ゾルディック家の喰種 (政田正彦)
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1
転生した理由は明らかだった。
いつものように容赦無く訪れた朝、いつものように駅のホームで電車を待っていた時、ふと思ってしまったのだ。
あ、ここで一歩踏み出せば、もうあそこに行かなくて済むかも、と。
まるで転がり落ちるかのように、僕は気づけばホームの下の線路で莠コ髢薙□縺」縺溽黄になっていた。
そして、僕は次の瞬間、見知らぬ家の見知らぬ家族に囲まれ、見知らぬ場所で目が覚めた。
それは傍から見れば、”ゾルディック家の第一子の誕生の瞬間”だったようだが、僕がそれを知るのは、これよりずっと後、物心が追いついた後……よりも更に後になってからだ。
物心が着いた、僕が”僕”としてキチンと自分を認識出来るようになって初めて目にしたのは、牢獄だった。
体中がギシギシと軋む。あまりに身体が不自由だったので、鎖にでも繋がれているのかと思ったほどだったが、どうやら単にダメージを受けすぎて、というか、死にかけて、動けなくなっているだけに過ぎないようだ。
目覚めてすぐ「ああ、ここが地獄なんだ」と思ってしまったのも、無理はないと思う。
そうして最早痛みすら感じない、ただただ不自由だけが与えられた時間が過ぎていき、声すら出せないと知り、どうしようも無いと諦め、何分かした後になって、牢獄の前に誰かが来た。
それは逆光で顔やどんな姿をしているかがハッキリとは見えなかったものの、とてつもない偉丈夫で、ウェーブのかかった銀色に光る長い髪と、微かに、鋭く、冷たい目線だけが見て取れた。
見てすぐ、”鬼”だ、と僕は思った。
その鬼こそが僕の父親である、シルバ=ゾルディックであると知ったのは、更に更に後になってからだ。
鬼は自分で動くに動けない僕の右足をむんずと掴み上げると、僕は鬼の手にぶらぶらと宙ぶらりん状態になり、鬼はそのまま僕を牢獄からどこか別の場所へと、移動し始めた。
床に鼻血やら涙やらが廊下にポツポツと跡を作るのを見ながら、僕は、これからこの鬼に一体何をされるのか、という恐怖に怯えて、だが動く気配の無い身体を必死になって動かそうとして……何もできず、ただ恐怖を受け入れた。
そして、実際に鬼が僕に対して行った行為は、僕が考えていた”いかにも鬼がやりそうな残虐そうな事”の、何万倍も残虐で、熾烈で、苛烈であった。
僕がこの時行われた
最初に、あまりの痛みに鈍化した痛覚を”無理矢理活性化させる”劇薬を注射され、直後身体を襲った壮絶な痛みに、絶叫を上げようとした所までは覚えている。
そして、その状態でいくつかの拷問が行われる。
爪を剥がされたりだとか、指を折られたりだとか、毒を盛られたりだとか、焼かれたりだとか……。
そういうのを、何度も、何度も……。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もなんどもなんどもなんどもなんどもナンドモナンドモナンドモナンドモナンドデモ
そして最後には生前でも見た事が無い程巨大なムカデのような多足類の何かを口から突っ込まれ、体内でそれがウゾウゾと蠢き、ブチブチと噛みちぎって行く感触を、これでもかと味わいながら……腹を突き破ったソイツがぼちゃりと血溜まりに落ちたのを最後に、
それから何日?何時間……?かに分けて、何度も拷問を受けた。
僕はそれを地獄の拷問か何かだと思い込んでいたから……泣いて謝った。
死んで楽になろうとした事。
色々と、置いてきてしまった事。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。許して下さい。許せ。許せよ。もう許してくれ。許してくれ。
それから何度か同じような拷問を受けながら、僕は痛みから逃げるように意識を手放そうとして、空虚になった頭でふと「なんでこんな目に遭っているんだ?」と、漠然とした疑問が湧いてきた。
激痛に耐えながら……僕は自分を苦しめている鬼を見た。
彼は何だか……何故かは良く分からないが、僕を拷問して、とても……それはそれは
僕がこうして拷問されている事を、ではなく、それによって得られる、あるいは理解出来る何かに対して喜んでいるようだ、と気付いたのは、五回目になる拷問になってからだ。
どうしてそんなに l
……ああ、違う、そうじゃない。それは僕がこうなっている理由じゃない。そんなの、どうだっていい。
僕がこうなっている、理由、なんだ?
