対魔ライダーブレン (ローグ5)
しおりを挟む

彼は何故、毒と言えば何でも許されると思ったのか?

仮面ライダーブレンを見て試験的に書いてみました。ひょっとしたらその内連載するかもです。


とある世界。堕落した人間の醜悪さで汚れ切った近未来。二代国家米連と中華連合に挟まれ紆余曲折がありながらも独立を続ける日本。今この国においては古来より分かたれていた魔と人の相互不可侵協定が破られ、魔界より来る勢力からの侵攻に晒されている。時の政府は圧倒的な力を持つ魔族の侵攻に対して、魔を滅する力を持つ忍びの集団「対魔忍」を組織し魔の侵攻に立ち向かっていた。しかし、この国において魔に立ち向かうのは何も忍びである彼ら彼女らだけではない。ある者は科学の力で、ある者は知恵で魔に立ち向かおうとしていた。

 

そんな者達の中にある一人の戦士がいた。緑のボディとマントで身を鎧った仮面の戦士。その名は――――

 

 

 

 

 

「はあ…はあ……くそ…来るなら来い」

 

「さすがにまずいねこの状況……」

 

東京の片隅にある路地裏に傷だらけの少女二人が息を切らしてなおも武器を構えて立っていた。彼女たちの刀やトンファーを構える姿は堂に入った物だが、その戦闘能力を以てしても迫りくる敵に対する彼女たちの勝利の可能性は薄いだろう。まず第一に少女たちはすでに激しい戦闘を経た結果満身創痍の状態であり、露出の多い服装もボロボロで武器の切っ先に至っては疲労と恐怖で震えている。そして第二に彼女たちの相手はただのチンピラではない。

 

「へへ…観念しな嬢ちゃんたちもう逃げ場はどこにもないぜ?」

 

「殺しはしねえよ。可愛がりはするけどな!ぎゃはっはは!」

 

「ふふふその通り。彼女たちは殺すことまかりならぬ。必ずや奴隷にして我らの快楽の贄とするのだ」

 

完全武装の彼らの構成には醜い人型の豚と言ったオークを始めとした魔族が多くいる。しかも指揮官である魔族の男は下級とは言えども吸血鬼。万全の状態ならともかくとして彼女達には勝ち目がないといっていいだろう。しかしそれでも少女たちは自らが頼みとする武器を構える。それは自らの信じる正義の為。囚われた人々を救う為。そして何より彼女たちを逃がすため囮となった友に報いる為。引くわけにはいかなかった。

 

少女たちの懸命な抵抗を見てリーダー格の吸血鬼の口元が醜く歪んだ。こういう健気な抵抗を踏みにじり嬲り玩具にするからこそ楽しいのだと彼の表情は告げている。彼には手に取るようにわかる。少女たちの怯えが苦痛が、そして悲惨な未来が。

 

その瞬間を今か今かと待ち望みはやる心を抑え吸血鬼は手を掲げる。そして残酷な裁定を下そうとして――――

 

「もの共かか――――はうっ」

 

「リーダー!どうなすったんです!?ってなんだこれ?」

 

吸血鬼の男はかくん、とまるで操り人形であったかのように白目をむいて急に崩れ落ちた。リーダーの男の急変に周囲の部下が慌てて駆け寄る。彼らが見つけたのはリーダーの首元を濡らすべっとりとした緑色の粘液。これはひょっとして毒、なのか?

 

「全く魔族も人間も強欲で陰湿で見苦しい……多くがそうなのはこの世界でも変わりませんね」

 

「何ッ!」

 

何時のまにか彼らの頭上にある門の上には緑色の服を着た眼鏡の男が立っていた。整った男の顔自体は魔界の人間のそれのような不可思議さはなく、明るい色の髪をきっちりと決めたこともあり男性アイドルグループの一員のようにも見える。しかし、しかししかしその全体から醸し出される雰囲気は何とも言い難く、『個』の強さは見る者に強烈な印象を与える物だ。さらに如何なる用途に使うのか彼の腰には金属製のベルトが巻かれており、その中央部は円形の液晶画面になっている。一体何に使うのだろうか?

 

「しかしその友を想う心は好ましい。この私が助太刀をしましょう。変身ッ!トゥッ!」

 

『ブレン・ザ・カメンライダー!!』

 

奇妙な笑い声をあげ男はくいっと眼鏡とベルトのツマミを触ると、魔族たちめがけて飛び降り―――――そして『変身』した男は魔族たちと一方的な戦いを始めた。その形容しがたい戦闘の様子に対して、ただ武器を構えていた少女たちは呆然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐはははははははは!対魔忍と言えども所詮は小娘ぇ!もはや逃れることは出来んぞ!!」

 

ところ変わって東京都内のとある高級住宅地。東京都内にオフィスを構える貿易会社フォントエル。政権交代からの好景気の傾向に乗り、近年事業を拡大し成長を続けるこの会社は表向きは各種の産業用物資を商うまっとうな企業であり、およそ悪徳とは無縁の優良企業のはずであった。だがシンプルで特徴のない社屋とは裏腹に贅を尽くした社長の豪奢な邸宅で行われていることは悪徳の宴そのもの。豪奢な部屋の中心にいる初老のフォントエル社長である男は豪勢に笑う。実に上機嫌そうだ。

 

「くうっ…」

 

厭らしい社長の視線の先には一人の少女が囚われている。なんらかの魔術が施されているのか仄暗い赤に輝く鎖に囚われた彼女は、両腕両脚を強制的に広げさせられ何の抵抗もすることが出来ない。鎖から照り返す光を除いても少女の顔はほんのりと羞恥心と屈辱で赤い。少女の細身の体は所々の金属的なパーツを除けば競泳水着やレオタードに見える体にぴったりとした水色の服で覆われており、薄い服を通してそのあどけない顔立ちとは裏腹に豊かな胸や尻、くびれた腰などの女性的な体つきがくっきりと見える。さらに今は乱暴な扱われ方をしたのか衣装の節々が破かれており、打撲や切り傷がありながらも尚きめ細かい白い肌が露になっていた。

