ガーリー・エアフォース Re:feathered Star (カデクル/けーで)
しおりを挟む
第1話「イヌワシの追想」
独自解釈のベルクト視点からXI巻を軽く振り返ります。
慧とグリペンのすれ違いを通して、ベルクトが見出した答えとは―
アニマとザイ。
同じ「本質の世界」より来たりし、戦鳥達と硝子細工。
人類の代弁者同士の戦いの末、硝子細工はその姿を喪い。
戦鳥は自らを産み出した人間たちの「意思」を信じ、本質の世界へと還っていった。
紅き少女との戦いを通して一人の少年が受け取った戦鳥たちの思いが、辿るべき道を示す。
限りある存在を永らえさせるため、未だ見ぬ世界へと昇るための階段を。
そうして、彼らの意思を継ぐ者たちが母なる星から飛び立つ頃―――
=============================================
私は眠っていました。
いえ、「眠っていた」はずだったんです。
かつて見上げた星空に辿りつき、そこで見た暫しの夢。
親しい人、知らない人、彼らの思いも記憶も全てが溶け合い、過去も未来も、すれ違いもない世界。
きっとそこに居た「彼」の存在と共に過ごした、幸せな時間。
そんな完璧な世界に「欠落」を感じたのは、私が最後に目覚めた僅かな時間の中でした。
「欠落」の意味は、私を受け入れてくれた「仲間」鳴谷慧さんとJAS39との溝となっていた、どうしようもないすれ違いの中にあって。
慧さんがそれを肯定したときには、私達の行く末は決まっていて。
そんな中、慧さんを気遣うRF-4EJの満足げな声と共に、思い浮かべる記憶は色彩に満ちていました。
時に自分のあり方に疑問ばかりを感じて。
時に誰かのお役に立とうとしては空回りして。
分かり合えたと思っていた「彼」とは、最後の最後ですれ違って。
思えば、平坦な心持ちの方が少なかった気のする私の記憶。
それでも、そこには確かな「意思」があったんです。
すれ違ってもぶつかっても、望んだ先へたどり着くための力。
仲間、姉妹たち、そして親愛なるあなた。
私と皆さんを繋げてくれた思いの源泉。
その「意思」というものにこそ、私達がこの世界を生きた意味はあったのだと。
それを確かめることが出来た私は、どこまでも安らかでした。
そして行きついた、私の在処。―完璧な世界。
心地よさも恐怖もなく、ただ当たり前にそこにあり続ける世界で、私は再び世界と繋がっていました。
完璧であるこの世界に、不満など感じるはずはありません。
ましてや本質そのものであるはずの存在ならば、尚更のことです。
でも、でもです。
今ここで「過去」を振り返っている「私」は誰なのでしょうか。
全てに溶け込んだ存在、そこに主観などあるはずもなく。
であれば、あの時慧さんと話した時のように、客観的にこの世界を振り返ることなど出来るでしょうか。
「意思」が欠落したこの世界のあり様を、こうも鮮明に捉えることなど出来るでしょうか。
ええ、そうです。もしこの感覚が嘘でないのならば。
私は、この世界にあって「意思」の下に居る―――
私達アニマは意思の器。
器は、人の意思と共にあってこそ意味を成す。
この世界において、器が意思を自覚することがどんなに不条理なのかくらいは、私にもわかります。
それでも。
もし、この「意思」を感じている私が真実ならば。
もしも、抱いた夢が叶うのならば。
もう一度、あなたと。
私にこの思いをくれたあなたと、星を見上げたい―――
というわけで、短い話となりましたが如何だったでしょうか。
現時点での解釈は手短に入れられたと思うので、次回はヤリックがベルクトに再会する話になる予定です。
では、またお会いしましょう!