何が理由でこんな酷い目に。
あ、そういや前に読んだ漫画でこう言ってたっけな……。
なんだっけ、こういうの……確か……そうだ、アレだ。
「この世の全ての不利益は当人の能力不足。」
これは、
彼は、伝説の暗殺一家と名高いゾルディック家の一員であるという特殊な生まれとはまた別に……それこそ、天が彼に与えたとしか考えられないような、天性の才能を持っていた。
「なんだ……!?このオーラは!?」
「トルイ様!?」
彼がまだ、物心もついていない幼子だった頃、彼の祖父ゼノと父シルバ、そして彼の警護にあたっていた使用人達は、彼の身体から絶えず溢れる
オーラとは、通常の人間には見えない……念能力と呼ばれる特殊な技術を身につけていなければ、感知することも視覚する事も出来ないエネルギーのようなもの。
本来彼のような幼子が念能力を修めているハズも無い。ただただ体から空気に溶けるように放出されていくだけで留めることすら不可能なはずである。
それが、いつからか、黒々としたオーラを発するようになっていたのだ。
まるで死神でも憑いているのかと思うほどに真っ黒なのに、悪意や殺意といったものは一切乗っていない、乗っているはずもない、ただただ真っ黒なだけのオーラがただの幼子から発せられていたのである。
初めは何らかの念能力による攻撃を疑った程だ。なにせ暗殺一家であるからして、命を狙われる何て事は往々にしてありえるどころか日常茶飯事であったし、ゾルディック家に新たな暗殺者の一族の血を宿す者が増える事を望まない者も居るだろう。
だが誰がどう見たって、オーラの発生源はトルイだった。
流石のゾルディック家の一族と言えど、これには大いに動揺した。
オーラが黒い。それだけならまだしも、量が異常であった。
まだトテトテ、とぎこちなさが残る歩き方しか出来ないような幼子、体重にして15.7kg、たったそれだけの体積でありながら、並みの念能力者に迫ろうかという程の、驚愕という言葉でも足りない程のオーラの総量。
祖父と父は、それを見て、トルイには天性の殺しの才能がある、と、当時たった二歳の子供に期待を寄せたが、肝心のトルイはと言えば、なんと自分の醜悪なオーラで自分自身を傷つけてしまう、という一歩間違えれば死ぬかもしれなかった事故を起こしてしまう。
生命のエネルギーたるオーラは、ただ体から流れ出ていくだけのそれに物理的な攻撃力なんてものは一切無い。
だが、オーラに何らかの意思を乗せて発したりするだけで、常人ならば十分に恐怖を与えることが可能……そしてトルイの場合、そのオーラによって自分が傷つけられたと錯覚し、思い込み、それが刷り込みのような効果で本当にダメージを受けてしまうのだろう、というものだった。
これが成熟し精神力のある者であれば、流石に話は別だっただろうが……。
彼のオーラはどんな念能力者が見ても異常な程ドス黒く、そんなものが常時彼の体から放出されているとしたら、そして彼がまだ自我も芽生えきっていない幼子であれば、こうなってしまうのも仕方ない事かもしれない。
ゾルディック家はすぐに彼のために医師を手配し、緊急的に処置を施した。
一応死を回避することには成功し、最終的に、体のありとあらゆる場所に青あざのような物ができたり、ドス黒い血が鼻や耳から吹き出したりと、見るも無残な姿になっていた。
彼が物心ついた時に身体が言うことを聞かなかった理由である。
彼が牢獄だと思ったそれは、ゾルディック家が彼のために用意した特製の檻であり、本来は誰か、あるいは魔獣等を収容する為に作られた物であり、業者からも「暗殺一家と呼ばれる君達が何に使うつもりなんだ?」と首を傾げられてしまった。
だが、無論ただの檻ではない。檻には“オーラを沈静化させる”という神字が書かれており、対念能力者用に開発された物であり、並の念能力者であればこの中では殆ど無力と化してしまうという優れモノだ。