 

魔と戦う戦士対魔忍の一人である少女の名前は風間玲奈。黒く長い髪を花を模した髪留めでまとめた彼女の顔立ちは本来ならば可愛らしく、男やややもすれば特殊な趣味の女を持惹きつけただろう。だが今この場では恥辱の苦しみに顔をゆがめその可憐さを損なねていた。最もこの社長のような男にとってはその方が快感を感じるのかもしれないが。

 

「ひっ…いやあ……触らないで」

 

社長の無遠慮な手が玲奈の肢体を無遠慮にまさぐる。その動きに少女は顔を背けるが四肢を拘束されそれ以上の抵抗はできない。長いまつ毛に浮かんだ涙はむしろ社長を興奮させるだけだ。

 

「しかしこう、十代の娘とは思えん体つきだな!本来ならもう年を取ってちっと熟れた方が好みだが、このいやらしさは儂のコレクションにふさわしい!こんな上物を捕まえてくれた君たちには後でボーナスを払おう!」

 

「それはそれは…光栄でございます」

 

「ぐはははははは!!光栄に思えい!」

 

対魔忍に似た扇情的な衣装の美女が優雅に礼をとると初老の男はますます品のない笑い声を大きくする。社長に同調し周囲で笑い声をあげるのはオークを始めとする魔族から近代的な武装を持った人間まで幅広い種族の揃った兵士たち。彼らもまた少女の苦しみを笑っていた。

 

そう、フォントエル社はまともな企業ではない。表向きはまっとうな商社であるが裏では数々の違法物資―――それこそ麻薬から武器、そして奴隷娼婦にする為の女までの輸出入を行うブラック企業の中のブラック企業だ。そして扇情的な女が率いる傭兵たちは提携先のある組織から派遣された社長一派への護衛兼敵対者への刺客。もうここまで行くとありふれた話ではあるがフォントエルの首脳部は人類の裏切り者としか言いようのない。

 

風間玲奈や彼女の仲間達の不幸は彼らの存在やその戦力の規模について全く知らなかったことだ。彼女達は別の任務から帰投中に彼らの犯罪行為の一端を目撃し、持ち前の正義感からそれを止めようとした。しかし増援に駆け付けたリーダー格の女は、正確には彼女の使う奇妙なアイテムにより変身した女は強く、まだ新米対魔忍にすぎない玲奈達は敗北を喫した。何とか自身が囮となり仲間二人は逃がしたものの玲奈はその後力や術を抑制する薬を打たれこの屋敷に運び込まれたのだ。

 

「さ~てそろそろ儂も楽しむとしよう。君たちも護衛を除いた半数はもうすぐ到着する奴隷たちで楽しんでくるといい。儂のコレクションを特別に解放しよう!」

 

「ひゃっほう!流石旦那様器が広い!俺たちの扱い方を分かってるう!」

 

「おお、すげえこのモニターで奴隷の様子が確認できるのか。この子いいな。殴ったらいい悲鳴だしそう」

 

悪漢たちは社長の提案にはしゃぎだす。およそ虐げられる人間への共感などまるでない冷酷な者達しかこの場にはいなかった。囚われの身にある玲奈を除いては。

 

「儂はおニューの奴隷で楽しむとしようぐふふ……そうだ、君はそっちの趣味はないのかね?よかったら今回の礼に後で貸してもいいが」

 

「ご心配なく。私は15歳以下の西洋系美少年専門なので」

 

「そうか…君のような趣味の顧客の為にもっと扱う品物の幅を広げるべきかもしれんな」

 

商売人の鏡でも気取っているのか社長は思案しているかのような様子を見せる。しかし彼の頭の中は若く可憐な玲奈を汚すという欲望のみで締められているようだ。すぐに相好を崩し玲奈の顔を使う。

 

「儂のようなおっさんに汚されるのはどうだ!感想を述べい!」

 

「お願い、です……んう…私はどうなってもいいから捕まった人ったちは、あの人たちだけは助けてあげてください……」

 

「駄目に決まってるだろう!あの商品たちを揃えるのにいくらかかかったと思う!全く最近の若い者は資本主義を舐めているのかね…まあいい。儂の事業拡大記念に楽しませてもらおう。ぐわーっはっはっはっ!」

 

優しさや正義感から奴隷となった人々の開放を懇願する玲奈をよそに彼女の胸を揉みしだく社長は笑う。ああ、何という事だろうか。正義感から行った行為が原因で彼女は悪漢の手で純潔を失ってしまうのか。そして仲間も神も彼女を救うことなくその身に決定的な蹂躙を成されるというのか。彼女を救う者は誰もいないのか!

 

「はーっはーっは…は!?」

 

「っ!?何奴!」

 

その瞬間響いたのは轟音。突然堅牢なはずの邸宅の壁が爆破されたかのように粉々に砕け散ったのだ。瓦礫があたり一面に転がると共に土煙が立ち上る。

 

「な、なんだ!対魔忍の襲撃か!?」

 

「おさがりを」

 

動揺する社長を女が庇いたて、緩み切っていたはずの兵士たちが一瞬で戦闘状態に入る。魔法陣から原始的な近接武装に、銃器。その全てが土煙の中にいるアンノウンに向けられている。金属のブーツの音がして突入してきた人影が一歩踏み出す。確かな実力によるオーラ故か同時に土煙が晴れていった。

 

「貴様何者だ。対魔忍か米連か」

 

「ふふふ私の名は……」

 

自身も獲物を構えながら誰何する女の視線の先で土煙が完全に晴れ、その中にいた仮面の戦士が見えた。

 

