討伐なんです」

「おいおい・・・それは三人では無茶だろう?」

 

ゲイル兄貴が思わずと言った感じで言葉を漏らす。正直なところ僕も同意見だ。亜竜クラスモンスターとは一定以上の強さを獲得したモンスターだ。

 

このクラスのモンスターを倒すには、下級職に就いた一パーティ分の戦力か上級職一人分の戦闘力が必要とされるとネットの情報として見た覚えがある。

 

この例えはティアンの場合で考えているので<マスター>にも適用されるかはわからないが、それでも基準にはなる。少なくとも始めたばかりと思われる初心者が受けるクエストではないよね?

 

「正直な話、僕も無理だと思います。でも・・・ガルドは一度決めたら頑固なので」

「ふむ・・・悪いが俺達の方でも相談したい。その間にあの二人を落ち着かせておいてくれ」

「わ、わかりました!」

 

そう言って魔術師風の男子は二人の方へ駆けて行った。僕たちはその間に相談だけど・・・

 

「クロス兄貴、僕はあの子たちに協力したい」

「俺もだな。ここで知らん顔するのは違うだろう」

「まぁ、俺も同意見だが・・・お前たち意見を言うのが速すぎだ!」

 

クロス兄貴の言葉に僕とゲイル兄貴は苦笑するしかなかった。仕方ないじゃないか、見捨てるのは可愛そうだしフルパーティ戦も経験したいからね。それから向こうが落ち着くまで待ち、言い争いも収まりこちらに近づいてきた。

 

「こちらもこの頑固者に納得させました。それでそちらの意見は?」

「ああ、パーティのお誘い受けさせてもらう。しばらくの間よろしく頼むな」

「は、はい。ありがとうございます!」

「よ、よろしくお願いします」

「とりあえずはよろしく・・・」

 

クエストを受けた原因の男子は不満があるようだが、一応は納得してるよね?

 

「とりあえず、こちらの自己紹介だな。俺は【魔法剣士(マジックソードマン)】のクロス・アクアバレーだ」

「俺は【騎士(ナイト)】のゲイル・アクアバレー」

「僕は【弓士(アーチャー)】のウッド・アクアバレーだよ。三兄弟なんだ」

 

目の前の三人は兄弟と言う部分で驚いている様だ。

 

「私は【司祭(プリースト)】のシルクです」

「ぼ、僕は【付与術師(エンチャンター)】のタタンです」

「俺は【戦士(ファイター)】のガルドだ・・・」

 

彼らと共に僕達は初めてのフルパーティ戦をすることになった。



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第八話 亜竜クラスモンスターの実力

 ◇  【騎士(ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

<ノズ森林>に来る前にシルク、タタン、ガルドとパーティを組むこととなり、現在【ティールウルフ】4匹と戦闘中だ。

 

彼らにはこちらの目的であるジョブクエストの内容は教えてあるし、あちらのクエストに協力する代わりにこちらのクエストにも協力してもらうことは了承済みである。しかし・・・

 

「おらおら!これでも喰らいやがれー!」

 

ガルド君が一人で【ティールウルフ】4匹に対して<エンブリオ>である片刃の大剣を振り回している。その大剣は刀身がオレンジ色に輝いて熱を帯びているのが分かる。おそらく何かのスキルだろう。振り回す前に《クリムゾンセイバー》なんて叫んでいたし。

 

「ちょっとガルド!今は六人で行動しているのよ!もっと立ち回りを考えて!」

「俺のレーヴァテインが当たればここら辺のモンスターは一発で倒せるんだから問題ないだろう!」

「問題大有りだって言ってんのよ!!」

 

シルク君はパーティ戦という物をよくわかっている様だ。ガルド君が大剣を振り回している間は俺とクロス兄貴は危なくてモンスターに攻撃できない。このデンドロはリアルだから仲間の攻撃だって当たればダメージになる。

 

クロス兄貴は《マナ・バレット》などで攻撃することはできるが、俺は攻撃手段が現状では皆無だ。

 

「す、すいません皆さん」

「GOGOGO」

 

タタン君なども自分の<エンブリオ>である【タロス】と共に何もできずにいた。タタン君の【タロス】機械式ゴーレムのガードナーにも遠距離の攻撃手段は今はないらしい。

 

「タタン君が謝る必要はないよ。これは彼自身が謝ることだぞ?」

「そ、そうですよね・・・」

 

タタン君の言葉にクロス兄貴はそう答えた。どうも、彼らは前衛をガルド君に【タロス】が担当してシルク君とタタン君はその援護と言う戦闘スタイルのようだが、今まで上手くいっていたのでガルド君は調子に乗っている様だ。

 

現在はフルパーティを組んで彼や【タロス】以外にも前衛が居ると言うことを理解していない。ついでに言えばウッドも援護しにくそうだ。好き勝手暴れているだけだから下手すると彼に矢が当たりかねないのだ。

 

今忙しそうにしているのは暴れているガルド君以外では彼を回復しているシルク君くらいだろう。ガルド君は攻撃はしているが一向に攻撃が当たらず、反対にモンスターの攻撃は当たりまくっているので回復役のシルク君は忙しいのだ。

 

しかもその現状が彼を苛立たせて、攻撃はさらに精彩に欠ける。これではいつまでたっても当たるわけがない。

 

『やれやれ、仕方なしかな・・・』

 

俺は有る決断をして、ガルド君へと近づき・・・

 

「こなくそ~!雑魚モンスターのくせにっておわ!?」

 

ガルド君の背後から防具を掴み、思いっ切り俺の背後へ引っ張った。そのままガルド君は尻餅をつく。

 

「何すんだよ!?」

『それはこちらのセリフだ。ただ武器を振り回しているだけのお遊びならよそでやれ』

「なぁ!?」

 

ガルド君が俺の突然の行動に文句を言っている間にも、モンスターは俺に攻撃してくるが、今の俺なら【ティールウルフ】の攻撃ではダメージを与えられない。

 

あと、俺の行動にシルク君やタタン君も驚いている。もっとも兄貴とウッドは俺の行動の理由を察して【ティールウルフ】を攻撃しているが。

 

「誰がお遊びだって!?」

『モンスターに攻撃が当たらないのに何を言っている?しかも、モンスターの攻撃は君に当たりまくりじゃないか。これではシルク君のMPもすぐになくなる』

「その前に倒せたさ!」

『説得力のかけらもない。そもそも前衛は君だけではないんだ。それも考えずに大剣を振り回されてははっきり言って邪魔だな』

「あ・・・」

 

俺の言葉に今気づいたと言うような呟きを口にするガルド君。その間に兄貴とウッドが【ティールウルフ】を倒し切る。

 

『理解できたなら、これからは武器を闇雲に振り回すなよ?味方の攻撃でダメージを貰うなど恥かしいからな』

「~!!わかったよ!」

 

ガルド君は顔を真っ赤にして立ち上がり早足で<ノズ森林>を奥へと向かう。俺達もあとに続く。

 

「嫌われ役、お疲れ様」

「悪いな。嫌な役させてしまって」

 

兄貴とウッドが俺に話しかけてきたのでフルヘルムの中で苦笑する。ガルド君には普通に注意したんじゃ聞いてくれないと思いわざと挑発的な言葉で教えたのだ。

 

このままじゃクエストもクリアできそうにないと判断しての決断だ。彼には嫌われるだろうがそれもやむなしだ。これで少しはマシになるといいが・・・

 

 

 

 ◇  【弓士(アーチャー)】ウッド・アクアバレー

 

 

ゲイル兄貴がガルド君に嫌われ役になる覚悟で注意をしてからは、フルパーティとして機能し始めた。

 

「【タロス】!そのまま敵を引き付けるんだ!」

「GOGOGO」

『俺は右から攻撃する!』

「俺は左からだ!」

 

現在ボスモンスターである【ビッグフォレストベアー】と戦っている最中だ。前衛にはタタン君の【タロス】が真正面で戦い、ゲイル兄貴とガルド君が左右から攻撃している。

 

「《ツインアロー》!」

「《ストレングス・アップ》!《エンデュランス・アップ》!」

「《ヒール》!」

 

後衛ではグリフに乗った僕は遠距離攻撃をタタン君にシルク君が魔法で【タロス】援護している。普通なら機械式ゴーレムには回復魔法は意味がないのだけど、【タロス】には効果があるんだよね。多分、そう言う固有スキルを持っているんだね。

 

「GOGOGO!」

「GAU!?」

「《マナ・ブレード》!」

 

【タロス】のパンチでバランスを崩したボスに遊撃をしていたクロス兄貴が真後ろから《マナ・ブレード》で止めを刺す。これでボスの【宝櫃】は4個目だ。やっぱりフルパーティは戦闘効率が桁違いだね。

 

おかげで僕たちのLvは24になり新たなスキルを覚えた。クロス兄貴は《スティンガーソード》。ゲイル兄貴は《ダメージ軽減》に《怪魚斬り》。僕は《インパクトアロー》。

 

シルク君たちもLvは上がって喜んでいる様だしそろそろいいかもね?

 

「そろそろ、<ノズ森林>の奥に行って【ブラストファングタイガー】を探そうか?」

 

クロス兄貴がそう尋ねると・・・

 

「そうですね・・・今のLvなら大丈夫そうです」

「み、皆さんも強いですしいけるかと・・・」

「俺が止めは貰うけどな!」

 

ガルド君はともかく残る二人はLvが上がりフルパーティ戦を経験したことで自信が付いたようだ。

 

『では、奥に向かうとするか』

「・・・ふん」

 

ゲイル兄貴がそう言うとガルド君はそっぷを向き先に行ってしまう。やはり嫌われてしまったようだ。

 

「す、すいませんゲイルさん」

『シルク君が謝ることじゃないよ。こちらのせいでもあるし』

「で、でもおかげで戦闘効率は上がりましたし、ガルド君にも問題はありましたから」

 

シルク君とタタン君はどうもゲイル兄貴がわざとああ言うことを言ったと分ってくれたらしい。ちょっと不安要素はあるけど、僕たちは初の亜竜クラスモンスターと戦うために奥へと向かう。

 

 

 

 ◇  【魔法剣士(マジックソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

ガルドとゲイルの奴は必要だったとはいえ、ああいう形になっちまったことに不安要素があるが、俺達は<ノズ森林>の奥に到達した。

 

現在は目的のモンスター【ブラストファングタイガー】を探しているところだ。ちなみにこのモンスターの外見は牙が長い紅い色をしたトラだとか。

 

<ノズ森林>の奥はこのモンスターの縄張りらしく、他のモンスターは出てこない。それはありがたいが森林奥のこの場所は木の密度が高く、暗いので戦闘がしにくそうだ。

 

俺達は先頭にゲイルと【タロス】のENDが高い者たちが警戒し、真ん中にシルク君とタタン君が。その後ろを俺とガルド君が警戒して殿をウッドが警戒している。なお、ウッドはグリフに騎乗してはいるが地上を歩いている。

 

先ほど言ったこの場所の特徴を考えると、飛ぶのは危険と判断してやめさせたのだ。

 

周りの警戒しながら進む俺達だが、中々目的のモンスターを見つけることも出会うこともない。歩き疲れた俺達は近くに有った切り株の周囲で休憩することにした。

 

「なかなかいないな。虎・・・」

『他の<マスター>に狩り尽くされたってことは無いよな?』

「普通ならあり得ないって言う所だが、デンドロだしな・・・」

 

ウッド、ゲイル、俺はそんな言葉を漏らす。どうもデンドロはモンスターの生態すらリアルで繁殖を行い増えていると言う。つまり何も考えず狩りだけやっているとモンスターは絶滅することがあるらしい。

 

例外は一部のダンジョンだけであり、初期のころは貴重なモンスターが危うく絶滅しかけて何人もの<マスター>が【従魔師】ギルド関係者に怒られたそうだ。

 

「どうしようか?」

「ク、クエスト失敗の場合は罰金が・・・」

「む~どこに居るんだよ~トラ~」

 

シルク君たちも不安になっている様だ。俺たちの方はジョブクエストはすべて達成している。彼らのクエストに協力したいのは山々だが、肝心のモンスターが見つからないのはな・・・

 

『まぁ、まだ日は高いし夜まで探索するぐっは!?』

 

ゲイルが立ち上がり言葉の途中でいきなり吹き飛び近くの木に激突した!

 

「「ゲイルさん!」」

「敵襲!周囲警戒!」

 

吹き飛んだゲイルにすぐさま駆け寄ろうとするシルク君とタタン君を止める意味でも、俺は敵が近くにいることを知らせた。

 

何せゲイルを不意打ちしたと言う事実がすでにヤバい。ゲイルの【ボルックス】には攻撃察知機能が付いているのにだ。<マスター>の不意打ちすら察知した機能が役に立たなかったのだ。

 

「で、でもゲイルさんが!」

『お、俺は大丈夫だ!それよりもどこかに敵がいるから気を付けるんだ!』

 

ゲイルもダメージを受けた直後の体を動かして、周囲を警戒する。全員が周囲を警戒する中、もう隠れる意味はないとでも考えたのか、そいつは姿を現した。

 

紅い体毛と黒い縞模様が特徴の長い牙持つそいつは俺達が探していた【ブラストファングタイガー】であろう。ただ、そいつは片目に大きな傷跡がありなんというか歴戦の強者と言う雰囲気を醸し出していた。

 

ゲイルの俺達に近づいて目の前に現れたボスを警戒する。すると目の前のトラが近くの木に飛び移り、そのまま【タロス】に飛び掛かった!

 

「GAA!」

「GO!?」

「【タロス】!?」

「「『速い!?』」」

 

どうやら俺以外にはトラの動きが見えなかったようだ。虎はそのまま【タロス】を押し倒すとまたも木に飛び移り速さで俺達を翻弄する。そして・・・

 

『ぐは!?』

 

今度も何かの攻撃を受けてゲイルがダメージを受けた。今度は吹き飛ばされることはなかったが、それでもかなりのダメージを受けている様だ。

 

「《マナ・バレット》!」

 

唯一トラを動きが分かる俺がスキルで一番早さがある《マナ・バレット》を使っているが、なかなか当たらない。

 

「クルー!」

 

いや、もう一体動きが分かる奴がいた。グリフである。しかしグリフの唯一の攻撃スキル《ウィンドブレス》も当たってはいないようだ。

 

まさか亜竜クラスモンスターがこれほどとは思わなかったな。戦闘スタイルが今の俺達からすると最悪に近い。どうしたものか・・・

 

『ウッド。グリフに指示をして今から俺の言う通りの場所に《ウィンドブレス》をしてくれ』

「ゲイル兄貴。何か考えがあるの?」

『とりあえず試してみたいことがある』

 

ゲイルの提案を聞き、確かにやる価値はあると判断できる物だな。ハマれば状況を打破できる可能性がある・・・

 

 

 

 ◇ 【ブラストファングタイガー】

 

 

我の縄張りにまたしても左手に妙な物が描かれている者たちがやってきた。今度の者たちは幼い者たち三名に大人が三人。あとは妙な気配のよくわからない物が二体・・・

 

二体のうち一体は我と同じ獣の匂いがするが、気配が妙だ・・・まぁいい。考えるより明確な事がある。奴らは敵だ。我と我の大切な者を奪いかねない敵だ。

 

これまで同様、敵なら倒すまでだ・・・

 

いつものようにまずは気配を消しての先制攻撃。我の得意な攻撃である【衝撃波(ブラスト)】を一番戦闘力がありそうな鉄に包まれている者を攻撃した。

 

先制攻撃なら高い確率で当たれば吹き飛ぶ。運がよければどこかにぶつかり骨が折れる。しかし・・・今回はそれは起こらなかった様だ・・・・

 

少々残念だが、先制攻撃が成功しただけでも良しとしよう。攻撃されたことで奴らは周囲を警戒しだした。こやつら前にやってきた者たちよりも優秀であるな・・・

 

ならばこちらも姿を現した方が良いな。こういう者たちは真正面から戦った方が良い・・・

 

奴らの目の前に出て行き、しばらく睨み合った直後に得意な木々を利用した跳躍攻撃でまずは妙な気配の大きい鉄の塊の匂いがする者を押し倒す。

 

これでしばらくは立ち上れないであろう。あとは跳躍しながら【衝撃波(ブラスト)】で一番戦闘力がありそうなやつから順番に倒して行けばいい。弱れば我自慢の牙で首筋に噛みついてくれるわ。

 

などと考えながら跳躍していると、先ほどから我に当てようとしている攻撃している者たちの片割れが奇妙なことをした。

 

「クルー!」

 

我を攻撃していた技を地面に向かって撃ち出したのだ。その祭に土煙が周囲に充満する。なるほど・・・これではうかつに攻撃できんな・・・

 

などと考えると思うか? 我くらいならば匂いと気配で見分けがつくわ。おそらく敵は我が攻撃してこないと油断しているはず。ならば敵の一人を葬るチャンスだ。首筋に牙を喰いこませてくれる。

 

二つの鉄の匂いがするが、一つはまだ倒れたままだ。ならばもう一つが先ほどから攻撃している者。今が好機!

 

「GAAAA!!」

 

最大速度で跳躍し、鉄の匂いのする者の首筋を狙う! 気付いて首を庇うために腕を防御に使うが、ならばその腕を戴くまで!

 

我の牙は鉄を貫き、奴の腕を喰いちぎらんと・・・!? おかしい! 肉の感触がない! どういうことだ!?

 

しかもこやつ! 噛みつかれたと言うのにそのまま我にしがみ付くではないか! 恐怖はないのか!?

 

そのまま鉄の匂いのする者は我の胴体に足を絡めて、しっかりと拘束したではないか!? それと同時にすさまじい重量が我の動きを阻害する!

 

何と言う重さだ! これを付けて戦闘をしていたのか! なんという力よ!

 

そのまま我は止まってしまい。周囲を敵六人と二体に囲まれて・・・まて、六人だと!? ならば我の動きを封じているこの鉄の匂いがする者はなんなのだ!?

 

我の疑問は次の瞬間に四人と二体の波状攻撃によって、無に帰した・・・・

 

 

 

 ◇  【魔法剣士(マジックソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

俺達の目の前には【ブラストファングタイガー】のドロップ品である【衝撃牙虎の宝櫃】が転がり、片腕が粉々になった【ポルックス】ガードナー運用が直立していた。

 

「【ポルックス】ご苦労様だ。すまないな?無茶をさせた」

「・・・・」

 

ガードナー運用状態の【ポルックス】問題ないと言うようにヘルムを左右に振る。そのまま、ゲイルは礼を告げ紋章に【ポルックス】を戻した。

 

「ゲイルさんの<エンブリオ>はガードナーでもあるんですね」

「戦闘力は低いけどね」

 

それからこの【宝櫃】を彼らに渡そうとすると・・・

 

「それはお兄さんたちが貰ってください」

「ガルド?」

「ガルド君?」

 

ガルド君が意外なことを口にした。シルク君とタタン君も驚いている。

 

「あいつを倒せたのはお兄さんたちが居てくれたからだ。俺は何もできなかった・・・だから、それはお兄さんたちの物です」

「・・・ガルドの言う通りですね。私も同じ意見です」

「ぼ、僕も賛成です!」

 

三人がそう言うので、クエストクリアのためにこれを提出した後に貰うことで落ち着いた。

 

「あ、あとゲイルさん。迷惑をかけてすいませんでした!あと助言もありがとうございます!」

 

話し合いの後にガルド君はゲイルに謝り感謝を口にした。そんな彼に対して・・・

 

「いや、こちらこそ言い方が悪かった。すまなかったな」

「い、いえ!ああでも言わないと俺理解しなかったと思うし、問題ありません」

「そうか・・・よければクエストクリアを報告した後、フレンド登録してくれないか?もちろん二人も」

「は、ハイ!喜んで!」

「「お願します!」」

 

どうやらわだかまりもなくなりハッピーエンドかね?

 

「クル?」

「?どうかしたグリフ?」

 

そんな風に考えていると、グリフが何かに気付いたらしく戦闘の労いに撫でていたウッドから離れて茂みの中へと向かって行った。俺達はその後を追い、近くの木の根元を覗き込んでいるグリフが居た。覗き込んだ場所には・・・

 

「クル~」

「「「にゃ~」」」

 

三匹の赤い体毛の猫が居た。いやよく見れば薄い黒色の縞模様があるな? もしかして虎か?・・・なんかいやな予感がする。

 

「か、かわいい!」

「うわ~ちっちゃいなぁ~」

「おお!なんだこいつら!?」

 

シルクたち三人はトラたちの可愛さに喜んでいるが、俺はそんな考えはちっとも浮かばなかった。よく見ればゲイルとウッドも浮かない顔だ。どうやらこいつらがどういう立場かわかっている様だ。

 

「この子たちは生まれたばかりみたいですね?」

「親はどこに居るんだろう?」

「ってヤバくないか?親が来たら俺達襲われないか?」

 

三人は無邪気に虎の子供を構い、親が来ることを心配する。だが、それはありえんだろうな・・・

 

「その心配はないと思うぞ・・・」

「「「え?」」」

 

さすがにこれは伝えるべきだろう。先ほど嫌われ役をしたゲイルではなく、今度は俺が告げよう・・・残酷な事実を。

 

「多分・・・そいつらの親は俺達が倒したから」

「「「・・・・え?」」」

「「「にゃ~?」」」

 

三人の信じられない声と無邪気な虎の子供たちの鳴き声が空しく響いた・・・・




最後はちょっと悲しいお話ですね。この続きは次回です。


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第九話 彼らの選択とその後の行動

前半はちょっと悲しいお話です。


 ◇  【騎士(ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

クロス兄貴の言った事を彼らはどう受け止めるのだろうか。俺達が倒した【ブラストファングタイガー】に子供が3匹も居た。これは間違いないだろう。

 

こんなモンスターが蔓延る世界で戦闘能力がない生まれたての子供たちだけがここに居たのが、その可能性を高めている。

 

「・・・・嘘ですよね?」

 

ただ、シルク君は信じられないといったふうに言葉を絞り出す。あるいは無意識に出た言葉かもしれない。

 

「残念だが・・・可能性は極めて高いだろう。そもそもこんな場所に子供たちだけで親が居ないのは不自然だ」

 

クロス兄貴はそんな彼女の言葉にも揺らがずに淡々と可能性を告げる。

 

「っ!」

「「「にゃ?」」」

 

シルク君は堪らず、三匹の子供の虎たちをいっぺんに抱きしめた。俺達のやったことは間違いでも残酷な事でもなんでもない。危険なモンスターを討伐したただそれだけだ。

 

しかし、無垢な子供たちの親を奪ったことも間違いのない事実なのだ。虎たちはそんな彼女の心情を理解してない・・・いや、理解できるはずはないか。虎たちはそんな彼女の頬を舐めたり、嬉しそうに鳴き声を上げるが・・・

 

「ごめんね・・・ごめんなさい!」

「「「にゃ~」」」

 

シルク君はか細い声で虎たちに謝っている・・・そんなシルク君の後ろでもどうしたらいいかわからずに呆然と立ち尽くすガルド君とタタン君が居た。

 

彼らもまた悩んでいるのだろう。そんな中タタン君が俺達に声を掛ける。

 

「・・・この子たちはどうすればいいですか?」

「・・・方法は3つある。1つ目はここで討伐すること」

「「「!?」」」

「断っておくが俺は何も残酷なことを言っているわけではないぞ?むしろここでこの子らを見逃せば、成長してティアンを襲うようになるだろう。それを阻止するための方法だ」

「「「あっ・・・」」」

 

そう、いくら可愛くてもこの子たちは虎であり、成長すればモンスターとして人を襲うようになる。クロス兄貴が言っているのはこのデンドロでは当然の考えだ。

 

「・・・残り2つは?」

「2つ目は従魔師ギルドに買い取ってもらうことだ」

 

【従魔師】はモンスターを自分の戦力として戦わせるジョブだ。そのジョブギルドではモンスターの売買も行っており、子供のモンスターの世話や一定Lvまで上げることも行っている。

 

「・・・最後はなんですか?」

「3つ目はこの場に居る誰かが【従魔師】になってテイムすることだ」

 

【従魔師】はモンスターを戦わせるジョブ。このジョブに就けば《テイム》と言うスキルを使えるようになる。このスキルは主に野性のモンスター相手に使い、仲間にして戦力を手に入れる。

 

「「「・・・」」」

 

三人は悩んでいる。おそらくは【従魔師】になってこの子たちを仲間にしたいと考えているだろう。だが、この子たちの親を奪ったと言う事実がそれでいいのかと不安をよぎらす。

 

「俺のおすすめは従魔師ギルドに買い取ってもらうことだ。歓迎されるだろうし臨時収入も期待できるからな。少なくともこれならその子たちが他のモンスターにやられることも飢え死にすることもない」

 

クロス兄貴のおすすめは理に適っている。何より亜竜クラスモンスターの子供だ。欲しいと考える【従魔師】の<マスター>は多いだろう。しかし・・・

 

「こ、この子たちは僕が引き取ります!【従魔師】に僕が就いて仲間にします!」

 

タタン君がそう言葉にした。クロス兄貴はそんなタタン君を見つめて・・・

 

「その決断は親を奪った責任感からか?」

「な、ないと言えばうそになると思います。で、でも責任感があるといけませんか?」

「ダメとは言えないさ。だが、そこまで君たちが重く考えているのなら・・・」

「重くも考えていません。確かにこの子たちの親を僕たちは討伐したかもしれません。それならこの子たちの今後を考える責任が僕たちにはあります。なら、誰か他人に頼むのではなく僕たちのうちの誰かがやるべきだと判断しました」

 

タタン君はこれまでの気弱な態度を引っ込めて自身の考えを言い切った。その態度と考えに俺達は・・・

 

「ならその子たちを頼むな!」

「何か困ったことがあれば相談に乗るからね?」

「俺達にも責任はあるしな」

 

彼の決意を支持した。

 

「は、はい!」

「タタンはすごいな・・・」

「ありがとう!タタン君」

「ふ、二人もこの子たちのお世話手伝ってね!」

「「もちろん!」」

「「「にゃ~!」」」

 

最後にとんでもないことになったが、彼らが決断したならそれを手伝うだけだ。いやな終わり方になるかと思ったが、後味悪くならなくってよかったよ。

 

その後、俺達は三匹の虎を連れて王都に帰還。北門の門番さんからその子たちが暴れたら責任を取ることを条件に王都へ入ることを許可された。

 

そのまま従魔師ギルドへ行き、タタン君が【従魔師】に就き虎たちを《テイム》した。《テイム》できるか心配だったが問題なく《テイム》が出来た。

 

従魔師ギルドの職員の話だとこれくらいの子供だと《テイム》難易度は低いとのこと。ちなみにこの虎たちの種族名は【ファングタイガー】であり、親よりも弱いモンスターだった。

 

これはモンスターの間では珍しくないんだとか。子供が親より弱く生まれてくるのは普通なんだと。むしろ、珍しいのは親よりも強い種族で生まれるパターンらしい。

 

無事に《テイム》してからは【従魔師】必須のアイテムである【ジュエル】を購入する。これは簡単に言えばアイテムボックスの生物版である。

 

ジュエルの中にモンスターを仕舞い内部時間が進まない設定にもできる。そんなものがないと<マスター>は【従魔師】になれないからな。

 

そんな訳で三匹の虎の子供が成長することも考えて、ちょっと高級なジュエルをタタン君は買った。この購入金額は俺達も出し合った。三人は恐縮していたが、俺達にも協力させてほしいと言って納得してくれた。

 

その後はクエスト完了の手続きをして、ドロップ品の買い取り額を全員で分け合って彼らと別れた。別れる前にフレンド登録も忘れずに行い。また会う約束をした。彼らはリアルで虎たちの名前を考えると言っていた。

 

彼らのログアウトを見送り、俺達も今日はここまでと相談してログアウトした。

 

 

 

 ◇  水谷 高次

 

 

それから次の土日までは、俺達は各自の時間がある日にログインしてデンドロを楽しんだ。主にやっていたのはジョブクエストやプレイヤースキルを上げるために同じジョブのティアンにお金を払い戦闘の動き方を教えてもらった。

 

俺達は戦闘では素人だからな。多少はゲームをやっていたおかげで知ってはいてもリアルに限りなく近いこのデンドロでは技術を学ぶのは無駄にならない。

 

ジョブクエストも同じジョブに就いた<マスター>たちと協力した。おかげで知り合いやフレンドも増えて久しぶりに充実した毎日を過ごしている。

 

Lvも44になりそろそろ最初のジョブもカンストになる。スキルも新しく《瞬間装備》、《鳥獣斬り》、《鉱物斬り》、《アンデット斬り》、《ドラゴン斬り》を覚えた。ただ、これは普通にLv上げで覚えたものでジョブクエストをして覚えたスキルはなかった。二人はいくつか覚えていたので、ちょっと悔しい。

 

閑話休題。

 

そろそろ次のジョブも考えないといけないので知り合いとフレンドのおすすめやネットでの情報収集の結果、騎士系統下級職の【盾騎士(シールドナイト)】か【重騎士(ヘビィーナイト)】が候補になった。

 

【盾騎士】は盾の扱いに特化した騎士で盾を使った攻撃スキルやダメージ軽減スキルを覚える。

 

【重騎士】は鎧に補正を与えるスキルや耐性スキルなど守りに特化したスキルを覚える。

 

二つとも俺の戦闘スタイルにマッチしているのでどちらとか言わずに両方に就くことも検討している。

 

俺のゲーム内の近況はこんなところだ。次は兄弟二人の近況を話そう。まずは二人もLvは40を超え、兄貴はLv42になっている。芳樹はLv43だ。

 

兄貴が覚えたスキルは《瞬間装備》、《魔法強化》、《マジック・スライサー》、《ファイヤーソード》、《ツイストスティンガー》をLvアップで。ジョブクエストを達成したことで《瞑想》、《詠唱》の二つを覚えた。

 

あと、兄貴は魔術師ギルドでティアンの【魔術師】から講義も受けていたらしく魔法属性の火、風、水、土の下級魔法を使えるようになった。ボール系と呼ばれるファンタジーゲームではお馴染みの魔法だ。

 

芳樹は《瞬間装備》、《マシンガンアロー》、《ワイドアロー》、《フォールアロー》をLvアップで。ジョブクエストで《照準》を。

 

全員が覚えた《瞬間装備》はアイテムボックスにある武器をすぐに装備できるもので、武器を使ってある程度戦っていれば自然と覚えるスキルらしい。

 

カンスト後のジョブに関しては兄貴はすでに就いている【剣士】と【魔術師】を上げると言っていた。芳樹はちょっと意外で【騎兵(ライダー)】に就くと言っていた。

 

本人によれば<エンブリオ>であるグリフとの相性を考えて選択したと言う。【騎兵】のスキルに《騎獣強化》と言うスキルが有り、このスキルでグリフを強化できるとのこと。

 

また騎兵系統には下級職に【弓騎兵(ボウ・ライダー)】その上級職【強弓騎兵(ヘビィ・ボウ・ライダー)】があってそれらに就けば【弓士】も無駄にならないと言っていた。よく情報収集している。

 

あと、シルク君にタタン君それとガルド君とも何度か一緒にパーティを組んだ。彼らは学生であるので俺達よりもログイン頻度は少ないが、それでも兄弟以外最初のフレンドだから交流は続いている。

 

あの時の虎たちも元気にしていた。子供なのでしつけに苦労している様だったが、それを含めて楽しそうだった。

 

なお、名前は虎鉄、赤斗、華子に決まったようだ。長男でやんちゃな虎鉄、次男で甘えん坊な赤斗。末っ子で紅一点好奇心旺盛な華子だ。ちなみにこの子たちはグリフに懐いていて、グリフの背中でダラ~ンと脱力するのがお気に入りである。

 

そんなこんなで次の土日になり、五日ぶりに兄弟であることをしようと話していたところだ。約束の時間はすぐだから早速ログインすることに。楽しみだ。



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第十話 神造ダンジョン<墓標迷宮>

 ◇  【魔法剣士(マジックソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

俺は一足早くにデンドロにログインして弟たちを待っているところだ。いつもは俺が最後に合流していたからな。今日は仕事が早く終わったので、驚かそうと思い早めに来たと言うわけだ。

 

それに一つ考えたいことがあったからな。今日まで俺達は何度かデンドロにログインしてジョブクエストを受けたり、同じ系統職業の<マスター>とパーティを組んだりして知り合いやフレンドを増やした。なお、知り合いのほとんどがティアンだ。

 

知り合ったティアンに相談したり、クエストとして戦闘の指導を頼んだり魔術師ギルドで魔法の講義にも参加したりとティアンとも交流を深めて戦闘能力の向上を目指した。

 

おかげで【魔法剣士】のLvカンストにもう少しでジョブ関係のスキルも充実。少しづつだが強くなっている実感も感じている。次のジョブも【剣士】と【魔術師】をメインジョブにしてLvを上げる予定だ。

 

弟たちも順調にデンドロを楽しみ強くなっていると電話で言っていた。ただし、順調なのは<エンブリオ>を除いてだ。

 

俺達の<エンブリオ>は未だに第一形態のままで第二形態に進化していない。ネット情報やフレンドの<マスター>たちの話では早ければデンドロ内時間で四日もあれば進化するらしい。

 

俺達兄弟は平均で約六日はデンドロ内で活動しているのにだ。これには俺達も頭を悩ませている。そのことに付いて相談した結果、とあるところに行ってLv上げをしてみてはどうかと言うことになった。

 

その場所ならばモンスターを倒し続けても誰にも文句を言われないし、運がよければレアなアイテムも手に入るそんな場所がアルター王国の王都にあるのだ。

 

そこは神造ダンジョン<墓標迷宮>だ。

 

デンドロのダンジョンは2種類ある。モンスターが占拠した砦跡やモンスターが掘って住み着いた洞穴など諸事情によってダンジョン化した自然ダンジョン。

 

そして、もう一つが神造ダンジョンと呼ばれるダンジョンだ。これはざっくばらんに言えば運営によって創られたゲームなどではお馴染みのモンスターが絶えずリポップし、ダンジョンから出てくることもなく、宝箱がランダムで配置されるダンジョンだ。

 

この神造ダンジョンは現在確認されているだけで七つある(本当は九つ存在するが、この時点では1つは発見されておらずもう一つは監獄に有るため、知らない<マスター>が多い)

 

その内の一つがアルター王国の王都アルテアに存在する<墓標迷宮>。神造ダンジョンの中では最も入りやすいと言われている。

 

入るための条件がアルター王国所属であることと【迷宮探索許可証】と言うアイテムを手に入れ自身の名を記載することだけだからな。他の場所は山奥や森林深くに有ったり、入るためのアイテムが手に入り難かったりと難しいとのこと。

 

ちなみにこの【迷宮探索許可証】はお金で買うとお値段10万リルと言う大金なのだ。だが、逆に言えばお金さえクリアできるのなら簡単に手に入ると言う事。

 

クエストや討伐をしてお金は20万リルを超えてきた俺達なら手に入るので挑戦して色々な経験を積もうと言うわけだ。

 

丁度、ゲイルとウッドがログインしてきたので早速向かうとしよう。

 

 

 

 ◇  【弓士(アーチャー)】ウッド・アクアバレー

 

 

珍しく最初にクロス兄貴が待ち合わせ場所に居た。それについて驚いていると、してやったりと言う顔をされる。ちょっとイラっとした。

 

とりあえず落ち着いて、今日は<墓標迷宮>に挑戦するので、さっさと目的地に向かう。【迷宮探索許可証】はすでに手に入れているから問題なし。

 

そう言えば僕たちが許可証を買ったお店、【魔王骨董品店 中央大陸支店】って店だったけど・・・本店は離島の天地か海上にあるグランバロアかな?

 

などと考えていたら<墓標迷宮>のある墓地区画へとたどり着いた。当然だけど西洋ファンタジーのお国柄だからお墓も西洋風だね。墓地を進み<墓標迷宮>の入り口を監視している門番さんに許可証を見せ、デンドロ初のダンジョンへと挑戦する。

 

 

<墓標迷宮>は地下へと続く地下迷宮で階層がどれくらいあるのかはまだわかっていない。提示板で判明しているのは31階層までだった。

 

その階層までたどり着いたのは合計Lv300越えの上級職<マスター>フルパーティだと言う。とは言えこれはあくまで提示板に情報提供している人の記録だ。

 

中にはそれ以上の情報を持っていても誰にも明かさず情報を独占している人も居るだろうね。

 

そんな<墓標迷宮>に初挑戦する僕たちはまずは1階層の探索をするところではあるが・・・

 

「じゃあ、予定通り4階層までは一直線に階段を目指すぞ」

『「了解」』

 

僕たちは早々と情報収集して覚えた階段までの道のりを警戒しながら進む。普通ならダンジョンなのだし探索するのだが、これには事情がある。

 

この<墓標迷宮>は5階層ごとにボスが配置されていてそのボスを倒すと次の階層へと行ける。そして五階層ごとの階層に出てくるモンスターの種族は決まっているのだ。1階層から5階層に出てくるモンスターは・・・

 

「「「「アァアァ~」」」」

『「「げぇ」」』

 

僕たちの目の前に出てきたのは全身が腐って骨や内臓が見えて、けれど倒れることなくゆっくりとした足取りでこちらに手を伸ばしながら近づくゾンビたちだ。正式名称【ウーンド・ゾンビ】

 

そう、1階層から5階層に出てくるモンスターはすべてアンデットなのです。【スケルトン】や【スピリット】などはまだマシだけど、このようにゾンビパニックホラー映画の様なリアルなゾンビが居る。

 

さすがにあんなモンスターには近づきたくないし、矢がもったいないから使いたくない。と言うわけで・・・

 

『「兄貴。まかせた!」』

「ちょっと待て!せめてグリフには手伝ってもらうぞ!」

「クル!?」

 

グリフは僕も!?っと言いたげな鳴き声を上げる。

 

「グリフ、仕方ないからさっさと終わらせよう?」

「クル~」

 

心底嫌そうにグリフは鳴き声を上げるが、そんな僕たちをモンスターたちは待ってはくれない。徐々に接近するゾンビたちに向けてクロス兄貴とグリフはこっちにくんな!の思いを込めた魔法攻撃を浴びせるのだった。

 

 

何度かの遭遇戦をクロス兄貴とグリフの頑張りで何とかしつつ、僕たちは4階層へとたどり着いた。ここからはゾンビはではなく【スケルトン・ファイター】などのちょっと強めのアンデットや【ファントム】と行ったモンスターが出てくる。

 

極稀に【フレッシュゴーレム】が徘徊しているらしいが、こいつに出会った場合は我慢して戦うことにしている。経験値が高めらしいから。

 

この4階層からは探索を行うと決めていた。ゾンビ系のレアモンスターは一種類のみでそいつは出会うことが滅多にないし、Lv上げに来た以上は戦わないないと。そんな訳で探索を行いながら出会うモンスターを撃破してゆく。

 

【スケルトン・ファイター】はスケルトンが多様な武器と盾を持ち、多少は機敏に動く。しかし、ゲイル兄貴にはダメージを与えられず蹂躙された。その暴れっぷりはゾンビ相手に暴れられなかったストレスを晴らすかのごとく。

 

【ファントム】は半透明の幽霊型のモンスターだ。通常攻撃はこちらのHP、MP、SPを吸収するドレイン攻撃にデバフや闇属性魔法攻撃をしてくる。デバフや魔法攻撃はそれほど強力ではないが、物理攻撃は無効だし最初の階層では強い部類だね。

 

そんな厄介なモンスターもクロス兄貴やグリフの魔法攻撃に倒されたけど。相手のデバフや魔法攻撃は【ガルドラボーク】によって吸収された。

 

そんな感じで探索をしながら出会うモンスターを倒しまくった。探索結果は宝箱は発見できなかったが。まぁ低階層では滅多にないと言う事かな?

 

その後は5階層への階段を見つけ、さっさと降りた。5階層でも探索を行う。その途中で【フレッシュゴーレム】と運悪く遭遇。現在戦闘中です。

 

「AAAA!」

『ふん!』

 

【フレッシュゴーレム】は死体で作れた2m越えの体のすべてが太く重圧なアンデット。その大振りなデカい拳による攻撃をゲイル兄貴は盾で真正面から受け止めた。

 

現在のゲイル兄貴は《ダメージ軽減》スキルで20ダメージ分は減算され、今装備している盾もなかなかの装備だ。

 

 

 【エレメンタル・シールド】

 各属性のエレメンタルモンスターの素材で作り上げた盾。属性耐性がある。

 

 ・装備補正

 

  防御力+100

  火、水、風、土属性耐性+5%

 

 ※装備制限:合計Lv35以上

 

 

装備スキルはないタイプだが、防御力が高く属性耐性もあるので、ゲイル兄貴には有用だろう。Lvも上がりENDも高くなっているゲイル兄貴は敵の攻撃を低ダメージで受け切った。

 

「炎よ!敵を燃やせ!《ファイヤーボール》!」

 

その隙にクロス兄貴が火属性の魔法攻撃を放つ。《詠唱》スキルでMPを追加で込めて威力を上げて。《詠唱》は自身で考えた言葉を唱えてMPを上乗せして魔法の威力、射程、範囲などを強化するスキルだ。

 

クロス兄貴の場合は【ガルドラボーク】の《オーバー・マジック》があるので下位互換にしかならないが、同時使用も可能らしく使い方のバリエーションは広がったと喜んでいた。

 

「《インパクトアロー》!」

 

僕もゲイル兄貴の後方から援護射撃をしている。けど通常攻撃はせずに攻撃スキルで唯一効果のある《インパクトアロー》をクールタイムを考えながら使用している。

 

「クルー!」

 

グリフも《ウィンドブレス》で援護してくれている。僕たちも強くなり装備も今のLv帯ではそれなりに強力なので【フレッシュゴーレム】が倒れるのにそう時間はかからなかった。

 

ボスモンスタークラスだったらしくドロップは【死体巨人の宝櫃】だった。ただ、名称がブラックすぎる。これからでてくるアイテムを手に持つの嫌だな~

 

「この【宝櫃】どうする?」

『開けるなら俺がしようか?』

「僕としてはお願いしたい」

 

ゲイル兄貴は平気なようだからこの【宝櫃】を開けるのは任せよう。どんなものが出ても買い取りになるだろうけど。とにかく倒せたし、探索の続きだね。

 

 

 

 ◇  【騎士(ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

極稀に出会うはずの【フレッシュゴーレム】を倒した結果、今の俺のLvは48になった。4階層から本格的に戦闘を繰り返し、レアモンスターを倒したがなかなか経験値がおいしいなこのダンジョン。神造ダンジョンは全部こんな感じなのかね?

 

兄貴とウッドもLv47にはなっている様だ。この調子で<エンブリオ>も進化してくれればいいんだが、ステータス画面を見ても変化はない。

 

いつになれば進化するのかね?不安や疑問はあるが、今はこのダンジョンを探索するかね。探索を再開して出会うモンスターを倒していると、俺達の目の前に広い部屋とその内部に居るモンスターを見つけた。

 

十メートルはありそうな巨大なスケルトン。名は【スカルレス・セブンハンド・カットラス】 その名が示す通り六本の腕は鋭利な刃物のような骨になっており、頭はなく何やら骨が連結して長い鞭のような形状になっている。

 

あれが5階層に配置されているボスモンスターだ。俺達は軽く戦闘の配置を相談して部屋へと入り戦闘を開始。しばらくして、俺達は苦戦していた。

 

「KAKAKA!」

『く!?』

 

正面で相手の攻撃を引き受けている俺は、意外と素早い左右に三本ある骨刃の攻撃を防ぎきれずにダメージを受けている。手数もありSTRも高いらしく俺は無視できないダメージを蓄積していく。

 

「くそ!?」

 

クロス兄貴も俺が引き付けている間に攻撃しようとするが、そのたびに頭に連結している骨の鞭が高速で振るわれ先端の刃が兄貴に迫り、それに対処しなくてはならなかった。

 

「《インパクトアロー》!」

「クルー!」

 

唯一攻撃できているのがウッドとグリフだ。しかし、スケルトンであるボスに対して有効な攻撃方法が《インパクトアロー》と言う矢が当たった瞬間に衝撃を発生するスキルだけであり、何度か外してもいる。

 

グリフの方は与えるダメージはデカいが、MP消費が激しく何度も使えず決め手に欠ける。

 

正直に言ってこのままでは負けるだろう。もしかしたら初のデスペナルティにもなるかもしれない。全く持って苦しい戦いだ。しかし、それと同時に楽しくもある。

 

強大な敵に苦戦し、諦めずに勝つためにはどうすればいいのかを考えるのはすごく楽しい。今の俺は笑みを浮かべているだろう。

 

このボスを倒すために一か八か、【ポルックス】をガードナーとして使い人数を増やそうかと考えた。だが・・・

 

『ん?』

 

突然、敵の攻撃がよく見えるようになり攻撃を防ぐことができるようになった。戸惑い何があったのか考察する。

 

(AGIが上がったわけではない。俺の速さは変わらない。だとしたら・・・)

 

変化は俺だけではなかった。ウッドとグリフの攻撃のダメージが上がった様な気がする。それに後ろから・・・

 

「グリフ!?なんだか大きくなってない!?」

「クル!」

 

そんな声が聞こえた。それとウッドの攻撃は多少上がった程度だと思う。だが、グリフの攻撃は劇的に変わっている。今までの《ウィンドブレス》はうちわで風を送るような物だったが、先ほどからの《ウィンドブレス》は扇風機の強ボタンクラスの勢いがあった。

 

俺はこの状況の変化について、もしかしたらと思い兄貴に確認をする。

 

『兄貴!もしかしたら俺とウッドの<エンブリオ>が進化したかもしれない!』

「それは本当か!?」

『俺からは確認できないが、グリフは成長したんじゃないか!』

「うん!以前より一回りはデカくなったよ!」

「確かにそれなら進化しているかもな!俺もきついがステータスを確認して見る!」

 

そう言うと兄貴は骨鞭の攻撃を何度か受け、何度目かの接触時に自らの剣に骨鞭を絡め取った!その隙にステータスの<エンブリオ>項目を確認すると・・・

 

「なるほど!ウッド!俺の後ろに来てくれ!」

「わかった!」

 

クロス兄貴はステータス画面を見た後にウッドにそう指示を出した。移動の際にグリフが視界に映ったが確かに大きくなってるな? 

 

ウッドとグリフが兄貴の後ろにたどり着くと、兄貴はさらに続けて指示を出す。

 

「今から新しいスキルでグリフにMPを譲渡する!グリフはそのまま《ウィンドブレス》をボスに当てまくれ!」

「グリフ!クロス兄貴の言う通りにして!」

「クル!」

「いくぞ!《サークル・トランスファー》!」

 

クロス兄貴がスキル名を宣言すると、部屋に仄かに見える薄い緑色をした結界が構築された。

 

「MP譲渡対象はグリフだ!」

 

さらに兄貴は言葉を続け、その直後に【ガルドラボーク】のページが開き黒いページが徐々に白紙になってゆく。その際に蒼い粒子がグリフへと流れていく。

 

「クルー!」

 

その流れが止まるとグリフは《ウィンドブレス》をボスに向けて放った。先ほどまではMP管理のため攻撃できなかったのにだ。兄貴の言葉通りなら【ガルドラボーク】の新スキルはパーティメンバーにMP譲渡できるようになったようだな。

 

《ウィンドブレス》は威力も高いしクールタイムも短かったが、MP消費が高いためグリフのMPでは多用は出来なかったがこれなら問題解決になる!

 

その後はグリフと【ガルドラボーク】のスキルコンボにより、ボスモンスターを何とか撃破することに成功した。

 



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第十一話 進化した能力と今後の方針

 ◇  【魔法剣士(マジックソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

俺達三兄弟の<エンブリオ>が戦闘中に進化したことで<墓標迷宮>5階層の配置ボス【スカルレス・セブンハンド・カットラス】を倒すことに成功する。

 

討伐した後には6階層への階段と地上に戻るためのワープポイントが出現した。あとボスのドロップの中に三個の【エレベータージェム】と言う物が転がっている。これを使うと一回だけ6階層からスタートできるらしいな。

 

その他には【白骨七刃の宝櫃】とボス討伐報酬である宝箱が出現していた。<墓標迷宮>では5階層ごとに配置されているボスモンスターを倒すとドロップとは別に宝箱が出現するとネット掲示板にあったな。

 

さらにボスを倒したことでLv50になったな。これで【魔法剣士】はカンストだから次は【剣士】と【魔術師】どっちをメインジョブにするか・・・

 

『手強い敵だったが、楽しかったな!』

「そうだね。でも、<エンブリオ>が進化しなかったら負けてたよ。グリフありがとうね。それとお疲れ様」

「クル!」

 

弟二人の言葉に俺も同感だ。あのまま進化せずに戦いが続けば、俺達はデスペナだっただろうな。ずいぶんと都合よく進化したもんだ。

 

「ところで二人の<エンブリオ>は進化した能力はなんだったんだ?」

『今見てみる』

 

俺の疑問に二人はステータス画面を開いている。ちなみに俺の【ガルドラボーク】は新たなスキルの他には装備補正であるMPが200にアップして《マジック・アブソープション》の範囲が広くなった。

 

『ふむ・・・俺は防具性能が上がってスキルを新しく覚えたな』

「グリフは新しいスキルは覚えてないけど、多分ガードナーとしてステータスが上がって、二つのスキルがLvアップした」

「そうか・・・詳しい話はここではなくリアルでするとして、さすがに疲れたからログアウトしてしばらく休憩しよう」

 

俺の提案に二人は頷き、ドロップ品と宝箱の中身を回収してワープポイントで地上へと帰還した。その後はドロップ品の売買してからログアウトだ。

 

ちなみにゾンビのドロップ品は回収せずにダンジョンの通路の隅に置いてきた。触りたくなかったからな。【宝櫃】には骨の曲刀と換金アイテムが2個。宝箱の中身は8個の換金アイテムだ。それらをすべて売り合計12万リルになった。

 

骨の曲刀は性能がいまいちだったのと、デザインが俺とゲイルの趣味ではなかった。三人で分け合い一人4万リル。二人もジョブがカンストしたと言っていたので、進化もしたし実入りが多かったな。

 

 

 

 ◇  【弓士(アーチャー)】ウッド・アクアバレー

 

 

<墓標迷宮>から地上に戻ってきた後、僕たちはドロップ品を買い取ってもらってログアウトした。現在は昼飯を食べて兄達と相談したのち、僕は早めにデンドロにログインしていた。

 

「クル~」

「よしよし。それにしても本当に大きくなったね?」

 

兄達を待つ間にグリフを紋章から出して構っているところだが、今のグリフは進化したことで以前より一回り大きくなり体もちょっとたくましくなった。

 

新しいスキルは覚えなかったけど、既存のスキルは強化したから十分だよね。ちなみにスキルの詳しい記載はこちら。

 

   《弓騎一体》Lv2 パッシブスキル

   <エンブリオ>に騎乗すると<マスター>のSTRとDEXを30%アップ。

   <エンブリオ>の全ステータスも20%アップ

   副次効果として<マスター>に【酩酊】の状態異常耐性付与

 

   《ウインドブレス》Lv2 アクティブスキル

   <エンブリオ>の攻撃スキル。口から不可視の風属性魔法攻撃ブレスを吐く。

   Lv2になったことで竜巻のような螺旋強風と言うべきブレスになった。

 

特にダンジョンのボス戦では《ウィンドブレス》のLvアップは本当に助かった。クロス兄貴の【ガルドラボーク】とのスキルコンボで倒せたわけだし。

 

おかげでジョブもカンストできたし、次のジョブは【騎兵】って決めてるから早く転職したいけど兄貴たちが来るまで我慢だ。

 

などと考えていた直後に中央噴水広場に兄貴たちがログインしてきた。二人と合流してまずは転職を終わらせよう。

 

そして、僕は無事に【騎兵(ライダー)】に転職してゲイル兄貴は悩んでいたが【重騎士(ヘビィーナイト)】に決め転職した。

 

クロス兄貴は元々ついていた【剣士】と【魔術師】どちらにするか悩んでいたが、【魔術師】をメインジョブに選んだ。その後は今後の方針の相談だ。

 

 

 

 ◇  【重騎士(ヘビィーナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

転職を終え、俺は二つ目のジョブ【重騎士】になった。【盾騎士(シールドナイト)】と悩んだが、今の俺に必要なのは全体的な防御力の向上だと判断して、【重騎士】を選んだ。

 

【重騎士】は騎士よりもHP、ENDの上りがよく、代わりに他のステータスはSTRとSP以外は【騎士】以上に上がりづらいジョブだ。

 

覚えるスキルも防具の防御力強化や耐久率上昇、《ダメージ減小》や一時的に防御力を上げるスキルなどがあり、Lvが上がれば俺は今以上に堅くなるだろう。

 

ちなみに【盾騎士】は【騎士】とほぼ変わらないステータス上昇で盾を使った攻撃スキルと盾で必ず相手の攻撃を弾けるスキルなどの盾特化なジョブだ。

 

【重騎士】がカンストしたら【盾騎士】になるだろう。【ポルックス】が新たに覚えたスキルとも相性がいいしな。

 

   《アクセル・スカウター》Lv1 アクティブスキル

   スキル使用時に自身のステータスにAGI+100の補正を与える。

   これによりAGI型のスピードをある程度目で追えるようになる。毎秒SP10消費

   デメリットはあくまで補正を与えるスキルなのでステータスが増える訳ではない。

   <エンブリオ>装備時のみ使用可能。

 

これが【ポルックス】が覚えたスキルの詳細だ。相手のスピードを目で追えるようになることは地味に助かる。

 

相手がどこに攻撃をするかが分からない場合と分かる場合とでは差が大きい。どこに攻撃が来るのかわずかでも見えていれば心構えも違うし、攻撃後の衝撃による体勢の変化にも対処が速くなる。

 

まぁ、よほどAGIに差が無ければの話になるが。こればかりは戦う相手と今後の進化次第だろう。やっと進化したわけだしな。

 

やることも終わらせたので今後の方針をクロス兄貴とウッドと相談する。

 

「ジョブも二つ目をメインにしたし、今後の活動はどうする?」

「ある程度はLvを上げて、僕はまた<墓標迷宮>挑戦したいな」

 

クロス兄貴は特に意見は無いようで、ウッドはLv上げと<墓標迷宮>挑戦か。

 

「俺の意見としてはそろそろ別の街にも行ってみたいな」

 

南にある決闘都市ギデオンや西の海に面している街、北にある花と緑の街カルチェラタン、北西にあるルニングス領などなど、アルター王国内で行ってみたい場所は多い。

 

ギデオンでは決闘が盛んでティアンと<マスター>が己の技量で勝利を掴むために切磋琢磨しているらしく、観客で賑わっていると言う話だ。

 

海に面しているところではモンスター種族:魚や時折ドラゴンの海竜種が目撃されていると言う。

 

他にも情報収集すると魅力的な街々は数多い。そんなところにぜひ行ってみたいのだ。

 

「あ~確かにそろそろ違う場所にも行ってもいいかもな」

「そうですね。僕も興味があります」

「クル!」

 

二人とグリフも俺の話を聞いて興味が出てきたようでこの話を詰めることに。そして、相談した結果今後の方針としては・・・

 

まず、今メインジョブにしている職業をLv25以上まで上げてから他の街へ行くことになった。最初に向かう街はギデオンに決まった。

 

ギデオンはカルディナに近いことからいろいろなアイテムも豊富にあると言うので、それも目当てに最初に行くことに決めた。

 

今後の方針も決まったことで今日はここまでとしてログアウト。ギデオン楽しみだな!



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第十二話 初デスペナルティ

 ◇  水谷 芳樹

 

 

<エンブリオ>が第二形態に進化して、二つ目のジョブに就いてからリアルでは一か月過ぎたよ。その間、僕たち三兄弟は仕事が忙しくなったので三人でデンドロは出来なかったけど、時間をやりくりして個人でLv上げをしていたよ。

 

僕の【騎兵】はLv26になってスキルは《瞬間装着》、《騎乗》、《騎獣強化》の使えるスキルを覚えた。他には騎乗時に騎獣と僕のステータスを上げるアクティブスキルを覚えたくらいかな? 【騎兵】はスキルが少ない様だし。

 

兄貴たちも目標のLv25はクリアしているらしく、仕事も落ち着いてきたので次の土日には三人でログインできそうとも言っていた。

 

高次兄貴の【重騎士】で覚えたスキルは《瞬間装着》、《アーマー・ブースト》、《耐久向上》、《ガード・ウォール》。

 

《アーマー・ブースト》は装備している鎧に分類される防具の防御力をアップするスキル。《耐久向上》は装備している防具の耐久値の消費を抑えるスキル。

 

《ガード・ウォール》はスキル使用中は防御力を+200アップするアクティブスキル。

 

これらを覚えたことと【重騎士】のステータス補正でかなり堅くなったと言っていた。

 

流兄貴の【魔術師】は火属性魔法と風属性魔法の攻撃魔法を中心に覚えている。【魔術師】は全部の属性魔法を広く浅く覚えられるため、一つの属性に特化した魔法職には及ばないとのこと。

 

ついでに言えば、兄貴がメインジョブに考えている【魔法剣士】のような前衛魔法攻撃職はあくまで攻撃魔法が使えるジョブであり、それ以外の補助的な魔法は使えないと言っていた。

 

だからこそ、【魔術師】で覚えられる魔法スキルで攻撃魔法が多い火属性と風属性を選択したとのこと。

 

覚えたスキルは《ファイヤーアロー》、《フレイムランス》、《ウィンドカッター》、《ウィンドブラスト》それに《瞬間装着》だ。

 

全員が覚えた《瞬間装着》はアイテムボックスにある別の防具をすぐに装備するスキルだ。装備していた物はアイテムボックスに仕舞われる。アクセサリーも対象だ。

 

これは《瞬間装備》と一緒で、ある程度戦っていれば覚えるスキルとのこと。

 

このように僕以外も目標を達成して、スキルも覚えていよいよ次の土日にはギデオンへと出発する。ゲーム内とは言え僕は旅行の経験があまりないから、楽しみで仕方がない。まだまだ先の話なんだけどね。

 

その為にもお仕事をがんばるので今日はもう寝ます。おやすみ~

 

 

 

 ◇  【重騎士(ヘビィーナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

デンドロにログインした俺はクロス兄貴やウッドがまだ来ていないのを周りを見て確認して、しばらく待つことに。

 

予定を立ててリアルで約一か月。ようやく仕事が落ち付いてきたので今日三人でギデオンへと向かうことになっている。

 

ギデオンへ向かうには南の<サウダ山道>を越えて、次に<ネクサ平原>を進んだ先にある。どちらも出てくるモンスターの平均Lvは俺達では問題にならないくらいだ。

 

しばらくして兄貴とウッドがログインしてきた。

 

「待たせたか?」

「いや、そんなことはない。待ちきれなかっただけだよ」

「では、今から出発しますか?」

「念のため、回復アイテムとかを買い込んでからだな。それとギデオンへ行くから何か都合のいいクエストがないかジョブギルドと冒険者ギルドにも行ってみよう」

 

クロス兄貴の言葉に納得して、俺達は各ジョブギルドと冒険者ギルドへと向かう。だが、ちょうどいい依頼がなかったので、受けるのはやめにして回復アイテムを買い込みギデオンへと向かう。

 

ある意味、依頼を受けなかったのは不幸中の幸いだったがな。なぜなら・・・俺達はギデオンへ向かう途中でデスペナになってしまったのだ。

 

話は<サウダ山道>の中腹でボスモンスターである【ブラウンアームドベア-】を倒した直後の話だ。

 

 

ボスモンスターを撃破してドロップ品である【茶色腕力熊の宝櫃】を手に入れて俺達は順調にギデオンへと向かっていた。

 

「この調子なら、急げば今日中には着くね」

『俺がAGI低いから、グリフに乗せてもらった場合だがな』

「て言うかゲイルよ?お前馬はいつになれば手に入れるんだ?」

『王都の馬や馬モンスター専門の売買店に行ってみたが、高くてさ。一番安い馬でも20万リルするんだぜ?』

「高!」

『それに今後のことも考えて、馬モンスターにしたいんだ。ギデオンにはモンスター売買の店も多いと聞くし、金を溜めて【従魔師】にでもなってからかな』

 

などと話していると道の真ん中に奇妙な物が見えた。それは岩がいくつもくっついたオブジェの様なものだった。最初に見た時は落石でもあったかと言う考えだったが、その岩は俺達が近づくと動き出した!

 

「なんだこいつ!」

『ゴーレムタイプのモンスターか!』

「あ、兄貴たち!モンスターの名称をよく見て!」

 

ウッドが驚いた様子でそう言うので頭上に出ているモンスター名を確認すると、そこには【破岩巨人 バルギグス】とあった。

 

「この名称は・・・<UBM>か!」

 

クロス兄貴も驚愕する。俺もいつかは出会うと思っていたがここで出会うとは思わなかった。

 

<UBM> ユニーク・ボス・モンスターの頭文字でこのデンドロでは屈指の戦闘力を誇る強力なモンスターだ。この世界にはボスモンスターは何体何種類もいるが、<UBM>は世界に一体一種類で同じモンスターは絶対に居ないある意味<マスター>のようなモンスターだ。

 

<UBM>にも階級はあるし優劣はあるようだが、例外なく固有のスキルを持ちステータスも亜竜クラスはおろか純竜クラスを超える個体も居ると言う。

 

そんな<UBM>の一体である【破岩巨人 バルギグス】が先頭に居た俺にその巨大な拳を無造作に横に振るう。その攻撃はそんなに速さはなく、俺も余裕を持って盾を構え攻撃に備えた。だが・・・

 

『ぐは!?』

 

盾と拳が激突した時、俺は吹き飛ばされ近くの岩に叩きつけられた!HPもこれまでで一番のダメージを受け、一気に減った。

 

「ゲイル!?」

「兄貴!」

 

クロス兄貴とウッドもこの結果に驚いている。先ほどのボス戦でも相手の攻撃を余裕で受けていた俺が吹き飛んだのだから。

 

『気を付けろ二人とも!こいつのステータスは今までの敵と桁が違う!』

 

俺はダメージを受けた身体で立ち上がろうとする。しかし、状態異常の【痙攣】になっているのでうまく動かせない。

 

『AGIは見た目通り低い様だから、足を絶対に止めるな!二人が攻撃を受ければ一発でデスペナだぞ!』

 

とにかく先ほどの攻防で考察できることを二人に伝える。二人はそれぞれ別方向へと駆け出し、その行動を見た【バルギグス】は重い足を一歩だけ動かした。

 

「炎よ!貫く槍となれ!《フレイムランス》!」

「《インパクトアロー》!」

「クルー!」

 

二人は余裕でスキルを放った。クロス兄貴の《フレイムランス》が相手に接触して当たった個所を赤く熱せられる。グリフの《ウィンドブレス》もちょうど真ん中に炸裂し、相手は体勢を崩す。

 

その体勢の崩れた所にウッドの《インパクトアロー》が当たり衝撃を発生させるが、その直後に矢が壊れてしまった。

 

「やっぱりENDも相当に高いみたいだね」

「だが、魔法攻撃の効きはいいみたいだな!このまま攻撃を続ければ勝てるぞ!」

 

<UBM>に対して有効な攻撃を持っていたことを確信して、士気を上げようとする。直後に【バルギグス】は不可解な行動を取る。

 

二人に向けて両腕を向け手のひらを開いたのだ。この不可解な行動に二人は警戒し足を止めてしまった。その瞬間【バルギグス】の指がミサイルのごとく二人に放たれた。

 

「「なぁ!?」」

 

その攻撃は先ほどの遅さがなんだったのかと言いたいくらい弾速があり、足を止めてしまった二人に回避不可能。そのまま何度か大き目の岩が激突し、二人のHPはあっという間に0になった。

 

 【パーティメンバー<クロス・アクアバレー>が死亡しました】

 【蘇生可能時間経過】

 【<クロス・アクアバレー>はデスペナルティによりログアウトしました】

 

 【パーティメンバー<ウッド・アクアバレー>が死亡しました】

 【蘇生可能時間経過】

 【<ウッド・アクアバレー>はデスペナルティによりログアウトしました】

 

俺のパーティメンバーの項目が無くなり、二人が初めてデスペナになったことがアナウンスとして伝えられる。

 

『この野郎!』

 

この時の俺は兄弟二人を倒されたことで冷静で居られなくなり、【痙攣】が治った直後に【バルギグス】に剣を振るった。しかし、その剣は当たった直後に粉々に砕けてしまう。

 

『なぁ!?』

 

この結果に俺は疑問を浮かべた。

 

(折れるとかならまだわかるが、粉々になるのは明らかにおかしい!まさか武器破壊系のスキルが有るのか!?)

 

考察を続けたかったが、【バルギグス】は俺に腕を振り上げてそのまま振り下ろし俺は・・・

 

 【致死ダメージ】

 【パーティ全滅】

 【蘇生可能時間経過】

 【デスペナルティ:ログイン制限24h】

 

 

 

 ◇  水谷 流

 

 

<UBM>にデスペナされて俺はリアルでしかめっ面をしていた。初めてのデスペナルティ、初の<UBM>遭遇、一瞬の油断。いろいろな考えが頭をよぎり何とも言えない感情が渦巻いている。

 

そりゃ<UBM>が強力な個体で種類によっては国の一大事になるほどだとは聞いていたが、あそこまで簡単にやられるとは思わなかった。もっと善戦できると思ったんだがな・・・

 

「いや、こんな考えがある時点で相手を甘く見ていたんだろうな」

 

今まで苦戦はしても順調だったから、<UBM>が相手でも今までと同じだと考えてしまったんだろうな。相手はモンスターの中でも最上位クラスだと言うのに。

 

<UBM>にも優劣として<逸話級(エピソード)>、<伝説級(レジェンダリー)>、<古代伝説級(エンシェントレジェンダリー)>、<神話級(マイソロジー)>、<超級(スペリオル)>と階級があるようだが。

 

あいつがどの階級かはわからんが、あいつが居る限り俺達はギデオンに行くことができない。これは少々困ったことになった。

 

まぁ、デンドロ提示板にでも<UBM>に出会ったことを書き込めば上級職の<マスター>辺りがパーティを組んで討伐に向かうだろうが。

 

<UBM>を倒せば世界に一つだけの強力な装備が手に入るらしい。これはティアンからも聞いた話で最近では<マスター>も少ないが手に入れた者たちもいるらしい。

 

それらは特典武具と呼ばれ、<UBM>を討伐した中で最も貢献した者がシステムで選ばれ贈られるとか。これにより<マスター>も実力に自信がある者たちは<UBM>を探しているそうだが、滅多に出会えないらしい。

 

だからこそ、<UBM>発見の情報は実力者の<マスター>なら喉から手が出るほど欲しい情報だ。提示板に書き込まなくても、デスペナが空けてデンドロ内で情報として他の<マスター>に売るなりすれば、儲かるかもしれない。

 

なんて考えていたら、テレビ電話の着信があった。相手は高次と芳樹だからサッサとつなぐ。

 

『あ~もしもし?兄貴?』

『もしもしこちら芳樹です』

「オウ。とりあえず初デスペナおめでとう」

『『めでたくない』』

 

俺の軽口に二人して突っ込まれた。やはり俺と芳樹の後に高次もデスペナになったか。その後、俺達をデスペナにした【破岩巨人 バルギグス】に付いて話し合う。

 

『多分だけど、あいつはSTRとEND特化なモンスターで数値は下手したら1000超えてるかも』

「そのかわり、AGIは息してないようだがな」

『でも、それを補う形であのロケットパンチもどきがあるんだろうね』

「あれは厄介ではあるが、俺達が喰らったのは足を止めたのが原因だからな。俺とグリフなら動ければ回避は難しくないだろう」

『後、二人がデスペナになった後に剣で攻撃したら粉々になった。攻撃した武器を破壊するスキルが有るのかも』

 

話し合いは続くが、ちょっと疑問が俺に浮かんだ。

 

「と言うか、俺らはなんでこんな話をしているんだ?」

『『ん?』』

「相手はデンドロのモンスターでは最上級クラス。はっきり言ってやり始めて上級職にもなってない俺達じゃあ勝ち目ないだろう?」

『『だから?』』

「え?」

 

俺の疑問に二人は何を聞いてんだみたいな顔と言葉を口にした。

 

『それは諦める理由にはならないよ兄貴?』

『そうだぜ兄貴。はっきり言って俺は悔しい。油断があったとはいえほとんど何もできないままやられたのが』

「・・・」

『全く勝ち目がないならともかく、流兄貴とグリフの攻撃は効いたんだし勝てないと決めつけるのは僕は断固阻止する』

『俺もだ。むしろ今度は探し出してリベンジしたい。デスペナ明けたら倒されているかもしれないけど、それでも俺は挑戦する』

「・・・理由は?」

『『だってこのままじゃあ、悔しいだけじゃん』』

「はっはっは。俺もだ」

 

負けたままでは悔しい。ただそれだけだが、ゲームでリベンジするのならそれだけで十分だよな!

 

「次は勝とうぜ」

『『おう!』』

 

こうして俺達は<UBM>にリベンジするために夜遅くまで話し合った。

 



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第十三話 <UBM>討伐準備

  ◇  【重騎士(ヘビィーナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

昨日は話し合いが白熱してしまい、気付けば夜遅くになっていた。話の続きはデンドロの24時間制限が解除され、王都で情報収集をしてからと言う事になった。

 

翌日。俺は24時間制限が解除された直後にログインした。俺から遅れてクロス兄貴やウッドもログインしてきた。

 

「まぁ、待ちきれないならこうなるな」

 

俺の呟きに二人とも苦笑で答えた。

 

「なんにせよ、行動開始だ。リアルで話した通りに」

 

クロス兄貴の言葉に真剣な顔で頷き、俺達は各自の役割を開始した。クロス兄貴は知り合いのティアン、<マスター>から【破岩巨人 バルギグス】の目撃情報がないかそれとなく探る。

 

俺は、冒険者ギルドと騎士団が【バルギグス】の情報を掴んでいるかを確認しに。ウッドはグリフに騎乗して<サウダ山道>の【バルギグス】に出会ったところまで向かい、居なければ周囲の探索を。

 

まずは俺達がデスペナになってから、【バルギグス】の存在が王都に伝わっているのか。伝わっているならもう討伐されたのか確認することから始めた。

 

調査が終わり、俺達は王都にあるあまり流行っていないオープンテラスの喫茶店に集合して各自の報告を行った。

 

「まずは俺からだが、とりあえず俺の知り合いにあのモンスターのことを知っている奴はいないようだ。噂にすらなっていないかもしれないな」

 

念のため、この話し合いでは<UBM>とか【バルギグス】の名を出すことはしない。どこで誰の耳に入るかわからないからだ。

 

「俺の方は冒険者ギルドであいつの討伐記録や討伐依頼はなかった。騎士団の方もあいつに関する情報はない様だ」

 

騎士団に関しては知り合いの【騎士】に就いているティアンに【バルギグス】のことは伏せてモンスターに倒されたと言い、俺が居ない間に何か大きなことは無かったか尋ねた。

 

<UBM>が王都の近くに現れたと知れば騎士団なら過剰に反応する。討伐されたとしてもニュースにはなっているはずだからな。しかし、訪ねたティアンは特に変わったことはなかったと言っていた。

 

「僕の方は、さすがに同じ場所にはいませんでした。なので周囲を空を飛んで探索した結果、あいつを見つけました」

 

ウッドの言葉に俺と兄貴は思わず叫びそうになった。正直もういない確率の方が高いと思っていたからな。

 

「後は奴を倒すための準備か・・・」

「でも、時間はそう長くないでしょう?」

「だろうな。<マスター>は言うまでもなくあまり時間をかけて目撃者が増えれば、騎士団長である超級職の【天騎士】や王国の”魔法最強”【大賢者】が出張る可能性がある」

 

超級職。このデンドロで上級職のさらに先にあるジョブで就けるのは各超級職にたった一人。そのためかなり強力なジョブであり就けたティアンは国の役職に居ることがほとんどだ。

 

アルター王国にも二人ほどいる。騎士団団長であり騎士系統超級職【天騎士(ナイト・オブ・セレスティアル)】の座に就いているラングレイ・グランドリア。

 

もう一人は何百年の間も王国の相談役および国の守護神、国内外から”魔法最強”と呼ばれる魔術師系統賢者派生超級職【大賢者(アーチ・ワイズマン)】。この人物に関しては名は分っていない。

 

「それに、あいつを放っておいたら犠牲者も出るかもしれない。思ったほど時間はないかもしれないぞ。正直な話今からでも冒険者ギルドと騎士団に情報提供した方が実入りはあるぞ?」

「全くやる気のない提案をどうも」

「クロス兄貴。言葉に真剣さが足りないよ?」

 

俺達三人は笑いあい注文した飲み物を飲み干す。お金を払い討伐準備を始める。

 

「時間がないし放置してティアンが犠牲になるのも避けたい。時間との勝負だ。効率重視でいくぞ」

「「おう」」

 

ここから俺達の人によっては無謀とも言われる挑戦が始まった。

 

 

 

  ◇  【騎兵(ライダー)】ウッド・アクアバレー

 

 

まず、僕たちは今のジョブをカンストするためにジョブクエストを受けたり、<墓標迷宮>に挑戦したりを繰り返した。

 

途中で王都のジョブクエストではもう効率が悪いと判断して<墓標迷宮>でのLv上げに集中した。

 

<墓標迷宮>では5階層のボス【スカルレス・セブンハンド・カットラス】と6階層から9階層で主にLv上げをしている。

 

探索に費やす時間もなく、あくまでLv上げ主体でダンジョンに挑戦している。兄弟の時間が合わないときは無理をせずにジョブクエストを知り合いと一緒に行っていた。

 

知り合いのティアンと<マスター>たちには初デスペナになってしまったから鍛え直していると説明。他の<マスター>からは理解を得られ、なんとなく見守られているような感じだ。

 

Lv上げにドロップ品の売買。および装備品探しやリアルでの戦術相談など。僕たちは時間が許す限り、【バルギグス】を倒すための努力を続けた。

 

その甲斐あって二つ目のジョブはカンストし、三つ目のジョブを選ぶことに。【バルギグス】にリベンジすることを考えた上で僕たちはジョブを選択。

 

僕は【従魔師(テイマー)】を選択。【バルギグス】相手にするのなら自分の戦闘力を上げるよりもグリフの強化を選んだ。

 

ゲイル兄貴は予定通り【盾騎士(シールドナイト)】を選択。今からAGIを上げるジョブになっても焼け石に水と判断し、今まで通りの戦い方の強化を選択。

 

クロス兄貴は正直一番何にするべきか悩んだ。まず【剣士】は除外。【バルギグス】相手にするのに魔法攻撃が使えなくなる【剣士】は最初に選択肢から除外した。

 

なので候補としては【魔術師】の派生下級職が有力なんだけど、各属性の派生下級職は色々あり決めるのに時間がかかりそうだった。

 

時間がないので、クロス兄貴の好みを優先して【風術師(ウィンドメイジ)】を選択。

 

三つ目のジョブのLv上げのために最初はジョブクエストを受けて、効率が悪くなったら<墓標迷宮>挑戦。このような生活を続けてリアルで2週間。デンドロ内では約一か月半が過ぎようとしていた。

 

僕たちは今日もデンドロにログインして、まずは情報収集を開始。これは【バルギグス】にリベンジするための準備をし始めてから欠かさずにしていることだ。

 

その結果は僕たちにとっては歓迎できない物だった。ここ最近<サウダ山道>で見慣れないモンスターの目撃情報があり、<UBM>ではないかと言う噂があるのだ。

 

さらにこの噂の真偽を確かめるために騎士団が動き出すかも知らないことが、ゲイル兄貴の知り合いのティアンから聞かされたと言う。

 

この情報は<マスター>の間でも広がっており近く、有名どころも動き出すだろうと予想されていた。

 

【バルギグス】がまだ討伐されずに<サウダ山道>に居ることは僕が確認済み。未だに討伐されていないのはある意味奇跡だが、もう時間はないだろうね。

 

「よし。挑戦しよう」

 

こうなることはもはや必然だよね。とうとうリベンジの時だ。



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第十四話 <UBM>討伐戦

  ◇  【盾騎士(シールドナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

現在までできる限りのことをし、現在の俺達は<サウダ山道>を進んでいる。すでに【破岩巨人 バルギグス】の居場所はウッドとグリフにより把握しているので向かっている最中だ。

 

Lvを上げ、装備をできる限り整え、戦術も話し合った。王都で<UBM>かもしれないモンスターが<サウダ山道>で目撃されたと言う情報を仕入れた直後に挑戦を決めた。

 

現在の俺達の戦力は合計Lv130で、装備もレベル制限が100以上の物で埋めているし、アクセサリーも買える物は買った。

 

それでも勝てるかどうかはわからない戦いだ。しかし、俺達は挑戦することにリベンジを行うことを決めた。

 

出てくるモンスターを倒しながら進み、しばらくして見覚えのあるモンスターが見えてきた。山道から少し外れた場所で佇んでいるそいつは間違いなく【破岩巨人 バルギグス】だ。

 

この時点で俺は自身の武器を《瞬間装備》で交換し両腕に盾を持った。この盾は奴に対抗するために用意した装備で性能は・・・

 

 

 【シルバーナイトシールド】

 【盾騎士】に人気の円形盾。高純度の逸話級金属(ミスリル)で作られている。

 

 ・装備補正

 

  防御力+110

 

 ・装備スキル

 

 《シールド・アジャスト》

 

 ※ 装備制限:合計Lv120以上

 

 《シールド・アジャスト》

  盾系スキルの消費SP軽減&クールタイム減少

 

 

装備スキルは【盾騎士】に人気なだけあってかなり有用な物だ。ただ、この円形盾かなりお高く一つ25万リルもした。二つ買ったから50万リル。<墓標迷宮>での狩りで手に入れた収入のほとんどはこの盾に使ったよ。

 

けど、【バルギグス】討伐にはどうしても高性能の盾が必要だったので後悔はしてない。

 

俺達に気付いた【バルギグス】も立ち上がり、戦闘を始めることに。俺は【バルギグス】の正面で盾を構える。そんな俺に【バルギグス】は以前と同じように大きな拳を横に振るった。

 

『《シールド・パリィ》!』

 

自身に迫る拳を俺は盾スキルを発動して、盾を持つ腕を相手と同じく横に振るった。拳と盾は激突して俺自身もダメージを受けたが、【バルギグス】の拳を弾いて体勢を崩すことに成功する。

 

「風よ!衝撃となり敵を討て!《ウィンドブラスト》!」

「クルー!」

 

体勢が崩れた相手に対して、クロス兄貴とグリフが追撃を放つ。その攻撃をまともに受けて【バルギグス】は後ろから倒れた。

 

その直後にクロス兄貴はさらに魔法攻撃を放ち、俺とウッドはアイテムボックスから【ジェム】を取り出して魔法を放つ。

 

【ジェム】とは簡単に言えば、使い捨ての魔法アイテムである。中に込められた魔法を行使することができる。俺達はこいつに魔法攻撃が有効と知ってから空の【ジェム】を大量に購入してクロス兄貴に魔法を込めてもらった。

 

何度か、魔法攻撃を当てて【バルギグス】が立ち上がるとクロス兄貴とウッドは奴の周りを駆け、俺は正面で迎え撃つ。

 

立ち上がりの直後に【バルギグス】は俺に手のひらを向けて岩を放出。俺を先に倒すために手札を切った。

 

『《ガード・ウォール》!』

 

それに対して俺は真正面から耐えることを選択。そもそもおれのAGIでは避けることは不可能。だから、自身の防御力を+200するアクティブスキルを使用。次々と岩が俺の体に当たりダメージを与えるが、俺は耐えきった。

 

耐えた直後に、回復アイテムを使い回復。この際、フルヘルムの口の部分が左右に開き【回復ポーション】の類が飲めるようになる。

 

【バルギグス】は俺が攻撃を耐えきったのが信じられないのか、呆然とする。その隙を兄貴たちは逃さずに攻撃を加えていた。

 

俺が耐えきれたのは、あの時よりもステータスとスキルが充実しているのも理由だろうが、最大の理由は【ポルックス】が第三形態に進化したことだろう。

 

第三形態に進化したことで防御力+300になり、《アクセル・スカウター》のLvも上がり追加スキルを手に入れた。

 

 

   《バースト・イグ二ション》 パッシブスキル

   自身の戦闘力を上げるアクティブスキルの効果を2倍にする

   デメリットは【ボルックス】装備中限定効果で対価が1,5倍になる

   また、【ボルックス】をガードナー運用する時に戦闘力を上げるスキル使用時に

   【ボルックス】に効果がリンクする。

 

   《アクセル・スカウター》Lv2 アクティブスキル

   Lv2になったことでAGI+200の補正を与える。

   本スキルは《バースト・イグ二ション》の対象外。

 

 

この《バースト・イグ二ション》のおかげで、《ガード・ウォール》の効果が本来の+200から+400に増加。消費SPもアップしたが、これは特に問題はない。

 

このスキルを覚えたことで【バルギグス】との戦いでタンクとして戦えているのだから。さらにあいつには武器破壊のスキルが有るようだが、それは攻撃してきた武器だけを破壊するようだ。

 

現に奴の攻撃を受けた盾は破壊されていない。デンドロでは盾は武器扱いだからな。だから俺は物理攻撃手段を捨てて、奴の攻撃を受け止めることにした。

 

ウッドも矢による攻撃よりも【ジェム】による攻撃を選択。これが俺達の現状の【バルギグス】攻略法だ。あとは奴が他にスキルを持っていないかどうかだが、これはよく観察して確かめるしかないか?

 

とにかく、戦闘は始まったばかりだ。油断せずにこのまま続けよう!

 

 

 

  ◇  【従魔師(テイマー)】ウッド・アクアバレー

 

 

戦闘を続けてしばらくが経ち、日は高くなった。僕達は相変わらずに戦闘を続行中だ。何度か攻撃を一身に受けているゲイル兄貴が危うい場面はあったが、何とかなっている。

 

この戦法はゲイル兄貴の負担が大きいのだから無理もないが、それでもゲイル兄貴は諦めずに【バルギグス】の真正面に立ち続けている。

 

そんな兄貴の助けになればと僕とウッドは攻撃を繰り返す。僕は大量の【ジェム】を使い、グリフはMP消費を気にしながら《ウインドブレス》で攻撃している。

 

ゲイル兄貴の【ボルックス】が第三形態に進化したようにグリフも第三形態に進化して新たなスキルと既存スキルのLvアップがされた。

 

グリフが覚えた新スキルはこの戦闘で切り札となりえる物。問題はスキルを使うタイミング。僕はそのタイミングを逃がさないためにも【ジェル】を使いながら【バルギグス】を観察する。

 

「クルー!」

 

グリフも《ウィンドブレス》をMP消費を考えながら、相手に向け放っている。《ウィンドブレス》はLv3になり威力が底上げされている。現戦力ではグリフが最もダメージを与えているはずだ。

 

グリフの《弓騎一体》もLv3になって強化値は上がり、【騎兵】の《騎獣強化》のスキルは【従魔師】でも問題なく使え、さらには《魔物強化》スキルでさらに戦闘力を底上げ。

 

現時点でグリフは僕たちの最高戦力だ。ゆえに切り札を切るタイミングが勝敗を分ける可能性がある。その為にもよく相手を観察しなきゃ・・・・?

 

その時、僕は【バルギグス】の身体と周りの状況を見て疑問を浮かべた。【バルギグス】の身体の岩が心なしか減っているような気がする。それだけではなく周りの岩が最初より少ないような気もする。

 

【バルギグス】の岩放出。減っている身体の岩。周りの岩の状況。

 

「もしかして!?」

 

僕はこの状況を考えた結果、ある疑惑が浮上した。

 

「兄貴たち!あいつには岩を取り込んで回復するスキルが有るかもしれない!」

 

僕はその疑惑を兄貴たちにも伝える。

 

「確かか!」

「可能性はあると思う!現にあいつの周りにある岩が減っているし、身体の岩も少なくなっているよ!」

『!』

 

兄貴たちも素早く周りを確認して、現状の状況を知った。

 

『確かに、あいつの身体の岩が減っている。最初に比べると一回りは小さくなっているぞ!』

 

真正面で相手をしているゲイル兄貴が断言した。

 

『二人はどうにかして周りの岩を粉々にするか、吹っ飛ばしてくれ!』

「おう!」

「わかった!」

 

ゲイル兄貴の指示に僕たちは即座に行動した。

 

「風よ!螺旋を描き吹き飛ばせ!《ウィンドストーム》!」

 

クロス兄貴が《詠唱》で底上げした範囲魔法を唱える。【バルギグス】を中心に竜巻となって周囲に有った岩などを巻き上げ粉々にしたり遠くへと吹き飛ばした。

 

ゲイル兄貴は《詠唱》が聞こえた段階で離れているので問題なし。僕はクロス兄貴の魔法でも動かない岩などに《インパクトアロー》を放ちサポートした。

 

僕たちの行動を見て慌てたのか、【バルギグス】は動きだし場所を変えようとした。

 

『させん!』

 

だが、回り込んだゲイル兄貴が正面に陣取り進めなくする。ここだ。切り札を切るならここしかないと僕は決断した。

 

「グリフ!《騎獣咆哮》!」

「グルー!!!」

 

僕の指示を聞いてグリフが天へと咆哮を上げる。その瞬間、グリフは真っ赤なオーラに包まれた。グリフを包んだオーラは僕にも効果を及ぼし、ステータスを強化する。

 

このスキルが今の僕たちの切り札。グリフのステータスを大幅に強化して騎乗状態の僕にも効果を及ぼす。だが、強力なスキルにはデメリットもそれ相応のものになる。

 

 

   《騎獣咆哮》 アクティブスキル

   自らを鼓舞する咆哮を上げステータスを大幅にアップする。

   騎乗状態では<マスター>にもステータスアップの効果を。

   デメリットは10分限定であり、切れた場合ステータス半減状態20分

 

 

これが《騎獣咆哮》のスキル詳細。このステータス半減状態は僕も含まれるので、このスキルを使ったからには10分間で倒すか、瀕死にする必要がある。そうしないと僕とグリフは10分後には役立たずになる。

 

「クロス兄貴!」

「おう!《サークル・トランスファー》!」

 

クロス兄貴がMP譲渡結界を展開。これは事前の話し合いで決めていた手順。

 

「グリフ!頼むよ!」

「グル!」

 

いつもは可愛く鳴くグリフは勇ましく鳴き、《ウィンドブレス》を放つ。すると今までの威力が笑えるくらいの強烈な風が発生。【バルギグス】を一発で後ろに倒した。

 

グリフはこのまま《ウィンドブレス》を放ち続けて、ダメージを与え続ける。僕もステータスが上がっているので【ジェム】ではなく矢をスキルで放つ。ここからが正念場だ!

 

 

 

  ◇  【風術師(ウィンドメイジ)】クロス・アクアバレー

 

 

ウッドがグリフの切り札を切って、そろそろ6分が経過するくらいか?俺達は未だに【バルギグス】と戦っている。

 

見た目からしてHPも多いと思っていたが、予想以上に多かったらしいな?だが、結構な時間戦い続けたからやつの外装?の岩はあらかた削りきり、本体らしき灰色の水晶のような体が見え始めた。

 

とは言え、こちらもきつい状況だ。【バルギグス】の真正面でタンク役をしているゲイルは集中力が途切れ途切れになっているようでダメージが増えている。

 

俺以外の攻撃手段である【ジェム】も残り少なくなっている。戦闘継続が難しい状況だ。早く相手を倒さないとまたデスペナになりかねない。

 

そんな時【バルギグス】がこの状況はまずいと考えたのか、行動を起こした。外装の岩をすべてパージして周囲に放出したのだ!

 

俺とウッドにグリフはかろうじて避けれたが、ゲイルは集中力が切れかけている時に意外な行動をされてまともに喰らい吹き飛んでしまった。倒れるようなことはなかったが、それでも無視できないダメージも喰らった。

 

岩をすべて取り払った【バルギグス】は灰色の水晶がゴーレムの形をしていて、頭部分をゲイルに向けて今まで以上の速さで近づき拳に該当する部分を突き出した!

 

『!』

 

盾で受け止めようと構えて激突すると、ゲイルは踏ん張りが効かず吹き飛ばされた。追撃を放つために再度近づこうとするが・・・

 

「グルー!」

 

グリフがそうはさせまいと《ウィンドブレス》を放つ。この攻撃が当たった【バルギグス】はバランスを崩したがそれだけにとどまった。

 

その隙にゲイルは体勢を立て直し、真正面に陣取る。【バルギグス】の奴は岩を取っ払ったことで軽くなりスピードが上がったみたいだ。

 

これは少々まずいな。ゲイルは集中力が切れかけているのに今のスピードだと、ろくに防御ができないかもしれん。

 

とは言え、あちらにとっても苦肉の策なのかもしれん。回復が望めない現状では岩を纏っていたとしても邪魔と判断して、戦闘力アップに切り替えたわけだ。

 

ダメージ蓄積の影響らしいヒビもいくつか身体に見えてるしな。どうやらここから最終局面。俺の方も手札を切る必要があるな。

 

「ウッド!俺の方も攻撃を行う!MP譲渡は出来なくなる!」

「了解!」

 

俺は【ガルドラボーク】が第三形態に進化して身につけたスキルを行使する。

 

「風よ!衝撃となり敵を討て!《ウィンドブラスト》!《ダブルマジック》!」

 

風の衝撃波が【バルギグス】に向かい、それからわずかに遅れて再び風の衝撃波が発生して敵へと向かう。このスキルが新たに獲得したスキルだ。

 

 

   《ダブル・マジック》 アクティブスキル

   <マスター>が自身のMPだけで魔法を行使した場合発動可能なスキル。

   <エンブリオ>に蓄積されたMPを消費して<マスター>が行使した

   純粋魔法攻撃スキルを追従発動する。

   デメリットは《オーバー・マジック》と同時使用はできない

   および、蓄積されたMP消費量は<マスター>の2倍。

 

 

この攻撃スキルを使用してダメージをさらに与える! 俺達にこれ以上の戦闘は無理だ。ここで決着をつける!

 

その後もダメージがゲイルと【バルギグス】に蓄積していき、ゲイルはもはや息も絶え絶え。【バルギグス】も体中にヒビが刻まれ、お互いいつ倒れても不思議でない状況。グリフのスキルタイムリミットも2分を切った。

 

「これでどうだ!《ウィンドブラスト》」

「グルー!」

 

すでに《ダブル・マジック》に使用できる備蓄MPは【ガルドラボーグ】にはなく、おれのMPも少なくなった。MP回復アイテムは使い切り後がない状況。それでもまだ【バルギグス】は倒れない。

 

俺達の同時攻撃で特大のヒビが体の中央にできたがそれだけだった。ダメかと諦めかけたその時・・・

 

『おおおー!!』

 

ゲイルが右手に持っていた盾を放り投げ、アイテムボックスから一つの【ジェム】取り出し【バルギグス】に突貫した。

 

その【ジェム】を中央の特大のヒビにねじ込むように押し込んだ。次の瞬間にはゲイルに拳が振るわれ吹き飛ぶ。ギリギリHPが残ったがもう一撃喰らえば終わりだ。【バルギグス】は追撃を仕掛けようとして・・・

 

中央にハマった【ジェム】が大爆発を起こした。

 

あの【ジェム】はゲイルとウッド両者に持たせておいた一つだけの【クリムゾン・スフィア】と言う上級職の奥義が込められていた物か!

 

大爆発が収まった後にはかろうじて原型が残っている【バルギグス】が俺とウッドは警戒したが、そのまま【バルギグス】は崩れていく。

 

 

 【<UBM>【破岩巨人 バルギグス】が討伐されました】

 【MVPを選出します】

 【【ゲイル・アクアバレー】がMVPに選出されました】

 【【ゲイル・アクアバレー】にMVP特典【破岩盾 バルギグス】を贈与します】

 

 

俺達の耳にそんなアナウンスが聞こえた。しばしの沈黙の後・・・

 

『「「やった~!!!」」』

 

俺達は歓喜の声を上げてその場に倒れるのだった。

 

 

 

 

 

三兄弟による<UBM>討伐。彼らはこの事は誰にも明かしていないし、王都にも報告していない。ゆえに三兄弟は【バルギグス】のことを知っているのは自分だけであると考えていた。

 

しかし、彼らはあることに気付いていなかった。それは王都で噂や目撃情報がないからと言って、他の街でもそうだと言う保証はないのだ。

 

現に彼らの戦闘を眺めていたとある<マスター>がいた。

 

『何とか勝てたようだガル』

 

その<マスター>は奇妙な風体をしていた。言葉にするならカンガルーの様な着ぐるみであろうか?言葉の語尾にも妙な語尾を付けているし、はっきり言って不審者か変人と言われてしまうだろう。

 

『ただ、詰めが甘いガル。俺がここに来なかったら横取りされていたガル』

 

その着ぐるみの後ろには大量のリルが落ちていた。モンスターはドロップ品は落としても昔のゲームのようにリルは落とさない。だとするならこの大量のリルは<マスター>が倒された時に落ちるランダムドロップの一部だ。

 

この着ぐるみはギデオンで<サウダ山道>に<UBM>の目撃情報があると馴染みのティアンの商人から聞き、困っている様だったので討伐に来たのだ。

 

そして、探し回ると<UBM>と戦っている三人の<マスター>を発見。手を貸そうとも考えたが、三人の必死な姿を見て見守る事に決めた。

 

そんな中、他にもこの戦いを見ている<マスター>の一団を発見。その様子から横取りを考えていると判断して接触を試みた。

 

そしたら案の定、横取りを考えていたのでそんなことは無粋の極みとして一人残らず倒したのだ。

 

『まぁ、見たところ下級職三つ目でそのジョブもカンストしていない初心者みたいだし、よく頑張ったガル』

 

本来は頑張ったで済ますようなことではない偉業なのだが、この着ぐるみにとってはその感想になるのは仕方がない。なぜならこのカンガルーの様な着ぐるみは特典武具。

 

この着ぐるみも<UBM>を倒した経験を持つ<マスター>だからだ。

 

『しかし、話していた内容も聞こえていたが、三兄弟か・・・ちょっとうらやましいガル』

 

着ぐるみの知り合いで現在は大学受験のために娯楽断ちしているとある人物を想像して、着ぐるみは彼らにちょっと嫉妬した。

 

『でも面白い物が見れたし、よしとするガル。フィガロの奴にも教えてやるガル』

 

そう言って着ぐるみはギデオンに帰って行った。

 




この話から原作のキャラが出始めます。と言うか、原作を読んでいる読者なら最後に出てきた人はバレバレですよねWw

あと、語尾をどうするか悩みましたw


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第十五話 討伐後の話とギデオン到着

20/1/10 デンドロスピンオフ作品<クロウ・レコード>にてここで書いた<UBM>が出てきてしまったので、変更します。

問題ないと言えばないのですが、ちょっとモヤっとするので・・・


  ◇  ???