……まぁゾルディック家がターゲットとするような強者達には、100歩譲って拘束に成功しこの中に入れたとしてもあまり効果は成さないだろう、という程度の脆弱なものでしかないのだが。
ともかく、この中ならば自分のオーラで傷つけられることは無いだろう、とトルイをこの檻の中に入れた。すると、数分したあたりでトルイの気配が段々薄れていき、オーラも小さく萎んでいく。
シルバは、まさか死んだのかと不安に思いながら檻の中に入り、ちゃんと鼓動しているか見るつもりで、彼の体を見た。
外からだと遮光でよく見えなかったが……驚いたことに、先程まで彼の体を傷つけていたオーラが、今度は彼の身体の傷を癒しているではないか。
念能力には、【絶】という精孔を閉じ、オーラが全く出ていない状態にする事で、回復力を上げたり、疲労を回復を早める効果があるが、ここまで極端に早いのは……初めてではないにしろ、この歳で言えば異常なのは変わりなかった。
トルイはオーラの総量が凄まじいだけではなく、適応力にも優れているのでは?とシルバは推測し……そして、「こいつなら俺の後を継げる優秀な暗殺者にも成れるかもしれない」等と考えてしまったのだ。
それこそが、トルイにとっての悲劇の始まりであった。
まず、オーラで傷の治りが早くなるようなので、オーラの溢れ出す穴「精孔」を刺激する”劇薬”を使用し、強引に怪我を早く治すことにした。
無論そんな事をすれば事故でズタズタになった身体はせっかく治り始めた所もズタズタになる訳だが、これは一刻も早く彼が彼自身のオーラに
それだけの適応力が彼にはあるはずだ、とも考え、そして幸いにも、あるいは不幸にも、シルバの思惑通り、彼の体は最初こそズタズタになったが、最終的には元通りにしてみせた。
シルバはそんな彼を見ながら、ある決断を下す。
「トルイに暗殺者としての
それは聞く人が聞けばなんて残酷なことを言うんだ、と捉えられる、当時二歳九ヶ月程度の幼子に下された、あまりにも残酷過ぎる決定だった。
……いや、元々こうなる予定ではあったのだ。
ゾルディック家の一員として生まれたのだから、それ相応の訓練をする必要があるが、それを始めるのは5~7歳程度から。あまりにも苛烈な訓練に、体が耐え切る事が出来ないという理由である。
だが彼のように優れた回復力を持っているなら話は別だ。
これほどの才能ならば早いうちに。まだ自我も芽生えきっていない今のうちに。まだ発芽さえしていない天才の種に暗殺者としての素養と教育を施せば、一般的に少年と呼ばれる年代ぐらいになれば、即戦力に成り得るかもしれない。
……最後のは流石に誇張し過ぎかもしれないが、誰だって我が子が可愛い。可愛くて仕方がない。だから突然魅せられた驚くべき才能にシルバが自分でも驚く程酔ってしまうのも無理はない。
全てはトルイが立派な暗殺者になるために。
一枚一枚爪を引き剥がすのも。ざらざらした砂鉄を強引に塗りこんで肌をボロボロにするのも。毒虫を体の中にブチ込むのも。電流を流すのも。
最初のは痛みに対する訓練、次に皮膚を丈夫にする為、次に毒に対する耐性を得るため、次に電流に対する耐性を得る為。
「これにも耐え切るとは……フフ、我が息子ながら先が楽しみだよ」
他にも様々な……シルバが思いつく限りの方法でトルイを虐め抜いた。
それも、全てはトルイが立派な暗殺者になるため。
伝説の暗殺一家と名高いゾルディック家の一族、シルバがトルイに与えた、あまりにも歪んだ愛の形である。
彼がその地獄から解放されるのは、彼が7歳の時だった。
解放されるといっても訓練が終わったというわけではない。
だが、トルイ自身の様子が始めの頃とはだいぶ変わってきたのだ。
まず、度重なる訓練によって得た彼の腕力を前に、最早鎖は意味を成さないので外してある。代わりに、逆らうと神経が鋭敏になり痛覚が普段の何倍以上にも感じられるようになる劇薬が注射される、彼を飼い慣らす為の首輪がつけてある。