そう、この悪徳の家に突入したのは仮面の戦士だ。彼のボディは黒いスーツの上を鮮やかな緑のフレームと機械に見える金属部分で覆い、エメラルドの如き緑のマントを羽織っている。さらに特徴的なのは頭部。黄色い昆虫のような複眼と額からに頭頂部にかけて人間の脳みそを模したエングレーブが施されている。およそ奇怪なものにあふれかえったこのご時世においても強烈な印象を残す姿であった。

 

「私の名前は仮面ライダーブレン。優秀で誠実で――――仲間思いの仮面ライダーです!」

 

男にしては高い声で仮面の戦士が告げた。彼の名前は仮面ライダーブレン。600の頭脳を持つ戦士、仮面ライダーブレンなのだ。

 

 

 

 

先程まで悪徳の宴の会場と化していた邸宅はブレンの突入により熾烈な戦闘?の場になっていた。最早魔族や兵士たちは彼を倒す事しか考えていない。いつの間にかフォントエル社の社長も白目を剥いて転がっているがもはや誰も気にしていない。それほどまでにブレンの存在感は強烈だった。

 

玲奈っ!大丈夫!?」

 

「花梨に愛子!無事だったんだ!」

 

ボロボロになりながらも玲奈を助けにブレンの後を追って駆けつけてきたのは花梨と愛子の二人。再開を悦びつつも玲奈の拘束を外していく。

 

「二人こそ無事でよかったよ……あのブレンて人が助けてくれたの?」

 

「ああうん…」

 

あれからブレンのやった事は簡単だ。叩きのめした魔族からの情報とタブレットPCを介したハッキングで玲奈の連れ去られた場所を瞬時に特定。そうすると特に準備もなくバイクを駆ってこの邸宅に突撃したのだ。その間移動時間を含めて僅か数分。感心よりも困惑の勝るほどの早業であった。

 

「そうだ!あのブレンて人を助けないと!一人じゃあの数を相手するのは無理だよ!!」

 

「あ~それは大丈夫だと思うよ。だってあの人」

 

「雑に強いもんね」

 

何故か花梨と愛子がため息をつく中ドカンと、またしてもオークが壁を巻き込んで外へ消えていった。

 

「ヘヤ~ホホホ!やはり私はロイミュードとしてだけでなく仮面ライダーとしても強靭で優秀で無敵の存在!フウ~ッ!」

 

およそヒーローのそれではない奇声を上げながらブレンが縦横無尽に駆け抜ける。そう、彼は本当に何というか雑に強かった。彼の動きはおよそ武術などの訓練を受けたとは思えないチグハグな物。されど彼の攻撃はどこか他所から持ってきたようなデザインの眼鏡型ブレードは、拳や蹴りは、速く強く悪漢たちをぶっ叩き倒していく。その威力は急遽彼らが繰り出した装甲兵器も数発で事故った車のようにスクラップにする程だ。対魔忍の攻撃と違い何処か不条理ですらあるそれが振るわれる様はまるで現実と思えない。そしてさらに悪漢たちを恐れさせたのが―――

 

「ライダ~~……毒手ぅぅぅ! ウェヒヒヒヒヒ! 」

 

彼の手から滴り落ちる液体を纏った毒手だ。今どき毒手である。

 

「私の体内には999種類の毒素がある!それを喰らったらたとえ魔族であろうと、ひとたまりもありませんね~」

 

「きゅ、999種類!?多すぎて自分でもどんな毒があるか忘れあごっ!!」

 

あらゆる意味で危険すぎるブレンの毒手に怯える彼らはまた一人と倒されていく。ブレンの毒は恐ろしく強く、譬え装甲越しだろうと飛沫のみだろうと容赦なくその身を侵食し昏倒させる。恐ろしいほどに強力な毒だった。

 

「おまけのポイズンハンカチーフ!セイヤッ」

 

「うわああああああ…あへっ」

 

「のほぉ……」

 

さらにブレンは毒液にべったりと浸したハンカチを恐ろしい腕力で投げつけてくる。粘ついたハンカチが体に付着したら最後。彼らもまた悲惨な末路を辿るのだ。

 

「「「…………」」」

 

その恐るべき光景に対魔忍の少女三人は無言。仮面ライダーブレンのやりたい放題の戦い方はまさに不条理の化身。これは適切な形容ではないかもしれないが、まさに作風が変わったようであった。

 

「く!ふざけるな!」

 

 

 

先程玲奈たちを倒した際に使用したのと同じ、昆虫を模した外骨格を装備した悪漢たちのリーダー格の女が甲殻生物の鋏を模したハサミで切りかかる。

 

「貴様は対魔忍でもこの国の人間でもないだろう!何で人間の味方をする?」

 

「キ~ッ!あなたは何という愚かな勘違いを!私は人間の味方をする気はありませんよ!アッタタッタタタ!!」

 

「何ぃ!ぐわっ!!」

 

ブレンはハサミ攻撃をこれまた雑な扱いのブレードでバシバシ叩いて跳ね返しそのまま外骨格の白いボディを中国拳法っぽい動きで叩きまくる。頑丈そうな外骨格にひびが入った。

 

「人間は醜く愚かで…愛らしい存在です。されど彼女達の友情もロイミュードである私にとって共感でき、尊重すべきものである。だから今日ここに来ましたし、それに…あなた達のような愚劣な存在に私たちが負けたと考えると我慢ならないんですよ!」

 

一際強力な緑色のエネルギーを纏った蹴りが女の外骨格を吹き飛ばす。ゴロゴロと転がる女をよそに彼は必殺技の予備動作をとる。

 

「故にあなたは私の一撃を喰らうべきです!トウッ!!」

 

『ヒッサーツ!フルスロットル!!』

 

ブレンは一気に飛び上がる。彼のボディの一部には莫大なエネルギーが集中していく。

 

「ブレン、ドロォップ!!」

 