 

 

  【獄炎鬼 カイエン】

   最終到達レベル:44

   討伐MVP:【大闘士(グレイト・グラディエーター)】フィガロLv100(合計Lv500)

   <エンブリオ>:【獅星赤心 コル・レオニス】

   MVP特典:古代伝説級【炎獄包丁 カイエン】

 

 

  【結界竜 フィールズ】

   最終到達レベル:65

   討伐MVP:【超操縦士(オーヴァー・ドライバー)】カーティス・エルドーラLv157(合計Lv657)

   <エンブリオ>:なし

   MVP特典:伝説級【結界盾 フィールズ】

 

 

  【四翼刀鳥 シバルブ】

   最終到達レベル:36

   討伐MVP:【天騎士(ナイト・オブ・セレスティアル)】ラングレイ・グランドリアLv177(合計Lv677)

   <エンブリオ>:なし

   MVP特典:逸話級【大翼刀 シバルブ】

 

 

   【破岩巨人 バルギグス】

    最終到達レベル:28

    討伐MVP:【盾騎士(シールドナイト)】ゲイル・アクアバレーLv30(合計Lv130)

    <エンブリオ>:【双人鎧 ボルックス】

    MVP特典:伝説級【破岩盾 バルギグス】

 

 

「ん?」

 

どこかもわからないどういう言葉が適切なのかも不確かな不思議な空間で、作業をしていた者は報告の中に興味を持った。

 

「初めて見る<マスター>だな? しかもこの<マスター>が倒した<UBM>は確か三号がデザインしたモンスターが元だったな」

 

興味を持ったので詳しく報告を見ることにした。

 

「ほう? 一度は敗れたにもかかわらず再度挑戦し策を練り、他二人の<マスター>と協力して倒したのか」

 

それ自体は珍しいことではなかった。すでに何件か報告がある事例だった。しかし、再度挑戦して倒した例は少ないことだった。

 

「実に結構。才ある者(ハイエンド)や超級職を得たティアンなどに倒されるよりよほどありがたい。そうやって切磋琢磨してくれた方がこちらもデザインし甲斐があると言う物」

 

自身の言葉を頷きながらあるいは確認しながら言葉を紡ぐ。だが、次の瞬間には悩みだした。

 

「しかし、伝説級の武具にしては少々弱い部類だな。この<UBM>も面白い能力だったから認定したが、やはり三号がデザインしたモンスターはよく言えば武骨、悪く言えばワンパターンで発想と発展性が弱い。これからはより厳しく認定せざる負えんな」

 

そう言ってかの者は己の作業を続けた。同胞の仕事ぶりを酷評して・・・

 

 

 

  ◇  水谷 流

 

 

<UBM>である【破岩巨人 バルギグス】を討伐してから俺達は疲れた体にムチ打って王都へ帰還。そのままログアウトして精神的疲労がきつかったのでそのまま就寝。翌日に仕事に遅刻しそうになったのは焦ったが何とか間に合った。

 

仕事が終わり、電話で三人が一緒にログインできる日を話し合い明後日に会うことを約束。その間に討伐に関して考えておこう。

 

とりあえずは討伐できたが、あれは相手の能力が俺達に対処できるから何とかなったのが大きい。ステータスがSTRとENDが高いタイプではなく、AGIが高いモンスターやもっと嫌らしい能力持ちであれば討伐できなかったのは言うまでもないだろう。

 

それに欲を言えば、上級職に就いていればもっと楽だったろうな。総じて討伐できたのは運がよかった。この言葉が適切だろう。

 

これからもデンドロを続けるなら実力をもっと身につけるのは必須。上級職はもちろん超級職にも就いてみたい。今はまだティアンが就いている者が多いが、<マスター>にも極少数だが就いた者が出始めているらしい。

 

俺達も超級職について情報を探すことになるだろうな。これに関してはネットよりもデンドロ内で探すことになるだろうが。

 

それと今回の【バルギグス】討伐のMVPは高次が選ばれたな。止めを刺したのは高次だし、その前にもタンク役として攻撃を一手に引き受けていたから納得だ。特典武具の性能を見るのが楽しみだ。

 

あと冒険者ギルドや騎士団に<UBM>が居て討伐したことも教えないとな。怒られるだろうが仕方なし。リベンジできたのだしそれぐらいは甘んじて受けよう。

 

さて、約束の日までに仕事で呼び出されない様に頑張るとしますかね。

 

 

 

  ◇  【従魔師(テイマー)】ウッド・アクアバレー

 

 

【バルギグス】を討伐してからリアルで数日が経ち、僕たち三人はデンドロにログインした。そのまま僕たちは冒険者ギルドへと向かう。

 

【バルギグス】の報告と討伐を知らせるためだ。怒られるのは確実だから先に済ませようと言うわけだ。冒険者ギルドに着いた時、中は何やら慌てた様子で職員が俺達に・・・

 

「<サウダ山道>で<UBM>が目撃されたのですが、何名かの<マスター>が討伐したと言うのです。ご存じないですか?」

 

と聞いてきた。俺達は正直に以前から<UBM>を見つけ、討伐するために準備をしていたと報告。そして何日か前に討伐したと言って、ゲイル兄貴が持っているMVP特典【破岩盾 バルギグス】を見せた。

 

これに対して少々小言を言われた後に、感謝された。そして<UBM>の討伐報酬として60万リルを貰っちゃった。

 

なぜ報酬があるのか聞いてみると、どうもギデオンで<UBM>のことが目撃されて商人の間で不安が広がっていたと説明された。ギデオンを治める領主はこれではいけないと60万リルの懸賞金を出していたと言うわけだ。

 

王都以外で目撃されていたと予想していなかったのは完全にこちらの落ち度だ。むしろそんな状況でよく討伐されなかったね。

 

なんにせよ僕達は臨時収入を得て、それを分け合う話し合いをすることに。

 

「20万ずつでいいだろう」

「異議なし」

「俺もか?」

「「当然」」

 

ゲイル兄貴はこの60万は僕とクロス兄貴で分けていいと言っていたが、さすがに討伐戦で一番苦労した人にこのお金を渡さないと言う考えは僕たちにはない。

 

「だが、俺はすでに特典武具を持っているぞ?」

「「それとこれとは別!」」

 

どうもゲイル兄貴は特典武具を手にしたのだしお金は要らないと言う考えのようだが、僕とクロス兄貴が強引にお金を受け取らせた。

 

まぁ、ゲイル兄貴がそう言う考えになるのはちょっとは分かるけどね。見せてもらった性能はちょっとすごい物だし。

 

 

 【破岩盾 バルギグス】

 <伝説級武具(レジェンダリ―アームズ)

 武器を破壊し岩を喰らうゴーレムの概念を具現化した伝説の武具。

 極めて高い硬度を持ち、装備者の生命力を増強する。

 ※譲渡・売却不可アイテム

 ※装備レベル制限なし

 

 ・装備補正

  HP+30%

  防御力+200

 

 ・装備スキル

  《破岩甲》

 

 

 《破岩甲》 パッシブスキル

  この盾で受けた武器の耐久値を大幅に減少させる。

 

 

この盾は灰色の水晶の様な円形盾でその中央は岩のような質感となっている。装備スキルである《破岩甲》も盾にマッチしたスキルでかなり有用だね。

 

ただ、もう一つのスキルであろう岩を喰い再生していたと思われるスキルは無かった。変わりかもしれないが装備補正にHPアップの効果があるね。

 

MVP特典は選ばれた者の能力を考慮して、その<UBM>の能力を使えるようにアジャストされるらしいからこんな形になったのかもしれないね。

 

ともかく、俺達のリベンジはこれで終わり。今後はどうしようか?

 

 

 

  ◇  【盾騎士(シールドナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

俺達のリベンジは終わり今後のことを話し合う過程で、ギデオンへ再出発することになった。元々はギデオンを目指していたことを今更だが思い出した。悔しさとリベンジのことで頭がいっぱいで忘れていた。

 

再度リアルで時間を決めてから後日にギデオンへと出発。<サウダ山道>のモンスターを討伐しながら、途中で休息をし<ネクス平原>へ入る。

 

そこで現れるモンスターにも苦戦せずに順調に進み、ギデオンが見えてきた。

 

ここは決闘都市ギデオンを呼ばれている街で、決闘がアルター王国で最も盛んに行われている。決闘とは先々期文明の装置で特殊な結界を発生させ、その中で決められたルールの元で行う競技だ。

 

その結界の中ではどんなに傷ついても結界を解くと元通りになり、安全に戦闘ができる。それこそ倒されてもデスペナや死ぬことはないほどに。

 

この結界装置は決闘ルールが特殊なグランバロア以外の各大国には存在し、ティアンと<マスター>がともに切磋琢磨している。

 

また、決闘には観客がチケットを購入して見物でき、賭けも行われている。そのため街の収入源であり娯楽でもあるため常にギデオンは活気に満ちている。

 

「いや~中々面白そうな町だな」

「決闘も見てみたいですね」

「確かにな」

 

俺達もギデオンの活気を肌で感じて、年甲斐もなく興奮してしまう。

 

「まぁ、しばらくはここで活動するから決闘も見る機会があるだろう」

「それもそうだね」

「これからどうする?」

「しばらくはゆっくり見学かね?ここ最近はあいつのリベンジのために動き回ってたからたまにはゆっくりしたい」

「「そうもそうだ」」

 

と言うわけで、俺達は宿を取ってログアウト。しばらくはゆっくり過ごすことにした。




この後のお話は三兄弟各自のギデオン観光の話になります。原作のキャラも登場しますよ~

あと、【大闘士】に関しては作者が考えたジョブです。闘士系統上級職って【剛闘士】以外の情報は原作にないんですよね。他には一体何があるのでしょう? ちょっと気になります。


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第十六話 ギデオン観光 クロス・アクアバレーの場合

  ◇  【風術師(ウィンドメイジ)】クロス・アクアバレー

 

 

俺水谷 流ことクロス・アクアバレーはデンドロにログインして決闘都市ギデオンを観光していた。最近は直前の<UBM>の討伐するためにいろいろ動き回ったから、しばらくの間のんびりすることに決めたのだ。

 

何せこのギデオンは観光するのには最適な場所だ。決闘施設が中央大闘技場と小型の決闘場が十二棟もあり、決闘または何かしらのイベントを行っている場合があり、それに参加したり見学したりができる。

 

他にも小型の決闘場の場所を区画分けされており、商業区画や温泉区画に生産区画などを見て回るだけでも面白い。

 

ギデオンに来るまでのモンスターのドロップ品は売って現在の所持金は23万リル少々。観光するなら十分な所持金だ。

 

まずは温泉区画にでも行って、ゆっくりするかと足を向けた時に・・・

 

「だ、誰か~!ひったくりよ!」

「おらどけ!」

 

俺の後方で身なりのいいご婦人のアイテムボックスを《強奪》した者が居たようだ。よく見るとその者は<マスター>の様で足に<エンブリオ>らしきローラーブーツを履いている。

 

さすがに見て見ぬふりはいかがな物かと思い、その者の前に立ち塞がる。ところが・・・

 

「《我が道はどこにでも(イダテン)!》」

 

ひったくり犯がスキル名を叫ぶと、空中を滑り出し俺の頭上を通り過ぎて行った。

 

「あ!?」

「はっはっは!じゃあな!」

 

そのままひったくり犯が姿を消すかに思えた瞬間、人ごみの中から誰かが跳躍してひったくり犯に蹴りを入れた。

 

『ふん!』

「げは!?」

 

その瞬間はあたかも未だにリアルで人気がある特撮番組のヒーローの様だった。蹴りを放った人の格好もその考えを増長させているのだが。

 

その人は先ほど想像した特撮ヒーローに酷似した格好をしているからだ。仮面のようなフルヘルムを被り、装備品もどこか意識した物っぽいし。

 

俺はとりあえず蹴りを入れられて地面に転がっている相手を拘束する。

 

「とりあえず、大人しくしろよ?変なことをしたら攻撃するからな」

「く、くそ!」

 

俺程度のステータスで拘束できることを考えると、こいつはAGI特化型かもな?あと、先ほどのスキルはクールタイムの影響か使う気配がない。

 

拘束中の俺に、先ほどひったくり犯に蹴りを入れた恐らくは<マスター>が話しかけてきた。

 

『拘束感謝する。それと先ほどもこいつの前に立ちはだかっていたな?』

「すぐに突破されましたけどね」

『いや、君のおかげでこいつの隙を突くことが出来たんだ。お手柄だよ』

 

そんな話をしていると、先ほどのご婦人が駆けつけてお礼を言い始めた。

 

「ありがとうございます!おかげさまで盗られた物が取り戻せそうです!」

「どういたしまして」

『礼には及びませんよご婦人』

「まぁ!よく見ればあなた様はライザー殿では?」

 

うん?ご婦人はこのひったくり犯を撃退した人をご存じなのか?

 

「あ!確かに!」

「”仮面騎兵”マスクド・ライザーだ!」

「決闘ランキング四位の!」

 

ご婦人の言葉をきっかけに周りの人たちも騒ぎ始めた。ひょっとして有名人? などと考えていたら人のざわめきがさらに増して奥からまた誰かがやってきた。

 

「ライザー。ようやく捕まえたか?」

『ええオーナー。こちらの彼の協力のおかげで』

「それはすまないな。おかげで助かった」

「いや、たまたま近くに居たので」

 

正直な話、ライザーと呼ばれた人が居なかったら逃げられていたから礼を言われるのは背中がむず痒くなる。

 

「フォルテスラだ!」

「おお、決闘ランキング三位の!」

「きゃああ!こっち向いてください!」

 

何やら騒がしいのが最高潮になりつつあるな? そんな様子に目の前の二人は苦笑している。

 

「これ以上騒がしくなると収拾がつかないな」

『騎士団詰所にこのひったくり犯を連れて行きましょう』

「そうだな。ご婦人もどうか一緒に。盗まれた物が帰ってきますよ」

「はい。ありがとうございます」

「よければ君も一緒に。お礼がしたい」

「はぁ?わかりました」

 

温泉に入ってゆっくりするつもりがなんか予想外のことになったな?

 

 

 

その後、騎士団詰所で事情説明。ご婦人の証言と《真偽判定》のスキルでひったくり犯は騎士に連れてゆかれる。その後は余罪をはっきりさせて監獄に送られるだろう。

 

用事が終わり、ご婦人からも改めてお礼を言われ、そのまま別れた。二人とも別れることになるかと思ったんだが。

 

「俺は【剣聖(ソードマスター)】のフォルテスラだ」

『自分は【疾風騎兵(ゲイル・ライダー)】のマスクド・ライザーだ』

「俺は【風術師】のクロス・アクアバレーです」

「お礼もかねて食事をおごらせてくれないか?」

 

そう言われたので断るのも悪いと考えて、受け入れた。現在、二人のおすすめの食事処で席についた所だ。繁盛しているらしく他の客相手に店員が忙しくしている。

 

「なぁ、あれって」

「”仮面騎兵”と”凌駕剣”か!」

「いっしょに居る奴誰だ?」

 

二人は決闘ランキング三位と四位らしくそんな有名人と一緒に居る俺も注目されている。

 

ついでに決闘ランキングに付いては、簡単に説明すると決闘者のランク付けだ。決闘を繰り返し勝ち続けるとランキングに名が刻まれる。

 

目の前の両名はこのアルター王国で決闘において三番目と四番目に強い<マスター>と言う事だ。それは騒がれるわ。

 

「なんでも頼んでくれ。ここの払いは俺とライザーが払う」

「いや、さすがにそこまでしてもらうのは・・・」

『そんなことはない。君が捕まえるのに協力してくれたあのひったくり犯は常習犯でな?ティアンと<マスター>合わせると20人以上も被害にあっている』

「そんなに!?」

 

20人越えの被害者とは驚くと同時に、呆れるわ。デンドロで何やってんだよ。あのひったくり犯。

 

「どうもビルドをそれに特化させて<エンブリオ>もそれに合わせて進化したようだ。最近のギデオンでは奴による被害が多発していたので俺達のクランの何人かでパトロールをしていたんだ」

「クラン?」

『もしかして初心者かい? オーナーの<バビロニア戦闘団>はクランランキング二位でもあるんだよ』

「あ~すいません。やり始めてリアルでまだ二か月くらいなので」

 

合計Lvが低いし、ランキング関係の情報はまだ早いと判断してチェックしていなかったからな。

 

「それなら知らないのも無理ないか」

『団長!納得しないの!』

 

突然の女性の声に驚くと同時に、フォルテスラさんの左手の紋章が輝いた後には隣に女子が立っていた。

 

「団長はアルター王国で三番目に強い<マスター>なんだよ!そんな人と一緒できるんだからもっと驚きなよ!」

「ネイ。失礼だぞ?」

「む~!」

 

突然出てきた女子は俺を睨みながら、開いていたフォルテスラさんの隣に座った。

 

「あの、その子は?」

「ああ、この子は・・・」

「あたしは団長の<エンブリオ>!TYPE:メイデンwithエルダーアームズのネイリングだよ!」

「メイデン・・・初めて見た」

 

<エンブリオ>TYPE:メイデン それはチュートリアルでは説明されなかった<エンブリオ>のレアカテゴリー。

 

<エンブリオ>自体が意思を持ち人間となんら変わらない受け答えをする。まぁ、これに関してはガードナーでも似たようなことが確認されている。悪魔型とか天使型で話ができるのもいるらしいし。

 

その後、注文を聞きに来た店員にネイリングも追加でそれぞれ注文した。俺はそれほど高くない物を。ここで遠慮なく高い物を頼むのは気が引ける。かと言って一番安い物を頼めば二人が気にするだろうし、これがベストな選択だろう。

 

食事は楽しかった。二人のこれまでの決闘の話やモンスターとの激闘など聞いていて随分と興奮した物だ。ちなみにフォルテスラさんが注文したのはステーキで、ネイリングも同じのを頼んでいた。

 

フォルテスラさんが豪快に大き目の肉を頬張っていたのに対して、ネイリングは一口サイズにカットして口に運んでいたのは対照的で面白かった。ライザーさんはスムージーを頼みヘルムの間からストローで飲んでいた。ヘルム脱がないんですね。

 

その後は食事を終え、店の前で別れの挨拶をしていた。

 

「今日はご馳走様でした」

『何、こちらこそ今日はありがとう』

「ああ、気にしないでくれ」

「あと、渡したチケットで見にきなよ!」

「ああ、絶対に行くよ」

 

食事をしている途中でネイリングから今日の午後からやるフォルステラさんの決闘のチケットを貰っていた。彼女曰くそれを見て団長の凄さを確認しなさいだそうだ。

 

彼らと別れ、俺は決闘まで時間があるので予定通り温泉へと向かうのだった。

 

 

それからしばらく経ち、俺はチケットを使い中央大決闘場へとやってきていた。このチケット結構いい席であるようで座って見られる場所だった。俺はチケットに書かれている席に来ると・・・

 

「へ?」

 

となりの客を見て素っ頓狂な声を上げてしまった。その客は着ぐるみだったのだ。多分動物のカンガルーの着ぐるみだろう。俺は《鑑定眼》なんてスキルは持っていないが、なんとなくこの着ぐるみは装備としては強い部類なのではと考えた。

 

『おや?』

 

着ぐるみも俺に気付いて、何やら声を上げた。

 

「すいません。驚いてしまって」

『気にして無いガル。大抵の人はそんな反応だガル』

 

何やら妙な語尾で話しているが、怒っていないならよかった。

 

『それより、座った方がいいガル。そろそろ始まるガル』

「そうですね」

 

この席は隣との間隔がかなり広めで着ぐるみが隣でもゆったりと座れる。

 

『会場の皆様! これよりランキングマッチを開催いたします!』

 

アナウンスで決闘開催が告げられ、観客から歓声が上がる。

 

「随分と熱気がありますね?」

『今日の決闘は人気カードだからガル。と言うより知らずに来たのかガル?』

「たまたま知り合った人からチケットを貰ったので」

『そりゃ、運がよかったガル』

 

なんとなくだが隣の着ぐるみと会話してしまった。あちらも会話がしたかったのか俺の言葉に答えてくれた。

 

『まずは東! 挑戦者、決闘ランキング第三位である【剣聖】フォルテスラァァァァ!』

 

東のゲートから今日知り合ったフォルステラさんが出てきた。その手には長剣が握られている。あれがネイリングのアームズ形態だろう。

 

『対する西は! 防衛者、決闘ランキング第二位! 【大闘士(グレイト・グラディエーター)】フィガロォォォ!』

 

西から出てきた人はなんと言うかちぐはぐな装備をしていた。簡単に説明すれば性能だけで装備選びました、コーディネートは二の次です。みたいな感じだ。

 

二人が決闘場の中央付近で対峙して、決闘のルール説明後二人はそれを承諾して結界が展開。

 

『それでは、試合開始!』

 

決闘が始まった。

 

 

 

結果はフィガロと言う人が勝った。しかし、内容的にはどちらが勝っても不思議ではなかった。それほどに高度な戦いが行われていた。

 

多種多様な装備を駆使して、相手を攻撃するフィガロ。それを剣一本で防ぎ肉薄して切り込むフォルテスラさん。<マスター>による上級者の戦いが俺の目の前で行われた。

 

大決闘場を出ても、観客は先ほどの戦いの話題でもちきりだ。

 

「いい物を見た・・・」

 

今はまだ実力が足りないが、俺もいつか決闘をしてみたいな。

 

『いい戦いだったガル』

 

俺の隣には席が隣だった着ぐるみが居た。この着ぐるみは決闘を始めて観る俺に対していろいろ解説をしてくれたのだ。

 

「解説ありがとう。おかげでよくわかったよ」

『いいガル。こっちも一人で見るより楽しかったガル』

 

そう言って着ぐるみは笑ったように見えた。

 

『ところでこれから予定はあるガル? せっかく知り合ったし食事でもどうガル?』

「ありがたいお誘いですが、そろそろログアウトしたいので」

『わかったガル。もしも次に出会った時にでも』

「はい。では・・・」

 

別れの挨拶をして、俺はログアウトした。今日は予定とは違ったが知り合いも増えていい物見れたしゆっくりとはできたな。

 

 

 

『まさか、こんなところで出会うとは分からんもんガル』

 

着ぐるみは先ほどログアウトした<マスター>を見送り、そんな言葉を口にした。

 

『シュウ、お待たせ』

 

その着ぐるみに声を掛ける別の着ぐるみが居た。新たに現れた着ぐるみは金色のライオンの様であった。

 

『おう、勝利おめでとうガル。今日は別に土産話もあるガル』

『土産話?』

『ギデオンで<UBM>の目撃情報が有ったろ? 数日前にたまたまそいつを討伐した<マスター>たちを見かけてな』

『へぇ、倒せたんだ。それはすごいね』

『詳しくは食事の時にでも』

『うん、楽しみだよ』

 

二人の着ぐるみはそう言ってなじみの店へと向かう。周りが妙に着ぐるみ二人に注目しているが、当人たちは気にせずに歩いていた。



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第十七話 ギデオン観光 ゲイル・アクアバレーの場合

  ◇  【盾騎士(シールドナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

俺ことゲイル・アクアバレーはデンドロにログインして、ギデオンの街を探索していた。観光がてらとある目的を達成したくてな。

 

とある目的とは馬型モンスターの購入だ。俺のメインジョブである騎士系統は《乗馬》スキルを持っていてAGIのステータスの低さを《乗馬》で補うジョブだ。

 

現在の俺の所持金は不要な物を売り払い、30万リル少々。これなら馬型モンスターも購入できるだろう。選べるモンスターは少ないだろうがね。

 

念のため、【従魔師】に転職してから探そうかね? どの道次のジョブにするつもりだったしな。

 

【従魔師】に転職して俺は商業区画のモンスター専門の商店を何軒か巡り探しているのだが、なかなかこれだと思うモンスターに出会えない。

 

能力が高い馬型モンスターは俺には高くて手が出せないし、そうかといって安いモンスターを選ぼうとしても気に入った奴に出会えない。

 

さすがに今日は諦めて観光をしようかと考え始めた。すると、何やら通りが騒がしくなり騒がしさが段々と近づいてきている。

 

「暴れ馬だ!皆にげてくれー!!」

 

通りの向こう側から興奮状態で蛇行しながら進む銀色の鬣をした灰色の毛並みの馬がこちらへと近づいてきた。周りのティアンの住人達は慌てて建物に避難したり、躱すために逃げたりしていたが。

 

「あう!」

「ああ、坊や!」

 

母親に手を牽かれていた子供がこけて手を離してしまった。その子共に暴れ馬が迫る。誰もがこの後に起こる悲劇を想像して叫び声を上げる中、俺は《瞬間装着》で現在の装備を仕舞い【ボルックス】を装備。

 

子供を庇うために暴れ馬の前に立ち塞がる。

 

『ふん!』

 

現在の俺のメインジョブは【従魔師】なので騎士系統由来のスキルは使用不能。しかし、ステータスはそのまま反映されているので、暴れ馬をそのまま真正面から受け止める。

 

しかし、受け止めた暴れ馬はステータスが高いのか俺を徐々に押し始めた。このままでは庇っている子供が危ないと判断して誰かに子供を頼もうと叫ぶ直前・・・

 

「はいどうどう~」

「BURURU」

 

横から現れたチャイナ服姿の女性が暴れ馬をあっという間に宥めた。もう暴れることはないと判断して俺は警戒を解かずにゆっくりと馬の拘束を解いた。

 

「もう大丈夫ヨ~この子は落ち着いたヨ~」

「BURU」

 

馬は先ほどのまでの暴れっぷりが嘘のように大人しくなった。さらに俺にも近づき鼻を擦り付けてきた。

 

『力ずくで止めて悪かったな? 緊急事態だったんだ』

「BURU」

 

どういう理由で暴れたのかはわからないが、とりあえずステータス任せな強引な止め方を謝っておいた。馬は俺に対して頭を下げ、感謝でもするかのように鼻を擦り付ける。

 

「貴方もありがとうヨ~おかげで子供が無事だったヨ」

『こちらこそ、ご助力感謝します。俺だけじゃあ危なかったので』

 

チャイナドレスの女性の左手には紋章が有ったので<マスター>か。何らかのスキルで止めてくれたのかな?

 

それから子供の母親が子供を抱き上げて無事を喜び、俺と女性に対して感謝の言葉を口にした。そんなやり取りをしている間にこの馬の持ち主がやってきた。

 

「も、申し訳ありません! いきなり暴れ出してしまって」

 

そう言って謝罪する馬の持ち主に周りから文句が飛び交う中・・・

 

「気にすることないヨ~あなたに原因はないから」

『え?』

 

チャイナドレスの女性が周りに聞こえる大きな声でそう言うと周りの人たちも疑問を声を上げた。そんなところに・・・

 

『レイレイさ~ん。暴れ馬の方は止まったガル?』

「離せこの着ぐるみが!」

 

男の<マスター>を片手で引き摺るカンガルーの着ぐるみが現れた。突如として現れた謎の着ぐるみとそれに引きずられる男性に周りの人たちは理解が追い付かない。

 

「うん。誰も怪我してないヨ~。この人が暴れ馬を止めてくれなかったら子供が危なかったけど」

『犠牲者が出てないならよかったガル。おや?そこの君は・・・』

『何か?』

『何でもないガル。とりあえず事情を説明するガル』

 

どうでもいいけどその語尾は何の意味があるんだろう? 謎の着ぐるみが説明をするとどうやらこの暴れ馬は着ぐるみが引き摺っている<マスター>に【混乱】の状態異常を掛けられたと言う。

 

たまたま目撃した着ぐるみとチャイナドレスの女性が分かれて事態を対処しようとしたと言うわけだ。そう説明された瞬間、周りの人たちが未だに引きずられている<マスター>に対して文句の言葉を浴びせたのは言うまでもない。

 

 

 

その後、騒ぎを聞き付けた【騎士】のティアンが現場に到着。着ぐるみに拘束されたままの<マスター>は無実を訴えたが、【騎士】の一人が《真偽判定》のスキルで確認したところ嘘と分かった。

 

着ぐるみとチャイナドレスの女性の言葉は真実だと証明されて、男の<マスター>は【騎士】たちによって連行された。さすがに指名手配にはならないだろうが、罰金とギデオンからの退去となるだろうと言っていた。

 

リアルで用事があるからと早々にログアウトしたチャイナドレスの女性以外はこの場で子供と母親に感謝され、見送っているところだ。

 

「この度は本当にありがとうございました」

「BURURU」

「いえいえ。どうかお気になさらずに」

『そうガル。たまたま目撃したからお節介をしただけガル』

 

現在は馬の持ち主に俺と着ぐるみが感謝されているところだ。ちなみに俺は【ボルックス】を紋章に仕舞っている。街中まであの恰好は物騒すぎる。現在の装備は適当に見繕ったシリーズ装備だ。

 

「いえ。あなた方が居なければこの子の価値が下がるところでした」

「価値が下がるとは、手放すのですか?」

「ええ、店を閉めて故郷の街へ帰るところでした」

 

彼の話だと、故郷の町でも小さな商店をやっていてギデオンで一旗揚げるためにやってきたはいいが、思うように客が集まらず、お金がまだあるうちに故郷に帰ろうと決断したところだと言う。

 

「幸いこの子以外の馬が居ますし、帰るだけであれば問題ありません。それにこの子は私が《テイム》した馬型モンスターですし戦闘力は高いのです。戦いをしない私よりも【騎士】や【騎兵】に就いている誰かが貰った方がこの子も喜ぶかと」

「ふむ」

『それは大変ガル』

 

その話を聞いて、俺はある種の運命を感じた。

 

「でしたら、私にその子を売っていただけませんか?」

「え? いいのですか!?」

「ええ、ちょうど馬型モンスターを探していたので」

「もちろんです。この子もあなたに懐いているようですしありがたいです!」

「BURU!」

 

馬は俺が言っていることが分かったのか鼻を擦り付けてきた。その後の交渉で買い取り額は10万リルになった。恩人であるからタダでお譲りしますなんて言っていたが、さすがにそれは断固阻止した。

 

その後は従魔師ギルドでの手続きや馬の装備に【ジュエル】と乗馬しても戦えるように馬上槍を購入。なおこの馬の名称は【シルヴァリオン・ホース】と言う種族でかなり珍しいモンスターだと従魔師ギルドの職員が言っていた。

 

光魔法を使いこなし、ステータスもAGI以外もそれなりに高いので従魔師ギルドでも高値で取引されているとか。実際、何人かの【従魔師】のティアンと<マスター>が譲ってくれと言ってきたがすでに俺の従魔になったので譲るわけがない。

 

ただ、元の持ち主にはそんなに価値があるのならもっと払った方がいいかと尋ねたら。

 

「いえ、大丈夫です。この子はすでにあなたに懐いていますし。この子を手放したのお金が欲しいからではなく、この子の今後を考えてのことです。どうか、大切にしてやってください」

 

そこまで言われちゃあ、もう何も言えないね。これから先大切にします。

 

その後は故郷に帰る彼を見送った。

 

『いい話を聞けたガル』

 

着ぐるみさんも暇だと言って俺達に付き合っていた。

 

「知り合ったのも何かの縁ですし、これからこのリオンと狩りに行きますが一緒にどうですか?」

『誘ってくれたのは嬉しいが、俺はAGI型じゃないから足手まといガル。また、会った時にでも誘ってほしいガル』

「そうですか。では、機会があれば」

『そんじゃあ、さよならガル』

 

そう言って俺と着ぐるみさんも別れた。早速狩りにでも行こうかと思ったが、《乗馬》スキルが有るとはいえ騎士ギルドで《乗馬》のレクチャーを受けてからの方がいいと考え直した。

 

とりあえずは目的を達成したし。リオンと名付けた馬との乗馬はまたの機会として、あとは観光を楽しむことにしよう。



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第十八話 ギデオン観光 ウッド・アクアバレーの場合

家族が入院したので更新できませんでした。これからはあらすじに書いている通り不定期更新となります。


  ◇  【従魔師(テイマー)】ウッド・アクアバレー

 

 

僕こと水谷 芳樹はデンドロにログインしてウッド・アクアバレーとしてギデオン観光を行っていた。その過程でとあるイベントが六番闘技場で行われていると聞き、飛び入りで参加した次第だ。そのイベントとは・・・

 

「わ~い!グリフ君すご~い!」

「飛んでるよ!」

「クル~!」

「つぎ!つぎはわたし~!」

「ぼ、ぼくも~!」

「順番だよ?行儀よく並んでね?」

 

現在、8歳前後の子供たちがグリフに乗るため列を作っている。ここで開催されているイベントとは子供たちにテイムされたモンスターとの触れ合いイベントだ。

 

子供たちにモンスターについて教え、最後には実際に触れ合ってもらおうと従魔師ギルドが企画。街の領主であるギデオン伯爵からも許可を貰い、今日イベントを開催した。

 

これは子供たちにモンスターの怖さを知ってもらう事と、《テイム》されている場合に限り、とても頼もしい味方になると言う事を知ってもらうために企画したと言う。

 

従魔師ギルドはギデオンに居る【従魔師】に就いているティアンと<マスター>に協力を要請して、多種多様なモンスターを揃えた。さらには当日にも【従魔師】である<マスター>に参加してもらおうと呼びかけても居た。

 

それを見た僕はグリフなら参加できるのではと思い、確認したところ是非にと言われて参加を決定。子供たちと触れ合えば人懐っこいグリフも楽しいのではと考えたんだけど、参加して正解だったね。

 

「クル~!」

 

現在、グリフは多数の子供たちに囲まれてとっても嬉しそうに鳴き声を上げている。背中に二人ほど乗せてほんの少し飛んだり、子供たちに撫でられたりと嬉しそうだ。

 

グリフは<エンブリオ>だけど、モンスター型には違いないからと参加の許可が下りたのはありがたいね。もっともグリフ以外にもモンスター型の<エンブリオ>は居るようで・・・

 

でっかい亀の甲羅で滑り台のように滑っている子供たち。大きな蛇を怖々と触ろうとしている男の子たち。ふわふわの羊に身体全体でもふもふを堪能している女の子。これらはすべて<エンブリオ>だと言う。

 

他にも大きなライオンや鎧の様な鱗のドラゴン。かっこいい怪鳥に綺麗な羽の蝶々などなど、多種多様なモンスターがこの闘技場に居る。

 

中でも特に人気なのが・・・

 

『は~い、こちらはモンスターの赤ちゃんコーナーガル。生まれて数か月の赤ちゃんモンスターと触れ合うことができるガル』

 

カンガルーに見える着ぐるみを着ているこのイベントのために雇った<マスター>が、紹介している赤ちゃんモンスターばかりを集めたコーナーは子ども達だけではなく、女性や動物好きの<マスター>たちにも大人気で結構人だかりが出来ている。

 

ついでにマスコット扱いされている着ぐるみの<マスター>にも子供たちが触ったりよじ登ったりしている。慣れているのか子供たちが落ちない様に気を付けて動いている。

 

ちなみに、赤ちゃんモンスターの種族は魔獣が多い。犬にしか見えない狼や猫にしか見えない虎、少数だが小熊もいる。

 

これはさすがに他の種族の赤ん坊は親が許してくれなかったのと、ステータスの高さが原因で他の種族は出せないと言う事情があるとのこと。

 

僕もいろいろ見た回りたいけど、さすがにグリフだけで子供たちの相手をさせる訳にはいかない。それに時間が来れば見て回れるしね。

 

このイベントは子供たちの触れ合いが終われば、従魔師ギルドとギデオンにあるモンスター売買の商店のいくつかが売買目的で展示会もやるとのこと。

 

実は僕もこの展示会目当てでもあるんだよ。せっかく【従魔師】に就いているし他のモンスターを仲間にしてみたい。それにもしグリフが戦闘できない事態になった時にも戦力として他のモンスターを連れていた方がいいかもしれないしね。

 

そう言う訳で、今はグリフに付き合うことにしよう。

 

 

子供たちの触れ合いイベントは終わり、次のイベントである展示会が行われる。商人や従魔師ギルドが多種多様なモンスターをその場に出して、興味を持ったティアンや<マスター>に説明している。

 

僕の今の所持金は要らない物をすべて買い取ってもらったので30万リル少々。能力の高さよりもグリフと仲良くできる子だったらいいね。

 

「クル~」

 

グリフも出して一緒に見て回る。そんな中、ある一画で人だかりができているのを見つけて近くまで行ってみた。

 

「さぁさぁ! ここに居る二体のモンスターは新種のモンスターで魔獣は【グランヴォルフ】! 地属性の拘束魔法が得意な知能の高いモンスターだ!」

 

檻の中に居るのは焦げ茶色の毛並みと白い毛並みのバランスが美しい狼型のモンスターだった。

 

「そして! もう一体は怪鳥種の【ステルスオウル】! 身体は小さいが知能は高く【気配察知】に【気配遮断】や【魔力隠蔽】といったスキルを持つ生粋のハンターだ!」

 

もう一つの檻には灰色のフクロウが檻の中にある止まり木に止まっている。ちなみに怪鳥種としては小さいと言う事だが、僕の半分くらいの大きさはある。

 

「今からこの二体を制限時間内に《テイム》できた人にお譲りします! ただし、挑戦権として5万リルはいだたきますし、制限時間は3分です! さらにお一人様3回までとさせていただきます! さぁ! 早い者勝ちですよ!」

 

その瞬間に続々と挑戦する者たちが我先にと並び始めた。近くに居たティアンの人に尋ねてみたらこういう商売方法はたまにあるんだとか。

 

モンスター売買の商店で販売されているモンスターは基本はテイム済みで、テイムされたモンスターは所有者に従う。従属キャパシティと言う自らの戦力として扱う枠に収まらなくともパーティメンバー枠を使えば、子供や低Lvの人間にも扱える。

 

だが、こうしてテイム挑戦権としての販売などには当然《テイム》は必要。さらには店側はテイムしていないため安全面を考えてそのモンスターでは絶対に壊せない檻などを用意して入れておく必要がある。

 

この商売方法はテイム難易度が高いモンスターや店側がテイムできなかったモンスターなどでされることが多いと言う。今回の二匹はどっちだろう?

 

そんなことを考えている間にも挑戦しては失敗している人たちが、3回の挑戦限界のために再び並ぶと言う事を繰り返している。

 

僕もちょっと気になるけど今は他のを見て回ろう。

 

『・・・・』

 

他の場所を見て回ろうとしたら、イベントでマスコットをしていた着ぐるみさんが何やらテイム挑戦権をしている店を凝視していた。着ぐるみさんも挑戦するのかな?

 

 

 

他の店を見て回った結果、欲しいと思うモンスターは残念ながら居なかった。グリフが居るからと《騎乗》できるモンスターなどを見てもこれだっと思う子が居なかった。

 

中にはグリフが嫌だと言うようにそっぷを向く子なども居て、ならばと《騎乗》できる子に拘らずいろんなモンスターを見て回ったがこれはと言う子は居なかった。

 

それ以前に高過ぎて買えないなんて子もいたけどね。ほとんどを見て回ってあのテイム挑戦権で売っていた子たちはどうなったかと気になり見に行ってみると・・・

 

「ほら、おとなしく歩け」

「く、くそぉ!」

 

なぜか【騎士】のティアンに拘束されて連行される店主を目撃した。その店主の店では従魔師ギルドの人が忙しそうにしている。何かあったの?

 

『悪い奴は何処にでも居るガル』

 

そんな店の状況に首を傾げていると隣に着ぐるみさんが居た。

 

「あの・・・」

『うん? なんだガル?』

「このお店何かあったんですか?」

 

事情を知っていそうな呟きが聞こえたので尋ねることにした。

 

『ああ、さっきこの店でテイム挑戦権でモンスター販売をしていただろう?』

「ええ」

『その売られていたモンスターな、本当はすでにテイム済みだったんだよ』

「え? それって・・・」

『おう、客を騙して金だけ巻き上げる詐欺ガル。その店主は上手くスキルや装備品で隠蔽していたが、結局明るみになってお縄ガル。今は従魔師ギルドの人が騙された人にお金を返すためにいろいろ忙しくしているガル』

 

何ともそんな人がいたとは。しばらくすると従魔師ギルドの人が騙された人々にお金を返していた。ちなみに騙されたがどうかは《真偽判定》のスキルで確認しているので問題なし。

 

さらにはその詐欺師の店のモンスターも従魔師ギルドの人たちが改めてテイムして、適正価格で販売を始めた。中には亜竜クラスモンスターも居て順調に買い手が見つかった。テイム販売権で売られていた2匹を残して。

 

「あの二匹は買い手がいないみたいですね?」

『印象が最悪だからガル。いくら珍しいモンスターでも詐欺に利用されたと言う情報が広がっているからな。犯罪に使われたと言う事実は無視できないガル』

 

確かにそれは印象が最悪だろうな。結局あの二匹は最後まで残ってしまった。

 

「クル~」

「ん? どうしたのグリフ?」

「クルクル」

 

グリフがあの二匹を見つめて僕に何かを訴えている。

 

「ひょっとしてあの二匹を引き取ってほしいのかな?」

「クル!」

 

グリフはそうだよ!と言う鳴き声と頷きで答えた。グリフがこんな反応をするのは珍しい。他の店ではそっぷを向くか反応なしだったのに。

 

『買うなら早くした方がいいガル。このイベントが終わればしばらくは従魔師ギルドで世話するだろうが、あんまり人気がないと《解体》スキル持ちに頼んで素材にされることがあるガル』

 

着ぐるみさんの言葉で僕はあの二匹を引き取ることに決めた。従魔師ギルドの人に値段を聞くと2匹合わせて25万リルだった。ただ、犯罪に利用される事を考えて性能のいい【ジェエル】をおまけに付けてくれた。

 

【ジェエル】は持っていなかったしちょうどよかった。そんな訳で僕に新しい仲間が出来た。

 

「まず、【グランヴォルフ】の君の名前はグランだよ」

「UON」

「次に、【ステルスオウル】の君はスオウだ」

「HOU」

「この子は僕の家族でグリフだよ。仲良くしてね?」

「クル!」

 

グリフが挨拶するとグランはその場でお座りして、顔を下げた。スオウも何やら礼儀正しく頭を下げている。どういうこと?

 

『たぶん、本能で自分よりも強いってことが分かってるガル。だからあなたに従いますって態度で示してるガル」

 

ハァ、確かにそう考えると納得するね。だがそんな態度を取られたグリフは・・・

 

「クル・・・」

 

ちょっと残念そうだ。グリフ的には僕みたいに気安い関係がよかったみたいだね。

 

「これから一緒に行動するから、徐々に慣れてくれるよ」

「クル」

 

とにかく目的の新たな仲間が手に入り僕的には満足だ。

 

「これからよろしくね。二人とも」

「UON!」

「HOU!」

「あと、着ぐるみさんもいろいろ教えてくれてありがとうございました」

『気にしないでほしいガル。イベントで雇われてた身としては、当然のことガル』

 

などと言って着ぐるみさんはアルバイト代を貰いに行くと言って別れた。イベントもそろそろ終わりだしね。僕も今日はログアウトしよう。

 

 

 

「はい、これが今日のアルバイト代です」

『契約より多いガル』

「あんたの指摘のおかげで、詐欺師のことが発覚しましたから、その分です」

『だったらこの増えた分はそちらに寄付するガル。これで赤ちゃんモンスターに遊び道具とか買ってあげてガル』

「・・・・ありがとうございます」

 

そんな会話が着ぐるみと従魔師ギルドの職員の間で行われていた。




ぶっちゃけた話、原作には可愛いモンスターっているのかな? 今のところは黄河に居るらしいパンダ型モンスターが可愛いかもしれない。

あと、クマニーサンのアルバイト話を今回書きましたが、原作でもこういうイベントでお声がかかったと思うのは私だけでしょうかw


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第十九話 上級職の選択

この話ではいろいろなジョブが出てきます。


  ◇  【風術師(ウィンドメイジ)】クロス・アクアバレー

 

 

ギデオンで観光を楽しみこと三日間。俺達は久しぶりに三人と合流して雑談で盛り上がっていた。観光をしている間にゲイルは馬型モンスターである【シルヴァリオン・ホース】を手に入れ、名付けにリオンと命名したようだ。

 

ウッドも他のモンスターが欲しくて、従魔師ギルドが企画したイベントに参加。そこで狼型モンスターの【グランヴォルフ】のグランと梟型モンスターの【ステルスオウル】のスオウを仲間にしたと言っていた。

 

紹介がてら見せてもらった。リオンは俺やウッドにも好意的だったが、グランとスオウは俺とゲイルに懐いてくれなかった。撫でようとしたら躱したり威嚇してくる。

 

それを少々残念に思いつつ、俺達は三匹の戦闘を見るために狩場へ行くことにした。

 

まずはリオンだが、ゲイルが乗馬しなくとも戦闘力は高いようでモンスターに対してAGIで翻弄して光魔法を放ち危なげなく戦っていた。ゲイルが乗馬して戦う場合は敵を光魔法で牽制しつつ、突撃してゲイルが構えた槍に貫かれていた。

 

ゲイルは観光の合間にティアンの【騎士】から乗馬の手ほどきを受けていたようで、中々様になっていた。

 

次にグランとスオウの戦いぶりだが、グランは爪と牙で攻撃しながら相手の隙をついて地属性拘束魔法の【マッドクラップ】や【クランドホールダー】を使い、相手を拘束してから急所を的確に攻撃していた。

 

スオウの場合は【気配遮断】と【魔力隠蔽】をうまく使い奇襲を成功させ、その後はヒット&ウェイを繰り返してモンスターを倒していた。

 

ウッドとグリフとの連携も見事な物でウッドが矢で狙いやすいように誘導したり、矢が当たった瞬間の追撃など行いグリフが前足で吹き飛ばしたモンスターを二匹で止めを刺すなど見事だった。

 

総じてこの三匹の戦闘力は高い。モンスターはLvが上がると進化して上位の種族になることがあると言うしこの三匹なら進化する可能性は高いだろう。

 

三匹の戦闘力を確認した後は、ギデオンへと帰還し目についた店に入り今後の方針を話し合った。

 

「二人は次のジョブは決めているか?」

「僕は【従魔師】がカンストしたら【弓騎兵】だね」

「俺はそろそろカンストする【盾騎士】のLv上げをしてから【従魔師】をLv上げ。その次は凡庸スキル目当てに【冒険家】を考えてる」

 

二人とも考えているのは下級職か。それも大切だとは思うが・・・

 

「そろそろ上級職も考えないか?」

 

俺の言葉に二人は考え出した。上級職。下級職より上位のジョブでステータスやLv上限も下級職とは比べ物にならないし強力なスキルを覚える。中には奥義と呼ばれるスキルもあって就くメリットは大きい。

 

ただ、<マスター>でも上級職は各自二つまでしか就けず就くための条件もある。中には条件が厳しいレアジョブなんてのもある。まぁ、そう言うジョブは強力な物が多いので目指す<マスター>は多い。

 

「クロス兄貴はどんなのに就くんだ?」

「俺は【魔法剣士】の上位職である【紋章剣士(ルーン・ソードマン)】に就こうかと考えてる」

 

だいたいの下級職には能力を向上した上級職がある。剣士系統魔法剣士派生上級職があるのなら目指すのは当然だな。ちなみに条件はこんな感じ。

 

 

    【紋章剣士(ルーン・ソードマン)】転職条件

 

    ・下級職【魔法剣士】がLv50に達していること。

    ・攻撃魔法スキルの合計レベル一定値以上。

    ・ステータスMPが最大値千以上にSTR、AGIの合計値が一定値以上。

 

 

この条件のうち一つ目と三つ目は達成しているので後は攻撃魔法を覚えたり、使用してLvを上げることで俺は上級職に就ける。二人は何か考えているかね?

 

 

 

  ◇  【従魔師(テイマー)】ウッド・アクアバレー

 

 

クロス兄貴に上級職のことを聞かれて、僕はちょっと悩んだ。このデンドロを始めるまでは弓士系統のジョブに就くことを考えていたが、<エンブリオ>であるグリフのことを考えると別のジョブが候補に挙がる。

 

「ウッドは何か考えてるか?」

「そうだね・・・一つは【強弓騎兵(へヴィ・ボウ・ライダー)】を目指そうかと思っているよ」

「好みと<エンブリオ>で考えた結果か?」

「うん」

 

弓は僕が一番好きな武器だし、グリフとのシナジーを考えると騎兵系統は相性いいしね。

 

「もう一つは・・・弓士系統の上級職の中から決めるよ」

「そうか。俺はもう一つを悩んでいるんだよな。剣士系統か魔術師系統どっちの上級職にするかをな」

 

クロス兄貴ももう一つの上級職を悩んでいる様子。まぁ、上級職は強力だし慎重になるのは仕方ないよね。ちなみに【強弓騎兵】の転職条件はこちら。

 

 

    【強弓騎兵(へヴィ・ボウ・ライダー)】転職条件

 

    ・下級職【弓騎兵】のLv50に達していること。

    ・騎乗状態で武器種弓を使いモンスター討伐数一定以上。

    ・騎獣のステータス合計が一定値以上。

 

 

僕は二つ目と三つ目は達成しているはずだから、あとは【弓騎兵】になってカンストすれば就ける。

 

「【従魔師】の上級職【高位従魔師(ハイ・テイマー)】は候補にないのか?」

「うん。グランとスオウを仲間にしたからありかもしれないけど、僕は彼らを主軸にして戦うより一緒に戦いたい」

 

もっと仲間を増やそうと思えば【高位従魔師】の選択もあったかもしれないけど、グリフの代わりに騎乗戦闘できる子が仲間になればいいからね。なかなか見つけられないけど。

 

「なるほどな。じゃあ弓士系統上級職では【剛弓士(ストロング・アーチャー)】、【狙撃弓士(スナイプ・アーチャー)】と就くのが難しい【弓聖(アロー・マスター)】が候補か」

「一応は。就くとしたら今のところは【剛弓士】だけど」

 

【剛弓士】はSTRの補正が弓士系統の中では高い方だし、スキルも威力の高い物が多いから一番の候補だね。

 

「他のは難しいか?」

「うん。【狙撃弓士】は戦闘スタイル的に微妙だし、【弓聖】も転職条件が難しい割には就くメリットが少ないかな?」

 

【狙撃弓士】はDEXの補正が高めで矢の飛距離や命中率を上げるパッシブスキルやアクティブスキルが多い。ただ、デメリットとしてその場から動けなくなったり動いちゃダメと言う条件があるので、グリフに騎乗する僕とは相性が悪い。

 

【弓聖】はSP、STR、DEXは満遍なく補正があり、スキルもどの状況でも使えるスキルを覚えるけど僕が求めるスキルではない。でも候補としてはありなので悩み中。

 

まぁ、二つ目に関しては【強弓騎兵】に就いてからだね。それにグリフがどういう進化をするかによっても変わるだろうし、気長に考えよう。

 

僕の考えはそんな感じだけど、ゲイル兄貴は自分のビルドはどう考えてるんだろう?

 

 

 

  ◇  【盾騎士(シールド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

二人の上級職に付いての考えを聞いたので次は俺の番だな。もっとも俺は二人の様に悩んではいない。二つの上級職はすでに決めている。

 

「ゲイルは騎士系統上級職を目指すのか?」

「やっぱり【聖騎士】?」

 

ウッドが騎士系統上級職【聖騎士(パラディン)】に就くのかと聞いてくるが。

 

「いや、それは候補から外している」

「あれ?そうなの?」

「意外だな。能力的にも【ボルックス】とは相性がいいだろう?」

 

確かに【聖騎士】はHP、STR、ENDに補正があり、聖属性剣技を覚えて騎乗状態で使える攻撃スキルに回復魔法も使える。こいつに就けば俺はよりEND型として堅くはなる。だが・・・

 

「正直に言えば趣味じゃないだよ。あんなキラキラした正義よりのジョブは。覚えるスキルも一つ習得条件が分かってないし、それに俺は【黒騎士(ブラック・ナイト)】の方が好みだ」

 

【黒騎士】は簡単に言えば騎士系統の【魔法剣士】の様なジョブだ。ただし、【黒騎士】は攻撃魔法だけと言う縛りは無く、他の魔法も使える。その代りステータスの伸びはMPとEND以外は息してないが。

 

「じゃあ、【黒騎士】に就くの?」

「好みではあるが、【ボルックス】と相性は悪いからなしだ」

「だったら何を考えてるんだ?」

「今のところは【重厚騎士(ソリッド・ナイト)】に【大盾騎士(タワーシールド・ナイト)】に就く予定だ」

 

重厚騎士(ソリッド・ナイト)】。【重騎士】の上位互換の上級職でステータス補正はHPにENDが高く、SPとSTRがそれなりに。他は息をしていない。覚えるスキルもダメージ減少やダメージ軽減に防御力と攻撃力を上げるスキルなどがある。現時点でも【ボルックス】とのシナジーはかなりの物だ。

 

大盾騎士(タワーシールド・ナイト)】は【盾騎士】の上位互換。ステータスはHPとENDが高く他は平均的。盾に関連したスキルを覚える。これも【ボルックス】との相性はいい。

 

予定としてはまず【重厚騎士】に就くことを目指そうと考えてる。ちなみに転職条件はこちら。

 

 

    【重厚騎士(ソリッド・ナイト)】転職条件

 

    ・下級職【重騎士】のLv50に達していること。

    ・全身鎧を装備した状態で戦闘を100回以上勝利している。

    ・ダメージ通算1万以上受けていること。

 

 

これが条件。一つ目と三つ目は終わっているので二つ目をクリアするために【ボルックス】を装備した状態で戦闘をしないとな。もうすぐ達成できるけど。

 

【大盾騎士】はすぐには就けないし、転職条件がまだ達成できていないから気長にこなすしかない。

 

「全員目指す上級職はあるようだな」

「戦闘をし続ければ転職できそうだね?」

「まぁ、焦ることはないし俺達のペースでやろうぜ」

 

俺の言葉に二人も頷いたので、しばらくは戦闘を続けて上級職に就くことが目標だな。




話に出てきたジョブは作者が考えたりした物です。wikiを参考にしたりもしました。


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第二十話 ギデオンでの活動

  ◇  【風術師(ウィンドメイジ)】クロス・アクアバレー

 

 

ギデオンでの今後の方針を話し合った俺達は早速行動を開始。俺は【風術師】のカンストと魔法攻撃スキルのLv上げだな。あと、三人で狩りが出来ない時にでも装備を探そう。

 

ここギデオンはカルディナに近く、決闘に参加しているティアンや<マスター>目当てに武器を扱っている商人も数多い。

 

その為、質の高い武器が多く、中にはフリーマーケットの様なイベントで掘り出し物なんかも並ぶことがあると言う。

 

まぁ、そう言う露店売りする人たちの中には粗悪品を売り、金だけだまし取るような奴もいるらしいので《鑑定眼》スキルは必須との話だ。

 

俺達はそんなスキルを持っていないので、もっぱら商店での買い物だな。ゲイルが【冒険家】になれば《鑑定眼》スキルを覚えるが、今すぐは望めないしな。

 

俺が求める装備は、剣士系統をメインジョブにしている時に使う剣と防具。あとは魔術師系統をメインジョブにしている時用の杖と防具だ。

 

狩りをして所持金も増えたので探した結果、武器と防具は剣士用はいいのが手に入った。

 

 

【ミスティックソード】

  逸話級金属(ミスリル)に魔法付与を施し性能を上げた逸品。

  武器種としてはツーハンドソード。

 

 ・装備補正

 

  攻撃力+120

  防御力+30

 

 ・装備スキル

 

  《魔法威力増加》

  《MP消費軽減》

 

 ※ 装備制限:合計Lv130以上。

 

 

 

 【ガルムビーストシリーズ】 セット装備

  魔獣種のモンスターの素材をふんだんに使い作られた装備一式

 

 

 ・装備補正

 

  STR+10%(セットボーナス)

  AGI+10%(セットボーナス)

  防御力+180(全装備の合計)

 

 ・装備スキル

 

  《HP増加》Lv3

  《SP増加》Lv2

 

 ※ 装備制限:合計Lv130

 

 

これらの武具を今はメインで装備している。ミスティックソードは片刃の翠色が美しいツーハンドソードでガルムビーストシリーズは所々に毛皮や爪牙の飾りがある真っ黒な皮鎧一式だ。

 

装備スキルも申し分ない。武器の装備スキルは名前そのままの能力で、防具の《HP増加》Lv3はHP+400の効果。《SP増加》Lv2はSP+200の効果だ。

 

これらを手に入れて次の装備も手に入れようと探していたんだが、なかなかいい物がない。どうしたものかと考えていたら唐突に気付いたことがある。

 

別に魔術師用の装備は要らないのではないかという考えに。俺がメインジョブにと考えているのは【魔法剣士】だ。前衛攻撃職で攻撃魔法も使えるジョブ。

 

ならば、メインジョブを魔術師系統にしていても別に剣や鎧系の装備をしていてもいいのではないかと。無論、剣の攻撃力は専用スキルが使えないから落ちるし、剣士系統の攻撃スキルも使えないが。

 

しかし、デメリットと言えばそれくらいなのだ。装備したことでマイナス補正があると言うわけでもなく、何か致命的な欠陥があると言うわけでもない。

 

考えれば考えるほど、問題はないように思う。所持金も潤沢になるわけでもないし、しばらくはこの装備でやって行こう。

 

俺はいい装備が手に入ったが、他二人はどんな装備を買うのかね?

 

 

 

  ◇  【従魔師(テイマー)】ウッド・アクアバレー

 

 

ギデオンに活動拠点を移して、僕は仲間のモンスターと一緒に食事をしているところだ。グリフにグランとスオウ。彼らと一緒に街の外での食事。比較的門の近くでシートを広げているので問題はない。

 

街に入ろうとしている人たちが視線を向けてくるが、もう慣れちゃった。

 

「クル~」

 

グリフは嬉しそうに豪快に食べている。グランとスオウは行儀よく大人しく食べている。と言ってもグランは尻尾が大きく揺れているし、スオウも食べる合間に嬉しそうに鳴いている。

 

「今日は買い物する予定だから、ゆっくりできるよ」

「クル」

「UON」

「HOU」

 

今日は僕しかログインしてないので装備更新のために買い物をする予定だ。そろそろ手持ちの武具では物足りなくなってきたしね。

 

食事を終え街に戻り、今は商業区画で装備を見て回っている。さすがに人通りが多いのでグリフたちは紋章と【ジュエル】の中だけど。

 

目的の装備は弓に防具。それと矢筒だ。矢筒は特殊なアクセサリー扱いでアクセサリー枠では唯一装備制限がある。他のアクセサリーには装備制限はない。

 

何店か見て回り、ようやくいい装備を買うことができた。

 

 

  【エレメント・フォレスト】

   エレメンタル種の植物タイプモンスターの素材をふんだんに使った弓。

 

  ・装備補正

 

   攻撃力+130

 

  ・装備スキル

 

   《器用強化》Lv2

   《射程延長》Lv1

 

  ※ 装備制限: 合計Lv130

 

 

  【アーチェリー・レザーアーマー】 セット装備

   弓を扱う者のことを考えて作られた装備一式。

 

  ・装備補正

 

   DEX+10%(セットボーナス)

   防御力+160

 

  ・装備スキル

 

   《遠視》Lv2(セットボーナス)

   《SP増加》Lv1

 

  ※ 装備制限: 合計Lv130

 

 

  【矢の止まり木】

   職人が使う人間のことを最大限に考えて作りだした矢筒。

 

  ・装備補正

 

   なし

 

  ・装備スキル

 

   《矢自動補填》

 

  ※ 装備制限: 合計Lv100

 

 

【エレメンタル・フォレスト】は複数の木材素材を使っていて、色合いもなかなか美しい弓だ。装備スキルも弓を使う僕にとってはありがたい物。

 

【アーチェリー・レザーアーマー】は革素材で作られた面当て、革鎧にズボンとベルト。革製グローブにブーツのセット装備。グローブなどは矢が引きやすいように革が比較的薄い。

 

【矢の止まり木】は実際に装備させてもらい矢を出し入れするのが一番やりやすい物を選んだ結果だ。装備スキルの《矢自動補填》は、アイテムボックスにある矢を自動で矢筒に入れるスキルだ。

 

中々いい買い物ができて、上機嫌でログアウトできた。兄貴たちも装備を整えるって言っていたし、いい買い物はできたかな?

 

 

 

  ◇  【盾騎士(シールドナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

ギデオン周辺で狩りをしてしばらく経った頃、俺は装備を整えるために商業区画で買い物中だ。

 

求めているのは剣に全身鎧。それと戦棍(メイス)だ。剣は今使っているのが物足りなくなったため。全身鎧は【ボルックス】をガードナー運用する時に必要だし、その場合の防具としては上級職の【重厚騎士】に転職するためにも全身鎧一択なのだ。

 

戦棍に関しては、俺達のパーティで前衛が剣だけ持っているのはまずいのではないかと考えた結果だ。

 

兄貴は剣士系統をメインジョブに考えているから仕方がないので、俺くらいは予備武器に剣以外を持っておこうと思ってな。

 

なぜ戦棍なのかは、単純に俺の好みだ。もう一つ言えば戦棍の方が騎士が持っていても違和感ないかなっと考えた結果だな。

 

そうして探しているのだが、全身鎧がなかなか見つからん。剣と戦棍はいいのを見つけた。これだ。

 

 

  【ミスリル・ナイトソード】

   逸話級金属(ミスリル)で作られた片手剣。

   見た目の美しさと実用性の高さで熟練の【騎士】に人気の品。

 

  ・装備補正

 

   攻撃力+110

   防御力+20

 

  ・装備スキル

 

   《騎士道》

 

  ※ 装備制限: 合計Lv120以上

 

 

  【ミスリルメイス】

   逸話級金属(ミスリル)で作られた戦棍。

   【戦士】や【闘士】に人気の品。

 

  ・装備補正

 

   攻撃力+120

 

  ・装備スキル

 

   《ブレイク・アップ》

 

  ※ 装備制限: 合計Lv120以上

 

 

《騎士道》のスキルは騎士系統のアクティブスキルのの消費を軽減する効果が。《ブレイク・アップ》は破壊力微増とのこと。どちらも有効な効果だろう。

 

二つの武器を手に入れて別の店で全身鎧を見ているのだが、なかなかこれはと言う物が見つからん。

 

そもそも全身鎧はあまり人気が無いようなのだ。特にフルフェイスの兜がある全身鎧は。視界は狭まるし、重いのである程度のSTRは必要。さらに動くのに慣れが必要。

 

デメリットが無視できないので<マスター>のほとんどは皮鎧や軽装鎧を選ぶ。例外は俺の【ボルックス】のように<エンブリオ>が全身鎧である場合と<UBM>の特典武具。あとはドライフ皇国の機械式甲冑くらいだと言う。

 

俺も視界が狭まるのはごめんなので、フルフェイスの全身鎧は候補から外している。ただ、そのせいで選べる全身鎧が少なくなっている。ただでさえ人気が無くて商品が少ないのにだ。

 

俺の場合は就きたい上級職の転職条件でもあるので妥協はできない。次の店にでも行こうかと考え始めたが・・・

 

「ん?」

 

店の隅っこに飾られている全身鎧を見つけた。全体の色は白銀色だが艶消しでも施してあるのか輝きは目に優しく、ヘルムは頭にかぶるタイプで目を保護するバイザーがある。武骨な実戦用であるが所々に職人の拘りなのか装飾が施されていた。

 

目にした瞬間妙に気になり、性能を見てみると・・・

 

 

  【白銀式甲冑 シルベスタ】

   とある職人が作った全身鎧。全身鎧では軽く、使いやすい。

 

  ・装備補正

 

   防御力+460

 

  ・装備スキル

 

   《破損耐性》

   《重量軽減》

 

  ※ 装備制限: 合計Lv130

 

 

中々の性能だな。防御力は【ボルックス】より高いし、装備スキルも有用だ。性能を見てこれを買う決意を固めた俺は店員さんに伝えてこの装備を手に入れた。お値段は15万リルと少々安かった。

 

なぜかと聞いてみたら、この全身鎧は売れ残りでデンドロ内時間で3年もこの店に有ったと言う。装備スキルの《破損耐性》のおかげで壊れることはなかったが、そろそろ店主が処分も検討していたと言う。

 

もし買うお客が居るのなら安くてもいいから買い取ってもらえとも言っていたので、この値段だと言う。俺としてはある意味掘り出し物と言うわけだな。

 

気に入った装備を購入して気分よくログアウトできた。しばらくはこの防具を装備して慣れておく必要もあるな。



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第二十一話 Lv上げと転職

  ◇  【盾騎士(シールドナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

装備を整えてからの数日間は再びLv上げの日々だ。ギデオンの周辺や時には遠出をして、モンスターと戦った。

 

その結果、【盾騎士】をカンストしてステータスのHPは五ケタにSTR、ENDは四ケタに到達。なお、他のステータスは三ケタ台だ。騎士系統のステータス補正は基本、HP、STR、ENDが高く他は低めだから仕方なし。

 

クロス兄貴やウッドも三つ目のジョブはカンストしたので、俺達は四つ目のジョブに就いてLv上げをする予定だ。

 

俺はリオンの強化のために就いた【従魔師】のLv上げを。ちなみに【従魔師】を選んだ理由だがステータス補正とスキルで選んだ。

 

【騎兵】でもよかったが、ステータス補正がAGI以外は平均的だから候補から外した。今更俺がAGI補正のあるジョブに就いても焼け石に水だからだ。

 

【従魔師】はHP、MP、SP以外は平均より低いがHPとSPが高めなのは俺にはありがたい。スキルも《魔物強化》は凡庸スキルではないが、騎士系統なら《乗馬》持つ関係上問題なく使える。

 

まぁ、【従魔師】をメインジョブにしている間は騎士系統のスキルは使えないので、注意が必要だがね。

 

クロス兄貴は【剣士】をメインジョブに。ウッドは【弓騎兵】に就いた。おそらくは四つ目のジョブがカンストする頃には上級職に就けるようになっているだろう。

 

と言うか、クロス兄貴はすでに条件をクリアしているのだが、俺達に合わせて上級職になりLv上げを行いたいと言って、【剣士】になっているのだ。

 

兄貴の自由なので文句などないが、なんだかすごく申し訳なく思える。頑張ってLv上げをしよう。

 

今日は《クルエラ山岳地帯》に遠出する予定だ。ここはカルディナとの国境に近く、モンスターの種類も多い。理由はカルディナに近いので時折、砂漠に居るワーム系やサソリ系のモンスターが迷い込むのだ。

 

アルター王国側にある林や森などからも狼などの魔獣系、森に生息する昆虫系の魔蟲などもたまにだが目撃され、商人などが通る際に被害を受けるケースがあるとか。

 

そのため、国境の砦を守護する者たちから定期的に魔物討伐の依頼がされる。今回は依頼がなかったので受けずにモンスターを探すだけだが、割と出会う確率は高いと言う話だ。

 

Lv上げをしたい俺達にとっては願ってもない。ティアンの人たちもあそこに強いモンスターが居ると困るらしいので、早速向かうとしよう。

 

 

 

  ◇  【弓騎兵(ボウ・ライダー)】ウッド・アクアバレー

 

 

僕達は四つ目のジョブに就いて現在は上級職に就くために条件クリアのために戦闘を繰り返している。

 

そして現在。僕たちは少し遠出をして《クルエラ山岳地帯》でモンスターと戦っている。相手は亜竜クラスモンスターの【デミドラグスコルピオ】。茶色の甲殻に覆われた約5m越えのサソリ型モンスターだ。

 

「《ファイヤーソード》!」

「クルー!」

「BURU!」

 

クロス兄貴が相手の鋏の攻撃を躱して後ろへと抜ける合間に攻撃スキルで斬り付ける。攻撃されて鈍った所にグリフとリオンが攻撃を加える。

 

「ハァ!」

 

さらに追撃として、リオンに乗馬しているゲイル兄貴が持っている馬上槍で駆け抜ける時に斬りつけている。兄貴の槍は突撃槍(ランス)ではなく、ハルバードに近いので問題なく攻撃している。

 

僕も《インパクトアロー》を多用して攻撃している。と言うか、何気にこのスキル使用頻度が高いんだよね。他のスキルも使ってはいるけど、堅い敵にも有効だからだね。

 

なんて考えながらも、攻撃の手も緩めずに行い続けて、後に残ったのは【亜竜毒蠍の宝櫃】だった。

 

「よし!亜竜クラスでも十分戦えるな!」

『俺とは相性悪い奴だったけどな』

「確かにね。堅い上に素早いモンスターはクロス兄貴にはきついよね」

 

あのモンスターは堅い甲殻に覆われて、動きも素早く攻撃も麻痺毒の尻尾でこちらを刺そうとするのでクロス兄貴は、慌ててリオンに乗馬したんだよね。

 

『やはり、俺のビルドはもう少しAGIも考えた方がいいのか?』

「じゃあ、【騎兵】でもなる? リオンもいるし上級職に【重装騎兵(アーマー・ライダー)】なんてのもあるよ?」

『ふむ。調べてみるか』

 

ゲイル兄貴は僕の言葉にちょっと興味を持ったようだ。

 

「ビルド相談は帰ってからかリアルでしろよ? 次のモンスターを探すぞ」

『わかった』

「了解」

「クル!」

 

クロス兄貴の言葉にグリフも含めて返事をして、僕達は獲物を求めて《クルエラ山岳地帯》を進む。

 

それからも出会うモンスターと戦い、順調にLv上げを行った。グランとスオウも戦闘に加わり全体での連携も深めた。

 

その結果、僕達のジョブLvは25になった。さらにはゲイル兄貴のリオンが上位のモンスターになった。

 

今までのリオンは【シルヴァリオン・ホース】と言う種族だったが、進化したことで【シルヴァリオン・スターホース】となった。

 

鬣が星のように煌めく美しい馬となり、ステータスも亜竜クラスの域に。さらにはスキル《星の祝福(スター・ギフト)》によって自身と乗馬状態のゲイル兄貴に光属性を付与できるようになったと言う。

 

「ゲイルよ? リオンに合わせて【聖騎士】になった方がいいんじゃないか?」

『断固拒否する』

 

リオンを見てクロス兄貴はそう言ったが、ゲイル兄貴にそうするつもりはないらしい。確かに今のリオンと【聖騎士】は似合うだろうけど、ゲイル兄貴の好みではないので無理だろうね。

 

リオンの進化を見てグランやスオウも進化して強くなろうと意気込んでいる様だった。二人がどんな進化をするのか楽しみだ。

 

なお、モンスターの進化は光輝いた後に成長したモンスターが現れると言う感じだった。これを見た僕は未だに根強い人気があるデジタルなモンスターを思い出したよ。

 

 

 

  ◇  【剣士(ソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

俺達は上級職になるための条件クリアを目指してしばらくはモンスター討伐を繰り返した。冒険者ギルドでクエストを受けて資金も増やしながら。

 

俺はすでに条件をクリアしているのだが、剣士系のスキルが不足していると考えて【剣士】のLv上げをしている。

 

まぁ、俺だけ上級職になるのも二人と一緒に楽しみたいと考えている身としては、どうせなら三人一緒に上級職になりたいのだ。

 

そんな考えの元、戦闘をし続けてリアルで2週間くらい経過した。その間に俺達は亜竜クラスのモンスターとも渡り合えるようになり、冒険者ギルドの依頼もこなして所持金を増やして行った。

 

そして、ゲイルとウッドも上級職の転職条件をクリアして転職する時が来た。

 

「いよいよ上級職だな」

「ふふ、震えてくるな」

「楽しみだね」

 

俺も含めた三人は上級職転職を前にして興奮している様だ。上級職の転職は下級職と違い少々演出があると言うので、それも楽しみだ。

 

俺達はそれぞれの上級職に対応したクリスタルに三人一緒に向かうことにした。まずはウッドからだ。

 

ウッドが就く【強弓騎兵】は騎兵ギルドにあるクリスタルで転職可能だ。早速騎兵ギルドへ向かい転職するのに必要な巨大なクリスタルが置かれている部屋に向かう。

 

転職をするにはこの巨大なクリスタルに触れて、表示されたジョブを選択するのだ。転職した後のメインジョブ切り替えはセーブポイントやジョブクリスタルと言う使い捨てアイテムでも可能だが、新たなジョブに就くのは対応したクリスタルに触れる必要がある。

 

ウッドがクリスタルに触れて操作をして少し経つと、クリスタルが輝きだした。

 

「こんな演出なのか」

「上級職でこれなら、超級職はどれくらい派手なのかね?」

 

ゲイルの言葉に俺は頷いた。かなりド派手な演出のような気がする。

 

「兄貴たちお待たせ」

「よし。次行くぞ」

 

その後、順番にゲイルの騎士ギルドに。その次は俺の剣士ギルドへと向かい無事に上級職へと転職できた。その後は適当に入ったカフェで食事をしながら今後の相談である。

 

「上級職に就いたし、しばらくはLv上げかな?」

「それもあるが、上級職のスキルには覚えるのに条件もある。それを調べて習得を目指す」

「リアルのネットだけでなく知り合いのティアンにも聞いて方がよさそうだ」

 

上級職に就いてもやることは多い。まぁ、焦らずに三人でやっていくさ。その後は今日はこれまでとしてログアウトした。



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第二十二話 指名依頼

  ◇  【強弓騎兵(ヘビィ・ボウ・ライダー)】ウッド・アクアバレー

 

 

上級職に就いてLv上げの相談をした結果、ジョブクエストを受けながらLv上げを行うことに決めてしばらくの間クエストと戦闘をこなして過ごした。

 

リアルで三日が経過した頃には、僕達のLvは25くらいにはなり次のジョブクエストを受けようと僕たちが就いているジョブギルドを回っていると、従魔師ギルドで声を掛けられた。

 

「貴方たちに指名依頼を頼みたいのですが、お話を聞いていただけませんでしょうか?」

 

受付嬢の頼みにとりあえず話だけでも聞かないと判断ができないと三人の意見が一致。ギルドの部屋の一つを借り話を聞くことに。

 

受付嬢の話によると《クルエラ山岳地帯》の所々にある林や森のモンスターが最近減ってきている様だと言う。原因は<マスター>が主だとも。

 

詳しい話を求めると、どうも野盗まがいの<マスター>たちが考えなしに狩りを続けているようで、モンスターの生態系に異常が出始めていると言うのだ。

 

《クルエラ山岳地帯》の林や森には希少な魔獣型や魔蟲型モンスターが生息していて、従魔師ギルドとしては野盗まがいの<マスター>たちに絶滅される前に一定数確保したいと考えて信頼できる従魔師に話を持ち掛けているのだとか。

 

報酬はお金か高性能【ジュエル】を提示されて、僕としては今の持っている【ジュエル】よりも性能が良く欲しいと考えた。ゲイル兄貴も同じ考えのようだ。

 

クロス兄貴にはメリットがないけど、僕とゲイル兄貴にプラスになるならと喜んで引き受けると言ってくれた。ただ・・・

 

「なんで俺達にその指名依頼を? こう言ってはなんだが、そこまで信頼されるようなことはしていないと思うんだが?」

 

受付嬢に確認をしていた。受付嬢の答えは・・・

 

「とんでもない! あなたたちのおかげでこちらは助かってますよ」

 

どうも王都の従魔師ギルドの依頼とギデオンに到着してから受けてきた依頼はギルドからしたらすごく助かっているのだとか。

 

僕達が受けた依頼は【モンスターのお世話】や【指定モンスターの納品】などだが、これらの依頼は<マスター>には不人気だと言う。

 

人気なのは【危険モンスターの討伐】やそのモンスターをテイムしろなどで、僕達が受けてきた依頼は一部の物好きしか受けないとか。

 

モンスターのお世話するだけで経験値が手に入ったり、可愛いモンスターのお世話ができるからと僕達は結構楽しんでいたのだけど、人気なかったんだね?

 

モンスターの納品に関して言えば、自分が手に入れる訳でもないモンスターをテイムするのは無駄だと言う考える人が多いとか。

 

まぁ、僕達の場合は偶然なんだけど。前に亜竜クラスの地竜と遭遇した時なんて、ゲイル兄貴がその地竜の攻撃をことごとく受け止めるから、勝てないって判断して服従のポーズをしたし。

 

ゲイル兄貴はその地竜を手持ちにする気がなかったから、従魔師ギルドにちょうどいい依頼があったので引き取ってもらった。そう言えばその時の受付の男性が凄く喜んでいたっけ?あの地竜今どうしてるのかな?

 

モンスター販売専門の商店で売ると言う選択肢もあったけど、何となく売ってお金に替えると言う行為はしたくなかった。従魔師ギルドなら誰か別の人に引き取ってもらうこともあるしね。

 

とにかく信頼されている様なら、この依頼必ず達成したいね。受付嬢からたくさんのモンスターを入れられる【ジュエル】を受け取り、僕達は目的地へと向かう。

 

 

 

  ◇  【重厚騎士(ソリッド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

指名依頼を受けて、俺達は目的地である《クルエラ山岳地帯》の林や森を周っていた。すでに何体かのモンスターを確保済みだ。

 

金色甲虫(ゴールド・ビートル)】と言う金色に輝く大型犬くらいのヘラクレスオオカブトムシのような見た目の魔蟲。

白銀熊(シルバー・グリズリー)】と言う名称の白銀色に鈍く輝く毛皮の熊の親子連れ。

羽刃蜻蛉(ブレイド・ヤンマ)】と言う名の羽が刀のように鋭い魔蟲。

【黒鋼虎狼】と言う虎の様な体格の狼で毛皮が鋼のように硬くなる魔獣。

 

これらのモンスターを確保と言うか、保護と言った方がいいのかねこの場合は? なお、【白銀熊】以外は戦闘をして弱らせてからスキルの【魔獣言語】で降伏を呼びかけた。

 

【白銀熊】は子連れでお腹を空かせていたので持っていたレムの実を食べさせてから交渉して、こちらの目的を説明。衣食住を提供できる場所で保護されることが分かってくれたようでテイムに抵抗しなかった。

 

なお、交渉した父親熊はダンディーな声の紳士口調であった。新たなジャンルのクマ紳士。

 

閑話休題。

 

その後は目新しいモンスターに出会わずに戦闘の痕跡がある林や森を見かけるようになった。どうも例の野盗まがいの<マスター>たちが暴れた後のようだ。

 

このままではその<マスター>たちと遭遇することも考えられたので、この近くに有る比較的大きな森を探索したら帰ることに決めて、俺達はその森に向かった。

 

だが、その森へと近づくにつれて激しい戦闘音が聞こえてきた。もしかしたら野盗まがいの<マスター>たちが今から向かう森で戦闘をしているのかもしれない。

 

俺達は予定を変更して、ギデオンへと帰ることを相談したが、その森へと続く道から傷だらけのティアンが現れた。俺達は彼に近づいて回復ポージョンを飲ませる。

 

「ハァハァ・・・助かった・・・・ありがとう」

「何があったんですか?」

「この先の森で野盗に襲われたんだ。そいつらは<マスター>で俺は仲間が逃がしてくれたんだ。頼む! 仲間を助けてくれないか!?」

 

さすがにこれで知らんぷりはできない。二人に視線を向けると黙って頷いてくれたので同じ気持ちだろう。俺達はまだ体力が回復してない彼を比較的目立たない場所に移動させて、彼の仲間の救助に向かうことに。

 

森へと近づくにつれて、戦闘音が聞こえてきた。だが、俺達がよく聞く武器同士の激突音や防具で受け止める金属音などではなく重火器の発射音が聞こえてきた。

 

おそらくは銃型の<エンブリオ>持ちが戦闘をしていると予想。俺達はさらに急いで現場に向かうと、そこには四人のティアンが地属性魔法の壁で重火器を放つ<マスター>の攻撃をなんとか耐えていた。

 

「はっはっは! おらおらどうした! そろそろ壁が脆くなっているぞ!」

「く、くそ!」

「まずいぞリーダー!MPが無くなる!」

「回復アイテムも切れた・・・」

 

重火器のおそらくミニガンと呼ばれる銃を構えて撃ち続ける<マスター>は下品な笑い声と顔でティアンたちを嬲っていた。その<マスター>の周囲には仲間と思われる二人の男女が居た。

 

「ちょいといい加減にしなよ? そろそろお遊びはやめてとっとと経験値にしたいんだけど?」

「右に同じ」

「ああ? しょうがねぇな。じゃあここらで終わりにするか! 【イフリート】! 《弾丸交換(ブリット・チェンジ)》! 《爆裂弾(ブラスト)》!」

 

ミニガン持ちの<マスター>が何かのスキルを宣言した。そうして再度ティアンたちに銃口を向け・・・

 

「これで終わりだ」

 

そう言ってミニガンから発射される前に俺はリオンに乗馬して駆け出し、ティアンたちの前でリオンから飛び降り、スキルを宣言。

 

『《ガード・ウォール》! 《ガード・オーラ》!』

「あん?」

 

俺は自身の防御力を+200するスキルに、自身のENDの数値を20%アップする【重厚騎士】で覚えたスキルを同時発動した。さらに【ボルックス】のスキル効果で数値は倍に。

 

俺が乱入したことに構わずにミニガンを構えた大男の<マスター>は弾丸の発射。無数の弾が俺に当たり小規模の爆発もおまけで与えたが、俺は耐えた。

 

「なんだお前は? 経験値稼ぎの邪魔すんなよ!」

 

突如乱入した俺に対して大男は苛立ちを募らせた言葉を放つ。それに対して俺は無言で《瞬間装備》で特典武具の【破岩盾】を装備する。これは対人戦闘向きなのでモンスター相手には使っていなかったのだ。

 

俺の後ろではクロス兄貴とウッドがティアンたちに回復アイテムを手渡して事情を説明。俺は目の前の奴らの見張り。このまま対人戦闘になるだろうからな・・・

 

 

 

  ◇  【紋章剣士(ルーン・ソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

間一髪のところでゲイルの行動で救ったティアンの人たちを俺とウッドは回復アイテムを渡して、事情説明を行う。

 

「き、君たちは?」

「貴方たちの仲間から助けを求められた<マスター>です。ここは僕たちが時間稼ぎをするので、逃げてください」

「す、すまない」

「恩に着る!」

 

そう言って、ティアンたちは俺達が来た道に向かって行った。もちろん彼らを襲っていた<マスター>たちは・・・

 

「俺らの経験値に何しやがる!」

 

ミニガンを構えている大男がティアンたちに弾丸を放つが、目の前にいるゲイルにすべて防がれる。

 

「てめぇら! 邪魔すんじゃねえ!」

「正義の味方プレイかい? 流行らないことしてるねぇ?」

「ウケるw」

 

俺達の行動に憤慨する大男に、最低限の服着てなまめかしい肉体を晒している女性の<マスター>に、何がおかしいのか笑っている身長の低い若い男の<マスター>。

 

『どうとでも言ってくれ。どんなことをしようがこっちの自由だろう』

「あん? むかつく野郎だね。ハチの巣にしてやろうか!」

 

ゲイルの言葉にミニガンを構えてる大男は額に青筋を立てて、いつ戦闘が始まってもおかしくない。俺とウッドもいつでも動けるようにしている。

 

「そうだねぇ? こっちのLv上げを邪魔してくれたのは腹が立つし、ちょっと痛めつけてやろうか」

「ふふふ、賛成」

 

そう言うと女性の<マスター>の周囲に5体の狼が出現。直前に狼の顔の様な紋章が光ったから<エンブリオ>だろう。

 

背の低い男性も背中に6個のサブアームが付いたバックパックのような物を背負っている。これもおそらくは<エンブリオ>だろう。

 

一触即発の空気になりつつある場に、俺達は緊張していた。デスペナの掛かった対人戦闘は最初のログインの時のPKたちが最初だったが、それ以降は知り合いと模擬戦をするくらいで一切の経験がない。

 

などと考えていると、森の奥から爆発音が響いた。何が起こったのかわからずにいると目の前の三人組が何やら言っている。

 

「あいつら派手にやってるな。<UBM>だから仕方ねえが」

「特典武具が欲しいからだけど、あたしにはわからんねぇ? 態々強い相手と戦うなんて」

「同意」

 

何と、森の奥に<UBM>が居て目の前のやつらの仲間が戦っている様だ。

 

『この森、<UBM>が居たのか・・・』

「そうだよ。たまたま見つけてねぇ? で、特典武具欲しさにほとんどの奴らが戦いを挑んだのさ」

「あんたらは行かないのか?」

「なんで強い相手と戦わないといけないのさ? そんなことよりも騒ぎを聞き付けた奴らを狩る方が効率いいのさ」

「おい、余計な事を言うなよ!」

「別にかまやしないさ。あいつらだってたまたま目的が似通っただけの赤の他人なんだ。付き合いが長いアンタら二人なら話は別だけどね」

 

どうやら、仲間意識は薄い様だな。

 

「とは言っても、さすがに義理は果たさないとね? 悪いけどあんたたちにはデスペナになってもらうよ!」

 

そう言って女性の<マスター>は腰にぶら下げていた鞭を手に取り、地面を打ち鳴らした。それを合図に狼たちが襲いかかった。俺は避けて、ウッドはグリフに乗って上空へ退避。ゲイルはその場を動かずに狼たちを盾で吹き飛ばした。

 

その直後、ゲイルに弾丸が殺到。犯人は当然ミニガンを持っている大男の<マスター>だ。

 

『く!』

「てめぇの相手は俺がする!」

「じゃあ、あたしはそこの剣士っぽいあんただね?」

「やるしかないか・・・」

「クロス兄貴!」

「お前は俺」

 

こうして俺達のとっては二度目となる<マスター>同士の戦いが始まった。

 

 



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第二十三話 ゲイルVSミニガン持ちの大男

  ◇  【重厚騎士(ソリッド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

俺は今ミニガン型の<エンブリオ>を持った大男のマスターと戦っている最中だ。いやこれは戦っているとは言えないな。

 

「おらおら~! 耐えているだけか!」

『うるさい』

 

本人のセリフもうるさいし、ミニガンの発射音も全く持ってやかましい。大男の仲間もこの場から居なくなっている。流れ弾を嫌ったのか、それとも別の理由があるのかはわからんが。

 

「おっと、そろそろだな? 【イフリート】! 《弾丸交換(ブリット・チェンジ)》!《衝撃弾(インパクト)》!」

 

大男がそう言うと、ミニガンが一瞬輝きその後に発射された弾が変わった。今まで撃っていた弾は当たると小規模の爆発を発生させたが、今度は衝撃を発生させている。こちらも小規模だが、なかなかに実用性がある。

 

(おそらく、あのミニガンの<エンブリオ>はアームズ系統。特性としては武器としての性能優先と言ったところか? あとはステータス補正も高めか? どちらにしろタイプとしては俺の【ボルックス】と同じか)

 

デンドロでは<エンブリオ>の特性と言うか、特徴が大きく分けて3つあると言われている。ステータス補正重視。性能重視。スキル重視の3つだ。

 

ステータス補正重視はその名の通り<エンブリオ>のステータス補正が最低でもD以上の高めの物だ。シンプルに強いタイプで従来のゲームでもお馴染みであり理解しやすい。

 

性能重視はアームズ、ガードナー、チャリオッツ、キャッスルなどの物としての性能が高いタイプだ。俺とウッドの<エンブリオ>はこのタイプで進化してスキルを覚えたとしても性能を上げたり、性能を補助する類の物を覚える。

 

最後のスキル重視は<エンブリオ>のスキルが強いタイプだ。クロス兄貴の<エンブリオ>がこのタイプだ。限定条件などで発動可能な物が多く、型にハマれば強い。逆に言えば戦いが限定されると言う事だが。

 

目の前の大男の<エンブリオ>は【イフリート】と言うらしい。銃としての性能と弾丸を生成する能力。および生成する弾丸をスキルで交換して色々な弾を扱える。中々使い勝手のいい<エンブリオ>だ。

 

『戦っている俺としては厄介極まりないが』

「はっはっは!俺の<エンブリオ>【硝炎弾雨 イフリート】でお前をハチの巣にしてやるぜ!!」

 

やかましいから早くあの口を黙らせたいが、どうやって黙らすか・・・

 

 

 

      ◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

 

彼、大男の<マスター>であるドルンの【硝炎弾雨 イフリート】はゲイルが考えた通りアームズ系統。能力は弾丸生成と交換だ。

 

【イフリート】の現在の形態は第三。第一形態時はサブマシンガンのトンプソンと呼ぶ銃だった。進化することでサブマシンガンから軽機関銃のFN ミニミと言う銃に。そして、第三形態に進化した時には機関銃であるミニガンへとなった。

 

進化がそのまま銃のバージョンアップになった形だ。それからスキルとして弾丸を<マスター>のSP、MPを使って生成。進化したことで弾丸のバリエーションである《衝撃弾》と《爆裂弾》も生成できるようになり、<マスター>の所持するアイテムボックスに入れておけばすぐさまスキルで交換可能。使い勝手はいい。

 

ただし、デメリットとしてステータス補正はSP、MP、END以外はF以下。さらに生成した弾丸は【イフリート】でしか使用ができない。そして、何より厄介な点は弾丸は生成できるだけで無限ではないことだ。

 

それゆえ、ドルンはアイテムボックスを二つ持っている。一つを弾丸専用にして【イフリート】で生成した弾丸が大量に入っている。

 

上級である第四形態に進化すれば、弾の生成の効率アップする可能性もあるためドルンは<UBM>の討伐には参加せずに森にやってくるティアンや<マスター>を相手に経験値稼ぎをすることにしたと言うわけだ。

 

話を戦闘の様子に戻そう。はっきり言えば、ゲイルにとって【イフリート】を持つドルンは相性が最悪な敵だ。ゲイルの【ボルックス】には遠距離攻撃手段がなく、ジョブ構成にも遠距離攻撃手段はない。

 

このまま何もせずにいればHP、ENDが高いゲイルでもいつかはHPが無くなる。そう、何もせずにいればだが。

 

 

 

     ◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

 

「どうした!どうした!?このまま何もせずに終わるだけかぁ~!?」

『・・・・』

 

弾をばらまき、相手が防御するだけの状況にドルンは気分を良くしていた。

 

「全身鎧を着ているところを見るとてめぇはEND型だろう!? 防御してるだけで勝てる訳ねぇだろう!」

(もっとも。AGI型でも弾丸は回避できねえがな!)

 

<マスター>が超級職に就いている者が少なく、ティアンでも超級職に就いている者たちが滅多に人前で戦わないため、大部分の<マスター>たちは超級職の常識はずれの強さを知らない。

 

超級職のAGI型であれば、弾丸を回避するどころか武器で弾くことが可能なのだが、未だに上級職が大多数のデンドロでは一部の者しか知らない事実である。

 

補足はこれくらいにして、現状の戦闘は圧倒的にドロンが有利だった。目の前の全身鎧の<マスター>が防御のみだと言う事から遠距離攻撃手段がないことは明白。

 

防御スキルのアクティブスキルを使用しているのでHPの減りは緩やかだが、【イフリート】の弾は3万発以上はあるし、こちらの弾が尽きる前に相手のSPが先に尽きる。

 

これらのことを考えてドルンの気分は最高潮だった。仲間の大半が<UBM>の討伐に向かった時は正直言って面白くなかった。なんせ向かった奴らは全員が上級エンブリオ。ドルンと残った二人は未だに下級エンブリオ。

 

<エンブリオ>は上級になると、さらに強さの格が上がるのは仲間の戦闘を見ていたドルンから見ても明らかだった。

 

ドルンとしては仲間が<UBM>を倒せるだろうと考えている。相手がどんなモンスターかはわからないが、合計Lv300越えと上級エンブリオ持ちの<マスター>が12人も討伐に向かったのだから、問題ないと考えている。

 

ならば自分は、目の前の<マスター>とこれから騒ぎを聞きつけてやってくる者たちを蹂躙して、上級エンブリオを手にしてやると妄想していた。

 

そんなことを考えていたから隙が生まれた。

 

ゲイルはアイテムボックスからある物を三個投げた。その投げた物はドルンの足元に音をたてて落ちると・・・

 

「あん?」

 

真っ白い煙を周囲にばら撒いた。ゲイルが投げたのは【煙幕爆弾】と言うアイテムで投げると周囲に真っ白煙幕をばらまく物だ。

 

「妙な小細工しやがって! 出てきやがれ!」

 

ドルンは自分の周囲に弾を放ち、相手を探したが命中音がしなかった。仕方がないので撃つのをやめた。いくら弾が多いからて言って無駄弾を放つのはまずいと考えたのだ。弾の消費が速い機関銃でもあるし。

 

しばらくは様子を見ようと周りを警戒して、いつでも【イフリート】をぶっ放す準備をした。やがて視界の端に煙が流れたのが見えた。

 

「そこか!」

 

身体をその煙が流れた所に向けると、ちょうど剣と盾を構えてこちらに飛びかかっている先ほどの全身鎧を着た<マスター>が居た。

 

「終わりだ!」

 

ドルンは目の前の<マスター>に【イフリート】をぶっ放し、弾丸を浴びせた。弾が《衝撃弾》だったので何度かの衝撃音の後に全身鎧の<マスター>は倒れた。

 

勝利を確信したドルン。しかし、次の瞬間・・・・

 

「あん?」

 

自身の<エンブリオ>と両腕が地面に落ちていた。

 

「は、はぁぁぁ!?」

 

痛覚設定をオフにしているので痛みはないが、状態異常の【出血】に【腕部切断】で事実上の戦闘不能。この状態を回復できるのは回復能力に特化した<エンブリオ>か司祭系統上級職の【司教】の回復魔法を使うしかない。

 

「ど、どうなってんだ!?」

 

狼狽えるドルンの背後では、鈍く輝く白銀色の全身鎧を装備したゲイルが今しがた相手の両腕を断ち切った剣の血を振るって取っているところだった。

 

 

 

  ◇  【重厚騎士(ソリッド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

俺の目の前で自身の両腕を無くして慌てふためいている戦っていた<マスター>が居る。この状況ではもはや勝負は俺の勝ちだろうな。このまま何もせずにいれば相手は【出血】でデスペナだ。

 

なんてことを考えていたらようやく俺に気付いたようだな。

 

「て、てめぇ! なんで二人もいるんだ!」

「単純な話だ」

 

そう言う俺の隣に【ボルックス】が並ぶ。

 

「俺の<エンブリオ>はアームズだけでなくガードナーでもあるのさ」

「はぁ!? そんなのありか!?」

「相手の戦力を読み間違えたお前が悪い」

 

まぁ、俺の【ボルックス】はある意味初見殺しでもあるがね。まさか全身鎧が自立行動可能とか想像する奴は零ではないだろうが少ないだろうしな。

 

「こ、この野郎が!?」

 

そう言って目の前の敵は蹴りを放ってきた。もしかしたら蹴りスキル特化の【蹴士(ストライカー)】にでも就いてるのかもしれない。接近戦になった時の備えかね?