それも初めはただの毒薬だったり神経毒だったりしたのだが……適応して耐性を得てしまいあまり効かなくなってしまったので、これが36種類目の劇薬である。
また、今回のこれによっては、彼の神経が薬を使っていない状態でも、常人の何倍も鋭敏な感覚を手に入れることになったが、まぁ、これも彼の才能が成す業だろう。
そして、精神的にもだいぶこの訓練に慣れてきた。
というのも、掃除をしていた使用人の話しぶりから、自分に地獄を見せている鬼が自分の父親であると知ったりだとか、自分達がゾルディック家という名の暗殺一家であること。
その訓練のために、あらゆる方法で死ななくなるための物であるだとか、そしてそんなゾルディック家の中でも、”ここまでやって”死なない自分には、才能というものがあるらしい、と知ったためである。
更に、この地獄を受け続けた事で、人間離れしたスペックを手に入れたのも事実。
意図的に絶叫を上げないようにしたことで喉が治って話せるようになってからは「この世の全ての不利益は当人の能力不足だ」が口癖の彼にとってはこれは喜ばしい事だった。
強ければ、奪われない。侵されず冒されず犯される事がなくなる。
その為なら、いくらか方法が歪んでいようと構わない。
彼はそう思い込む事で、日々の過酷な訓練から精神を護る事に成功していた。
「さあ、今日も始めるぞ、トルイ」
「……はい!お父様!」
そして、そういった事情とは別に、父に自分に対して悪意があるわけではないと知ってからは、いくらか気分が楽になった。
まあ何度か趣向を変えて精神的に追い詰められたりもしたけれど、それも自分の精神力を強くするためなんだと知ったら、耐え切ることができた。
……まぁ、もう
7歳でここまで仕上がったのは、一重にシルバの訓練の技術とトルイの並々ならぬ才能と執念が見せた業だった。
そして更に3年が経過し、彼が10歳になると、ようやく訓練も終盤に差し掛かり、シルバが彼の幼い頃から懸念していた、あの黒いオーラを自分のものにさせるため、本格的に念能力の修行を始めることとなった。
まずは、オーラを出し入れできるようにならなければいけないのだが……方法は基本的に2つある。
まず、他の念能力者によってオーラをぶつけられる事で、体の精孔を刺激し、強引に目覚めさせるという方法。
これは場合によっては死ぬ危険性があるし、特にトルイのような特殊なオーラを持った者である場合その危険性は倍以上に跳ね上がる。
ここまできて事故死はシルバ的にも父親的にも勘弁して欲しい所だ。
次に、とにかく座禅や瞑想でオーラの流れを体感しながらゆっくりと開花していくという方法だ。これならば、基本的に危険らしい危険は少ないと言えるだろう。
そうして、オーラがどういうものであるか、といった基本的な知識と、お前に限ってはオーラ自体が少し特殊である為後者の方法をとるといった事を伝え、珍しく、数年ぶりに彼の首輪を外した。
首輪が外され自由になったトルイは、逃げ出すことを考えもせず、大人しく念能力を手に入れるために修行することにした。
とはいえ、どんなに才能があったとしても、ものの数日で身につけられるようなものではない。長ければ数年かかっても身につけられないようなものも存在する。
まぁ彼の才能を鑑みるに一ヶ月もかからないだろう、とシルバは考え、ひとまずは、決して音の届くことのない防音状態かつ光の届くことのない密室で彼を放置することにした。
本当の本当に珍しく、訓練で不快感を感じる事も無かったので、トルイは瞑想しながら少しだけ現状について考えることにした。
まずここはどこか。
ゾルディック家と呼ばれる伝説の暗殺一家である。
自分は誰か。
トルイと呼ばれる上記の一族の一員である。
そして日本という国で生まれそして自殺した男が転生した姿でもある。
……この世界は一体何なんだ?
ゾルディック家、シルバ、そして念能力、オーラ。
……今更だが……本当に、本当の本当に今更だが、僕は、ひょっとして……【HUNTER×HUNTER】の世界に居る、のでは……?