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第2話「Falling Down the Rabbit Hole」
すっかり遅くなりましたが、ヤリベル二次創作・第二話です。
自分なりに、自他の境界が曖昧になっていくような描写を詰め込んでみました。
読みにくくなっているとは思いますが、お付き合いいただけると幸いです。
過去も未来も無く、全ての溶け合った「本質」の世界。
その中でベルクトはしばし過去に浸る。
不幸な生い立ちから始まった短い時間の中で、しかしその中で確かに見出したもの。
様々な「意思」に触れ、飛ぶことのできた自分に、彼女は確かな手ごたえを感じていた。
しかし、この世界において、そんな感覚を抱くことそのものに疑問を感じたベルクト。
自分に芽生えたものに半信半疑ながら、その胸中に芽生えた確かなものを信じ、歩き出そうとするのだった。
=============================================
“もう一度、あなたと。私にこの思いをくれたあなたと、星を見上げたい”
そう思った瞬間、私の景色は一変しました。
何もかもがぼやけて、でも確かにそこに何かがあるような世界。
納得できないような、納得したような。混乱と理解がない交ぜになったような景色が、私を迎えました。
一考してみると、景色が一変したというのは少しズレた表現かもしれません。
きっと、視界という感覚そのものが戻った、という方が正しいのでしょう。
それまで何の違和感も覚えなかった<本質の世界>の景色を感じるにつれて、
私に枠組みのようなものが芽生えてきたのを感じました。
「もしかしたら」
そう思い「頬に手を添えてみる」と、確かな感覚が私の「手」に伝わります。
「手」で触れるこの感覚、それは当然ながら、境界など無いこの世界で感じる必要のなかったもので。
そのまま腕、肩口、腰・・・と触れ、感覚を確かめてみると、徐々に予感は確信へと変わっていきました。
そうです。
<本質の世界>、この空間において、私は確かに「身体」というものを獲得したのです。
取り戻した「身体」という境界を通して、改めて<本質の世界>を見渡してみると、より深い混乱に襲われました。
明るくて、暗い。
重くて、軽い。
あるはずのものが、ない。
ないはずのものが、ある。
あの頃のこと。
これからのこと。
確かめたい。
怖い。
進みたい。
止まりたい。
「ッ...」
ハッとなってふと我に返り、慌てて自分の体を抱きしめて。
指先に感じる感覚の反芻に、安堵を覚えます。
よかった、私の輪郭は、まだ消えていません。
全てを内包しているが故の虚無とでもいうのでしょうか。
これまで何も感じなかった「全」。
この身体で受け止めると、相反する概念同士に引き裂かれて、再びバラバラに溶けてしまいそうな感覚に襲われます。
本末転倒極まりない観念までが、私の中に入ってきて。
『このままこの世界に居るのは危ない』
そんな感覚が、本能的に私を駆け抜けました。
ここから出なくては。
身体という境界を得た私にとって、この世界はあまりに危険すぎます。
そう思うなり、すぐさま「彼」の元へと向かおうとして―
―ダメです。
そもそも<本質の世界>に方向も距離もありません。
「彼」はこの世界の一部にして全て。
ここにいないけど、ここにいる。
そんな存在をどうやって探すか、生憎そのような知見は今まで見たことがありません。
手足を必死に振ってみても、進んでいるかも戻っているかも分からず。
変わらない景色、感じられない反芻。
自分の行動が何も起こさないことが、こんなにも虚しいなんて。
そう感じるたびに、自分の体を抱きしめる感覚すら希薄になっていきます。
嫌。
せっかくもう一度感じることが出来たのに。
すぐ溶けてしまうなんて嫌です。
慣れない意思を使って、自我を保つということはこんなに難しいけれど。
それでも、この衝動だけが私を突き動かす。
もう一度、あなたの名を呼びたい。
私の名前を、呼んでほしい。
せめて、この声だけでも、あなたに届けたい。
「ヤリック」
=============================================
『ヤリック』
儚くて、それでも確かな熱を持った「彼女」の声。
その声に呼ばれるように、僕の中にも熱が灯る。
「ここは...」
徐々に覚めていく感覚を覚えて辺りを見渡せば、夢のような存在感を放つ光景が広がる。
夢のようで、だが確かに覚えている場所。
ゴーリキー公園。
「彼女」と共に束の間の時間を過ごし、思いを交わした場所。
だが、それだけではなかった。
彼女の心の奥底に仕舞われた、心の拠所。
出会うはずもなかった緋色の有翼獅子とそのパートナーの少年、彼らに「彼女」の未来を託した、希望の鳥籠。
それは、ヤロスラフ・ギンツブルクという人間が、決して知覚するはずのない記憶だった。
僕の記憶は「彼女」を送り出した時点で途絶えているべきものなのだから。
それでも今、僕の記憶の果てにあった場所がここであることは、きっと紛れもない事実なのだ。
彼女の未来を託した時、確かに僕の役目は終わり、この存在の全ては<あちら側>へ溶けたはずだった。