 

とは言え両腕が無くなっているので、バランスが悪く蹴りの威力が乗っていない。俺はたやすく盾で受け止めて【ボルックス】に首を刎ねるように指示。ガードナータイプは頭の中で考えるだけで指示を出せるのがいいね。

 

蹴りを受け止められた瞬間に【ボルックス】に首を切られた敵はさらに大出血し、HPが一気に減りデスペナとなった。あとに残ったのはランダムドロップの品だ。

 

「よし。これを回収した後はクロス兄貴とウッドを探すか」

 

ランダムドロップを【ボルックス】と一緒に回収して、俺は二人を探しに向かった。



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第二十四話 クロスVSオオカミを従える女性

  ◇  【紋章剣士(ルーン・ソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

俺は現在、ミニガンをぶっ放している大男から離れて狼のガードナーを従えている女性と戦っている最中だ。

 

「ヒートランス!」

 

目の前で噛みつきそうだった狼を魔法で倒し、背後から襲いくる狼に剣で頭を切り飛ばした。これで五体の狼をすべて倒したが・・・

 

「《猟犬は死なず》」

 

女性がスキルを宣言すると、女性の影から新たな五体の狼が出現。これで三回目だ。先ほどから倒しては復活を繰り返している。

 

「再生に特化したガードナーか」

「それだけじゃあないけどね? 気付いているだろう?」

 

まぁな。先ほどから復活した狼たちは以前の狼よりもわずかに強くなっている。再生を繰り返すほどに強くなるのか。

 

最初はあの女性を倒せばこちらの勝ちと思い、魔法で狙ったが狼たちが身を挺して庇った。その直後に復活して、こちらを襲い始めたので今度は剣で五体すべてを斬り伏せたがすぐに復活。

 

女性も時折鞭で攻撃してくるので油断できない。どうもあの鞭はスキルで射程が伸びている様だしな。

 

(おそらく目の前の女性は【従魔師】に就いているはず。《魔物強化》のスキルでガードナーの戦闘力を強化。もしかしたら上級職で別の配下強化スキルを持っているかもな)

 

現状は苦戦もしていないが、善戦もしていない。俺の【ガルドラボーグ】のスキルを使って一気に攻めてもいいが、もう少し情報を手に入れたい・・・・

 

「さて、どう攻めるか・・・」

「こないならこっちから行くよ!」

 

そう言うと女性は鞭を地面に叩きつけて、狼たちをこちらにけしかけた。俺は狼たちを倒さない様に剣で防ぎつつ魔法を牽制で放ちながら戦い続ける。

 

 

 

 

     ◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

鞭持つ女性ナナリの<エンブリオ>は【再生闘狼 アセナ】と言う名でその名の通り再生能力に特化したガードナーである。

 

倒されてもナナリのSPを消費して、影から復活する。おまけで身体能力の微増した状態で。現在の【アセナ】の形態は第三。第一形態時は三匹の子狼で再生能力以外は特筆すべき点はなかった。

 

しかし、進化することでまずは中型犬くらいのサイズになり、第三形態になった時は五体に増え再生時に身体能力が微増する能力が追加された。

 

SP消費は戦闘時限定だが燃費が良く、コストパフォーマンスに優れていた。ただし、戦闘能力が低く第一形態時の子狼では初心者狩場のモンスターと同程度の実力だった。

 

これは<エンブリオ>の能力が再生と数にリソースの大半を割いているためであり当然のデメリットであった。

 

それを理解したナナリはまずは【従魔師】に就いて《魔物強化》スキルを手に入れて戦闘能力の底上げを図った。さらに、子狼がすべてメスであることを確認した後は【従魔師】をカンストした後に【女衒(ピンプ)】に就き、《女魔物強化》のスキルを手に入れた。

 

その後は自身の戦闘力を上げる意味と上級職のために【狩人(ハンター)】に就いた。これらをカンストした時には【従魔師】と【狩人】の複合上級職【魔獣使い(ビースト・テイマー)】に就いた。

 

【魔獣使い】はモンスター種族である魔獣に特化した【従魔師】であり、魔獣を倒すことにも長けているジョブだ。【魔獣使い】のスキルには《魔獣強化》と言う魔獣限定の強化スキルがあり、限定されているがゆえに強化値が高いスキルだ。

 

これらのスキルを手に入れたことで【アセナ】の戦闘力は飛躍的に上がった。その戦闘力はクロスと言う<マスター>に弱いと認識させない程度には高まった。

 

その後は野盗まがいのプレイスタイルで同じような<マスター>と徒党を組み、同じLv帯の二人とパーティを組んだ。

 

Lv上げの途中で<UBM>を発見。大半の者が特典武具欲しさに挑戦したがナナリは割に合わないと考えて、騒ぎを聞きつけてやってくる者たちを狩ることを選んだ。そしてLv上げの邪魔をした<マスター>相手に戦っている最中と言うわけだ。

 

戦闘の状況は今のところはどちらも相手の手札を見切ろうと様子見の段階だ。とは言えこのままの状況が続けば有利なのはナナリの方だ。

 

ナナリの【アセナ】は長期戦に向いたガードナー。いくら倒すと再生して身体能力が上がるからと言って、倒さずにいるのは難しい。

 

五体の連携攻撃を防いで時折攻撃するナナリも注意しないといけないこの状況は集中力を保つことができないと一気に瓦解する。

 

ナナリはそのチャンスを待っているのだ。もっとも、チャンスを待っているのはクロスも同じだが。

 

 

 

     ◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

 

ナナリは【アセナ】に襲われながら、防御に徹している<マスター>に時折鞭で攻撃しながら、ある切り札を切るチャンスを狙っていた。

 

(目の前のこいつは魔法を使いながら剣で戦っているところを見ると魔法剣士系のジョブだね。<エンブリオ>を未だに使う様子がないのは気になるけど。スキルがこの状況にあってないのか、それとも使うタイミングを待っているのか)

 

ナナリはこの状況を冷静に考察していた。パーティを組んでいる仲間の中で一番戦闘力が低いのがナナリなので状況判断を任されることが多いのだ。もっとも、他二人がそう言うのに向いていないのが最大の理由だが。

 

(どちらにしろ使わないうちにさっさと始末しちまうか? 速攻でHPを削りきれば問題ないさね)

 

ナナリの切り札であればそれができる。彼女はそう考えて目の前の<マスター>の隙を逃さないように観察に集中した。そして・・・

 

「く!?」

 

相手が【アセナ】の噛みつきを剣で防御したのを見てナナリは決断した。切り札を切るなら今だと。

 

「《バーサーク・ビースト》!」

 

スキル宣言をすると、【アセナ】達5頭は突然真っ赤なオーラが体から噴出し、凶暴な顔となった。この変化に相手は剣に噛みついていた【アセナ】を斬り伏せた。だが・・・

 

「「「「ガァ!!」」」」

 

残りの狼たちがそれまでとは段違いのスピードとパワーで襲いかかってきたのだ。

 

《バーサーク・ビースト》 このスキルは自身の従属キャパシティ内で運用している魔獣に【狂化】の状態異常を付与する物だ。これにより魔獣のステータスは倍加し、闘争本能も刺激されより攻撃的になる。

 

ただしデメリットは制御不能であり、【狂化】した魔獣は自身の近くにいる相手を攻撃する。その攻撃対象は主も例外ではないし、【狂化】が解除されるとステータスも半減する。

 

この問題をナナリは自分の武器を攻撃する時に長さが伸びるスキル付の鞭にすることでクリアした。さらに言えば、制御不能のデメリットは倒されれば再生する【アセナ】にとってはそれほど問題がない。再生すれば【狂化】は解除されるし、一度倒されて再生するのでステータス半減もない。

 

事実、スキル発動直後に倒された【アセナ】はナナリの傍で待機している。今攻撃に加われば味方に攻撃されるからだ。

 

「く!?」

 

ステータスが倍加された【アセナ】に相手は目に見えて対処できなくなっていた。噛みつきは何とか回避したり迎撃しているが、爪による攻撃を受けることが多くなった。さらにナナリは追撃を加える。

 

「そこだよ!」

 

鞭による攻撃で相手の剣に巻き付け動きを封じたのだ。しかし、相手の方が上手だった。相手は不利を自覚しすぐに剣を手放した。代わりの武器を《瞬間装備》で取り出して。

 

だが、手にした武器はそれほど強い武器ではなかった。少なくとも手放した武器よりも二回りほど性能が低い。それをナナリは《鑑定眼》で把握。すぐさま巻き付けてあった剣を自分の元へ引き寄せ近くに突き刺した。

 

遠くへと捨てる選択肢もあったが、ナナリは自身の近くに置いておき相手が武器を取り戻す隙を付けるのではと考えたのだ。

 

ナナリはこの時点で自身の勝利を半ば確信していた。このまま時間が過ぎれば相手はなすすべなく【アセナ】にやられることは明白。

 

この時、ナナリはあることを忘れていた。相手が<エンブリオ>を使っている様子がなかったことを。そして、その忘却は致命的な隙を晒すことに。

 

クロスはナナリが剣を突き刺したと同時にバックステップを2回行った。それにより、【アセナ】が彼を追い駆けてちょうど<エンブリオ>とナナリが視界に入る立ち位置になり、クロスは自身の手札を切った。

 

「《オーバー・マジック》 《サイクロンスラスト》!」

 

クロスがスキル宣言した直後、ナナリに巨大な螺旋が呑み込み広範囲にありとあらゆる物を吹き飛ばした。

 

 

 

  ◇  【紋章剣士(ルーン・ソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

俺の【ガルドラボーグ】のスキルを使い強化したジョブスキルで戦っていた相手を吹き飛ばしたのだが、やり過ぎたな。込めるMPはもう少し少なくてもよかった。

 

「強力だがさじ加減が難しいな。今後の課題だな」

 

使ったのは《サイクロンスラスト》と言う本来なら突き攻撃と多少の範囲を攻撃できる竜巻を刃から放出する技なのだが、魔法剣士系のスキルは魔法攻撃扱いでもあるので、《オーバー・マジック》の対象になる。

 

以前に実験で試しにやってみたら予想以上の攻撃になり呆然となった。

 

「一応、倒したんだよな?」

 

辺り一帯を吹き飛ばしたので相手のランダムドロップも確認できず、いろいろ吹き飛んでいたので倒せたのかどうかが不明だ。ならばこうするか・・・

 

「おい! もし生きているならこれ以上の戦闘を望む場合は姿を現せ! 戦闘を望まないと言うならばそのまま立ち去れ! 俺は追うつもりはない!」

 

大声で辺りに聞こえるように言葉を発した後はしばらく様子を見ていたが、姿を現さない所を見ると倒したか戦闘を望まないかのどちらかだろう。

 

一応警戒はしておくか。さて、二人の応援に行くことにしよう。




なんとなく私が考えるエンブリオは能力控えめかな? 読者の皆さんはどう思いますか?


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第二十五話 ウッド&グリフVS八腕の男

  ◇  【強弓騎兵(ヘビィ・ボウ・ライダー)】ウッド・アクアバレー

 

 

現在、僕とグリフは背中から6本の腕を生やした男と戦っている。いや、生やしたと言うのは語弊があるね。正確には6本のサブアームがあるバックパックの様な物を背負っているのだし。

 

戦ってみて分かったのだけど、この6本のサブアームがなかなか厄介な能力なんだ。僕はグリフに乗って戦っているんだけど、かなり助かっている。

 

「そら」

「グリフ!」

「クル!」

 

八腕の男はサブアームを僕たちに向けて粘着性のある糸を放出した。それを回避すると糸は木の枝に撒き付いて男はそのままどこぞの映画のアメコミヒーローのように、僕達を追ってきた。

 

さらには追撃として男が放つ魔法攻撃を回避している。どうも男の攻撃手段は魔法であのサブアームから出す糸を拘束と移動に利用している。その速さは魔法系の職業であるだろうに、なかなかの速さだ。

 

「ステータスのAGI以上に速さが出るのは厄介だね」

 

まぁ、<エンブリオ>のステータス補正がMPやAGI特化かもしれないし、何かスキルで強化されている可能性もあるけど。

 

「いい加減早く捕まれ」

「いやですよ。負けたくないので」

 

そうやって僕たちの鬼ごっこは続いている。どちらにもこの状況を打破するガードを持ちそれを切るタイミングを逃がさない様に。

 

 

 

    ◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

サブアームを持つ男は名をククリと言い、彼の<エンブリオ>の名は【拘束六腕 アラクネ】と言う。

 

能力特徴は<マスター>の思考で自由自在に動き、腕から【拘束】の異常状態にする糸を出すことだ。また、この糸は頑丈で生き物以外に巻き付けて自身を引っ張り移動させることが可能であった。

 

さすがに移動に使うのは簡単ではなかったが、ククリはそれを短い期間で習得した。それができるからこのような<エンブリオ>が生まれたのだろうが。

 

反面、ステータス補正は糸を生み出すためのMPとAGI以外は最低値のGが大半でHPとSPに関しては補正なしというアンバランスなものだった。

 

そのため、ククリは前衛系のジョブは最初から除外してMPやAGIが高いジョブを模索した。何度か実際にジョブについて確認したところ、魔術師系統のジョブに落ち着いた。

 

最初は【魔術師】に就き、戦闘を重ねた結果を見て考えたところ自分には威力重視の魔法スキルが相性がいいと判断。【魔術師】をカンストした後は、魔術師系統派生下級職である【火術師(フレイム・メイジ)】へとジョブチェンジして、その判断が正しかったことを確信した。

 

その後は初心者相手にPKを繰り返し、同じことをやっていた<マスター>と徒党を組み、気の合う二人とPKを続けた。

 

狩りを続けた結果、【火術師】もカンストして次のジョブには【斥候(スカウト)】を選択。これはパーティに必要だと考えた結果からだ。その後も順調にLvを上げ続け、現在は上級職の【紅蓮術師(バイロマンサー)】となっている。

 

 

現在、ククリは狩りを邪魔をした<マスター>を追いかけているところだ。だが、ステータスの数値以上の速さを持つククリでも目の前の相手に追いつけないでいた。

 

(俺が追い付けない相手は初めてだな・・・)

 

彼のアラクネを使った某アメコミヒーローのような移動方法と拘束糸による状態異常で追いつけなかった相手はいない。しかし、目の前の相手には糸はことごとく躱され、攻撃の魔法スキルも当たらない。

 

(相手はヒッポグリフに騎乗しているから、おそらくジョブは騎兵系統。<エンブリオ>は不明だが、俺が追い付けないところを見ると騎獣と<マスター>のステータスを上げるようなものか?)

 

追いつけないながらククリは相手の能力を考察し続けた。

 

(もしそうなら、気を付けるのは騎獣のスキルと騎乗者のアクティブスキルのみ。ならば先手必勝)

 

ククリは相手が全力を出す前にこちらの切り札を切る決断をした。するとククリは一番上部のサブアームから左右同時に糸を出して、まるでパチンコのように上空へと飛んだ。

 

「《サークルバインド・レイン》!」

 

そのまま上空でスキルを宣言。するとサブアームがウッドとグリフに向き、大きな魔方陣が出現するとその中央から蜘蛛の巣の形をした大きなネットが射出された。その大きさはかなりのものであり、ネットの外へと逃げれるかわからない。

 

《サークルバインド・レイン》 【拘束六腕 アラクネ】が第三形態になったときに習得した現時点で唯一のアクティブスキル。<マスター>の最大MPの半分を消費して、相手を拘束する巨大ネットを放出する。

 

拘束の網はウッドとグリフを中央に捉える。彼らならば範囲外に逃げることもできるだろうが、それは相手に大きな隙を晒すことと同義だ。

 

(逃げようとしたところを最大威力の魔法スキルを喰らわす。それで倒せなくとも大きなダメージを与えれば十分)

 

ククリはアイテムボックスからMP回復アイテムを取り出して口に含みながら考え、相手の隙を逃がさないように観察していた。

 

だが、相手の<マスター>が選択した行動はククリの予想外のものだった・・・

 

「グルー!!」

 

突如、相手の騎獣であるヒッポグリフが大きな咆哮を上げると真っ赤なオーラを纏い、威圧感が増大した。そして・・・

 

「グリフ!《ウィンドブレス》!」

「グル!」

 

<マスター>の指示でヒッポグリフはククリに風のブレスを放った。そのブレスはもはや暴風の嵐と言っていいもので、ククリが放った巨大ネットを巻き込みそのまま敵対者を飲み込んだ。

 

魔術師系統で<エンブリオ>のステータス補正もHPなしであるがゆえにあっという間に0に到達。デスペナになった。

 

 

 

  ◇  【強弓騎兵(ヘビィ・ボウ・ライダー)】ウッド・アクアバレー

 

 

戦っていた<マスター>のランダムドロップが空から落ちているのを確認して、僕は警戒を解いた。落ちてきたものはほとんど粉々みたいだから、拾っても意味なさそうだけど・・・

 

「グリフ《騎獣咆哮》解除」

「グル」

 

僕の言葉を聞いてグリフのオーラが消えて、同時にスキルデメリットであるステータス半減の効果で装備がやや重く感じる。

 

まぁ、今回は短時間だけの使用だったからこの状態もすぐに治るんだけどね? どうもこの《騎獣咆哮》は時間いっぱいまで使用するとデメリットは20分だけど、短時間使用する場合はデメリットも短時間で済むみたい。

 

「グリフご苦労様。おかげで勝てたよ」

「クル~」

 

僕はグリフの労をねぎらい、やさしく頭を撫でてあげた。グリフも嬉しそうに目を細めている。

 

「じゃあ、兄貴たちの応援に向かおうか?まだ戦っているかもしれないし」

「こっちは終わったぞ」

『俺もだ』

 

兄貴たちの加勢に行こうとセリフを言ったら、それに答える声が聞こえた。相手は確認するまでもなく兄貴たちだ。

 

「そっちも勝ったんだね?」

『おう。ついでに臨時収入でランダムドロップゲットだ』

「あ~俺は派手に攻撃しちまって、相手がデスペナになったかようわからん」

 

ゲイル兄貴は僕と違いランダムドロップを手に入れたようだ。クロス兄貴は相手のデスペナを確認できていないらしい。

 

「まぁ、生きてたとしても今喧嘩売ったら、三対一だから襲うことはないだろうが」

「でも、<UBM>を倒しに言った仲間が戻ってきたら?」

『それがあるか・・・じゃあ、さっさとここを離れよう。ギデオンに<UBM>のことも報告する必要があるしな』

 

ゲイル兄貴の言葉にうなずいて僕たちは早々にここから離れてギデオンへと帰ることに。本当なら<UBM>も確認したほうがいいんだろうけど、リスクが高いしやめとこう。

 

あいつらの仲間が倒したならいいけど、返り討ちにあった場合のことも考えないとね。

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁはぁ・・・行ったね?」

 

三兄弟が森から離れるのを物陰から確認していたのは、クロスと戦っていた女性ナナリだ。彼女がどうやってクロスの攻撃から生還したかというと・・・

 

「ちょろまかした装備のおかげでデスペナにならずにすんだよ・・・」

 

彼女は以前に仲間と一緒に襲った商人たちの荷物の中から、【救命のブローチ】というアクセサリーを仲間に黙って懐に入れていたのだ。

 

クロスと戦いで念のため装備していたので、攻撃を耐えることができた。

 

「あいつら・・・覚えときなよ?他の仲間と合流して襲ってやるからね・・・」

 

完全に自業自得だと思うが、当の本人はそんなことはかけらも思っておらず、残りの仲間を待って復讐する気満々だった。

 

「それにしても・・・あいつら遅いね?かれこれ2時間ぐらい経ってないかい?」

 

<UBM>を討伐に向かった仲間たちがかなり遅いことを今頃気にし始めた彼女。彼女だけの話ではないのだが、大半の<マスター>は<UBM>の力量を真の意味で理解していない。

 

もっともランクが低い逸話級ですら、ティアンが命を懸けて討伐するのに。それこそ神話級では国の存亡を懸けることすらある。ゆえに・・・

 

「いつまでかかって・・・ゴフッ? なんだい?」

 

突然咳き込んだことを不思議に思い視線を下に向けると・・・

 

「へ?」

 

・・・・自分の胴体に紫色をした棘が二つ刺さっていた。

 

「はぁ!?」

 

慌てて後ろを振り返ると、そこに居たのは仲間が討伐に向かった<UBM>が居た・・・

 

「な、なんで・・・」

 

そのまま<UBM>は突き刺した棘付き手甲の腕を振るい、彼女を力任せに引き裂いた。その瞬間、蘇生不能になりデスペナとなる。

 

彼女が最後に見たのは、自身を殺した<UBM>の名である【武血蠱人 ディセンブル】だった・・・




オリジナルのエンブリオ考えるのはいろいろ難しいですわ。まぁ、その分楽しいです。

その延長線上で<UBM>も考えるのが楽しい。詳しい能力やその他もろもろは次回に説明します。


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第二十六話 その後の活動

  ◇  【紋章剣士(ルーン・ソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

野盗まがいの<マスター>たちとの戦闘後に俺たちは急いでギデオンへと帰った。ギデオンに到着して俺たちは手分けして冒険者ギルドと従魔師ギルドに騎士詰め所へと向かった。

 

<UBM>も絡んだ話だけに、冒険者ギルドと騎士団詰め所にも話しておいたほうがいいと判断した。

 

冒険者ギルドには俺が。従魔師ギルドにはウッドが依頼されたテイムしたモンスターを入れたジュエルもすべてウッドが持っていくことに。騎士団詰め所には知り合いが多くいて同じ騎士であるゲイルが。

 

俺が冒険者ギルドへ行き、報告をするとすでに助けたティアンの人たちが話を拡散していたらしく、詳しく話をする必要はなかった。冒険者ギルドではその森に調査依頼を<マスター>に出して俺たちと入れ違いで出発したという。

 

俺のやることがないようなのでウッドと合流するために従魔師ギルドへと向かうことに。途中でゲイルとも合流してお互いの話を聞くことに。

 

「じゃあ、騎士団にも話は伝わっているんだな?」

「ああ。<UBM>のランク次第では王都の近衛騎士団長の【天騎士】殿にも応援に来てもらおうか考えているそうだ」

 

ゲイルの話では騎士団もすでにこの話は伝わっていて、《真偽判定》スキルも使って話の信憑性も確認済み。よって調査をした結果次第では王都の超級職に就いている近衛騎士団長ラングレイ・グランドリアが応援に来ることもあり得るとのこと。

 

「すべてはその<UBM>次第ということか・・・」

「そうなるな」

 

ちなみに、ゲイルは今は町での活動用に買った軽鎧のシリーズ装備だ。本人曰く町の中で全身鎧を装備すると休んでいる気がしないという。

 

「まぁ、この町には実力者がかなりいるようだし<UBM>が近くにいると分かれば<マスター>が討伐に動くだろう」

「そうだな。案外すぐ解決するかもな?」

 

今回の<UBM>に俺はかかわるつもりはない。前の戦いでは遭遇戦でのリベンジという側面があったからな。それに前の戦いで<UBM>の強さを多少は理解できた。

 

前よりは実力は上がっているが、それでも苦労することは目に見えている。何よりもかかわるならほかの<マスター>との討伐競争になるだろう。さすがに勝てる気がしない。

 

などと話し合っていると、従魔師ギルドに到着。早速中に入りウッドと合流したが、助けたティアンの人たちにも再会して改めてお礼を言われた。その後は助けてくれたお礼に食事をおごってもらうことに。

 

従魔師ギルドで指名依頼の報告を済ませたウッドから報酬をもらい、彼らの行きつけの酒場に向かい大いに楽しだった・・・

 

 

 

  ◇  【重厚騎士(ソリッド・ナイト)】ゲイル・アクアベレー

 

 

俺たちが野盗まがいの<マスター>を倒してからリアルで数日、デンドロ内では一週間と二日が過ぎていた。

 

その間に起ったことは、まず野盗まがいの<マスター>たちが言っていた<UBM>の存在が確認された。ランクは驚きの古代伝説級クラスであると予想され、名は【武血蠱人 ディセンブル】と言う魔蟲種の人間サイズらしい。

 

<UBM>では小型の分類になるらしく、最初は噂を聞き付けた腕に覚えのある<マスター>たちが強力な特典武具目当てに討伐に向かった。古代伝説級クラスなら特典武具の装備補正やスキルも強力になるという話だ。

 

結果は・・・・すべて返り討ち。その戦闘をティアンの冒険者たちが記憶していたので能力は判明している。

 

ティアンの人たちによれば古代伝説級以上だと戦闘スタイルが明確に分かれるらしく、その分類は純粋性能型、多重技巧型、条件特化型などに分けられているらしい。

 

そして今回の【武血蠱人 ディセンブル】は純粋性能型。特にHP、STR、EMDが高いタイプだと予想されている。

 

ほとんどの<マスター>がディセンブルにダメージを与えられずに拳によって粉砕されているのだ。少数の拮抗できる<マスター>たちも何度か攻撃を受けて倒されている。

 

それならばと遠距離攻撃主体の<マスター>たちが討伐に向かった。弓や銃に魔法攻撃主体の<マスター>たちが戦いを挑むがこれまた返り討ち。

 

どうもディセンブルは自身の血液を操作固体化するスキルを持っているらしく、投げ槍に固体化して投擲。さらには肩から針に固体化した物を発射したりして遠距離に対処した。

 

さらにどうもこの血液は毒でもあるらしく、針の攻撃に耐えても【毒】や【猛毒】の異常状態になって物理防御能力が脆弱な彼らでは耐えられなかった。

 

そんなわけで今もって討伐されずに生き残っている【武血蠱人 ディセンブル】 現在も<マスター>懲りずに挑戦中なのだが、倒す奴いるのかね?

 

ちなみにその挑戦した<マスター>の中に有名どころはいない。決闘ランカーであり、王者である”化猫屋敷”【猫神(ザ・リンクス)】トム・キャットはここしばらく姿を見かけていない。

 

決闘ランク二位の【大闘士】フィガロは日課である《墓標迷宮》へと探索へ出かけているらしく、いまだに帰ってきていない。

 

決闘ランク三位でありクランランキング二位の<バビロニア戦闘団>オーナーの【剣聖】フォルステラはホームである城塞都市クレーミルにクラン全員と一時帰還している。どうもクレーミル周辺にも<UBM>が現れてその対処をしているらしい。

 

他の決闘ランカーや討伐ランカーなども各々の諸事情でログインしていなかったり、別の用事でギデオンを離れていたりと間が悪い状態だったのだ。

 

知り合いの【騎士】によれば【武血蠱人 ディセンブル】が森から動かずにいてくれているから助かっているが、このままでいる保証はない。ギデオン伯爵も王都から【天騎士】殿に出向いてもらえるよう王都に連絡しようか迷っているらしい。

 

近衛騎士団長が王都を離れるのはいろいろな意味でまずい。もう一人の超級職【大賢者】が居るが、それでも躊躇してしまうものなのだそうだ。

 

ギデオン周辺の変化はこんなところかね? ちなみに俺たちは討伐にはノータッチだ。三人で話し合った結果、挑戦しても勝てないだろうと考えが一致したからだ。だからこそ俺たちは・・・

 

 

 

  ◇  【強弓騎兵(ヘビィ・ボウ・ライダー)】ウッド・アクアバレー

 

 

ギデオン周辺に<UBM>がいるという情報が<マスター>及びティアンの人たちに知れ渡ってから、ギデオンは正直に言って慌ただしい。

 

<マスター>の大半は特典武具欲しさに我先にと挑戦しては返り討ちになり、諦めずに挑戦し続ける者とさっさと見切りをつけて諦める者に分かれている。

 

ティアンたちも<UBM>を危険視して町を一時的にでも離れる者や有名どころの<マスター>たちが帰ってくればすぐに解決すると楽観視する者と意見が分かれている。

 

そんな中、僕たちはというとスキル習得のためにジョブクエストを受けたり、周辺モンスターの討伐でLv上げをしている。

 

僕たちは<UBM>には挑戦しなかった。理由は三人では敵うはずがないからだ。もうすでに一体の<UBM>を倒しているけど、あれはこちらの能力と相手の能力とがうまくかみ合ったから勝てただけ。

 

今回の相手は古代伝説級と高いランクだし、能力的にも僕たちが叶うとは思えない。三人の意見が一致して地力を上げるために鍛えているというわけだ。

 

それとは別に大半の<マスター>たちが<UBM>を討伐に向かっているので、少々ギデオン周辺のモンスターも活発になっている。

 

<UBM>を危険視して町を一時的にでも離れる人たちもいるため、襲われることも増えているらしい。<マスター>は護衛依頼に不向きだから、モンスター討伐で頑張ることにした。

 

そのおかげで僕たちは今のメインジョブがLv50を超えた。しかも習得条件のあるスキルも覚えることができた。

 

まず、クロス兄貴は《精神統一》、《魔力武装》、《スパイラルセイバー》、《アブゾーブ・アクティブティ》を習得した。

 

《精神統一》はパッシブスキルでMPとSPが20%アップし、魔法剣技スキル限定で消費MP10%軽減する。《魔力武装》はアクティブスキルで自身の体に魔力を纏い通常攻撃を魔法攻撃扱いにして、自身のダメージを10%軽減する。毎秒MP5消費するけど。

 

《スパイラルセイバー》は魔法剣技スキルで貫通力のある魔力刺突を放つ。最後の《アブゾーブ・アクティブティ》はパッシブスキルでMP自動回復量アップし、消費MP20%軽減。

 

ただ、《アブゾーブ・アクティブティ》は習得条件があって、その条件は《最大MPを3分の2消費した状態になり、アイテムを一切使わずに全回復する。これを一日一回三日間行う》である。アイテムを使えずに全回復はきついよね? スキルには記載がないからスキルで回復はOKなんだろうけど。

 

クロス兄貴には簡単な条件だよね? なんせ《サークル・トランスファー》があるし。あれはパーティーメンバーにMPを譲渡するスキルだけど、本人には効果がないとか本人にはできないなんて記載がないし。

 

そんなわけでクロス兄貴は《サークル・トランスファー》を使って簡単にスキルを習得した。

 

次にゲイル兄貴は《ダメージ減少》、《ダメージ軽減》、《カウンター・ウェポン》、《プリズンウォール・バースト》を習得。

 

最初に三つはパッシブスキルで《ダメージ減少》はダメージを一割減する効果が。《ダメージ軽減》は200ダメージを減算する。《カウンター・ウェポン》は攻撃を受けて20秒以内は自身の攻撃力に相手からのダメージをプラスする。このプラスするダメージはスキルで減算したダメージ分も計算するとか。

 

最後の《プリズンウォール・バースト》は【重厚騎士】の奥義と呼ばれるスキルだ。アクティブスキルでSTRとENDを30%アップし、相手から受けたダメージを相手に与える効果がある。効果時間は10分でクールタイムは30分。ただし、全身鎧に分類される防具を装備した時のみ発動可能。

 

奥義と呼ばれるスキルはデメリットがきつくない限りは習得条件があり、この《プリズンウォール・バースト》の習得条件は《全身鎧を装備した状態で亜竜クラスモンスターを5体以上ソロ討伐。その際、与えるダメージと受けるダメージが合計で三万突破》である。

 

ゲイル兄貴曰く、結構苦労したらしい。ソロ討伐は問題なかったらしいが与えるダメージと受けるダメージが合計で三万突破が大変だったと言っていた。

 

ゲイル兄貴はENDが高く現時点で2,000を軽く超えている。防具の防御力も高く最終的な防御力は相当なものだ。そんな高防御力の塊では受けるダメージも微々たるものであり、攻撃力は防御力ほどではないが高めだが、亜竜クラスに大ダメージを与えるほどの攻撃力ではないし、ダメージを与えるアクティブスキルも強力なものはない。

 

結果、5体ソロ討伐でいいのに10体以上も討伐することになったとか。ゲイル兄貴にとって攻撃力不足はこの先問題になりそうだね。

 

最後に僕が習得したスキルは《一矢動体》、《アクティブバランス》、《スカイ・アローレイン》、《ストライクアロー》の四つ。

 

最初の二つはパッシブスキルで、《一矢動体》は騎乗状態時に騎乗者のDEXが20%アップし、SPの自動回復量アップ。さらに騎獣のSTRとAGIが20%アップ。《アクティブバランス》は騎乗時に矢を放つ動作がしやすくなるセンススキル。

 

あとの二つは攻撃スキルで《スカイ・アローレイン》は天空に放った矢が雨のごとく降り注ぎ、100の固定ダメージを与えるスキル。《ストライクアロー》は矢の射程距離と命中力が上がり、敵との距離が離れているほど威力が上がる。

 

僕はまだ、習得条件のあるスキルを覚えてないけど、挑戦中だ。この調子で地力を上げていこうと考えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・・つまらんな)

 

森の奥にある比較的太い木に背中を預けているとある者は、ここ最近の状況を一言で表した。最近は自身を倒そうとやってくる者たちが多いのだが、どいつもこいつも物足りない。

 

大半の者は自身に傷一つ与えられないし、与えたとしてもかすり傷がやっと。こちらが攻撃すれば拳の一撃で倒れる。一撃を耐えた者でも瀕死状態だ。

 

何より戦ってきた者たちは個々の能力は高いと思えたのだが、どいつも単体で戦いを挑むのだ。

 

(なぜ、協力をしないのか・・・)

 

これまでに彼が戦ってきた者たちの中には、群れを率いて戦いを挑んだ者たちがいた。個々の能力は低くとも連携が見事で何度かひやりとした時があった。

 

しかし、ここ最近になって挑んでくる者たちは率直に言って連携のれの字も知らない者たちばかりだった。中には明らかに挑んでくる者たちを妨害する者が居たほどだ。

 

(場所を変えるか・・・)

 

あのような者たちが次もまた挑みに来るかもと考えたところで、彼はこの場所を離れることに決めた。ここはかなり居心地がよかったが、つまらん戦いを彼は望んでいない。

 

(次はどこに行くか・・・)

 

彼は別に目的があってここに居たわけではなく、単に居心地がいいから住み着いただけ。最近の状況が好ましくなければ移動するのに躊躇はない。最もAGIが高くないので移動速度はゆっくりだが・・・

 

かくして・・・【武血蟲人 ディセンブル】はゆっくりと確実に移動を開始した。このことがギデオンにとってどのような影響を与えるかはまだわからない・・・



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第二十七話 護衛依頼と再会×2

  ◇  【重厚騎士(ソリッド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

今日もデンドロでクエストを受けに冒険者ギルドへやってきた。今日はクロス兄貴とウッドも一緒である。スキル習得のためにソロで討伐をしていたりしたから、三人での活動は久しぶりかね?

 

なんてことを考えながら冒険者ギルドへ入ると、入り口近くなぜか居たギルドの受付嬢が声を掛けてきた。

 

「申し訳ありません。実は緊急の依頼があり、話だけでも聞いていただけませんか?」

 

特に予定は決めていなかったので話だけ伺うことに。話の内容はとある商人の護衛をしてくれないとかいう依頼だった。

 

護衛依頼ということで遠慮しようとか思ったが、そもそも<マスター>が護衛依頼に向いていないのは冒険者ギルドも把握しているはず。なのでより詳しい話の聞くことに。

 

まずこの依頼主はギデオンでもトップクラスの商人で商人系統上級職【豪商】にもなっているその道のプロ。今回の護衛はその依頼主の商隊をカルディナとアルター王国の間にある砦まで護衛するというもの。

 

商隊が運ぶ物はギデオン周辺で問題視されている【武血蟲人 ディセンブル】の騒動で、ギデオンを離れる資産家や富豪から買い取った美術品や装飾品だとか。なんでも離れるのに荷物を減らし、資金を増やす意味でも安くてもいいから売りに出した物ということだ。

 

アイテムボックスという便利な物があってもやはり、荷物という物は嵩張るものらしい。それに後で聞いた話だが、美術品や着飾るだけの装飾品などは保存や保護の観点から専用のアイテムボックスがあるが、結構お高いらしい。

 

話が逸れたが、カルディナまで行くという護衛ならティアンに依頼するところだが、片道だけの護衛であれば<マスター>でも問題ない。カルディナでの護衛は依頼主のカルディナ支店から別の<マスター>に依頼しているとのこと。

 

「依頼主はすでに知り合いの<マスター>に声を掛けたそうですが、その<マスター>から自分一人ではきついとの意見があり、冒険者ギルドに依頼をしたとのことです。残念ながらその<マスター>の交友関係は全員手が離せないらしくて・・・」

 

俺たちは受付嬢にいったん相談したいから時間をくれと言い、受付嬢は了承。彼女は受付に戻り、俺たちはギルドの中にある酒場のテーブルの椅子を確保して、相談する。

 

「どうする?」

「片道だけなら問題ないんじゃないかな?」

「そうだな。帰るだけならいったんログアウトしてギデオンのセーブポイントからスタートすればいいし、特に問題はないだろう」

「ああ、そうか。<マスター>ならその方法もあるのか」

 

反対意見も出ず、最終的に報酬を確認してから受けた。ちなみに報酬は一人30万リル。かなりおいしい依頼である。

 

「ほかにもこの依頼を受けた三人の<マスター>がおります。依頼主のお店は・・・」

 

受付嬢から依頼主のお店の場所を聞き、すぐさま向かうことに。場所はギデオンの商業区である四番街。そこの中央闘技場に近い高級店が並ぶところだった。

 

ただし、高級店と言っても品物は美術品だったり、戦闘に使うアクセサリーではなく完全に美しさ優先の装飾品などだ。俺達には縁がない場所だろうな。

 

「なんか場違い感がすごいな・・・」

「「言えてる」」

 

戦闘用の軽鎧や革鎧を装備した者たちが進むには、かなり浮くような場所だ。俺たちは気持ち早歩きで目的の店へと向かう。

 

目的の店は中央闘技場に一番近い場所にあり、かなり大きな店だった。そんな店の中央広場近くに竜車が三台も並んで店の従業員らしき者たちが、荷台部分の点検やアイテムボックスの確認をしている。そんな中に・・・

 

「早く出発しないかな~」

「まだ、依頼受ける人がいるかもしれないから我慢我慢」

「ど、どんな人たちが来るんでしょう?」

「「「ニャー」」」

 

まだ王都に居た頃、一緒に亜竜クラスモンスターを討伐したシルク、タタン、ガルドの三人が居た。彼らの腕の中には猫のようなモンスターがいる。

 

「三人とも久しぶりだな?」

「「「あ!」」」

 

クロス兄貴が声を掛けて、三人が気付くと俺たちは彼らのもとへと歩いていく。

 

「皆さん!お久しぶりです!」

「こ、こんにちは」

「久しぶりー!」

「「「ニャー?」」」

 

三人は元気よく挨拶してくれた。腕に抱かれている猫にそっくりな【ファングタイガー】の子供たちは首を傾げ、疑問符を浮かべているようだが。

 

「クロスさんたちもこのクエストを受けたんですね!」

「ああ。一緒のクエストは出会ったころ以来だな? よろしく頼む」

「「「こちらこそ」」」

 

三人はそろって頭を下げた。王都に居た頃はたまに話もしたが、三人と一緒に何かするのは出会ったころ以来だな。

 

「そういえば、もう一人<マスター>がいるって聞いたんだけど?」

「はい。居ますよ」

『クエスト受けた人来たガル?』

 

ウッドが訪ねると、シルク君が答えた直後に声が聞こえ、竜車の陰から見覚えのあるカンガルーのような着ぐるみが現れた。

 

「「「着ぐるみさん!え?知り合い?」」」

『おや?これは奇遇ガル』

 

 

 

 

  ◇  【強弓騎兵(ヘビィ・ボウ・ライダー)】ウッド・アクアバレー

 

 

シルク君にタタン君やガルド君と再会しただけでなく、着ぐるみさんとも再会するとは思わなかった。しかも、兄貴たちとも知り合いだったなんてね。

 

そこら辺の話をしたかったが、今回のクエストの商隊責任者がそろったのなら早く出発したいと言ったので俺たちは竜車の一つに乗り込む。

 

護衛なのに乗り込んでいいのかと思ったが、今回の旅ではスピード重視の地竜に荷台を引いてもらうため、護衛も荷台に乗ってもらいたいって言っていた。

 

モンスターの群れや巨大なモンスターに囲まれたり行く手を遮られたら、僕たちにお願いしたいんだって。まぁ、囲まれるのはともかく、通せんぼする奴ならどうにかなるでしょ。なんせ・・・

 

ドッコ~ン!

 

現在、護衛依頼の真っ最中なのだが、商隊の先頭を行くのは着ぐるみさんの<エンブリオ>。キャタピラで大地を進み、砲塔を敵に向け巨大な砲撃音を響かせて相手を爆散させている。戦車型の<エンブリオ>だ。

 

「あんな<エンブリオ>もあるんですね?」

「ま、タタンのゴーレムだって機械式なんだし戦車くらいあるだろう」

「そ、そうだね」

 

着ぐるみさんが最初に<エンブリオ>出したときはシルク君たちは目を丸くしていた。気持ちはわかるよ。露骨に兵器なものだからね~基本ファンタジーであろうデンドロでは違和感しかないね?ここがドライフ皇国だったら違和感なかったけど。

 

『俺の<エンブリオ>の【バルドル】は上級になって戦車になったガル。ほかの<マスター>も上級になると全然予想できない進化をすることはままあるガル』

「「「へぇ~」」」

 

着ぐるみさんの言葉に年少組三人は感心して声を出した。なお、護衛依頼中なので虎の子供たちはタタン君のジュエルの中だ。まだまだ戦闘力が低いと言っていた。

 

さらに、商隊の殿にはグリフにリオン、グランにスオウが走りながら周囲を警戒してくれている。いくら戦車があると言っても知能の高いモンスターなら隠れてやり過ごし、その後に襲うことも普通にやる。

 

「いや、しかし驚きましたよ?俺たち三人と知り合いだったとは」

『世間は意外と狭いガル』

 

クロス兄貴が着ぐるみさんに話しかけた。

 

『色々話したいと思うが、まずはお互いの自己紹介からガル。言い出しっぺの俺はシュウ・スターリング。メインジョブは【破壊者(デストロイヤー)】ガル』

「あ、そうですね。私はシルクです。メインジョブは【司教(ビショップ)】です」

「ぼ、僕はタタンって言います。い、いまのメインジョブは【高位付与術師(ハイ・エンチャンター)】です」

「俺はガルドだ!メインジョブは【大戦士(グレイト・ファイター)】だぜ!」

 

シルク君たちも強くなって上級職に就いたんだね。意外なのは着ぐるみさんが壊屋系統上級職の【破壊者】なことかな? 確か壊屋系統ってSTR特化でバランスの悪いジョブだったはず。

 

「俺はクロス・アクアバレー。今のメインジョブは【紋章剣士】だ」

「俺はゲイル・アクアバレー。メインジョブは【重厚騎士】だ」

「僕はウッド・アクアバレーです。メインにしているジョブは【強弓騎兵】です」

 

自己紹介が済んだので、まずはシルク君たちが近況を話してくれた。彼女たち三人は俺たちとクエストを受けた後は時間が空いた時に、ログインしてはLv上げと虎たちのお世話をしていたという。

 

従魔師ギルドでお世話のレクチャーを受け、他の子供モンスターと遊ばせたりと意外と楽しかったと笑いながら語ってくれた。

 

たまに初心者の狩場で戦わせてもいるとも言っていたが、まだ戦闘になれずに四苦八苦しているらしい。

 

ちなみに、ギデオンに来たのは上級職に就いたので次の装備をギデオンで買うために冒険者ギルドで実入りのいい配達の依頼を受けて、冒険者ギルドで依頼達成した後に今回の依頼を持ち掛けられたという。

 

「報酬がいいので、三人と相談して受けたんです」

「これの依頼を達成すれば、もっといい装備が買えるからな!」

「さ、最近はこの子たちのお世話にもお金を使っていましたし・・・」

 

三人はそう言うが、今三人が装備している物も結構いいものだと思うけどね?シルク君はシスター風の服なのは変わらないけど、青と白のバランスが美しい。

 

タタン君は魔術師風のローブと杖の先端に緑色の水晶がくっついているもの。ガルド君は黒と赤の装飾が目立つ軽鎧を。三人とも似合っている。

 

「そういえば、<エンブリオ>の形態はどのくらいだ?」

 

ゲイル兄貴は気になったのかそんな質問をした。三人の答えは・・・

 

「私たち全員第三形態です」

「スキルは教えられないけど、結構使いやすくなったんだぜ!」

「ガ、ガルドの<エンブリオ>はそうだね」

「僕たちも第三だよ?ちなみに着ぐるみさんは?上級の第四にはなっているようですが・・・」

『ふふふ。秘密ガル』

「「「えぇ~」」」

 

護衛依頼中ではあるが、僕たちは楽しく話し合っていた。

 

 

 

  ◇  【紋章剣士(ルーン・ソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

商隊がギデオンを出発して、目的地まで半分の地点で現在休憩中。速度重視の竜車とは言え一度くらいは休ませる必要があるらしい。

 

商隊の人たちは地竜たちに水や食事を与えていた。俺たちはもちろんその間に護衛をしている。むしろこういう時のほうが襲われることが多い。案の定、いくつかの群れが襲ってきた。

 

さすがに休憩中に戦車の砲撃音が響くと休めないだろうと、着ぐるみさんには最終防衛ラインとして商隊の近くに待機してもらって俺たちが対処することに。

 

「どらー!」

「ふん!」

 

俺はガルド君と組んで魔獣型の狼【グレイウルフ】を数体相手している。ガルド君の<エンブリオ>はレーヴァテインという名の片刃の大剣だ。以前は刃が熱を帯びていたが、今回はそれだけではなく刃が伸びていたのだ。

 

もっとも刃が長くなったというよりは、熱が不可視の刃となり大剣の間合いを伸ばしたといったところか。しかもガルド君はこのおそらくはスキルを効果的に使い、すべての攻撃時に使うのではなく間を開けて使用している。

 

これにより相手の【グレイウルフ】は混乱してガルド君に近づけないでいた。

 

「《フォースヒール》!」

「《アジリティブーステッド》!」

「GOGOGO」

 

シルク君とタタン君はタタン君の<エンブリオ>であるガードナーのタロスを援護しながら、戦っていた。タタン君のタロスは以前は武骨な機械式ゴーレムでシンプルな作りだったが、今の体はさらにロボット感が増している。

 

各部位に装甲が追加され、前のずんぐりむっくりな体から人間に近づいている。攻撃も以前はパンチだけであったが、今は蹴りも行っている。さらには・・・

 

「タロス!《アームマシンガン》!」

 

タタン君がスキルを宣言すると、タロスの敵に右腕を向けると腕から銃身が出てきて、連続の発砲音が響いた。このスキルを何度か使い、敵を倒していた。タロスは遠距離攻撃スキルを手に入れたようだ。

 

ウッドとゲイルはタッグで大きな【ロックゴーレム】と戦っている。こちらに関しては全く問題ない。相手の攻撃はゲイルが完全に防いでいるし、攻撃はウッドとグリフに二人の従魔たちが行っている。

 

やがて問題なくモンスターたちを倒し、念のため周辺を警戒していたが、次が現れる様子はなかった。警戒を解いて商隊の元へと戻る。

 

『お疲れ様ガル』

「着ぐるみさんも警戒お疲れ様です」

 

労をねぎらってくれた着ぐるみさんに俺はそう答えた。

 

『みんななかなか強いガル。これなら残りの道中も安心ガル』

「当然だぜ!」

「調子に乗らない!」

「そ、そうだよ・・・」

 

着ぐるみさんの言葉にガルド君は同調して、シルク君とタタン君がくぎを刺す。この三人は相変わらずだ。

 

『<エンブリオ>もシンプルながら強力ガル。そういえばみんなは【カテゴリー別性格診断】って知ってるガル?』

「「「なんですかそれ?」」」

 

調子に乗っているガルド君と口論になりそうなシルク君とタタン君は聞こえなかったようだが、俺たち三人は着ぐるみさんの言葉に答えていた。

 

商隊の休憩が終わり、出発するころにはシルク君たちも落ち着き改めて着ぐるみさんが言った【カテゴリー別性格診断】の言葉を聞いていた。

 

「聞いたことないな?」

「私も」

「こ、言葉から察するに血液型性格判断のようなものですか?」

『似たようなもんガル。デンドロが発売されて半年くらいから最近まで流行ってたガル。主にゲーム内で』

 

リアルのほうでは意味がないのかね?

 

『これは<エンブリオ>のTYPEで<マスター>の大雑把な性格がわかるんじゃないかって話から始まったものガル。第零形態が第一形態になるには、<マスター>の行動や人格その他もろもろを観察して生まれるからな』

 

ああ、なるほど。確かにそれならそういう話になったのも納得だ。

 

『最も上級以上だとほかのTYPEとのハイブリットなることが多いから、下級までのTYPEでの話ガル』

 

ん?それでいうと俺たち兄弟のTYPEはどうなんだ?

 

「じゃあ、TYPE:アームズはどんな性格なんだ?」

『アームズの<マスター>は勇気のある人、傷つくことを恐れないなんて人が多いガル』

「ふ、二人は確かにそんな性格だね」

「「そうかな?」」

 

興味を持ったガルド君が質問すると着ぐるみさんの答えにタタン君は納得していた。当の二人は疑問符を浮かべているようだが。というか、シルク君もアームズだったのか・・・

 

「では、ガードナーの人はどうですか?」

『ガードナーは臆病な人、傷つくことを恐れる人が多いガル』

「「合ってる」」

「ひ、否定できない・・・」

 

二人の言葉にタタン君は反論したいようだが、自分でも納得しているようだ。

 

「着ぐるみさん。俺たちの場合は最初からほかのTYPEとのハイブリットだったんですが、これってどう判断するんでしょう?」

 

ゲイルがそんな疑問を着ぐるみさんに投げかける。俺としても気になることだ。

 

『最初からほかのTYPEとのハイブリットはいないわけではないガル。割と珍しいことではあるが。ただ、その場合は断言はされていないな。おんなじTYPEのハイブリットでも用途や能力が違うなんてこともあるからな』

「そうなんですか・・・残念。僕も気になってたんですが」

 

ウッドも気になっていたようだな。

 

『ただ、個人的な意見を言わせてもらえば、最初の段階からハイブリットってことは一つのTYPEではその<マスター>には十分ではないとか、もしくは足りないと<エンブリオ>が判断したんだろうな。<エンブリオ>を嫌いになる<マスター>には俺は会ったことはないし、<マスター>は<エンブリオ>の能力を気に入ったり、納得するのがほとんどだ。そういうことから判断すると最初からハイブリットっていうのは、根拠があるんだろうな』

 

着ぐるみさんの個人見解を聞いて、ちょっと考えてみる。俺の場合はTYPE:テリトリー・アームズ。テリトリーの性格はわからんが、アームズだけの場合では足りない何かがあったってことなのか?

 

ゲイルの場合はTYPE:アームズ・ガードナー。この二つの性格は全くの真逆だ。しかし、二つの性格を聞いた俺からしたら、ゲイルがこのハイブリットになるのはすごく納得する(・・・・・・・) あいつもいろいろあったからな・・・

 

ウッドの場合はTYPE:チャリオッツ・ガードナー。チャリオッツの性格がわからんから何とも言えんが、ガードナーという部分には心当たりがある。

 

この際だ。テリトリーとチャリオッツの性格も聞いてみようと質問をしようとしたところで・・・・

 

ドッコ~ン!ドッコ~ン!ドッコ~ン!

 

今まで一発だけ響いた砲撃音が連続で鳴り響いた。




今回三兄弟の<エンブリオ>についての記述がありましたが、深く追求するのはしばらく後になります。


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第二十八話 フルパーティによる過去最大の戦闘

  ◇  【強弓騎兵(ヘビィ・ボウ・ライダー)】ウッド・アクアバレー

 

 

突如として連続の砲撃音が響き渡り、僕たち七人はすぐに戦闘準備を整えた。着ぐるみさんの戦車が何度も砲撃したということは、数の多い群れか一発では倒せないモンスターの可能性がある。

 

商隊も異常事態を察して止まり、俺たちは竜車から降りて急いで先頭を目指す。ゲイル兄貴は【ボルックス】を装備して、リオンに騎乗している。僕もグリフに騎乗してタタン君を相乗りさせた。シルク君はリオンに。

 

二人はAGIが低いので緊急の場合は乗せることをあらかじめ決めておいた。着ぐるみさんも低いようだが、AGIを高めるアクセサリーを五枠すべてに装備させるから大丈夫と言ってくれた。

 

『相手はどんなモンスターだろうな・・・』

「いまだに砲撃音がしているから、群れじゃないですか?」

 

ゲイル兄貴の言葉にシルク君が答える。

 

『いや・・・多分単体のモンスターガル』

「その根拠は?」

『俺の【バルドル】の砲撃は着弾地点の衝撃や爆発を考えると結構な威力ガル。ただ、それに反して直接砲弾がモンスターに当たった場合の威力は低い。だから、いまだに砲撃音がしているのなら群れよりも大型のモンスターの可能性が高いガル』

「でも、大きな群れの可能性もあるのでは?」

『大きな群れを率いているのはかなり知能の高いモンスターだ。そういう奴は危機管理能力も高い。砲撃が何度もすれば危険と判断してすぐに撤退するガル』

 

着ぐるみさんの言葉に質問を投げかけたクロス兄貴と僕は納得した。やがて、戦車がいる先頭にたどり着いたが、【バルドル】はいまだに砲撃し続けている。砲撃の影響で土煙が上がっているのでモンスターの姿が確認できない。

 

「さすがにあれだけ砲撃されたんじゃもう終わったか?」

「そ、そうだといいんだけど・・・」

 

ガルド君は状況を見てそう呟き、タタン君も同意している。しかし・・・

 

『・・・・』

「着ぐるみさん?」

 

着ぐるみさんは油断なく土煙を凝視している。その様子にシルク君はうろたえているようだが、僕たち三兄弟も着ぐるみさん同様に土煙を注視していた。この場に漂う雰囲気があるモンスターと出会った時と酷似していたからだ。

 

やがて、土煙から動く影が見えて【バルドル】が再び砲撃を開始した。ところが・・・

 

ゴン!

 

影から太い腕が現れて砲弾を弾き飛ばした! そのまま砲弾は空へ高く飛んで爆発。砲弾の飛ぶスピードは拳銃とかと比べると遅いけど、威力が桁違いなのに難なく弾くなんて・・・

 

シルク君たちは驚いて声も出ないようだが、僕たちと着ぐるみさんは油断なく土煙から出た太い腕の持ち主を注視している。やがて、土煙が晴れて姿を現したのは・・・

 

真っ黒な甲殻が鈍く輝き、ボディビルダーのような立派な体躯が目立ち、頭には立派な角が前に一本後ろから二本ねじ曲がって生えている。大きさは人間とさして変わらないが、それでも2mは超えている。

 

確認した直後に目の前のモンスターの頭上に名が表示された。【武血蟲人 ディセンブル】と。

 

「<UBM>!」

「住処を移動したのか!?」

『なるほど・・・ギデオンで噂になっている奴か。移動するタイミングが重なったらしいな。運が悪い』

 

ギデオンの騒ぎの元凶にこんなところで遭遇するなんて・・・いつかは討伐されるか移動するとは思っていたけど、今じゃなくてもいいじゃないか!

 

「うおぉー! <UBM>! 俺初めて見た!」

「ばか!! そんなこと言ってる場合!」

「と、とにかく戦闘準備を!」

 

初めて見たであろう<UBM>に対してガルド君は驚きながらも感動し、シルク君がそれを注意してタタン君の言葉でシルク君とタタン君はリオンとグリフから降りて、武器を構えたりタロスを呼んだりしていた。

 

ガルド君も慌ててレーヴァテインを出して構えている。そんな中【ディセンブル】は俺たちを見渡してゆっくりと近づいてきた。

 

 

 

  ◇  【破壊者(デストロイヤー)】シュウ・スターリング

 

 

(さて・・・どうするか・・・)

 

着ぐるみさん改め、シュウはこの状況でどう動くか悩んでいた。ギデオンで騒ぎになっている<UBM>については調べていた。調べた上で手を出さなかった。

 

この時点でシュウが持っている特典武具は数えるのがめんどくさいくらいには所有していたからだ。まぁ・・・全部着ぐるみというもはや呪いとしか言いようがない結果ではあるが。

 

それゆえ、所在地が判明した<UBM>の討伐にはノータッチだった。それよりも知り合いのティアンからギデオン周辺のモンスター討伐や片道だけの護衛などを頼まれて時間がなかった。それに何人もの<マスター>が討伐に向かっているので、そのうち相性のいい<エンブリオ>持ちが現れて討伐するだろうと思っていた。

 

どのみち、フィガロや<バビロニア戦闘団>がギデオンに帰ってくれば討伐されるのは明らかだ。などと考えた結果が今の状況だ。

 

(俺でも討伐できるかは半々だからな・・・)

 

なにせ、目の前の【ディセンブル】は古代伝説級。神話級や未だに姿が確認されていない超級を除けば、トップクラスの実力。しかも、戦闘タイプとしては純粋性能型。シュウが戦うとなると相性がいいとは言えなかった。

 

(考えても仕方がないか・・・・)

 

トラブルに慣れているシュウは戦うことに切り替えようと集中しだした。だが・・・

 

「着ぐるみさん。商隊を連れて先に行ってください」

『何?』

 

横に居たクロスがいきなり驚くことを言った。

 

「多分、俺たちが戦っても勝てないと思います」

『だったら・・』

「だからこそ、クエストくらいは達成しないと。この中で単体で護衛できるのは着ぐるみさんだけです。時間ぐらいは稼ぎます」

『・・・・』

 

たしかに、クエストのことを考えるとここでシュウが商隊を護衛するために先へ行き、残った者たちで時間を稼ぐのは理にかなっている。しかし、残った者たちは確実にデスペナになるだろう。

 

『悩む時間はないですよ。こっちは覚悟完了しています』

 

リオンから降りて、シュウの隣にやってきたゲイルもクロスと同じ意見のようだ。

 

「行ってください」

「クル」

 

ウッドとその<エンブリオ>であるグリフも戦うことに躊躇はないようだ。

 

「俺たちもいます!」

「全力でサポートします!」

「こ、怖いけど、僕も頑張ります!」

「GOGOGO」

 

シルク君たち三人も覚悟を決めているようだ。

 

『・・・・すぐに戻ってくる。それまで頑張れよ!』

 

やがてシュウは決断して【バルドル】に乗り込み、商隊の御者に合図を送り、走り出す。御者も地竜を走らせて後を追う。その間に【ディセンブル】は手を出すことはなく、商隊を見送り残った六人と一匹と一体を視界にとらえ、両拳を打ち合わせる。

 

かくして、フルパーティの<マスター>と古代伝説級の【武血蟲人 ディセンブル】との無謀な時間稼ぎが始まった。

 

 

 

  ◇  【重厚騎士(ソリッド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

着ぐるみさんと商隊を見送ると【武血蟲人 ディセンブル】は両拳を打ち合わせた直後にこちらに突撃してきた。だが、そのスピードは速いとは言えないものだ。向かってくる圧力はすさまじいが。

 

AGIはそこまで高くはないらしい。ただ、その圧力とプレッシャーにガルド君たちは怯み後ろに一歩下がってしまった。無理もない。相手はこのデンドロでも上位の実力を持つモンスター。

 

俺は彼らをかばうためにも盾を構えて、【ディセンブル】を迎え撃つために進路上に立ちふさがる。

 

『こい!《プリズンウォール・バースト》!』

 

俺はいきなりではあるが、覚えたばかりの【重厚騎士】の習得条件のある秘儀と呼ばれるスキルを発動。

 

戦闘力を上げるアクティブスキル使用で【ボルックス】の固有スキル【バースト・イグニション】の効果でスキル効果が二倍に。

 

これで俺のSTRとENDは60%アップ! 【ディセンブル】が俺を攻撃した時、カウンターを決めてやる!

 

俺が立ちふさがったことで【ディセンブル】はそのまま肩から俺に向かって体当たりを喰らわす態勢になり、俺も衝撃に備えた。その結果は・・・・

 

ガッキュン!!!

 

『ごふ!?』

 

金属同士がこすれるような音が響き、俺は大ダメージを受けた。HPが一気に三分の二以上も減り、盾を構えていた左腕は【左腕骨折】の状態異常に。体が吹き飛ぶことはなかったが、地面を見るとかなり後方へと押された跡があった。

 

「「「ゲイルさん!?」」」

「《ヒートランス》!」

「クルー!」

 

シルク君たち三人は俺が大ダメージを受けたことに驚き動揺している。だが、クロス兄貴とグリフは俺から【ディセンブル】を引き剥がすために攻撃を放つ。俺に当たらないように左右に移動して。

 

クロス兄貴の《ヒートランス》は【ディセンブル】の背中に命中。魔法攻撃に弱いらしく体勢を崩したところにグリフが前足の攻撃で後方へと押し返す。

 

そのまま、クロス兄貴が接近戦をウッドとグリフは援護する。俺は与えられたダメージの影響で地面に膝をついた。

 

「ゲイルさん!《フォースヒール》!」

 

そんな俺にシルク君は自分のやるべきことを思い出して回復魔法を使ってくれた。確かこの回復魔法は肉体損傷系の状態異常も回復するんだったか? うろ覚えのスキル詳細だったが、HPが全回復と言っていいくらいに回復し、【左腕骨折】も治った。

 

「大丈夫か!?」

「た、立てますか?」

 

ガルド君とタタン君も俺のそばにやってきて、心配そうに話しかけた。

 

『大丈夫だ・・・シルク君の回復魔法でな。ありがとう』

「よ、よかったです。で、でもゲイルさんがここまでダメージを受けるなんて・・・」

 

シルク君の言葉に残りの二人も信じられないといった顔になる。さらには戦っているクロス兄貴とウッド&グリフに視線を向け・・・・

 

「こいつ固いな!」

「矢も効果がないみたいだ!」

「クル!」

 

AGIでは格段に高い一人とコンビはスピードでかく乱しながら、攻撃をしていたがクロス兄貴の剣による攻撃ではダメージにならず、剣が目に見えて痛んでいる。

 

ウッドも矢を放っているが、ずべて刺さらずに弾かれていた。この場では唯一グリフの攻撃が有効のようだがそれも微々たるものだった。

 

「あの二人も苦戦しています・・・」

「<UBM>ってあんなに強いのか?」

「ど、どうすれば・・・」

 

初めて<UBM>に遭遇してその実力をまざまざと見せつけられて、この三人は戦意が徐々になくなりつつある。

 

『あれは、<UBM>の中でも最上位に近いランクだから強いのは当り前さ。そもそも<UBM>は一番ランクが低い逸話級でもティアンが命懸けで戦うほどらしいからな・・・』

 

こちらは<マスター>六人のフルパーティとは言え、合計Lvカンストにさえ達していない。<エンブリオ>があるだけましという物だ。

 

「じゃ、じゃあ僕たちでは勝てないんですか?」

『最初から勝つなんて考えてないさ・・・』

「「「え?」」」

『クエストのための時間稼ぎ。俺たちの目的はあくまであいつをこの場にくぎ付けにすること。倒すことは鼻から考えてないよ』

 

着ぐるみさんたちが目的地に着いてくれれば、それだけで俺たちの目的は達成だ。

 

『だが、それだって奴の戦闘力を考えれば難易度は高い。全員が実力をフルに使ってもどこまで持つかははっきり言ってわからん』

「「「・・・・」」」

『だが、それでも一度決めたこと投げ出すのは、もう二度としない(・・・・・・・・)と決めている。だから三人にも力を貸してほしい』

 

俺の言葉は二度としないというセリフに必要以上に感情を込めていた。過去のことが原因でそのことに関しては譲れないものの一つになっている。そんな俺の言葉に最初に反応したのはシルク君だ。

 

「わ、私は直接は戦わないですが、それでもやれることは多いです! 皆さんを全力でサポートします!」

「ぼ、僕もシルクちゃんと同じです! 皆さんを援護します!」

「俺だって、このまま逃げたくない! 戦うぜ!」

 

シルク君に続いて、タタン君にガルド君も戦意を奮い立たせる言葉を口にし、己に活を入れた。

 

『頼む。シルク君とタタン君は後衛で援護を。【タロス】は二人の護衛として配置してくれ』

「「はい!」」

『ガルド君は俺と一緒に前衛だ。絶対に足を止めるなよ? 攻撃は基本ヒット&ウェイだ』

「了解!」

 

そうして俺は戦線に復帰する。今の時点で挑むにはあまりに大きな敵を相手にするために・・・




ぶっちゃけた話、ディセンブルの見た目はヘラ〇ルカブテ〇モンX抗体がモデルですw

作者はああいう甲虫怪人的な外見大好き。モン〇ンのオウ〇ート防具も大好きでしたw


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第二十九話 綱渡りの接戦

  ◇  【紋章剣士(ルーン・ソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

俺たちが【武血蟲人 ディセンブル】と戦い始めてからどれくらいの時間がたったのかはわからない。俺たちには時間のことを考える余裕がないほど目の前の相手に集中していたからだ。今のところは誰一人やられることなく戦えている。だが、それは全員の能力がこれ以上ないくらいにかみ合っているおかげだ。それでも集中力が切れたら瓦解する綱渡りの戦闘だが。

 

「《ヒートランス》!《ダブル・マジック》!」

 

俺は敵の周りを高速移動しながら、魔法で攻撃している。と言うより俺の攻撃手段で敵に有効なのが魔法攻撃しかないと言うべきだが。

 

相手は事前情報の通りHP、STR、ENDが高く俺の物理攻撃ではダメージを与えられない。接近戦でダメージを与える手段はあるが、俺たちの中で最も防御力があるゲイルがあれほどダメージを受けた以上、俺だと一撃でデスペナだ。

 

俺以外に敵に有効打を与えているのは、ガルド君にグリフだ。

 

「おらー!」

 

ゲイルの陰からガルド君が飛び出して、大剣【レーヴァテイン】を振るってダメージを与えている。どうも【レーヴァテイン】は相手の防御力を下げてダメージ計算する能力のようだ。防御力無視とかではないだろう。進化していけばそうなるかもしれないが。

 

「クルー!」

 

グリフもウッドを騎乗させたまま相手に接近して前足を振るっている。グリフのステータス値はウッドのステータス強化スキル重複によりこの場の味方では一番高い。物理攻撃では俺たちの誰よりもダメージを与えている。

 

しかし、ガルド君はステータスがまんべんなく高い戦士系統。俺の剣士系統や魔術師系統のように特化したステータスではないためAGIが相手と差がない。一撃当たれば終わりなのは俺と変わらないが、ガルド君には相手の攻撃を回避する手段も耐える手段もない。

 

そのため、ゲイルと組み隙を見て攻撃するしかなく攻撃事態も全力の一撃とは程遠い。

 

グリフの場合はウッドの騎兵系統の騎獣強化スキルは騎乗状態で発動するのがほとんどだ。ウッド自身も攻撃はしているが、ほとんどの矢は当たっても弾かれてしまう。

 

与えるダメージも俺の魔法攻撃ほど大ダメージを与えているわけではない。【ウィンドブレス】もグリフ自身のMPが高くないため物理攻撃よりは多少多いくらいだ。属性も関係しているのかもな。

 

攻め手はいるが決め手に欠ける。それが俺たちの現状だ。しかも、攻め手以上に大変なのが壁役のゲイルと後衛のシルク君とタタン君だ。

 

壁役のゲイルはガルド君を主に守っているが、相手の攻撃力が高くすべての攻撃でHPが半分以上も減ってしまう。それでもゲイルはステータス強化スキルや秘儀を使用して耐えている。攻撃はする余裕はないが、【重厚騎士】の秘儀である《プリズンウォール・バースト》は自身が喰らったダメージを相手にも与えるカウンタースキルでもある。

 

それでダメージを与えてはいるが、相手のHPが高くスキルのクールタイムの関係で何度も使用できない。それでも何とかなっているのはシルク君が回復を。タタン君がゲイルを優先的にサポートしているからだ。

 

そんな二人もゲイルを援護するためにMPの消費が激しく、MP回復アイテムを時折消費している。思ったほどアイテム使用率が低いが、戦闘になってからMPとSPが自動回復している。おそらくはシルク君の<エンブリオ>のスキルだろう。

 

タタン君の<エンブリオ>のタロスは二人の護衛として残っている。【ディセンブル】が時々二人に向けて肩から紫色の針を飛ばすのだ。それを弾き飛ばしているのがタロスだ。

 

ゲイルとウッドの従魔たちは遠距離でこちらの様子を見ている。彼らは自分たちが割り込める戦闘ではないと判断して、離れたのだ。

 

そんな綱渡りの接戦を何とか個々の能力のおかげで、維持できている。とは言え本当に綱渡りでありぎりぎりだ。あとどのくらい持つかわからない。

 

それでも、着ぐるみさんが商隊を目的地に行くまでは踏ん張らなくてわ!

 

 

 

  ◇  【武血蟲人 ディセンブル】

 

 

ディセンブルは歓喜していた。それは目の前の人間たちの戦いぶりが原因だ。

 

(素晴らしい・・・)

 

目の前の六人と妙な気配のする二体は、実によい連携で自分と戦っている。最近挑んできた者たちとは比べるのも馬鹿らしいほどに。

 

さらには、自分との戦闘力の差があるのもわかっているだろうに誰一人諦めずにできることをやっている。

 

(これだ・・・我が求めていた戦いはこれのなのだ!)

 

【ディセンブル】は<UBM>になる前から、戦いに明け暮れていたモンスターだった。戦い己を鍛え強くなることに心躍る戦いにすべてをささげた武人だ。

 

その性質は今も変わることはない。むしろ<UBM>になったことでさらにどん欲になったとさえいえる。ゆえに【ディセンブル】は決断した。

 

突如、【ディセンブル】の甲殻の隙間から紫色の液体が流れた。流れた液体は【ディセンブル】の体で徐々に固まり、鎧となった。さらに手の平からも同じ液体が流れて、今度は大剣の形になった。

 

(さぁ、我のこの武装にどう対処する!)

 

【ディセンブル】のこの行動で第二ラウンドが始まりを告げた。

 

 

 

  ◇  【重厚騎士(ソリッド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

何とかぎりぎりの戦いを続けていたが、とうとう【ディセンブル】は自身の手札を切ってきた。自身の血液を操作固体化させて鎧と大剣を作り出した。

 

それを見て俺は一応装備していた片手剣を《瞬間装備》を使って、【破岩盾 バルギグス】と交換した。武器を使う相手には相性がいい盾だし、鎧を纏いさらに防御力が増したあいつに片手剣を持っていても意味ないしな。

 

武器を変えた俺が気になったのか、【ディセンブル】は大剣を両手で持ち俺目掛け突撃し上段から振り下ろそうとする。

 

『《ガード・ウォール》! 《シールド・パリィ》!』

 

俺はその攻撃に対抗してアクティブスキルを連続使用。防御力が【ボルックス】のスキル効果で400アップ! さらに”シールド・パリィ”は盾で攻撃を受けた時、DEXの数値が相手と差があればあるほど攻撃を弾き、相手をわずかの間【硬直】状態にする。

 

俺は【バルギグス】を構えて、相手の大剣を正面から迎え撃つ。相手の攻撃が盾と激突した時・・・

 

バッキィン!

 

 

大剣を弾き返すことに成功した。しかも、うれしい誤算が起きた。【ディセンブル】の作り出した大剣が粉々に砕けたのだ。どうやら硬度とは別に武器としての耐久値はかなり低いらしいな!

 

「”パワースラッシュ”!」

 

この大きな隙を俺の後ろに居たガルド君は見逃さずにスキル使用の大きな一撃を叩き込んだ! その攻撃を受け【硬直】状態の【ディセンブル】はまともに受けてしまい、後方に3、4歩下がった。

 

「二人とも下がれ!」

 

クロス兄貴の言葉に俺とガルド君はすぐに下がり・・・

 

「《オーバー・マジック》! 《ヒートランス》!」

 

クロス兄貴の【ガルドラボーグ】の固有スキル使用で数倍の大きさになった《ヒートランス》が【ディセンブル】に飛んで行った。

 

《ヒートランス》は【ディセンブル】の右肩に直撃し、大ダメージと同時に肩の甲殻を溶かして針の発射口をなくすことに成功していた。

 

「クルー!」

「《ストレングスブースト》! タロス!《アームマシンガン》!」

 

さらにはグリフとタロスが追撃を放った。二人が狙ったのは溶けた右肩。甲殻が溶けた直後なら柔らかくなっている。実際、《ウィンドブレス》溶けかけの甲殻は吹き飛んでタロスの弾丸が次々と【ディセンブル】の肉体に貫通する。

 

結果的にかなり損傷した右肩はその影響からか、右腕はだらんと力なく動こうとしなかった。

 

それでも【ディセンブル】は左腕に今度は棍棒を作り出し、戦う意思を示した。そんな奴の雰囲気は楽しくて仕方ないといった印象を受けた。

 

 

 

  ◇  【強弓騎兵(ヘビィ・ボウ・ライダー)】ウッド・アクアバレー

 

 

何とか【ディセンブル】に大ダメージを与えることができた。けどそこからはまた苦しい綱渡りの戦闘のくりかえしだ。最初に比べたらましなんだけど。

 

武器を作り出した最初の攻撃でゲイル兄貴に武器を壊されてからは、警戒したのかゲイル兄貴をあまり狙わなくなった。

 

代わりに、後衛の二人を狙いだして壁役がゲイル兄貴からタロスに変わった。だが、タロスはどうも戦闘力特化なガードナーらしい。その戦闘力をタタン君が付与魔法で強化している。

 

さらにシルク君が回復魔法で回復もする。タロスは機械式ゴーレムだが、回復魔法で回復できる。しかも魔法を受けるとステータスがアップするスキルを持っているらしく、回復魔法を受けて明らかに動きがよくなっている。

 

時々ゲイル兄貴が壁役を代わり、盾を使ったスキルで【ディセンブル】を吹き飛ばして、僕たちが攻撃している。今のところはそれがうまくいっている。

 

このまま続ければ、着ぐるみさんが商隊を送り届けるまでは何とかなりそうだ。とは言え、今は戦闘に集中しよう。弓を構え矢を番えてクールタイムが終わったスキルを使う。

 

「《スパイラルアロー》!」

 

僕が放った矢が【ディセンブル】の右肩に深く突き刺さる。右肩が損傷しているからあそこだけは矢が突き刺さりダメージになる。しかも、いくつかの状態異常にもなっているらしく、かなりのダメージになっている。

 

少々卑怯な気もするが、相手のほうが各上なのだから手段なんて選んでいる場合ではないしね。

 

とは言え、こちらもかなりきつくなってきた。回復アイテムは数個しかないし、集中して戦い続けた結果精神疲労がやばい。

 

壁役をしているタロスとゲイル兄貴も傷つきながら戦っているので、HPとは別に体力が怪しいし、タロスの場合は機械式であるからか先ほどから駆動音がぎこちない。

 

後衛の二人も疲労が目に見えてわかるほど息が荒い。クロス兄貴とガルド君も集中と緊張によるものか汗がひどい。

 

正直なところこれ以上戦闘が続くと近いうちに誰かがデスペナになる。それをきっかけにして順番にデスペナとなるだろう。

 

だが、そんな状況でも誰一人として弱音を吐かず、気力を振り絞って戦闘を続けている。一秒でも時間を稼ぐために。

 

しかし、そんな状況もついに動いた。【ディセンブル】がこれまでの戦闘で流れた血を操作して自らに纏わせて、鎧を再構築した。しかし、その鎧は身を守るものというよりもかなり攻撃的な物だ。

 

たとえて言うならアメフト選手の防具に棘や斧のような突起物がついたものかな? そんな防具を纏った【ディセンブル】は相撲取りのような体勢をし、そのままシルク君とタタン君目掛けて突撃した!

 

敵は勝負に出たんだ! 僕たちの戦闘を支えているのは壁役をサポートしている二人。その二人を同時に倒すために特攻をしてきた!

 

この攻撃に対してゲイル兄貴が動き、バルギグスを構えスキルを宣言する。

 

『《プリズンウォール・バースト》! 《シールドパリィ》!』

 

秘儀と盾で弾くためのスキルを使い、ゲイル兄貴は腰を落として相手を待ち構える。ゲイル兄貴の後ろではタロスが控えて万が一に備えている。そして・・・

 

ドッコォォン!!!

 

『ぐは!?』

 

ゲイル兄貴は耐えきれずに、吹き飛ばされた! しかも先ほどの一撃で大ダメージに状態異常が複数重複した! その結果、ゲイル兄貴のHPは0となり・・・

 

 【パーティメンバー<ゲイル・アクアバレー>が死亡しました】

 【蘇生可能時間経過】

 【<ゲイル・アクアバレー>はデスペナルティによりログアウトしました】

 

ゲイル兄貴がとうとうやれらた! しかも【ディセンブル】はゲイル兄貴の奥義の効果でダメージを受けたし、攻撃的な鎧にいくつも亀裂が入ったが、それでも止まらずにそのまま直進!

 

タロスが迎え撃ち渾身の右ストレートで鎧を破壊したが、【ディセンブル】の勢いは止まらずにタロスにそのまま突進! タロスは粉々になり光の粒子となった。

 

「「ゲイルさん!? タロスも!?」」

「もうだめだ・・・」

 

シルク君とタタン君は驚いてその場を動けずにいた。ガルド君もとうとう集中力が切れ諦めてしまったようでその場に崩れ落ちた。

 

そのまま【ディセンブル】は二人にも突進していった。数秒後には二人もデスペナになる。援護したいがここからでは矢が刺さらないし、グリフの攻撃では二人を巻き込みかねない。

 

ここまでかと僕も諦めかけたその時・・・

 

「最後の悪あがきだ! 喰らえ!」

 

シルク君とタタン君の前にクロス兄貴が割って入り、スキルを放った!

 

「《オーバー・マジック》! 《スパイラルセイバー》!」

 

手にした剣を両手で持ち、魔法剣技スキルである《スパイラルセイバー》を《オーバー・マジック》で強化して放つ。

 

これによる極太の魔力螺旋が剣から放たれて、【ディセンブル】に命中した直後には摩擦音を響かせて、押し戻した。

 

ギリャギリャギリャ!!!!

 

いや押し戻すどころか、かなりの勢いがあった【ディセンブル】が逆にすごい勢いで後方へと押し返されている。敵も両足で耐えようとしているが、大地を巻き上げて押され続けている。

 

やがて、極太の魔力螺旋は【ディセンブル】の体を貫いた! その後に魔力螺旋は消えた。あとに残ったのは体の中央に大穴が空いた【ディセンブル】。両断されなかったのは、ぎりぎり端っこの体が残っていたからだ。

 

沈黙する僕たち・・・しばらくして僕のスキルの《魔物言語》で翻訳された声が聞こえた・・・

 

『ミ・・・ミ・ゴ・ト・・・』

 

片言であったし、よく聞き取りづらかったが確かに僕の耳に聞こえた。その直後に【ディセンブル】は前のめりに倒れ、光の粒子となった。

 

 

 【<UBM>【武血蟲人 ディセンブル】が討伐されました】

 【MVPを選出します】

 【【クロス・アクアバレー】がMVPに選出されました】

 【【クロス・アクアバレー】にMVP特典【血晶甲剣 ディセンブル】を贈与します】

 

アナウンスがされたが、その場に生き残った僕も含めた全員が沈黙していた。正直アナウンスの内容が理解できない。それからたっぷり数分経ってから全員が口をそろえてつぶやいた。

 

「「「「「か、勝った?」」」」」

 

必死になって戦った結果、ゲイル兄貴とタロスを倒されたが、勝つことができた。そのまま僕たちは事実を受け止めるのにさらに数秒必要とし、ようやく理解したとたんに【気絶】した・・・




一度は書いてみたかった武人系敵キャラw


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第三十話 接戦の陰とその後

  ◇  【破壊者(デストロイヤー)】シュウ・スターリング

 

 

『一人と<エンブリオ>がやられたか・・・』

 

着ぐるみさんことシュウ・スターリングは彼らの戦いを遠くから望遠鏡で見ていた。なぜそうしているのか?

 

無論、これは彼にとって不本意な行動だ。護衛対象である商隊を送り届けて、彼は全速力で元の場所に戻り参戦する気だった。

 

にもかかわらず、こんな場所で彼らのことを見ているだけなのは・・・

 

「古代伝説級の<UBM>を倒したのですから、それくらいの犠牲でなしたのなら上出来では?」

 

隣にいる男が原因だ。その男は特徴という物を持たない。容姿に関しては普通と評されるような男だった。黒髪で短髪、太っているわけでも痩せているわけでもない。

 

あえて特徴を上げるのなら眼鏡をしているのが、印象的か。正直な話人畜無害を体現したような男だ。

 

しかし、シュウは知っている。隣の男が現デンドロ内で最も名が知れた犯罪者であることを。最初に知り合ってから何度もこの男がやった犯罪行為に巻き込まれているのだから。

 

『そういう問題じゃねぇ。そもそもお前が俺を止めなければ、少なくともどちらかはやられずにすんだかもしれないんだぞ。わかって言っているだろうゼクス・・・』

 

怒気を込めた言葉を口に出しながら、普段のひょうきんな雰囲気も代名詞である語尾もせずに、隣の男に視線を向けるシュウ。そんなシュウの態度にも顔色一つ変えずに微笑している男

 

隣の男は【犯罪王(キング・オブ・クライム)】ゼクス・ヴュルフェル 現時点で<マスター>で数少ない超級職に就いた者であり、重度の犯罪行為を数多く行い最も名が知れ渡っている<マスター>だ。

 

「そうですね。ですが、あくまでももしかしてです。だからこそ、その可能性をこの私はつぶしたわけですが」

『・・・・』

 

シュウがクロスたちに合流しようとしたところで、ゼクスが現れてこう宣言したのだ。

 

「このままシュウが彼らに合流するのなら、この私も敵に回りまずは彼らを殺しますが、よろしいですか?」

 

シュウはこの言葉を聞いた時、舌打ちを隠さなかった。ゼクスの戦闘力は厄介なんてレベルではない。<エンブリオ>能力などはシュウが知る中では一、二を争うほどの能力だ。

 

古代伝説級の<UBM>を相手にしている中にゼクスが参戦し敵になるなど、最悪中の最悪である。よってシュウは彼らと合流できなくなり、遠くから見守ることしかできなかった。

 

『<UBM>が現れてからなかなか討伐できないのは不思議に思っていたが、お前が邪魔してたんだな?』

「ええ。たまには犯罪者らしく隠れて犯罪をしようかと思いまして。戦闘をしていた<マスター>たちに気づかれないように妨害していました。<UBM>には気づかれていたようですが」

 

そもそも、いくら古代伝説級の<UBM>だからと言って<マスター>が数多く討伐に乗り出していた状況で生き残れるかと言えば答えは否である。

 

<マスター>には<エンブリオ>というオンリーワンの要素がある。その能力によっては格上であっても楽に倒せる可能性があるのだ。デンドロにおいて相性差というのは戦闘で最も重要と言ってもいい。

 

そんな<マスター>たちを隠れて妨害、または殺害していたのがゼクスだ。これにより<UBM>が討伐できずにギデオンは被害を受け続けた。

 

『普段は隠すことなんてしないくせに・・・』

「この私としてはそのほうが都合がいいもので。ですが、それは犯罪者らしくないとふと思いまして」

『お前が普通の犯罪者なわけないだろう』

 

シュウは知っていた。【犯罪王】なのに、この男はほかの特にティアンの犯罪者連中から化け物のごとく恐れられているのを。【犯罪王】なのに。大事なことなので二度思った。

 

というのも、ゼクスは自分がやる犯罪行為を隠すことがない。むしろばれる前提でやる。その時点で普通の犯罪者からしたら「何やってんの!?」と言葉にする。

 

普通の犯罪者ならどうやって犯行を隠すまたは自分がやったという証拠を残さないようにするものだ。ついでに言えば、ゼクスが犯した犯罪は重度すぎてほかの犯罪者すら躊躇するようなものばかりだ。最初に起こした事件が王国の第三王女殺害未遂という時点で相当である。

 

「この私もそう思います。ですからこれからはこの私らしく二度と隠しません」

『・・・・』

 

【犯罪王】なのにそのセリフもどうなんだと疑問に思ったが、口にはしなかった。

 

「ではこれで失礼しますよ。ああ、彼らに伝えてもらえますか? 討伐おめでとうと」

『皮肉か? 絶対に伝えねぇからな』

「残念です」

 

討伐に合流しようとしたシュウを邪魔しといてこのセリフである。そのままゼクスはカルディナ方面へと去って行った。今度はカルディナで奴が起こす犯罪が騒動を呼ぶだろう。

 

ともかく、ゼクスが去った今シュウはクロスたちに合流するために急ぐのだった。

 

 

 

 

  ◇  【紋章剣士(ルーン・ソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

俺たちが【ディセンブル】を運よく倒した直後に気絶してから、30分前後経った。その間に俺たちは着ぐるみさんに運ばれて、ギデオンの病院のベットの上だった。

 

着ぐるみさんの<エンブリオ>【バルドル】は第五形態まで進化しているらしく、その形態はなんと軽巡洋艦サイズの陸上戦艦という。

 

なんともド派手な<エンブリオ>だと思ったな。ともかく、その陸上戦艦に俺たちを乗せ、急いでギデオン近くまで運んでくれたのだ。

 

その後は【気絶】、【重度疲労】、【体力枯渇】などの多重状態異常になっていた俺たちを回復するために、病院に事情を説明。その後、人手を集めて俺たちを運び治療したというわけだ。

 

病院の【医者】の治療で何とかまともに動けるようになった俺たちは、今日は一切の戦闘禁止だと言われた。まぁ、言われなくとも今日はもう戦闘したくなかったが。

 

なお、治療費は着ぐるみさんが出してくれた。彼曰く・・・・

 

『みんなには頑張ってもらったからガル。これくらいはさせてほしいガル』

 

と言っていたので、お言葉に甘えた形だ。その後は冒険者ギルドに行き、クエスト報酬を受け取った。一人20万リルとなかなかおいしい依頼だ。あんな戦いがなければ。

 

ゲイルの報酬は俺とウッドが受け取り、もう一つの用事を済ますことに。【ディセンブル】討伐報告と討伐報酬の受け取りだ。

 

これに関しては俺が持っていた【血晶甲剣 ディセンブル】を見せたことで楽に終わった。討伐報酬はなんと600万リルもの大金だ。

 

これほどの大金は相手が古代伝説級なのとなかなか討伐されなかったことを踏まえて、ギデオン伯爵が上乗せし続けた結果らしい。この説明を聞いていた時、着ぐるみさんの雰囲気が変わったような気がしたが、気のせいかね?

 

とりあえずは、報酬を受け取り山分けするために話し合うことに。なお、着ぐるみさんはこの報酬の受け取りは拒否した。理由としては戦ってすらいないし、討伐したのは間違いなく俺たちだからだと。

 

「では、一人100万リルで分けるといいかな?」

「こ、こんな大金受け取っていいんでしょうか!?」

「すげーよな!」

「き、緊張するよ~」

「なぁ? 俺も受け取るのか?」

 

大金を手に入れたことに興奮と戸惑いを浮かべているシルク君たちとウッドに俺は疑問を口にした。

 

『何か不満でもあるガル?』

「いや、特典武具まで手に入れたのにこんな大金も受け取っていいのかと・・・」

「クロス兄貴、ゲイル兄貴と同じこと言っているよ?」

 

うん自覚してる。だが、特典武具を手に入れてゲイルの気持ちがよく分かった。こんなの手に入ったらお金まで受け取るのは考えちまうぞ?

 

 【血晶甲剣 ディセンブル】

 <古代伝説級武具(エンシェントレジェンダリーアームズ)

 戦を求め、自らの血液を纏う誇り高い武人の概念が具現化した至宝。

 装備した者の肉体を強化する力と、あらゆる刃を作る能力を持つ。

 ※譲渡・売却不可アイテム

 ※装備レベル制限なし

 

 ・装備補正

  STR+40%

  END+40%

  攻撃力+670

  防御力+240

 

 ・装備スキル

  《血晶操刃》

  《晶毒》

 

 

 《血晶操刃》 アクティブスキル

  装備者のMPとSPを消費して刃に血晶を纏わせ刃であればどんな形にもなる。

 

 《晶毒》 パッシブスキル

  上記のスキルで刃を作った場合、切りつけた相手を【毒】にすることがある。

 

 

 

いや、古代伝説級がかなり強い特典武具になるとは聞いていたが、さすがにこの性能はやりすぎではないか? 俺が使っていた武器より数倍攻撃力があるし、ランクが一つ下のゲイルが持っている特典武具よりも強すぎだろう。

 

この剣は種類としてはバスターソードと呼ばれる大剣と片手剣の中間の剣だ。刃の部分は真っ赤で持ち手の部分は艶のない黒だ。持ち手部分も長くてツーハンドソードっと言ってもいいかもな?

 

「確かにすごい性能ですね・・・」

「かっこいいよな!」

「あれだけ強かったから納得の性能ですね・・・」

 

シルク君たちもこの武具の性能と外見を持て驚愕したり興奮したりと忙しい。

 

『基本特典武具はMVPになった奴の能力を調べて、足りない能力やほしい能力を<UBM>の特徴を参考にして決まるからな』

「そうなんですか?」

『ああ。珍しい特典武具では装備補正特化やスキル特化なんて例もあるガル。まぁ、後者のスキル特化はかなりのレアケースだが』

「「「へぇ~」」」

 

特典武具もいろいろあるらしい。というか着ぐるみさん詳しいですね?

 

「なぁなぁ? なんでそんなに詳しいんだ?」

『ふふふ。何を隠そうこの着ぐるみも特典武具だガル』

「「「えぇ!?」」」

 

つまりその外見みたいなカンガルーの<UBM>居たのか? というかなんで特典武具が着ぐるみ?

 

「ほ、ほかにも特典武具があるんですか!?」

『・・・・』

「着ぐるみさん?」

『あるにはあるが・・・他のも全部着ぐるみガル・・・』

「「「・・・・えぇ?」」」

 

先ほどとは違う意味の声を発する三人。特典武具全部着ぐるみってある意味これもレアケースなのか?

 

最後にオチがついたが、ともかく着ぐるみさんを除く六人で討伐報酬を分けることに。ゲイルの報酬は俺たちが預かることにして全員ログアウトすることに。

 

疲れたからな・・・リアルに戻ったらとりあえず仮眠しよう・・・

 




はい、ゼクスライムさんの登場回でした。あとはガルド君とタタン君にシルク君の<エンブリオ>を簡単に紹介します。


 【炎熱剣 レーヴァテイン】TYPE:アームズ

  能力特性: 炎熱攻撃&防御力半減

  ダメージ計算時に防御力を半減した数値で計算を行う能力。ENDステータスが高い敵や防御力が高い敵には天敵。ただし、あくまで数値を半減する能力なのでスキルによる防御には弱い。


 【生動機人 タロス】TYPE:ガードナー

  能力特性: 戦闘力&魔法効果アップ

  3メートル越えの機械式ゴーレム型<エンブリオ>シンプルに戦闘力が高く、ステータス補正は低め。他に自身が受ける魔法効果を上げる能力があり、そのおかげで回復魔法による回復が可能。ただし、デメリットとして魔法攻撃やデパフの効果も上げてしまう。それを補う形で魔法を受けたらステータスを上げるスキルもある。



 【癒光杖 べレヌス】TYPE:アームズ

  能力特性: 回復魔法強化&回復効果

  シルク君の本編でスポットが当たらなかった不遇の<エンブリオ> 能力は回復魔法強化と回復効果のあるスキルを持っている。戦闘力は皆無だが、それを補って余りあるほど優秀。回復特化な<エンブリオ>であり、パーティメンバーのMPやSPを自動回復するスキルやHPが半分以上減っているパーティメンバーを完全回復させ、ステータスをアップさせるスキルを持つ。デメリットは能力が完全に回復特化であるため、本人の戦闘力が皆無でパーティプレイ必須な点。最初から三人で行動するつもりだったからこの<エンブリオ>が生まれたともいえるが。  


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第三十一話 今後の相談と方針

  ◇  【重厚騎士(ソリッド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

【ディセンブル】にデスペナされてからリアルで24時間後、デンドロ内では三日後に俺はログインした。場所はギデオンの中央闘技場の近くの噴水前。ログインした直後にクロス兄貴とウッドと合流。

 

「ゲイル兄貴、お久しぶりー」

「ああ、ここだとそういうセリフか・・・」

「ここに居ると三日間でも濃い日にちだからな。そういう感覚になる」

 

俺がデスペナの間は二人もログインしていたのでデンドロ内で三日は過ごすからな。久しぶりって感じになるか。

 

「とりあえず、近くの飲食店に入って報酬を渡すよ」

「頼むわ」

「ついでにあれからの流れを詳しく説明する」

 

リアルのほうで【ディセンブル】は倒したことは聞いたが、詳しいことまでは聞いてないからな。というわけでクエスト報酬と討伐報酬の120万リルを受け取り、討伐した流れとクロス兄貴が手に入れた特典武具を見せてもらったが・・・

 

「強力すぎねぇ?」

「やっぱそう思うか?」

「少なくとも俺の【バルギグス】よりも強いぞ・・・」

「だよね? ランク一つ違うだけでこうも違うかな?」

 

まぁ、【バルギグス】倒したときは俺たちもまだまだ弱かったし、足りないものが多すぎたから使い勝手を優先したのかもしれないが、それにしてもねぇ~

 

「まぁ、話に聞いた超級職なんかは強力という言葉の意味が違いすぎるらしいからな。このゲームはいろいろとバランスという物が今までのゲームとは違うんだろう」

「「あ~確かに」」

 

なんか、ティアンの話だと合計Lv500のカンストした者と超級職に就いた者とでは隔絶した実力って話だしな?

 

曰く、魔法系の超級職である【大賢者】なんて、千を超えるモンスターの群れを魔法一つで壊滅させてモンスター以外の地形には全く被害がなかったそうだ。

 

あと、ゲーム内で30年前には神話級の<UBM>を相手にした超級職が二人いたらしいが、その時相手にした<UBM>の能力で万単位の人形を相手にして、命を対価にして倒したという。

 

改めて思うと確かにゲームバランスおかしいな? 神話級の<UBM>も超級職も。しかも<UBM>の場合はまだ上の超級がいるんだろう? どれだけ強いんだよ・・・

 

「僕たちもいつか超級職になるのかな?」

「ジョブの前に<エンブリオ>が<超級(スペリオル)>になるほうが先かもな?」

「どうだろう?」

 

現在、<エンブリオ>の形態で確認されているのは、第七形態の通称<超級>と呼ばれているものまでだ。ごく少数の<マスター>がなっているのを確認されている。

 

さらには、<超級>になりその能力で超級職を手に入れた者もさらに少ないがいるらしい。詳細は不明だが、現時点でデンドロ内におけるトッププレイヤーというわけだな。

 

「遠い未来の話より目先のカンストを目指したほうがいいんじゃないか?」

「まぁ、それが無難だよね?」

「そうだな。ジョブの選択が超級職の条件にあるかもしれないし、まずはLv500を目指すのが先か」

 

それがいいだろうな。さてそろそろ、今のメインジョブもカンストするし次のジョブをどうするか。というかそろそろ全体的にジョブを見直す時期かもしれないな・・・

 

 

 

  ◇  【紋章剣士(ルーン・ソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

ゲイルの一言で話題は俺たちのビルド構成に変わった。前の戦闘でそろそろ今のメインジョブである【紋章剣士】もカンストするし、次のジョブを決めるというか、そろそろ全体的なビルドの見直し時期かもしれないな?

 

「クロス兄貴は次のジョブは何にするの?」

「俺の場合は少々悩んでるんだよな~上級職を剣士系統にするか魔術師系統にするかでどの下級職に就くかが決まるからなぁ~」

 

ウッドの言葉に俺はビルド構成の悩みを打ち明けた。

 

まず、現状俺のジョブ構成は下級職に【剣士】、【魔術師】、【魔法剣士】、【風術師】 上級職に【紋章剣士】 残りのジョブ枠は下級職が二つに上級職が一つ。

 

「剣士系統上級職になれば、AGIが上がるが魔法攻撃の種類や威力に影響するし、魔術師系統上級職になれば今度はAGIやSTRが物足りなくなる。どうしたものかとな・・・」

 

ここにきて魔法剣士系統の器用貧乏なジョブ特性が浮き彫りになった。どちらにしかできないから悩んでしまう。

 

「クロス兄貴にとっては重要な問題だな」

「ゲイルの方はどうだ?」

「俺は上級職は前に言った通り、【大盾騎士】になるつもりだ。ただ、下級職の構成をちょっと変えようかと考えている」

 

ゲイルのジョブ構成は下級職に【騎士】、【重騎士】、【盾騎士】、【従魔師】 上級職に【重厚騎士】

 

どうも、【従魔師】を【騎兵】に変更して残りの枠には【冒険家】に。そして、最後の枠には意外に【銃騎士(ガンナイト)】を考えているとのこと。

 

「なんでその構成を?」

「前の【ディセンブル】との戦闘でいろいろ考えさせられてな・・・ステータス強化のために【騎兵】を。遠距離攻撃確保のために【銃騎士】を改めて考え直したんだ」

 

【銃騎士】は【騎士】と【銃士】のジョブに就いて初めて就けるジョブだ。ステータス的には銃を扱えためにSTRよりもDEXの伸びがいいのが特徴。

 

「DEXは盾のスキルにも影響するしな。そういう意味でも選んだ」

「でも、ドライフならまだしもアルター王国では銃は手に入りにくいよ?」

「まぁ、そこは最悪ドライフまで足を運ぶさ。天地ほど遠いわけでもないしな」

 

そりゃそうだ。

 

「ウッドはジョブ構成はどう考えてる?」

「僕は上級職は【剛弓士】だね。下級職をどうするかは今のところ考え中」

 

ウッドのジョブ構成は下級職に【弓士】、【騎兵】、【弓騎兵】、【従魔師】 上級職に【強弓騎兵】 上級職が決まってるなら、あとは下級職二つだな。

 

「【弓士】は派生下級職が少ないからね~ 今のところ候補としては【狩人】と【弓狩人】かな?」

「系統が違うが、大丈夫か?」

「【狩人】の方はともかく【弓狩人】の方は同じ弓の専門職だから相性はいいよ? 【弓狩人】に就けば【狩人】で覚えるスキルもある程度は使えるようになるしね」

 

ふむ、いろいろ考えているようだ。

 

「あと、僕からもかなり先のことで提案があるんだけど」

「なんだ?」

「どうした?」

「ちょっとこの世界を旅したいんだよね」

 

 

 

  ◇  【強弓騎兵(ヘビィ・ボウ・ライダー)】ウッド・アクアバレー

 

 

「「旅?」」

 

僕の言葉に兄貴たちは疑問符を浮かべて聞き返した。ちゃんと説明しないとね。

 

「これだけリアルで、現実にないものもいっぱいある世界だから旅をしていろんなものを見てみたいんだよね。リアルの方じゃ旅行なんて修学旅行しか経験ないし」

 

僕たちはリアルでは諸事情で海外旅行はおろか国内旅行も経験がない。今なら時間さえ合えば行けるけど、それだって経験がないからいろいろ不安だ。

 

でもデンドロでは、<マスター>は死んでも生き返るし三倍の時間で余裕はある。これは旅をするしかないよね?

 

「旅か・・・いいかもしれないな?」

「そうだな・・・興味がある」

「でしょ?」

 

兄貴二人も前向きに検討してくれている。

 

「だが、今すぐというわけにはいかんぞ? 用意もそうだし、何より実力が足りんだろうしな」

「うん。もちろんだよ」

 

今のまま旅をしたとしても、準備不足で立ち往生するのが目に見えてるし、実力も弱いから純竜クラスが複数襲ってきたら、太刀打ちできない。

 

「準備はいろいろ揃えるとして、実力はどの程度になったら行くべきかね?」

「少なくとも合計Lv300越えに上級職は二つ就いておきたいな。あと、<エンブリオ>も第四形態の上級になってからだ」

「そろそろ進化すると思うんだけどね?」

 

<エンブリオ>は上級になると下級のころよりも格段に強くなるって話だし、確かに上級になってからの方がよさそうだね。

 

「それに旅をするならアルター王国の国内でもいろいろ行ってみたいしな。別の国に行くならその後だ」

 

ああ、確かに。アルター王国にも行ったことのない場所や町はあるんだし、そこにも行ってみたいね。

 

「それに、<エンブリオ>が上級になれば俺たちの悩みも解決するかもしれないしな」

「「なるほど」」

 

<エンブリオ>の進化は<マスター>の能力も関係しているからね。足りない能力を補ってくれるかも?