トルイは脳内に電流が走った時よりも衝撃を受けた。
何故こんなことも忘れていたのか……?いや、まぁそれだけ訓練が壮絶で、こんな事を考える余裕すら無かったのだから、仕方ない。
しかし、そうだと分かると、色々と思い出してきた。
自分が何故死んだのかとか、前世に残してきたものだとか……ここがHUNTER×HUNTERの世界だとすると、自分は転生者という名の異物であり、トルイという名前から察するに、カルトの後に生まれた末っ子か……あるいはイルミの前に生まれた長男なのかもしれない、と推測した。*1
そして、転生する直前に起こったあの……
……自称、“超次元生命体”との対談も、思い出した。
はっきり言って、もう何年も前の話なのでよく覚えてはいない。
だが、唯一覚えていることがあるとすれば、“彼らから見て、僕は物語の登場人物の一人でしかないという事”そして、“彼らから見て、物語とは作品であり、いくらでも複製出来、違う展開を楽しんだりすることもある”という事。
そして、今僕はソイツの意思で、“もし****という青年が最期に死んだ後、H×Hの世界に転生していたら”という二次創作の世界に居るのだという事。
あと、なにげなく言ってたけど、特典をあげる、とも言っていた。
なんだったか……確か……そうだ。
……“君が好きだったあの漫画に登場するアレを念能力として開花させる”という特典。
……待て、僕が好きだった漫画って、まさ
「何、トルイが……!?」
トルイが部屋に閉じ込もって瞑想をするようになってから早くも10日が経過したある日、トルイが突然部屋のドアを蹴破り、使用人の一人の腕を喰い千切りそうになったという連絡がシルバの元に入った。
どんなに彼が天才であったとしても、念能力の習得には流石にまだまだ掛かるだろう、とタカをくくっていた。
使用人は突然ドアを蹴破って出て来たトルイに驚いて怯んでいる所を一瞬で襲いかかれ、片腕を諦めるかもしれない程の重傷を負ったが、それでもなんとか腕は繋がったそうだ。
いや、今回の件で重要なのはそこではない。
使用人の話だと、トルイの体から、見た事も無い赤黒く蠢く触手のような物が生えており、それがドス黒く攻撃的なオーラを纏っていたという。
それを攻撃ではなく跳躍やバネのように使い高速で移動したかと思うと、それを恐るべき速さで突き刺そうとして来たとの事。それを避けた所を狙われ、噛み付かれたとの事だった。
これが本当なら、トルイはこの歳にして、そしてこの短期間で、”水見式”というオーラの系統を判別する修行も、その過程に存在する基礎的なオーラの運用法を知る為の修行、四大行も、その応用をもスキップして、なんらかの”発”を得た事になる。
もはや、天才がどうのという騒ぎの話ではない。
……化物だ。
トルイが入っていた部屋にたどり着いたシルバ=ゾルディックは第一にそう思った。
部屋の中は暗闇に包まれており、廊下から入る僅かな光でうっすらと全貌が覗けるかどうか。
そして、部屋の中央には、血溜まりと、うねる赤黒い触手。そして、最早濃すぎて本人のシルエットを認識出来ない程になってしまっているドス黒いオーラ。
くちゃっ、くちゃ、と水っぽい音が部屋から漏れており、嗅ぎなれた血潮の匂いが充満していた。使用人との戦闘跡がまだ鮮明に残っている。
「……トルイ?」
シルバは、感じたことのない程の“何か理解できないもの”に満ちたオーラを受けながら……冷や汗を流し、そう部屋の中央に陣取る何かに声をかけた。……返事なんて帰ってこなければいいとすら思った。
これが息子じゃなければ、シルバは躊躇なく彼を殺せたかもしれなかった。
「お、父様……?」
だが返事は思いのほかちゃんと返ってきた。
オーラと暗さのせいでいまいち良くわからなかったがどうやら今は背を向けている状態らしい。
「トルイ……なのか……?」
暗闇の中、ゆっくりと振り返るトルイ。その口元には使用人の肉が咥えられ、口からは血が滴っており、シャツは血に汚れ、腰の部分からは例の赤黒い触手が生えており……そして、冷たくシルバを見据えるトルイの目は、まるで、“人間以外の何か”かのように、赤く光り、そして黒かった。
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能力名:『
系統:特質系(強化系・具現化系・変化系の要素を持つ)
【東京喰種】に登場する“喰種”をモデルにした能力。
・身体能力(筋力を始めとし、感覚器官や耐久力)が爆発的に上昇する。
・赫子(鱗赫)が出せるようになり、自由自在に操れる。