「させるかあああああ!!」

 

対する女は体勢を立て直しこちらもエネルギーを集中させたハサミでブレンを継撃しようとする。それは歴戦の傭兵である女だからこそできるカウンターの一撃。混乱の中でも飛び蹴りを仕掛けてくるブレンを狙いすました一撃は落下の勢いをも利用して彼を断ち切る―――――

 

「と、見せかけて」

 

「えっ」

 

事はなかった。ブレンは飛び蹴りを仕掛けることなく女の目前に着地していた。そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ブレンヘッドクラッシャー!!!」

 

「うぎゃああああああああああああああああ!!!」

 

必殺の頭突きを受けて外骨格が爆散し女が排出される。よってこの場に立つのは仮面ライダーブレン一人。彼の完全勝利であるのは明らかだ。

 

「やはり私は優秀で有能で有力な存在。ウェヒヒイヒヒ!!」

 

……なんかその結果に納得いかないのはまあおいとこう。

 

「く、くくくこれほどまでに強い仲間が来るとは想定外……しかし私を殺さないのは良い判断だったな」

 

「っ!あいつまだ!」

 

ボロボロになりながらもブレンに倒された女は立ち上がる。その顔には屈辱と不敵な笑み。

 

「しかし先程まで言ってはいなかったが私のバイタルサインは奴隷共の首輪に仕掛けられた爆薬とリンクしている。この意味が分かるな?」

 

「な、なんてことを!!?」

 

女の言う意味は一つ。それはすなわち奴隷たちの命を人質にしているという事。彼女はいったいどんな理不尽をこれから彼らに

 

「それなら解除しておきました」

 

「「「「えっ」」」」」

 

「あんな明確に、明晰に明瞭に信号が出てたらいやでもわかりますよ。あ、それとあなたの個人情報を調べた所元対魔忍のようなので、ある遅効性の毒を送り込んでおきましたウフフ」

 

「遅効性の、毒?」

 

「ええそれはずばり……」

 

恐らく仮面の下はどや顔なのだろう。腕を組んでブレンは自信満々に告げた。

 

対魔忍には有効極まりない、彼が使ったある毒を。

 

「触れられるだけで快楽を感じる、媚毒ですウェヒヒヒヒ」

 

 

 

―――――――――それからの光景はこれまでにも増して不条理だった。ブレンはこれまで通り奇怪な笑い声をあげながら「んほおおおおおおおおおおおお!!まるで千本のミミズみたいなのおおおおおお!!!」だの「昇天しちゃうかららめえええええええええええ!!」だの叫ぶ女を刷毛でくすぐり倒し、彼女たちの組織の活動に関する一切の情報を抜き取り対魔忍たちに与えると、いつの間にか呼んだのか対魔忍の増援が来ていることを告げ「夕飯の準備があるので」と何事もなかったかのようにバイクで帰っていった。あまりの事に花梨と愛子はチベットスナギツネのような顔をしている。

 

「…あ、増援部隊が奴隷にされた人たちを保護したって。こっちにも増援があと3分で来るらしいよ」

 

「…それはよかった。なんか今日は色々疲れたね。かえって報告済ませたらもうすぐ寝よ」

 

「だね」

 

もうあの不条理存の事は彼が恩人という事を差し引いても考えたくない。今はただ早く風呂に入って寝たかった。それは花梨と愛子二人の共通意見である。

 

だが玲奈は違うようだ。

 

「ん?どうしたの玲奈」

 

玲奈の様子は二人とは違う。お嬢様全とした顔立ちはほのかに赤らみ目は僅かにうるんでいる。その姿はまるで、いや恋する乙女そのものである。

 

「かっこいいブレン様……またお会いしたいなあ……」

 

「え゛っ!あれに惚れるとか嘘でしょ玲奈ぁ!?あんたラノベのチョロインか何か!!?」

 

「玲奈ォ!それはやめルォ!!」

 

……彼女たちの本当の受難は始まったばかりなのかもしれない。

 

 

 

そんな彼女たちをよそにブレンは東京の街をバイクに乗り駆けていく。彼がこの世界に来たのは数か月前。あの『無』との闘いの直後突如足元に穴が開き、落ちていった先がこの世界だった。あまりに唐突な異世界転移に流石の彼も戸惑ったもののすぐに元の世界にいるであろうハート達の元へ帰る為の活動を始めた。ある時は魔族相手に情報収集(物理)をしたり、優れた頭脳を活かしてIT関係の仕事で金を稼いだり、またある時は地元の食事に舌鼓をうったり自由闊達に活動していた。

 

(今日はとんだ無駄足をしていしまいました。しかしハート、それにメディック。あなた達もおそらく私と同じことをしたでしょう)

 

友情を大切にする――――それはブレン達ロイミュードと人間の数少ない共通点の一つだ。例え人間たちであろうとも友情があの忌々しい蛮野のような卑しい悪意で壊れるのは許せない。その思いは彼らロイミュードの中に共通した思いだ。

 

(あのような悪党はこの世界にも多すぎる。この私の毒で可能な限り滅ぼして見せましょう。)

 

それはかつて人間たちと懸命に戦った彼の譲れない誇りである。例え世界も時代も異なろうと人間たちが悪意により堕落することも敗北することも許せないことだ。

 

(そして、必ずやあなたの元へ帰って見せる!待っててくださいねハート!!)

 

「ヒョホホホホホ!あ」

 

「あ」

 

風に吹かれて飛んでいくのは彼が懐に忍ばせていたハンカチ。ふらふらと舞い上がったそれが堕ちていくのは―――――街中にたむろする難民たちの起こした焚火の中。

 

「あ、なんか落ちた。まあいいか」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛私゛の゛ハ゛ン゛カ゛チ゛ぎ゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛!゛!゛」

 

 

 

……ブレンの前途もまた、対魔忍たちのように多難なようだ。

 




何が酷いってブレンの戦闘描写は原作のままなんですよね。
ブレンよ、お前は本当になんなんだ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

彼は何故、子供たちに変な歌を歌わせたのか?