 

「しばらくはここギデオンでLv上げを行い、ある程度実力が付いたら今度は西に行ってみよう。海があるしな」

 

海か~現実でも最近行ってないな? この世界の海も気になるね。

 

「賛成」

「ここでの活動はひと段落ってことか」

「ああ、各国を旅する以上多少は移動にも慣れておこうぜ」

 

僕たちは今後の方針である旅について、ある程度方針決めの話し合いを続けて今日はログアウト。



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第三十二話 デンドロ販売から一年たった

  ◇  【強弓騎兵(ヘビィ・ボウ・ライダー)】ウッド・アクアバレー

 

 

兄貴たちと今後の方針を話し合ってから、デンドロが発売されて一年がたった。僕たちがデンドロを始めてからは半年ぐらいだね。

 

その間、僕たち兄弟はリアルでのお仕事をしながらデンドロにもログインしていたんだけど、ゲイル兄貴と僕はお仕事が忙しくてなかなかログインできなかったよ。

 

一応、今のメインジョブはカンストまであと少しなんだけど、次のジョブをどうするか二人して悩んでるんだよね~

 

クロス兄貴の方は僕たちよりログインする機会は多くて、早々に【紋章剣士】をカンスト。奥義も含めたスキルも覚えて今は剣士系統派生下級職の【大剣士(バスターソードマン)】になってるよ。

 

【大剣士】は大剣の扱いに補正がある剣士系統でSTRの伸びがいい。クロス兄貴は【血晶甲剣 ディセンブル】を装備することを考えて選んだそうだ。

 

【ディセンブル】は大剣と片手剣の中間のサイズだから、両方のスキルが使える。装備スキルで刃だけ大剣サイズにもなれるから、相性はいいよね。

 

僕たちの近況としてはそんなところ。次にデンドロ全体の話については、結構いろいろなことが起きてるよ。

 

まず、<エンブリオ>が第七形態になった人が有名になったりしてるね。しかも、超級職も手に入れた人はどうしたって注目を集める。

 

アルター王国では、決闘王者である【猫神(ザ・リンクス)】トム・キャットをフィガロが倒し、闘士系統超級職【超闘士(オーヴァー・グラディエーター)】に就いた。その翌日には<エンブリオ>も第七形態になったとデンドロ内で発言している。

 

もっとも、フィガロという人の<エンブリオ>は詳細不明で能力はおろかTYPEすらわかっていないのだが。

 

決闘ランキングだけではなく、クランランキングのトップクラン<月世の会>オーナー扶桑月夜も【女教皇(ハイプリエステス)】に就き、第七形態になっているようだ。

 

ただ、<月世の会>についてはリアルに存在する宗教団体であり、プレイヤーたちから恐れられている。リアルばれしたら何されるかわからないといった理由からだ。

 

まぁ・・・僕たち兄弟はリアルのとある事情(・・・・・)で<月世の会>の実情を知っているので、怖がることはないのだが。<月世の会>のクランメンバーにリアルの知り合いも居たしね。

 

あと、正体不明の<マスター>で壊屋系統超級職【破壊王(キング・オブ・デストロイ)】に就いた人がいるらしい。この<マスター>に関しては詳細不明で、どんな人物かも碌にわかっていない。

 

各国にも超級職に就いた<マスター>や第七形態に到達した者が少ないが現れており、第七形態の<エンブリオ>を持つ者たちを<超級>と呼ぶようになった。

 

超級職が<マスター>たちも就ける人たちが現れてから、<マスター>の間で超級職の探求と捜索が激化した。というのも超級職の破格の能力が<マスター>たちの間で知れ渡ったからだ。

 

上級職以上のステータスアップ、ゲームバランスを壊しかねない強力なスキル、レベル限界という物が存在しない。これらが判明してから、今まであった強さを追求するビルド理論はほとんどが廃れて、超級職を探すのに躍起になった。

 

超級職は先着一名オンリー。さらに言えば自身の<エンブリオ>とシナジーすれば、または短所を補うことができれば更なる力を持つことが確認されている。端的に言えばティアンよりも強くなれる。

 

現在のデンドロでは自身の<エンブリオ>と相性のいい超級職を探し出すことこそ、最強への近道だとそんな雰囲気になりつつある。

 

 

 

 

  ◇  【重厚騎士(ソリッド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

デンドロの<マスター>たちが活躍するのは何もいいことばかりではない。<マスター>たちの中には。平然と犯罪行為をする者たちもいる。

 

まぁ、超級職の中には犯罪行為をしなくては就けないものもあるのでそれ目当てにやっている奴もいるだろう。もっとも、手に入れる前にティアンや<マスター>に捕まって”監獄”に送られているようだが。

 

それでも、実力や人数に用意周到な立ち回りで生き残っている者たちもいる。<マスター>同士のPKはティアンの法律外だから問題ないが、<マスター>がティアンを襲うようなケースもある。

 

そういう者たちは野盗プレイヤーや強盗プレイヤーと呼ばれている。ご丁寧にジョブにも【強盗】とか【山賊】に【海賊】なんてのもあるしな。

 

それにこの話は<マスター>だけのものではない。ティアンにだって犯罪行為をする者はいる。中には超級職に就いて犯罪を繰り返す輩や、確かな実力を持ったうえで私利私欲のために犯罪に手を染めるティアンも居て、そういう者たちは懸賞金がかかっている。

 

幸い俺たちはそういう連中には出会っていないが、各国を旅してまわるのならそういう輩とのトラブルもあるだろうな。

 

そう言えば、<マスター>の中で犯罪行為を行っている奴で最も有名な奴がいたっけな? 確か・・・【犯罪王】ゼクス・ヴュルフェルって名前だったはず。

 

犯した犯罪も王国第三王女誘拐殺人未遂などの他の犯罪者であれば躊躇するような重度の犯罪行為を繰り返している。そいつも確か<超級>って噂だが、できれは会いたくないな・・・

 

さて、デンドロの最近の流れを確認したところで今度は俺の次のジョブを考えなくてはな。リアルで忙しかったが短い時間のログインを繰り返してやっと【重厚騎士】はカンストしたぜ。

 

スキルも全部覚えて、現在騎士団の訓練所にてステータス画面とにらめっこしている。知り合いの【重厚騎士】に就いているティアンに戦技指導の訓練を依頼して、現在休憩中。

 

【従魔師】はこの訓練が終われば、【騎兵】に変更するつもりなのだが、残りのジョブを【冒険家】と【銃騎士】で本当にいいのかと悩んでいる。そんな時・・・

 

「どうしたゲイル? 何かに悩んでいるような顔だが?」

 

俺に声を掛けてきた人がいた。その人はスキンヘッドで屈強な体に灰色の騎士甲冑を装備し、背中に大きな長方形の盾と腰に戦棍を掛けている。

 

「ハーケンさん」

 

この人はハーケン・ベルスカッシュ。俺が訓練を依頼した人でありギデオンの騎士団副団長でもある人だ。もともとは王都の防衛専門の第三騎士団に居た人だが、年齢と長年の戦闘で体が衰え始めて第三騎士団からギデオンの騎士団に移動した。

 

今では、新人騎士の育成や訓練指導などを主にやっているとのこと。俺とは王都の知り合いのティアンに紹介状を書いてもらい、ギデオンに来てから訓練を時々依頼している。それ以来の付き合いでたまに飲みに行ったりもしている。

 

「悩みがあるのなら相談に乗るぞ? 一人で悩むよりはもしかしたら解決するかもしれんぞ?」

「・・・そうですね。では、話を聞いてもらいますか?」

「ああ」

 

俺は、ハーケンさんに現在のビルドで悩み下級職をどうするかを打ち明けた。

 

「なるほどな。ジョブのことで悩んでいたのか」

「俺たちの方針としてはこれから実力が付けば、各国を旅したいと思いまして。そのためにも下級職をどうするかで悩んでいるんです」

「<マスター>は全員がカンストまでジョブに就けるから羨ましいもんだ。俺だって合計Lv400が限界なんだぜ? それだってティアンからしたら高い方だが」

 

ティアンの場合はジョブに就けるための合計Lvが個々で決まっている。ティアンの人たちはこれを才能の限界と呼び、ハーケンさんの場合は下級職四つに上級職二つの合計Lv400が限界だ。

 

「ちなみにゲイルは候補として何を考えている?」

「とりあえずは今就いている【従魔師】を【騎兵】に変更して、残りの下級職は【冒険家】と【銃騎士】を考えています」

「上級職は? お前さんはまだもう一つの上級職に就けるだろう?」

「それは【大盾騎士】を考えていますね」

「ふむ・・・」

 

ハーケンさんは俺の言葉を聞いた後に腕を組み考え始めた。しばらく経ち・・・

 

「まずは【従魔師】を【騎兵】に変更するのは賛成だ。【従魔師】もHPとSPが上がるのは悪くないが、戦闘力という意味では【騎兵】に劣るからな」

「やはり、そうですか」

「どちらもモンスターとともに戦うが、あり方は異なる。お前さんの戦闘スタイルだと、【騎兵】の方が相性いいと思うぞ?」

 

熟練の戦闘職であるハーケンさんが言うのなら、【騎兵】は決まりかな?

 

「下級職の【銃騎士】と上級職【大盾騎士】も選択は悪くない。特に【大盾騎士】はお前さんの戦闘スタイルにマッチしている。【銃騎士】の方は遠距離攻撃という短所を補うという意味では悪くないぞ。しいて不安を上げるのならアルター王国では強力な銃が手に入りにくい点か」

「ドライフには行く予定ですからそこで手に入れますよ」

「それなら問題ないな」

 

【銃騎士】と【大盾騎士】についても太鼓判を押された。さて、あとの【冒険家】については?

 

「最後に【冒険家】についてだが・・・悩ましいな・・・」

「どうかしましたか?」

「いやなに、【冒険家】は旅をするなら確かに就いた方がいいジョブだ。《殺気感知》や《危険感知》などの汎用スキルは旅には必須と言っていい。ただ、戦闘職というよりは便利職だからな。戦闘力という意味では弱い」

 

確かにそれは気になる。しかし、そこはほかのジョブや最悪【ボルックス】の進化に期待するしかないと思っている。

 

「そこでだ。俺がおすすめするのは【流浪騎士(ストレンジャーナイト)】だ」

「【流浪騎士】?」

「【流浪騎士】は【冒険家】との混合派生職だ。このジョブを簡単に説明すれば、戦闘力のある【冒険家】だ。武器技能スキルを低レベルではあるが覚えて、汎用スキルも覚える。ステータスも【冒険家】よりは高い」

「それだと【戦士】との違いがないような気が?」

「【戦士】は戦闘万能職だから、【流浪騎士】との違いはスキルLvの限界値だな。【戦士】は戦闘スキルメインだが、【流浪騎士】は汎用スキルメインだ。さすがに【冒険家】よりは低いがな」

 

詳しく聞くと【戦士】が覚える汎用スキルは数が少なく、普通にレベル上げをしただけではすべてを覚えることは不可能。反面【流浪騎士】は【冒険家】が覚えた汎用スキルをそのまま低レベルで使える。

 

詳しい数字の差は【戦士】の例えば《看破》のスキルLvは2までだが、【流浪騎士】なら3までアップする。一つしか違わないが、その一つの差はでかい。

 

ステータスも高いみたいだし悩み続けるわけにもいかないからこれに就いてみるか。

 

「相談ありがとうございました。【流浪騎士】に就いてみます」

「そうか。それはありがたいな。俺も【流浪騎士】に就いてるんだが、他に就いている奴はなかなかいなくてな? 同じジョブに就いた者が増えるのはうれしいものだ」

 

なるほど。自分が就いていて有用性を確認済みなのか。その後に俺はハーケンさんと訓練を再開。訓練が終わった後に俺は【冒険家】に転職し、その後に騎士団詰め所にあるクリスタルで【流浪騎士】に就いた。

 

そのまま、セーブポイントの中央闘技場の噴水で【冒険家】をジョブからリセット。しばらくは【流浪騎士】をレベル上げだな。

 




ちなみに三兄弟はアニバーサリーイベントはちょっと参加しただけです。ゲームイベントにリアルの用事が重なることはよくあることです。

あと、前話で説明できなかった【銃騎士】について。

【銃騎士】は【騎士】と【銃士】に就いて初めてなれる混合職。ステータスはSTRの代わりにDEXが伸びます。銃を扱う関係上ね。

【流浪騎士】も【騎士】と【冒険家】に就いてなれる混合職。【戦士】との違いは戦闘重視か汎用スキル重視かの違い。【流浪騎士】は《剣技能》などのスキルを覚えるけど、アクティブスキルは覚えず技能スキルも低レベルで、【冒険家】よりちょっとは戦えるって程度。

【銃騎士】も【流浪騎士】も作者が考えたジョブです。一応上級職も考えていて、【銃騎士】は【銃剣騎士(ガンソード・ナイト)】 【流浪騎士】は【自由騎士(フリー・ナイト)

上級職は一応考えているだけで本編に出るかはわからない。あと、【自由騎士】のルビはフリーダム・ナイトと悩んだけど、どこぞの機動戦士のイメージが強すぎるのでNG


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第三十三話 カンスト目指してLv上げ

  ◇  【大剣士(バスターソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

今日は久々に兄弟全員が集まって、狩りに行く予定だ。最近は俺以外は仕事が忙しくてログインタイミングが合わなかったからな。

 

【大剣士】に転職してからは、同じジョブに就いているティアンの人に依頼として訓練をしてもらっていた。やはり、リアルなこのゲームでは技術もしっかり学ばないとな。

 

ちなみに、訓練では【ディセンブル】は使わずに別のバスターソードを使っていた。装備品としての性能が違いすぎて訓練では使用できなかったよ。もっぱら知り合いと狩りに行くときに使用していたわ。

 

狩りに使用して改めてこの装備の凄さがわかったぜ。装備するだけでSTRとENDが40%も上がり、攻撃力と防御力も高い。装備スキルも便利すぎる。

 

《血晶操刃》は本当に刃であれば斧や鉈のような形状になれるし、純粋に刃を長くすることも可能。片刃両刃も自由自在。難点はMPとSP両方消費なのと消費量が多い点かね?

 

《晶毒》に関しては上記のスキルの消費量の関係で敵が【毒】になる確率は低い。まぁ、なるかもしれないだけでも全然違うか。

 

今では俺のメインウェポンとして手放せなくなっている。【ディセンブル】を使用した戦闘では今はメインジョブの関係上、魔法関連のスキルが使用不能だしな。そういう意味でもありがたい。

 

【大剣士】の今のジョブLvは28だし、今日の狩りの結果次第ではカンストまで行くかもな? なんて考えていたら、二人がログインしてきた。

 

「兄貴、待たせたか?」

「そんなに待ってないから気にすんな。二人は準備はいいのか?」

「あ、狩りに行く前に僕のジョブを【狩人】に転職したいんだ」

「じゃあ、狩人ギルドに行くか?」

 

ゲイルの言葉に同意して、全員で狩人ギルドへと向かう。そこで手続きをして、ウッドは【狩人】に転職した。

 

「しばらくは【狩人】でやるけど、これをメインジョブにしている間は【弓士】と【騎兵】系統のスキルの大半が使えないから覚えておいてね?」

「俺も今のメインジョブでは魔術師系統のスキルは使えないぞ」

「じゃあ、今のところはスキル制限がないのは俺だけか?」

 

ゲイルは騎士系統派生下級職【流浪騎士】に就いたってリアルで聞いたな。

 

「じゃあ、狩場はどこにするか・・・」

「冒険者ギルドでクエスト見てから決めようか?」

「それがいいな」

 

というわけで狩場の選択のために冒険者ギルドへ出向き、クエストを選んで俺たちはレベル上げに向かう。

 

 

 

 

  ◇  【狩人(ハンター)】ウッド・アクアバレー

 

 

冒険者ギルドでちょうどよいクエストを見つけて現在、ギデオン西の《メイルズ林道》を進んでいる。なお、受けたクエストの詳細は・・・・

 

難易度:四 【討伐依頼――《メイルズ林道》魔獣:【カースドヴァイパー討伐】】

【報酬:二十万リル】

【《ジャンド草原》の先にある《メイルズ林道》でカースドヴァイパーの目撃情報が多数あり、その討伐を依頼します。なお、この依頼終了の報告は《メイルズ林道》の先にある港町ルレトの冒険者ギルドにお願いしたします】

 

こんな感じ。まず、《メイルズ林道》はギデオンの西の草原《ジャンド草原》の先にある森林ほど多くもなく密度も濃くはない木々が並んでいる綺麗な林道だ。

 

次にカースドヴァイパーは蛇型の魔獣で、噛みついた相手を【呪縛】、【劣化】の状態異常に罹患させて仕留める亜竜級のモンスター。正面からの戦いよりも奇襲や不意打ちをしてくる。

 

依頼終了の報告を西にある港町ルヘトの冒険者ギルドへしなければならないが、それが逆に僕たちが受ける決め手になった。

 

ギデオンの活動も長かったので、そろそろ次の町に行ってみたいなとクエストを探してる途中で話していた時に見つけた依頼だったので、これ幸いと考えて受けたのだ。

 

依頼を受けて、僕とゲイル兄貴はまだ、メインジョブがLv1なので《ジャンド草原》である程度レベル上げを行いながら《メイルズ林道》へと入った。

 

「兄貴たち。左からモンスターが接近中」

『俺の《殺気感知》にも反応してる』

「了解だ」

「グリフとスオウは空中から周りを警戒して。グランは遊撃をお願い」

 

僕の指示に三匹はうなずいて、グリフとスオウは羽ばたいて空中へ。グランは四肢に力を入れて、いつでも走り出せるように準備している。

 

今の僕のメインジョブは【狩人】だからね。グリフに騎乗して発動する強化系のスキルは全部使用不能。なのでグリフにはガードナーとして戦闘に参加してもらっている。

 

グランとスオウも現在の僕の従属キャパシティーでは入りきらない。なのでパーティ枠で参加してもらっている。

キャパシティーを増やすスキルも【狩人】だと使用できないんだよね。

 

弓を構えて矢を番い準備をしていると左の草むらから影が二つ飛び出してきた。飛び出してきた影は太く細長い。よく見ると毒々しい黒紫の色をした結構大きな蛇だ。リアルで見たことはないけどアナコンダってこんなサイズなのかな?

 

『ふん!』

 

草むらからでかい蛇がいきなり襲ってきたら驚くだろうけど、僕の《索敵》スキルとゲイル兄貴の《殺気感知》スキルで、奇襲を察知できたのが相手の運の尽き。

 

ゲイル兄貴が自分を襲い掛かってきた蛇の頭を盾で殴り吹き飛ばした後に、クロス兄貴が頭を切り飛ばした。僕の方はグランが爪で引き裂いた蛇を、地属性魔法の《マッドプール》で身動きを封じた後に頭に矢を命中させた。

 

なお、覚えたばかりのスキルはアクセサリーでスキルレベルを底上げしているので、亜竜級のモンスターでもぎりぎり感知可能だ。旅には必須だと思ってゲイル兄貴と買い込んでたんだ。

 

「しかし、本当に多いみたいだな? 今の奴出てきたのは六度目だぞ?」

『特定のモンスターが大量発生することはあるらしいが、それか?』

「でもギルドの人はまだ時期じゃないって言ってたよ? それにカースドヴァイパーが大量発生したことはないとも」

 

リアルなデンドロではモンスターが大量発生することもあるらしいけど、そういうのって繁殖力が高いモンスターが主で、カースドヴァイパーはそこまで繁殖力は高くないって聞いた。

 

「原因不明なのは気味が悪いが、稼ぎとしてはかなりいいんだ。ドロップ品も多いしな」

「それはそうだけどね・・・」

『気にはなるが、俺たちのジョブ構成では原因究明は難しい。とりあえずは進みながら数を減らそう』

 

こういうモンスターの調査には【研究者】とかのジョブが必要らしいしね。ゲイル兄貴に言われ気持ちを切り替えて僕たちは先へと進んだ。

 

 

 

 

  ◇  【流浪騎士(ストレンジャーナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

俺たちはさらに《メイルズ林道》を進んだが、進めば進むほどカースドヴァイパーの奇襲が増える一方だ。最初の奇襲から十三回も遭遇している。さすがにこれはおかしい。

 

『いくらなんでも異常事態じゃないか?』

「さすがに俺もそんな気がしてきた・・・」

「じゃあ、どうしようか?」

 

俺たちはこの事態を異常と考え始めて、どうするべきかを考える。

 

「もうクエストの討伐数は稼いだだろうし、港町メレトへすぐに向かおう。俺たちだけじゃあ判断できないから冒険者ギルドへ相談しよう」

 

クロス兄貴の言葉に賛成して、急遽予定を変更してこのまま港町へ急行することに。クロス兄貴は素のAGIが俺たち三人の中では一番高いし、俺はリオンに乗るので問題なし。ウッドも《騎乗》は汎用スキルなので【狩人】でも使用できる。

 

こっから先は速さが求められるのでウッドはグランとスオウを【ジュエル】に戻して、俺たちは駆け出した。

 

さすがに俺たちのスピードには対応できないらしく、駆け出してからは奇襲は一切なくなり俺たちは港町ルヘトへ到着した。

 

いきなり猛スピードで現れた俺たちに門番が驚いて持っていた槍を向けた。

 

「何者だ!」

「ギデオンで《メイルズ林道》のカースドヴァイパー討伐の依頼を受けた<マスター>です! カースドヴァイパーの数が多いと判断して、冒険者ギルドへ相談しに来た!」

「討伐依頼? 確かに最近カースドヴァイパーの目撃情報や<マスター>がよくドロップ品を持ってきていたが・・・君たちはどのくらい討伐したんだ?」

「奇襲されたのは十三回。討伐した総数は二十四匹だ」

「なに!?」

 

クロス兄貴が両手を上げて、説明した。奇襲では数がまちまちで一匹や二匹できたこともあった。そして地元の人でもこの数は異常だったらしく、兄貴の言葉を聞いて驚いている。

 

「《真偽判定》にも反応はないな・・・わかった。君たちはすぐに冒険者ギルドへ知らせてくれ。俺はこの事実を通る人に知らせて注意喚起する」

「ご理解感謝します」

「こちらこそ。知らせてくれて感謝する」

 

クロス兄貴と門番の会話の後に俺たちはすぐに冒険者ギルドへ向かう。場所は知らないが、冒険者ギルドなら大通りの目立つ場所にあるはずだ。実際、この町の冒険者ギルドは中央広場の大きな建物だった。

 

その後、冒険者ギルドの受付嬢にも門番と同じ説明をした。やはり、地元でも初めての事態らしく受付嬢は話の途中から驚いて、その後はすぐに行動を開始。

 

冒険者ギルドの責任者に事情を説明しに行き、俺たちの話を周りで聞いていたギルド職員は各施設へと連絡していた。中にはティアンの冒険者に緊急の調査を依頼する職員の姿も。

 

ちなみに<マスター>の大半はゲーマーだからか新たなイベントの気配に興奮しているようだ。中には深刻に考える者もいて、ティアンの冒険者と相談している<マスター>もいた。

 

ようやく落ち着いてきた冒険者ギルドで俺たちは討伐クエストの報告を行うことに。ドロップ品の【宝櫃】を提出して、確認された後に【宝櫃】は俺たちの手元に戻り、報酬として二十五万リルをもらった。

 

「報酬が多いが?」

「お三方の情報は緊急性が高く、非常事態の可能性も否定できません。なので、報酬を増やすことにしました。どうぞお受け取りください」

 

と言うので受け取り、一人十万リルと残りのお金は回復アイテムを買って分けることに。さらにドロップ品である【宝櫃】を開けてみることに。

 

大半は換金アイテムでいくつかは装備アイテムだったが、俺たちには弱すぎる物だったので全部売りに出して、そのお金を全員で分けることに。

 

「やはりかなりの大ごとになったか・・・」

「これからどうしようか?」

『今回のことで協力できるのなら協力するだけさ。それくらいしかできんしな』

 

戦闘職の俺たちにできることは限られているだろうが、それでもやれることがあるはずだしな。俺の言葉に二人もうなずいて今日はここまでとした。



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第三十四話 <エンブリオ>進化

  ◇  【狩人(ハンター)】ウッド・アクアバレー

 

 

僕たちがカースドヴァイパーの大量発生というべき事態を冒険者ギルドへ報告してから、港町ルヘトはその対応を迅速に行った。

 

まずは、《メイルズ林道》を隅々まで調査するためにベテランの冒険者パーティに緊急依頼を出した。これはティアンの人たちが担当し、パーティの中にモンスターの探知や索敵のスキルレベルが高い人たちが依頼を受けて調査に出ている。

 

<マスター>が担当しない理由は単純に信頼と経験の差だろうね。こういうのは冒険者ギルドに長い間貢献してきた人や経験豊富な人が選ばれるものだし。まぁ、そういうことに特化した<エンブリオ>持ちだと話は変わるけど、この町にはそういう<マスター>はいなかったみたい。

 

それに<マスター>は増えているカースドヴァイパーの討伐という役目がある。原因がわからないが今も増え続けているであろう蛇たちを討伐して数を減らさなくてはならないしね。

 

これは緊急の討伐依頼として、実力がある者に冒険者ギルドも声掛けをしていた。討伐報酬も高く、ドロップ品もいつもより高く買い取るとあって受ける<マスター>は多い。

 

中には情報を聞き付け、足を運んできた<マスター>たちもいたくらいだ。ついでにカースドヴァイパーのドロップ品の一つである皮目当てに商人も護衛を連れて買取に来ていた。商魂たくましすぎるね。

 

僕たち兄弟も時間があればログインしてカースドヴァイパーの討伐を繰り返している。そのおかげで僕は【狩人】はあと少しでカンストだ。兄貴二人もそろそろカンストするってリアルで聞いた。

 

多分だけと今日兄弟で集まって狩りする予定があるから、それでカンストまで行くんじゃないかな? そうなれば僕は次のジョブは【弓狩人(ボウ・ハンター)】だね。

 

ゲイル兄貴は【従魔師】をジョブリセをしてから【銃士(ガンナー)】に就いて【銃騎士】に就くらしい。その後は【銃士】を消して【騎兵】に就くって言ってたな。

 

問題はクロス兄貴だよね。いまだにどの下級職に就くか悩んでいるようだし、下級職の選択で魔術師系統の上級職が決まるから悩むのは仕方ない。

 

などと、港町ルヘトの中央広場で考えていたら兄貴たちもログインした。僕は考え事をやめて、兄貴たちに合流する。

 

「今日もよろしくね」

「ああ、こっちこそ頼むな」

「はぁ~下級職どうしたのものか・・・」

 

まだ悩んでるね? 独り言が口から無意識に出るくらいに。

 

「悩みは解決しないか?」

「俺の戦闘スタイルに直結する悩みだからな・・・おろそかにはできん」

「その悩み<エンブリオ>が上級に進化したら解決するんじゃない?」

「そんな単純なら早いとこ進化してほし・・・い?」

 

僕の冗談と願望が半々のセリフにクロス兄貴が答えてる後半に、突如として僕たち三人の左手の甲の紋章が淡く輝いている。その輝きは徐々に強くなっているようだ。

 

「これって・・・もしかして進化?」

「「タイミング良すぎだろう」」

 

僕のつぶやきに兄貴二人のセリフがユニゾンした。

 

 

 

 

  ◇  【大剣士(バスターソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

俺たち三兄弟のエンブリオがついに上級へと進化するようだ。結構長い間進化しなかったが、上級は下級と比べるとかなりの能力らしいから、どういう進化をするか<エンブリオ>も悩んでいたのかね?

 

何はともあれ、進化するのなら歓迎だ。ウッドの言う通り進化すれば俺の悩みが解決するかもしれないしな!

 

そして、輝いていた左手の甲は徐々に輝きを弱めてしばらく経つと収まった。紋章自体には変化はない。というか紋章は最初に刻まれてから変化しないんだったか?

 

「とりあえず、ステータス画面で能力確認しよう」

「だな!」

「楽しみ!」

 

ゲイルの冷静な言葉に俺とウッドはうれしそうにうなずいた。まぁ、冷静に勤めていようとするだけであいつも嬉しいんだろうけどな。

 

現在、三人でステータスを確認中・・・・なるほどこういう能力になったか! これなら俺の悩みも解決するな! ステータス画面に描かれている内容に俺は満足した。

 

「兄貴は悩みを解決できるようだな」

「わかるか?」

「それくらいはね」

「よかったね」

「二人の能力はどうだ」

「俺の方も納得だ。攻撃力不足を補えるかもしれない」

「僕の方は不満なんてなかったから、基礎能力の強化になったよ」

 

それぞれ<エンブリオ>の能力に満足しているようだ。俺たちは討伐依頼を受けてまずはお互いの<エンブリオ>能力の紹介をすることにした。港町ルヘトを囲んでいる壁の近くで俺たちは各自の<エンブリオ>を実際に出して確認もすることに。

 

「まず俺から紹介するな。口で説明するよりはステータス画面を見せたほうが早いだろう」

 

まずは俺から二人に見せることにした。ステータス画面に描かれている<エンブリオ>の能力はこんな感じだ。

 

 

 【吸収魔書 ガルドラボーグ】

 

 TYPE:ワールド・アームズ

 

 装備補正

 

 MP+20%

 

 ステータス補正

 

 

 HP補正:G

 MP補正:D

 SP補正:G

 STR補正:D

 END補正:F

 DEX補正:F

 AGI補正:D

 LUC補正:G

 

 

まず、名称が以前の【吸収魔本】から【吸収魔書】に変化。外見も以前は古めかしいだけの本だったが、今は古めかしいのは変わらないが各所に装飾がされて、そのおかげでアンティークの古書のような感じになった。

 

さらにTYPEもテリトリー・アームズからワールド・アームズに変化。ステータス画面のヘルプで確認したところ、ワールドというのはテリトリーの上位カテゴリーの一つで、純粋な上位互換と書いてある。

 

あとは地味にステータス補正がSTRとAGIがDになった。これが俺にとって一番ありがたい。この補正なら魔術師系統の下級職や上級職になってもある程度は物理ステータスが上がる。

 

スキルの方もレベルが上がったり、新スキルを習得した。

 

 

  《マジック・アブソープション》Lv5 アクティブスキル

  <マスター>の周囲6mに魔法を吸収する結界を構築する。

  吸収された魔法攻撃はMPとして<エンブリオ>に蓄積される。

 

  《マジック・アクセルブースト》Lv1 アクティブスキル

  <マスター>のSTRとAGIを【ガルドラボーグ】のページ5枚を消費して

  20%アップする。

 

 

以前の《マジック・アブソープション》はLv3だったから一気に二つもレベルアップだ。《マジック・アクセルブースト》も今の俺にはありがたい効果だ。

 

【ガルドラボーグ】のステータスを見て二人の反応は・・・・

 

「これ完全に兄貴の悩みを解決する進化だな?」

「そうだね」

 

まぁその通りだろうな。<エンブリオ>の進化がド直球で俺のほしい能力を補った形だ。

 

「おかげで悩みが解決したから俺的にはありがたい。これで他のジョブは魔術師系統にできるからな」

 

俺たち三人はグリフ以外魔法攻撃がないしな。魔法攻撃スキルを増やす意味でもそうしたほうがいいだろうな。

 

「じゃあ、次は進化したグリフを見せるよ」

「やっぱ成長してんのかね?」

「そういう意味でも楽しみだな」

 

進化したグリフがどのように変わったのかワクワクしながら、ウッドは紋章からグリフを呼び出す。

 

「グリフ出てきて」

「グルー!」

 

紋章から出てきたグリフはまず体が大きく成長していた。以前は馬サイズだったが、今は筋肉がより発達し見た目以上に大きく感じる。

 

上半身の鷲部分も色彩が美しい毛並みになっており全体的に美しさとカッコよさが増していた。ただ・・・

 

「グル~!」

「よしよし」

 

頭をウッドにこすりつけ甘える姿は以前と変わらない。ウッドに甘えん坊なところは変わらずこれは性格的な部分だから一生変わらないのかもな。

 

ウッドはグリフが納得するまで構い、グリフが納得したところで俺たちにステータスを見せてくれた。

 

 

 【超翼馬 ヒッホグリフ】

 

 TYPE:ガーディアン・ギア

 

 ステータス補正

 

 

 HP補正:G

 MP補正:F

 SP補正:E

 STR補正:F

 END補正:G

 DEX補正:D

 AGI補正:F

 LUC補正:F

 

 

ステータス補正に変化はないが名称が以前の【鳥獣馬】から【超翼馬】に変わっている。TYPEもチャリオッツ・ガードナーからガーディアン・ギアに変化。

 

ヘルプによるとガーディアンはガードナーの上位カテゴリーの一つでガードナーが単体戦闘力を強化していった場合の進化先とのこと。ほかに、数優先のガードナーでレギオンというのがあるらしい。

 

ギアはチャリオッツの上位カテゴリーの一つで、単純な乗り物としての上位互換。ほかには<マスター>が乗り込む物の追加パーツや強化する効果のアドバンスという上位カテゴリーがあるらしい。

 

ということはグリフはステータス補正より、戦闘力と騎獣としての能力優先の進化をしたということだろう。それは固有スキルのレベルアップと新スキルでも察することができる。

 

 

 《弓騎一体》Lv4 パッシブスキル

 <エンブリオ>に騎乗すると<マスター>のSTRとDEXが50%アップ

 <エンブリオ>の全ステータスも40%アップ

 副次効果として<マスター>に対する拘束系状態異常耐性付与

 

 《ウィンドブレス》Lv4 アクティブスキル

 <エンブリオ>の攻撃スキル。口から不可視の風属性魔法攻撃ブレスを吐く。

 Lv4になったことで、威力が上がり攻撃範囲も広がった。

 

 《ストーム・バレット》Lv1 アクティブスキル

 小さな竜巻状の弾丸を三つ飛ばす。

 MP消費が低めで威力もそこそこ、クールタイムも短い

 

 

既存のスキルがレベルアップしてさらに強力になり、新たなスキルを習得していた。特に《ストーム・バレット》を覚えたのをウッドは喜んでいた。

 

これまでグリフの攻撃スキルは《ウィンドブレス》しかなく、このスキルはここぞという時に使う切り札的な技だ。そのため、普段でも使える使い勝手のいいスキルがあればいいなっと思っていたという。

 

「グリフ、改めてよろしくね?」

「グル!」

 

ウッドの言葉に気を引き締めた凛々しい顔で返事をするグリフ。かっこいい姿だが、直前に見せた甘えん坊な行動でギャップがすさまじい。ある意味グリフらしいともいえるが。

 

次はゲイルの【ボルックス】を見せてもらうとするかね?

 

 

 

 

  ◇  【流浪騎士(ストレンジャーナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

クロス兄貴とウッドのグリフは確実に進化で強化されたようだ。もちろん、俺の【ボルックス】だって強くなっている。

 

「今度は俺の番だな」

「ある意味一番楽しみだぜ」

「そうだね。防具としてのデザインも変わったのかな?」

 

それは俺も気になる。早速お披露目をするとしよう。

 

「装着、【ボルックス】」

「おお? これはまた・・・」

「かっこいいね!」

 

【ボルックス】を装着した俺を見て、二人はそんな言葉を口にした。というかしまったな? 装着するんじゃなくて、ガードナーとして呼び出せば、俺も【ボルックス】を見れたんだ。

 

俺は装着した【ボルックス】を改めて紋章に戻して、ガードナーとして紋章から出した。

 

「ほほう! これはなかなか・・・」

 

俺の目の前には、基本の騎士甲冑をカスタマイズしたような重厚な全身鎧があった。以前の【ボルックス】は武骨なフルプレートアーマーって感じだったからな。

 

だが今は、光沢のある鋼色が艶消しを施してあるように目に優しく重厚な作りながら各所に騎士らしい装飾がされているので騎士が装備するのなら違和感が一切ない。

 

外見を確認できたので、次はステータス画面を二人に見せた。

 

 

 【双騎鎧 ボルックス】

 

 TYPE: ウェポン・ガーディアン

 

 装備補正

 

 防御力+670

 

 ステータス補正

 

 

 HP補正:D

 MP補正:G

 SP補正:E

 STR補正:C

 END補正:C

 DEX補正:E

 AGI補正:E

 LUC補正:G

 

 

【ボルックス】も名称が変化して【双人鎧】だったのが【双騎鎧】に。そして、TYPEがアームズ・ガードナーからウェポン・ガーディアンに変化。

 

ガーディアンはもう知っているからいいとして、ウェポンというのはアームズの上位カテゴリーの一つで兵器運用に特化している場合に変わるとのこと。まぁ、パワードスーツだしな? 兵器と言えば兵器だな。

 

防御力も大幅に上昇して、ステータス補正もSTRとENDがCになった。さらには新たなスキルを二つ覚えた。

 

 

 《ブーステッド・クロス》 パッシブスキル

 【ボルックス】がガーディアン運用時に自動発動する《バトル・シルエット》強化スキル

 ステータスが<マスター>と同等になり、<マスター>が所持しているパッシブスキルが

 【ボルックス】にもリンクする。ただし、効果は半減。

 

 《サンダー・コーティング》Lv1 アクティブスキル

 <マスター>が装備している武器に電気を纏わせて

 1000の固定ダメージと【麻痺】の効果を付与する

 

 

《ブーステッド・クロス》を覚えたことで【ボルックス】の戦闘力が上がった。これで以前よりガーディアン運用する機会も増えるだろう。

 

あと地味に嬉しいのは《サンダー・コーティング》だな。これである程度は攻撃力不足を補えるだろう。二人の感想は・・・

 

「ゲイル兄貴の<エンブリオ>は多機能だよね?」

「そうだな。スキルは戦闘補助とガーディアン運用がほとんどだし、防具としての性能に防御力と耐久値も高めだろうしな」

 

言われてみればその通りだな? 少なくとも二人のエンブリオに比べれば一番多機能だな。

 

「ともかく、全員の能力は数字と文字で確認したんだ。次は実戦を通して確認しよう」

 

クロス兄貴の言葉にうなずいて、俺たちは受けたクエストを達成するために歩き出した。




ついに上級に進化です。ちなみにここまで遅くなったのは<UBM>の戦闘経験が原因です。特にゲイルなんてデスペナしてますしね。

それと三人の<エンブリオ>が同時期に進化するのはこれが最後です。これからは単独行動で別々の経験が増えていく予定です。


余談。三兄弟の<エンブリオ>能力特性。

ゲイルの【ボルックス】の能力特性 機械甲冑性能&自立行動。

機械甲冑性能と防具としての防御力に自立行動ができる能力。さらには戦闘力を補助するスキルなど意外に多芸な<エンブリオ>。

ただし、多芸であるがゆえにリソースが分散してしまい一つ一つの能力はそれに特化している他の<エンブリオ>より低め。

なぜ、一つに特化せずこのようになったかは本編で語られる予定。


クロスの【ガルドラボーグ】の能力特性 魔法吸収&MPタンク

敵味方問わず、結界内に到達または結界内で発動した魔法を吸収し、吸収した魔法はMPとして<エンブリオ>に蓄積させる基本スキル特化。

限定効果なため、相手を選ぶが型にはまれば超強い。MPタンクとして自身の魔法攻撃でMPも貯めることができ、貯まったMPを使用する各種スキルを覚えたため最初に比べると活躍の場は増えた。

ただ、TYPEが初期の段階でテリトリー・アームズだったのでテリトリー単体の場合と比べてリソースが分割される事態に。

さらには本人が物理的な攻撃手段もある【魔法剣士】をメインジョブにし、戦闘経験を積んだことでステータス補正にもリソースを振り、スキルも物理的な方面を強化する物が増えた。

これらの解説も本編で語られる。


ウッドの【ヒッホグリフ】の能力特性 戦闘力&騎乗戦闘

三兄弟の中で一番能力がシンプル。そのためリソース効率が一番よかったりする。

戦闘力と騎乗戦闘にリソースのほとんどを費やし、スキルもその補助が多い。何気に戦闘力で言えば三兄弟で一番高く、ガチンコ戦闘では最も完成度が高い。

その分、特殊なスキルや状態異常、からめ手を使ってくる相手には少々苦戦する。シンプルであるがゆえに、正攻法以外に現在は弱め。

なお、初期の段階でチャリオッツ・ガードナーであった理由は本編で語られる。


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第三十五話 ティアンとのパーティクエスト

  ◇  【流浪騎士(ストレンジャーナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

俺たちの<エンブリオ>が上級である第四形態になったことで戦闘力が劇的に上がり、港町ルヘトで大量発生しているカースドヴァイパー討伐の効率も上がった。

 

まずはクロス兄貴の場合だが、ステータス補正が上がったことで物理的な戦闘力が向上した。これにより剣士系統のアクティブスキルや通常攻撃の威力が上がり、戦闘効率が以前とは段違いに。

 

【ガルドラボーグ】の新しい固有スキル《マジック・アクセルブースト》も現在は10%の強化だが、それでもあるとないとでは大違いだ。使える手札が増えるのはパーティメンバーとしてもありがたい。

 

しかし、いいことばかりではない。《マジック・アクセルブースト》の対価である”ページ5枚消費”は思わぬ落とし穴があった。

 

どうやら、この対価はページに蓄えられたMPを消費するわけではなく本当にページ5枚分を破って文字通り消費する必要があるのだ。

 

これは、クロス兄貴にとっては大きなデメリットだ。【ガルドラボーグ】のMPタンク能力は白紙であるページが黒くなることでMPが溜まる仕様だ。よってページがなくなれば貯められるMPの総量が減る。

 

なお、この破ったページは時間経過で復活することがわかっている。1枚元通りになるのに4時間必要で、5枚が元に戻るには20時間必要ということだ。

 

これが判明してからは、《マジック・アクセルブースト》はここぞという時に使う奥の手という立ち位置になった。

 

次にウッドとグリフについてだが、この二人に関して言えばクロス兄貴のようなことはなかった。新たなスキルの《ストーム・バレット》は問題なく使える。

 

むしろ、使い勝手が良すぎるほどだ。ある程度の威力があり、MP消費も低めで、弾速もかなりのもの。しかも最初に持っていた《弓騎一体》の強化率も増えたことでお互いの戦闘力はますます上がっている。

 

しかも、進化したグリフはおそらく純竜級の戦闘力を持っていると予想している。ま、あくまで純竜級クラスに到達しただけであり、純竜級でもまだ弱いだろうが。それはこれからの進化次第。

 

最後に俺だが、この一言に尽きる「《サンダー・コーティング》便利」と。

 

特に盾に電気が纏わせるのが相性が良すぎる。盾で殴れば追加ダメージで運が良ければ【麻痺】に。しかも盾で相手の攻撃を受ければ【麻痺】になることがある。さすがに攻撃ではないので追加ダメージはないが。

 

地味に追加ダメージである1000固定ダメージも役立っている。確実に1000ダメージが相手に入るというのは助かっている。

 

このスキルを使いやすくするために一度ギデオンに戻って、SPを上げるアクセサリーや自動回復系のアクセサリーを購入したほどだ。お値段は両方合わせて64万リルと高く、最近の収入がなければ危なかったが。

 

そして、現在俺は冒険者ギルドに一人で向かっている。今日は残念ながら二人の予定が合わずに俺しかデンドロにログインできなかったのだ。

 

こればかりは仕方がない。最悪一人で討伐依頼を受けるか、もしくは野良パーティの募集があれば参加すると募集しようか。

 

最近の討伐依頼でジョブも順調に上がっているし、現在の俺のメインジョブは【騎兵(ライダー)】だ。【流浪騎士】もカンストし、俺は予定通り【従魔師】を消し、【銃士】に就き【銃騎士】にも就いた。

 

ただ、残念なことにここルヘトでは銃という武器は入手することはできない。【銃騎士】のレベル上げは不可能と判断して、【銃士】をジョブリセして【騎兵】に就いた。

 

これで俺の下級職のジョブ枠は埋まり、あとは上級職の【大盾騎士】を残すのみ。カンストまではもう少しだな。

 

などと考えながら冒険者ギルドに入ると、受付嬢の一人が俺に気づいて声を上げる。

 

「ゲイルさんちょうどいいところに!」

「何かトラブルですか?」

 

そうカウンターに近づいて聞いてみたが、受付嬢は特に危機感とか緊急の話といった感じではないな?

 

「いえ、そういうわけではないのですが・・・少々困ったことがありまして」

「ふむ・・・とりあえず話だけでも聞きましょう」

 

その後、受付嬢に詳しい話を聞いてみると最近のカースドヴァイパーの大量発生を調査している冒険者パーティに欠員が出たらしい。

 

と言っても、殉職したとかではなく単純に【風邪】に罹ったとのこと。しかもかなり症状が重いらしく、【医者】と【薬師】にそろってしばらくは絶対安静と言われたそうだ。

 

専門家にそう言われれば言う通りにした方がいいだろう。しかし、それで困るのは残りの冒険者メンバーだ。彼らは長年ルヘトで活動していて生活基盤もあるから休むのは問題ないが、今は緊急性が高いであろう依頼をしている最中。

 

さらに悪いことに【風邪】に罹ったメンバーはパーティで最も実力がある壁役。もしも、調査依頼の最中に強敵に出会えば一番矢面に立つパーティの生命線が行動できないというのは痛い。

 

「それを重く見たリーダーのザイマンさんが冒険者ギルドに”どこかに腕のいいタンク役ができる者はいないか? この際信頼できると判断したのなら<マスター>でも構わない”っと聞いてきまして」

「それで俺に?」

「はい・・・お願いできませんか? もちろん報酬は払いますし今日だけで構いません。ギデオンから応援が来る手はずになっているので」

「それでしたら問題ありません。その冒険者パーティーの方たちに会わせてくれませんか?」

 

さすがに俺はよくてもその人たちと実際会って話し合わないとな。

 

「はい、わかりました。彼らは今ギルドマスターと調査地域について話し合っています。ご案内します」

 

そう言うので受付嬢の後に続く。彼女は2階に上がりいくつかある部屋の一つの扉をたたく。

 

「失礼します。受けてくれる<マスター>の方を連れてきました」

「入れ」

 

渋めの声が響き受付嬢が扉を開けるとそこには、屈強な体を服に無理やり収めているような大柄な男に、テーブルを挟んだ対角線上に軽装鎧を着こんだ男性、眼鏡をしている魔術師が着るローブを羽織っている男性にその横でおとなしくしている革製の防具を装備している小柄な女性。

 

最後になぜか入ってからこちらを睨んでいるかなり美人な女性。ついでに言えば胸もかなりでかい。俺が胸に視線を向けたのがわかったのかさらに睨んできた。すいませんね。だけど言い訳するならこれはある意味男の本能です。

 

俺がそんなことを考えていると受付嬢は大柄な男と話してから、部屋を出て行った。そして・・・

 

「まずは来てくれたことを感謝する。俺はここのギルドを預かっているディルスという者だ」

「ゲイル・アクアバレーです」

「名だけは知っている。今回の事態をいち早く教えてくれた<マスター>の一人だからな」

 

まぁ、さすがにトップなら把握しているよな? そのディルスに続いて軽装鎧の男性が話しかけてきた。

 

「私はこのパーティのリーダーをしているザイマンだ。受けてくれて助かるよ」

「まぁ、その前にメンバー全員と話してから判断してくれ。一人すごくこちらを睨んでいるしな」

「アーシア・・・初対面で失礼ですよ?」

「失礼なのはアタシの胸を見たそいつよ」

 

やっぱりバレてたか。

 

「あ~すまない。彼女はあの容姿だから昔からトラブルに悩まされていてな。特に最近は失礼な<マスター>が多くてな」

 

だろうな。彼女の容姿は蜂蜜色の長髪で長身であり、なかなかのプロポーションをしている。リアルだと都会を歩いただけでナンパやスカウトマンが寄ってくるだろうな。

 

「とりあえずは俺がした行為が原因なら頭は下げる。これからパーティを組むかもしれないメンバーだしな」

「・・・アタシはまだ納得してない」

「アーシア、割り切りなさい。壁役をしていたハルスが【風邪】で動けない以上、誰か別の壁役ができる人を入れるしか依頼をする手段がないのですよ」

「調査依頼なんだから壁役なんていらない」

「アーシア、それは本気で言ってるのか?」

 

リーダーであるザイマンがアーシアの言葉に対して怒気を含んだ言葉を口にする。

 

「今回の異常事態はまだ原因が判明していない。もしかしたら純竜級の危険モンスターがいるかもしれないし最悪な場合は<UBM>がいる可能性すらある。たとえそうじゃなくとも不測の事態というのはどういう状況で起こるかわからない。そんな中、戦闘での生命線である壁役がいらないなんて本気で言っているのか?」

「・・・ごめん言いすぎた。ちょっと感情的になってた」

 

さすがに言い過ぎたと理解しているようで彼女はバツが悪そうに謝罪した。

 

「今回はアタシが我慢するけど、あんまりアタシに近寄らないでよ」

 

と言ってもすぐに俺を睨みつけてそんなことを言っているが。

 

「わかった。こちらにも非があるし注意する。とりあえず改めてジョブも含めて自己紹介だ。ゲイル・アクアバレーだ。今のメインジョブは【騎兵】だが、調査に行く前にジョブを切り替えて【重厚騎士】に変えるから安心してくれ」

 

【騎兵】だと、攻撃系のアクティブスキルがいくつか使用不能だからな。万全を期してメインジョブは変えよう。

 

「俺のメインジョブは【剛剣士】だ」

「私はこのパーティの参謀役であるネイソンです。メインジョブは【白氷術師】で主に後衛で援護をしてます」

「私はリリって言います。メインジョブは【高位従魔師】です。うちのモンスターたちで索敵や遊撃を担当しています」

「アタシはアーシアよ・・・メインジョブは【大狩人】よ。主な役割は状態異常攻撃による援護よ」

「普段なら、壁役で俺たちの中で最も合計レベルが高い【鎧巨人】のハルスがいるんだが、聞いていると思うが【風邪】に罹ってな。今日だけだがよろしく頼む」

「ああ、よろしくな」

 

そう言って俺とザイマンは握手を交わした。調査依頼だから俺は戦闘以外ではやることがないが、もしもに備えてだから油断しないように気を引き締めるとしよう。

 

 

自己紹介が済んでギルドマスターとの話し合いで次の調査範囲を決定してから、俺たちは港町を出た。メインジョブを【重厚騎士】に一旦戻して、準備はできたからな。

 

現在、調査地点へと向かって進んでいる。先頭を歩くのはリリのモンスターの【ダークウルフ】だ。真っ黒な毛並みで夜間戦闘が得意で探知系のスキルが豊富な個体だという。

 

さらに上空には怪鳥種である【ハリケーン・ファルコン】がいる。上空からの援護と索敵が主な仕事だ。【高位従魔師】のリリはこの二匹が戦力でサブジョブに【指揮官】に就いてパーティの強化をわずかであってもしているのだとか。

 

なお、【ダークウルフ】の方は従属キャパシティ内だが、【ハリケーン・ファルコン】はパーティ枠を使っている。実力的には亜竜級というのでさすがにキャパシティをオーバーしてしまうとのこと。

 

そんなメンバーで進んでいるのだが、早々に異常にメンバーが気付く。

 

「おかしいな・・・今日はこれまで奇襲が一切ないぞ」

「ええ、これはいよいよ当たりを引きましたかね?」

 

ザイマンとネイソンはここまでカースドヴァイパーの奇襲がないことに原因に近づいていると判断。

 

「全員、周囲を最大警戒してください。いつ何が起こるかわかりません」

 

ネイソンが全員に指示を出す。リーダーはザイマンだが、普段の指示出しはネイソンが担当しリーダーのザイマンは最終意思決定と状況の見極めが主な仕事だという。

 

警戒をより強めた俺たちは《メイルズ林道》の林を突き進み、とある山の境界線まで向かっている。港町ルヘトの北側にあるその山は《クロック山林》と呼ばれ、木材が豊富だが最低でも亜竜級のモンスターがいる上級者向けの場所だ。

 

今回の異常事態はその山林からモンスターが降りてきたか、<UBM>が誕生したと冒険者ギルドは見ているようだ。

 

ザイマンたちのこの異常状態が発覚してからの調査で、そこまで絞り込み今回山林と林道の境界線まで出向き調べることになったと聞いた。

 

慎重に警戒しながら進み、ようやく《クロック山林》の麓へとやってきた。ここから見る限り、王都の狩場の一つである《ノズ森林》よりも木の密度はそれほどでもないようだ。山だからアップダウンが激しそうだが。

 

「よし、ここで辺りに何か異常がないか調べるぞ。すでに異常と言っていい状況だから単独行動はせずに全員で行動しよう。リリ、君のモンスターたちは何かに反応しているか」

「特に何も。クロ君とハリちゃんは特に感じてないみたい」

 

クロ君とは【ダークウルフ】のハリちゃんとは【ハリケーン・ファルコン】の名前だ。名前でわかると思うがクロ君は男の子で、ハリちゃんは女の子だ。

 

「ただ、二人とも辺りをすごく警戒している。彼らの感覚でも何かあるみたいだよ」

「そうか・・・これはますます怪しくなってきたな。全員気を抜くなよ?」

「了解です」

「ああ」

「わかったわ・・・ちょっとそこの<マスター>さん? あたしに近づきすぎよ?」

「アーシア・・・こんな時に何を・・・」

『俺は気にして! アーシア!』

「え!?」

 

突如として俺の《殺気感知》と《危険察知》が反応し、【ボルックス】の攻撃感知のアラームが鳴り響いた。上級に進化したことで【ボルックス】の攻撃察知は俺だけでなくパーティメンバーに当たる攻撃も察知するようになった。

 

アラームの種類と二つのスキルが反応しているのはアーシアの後ろだ。とっさに俺は駆け出してアーシアを左腕を伸ばし突き飛ばした。緊急事態と思ったので、手加減できずにアーシアは近くにあった木に激突してしまった。

 

「きゃ! ちょっと!なにす・・・え?」

 

それでもベテラン冒険者であり、合計レベルも結構高かったのが幸いしてそれほどダメージは受けなかったが。文句を言おうとしたアーシアだったが、俺に視線を向けると目の前の状況に思考が停止した。

 

俺の左腕が毒々しい紫色の液体を浴びて、溶けかけている状況に。

 

「「ゲイル!?」」

『く!』

 

幸い俺は痛覚をオフにしているので、痛みは感じないのだが目の前で溶けている左腕を見るのは恐怖を誘う。だが、それでも気をしっかり持ち【ボルックス】を紋章に戻して、左肩まで溶けるのを阻止するために俺は右腕に片手剣を《瞬間装備》で装備し、左腕を切り飛ばした!

 

切り飛ばされた左腕はそのままものすごい速さで溶けて消えた。

 

「ゲイル、大丈・・」

「周囲を最大警戒しろ! 何か居るぞ!」

 

俺を心配して近づくザイマンに俺は大声でそれよりもやることを叫んだ。

 

「ゲイルの言う通りです! リリ!」

「はい! クロ君は《ダークアロー》! ハリちゃんは《ウィンドブラスト》!」

 

ネイソンはゲイルの言葉を聞き、リリ名を呼ぶ。それに応える形でリリは自身のモンスターに攻撃を指示。クロ君はアーシアとゲイル側へ攻撃を。ハリちゃんはその反対側に攻撃を行うが・・・

 

「手応えがないそうです!」

「ならば、”凍える凍土よ! 我が敵を凍てつかせよ! 《フリージング》!”」

 

ネイソンは自らのスキルを《詠唱》、《範囲拡大》と併用して自身の周りの広範囲を白く染めた。しかし、これは攻撃のための行為ではなく、ダメージは低すぎるほどだ。このスキルの目的は・・・

 

「SYAAAAA」

「そこでしたか・・・」

 

正体不明の敵をあぶりだすため。急に温度が下がったことで変化に対応できなかった蛇型モンスターは姿を現した。

 

そのモンスターはカースドヴァイパーよりも大型で三倍はある大蛇型で、体は赤黒くところどころに黒紫色のオーラが見える。認識したことで頭上に名称を確認。名を【ハイエンド・ディザスター・ドラグヴァイパー】

 

「な!? ハイエンドだと!?」

「純竜級最上位クラス・・・」

「うそでしょ・・・」

 

彼らが驚いたのは名称にある【ハイエンド】が原因だ。確か、純竜級以上のモンスターのその種族の中で一握りにしか付かない最上級の証だったか?

 

「それに聞いたことがないモンスターですね・・・」

「ネルソン、それは本当か?」

「おそらくは新種でしょう。もしかしたら下位のモンスターを大量に生むことができる種かもしれません。そう考えれば、今回の事態の説明ができます」

 

ザイマンが剣を構え、その後ろでネルソンが魔法をいつでも使えるように準備をしている中で、俺はリリに回復アイテムを使用してもらっていた。

 

「出血は止まったけど・・・」

「十分だ。ありがとう」

「だ、大丈夫なの?」

「<マスター>は痛覚すら無くすことができるんだよ。とは言え、片腕しかない以上戦力は半減だな」

 

突き飛ばしたアーシアも心配そうにこちらをうかがうが、今は俺のことよりもこの状況をどうするかだな。

 

「【ボルックス】ガーディアン運用」

 

とりあえず、戦力を補うために【ボルックス】をガーディアン状態で紋章から出すことに。【ボルックス】も左腕部分が溶けかけているが、動かすのに支障はないようだ。

 

「え? これってあなたの防具じゃ?」

「これが俺の<エンブリオ>でモンスターとして自立行動もできるんだよ。【ボルックス】見ての通り俺は片腕を失ってる。お前は攻撃に専念してくれ」

 

指示を出した後に俺は【アイテムボックス】から片手剣を二つ取り出して、地面に刺す。それから【ボルックス】が剣を抜き、俺をかばうように前に出る。俺も右腕で持っている盾の中で一番大きなものを《瞬間装備》して、戦闘に備えるが・・・

 

「ザイマン、ネイソン。正直に答えてくれ。こいつに勝てるか?」

「・・・正直厳しいだろうな」

「ですね・・・相手は何をしてくるかわからない新種のモンスター。こちらも万全なメンバーではない。とはいっても万全だったら勝てるのかと言われても難しいですね」

「そうか・・・」

 

その言葉を聞いて、俺は決断した。

 

「ここは俺が時間を稼ぐ。皆はこいつのことを冒険者ギルドに報告してくれ」

「な!?」

「・・・・いいんですね?」

「ああ、君ならそれが最良だとわかるだろう?」

「・・・すいません。あと、ありがとう」

「おい! ネイソン!」

 

ザイマンはまだ何か言いたいようだが、目の前の純竜が動き出し、事態は動く。

 

「行け!」

「ザイマン! 行きますよ! アーシアとリリもいいですね!」

「う、うん・・・」

「・・・わかった」

「ああ、くそ!」

 

ネイソン以外のメンバーは戸惑っていたが、それでも普段から指示を出しているネイソンの言葉に従い、この場から離れていった。

 

「さて・・・蛇公。時間稼ぎに付き合ってもらうぞ! 俺たちはしつこいぞ!」

 

こうして俺の時間稼ぎの純竜級との戦闘は始まった。

 

 

 

 

「ネイソン! なぜ! ゲイルに時間稼ぎを!」

「それが最良の選択だからです・・・」

「どこかだ! 今日だけとはいえメンバーに死ねと言っているんだぞ!」

 

ネイソンの指示が納得できずにザイマンは噛みつくが、彼は重要なことを忘れている。

 

「彼は<マスター>ですよ?」

「あ・・・」

「・・・」

「それがどうした!」

 

アーシアは今思い出し、リリはネイソンの考えに気付いていた。

 

「お忘れですか? <マスター>は死んでも三日後にはこの世界に帰ってくることができるのですよ」

「!」

 

そう、<マスター>ならたとえ死んでも三日間のログイン制限で済むのだ。そういう意味ではあの場でゲイルが時間稼ぎをするのは理にかなっている。理屈上では。

 

「だからって! 死ねことを前提にするのは間違ってるだろう!」

「私だってこんなことはしたくありませんよ!」

「「「!?」」」

 

ネイソンは彼には珍しく声を荒らげている。

 

「ですが、今最も重要なのはあのモンスターがいたという情報を冒険者ギルドへ届けることです! 全滅した場合でも彼が三日後には情報を届けてくれるでしょうが、その間に港町ルヘトが無事である保証はありません!」

「!」

「それは・・・」

「そうだね・・・」

 

三日間。この間に何が起こるかもしれない不安要素。確かにネルソンの言うことは至極もっともな話だ。

 

「彼が信頼できるであろうことは私も一緒に行動して、確信しています。いくら死んでも蘇るからと言って死ぬことを前提にされることは<マスター>とて嫌うでしょう。それでも彼は自分から時間稼ぎをすると言ってくれました。ならば、私たちはそれに答えるべきではないですか?」

「・・・そうだな。すまないネルソン」

「わかってくれればいいのです。急ぎましょう」

 

ネルソンの言葉を聞いてメンバーは港町ルヘトへと急いで戻る。

 

「ゲイル・・・」

 

アーシアはゲイルが時間稼ぎしている方角を見て、何かを考えている様子だが、すぐに切り替えて足を速める。



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第三十六話 死闘とそれから・・・

  ◇  【重厚騎士(ソリッド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

ザイマンたちを逃がすために俺は純竜級最上位クラスのモンスター【ハイエンド・ディザスター・ドラグヴァイパー】との戦闘を続けていた。

 

最も、俺はメンバーであるアーシアと言う女性をかばって、左腕が溶かされて、肩まで溶けるのを阻止するために切り飛ばした。

 

現在は【ボルックス】をガーディアン運用して、俺も防御重視で【白銀式甲冑 シルベスタ】と俺が持っている中で最も防御力が高くでかい盾を右腕に持っている。盾の場合はそれだけで特殊な効果はないが。

 

【ボルックス】が剣を左右に持って、攻撃役となり俺が盾で相手を注意を引き付けているのだが、俺が重傷を負っていることを差し引いても、目の前の奴はかなり手ごわい。

 

「SYAAAA!」

「く!」

 

目の前の蛇は多種多様な状態異常を与える毒液を吐いてくるのだ。わかっているだけでも相手を溶かす溶解液に【毒】、【麻痺】、【劣化】、【出血】など厄介すぎる!

 

幸い、毒液自体の速さがそれほどでもないことと、【シルベスタ】の装備スキル《重量軽減》のおかげで早めに動くことができるので回避は難しくない。そのため、俺たちの戦闘に巻き込まれる哀れなモンスターが毒液を浴びてどんなものかが判明したわけだが。

 

俺自身が重傷を負っていることが蛇もわかっているらしく、先ほどから攻撃は俺にしかしてこない。純竜級の攻撃である尾を使った払いや叩きつけを何とか受けたり、弾くことができているのはこれまでの技術訓練と<UBM>と言う純竜級以上の敵との交戦経験のおかげだろう。

 

それ以外では【ボルックス】の存在も大きい。現在の【ボルックス】の戦闘力は《ブーステッド・クロス》のおかげでかなり向上している。

 

ステータスは俺と同等になり、俺が持つパッシブスキルの効果も半分だが、機能している。さらには《バースト・イグニション》の効果で俺が戦闘力を上げるアクティブスキルを使用すればその効果もリンクする。

 

【ボルックス】が攻撃するタイミングで俺が攻撃力やSTRが上がるアクティブスキルを使用しながら、戦闘を継続している。

 

それでも、攻撃力不足は否めず相手のHPを削りきることはできそうにない。時間稼ぎが目的だが、負けるつもりで戦闘をしているわけではない。逆転するには相手の急所に剣を突き刺すしかないか?

 

などと考えていると、目の前の【ドラグヴァイパー】は新たな行動に出た。太い体がいきなり膨らみ徐々に頭へと移動して次の瞬間には大口を開けて、そこから大量の【カースドヴァイパー】が飛び出してきたのだ!

 

「なぁ!?」

 

いきなりの事態にとっさの行動できずに、俺と【ボルックス】は大量の【カースドヴァイパー】に巻き付かれ、動きを封じられた。特に俺は首などを噛まれて【呪縛】と【劣化】の状態異常になってしまった。

 

そんな俺たちに【ドラグヴァイパー】は口から大量の毒液を吐き出してそれを浴び続けた俺たちは一瞬で崩れ落ちた。

 

 

 【致死ダメージ】

 【パーティ全滅】

 【蘇生不可能】

 【デスペナルティ:ログイン制限24h】

 

 

デスペナになり、現実に戻った俺は一言・・・

 

「いやな死に方したぜ・・・」

 

大量の蛇に巻き付かれるわ、噛まれるわ、毒液を大量に浴びせられるとかなんて死に方だ・・・それにあの蛇自分が生み出した子供ごとやりやがった。

 

正直自分の手でリベンジがしたいが、ザイマンたちが冒険者ギルドに報告したら、相性のいい<エンブリオ>を持った<マスター>が討伐するよな~

 

とりあえずは流兄貴か芳樹に電話でもするか・・・デスペナになったことと。冒険者ギルドに奴のことを少しでも教えないとな・・・

 

 

 

 

  ◇  【大剣士(バスターソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

俺は仕事終わりにデンドロにログインした。本来なら今日はさっさと明日に備えて寝るつもりだったが、リアルで高次からの電話でデスペナになったと聞き、詳しいことを聞いた後デンドロ内が気になり、少しのつもりでログインした。

 

俺は冒険者ギルドへ向かい、ゲイルと一緒だったパーティが無事なのか確かめることに。冒険者ギルドへ入ると俺に気付いたギルド職員の男性が声を掛けてきた。

 

「クロスさん! ちょうどよかった! 実はゲイルさんが」

「本人から向こうで聞いた。それで、ゲイルとパーティを組んでいた人たちは?」

「全員無事です。今ギルドマスターに報告をしています」

 

無事だったか。ゲイルの時間稼ぎが無駄にならずに済んでよかった・・・そう考えた直後にギルドの二階から数人降りてきた。多分あの中の何人かがパーティメンバーだろう。

 

先頭に居る男が階段の途中で立ち止まり、ギルドに響く声を発した。

 

「この場にいる者たちは聞いてくれ! 今この町で起こっているモンスターの大量発生の原因が判明した! 原因は純竜級モンスター【ハイエンド・ディザスター・ドラグヴァイパー】と言う珍しい種族だ! ヴァイパーの名で勘違いしそうだが、このモンスターは魔獣ではなくドラゴンの一体だ。正確に区別するなら蛇竜と言うべき三大竜種とは別のドラゴンだ! かなり珍しい個体で冒険者ギルドのモンスター図鑑にも発見例は過去に3度ある程度であり、その三度とも発見したのは【ディザスター・ドラグヴァイパー】だそうだ! 今回の奴は【ハイエンド】の名を持つ! 純竜級でも最上位の一握りのモンスターにしか与えられない名称だ!」

 

これらのことを聞いたこの場にいる者たちはティアンの人たちは驚き慌て、<マスター>は喜んでいる。おそらく倒した後のことを想像しているのだろ。

 

「よって! 今回のこのモンスター討伐は冒険者ギルドが依頼した者たち以外は原則禁止とする! 目撃したり遭遇したとしても決して戦わずに生き残ることと撤退に徹してほしい!」

 

次に男性が口にした言葉に<マスター>たちから非難の声が上がった。これを予想していたらしく男性は次の言葉を口にする。

 

「【ハイエンド】の名を与えられたモンスターは戦闘を重ねると<UBM>になる可能性がある! これ以上奴の戦闘力が増すような真似はするべきでない!  この町の安全のためにどうか協力していただきたい!」

 

その情報を与えられて何人かの<マスター>は口を閉じて考え出した。ギデオンでの<UBM>の騒ぎはアルター王国の住人ならまだ覚えている人も多いだろうから、それを踏まえて考え込んだらしい。

 

ごく少数だが、そんなの関係ないねと言いたげな雰囲気の<マスター>がいるようだが。

 

「なお、既に報告を聞き腕利きの冒険者に奴の監視を頼んでいる! いないとは思うが奴と戦おうなどと考えている者で実行した奴は指名手配するからな!」

 

この言葉でほとんどの<マスター>が諦めたようだ。すべてではないので油断はできないが。

 

「カースドヴァイパーの討伐依頼は続けてもらいたいのでそちらも頑張ってほしい! 私からは以上だ!」

 

話し終わった男性に俺に話しかけたギルド職員が駆け寄り何か話している。すると、男性は降りて俺の前までやってきた。

 

「君がゲイルのパーティメンバーで兄弟のクロスか?」

「ああ。あなたは?」

「このギルド支部を任されているディルスという者だ。君の兄弟のおかげで彼らが助かり、貴重な情報もすぐに持ち帰ることができた。そのことで感謝したくてな。本当にありがとう」

 

そういうと男性は深く頭を下げて、後ろに居たおそらくはゲイルが助けたパーティも深く頭を下げた。

 

「感謝なら本人が帰ってきたときにでも言ってやってくれ。俺は本人から話を聞いて気になったからここに居るだけだ」

「そうか・・・わかった。本人に伝えるとしよう」

 

そう言ってディルスは職員とともに奥へと消えた。おそらくは原因のモンスターを誰に討伐依頼を頼むか相談だろうな。などと考えていると今度はディルスの後ろに居た人たちが話しかけてきた。

 

「あ、あの!」

「ん?」

 

だが、話しかけてきた軽装鎧を着た男性はなかなか続きを口にしない。それを見かねたのか魔術師のような男性が助け船を出す。

 

「すいません。我々はゲイルさんのおかげで助かった冒険者パーティです。リーダーは謝罪したくて声を掛けたんですよ」

「謝罪?」

 

はて? 何かしたっけか?

 

「死んでも三日後にはこの世界に戻ってこれるとはいえ、彼に死ぬであろう時間稼ぎをさせてしまいましたから。その謝罪です。本当に申し訳ありません」

 

そう言って男性は頭を下げ、他のメンバーもそれに続く。特にリーダーと呼ばれた男性と美人で胸が大きい女性が何やら真剣に謝罪している。

 

「本人は全然気にしてないぞ? せいぜいあの蛇にリベンジできないかもしれないから、悔しがってるくらいだ」

「そんなもの・・・なんですか?」

「ゲイルだからと言うのももちろんあるだろうが、<マスター>にとってはここで死ぬというのは正直軽い。あんたたちティアンには悪いがそんなに深く考えなくてもいいぞ?」

 

なんせ、俺たち<マスター>にはせいぜいリアルで24時間でこちらにとっては三日間のログイン制限があるだけだからな。かなりの損害になる場合以外ではそれほど重く考えないのが大半だろう。

 

そんな俺の答えに目の前のパーティは驚いているようだ。

 

「まぁ、どうしてもそちらの気が済まないというのなら本人が帰ってきたときにでも何かお礼をしてやればいいさ。今回の件で装備の大半も失ったらしいしな」

 

なんせその【ハイエンド】の蛇は装備品を溶かす溶解液を吐いてきて、ゲイルの持ち物である盾と剣と気に入っていた全身鎧を溶かしたらしいし。デスペナでのランダムドロップも考えると結構な被害だろうな。

 

「わかった、そうするよ。ありがとう」

 

俺の言葉でいろいろ吹っ切れたのか、リーダーと呼ばれた男性はやっと言葉を口にした。

 

「あ、あの!」

「ん? 今度はあんたか美人さん」

「ゲ、ゲイルは本当に三日後には帰ってくるのよね?」

 

俺の言葉は無視ですか・・・

 

「ああ、本当だよ。なんだあいつに惚れたの?」

「そ、そそそそんなわけないじゃない! 何を言ってんの!?」

 

あれ? 冗談のつもりで言ったんだが、顔を赤くしてこの反応・・・そうか、弟にも春が来たか・・・相手はゲームのNPCだけど。

 

その反応を見た他のメンバーからもつつかれて、その女性は慌てることになり、最終的に怒ってメンバー全員を追いかけだした。俺はそれを無視して、ギルド職員にゲイルから聞いた【ドラグヴァイパー】の攻撃手段を話した。

 

そして、ゲイルがデスペナになって二日目に【ハイエンド・ディザスター・ドラグヴァイパー】は情報を集めて相性のいい<エンブリオ>をもつ<マスター>に討伐されてこの件は解決した。




正直な話、三兄弟の個人での戦闘力はゲイルが一番低かったりします。壁役としては優秀ですよ?
ですが、【ボルックス】の能力が多機能で一点特化の<エンブリオ>に比べると能力が一段下がっているのは否めません。
今のところ、全スキルでも一発逆転するようなものもありませんしね。

今回の戦闘での経験は無駄にはなりませんけどね・・・


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第三十七話 ザイマンたちのお礼

  ◇  【狩人(ハンター)】ウッド・アクアバレー

 

 

高次兄貴から電話でデスペナになったと聞いてから、デスペナ明けまで僕はデンドロにログインできなかった。いろいろやることが重なってしまい、時間が作れなかったんだよね。

 

時間ができてログインするころには、三人ともログインできるようになり、現在はゲイル兄貴から事情を詳しく聞いているところ。電話では軽く話をしただけだから。

 

「・・・と言うわけでザイマンたちを逃がすためにデスペナ覚悟で時間稼ぎをしたんだよ」

「兄貴も無茶するね?」

「そうだぞ? そのパーティメンバーの人たちはすごく心配してたぞ?」

 

クロス兄貴は電話で気になって少しだけログインして彼らに出会ったそうだ。

 

「あの時はベストな選択だと思ったが、ティアンの人たちと<マスター(俺たち)>とではそこら辺の価値観の違いはやっぱりあるか・・・」

「それはそうだろう」

「僕らにとってはゲームでもティアンの人たちは違うからね・・・」

 

彼らにとってはここでの生活は一生の人生そのものだ。死んだらそれまでだし、死んでも生き返る蘇生魔法なんてものはデンドロには存在しない。せいぜい死に瀕した状態からの復活くらいだ。完全に命が絶たれた場合はそれまでだ。

 

「彼らにはこの後にでも会うことにするよ」

「それがいいよ?」

「じゃあ、次はゲイルの装備を新調しなきゃな」

「ああ・・・はぁ~~」

 

クロス兄貴の言葉にゲイル兄貴は深い溜息を吐いた。彼らを守るためにデスペナになった代償はログイン制限だけではなかった。

 

戦闘で使った盾と【ボルックス】をガーディアン運用するときに使う全身鎧が壊れて、さらには予備の盾もいくつかデスペナの際のランダムドロップで失ったと言っていた。

 

【破岩盾 バルギグス】は特典武具なので無事だが、この盾より防御力が高く強力な装備スキルを持つ盾はそれなりにゲイル兄貴は持っていた。

 

【バルギグス】も強力ではあるんだけど、対人戦闘に特化してるからね。僕らも合計レベルは300に迫っているから、モンスター戦闘に有用な装備も充実してきた。

 

ゲイル兄貴は大量に失ったからそれをどうするかを今から話し合う。

 

「一度ギデオンに戻るか?」

「戻ったとしても、以前と同じくらい揃えるにはリルが足らん。今回のクエストの収入を足してもだ」

「収支マイナスになっちゃったわけね」

「<UBM>を倒したから、純竜級を甘く見てたわ。高い授業料になった・・・」

 

そう言ってゲイル兄貴は肩を落とす。それは仕方ないんじゃないかな? 相手は状態異常を使って相手を倒すタイプみたいだし、ゲイル兄貴とは相性が悪かったんだよ。

 

「とりあえず、このままじゃレベル上げ出来ないから最低でも盾を手に入れたいところだ」

「じゃあ、武器屋でも行ってみるか」

「そうだね」

 

話し合いを切り上げて僕たちは武器屋へと向かおうとした。そんな僕たちに声を掛けてくる人たちが現れた。

 

「ゲイル! 探したぞ!」

「あいつがそうなのか?」

「はい」

 

声のした方に振り向くとそこには男性三人と女性二人がゲイル兄貴を見て、ほっとしている。ひょっとしてこの人たちが?

 

「ザイマンたちか。無事でよかったよ」

「ゲイルのおかげだ。君が時間稼ぎを自ら買って出てくれたからだ」

「その節はありがとうございます」

「あ、ありがとう・・・」

「・・・・おかげで助かった」

 

そう口々にゲイル兄貴に感謝する四人。なんか美人な女性はゲイル兄貴をちらちら見つつそわそわしている。むむ? この反応は・・・

 

なんて考えていると最後の一人である大男がゲイル兄貴に近づいた。

 

「ザイマンたちを助けてくれてありがとよ。俺の代役があんたでよかったぜ」

「ああ、もしかしてあなたが?」

「オウ、俺がこのパーティで壁役をしている【鎧巨人】のハンスだ。【風邪】で寝込んでたがやっと回復してな」

 

ハンスと言う男性はかなり大きく重圧な全身鎧を着こんでいる。今は顔が見えるのでヘルムはしていないけど。

 

「でだ。今日あんたを探していたのはお礼がしたくてな? 何か困っていることはないか? 俺たちで力になれるかどうかはわからんがザイマンたちを助けてくれたんだ。協力させてくれ」

 

ハンスの言葉にその後ろのパーティメンバー全員がうなずいた。

 

「だったら、教えてほしいことがあるんだ」

「お? なんだ?」

「実は、【ドラグヴァイパー】との戦闘で装備のほとんどを失ってしまってな。この町で盾と全身鎧が手に入る店はないだろうか? ここが生活基盤の君たちなら詳しいと思うが」

 

ゲイル兄貴がハンスさんにそう聞いている。なるほど。地元民なら詳しいかもしれないし、聞いてみるのはありだね。

 

「それなら、腕の確かな【高位鎧職人】がいるぜ! サブで【鍛冶師】にも就いていて鎧のほかに盾も作っている防具の専門家だ! 案内するから付いて来てくれ!」

 

そう言うハンスさんが大股で歩き出したので僕たちは慌ててついていくことに。

 

 

 

  ◇  【重厚騎士(ソリッド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

ハンスさんの案内で町を進んでいるのだが、先ほどから進む場所は中心街から外れて路地裏と言うべき場所を進んでいる。

 

「こんなところに職人がいるのか?」

「本人曰く、中心街だと騒がしくて作業に集中できんそうだ」

「俺たちも世話になっている人だが、変わり者なんだ」

「ご本人も常々変人だなんておっしゃってますね。それ以外にも理由はあって、工房と店が一緒で中心街や住宅密集地だとご近所に迷惑になりますからね」

 

ああ、なるほど。それは確かに問題だな。

 

「まぁ! 本人は頑なに認めてねえけどな! お! ついたぜ。ここがブルバスさんの工房兼店だ」

 

ハンスさんが指し示して所には家二軒つなげたような店があり、入り口に防具専門店と書かれている看板があった。

 

「ブルバス親方! 客を連れてきたが、今いるか!」

「そんな大きな声を出すんじゃない! いつも言っとるだろうが!」

 

ハンスさんの大声に文句の声で答えた人は店の入り口から出てきた。その人はハンスさんより一回り小さいが全身が筋肉でガッチガチであり、それほど小さいという印象がなかった。ついでに、頭は丸坊主。剥げているわけではない。

 

「で、客を連れてきたというがどこのどいつだ?」

「ああ、彼だ。俺が【風邪】で寝込んでいる間パーティに入って、仲間の窮地を救ってくれたんだ」

「ほう?」

「どうも、初めまして」

 

とりあえず俺は初対面なので挨拶して頭を下げた。そんな俺をブルバスさんは興味深そうに見ていた。結構こわもての顔だから睨まれていると勘違いしそうだが。

 

「なるほど、町で噂になっとったモンスター大量発生とその原因の純竜級の発見で活躍したと言う<マスター>がいたと聞いたが、お前さんか」

「モンスターの報告とザイマンたちを逃がすのに殿をしたのは確かですが・・・」

「なぜ、そんな真似をした? <マスター>が死んでも三日後にはこの世界に来れることは知っとるが、だからと言ってノーリスクではあるまい?」

「仲間を助けることがそんなに不思議なことですか?」

 

俺の言葉を聞いて、ブルバスさんは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になった。しばらくすると・・・・

 

「はっはっは!! なるほど。どうやらお前さんはこれまで来た<マスター>とは違うようだ。気に入った! 店に入れ! わしの作品を売ってやる!」

 

何やら気に入られたようだ。何はともあれ、店へと入り、飾られている商品を見ることに。

 

「へぇ~!」

「すごい」

「見事だね・・・」

 

そこに飾ってある全身鎧や盾は《鑑定眼》がなくとも、一級品だとわかるようなものばかりだった。と言うか、立派すぎて装備可能レベルが心配だな・・・

 

「何でも好きなものを選んでくれ。払いは俺たちが持つ」

「それなら、半額にしといてやるぞ? 町を救ってくれたお礼とザイマンたちを命がけで助けてくれた礼だ」

 

悪いと思ったが、彼らにしてみれば命を助けたお礼なのだし断るのはもっと悪いと考えて、言葉に甘えることにした。

 

いくつか物色して、俺は二つの盾を選んだ。性能としてはこんな感じ。

 

 

  【城壁盾 ランパート】

  ブルバス作の大盾。持ち主を覆い隠すほどの巨大な大盾。

  盾で攻撃を受けた時ダメージ軽減の効果がある。

 

  ・装備補正

 

   防御力+560

 

  ・装備スキル

 

  《ダメージ軽減》

  《破損耐性》

 

  ※装備制限: 合計Lv280以上 STR値 1500以上

 

  【騎士盾 ナイツオール】

  ブルバス作の盾。騎士系統に就いた者にふさわしい盾

  盾スキル限定でSP消費減の効果がある。

 

  ・装備補正

 

   防御力+420

 

  ・装備スキル

 

  《シールド・チャージャー》

  《破損耐性》

 

  ※装備制限: 合計Lv240以上

 

 

【ランパート】には盾で攻撃を受けた時にダメージを200減算するスキルが。【ナイツオール】には盾スキル限定でSP消費を三割減するスキルが付いている。あと両方に《破損耐性》があるのは地味だが、ありがたい。

 

盾はどうしても攻撃を受け止めるのものだから耐久値が減りやすく壊れやすい。《破損耐性》があればある程度は長持ちする。

 

これらの購入額は二つ合わせて半額の30万リルだそうだ。ザイマンたちがお金を出し合っている間に、クロス兄貴とウッドが俺に質問をしてきた。

 

「全身鎧は買わないのか?」

「盾以上に必要じゃない?」

「さすがに高い。それをザイマンたちに払ってもらうには悪いからな」

 

なんせ、最低でも80万リルだからな。半額で40万だが、盾も買えばかなりの出費だ。さすがにこれを払ってもらうわけにはいかない。

 

「ついでに言えば【シルベスタ】みたいに気に入る物もなかったしな」

「お前さん、今【シルベスタ】と言ったか?」

 

俺たちの言葉が聞こえたらしく、ブルバスさんが聞き返してきた。

 

「ええ、ギデオンの店で偶然見つけまして。気に入っていたんですが、彼らを逃がす戦闘で溶けて無くなりましたよ」

「なんと・・・こんな偶然があるんじゃな・・・」

「どうしました?」

「その【シルベスタ】は若いころにわしが作ったんじゃよ」

 

あれ? そうなの?

 

「まさか、わしが作った鎧を選んだ者と出会うとはな・・・それにザイマンたちを助けるのに一役買うとはな。人生わからんもんじゃ」

 

そう言って、ブルバスさんはどこか昔を懐かしんでいるようだ。その後に職人の顔になると俺にあることを提案してきた。

 

「全身鎧も必要なんだな?」

「ええ」

「よし。素材さえそちらが用意するのならオーダーメイドで作ってやるぞ。どうだ?」

「いいんですか?」

「無論じゃ。お前さんが嘘を言っていないのは《真偽判定》で確認済みじゃ。【シルベスタ】以上の鎧をこしらえてやるぞ」

 

何やらやる気を出しているブルバスさんに、俺たちは素材を集めることを約束した。さて、Lv上げに素材集めと忙しくなるぞ。




作中設定余談。

 ブルバス
【高位鎧職人】としては王国でもトップクラスの職人。特に防具全般の生産では有名人。そのため何人かの<マスター>が彼の防具欲しさに尋ねたが、態度と実力が不満で<マスター>を信用していいのか悩んでいた。
今回は生まれ故郷のルヘトを守ってくれて、長年の付き合いがあるザイマンたちを仲間だと自然に口にしたゲイルを気に入り自身の作品を売ることに。
また、自身がまだ半人前だったころの作品である防具をゲイルが持っていたことに不思議なものを感じて、オーダーメイドで防具を作ることを決意。
蛇足だが、彼のオーダーメイドの全身鎧は【重厚騎士】や【鎧巨人】に就いた者からしたら是が非でも欲しい品。


【鎧巨人】と【重厚騎士】の違い。

【鎧巨人】はスキル特化でステータス補正が上級職では低め。代わりにスキルが強力で自身の防御力を爆上げする物や各種属性耐性を上げるスキルも覚える。
【重厚騎士】はステータスはバランス型のENDより。スキルも自身のステータスを上げるものを覚え、癖の強い攻撃用アクティブスキルや全身鎧の強化スキルを覚えるが、最後の強化スキルは【鎧巨人】のものより効果は低め。
【鎧巨人】は自身の防御能力を強化することに特化し、【重厚騎士】はパーティ戦での立ち回りを重視している。
※ あくまで作中での区別のために設定しています。


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第三十八話 新たなモンスターと素材集め

  ◇  【弓狩人(ボウ・ハンター)】ウッド・アクアバレー

 

 

ゲイル兄貴がデスペナしてからしばらく経ち、僕たちはルヘトの北にある狩場《リースル海岸》や南の狩場である《シルヘト洞窟》などで狩りをしている。

 

この二つの狩場はたまに海竜種の純竜が目撃されるので、結構な上級者用の狩場だ。まぁ、僕たちは今まで遭遇してないけど。それでも亜竜級のモンスターがいるのでレベル上げでも収入と言う意味でも潤っている。

 

そのおかげで僕は【狩人】をカンストし、【弓狩人】に就けた。クロス兄貴も【大剣士】をカンストして次のジョブを悩んでいたけど、【火術師(ファイヤーメイジ)】を選択した。

 

これで僕たちはLv500まであと上級職を残すのみとなった。今就いているジョブをカンストしたら就くため条件を達成しなきゃね。

 

ただ、順調じゃないこともある。ゲイル兄貴の予備の全身鎧がまだ作ってもらってないんだよね。ブルバスさんに手に入れた亜竜級のモンスターの素材を持って行ったんだけど・・・

 

「残念だが、これらで全身鎧を作っても今のお主では物足りないと思うぞ? 最低でも純竜クラスの素材がいるな」

 

と言われてしまった。ゲイル兄貴は僕たちの壁役だし、予備の全身鎧と言ってもやはり能力的には高い方がいい。そのため純竜の素材目当てで、この狩場をうろついてるんだけど、なかなか出会えないんだよね。

 

まぁ、純竜は絶対数が少ないって話だし、テイムモンスターでも純竜は高値で取引されている。それを考えると当たり前なんだけどね?

 

おかげでゲイル兄貴は【騎兵】がカンストしたし、たまたまルヘトに来てた商人から銃を購入できたから、現在は【銃騎士】に就いてレベル上げしてるけど。なお、購入した銃はそんなに強くはない。

 

現在は《シルヘト洞窟》で狩りの合間の休憩中。この洞窟はところどころ海水が流れてて、外の海に繋がってるから、索敵には注意が必要だけどね。

 

「う~ん。なかなか出会わんな? 純竜」

「そうだね。そろそろ出てきてほしいよ」

『俺的にも以前の戦闘で苦手意識が出る前にさっさと出会って戦いたいもんだ』

「素材的にもね」

『一体に出会った程度では全然足りないと思うがな』

 

ああ、確かに。このデンドロはリアルだからそれぞれにドロップ品が配られるような仕様じゃないしね。

 

「ここで全身鎧を作ってもらえば、ドライフ皇国に行けるんだがな」

『話し合ったからいいかもしれないが、本当にいいのか? アルター王国だってまだ行ってないところが多いが?』

「気にするな。ほかの国も興味があるし隣国だ。ここにはいつでも戻ってくればいいんだしな」

「そうだよ。僕もいろんな国を見たいし」

 

そう。今回の素材集めでゲイル兄貴の全身鎧を作ってもらえば、僕たちはドライフ皇国へと行く予定なんだ。理由としてはゲイル兄貴に強い銃を購入してもらうのもあるけどね。

 

まぁ、その前にギデオンや王都で旅の準備とあと一つの上級職に就いてからだけど。ドライフだと騎士系統には就けないからゲイル兄貴が困ることになるし。

 

なんて、ことを話していたら僕の《索敵》に反応があった。

 

「話し合いはここまで。次のお客さんだよ」

『俺の方にも反応があった。反応がでかいしこりゃ大物か?』

「お? ついに純竜か」

 

僕たちが休憩している場所は結構な広さがあり、半分は海水ですぐ目の前に大海原が見える。ここなら相手が海の中に居ても倒せるかな?

 

「グル~」

「グリフも警戒してるね。結構強いかも」

 

上級になったグリフは戦闘能力がかなり上がってめったに相手を警戒しなくなった。そのグリフが警戒してるってことは、同格か差があまりないかのどちらかだと思う。

 

やがて海中に大きな影が見えて、それが徐々に大きくなりながら僕たちに近づき、次の瞬間に水面が大きく立ち昇った!

 

「GREE!」

 

現れたのは、濃い蒼色の鱗をしている太く長い竜だった。対象を確認したので頭の上に名称が表示される。【ハイ・ウォーター・ドラゴン】と。

 

 

 

 ◇ 【火術師(ファイヤーメイジ)】クロス・アクアバレー

 

 

目の前に現れた【ハイ・ウォーター・ドラゴン】に俺たちは戦闘態勢をとっくに済ませて、いつでも動けるように構えている。

 

確か、ウォーター・ドラゴンって海竜種では一番数が多いドラゴンだったよな? 最も目の前の奴はその中でも強い個体のようだがな。

 

「やっと純竜に出会えたが、いきなり上位種かよ」

『それでもハイエンドじゃないだけましだな』

「油断はできないけどね」

「グル~」

 

そうだな。目の前のドラゴンはハイエンドって付いてないが、そのワンランク下の【ハイ】って枕は付いているし十分に強い個体だろう。

 

などと考えていると目の前のドラゴンに先手を取られた。

 

「GREE!」

 

口から勢いよく水を放出された。多分ブレスなんだろうが、俺たちには効かないぞ? 俺は余裕で回避し、ウッドもグリフに乗っているので軽々回避。AGIが最も低いゲイルも・・・

 

『《シールドガード》! 《ガード・ウォール》!』

 

盾で受け止めた攻撃のダメージを軽減するスキルと防御力をプラスするスキルを使用してドラゴンの攻撃を耐えた。

 

現在のゲイルのメインジョブは【銃騎士】なので攻撃用アクティブスキルの大半は使用不能だが、防御スキルなら問題なく使用できる。

 

ブレスが魔法攻撃だったら耐えられなかったかもな? その場合は俺の【ガルドラボーグ】で対処するだけだが。

 

「GRE!?」

 

さすがに相手は真正面から受け止められるとは予想外だったらしく、かなり驚いている様子。でも、戦闘中にそんな余裕があるとはな?

 

「灼熱の槍よ! 穿て! 《ヒートランス》!」

「グルー!」

 

俺は相手の隙に《詠唱》スキルで威力を底上げした《ヒートランス》を相手に放ち、それに続いてグリフも《ウィンドブレス》を放った。

 

まぁ、相手は水のドラゴンだから俺の火属性魔法はあんまり効かないが、レベル上げにはなるだろう。

 

「《パラライズアロー》! 《ポイズンアロー》!」

 

ウッドも【弓狩人】のアクティブスキルを使用して攻撃している。【狩人】の攻撃スキルは状態異常を付与するのがほとんどな援護系だからな。

 

とは言え、さすがに純竜級だとそう簡単には状態異常にならずにダメージだけである。それでもウッドは続けている。なれば御の字だしレベル上げにはちょうどいいだろうしな。

 

そんな純竜はスピードの速い俺や飛んでいるウッド&グリフには攻撃せずに、真正面で盾と銃を構えている、ゲイルに攻撃を集中しているが・・・

 

「GREEE!」

『《ガード・ウォール》! 《フレア・ショット》! 銃の攻撃はアクティブスキルを使用しても嫌がらせにしかならんか!』

 

ENDを上げるアクティブスキルを使用しながら、【銃騎士】で覚えたアクティブスキルを使っているが、効果はないようだ。【銃騎士】で覚えるアクティブスキルは、属性付与された銃弾を放つのがほとんどだしな。

 

現在のゲイルの【銃騎士】のレベルでは純竜に効果的なスキルはまだ覚えていないし、たとえ覚えていたとしても銃の能力的にもダメージを与えられるかは微妙だろうな。

 

やはり、ゲイルの装備のためにも早めにドライフには行くべきだな。

 

「GREEE!」

 

ウォーター・ドラゴンは自身の攻撃が通用しないゲイルに攻撃を続けている。いや、それは悪手だろう? 攻撃が通用しない時点で逃げるなり戦い方を変えればいいのにな。

 

ゲイルは相手がムキになったことを利用して徐々に後退していった。その行動を押していると判断したのかウォーター・ドラゴンは徐々に前進していく。自身の逃げ場がなくなるとは知らずに。

 

「GRE!?」

 

気付いた時にはもう遅い。ドラゴンは自身の体がはっきりと見えるくらいの浅瀬へと入りこんでいた。慌てたドラゴンは逃げようとするのだが・・・

 

「させないよ」

「グル!」

 

後ろには空を飛んで回り込んでいたウッドとグリフがいる。さすがにあの二人を躱して逃げるのは致命的な隙を晒す。ドラゴンには俺たちを倒す以外に生き残る術はなくなっていた。

 

そんなドラゴンを倒すのにさして時間はかからなかった・・・

 

 

 

  ◇  【銃騎士(ガン・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

出会った純竜【ハイ・ウォーター・ドラゴン】を倒した俺たちはそのドロップ品を持ってブルバスさんの店へとやってきた。

 

本来なら一匹倒したくらいでは素材は足りのないのだが。このデンドロは某狩りゲーのように一人一人に素材がはぎ取れるわけでもないし、各自にドロップ品が配られる仕様でもない。

 

倒した場合にその地点にドロップ品が転がるだけだ。ただ、今回はそのドロップ品でかなり予想外のことが起こったのだ。それは・・・

 

「おい! こりゃあどういうわけだ!? モンスターが丸々残っているじゃねえか!?」

 

現在、ブルバスさんの店兼自宅の庭に【ハイ・ウォーター・ドラゴン】のドロップ品である【完全遺骸】という名の素材アイテムをアイテムボックスから出したところだ。

 

「やっぱかなりのレアケースみたいだな?」

「僕たちも倒した後びっくりしましたからね」

「あんなのがドロップするとは思わなかったからな・・・」

 

順番にクロス兄貴、ウッド、俺の言葉だ。実際倒した後にドロップしたのが倒したと思ったモンスターまんまのはく製のようなものだったからあわてたぞ。もう一匹来たのかと思ったわ。

 

だが、よく見ると動かねえし生きてるのか怪しかったから、覚えたての《鑑定眼》で見てみたら何とか【完全遺骸】っていう素材アイテムだということだけわかった。

 

いや~各国を旅するために容量の大きなアイテムボックスを買ってなかったら持ってこれなかったぜ。とりあえず、いまだに【完全遺骸】の前で驚いて固まっているブルバスさんに事情を説明。

 

「【完全遺骸】・・・噂は本当だったのか」

「「「噂?」」」

「生産職の間で語り継がれておる話だ。モンスターの素材が丸々手に入る【完全遺骸】という名の素材アイテムがあると。もっとも、<UBM>を倒した者の中にそれを手にした者は確認されてあるが、それ以外のモンスターで手に入ったという話は聞いたことがない。手に入らないのではないかと言われていたんだが事実だったか・・・」

 

ちょっとまて。確かデンドロって2000年以上の歴史があるよな? この際理屈は置いておいて、そんな長い歴史があるデンドロで眉唾だと思われていた素材アイテムだと?