・この世界において殆ど意味は無いが、戦闘時や興奮時に色彩(黒目)が赤くなり、白目が黒くなる。
・血肉を貪る事で、相手のオーラの一部を自分の物に出来る。(使い切りの貯蓄ではなく、これによって自身のオーラの上限値を底上げする事も可能であるが、蟻の王に比べるとその速度には雲泥の差がある)
制約
・この念能力は“常に発動”しており、“解除不可能”である。
・空腹感が人の血肉(念能力者かどうかは問わない)でしか満たせなくなり、味覚も変化する。
誓約
・数週間ないし一ヶ月食事を摂らなかった場合、重篤な飢餓状態に陥り激しい頭痛や幻覚、判断力の低下を伴うようになる。
・普通の食事を強引に摂ると激しい吐き気に襲われる他、一時的に著しく弱体化する。
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……多分、続かない。
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2
やだぁ……他の創作に浮気しちゃってるトコ、見られちゃってるよぉ……。
……てことで、続いてしまった。
もう続かない(多分)
……あ、あと、書き忘れてたんだけど、前回の念能力紹介の所に……
まぁぶっちゃけちゃうと、血肉を食らうとそいつのオーラを自分のものに出来る、
ただし性能はメルエムに比べると超劣化版、みたいな感じの文と追記しときました。
トルイが喰種として目覚めてから、多くの年月が過ぎていき、彼は13歳となった。
既にシルバによる
それは彼がもう訓練等必要無いと判断された為である。
むしろ彼の能力を思えば今家の中に閉じ込めておくのはもったいない。
(キキョウは「まだちょっと不安なのだけど」と渋ったが)
彼らとしては、彼は13歳という歳で暗殺者として仕事を受け、積極的に依頼にあった人物を喰っていった。
無論、中には念能力者も居たが……並みの念能力者ではまるで相手にならない。
なにせ、相手は既に人間の領域では無くなってしまっているのだから。
「……今日のは大した事無くて、良かったよ」
とある街、明かりの消えたビルの屋上、トルイは月の光に照らされながら、そう独りごちる。その手には、先程殺した標的の血肉が握られていた。念能力者の物だ。
彼が念能力者を相手にこうして血肉を貪るのは、これで7人目である。
1人目は流石に苦労した。2人目は相手が弱すぎた。3人目はそこそこ強かった。4人目は腕を切られたが逆に四肢を食いちぎってやった。5人目は念能力の効果で自分が強くなっているという事を実感した。6人目はそいつの念の性質上、喰い損ねた。
そして7人目、マフィアの用心棒だった。能力は、拳銃と銃弾を具現化する能力で、それを隠で隠す事で、文字通りの騙し
……逆に言えばそれだけだったし、よしんば彼の銃弾がトルイの急所に当たっていたとして、一撃で仕留められたかどうかは微妙なところである。
何故なら
「……もう要らない」
そう言って、トルイはベッ、と口に含んでいた脳を吐き捨てた。
「……やっぱり、あんまり強くなった感じがしないな」
じっ、と自分のオーラを見ながらそう呟くトルイ。
彼が血肉を貪るのは単に人間の血肉以外で飢えを満たす事が出来ないという制約と誓約によるものだけではなく……〝貪った相手のオーラを一部自分の物に出来る″という、彼の念能力の本質によるものである。
彼は、自分の念能力を、単に喰種もどきになる【
この世界はあくまでH×Hの世界である為、Rc細胞も、CCGも、そもそも喰種という単語そのものが存在しない。
そしてトルイも、経緯はあの上位次元的存在によって覚醒させられたとはいえ、やっている事は前世で見た漫画・アニメの、喰種という設定を模倣し、具現化し、再現する念能力を手に入れているだけに過ぎない。
故に、更に強さを追い求める為、彼は食べなくてはならないのだ。
「もっと強くなる為には……もっと強い奴を喰べないと」
そう呟きつつ……これがドラゴンボールだったなら、ワンピースだったなら、とあるだったら、ジョジョだったら、NARUTOだったら、BLEACHだったら、fate/だったら……こうはならなかっただろうに、とトルイはため息をついた。
とはいえ、トルイの置かれている環境は非常に恵まれているといっていいだろう。
なんせ、彼のいる家は人殺しが容認されているどころか、それを仕事としているような一族であり、常により優れた暗殺者となるためにはどうすればいいのだろうか、と模索するような者達である。