もう一話出来たので投稿してみます。
なお今回の話は仮面ライダーアマゾンズの劇場版を見ているとより楽しめると思います。


人と魔の争いが絶えない日本国の首都、東京の郊外。およそ東京近くとは思えない程田舎臭い一面薄に囲まれた道路をトラックが走っていく。戦後からの荒廃により整備が荒くひび割れた道路を走るトラックは外見自体は平凡だが、その法定速度を軽く無視した運転は中の運転手の粗野な性格を表しているかのように尋常ではなく荒い。現に今も乱雑な運転により道を歩いていた歩行者を一人匹殺しかけた。歩行者が素早く避けてなければ人間一人分のハンバーグの具材が誕生していたのかもしれない。

 

「ははっ今の見たっスか先輩?ヒャオッ!だってよウケル~!」

 

「まあでも事故らなくてよかったわ。輸送中にトラブル起こすのはまずいしな」

 

しかしトラックの中にいる者達は反省の色をかけらも見せていなかった。トラックの運転席にいるピアスの頭の悪そうな若い男と助手席の品のなさそうな中年。外見からしてどちらもおよそまともな人間に見えない彼らは歩行者をバカにしたかのような軽口をたたく。

 

彼らが今行っている仕事はとある商品の輸送業務だ。彼らの務めている組織が最近始めた事業において出来てしまった『不良品』を東京キングダムとつながりのある奴隷商人に捨て値で売りに行くこと。機密保持の為の行動であり単純ではあるが重要な仕事ではある。にもかかわらず彼らの態度はチンピラのごとく弛緩した物。これには彼らの程度の低さもあったがただ荷物を運ぶだけという難易度の低さもあるだろう。

 

「しかしあんだけ仕入れから教育まで、徹底的にやっても不良品が生まれるもんなんスねえ」

 

「それなんだけどな…どうやら職員の中に裏切り者がいたらしいんだよ。なんでもガキどもにこっそりとありがた~い個人従業を行ってたとかで」

 

「え?まじスか!!?」

 

「マジだ。園長から直接聞いたから間違いねえ。しかもここからが重要なんだけどな……」

 

そういって中年男は顔を近づける。口臭と加齢臭が強くなるがここは我慢だと運転席の男は思う。この先輩がこういう顔をするときは必ず美味しい思いできる時なのだ。

 

「急な仕事の見返りにな、裏切り者にお仕置きしていいってよ」

 

「お仕置き!?ということは…やったあ!先輩俺後ろを使わしてもらっていいっすか!?前から一度やってみたかったんだよな~!!」

 

「ああいいぞ!しっかしボロい仕事だよ!これで商品の試食も出来れば最高なんだけどな!はははははは!!」

 

彼らは下卑た表情で笑いあう。彼らの会話が何を意味するのかは我々には分からない。しかしどうせろくなことではないだろう。それは彼らの表情を見れば明らかだった。そうして邪悪は誰にも知られる事なくはびこっていく。まるで台所にわくゴキブリのように。

 

「ほんとにね!普段のおさわりだけじゃ満足できないっすから。今日の夜は大ハッスルっスね。はははははは!!」

 

「「はははははは「ハハハじゃないでしょうこの無法者共ー!」はっ!?」」

 

そこで二人は笑いを止める。彼らに割り込んできた声の主はいつの間にか逆さでフロントガラスに張り付いていたのはものすごい形相の眼鏡の男。べったりと顔をガラスに張り付かせた男の顔芸は迫力満点でその上なぜかハンカチを口にくわえていた。

 

「人をひき殺しかけて謝りもしないとは恥を知りなさい!!ヘヤー!」

 

「「うわああああああああああああああああああああ!!!眼鏡だああああああああああ!!!」」

 

さっき程まで陰惨な楽しみに輝いていた二人の顔は一点、不条理への恐怖に染まっていった……

 

 

 

 

 

「デラーデラードームドムー、ダリレルタリランダリランリー」

 

恐らく明治か大正あたりの建築物をイメージした和洋折衷の様相を見せる館の中に奇妙な歌が響く。およそ意味のある歌詞とは思えない歌は魔界のものかもしれないがどこか倒錯的で不気味だ。森の中に建てられた館というシチュエーションも相まってカルト宗教的な悍ましさすらある。

 

歌を歌うのは白い服に身を包んだ子供達。まるで道徳の教科書の登場人物のようなアルカイックな笑顔を張り付かせて謡う彼らは一体どこからきてどこへ行くのだろうか?

 

「ラリレルダリランダリランリー、ダリレルダリランラリランリー」

 

「フ~ンフ~ン、フー」

 

不気味な歌を奏でる子供達を意気揚々と指揮するのは高級そうなスーツに身を包んだ男だ。中年に差し掛かる年頃であろう男は自慢げな笑みを張り付かせて子供達の合唱を指揮している。彼はこの館、全世界の恵まれない子供達の為に建てられた孤児院である「御堂聖苑」の園長である御堂準之助である。

 

御堂は目を閉じて子供達の一糸乱れぬ合唱を愉しむ。彼がこの日ごろから手間暇かけて育ててきた子供達は合唱においても優秀だった。常日頃から彼自身が作詞作曲したこの歌を歌っていることもあり、どこに出しても恥ずかしくないだけの歌唱技量を持っている。教養と美しさに満ちた、彼の自慢の作品たちだった。

 

「ふふふ……私の作品たちは実に優秀だぁ……君そう思わないかね?」

 

「くっううう……」

 

御堂は自身満々に後ろを振り向く。彼の後ろにあるのは高級な木材で作られた円卓。そしてその上に縛り上げられ晩餐のように置かれた女だ。女の名前はマリア・ホワイト。

 