 

「・・・ひょっとして、これってこのままでもとんでもない価値がありますか?」

「あるじゃろうな? 中にはとんでもない値段で買い取ろうという者が居ても不思議ではない。素材的にもこれはかなりのものじゃ。個人はおろか、国が買取に動くぞ?」

 

それはまた・・・とんでもないものを手に入れてしまったわけか。

 

「どうする? これを使えばかなりの全身鎧が作れるが、はっきり言って金に換えればお前さんらの装備をすべて買い替えてもおつりが出るぞ?」

「どうする?」

「いや、お前の全身鎧作ってもらえばいいじゃん?」

「だよね?」

 

・・・悩みもしなかったよこの二人。

 

「いや・・・いいのか?」

「何を悩む必要がある?」

「そうだよ。ゲイル兄貴は壁役で僕たちのパーティでは防御の要だよ? いい防具が手に入るなら逃す手はないよ」

 

むう・・・確かにこの機会を逃せば二度と手に入らない類のものになるだろうし・・・ここは二人の言葉に甘えるか。

 

「二人ともありがとう。ブルバスさんこれで全身鎧を作ってください」

「よし!! 任せておけ! こんな素材を任せてくれるのなら全身全霊を持って期待に応えて見せる!!」

 

そう言って嬉しそうにやる気をみなぎらせるブルバスさん。彼にとってもこの素材を扱いたかったようだ。

 

でもまさか、このことが外に漏れて強盗や盗賊の<マスター>が【完全遺骸】を狙いに来るとは思わなかった・・・犯罪者のティアンが来なかったのは不幸中の幸いだけど。




結構間が空きましたが、なんとか更新できました。年内最後になるかはまだわかりません。もう一話くらいは更新したいと考えていますが、リアルがどうなるかがわかんないので・・・できないかもしれません


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第三十九話 全身鎧の完成とこれから

続きが書けたので投稿しました~


  ◇  【銃騎士(ガン・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

かなりのレアアイテムを手に入れたことでそれを手に入れようと強盗や盗賊の<マスター>たちがやってきたが、全員をぶちのめして何人かは”監獄”に送った。

 

まぁ、欲に目がくらんで大して腕も作戦もなくやってきたような手合いだったから勝てたようなものだが。これが<超級>の【犯罪王】ゼクス・ヴュルフェルや野盗クランの《ゴブリン・ストリート》だったらさすがにやばかっただろう。

 

あとで知ったことだが、【犯罪王】は現在王国にはおらず他国で犯罪をしており、《ゴブリン・ストリート》もメンバーのセーブポイント登録のため他国へと遠征中だったとか。運がよかった。

 

そんな状況でもブルバスさんは防具作りに集中しており、素材を渡してデンドロ内時間で五日がたったころに・・・・

 

「完成だ! これが今の俺の最高傑作だ!」

「「「おお~」」」

 

ブルバスさんが作った全身鎧は深い青色をしており、どこか品のある美しい鎧だった。一見すると美術品のようだが、各部位に動きやすくするための工夫や防御力アップのために厚くしており、実戦的な物だとわかる。詳しい内容を見てみると・・・

 

 

  【ブルー・アーク・アーマー】

  【高位鎧職人】であるブルバスが【ハイ・ウォーター・ドラゴン】の

  【完全遺骸】を使って作った全身鎧。

  超級職に就いていない職人謹製の全身鎧としては最高峰。

 

  装備補正

 

  SP+20%

  防御力+880

  海属性耐性+30%

 

  装備スキル

  《魔法攻撃軽減》

  《物理ダメージ減少》

  《破損耐性》

 

  ※装備制限  Lv480以上

 

 

かなりの高性能だ。SPが上がるのはありがたいし、防御力は現時点の【ボルックス】よりも高い。装備スキルもかなりいいのだが・・・

 

「今すぐは装備できないな・・・」

「まぁ、こんだけ性能が高けりゃな」

「残念だね」

 

まぁ、贅沢な悩みだがな。これを買おうと思ったら多分一千万リル以上すると思うしな。

 

「ああ~すまんな。お主の今のレベルを考えておらんかったわ」

「いえ、レベルなら上げれば問題ないので。作ってもらってありがとうございます。約束のお金です」

「そう言ってもらえるとありがたい」

 

俺は材料費はこちらの持ち込みなので手間賃や作業費として100万リルを払った。

 

「まいどあり」

「今更ですが、その値段でいいんですか?」

「無論だ。材料を持ち込めばこんなもんだ。むしろこれでも高い方だぞ? わし的にもよい経験だったしな」

 

そう言ってブルバスさんは満足そうに【ブルー・アーク・アーマー】・・・長いから【BAA】でいいか・・・を見ている。

 

「鎧はいつか壊れるだろうが、お前さんの助けになるなら作り手として本望だ。使うときは遠慮せずに思いっきり使ってやってくれ」

「はい」

 

その後は【BAA】をアイテムボックスに収納した。この日のために購入した《窃盗》スキル対策が施されたものだ。お値段の関係上、あまり高い物は買えなかったが・・・

 

ブルバスさんとも改めてあいさつを交わして店を出た。その後は適当な飲食店に入り今後の活動に関して話し合いだ。

 

 

 

  ◇  【弓狩人(ボウ・ハンター)】ウッド・アクアバレー

 

 

適当な飲食店に入った僕たちは軽食としてサンドイッチと紅茶を注文して、今後の予定を話し合う。

 

「さて、ゲイルの全身鎧も完成したしドライフ皇国へ行くための最終準備の確認だ」

「まずは、ギデオンで俺のリオンに牽いてもらう馬車を買うんだよな?」

「それから僕たちの最後の上級職にも転職しなきゃね?」

「そうだな。最低でも俺はここで就いておかないとな」

 

ゲイル兄貴が就こうとしている【大盾騎士(タワーシールド・ナイト)】はアルター王国でしか就けないからね。クロス兄貴や僕の場合は大丈夫だけど。

 

「その後は王都の《墓標迷宮》で金稼ぎだ。始めていく国だと思うように金を稼げないだろうしな」

「手に入れたアイテムは王国で売るんだよね?」

「他国の方が高く買い取ってくれるだろうが、王国はそういうことに厳しいからな」

 

そもそも《墓標迷宮》が《神造ダンジョン》では一番出入りが簡単らしいからね。王都にあるうえに入るのに必要なのは許可証とアルター王国に属していることだけだし。

 

そうであれば、王国が《墓標迷宮》産のアイテムを自国で売ってほしいって考えるのは当たり前なわけで・・・もっとも、カルディナに裏のルートで横流しされている物が倍以上の値段で取引されているらしいけど。

 

「この町でやり残したことはないか?」

「あ~すまん。アーシアから食事に誘われてるんだ。しばらくはこの町に居たい」

「「へ~」」

「何か言いたげだな?」

 

あのアーシアっていう美人さん、やっぱゲイル兄貴に惚れたのかな? 相手はゲームのNPCだけどゲイル兄貴にも春が来たのかな?

 

「もうお付き合いしてるのか?」

「付き合いってなんだよ? 危ないところを助けてくれたお礼だって本人が言ってたぞ? 俺は気にしてないって伝えたが、アーシアがそれだと私の気が済まないって言われたからな~」

「「・・・・はぁ~」」

「なんだそのため息は?」

 

まぁ、ゲイル兄貴がこうなのはしょうがないんだけどね? 昔のとある事情が原因で女性に関しての機微がわからないから。アーシアさんを義姉さんっていうのは無理かな?

 

 

そんなわけでしばらくはこの町に滞在したわけだが、その間にアーシアさんはゲイル兄貴にアプローチをしているようだけど、ゲイル兄貴は全くその気がない。おかけでアーシアさんのパーティメンバーの皆がクロス兄貴と僕に相談に来たりもしたけど、こればかりはどうしようもないんだよね・・・

 

ゲイル兄貴がそんなことをしている間に僕はグランとスオウのレベル上げを行っている。しばらく彼らに戦闘はさせていなかったからね。戦闘以外では出して構ってたんだけど、そろそろレベル上げをしないと僕との差が開いてしまうし。

 

その甲斐あって二人はめでたく進化して、グランは【グランヴォルフ】から【亜竜土狼(デミドラグアースウルフ)】に。スオウは【ステルスオウル】から【ハーミットクロウ】に。

 

グランはもともと地属性魔法の拘束系が得意だったけど、進化したことで地属性魔法の攻撃やゴーレム創造もできるようになった。体毛も薄茶色から赤茶色になり毛並みもモフモフ感が増した。

 

スオウは素のステータスが高くなり、気配を消してからの奇襲能力が上昇。さらに索敵もできるようになりダンジョンみたいな閉鎖空間はともかく、地上ではとても頼りになる。体毛は少し濃くなった態度で二人とも大きさも変わらない。

 

やがて用事も済ませたということでギデオンへと出発することになる。

 

 

 

  ◇  【火術師(ファイヤーメイジ)】クロス・アクアバレー

 

 

ギデオンへと出発する前日に俺たちは世話になったザイマンたちと酒場で飲んでいる。こうなった理由は知り合った人たちに別れの挨拶をしていて、ザイマンたちにも伝えたら最後に飲まないかと誘われたのだ。

 

まぁ、別れを盛大に祝って酒を飲む理由にしたいのだろうが、そっちはついでで本当はアーシアの恋路の協力だろう。現にアーシアはゲイルの隣に座り世話を焼いている。

 

あちらは放っておこう。下手にちょっかいを出すと馬に蹴られかねない。俺はザイマンたち男衆と酒を飲みつまみを食べている。ウッドはリリと配下のモンスターたちに食べられるものを与えている。この店はテイムしたモンスターも出入りOKらしい。

 

「か~うめぇ! そういえばクロスたちは何を目的にしてるんだ?」

「あ、それは気になるな?」

「ですね。というより<マスター>全員の目的は気になりますね」

 

大きな樽ジョッキに入ったお酒を一気飲みしたハンスが唐突に口にした言葉にザイマンとネイソンも興味をもったらしいな。

 

「俺たちの目的は単純に兄弟で楽しく過ごせればいいからな? 今のところは各国を旅するのが楽しそうだからそれを目的にしてるよ」

「ほかの<マスター>も似たようなものでしょうか?」

「それは違うな。<マスター>がどういう理由でデンドロ(ここ)に居るのかは個人で異なるだろう」

 

最近は<マスター>を世界派(ワールド)遊戯派(ゲーム)に分けて呼ぶようになったからな。世界派はここも現実の一部として真摯に向き合おうとしている人たちで、遊戯派はここはあくまでもゲームだから何をやってもいいなんて考える連中だ。

 

世界派の<マスター>はこの世界で生きているティアンを人間扱いしてるし、ティアンには受け入れやすいだろう。例外はいるだろうが。一方の遊戯派はゲームとしてこの世界をエンジョイしている。遊戯派の中にはゲームだからとティアン相手に犯罪をしている輩も多いからこちらの連中はティアンには受け入れられないだろうな。

 

「結局は<マスター>だからと言って全員が同じだとは思わずに個人で判断したほうがいいぜ?」

「ふ~む・・・結局は俺たちと変わらんってことか」

「そうだな。俺たちティアンだって犯罪者は普通にいるしな」

「私たちのように自衛できるティアンはいいでしょうが、一般のティアンはそうもいかないでしょうね」

 

確かにな。<マスター>とティアンでは<エンブリオ>を持つ以外でも違いがありすぎるからな。ティアンから見たら三日間は戻ってこれないとはいえ死んでも生き返る不死。さらには就けるジョブビルドの差も無視はできんだろう。

 

「そこは今後の<マスター>との付き合い次第だろう? クロスたちみたいな<マスター>がいるならそこまで深く考える必要もないだろうよ」

「それに、ティアンだって実力があるのに犯罪をしている輩もいるんだ。こっちが文句言うのはお門違いだろう」

「それもそうですね・・・」

 

まだまだ、ティアンにも実力者は多いだろうし戦闘技術においてはティアンの方が上だからな。<マスター>がでかい顔できるのはよほど<エンブリオ>能力とジョブとのシナジーがないと難しいしな。

 

「湿っぽい話は終わりだ! とにかく飲もう!」

「「話のきっかけはお前だろうに」」

 

ハンスの言葉にザイマンとネルソンは突っ込んだが、深くは追求せずに俺たちは大いに騒ぎ楽しんだ。

 

 

翌日。俺たちはギデオンへと出発した。ザイマンたちも見送りに来てくれて別れを惜しんだ。ちなみにアーシアとゲイルは進展しなかったらしく、アーシアが真っ赤になりゲイルをポカポカ叩いていた。光景的には微笑ましいがね。

 

「ゲイルよ~昨晩は何かあったのか?」

「アーシアが手料理をご馳走したいからと家に誘われたんだよ」

「「え!?」」

 

あらやだ、だいたん・・・

 

「だが、さすがに男が女性の家にお邪魔するのはどうかと思ったので断った。足下がおぼつかなく家に送りはしたが、それだけだ」

「「てい!」」

 

その言葉を聞いて俺はゲイルの頭にチョップを入れ、ウッドは鳩尾をグーパンした。ゲイルのENDが高すぎてしれっとしていたが。

 

「何をする?」

「お前はもうちょい女性の行動の意味を知れ!」

 

ゲイルの言葉に俺はそう答えた。ウッドもうなずいている。仕方がないのはわかるが、もうちょい何とかならんかね~




お金に目がくらんで突発的に犯罪を犯す輩はろくなことになりませんってお話。
なお、【犯罪王】と《ゴブリン・ストリート》については書きましたが、《凶城》についてはまだそんなに有名じゃない設定です。
オーナーである人が理論派なので現在はいろいろ情報を集めてる段階。

ついでにゲイルの過去というか兄弟の過去については<エンブリオ>解説とともにいつか絶対書きます。


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第四十話 二つ目の上級職

メリークリスマス。

今回は二つ目の上級職についてと三兄弟にいいことが起こります。


  ◇  【弓狩人(ボウ・ハンター)】ウッド・アクアバレー

 

 

ゲイル兄貴の行動に悩まされながら道中で出てくるモンスターを蹴散らして、ギデオンへ到着した。ここで旅の準備をしながら最後の上級職に就くために行動する予定だ。

 

僕とゲイル兄貴は就く上級職は決めているが、クロス兄貴は悩み中。クロス兄貴はビルド構成も悩んでいるようだけど、今から下級職取り直すのは手間じゃないかな?

 

僕の上級職は【剛弓士】に就くつもりだ。弓士系統の上級職でいくつか候補はあったけど、結局はこれに落ち着いた。転職条件は・・・

 

 

     【剛弓士(ストロング・アーチャー)】転職条件

 

     ・下級職【弓士】に就きLv50に達している。

     ・ステータスSTRとDEXが一定値以上。

     ・武器種・弓の装備条件にSTRを要求するものを装備して

      モンスターを一撃で一定数仕留める。

 

 

一つ目と二つ目はクリアしているから、三つ目をクリアするために頑張らないとね。まず初めに条件をクリアしている弓を探すところからだね。

 

いくつかの武器を置いている店を探して、【アレハンドロ商店】という店で条件に合う弓を手に入れることができた。

 

 

      【飛竜の強弓】

      ワイバーンの素材を贅沢に使った弓。

      装備するのに一定値以上のSTRを要求する。

 

      装備補正

 

      攻撃力+210

      

      装備スキル

      

      《飛距離強化》

      《貫通力強化》

 

      ※ 装備制限 合計Lv300 STR1000以上

 

 

今使っている弓よりも強いしいい買い物をした。ほくほくした気持ちで店を出ようとしたが、途中で人だかりのできているところを発見。興味を持って近づいてみるとその人だかりはガチャをやっていた。

 

なんでこんなところにガチャが? 近くに居た店員さんに聞いてみるとこのガチャは《墓標迷宮》産のアイテムでリルを入れるとその額に応じてアイテムが出てくると言う。

 

上限は10万リルで10万リルを入れた場合は運が良ければ100倍の価値があるアイテムが出てくるらしい。らしいというのはそういうことが《鑑定眼》のスキルでわかってはいるのだが、実際に当たった者はいないとのこと。

 

このお店では客寄せに利用していて、その日に商品を買ったお客だけに使用できるように決めているのだとか。

 

せっかくなので僕もやってみることに。兄貴たちの話のタネにでもなれば儲けものだ。お金にも今は余裕があるので10万リルを入れてみよう。そうして順番がやってきてお金を入れて回すと・・・

 

「お? Aだ」

 

出てきた球体にはAと書かれている。周りで興味深げに見ていた人たちは驚愕していた。このガチャは出てきたアイテムのランクとしてF~Sまであり、Aは2番目のランクで当たり枠だ。

 

周りが驚愕しているのはそのせいだね。さすがにこのまま去るのも悪いのでこの場で金色に輝く球体を開けることに。中から出てきたのは・・・・

 

 

 

      【オリハルコン・バトルシールド】

 

      伝説級金属製の大きな楕円形の盾。

      受けるだけではなく攻撃も考えて作られている。

 

      装備補正

 

      攻撃力+100

      防御力+530

 

      装備スキル

 

      《炎熱耐性》

      《破損耐性》

 

      ※ 装備制限 合計Lv350  STR1500以上

 

 

当たり枠ではあるけど、僕には意味のないアイテムだね。でもゲイル兄貴にはいい装備だし無駄にはならない。外見的にはサーフボードのような形に表面は山なりに分厚い。

 

最後に得をしたのでますますほくほくとした気持ちで店を出た。なお、僕のガチャ結果を見てガチャを回すのが白熱して全額投入した人もいたとか。結果は・・・まぁ、お察しで。

 

 

 

  ◇  【銃騎士(ガン・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

ギデオンに到着してからは各自で旅の準備を進めている。俺も一人でとあるものを探している。探しているのはリオンの装備だな。

 

最近はあまり乗っていないし、戦闘も行っていない。定期的にジュエルから出して世話はしているがね。この前ブラッシングした時に今の騎乗道具が気になったのだ。

 

最初に買ってから買い替えていないし、最初に比べるとリオンも進化して強くなっている。いい機会だと考えて装備を新調しようと考えたんだ。

 

上級職にも就かないといけないが、それは問題なく進めている。就く予定のジョブは【大盾騎士】と決めているからな。ちなみに転職条件は・・・

 

 

     【大盾騎士(タワー・シールドナイト)】転職条件

 

     ・下級職【盾騎士】に就きLv50に達している。

     ・STRとENDが一定値以上

     ・武器種・盾の装備条件にSTRとENDを要求するものを

      装備して敵の攻撃を50回受ける。

 

 

一つ目と二つ目はクリアしている。三つ目もクリアするために早々に条件に合う盾を購入している。

 

 

 

     【メタル・スケイルシールド】

 

     鋼鉄蜥蜴の鱗を使用して作られた盾。

     見た目に反して重く装備するのにSTRとENDが一定値必要。

 

     装備補正

 

     防御力+420

 

     装備スキル

 

     《ダメージ減少》

     《破損耐性》

 

     ※  装備条件 合計Lv320 STR&END1800以上

 

 

俺の準備はある程度できているので今度はリオンの番ってわけだ。リオンの装備を探していくつかの店をはしごした結果、【アレハンドロ商店】という店でいい物が買えた。

 

真っ黒な騎乗用道具一式でリオンに装備するとすごく映える。装備スキルも《サイズ自動調整》に《MP増加》もあるのでお得だ。リオン自身にもお試しで装備できる場所があり、問題ないことは確認済み。

 

気分良く店を出ようとしたところで、とあるところで叫び声をあげている人を発見。なんだと思い近づいてみるとそこにはガチャがあった。

 

店員さんを探してガチャに付いて聞いてみたところ、興味が出てきたので話のタネに俺もやってみることに。ただ、店員さんから過度な期待はしない方がいいと注意されてしまった。

 

なんでも前にAランクを当てた人がいたらしく、そのせいでガチャのやりすぎで全額を費やしてしまった<マスター>が多いとか。怖い話だから一回だけにしておこう・・・

 

俺の前に並んだ人々が願いを込めて回すが、ことごとくハズレで心が折れまくっている。こっちまで不安になるわ。まぁ、ハズレでもいいからと順番が来たので気楽に回すと・・・

 

「え?」

 

なんと出てきたのは金ぴかに輝く球体でAっと刻印されていた。それを見ていた周りの人々が「なんでだ~」っと言いながら崩れ落ちていた。まぁ・・・ドンマイとしか言えぬ。

 

とりあえず中身を確認するために開けてみると・・・

 

 

 

     【魔導の腕輪】

     魔法関連の強化用に作られた腕輪。

     過去の【匠神】がまだ超級職に就く前の作品。

 

     装備補正

 

     MP+(合計Lv÷2)

 

     装備スキル

 

     《魔法威力強化》

     《MP回復量強化》

 

 

ありゃ? 確かに有用なアイテムだが俺には意味がないな。クロス兄貴にやるとするか。俺が持っているよりも役立つだろうし、確か兄貴はアクセサリーではいいのがないとぼやいていたしちょうどいい。

 

そう考えて店を出たはいいが、後ろから「こうなったらとことん回してやるぞ!」っと大声が聞こえた。これは火に油を注いでしまったか? まぁ、最終的には自己責任だしほっとこ。

 

 

 

  ◇  【火術師(ファイヤーメイジ)】クロス・アクアバレー

 

 

今日は俺一人でギデオンを探索中だ。さっきまでジョブビルドで悩んでいたから気分転換になればと思い、特に目的なく歩いている。

 

ジョブビルドについては本当に悩んだぜ。就いた下級職で上級職も左右されるから、魔術師系統のどの上級職にするのかは選択肢が多く悩みは尽きない。

 

とは言え、今から下級職を含めてレベル上げすると二人の足を引っ張るだろうから、まずは【火術師】の上級職である【紅蓮術師】になってしばらく過ごしてみようと思う。

 

実際に就いて能力を体験してみてから判断する形だな。ちなみに【紅蓮術師】の転職条件は・・・

 

 

     【紅蓮術師(パイロマンサー)】転職条件

 

     ・下級職【火術師】に就きLv50に達している。

     ・火属性魔法のスキルレベルが覚えた魔法の合計で一定数以上

     ・火属性魔法でモンスターを倒した数が50以上。

 

 

このうち一つ目と二つ目はクリアしているから、三つ目をクリアする必要がある。まぁ、今の合計レベルなら意識して行動すれば問題ないだろう。

 

などと考えながら店先に飾られてある武器防具類を眺めていると、反対側の店がやけに騒がしい。気になったので店に入ってみたらガチャの周辺で<マスター>が死屍累々と意気消沈していた。

 

店員さんに事情を聴いてみたところ、死屍累々の<マスター>はガチャの回しすぎでお金を使い切った人たちで当たったガチャはすべてがハズレだったとか。

 

何やってんだと思ったが、どうも二人ほどあたりを引き当てた<マスター>が居たらしく、それを見た人々が自分もと考えた結果がこの状況だとか。

 

それを聞いた俺は話のタネになると考えお店で回復アイテムをいくつか購入、ガチャに並んだ。俺の番になったので10万リルを入れて回すと・・・

 

「お! 当たりだ」

 

俺が当てたガチャの球体である金色に輝いているものを見た周りの反応は二つに割れている。店員さんたちの主な反応は「狙っていない人ほど当たりを引くね」って感じだ。

 

もう一つはガチャに熱狂していた人々で心が折れていた。中にはぶつぶつ呟いている人もいて怖いわ。とりあえず中身を確認すると・・・

 

 

     【呪殺の心得】

 

     状態異常攻撃を補助するアクセサリー

     名前的に呪われているようだがそんなことはない

     作った職人の趣味である

 

     装備補正

 

     SP+(合計Lv÷2)

 

     装備スキル

 

     《状態異常攻撃強化》

     

 

手に入れたのは、赤銅色の数珠だった。あ~俺には意味のないアイテムだったか。これはウッドにやることにしよう。俺が持っているよりも有用だしな

 

そんなわけで店から出たわけだが、俺のほかに死屍累々だった人々もとぼとぼと店を出て行った。しばらくの間この店のガチャは人が近寄らなかったとか。まぁ、ご愁傷様?




主人公たちにガチャという名のクリスマスプレゼントです。

原作でも主人公がガチャ回してたので二次創作でもやらないとね! まぁ、あたったのはAですけどね! さすがにSランク三連続はまずいと思ったし、三個もMVP特典考えるのは無理だった・・・

あ、ちなみにAランクは投入した金額の50倍くらいの価値の品らしいです。


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第四十一話 カンストまであと一歩

明けましておめでとうございます。今年最初の更新です。


  ◇  【銃騎士(ガン・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

【アレハンドロ商店】でガチャをしたリアルで二日後に三人そろって狩りに行くときに、全員がガチャをやって当たりを引いたと判明。なんということでしょう。

 

「こんなことあるんだね?」

「まぁ、無欲の勝利ってことだろうな」

「ああ~」

 

確かにそんなこともあるな。まぁ、とにかく全員が有用なアイテムを渡し合う。俺はウッドから【オリハルコン・バトルシールド】を。俺はクロス兄貴に【魔導の腕輪】を。クロス兄貴はウッドに【呪殺の心得】を。

 

もらった装備を俺以外は装備していた。まぁ、俺の場合はこれから上級職に就くために装備しないといけない盾があるからな。盾が増えるのは純粋にありがたいが。

 

三人の準備ができたので、今日の狩場である<クルエラ山岳地帯>のカルディナに近い国境付近へと移動することに。なんでもそこで純竜級モンスターである魔蟲の目撃情報があるらしく、冒険者ギルドで注意喚起が行われていた。

 

俺たちにとっては渡りに船なので、目撃情報があった場所でレベル上げを行うことにしたというわけだ。とりあえずはそこまではノンストップで向かうために俺はリオンに騎乗して、クロス兄貴は自前の足で、ウッドは当然グリフに騎乗。さっさと行くとしよう。

 

 

そして現在、たどり着いた国境付近をうろうろしているところだ。途中で出てくる亜竜級の敵を倒しながら、今も【亜竜甲蟲(デミドラグワーム)】2体と戦っている。

 

「GIEEAA!」

『《フィジカル・ダッシュ》!《シールドアタック》!』

 

突っ込んでくる【亜竜甲蟲】の攻撃を騎兵系統のスキルで躱す。《フィジカル・ダッシュ》は騎乗物にENDとAGIを固定値アップするスキルだ。さらに躱して相手と交差する瞬間に自身のENDの数値で攻撃力を計算するスキル《シールドアタック》をぶつける。

 

「GIEA!?」

 

その攻撃で【亜竜甲蟲】はバランスを崩し地面に転がる。その隙をリオンは逃さずに光魔法で追撃する。光の矢と槍が突き刺さる中、上空から急降下して【亜竜甲蟲】の頭に前足を叩き込んだ。もちろんやったのはウッドが騎乗しているグリフだ。

 

「グルー!」

 

攻撃した頭が爆散して、【宝櫃】が転がる大地にて勝鬨の咆哮を上げるグリフはなかなかにかっこいい。もう一体はクロス兄貴とグランとスオウが相手をしている

 

「GIEA!?」

 

ちょうど視線を向けると、グランのゴーレム創造で創ったゴーレムと【亜竜甲蟲】が激突しているところだ。戦況はゴーレムの方が不利だな。まぁ、グランのゴーレム創造は覚えたてだしスキルレベルは低いからな。徐々に後退させられてるが、一撃で粉砕されないだけで十分だ。

 

「灼熱の槍よ! 穿て! 《ヒート・ランス》!」

 

【亜竜甲蟲】の後ろに回り込んだクロス兄貴が《詠唱》で底上げした火属性魔法を相手に放つ。いくつのもパッシブスキルと装備スキルで底上げされた魔法は相手の甲殻を溶かして肉体にダメージを与えた。

 

「GIEAAA!?!?」

 

自慢の甲殻を溶かされてダメージを負い【亜竜甲蟲】は混乱しているようだ。さらにそこへ追い打ちとして気配を消していたスオウが亜音速で急接近。傷口を爪でえぐる。そのまま離れたがえぐい攻撃するな~

 

「!?!?」

 

もはや鳴き声を上げることもできない激痛に【亜竜甲蟲】は硬直する。その隙を逃すことなくゴーレムはというかグランは反撃に出た。

 

「UON!」

 

グランが吠えるとゴーレムは【亜竜甲蟲】を地面に叩きつけ、傷口に拳を叩きつけた。その一撃が致命傷となり光の粒子になった後に【宝櫃】が転がる。

 

 

 

  ◇  【火術師(ファイヤーメイジ)】クロス・アクアバレー

 

 

【亜竜甲蟲】2体を倒した後に休憩として近くの岩陰で食事と水分補給をしている。デンドロはリアルだから飲まず食わずで過ごすと【飢餓】や【脱水】なんていう状態異常になるからな~休憩は大事だ。

 

「【宝櫃】や他のドロップ品もだいぶたまったな」

「亜竜級と戦うと僕とクロス兄貴は転職条件達成するのは難しいけどね」

『俺はそんなことはないから、条件達成まであと少しだな』

 

俺とウッドは特定攻撃でのモンスターを倒すのが達成条件だからな。亜竜級だと狙うことは難しいからな。反面、ゲイルは装備条件をクリアした盾で攻撃を受けるだけだから問題なくできる。

 

『今のジョブがカンストする前には条件達成できそうだ』

「俺たちはまぁ、ギデオン周辺のモンスターを倒せば問題なくクリアできるから焦る必要はないしな」

「だね」

 

わざわざ亜竜級のモンスターを倒す必要はないだろう。そういう指定があるわけでもないのだし。さて、自分たちの分とリオンたちの食事も終わったようだし狩りの再開としようか。

 

「続きと行こうか?」

「了解」

『今日で今就いているジョブはカンストまで行きたいところだ』

 

ゲイルの言葉にうなずきながら、俺たちは戦闘準備をして再度モンスターを探しに出発した。

 

そうして狩りを再開しようと移動しているのだが、モンスターに全く出会わない。それどころか不自然なくらいに静かだ。何か嫌な予感がするな・・・

 

「二人とも察知スキルに何か反応はあるか?」

『俺の方にはないな』

「僕もないよ。スオウの方も反応してないようだね」

 

二人のスキルにも反応なし。だが、二人ともいつでも動けるように構えている。二人の察知スキルはそれほどスキルレベルが高くはないからな。完全に信用するのは危険だと本人たちがよくわかっている。スオウも覚えた手でまだスキルレベルは低いしな。

 

慎重に警戒をしながら進んでゆく。しばらく進むと地面が揺れだした。しかも徐々に大きくなってゆく!揺れに対処していると目の前の地面が盛り上がり、そこから出てきたのは・・・

 

「SYA!!」

 

鋏の腕を左右に2本ずつ持ち体が大きく盛り上がっているサソリのようなモンスターだ。ご丁寧に尻尾も長く先は棘付き鉄球のようだ。

 

頭上に名称が出た。【クワトロ・シザーアームズ・スコーピオン】と。

 

「ふむ・・・純竜級か?」

「多分そうだね」

『なかなか強そうだな・・・』

 

出てきたモンスターにも慌てることなく俺たちは立ち位置を変える。上空から見ると三角形になるように前にゲイルが陣取り、左右の二歩下がったところに俺とウッドとグリフがいる形だ。

 

なお、純竜級ということでゲイルはリオンから降りている。グランと一緒に俺たちの後方で援護してもらうためだ。スオウは上空で旋回中。隙があれば急降下して攻撃するだろう。

 

『それとさっきから《危険察知》のスキルが反応しない。目の前の奴はそういうスキルを無効化する類の奴を持ってるな』

「こっちも反応なしだよ。地面に潜ったら厄介だね」

「実力よりもそっちが厄介だな・・・」

 

目の前の奴を逃がすと見つけるのが絶望的だな。などと考えてると、目の前のサソリが意外な速さでこちらに接近してきた。

 

『《ガード・ウォール》! 《ガード・オーラ》!』

 

早いが亜音速には達していないので、ゲイルは余裕をもって防御力とENDを上げるスキルを使用。それに対してサソリは構うことなく鋏でゲイルを攻撃する。四連続で。

 

「「『何!?』」」

 

移動速度は大したことがなく攻撃も同じくらいだろうと考えていたが、鋏の攻撃は移動速度とは比べると段違いの速さでゲイルに襲い掛かる。

 

『く!?』

 

ゲイルは最初の一撃は盾で受け止めたが、続く攻撃を無防備なところにヒットして吹き飛ばされた。そのままサソリは尻尾で追撃を放とうとするが・・・

 

「BURU!」

「《ファイヤーボール》!」

 

それを阻止するためにリオンが光の矢を放ち、俺もスピード重視で下級火属性魔法を4つほど放った。それはサソリの鋏と頭に当たり軽い爆発を起こし、リオンの光の矢も体に当たったのだが・・・

 

「ほとんど効いてないな!」

 

多少甲殻は白熱化しているがそれだけだ。リオンの光の矢も刺さっていない。それでも攻撃を中断するくらいにはなったので目的は達成しているが。

 

「《スパイラルアロー》!」

「グルー!」

 

さらにウッドとグリフが追撃を放つ。ウッドは貫通力が強化されるアクティブスキルを選択し、グリフは《ウィンドブレス》を放った。

 

スキルで強化された矢は相手の甲殻を貫通して突き刺さるが、甲殻を貫通しただけで深くは刺さらなかった。だが、次の攻撃である《ウィンドブレス》が相手に当たると同時に矢を押して深く突き刺したのだ!

 

「SYA!?」

 

自身の甲殻を貫かれ体に達した痛みにサソリは驚いているようだ。吹き飛ばされたゲイルも何とか体勢を立て直したので、ここからが反撃開始だな!

 

 

 

  ◇  【弓狩人(ボウ・ハンター)】ウッド・アクアバレー

 

 

僕の放った矢をグリフの《ウィンドブレス》が押して相手に大ダメージを与えるというちょっと予想外なことが起こったけど、こちらにとってはうれしい結果だ。

 

ゲイル兄貴も体勢を立て直して相手の甲殻の頑丈さを考えて《瞬間装備》で武器の銃をしまい、代わりにメイスを取り出した。

 

相手の防御力を見て、メイスの方がいいと判断したみたいだ。今持っている銃は性能が弱いし剣でも相性は悪そうだしね。

 

そんな中、サソリは喰らったダメージに怒りをあらわにしゲイル兄貴へと突貫していった。その勢いのまま尻尾を身体ごと回転して兄貴に叩きつけようとするが・・・

 

『《ヘビィアンカー》! 《シールドガード》!』

 

自身に衝撃や吹き飛ばしに耐性を付与するスキルと盾で受け止めた攻撃のダメージを軽減するアクティブスキルを使い、自身と同等の大きさの棘付き鉄球を受け止めた。

 

「!?!?」

 

自慢の尻尾の攻撃を受け止められてサソリは驚愕しているようだけど、そんな暇あるのかな?

 

「灼熱よ! 弾けよ!《フレイムボム》!」

 

まずはクルス兄貴が相手の顔に中規模の爆発を発生させるアクティブスキルを使用。ダメージはあんまり与えられないだろうが、視覚を短時間ではあるが封じることができた。

 

「UON!」

 

続いてグランがサソリの周りに大きな土でできた腕を四本出現させ相手を物理的に拘束する土魔法《グランドホールダー》を発動して、サソリの四つの腕を拘束した。

 

「SYA!」

 

爆煙が晴れたサソリは力任せに拘束を解こうとして徐々に拘束している腕に亀裂が生まれ始める。だからそんな時間はないよ。

 

「《オーバー・マジック》! 《ファイヤースロー》!」

 

サソリの正面に回ったクロス兄貴が前面に展開した魔法陣から火炎放射を浴びせる火属性魔法を発動した。ゲイル兄貴はすでに退避しているし、問題なく火炎放射は敵だけを炙る。

 

しかも、《オーバー・マジック》で威力を高めたスキルだ。相手の自慢の甲殻はすぐに白熱化し、いつ溶けてもおかしくない状況だ。その前に土でできている腕が溶岩化しサソリの四本腕を溶かしているが。

 

「SYA!?!?」

 

突如として腕を失い、激痛に叫ぶサソリ。この瞬間サソリに勝ち目はなくなった・・・

 

 

【クワトロ・シザーアームズ・スコーピオン】を倒していくつかのドロップアイテムを手に入れた。その中に【救命のブローチ】という有用なアイテムがあって、僕とクロス兄貴はゲイル兄貴に譲っているところだ。

 

『いいのか?』

「だってゲイル兄貴が一番ダメージ受けるしね?」

「この中で一番デスペナになりやすいのはゲイルだしな。それならお前が持つべきだ」

『じゃあ、ありがたくもらっとく』

 

ゲイル兄貴はそう言ってアイテムボックスにしまった。今ゲイル兄貴はアクセサリーの装備欄埋まってるからね。どれを外すか後で検討するのかな?

 

その後も僕たちは探索と戦闘を続けて、今のメインジョブをカンストしてゲイル兄貴は【大盾騎士】の条件をクリアした。ギデオンに帰る道中で群れで襲ってくるゴブリンやウルフ系のモンスターがいたおかげで僕とクロス兄貴も転職条件をクリアした。

 

ギデオンに就いた僕たちはさっそくそれぞれをジョブに就きログアウト。ログアウト後は三人で相談して予定通り、王都の《墓標迷宮》でお金稼ぎに行くことに。楽しみだ。




これで三兄弟もカンストまであとわずかです。それとあと何話かでアルター王国編は終わりです。次はドライフ皇国編となりますのでお楽しみに。


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第四十二話 《墓標迷宮》再び

明けましたおめでとう!


  ◇  【紅蓮術師(パイロマンサー)】クロス・アクアバレー

 

 

俺たちは予定通り王都アルテアに行き、回復アイテムを補充して《墓標迷宮》に挑んだ。最初は一階層から五階層を繰り返し、今のメインジョブのレベル上げとスキルレベルを上げて六階層に行くための特殊ジェムである【エレベータージェム】をストックする意味もある。

 

そのために五階層で出てくるボスを何度か倒したのはいいのだが、二回ほど【スカルレス・セブンハンド・カットラス】以外のボスが出た時は焦ったぜ。どうやら、ボスは用意されたボスモンスターの中からランダムで出てくるようだ。

 

出てきたボスは【骨格亜竜(スケルトンデミドラゴン)】に【スケルトン・スネークドラゴン】と言う骨でできた地竜に骨の蛇のドラゴンだった。

 

【骨格亜竜】の方はSTRとENDが高めの亜竜級のモンスターだったので俺たちにとっては戦いやすかった。苦戦したのは【スケルトン・スネークドラゴン】の方だ。

 

こいつはAGIが高めでしかも骨格にやすりのような突起物がいくつもあり、自身のスピードで相手に体当たりして削るのだ。正直うざかった。

 

最終的にはゲイルとグランが創ったゴーレムで受け止めて動きを封じてもらい、俺の魔法とグリフの物理攻撃で撃破した。

 

予想外のボスに苦戦したが、ドロップとボス撃破の報酬で収支的にはプラスだったのが救いか。【エレベータージェム】も6個はストックしたからそろそろ六階層に挑むことにした。そして現在、俺たちは準備を終えて《墓標迷宮》の六階層に来ている。

 

『ここからは徘徊しているモンスターでもドロップは価値がある物を落とすんだったよな?』

「むしろ《墓標迷宮》は六階層からが本番だって話だよ」

「ここから罠も確認されてるからな。慎重に進むぞ」

 

ここ《墓標迷宮》の六階層から十階層で出現するモンスターは植物系のエレメンタルだ。【トレント】やリアルにある食虫植物のようなモンスターがうようよいるらしい。

 

だが、一階層から五階層までのアンデットと違い個々のモンスターたちのドロップ品は需要がある。トレント系が落とす枝や木材は【木工職人】や【大工】がいい値段で買い取ってくれる。

 

食虫植物にしても毒草や薬草を落とすので【薬師】が買い取ってくれる。まぁ、需要の高いものをドロップするから罠などもあるのだろうがな。

 

迷宮自体は上の階層と大して変わらない。二十五階層以降は森だったり、雪原地帯に火山地帯など探索するだけでもある程度の装備が必要になってくるらしいが。

 

ともかく迷宮を進みだした俺たちだが、早速前方からモンスターが現れた。【リトルトレント】が三体に【ウィザードトレント】が一体か。

 

相手は俺たちに気付くと【リトルトレント】は俺たちに突貫し、【ウィザードトレント】は氷属性魔法のつららを放ってきた。

 

「久しぶりに使うな。《マジック・アブソープション》展開」

 

だが、魔法攻撃なら俺の【ガルドラボーグ】のカモだ。久しぶりに使うスキルを展開して、相手のつららが結界内に入ると溶けて消える。

 

「とりあえずこのまま結界を維持するぞ。全員物理攻撃で戦えよ」

『「了解」』

 

その後の戦闘ははっきり言って俺たちの蹂躙劇だ。【リトルトレント】の攻撃は枝や根っこを伸ばして攻撃するだけだったので俺は軽く回避して、ゲイルは正面から受け止めた。ウッドは近づかれる前に仕留めた。

 

そいつらを撃破した後は、攻撃手段が魔法しかないらしい【ウィザードトレント】をリオンとグランにスオウが物理攻撃で仕留めた。彼らも探索に参加してレベルを上げようと考えているのだ。

 

ドロップ品も回収して、俺たちは探索を再開した

 

 

 

  ◇  【剛弓士(ストロング・アーチャー)】ウッド・アクアバレー

 

 

《墓標迷宮》の六階層を探索し始めて出てくるモンスターと戦っているけど、五階層のアンデットとは違い厄介なモンスターが多い。【トレント】系は問題ないんだけど、食虫植物に似たモンスターが搦手を使ってくるんだよね。

 

ウツボカズラに似たモンスターの【アシッド・プラント】は溶解液を吐き出してこちらの武具の耐久値を減らすし、ラフレシアに似た【フェロモン・ビッグフラワー】は動かないけど、HPとENDが高くてHPが減るとどんどんモンスターが寄ってくる。

 

ハエトリソウに似た【リーフ・ファング】は物理系だったけど、本体が根っこの部分で根っこを倒さない限り体が再生し続けるってやつだった。それに気づくまでに何度も再生した奴と戦っちゃったよ。

 

まぁ、対処法さえわかれば僕たちにとってはおいしい敵なんだけどね? ほとんどの敵はクロス兄貴の火属性魔法で対処できるし。

 

現在は、行き止まりだった部屋で小休止をしている最中だ。

 

「上層とは違う厄介さがあるな植物モンスター」

『モンスター種族としてはエレメンタルらしいけどな』

「罠があるせいで進めない場所もあったしね」

 

僕たちは罠自体を察知するスキルはないけど、《危険察知》が大きく反応した場所は回避している。反応が弱めな場所では罠を解除しているよ?

 

と言っても罠を解除するスキルなんてないから、ゲイル兄貴が罠をわざと発動させて物理で耐える漢解除をしているだけだけど。

 

ゲイル兄貴はENDが今の段階で四千を超えているから、ただ槍が飛び出す罠や大きな岩が転がってくる罠なんかは問題なし。槍はゲイル兄貴に当たったら折れ曲がるし、岩も正面から受け止めるかアクティブスキルで粉砕できるし。

 

厄介なのは毒ガスなどの異常状態を発生させる罠だ。それに罹ったゲイル兄貴を回復させるために結構な数の回復アイテムを消費したよ。

 

「アイテムは消費したが、ドロップ品のおかげで収入はプラスだな」

『ダンジョンだから仕方がないが、ファンタジーしてるって実感するよな』

「だね」

 

ダンジョンで苦労してこうやってダンジョン内で休憩するのは現実ではあり得ないしね。

 

「とりあえず今日は時間がかかってもいいから十階層のボスまで行くぞ」

『初めてだからランダムボスも出現率が高い【バイオレンス・プラント】がいいよな』

「それは行ってみないとわかんないよ? ゲイル兄貴」

 

【バイオレンス・プラント】はネットで情報を調べたところ、ツタが絡まり集合した群体型のモンスターらしく、ツタ一つ一つがモンスターらしい。

 

再生力が高く、生半可な攻撃ではすぐに回復されてしまいHPが少なくなると傷口から花が咲き、毒ガスを噴出してくるとか。

 

情報が出そろっていたから、最初からこちらは全力全開で攻撃すれば問題ないと考えている。とにかくは初めてだしまずは戦ってみないとね?

 

休憩を終え探索を再開し順調に進んでいる。現在は八階層を進んでいる最中だ。そんな道中でまたモンスターに遭遇した。

 

「今度は【ウッド・ゴーレム】か・・・?」

『なんか・・・ネットで書かれた情報とは少し違いがあるな?』

「そうだね・・・少なくともあんなにぼこぼこしてないはずだよね?」

 

【ウッド・ゴーレム】は六階層から十階層で出現するレアモンスターだ。外見的には大木が大きな人型を形成していて、能力は物理ステータスが高く再生能力持ち。遠距離攻撃として枝を生やして撃ち出してくる厄介な敵だ。

 

ただ、僕たちの目の前に現れた【ウッド・ゴーレム】は外見に大きな瘤ようなものが目立っている。正面だけでも四つはあるね?

 

「油断するなよ? なんか嫌な予感がするしな」

「そうだね」

『了解』

 

相手を視認した時点でゲイル兄貴は僕たちより前に出て盾を構えている。【ウッド・ゴーレム】も僕らに気付き、一瞬でゲイル兄貴の眼前に迫り、腕を振り上げていた。

 

『「何!?」』

 

AGIが低いゲイル兄貴と僕は反応ができなかった。僕たち側で反応ができたのは・・・

 

「せい!」

「グルー!」

 

クロス兄貴とグリフの二人だ。クロス兄貴は右側に回り込んで、【ディセンブル】のスキルで突きに特化した形状の刃で【ウッド・ゴーレム】の下半身を狙う。

 

グリフはダンジョンの閉鎖空間でも器用に飛んで、空中から相手の頭に右足を叩き込もうとしていた。結果は・・・

 

ギン!

「硬!?」

 

クロス兄貴の攻撃は相手の防御力に負けた。現在の兄貴のメインジョブは【紅蓮術師】 いくら【ディセンブル】が破格の性能でも今の兄貴は剣関係の攻撃力や性能を上げる類のスキルは使用不能。地力で負けた形だ。

 

ガン!

「グル~」

 

グリフの攻撃は振り上げていた腕でガードされていた。グリフは深追いはせずにいったん離れて、左側の地面に着地。【ウッド・ゴーレム】はグリフを警戒しているらしく、体をグリフに向けていた。

 

『《シールド・バスター》!』

 

目の前で無視するなと言わんばかりにゲイル兄貴が【大盾騎士】で覚えたアクティブスキルを使用する。このスキルは【盾騎士】のスキルである《シールド・アタック》の上位互換スキルだ。

 

自身のENDで攻撃力を計算して相手の防御力が高いほど威力が上がる。最初の攻撃に反応しなかった相手だから油断したのか横っ腹にゲイル兄貴の盾がクリーンヒット!

 

「!?!?」

 

無防備な状態でアクティブスキルと各種スキルの補正が入ったゲイル兄貴の一撃は、【ウッド・ゴーレム】を吹き飛ばした。

 

一メートルほど空中に浮いて着地の段階でごたついているようだが、追撃はしなかった。というよりゲイル兄貴の攻撃の傷も吹き飛んでいる間に再生している。

 

「なんだこいつは!? 【ウッド・ゴーレム】じゃないのか!?」

『いや・・・《看破》で確認したが間違いないぞ。こいつは【ウッド・ゴーレム】だ。ハイもハイエンドもない』

「じゃあ、何かからくりがあるっぽいね?」

 

怪しいのはあの瘤みたいなふくらみだね? ともかく、せっかく出会ったんだし倒したいな。

 

 

 

 

  ◇  【大盾騎士(タワーシールド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

いきなり予想外の速さで先制攻撃をした【ウッド・ゴーレム】は俺に吹っ飛ばされてから俺を厄介な相手と認識したらしく、攻撃が集中している。

 

まぁ、タンク役である俺に攻撃が来るのはありがたいが。AGIは俺より高いが、相手のSTRと俺のENDには差がそんなにないらしいな。それなら武具で底上げしているこっちが有利だ。

 

さすがに無傷というわけではないが、これくらいなら相手を吹っ飛ばしたあとの隙に回復アイテムを飲んで回復できる範囲だ。

 

俺はそんな感じで他のメンバーは、クロス兄貴は魔法攻撃を駆使して戦っている。だが、相手に魔法耐性か属性耐性が高いのか今までよりダメージを稼げていない。

 

ウッドはグリフと連携して攻撃している。ただ、ウッドの攻撃はアクティブスキルを使ってもあまりダメージになっていない。唯一状態異常のアクティブスキルが有効なのが救いか。

 

グリフは俺たちの中で俺以上にダメージを稼いでいる。地味にウッドの状態異常攻撃で動きを封じて、渾身の一撃を喰らわせているのが最もダメージ効率がいい。

 

なお、リオンにグランとスオウは援護に徹している。リオンは発動と攻撃速度が高い魔法で相手を牽制し、グランとスオウはヒット&ウェイでかく乱というか嫌がらせをしている。

 

最初の奇襲ではこちらが後れを取ったが、戦闘が開始されてしばらく経つとこちらが有利になっている。やはり数の差は無視できないようだ。それともう一つの要因として・・・・

 

「シッ!」

「!!」

 

ウッドの矢が相手の瘤のようなふくらみを狙い、当たりそうになると相手はそれを何が何でも阻止しようとするのだ。特に、右肩の瘤はここに秘密があると言わんばかりの反応だ。

 

そんな反応じゃあ、そこは弱点だと言っているようなもんだぞ? どうやらこいつは戦闘経験があまり多くないようだ。

 

『《ガード・オーラ》!《シールド・バスター》!』

 

相手の大きな隙に俺は再度アクティブスキルを使用。今度はENDを上げるアクティブスキルを使用するおまけつきだ。これが相手の無防備な腹にヒットしてまたしても吹き飛ぶ。

 

「今だ! 右肩に攻撃を集中させるぞ! 《ヒート・ランス》!」

「グルー!」

「BURU!」

「UON!」

 

クロス兄貴が声を出して魔法を使用。それに続いて、グリフは風の矢を。リオンは光の矢にグランは岩の矢を放つ。

 

全員の攻撃を喰らい爆発した【ウッド・ゴーレム】は、爆炎に包まれた。俺たちは油断せずに構えていて煙が晴れるとそこには・・・

 

「「『はぁ!?』」」

 

干からびている【ウッド・ゴーレム】が倒れる途中だった。そのまま光の粒子となり、戦闘は終わった。あとにはドロップ品である大木が転がっている。

 

「最後のは何だったんだ?」

『干からびていたがなんか釈然としないな・・・』

「そうだね・・・? グリフどうしたの?」

「グル~」

 

最後の干からびていた状態に何か納得がいかない俺たちだったが、グリフだけは何やらあたりを警戒している。そして次の瞬間に・・・

 

「グル!」

 

急に飛び上がり壁を前足で叩きつけた。どうしたんだと疑問を浮かべていると・・・

 

 

 

 【<UBM>【寄生吸種 パラゾール】が討伐されました】

 【MVPを選出します】

 【【ウッド・アクアバレー】がMVPに選出されました】

 【【ウッド・アクアバレー】にMVP特典【植種強弓 パラゾール】を贈与します】

 

 

何やら聞き覚えのあるアナウンスが聞こえてきた・・・・




はい、これにて三兄弟全員が特典武具持ちですね。特典武具と元となった<UBM>の詳細は次回のあとがきで。

次回更新したらアルター王国編は終わりです。その後は作中オリジナルキャラや<エンブリオ>と<UBM>の一覧を更新してから、ドライフ皇国編です。

お楽しみに~


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第四十三話 三つ目の特典武具と旅立ち

投稿した話でミスを発見しました。

クロスとゲイルの<エンブリオ>名なのですが、正しくは【ガルドラボーク】で【ポルックス】です。

徐々に直していきますので、これからの話では上記の名で書いています。話の本筋にはあまり影響はありませんが、ミスをして申し訳ありませんでした・・・


  ◇  【剛弓士(ストロング・アーチャー)】ウッド・アクアバレー

 

 

《墓標迷宮》で予想外の敵との遭遇で、撃破したのはいいのだがまさかそれが<UBM>でグリフがとどめを刺したことで僕がMVPに選ばれた。

 

とりあえず特典武具の確認は後回しにして、僕たちは十階層へと到着してボスを倒した。ボスドロップの《宝櫃》と階層攻略報酬の宝箱を開けてさっさと脱出。

 

現在はドロップ品を売買した後にオープンテラスの喫茶店で話し合っている。

 

「しかし、あんな<UBM>もいるんだな?」

「<マスター>の<エンブリオ>もそうだが、<UBM>も多種多様すぎるな・・・」

「だね。今回の相手はグリフが居たから倒せたし」

 

多分だが、あの【ウッド・ゴーレム】は<UBM>にでも寄生されていたのだろう。そして<UBM>の能力でステータスかスキルが強化されていたんじゃないかな?

 

僕たちの攻撃を喰らい続けて勝てないと判断して寄生していた宿主を放棄して、そのまま姿を消すなどの隠蔽スキルで去ろうとした。グリフの素の気配察知力が高くて発見されたけど。

 

「ちなみにウッドが手に入れた特典武具はどんな感じだ?」

「お? そうだな。気になるところだ」

 

ゲイル兄貴の言葉にクロス兄貴も興味津々で聞いてきた。ちょうどいいからこの場でお披露目と性能も確認しよう。

 

 

 【植種強弓 パラゾール】

 <逸話級武具(エピソードアームズ)

 同種族に寄生し寿命を吸収してスキルを強化するエレメンタルの概念が込めれらた逸品

 矢を当てた相手からHPとSPを吸収し、攻撃スキルと汎用スキルを強化する。

 ※譲渡・売買不可アイテム

 ※装備レベル制限なし

 

 ・装備補正

  攻撃力+180

 

 ・装備スキル

  《種矢吸刃》

  《剛体汎種》

  《敵体隠射》

 

 

 《種矢吸刃》 パッシブスキル

  矢が敵に当たった場合、敵から装備者の最大HPとSP5%分吸収

 

 《剛体汎種》 パッシブスキル

  攻撃スキルと汎用スキルのスキルレベルを+2

 

 《敵体隠射》 アクティブスキル

  敵は矢の飛来を察知しずらくなる。発動からスキル終了までSP毎秒20消費

 

 

ふむ? 装備補正は今装備している弓の方が高いね? 装備スキルはこっちの方が優秀だけど。

 

「この特典武具はスキル特化か?」

「まぁ、倒した<UBM>からそんな感じだったしな」

「あ、なるほど」

 

確かに寄生するような<UBM>の特典武具が装備補正特化にはならないよね? そういう意味では兄貴二人が持っている特典武具はどちらかというと装備補正特化かな?

 

「で、これは使うのか?」

「うん。装備補正は今使っている弓の方が高いけど、スキルが優秀だしね」

 

特に汎用スキルのスキルレベルが上がるのは助かる。僕やゲイル兄貴の汎用スキルは限界レベルが低いから、アクセサリーで底上げしてるんだよね。

 

これを装備すればアクセサリーを外して別の有用なものを装備できるし、攻撃力が物足りないならその時だけ高めな奴を《瞬間装備》すればいいだけだしね。

 

ちなみにこの【パラゾール】の外見は持ち手の部分は細いが古びた樹木がねじれて上下に伸びて、ところどころにつぼみがあるなんとも古めかしいものだ。

 

弦を試しに引いてみたけど、問題なく武器として使えそうだ。外見的にはアンティークぽいのにね?

 

「じゃあ、《墓標迷宮》探索を再開するぞ。今日はこれで最後にしよう」

「旅立つ前にどこまで行けるかね?」

「そこは僕たちの実力と相手次第じゃない?」

 

予定外の特典武具の確認と休息を終えて、僕たちは回復アイテムを補充して《墓標迷宮》へと戻った。

 

 

 

  ◇【大盾騎士(タワーシールド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

ウッドも特典武具を手に入れたことで俺たちの戦力は増した。おかげで敵との戦闘が楽になったし、《墓標迷宮》探索もかなり進むことができた。

 

それもウッドの【パラゾール】のおかげで、戦闘ではHPとSPを攻撃命中時に敵から吸収できるので、多少攻撃を受けても自力で回復でき、SPも回復するので以前より攻撃アクティブスキルを使えるようになった。

 

探索では汎用スキルのレベルを引き上げるスキルのおかげで以前は危険だとしかわからなかった場所も、どういう罠があるのかが判明して、俺が漢解除できるか否かがわかるようになった。

 

おかげでいくつか宝箱も発見し、収支は先に探索した時よりも上がった。一度だけ、宝箱を開けた時に爆発寸前の時限爆弾があって危なかったが・・・

 

なお、回避方法は俺がとっさに爆弾を抱え、クロス兄貴は部屋の入り口にAGI全開で退避。ウッドもたまたまグリフに乗っていたので同じく退避。リオンとグランにスオウはグランが岩の壁を周囲に展開して耐えた。

 

爆弾を抱えた俺は何とか無事だった。至近距離で爆発したのでHPが半分も減ったが。全く誰だよ? こんないやらしい罠を考えて実行したのは。

 

それ以外は順調そのものだ。十階層のボスも問題なく倒している。何度目かの挑戦で十階層のボスと戦っているが、出てきたボスは【バイオレンス・プラント】ではない。

 

今戦っているのは【エルダー・ドラグトレント】という名のトレント系のドラゴン型のモンスターだ。名前的に純竜級のモンスターだと思う。

 

ドラゴンの姿で羽は枝で再現しており、葉っぱがびっしりと生えている。しかも攻撃手段は大きさを生かした物理攻撃に羽に生えた葉っぱを飛ばしてくる。

 

この遠距離攻撃が地味に厄介だった。葉っぱ自体の攻撃力は弱いがとにかく数が多い。しかも、葉っぱは放ってくるたびにすぐに再生して、連射が可能ときたもんだ。

 

威力よりも数と数多く放つせいで視界が悪くなるのが問題なのだ。クロス兄貴の火属性範囲魔法で対処できるが、すぐさま次が放たれるので、クールタイムの関係上間に合わなくなる。

 

『え~い! うっとおしいな! こいつは!?』

「このままだと、アイテムを消費していずれはじり貧だよ!」

「だったら俺たちの持ち札の手段をいろいろ試すぞ! 何か有効なものがあることに賭けよう!」

『「了解!」』

 

まず俺は【ポルックス】を紋章に戻してから別の全身鎧を《瞬間装着》した。装備したのはまだ装備条件を満たしていない【BAA】ではなく、王都で見つけた掘り出し物の全身鎧だ。

 

 

  【ブラック・マジック・フルアーマー】

  何代か前の鎧特化超級職の作品と思われる武具だが、真偽のほどは定かではない。

  能力は高いので信憑性は高く、攻撃魔法耐性や属性耐性を持つ全身鎧。

 

  装備補正

 

  防御力+720

  攻撃魔法耐性+20%

  属性耐性+20%

 

  装備スキル

 

  《破損耐性》

 

  ※装備制限  合計Lv400以上

 

 

装備スキルは《破損耐性》だけだが、攻撃魔法と属性全般に耐性があるだけでも防具としては優秀だ。ただ、前にも言ったが全身鎧は人気がない。需要が全くないわけではないのだが。

 

この防具・・・長いから【BMF】はとある商店が在庫整理で特売していたところの目立たない場所に置いてあった。外見的には真っ黒な騎士甲冑で縁は白色で装飾されている美しい武具だ。

 

能力を見てすぐに買った。お値段は180万リルだったのでその商店の店長との値切り交渉の結果、136万で購入することに成功した。店としても目玉商品として店に並べたはいいが、何年もの間も買い手が付かなかったと言っていたな。

 

とにかく俺は今【BMF】を装備して、【ポルックス】はガーディアン運用するために再度紋章から出し、俺が持っている剣と盾を渡して俺自身はすぐに《瞬間装備》で新たな剣と盾を装備した。

 

今はとにかくこっちの手数と相手のターゲットを増やそうと思っての行動だ。【ポルックス】には防御優先で隙があるときだけ攻撃するように指示を出す。

 

ウッドもグリフから降りて、グリフを自由に動くことを優先した。クロス兄貴は・・・・

 

「《マジック・アブソープション》展開! あれ?」

 

【ガルドラボーク】の代表スキルを発動。クロス兄貴的にはただのお試しで発動したのだろうが、これが意外な効果を発揮。

 

【エルダー・ドラグトレント】の葉っぱが枯れたのだ。しかも再生する様子がない。ということは・・・

 

『「「魔法判定なのかよ! あの葉っぱ!?」」』

 

俺たち三人の叫び声が見事に重なり、その後は全員でぼこぼこにした。

 

 

 

  ◇  【紅蓮術師(パイロマンサー)】クロス・アクアバレー

 

 

十階層のボスである【エルダー・ドラグトレント】を少々納得がいかない倒し方をしたが、その後の探索は順調そのものだ。

 

ドロップ品をいい値段で買い取ってもらい、旅に必要な物や各個人で必要な装備を買いそろえたりとドライフ皇国に行く準備を進んでいる。

 

現在は十一階層から十五階層の探索を行っている。ここの階層は魔獣系モンスターの巣窟であり、時々亜竜級のモンスターとも遭遇するからなかなかハードだ。出てくるモンスターも魔獣系は多種多様だからな。

 

狼や虎に熊は定番だが、蛇や鰐に蜥蜴などもいるし牛、羊、鹿なども居てとにかく多種多様な魔獣たちが居すぎだ。

 

戦闘スタイルも同じ種類でも違う名前だと全く違う戦い方をするので気を抜くと思わぬダメージをもらう。まぁその分ドロップはかなり高く買い取ってもらえるのだが。

 

毛皮などの皮に牙に爪、さらにはお肉もドロップしてそれが【料理人】のジョブに就いた者たちから人気だった。《墓標迷宮》ではモンスターが自動ドロップするのでお肉が無限に手に入る。

 

そのため味のいいお肉がそのモンスターを倒せば必ず手に入るわけではないが、なくなることがないので市場に出た瞬間にはすぐに買い手が付く。

 

少々気になったので、ゲイルにドロップしたお肉を旅に備えてそろえたサバイバル調理器具で焼いてもらったが、結構美味だった。俺たちの中ではゲイルが一番料理上手だしな。

 

十五階層のボスである【ミスリル・アリゲーター】と言う逸話級金属が皮に張り付いているボスは、俺たちには戦いやすい敵だったので、難なく倒せた。

 

奴のドロップ品である《宝櫃》からはミスリルが出てきたので、半分ほど買取に出した。次の目的地であるドライフ皇国は生産系のジョブが豊富だという話だし、持ってたら何かいい武具に作ってもらえると考えた結果だ。

 

そんなことを続けてリアルで一週間が経とうとしていたそろそろリアルでは八月になるころだな? もうこのへんでいいかもしれないな。

 

俺は《墓標迷宮》探索を終えた二人を誘い、適当な飲食店に入り話をすることに。

 

「そろそろお金も貯まったし、ドライフ皇国へ行こうかと思うんだがどうだ?」

「いいと思うぞ? 合計レベルも俺たち全員480に達したしな」

「キリもいいと思うし僕も賛成」

 

俺の意見に二人からは反対意見も出ることはなく、俺たちはドライフ王国へと旅立つことに。

 

それからデンドロ時間で三日後、各自の知り合いにしばらく隣国へ行くと挨拶して俺たちは馬車に乗り込んだ。これは旅をするのだから気分を味わいたくて購入したものだ。馬車を牽くのはリオンとグリフが交代で行うことにしている。

 

まずはアルター王国の北東にあるカルチェラタン領に向かい、そこから隣国のバルバロス領へと向かう順路だ。

 

「こんな旅はリアルじゃできないから楽しみだ」

「モンスターもいるから普通は楽しみって言えるものじゃないけどね・・・」

「まぁ、そうなんだろうが俺たちにとっては脅威じゃないからな。<UBM>や最上位純竜でも現れなければだけどな・・・」

 

俺の言葉に二人は言うんだが、ゲイルよフラグになるようなことは口にするなよ・・・

 

とにかく、俺たちは目的地に向けて出発した。一応アルター王国には所属を取り消す手続きはしてはいない。どうせまた戻ってくるしな。ドライフ皇国ではどんなことが待っているのかね?




余談。特典武具と<UBM>について

【寄生吸種 パラゾール】は同種族である植物型のエレメンタルに寄生して寄生したモンスターの寿命をリソースにして保有スキルを強化するタイプの<UBM>
三兄弟は本体を見ることなく倒したが、本体の姿は大きなたんぽぽの種に酷似。寄生する前段階では六階層から十階層の空中を漂っている。
戦闘タイプで言えば条件特化型であり、地上だとよほど好条件の場所がなければ実力を発揮できない個体。
まぁ、だからこそ管理AIたちはもろもろの事情込みでこいつを六階層から十階層に配置したわけだが。


特典武具のスキル説明

《種矢吸刃》
【パラゾール】の寄生した相手の寿命を吸収する特徴から生まれたスキル。ただし、MVPに選ばれたウッドにアジャストした結果、かなり変質した。吸収するのがHPとSPになり、吸収される数値も激減。もっとも、ウッドにとってはかなり使えるスキルとなっているが。

《剛体汎種》
【パラゾール】の寄生した相手のスキル強化から生まれたスキル。これも元の能力から比べるとかなり変質している。強化されるのは攻撃スキルと汎用スキルだけであり強化率も下がった。まぁ、ウッドにアジャストした結果なので本人に不満はない。

《敵体隠射》
本体が持っていた隠蔽スキルが元のスキル。特典武具唯一のアクティブスキルだが、敵が《危険察知》や《殺気感知》を持っていたら役に立たない。逆に言えばそのスキルを持っていない敵対者には有効なのだが、残念ながら便利すぎるスキルなので持っている輩は多い。


これにてアルター王国編は一旦終わりです。この次の更新は作中オリジナルで出したキャラや<エンブリオ>の紹介です。そのつぎはカルチェラタン領でドライフ皇国編の始まりです。お楽しみに~!


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作中オリジナルキャラ&<エンブリオ>紹介

主人公三兄弟の情報と味方オリジナルキャラの紹介です。興味のない方は読み飛ばし推奨。


  ◇  主人公たち

 

 

 クロス・アクアバレー 合計Lv480  リアル名 水谷 流 28歳

 

 メインジョブ 魔術師系統火術師派生上級職【紅蓮術師(バイロマンサー)

 サブジョブ 上級職【紋章剣士】

       下級職【剣士】【魔術師】【魔法剣士】【風術師】【大剣士】【火術師】

 

 

 主人公たち三兄弟が<Infinite Dendrogram>を始めるきっかけになった三兄弟の長男。

世間に事前情報が何もなく突如として販売された<Infinite Dendrogram>を販売開始時点で購入。仕事の関係でゲームをすることはできなかったが、その後の購入者の口コミで以前から出ていた失敗作ではなく本物だと知ることに。

そのため彼は兄弟もゲームに誘うことにしたが、次男がなかなか購入できずに半年後に三兄弟はゲームを始めた。長男もゲームを始めることはせずに次男三男を待ち続け、同時に始めることに。

所属国をアルター王国に兄弟全員と相談して選択。その後のジョブ選択で【魔法剣士】をメインジョブとして活動することに。本人曰く「魔法も使ってみたかったが、剣も使ってみたかったのでこのジョブにした」とのこと。

ただ、魔法剣士系統のジョブは剣士の特徴と魔術師の攻撃魔法が使える器用貧乏なジョブであり、特化したジョブに比べると弱い類のジョブだ。しいて長所を上げるなら手札が多いことくらいだ。本人はかなり気に入っているし、<エンブリオ>の能力がシナジーしていて、対魔法特化な能力なので相手は選ぶがかなりの実力。

一時期、魔術師系統か剣士系統の下級職のどちらでジョブを埋めるかや魔術師系統のどれに就くか悩んでいたが、現在のビルドに落ち着いた。戦闘を経験し不満があればジョブ変更を考えている。

本人の性格は細かいことを気にしない竹を割ったような性格で弟たちのことを考え気を使う優しい兄貴。その理由は弟たちの過去に理由があるのだが、詳細は本編にて。

 

 

 クロス・アクアバレーの<エンブリオ>紹介

 

 【吸収魔書 ガルドラボーク】TYPE:ワールド・アームズ 第四形態

 

  能力特性  魔法吸収&魔力タンク

 

  装備補正

  MP+20%

 

  ステータス補正

 

  HP補正:G

  MP補正:D

  SP補正:G

  STR補正:D

  END補正:F

  DEX補正:F

  AGI補正:D

  LUC補正:G

 

 

  保有スキル

  《マジック・アブソープション》Lv5 アクティブスキル

  《サークル・トランスファー》 アクティブスキル

  《ダブル・マジック》 アクティブスキル

  《マジック・アクセルブースト》Lv1 アクティブスキル

 

 

 クロス・アクアバレーの<エンブリオ>で、能力は展開した結界内に到達したまたは発動した魔法をMPとして吸収し本の中でため込む魔力タンク。

進化の過程でため込んだ魔力を利用するスキルも増えたが、基本能力は対魔法特化でありスキル特化な<エンブリオ>である。

ステータス補正も低いわけではなく、クロスが魔法剣士系統をメインジョブに活動していたのでそれに合わせて必要ステータス補正も上がった進化をした。

ただし、魔法吸収結界である《マジック・アブソープション》は無差別スキルであり味方の回復魔法や付与魔法も吸収してしまうデメリットがある。

さらに上級に進化した過程で増えた《マジック・アクセルブースト》も【ガルドラボーク】のページを消費してステータスを上げるのだが、ページ消費は破り捨てるというまさかの物理方法。

時間経過でページは再生するが、このスキルを行使すると魔力タンクの総量も減ってしまうため使いどころが難しいスキル。現在の強化値もSTRとAGIが10%でやや低い。

TYPEは最初の段階から二種混合のハイブリットだった。ただ、アームズ要素は本の外見と特殊装備品であること以外はないのでおまけ程度である。むしろ本体が空中に浮いている本なので壊される危険があり、弱点が増えてしまった形だ。最初の段階で二種混合型だった理由は現時点では不明。

 

 

 

 ゲイル・アクアバレー  合計Lv480  リアル名 水谷 高次 26歳

 

 メインジョブ 騎士系統盾騎士派生上級職【大盾騎士(タワーシールド・ナイト)

 サブジョブ 上級職【重厚騎士】

       下級職【騎士】【重騎士】【盾騎士】【騎兵】【流浪騎士】【銃騎士】

 

 

 三兄弟が販売から半年後に<Infinite Dendrogram>をやり始めたのは彼がゲーム機自体を手に入れるのに半年かかったため。そのことに関して本当にすまないと考えている。

長男から連絡が来るまでは活力不足で<Infinite Dendrogram>のことを教えてもらい久しぶりに活力がみなぎった。その活力をもってしてもゲームを手に入れるのに半年かかったが。

所属国であるアルター王国で兄弟と合流してからメインジョブに【騎士】を選択した。本人曰く「騎士甲冑のような全身鎧が好きなので着てみたかった」とのこと。

もっともジョブに就いてから生まれた<エンブリオ>が機械式甲冑だったのですぐに望みは達成された。

騎士系統と<エンブリオ>のシナジーも抜群であり、タンク型としては現時点でも相当の実力。反面、ジョブも<エンブリオ>も防御特化なため攻撃力不足というか決め手に欠けているところはあるが。

ティアンや同じジョブに就いた<マスター>とも積極的に交流し、技術を学んだりしている。その過程で仲良くなったティアンとはいっしょに酒を飲みに行くほど。

騎士系統なので《乗馬》スキルを使うためにとある一件で知り合った商人から馬型モンスターである【シルヴァリオン・ホース】を購入した。

ジョブビルドを悩んだ時期もあったが、技術を学んでいるティアンに相談し現在のビルドに落ち着いた。

本人の性格は真面目で実直。家族を大切にしていて過去のとあることが原因でいろいろな人に迷惑をかけた時期がある。詳細はいずれ本編にて。

 

 

 ゲイル・アクアバレーの<エンブリオ>紹介

 

 【双騎鎧 ポルックス】TYPE:ウェポン・ガーディアン 第四形態

 

 能力特性  機械式甲冑性能特化&自立行動

 

 装備補正

 防御力+670

 

 ステータス補正

 

  HP補正:D

  MP補正:G

  SP補正:E

  STR補正:C

  END補正:C

  DEX補正:E

  AGI補正:E

  LUC補正:G

 

 

 保有スキル

 《バトル・シルエット》 

 《アクセル・スカウター》Lv2 アクティブスキル

 《バースト・イグニション》 パッシブスキル

 《ブースデット・クロス》

 《サンダー・コーティング》Lv1 アクティブスキル

 

 

 ゲイル・アクアバレーの<エンブリオ>で能力は機械式甲冑として防御力と装着者の情報がフルヘルムの視界に表示されるのと、装着者とパーティメンバーの危機を知らせるアラームが基本性能として付いており、<マスター>のステータスの半分の戦闘力で自立行動する。

スキルに関してはそれほど強力なものではなく、進化の過程で増えはしたがリソースが分散してしまいやや器用貧乏になりつつある。(原作のクマにーさんの【バルドル】ほどではないが)

基本性能としては機械式甲冑性能特化でありスキルはそれを補助する物や装着者の戦闘力を補う物や自立行動時の戦闘力関係のものがほとんど。

最初の段階でアームズ・ガードナーという二種混合のハイブリットであったが、当初はガードナー運用するには弱く、地力を上げてようやく自立行動でも活躍するようになる。

なお、ガードナーの特徴として能力やスキル以外にも戦闘力としてのステータスもリソースの対象となるのだが、【ポルックス】の場合はスキルで<マスター>のステータスを戦闘力としているのでリソースの節約になっている。

上級である第四形態になると名称にTYPEも変化。ステータス補正に装備補正も上がり、《バトル・シルエット》の強化版のスキルも覚え、便利なアクティブスキルも増えてますます活躍するようになる。

<マスター>の間で一時期流行ったカテゴリー別性格診断ではアームズとガードナーの性格は真逆と言っていいものだが、それを知ったクロスによるとゲイルがこのTYPEの<エンブリオ>を持つのはすごく納得するらしい。

 

 

 

  ウッド・アクアバレー  合計Lv480  リアル名 水谷 芳樹 22歳

 

  メインジョブ 弓士系統上級職【剛弓士(ストロング・アーチャー)

  サブジョブ 上級職【強弓騎兵】

        下級職【弓士】【騎兵】【従魔師】【弓騎兵】【狩人】【弓狩人】

 

 

 主人公たち三兄弟の末っ子。次男よりも早くに<Infinite Dendrogram>を手に入れたが兄弟全員とやるために待ち続けた。

<Infinite Dendrogram>のことは知ってはいたが自分一人でやる気にはなれなかったために長男が誘ってくれたのは実はかなり嬉しいことだった。

アルター王国に到着して最初のジョブに【弓士】を選択。本人曰く「弓は一番好きな武器だからリアルなこのゲームでも使ってみたかった」とのこと。

ジョブに就いた直後に<エンブリオ>が生まれて、騎乗できるガードナーだったのでその後のジョブビルドを騎兵系統派生職【弓騎兵】をメインジョブとした。

その結果、<エンブリオ>とジョブとのシナジーでガチンコ戦闘では三兄弟の中で一番の実力者に。もっともこの戦闘力は<エンブリオ>前提の話なので使用不能になると戦闘力は激減する。

本人もそこは自覚しているので【従魔師】のジョブをサブに選択し、<エンブリオ>以外の戦力も増やした。<エンブリオ>の代わりも務められる騎乗できる従魔も増やしたいと考えているが、現在の従魔たちと仲良くできるのが前提なためなかなか見つけられずにいる。

本人の性格は優しく思いやりを欠かさない。兄たちを信頼しており兄弟仲も良好。昔はとある事情によっていろいろな人に迷惑をかけたらしいのだが、詳細は本編にて。

 

 

 

  ウッド・アクアバレーの<エンブリオ>紹介

 

  【超翼馬 ヒッポグリフ】TYPE:ガーディアン・ギア 第四形態

 

  能力特性: 戦闘力&騎獣能力特化

 

  ステータス補正

 

  HP補正:G

  MP補正:F

  SP補正:E

  STR補正:F

  END補正:G

  DEX補正:D

  AGI補正:F

  LUC補正:F

 

  保有スキル

  《弓騎一体》Lv4 パッシブスキル

  《ウィンドブレス》Lv4 アクティブスキル

  《風の加護》Lv1 アクティブスキル

  《騎獣咆哮》 アクティブスキル

  《ストーム・バレット》Lv1 アクティブスキル

 

 

 ウッド・アクアバレーの<エンブリオ>は鷲の上半身と馬の下半身を持つ幻獣ヒッポグリフがそのままの姿で誕生した。最初の第一形態は普通の馬よりも一回り小さく、どちらかというとかわいいっと言ってしまうぐらいだったが。

同じガードナー要素があるゲイル・アクアバレーの<エンブリオ>と違い意思があり、自身で考えて行動もできるし、覚えているアクティブスキルも自らの意思で使うことが可能。

性格もあり、ウッドに対しては甘えん坊でよく体や頭をこすりつけ構ってほしそうに鳴き声を上げる。敵対者に関しては容赦せずに渾身の一撃を与えるのでギャップがすさまじい。

能力特性はガードナーとしての戦闘力と騎獣能力特化型。そのせいでウッドのステータス補正は低い。もっとも騎乗状態でウッドの一部のステータスを上げるスキルがあるので、特に不満はないようだ。

攻撃用のアクティブスキルも覚えており、三兄弟の<エンブリオ>では一番癖がないため、彼らのパーティでは主力級。

上級の第四形態に進化すると相変わらずステータス補正は変わらないが、戦闘力が大幅に増え純竜級に。さらに使い勝手のいいアクティブスキルも覚え体も成長してかっこよくなる。性格は変わらずにウッドに甘えているが。

 

 

 

   三兄弟の保有戦力(従魔や特典武具)

 

  【破岩盾 バルギグス】 <伝説級武具(レジェンダリーアームズ)

 

  三兄弟が初めて倒した<UBM>である【破岩巨人 バルギグス】の特典武具。ゲイルが所有。

能力的には装備補正特化であり、防御力は200もありHP+30%の効果もある。スキルは盾で受けた武器の耐久値を大幅に減らすパッシブスキル《破岩甲》があるが、効果が対人戦闘向き。

さらに、三兄弟は知らないことだが<UBM>担当管理AI4号であるジャバウォックによればこの特典武具は伝説級にしては弱い類らしく、【バルギグス】の元となったモンスターはモンスター担当管理AI3号が創った個体でジャバウォックはこれからはより厳しく認定を行うことに決めたとか。

 

 

 

  【血晶甲剣 ディセンブル】 <古代伝説級武具(エンシェントレジェンダリーアームズ)

 

  三兄弟と知り合いの<マスター>であるガルド、タタン、シルクらとともにフルパーティで戦い獲得した特典武具。クロスが所有。

古代伝説級であり戦闘スタイルは純粋戦闘特化で格闘戦が得意な【武血蟲人 ディセンブル】が元となっている。三兄弟の戦闘では過去最大級の戦いだった。

特典武具の能力としては装備補正特化であり、STRとENDが40%も上がり攻撃力も高く防御力も上がる。スキルは多種多様な刃を装備者のMPとSPを消費して作り出す《血晶操刃》に作り出した刃で相手を攻撃すると毒にすることがある《晶毒》などがある。現在はクロスのメインウェポンだ。

蛇足だが、この【ディセンブル】の元となったモンスターはモンスター担当管理AI3号が<UBM>担当である管理AI4号に認めてもらうためにこだわって作り出したモンスターだ。

そのため、<UBM>になったときは3号は誰から見てもわかるくらい上機嫌だった

 

 

 

  【植種強弓 パラゾール】 <逸話級武具(エピソードアームズ)

 

  三兄弟が<墓標迷宮>の六階層から十階層を探索中に出会った<UBM>である【寄生吸種 パラゾール】を倒してウッドが手に入れた特典武具。

逸話級であり同種族である植物系のエレメンタルモンスターに寄生して保有スキルを強化して戦う条件特化型。ただし、同種族しか寄生できないため<墓標迷宮>の六階層から十階層のような植物系モンスターが沢山いるところでないと実力を発揮できない。

特典武具となってからは装備補正よりも装備スキルが強力なスキル特化の弓になる。

 

 

 

  【シルヴァリオン・スターホース】 馬型モンスター ゲイルの従魔 呼び名 リオン

 

  ゲイルがギデオンを観光中に遭遇したトラブルを解決した後に、知り合った商人から買い取った馬型モンスター。

モンスターとして珍しい個体で馬らしくAGIが高いがそれ以外のステータスも低いわけではなく、光魔法を使いこなすため、戦闘力が高く【騎士】や【騎兵】に【従魔師】からは人気のモンスター。

購入した当初は【シルヴァリオン・ホース】だったが、戦闘を重ねた結果上位のモンスターである【シルヴァリオン・スターホース】に進化した。

進化したことで各ステータスも上がり、戦闘力が増した。性格は温和で人懐っこい。ゲイルの愛馬として時には魔法を使い援護し、乗馬状態でともに戦う頼もしい仲間。

 

 

 

  【亜竜土狼(デミドラグアースウルフ)】 狼型モンスター ウッドの従魔 呼び名 グラン

 

  ウッドがギデオンで開催されていたモンスターのふれあいイベントの後半でやっていたモンスター売買で購入した狼型のモンスター。

新種のモンスターであり、当初は【グランヴォルフ】と言う名で地属性魔法の拘束系魔法を得意としていた。戦闘を重ね進化し【亜竜土狼】となってからは拘束魔法だけではなく、攻撃やゴーレム創造などもできるようになった。

外見は赤茶色と白色の体毛のバランスが美しくモフモフしている。性格は真面目で堅物。グリフが自分より強いとわかっているのでその主であるウッドに従っている。グリフとしてはもっと気安い関係がいいようだが。

 

 

 

  【ハーミットクロウ】 梟型モンスター ウッドの従魔 呼び名 スオウ

 

  グランと同時に購入した梟型のモンスター。怪鳥種にしては小さいらしいが大きさはウッドの半分くらいはある。

新種のモンスターで購入した当初は【ステルスオウル】と言う名で、気配隠蔽系のスキルが豊富で奇襲を得意とする。

進化してからは索敵能力も上がりスキルも増えた。性格は素直で礼儀正しい。外見は濃い灰色の体毛でグリフの強さを理解しその主であるウッドに従っている。

 

 

 

 

   作中オリジナルキャラ

 

 

  ガルド  メインジョブ 戦士系統上級職【大戦士(グレイト・ファイター)

 

 三兄弟がゲームを始めたばかりのころに知り合った<マスター> アバターの外見は中学生くらいリアルも同じくらいと予想している。

同級生らしきほか二人とパーティを組んでおり、彼のパーティ内の役割は前衛の攻撃役。

<エンブリオ>は大剣型のアームズで【炎熱剣 レーヴァテイン】という。能力は炎熱攻撃にダメージ計算時に相手の防御力を半減して計算するEND型には天敵のような能力。

ただし、攻撃を当てるためには自力でどうにかする必要がありスキルによる防御には弱い。そこらへんは今後の進化に期待するしかない。

本人の性格はやんちゃであり怖いもの知らずで周りのことを考えない。しかしながら三兄弟とパーティを組んだ後は周りのことを考えるようになる。

余談だが、リアルでも影響しており両親は性格が変わったことを喜んでいるとか。

 

 

  シルク  メインジョブ 司祭系統上級職【司教(ビショップ)

 

 ガルドとパーティを組み一緒に行動している中学生くらいの女の子。パーティの役割は回復役であり実質のリーダー。

<エンブリオ>は杖型のアームズで【癒光杖 べレヌス】と言う名で、能力特性は回復魔法強化と回復効果の完全に回復特化な能力で戦闘能力は一切ない。

最初からパーティを組みつもりでゲームを始めたのでこの<エンブリオ>が生まれたともいえるが。

本人の性格はしっかり者で自分の意見をしっかりと口にする。よくガルドと口喧嘩をしているが、二人からしたら日常茶飯事。三兄弟とパーティを組んでからはガルドが変わったおかげで口喧嘩の回数は減ったが、彼女的には物足りない感じがしてなれるまで少し時間がかかった。

 

 

  タタン  メインジョブ 付与術師系統上級職【高位付与術師(ハイ・エンチャンター)

 

 ガルドとシルクの二人とパーティを組んでいる中学生くらいの男の子。パーティとしての役割はバッファー。

<エンブリオ>が機械式ゴーレムのガードナーであり前衛の壁役も担当。名は【生動機人 タロス】

能力特性は戦闘力と魔法効果アップで後者の能力のおかげで機械式でありながら回復魔法で回復できる。デメリットとして敵からの魔法攻撃やデバフなどの効果も上がってしまう。それを補う形で魔法を受けたらステータスが上がるスキルを持つ。

本人の性格は臆病で怖がり。ただここぞという時の行動力があり、以前亜竜級のモンスターを倒してその子供を発見した時には真っ先にその子たちを引き取ると言ってきた。




敵キャラに関してはそんなに出てきたないですし、名前すら考えなかった奴らや、本編である程度情報提示したのでなしにしました。


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第四十四話 子供たちの宴

リアルで忙しかったり、風邪をひいたり、精神的に疲れたりで遅くなりました。


  ◇  【剛弓士(ストロング・アーチャー)】ウッド・アクアバレー

 

 

アルター王国の王都アルテアを旅立ってデンドロ時間で二日が経った。今日中にはカルチェラタン領にたどり着くはずだ。リオンやグリフの能力をフルに使えば一日で着くのだけど、旅は道中も楽しみたいしね?

 

ゆっくりとした馬車の旅では、休憩中に同じく旅をしている<マスター>とのたわいない会話やティアンの人たちの馬車がぬかるみにはまっているのを助けたり、時々襲ってくるモンスターを倒したりと最後のモンスターに襲われた以外は旅をしているって実感する。

 

モンスターに襲われても僕たちにとっては問題ないレベルだけどね? 僕や兄貴たちが馬車から降りることもなくグリフたちが倒してくれるからね。ドロップ品も持ってきてくれるからありがたいことこの上なし。

 

今日は野宿を経験して、朝早くから出発した。この分ならお昼前には目的地であるカルチェラタン領に着くと思う。

 

「野宿すると旅をしているって実感がするよな~」

「俺はあまり眠れなかったがな・・・」

「ゲイル兄貴って睡眠に関してはデリケートだよね?」

「まぁ、枕が変わると寝れないって程じゃないが睡眠の質を高めたいならベットか布団で寝たいな・・・」

 

そう言ってゲイル兄貴は欠伸をして、眠たそうに後ろ首を軽く叩いている。

 

「レジェンダリアには空間拡張の効果で中がキャンピングカー以上に広い馬車や竜車があるらしいが、手に入れてみるか?」

「本音を言えばほしいが・・・でも確かそれらの商品は最低一億リルするって話だろう?」

「最低価格はね。もっと性能がいいと桁も違うんじゃない?」

「旅を快適にしたい気持ちもあるが、それくらいだと考えてしまう。それに・・・」

「「それに?」」

「レジェンダリアに関する提示版を見ると行くことを躊躇するぞ」

「「あ~」」

 

レジェンダリアに関しては<マスター>の間で変態の国と言われ、ある意味恐れられている。PKとか野盗PCとはちょっと違う意味でだけど。

 

なんせあそこに属する<超級>ですら<エンブリオ>の効果が【装備をすべてはがされる】や【人を幼児にさせる】に【自身が最も嫌悪する生物にさせる】などなど、なにこれ?ってレベルなのだ。

 

ティアンもティアンでそう呼ばれてもおかしくないくらいに変らしいので僕たち兄弟の中でレジェンダリアに対する評価が駄々下がりなのだ。

 

「まぁ、その話に関しては日を改めてしよう。目的地が見えてきたぞ」

 

御者台に乗っていたクロス兄貴の言葉に僕たちは馬車から顔を出して、その光景を目にした。

 

「ほぉ~」

「すごいね・・・」

 

遠目にもはっきりと映る町は、数多くの緑と花が咲き誇っている美しいところだった。それだけ言えば派手だけど、見た目の印象は決して派手ではなくかなり上品に見える。そう計算して植えたのかもしれないね。

 

徐々に近づくと花々の香りが鼻に届いてとてもリラックスするね。それから僕たちは門を通り、町の中に入った。すると・・・

 

「そこの馬車の方々。少しお待ちを」

「「「ん?」」」

 

門をくぐり、そのまま町の中央に向かおうとすると呼び止められた。馬車を止めて声をした方に視線を向けると燕尾服を着た中年男性がきれいな姿勢で立っていた。そのまま中年男性は僕たちの馬車に近づいて・・・

 

「呼びとめて申し訳ありません。もしお時間があるようでしたらお話を聞いてくれないでしょうか?」

「特に急ぎの予定があるわけじゃないですし、かまいませんよ」

 

僕たちを代表してクロス兄貴が対応した。中年男性はお礼を言って、事情を説明し始めた。

 

中年男性はこのカルチェラタン領の領主である伯爵夫人に仕えている執事だという。今日この日伯爵邸では孤児院の子供たちを招いてお茶会をしているとのこと。

 

ただ、お茶会だけでは子供たちも退屈だろう伯爵夫人は考えており旅人や手配した芸を見せる者も段取りをしていたのだが、招待していた旅人が風邪で寝込んでしまったという。

 

そこで急遽、別の旅人を探していたところ執事さんが珍しい馬型モンスターで馬車を牽いている僕たちに声を掛けたというわけだ。

 

「つまり子供たちにこのリオンと触れ合ってもらいたいということですか」

「はい。お願いできませんでしょうか? もちろん報酬もお支払いします」

「ちょっと相談させてください」

「いや、クロス兄貴。俺は反対しないぞ? リオンも人懐っこいし気分転換になるしな」

「BURU」

 

クロス兄貴にゲイル兄貴はそう答えた。リオンもどこか嬉しそうに鳴き声を上げる。

 

「僕も反対しませんよ。グリフも参加したいでしょうしね」

 

子供の相手はギデオンのイベントで経験してるし、グリフにとってもいい気分転換になるだろうしね。

 

「・・・と言うわけで参加させてください。あと、俺たちの報酬は金銭ではなくおすすめの宿屋を教えてくれるだけでいいですよ?」

 

クロス兄貴は「意見言うのが早えよ!?」と言いたげな沈黙の後にそう答えた。報酬に関しても特に反対する理由はないね。

 

その後の執事さんの話し合いで最終的な報酬は伯爵夫人と相談してからと言うことになったが、特に問題ないだろうとのこと。むしろそれだけではこちらが申し訳ないので、町に滞在する間の宿代を払うと言ってくれた。

 

こっちとしてはそれほど長く滞在するつもりはないので、あちらの顔を立てて受け入れることに。それから僕たちは馬車を大容量アイテムボックスに入れて執事さんの案内で伯爵邸に向かう。

 

 

 

 

  ◇  【紅蓮術師(バイロマンサー)】クロス・アクアバレー

 

 

カルチェラタン領の町について早々にクエストを依頼された俺たちだったが、かなりほのぼのとした依頼だし、リオンやグリフの気分転換にもなるからとゲイルやウッドが反対しなかったので、現在執事さんの案内で伯爵邸に向かっている。

 

町を進むと色とりどりの花や草木が植えられていて、目にも鼻にも楽しませてくれる。リアルではあんまり花とかアロマセラピーとかに興味がない俺だが、こういう場所を歩くとリラックスするなぁ~

 

「植物が多くてなんだかリラックスできる場所ですね」

「ありがとうございます。私どもの主である伯爵夫人がガーデニングをたしなんでいるので、町の人々も興味を持ってくれたのですよ」

 

その結果がこの町なら伯爵夫人はよほど町の人から信頼されているんだろうな。嫌いな人や興味のない人のやっていることには注目なんてしないし。

 

などと考えていると、伯爵邸が見えてきた。その館を見た俺たちの反応はと言うと・・・

 

「「「すご・・・」」」

 

館自体は大きく豪華ではあるのだが、ギデオンで遠目に確認したギデオン伯爵邸に比べると言っては何だが少々ランクが下がるだろう。

 

しかし、それを補って余りあるほど草木や花の美しさが目を楽しませた。上品な配置に色とりどりの花たちのバランスが美しく、無意識の言葉が出るほどだった。

 

そんな反応をしている俺たちを見ている執事さんもどこか嬉しそうだった。やはり仕える主の成果をほめてもらえるのはうれしいのかね?

 

感動している俺たちは執事さんに促されて、館へと足を踏み入れた。そのまま庭まで案内されると子供たちの笑い声が聞こえてきたが、庭に着いた俺たちの第一声はと言うと・・・

 

「「「なにこれ?」」」

 

そこには予想外の光景があった。お茶やお菓子を食べている子供たちは予想通りなのだが、子供たちとお世話をしている使用人たちやメイドさん以外に謎の物体が子供たちと遊んでいるのだ。

 

いや、謎の物体とは言えないが。なぜならそれは大きなクマのぬいぐるみだったからだ。ごくたまにおもちゃ屋で見かける成人と変わらない大きさのぬいぐるみ。ただし、動き回っている。

 

かなりデフォルメチックな外見であり、好きな人はかなりの数いるであろうクマのぬいぐるみが複数体いるのだ。

 

子供たちと追いかけっこする緑色のクマに、メイドさんと一緒に子供たちの世話をする水色のクマや、子供たちにモフモフされている薄茶色と赤茶色のクマだ。

 

庭の見事な草木のガーデニングと合わせるとどこぞのアニメ映画のように見えるが。ちなみにクマたちのお腹だけは白色で統一されていた。いやマジでナニコレ?

 

「あの~あの動く大きなぬいぐるみたちはいったい?」

「今日のために手配した<マスター>の方の<エンブリオ>の能力で生み出した魔法生物と聞いております。噂を聞いた伯爵夫人が隣国のドライフから招いた方です」

 

正直、話を聞くまで着ぐるみさんが大量に出てきたかなどと馬鹿な考えが浮かんだが、ゲイルの質問に対して執事さんから答えを聞かされた。

 

「<エンブリオ>の能力か・・・」

「面白い能力だな」

「なんかファンがいっぱいいそう・・・」

 

そんな感想が浮かぶ中、俺たちに近づく子供たちと一人の男性が居た。

 

「執事さん。その方たちもお招きしたんですか?」

 

男性の質問に執事さんが答えている。男性の左腕には列を作る数々の物体の紋章がある。もしかしたらあのぬいぐるみたちを作り出した<エンブリオ>の持ち主か?

 

執事さんと話し終えた男性は、俺たちに近づいて挨拶をしてくれた。

 

「初めまして。僕はドライフ皇国所属の<マスター>でアーク・ランブルと言います。あのぬいぐるみたちは僕の<エンブリオ>である【産形核命 ツクモガミ】で生み出した魔法生物です」

 

 

 

  ◇  【大盾騎士(タワーシールドナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

アークの自己紹介の後に俺たちも挨拶をして、ここに来た目的であるリオンとグリフをこの場に出現させた。その結果は・・・

 

「きれいなおうまさ~ん!」

「すごいね~」

「BURU♪」

 

リオンの美しさに感動した子供たちがまとわりついて優しくなでている。リオンも嬉しそうだ。

 

「すご~い! 飛んでるよ!」

「わ~い!」

「グル!」

 

子供を二人ほど乗せてその場で飛んだグリフ。移動は安全を考えてしない方針だが、子供たちははしゃいでいるな。なお、順番を守って並んでいる子供たちの横には子供が落ちた時にかばえるようにぬいぐるみが二人?程待機中だ。

 

俺たちはアークと一緒に軽食を食べながら眺めている。ていうかこのクッキーうまいな? 素朴ながら飽きない味で何個でも食べられそうだ。子供がいるので食べすぎに注意だな。

 

「良かった。子供たちもグリフたちも喜んでるね」

「たまにはこういう時間もいいもんだ」

 

ウッドとクロス兄貴もお茶を飲んでくつろいでいる。今までが戦闘ばっかりで殺伐としてたからな。今度眺めがいい秘境の奥地でも行ってみようかね?

 

「馬ですか・・・ぬいぐるみで造れるかな? あの大きさの再現は無理でもポニーサイズなら何とか・・・」

 

アークは何やらリオンを見て考え込んでいる。聞こえた声を聴く限りリオンを見て作品のインスピレーションが湧いたのかね?

 

「また動くぬいぐるみが増えるのか?」

「造ってみないと何とも言えませんが、いつかは試してみようかと」

 

馬以外にも増える可能性があるのかね?

 

「ところでアークさんの【ツクモガミ】でしたっけ? どんな<エンブリオ>なんですか?」

「いやいや、<エンブリオ>の情報は話してくれるわけないだろう!」

 

ウッドの言葉にクロス兄貴が否定する。<エンブリオ>の情報は切り札にもなるから話すことはないだろうな。

 

「いえ、話しても構いませんよ?」

「「「え?」」」

 

だが、アークはあっけらかんとそんな言葉を口にした。いいのか?

 

「ただし、あくまでも<エンブリオ>の能力だけですけどね? あの子たちの戦闘力は黙秘させていただきます」

 

そうアークは言うのだが、あのぬいぐるみたちに戦闘力あるのか? 戦う姿を想像すると完全にコメディー映画みたいだが・・・

 

とりあえずはアークの説明を聞くことにしよう。




【産形核命 ツクモガミ】については次回の本文で説明する予定です。


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第四十五話 【産形核命 ツクモガミ】

遅くなりました。


  ◇  ???