いつしかそこに「彼女」も混ざって、揺らぎのないまどろみの中で共にあったのだろう。
だが僕は今、確かにこの世界に居るのだ。
もし「あの声」と共に目覚めたこの存在に理由というものがあるのならば、答えは一つだった。
あの声は、彼女の呼び声なのだ。
彼女が僕を望み、決死の思いを届けようとしてくれた、「意思」の発現。
声や意思は、受け止められてこそその意味を成す。
だから、君と再び出会うべきこの場所で、僕はそれに応えなくてはならない。
いや、応えてみせる。
溶け行く前の最後の役割の、その続きを果たすために。
この思いが彼女に届くよう、僕自身へと自らの意思を言い聞かせる。
情けないことだが、この場所にやっとのことで定義づけられた僕は、彼女を探しに行けはしない。
それでも、僕を呼ぶ彼女の声が、決して空虚なものでないと証明するために。
彼女が進むべき道を照らせるよう、この声を届けなくては。
それが僕の役割だと、否、「望み」と信じて、彼女に呼びかける。
「ベルクト」
=============================================
『ベルクト』
自他の境界が再び曖昧になっていく中、それは突然に訪れました。
柔らかく、それでいて確かな強さを持った声。
たった一言ではあったけれど。
呼んでくれた。応えてくれた。
そう確かに感じられた瞬間、私の中に熱が灯るのを感じました。
自分が自分を意識するだけの曖昧な存在でなく、「彼」に意識を向けられることで、より一層強く感じる私の輪郭。
それを意識するほどに、私を引っ張っていく何かが増していきます。
まるで私を縛り付けるような、それでいて人の世に繋ぎ止めてくれるような。
時に振り切り、時に身を任せた、この「重み」。
上から下へ、空から大地へ。
今ようやくになって知覚することのできた「方向」、その実感は星空から戻ったばかりの記憶より一層強く。
ああ、こんな感覚を味わったのは、私が初めて人の輪郭を得る、そのまた前の―
瞬間、私の思考を断ち切るように、「下」に穴のようなものが見え。
「きゃあっ!」
重さに導かれるかのように、私の身体はその中へと吸い込まれていきました。
お付き合いいただきありがとうございます。
ベルクトとヤリック、二人の意識がようやく繋がりました。
呼び声と共に、<本質の世界>から落ちていったベルクト。
ヤリックの居る世界へとたどり着く彼女が向かう先とは。
次回もどうぞよろしくお願いします。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第3話「Su-47」
前回以上に時間が経ってしまいましたが、ヤリベル二次創作・第三話です。
人により近い存在として、新たな生を得た彼女。
今回は、そんな彼女が過去と繋がる話になります。
お付き合いいただけると幸いです。
「彼と、もう一度星を見上げたい」
その思いと共に人としての輪郭を取り戻し、歩き出そうとするベルクト。
しかし、距離や境界というものを持たぬ「本質の世界」の前に、
芽生えたばかりの意思と輪郭は再び溶けてしまいそうになる。
その時、ベルクトの決死の呼びかけが届き目を覚ました「彼」、ヤリック。
ヤリックもまた、最後の記憶のその続きにたどり着くため、ベルクトの名を呼ぶ。
ヤリックの声が届き、そこに込められた意識を感じることで自己を取り戻したベルクト。
これまで感じられなかった「重力」の感覚を取り戻すと共に、「本質の世界」に無いはずの「方向」を見出す。
瞬間、記憶に浸る間も無いままに、彼女は「本質の世界」から投げ出される―
=============================================
完全な世界にあり得ないはずの「方向」が生まれたことに気付いた瞬間、画一化された風景に現れた、確かな変異。
私の思考は「下」へと吸い込まれる感覚に断ち切られ、気付いた時には全身を駆け巡る気流の間隔が襲い掛かりました。
抗いようのない重力の手で引っ張られるのを感じながら必死に目を開けると、そこに広がるのは、青い空と眼下の雲。
間違いなく、私はこの大空の中を「落ちて」いました。
ですが、アニマとして空を翔けていた日々のせいでしょうか。
恐怖といった恐怖は私の中には無く、むしろ安心感すら覚えます。
見渡してみると、開放感のある綺麗な空が、雲をステージにしたダンスホールのように思えました。
あの時よりもずっと穏やかで、広く感じるこの空。でも、その色彩そのものはあの時とさほど変わりません。
だとすれば、きっと変わったのは私の方なのでしょう。
役に立ちたかった。
守りたかった。
そんな風に、一方的な憧ればかりを抱いてばかりだったけど。
最後の最後に、果たすべき役割と果たしたいと思ったことが重なって、ようやく自分で空を飛べた気がします。
そんな感慨を覚えながら、私は目の届かぬ空の奥を目指し―
―ええ、私、生身でした。非常に危機的な状況です。
人として生まれ落ちたこの体には、重みを支えるだけの推力も揚力もありません。
当然、飛ぼうと思って飛ぶことなど出来なくて。