某メジャー宗教系列の孤児院御堂聖苑に務める身であるからかマリアは黒い修道服に身を包んでいる。しかし卵型の清楚な顔立ちにアイスブルーの二重の瞳。雪を思わせるような色素の薄い髪、そして細身であるが女性的な体つきとおよそ所によっては10歩歩くうちにハイエースされそうな繊細な美貌の持ち主であった。さらに彼女の姿の内で特筆すべき点は所々破れた修道服の間から見える体にフィットしたコスチュームは一見対魔忍のそれに見える。しかしそれは対魔忍の物とは違う。米連が対魔忍スーツを解析して作った量産型の戦闘服だ。耐熱対弾など様々な効果を備えたそれを纏っていることが意味する事実はただ一つ彼女は米連のエージェントであるという事。

 

「繰り返し言うが私の子供達は優秀だ。無論私がそう育てたからだがね。朝夕晩、日々の三度の食事から気を使い心身の教育にも手間暇をかけている……牛肉で言えばどの子もA5ランク。私の自慢の子供達なのだよ。なのに――――」

 

そう言った花咲の手には太い乗馬鞭。鞭を握る引き締まった腕の間からはちらりとUSBメモリのコネクタのような刺青が見えた。

 

「余計な事しやがってよぉ!この損害はどうしてくれんだよあーっ!!?」

 

「ひぎいっ!」

 

突然激発した御堂は乗馬鞭でマリアを叩く。強い腕力で容赦なくたたかれる女の修道服はさらに破れが酷くなり、その下にある戦闘服や肌をも傷つけていく。

 

「椋は高値でヨーロッパの富豪に売れるのが決まってたのによぉ!お前が余計な事をするからよぉ!!」

 

「あうっ!ひぐうっ!やあ!」

 

怒号を上げながら御堂は女を叩き続ける。彼は己のビジネスが女の手で汚されたことに激怒していた。

 

実を言えばこの御堂聖苑はただの孤児院ではない。日本国内だけではなく世界から見目の良い孤児を集めて養育し、機が熟したならば全世界の闇金持ちへと出荷する。ノマドの構成員である御堂が数年前に幹部にプレゼンテーションをしてから地道な努力を重ねてようやく軌道に乗せてきた邪悪ビジネスである。子供達が反抗することはない幼少期からの洗脳教育で「飼い主に尽くすことが自らの存在意義」と刷り込み抵抗という発想そのものを奪っているのだ。

 

今回の損害はこのビジネスを破綻させるほどではない。しかしマリアが余計な事をして椋を唆した結果、自身の環境が異常だという事を理解した椋を急遽出荷せざるを得なくなった。最高傑作の椋を捨て値で奴隷娼館に売らなくてはならなかったのだ。自身をブリーダーとして考えている御堂からすれば屈辱的だった。

 

「どうしてくれるんだよ!あーっ!」

 

「ひ、ぎいい……あ、なたは卑怯な人ね……手を上げて食い物にするのは女子供ばかり……本当に卑あうっ!?」

 

「やかましい!この館では俺がルールなんだよこのアリンコ野郎――――!」

 

御堂は狂気のままに女を叩く。その狂態はしばらく続いた。

 

「はあっはあっまあいい……俺の商品を買う好きものたちは世界中に幾らでもいる。ついさっきもフランスから大口の注文をもらったからなぁ…見ろよ見ろ!ホラホラホラ!」

 

そう言って御堂が得意げに掲げる端末にはフランス語で書かれた文章。米連のエージェントとして高度な教育を受けたマリアには分かる。フランス語の文章はまともな人間なら見るに堪えない下劣な情欲を綴った物。書いた人物の不快な体臭がここまで匂ってくるようだ。

 

「お友達とのパーティ用に男も含めて6人欲しいんだとよ。世の中にはスケベな人間がいたもんだぜぐへへへ。と、いう訳でお前のやったことはほとんど無駄に等しい。残念だったなぁ」

 

「こんなこと、こんなことが許されるわけがない。あなたには神が天罰を下しますよ!」

 

尚も抵抗するマリアの言葉にますます御堂は下卑た笑いを深める。彼は神など元より信じていない。金と力こそが彼の信じる者だ。

 

「ククク…神が居ればこんなことにはならないだろうにつくづく愚かな女だ。罰とは神ではなく人が人へと下す物。そして今この場で罰を下すのは無論、くぉの私だあ」

 

気取った仕草で両手を広げ高らかに宣言すると御堂は上着を脱ぎ捨てる。その行為が意味することに思い当たりマリアは顔を引きつらせるがその様子を見てにやにやと笑う御堂はまたしても気取った仕草で指を振る。

 

「いやいやいや確かに愚かな君への罰は想像したとおりの方向で行う。でもその第一弾を行うのは彼らではない。彼らだ!」

 

御堂が指を鳴らすと何人かの少年たちが前へ歩み出る。その顔はいずれも虚ろだがどこか緊張と不安が見えた。彼らを見てマリアは顔を青ざめた。御堂の悪魔ですらためらう企みが分かったのだ。彼はマリアが守ろうとした子供達に彼女の身を汚させようとしている。あまりにも邪悪な戯れを彼は企画していたのだ。

 

「そんな、そんなひどいことを……」

 

「ヴェアーッハッハッハァ!これからお前は一方的に犯されるんだ!悔しいだろうがそういうものなんだあ!ヘアーッハッハッハァ!!」

 

ああなんという無残な光景なのだろうか!これからただ混迷の世の中でもよき人であろうとした女性マリアは身を汚され、御堂の外道ビジネスは世界中の闇金持ちの需要を満たしながら直も続けられていくのだろうか!これこそが暗黒に包まれたこの世界の真実なのだろうか!神も天使も彼らを救わなわない。この場を満たすのは救いではなく陰惨な悪意だけだ!