 

 

アーク・ランブルの持つ<エンブリオ>である【産形核命 ツクモガミ】はTYPE:キャッスルで神社に類似した建物であり、スキルを現時点では一つしか持たない一点特化のエンブリオだ。

 

一つしかないスキル名は《核命の誕生日(ライフ・バースデェイ)

 

その効果は簡単に言ってしまえばアイテムのモンスター化である。アーク・ランブルの所持するアイテムをモンスター種族エレメンタルの魔法生物に生まれ変わらせる・・・否、新たに誕生するのだ。

 

モンスターになったアイテムの戦闘力はそのアイテムの性能や効果で上下し、武具系のアイテムの場合は付与スキルのあるなしでも戦闘力に差がある。

 

ただし、このスキルを実行するには前準備が必要なうえ、いくつかの条件がある。

 

スキルを実行する前の前提条件として、キャッスル内にアイテムを入れる必要があるので【ツクモガミ】を展開可能な土地が必要なこと。これに関してはモンスターが出現する狩場で行えば問題ない。

 

安全面も町の近くで行えば衛兵が居るのでよほどの事態でもなければ対処可能だろう。

 

さらにもう一つアイテムをキャッスル内に入れるのにお賽銭が必要なこと。これに関してはなぜ必要なのかは詳しくは不明だ。お金の額でモンスターにした時の能力が上下しないことは検証した結果判明している。

 

とりあえず、アーク自身は100リルを毎回投げ入れている。本人曰く、「いちいちお金の額を変えるよりは統一したほうが何となくいい気がしたから」とのことだ。

 

次にスキル使用に必要な条件だが、まずはスキルを使用するにあたりアーク自身の最大MPの半分を消費する。この消費量は<エンブリオ>が進化したとしても減ることはない。逆に言えば増えることもないということだが。

 

さらにこのスキルは一日の使用回数を《核命の誕生日》のスキルレベルと連動しており、現在の【ツクモガミ】は第三形態でスキルレベルも3だ。そのため一日に使用できるのは三回までとなる。

 

しかもスキル対象のアイテムは一つしか【ツクモガミ】の中に入れることができない。モンスターを大量に誕生させることは現時点では不可能だ。進化に期待するしかない。

 

そんな<エンブリオ>を所有者であるアークがどんなプレイスタイルかと言えば・・・・

 

 

 

  ◇  【紅蓮術師(バイロマンサー)】クロス・アクアバレー

 

 

「・・・とまぁ、【ツクモガミ】の能力に関してはこんなところです」

 

現在、俺たち兄弟はカルチェラタン領の領主のお茶会に参加して、そこで知り合ったドライフ皇国の<マスター>アーク・ランブルさんから彼の<エンブリオ>の能力について聞いてい居るところだ。

 

「ふむ・・・戦闘力を持つ<エンブリオ>ではなく戦力造り出す・・・いや、戦力を誕生させる能力か?」

「そうですね。その認識で間違いないかと」

 

ゲイルが話を聞いた能力をあいつなりの言葉でまとめたみたいだが、特に彼から否定されなかったな。

 

「<エンブリオ>自体に戦闘力も生産作業を補助する能力もないんですか?」

「ええ。一点特化な能力ですから”僕が所持するアイテムのモンスター化”以外の能力は持っていませんね。今の【ツクモガミ】は第三形態なので上級に進化すればわかりませんが・・・」

 

随分と変わった能力だな? これまで俺たちが出会った<マスター>は戦闘力に関係した物がほとんどだったから、珍しいと思う。

 

まぁ、そもそもTYPE:キャッスルは<エンブリオ>では数が少ないらしいし、その分珍しい能力が多いってことなのかもな。

 

「戦闘力と言う点ではジョブを【従魔師】や【指揮官】系統で埋めたら強くなれそうだよな?」

「このゲームをやっているリアルの友人からもそう言われました。けど、僕はそのジョブには就いてません」

「そうなんですか?」

「いや、あのぬいぐるみたち見ればわかるだろう?」

 

あの大きなデフォルメのクマのぬいぐるみたちは間違いなく【裁縫屋】に就いて造った物だろう。態々あんな物を造る<ティアン>は居ないとは言わないが、間違いなくマイナーだろう。

 

ならば、アイテムとしての品質や能力を上げるのなら自分で造った方が確実だろう。

 

「お察しの通りです。あれは僕の就いているジョブの一つ【裁縫屋】をメインジョブにして造った物です」

「うん? それがメインジョブではないのか?」

 

彼の言葉に違和感を感じて、そう質問したが・・・

 

「すいませんが、メインジョブについては黙秘させていただきます。手の内を簡単には明かしませんよ?」

 

そう言ってにこやかだが、断固とした意志を感じるスマイルで彼は言い切った。

 

「それもそうか。すまない」

「いえいえ」

 

さすがに初対面に対して、突っ込んだ質問だったな・・・

 

「御客人方」

 

話し合いの途中で、俺たちを屋敷に案内してきた執事さんが近づいてきた。

 

「今日はありがとうございます。お客様方のおかげで子供たちも楽しく過ごしておられます。主も喜んでおられましたよ?」

「役に立ったのならよかったです」

「こちらこそ。いい気分転換になりました」

 

ゲイルとウッドの二人がリオンとグリフを見ながら答える。

 

「主も直接会ってお礼が言いたいと。ご案内いたしますのでどうかご足労を願います」

「それはいいんですが、こんな格好のままでいいんですか?」

 

俺たちの格好は戦闘を考えてのフル装備だ。さすがに貴族の方に会うのにな・・・アークさんは割としっかりした服を着ているので問題ないだろうが。

 

「問題ありませんよ」

「あ~さすがにヘルムは脱いでいるとは言っても全身鎧はまずいですから、別の装備にします」

 

この中で唯一金属鎧を装備していたゲイルは【BAA】から、モンスターの皮で造られたセット装備を瞬間装着した。

 

その後、執事さんの案内で俺たちは館の主に会うことに。

 

 

 

 

  ◇  【大盾騎士(タワーシールドナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

「この度はお茶会に参加していただきありがとうございました」

 

そう言って俺たちに笑顔でお礼の言葉を口にする人のよさそうな貴婦人がカルチェラタン領の領主である伯爵夫人だと言う。

 

なぜ夫ではなく夫人が主なのかは、俺たちは王国所属だからある程度は事情を知っている。ここの情報収集しているときに小耳にはさんだのだ。

 

デンドロ内時間で約30年前に夫人の夫は、外交官の仕事でドライフ皇国へと旅立ったが、その道中に神話級<UBM>と遭遇に命を奪われたという。

 

そのままでは王国も皇国も危なかったが、旅を護衛していた王国最強格の超級職【聖焔騎(セイクリッド・ブレイザー)】に就いたティアンであるアスラン・ファルドリード。

 

さらにはアスランの親友であり好敵手でもある皇国の超級職【衝神(ザ・ラム)】ロナルド・バルバロスも友の危機に駆けつけて、協力して戦いを挑み神話級の強大な敵を撃破した。自分たちの命を対価として。

 

俺たちも<UBM>の恐ろしさは身をもってしているが、聞くところによると超級職とは戦闘力の桁が上級職とは違いすぎるらしいのに神話級やばすぎる。

 

「いえ。こちらこそお礼が言いたいです。こちらの従魔にいい気分転換になったでしょうし」

「僕としましても自分の作品で喜んでくれるのなら嬉しいですよ」

 

おっと、俺が考えている間にクロス兄貴にアークさんが答えている。それに続いて俺とウッドは頭を下げた。

 

「そう言っていただけるのは私もうれしいです。子供たちも楽しんでいるようですし」

 

そう言って伯爵夫人は子供たちの笑い声が響く窓に視線を向けた。その顔には笑みが浮かんでいる。

 

「今回のお願いを聞いてくださった対価は本当に宿泊金の肩代わりでいいのでしょうか?」

 

おや? 俺たちだけではなくアークさんの対価も宿泊金の肩代わりだったようだ。

 

「私たちは十分です。こちらにもいい経験をさせてもらいましたし」

「僕も同じです。それにこの町はいいところですからね。居るだけで心が和みます」

「・・・・ありがとうございます」

 

クロス兄貴とアークさんの言葉に伯爵夫人は深く頭を下げた。その後に執事さんとは別の方が俺たちを案内してくれた。俺たちに今回のことを頼んだ執事さんは伯爵夫人と何やら話し合っている。

 

「例のモンスターたちの調査結果ですが・・・」

「詳しく伺いましょう」

 

俺の耳に聞こえてきた単語になんとなくだが、嫌な予感がした。

 

それから俺たちとアークさんが泊まる宿屋へと案内されたのだが、伯爵邸を離れる段階で子供たちの何人かが別れを嫌がり、クマのぬいぐるみたちにしがみついている。

 

メイドさんたちも困っていたら、アークさんが今日一日は一緒に居ていいと口にすると喜んだ。そのまま子供たちもクマさんたちと一緒に孤児院へと帰っていった。

 

その後に案内された宿屋は、町はずれにある温泉が自慢の宿屋だった。宿屋のおかみさんと執事さんが話している間に、宿屋を手伝っている一人娘のシャーリーに部屋まで案内された。

 

俺たち三人は一緒の大部屋でアークさんはその隣の一人部屋だ。

 

「伯爵夫人のお客様なら一人一部屋にした方がいいんですが、今回<マスター>のお客が多いので申し訳ありません」

「別に問題ないよ」

 

リアルでは諸事情で旅館での宿泊なんて、修学旅行くらいしか経験なかったしな。兄弟一部屋で泊まるのはいい経験だろう。

 

「ところで<マスター>の宿泊客が多いって話だけど、何か理由があるのかい?」

 

それよりも先ほどの言葉で気になることを言っていたな? ウッドも同じ疑問を持ったようで質問している。

 

「何でも最近になってここら辺では見かけないモンスターの目撃が相次いでいて、その調査と討伐が冒険者ギルドから依頼されているらしくて」

「なに?」

「報酬がいいって話が何人かの<マスター>さんたちに広がったらしくて、ここだけじゃなくて町中の宿屋も結構な人たちが泊まっているみたいですよ?」

 

なるほど・・・ではさっきの執事さんと伯爵夫人の話で聞こえた単語はそのことか・・・

 

「では、私はこれで。夕飯は新鮮なお野菜が手に入ったので楽しみにしていてください!」

 

そう言ってシャーリーは部屋を出て行った。アークさんは早々に自分の部屋へ行って休んでいる。

 

「どう思う? さっきの話」

「あまりいい予感はしないね」

「確かにな」

 

俺は二人に先ほどの話を聞いて、どう思ったか問うた。二人は俺と同じ考えのようだ。

 

「予定変更するか?」

「そこまで心配する必要はないだろう。今でも戦力は十分だろうし、予定通り滞在して何かあれば行動すればいい」

「まぁ、大事になるかはまだわからないみたいだしね?」

 

クロス兄貴とウッドの言葉に俺はそれもそうかと考えを改めた。今までの経験で厄介ごとかと考えたのは早計だったかな? 二人の言う通りにするとしよう。では今日はさっさとログアウトするかね?




作中での変わり種<エンブリオ>登場。正直な話TYPE:キャッスルは原作でも変わり種そのうち出てきそうな予感はする。

フランクリン? あれはキャッスルとしては正統派と考えています。


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第四十六話 事態急変

遅くなり申し訳ない。


  ◇  【剛弓士(ストロング・アーチャー)】ウッド・アクアバレー

 

 

あれからデンドロ内時間で二日が過ぎた。その間は特に何かが起こることもなく穏やかに過ごした。三人で温泉を堪能したり、お茶会で知り合った子供たちのリクエストでリオンとグリフと触れ合い、体を洗ったりと実に平和だった。

 

そう平和だった。事態は三日目で急変したのだ。

 

「リザードマン?」

「正確に言えば【スケイルリザート・ソルジャー】だけどな? 人間範疇生物にリザードマンが居るらしいからな」

 

兄貴たちがそう言っているのは、ここカルチェラタン領から離れた森林の中にモンスターの群れを発見した。そのモンスターがリザードマンに酷似している正式名称【スケイルリザード・ソルジャー】

 

ゴブリンと同じ人型に近いモンスターだ。リザードマンと違うのはゲイル兄貴の言う通り黄河とレジャンダリアにティアンとしてリザードマンと言うべき姿形をしたものが居るから、区別するためだ。

 

ティアンのリザードマンは蜥蜴頭で鱗がある蜥蜴人間的な外見で、モンスターはそれよりも蜥蜴が二足歩行できたような姿とのこと。ティアンが人間ベースで、モンスターが蜥蜴ベースと考えるといいかもね?

 

「結構な群れなの?」

「らしいな。ほおっておくと【スケイルリザード・キング】っていう厄介な純竜クラスのモンスターが生まれるかもしれないから、冒険者ギルドから緊急依頼が出てたぞ」

「俺たちも受けたほうがいいか?」

 

僕の質問に対してゲイル兄貴が答えた後にクロス兄貴が質問する。確かに厄介ごとになるなら早めに対処したいね。そんな風に考えていたがゲイル兄貴は全く違うことを言った。

 

「いや、もう結構な数の<マスター>が受けている。この町の騎士団の半数も参加するっていうし、攻め手は足りているんだが・・・」

「何か問題が?」

「その後の町の防衛の数が足りないらしい。こっちの依頼は受ける<マスター>が少なく、信頼できる者でないと受けられないらしい」

「「ああ~」」

 

ゲイル兄貴の言葉に僕とクロス兄貴は納得した。町の防衛を任せるのならある程度の信頼か信用は要るだろうね。出ないと、火事場泥棒する奴が出てくるかもしれないしね?

 

「だから、もし俺たちが受けられるのなら防衛の方を受けたいんだが、かまわないか?」

「そうだね。その方がいいね」

「俺たちは三人で他の戦力に従魔が三匹にグリフもいるからな。攻め手が足りてるのなら、防衛に回ればいいだろう」

 

そうと決まれば一応戦闘準備をして、僕たち全員宿を出て冒険者ギルドへと向かう。

 

冒険者ギルドへ着いたが、ここに向かう途中で攻めの依頼を受けた<マスター>や念のために避難場所へと向かうティアンの人たちとすれ違った。

 

前者は戦闘の準備をし突発的なイベントを楽しんでいる様子だ。反対にティアン人たちはひどく不安そうだ。<マスター>にとっては遊びでしかなく、ティアンにとっては明日を迎えれるかどうかの瀬戸際。

 

そんな考えの差がはっきりと感じる光景だった。僕たちも<マスター>だけど、両親に引っ張られてこれからどうなるのかを理解していない子供を見ると守りたいという気持ちの方が強い。同じ光景に視線を向けていた兄貴たち二人も同じ気持ちだろう。

 

そんなことを考えながら受付に向かう・・・

 

 

 

  ◇  【重厚騎士(ソリッド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

念の為メインジョブを変更して冒険者ギルドの受付で防衛に参加したいことを伝えると驚くほどあっさりと許可された。どうやら子供たちと一緒に遊び世話を焼いていたのがいい方向に向いたらしい。

 

他にもここカルチェラタンをホームにしている<マスター>が参加し、ある程度の防衛戦力は確保された。その中には見知った顔が居た。

 

「アークさんも受けてたんですね?」

「ええ。僕は一応戦力は持っていますし、防衛ならお役に立てるので」

 

顔なじみになったアーク・ランブルさんも防衛に参加した<マスター>の一人だ。戦闘スタイルについてはよくは知らんが、【ツクモガミ】のことを考えると戦える戦力は保持しているようだしな。

 

「ちなみにですが、戦力はどのくらい持っていますか?」

「戦闘能力が高いのが5体ほど。あとぬいぐるみたちも防衛ならできます」

「「「え? あのぬいぐるみ戦えるの?」」」

 

アークさんのセリフに俺たち兄弟が口をそろえて答えてしまった。あのクマのぬいぐるみが戦う・・・全然想像つかないな。

 

「息ぴったりですね。一応はですけどね? 戦う能力は一点特化になってますので防衛しかできないのが難点ですが」

「いやいや! それでも戦力があるって時点で助かるでしょう!」

 

クロス兄貴が思わずっという感じでツッコミを入れた。俺とウッドもうなずいてしまったよ。

 

「それに今は違う用途で助かってるしな」

 

俺はそう言うと周りに視線を向ける。俺たちが今いるのはカルチェラタン夫人の屋敷でここも避難所として夫人が開放している。さらに言えばここには主に戦闘力のない子供やその家族が多い。

 

子供たちも初めはなんでここに来たのかわからなかったようだが、大人たちの不安な気持ちが伝わったのかだんだんと心細くなったようで目に涙を浮かべるようになった。

 

そんな子供たちを安心させようと俺たちはリオンとグリフこの場に呼び、子供たちと触れ合わせた。さらにはアークさんもクマのぬいぐるみたちをジュエルから呼び出して、一気に場が騒がしくなった。

 

それでも子供たちの家族やカルチェラタン夫人からは感謝された。さすがに子供が泣きだすとより不安な雰囲気となり、この場が重くなるところだったと夫人自らお礼を言いに来たほどだ。

 

「それでなくとも子供が泣くと言うのは悲しい気持ちになります。しかし楽しげな声を聴くとこちらも心だけは落ち着けます」

「確かにおっしゃる通りです」

「しかし、本当によく懐いていますね? アークさん、せめてあのぬいぐるみたちをお譲りいただくわけにはいきませんか?」

「あ~申し訳ありません。彼らがモンスターとして生きられるのは僕の従属キャパシティー以内に収めるか、パーティ枠を使う必要があるので完全に僕専用なんですよ。他の人に渡した瞬間にアイテムに戻ってしまいます」

 

そうなのか。まぁ<エンブリオ>の能力でモンスター化しているわけだから離れたら効力が失われるのは当然のデメリットか。

 

「そうですか・・・それは残念です」

「ただの大きなぬいぐるみでよければいくつか持っていますしお譲りできますよ?」

 

その言葉を聞いて夫人はこの事態が終わった後にでも詳しくお話ししたいと言って、俺たちから離れた。

 

「そろそろ討伐隊が出発するころか・・・」

「何事もなければいいがな」

 

俺とクロス兄貴は時間を確認して、そう呟く。まぁ、今回はどうにかなるだろうと俺たちは楽観視していた。

 

 

 

  ◇  【紋章剣士(ルーン・ソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

おかしい。あれから何時間も経ったが未だに群れの討伐報告が来ない。<マスター>が二十人以上は参加していたはずなのにこれは明らかにおかしい。

 

俺たちはこの場をアークさんに頼み、カルチェラタン夫人を探しに行こうとした。するとこの場に騎士の一人が現れて夫人が俺たちの呼んでいると伝えに来た。

 

アークさんも呼んでいるらしく、俺たちはこの場をメイドさんたちにお願いして足早に進む騎士に付いて行く。たどり着いたのは屋敷の玄関でそこには息も絶え絶えな軽装のティアンの戦士に夫人が重い雰囲気で待っていた。

 

「何かありましたか?」

「はい。今しがたこの町で活動している冒険者の方が戦況を知らせに来てくれました」

 

夫人から聞かされた話は悪い知らせだ。討伐隊が出発してから数十分で目的地にたどり着き、群れを包囲しそのまま戦闘を開始。ところが戦闘を始めた瞬間から異常なことに気付いた。

 

相手が異様に硬いのだ。<マスター>の中で手数重視や速さ重視の戦いをする者たちの攻撃が全く意味をなさないほどに。攻撃力が高い武器やSTRが高い者の攻撃は通るが、HPが思ったほど減らないらしい。

 

しかも相手は連携がうまく、包囲網の薄い場所を突破して討伐隊を町へと戻れないようにするなどの戦術的な戦いを行っているという。その後は自分たちから攻めるような真似はせずに持久戦を行っているという。

 

討伐隊を指揮する熟練の騎士はこの事態にすでに【スケイルリザード・キング】がどこかに潜んでいる可能性を危惧し、速さ自慢のティアンに町へ報告しに行くように指示。何人かの<マスター>の協力と<エンブリオ>能力のおかげで町へと戻ってこれたと言う。

 

「この方の報告を聞いてすぐに町周辺の索敵させています。討伐隊が足止めをされているならば・・・」

「別動隊がここを襲うかもしれないと言うわけですね?」

 

別動隊と表現したが、正確にはここを襲うのが本隊だろうな。キングもその本隊に居るだろう。などと考えていると別の騎士がここへとやってきた。

 

報告かと思い彼の言葉を待っているのだが、かなり慌てて来たらしく呼吸が落ち着かない。その時に執事さんが水を渡して、一気に飲み干す。

 

「も、申し訳ありません」

「構いませんよ。その様子では悪い予感が当たったようですね?」

「いえ! それよりももっと状況が悪くなりました!」

「どういう意味ですか?」

「スケイルリザードの群れがこの町に近づいているのですが、それを率いているのが名称【鱗軍大将 リガゾルド】と言う名の<UBM>なのです!」

 

この状況において最悪と言っていい報告がされた。




これからも更新頻度は遅いと思いますが、続けたいと思っています。気長にお付き合いしてくださるとありがたいです。


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第四十七話 特攻と籠城

  ◇■◇■◇  ???

 

 

伝説級<UBM>【鱗軍大将 リガゾルド】はかなりの強さを誇る<UBM>だ。能力はシンプルで軍団指揮と軍団比例防御力強化を持つ。

 

軍団指揮の能力関係はスキルを二つ持ち、名を【スケイル・タクティクス】と【スケイル・コマンド】 

 

【スケイル・タクティクス】はモンスター名【スケイルリザード】限定で配下にでき、また彼らに対して無条件で忠誠を誓わせる強制力があるスキルだ。また、そのモンスター限定でパーティ枠の上限は三千にも及ぶ。

 

【スケイル・コマンド】は指揮能力に関係したスキルで、【スケイルリザード】限定でどんな作戦でも実行させることができる。自爆特攻なども疑問なく即座に実行する。また、小隊長などを任命しそのものに付き従う配下を与えることも可能。

 

最後にスキル【鱗軍堅城】は・・・かのモンスター最大のスキルであると同時に生命線。効果は軍団規模比例の自身と配下の防御力強化だ。

 

強化率は配下よりも自身の方が高いが、それでも軍団の数が多ければ多いほど生存率が増す。防御力が高いので各個撃破も大将首狙いの特攻も勝算が低い。

 

このように能力が高い【リガゾルド】だが、意外と<UBM>担当の管理AIであるジャバウォックの評価は低い。理由として本人はこうコメントしている・・・

 

「馬鹿正直すぎる」と・・・

 

 

 

 

 

  ◇  【紋章剣士(ルーン・ソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

カルチェラタン領の近くに居た【スケイルリザード・ソルジャー】の群れは囮であり、しかもその策を実行した首魁は<UBM>だと言う。これはとんでもない予想外だな。

 

実際報告を聞いたこの場のティアンの人たちはかなり驚いている。伯爵夫人も口を両手で隠して呆然としているようだ。とは言え、すぐに気を持ち直したようですぐに指示を出そうとする。

 

「その現れた群れはどのくらいの規模ですか?」

「正確な数はわかりませんが、それでも囮と思われる群れよりは多いかと・・・」

「そうですか・・・すぐに籠城戦の準備を! それと王都に緊急事態の報告を! 足自慢の方に緊急の依頼を出してください!」

「「わ、わかりました!」」

 

伯爵夫人の指示に騎士たちが、大慌てで動き出す。それを見届けた伯爵夫人は俺たちへと視線を向ける。

 

「すいませんが、ご協力をお願いします。先に出た討伐隊が戻るか、王都の応援が先か・・・そのための時間を稼がないといけません」

 

そう言って夫人は深く頭を下げる。さすがに女性にここまでされたら断るわけにはいかんな・・・二人の弟にも視線を向けると二人はしっかりと頷いてくれた。

 

「どうか、お顔をお上げください夫人。もとより何か役立つのであればと思いこの町に残ったのです。協力は惜しみません」

「僕もです」

 

俺がそう答えるとアークさんもそう言葉にした。

 

「あ、ありがとうございます」

「とりあえずは戦力集めて作戦会議をしましょう。時間稼ぎをするにしても現状の戦力把握はしないといけませんしね?」

「わかりました。すぐに手配しますわ」

 

そう言って伯爵夫人は執事さんとともに屋敷へと戻った。俺たちはそれを眺めてアークさんが口を開く。

 

「<UBM>か・・・噂には聞いてたけど、僕は初めて会うな。 勝算はあると思う?」

「相手の能力次第だな。とは言え、十中八九指揮系のスキルを持ってるだろう。それとプラスしてどんな能力があるかだが・・・」

「囮の群れが異様に硬いっていうのは能力に関係した物かな?」

「じゃあ、防御力強化系のスキルかな? それだけだといいけど」

 

相手の能力に関して現時点でわかっていることで考察する俺たち。そんな俺たちをアークさんは驚いた表情で見ている。

 

「どうかしましたか?」

「いや・・・三人とも手馴れているなぁと。もしかして討伐経験が?」

「今までで三体と遭遇してなんとか辛勝しました」

 

改めて言葉にするとこの遭遇率は異常だな? ティアンの話では討伐できる実力があっても出会うことなく一生を終える実力者の方が多いらしいが。

 

「それは心強いですね」

「とは言え、能力の相性とか相手の力量次第ですよ。正直な話<エンブリオ>能力によってはステータスが弱くても勝てる可能性があります」

 

ゲイルはそう答えるがかなり低い可能性だろうな。それでも勝てる可能性があるだけましだろうが。とにかく俺たちも屋敷に入り、伯爵夫人に呼ばれるのを待つとしよう。

 

 

 

 

  ◇  【強弓騎兵(ヘビィ・ボウ・ライダー)】ウッド・アクアバレー

 

 

それからしばらく経って、伯爵夫人から呼び出しがあった。呼び出された場所は町の中央広場でそこで防衛指揮を任されている騎士からその場に集まった戦闘経験者に状況が語られることに。

 

なお、この場にいる戦闘経験者は<マスター>が僕たち三人とアークさん合わせて11人。防衛に残っている騎士団が22人。さらに緊急時に協力することになっている元冒険者や元騎士のティアンが8人ほど。

 

そんな彼らだが、状況を語る上で<UBM>が群れを率いている情報が出た時にその様子は二つに分かれた。

 

まず、僕たちとアークさん以外の<マスター>の反応は端的に言えば歓喜だ。<UBM>はめったに出会えず、出現報告があれば討伐にティアンの超級職が動く。そのため<UBM>を倒して特典武具を手に入れるチャンスなどよほどの幸運と実力がなければゼロに等しい。

 

なのに現時点で喜んだとしても捕らぬ狸の皮算用だね。ゲーマーだから喜んでいるだけで実際に倒せるかどうかなんて相手の能力が不明な現時点では予測不能。二人の<マスター>は難しい顔をしているから理解しているみたいだ。

 

一方のティアンの人たちはと言えば絶望。ただその言葉のみだ。彼らは<UBM>がどれくらい厄介かと言うことを理解している。なかには崩れ落ちてもうすでに諦めた人までいる。それくらい浸透しているのだ。<UBM>の強さが。

 

ゆえにこちらから打って出ることはせずに討伐隊が帰ってくるまでか、王都に救援要請が伝わり騎士団が駆けつけてくるまで時間稼ぎすることを明かす。しかしそれに反対するのは<UBM>出現に歓喜した<マスター>たちだ。

 

「俺たちだけで打って出る!」

「危険すぎる! この町を危険にさらすことにもなる! 許可できない!」

「だからって、みすみす特典武具を逃すなんてもったいないぜ!」

「俺たちならやれるからよ!」

 

などと言って言い争い一歩手前の状態だ。防衛指揮を任されている騎士は安全策でこの場を乗り切ることに固執し、特典武具狙いの<マスター>たちは自分たちの事しか考えていない。このままだと話が終わらないな? そんな時に・・・

 

「騎士さん。いいからやらせてみたらいい」

 

ゲイル兄貴が唐突にそんなことを言い始めた。

 

「だから、危険だと言うのだ! そんなことをするくらいなら安全策で時間稼ぎを」

「だが、相手の能力は不明だ。籠城戦だけだと不足かもしれん。それに<マスター>の中には<エンブリオ>能力で籠城戦よりも打って出たほうが、最大限に能力を発揮できる奴もいるだろう。ちなみにだが俺も能力的に籠城戦は苦手だ」

「そ、それはそうだが・・・」

 

確かに籠城戦だとゲイル兄貴は能力が半分も出せないね? 遠距離攻撃は銃を持ってるけどそれがメインじゃないし。クロス兄貴は問題ないけど得意なわけでもないし。僕くらいかな? 籠城戦でも能力がフルで発揮できるのは。

 

「心配だって言うのなら、契約書に書いてもいいぞ? 町を見捨てて逃げない最後まで戦うってな」

「「「おま!」」」

 

ゲイル兄貴のこの言葉に慌てたのは特典武具狙いの<マスター>たちだ。あの人たちどうも無理なら逃げる気満々だったみたいだね?

 

「私は籠城戦向きの回復メインのビルドだ。協力は惜しまんし彼と同じく契約書に書いてもいい」

「アタシは遠距離攻撃メインのビルドだから籠城戦は賛成だね。契約書にもサインするよ?」

 

ここで今まで黙っていた<マスター>二人がゲイル兄貴の言葉に賛同した。あの二人は<UBM>が迫っているって聞いて難しい顔してた人たちだね。

 

「・・・・」

「今は大雑把でもいいから、各自の戦力を見極めてどうすればいいのか考えるのが先決じゃないか? 信用できないってんならさっきも言ったが契約書に書くぞ俺は。決めるのはあんただ」

「・・・わかった。諸君の覚悟に感謝する」

「決まりだな」

 

と言うわけでこの場に居るメンバーの大雑把な戦闘スタイルを言い合い最終的な作戦が決まった。ティアンの人たちは籠城戦で町の中での防衛。<マスター>では4人参加。

 

そして籠城戦では力を発揮できないと考えた<マスター>5人は町の外で待機して、【鱗軍大将 リガゾルド】に特攻を仕掛けることに決まった。なお、メンバーはゲイル兄貴にクロス兄貴と特典武具目当ての三人だ。

 

残りの<マスター>である僕とアークさんは遊撃。僕はグリフに乗って空から籠城戦のメンバーの援護。アークさんは戦闘スタイルが【従魔師】に酷似していて戦力を分けることができたので、防衛戦力と特攻戦力に分けた形だ。

 

ただ、アークさん自身は特攻隊に志願したんだよね? 戦力を維持するのなら籠城戦のために町の中にいる方がいいけど従属キャパシティーが足りないからパーティ枠使用のために特攻隊に志願したんだ。

 

指揮官である騎士の人も大丈夫か心配してたけど、アークさんが建物の陰で使う戦力を見せたら問題ないって意見を変えたんだよね。一体どんな戦力持ってるんだろう?

 

 

 

  ◇  【重厚騎士(ソリッド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

俺たち特攻隊は町を出て離れた場所で待機中だ。森とかないからこんな場所では相手に見つかると思ったが、<マスター>の一人に隠蔽能力の<エンブリオ>持ちが居てそれで隠れている。能力を使った時に「欺く術は神のみぞ知る(カミカクシ)」と言っていたから必殺スキルかもしれないな。

 

彼の話では、自分を中心に6mくらいの範囲の結界を展開しており外から見つけるのは至難だと言う。まぁ、同じ<エンブリオ>なら索敵能力特化や結界察知系統のスキルでバレそうだけど。

 

それよりも俺とクロス兄貴にアークさんに対しての他の<マスター>三人の態度がイライラするわ。この場で結界を構築した彼らは俺たちに向けてこう言ったのだ。

 

「俺たちが<UBM>を倒すからお前たちは手を出すなよ」っと。

 

正直何様だよとか、緊急事態に何を言ってんだよとか、言いたいことが多いがそれを飲み込んで俺たちは彼らの言う通りに<UBM>を任せることにした。

 

特攻する以上は速く相手の頭を潰す必要がある。ここで言い合いになって仲間割れしている状況ではない。それに倒してくれるのなら問題ないしな。

 

問題なのは彼らが倒せずにずるずると時間がかかる場合だ。その時はこっちに素直に手を貸してくれって頼むか怪しいしな。さっさと倒すかそれとも倒されるか(・・・・・)が好ましいよ。

 

俺たちとアークさんは群れが現れるまで装備やアイテムなどをチェックしているが、あいつ等三人はのんきに談笑しているだけだ。それを見るだけでだめだなこいつらと思うよ。

 

『あ~ゲイル。あの三人どう思う?』

『お話にならん。<UBM>を従来のゲームのボス感覚で倒そうとしているな。これまで遭遇して戦ったことがないにしてもひどすぎる』

『そんなに厄介なんですか?』

 

俺たち二人とアークさんはアクセサリーの【テレパシーカフス】で会話をしている。このアクセサリーはフレンドリストに登録した同じアクセサリーを装備している者とテレパシーで会話できるという便利アイテムだ。

 

通話範囲はそれほど広くはないが、このように聞かせたくない会話をするときは重宝する。なお、これから乱戦になることも予想して問題の三人ともフレンド登録しようとしたが、する必要はないと言って断られた。

 

『少なくとも、油断なんかしてたら一瞬でやられるようなやつらばかりだな』

『能力にもよるけど、相性が悪い場合は一方的にやられるだろうな?』

『そ、それほどですか』

 

最初の【バルギグス】と次の【ディセンブル】で厄介さと強さは骨身にしみてるからな。【パラゾール】は相性が良かったから倒せたようなもんだし。

 

『そう考えると、今回の<UBM>も厄介そうだ』

『個々の能力が高い上に群れを率いてるからな。その関係上群れを強くするスキルは当然持ってるだろうし』

『勝のは難しいですか?』

『難しい。だが、だからと言って諦めるつもりもない。相手の能力を把握してできることは何でもやるさ』

『そうだな』

 

そう言って俺と兄貴は現時点で判明している情報で相手の能力についていくつか予想を立てた。無駄になるかもだが、この時間を少しでも有意義に使わんとな。

 

 

 

  ◇  【???】アーク・ランブル

 

 

僕の目の前で障害を排除するために頑張っている人たちがいる。その障害は排除するのが相当に難しいことが分かったうえで何とかしようと足搔いている。

 

(僕には眩しいね・・・)

 

現実での障害に苦労し解決策もないままただボケっと突っ立っているだけの僕とは大違いだ。そんな僕の気分転換になればと友人たちがプレゼントしてくれたのがこの<Infinite Dendrogram>だ。

 

おかげで少しは前進できたけど・・・まだ解決には程遠い。でも・・・あの人たちとこの障害乗り越えることができたら・・・・

 

(僕は・・・また前進できるかな?・・・)

 

その為には僕ができることを出し惜しみするわけにはいかない。いろいろ準備が必要だったし今の子達を失うかもしれない。それはすごくつらいけど・・・それでも・・・僕は・・・

 

(迷いはある・・・でも・・・僕にだって・・・守りたいって気持ちがある)

 

決意を新たに目の前で障害に立ち向かう人たちの話に加わる。



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第四十八話 抗う者たち 前編

  ◇  【強弓騎兵(ヘビィ・ボウ・ライダー)】ウッド・アクアバレー

 

 

現在僕はグリフに乗ってカルチェラタンの町の防壁上空に待機中。兄貴たち二人から僕とグリフは主に籠城戦をしている人たちを支援してほしいと頼まれた。

 

籠城戦をするうえで僕のように空中戦力があるのとないのでは、時間稼ぎできる時間に大きな差が出る。僕としては兄貴たち二人も心配だけど、この戦いは時間稼ぎが主な目的だから反対意見はない。

 

「グル!」

「来たみたいだね・・・」

 

グリフが気付いて僕も地上の先で徐々にやってきているモンスターを視認した。武器である弓をメインに使うジョブでは視力関係のスキルである【視力強化】の効果で遠くでも見渡せる。

 

見える範囲では戦闘の一団は【スケイルリザード・ソルジャー】が横に隊列を組んでこちらへと移動している。その手には片手で持てる斧や槌、さらには大型のそれらも持っているのがちらほらいるね?

 

さらにその背後には弓を持った【スケイルリザード・アーチャー】が居る。ちなみに武器はああいう人型のモンスターにはレアで生産スキル持ちが居たりするから、それが居るんだろうね。まぁ、さすがにジョブスキルよりは格落ちするようだけど。

 

「さて・・・いつまで時間稼ぎできるかな?」

 

現在のカルチェラタンの門は閉めて、さらに町中側を土や岩などで物理的に塞いでいる。この作業は地属性魔法を持つグランや土を操作する<エンブリオ>持ちに【土術師】に就いているティアンが行った。

 

作業を終えた人たちは僕とグリフが防壁へと運んで、その後は時間稼ぎ用の作戦の準備に追われた。敵にどこまで通用するかは不明だけど、やらないなんて選択肢はない。

 

考えていると城壁から合図である旗が振られた。敵が防壁へと近づく前に遠距離攻撃で先制するためだ。この攻撃はすべて<マスター>が行う。さて、やりますか・・・

 

スキルの準備をし、合図である旗が振り下ろされるのを待つ。やがて敵がどんどんとこちらへと向かってくる。そして・・・

 

「今だ!」

 

旗が振り下ろされ、<マスター>の一斉攻撃が放たれる!

 

「《チャージ・アロー》!」

「グルー!」

「《スパイラル・アロー》!」

「《バースト・ランチャー》!」

 

僕以外では同じく【弓士】関係のジョブに就いている<マスター>に<エンブリオ>が腕に装着するタイプの大砲で【砲士】のスキルを強化し飛距離も伸びると言っていた。おかげで本来なら遠距離攻撃に向かないスキルもかなり距離が伸びている。

 

まず初めに敵に命中したのはグリフの《ウィンドブレス》だ。進化して強化された結果遠距離にも対応した。着弾した攻撃は二体の【ソルジャー】を吹き飛ばし、周りにもダメージを与えた。だが、他の攻撃は・・・

 

「アタシたちの攻撃は効果がないよ! 弾かれた!」

 

僕と同じ【弓士】系統の<マスター>が叫ぶ。僕も見えた。グリフの攻撃に続いて到達した僕と彼女の攻撃は弾かれ、続く【砲士】の攻撃は爆発したが、相手は吹き飛ばずダメージのみだった。

 

「事前の情報通りかてぇな!」

「だが、爆発の火属性追加ダメージでは防御力を抜けるようだ」

「と言うことは物理手段よりも魔法攻撃や精神系状態異常で攻めたほうがいいわけか・・・」

「さすがにそれをできるメンバーが少ないよ」

 

さすがに硬いだけであるなら攻略法はいくつかあるが、ここに居るメンバーではそれができる者は三人しかいない。

 

「ならば、その三人を主軸に攻める! 他の者たちは彼らのサポートを! 君たちはその三人を主に守ってほしい」

 

指揮を執る騎士がそう指示を出し、それを聞いたこの場に居る者はすぐさま陣形を整える。さらに騎士はアークさんの残したクマのぬいぐるみ2体にも指示を出して、彼らはうなずく。

 

ここに居るクマのぬいぐるみは全部で6体。そのうちの2体が防御能力特化らしく、背中に大きな盾を背負っている。他のぬいぐるみたちは投擲特化とのこと。

 

アークさんから指揮官である騎士と僕の指示に従ってほしいとお願いされているので指示も聞いてくれる。準備を進めていると、敵も遠距離攻撃の射程に入ったようでこちらを攻撃してきた。

 

「攻撃が飛んでくるよ!」

「全員警戒! 絶対に頭には当たるなよ!」

「僕たちがある程度落とします!」

「グルー!」

 

飛んでくる矢に対して警戒するメンバーのすこしでも助けになればとグリフに《ウィンドブレス》を指示。さらに僕もアクティブスキルで数が少ない範囲攻撃の《ハウリングアロー》を放ち援護する。このスキルは矢が何かに当たるか狙ったターゲットに近づいた時衝撃を発生させる。

 

それと僕たちの横を飛んでいるスオウもいくつかの矢を羽で乱したり、爪で叩き落すがさすがに全部は処理できずいくつかは防壁に到達する。

 

防壁の上まで到達した攻撃はわずかだったのが幸いした。その到達した攻撃も全員が避けるかクマのぬいぐるみが構えた大きな盾に阻まれた。でも敵は徐々に近づいており、だんだんと防壁の上に到達する攻撃が増えてきた。

 

「やべぇぞ! このままだと奴らが防壁に到達するぞ!」

「ウッド殿は我々の援護より、敵の妨害に集中してくれ! 彼の妨害で乱れた隙に総攻撃だ!」

 

指揮官である騎士から指示が飛び、僕は言われた通り飛んでくる矢の対処をやめて妨害するためにスオウを残して敵の上空へと飛んで行く。

 

 

 

 ◇  【紋章剣士(ルーン・ソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

敵の【スケイルリザード】が現れてから戦闘が始まり、その様子を俺たちは隠れている場所から見ている。現状は何とか耐えていると言ったところか? それも敵が防壁に接近すれば逆転されるだろうが・・・

 

それを阻止または時間を稼ぐために町に残った者たちが懸命に抗っている。今も俺の視線の先で防壁の上から矢や魔法に砲弾が飛び、敵の上空ではウッドが敵の妨害をしている。

 

だが、そろそろ体力がきつくなってくるころだ。そろそろ俺たちも加勢したほうがいいだろう。実際、俺とゲイルにアークさんは準備をしているのだが・・・

 

「お前たちは何をのんびりしてるんだ?」

「「「あ?」」」

 

ここに隠れることを可能にした<エンブリオ>を持つ者を加えた三人組は準備もせずに何かを探している。十中八九<UBM>を探しているんだろうが、そんなことをする暇があるのなら打って出るために消費アイテムの確認でもしやがれ。

 

「お前ら打って出るつもりか?」

「がんばるねぇ~」

「それはまかせるからよぉ? 俺たちはボス狙いでまだ隠れているわ」

「その前に防壁が突破されてもか?」

 

俺の言葉に三人は何を言ってんだと言う感じで・・・

 

「烏合の衆なんだからボスを倒せば終わりだろう?」

「あんな数相手にしても損しかねぇよ」

「そう言うことだよ?」

 

などと当然のように言った。さすがに腹を立てて感情のままに言葉を荒らげようとする俺だが、寸前でゲイルに止められた。

 

「兄貴よしな。こいつらは遊戯派の<マスター>だ。言ったところで理解しないし話が平行線のままだ」

 

ゲイルの言葉に俺はイラつきながらも三人に背を向けて離れる。そんな俺を三人はおかしなものを見る目で見送る。アークさんと合流し、俺は深い溜息をこぼす。

 

「はぁ~。ゲイルすまなかったな」

「気にしないでくれ。俺自身もあいつらに思うことはあるが、ここがどんなにリアルでも俺たちにはゲームだからな。感情的になる奴もいれば、ゲームなんだしっで終わらせる奴もいる」

「そうなんだよな・・・」

「僕はどちらかと言えば世界派ですし、周りの人たちも世界派よりでしたからあんな人たちがいるのはちょっと信じられませんね・・・」

 

遊戯派と世界派。このデンドロの世界をあくまでゲームととらえるかそれとももう一つの世界ととらえるかは<マスター>一人一人が判断することなんだが、両者の考え方は真逆であるため、ゲーム内でもリアルでも時々対立することがある。

 

遊戯派はゲームであると割り切り、従来のゲームのように効率や利益優先で動く。そのせいで野盗まがいの行為やティアンを命ある者として扱わない者が多い。それこそ国から指名手配されることも構わずにティアンの殺害を実行する者すらいる。

 

反対に世界派はこの世界をもう一つのリアルと考え、ティアンも命ある者として接する。リアルと同じく友として時に反発したりバカ騒ぎをしたり、噂ではティアンと結婚した者もいるとか。

 

そんな二つの考えが対立するのは至極当然なんだろうが、いざ現実にそんな考えを持つ奴を現れるとショックを受けるな。

 

「とりあえずあいつらは好きにやらせよう。俺たちは予定通り奇襲だ」

「そうだな」

「アークさんはどうします?」

「僕もそろそろ別の子達を出します。僕の護衛はその子たちにしてもらいますから、僕のことは気にせずに攻撃に専念してください」

 

そう言ってアークさんが右腕のジュエルから一体のモンスターを出すのだが、それを見た俺たちは・・・

 

「これはすごいな・・・」

「あ~なるほど。これらもモンスター化できるのなら強いな・・・」

「納得していただけました?」

 

俺たちはうなずいた。アークさん専用じゃなきゃほしいっていう奴はめちゃくちゃいるだろうなぁ・・・

 

「とは言っても、自分自身の戦力にしているので商売はほとんどしてないんですよね。おかげで常に金欠です・・・」

「「ああ~」」

 

なるほど。生産職なら自分で集めた素材は自分で使っちまうわな・・・そう考えるとけっこうきついか?

 

「と、ともかくアークさんの身の安全はある程度は心配ないみたいだし、そろそろ行くか」

「そ、そうだな」

「では、先制攻撃は僕の子達がやりますね」

「よろしく頼みます」

「俺もやります」

 

さて、俺とアークさんたちの攻撃でどのくらいのダメージになるかね?

 

 

 

 

  ◇  【重厚騎士(ソリッド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

 

これから奇襲するために俺はリオンを呼び、背に乗って突撃槍と以前三人と交換し合ったガチャの景品の一つである【オリハルコン・バトルシールド】を装備した。リオンに乗っている時は横に大きい盾は邪魔になるからな。防具は当然【ポルックス】

 

準備ができたので俺は段取りを確認する。まずはアークさんの戦力で先制攻撃。続けてクロス兄貴が各スキルで強化した範囲魔法攻撃を行う。それから俺とリオンがヒット&ウェイを行いながら相手にダメージを与える。

 

「準備はいいですか?」

「ああ、大丈夫だ」

『始めてください』

 

アークさんの確認の言葉に俺とクロス兄貴は問題ないと答えて、俺たち三人は隠れている結界外へと出る。町へと攻撃している【スケイルリザード】の群れはまだ気づかない。

 

「みんな出番だよ。<喚起―【クリムゾン】 【ブレイブ】 【アルファ】 【ベータ】>」

 

アークさんが右手のジュエルを掲げて、モンスターを呼び出す。呼び出されたモンスターは今町を守っている6体のクマのぬいぐるみと同じく、【ツクモガミ】で誕生した彼専用のモンスター。だが、今呼び出したのはぬいぐるみではない。

 

それは鎧。呼び出された四体は鎧のモンスターだ。最初の二体は紅とオレンジが目立つ全身鎧。最後の二体は灰色と黒色が目立つ機械式甲冑。モンスターとしてはリビングアーマーに近い。

 

それから続けてアークさんはいくつか持っていたアイテムボックスを彼らに渡し、その手に武具が装備される。全身鎧の二体にはバズーカが両手に。機械式甲冑には回転式弾倉のグレランが。

 

「全員構え、目標【スケイルリザード】の群れ後方」

 

アークさんの指示に従い、彼らは銃口を群れに向け・・・

 

「発射!」

 

一斉にその武器は咆哮を上げる。まず、相手に着弾したのは全身鎧のバズーカ。まっすぐに飛んで行った弾は群れの一体に着弾し爆発。その周りにも炎熱ダメージを与える。

 

次に山なりに飛んで行ったグレランが群れ後方の真っただ中で大爆発。その火力をもって群れの何匹かを吹き飛ばし、炎熱ダメージも追加する。

 

それらが続けざまに放たれて、続々と吹き飛ばされる【リザードスケイル】 さすがにいきなりのことに混乱し町を攻めていた前方にも動揺を与えた。

 

その隙を逃さず、町の防衛していた者たちはすぐさま攻撃を開始。その攻撃で前方の【スケイルリザード】たちは何とか立ち直り、攻撃行動を再開する。

 

一方、後方の混乱の方も冷静な個体が何体かの味方を引き連れてアークさんたちに気付いて向かってきた。こちらも準備をしていたので次の行動も早くできたが。

 

「連鎖の爆炎よ! ことごとく轟我が敵を粉砕せよ! 《チェインエクスプロード》!」

 

クロス兄貴が各スキルで強化した範囲魔法を発動。その効果は凄まじく、こちらに向かってきた敵以外にも被害を与えた。とは言え、奇襲はこれが最後でさすがに群れ全体がこちらに気付く。

 

ちょうどアークさんの鎧たちも弾切れになり、別の装備をその手に持っていた。全身鎧の二体は大盾と剣に槍を。機械式甲冑の二体は大斧とハンマーを。

 

ここからが踏ん張りどころだろうと気合を入れなおした時、群れ後方の奥からさらに別の【スケイルリザード】たちが現れた。

 

それらは数が少なく五匹くらいだ。しかしその存在感は桁違いで群れの主力だと嫌でも理解させられる。特に中央に居る一番大きく黒い鱗に覆われている個体は目が離せないほどだ。

 

そんな奴の頭上には【鱗軍大将 リガゾルド】の文字が。その事実に動き出した者たちが居る。

 

「やっと出てきたな!」

「あいつは俺たちが仕留めるぞ!」

「俺がMVPだ!」

 

<UBM>を確認したことで隠れていた<マスター>三人が飛び出し、【リガゾルド】に向かってゆく。二人は地力で走り、最後の一人はモンスターに騎乗している。

 

あっという間に【リガゾルド】に急接近する三人だが、相手は冷静で【リガゾルド】本人が迎え撃つようで前に出て長い爪を構えている。

 

「「おらぁ!」」

 

地力で走っている二人は紋章から大斧とハンマーを取り出し、それらを【リガゾルド】に叩きつける。おそらく<エンブリオ>の攻撃でスキル込みのこの攻撃で終わらせる気だったのだろうが・・・

 

その攻撃は【リガゾルド】の体にはじき返された。

 

「「はぁ?」」

 

驚いた二人だが、その一瞬のスキをついて【リガゾルド】は爪を振るい二人の首を落とす。そのまま二人は即死。最後に残った一人はと言うと・・・

 

「隙あり!」

 

【リガゾルド】の後ろに突然現れた大きな狼がその牙で首をかみちぎらんとするが、またしてもその攻撃は【リガゾルド】にかすり傷一つつけることができずに、首を断ち切られた。

 

「はぁ! なんでだよ!?」

 

訳が分からないと言うように混乱する<マスター>だが、その答えが出る前に接近した他の四体の【スケイルリザード・ナイト】に攻撃されて、あっけなくデスペナに。

 

『本当に役に立たなかったな・・・』

 

それを見た俺の感想はこの一言に尽きる。もう少し根性見せろよも追加したい。

 

「GUGA!」

 

そんな中、【リガゾルド】がひと鳴きすると群れは町への攻撃を再開した。俺たちを無視して。祖の俺たちに向かって【リガゾルド】と他四体が向かってくる。

 

この騒動の最終局面が近い・・・

 

 



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第四十九話 抗う者たち 後編

  ◇  【紋章剣士(ルーン・ソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

俺たちに向かってくる【リガゾルド】と【スケイルリザード・ナイト】 それらに対して俺は先制攻撃を仕掛けた。

 

「喰らいやがれ! 《クリムゾンジャベリン》!」

 

それは紅色に染まる大きな槍。【火術師】で覚える《ヒートランス》の上位互換。その魔法を《魔法発動加速》や《魔法多重発動》のスキルを併用した。MPをかなり消費するが【ガルドラボーク】のMPを使うので問題はない。

 

その五本の紅色の槍が、軌跡を描いて敵に飛ぶ。それに対して敵の行動は【スケイルリザード・ナイト】が【リガゾルド】を守るように手に持っている盾を構える。その直後に《クリムゾンジャベリン》が着弾!

 

二体の【ナイト】は盾が溶けて持っていた右腕も溶けてなくなるが、痛みに怯む様子がない!? それどころか淡々としている・・・なんでだよ!?

 

『あいつら・・・おそらく普通の状態じゃないな?』

「ん?・・・! そう言うことか!」

 

ゲイルはさっきの反応ですぐに察したらしいが、俺は少し遅れて気付いた。【リガゾルド】は配下を支配しているのだと。

 

てっきり俺は【リガゾルド】が【スケイルリザード】たちにとって王にも等しい存在だから従っているかと考えていたが、そうじゃない。【リガゾルド】の能力の真骨頂は支配能力だ。

 

支配能力を【スケイルリザード】たちに限定し特化させたことによって、自分に無条件に従い命を捨てることすら躊躇なく実行する。それこそが【リガゾルド】のメイン能力。防御力の硬さは副産物に過ぎなかったんだ。

 

『他の三体は・・・防具が特別らしい』

 

ゲイルの言葉に俺は頷いた。残りの三体の【ナイト】は盾が白熱化してるが無事だ。おそらく盾に《炎耐性》に《魔法威力軽減》のスキルが付いているのだろう。盾の熱が引いた直後に奴らは再びこちらに向かってきた。

 

「完全に支配してるのなら連携行動をいいだろうな!」

『だな! アークさん! 【リガゾルド】の相手お願いしていいですか!?』

「え!? 僕が!?」

『アークさんならその子たちもいますし、連携もいいと思うんですよ! 俺たちは今ウッドが居ないので火力不足なんです!』

 

ゲイルの言葉に俺も隣で頷く。数でも戦力として数えられないアークさんが居ても、戦闘特化のモンスターが五体。ウッドがおらずグリフも含めた戦力が四名もいない俺たちよりは倒せる可能性があるのではと考えた。

 

『【ナイト】の相手は俺たちがします! 他に【リガゾルド】がピンチになって駆け付けてくる敵が居たら近づけさせません!』

 

そう言いながら、ゲイルはリオンから降りて《瞬間装備》を使い剣と【バルギグス】を装備していた。さらに【ポルックス】を紋章に戻して、新たに装備したのは蒼い色合いの美しい全身鎧【BAA】を装備した。

 

おそらくは【ポルックス】をガーディアンとして出すため。今出さないのは切り札として温存も考えているからだろう。

 

『リオンはアークさんの護衛を頼むぞ』

「BURU!」

 

出番がないかと思ったが、ゲイルはアークさんの護衛をリオンに頼んでいる。リオンは光魔法が使えるし馬だけに後ろ足による蹴りもなかなかの威力だ。光魔法については低級の魔法じゃないと使い勝手が悪いがな。

 

「いいんですか?」

『悩む時間もないですし、特典武具も欲しいわけでもないので』

「俺の方も問題なしです。時々は魔法で援護しますよ?」

 

あとは倒せるかどうかだが、そこはやってみないとわからんたぐいだ。などと話していたら敵との接触が近い。

 

「わ、わかりました! まだ切り札もあるのでやれるだけやってみます!」

 

む? まだ出していない戦力でもあるのか? だがそれなら俺たちよりも勝率はあるな。そうこうしている間に片腕が吹き飛んでいる【ナイト】二体がこちらに持っていた槍を突き出す。

 

『ふん!』

 

その二体の攻撃はゲイルが盾と剣で防いだ。すると盾で受けた相手の武器が砕けた。耐久値が少なかったか元々壊れやすい物だったかはわからんが、【バルギグス】のスキル効果で壊れたか!

 

いきなり武器が壊れたためか相手は硬直した。その隙を逃さずにゲイルは【バルギグス】で相手の顎を強打! 剣で受けていた相手も武器を弾き、盾で腹を強打して押し戻し武器が壊れた相手を剣で首を断ち切るために振るうが、浅く切れるだけだった。

 

俺は俺で武具が上等な二体を相手にしている。さすがに俺が持っている【ディセンブル】とは格が違うようで接触するたびに大きな傷がついているが、やはり防御力が高いようだ。

 

だが、防御力が高いだけなら相手する分には問題ない。この分なら、あとから寄ってくる他の【スケイルリザード】たちも相手できそうだな。油断するつもりはないが、最初よりは力入れずに戦えるな。あとはアークさんの戦いを見てどの程度援護するかだが。

 

あちらはどうなってるか・・・・

 

 

 

 

  ◇  【???】アーク・ランブル

 

 

ゲイルさんとクロスさんに言われたので、僕と僕の子達は【リガゾルド】へと向かう。僕の横にはゲイルさんが護衛としてリオンと言う名の馬型モンスターが居てくれる。

 

「リオン君もありがとうね?」

「BURU!」

 

まずはリオン君にお礼を言って、その後にうちの子達に指示を出す。全身鎧型の【クリムゾン】と【ブレイブ】には大盾を持たせて、攻撃力の高い戦棍と片手斧を。

 

機械式甲冑型の【アルファ】には短機関銃(サブマシンガン)二丁を。【ベータ】には対戦車ロケット砲(バズーカ)を持たせた。

 

【クリムゾン】と【ブレイブ】は前衛で【アルファ】は後衛。【ベータ】が主力とする布陣だ。相手は防御力は硬いけどそれは数字だけの防御力なので爆発と火ダメージがある武器を持たせた形だ。

 

こちらの準備が整ったと同時に、【リガゾルド】が接近。【ブレイブ】にその長い爪で攻撃してきた! 【ブレイブ】は大盾でその攻撃を受け止めるが、力で押し戻されている。

 

援護するために【クリムゾン】が左から大盾で突撃し、【アルファ】も右側に短機関銃を連射する。しかし、【クリムゾン】の突撃は後ろに飛び回避されて【アルファ】の攻撃はすべて鱗に弾かれた。

 

【リガゾルド】が後方に着地すると同時に【ベータ】が撃ち込んだ対戦車ロケット砲が命中! 大きな爆音と爆炎が辺りを包む。それらが晴れると・・・

 

「GI・・・」

 

多少のダメージを受けたであろう【リガゾルド】が目を見開き血走った眼を僕らに向けている。

 

改めてみるとなかなか大きなモンスターだ。体長は四メートル近いかな? 腹以外は真っ黒な鱗に覆われているが、そのほかは薄い灰色だ。他に特徴的なのが両手の長い爪。体格もかなり立派だから実際の大きさより大きく感じる。

 

などと考えていると【リガゾルド】が僕に向かって突進してきた。さすがに僕が彼らの要であるってわかったか。でも、そう簡単にはたどり着けないよ?

 

【リガゾルド】の進路に【クリムゾン】と【ブレイブ】が大盾に武器を収め、アイテムボックスからあるものを取り出し投げた。すると・・・

 

ボン!! ボン!! ボン!! ボン!!

「!?!?」

 

【リガゾルド】を巻き込んでの爆発。今のは知り合いの【爆弾職人】が作った手投げ爆弾だ。ジョブに就いたばかりのころに大量に作った試作品を安く買ったんだけど、ここで役に立つとは思わなかった。下級職の制作物だから高性能ってわけじゃないけど。

 

あれは物理ダメージじゃなく火属性と風属性の混合属性ダメージだから。ただ、防御力が高いってだけの敵なら問題なくダメージを与えられる。まぁ、こっちに被害出さないためにしょっちゅうは使えないけど、それでも相手に自分を傷つけられるものがあるってわからせれば、不用意に近づいてこないでしょう。

 

問題はあちらが力尽きるまでこっちの武器が持つのかってことだけど・・・最悪は僕が持つ切り札であるあの子を出す。それで何としても決着をつける。

 

 

 

 

  ◇  【重厚騎士(ソリッド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

俺たちが戦闘を始めてから、どれくらい時間が経ったか。 体感では3時間戦っているように感じるが、実際はそれよりも短いんだろうな。

 

俺と兄貴は戦っている相手を何とか一体は倒したが、その直後から群れの何匹かが俺たちの方へと向かってきた。さすがに戦っていた【ナイト】よりはステータス的にも装備の質的にも格落ちするようだが、防御力が高いから倒すのに時間がかかる。

 

俺は【ポルックス】をすでにガーディアンとして出しているが、手数が増えても攻撃手段が物理オンリーだからな。クロス兄貴の方は数で攻められるので高威力の魔法攻撃を発動できない。速さ重視の魔法では威力が足りないのだ。

 

町の防衛側でも疲労が無視できないらしく、徐々に攻撃の勢いが弱りつつある。

 

俺たちの方はそれくらいだが、最も消耗しているのがアークさんたちだ。正確に言えばアークさんの戦力の消耗が激しい。

 

遠距離攻撃手段である爆弾や銃の弾は使い切り、機械甲冑型の二体も大斧や大剣を装備して接近戦をしているが、武器はボロボロ体にも大きな傷跡が無数に。長く前衛をしていた全身鎧型の二体などは片腕が動かなくなっている。

 

時折はクロス兄貴が魔法で援護していたが、こちらに向かってくる敵が多くなるにつれその頻度は下がっている。

 

それでも彼らは善戦している方だ。相手だっていくら防御力が高くても無傷ではない。両手の爪は一本ずつ折れてるし、黒い鱗もいくつか割れたり剥がれて血が滲んでいる。

 

とは言え、不利なのはアークさんの方だ。アークさんの戦力はもう満足に戦える状態ではない。今はリオンが援護しているので何とかなっている状態だ。そんな中、アークさんはある行動に出た。

 

「僕の最大戦力を出します! これで決着をつけます!」

 

そう言い、右手のジュエルを掲げ・・・

 

「<喚起(コール)! 【マーシャルⅡM】!」

 

アークさんの眼前に出現したモンスターはこれまでの子達とは大きく違った。まず大きさは【リガゾルド】を超えていた。緑色と深緑色の色合いの重厚感を醸し出した鋼の体。

 

それは機械兵器としては空想の物で現実的ではないなどと言われる男子なら一度はあこがれる夢の物体・・・ロボットが直立していた。

 

「『ロボット!?』」

 

俺たちもロボットという物にあこがれているので目の前に現れた物に大変驚いた。そう言えばドライフのクランが新規アイテムであるロボットの制作に成功したとか見たような?

 

出現したロボットはそばに移動した機械式甲冑二体から大型の回転式弾倉グレランと大剣を受け取る。大きさが大きさなので大剣はロボットが持てばナイフのようなものだが。

 

それを持ったロボットは【リガゾルド】に足のローラダッシュで突貫! 【リガゾルド】も向う討つ構えをするが、ロボットのショルダータックルに吹き飛ばされる。

 

そのまま追い打ちでグレランを何発か放ち大爆発が起こる。【リガゾルド】は爆炎と煙の中から現れ、そのまま怒りのまま爪を振るうが、ロボットの持つナイフに防がれる。

 

その隙をついて、全身鎧型と機械式甲冑型の四体が分かれて【リガゾルド】の両足を攻撃する。拮抗していた状態でそんなことをされ、【リガゾルド】はバランスを崩し、ロボットの蹴りでまたも吹き飛ばされる。

 

そんな状況を敵と戦いながら見ていた俺たちはこのまま行ければ勝てるのではないかと希望を抱いた。アークさんの苦しい表情に気付かずに・・・

 

 

 

 

  ◇  【高位技師(ハイ・エンジニア)】アーク・ランブル

 

 

切り札である【マーシャルⅡM】を出したことで戦況はこちらに傾いたが、あくまで一時しのぎだと言うのは僕がよくわかっていた。

 

なぜなら【マーシャルⅡM】を今まで出さなかったのには理由がある。【マーシャルⅡM】はすごく燃費が悪い。毎秒ごとにMPを3も消費してしまい現在の最大MPでは30分も動けば行動不能になる。

 

しかも再度動くには自分のMPをチャージする必要がある。もともと【マーシャルⅡ】のような特殊装備品である乗り物系は搭乗者のMPを消費して動くものがほとんどだ。

 

そう言う仕様が【ツクモガミ】でモンスター化した際に変質して、今のような仕様になった。さらにはもともとが大型の機械であるためか回復アイテムも使用不能だ。現在のメインジョブである【高位技師】のスキルで修理と言うか回復はできるが、戦闘中にできるわけがない。

 

だからあの子を出して戦闘する場合は短期決戦を覚悟しなければならない。戦闘特化の四体を出しそれで決着がつかなければ短期決戦型のあの子を出して決着をつける。それが僕たちの基本戦術だ。

 

だが、今回は相手が強くて他の子達が苦戦したから【マーシャルⅡM】を呼んだ形だ。相手はまだまだ余力があり短期で決着できるかは不明。他の子達も万全とは程遠い状態。正直なところこれで勝てるかは限りなく低いだろう。

 

「それでも・・・」

 

ゲイルさんやクロスさんにウッドさん。彼らはこの状況でも諦めず足搔いている。そもそも最初から負けることなんて考えていなかった。ただただ自分たちの能力を把握して最大限に力を出し、この状況をどうにかしようと足搔き続ける人たち。

 

彼らだけじゃない。僕たちと一緒に居た三人の<マスター>は特典武具に固執してたけど、それ以外の<マスター>は三人と同じだった。この世界で足搔き抗い生きている。

 

リアルで足搔くこともせずに途方に暮れていた僕とは違う。だからこそ僕も・・・

 

「足搔くことを・・・生きることを諦めたくない」

 

その為にできることはなんだってやる! この状況を変えるためにもしかしたらあの子たちを失うことになるかもだけど、それでも・・・

 

「諦めたくないんだ・・・」

 

今の僕にはできることはない。あとはあの子たちに託すしかない。この場にはいない方がいいかもしれないけど、だからって僕だけ安全な場所にいることはしたくなかった。

 

「みんな・・・頑張って!」

 

できることは応援だけだけど、意味がないかもしれないけどそれでも僕はここに居る。あの子たちの主としてあの子たちの最後になるかもしれない戦いを見続ける。

 

 

それからの戦いは死闘と呼ぶ物だった。【リガゾルド】はダメージを受けながら、【マーシャルⅡM】や他四体の子達に攻撃を繰り返し、彼らに深い傷を刻んだ。

 

すでに全身鎧型の【クリムゾン】と【ブレイブ】は大盾を持つのがやっとで僕の護衛に回り、リオン君が光魔法で援護してくれている。

 

機械式甲冑型の【アルファ】と【ベータ】は比較的軽傷だけど、もう遠距離攻撃手段の弾丸が尽きてしまい、【リガゾルド】に有効な攻撃手段がなくなってしまった。それでも両足に攻撃すれば【マーシャルⅡM】の援護になるので、今は大型武器の大剣と大斧をもって機会をうかがっている。

 

最大戦力の【マーシャルⅡM】にしてもそろそろ活動限界に近く、余裕がない。それをあの子も理解しているので攻めが単調になってしまい、相手の攻撃を受けることが増えた。

 

他の場所で戦う人たちも限界が近いだろう。すぐ近くで戦っているゲイルさんとクロスさんも必死に戦っているが、息も絶え絶えで気力で戦っている状態だ。

 

「負けるのか・・・」

 

正直、僕にはこの状態から勝つイメージが想像できない。せっかくあの子たちも頑張ってるいるのに・・・

 

 

そんな状況の中ある決断をした者たちが五人いた。正確には人ではなく五体と言うべきかもしれないが。

 

 

僕が諦めかけたその時、僕を護衛していた【クリムゾン】と【ブレイブ】が【リガゾルド】に向かって駆け出した! 

 

「二人とも!? 何を!?」

 

彼らに僕が目を向けた時、二人は大盾をアイテムボックスにしまい、とある物を取り出した。

 

「それは!!」

 

その取り出した物とは友人からもしものためにと持たされた爆弾。あまりに威力と爆発範囲が広いので、使う際は十分に距離と安全を考えろと言われた危険物だ。

 

友人も使うなどとは思わずにただの冗談で言ったことだ。それでも戦闘をする僕にとってはある意味最後の手段だ。とは言えこの状況でそれを取り出したと言うことは・・・

 

「まさか・・・君たち!?」

 

二人が何をする察した僕はやめさせようと叫ぼうとしたが、すでに二人は【リガゾルド】のすぐ近くまで到達していた。【リガゾルド】は彼らでは何もできないと判断して、アイテムボックスから対戦車ロケット砲を取り出した【アルファ】と【ベータ】を警戒した。

 

だが、これはブラフ。【アルファ】と【ベータ】の行動は【クリムゾン】と【ブレイブ】の援護だ。弾はすでに使い切った武器を出すことで相手の注意を自分たちに向けさすための。

 

その策は成功し、二人は両足にしっかりとしがみつき・・・持っていた爆弾を起爆させた。

 

ドドォーン!!!

「!?!?」

 

何もできないと判断した相手が爆発し、自身に大ダメージが発生する。無論、その爆発を零距離から受けた【クリムゾン】と【ブレイブ】もダメージを受けて光の粒子となる。

 

「二人とも・・・なんで?」

 

僕はそんな二人を見ていたが、消える直前二人は僕に向かって手を振った。それはまるでありがとうと言っているようだった。

 

「GIGA・・・・」

 

大爆発を受けた【リガゾルド】は両足の鱗がすべて剥がれて、痛々しいまでに血まみれになっていた。あれでは先ほどまでの動きで行動するのは不可能だろう。

 

さらに追撃を与えるために今度は【アルファ】と【ベータ】が行動する。アイテムボックスから黄色と赤色に彩られた見るからに危ないものと言うべき対戦車ロケット砲を取り出す。

 

「君たちもか! それは使っちゃだめだ!」

 

その装備は威力を極限まで上げた代わりに反動も極大で一発撃てば武器自体が爆発するとかもしれないという物だ。最初に使うなら二人のHPとENDで爆発を耐えられるが今の状態では耐えられるかわからない代物。

 

しかし、【アルファ】と【ベータ】は躊躇なく引き金を引いた。直後に発射される大型ロケット。 その後で轟く爆発。何とか原形を保っているが、僕のパーティ欄にはHPが危険域にまで減った二人のステータスが見えている。

 

撃ち出されたロケットは両足に大ダメージを負った【リガゾルド】に命中し爆発。これまた大ダメージを与えるが・・・

 

「GI・・・GA・・・」

 

まだ倒れない。体の鱗は大半がはがれもう満足に戦えないであろうに、膝を地面に付くことなく両足で立っている。倒れるわけにはいかぬと言うかのように。

 

ここでこの場の最後の満足に動けるものが動いた。【マーシャルⅡM】がローラーダッシュで急接近して【リガゾルド】の後ろに回り両腕をロック。動きを封じた。

 

「まさか・・・自爆する気なの!?」

 

【マーシャルⅡM】の原型である【マーシャルⅡ】は僕の友人たちが所属するクラン【叡智の三角】が一から作ったオリジナルアイテム。実際は趣味人たちの集まりであり中にはノリで自爆システムを載せたりする。

 

僕の【マーシャルⅡM】にも載せてあると言っていたが、はっきり言って使うつもりは完全になかった。それを彼は自らの意思で使うつもりだ。

 

「ジージー・・・マスター」

「え?」

「マスター二アエテヨカッタデス・・・アリガトウ・・・」

 

僕が驚いていると【マーシャルⅡM】の通信装置から声が聞こえた。通信装置はあってもAIを積んでいるわけじゃあないから話せないはずなのに。

 

「そんな・・・待って!」

 

僕には最後に【マーシャルⅡM】が笑ったように感じた。直後に・・・・

 

ドォッカァ~ン!!!!

 

今までで一番の大爆発を発生させて、【リガゾルド】ごと爆発の中に消えた・・・・

 

 

 【<UBM>【鱗軍大将 リガゾルド】が討伐されました】

 【MVP選出します】

 【アーク・ランブルがMVPに選出されました】

 【アーク・ランブルにMVP特典【巨体遺骸 リガゾルド】を贈与します】

 

 

そんなアナウンスが聞こえたが、僕には得で聞こえたように感じた。彼らに意思があることは知っていたし、それらを尊重もしてきたつもりだったが、まさか自らの意思で命をなげうって倒そうとするなんて・・・僕の目からは涙が流れ落ちた。

 



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第五十話 戦い終わり。それと・・・

  ◇  【強弓騎兵(ヘビィ・ボウ・ライダー)】ウッド・アクアバレー

 

 

大きな爆発が鳴り響いた直後に【スケイルリザード】たちは、まるで目が覚めた直後に戦場に放り出されたかのように混乱していた。戦っている途中で【スケイルリザード】が<UBM>に支配されているのは薄々気が付いていた。

 

だから、この状況は<UBM>が討伐されたことを意味したんだと疲れた頭で理解するのに数秒かかった。さらに王都方面から援軍である近衛騎士団がやってきて形勢はこちらに完全に傾いた。

 

群れのボスである<UBM>を失った【スケイルリザード】たちにはすでに戦う理由も強さも士気もなく、蜘蛛の子を散らすようにがむしゃらに逃げ出した。

 

近衛騎士団の半数は逃げ出した群れの追撃戦に駆け出し、残りは町の防衛に残ってくれた。しかも近衛騎士団を率いていたのはアルター王国の実力者である【天騎士】ラングレイ・グランドリア。国でも一二を争う実力者が駆けつけてくれたのだ。

 

あとで町の住人が話していたのを聞いたところ、カルチェラタン夫人は王家からも信頼厚く、血縁関係でもあるらしい。その為【天騎士】であるラングレイ氏が援軍としてやってきたのだと知らない町の住人に得意げに話しているおじいさんが居た。

 

ちなみに町を防衛していた僕たちもラングレイ氏自らお礼を言われた。ラングレイ氏は渋めな中年男性で鎧越しでもわかるほどの鍛えた肉体をしていた。お礼の言葉は堅苦しい敬語であったが、何となくこの人の本性は体育会系ではないかと思う。

 

兄貴たち特攻隊も帰ってきた。<UBM>討伐目的の三人はデスペナになったようで、帰ってきたのは兄貴たちとアークさんだけだったが。それよりもアークさんの様子がおかしい。アークさんの後ろにいる機械甲冑は動いているところを見るとクマのぬいぐるみたちと同類だと思うけど・・・

 

さすがにアークさん本人に声を掛けるのを躊躇していると、ゲイル兄貴が説明してくれた。なんでもアークさんの子達がその身を犠牲にした自爆特攻で<UBM>を倒してくれたと言うのだ。

 

しかも、自らの意思で行動したと言う。それを聞いた直後はなんと言っていいのかわからずにアークさんを見つめてしまった。そんな僕に対してアークさんは・・・・

 

「正直今は気持ちの整理が付かないです。でも僕はあの子たちに出会えたことに感謝したいです。それと同時にもっと一緒に居たかったのも偽りのない気持ちなので、本当にいろいろな感情が渦巻いていて一旦ログアウトしてきますね・・・」

 

そう言いアークさんはログアウトした。特典武具は間違いなくアークさんの物になっているだろう。デスペナした奴らが何か言ってこないといいけど。

 

アークさんに続いて他の防衛に参加した<マスター>たちも次々とログアウトしていった。さすがに精神的疲労が限界に近いのでリアルで寝ると言っていた。

 

カルチェラタン夫人からもお礼とお疲れでしょうから報酬については後日にと言ってくれたので、僕たち兄弟もログアウトして休むことに。僕とゲイル兄貴はグリフややグランにスオウ、リオンにお礼とねぎらいの言葉を掛けてからだけど。こういうことはしっかりとやっておかないとね?

 

 

 

その後どうなったかと言うと・・・僕たちがログアウトしてから数分後に囮の群れを壊滅させた討伐隊も帰ってきたらしい。彼らの報酬は冒険者ギルドが責任をもって出すことに。

 

それから数日間近衛騎士団が町の防衛に残り、警戒していたが五日間異常がなかったので六日目には王都へと帰還した。その時にちょうどログインしていた僕たち兄弟は改めてラングレイ氏にお礼を言われた。

 

「君たちのような<マスター>がいてくれて本当によかった。今後とも良き隣人でいてくれることを願う」

 

そう言って機械の馬に乗り、王都へと向かった。

 

それだけならいい話で終わりなんだけど、少々ごたごたも起きた。特典武具狙いの<マスター>三人が報酬にもっと色を付けろとごねたのだ。

 

特典武具を逃したので、その補填として報酬のつり上げを考えたらしい。だが、ゲイル兄貴とクロス兄貴が・・・

 

『その三人は全く役に立たなかった』

「速攻で<UBM>に倒されてたからな。むしろ報酬をもらうほど仕事してないぞ」

 

などと発言したことでティアンの人たちから疑惑の目で見られた。三人は否定したけど誰にも信じてもらえなかった。あの三人は【契約書】に署名しなかったので信用がないのだ。

 

結局、三人は文句を言いながら町を出て行った。ドライフ方面に行ったのでまた会うことになるのかな? そんな再会は御免被るけど。

 

あと、アークさんも近衛騎士団が去ってからログインしてくれた。気持ちの整理は何とかついたようで僕たちとも普通に会話してくれた。時折悲しそうな顔をするのでまだ吹っ切れてはいないようだけど。

 

あとはアークさんが獲得した特典武具も見せてもらったが、それは五メートル越えの巨大な物体だった。形としては兄貴たち曰く<UBM>である【リガゾルド】に瓜二つらしい。こんなにデカくはなかったようだけど。

 

特典武具の名は【巨体遺骸 リガゾルド】 以前に僕たちが手に入れた完全遺骸の特典武具のようだ。アークさんにアジャストした結果、生産素材で大きくなったらしい。その分完全遺骸よりはアイテムとしては格落ちするようだが、特典武具だからもともとのアイテムとしての格が高いので十分レアだ。

 

なお、アークさんはこの特典武具で新たなロボットを作るつもりのようだ。ロボットの正式名称は【マーシャルⅡ】でアークさんのリアルフレが何人も所属している【叡智の三角】と言うクランがゼロから作ったアイテムらしい。

 

早速、ログアウトしてフレンドに連絡してみたところ、なんと一日で町にやってきて「「「特典武具素材はどこだ!?」」」っとかなり興奮状態だった。

 

アークさんは苦笑しながら特典武具を見せて、多少は落ち着かせることに成功した。だが、その後・・・

 

「なに? これで【マーシャルⅡ】を作ってほしい? 任せろ!」

「制作会議を開くから、速攻で戻るぞ!」

「クランで暇な奴も誘って、データ取りしながら制作だな! 腕が鳴るぞ!!」

 

と言うようにものすごくやる気をみなぎらせて、アークさんを連れて装甲車のような物に乗って帰っていった。アークさんは慣れているらしく、僕たちにお礼を言っていた。なお、生産素材系の特典武具は他の人に生産を任せることができるらしい。

 

ドライフの首都に【叡智の三角】の本拠地があるらしいので、行ったら尋ねることにしよう。

 

俺たちもドライフに向けて旅経つことに。お世話になった人たちにあいさつ回りをしたら町を守ったことに対してお礼と食料や回復アイテムなどをもらってしまったよ。こんなことしかできないと渡した人たちは言ってたけど、こういうのは数で買うと結構な出費だから地味にありがたいよね。

 

カルチェラタン夫人からも改めてあいさつに行った。丁度町で出会った執事さんに是非にと言われて向ったのだ。

 

「この度は本当にありがとうございました。あなた方やご尽力してくださった<マスター>も皆様がいてくれなかったらどうなっていたことか・・・」

「あ~夫人。どうかお顔をお上げください」

「お礼なら十分もらいましたし、こちらとしては何とかなってよかったですから」

「そうですよ」

 

さすがにお礼を言われまくってるから、困惑しちゃうよ。ティアンからしたら絶体絶命の状況をひっくり返したっていうようなものだから当然かもしれないけど。

 

ちなみに、今回の防衛での報酬は一人当たり五十万リルももらったよ。これだけもらってお礼を言われまくれば困惑しちゃうのは当然だよね?

 

その後は簡単な会話や夫人から身の上話として、三十年前に行方知れずとなった息子さんのことを聞いたが、残念ながらティアンで夫人と同じオッドアイの人には会っていない。

 

これから旅をする過程で会うことがあるかもしれないから、覚えておこう。

 

夫人と別れて僕たちはリオンが引く馬車でカルチェラタンから旅立った。見送りとして孤児院の子供たちが防壁の上から手を振っている。大きなクマのぬいぐるみをいくつかモフモフしながら。カルチェラタン夫人がアークさんから買い取った物を寄付したのだ。

 

「守れてよかったね?」

「そうだな」

「ああ」

 

あの光景を見ると心からそう思うよ。さてドライフ皇国へ行く上で最初に到着するのはバルバロス領だね? 道中は<UBM>や厄介なモンスターが出ないといいな~。<UBM>はめったに出会わないようだけど僕たちの遭遇率は異常だからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところ変わってここはどこか不思議な空間。暗いのか明るいのかすら定かではないそんな空間に三人の人物がいた。

 

いや・・・人物と言っていいのかは疑問が残るところだろう。なぜならその三人は明らかに普通の人ではないからだ。

 

一人はいくつもの生物の特徴がキメラのごとく体に見られる者。正体は管理AI4号であるジャバウォック

 

二人目はライオンのような鬣が特徴で体のラインから女性だと推測される者。彼女は管理AI3号であるクィーン

 

三人目は三人組の中で最も小さいが、最も特徴が分かりやすい二足歩行の猫。管理AI13号であるチェシャである。

 

「ジャバウォックーそろそろ僕たちを呼んだ理由を聞いてもいいかいー? まぁ、クィーンも呼ばれたからモンスター関連だとは思うけどー」

 

ここに集まった三人は<Infinite Dendrogram>のゲーム管理の関係上役割がかぶっているのだ。ジャバウォックは<UBM>の管理に認定。クィーンはモンスター管理に繁殖。

 

チェシャだけは雑用でいくつもの管理AI作業を手伝っているため決まった役職はないが、だからこそいくつもの管理の相談もされる。

 

「うむ。13号の予想通りモンスター関連だ。もっと正確に言えばある<UBM>たちを討伐した<マスター>たちに関連したことで意見を聞きたい」

「ふむ? 珍しいな。お前が自分で結論付けずに私たちに意見を聞くなど」

 

ジャバウォックの管理は半ば彼の趣味であるため、ほとんど自分で結論を出す。そのことを知っているのでクィーンは興味を持った。

 

「本来ならそうするのだが、私だけの考えで結論づけるのは得策ではないと判断した。早速本題だが、このデータを見てくれ」

 

そう言って二人の目の前にジャバウォックがまとめたデータが映像と共に映し出される。そこに映っているのはとある三人の<マスター>の<UBM>討伐記録と映像データだ。

 

その三人とはアクアバレー三兄弟のことで、データは三兄弟がこれまで倒した<UBM>関連の物だ。

 

「あーこの三人なら僕がチュートリアルをしたよー。へぇー! これまで四体の<UBM>に出会って、三体は討伐してるんだー」

 

チェシャは見覚えのある人物の偉業を素直に称賛する。一方クィーンはと言うと・・・

 

「むー」

「どうしたのさークィーン? 難しい顔と声出してー」

「この<UBM>は私が作り出したモンスターが元になっている。数少ない私お手製の<UBM>が討伐されるのはどうもな・・・」

「あー」

 

クィーンはモンスター管理をする関係上、普通のボスモンスターなども造り出す。それらがジャバウォックのお眼鏡にかない<UBM>化されるのは実はめったにない。ここの映し出されている<UBM>は数少ない実例なのだ。

 

「割り切れ3号。作られたモンスターはいつか倒される。むしろ強いモンスターを苦労して倒そうとするのなら新たな<超級>が生まれる可能性がある。我々の目的達成のための礎だ」

「・・・そうだな」

「今の間はなんだ?」

「気にするな」

「はぁーやれやれー」

 

仕事が趣味で今を楽しく過ごしている者には同僚の女心は理解できないらしい。そんな堅物にチェシャは溜息を吐いた。

 

「ところでジャバウォックー? このデータがどうしたのー? 普通に戦って特典武具をゲットしただけでしょー? 特に問題はないけどー」

「そうだな。あまりにも普通であることを覗けばな」

「どういうことだ?」

 

チェシャの疑問に対してジャバウォックの返答はクィーンには理解できなかった。

 

「この三人は<エンブリオ>も含めてごく普通の<マスター>だ。正直なところ<UBM>に遭遇しても勝つことが到底できるような能力はない」

 

ジャバウォックの言葉にクィーンとチェシャは納得した。データや映像で見る限り確かにこの三人は何か特出した能力があるわけではないのは明白だった。

 

「これは非常にまれなケースだ。<マスター>では初と言っていい。管理AI2号(パンプティ)のお気に入りである【破壊王】のようにハイエンドでもなければ、管理AI9号(マッドハンター)が目を掛けている【超闘士】のように戦闘能力が高いわけでもない。管理AI1号(アリス)が好む【女教皇】のようなメイデンでもない」

 

今、ジャバウォックの言葉で出たジョブは他の管理AIがいろいろな理由で注目している<マスター>が就いているジョブだ。そして彼らの共通点はいずれも何かしら突出した能力を持ち、<UBM>を何体かあるいは何体も討伐しているのだ。

 

「私としてはこのようなケースに至った理由が知りたい。その為にモンスター関連のデータ管理をしたことがある二人に意見が聞きたく呼び出したのだ」

「ふーん、まぁー呼んだ理由はわかったよー」

「なるほどな。私としても興味深い。データ上では確かに能力的には<UBM>の方が強いからな」

 

ジャバウォックの説明でチェシャは納得しクィーンは興味を持った。

 

「と言ってもー理由なんてもうわかってるけどねー」

「なに?」

「ほう? それを説明してもらいたい」

 

ことも何気にチェシャは断言した。その言葉にクィーンは同僚を見つめ、ジャバウォックは目を細め説明を要求した。

 

「簡単なことだよーこの三人は協力する能力が高いんだよー。何も他者との能力のシナジーで強力になるのはスキルや<エンブリオ>だけじゃないって話ー。 そりゃ<マスター>では珍しいけどーティアンとか他者と協力することで各上を倒したケースはあるでしょー。 それと一緒だよー」

 

確かに人間は協力関係を築き、困難を乗り越えてきた生き物だ。それは歴史が証明している。個々の特出した能力が目立つが、そんなものはごく少数で協力して事に当たるのが人間の基本戦術だ。

 

「特にティアンは戦闘の場合は命懸けだからねー。 協力することで各上を撃破するのは至極当然だよー。 グランバロアはそう言うことを国を挙げてやってるようなもんだしー」

 

海から<UBM>が強襲してくるのが日常茶飯事なグランバロアにとって、同族同士で対立していては海での生活などできない。実にわかりやすい今回のケースの証明といえよう。

 

「なるほど。協力することに長けた<マスター>か・・・」

「納得できたー」

「少なくとも疑問の解消にはなった。礼を言う」

「お安い御用さー」

 

チェシャとジャバウォックはそう言葉を交わしてこの話は終わりかと思われたが・・・

 

「ジャバウォック」

「なんだ?」

「次の話はなんだ? これで終わりではないだろう?」

 

ここで話が終わることはないとクィーンは確信していた。そしてそれは正しい。

 

「ああ、13号の話が正しいのか確かめるために私がデザインまたは認定した<UBM>をこの三人にぶつけようと考えている」

「・・・まぁーきみならそうするだろうねー」

「予想通りだな。ちなみにどんな<UBM>をぶつけるつもりだ?」

「候補としてはこれらだな」

 

そう言ってジャバウォックは二人に自分が選んだ<UBM>を見せたが・・・

 

「「・・・・・」」

 

それを見た二人はなんとも言えない顔になった。困惑や驚愕にまさかと言うような感情が変な形で融合したようなそんな顔に。

 

「・・・ジャバウォックー? 本気ー?」

「至極真面目だが?」

「何を考えてる! 第六形態に進化した<エンブリオ>持ちの<マスター>ならともかく! たかが第四止まりの三人に神話級(・・・)をぶつけてどうする!?」

 

思考が停止していたクィーンが叫ぶ。チェシャもこれはどうかと思うよーみたいな顔と目をしている。

 

「だからこそ見たいのだ。彼らが神話のごとく強大な敵を前にしていかなる英雄譚を見せてくれるのかを」

「ほぼ貴様の趣味じゃないか! しかも他の<UBM>しても古代伝説級の最上位クラス(・・・・・・)を選ぶなど気は確かか!」

 

その後の話は彼らの目的もかんがみて、これらの<UBM>をぶつけるのは見送られた。一言で言えばもったいないから。ジャバウォックは不満そうだったが。

 

しかし、妥協案として彼らが注目する価値のある<マスター>であるのはクィーンも認めたのでジャバウォックがデザインまたは認定した<UBM>で古代伝説級の下位クラスか伝説級の最上位クラスくらいならぶつけることになった。

 

彼等三兄弟の受難が確定した瞬間だった・・・




クィーンのキャラは原作での登場回数も少なくよくわかってないので、想像で書いています。
あと、アークが手に入れた特典武具で新しいロボットが登場です。まぁ、予想していた読者が大半でしょうけどw
名前は現時点では【リガゾルド〇〇】って感じになる予定ですが、何かいい名前が浮かんだ人は感想で書いてくれると嬉しいです。参考にしたり、もしかしたら採用するかも?


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第五十一話 バルバロス領到着

  ◇  【紅蓮術師(バイロマンサー)】クロス・アクアバレー

 

 

カルチェラタン領での<UBM>関連のトラブルを何とか解決し、俺たちは当初の予定通り北にあるドライフ皇国へと向っている。

 

ドライフ皇国は西方三国の中で北側の寒い地域にあり、生産系のジョブが豊富な国だ。特に機械関係のジョブはチュートリアルで選ぶことができる国の中では知識と有用性ともにトップだ。

 

他ではカルディナやグランバロアでも機械関係のジョブに就くことができるらしいが、カルディナはそもそも機械系のアイテムがかなりの値段で取引されていて運用が難しく、グランバロアは船関係に特化しすぎていてそれ以外の知識や運用方法がないとの話だ。

 

これ以外にリアルのネットで調べた限りでは、モンスターは地竜の生息地域である【厳冬山脈】が近くにあるため、そこから腹を空かした地竜が降りてくるのでその対策は必須と言うくらいだな。

 

それ以上は現地に行くのだから自身の目と耳で確かめればいいと考えて調べるのをやめた。

 

「さてさて。他国の町はどんなところかね?」

「特に真新しいところじゃないっぽいよ」

「首都とかならともかく、今から向かうバルバロス領は皇国では珍しい武人の家柄が治めているらしいからな。その為武具の生産も盛んだから俺は楽しみだけど」

 

どうやら弟二人は俺よりもちゃんと調べていたらしいな? しかし、武人の家柄か・・・ちょっとあこがれるのは漢であれば仕方がない。

 

などと話し合っていると、町を覆う防壁が見えてきた。門には人もまばらに並んでいたので特に問題なく入ることができた。そんな楽しみにしていた他国の町並みはと言えば・・・

 

「特に変わったところがない・・・」

「そうだね」

 

王国とは特に違いがないレンガ造りの町並みだった。楽しみにしていただけにちょっと残念感があるが、勝手に期待していただけだし文句を言うのは違う。

 

「でも武器とかは王国では見ないものがあるね?」

「ああ、王国はファンタジーの世界観だったから余計に目につくな」

 

二人の言う通り武具を扱っている店では、遠目に見てもアサルトライフルやサブマシンガンにスナイパーライフルっぽいものがあるな? 遠くて確かなことが言えないし、俺はそう言うのに詳しくないから断言はできんが。

 

通りかかった串焼きの屋台のおばちゃんに話を聞いてみるとどうやらここの町が皇国では珍しいと言う。他は大なり小なり機械の技術が使われている建造物があるとのこと。

 

ここは治めるバルバルス家の人が武に精通し、特に槍に関しては皇国一の腕を持つ武人を何代にわたって輩出してきた関係上機械系の技術からは縁がなかったらしい。

 

武具に関してはそうでもないらしいが、逆に言えば武具以外では触れる機会がなかったと言うことだよな?

 

「そんなんだから、皇国でも腕自慢の武人が集まってきてね? 自然とこんな感じの町になったっていう話だよ。バルバロス家のある街なんかは決闘施設もあるから、ここよりは機械技術があるけどそれでも皇国からしたら少ない方だね」

「へぇ~」

「なるほどね」

「面白い話だな? 話の礼に串焼きを二本追加でお代わりを頼む」

「お! お兄ちゃん分かってるね! ちょっと待っててよ!」

 

そう言って串焼きを焼き始めるおばちゃん。代金を払ってゲイルは串焼き二本を食べながら馬車に戻る。情報を手に入れるのなら屋台や酒場で聞くのが定番であり、いいことを聞いたならお礼に追加で商品を頼むのもお約束だな。

 

その後は今日の宿屋を探して俺はログアウトすることに。ゲイルは珍しい武具がないか探しに行き、ウッドは近場で狩りをすると言っていた。俺も次にログインしたら店巡りでもするかね?

 

 

 

 

  ◇  【大盾騎士(タワーシールドナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

新たな国であるドライフ皇国のバルバロス領に着いた俺たち。早速俺は武具でいいものがないか探しに出かけたが、最初から当てが外れた形だ。

 

「う~ん・・・銃以外は槍が多いな?」

 

ドライフ皇国は機械関係の生産職ジョブが多く、それ以外のジョブも生産職が多くあるお国柄だ。その為なのか、置いてある武具も銃に偏っている。バルバロス領の場合は領主のおかげなのか槍も豊富らしいが。

 

ただ、銃に関しては俺のジョブLvにふさわしい武器がない。今使っている銃よりは強いが、どうせ買うなら今のLvに合った銃が欲しい。

 

とりあえずはいくつか武具屋を回り、掘り出し物がないか探してみるか。最悪はアークさんに会いに行くついでにドライフの首都で探せばいいしな。

 

そんなわけで武具を探しているわけだが、四軒回っても収穫なし。さすがに精神的に疲れ始めたので二、三軒回ったら終わりにしようか。そんなことを考えながら大通りの脇道にあるところに古びた武器の看板を掲げた店に立ち入る。

 

「ん??」

 

その店に入ると目立つ物体が真正面の壁に飾ってあった。大型のとがった杭が何やら洗練されて機械部品に埋め込まれており、持ち手部分には大きめの引き金がつけられた。

 

ロボットゲームの武器種としては変わり種であり浪漫武器、あるいは不遇扱いされる類の武器である杭打機(パイルバンカー)と呼ばれるものだ。

 

「ずいぶん珍しいものが飾ってあるんだな?」

「おや、お客さんかい?」

 

俺のつぶやきが聞こえたのか客が来ることが分かったのかどちらかはわからないが、店の奥からご年配の女性が出てきた。

 

「一つ尋ねるが、あれは売り物なのか?」

「ん? ああ、これかね? 売り物だよ。もっとも今じゃあ誰も買わないけどね」

「ならなぜ、飾ってあるんだ?」

「まぁ、思い出の品だからだね。年寄りの昔話だけど聞くかい?」

 

興味があったので頷いた。女性によればこの武器は女性の夫である【高位技師】が造った物で、約30年前にはお得意様がいたそうだ。なんとそのお得意様と言うのがかつての超級職【衝神】ロナウド・バルバロスというのだ。

 

ロナウドは槍の武人の家系でありながら、パイルバンカーを好んで使いそのまま突き特化超級職【衝神(ザ・ラム)】に就いてしまった天才であり異端児。

 

そんな彼に当初から付き合いパイルバンカーを造っていたのが、武器生作者としては変り者として有名だった女性の夫。数々の戦功を上げ、とある<UBM>から特典武具のパイルバンカーを手に入れてからも予備の武器として造り続けたそうだ。

 

しかし、そんな日々も唐突に終わりを迎えることになった。彼が【神話級】の<UBM>を命を対価に討伐したからだ。

 

もともと使い手が彼以外いない武器であるパイルバンカー。ロナウドがいなくなってから彼に続こうとした者はいたがほとんど途中で諦めた。それは今も変わらない。

 

「まぁ、今は夫がとあるクランに技術を教えに行って、その仕送りで何とかなっている状況さね。今飾ってあるのは夫がロナウド様に造った物で渡せなかったのさ」

「それは・・・」

「ごくたまに<マスター>が買っていくが、数日たつと売りに来るのさね。やはり使いずらいんだろうね・・・」

「・・・ちなみにこの武器の性能は?」

 

そう尋ねると女性は懐から紙を取り出して俺に見せた。そこに書いてあったのは・・・・

 

 

 

 【PVGバスターグロウ】

 

 【高位技師】が造った杭打機。シンプルな作りで安定性に優れる。

 

 ・装備補正

 

  攻撃力+1000

  DEX+200

 

 ・装備スキル

 

  《パイル・ストライク》

 

 

 ※ 装備制限:合計Lv300以上

 

 

  《パイル・ストライク》 アクティブスキル

 

  スキル使用時に装備補正を倍加。さらにDEXを20%アップ。

  ただし、スキル使用後30分は装備補正が半分に下がり、スキル使用不能。

 

 

 

攻撃力は俺が見た中ではこれまでで最大だ。ただ、スキルがかなり癖がある仕様のようだ。おそらくはこのスキルを使用することで杭を敵に打ち込むのだろう。確かにこれでは使い手を選ぶな。

 

「杭打機にはスキルと装備補正の差はあれど、大体がこんな感じの性能だよ。一撃に賭けるのはロマンがあるなんて言っていた子たちも居たがね? 結局は使いにくいって返品に来たよ」

「ふむ・・・」

「悪いことは言わんから、あんたもやめときな」

「いや、買うよ」

「・・・話を聞いてたのかい?」

「むしろ、だからこそ買いたくなったが?」

 

この武器の性能は俺の戦闘スタイル的に噛み合う気がするしな。何より、俺の弱点である攻撃力不足も解決する気がする。騎士が扱う武器ではないが、それは些細な問題だしな。

 

「・・・はぁ~物好きめ。まぁ、こちらも商売だ。買いたいと言うなら売るさね。ただし、これを修理する旦那が今いないから返品はお断りだよ!」

「ああ、契約書に書いてもいいぞ?」

「言ったね? 後悔しても知らないよ!」

 

そう言うと店の奥から契約書を持ってきてその場で俺は返品しない契約を交わした。なお、お値段は整備する旦那さんがいないのと何年も売れ残っていた物だからと12万リルで買い取った。

 

よし、早速試しにモンスター相手に打ち込んでみようかね。外でウッドと合流だな。

 

 

 

 

  ◇  【剛弓士(ストロング・アーチャー)】ウッド・アクアバレー

 

 

さてと、町の外に出た僕は狩りの前にグリフと従魔二人を出して食事をとることに。<エンブリオ>であるグリフは別に食べなくてもいいらしいんだけど、仲間外れはかわいそうだからね?

 

それにグリフはそこら辺を分かって気を使っているらしく、小食の僕と同じくらいしか食べないんだ。グリフはいい子だよね?