幼少期こそ最悪だったが、こうして喰種として目覚めた今では、ここほど恵まれた環境はそうはないだろうとトルイ自身も自覚していた。
なんせあちらから自分の食事が多額の報酬付きでやってくるのだから。
そして、ビルから出たあたりで、トルイの携帯に着信がかかる。
画面を見ると、弟からのようだ。
『もしもし兄さん?そっちは終わった?』
「丁度食べ終わったよ。そっちは?イル」
『(食べ終わったかじゃなくて殺し終わったかどうか聞いたんだけど)こっちもあっさりだったよ、トル兄』
電話の相手の少年の名はイルミ=ゾルディック。
本来のH×H本編でのゾルディック家の兄妹の長男であり、この世界ではトルイの弟、そしてゾルディック家の次男、トルイとは一つ違いで、現在は12歳である。
ちなみに、彼はまだ念能力に目覚めて間もない。修行の意味も兼ねて、トルイやシルバの仕事について来たりする事もあるが、未だに苦戦した様子を見たことがないあたり、やはりイルミも暗殺者としては相当な才能を持っているのだろう、とトルイは自分を差し置いて静かに戦慄している。
三男となるミルキは今この場には居ない。ちなみに現在はまだ五歳の彼は流石にまだ引きこもっていないし、デブでもないし、オタクでも無ければPCを叩いてもない。彼にもこんなに可愛い時期があったんだなあ、等と考えてしまった程である。
『ああそうだ、母さんから伝言』
「うん?」
『弟が生まれたから家に顔出せってさ』
「ん、分かった。もう今回ので今日は終わりだから、すぐ帰るって伝えておい……ああ、やっぱいいや、帰りに電話しとく」
『そ。俺はもう先に帰ってるから』
「うん、じゃあ気をつけて帰るんだよ、イル」
そう言ってトルイは電話を切る。切られた向こう側では、イルミが「俺が何に気をつけろって?」と首を傾げているのは語るまでもない。
さて、あっさりとした口調で告げられたが、キルアが誕生した。
トルイは無論キルアの事を知っているし、彼が誕生したと聞いて嬉しくもある。
だがそれ以上に、自分がいることで何か変わっちゃったら嫌だなあ、という漠然とした不安があるのだ。
実際、既にイルミの件では、彼が
流石に、イルミが念に目覚めた後、ただの鞭では効果が薄いからと言って赫子を使って殴らせられた時は死なないように手加減するのに一苦労だったし、それだけ手加減しても、今でもイルミは彼の赫子を見ると一瞬身体が強張る事がある。
是非原作開始までに克服して欲しいところではあるのだが、使用人の一部にも同じような事になっている者が何名か居る事で不安を覚えている。
そんな不安な気持ちを抱えたまま、トルイが家に帰宅すると、そこには久々に見る母、キキョウの姿があった。ベッドの上で横になりながら赤子をその手に抱くその姿は、どこからどう見ても、ただの母親そのものである。
「ああ、トルちゃん、おかえりなさい」
「ただいま、母さん」
「帰ったか。見ろトル、男の子だ」
「電話でも聞いたよ。それで、なんて名前なの?」
「キルアっていうのよ」
キキョウが嬉しそうにそう答えながら「ねぇ?」とキルアに語りかける。ああ、こうして見れば普通の家族なのに、とトルイは内心複雑な気持ちになった。
「そっか……立派に育つんだぞ、キルア」
そう言って優しくキルアの頭を撫でる。撫でながら彼の今後の受難(主に幼少期の地獄)を思うと少しだけ涙が出そうになった。こんなに可愛いのになあ、と。
そして、続けざまにアルカが生まれ(この際色々とゴタゴタがあるがそれについては後述する)、そしてカルトが生まれた。
そして、その二年後にキルアがゾルディック一族の血を一層濃く受け継いでおり、ずば抜けた暗殺の才能を持っていることが判明した。トルイはこの際シルバに呼び出され「お前には本当に申し訳ないんだが、次期当主はキルアにしようと思うんだ」と言われる事となる。
無論トルイはそれを「そりゃそうだよね」と当たり前のように受け入れ快諾した。
原作では「なんでイルミじゃダメなんだ?」と物議を醸す後継者問題だったが、この世界でも原作同様、トルイでもイルミでもミルキでもなく、やはりキルアが選ばれる事となった。
トルイは知らないことだが才能だけで言うなら同じ時期のトルイと比べてもそう大差無い、どころか、シルバをもってして「こいつは化物だ」と思わせた程の念の才能はキルアには無い。
問題なのは、ゾルディック一族の血だ。
トルイは頭髪が上半分だけが銀髪で、下半分は黒髪である。
目は射殺すような鋭い眼光で、しかし色彩は黒色で母親の色を受け継いでいる。