 

「ああ……神よ……」

 

「神なんていないって言ってんだろうがよー!ギャハハハハハ「トウッ」ハ!?」

 

だが神かどうかは知らないが救いの手を差し伸べる者はいたらしい。館の三階にあるステンドグラスが砕けるとともにマントを纏った人影が降り立つ。その姿はエメラルド色の鎧をまとった騎士の様だ!

 

「貴様…何者だ!?」

 

「私の名前は仮面ライダーブレン。優秀で誠実で――――仲間思いの『チェーンソ―!』へ?」

 

仮面ライダーブレンの名乗りの途中で渋い男性の声が響く。声の主は御堂が腕の入れ墨に突き刺したUSBメモリから。それはガイアメモリと呼ばれる人類だけでなく魔族からしても常識の範囲外にあるアイテム。人を魔性へと変える禁断の力だ。その力の起動時に起こる音声によりブレンの名乗りはかき消されたのだ。残念だったね。

 

「どいつここいつも邪魔なんだよぉ!私の素晴らしい商売を邪魔ばかりしやがって!」

 

御堂が変身したのは両腕にチェーンソーを携えた鈍色の怪人。『チェーンソードーパント』だ。度重なる自身への邪魔に身勝手な激怒を抱く彼は轟音を響かせる両腕のチェーンソーを振り回して突進する。

 

「キ~ッ!私の名乗りをよくもぉ!」

 

「眼鏡が夢見てんじゃねえ!」

 

双方怒りの声を上げながら二つの異形が衝突する。マリア達を置き去りにしながら。

 

 

 

 

 

マリア・ホワイトは道徳が腐敗しきったこのご時世には珍しい敬虔な教条主義者であり、正義感の強い女性だった。幼い頃から敬虔な神の信徒である両親に育てられた彼女は景教の価値観に親しみ、神を信仰し日々混迷を深める世の為に己ができる事を探し求めるようになった。長じて成人後に米連の軍に入った彼女は魔族の干渉により混乱の中にある日本での活動を苦しめられる人々を救う為に志願し、彼女は数年の間米連のエージェントとして日本で活動してきたのだ。今回この御堂聖苑に潜入したのもその一環だ。

 

この数年の間、彼女は「御堂聖苑」の子供たちを含め多くの人々が魔族や人間の悪党に苦しめられるのを見てきた。彼ら犠牲者を時に見捨て時に利用しながらもすべては秩序の為と自身に言い聞かせて彼女は活動を続けてきた。魔族がいるなら神もいるはず。いつかは神が降臨し悪に裁きを下し良き人々達に福音をもたらすのだと。

 

「………」

 

しかし、マリアの希望的観測は裏切られつつある。ひょっとしたら、もしかしてひょっとしたら神はいないか、そうでなくばいても人々に対して何もしないのではないかという思いが育ちつつあった。何故なら危機に陥った彼女の基に現れたのは神でも天使でもなく―――――

 

「ヒョホハハハハハハ!どうです自分の持ち出した兵器を利用されるのは!感想を述べなさいヘアハハハハ!!」

 

なんか変なのだったからだ。少なくとも天使とかそういう彼女の想定していたサムシングはこんな笑い方をしないだろう。

 

「先生……」

 

何か言いたげな顔で椋がマリアを見る。余計な事を知ったとして捨て値で処分されようとしていた彼女はたまたまあったあの奇妙な男ブレンに救われたのだという。ブレンとしてはわざわざ人間を救う気はそんなになかったが何でも御堂が彼の探し求める物を持っていたらしい。適当に倒した御堂の部下から奪ったトラックでこの館へ突撃を駆けたとか。

 

「言いたいことは分かるわ……」

 

マリアは椋にうなづく。ブレンと御堂の戦闘により予算が大丈夫なのかと言いたくなるくらいの勢いで炎上する館の外に出た彼女や聖苑の子供達はいそいそとブレンに倒されてその辺に転がる御堂の部下(その数は少ない。御堂が人件費をケチったからか見てるこちらが心配に成程人が少なかった)を縛り上げる。彼らの表情は自由への喜びや希望がるものの、どこか釈然としない感じを見せている。その理由は無論少し離れた所で起こる不条理の嵐によるものだ。

 

「ヒャーッハッハッハッハッハッハアア!!!」

 

「ぐおお…ふざけやがってえ!」

 

荒れ放題の草むらの中を縦横無尽に走る̠火線をチェーンソードーパントが必死に回避していく。その姿を追いかけるのは腕を組み仁王立ちするブレン。彼が乗るのはメカニカルな蜘蛛のような多脚戦車。「アラクネー」と呼称される黒いボディに名前の通り蜘蛛のような四つ足を持つ多脚戦車は大口径のガトリング砲二門を携え猛烈な攻撃をチェーンソードーパントに浴びせている。その禍禍しく威圧的なボディと相まって高笑いするブレンはまるで悪役の様だ。

 

 

 

 

……当初はブレンとチェーンソードーパントの戦いは魔族である彼の部下の加勢もあり互角なように見えた。が、しかし雑に強いブレンの攻撃と毒は彼らを瞬殺すると、焦ったチェーンソードーパントは大枚はたいて買ったアラクネーを呼び出した。航空機への対空砲火すら可能なアラクネーの火力は圧倒的で一挙に形勢が逆転するかと思われた。しかし、ブレンは尋常ではない不条理の化身であった。

 

「これは面倒ですねライダーハッキング!ウェヒヒヒヒ!!」

 

 

「ハッキングだとぉ…おごぉっ!!?」

 

ガトリングの弾幕を距離をとって躱したブレンは手首からホロキーボードを投影すると、明らかに適当な動きでキーボードをポチポチと押す。するとアラクネーのカメラアイが蒼から赤へ一瞬で変化し、チェーンソードーパントを跳ね飛ばし忠犬のようにブレンの元へはせ参じた。なんという昨今のサイバーパンクに逆行する雑なハッキング描写であろうか。