 

ちなみにグランとスオウはお肉が好きだ。グランはじっくりと焼いて肉汁が滴ったお肉が好みでスオウはつくねのような団子状のお肉を好む。

 

「食べ終わったら狩りに行こうね?」

「グル!」

「UON」

「HOU」

 

料理を買った屋台の人たちから最近皇国では食糧不足が目立っているらしい。モンスターからのドロップ品はともかく規模が小さな村や町では作物が育ちにくくなっているとのこと。

 

ここバルバロス領は国土豊かな王国と近いこともあってそれほど深刻化してはいないようだけど、そのせいで一部の商人たちが利益優先の買い占めを行おうとしたとか。

 

先手を打ったバルバロス家の領主が制限を設けたことによって免れたらしいけどね。まぁ、それはともかくそんな状況だから食料になる物は高値で売れるんだとか。

 

実際、僕たちが今食べている場所ではチラチラと<マスター>やティアンがモンスター相手に戦っている。ここは王国側に近い場所だから、魔獣型のモンスターが居るからね。

 

考えていたら三人が食事を食べきるところだったから、僕も残っている料理を平らげる。さてと、あまり町から離れないところで狩りをするとしますか。

 

 

そう言うわけで始めた狩りだけど、地上に居る魔獣のモンスターはすぐに他の<マスター>やティアンに討伐されるのでなかなか戦えない。時折、怪鳥種が空から奇襲してくるがスオウが牽制し、僕が矢で翼を貫いてバランスを崩したところでグリフがとどめを刺している。

 

しかし、このままだとグランの戦闘経験が積めないなぁ。少し町から離れるとしよう。町が見えるぎりぎりまで離れているとゲイル兄貴から【テレパシーカフス】から連絡が来た。新しい武具を買ったので試すために合流したいらしい。

 

僕はスオウにゲイル兄貴を迎えに行かせ、ここらで待つことに。そんな時近くで戦闘音が聞こえた。なかなか派手な音が聞こえ、気になったので見に行ってみると・・・

 

「うわぁ~」

 

思わず声が漏れたが致し方なし。なんせそこで戦っていたのは人型ロボットと巨大な牛のモンスターだったからだ。

 

人型ロボットは三階建ての家くらいの大きさで、結構ながっちりとした重厚な見た目だ。ただなんというか、以前兄貴たちと見たアニメの勇者シリーズ系のロボットに似ている。あれがアニメに出てきても違和感がないくらいには。

 

そんなロボットと相対している牛のモンスターは頭上に【タイラント・ビックバイソン】という名称が浮かんでいた。ロボットが組みあえるほどの大きな牛だ。

 

とりあえず戦い始めてまだそんなに時間が経っていないのかな? とかなんとか思っていると、牛が角を跳ね上げて人型ロボットを押し返した。

 

これは援護したほうがいいと判断して、グリフとグランに合図を送り駆け出した。

 

「援護が必要ですか!?」

『頼みたい! ドロップ品の買い取り額を半分渡すので頼む!』

 

声を上げて人型ロボットに言葉を掛けるとそのような返答が。多分TYPE:チャリオッツの<エンブリオ>かな? いらないと言われなくてよかったと思いつつ、モンスターに向けて弓を構える。




なお、パイルバンカーの装備スキルは作者のオリジナルです。原作で誰かパイルバンカー手に入れて使ってくれないかな?
作者もパイルバンカーにはロマンを感じます。影響を与えたのはス〇ロボ大戦ですw


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第五十二話 出会い。そして・・・

結構久しぶりの更新となってしまった・・・


  ◇  【剛弓士(ストロング・アーチャー)】ウッド・アクアバレー

 

 

狩りをしている道中で、強そうなモンスターと戦っている人型ロボットに遭遇。おそらくは<エンブリオ>だと思うが、モンスター相手に苦戦していたので援護することに。

 

「まずは小手調べで《バーストアロー》!」

 

相手の強さを確認する意味も込めて、【剛弓士】のスキルである《バーストアロー》使用する。このスキルは矢の攻撃力を増大し、ノックバック効果も増大するスキルだ。それだけなら優秀なスキルだが、デメリットでスキル使用後に何かに当たれば絶対に矢が壊れる。

 

その矢は牛型モンスター【タイラント・ビックバイソン】の後ろの左足に刺さり砕け散った。その瞬間にノックバック効果で後ろ脚が後ろに跳ね上がる。

 

『BUMO!?』

 

自身を支えている要である後ろ脚の片方が跳ね上がったことで、バランスを崩す。その為、戦っていた人型ロボットに対しての追撃が不発に終わった。その間に人型ロボットは体勢を整える。

 

『すまない! 助かった!』

「どういたしまして! ところであのモンスターは亜竜クラスですか?」

『いや! 純竜クラスだ! と言っても純竜の枠内ではなり立てだろう! 本来は群れを作るタイプのモンスターだ!』

「それは厄介ですね! では、ここで確実に倒しましょう!」

 

群れを作るタイプで純竜クラスだと逃がしたらまずいね。そんなことを考えている間に相手も体勢を立て直してこちらに突撃してきた。

 

『任せろ!』

 

そう言って人型ロボットが前に出て、モンスターを抑え込んだ。

 

『すまないが攻撃を任せてもいいか! 俺のロボットは<エンブリオ>なんだが、攻撃スキルが今の状況じゃあ使えない!』

「了解です! それと僕のパーティメンバーが合流するので時間を稼げば人手が増えます!」

『わかった!』

 

それからは僕とグリフにグランが攻撃を行い、人型ロボットが前衛タンクで戦い続けた。近くで見るモンスターとロボットの戦いは大迫力で、欲を言えば観戦したかった。

 

しかし、助けに入った以上はちゃんと役に立たないと思い僕は相手に有効な攻撃スキルを探すために、覚えている攻撃スキルを片っ端から放ち続けた。

 

その結果は、僕の攻撃は特に有効と思えるほどの物はなく、むしろ足を集中して攻撃したほうが味方の援護になるようだ。有効打はグリフの通常攻撃とグランの魔法。

 

グリフは僕の矢で足を攻撃した際に体勢を崩した瞬間に体当たりや前足での攻撃を行う。ただ、グリフの持つアクティブスキルはあまり効果がないようだ。

 

グランの魔法攻撃は効果があるね? 得意とする魔法が地属性魔法なので地面から砂の刃上の突起物を発生させる《アースグレイブ》などの魔法は物理属性攻撃だ。それが地面から発生するので柔らかいお腹に当たる。

 

とりあえずはこの二人の攻撃を主軸に攻撃していたが、純竜クラスは伊達ではないらしくなかなか攻めきれない。そんな中・・・・

 

『待たせたな! 加勢するぞ!』

 

ゲイル兄貴がリオンに乗ってスオウの案内で駆けつけてくれた。その手には見慣れない武器を構えて。

 

『新武器のお披露目と試しだ! 受け取れ! 行くぞリオン!!』

『BURU!!』

 

そのままゲイル兄貴は武器を前方に構え、リオンはさらに加速。そのまま方向を調整してモンスターの側面に回り、接敵した瞬間に・・・

 

『喰らえ! 《パイル・ストライク》!』

 

前方に構えた武器を右側のモンスターの横っ腹に叩きつけた!

 

ドッシュン!!!

 

『BUMOOOOO!?』

 

この攻撃がかなりのもので相手の横っ腹を貫いたばかりか、なんと吹き飛ばしたのだ! 巨大なモンスターが冗談のように。

 

『はぁ!?』

『すげぇな!』

 

このことをやったゲイル兄貴も予想外だったらしく、間抜けな言葉が口から出た。人型ロボットの中に居るであろう人は素直に驚愕していたが。

 

ただ、大ダメージは与えたようだがモンスターは吹き飛ばされた場所で懸命に立ち上がろうとしている。はた目から見ても虫の息だけど。

 

『とどめは任せろ! 《バースト・ジェット》!』

 

人型ロボットに乗っているであろう<マスター>がそう言うと、両腕を突き出してスキル名を言うと手の甲から小型の飛行物体が飛び出し、モンスターに飛んで行った。そのままモンスターに突き刺さり体に半ばめり込む。その後・・・

 

ドッコォオオン!

 

爆発しモンスターは木っ端微塵に。肉の破片が飛び散った後にそれらは光の粒子に変わり、爆発地点に【暴虐大牛の宝櫃】が残る。

 

 

 

 

  ◇  【大盾騎士(タワーシールド・ナイト)】 ゲイル・アクアバレー

 

 

「助太刀感謝するよ。マジで助かった!」

 

モンスターを倒した俺たちは人型ロボットの<マスター>からお礼を言われているところだ。なお、ロボットのコックピットは背中が観音開きで開き、そこからパイロットシートが出てくる仕様のようだ。ロボット系のゲームは結構好みだからちょっとうらやましいな。

 

「おっと、自己紹介がまだだったな? 俺は真宮寺アキラ。 一応言っておくがリアルの本名じゃあない」

「僕はウッド・アクアバレーです」

『俺はゲイルアクアバレーだ』

 

アキラの外見はなんていうかイケメンで引き締まった体をしている。なんとなくロボットアニメの主人公的な印象を受けるな?

 

「このロボットは俺の<エンブリオ>で【籠胴人巧 オーパーツ】だ」

 

やはり<エンブリオ>だったか。マジンギアとはかなり違いがあるし間違いないとは思ってたが。

 

『ところでここら辺ではあんなモンスターが出るのか?』

「う~ん・・・俺はここら辺には来たばかりだからわからないが、あのモンスターは本来群れで行動する奴だったはずだ」

「それが群れで行動せずに一体でこんな町近くに現れた。いい予感はしませんね?」

『だな。これは冒険者ギルドに報告したほうがいいだろうな』

「そうだな。そうしたほうがいいだろう」

 

そうと決まれば、俺とウッドはリオンとグリフに騎乗。その後に気になったことをアキラに尋ねる。

 

『緊急事態かもしれないから俺たちが先に知らせてこようか? そっちのロボットよりは速いぞ?』

 

さすがにあのロボットではリオンとグリフには追い付けないだろう。

 

「気遣いありがとう。だが、大丈夫だ。ついていける手段がある」

 

ふむ? 移動用に従魔でも持ってるのか? だが、俺の予想は外れアキラは【オーパーツ】に乗り込んでしまった。

 

『俺の<エンブリオ>はこんなこともできる。《変形実行(フォーム・チェンジ)》!』

 

そう宣言するとロボットはその形を変えて、車に酷似した四輪自動車に変形した。車種としてはランドクルーザーかね? フロントガラスとかなくこっちからはどこに人が収まっているかがわからないが。

 

「へぇー! すごいですね! アニメの勇者シリーズみたいです!」

『確かにな』

 

俺たちは今でも根強い人気があるアニメのシリーズを思い出した。ちなみに俺が好きなのは勇者王だ。次回予告の仕方が結構好きだね。

 

『おお~! そう言ってくれるのはうれしいな! 俺はあのアニメのファンでな? こっちで知り合った他の<マスター>は別のアニメを連想するしな~』

 

それは仕方ないだろう。意外と変形機構のあるロボットアニメは多いしな? ハリウッドで実写化した奴とか。

 

『ともかく、これなら二人についていける』

『それらな問題ないな』

「ですね。早く行きましょう」

 

 

 

俺たちは速攻で町へと戻り、冒険者ギルドで事情を説明している真っ最中だ。なお、アキラの【オーパーツ】のスピードはリオンやグリフと大差なかった。本気で走ってもいい勝負をするかもな?

 

それはともかく、冒険者ギルドには話の証拠としてアキラが手に入れた【暴虐大牛の宝櫃】を提出し、【真偽判定】スキル持ちにも確認してもらった。

 

それをやり終えてなんとか信憑性を上げて信じてもらい、どこかに群れがいる可能性があると調査する依頼を出すと言っていた。

 

ちなみに俺たちとアキラはその依頼を受けなかった。調査するのなら土地勘や狩場の把握に探索や察知系のスキルなどが必要だし、察知系のスキルはあるがそれをメインにしているわけじゃあないし役に立たないからな。

 

なお、情報報酬として30万リルもらった。これは仲良く三人で分けることに。

 

「俺は少なくてもいいぞ? 宝櫃があるし二人には助けてもらったからな?」

「いえ、こういうことはきっちりしませんと」

『そう言うことだ。おれたちじゃあこの情報の緊急性に気付けなかっただろうしな』

 

アキラは自分を少なくして俺たちにお金をやろうとしたが、断固阻止した。先に戦っていたのもアキラだしな。

 

「わかったよ。そう言えば二人はどこから来たんだ? ドライフの所属じゃあないよな?」

「アルター王国から来ました」

『せっかくこんなリアルなゲームなんだし、いろいろな国を回りたいと思ってな? あとは俺はサブウェポンに銃を使うのでその調達だな。別の武器買ったが』

「そう言えば、なんでパイルバンカー? デンドロでは浪漫武器じゃあないの?」

『いや? 浪漫武器だぞ?』

 

ウッドにそう言われたので俺は買った経緯を説明することに。

 

「確かにその能力ならゲイル兄貴にピッタリだね」

『それに俺は火力不足に決定力不足だったからな。この武器でそれが補える』

「へぇー杭打機ってそんな武器だったのか? 俺のエンブリオは武器を装備できないから知らなかったぜ」

 

アキラの発言に俺たちは目を見開いた。

 

「武器装備できないんですか?」

「ああ、そもそも装備枠と言うか特殊装備品の場合はスロットって言うんだが、それがないんだよな。その分スキルやステータスは進化した時に強力になるらしいが」

 

進化の過程で武器でも追加するのかもな?

 

「それで相談なんだが、この町にいる間は君たちのパーティに加えてくれないか?」

「急にどうしたんですか?」

「町に戻るまで考えてたことだ。あのレベルのモンスターが徘徊しているかもしれない状況だとソロで狩りをするのもきついからな」

『確かにな』

「それに俺のエンブリオだと野良パーティを組みにくいんだ。デカいし状況によって変形するしな」

 

ふむ? 確かにアキラのエンブリオだとパーティメンバーの能力によっては難しいかもな?

 

「『う~ん・・・』」

「難しいか?」

「僕たちは反対しないけど」

『もう一人パーティに居るからな。さすがにその人の意見を聞かずに決めることはできん』

「ああ、そう言うことか。じゃあ俺はそろそろログアウトしないといけないんだ。また日を改めるさ。フレンド登録くらいはいいだろう?」

『ソレは喜んで。では、ログインしているのが分かったらここでしばらく待機してるよ』

「OKだ」

 

そう言って俺たちはアキラとフレンド登録し、彼はそのままギルドを出て行った。俺は杭打機を買った店に行って残っているパイルバンカーを買えるだけか買い込むとしよう。




【オーパーツ】の前半の読みは”ろうどうじんこう”です。作者が何気に苦労しているのはエンブリオの能力よりも前半の漢字だったりします・・・


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第五十三話 新たな仲間

今年最初の更新です。


  ◇  【紅蓮術師(バイロマンサー)】クロス・アクアバレー

 

 

次の日にログインすると、ゲイルとウッドが知り合ったマスターがパーティに入れてくれないかと持ちかけたそうだ。二人は反対しないが俺の意見も聞かないとと言ってこの話は後日としたらしい。

 

「二人が反対しないなら俺も反対しないだがな?」

「そうは思ったけどこれはけじめだから」

『うむ。やはりちゃんと意見は聞かんとな』

 

まぁ、円満な関係を築く上では重要だけどな? そんな俺たちは今は町の冒険者ギルドで依頼のカタログのようなものを見ながらその人物を待っている。

 

「なんだか付近の狩場の調査依頼が多いな?」

『俺たちの情報が原因だな』

「時間が経てば距離が離れた狩場も調査するかな?」

 

二人が知り合ったマスターと遭遇したモンスター関連の懸念事項も聞いている。生息地域を追われただけであればいいが・・・

 

「最悪は<UBM>が出現して暴れてる場合か・・・」

「ティアンの人たちには脅威だよね・・・」

『反対にマスターからしたら突発的なイベントだな』

 

本当にな。実際に周囲のマスターにはこの事態をチャンスだと考えている輩がいるだろう。耳をすませばそれっぽい会話が聞こえてくるし。

 

「ここに居るかね?」

「どこでもいいさ。俺たちならAGIを高さでしらみつぶしにできる」

「まずは発見、その後は尾行だ。他のクランに後れを取るわけにはいかん」

 

こんな感じでな? そういう奴らは遊戯派なんだろうが、俺たちからしたらあまり気分のいい会話じゃないんだよなぁ・・・

 

ちなみに世界派と呼ばれるマスターは町の警護の強化を手伝っていたり、この町周辺の村々に知らせたりしているらしい。

 

周囲の聞こえてくる会話になんとも言えない感情が渦巻く中、ゲイルとウッドが何かに気付いたように立ち上がった。二人の視線を追うと冒険者ギルドの入り口付近のイケメンがこちらに手を振りながら近づいてくる。

 

「すまん! 遅くなった! 野良パーティを組んでたんだが、トラブルがあってな」

「大丈夫ですよ? そもそも待ち合わせがしにくいですからデンドロは」

『フレンドに連絡する手段がほぼないしな。【テレパシーカフス】は距離の問題があるし・・・』

 

確かにこのデンドロではゲーム内で離れた相手との連絡手段がほぼないと言っていい。【テレパシーカフス】は範囲内のフレンド限定だし、正直な話そう言う能力の<エンブリオ>くらいじゃないか?

 

まぁ、考えるのは後にして友人になるかもしれないイケメン君に挨拶をするか。あちらも俺に気付いてこちらへと歩いてきてるし。

 

「そちらがゲイルとウッドのパーティメンバーかな?」

「ああ、そうだ。ついでに言うと俺たち三人は兄弟だな」

「おお、兄弟でデンドロやってるのか! 俺はリアルの知り合いでやってるやつがいないから羨ましい」

 

ん~話した感じ裏表がない青年って印象だな? まぁ、パーティに入れるのならこういう性格の方がトラブルにならないだろう。

 

「とりあえず、弟二人が問題ないと判断したのなら俺は特に反対はしないが、念のため今日はお試しと言うことで一緒に狩りに行かないか?」

「おう! こっちとしても問題ないぞ」

 

と言うわけで、適当な討伐クエストを受けて4人で町を出ることに。

 

 

 

その後は何度か戦闘をこなして、アキラの<エンブリオ>である【オーパーツ】がゲイルと一緒にタンク役をしてくれるのでゲイルの負担も減り、効率が上がった。

 

全く問題がないわけではないけどな。まずはアキラの【オーパーツ】が大きすぎて援護がしにくいこと。相手のモンスターが【オーパーツ】と同じくらいか大きければ問題ないが、小さい場合は俺やウッドの攻撃が狙いにくい。

 

デンドロにはパーティメンバーにもフレンドリーファイアの危険があるから、援護するためにはモンスターの背後に回り込むしかないのだが、これだって確実性はないしな・・・

 

後は【オーパーツ】の攻撃手段の少なさ。現在【オーパーツ】は第三形態で攻撃手段が格闘戦と第三に進化した時に覚えた攻撃スキル《バースト・ジェット》以外ない。

 

この問題に関しては【オーパーツ】に装備スロットがないこともあり、進化に期待するしかないのが現状とのこと。

 

「多分だが変形特性のデメリットだと思う。同じ変形特性のチャリオッツやガードナーはドライフでは割とあるんだが、ほとんどが装備スロットがないんだ。もともとの武装以外で武器や攻撃手段は進化に期待するしかないんだよな」

 

俺の疑問にアキラはそう答えた。現在の【オーパーツ】は第三形態らしいので上級に進化すれば改善されるのかね?

 

とりあえずは攻撃手段は俺たちがカバーすればいいし、援護にしても俺はAGIが高くウッドも空を飛べるグリフに騎乗しているから、なんとかできるだろう。

 

 

 

 

  ◇  【剛弓士(ストロング・アーチャー)】ウッド・アクアバレー

 

 

休憩を挟みながら街の周辺で狩りをしている僕らは、ちょうど地竜種である鱗や爪が鋭利な刃物となっている【ブレード・スケイルドラゴン】3体と戦闘中。

 

1体をゲイル兄貴とアキラさんが対応して、残る1体を僕とクロス兄貴が攻撃中。どうもこのドラゴンたち親子らしく、さっきから2体の圧がすごいんだよね。

 

でも、こいつらはアキラさん曰く結構狂暴な個体らしく見つけたらギルドに報告か撃破が好ましいとのこと。そう言うわけなので手加減はしない。

 

そんなことを考えていると、クロス兄貴が相手の地竜の左手の爪を叩き折った。

 

「GAA!?」

 

その事態に地竜はバックステップで後退し、四肢に力を込めて鋭利な鱗をすべてクロス兄貴に向けると・・・

 

「GAA!!」

 

その鱗が一斉にクロス兄貴に撃ちだされた。あとでアキラさんに聞いたところこの攻撃は【ブレード・スケイルドラゴン】の奥の手スキル《弾丸鱗射》と言う物で、見た通り鱗を弾丸のごとく発射するスキルだ。

 

奥の手であるので威力はかなり高いのだが、致命的な欠点がある。それは使用後のENDとSTRの低下だ。自身の攻撃手段と防具的な役割でもある鱗を発射するため再度生えてくるまでステータスが大幅に低下する。

 

AGIは多少増えるらしいが、二つのステータスの低下を補えるほどではないらしい。

 

などと考えている間にも鋭利な鱗はクロス兄貴に向かってくる。しかし、クロス兄貴は冷静に対処する。

 

「暴風よ! 地の底から吹き荒れろ! 《オーバーマジック》!《サイクロンゲイザー》!」

 

《詠唱》で魔力を余分に消費させ威力を底上げ。さらには【ガルドラボーク】の固有スキル《オーバーマジック》でさらに魔力追加。

 

《サイクロンゲイザー》は【風術師】で覚えるスキルで、地面から強風を発生させる。攻撃手段と言うよりは相手の妨害が主の魔法だ。地面から発生するので出が早くSTRやENDが低い相手はバランスを崩す。

 

本来ならそれらが低い後衛や斥候などを狙うのだが、クロス兄貴の《オーバーマジック》で強化すると・・・

 

相手の鱗が地面から発生した強風と言うより暴風と言うべき風に上空へ方向を変えた。

 

「GA!?」

 

自身の切り札をあっさりと破られた相手は呆然と上空へと視線を向ける。その隙を逃がさず僕はグリフへ指示を出し、瞬時に相手の懐へと飛び込んだ。

 

「グル!!」

 

そのままグリフは前足を勢い良く叩きつけ、地面へ相手をめり込ませた。そのまま光の粒子となりあとに残ったのは【剣鱗竜の宝櫃】だけ。

 

「「GAAA!!!」」

 

子供がやられたことに腹を立てた両親がさらに圧を増して相手しているゲイル兄貴とアキラさんに攻撃を浴びせる。

 

『流石に子が倒されれば怒るよな・・・けどな? こっちもお前らに誰かを殺させるわけにはいかないんでな!』

 

地竜の攻撃を装甲で受けながらアキラさんの【オーパーツ】は的確に相手の急所を殴り、確実にダメージを与えてる。

 

『そう言うことだ。こっちにはあんたらを生かす理由はないんだ』

 

ゲイル兄貴は大盾を使い攻撃を防ぎながら、大型のメイスで相手の鋭利な鱗や爪を砕いている。それを見た僕とクロス兄貴は二人を援護するために加勢しに向かう。それからすぐに二体の地竜も宝櫃へと変わるのに時間はかからなかった。

 

 

【ブレード・スケイルドラゴン】3体を倒した僕たちは小休止をするために見晴らしのいい場所で軽く食事をしていた。

 

「やはり生態系がおかしなことになってるな? あの地竜種は本来は山岳地帯に生息しているモンスターだ」

「そうなのか?」

「もともとドライフは<厳冬山脈>と隣り合わせになっているせいで地竜種や怪鳥種が多い。その山から下りてくる奴らも居て何体かは討伐してたそうだが、生き残りが新たな住処を得て住み着いた例もある」

 

アキラさんの説明は僕たちの事前の情報収集でも知りえた情報だ。

 

「そんな奴らが慣れた住処を離れる理由なんて追い出されたか、生きるために自ら出て行ったくらいだろう。いよいよきな臭さが増してきたな・・・」

 

そう言って難しい顔をするアキラさん。こうなると僕らも予定変更するべきかな?

 

「気になるのなら調査依頼も受けるか?」

「ありがたい提案だが、無理はしないさ。<UBM>目当てのマスターが多いし俺は町に万が一のために残るさ」

「そっちの方がいいだろうな。俺たちも手を貸すぞ?」

 

クロス兄貴がアキラさんに提案するが、アキラさんの考えは町の防衛の方を重視しているようだ。ゲイル兄貴もそれに同意し協力を提案する。僕とクロス兄貴も反対意見はないのでそれにうなずく。

 

「ありがたい。あてにさせてもらうが、予定はいいのか?」

「それほど急ぐ旅じゃないし、今は急ぎの用事もないよ。それにこれを無視したら気になっちゃうよ」

 

僕はそう言ってアキラさんに対して気にしないように伝える。

 

その後は狩りを再開し、何戦かした後に町へと帰った。それから四日間同じように町周辺で狩りをするのだった。

 

 

 

  ◇  【大盾騎士(タワーシールド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

それからの四日間は特に何か問題も起こることなく戦闘をこなした。しかし、アキラさん曰く戦ったモンスターの何割かは本来は町周辺で戦闘するようなやつらではなかった。

 

マスターが調査を進めているのが、モンスターの本来の生息地域にところどころの大きなモンスターが戦闘した後や居た痕跡が残っているらしいのだが、肝心のモンスターは見つかっていない。もしかしたら見つけたマスターの集団が特典武具欲しさに隠しているかもしれないが、それとてもしかしたらの話だ。

 

「なかなか事態は進まないな・・・」

「こうも静かだとある意味不気味だな」

 

なかなか解決しないこの件に対して俺たちだけでなく、町全体で不安な雰囲気が漂っている。

 

「まぁ、いずれは解決するさ。たとえ最悪の事態になったとしても今なら町を守ろうとするマスターも増えたしな」

 

アキラさんがそう言う理由はこの事態に対してドライフの首都から有名クランや個人ランカーが数人事態解決のためにこの町へやってきたことだ。

 

「皇国第二位クラン<フルメタルウルヴス>のオーナーにして討伐三位でもある【魔砲王】ヘルダイン・ロックザッパー 彼らはティアンともいい関係を築いている世界派のマスター集団だ。頼りになる」

「他に俺が聞いた話では“悪食”っていう人が原因であるモンスター探してるらしいな」

 

俺がそう言うとアキラさんはなんというか苦虫を噛み潰したようなそんな何とも言えないような複雑な顔をした。

 

「問題ある人物なのか?」

「いや、まぁ・・・ティアンに何かするっていうタイプではないんだが・・・彼はかなり特殊でな? 詳しくは説明したくない。すまないが察してくれ」

「OK。それを聞いたら無理には聞けんよ」

 

何やら事情がありそうなのでクロス兄貴が早々に話を切り上げた。

 

「町の防衛に大丈夫そうなら、そろそろドライフの首都にでも行くか?」

「そうだね。有名クランが防衛してくれるのなら僕たちが居ても連携面で邪魔になるだけだろうし・・・」

 

俺も無理に話を聞かないために早々に違う話題を振る。それにウッドがのっかった。

 

「それらな俺も同行していいか? こっちの友人で今首都に居る奴が珍しい物を造るから見に来ないかと誘われたんだ」

 

そう言ってアキラさんも一緒に期待と言ってきた。

 

「こっちは問題ないよ。むしろ心強い」

 

これまでの戦闘でずいぶん連携も慣れてきたし、町周辺がきな臭い今戦力が増えるのはありがたいね。

 

「ちなみにその友人が作っている珍しい物って何ですか?」

「ああ、何でも<UBM>の特典武具の生産素材を手に入れたらしくてな? 今トップクランの<叡智の三角>に居るリアルフレと新しいマジンギアを作っているらしいんだ」

 

・・・あれ? 何やらどっかで聞いた話だな?

 

「あの・・・もしかしてその友人はアーク・ランブルさんじゃあないですか?」

「え? 知ってるのか?」

 

ウッドがもしかしてと思ったのかアークの名前を出して確認すると、どうやら想像した通りだったようだ。世間が狭いと言うのを実感した瞬間だった。

 

詳しく聞くとアキラさんとアークはほぼ同時期にデンドロを始めて、首都で知り合っていこう交流を続けていたと言う。時々はアークさんと狩りにも行ったとか。

 

「いや~まさか三人がアークが言ってた新しい友人だったとはな」

「こっちだって驚いたよ」

 

クロス兄貴の言葉に俺とウッドも頷く。

 

「はっはっは! 確かにそうだろうな。 だがそれらな一緒に行って案内もできるし改めて同行してもいいかな?」

「問題ないぞ」

「歓迎します」

「よろしくな」

「おう! こちらこそな? あと名前も呼び捨てにしてくれ。そっちの方がこっちとしても助かる。さん付けで呼ばれるのは慣れてないんだよ」

 

アキラがそう言うのでこれからはさん付けはなしで呼ぶとしよう。

 

「この町での用事は済んだんだよな?」

「ああ、本来の目的である銃も手に入れたし、さらには杭打機も余分に購入した」

 

アキラに合った最初の戦闘の後に杭打機を買った店に向かい、他の杭打機を購入したからな。時間も経たずに現れた俺に対して店主のばあさんに誤解されそうになったが。

 

誤解を解いて店に残っていた別の杭打機を2個購入した。

 

 

 【ZVGギガンテック・アンカー】

 

 【高位技師】が造った杭打機。威力重視で一撃は重いが扱いずらさが増した

 

 ・装備補正

 

  攻撃力+1600

  防御力+400

 

 ・装備スキル

 

  《ギガントクラッシャー》

 

 ※ 装備制限:合計Lv400以上

 

 

  《ギガントクラッシャー》 アクティブスキル

 

   スキル使用時に攻撃力を3倍加。

   ただし、スキル再使用に12時間必要で装備攻撃力0に防御力半減。

 

 

 

 【SVGソニック・ランス】

 

 【高位技師】が造った杭打機。連続3回杭を一気に打ち込む。

 

 ・装備補正

 

  攻撃力+1200

  防御力+150

 

 ・装備スキル

 

  《リボルテック・ランス》

 

 ※ 装備制限:合計Lv380以上

 

 

  《リボルテック・ランス》 アクティブスキル

 

   スキル使用時に攻撃力を1.5倍加。連続で3回杭を打ち込む

   ただし、スキル再使用に3時間必要で装備補正が0に。

 

 

これらを買った。さらに銃も買おうと相談したところ売れ残りを購入したお礼に銃専門に扱う高級武具店の紹介状を書いてくれた。

 

そこへ行き、銃をいろいろ物色したところショットガンとサブマシンガンに大口径リボルバーを購入。これらは杭打機ほど特徴的でもなく装備スキルもない。

 

ショットガンは俺がタンクだから相性の良さで購入。サブマシンガンは中距離用として。大口径リボルバーは中距離の威力重視として購入。

 

店の人からはアサルトライフルを勧められたが、片手で扱いずらくなんとなく気に入らなかった。俺は盾を持つし片手で扱える銃の方がいいしな。なお、ショットガンも本来なら両手で扱うが片手で扱えるものがあったのでそれを購入。

 

用事も済んだし、その後の話し合いで他の用意が済み次第ドライフ首都を目指すことになった。




《サイクロンゲイザー》

オリジナル風魔法。イメージは間欠泉。本記に記したとおり本来は敵後衛や前衛ステータスが低い【斥候】や【弓士】などを邪魔するだけの魔法。

余談ではあるが、この魔法を使いスカート捲りをするマスターがいるとかいないとか・・・別名【男の小さな夢をかなえた魔法】


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第五十四話 大手クランの日常

今回原作キャラが二人ほど出ます


  ◇  【大盾騎士(タワーシールド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

俺たちはドライフのバルバロス領を出立し、ドライフ皇都ヴァンデルヘイムを目指していた。バルバロス領で出会った新たな仲間である真宮寺アキラも一緒に。

 

アキラはカルチェラタン領で一緒に<UBM>を倒したアーク・ランブルの友人でもあったので一緒に行くこととなった。

 

現在はリオンに馬車を牽いてもらい、その馬車に仲間が全員乗っている状態だ。

 

「いや~馬車の旅ってのも風情があるな」

「乗るのはやっぱり始めてか?」

「まぁ、<エンブリオ>がチャリオッツだからな。 他の乗り物に乗る機会なんてないんだよ」

 

俺は馬車を操縦しながら他愛無い会話をして、街道を進む。

 

なお、アキラは<エンブリオ>がチャリオッツで戦闘力のあるロボットだから操縦士系統上級職【高位操縦士】に就いている。下級職は【操縦士】 【整備士】と残り二つちょっと風変わりなものに就いている。

 

それが兵士系統下級職【兵士(ソルジャー)】と兵士系統派生下級職【機械兵士(メカ・ソルジャー)

 

兵士系統は様々な変わり種スキルを一つ持っているジョブだ。基本職の【兵士】もステータスはHPにMPとSPは高めだが、他のステータスはDEX以外は下級職の平均を下回っている。

 

そんな【兵士】が持つスキルは《耐久効率》ただ一つ。装備品の耐久値を上げて、《破壊耐性》スキル効果を底上げするだけのスキルだ。雑兵である【兵士】は長く戦うのが仕事と言わんばかりのスキルだ。

 

その派生職である【機械兵士】はMPとSPが高めでDEX以外は平均以下。スキルは《機械適正》と言う物で機械アイテム装備の能力と効果を底上げするだけだ。

 

「なんでその二つに就いたんだ?」

「これらのジョブに就いて、操縦士系統をメインに経験を積むと複合職業である【戦闘操兵(パイロット)】ってのになるんだ」

 

詳しく話を聞くともともと【操縦士】と言うのは戦闘メインのジョブではないと言うのだ。《操縦》スキルは馬車なども操れるし、そっち方面を専門としたジョブも存在するとか。

 

もっとも操縦士系統上級職には【装甲操縦士】や【疾風操縦士】などタイプの違う戦闘に特化したものもある。ただ、アキラの【オーパーツ】にとってはどちらもいまいちだとか。

 

【装甲操縦士】はEND型特化で【疾風操縦士】はAGI特化型。変形でどちらのタイプにもなれる【オーパーツ】ではこれからの進化に影響してしまう。

 

その為いろいろなジョブを情報を集めていたアキラはティアンから【兵士】と【機械兵士】に就いた先にある複合系上級職【戦闘操兵】のことを教えてもらった。

 

この【戦闘操兵】は戦闘特化であり、乗っている特殊装備品の性能と装備スキルを含めて強化するスキル《搭乗機強化(マシン・ブースト)》があり、特殊装備品の攻撃力と防御力を上げるスキル《攻殻性能》などがあるので二つの操縦士よりは【オーパーツ】に合っている。

 

「だから、この二つに就いてその上級職を目指してるってわけだ」

「なるほどな」

「今はロストしてるらしい超級職もあるらしいから、それの情報も探す予定だ」

 

なお、【機械兵士】の上級職は【機構兵士(マシン・ソルジャー)】でこちらもなかなかいいスキルがあるらしく【高位操縦士】と変えることも考え中だとか。

 

「そっちも超級職は目指してるんだろう?」

「就きたいが難しいだろうな。特に俺は」

 

騎士系統は【天騎士】くらいしか情報がなく、その【天騎士】にしてもアルター王国の要職だから条件を探すのは難しい。国として秘匿もしてるだろうし、現在はティアンが就いてるからな。

 

俺の上級職の【重厚騎士】と【大盾騎士】は超級職があるのかさえ不明だ。と言うかアルター王国は騎士の国なのに騎士系統超級職の情報が少ないんだよな? 以前に就いていたティアンが居た【聖焔騎】はアルター王国由来じゃないらしいし。

 

クロス兄貴やウッドのジョブは俺のように国特有のジョブではないので探しやすいが、それとて難しいだろうしな。

 

「お?」

「着いたぜ。あれがドライフ皇国皇都ヴァンデルヘイムだ」

 

などと考え込んでいると目の前に白煙が立ち込める大きな町が見えてきた。

 

 

 

 

  ◇  【剛弓士(ストロング・アーチャー)】ウッド・アクアバレー

 

 

僕たちはドライフ皇国の郊外に向かっている。アキラ曰く僕たちの目的地である<叡智の三角>の本拠地はその活動内容と人数の多さに加え、必要な敷地も多いため郊外に本拠地を作ったんだって。

 

そして現在、その場所に着いた僕たちは馬車をしまい案内役のティアンの女性の後に続いている。そんな僕たちが進むのは見せても問題ない区画らしく・・・

 

「おい、そのグレラン火薬詰めすぎじゃあないか?」

「これでいいんすよ。砲身も専用にするんで」

「・・・予算オーバーじゃねえか?」

「・・・あ」

 

何やら大きな大砲の周りで作業している者や・・・

 

「んん~関節部のバランスをもう少し何とかしたいっすね?」

「それは防御的な意味で? それと動き的な意味で?」

「動き的な意味で。まずはスムーズな動きを目指したいっす」

「馬鹿言え。まずは防御的な意味でだろうが。関節部はマジンギアの弱点の一つだぞ?」

「そっちこそわかってないっす。スムーズな動きができるようになれば運動性能が向上して、攻撃回避につながります」

「あん?」

「なんすっか?」

「にらみ合ってないで作業しろや」

 

話し合っていたのにいきなりにらみ合う二人に周りがやれやれまたかって感じで苦言するところや・・・

 

「この新型のコンセプトはなんだ?」

「格闘戦特化。目指すはGガン〇ム」

「何言ってやがる。格闘戦ならボ〇ムズだろうが。アームバンカーを造るんだよ」

「あんな動く棺桶に格闘戦なんかできん」

「そっちこそ達人の動きをトレースなんて無理に決まってんだろう」

「「・・・やるか!?」」

「・・・話まとまってから造ろうな」

 

何やらガ〇ダム派とボト〇ズ派がけんかしてるような会話が聞こえた。気のせいかな? そんなことをティアンの女性は特にリアクションなく進み続けてる。これがここの日常なのかな?

 

そうやってクラン内を進むとドアの前で女性は立ち止った。掲げているプレートには会議室と書かれている。

 

「現在、アークさんはお友達の皆様と何人かのクランメンバーとこちらに居ます」

「そうですか。案内ありがとうございます」

 

そう言ってクロス兄貴と俺たちは頭を下げる。

 

「いえいえ、これも仕事の一つです。それと忠告としてあまり驚かないで上げてくださいね?」

「「「はい?」」」

 

何やら変なアドバイスと言うか忠告を残して女性は去っていった。アキラを見ると何やら苦笑してるし。

 

「まぁ、入ればわかる。多分俺の想像通りの事が起こってるしな」

「「「はぁ?」」」

 

よくわからないけど、とりあえずアキラが扉を開けて入るとそこで行われていたのは・・・

 

「だーかーらー! この特典武具でマジンギア造るのなら、END型でミサイルを積んだ遠距離援護タイプだって!」

「まだミサイルは実用化されていない! そんな半端なもの積んだらすぐ自爆するぞ!!」

「なにを!?」

「それよりもこの特典武具の元となった<UBM>は指揮官タイプだ。ならばそれ用にレーダー機能特化の支援タイプがいい」

「それこそ無理だろう! そもそもそんな用途はスキルで事足りるじゃん!!」

「なんだと?」

「わかってないな? そんなコンセプトよりもスナイパーライフルでの遠距離特化が現実的だ」

「「「マジンギア用のスナイパーライフルはまだ実験段階だろうが!!!」」」

 

入った会議室では、ホワイトボードが乱立しその中にいろいろな設計図が殴り書きされていた。そして、技術者たちが自らの案を勧めようと鎬を削っている。

 

そんな会議室の奥ではアークさんが苦笑している。何このカオス?

 

「あ~予想の三割増しにひどい状況だな」

 

アキラもこの状況は予想していたようだが、予想よりもひどかったらしく乾いた笑みを浮かべている。

 

「どういう状況?」

「これがこのクランの日常の三割増しな状況だよ。いつも己のポリシーや趣味のぶつかり合いだから」

 

何ともコメントの困る答えだ。そんな僕たちに・・・・

 

『まぁ、否定はできないね~特典武具でマジンギア造るのはうちでも初だしね?』

「あ、オーナーも来たんですね?」

『趣味で造った物がなかなか進まなくてね? 様子見と進展状況を見に来たのさ』

 

後ろから声がして、アキラがすぐに答えた。オーナーってことは<叡智の三角>のクランオーナーかな? 挨拶しようと後ろを振り返ると・・・

 

『君たちがアーク君と<UBM>を倒したマスターかい? 私からもお礼を言うよ。おかげで貴重なデータが取れるしね』

「「「・・・」」」

『ん? どうしたんだい?』

 

いや、だっていきなりまじかにペンギンの着ぐるみ来た人が居れば驚くでしょう?

 

「なんで着ぐるみ?」

『趣味だね! 好きで着てるんで気にしないでくれたまえ!』

 

ゲイル兄貴がなんとか質問をひねり出したらそんな答えが返ってきた。それを聞いて僕たち兄弟は「着ぐるみさんの同類か」と納得。・・・なんか「そいつと同列視はいやガル!!!」って幻聴が聞こえた。

 

『ともかく自己紹介だね? 私がクラン<叡智の三角>のオーナにしてロボット作りの発起人Mr.フランクリンだよ。以後よろしく』

 

 

 

 

  ◇  【紅蓮術師(バイロマンサー)】クロス・アクアバレー

 

 

とりあえずオーナーさんの自己紹介の後に俺たちも改めてあいさつをした。さらにその後に・・・

 

「私はAR・I・CA オーナーの親友にして<叡智の三角>のエースさ! よろしくね!」

 

赤髪の中に白銀のメッシュが一部入っている女性。来ている服はなかなか派手なビキニのようなインナーにフライトジャケットで下半身はホットパンツ。出るとこは出てくびれてる。

 

そんな女性・・・AR・I・CAさんは僕たちを見渡し、満面の笑みを浮かべる。

 

「う~ん三人ともイケメンだね! あとでアタシとベットでいいことしない?」

「「「お断りします」」」

「即答!?」

「相変わらずのようで・・・・」

 

何やら大人のお誘いを受けたが、俺たちはこのゲームではそう言うことはしないと決めている。その横でアキラはため息をついた。

 

『アッハッハッハ! 最速で断られたねAR・I・CA』

「ぶぅぶぅ~」

 

何やらかわいい感じでふてくされてるAR・I・CAさん。それを大笑いするオーナーさん。そんな感じで挨拶しているとアークさんがこちらに気付いて近づいた。

 

「皆さんお久しぶりです。まさかアキラと一緒とは思いませんでしたよ」

「たまたま出会ってな? 助けてもらったしその後も一緒にパーティを組んだんだ」

 

久しぶりの再会に挨拶を交わすアキラとアークさん。俺らも挨拶を交わす。

 

「フランクリンさんもこんにちは。作業はひと段落したんですか?」

『気分転換と様子を見に来たんだよ。相変わらず進んでいないようだね~』

「あっはっは・・・」

 

オーナーとも挨拶を交わしているが、言葉に対して乾いた笑みしか出ないアークさん。その間にも後ろの技術者たちの話はヒートアップしている。

 

『とは言えさすがにこのままだと国の依頼に影響するねぇ~仕方ないかね?』

 

と言って、オーナーは話し合いの近くまで行き・・・・

 

『ハイハイハイ! いったんストップ!! このままじゃあらちが明かないよ?』

「あ、オーナー」

「今日は着ぐるみ着てるんですね?」

 

技術者たちはヒートアップしていた話し合いをオーナーの登場と言葉で一旦やめる。

 

『色々造りたいのはわかったけど、今回の依頼はアーク君のご厚意で任せてもらうんだよ? もともとの<UBM>の能力も考えて造る必要はあるし、何より依頼主の意見を聞かないのもどうかねぇ?』

「「「・・・あ」」」

『わかったのならまずはアーク君の意見を聴いた上で、データ取りながら造るようにね? 特典武具でマジンギア造る機会なんてうちじゃあ初の試みだからねぇ。私も特典武具素材は持ってるけど私にアジャストしたんじゃモンスター製造特化だしね』

「まぁ、そうっすね」

「手伝いに行った奴がごくたまに特典もらうけど、ほとんど追加パーツか武器だしなぁ~」

 

へぇ~オーナーも特典武具素材持ってるのか? モンスター製造特化っていうしそう言う<エンブリオ>もちなのか?

 

『理解したのなら始めなよ? また暴走しないように私も話は聞いてるからねぇ』

「「「了解~」」」

 

そう言うわけでアークさんの意見を聴くこととなった。俺たちももともとの<UBM>の討伐経験から話を聞かれることに。

 

「では、<UBM>についてまとめると本体の戦闘力は純竜クラスよりちょい上くらいでリザードマン系のモンスターの従属と指揮能力特化って感じでOK?」

「はい。合ってます」

「ふむ・・・それでアークさんにアジャストしたのなら、スキル的にはパーティ枠拡張とか従属キャパシティー倍加かね?」

「それか、<エンブリオ>能力も考えて個体のパーティ編成可能とか? あるいは従属キャパシティーがあってその数字ないで仲間連れてけるとか?」

「後者の方がありそうだな? どちらにしろそう言う系のスキルがありそうだからそれらを踏まえて、アークはどんなマジンギアを造ってほしいんだ?」

 

特典武具の能力に当たりをつけた技術者たちが今度はアークさんにマジンギアのコンセプトについてリクエストがあるのか尋ねた。

 

「そうですね・・・END型で盾持ち、さらにコックピット周りはドライバーの生存重視で」

「ドライバーの生存重視ってなんでだ?」

「これまでの僕の戦闘スタイルだと、僕と言う最大の弱点が無防備なので。この際のマジンギアに乗れるようにしてもらってドライバーの生存や負荷に対して考えるだけの対策を乗っけてもらおうかと」

「それならEND型で盾持ちってのにする理由は?」

「僕が乗っても操縦するわけではないのでAGI型にする意味は薄いからですね。それにもともとの<UBM>もEND型だったので」

 

アークさんの意見をホワイトボードに書きこんで、技術者たちはとりあえずの方向性を確認する。

 

「よし。方向性としてはアークさんの意見をコンセプトにEND型で盾持ちにする」

「盾はいいけど武器は?」

「特典武具素材を見たが、バトルナイフなら造れそうだ。あとは標準装備のハンドキャノンでいいだろう」

「ドライバーの生存重視の件は?」

「安全第一に考えてるやつらがいたよな? そいつらに手伝わせるか」

 

さすがに話の方向性が示されたら行動は速かった。そのままアークさんの意見を取り入れて造り出すマジンギアの方向性を決めてゆく。

 

最終的にマジンギアはEND型で大盾持ちのドライバー生存重視の機体で落ち着いた。どんなのができるのかねぇ?




原作キャラは主人公のライバルでおなじみMr.フランクリンにその親友にしてユーゴ―の押しかけ師匠AR・I・CAです。

今回はフランクリンは着ぐるみで登場させましたが、理由としては着ぐるみ枠なのに原作ではその設定が息してないからですw


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第五十五話 素材集めと過去の偉人(ブラック)

  ◇  【剛弓士(ストロング・アーチャー)】ウッド・アクアバレー

 

 

僕たちはドライフ皇国皇都ヴァンデルヘイムの郊外にある<叡智の三角>のクランに現在客分扱いで過ごしている。

 

アークさんと協力して手に入れた特典武具【巨体遺骸 リガゾルド】を使ってマジンギア作成の見学のためにオーナーのご厚意で泊めてもらっている。

 

それだけだとこちらが得をしているだけなので足りない素材などを取りに行く場合の護衛をしているけどね。素材集めが主な目的であるため僕たち兄弟も三人一緒ではなく、それぞれが分かれている。

 

僕はドライフ皇国南部にある《境界山脈》に入る前にある岩場で採取している人たちの護衛。一緒にAR・I・CAさんも来ている。なお、《境界山脈》に入らないのは天竜の領域で下手に刺激すると純竜クラスのドラゴンや最悪伝説級以上の<UBM>である【竜王】が出張る可能性があるためだ。

 

もっとも、ここはしっかりと統治されているらしくルールを破らなければ危険は少ないとのこと。ここを統治している<UBM>は神話級以上ともいわれているらしい。情報が不確定なのは誰も確認できないから。

 

<マスター>が来てからは強力な特典武具を手に入れようと入る者もいるらしい。なお、その場合は国から指名手配されるが、それすらも構わないと考える連中はいる。誰も成功してはいないが。

 

ここよりも危険な北側にある《厳冬山脈》にはクロス兄貴とアークさんが行っている。危険なため戦力を創ることが出来るアークさんが向かうことになった。さらにはその戦力もすごいことになっている。

 

マジンギア二体と一部の愛好家メンバーが造ったパワードスーツタイプの<マーシャル>を三体も。これらは古い機体やアイテムなので廃棄か分解して部品にするつもりだったものとはいえ、お金に換えると結構な額になる。

 

<叡智の三角>の皆さんによると特典武具を素材にしたマジンギア作成の情報はそれ以上の価値があると言う。曰くこういうことは情報の積み重ねで段々といいものができるので最初の情報には制作者からしたら値千金の価値があるとのこと。

 

ただ、逆に言えばそれくらいの戦力がないと《厳冬山脈》には怖くて行けないと言うわけだからどれほどの危険地帯かわかると言うものだ。たまに山に住めなくなった地竜や怪鳥などが降りてきて、中には<UBM>もいると言うのだから。

 

なんて話を僕はAR・I・CAさんから聞いている最中だ。辺りを警戒しながらだけど。

 

「それって大丈夫なんですか? <マスター>とかが取り合いになって逃げられたりとか・・・」

「大丈夫大丈夫。<マスター>は信頼が高くないとまず受けられない系の仕事だし、それに今はそこを守っているのは国の軍で一人何体もの<UBM>を倒した猛者が居るって話だし」

 

言われてみれば国としてはそんな危険地帯を何の策もなく放置しているわけないか。

 

「私としては一度決闘でもしてみたいんだけどね~その人も【操縦士】らしいし、超級職って噂だからどっちが上なのか興味がある」

「難しいのでは?」

「そうなんだよね~いつ厄介な<UBM>が現れるかわかんないから、ほとんど皇都には来ないらしいし・・・」

 

AR・I・CAさんはそう言って残念そうにテンションが下がった。護衛をしていて思ったけどこの人は結構戦闘好きなようだ。戦闘狂って呼ぶほどではないみたいだが、戦いそのものは好きだと思う。

 

「しかし、同じ地域の国ですが、アルター王国とは毛色が違いすぎますね?」

 

これ以上落ち込まれるとまた添い寝に誘われそうなので、気になっていたことを聞いてみることに。

 

「ああ、アルター王国は西洋ファンタジーな国なんだっけ? ドライフはSFってかんじだからね~」

「どうしてこんな差ができたんでしょう?」

「ん~細かい理由は知らないけど、一番の理由は遺跡じゃないかな?」

「遺跡ですか?」

 

彼女のセリフに僕の頭の中ではマチュピチュやらエジプトの遺跡が浮かぶが、SFとは言えないのでは?

 

「うん。ドライフって先々期文明の遺跡が結構な数発見されてるんだよね。その中には現在の機械技術では再現不可能な物も数は少ないけどあるの」

「先々期文明ですか?」

「これまた細かいことは省くけど、先々期文明って結構な機械技術を持ってたらしくてさ? そんな機械の遺跡があちこちにあるんだからそれを利用しないって選択肢はなかったんじゃない?」

「まぁ、元からあるのならそれを利用した方がはるかにコストカットにはなりますね」

「そう言うこと。ドライフっていう土地そのものに機械との縁が深く合ったってこと。だから、こんな国になったんだよ」

「なるほど」

 

恐ろしくざっくばらんな説明だが、わかりやすく伝わりやすいので納得はした。細かいことが気になるのなら調べればいいけど、国に所属してない僕じゃあ調べるのにも限度があるかな?

 

「ん? もしかしてですが、今でも見つかってない遺跡とかあるんですか?」

「それはあるよ? 見つけて国に報告したらお金もらえるし、探し回ってる<マスター>は多いよ」

「へ~」

「ただ・・・」

 

感心している僕の耳には聞こえなかったが、神妙な顔をして彼女は続ける。

 

「遺跡の中にあるものが必ずしもいい物とは限らないけどね・・・」

 

そう言って彼女は一番新しく発見された遺跡があるバルバロス領に目を向けた。そこはゲイル兄貴とアキラが素材探しをしているすぐ近くだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ???   先々期文明の規格外のティアンについての考察

 

 

 

 

このデンドロの世界では現在進行形で規格外と呼ぶべきものが存在しまたは生まれる。それはティアンや<マスター>のみならずモンスターでもだ。

 

 

現在のデンドロ内時間軸で言えば600年前の先々代【龍帝】や【覇王】が有名であろう。それらと並んで【猫神】も上げられるが、本人(・・)からしたら同列視するなと言うだろう。

 

 

なぜならその本人からしても先に挙げた二人は「バクキャラ」とコメントするほどの規格外であったからだ。

 

 

本来は術や魔法の類が使えないはずなのに独自の方法で類似した【術】を使いこなし、果ては新たな術の開発などをしてしまった先々代【龍帝】

 

 

戦闘系超級職の奥義に匹敵する威力の攻撃を通常攻撃(・・・・)で行使し、山を斬り大地を割る【覇王】

 

 

だが・・・・これらが最も有名であるだけで、それ以前から規格外と言うべき存在はいたのだ。

 

 

先々期文明時代で最も有名な規格外と言えばフラグマンの名が上がるだろう。なぜなら、その文明の技術革新をたった一人で成し遂げた者だからだ。

 

 

起動に騎乗者のMPを消費せずにみずからがMPを生成する動力源。これによりいくつかのジョブは戦闘力が増す結果となった。

 

 

専門の超級職以上の能力を保持する機械人形。新機能をこれでもかと詰め込んだ戦艦。機械式ゴーレムの武装及び人工知能。

 

 

かの人の功績を上げればきりがない。先々期文明において彼以上に有名な規格外はいないとさえ言える。

 

 

しかし・・・それはあくまで功績が認められ有名になったのがフラグマンしかいなかっただけである。

 

 

中には有名になることなくひっそりとこの世を去った者や、先々期文明ではその所業が認められずに闇に葬られた者が少なからずいたのだ。

 

 

 

そのうちの所業が認められなかった者の一人について語ろう。

 

 

 

その者の名はゾルデット・オルゲン。彼は研究者系統超級職【大教授(ギガ・プロフェッサー)】と技師系統超級職【工学王(キング・オブ・エンジニア)】の二つの生産系超級職に就いた規格外だ。

 

 

もっとも彼は当初は【工学王】のみで活動していた。とある目的のために研究者系統が必要だったから就いて活動をしていた時期に【大教授】の条件を満たしてこれ幸いと就いただけであった。

 

 

そんな彼のとある目的とは・・・・生物と機械の融合。すなわちサイボーグを生み出すこと。

 

 

当時、フラグマン性の機械技術が世の中を占めていたので、機械アイテム生産専門の超級職である【工学王】に就いたゾルデットはフラグマンの広めた機械アイテムの生産に追われていた。

 

 

そんな日々の中、突如として疑問が浮かんだ。自分はこのままでいいのかと。

 

 

【工学王】と言う最高峰の生産職に就きながら、やっていることは別の誰かが創った機械の量産。それだけであれば大勢いる【高位技師】にも自分よりは時間がかかるができること。

 

 

誰もできなかったことを成し遂げたい。それ自体は才能を持つ者が考えるごく普通の事だった。しかし、何をどう考えたのか彼はここから道を踏み外す。

 

 

生物と機械の融合。どういう結論でそれを目的としたのかは謎だが、彼はそれを目指し始めた。人間が機械武装を装備するのではなく、身体自体に機械を組み込む。それを模索しだしたのだ。

 

 

当初はティアンでこれを試そうと思った。奴隷を使えば戦闘力のない自分でも手軽だと考えたが、すぐにその案は却下せざる終えなかった。

 

 

先々期文明時代は小さな国での小競り合いは多かったが、大きな戦争もなく奴隷自体があまり多くなかった。国が管理する戦争奴隷や犯罪奴隷はいたが、それを購入するにはいくつもの書類と規則があり、前例のないゾルデットの目的ではすぐに自分が犯罪奴隷にされるだけだった。

 

自分が【奴隷商】にでもなるかとも考えたが、現在の【奴隷商】は国に厳重に管理され信頼と実績がある【商人】でないと就くことが出来ない。ましてや【工学王】として有名な自分では注目されてしまう。

 

 

そんないくつもの障害がありティアンによる目的は断念し、モンスターに注目したのだ。

 

 

モンスターに注目したゾルデットはそれが可能かどうかを確かめるためにも、モンスター研究のために【研究者】に就いた。

 

 

表向きはモンスターにも装備できる機械アイテムの開発のためと偽り、彼は目的達成のために奔走した。

 

 

その日々の中で【研究者】としての才能があったゾルデットはものすごくあっけなく超級職の【大教授】に就くことが出来た。

 

 

そして、彼の目的は二つの超級職に就いたことで加速してゆく。モンスター研究の最高峰である【大教授】と機械アイテム制作の最高峰である【工学王】

 

 

この二つが組み合わさったことで彼の目的である生物と機械の融合は、現実味を帯び始める。

 

 

いくつかのテイムモンスターに己が造り出した機械アイテムをそのモンスターに適合するように創ることが可能になったのだ。

 

 

いくつかの失敗と成功を重ねることで彼の生み出したモンスターは強力になってゆく。だが、そんな日々は唐突に終わりを迎える。

 

 

国が彼の研究を怪しんで調査に乗り出したのだ。その結果、ゾルデットの研究は国上層部の者たちに知られることになり、危険と判断された。

 

 

危険視された理由としては、この研究が進めば研究者であるゾルデットかまたは彼の研究に注目した者がモンスターではなくティアンで試すことが容易に想像できたからだ。事実として当初の研究ではティアンで進めるつもりであったことが、調査で判明している。

 

 

その為、ゾルデットは指名手配となり逃亡生活を余儀なくされた。しかし、彼は逃亡生活の中でも研究を続けた。その結果、彼の研究成果を残した研究所が今日まで残ることになる。

 

 

機械と融合したサイボーグモンスターが。




これから先にも過去の偉人(ブラック)の作者オリジナルはた迷惑な規格外は出てくる予定です。


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第五十六話 新たな遺跡と動き出す遺産

  ◇  【大盾騎士(タワーシールド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

現在、俺はアークさんの機体造りのために素材集めをしている<叡智の三角>のメンバーの護衛をしている。素材集めの場所はドライフに来る時に通ったバルバロス領の山岳地帯。

 

ここはドライフでも数が少ない鉱石発掘場で採掘した鉱石を三割ほど治める領主に渡せば残りは採掘者がとっていいことになっているとのこと。

 

もちろんそんなルールになっているのには理由がある。それはモンスターが多いから。

 

『ふん!』

「VAMOOOO!」

 

今も移動している俺たちを見つけた【大衝角亜竜(ビックホーン・デミドラゴン)】と戦闘中だ。この亜竜は簡単に説明するとものすごく太い角を一本持つトリケラトプスだ。サイよりは恐竜に近い。

 

そんな亜竜が二匹現れて襲ってきた。おそらく番いなのだろうが、襲ってくるのならばこちらとしても黙っているわけにはいかない。

 

俺と一緒に護衛をしていたアキラは互いに一匹を相手することになり、現在奮闘中。

 

『おぉりゃあぁぁ!!』

『VAMOー!?』

 

アキラの方も突撃してきた相手を受け止めて角を抱えて、己を中心に円を描きながら振り回している。そしてそのまま投げ飛ばす。

 

『《バースト・ジェット》!!』

 

とどめに<エンブリオ>の固有スキルで相手は爆散。そのまま光の粒子となりドロップアイテムを残す。一方の俺は・・・・

 

『V、VAMO!?』

 

突撃を受け止めてから角で連続攻撃していた相手の動きが鈍りだした。よしよし、効果が出てきたな。この現象の原因は俺の【ボルックス】の固有スキル《サンダーコーティング》の効果だ。

 

《サンダーコーティング》は武器に雷撃を纏わせて、相手に固定ダメージと低確率で【麻痺】の異常状態を罹らせるもの。武器と言えば俺の場合は剣やメイスに銃などを想像するが、デンドロでは盾も武器扱いなのだ。

 

その為俺はもっぱらこのスキルを盾に使用して防御と同時に攻撃していると言うわけだ。ただ、固定ダメージは毎回与えるのだが、【麻痺】に関しては運が良ければと言う感じだが。

 

【麻痺】の発生確率は俺のLUCと相手のENDの数値で決まり、さらには相手の大きさにも左右されるようなのだ。まぁ、【ボルックス】限定かもしれないが。そのスキルだけに特化してるわけでもないしな?

 

とは言え、連続攻撃してくる相手に何度も盾で受けていればいつかはなる。動きの鈍った相手に俺はメイスを《瞬間装備》で杭打機の【ZVGギガント・アンカー】にかえてとどめを刺した。

 

ドロップ品を回収して、再び護衛に戻った俺とアキラ。やがて採掘場所に着いたので俺たち二人以外は、素材集めをしている。中でも圧巻の光景を生み出しているのが・・・

 

『よっしゃー!どんどん掘るぜー!!』

 

大きな掘削機とも言うべき機械の乗り物に乗って目の前の岩を掘り、しばらくすれば中に保存された鉱石系のアイテム以外の物を出してからまた作業する。

 

採掘作業をしている一人の<マスター>の<エンブリオ>である【発掘尖機 ノーム】である。能力特性は見ての通りの採掘特化。採掘した物体から自動で鉱石を選別し、鉱石系のアイテム限定で無限に入るアイテムボックス能力を持っている。

 

まぁ、それ以外のアイテムも保存できるがそちらは限界量があるからちょくちょく捨てる必要があるようだが、それを差し引いても普通に採掘するよりははるかに効率的だ。

 

他の人たちはひと固まりで普通に採掘しているが、採掘した物全部手に入らないため採掘特化の<エンブリオ>を持つ者が選ばれたんだろうな。

 

そんな光景をもながら俺とアキラは周囲を警戒しつつ世間話をするのだった。

 

 

 

 

 

  ◇  【高位操縦士(ハイ・ドライバー)】真宮寺アキラ

 

 

相変わらずな派手な【ノーム】の採掘作業に視線を向けて苦笑した俺は、周囲を警戒しながらゲイルと世間話をしている。

 

『しかし、ここは本当にモンスターが多いな? これだけ多いのに採掘アイテムが豊富ならティアンは危険で来れないな』

『まぁな。もっともここの採掘条件に関して言えば国と揉めたそうだが』

『そうなのか?』

『ああ。だが、結局はモンスターが多いこととティアンでは護衛できるほどの猛者が少なかったことで国の方が折れたらしいがな』

 

ドライフはただでさえ成長限界があるティアンがお国柄で生産職のジョブに偏ってるからな。戦闘系のジョブ適性があるティアンも居ないわけではないが、他の国と比べた場合だと下の方から数えたほうが早い。

 

『それに国と揉めた理由としてはここに遺跡がある可能性も考えたからだろうしな』

『遺跡?』

『最近、ここと言うかバルバロス領では遺跡発見が続いてるんだ。ドライフで発見される遺跡のほとんどは先々期文明時代の機械関係の物だから、国としては無視できないんだ』

『遺跡ねぇ? アルター王国ではほとんど聞かなかったな』

『隣国だからないわけではないと思うぜ? もっとも発見したとしても中身次第では利用できるかどうか分かれるだろうが』

 

有用だった場合はこの国の王族もしゃしゃり出るだろうしな? 自国の王族だけどなんというかいろいろ強引なとこがあるんだよな? 一部の王族はそうでもないんだけど。

 

『お? アキラお客さんだ』

『またかよ! 今日はなんかモンスターの遭遇率が高いぞ!』

 

俺が文句を言いながらゲイルの示した方向を見ると、確かにお客だ。あれは確か狂暴性がかなり高い純竜クラスの地竜でティラノサウルスに酷似した【グラトニー・ファング・ドラゴン】だったか。

 

『気を付けろ。あれは純竜クラスのドラゴンだ』

『純竜クラスにはいい思い出がないな。油断せずに戦おう』

 

軽い打ち合わせで俺がやつの正面で戦い、ゲイルが遊撃することになった。さらに手数を増やすと言ってゲイルの機械式甲冑である【ボルックス】をガーディアン状態にして、代わりの蒼い騎士甲冑を装備した。

 

正直な話羨ましいスキルだ。俺も<エンブリオ>が戦っているところを見たい。進化すればこういうことできるかね? 関係ない考えを振り払い俺たちは戦いを開始する。

 

 

 

 

  ◇  【重厚騎士(ソリッド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

地竜種の純竜【グラトニー・ファング・ドラゴン】と戦い始めて、数十分が経ったが体感時間としては倍も掛かってる感じだ。と言うのもこの地竜が手ごわいのだ。

 

『また回復したぞ!』

『厄介なスキルを持っていやがるな!?』

 

と言うのもこのドラゴンこちらがダメージを与えてもすぐに回復するんだ。どうやら今までに食べた物を限界以上貯めこみダメージを受けたら、瞬時に回復する《ストマック・ヒルディング》と言うスキルを持っているらしい。

 

俺たちと出会う前に相当のモンスターと戦ったのか未だに回復している。そんな奴を相手にするには【大盾騎士】ではキツイと判断して、早々に使い捨てアイテムである【ジョブクリスタル】ですべてのスキルが使える【重厚騎士】に変えた。

 

俺は取り回しがしやすいように左手には普通サイズの盾を装備し、右手には棘付き鉄球のメイスを装備している。【ボルックス】は片手に杭打機をもう片方には片手剣を装備して隙があれば杭打機を打ち込むように指示している。

 

しかし、相手のドラゴンはダメージを受けたらすぐに回復しステータスも高いらしく動きに隙がない。ダメージを与えて隙を作ろうにもすぐに回復してしまう。

 

『こうなったら賭けに出る!』

『どうするんだゲイル!』

『こうするんだ!』

 

俺は盾を【瞬間装備】のスキルで杭打機へと変え、メイスはアイテムボックスにしまい代わりに装備するのはこれまた杭打機だ。

 

『おいおい! ダブルで打ち込む気か!?』

『アキラは俺が撃ち込んだら、攻撃を続けてくれ! その後は【ボルックス】も続けて攻撃だ!』

『了解だ!』

 

アキラの了承と【ボルックス】からもOKの感情が伝わってきた。そのまま戦闘を続け、アキラの【オーパーツ】にドラゴンが噛みつこうとしたが、アキラは上あごと下あごを両手で抑えた。

 

『今だ!』

『おおぉ!!』

 

俺は気合を入れるために叫びながら突っ込みドラゴンの右側の腹目掛けて杭打機を打ち込む!

 

『GIYAAAAAA!!??』

 

さすがにこの攻撃は大ダメージを受けたらしく、ドラゴンは初めて苦痛の叫びをあげた。一方の俺はさすがに威力が高い杭打機をダブルで使用したことで、ドラゴンから吹っ飛んでしまった。

 

『おっしゃぁ!!』

 

その隙にアキラは相手の口に両腕を突っ込んだ!

 

『《バースト・ジェット》!』

 

そのまま【オーパーツ】の固有スキルを放ち、すぐさま両腕を口から離した。その直後に爆発! ドラゴンは下あごが皮一枚でつながった状態となったが、それでもまだ生きていた。それどころか徐々に体が回復している。

 

しかし、二度の大ダメージを受けたことに変わりはなくドラゴンはその場から動こうとしない。その隙を見逃さずに【ボルックス】は後ろからドラゴンに飛び乗り、尻尾や体を伝い頭に杭打機を狙いすましてとどめの一撃をお見舞いした。

 

 

 

何とか辛勝した俺たちは相手のドロップ品である【暴食純竜の宝櫃】を開けて出てきた素材アイテムは過金してから二人で半々にすることに決めた。

 

「しかし、きつい戦いだったな?」

「お互いジョブも<エンブリオ>も攻撃能力が高くないからなぁ・・・」

 

さすがに少々疲労を感じてきたので俺は騎士甲冑を脱いで、アキラも【オーパーツ】から降りている。周囲の警戒は【ボルックス】に頼んでいる。

 

特に俺はダブル杭打機の吹っ飛んだ時に意外とダメージも受けてしまったので回復アイテムを飲んでいるところだ。

 

「そろそろ進化してくれないかね? 前の進化から時間たってるんだが」

「だったら進化してるかもしれないぞ?」

 

俺が愚痴を口にするとステータス画面を開いていたアキラからそんな言葉が。

 

「どういう意味だ?」

「さっきの戦闘で俺の【オーパーツ】は第四形態に進化したんだよ」

「ほんとか! そりゃおめでとう!」

「ありがとうな。ゲイルも確認してみろよ? 俺の<エンブリオ>が進化するほどの経験をしたんだ。進化してるかもだぜ?」

「そうだな。確認する」

 

アキラの言葉に従い、俺のステータス画面を開いてみる。【ボルックス】の方は変化は見当たらないがスキルの方が変わったかもしれないしな。

 

「え~っと・・・やった! 【ボルックス】も進化してる! これで第五形態だ!」

「おめでとう!」

「ありがとう!」

 

二人で祝福しあい満面の笑みを浮かべる。やっと進化したからな。これは素直に嬉しいぞ。

 

「【ボルックス】はどんな進化をしたんだ?」

「まず、防具としての性能がかなり上がったな。今の防御力は890もあるぞ? あと固有スキルのレベルも爆上がりだ」

 

《アクセル・スカウター》はLv2から4まで上がり、AGIのステータスが400もプラスされる。俺のAGIはまだまだ4桁に達していないから、固定の数値で上がるのは地味にありがたい。

 

《サンダーコーティング》もLv1から3にまで上がり固定ダメージが1400になった。ステータス補正は上がってないが、十分な進化だな。

 

「他にも固有スキルが新たに増えたな」

「それは楽しみだな」

「ああ、説明文を見た感じ攻撃力不足が解消されるかもしれない」

「マジか? かなり強力なスキルみたいだな?」

 

ああ、かなり強力だろう。すぐに効果が表れる類のスキルではないが、俺の場合は長期戦なら望むところだしな。

 

「そっちはどんな進化をしたんだ?」

「ふふふ、それはだな・・・」

「うわ! 何だここは!?」

 

アキラが言葉の続きを口にする前に採掘作業班から叫び声がした。俺は《瞬間装着》で【BAA】を装備して採掘班の元へと向かう。アキラもすぐそばで待機させていた【オーパーツ】に乗り込んでいる。

 

『どうかしたのか!』

「ああ、すまん。別にモンスターが出たとかそんなんじゃないんだ」

「むしろ、いい土産になる嬉しいものが出たんだよ」

 

そう言って採掘班の人たちは、採掘していたと思わしく岩場に目を向ける。そこには地面が崩れて階段とその奥には金属製のメカメカしい扉があった。

 

『これは・・・?』

「多分未発見の遺跡だな。見た感じ状態はいいようだ」

「むしろ、ところどころに電気が通っているからまだ動いてるぞ?」

「中には何があるんだろうな? 誰か機械干渉ができる<エンブリオ>持ちが居たよな? 開けてみろよ」

「オウ、任せろ!」

 

そう言って採掘班は嬉々として遺跡の扉を調べだした。

 

『おいおい・・・危険はないのかよ?』

『諦めろゲイル。楽しんでいるあの人たちは梃子でも動かん』

 

そう言って俺の後ろに【オーパーツ】に乗ったアキラが深いため息とともにそんな言葉を口にした。なんか実体験したみたいだな?

 

 

 

 

 

  【研究施設の干渉を検知・・・侵入者と判断】

  【研究施設破棄のための自爆システム起動・・・・エラー】

  【迎撃用にプロトタイプ機械化モンスター一号の封印処理解除・・・・エラー】

  【続いて二号の封印処理解除・・・・エラー】

  【続いて三号の封印処理解除・・・・実行終了】

  【続いて四号の封印処理解除・・・・実行終了】

  【三号、四号共に侵入者撃退のため三番七番の格納エレベータで施設外へと運搬実行】

 

 

 

 

 

 

  【(<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>認定条件をクリアしたモンスターを確認)】

  【(履歴に類似個体なしと確認。<UBM>担当管理AIに通知)】

  【(<UBM>担当管理AIより承諾を通知)】

  【(対象二体を<UBM>に認定)】

  【(対象二体に能力増強・死後特典化機能を付与)】

 

 

  【(対象を逸話級――【螺旋機竜  スパイドロン】と命名します)】

  【(対象を逸話級――【剛爆機竜  カノンボルス】と命名します)】




なお、二体の<UBM>ネーミングの漢字の部分ですが、本編に【骸竜機】が出ましたが、あれは竜を模した機械なのでこちらは機械とモンスターの融合なので【機竜】にしました。


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第五十七話 アキラVS【剛爆機竜 カノンボルス】1

VSと題名にありますが、ほとんど説明回&お披露目回です。


  ◇  【高位操縦士(ハイ・ドライバー)】真宮寺アキラ

 

 

事態が動いたのは採掘班が見つけた新しい遺跡の扉を開けた直後だった。突如として俺とゲイルの後ろ後方に巨大なコンテナと思しき物体が二個出現して・・・

 

『GIYAAAAAA!!??』

『VAMOOOOO!!??』

 

そのコンテナを派手にぶち壊して現れたのは機械部品を身体に組み込まれた地竜種二体だった。一体はちょっと前に相手した【大衝角亜竜】に似ている。もっとも角は巨大ドリルに変わり両足も完全に機械化しているが。

 

もう一体は先ほど相手にした【グラトニー・ファング・ドラゴン】に似ている。もっとも両腕は手ではなく砲塔に変わり、背中に大きな大砲クラスの砲塔を二門積んでるが。

 

前者は【螺旋機竜  スパイドロン】と後者は【剛爆機竜  カノンボルス】とネームが頭上に出た。

 

「<UBM>!?」

「しかも機械とモンスターの融合だと!?」

「マジか!? かっこいい!!」

「スクショ撮れ!! 今後の研究に役立つ!」

 

出てきたモンスターの姿かたちにロボットオタクと言っても喜ぶ採掘班は嬉々としてスクショを撮りだした。なお、スクショを撮るためのアイテムがあるが、彼らはそれを何個も常備している。

 

『そんなことしてる場合か! すぐに逃げろ!!』

「いやだ! 可能な限りスクショを撮るぞ!」

「「「当然!!」」」

『死んだらランダムドロップでスクショデータの入ったアイテムをロストするかもよ?』

「「「「「任せた!!」」」」」

 

ゲイルが慌ててスクショを撮っているメンバーに逃げろと言うが聞くわけはない。ストレートに言っても聞くわけがないから、彼らが逃げたくなることを俺が言うことに。

 

すると効果は抜群でメンバーの一人の装甲車のような<エンブリオ>に全員が乗り込もうとする。

 

すると二体の<UBM>は【螺旋機竜】は両足の機械を稼働しているのか電気を放電しながら、こちらへと突っ込んで来た。

 

【剛爆機竜】は尻尾が伸びて地面に刺さり、背中の砲塔が稼働し砲口が赤熱しだした。

 

『俺は【螺旋機竜】を相手にする。遠距離攻撃は自信が無い!』

『わかった! 俺が【剛爆機竜】を相手にする!』

 

事態が動いたことで俺とゲイルは簡単にどちらを相手するのかを言い、ゲイルは【螺旋機竜】へと向かう。

 

『まずは小手調べだな!』

 

俺は初っ端に唯一の攻撃スキルを使用するのはやめた方がいいと判断し、近くにあった大岩を持ち上げる。

 

『おらよっと!!』

 

それを【オーパーツ】のステータスと俺のスキルの強化で放り投げた。さすがにこれでダメージを与えられるとは思わんが、それでも相手がどう対処するかを見れる。

 

頭上から迫る大岩に対して、【剛爆機竜】は背中の砲塔を大岩に向けて・・・

 

ドッコォォオン!!!!

 

大きな爆音とともに赤熱した砲弾を発射。数秒ほど空を進み大岩に着弾すると・・・

 

ボッカアァン!!!

 

大きな爆発音とともに大岩は熱量に溶けてしまい、辺りに溶岩化した大岩の慣れの果てが飛び散った。

 

『マジかよ・・・』

 

こいつやかなりやばいなとその惨状を見て俺は戦慄した・・・・

 

 

 

 

 

 

  ???  とある機械化モンスターのコンセプト

 

 

 

 

【工学王】ゾルデット・オルゲンが機械化モンスターを造る上で一番実験に使用したのは地竜種のモンスターだった。

 

 

特に理由があるわけではない。ただたんに最も流通し、数が多かったのが地竜種のモンスターだったからだ。その為、実験材料は多く集まりもっともデータが多くもっとも機械化されたモンスターになってしまったが。

 

 

その地竜種の一体である【グラトニー・ファング・ドラゴン】に注目した。ゾルデットはまずはこのモンスターの決定力不足を補うことにした。

 

 

【グラトニー・ファング・ドラゴン】は高いステータスと食料を食べてそのリソースを溜め込み、ダメージを受けたら回復すると言うスキルを有していた。

 

 

その為、【従魔師】の間では優秀なタンク役として重宝した。いや、言い方を間違えた。タンク役しかできなかったのだ。

 

 

スタータスは高いと言っても他の地竜種にはもっと高い別の地竜もいるし、何より攻撃役としてはステータス面もスキル面も攻撃手段としても決定力不足だった。

 

 

しかも、回復スキルである《ストマック・ヒルディング》も十分な食料がないと機能しないため、懐に余裕がある一部の【従魔師】や資金力がある【商人】の間で人気なモンスターだ。

 

 

それも、【グラトニー・ファング・ドラゴン】よりも高いステータスと安い食料で手元における地竜種が発見されると途端に見向きもされなくなったが。

 

 

だからこそ、ゾルデットにとっては都合がよかった。だれも見向きもされなくなったことで自分が大量購入しても研究のためと本当のことを言えるし、人気がなくなったことで取り合う者もいない。

 

 

何よりも自分ならこの地竜の欠点を解決することが出来るのではないかと考えた。

 

 

まずゾルデットはこの地竜が持つ回復スキルが必要かどうかを検討した。その結果は必要なし。この地竜のスタータスで最も高いのはHPにSTRとEND。

 

 

防御力が高くHPももともと高いので下地がすでに死ににくいタイプ。コストが高い回復スキルは不要と判断した。

 

 

ゆえに、ゾルデットはこのスキルを変質させ攻撃に利用しようと考えた。溜め込んだリソースをHPにではなくSPやMPなどの攻撃用エネルギーに転嫁し、それらを利用できる機械と攻撃用のパーツを造ればいいと。

 

 

そのコンセプトをもとにとある研究施設で誕生したのが機械化モンスタープロトタイプ三号である。

 

 

回復スキルをエネルギー生産スキル《マジックタンク・リチャージャー》へと機械部品を組み込むことで変質。さらにそのエネルギーを効率よく攻撃に転用するために専用砲塔【二連装魔導砲塔】をフラグマンの技術を参考に作成。

 

 

それらを試行錯誤を重ねてようやく完成した。失敗作として。

 

 

スキルや機械化部品に欠陥はない。問題点はいかにしてリソースを溜め込むかと言うこと。機械部品を大半組み込んだせいで食料を食べる必要がなくなってしまい、リソースを摂取することが出来なくなってしまった。

 

 

その問題を解決する武装も取り付けてはいるが、起動実験する前に研究施設を破棄する羽目になり、この機械化モンスターの完成を目にすることなくゾルデットはこの世を去った。

 

 

その組み込んだ武装も問題なく稼働することを知らないまま。

 

 

 

 

 

  ◇  【高位操縦士(ハイ・ドライバー)】真宮寺アキラ

 

 

 

大岩の飛散した溶岩化した物が完全に地面に落ちてから、俺は【剛爆機竜】に対して接近戦を挑むために突撃した。

 

(奴の武装はほとんどが中距離から遠距離攻撃用の砲塔! 両腕の小さな砲塔は接近戦用かもしれないが、あの小ささじゃあ背中の砲塔よりは威力が低いはずだ! 尻尾も背中の砲塔の反動を軽減するためのものになっているようだし、接近戦ならこっちに分があるだろう!)

 

それに場合によってはぶっつけ本番になるが、第四形態で進化した新しい力を使う!

 

【剛爆機竜】もこちらが接近してきたことで尻尾を元に戻して迎え撃つために腰を落とす。だが・・・

 

『GIYAAAA!!!』

 

突如として【剛爆機竜】の背後から【グラトニー・ファング・ドラゴン】が襲い掛かった。もしかしたら俺たちが倒した奴の番か兄弟かもしれない。

 

完璧な奇襲ではあったが、【剛爆機竜】は慌てることなく体ごと回転させ尻尾で相手を吹っ飛ばした。

 

『GIYA!?』

 

奇襲が失敗したことが意外だったようで【グラトニー・ファング・ドラゴン】はすぐには体勢を立て直せなかった。

 

その間に【剛爆機竜】は次のアクションを開始。両腕の砲塔を構え連続発射。弾は俺でも見える三角錐の形でその後ろには何やらアンテナらしき機械が付いている。

 

まともに回避できない体勢の【グラトニー・ファング・ドラゴン】は次々と命中。すると深く体内に入り込んだ三角錐の物体はアンテナ部分が蒼く光りだして・・・

 

『GIYAAAAA!?』

 

すると、徐々に【グラトニー・ファング・ドラゴン】が干からび始めた。数十秒後には完全にミイラ化と化し、光の粒子となりドロップ品も残さなかった。

 

『まさか・・・リソースをすべて吸収したのか!?』

 

 

 

 

 

 

  ???  機械化モンスタープロトタイプ三号の追加武装について

 

 

 

プロトタイプ三号の問題点を解決するために追加武装として相手のSPとMPを吸収する特殊弾頭を発射する砲塔を取り付けることにした。

 

 

それもフラグマンの技術を参考しにして、【工学王】の技術とスキルをフル活用して造り出した。言っておくがこれは誰にでもできることではない。

 

 

フラグマンの技術があるからと言ってそれらを参考にして新たなシステムと機械を造るなど、【工学王】として規格外の才能を有するゾルデットだからできるのだ。

 

 

この特殊弾頭は名を《アブソープ・アンカー》と命名され、効果は生物の身体に当たればさらに体に食い込みまずはMPを吸収し、それを吸収しきれば今度はSPを吸収すると言う物だ。

 

 

吸収率はそれほど高くはないが、ダメージとしては低くゆっくりと吸収するため相手は吸収されているという事実に気付きにくい。

 

 

《二連装魔導砲塔》が連射よりも一発の威力重視で、ここぞと言う場面で撃つ物なのを考えると悪くない武装と言えた。

 

 

後は実際に稼働実験を繰り返して、問題点の洗い出しと試行錯誤の繰り返しで完成するはずだった。

 

 

結局は日の目を見ることなく製作者が死にこれらは動くことはないはずだった。

 

 

ところが研究施設を発見され、自爆システムもエラーで動かず封印処理していたプロトタイプを迎撃用に封印解除したことで世界のシステムに発見され<UBM>化してしまった。

 

 

<UBM>となったことで機械とモンスターの体がさらに適合し、より完成度が高くなった。それらは武装にも表れており武装の強化にもつながった。

 

 

本来の《アブソープ・アンカー》はいくつも命中したからと言って、モンスターをミイラ化させるほどの吸収率はない。

 

 

それらの結果をもたらした要因は、<UBM>と化したことで個体としての完成度が完璧になったから。機械と生物の融合。これらの相反する要素が<UBM>と化したことで生物としての格が上がった。

 

 

現在は逸話級だが、この場を生きて世界を渡り生き残れば古代伝説級最上位かその先まで到達するかもしれない。この場を生き残れればの話だが。

 

 

 

 

  ◇  【高位操縦士(ハイ・ドライバー)】真宮寺アキラ

 

 

アキラは先ほどの光景を見たことである決断をした。このままでは自分は高確率で負けると。勝つためには新たな力を試すしかないと。その決断を下した。

 

『ぶっつけ本番だが頼むぞ! こい! 《ソード・ファルコン》!』

 

アキラが叫ぶと【オーパーツ】の頭上に魔法陣のようなものが出現。その中央には鳥が描かれていた。さらにその魔法陣からとある物体が出現。

 

上空の飛翔するその物体は機械の鳥。あたかもアキラの大好きなアニメに登場する合体メカのような。その考えは正しいとこの後証明される。

 

『《獣機合体》!《ファルコン》!』

 

その宣言がなされると機械の鳥はばらばらになり、【オーパーツ】へと向かう。両肩に腕に背中にパーツが合体し最後に鳥の頭が頭部にドッキング。

 

そして鳥の尻尾は剣となり、鳥の両羽は二つ合わさり盾となりそれぞれが【オーパーツ】の両腕に装備された。

 

『これが第四形態になった【籠胴人巧 オーパーツ】TYPE:ギア・レギオン・アドバンスの新たな力だ!!』

 

上級へと進化したことで【オーパーツ】は新たなレギオン体を生み出しさらに主体のギアとの合体が可能なアドバンスの力も得たのだった。




アキラの<エンブリオ>についての詳しい解説は次回に。

なお、【オーパーツ】の能力は完全に作者の趣味です。正直な話原作の作者様も似たような<エンブリオ>を考えてると予想してますw

後になって【オーパーツ】にガーディアン要素はないと気づき修正しました。


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第五十八話 アキラVS【剛爆機竜 カノンボルス】2

  ???  真宮寺アキラのリアルについて

 

 

 

真宮寺アキラのリアルは何の変哲もない一般家庭だ。アメリカのマイアミに家を持つごくごく普通の一般家庭で生まれた。

 

名をデイリー・オールディンと言い両親と息子一人の仲睦まじい親子として近所でも有名だ。それからデンドロが発売されるまで、アメリカでは珍しく事件に遭遇することも巻き込まれることもなく平穏に過ごす。

 

そう言えば一点だけ彼の両親には変わったところがあった。それは重度の日本アニメのファンと言うこと。母親はとあるアニメーション会社の大ファンで父親はロボットアニメの大ファン。

 

そんな両親に生まれたデイリーも両親の影響でアニメを見せられるのは必然だった。とは言え手当たり次第に見せることはなく、彼の成長のためにも見せるアニメは厳選した。

 

例を挙げると人が死ぬようなものやスプラッタな表現や絵を写すものは絶対に見せなかった。そう言ったものは小学校を卒業するまで見せないように努めたのだ。

 

特に父親が好きなロボットアニメのいくつかはそう言う表現が使われるものが多く、大半の記憶媒体は一時的に父親の実家へと送り封印した。(なお、父親は息子の健全な成長のためと涙を流していた)

 

そんな事情があり、子供時代のデイリーには子供向けアニメが中心だった。もっと詳しく言うと五歳後半から小学校卒業までだ。

 

そんな日々の中でデイリーがハマったアニメがとあるシリーズのロボットアニメだ。

 

それらは勇者シリーズと呼ばれ、簡単に説明すると正義のロボットたちが悪のロボットたちや組織との戦いを描いたアニメでデイリーはこのアニメにすっかり夢中になった。

 

それは小学校を卒業しても変わらず、父親ともそのアニメの話題で盛り上がるのだった(母親は自分の好きなアニメとの会話が少なく恨めしそうに眺めていた)

 

そんな彼が将来の夢にロボットアニメの制作にかかわりたいと思うのも予定通りと言うべきだろう。現在は単身で日本に渡り、CGプログラマーとしての勉強と日本のアニメ技術を学んでいる。

 

日本に来たことでフィギュアと言う物を知り、その制作を趣味とした。制作した物は某大型イベントで販売し、ロボットフィギュアとしてそこそこの人気を獲得している。

 

そんな彼がデンドロを始めたのは特に変わった理由はない。むしろ至極単純な理由でそれは「自分の<エンブリオ>がどういう物になるのか知りたい」と言う物だ。

 

自分のパーソナルを<エンブリオ>が判断して、現れるオンリーワンがどういったものになるのか興味を抱いたのが始まりだった。

 

その為、人気だったゲームハードをどうにか販売から半年たってから手に入れ、ようやく彼はゲームを始められた。

 

チュートリアルでは二足歩行の猫と出会い、その猫から知っていた知識を確認する意味でも説明は聞き、その後自身のアバターは名を真宮寺アキラとした。

 

かなり自分の趣味が全開の名ではあったが、彼個人はかなり気にっている。その後のアバターはリアルの容姿をいじり彼はデンドロに降り立った。

 

所属国はドライフ皇国を選び、最初は<エンブリオ>が生まれるまでいろいろの物を見て回った。ドライフの主力兵器である戦車<ガイスト>や機械式甲冑である<マーシャル>など、彼にとっては心躍る物であった。

 

特に彼を喜ばせたのが<叡智の三角>と言う<マスター>たちの集団が造った<マジンギア>であった。当初は完成して日も浅く、高額な物であったが自分たちが作り上げた力作を彼らは目立つところに飾り、自慢していた。

 

それを見た彼があこがれていたロボットに乗りたいと思うのは必然だった。そのまま<叡智の三角>に所属しようと考えていたら<エンブリオ>が誕生した。

 

名を【籠胴人巧 オーパーツ】TYPE:チャリオッツで変形機構を持つロボットだった。

 

それを確認したアキラはすぐに【操縦士】になり、今日まで経験と実績を積み噂を聞いた<叡智の三角>所属の<マスター>たちとも知り合い、アークともとあるクエストで知り合い友人となる。

 

その後にバルバロス領での出来事でこれから縁を結ぶ三兄弟と出会うこととなる。

 

 

 

 

 

  ◇  【高位操縦士(ハイ・ドライバー)】真宮寺アキラ

 

 

 

戦闘を始めてどれくらいたったのか? 今の俺にはわからん。それを気にしだしたら戦闘の集中力が切れかねないから。

 

まずこの戦闘で思ったことは進化してくれて助かったってことだ。正直な話今もまだ戦闘になっている理由が進化して戦闘力が上がったからだ。

 

進化せずにこいつと戦っていたらもうすでに俺の方がデスペナになっていただろうからな。

 

『おりゃ!』

 

【剛爆機竜】が尻尾でこちらを薙ぎ払うように攻撃してきたが、俺は【オーパーツ】の右手に装備された盾で受け止めて、そのまま力任せに押し返した。

 

相手はバランスを崩し、俺はその隙を逃さずに左手の剣で攻撃する。しかしその攻撃は奴の牙により防がれた。噛みついたことで砕くつもりでさらに力を込めようとするが、それより先に俺の行動が早い。

 

がら空きになっている腹に盾の角で殴ったのだ。さすがにこれは効いたらしく機械の一部がスパークし剣を離す。

 

先ほどから俺は接近戦を心掛けている。背中の二連砲塔の威力を考えると自爆を警戒して近距離では使用しないと考えたからだ。

 

実際にこれまでに敵が背中の武装を使おうとはしない。自爆以外にもすぐに撃てるようなものではないのだろう。

 

ただ、それでもこちらが有利とはいえない。機械で強化させているため相手のステータスも高く、互角には戦えているが決め手に欠ける。

 

それにこちらも使えないスキルがあるしな・・・・

 

 

 

 

 

  ???  【籠胴人巧 オーパーツ】の第四形態について

 

 

 

【オーパーツ】は上級に進化したことでTYPE:ギア・レギオン・アドバンスとデンドロでも珍しい三重複合型にして同種複合型へと進化した。

 

完全にアキラの大好きなとあるアニメの影響を受けた形だが、これ自体は珍しくない。アルター王国の決闘ランカーにはとある特撮ヒーローの影響をもろに受けた<エンブリオ>を持つ<マスター>が居る。

 

閑話休題。

 

進化したことで【オーパーツ】は新たなスキルとレギオン体を得た。レギオン体の名は【ソード・ファルコン】 鳥型の機械獣でそれとギアが合体する新スキル《獣機合体》

 

このスキルは単純なもので【ソード・ファルコン】のステータスと武装を【オーパーツ】に組み込み装備させると言う物だ。【オーパーツ】に装備スロットは変形機構のデメリットでないが、合体はスキル効果なため装備スロットは関係がない。

 

アキラはまだ知らないことだが、【ソード・ファルコン】にはステータスがあるが低いため装備スロットが普通にある。

 

合体したことで【ソード・ファルコン】の装備スロットが【オーパーツ】に移り、合体時限定ではあるが他の装備もできる。今後の課題だろう。

 

だが、いいことばかりではない。この《獣機合体》にはデメリットが存在する。スキル欄にはこう表記されている。

 

 

  《獣機合体》  アクティブスキル

 レギオン体との合体が可能になるスキル。

 スキル名を言葉にし続いてレギオン体の名を言葉にする必要あり。

 言葉はソードやファルコンだけでも可

 デメリットとして合体時は合体前のスキルが使用不能。

 また、合体後にダメージを最大HPの70%以上受けた時、強制解除。

 さらに強制解除や合体を解除した場合、同じレギオン体との合体は解除してから

 24時間後まで使用不能。

 

 

このスキルを使用しているときには《変形機構》に《バースト・ジェット》が使用できない。さらには【オーパーツ】の残りHPが30%を下回ると合体は強制解除。

 

その場合再び合体できるようになるには24時間もかかってしまう。代わりにそのデメリットがあるので合体に制限時間はないようだが。

 

つまりはこのスキルを使用した場合、HPが30%を下回る前に相手を倒す必要がある。しかし、それもまた難しいと言えるだろう。

 

理由は二つあり、一つは合体したことでステータスと武装を得たことで戦いの選択肢が増えたことや純粋に強くなったとはいえ結局はそれ止まりなのだ。

 

むしろ決め技で決定打であった《バースト・ジェット》が使用不可能になったことで火力が落ちたくらいだ。

 

二つ目は武装の問題。盾や剣を装備できるからと言って必ずしも強くなるとは限らない。むしろなれない武装に四苦八苦するのが一般的だ。

 

アキラが戦えているのは自分の半身と言える<エンブリオ>だからと《操縦》スキルレベルの高さゆえだ。

 

ましてやアキラには盾と剣を生かすためのスキルが全くない。乗機しているのが<マジンギア>であれば近接用のスキルを付与されている場合があるのだが、現時点の【オーパーツ】にはない。

 

結論から言えば、現状の新スキルはステータスアップのスキルでしかないのだ。それを生かすための他のスキルやジョブスキルが圧倒的に足りない。

 

もっともこの問題は新スキルを使用した場合の話だが・・・

 

 

 

 

 

 

     ◇■◇■◇■◇

 

 

 

戦い始めてから数分が経過したが、戦い自体は互角だがこのままではアキラは確実に負けてしまう。決め手に欠けているからだ。

 

ステータスアップしたことと盾と剣と言う武装を手に入れたことで接近戦では互角に戦えているが、そもそも相手は接近戦が得意ではないのだ。

 

そんな相手に接近戦で互角の戦いをしていては勝てるわけがないのだ。まして相手にはこの状況を打破できる手段があるのだから。

 

『がぁ!?』

 

攻防をしている最中にとうとうアキラは盾で相手の攻撃を受けきれずに尻尾の攻撃を喰らってしまった。さらにその攻撃を踏ん張りきれずに相手からかなり距離を吹き飛ばされてしまう。

 

その隙を【剛爆機竜】は見逃さない。すぐさま体勢を整えて尻尾をアンカー形態に移行。そのまま背中の二連砲塔が稼働。

 

『くぅ!?』

 

アキラはわずかな抵抗として近くの大岩の陰に避難するが、そんなことをしても意味がないことはわかっていた。

 

【剛爆機竜】はその行動をあざ笑うかのように砲塔をアキラの隠れている大岩に向け、狙いを固定して発射。轟音と共に飛来する砲弾が大岩に着弾すると・・・・

 

ボォッカァァン!!!

 

発射の轟音以上の爆発音を響かせて、大岩を粉砕。その爆発にアキラと【オーパーツ】は・・・

 

『まだやられてはいないぞ!』

 

爆発の煙からランドクルーザーに変形した【オーパーツ】が猛スピードで登場。そのまま【剛爆機竜】へと突撃する!

 

ドカガシャン!!!!