体格は、筋肉質だがすらっとして引き締まっている。
このように、見事にシルバとキキョウの血をどちらも受け継いでいるのだ。
だが逆に言えばゾルディックの血は半分しか受け継いでいない。
そうなると問題となるのは、もしトルイが当主となればその子供はゾルディックの血を半分以下しか受け継ぐことが出来ないという事である。
もしトルイの持つ化物的な念の才能も受け継ぐ子が生まれるなら話は別かもしれないが……念はあまり遺伝がどうこう、といった話を聞いたことがない。
既にイルミは操作系である事が発覚しているし、トルイは特質系、キルアは変化形とバラバラな事からも、念に遺伝等といった血は関係はないという事が明らかだ。
よって、ゾルディックとしての血を一番色濃く受け継いで生まれたキルアこそ、この家の次期当主に相応しい、と考えられているのである。
「理由を聞かなくていいのか?」
「いいよ。別に。それが親父の判断なら、僕はそれに従うさ」
「……そうか」
それから更に数年が経過した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
キルアには三人の兄が居る。
下から、三男のミルキ。現在17歳。10歳から引きこもって、見事なオタデブになっている。何かと自分のことを目の敵にしてきて、鞭などを持ち出して引っぱたいて来たりするウザイ奴。これで一族の中では一番頭が良くてネット関係、情報関係で言うなら恐らくこいつの右に出る奴は居ない。素直に頭は良い、そこは認めるが、やはり少し、こう……馬鹿である。
次男、イルミ。イルミと、父、そしてもう一人の兄によって訓練を受けていた事で若干の苦手意識がある。というかぶっちゃけ嫌いである。というか性格も顔も母キキョウ似なのが無性に嫌いである。人をモノ扱いしてくるし……感情があるのかないのか分からない顔も、不気味で仕方ない。
そして長男、トルイ
「ほら、どうしたの?かかっておいで、キル」
「だっ!クソッ……!これなら、どうだ!」
「うん、隙有り」
『K.O!』
「だぁっ!!?また負けた!!チクショー!!」
こうして一緒にゲームをやる程度には、彼とは仲が良い。というか、一族の中で彼が一番まともな存在だとキルアは思っていたりする。キルアが暇そうにしているとこうしてゲームに誘ってくれたり、仕事に「ついてくるかい?」と連れて行ってくれて、そして大抵帰り道でどこか寄り道して、遊んでから帰る。
ただ「俺も戦いたい」なんて言うと「キルアには今回の相手はまだ早いかな~」と言ってはぐらかされるのだが、これで食い下がるとボコボコにされる。
勝てる気がしない、という意味ではトルイもまたキルアにとって全く勝てるビジョンが思いつかない相手である。そういう意味ではむしろ一番苦手だ。
ただ、そう、なんていうか……唯一、兄らしい事をしてくれる兄とでも言えばいいだろうか。
「もう一回やる?」
「やる!今度はそっちのキャラがいい!」
「いいよ。じゃあ今度は僕がこのキャラを使おうかな」
「俺が勝ったら俺の好きなお菓子一年分って約束忘れてないよね!?」
「もちろん」
キルアはトルイ兄さんの事が……まぁ、嫌いではない。
まぁ、キルアはこのほんの三日後に、母や他の兄達の行き過ぎた教育で嫌気が差してきたのでキキョウの顔を刺し、ミルキを刺し、家出する事になるのだが、トルイは「やっぱりこうなったか~」と半ば諦感して苦笑いした。
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トルイ=ゾルディック
特質系の念能力者。25歳。誕生日は9月8日。
身長185cm。体重70kg。血液型は不明。
髪の毛の上半分が銀髪で、下半分の髪が黒髪。
目は射殺すような鋭い眼光で、しかし色彩は黒。
身体は、細身だが筋肉質で仕上がっている。
見事に母と父のどちらの血も受け継いでいる。
ゾルディック家の長男として、次期後継者となるべく訓練または英才教育という名の拷問に幼少期の殆どを費やしており、兄妹ときちんと面識を持ったのは12歳(暗殺者として仕事をするようになった)頃である。
当初は彼が兄弟の中で次の後継者として考えられていたが、キルアという父の血を色濃く受け継いだ弟が生まれた事で、彼を次期の当主にしようと考え始める事となる。
今年で25だが、念の効果なのか、まだ10代後半と言っても通じる程若い。
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