 

「これでこのドローンは私の忠実なしもべ。残念でしたね~」

 

「……なあ、ハッキングってあんな適当でいいのかな?」

 

「良くないと思うけど…これ、現実だよなあ……」

 

聖苑の子供達は顔を見合わせる。社会経験の乏しい彼らにもこの光景がおかしい事は何となくわかった。そう、この場で暴れているのはサイバーパンク的世界観を不条理ギャグに変える謎の仮面の戦士、仮面ライダーブレンなのだ。

 

そんなこんなで避難が済んだのをいいことにブレンはロケット弾を撃つは火炎放射器まで使うわで容赦なく館事チェーンソードーパントを攻撃し追い詰める。

 

「ライダー……ひき逃げ!!」

 

「あごおっ!て、てめえ何しやがる……どうして俺の邪魔を!なぜこんな手間暇かけて邪魔をしやがる!!」

 

全武装が弾切れを起こしたアラクネーを突っ込ませヒーローにあるまじき技を宣言するブレン。やりたい放題の彼の猛攻に吹っ飛ばされたチェーンソードーパントは怒りと共に疑問を呈する。一体何がブレンをここまで駆り立てるのだろうか?

 

「ふふふ…私の目的はあなたのそのガイアメモリ。それをどこで手に入れたか是非聞きたいですねぇ」

 

「こ、これはヨミハラで粋がっていたチンピラを伸して手に入れたんだ!ノマドから手に入れた物じゃねえ!だから俺は何も知らん!」

 

「何ですその雑な展開は!奪った相手がだれかも知らないなど!私にあんな不衛生で不便で、不愉快な街へ行けというのですか!キ~ッ!」

 

「……園長もあの人に雑って言われたくないよな」

 

「そうだよね」

 

子供達が半目でささやきあうのをよそにブレンはぐるぐると両腕を振る。最早チェーンソードーパントは用済み。あとやることはただ一つ。とどめを刺すだけだ。ブレンは一気に必殺技のエネルギーをチャージする。

 

『ヒッサーツ!フルスロットル!!』

 

「うおおおおお!ブレンヘッドクラッシャー!!!」

 

大ジャンプしたブレンが頭からチェーンソードーパントに突っ込んでいく。回れば威力が高くなるだろうと弾丸のように回転するブレンの脳髄のようなエングレーブの刻まれた頭部にエネルギーが集まり緑色に発光。猛スピードで絶大なエネルギーと共に彼の600を誇る脳天がチェーンソードーパントに叩きつけられた!

 

「ぐああああああああああああああああああ!!!」

 

「殲☆滅!」

 

数十メートルも吹っ飛んだチェーンソードーパントは地に叩きつけられて爆発四散。メモリが砕けるとともに御堂が吐き出された。それをよそにくるくると空中で三回転したブレンはポーズを決める。何故其処までと思う程に彼は得意げだ。

 

「あの、腕を回した意味は?」

 

「ノリです!」

 

「ああそうですか……」

 

得意げなブレンは御堂の使っていたガイアメモリの破片を拾い上げハンカチにしまい込む。そうすると「じゃ、そういうことで」とやけに颯爽と去っていこうとする。その挙動は無駄に速い。と、思ったら別のハンカチを水たまりにぽろっと落して

 

「の゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ハ゛ン゛カ゛チ゛が゛け゛が゛れ゛て゛し゛ま゛っ゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 

とか叫びはじめ、泣きながら逃げていった。しまらねえな。

 

「「「「……………」」」」

 

奇行を繰り広げるブレンに対して、形容しがたい表情で子供達は彼の後姿を見ていた。なんというかこう、もっとこうあるだろう。それが彼らに共通した思いであった。一方で子供達の傍らに立つマリアは晴れやかな笑顔だ。少々やけっぱちに見えるくらいの。

 

「……先生よーくわかったわ」

 

「先生?」

 

「今回は偶然来たけど世の中待っていても助けは来ない。やっぱり自分から頑張っていかなきゃねヒャフフフ……」

 

「せ、先生!笑い方があのへんな人に影響され過ぎだよ!?」

 

グっと力こぶを作るマリアの目は完全にキマっている。ブレンの不条理な大暴れはどうやら彼女に変な影響を与えてしまったようだ。魔族や人間問わずド外道共には話し合いではなく不条理なまでの力が必要。そうでなくては人々を救う事が出来ないのだ。何事も暴力で解決するのが一番だ。彼女の顔はそのようなかっとんだやる気に支配されていた。

 

 

 

――――――その後の事を話そう。今から十年後ほど後の事、マリア・ホワイトが世界中の弱い立場にある子供たちを保護するために設立したNGOはこの時代では珍しいほど健全な慈善団体として世界各国に支部を持つまでに成長していた。マリアはあらゆる手段(意味深)を使って様々な人々、政財界の大物から対魔忍に魔族まで多くの人々からの協力を取り付け多くの子供を力づくで助けてきた。御堂のような相手にはあの手この手で揃えた武力を以てぶちのめして子供達を救い出し、なんかうるさい人たちは媚薬をかがせて黙らせた。そうして多くの子供達が救われる過程で悪党が大量に死んだがまあ問題ないだろう。この世界悪党の命が平松伸二作品並に軽いし。

 

そんなふうに混沌の世の中においても自身の正義を成す彼女へ興味を抱く者は多い。そして彼らは彼女の来歴を知り驚愕する。一体何が敬虔な教条主義者である彼女を変えたのかと。

 

その問いにはマリアはこう答える。自分を変えたのは不条理の化身、仮面ライダーブレンであると―――――




次回は投稿するにしてもだいぶ間が空くと思います。

にしても何なんでしょうねあの変な歌。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。