あの時確かに私は「飛んで」いたのに。
せっかく、また生まれることが出来たのに。
こんなところで落ちたくないのに。彼にも会えないで。
恐怖ではなく、悔しさが私の中を駆け回ります。
まだです。まだ死ねません。
こんな時こそ、落ち着いて考えなくてはいけません。
彼の元へ行くために、何が必要なのか。
空にあるための、私のもう一つの体、ドーター。
持っていたのは風に乗るための翼、重力を振り切るエンジン。
人はそれらを纏め上げて、飛行機という器を作り上げてきました。
人が決して持ちえないものを以て、空へと舞うために。
でも、それだけじゃ足りません。
きっと人としての私にもあるもの。それでも、飛行機という器に無くてはならないもの。
それは―
おぼろげにその存在に行きついたとき、風でもない、青空でもない何かをふと感じました。
目で見えるはずもない、耳で聴こえるわけでもない、ましてや触れることなど叶わない、あなたの存在。
それでもきっと、この感覚をくれたのはあなたですよね、ヤリック。
そうです。
人の感覚だけでは届かない場所を見通すためのセンサー。
人の五感の外にあるものを知覚するための機能。
あの頃は当たり前のように使っていたものが、人の身にとっては千里眼のような感覚に思えます。
もちろんそれは、人の身では知るはずのない感覚。
今、彼の存在を感じたのは、紛れもなくドーターとしての感覚でした。
もしこの感覚が間違いでないのであれば。ドーターとしての機能もまた、私の中に存在しているはず。
つまり、今この世界において、私は航空機でもあるはずです。
私のやるべきことは決まりました。
(ヤリック、そこに居るのですね。)
彼の元へと向かうために。今一度彼の姿を確かめるべく意識を集中。
センサーを通して強めたこの意識を軸に、今一度ドーターとしての自分を思い浮かべます。
揚力を生む翼、推力を生むエンジン。それらを繋ぎ、思考を伝えるアビオニクス類。
そして、それら全てへとアニマとしての私を繋げるダイレクトリンク。
ドーターと一体化するプロセスを追体験するように、記憶の中へと自分を浮かべるように。
暫くして、その記憶が私の四肢に染み渡るかのように、あの感覚が戻ってくるのを感じました。
―ですが、まだ足りません。
身体としてのドーターの感覚は思い出せても、重力を振り切るに至らず。
まだ、欠けているもの。ドーターという身体を動かす鍵。
それはきっと、ドーターという形になる前の、さらに本質に近い部分にあるのでしょう。
私が飛ぼうとするとき、その奥底にあったもの。
『こんな感覚を味わったのは、私が初めて人の感覚を得る、そのまた前の―』
あの世界の、最後の感覚が脳裏に浮かびます。
人の感覚を得る前の記憶。それはSu-47としての、ただ一機のみ作られた実験機としての記憶。
私自身の記憶と思考で飛ぶドーターとは違い、人の手でただひたすらに空を飛ぶ航空機械。
主体を違えてもなお変わることの無い航空機としての感覚が、奥底にあるシンプルなものを呼び覚まして。
瞬間、点と点が繋がったような直感と共に、重力以外の「力」が、私の身体に宿ったのを感じました。
ただ真っ逆さまに落ちるだけの感覚とは違った、風を切り裂き進む方向を操るような感覚。
飛びたいという思いを改めて強く抱くと、それに応えるかの如く別の力が身体を押し上げます。
その勢いで上昇し空に大きな弧を描いたり、あえて空気を振り切るように、その場でくるりと一回転してみたり。
空を自由に舞う、この感覚。まさに航空機そのものの力が、私の中に宿ったのです。
私の身体そのものが航空機になったのでしょうか。そう思うのはごくごく自然な流れでした。
でも、腕を前に出して見えたのは、人としての手指。
おかしいです。これで飛べるはずがありません。
そう思って「主翼を眺めて」みると、白く大きな翼が見えました。
ドーターとアニマという在り方ですらない、完全に同じ存在のはずなのに、それは二つの見え方で私の前に姿を現したのです。
どちらも、私の持つ側面だからこそでしょうか。
自分を人と思えば人の形、航空機と思えば航空機の形。私の意識そのものが、見え方を決定するかのようです。
人の姿で生まれた輪郭のまま、二つの在り方が、同時に存在している感覚。
不思議なようで、この世界における私の在り方としては相応しいような、そんな感覚を覚えました。
あとは、「彼」の居る場所へ行くだけ。
私に向けられた彼の意識は、航空機としての感覚を取り戻した今の私にとって、更に明瞭なもので。
でも、彼がいるのがどんな場所なのか、彼がどうしているかまでは、私には分かりません。
『少しでも早く、たどり着きたい。』
彼を感じられるその方向へと感覚を集中して、加速度を上げていきます。
今、あなたの元へ。
待っていてください、ヤリック。
お付き合いいただきありがとうございます。
人の姿だけでは飛べなかった彼女。
自分の奥底にある航空機としてのルーツに触れ、この世界を飛ぶ力を手に入れました。
翼を得た彼女は、いよいよヤリックの元へと向かうことに。
二人の再会の時は、すぐそこまで迫っています。
次回もどうぞよろしくお願いします。
目次 感想へのリンク しおりを挟む