 

猛スピードで突っ込んで来た【オーパーツ】に【剛爆機竜】は体のバランスを崩す。一方突撃してきた【オーパーツ】は危なげなく体勢を整えて、走り去る。

 

そのまま相手との一定の距離を保ちながら円を描いて走行している。これに対して【剛爆機竜】はバランスを立て直して、再度二連砲塔を撃つために尻尾をアンカー形態にしようとするが・・・

 

空から【ソード・ファルコン】がアンカー形態になる途中の尻尾に自分の尻尾――合体すれば剣になる部分――を飛翔したまま充てる。さながら爪で獲物を狙う猛禽類のごとく。

 

アンカー形態に移行する途中を狙われて、装甲が機能しないため無視できないダメージを受けてしまった。さらに・・・・

 

『もう一発!!』

 

円を描いて走行していた【オーパーツ】もその隙を逃さずに方向転換し、再度の突撃を行う。この攻撃も喰らってしまった【剛爆機竜】は横に倒れてしまった。

 

上空からは【ソード・ファルコン】が装甲が薄い尻尾の変形を狙い、地上では【オーパーツ】が体当たりを狙う。

 

先ほどまでの戦闘とは違い一気にアキラの有利な展開になったのだ。

 

 

 

砲弾が発射される寸前にアキラはこのままでは負けると考えて、決断をしたのだ。すなわち合体の解除を。合体を解除しすぐさまランドクルーザータイプへと変形。【ソード・ファルコン】と共にその場を【剛爆機竜】に見えないように離れた。

 

その後は合体よりも戦いなれているこのままで戦い、【ソード・ファルコン】には上空から援護してもらうことにした。

 

結果を言えばまさにその選択がこの場での最善策だったのだ。いくら《獣機合体》のスキルが強力でも現在のアキラはそのスキルを十二分に使いこなすにはいろいろと足りないものがある。

 

それならば【ソード・ファルコン】も自立行動が可能なことを最大限に生かし、2VS1の状況を作れば【オーパーツ】の現時点での切り札である《バースト・ジェット》を撃つこともできる。

 

戦いの相手である【剛爆機竜】がAGI型でないのもアキラにとっては幸運だった。現在の相手は二体の動きに翻弄され最大の攻撃を生かせない状況になってしまっているのだから。

 

 

 

そのままアキラは何度か体当たりを実行し、確実にダメージを与えていた。この攻撃が有効なのは単純なことで堅い物体が猛スピードで物にぶつかれば普通に効くのだ。

 

ましてや今の【オーパーツ】はアキラの《操縦》スキルや各種ジョブスキルで相当の防御力を持っている。

 

そんなものが音速に近いスピードで体当たりしているのだからその威力はすさまじいものになっている。

 

しかし、そんな状況にも変化は唐突にやってくる。

 

『しまった!?』

 

【オーパーツ】が片側のタイヤに大きな岩に乗り上げてしまい浮いて、反対側のタイヤ二個だけで走行している状況になってしまったのだ。

 

この千載一遇のチャンスを【剛爆機竜】は見逃さなかった。

 

すぐさま上空の敵を見上げ、距離が遠いことを把握。そのまま二連砲塔の発射準備をする。だが・・・

 

『残念だったな!』

 

しかし、アキラはその状況すら利用する。

 

『《変形実行(フォーム・チェンジ)》!』

 

片側のタイヤが浮いたまま変形し、即座に体勢を整えた。すでに発射体勢になっている【剛爆機竜】は問題ないと判断。このまま自身の最大火力で葬るつもりだ。

 

『《バーストジェット》!』

 

ゆえに相手が攻撃してきたのは驚愕であり、しかもその狙いが背中の二連砲塔だったことにさらに戦慄した。

 

狙ったアキラの攻撃は発射状態の赤熱した砲口に命中し、大爆発を発生した。

 

その大爆発の中で【剛爆機竜】は背中の砲塔は溶解し、背中の大部分も溶解した部品で燃えてしまう。そのまま大ダメージを受けても【剛爆機竜】はまだ倒れない。

 

しかし、もう虫の息であり接近した【ソード・ファルコン】の尻尾剣を受けて頭部が半ば切り裂かれた。さらに近づいてきた【オーパーツ】の拳の一撃を喰らい頭部は体から吹き飛んでしまった。

 

 

 

 

  【<UBM>【剛爆機竜 カノンボルス】が討伐されました】

  【MVPを選出します】

  【【真宮寺アキラ】がMVPに選出されました】

  【【真宮寺アキラ】にMVP特典【爆音双砲 カノンボルス】を贈与します】



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第五十九話 ゲイルVS【螺旋機竜 スパイドロン】1

  ◇  【大盾騎士(タワーシールド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

突然現れた<UBM>に対して、俺はこちらへ向かってきた【螺旋機竜】の名を持つ奴と戦うために俺を狙うように前へと出たところだ。

 

(もう一体は武装からして遠距離攻撃を得意としているようだしな。遠距離攻撃が得意ではない俺じゃあ一方的にやられかねない)

 

無論、今相手をしようとしている【螺旋機竜】とて簡単な相手ではないだろう。それでもあの二体のうち外見で判断するならば最も戦いやすいと判断した。

 

『なんだ?』

 

などと考えながら少ないAGIで【螺旋機竜】に向かっていると、相手の様子が変わった。四肢の機械がスパークしさらには大きなドリル状の角が電撃を纏いながら回転しだしたのだ。

 

そして、一歩一歩進むたびにその回転は速くなってゆく。

 

『《ガード・オーラ》! 《シールドガード》!』

 

俺は嫌な予感がして、盾を構えてENDを強化するスキルと盾で防御した時に防御力を強化するスキルを使用。その瞬間に敵は速さが急に変わり、猛スピードで俺にぶつかった!

 

『ぐぉ!?』

 

その衝撃とドリルの回転による絶え間ない金属同士の削りあいに俺は盾を手放しそうになった。何とかそれは阻止したが足の踏ん張りがきかず、俺はそのまま【螺旋機竜】に押されてアキラと離されてしまった。

 

『この!?』

 

そのまま俺はかなりの距離を押し戻されてしまった。時折大岩などに背中を叩きつけられながらだ。その都度防御力を上げるアクティブスキルを使用して、ダメージは最小限にしているが。

 

『《シールド・アタック》!』

 

俺はこの状況を変えるために半ば無理やり、盾の攻撃スキルを使用。その攻撃がなんとか相手のドリルをそらすことに成功し、俺は奴の正面から離脱できた。

 

しかし、代償も大きく使用していた盾は相手のドリルを回転を受け続けたことで離脱した瞬間に耐久値がなくなり壊れてしまった。

 

俺は《瞬間装備》で別の大盾を装備。さらにアイテムボックスから回復アイテムと《ジョブクリスタル》を取り出しそれらを使用。

 

俺のジョブスキルをすべて使用できるようにメインジョブを【重厚騎士】に変えた。そんな中【螺旋機竜】はスピードはそのままで大きく旋回し、再度俺に突撃を仕掛けた。

 

『舐めんな!! 《ガード・オーラ》! 《ヘビィアンカー》! 《パンツァー・チャージ》!!』

 

それに対して俺はアクティブスキルを三つ使用して迎え撃つ。ENDを強化し、衝撃や吹き飛ばし耐性を付与。さらに自身の防御力が高いほど威力が上がる攻撃スキルを使用。

 

そのまま先ほど装備した大盾を前方に構えて突撃。相手とのガチンコ勝負になる。その結果は・・・

 

『ぐはぁ!?』

 

俺が弾き飛ばされる結果となる。幸い《ヘビィアンカー》の効果で吹き飛ばされることはなく、すぐに体勢を整えることはできたが・・・

 

『さっきより威力が上がってるのか!?』

 

一度目の接触よりも重い攻撃に俺は相手の能力を予想するのだった。

 

 

 

 

 

  ???  とある機械化モンスターのコンセプト

 

 

 

【工学王】ゾルデットは地竜種の一体である【大衝角竜】に注目し、このモンスターをさらに強くするためのコンセプトを考えていた。

 

 

【大衝角竜】は数ある地竜種の中で癖のないモンスターであり、高いステータスを持ち食料も金がかからず【従魔師】や【商人】の竜車として人気のモンスターだった。

 

 

それだけ人気であり数も多く、ゾルデットが購入しても特に怪しまれることはなかった。

 

 

高いステータスを持つが特に強力なスキルを覚えるわけではない【大衝角竜】 ゆえにゾルデットは高いステータスを生かすスキルや強力な武器を持たせてみてはどうかと考えた。

 

 

それらの考えで造られたのが機械化モンスター四号である。まず角を大胆にも回転式大型尖角へと変え、その武装を生かすために四肢を機械化し、とあるシステムを開発。

 

 

そのシステムとは《パワーチャージャー・ダッシュ》 機械化した四肢が動けば動いた分だけ回転式大型尖角が回転し、回転数がどんどん加速すると言う物だ。

 

 

この武装を手に入れたことで、機械化モンスター四号は動いている限り何物にも邪魔されない最強の矛を手に入れたのだ。

 

 

後は止まっている時に使える武装や、追加の機械化をどうするかを考えるだけであったが、それらの作業をする前に研究施設を破棄することになり、機械化モンスター四号は完成することなく、封印された。

 

 

だが、今この時に封印は解かれてしまった。さらには封印が解かれたことで世界のシステムに存在を知られ<UBM>となった。

 

 

<UBM>となったことで生物としての格が上がり、一個の生命として完成された。その為、高いステータスがさらに高まり、武装もより攻撃的になった。

 

 

それはスキルにも言えることで《パワーチャージャー・ダッシュ》は変質し、《スパークチャージ・バースト》へと昇華。

 

 

機械部品が動いている間は電撃がスパークし、その電撃エネルギーをドリルへと溜め込み回転数が上がるたびに触れた者や物体にダメージとは別に耐久値が存在するものに直接損傷を与え、破壊する。

 

 

シンプルな効果ゆえに対処が難しくなり、ゾルデットが考えたコンセプトが<UBM>となったことでより強力になった形だ。

 

 

もっとも・・・弱点がないわけではないのだが。

 

 

 

 

  ◇  【重厚騎士(ソリッド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

相手の能力が完璧に把握したわけではないが、何となくあたりを付けた時に俺は新たに覚えたスキルを使用。それからも相手の攻撃を受け続けた。

 

このスキルを効果的に使うには相手からダメージを受け続ける必要があるのだ。長期戦用のスキルだな。

 

『《アサルト・ランパート》! 《カウンターソード》!』

 

無論、ただダメージを受けるわけでもなく反撃もしている。【大盾騎士】の習得条件がある秘技《アサルト・ランパート》は盾による防御が成功した場合、次に使うスキルの効果を倍にする。

 

それを防御が成功した後に使うと威力が底上げされる《カウンターソード》を使い【螺旋機竜】に確実にダメージを与える。

 

「BURU!」

 

そこへ<ジュエル>から出したリオンが相手から一定の距離を置いて追いかけて、光魔法を放ち追い打ちする。さすがに速さはリオンの方が勝っているので、【螺旋機竜】は俺を集中して狙っている。

 

リオンが使う光魔法はほぼ簡単な魔法だからダメージも俺の方が多いんだろうな。それ以上の威力のある光魔法はあるのだが、発動に時間がかかりすぎて使えない。

 

このままでは俺が負けてしまうだろうが、そろそろ【ポルックス】の新スキルが効果を発揮する。

 

『《ガード・ウォール》! 《シールド・アタック》!』

 

スキルのクールタイムの関係で強力なスキルは使用できず、下級職で覚えるスキルを使用する。本来なら嫌がらせにしかならないが、今は違う。

 

盾と相手のドリルが接触すると拮抗して相手の進路をそらすことに成功した。

 

この事実に相手は驚いたのか、再度突撃することはせずに俺の周囲を旋回している。もっともそんな様子見を待ってやるつもりはない。

 

「BU!」

『《サンダー・ショット》!』

 

相手の後ろからリオンが光魔法で攻撃し、俺も大型リボルバーをアイテムボックスから出して【銃騎士】のスキルで200の固定ダメージを与えるアクティブスキルを使用して撃つ。

 

相手は体のすべてが機械化されているわけではないので、俺の撃ったスキルは生身にリオンの魔法は足を重点的に狙っている。

 

さすがに魔法に対しての防御力は自信がないらしく、リオンの攻撃だけは回避しているが。俺の攻撃は生身に当たっているので多少はダメージを稼いでいると信じたい。

 

これらの攻撃にイラついたのか、俺に対して突撃をしてくる【螺旋機竜】 だが・・・・

 

『《プリズンウォール・バースト》!』

 

これに対して俺は大盾を構えて、【重厚騎士】の秘儀で対抗する。真正面からこちらへと向かってくる。【螺旋機竜】は大盾に接触し・・・

 

――――大盾を破壊できずに弾き飛ばされた。

 

『!?』

 

この結果に【螺旋機竜】の意思は理解不能に陥った。その隙を逃さずにゲイルは大型リボルバーを【瞬間装備】でサブマシンガンに変更。機械に覆われていない生身に弾丸を浴びせる。

 

この攻撃のダメージで【螺旋機竜】は思考を復活。ゲイルの周りから離脱。だが、弾き飛ばされたことで《スパークチャージ・バースト》の効果が止まってしまい、攻撃力を上げるためにある程度走る必要が生じた。

 

ゲイルはここが最大のチャンスと判断してリオンに乗馬して、追い打ちを仕掛ける。

 

ゲイルがこのチャンスをものにできたのは【ポルックス】が進化したことで手に入れた新たなスキルのおかげだ。その詳細は・・・・

 

 

 《ダメージアブゾーブ・フォートレス》 アクティブスキル

 

 スキル宣言後に受けたダメージの1/10を攻撃力か防御力に加算する。

 どちらかはスキル宣言時に攻撃か防御のどちらかを続けて宣言。

 このスキルを使用中は【ポルックス】はガーディアン形態使用不能。

 及び、他の【ポルックス】の固有スキル使用不能。

 

 

このスキルを使用中は他の【ポルックス】のスキルは使用できなくなるが、それでも破格のスキルだ。何せダメージを受ければ受けた分だけ、攻撃力か防御力が増していくのだから。

 

このスキルをゲイルは二度目の攻撃を受けた後に使用した。その際に選んだのは防御力。ゲイルのジョブには防御力が高いほど効果が上がるスキルが充実しているためである。

 

スキル特化ジョブほど強力ではないが、それでも有用な効果だ。

 

このスキルを宣言したことで今までのダメージが防御力に加算され、現在のゲイルの防御力は【螺旋機竜】の攻撃力との差をほぼ無くしたのだ。

 

このおかげで最大のチャンスを手に入れたゲイルだったが、【螺旋機竜】もこのままではまずいと判断して奥の手を使うことに。

 

バリリリン!!!

 

突如として【螺旋機竜】の体から電気がスパーク。体に雷を纏い始めた。

 

これこそ【螺旋機竜】が<UBM>になったことで手に入れた奥の手のスキル。《雷撃突貫(サンダーボルト)

 

これまでに《スパークチャージ・バースト》で生成した電気エネルギ―をドリルだけではなく体すべてに纏わせるものでこれにより【螺旋機竜】に触れた物は電撃のダメージをも喰らうことに。

 

それだけではなく電気を内部に溜め込むのではなく、外部に放出し纏ったことで行動の出始めが速くなり、身体も活性化しステータスも上がっている。

 

しかし、デメリットとして使用した直後のHPにSPを必ず半分消費する。ただでさえ、戦闘で傷ついた体をさらに傷つけるのだ。まさに奥の手。

 

この時よりゲイルと【螺旋機竜】の戦いは最終局面を迎える。




【重厚騎士】のスキル【プリズンウォール・バースト】を奥義としていましたが、この度変更しました。奥義ではなく秘儀に。
【聖騎士】に当てはめると【聖別の銀光】クラスですね。


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第六十話 ゲイルVS【螺旋機竜 スパイドロン】2

ゲイルの過去話と<エンブリオ>解説しますよ~


  ◇  ゲイル・アクアバレーについて

 

 

ゲイル・アクアバレーの<エンブリオ>である【双騎鎧 ポルックス】は第一形態の時点で矛盾を持っていた。

 

それはTYPE:アームズ・ガードナーであることだ。現在は第四形態になりウェポン・ガーディアンに変わっているが、第一形態時点で複合型は珍しい。

 

珍しいがメイデンやアポストルにボディのTYPEに比べれとまだ多い。しかし、そんな複合型でもアームズとガードナーの複合型は少ないのだ。

 

その理由はデンドロで一時期に流行ったカテゴリー別性格判断で説明すれば理解できる。

 

これは<エンブリオ>のTYPEでその<マスター>のある程度の性格を判断できる。<エンブリオ>は第零形態時に<マスター>を観察し、どのTYPEになるのかを判断する。

 

その為、<エンブリオ>を考察すればある程度の性格や人間性を判断できるのだ。もっとも、上級以上になるとオンリーワン要素が強くなるため、下級の時にしか使えないものだが。

 

TYPE:アームズを持つ<マスター>は勇気がある人、傷つくことを恐れない、猪突猛進、人情家など。

 

TYPE:ガードナーを持つ<マスター>は臆病、傷つくことを恐れる、優柔不断など。

 

これらを考えると全くの正反対なのだ。それゆえに、上級でどちらかが新たに追加されるのならともかく、最初の段階でこれらを持つのは矛盾でしかないのである。

 

しかし、ゲイル・アクアバレーについてはそうなった理由がある。

 

 

その理由はゲイル・アクアバレーのリアル水谷 高次が小学校時代のことだ。当時の高次は悪質ないじめにあっていた。

 

2040年代になってもいじめ問題は深刻な社会問題として根強く残っていたのだ。しかも、さらに悪質になって。

 

いじめの原因は別のクラスメイトがいじめにあっていたのを高次がかばったことで、その対象が高次に移ったのだ。

 

それからは汚水を浴びせられる、靴を切り刻まれる、果ては学校の裏サイトで恥ずかしい合成写真も晒された。

 

学校の教師たちはいじめを見て見ぬふりをし、積極的にかかわることをしなかった。それどころかいじめを目撃しても何もしなかったのだ。

 

更に高次にとって最悪なことにいじめをかばったクラスメイトすらいじめに加担したのだ。そのことが原因で当初小学三年生だった高次は不登校となり、引きこもりになった。

 

そんな状況の中、高次の家族親戚一同が立ち上がった。高次から事情を何とか聞き出し、両親が学校といじめをしていたクラスメイト全員を訴えたのだ。

 

しかも、親戚の法律に詳しい者や警察関係に顔が利く者たちがあの手この手でいじめの証拠をつかみ教育委員会に提出。

 

これにより学校側はいじめのことを隠し通せなくなり、とうとういじめの事実を認めた。いじめをしていたクラスメイトは両親含めて最後まで認めず裁判沙汰になったが、各証拠がある中では無駄な抵抗だった。

 

結局、いじめをしていたクラスメイトの両親らは賠償金を支払うことになった。その賠償金で高次らの家族は別の県へと引っ越し、高次も不登校児専門のカウンセラーや支援団体らの協力で引きこもりをやめて日常生活できるようになった。

 

そのままカウンセラーの勧めの中高一貫学校へと入学し、大学へも合格。現在は実家近くのマンションで一人暮らしをし、精神障害者も受け入れている運搬会社で働いている。

 

ただ、その経験のせいで他人の行動の意味を察知することが不得手になった。特にいじめを行っていた者たちに女の子が多く、いじめの原因である高次がかばった子も女の子でいじめに加担してしまったことから、特に女性のことが分からなくなった。

 

 

そのような経験をしたことで、高次には本人も自覚しないある思いが根付いたのだ。

 

それは――――「家族以外の裏切ることがない信頼できる誰かが欲しい」と。

 

第零形態の<エンブリオ>はその思いを読み取り、いじめを受けていたクラスメイトをかばった経験も加味してゲイル・アクアバレーのTYPEをアームズ・ガードナーになったのだ。

 

他者を助ける勇気を持ちながらその結果、心が傷ついてしまい臆病になったがそこから数多くの者の助けで立ち上がった。

 

そんな複雑な経験と本人も無自覚な心の思いも正確に読み取った結果、ゲイルの<エンブリオ>は【双人鎧 ポルックス】となったのだ。

 

 

 

 

  ◇  【重厚騎士(ソリッド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

【螺旋機竜】が奥の手らしきスキルを使ってからは俺が押され始めた。どうも相手のスキルにはステータスアップの効果があるらしく、ステータスの差がまた逆転したのだ。

 

とは言えステータスが上がっただけならば時間を稼げばこちらが有利になるのだが、それも難しい。相手は電撃を纏っているので電撃のダメージも受けるのだ。

 

俺のジョブには属性耐性系のパッシブスキルやアクティブスキルもあるが、スキル特化系のジョブに比べると効果が弱い。

 

それでもそれらを使用しながら、反撃している。その反撃しにして電撃を纏っているせいでダメージを受けてしまいこちらが不利だ。

 

こんな状況だからリオンは早々に【ジュエル】の中へ避難させた。そのせいで俺に攻撃が集中しているわけだが、リオンを失うわけにはいかない。

 

この状況をどうにかするためには俺が決断をしなければならない。それは現在使用している【ポルックス】の固有スキル《ダメージアブゾーブ・フォートレス》を使用し続けるか否か。

 

(この状況ではスキルのデメリットである他の固有スキルが使えないのが痛いな。かと言ってスキルを解除すれば、防御力が激減してさらにダメージが増える。それを他の固有スキルとジョブスキルで耐えられるか?)

 

《ダメージアブゾーブ・フォートレス》はスキル使用するために他の固有スキルを使用できないデメリットがある。まぁ、デメリットはそれだけなので長時間の使用に支障がないのだが。

 

とは言えそのスキルを使用している現状で状況が好転しない以上、それにこだわりすぎるのはどうかと考えるわけで・・・・

 

悩んだ末俺は決断することに。【螺旋機竜】が再度突撃するところに合わせて・・・

 

『《ヘビィアンカー》! 《ガード・ウォール》! 《シールド・バスター》!』

 

スキルを重ねて、相手を大きく吹き飛ばす盾の攻撃用アクティブスキルを使用。その結果、激突した【螺旋機竜】は体勢を崩し何メートルか後退してしまう。

 

その事実に驚いたのか、それとも無視できない(・・・・・)ことでもあるのか俺から距離を離れて再度走り回る。

 

その姿に疑問を持つが、俺は一旦疑問を棚上げして【ポルックス】を紋章に戻して、《瞬間装着》で俺が持っている全身鎧で最も性能がいい【BAA】を装着する。

 

それから続けて紋章から【ポルックス】をガーディアン運用するために呼び出す。【ポルックス】をガーディアン運用する理由としては、俺の被弾率を下げたいから。そうすることで回復できる回数も増えると考えたからだ。

 

そのまま俺は【ポルックス】用の武器として今持っている剣と大盾を渡す。俺の方はアイテムボックスから新しい武器としてメイスと盾を出す。

 

俺たちの準備が整うのを待っていたわけでもないだろうが、準備を終えた直後に、【螺旋機竜】が突撃してきた。

 

(・・・なんか変だな?)

 

一度棚上げした疑問と今の行動が何となくだが繋がっているようなそんな感覚を感じるが、とりあえずは行動しなくては。

 

俺は前に出て、【ポルックス】には俺が【螺旋機竜】の動きを止めたら攻撃するように指示。

 

『《ガード・オーラ》! 《プリズンウォール・バースト》! 《シールド・プリズン》!』

 

俺のスキルを重ねて最後に【大盾騎士】の奥義である《シールド・プリズン》を使用。このスキルは盾で受け止めた相手の攻撃に耐えた場合、相手を動けなくするスキルだ。攻撃に耐えることが大前提ではあるが問題ない。

 

突撃してきた【螺旋機竜】は俺が構えた盾に突撃。甲高い金属音を響かせながら、俺を押し後退させるが俺は耐えた。そのまま相手はスキル効果で動けなくなる。

 

「!!!」

 

自身が動けないことに焦るが、しばらくは何もできないぞ。そのまま相手の後ろに回った【ポルックス】は盾と剣で攻撃。アクティブスキルは使えないが、俺が使用したアクティブスキルの効果は【ポルックス】にも発揮してるし、パッシブスキルも効果は半減だが、確実に発揮している。

 

俺も攻撃用のアクティブスキルを使用しながら、【螺旋機竜】を攻撃。雷撃を纏っているので俺と【ポルックス】もダメージを受けるが、こちらの方が与えるダメージは多い

 

しばらくすると動けるようになった【螺旋機竜】は直進しその場を離れる。俺はその姿を見送ると唐突にすべてが繋がった。俺の周囲を走り回る。連続で攻撃せずにヒット&ウェイを繰り返すその戦法の答えは・・・

 

『そう言うことか!!』

 

それを確かめるためにも次の突撃が勝負だ。俺の周りを走り回った【螺旋機竜】は何度目かの突撃を仕掛ける。

 

『《ヘビィアンカー》! 《ガード・ウォール》! 《シールド・ガード》!』

 

スキルを重ねて発動し、突撃に備える。俺が狙っていることは一発勝負。再度の試みは厳しいだろう。緊張感が支配する場で何度目かの金属音が響くと同時に・・・・

 

『《シールド・パリィ》!』

 

相手を弾き飛ばすアクティブスキルを発動。そのスキルは【螺旋機竜】の回転角を真上に弾き飛ばして・・・

 

『《シールド・ブロー》!』

 

続けざまに盾の攻撃スキルを使用。それは【螺旋機竜】の懐に飛び込んで発動した結果、相手の顎を見事に跳ね上げた。

 

そのまま【螺旋機竜】は勢いよくひっくり返り背中を地面に叩きつけた。その後は横倒しになりじたばたと足を動かしている。時間があれば元通りに立ち上がるだろうが、今が好機だ。

 

『やはり、雷撃も弱まっている気がするな』

 

俺は【螺旋機竜】は走り回ることが前提のスキルを持っていると考えた。前提でありデメリットとして止まると上がっていたステータスがなくなるスキルを。

 

そう考えれば相手が走り回っていたことや止まったときに攻撃せずに再度走り回っていたことにも説明がつく。

 

最後に使用していた電撃を纏っていたスキルも走り回ることが前提のスキルに何かしらかかわっているんだろう。

 

いろいろ考えるが、とりあえず今できる最大の攻撃をぶつけよう。

 

俺は両腕に杭打機を装備して、【螺旋機竜】のお腹部分を攻撃できるように狙いを定めて装備スキルを発動。

 

『《パイル・ストライク》! 《ギガントクラッシャー》!』

 

そのスキルは肉を貫き、機械を壊したかのような音を響かせて俺はそのまま後ろへと吹き飛んだ。

 

「!?!?」

 

言葉にすら聞こえない叫び声を上げながら、それでもまだ生きている【螺旋機竜】だが、それもそう想定はしていた。念の為の準備も。

 

『【ポルックス】!』

 

俺の言葉に行動する【ポルックス】 その両手には長めのツーハンドソードが握られ俺が攻撃した箇所に突き刺す。その攻撃が止めになり、【螺旋機竜】は沈黙し光の粒子となる。

 

 

 【<UBM>【螺旋機竜 スパイドロン】が討伐されました】

 【MVPを選出します】

 【【ゲイル・アクアバレー】が選出されました】

 【【ゲイル・アクアバレー】にMVP特典【電駆旋槍 スパイドロン】を贈与します】

 

 

吹き飛んだダメージに頭を抱えながら、耳に聞こえたアナウンスを聞き、遠目にアキラが乗っているであろう【オーパーツ】を見て終わったことに安堵した。 




ゲイルとアキラが得たMVP特典の詳細は次回で。

ゲイルの過去話と<エンブリオ>については作者の解釈でもあるのでどこかおかしく感じてもこのままいく予定です。


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第六十一話 戦いの戦果と・・・

  ◇  【紅蓮術師(バイロマンサー)】 クロス・アクアバレー

 

俺とアークさんが素材採取の護衛から帰った日は驚きの連続だった。ゲイルとアキラが<UBM>と戦い特典をゲットしたこと。その<UBM>が機械化されたモンスターで<叡智の三角>のクランメンバーがすごく歓喜していたこと。

 

まぁ、話を聞いたらロボット好きなら反応するのは致し方ない話題だろう。さらに素材採取に行っていたメンバーの中にカメラ型の<エンブリオ>を持っていた<マスター>が居て、<UBM>の写真を撮りまくっていたのも話に拍車をかけた。

 

この<エンブリオ>は能力的には鑑定と看破の上位互換で写真に撮った相手やアイテムの情報なども写真に載るので、いろいろ情報が手に入ったのだ。しかもその情報によるとそれらの<UBM>の元になったのは先々期文明時代のとある人物が造った機械化されたモンスターだと言うのだ。

 

そのとある人物は技師系統超級職【工学王】と学者系統超級職【大教授】に就いていた規格外だったため、【工学王】の情報もあるのではと、クランメンバーが遺跡調査に出かけようと準備に忙しくしていた。

 

だが、そこに待ったをかけたのはクランオーナーであるフランクリンさんとサブオーナーであるホールハイムさんである。二人曰く・・・・

 

『さすがにこんな大発見を国に報告もなく勝手に調査したら、今後の活動に影響が出るねぇ~』

「そのせいでお金が減ったらだれが責任をとるんですか?」

 

フランクリンさんの言葉よりもホールハイムさんの言葉の方が胸に突き刺さったらしく、全員肩を落としていた。その後、お二人は国に報告するために出かけて行った。

 

まぁ、報告したらしたで色々大変な事態になったが。まず、<UBM>を倒した二人にいろいろ事情聴取され、特典武具も見せることとになり、問題の遺跡もだれを調査に向かわせるかで国の上層部が揉めたらしい。

 

<UBM>になるようなモンスターが封印されていた遺跡だから、調査には戦闘力も必要で誰を向かわせるかに対して実力者を有する貴族たちが揉めに揉めたとのこと。

 

だが、結局は遺跡の場所がバルバロス領だったためバルバロス家が調査することになり、その際に<叡智の三角>にも調査に同行してほしいと依頼が来た。

 

そして現在、調査に適した<エンブリオ>持ちによる誰が向かうかの厳選なるあみだくじ大会が行われている。ちなみにあみだくじを作ったのはホールハイムさんだ。

 

フランクリン氏は調査に同行したかったためあみだくじをする方で参加。彼の場合は戦闘&調査両方ができるのと純粋に興味があると言って同行しようとしているとか。

 

まぁ、俺たちはそれ以上かかわるのは控えた。俺たち兄弟は他国の所属だし、国として話してはいけないこともあるだろう。

 

アークさんの新たな仲間のために素材集めをしなきゃいけないしな。なお、アークさんの新たな仲間を創っているメンバーはこの話に完全ノータッチだ。この件もクランとしては重要なことだと言っていた。未練はありそうだったけど。

 

それに・・・俺たちにはもう一つ確認しなきゃいけないことが出来たしな?

 

 

 

 

  ◇  【大盾騎士(タワーシールド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

現在俺は<叡智の三角>の創った機体をテストする演習場でリオンに乗って駆けている。途中に点在するスクラップの鉄塊に右手に装備した螺旋衝角馬上槍と言うべき凶悪なフォルムのランスで攻撃しながら。

 

このランスが【螺旋機竜】を討伐したことで手に入れた特典武具だ。形状と武器にスキルの特性上リオンに乗って使うのが前提の武器だ。なお、気になる性能は・・・・

 

 

 【電駆旋槍 スパイドロン】

  <逸話級武具(エピソードアームズ)

  螺旋衝角で障害物を破壊する機械竜の概念を具現化した逸品。

  武具として高い耐久値と攻撃性能。そして騎馬の速さを攻撃力と雷撃に転換する。

  ※譲渡・売却不可アイテム

  ※装備レベル制限なし

 

  ・装備補正

   攻撃力+600

   合計レベル分の耐久値+

 

  ・装備スキル

   《ハイスピード・サンダーブレイク》

   《???》

 

 

こんな感じだ。これを最初見た時は「なんでこんなに高性能なんだ?」と頭に疑問符が浮かんだ。明らかに【バルギグス】よりも性能が上だ。武具としてのレア度は下なのに。

 

気になってアキラの手に入れた特典武具の性能を見せてもらったが、こちらも性能が高い。アキラにとっては初の特典武具だとしても腑に落ちない。ただ、フランクリン氏曰く・・・・

 

『おそらくは君たちが倒した<UBM>は生まれたてだったんだろうねぇ。ああ、モンスターとして生まれたてではなく<UBM>になりたてって意味だよ。遺跡なんかで封印処理していたモンスターがその封印を解除した場合にまれにあることだよ。そして、その場合の<UBM>って一番弱い逸話級なんだよねぇ~』

「あの強さでですか?」

『うん。もちろん君たちが倒されていたりしたら、すぐに伝説級ぐらいにはなったと思うよ? ただねぇ~どんなに力が強くても最初はすべて逸話級からなんだよねぇ~潜在能力がいくら高くともね。そんな<UBM>を倒すと逸話級でもかなり高性能の特典武具になるんだよ。特典武具になった時点で潜在能力込みで武具性能が決まってるんだろうねぇ~』

 

それってつまりは俺たちが負けていたら、どんどん強くなっていってたわけだよな? 話を聞いて背中に嫌な汗が流れた。

 

もしもの話に意味はないが、性能が高いのはそう言う理由があるわけだ。詳細が分からないスキルもあるが、それに関しては条件を満たせば使用できるようになるとフランクリン氏は言っていた。条件がどんなのかは分からないとも言ってたが。

 

分かっているスキルに関しては・・・・

 

 

  《ハイスピード・サンダーブレイク》 パッシブスキル

  武具を装備した状態で、騎馬に乗ると駆ければ駆けれ程に攻撃力が上がり、雷撃を纏いその力も増す。

 

 

という物で現在そのスキルの確認と使い勝手を確かめるための実験をしているわけだ。スキルに関しては特に問題なく機能している。リオンに乗らないと意味がないが、今までリオンに騎乗した時のメインウェポンがなかったからちょうどいい。

 

俺はそのままクロス兄貴とウッドが待っている場所までリオンを走らす。

 

「どうだ? その特典武具は」

『かなりいいな。スキルが条件付きではあるが、リオンに騎乗した時のメインウェポンとしては文句なしだ』

「雷撃はリオンにダメージを与えないの?」

『それも確認したが、そう言うこともなかったな』

『BURU!』

 

ウッドの懸念ももっともなのでそこも確認したが、問題なかった。むしろ駆ければ駆けるほど強くなるこのスキルは俺の戦闘スタイルと相性がいい。これからはリオンに騎乗するのが増えそうだ。

 

『俺の方は問題ないが、アキラの方はどんなのかね?』

 

そう言って俺は同じく特典武具を手に入れた仲間に視線を向けた。

 

 

 

 

  ◇  【剛弓士(ストロング・アーチャー)】ウッド・アクアバレー

 

 

ゲイル兄貴が視線を向けた先には、アキラの新たなレギオン体である《ソード・ファルコン》と【オーパーツ】がいくつものガラクタを前に実験をしていた。

 

新たなレギオン体の背中にはアキラが手に入れた特典武具【爆音双砲 カノンボルス】を装備している。《ソード・ファルコン》はステータスが低いが装備スロットがあったらしく、特典武具を装備できたことをアキラは喜んでいた。

 

その特典武具の性能はというと・・・・

 

 

 

  【爆音双砲 カノンボルス】

  <逸話級武具(エピソードアームズ)

  大型魔導式双砲ですべてを破壊する機械竜の概念を具現化した逸品。

  少ない魔力で高威力の砲弾を発射する。さらには特殊な弾頭ですべてを溶かす。

  ※譲渡・売却不可アイテム

  ※装備レベル制限なし

 

  装備補正

  攻撃力+700

  合計レベル分のMP+

 

  装備スキル

  《ツイン・ボルケーノブリット》

  《???》

 

  

  《ツイン・ボルケーノブリット》 アクティブスキル

  特殊な弾頭である溶岩弾を発射する。左右の砲塔に6発。一発撃つと再度補充されるのは24時間後。

 

 

スキル以外の通常の砲撃には《ソード・ファルコン》のMPを消費する。《ファルコン》のMPは少ないがコスパに優れているために連続で左右二発撃つのに三連射できた。威力もなかなかでガラクタが半壊している。

 

『よし! 《獣機合体》! 《ソード》!』

 

それを確認した直後アキラがスキルを宣言し、【オーパーツ】と《ソード・ファルコン》が合体。【カノンボルス】はパックパックのように背中に装備される。

 

『発射!』

 

そして再度【カノンボルス】から魔力弾が発射。次々とガラクタを破壊してゆく。

 

「合体したほうが威力が高い?」

『合体したらアキラのMPを消費するんだろう。アキラの方が最大MPが多いからその差で威力が変わったんだろう』

 

僕の疑問にゲイル兄貴が答えた。それが正しいとアキラのMPが増えれば威力は上がっていくことになる。使い勝手は抜群だね。

 

『続けていくぜ! 《ツイン・ボルケーノブリット》!』

 

そのまま今度はスキルの方を試すようだ。二つの砲塔の先端が赤くなり・・・・

 

ドッパァン!!!

『どわぁ!?』

 

赤い弾頭が発射されると大きな発射音と共に【オーパーツ】がバランスを崩した。結構な衝撃があったのかな? バランスを崩したことで弾は予想外の方向に飛んで行き・・・・

 

「「「「ぎゃあああ!!!」」」」

 

見学していた<叡智の三角>の皆さんの近くで着弾した。

 

 

 

アキラはあわやデスペナになるとこだった人たちに謝り、一旦実験を終了し昼飯を食べることに。なお、昼飯は旅のために買ったバーベキューセットで焼き肉だ。

 

「参った参った。スキルの方はおいそれと使えないな」

「それは回数がある以外の理由でもか?」

「ああ、予想以上に衝撃があるから、踏ん張らないと狙いがつけられない。それに通常弾と違い発射に多少時間がかかる。弾速も遅いしな」

 

ゲイル兄貴の質問にそうアキラは答えた。確かにスキルの方は山なりにゆっくり飛んでたね?

 

「まぁ、それでも威力は高いし合体した時の切り札になりえるから俺的には満足だよ。ところでこの焼き肉のタレうまいな!」

「自家製だ。家族以外にふるまったのは初めてだが、口に合ったのなら何よりだ」

 

アキラの合体スキルは合体した後の攻撃スキルがないから決め手不足という欠点があるらしい。それを補える特典武具を手に入れたからアキラは満足しているようだ。

 

その後は特典武具の話をしてたんだけど、焼き肉の匂いに腹を空かせた人が次々と合流してちょっとした宴会になってしまった。

 

騒ぎすぎて、全員がホールハイムさんからお叱りを受けたけど楽しかったね。

 

 

 

 

 

 

   ◇  フランクリン

 

 

「ふむ・・・以前から可能だと考えていたけど、やはり機械とモンスターの融合は不可能ではなかったわね・・・」

「規格外のティアンしか造らなかったのが不安要素だけど・・・私の<エンブリオ>を使えば問題ない・・・けど・・・」

 

そう言って設計図を描いていた手を途中で止める。

 

「問題はどんな機能を持たせるかね・・・・今回の遺跡は情報以外はめぼしい物がなかった。その情報も機械関係ではないし・・・」

 

悩みだした手はペンを規則正しく机を叩く。

 

「どこかにないもんかしら? 先々期文明の戦略級の機械部品か兵器が・・・・」



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第六十二話 完成! 唯一のマジンギア!

  ◇  【大盾騎士(タワーシールド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

予想外の事態に遭遇して、時間を奪われたが本来の俺たちは素材集めをしていたのだ。アークさんの特典武具マジンギアを造るためにまだまだ素材が必要らしい。

 

そんなわけで素材集めを再開した俺たち。俺とアキラは特典武具を新たに手に入れたおかげで戦闘力が増したので、護衛しやすくなった。

 

他の皆も順調に素材を集めている。マジンギア制作の方は相変わらず己の趣味とポリシーをぶつけあっているが、それでも進んではいるようだ。

 

コンセプトがしっかし決まっていることと、外部の人間のご厚意によって任せてもらえていると言うことを理解しているのが大きいんだろうな。

 

そんな日々がとうとう終わりを迎えたのだ。

 

「完成だ!!」

「これが特典武具を使用したマジンギアだ!!」

「コンセプトの関係で重装甲だが、満足だ!」

「「「おお~」」」

「これが・・・」

 

俺たちの目の前には完成したばかりのおそらくはこの世界で唯一の<マジンギア>が立っている。

 

腕や足はかなり太いが、鈍重な雰囲気はなく馬力がありそうで力強い。両肩は左右非対称で左の肩に縦長の大盾が繋がっている。そのつながりはサブアームと呼んでいいくらいの可動性がある。

 

顔は上から見ると縦長で、アイカメラの部分はバイザーで保護されている。使われている装甲の一部はスケイルメイルのようにうろこ状になっていて特典武具の生前を感じさせる。

 

「姿形のイメージというか土台は、某機動戦士の量産機を参考にしている」

「完成品には面影はほとんど残ってないがな!!」

 

ああ、動く棺桶の方ではなくそちらの趣味が勝ったのか。眺めているとアークが質問をしていた。

 

「中身的にはどんな感じですか?」

「動力は変わらずだな。ただ、特典武具を使ったおかげなのか効率は上がっている」

「動力を伝えるものは【ハイエルダー・トレント】の木材を手に入れたからタイムラグやエネルギーロスは抑えられた」

 

専門知識が要る会話は俺たちにはちんぷんかんぷんだな・・・・

 

「武装については?」

「大盾以外はデフォルトのナイフとグレランだな」

「その大盾も結構頑丈にできたぜ」

「肩につながったままでも使えるし、手に持っても使える。手に持っている場合はサブアームとしても使えるな」

「オプションパーツも思ったよりは付けられるぞ? 今後の活動次第だな」

「ありがとう。スキルはどうかな?」

 

機体性能の次にスキルの説明を行うようだ。

 

「スキルは三つ確認した。一つは【部隊編成】 こいつに搭乗した奴のキャパシティーとパーティー数を増やすスキルだな」

「二つ目は【装甲状態】 戦力が多いほど自身とキャパシティー内とパーティーメンバーの防御力が上がるんだと」

「三つ目なんだが、?表示で詳しくわからん。オーナー曰く条件をクリアしたら解放されるらしいんだが、その条件を解明する手段がないそうだ」

 

一つ目と二つ目は生前の<UBM>の能力の下位互換に近いのかね? 三つ目がよくわからんが。支配系の能力か?

 

「ちなみにこいつの名前なんだが、造ったら勝手に表示されてな?」

「そうなの?」

「ああ。アークの所有物だからわかると思うぞ?」

 

そう言われアークはステータス画面を開いて確認する。

 

「【鱗機兵 リガゾルド】?」

「特典武具で造ったからなのか前半部分が完成したらこうなった」

「個人的には機神の文字がよかったがな~」

「「「まったくだ」」」

 

まぁ、そこは仕方ないことなのだろう。

 

「じゃあ、早速だけど【ツクモガミ】を使わせてもらうね?」

「おう! いい経験をさせてもらったぜ!」

「いくつかの情報を整理しなきゃな・・・」

「まだまだ忙しいなこりゃ・・・」

 

そう言って、彼らはまだ作業があるらしく方々へと散った。俺たちもこの後の予定はアークに聞いているので実験場へと向かう。

 

 

 

 

  ◇  【紅蓮術師(バイロマンサー)】クロス・アクアバレー

 

 

訓練場の広い場所に来た目的は今から【リガゾルド】をモンスター化させるためにアークの<エンブリオ>である【ツクモガミ】を展開するためだ。結構大きいらしく広い場所が必要らしい。TYPE:キャッスルでは小さい方らしいが。

 

「じゃあ、今から出しますが僕の前には絶対に出ないでくださいね?」

「「「了解」」」

 

とは言え、建物だからそれなりに大きな物。出す場所に人がいればぺちゃんこになるらしい。

 

「では・・・【ツクモガミ】」

 

アークが<エンブリオ>の名をつぶやくと、アークの紋章である列をなす様々な物体が輝いて眼前に建物が出現。

 

それを見た俺たちの目に飛び込んできたのはまずは、大きな鳥居。その奥に重要文化財指定されてもおかしくない立派な木造建築の神社が建っていた。

 

「立派な神社だな~」

「なんか・・・背筋が伸びるね? 条件反射で」

「言えてるな」

 

不思議と見ていると自然に襟を正し、ウッドの言う通り背筋が伸びる気がする。

 

「最初は小さなお寺だったのが、だんだん立派になったんですよ」

 

小さなお寺から始まったのか。ちょっとそれも見てみたかったかも。

 

そんなことを考えている間にアークは準備を進めている。【リガゾルド】を鳥居の前に出して、賽銭箱の中に100リルを投げ入れた。

 

「お賽銭には何か意味があるの?」

「それが分からないんですよ。今のところは発動条件で入れているだけで。お金の単位は指定されてませんし100リルで統一してますが」

「お金を多くいれたら性能が変わるわけでもないのか?」

「ええ、そこは検証しました。同じ性能の機械甲冑で試しましたが、性能に明確な変化はありません」

 

ウッドの質問にそう答えて、続く俺の質問にもアークは答えてくれた。お賽銭の意味が不明な点は気になる話だ。進化すればわかるのかね?

 

などと考えていると神社の扉が開き、鳥居がオーラを揺らめかせた。そしたら【リガゾルド】が光に包まれ小さくなり神社に吸い込めれた。

 

「これで後は鳥居のオーラが無くなれば、モンスター化した【リガゾルド】が出てきます」

「時間はどのくらいかかるんだ?」

「性能が高いと今までは10分くらいかかりましたね。今回のは過去最高性能だと思いますからそれ以上はかかるかと」

 

ふむ。ならば気長に待つしかないわけか・・・

 

そう聞いたのでテーブルを出して雑談しながら待つこと20分。ようやく鳥居のオーラが無くなり、神社の扉が開き光の玉が飛び出して、【リガゾルド】が鳥居の前に姿を現した。

 

アークがその前に移動すると【リガゾルド】は片膝を地面に付いた状態から立ち上がり、アークに対してお辞儀をした。

 

「よろしくね【リガゾルド】。これから僕を助けてほしい」

 

アークの言葉にガッツポーズで答える【リガゾルド】。こいつの戦闘力はいかほどなのかね?

 

 

 

 

 

 

そんなアークたちの姿を映像で確認している者が居た。管理AI4号であるジャバウォックだ。彼は【リガゾルド】を興味深そうに眺めている。そんな彼の後ろから声を掛ける者が現れる。

 

「珍しいねー君が討伐者のその後を気にするなんてー」

 

その者は管理AI13号であるチェシャだ。チェシャの言葉はジャバウォックが<UBM>の討伐者に興味を持つことはあっても討伐した後にその行動を追うことはかなり珍しい行動だった。

 

「今回<UBM>にしたのは珍しいモンスターだったからな。さらに言えばあのマスターの<エンブリオ>はなかなかに興味深い能力をしていたので気になった」

「・・・ああー要するに君の趣味の範疇かー」

 

ジャバウォックの言葉にチェシャは呆れた顔で納得した。4号の仕事はモンスターの<UBM>関連全般で、これらのことは半分以上が趣味なのだ。そのせいでトラブルになることもしばしば。

 

「そういえばさージャバウォックー」

「なんだ?」

「あの二人が討伐した【機竜】ってさあ・・・あと何体くらいいるの?」

 

実を言えば<UBM>である程度似ているモンスターは要るのだ。代表格で言えば【竜王】だろう。モンスター種族ドラゴンの中からごく一握りの強者が至れる<UBM>。

 

ほとんどの【竜王】は<竜王気>と言う攻防一体のオーラを纏うスキルを持ち、さらに強力なスキルを最低一つは持っている。そのスキルか外見にちなんだ名称になることが殆どだ。【角竜王】や【爪竜王】などだ。

 

「現在確認されている【機竜】は5体だ。もっとも・・・現時点で稼働しているのが5体いるだけであり、あの2体のように封印処理されているのは封印解除された瞬間に<UBM>になるが・・・・」

「ああーやっぱりーまだいたよー・・・ちなみに興味本位で聞くんだけどーその5体のランクはー?」

「5体のうち2体は伝説級だが・・・残りの2体は古代伝説級最上位。そして最後の一体は神話級だ」

「うわー・・・」

 

予想以上に厄介なモンスターと化していることにチェシャは<マスター>たちのこれからが心配になった。

 

「そのー古代伝説級とー神話級は暴れたりしないのー?」

「能力の関係で今はまだ暴れないだろうな。そもそも古代伝説級の一体は海の深海付近の隠されたプラントに居る。神話級に限っては能力をフルに発揮するために情報収集している最中だ」

「まぁーそれならしばらくは大丈夫かなー。ほんとにしばらくはだけどー」

「こちらからも質問する」

「何かなぁー?」

「お前が彼らに注目するのはなぜだ?」

 

ジャバウォックから見てチェシャが特定の誰かを見守るのは珍しくはないことだが、彼らにチェシャが気に掛ける何かがあるとは思えなかった。

 

「んー単純に興味があるだけだよー個人で規格外や常識外れの能力を持っている<マスター>が少ないけど要る中でー彼らのように複数人で能力以上の実力を発揮するのは珍しいからー」

「ふむ・・・それは理解できる」

「それとーそろそろあの三人のうちの一人が超級職の条件を満たしそうだからー」

「ああ・・・そう言えばこちらが把握している超級職の条件をクリアしそうな者が一人いたな」

「そういうことーどうなるかは先のことだけどー」

 

そう言って彼ら二人は映像を見る。その映像に映っている三人兄弟の一人を。

 




【リガゾルド】の戦闘力に関しては次回に。三兄弟で超級職になるのは誰なのか? こうご期待!


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閑話 天地を選んだとあるPC

今回は先々で出てくる<マスター>の物語です。


  ◇  橘 静雄

 

 

僕が<Infinite Dendrogram>と言うフルダイブVBMMOをやりだしたのは特にこれと言った理由はない。たまたま、親戚のゲーマーが一緒にやろうと誘ってきたのがきっかけだった。

 

その親戚は発売までろくな情報がなかったゲームを一人でやるのが怖くて僕を誘った。事前情報も何もなく発売された時に明かされた情報は普通であれば嘘と断言されてしまう。実際に僕はそう思った。

 

ただ、嘘だったとしても専用ハードとソフト込みで一万円と言う商売する気あるの?と疑問が浮かぶ値段だったし、気に入らなければやらなくてもいいと言われ、物は試しにとゲームをしてみることに。

 

そして、最初のチュートリアルでこれが本物であることを知った。僕のチュートリアルを担当したのは管理AI一号のアリスと言う幼女だったが、あまりにリアルすぎてすぐに言葉が出てこなかった。

 

そんな僕にニコニコ顔で待っていたアリスは、思考が復活した僕の言葉を丁寧に回答してくれた。さすがに落ち着いた後は謝ったが、そんな僕をニコニコ顔で対応する幼女に助けられたよ。

 

それからはアリスの言葉に従い、チュートリアルをこなしてゆく。描画選択はリアルに。プレイヤーネームは悩んだが、日本のような国もあると言われたので、鬼崎 信玄とした。

 

容姿に関しては、リアルの身長はあるが細すぎる身体を違和感がない程度に筋肉質にしてもらった。その後は髪を長くしてポニーテールに。肌も多少黒くした。

 

その後はアイテムボックスをもらい注意点の説明と最初の路銀をいただいて、初心者装備は外見に合う和服と模造刀にした。

 

そして説明はこのゲームオリジナル要素の<エンブリオ>に移った。それを一通り聞いた僕は久しぶりに高揚した。ゲームをやりそれに魅了された者はオンリーワン要素に大なり小なり興奮するものだ。

 

説明が終わり、僕が高揚しているうちに左手にその<エンブリオ>が移植された。それを眺めて僕にはどんなのが生まれるのか楽しみで仕方なかった。

 

最後の所属する国に関しては悩んで天地にすることにした。黄河とも悩んだが、国は近いからいつか行ってみることもできると判断して選んだ。最後にアリスが・・・・

 

「これから先あなたたちは自由にしていいわよ? 悪人になるのも善人なるのもゲームを続けるのもゲームを去るのもすべてあなたたちの意思で選んで。私たちはあなたの来訪を歓迎するわ」

 

そう言い終わった直後に、チュートリアルのログハウスの部屋が消えてなくなり、俺は空中に放り出された。

 

 

 

まさかゲームで初めてのパラシュートなしの空中降下を体験することになるとは・・・ドキドキしながら僕は目の前にある和風の門をくぐり、その光景に圧倒された。

 

桜舞う和風の町並みと遠くに見える京都にあるような大きな屋敷。圧倒されながら僕は恐る恐る歩を進める。お上りさんのようにきょろきょろしながら町を眺めながら進むが、早々に何をすればいいのかわからないことにどうしようかと立ち止まる。

 

そこで醤油の焦げたいい匂いの屋台のお兄さんに思い切って聞いてみることにした。商品は焼き鳥だったので一本注文するときに緊張しながら聞いてみた。

 

「この国に来たばかりなんですが、最初は何をすればいいかな?」

 

俺の質問になに言ってんだこいつは?と言いたげな顔をするお兄さん。すると、俺の左手にある<エンブリオ>を見て納得したのか次のようなことを述べてくれた。

 

「あんちゃん<マスター>だったのか? そう言えば今日だったな~大勢の<マスター>が来るって言われてたの。てぇことはあんちゃんジョブにも就いてねえのか?」

 

屋台のお兄さんが言うには僕のように<エンブリオ>持ちのPCはここでは<マスター>と呼ばれ、今日この日に大勢の<マスター>が来るだろうと町の代表者から通達があったと言う。

 

さらにジョブについても教えてくれて、この世界ではいくつものジョブの中から選んでジョブに就いてレベルを上げるんだとか。ジョブも本当に千差万別で戦闘職から生産職に下級職に上級職まであるんだとか。

 

詳しく知りたいのなら冒険者ギルドに行くといいと助言をくれて、僕はお礼と追加注文としてもう二本焼き鳥を頼み、それらを受け取りお金を払い助言に従い冒険者ギルドに向かう。

 

 

 

 

冒険者ギルドに辿り着いた僕はさっそく受付嬢に今日この世界に初めて来た<マスター>だが、ジョブについて詳しく教えてほしいと言ってみた。

 

すると受付嬢は驚いて、ベテランの職員を大声で呼び出した。どうもこの子は受付の担当になってから日が浅いらしく<マスター>である僕に驚いたらしい

 

その後にベテランの男性職員に別室へと案内されて、取引を持ちかけられた。こちらが知りたいことは教えるのでそちらのことも教えてほしいと。

 

その前に彼らが持っている<マスター>に関することを知りたいと言うと以下のことを教えてもらった。

 

一つ。<マスター>は600年以上前から確認されており、伝説として語り継がれている。

二つ。<マスター>は<エンブリオ>と言う特別な力を持ち、この世界で死んでも三日後に復活する。

三つ。<マスター>はティアンと違い、ジョブに就く際才能に左右されずに500レベルカンストする。

 

どうも、<マスター>と言う存在は以前からも確認されているらしく、この世界の歴史において何度か現れているようだ。

 

恐らくはαテスターかβテスターだと思うが、それよりも600年以上も歴史があるほうが驚きだが、個人がどうこうできる話ではないので棚上げする。

 

さらに<マスター>はたとえ死んだとしても三日後にセーブポイントと呼ばれるところで復活すると言う。これに関してはアリスからも確認していることだ。デスペナルティ―が24時間のログイン制限と聞いた時は驚いたが。

 

それとこの世界ではNPCのことはティアンと言うらしく、彼らはジョブに就く場合個人の才能に左右されてジョブに就ける数はその才能しだいだとか。

 

<マスター>の場合はその才能と言う縛りがなく、下級職と上級職の上限である六つと二つであるレベル上限の500に誰でもなれると言う。

 

いくつか教えてもらったので僕も知っている限りの<マスター>に関してのことと、個人的な考えを伝えることにした。

 

 

 

 

それから大変参考になったと言う男性職員のご厚意でクエスト扱いにしてもらえ、その報酬として冒険者ギルドが行っている初心者救済の講座に無料で参加してもらえることになった。

 

この講座は戦闘経験のない子達に戦闘の基礎を教え、さらにはその子達に適したジョブを探すことも行っている冒険者ギルドで定期的にやっているクエストだ。ちなみに参加料は3000リル。

 

この参加料には配布する武器や防具も値段込みであり、その武具は生産職になりたての者たちの作品で生産ギルドからの提供なんだとか。よく考えられたシステムだ。

 

早速15歳前後の子供たちに混ざり、僕もジョブを選ぶが・・・<エンブリオ>がまだ生まれていないことを考えて無難な【武者(サムライ)】にした。

 

【武者】は天地限定のジョブで特徴としてはオールマイティな戦闘職。各種武器を扱え、使い勝手のいい各種アクティブスキルも覚え、《乗馬》スキルで町から町への移動も楽な天地では定番のジョブだと言う。

 

それから武器も選ぶのだが、他の子達が刀や弓に斧を選ぶ中、僕は槍を選んだ。最初は刀と太刀をお勧めされたがどうもしっくりしないので試しに槍を選び基本動作を学ぶと不思議と手になじむ。

 

防具に関しては革鎧を選択。本当は鎧甲冑がよかったが、さすがにジョブに就いたばかりの初心者が装備できる物はないようだ。

 

講習が終わると子供たちと共に実戦を経験するために町を出てモンスターと戦うことに。町を出た直後に僕の<エンブリオ>が光を放ち生まれた。

 

誕生したのは【鬼族繁栄 ゴブリン】だった。緑色の肌をした周りの15歳前後の子達よりも低い身長の小鬼が5人。それを見た一部の子達に笑われた。

 

失礼な子供たちは無視して、僕は<エンブリオ>のステータスを確認する。残念ながらステータス補正は最低値だったが、スキルは二つある。

 

一つ目は《戦闘連携》 僕自身と【ゴブリン】たちや自身の手持ち戦力だけでパーティを組むと【ゴブリン】のステータスが上がると言うもの。

 

二つ目は《技巧習得》 スキル持ちから指導を受けると指導者の持っているスキルを習得できる。ただし、スキルレベルは《技巧習得》のレベルを超えることはないそうだ。さらに覚えられるスキル数もレベル依存だ。

 

ステータスを確認し終えて、笑っていた一部の子供たちが僕たちとは恥ずかしいから一緒に戦闘したくないと言い他の子達を強引に連れて行ってしまった。

 

まぁ、スキル的にちょうどいいので文句はない。文句はないが、笑われたことに落ち込んでいる【ゴブリン】たちが気になり、まずは励ますことに。

 

僕の励ましである一緒に強くなろうと言う言葉に力強く頷いた【ゴブリン】たち。その後はモンスターを狩り続けている。順調ではあるのだが、ゴブリンたちは腰布以外は何も装備していないので、基本は殴る蹴るを行う。

 

ドロップ品を売ってまずは彼らの防具を買うかそれとも武器を買うか休憩中に悩んでいると、先ほどの【ゴブリン】たちを見て笑った二人の子供が全速力で町へと走っていった。

 

他の子供たちはおらず、彼らの何かから逃げている様子から嫌な予感がしたので【ゴブリン】たちに声を掛けて彼らの走り去った逆方向へと向かう。

 

すると残りの子供たちが必死になって大きな蜥蜴と戦っていた。蜥蜴の銘は【堅鱗蜥蜴】と言いこの狩場ではかなり強いモンスターなのだろう。実際に蜥蜴の正面で斧で攻撃している子供の攻撃はあまり効いていないようだ。

 

それよりも正面で戦っている子は必死になって後衛で矢を放っている子達を守っていた。しかしながら、たった一人で正面で戦っているのでもはや満身創痍。息も激しくこのままでは持たないことは明白だった。

 

僕は急いで蜥蜴の側面に回り、足の付け根に槍を付きこんだ。いきなりの攻撃に蜥蜴は驚いて乱入者の俺を睨みつけた。

 

その隙に前もって指示しておいた【ゴブリン】たちが子供たちを下がらせる。後衛の子達は急いで支給された回復薬を満身創痍の子に飲ませてあげる。

 

それからは蜥蜴の相手は僕と【ゴブリン】2体が相手をしているが、【ゴブリン】たちの攻撃では全く歯が立たず、早々に蜥蜴は彼らを無視して僕を集中的に攻撃しだした。

 

これまでの狩りで上がったステータスと槍さばきで何とか躱しているが、このままでは先ほどの子達と変わらない。決定力が不足していた。そんな時・・・

 

1体の【ゴブリン】が斧を担いで蜥蜴の背中を駆けあがった。その斧は後衛の子達を守っていた子が持っていたもので【ゴブリン】はそれを握り、【ゴブリン】を無視している敵を逆手に取り、背中を駆けあがったのだ。

 

そのまま脳天に勢いをつけて振り下ろす! さすがに全く気にしていなかった相手からの予想外の攻撃に蜥蜴は脳が揺さぶられ、口を大きく開けてしまった。

 

僕はその隙を逃さずに全速力で駆けて、勢いそのままに槍を口に突き出した。さすがにのどを貫かれたこの攻撃はそのまま背中側を貫通し、蜥蜴は光の粒子となった。

 

 

 

 

その後は子供たちの回復を待ち町へと帰還した。あのトカゲのドロップ品は僕がもらうことになり、子供たちは助けられたことに対してお礼を言い、【ゴブリン】たちを褒めてくれた。

 

特に斧で脳天を攻撃した【ゴブリン】と斧持ちの子が仲良くなり、笑いあっていた。ちなみに僕が目撃したあの子供二人は、蜥蜴と戦い攻撃が効かないと知るとさっさと逃げ出したそうだ。

 

町へと帰り、冒険者ギルドでそのことを報告すると職員さんはすぐさま行動し、逃げ出した子達は捕まりお説教と罰として冒険者ギルドの雑用を三か月無償で行うことになった。

 

まぁ、仲間をほおって逃げた罰としては軽い方だろう。これが大人だったらこの程度で済むはずがない。

 

なお、俺は職員に大変感謝され、追加の報酬をもらうことになりその内容はギルドが持っている初心者用の武具を好きなだけ持って行っていいことになった。

 

ありがたい報酬に僕はさっそく【ゴブリン】たちに武具を選ばせた。最終的に防具は革鎧一式と武器はそれぞれ刀に盾と棍棒それと太刀に弓と矢で落ち着いた。

 

その後は助けた子供たちに改めてお礼と今度一緒に狩りをしようと約束し、ログアウトした。僕はこれからもこのゲームを続けるだろう。

 

なお、僕を誘った親戚のゲーマーはリアリティーに感動し、町を出て走り回っていたところモンスターに囲まれて死に戻ったとか。しかもそのことがトラウマになり早々にゲームを転売し儲けたと言っていた。




【鬼族繁栄 ゴブリン】はTYPE:ガードナーであり、最初の段階から五体いることもわかる通り、最終的にレギオンになります。

三兄弟が天地に向かうまでは閑話と言う形で彼の活躍を描いていきます~


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閑話 グランバロアを選んだとあるPC

お待たせしました。またしても先で出会うことになるとある<マスター>の話です


  ◇  アレク・サンドウェン

 

僕ことアレク・サンドウェンは今日も真っ白な病室で読書をしている。僕は生まれた時から骨に異常があって常人よりも骨が柔らかい。自分の体重を支えられないほどではないが、食べ過ぎて体重が増えると途端に歩くことすらままならなくなる。

 

そのため、僕は普通の学校には行けない。そう言う難病を抱えた子達を専門に教えている機関から勉強を教えてもらえる職員を派遣してもらっている。

 

食事も少しでも骨の強度を上げるため、日本と言う国の和食を主に食べている。運動などは体に負担にならない程度に看護師立会いの下行う。

 

でも・・・・ちょっとでもいいのでこの前テレビで見たイルカのドキュメンタリー番組みたいに水の中を泳いでみたいな・・・・

 

 

 

そんな僕の元に両親からとあるゲームを渡された。<Infinite Dendrogram>と言うフルダイブVRMMOだ。先に試した両親が言うにはこれは本物で、これなら僕も病気を気にせずに何でもできるようになると言われた。

 

さすがに本当かどうか両親の言うことでも疑ったが、もし本当ならと言う思いが僕にゲームをやるきっかけになった。

 

そして・・・僕は今チュートリアルをする空間である大草原で走り回っている。そんな僕を見ているのは管理AI三号であるクイーンと言う獣人みたいな人だ。

 

思う存分走り回り、クイーンさんの元に戻りチュートリアルを開始した。描写選択はリアルに。名前は好きな物語の主人公の名前であるアーサーにした。

 

アバターに関しては僕のリアルを成長させて、違和感が出ない程度に筋肉質にした。その後は髪を銀色にして目は碧にして完成。

 

次のアイテムボックスと最初の路銀を受け取り、初心者装備は旅人風の服一式と武器は短剣にした。そしてこのゲームの最大の目玉である<エンブリオ>の説明を聞いた僕の左手にも移植された。

 

僕の<エンブリオ>はどんなのになるのかな?

 

最後に所属国家を選べと言われて僕はグランバロアを選択。リアルでは水泳はおろかプールにすら行ったことがなかったので、海と言うものをこの目で見たかったから。

 

最後にクイーンさんからこのようなことを言われた。

 

「これから先君は自由だ。悪人になるのも善人を目指すのも何をやってもいい。我々は君の来訪を歓迎する」

 

その言葉の直後に僕は大空を急降下していた。

 

 

 

 

人生初の空中降下は意外にも楽しめた。グランバロアをうろちょろしていたら、とある人たちに声を掛けられ<マスター>であるならここに行った方がいいと渡された紙の場所に行ってみると、同じように左手に羽化前の<エンブリオ>を持つ人たちがいっぱいいた。

 

しばらくすると身体にいくつもの傷を付け眼光鋭い老人が現れた。この老人の名はバルタザール・グランドリアで僕たちが居るグランバロア船団の一つ海賊船団の長だそうだ。

 

彼が言うには今日この日多くの<マスター>がやってくるから、そのほとんどをしばらくは海賊船団が預かり、この世界の常識を教えるとのこと。その過程でやりたいことが見つかれば他の船団に移ってもいいと言われた。

 

理由としてはグランバロアは大海原を移動する特殊な国。好き勝手やられてはかなわないからこちらから積極的に動くことにしたそうだ。

 

僕や他の<マスター>たちもそれならばと納得してお世話になることを選んだ。

 

 

 

早速覚えたほうがいい常識の一つであるジョブについて学んだ。このゲームでは何をするにしてもジョブに就かなくては始まらない。

 

学んだあとは海賊船団の船に乗り、ジョブに就くためにクリスタルが複数ある無人島へと向かう。その道中に戦闘をまじかで目撃したが、何人かは興奮していたが少数の<マスター>はあまりのリアルさに口を隠し気持ち悪くなっていた。

 

僕はそこまでではなかったが、リアルでは荒事はおろか運動すら満足にやっていなかった僕にできるか不安になった。

 

やがて無人島に到着し、何人かの<マスター>は戦闘職に就いた。一方で戦闘に対して恐怖を抱いた者は生産職を選んでいた。

 

僕も後者である。選んだジョブは【生産者(クラフター)】 このジョブは何でも作ることが出来るジョブで多くの物を作れる代わりに特化した生産職には及ばない。しかしながら作る上で役に立つスキルを複数覚えるので、ティアンではメインよりもサブに就くことが多いジョブだ。

 

僕としてはどの生産職にしようか悩んだこともあり、このジョブで色々作って後々に特化したジョブに就こうと考えたのだ。

 

その後はグランバロアに帰還。その道中で何人かの<マスター>は<エンブリオ>が羽化して喜んでいた。僕のはまだ生まれておらず、今日この日はログアウト。

 

 

 

翌日にログインし、生産工房にていろいろな物の基本技術を学んでいると僕の<エンブリオ>が羽化した。左手には電車を模した紋章が浮かんでいる。

 

ステータスを確認したところ、僕の<エンブリオ>の名前は【冒険浪漫 オデュッセウス】 TYPE:チャリオッツ・キャッスルである。

 

ステータスを全部見る前に姿を確認したかった僕は、生産工房にある船を収めるドックに向かい、外海に出て紋章から出す。

 

そしたら海に電車が浮かんでいた。中に入ると乗り物図鑑で見た寝台列車のようであり、生活できるようになっていた。その後中から出て紋章に戻したあとステータスをすべて確認する。

 

僕へのステータス補正はMP、SP、DEXが高く他は最低値。スキルは三つあるようだ。確認しよう。

 

一つ目のスキルは《オーシャン・レーン》 波に左右されずに快適に海上を走るスキル。ただし、大荒れの海を移動する場合は僕のMPかSPを消費する。

 

二つ目のスキルは《ウェポンセット》レベルあり 僕自身が造った武装を任意の場所に設置し、敵に対して自動迎撃するスキル。ただし、設置できる数はレベル依存で僕が必ず乗っているのが前提。

 

三つ目は《ホームセキュリティ》レベルあり、【オデュッセウス】に乗れるのは僕自身と僕のパーティメンバー限定。【オデュッセウス】で寝泊まりすると僕を含めたパーティメンバーにバフが発生し、【オデュッセウス】へ攻撃した者にはデバフが発生する。

 

 

これらを確認した僕は面白いと思った。このゲームで僕は物語の主人公のように冒険をしてみたかった。しかし、昨日見た戦闘で及び腰になってしまった。

 

でも、この【オデュッセウス】となら冒険ができる。【生産者】のジョブのまま戦うことも。その後の僕は興奮を抑えることが出来ずに大声で叫んだ。



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第六十三話  戦闘力とこれから

お久しぶりです。久々の投稿となります。


  ◇  【紅蓮術師(バイロマンサー)】クロス・アクアバレー

 

 

アークが【鱗機兵 リガゾルド】と言う新戦力を手に入れてから、ゲイルを除いた俺たちはその戦闘力を見るためとアークの素材集めのために《境界山脈》周辺の岩場に来ていた。

 

なお、ゲイルがいないのは買い物のためだ。<UBM>と新たな遺跡発見の報酬を手に入れたので全身鎧と武器を探している。機械甲冑も全身鎧扱いではあるので、いくつか手に入れようと言っていた。

 

そして現在、【リガゾルド】はアークを乗せた状態で【スケイルシールド・ドラゴン】と戦っている。こいつは姿形は西洋ドラゴンだが、両腕には鱗が変化した盾のような物がくっついている。それを器用に使いこなして戦うモンスターだ。

 

そのモンスターを相手に【リガゾルド】はナイフで攻撃し、相手の攻撃には盾で防いだり器用に回避し時には自らの装甲で防御していた。

 

「結構きびきび動くな?」

「そうだね」

「あれはアークの<エンブリオ>でモンスター化した副産物だ。人が乗ったら《操縦》スキルが五以上ないとああはならないぞ」

 

俺の言葉にアキラがそう答えた。と言うことは【リガゾルド】は上級職の人が乗りこなしているくらいの実力があるってことか?

 

そうこう考えている間に【リガゾルド】がショルダータックルをかまして、相手を吹き飛ばすと同時に体勢を崩した。

 

その隙に機械甲冑たち三体がバズーカやミサイルランチャーなどで攻撃。なお彼らは【リガゾルド】のスキル《小隊編成》で組んでいる。【リガゾルド】のテストだからな。

 

さすがに高威力の銃火器の一斉攻撃に【スケイルシールド・ドラゴン】は光の粒子となった。

 

 

 

落ちていた素材を【リガゾルド】から降りたアークが拾ってちょうどいいので小休止することに。アークのぬいぐるみたちは採掘をしているが。なおアークのこだわりなのか採掘しているぬいぐるみは二足歩行のモグラさんだ。

 

「中に入って戦闘した結果はどんなもんなんだ?」

「結構いいですね。思ったほど衝撃は来なかったし、メインカメラの映像も乱れませんでした」

「良かったね」

「ええ。ただ、僕と言う弱点を乗せているので武装を中距離から遠距離武器に変更したいですね」

「今後の課題か」

「そうだね」

 

理想としては、ミサイルや機関銃なんかで重装備かね? なかなかロマンがある構成だ・・・・<叡智の三角>の趣味人たちが暴走しないといいけど。

 

「まあ、さすがに武装は僕が少しづつ造るよ。友人たちに任せると暴走しそうだし」

 

アークも気にしてた。他の二人も頷いているのから周りから見た正しい評価ってことだろうな。

 

「そういえば・・・お二人は今後どうするんですか?」

「「ん?」」

 

唐突にアークが俺とウッドに尋ねた。

 

 

 

 

  ◇  【剛弓士《ストロング・アーチャー》】ウッド・アクアバレー

 

 

アークが僕たちの今後について尋ねてきた。

 

「そうだな・・・ゲイルとも相談してからだが、一度アルター王国に帰って今度はレジェンダリアに行ってみようかと考えている」

「事前情報で不安要素はあるけどね・・・・」

「「ああ~」」

 

そろそろ一度は所属国に帰るのもありだと少し三人で話してたしね。あとは近場の国であるレジェンダリアに行くのもありだろう。

 

事前情報の変態が多いって話が不安要素だけど・・・それ以外は楽しい国みたいだし?

 

「だったらさぁ! 俺も一緒に行っていいか?」

「アキラも?」

「ああ! 他の国に入ってみたいと思ってたしな!」

「でしたら僕もいいでしょうか?」

「アークも?」

「ええ。知り合いに挨拶してからになるので結構お時間をいただくことになりますが・・・」

 

アークは商売もしてたし、ぬいぐるみたちを使った大道芸や孤児院訪問なんかもしてたと聞いたし、ティアンの知り合い多いんだろうな。

 

「駄目でしょうか?」

「「全然!」」

 

不安そうに尋ねるアークに僕と兄貴はそれをかき消すように答える。

 

「ゲイルも反対はしないだろうし、こっちも大歓迎だ」

「僕も二人が一緒だと頼もしいですよ」

 

それにさすがに三人だけでずっと旅ができるかと言われればそうでもないだろうしね。仲間が増えるのは大歓迎だ。

 

「よし! これからよろしくな!!」

「よろしくお願いします!」

「「こちらこそ」」

 

こうして僕たちに新しく仲間が二人加わった。ゲイル兄貴にも早く伝えよう。




と言うわけで、新たに二人仲間に加わります。


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第六十四話  機械式甲冑の事情

  ◇  【大盾騎士(タワーシールド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

現在俺は<叡智の三角>の一部愛好家の人から聞いた情報を頼りにとあるお店に向かっている。そのお店は<マスター>が経営している小規模クランで機械式甲冑を生産し販売しているところだ。

 

俺は機械式甲冑を買うために初めは<叡智の三角>の愛好家たちから買い取ろうとしたのだが・・・

 

「ああー・・・俺たちが造ったのは買わない方がいいぞ?」

「趣味全開で造っちまうから、癖がありすぎたりデメリットがひどかったりするしな・・・」

「数少ない高性能品は買い手がいるし・・・」

「手に入れたいのなら知り合いたちが商売してるとこがあるからそこで買った方がいい」

 

と言われて現在向っていると言うわけだ。ちなみに彼らが造った物を見せてもらったが、確かに趣味全開だったな。某機動戦士に酷似した物やマンガなので見たことがあるデザインなどなど・・・リアルでやると著作権問題が発生する物ばかりだった。

 

なのでその知り合いたちの店に向かって入るのだが・・・なかなか込み入った場所に店があるんだな? 大通りからはかなり外れているんだが?

 

そんな複雑な道を進みようやくお目当ての商会兼クラン<機構商会>へたどり着いた。早速扉を開け中に入ると・・・・

 

「おお~」

 

そこに並べられていたのは武骨ながら丁寧に作られているのが一目でわかる機械甲冑に、それ専用の武器だと思う機械式の武器が壁に飾られていた。

 

「これはなかなかに男心をくすぐるな?」

「そうだろうそうだろう」

 

俺のつぶやきにカウンターで店番をしている男性が頷きながら声を掛けてきた。

 

「ようこそ。 <機構商会>へ。 見たところ武器と言うよりは機械式甲冑をお求めかな?」

「ああ、そうなんだ。」

「誰かの紹介状とかはあるか? あれば多少はサービスしてやれるぜ」

「これを」

 

俺は<叡智の三角>の愛好家たちからもらった封筒を渡す。

 

「ほう? あいつらからの紹介状か。まぁ、あいつらはほとんどが趣味人で造りたい物を造るって連中だからな」

「ははは・・・」

 

店の人の的確過ぎるコメントに俺は苦笑いするしかなかった。

 

「ぬ? お前さん<エンブリオ>が機械式甲冑なのか?」

「ええそう」

「「「なんだって!!」」」

「です?」

 

店の人の質問に答えるとカウンターの奥から声が重なって聞こえた。その後に店の<マスター>が三人ほど勢いよくやって来て・・・・

 

「ど、どんな<エンブリオ>なんだ!?」

「ここで見せてくれないか!」

「頼む!」

「な、なんだ!?」

 

さすがにこんな事態を予想していなかったので、困惑しどうすればいいかわからなくなる。

 

「やめんか!!」

パパパパーン!!!

「「「あたー!!」」」

 

そんな事態をさきほどまで対応していた人がいつの間にか装備したピコピコハンマーに酷似した機械式金づちを三人に喰らわす・・・なぜ、ピコピコハンマー?

 

「興味があるのはわかったが、客に迷惑をかけるなたわけども!」

「「「オーナー!!」」」

「ん? 手加減してもわからんらしいな?」

「「「すいませんでした!!」」」

「謝る相手が違う」

 

そんな一幕があり三人は俺に正式に謝罪。俺もこれを受け入れる。

 

「全く。すまんな客人? うちのメンバーが迷惑をかけた」

「いえ、ちゃんと謝ってもらいましたし」

「それでも迷惑をかけたのは事実だ。今回の買い物にもサービスする。それとだな・・・すまんがお前さんの<エンブリオ>を見せてもらえんだろうか? こいつらが興味持っちまったしな」

「いいですよ」

 

オーナーと呼ばれた人の案内で店の裏手にある庭で俺は【ポルックス】を見せることに。

 

「ほうほう? これはなかなか」

「シンプルな外見だが、なるほど関節部の可動域はこれくらいでも・・・」

「ふむ。上半身のバランスはこれでもいいのか。下半身のバランスはどんな感じだ?」

 

三人が結構じろじろと【ポルックス】を観察している。<エンブリオ>だけど生産職から見たら別の視点があるのかねぇ?

 

「<エンブリオ>で機械式甲冑っていうのはドライフでも珍しいからな。多いのは機械式のチャリオッツやガードナーだからな」

「へぇ~」

「数少ない機械式甲冑の<エンブリオ>持ちはもうお得意様がいるから、俺たちが見る機会なんぞほぼない。とある事情でティアンが造った機械式甲冑も見れないからな」

「そうなんですか?」

「ん? あいつらから聞いていないか?」

 

そう言うと<機構商会>のオーナーは話し始めた。なんでもこれまでドライフは戦車型のマシンギアであるガイストと機械式甲冑型のマーシャルの二枚看板を戦力としていた。

 

ところが<叡智の三角>がロボット型の《マーシャルⅡ》を創って機械式甲冑型の活躍の場を奪ってしまった。

 

単体としての戦力は亜竜クラスである《マーシャルⅡ》が上であり、【操縦士】のジョブスキルでさらに戦闘力も上がる。

 

一方の機械式甲冑型は戦闘力が個人の力に左右され、ドライフにおいてもそれを強化できる【機械兵士】や【機構兵士】のジョブへの適正は【操縦士】より少ない。

 

そのせいで現在の国として戦力はロボット型である《マーシャルⅡ》に移行している。戦車型の方はまだまだ現役だが、機械式甲冑の方は生産が大幅に減らされているのだ。

 

だが、そんな状況を黙っていられない人もいる。これまで国で機械式甲冑を造ってきた生産職及び機械式甲冑で前線で戦っていた人々。要はティアンの人たちだ。

 

そう言う人たちからしたら<マスター>と言うだけで、自分たちの仕事や活躍の場を奪った者たちの同類と言うことになるのだ。

 

「そんなわけで俺たちも機械式甲冑を造ってはいてもティアンの人たちからしたら恨みの対象なわけだ」

「だからこんな目立たない場所に店を?」

「別の奴らが大通りに店を構えたら、露骨な営業妨害をされたからな」

 

そこまでかと思った。

 

「まぁ、こんな話は置いておいてそろそろ商談を進めるとしよう」

 

そう言うと彼は【ポルックス】を見ていたメンバーを急かして、ここから商談をすることになった。

 

 

彼らが造った機械式甲冑を中庭に並べられ、俺はその中から二つを選んで購入。お値段は二つで120万リルだ。性能はこちら。

 

 

 

 

  【騎士式機械甲冑 ホワイトアウト】

  とある<マスター>が造った機械式甲冑。

  防御能力を底上げする。

 

  装備補正

 

  防御力+860

  斬撃耐性

  刺突耐性

  打撃耐性

 

  装備スキル

 

  《属性耐性Lv3》

  《物理ダメージ軽減Lv3》

 

  ※装備制限  合計Lv450以上

 

 

 

  【騎士式機械甲冑 ブラックジャック】

  とある<マスター>が造った機械式甲冑

  攻撃能力を底上げする

 

  装備補正

 

  防御力+820

  STR+10%

  AGI+5%

 

  装備スキル

 

  《機械武器能力向上Lv2》

  《剛力Lv2》

  《疾風Lv2》

 

  ※装備制限  合計Lv440以上

 

 

見た目は白騎士に黒騎士と言った西洋風の機械式甲冑だ。なんでもこれを造ったメンバーは今はログインしていないそうだが、一昔前のゲームにこんな感じのロボットが出てきたので参考にし自分なりのオリジナリティ―を追加したそうだ。

 

《剛力》と《疾風》は最終的な攻撃力と速さを底上げするスキルだ。数値的には微々たるものだそうだがあるとないとでは違うだろうしな? なかなかいい買い物ができたし、オーナーさんや他のメンバーも商品が売れたのを喜んでいた。



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第六十五話  イベントの招待券

いろいろあって遅れました・・・


  ◇  【剛弓士(ストロングアーチャー)】ウッド・アクアバレー

 

 

ゲイル兄貴がいい買い物をしてからリアルでは六日経ち、デンドロ内では三日が過ぎようとしていた。その間に僕たち三兄弟はそろそろレベルが500に達するので最後の追い上げの狩りに。アキラとアークは知り合いたちに国を出るので挨拶に回ってる。

 

現在は倒した直後のボス級モンスターである大きな牛の【バーサーク・バッファロー】を倒してその宝櫃を開けるところだ。

 

「さて? 何が入っているだろうな?」

 

代表としてクロス兄貴が開けるが中に入っていたのはライブチケットに酷似している三枚の紙きれだった。三人が頭の上に疑問符を浮かべるが、それを手に取り詳細を確認すると・・・・

 

 

 

 【トレジャーイベント参加権】:

運営主催の特別イベント宝探しへの参加権。

 

 

 

その他に日本時間と日付が書かれており、その時にログインしているとイベント会場へ転送してくれるらしい。

 

「運営のイベント?」

「掲示板で見たことがあるな。時々ボスクラスの宝櫃や《神造ダンジョン》の宝箱からこの手の物が見つかるって」

『ああ、俺もデンドロ内で聞いたことがある』

 

クロス兄貴とゲイル兄貴は知っているようだ。詳しく聞いてみると運営が用意した突発的なイベントの参加権とのこと。

 

「つまり、俺たちはそのイベントに参加できると?」

「そう言うことだな」

『ちょうどいいな。今回の狩りでカンストするし、<マスター>だけのイベントなら俺たちが今の時点でどこまで強いのかわかるぞ』

 

ゲイル兄貴の言葉を聞いて僕も考える。確かに<マスター>だけのイベントならティアンが巻き込まれる事も負けられない戦いでもない。本当にゲーム感覚で楽しめるし確かめられる。

 

「どういうルールのイベントなのかはわからんのが不安要素だが、楽しみではあるな」

「そうだね!」

 

その後の僕たちは狩りを続けて見事カンストになった。それから街へと戻りアキラとアークに報告し、二人も喜んだ。アキラは自分は参加できないのが悔しそうだったけど。

 

彼らのあいさつ回りはまだまだ終わらないようだし、そう言う意味でもいい時間つぶしと言える。とりあえず僕たち三兄弟はイベントの準備をすることに。

 

 

 

 

  ▼  とある謎空間

 

 

 

ここはどこか定かではない謎の空間。そこには二足歩行でベストを着込んだ猫と顔がそっくり同じの男女がいる。

 

 

「今回のイベントの参加者はーこのメンバーでいいかなー?」

「ああ、問題ないだろう」

「ふふ~ん♪ 主な参加者は第六形態の<マスター>で~何人かに同僚が注目している子を選んだよ~」

 

二足歩行の猫は管理AIであるチェシャ。そして双子であろう男女はイベント担当の管理AI。名前を男の方がトゥイードルダムで女の方はトゥイードルディーという。

 

「ちなみになんだけどーこの三兄弟を選んだ理由はー?」

 

チェシャは自分が注目している三兄弟がこのイベントに選ばれた理由を知りたくて双子に質問した。

 

「同僚が複数人注目していると言うことが一つ」

「もう一つは~この三兄弟のうちの一人が超級職の条件をクリアしそうだから~」

「超級職を得る過程で進化が早まるかもしれない。また、他の二人の刺激になりえるから」

 

理由を聞いてチェシャは安心した。理由が至極まともな自分たちの目的にもマッチしている物だったからだ。

 

「三兄弟の理由は納得したー。でもさ・・・この三人はやりすぎじゃないー?」

 

チェシャは他の参加者である三人にも言及した。なぜならその三人は実力が他の参加者と比較しても差がありすぎるし、何よりそのうちの二人はいろいろと規格外な二人だからだ。

 

「それは見解の相違だ」

「今回のイベントは~別に戦いを強制するようなものじゃないし~でもでも~あまり戦ってくれないと困るから~そのための起爆剤として選んだの~」

「起爆剤と言うのは理解できるよー。でもねぇ~? もっと他に適任者がいたんじゃないー?」

「確かに能力的に他に適任者は何人かいた。それでも我々の目的を考えた結果、この三人が適していると判断した」

 

トゥイードルダムの発言を受けてチェシャは何も言えなくなってしまった。確かに自分たちの目的を考えたらこの三人が起爆剤としては適しているだろう。

 

「戦って勝てれば~大金が手に入るからね~♪ まぁ・・・できるかどうかは別問題だけど~」

「それでも何人かは挑戦すると予想している。賞金首の犯罪者討伐を」

 

そうこのイベントにはとある犯罪者の<マスター>三人が参加するのだ。

 

(大丈夫かな~・・・・)

 

目的は理解しているし納得したチェシャではあるがどことなく不安が頭をよぎった・・・・

 

 

 

 

  ■  とある<マスター>たち

 

 

 

ここは人が近寄ることを恐れている秘境のさらに奥地。ティアンはおろか<マスター>でもどのようなモンスターが現れるか全く予想できないため、人影は見当たらない。

 

しかし・・・逆を言えば人が全くいない場所であるので人との接触を避けたい者たちにはうってつけの場所と言える。

 

そんな場所に人影が現れた。三人組で二人はその影の形から大人のようだ。もう一人はかなり小さく子供と予想する。

 

「それで・・・このイベントには参加すると言うことでいいのか?」

「はい。せっかく手に入れたので物は試しと言うことで」

 

人影は言葉を発し、その姿をあらわにした。一人はなんというかマフィアの幹部かと言うような足まで届くスーツジャケットと長いマフラーを首に掛け、ギャングハットをかぶっている男。

 

もう一人は前者の男と比べると特徴がない男だった。しいて特徴を上げるのなら黒ぶち眼鏡を上げるくらいだ。

 

「まぁ・・・確かにな。暇つぶしにはなるだろう」

「宝探しですし、この私はともかくあなたには有益かもしれませんよ?」

「少しは期待するさ」

 

そう言うスーツの男は言葉とは裏腹に全く期待していないようだった。

 

「ねぇねぇ? このイベンチョ? 参加するの?」

 

そこで子供が口を開く。下っ足らずな言葉を口にしたその子はピアノの発表会にでも行くかのようなフリフリの真っ赤なドレスを着ていた。

 

「ああ、そうなる」

「そっか~! たのしみ!」

 

スーツの男の言葉に服装から少女と言うべきドレスの子は楽しくて仕方がない笑顔で答えた。

 

『『『『SYAー!』』』』

 

そんな場面で場違いにも四つの頭を持つ多頭蛇であるヒュドラが襲い掛かった。そのモンスターは【グラトニー・ヒュドラ】と呼ばれるヒュドラで常に獲物を探して、見つけるとどんな者でも食い散らかす危険モンスターだ。

 

しかし・・・相手が悪かった。

 

「マイナス」

 

襲い掛かったヒュドラはつぶやいた少女によって、一瞬で細切れにされ宝櫃を残して消えた。

 

「わぁ! また宝箱でた!!」

 

その宝櫃をまるで自分が倒したことを知らないように少女は無邪気に喜ぶ。

 

「やれやれ何度目だ」

「ここは彼女が忙しくて、なかなか休めませんね」

「最悪、俺かあんたが森ごと消すか?」

「それは最終手段ですね」

 

そのことに関して二人の男はごく当たり前のように受け入れた。そうして彼らはさらに森の深いところを行く。




原作呼んでいる読者の皆様なら最後の三人はバレバレだろうなw


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第六十六話  イベント内容

今年はいろいろあって疲れます・・・


  ◇  【紋章剣士(ルーン・ソードマン)】クロス・アクアバレー

 

 

何日かしてイベント当日になる。俺たちは速い時間にドライフ首都のセーブポイントに集合していた。今日を迎えるまでの狩りで俺たちもとうとうカンストになり、上級者と言ってもいいだろう。

 

狩りで消費した回復アイテムなどを補充して、現在はイベント開始時間を待っている。周りを見ると少ないが何やら準備万端な様子で何かを待っているパーティや個人がいる。

 

「少ないがイベント参加者らしき<マスター>がいるな?」

「結構大規模なのかな? 今回のイベント」

『だとすると内容次第だが大変そうだな・・・・』

 

ゲイルの発言に俺も頷く。イベント内容は転送されてから明かされるようだが、宝探しだから戦いを強制するようなものではないはずだ。などと考えていたらイベント時刻となり、俺たちは転送された。

 

 

転送された直後の俺の視界に映ったのは目に優しい白い空間だった。俺たち以外にも次々と転送されている。

 

「ここがイベントの場所なのか?」

「さすがに違うんじゃない?」

『ただの説明場所かもな。イベントの説明をしてから別の場所に転送って流じゃないか?』

 

ゲイルの言葉に納得する。確かにその方が段取り的に難しくなさそうだ。そんな会話をしていると全員転送されたらしく、辺りが薄暗くなり一か所にスポットライトが照らされる。

 

「は~い。イベント参加者全員の転送を確認いたしました~。これより今回のイベントの説明を始めたいと思います~」

 

なんて声が響いた瞬間、スポットライトが照らされた場所に二足歩行のベストを着ている猫が現れた。あれってゲイルから聞いたチェシャって名前の管理AIか?

 

 

「なお~今回のイベントの説明をさせていただきます管理AI13号のチェシャと言います~ほとんどの方はお会いしていますが、初めての方もいますのでまずは自己紹介~。よろしく~」

 

そう言って軽い感じて器用に前足?を振っているチェシャ。その姿に何人かの<マスター>がスクショを撮っているようだ。

 

「さて。これからイベントの説明をしますので~静粛にお願いします~」

 

そう言うとさきほどまでのスクショのシャッター音が止む。一幕待ってチェシャは笑顔を浮かべて語りだす。

 

「まずー今回のイベントはー宝探しですー。なので戦闘を必ずするわけではありませんー」

 

最初の一言に何人かの<マスター>がガッツポーズをしたり、露骨にほっとしている。戦闘には自信がない生産職や支援職の人かね?

 

「それを前提としましてーこちらの映像に注目ー」

 

チェシャが前足?を振るとその頭上にホログラムの映像が映し出された。そこに映っていたのは結構広めの島で山あり森あり海岸ありとなかなか探索し甲斐がありそうだ。

 

「こちらが今回のイベント会場となりまーす。島の上空600メテル、島から30メテルが範囲とさせてもらいまーす。その範囲外は封鎖しておりますので、出られませーん」

 

ふむ? 範囲外から出たら失格と言うわけではないと。一昔前の対戦ゲームの画面端みたいな感じなのかね。

 

「その範囲内にたくさんの【宝櫃】が隠されてありまーす。また、今回のイベント用にモンスターも特別に用意してありますので、かなりレアなアイテムが手に入る【宝櫃】が落ちる仕様でーす」

 

その言葉に何人かの<マスター>の気配が変わる。これは戦闘に自信がある<マスター>だろう。

 

「そしてこれからの説明がイベントの本題! これらの【宝櫃】にはランクがありまーす。具体的に言えば銅級、銀級、金級にイベント内に3つしかない伝説級。前者はわかりやすい色をしており、伝説級は虹色でーす」

 

「これらの【宝櫃】はポイントがありまして、イベント終了時間である零時を迎えた時にもっともポイントが多い上位三人には別のアイテムが贈与されまーす」

 

ほうほう? なかなか大盤振る舞いだな。とは言えここまではいい話しかないからそろそろデメリットの話だろう。

 

「ここからはイベントの注意事項ー! 最後のランキングは個人でのポイントですのでパーティを組んでいてもポイント共有されませーん」

 

この説明に落胆するのはパーティで参加している<マスター>たち。俺たちは個人で競う話が出れば恨みっこなしだと事前に話している。まぁ、話を聞いた限りパーティを組んでも問題ないようだが。

 

「それと、このイベント中にデスペナになってもペナルティは発生しませーん。ただしー! 倒された人はその時点でイベント終了でーす。 ポイントはなくなりませんから安心してくださーい。 倒した人にポイントがプラスされることもありませーん」

 

それなら一安心なんてことはない。ポイントは変動しなくても倒した人はその瞬間に終わりだと最後のランキングにもろに影響するだろう。極端な話一人だけ残れば確実にレアなアイテムが手に入るのだから。

 

「最後にイベントが開始したら全員がランダムな島の場所に転送しまーす。他の人とは離れて転送されるので転送直後に目の前に<マスター>がいることはありませーん」

 

つまりモンスターが居ることはあるんだな。

 

「これにて説明は以上でーす。では五分後に転送を開始しまーす。それまでに準備してねー」

 

そう言ってチェシャは消えて、代わりにカウントダウンの映像が流れる。周囲の明るさも戻る。

 

「どうする? 個人で頑張る? それともパーティでやる?」

「別にパーティでやっても問題ないだろう。誰がレアなアイテム手に入れても俺たちにデメリットなんてないしな」

『まぁ、手に入れるアイテムにもよるだろうが、使えないなら売ればいいしな』

 

それに俺たちはパーティ組んで頑張ってたわけだしな。今更個人で何とかしようとしてもいい結果になるとは思えん。

 

「じゃあ、転送したらまずは合流を目指す?」

『それがいいだろうな』

「合流場所はそうだな・・・島の中心に近い山の頂上でいいか?」

 

俺の言葉に全員が頷く。その後は持ち物を点検しカウントダウンが零になり、俺たちは転送される。

 

 

 

 

 

  ◇  【重厚騎士(ソリッド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

 

転送された俺の目に移ったのは海岸だった。どうやら島の外側に転送されたようだ。

 

『とりあえず・・・《喚起(コール)》リオン』

 

足下が砂場ではなかったので俺の相棒であるリオンを呼びだす。

 

『BURU!』

『ひとまずは合流地点を目指すか』

 

呼び出したリオンを軽く撫でた後に騎乗し、騎乗時のメインウェポンである【スパイドロン】と一般的な普通の盾を装備する。盾の方は防御力が高いだけのものだ。

 

そのまま俺とリオンは島の中心部の山に向かう。途中で【宝櫃】を探そうとも考えたが、それよりも合流を優先しようと思いなおした。

 

幸い中心部の山はこの島で一番高い。<マスター>とモンスターに出会わなければすぐに辿り着けるだろう。

 

『なんてことはさすがに望み薄だろうな!』

 

俺はリオンに方向転換を指示し、リオンはすぐに従ってくれた。その直後にもともとの進路上を何かが高速で通り過ぎる

 

『GAAAA!』

 

通り過ぎたのはワイバーンに酷似した飛竜だ。接近には俺の《気配察知》スキルが反応していたので分かった。そのワイバーンの名称は【ブラスト・ワイバーン】

 

『早速か・・・リオンやれるな?』

『BURU!』

 

俺の言葉にリオンはしっかりと頷く。そんな俺たちの後ろの上空をしっかりと追跡する【ワイバーン】 そんな奴に方向転換した俺とリオンは正面から戦いを挑む!

 

『GA!』

 

その姿に頭に来たのか【ワイバーン】は速度を上げて俺たちへと突撃してくる。それを確認した俺はスキルを発動する。

 

『《アーマー・チャージ》!』

 

スキルを発動した瞬間、リオンのスピードが一段上がり急加速した。さらに【スパイドロン】のスキル効果で俺たちを纏う電光も輝きを増す。

 

その加速に対応できなくて、【ワイバーン】は跡形もなく吹き飛んだ。

 

 

《アーマー・チャージ》は【重騎士】で覚える騎乗時用のアクティブスキル。スキル内容は「防御力の半分を最終速度に上乗せする」シンプルなスキル。だが、俺の防御力は結構高いので案外馬鹿にできない。

 

それが【スパイドロン】のパッシブスキルである《ハイスピード・サンダーブレイク》とのコンボで結構な攻撃力を発揮する。俺は戦利品である銀色の【宝櫃】を回収して考える。

 

(銀色の【宝櫃】を持っているモンスターでこのレベルか。金色と虹色のレベルが隔絶しているのかでモンスターを探すか、隠された【宝櫃】を探すかに分かれそうだな)

 

多分だが、虹色である伝説級はもしかしたら<UBM>クラスの可能性がある。下手したら本当に<UBM>かもしれないが。

 

(あるいは虹色を手に入れるためには<UBM>を倒す必要ありとか? 何にせよ合流が優先か)

 

などと考えているとリオンが何やら反応し、とある岩陰を気にしだした。またモンスターかと身構えたが・・・

 

「うう~らしゅかる~どこ~」

 

そんな下っ足らずな言葉をつぶやいたのは赤いフリフリのドレスを着ている幼女が岩陰から現れた。



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